1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十年二月七日(月曜日)
午前十時九分開議
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議事日程 第八號 大正十年二月七日
午前十時開議
第一 平井六右衞門君請暇の件
第二 少年法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 矯正院法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 明治四十三年法律第三十號中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 無盡業法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第六 船舶滿載吃水線法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第七 裁判所構成法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 定年に因る退職判事檢事の恩給に關する法律案(政府提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ報〓ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
去月三十一日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ
受領セリ
文部省所管事務政府委員
文部書記官粟屋謙君
去ル一日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
少年法案
矯正院法案
朝融王殿下
去ル二日貴族院令第二條ニ依リ議席ニ列セラル
同日政府ヨリ左ノ法律案ヲ提出セリ
明治四十三年法律第三十號中改正法律案
同日請願委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
請願文書表第三囘報告書
去ル三日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
無盡業法中改正法律案
船舶滿載吃水線法案
同日政府ヨリ左ノ法律案ヲ提出セリ
裁判所構成法中改正法律案
定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案
一昨五日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
大正九年勅令第四百八十五號(承諾ヲ求ムル件)特別委員會
委員長伯爵寺島誠一郞君副委員長加藤恒忠君
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
函館控訴院ノ移轉ニ關スル法律案
大正二年法律第九號中改正法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長 公爵德川家達君)去ル二日議席ニ列セラレマシタ朝融王殿下ノ席次
ハ、邦彥王殿下ノ次席ト確定シ、其部屬ヲ第二部ニ定メマシタ、是ヨリ本日
ノ會議ヲ開キマス、日程第一、平井六右衞門君請暇ノ件、病氣ニ付十日間ノ
請暇デゴザイマス、許可ヲ致シテ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ハ御異議ガナケレバ第二、第三ハ一括シテ議題
トシ、說明ヲ煩ハシマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、本日モ通牒文ノ朗讀ハ省
略イタシタイト考へマス、如何デゴザイマスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=6
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007・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二、少年法案、第三、矯正院法案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會
う
〔左ノ通牒文及議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之
ニ倣フ〕
少年法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月一日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
少年法案
第一章通則
第一條本法ニ於テ少年ト稱スルハ十八歲ニ滿タサル者ヲ謂フ
第二條少年ノ刑事處分ニ關スル事項ハ本法ニ定ムルモノノ外一般ノ例ニ
依ル
第三條本法ハ第七條、第八條、第十條乃至第十四條ノ規定ヲ除クノ外陸
軍刑法第八條、第九條及海軍刑法第八條、第九條ニ揭ケタル者ニ之ヲ適
用セス
第二章保護處分
第四條刑罰法令ニ觸ルル行爲ヲ爲シ又ハ刑罰法令ニ觸ルル行爲ヲ爲ス虞
アル少年ニ對シテハ左ノ處分ヲ爲スコトヲ得
-訓誡ヲ加フルコト
二學校長ノ訓誠ニ委スルコト
三書面ヲ以テ改心ノ誓約ヲ爲サシムルコト
四條件ヲ附シテ保護者ニ引渡スコト
五寺院、〓會、保護團體又ハ適當ナル者ニ委託スルコト
六少年保護司ノ觀察ニ付スルコト
七感化院ニ送致スルコト
八矯正院ニ送致スルコト
九病院ニ送致又ハ委託スルコト
前項各號ノ處分ハ適宜併セテ之ヲ爲スコトヲ得
第五條前條第一項第五號乃至第九號ノ處分ハ二十三歲ニ至ル迄其ノ執行ヲ
繼續シ又ハ其ノ執行ノ繼續中何時ニテモ之ヲ取消シ若ハ變更スルコトヲ得
第六條少年ニシテ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ受ケ又ハ假出獄ヲ許サレタル者
ハ猶豫又ハ假出獄ノ期間內少年保講司ノ觀察ニ付ス
前項ノ場合ニ於テ必要アルトキハ第四條第一項第四號、第五號、第七號
乃至第九號ノ處分ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ第四條第一項第七號又ハ第八號ノ處分ヲ爲シタルトキ
ハ其ノ執行ノ繼續中少年保護司ノ觀察ヲ停止ス
第三章刑事處分
第七條罪ヲ犯ス時十六歲ニ滿タサル者ニハ死刑及無期刑ヲ科セス死刑又
ハ無期刑ヲ以テ處斷スヘキトキハ十年以上十五年以下ニ於テ懲役又ハ禁
鋼ヲ科ス
刑法第七十三條、第七十五條又ハ第二百條ノ罪ヲ犯シタル者ニハ前項ノ
規定ヲ適用セス
第八條少年ニ對シ長期三年以上ノ有期ノ懲役又ハ禁錮ヲ以テ處斷スヘキ
トキハ其ノ刑ノ範圍内ニ於テ短期ト長期トヲ定メ之ヲ言渡ス但シ短期五
年ヲ超ユル刑ヲ以テ處斷スヘキトキハ短期ヲ五年ニ短縮ス
前項ノ規定ニ依リ言渡スヘキ刑ノ短期ハ五年長期ハ十年ヲ超ユルコトヲ
得ス
刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ爲スヘキ場合ニハ前二項ノ規定ヲ適用セス
第九條懲役又ハ禁錮ノ言渡ヲ受ケタル少年ニ對シテハ特ニ設ケタル監獄
又ハ監獄內ノ特ニ分界ヲ設ケタル場所ニ於テ其ノ刑ヲ執行ス
本人十八歲ニ達シタル後ト雖二十三歲ニ至ル迄ハ前項ノ規定ニ依リ執行
ヲ繼續スルコトヲ得
第十條少年ニシテ懲役又ハ禁錮ノ言渡ヲ受ケタル者ニハ左ノ期間ヲ經過
シタル後假出獄ヲ許スコトヲ得
-無期刑ニ付テハ七年
二第七條第一項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ三年
三第八條第一項及第二項ノ規定ニ依リ言渡シタル刑ニ付テハ其ノ刑ノ
短期ノ三分ノ
第十一條少年ニシテ無期刑ノ言渡ヲ受ケタル者假出獄ヲ許サレタル後其
ノ處分ヲ取消サルルコトナクシテ十年ヲ經過シタルトキハ刑ノ執行ヲ終
リタルモノトス
少年ニシテ第七條第一項又ハ第八條第一項及第二項ノ規定ニ依リ刑ノ言
渡ヲ受ケタル者假出獄ヲ許サレタル後其ノ處分ヲ取消サルルコトナクシ
テ假出獄前ニ刑ノ執行ヲ爲シタルト同一ノ期間ヲ經過シタルトキ亦前項
ニコシ
第十二條少年ノ假出獄ニ關スル規程ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十三條少年ニ對シテハ勞役場留置ノ言渡ヲ爲サス
第十四條少年ノ時犯シタル罪ニ因リ死刑又ハ無期刑ニ非サル刑ニ處セラ
レタル者ニシテ其ノ執行ヲ終ヘ又ハ執行免除ヲ受ケタルモノハ人ノ資格
ニ關スル法令ノ適用ニ付テハ將來ニ向テ刑ノ言渡ヲ受ケサリシモノト看
做ス
少年ノ時犯シタル罪ニ付刑ニ處セラレタル者ニシテ刑ノ執行猶豫ノ言渡
ヲ受ケタルモノハ其ノ猶豫期間中刑ノ執行ヲ終ヘタルモノト看做シ前項
ノ規定ヲ適用ス
前項ノ場合ニ於テ刑ノ執行猶豫ノ言渡ヲ取消サレタルトキハ人ノ資格ニ
關スル法令ノ適用ニ付テハ其ノ取消サレタル時刑ノ言渡アリタルモノト
看做ス
第四章少年審判所ノ組織
第十五條少年ニ對シ保護處分ヲ爲ス爲少年審判所ヲ置ク
第十六條少年審判所ノ設立、廢止及管轄ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ
定ム
第十七條少年審判所ハ司法大臣ノ監督ニ屬ス
司法大臣ハ控訴院長及地方裁判所長ニ少年審判所ノ監督ヲ命スルコトヲ
得
第十八條少年審判所ニ少年審判官、少年保護司及書記ヲ置ク
第十九條少年審判官ハ單獨ニテ審判ヲ爲ス
第二十條少年審判官ハ少年審判所ノ事務ヲ管理シ所部ノ職員ヲ監督ス
二人以上ノ少年審判官ヲ置キタル少年審判所ニ於テハ上席者前項ノ規定
ニ依ル職務ヲ行フ
第二十一條少年審判官ハ判事ヲシテ之ヲ兼ネシムルコトヲ得
判事タル資格ヲ有スル少年審判官ハ判事ヲ兼ヌルコトヲ得
第二十二條少年審判官審判ノ公平ニ付嫌疑ヲ生スヘキ事由アリト思料ス
ルトキハ職務ノ執行ヲ避クヘシ
第二十三條少年保護司ハ少年審判官ヲ輔佐シテ審判ノ資料ヲ供シ觀察事
務ヲ掌ル
少年保護司ハ少年保護事業ニ經驗ヲ有スル者其ノ他適當ナル者ニ對シ司
法大臣之ヲ囑託スルコトヲ得
第二十四條書記ハ上司ノ指揮ヲ承ケ審判ニ關スル書類ノ調製ヲ掌リ庶務
ニ從事ス
第二十五條少年審判所及少年保護司ハ其ノ職務ヲ行フニ付公務所又ハ公
務員ニ對シ囑託ヲ爲シ其ノ他必要ナル補助ヲ求ムルコトヲ得
第五章少年審判所ノ手續
第二十六條大審院ノ特別權限ニ屬スル罪ヲ犯シタル者ハ少年審判所ノ審
判ニ付セス
第二十七條左ニ記載シタル者ハ裁判所又ハ檢事ヨリ送致ヲ受ケタル場合
ヲ除クノ外少年審判所ノ審判ニ付セス
一死刑、無期又ハ短期三年以上ノ懲役若ハ禁錮ニ該ルヘキ罪ヲ犯シタ
ル者
二十六歲以上ニシテ罪ヲ犯シタル者
第二十八條刑事手續ニ依リ審理中ノ者ハ少年審判所ノ審判ニ付セス
第二十九條少年審判所ニ於テ保護處分ヲ爲スヘキ少年アルコトヲ認知シ
タル者ハ之ヲ少年審判所又ハ其ノ職員ニ通告スヘシ
第三十條通〓ヲ爲スニハ其ノ事由ヲ開示シ成ルヘク本人及其ノ保護者
ノ氏名、住所、年齡、職業、性行等ヲ申立テ且參考ト爲スヘキ資料ヲ差
出スヘシ
通告ハ書面又ハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得口頭ノ通告アリタル場合ニ
於テハ少年審判所ノ職員其ノ申立ヲ錄取スヘシ
第三十一條少年審判所審判ニ付スヘキ少年アリト思料シタルトキハ事件
ノ關係及本人ノ性行、境遇經歷、心身ノ狀況、〓育ノ程度等ヲ調査ス
、ソ
心身ノ狀況ニ付テハ成ルヘク醫師ヲシテ診察ヲ爲サシムヘシ
第三十二條少年審判所ハ少年保護司ニ命シテ必要ナル調査ヲ爲サシムヘ
シ
第三十三條少年審判所ハ事實ノ取調ヲ保護者ニ命シ又ハ之ヲ保護團體ニ
委託スルコトヲ得
保護者及保護團體ハ參考ト爲ルヘキ資料ヲ差出スコトヲ得
第三十四條少年審判所ハ參考人ニ出頭ヲ命シ調査ノ爲必要ナル事實ノ供
述又ハ鑑定ヲ爲サシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ必要ト認ムルトキハ供述又ハ鑑定ノ要領ヲ錄取スヘシ
第三十五條參考人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ費用ヲ請求スルコトヲ得
第三十六條少年審判所ハ必要ニ依リ何時ニテモ少年保護司ヲシテ本人ヲ
同行セシムルコトヲ得
第三十七條少年審判所ハ事情ニ從ヒ本人ニ對シ假ニ左ノ處分ヲ爲スコト
ヲ得
-條件ヲ附シ又ハ附セスシテ保護者ニ預クルコト
二寺院、〓會、保護閣體又ハ適當ナル者ニ委託スルコト
三病院ニ委託スルコト
四少年保護司ノ觀察ニ付スルコト
已ムコトヲ得サル場合ニ於テハ本人ヲ假ニ感化院又ハ矯正院ニ委託スル
コトヲ得
第一項第一號乃至第三號ノ處分アリタルトキハ本人ヲ少年保護司ノ觀察
二廿八
第三十八條前條ノ處分ハ何時ニテモ之ヲ収消シ又ハ變更スルコトヲ得
第三十九條前三條ノ場合ニ於テハ速ニ其ノ旨ヲ保護者ニ通知スヘシ
第四十條少年審判所調査ノ結果ニ因リ審判ヲ開始スヘキモノト思料シ
タルトキハ審判期日ヲ定ムヘシ
第四十一條審判ヲ開始セサル場合ニ於テハ第三十七條ノ處分ハ之ヲ取消
スヘシ
第三十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第四十二條少年審判所審判ヲ開始スル場合ニ於テ必要アルトキハ本人ノ
爲附添人ヲ附スルコトヲ得
本人、保護者又ハ保護團體ハ少年審判所ノ許可ヲ受ケ附添人ヲ選任スル
コトヲ得
附添人ハ辯護士、保護事業ニ從事スル者又ハ少年審判所ノ許可ヲ受ケタ
ル者ヲ以テ之ニ充ツヘシ
第四十三條審判期日ニハ少年審判官及書記出席スヘシ
少年保護司ハ審判期日ニ出席スルコトヲ得
審判期日ニハ本人、保護者及附添人ヲ呼出スヘシ但シ實益ナシト認ムル
トキハ保護者ハ之ヲ呼出ササルコトヲ得
第四十四條少年保護司、保護者及附添人ハ審判ノ席ニ於テ意見ヲ陳述ス
ルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ本人ヲ退席セシムヘシ但シ相當ノ事由アルトキハ本
人ヲ在席セシムルコトヲ得
第四十五條審判ハ之ヲ公行セス但シ少年審判所ハ本人ノ親族、保護事業
ニ從事スル者其ノ他相當ト認ムル者ニ在席ヲ許スコトヲ得
第四十六條少年審判所審理ヲ終ヘタルトキハ第四十七條乃至第五十四條
ノ規定ニ依リ終結處分ヲ爲スヘシ
第四十七條刑事訴追ノ必要アリト認メタルトキハ事件ヲ管轄裁判所ノ檢
事ニ送致スヘシ
裁判所又ハ檢事ヨリ送致ヲ受ケタル事件ニ付新ナル事實ノ發見ニ因リ刑
事訴追ノ必要アリト認メタルトキハ管轄裁判所ノ檢事ノ意見ヲ聽キ前項
ノ手續ヲ爲スヘシ
前二項ノ處分ヲ爲シタルトキハ其ノ旨ヲ本人及保護者ニ通知スヘシ
檢事ハ第一項又ハ第二項ノ規定ニ依リ送致ヲ受ケタル事件ニ付爲シタル
處分ヲ少年審判所ニ通知スヘシ
第四十八條訓誠ヲ加フヘキモノト認メタルトキハ本人ニ對シ其ノ非行ヲ
指摘シ將來遵守スヘキ事項ヲ諭〓スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ成ルヘク保護者及附添人ヲシテ立會ハシムヘシ
第四十九條學校長ノ訓誡ニ委スヘキモノト認メタルトキハ學校長ニ對シ
必要ナル事項ヲ指示シ本人ニ訓誠ヲ加フヘキ旨ヲ〓知スヘシ
第五十條改心ノ誓約ヲ爲サシムヘキモノト認メタルトキハ本人ヲシテ
誓約書ヲ差出サシムヘシ
前項ノ場合ニ於テハ成ルヘク保護者ヲシテ立會ハシメ且誓約書ニ連署セ
シムヘシ
第五十一條條件ヲ附シテ保護者ニ引渡スヘキモノト認メタルトキハ保護
者ニ對シ本人ノ保護監督ニ付必要ナル條件ヲ指示シ本人ヲ引渡スヘシ
第五十二條寺院、〓會、保護團體又ハ適當ナル者ニ委託スヘキモノト認
