1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正五年二月十日（木曜日）午後一時四十八分開會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=0
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001・岡部長職
○委員長代理(子爵岡部長職君) 是ヨリ開會イタシマス、本日モ德川委員長ニハ
病氣ノ爲ニ出席イタサレマセヌ、而シテ富井副委員長ニ於カレマシテハ昨日ニ引續イテ
小委員ノ修正ニ付キマシテ、尙ホ說明サルルコトガアルヤウデアリマスノデ、其間本員ガ委
員長ノ代理ヲ勤メマスコトニ相成リマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=1
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002・富井政章
○富井政章君 昨日小委員會ノ修正案ヲ說明イタシマス際ニ一ツ申上ゲルコトヲ落
シタコトガアリマスカラ、チヨット補ッテ置キタイト思ヒマス、ソレハ提出案第十六條ヲ削除
シタ理由デアリマシテ、是ハ私ガ昨日申述ベマシタ理由ノ外ニマダ斯ウ云フ理由ガ一ツア
ルノデアリマス、ソレハ不動產ノ管理方法ニ付テハ或程度マデハ施行規則ニ於テ相當ノ
規定ヲ置クト云フコトデアリマス、旁ミ以テ本條ヲ削除スルコトニナッタノデアリマス、ワレ
カラ立チマシタ序ニト云フト變デアリマスガ、昨日奧田博士ヨリ小委員會ノ修正案ニ對
シテ幾ツカノ御意見ガ出マシタ、ソレニ關シテ少シク私ノ考ヲ述ベタイト思ヒマス、大抵ハ
贊成デアリマス、先ヅ第一ニハ第四條ノ第二項ヲ削除シテハドウカト云フ御意見デアリ
マヽ、是ハ削除ニ贊成イタシマス、此規定ヲ置クニ至リマシタ理由ハ第一條トノ關係デ
アリマス、第一條ニ於テ世襲財產ノ最高限ヲ示スト云フコトニナッタ以上ハ、其限度ヲ超
エテ居ルカ居ラナイカト云フコトヲ極メルニ付テ、宮內大臣ニ參考ノ材料ヲ與ヘルト云フ
コトガ至當デアラウト云フ理由デ、此規定ガアッタ方ガ宜シイカト考ヘタノデアリマス、併ナ
ガラ或ハ必要ガナイカモ知レヌニ、初メヨリ一家ノ財產狀態ヲ、縱令〓況ニモセヨ人ニ
曝スト云フコトハ望マシクナイコトデアリマス、必要ガアレバ第六條第二項ニ依ッテ宮內
大臣ガ調査スルデアリマセウカラ、無クテモ宜シイカト思ヒマス、何レデモ私ハ大シタ······
有ッテモ無クテモ大シタ違ヒハナイト思フノデアリマスケレドモ、削除スルコトニ贊成イタシ
テ宜シウゴザイマス、ソレカラ第八條ノ「又ハ民事上ノ强制執行、假差押若ハ假處分ニ
著手シタル者」ト云フコトヲ改メテ、廣ク「債權者」トシテハドウカト云フ御意見デアリマ
ス、原案ノ趣意ハ世襲財產ト直接關係アル權利デナケレバ保護シナイト云フ趣旨ニ基
イテ出來テ居ルノデアリマシテ、是モ大ニ理由ガアルト思ヒマス、併ナガラ債權者ノ保護
ト云フコトモ考ヘネバナラヌコトデアル、固ヨリ此ニ謂フ執行行爲ガナクテモ、苟モ債權者
ヲ害スル目的ヲ以テ、ソレ迄デナクテモ債權者ヲ害スルコトヲ知リツツ世襲財產ヲ設定シ
タ場合ニハ、私ノ考デハ民法第四百二十四條デアリマシタカ、アノ規定ニ依ッテ其詐害
行爲ヲ取消スコトガ出來ヤウト思フノデアリマス、併シ世襲財產ノ設定ガ果シテ法律行爲
デアルカト云フコトハ少シハ疑ハシイノデアリマスケレドモ、大抵ハ取消ガ出來ヤウト思フノ
デアリマス、併シソレニシテモ詐害行爲ヲ取消スニハ訴ヲ起サナケレバナラヌ、サウシテ其行
爲ニ依ッテ債權者が損害ヲ被ッタト云フコトヲ證明セネパナラヌ、又世襲財產設定者ニ
於テハ其結果ヲ知ッテ爲シタト云フコトモ證明セネバナラヌ、而シテ取消ノ結果ハドウナル
カト云ヘバ世襲財產全部ガ取消サレテシマフト云フコトニナルノデアリさく、ドウモ是ハ餘
程考ヘモノデアラウト思ヒマス、寧ロ廣ク債權者トシテ置イテ、法律ノ保護ヲ完ウスルト
云フ方ノ主義ヲ執ッタ方ガ宜カラウカト考ヘマス、固ヨリ是ハ一利一害デアリマス、廣ク
債權者トシテ、或ハ種々ノ債權者ガ現ハレテ出ルカモ知レヌ、其邊ハ大ニ考ヘモノデアラ
ウト思ヒマスケレドモ、併シ是ハ又世襲財產ノ設定ヲ許否スルコトニ付テ、宮內大臣ガ大
ニ攻究スベキコトデアラウト思フ、ドレダケ債權者ガアッテ辨濟ガナサレテ居ナイ、ソレニ世
襲財產ヲ設定シテ辨濟ガ出來ナイヤウニシテシマフト云フコトハドウモ宜シクナイ、ソレ故ニ
認可セナイ或ハモット減少セヨト云フヤウナコトニスルカ、免モ角宮內大臣ニ於テ考ヘルト
云フコトガ必要デアラウト思フ、ドレダケノ債權者ガアルト云フコトヲ知ル途ヲ與ヘルト云
フコトガ必要デアラウト思ヒマス、是モ贊成イタシマス、ソレカラ第九條是モ贊成デアリマ
ス、世襲財產トナサムトスル財產ノ中世襲財產トシテ宜イト思フモノト、認可スベカラズ
ト思フモノモアルカモ知レヌ、ソレ故ニ是ハ全部又ハ一部トシタ方ガ、總テノ場合ニ於テ
適宜ノ處置ヲ執ルコトガ、出來得ルノデアリマスカラ宜シカラウト思ヒマス、是モ贊成イタ
シマス、ソレカラ第十八條、不法行爲ニ依ル損害賠償ノ請求權ノ外ニ、世襲財產ノ管
