1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十年二月二十五日(金曜日)
午前十時十八分開議
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議事日程 第十四號 大正十年二月二十五日
午前十時開議
第一 煙草專賣法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第二 獨逸國等との平和條約賠償條項に基き受領したる賠償物件の輸入税免除に關する法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 大正五年法律第四號中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 借地法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第五 借家法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第六 朝鮮事業公債法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第七 臺灣事業公債法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第八 樺太事業公債法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第九 大學特別會計法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十 大正八年法律第十二號中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十一 朝鮮醫院及濟生院特別會計法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第十二 南部支那に於ける領事官の裁判に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
去ル二十一日本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決シタル左ノ政府提出案ハ卽
日之ヲ衆議院ニ送付セリ
大正九年勅令第四百八十五號承諾ヲ求ムル件)
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨
ヲ衆議院ニ通知セリ
船舶滿載吃水線法案
同日本院ニ於テ採擇スヘキモノト議決シタル福島縣安達郡太田村ニ郵便局
設置ノ請願外十二件ノ請願ハ各意見書ヲ附シ卽日之ヲ政府ニ送付セリ
同日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
馬籍法案特別委員會
委員長伯爵勸修寺經雄君副委員長男爵村木雅美君
一年現役小學校〓員俸給費國庫負擔法案特別委員會
委員長侯爵花山院親家君副委員長高田早苗君
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
農商務省所管事務政府委員
特許局事務官馬場頴-君
特許局事務官中松眞卿君
去ル二十二日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
借地法案
借家法案
朝鮮事業公債法中改正法律案
臺灣事業公債法中改正法律案
樺太事業公債法中改正法律案
大學特別會計法案
大正八年法律第十二號中改正法律案
朝鮮醫院及濟生院特別會計法中改正法律案
一昨二十三日特別委員副委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
南部支那ニ於ケル領事官ノ裁判ニ關スル法律案可決報〓書
同日豫算委員長ヨリ分科擔當委員ノ兼務ヲ左ノ如ク決定セル旨ノ報告書ヲ
提出セリ
第四分科擔當委員伯爵副島道正君
第二分科兼務
同日請願委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