メタルトキハ委託ヲ受クヘキ者ニ對シ本人ノ處遇ニ付參考ト爲ルヘキ事
項ヲ指示シ保護監督ノ任務ヲ委囑スヘシ
第五十三條少年保護司ノ觀察ニ付スヘキモノト認メタルトキハ少年保護
司ニ對シ本人ノ保護監督ニ付必要ナル事項ヲ指示シ觀察ニ付スヘシ
第五十四條感化院、矯正院又ハ病院ニ送致又ハ委託スヘキモノト認メタ
ルトキハ其ノ長ニ對シ本人ノ處遇ニ付參考ト爲ルヘキ事項ヲ指示シ本人
ヲ引渡スヘシ
第五十五條刑罰法令ニ觸ルル行爲ヲ爲ス虞アル少年ニ對シ前三條ノ處分
ヲ爲ス場合ニ於テ適當ナル親權者、後見人、戶主其ノ他ノ保護者アルト
キハ其ノ承諾ヲ經ヘシ
第五十六條少年審判所ノ審判ニ付テハ始末書ヲ作リ審判ヲ經タル事件及
終結處分ヲ明確ニシ其ノ他必要ト認メタル事項ヲ記載スヘシ
第五十七條少年審判所第四十八條乃至第五十二條及第五十四條ノ處分ヲ
爲シタルトキハ保護者、學校長、受託者又ハ感化院、矯正院若ハ病院ノ
長ニ對シ成績報〓ヲ求ムルコトヲ得
第五十八條少年審判所第五十一條及第五十二條ノ處分ヲ爲シタルトキハ
少年保護司ヲシテ其ノ成績ヲ視察シ適當ナル指示ヲ爲サシムルコトヲ得
第五十九條少年審判所第四十八條乃至第五十四條ノ處分ヲ爲シタル後審
判ヲ經タル事件第二十六條又ハ第二十七條第一號ニ記載シタルモノナル
コトヲ發見シタルトキハ裁判所又ハ檢事ヨリ送致ヲ受ケタル場合ト雖管
轄裁判所ノ檢事ノ意見ヲ聽キ處分ヲ取消シ事件ヲ檢事ニ送致スヘシ
禁錮以上ノ刑ニ該ル罪ヲ犯シタル者ニ付第四條第一項第七號又ハ第八號
ノ處分ヲ繼續スルニ適セサル事情アリト認メタルトキ亦前項ニ同シ
第六十條少年審判所本人ヲ寺院、〓會、保護團體若ハ適當ナル者ニ委
託シ又ハ病院ニ送致若ハ委託シタルトキハ委託又ハ送致ヲ受ケタル者ニ
對シ之ニ因リ生シタル費用ノ全部又ハ一部ヲ給付スルコトヲ得
第六十一條第三十五條及前條ノ費用竝矯正院ニ於テ生シタル費用ハ少年
審判所ノ命令ニ依リ本人又ハ本人ヲ扶養スル義務アル者ヨリ全部又ハ一
部ヲ徴收スルコトヲ得
前項費用ノ徴收ニ付テハ非訟事件手續法第二百八條ノ規定ヲ準用ス
第六章裁判所ノ刑事手續
第六十二條檢事少年ニ對スル刑事事件ニ付第四條ノ處分ヲ爲スヲ相當ト
思料シタルトキハ事件ヲ少年審判所ニ送致スヘシ
第六十三條第四條ノ處分ヲ受ケタル少年ニ對シテハ審判ヲ經タル事件又
ハ之ヨリ輕キ刑ニ該ルヘキ事件ニシテ處分前ニ犯シタルモノニ付刑事訴
追ヲ爲スコトヲ得ス但シ第五十九條ノ規定ニ依リ處分ヲ取消シタル場合
ハ此ノ限ニ在ラス
第六十四條少年ニ對スル刑事事件ニ付テハ第三十一條ノ調査ヲ爲スヘシ」
少年ノ身上ニ關スル事項ノ調査ハ少年保護司ニ囑託シテ之ヲ爲サシムル
コトヲ得
第六十五條裁判所ハ公判期日前前條ノ調査ヲ爲シ又ハ受命判事ヲシテ之
ヲ爲サシムルコトヲ得
第六十六條裁判所又ハ豫審判事ハ職權ヲ以テ又ハ檢事ノ申立ニ因リ第三
十七條ノ規定ニ依ル處分ヲ爲スコトヲ得
第三十八條及第三十九條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第六十七條勾留狀ハ已ムコトヲ得サル場合ニ非サレハ少年ニ對シテ之ヲ
發スルコトヲ得ス
拘置監ニ於テハ特別ノ事由アル場合ヲ除クノ外少年ヲ獨居セシムヘシ
第六十八條少年ノ被〓人ハ他ノ被告人ト分離シ其ノ接觸ヲ避ケシムヘシ
第六十九條少年ニ對スル被〓事件ハ他ノ被〓事件ト牽連スル場合ト雖審
理ニ妨ナキ限リ其ノ手續ヲ分離スヘシ
第七十條裁判所ハ事情ニ依リ公判中一時少年ノ被告人ヲ退廷セシムル
コトヲ得
第七十一條第一審裁判所又ハ控訴裁判所審理ノ結果ニ因リ被〓人ニ對シ
第四條ノ處分ヲ爲スヲ相當ト認メタルトキハ少年審判所ニ送致スル旨ノ
決定ヲ爲スヘシ
檢事ハ前項ノ決定ニ對シ三日內ニ抗〓ヲ爲スコトヲ得
第七十二條第六十六條ノ處分ハ事件ヲ終局セシムル裁判ノ確定ニ因リ其
ノ效力ヲ失フ
第七十三條第四十二條、第四十三條第二項第三項及第四十四條ノ規定ハ
公判ノ手續ニ第六十條及第六十一條ノ規定ハ豫審又ハ公判ノ手續ニ之ヲ
準用ス
第七章罰則
第七十四條少年審判所ノ審判ニ付セラレタル事項又ハ少年ニ對スル刑事
事件ニ付豫審又ハ公判ニ付セラレタル事項ハ之ヲ新聞紙其ノ他ノ出版物
ニ揭載スルコトヲ得ス
前項ノ規定ニ違反シタルトキハ新聞紙ニ在リテハ編輯人及發行人、其ノ
他ノ出版物ニ在リテハ著作者及發行者ヲ一年以下ノ禁錮又ハ千圓以下ノ
罰金ニ處ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
矯正院法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月一日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
矯正院法案
第一條矯正院ハ刑罰法令ニ觸ルル行爲ヲ爲シ又ハ刑罰法令ニ觸ルル行爲
ヲ爲ス虞アル十二歲以上ノ性狀特ニ不良ナル者ヲ收容スル所トス
第二條矯正院ニ收容スヘキ者ハ少年審判所ヨリ送致シタルモノ及民法第
八百八十二條ノ規定ニ依リ入院ノ許可アリタルモノニ限ル
第三條矯正院ニ收容シタル者ノ在院ハ二十三歲ヲ超ユルコトヲ得ス
第四條矯正院ニハ特ニ區劃シタル場所ヲ設ケ少年審判所、裁判所又ハ豫
審判事ヨリ假ニ委託シタル者ヲ置ク
第五條矯正院ハ收容スヘキ者ノ男女ノ別ニ從ヒ之ヲ設ク
第六條十六歲ニ滿タサル者ト十六歲以上ノ者トハ分界ヲ設ケタル場所ニ
各別ニ之ヲ收容ス
第七條矯正院ハ之ヲ國立トス
第八條矯正院ハ司法大臣ノ管理ニ屬ス
第九條司法大臣ハ少クトモ六月毎ニ一囘官吏ヲシテ矯正院ヲ巡察セシム
ヘシ
少年審判官ハ隨時矯正院ヲ巡視スヘシ
第十條在院者ニハ其ノ性格ヲ矯正スル爲嚴格ナル紀律ノ下ニ〓養ヲ施シ
其ノ生活ニ必要ナル實業ヲ練習セシム
第十一條矯正院ノ長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ在院者ヲ懲戒スルコトヲ得
第十二條矯正院ノ長ハ已ムコトヲ得サル事由アル場合ニ於テハ少年審判
所ノ許可ヲ受ケ未成年ノ在院者及假退院者ノ爲親權者又ハ後見人ノ職務
ニ屬スル行爲ヲ爲スコトヲ得
第十三條矯正院ノ長少年審判所ヨリ送致シタル在院者ニ對シ執行ノ目的
ヲ達シタリト認ムルトキハ少年審判所ノ許可ヲ受ケ之ヲシテ退院セシム
ヘシ
第十四條矯正院ノ長ハ少年審判所ヨリ送致シタル在院者ニシテ收容後六
月ヲ經過シタルモノニ對シ少年審判所ノ許可ヲ受ケ條件ヲ指定シテ假ニ
退院ヲ許スコトヲ得
假退院ヲ許サレタル者ハ假退院ノ期間內少年保護司ノ觀察ニ付ス
第十五條假退院者指定ノ條件ニ遠背シタルトキハ矯正院ノ長ハ少年審判
所ノ許可ヲ受ケ假退院ヲ取消スコトヲ得
第十六條在院者又ハ假退院者逃走シタルトキハ少年審判所及矯正院ノ職
員ハ之ヲ逮捕スルコトヲ得
少年法第二十五條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十七條本法ニ規定スルモノヲ除クノ外在院者ノ處遇ニ關スル規程ハ命
令ヲ以テ之ヲ定ム
矯正院ノ長ハ司法大臣ノ認可ヲ受ケ存院者ノ處遇ニ關スル細則ヲ定ムヘ
シ
第十八條前二條ノ規定ハ少年審判所、裁判所又ハ豫審判事ヨリ假ニ委託
シタル者ニ付之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=7
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008・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 唯〓議題トナリマシタ少年法案竝ニ矯正院法
案、兩案ヲ一括シテ其提案ノ理由ニ付マシテ聊說明ヲ申上ゲタイト思フノデ
アリマス、本案ハ既ニ昨年ノ特別議會ニモ提案セラレマシテ、大凡ノ要旨ハ
其節ニモ申上ゲタコトト思ヒマスルケレドモ、尙ホ重ネテ其趣旨ノアル所ヲ
申上ゲタイト思フノデアリマス、不良少年ノ數ガ遂年增加ノ傾向デアルコト
ハ誠ニ遺憾ノ至リデアリマスガ、年々增加ヲ致スノデアリマス、其由テ來ル
所ノ因ハ多岐多樣、種々ノ點ガアリマセウケレドモ、併ナガラ之ヲ要スルニ
其〓養ノ缺陷ニ基クト云フコトハ掩フベカラザル事實デアルノデアリマス、
故ニ之ヲ防遏シマシテ、少年ヲ保護シ、將來ノ犯罪禍根ヲ未然ニ防遏スルト
云フコトハ、何トシテモ喫緊ノコトニ屬スルト當局デハ考フルノデアリマス、
成ベク少年ノ犯罪ノ初發ニ於テ之ヲ防遏シ、之ヲ改過遷善セシメ、終生累犯
ノ虞ナカラシムルヤウニ致スコトガ、是ガ刑事政策上ニ於テ最モ重大ナコ
トト考フルノデアリマス、又刑事政策ノ見地ヨリ見ルノミナラズ、社會政策
ノ上カラ見マシテモ、此不幸ナル又憐レムベキ少年ヲシテ、遂ニ世ノ中ノ落
伍者トナラズニ濟マシメ、以テ忠良ナル帝國臣民トシテ其分ヲ盡スコトヲ得
セシムルノハ、社會上ニ於テモ亦喫緊ノコトデアル、斯樣考フルノデアリマ
ス、少年法案及ビ矯正院法案ハ此必要ニ依テ提案セラレタ次第デアリマス、
少年法案ニ於キマシテハ、刑罰法令ニ觸ルヽ行爲ヲ爲シ、又ハ刑罰法令ニ觸
ルヽ行爲ヲ爲ス虞アル十八歲未滿ノ少年ニ對シ、斯樣ニ定メテアルノデ
アリマス、斯樣ナ者ニ對シテ少年審判所ノ保護處分、竝ニ少年犯罪者ニ對ス
ル其科刑、竝ニ判事手續ニ付マシテ、特別ナル規定ヲ設ケタノデアリマス、
矯正院法案ニ於キマシテハ、十二歲以上ノ少年ニシテ不良性ノ度ガ强ク、今
日アル所ノ感化院ニシテハ如何ニモ其不良性ヲ矯正スルニハ不十分デアルト
認ムル所ノ者ヲ、此矯正院ニ收容イタシマシテ、而シテ彼ヲシテ善良ナル臣
民トナラシムルト云フコトガ本案ノ精神デアリマス、右樣ナ意味ニ於キマシ
テ提案シタノデアリマシテ、昨年モ縷々其必要ヲ陳ジタト記憶シテ居リマス
ルガ、ドウゾ此ノ不良少年ノ非常ニ增加スル傾向ニ鑑ミラレテ、願ハクバ本
期議會ニ於テ此兩案ガ成立スルヤウニ希フ次第デアリマス
〔江木千之君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 江木君ハ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=9
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010・江木千之
○江木千之君 私ハ質問ヲ致シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 今質疑ノ通〓ガゴザイマスカラ、ソレガ濟ミマシ
テカラ願ヒタイ、山脇玄君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=11
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012・山脇玄
○山脇玄君 總理大臣ハ御出席ニナッテ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 出テ居ラレマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=13
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014・山脇玄
○山脇玄君 私ハ聲ガ低ウゴザイマスカラ、自席デ宜シワゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) ドウ云フコトデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=15
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016・山脇玄
○由脇玄君 私ハ質問イタシタイト思ヒマスガ、至ッテ聲ガ低ウゴザイマス
カラ、總理大臣ニ聞エレバ宜シイガ、御聞エニナリマセヌケレバ、演壇デモ
宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=16
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017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御登壇ノ方ガ宜カラウト考ヘマス
〔山脇玄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=17
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018・山脇玄
○山脇玄君 少年法、矯正院法、此兩案ハ我ガ社會ノ現狀ニ照シマシテ、本
末ヲ誤ッテ居ルモノデナイカト云フ疑ガアルノデアリマス、此疑ニ付テ總理大
臣ノ大體ノ御意見ヲ伺ヒ、其上デ當局ニ就テ二三質問ヲ致シタイノデアリマ
ス不良少年ノ大多數ハ細民ノ家庭ヨリ生ズルノデアリマスガ、往々上流社
會カラモ出ス者ガアリマス、ソレデアリマスカラ、其豫防策ニ付マシテモ、
自ラ異ラネバナリマスマイ、其細民カラ生ズル者ニ對シマシテハ、勞働保險
モアリマスルシ普通〓育モアリマス、上流社會カラ生ズル者ニ對シマシテハ
中老古老法トデモ申シマセウカ矢張リ方法ガアラウト存ジマス、是ヨリ少
シク私ノ疑點ニ付マシテ理由ヲ述べタイト存ジマス、昔カラ四百餘病ノ外
ニ貧乏病ト云フモノガアリマス、現社會ガ最モ多ク惱マサレテ居リマスモノ
ハ此貧乏病デアリマス、固ヨリ社會的疾病ト申シマスモノハ單ニ貧乏ト云
フコトデハナク、犯罪トカ不良少年トカ、男女ノ不正ナル關係ヲモ含メタ方ガ
適當デアルカモ知レマセヌガ、サリナガラ社會ニ貧乏ト云フコトガ無クナリ
マスレバ、否全ク無クナラヌニ致シマシテモ少ナクナリマスレバ、犯罪ヤ不良
少年ガ今日ノヤウニ盛ニ起ラナクナルニ違ヒナイノデアリマス、男女ノ醜行
ノ如キハ一見貧乏トハ何ノ關係モナイヤウデアリマスガ、實際ハ決シテサウ
デアリマセヌ、若シ人ガ衣食住ノタメニ苦シムコトガ無クナリ、靑年男女ガ
今日ノ如ク婚姻ヲ延期スル必要ガ無クナリ、出來ルダケ早ク家庭ヲ造ルコト
ニナルナラバ、男女間ノ醜行ハ自然ニ改マルコトデアリマセウ、殊ニ女子ガ
生活難ニ苦シムコトガ無クナリマスレバ、自カラ進ンデ藝娼妓ニナルト云フ
コトモ無クナル譯デアリマス、デ斯ウ云フヤウニ考ヘテ見マスルト云フト、社
會病ノ最大ナルモノ殊ニ不良少年ヲ出ス最大原因ハ卽チ此貧乏デアルト斷ジ
マシテモ決シテ不當デナカラウト信ジマス、若シ總理大臣ニ於カレマシテ不
良少年ヲ出ス最大原因ガ貧乏デアルト認メラレマセヌナラバソレマデ、御尋
ネスル要ガ無クナルノデアリマス若シ大多數ノ不良少年ハ細民ノ貧乏カラ
出テ來ルト御認メニナリマスルナラバ、何ゾ何故早ク之ヲ救治スル方策ヲ徹
底的ニ御講ジニナラナンダノデアリマセウカ、民間ニハ多少之ニ關スル設備
ハアルニハアリマスケレドモ、是ハ大海ノ一滴デナカーヽソレ等ノ力パカリ
デ、迚モ行屆クモノデハアリマセヌ、ドウシテモ制度ノ力ガ其處へ加リマ
セネバ行屆ク譯ニ行キマスマイ、デ我〓ノ觀マスル所デハ、最モ必要ナル方
策ト致シマシテハ、第一勞働保險、次ニハ職工組合ノ發展デアラウト考ヘラ
レル、デ勞働保險ハ第一囘國際勞働會議ノ決議ヲ實行イタシマスル上カラ致
シマシテモ、巴里講和會議ニ派遣ナリマシタ人ノ報告ヲ參酌シテ制定サレタ
法案ハ、今期議會ニ提出サレル運ビニナッテ居サウナモノト考ヘラレマスガ、
ドウナッテ居ルノデアリマセウカ、保險法ハ此ノ貧之病ヲ救治イタシマスルニ
ハ最モ適切ナル良藥デアルコトハ、既ニ文明諸國ノ實驗ニ徵シマシテモ、明
明白々一點ノ疑ヲ容レマセヌ、今一ツ不良少年ヲ豫メ防グ方策ハ普通〓育ノ
力デアラウト思ハレマス、過日總理大臣ハ貧民〓育細民〓育ハ我國ニアッテハ
外國トハ事情ガ違フカラ、ナカ〓〓急ニ政府ノ力デ解決スルコトハイカヌト
