第43回帝国議会　貴族院　本会議　第8号　大正9年7月12日

1. 会議録本文

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• 000・会議録情報

  　　　大正九年七月十二日（月曜日）
  　　　　午前九時十二分開議
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　　議事日程　第八號　大正九年七月十二日
  　　　　午前九時開議
  　　第一　公爵徳大寺公弘君、侯爵醍醐忠重君、子爵松平康民君、男爵後藤新平君、田邊輝實君、山田春三君、和田維四郎君、下條正雄君、田中源太郎君請暇の件
  　　第二　裁判所構成法中改正法律案（政府提出）　　　　　　　　　　　　　第一讀會
  　　第三　定年に因る退職判事檢事の恩給に關する法律案（政府提出）　　　　第一讀會
  　　第四　大正八年法律第五號中改正法律案（政府提出、衆議院送付）　　　　第一讀會
  　　第五　實業教育費國庫補助法中改正法律案（政府提出、衆議院送付）　　　第一讀會
  　　第六　鐵道敷設法中改正法律案（政府提出、衆議院送付）　　　　　　　　第一讀會
  　　第七　大正九年勅令第百七十一號（承諾を求むる件）（衆議院送付）　　　會議
  　　第八　大正九年勅令第四十八號（承諾を求むる件）（衆議院送付）　　　　會議
  　　第九　明治二十九年法律第十三號中改正法律案（政府提出）　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
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• 001・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ諸般ノ報告ヲ致サセマス
  〔瀨古書記官朗讀〕
  正三位勳一等功四級男爵中村雄次郞君
  去ル九日願ニ依リ貴族院議員ヲ免セラル
  同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
  農商務省所管事務政府委員農商務技師野間譽雄君
  一昨十日豫算委員會ニ於テ決定シタル分科及分科擔當委員ノ氏名左ノ如シ
  第一分科(歲入、大藏省「朝鮮總督府、臺灣
  總督府、關東廳、樺太廳ヲ除ク」
  伯爵柳澤保惠君伯爵奧平昌恭君子爵牧野忠篤君
  子爵前田利定君子爵八條隆正君男爵藤村義朗君
  男爵東〓安君仁尾惟茂君若槻禮次郞君
  橋本圭三郞君高田早苗君鎌田勝太郞君
  安田善三郞君
  兼務
  伯爵寺島誠一郞君淺田德則君荒井賢太郞君
  男爵〓誠之助君江木翼君市來乙彥君
  第二分科(外務省
  司法省
  伯爵松浦厚君伯爵寺島誠一郞君男爵小澤武雄君
  子爵酒井忠亮君子爵伊東祐弘君河村讓三郞君
  石塚英藏君男爵阪谷芳郎君男爵船越光之丞君
  湯淺倉平君
  兼務
  男爵柳澤保惠君男爵坂本俊篤君中村是公君
  男爵佐竹義準君
  第三分科(文部省內務省
  伯爵林博太郞君子爵靑木信光君子爵榎本武憲君
  高崎親章君北里柴三郞君江木千之君
  男爵千秋季隆君男爵島津久賢君阪本釤之助君
  伊澤多喜男君鎌田榮吉君
  兼務
  伯爵松浦厚君岡田良平君山之內-次君
  高田早苗君
  第四分科海陸電信機會
  子爵樋口誠康君大河內正敏君男爵村上敬次郞君
  和田彥次郞君男爵宇佐川一正君男爵坂本俊篤君
  江木翼君市來乙彥君
  兼務
  子爵井上匡四郞君子爵八條隆正君男爵斯波忠三郞君
  若槻禮次郞君星島謹一郞君鎌田勝太郞君
  第五分科(遞信省)農商務省、
  子爵井上匡四郞君淺田德則君小松謙次郞君
  岡田良平君男爵平野長祥君男爵斯波忠三郞君
  男爵〓誠之助君石渡敏一君星島謹一郞君
  中村圓一郞君橋本辰二郞君勝田銀次郞君
  兼務
  子爵大河内正敏君石塚英藏君男爵千秋季隆君
  男爵藤村義朗君藤田四郞君伊澤多喜男君
  鎌田榮吉君安田善三郞君
  第六分科〓鐵道省、朝鮮總督府、臺灣
  一總督府、關東廳、樺太廳
  子爵稻垣太祥君子爵豐岡圭資君荒井賢太郞君
  中村是公君男爵福原俊丸君男爵佐竹義準君
  男爵藤堂高成君藤田四郞君山之內一次君
  兼務
  男爵小澤武雄君小松謙次郞君男爵東郷安君
  仁尾惟茂君阪本彰之助君湯淺倉平君
  同日決算委員分科會ニ於テ當選シタル主査ノ氏名左ノ如シ
  第一分科主査子爵本多忠鋒君第二分科主査男爵若王子文健君
  第三分科主査安立綱之君第四分科主査子爵西大路吉光君
  同日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
  大正九年勅令第八十七號(承諾ヲ求ムル件)特別委員會
  委員長伯爵松浦厚君副委員長服部ー三君
  同日特別委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
  明治二十九年法律第十三號中改正法律案可決報告書
  同日議員前田正名君ヨリ三十一名ノ贊成ヲ以テ國運發展ニ適切ナル社會組
  織及風俗慣習調査機關設置ニ關スル建議案ヲ發議セリ
  同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
  實業〓育費國庫補助法中改正法律案
  鐵道敷設法中改正法律案
  大正九年勅令第百七十一號(承諾ヲ求ムル件)
  大正九年勅令第四十八號(承諾ヲ求ムル件)

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• 002・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、若槻禮次郞君ニ伺
  ヒタク存ジマスガ、土曜日ニ御述べニナリマシタ質疑ヲ御繼續ニナリマスカ、
  モウ濟ンダト考ヘテ宜シウゴザイマスカ

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• 003・若槻禮次郎

  ○若槻禮次郞君　總理大臣ノ御答辯ヲ伺ヒマシテ、質問ヲ致シタイト思フコ
  トハマダアルノデアリマスガ、御答辯ガドウモ要領ヲ得マセヌ、肯綮ニ當リ
  マセヌカラ、此以上ニ御尋ネ申上ゲタ所ガ適當ナ御答ヲ得ルコトハ出來ヌト
  考ヘマスノデ、私ハ質問ハ止メル積リデゴザイマシタガ、唯總理大臣ノ御言
  葉ノ中ニ、私ノ云フヤウニスレバ、社會主義者ノ主張ヲバ其儘放任シテ、是ガ
  取締ヲセナイヤウニシナケレバナラヌト仰シヤッタ、其一言ダケハ、私是非一
  言申上ゲタイト思ヒマシテ、發言ヲ求メタ次第デアリマス、ソレダケヲ此席
  デ申上ゲテ置キマス、社會主義者ガ、今日ノ〓育ガ高等〓育ニ偏シテ居ル、
  物價ノ騰貴ヲ政府ガ助成セラレルノハ、一部ノ富豪ニ媚ビラレル爲デアル、
  徵兵ガ下等社會ニ片寄ッテ居ルト云フノモ、亦サウ云フ意味デアルト云フコ
  トヲ唱ヘル、社會主義者ガサウ云フコトヲ唱ヘルノダカラ、其事柄ガ若シ格
  別サウ云フ議論ヲシテモ差支ヘナイト云フコトデアレバ、社會主義者ノ主張
  ヲ其儘ニ放任シナケレバナラヌコトニナルト、仰セニナリマシタガ、ソレハ
  ドウ云フヤウナル論法カラ來ルノデアリマスカ、社會主義者ノ主張其モノハ、
  私共ハ餘リ感心セナイノデアリマス、私有權ヲ廢メヤウナント云フヤウナ主
  張ニ至ッテハ、殊ニ私共ハ左樣ナコトニ同意スルコトハ出來ナイノデアル、サ
  フ云フコトデ社會ノ組織ヲ亂スト云フコトナラバ、十分御取締ニナルノガ當
  然デアルト思ヒマスガ、思想ノ動搖スルコトニ付テ大變憂慮シテ居ラルヽ此
  貴族院議員諸君ノ前ニ於テ、社會主義ノ取締レヌコトニナルト仰シヤルト云
  フコトハ、大變貴族院ニアッテハ、私ノ申述ベタコトガ、左樣ナ過激ナコト
  デアッタカト云フ感ジヲ與ヘルノデアリマス、左樣ナコトハ少シモナイノデ
  アリマス、社會主義者ノ主張ノ中デ殊ニ危險ナル主張ガアル、ソレハ固ヨリ
  御取締ニナラヌケレバナラヌ、併シ社會主義ヲ唱ヘルモノモ人間デアリマス
  カラ、其人間ノ唱ヘルコトガ悉ク惡イト云フ譯デハナイ、其人ノ言ウテ居ル
  中ニ道理ノアルコトガアレバ、ソレハ咎メルコトデハナイト思ヒマス、今日
  ノ〓育ガ高等〓育ニ偏シテ國民〓育ニハ薄イト云フ批評ガ、若シ社會主義者
  ノ中カラ出タトシテモ、ソレガ事實デアルナラバ之ニ省ミテ矯正ナサルガ宜
  シイ、是ガ事實デナイナラバ、サウ云フコトハナイト云フコトヲ、仰シヤレ
  バソレデ惑ヒガ解ケルノデアリマス、其事自體ハ何モ差支ナイノデアリマス、
  サウ云フコトヲ社會主義ガ言ッタカラト云ッテ、其事ヲ引用シタ爲ニ社會主義
  ノ取締ガ出來ヌト云フコトハ何所カラ出テ來ルノデアリマスカ、私ドウシ
  テモ了解ガ出來ヌノデアリマス、總理大臣ノ御論法ヲ其儘ニ適用シテ參リマ
  スト云フト、泥棒ガ忠孝ノ道ハドウシテモ之ヲ盡サヌケレバナラヌト云フコ
  トヲ申シタ場合ニ、泥棒ノ口カラ出タカラ忠孝ト云フコトハ良クナイ、危險
  思想デアルト云フコトヲ、總理大臣ハ仰シヤルノデアリマスカ、サウ云フ議
  論ハドウシテモ出テ來ル筈ハナイト存ジマスガ、私ガ申上ゲマシタコトニ付
  テ、左樣ナコトヲ言フト云フト社會主義ノ主張ヲモ其儘放任シテ取締ラヌデ
  置カヌケレバナラヌト云フコトヲ仰セニナルノハ、ドウ云フ次第デサウ云フ
  コトニナルノデアリマスカ、其事柄ヲ私一々御尋ネスルノハ、貴族院ニ於テ
  斯樣ナコトヲ仰シヤルノハ、何等カ貴族院議員諸公ノ主張ヲ脅カスカノ如ク
  ニシテ、反對ノ議論ヲ抑へ付ケルヤウナ御議論デアルヤウニ私ハ思ヒマスノ
  デ、是ハ總理大臣ノ御說明トシテハ誠ニ穩カナラヌト考ヘマスカラ、其點ダ
  ケヲ伺ヒタク考ヘテ居ッタノデアリマスガ、土曜日ニハ時間ガナカッタ爲ニ、
  私ハ止メル積リデアリマシタガ、唯今議長カラ御尋ネニナリマシタカラ此點
  ダケハ一言御說明ヲ願ヒタイ
  〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕

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• 004・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　唯〓若槻君ノ御質問デアリマスルガ、ソレハドウ云フ
  點ヲ御答ヘイタセバ宜シイノカ判然イタシマセヌケレドモ、私ノ申シタ趣意
  ヲ重ネテ申セバ御了解ヲ得ルデアラウト思フ、若槻君ノ御議論デハ、島田三
  郞君ガ普選問題ヲ提出スル理由トシテ唱ヘタ所ノ、〓育ハ上流ニ偏シテ居ル
  ト云ッタ所デ差支ハナイ、物價調節モ上流ニ媚ビテシナイト云ウテモ差支ヘ
  ナイ、徵兵ハ上流ハ免レテ居ルト云フヤウナル趣意ヲ述ベテモ差支ハナイジ
  ヤナイカ、斯ウ云フヤウナ御說デアリマス、ソレハ唯唱ヘヤウニ依ッテ、個人
  トシテ單純ニ唱ヘテ居ル間ニハ、サマデノ危險モ無論ナイデアリマセウケレ
  ドモ左樣ナル主義ニ依ッテ階級ヲ打破イタシテ、社會ノ組織ヲ一變イタサ
  ナケレバナラヌト云フヤウナル結論ヲ見ルガ如キ議論ヲ、普選ノ理由ト致
  スト云フコトハ、甚ダ不穩ナリト私ハ考ヘタノデアリマス、若シ其主張ヲ擴
  メマシテ、段々國民ノ誤解ヲ釀スニ至リマシタナラバ、實ニ危險ナル結果ヲ
  生ジハシナイカト惧レルノデアリマス、ソレ故ニ私ハ是ハ普通選擧ヲ今日實
  施スルト云フコトハ、議論ノ上ニ於テ同意ノ出來ナイノミナラズ、此趣意ハ
  甚ダ國家ノ爲ニ不穩ナリト私ハ認メテ、解散ノ理由ノ一ニ數へタト云フコト
  ヲ說明イタシタノデ、ソレニ對シテ若槻君ハ、〓育ハ上流ニ偏スト云ウテモ
  差支ナイ、物價調節ハ上流ニ偏スルガ爲ニ調節ヲシナイト云フコトモ差支
  ナイ、徵兵ハ上流ハ免ルヽ虞ガアルト云ッテモ差支ナイト云フ御議論デアルナ
  ラバ、サウ云フ御說デアルナラバ、何ヲ言ウテモ差支ナイト云フコトニ相成リ
  ハシマスマイカ、ソレナラバ假ニ社會主義者ガ色〓唱ヘテ居ッテ、唱ヘテ居
  ル分ニハ差支ナイジヤナイカト云フコトニ考ヘマスルガ、凡ソ議會ヲ解散ス
  ル、國民ノ思想ヲドウスルト云フコトハ、皆總テ乾燥無味ナル法律論ニアラ
  ズシテ政治問題デアル、此政治ハ活キタ社會ニ處シテ相當ナル道ヲ執ラナケ
  レバナラヌカラ、假リニ上述ノ論ヲ單ニ唱ヘテ居ル間差支アルマイト云フヤ
  ウナコトデ、之ヲ律スルコトハ出來ナイト云フ趣意ヲ申シタノデアリマス此
  趣意ニ依ッテ御了解ヲ願ヒタイ

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• 005・若槻禮次郎

  ○若槻禮次郞君　唯今總理大臣ノ御話ヲ伺ヒマシテ、ドウシテモ今一遍御尋
  ネシナケレバナラヌコトニナッタノデアリマス、日本ノ今日ノ〓育ハ高等〓育
  ニ偏シテ居ルト云フダケノ批評カラシテ、何所カラソレガ危險ナル思想デア
  ルト云フコトマデ論結シナケレバナラヌノデアリマスカ、總理大臣ハ、高等
  〓育ニ偏シテ居ルト云ッタカラ、ドウシテモ共產主義ニマデ結論シナケレバ
  ナラヌト云フコトニナルカラ、危險ダト仰シヤル、物價調節ヲ政府ガ怠ッテ
  居ラルヽ、之ニ付テハ私ドモ一兩人バカリデハナイノデアリマス、殆ド天下
  ノ者皆囂々トシテ一日モ速カニ調節ヲ望ンダノデアリマス、貴族院ノ議員諸
  公有志モ、政府ニ向ッテ勸告ヲナサレタノデアリマス、ソレ位ノ問題ニ付テ
  スラ政府ハ之ヲ實行ナサラヌカラ、何カ何所カヲ憚ッテ實行ナサラヌデアラ
  ウ、斯ウ云ウタ所デ、其事ガ危險思想ニナルノデアリマスカ、私ハ總理大臣
  ノ御論ハ、丸デ關係ノナイ所ニ持ッテ行ッテ意味ヲ附ケテ、ソレガ危險デアル
  ト云フヤウニ仰セニナルト思フ、徵兵ガ上流ノ者ニ少クテ、下層階級ノ方ニ
  割合ニ徵兵ガ餘計取ラレテ居ルカラ、ソレハ事實デナイカモ知レヌ、事實デ
  ナイコトヲ私ハ望ムノデアリマス、サウ云フコトガ事實デアッタラバ政府ト
  シテ顧ミナケレバナラヌ、ソレヲサウ言ウタカラト云ウテ、ソレガ危險デア
  ルト云フコトニナルトハ、ドウ云フコトデアリマスカ、私ニハドウシテモ分
  ラヌノデアリマスガ、同ジコトヲ繰返スヤウニナッテハ却ッテイケマセヌカラ、
  同ジ御答辯デアリマシタナラバ是ダケデ宜シイノデアリマス、唯先達テ申上
  ゲマシタ通リ、大藏大臣ハ此度所得稅ノ改正案ヲ御提出ニナッテ、是マデハ稅
  ガ擔稅能力ニ比例シテ居ナイ、斯ウ云フコトヲ仰シヤッタ其言葉ヲ、モウ一
  ツ言葉ヲ換へテ申セバ、現在ノ課稅ハ上ノ方ノ者ニハ割合ニ輕ク、下層ノ者
  ニハ割合ニ重イ、是ガイケヌカラ改正スルト云フ御論デアラウト思フ、此
  事ト今日ノ〓育ハ上流ノ方ニ偏シテ、下層ノ方ニハドウモ薄イヤウダト云フ
  批評ヲシタノト、何所ガ違フノデアリマスカ、〓育ノコトヲ批評スルノガ社
  會ニ對シテ危險ダト仰シヤルナラバ、大藏大臣ノ其御說明モ危險ナ說ト云ハ
  ナケレバナラヌ、ソンナ可笑シナ論法ハアルベキモノデナイト思フ、大藏大
  臣ノ御說明ハ、私ドモハ大藏大臣トシテ當然ナコトヲ御話ニナッテ居ルト思
  フ、ソレヲ御考ヘニナッタナラバ、島田君ノ言フタコトガ、私ドモ此議場ニ於
  テ御尋ネスルコトハ、何等差支ナイコトデアルト云フコトハ、御分リニナラ
  ウト思フ、ソレヲ理由トシテ議會解散ヲナサレタト云フコトデアルカラ、議
  會解散ノ不當デアルト云フコトハ、益〓明瞭ニナッタト私ハ思フノデアリマス、
  是ダケ申上ゲテ置キマス
  〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕

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• 006・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　若槻君ノ御議論デアリマスガ、是ハ私トハ說ヲ異ニシ
  テ居ル、幾ラ質問應答ヲ重ネマシテモ一致ハ見出サヌカモ知レマセヌガ、私
  ノ申シタ趣意ハ〓育ハ上流ニ偏シテ居ルト論ジタ所デ、ソレダケノコトデ
  ハ危險ハアリマスマイ、又物價調節ハ上流ニ偏シテ居ルト論ズル人ガアリマ
  シタ所デ、ソコダケノ間ニハ危險ハアリマセヌ、徵兵ハ上流ニ偏シテ居ル虞
  レガアルト言ッタ所デ、ソレヲ唱ヘテ居ルソコダケノ意味ニ於テハ危險ハア
  リマスマイガ、斯樣ナ虞レガアルガ故ニ由ッテ以テ階級ヲ打破モシナケレバ
  ナラヌ、階級ヲ打破スルガ爲ニハ普通選擧ニシテ········普通選擧ヲ行ウテ多數
  ノ國民ノ力ニ依リ、此階級ヲ打破スルト云フ結論ニ歸著スル順序トシテ唱ヘ
  タ議論ニモ、不穩ノ意味ハナイト云フ御議論デアリマス、是ハ見解ハ違フノ
  デアリマス、御答ヲ致シタ所デ一致ヲ見出シ難イト考ヘマス併シナガラ私
  ハ斯樣ナ趣旨ニ依ッテ階級ヲ打破シ、現在ノ社會ノ組織ニ脅威ヲ加ヘルヤウ
  ナ理由ニ依ッテ普通選擧ヲ實行シヤウト云フナラバ、我〓ハ之ヲ決シテ穩當
  ナル議論トハ見ナイノデアリマス、說ハ付ケヤウニ依ッテ色〓アリマスルケ
  レドモ、此精神ニハ私ハ御同意ガ出來ナイノデアリマス、ソレカラ先キハ御
  議論ガ違ッテ居ルト思ヒマス、從ッテ御答ハイタシマセヌ

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• 007・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　阪本釤之助君
  〔男爵目賀田種太郞君發言ヲ求ム〕

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• 008・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　阪本釤之助君ヲ呼ビマシタカラ、御後トデ願ヒマ
  ス
  〔阪本釤之助君演壇ニ登ル〕

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• 009・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　唯今阪本君ノ御名ヲ呼ビマシタ後トデ、目賀田男
  爵ガ發言權ヲ求メラレマシタカラ、阪本君ノ御名ヲ呼ビマシタカラ後デ願ヒ
  タイト申シマシタガ、阪本君ハ外務大臣ガ出席セラレネバ、質疑ハサレナイト
  云フコトデゴザイマスカラ、此際目賀田男爵ニ發言ヲ許サウト考ヘマス
  〔阪本釤之助君演壇ヲ降ル〕

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• 010・目賀田種太郎

  ○男爵目賀田種太郞君　前日財政當局ニ質問イタシマシタニ對シテ、大藏大
  臣ハ後トデ答ヘルト云フコトデゴザイマシタ、此際御答ヲ願ヒタイト思ヒマ
  スカラ、大藏大臣ノ說明ヲ願ヒタイノデアリマス
  〔國務大臣男爵高橋是〓君演壇ニ登ル〕

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• 011・高橋是清

  ○國務大臣(男爵高橋是〓君)　先日目賀田男爵ノ御尋ノ終リノ所ハ、憲法ト
  會計法トニ基イテノ御尋デアリマシタガ、其意味ガヨク私ニ判リマセヌノデ
  ドウカ其御尋ノ要點ヲモ一度承ハリタイノデアリマスルガ、若シ憲法ノ解釋
  トカ會計法ノ解釋トカ云フ、法律ノ解釋トカ〓究トカ云フコトニナリマスト
  私ハ其方ハ甚ダ不得手デス、法律ノ研究ノコトニ付キマシテハドウ云フ
  點ニ付テ大藏大臣ニ御尋ネニナルノデアリマスカ、要點ヲ簡明ニ更ニ御述べ
  ヲ願ヒタイノデアリマス

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• 012・目賀田種太郎

  ○男爵目賀田種太郞君　登壇イタシマス
  〔男爵目賀田種太郞君演壇ニ登ル〕

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• 013・目賀田種太郎

  ○男爵目賀田種太郞君　本員ガ前日財政當局ニ御尋ネイタシマシタノハ、近
  來憲法ノ施行ニ付テ、兎角行政ガ之ニ率由セザルヤウナ感ガアル、無論申ス
  迄モナク憲法ハ行政殊ニ財政ノ大基準デアル、示ス所ガゴザイマス施行ノ
  標準デアル、其一トシテ例ヘバ歲入ノ算定ノ如キハ、憲法ノ趣意ニ依レバ、
  適實ニ調査セラレ剰餘ノ出ナイヤウニナルベキガ當然デハナイカ、又追加豫
  がる
  算ナルモノハ元來憲法ニハ規定ハナイ、會計法ノ五條ニ依ッテ規定シテアル、
  五條ノ二項ニ於テ規定シテアル、全ク其年ノ測リ知ルベカラザル經費カ、或
  ハ法律契約ニ定メタル經費ノ不足ニ對シ提出セラルベキモノデアル、ソレ故
  ニ憲法ニ於テハ追加豫算ノコトハ規定ハナイ、所ガ追加豫算ガ出テ、之ニ繼
  續費ヲ包含スルトキハ憲法六十八條ヲ適用セニヤナラヌガ、豫算ハ會計法ニ
  依ッテ提出シテ、其働キハ憲法ニ據ルノデスガ、ソレハドウモ少々分リ難イガ
  ト云フコトデアリマシテ、エライムヅカシイ法律論ヲ申シタノデハアリ
  マセヌ、元來憲法ハ財政ニ對スル施行標準ナルガ故ニ、一言伺ッテ置キタイ、
  斯ウ申シタノデアリマス
  〔國務大臣男爵高橋是〓君演壇ニ登ル〕

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• 014・高橋是清

  ○國務大臣(男爵高橋是〓君)　唯今ノ御尋ハ、私モ目賀田男爵ト同ジヤウニ
  考ヘテ居リマスルガ、憲法ノ上デ求ムレバ六十八條「特別ノ須要ニ因リ政府
  ハ豫メ年限ヲ定メ繼續費トシテ帝國議會ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得」当繼續事業
  ニ付テ此臨時議會ニ追加豫算ヲ提出シマシタノハ、憲法ニ付テハ何ヲ基礎ト
  スルカト申セバ、唯今御話ノ六十八條ニ依ッテヾアリマス繼續事業ニ付キマ
  シテハ········ソレカラ追加豫算ノコトハ全ク會計法第五條ニ依ル「必要避クヘ
  カラサル經費及法律又ハ契約ニ基ツク經費ニ不足ヲ生ジタル場合ノ外追加豫
  算ヲ提出スルコトヲ得ス」、之ニ從ッタ、卽チ必要避クベカラザル經費ヲ追加
  豫算ニ計上シタノデアリマシテ、而シテ此繼續事業ニ關ハルモノハ此憲法ノ
  唯今申シタ條項ニ依ッテ提出シタト、斯ウ考ヘテ居リマス、左樣御承知ヲ····

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• 015・目賀田種太郎

  ○男爵目賀田種太郞君　最後ノ所ガチヨット小聲デ聽エ惡ウゴザイマシタガ、
  モウ一遍御說明
  〔國務大臣男爵高橋是〓君演壇ニ登ル〕

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• 016・高橋是清

  ○國務大臣(男爵高橋是〓君)　御尋ノ追加豫算ニ於テ繼續事業ノコトヲ揭ゲ
  マスノハ、憲法ニハ追加豫算ノコトハナイ、サウシテ繼續事業ノ計畫ヲ追加
  豫算ニ上セマシタノハ、憲法第六十八條デスカ、ソレニデスナ「特別ノ須要
  ニ因リ政府ハ豫メ年限ヲ定メ繼續費トシテ帝國議會ノ協贊ヲ求ムルコトヲ
  得」ト斯ウ書イテアリマス、是ハ通常議會ニ出ス豫算ニ限ルトモ書イテアリ
  マセヌ追加豫算ニ揭ゲテハナラヌト云フ意味ニモナッテ居ラヌ、既ニ追加豫
  算ヲ會計法第五條ニ依ッテ出シマスル以上ハ、卽チ其ノ追加豫算ニ繼續事業
  ノ計畫ヲ揭グルコトハ何等憲法ノ上ニ於テ差支ナイ、斯ウ解釋ヲ致シテ居リ
  マス

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• 017・阪本さん之助

  ○阪本彰之助君　已ムヲ得マセヌカラ、登壇ハ御許シヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=17

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• 018・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　質疑ヲシテ居ラルヽ中ニ外務大臣ガ來ラルレバ宜
  シウゴザイマスガ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=18

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• 019・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　來マセナンダラ又保留シテ置キマス、兎ニ角···