請願文書表第六囘報告書
同日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
臺灣ニ施行スヘキ法令ニ關スル法律案特別委員會
委員長伯爵川村鐵太郞君副委員長子爵西大路吉光君
昨二十四日政府ヨリ左ノ決算及同檢査報告ヲ提出セリ
大正七年度歲入歳出總決算
大正七年度各特別會計歲入歲出決算
大正七年度歲入歲出決算檢査報告
同日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
會計法改正法律案外三件特別委員會
委員長伯爵林博太郞君副委員長男爵外松孫太郞君
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
國有財產法案
作業會計法中改正法律案
海軍燃料廠ノ石炭、煉炭又ハ燃料油ノ買入ニ關スル法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、日程第一、煙草專
賣法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
〔左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ倣フ〕
煙草專賣法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月十九日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
煙草專賣法中改正法律案
煙草專賣法中左ノ通改正ス
第二十條ノ三煙草耕作者ノ耕作シタル煙草カ移植後收穫前ニ於テ風害、
水害又ハ電害ニ罹リ著シキ損害ヲ被リタルトキハ政府ハ命令ノ定ムル所
ニ依リ煙草耕作者ニ損害ノ一部ニ對スル補償金ヲ交付スルコトヲ得
附則
本法ハ大正十年四月一日以後ニ生シタル損害ニ關スル分ヨリ之ヲ適用ス
〔國務大臣子爵高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=2
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003・高橋是清
○國務大臣(子爵高橋是〓君) 唯今上程ニナリマシタル煙草ノ罹災補償ノ制
度ノ設立ニ付マシテ、簡單ニ其提出ノ理由ヲ說明イタシマス、煙草ノ耕作者
ハ嚴重ナル法規ノ下ニ於テ耕作完成ノ義務ヲ負ウテ居ルモノデゴザイマス、
而シテ耕作ノ中途ニ於キマシテ、災害ガ甚シキ場合ニ不作ニ陷リマシテモ、
之ヲ自由ニ他ノ耕作物ニ轉ズルコトガ出來ナイノデアリマス、而シテ其生產
イタシマシタル葉煙草ハ、災害ガアリマシテモ豫テ公定セラレテアリマスル
所ノ品質ニ應ズル賠償價格ニ從ッテ納付スルコトニナッテ居ルノデアリマス、
災害ノ爲ニ收穫ノ量ガ減リマシタリ或ハ葉煙草ノ品質ガ下リマシテモ、外
ノ農作物ノ如クニ、其時ノ需要供給ノ關係ニ基ク所ノ價格ノ補償ニ依テ、其
損害ヲ補フト云フヤウナ途ガナイノデゴザイマス、ソレ故ニ煙草ノ耕作ハ動
モ致シマスレバ危險ノモノト見ラレテ、從ッテ葉煙草耕作ノ地域ノ減ルヤウナ
憂ガアルノデゴザイマス、就キマシテハ今般此法ニ依リマシテ人力ヲ以テ避
クルコトノ出來ナイ、卽チ其人力ヲ以テ避クルコトノ出來ナイ場合ト申スハ
最モ多キモノハ風害、水害、竝ニ雹害デゴザイマス、此人力ヲ以テ避クベカ
ラザル所ノ災害ニ罹ッタモノニ對シテ補償ノ途ヲ開イテ、此ノ生產者ニ稍〓
安心ヲ與ヘテ從ッテ煙草產地ノ安定ヲ圖リタイト考ヘルノデアリマス、斯クナ
リマスレバ煙草專賣事業ノ遂行ヲシテ圓滿ニ且ツ確實ナラシムルコトニナリ
WVb其必要ヲ感ジマシテ本案ヲ提出イタシマシタル次第デゴザイマス、御
審議ノ上、御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス
〔矢口長右衞門君「簡單ナ質問デゴザイマスガ········」ト述フ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家逹君) 矢口君ハ何デゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=4