言ハレマシタ、成程貧乏ノ程度ニ多少ノ差ハアルカモ知レマセヌガ、貧乏ハ
矢張リ貧乏デアリマス、デ彼等ハ生活ノ困難カラシテ子女ノ〓育ドコロデハ
アリマセヌ、一錢デモ二錢デモ其日其日ノ生活費ノ補ヒヲサセネバナラヌ境
遇ニアルノデアリマス、デ彼等ヲ今日ノ有樣ニホッタラカシテ置キマシタナラ
バ、其結果ハドウナルデアリマセウ、益〓不良少年ノ製造ヲ助長スルコトニナ
リハ致シマスマイカ、次ニ前段ノモノトハ大ニ趣ヲ異ニシテ居マスガ、上流
社會ノ不良少年ニ對スル豫防法ト致シマシテハ、ドウ云フ方策ヲ以テシタナ
ラバ宜イデアリマセウカ、マダ我〓ニモ確定シタ考案ハアリマセヌガ、或
少年法ニ做ヒマシテ中老古老法トデモ云フモノヲ以テ致シマシタナラバドウ
デアリマセウカ、普通ノ人ハ少シク生活ガ裕カニナリマスレバ、忽チ嚴肅ノ態
度ヲ失ッテ身ヲ持崩スノガ通例デアリマス、デ靑年時代ニハ品行方正デアッタ
人物ガ漸ク金ガ出來ルカ、地位ガ出來ルト早クモ慢心ヲ生ジテ不品行ヲ始メ、
我儘ヲ行ッテ中老古老ニナリマスルト、心アル人カラ指彈サレル程ノ厄介爺
トナッテシマフ例ハ現實ニ少ナクナイノデアリマス、彼等ノ前半生ハ立派ナ紳
士デアッタノニ、後半生ハ堕落ノ厄介者トナルノハ現代ノ惡現象デアリマス、
デ斯ウ云フ行狀カラ見習ッテ少年ガ不良ノ行爲ヲナスノハ强チ無理デハナイ
ト考ヘラレルノデアリマス、以上ノ原因結果ニ付テ總理大臣ハ如何ニ御考ヘ
ニナッテ居リマスカ伺ヒタイ、デ結局私ノ趣意ハ火災ヲ完全ニ防ガムトスルニ
ハ姑息手段タル消防デハ駄目デアル、根治法トシテ建築カラ改メテ掛カラネ
バ完全デナイト云フノト同一義ニ歸著スルノデアリマス、斯ウ云フ趣意デ總
理大臣ノ大體ノ御見込ヲ伺ヒマシテ、其次ニ當局ニ就キマシテ二三ノ質問ヲ
試ミタイト思フノデアリマス
〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=18
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019・原敬
○國務大臣(原敬君) 唯今山脇君ノ御質問ハ、十分御趣意ヲ諒解イタシ兼ネ
マシタケレドモ、斯ウ云フコトニアラウカノヤウニ諒解イタシマシタ、少年
法矯正院法ト云フモノヲ作ル位ナラバ、卽チ不良少年ナドノ生ズル原因ヲ正
スガ宜シカラウト云フ御趣意ダラウト考ヘマス、ソレハ或一箇條ヲドウカ致
スト出來ルト云フ問題デハナイノデアリマス、生活ノ安定モ無論必要デアリ
マス、然ラバ生活ノ安定シテ居ル者ニ不良少年ハナイカト云フト是ニモアル、
卽チ山脇君ノ言ハレタ通リ、上流ノ家庭ニモ不良少年ハ生ズルノデアリマス、
又貧窮ナル者ハ必ズ不良少年ヲ生ズルカト申シマスルト、左樣ニモ參ラヌ、
比較的多イカハ知リマセヌガ、必ズ細民ニ不良少年ガ出來ルモノト限ッタモノ
デハナイ、要スルニ古ヨリ惡人ノナイコトヲ努メマスケレドモ、何レノ國ニ於
テモ、何レノ時代ニ於テモ惡人ガ無クナッタ例シハナイノデアリマス、隨身
不良少年ヲ如何ナル方法ヲ以テ致シマシテモ、一人モ不良少年ノ無クナルト
云フコトハ、恐ラクハ人力デハ如何ナモノデアラウカト私ハ考ヘル、唯成ベク
多ク生ジナイ方法ヲ採ッテ參ラナケレバナラヌ、故ニ生活ノ安定不安定ヨリ來
レル所ノモノデアルナラバ、之ニ向ッテ安定ヲ圖ッテ行ク又〓育等ヲ完全ニ致
セバ、多少不心得ノ者ヲ減少スル譯デアリマスカラ、〓育ノ方デモ努メル、其
ノ他社會政策ニ於テモ色〓講究シテ參ル、斯ウ云フヤウナコトデ有ユル手段
ヲ盡スノデアリマス、此ノ有ユル手段ハ急務デアルガ故ニ、少年法ノ如キ矯
正院ノ如キ止メテ宜シイカ、決シテサウハ行キマスマイ、御承知ノ如ク地方ニ
ハ感化院モアル、國立感化院モアル、尙ホ矯正院少年法ノ如キモノヲ設ケナ
ケレバナラヌト云フノモ、詰リ不良少年ノ跡ヲ絕タナイカラノコトデアリマ
スカ、之ヲ捨テ置イテ一方ニ不良少年ヲ生ジナイヤウニスルト云フ他ノ方法
ノミヲ講究イタシマシタ所ガ、恐ラク目的ハ達シマスマイ、是ハ社會ノ狀態
ニ應ジテ、一面ニ於テハ不良少年ノ成ベク生ジナイヤウニ致シ、既ニ生ゼム
トスル虞ガアリ、又生ジタルトキニハ感化院ヤラ少年法、矯正院ノヤウナモ
ノヲ設ケテ、之ニ依テ匡正スルト云フコトヲ努メナケレバナラヌ、兩立シテ
不良少年ヲ減少スルヤウニ努メルト云フコトハ、行政上當然ノコトノヤウニ
考ヘルノデアリマス、其點ニ於テハ少シモ怠ラヌ積リデ、卽チ少年法、矯正
院又ハ旣ニ成立イタシテ居ル感化院等ニ類スルモノハ、皆此ノ見地ヨリ成立
イタシテ行ハレテ居ルノデアリマス、是サヘアレバ不良少年ハ無クナルカト
申セバ、ソレハサウハ參ラヌ、故ニ此ノ不良少年ヲ生ズベキ原因ト申シタナ
ラバ種々雜多ノモノガアリマセウト考ヘル、之ニ付テ色〓ナル方法ヲ講究シ
成ベク之ヲ減少スルト云フコトニ努メテ居ル次第デアリマス、ドウゾ左樣御
承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=19
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020・山脇玄
○山脇玄君 マダ總理大臣ノ御答ハ足リナイト存ジマス、成程仰セノ如ク火
災ガ生ジタナラバ消防ハ無論必要デアリマス、其通リニ不良少年ガ生ズレバ
卽チ今日ハ感化院モ公立私立或ハ國立ノ感化院ガアルノデアリマス、其ノ原
因ヲ防グ方法ハ、斯ウ云フ方法ヲ具體的ニシテ居ルト云フコトガナケレバ、
向質問ノ御答ニナラヌト存ジマス、今日ノ不良少年ヲ出ダス原因ニ對シテ斯
ウ云フ豫防策ヲ講ジテ居ルト云フ具體的ノ御答辯ヲ伺ヒタイノデアリマス、
デ勞働保險トカ、普通〓育ヲ細民ニ迄徹底サセルト云フコトハ、私共不良少
年ヲ減ズル所ノ最大方策デアラウト思ヒマスガ、總理大臣ノ御方針ヲ承ルト
マダ御答ガ甚ダ不十分ト存ジマスカラ、モウ一度御登壇ヲ願ヒマス
〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=20
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021・原敬
○國務大臣(原敬君) 勞働保險法ハ不良少年ヲ減少スル直接ノ原因ナルヤ否
ヤハ直ニ御同意ハ出來兼ネマス、勞働者ニ對スル保險デアリマスカラ、此ノ
少年ニ對スルコトハ如何ナモノデアラウカト思ヒマスルガ、サウ云フコト
ハ議論ニ亙リマスカラ申シマセヌガ、併シ勞働保險ノヤウナモノモ致シタイ
ト考ヘテ、昨年カラデアリマスカ、多少ノ費用ヲ得テ農商務省ニ於テ調査サ
シテ居リマス、ソレデ完全イタシマスレバ御協賛ヲ仰グヤウナ時期ガ來ヤシ
ナイカト思ヒマス、少シモ捨テテ置クノデハナイ、併シ如何ナル人デアリマ
シテモ、何カ一事件ヲヤレバ不良少年ガ無クナルト云フコトハ恐ラク出來マ
スマイ、サレバ成ベク之ヲ減少イタス方法ヲ講究シナケレバナラヌノデアリ
マス、ソレハ卽チ一面ニ於テハ法律的ニ感化院、少年法、矯正院ト云フヤウ
ナモノヲ設ケル、他ノ一面ニ於テハ社會政策トシテ色〓ナコトヲ講ジテアル、
〓育ハ無論其通リ、是ハ少シモ怠ッテ居ラヌノデアリマス、サウ御承知ヲ願ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=21
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022・山脇玄
○山脇玄君 私ハ當局ニ對シテ二三ノ質問ヲ試ミタイト思ヒマスガ····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=22
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023・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス········御登壇ニナッタ方ガ便利デ
アラウト存ジマス
〔山脇玄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=23
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024・山脇玄
○山脇玄君 當局ニ對シマシテ二三質問ヲ致シマス、少年法ノ眼目ハ申シマ
ス迄モアリマセヌ少年ノ保護者ガ兒童ノ監督〓養ヲ怠ヲタ場合ニ、之ニ代ツ
テ其ノ任務ヲ全ウセントスルニアルノデアリマセウ、ソレ故ニ審判官保護司
トナルモノハ兒童ノ家庭ニ於ケル普通ノ生活狀態、小學、中學ニ於ケル少年靑
年ノ心理狀態、言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ家庭生活、學校生活ニ精通スル人
デナケレバ其力ガアリマセス、其ノ資格ガアリマセヌ、唯裁判官、警察官タル
素養ヲ具フルノミデハ、其ノ職任ニ適スルモノト申スコトハ出來マスマイ、
斯ル感化事業ニ付テ經驗ノアル人ハ我國ニ於テハマダ極メテ少カラウト思ハ
レマスガ、當局ニ於キマシテハドウ云フ人物ヲ以テ其職ニ當ラシメル御考デ
アリマスルカ、第一ニソレヲ伺ヒタイ、第二ニ我國ニモ感化院ト申シマルモ
ノハ官立、公立、私立其數ハ相當ニ多クアリマス、唯收容ノ年限等ニ關シ
マシテ、或ハ不十分ナ所ガアルカモ知レマセヌガ、ソレハ社會ノ必要ニ應ジ
マシテ、ドウトカ融通ガ附カヌコトモアリマスマイ、殊ニ國立感化院モ是ヨ
リ次第ニ發展イタシマシテ、數モ增シマスコトデアリマセウカラ、何分マア
別ニ矯正院ヲ設ケル必要ヲ見ナイヤウデアリマスルガ、其ノ必要ノ點ヲ尙ホ
詳シク伺ヒタイ、第三ニハ過日總理大臣ハ或機會ニ於テ申サレマシタノハ、
今日ハ最早外國ノ法制ヲ模倣スル時代デハナイ、斯ル時代ハモウ疾ウニ過去。ツ
タノデアル、唯我ガ法制ノ參考材料タルニ過ギナイコトニナッタノデアル、斯
ウハッキリト申サレマシタ、此ノ趣意ヨリ致シマスルト云フト、少年法ニモ我
國ノ法制ニ於テ根本制度ガナカラネバナルマイト思ヒマス、ソレハドウ云フ
制度デアリマセウカ、ソレヲ伺ヒタイ、其次ニ此ノ少年法、矯正院法ノ實施
ニ要シマスル専門審判ノ·······〓數デ宜シウゴザイマス、專任審判官ノ〓數、
ソレカラ保護司ノ〓數、次ニ第一囘ノ設備費ナドハドレ程大抵御見込ニナッテ
居リマスカト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=24
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025・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 御答辯ヲ申上ゲマス、保護司及ビ審判所ニ從
事スル所ノ役員ニハ如何ヤウナ者ヲ採用スルノ趣旨デアリヤ、現在ノ判檢事
等ノミデハ甚ダ不十分デアラウト云フヤウナ御質疑ト承ッタノデアリマス、至
極御同感デアルノデアリマス、當局ニ於キマシテモ必シモ此ノ判檢事等ノミ
ヲ以テ採用スル意思デハナイノデアリマス、殊ニ此ノ兒童〓育ニ付マシテ
ハ最モ熱心ナル人〓モ世ノ中ニハ少ナクナイノデアリマス、又兒童ノ心理狀
態ニ付テ特別ナル知識ヲ有ッテ居ル所ノ人〓モ亦少ナクナイノデアル、何レ此
ノ審判所竝ニ矯正院ガ出現イタシマシタトキニハ、廣ク兒童〓育ニ付テ特別
ノ知識及ビ特別ノ經驗ヲ有スル所ノ者ヲ採用シテ、必ズシモ判檢事ト云フヤ
ウナ嚴メシイ者ノミヲ以テ採用スルト云フ意志デハナイノデアリマス、併ナ
ガラ判檢事ト雖モ必ズシモ兒童〓育ニ付テ知識ヲ有スル者ナシトハ言ヘナイ
ノデアリマス、矢張リアルノデアリマス、判檢事ニシテ法律ノ素養アリ、而
カモ尙ホ其上ニ兒童〓育ニ付テ大イナル趣味ヲ有チ、大イナル經驗ヲ有ッタ所
ノ者ガアルナラバ、最モ善良ナル保護司デアラウト思フノデアリマス、斯樣
ナ者モ世ノ中ニハ尠ナクナイト云フ當局ニ於テハ考ヲ有ッテ居ルノデアリマ
ス、要スルニ單リ判檢事ノミデハナイ、廣ク適材ヲ天下ニ求ムルト云フコト
ガ趣旨デアリマス、第二ニ既ニ感化院ナルモノガアルニ拘ハラズ、尙ホ其外
ニ矯正院ヲ設ケルノ必要ハ那邊ニ在ルカト云フ御尋ノヤウデアッタノデアリ
マン·。是ガ最モ此機會ニ於テ御答辯ヲ申上ゲルコトハ甚ダ喜バシイト思フノ
デアリマス、是ハ度〓起ル議論デアリマス、旣ニ感化院ガアルノニ、其上ニ
更ニ矯正院ト云フガ如キモノヲ設ケルノハ要ラザルコトデハナイカ、併ナガ
ラ御承知ノ通リ感化院ハ家庭〓育デアル、家庭〓育ヲ以テ精神トスル所ノ保
護機關デアル、矯正院ニ於キマシテハ不良性ノ强度ニシテ到底感化院ヲ以テ
家庭〓育的ノ〓養ニ於テハ十分ナラザル者ガ往々ニシテアルノデアリマス、
其實例ヲ引キマスレバ、感化院ニ送ル途中ニ於テ既ニ逃走シ、若クハ之ヲ收
容シタ後ニ、家庭〓育的ノ感化ヲ受ケルコトヲ慊ラズトシテ、直ニ逃走ス
ルト云フヤウナコトモ往々アルコトデアルノデアリマス、矯正院ニ於キマシ
テハ其邊ニ最モ注意ヲ置キマシテ、既ニ少年ト雖モ犯罪ヲナシタル所ノ者ノ
如キハ、之ヲ逃ガシテ世間ニ彷徨サセテ置クト云フコトハ、甚ダ危險是ヨリ大
ナルモノハナイノデアリマス、其點ニモ餘程注意ヲ加へル所ニ於キマシテ、
感化院ト矯正院ト自ラ兩立ヲ致シテ互ニ唇齒輔車ノ關係ヲ以テ、不良性ノ强
度ナル者ト·······固ヨリ强度ナラズト雖モ互ニ一致シテ、互ニ協調シテ、而シ
テ之ヲ改過遷善セシメヤウト云フノデアリマスカラ、感化院ガアルカラ矯正
院必要ナシト云フコトハ出來ナイノデアリマス、寧ロ矯正院アッテ感化院ト相
一致シテ行クニ於テ、初メテ其妙用ガ行ハレルト斯樣ニ信ズルノデアリマス、
第三ニ外國ノ法規ヲ必ズシモ模倣スルニ及バズト總理ガ言ハレタト云フ御話
ニ付テノ御質問デアリマスガ、全ク其通リデアル、現ニ茲ニ提案シタル所ノ
少年審判所ノ如キハ外國ニ於キマシテハ少年裁判所デアル、裁判所ニ於テ悉
ク之ヲ調ベルノデアリマスケレドモ、日本ノ習慣トシテ裁判所ト云フ所ハ如
何ニモ嚴格ニ過ギル、嚴肅ニ過ギル、所謂秋霜烈日、實際ハサウデナクシテ
モ、長年ノ因習、裁判所ニ出ルト云フコトハ餘程嫌ヤナ所ニ出ル感想ガ起ル
ノデアル、玆ニ於テ必ズシモ外國ノ法制ニ模倣セズシテ、審判所ト云フモノ
ハ不良少年ノ矯正保護ヲナスコトヲ目的トスル處置ヲ爲スモノデ、卽チ茲ニ
獨特ノ法制ヲ定メタト云フ意味デアリマシテ、必ズシモ外國ノ法制ヲ模倣ス
ルノミデハナイト云フコトヲ此案ニ於テモ立證セラルヽコトト思フノデアリ
やる。尙ホ少年裁判所竝ニ········審判所竝ニ矯正院ニ於キマシテノ其職ニ從事
スル所ノ者ノ〓數ト云フ御尋、及ビ經費ノ點デアリマシタカラ、是ハ政府委
員カラ詳細ハ御說明スル方ガ、却ッテ御分リニナラウト思ヒマス
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=25
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026・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 御答ヘ致シマス、審判員竝ニ保護司ノ員數ハド
ノ位ノ見込デアルカト云フ御尋デアリマスガ、勿論正確ニ數字ヲ唯今ニ於テ
申上ゲルコトハ出來マセヌガ、〓略審判官ト致シマシテハ七十人バカリ、保
護司ト致シマシテハ百四五十名バカリアレバ宜カラウト考ヘテ居リマス、而
シテ費用ニ付マシテモ、是亦正確ナル數字ハ未ダ計上イタシマセヌガ、目
下〓算ヲ調製中デゴザイマスガ、審判所ト云フモノヲ設ケマシテ、或ハ矯正
院ト云フモノヲ新設イタシマスル所謂臨時費用ト云フモノガ二百萬圓位ハ掛
カラウカト思ヒマス、尤モソレハ規模竝ニ箇數ニモ依リマスガ、唯今考ヘテ
居ル所ニ依リマスレバ、矯正院ハ全國ニ七箇所バカリ置ク考デゴザイマス、
審判所ハ地方裁判所ノ所在地ニ各〓一箇所ヲ置キタイ、斯ウ云フ考ヲ有ッテ居