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• 020・徳川家達

  ○議長　公爵德川家達君)宜シウゴザイマス、阪本彰之助君
  〔阪本釤之助君演壇ニ登ル〕

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• 021・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　諸君、尼港問題ノ責任ノ有無ニ付キマシテ、數日間質問應答
  ガアリマシタガ、本員ハ初メヨリ當局ニ責有リト認メテ居リマスルガ故ニ是
  ニ付テ最早質問ノ要ハ無イト存ジマスノデアリマス、唯事ノ官紀ニ關シ、又
  將來ニ及ボシマスルト存ゼラレマス事柄ニ付テ、二三當局大臣ニ御尋ネシテ
  見タイト存ジマスノデアリマス、多クハ海軍ノ方面ニ向ッテ御尋ネヲ致スノデ
  アリマスルガ、是ニ先ダチマシテ、一言外務大臣ニ御尋ネヲ致シタイノデアリ
  マスルガ、マグ御出席ガアリマセヌカラ、已ムヲ得ズ後ニ廻シマシテ進ミマス
  ルデアリマス、一昨年ノ九月尼港ノ陸戰隊ト步兵ノ第二十四聯隊ノ二箇中隊
  隊ト交代ヲ致シテ、是ト同時ニ第三艦隊ノ主力ト第三水雷艇隊ガ撤退ヲ致シ
  タノデアリマス、其際ニ陸軍側カラ、切メテ砲艦ノ一隻ナリトモ尼港ニ留メテ
  貰ヒタイト云フ要求ガアッタ、所ガ海軍側ハ之ニ應ジナカッタト云フコトヲ聞
  イテ居リマスルガ、是ハ虛實如何カ存ジマセヌガ、果シテ眞ナリトセバ、ドウ
  云フ御詮議振リデアッタノデアリマセウカ、而シテ昨年ノ五月、此二十四聯隊
  ノ二箇中隊ト、新ニ第二聯隊ノ二個中隊トガ交代ヲ致シマシテ殆ド是ト同時
  ニ又海軍ノ方カラハ、再ビ第三艦隊ノ主力ト第三水雷艇隊ト尼港ニ派遣サレ
  テ守備ノ任ニ當ラレタト申スコトデアリマス、ソレニ拘ハラズ十月中旬卽チ
  結氷前ニ當リマシテ、艦隊ヲ總テ撤退セラレタノハドウ云フ理由デアリマセ
  ウカ、前ノ陸軍ノ守備隊ハ戰時編成デアリマシタノデ、兵數モ二個中隊トハ申
  シナガラ約六百、ソレニ機關銃ガ四ツ附イテ居ッタコトデアリマスルガ、後ニ
  交代イタシタ守備隊ハ、平時ノ編成ニ改メマシテ其兵數ハ三百ニ減ジマシタ、
  機關銃モ二ツト云フコトニナッタト申スコトデアリマシテ、甚ダ手薄ニ相成
  リマシタニ拘ハラズ、海軍ハサッサト艦隊ヲ撤退セラレテ、之ニ協力セラレ
  ナカッタト云フコトハ如何ナル事情ガ存スルノデアリマセウカ、又聞ク所ニ
  依リマスルト、昨年ノ夏、尼港在留邦人ノ王トモ稱セラレテ居ル所ノ島田某
  ガ上京ノ際ニ、冬季結氷中ニハ餘程尼港ハ危險ニ陷ルデアラウ、甚ダ之ヲ憂慮
  スルカラ、ドウカ相當ノ措置ヲ執ッテ貰ヒタイト云フコトヲ、當局ニ向ッテ力
  說イタシタト云フコトヲ傳聞イタシテ居リマスルガ、當局ハ一向之ニ耳ヲ假
  サズ、等閑ニ付セラレタト云フヤウニ存ジマスルガ、是ハドウ云フコトデア
  リマセウカ、是ハ無論陸海共通ノコトデアリマスルガ、兎ニ角此島田某ハ尼
  港ニ於テ最モ有力ナル位置ヲ占メ、又其言フ所ハ信ズベキモノデアルダウト
  存ジマスルガ、ソレ等ガ懇願ヲ致スコトニ多少ノ耳ヲ御傾ケニナッタナラバ、
  今日ノ如キ慘狀モ、或ハ免カレルコトガ出來ヤシナカッタカト存ジマスルガ、
  是等ノ言ニハ耳ヲ御假シガナカッタノハ、是ハドウ云フ次第デアッタノデアリ
  マセウカ、先月二十三日ニ至リマシテ、陸軍省海軍省ノ名ヲ以テ發表セラレマ
  シタ所ノ印刷物、卽チ此第一ト申ス所ニ書イテアリマスル、其末文ニ「我艦
  隊ハ十月中旬結氷直前尼港方面ヲ撤退ス云々」其ノ第二ノ末文ニハ「又臨時
  海軍派遣隊ハ哈府ヲ根據トシ黑龍江系上流水路ニ活動シテ陸軍トノ協同作戰
  ニ從事セリ」、斯樣ニ書イテアリマス、卽チ黑龍系上流水路デ活動サレ、且ツ
  陸軍ト協同作戰ニ從事セラレタト云フコトデアリマス、是ハドウ云フ活動ヲ
  爲サレ、ドウ云フ協同作戰ヲ爲サレタノデアリマセウカ、是ガ尼港ト如何ナ
  ル關係ヲ持ッテ居ルノデアリマスルカト云フコトヲ、主トシテ御尋ネイタシタ
  イ、臨時海軍派遣隊ト申スノハ、蓋シ露國カラ捕獲セラレタ所ノ河用砲艦ヲ
  基礎トスルモノデアルカト想像イタシマスルガ是ハ相應ニ優勢ナモノデア
  リマシテ、用ヲ爲スモノデアルト云フコトヲ聞イテ居リマス、此卽チ派遣隊
  ガ「ハバロフスク」ニ固著セズニ、結氷前ニ早ク尼港ノ方ヘ幾分ナリトモ廻航
  イタシテ、守備ニ任ゼラレテ居ッタナラバ、今囘ノ事件ニ對シテハ如何ニ有
  力ナ援護ニナッテ居ッタデアラウカト云フコトヲ、今更ナガラ遺憾ニ存ジマス
  ルト同時ニ、當局ノ意思ノ存スル所ヲ知ルニ甚ダ苦ムノデアリマス、元來私共
  素人ノ見マスル所ニ依リマシテ、交通ノ便利デアル解氷期中ナラバ、多少陸上
  海上共ニ手薄デアリマシテモ、イザト云フ時ニハ何時デモ應援ガ出來ルト申
  シ得ルカモ知レマセヌガ、結氷ヲ致シテ海陸共ニ交通ノ止ッテ居ル時ニ如何
  トモ致方ガナイ、卽チ今囘ノ事件ニ付テハ政府側ハ不可抗力デ有ル無イト云
  フヤウナコトデアリマスガ、不可抗力ト云フヤウナ言葉ヲ以テ責任ナシト申
  サレテ居ル位ノ事デアル、成程仕方ガナイト言ヘバ仕方ガナイヤウデアル、
  サウデアリマスガ、仕方ガナイト言ヘバ仕方ガナイカモ知レヌ、兎ニ角交通
  ガ頗ル不便デアル、然ルニ其時ニハ海軍ハサッサト引揚ゲテシマッテ、陸上ニ
  ズット手薄ノ兵ホカ置イテ置カヌト云フコトハ、常識ノ判斷トシテ洵ニ分ラ
  ヌコトデアルト存ジマスルガ、而モ哈府ノ附近ニハ河用砲艦ガ居リマシテ、
  其邊ノ作戰計畫ノ動作ニ從事イタシテ居ルト云フコトデアレバ、ソレヲ何故
  此「ニコラエウスク」附近ニ分遣セラレナカッタノデアルカ、偶然トハ申シナ
  ガラ支那ノ淺吃水砲艦隊ガ此報告書ニモアリマスルガ、十月下旬ニ黑龍江
  ヲ溯ラムト致シテ哈府ノ下流ニテ露軍ニ妨ゲラレマシテ、再ビ尼港ニ歸港イ
  タシテ冬營ヲ致シテ居ッタト云フコトデアリマス、此支那ノ軍艦ガ尼港附近
  ニ冬營イタシテ居ルコトガ出來ルナラバ、日本ノ軍艦ガ其邊ニ來テ冬營スル
  コトガ出來ナイト云フコトハナイダラウト私ハ思ヒマスガ、如何ナルモノデ
  アリマセウカ、事ノ序ニ伺ッテ見タイト思ヒマスガ、此支那ノ艦隊ナルモノ····
  ·····艦隊ト申スホドモナイカ知レマセヌガ、支那砲艦ガ事變ニ際シテ陸上ニ向ッ
  テ發砲イタシテ我軍及ビ居留民ニ危害ヲ加ヘタト云フ說ガ一時專ラ傳リマシ
  タガ、今日ハ一向杏トシテ其消息ヲ聞キマセヌ、此「尼港事件ノ〓末」ト題ス
  ル政府ノ報告書ニモ、此事ハ何等記載ガ見エマセヌガ、是ハドウ云フコトデア
  リマカ、全ク虛構ノ事デアリマシタラウカ、或ハ御都合ガアッテ暫ラク引ッ込
  マシテ御置キニナルノデアリマセウカ、是モ相叶ヒマスレバ承ハリタイノデ
  アリマス、扨本年ノ一月ト相成リマシテハ最早大事既ニ去レリ、先キニ外務
  大臣ニ御尋ネシマシタコトハ是ニ關係イタスノデアリマスカラ、後ニ申シマ
  スガ、其時分ニ石田副領事カラモ度〓情報ガアリ、此處デ申述ベマスコトハ
  卽チ海軍側ノ三宅海軍中佐ヨリ········少佐デアリマス、海軍軍令部長ニ向ッテ
  屢〓此尼港ノ危急ナルコトヲ報告セラレ、陸戰隊派遣ヲ希望シテ、其卽チ上陸
  ハ斯ノ如キ地點デ御ヤリニナリ、斯ウ云フ道ヲ取ッテ御出ニナレバ、尼港ニ達
  セラレヌコトハナイト云フ意見ヲモ具申シテ來タト聞イテ居リマスガ、之ニ
  對シテ此卽チ陸海軍省ノ公表ニ依リマスルト、少シコヽハ先程外務大臣ニ御
  尋ネシテ居ラヌカラ判明ヲ缺キマスガ、一月七日ニ石田副領事ガ電信ヲ發シ
  テ、頗ル尼港ハ危險ノ狀態ニ近ヅキツヽアルカラ居留民ヲ引揚ゲサセタイト
  思フ、今ノ中ナラバ十分ソレノ出來ル見込ガアルカラ、折返シテ訓電ヲ請フ
  ト云フコトヲ外務大臣ニ申シ來タッタト云フコトヲ承ハッテ居ルノデアリマス
  ガ、其事ハ此報告書ニハトント見エテ居ラヌ、唯一月二十四日及ビ二十六日
  ニ至ッテ、初メテ尼港ノ危急ナル報告ニ政府ハ接シタ、斯ウ云フコトガ書イ
  テアルノデアリマス、ソレニ至ッテ「我ガ海軍ハ·········二月上旬軍艦三笠及ビ見
  島ヲ亞港方面ニ行動セシメ」云々ト書イテアリマス、本員ハ此間ニ頗ル疑〓
  ヲ懷ク者デアリマス、本員ノ竊ニ聞ク所ニ依リマスト當時海軍部內ニ於テ
  ハ二三囘モ會議ヲ開カレマシテ、卽時救援軍ヲ派遣スルガ必要デアルト云フ
  コトヲ主張スル人ハ、多クハ少壯若シクハ露國事情ニ通ジテ居ル將校方デ、
  此人〓ハ卽時救援軍派遣說ヲ主張セラレタト云フヤウニ漏レ聞キマシタ、所
  ガ形勢觀望、先ヅ暫ク此儘見ヤウデハナイカト云フ說ト、兩說相鬪ッテ容易ニ
  決定シナイ、彼此スル中ニ遂ニ機宜ヲ失ッタト云フコトヲ傳聞イタシテ居リ
  マスガ、此間ノ消息ニ付テ當局ハ如何ナル御感覺ガアリマスカ、一月七日ト
  云フノニ石田副領事カラ居留民引揚ノコトヲ訓電ヲ請ハレタト云フ消息ガ、
  外務省ト海軍省トノ間ニ敏捷ニ氣脈ガ通ジテ居ル、此卽チ一月七日ノ副領事
  ノ電報ナルモノガ徹底イタシテ居ッテ、此時直チニ居留民ハ引揚グ、後ハ相當
  ノ處置ヲ執ラレタナラバ、少クモ居留民モ無事ニ助カリ、又守備兵モ相當ノ
  行動ガ執レタノデハナイカト存ジマスガ、是カラ起算イタシマスト二月
  上旬ト申シマスト、居留民引揚ノ必要ヲ感ジタ以來、一箇月ヲ經タ後ニ漸ク
  軍艦派遣ノコトヲ決行イタサレタノデ、甚ダ手緩キ處置ト考ヘマス而モ十
  分ソレハ向フニ達スルコトガ出來ズシテ、途中ニ滯リ陸海軍共ニ十分ナル····
  ····十分ナルジヤナイ、全ク救助スルコトガ出來ナカッタノデアリマス、此卽チ
  一月七日ノ石田副領事ノ電報ト云フモノハ、海軍省デハ全ク御承知ガナカッタ
  ノデアリマセウカ、是ハ海軍省側トシテ伺ッテ置キタイノデアリマス、尙其後
  新聞ヲ見マスト、「オコツク」方面ニ於テモ「バルチザン」ガ跳梁イタシテ、我
  國ノ出稼人工場等ヲ燒拂ヒ、相當ノ慘狀ヲ呈シテ居ルコトヲ認メタ者ガアル
  ト云フコトデアリマスガ、是ハ其後政府ニハ何カ報告ニナッテ居ルコトヽ存
  ジマスガ、是ハドウ云フコトデアリマセウカ、又之ニ付テ防備ヲ如何ニナサ
  レタカト云フコトヲ併セテ承ハリタイノデアリマス、外務大臣ガ御出席ニナ
  リ、唯一箇條ヲ承ハル爲ニ御多用中ニ御出席ヲ煩ハシテ甚ダ恐縮ニ存ジマス
  ガ、是ハ重大ナル關係ガアルコトヽ存ジマス故ニ、是非一應伺ノテ置キタイ
  ノデアリマス、唯今端〓ヲ申シマシタ卽チ本年一月七日ニ、尼港ノ石田副領
  事ノ發シタ電信ナルモノハ外務大臣ハ之ヲ御接受ガアッタカナイカ、斯ウ云フ
  コトヲ承ハリタイノデアリマス、此卽チ報告書ニゴザイマセズ、又是ハ陸海軍
  省ノ報〓書デアリマシテ外務ノ事ハ御書キニナラナンダト云フコトデアルカ
  ちさんだ
  モ知レマセヌ、或ハソレハ知ラヌト仰シヤルカモ知レマセヌガ、是ハ十分ニ
  一ツ責任ヲ以テ御答ヲ願ヒタイ、卽チ其電報ナルモノハ、昨年十月頃カラ尼
  港ハ西比利亞ト薩哈嗹州ノ過激派ノ夾擊ヲ受ケテ、形勢刻々危險ガ切迫シテ
  居ルノデアルト石田副領事ハ認メテ、今ノ中ニ在留邦人ハ全部引揚ヲ決行シ
  ナケレバ、如何ナル悲慘ノ狀態ニ陷ルモ測リ知ルコトガ出來ナイ、尙ホ直チ
  ニ引揚ゲテ差支ナイノデアルナラバ其方法ハアルノデアルカラ、折返シテ訓
  電ヲ待ツト云フコトヲ申出タト云フコトデアリマス、所ガ其筋デハ當時事態
  ヲ輕ク見テ御居デニナッタノデアリマスカ、追テ何等カ訓電ヲスルカラソレマ
  デ機宜ノ處置ヲ執ッテ居レト云フ返電ガ參ッテ、其儘ニ過去ラレテ、卽チ此報
  告書ニモアリマスル丁度二十日ホドモ經マシタ後、一月ノ二十四日、二十六
  日ノ兩囘ノ報告ニ接シテ大ニ驚カレタヤウニ見エマスノデアリマス、マサカ
  ニ此重大問題ヲ御忘シニナッテ居ッタト云フコトハナカラウト存ジマスガ、隨
  分外務省モ御多用ノヤウデアリマスカラ、或ハ一月七日ニ總テ···總テヾハ
  アリマセヌ、此御返事ガ參ッテ居リマスルガ、マア〓〓ト云フコトデ其日ヲ
  送ッテ居ッタ中ニ、一月下旬ニ大騷動ガ起ッタヤウナ事實デハアリマスマイカ、
  是ハ私ハ相當ノ根據アル報道ヲ得テ居ルノデアリマスガ故ニ········何分死人ニ
  口無シ、ソンナラバドウ云フコトカト言ハレタ處デ、其卽チ證據人タル三宅
  中佐モ石田副領事モ存在致シマセヌガ、種々ナル材料ヲ綜合致シテ根據アル
  モノト存ジテ居リマス、而モ外務大臣ハ一月七日ニ石田副領事ノ電報ニ接シ
  ナカッタト云フコトヲ仰ッシヤルカ、或ハ接シタケレドモ斯ク斯クノコトデア
  ルト云フ御答ヲ得ルノデアリマセウカ、之ヲ承ハリマシテ尙ホ海軍トノ關係
  ヲ承ハリタイト思ッテ居リマス終リニ臨ミマシテ一言附加へタイノハ、哈
  府ニ在ル所ノ我ガ陸軍官憲ノ處置ト云フモノガ甚ダ私共ガ了解ニ苦シムノデ
  アリマス、諸君モ御承知ノ如ク、師團長及ビ旅團長ヨリ二囘、尼港ノ守備隊
  ニ向ッテ訓令若クハ勸告ナドヽ云フコトガ此所ニ書イテアリマス、電報ヲ發
  シテ居ラレルノデ、夫ガ即チ基礎ハ皆信ズベカラザル革命軍司令官ヲ信ジテ、
  是ト條約體ノモノヲ結バレテ講和ノ命令ヲ下シ、後ニハ最早彼ノ地ニ於テハ
  殺シ盡クサレテ、僅カニ殘留居留民等ガ殘ッタ兵士ト共ニ戰ッテ、最早戰場ノ
  露ト消ユルベキ覺悟ヲ致シテ居ル際ニ、休戰ノ勸告ト云フコトハ實ハヲカ
  シナコトデアリマシテ、軍ノ長官ハドウ云フ御考デアルカ、命令デアリサウ
  ナコトヲ勸〓ト書イテアリマス、兎ニ角命令ノヤウナモノデアリマセウ、爲
  ニ此戰ヲ止ムルノ已ムヲ得ザルニ至ッテ、遂ニ夫ガ監獄ニ投ゼラレテ後ニ鏖
  殺セラレタノデアリマス、其時ノ隊長タル河本中尉ト云フ人ノ手帳ト云フモ
  ノガ後ニ殘ッテ居ッテ、其ヲ發見シタト云フコトデアリマスガ、其記事等ヲ見
  マスト、其河本中尉ノ進退谷マッタ模樣ハ、實ニ同情ニ耐ヘマセヌノデアリ
  マス、ケレドモ長官ノ命ズル所、我ガ軍人ノ氣質トシテ一面服從ヲシテ見ル
  モノヽ果シテ是ガ正確ノモノデアルカ否ヤト云フコトヲ大ニ疑フテ居ラレタ
  モノト思ハレル、異境ニ恨ヲ呑ンデ休戰ヲシタノデアリマス夫ハ本月三日
  ノ政府ノ公表セラレタモノニ全部皆見エテ居リマスガ、夫ニモ「淚ヲ呑ンデ」
  云々ト云フコトヲ、政府ノ人サヘ·······當時ノ守備隊長ハ涙ヲ呑ンデ、ト思ハ
  ズ知ラズ書カレタ、眞ニ同情サレタノデアリマセウ、涙ヲ呑ンデ休戰シナケ
  レバナラヌト云フヤウナコトハ、尼港ノ情報ガ確カリ分ッテ居ラナイカラ、
  哈府ニ居ル官憲ガ勸告トカ命令ヲ發シタト云フコトハドウ云フコトデアル
  カ、誠ニ不思議千萬ノコトデアリマシテ、痛恨極マルコトデアリマス、若シ
  春秋ノ筆法ヲ以テ書キマスレバ、哈府派遣ノ官憲ハ尼港七百ノ生靈ヲ殺スト
  書イテモ宜クハナイカト思フ位、卽チ哈府ニ居ル所ノ陸軍官憲ハ或ハ之ヲ
  拒ムコトハ出來ナイデハナイカト迄ニ存ジマス是ハ唯私ノ戰死者ニ對スル
  同情ノ餘リ、一言附加ヘテ置ク次第デアリマス
  〔國務大臣子爵内田康哉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=21

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• 022・内田康哉

  ○國務大臣(子爵內田康哉君)　唯〓阪本君ノ御質問ニ御答シマスガ、今朝或
  ル外國公使カラ急用ガアッテ是非曾ヒタイト云フコトデアリマシテ、本院ヘ
  罷出マスコトガ遲刻イタシマシタ、御質問ノ點ヲ十分ニ聽取リ兼ネテ居リマ
  ス出席イタシマシタ後ノ御演說ニ依リマスト云フト、一月七日居留民引揚
  ノ請求ノ電報ガ達シテ居ルノデハナイカ、果シテ事實デアルカナイカト云フ
  コトガ御質問ノ主點ト聽取リマシタカラ、其點ニ對シテ御答ヲ致シマス、實
  ハ二三日前ノ新聞紙、或新聞紙ニ此コトガ出テ居リマシテ甚ダ驚イタ次第デ
  アリマス、早速事實ニ非ラザル旨ノ取消ヲ命ジテ居リマス次第デアリマス、
  本日本席ニ於テ明確ニ其事實デナイト云フコトヲ申上ゲル機會ヲ與ヘラレマ
  シタコトハ甚ダ仕合セト存ズル次第デアリマス、本年ニ入リマシテ石田領
  事ヨリ始メテ受ケマシタ電文ハ、先方ヲ一月十一日ニ出テ居リマシテ、十五
  日ニ此方ニ著イテ居ル話デアリマス、其以前ニ本年ニ入リマシテ電報ハ出テ
  居リマセヌ、是ガ卽チ第一號デアリマス、電報モ唯今御質問ノ趣旨ニ關スル
  電報デハアリマセヌ、無論先方ノ情況ハ報ジテ居ル電報デアリマス、其電報
  ノ中ニハ目下危險ト云フ程デハナイガ、形勢ハ惡化シツヽアルト云フコトデ
  アリマス夫デ詰リ陸戰隊ヲ送ッテ貰ヒタイト云フコトノ電報ハ、確カニ二
  十二日カ三日ト思ヒマス、ソレニ出テ此方ニ二十六日ニ著イテ居ル、デ此コ
  トハ既ニ公言イタシテ居リマス次第ノヤウナコトデアリマス、ソレガ始メテ
  陸戰隊ノ派遣ヲ請求ヲシタコトデアリマス、民留民ノ引揚ゲニ付イテノ電報
  ニハ接シテ居ナイ次第デアリマス、左樣御承知ヲ願ヒタイ、尙ホ支那砲艦ノ
  我軍民ニ對シテ砲擊シタト云フコトニ付テ御質問ガアリマシタガ、其コトガ
  若シ事實ト致シマスレバ誠ニ不祥ナコトデアッテ、我ガ隣邦支那ノ爲ニ甚ダ遺
  憾ニ存ズル次第デアリマスケレドモ、事甚ダ重大ナルコトデアリマスカラ、
  目下專ラ調査ヲ進メツヽアル次第デアリマス、我軍ガ先方ノ尼港ニ到ルヤ否
  ヤ、得マシタ處ノ我ガ兵士ノ日記ニ、支那軍艦ヨリ砲擊ヲ受ケタト云フコト
  ヲ記載シテアリ、旦ツ露西亞人又他ノ支那人ヨリ同樣ナコトヲ聞イタト云フ
  コトデアリマスカラ、或ハ事實ニ非ラサルカト云フコトノ疑ヲ生ジマシテ、
  直チニ嚴密ナル調査ヲ爲スヤウニ命ジテアリマス、段々其調査ハ進行シツヽ
  アル次第デアリマス、今日マダ此席ニ於テ確言ハ致シ兼ネマスル、啻ニ我國
  デ調査ヲシテ居ルノミナラズ、既ニ「ニコラエウスク」ニ於テハ外務省ヨリ
  派遣イタシマシタル書記官ガ、支那砲艦ニ就テ既ニ談モ開イテ居ルヤウナ次
  第デアリマスカラ、早晩明確ナル事實ガ分ルデアラウト思ヒマス、其事實ニ
  依ッテ勿論十分ナル處分·······處置ヲ取ル積リデゴザイマス、左樣御承知ヲ願
  ヒマス
  〔國務大臣加藤友三郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=22