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005・矢口長右衞門
○矢口長右衞門君 本案ニ付テ質問ヲ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=6
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007・矢口長右衞門
○矢口長右衞門君 大藏大臣ニ伺ヒマスガ、此ノ提出案中ニハ風害、水害及
ビ雹害ト云フコトダケニナッテ居リマスガ、衆議院ニ於テ旱魃及ビ霜害ト云フ
モノモ此上ニ加ヘルガ相當デハナイカト云フ意見ガゴザイマシタ、ソレハ少
數トシテ否決サレマシタケレドモ、大ニ考慮スベキモノト本員ハ考ヘマス、
之ニ對シマシテ能ク講究イタスト云フ御考ハ當局者ニ於テアリマスカ否ヤ、
ソレダケヲ御伺ヒ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=7
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008・高橋是清
○國務大臣(子爵高橋是〓君) 本席ヨリ御答ヲ致シマス、今般ハ先ヅ人力ヲ
以テ避ケ難イ所ノモノニ限定ヲ致シテ居リマス、尙ホ病害、早害ナドト云フ
コトモ十分ニ考ヘネバナラヌノデアリマスガ、今直ニ之ニ對シテ補償ノ途
ヲ開キマスト云フト、或ハ耕作者ノ方ニ於テ、從來ノ如ク是等ヲ豫防スルコ
トニ努力スル所ノ精神ガ薄ラグ、尙ホ以上政府ニ於キマシテモ學術〓究ノ上、
科學ノ應用ニ依テ、成ベク是等ノ害ハ避ケル工夫ヲシタイト云フ考ヲ以テ
居リマスノデ、先ヅ今日ノ所デハ唯〓說明ヲ致シマシタル所ノ災害ダケニ止
メタイト考ヘテ居リマス、尙ホ其他ノ災害ニ付マシテハ十分ニマダ〓究ノ
餘地モアリマスカラ、政府ハ怠ラズ其〓究ヲ致ス考デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 他ニ御質疑モナイト認メマスカラ、特別委員ノ氏
名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
煙草專賣法中改正法律案特別委員
侯爵松平康莊君子爵本多忠鋒君子爵大浦兼一君
和田彥次郞君男爵武井守正君男爵平野長祥君
男爵小畑大太郞君伊丹彌太郞君二階堂三郞左衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=9
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010・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、獨逸國等トノ平和條約賠償條項ニ基キ
受領シタル賠償物件ノ輸入稅免除ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、
第一讀會
獨逸國等トノ平和條約賠償條項ニ基キ受領シタル賠償物件ノ輸入稅免除
ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月十九日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
獨逸國等トノ平和條約賠償條項ニ基キ受領シタル賠償物件ノ輸入稅免除
ニ關スル法律案
獨逸國等トノ平和條約賠償條項ニ基キ受領シタル賠償物件ニシテ政府ノ輸
入スルモノノ輸入稅ハ之ヲ免除ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣子爵高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=10
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011・高橋是清
○國務大臣(子爵高橋是〓君) 本案ハ、獨逸國等トノ平和條約賠償條項ニ基