理ニ依ッテ生ジタル權利ヲ除外シテハドウカト云フ規定デアリマス、是モ大贊成デアリマ
ス、是ハ不法行爲ホドニ行爲ソレ自身ハ重大デナイニモセヨ、世襲財產其モノニ關シタ
權利義務デアル、世襲財產ノ管理ニ關シタ權利義務デアル、例ヘバ管理ノ費用トカ、
管理人ノ給料トカ云フヤウナモノハ、世襲財產ノ管理ニ密接ノ關係アル債務デアリマス
ルカラ、是ハ矢張リ世襲財產ヨリ支辨シ得ル途ヲ開クガ相當デアラウ、是モ贊成イタシ
マ、、其次ハ第十九條デアリマスガ、重大ナル事由アル場合ト交換ノ場合トヲ一ツニ
シテシマッテ、何レノ場合ニ於テモ、全部又ハ一部ヲ廢止スルコトヲ得トシテハドウカト云
フ御意見デアル、是ハ理論上ヨリ云ヘバ誠ニ其方ガ宜イト思ヒマス、又法文ノ體裁トシ
テモ、其方ガ遙ニ優ッテ居ルト思ヒマスガ、實際問題トシテハドウモ昨日申上ゲタヤウナ弊
害ガ生ジナイトモ言ヘナイ、初メヨリ全部トシテ置イテハ、此規定ヲ濫用シテ、債權者ハ
マアドウシテモ酷ニ出ルデアリマセウ、一度ニ世襲財產ヲ無クシテシマフト云フヤウナコトガ
生ジナイトモ言ヘナイ、法文ハドウモ此二ツノ場合ヲ書分ケル程ノ理由ハナイト思フノデ
アリマスルケレドモ、實際問題トシテハドウモ其方ガ安全デアルト云フ說モ理由ガアルト思ヒ
さく、又是ガ吾〓一己ノ意見ヲ書現ハスナラバ私ナドハ又考ガ違フノデアリマスルケレド
モ、法律トスルニハ多數ノ人ノ意見モ考ヘネバナラヌト思ヒマス、先ヅ一部ニ限ッタ方ガ
宜カラウト云フ意見ヲ持ッテ居ラルル方ガ或ハ澤山アルノデハナイカト察シマス、ソレ故ニ
是ハ此會ニ於テモ多數ノ御方ガ其方ガ宜イト云フ御意見デアレバ、私ハ强ヒテ反對シテ、
小委員會ノ修正案ヲ固執シヤウト云フマデノ考デハナイノデアリマスケレドモ、マア何レカ
ト云ヘバ斯ウ云フ風ニシテ置イタ方ガ安全デアラウト考ヘルノデアリマス、ソレダケノ理由
ニ依ッテ、此御意見ニ贊成スルコトニハ少シ躊躇スルノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=2
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003・岡野敬次郎
○岡野敬次郞君 此案ニ付キマシテハ、昨日奧田博士ヨリ數〓ニ亙ッテ、意見ヲ述ベ
ラレタノデアリマス、昨日ノ奧田博士ノ意見ハ、私ハ本案ニ對スル修正意見ナリト解釋ヲ
致シマシテ、或點ニ付テハ疑ヲ述べ、多クノ點ニ於テハ贊成ヲ表シタノデアリマス、本日又
富井博士ヨリ、此奧田博士ノ意見ニ對シテ、大體ニ於テ贊成ヲ表スルト云フ唯今段々
詳シイ御陳述ガアリマシタガ、此奧田博士ニ質シマスルト、昨日ハ未ダ修正意見トシテ提
出セラレタノデハナイサウデス、委員諸君ノ參考ニ供スルト云フ意味ヲ以テ、疑ノアル所
ヲ述ベラレタト云フニ過ギナイト云フコトデアリマスカラ、本日ハ私ハ奧田博士ニ代ル意
味合ヲ以チマシテ、玆ニ形式的ニ修正意見トシテ提出ヲ致シタイト思フノデアリマス、其
第一點ハ昨日モ本日モ問題ニナリマシタ第四條ノ第二項ヲ削除スルト云フコトデアリマ
ス、此第二項ノ削除ニ付キマシテハ、私ハ昨日委員會ニ於キマシテ、成ルベク此項ヲ存
置シタイト云フコトヲ私ハ申述ベタノデアリマス、併ナガラ之ヲ存置イタシマシタ所デ謂ハ
ユル其財產ノ〓況ヲ知ルト云フダケノコトデアリマシテ果シテ財產ノ實況ヲ知ルト云フ
コトニハ甚ダ乏シイノデアリマス、元〓サウ云フ意味合デ以テ此二項ヲ設ケラレタノデアリ
マスカラ、成ル程效能ノアルベキ箇條トモ考ヘマセヌノデアリマス、而シテ此項ノ削除ニ付
キマシテハ、承ハル所委員ノ多數ハ矢張リ削除ノ御意見ト云フコトデゴザイマスカラ、私ハ
昨日ノ自分ノ疑ヲ除キマシテ、此四條ノ第二項ヲ削除スルト云フ形式的修正意見ヲ提
出イタシマス、ソレカラ次ハ第八條ノ第一項デアリマス、「又ハ民事上ノ强制執行、假差
押若ハ假處分ニ著手シタル者」是ダケヲ削リマシテ、其代リニ「及債權者」ト云フ四字ヲ
此所ニ入レルノデアリマス、卽チ「前條ノ規定ニ依リ公告シタル財產ニ關シ權利ヲ有スル
者及債權者ハ前條第一項ノ」ト云フ斯ウ云フ文字ニ修正ヲ加ヘタイト思フノデアリマス、
斯ノ如クニ修正イタシマシタ理由ハ先刻富井博士ヨリ贊成ノ御意見トシテ述ベラレタル
コトト同ジコトデアリマス、唯富井博士ノ述べラレタコトニ付テ私ハ必シモ全然意見ヲ同
ジウシテ居ル譯デハアリマセヌケレドモ、併ナガラ斯ノ如クニ修正スルト云フコトノ必要ナル
理由ニ付キマシテハ、全然同感デアルノデアリマス、ソレカラ第九條、「宮內大臣ハ世襲
財產ノ設定ヲ認可スヘカラスト認ムルトキハ」ト云フノヲ改メマシテ、「宮內大臣ハ世襲財
產設定ノ認可ノ申請ノ全部又ハ一部ヲ認可スヘカラサル理由アリト認ムルトキハ云々」
!··餘リ巧ミナ文章デハアリマセヌガ、色ミ考ヘテモ見マシタケレドモ、一番理窟ニ適ッ
居テル文字ノヤウニ考ヘラレマスノデ、斯ウ云フヤウニ修正ヲ致シタイノデアリマス、而シテ
其修正ノ理由ニ至リマシテハ、私ハ重ネテ茲ニ述ブル必要ハナカラウト思ヒマス、ソレカラ
次ハ第十八條、十八條ノ第一項中デアリマス、「世襲財產及第十六條ニ揭クル權利
ハ不法行爲ニ因ル損害賠償ノ請求ノ爲ニスルノ外云々」ト云フコトニナッテ居リマスガ、