ルノデアリマス、尤モ其當初ニ於キマシテハ或ハ適當ナル寺院デアルトカ或
ハ空屋デアルトカ云フヤウナモノガアリマスルナラバ、ソレヲ借受ケマシテ
賃料ヲ拂ッテ使用イタシマスレバ、直ニ茲ニ建築費ヲ要スル譯デハアリマセ
ヌガ、サウ云フモノガ無イト致シマスレバ、ドウシテモ新ニ建築シナケレバ
ナリマスマイ、ソレ故ニ建築スルモノト致シマシテ約臨時費二百萬圓グライ
要ラウカト思ヒマス、經常費ニ於キマシテハ、是亦約二百二三十萬圓位必要
トスルカト云フ考ヲ有ッテ居ルノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=26
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027・山脇玄
○山脇玄君 尙ホ一應政府委員ニ御尋シタイノデアリマスガ、此ノ審判官竝
ニ保護司ノ資格デアリマスガ、審判官ノ資格、保護司ノ資格ハドウ云フヤウ
ナトコロデ御定メニナル御積リデアリマスカ、唯今司法大臣ノ言ハレルノニ、
世ノ中ニ感化事業ニ從事シテ居ル人ナドハ最モ適任デアルト云フ御考ノヤウ
デ、我〓其至極喜バシイト思フノデアリマス、サウシマスト、一般ノ審判官
保護司ノ資格ハドウ云フヤウニ御定メニナル御積リデアリマスカ、豫メ其御
考ヲ一應政府委員ニ伺ッテ置キタイ
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=27
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028・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 審判官竝ニ保護司ノ資格ニ付マシテハ、是ハ特
別任用デ採用シヤウト思ッテ居ル、特ニ高等文官ニ任用サレルヤウナ資格ヲ要
スル者トハ致シマセヌデ、先程司法大臣ヨリモ答辯セラレマシタル如ク、兒
童〓育ニ經驗ヲ有チ、又兒童ノ事柄ニ付テ熱心デアルト云フヤウナ者カラ採
用シヤウト思フノデ、ソレデアリマスカラ、或ハ判事ノ中カラ採用スルコト
モアリマセウ、或ハ民間法曹ノ中カラ採用スルコトモアリマセウ、或ハ宗〓
家〓育家ト云フヤウナ者カラシテ、此ノ審判官ヲ採用シヤウト思ッテ居リマ
ス、保護司モ之ニ準ジマシテ、矢張リ兒童〓育ニ經驗ヲ有ッテ居ル人〓カラ採
用シタイト斯ウ考ヘテ居ルノデゴザイマシテ、特ニドウ云フ試驗ヲ受ケナケ
レバナラヌ、ドウ云フ經歷ヲ有ッテ居ラナケレバナラヌト云フヤウナ、限定的
ノ資格條件ハ今日ニ於テハ考ヘテ居ラヌノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 山脇君ハモウ御質問アリマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=29
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030・山脇玄
○山脇玄君 ハイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長 公爵德川家達君)江木千之君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=31
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032・江木千之
○江木千之君 私ノ質問ハ簡單デアリマス、私ハ此案ニ付テハ大體至極贊成
ヲ致シマスガ、ソコデ極メテ重要ナコトト思フノデアリマスカラ、一箇條伺ツ
テ置キタイト考ヘルノデアリマス、此ノ少年法案ニアル所ノ少年審判所ト云
フモノハ、是ハ憲法ノ所謂特別裁判所ノ種類ニ屬スルヤウニ考ヘル、裁判所
構成法ノ一種ガ少年法ノ中ニ揭ゲラレルト云フコトハ如何デアラウカ、將來
ノ爲ニ考ヘテ見マスルト、是ハ少年法ト離シテ別ニ少年審判所ト云フヤウナ
制ヲ設ケラレタ方ガ宜シクナイカト考ヘル、決シテ外國ノ例ヲ徒ラニ模倣ス
ルノデハナイ、又是等ノコトニ付テハ外國ニサマデ模倣スベキモノハナカラ
ウカト考ヘル、是ハ十分成立タセ、我國デ非常ナ發達ヲ見ルヤウニシテ行キ
タイト本員ハ考ヘテ居ルノデアリマスガ、此ノ少年審判所ト云フモノハ、設
立セラレルト必ズ其範圍ヲ擴メテ、家庭審判所ト云フヤウナモノニナッテ來ル
デアラウト考ヘル、外國ノ例ヲ模倣スルノデハナイガ、外國ノ實例ニ依テ見
ルト、少年審判所ト云フモノヲ設立スルト、大〓ハ家庭審判所ニナッテ居ルヤ
ウデアリマス、卽チ「ユヴェニールコート」ト云フモノハ「ファミリーコート」ト
云フモノニ變化シテ行クト云フヤウナ有樣デアルノデアル、今少年審判所ヲ
設ケテ少年ノ審判ヲシテ參ルト、少年ノ矯正ダケニ關係スルコトハ、ドウシ
テモ家庭ノ關係ニ及バナケレバナラヌト云フコトガ多々アル、單ニ少年ニ關
スル事件ダケデハナイト云フコトガ、是ガ經驗上起ッテ來ルコトト思ハレル、
ソレデ矢張少年ノ矯正ヲ十分ニ目的ヲ達シヤウトスレバ、幾分カ家庭ノ事件
ニ立入ッテ行カナケレバナラヌヤウデアル、サウスルト是ハ今日ヨリ少年法ト
ハ引離シテ、家庭審判所トシテ立テテ行クノガ大層便利デナイカト思ハレル
ノミナラズ、他日或ハモウ少シ之ヲ推擴ゲテ、一家ノ夫婦喧嘩、親子ノ爭ト
云フヤウナ斯ウ云フヤウナ事件モ、或ハ餘リ裁判ヲ公開シナイ所ノ家庭審判
所ト云フヤウナ所デ、調停的ニ捌キヲ附ケタ方ガ宜カラウ、行ク〓〓サウ云
フ事件ガ起ッテ來ルデアラウト考ヘル、是等ノコトヲ考ヘテ見ルト、今日之ヲ
家庭審判所法トシテ、少年法ト引離シテ置イタ方ガ便利デナイカ、餘程將來
ニ關係ヲ持ツモノデ、サウシテ其費用ニ至ッテハ少シモ費用ヲ增スト云フヤウ
ナ案デモナイ、斯ノ如クシタ方ガ便利デナイカ、是等ノ審判所ハ我國ニハ私
ハ餘程適スルモノト考ヘル、我國デハ良イ發達ヲ見ルヤウニ進メテ行キタイ、
斯ウ云フ考カラ御尋ヲ致スノデアリマス
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=32
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033・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 江木サンノ御質問ニ私ヨリ御答申上ゲマス、唯
今議題ニナッテ居リマス所ノ、少年審判所ト家庭審判所ト云フモノノ關係デア
リマスルガ、成程少年審判所ト申シマスルカラ、何カ構成法ニ申シマスル所
ノ普通裁判所ニ對立スル特別裁判所ノ如キ觀アリマスルケレドモ、審判所ト
申シマシテモ、決シテ特別裁判所ト云フ意味デハナイノデゴザイマス、案ノ
示スガ如ク不良少年ヲ改過遷善シ保護〓養ヲスルト云フコトヲ目的トスル所
ノモノデゴザイマシテ、權利義務ヲ審理判決スル場所デハナイノデゴザイマ
ス。成程江木サンノ仰セノ如ク、不良少年ヲ審判シテソレ〓〓處分ヲ致シマ
スルニ付マシテハ、周圍ノ事情ハ勿論ノコト家庭ノ關係ヲモ宜ク精査イタ
シマシテ、之ニ適當スル所ノ處置ヲ執ラナケレバナラヌノハ勿論デゴザイマ
スルケレドモガ、其ノ不良少年ニ刑罰ヲ加ヘルトカ、或ハ懲戒ヲスルト云フ
ヤウナ意味デハゴザイマセヌカラ、決シテ裁判所構成法ノ所謂特別裁判所デ
ハナイノデゴザイマス、之ニ反シテ江木サンモ常ニ御注意アラセラルヽ所ノ
家庭審判所ト云フモノハ、是ハ夫婦ノ間ノ爭トカ、親子ノ間ノ爭トカ、或ハ
後見人被後見人等ノ爭トカ、要スルニ是等ノ人〓ノ家庭ニ於ケル所ノ者ノ間
ニ起リシ爭ヲ判斷スル、卽チ權利義務ヲ審判スル、其審判ヲスルニ付テ、特
別ノ機關ヲ設ケマシテ、普通裁判手續ニ依ラズシテ、或ハ調停ヲ旨トシ、或
ハ判決ヲ致シマスルニシテモ、公開ヲセズシテ極ク家庭ノ祕密ト云フモノヲ
世間ニ暴露セシメズシテ、サウシテ其間ノ爭ヲ解決セシメルト云フヤウナ趣
意デ、此ノ家庭審判所ト云フモノハ外國ニモ存在シテ居ルト云フコトハ、江
木サンノ能ク御承知ノ通リ、我國ニ於キマシテモ、今後之ニ倣ッテ是等家庭審
判所ト云フモノヲ設ケナケレバナラヌ必要ガアラウト、私ナドハ考ヘテ居ル
ノデ、サウシテ見マスルト、此ノ家庭審判所ハ今問題トナッテ居リマスル少年
審判所トハ、全然其性質ヲ異ニスルモノデゴザイマスカラ、必ズシモ後日家
庭審判所ガ出來マシテモ、玆ニ少年審判所ヲ規定スル妨ゲトハナラヌト思ヒ
·マリカ左樣御承知ヲ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=33
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034・江木千之
○江木千之君 大要分リマシタガ、サウシマスルト少年審判所デハ、刑事ノ
裁判トナレバ普通ノ裁判所ニ移ス御積リデアラウト思ヒマスガ、民事ニ關係
シタヤウナ事件モ矢張リ決定ハセラレヌ趣旨デアルノデアリマスカ、民事ノ
裁判トナレバ是モ民事裁判所ニ移ス、調停和解ナラバ裁判所デヤルト云フコ
トニナルノデアリマセウカ、ソコノ差ヲ承ッテ置キタイト思ヒマス
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=34
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035・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 少年審判所ハ所謂權義ノ爭ヲ判斷スル所デゴザ
イマセヌカラ、從ッテ調停和解等モ致シマセヌノデゴザイマス、ソレカラ此
少年ニ付マシテ起ル所ノ民事事件ハ、勿論民事裁判所ニ訴ヘルト云フコトニ
ナリマス、刑事ニナリマシテハ刑事裁判所デ判決スルト云フコトデアリマシ
テ、要スルニ少年ヲ保護〓養スルト云フコトヲ以テ目的トスル所ノモノガ、
卽チ少年審判所デアルノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=35
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036・江木千之
○江木千之君 尙ホチヨット附帶シテ伺ヒマスガ、今ノ御說ノ如クデアレバ、
司法省ノ管轄ト云フヨリハ、寧〓文部省或ハ內務省ノ管轄デ然ルベキモノノ
ヤウニ考ヘルガ、其邊ハドウ云フ御考デアリマセウ
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=36
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037・鈴木喜三郎
○政府委員〔鈴木喜三郞君〕 御覽ノ通リ少年審判所ニ於キマシテ審査致シマ
スル所ノ少年ハ犯罪ヲナシタル所ノモノ、若クハ犯罪ヲ爲スノ虞アル不良
少年デアリマスル、最モ此ノ刑事政策ニ大關係ヲ有ツ所ノ少年デゴザリマス
ルカラ、假令改過遷善ノ爲メ〓養ノ爲メ救護ノ爲メ、爲スモノニ致シマシタ
所ガ、所管ハ司法省デスルノガ順當デアラウト云フ考デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=37
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038・江木翼
○江木翼君 極メテ枝葉ニ亙ルコトデアルカモ知レマセヌガ、一二御尋ヲ致
スノデゴザイマス、大體ニ於テ山脇君ノ總理大臣ニ對シテ爲サレマシタル所
ノ質問ノ御趣意ハ、如何ニモ御尤モノ御趣意デアルト思フノデゴザイマス、
一方ニ於テ消極的ノ刑事的ノ社會政策バカリヲ採ヲテ見テモ、所謂積極的ノ社
會政策ヲ十分ニ行フニアラザレバ、所謂此ノ文明的ノ社會的疾患トモ云フベ
キ所ノ不良少年ト云フモノヲ、十分ナル矯正ヲ圖ルト云フコトハ甚ダムヅ
カシイコトデアルト云フコトハ私ガ喋々スル迄モナイコトト思フノデアリマ
ス、其點ニ對シテ總理大臣ノ御說明ハ私共如何ニモ不滿足ニ感ジマスルガ、
其點ハ暫ク別ト致シマシテ、先程ヨリ司法大臣竝ニ政府委員等ヨリ御說明ニ
ナル所ヲ承リマスルト、成ベク此ノ少年審判ト云フモノヲ純粹ナル行政的
ノモノニシタイト云フ御希望ガ明白ニ現レテ居ルノデアリマス、法律ノ上ニ
於テモ········案ノ上ニ於テモ、明ニ、少年審判所ナルモノハ行政官廳、而シテ少
年審判所ノ爲ス所ノ審判ナルモノハ行政處分デアル、極メテ明白デアルト思
フノデアリマスガ、唯私ガ玆ニモウ一步進ンデ政府ノ御趣意ヲ御尋シテ見
タイト思ヒマスル點ハ、左程ニ所謂純然タル刑事政策バガリニ偏ラヌ、社會
政策的ノ刑事政策ニ依ラウト云フ御趣意ト致シマスルナラバ、裁判所ト云フ
司法大臣ノ言ハレル秋霜烈日ノ威ヲ有ッテ居ル所ノ·······裁判官ト云フ所ノ威
ヲ多少デモ含ンダ分子ト云フモノヲ、全然此ノ少年審判所ヨリ御取リニナル
ト云フ御意嚮ハナイノデアリマスカ、卽チ私ノ御尋セムトスル所ハ、第二
十一條ニアルノデアリマス「少年審判官ハ判事ヲシテ之ヲ兼ネシムルコトヲ
得」、判事ト云フ所謂秋霜烈日ノ威アル日本ノ國民ノ所謂民族的信念ニ於キマ
シテハ、裁判官ハ所謂秋官、此者ガ此少年ノ審判ヲヤルコトガアル、如何ナ
ル場合デモ少シ愚圖愚圖言ヘバ直ニ秋霜烈日ノ威ヲ出スコトガ出來ル、而モ
此ノ少年審判所ナルモノハ、多クノ事件ト云フモノハ裁判所カラ送ッテ來テ、
其送ッテ來タ事件ヲ審判スル、斯ウ云フ形ノモノデアリマスカラ、甚ダドウモ
裁判所ニ近イ親類ノ役所ガ出來ル、若シ此ノ審判所ノ御趣意ハ何處迄モ〓養
デアル、之ヲ御趣意トセラレマスルナラバ、判事ガ少年審判官ヲ兼ヌルト云
フ所ノ制度ハ、斷然ト御廢メニナルコトガ適當デハアリマセヌカ、斯ウ云フ
疑ヲ持ツノデアリマス、殊ニ從前ハ多少其例モアリマシタガ、裁判官ガ行政
官ヲ兼ヌルト云フコトハ、司法省ノ方針トシテモ殆ド止メテ御出デニナルコ
トト思フノデアリマス外ノ官衙ノ行政官ヲ兼ヌルト云フコトハ無論ナイノ
デアリマスルガ、從前往々ニシテ司法省ノ行政官ヲ兼ネラレタコトガアルノ
デアリマスガ、是モ近年ハ殆ド絕滅シタカト思フノデアリマス、若シ之ヲ兼
官ヲ許スト云フコトデアリマシタナラバ、一方ノ判事ノ方ハ憲法ニ依ル所ノ
分限、身分ノ保障ト云フモノガアル、一方ノ行政官ナルモノハ其保障ガナイ、
文官分限令、若クハ文官懲戒令等ニ依テ處分ヲ受ケル、少年審判官トシテハ
懲戒令ノ方ノ處分ヲ受ケル、判事トシテハ是ハ依然トシテ其儘ニ居ル、判事
懲戒法ニ依ルニアラザレバ處分ガ出來ヌト云フヤウナ奇觀ヲ呈シテ、甚ダ面
白カラザル結果ヲ來シハシマイカト思フノデアリマス、寧ロ此ノ少年審判法
ヲ御設ケニナル趣旨ヲ徹底セラレマスナラバ、二十一條ノ如キハ寧ロ御廢メ
ニナッテ純然タル行政、而モ極メテ穩和ナル〓養ヲ趣旨トセラレル所ノ審判組
織ヲ採ラレルト云フコトガ適當デハアルマイカト思ヒマス、此點ニ對スル所
ノ司法當局ノ御意見ヲ承ハリタイ、ソレカラ是ハ或ハ司法大臣ノ間違ヒヲ仰
シヤッタデハナイカト思ヒマスガ、念ノ爲ニ承ッテ置キタイノデアリマス、先
程山脇君ノ質問ニ對シテ、少年審判所ノ保護司ヲ、判事若クハ檢事ニ兼ネシ
ムルト云フヤウナ御趣旨ニ承リマシタガ、ソレハ多分檢事ハ如何ト致シマシ
テ、判事ガ兼ネルト云フコトハ全然無イコトデハナイカト思ヒマスガ、此點
モ念ノ爲ニ承ッテ置キマス、ソレカラ次ニ此經費ノコトニ付テ承ッテ置キタイ
ノデアリマスガ、第一ニ本法卽チ少年法竝ニ矯正院法ハ何時カラ御施行ニナッ
テ、其豫算ハ何時カラ御提出ニナリ、而シテ本案兩院通過ノ上ハ其必要ナル
所ノ經費ヲ提出スルト云フコトニ於テ、政府ニ於テハ全然議ガ定マッテ居ラヌ
ノデアルカト云フコト、ソレカラ同ジク經費ニ付マシテ、矯正院ノ經費、
此本案ニ依リマスルト矯正院法ノ第七條ニ於テ之ヲ國立トスルト云フコトニ