キマシテ受取リマスル所ノ賠償金ノ經理ニ付マシテハ、前ノ議會ニ於キマ
シテ賠償金特別會計ナルモノヲ設ケテゴザイマス、此會計ニ於キマシテ受領
スル物件中ニハ、船舶、染料、藥品等、之ヲ內地ニ取寄スル場合ニ於キマシ
テ、輸入稅ヲ支辨セネバナラヌモノモアルノデゴザイマス、然レドE斯ノ如
ク輸入稅ヲ一々受取リマスコトハ唯一般會計ト特別會計トノ間ニ於キマシ
テ、徒ラニ無益ナ手續ヲ重ネルニ過キマセヌノデゴザイマスカラ、是等ノ受
領スル所ノ物件ニ付マシテハ、輸入稅ガ掛ルモノト雖モ其輸入稅ヲ免除スル
コトニ致シタイト考ヘルノデアリマス、御協賛アラムコトヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ朗讀致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
獨逸國等トノ平和條約賠償條項ニ基キ受領シタル賠償物件ノ輸入稅免除ニ
關スル法律案特別委員
服部-三君子爵秋田重季君男爵村上敬次郞君
男爵德川厚君男爵黑田長和君男爵安藤直雄君
室田義文君岡本榮吉君高橋隆一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、大正五年法律第四號中改正法律案、政
府提出、衆議院送付、第一讀會
大正五年法律第四號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月十九日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
大正五年法律第四號中改正法律案
大正五年法律第四號中左ノ通改正ス
「四億八千萬圓」ヲ「五億八千萬圓」ニ改ム
參照
大正五年法律第四號
大正三年臨時事件ニ關スル經費支辨ノ爲政府ハ特別會計ニ屬スル資金ヲ繰
替使用シ、借入金ヲ爲シ又ハ公債ヲ發行スルコトヲ得
前項ノ借入金及公債ノ額ハ通シテ四億八千萬圓以內トス
本法ニ依ル特別會計資金ノ繰替、借入金又ハ公債ヲ整理償還スル爲必要ア
ル場合ニ於テハ前項ノ制限以外ニ借入金ヲ爲シ又ハ公債ヲ發行スルコトヲ
得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
(國務大臣子爵高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=13
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014・高橋是清
○國務大臣(子爵高橋是〓君) 本法ハ大正三年臨時事件ニ關スル經費支辨ノ
爲、借入金ヲナシ、或ハ公債ヲ發行スル等ノコトヲ規定シタルモノデアリマ
シテ、今囘ノ臨時軍事費追加ニ伴ヒマシテ、之ガ財源トシテ其ノ金額ヲ增加
スルコトノ必要ガ生ジタノデゴザイマス、之ガ爲ニ其ノ制限額ヲ擴大イタシ
マス爲ニ、本法ノ改正ヲ要スル次第デアリマス、其ノ制限金額ハ現行法ニ
於キマシテハ、借入金及ビ公債ヲ合シテ四億八千萬圓以內トナッテ居リマス、
然ニ今囘臨時軍事費追加ノ爲ニ、之ガ財源トシテ借入金又ハ公債ニ依ルベ
キ豫定額ハ九千九百餘萬圓デアリマスガ、之ヲ繰上ゲマシテ、一億圓トナシ、
前述ノ制限額ヲ五億八千萬圓以內トイタシマシテゴザイマス、御審議ノ上、
御協贊アラムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
大正五年法律第四號中改正法律案特別委員
伯爵柳澤保惠君石塚英藏君男爵藤村義朗君
男爵〓誠之助君谷森眞男君市來乙彥君
安田善三郞君田中〓文君成〓信愛君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 茲ニ於テ御諮リヲ致シタイコトガアリマス、日程
第四第五ハ、一括シテ議案ノ說明ヲ煩ハシタイト考ヘマス、御異存ゴザイマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=16
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017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ガナイト認メマス、日程第四、借地法案、
