1. 会議録本文
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000・会議録情報
委員氏名
委員長 公爵 徳川慶久君 副委員長 富井政章君
委員
伯爵 柳澤保惠君 男爵 小澤武雄君 子爵 平田東助君
子爵 岡部長職君 子爵 三島彌太郎君 子爵 酒井忠亮君
子爵 水野直君 男爵 有地品之允君 奥田義人君
岡野敬次郎君 男爵 田健治郎君 男爵 本多政以君
桑田熊藏君
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大正四年十二月十八日（土曜日）午前十時二十三分開會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/0
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001・徳川慶久
○委員長(公爵德川慶久君) ソレデハ是カラ開會ヲ致シマス、先ヅ質問ヲ初メニ願ヒ
タイト存ジマスガ、大體ニ亙ル質問デモ或ハ逐條ニ亙ル質問デモ御隨意ニ御尋ヲ願ヒタ
イ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/1
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002・酒井忠亮
○子爵酒井忠亮君 質問ヲ致ス前ニ此提出ノ理由ヲ政府ノ方カラシテ御說明ヲ先キ
ニ願ヒタイト存ジマスガ·····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/2
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003・尾崎行雄
○國務大臣(尾崎行雄君) 總理大臣ガ出テ御話ヲ致スベキ筈デアリマスガ今朝少シ
身體ノ工合ガ惡イト云フコトデ、或ハ午後ニナッタラ出ラレルカ知ラヌガ、今朝ハ暫ク醫
者ノ勸メニ依ッテ靜養ヲ致シタイト云フコトデ闕席イタシテ居リマスカラ、大體私カラ說明
イタシマス、大體ノ趣意ハ昨日、本會議ニ於テ總理大臣カラ一ト通リ說明ガアッタノデ
アリマスガ、略〓、趣趣意デ華族ノ品位ヲ保ツガ爲ニ世襲財產ノ必要デアルト云フ意味デ、
明治十九年デアリマシタカ現在ノ規定ガ出來テ居リマス、然ルニ爾來年所ヲ經ル久シキ
ニ從ッテ時勢モ大ニ變化ヲ致シテ、其爲ニ帝室制度取調局總裁デアッタ伊藤公ノ如キ
モ先年世襲財產法ヲ改正スルノ必要ガアルト云フ意味ノ上奏ヲセラレテ居ルヤウデアリ
マツ、爾後引續イテ矢張リ世間ノ問題トナッテ居ッタノデアリマスガ、前囘臨時議會ニ於
テ愈〓提案ノ運ビニナッタノデアリマス、今囘ノ提案モ略〓同一ノ趣意ニ外ナラヌノデアリマス
ガ、現在ノ制度ハ財產ノ制限ナドガ餘リ窮屈ニ出來テ居ル、且ツ之ヲ取換ヘテ甲ノ財
產ヲ乙ニ取換ヘルト云フヤウナ場合ニ於テ或モノハ許シ、或モノハ許サヌト云フヤウナ制
限ガドウモ窮屈デアリマスカラ、此範圍ヲ擴メルト云フコトモ一ツノ趣意デアリマス、ソレ
カラ又十七條デゴザイマスガ、「宮內大臣ノ認可ヲ受ケ其全部又ハ一部ヲ廢止スルコト
ヲ得」ト云フコトニシテ、ココニモ多少ノ自由ヲ與ヘルト、云フコトニシテ、大體ハ世襲財
產法制定ノ趣意ニ於テ變ルコトハナイノデアリマスガ、其趣意ヲ實行スル上ニ於テ時勢
ノ變化ニ伴フダケノ改正ヲ致シ、一方ニ於テハ自由ヲ與ヘルト同時ニ一方ニ於テハ財產
ノ制度ヲ愈ニ確實ニスルト云フ目的ヲ達シタイノガ本案提出ノ大體ノ意味デアリマス、
尙ホ詳シキコトハ政府委員ヨリ御答辯ヲ致ス都合デアリマスルガ、大體詰リ時勢ノ變化
ニ伴ウテ法律ノ改正ヲ致シタイト云フニ外ナラヌノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/3
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004・富井政章
○富井政章君 大體ニ付テ質問ヲ致シテ宜シウゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/4
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005・徳川慶久
○委員長(公爵德川慶久君) 宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/5
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006・富井政章
○富井政章君 現行ノ華族世襲財產法ハ明治十九年ニ制定セラレマシテ、爾來三
十年ヲ經過シタノデアリマスガ、其間ニ社會ノ狀況ガ餘程變ッテ來テ居リマス故ニ、自
ラ現行法ニハ不備ノ點ガ多クアリマシテ、早晩改正ヲ要スルコトハ誰モ認メテ居ルコトデ
アリマス?併シ此改正ヲ行フト云フコトハ實ニムヅカシイ問題デアリマシテ、現行法ニ手ヲ
著ケナイナラバ別ニ議論モ起ラズシテ濟ムノデアリマスルガ、之ニ手ヲ著ケルト云フコトニナ
リマスルト種々ノ難問題ガ起ラウト思ヒマス、各條ノ規定ニ關スル細目ヲ申上ゲルノデ
ハアリマセヌ、此法律ノ全體ニ亙ル根本問題ガ幾ラモアルト考ヘマス、ソレデ今日改正
案ヲ御提出ニナリマシタニ付テハ私ハ二三根本ノ〓ニ關シテ政府ニ質問イタシタイト思
フノデアリマス、混雜ヲ避クル爲ニ私ノ疑問ハ三ツニ分ケテ申上ゲマス、第一ノ疑問ハ現
行法竝ニ今囘提出ニナリマシタ改正案ニ依レバ、華族ノ世襲財產ト云アモノハ、之ヲ
設定シ又ハ增加スルコトヲ得トナッテ居リマス、卽チ設定スルト否トハ各人ノ自由ニ任セ
テアリマス、卽チ何程財產ガアッテモ世襲財產ト云フモノハ必ズ設ケネバナラヌモノデハナ
イ、設ケテモ設ケナクテモ宜イト云フコトニナッテ居リマス、卽チ强制的ノ制度デナイノデア
ル、若シ華族ノ品位ヲ保チ華族ノ家ヲ維持スルニ世襲財產ト云フモノガ果シテ必要デア
ルト云フナラバ斯ノ如キ自由制度デナクシテ、ヽ强制的ニ何程カノ財產ハ必ズ世襲財產トセ
ネバナラヌト云フコトニシナケレバ立法ノ趣旨ヲ貫徹シナイデハナイカ、今日現行法ニ手ヲ著
ケルト云フナラバ其〓ハ大ニ考ヲ要スルコトデアラウカト思ヒマス、政府ハ此點ハ現狀ノ儘
デ差支ナイト云フ御意見デアルカ之ヲ伺ヒタイ第二ノ疑問ハ今一歩ヲ進メテ考ヘマスルニ、
華族ノ品位ヲ保チ華族ノ家ヲ維持スルノ必要上ヨリシテ世襲財產ヲ設定スルコトヲ得
ルト云フコトハ、果シテ華族ニ限ルベキコトデアルヤ、是亦大ニ疑フ所デアリマス、固ヨリ
華族ニ付テハ一層其必要ガアルト考ヘルノデアル、ツレハ勿論ノコトデアル、併シ華族以
外ノ家デアッテモ隨分歷代由緒ノアル家デアッテ、一朝放蕩者ナドガ出テ財產ヲ蕩盡シ
テ家ヲ潰スト云フヤウナコトガアッテハナラヌ、ソレヲ防グ爲ニ世襲財產ヲ設ケルト云フコト
ヲ許シテ適當ナルコトデハナイカ、何モ華族ノ家ニ限ルト云フコトハナカラウカト思フノデア
リマス、唯今申上ゲマシタ通リ、華族デナイ家デアッテ隨分永代ニ存續セシムルコトノ望
マシイ家ハ澤山アルト思ヒマス、ソレガ一時品行ノ修ラナイ者ガ戶主トナリ其ノ財產ヲ蕩
盡シテシマフト云フコトハ、事實ニ於テ屢〓見ル所デアッテ、誠ニ遺憾ナコトデアルト思ヒマ
ス、果シテサウデアレバ此制度ハ根本的ニ言ヘバ華族ニ限ルコトデハナク、强制的ニ世
襲財產ヲドウシテモ設ケネバナラヌト云フ制度デアレバ或ハ其範圍ヲ餘リニ廣クシテハ
宜シクナイカモ知レマセヌガ、現行法及此改正案ニ於ケル如ク、設ケタケレバ設ケヨ、設
定スルコトヲ得ト云フ主義デアッテハ、尙更華族ノミニ限ルト云フコトデハ論理ノ立タナイ
コトデハナイカト思ヒマス、斯ル制度ガ必要デアルトスレバ華族ニ限ラズシテ寧ロ如何ナル
家デアッテモ斯ウ云フコトガ出來ルト云フコトニシタ方ガ宜シクハナイカ、サウスレバ此法律
ノ存廢問題トナル位デ、華族世襲財產法デナイ、一般民法ノ問題トナルノデアリマス、
汎ク家產制度ト云フモノヲ設クルガ宜イカ惡ルイカト云フ國民全體ノ家族制度ニ關スル
根本問題トナルノデアリマス、政府ハ今囘此法律案ニ提出スルニ當ッテ、或ハソレハ宜イ
カモ知レヌガ、サウ云フ大キナ問題ニマデ手ヲ著ケル考デハナイ、唯目下ノ必要ニ應ジテ
或一二ノ點ニ改正ヲスルダケノ主意デアルト答辯セラルルデアリマセウケレドモ已ニ現行