シテアリマシテ、全部國費ノ負擔ト云フコトニ見エルノデアリマス、斯ノ如
キ經費ト云フモノヲ全部國ガ負擔シナケレバナラヌ、純理カラ申シマスレバ
國ガ負擔スルノガ極メテ適當デアルカト思ヒマスガ、我國ノ斯ノ如キ性質ノ
經費ニ對シマシテハ、多少特有ノ謂ハヾ先例ガアルト申シテ宜イコトト思フ、
例ヘバ監獄、監獄ハ元ト地方費ヲ以テ支辨シテ居ル、然ニ遂ニ是ガ國費ニ移ツ
タ、所ガ不良少年ヲ主トシテ預リマス所ノ感化院、感化院ノ方ハドウデアル
カト申シマスト、原則ト致シマシテ北海道及ビ府縣ト云フモノガ感化院ヲ維
持スル義務ガアル、法律ノ定ムル所デアリマス、國立ノ感化院モ固ヨリアリ
やめ、原則トシテ北海道及ビ府縣ニ於テ負擔ヲスル、而シテ國費ハ之ニ對シ
テ二分ノ一乃至六分ノ一ノ補助ヲスル、斯ウ云フ所謂折衷的ノ主義ニナッテ居
ルノデアリマス、然ニ矯正院ニ付テハ之ヲ全部國費ノ負擔トスル、成程監獄
費ノ方ヲ見マスルト犯罪人ト云フ者ハ非常ナ移動性ヲ帶ビテ居ルモノデアリ
マス、一地方ニ殊ニ犯罪人ガ集中セル地方ガ莫大ナ負擔ヲ爲スト云フコトハ、
ソレハ甚ダ適當デナイト云フ意義モアリマセウ、併ナガラ不良少年ト云フ如
キ者ハ、サウ甚シク移動性ヲ帶ビテ居ルモノデナイト云フコトハ私ガ申スマ
デモナイコトカト思フ、特ニ之ヲ國費ノ全負擔ニナスト云フ理由ト云フモノ
ガドノ邊ニアルノデアリマスカ、此點ヲ伺ヒタイ、以上二點デアリマス
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=38
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039・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 江木サンニ御答ヲ致シマス、江木サンノ御尋
ノ第一ハ、判事ヲシテ審判所ヲ兼ネシムルコトガ、ドウモ司法官ト行政官ト相
兼ネルコトガ不都合ガ生ジハセヌカト云フ、寧ロ御意見デアッタノデアリマ
ス、併シ當局ニ於キマシテハ、假令此ノ審判所ナルモノガ行政ニ屬スルモノデ
アリマシテモ、先刻モ申上ゲタガ如ク、其執ルベキモノハ多クハ刑事政策等ニ
密接ナル關係ヲ致シテ居ル所ノモノデアリマシテ、是ガ純粹ノ行政處分トハ
自カラ其間異ナルモノガアルト認メルノデアリマス、是ニ於キマシテ判事ガ
之ヲ兼ネタ所ガ差支ナイ、斯樣ニ見ルノデアリマス、ソレカラ保護司ニ付テ
判檢事云々ト申シタガ如キ言葉ガアッタ趣デアリマスルガ、若シアッタトセバ
大イナル誤リデアリマス、是ハ取消シマス、ソレカラ經費ノ點ニ付テノ御尋、
是ハ本案ガ成立シタナラバ如何ナル處置ヲ執ルノデアルカ、政府ニ於テ定メ
テ詮議ガ濟ンダノデアラウ、斯樣ナ御尋ノヤウニ拜聽シタノデアリマス、固
ヨリ此事ニ付テハ政府ニ於テモ大ニ考ヘタノデアリマス、ソレハ本案デ成立
シタナラバ、成ベク速ニ本案施行ニ要スル所ノ經費ヲ速ニ計上シテ、出來ル
コトナラバ追加案トシテモ提案イタシタイ、斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、
併ナガラ國費ハ御承知ノ通リ多端デアリマス、果シテ其運ビニ行クヤ否ヤ、
此席ニ於テ證言ヲ申上ゲルコトハ出來マセヌケレドモ、苟モ法案ヲ提案シタ
以上、是ガ通過シタナラバ成べク速ニ費用ヲ計上シテ、御協賛ヲ仰グノ運ビ
ニ至ラシメタイトスルノハ、政府ニ於テ最モ希望スル所デアリマス、他ハ如
何樣ナコトデアリマスカ
〔江木翼君「矯正院ノ國費負擔ノコトデアリマス」ト述フ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=39
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040・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) ソレハ感化院ニ於キマシテハ、江木サンノ唯
今御話ノ如ク、或ハ地方ニ於テ之ヲ請負的ニヤッテ居ル所モアリマス、又地方
ノ補助ヲ受ケテヤッテ居ル所モアリマス、又國立ノモアリマス、種々多樣デア
リマスケレドモ、併シ此ノ感化院トシテ家庭學校ノ意味ニ於キマシテ經營ス
ルノハ或ハ現在ノ狀態ニ於キマシテ遺憾ガナイノデアリマセウ、適當デアリ
マセウ、併ナガラ此ノ矯正院ニ於キマシテハ、矢張リ地方費ヨリ幾分ノ補助
ヲ受ケテ、或篤志家ガ此經營ヲ爲スト云フヤウナ程度デアッタナラバ、矢張リ
此ノ不良性ノ强度ナル所ノ者ヲシテ之ヲ能ク逃走ナカラシメ、能ク此矯正ノ
實ヲ擧ゲルト云フ上ニ於キマシテハ遺憾ガアルト思フノデアリマス、願クハ
玆ニ更ニ感化院ノ外ニ矯正院ヲ設ケル以上、之ヲ國費トシテ之ヲ支辨スルコ
トガ適當デアル、又矯正院ノ期待スル所ノ目的ヲ達スルニハ、矢張リ國費ヲ
以テヤルコトノ方ガ適當デアル、斯樣ニ考ヘタノデアリマス、他ニ何等別ニ
深イコトハアリマセヌガ、感化院ガ今ノ狀態ニアルニ拘ラズ、全クノ國庫支
辨ニ依テ矯正院ヲ設ケルニ及バヌヂヤナイカト云フ御尋モ、一應ハ御尤デア
リマスケレドモ、現在ノ感化院ノ狀態ニ鑑ミマシテ、却ッテ國費支辨ヲスルト
云フコトガ適當ナリト斯樣ニ考ヘテ居ル次第デアリマス、左樣御承知ヲ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=40
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041・江木翼
○江木翼君 或ハ政府委員カラ御說明ヲ請ヒマシテモ宜シウゴザイマスガ、
少年審判官ハ、無論私ハ例外トシテ判事ヲ兼ネシメルト云フ制度ヲ執ラレル
ト云フコトデアラウト思ヒマスガ、是ハ先程司法大臣ノ山脇君ニ對スル御答
辯ニ依リマシテモ明白デアルト思ヒマス、併ナガラ其問題ハ別ト致シマシテ、
本案第二十一條ノ如キ規定ガナケレバ、判事ト云フ者ハ少年審判官ヲ兼ネル
コトガ出來ナイノデアリマスカドウカ、制度上出來ナイノデアリマスカ、若
シ少年審判官ナル者ヲ特別任用ノ行政官トセラルヽト云フコトデアリマスレ
バ、何等法律ノ規定ヲ待タズ、所謂任用例ノ運用ト致シマシテ、適當ナ者ガ
居リマシタナラバ之ニ持ッテ行カレルコトモ出來マセウシ、私ハ成ベク法律
ノ文面カラ、裁判所ナルモノガ少年審判所ナルモノト喰付テ行クト云フヤ
ウナ形ト云フモノヲ、全然避ケルノガ穩當デアラウト思ヒマス、二十一條ノ
規定ナクンバ其兼任ガ出來ナイト云フ御趣意デアリマセウカ否ヤ、ソレカラ
國費矯正院ノ點ハドウモ御趣意ガ能ク徹底シナイヤウニ思フノデアリマス
ガ、何ガ故ニ矯正院ノ費用ナルモノガ國費デ全部負擔セナケレバナラヌカ、
負擔スルノガ便利デアルトカ便利デナイトカ云フ問題デハナイノデ、斯ウ云
フ性質ノモノハ·······現ニ感化院ノ如キモノハ北海道府縣デ負擔シテ、之ニ對
シテ國費ガ幾分ノ補助ヲシテヤッテ行ク、其同ジ性質ノモノガ出來ル以上ハ、
成ベクハ之ヲ必要トスルヤウナ地方ニ於テ之ヲ負擔スルガ、或ハ適當デハナ
イカト云フ感ジヲ持ッテ居ルノデ、其理由ヲ承ッテ置キタイノデアル、決シテ
本案ヲ詰問スルト云フ趣意デ承ッテ居ルノデハナイ、立法ノ趣意ハ何レニアル
カト云フコトヲ承ッテ置キタイノデアリマス
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=41
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042・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 判事ヲジテ少年審判官ヲ兼任セシムルト云フ事
柄ガ、明文ヲ缺イタナラバ兼任セシムルコトガ出來ナイノデアルヤ否ヤ、斯
ウ云フ御質問ト承知イタシマスルガ、此點ニ付マシテハ、法制局ニ於キマ
シテモ審議ヲ盡シマシテ、別段明文ガナケレバ出來ナイトモ斷言ハ出來ナイ
ケレドモガ、從來ノ仕來リニ於キマシテ、判事ニ行政官ヲ兼ネシムルト云フ
事柄ハ········行政事務ニ參與セシムルト云コトニ付テハ、盡ク明文ガアル、シ
テ見レバ其疑ヲ避ケシムル爲ニ明文ヲ置クガ必要デアラウト、斯ウ云フ趣意
デ第二十一條ヲ設ケタ譯デアリマス、例ヘバ文官懲戒委員ニ付マシテモ、
或ハ捕獲審檢所ノ委員ニ付マシテモ、矢張リ判事ヲシテ之ニ當ラシムルト
云フヤウナ場合ニハ明文ガアルノデ、サウ云フヤウナ譯カラ致シマシテ、矢
張リ疑ヒヲ避ケル爲ニ此明文ヲ置キマシタ次第デゴザイマス、運用ノ上ニ於
キマシテハ先程來屢〓申シマスル通リ、最モ兒童〓育ニ熱心ナル所ノ判事····
····而モ今口ニ於キマシテ不良少年ノ裁判ニ付マシテハ、特ニ不良少年ノ裁
判係ト云フモノヲ置マシテ、專ラ其事務ニ當ラシテ居ルノデゴザイマスカ
ラ、斯ウ云フヤウナ經驗ヲ持ッテ居ル者ヲシテ、審判官ニ兼任ヲサセルヤウナ
必要ガアリマシタ場合ニハ兼任サセヤウ、斯ウ云フ考デ居ルノデアリマス、
ソレカラ次ノ矯正院ノ費用ノコトデアリマスガ、矯正院ハ國立デアリマスカ
ラ、感化院ニ付マシテモ國立ノ感化院ハ亦國庫ノ負擔ニナッテ居ルノデ、此
ノ矯正院ノ費用ヲ府縣ノ負擔ニスルカ、或ハ矯正院へ收容サレタ者ノ負擔ニ
スルトカ云フ御議論モゴザイマスルガ、所謂國家事業トシテ國立ト致シマシ
タ以上ハ、國家ガ之ガ費用ヲ負擔スルノハ先ヅ當然デアラウト思フ、其趣意
ニ依リマシテ、原則ト致シマシテハ國家ガ之ヲ負擔スルト云フコトニナッテ居
リマスガ、成ベク其費用ノ全部又ハ一部ニ致シマシテモ、本人若クハ保護
者カラ········其本人ニ付テ要シマシタ費用ハ本人若クハ本人ノ保護者カラ徵收
スルコトガ出來ルト云フコトハ案ノ六十一條ニ示シテ居ルノデゴザイマス
カラ、審判所ノ命令ニ依リマシテ、本人若クハ本人ノ保護者カラ徴收スルコ
トノ出來ル仕組ニナッテ居ルノデアリマス、ソレデアリマスカラ本人ニ要シマ
シタ費用ヲ、全部常ニ國家ガ負擔スルトモ限ラヌノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=42
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043・江木翼
○江木翼君 モウ一ツ簡單ナコトデアリマスガ、此費用ガ經常費ガ二百二十
萬圓、臨時費二百萬圓ト云フコトデゴザイマスガ、唯今政府ニ於テハ成ベク
本案ヲ施行シテ、其費用ヲ要求シタイ希望デアルト斯ウ云フコトデ、果シテ
本案通過ノ曉、直ニ此經費ハ當局ニ於テ必要トスルナラバ、此經費負擔ト云フ
モノヲ覺悟シテ居ルカドウカ、ソコイラガ明白デアリマセヌ、更ニ司法大臣ニ
於テ政府ニ於テハイツノヽカラ此法案ヲ施行スル、而シテ其費用ハ政府ノ議
ヲ經テ議會ニ提出スル積リデアルト云フ、明確ナ政府ノ御意見ヲ承ハリタイ
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=43
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044・大木遠吉
○國務大臣 伯爵大木遠吉君)本案通過イタシタナラバ、直ニ此費用ヲ本議
會ニ要求スルノ覺悟アリヤ否ヤ、斯樣ナ御尋ト拜承シタ、御承知ノ通リ是ハ
可ナリ莫大ナ費用ヲ要スルノデアリマス、矯正院モ審判所モ兩方集メマス
ルト、可ナリ多數ノ經費ヲ要スルノデアリマス、然ニ先刻モ御答ヲ致シタガ
如ク、國費ハ非常ニ夥シイ支出ニナリ、或ハ國防上其他ニ於キマシテ、緊急
已ムヲ得ザル費用デ大イナル追加等ガ無イトハ言ヘナイ、斯樣ナ狀況デアリ
マスカラ、當局トシテハ如何ナル考ヲ持ッテ居ルカト御尋デゴザイマスレバ、
無論本案通過シタ以上、縱令全部ニ非ザルモ········矯正院少年審判所ノ經費ノ
全部ハ固ヨリ要求イタシタイノデアリマスケレドモ、然レドモ或ハ事情已ム
ヲ得ズシテ其全部ノ要求ヲ爲スコト能ハズンバ、一部ノ要求ダケデモ爲シタ
イト考ヘテ居ルノデアル、併ナガラ玆ニ非常ナ經費ノ必要ガ、他ニヨリ以上
ノ必要ガ·······或ハ國ノ體面ニ關スルガ如キ費用ノ必要ガ起ッタ場合ニハ5月, 4
據ロナイノデアリマス、實ハ遺憾デアリマスガ左樣ナコトガ起リマシテ、少
年審判所矯正院ヨリモヨリ以上ノ必要ナモノガアル場合ニハ已ムヲ得ナイ、
併ナガラ當局トシテ覺悟如何決心如何ト云フ御尋デアレバ、全部ヲ要求シタ
1、又全部ヲ追加案トシテ要求イタシタイノデアリマス併ナガラ或ハ財政
ノ都合上全部ヲ要求スルコトハ能ハズンバ一部デモ要求シタイト考ヘテ居
ルノデアリマス、是以上ハ今日玆ニ明言申上ゲルコトハ甚ダ迷惑ニ感ズルノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=44
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045・江木翼
○江木翼君 私ハ司法大臣ノ御希望ノアル點ヲ伺ッタノデハナイ、政府ノ議ガ
如何ニ極ッテ居ッテ、如何ニ本案ヲ施行ナサルカ、言葉ヲ換ヘテ簡單ニ申シマス
レバ、本案附則ニ、本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム」ト斯ウアリマスカ
ラ勅令ヲ御定メニナルノデアリマセウガ、何時カラ御施行ナサルカ、若シ假
リニ大正十年四月一日カラ御施行ナサルトスレバ、直ニ追加豫算ヲ要求ナサ
ラナケレバナラス、或ハ十月カラ施行ナサルトスレバ半年度分ヲ要スル、
此ノ施行期日ヲ如何ナサルカ、若シ是ガ施行期日ガ或ハ二年三年後ニナルト
云フモノナラバ、或ハ此際本案ヲ急イデ議シテ置カネバナラヌ必要モナイカ
モ知レヌト思フ、又本案ヲ御出シニナルニハ、直ニ之ヲ施行スル爲ニ御出
シニナルノデアラウカ、サモナケレバ斯ウ云フ重要ノ法案ヲ急イデ極メル必
要ハナイト思フノデアリマス、施行ノ期日ガ迫ッテ居ルモノナラバ、早ク其議
ヲ我〓承ッテ置ク必要ガアル、斯ウ云フ趣意デアリマス、唯〓總理大臣トモ御
打合セニナッタヤウデアルガ、内閣ノ議ハ如何ニナッテ居ルカト云フコトヲ伺ツ
タノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=45
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046・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 閣議ニ於キマシテハ、本案通過スレバ追加ト
シテ要求スル覺悟デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=46
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047・江木翼
○江木翼君 施行期日ハイツニナサルカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=47
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048・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 施行期限········追加トシテ要求シタイト云フコ
トヲ評議イタシテ居ルノデアリマスケレドモ、先刻カラ度〓申スガ如ク、ソ
レハ他ニモ必要ナモノガアル、ソレハ今更必シモ追加デ決定スルト云フ譯デ
ハナイ、是ガ決定セザレバ施行ノ期日ヲ玆ニ明言スルト云フコトハ未ダ出來
ナイ、未ダ其機ニ達セザルヲ遺憾トスルト申上ゲルヨリ外アリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=48