之ヲ改メマシテ「世襲財產及第十六條ニ揭クル權利ハ世襲財產ノ管理ニ因リテ生シタ
ル權利及不法行爲ニ因ル損害賠償ノ請求權ニ基ク場合ヲ除クノ外民事上ノ云々」、
斯ウ云フコトニ修正ヲシタイノデアリマス、斯ノ如クニ修正イタシマスル實質上ノ理由ニ
至リマシテハ、昨日奧田博士ヨリ既ニ述ベラレタコトデアリマスルカラ、私ハ重ネテ申述ベ
マセヌ、文字ニ付キマシテハ大體第二十五條ノ文字ニ倣ッタノデアリマス、重ネテ申シマ
スルガ、詰リ世襲財產ノ管理ニ因リテ生ジタル權利及不法行爲ニ因ル損害賠償ノ請
求權ニ基イテハ下ニ書イテアルコトガ出來ル、斯ウ云フ趣意ニナルノデアリマス、ソレカラ
序ニ申述ベテ置キマスルガ、十九條ニ付キマシテ奧田博士ヨリ述ベラレマシタルコトハ、私
ハ先刻モ申上ゲマシタ通リ、修正意見トシテ述ベラレタ譯デハナイサウデアリマスカラ、此
修正意見ハナイト云フコトニ委員會デハ御承知ニナッテ然ルベキコトト思フノデアリマス、
卽チ以上申上ゲマシタ四點ニ付テ修正ヲ加ヘタイト思フノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=3
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004・奧田義人
○奧田義人君 私ハ昨日當委員會ニ於キマシテ、唯心付キマシタ點ヲ皆サンノ御參
考ノ爲ニ申上ゲマシタノデアリマス、本日重ネテ岡野博士ヨリ四點ニ付テ修正案ガ提出
ヲセラレマシタニ付テハ、全部之ニ贊成ヲ致シテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=4
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005・水野直
○子爵水野直君 私ハ第四條ノ二項ノ唯今ノ修正ノ說ニ付テ御贊成ヲ表シタイト思
フ、實ハ之ヲ修正ヲ致シタイト思ッテ、今日意見ヲ述ベテ御參考ニ供シタイト思ヒマシ
タ、所ガ幸ニモ岡野博士カラ此修正ノ御意見等ガ出タノデ、自分ノ意見ト全ク一致ヲ
致シマスニ依ッテ、自分ノ理由ハ格別述ベマセヌデゴザイマスケレドモ、私ノ考ヘマシタ所
デハ今度ノ修正案ノ根本ノ所ガドコニアルカト云フト、政府ノ提出案ハ時勢ノ進運ニ
伴ッテ之ヲ改正スルト云フコトデ、解除ト云フコトガ重モナルモノデアル此解除ト云フコ
トハドウ云フ割合ニナッテ居ルカト云フト、世襲財產ノ設定者ト云フモノハ全華族ノ二
割七分ニホカナラヌ、詰リ其間ニ適用スルノデ、其アトノ七割三分ハ未ダ設定シテナイ、
所ガ時勢ノ進運ニ從ッテ世襲財產ノ保護ヲシヤウト云フノハ、アトノ七割三分ノモノヲ
重ク見ナケレバナラナイ、斯ウ考ヘルニ依ッテ、ドウカシテアトノ七割三分ノ人ニモ相當ノ
世襲財產ヲ設定シタイト云フ考デ、其點ニ於テ何カ御修正ヲ願ハウト思ッテ居リマシタ、
併ナガラ其設定ニ付テ、强制的ニ總財產ノ〓況ヲ知ルニ足ルベキ事項ヲ附記スルト云
フコトハ害ガアルカラ任意ノ方法ヲ取ルコトニ願ヒタイト云フコトガ自分ノ考デアリマシタ、
所ガ唯今ノ何ニ依ッテ成立チサウニ思ヒマスデ、サウ云フ理由ヲ以テ此〓ハ御贊成イタシ
マツ、今丁度修正案ヲ御提出ニナッタ時デアリマスカラ、又戾ッテ質問スルコトモ如何カ
ト思ヒマスケレドモ、重要ナ法案デモゴザイマスルカラ、一ツ自分ノ疑ノ存スル所ヲ一應
伺シテ見タイト思ヒマス、ツレハ第一條ノ家格ヲ維持スルニ必要ナル範圍ト云フコトヲ、
通俗ニ分ルヤウニシテ置キタイト云フコトノ爲ニ、誠ニ下ラナイ疑ノヤウデゴザイマスケレド
モ、疑ヲ茲ニ出シテ、サウシテ之ヲ御說明ヲ願フヤウニシタイト思フノデ、家格ヲ維持スル
範圍內ト云フコトハ、御說明ヲ昨日カラ伺ヒマスルト、世襲財產ニ對スル最高限度ヲ
定メタモノデアル、斯ウ云フコトナンデアル、最高限度ヲ定メタト申シマスルト、最高限度
ハ何デアルカト云フト、華族全體ニ通ジタ所ノ最高限度デハナイ、詰リ家格ヲ維持スル
爲ニ百万圓ナラ百万圓ヨリ上ノ財產ヲ世襲財產トシテハナラヌ、斯ウ云フコトデハナイ、
然ラバト言ッテ伯子男爵或ハ公侯爵ト云フモノガ其爵ニ應ジテ幾ラト云フ限度デモナイ、
全ク戶々家ミニ付テノ最高限度デアル、斯ウ解釋シテ宜シイノデゴザイマスカ、サウ致シマ
シテ若シ戶々家ミノモノトスルト、又其家〓ノ經濟狀態ニ依ッテ家格ト云フモノハ最高限
度ガ變ハル、斯ウ解釋シテ宜シイノデアリマスカ、サウスルト家格ト云フコトガ動キ、又最
高限度ト云フコトガ始終變ッテ居ルモノデアル、標準ノヤウナモノデアッテ是ガ標準デナイ
ヤウナ風ニ考ヘラレル、斯ウ云フコトヲ前提トシテ考ヘマスト、總テ總財產ガアッテ其總財
產ガ自分ノ家ノ家格ヲ維持スルノヨリモ多イ、澤山ノ物ガアルトキニハ、其家ノ財產ノ
中ノ一部分ヲ以テ家格ヲ維持スルニ足ルダケノ世襲財產ヲ作ルコトガ出來マスカラ、是
ハ普通ノ場合テ能ク分ルコトト思ヒマスケレドモ、其他ノ場合ニ於キマシテハ、總財產ガ
自分ノ家格ヲ維持スルノ財產ト同ジヤウナ稍〓同額ノ場合ガアル、又總財產デハ家格ヲ
維持スルダケノ財產ニ少シ足リマイト云フヤウナ場合ガアル、斯ウ云フ時ニハ幾ラカ問題