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• 023・加藤友三郎

  ○國務大臣(加藤友三郞君)　唯今阪本君ヨリ數多ノ御質問ニ接シマシタ、大
  體書留メタ積リデアリマスカラ、其順序ニ依ッテ御答ヲ致シマス、若シ拔ケ
  マシタラ更ニ御質問ヲ願ヒマス、第一ニ、一昨年海軍ノ陸戰隊ヲ引揚ゲ艦隊
  ヲ引揚ゲマシタ際ニ、陸軍ヨリ砲艦ノ一隻デモ冬營サシテ貰ヒタイト云フ交
  涉ガアッタト云フコトヲ聞クガ如何、斯ウ云フ御質問デアリマス、左樣ナ交
  涉ニ接シタコトハゴザイマセヌ、其次ニハ一昨年ノ結氷期ニハ陸戰隊モ艦隊
  モ引揚ゲ、昨年解氷期ニ至ッテ、更ニ艦隊ヲ該方面ニ派遣シテ、昨年ノ暮ノ結
  氷期ニ又之ヲ引揚ゲタノハドウ云フ譯カ、斯ウ云フ意味ノ御質問ノヤウニ拜
  聽イタシマシタ、結氷中ニハ軍艦ハ何等其行動ヲ致スコトガ出來ナイノデ、
  是ハモウ說明ヲ要スマイト思フ、「ニコラエウスク」ニ就テ申スモ同樣デアリ
  ママ、一昨年ノ暮、海軍ガ警備ノ任務ヲ果スコトガ出來マセヌカラ、陸軍ト
  協議ノ上、陸軍ノ守備隊ヲ派出シテ貰ッテ交代シテ、海軍ガ全部引揚グタト
  云フ譯デアリマス、昨年モ解氷中ハ海軍ガ該方面ニ艦隊ヲ派遣シタノハ、單
  ニ「ニコラエウスク」居留民保護ト云フダケノ意味デハナイ、御承知ノ通リ解
  氷期ニナリマスト漁業ハ各方面ニ於テ隨分盛デゴザイマス、又浦潮斯德ニハ
  昨年來終始一艦若クハ二艦ガ派遣シテアルノデアリマス、又浦潮斯德ヨリ「ニ
  コラエウスク」ニ至ル沿岸ニ於キマシテ、若干ノ居留民モ居リ漁業者モ居ル
  ノデ、是等モ時〓海賊的ノ者ニ襲擊サレルト云フ情報モアルノデアリマス
  解氷期ニ於キマシテ斯樣ニ沿岸ノ所々ニ散在イタシテ居リマス居留民若クハ
  漁業者等ヲ保護イタシマスノハ、海軍ノ任務ト考ヘテ居リマス、此意味ニ於
  テ解氷中艦隊ヲ該方面ニ派遣イタシマシタノデゴザイマス、結氷期ニ至リマ
  スレバ是等ノ任務ヲ果スコトガ出來ナクナルノデ、一昨年ノ暮ニ艦隊ヲ引揚
  ゲタト同樣ノ意味ニ於テ引揚ゲマシタノデゴザイマス、併ナガラ浦潮斯德附
  近ノ結氷セザル海面ニ於テハ、小艦艇ハ常ニ活動ヲシテ居ッタノデアリマス、
  次ニ昨年八九月頃島田某ガ「ニコラエウスク」方面ノ狀況ヲ申述ベテ危險デア
  ルカラモウ少シ兵力ヲ增シタラ宜カラウト云フコトヲ、當局者ニ言ウタヤウ
  ニ聞イタガドウカト云フコトデアリマス、私ハ斯樣ナコトヲ聞イタコトハゴ
  ザイマセヌ、其次ノ御質問ハ能クハッキリ聽取レマセヌデアリマシタガ黑龍
  江ニ露西亞帝政時代ノ艦隊ガアル、結氷前ニ此艦隊ヲ「ニコラエウスク」方面
  ニ派遣シタナラバ、相當ノ聲援ハ與ヘタラウ、ソレヲシナカッタノハドウカ、
  又結氷後ニ於テ此艦隊ガ海陸協同ノ作戰ニ從事シタト云フコトガアルガ、是
  等ハドウ云フコトカ、斯ウ云フ御質問ノヤウニ拜聽シタ、此艦隊ハ御水知ノ
  如ク露西亞ノ帝政時代ノ所謂黑龍江艦隊ノ一部デ、革命前ニ於キマシテハ此
  艦隊ハ河川ニアリマス艦隊トシマシテハ、最モ有力ナモノデアッタノデ、五百
  噸餘リノ砲艦ガ確カ八隻、二百噸內外ノ砲艦ガ十隻、又其他ニ小サナ通報艦
  十隻ヲ以テ一艦隊ヲ編成イタシ、其根據地ヲ「ハバローフスク」ニ置キマシテ、
  「ハバローフスク」ニハ相當ノ修理工場モ持ッテ居リマス、一昨年陸軍ガ「ハバ
  ローフスク」ヲ占領イタシマシタ時ニ、此艦隊ノ大部分ハ自爆イタシマシテ、
  乘員ハ逃走イタシ、陸軍ニ依ッテ是等ノ船ハ押收サレタノデアリマス、其後
  海軍ガ臨時派遣隊ヲ編成イタシマシテ、「ハバローフスク」ニ於テ陸軍ヨリ此
  艦船ヲ受取リマシタ、其時ニハ大部分壞サレテ居リマシタガ、コチラカラ人
  ヲ派遣イタシマシテ出來ルダケノ修理ヲ致シマシテ、今日實際使用シ得ル船
  ハ三隻アル、他ニ小サナ通報艦ガアリマス、是等ノ船ハ海洋ニ出テ行動スル
  コトニハ誠ニ不便ナ船デアリマスルガ、併ナガラ天候如何ニ依ッテハ絕對ニ
  不可能デアルト云フ性質ノモノデハナイノデアリマス、一昨年ヨリ昨年ニ掛
  ケマシテ、「ハバローフスク」竝ニ黑龍江沿線·······鐵道沿線ニ於キマシテ、陸
  軍ガ活動イタシマシタ時ニ、此艦隊ガ終始協同動作ヲ執ッタノデアリマス、昨
  年ノ結水前多少ノ流氷ハ冒シマシテモ、協同動作ヲ執ッタノデアリマス併ナ
  ガラ昨年結氷期前後ニ於キマシテ「ニコラエウスク」方面ニハ、私共ハ危險ヲ
  感ジナカッタノデ、從ッテ此河用砲艦ヲ「ニコラエウスク」方面ニ下航サセマシ
  テ、「ハバローフスク」附近ニ於ケル協同作戰ノ任務ヲ止メサセテ「ニコラエ
  ウスク」附近マデ下航サセマシテ、警備ニ任ズルト云フ必要ヲ認メナカッタ譯
  デアリマス、ソレカラ其次ハ此結氷ニナル前ニ「ニコラエウスク」ノ守備ヲ陸
  軍ニ託シテ何故海軍ガ引揚グタカ、斯ウ云フ御質問ノヤウニ拜聽致シマシタ、
  之ヲ一言ニシテ申シマスレバ、現ニ海軍ガ有シテ居リマスル所ノ軍艦ハ그
  ニラエウスク」ニ冬營營ルニ適シナイ船ノアル爲ニ引揚ゲタノデアリマス、
  之ヲ一ツノ理由ニスル分ニハ是ハ寧ロ重ナ理由デアルト申シテ宜シイノデ
  アリマス、旣ニ海軍ガ冬營シ得ザリシガ爲ニ、陸軍ト協議致シマシテ陸軍ノ
  守備兵ヲ派遣シタト云フ譯デアリマス、次ニ支那砲艦ガ冬營ガ出來ルノニ、
  ナゼ日本ノ軍艦ガ冬營出來ナイカ、是ガ重ナ御質問ト思ヒマス、茲ニ少シク
  專門的ニ涉ッテ私ハ御話ヲシテ御了解ヲ得タイト思ヒマス、ヨク新聞ナドニ
  出テ居リマス、色〓ナ人ガ私ノ所ニ來マシテ、此問題ニ付テ質問ニ接スルノデ
  アリマス、又當局ト致シマシテモ、此點ニ付イチヤ十二分ニ〓究ヲ遂ゲテ居
  リマス、今日私共ノ〓究致シマシタ結論ヲ先ヅ以テ申上ゲマスレバ、前申上
  ゲマシタル通リ、現有艦隊ヲ以テハ「ニコラエスク」ニ冬營不可能ナリト云フ
  結論ニ到達致シテ居リマス、併ナガラ是ハ絕對的ノ問題デハナイ、危險ヲ冒
  シテモ出來ナイト云フヤウナ極端ナル議論デハナイノデアリマス、危險ヲ冒
  シテモ是非トモヤラナクチヤナラナイト云フ場合ニハ、是ハ尙ホ再考ノ餘地
  アリト申シテ宜シイノデアリマスガ、技術上ノ點ニ於キマシテ、又危險ト云
  フ點ヲ避ケテ、サウシテ「ニコラエウスク」ノ如キ所ニ軍艦ヲ冬營サセルノハ
  危險デアル、斯ウ云フコトニ私共ノ〓究ノ結果ハ到達致シテ居ルノデ、見たし
  ハ少シク說明ヲ要シマス、然ラバ何故ニ支那ノ軍艦ガ冬營シタカ、是ガ直グ
  ニ起ル問題デ、日本ニハ支那ノ軍艦ノ如キ船ヲ持タナイノデアリマス、絕對
  ニ持タナイノデハアリマセヌ、ソレハドウ云フ譯カト申セバ、揚子江ニ使ッテ
  居リマス所謂「リヴァーガンボート」、河用砲艦ハ支那ガ「ニコラエウスク」ニ冬
  營サセタ軍艦ト大同小異ノモノデアル、之ヲ持ッテ行ケバ冬營サセラレルノ
  デアリマス、併シ是ハ急ニ海洋ヲ航シテ「ニコラエウスク」ニ入ルガ如キコト
  ハ出來マセヌ、ノミナラズ揚子江ノ警備任務ハ一日モ離スコトハ出來ナイ船
  デアリマス、御承知ノ通リ此黑龍江ハ隨分大キナ河デアリマシテ、私ハ參ッタ
  コトガアリマセヌガ、圖ニ依ヲテ見マスルト、「ニコラエウスク」ニ於テハ河幅
  約日本ノ一里アルサウデアリマス、其三分ノ一若クハ四分一ノ幅ダケガ航行
  ガ出來ルノデ、ソコハ深イ所、其ノ他ハ淺イ所デアリマス、兩岸ニ接シテ····
  ····我ガ海軍ノ持ッテ居リマス所ノ軍艦デ、此眞中ノ深イ所ヲ航行シ得ル船ハ
  アルノデアリマス、併ナガラ沿岸ニ接シテ淺イ所ヲ行キ得ル船ハナイノデ、
  河川ニ於マシテハ結氷前竝ニ解氷前後ニハ流氷ガ始マリマス、流氷ナルモノ
  ハ御承知ノ如ク、軍鑑ハ勿論、普通ノ船舶ニ對シテモ非常ナ禁物デアリマス
  流氷ニ衝擊シ若クハ流氷ニ鎖サレ、沈沒シタト云フ例ハ多々アルノデアリマ
  ス、斯樣ナ譯デアリマスルカラ、御承知ノ通リ大同江、鎭南浦アタリニ商船
  ガ航行シマスルノモ、流氷ガ始マリマスレバ航海ハモウ止メテシマフ、商賣
  ヲ止メル、解氷期ニ於マシテモ流氷ガ終ラナケレバ航行ヲ始メナイ、是ハ現
  在實際ヤッテ居ルノデアルカラ、然リト云フノデアル、流氷ガ恐シイカラデ
  アリマス、流レノナイ所デアリマスナラバ多少危險ヲ冒シテモ、河川ニ於ケ
  ル流氷ニ對スル如キ危險ハナイノデアリマス、黑龍江ハ相當ノ流速ガアリマ
  ス、二三哩、五六哩ノ速力ヲ有ッテ居ル、其速力ヲ有ッタ折リニ上流ヨリ流レ
  テ參ル、潮流ノ關係ニ依ッテハ海洋カラ流氷ガ這入ッテ參ル場合モアル、斯ウ
  云フ「ニコラエウスク」ハ狀態ニアルノデアリマス、斯樣ナ所ニ軍艦ガ碇泊致
  シテ居リマシテ上流若クハ下流ヨリ晝夜間斷ナク流氷ニ衝擊サレテハ、是ハ
  タマラナイ、是ハモウ素人ノ御方ガ御想像下サッテモ御了解出來ルト思フ、
  殊ニ船ガ碇泊致スノハ錨ヲ入レテ居ルカラ、其錨綱デモ切ラレマシタナラド
  ウスルコトモ出來マセヌ、斯樣ナ危險ヲ冒シテ冬營シナクチヤナラヌ必要ハ
  私ハ認メナイノデ、ノミナラズ、假ニ冬營ヲ致シタト致シマシテ········我ガ海
  軍ニ於キマシテ冬營ノ經驗ハ持ッテ居ルノデアリマス、支那ノ大沽若クハ營
  口ニ冬營致シタ時代モアルノデアリマス、其準備ハ餘程以前ヨリ準備ヲ要シ
  マシテ、單ニ碇泊ヲ致シテ自然ニ凍リ著カレルノハヤッテ居ルノデアルカラ、
  又乘員ノ如キハ艦內ニ寢泊リハ出來マセヌ、結氷中ハ乘員ハ番兵等ヲ殘シテ
  凡テ陸上生活ヲスルノデアリマス、又艦內ニ於キマシテハ「パイプ」ノ如キハ
  凍リ著カレテ破裂スル、ソレニ防衞モ致サナイヂヤナリマセヌ、機械ノ樞要
  部ハ外ヅシテ是亦防寒ノ裝置ヲ致サナイヂヤナリマセヌ、兵器ニ於キマシテ
  モ然リデアリマス、其準備ハ一通リデハナイノデアリマス、斯樣ナコトマデ
  シテ冬營スル必要ハ當時私ハ認メナカッタノデゴザイマス、單ニ先ニ申上ゲマ
  シタ通リ、海軍ニ有シテ居ル所ノ軍艦ノミニ付イテ申セバ左樣ナコトデアリ
  マシテ、若シ是非トモ冬營シナイデハナラヌト云フ時ニハ、支那砲艦ノ如キ
  船ヲ持ッテ行ク外ハナイノデアリマス、支那砲艦ハ揚子江ニ居リマシタ船デ
  アリマス、丁度日本、英吉利、亞米利加等ニ有ッテ居リマス船ト大同小異ノ
  モノデアリマス、ソレヲ非常ナ遠洋航海ノ準備ヲ致シマシテ、種々ナ艤裝ヲ
  變ヘテ困難ニ困難ヲシテ昨年「ニコラエウスク」ニ到著致シマシタガ、黑龍江
  ニ上ッテ彼ハ上流ニ行カウト致シタノデアリマス、唯〓阪本君ノ御述べニナ
  リマス通リニ、露西亞ヨリ砲擊ヲ受ケテ十月ニナッテ「ニコラエウスク」ニ歸ツ
  テ參リマシタ、「ニコラエウスク」ニ冬營ヲ致サウトシタノデアリマス、是モ
  拒マレタノデアリマス露西亞カラ········併シ遂ニ浦潮ニ居リマス我ガ官憲ノ
  周旋ニ依ッテ、「ニコラエウスク」ニ冬營ヲ露西亞カラ許サレタノデアリマス
  當時彼ハ「ニコラエウスク」ヲ出ヤウトシテモ出ルコトガ出來ナイノデアリマ
  ス、モウ既ニ外ハ流氷ガ始ッテ居リマス、天候ガ惡シクナッテ居ル、河用砲艦
  ガアノ時期ニ外洋ヲ航行スルノハ沈沒ハ確然タルモノデアル、彼ハ冬營セザ
  ルヲ得ザル狀態ニアッタノデアリマス、而シテ「ニコラエウスク」ニハ露西亞
  ノ帝政時代カラ露西亞ノ船モ常ニ多少冬營シテ居リマス、其狀況ナドハ詳シ
  ク分ッテ居リマス、支那砲艦ハ露西亞ノ船ガ冬營イタシ居ッタト同樣ナ冬營方
  法ヲ採ッタノデ、ソレハドウスルカ、「ニコラエウスク」デハ御承知ノ通リ外
  港ト內港トアル、外港内港ハ或程度マデ防波堤ニ依ッテ流氷ガ防イデアル、
  此處ニハ流氷ハ參ラナイノデ、是等ノ淺イ所デ、流氷ノ來ナイ所デ、サウ云
  フ所ニ繫留イタシマシテ、俗ニ申ス氷「ドック」ト云フモノヲ造ルノデ、下カ
  ラ段々結氷シテ參ル、其上ニ船ガ乘ッカル、船ノ周圍ノ氷ヲ壞シマシテ、サ
  ウシテ突ツ張リヲカッテ其處ニ冬營ヲスル、四方カラ凍リ著カレテ、シメ著
  カレテ居ルノデ········斯樣ナコトハ河川ノ中央部、流速ノアル流氷地帶ニ於テ
  ハ出來マセヌ、サウシテ乘員ハドウシテ居ッタカ、乘員ハ陸上ニ前申ス通リ
  居ッタサウデアリマス兵員ハ領事館ノ附近ニ舍營シテ居ッタト云フ情報ニ接
  シテ居リマス、是ハ本當ダラウト思ヒマス、而シテ或時期ニ、解氷期ニ接シ
  テ或程度ノ者ガ船ヘ歸タ、斯ウ云フコトデアラウ、是ハ想像デアリマス、斯
  樣ナ事情デアル、假リニ我ガ軍艦ガ或必要ガアッテ冬營シテ居ッタトシマシテ
  モ、軍艦タルノ性能ハ全然無クナッテ居ル、軍艦ハ行動ガ自由ニアッテ初メテ
  其勢力ヲ發揮シ得ル、凍リ著カレテハ何モナラヌ、唯斯樣ナ場合ニ於キマシ
  テハ、乘員ガ其力ヲ持ッテ居ルノデアル、卽チ携帶兵器ヲ持ッテ陸上ニ於テ活
  動スル、陸兵ト同ジコトニ歸著スルノデアリマス、或ハ必要ニ際シテ軍艦內
  ニ搭載シテアル小サイ機關銃位ハ擊テルカモ知レマセヌ、水ニ浮カンデ居ラ
  ナイ船ニ大キナ大砲ハ擊テルモノデハアリマセヌ、要スルニ斯樣ナ場所ニ軍
  艦ガ碇泊ヲシテ、警備ノ任務卽チ兵器ヲ或場合ニハ使用シナクチヤナラヌト
  云フ理由デアリマスルナラバ、陸軍ヲ增シタ結果ニナル、而シテ軍艦ハ非常
  ナル危險ヲ冒カスト云フコトニ相成ル、私ハ斯樣ナ危險ナ目ニ軍艦ハ遭ハセ
  タクナイト考ヘル、支那砲艦ノ發砲云々ニ付テハ外務大臣カラ御答ガアリマ
  シタカラ、私カラ申上ゲマセヌ、三宅中佐ヨリ屢〓危險トノ情報ヲ送ッタ云々、
  三宅カラ報〓ノアリマシタノハ一月ノ、日ハ覺エマセヌガ十日以後デアッテ、
  其情報ノ意味ハ過激派ガ漸次增加シツヽアル、斯樣ナ意味ノ報〓ハ軍令部ニ
  參ッテ居ル、危險デアルトカ何トカ云フ如キ報〓ハナイノデ、而シテ三宅ヨリ
  陸戰隊ノ救援ヲ請ヒマシタ電報ガ二度參ッテ居リマス、其二ツノ電報ガ同日
  ニ屆イテ居ル、間ガ確カ二日隔ッテ居ルト思ヒマス、二十一日カニ向フヲ發
  シマシタノガ、二十四日午後ニ屆イテ居ル、ソレカラ一兩日置イテ發シマシ
  タノガ矢張リ同日ノ午後ニ屆イテ居ル、是レ以外ニハ救援ヲ求メテ來タコト
  ハナイノデ、丁度三宅ハ領事館ニ居。ッタサウデアリマスカラ、領事ト相談ヲシ
  テ兩方カラ打ッタノデアラウ、是ハ私ノ想像デアリマス、此兩電報ヲ同日ニ受
  ケマシタ迄ニハ、救援ト云フコトニ付テハ何等ノ電報ニ接シテ居リマセヌ、
  ソレカラ海軍デハ早クカラ救援隊ヲヤルトカヤラヌトカ云フ說ガアッテ、擦
  タ揉ンダシテ居ッタサウダ、其ノ經緯ハドウカト云フコトデアリマスガ、是ハ
  意見ノ交換ハ常ニヤッテ居ルノデアリマス、〓究ヲ致シマス爲ニハ種々ナル
  意見ノ交換ハ致スノデアリマス、私ハ其一々ノ說ヲ直接ニ聞イテ居リマセヌ、
  併シ私ガ問題ヲ出ストシテモ、今ヤラウトシタラドウカ、ヤラナイトシタラ
  ドウカ、斯ウ云フ問題ヲ提供スルノデアリマス、ソレデアリマスカラ種々ナ
  ル意見ノ交換ハシタニ違ヒナイ、結論ヲ實行シタ、斯ウ云フ譯デアリマス、
  ドチラカト申シマスレバ海軍ノ意見ト致シマシテハ、救援隊派遣困難ト云フ
  意見ガ常ニ多カッタ、併シドウカ出來ナイカ出來ナイカト云ッテ、其方ノ〓究
  ヲ進メラレタト云フ事情デアリマス、是ハ內幕ヲ御話致シマス、尼港問題ニ
  付テノ御質問ハソレダケデ大〓盡シタカト思ヒマスガ、若シ拔ケマシタラド
  ウカ後デ御話ヲ願ヒマス、領事居留民ノ引揚ゲ、是ハ外務大臣カラ答辯ガア
  リマシテ、「オコツク」ノ方面ノ御質問ガ最後ニアリマシタ、「オコツク」ノ方
  面ノコトハ先達テ新聞ニ情報ガ出マシタ、アノ前夜アノ新聞記事ト同樣ナ情
  報ニ接シタノデ、ソレ迄ハ何等情報ニ接シタコトハナイ、實ハ此事件ノ爲デ
  ハアリマセヌ、「カムチヤッカ」カラ「オコツク」海ニ於キマシテハ、我ガ漁業
  者ノ出テ居ル爲ニ、該方面ニ於ケル漁業者ノ主腦部、若クハ農商務省カラ年
  々海軍ニ希望ガアリマス、警備艦ヲヤッテ吳レロト云フ希望デアリマス、デ
  是ハ數年來若クハ十數年來、年々軍艦ヲ派遣イタシテ居リマス、今年モ同樣
  派遣ヲ致シテ居ッタノデアリマス併シ今年ハ「ニコラエウスク」問題ガ起キ
  マシタノデ、軍艦ヲ增派シタノデ、平年派遣イタシマスノヨリモ少シ多クヤッ
  テアリマス、漁區ハ御承知ノ如ク「カムチヤッカ」ノ兩岸ガ最モ盛ンナノデ、殊
  ニ西海岸ハ最モ盛ンナノデアリマス、「オコツク」ノ沿岸モ相當ニ居ルサウデ
  アリマスガ、是ハ點々散在シテ居ルト云フニ過ギナイト云フ話デアリマス、
  是ハ詳シイコトハ私ハ存ジマセヌ、氣候ノ關係ト石炭ノ關係トニ依リマシテ、
  先ヅ第一ニ「カムチヤッカ」方面ニ警備艦ハ參ルノデアル、サウシテ漸次漁業
  者ガ北ノ方へ參リマスニ從ッテ警備艦モ北ノ方ヘ參ッテ「オホツク」海ニ參ル、
  丁度今月ニ至リマシテカラ、「オホツク」海方面ニ漁業者ガ多數渡航シツヽア
  ルト云フコトデアリマス、其一部ノ者ハ前ノ新聞ニ出マシタ所ノ情報ニ接シ
  テ引返シテ來マシタ、斯ウ云フ話モ聞イテ居リマス、最初ハ「カムチヤッカ」
  ノ沿岸カラ漁業者ガ初メテ漸次北航シテ行ク、斯ウ云フ事情デアリマス、ソ
  レニ伴ッテ軍艦モ漸次北航スルト云フ譯デアリマス、「カムチヤッカ」ノ兩岸カ
  ラ丁度アノ沿線ニ立チマシテ、チヨット圖ヲ一見イタシマシテモ、海岸線ハ約
  二千哩內外モアラウカト思ヒマス、其間ニ點々散在シテ漁業者ガ居ルノデア
  リマス、故ニ軍艦ガ之ヲ保護イタシマスルニハ、其沿岸ヲ巡航イタシ、露西
  亞帝政時代ニハ露西亞政府カラモ警備艦ガ常ニ出テ居リマシテ、是等ト折衝
  イタシマシタコトガ往々アルノデアル、今日ハソレハアリマセヌ、是ガ實行
  ノ方法デアル、現在ハ軍艦ヲ三艘出シテ居ル、驅逐艦ヲ四艘出シテ居ルヽ是
  ダケノモノヲ以テ先ヅ「カムチヤッカ」沿岸········丁度沿岸ノ警備ニ任ジサシテ
  居ルノデアリマス、丁度此方面ハ御承知ノ如ク未測ノ海面ガ多イ、露西亞デ
  作リマシタ海圖モアリマスルガ、極クザットシタモノデ安心シテ航行ハ出來
  ナイノデ、爲ニ測量ヲシナガラ航行ヲスルト云フ實情デアリマス、ソレヲ今
  日實行イタシテ居リマス、唯今御話ノヤウニ此漁區ハ過激派ノ爲ニ損害ヲ受
  ケタト云フコトデアリマス、是ハ新聞記事ニアリマス通リノ情報ニ接シタ以
  外ニハ、海軍省ハ何等情報ニ接シテ居リマセヌ、何レ既ニ警備艦ガアチラヘ
  遣ッテアリマスルカラ、是ガ視察ヲ致シマシテ向フノ情況ヲ何レ報〓イタス
  ダラウト思ヒマス、何分通信不便ナ所デ、或ル程度マデハ外洋ニ出テ無線電
  信ノ到達距離ニ入ッテ、初メテ報告ニ我〓ガ接スルノデアリマス、多少ノ時
  日ヲ要シヤウカト思ヒマス、「カムチヤッカ」方面ハ無線電信ガ直通イタシマ
  スルカラ、時〓情報ハ分ッテ居リマス、此後ノ事ハ其ノ情報ニ接シマシタ上
  デ、尙必要有レバモウ少シ軍艦ヲ增派シナクチヤナラヌカモ知レマセヌケレ
  ドモ、實ハ該方面ニ派遣イタスニ適當ナ船ノ缺乏シテ居ルノニ困ッテ居ルノ
  デアリマス、大キナ船ハ遣ラレマセヌ、大體是デ御答ヲシ了ッタト考ヘマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=23

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• 024・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　詳細ノ御說明ヲ煩ハシマシテ感謝イタシマス、外務大臣ハ
  一月七日ニ石田領事ノ電報ナルモノハ著イテ居ラヌ、斯樣ニ立派ニ御答ヘニ
  ナリマシタガ、一月十一日及十七日ニハ接シテ居ル、斯ウ云フコトデアリマ
  ス、日ガ少シ違ッテ居ルダケノコトデアリマスルガ、兎ニ角一月十一日、十
  七日ノ兩囘ニハ石田領事ノ電報ニ接シテ御出デニナルノデアリマス、併シ是
  ハ餘リ危急ヲ告ゲテ居ルト云フ意味デハナカッタ、斯ウ云フコトデアリマスル
  ガ、大シタコトデナイノニ態電報ヲ打ツ必要ガアリマセヌカラ、何レカ電報
  中ニハ危險ノ迫リツヽアル狀況ヲ敍シテアッタニ違ヒナカラウカト思フノデ
  アリマス、然ルニ唯今ハ事モ無ゲニ仰シヤイマスルガ、當時ハ矢張リ誠ニ詰
  マラヌ電報ダ位ニ御覽ニナッタモノデアリマセウカ、當時ノ大臣ノ心理狀態ヲ
  承ハリタイ、又卽チ十一日、十七日兩囘ノ電報ハ、陸海軍大臣ヘハ御廻シニ
  ナッテ居ルカドウカ、唯今海軍大臣ノ御說明ニ依リマスルト殆ド同時ニ三宅
  中佐ヨリ矢張リ電報ニ御接シニナッテ居ルヤウデアリマスカラ、海軍省デハ御
  承知ニナッテ居ルノデアリマスル、兎ニ角陸海軍兩省ニ御移牒ニナッテ居ルカ
  ドウカ、又唯今申シタソレヲ御受ケニナッタ時ニ、如何ニ御感ジニナッテ其儘
  ニサレタカト云フコトヲ、モウ少シ立入ッテ承ハリタイ、抑〓普通ノ順序カラ
  考ヘマシテモ、既ニ一月上旬ニハ「コルチヤック」ノ政府ガ〓覆イタシテ、情
  況ガ險惡デアルト云フコトハ此報告書ニモ書イテアル、既ニ「當局ハ同月中
  句第十三師團主力ノ派兵ヲ行ヒ」云々トアリマス、既ニ假令彼ノ地カラ何等
  ノ報〓ガ無クテモ、一月中旬カラ既ニ「オムスク」政府ガ倒レタト云フコトデ
  アレバ、是ハ何カ騷動ガ起コル、赤化スルノデハナイカト云フコトハ想像シ
  得ルノデアル、次イデ「一月下旬ヨリ二月上旬ニ至リ沿、黑兩州各地ニ於テ
  政變相踵ギ、尼港方面亦其餘波ヲ受ケ情況ハ俄然一轉シ過激派ノ勢力ハ尼港
  附近一帶ニ及ビ」云々斯ウ云フコトモ此處ニ書イテアリマス、是等ノ情況ガ
  旣ニ御分リニナッテ居レバデス、彼カラ何等ノ情報ガ無クトモ、餘程容易ナラ
  ザル形勢ニナッテ來タカラ、何カ是ハセネバナラヌト云フコトニ付テ浦潮司令
  官ニ向ッテ訓令ヲ發セラレテ、或ハ海軍トシテハ海軍相當ノ行動ヲナサレタ
  ト云フコトハ、有リ得ベキ筈デアラウト思ヒマス、ドウモ外務大臣ハ一面領
  事ヨリ報〓ヲ受ケラレテ之ヲ如何ニ御取扱ヒニナッタカ、又陸軍省トシテハ浦
  潮ニアレダケノ司令官ヲ派遣サレテ居ル、哈府ニモ相當置イテアルノデアリ
  マスルカラ、是等ハ尙ホ陸軍大臣ハ海軍大臣以上ノ情報ト云フモノハ時々刻
  刻來テ居ルコトデアラウト思ヒマスルガ、今日ハ餘リ陸軍ニマデ亙ッテ御尋
  ネスル積リデハアリマセナンダケレドモ、勢ヒ此關係トシテハ一應陸軍大臣
  ニモ、當時ノ情況ヲ承ハラザルベカラザルコトニナッタノデアリマス、卽チ此
  間ニ於ケル浦潮司令官及ビ哈府ニ居ル所ノ人〓ノ本省ニ對スル所ノ點、本省
  及ビ參謀本部等ニ對スル所ノ擧動ハ如何デアルカ、又之ヲ送ラレル陸軍側ノ
  御考ハドウデアッタカト云フコトヲ一ツ尙ホ承ッテ見タイ、曩ニ先ヅ外務大臣
  ノ唯今ノ七日ト申シタノハ十一日ト假リニ訂正ヲ致シテ、矢張リ曩ニ溯ッテ本
  員ハ御伺ヒ申シタ通リドウ御感ジニナッタカ、又第二ニハ島田某ト云フ者ニ
  外務大臣ハ御會ヒニナラナカッタト云フコトデアリマス、斯樣デアレバソレ
  マデノコトデアリマスルガ、兎ニ角サウ云フ人ハナカ〓〓東京アタリニ來マ
  スルト色〓ナ所ニ御目ニ掛リニ出タリスルモノデアリマシテ、殊ニ斯ウ云フ
  必要ヲ帶ビテ居ルモノデアルカラ、廣ク步ルイタダラウト思ヒマスルガ、外
  務大臣及ビ陸軍大臣等ヘハ申出ナカッタカドウデスカト云フコトヲ一應伺ッテ
  見タイ、ソレカラ此結氷期中ニ軍艦ヲ派遣スルコトニ付キマシテ縷々御說明
  ガアリマシテ、得ル所ガゴザイマシタガ、サウ致シマスト、我ガ海軍ハ結氷
  期中ニハ冬營スル船ト云フモノハ殆ド持タヌノデアル、殆ドデナイ全ク持タ
  ヌノデアル、僅ニ揚子江ニアル所ノ一隻デアリマスカ二隻デアリマスカ艦ガ
  アルダケ、斯ウ云フコトニ承知イタシテ宜シイノデアリマスカ、又黑龍江ニ
  繫イデアル所ノ露國ノ········捕獲ノ軍艦ハ相當ナル優勢ナルモノガ其中ニハ、
  數隻アルト云フコトヲ承ハッテ居リマスガ、是モ矢張リ結氷期ニ於テ或ル行
  動ヲ取ラシムルニ堪ヘザルモノデアリマスルカ、堪ヘテモ先キニ御述べニナツ
  タ如ク尼港ハ餘リ危險トハ見ナカッタノデアルカ、果シテ必要デアルナラバソ
  レハ相當ナル行動ヲ執ラセルコトガ出來ルノデアルカ、其點ヲ一應承ハッテ置
  キタイノデアリマス
  〔國務大臣子爵內田康哉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=24

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• 025・内田康哉

  ○國務大臣(子爵內田康哉君)　唯今ノ御質問ニ答ヘマスガ、私ノ此月ニ受取
  リマシタ電報ハ、先刻申シマシタ電報ハ二ツデハアリマセヌ、十一日附ノガ
  十五日著イテ居ル其電報モ御質問ニアッタ如ク、居留民ノ引揚トカ、或ハ陸
  戰隊ノ派遣トカヲ請求シタ電報デハナイ形勢ハ惡化シツヽアルケレドモ目
  下危險ト申ス程デモナイト云フ電報デアル、無論全般ノ形勢ヨリシテ萬一ナ
  コトガアッテハイカナイト云フコトハ、無論考ヘテ居ル次第デアリマス、是モ
  自ラ程度ガアリマシテ今日尼港ノ殘虐ヲ見タ跡カラ斯ウシタラ宜イアアシ
  タラ宜カッタト云フコトハ澤山ノ註文ガ出マスケレドモ、ソレハ其時ノ狀況ニ
  應ジデ適宜ノ處置ヲスルヨリ外ナイ話デアル、ソレガ二十六日ニ接シマシタ
  電報ガ、始メテ陸戰隊ノ請求ヲシテ來タ話デ、ソレガ始メテデアッテ終リデア
  ル。其後ニハ電報ハ參リマセヌ、其電報ニ接シマスルヤ否ヤ、是マデ御答辯
  ヲ致シマシタ通リ、陸海軍當局トモ十分ノ話ヲ遂グテ、兎モ角モ至難ノコト
  トハ思ヘルケレドモ、出來得ル限リ盡サウト云フノデ、小樽ヨリ派兵ノコト
  ニシタケレドモ、到底海上ノ模樣ガ之ヲ許サナイト云フコトデ之ヲ引返シタ
  次第デアリマス、又外務省ガ總テ此事件ニ接シテ受ケマス所ノ電報ハ、一々
  必要ナルコトハ陸海軍當局ニ〓シテ居ル次第デアリマス、御質問ノ電報モ無
  論參ッテ居ル次第デゴザイマス、ソレカラ島田ノコトニ付テ御質問デアリマシ
  タガ、私ハ當人ニハ一囘モ會ッタコトハアリマセヌ、左樣御承知ヲ願ヒマス
  〔國務大臣田中義一君演壇ニ登ル〕
  だから6-

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=25

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• 026・田中義一

  ○國務大臣(田中義一君)　前囘ニ阪本サンカラノ、「ハバロフスク」ノ山田旅
  團長ノ電報ニ對シテノ御尋デゴザイマス、ソレニ先ヅ御答ヲ致シテ置キマス、
  「ニコラエウスク」「ハバロフスク」ノ間ノ通信機關ト云フモノハ二月六日以
  來全ク日本ノ通信機關ハ杜絕シテ居ルト云フコトハ御承知ノコトデゴザイマ
  ス、而シテ二月ノ二十八日ニ兩軍ガ協調ヲシタト云フコトハ旅〓長ガ知ッテ居
  ルノデアリマス、其後「ハバロフスク」ニ於テハ全ク協調サレテ居ルモノト考
  ヘテ居ッタノデアリマス、然ルニ三月十四日ニ突然「ハバロフスク」ノ革命軍
  司令官ナル者カラ旅團長ニ對シテ「ニコラエウスク」ノ町ニ於テ十一日カラ
  〔副議長侯爵黑田長成君議長席ニ著ク〕
  再ビ戰鬪ガ起ッタト云ウテ來タノデアリマス、デ互ニ此戰鬪ヲ中止スルコトニ
  盡力致シタイモノデアルト、斯ウ云フコトヲ云ウテ來タノデアリマス、ソコデ
  旅團長ハ十一日ノ夜カラノ出來事ハ如何ナル出來事デアルカハ知ラナイト云
  フコトノ判斷ガ能ク附クノデアリマス、ソニデ十五日ニ唯今ノ戰鬪ノ休止ノ
  コトヲ言ウテヤッタノデアリマス、デ此旅團長ハ戰鬪ノ休止ヲサセテ兩方ガ協
  調ヲシタト云フコトハ知ッテ居リマスガ、三月十四日ニ至ッテ始メテ又戰鬪ガ
  起ッタト云フコトダケヲ知ッタノデアリマスカラ、直ニ其戰鬪ノ休止ヲサセタ
  ノデアリマス、其十一日ノ夜カラノ經過ハ旅〓長ハ知ラナイノデアリマス、
  左樣御含ミヲ願ヒマス、此機會ニ於キマシテ········私ハ先達テ以來種々ニ此事
  ニ付テ取調ベテ居リマス、先ヅ第十四師團長ガ石川少佐ニ如何ナル任務ヲ與
  ヘテ派遣ヲシタカ、其後石川少佐ハ唯今モ御話ガアリマシタ如ク、海軍ノ方
  ナリ外務省ナリニ救援ヲ求メタト云フコトヲ度〓聞クノデアリマスカラ、或
  ハ中央部ノ方ニハ來ヌデモ出先ノ方ニデモ向ッテ、彼ガ何等カ救援ヲ求メテ來
  タコトハ無イカ、其邊モ取調ベタノデアリマス、其經過ヲ御參考ノ爲ニ此所デ
  申シテ置クト云フコトガ必要デアラウト思ヒマス、石川少佐ニ第十四師團長
  ガ與ヘマシダ任務ハ斯ウ云フ任務デアリマス「部下二中隊機關銃二ヲ指揮シ
  尼港派遣隊トナリ五月二十四日哈府出發水路尼港ニ到リ同地派遣隊ト交代シ
  テ其任務ヲ繼承スベシ尼港派遣隊ハ余ノ直轄トス交代終ラバ速ニ前派遣隊ヨ
  リ繼承シタル事項ヲ詳報スベシ」斯ウ云フコトガ主モナルモノデアリマス之
  ヲ見マスルト唯ダ其任務ヲ繼承セイト云フコトダケデアル、サウシマスレバ
  第十二師團ガ出シタ部隊ノ任務ヲ繼承シタト云フコトニナリマス、ソコデ第
  十二師團カラ出シマシタノハ大正七年ノ九月十八日デゴザイマス、其命令ノ
  要旨ハ「步兵第二十四聯隊第二大隊長鹿島少佐ハ部下大隊(二中隊及大行李省
  ク)ヲ率ヰテ十九日哈府ヲ出發船舶輸送ヲ以テ尼港ニ至リ冬營ノ準備ヲ爲シ
  同地ヲ守備スベシ」斯ウ云フノデアリマス、ソコデ尙ホ第十四師團長ハ是ガ
  行キマス時ニ細カシイコトヲ注意ヲ與ヘテ居リマス卽チ內政ニ干渉スルナ
  ト云フコトマデ、既ニ出發スル時ニ注意ヲ與ヘテ居リマス「露國地方ノ行政
  ニ關シテハ軍事行動上巳ムヲ得ザル場合ノ外ハ之ニ干渉スルヲ避クルモノト
  ス」、是ハ人民ニ對シテハ成ルベク穩便ノ手段ヲ執リ、殊ニ掠奪的行爲及ビ風
  紀ニ付テハ、嚴ニ部下ヲ戒飭シテ、「國民ト共ニ帝國軍隊ノ名譽ヲ保持スルコ
  トヲ要ス、獨墺ノ捕虜アル時ハ縱令我ニ抵抗セザル者ト雖モ、聯合軍ノ捕虜
  トシテ之ヲ取扱ヒ、便宜ノ地點ニ收容シテ、師〓長ニ報〓スルモノトス、尼
  港附近ニ於ケル左ノ事項ニ關シ特ニ注意シテ報告スルコトニ努ムベシ」、ソレ
  ハ「一、尼港港灣ノ軍事上ノ價値殊ニ結氷期ニ於ケル狀況、物價及連輸材料、
  尼港ノ行政及政治的關係、各種ノ利源、列國民ト露國官民トノ關係、列國民
  ノ政治的及經濟的施設、又ハ計畫ノ實情」斯ウ云フヤウナコトヲ始終取調べ
  テ種々報〓セイト云ッテ居リマス、尙石川少佐ヨリ增援ノ請求ナシ、但シ大正
  八年九月二十一日付命令デ、機關銃二ヲ新タニ增加配屬シタ、ソレデ石川ハ
  最初ハ二挺ヲ持ッテ居ッタノデアリマスガ、是デ見ルト、更ニ師團長ガ之ニ機關
  銃二挺ヲ增加シテヤッタモノト見エマスソレカラ島田ノコトニ付テ御尋ハ、
  島田ト云フ人ハ元私ハ能ク承知シテ居リマス、初メテ第十二師團ノ出征シマ
  スル時ニ、其前ニ於テ一二囘會ウタコトガアリマス、大正七年ニ········其以來
  會ウタコトハアリマセヌ、外務大臣ノ必要ト認メラレル情報ハ、今大臣ノ述
  ベラレタ通リ種々私ハ受取ッテ居リマス、此狀況デ見マシテモ、大體モウ此守
  備隊ハ向フデ冬營ヲスルノデアル、モウ氷ガ張リ詰メタト云フ時ニハ、此守
  備隊ハ全ク獨立シテヤルモノデアルト云フコトハ、豫テ覺悟ヲ致シテ居。ハンカー
  トヽ思フノデアリマス、又如何ニ斯ウ云フ事變ノ起リマシタ場合ニ於キマシ
  テモ、豫テチヤント出ス者モ出サレル者モ、サウ云フ覺悟ヲ持ッテ居リマス、
  中央部ニ對シテ救援ヲ求メラレタト云フコトガナイデモ、或ハ出先ニハドウ
  カト思ッテ調べタノデアリマスルガ、何等出先ニ於テモサウ云フコトハナイノ
  デアリマス、併シ斯樣ナ事柄ハ全ク居留民ニマデ慘害ガ及ブト云フコトハ
  如何ニモ悲慘ナ狀態デアリマスケレドモ、之ヲ全クノ軍事的見地カラ見マシ
  テ、斯樣ナ事柄ハ所謂戰鬪ニハ決シテナイト云フコトノ想像ハ出來ヌノデア
  リマス、又後カラ考ヘマスルト、斯ウヂヤッタラウ、アアヂャッタラウト云フ
  コトガアリマスルケレドモ、其ノ當時ノ狀況ニ引較べテ其ノ事柄ハ判斷イタ
  シマスルト、所謂戰闘ト云フモノハ其ノ當時ノ狀況ニ基クモノデアリマスカ
  ラ、私ハ此師〓長ナリ司令官ナリノ、之ガ手落デアッタトハ思ハヌノデアリマ
  ス、其點ハドウカ一ツ此戰闘ノ經過ト云フコトデアルト云フコトニ付テ、御
  諒察ヲ願ヒタイノデアリマス、併シ先刻ニ責任ガ當局大臣ニアルト仰セラレ
  タ、私モ此責任ト云フ上ニ付キマシテハ、善後ノ處置ヲヨクシナクチヤナラ
  ヌト云フコトニ於テ、責任ハ深ク感ジテ居リマス、又此事柄ハ別トシテ、斯
  樣ナ事柄ガアリマシテ、陛下ニ對シ奉ッテハ、誠ニ宸襟ヲ惱シ奉ッタ次第デ
  アリマス、國民ノ義憤ヲ招イタ次第デアリマス、其點ニ付キマシテハ、私ハ親
  切ヲ缺カヌ積リデアリマス
  〔國務大臣加藤友三郞君演壇ニ登ル〕