法ノ改正ニ著手セラルル以上ハ今申上ゲタヤウナ根本問題ヲ看過スルコトハドウデアラウ
カト······是ハ如何ニモ重大ナ問題デアル、私ハ主義トシテハ是ハ華族ニ限ルモノデハナイ
ト思フ、果シテ必要デアルトスレバ民法一般ノ問題トシテ孜究セネバナラヌコトデハナカラ
ウカト平生思ウテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ大キナ問題ハ尙ホ多年ノ〓究ヲ要スル、朝
一夕ニ決定スルコトハ出來ナイト云ヘバソレ迄デアリマスルケレドモ、今囘ノ改正案ヲ提出
スルニ當ッテ政府ハサウ云フ根本ノ點ニ付テドウ云フ考ヲ持ッテ居ラルルノデアルカ、ソレヲ
伺ヒタイノデアリマス、第三ノ疑問ハ現行法竝ニ此改正案ニ依レバ世襲財產ト爲スコト
ヲ得ベキ財產ノ種目ハ限ッテハアリマスケレドモ、其種目デサヘアレバ全部ト雖モ之ヲ世
襲財產トナスコトヲ得ルノデアル、ソレ故ニ、華族ノ家ニ依ッテハ其財產ノ殆ド全部ヲ爲
シテ居ルカモ知レナイ、財產ノ殆ド全部ニ至ルマデ、之ヲ世襲財產ト爲スコトヲ得ルノデ
アル、卽チ先刻第一ノ疑問トシテ申上ゲタコトト甚ダ平仄ガ合ハナイト思フ、世襲財產
ト云フモノハ設ケテモ設ケナクテモ宜イ、少シモ設ケナクテモ差支ナイノデアル、併シ又殆
ド全部ヲ舉ゲテ世襲財產ト爲スコトモ差支ナイ、何レノ極端手段ヲ取ルコトモ出來ルノ
デアル、家ヲ維持スル必要ノ限度ヲ超エテ·······例へバ家ヲ維持スルニハ財產ノ半分ヲ世
襲財產トスレバ十分デアッテモ、殆ド其全部マデ世襲財產トスルコトガ出來ルト云フノデ
アル、殆ド全部ニ近イ部分ヲモ不融通物ト爲シテ仕舞フコトガ出來ル、是ハ經濟學者
ナドカラ言ヘバ大ニ議論ノアル問題デアラウト思フ、併シドウモ此點ガ私ハ筋途ノ通ッテ居
ナイヤウニ思フノデアリマス、ソレデアリマスカラ今度ノ改正案ノ如キニモ、一部ノ解除ヲ
許スト云フヤウナ規定ヲ設ケネバナラヌコトニナルノデアラウト思フ、一部解除ドコロデハナ
イ全部解除ヲモ宮內大臣ノ許可サヘアレバ出來ルコトニナッテ居ル其位ナラバ寧ロ初メ
ヨリ財產ノ殆ド全部マデ世襲財產ト爲スコトヲ得ルト云フヤウナコトヲセズシテ······病人
ヲ作ッテカラ醫者ヲ呼ブト云フコトニセズシテ、初メカラ病人ノ出來ナイヤウニスルト云フ
方ガ宜イノデハナイカ、卽チ世襲財產ト爲スコトヲ得ベキ財產ノ最高限ヲ定メ、例ヘバ家
ヲ維持スルニ必要ナル限度······抽象的ニ言ヘバ家ヲ維持スルニ必要ナル限度トカ····
半分トカ幾ラトカ云フコトハ餘リ杓子定規ニ失シテ宜クナイト云フデアリマセウカラ、今申
スヤウナ標準ヲ定メ、宮內大臣ガ相當ノ諮詢機關ニ諮ッテ決定スルト云フヤウナコトニデ
モスレバ幾ラカ弊害ヲモ防ギ、經濟學者ノ非難ヲモ防ギ、而シテアトカラ一部解除トカ
全部解除トカ云フヤウナコトヲセヌナラヌヤウナ必要モ生ジテ來マイ、ドウモ改正スル位ナ
ラバ今少シク幅ヲ擴ゲテ筋途ノ立ッタヤウナ改正ニナレバ尙更結構デアルト思フノデアリマ
ス、私ハ必シモ本案ニ反對ノ趣旨ヨリ申上ゲルノデハナイ、今日改正ニ著手スルト云フ
ナラバ、今申上ゲタ二三ノ要點ヲ眼中ニ置カナイト云フコトハ、ドウモ出來ナイコトデアラ
ウト思フ、何トカサウ云フ點ニ付テ見解ハ定マッテ居ラヌナラヌコトト信ズルノデ先以テ唯
今申上ゲタ三ツノ點ニ付テ明暸ニ政府ノ御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/6
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007・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 唯今富井博士ヨリ御尋ニナリマシタル所ノ根本義ニ關ス
ル御質問ニ付テ御答辯申上ゲマス、今囘ノ改正案ハ現行法ノ取ッテ居リマスル所ノ根
本義ヲ動カスト云フ考デ草案シテハゴザイマセヌ、先キホド大體ノ理由ヲ司法大臣ヨリ述
ベラレマシタ如ク、現行法ノ起草ノ際ニ於テ·······現行法ハ卽チ明治十九年ニ於テ起草
セラレタ、其當時ノ書類ヲ見マスルト云フト華族ガ皇室ノ藩屏デアルト云フコト、其藩
屏タル所ノ趣意ヲ貫イテ、之ヲ鞏固ナルモノニスルト云フ爲ニ、財產ト云フモノヲ世襲ニ
致シテ此目的ヲ達シ、且ツ父祖ノ賢ハ之ヲ子孫ニ望ムコトガ來出マセヌト一云フコトガ已ム
ヲ得ザル次第デゴザイマスルカラシテ、ソレデ將來ニ卽チ父祖ノ如キ賢者ガ出ナイ場合デ
モ、財產ダケハ維持シテ、サウシテ華族タル所ノ體面ヲ全ウシテ、皇室ノ藩屏タル所ノ實
ヲ舉ゲタイト云フ、斯ウ云フコトノ御趣旨デ現行法ガ出來テ居ルト云フ次第ニ、記錄ニ
依ッテ證明スルコトガ出來マスノデアリマス、其根本義ハ今日ニ於テモ變リマセヌノデ、其
主義カラシテ今度ハ其世襲財產法ヲ決定イタシマシタケレドモ、其當時ノ事情ト今日ノ
事情トハ違ッテ居リマスルカラ、今日ノ事情ニ適應スルヤウナ工合ニ、根本義ハ動カサヌ
ガ融通ノ付クヤウナ、世情ニ適應スルト云フヤウナ箇條ダケ改正シテ行キタイト云フ斯ウ
云フ積リデ改正案ガ提出ニナッテ居ル次第デアリマス、而シテ第一ニ御尋ニナリマシタ所
ノ現行法モ矢張リ第一條、改正案モ第一條ニ於テ共ニ世襲財產ヲ設定シ又ハ之ヲ
增加スルコトヲ得ト云フコトニナリマシテ、强制的デナイト云フ點ニ關スル御質問デゴザイ
マスルガ、是ハ矢張リ此改正案ニ於キマシテモ現行法ノ根本義ヲ改正スルト云フ程マデ
ノ必要ハ認メナカッタノデアリマシテ、主義ハ現行法ノ儘デ以テ、先ヅツレデ此世襲財產
法ノ目的ハ達シ得ルモノダト斯ウ考ヘマシテ、而シテ唯今强制的ニシタ方ガ趣意ハ貫ク、
少クモ何程カハ之ヲ强制的ニスル方ガ必要デハナカラウカト云フ御尋デゴザイマシタガ、是ハ
矢張リ現行法ノ制定ノ當時ニ矢張リ餘ホド詳シク審議ニナッテ居リマスノデゴザイマシ
テ、幾ラカ强制的ニスルガ宜カラウ斯ウ云フ意味デ、純收益五百圓以下ニナッテハナラ
ヌト斯ウ云フヤウナ程度ヲ作リマシタノデゴザイマスケレドモ、併シ其點ニ關シテハ又能ク
熟考イタシマスルト華族ノ生計ト云フモノハ必シモ一樣デハアリマセヌノデゴザイマス、或
限度ヲ限定シテ、ソレダケヲ其是非强制的ニ世襲財產トセヨト云フコトハ實際ノ實情ニ
合ハナイ、サウ云フコトハアリ得ナイノデアリマス、現行法制定ノ當時モ五百圓ト云フ額
ニナッテ居リマスケレドモ、是ハ千圓ガ適當デアラウト云フ其當時色〓議論ガゴザイマシタ、
結局其當時ハ五百圓ト云フ限度ヲ作リマシタガ、要スルニ世襲財產ヲ設定スル場合ニ
於テハ先ヅ是ハ宮內大臣ガ實際上カラ調節シテ行ッテ、其限度デ其高ヲ極メ、サウシテ
其高ヲ極メルト云フコトニ付テモ强ヒテソレダケノ高ト云フモノヲ是非ヤラネバナラヌト云
フコトニ强制的ニハセヌト云フ意味ニシテ現行法ガ出來テ居ルノデアリマス、其趣意ヲ强
ヒテ變ヘルト云フコトヲ認ムル程ニ世ノ中ノ事情ガ變ッタト云フ譯デハゴザイマセヌノデアリ
マスカラ、矢張リ實際上ノ調節ヲ計ッテ設定スルト否トハ是ハ自由ニ致シマシテ、又設定
スル高モ無論實際ノ調節ニ委セタイ、斯ウ云フ工合ニシテ草案ヲ立テタ次第デアリマス
ル、要スルニ此現行法ノ規定ヲ改メルコトヲ必要トスル程ニ世ノ中ノ事情ハ變ッテ居ラナ
イ、斯ウ云フ考デゴザイマス、第一ノ點ハソレダケ御答イタシテ置キマス、是ハ要スルニ實
際上デ調和ヲシタイ、斯ウ云フ積リデアリマス、第二ハ實ニ大ナル問題デゴザイマシテ成程
外國等ノ例ヲ見マスルト家產法ト云フモノガゴザイマス、是ハ一般民法ニ關スル所ノ大
問題デゴザイマスガ、今囘ノ華族世襲財產法ニ關シテハサウ云フ廣イ所ニマデハ觸レナイ
積リデゴザイマス、詰リ先程申シマシタ如ク此現行法ノ出來マスル當時ニ華族ノ皇室ノ
藩屏タルト云フコトニ鑑ミテ、ソレカラ其財產ヲ維持シテ、サウシテ其體面ヲ保ッテ行クコ
トノ出來ルヤウニスルト云フ考デ出來テ居リマスルモノデアリマスルカラ、矢張リ其範圍內
ダケデ以テ當世ノ事情ニ適應セヌ所ダケヲ改正シタイト云フ積リデアリマス、尙ホ是ハ他
ノ家ニ及ボスベキヤ否ロト云フコトハ又大ナル問題デゴザイマスルカラシテ別ニ〓究スルコ
トニ致シマス、今日ノ所デハ現在アリマスル所ノ華族世襲財產法、其財產法ノ起草當
時ノ精神ニ顧ミテ、サウシテ改正シテ行キタイ、斯ウ云フ積リデゴザイマス、敢テ其大問
題ノコトニ關シテ異論ノアル次第デハゴザイマセヌ、是ハ大問題デアリマスカラ、別ニシテ今
日ノ所デハ現在ノ世襲財產法ヲ改正シテ行キタイ、斯ウ云フ考デゴザイマス、ソレカラシテ