ガ起ルノデハナイカ、華族ノ中ニ能ク位倒レヲシサウナ人ガアル、位ノ方ガ上デ財產ノ方
ガドウモ足リナイト云フコトガ隨分華族ノ中ニモアルコトダト思ヒマス、是等ノ時ニハ世襲
財產ヲ造ルノニドウ云フ風ナ割合ニナル、最高限度ガ極メテアルノデゴザイマスカラ、其場
合ニハ全財產ヲ世襲財產ニ入レルコトガ出來ルノデアルカ、或ハ出來ナイノデアルカ、ドウ
モ出來ナケレバナラナイノダト思ハレマス、扨ツコデ以テ若シ全額ヲ世襲財產ニスルコトガ
出來ルト假ニシマスト、直グニソコニ起ッテ來ル問題ハ或ハ相續稅ノ場合、負債ヲ負ウタ
トカ、又ハ臨時費ガ出タト云フヤウナコトノ爲ニ直チニ之ヲ解除シナケレバナラヌヤウナ必
要ガ玆ニ起ッテ來ル、サウ云フ必要ガ起ッテ負債デモ生ジタ場合ニハドウナッテ來ルカト云
ヘバ家格ヲ維持スル範圍ノ世襲財產ト云フモノガ、ソレガ最高限度デアッテ、其最高
限度ガ自然ト下ニ下ッテ來テ、最高限度ノ方カラ云ッテモ解除ヲシナケレバナラヌヤウナ
場合ガ出來テ來ルデハナイカ、此ヤウニ考ヘマスト最高限度ト云フモノヲ定メテモ、其最
高限度ガ或ル場合ニハ最高限度ニナラナイ殆ド役ヲシナイヤウナ無用ナモノニナッテ來
ハシナイカ、斯ウ云フ面倒ナコトガ起ッテ來ルトスルナラバ寧ロ最高限度ト云フヤウナコト
ハ法文トシテハ書カナイデ、宮內省ノ內規ニデモ置イテ、宮内大臣ト對談ノ間ニ能ク其
家ノ格ヲ見テ、一部ノ財產デモ世襲財產ニスルト云フ方ノ趣旨ガ寧ロ宜シイノデハナイ
カ、一方ニ又最高限度ヲ定メテ置イテ最低限度ト云フモノガナイノハ釣合上變デアル、
最高限度ハ法律ニ決メルガ、最低限度ハ宮內大臣ニ唯任セルト云フノモ妙ナコトデアル、
ソレカラ若シ又社會政策ノ〓カラ議論ヲサレル方ハ華族トシテソレホド大キナ財產ヲ世
襲財產ニスルコトハ不都合デアルト云フ御說モ隨分有力ノヤウニ伺フノデアリマスガ、今
日マデノ場合、今マデノ例ニ徵シテモ全部ヲ世襲財產ニシタヤウナコトモ承リマセヌ
シ、又富豪ト雖モサウエライ世襲財產ヲシヤウト云フ考モナカラウ、宮內大臣モ相當ノ
監督權ヲ持ッテ居ル、又不認可ノ權利マデモ持ッテ居リマスカラ、ソレ等ノ場合ニハ都合
ガ付クデアラウ、之ヲ考ヘルコトハ寧ロ杞憂デアリハシナイカ、サウシマスレバ最高限度ヲ
定メナイデモ別段ニ害ハナイノデアル、サウシテ最高限度ヲ定メテ置イテ、最小限度ノ方
ノ釣合モ取レ、又解除ヲシナケレバナラヌ必要モ起ッテ來マス、殊ニ唯今前ニ修正案トシ
テ出タ第四條ノ二項ヲ削除サレタヤウナコトデアルナラバ、第一條ノ方モ矢張リ原案通
リニ世襲財產ノ設定ノ權利ダケ認メテ、サウシテ最高限度ト云フ方ハ止メラレタ方ガ宜
イノデナイカ、是ハ形式的ノ修正案ヲ提出スル譯デアリマセヌケレドモ、若シ其方ガ宜イ
ナラバ提出ヲシテ見タイト思ヒマス、御相談旁〓疑問ノ〓ヲ伺ッテ見マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=5
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006・富井政章
○富井政章君 今是ガ洵ニムヅカシイ問題デアリマシテ、ハッキリシタ御答ヲ致スコトハ
甚ダ困難デアリマス、定メテ御答ラシテモ御滿足デナカラウト思ヒマス、ケレドモ一應私ノ
考ヲ申上ゲマス、多少各〓理由ヲ異ニスル所ガアルカモ知レマセヌカラ、尙ホ違フ考ヲ持ッ
テ居ル方ハ又別ニ說明ヲナサルコトデアラウト思フ、此「家格ヲ維持スルニ必要ナル範圍
內ニ於テ」ト云フ言葉ガ這入リマシタ理由ハ昨日申上ゲマシタ通リ、世襲財產ノ最高
限度ヲ定ムル趣意デアリマスガ、公爵ニ對シテハドレホド、伯爵ニ對シテハドレホドト云フ
サウ云フコトデハナイ、又大名華族ニ對シテハドレホド、五攝家ニ對シテハドレホドト云フ
サウ云フヤウナコトデハナイトデ、全ク家格ト云フモノハ其人其家ニ依ッテ定マルコトデ、而
シテ是ハ歷代ドウ云フ由〓ガアルカ、皇室ニドウ云フ關係ガアル、又財產モ矢張リ考ヘ
ネバナラヌコトデアラウト思フ、卽チ其家ノ由〓、財產等ノ點ヲ考ヘテ初メテ定マルコトデ
アリマスガ、全ク各家ニ就キ、各場合ニ就テ判斷セネバナラヌコトデ、ソレデ凡ソドレホド
ノ金額、ドレホドノ收益ヲ生ズル財產ト云フヤウナ考ハ少シモナイノデ、サウ云フコトヲ一
般ニ定ムルト云フコトハ甚ダ實際ニ適シナイ結果トナルト思ヒマス、故ニ斯ウ云フ抽象的
ノ標準ヲ置クコトニナッテ居リマス、極メテ漠然トシタモノデ、併ナガラ無キニハ優ルデアラ
ウ、若シ斯ウ云フ規定ガナイ時ニハ、是ハ極端ナ例デアリマスケレドモ、數百万或ハ數千
万圓ノ財產ヲ有スル人ガ其家ヲ維持スルニハ例ヘバ五十万位世襲財產トシテ置ケバ十
分デアルノニ、數百万ヲ固定サセテシマフト云フコトニナッテシマッテハ甚グ國民經濟ノ上
カラ考ヘテモ是ハ宜シクナイコトデアル、又債權者ナドモ直接間接ニ損害ヲ被ルト云フコ
トモアルカモ知レヌ、マアサウ云フコトハ唯今御述ベニナリマシタ通り今日マデハ殆ド例ノ
ナイコトデアリマセウ、併シ巨万ノ財產ヲ有スル人ガ近頃ハ華族ニナルト云フヤウナ例ガ
段々殖エテ來マスルカラ、將來ハ必シモ絕無デアルト斷言スルコトハ出來ナイデアラウト思
フ、最モ適切ナ理由ハ恰モ廢止規定ト關聯スルモノデアリマシテ、初メヨリ多クノ財產ヲ