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• 027・加藤友三郎

  ○國務大臣(加藤友三郞君)　阪本君ノ御質問ハ、至極御尤モノ御質問デアリ
  マシテ、先刻實ハ其點マデ申上ゲル積リデ居ッテ、ツイ落シタ譯デアリマス、
  卽チ御質問ノ要旨ハ、露西亞ヨリ押收シテアル河用砲艦ハ「ニコラエウスク」
  ニ冬營ガ出來ルカ、出來ナイカト云フ點ニ歸著シテ居ルヤウニ思ヒマス、是
  ハ「ニコラエウスク」ニ冬營イタサウト考ヘレバ、出來ル積リデアリマス、然
  ラバ何故ニ冬營シナカッタカ、是ガ次ニ起ル疑問デアリマス、是モ所見ヲ申上
  ゲマス、先刻モ申上ゲマス通リ、第一當時ニ於キマシテ陸軍ニ警備任務ヲ引繼
  ギマシタ以上、海軍トシテ十分ニ軍艦タル性能ヲ發揮シ得ザルガ如キ狀態ニ
  於テ警備任務ヲスル爲ニ、特ニ軍艦ヲ冬營サセル必要ハ認メナカッタノデアリ
  NY.8是ハ根本ノ當時ノ頭デアリマス、一方ニ於キマシテ河用砲艦ハ昨年結
  氷前ニ於キマシテ、「ハバロフスク」方面ニ於テ結氷ニ至ルマデ使用シ、共同
  動作ヲ執ッテ居リマス、此必要モ該方面ニ於テアッタノデアリマスノミナラ
  ズ、之ヲ下向サセテ「ニコラエウスク」ノ警備任務ニ服サセルト云フ必要ヲ認
  メナカッタ、斯ウ云フ譯デアリマス、若シ陸軍ノ守備兵ダケデ足リナイト云フ
  コトナレバ、陸兵ヲ增シテ貰フ外ハナイ、斯ウ考ヘテ居ルノデアリマス

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• 028・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　餘リ長ウナリマスカラ、最早差控ヘタイノデアリマスガ、
  唯〓陸軍大臣ヨリ誠ニ御丁寧ナル御話デ拜服イタシマシタガ、元來此三月十
  四日哈府ノ革命軍ノ司令官カラ協議ヲ受ケテ、山田旅團長ナル人ガ·······協議
  デハゴザイマセヌ、電報ニ接シテ戰鬪中止ノコトニ喙ヲ容レラレタト云フコ
  トハ誠ニ奇怪ナコトデアリマシテ、殊ニ唯今承ハリマスト、尼港ノ守備ハ大
  井司令官ノ直轄ニ屬スル所ノモノデアル、浦潮ノ司令官ノ直轄ニ屬スル守備
  隊ニ向ッテ、他ニ居ル旅團長ガ敵軍ヨリ協議ヲ受ケテ而カモ戰鬪中止ノ勸〓
  命令スベキ職權ハナイ、卽チ勸告デモ兎ニ角石川少佐カラ見レバ上官デ
  アル、敵軍ノ司令官ト協議ヲシテ戰鬪中止ノ勸告電報ヲ發シタト云フコトハ
  筋ノ違ッタコトデアリハスマイカ、恰モ敵ノ言フコトヲ聞イテ味方ノ言フコト
  ノ情報ハ接シテ居ラヌ、接スベキ機關、味方ノ情報ニ接スル········現狀ヲ少シ
  モ知ラナイ、暗中摸索デ、敵軍ノ唯協議ニ於テ戰闘中止ヲ勸告シタト云フコ
  トハ、誠ニ奇怪至極ナコトデアルト存ジマス、而カモ石川少佐ハ十三日ニ戰
  死ヲ致シテ居ル、其勸告ヲ受ケルベキ少佐ハ二日前ニ死ンデ居ル、十五日デ
  アリマスカラ三日前ニ········死ンデ居ルト云フコトサヘ分ラナイ人ガ、其人ニ
  向ッテ勸告ヲスルト云フヤウナコトハ實ニ軍ノ行動トシテハ奇怪ニ存ジマス
  カラ、此邊ニ付テ精シク承ハリタイト思ヒマスガ、陸軍大臣ノ御態度誠ニ御
  謹愼ナ態度ヲ拜シマシタカラ、何等此コトニ於テハ承ハルコトハ止メマス、
  私ハ質問ハ是デ打切リマス
  〔國務大臣田中義一君演壇ニ登ル〕

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• 029・田中義一

  ○國務大臣(田中義一君)　唯今ノ再度ノ御尋ノコトニ付キマシテ、チヨット茲
  デ私ガ申上ゲテ置ク必要ガアルト思ヒマスカラ申上ゲマス、唯今私ガ石川少
  佐ニ與ヘタ任務ハ第十四師團長ガ與ヘタ任務デアリマス、卽チ尼港派遣隊ハ
  余ノ直轄トスト云フコトハ、卽チ大井司令官ノ直轄ニ非ズシテ第十四師團長
  ノ直轄デアル、斯ウ云フ意味ト御承知ヲ願ヒマス、ソレカラ山田旅〓長ハ、
  私ノ考ト致シマシテハ、旣ニ最初戰鬪ヲシテ居ッテ、其戰鬪ヲ中止シテ協調ヲ
  シタノデアリマス、ソコデ又戰鬪ガ起ッタ、斯ウ云フコトデス、其戰鬪ガ又起ッ
  タト云フコトニ付テ、前ニアレダケナ協調ガ出來タト云ッテ居ルノニ、ドウデ
  アラウカト云フコトニ付テ疑ヲ有ッテ居ッタト云フコトハ、私ハ其當時ノ情況
  無理カラヌコトダト思ヒマス、ソレ故ニ前ノ師團長ノ指圖ノ如ク、更ニ戰闘
  ヲ中止ヲ言ッテヤッタト云フコトハ、成ル程其結果ハ河本中尉ノ悲慘ナル最後
  ヲ、涙ヲ呑ンデ遂ゲタト云フコトニ付テノ時機ニ、是ガ付イタノデアリマス
  ケレドモ、「ハバロフスク」ノ狀況トシテサウ云フ狀況ハ知ラナカッタノデアリ
  〒·3·8ソコハ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス

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• 030・江木千之

  ○江木千之君　私ハ極ク簡單ナ質問デアリマスガ、總理大臣ニ二點伺ヒタイ
  ノデアリマス、極ク簡單デアリマスルカラ一問ヅヽ質問致シマス、第一ニ伺
  ヒタイノハ尼港ノ事件ニ付テ、初ハ二中隊ヲ守備ニ充テヽ置ケバ「コルチャッ
  ク」軍ヲ········是レデ事足レリトシテ二中隊ヲ置カレタンデアリマスガ、其後ノ
  狀況ガ變化シテ救援隊ヲ出サナクチヤナラヌト云フノデ、第七師聞四中隊····
  ····四中隊カ五中隊、砲兵一中隊ヲ派遣スルト云フコトヲ決セラレテ、ソレモ
  約馬五百頭ヲ用意シテ既ニ出發シカケテ氷ノ爲ニ進ムコトガ出來ヌト云フノ
  デ中止ニナッタンデアリマスガ、此時總理大臣ハ如何ニ考ヘラレタンデゴザイ
  マセウカ、我〓普通ノ人情トシテ感ズル所ハ、若シ豫メ尼港ノ備ヲ手厚クシ
  テ置イタナラバ、今日ノ心配ハナカッタト云フ感ハ何人ニモ起ルノデアリマ
  ス、手薄デアッタカラ、之ニ五中隊砲兵一中隊ヲ救援トシテ派遣シヤウトセラ
  レタガ、ソレガ到底實行ガ出來ヌトナッタ場合、更ニ最初ノ守備ガ少シ手ガ足
  リナカッタト云フコトヲ遺憾ニ感ゼラレタコトハ無カッタノデアリマセウカ、
  殊ニ又氷ガ解ケテ救援隊ガ著シテ見ルト、本邦人一人ノ隻影ヲ見ズト云フ誠
  ニ悲慘ナル有樣ニ在ッタノデアル、此場合ニ於テハ更ニモウ少シ最初ニ守備ヲ
  殖シテアッタナラバ宜カッタト云フ御感ジハ、一向サウ云フ御感ジハ起ラナカッ
  タノデアリマスカ唯其點ダケヲ第一ニ伺ヒタイノデアリマス

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• 031・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　唯〓感情ヲ基礎トスル質問デアリマス、ドウ云フ感ジ
  ヲ持ッタト云フコトニ相成リマスレバ、普通人ノ感ズル通リニ感ジテ居ルノデ
  アリマス、固ヨリ澤山ノ兵ガ居リマシタナラバト思フノハ人情デアリマス
  併ナガラ是ダケノ兵ヲ以テ是ダケノ邦人ヲ保護スルト云フヤウナコトハ、是
  ハ多少御考ニナリマスレバ分リマセウガ、ソレハ實戰ハ當局ノ指揮ニ待タナ
  ケレバナラヌ是デ宜シイト思フ所ノ派遣ヲシテ置イタト云フコトデアリマ
  スカラシテ、其間ニ何等手落モ失策モナイコトヽ思フ、併ナガラ更ニ澤山ノ
  者ガ居リマシタナラバ差支ヘナカッタ、普通ノ人情トシテハ左樣ニ感ジマス、
  併シ是ハ二中隊デ足リルカ足ラヌカノ······置キマシテモ慘殺ノ手ヲ加ヘタナ
  ラバ、其結果ヲ起スハ當リ前ノコトデアラウト思ヒマス、私モ澤山ノ兵ヲ置
  キマシタナラバ「バルチザン」ナドハアヽ云フ亂暴ナコトハサレナカッタノデ
  〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
  尙更仕合セデアル、イロ〓〓ノ感ジガイロ〓〓起ル譯デアリマス、是ハ責任
  問題デモ事實問題デモナイ、感情論ニシテ澤山ノ兵ガ居レバ宜カッタト云フコ
  トハ、私トシテモ思ハザルヲ得ヌノデアリマス

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• 032・江木千之

  ○江木千之君　唯今ノ御感想ガアッタト云フコトヲ伺ヒマスレバ、ソレデ第一
  ノ問ニ付テハ滿足イタスノデアリマス、成ル程多イ程宜カッタラウト言フ感ジ
  ガ起ルト仰セラレルガ、併シ軍事當局ガ更ニ五中隊ヲ出シ砲兵一中隊ヲ出シ
  タナラバ救援ハ足リルト考ヘタノデアルカ、何モソレ以上出ス必要モナカッタ
  ラウト思ヒマスガ、兎ニ角最初ノ備ガ手厚クアッタナラバ此出來事モ出來ナ
  カッタノデアラウ、無論其後ノ御感想デアリマスガ、サウ言フ御感想ガアッタ
  ト言フコトデアリマスナラバ我〓ト其點ハ感ヲ同ジクスルノデアリマス、ソ
  レデ其御感ジヲ承ッテ置イテ第二ノ御尋ネガ致シタイノデアリマス、過日藤村
  男爵ノ質問ニ對スル御答ノ中ニ此出來事ニ遭遇シテ陛下ニ對シ奉ッテハ恐
  懼ニ堪ヘヌ、斯ウ云フ御言葉ガアリマシタガ、當時私ハ此御答ヲ承レバ殆ド
  此問題ハ解決スルト考ヘタノデアリマスガ、其後種々質問セラレル人ガアッ
  テ、其御答ヘガアッタニ拘ラズ、少シマダ私共ハ了解ニ苦シムヤウナコトニ至ッ
  タノデアリマスガ、併シ矢張リ私ハ藤村男爵ニ答ヘラレタ此出來事ニ對シテ
  陛下ニ對シ奉ッテハ恐懼ニ堪ヘヌト云フ精神ヲ有ッテ御出デノコトヽ考ヘル
  ノデアリマス、唯今第二ノ御尋ネニ對シテノ御感想ヲ持タレル總理大臣ガ
  陛下ニ對シ奉ッテハ此出來事ニ付テハ恐懼ニ堪ヘヌト云フ感ヲ有セラレルナ
  ラバ、私ハ此問題ハ此所ニ解決シヤシナイカト考ヘル、私ハソレダケ承ッテ置
  ケバ宜イデアルノデアリマス、今日マデ此問題ニ付テ貴族院ニ於テ多數質問
  ヲ發セラレタノデアリマスガ、苟シクモ陛下ニ對シ奉ッテ、恐懼ニ堪ヘヌ
  ト仰セラレルナラバ辭表ハ何時出サレルノデアルカ、進退伺ハ何時出サレル
  ノデアルカ、斯樣ナコトヲ立入ッテ御尋ネセラレタ方ハ今日マデ一人モナイノ
  デアリマス、阪本君ノ如キハ責任アリト確信シテ、此質問ヲセラレタノデア
  リマス、併シナガラドノ方ニシテモ、今日マデ然ラバ何時辭表ヲ出サレル、
  進退伺ヲ何時出サレルナドヽ云フヤウナコトヲ仰セラレタ方ハ一人モナイ、
  勿論部分的ニ見マスレバ當時ノ狀況ハ二中隊デ足レリト云フ軍事當局ハ考ヘ
  マシテ、其後事變ニ際シテ、更ニ五中隊、砲兵一中隊ヲ出サウトシテソレ等
  ガ出テ行ッタナラバ救援ガ出來ルト考ヘラレタノデ、其所等ニ付テハ軍事専門
  眼ヲ以テ見ルト色〓解釋ガアリマス、種々アリマセウガ、ソレ等ハ我〓素人
  ガ議會ニ於テ餘リソレ等ノコトヲ論議スルト云フコトハ望マナイノデアリマ
  スガ、果シテ其所ニ落度ガアリトスレバ、段々調ベガ進行スルニ當ッテ軍法會
  議ト云フモノガアル、軍法會議ニ附セラレルコトモアラウシ、或ハサウシナ
  イデ濟ムコトモアルカモ知レマセヌガ、要スルニ七百ノ生靈ガ斯ノ如キ悲慘
  ノ最期ヲ遂ゲタト云フコトハ.兎ニ角是ガ地震ノ爲ニ土地ガ陷落シテ無慘ノ死
  ヲ遂ゲタナドヽ云フコトヽハ違ッテ軍事當局ノ爲スコトハ落度ガナカッタラウ
  ガ、矢張リ總理大臣ノモット澤山居ッタナラバ或ハ此悲慘ナ出來事モ免レタカ
  モ知レマセヌト云フ御考ノ起ルノハ、天災地變ト違ヒ、人爲ヲ以テ免レルコ
  トガ出來タカモ知レヌト云フ御考ガアルカラ、其御考ヲ有ッテ居ラレテ、サウ
  シテ且ツ陛下ニ對シ奉ッテ恐懼ニ堪ヘヌト斯ウ仰セラレルナラバ私ハ此以
  上伺フ必要ハナイト考ヘルノデアリマスガ、總理大臣ノ過日藤村男爵ニ御答
  ヘニナリマシタ言葉ハ唯今私ノ解シマシタヤウナ御趣意デアリマセウカ、念
  ノ爲メ之ヲ承ッテ置キタイト考ヘル

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• 033・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　誤解ノ無イヤウニ致シタイト考ヘル、兵ガ澤山居リマ
  シタナラバ危險ガナカラウト感ジマスノハ人情デアリマス、誰モサウ感ズル
  カラ私モ左樣ニ感ジタ、ソレニ依ッテ以テ當時アレダケノ兵ヲ置イタコトガ失
  策ナリト云フ結論デアリマスレバ御同樣デアリマス、當時ニ於テアレダケノ
  兵ヲ以テ足レリト致シタト云フコトハ決シテ手落チヤ、失策、放慢デハナイ
  ト思フ、然ルニ誰ノ人情カラモ澤山居ル程危險ハ少ナイ譯ダ、斯ウ思フダケ
  ノ話デ、是ハ憲法、議院法、其他ノ關係ヨリ權利義務、責任論ヲ申スノニ非
  ズシテ、唯感情論ト解釋イタシマス、感情ナレバ何人モ左樣ニ感ズルデアラ
  ウ、私モサウ感ジテ、依ッテ以テアレダケノ兵ヲ置イテ失策ナリト云フ結論デ
  アリマスレバ、私ハ御同意イタサヌ、又陛下ニ對シ奉ルコトノ御質問デ
  アリマスガ、是ハ權利義務ノ問題デハナイト思ヒマス、責任ノアルナシノ關
  係ナシト思フ、責任ガアリトスレバ尙更相當ナルコトヲ致スノガ我〓ノ當然
  ノコトヽ考ヘル、左樣ナル措置ヲ執ッタノデアリマス、此邊ヲ誤解ノナキコト
  ヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=33

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• 034・江木千之

  ○江木千之君　總理大臣ノ御答ハドウモ少シ了解シ兼ネマスルガ、モウ少シ
  多數ノ兵ヲ置イタナラバト云フ感ジハ普通ノ人情ニ於テハアル、其感ジヲ有。ツ
  テ居ルト云フ御言葉デアリマス、是ハ無論道德上ノ觀念デアッテ
  〔議長公爵德川家達君議長席ニ著ク〕
  其コトガ何モ法律上ノ觀念デハナイノデアリマスカラ、尙總理大臣ニ於テモ
  其人情ガアラセラレルト云フコトナラバ、如何ニモ御尤ト感ズルダケノコト
  デアリマス、サウ云フ御考ノアル總理大臣ガ、此事件ノ起ッタノハ陛下ニ
  對シ奉ッテ甚ダ恐レ多イコトデアル、斯ウ云フ御考ヲ持タレルト云フコトナラ
  バ、天災地變ニ依ッテ尼港ガ陷落シテ我ガ居留民ガ皆亡クナッタト云フノトハ
  餘程事情ガ達フト考ヘルノデアリマスルガ、其點ガ左樣ニ御考ニナラヌノデ
  アルカドウカ、若シ陛下ニ對シ奉ッテ恐入ルガ一點モ青任ハナイ、斯ウ云
  フコトニナルト如何ニモ了解ガ出來カネルノデアリマス、又責任ガマルデナ
  イト云フコトヲ斷言セラレテ、或ハ陛下ニ對シテ恐入ル所ガナイト云フ御
  話ニナルト、全ク私共ノ考ト齟齬スルト云フコトニ至ルト、我〓ハ我〓トシ
  テ我〓ノ考ノアル所デ如何ナル方法ニ依ッテカ之ヲ發表シナケレバナラヌト
  云フコトヲ考ヘルノデアルガ、甚ダ斯ノ如キコトハ好マシクハ考ヘヌノデア
  リマス、總理大臣ハ如何ニモ此事ハ人爲ニ依ッテ、ヤリ方ニ依ッテ或ハ今日ヨ
  リ考ヘルト免レタカモ知レヌ、併ナガラ當時自分共ガ是レ以上ノ處置ハナイ
  ト考ヘテヤッタンデアルガ、今日ヨリ考ヘテ見ルト全クノ天災地變デナイ以上
  ハ、或ハ人爲ニ依ッテ此事ヲ免レタカモ知レヌデ遂ニ此事ガ起ッタト云フニ至ツ
  テハ如何ニモ陛下ニ對シ奉ッテ恐懼ニ堪ヘヌ次第デアル、斯ウ云フ御考ガ起
  ルベキデアラウト考ヘマスガ、其ノ御考ガ起ルト云フコトデアレバ、私共ハ
  夫レ以上御質問申スコトモナイノデアル、決シテ我〓ハサウ云フ御考ガアル
  ナラバ辭表ヲイツ出スヤ、進退伺ヲイツ出スヤ、サウ云フ御考ノアル方ガ中
  中議院ニ出テ來ラレル筈ハアルマイ、斯クノ如キコトハ私ハ御尋ネスルト云
  フ考ハナイノデ、今日マデノ此議場ノ有樣ヲ見マスト、斯ノ如キ言葉ヲ發セ
  ラレルモノハ今後ト雖モ恐ラクハ私ハナカラウト考ヘル、唯如何ニモ非常ナ
  ル事件ガ起ッタンデアルノデ、我〓ハ如何ニモ今陸軍大臣モ宸襟ヲ惱マシ奉ツ
  タト斯ウ申サレタ、卽チ恐懼ニ堪ヘヌト云フコトヲ述ベラレテ居ルノデアル、
  其御趣意ノアルカナイカヲ承リタイ、且ツ此場合ニ申添ヘテ置キタイト思フ
  モノハ、初メ陸軍大臣ノ答辯ガアッタニ付テ質問者タル阪谷男爵ハ滿足セラ
  レ、私モ其後外務大臣ニ對スル質問ニ於テ如何ニモ立派ナ御答デアル········陸
  軍大臣ノ御答ハ立派ナ御答デアルト言フコトヲ申シタ、尙又外務大臣ノ御答
  辯ニ付テハ私ハ念ヲ押シテ置イタ所ガ、ソレニ付テハ更ニ御發言モナカッタノ
  デ、私ノ言フ所ハ御承認ニナッタモノト考ヘタ、然ル所藤村男爵ヘノ御言葉、
  或ハ衆議院ニ於テノ御答辯ガ少シ齟齬シテ居ルト言フノデ、世間デハ或ハ陸
  軍大臣ガ二枚舌ヲ使フトカ、三枚舌ヲ使フトカ、外務大臣ガ豹變シタト言フ
  ヤウナコトヲ、色〓申シテ居リマスルガ、又私ノ一旦感服シタコトモ取消ス
  ヤウナコトニナルデアラウト言フ說モ伺ッタノデアリマスガ、私ノ感服シタ
  コトヲ取消スノハ何デモナイコトデアルガ、併シ此事タルヤ我國ノ風〓上ニ
  非常ナル影響ヲ及ボスト考ヘルノデアル、私ガ感服シタト云フノハ何ニ依ッテ
  感服シタノカト云フト、今日ノ陸海軍ノ將帥ハ尙ホ古武士ノ如キ精神ヲ持ッテ
  居ラレルト考ヘタノデアル、或ハ此憲法政治ニナッテ議會ニ應答セラルヽ間ニ
  ハ古武士一偏デハイカヌカモ知レヌ、併ナガラ其精神ハ失ハレテ居ラヌ、斯ウ
  確信シテ居ルノデアル、殊ニ國務大臣ト申シテモ軍服ヲ著テ、陸軍ノ將官デ
  內閣ニ列シテ居ラレルノデアル、是レ卽チ軍人デアル、古武士ノ精神ハ決シ
  テ失ッテ居ラヌ人ト、私ハ確信シテ居ル、又外務大臣ノ如キモ亦私ハ其人ト爲
  リハ承知シテ居ルノデアル、決シテ二枚舌ヲ使フ、豹變スルト云フヤウナ人
  格ノ方デアルトハ考ヘテ居ラヌ、サウ云フ御方ガ責任ヲ取ル、斯ウ云ハレタ
  コトハ私ハ確カニ是レハ陛下ニ對シテ恐入ル、斯ウ云フコトヽ受取ッタノ
  デアリマス、ソレガ若シ左樣デナクシテ私ノ感服シタルガ間違デ、決シテサ
  ウ云フヤウナ精神デハナカッタンダ、アレハ他所ノコトヲ云ッテ居ラレ、或人
  又一度ハサウ云ッタガ、サウデナイト云ッテ二枚舌ヲ使ッタ、斯ウ云フコトガ若
  シ事實デアリマシタナラバ、私ハ人ヲ見ルコト甚ダ不明ナリト云フ評ハ甘ン
  ジテ受ケル、ノミナラズ若シサウ云フ事實デアルナラバ不明ナリト云フ評
  ハ私ハ喜ンデ受ケルノデアリマスガ、苟モ國務大臣トシテ斯ノ如キ人〓デ居
  ラレタナラバ、實ニ私ハ國家ノ爲ニ是ハ情ケナイ始末デアルト考ヘルノデア
  ル、ガ私ハ決シテサウデナイ、當初考ヘタコトニ今日デモ私ハ決シテ間違ヒ
  ハナイト考ヘテ居ル、私ハ矢張リ外務大臣ハ立派ナ國士デアリ、陸軍大臣ハ
  立派ナ軍人デアル、私ノ敬服シタ點ニ於テ間違ヒハナイト私ハ考ヘル、又左
  樣ニ信ズル節モアルノデアリマス、ドウカ總理大臣ニ於カレテモ私ノ信ズル
  所ノ如キ御意思デアルコトヲ希望シテ、之ニ對シテハ然リト云フ御答ヲ得タ
  イト思フノデ、私ハ何モ內閣ヲ攻擊シテ快トスルト云フ精神ハ私ニハ毛頭ナ
  イノデアル、唯然リト云フ一言ヲ承ッテ置ケバ、私ノ任務モ之ニ盡キルノデア
  ル。貴族院議員トシテ或ハ上下ニ對シテ我〓ノ任務ヲ終ルト考ヘルノデアリ
  マスカラ、之ニ對シテ此一言ノ御答ヲ私ハ承リタイト考ヘルノデアリマス

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• 035・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　重ネテ申シテ置キマスガ、アヽ云フ撃殺ニ會ウタト云
  フヤウナル悲報ニ接シタル時ノ感情ハドウデアッタカト云フ御尋ネデアリマ
  シタガ、何人モ人間トシテ起ルベキ感情以外ノ感情ハ起ラヌノデアルト申シ
  テ、甚ダ冷淡ノコトヲ申シタヤウデアリマシタケレドモサウ云フ趣意ニ他ナ
  ラヌノデアリマス、後カラ考ヘマスレバモット兵ガ居ッタラ宜カラウト云フコ
  トハ無論考ヘマス、尙又居留人ガ引上ゲテ居ッタラ宜カラウト云フ感情モ起リ
  8マ,尙ホ進ミマシテ「パルチザン」ト衝突シナイヤウナ何カ方法ガナカッタ
  カト云フヤウナ感情モ起リマス、非常ニ千差萬別デアリマス、併シ責任論ト
  云フヤウナコトハ、感情ヲ以テ斷定ハ出來ナカラウト私ハ考ヘル、感情ト責
  任トハ冷靜ニ判斷スベキコトデアルマイカト私ハ考ヘル、唯感情ガ左樣デアッ
  タカラト云ウテ、同時ニ責任論ヲソレニ依ッテ斷定スルト云フコトハ、餘リニ
  感情ノミニ趨ッテ居ルノデハアルマイカ、理性ノ上カラ考ヘナケレバナラヌノ
  デハナイカト思ウテ居ルノデアリマス、サウシテ上陛下ニ對シ奉ッタコト
  ニ付テハ、何モ議場ニ於テ········辭表ヲ出ス、進退伺ヲ出ス者ハアルマイカト
  云フヤウナ御尋ネデアリマシタガ、ソレハ私共ノ關スル所デハアリマセヌ、
  今日サウ云フコトハ承ッテ居リマセヌ、私トシテモ亦左樣ナコトハ申シタノデ
  ハアリマセス、藤村君ノ御質問ニ對シテモ、簡單ナガラモ陛下ニ對シ奉。ツ
  テハ、責任ノアルトカナイトカ云フヤウナ問題デハナイノデアリマス、斯樣
  ナ出來事ヲ生ジマシタナラバ責任ガアレバ尙更ラ、責任ナシト雖モ相當ナル
  行動ヲ致サンケレバナラヌ、私共ハ左樣ナ處置ハ取ッタノデアリマス斯樣ニ申
  シタノデアリマス、決シテ此點ニ於テ、我〓ハ强辯ヲ費シテ、又ハ此コトヲ
  等閑ニ附シテ居ルト云フヤウナル次第デナイト云フコトヲ御了解ヲ願ヒタイ
  ノデアル

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• 036・内田康哉

  ○國務大臣(子爵內田康哉君)　或ハ江木君ノ唯今御述べニナリマシタ事柄
  ヲ、私ガ能ク聽取リ兼ネタ點ガアリハシナイカトモ思ヒマス、他日ノ誤解ヲ
  防ギマスル爲ニ、私ガ江木君及ビ藤村君ニ對シマシテ、其事件ニ關スル責任
  云々ノ御質問ニ對シテ答ヘタ趣旨ヲ、重ネテ此所デ申上ゲテ置キタイト思フ、
  私ノ申シマシタコトハ當時ノ事情、總テノ狀況ニ顧ミマシテ、盡スダケノコ
  トハ盡シタ積リデアル、然レドモ調査ノ上、失策ナリ過失ガアルナラバ敢テ
  其責任ニ當ルコトヲ囘避セナイ、斯ウ云フ趣旨デ御答ヲ致シタ次第デアリマ
  シテ、決シテ二枚舌ヲ使ッタ覺エハ毛頭ゴザイマセヌ、又先日ハ藤村君ノ御質
  問ニ答ヘマシテ、何カ私ガ不可抗力ト云フヤウナル文字ヲ使ッタヤウニ、新聞
  ナドニ出テ居リマスケレドモ、是ハ決シテ私ニ於テ使ッタ覺エガナイノデアリ
  TV.唯當時藤村君ガ議席ヨリ更ニ質問ヲサレマシタ時ニ、實ハ不可抗力ト
  云フ文字ヲ御使ヒニナリマシタコトヲ、後ニ速記錄デ承知シテ居リマシタケ
  レドモ、私ノ耳ニハ這入リマセヌ、唯若シ過ガ發見シタナラバ、之ニ任ズル
  カト云フ御質問ヲ主眼ト心得マシテ、然リ··左樣デゴザリマスト云フ御答
  ヲ致シタ次第デアリマス、左樣ドウカ御承知ヲ願ヒマス