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049・江木翼
○江木翼君 然ラバ政府ハ本案ノ必要ハ認メルガ、未ダ施行ノ期日ハ如何ニ
スベキカト云フコトニ付テ御決マリニナッタ所ノ定見ガナイ、斯樣ニ判斷シ
ナケレバナラヌト思フ、我〓ハ其意味ヲ以テ、本案ニ對スル外ナイト云フ考
デ以テ私ノ質問ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=49
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050・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ御諮リヲ致シマス、日程第二、第三、兩案
トモ同一委員ニ付託シテ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=50
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051・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、特別委員ノ氏名ヲ書記官
ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
少年法案外一件特別委員
公爵近衞文麿君子爵勘解由小路資承君子爵藪篤麿君
子爵伊東祐弘君男爵若王子文健君男爵黑田長和君
澤柳政太郞君伊澤多喜男君江原素六君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=51
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052・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第四、明治四十三年法律第三十號中改正法律
案、政府提出、第一讀會
明治四十三年法律第三十號中改正法律案
右
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十年二月二日
內閣總理大臣原敬
內務大臣床次竹二郞
明治四十三年法律第三十號中改正法律案
明治四十三年法律第三十號中左ノ通改正ス
「警部補又ハ巡査」ヲ「整部補、巡査又ハ判任官ノ待遇ヲ受クル消防手」ニ、
「巡査警部補」ヲ「巡査若ハ判任官ノ待遇ヲ受クル消防手警部補」ニ、「警部
補巡査」ヲ「警部補巡査若ハ判任官ノ待遇ヲ受クル消防手」ニ改ム
附則
本法ハ大正十年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
〔參照〕
明治四十三年法律第三十號
巡査看守退隱料及遺族扶助料法ハ警部補及其ノ遺族ニ之ヲ準用ス
退隱料、一時金及遺族扶助料ノ關係ニ於テハ警部補又ハ巡査ノ勤續年數ハ
交互ニ之ヲ通算シ巡査警部補ニ任シ又ハ警部補巡査ニ就職スルトキハ之ヲ
勤續ト看做ス
判任以上ノ他ノ文官警部補ニ轉任スルトキハ官廳事務ノ伸縮ニ依リ退官シ
タルモノト看做ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員川村竹治君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=52
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053・川村竹治
○政府委員(川村竹治君) 唯今議題トナリマシタ明治四十三年法律第三十號
中改正法律案ハ、曩ニ提出イタシマシタル巡査看守退隱料及遺族扶助料法中
改正法律案ト關聯ヲ致シテ居ルモノデゴザイマシテ、退隱料及遺族扶助料ノ
給與ニ關シマシテ、巡査ト判任官ノ待遇ヲ受ケテ居ル所ノ消防手ト、其ノ在
職年限相互ニ通算イタシマスルト同ジヤウニ、警部補ト判任官ノ待遇ヲ受ケ
テ居ル所ノ消防手トノ間ニ於テモ、其ノ在職年限ヲ互ニ通算イタシタイト云
フノデアリマス、極メラ簡單ナル法案デアリマスカラ、ドウゾ速ニ御協賛ア
ラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=53
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054・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ於テ御異議ガナケレバ本案ハ陸軍軍法會議
法案ト同一委員ニ付託イタシマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第五、無盡業法中改正法律案、政府提出、衆
議院送付、第一讀會
無盡業法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月三日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
無盡業法中改正法律案
無盡業法中左ノ通改正ス
第九條中「前號ノ有價證劵」ヲ「前號ノ有價證劵又ハ不動產」ニ、「既ニ拂込ミ
タル掛金額」ヲ「契約給付金額」ニ改ノ同條ニ左ノ一項ヲ加フ
前項第三號ノ規定ニ依ル貸付金總額ハ拂込濟資本金及諸準備金ノ總額ヲ
超ユルコトヲ得ス
〔政府委員黑田英雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=55
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056・黒田英雄
○政府委員(黑田英雄君) 無盡業者ノ營業上ノ資金ノ運用ニ關シマスル現行
法ノ制限ニ依リマスト、加入者ノ方面カラ見マシテ、金融上ニ稍〓不便ガア
ルヤウニ考ヘラレルノデアリマス、又經營者ノ方面カラ見マシテ、經營上ニ
稍〓困難ナル點ガアルヤウニ考ヘラレルノデアリマシテ、茲ニ是等ノ制限ニ改
正ヲ加ヘマシテ、無盡業ノ發達ニ資シマシテ、其機能ヲ發揮サセヤウト考ヘ
ルノデアリマス、御審議ノ上、速ニ御協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=56
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057・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ御質疑モナイト認メマスカラ、特別委員ノ氏
名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
無盡業法中改正法律案特別委員
子爵稻垣太祥君子爵渡邊千冬君男爵小畑大太郞君
男爵高崎弓彥君藤田四郞君小山健三君
室田義文君佐藤傳兵衞君西川甚五郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=57
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058・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第六、船舶滿載吃水線法案、政府提出、衆議
院送付、第一讀會
船舶滿載吃水線法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月三日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
船舶滿載吃水線法案
船舶滿載吃水線法
第一條日本船舶ハ左ニ揭クルモノヲ除クノ外本法ニ依リ滿載吃水線ノ指
定ヲ受ケ之ヲ標示スヘシ
一船舶檢査法第一條各號ニ揭クル船舶
二沿海航路又ハ平水航路ヲ航路定限トスル船舶
三總噸數百噸未滿ニシテ近海航路ヲ航路定限トスル帆船
四漁獵、曳船、海難救助、浚渫又ハ測量ニノミ從事スル船舶其ノ他主
務大臣ニ於テ特ニ滿載吃水線ヲ標示ヌル必要ナシト認メタル船舶
第二條滿載吃水線ノ指定ハ主務大臣ノ特ニ定ムル場合ヲ除クノ外船舶ヲ
滿載吃水線ノ標示ヲ要スル船舶トシテ初メテ航行ノ用ニ供スルトキ之ヲ
受クヘシ
本法施行地ニ於テ製造スル船舶ハ製造中ト雖滿載吃水線ノ指定ヲ受クル
コトヲ得
第三條滿載吃水線ハ主務大臣ノ特ニ定ムル場合ヲ除クノ外船舶ノ所在地
ヲ管轄スル管海官廳之ヲ指定ス
第四條滿載吃水線ノ指定ヲ受ケ之ヲ標示シタル船舶ニハ船舶滿載吃水線
證書ヲ交付ス
第五條本法ニ依リ滿載吃水線ヲ標示シタル船舶ハ主務大臣ノ特ニ定ムル
場合ヲ除クノ外之ヲ超ユル吃水ヲ以テ航行スルコトヲ得ス
第六條滿載吃水線ノ標示ハ捕獲ヲ避ケムトスル場合其ノ他正當ノ事由ア
ル場合ヲ除クノ外之ヲ隱蔽、變更又ハ抹消スルコトヲ得ス
第七條檢査官吏ハ本法ニ違反スル行爲アリト認メタルトキハ何時ニテモ
船舶ニ臨視シ又ハ其ノ航行ノ停止ヲ命スルコトヲ得
第八條滿載吃水線ノ指定、標示及指定手數料ニ關シ必要ナル規程ハ主務
大臣之ヲ定ム
第九條主務大臣ノ認定シタル船級協會ニ於テ本法及本法ニ基ク規程ニ準
據シ滿載吃水線ヲ指定シ、船舶滿載吃水線證書ヲ發給シタルトキハ其ノ證
書及之ニ相當スル滿載吃水線ノ標示ハ之ヲ本法ニ依リタルモノト看做ス
第十條本法ハ本法施行地內ノ港ニ出入スル日本船舶ニ非サル船舶ニ之ヲ
準用ス
第十一條主務大臣ニ於テ前條ノ船舶ノ所屬地ノ滿載吃水線ニ關フル法令
ヲ相當ト認メタルトキハ之ニ依リテ受ケタル船舶滿載吃水線證書及之ニ
相當スル滿載吃水線ノ標示ハ之ヲ本法ニ依リタルモノト看做ス
前項ノ規定ハ本法ニ依リ發給シタル船舶滿載吃水線證書及之ニ相當スル
滿載吃水線ノ標示效力ヲ認メサル外國ニ屬スル船舶ニハ之ヲ適用セス
第十二條主務大臣ノ特ニ定ムル場合ヲ除クノ外船舶滿載吃水線證書ヲ受
ケサル船舶ヲ航行ノ用ニ供シ又ハ滿載吃水線ヲ超ユル吃水ヲ以テ航行シ
若ハ航行セムトシタルトキハ船長又ハ之ニ代リテ其ノ職務ヲ行フ者ヲ百
圓以上二千圓以下ノ罰金ニ處ス
第六條ノ規定ニ違反シ滿載吃水線ノ標示ヲ隱蔽、變更又ハ抹消シタル者
ノ罰亦前項ニ同シ
第十三條詐僞其ノ他不正ノ行爲ヲ以テ船舶滿載吃水線證書ヲ受ケタル者
ハ一年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ規定ハ帝國外ニ於テ前項ノ罪ヲ犯シタル者ニ亦之ヲ適用ス
第十四條檢査官吏ノ臨視ヲ拒ミ若ハ妨ケ又ハ航行停止ノ命ニ違反シタル
者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
附則
第十五條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條本法施行ノ際主務大臣ノ認定シタル船級協會ノ船舶滿載吃水線
證書ヲ受ケ之ニ相當スル滿載吃水線ノ標示ヲ有スル日本船舶ハ本法ニ依
ル船舶滿載吃水線證書及之ニ相當スル滿載吃水線ノ標示ヲ有スルモノト
看做ス
前項ノ規定ハ本法施行ノ際現ニ本法施行地内ノ港ニ在ル日本船舶ニ非サ
ル船舶ニ付其ノ港ニ在ル間之ヲ準用ス
第十七條前條第一項ノ規定ニ該當セサル日本船舶ニハ主務大臣ノ定ムル
所ニ依リ滿載吃水線ノ指定ヲ受クル迄本法ヲ適用セス
〔國務大臣野田卯太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=58
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059・野田卯太郎
○國務大臣、野田卯太郞君) 唯今ノ議題ニ相成ッテ居リマス船舶滿載吃水線
法ハ、標題ノ如ク船舶ノ過載ヲ制限シマシテ、海難ノ豫防ヲスルト云フガ第
一ノ趣意デアリマス、從ッテ造船基本ヲ定メマシテ、又經濟上荷物ヲ積ミ得
セシムルヤウニシタイト云フガ是レ亦趣意デゴザイマス、大體ハ斯クノ通リ
デゴザイマスガ、此ノ取扱規定ニ付マシテハ外國トモ多ク關係スルコトデ
アリマスカラ、本案ハ大正六年ニソレ〓〓專門家ノ中ヨリ委員ヲ設ケマシテ、
今日マデ調査致シタ次第デゴザイマス、此調査ノ結果、今日提案ヲスル次第
デゴザイマスガ、其委細ノコトハ委員會デソレ〓〓申上ゲルコトニ致シマス
カラ、ドウゾ御協賛下サレムコトヲ希望シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=59
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060・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ御報告ニ及ビマス
〔瀨古書記官朗讀〕
船舶滿載吃水線法案特別委員
伯爵堀田正恒君黑岡帶刀君小松謙次郞君
男爵斯波忠三郞君男爵近藤廉平君福永吉之助君
大村彥太郞君星島謹一郞君橋本辰二郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=60
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061・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御諮リヲ致シマス、日程第七、第八ハ一括シテ問
題ト致シ委員モ同一委員デ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第七、裁判所構成法中改正法律案、第八、定年ニ
因ル退職判事ノ恩給ニ關スル法律案、政府提出、第一讀會
裁判所構成法中改正法律案
右
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十年二月三日
內閣總理大臣原敬
司法大臣伯爵大木遠吉
裁判所構成法中改正法律案
裁判所構成法中左ノ通改正ス
第八條第二項但書ヲ削リ同條第三項ヲ左ノ如ク改ム
外國語ノ通譯ヲ要スル裁判所及檢事局ニ通譯官ヲ置クコトヲ得
第七十一條ノ二前三條ノ規定ノ適用ニ付テハ判事又ハ檢事タル資格ヲ有
スル司法省各局長司法省參事官ノ在職ハ之ヲ判事ノ在職ト看做ス
第七十四條ノ二ヲ第七十四條ノ三トス
第七十四條ノ二大審院長年齡六十五年其ノ他ノ判事ノ職ニ在ル者年齡六
十三年ニ達シタルトキハ退職トス但シ司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ總
會ノ決議ニ依リ五年以內ニ於テ期間ヲ定メ仍在職セシムルコトヲ得
第七十九條第一項中「勅任又ハ奏任」ヲ「親任勅任又ハ奏任」ニ改メ同條第三
項中「勅任檢事」ヲ「親任檢事」ニ改ム
第八十條ノ二檢事總長年齡六十五年其ノ他ノ檢事ノ職ニ在ル者年齡六十
三年ニ達シタルトキハ退職トス但シ司法大臣ハ五年以內ニ於テ期間ヲ定
メ仍在職セシムルコトヲ得
第八十八條中「書記長」ノ下ニ「及通譯官」ヲ加フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ判事又ハ檢事ノ職ニ在ル者ニシテ本法施行ノ日ニ於テ第
七十四條ノ二又ハ第八十條ノ二ニ規定スル年齡ヲ超ユルモノ及本法施行ノ
日ヨリ二十日內ニ於テ其ノ年齡ニ達スルモノハ本法施行ノ日ヨリ二十日ヲ
經テ退職スルモノトス
前項ノ場合ニ於テハ判事ニ付テハ第七十四條ノ二但書ノ規定ヲ、檢事ニ付
テハ第八十條ノ二但書ノ規定ヲ準用ス但シ第七十四條ノ二又ハ第八十條ノ
二ニ規定スル年齡ニ五年ヲ加ヘタルモノヲ超エテ在職セシムルコトヲ得ス
定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案
右
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十年二月三日