世襲財產トシテシマフト云フト、唯今御述べニナリマシタ通リ後ニ至ッテ廢止セネバナラヌ
ト云フコトガ生ジ易イ、サウ云フコトハ望マシクナイ、初メヨリ相當ナ限度ニ於テ設定シテ
置ケバ成ル可ク······能ミノコトガナケレバ廢止ト云フコトハセズニ維持シテ行クガ宜イ、恰
モ廢止ノ豫防ト云フヤウナコトニ幾ラカナルデアラウト一云フ考ヲ私共ハ有ッテ居ルノデアリ
さっ、宮內大臣ニ於テドウモサウ云フ債務ヲ近キ將來ニ於テ支辨セネバナラヌ、相續
稅モ近キ將來ニ於テ拂ハヌナラヌコトニナルト、サウ云フヤウナ場合ニハ何程カ減ジタ方ガ
宜カラウ、モウソレダケ苦シイ財產狀態テアレバ則チ家ノ格式ト云フモノガソレダケ降ッテ
居ルノデアル、唯元五攝家デアルトカ〓華デアルトカト云フコトバカリガ家ノ格式デナイ、
財產ガツレマデニ少クナッテ居レバ其家ノ格ト云フモノモソレダケ降ッテ居ル、ソレニ相當シ
タダケニシテ·····サウシテ又御話ニナリマシタ通リ元來無形ノ格式ハ良イニシテモ財產ハ
餘計ナイ、サウ云フ場合ニハ固ヨリ全額ヲ世襲財產トスルト云フコトハ玆ニ言フ範圍ヲ
越エルモノデナイト思ヒマスカラ、ソレダケノコトデアレバ無論宮內大臣ハ設定ヲ認可スルデ
アラウト思ヒマス、併ナガラ直キニ解カヌナラヌ、直キニ廢止セネバナラヌ、モウ目ノ前ニ是
ダケノ相續稅ヲ拂ハネバナラヌコトガアルトカト云フ場合ニハ、サウ云フ方面カラシテ減ジ
タラ宜カラウト云フコトハ起ッテ來ヤウト思フ、是ハ直接ニハ第一條ニ言フ範圍ヲ越エル
ト云フコトデナイカモ知レマセヌ、併ナガラ廢止ト云フコトガ度ミ後ニ起ルノハ望マシイコト
デナイノデアリマス、其方カラ云ッテモマア斯ウ云フ標準ヲ示シテ置クト云フコトガ適當デ
アラウ、ソレカラマ一ツハ何ト申シテ宜シイカ、世間ノ人ニ安心ヲ與ヘルト云フヤウナ利益
モ幾ラカアラウト思フ、世襲財產ハ何ホド澤山設定シテモ宜イ、解除ノ規定ガアルカラソ
レデ差支ナイト云ッテモ、是カラノ社會ト云フモノハ段々事業ガ發達シテ來テ固定財產ガ
殖エテハ宜シクナイノデアル、事業ノ方ニ財產ヲ向ケルニハドウシテモ信用ト云フコトガ伴
ハヌケレバナラヌ、債權者ガ損害ヲ被ルト云フヤウナコトハ構ハナイト云フヤウナ考ヲ以テハ
事業ガ發達シナイコトハ私ノ申上ゲルマデモナイコトデアリマス、ソレ故ニ斯ウ云フ、不融
通物ヲ造ルト云フコトハ華族ノ家ヲ保護スルニ必要テアレバコソ起ッテ來ルコトデアル、ドウ
シテモ其限度ヲ越エテマデ此個人的發達ヲ圖ッテ行カヌナラヌ時勢ニ於テ、サウ云フ固
定財產ヲ拵ヘルト云フコトハ宜シクナイト云フ觀念ヲ表示シテ置クト云フコトハ、大變此
今日ノ時勢ニ於ケル幾ラカ進步思想ヲ表示スルト云フコトニナリハシマイカ、是ハマダ是
カラ衆議院ヲ通ラヌナラヌ案デアリマスルカラ、サウ云フヤウナコトニモ氣ガ付イテ居ルト云
フコトヲ示スノモ宜シイコトデアラウト考ヘテ、私共贊成イタスノデアリマス、固ヨリ漠然ト
シタ標準デアル、併シ昨日モ申上ゲマシタ通リ收益一万圓以下トカ、二万圓以下トカ
ト云フ標準ヲ定メテモ、ドウモ總テノ家ニ通ジテソレガ適切デアルト云フコトハ言ヘナイ、ド
ウシテモ漠然トシタ標準デアッテ、結局ハ宮內大臣ノ手心ニアルノデアリマス、其宮內大
臣ガ認否ヲ決スルニ當ッテ何カ導キニナル觀念ガアルト云フコトハ、丸デ無イヨリモ幾ラカ
利益デアラウ、斯ウ云フ理由モ極メテ茫漠タルモノデアル、ソレ故ニ極ク確タル法律關係
ヲ定ムルト云フヤウナ意味デハナイ、元來漠タル觀念ヲ表ハスダケノモノデアリマスカラ、第
一條ニ入レルト云フコトニナッタノデアリマス、ドウモ私共ハ有ッタ方ガ宜シイカト考ヘルノ
デアリマス、如何デゴザリマセウ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=6
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007・田健治郎
○男爵田健治郞君 私ハ唯今岡野博士カラ御發議ニナリマシタ第四條ノ一一項ヲ削
除シテ、八條、九條、十八條ノ修正、共ニ贊成イタスモノデゴザイマス、別ニモウ其理由ヲ
申述ブル必要ハゴザイマセヌガ、唯第四條第二項ノ削除ト云フコトニ付テ御參考ノ爲ニ
申上ゲテ置キタイコトガアリマス、ソレハ此總財產ノ〓況ヲ知ルニ足ル事項ヲ記スルト云
フコトハ華族財產ノ機密ヲ初メカラ評カヌナラヌコトデ苦痛ニ思フ、從ッテ之ヲ申請スル
人ノ意氣ヲ沮喪セシメテ申請シナイヤウニナルト云フコトガ一ツノ理由デアリマス、私ハマ
ダ此外ニ之ヲ置ク必要ガナイト云フ一ツノ理由ヲ承リマシタカラ之ヲ申上ゲタイト思ヒマ
ス、此世襲財產ノ第三條ニアリマス通リ家寶、不動產、及有價證券等ニナッテ居ルノデ
ゴザイマスガ、是ガ殘ラズ伴ハナクテハナラヌト申スコトデハナイト存ジマス、ソレ故ニ場合ニ
依ッテハ家寶ノミヲ世襲財產トシテ設定シタイト云フ人モアリマセウ、又家寶以外ノ不動
產ナゾデモ必シモ收利ノアルモノバカリト限リマセズシテ、所謂由緒アル郎トカ、土地トカ
云フヤウナ餘リ收益ヲ目的トセザルモノヲ世襲財產トシテ設定シタイト云フノモアリマセウ
ト存ジマス、サウ云フヤウナ場合デモ收益ノ伴ハナイモノバカリデハイカナイト云フコトハ宮