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• 037・江木千之

  ○江木千之君　過日私ガ外務大臣ニ質問ヲ致シマシマシタノハ、此事件タル
  ヤ、單ニ陸軍大臣ノミノ引受ケデハナカラウ、外務大臣ニ於テハドウ云フ御
  考デアルカト云フコトヲ伺ッタ所ガ、當時西比利亞ノ狀況ハ斯ウ云ウデアッタ
  ト言フコトヲ縷々御述べニナリマシタカラ、ソレニ對シテ私ハ部分的ノ狀況
  ノ御報〓ハ如何ニモサウデアッタラウ、ケレドモ西比利亞全體ヲ大觀シテ見ル
  ト西比利亞ノ狀況ト云フモノハ油斷ノナラヌモノデアル、朝ニ夕ヲ圖ラレ
  ズト云フ有樣デアル、「コルチヤック」ノ政府ガ立ツカト思フト倒レルシ、「セメ
  ヨノフ」ガ立ツカト思ヘバ直キ又勢力ヲ失フ、或ハ我〓ガ「チヱック、スローヴァ
  ック」ヲ救援シヤウト云ッテ、大兵ヲ出シテ「チヱック、スローヴァック」ヲ救援シテ
  居ルト、何時ノ間ニカソレガ過激派ニ變ジテ我ニ矛ヲ向ケルト云フヤウナコ
  トガ出來スル、或ハ緩衝地帶ヲ設ケルト云フヤウナコトヲ口ノ先ニ云フ者ガ
  アッテ、ソレヲシヤウト思フト、存外サウハイカヌト云フヤウナ譯デ、西比利亞
  ノ狀況ト云フヤウナモノハ實ニ變化極マリナシト云フ今日有樣デアル、ソレ
  ハマダ露西亞ガ今敵國トシテ扱ッテ居ル譯デハナイノデアル、卽チ處々ニ領事
  館ヲ置イテ居ル位ノコトデアルカラ、外務大臣ハ外交上ヨリ種々ノ消息ヲ得
  テ、之ヲ軍部ニ報〓イタス務ハアルダラウト思フ、其方カラ考ヘルト西比利
  亞ノ狀況ヲ大觀シテ、軍部ニ注意ヲ與ヘテ然ルベシト考ヘル、ソレ等ノコト
  ノナカッタノハ多少手拔カリガアルト云フ御考ハナイデアルカ、無論部分的ノ
  狀況ヲ御報〓ニナッテ居ルコトハ一々了承イタスノデアルガ、併ナガラ西比
  利亞ノ大勢ヲ見テ、大勢上ノ御觀察カラシテ、無援孤立ノ地ニアル居留民ノ保
  護ニ付テハ念ニハ念ヲ入レナケレバナナラヌト云フヤウナコトハアリサウナ
  モノダト思フガ、今ニシテ顧ミルナラバ、多少手拔リガアッタト云フヤウナ御
  感想モアッタラウト考ヘル、斯ウ云フコトヲ申シテ私ノ質問ヲ終ッタノデアリ
  マシタケレドモ、卽チ此意味ノコトハ御承認ニナッタモノト考ヘル、所ガ藤村
  男爵トノ御問答デハ又サウ云フ意味ハ少シクハッキリシナイヤウナ點モ出テ
  來タノデアリマシタガ、遂ニハ今御述べニナッタ通リ、藤村男爵カラ不可抗力
  デアッタカト云フ質問ガアッタノニ對シテ、然リト唯一言答ヘテ居ルノデアリ
  やば、ソレ故ニ世間デハ外務大臣モ不可抗力ト言ハレタト云フヤウナコトニ
  ナッタノデアリマセウガ、併シソレハ外務大臣ノ御答ニ不可抗力ト云フコトハ
  ナイト云フコトハ、今御述ベニナリマシタ通リ私モ承知シテ居ル、唯大體上
  カラ外務當局トシテ、モウ少シ御注意ガアッタラ宜カラウノニ、今日トシテハ
  多少ノ手拔リガアッタト云フコトハ、御認メニナラザルヲ得ナイデアラウト云
  フコトヲ申シタノニ、ソレニハ何等御答ハナクシテ、御承知ニナッテ居ルノデ、
  私ガ外務大臣ニ對シテ質問ハモウソレデ盡シタト實ハ考ヘテ居ッタノデアリ
  や、め、總理大臣ノ御答ハ稍〓私ノ趣意ニ適フガ如ク、又然ラザルガ如ク、ハツ
  キリ突止ムルコトハ出來マセヌガ、尙ソレハ退イテ速記錄ニ付テ熟考シテ、
  更ニ伺フコトガアレバ、又機會ハイクラモアラウト思ヒマスルカラ、ソレニ
  從ッテ致サウト考ヘマス
  〔男爵阪谷芳郞君發言ヲ求ム〕

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• 038・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　之ニテ通告ヲ全部終了イタシマシタ阪谷男爵ガ發
  言ヲ求メラルヽヤウデアリマスガ何カ··

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=38

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• 039・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　去ンヌル三日、本員ノ質問イタシマシタ尼港問題ノコト
  デ、簡單ニ申上ゲマシテ宜シウゴザイマスカ

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• 040・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　宜シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=40

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• 041・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　本員ガ去ンヌル三日尼港事件ノ責任ニ付キマシテ承リマ
  シタ事柄ガ、本員ニ於キマシテハ一段落ヲ〓ゲタリト考ヘテ居リマシタノデ
  ゴザイマスガ、段々ソレ以來數日間ノ質問應答ニ依リマシテ、又唯今江本君
  ト總理大臣トノ質問應答ニ依リマシテ、再ビ迷宮ニ這入ッタヤウナ感ガ致シマ
  ス、併シ旣ニ數日間討論ヲ經マシタルコトデゴザイマスデ、又再ビ比處ニ質
  問ヲ繰返スト云フコトハ、是ハ容易ナラザル時間ヲ要スルコトヽ考ヘマスル
  カラ········デ本員ハ更ニ適當ナル時機ニ重ネテ質問イタシタイト考ヘマスノ
  デ、其コトダケ一言申述べテ置キマス

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• 042・藤村義朗

  ○男爵藤村義朗君　私ノ九日ノ質問ニ對シテハ、何モ御答辯ハコザイマスマ
  イカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=42

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• 043・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　ソレハ私ニ對スル御質問ノコトデスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=43

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• 044・藤村義朗

  ○男爵藤村義朗君　左樣デゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=44

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• 045・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　御答イタシテモ宜シウゴザイマス、併シ時ガ掛カラウ
  ト思ヒマスガ········併シ其翌日ノ御質問デ其コトハ盡キテ居ルト解釋シテ御答
  ヲシナイノデアリマス、併シ翌日ノ御質問ニ答辯イタシタ所デ盡キナイト云
  フ御見込デアリマスレバ、更ニ御答辯イタスコトヽ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=45

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• 046・藤村義朗

  ○男爵藤村義朗君　私ハ國民生活ノ問題、竝ニ國防計畫ノ延期ノ問題ニ付テ
  伺ッタノデゴザイマス、ソレニ關シマシテハ未ダ何等ノ御答辯ニモ接シテ居リ
  マセヌ
  〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕

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• 047・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　唯〓藤村君ノ重ネテノ御質問デアリマシテ、翌日答辯
  イタシマシタノデ尙ホ盡キナイト云フ御見込デアリマスガ、成程御演說ノ全
  體ヲ拜見イタスト、アレデ盡キテハ居ラヌヤウデアリマスガ、ソレニ依ッテ更
  ニ御答イタシマス、前ノ御質問ハ二點ニ歸著スルヤウデアリマス、第一點ハ
  國民ノ密著ノ關係アル國防ノ新規計畫ハ大變ナ影響ヲ有ッテ居ルト斯ウ云フ
  コトデアリマス、成程今日經濟界モ色〓ニナッテ居リマスルカラ、此場合ニ國
  防ニ必要ナル經費ヲ求ムルト云フコトハ、多少經濟界ニ取ッテモ困難ナル事情
  ヲ生ジマスコトヽ思フ、併シ之ニ依ッテ此國防計畫ヲ致シ、國防計畫ニ對スル
  財源ヲ求メテ增收案ヲ提出イタシタイト云フコトヲ以テ、國民思想ニ影響ア
  ルモノトハ考ヘマセヌ、從ッテ第二ノ御質問ニナッテ居リマスル此國防計畫ヲ
  延期シテハ如何カト云フコトデアリマスガ、是ハ今日ノ場合延期スルコトハ
  出來ナイノデアリマス、然ラバ斯樣ナル大切ナルモノガアルニ拘ラズ、解散
  ヲ致シテ暫ク延期ノ據所ナク相成ッタノハドウカト云フコトニ、此御質問ノ全
  體ヲ拜見イタスト考ヘルノデアリマスルガ、是ハ彼ト此トノ比較ヲ申シマス
  レバ、觀ル所ニ依ッテ色〓アリマセウケレドモ、國民一般ノ休戚ニ關スルコト
  デアリマス、一般ノ思想ニ關スルコトデアリマス、全體ニ關スルコトニ付テ
  ハ國民ノ公平ナル判斷ヲ求ムルハ已ムヲ得ヌノデアリマス、サウ云フ場合
  ニハ數箇月是モ遲レマスルコトモ尙忍バザルヲ得ヌト考ヘテ居リマス、之ヲ
  忍ンダガ故ニ、更ニ國防計畫ヲ一時延期スルト斯ウ云フコトハ、今日ノ事態
  ニ於テ出來兼ヌルノデアリマス、之ヲ以テ御質問ノ二點ニ對スルコトハ盡キ
  ルト思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=47

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• 048・藤村義朗

  ○男爵藤村義朗君　唯今總理カラ私ノ質問ノ速記錄ニ對スル御返事ガゴザイ
  マシタガ、伺ヒマス所デハ更ニ要領ヲ得テ居リマセヌノデアリマス、併ナガ
  ラ是レハ此上ハ議論ニ相成リマスノデ、具體的ノ質問ハ何レ豫算會其他ニ於
  テ致シタイト思ヒマス、尙ホ一ツ申殘シテアルコトガアルノデスガ、御許シ
  ヲ得マシテ此席カラ一言申上ゲタウゴザイマスガ、宜シウゴザイマスカ
  ソレハ此度ノ尼港事件ハ在留人民ガ鏖殺ニサレテ、而モ非常ニ慘メナ慘酷ナ
  ル目ニ遭ッテ鏖殺ニサレタノデアリマスガ、此曠古未曾有ノ悲慘事ニ對シマシ
  テ、列國ハ何等同情ヲ有ッテ居ラレヌヤウニ私ハ存ジマスガ、如何デゴザイマ
  セウカ、實ハ從來我國ニ天災地變不幸不凶ノ事ガ起リマスルト云フト、締盟
  親交國ノ君主、大統領若クハ政府カラハ必ズ同情慰問ノ懇切ナル電信或ハ
  書簡ニ接シテ居ルコトヽ思ヒマス、始終ソレ等ノコトハ私ハ新聞紙上ニ依テ
  伺ッテ居リマスガ、今囘ノ事ニ付キマシテハ、唯「セメヨノフ」カラ大井司令
  官ニ同情ノ電報ガアリマシタ外ニハ、何等モ新聞デハ見テ居リマセヌガ、ド
  チラカラモマダ何ノ同情ノ言葉モ參ッテ居リマセヌノデゴザイマセウカ、色
  色排日トカ何トカ云フ思想ガ起ッテ居リマス際、尙又政府ノ西比利亞對策ニ付
  キマシテハ外國ノ新聞ナドデチヨイチヨイ非難ノ聲ヲ聞キマスル際、如何ニ
  モ氣ニ掛リマスノデ、列國各元首、政府カラ尼港ノ問題ニ付キマシテ何等カ
  同情慰問ノ言葉ガゴザリマシタカ、ゴザリマセヌノデゴザリマスカ、是ダケ
  チヨット伺ッテ置キタウゴザイマス
  〔國務大臣子爵內田康哉君演擅ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=48

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• 049・内田康哉

  ○國務大臣(子爵內田康哉君)　唯今ノ御質問ニ御答ヲ致シマスガ、私ノ接觸
  シテ居リマスル所ノ在京各大公使ヨリハ、面會ノ節誠ニ悲慘ナコトデアルト
  云フ同情的ノ言葉ヲ得テ居リマス、改メテ各國大統領又ハ政府ヨリ公然タル
  書面デナリ、或ハ電報ナリデ受ケタコトハゴザイマセヌ、左樣御承知ヲ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=49

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• 050・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本日ノ議事日程ニ移リマス、議事日程第一、公爵
  德大寺公弘君、侯爵醍醐忠重君、子爵松平康民君、男爵後藤新平君、田邊輝
  實君、山田春三君、和田維四郞君、下條正雄君、田中源太郞君請暇ノ件、德
  大寺公爵病氣ニ付會期中、醍醐侯爵公務上會期中、松平子爵病氣ニ付會期中、
  後藤男爵病氣ニ付曾期中、田邊君病氣ニ付會期中、山田君病氣ニ付八日間、
  和田君病氣ニ付八日間、下條君病氣ニ付會期中、田中君病氣ニ付會期中ノ請
  暇デゴザイマス、何レモ許可ヲ致シテ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=50

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• 051・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=51

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• 052・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナケレバ日程第二、第三ハ一括イタシテ議
  題トシ同一ノ特別委員ニ付託致シマス、第二裁判所構成法中改正法律案、政府
  提出、第一讀會、第三、定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案、政府
  提出、第一讀會、本日ハ通牒文ノ朗讀ハ省略イタシタイト考ヘマス、御異議
  アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=52

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• 053・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  〔左ノ通牒文及議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載錄ス以下之
  ニ傚フ〕
  裁判所構成法中改正法律案
  右
  勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
  大正九年七月九日
  內閣總理大臣原敬
  司法大臣伯爵大木遠吉
  裁判所構成法中改正法律案
  裁判所構成法中左ノ通改正ス
  第八條第二項但書ヲ削リ同條第三項ヲ左ノ如ク改ム
  外國語ノ通譯ヲ要スル裁判所及檢事局ニ通譯官ヲ置クコトヲ得
  第七十一條ノ二前三條ノ規定ノ適用ニ付テハ判事又ハ檢事タル資格ヲ有
  スル司法省各局長司法省參事官ノ在職ハ之ヲ判事ノ在職ト看做ス
  第七十四條ノ二ヲ第七十四條ノ三トス
  第七十四條ノ二大審院長年齡六十五年其ノ他ノ判事ノ職ニ在ル者年齡六
  十三年ニ達シタルトキハ退職トス但シ司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ總
  會ノ決議ニ依リ五年以內ニ於テ期間ヲ定メ仍在職セシムルコトヲ得
  第七十九條第一項中「勅任又ハ奏任」ヲ「親任勅任又ハ奏任」ニ改メ同條第三
  項中「勅任檢事」ヲ「親任檢事」ニ改ム
  第八十條ノ二檢事總長年齡六十五年其ノ他ノ檢事ノ職ニ在ル者年齡六十
  三年ニ達シタルトキハ退職トス但シ司法大臣ハ五年以內ニ於テ期間ヲ定
  メ仍在職セシムルコトヲ得
  第八十六條中「區裁判所及檢事局」ヲ「區裁判所檢事局及書記長ヲ置カサル
  地方裁判所」ニ改メ「地方裁判所ノ書記課ニ監督書記ヲ置ク」ヲ削リ同條
  第一項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
  地方裁判所ノ書記課ニ書記長ヲ置クコトヲ得
  第八十八條中「書記長」ノ下ニ「及通譯官」ヲ加フ
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案
  右
  勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
  大正九年七月九日
  內閣總理大臣原敬
  司法大臣伯爵大木遠吉
  定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案
  本法施行ノ際現ニ判事又ハ檢事ノ本官ニ在職スル者本法施行後引續キ判事
  又ハ檢事トシテ在職シ裁判所構成法第七十四條ノ二又ハ第八十條ノ二ノ規
  定ニ依リ退職シ恩給ヲ受クヘキ場合ニ於テハ其ノ恩給年額ハ官吏恩給法第
  五條ノ規定ニ依リ計算シタル年額ニ其ノ百分ノ五十ニ相當スル金額ヲ加ヘ
  タルモノトス
  前項ノ規定ノ適用ニ付テハ判事檢事相互ニ轉任シタル場合ハ引續キ在職シ
  タルモノト看做ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕

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• 054・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵大木遠吉君)　唯今議題ニナリマシタ裁判所構成法中ノ改正
  法律案竝ニ恩給ノ改正法律案、之ニ付テ一應ノ御說明ヲ申上ゲマス、先ヅ裁
  判所構成法中改正法律案ノ此重要ナル點ハ、判事及ビ檢事ノ退職ニ付キマシ
  テ、一定ノ年限········年齢ヲ設ケマシテ、而シテ後進ノ進路ヲ開キ、又新陳代
  謝ノ途ヲ促シ、以テ此司法部內ノ氣風ヲ玆ニ刷新ヲ致サムトスルノガ其重要
  ナル點デアリマス、第二ニハ、檢事總長ノ地位ヲ向上シマシテ、之ヲ親任官
  ニマデ爲スコトガ其二デアリマス、其他通譯官、書記長ノ任免等ニ付キマシ
  テ改正ヲ企テタノデアリマス、是レハ御承知ノ如ク司法部內ノ氣風ノ刷新ニ
  付キマシテ最モ必要ナル案デアリマスルガ故ニ、何卒十分ニ御審査ノ上ニ御
  協賛アラムコトヲ願フノデアリマス、尙細カキ事ハ何卒此委員會ニ於キマシ
  テ十分ニ申述ベタイト思フノデアリマス、ドウゾ宜シク、ソレカラ恩給ニ付
  キマシテハ今囘ノ定年ニ因リマシテ退職ニナル所ノ者ニ對シマシテ、是レニ
  普通文官ノ恩給ヨリ五割ヲ增加シ、此新法ニ依ッテ定年ニナッタ所ノ者ニ限ツ
  テ、普通文官ノ規定ヨリモ五割ヲ增加シテモ宜イヤウナ案デアリマス、ドウ
  ゾ是モ何卒御審議ノ上御協賛ヲ願ヒタイノデアリマス

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• 055・佐竹義準

  ○男爵佐竹義準君　私ハ司法大臣ニ質問ガアリマス、細カイ事ニ付キマシテ
  ハ、何レ委員會ニ於キマシテ、種々御討議ガアルコトヽ存ジマス、併ナガラ
  此裁判所構成法中改正法律案ノ骨子トナッテ居リマス所ノ判事ノ定年ヲ設ケ
  ラレタト云フコトハ、私共ノ見解ニ依リマスト憲法ニ牴觸シテ居ルヤウニ
  存ジマス、憲法ノ條項ニハ憲法第五十八條ニ「裁判官ハ法律ニ定メタル資格
  ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス」第二項ニ「裁判官ハ刑法ノ宣〓又ハ懲戒處分ニ由
  ルノ外其職ヲ免セラルヽコトナシ」ト、斯ノ如ク明記サレテ居ルノデアル、而
  シテ一方裁判所構成法ニ依リマスト、構成法ノ第七十四條ニハ「判事身體若
  ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハザルニ至リタルトキハ司法大臣ハ控
  訴院又ハ大審院ノ總會ノ決議ニ依リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得」、裁判所構成
  法ノ方ハ詰リ一ノ例外法ヲ設ケラレテ、憲法デ司法權ノ獨立ト云フコトヲ保
  障サレル爲ニ憲法第五十八條ニ其規定ガアル、然ルニ此度定年ヲ決メラレタ
  ト云フコトハ、如何ナルモノデアリマセウカ、是ハ憲法ト全ク牴觸ガナイト
  御認メニナルノデアルカ、又ハ牴觸ハアルケレドモ之ヲ避ケル途ガアル、斯
  ウ云フコトデアルカ、牴觸ガナイト云フコトナラバ何故ニ牴觸ガナイカ、又
  牴觸ガアルナラバ之ヲ避ケル如何ナル方法ガアルカト云フコトノ御說明ヲ
  伺ッテ置クコトハ、此際最モ必要ト存ズル、ソレダケ
  〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕

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• 056・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵大木遠吉君)　御答ヲ致シマス、憲法ニ牴觸ハ致サナイ、斯
  樣ニ考ヘルノデアリマス、其理由ハ決シテ年齡ガ定年ニ達セリト雖モ、其
  ノ官ヲ剝グノデハナイノデアリマス、縱シ判事タリ檢事タル者ト雖モ、檢事
  ハ終身檢事ナルガ如キ者ヲ、官ヲ剝グコトハ致サナイ、唯ダ職ガ停マル、斯
  樣ナ譯デアルカラ決シテ憲法ニ牴觸シナイ、斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス

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• 057・佐竹義準

  ○男爵佐竹義準君　私ハ決シテ官ヲ剝グトハ申シマセヌ、憲法ニ剝グトハ書
  イテゴザイマセヌ、此職ト官トハ大變趣ガ違ヒマス、憲法ノ五十八條ニハ「裁
  判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルノ外職ヲ免セラルヽコトナシ」ト斯
  ウアル、官ト職トハ少シ趣ガ違フト云フコトデアリマス

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• 058・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵大木遠吉君)　職ヲ退クノデアリマス、職ヲ退クト云フコト
  ハ憲法ニ牴觸ナサズ斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、尙詳シイコトハ委員會
  デ十分ニ御話シタイト思ヒマスガ、貴重ナ時間ナルガ故ニ是ダケ御了解ヲ得
  ルコトガ出來ルト信ジマス、左樣ニ御願致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=58

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• 059・佐竹義準

  ○男爵佐竹義準君　何レ委員會デモ十分ニ伺ヒマセウガ、憲法ニ牴觸ヲシテ
  居ル居ラヌト云フコトノ理由ハ、一見此處デ十分御說明ニナル方ガ、委員會
  ニ於テ討議ニ大變都合ガ好クハ無イカト存ジテ質問シタノデアリマスガ、此
  以上御說明ガ無イト云フコトデアレバ是レデ質問ヲ止メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=59

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• 060・江木翼

  ○江木翼君　私ハ此法案ニ付キマシテ大體ノ事ダケニ關シテ一ツノ質問ヲ致
  シタイ、處ガ御質問致シマス前ニ事實上ノコトニ付キマシテ政府ノ御答辯ヲ
  得テ置キタイ、唯今佐竹男爵カラ質問ガアリマシタガ、裁判所構成法七十四
  條ニ判事身體又ハ精神ノ衰弱ニ因ッテ職務ニ堪ヘナイ場合ニハ決議ニ依ッテ退
  職ヲ命ズルコトガ出來ル、此條項ヲ判事ニ御適用ニナリマシタ事例ハ最近ニ
  ドノ位ゴザイマセウカ
  〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=60

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• 061・鈴木喜三郎

  ○政府委員(鈴木喜三郞君)　江木君ノ御質問ニ御答イタシマス、構成法ノ七
  十四條ヲ適用致シマシテ退職ヲ命ジタコトハゴザイマセヌ

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• 062・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　特別委員ノ氏名ヲ御報〓ニ及ビマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=62

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• 063・江木翼

  ○江木翼君　私ハ未ダ質問ノ本題ニ這入ラナイノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=63

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• 064・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　跡デ願ヒマス
  〔岡書記官朗讀〕
  裁判所構成法中改正法律案外一件特別委員
  候爵細川護立君伯爵寺島誠一郞君男爵小澤武雄君
  松室致君仲小路廉君男爵若王子文健君
  男爵島津久賢君磯部四郞君矢口長右衞門君

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• 065・江木翼

  ○江木翼君　餘リ細〓シタ質問ハ時間切迫ノ場合止メマス、大體政府ノ此法
  案提出ノ御經過ニ付テ一二チヨット承ッテ置キタイト思ヒマス、唯今承リマス
  レバ裁判所構成法七十四條ヲ適用シタ事例ハナイ、判事ハ固ヨリ非常ナル保
  障ヲ得テ居ル、而カモ精神及ビ身體ノ衰弱ニ由リ退職ヲ命ズルコトモ出來ル、
  而カモ其規定ノ適用ハナイ、斯ウ云フコトデアリマスルガ、非常ニ是レハ必要
  デハナイカト思ヒマス、其處デ承リタイト思ヒマスノハ同ジヤウニ········司法
  裁判所ト同ジヤウニ憲法ノ機關ヲ爲シ········憲法上機關ヲ爲シテ居ルトコロノ
  行政裁判所及ビ會計檢査院、此行政裁判所長官ナリ、評定官、或ハ會計檢査
  院長ナリ、檢査官、斯ウ云フモノニ對シテ而カモ此行政裁判所ノ如キハ裁判
  所構成法七十四條ト同樣ノ規定ガアリ、適用サレタ事例スラアル、ソレデア
  ルノニ是レダケハ御設ケニナル必要ヲ御認メガナカッタノデアリマスカ、此點
  ヲ一應政府ノ御辯明ヲ願ヒタイ、國務大臣ヨリ
  〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕

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• 066・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵大木遠吉君)　江木君ニ御答イタシマス、今ノ御尋ハ行政裁
  判所、或ハ會計檢査院等モ今ノ定年齡ノ如キ設ケヲ企テル議ハナカッタト云フ
  御尋デアリマスガ、左樣ナ議ガアリマセヌ、左樣御承知ヲ願ヒマス

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• 067・江木翼

  ○江木翼君　モウ一遍伺ヒマス、其議ガナカッタト致シマシタナラバ何ガ故ニ
  然ルコトガ御詮議ニナラナカッタノデアリマスカ、同ジク憲法上獨立ノ機關、
  立法府或ハ政府ニ對シテ獨立ノ位置ヲ保ッテ居ル行政裁判所、會計檢査院、是
  ハ憲法六十一條ニ規定セラレテ居リマス、一方ハ憲法七十二條ニ規定セラレ
  テ居リマス所ノ兩方トモ獨立ノ機關而モ其ノ官吏ノ身分ノ保障ト云フモノハ
  殆ド同樣デアル、然ルニ一方ニハ之ヲ行ヒ、一方ニハ之ヲ行ハナイト云フノ
  ハ、如何ニモ彼是權衡ヲ得ナイヤウニ思フノデアリマス、此點ニ對スル政府
  ノ御見解ハ如何デアリマスカ、恐ラク是ハ全般ニ亙リマスコト故ニ、總理大
  臣カラ御辯明下サルノガ一番早ク分ルカト思ヒマス
  〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=67

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• 068・原敬

  ○國務大臣(原敬君)　唯今ノ江木君ノ御質問ハ全般ニ亙リマスカラ、御說ノ
  通リ私ガ答辯イタシタ方ガ便利デアラウト考へマス、私ガ此處ニ申スマデモ
  ナク、法律ハ必要カラ起ルノデアリマスルガ、今日ノ所ニ於キマシテハ行政裁
  判所、會計檢査院ニ同樣ナル法律ノ規定ヲ設クルヤウナル必要ヲ認メマセヌ
  故ニ提出イタサヌノデアリマス、他日又左樣ナル必要ヲ認メマシタナラバ更
  ニ提議スル場合ガアリマセウケレドモ、今日ニ於テハ其必要ヲ認メマセヌノ
  デアリマス

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• 069・江木翼

  ○江木翼君　全ク要領ヲ得マセヌデゴザイマスガ、唯ダ時間ヲ潰スダケデゴ
  ザイマスカラ私ハ委員會ニ於テ此點ハ御審査アルベキコトヽ思ヒマスカラ、
  モウ質問イタシマセヌ

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• 070・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　極ク簡單ナル質問デゴザイマスカラ此處カラ司法大臣ニ
  唯今此コトハ委員曾デ述ベルト云フ御答デアリマスガ、此問題ノ質問ノ
  極ク簡單ナル問題ヲ僅カニ止メテ、而シテ他ニ質問者ガアルノニ委員會
  デ說明ヲスル、此處デハ餘リスルナト云フヤウナコトハ、此議事ヲ重ンズル
  上ニ於テ如何ナモノデアリマスカ、ソレモ非常ニ質問ガ出デ········澤山續出シ
  テ非常ニ時間ヲ要スルト云フ場合ナラバ、ソレハ特別、成ルベク此議會ノ議
  事トシテ出來得ルダケ質問ヲ此議會デシテ········本會議ニ於テスルノガ宜イ、
  斯ウ云フ私ハ意見、特別委員會ハソレニ對スル少數ノ人、又聽ク人モ極ク僅
  カデアリマス、然ラバ時間ノ許スモノハ成ルベク主義トシテ本會議ニ於テ質
  問ヲサセル、其處デ質問應答ヲ致シマスレバ、委員會ニ於テモ其邊ヲ盡サレ
  マス、然ルニ是レハ委員會ガアルカラト云ッテ、他ニ質問者ガアルノニ、ソレ
  ヲ打消シテ質問ヲ致サセナイト云フ風ニスル司法大臣ノ意見ハ、私ハ少シ認
  メナイノデアリマス、之ニ對シテ御感想ヲ一ツ伺ヒタイモノデアリマス
  〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=70

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• 071・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵大木遠吉君)　唯〓ノ御質問ニ答へマス、矢口君ハ委員會ニ
  於テ尙ホ詳細ヲ述ベルト云フコトヲ質問者ニ御話シヲシテ其了解ヲ求ムルコ
  トハ怪シカラヌト云フヤウデアリマスガ、決シテ怪シカラヌコトハナイ、其ノ
  方ガソレハイカヌ、委員會デハイカヌカラ是非此處デ言ヘト云ヘバ格別、政
  府トシテハ是レハ委員會デ此徑路イキサツハ十分ナル御話ヲシテ了解ヲ求ム
  ルコトデアルカラ、其席ニ讓ッテ御了解ヲ願ヒタイト云フコトニ何等怪シカラ
  ヌト云フコトハ何ニモナイ、私ハ斷ジテ矢口君ノ御質問ニ同意ヲ表セナイ、
  此見解ハドウモ御質問ノ體ヲ爲シテ居ラヌヤウデアリマスカラ、御答ヘヲス
  ルニハ及バヌヤウデアリマスガ、是レダケ御答ヲシテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=71

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• 072・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　唯今ノ御言葉ノ間ニハ少シ見解ノ違ヒガアリマセウシ、
  聞クノハ········唯一人ノ質問ニ對シテ答ヘタノデ、全般ニ亙リマシタノデゴザ
  イマセヌ、ソレダケヲ御聞キイタシマス、御答辯ガナイナラバソレデ宜シウ
  ゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=72

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• 073・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵　大木遠吉君)今ノ御趣意ハ能ク判リマセヌガ今一囘········

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=73

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• 074・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　唯今ノ質問ガ明瞭デナイト云フコトデアリマスガ、幾ラ
  質問者ガゴザイマシテモ其御方ニ對シ說明ヲナサレテ、他ノ全般ニ亙ッタノデ
  ハアリマセヌ、私ノ伺フノハ質問ハ委員外ノ他ノ者マデ抑ヘタヤウニ考ヘル、
  他ノ者ハ抑ヘヤシナイノデアリマスカ········他ノ委員ハ抑ヘヤシナイノデゴザ
  イマスカ········私ノ伺ヒマスノハ他ノ議員ノ口ヲ止メマスコトハ、私ハ甚ダ本
  意デナイ甚ダ受取レナイ··

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=74

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• 075・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵大木遠吉君)　私ハ質問者ニ御答辯イタシマシタ、他ノ議員
  ニ向ッテ何等發言シテ居リマセヌ、他ノ質問セザル議員ニ向ッテ私ハ委員會ノ
  時ニ御了解ヲ得タイト云フコトヲ申ス必要ガナイ、ソレハ申サナイ、唯質問
  者ニ向ッテ御答致シタ、左樣御承知ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=75

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• 076・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　私ハ全般ニ亙ッタト、斯ウ解釋イタシマシタ········(聽取シ
  難シ)私ハ全般ノ斯ウ云フ議員ニ向ッテ一同ニサウ云フ希望ヲ述べタ、唯一人
  デナイト思ヒマス、全般デナイト云フコトナラバ、私ハ構ヒハ致シマセヌ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=76

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• 077・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　議事日程第四、大正八年法律第五號中改正法律案、
  政府提出、衆議院送付、第一讀會
  大正八年法律第五號中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  大正九年七月九日
  衆議院議長奧繁三郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  大正八年法律第五號中改正法律案
  大正八年法律第五號中左ノ通改正ス
  「百五十五萬五千四百八十八圓」ヲ「二百十七萬七千六百八十三圓」ニ改ム
  參照
  大正八年法律第五號
  第一囘國勢調査施行ノ爲市區町村ニ於テ要スル經費ニ充テシムル爲國庫
  ハ百五十五萬五千四百八十八圓ヲ限リ之ヲ道府縣ニ交付ス
  前項ノ規定ニ依リ交付スル金額ノ割合ハ內閣總理大臣之ヲ定ム
  〔政府委員小川平吉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=77

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• 078・小川平吉

  ○政府委員(小川平吉君)　本案ハ物價騰貴ニ基ク經費ノ不足ヲ補ヒマスル爲
  ニ、第一囘國勢調査ニ伴フ市區町村ノ經費ニ對スル交付金ヲ四割程增額イタ
  シマス所ノ法律案デゴザイマス、ドウゾ御審査ノ上御協賛アラムコトヲ希望
  イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=78

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• 079・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
  〔岡書記官朗讀〕
  大正八年法律第五號中改正法律案特別委員
  侯爵佐佐木行忠君子爵土方雄志君子爵竹屋春光君
  男爵調所恆德君男爵野田龜喜君男爵藤堂高成君
  西久保弘道君石橋謹二君近岡理三郞君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=79