財產ノ種目ヲ色〓列舉シテ居ル、此總テニ對シテ華族世襲財產トスル、全部ヲ世襲
財產トスルコトヲ得ル、是ハ卽チ財產ヲ不融通トスル、殊ニ國債トカ株式······株券ヲ不
融通トスルト云フコトハ是ハ經濟上大問題デゴザイマス、是モ矢張リ先程申シマスル所
ノ最低限ニ付テモ程度ヲ定メズ、實際デ以テ調和シタイト云フコトヲ申上ゲタト同ジ理
由デ其最大限ノ全部ト云フコトニ付キマシテハ認可スル場合ニ實際調和ヲ計ッテ行クト
云フコトガ出來ルコトカト思フノデゴザイマスルカラシテ、其規則ノ上デハ全部ヲ爲シ得ルコ
トニハ書イテゴザイマスケレドモ、實際上ノ調和ニ讓ッテ行キタイ、斯ウ云フ考デゴザイマス、
ソレハ詰リ華族ノ財產ト云フモノヽ實際ヲ顧ミテ其實際ニ照シテ宮內大臣ニ認可ヲ請
ハレテ來タ時ニ調和ヲシタイ、斯ウ云フ考デアリマス、之ヲ要スルニ根本義ニ關スル所ノ
唯今ノ御質問ハ實ニ重大ナル問題デゴザイマスル、去リナガラ政府デ考ヘマスル所デハ要
スルニ此現在ノ華族世襲財產法制定當時ノ趣意根本ニ基イテ、ソレヲ動カサズニ事情
ニ適應セヌ分ダケヲ改正致シマシテ、サウシテ此華族世襲財產法ガ出來テモ實際ニ於テ
世襲財產ヲ設定スル人ガ少イヤウナ傾キモアリマスル、サウ云フ者ヲ寧ロ勸メルヤウニ致シ
タイト云フノデアリマス、今日ハ全部世襲財產ニスルト云フ憂ノ方ハ寧ロナイノデアリマ
ス、是ハ成ルベク奬勵スルコトガ寧ロ時勢ニ適應シテ居ルコトニナッテ居リマスノデアリマ
ス、要スルニ現行法ノ根本主義ヲ變ヘズ時勢ニ適應セヌ所ダケヲ改メタイ、已ムヲ得ザ
ル部分ダケヲ改メタイ、斯ウ云フコトデアリマス、是ダケ御答イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/7
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008・富井政章
○富井政章君 私ノ質問ニ付キマシテ此上繰返シテ意見ヲ述ベマスノハ甚ダ恐縮デア
リマスルカラ、暫クノ間差控ヘマスガ、唯今ノ最後ノ點ニ關スル御答辯ノ趣意ガ能ク分リ
マセナンダカラ、其〓ダケ今一ツ伺ッテ置キタイ唯今政府委員ノ述ベラレマス所ニ依レバ、
成程財產ノ全部ト雖モ之ヲ世襲財產トナスコトヲ得ルコトニ表面上ハナッテ居ル、併ナガ
ラ實際ハ宮內大臣ニ於テ不都合ノナイヤウニウマク調節ヲ計ッテ行クノデアル、斯ウ云フ
御說明デアルヤウニ思ヒマスルガ、サウ云フコトハ宮內大臣ニ於テ出來ルノデアリマスカ、
アナタハ是ダケヲ世襲財產トシタイト云フ御申出デアルガ、ソレハ多過ギル、多過ギルカラ
是ダケニ減シタラ宜カラウト云フヤウナコトハ言ヘルト云フ趣意デアリマスカ、サウ云フ立法
ノ趣意デアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/8
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009・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 私ガ申上ゲマシタノハ實ハ宮內大臣ニサウ云フ權ガアルト
云フ積リデ申シタノデハアリマセヌ、認可ヲ請ウテ法律ニ基イテ全部設定スルコトヲ得トア
ル以上ハ之ヲ非認スルコトハ出來マセヌノデアリマス、ソコガ先程申シマシタ實際上ノ調
和ヲシテ行クト云フ意味デアリマス、法律上出來ルト云フ積リデハゴザイマセヌ、詰リ實
際上調節ガ出來ルト云フコトニ御答シタノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/9
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010・田健治郎
○男爵田健治郞君 今富井博士ノ御尋ノ第三ニ對スル御答ニ付テチヨット便宜ノ爲
ニ此所ニ御尋シテ置キタイノデアリマスガ、此全部ニシロ、又ハ全部デナクテモ餘リ多ク世
襲財產ニシタガ爲ニ非常ニ難局ヲ生ズルト云フコトハ旣ニ實際ガアル趣ニモ私共ハ承ッ
テ居リマスルガ、其場合ニ於テ如何ニスルカト云フ卽チ宮內大臣ガ事實ニ於テ調和ヲ取
ルヤウニ努ムル積リデアルト云フヤウニ仰ッシヤッタ、其事實ヲ私ハ少シ確メテ置キタイト思
フ、ソレハ此第六條ニモ「前條ノ認可ノ申請アリタルトキハ宮內大臣ハ目錄ニ記載シタ
ル財產ヲ世襲財產トナスノ當否ヲ調査スヘシ、前項ノ場合ニ於テ必要アリト認ムルトキ
ハ宮内大臣ハ目錄以外ノ財產ノ狀況ヲ調査スルコトヲ得」ト云フコトノ書イテアルノハ
今政府委員ノ御答辯ノ趣旨ヲ貫ク爲ノ手段デアッテ、殊ニ第二項ナドハ世襲財產以外ノ
財產ノ狀況ヲ調査スルト云フヤウナコトハ、想フニ此裏ニサウ云フ途ガ開ケテアルト云フ
コトノ趣旨デ出來タモノデアラウト私ハ解釋シテ居ルノデアリマスガ、其事實ハ如何ニナ
サル、是ハ實際問題ニ這入ルト、ナカ〓〓容易ナラヌ困難ナコトデアラウト思フノデアリマ
ス、云フモノハ假ニ此取捨或ハ設定シ或ハ增加シ或ハ減少スルト云フヤウナ場合ニ於キ
マシテ、何レサウ云フ時ニ困難ノ起ルト云フコトハ債務ノ多ク生ジタ時ニ起ルコトデアルト
思ヒマスガ、其債務ノ多ク生ジタ時ニ債權者ハ成ルベク解除サレ減少サレルコトヲ主張
スルニ相違ナイ、獨リ債務者ガ主張スルノミナラズ、此世ノ中ニ能クアルコトデアリマスルガ、
手形ニ裏書ヲシタトカ、若クハ保證ニ立ッタト云フヤウナコトノ爲ニ親屬ナリ若クハ友人
ナドガ同ジ義務ヲ帶ビテ居ルト云フ場合ニ當ッテ、其債務者タル華族ハ債權者ニ對シテ
世襲財產ノ保證ガアリマスルガ故ニ、辨償ノ義務ハ盡サナイデモ宜イ、卽チ世襲財產ニ
及ボスコトハナイト云フヤウナ時ニハ是ガ親屬若クハ友人ノ保證ニ立ッタトカ裏書ヲシタト
カ云フ人ニ及ブノデアリマス、サウ云フ時ニナルト必ズ世襲財產ヲ成ルタケ解除シ、サウシ
テ保證ニ立ッタ人ノ義務ヲ輕クシタイト云フコトハ債權者ガ言フノミナラズ、サウ云フ人マ
デガ主張スルト云フコトニナル、サウスルト宮內大臣ハ假ニ世襲財產ノ當主タル華族ノ
世襲財產ヲ保護シヤウト一云フヤウナ片一方ト、又成ルベク之ヲ解除シテ貰ッテナリ又減
少シテ義務ヲ輕クシテ貰フト云フ要求トノ間ニ板挾ミニナッテ餘ホド是ハ面倒ナ事實ガ
起ルデアラウト思フノデアリマスガ、其時ニ當ッテ宮內大臣ハ如何ニシテ之ヲ判決サルル
カ、唯言フガ儘ト云ヘバソレデモ濟ムヤウナモノデアリマスルケレドモ、雙方カラサウ云フ要
求ガ段々事實ニ於テ起ル時ニナルト宮內大臣ハ之ヲ裁クニ餘ホド困難ナ位地ニ立タナケ
レバナラヌト思ヒマスガ、ソレニハ或ハ富井博士ノ言ハレタ諮詢機關ト云フヤウナコトヲチ
ヨット仰シヤッタヤウニ思ヒマスガ、サウニ云フヤウナモノデモアルノデアリマセウカ、若クハ拵ヘ
テ······サウ云フ面倒ナ雙方ノ要求ガ······殆ド事實ニ於テハ爭訟的ニ起ッタ場合ニ於テ
宮內大臣ハ是ガ公平ナル判斷ヲ與ヘル爲ニ相當諮詢機關デモ置イテ之ニ諮ッテ此裁定
ヲスル、取捨ヲスルト云フコトノ手段デモ御設ケニナルノデアリマセウカ、其邊ノ御見込ガ
アルナレバ今日ナリ若クハ將來ナリノ事實ニ就テ御說明ヲ願ヒタイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/10
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011・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 先程、實際上調節ヲ圖ルト云フコトヲ申上ゲマシタガ、
實ハ今日ハ未ダ出來テ居リマセヌケレドモ、華族世襲財產法ノ施行規則ト云フモノモ
作ラネバナラヌコトニナッテ居リマスノデ、其施行規則デ以テ世襲財產ト爲スコトヲ得ベキ
所ノ家寶ハ由緒ノアルモノニ限ル、サウ云フモノニ限ル、卽チ其家ニアルモノ全體デナイ、
其家ノ特別ナルモノ、又世襲財產ト爲スベキモノハ通常ノ必要費ヲ支辨スルニ足ルダケ
ノ收入收益ヲ生ズルモノデアルト云フヤウナ風ナ工合ニ施行規則ヲ作ッテ、ソレヲ標準ト
シテ實際ノ調節ヲ圖ルト云フ考ハアルノデゴザイマス、而シテ田男爵ノ御尋ノ調査機關
ヲ設ケルト云フコトハ或ハ必要カモ存ジマセヌガ、唯今其腹案ハゴザイマセヌ、是ハサウ云
フ機關ガナケレバ宮內大臣トシテヤリニクイト云フ時ニハ之ヲ作ルト云フコトニナルカ知レ