內大臣モ言ヘナイノデアリマズカラ、矢張リツレデモ認可シナケレバナラヌ、此場合ニ於テ
總財產ノ〓況ナゾト云フコトハ何モ知ル必要ハナイ、ソレデアリマスガ故ニ家寶ヲ世襲財
產トシテ設定シタイト云フコトヲ言ッテ來タノニ御前ノ身上ノ有樣ヲ先キニ言ウテ來イト
云フコトヲ言フノハ無用ナコトニシテ、餘リ酷ニナル譯デアリマスカラ、ソレ等ノ〓ニ付キマ
シテモ、初カラ必シモ〓況ヲ申出ナクテモ宜イ譯デアリマス、〓況ヲ知ラナクテハナラヌト
云フ時ニハ彼ノ六條ノ第一一項ガアッテ、宮內大臣ガ調査スルコトガ出來ル途ガアルノデア
リマスカラ、申請スル場合ニハ必ズ〓況ヲ申出ルト云フコトハ、サウ云フ場合ニハ全ク贅
物デアルト云フコトニナリマスガ故ニ、私ハ其二項ノ削除ニ對シテハ極メテ宜シキヲ得タモ
ノト其〓カラ考ヘマスノデアリマス、所謂此削除ヲ致シマス一理由トシテ玆ニ御參考マデ
ニ申上ゲテ置キマス、ソレカラ今ノ水野子爵ノ第一條ニ付テノ御疑問ニ對シテハ富井博
士ヨリ段々御說明モアリマシタノデ御分リニナッタラウトハ思ヒマスガ、此以上蛇足ヲ加ヘ
ル必要ハナイ譯デアリマスルケレドモ、私モ之ニ付テハ矢張リ斯ウ云フ抽象的デハアルケレ
ドモ、制限ノアル方ガ穩當デアラウト云フコトヲ信ジマスガ故ニ、私ノ信條ノ起ル所以ヲ
一應申上ゲテ置キタイト思ヒマス、此華族世襲財產ノ可否ト云フコトニ付テハ、是ハ世
間ニモナカ〓〓議論ノアルコトデ、又學者間ナゾニ於テハ最モ論ノアルコトデアラウト思ヒ
マスガ、其論ノアル中ノ最モ大キナモノハ所謂財產ヲ固定サセル、多クノ財產ヲ固定サス
ト云フコトハ國家ノ經濟ニ於テ或ハ惡影響ヲ及ボス虞ハアリハシナイカト云フコトガ一ノ
大イナル理由デアラウカト存ジマス、是ハ過日政府委員カラモ初メテ此制度ヲ立テラレル
時ニモ矢張リ其意ハアッタガ、先ヅ今日ノ狀態デハサウ云フ虞ハナカラウト云フコトデ、何
等ノ制限モナシニ出來タノデアル斯ウ云フ御說明モアリマシタガ、是ハ餘程注意スベキコ
トデアラウト思ヒマス、免ニ角此世襲財產ニ付テ或ハ國民的經濟ニ害ヲ及ボシハシマイ
カ、或ハ是ハ必ズ土地ニ屬シテ多ク起ルコトデアル、此制度ノ結果或ハ過多ノ大地主ガ
出來テ、全國ノ土地ノ大半ガ世襲財產ニナッテ、少數者ガ獨占スルヤウナコトニナル、サ
ウスルト、他ノ多數ノ國民ハ之ガ爲ニ經濟上非常ナ不利益ノ地位ニ立タナケレバナラヌ、
是ガ世襲財產ノ盛ニ起ッタ結果トシテ憂フベキコトデアルデアルカラシテ、或場合ニ於テ
ハ此土地ニ付テノ制限ヲ置ク必要ガアルトマデ學者ハ言ウテ居ル者モアルノデアリマス、
之ヲ此各國ナゾノ例ニ承ッテ見マスルト、世襲財產制度ノ一番古ク起ッタ國ハ英國デア
ルト承ッテ居リマス、此英國ハ旣ニ六百年以上ノ場合ニ於テ世襲財產ノ制ガ行ハレ、殆ト
此世襲財產ト云フモノハ其ノ時ノ貴族ノ土地ガ多ク世襲財產ニナリ、其世襲財產ト云
フモノハ卽チ土地ガ多キヲ占メテ居ッタ、ソコデ以テ其弊ニ堪ヘヌ爲ニ段々之ヲ解除シナ
ケレバナラヌト云フ方ニ政治上ノ趨勢ガ赴イテ來タ、一番古ク成立ッタ英國ガ一番早ク
此世襲財產ノ弊ヲ受ケタ爲ニ、此世襲財產ノ繼續ガ出來ナクナッテ、今日モ存在シテハ
居ルサウデアリマスケレドモ、今日ノ英國ノ世襲財產ト云フモノハ極メテ微々タルモノデ
アル、ソレハ詰リ餘リ土地ヲ多ク世襲財產ニ固定サレタ故ニ其害ニ堪ヘズシテ、成ルベク
世襲財產ヲ消滅セシメヤウト云フ方ニ政治上力ヲ用ヒナケレバナラヌヤウニナッテ、今日デ
ハ殆ド告朔ノ餼羊トシテ存シテ居ル趣デアルト云フコトヲ承ッテ居リマス、又佛蘭西ノ例
ヲ引イテモ「ナポレオン」第一世ガ帝王トナック頃、此貴族ノ世襲財產ト云フモノヲ大ニ
奬勵シナケレバナラヌト云フ方針ヲ執ッテ、孜々トシテ世襲財產ヲ設定セシメタガ故ニ、
時佛蘭西ノ世襲財產ト云フモノハ非常ナ高ニ上ッテ居ッタ趣デアリマス、世襲財產設定
者ノ數ガ三千何百人、此收入ダケデモ二千九百万法ト云フヤウナル高ニ上ッタ、是ハ僅
カ「ナポレオン」第一世ノ一代ノ中ニサウ云フ工合ニ上ッタ、所ガ一朝「ナポレオン」朝ガ潰
レルト、其反動トシテ斯ル世襲財產ノ爲ニ國內ノ財產ヲ固定サセルノハ甚ダ不利益デ
アルト云フノデ、其世襲財產ト云フモノハ忽チニシテ其政治上ノ論ノ爲ニ壞サレタト云
フコトニナッタト承ッテ居リマス、サウ云フヤウニ世襲財產ガ折角出來テ居ルモノガ餘リニ
偏シテ、世襲財產ニ固定サレルコトニナルト、必ズ又此反動ノ爲ニ之ヲ打壞サレルト云
フコトニナルノハ已ムヲ得ヌト思ヒマス、ドウシテ見テモ、此世襲財產ハ必要ナリト認ムル
以上ハ是ハドコマデモ保存シナケレバナラヌ、其保存タルヤ、成ルベク之ガ爲ニ國民經濟
ニ害ヲ及ボサヌト云フヤウナル深キ思慮ヲ以テ矢張リ設定シテ行クコトニセヌト、餘リ是ガ
盛ンニナルト、又其反動ヲ起スト云フコトニナッテ、根本的ニ壞サレル虞ガアルト云フノガ、
私共ガ矢張リ玆ニ或範圍ヲ設ケテ置ク必要ガアルト思フノデ、所ガ今富井博士モ仰シヤ
ル通リ、之ヲ數字デ表ハストカ云フヤウナコトハドウシテモ出來兼ネルトスレバ、矢張リ斯
ウ云フ抽象的ノモノヲ以テ、法ノ意ハ非常ナル巨額ノ財產ヲ固定スル趣意デナク、卽チ
其家格ヲ維持スルノガ目的デアルト云フコトノ範圍ヲ示シテ置キマスレバ、初メテ宮內大