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• 080・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第五、實業〓育費國庫補助法中改正法律案、
  政府提出、衆議院送付、第一讀會
  實業〓育費國庫補助法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  大正九年七月十日
  衆議院議長奧繁三郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  實業〓育費國庫補助法中改正法律案
  實業〓育費國庫補助法中左ノ通改正ス
  第六條ノ二主務大臣ハ第二條ニ規定スルモノノ外第一條ノ金額ノ範圍內
  ニ於テ北海道府縣ニ對シ實業補習〓育獎勵ニ必要ナル補助金ヲ交付スル
  コトヲ得
  第七條中「第二條」ヲ「第二條及前條」ニ、「八分ノ一以內」ヲ「一部」ニ改ム
  〔國務大臣中橋德五郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=80

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• 081・中橋徳五郎

  ○國務大臣(中橋德五郞君)　本案ハ今囘、實業補習〓育ノ奬勵ヲ致シタイノ
  デアリマス、主トシテ〓員ノ專任、〓員ノ奬勵ヲ致シタイト云フノデ豫算ノ
  中ニ十五萬圓バカリ經費ヲ見積ッタノデアリマス、ソレガ爲ニ從來アリマスル
  法案ノ改正ヲ要シマスカラ提出イタシマシテ、衆議院ヲ通過シテ來マシタヤ
  ウナ次第デアリマス、ドウカ宜シク御審議ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=81

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• 082・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
  〔岡書記官朗讀〕
  實業〓育費國庫補助法中改正法律案特別委員
  伯爵林博太郞君子爵大給近孝君子爵野村益三君
  北條時敬君荒川義太郞君男爵阪井重季君
  福原鐐二郞君男爵岩佐新君江原素六君

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• 083・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第六、鐵道敷設法中改正法律案、政府提出、
  衆議院送付、第一讀會
  鐵道敷設法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  大正九年七月十日
  衆議院議長奧繁三郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  鐵道敷設法中改正法律案
  鐵道敷設法中左ノ通改正ス
  第七條第一項第一號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
  一中央豫定線ノ內山梨縣下甲府ヨリ靜岡縣下岩淵ニ至ル鐵道中山梨縣
  下甲府ヨリ丸瀧ニ至ル鐵道
  同項第八號末尾ニ左ノ如ク加フ
  及本線ヨリ分岐シテ山形縣下米澤ニ至ル鐵道中新潟縣下坂町ヨリ山形縣
  下今泉ニ至ル鐵道
  同項第十一號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
  ー奧羽豫定線ノ內巖手縣下盛岡ヨリ山田ニ至ル鐵道
  同項第十八號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
  一山陰及山陽連絡豫定線ノ内廣島縣下廣島ヨリ島根縣下濱田ニ至ル鐵
  通中島根縣下江津ヨリ廣島縣下三次ニ至ル鐵道
  同項第三十號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
  -九州豫定線ノ內福岡縣下飯塜ヨリ原田ニ至ル鐵道中同縣下長尾ヨリ
  原田ニ至ル鐵道
  〔國務大臣元田肇君演壇ニ登ル〕

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• 084・元田肇

  ○國務大臣(元田肇君)　鐵道敷設法中改正法律案ノ提出ノ理由ヲ陳述イタシ
  マツ、此法案ハ曩ニ四十二議會ニ提出ニナリマシテ、其際ニ政府當局ヨリ提
  案ノ理由ハ詳細ニ陳述イタシテ居ルト存ジマスガ、尙私ハ是ニ數言ヲ添ヘテ
  御參考ニ供シタイト存ジマス、帝國鐵道ノ主義ハ國有ニ致スト云フコトハ年
  來旣ニ定ッテ居ルコトデアリマスガ、其理由ハ改良ハ勿論ノコト、全國ニ多數
  ノ鐵道ヲ敷設イタシマシテ、出來得ベクンバ津々浦々ニ到ルマデ交通機關ノ
  完備ヲ來シタイト云フノガ大ナル目的ノ一ツデアッタト心得マス、而シテ爾
  來官民ノ力ニ依リマシテ漸次全國ニ鐵道ガ普及イタシタケレドモ、今日マ
  デニ出來マシタ所ハ、未成線ヲ合セマシテ約一万哩ニ過ギヌノデアリマス
  歐洲ナリ米國ナリノ列國ニ比較イタシテ見マスレバ、甚ダ遜色アルハ今更私
  ガ申上ゲルマデモナイコトデアリマス、政府ハ勿論此邊ニ考ヘル所ガゴザイ
  マシテ、內閣ハ屢〓迭リマシタケレドモ、歷代ノ內閣、大ニ注意ヲ致シマシテ
  改良、敷設共ニ努メ來タッタノデアリマスルガ、時ニ財政上ニ於テ已ムヲ得
  ズ、或ハ建設ヲ緊縮シ、或ハ改良モ思フ通リニイカヌト云フヤウナ場合モア
  リマシタ前內閣ノ時ニ至リマシテモ大分此事ニ力ヲ盡サレ又現內閣ニナリマ
  シテ力ヲ尙一層之ニ加ヘルコトニナリマシテ曩ニ四十二議會ニ於キマシテ改
  良ヲ致シマスルト同時ニ、財政ノ許ス範圍內ニ於キマシテ尙線路ノ普及ヲ圖
  ル計畫ヲ立テマシテ所謂鐵道敷設法中ノ五線、其他ニ輕便鐵道ヲ二十一線
  ホド敷設スル計畫ヲ立テマシタコトハ既ニ御承知アラセラレルコトヽ存ジマ
  ス、私當局トナリマシテ、尙當議會ニナリマスルマデニ審査ニ審査ヲ盡シマ
  シテ改良ノ上ニ於キマシテ出來ル限リ途ヲ盡シ又輸送ノ必要ニ應ズルダケノ
  設備ヲ設ケネバナラヌト云フコトハ無論是認シテ居ルノデアリマシテ、實用
  上不足ノ無イヤウニ致シテ行カナケレバナラヌト云フ此程度ニ於キマシテ改
  良ヲ第一ニ盡シテ居リマス、第二ニ財政ノ許ス範圍ニ於テハ未ダ敷設ノ足ラ
  ザル所ノ地方ニ向ッテ若クハ幹線トモ聯絡セヌ所ニ向ッテ聯絡ヲスル線ヲ新設
  イタスト云フコトノ必要デアルコトヲ認メマシテ、審査研究ヲ遂ゲマシテ、
  四十二議會ニ提出イタシマシタ案ハ益〓相當ナルコトヲ信ジマシタ次第デア
  リマス、是レハ私當局一個ノコトニ立入リマシタケレドモ、此機會ニ於キマ
  シテ左樣ナル經過モ皆樣ニ御訴ヘ申シテ置キタイト云フ考デ一言ヲ添ヘマス
  ル次第デ、ソレデ第一ニハ敷設法ノ改正ヲ要スル、本法案ニ出テ居リマスル
  通リニ五線ヲ一期線ニ繰上ゲテ敷設スルト云フコトニナッテ居リマス、ソレデ
  此法案提出ノ理由ニ付キマシテハ唯今申上ゲマシタ處デ宜シカラウト存ジマ
  ス、時間ガ迫ッテ居ル時ニ長ク申上ゲルノハ甚ダ恐縮デゴザイマスガ、尙委員
  會ニ於キマシテモ、十分述ベマスニトハ述べマスツモリデアリマスガ、丁度
  諸公ノ御揃ノ場所ニ於テ今少シ御考慮ニ訴へ置カウト存ジマスノハ、或ハ世
  ニ改良ノコトハ甚ダ努メルガ單リ地方ノ建設ニノミ努メテ居ルカノ如ク新聞
  ナドニモ、チラホラ說傳ガ傳ハッテ居ルヤウデアリマス、是ハ御調べ下サレバ
  分リマスガ、改良ノ方ハ約七分建設ノ方ハ約三分、斯樣ナル割合ヲ以チマシ
  テ改良ノ上ニ付キマシテ多大ナル所ノ力ヲ盡シテ居ルト云フコトヲ御承知ヲ
  願ヒ置キマス、而シテ此力ヲ盡シタ結果ト致シマシテ、將來輸送ニ於テ其需
  要ニ應ズルニ決シテ不足ナク、斯樣ナ確信ヲ當局ハ持ッテ居ルノデアリマス
  ガ、其詳細ハ委員會ニ於キマシテ、是コソ詳シク申上ゲルコトニ致サウト
  思ヒマス、而シテ此敷設ヲ新タニ致シマス線路ニ付キマシテハ一本一本ニ就
  キマシテ私攻究ヲ致シマシタ、或ハ地方ノ開發ヲ主トシテシナケレバナラヌ
  線ト、今日マデ其出來ナカッタ、或ハ線路ノ上ニ於テ是迄缺點トナッテ居リマ
  シタ所ノモノヲ補ッテ、大動脈ノ連絡ヲ全ウスル、斯樣ナ見地ノ上ニ於キマシ
  テ、何レモ今日ニ於テ········今日ノ計畫ニ於テ缺クベカラザル線路ヲ出スコト
  ヲ確認イタシマシテ、此趣旨ニ依ッテ議會ノ御協賛ヲ仰グ次第ニナッタノデア
  リマス、尙改良ノ上ニ付キマシテモ種々ノ點ガゴザイマスルガ、或ハ線路ヲ
  改良スルトカ、或ハ勾配ヲ低ウスルトカ、或ハ自動運轉トカ、或ハ信號機ト
  カ云フヤウナモノヲ設ケルトカ、停車場ト云フモノヲ改築スルトカ、又機關
  車ノ如キモノハヨリ善キモノニ改良シツヽアリト云フヤウナ、數多ノ點ニ亙ッ
  テ居リマシテ、當局モ出來得ル限リ電化サセタイト思ッテ其法案モ、追ッテ御協
  贊ニ訴ヘル積リデ居リマス、改良ノ點ニ於キマシテハ、大綱右申上ゲマスヤ
  ウニ諸般ノ點ニ於テ力ヲ盡シテ居リマスガ、其以外ニ於テ是レガ鐵道ノ機關
  トカ、走リ廻ルトカ、速力ダケノ關係ノコトデアリマスガ、私ノ最モ心痛イ
  タシテ居リマスコトハ鐵道ノ從業員ト云フモノガ、今日餘リ面白カラザル所
  ノ外來思想ニ囚ヘラレルコトノナイヤウニ、唯ダ之ヲ希望イタシタ所ガ決シ
  テソレデ行クモノデハアリマセヌ、旣ニ是レ迄ニ設備イタシタ保健課ト云フ
  モノガ設ケテアリマス、病院ヲ設ケルトカ、慰安ノ途ヲ設ケルトカ、救濟ノ
  途ヲ設ケルトカ退職ノ時ニハ如何ナル賞與ヲ與ヘルト云フコトニ致シテ、鐵
  道從業員ニ於テハ恰モ一家ノ如ク、相親和イタシマシテ、此輸送ノ爲メニ一
  生奉公ヲ致スコトヲ以テ自己ノ名譽ナリ自己ノ樂ミナリト云フコトニ致シタ
  イ、是レハ唯一片改良ト云フ文字ハ使ハレマスマイガ、誠ニ隱レタ點モアリ
  マスケレドモ、就中此點ニ到リマシテ最モ局ニ居ル者ノ心痛ヲ極メテ居ル點
  デアリマス、卽チ諸般ノ改良ヲ企テ居ルコトヲ申上ゲル中ニ於テハ、車輛ト
  カ線路トカ云フ外ニ於キマシテ、鐵道從業員ト云フモノガヲカシキ所ノ思想
  ニ囚ハレナイヤウニ一生懸命ニ國家公共ノ爲ニ從事スルト云フコトヲ十分希
  望スルト云フコトニ付テノ改良ガ極メテ必要ダラウト私ハ存ジマスニ付イ
  テ、此邊ノ處モ當局微力ノ及ブ限リ致シタイト考ヘテ居ル精神モアリマス、
  是ハ本案ニ直接關係ガナイヤウデアリマスケレドモ改良ニ力ヲ盡シ、而シテ
  財政ノ餘リアル部分ヲ建設ニ力ヲ盡ス積リデ、新ニ此改正法案ヲ提出シタ譯
  デアリマスカラ、此議會ニ於テ方針ノアル所ヲ申上ゲ置キマシテ、何卒愼重
  御審議アラセラレマシテ、通過スルヤウニ御願ヒ致シタイト思ヒマス

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• 085・湯淺倉平

  ○湯淺倉平君　本案ニ付キマシテハ私ハ頗ル重大ナル理由ヲ持ヲテ居ル者デ
  アリマス、現行鐵道敷設法ノ第一條ニ依リマスト「政府ハ帝國ニ必要ナル鐵道
  ノ完成スル爲漸次豫定ノ線路ヲ調査シ及敷設ス」ト云フコトヲ書キマシテ、
  第二條ニハ第一項ニ於テ、豫定鐵道線路ヲ列記イタシマシテ第二項ニハ「以
  上ノ線路ニ變更增減ヲ要スルモノアルトキハ帝國議會ノ協贊ヲ經テ之ヲ決定
  スヘシ」ト規定シテアルノデアリマス、然ルニ第四十二議會及ビ今議會ニ政
  府ノ御提出ニナリマシタ豫算ヲ見マスルト、輕便鐵道ナルモノガ一億五千万
  圓ノ追加ヲ企テラレテ居ルノデアリマス、而シテ此方面ニ當ル所ノ線路ハ、
  二十一線路アルト云フコトニ承ッテ居ルノデアリマス、其輕便鐵道ハ、單ニ鐵
  道ト稱セラレルモノト其實質ニ於テドウ云フ差異ガアルカト云フコトヲ前議
  會ノ委員會ノ速記錄ニ就テ調査イタシマスルト實質上ノ差異ハ殆ド認メラ
  レナイ、斯樣ニ相成ッテ居ルヤウデアリマスガ、果シテ然ラバ鐵道敷設法第二
  條第二項ニ於テ豫定線路ノ增減變更ヲ要スル場合ニハ帝國議會ノ協贊ヲ經ナ
  ケレバナラスト云フコトガ明ニ定メラレテアルニ拘ラズ何故ニ本案ニ二十一
  線路ノ計上ヲ致サレナイ次第デアリマスカ、是ハ本院ノ權限ニ關スル重大ナ
  ル問題デアルト思ヒマス、言葉ヲ換ヘテ申シマスト本院ノ立法協賛權ヲ無視
  サレタモノデハナイカト云フ疑ヲ懷ク次第デアリマス、希ハクハ其點ニ付キ
  マシテ當局ヨリノ十分ナ御說明ヲ煩ハシタイト思ヒマス、同時ニ鐵道、單ニ
  鐵道ト稱スルモノト輕便鐵道ト云フモノトノ區分如何、性質上ノ差異ガ何レ
  ニアルヤト云フコトヲ併セテ御說明アラムコトヲ希望イタシマス

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• 086・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　休憩イタシマス、午後ハ一時三十分ヨリ開會イタ
  シマス
  午後零時三十九分休憩
  午後一時四十分開議

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• 087・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス
  〔國務大臣元田肇君演壇ニ登ル〕

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• 088・元田肇

  ○國務大臣(元田肇君)　午前ノ會議ニ於キマシテ、御質問ニナリマシタ事項
  ヲ答辯致シマス、輕便鐵道ハドウ云フ譯デ提出ニナルカ、鐵道敷設法アルニ
  拘ラズ、此法ノ中ニ入レズシテ之ヲ提出スルノハ、議院ヲ無視シタルモノデ
  ハナイカト云フ御尋ノヤウニ承リマシタ、私ノ見解ハ左樣デアリマセヌ、鐵
  道敷設法ニ於テ揭ゲラレマシタル線路、第一期線竝ニ豫定線ガゴザイマス、
  是ハ本鐵道トデモ申シマスルカ輕便線ハ本鐵道トハ相違イタシマシテ、本鐵
  道ヲ敷設スルノハ此上モナイコトデゴザイマセウガ、財政ノ上カラ見、地方
  ノ交通機關ノ上ニ見マシテ、本鐵道ヲ敷設セズ、輕便ニシテ交通機關ヲ設ケ
  レバ足ルト云フ場合ニ設ケ來ッタ所ノ鐵道デアリマシテ、是ハ今囘ニ始ッタ譯
  デハゴザイマセス、既ニ幾多ノ線路ガ輕便式ニ依ッテ敷設スルコトニナリマシ
  テ、御院ニモ御協賛ヲ求メマシテ、既ニソレ〓〓協賛ヲ與ヘラレテ居ルコト
  ハ今更申スマデモナイコトヽ存ジマス若シ是ガ議院ヲ無視シタト云フコ
  トニナリマスレバ、以前ニ之ニ協賛ヲ與ヘラレタノモ、亦自ラ議院ヲ無視シ
  タト云フコトニモナリマセウガ、私ハサウハ思ヒマセヌ、鐵道敷設法ニ依リ
  マシテ本鐵道ヲ敷設スルト云フコトガ、先刻申上ゲマシタ通リ財政ノ都合ニ
  於テサウハ行キマセヌ、本鐵道ニ致シマスレバ經費モ澤山掛リマスルカラ、
  誠ニ完全ナモノデハゴザイマスルガ、多數ノ線路ヲ開クコトガ出來ナイ、ソ
  レヨリハ地方交通機關ノ狀態、地方ノ經濟狀態、開發ノ模樣カラ致シマシテ、
  比較的經費ヲ少クシ輕便ニ致シマシテ、此需要ニ應ズル所ノ交通機關ヲ設ケ
  ルガ至當ナリト云フコトニ認メラレマシテ、今日ノ政府ニ限リマセヌ、ズット
  以前ノ政府ヨリシテ其提案ヲ致シ、帝國議會ニ於テモ其至當ナルコトヲ認メ
  ラレテ、幾多ノ線路ハ輕便式ニ依ッテ、敷設セラレテ居ルノデアリマス、今囘
  提案イタシマシタノモ此先例ニ依リマシテ、誠ニ結構ナル先覺者ノ始メタ
  コトデアルト心得マシテ、提案ヲ致スコトニナリマシテ、其豫算ヲ請求イタ
  シテ居ル次第デアリマス、右ニテ御了承ニ預リタイ

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• 089・湯淺倉平

  ○湯淺倉平君　唯今午前ニ於ケル本員ノ質問ニ對シマシテ、鐵道大臣ヨリ御
  答辯ガゴザイマシタガ、本員ハ尙御答辯ニ滿足ヲ致スコトガ出來マセヌノデ、
  重ネテ伺ヒタイノデゴザイマス、唯今鐵道大臣ノ御答辯ニ依リマスルト單
  ニ鐵道ト云フモノト、輕便鐵道トハ何等カ其間ニ性質上ノ差異ガアルヤニ
  拜承イタシマシタガ、兩者ノ間ニ如何ナル差異ガアルデアリマセウカ、唯今
  ノ御答辯デハ、輕便鐵道ナルモノハ、建設費ノ點ニ於テ、本鐵道ヨリモ經費
  ガ安イト云フダケノ差ガアルカノヤウナ御答辯デゴザイマシタガ、鐵道敷設
  法ハ鐵道ノ建設費ニ付テ、何等ノ規定ヲ致シテゴザイマセヌ、帝國ニ必要ナ
  ル鐵道ト云フコトヲ規定シテ居ルノニ過ギマセヌ、而シテ同法ノ第二條ノ二
  項ハ鐵道線路ノ增減變更ハ議會ノ協賛ヲ經ベキモノデアル、斯樣ニ明定イタ
  シテ居リマス、言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ、鐵道線路ノ增減變更ハ立法事項
  デアルト云フコトヲ法律ガ定メテ居ル、既ニ立法事項ナリトシマスルナラバ、
  議會ノ協賛ナクシテ政府ガ單ニ豫算ニ計上シテ、ソレデ以テ事足レリト言フ
  譯ニハ參ルマイト信ズルノデアリマス、唯今大臣ノ御答辯ニ依リマスルト、
  是ハ先例ノアルコトデアル、其先例ヲ重ンジタト斯樣ニ申サレルノデゴザイ
  マスルガ、成程先例ガ全ク無イトハ申シマセヌ、其先例ナルモノハ、鐵道敷設
  ノコトガ始マリマシテカラ大正八年度マデノ決算ニ就テ之ヲ見マスルト、僅
  ニ一箇年度二百万圓ニ過ギナイノデアリマス、我國ノ財政ノ全體カラ見マシ
  テ二百万圓ト云フ額ハ極メテ少額デアリマス、又之ヲ特別會計ノ鐵道省所管
  ノ經費ノミニ付テ見マシテモ、極メテ些々タル額デアリマス、旣往ノ例ト申
  シマスルモノハ、僅ニ極メテ短距離、極メテ須要ノ程度ノ輕イモノ、斯ノ如
  キモノヲ本線ニ附屬シテ僅ニ拵ヘテ居ルト云フ例ニ過ギナイノデアリマス、
  之ヲ若シ形式ニ拘泥シテ申シマシタナラバ、是亦一ノ疑ヲ容ルベキ餘地ガ
  アルコトヽ考ヘマス、サリナガラ是ハ極メテ小ナル例デアリマス、然ルニ
  今囘政府ノ御提案ニ依ッテ見マスルト、輕便鐵道建設費ニ對シテ、豫算ノ唯一
  目ニ一億五千三百万圓ト云フ追加ノ御計算ニナッテ居ルノデアリマス、是ガ先
  例アリト稱シテ、先例アルガ故ニ斯ノ如キ事ヲ爲シテ差支ナシト云フ當局ノ
  御意見デアリマセウカ、之ヲ既住ノ例ニ見マスレバ、輕便鐵道ノ建設費ナル
  モノハ、本鐵道ノ建設費ニ比シテ僅ナルモノデアッタノデアリマス、然ルニ今
  囘政府ノ御計算ニナッタ所ニ依リマスルト、本末ヲ〓倒シテ居ルノデアル、卽
  チ輕便鐵道ヲ建設費ニ於テ莫大ナル額ヲ計上致サレテ、遂ニ鐵道敷設法ニ於
  テ議會ガ協賛ヲ致シテ居ル趣旨ヲ沒却サレムトシツヽアルノデアリマス、之
  ヲ尙且當局ハ適法ノ處置ナリト云フ御考デアリマセウカ、議會ノ立法權ヲ無
  視スルモノデナイト云フ御考デアリマセウカ、唯今承リマスルト輕便鐵道ハ
  鐵道ヨリモ建設費ガ安イ、夫故ニ輕便鐵道ハ鐵道ニ非ズ、斯樣ナ御答辯ノヤ
  ウニ承ルノデアリマスガ、前期ノ議會ニ於キマシテ鐵道敷設法改正特別委員
  會ニ於テ政府當局ノ御答辯ニナッテ居リマスル所トハ、全ク異ナッタ趣旨ニ唯
  今ハ御說明ニナリマシタノデアリマスガ、果シテ然ラバ現鐵道大臣ハ、前鐵
  道院當局者ノ輕便鐵道ヨリ本鐵道ニ關スル說明ヲ否認ナサルノデアリマセウ
  カ、全ク趣旨ノ異ッタモノトシテ御提案ニナッタモノデアリマセウカ、其邊ヲ
  改メテ伺ヒタイト思ヒマス、尙重ネテ申シマスルガ、輕便鐵道ナルモノハ鐵
  道ニ非ズ、斯樣ニ御說明ニナッタモノト了解イタシテ宜シウゴザイマスカ、念
  ノ爲ニ重ネテ伺ヒマス
  〔國務大臣元田肇君演壇ニ登ル〕

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• 090・元田肇

  ○國務大臣(元田肇君)　私ノ言葉ノ足リマセヌ所デ、再ビ御質問ヲ蒙リマシ
  タノハ誠ニ恐縮ニ存ジマス、輕便鐵道ハ鐵道ニ非ズト云フコトハ如何ナルモ
  ノデアリマセウカ、鐵道敷設法ニ書イテアリマスルモノハ、尙語ヲ添ヘテ申
  シマスレバ、本鐵道トデモ申シタラ宜シカラウ、然ルニ此式ノ鐵道ヲ拵ヘマ
  スルノニハ經費モ澤山要ルノデアリマシテ、ソレダケノモノヲ用ヒズシテモ
  輸送ノ需要ハ足ルト云フ所カラ比較的費用ヲ減ジマシテ、費用ヲ減ジルト云
  フコトハ總テ、建設ノ輕便ニナッテ來ルト云フコトヲ意味スルノデアリマス、
  金高バカリデアリマセヌ、左樣致シマシテ運輸交通ノ機關ノ充實ヲ期スルト
  云フコトガ時局ニ適應スルモノト認メラレテ、前々ヨリ其當時ノ政府ガ之ヲ
  提出致シマシテ、而シテ帝國議會ニ於テモ是ニ協賛ヲ與ヘラレテ居リマスト
  云フコトモ私ハ申上ゲタ、此意味カラ申上ゲマスレバ輕便鐵道ナルモノハ鐵
  道敷設法ニ書イテアル所ノ本鐵道デナイト言ッテモ宜シカラウト思フ、鐵道ニ
  ハ相違アリマセヌケレドモ、敷設法ニ謂フ所ノ本鐵道デアリマセズ、略式ノ交
  通機關ト云フコトニ御了承下サイマシタナラバ是デ御了解下サレマセウト思
  フ、單ニ理論一方デ議論ヲ致シマスレバ種々ナルコトガ出來マセウケレドモ、
  實際上ニ於キマシテハ斯樣ナル見地ヨリ、豫算ニ單ニ費用ヲ計上シテ御協賛
  ヲ求メ、帝國議會モ亦兩院共ニ其見解ヲ是認サレテ是マデ認メ來ラレテ居ッタ
  ノデアリマスルト私ハ信ジマスル、此先例ガ憲法違反トカ法律違反ト云フコ
  トニナリマスルナラバ、先例アリト雖モ尙考慮致サナケレバナリマセヌケレ
  ドモ、現當局モ決シテ憲法違反ニハ非ズ、先覺者モ適當ナル所ノ考案ヲ下シ
  テ、又帝國議會モ亦適當ナル考慮ヲ費サレテ、此是認サレマシタ好慣例トス
  ルト云フコトニ認メマシテ、是ニ提案致シタ次第デアリマス、以前ノト云フモ
  ノハ僅ナ數デアル、僅カナ數ナラバ宜イガ、經費ガ今囘ノハ六万圓以上ニモ
  ナッテ、僅カナ經費ノモノガアルカラト言ッテ斯カル經濟ノ集積シタモノガ宜
  イト云フ譯ニハ行カヌデハナイカト云フ御質問ト心得マス、是ハ程度ノ上ニ
  於テハ得失ハ輕減シタイノデアリマスルガ、法規違反ト云フコトニハ何等關
  係ナキコトヽ私等存ジテ居リマス、旣ニ先刻ノ御尋デアリマシテ一本一本ノ
  數ハ私記憶致シマセヌカラシテ、ザット調ベマシタ所デモ餘程ノ數ガ是マデア
  リマス、決シテ五本ヤ十本デアリマセヌ、斯ル澤山ノ線路ヲ歷代ノ內閣ニ於
  テ輕便鐵道トシテ豫算ニ請求ジテ兩院ヲ通過シテ居ルノデアリマス、而シテ
  金高ヲ見マスレバ百万圓ヤ二百万圓デハゴザイマセヌケレドモ、今囘ノ金高
  ハ成程多イニ相違ゴザイマセヌ、數十本ノ鐵道ガ是マデ輕便式デ豫算ニ計上
  シテ御協賛ヲ求メマシテ、是ハ通過シテ居ル、今度ノハ金ガ倍ニナッテ居ル、
  ソレ故ニ不都合デアルト云フ御咎メデアリマスナラバ、是ハ金高ノ大ナルモ
  ノハドウカ外ニ仕方ハアリマセヌカト云フ御話ナラバ承リマスルガ、單ニ金
  高ガ殖エタカラト言ウテ宛モ法律違反ノ如キノ御尋ネニナリマシテハ政府
  ニ於キマシテモ左樣ニハ思ヒマセヌ、金ノ多イ少イハゴザイマスレドモ金
  ノ數ハヨシンバ一億万圓一千万圓乃至五百万圓ト致シマシタラ、數カラ云ヘ
  バ五百万圓ハ一億万圓ニナルト二十倍一千万圓ナラバ二倍ダ、成程大ナル相
  違デアル、併ナガラ法規違反ト云フコトニ至リマシタナラバ、五百万圓モ法
  規違反、一千万圓モ法規違反デ、此點ニ於テハ少シモ相違ハナイト思ヒマス、
  私ハ斷ジテ唯今ノ御質問ノ如キ見解ヲ執ッテ居リマセヌ、併ナガラ此從前ノ政
  府ノ解釋見解、帝國議會ノ協賛シ來タ所ノ見解ガ宜シクナイカラ、將來改メ
  ナケレバナラナイト云フコトニ、新タナル法律若クハ帝國議會ノ決議デモ出
  來マシタナラバ、是ハ謹ンデ奉ジナケレバナラヌ、我〓モ奉ズル譯デアリマ
  スル、從前斯ル線路ガ三十本モ五十本モ線路ガ出來テ居ル、何等異議ナク兩
  院ヲ通過シテ來マシテ今囘輕便式ノ從來ノ式ニ依リマシテ豫算ヲ請求致シタ
  場合ニ於キマシテ,法規違反、議院ヲ無視シタト云フ御質問ニ對シマシテハ
  斷ジテ無視シテ居ラナイ、此理由ハ上來申述べマシタ次第ヨリ御答申上ゲテ
  御了解ヲ願ヒマス外ハゴザイマセヌ、以上申上ゲマシタ次第ニ依リマシテ、
  幾度カ御質問ヲ繰返シ答辯ヲ繰返シ繰返スコトハ幾ラデモ致シマスガ
  意思ノアル所ハ十分御了解ノコトヽ存ジマスルカラシテ、何卒此邊デ御了察
  ヲ願ヒタイト存ジマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=90

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• 091・湯淺倉平

  ○湯淺倉平君　重ネテ御答辯ヲ煩ハシマシタガ、熟〓了解ヲ致シ兼ネルノデ
  アリマス、試ニ言ヒ現ハシ方ヲ換へテ御尋ネ申上ゲテ見タイノデ、唯〓ノ御
  答辯ニ依リマスレバ、輕便鐵道ナルモノハ鐵道敷設法ニ所謂鐵道ニ非ズ、斯
  樣ナ御答辯デゴザイマシタガ、鐵道敷設法ニ依ラザル鐵道ナルモノガ如何ナ
  ル法律ニ依ッテアルノデゴザイマスカ、一方カラハ輕便鐵道ハ鐵道ニアラズト
  ハ言ヘナイ、是ハ然ルベキコトヽ考ヘマス、輕便鐵道ヲ鐵道ニアラズト云フ
  御答辯デアリマスナラバ鐵道ニアラズト云フ論法ト同ジコトヽ考ヘル、併ナ
  ガラ一方ニ於テハ輕便鐵道ハ鐵道敷設法ニ所謂鐵道ニアラズ、斯樣ナ御答辯
  ヲ下サレタノデアリマスガ、帝國ニ必要ナル鐵道、果シテ然ラバ輕便鐵道ハ
  帝國ニ必要ナラザル鐵道、斯樣ニ解シテ差支ナイモノデアリマセウカ、又大
  臣ノ御答辯ニ依リマスト先例ガアル、是ガ唯一ノ御主張ヲ支ヘル根據ニナッテ
  居ルヤウニ伺ヒマスガ、若シ此先例ガ惡例ナリト致シマシテ極メテ小ナル惡
  例諺ニ申ス白壁ノ微瑕ト云フモノデアルト致シマシタナラバ、此微瑕
  小ナル惡例ヲ何處マデモ濫用シ妄用シテ遂ニ白璧ノ全部ヲ悉ク瑕ニスル斯ウ
  云フヤウナ御趣旨デハアリマスマイカ。前ニモ申シマシタガ、輕便鐵道建設
  費ノ方ガ段々ニ膨大シテ、遂ニ本鐵道建設費ナルモノハ其跡ヲ絕タムトスル
  ヤウナ有樣ニナル、而シテ現行ノ法律ハ立法事項ナルコトヲ明定シテ居ルノ
  デアリマス、其立法事項ニ屬スル所ノモノヲ段々ニ其經費ヲ減ラシテ、其跡
  ヲ絕ツコトシ、サウシテ一面ニハ法律ノ根據ナクシテ輕便鐵道ナルモノヲ
  拵へ、其費額ガ急ニ膨脹ヲ致シ、一億五千万圓ト云フ莫大ナル金額ヲ豫算ノ第
  一目ニ追加ヲスル、斯樣ナル政府ノ御計畫ハ果シテ適當ナル處置デアリマセ
  ウカ、立法議會ノ協賛權ヲ無視スルモノニアラズト云フ御說デアリマスケレ
  ドモ、是ハ唯先例アリト云フコトヨリ外ニ承ルベキ根據ハ少シモ無イト考ヘ
  ルノデアリマス、若シ鐵道敷設法以外ニ、輕便鐵道ト云フモノハ斯ウ云フモ
  ノデアルト云フ根據ヲ御示シニナルコトガ出來マスナラバ伺ヒタイト思ヒマ
  ス、若シ是レナシト云フコトデアリマスルナラバ、何故ニ鐵道敷設法ノ改正
  案ニ此線路ヲ計上ニナラナイカト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス、尙ホ重
  ネテ申シマスルガ、輕便鐵道ト云フモノハ如何ニモ輕便ナルモノデアル、簡
  易ナモノデアル、斯樣ナル風ニ聽取レルヤウナ御說明デアリマスケレドモ、
  二十一線新規ニ御建設ニナラウト云フ線ノ中ニハ、非常ニ重要ナル線ガアル
  ト考ヘテ居ルノデアリマス、又現在ニ於テ鐵道敷設法ニ所謂鐵道、其鐵道ノ
  延長ヲスルト云フ線ヲ、鐵道敷設法ノ改正ニ依ラズシテ輕便鐵道ト云フコト
  デ御提案ニナッテ居ル次第ハ何故デアリマセウカ、甚解スルニ苦シム次第デア
  リマス、重ネテ御答辯ヲ煩ハシマス
  〔國務大臣元田肇君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=91