マセヌガ、唯今ノ所デハマダ腹案ガアリマセヌ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/11
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012・田健治郎
○男爵田健治郞君 今ノ點ヲモウ少シ御尋ネシタウゴザイマスガ、此施行規則ノ御話
デアリマスガ、今ココニ御配付ニナッタノハ現在ノ施行規則ガ配付ニナッテ、チヨット拜見
スルノデアリマスガ、此現在ノ施行規則デハ餘リニ私ガ今御尋スルヤウナ點ニ付テノ規則
ガアリサウニモ見エテ居リマセヌ、シテ見ルト云フト、此新法ニ改正ニナッタ以上ハ施行規
則ガ自然ニ改マルノデゴザイマセウガ、其施行規則ノ草案デモ既ニ御作リニナッテ居ルノ
デアリマセウカ、ソレガアレバ拜見シタイノデアリマス、又今日直グニ御手許ニナイト云フコ
トナラバ今日ニ限ッタ譯デモゴザイマセヌ、ソレヲ拜見スルコトガ出來ルヤ否ヤト云フコトヲ
御尋シタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/12
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013・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 殆ド初稿トモ申スベキモノハ出來テ居リマスノデ、ソレデ
差支ナケレバ今日ハ一部シカ持ッテ居リマセヌガ差上ゲテ差支ナイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/13
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014・岡野敬次郎
○岡野敬次郞君 今本案ニ付テノ大體ノ質問ヲスベキ時機ト存ジマスルガ、前議會ニ
本案ノ提出セラレマシタ際ニ、當時華族世襲財產制度ノ趣意ト云フモノガ果シテ達セラル
ルヤ否ヤト云フヤウナ比較的大ナル問題ニ付テ私ノ當時疑ッテ居ッタ所ノ問題ヲ述ベテ政
府ノ參考ニ供シタノデアリマス、其問題ハ矢張リ此度ノ案ニ付テモ私ハ未ダ十分ニ解決セ
ラレテ居ラヌカノ如ク本案ヲ見ルノデアリマス、固ヨリ此度ノ案ハ前囘ノ案ニ比較シマシ
テハ餘ホド詳密ニナッタノデアリマス、詳密ニナッタダケソレダケ非常ニムヅカシイ法律案デア
リマシテ、私ハ一囘二囘之ヲ通讀イタシテ見マシタケレドモ、色〓諸種ノ法律ニ關係ヲ
有ッテ居ルガ爲ニ、未ダ十分ニ其趣意ヲ了解スルコトガ出來ナイノデアリマス、デ或ハ私
ノ〓究ガ足ラヌノデ、ソレガ爲ニ尙ホ疑ヲ起スカモ知レマセヌガ、併シ私ノ御尋シテ見ヤウ
ト云フノハ、寧ロ內容ニ付テノ質問デアリマスケレドモ、併ナガラ其問題ガ各箇條ニ付テ
ノ問題ト云フヨリハ寧ロ世襲財產ノ制度其モノニ付テノ疑問ナリト稱シテモ差支ナイト
思フノデアリマスカラ、此際ニ二三私ハ御尋ヲシテ置キタイト思フノデアリマス、第一ニ御
尋ヲ致シタイノハ此世襲財產ヲ設置シ、或ハ增加スル當時ニ於テ何カ其華族ノ財產ヲ
調査スルニ付テ特ニ其機關ヲ設ケテヤル積リデアルカドウカト云フコトハ、先刻田男爵ヨ
リ御尋ニナッタ〓デアリマシテ、私モソレヲ一ツ御尋シタイト思ッテ居ッタノデアリマス、ソレニ
對シテ政府委員ハ當時調査機關ヲ設ケル考ハナイト云フ、今ノ所定ッテ居ルノデナイ、或
ハ必要ガアルカモ知レヌ、斯ウ云フコトデアリマシタガ、私ハ尙ホ其點ヲ確カメタイノデアリ
マー、調査機關ヲ設ケルトシテモ其調査機關タルヤ政府デ設ケル所ノ調査機關デハアル
マイト思ヒマス、宮内大臣ノ下ニ調査機關ヲ設ケルヨリ致方ガナイ、ソレデ果シテ宮
內大臣ニ於テモ今御尋スル卽チ調査機關ヲ設ケル考ガナイト云フコトハ先刻政府委員
ノ答辯セラレタル通リデアリマス、其調査機關ノ設置ニ付テ政府ハ宮內省ト何カ打合セ
デモセラレタ上ノ話デアルカドウカト云フコトヲ私ハ第一ニ御尋シタイノデアリマス、調査機
關ヲ設ケルノハ、何レ設ケルトスレバ蓋シ宮內大臣ノ下ニ設ケルノデ、政府ノ機關トシテ
設ケルモノデアルマイト思ヒマスノデ、其點ヲ御尋シタイノデアル、リレカラ第二ニ御尋シタ
イノハ、此世襲財產ト爲サムトスル所ノ財產ニ付テ既ニ特別ノ擔保權ノ目的トナッテ居
ル所ノモノハ、或ハ抵當權ノ目的トナッテ居リ、或ハ質權ノ目的トナッテ居ル、此種ノ財
產ト云フモノハ現行ノ規則ノ下ニ於テハ世襲財產ト爲スコトヲ得ズト云フコトニナッテ居
ルノデアル、デ世襲財產ト爲スコトハイカヌト云フコトニナッテ居ルガ、之ヲ世襲財產トシ
タ場合ニ於テ其世襲財產タルノ效力ヲ有ッカドウカト云フコトハ、解釋上一ツノ疑問デ
アルト云フヤウニ承ッテ居リマスケレドモ、私ハ疑問トシテ居ラヌノデアリマス、ソレハ世襲
財產トナッタ爲ニ既ニ或ル所ノ擔保權ガ效力ヲ失ッテ仕舞フト云フ道理ハ私ハドウシテモ
ナイト思フノデアリマスカラ、寧ロ此抵當權或ハ質權ノ、特別ノ擔保權ノ目的トナッテ居
ル財產ハ世襲財產ト爲スコトヲ得ズト解スルノガ私ハ正シイト思フノデアリマス、然ルニ
此度ノ案ニ依リマスト云フト、是亦世襲財產ト爲スコトヲ得ルコトニナッテ居ル、デ私ハ
此世襲財產法ノ世襲財產ト爲サムトスル財產ハ抵當權デアルトカ、或ハ質權ノ目的
トナッテ居ルモノハ、寧口世襲財產ニシナイ方ガ宜カラウ、啻ニ之ヲ世襲財產ト爲サムトス
ルハ當初バカリデナイ、將來ニ於テ其擔保權ヤ或ハ抵當權質權ヲ執行シタ後ノ始末ニ
付テモ寧ロサウ云フ財產ハ世襲財產ニシナイ方ガ總テ私ハ圓滿ニ行クデアラウト思フノデ
アル、サウ云フモノマデモ何モ世襲財產ニスル必要ハ少シモナイト斯ウ私ハ思ッテ居ルノデ
アリマス、其細カイコトハ暫ク措キマシテ、何ガ故ニ本案ニ於テハサウ云フ特別ノ擔保權
ノ目的タル財產ハ尙ホ世襲財產ト爲スト云フ途ヲ開イタノデアルカ、其理由ヲ私ハ伺ヒ
タイノデアリマス、ソレカラ或ハ其點ニ付テハ宮內大臣ガ調査スルカラ、サウ云フヤウナ財
產ナラバ世襲財產ニシナイカモ知レナイ、斯ウ仰ッシヤルカ知レマセヌ、仰ッシヤルカ知レマ
セヌガ、ソレナラバ最初カラシナイ方ガ遙ニ宜イト思ヒマス、成ルベク世襲財產ト云フモノ
ハ純粹ノ財產ニシタ方ガ私ハ宜カラウ、世襲財產ニ編入シタ後ニ色ミナ面倒ガ起ラヌヤ
ウニシタ方ガ宜カラウト私ハ思ッテ居ルノデアリマスカラ、ソレガ故ニ御尋シタノデアリマス、
ソレカラ第三ニ御尋シタイノハ、此世襲財產ニ編入セラレタル所ノ財產ガ形ノ變ッタ場
合ニ於テ······其形ガ多クノ場合ニ於テハ金錢デアリマス、其金錢デアッタ場合ニ世襲財
產ノ效力ヲ其金錢ニ有タシムルコトガ出來ルカ出來ヌカト云フ問題デアリマス、若シ金
錢ナルガ故ニ世襲財產ノ效力ヲ有タシムル方法ガナイト云フコトヲ本案ガ認メテ居ルナラ
バ、ソレハ果シテ世襲財產ト云フモノヲ設置シタ目的ヲ達スルニ於テ十分ナルヤ否ヤト云
フコトヲ私ハ疑フノデアリマス、ソレハ或ハ世襲財產トナッテ居ル所ノモノハ、其土地ガ土地
收用法ノ規定ニ依ッテ收用セラレタ、補償金額ト云フモノニ變ッタ、此場合ニハ申スマデ
モナク、詰リ土地收用法ノ規定スル所ニ依レバ、財產、不動產ハ補償金額ト云フモノト
交換的ニナルノデアリマス、一方金ヲ拂ハナケレバ土地ヲ請取ルコトハ實際出來ナイ譯デ
アル、其金ニナッタ場合ニ其金ヲ請取ルコトガ債權ノ場合ナラバ、是ハ何カノ手續ヲ以テ
世襲財產ト爲スコトガ出來マセウ、併シソレニ付テモ民法ノ債權ト雖モ特別ノ手續ヲセ
ネバナラヌコトニナッテ居リマス、實際金錢ニナッテ仕舞タタ場合ニハ私ハ甲ノ此財產、此
財產ハ世襲財產タリシ財產ノ代リノモノデアルト云フコトハ謂ハヾ同一物ノ代リノモノデ
アルト云フコトガ私ハ證明ガ出來ヌ、甲ノ財產ハ卽チ乙ノ財產ノ代リデアルノダト云フ證
明ハドウシテ出來ルカ、何ガ此世襲財產ノ代リノ財產ダカラ是ハ何處マデモ
ドウ云フ形ニナラウトモ債權デアラウトモ實際ニ金錢ニナッテシマッテモ尙ホ矢張
リ世襲財產ノ效力ヲ持ツヤウニシテ置クト云フコトガナケレバデスネ、一方カラ
言ヘバ世襲財產ノ本當ノ目的ガ達セラレナイ、例ヘバ株券ニ付テ見テモ株劵
ガ償却セラレタト云フ場合モアリマセウ、債券ノ場合デアレバ償還セラレル場合ガ
アリマセウ、國債ダッテモ償還セラレル場合ガアリマス、ソレガ債權デアリマスレバ何ト
カ方法ガ付キマセウガ、金錢デアッタ場合ニハ如何ニ世襲財產ノ效力ヲ持タシムルコトガ
出來ルカ、若シ持タシムルコトガ出來ナイナラバ償還ニナルト云フト詰リソレダケ世襲財