第五、借家法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
借地法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
借地法案
借地法
第一條本法ニ於テ借地權ト稱スルハ建物ノ所有ヲ目的トスル地上權及賃
借權ヲ謂フ
第二條借地權ノ存續期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建
物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ六十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的
トスルモノニ付テハ三十年トス但シ建物カ此ノ期間滿了前朽廢シタルト
キハ借地權ハ之ニ因リテ消滅ス
契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付三十年以上、其ノ他ノ建物ニ付二十年以上ノ
存續期間ヲ定メタルトキハ借地權ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ滿了
ニ因リテ消滅ス
第三條契約ヲ以テ借地權ヲ設定スル場合ニ於テ建物ノ種類及構造ヲ定メ
サルトキハ借地權ハ堅固ノ建物以外ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノト看
做ス
第四條當事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地權ノ存續期間ハ更新ノ
時ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年
トス此ノ場合ニ於ラハ第二條第一項但書ノ規定ヲ準用ス
當事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ從
フ
第五條借地權者借地權ノ消滅後土地ノ使用ヲ繼續スル場合ニ於テ土地所
有者カ遲滯ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ條件ヲ以テ更ニ
借地權ヲ設定シタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ前條第一項ノ規定ヲ
準用ス
第六條借地權ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ殘存期間ヲ超エテ存
續スヘキ建物ノ築造ニ對シ土地所有者カ遲滯ナク異議ヲ述ヘサリシトキ
ハ借地權ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年間、其ノ
他ノ建物ニ付テハ二十年間存續ス但シ殘存期間之ヨリ長キトキハ其ノ期
間ニ依ル
第七條前二條ノ規定ハ借地權者カ更ニ借地權ヲ設定シタル場合ニ之ヲ準
用ス
第八條前六條ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ爲借地權ヲ設定シタル
コト明ナル場合ニハ之ヲ適用セス
第九條第三者カ賃借權ノ日的タル土地ノ上ニ存スル建物ヲ取得シタル場
合ニ於テ賃貸人カ賃借權ノ讓渡又ハ轉貸ヲ承諾セサルトキハ賃貸人ニ對
シ時價ヲ以テ建物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
第十條第二條、第四條乃至第七條及前條ノ規定ニ反スル契約條件ニシテ
借地權者ニ不利ナルモノハ之ヲ定メサルモノト看做ス
第十一條地代又ハ借賃カ土地ニ對スル租稅其ノ他ノ公課ノ增減若ハ土地
ノ價格ノ〓低ニ因リ又ハ比隣ノ土地ノ地代若ハ借賃ニ比較シテ不相當ナ
ルニ至リタルトキハ契約ノ條件ニ拘ラス當事者ハ將來ニ向テ地代又ハ借
賃ノ增減ヲ請求スルコトヲ得但シ一定ノ期間地代又ハ借賃ヲ增加セサル
ヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ從フ