內閣總理大臣原敬
司法大臣伯爵大木遠吉
定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案
本法施行ノ際現ニ判事又ハ檢事ノ本官ニ在職スル者本法施行後引續キ判事
又ハ檢事トシテ在職シ裁判所構成法第七十四條ノ二又ハ第八十條ノ二ニ規
定スル年齡ニ達シタル後退職シ又ハ其ノ官ヲ免セラレ恩給ヲ受クヘキ場合
ニ於テハ其ノ恩給年額ハ官吏恩給法第五條ノ規定ニ依リ計算シタル年額ニ
其ノ百分ノ五十ニ相當スル金額ヲ加ヘタルモノトス
前項ノ規定ノ適用ニ付テハ判事檢事相互ニ轉任シタル場合ハ引續キ在職シ
タルモノト看做ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=63
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064・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 裁判所構成法中改正案竝ニ之ニ伴フ所ノ恩給
ノ改正案ニ付マシテ、大體ノ御說明ヲ申上ゲタイト思ヒマス、本案モ亦去
年ノ特別議會ニ提出セラレタルノデアリマシテ、不幸ニシテ審議未了ニ終ッ
テ、更ニ當四十四議會ニ提案スル運ビニ至ッタノデアリマス、本案ハ昨年述べ
マシタガ如ク、此檢事ノ服務ノ年齡ノ上ニ制限ヲ設ケムトスルノ案デアリマ
シテ、是ハ要スルニ後進ノ途ヲ啓發シテ、部內ノ士氣ヲ一新セシムルト云フ
コトガ本案ノ本旨デアリマス、御承知ノ如ク現行法ニ依リマスルト、何時マ
デモ判事ハ其地位ヲ保持シテ居リマスルガ故ニ、後進ノ者ハ大キニ上達ノ望
ヲ失ヒ、中途ヨリ他ニ轉ズルト云フヤウナコトガ往々アルノデ、如何ニモ部
內ノ狀況ガ沈滯不動ノ狀況デアリマシテ、何等後進ノ途ヲ啓發スルコトノ出
來ナイノハ遺憾ノ至リナノデアリマス、玆ニ其弊ヲ一洗シタイガ爲ニ本案ヲ
定メタ次第デアリマス、又此中ニ檢事總長ノ地位ヲ高メテ親任トスルコトモ
加ハッタノデアリマス、是ハ昨年モ申述ベマシタ如ク、其職責ノ上ニ鑑ミマ
シテ、會計檢査院長及ビ行政裁判所長官ト同樣デアッテ然ルベキノデアラウ
ト云フ考カラシテ、檢事總長ノ地位ヲ親任官ニ致シタイ、斯樣ナ考ヲ致シタ
次第デアリマス、其他外國語ノ通譯ノ必要ヨリ、裁判所檢事局ニ新規ニ奏任
官タル所ノ通譯官ヲ置クコトヲ必要ナリト認メテ、今度改正案中ニ之ヲ入レ
タ次第デアリマス、ソレカラ恩給法ノ方ハ是ハ此定年ニ達シタル所ノ判事檢
事等ヲシテ、普通ノ恩給ヨリモ、聊カ之ニ色ヲ添ヘテ若干ノ茲ニ恩給料ヲ增
加ヲ致スノ必要ヲ認メマシテ、之ヲ五割、普通ノ恩給ヨリモ五割ヲ增スト云
フコトヲ企テタ次第デアリマス、外國ノ立法ニ依リマスト、或國ニ依テハ全
給ヲ支給シ、或國ニ於テハ三分ノ二トカ四分ノ三トカ、中〓優遇ノ途ヲ與ヘ
テ居ル趣デアル、其定年ニ依テ退職スル所ノ判事ニハ········併ナガラ我國ニ
於テハ他ノ權衡モアリマスシ、獨リ定年ニ依ル所ノ判事ノミニ過大ナル優遇
ヲ加フルコトハ如何デアラウカ、併ナガラ普通ト一〓ニスルコトモ如何デア
ラウカ、五割增位ノ所ガ穩當デアラウト云フ所カラ致シタ譯デ、併ナガラ申
迄モナク此ノ恩給增加ト云フノハ、現ニ判檢事デアル所ノ者ガ定年ニ依テ退
職スル時ニ於テノミ、此優遇ノ恩給ヲ與フルノデアリマシテ、此ノ構成法改
正後ニ於テ判檢事ヲ志願シテ來ル所ノ者ハ素ヨリ與カラナイノデアリマス、
故ニ此思給ハ現在ノ判檢事定年ニ達シテ引退スル時ニ於テノミ行ハレルモノ
デアリマスカラ、ドウゾ其邊ノ御推察ヲ仰イデ、御審議ノ末兩案共御協贊ア
ラムコトヲ希フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=64
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065・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 仲小路廉君
〔仲小路廉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=65
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066・仲小路廉
○仲小路廉君 本案ハ昨年ノ特別議會ニ政府ヨリ提案ヲサレマシテ、貴族院
ニ於テハ審議未了ノ儘ニ終ッタノデアリマシテ、是ガ爲ニ少カラヌ世上ノ注意
モ惹イタ譯デアリマス、此度政府ノ提案ニ際シマシテハ一通リ本員等ノ立
場ヲ明カニシテ置キマシテ、玆ニ總理大臣ノ御所見ヲ伺ッテ置キタイト思ヒ
P〓、本案提出ノ理由ハ唯〓司法大臣ノ御說明ニ依リマシテ、其趣意ハ司法
部內ノ改良刷新ヲ圖リタイ、後進者ノ爲ニ地位ヲ開イテ部內ノ士氣ヲ皷舞シ
タイ、斯ウ云フ御趣意デアリマス、我〓モ今日ノ場合ニ於キマシテ司法部內
ノ刷新改良ハ最モ希望スル所デアリマス、況ヤ今日ノ如クニ總テノ事ガ物質
的慾望ノ旺隆ト伴ヒマシテ、精神的ニ漸次頽廢ヲ來サムトスルヤウナ場合ニ、
誠ニ忌ムベキコトガ諸方ニ起ル時デアリマス、此際ハ一ニ嚴正公明ナ司法官
ヲ賴ル外ナイノデアリマス、故ニ司法部ノ刷新改良ヲ圖ッテ、何處マデモ嚴
正公平ノ司法官ノ組織ニナリマスコトハ、甚ダ望ム所デアリマス、是ニ付
マシテ私共ノ疑ヲ懷キマス點ハ、第一ニ判事ニ對シテ之ニ一定ノ年限ヲ定メ
テ、其年限ニ到達スレバ其職ヨリ之ヲ退カシムルト云フコトガ、是ガ憲法ニ
牴觸ハシナイノデアルカ、此憲法ノ精神ニ違フヤウナコトハナイカ、是ガ第
一ノ疑デアリマス、ト申スハ憲法五十八條ニ於テ、「裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ
懲戒ノ處分ニ由ルノ外其職ヲ免セラルヽコトナシ」斯ウアル、然ニ今度ノ規
定ニ依レバ裁判官ガ或一定ノ年限ニ達スルト其職務ヨリ退カシムル、斯ウ云
フコトニナッテ居ルノデアルカラ、スレバ今度ノ規定ハ憲法五十八條ノ規定
ト牴觸ハシナイカ、是ハ私ノミナラズ同僚各員ニ於テ多ク懷カレル疑問デア
リマス、之ニ對シテ政府當局者ノ御說明ニ依リマスルト、憲法五十八條ノ規
定中ニ判事ガ其職ヲ免セラルヽコトナシトアル、是ハ官ト職トノ區別ヲ置カ
ナケレバナラヌ、裁判官ハ終身官デアル、官ヲ奪フコトハ刑法ノ宣告又ハ懲
戒ノ處分ニ依ラナケレバソレヲ奪フ譯ニイカヌ、併ナガラ職ヲ退カシメルト
云フ、是ハ法律ノ規定ニ依テ出來ルノデアル、決シテ刑法ノ宣告若クハ懲
戒裁判ニ依ラナケレバナラヌ譯デナイ、斯ウ云フ御說明デアル、玆ニ我〓ハ
大ナル疑ヲ有ツノデアル、憲法ノ五十八條ニ於テ裁判官ノ地位ヲ特ニ保障ヲ
シテ、決シテ裁判官ハ他ノ權威ノ爲ニ、若シクハ他ノ權勢ノ爲ニ威壓セラレ
ルヤウナコトナクシテ、何處マデモ獨立不覊ノ考ヲ以テ良心ノ命ズル所ニ依
テ至當ノ判斷ヲセヨ、其趣意ノ爲ニ判事ノ地位ノ保障ガアル、此保障サレテ
居ル其地位ヲ法律ノ作用ニ依テ常ニ變更動搖スルコトニナリマシタナラバ、
憲法上ノ大趣意ヲ如何ニスル、卽チ憲法ニ於テ裁判官ノ地位ハ容易ニ奪ハヌ、
動カサヌト言フタノハ、ソレデアル、然ニ官ハ奪ハナイガ、職ヲ退カシメル
ト云フハ、一向差支ガナイ、是ハ甚ダ皮相ノ見解デハナイカト思ヒマス唯
判事ガ官名ダケヲ抱イテ、或ハ退職判事休職判事ト言ッテ社會上ニ地位ヲ得
テ居ルト云フコトバカ·リガ憲法ノ目的デハナイノデ、獨立不覊ノ考ヲ以テ自
分ノ確信ニ從ッテ裁判ヲスルト云フ其職務ガ大切ナノデアル、其職務ヲ容易
ニ退ケナイ、地位ガ動搖スル、詰リ地位ガ他ノ勢力ノ爲ニ壓迫サレル或ハ
誘惑サレルカラ地位ヲ確保スル、其地位ノ確保ハ職務ヲ確保スル、唯官名サ
へ帶ビテ居レバ宜シイト云フ譯デハナイ、サウ云フ憲法ノ趣旨デハナイ、唯茲
ニ政府當局者ノ御說明ノ論據トナルベキモノハ、裁判所構成法ノ七十四條ノ
規定デアリマス、其ノ規定卽チ憲法附屬ノ法律トシテ其ノ裁判所構成法ノ七
十四條ニ「判事身體若ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタ
ルトキハ司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ總會ノ決議ニ依リ之ニ退職ヲ命スル
コトヲ得」斯ウアル、是ガ論據ニナッテ居ル、卽チ裁判所構成法ナルモノハ
憲法附屬ノ法律ト同樣ニ發布サレテ居ル、其ノ裁判所構成法中ニ於テ判事ニ
退職ヲ爲シ得ルコトノ規定ヲ設ケテアル、其規定ノ設ケラレテ居ル趣旨カラ
見レバ、憲法ノ上ニ於テ職ヲ免ゼラレルコトナシトアルガ、ソレハ官ヲ言つ
タノデ、職務ヲ免ズルコトヲ法律ヲ以テスルコトハ是ハ一向差支ガナイ、之
ガ政府ノ御論據ノアル所デアル、此處ニ至ッテハ我〓ハ一疑問ヲ有ッテ居ル、
成程構成法中ニ今ノ規定ガアル、此ノ構成法中ノ規定ヲ能ク能ク御覽ヲ願ヒ
タイト思ヒマス、是ニハ深イ趣意ガアル、凡ソ法律トシテハ憲法ノ趣旨ノア
ル所ヲ敷衍シ、又其精神ノアル所ヲ明カニスル爲ノ法ノ制度、卽チ其ノ立法
例ハ澤山アル、丁度構成法中ニモ判事ハ其任官ヲ終身官トシテ七十三條中ニ
「判事ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルニ非サレハ其ノ意ニ反シテ轉官
轉所停職免職又ハ減俸セラルヽコトナシ」是等ノ規定ハ皆憲法上ノ地位ヲ保
障シテ居ル其精神ヲ明カニシ、其趣旨ヲ敷術スル爲ニ出來テ居ルモノデ、是
ト同ジ趣旨ガ七十四條ニ現ハレテ來テ居ル、判事ガ身體若クハ精神ノ衰弱
ニ依テ職務ヲ執ルコトガ出來ヌ場合ニハ職ヲ退カシメル、併ナガラ其退カシ
メルニ付テノ方法モ他ノ行政權、他ノ權限ノ侵シ込ムコトヲ許シテ居ラヌノ
デアル、卽チ大審院若クハ控訴院ノ總會ノ決議ニ依テ自治自裁ヲスル、仲間
同志ト自分等ノ信用ト一般ノ信任ヲ博スル爲ニ身體精神ノ無能ニ依レルモノ
ハ仲間同志ニ於テ自治自裁ヲスル、是ガ卽チ構成法ノ七十四條ノ規定デアル、
是モ卽チ憲法上ノ趣旨、他ノ權力ノ壓迫、他ノ力ノ侵人ニ依テ不覊獨立ノ裁
判官ヲ無闇ニ退カシメルコトハ出來ナイ、其意思ヲ現ハシテ居ル、斯ノ如キ
趣意ヲ以テ出來テ居ル此七十四條ヲ根據ニ取ッテ、法律ノ規定ナラバ如何ナ
ル退職ノ規定ヲ作ッテモ宜イト云フコトハ、甚ダ當ヲ得スコトダト思フノデ
アル、若シモ左樣ナコトガ出來得ルコトナラバ、唯今政府、唯今ノ司法大臣
ニハ決シテ左樣ナコトハアルマイト私ハ思フ、若シモ他日甚ダ不當ナコトヲ
爲ス政府、甚ダ不條理ナコトヲスルヤウナ司法大臣ノ在職ノ時ニハ、ドンナ
法律ノ制度ヲ立テラレルカモ知レナイ、況ンヤ追〓黨派ノ競爭モ激シクナリ、
漸次黨弊モ起ッテ來ル時分ハ、勢ノ極マル所、其勢ニ依テ如何ナル立法ヲ爲
スカモ知レマセヌ、其時分ニハ我〓ガ眞ニ賴ラムトスル司法權ハ遂ニ一種ノ
行政權ノ爲ニ根本カラ動搖ヲ來タサヌトモ申サレマセヌ、如何ナル惡法モ法
ハ法デアルト云フ名ノ下ニ、遂ニ憲法ノ精神ヲモ蹂躙シテ仕舞ッテ、行政權
ガ全ク司法權ヲ併合シ終ルヤウナ結果ガ出來テハナラヌノデアル、若シ左樣
ナコトニナリマシテ判事ノ退職ハ法律デ出來ルト云フナラバ、遂ニ司法大臣
ノ裁量ニ從ッテ判事ヲ退カシメルコトガ出來ル法モ立ツ、事務ノ都合ニ依テ
裁判官ニ休職ヲ命ズルコトヲ得ト云フ法モ立ッテ來ル、ソレガ全ク憲法ノ趣
旨ト精神ニ牴觸スルモノデアル、此點ハ苟モ國家ノ大政ニ當ラルヽ人〓ハ獨
リ現在ノミナラズ將來ノコトモ御考慮ニナリマシテ、ドウカ憲法ノ精神ト云
フモノハ何所マデモ尊重イタシテ、遂ニ惡法ノ爲ニ折角司法權ノ尊嚴ヲ害
スルヤウナコトガアッテハナラヌト云フコトヲ憂フルノデアリマス、政府ニ於
カレマシテモ宜シク質問者ノ趣旨ノアル所ヲ御了解ヲ得マシテ、先ヅ一ニ對
シテ御答ヲ得タイト思ヒマス、其次ニハ假ニ判事ニ年齡ノ制限ヲ置キマシテ、
六十三年若クハ六十五歲ニ至ッタ裁判官ハ、是ハ事實無能ノ者デアルカラシ
テ、之ニ裁判ヲナサシムルコトハ宜シクナイ、職ヲ退カシムルコトガ至當デア
ルト云フ此考ヲ以テ定年制度ヲ立テラルルト致シマス、是ハ憲法ニ牴觸スル
トカ、其點ハ暫ク避ケマシテ、實際上是ハ適當ナル法律デアリマスカドウカ
ヲ疑フノデアリマス一體精神的ノ事務ニ從ッテ居ル文官ニ、年齡ニ從ッテ職
ヲ退カシムルト云フ規定ヲ立テルト云フコトハ是ガ適切ナモノデアルカ、如
何デアルカ、六十六年、六十三年ニ到著シテ居ル人デスラモ、ナカ〓〓身體
精神共ニ旺盛デアリマシテ、人ノ以上ニ力ヲ揮ハルヽ人モアルノデアリマス、
現ニ現總理大臣ノ如キモ御年齡ハ既ニ六十六七歲ニ御逹シニナフテ居ルト云
フノデアリマス、ソレデアリマシテモ身體精神共ニ旺盛デアリマシテ、大政
ノ衝ニ當ラルヽノミナラズ、各大臣ノ總テノ事ニ付マシテモ一手ニ引受ケ
テ御盡力ニナル位デアリマス、是ハ實際デアリマス、斯樣ナ精神身體共ニ旺
盛デ實ニ國家ノ爲ニ有用ナ方ガ、唯年齡ガ六十五以上ニナッタカラト云ッテモ、
之ヲ退ケテシマフト云フノハ正當デアリマセウカ、若モ斯樣ナ人ガ裁判官ニ
身ヲ奉ジテ居ッテ、矢張リ同樣ニ身體精神共ニ旺盛ニシテ世故ニモ通ジ、法
理ニモ通ジテ實ニ堪能ナ裁判官、ソレモ同樣最早六十三年、六十五年以上ニ
達シタカラ是ハ退ケベキモノデアル、唯其アト五年間ハ何カ考慮シテ見テ多
少延バシラ宜シイト云フ、斯樣ナ點ニ置キマスコトハ立法トシテ適切デアリ
マセウカ、惜シイコトデハナイカ、折角ノ有爲ナ人ガ········又ソレト反對ニ今
度ハ人ハ强チ六十三ニ達セヌデモ六十五歲ニ達セヌデモ、徃々若朽者ガアリ
やく、若朽者モ少カラヌ、其人〓ガ、此法律ノ出來ル結果トシテハ、構成法
ノ七十四條ノ身體精神ノ不能ニ依テ退職ヲ當分行ハレヌ、不用ニナッタトス
ルト、是等ノ若朽者ハ少ナクモ六十三年六十五年マデハ、其地位誠ニ安定ナ
リトシテ、退クベキ時デモ退カナクナッテシマフ、是ハ確ニアル事實デアル
ト思フ、シマスルト此法律ハ後進者ヲ進メテ行ク進路ヲ開クト云ッタ御趣意
ニ、全ク反對ノ結果ヲ實際ニ現ハスヤウナコトガ出テ參リハ致シマセヌカ、事
實ハソンナコトガアリハセヌカト思フ、スルト法トシテハ實ニ迂遠ナ法デアツ
テ實際ニ適セヌノミナラズ、其結果ハ提案ノ御趣意ニ全ク反スルヤウナ實情
ヲ現ハシハセヌカト存ジマスルガ、之ニ付テ司法大臣ハ如何ニ御考ヘニナリ
マセウカ、ソレカラ其次ニ判事ニ定年ヲ作ル、六十五歲六十三歲ニ到著シタ者
ハ退ケル、是ガ若モ至當ナコトデアリマスルナラバ、ナゼ之ト等シイ關係ヲ
持ッテ居ル會計檢査院及ビ行政裁判所ノ評定官ニ此趣旨ヲ御適用ニナリマセ
ヌカ、ドウシテモ或年齡ニ達シタ者ハ、最早裁判ノ能力ガ無イト云フコトノ
推測ヲナスト云フコトガ至當ナラバ、サウスレバ會計檢査院或ハ行政裁判所、
評定官是等モ亦同樣ニ見ラレルガ至當ダト思フ、更ニ進ンデ申スト、ソレバ
カリデハゴザイマセヌ、遂ニハ一般文官ニモ其規定ガ必要デナイカト思フ、
更ニ進ンデハ貴族院ニ於ケル勅選議員ナドニモ同樣ナコトガ及ンデ來ハセヌ
カト思フ、人ハ或年限ニ達スレバ不能ナモノダト云フ推測ガ正シイモノナラ
バ、サウナッテ來ル、トコロガサウ云フモノデハナイ、現ニ現總理大臣ノ如
キ高年ニ達セラレテモ有爲ナモノダト云フコトハ事實デアル、ソレナラバ斯
カル規定ヲ設ケルコトガ實際ニ迂遠デアリ、適切ヲ缺ク、若モソレガ至當ナ
道理ノモノナラバナゼ會計檢査院、行政裁判所評定官、其他ソレニ等シイ一
般文官モ皆ソレヲ御適用ニナリマセヌカ、之ヲ伺ヒタイデス、ソレカラ續キ
マシテ此恩給法ノコトデアル、私ハ裁判官ヲ厚遇サレテ、俸給モ裕カニシ又
手厚イ恩給ヲ與ヘラレマスコトモ是モ宜シカラウト存ジマス········宜シカラウ
ト思フノデアリマス、此度此法律ヲ適用シテ在職判事ガ定年ニ達シタカラ退
ケル、其退ケル者ハ普通文官、普通軍人其外トハ之ヲ扱ヒヲ別ニシテ、五割卽
半額マデノ恩給ヲ增加スル、其趣旨ハドウ云フコトデアルカ、裁判官ヲ一般
ニ優遇ヲシテ、或ハ全体給ニ相當スル思給制度ヲ立テルト云フモソレハ必要