產ガ減ルコトニナル譯デアル、若シ默ッテ居テ世襲財產ノ效力ヲ持ツト云フコトニナッタナ
ラバ他ノ債權者ハ頗ル迷惑ヲスル、ドウシテ此金ハ甞テ世襲財產タリシ株券或ハ債券ノ
代リデアルト云フコトガ言ヘルデアラウカ、ソレデドウ云フヤウニ其處ノ調和ヲセラルルノデ
アルカト云フコトガ私ハ能ク分ラヌ、十九條ト二十條ヲ讀ンデ見テモ尙ホ分ラヌノデアリ
マく、ドウゾ十九條ト二十條ヲ參考シテ私ハ御答ヲ願ヒタイノデアリマス、十九條、二十
條ヲ氣附カズニ私ハ御尋ネスルノデハアリマセヌ、之ヲ能ク承知ノ上デ私ハ御尋ネスルノ
デアリマスカラ、其積リデ御答辯ヲ請ヒタイノデアリマス、ソレカラ其次ハ······此前ニモ私
ハ申シタコトデアリマスガ、世襲財產ノ既ニ設定セラレテ居ル所ノ華族ニ對シテ或ハ金ヲ
貸ストカ其他契約ヲスルトカ云フヤウナ場合ニ於テハソレガ爲ニ債權者トナル所ノ者ハ
ソレハ豫メ世襲財產ガアルノデ、此世襲財產ニハ手ヲ附ケルコトガ出來ナイモノデアルト
云フコトヲ承知シテ權利ヲ得ルノデアリマスカラ、此時ハ其世襲財產ニ對シテ己ノ權利ヲ
主張スルコトガ出來ナイデモ是ハ私ハ已ムヲ得ヌコトデアル、ソレハ當然ノコトデアルト思
フ、併ナガラ若シモ華族ニ何カ不法行爲ガアルトカ其他過失ニ依クテ他人ニ損害ヲ與ヘ
タ場合ニ於テ其損害ヲ被ッタル他人ハ少シモ世襲財產ノアル華族ダカラトカ、世襲財產
ノナイ華族ダカラト云ッテモ何モ區別ハナイノデアリマス、此場合ニハ此華族ニ對シテ損
害賠償ヲ請求スル時ニ於テ矢張リ世襲財產ハ何處マデモ除外サレテシマフト云フコトニ
ナルノデアリマス、ソレガ果シテ正當デアルカドウカ、一方ニハ國稅デアリマストカ、或ハ地
方稅デアルトカ、其稅ハ其財產ニ課スル稅デアルト否トヲ問ハズ、苟モ國稅タリ地方稅タ
リ公課タル效力ヲ有ッテ居ルモノハ世襲財產ニ對シテハ何所マデモ之ヲ執行スルコトガ出
來ルノデ、罰金科料ノ如キモノト雖トモ尙ホ之ヲ徵收スルコトガ出來ルノデ、サウシテ私
人タル者ハ華族ノ過失ニ依ッテ損害ヲ蒙ッタル場合ニ於テ其賠償ヲ請求スルニ當ッ
テ何カ故ニ世襲財產ニ少シモ手ヲ附ケルコトガ出來ヌト云フコトニスルノデアルカ、不
權衡デナイカト云フコトヲ私ハ疑フノデアリマス、此問題ハ矢張リ此前ニモ私ハ述
ベタヤウニ記憶シテ居リマスガ、何ガ故ニ左程ニマデ私人ノ權利ヲ制限セネバナラヌ
ノデアルカト云フコトヲ私ハ疑フノデアリマス、ソレカラ終リニモウ一ツ御尋ネシタイノハ是
ハ破產ニ關スル問題デゴザイマス、華族ニ對シテモ無論破產ヲ宣告スルト云フ必要ノ起
ルコトハ論ハナイノデ、ソレデ世襲財產ガナケレバ一向問題ハ起ラナイ、世襲財產ノアル場
合ニ起ルノデ、ソレデムツカシイコトハ私ハ申シマセヌ、極ク簡單ナ例ヲ以テ申スノデスガ、
玆ニ華族ガ世襲財產ヲ十万圓持ッテ居ル、其以外ノ財產ヲ五万圓持ッテ居ル、合セテ
十五万圓ノ財產デアル、此場合ハ其華族ガ何等カノ原因ニ依ッテ八万圓ノ債務ヲ負
擔シタト假定スル、サウスルト其八万圓ノ債權者ハ華族ノ財產中ノ五万圓ニ對シテ權
利ヲ行フヨリ外ニハ道ハナイ、世襲財產ノ十万圓ニハ無論手ハ附ケラレナイ、是ハ疑ヒナ
イノデス、トコロガ其八万圓ノ債權者ト云フモノガ華族ニ對シテ期限ガ來タ等ノ理由ニ
依ッテ己ノ權利ヲ行ハムトスルノニ財產ハ足ラナイ、期限ノ來ルモノノ負債モ之ヲ何レモ
辨償スルコトハ出來ヌト、サウ云フ場合ニハ其華族ニ向ッテ必ズ破產ノ宣告ヲ申請スル
ニ相違ナイト思フ、此場合ニハ手ヲ附ケラレナイ、十万圓ノ財產ヲ加ヘレバ十五万圓ノ
財產ガアルカラ破產ノ宣告ハスルコトハ出來ナイト云フ理窟ハナイ、手ヲ附ケラレナイ財產
ヲ除イテ跡ノ財產ノ狀態ニ依ッテ破產ノ宣告ヲスルヨリ致方ハナイト思フ、是ハドウ立法
シテ見タ所ガ私ハ必ズサウナルト思フノデアリマス、ソコデ此場合ニ華族トシテ取ルベキ道ハ
何デアルカ、ドウモ八万圓ノ借金ガアッテ五万圓ノ財產シカナイ、將ニ破產ヲ宣告セラレ
ムトシツツアル寧ロ世襲財產ノ一部ヲ解イテ、サウシテ解除シテ借金ヲ拂ッタ方ガ宜イ、
斯ウ云フ途ヲ取ルカモ知レヌ、ソレモ一ツノ方法デアリマセウ、ソレデ幸ヒニシテ借金ガ片
附イタ、尙ホ其家ヲ維持スルコトガ出來レバ誠ニ結構デアリマス、イツモ〓〓サウ云フ方
法ヲ執ルナラバ何モ世襲財產ノ效果ト云フモノハ私ハナイト思フ、借金ガアッテモ尙ホ其
借金ノ爲ニ世襲財產ハ取ラレナイト云フ所ニ保護ノ趣意ガアルノデアリマス、イツモ世襲
財產ノ一部ヲ解除シテ借金ヲ據處ナク拂フノダト云フ所ニ立至ルナラバ是ハ何モ世襲
財產ノ目的ハ私ハ達セラレナイト思フ、ソコデソレナラバドウスルカ、若シ華族ガ是ハ世襲
財產ハ手ハ附ケラレヌノダカラ知ラヌ顏ヲシテ居レト、解除ノ途ヲ取ラズシテ知ラヌ顏ヲシ
テ居ル、知ラヌ顏ヲシテ居ル時ニハドウナルカト云ヘバ破產ヲ宣告セラルルト云フコトハ明
カデアル、其破產ヲ宣告セラレタ曉ニ於テドウ云フコトニナリマスカ、場合ニ依ッテハ華族
令ノ定ムル所ニ依ッテ華族ノ禮遇ヲ停止セラルルコトハ是ハ明瞭デアル、更ニ情狀重キ時
ハ爵マデモ失フコトニナル、爵ヲ失ッタ場合ニハ世襲財產ガ無クナッテシマッテ、詰リ世襲財
產ノ效力ガナイノダカラ全部ガ債權者ノ攻擊ト云フモノニナル、サウニ云フヤウナ場合ヲ考
ヘテ見ルト云フトドウモ華族ノ方デハ寧ロ世襲財產ナリ華族ノ禮遇ヲ停止セラルル位ナ
ラ寧ソ一部ノ解除ヲシテ借金ヲ拂ッタ方ガ宜イト云フ考ヲ起スカモ知レヌ、況ヤ進ンデ爵
デモ失フヤウナ場合ニハ、爵ヲ失ヒ世襲財產ノ效力ヲ失フナラ世襲財產ノ方ヲ解イテ借
金ヲ拂ッタ方ガマダシモ宜カラウ、斯ウ云フヤウナコトニナリハセヌカ、斯ウ云フヤウナコトニ
ナルト云フト折角世襲財產ト云フモノヲ設ケテ見テモ殆ド保護ノ必要ノ緊急ナル場
合ニ於テハ實際其保護ノ目的ヲ達セラレナイト云フコトニナリハセヌカ、斯ウ云フコト
ヲ私ハ心配スルノデアリマス、或ハ實際ニ行ッタラ其戶主ガ隱居シテ仕舞フト云フヤ
ウナコトモ隨分アルヤウデアリマスガ、併シ隱居シタカラソレデ宜イト云フ譯ハ私ハナカ
ラウト思フノデアリマス、其邊ハドウカ云フヤウニシテ華族ノ世襲財產ノ趣旨ヲ貫イテ
行ケルコトニナルノデアリマスカ、矢張リ私ハ前囘ト同ジヤウニ其疑問ヲ有ッテ居ル、是
等ハ小サイ問題ノヤウデアリマスガ、實ハ到底サウ云フヤウナ場合ニハ保護ガ出來ヌノダ
ト云フコトニナレバソレハ世襲財產制度ト云フモノヲ根本カラ疑ハザルヲ得ナイコト
ニナルノデアリマス、私ハ小問題トハ思ハナイノデ大體ノ質問ト云フ形ニ於テ御尋ヲ
シテ不適當デアルマイト思ヒマス、以上五點ニ付テ御答辯ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/14
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015・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 岡野博士ノ第一番ノ御尋ネハ調査機關ニ關スルコトゝ
思ヒマス、此御尋ノ宮內大臣ノ監督ノ下ニ調査機關ヲ置クト云フ其調査機關ニ付テ
ハ先程申上ゲマシタ如クニ今日ノ所何等〓究イタシテ居リマセヌ、ソレハ宮內省ト交涉
ノ結果トシテ申上ゲルノデアリマス、但シ先程御約束申上ゲマシタ所ノ華族世襲財產
法ノ施行規則ノ案ノ中ニハ是ハ未定稿デハ勿論ゴザイマスガ、當該官吏ヲシテ其財產
ニ付テ調査ヲ爲サシメルト云フコトニシテ、マア案ハ出來タノデゴザイマス、御尋ノ如ク宮
內大臣ノ下ニ調査機關ヲ置クト云フコトハ是ハ唯今ノ所デハ〓究シテ居リマセヌノデゴ
ザイマス、〓究ノ結果ヲ出シテ居リマセヌ、併シ是ハ必要ト云フコトデアリマスレバ之ヲ設
ケルト云フコトニナルカハ存ジマセヌガ、唯今ノ所デハソレハマダ宮內省ト打合セテノ案ガ
出來テ居リマセヌ、ソレカラ第二ノ華族世襲財產法ノ第六條ニ依リマスルト云フト「負
債償却ノ義務アル財產ヲ世襲財產及ヒ附屬物ト爲スコトヲ得ス」ト云フコトガアリマス、
改正法ハ之ヲ世襲財產ノ目的物ト爲スコトガ出來ル、世襲財產ト爲スコトガ出來ルト
云フヤウナ風ニ仰シヤッタヤウニ記憶シテ居リマス、現行法モ矢張リ質權、抵當權、賃借
權ノ目的物ニナッテ居ル所ノモノハ世襲財產ト爲スコトヲ得ナイト云フ立テ前デ來テ居ル
ノデゴザイマス、ソレハ八條、十二條、二十三條ニ於テ其事ヲ規定シテ居リマス次第デゴ
ザイマス、改正案モ矢張リ舊法ト同ジコトデアルト云フコトヲ申上ゲテ置キマス、ツレカラ