第十二條土地所有者又ハ賃貸人ハ辨濟期ニ至リタル最後ノ二年分ノ地代
又ハ借賃ニ付借地權者カ其ノ土地ニ於テ所有スル建物ノ上ニ先取特權ヲ
有ス
前項ノ先取特權ハ地上權又ハ賃貸借ノ登記ヲ爲スニ因リテ其ノ效力ヲ保
存ス
第十三條前條ノ先取特權ハ他ノ權利ニ對シテ優先ノ效力ヲ有ス但シ國稅
徵收法ニ依リ徵收スルコトヲ得ヘキ請求權、共益費用不動產保存不動產工
事ノ先取特權及地上權又ハ賃貸借ノ登記前登記シタル質權抵當權ニ後ル
附則
第十四條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十五條本法施行ノ地區ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十六條本法施行前設定シタル地上權又ハ賃借權ニシテ建物ノ所有ヲ目
的トスルモノヽ存續期間ハ既ニ經過シタル期間ヲ算入シ堅固ノ建物ノ所
有ヲ目的トスルモノニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスル
モノニ付テハ二十年トス但シ建物カ此ノ期間滿了前朽廢シタルトキハ借
地權ハ之ニ因リテ消滅シ堅固ノ建物ニ付三十年ヲ超エ、其ノ他ノ建物ニ
付二十年ヲ超ユル存續期間ノ定アル地上權ハ其ノ期間ノ滿了ニ因リテ消
滅ス
建物ノ所有ヲ目的トスル地上權又ハ賃借權ニ付存續期間ノ定ナキ場合ニ
於テ本法施行前二十年以上ヲ經過シタルトキハ當事者ハ二十年每ニ契約
ヲ更新シタルモノト看做シ前項ノ規定ヲ適用ス
第一項ノ規定ハ臨時設備其ノ他一時使用ノ爲設定シタルコト明ナル地上
權及賃貸借ニ付之ヲ適用セス
第十七條前條ニ規定スルモノヲ除クノ外本法施行ノ際現ニ存スル地上權
又ハ賃借權ニシテ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付亦本法ヲ適用ス
借家法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
借家法案
借家法
第一條建物ノ賃貸借ハ其ノ登記ナキモ建物ノ引渡アリタルトキハ爾後其
ノ建物ニ付物權ヲ取得シタル者ニ對シ其ノ効力ヲ生ス
民法第五百六十六條第一項及第三項ノ規定ハ登記セサル賃貸借ノ目的タ
ル建物カ賣買ノ目的物ナル場合ニ之ヲ準用ス
民法第五百三十三條ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第二條賃貸借ノ期間滿了ノ後賃借人カ建物ノ使用又ハ收益ヲ繼續スル場
合ニ於テ賃貸人カ遲滯ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前賃貸借ト同一ノ條
件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ爲シタルモノト看做ス
第三條賃貸人ノ解約申入ハ一年前ニ之ヲ爲スコトヲ要ス
一年未滿ノ期間ノ定アル賃貸借ハ之ヲ期間ノ定ナキモノト看做ス
前條ノ規定ハ賃貸借カ解約申入ニ因リテ終了シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四條解約申入ニ因リテ終了スヘキ轉貸借アル場合ニ於テ賃貸借カ終了
スヘキトキハ賃貸人ハ轉借人ニ對シ其ノ旨ノ通知ヲ爲スニ非サレハ其ノ
終了ヲ以テ轉借人ニ對抗スルコトヲ得ス
賃貸人カ前項ノ通知ヲ爲シタルトキハ轉貸借ハ其ノ通知ノ後一年ヲ經過
スルニ因リテ終イス
第五條賃貸人ノ同意ヲ得テ建物ニ附加シタル疊、建具其ノ他ノ造作アル
トキハ賃借人ハ賃貸借終了ノ場合ニ於テ其ノ際ニ於ケル賃貸人ニ對シ時
價ヲ以テ其ノ造作ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得賃貸人ヨリ買受
ケタル造作ニ付亦同シ
第六條前五條ノ規定ニ反スル特約ニシテ賃借人ニ不利ナルモノハ之ヲ爲
サヽルモノト看做ス
第七條建物ノ借賃カ土地若ハ建物ニ對スル租稅其ノ他ノ負擔ノ增減ニ因
リ、土地若ハ建物ノ價格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ建物ノ借賃ニ比較シテ