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• 092・元田肇

  ○國務大臣(元田肇君)　ドウモ私ハ御問ノ趣旨ヲ能ク諒解シ得ナイノデアリ
  マスルガ、又私ノ御答ガ御諒解ヲ得ルダケニ明白ニ申上ゲルコトガ出來ナカッ
  タノデアリマスルカ、其邊ノ所ハ今日以後ニ速記錄デ御問ヒヲ拜見イタシマ
  シテ、尙疎漏ガゴザイマシタナラバ正確ニ御答ヲ致シタイト思ヒマス、唯今
  ノ中ニ輕便鐵道ノ中ニハ餘程重要ナルモノガアル、斯樣ナルモノヲ鐵道敷設
  法ノ中ニ加ヘテヤラズシテ、先例ガアルカラト云ッテ其ノ先例ニ依ルト云フコ
  トハ、惡例デアルナラバ止メナケレバナラヌデハナイカ、斯ウ云フ御質問ト
  私ノ耳ニ落チマシテゴザイマスル、先刻モ申上ゲマシタ通リニ、此先例ガ惡
  イ、若クハ法規違反デアルト云フコトニ定マレバソレハ將來變ヘナケレバナ
  ラヌ、是マデ歷代ノ內閣ニ於テカラニ、成ルホド數ハ十本ガ二十本ト云フヤ
  ウナ違ヒモゴザイマセウ、五本ガ二十本ト云フ違ヒモゴザイマセウガ、同
  ノ式ニ於テ御協賛ヲ得來ッテ居ルノデゴザイマス、法規違反トハ心得マセヌ、
  ソレ故ニ今囘モ其式ニ依ッタ譯デアルト云フコトヲ申上ゲタノデ、此點デ、惡
  イモノナラバ先例ヲ奉ズル必要ハナイヂヤナイカト云フ御質問ニ對シマシテ
  ハ、御諒解下サルコトヽ思ヒマス、惡イモノト知ッテ出シタト決シテ私ハ申サ
  ヌ、誠ニ適當ナル先例デアルト云フコトヲ信ジテ、ソレニ依ッテ出シタ譯デア
  ルト云フ御答ヲ致シマシタノデアリマスルカラ、惡イト云フコトガ極。ッタナラ
  バ無論改正シナケレバナラヌ、ソレデ御諒承下サルコトヽ思ヒマス、ソレカラ
  此中ニハ非常ナル重要ナルモノガアッテ敷設法ニ追加スベキヤウナモノガア
  ルガ、何故之ヲ追加セズシテ輕便鐵道ノ式デ出シタカト云フコトデゴザイマ
  ス是ハ既ニ先刻御答ヲ申上ゲタト思ヒマスガ、提案ノ際ニ成ルベク御質問
  ヲ煩ハサズト心得マシテ、不慣レナ私ガ少シク長キニ亙ッテ御意ヲ得マシタ、
  ソレハ本鐵道ニ越シタコトハアリマセヌガ、悉ク本鐵道ニ致シマシテハ廣ク
  敷設スルコトガ出來ナイ、今日ノ地方ノ狀況ニ於キマシテハ、輕便式デ拵ヘ
  タモノデ交通機關ノ需要ニ應ズルコトガ出來ル、之ヲ本鐵道ノ式ニ依ッテ悉ク
  スレバ、五線ノモノガ僅ニ一線カ二線ホカ敷ケナクナッテ、普及サセルコトガ
  出來ナイ、故ニ今日ノ需要ニ應ズルニハ輕便式デ宜シイカラ、將來ハ改良シ
  テ本鐵道ニ直サナケレバナラヌモノモアリマセウケレドモ、今日ハ今日ノ需
  要ニ應ズル、尤モ財政ニ限リアルコトデアリマスカラ、其範圍ニ於テ成ルベ
  ク出來得ル方針ヲ執ッタノデアルト申上ゲテ置キマシタ、是デ重要ナルモノモ
  アルガ地方ノ要求ハ輕便式デ宜シイト云フ見解カラシテ、之ニ依ッタト云フコ
  トハ御諒解ニナルコトヽ存ジマス、サウデナイ地方ノ狀況モ本鐵道デナケレ
  バナラヌト云フ御意見デアルナラバ、是ハ御意見デアリマスカラシテ、私ハ
  御意見ヲ遮ッテサウデナイト御質問ノ際ニ爭フコトハ愼ムデ致シマセヌ、唯趣
  旨ノアル所ダケハ是デ御諒解下サルコトヽ存ジマス、ソレカラ今一ツハ一億
  何千万ト云フモノヲ目ニ入レテ之ヲ出スト云フコトハ不都合デナイカト云フ
  御尋デアッタヤウニ心得マス、是ハ今日マデノ所ハ一億トマデハナッテ居リマ
  セヌケレドモ隨分多數ノ何ヲ、計數ヲ、要求額ヲ斯樣ナル式ニ於テ求メ來ッテ
  居リマスノガ、鐵道院時代ヨリノ經過デアルト存ジマス、殊更ニ今囘其慣例
  ヲ變ジマシテ爲ニスル所アッテ斯樣ナルコトヲ致シタト云フコトデハ、斷ジテ
  無イノデアリマスルカラ、是モ御了承ヲ願ヒタイ、唯金高ガ大キイカラ是ハ
  ドウモ面白クナイ、ドウカ外ニ仕方ガアルマイカト云フコトハ御意見ニ屬ス
  ルノデアリマス、兎ニ角先例ニ依ッテ出シマシタカラ、百圓ナラバソレデモ宜
  シイガ、千圓デアルカラシテ不都合デアル、斯樣ナ御見解デアラセラルヽナ
  ラバ已ムコトヲ得ヌノデアリマス、當局ノ出シマシタノハ斯樣ニ致シテ少シ
  モ差支ナイ、殊ニ年度割等ノ如キモソレ〓〓御覽ニ供シテ御協賛ヲ仰グ譯デ
  アリマスルカラ少シモ差支ナイ考デアリマス、右樣ノ見解ヲ以チマシテ今囘
  ノ提案ヲ致シタノデアリマス、御質問ノ御趣意ニ適ッタカドウカ存ジマセヌ
  ガ、答辯ノ理由ノアル所ダケハ御了解ヲ願ッテ置キタイ、尙ホ御分リニナラヌ
  コトガゴザイマスルナラバ、何囘デモ答辯ノ出來ルダケハ致シマスルガ、若
  シ先刻モ申上ゲマシタル通リニ御尋ニナッタコトヽ云フモノヲ充分ニ了解シ
  得ズ、言葉ノ上等ニ於テ錯誤ガ有ルトカ何トカ云フコトヲ發見イタシマシタ
  ナラバ、速記錄ヲ拜見シタ上ニ御了解ニナルヤウニ、自分ハ御答ヲ更ニ致ス
  コトモ致シマス、是モ附加ヘテ申上ゲテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=92

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• 093・湯淺倉平

  ○湯淺倉平君　度〓ノコトデアリマスルカラ、長クハ申シマセヌ、鐵道大臣
  ノ御主張ハ先例ガ唯一ノ楯デアッテ法律上ノ根據ハ少シモ御示シニナラナカッ
  タノデアリマスルカラ、其點ニ付キマシテ今一應御尋ヲ致シタイノデアリマ
  ス、輕便鐵道ヲ敷クト云フ形式ニ於テ鐵道ヲ建設スレバ經費ハ安ク濟ム、財
  政上其他利益ニナル、ソレ故ニ鐵道敷設法中ニ澤山ナ新線ヲ計上セズシテ、
  輕便鐵道ト云フ豫算ノ費目デ議會ニ協賛ヲ求メタノデアル、斯樣ナ御答辯ガ
  少シモ私ニハ其趣旨ガ分リマセヌノデアリマス、何トナレバ鐵道敷設法中ニ
  計上サレルト否トニ依ッテ、鐵道建設費ニ相違ヲ來タス筈ハ無イト考ヘルノデ
  アリマス、鐵道敷設法ノ二條ニ從來列擧サレテ居ル所ノ幾多ノ新線、之ニ附
  加ヘルニ本囘御提案ノ二十一線路ノ中全部若クハ其大部分ヲ重ネテ御提出ニ
  ナリマシタ所デ、何故ニ財政上節約ニナルノデアリマセウカ、鐵道敷設法ハ
  本鐵道ハ斯ノ如ク建設スベシ、輕便鐵道ハ斯ノ如ク安ク········安イ費用ヲ以テ
  建設スベシト云フコトヲ命ジテ居ル法律デハナイノデアリマス、等シク鐵道
  デ其線々ニ依ッテ、甲ノ線ハ重要ナ線デアルカラ、建設費ニ幾分多額ノ費用ヲ
  投ズル、乙ノ線路ハ比較的重要ナ程度ガ輕イノデアルカラ、之ニ對シテハ幾
  分ノ經費ヲ省ク、斯ウ云フコトニナリマシタ所デ、少シモ差支ハ無イ、然ル
  ニ經費節約ノ理由ヲ以テ、鐵道敷設法ノ改正トシテ議會ノ協賛ヲ經ラレナケ
  レバナラヌモノヲ、此機會ニ提案サシルト云フ理由ニ至リマシテハ、是マデ
  數囘ノ御答辯ヲ煩ハシマシタケレドモ、全ク了解スルコトノ出來ナイモノデ
  アリマス、若シ尙ホ重ネテ今マデ御答辯ニナッタノト同一ノ御答辯デアリマ
  スルナラバ、重ネテ御答辯ヲ煩ハスノハ無用ノコトヽ存ジマスルカラ、其御
  答辯ハ求メマセヌ、若シ唯今伺ヒマシタ點ニ付キマシテ、是マデノ御答辯以
  外ニ正當ナ理由ヲ御示シニナルコトヲ得マスルナラバ御答辯ヲ煩ハシタイト
  思ヒマス、尙ホ餘リ重ネテ御尋ヲ致シマスルカラ、更ニ御答辯ガアリマシテ
  不幸ニシテ本員ガ御答辯ニ滿足スルコトヲ得マセヌニ致シマシテモ、今囘ハ
  是デ終リマシテ、改メテ伺フ機會ヲ得タイト考ヘマス
  〔國務大臣元田肇君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=93

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• 094・元田肇

  ○國務大臣(元田肇君)　甚ダ遺憾ナコトデゴザイマスルガ、私ノ御答辯ニ御
  滿足ニナラヌト云フコトハ誠ニ遺憾千萬ニ存ジマス、先刻モ申上ゲタ通リ、
  悉ク私ノ耳ニ徹底イタシテ居ラヌコトモ有ルカモ知レマセヌガ、若シ左樣ナ
  コトガ有リ、又私ノ答辯ガ御問ニ副ハナイコトヲ發見イタシマシタナラバ、
  速記錄ヲ見テ重ネテ詳細ナル御答ヲ致シマセウト云フコトモ豫〓ヲ申上ゲテ
  置キマシタ、是ハ依然トシテ成ルベク速記錄等ヲ拜見イタシマシテ、御滿足
  ノ出來得ラルヽマデニ御答辯ヲ致スコトニ努メタイト、私ハ存ジテ居リマス、
  ソレカラ慣例ガ有ルカラト云フダケデハ滿足ガ出來ナイ、斯樣ナ唯今ノ重ネ
  テノ御言葉デアリマスルガ、何レ細カナルコトハ尙ホ補充イタス時期モアリ
  マセウガ、慣例モ一ツカ二ツノ慣例ナラバ左樣ノコトモ或ハ承ハリ得ルカト
  モ存ジマスルガ、是マデニ輕便鐵道トシテ鐵道敷設法ニ、改メテ一期線ニ入
  レマセズシテ建設イタシマシタモノガ確カ三十、四十モ有ルヤウニ存ジマス、
  斯カル多數ノ線路ガ歷代ノ內閣ニ於テ御協賛ヲ經テ········政府バカリデヤッタ
  モノデハアリマセヌ、而シテ貴族院ニ於カセラレマシテモ更ニ協賛ヲ與ヘラ
  レテ今日マデノ例ヲナシテ來タモノニ從ヒマシテ茲ニ提案ヲ致シテ、今日痛
  ク御咎ヲ蒙ルト云フコトハ、誠ニ私ハ遺憾ニ存ジマス、併ナガラ法規違反等
  デアリマスレバ、御尤千萬ノコトデアリマスガ、私ハ法規違反トハ心得テ居
  リマセヌ、居リマセヌト云フ理由ノ說明ガドウモ足ラヌト云フ御言葉デアリ
  マスルカラ、政府ノ見解ハ具サニ速記錄ノ御問ニ對シテカラニ申上ゲル機會
  ガアリマセウ、以上繰返シタノヲ以テ御了解下サルコトナラバ、御了解ヲ仰
  ギマスルコトデ、又了解セラレヌデ今日ハ是デ止メル、御止メ下サルナラバ
  私ハ此答辯ヲ以テ今日ハ退クヨリ外アリマセヌ、是ダケヲ申上ゲテ置キマス
  〔中村是公君發言ノ許可ヲ求ム〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=94

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• 095・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　中村君ニ申上ゲマスガ、矢口長右衞門君カラ通〓
  ヲ得テ居リマスルカラ、矢口君ガ濟ミマシタラバ貴下ニ御許シスル積リデア
  リマス、矢口長右衞門君登壇ヲ請ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=95

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• 096・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　當席カラ····

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=96

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• 097・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　登壇ヲ請ヒマス
  〔矢口長右衞門君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=97

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• 098・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　甚ダ暑イノヲ、時間ヲ重ネマシテ議員諸君ニ失禮デゴザ
  イマス、此議會ノ中ニハ鐵道ト云フコトニ付キマシテ、非常ナル老練家ガ幾
  多見エテ居リマスルソレデ其御方ヲ差置イテ私ガ玆ニ質問スルト云フコト
  ハ甚ダ僭越デハゴザイマスガ、以前ノ議會ノ關係上其他ノ行掛カリ上カラ致
  シテ、一言ノ玆ニ質問ヲ致スノ已ムヲ得ザルノデゴザイマスカラ、ドウゾ暫
  時御〓聽下サレマシテ私ノ質疑ノ要點ヲ御聽キ下サイマスコトヲ希望致シマ
  ス、其質疑ニ先ダチマシテ新鐵道大臣ニ一言チヨット申上ゲテ置キマスルガ、
  質問ニ對シテ何等ノ惡感情ヲ懷カレヌコトヲ私ハ希望致シテ置キマス、先刻
  私ハ司法大臣ニ向ヒマシテ質問ヲ致シマシタ所ガ、非常ニ感情ヲ害シタカノ
  如ク私ハ甚ダ迷惑ヲ感ジマシタ、苟モ一議員ガ大臣ニ向ッテ質問スル際ニ何
  等ノ私意ヲ挿マヌ、ソレノミデナク何等ノ意趣ガアッタノデモナイニ、ソレヲ
  質問シタニ對シテ非常ニ激〓サレタカノ如キ感情ヲサレルコトハ、全ク議員
  ニ取ッテハ少シク迷惑デアルカラ、ドウカ私ノ質問ニ對シテモ、元田新大臣ハ
  ドウカ冷靜ニ御聽キ下サイマスコトヲ希望イタシマス、四十二議會ニ於キマ
  シテ私ハ鐵道ニ對シテ質問ヲ提出致シマシタ、デ其要領ハ何デアルカト云フ
  ト鐵道ハ鐵道省ト云フモノニシテ、而シテ専任大臣ヲ置クト云フコトヲ申
  シマシタ、其際ハ其理由ハ何デアルカト云フト、院內ノ統一ヲ期セヨ、輸送
  力ヲ十分ニセヨ、調査ヲ完全ニセヨト云フ此三要件ヲ申上ゲマシタ、デ爾來
  鐵道院ハ其方針ニ依ッテ果シテ能ク履行サレテ居リマスノデアルカ、院內ノ統
  一ト云フコトハ、是ハ言フマデモナク事務ヲ進行サレル上ニ於テ最モ必要ナ
  ルモノデ、ソレガ群雄割據ノ如ク個々別々ニナッテ居ルト云フコトハ、洵
  充分ノ發展ヲ期スル上ニ付テ、甚ダ遺憾デアルカラ此點ニ付テ、注意シテ下
  サイト云フコトヲ申上ゲマシタコトガゴザイマス、ソレデ玆ニ甚ダ遺憾ナノ
  ハ鐵道院前總裁ノ見エナイノハ甚ダ遺憾デアリマスガ、サウ云フヤウナコト
  ヲ申上ゲ、爾來是等ニ付テ充分其邊ハ心ニ期シテ我〓ノ意ヲ容レラレタコト
  ト信ジテ居リマス、ソレデ或人ハ私ニ斯ウ云フコトヲ言ヒマシタ、今囘ハ鐵
  道省モ出來、專任大臣ガ出來、君ノ理想ガ通ッタラウ、非常ニ愉快ジヤナイ
  カト云フヤウナコトヲ私ノ所ニ態〓書面ヲ寄越シタ者ガアリマス、併シソレ
  ガ私ハマタ分ラヌ、未ダ新大臣ノ果シテ如何ナル抱負ヲ有ッテ居ルカ、ソレサ
  ヘ分ラナイノデアルカラ、院ガ一省ニナッテ專任大臣ガ出來タカラ、ソレデ
  私ハ滿足スルト云フコトハ言ヘナイ、願ハクバ元田大臣ハ如何ナル抱負ヲ有
  シテ居ルカ、ドウ云フ卽チ經歷ヲ持ッテ居ルカト云フコトヲバ非常ニ聞カム
  ト欲シタノデアリマス、併ナガラ未ダ其手腕ヲ振ハヌ內ニ········見ナイ中ニ之
  ヲ批評スルノハ甚ダ早計デゴザイマスカラ、私ハ是ハ申上ゲマセヌデ、暫ラ
  ク大臣ノ爲ス所ヲ見ムト欲スルノデゴザイマス、ソレデ一言茲ニ質問ヲセム
  ト欲スルノハ、敷設法中改正案、此前囘ノト此本囘ノト對比シテ見ルト餘リ違
  ヒハナイ、是ハ尤モ前ノ案ヲ踏襲シタカラサウデアルト、斯ウ言ヘバソレマ
  デヽアリマスガ、元田大臣ハ果シテ充分ノ精査ヲ遂ゲラレマシタカ、或ハ前
  ノヲ唯ダ鵜呑ミニシタノデハナイカト云フ、斯ウ云フ私ハ觀念ガ起ルノデ、
  マサカニ大臣ハサウ云フ氣遣ヒハゴザイマスマイガ、ドウモサウ云フ觀念ガ
  何トナクドウモ胸ノ中ニ起ルノデアリマス、ソレヲ一ツ御聽キ致シマス、ソ
  レカラ今一ツハ能ク世ノ中デ申シマス、鐵道ト云フコトハ非常ニ弊害ガアル、
  何故カト云フト黨勢擴張ニ利用スル、黨本位デヤルトカ、サウ云フヤウナコ
  トヲ世間デ言ッテ居ル、尤モ是ハ一部デ吾輩ハサウ云フ說ニハ耳ヲ假サナイ、
  專任大臣ガ苟モ大臣トシテ政事ヲ行フニハ、サウ云フ不公平ヲシナイト云フ
  コトハ必ズ信ジテ居リマス而シテ此敷設法中ニモサウ云フ意味ハナイト云
  フコトヲ信ジテハ居リマスケレドモ、先刻施政ノ方針トカ云フヤウナコトデ
  チヨット御論及ガアリマシタガ、其事ニ付テ思ヒマスル、新大臣ハ此際其邊
  ニ付テ明カニ意思ノアル所ヲ、簡單デ宜イノデアルカラ御明言ヲ願ッテ置キ
  タイノデアリマス、又詳細ナル外ノコトハ重複ニナリマスカラシテ、私ハ此
  要點デ止メテ置キマス、宜シク御說明ヲ願ヒマス
  〔國務大臣元田肇君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=98

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• 099・元田肇

  ○國務大臣(元田肇君)　矢口君ヨリノ御尋ニ對シテ御答ヘヲ申上ゲマス、第
  一ニ閲歷抱負トカ云フコトノ御尋ネデゴザイマシタガ、是ハ御問ニナッタノ
  カナラヌノカ能ク分リマセヌガ、私ハ御承知ノ通リニ何等申上ゲル程ノ閱歷
  ハ無イモノデアリマス、抱負ハ既ニ鐵道省ニ拜命ヲ致シタノデ、今日マデ辭
  職セズニ居ルノデアリマスカラ多少持ッテ居リマス、併シ今日ハ此處デ一々申
  上ゲテハ皆樣ノ御迷惑ニナリマスカラ差控ヘタ方ガ宜シカラウト思ヒマス、
  今囘ノ提案ニ付キマシテ、調査ヲ遂ゲタノデアルカ、前ニ出シテアッタカラ
  鵜呑ミニシタノデアルカト云フ御尋デ、是ハ先刻提案ノ趣旨ヲ申述ブル時ニ
  豫メ申上ゲテ置キマシタ、政府ハ曩ニ調査審議ノ上ニ四十二議會ニ本案ヲ提
  出サレテ居ル、是ハ私一個ノコトニ移リマスガ、不肖拜命致シタ以後ニ於キ
  マシテ更ニ審議調査ヲ遂ゲマシテ、愈〓以テ此案ノ至當ナルコトヲ認メテ再ビ
  提案ヲ致シマシタ、斯樣ニ申上ゲタ積リデアリマス、私ノ此ノ審査ヲ遂ゲル
  時ニ遺憾ニ思ヒマシタノハ、鐵道會議ニ於キマシテハ全然贊成ヲ受ケテ居ル
  ノデアリマス、衆議院ニ於キマシテモ········唯今何トカ黨本位トカ云フ御尋ガ
  アリマシタガ、衆議院ハ貴族院ト違ヒマシテ、各派ノ黨カラ出テ居ル人ノ居
  ル所デアリマス、是ガ滿場一致デ何レノ黨派モ非難ナク〓望ヲ以テ迎ヘテ今
  囘モ決議ニナッタ、前囘モ然リデアリマス、サウ云フ經過モアリマスルシ、私
  ノ取調べニ依リマスレバ適當ノ提案ナリト云フコトヲ確認致シマシテ提案致
  シタノデアリマス、是ハ委員會ニ參リマシタナラバ御求メガ假リニ無イト致
  シマシテモ、私ハ自ラ進ンデ自己ノ所信ヲ御訴ヘ申ス爲メニ、各線路ニ付テ
  調査ノ模樣ヲ御話致シタイト存ジマス、此所デハ略シマス、ソレカラ二ハ黨本
  位ト云フコトノ說ガアルガ、ソンナコトハアルマイト云フサウ云フ少々奇怪
  ナル御尋ネデアリマスガ、ソレハ新聞等ニイロンナコトガ書イテアリマスガ、
  斷ジテ左樣ナコトハゴザイマセヌ、ゴザイマセヌノミナラズ、不肖私ガ當局
  ニ居ル間ハ、斷ジテ斯カルコトハ許サヌト云フ決心デアリマス、併ナガラ內
  外ニ對スル聲望モ乏シイモノデゴザイマスカラシテ、一般ヲシテ之ヲ禁ゼシ
  ムルコトガ出來ルカ出來ナイカ存ジマセヌガ、斷ジテ不肖其局ニ當ル間ハ、
  左樣ナル間違ッタルコトハ決シテ致サヌト云フ決心ヲ有ッテ居リマス、御尋ネ
  デアリマスカラシテ、御答迄ニ申上ゲテ置キマス
  〔矢口長右衞門君發言ノ許可ヲ求ム〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=99

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• 100・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　矢口君ハ唯〓ノ續キデゴザイマスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=100

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• 101・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　左樣デゴザイマス、續キデゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=101

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• 102・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　宜シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004303242X00819200712&spkNum=102

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• 103・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　唯今ノ御答辯ニ依リマシテ、私ノ問ハムトスル所ハ明瞭
  イタシマシタ、ドウカ國家ノ爲ニ充分國家本位デ此鐵道ノ爲ニ盡サレムコト
  ヲ御望イタシマス

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• 104・中村是公

  ○中村是公君　此席カラ申上ゲテ宜シウゴザイマスカ

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• 105・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　宜シウゴザイマス

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• 106・中村是公

  ○中村是公君　私ハ此問題ニ付テ御質問ノ必要ハナカッタノデアリマスガ、先
  頃湯淺君ニ對シテ當局大臣ノ御辯明ヲ聽イテ、已ムヲ得ズ玆ニ一言御尋ネヲ
  セニヤナラヌコトニナッタノデアリマス、ソレハドウ云フコトデアルカト申
  シマスルト、湯淺君ノ御問ニ輕便鐵道ハ如何ナルモノデアルカ、斯ウ云フ御
  尋ニ對シテ大臣ノ御答辯ニ依リマスレハ結局ノ所ハ鐵道デハアルガ、敷設
  法ニ依ル鐵道デハナイノデアル、斯ウ云フ御答辯デアリマス、果シテ輕便鐵
  道ヲ鐵道デアリ、敷設法ニ依ラザルモノナリト、斯ウ致シマスレバ、苟クモ
  行政行爲ニ於テ、法規ニ依ラザルモノハアルマイト思フ、如何ナル法規ニ依。ツ
  テ輕便鐵道ト云フモノヲ御認メニナルノデアルカ、又輕便鐵道ノ營業ハ何ノ
  規定ニ依テ營業ナサルノデアルカ、又之ヲ建設イタシマスルノニハ、如何ナ
  ル法規ニ依ッテ御建設ニナルノデアリマスカ、又敷設法ニ所謂鐵道ニアラズ、
  併ナガラ鐵道デアル、斯ウ致シマスルト云フト、其輕便鐵道ト云フ本體ハ如
  何ナル規定ノ下ニアリマスルノデアリマスカ、私ノ見ル所ニ依レバ、輕便鐵
  道ト云フモノヲ認メタ法規ハ何等承知シナイノデアリマス、又輕便鐵道ヲ營
  業致スベキ營業法ト云フモノモ見マセヌ、又輕便鐵道ヲ建設スベキ建設規定
  ト云フモノモ承知シテ居ラヌ、カルガ故ニ私ノ惑ヒヲ解イテ戴ク爲ニ、輕便
  鐵道ハ何ノ規定ニアルノデアルカ、又何ノ規定ニ依ッテ建設スルノデアルカ、
  何ノ規定ニ依リテ營業シテ行クノデアルカ、此三點ノ法規ノ關係ニ付テ御伺
  ヒヲ致シタイノデアリマス、次ハ建設ノ經費ガ本線ヨリ少イ、斯ウ云フ御話
  デアル、カルガ故ニ經濟ノ關係財政ノ關係カラシテ、本線ニ依ラズシテ輕便
  鐵道ノ安イ建設費デヤルヤウニスル、斯ウ云フ御話デアル、輕便鐵道ノ費用
  ト同樣ノ費用ヲ以テハ、敷設法ニ規定シテアル豫定線ハ爲スコトヲ得ナイノ
  デアルカ、反對ニ御尋ネヲシテ見タイノデアリマス、輕便鐵道ヲ建設スルノ
  費用ニ相當スルモノヲ以テ、敷設法ニ依ッテ揭ゲテアル線路ハ建設ハ出來ナ
  イノデアルカ、本線ヲ敷設スル費用ニ制限ガアリマスヤ否ヤ、私ノ記憶スル
  所ニ依レバ、建設條規ト云フモノハアル、併ナガラ是ノ經費ニ付テノ制限ノ
  アルコトヲ嘗テ承知イタサヌノデアリマス、カルガ故ニ反對ニ御尋ネシタイ、
  輕便鐵道ト同樣ノ費用ヲ以テ本線ヲ建設シタナラバ、法規ニ違反スルヤ否ヤ、
  此點ニ付テ御答ヲ得タイノデアリマス、最後ニ御尋ネヲ致シタイノハ、慣例
  ニ依ッテト斯ウ云フ御話デアル、其慣例ト云フモノハ如何ナル慣例デアルカ、
  之ヲ伺ヒタイ、私モ慣例ニ依ッテヤルノデアルト云フコトヲ否認スル者デハ
  ナイ、輕便鐵道ハ從來ヤッテ居ルコトハ認メマス、認メマスルガ慣例ト云フ
  モノハ如何ナル慣例ガ、今日迄貴族院衆議院ガ認メテ居ルカト云フコトヲ御
  尋ネシタイノデア、ル、私ノ承知イタシマスル所ニ依リマスレバ、今日迄ノ慣
  例ハ今御尋ネシタヤウナ經費ノ安イノヲ以テ、此輕便鐵道ト見テ居ルト云フ
  慣例デハナカラウト思フ、所謂線路ヲ法律ニ揭グテ、線路每ニ議會ノ協賛ヲ
  經ナイト云フ一ノ例外ヲ認メテ來タノデアル、苟モ帝國ニ必要ノ鐵道ハ、我
  ガ日本帝國ノ鐵道敷設ノ大原則ト云フモノハ、各線路ノ名ヲ揭ゲテ議會ノ協
  贊ヲ經ナケレバナラヌト云フコトハ、先刻湯淺君ノ御述べノ通リデアリマス、
  是ニ對シテハ事業ノ一時ノ便宜ノ處置トシテ、線路每ニ議會ノ協賛ヲ經ザル
  コトヲ得ルト云フ慣例ガ出來タノデアル、是モ私ハ認メルノデアル、是ハ必
  ズシモ私ハ不當ノ慣例デナイト思ヒマス、殆ド十年ニ垂ントスル間、線路別
  ニ議會ノ協賛ヲ經ザル慣例ヲ作ッタノデアリマス、所謂不文法トナッテ居ルノ
  デアル、カルガ故ニ私ハ線路毎ニ擧ゲテナイガ故ニ法規違反デアリ、所謂不
  文法ニ反スル、慣例ニ反スルモノデアルト云フコトハ申上ゲヌ、慣例ト云フ
  モノハ啻ニ線路ヲ明記シナイト云フコトノ例外ヲ設ケタト云フノミガ慣例
  デハナイノデアル、是ニ伴フニ金額ノ範圍ニ於テ自ラ慣例ガアルノデアリマ
  ス、是ハ又金額ノ範圍ニ付テ議會ガ大凡ノ程度ヲ認メテ置カナケレバナラヌ
  ト云フコトハ當然ノ話デアル、金額ノ例外ヲ苟モ認メタ以上ニ、大事ノ金額
  ニ付テ制限ヲ設ケズ、無制限ニ慣例ヲ作ルト云フコトハナイ筈デアリマス、
  ソコガ段々法律ヲ犯シテ行ク本ニナル、卽チ是迄認メタ金額ノ範圍ニ付テ申
  上ゲマスレバ、八年度迄ノ決算ヲ見マスルト、唯今湯淺君ガ申述ベラレタ通
  リニ、二千百万圓、輕便鐵道ハ········之ニ對スル本線ノ決算額ハ幾ラアルカト
  申シマスト二億五千百万圓デアリマス、約十倍以上ノモノガ本線ニナッテ居ツ
  テ、十分ノ一位ニシカ金額ニ於テ慣例ヲ認メテ居ラナイ、八年度迄ノ決算額
  ヲ見レバ········左モアルベキ筈デアル、ナゼカト申シマスレバ本線ニ揭ゲテア
  ルモノハ二億五千ナンボハ各線路別ニ法律ニ擧ゲテアル、サウシテ各線路毎
  ニ豫算ヲ計上シテ議會ノ協賛ヲ經ルノデアル、然ルニ拘ハラズ其法律ニ規定
  シテアル除外例ナルモノニ、ソレ以上ノ金額ノ範圍ヲ認メルト云フコトハ道
  理ニ於テアルベカラザルコトデアル、ソレデ今日迄ノ慣例ニ依リマスレバ、
  稍〓私ハ當ヲ得テ居ル十分ノ一位ハ行政廳ノ手心ヲ許ス爲ニ其金額ノ範圍ヲ
  議會ハ認メテ來タ、然ルニ今囘御提出ニナッテ居リマスル案ニ依リマスルト、
  一躍一億五千三百万ト云フモノガ御提出ニナッテ居ル、約十年ニ垂ントスル
  ノニ二千百万ニ對シテ、何倍ニナッテ居ルノデアル、而カモ積リ積ッテ十年
  間ノ金額ガサウダ、サウシテ本線ニ計上サレタモノハ如何デアリマスカト云
  フト、一億五千何百万ノ半數ニモ足ルカ足ラヌノ金額ガ揭ゲテアル、サウス
  レバ鐵道ヲ敷設スルノニ、線路別ヲ擧ゲテ議會ノ協贊ヲ經ロト云フ原則ノ方
  ガ少ナクテ、行政ノ便宜ノ爲ニ設ケタ一時ノ例外ノ方ガ金額ガ多クナリ、何
  倍ト云フ數ニ上ルノデアリマス、斯ノ如キ範圍ヲ認メルト云フコトハ、金額
  ニ於テサウ云フ厖大ナル範圍ヲ許スト云フコトハ、從來ノ慣例デハナイト私
  ハ思フ、線路別ニ付テ擧ゲテ行クト云フ精神カラ申シマスレバ、必ズヤ金額
  ノ上ニモ自ラ制限ガナクテハナラヌ、又慣例モサウナッテ居リマス故ニ、此
  點ニ付テハ慣例ニ私ハ違反スルモノデアル、卽チ慣例ヲ無視シ、法律ヲ段々
  蠶食シテ行クト云フ事柄ニナルト云フコトハ疑ヒナイヤウニ思フノデアリマ
  ス、此點ニ付テハ私ハ別ニ伺フ必要モ認メナカッタノデアリマスケレドモ、
  再三ノ御問答ヲ聽キマスルト、私ノ理解シテ居ルコトヲ裏切ラレルヤウニナ
  リマスノデ、已ムヲ得ズ玆ニ一言當大臣ノ御答辯ヲ煩ハシタイノデアリマス
  〔國務大臣元田肇君演壇ニ登ル〕