第三ノ世襲財產ガ償還サレル、例ヘバ公債ガ償還サレタト云フヤウナ其期間ニ於テ是ガ
金トナル、金錢トナッタ以上ハ他ノ金錢ト區別ヲ爲スコトハ出來ナイ結果、結局之ヲ世
襲財產トシテ保護スルコトハ出來ナイデハナイカ、如何ニシテ之ヲ世襲財產ト同ジヤウニ
シテ保護スルカト斯ウ云云誠ニ困難ナル御質問デゴザイマス、御答辯ニ困難スル御質問
デゴザイマス、去リナガラ此規定ニゴザイマス如ク矢張リ世襲財產トシテ其モノガ·······詰
リ自己ノ「ポッケット」ニ這入ッテ來ヌトセン以上ニハ矢張リ世襲財產トシテ保護シテ行カ
ウト云フ趣旨デ規定シテ居リマス、而シテ其償還サレタル所ノ金ガ他ノ金ト區別シ得ルヤ
否ヤト云フ卽チ自己ノ「ポッケット」ニ這入ッタカ這入ラヌカト云フ區別ハ是ハ實際上ノ問
題ニナルコトデゴザイマス、免ニ角是ハ償還セラルレバ其償還ノ高ト云フコトモ分ルコトデ
アラウト思ヒマス、併シソレ以上ドウシテソレヲ區別シ得ルカ否カト云フコトニ付テハ實ハ
明確ナル所ノ案ガアレバ結構デアリマスケレドモ、矢張リ考ヘテモ其案ハ立テニクイノデゴ
ザイマス、先ヅ普通ノ觀念デ差引シテ殘ッタモノガ自己ノ金ト證明サレレバ兎ニ角公用徵
收ニ依ッテ收容サレテ支拂ッテ殘ッタモノトカ或ハワレ等ノ材料ニ依ッテ證明スルヨリ外仕
方ガナイノデゴザリマス、證明サレタモノハ矢張リ世襲財產ト同一ニスルト云フコトデゴザ
イマス、實行困難ト云フコトハ是ハ實ニ已ムヲ得ナイ次第デゴザイマス、其事ヲ考ヘマシ
タ以上矢張リ十九條、二十條ト云フモノヲ草案イタシタ次第デゴザイマス、ソレカラ第四
ノ御質問デゴザイマスガ、不法行爲等ノ爲ニ其場合ニ於テモ世襲財產ニ手ヲ著ケヌコト
ニシテ置イテハ一方滯納處分トカ何トカ云フ公ノコトニ比較シテ見テ不公平デハナイカト
云フ、斯ウ云フ御尋デゴザイマスガ、是ハ公ノコトト矢張リ區別シタノデゴザイマシテ、詰
ル所第十五條ノ一項ニゴザイマス詰リ「民事上ノ强制執行ノ目的ヲ以テ」ト云フヤウナ
私法上ノ關係ノコトト公ノコトト區別シテ公ノ方ハ已ムヲ得ヌ、其民事上ノ關係ノ方ノ
場合ニ於テハ矢張リ世襲財產ニシテ手ヲ著ケマセヌト云フ立前デ世襲財產ヲ保護スル、
公ノ方ハ已ムヲ得ヌト斯ウ云フ譯デゴザイマス、ソレカラ第五ノ問題ノ破產ノ關係デゴザ
イマスガ、是ハ詰ル所誠ニ已ムヲ得ザル次第デ、已ムヲ得ザル次第デアル場合ニ於テハ此
第十七條ニ揭ゲテ居リマス所ノ「已ムコトヲ得サル事由アル場合」ト云フコトノ一ツトシテ
此事ヲ考ヘマシテ、成ルベクハ斯ル場合ニ世襲財產ノ方ノ保護ヲ闕クコトノナイヤウニ
······併シ已ムコトヲ得ザル一ツノ場合トシテ、唯今御尋ニナッタ此問題ヲ解決シテ、普
通直グ世襲財產ヲ解除スルコトデナク、華族ノ禮遇ヲ停止セラルヽト云フヤウナ據ロナイ
場合ヲ見積ッテ第十七條デ解決シタイト云フ考デ成ッテ居ルノデゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/15
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016・岡野敬次郎
○岡野敬次郞君 折角御答辯ヲ得マシタガ、マダ十分了解イタシマセヌカラ又繰返シ
テ五問ニ付テ簡單ニ御尋イタシマス、私ノ第一ニ調査機關ト申シマシタノハ例ヘバ現在
華族ノ處分ニ付キマシテハ、華族ガ寄ッテ決議スルトカ相談ヲスルトカ云フヤウナコトガ現
在アルノデアリマス、例ヘバ懲戒ナドニ付キマシテ······ソレデ華族仲間ノ人ヲ集メテ相談
デモシテ極メルト云フ機關ヲ設ケルノデアルカト云フ意味デ御尋シタノデアリマス、官吏ト
云フ意味デ御尋スルノデハアリマセヌ、ソレデサウ云フヤウナモノヲ今ノ所設ケナイト云フコ
トデアリマスレバ御答辯ハ要リマセヌ、敢テ官吏ト云フ意味デ御尋シタノデハアリマセヌ、
第二ノ問ノ擔保ノ目的ニナッテ居ルモノト云フコトニ何テハ、十八條二十一條二十三
條等ヲ引イテ御答辯ニナリマシタガ、私ノハ大變違フ、私ノハ斯ウ云フ意味デ御尋シ
タノデアリマス、質權トカ抵當權トカ云フモノヽ目的ニナッテ居ル財產ガ、誤ッテ世襲財
產トセラレタナラバ、ソレハ世襲財產ノ效力ガナイト何故規定セラレヌカト云フコトヲ御
尋シタ、私ガ先刻申シマシタ如ク、現在ニ於テモサウ解釋スルノガ正シイト思ッテ居リマス、
ソレヲ斯ノ如ク改メラレタノハドウ云フ譯ダト云フコトヲ御尋シタノデアリマス、二十三條
ヲ引イテ御答辯下スッテモ私ノ問ハムト欲スル意味ニハ達セヌノデアリマス、ソレカラ其次
ニハ償還ノ場合デアリマスガ、若シ先刻政府委員ノ御答辯ノヤウナ意味デアルト、何カ自
分ノ「ポッケット」ニ入レタトカ自分ノ財產ト混同シタトカ云フ誠ニ通俗ノ所テ御答ニナリ
マシタガ、然ラバ私ハ尙ホ進ンデ御尋シタイノハ、民法ノ先取特權質權ノ場合ト何故區
別ヲセヌカト、斯ウ云ッテ御尋シタガ早カラウト思ヒマス、民法デハ債權トシテハ出來ルガ金
錢トシテハ出來ナイト云フコトニナッテ居ル、然ルニ世襲財產トシテハ實際金錢ニナッテモ
債權ノ代リニ權利ヲ行フト云フコトニナッテハ是ハ法律上非常ニムヅカシイト思ッテ居ルカ
ラ御尋ヲスル、寧ロ民法ノ先取特權ト······何條デアリマシタカ、條文ハ覺エマセヌガ··
〔富井政章君「三百四條」ト呼フ〕
三百四條ノ規定ト違タタ趣意ヲ何故設ケラレタカト斯ウ云ッテ御尋シタガ早イ、其次ハ
損害賠償ノコトデアリマス、ソレハ政府委員ノ御答ノ通リ、公ト私ト區別シタト云フノ
ハ分ッテ居リマスガ、何故區別シタカト云フコトヲ御尋シタ、サウ云フ趣意デ書イタノダト
云フコトハ承知ノ上御尋シタノデアリマス、或華族ニ對シテ、少額ノ地方稅トカ云フヤウ
ナモノデアルナラバ世襲財產ヲ使ッテモ宜シイ、然ルニ一個人ガ損害ヲ被ッテ其代償ヲ請
求スルヤウナ段ニナッタナラバ手ヲ著ケルコトハ出來ナイ、國家ナリ團體ナリニ少額ノ課稅
ヲ取ラセルヨリモ、私人ヲシテ其權利ヲ行ハセタ方ガ權衡ヲ得タモノト思ヒマス、ナゼ公ト
私トデ區別ヲスルカサウ云フ立法ノ趣旨ヲ御尋スルノデアリマス、法律ガ出來テ居ルヤ否
ヤヲ御尋スルノデハナイ、其事ヲ御答ヲ願ヒマス、私ハ不權衡ダト云フ考ヲ持ッテ居リマ
スカラ其疑ヲ解キタイト思ヒマス、ソレカラ破產ノコトニ付テ誠ニ意外ナ御答デアリマス
ガ、私ハ政府委員ノ御答ヨリハ其レ以上保護シタイト思ヒマス、制度ヲ設クル以上ハ······
然ルニ何時デモ十七條ヲ引張ッテ來テ、已ムヲ得ザル場合ニハ解除スルノダト云フコトナ
ラバ、殆ド世襲財產ノ目的ハ達セラレヌ、何故ナレバ已ムヲ得ヌカラ解除シテ借金ニ返
スト云フコトデアレバ、華族ノ負擔シタル債務ノ爲ニ其攻擊ヲ避ケテ、サウシテ華族ノ家
ヲ維持シ華族ノ體面ヲ保ツ上ニ於テ世襲財產ハ設ケラレルト云フ以外ニ、何モ意味ハ
ナイ、然ルニ破產デモヤル場合ハ已ムコトヲ得ザルコトデアルカラ解除スルノダト云フコトデ
アレバ其目的ハ達セラレナイカラ御尋ヲシマスノデ、何時モ何時モ十七條ヲ適用スルナラ
バ寧ソ世襲財產ノ制度ハ廢止シタガ宜シイ、サウ云フ場合ニコソ世襲財產ノ必要ガア
ル、ソレ故ニ如何ニシテ保護スルノデアルカト云フ御尋ヲシタノデアリマスガ、十七條ノ御
答デハ御尋ヲシタ趣意ヲ達セラレヌノデアリマスカラ尙ホ重ネテ御尋ヲ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/16
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017・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 第二番ノ問題ニ補ッテ御答イタシマスガ、第十二條ニ於
テ規定シテアル所ヲ御覽下サイマスレバ······詰リ世襲財產トナッテ、其效力ヲ第三者ニ
對抗スルノハ登記登錄ノ後テ、其前ノ原因ニ基キ御尋ノ質權抵當權其他ノ權利ヲ持ッ
テ居ルモノハ、判決又ハ確定日附アル證書ニ依リテノミ權利ヲ主張スルコトヲ得ルト云フ
意味デアリマスカラ、現行法ノ精神ト變シテ居ラナイ積リデアリマス、ソレカラ第三ノ御尋
ノ先取特權ノ問題ノコトハ私ハ民法ノ專門家デゴザイマセヌノヲ遺憾ト致シマス、民法ノ
大家ニ對シテ私ノ說明ガ間違フトイケマセヌカラ、此方ハ司法省ノ御方ニ御讓リ致シマ
ス、第四ノ公ト私トヲ何故公平ニセヌカト斯ウ云フ御質問デアリマスガ、先程申上ゲマシ
タ如ク、公ノ方ニ重キヲ置イタト云フ斯ウ云フ精神デアルノデアリマス、ソレヨリ以上ノ御