カモ知レマセヌ、ソレヲ吝ムト云フノデモ何デモナイ、又年齡ガ六十五ニ達
シタト云フナラバ、國家ガ必要トシテソレヲ退ケル、ソレガ必要ナラバソ
レデ宜シイ、然ニ其者ニ對シテ特ニ半額ノ恩給ヲ給與スル、是ハ或ル情味、
或情ダト斯ウ云ヘバ麗シイコトニモ見エマスガ、併ナガラ理由ノ無イ情味ト
云フモノハ、是ハ情質ニ亘リ公正ヲ缺イタト言ヘルデハナイカ、ト云フノハ何
カト云フト、退ケルコトハ甚ダドウモ不當ダト思フカラ、此際ノ人ニハ特ニ
御情ヲ以テ多少ココニ利益ヲ與ヘテ置ク、是ハ私ハ公平公正ヲ尊ブベキ、裁
判官ヲ待ツベキ道デハナカラウカト思フノデ、斯樣ナコトニナリマスト、人
八金〓精神的ニ頽廢ヲ致シテ何事モ利害カラ打算ヲシテ見ル、遂ニハ永年サ
ウヤッテ居ッテ、其期ニ到リサヘスレバ普通ノ者トハ別ニ半額ノ恩給ニナル、
サウナル、今日現在奉職シテ居ル人〓ハ、先ヅ先ヅ其時期ニ到ルマデハ、ド
ウモサウ行カウヂヤナイカ、斯ウナルト實際ニ於テハ全ク司法部內ヲシテ、
益〓欝結セシメテ仕舞フ、後進ノ進路ガ開カレヌバカリデハゴザイマセヌ、却
テ多クノ若朽者其人〓マデモ、遂ニハ本當ニ老朽ニ至ルマデ其席ヲ塞イデ居
リハシナイカト思ヒマス、是等ノ趣旨ハ能ク質問者ノ趣意ノアル所ヲ御了解
ニッナテ、私共司法部ノ刷新改良ヲ望ミマス、政府ノ御趣意モ其處ニアルト
存ジマス、ソレデアリマス以上ハ其目的ニ到達スル途ニ付テハ宜シイノデア
リマスガ、ソレニ反シテ憲法上甚ダ穩カナラスコトニナッテ、他日惡例ノ因
トナル価ヲ作ルト云フ罪ヲ負ハヌトハ言ヘナイ、而シテ其爲ス所甚ダ不公平
ニ類スル、次ニ恩給制度ニ對シテ、是ヨリ及ボシマシテ退職サルヽ軍人諸君
方ハ如何ニスルカ、是ト同樣ナ關係ガ皆出テ參リマス、恩給ノ如キコトハ、
甚ダ一方ニ不公平ナコトガ始マルト、ソレカラドウモ全部ニ及ブ、遂ニ其弊
害ノ極マル所測リ知ルコトガ出來ヌコトニナルノデアリマス、是ガ卽チ昨年
來本案ハ簡單ナモノデアリマスガ、其趣意ハ重大デアリマス、從ッテ是ハ輕
擧ニ審議ヲシテ〓々ノ間ニ通過セシムルト云フコトハ宜シクナイト考ヘテ、
我〓ハ熱心ニ審査ニ從事イタシテ何處迄モ弊害ヲ他日ニ遺サヌ爲ニ努力ヲ
致シタノデアリマス、不幸ニシテソレガ前議會ニ會期終了ノ爲メニ未了ニ
終ッタ趣旨ハ、全ク其理由デゴザイマス世上ニ對シテ種々ノ疑惑モアリ注意
ヲ惹イテ居リマス譯デアリマス、是等ノ點ヲ明カニ致シテ、質問者ノ趣旨
ノアル所ヲ能ク政府ノ御了解ヲ得マシテ)ドウカ適切ナ御答辯ヲ煩ハシタイ
ト思ヒマス
〔國務大臣原敬君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=66
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067・原敬
○國務大臣(原敬君) 唯今仲小路君ノ憲法上ヨリ段々御議論デアリマシタ
ガ、或ハ仲小路君ノ御覽ニナル所ト私ノ考ヘマス所ト意見ノ相違ハアルカモ
知レマセヌト考ヘマスケレドモ兎ニ角御質問ニ對シテ本案ヲ離レテハ說明
ハ出來マセヌケレドモ、本案ニ依テ御答ヲ致スコトニシャウト考ヘルノデア
リマス、抑〓憲法第五十八條ニ、裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具備シタル者
ヲ以テ之ニ任ス、第二項ニハ裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒處分ニ由ルノ外其
ノ職ヲ免セラルヽコトナシ、斯樣ニアリマス、是ハ廣義ノ解釋ト狹義ニ解釋ス
ル、 、極メテ又單純ニ見ルト、ソレ等色〓見樣ニ依テ相違ハアリマセウ、併
シ如何ニ考ヘマシテモ、裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ依ルノ外其職
ヲ免セラレルコトナシト云フ意味ハ、七十歲ニナラウガ八十歲ニナラウガ九
十歲ニナラウガ、病氣デアラウガ精神ニ異狀ヲ來サウガ、何ガアッテモ其職
ヲ免ゼラレルコトナシト解釋スルコトハ如何ナル人デモ出來ナイ筈デ、又憲
法ハサウ云フ無理ナ規定ヲ設ケテ居ルモノト思ハレヌノデアリマス、故ニ此
憲法ノ趣意ヲ害セザル範圍ニ於テ、其趣意ヲ酌ンデ裁判所構成法第七十四條
三·つ判事身體若ハ精神ノ衰弱ニ因リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルト
キハ司法大臣ハ控訴院又ハ大審院ノ總會ノ決議ニ依リ之ニ退職ヲ命スルコト
ヲ得」、是ハ憲法ニ牴觸シナイ.憲法ノ意志ニ依テ此箇條ハ出テ居ルモノト見
ナケレバナリマセヌ、若シ憲法ヲ非常ニ狹義ニ解釋イタシマスナラバ、此ノ
七十四條モ無理ナ話デ、病氣デアラウガ、精神ニ異狀ガアラウガ、其職ニ置
カナケレバナラヌト申サナケレバナリマセヌケレドモ、是ハ憲法ノ趣意ヨリ
見マスト非常識ノ解釋デアリマス、固ヨリ採ルベカラザル解釋ト見ナケレバ
ナラヌ、七十四條ガサウ云フ解釋ニ依テ生ジタモノトシマスレバ、今囘ノ定
年ニ達スレバ其職ヲ退カシムルト云フコトヲ法律ニ規定イタシマシテモ、何
等此ノ憲法上ノ精神ニ矛盾ハイタシテ居ラヌト考ヘルノデアリマス、又憲法
ハ左樣ナル狹義ナモノデナイト私共ハ解釋イタシテ居リマス、是ハ昨年ニ於
テ職ト官ト云フコトニ付マシテハ色〓アリマシタケレドモ、要スルニ其ノ
裁判官ノ官ヲ免ズルノデハアリマセヌ、其職ヲ去ラシムルノデアリマス是
ハ何等差支ハナイト、私共ハ憲法ヲ解釋スル上カラサウ思ッテ居ルノデアリ
マイク。又構成法ノ第七十四條モ卽チ此精神ニ矛盾セザルモノデアルノデアリ
マスカラ、是ト規定ハ違ヒマスケレドモ、其精神ニ於テハ差支ナイモノト考
ヘルノデアリマス、デ之ニ付テ或ハ仲小路君ト見解ガ違ヒマスレバ已ムヲ得
ヌノデアリマスガ、私共ハ左樣ニ解決ヲイタシマシテ、此ノ定年法ハ決シテ
憲法ニ違反シタモノデナイト考ヘルノデアリマス、併シ仲小路君ハ之ニ因。ツ
テ起ル所ノ弊害ヲ列擧セラレマシテ、斯樣ナル法律上規定ヲ設ケマシタナラ
バ後ニハ亂暴ナル政治家ガアッテ、國民ノ信賴スル所ノ裁判官ノ位置ヲ動搖
セシムルガ如キ、無法ナル案ヲ提出イタサナイトモ限ラヌ、斯ウ云フ御心配
モアリ其他色〓列擧セラレマシタガ、是ハ成程サウ心配イタセバ私共モ心配
セザルニアラズデアリマス、併シ左樣ナル亂暴ナル人ガアリマシテ法案ヲ提
出シタ場合ニ、兩院ガ之ニ協賛ヲ致スダラウトハ常識上豫期サレヌノデアリ
RV.然ル以上ニハサウ云フ人ガアリマシタ處ガ、サウ憲法ヲ無視スルヤウ
ナ亂暴ナコトハ、恐ク其氣遣ヒハナイト常識上今日ハ考ヘテ置カナケレバナ
ラヌノデアリマス、又凡ソ弊害ハ何事ニモ附纒フモノデアリマス、現ニ今日
存在シテ居ル所ノ裁判所構成法第七十四條、唯今中シマシタ「判事身體若ハ
精神ノ衰弱ニ依リ職務ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ司法大臣ハ控訴
院又ハ大審院ノ總會ノ決議ニ依リ之ニ退職ヲ命スルコトヲ得」ト云フ現行構
成法ノ規定ハ、無論公明正大ナモノデアリマス、併シ弊バカリ申セバ是モ弊
ヲ生ズルノデアリマス、又既ニ先年生ジタヤウニ記憶スル、是ハ司法裁判所
デアリマシタカ、行政裁判所デアリマシタカ、玆ニハッキリ卽座ニハ申シ惡
イケレドモ、ドチラデアリマシタカ知ラヌガ、此類似ノ規定アル場所ニ、此
規定ニ依テ、身體衰弱ト云フヤウナコトニ依テ退職セシメタ、何ゾ圖ラム此
人ハ身體衰弱デナイ、一向衰弱モ何モ致シテ居ラヌガ、多數ガ寄ッテタカッテ
之ヲ身體衰弱ナルモノトシテ、此法律ニ依テ退職セシメタト云フコトハ先
年隨分世上ノヤカマシイ議論ニナッタコトガアル、故ニ弊バカリ申セバ今日
ノ制度ト雖モ弊ハ附纒フノデアリマス、故ニ決シテ此法ノミヲ以テハ論斷ガ
出來ナカラウト云フ一例ヲ私ガ申スニ過ギナイ、構成法ノ第七十四條ノ明カ
ナル規定アルニ拘ラズ、斯樣ナル弊害ヲ生ジタコトモアル、是ガ弊害デアル
カ.世上ノ物議カ誤ッテ居ッタカ、ソレハ別論デアリマスケレドモ、併シ兎ニ
角ニサウ云フヤウナコトガアル、故ニ絕對的ニ何事モ弊ナシトスルコトハ不
可能デアリマス、併ナガラ大體ニ於テ今日提案イタシテ居ルヤウナルコトハ、
左樣ナル種々ノ弊害ヲ豫期シテ、是ハ不當ナル案ナリト斷定スルベキモノデ
ハナカラウト考ヘル、ナゼト申スノニ、憲法ニ於テ裁判官ノ位置ヲ保證セラ
レタルノモ、裁判所構成法ニ於テ之ヲ保障シテ居ルノモ、要スルニ行政官ノ
意思ナドニ依テ、勝手次第ニ裁判官ノ位置ヲ動カシテハ相成ラヌト云フ精神
ヨリ、保障シテアルノデアリマス、今囘提出イタシタ所ノ定年法ハ行政官ノ
意思ニ依テドウスルト云フコトヂヤナイノデアリマス、行政官ハ如何ニ考ヘ
マシテモ、法律ノ規定ニ依テ六十三歲其他ニ達スレバ其職ヲ退クト云フノデ
アリマスカラ、行政官ノ意思ニ依テ動カスコトガ宜シクナイト云フガ爲ニ、
憲法竝ニ裁判所構成法ノ規定アリタリト解釋イタスノガ適當ナリトシマスレ
バ、今囘提出ノモノハ行政官ノ意思ニ依テ動クノデアリマセヌ、行政官ハ如
何ニ留メテ置キタクモ退ケタクモ此年限ニ達シナイトキニハ出來ナイノデア
リマス、唯或場合ニ於テ尙ホ數年間其人ニ在職ヲ要スル場合ニハ、是ハ相當ナ
ル機關ノ決議ヲ經、裁判官デアレバ····檢事デアレバサウヂヤアリマセヌガ
サウシテ或年限間其人ヲ其職ニ置クト云フノデ、是モ法律ニ明カニ規
定シテアルコトデ、尤モ行政官ノ意思ニ依テ其職務ヲ去ラシムルコトハ宜シ
クナイノデ、構成法ノ規定ハアリマスルガ、是ハ退ケル方デハ無論ナイノデア
リマス、留ムル方デ、其場合ニモ相當ナル機關ノ決議ヲ要シマスルカラ、行政
官ノ自由意思デハ出來ナイノデアリマスルケレドモ、併シ是ハ第一ニ考ヘナ
ケレバナラヌノハ、其職ヲ去ラシムル方ヂヤナイ、其職ヲ留ムル方デアル、
故ニ憲法ノ精神ヨリ考ヘマシテモ、行政官ノ意思ニ依テ自由ニ裁判官ノ位置
ヲ動カスト云フ精神ハ毛頭ナイノデアリマス、又裁判官ニ對シテ年限ヲ置ク
ナラバ、ナゼ他ノ者ニ及ボサヌカト云フ斯ウ云フコトデアリマス、是ハ確カ
昨年ノ議會デドナタカサウ云フ御質問ガアリマシタ、行政裁判所ヤ會計檢査
院ハドウスルカト云フコトデ、今日必要ヲ見ナイ、故ニ左樣ナルコトハ提出
イタサヌト其時ニ御答ヲ致シタノデアリマス、且又會計檢査院ト云ヒ、行政
裁判所ト云ヒ、唯今申シタガ如ク憲法上明カニ規定サレテ居ルノデハナイノ
デアリマス、法律ニ依テ規定セラレタモノデアリマスルカラ、自カラ趣ヲ異
ニ致シマスガ、併シ其必要ヲ感ジマシタ時ニハ或ハ斯ウ云フ法律ヲ規定セザ
ルヲ得ヌカモ知レヌノデアリマス、無論ニ行政裁判所、會計檢査院既ニ其通
リ、他ノ行政官ニ及ボスナドト云フコトハ、其必要ヲ見マスレバ是モ宜シイ
ノデアリマス、又現ニ文官恩給令ニ依リマスレバ、六十年ニ達スレバ當人ノ
都合デ退職イタシテモ恩給ヲ與ヘルト云フ規定モアルノデアリマスカラ、如
何ニ將來規定スルノカト云フコトハ別論ト致シマシテ、精神ニ於テハ裁判官
ナドト全ク趣ヲ異ニシタルモノデアリマス、又軍人ニ及プ云々ノ御懸念モア
リマスガ、此ノ裁判官ニ斯ノ如キコトヲ致シタ所デ、軍人ニ及ブト云フ虞レ
ハ私共ニハナイノデアリマス、又趣意ガ全ク違フノデアリマス、先刻司法大
臣モ說明イタシタ如ク、今囘此法律ニ依テ退職イタシタ者ニ恩給ヲ與へルト
云フヤウナ處置ヲ執リマスルノハ、詰リ憲法竝ニ構成法ニ依テ今日マデ、第
七十四條ニ依テ退職スルコトノ外ハイツ迄モ在職スルヤウニナッテ居ルノデ
アリマスルガ故ニ、此恩給モ五割ヲ增加スルヤウナ次第デ、而モ是ハ何レノ裁
判官ニモ左樣イタスト云フノデナイ、現ニ此法律施行ノ際ニ司法部內ニ奉職
イタシタ者ニ限ルノデ、今後ニ於テ、法律施行後ニ於テ就職イタス者ハ、此
法律ノ規定ヲ心得マシテ、其條件ノ下ニ就職イタスノデアリマスルカラ、是
等ニハ今日設ケル特例ニ依テ與フ所ノ恩給ハ及バヌ、何等之ヲ行ッタカラト
云ッテ他ニ及ブト云フ虞レハナイ筈ト考ヘルノデアリマス、又斯ウ云フ法ヲ
設ケテ其年限ニ達スレバ退職ヲシナケレバナラヌガ、同時ニ恩給ガ五割增ニ
モナルト云フコトナラバ、誰モ彼モ年限ニ達スル迄ハ在職スルデアラウ、ソ
レハ却テ所謂老朽ニアラズシテ若朽者ヲ其儘置クノ弊ヲ生ジハシナイカト云
フ御懸念モアル、是モ御尤モデアリマス、併ナガラ此法律ナシト雖モ今日在
職スルコトハ當然ノコトトシテ在職スルノデアリマス、今現ニ裁判官ガ此規
定ノ有ル無シニ拘ラズ、現在ニ於テ退職スル者ガ段々アルト云フコトデアリ
マスレバ、此法律ヲ設ケタガ故、年齡ニ達スルマデ其退職ヲ見合ハセテ、其
儘在官シハシナイカト云フ御懸念ハアリマスルケレドモ、今日左樣デハナイ
ノデ、是ト却テ反對、イツ迄モ其位置ヲ保ッテ後進ノ途ヲ塞ギ刷新ノ途ヲ塞
イデ居ルト云フコトガ〓日ノ弊デアリマス、故ニ此制度ヲ設ケテ相當ノ年限
ニ達スレバ退職ヲシテ、恩給ハ五割增ニスルト云フ譯ヲ以テ、更ニ永ク在職ス
ルノ弊ヲ生ズルト云フコトハ恐ラク事實ニナイコトト考ヘルノデアリマス、
現在ハドウデアルカト云フコトヲ御考ヘニナレバ、是ハ明瞭ニ解釋出來ル、
現在決シテ裁判官ハ段々退ク、年ヲ老レバズン〓〓退クナレバ、ソレガ圓滑
ニ行クト言ヘバ、法律ハ要ラナイト云フ議論ガ生ズルカモ知レマセス、今日
ノ事實ハ左樣デナイノデ、故ニ相當ノ年限ニ達スレバ退職セシメルト云フ法
律ニアラズンバ今日ノ弊ヲ救フコトハ出來マイト考ヘマス、故ニ是ハ此法
律ヲ設ケタガ故ニ若朽ノ者ガ年限ニ達スルマデ在職スルデアラウト云フ弊ヲ
生ズルト云フ虞レハナカラウト私共ハ推測イタシマス、是等ノコトニ依テ大
體御質問ニハ御答シ得タト考ヘマス、尙ホ詳細ノコトハ司法當局ニアラズバ
御答へ出來マセヌガ、大體ノ方針トシテハ唯今申シタ通リデアリマス、左樣
御了承ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=67
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068・仲小路廉
○仲小路廉君 唯今總理大臣ヨリ詳細ノ御答辯ガアリマシタノデ、尙ホ其ノ
御答辯ノ趣意ニ依リマシテハ、此末御尋ネ致シタイト思フコトモ少ナカラズ
アルノデアリマス、何分ニモ時間ガ斯クノ通リニナッテ居リマスカラ、本議
場皆サンノ爲ニモ甚ダ御迷惑カト思ヒマス、私ハ甚ダ遺憾デアリマスガ、此
末御尋ネ致シタイト思フコトハ、又他ノ相當ノ時機ニ延シマシテ、先ヅ今日
ハ私自身ノ質問ハ是デ止メテ置キマセウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=68
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069・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ御報告ニ及ビマス
〔瀨古書記官朗讀〕
裁判所構成法中改正法律案外一件特別委員
伯爵松平賴壽君子爵酒井忠亮君子爵板倉勝憲君
岡野敬次郞君荒川義太郞君男爵島津久賢君
男爵池田長康君加太邦憲君湯淺倉平君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=69
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070・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ノ議事日程ハ決定次第本院彙報ヲ以テ御通知ニ
及ビマス、本日ハ是ニテ散會
午後零時三十二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X00819210207&spkNum=70
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