臣モ此法ノ精神ニ依ッテ取捨サレルコトガ出來マスケレドモ、若シ是ガナイト云フコトニナ
ルト、勿論宮内大臣ハ一方ニ於テ華族ヲ監督セラレルト云フコトモアリマスケレドモ가併
ナガラ法ノ上ニ於テ許シテアル以上ハ宮內大臣ト雖モ唯手心ニ任シテ、是ハ多ウ過ギル
ト云フヤウナコトヲ餘リ干涉スルコトハ出來ヌ譯ニナリマスカラ、法ノ上デハ矢張リ或制限
ノ下ニ酌量······裁酌ガ出來ルト云フコトヲ宮內大臣ニ委任シテ置ク方ガ私ハ宜カラウ
ト存ズルノデアリマス、是ハ決シテ水野サンノ御疑ヲ解キ得ルヤ否ヤハ分リマセヌケレドモ、
私ノ此原案ヲ贊成スル····修正案ヲ贊成スル所以ハソコニ在リマスカラ、御參考マデニ
申上ゲテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=7
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008・富井政章
○富井政章君 岡野君カラ正式ニ廻ッテアリマシタカ、修正案ガ出マシタガ先程少シ
意見ヲ述ベルコトガ前後イタシタカモ存ジマセヌガ、大體贊成ヲ表シテ置キマシタ通リ、〓改
メテ私モ贊成ヲ表シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=8
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009・田健治郎
○男爵田健治郞君 決ヲ御採リニナル前ニ私ハ一ツ希望ヲ申述ベタイノデアリマスガ、
他ニ御修正說ガナケレバ申上ゲマスガ····発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=9
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010・岡部長職
○委員長代理(子爵岡部長職君) 宜シウゴザイマス、何カ御希望ガゴザイマスナラ
〓〓発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=10
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011・田健治郎
○男爵田健治郞君 私ハ希望トシテ政府ニ申上ゲテ、其希望ヲ成ルベク宮內大臣ニ
モ御通告ニナッテ、十分ニ御審議ヲ願ヒタイト思フコトガ一ツアリマス、ソレハ此度ノ原
案ニ無クシテ、而シテ此所デ將ニ委員會ノ決ニ至ラムトシツツアル所ノ此華族世襲財產
審議會ノコトデデゴザイマス、是ハ全ク原案ニハゴザイマセヌノデ、小委員會デ〓究ノ結
果斯ウ云フ必要ガアラウト云フノデ起ッテ參ッタコトデアリマシテ、多分是ハ委員會ニ於
テモ可決サレルコトデアラウト推測シテ居リマス、愈〓可決セラレタ以上ハ宮內大臣ガ此
委員會ノ組織等ニ付テ相當ニ御詮議ニナルコトハ論ヲ待タヌノデアリマスガ、私ドモガ希
望シマスノハ、此審議會ヲ組織スル所ノ會員ノ選定方ニ於テ宮內大臣ニ特ニ御考慮ヲ
願ヒタイト云フコトヲ申スノデアリマス、是ハ定メテ有爵者又ハ宮內官ト云フヤウナ人〓
ヲ勿論會員トシテ御選ビニナルデアラウト存ジマスルガ、私ドモノ尙ホ希望イタシマスノハ、
其上ニ學識經驗アルト云フヤウナル人ヲ御入レニナリタイノデアリマス、ソレハ是マデニモ
多少之ニ似寄ッタヤウナ宮內省ニハ會ノ組織モアルヤウデアリマスケレドモ、此世襲財產
ノコトタル頗ル此法律其他經濟、種々ノコトニ涉リマスモノデアッテ、唯有爵者宮內官ダケ
デ之ガ御審議ヲナサルト云フコトモ如何カト存ジマスルガ故ニ、成ルベク是等ノコトノ事
情ニ能ク通ゼラレマシタル所ノ謂ハユル學識經驗アルト云フヤウナル人ヲ此委員ノ中ニ幾
分カ御加ヘニナルガ最モ宜シキヲ得タコトデハナカラウカト存ズルノデアリマス、其學識經
驗ト申スト、甚ダ漠タルコトデアリマスルガ、一例ヲ申シマスレバ、其學識經驗アルト申スノ
ハ、或ハ樞密顧問官トカ、大審院判事トカ、或ハ法科大學ノ〓授トカ云フヤウナル······
是ハ私ガ指定シテ申スノデハアリマセヌガ、例ヲ舉ゲテ申スノデアリマス、サウ云フヤウナル
人カラモ·······所カラモ此委員ノ中ニ若干御加ヘニナルト云フコトハ此審議ノ場合ニ於テ
最モ實際ニ適シタル所ノ判斷ガ出來ルニ便ナルモノデアラウカト私ハ存ズルノデアリマス、
ドウカ委員會ノ希望トシテ此事ヲ宮內大臣ニ御傳ヘニナルヤウニ致シタイト云フコトヲ私
ハ發議イタスノデアリマス、ドウカ御贊成ヲ願ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=11
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012・岡部長職
○委員長代理(子爵岡部長職君) 他ニ御發議ハゴザイマセヌカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=12
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013・水野直
○子爵水野直君 私ハ小委員ノ方〓ノ御修正ニナリマシタ全部ノ御修正ニ贊成ノ意