答辯ノ理由ハ私ハ見出シ得ナイ、詰リ公ノ債務ト云フモノニ付テ其方ニ重キヲ置イ
テ······不公平ハ已ムヲ得ナイ、其他民法上ノ關係ニ對シ不公平デモ已ムヲ得ナイ、斯ウ
云フ積リデアリマス、ソレカラ破產ノ問題ニ付キマシテハ私ノ御答辯ガ御滿足ヲ得ナイノハ
甚ダ遺憾デハゴザイマスケレドモ、斯ノ如キ場合ハ卽チ萬已ムヲ得ザル、滅多ニ無イ場合
デアリマスト云フコトヲ御答イタシマシタガ、ソレヨリ以上ノ御答ハ私ハ破產法ニ詳シクアリ
マセヌカラ司法省ノ御方ニ御讓リヲ致シテ御滿足ヲ得ルコトニ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/17
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018・豐島直通
○政府委員(豐島直通君) 唯今岡野博士ヨリ御尋ニナリマシタ中此案ノ第十九條
ノ規定ニ付キマシテ、ナゼ民法ノ先取特權ニ關スル三百四條ノ規定ノヤウナ風ニ規定シ
ナカッタト云フコトニ付キマシテ御答ヲ致シマス、之ニ付キマシテハ此前ノ議會ニ於キマシテ
御說明モ岡野博士ヨリゴザイマシタノデアリマスルノデ、御議論ハ能ク承知イタシテ居リ
マス、唯民法ノ先取特權ノ規定ト十九條ノ規定トヲ比較シマシテ寧ロ十九條ノヤウナ
規定ノ方ガ簡便デアル、斯ウ云云ヤウニ考ヘマシテ規定イタシマシタ、先取特權ノ方ノ規
定ニ依リマスルト、拂渡シヲ受ケル前ニ差押ヘヲシナケレバナラヌト云フヤウナ規定モゴザ
イマスル、却ッテソレデハ事ガ面倒デゴザイマスル、總テ此世襲財產ニ關スルコトハ華族其
人ノ矢張リ信用ト云フモノヲ考ヘテ、其人ハ餘リ惡イコトラスル者デハナイ、斯ウ考ヘテデ
ナケレバ完全ニ行ハレナイモノト信ジマス、其華族ノ不正行爲ハ餘リナイモノデアルト云フ
考カラシマシテ、他ノ財產ト混合シナイデ置イテ、他日更ニ世襲財產ニスルト云フヤウナ
コトモ實際ニ於テウマク行ハレルノデアル斯ウ云フヤウニ考ヘマシテ、決シテ不都合ナコト
ハナイト信ジテ斯ウ云フ規定ヲ設ケタノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/18
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019・岡野敬次郎
○岡野敬次郞君 私ノ御尋シタコトハマダ要領ヲ得マセヌケレドモ其邊ニ止メテ置キマ
スガ、最後ニ十九條ヲ引イテノ御答辯ハドウモ私ニハ分ラヌノデス、ドウ考ヘテモ、華族ガ不
正行爲ヲスルトカ、セヌトカ、ソンナコトヲ御尋シタノデハナイ華族ノ世襲財產ト云フモノノ
效力ト其代ック所ノ財產ニ對シテ一般ノ債權者ノ權利ト云フモノトノ關係ニ付テ御尋シタ
ノデアリマス、華族ガ不正行爲ヲスルトカセヌトカサウ云フ問題デハナイ、、世襲財產ノ效力
ヲ有タセルコトニナレバ、一般ノ債權者ハ其財產ニ對スル代リノ財產ニ對シテ權利ヲ行ハレ
ナイコトニナル、ソレカラ甲ノ財產ノ代リニ其乙ノ財產ガ出來タト云フコトガ明暸デアルナラ
バ、ソレハ一般ノ債權者ハ一向迷惑セヌト云フコトニナル、其甲ノ財產ノ代リニ乙ノ財產ガ
出來タ、其乙ノ財產ヲ甲ノ代リノ財產トシタト云フコトガドウシテ分ルカ、分ラナイノニ世襲
財產ノ效力ヲ有タセテハ一般ノ債權者ハ送惑ヲスルコトニナル、ソレデアリマスカラ、何カ
特殊ノ手續ニデモ依ッテ、例ヘバ民法三百四條ノ規定ガ宜イトカ惡イトカハ別デアリマス
ケレドモ、何カサウ云フヤウナ手續デモアッテ、是ガ故ニ一般債權者ノ權利ハ行ヘナイト云
フコトニナレバ宜イデスケレドモ、サウデナカッタラ餘程迷惑ヲセヌカト云フ、斯ウ云フ方カラ
御尋ヲシタ、華族ガ不正行爲ヲスルダラウトカ、信用セナイトカソンナ問題デハナイ、此民
法ノ三百四條ノ規定ハ不正行爲ヲスルトカ何トカ云フ問題デハナイ一般ノ債權者ト
先取特權者ト云フモノヽ權利ヲ調和スル問題デアル、不正ヲスルトカ信用セヌトカ云フヤ
ウナ問題デハナイ、ソレデ十九條モ矢張リ同ジコトデアル、然ルニナゼ三百四條ノ規定ト區
別シタカト云フコトヲ私ハ御尋シタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/19
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020・豐島直通
○政府委員(豐島直通君) 御尋ノ趣意ハ能ク了解シテ居リマス、唯此世襲財產ニ
代ッタ財產ト云フモノハ金錢デアルガ爲ニ他ノ財產ト混同シ易イモノデアル、區別ガ出來
ナイデハナイカト云フ御尋ニ付テハ是ハドウモ何トモ御答ハ出來マセヌノデ洵ニ其御尋ノ通
リノ次第デアルト考ヘマス、ソコガ卽チ華族ニ信用ヲ置イテ居ル點デ、サウ云フコトニ付テ
ハ此法律ノ精神デ再ビ世襲財產ニサセルノデアルト云フコトヲ遵奉シテ、決シテ區別ノ付
カヌヤウナコトニハ華族其モノハ之ヲサセナイト信ジテ居ル、ソコデ一般ノ債權者ノ方デ自
分ノ權利ガ不明ニナルト云フ虞ハナイ、斯ウ云フ趣意デ御答ヲ致シマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/20
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021・岡野敬次郎
○岡野敬次郞君 甚ダシツコイヤウデアリマスガ、私ノハ斯ウ云フコトヲ御尋シタ、債權
デアルナラバ、其債權ガ是ハ代リノモノダト云フコトハ能ク分リマスケレドモ、一度ビ金錢
トナッタナラバ、ドウシテ代リノモノダト云フコトヲ一般ノ人ガ識別スルコトガ出來ルカ、識別
シナイノニ世襲財產ノ效力ヲ有タストカ有タセナイトカ云フ問題ハ無理テアル、斯ウ云フ
コトヲ御尋シタノデアリマス、華族ガ正直ダカラ、此財產ハ代リノ財產ダト云ッテ渡シテシ
マフトカ、渡シテシマハヌトカ、ソンナコトハ私ハ決シテ御尋スルノデハナイ、ナゼ三百四條
ノ此債權デアルナラバ······金錢ヲ請求スル債權ナラバ······ソレガ代リダト云フコトハ分ル
が、一度金錢ニナッタナラバ、分ラヌデハナイカ、分ラヌニ拘ラズ、ソレガ十九條ハ矢張リ
所有者ニ歸シタル財產デ、之ニ十五條一項ノ規定ヲ準用スルト云フナラバ、金錢デアッ
テモ、權利ハ行ヘナイコトニナル、ソレハ大變一般ノ債權者ニハ迷惑デアル、華族ガ不正
デアルトカ、不正デナイトカ云フヤウナコトヲ私ハ御尋シタノデハナイ、十九條ノ財產ニシテ
十五條ノ一項ノ主義ヲ準用セラレテシマッテハ困リハシナイカ、ソレ故ニナゼ三百四條ト
違ッタ主義ヲ採ッタカト一云フノデアル、是ハ華族デアルトカ、ナイトカ云フノデハナイ、私ノハ
權利者ト權利者ノ間ノ詰リ調和ヲ如何ニシテスルカト云フ問題トシテ御尋シタノデアリ
マス、併シ御答ガナケレバ宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/21
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022・豐島直通
○政府委員(豐島直通君) ドウモ事實上世襲財產ニ代ッタ金錢ニ付テハ不明ト云フ
コトハナイト云フコトヲ信ジテ居リマスノデ、十九條ノ規定ヲ設ケマシタノハ是ハ事實ニ於
テ證明スルコトガ出來ルト信ジマス、今民法ノヤウニ致シマシテモ、債權ノ儘ニシテ置ク
ヨリモ、直グ金ニ換ヘテ、其金ヲ以テ更ニ確實ナル世襲財產トナルベキモノヲ買入レルト
云フヤウナ方法モ付クノデゴザイマスカラ、サウ云フヤウニシテ置イテ、事實上金ノ方ハ世
襲財產ニ變ッタト云フ證明ハ別ニ困難ナコトモナイト考ヘマシタノデゴザイマス、マアドウモ
ソレダケヨリ御答ヘ申スコトハ出來マセヌデゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/22
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023・田健治郎
○男爵田健治郞君 今ノ岡野君ノ御尋ニ付テモウ一ツ······事實上ト仰セラレマスル
カラ、モウ一ツ事實ノ御尋ヲシタイノデアリマスガ、此金錢ニナッタ以上ハ甚ダ混同シ易イ
モノデアッテ、是ガ混同セザルモノデアル、混合セザルモノデアルト云フ認定ハ、實際問題ト
シテハ私ハ甚ダムヅカシイモノデアラウト思ヒマスルガ、併シ今ノ御答ニ依ルト、何カ其事