不相當ナルニ至リタルトキハ契約ノ條件ニ拘ラス當事者ハ將來ニ向テ借
賃ノ增減ヲ請求スルコトヲ得但シ一定ノ期間借賃ヲ增加セサルヘキ特約
アルトキハ其ノ定ニ從フ
第八條本法ハ一時使用ノ爲建物ノ賃貸借ヲ爲シタルコト明ナル場合ニハ
之ヲ適用セス
附則
第九條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十條本法施行ノ地區ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一條本法ハ本法施行前ニ爲シタル建物ノ賃貸借ニ付亦之ヲ適用ス但
シ本法施行前ニ賃貸人ノ解約ノ申入アリタル場合ニ於テハ賃貸借ハ既ニ
經過シタル期間ヲ算入シ一年ヲ經過スルニ因リテ終了ス
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=17
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018・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 唯今上程サレマシタ議案ノ〓要ヲ說明申上ゲ
PV·都市ニ於ケル所ノ借地ノ現狀ヲ見マスルニ、通常形式一片ノ契約私書
ヲ以チマシテ、例ヘバ家屋ヲ此處ニ新ニ築造スルノ目的ヲ以テ、借地ヲ致シ
マス時ニ於キマシテモ、僅々三年又ハ五年ト云フガ如キ極メテ短期ノ期間ヲ
定メマシテ、其意志ニ添ハザルモノガ多イノデアリマス、契約書ニ拘泥シマ
スレバ、家屋築造ノ目的ニハ叶ヒマセズ、又契約書ヲ離レマシテハ、借地ノ
關係ヲ確的ニ定メルコトガ出來ナイ、斯樣ナ狀態デアリマスガ爲ニ、當局者
間ノ權利義務ガ常ニ曖昧デアリマシテ、之ガ爲ニ其間ニ忌マハシキ紛爭ヲ釀
スコトガ多イノデアリマス、借家ニ付マシテハ契約ノ現狀ニ於キマシテハ、
當局者ノ關係ガ頗ル不明デアリマスノミナラズ、借主ハ住居ノ安定ヲ危クセ
ラルヽ場合ガ往々アルノデアリマス、是ガ爲ニ借地ト同樣、幾多ノ紛議ガ頻
々トシテ現ハレテ來ルコトハ、甚ダ遺憾ニ堪ヘナイノデアリマス、斯ノ如キ
狀況ニ放任スレバ社會上、經濟上頗ル憂慮スベキ現象ト思ヒマシテ、今囘借
地法及ビ借家法ヲ制定イタシマシテ、貸主及ビ借主雙方ノ法律關係ヲ明確ニ
致シマシテ、而シテ其ノ兩者間ノ圓滿、又兩者間ノ利益ヲ調和スルコトヲ以
テ、今日最モ適切ナル、時弊ヲ救フノ急務デアルト認メマシテ、本案ヲ提出
イタシマシタ次第デアリマス、何卒御審議ノ上、御協賛アラムコトヲ願ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ御異議ガゴザイマセヌケレバ、唯今司法大
臣ノ說明セラレマシタ兩案トモ一括シテ議題トシ、通告順ニ依リマシテ、質
疑ヲ許シマス
〔江木翼君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=19
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020・江木翼
○江木翼君 私ハ本案ニ關聯イタシマシテ、一二ノ疑ヲ政府當局ニ質シタ
イト思フノデアリマス、元來本法案其モノニ付マシテ大體ノ考察ヲ致シマ
スノニ、唯今司法大臣ヨリ御說明ガアリマシタ如ク、雙方當事者ノ權利義務
ノ關係ヲ明確ニスルト云フ點ニ、本案ノ目的ハアリマスガ故ニ、大體ノ目的
ト致シマシテハ何等非議スベキ點ハアルベキ筈ハナイト思フノデアリマス
而シテ本案ノ各條ニ亙リマシテ、疑ノ存シマスル所ヲ擧ゲマスレバ、必ズシ
モ一二ニ止ラヌト思フノデアリマス、例ヘバ殊ニ借家法案ノ方ニ於キマシテ、
借家人ノ權利ヲ保護スル、是ハ至極結構ナコトデアルト思フノデアリマス、
今日ノ如キ狀態ニ於テ、借家ニ關スル紛爭ガ起リ、延イテハ借家人ノ生活ノ
脅威ヲモ感ゼシムルト云フガ如キコトガ起ルト云フコトハ、甚ダ法律關係不
明確ナルノ致ス所デアリマスルガ故ニ、之ヲ匡スト云フコトハ、立法ノ手段
ニ依テ何カシナケレバナラヌト云フコトハ、略〓諒察ガ出來ルノデアリマスル
ガ、而シテ玆ニ立法セムトスル場合ニ於キマシテハモウ少シ立入ッテ、借