ヲ表シマス、尙ホ其中デ前囘ニ岡野博士カラ御修正ニナリマシタコトニ贊成ヲ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=13
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014・岡部長職
○委員長代理(子爵岡部長職君) 旣ニ御發議モ盡キマシタト認メマス、先刻岡野
博士ヨリ小委員ノ修正案ニ對シマシテ修正ノ御意見ガ出マシタ、ソレニ對シテ贊成モゴ
ザイマシタ、其修正意見ヲ明カニスル爲ニ玆ニ一應朗讀ヲ致シテ見マセウト思ヒマス、第
四條第二項、之ヲ削除スルト云フコトニナリマス、第八條、「前條ノ規定ニ依リ公〓シタ
ル財產ニ關シ權利ヲ有スル者」マデハ其儘デ「又ハ」ト云フ所カラ卽チ「又ハ民事上ノ
强制執行、假差押若ハ假處分ニ著手シタル者」マデヲ削リマシテ、「及債權者」ト斯ウ
修正ニナリマス、第九條「宮內大臣ハ世襲財產ノ」ノ「ノ」カラ卽チ「設定ヲ認可スヘカラ
ス」トアル「ノ設定ヲ認可スヘカラス」、是ダケヲ削リマシテ、其代リニ「設定ノ認可ノ申請
ノ全部又ハ一部ヲ認可スヘカラサル理由アリ」、是ダケノ文字ヲ入レマス、卽チ讀下シマ
スレバ「宮內大臣ハ世襲財產設定ノ認可ノ申請ノ全部又ハ一部ヲ認可スヘカラサル
理由アリト認ムルトキハ」ニ云々トナリマス、第十八條「世襲財產及第十六條ニ揭クル權
利ハ」、此下ヘ「世襲財產ノ管理ニ因リテ生シタル權利及」ト云フ文句ヲ挿入イタシマ
ス、又其下ノ「損害賠償ノ請求」ノ下ノ「ノ爲ニスル」ト云フ字ヲ削リマシテ「權ニ基ク場
合ヲ除ク」ト云フ數字ガ這入リマス、之ヲ讀ミマスト··発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=14
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015・富井政章
○富井政章君 「權利及」ト仰セニナリマシタガ、皆樣ニ御相談デアリマスガ、「又ハ」ト
云フ方ガ第二十五條ト揃ウテ宜クハアリマセヌカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=15
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016・奧田義人
○奧田義人君 「及」ノ方ガ宜イ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=16
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017・富井政章
○富井政章君 「及」ノ方ガ宜イカ、イヤ强ヒテ····ソンナラ宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=17
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018・岡部長職
○委員長代理(子爵岡部長職君) 讀下シテ見マス、「世襲財產及第十六條ニ揭グ
ル權利ハ世襲財產ノ管理ニ因リ生シタル權利及不法行爲ニ因ル損害賠償ノ請求權ニ
基ク場合ヲ除クノ外民事上ノ强制執行」云々トナリマス、唯今朗讀イタシマシタノハ岡
野博士ノ修正意見デゴザイマス、修正意見ニ付キマシテ一應決ヲ採リマセウト存ジマス、
修正意見ニ御同意ノ諸君ノ起立ヲ願ヒマス
總員起立発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=18
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019・岡部長職
○委員長代理(子爵岡部長職君) 全會一致デゴザイマス、次ニ小委員ヨリ提出ニナ
リマシタル所ノ修正案ニ付キマシテ、卽チ今ノ修正ヲ可決イタシタト見マシテ採決ヲ致シ
マス、別ニ御異議ハゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=19
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020・岡部長職
○委員長代理(子爵岡部長職君) 然ラバ全會一致ヲ以チマシテ本案ハ小委員ノ修
正ニ本日岡野博士ヨリ提出サレマシタル所ノ修正ヲ以テ可決相成リマシタ、是ニテ散
會ヲ致シマス
午後三時五分散會
出席者左ノ如シ
副委員長富井政章君
委員
子爵平田東助君子爵岡部長職君子爵酒井忠亮君
子爵水野直君奧田義人君岡野敬次郞君
男爵田健治郞君男爵本多政以君桑田熊藏君
國務大臣
司法大臣尾崎行雄君
政府委員
法制局長官高橋作衞君法制局參事官馬場鍈一君
司法省參政官田川大吉郞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=003700220X00519160210&spkNum=20
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