實ノ上デ或ハ更ニ第二ノ世襲財產ニナルマデノ間、別ニシテ置クト云フヤウナコトデアリ
マス以上ハ、何カ細則カ何カデ御極メニナル積リデアリマセウカ、或ハ供託デモシテ置クト
カ何トカシテ置ク以上ハ、是ハ混同セザルモノト認定スルコトガ出來ルト云フヤウナ手續
ヲ細則カ何カデ極メテ置イテ······同ジ金デアル以上ハ當座ノ振込ミニデモ入レテ仕舞ヘ
バドレダケガ世襲財產ノ金デアルカ、ドレダケガ普通ノ財產ノ金デアルカ、殆ド區別ガ出
來ヌヤウニナリマス、若シ公ノ手續ニ依ッテ、是ハ世襲財產ニ代ッタモノデアルト云フコト
デ、供託デモサシテ置クト云フモノナラバ、成程世襲財產ガ金錢ニ代ッタモノダト云フコト
ハ公ニ認メルコトガ出來ルデアリマセウガ、事實ノ上ニ於テハ何カサウ云フ方法デモ御設
ケニナルト云フ御考デアリマセウカ、其邊ヲ一ツ伺ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/23
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024・豐島直通
○政府委員(豐島直通君) 田男爵ノ御尋ニ付キマシテハ、此世襲財產ニ代ッテ出來
マシタル金ハ、宮內大臣ヨリ此管理人ニ管理セシムルト云フ方法モ付イテ居リマス、此
二十條ノ末項ノ規定ニ依リマスルト宮内大臣ガ特ニ管理人ヲ選任スルコトモ出來ル
ノデ、華族ノ選ビマシタ管理人ノミニ任カシテ置クコトニハナリマセヌ、其外代ッテ出來マ
シタ金ノ管理ニ付テ命令モ時ミ發セラルヽコトニナッテ居リマス、此監督ヲ以チマシテ十分
他ノ財產トハ混同シナイヤウナコトニシテ保存シテ、適當ナル第二ノ世襲財產ト云フモノ
ヲ得ルマデノ保管ト云フコトヲ遂行シマスル積リデゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/24
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025・田健治郎
○男爵田健治郞君 チヨット今ノ續キヲ······此管理人ノ制度ハ二十條ニ出來テ居ル
ヤウデアリマスガ、是ハ成程非常ナル重大ナル世襲財產ノ變更トカ云フ場合ニハ管理
人ハ無論置キマスデゴザイマセウガ、如何ナル場合ニ拘ラズ管理人ヲ必ズ置ケルトモ解釋
ガ出來ヌ、ト云フモノハ宮內大臣ハ必要ヲ認メタ場合ニ管理人ヲ置ク、例ヘテ申スト華
族ノ或ル世襲財產ノ一部ガ土地收用法ニ依ッテ公用ニ徵セラレタ、其代金ヲ渡サレタ
ト云フヤウナ餘リ重大ナラヌ場合ニモ拘ラズ管理人ヲ置クトモ見エヌノデ、管理人ヲ置カ
レタトキニハ是テ區別ガ出來ルカ知レマセヌガ、管理人ヲ置ク必要ヲ認メヌ時ニハ混同シ
易クナル、ツレヲ混合セズト認メル方法ハ何カ御設ケニナル積リデアリマセウカ、其點ヲマ
ア一ツ伺ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/25
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026・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 唯今ノ田男爵ノ御尋ニ御答ヘ致シマスガ、矢張リ施行
細則ノ中ニ其規定ヲ置ク積リデアリマス、他日制定スベキ華族世襲財產法施行細則
ノ第三十六條ニ、公債ノ償還アルベキ場合ニハ云々ノ規定ヲ置キマシタ、其事ノ明確ナ
ル規定ヲ立テル積リニナッテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/26
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027・富井政章
○富井政章君 私ハ先ホド本案ノ內容ニ入ラズシテ全體ニ亙ル根本ノ點ニ付テ一三
ノ質問ヲ致シタノデアリマス、ソレニ付テ一應ノ御答辯ハアリマシタケレドモ、尙ホ大ニ論
ジタイ點モアリマスルガ、ソレハ暫ク差置キマシテ、唯今本案中ノ重要ナル規定ニ付テ種
種ノ問題ガ起ッテ居リマスルカラ、私モ先ヅ其一ツニ付テ質問ヲ致シタイト思フノデアリマ
ス、是モ矢張リ世襲財產ト云フモノヲ設ケル以上ハ成ルベク其效力アラシメタイ、折角
斯ウ云フ制度ヲ設クルナラバ、其效力ガ一部分シカ生ジナイト云フヤウナコトデハ甚ダ立
法ノ目的ヲ達シナイ譯デアリマスルカラ、其趣意ヨリ同フノデアリマス、ツレハ第三條ノ規定
デアリマス、「有爵者カ未成年者、禁治產者又ハ準禁治產者ナルトキハ世襲財產ヲ設定
又ハ增加スルコトヲ得ス」此場合ニハ全ク世襲財產トー云フモノハ作ルコトガ出來ナイノデ
アリマスカ、何カ他ニ方法ガアルノデアリマセウカ、斯ウ云フ場合ニ全ク世襲財產ヲ設定
スルコトガ出來ナイト云フコトハ、立法ノ目的ヲ半分シカ達シナイト云フコトニナリハシナ
イカ、寧ロ有爵者ガ準禁治產者デアルト云フヤウナトキニハ、尙更其必要ガアルデハナイ
カ、準禁治產者ノ中ニハ浪費者ト云フヤウナ者ガアル、財產ヲ無暗ニ蕩盡スルト云フヤ
ウナ者ガアルノデアリマス、華族ノ家產ヲ維持スルニハサウ云フコトノ無イヤウニスル爲ニ
世襲財產ト云フモノヲ設クルノデアル、此場合ニ世襲財產ヲ作ルコトガ出來ナイト云フ
コトハ、如何ニモ立法ノ目的ヲ貫徹シナイ譯デアラウカト思フノデアリマス、何故ニ後見
人ノ如キ法定代理人ガ親屬會ノ許諾ヲ得テ世襲財產ヲ設定スルコトヲ得ルト云フヤウ
ナ規定ヲ置クコトガ惡ルイノデアリマスカ、又準禁治產者ニ付テハ法定代理人ト云フ者
ハナイノデアリマスガ、或ハ親族ヨリ申立テルトカ、或ハ此場合ニハ補佐人ガ、法定代理
人デハナイケレドモ、親屬會ニ諮ッテ其手續ヲ爲スコトヲ得ルト云フヤウナ規定ヲ置クコト
ガ惡ルイノデアリマスカ、斯ウ云フ場合ニハモウ全ク仕方ガナイト云フヤウナコトニナッテハ
甚ダ他ノ場合ト權衡ヲ失スルデアラウト思ヒマス、其〓ニ付テ政府ノ御意見ヲ伺ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/27
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028・高橋作衞
○政府委員(高橋作衞君) 此未成年者、禁治產者、又ハ準禁治產者ノ如キ能力
不完全ナル者ガ當主デアッタ場合ニ世襲財產ヲ設定スルコトヲ得ナイト致シマシタノハ元
來、世襲財產ノ制度ハ是ハ永久ヲ見込ンデ居リマスモノデゴザイマス、斯ノ如キ永久ノ
世襲財產トスベキモノヲ設定又ハ增加スル場合ニ能力不完全ナルトキニ設定スルト云フ
コトハ多少遺憾ノ點ガアルト心得マシテ、勿論法定代理人又ハ補佐人其他能力ヲ
補フ所ノ人ハ有リ得ルトスルモ、制度自身ガ永久ヲ見込ンデ居リマスト云フ所カラ安全
ヲ圖ッテ斯ノ如キ規定ヲ立テマシタノデアリマス、而シテ又一方ニ增加或ハ設定ヲスルト
キニ之ヲ出來得ルトスレバ一方ニ於テ解除スルコトモ其時ニ於テ出來ルト云フコトモ書カ
ナケレバナラヌコトニナラウト思ヒマス、斯ノ如キ場合ニ至ッテ一曾不層ヲ感ズルト云フコ
トニナリマスカラ唯今御尋ノ如キ議論ハ其當時議論ガアリマシテ、大ニ考慮ヲ要スベキモ
ノト致シマシテ審査イタシマシタガ、結局之ヲ以テ安全ト致シマシテ此規定ヲ立テタ次第
デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/28
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029・徳川慶久
○委員長(公爵德川慶久君) マグ御質問モナカ〓〓盡キマイト存ジマスカラ、今日ハ
是デ閉會イタシマス、次囘ハ何レ彙報ヲ以テ報告イタシマス
午後零時十三分散會
出席者左ノ如シ
委員長公爵德川慶久君副委員長富井政章君
委員
伯爵柳澤保惠君男爵小澤武雄君子爵平田東助君
子爵岡部長職君子爵酒井忠亮君子爵水野直君
奧田義人君岡野敬次郞君男爵田健治郞君
男爵本多政以君桑田熊藏君
國務大臣
司法大臣尾崎行雄君
政府委員
法制局長官高橋作衞君司法省參政官田川大吉郞君
司法省副參政官關和知君司法省法務局長豐島直通君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/003700220X00119151218/29
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