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• 107・元田肇

  ○國務大臣(元田肇君)　唯今輕便鐵道ヲ敷設スル所ノ慣例ノ根據トモナルベ
  キ所ノ法則ハ何レニアリヤト云フ、第一ノ御尋デアッタカト存ジマス、ドウ
  云フ根據ニ依ルカト云フコト、第二經費支辨ノ安キガ爲ト云フコトデナイト
  云フ御說明ガアリマシタ末、第三ニ移リマシテ、償例ト云フモノハ單リ線路
  ノ建築方法ヤ何カデハナイ、金高マデモ慣例ト云フコトニハ認メナケレバナ
  ラヌ、是マデノ慣例ナルモノハ金高ハ小サイ、除外例トモ取ルベキモノデア
  ルガ、今度ノハ金高ガ多イカラ以前ノ例ハ例トナラヌト云フ御主張ノヤウデ
  アリマス、中村君ハ豫テ當局ニ御出デニナリマシテ、親シク鐵道ニ御從事ノ
  御方デアリマスカラ極メテ此邊ノコトニハ明ルクアラセラルヽコトヽ確信
  イタシマス、私ハ唯今ノ二問ニ付テ必ズシモ御意見ニ承服スル譯デハアリマ
  セヌガ、先刻湯淺君ノ御尋ニ對シマシテ、速記錄ヲ見タ上デ尙ホ自己ノ意見
  ト云フモノニ合ハヌト云フコトガアリ、又足ラザル所ガアリ、御疑惑ヲ來ス
  ヤウナコトガアレバ其時ニ補充イタシタイト云フコトヲ願ッテ置キマシタ、
  御答辯カラシテ更ニ問ハナケレバナラヌコトデアリマスルナラバ、其時ニ御
  答ヘスルコトニドウカ御許シヲ得タイト思ヒマス、ソレカラ一番仕舞ヒノ慣
  例ニ依ルト云フノハ經費マデモ認メナケレバナラヌ、本則ノ除外例トナルモ
  ノハ、是マデアル自分モソレハ惡イトハ思ッテ居ラヌ、認メル、認メルガソレ
  ハ除外例デアル、除外例ト云フモノナラバ本則ニ依ルモノト云フモノガ、例
  ヘバ十ナラバ、除外例ノモノハ一カ零「コムマ」五倍ノモノナラバ除外例ト言
  ハレルケレドモ、是カ大キクナッテ來レバ、決シテ先例ト云フモノヲ以テ言
  フコトハ出來ナイト云フ御意見、是ハ敢テ質問スル譯デハナイ、自分ハ此意
  見ヲ取ッテ居ルト云フ御言葉デアリマス、御意見ノアル所ハ私ハ辯駁ヲ加ヘ
  ルト云フコトハ此場合ニ於テ愼シムベキコトヽ存ジマスルガ、是モ私ハ全然
  左樣ニハ申サレマセヌト思フノデ、私ノ答辯ノ趣旨ハ大體理論ヲ唱ヘテ論爭
  ヲシ合フト云フコトデアリマスナラバ、幾多モ理論ハアルデアリマセウガ、
  先刻來私ハ理論ニ馳セタコトハ成ルベク避ケテ御了解ヲ願ヒタイト思ッテ、御
  答ヘイタシタ積リデアリマスガ不辯ノ爲ニ意思ヲ徹底スルコトガ出來ナカツ
  タカ知レマセヌ、先例ニ唯金高ガ少ナイカラシテ、除外例ハ宜シイト云フノ
  ミガ徹底スル譯デハアルマイト思フ、線路ヲ定メテ敷キマスル所ノ其經費ガ
  少ナイ多イト云フノミガ除外例ニナル、ナラレヌ、慣例ニナル、ナラレヌト
  云フコトヲ決スルコトデハナカラウ、サウシテ經費ハ多少殖エマシテモ、其
  線路ノ實質上ガ同ジ輕便式ノモノデアル先例ガアリマスルナラバ、以前ノガ
  百万圓デ濟ンダノデアル、今度ノハ一千万圓ダケ數ガ殖エテ掛ルカラ、先例
  ニ供スルコトハ出來ナイト云フ御議論ハ、私ハ甚ダ是ハ適當ナ御見解デアル
  ヤ否ヤ、ドウモ容易ク承服ハシ兼ネルノデアリマス、併シ御意見ハ御意見デ
  アリマスカラ、唯是ダケヲ申上ゲテ置キマス、餘リ金高ガ多イカラ是ハモット
  仕方ガナカッタカト云フ御趣意カラ起ルノデアラウト思ヒマス、成ル程少ナイ
  ノデアッタナラバ御滿足デアリマセウ、併ナガラ金高ガ少シ大キクナッタカラ
  ト言ッテ、直チニ慣例デモ以前ノハ慣例ニナラヌ或ハ中村サンハ、仰セラレ
  ナカッタカ存ジマセヌガ、法規違反ニナルガ如キ見解ハ決シテ起ッテ來ナイヤ
  ウニ存ジマス、尙ホ此邊ノコトニ付テハ先般四十二議會ノ時ニ於テ、殊ニ中
  村君ヨリ委員會ノ殆ド全週間ニ亙リマシテ、御質問ガ精シク盡サレテ居ルコ
  トデアリマスカラ、ソレ等ノ邊モ能ク熟讀イタシテ、今囘取調ベヲスルニ付
  キマシラ一囘ヤ二囘ハ熟讀イタシマシタガ、今日悉ク記憶モ致シテ居リマセ
  ヌカラ、御趣意ノアリマス所ハ今日ノ御質問ノミデハゴザイマセヌ、篤ト取
  調ベマシテ前二問ニ對スルト共ニ、次囘ニデモ御答ヘイタスコトニ致シタイ
  ト思ヒマス、是モドウカ左樣ニ御了承ヲ願フコトヲ冀ヒマス

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• 108・中村是公

  ○中村是公君　何ダカ御話ニナッタヤウデアリマスガ、金額ノ範圍ニ付テ御辯
  明ガアッタヤウデアリマスルガ、マダ能ク了解イタシマセヌノデアリマス、
  ガ、其他三點御尋ネシタイコトハ一切御答ヘハ是ハ後日御答へ下サイマ
  スカ、又今ノ最後ニ御尋ネシタ事柄ニ付テモ能ク了解ヲシナイノデアリマス
  カラ、是モ亦後日ノ機會ニ於テ承ハルコトヲ得ルモノト承知イタシマシテ、
  今日ハ是デ私ハ止メマス

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• 109・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
  〔岡書記官朗讀〕
  鐵道敷設法中改正法律案特別委員
  子爵酒井忠亮君子爵新庄直知君平井晴二郞君
  男爵古市公威君男爵岩倉道倶君男爵辻太郞君
  石黑五十二君山之内一次君麻生太吉君

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• 110・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第七、大正九年勅令第百七十一號承諾ヲ求ム
  ル件、衆議院送付、會議
  大正九年勅令第百七十一號
  右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送
  付侯也
  大正九年七月十日
  衆議院議長奧繁三郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  大正九年勅令第百七十一號
  右帝國憲法第八條第二項ニ依リ承諾ヲ求ムル爲
  勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
  大正九年七月一日
  內閣總理大臣原敬
  海軍大臣加藤友三郞
  外務大臣子爵內田康哉
  大藏大臣男爵高橋是〓
  陸軍大臣田中義
  農商務大臣山本達雄
  內務大臣床次竹二郞
  を買い中橋德五郞
  臣臣
  当に在野田卯太郞
  鐵道大臣元田肇
  司法大臣伯爵大木遠吉
  朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ帝國憲法第八條第一項
  ニ依リ同盟及聯合國ト獨逸國トノ平和條約ニ依ル財產處理ニ關スル件ヲ裁
  可シ之ヲ公布セシム
  御名御璽
  大正九年五月二十六日
  內閣總理大臣原敬
  海軍大臣加藤友三郞
  外務大臣子爵內田康哉
  大藏大臣男爵高橋是〓
  陸軍大臣田中義一
  農商務大臣山本達雄
  內務大臣床次竹二郞
  文部大臣中橋德五郞
  遞信大臣野田卯太郞
  鐵道大臣元田肇
  司法大臣伯爵大木遠吉
  勅令第百七十一號
  第一條獨逸國又ハ其ノ國人若ハ法人ニ屬スル政府管理財產ヲ以テ同盟及
  聯合國ト獨逸國トノ平和條約第二百九十七條ニ規定スル支拂ニ充ツルハ
  本令ノ定ムル所ニ依ル
  第二條前條ノ政府管理財產ノ上ニ存スル抵當權、質權其ノ他ノ擔保權ヲ
  實行セムトスルトキハ其ノ擔保權者ハ第三條乃至第六條ノ規定ニ依リテ
  之ヲ爲スヘシ
  第三條前條ノ擔保權者ハ本令施行ノ日ヨリ三月內ニ其ノ擔保權ヲ特殊財
  產管理局ニ屆出ツヘシ
  前項ノ規定ニ依ル屆出ニハ擔保權ノ性質及原因竝債權ノ額ヲ表示シ且證
  據書類又ハ其ノ謄本ヲ提出スヘシ
  第四條前條ニ規定スル期間ヲ經過シタル後屆出ヲ爲シタル擔保權者ハ擔
  保權ノ目的タリシ財產ノ殘餘價額ノ限度ニ於テノミ政府管理財產ニ付擔
  保權ヲ實行スルコトヲ得
  第五條第二條ノ擔保權ハ辨濟期ニ至ラサル債權、條件附債權又ハ存續期
  間ノ不確定ナル債權ニ付テモ之ヲ實行スルコトヲ得
  條件附債權又ハ存續期間ノ不確定ナル債權ニ付テハ擔保權ノ實行ハ特殊
  權利審査會ニ於テ選任シタル鑑定人ノ評價額ニ從ヒテ之ヲ爲スヘシ
  第六條特殊財產管理局ハ屆出アリタル擔保權ノ目的タル管理財產ノ賣却
  代金ノ中ヨリ管理ノ費用ヲ控除シ其ノ殘金ヲ以テ其ノ擔保權者及之ニ優
  先スル權利ヲ有スル者ニ民法其ノ他ノ法令ノ規定ニ依ル順位ニ從ヒテ支
  拂ヲ爲スヘシ
  第七條第一條ニ規定スル支拂ヲ受ケムトスル者ハ本令施行ノ日ヨリ六月
  內ニ其ノ權利ニ付特殊權利審査會ニ審査ヲ請求スヘシ
  特殊權利審査會ハ宥恕スヘキ事由アリト認ムルトキハ前項ニ規定スル期
  間滿了後ニ於テモ仍審査ノ請求ヲ受理スルコトヲ得
  前二項ノ規定ニ依ラサル審査ノ請求ハ前二項ノ規程ニ依ル請求者ニ對シ
  支拂ヲ爲シ仍政府管理財產ニ殘餘アリト認ムル場合ニ限リ支拂ヲ爲スコ
  トヲ條件トシテ之ヲ受理スルコトヲ得
  特殊權利審査會前三項ノ規定ニ依リ審査ノ請求ヲ受理シタルトキハ其ノ
  請求ハ之ヲ特殊財產管理局ニ對スル支拂ノ請求ト看做ス
  第八條賠償請求ノ目的ヲ財產囘收ニ依リ達セムトスル者ハ本令施行ノ日
  ヨリ五月內ニ其ノ希望ヲ表示シ其ノ權利ニ付特殊權利審査會ニ審査ヲ請
  求スヘシ
  第九條第七條ニ規定スル審査ノ請求ハ時效ノ中斷ニ關シテハ之ヲ裁判上
  ノ請求ト看做ス
  第十條特殊權利審査會審査ノ爲必要ト認ムルトキハ證人又ハ鑑定人ノ訊
  問其ノ他ノ證據調ヲ爲スコトヲ得
  前項ノ證據調ハ裁判所其ノ他ノ官廳ニ囑託シテ之ヲ爲スコトヲ得
  前二項ノ證據調ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
  第十一條特殊權利審查會ノ組織及審査ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ
  之ヲ定ム
  第十二條特殊權利審査會ハ賠償請求ニ關スル審査ノ請求ヲ理由ナシト認
  ムル場合ヲ除クノ外同盟及聯合國ト獨逸國トノ平和條約ニ依リ事件ヲ管
  轄スル機關ニ其ノ事件ヲ送付スヘシ
  第十三條第八條ノ規定ニ依ル財產囘收ノ希望ノ表示アリタル場合ニ於テ
  ハ前條ニ規定スル手續ハ其ノ囘收行ハレタルトキ、囘收不能ト認メタル
  トキ又ハ一部ニ付囘收行ハレ他ノ部分ニ付囘收不能ト認メタルトキ之ヲ
  爲スヘシ
  第十四條特殊權利審査會カ金錢債權ニ關スル審査ノ請求ニ付爲シタル決
  定ニ不服アル者ハ其ノ決定〓知ノ日ヨリ起算シ三月內ニ通常裁判所ニ訴
  ヲ提起スルコトヲ得
  第十五條內地ニ住居ヲ有セサル者ニ對スル前條ノ訴ハ政府管理財產ノ所
  在地ノ裁判所ニ之ヲ提起スルコトヲ得
  前項ノ政府管理財產ノ所在地ハ東京市トス
  第十六條朝鮮、臺灣、樺太、關東州及從前ノ占領地ニ存スル政府管理財
  產ハ特殊財產管理局之ヲ管理ス
  第十七條第一條ニ規定スル支拂ハ本令ニ規定スル手續ニ從ヒ確定シタル
  金額ニ依リ特殊財產管理局之ヲ爲ス
  附則
  本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕

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• 111・大木遠吉

  ○國務大臣(伯爵大木遠吉君)　唯今日程ニ上リマシタ、大正九年勅令第百七
  十一號ノ此緊急勅令ノ事後承諾ヲ求ムル件ニ付キマシテ一應申上ゲマス、本
  件ハ同盟國及ビ聯合國ト獨逸國トノ平和條約ノ實施ニ伴ヒマシテ、獨逸國又
  ハ其個人又ハ法人ニ屬スル所ノ政府·······此帝國政府ノ管理財產ヲ以テ帝國臣
  民ノ持チマシタ所ノ賠償請求權ノ支拂ニ充當スル手續ヲ速カニ開始スルノ必
  要ガアルノデアリマス、又帝國臣民ノ財產囘收ノ希望表示ノ期限、之ニ關シ
  テノ條約上ノ規定ニ順應セナケレバナラヌ、適應セネバナラヌ、此必要ガア
  リマスガ爲メニ曩キニ緊急勅令ヲ發セラレタ次第デアリマス、然ルニ此緊急
  勅令ハ將來尙ホ其效力ヲ保タナケレバナラヌ、誠ニ帝國臣民ノ利害ニ關スル
  事ガ重大デアリマスカラ、茲ニ於キマシテ帝國議會ノ御承諾ヲ求メタイ、斯
  樣ナ譯デ提案セラレタ次第デアリマス、何卒此緊急勅令ニ對シテハ、ドウゾ
  御承諾ヲ與ヘラレムコトヲ希望スルノデアリマス

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• 112・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
  〔岡書記官朗讀〕
  大正九年勅令第百七十一號承諾ヲ求ムル件特別委員
  伯爵奧平昌恭君子爵板倉勝憲君男爵千秋季隆君
  男爵中島久萬吉君倉知鐵吉君木場貞長君
  安樂兼道君湯淺倉平君橫山章君

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• 113・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第八、大正九年勅令第四十八號承諾ヲ求ムル
  件、衆議院送付、會議
  大正九年勅令第四十八號
  右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送
  付候也
  大正九年七月十日
  衆議院議長奧繁三郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  大正九年勅令第四十八號
  右帝國憲法第八條第二項ニ依リ承諾ヲ求ムル爲
  勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
  大正九年七月三日
  內閣總理大臣原敬
  海軍大臣加藤友三郞
  外務大臣子爵內田康哉
  大藏大臣男爵高橋是〓
  陸軍大臣田中義
  農商務大臣山本達雄
  內務大床次竹二郞
  文部大臣臣臣中橋德五郞
  遞信大野田卯太郞
  鐵道大臣元田肇
  司法大臣伯爵大木遠吉
  朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ帝國憲法第八條第一項
  ニ依リ獨逸國等ニ屬、ル財產管理ノ件ヲ裁可シ之ヲ公布セシム
  御名御璽
  大正九年三月二十四日
  內閣總理大臣原敬
  兼司法大臣
  海軍大臣加藤友三郞
  外務大臣子爵內田康哉
  大藏大臣男爵高橋是〓
  陸軍大臣田中義一
  農商務大臣山本達雄
  內務大臣床次竹二郞
  文部大臣中橋德五郞
  遞信大臣野田卯太郞
  勅令第四十八號
  第一條政府ハ獨逸國、墺地利洪牙利國若ハ土耳其國ニ屬シ又ハ其ノ國人
  若ハ法人ニ屬スル財產ヲ管理スルコトヲ得
  第二條政府ハ前條ノ財產ノ所有者、保管者其ノ他關係者ニ對シ其ノ財產
  ノ所在、種類、數量、價額、權利狀態其ノ他管理ニ必要ナル事項ノ申〓
  ヲ命スルコトヲ得
  第三條當該官吏又ハ吏員ハ第一條ノ財產ニ關シ調査ノ爲必要ナル場所ニ
  立入リ若ハ檢査ヲ爲シ又ハ其ノ財產ノ所有者、保管者其ノ他關係者ニ對
  シ調査資料ノ提供ヲ命シ若ハ供述ヲ求ムルコトヲ得
  第四條第一條ノ財產ノ管理ハ當該官廳ノ管理命令ヲ以テ之ヲ開始ス
  管理命令ヲ爲シタルトキハ之ヲ〓示ス
  第五條當該官廳ハ管理財產ニシテ登記又ハ登錄ノ規定アルモノニ付テハ
  管理財產タル旨ノ登記又ハ登錄ヲ關係ノ官廳其ノ他ニ囑託又ハ請求スヘ
  シ
  當該官廳ハ管理財產債權ナルトキハ管理財產タル旨ヲ債務者ニ通知スヘ
  シ
  前二項ノ規定ニ依ル手續ヲ爲スヘキ財產ノ管理ハ登記若ハ登錄又ハ通知
  アルニ非サレハ之ヲ第三者ニ對抗スルコトヲ得
  第六條前二條ノ規定ハ財產ノ管理ヲ終了スル場合ニ之ヲ準用ス
  第七條當該官廳ハ管理財產ノ所有者又ハ保管者ニ對シ其ノ引渡ヲ命スル
  コトヲ得
  第八條管理ニハ財產ノ換價其ノ他ノ處分ヲ包含ス
  政府カ擔保權ノ目的タル管理財產ヲ換價シタルトキハ擔保權ハ代金ノ上
  ニ存在ス此ノ場合ニ於テハ其ノ代金ハ別ニ之ヲ保管スヘシ
  第九條第一條ノ國、國人又ハ法人ハ其ノ者ニ屬スル管理財產ニ關シ處分
  其ノ他ノ行爲ヲ爲スコトヲ得ス
  第十條管理財產ハ管理ニ依リテ生シタル權利ニ基ク場合ヲ除クノ外民事
  上ノ强制執行又ハ競賣ヲ爲スコトヲ得ス
  第十一條財產ノ管理ニ要スル費用ハ本人ニ屬スル管理財產ヲ以テ之ヲ支
  辨スルコトヲ得
  第十二條財產ノ管理ヲ免ルルノ目的ヲ以テ財產ノ隱匿、處分、毀棄ヲ爲
  シ若ハ爲サムトスル行爲アリタル者又ハ情ヲ知リテ其ノ處分ヲ受諾シタ
  ル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
  第十三條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ三月以下ノ懲役若ハ百圓以下ノ罰
  金又ハ拘留若ハ科料ニ處ス
  -第二條ノ規定ニ依リ命セラレタル申告ヲ爲サス又ハ虛僞ノ申〓ヲ爲
  シタル者
  二第三條ノ規定ニ依ル當該官吏又ハ吏員ノ職務ノ執行ヲ拒ミ妨ケ若ハ
  忌避シ、調査資料ノ提供ヲ爲サス若ハ虛僞ノ調査資料ヲ提供シ又ハ
  供述ヲ拒ミ若ハ虛僞ノ供述ヲ爲シタル者
  三第七條ノ規定ニ依ル引渡ノ命令ニ應セサル者
  附則
  本令ハ大正八年勅令第三百四號失效ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  〔政府委員小橋一太君演壇ニ登ル〕

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• 114・小橋一太

  ○政府委員(小橋一太君)　大正九年勅令四十八號承諾ヲ求メル件ニ付キ理由
  ヲ說明申上ゲマス、戰時獨逸、墺太利洪牙利、竝ニ土耳古國內ニ於キマシテ、
  我ガ帝國政府臣民竝ニ法人ガ受ケタル損害、及ビ以上ノ各國政府ノ人民竝ニ
  法人ニ對シマシテ、我ガ帝國政府ガ有スル·········帝國政府竝ニ臣民ガ有スル債
  權ハ、我ガ帝國内ニ存在スル所ノ以上各國政府、人民竝ニ法人ガ有スル財產中
  ヨリ保證ヲ受クル情勢デアリマシタガ故ニ、其財產ヲ確保管理スルコトガ緊
  急必要デアリマシタカラ、大正八年勅令三百四號ヲ以チマシテ財產管理ノ勅
  令ヲ公布セラレマシタ次第デアリマス而シテ其ノ勅令ハ尙ホ其ノ效力ヲ存
  續セシメル必要アリマシタガ故ニ、第四十二帝國議會ニ其承諾ヲ求ムベク提
  出イタサレタノデアリマシタ、所ガ衆議院ニ於テ承諾ノ可決ニナリマシテ、
  貴族院ニ於キマシテ特別委員會ノ議ニ付セラレマシテ、特別委員會ノ議決ヲ
  經タル儘デ解散ニナリマシタ結果、遂ニ勅令三百四號ハ承諾ヲ得ルニ至ラナ
  カッタノデアリマス、ソレデ政府ニ於キマシテハ大正九年勅令四十八號ヲ以
  テ、其勅令ノ將來ニ效力ナキコトヲ公布イタシマスルト同時ニ、更ニ本勅令
  案ヲ憲法第八條第一項ニ依リマシテ、管理ノ必要上勅令ヲ公布シタ次第デア
  リマス、而シテ尙ホ本勅令ハ財產ノ管理上將來效力ヲ存續セシムル必要アリ
  マスガ故ニ、憲法第八條第二項ニ依リマシテ、帝國議會ノ承諾ヲ求ムベク、
  提出イタシマシタル次第デアリマス、故ニ何卒御承諾アラムコトヲ希望イタ
  シマス

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• 115・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　此際議長ハ御諮リヲ致シタキコトガゴザイマス、
  日程第八ノ議案ハ前ノ大正九年勅令第百七十一號承諾ヲ求ムル件、此委員ニ
  付託シタイト考ヘマス、御異議ハゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 116・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

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• 117・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第九、明治二十九年法律第十三號中改正法律
  案、政府提出、第一讀會ノ續、委員長報告
  明治二十九年法律第十三號中改正法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
  大正九年七月十日
  右特別委員長
  伯爵林博太郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔伯爵林博太郞君演壇ニ登ル〕

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• 118・林博太郎

  ○伯爵林博太郞君　明治二十九年法律第十三號中改正法律案特別委員會ノ經
  過ヲ御報〓イタシマス、此法律案ハ從來官立學校ノ〓職員ニ對シマシテ、恩給
  遺族扶助料退隱料等ノ規定ヲ定メタノデゴザイマス、〓育機關ノ擴充ニ伴ヒ
  マシテ、今囘地方團體立ノ公立諸學校、高等女學校、專門學校、實業學校等
  ガ出來マスコトニ相成リマシテ、且大學令、高等學校令ノ發布ニ基キマシテ、
  地方〓體立ノ大學高等學校ノ出來ルヤウナ氣運ニ向ッタノデアリマス、デ、此
  十三號法律ハ唯今申上ゲマスル通リ官立ノ諸學校ノ職員ノ恩給扶助料等ニ關
  シテ居リマシタノデアリマスガ、此學校機關ノ擴充ト共ニ公立學校ノ〓職員
  ニマデ之ヲ均霑スルノ必要ガ起ッタノデゴザイマシテ、改正案ヲ提出セラレ
  タ次第デアリマス、デ唯今ノ八年度ニ於ケル豫算ニ於テナシマスルノニ依リ
  マスト云フト、學校職員ノ退隱料ニ付キマシテハ、卽チ施行豫算ニ於キマシ
  テ、六十六万圓之ニ對シテ大正九年度ノ追加豫算四十五万圓デ、學校〓員ノ
  遺族扶助料ニ付キマシテハ五万六千九百八圓、之ニ對シマシテ此度九年度ノ
  追加豫算トシマシテ、三万三千四百二十七圓ヲ加ヘテゴザイマス、デ結局全
  體ヲ綜合シテ見マスルト云フト、約百二十万圓ト云フコトニ相成リマスデ
  此ニ於テ新ラシキ高等學校其他地方團體立ノモノガ、漸次增加スルト云フコ
  トニ付テハ、是等ノ金額ヲ以テ充分ナリヤ否ヤト云フコトニ付テ、特別委員
  會ハ審議ヲ致シマシタ、デ實況ヲ見マスルト云フト、現在ノ所、公立ノ大學
  ハ大阪ノ醫科大學、愛知ノ醫科大學ノ二ツニ止マッテ居リマス、公立高等學
  校ニ至リマシテハ、將來是ハ出來ヤウトスル氣運ハアリマスルケレドモ、未
  ダ唯今マデニ於テ設立シテナイノデゴザイマス、依リテ是等ハ極ク少數ノモ
  ノト見マスルカラシテ、大體ニ於テ豫算ニ不十分ナル點ハナイト云フコトニ
  考ヘマス、尙ホ官吏ニ於テハ此度增俸ガ本俸トナッテ從ッテ其恩給、扶助料、
  退隱料等ニ於テモ、相當ニ生活費ニ於テ潤澤ニナル筈デアルガ、御承知ノ如
  ク學校ノ職員、竝ニ之ニ相當スルモノハ、元來官吏ニ比較シマスルト云フト
  薄遇ニ任ルモノデアル、ソレ等ニ付テノ均需ノ方法ハ當局ニ於テ考ヘタノデ
  アルカト云フ質問ニ對シマシテ、當局ハソレハ出來ルダケ審議ヲ致シテ、官
  吏ノ增俸ガ本俸トナッテ、之ニ對スル扶助料、退隱料等ヲ設置スル時ニ、之
  ニ均霑スル額ト同ジ時ニ於テ、學校職員ニ對シテモ出來ルダケ均霑スル方法
  ヲ講ズルト云フコトヲ明言サレテ居リマス、此ニ於テ特別委員會ハ是ハ必
  然的ニ起ル問題デアッテ、官立ノ學校ノミニ對スル法律案ニ、公立ノ〓員ノ
  扶助料等ヲ加ヘルト云フコトハ、當然ノコトデアルト認メマシテ、二囘委員
  會ヲ開會イタシマシテ、其結果全會一致ヲ以テ可決イタシマシタ次第デゴザ
  イマス、デ御承知ノ通リ、當然然ルベキ點マデ歸著スル案デアリマスルカラ
  シテ、何卒讀會省略ヲ以テ速ニ可決アラムコトヲ希望イタス次第デアリマス、
  之ヲ以テ特別委員會ノ報告ヲ終リマス

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• 119・江木千之

  ○江木千之君　讀會省略贊成

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• 120・野村益三

  ○子爵野村益三君　賛成

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• 121・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　讀會省略贊成

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• 122・阪井重季

  ○男爵阪井重季君　贊成

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• 123・細川護立

  ○侯爵細川護立君　贊成

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• 124・松平頼壽

  ○伯爵松平賴壽君　贊成

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• 125・池田政時

  ○子爵池田政時君　贊成

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• 126・萬里小路通房

  ○伯爵萬里小路通房君　贊成

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• 127・大給近孝

  ○子爵大給近孝君　贊成

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• 128・鈴木そう兵衞

  ○鈴木摠兵衞君　賛成

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• 129・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　林伯爵ノ讀會省略ノ動議ニ、同意ノ諸君ノ起立ヲ
  請ヒマス
  起立者多數

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• 130・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　三分ノ二以上ト認メマス、本案ニ同意ノ諸君ノ起
  立ヲ請ヒマス
  起立者多數

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• 131・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　過半數ト認メマス、明十三日ハ休會ヲ致シマス、
  明後十四日ハ午前十時ヨリ開會イタシマス、議事日程ハ本院彙報ヲ以テ御通
  知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會
  午後三時五分散會

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