家人ノ權利ヲモ保護シナケレバナラヌヤウナ點ガアリハシナイカト云フヤウ
ナ疑モ起ルノデアル、例ヘバ第五條デゴザイマシタカ、借家人ガ借家ヲ明渡
ス場合ニ於テ、其借家ニ造作ヲ施シタ場合ニハ、其造作ノ買收ヲ貸家人ニ對
シテ請求スルコトノ權利ガ認メテアリマスルガ、今日ニ於テ借家人ガ借家ヲ
シタガ爲ニ得ル所ノ權利ト云フモノハ、必ズシモ此造作ニ對スル權利バカリ
デハナクシテ、所ニ依リマシテハ、所謂シニセ、得意ト云フモノガ甚ダ大ナ
ル價ヲ持ッテ居ルヤウナ所モアル、一例ヲ········ホンノ例トシテ假ニ例ヘテ申シ
マセウナラバ、銀座ノ四辻ニ「カフエー、ライオン」ト云フモノガアル、此位
置ニ此店ヲ持ッテ居ルガ爲ニ此シニセト云フモノハ非常ナ價ヲ持ッテ居ル、所
ガ假ニ貸主ガ之ニ撤退ヲ請求スル、サウスルト此ノ借家人ナル者ハ非常ナル
不利益ヲ受ケナケレバナラヌ、權利ノ損害ト云フモノヲ受ケナクチヤナラヌ
ト云フヤウナコトガアリハシナイカト思フノデアリマス、斯樣ナ場合ニ於テ
ハ或ハ此得意ノ權利ト云フモノモ、多少保護シナケレバナラヌト云フヤウ
ナ疑モ起ルノデアリマス、其他本法案ノ內容ニ這人リマシテ疑ヲ起シマスレ
バ、借地法ニ付マシテモ將タ又借家法ニ付マシテモ、多々疑ヲ挾ムベキ所
ガアルト思ヒマスガ、是等ノ點ハ若シ機會ガアリマスレバ、他ノ機會ニ讓リ
マシテ、私ハ本案ニ關聯イタシマシテ、極ク大體ノ點ニ付テ一二ノ疑ヲ質シ
タイト思ヒマス、第一ニ御尋イタシタイト思フ點ハ、政府ガ本案ヲ提出セ
ラレマスル所ノ、言ハバ慣例、私ハ憲法上ノ慣例デアルト信ジテ居リマスル
ガ、一ツノ慣例ガ今日マデノ取扱ヒノ上ニ發生シテ居ルヤウニ考ペルノデア
ル、所謂先議ノ慣例ト云フモノガ、大體ニ於テ出來テ居ルノデハナイカト云
フ感ジヲ持ッテ居ルノデアリマス、例ヘテ申シマセウナラバ、豫算ニ關聯シマ
シタル所ノ法律案、例ヘバ豫算ニ租稅增徵ニナル、サウスルト此ノ租稅法案
ナルモノヲ提出スルノハ、憲法ノ上ニ於テハ何レガ先議スルト云フコトノ權
利ト云フモノハ固ヨリ決マッテ居ラナイ、憲法ノ上ニ於テ先議權ノ定マッテ居
ルト云フモノハ豫算ダケデアルト云フコトハ申スマデモアリマセヌガ、斯ノ
如キ法律案ハ先ヅ何レノ院ニ提出セラルヽカト申シマスルト、是ハ衆議院ニ
提出スルノデアル、是ハ殆ド憲法上ノ慣例ト致シマシテ、今日マデニ例外ノ
無イ所デアルト思フノデアリマス、而シテ憲法ニ附屬シマシタ所ノ一二ノ法
律、竝ニ最モ顯著ナルモノハ、法典ニ關係ヲ致シテ居リマスル所ノ法律案ヲ
提出セラレマスルノハ、今日ノ慣例ニ於キマシテハ貴族院ニ先議セラレルヤ
ウニ提出セラレテ居ルヤウニ思ヒマス、例ヘバ民法、商法、刑法等ノ改正案、
或ハ陸軍刑法、海軍刑法等ノ改正案、竝ニ今日提出ニナッテ居リマスル所ノ軍
法會議法案等、苟モ法典ニ關聯ヲ持ッテ居リマスル所ノ法律案ハ、今日迄ノ經
過ニ於キマシテハ、悉ク貴族院ノ方ニ先ヅ先キニ提出セラレテ居ルノデアリ
マス、而シテ本法案ハ如何ナル法案デアルカト申シマスルト、申上ゲルマデモ
ナク、民法中債權編ノ所謂賃貸借ニ關スル除外ヲ設クル所ノ法デアル、デア
リマスル以上ハ法典ニ關聯ヲ持ッテ居リマスルガ故ニ、當然貴族院ニ先ヅ提出
セラルルト云フコトガ、從來ノ慣例ニ適スルコトト思フノデアリマス、サウ
シテデス、本二法案中借地法ノ如キハ二囘マデモ當院ニ先ヅ提出セラレタノ
デアリマス、今囘ニ限ッテ是ガ衆議院ノ方ニ提出セラレ、而シテ今玆ニ送付セ
ラレタ譯デアリマス、從來ノ慣例ハ兎モ角モト致シマシテ、本法案ハ旣ニ二
囘マデモコチラノ院ニ提出セラレテ居ルニモ拘ラズ、之ヲ今囘ニ限ッテ改メテ
衆議院ニ提出セラレテ、玆ニ送付セラレルヤウニナッタト云フコトハ、如何ナ
ル事由ニ基クモノデアルカ、既ニ此慣例ガアルトナリマスレバ、之ヲ尊重セ
ラレマスルノハ當然ナルコトデハナイカ、又少シク曲ッテ考ヘルト申シテハ甚
ダ失禮デアルカモ知レマセヌガ、或ハ平坦ニ考ヘマシテ、甚ダ貴族院ニ於テ
從來蹉跌シテ居ル所ノ法案デアルガ故ニ、先ヅ衆議院ニ於テ多數ニ依テ先議
ヲシテ、サウシテ其先議ノ勢ヲ以テ本院ヲ或ハ壓スルト云フヤウナ意味合ガ
アルト考ヘラレマシテモ、必シモ其考ト云フモノガ不當ノ考デハナイト云フ
ヤウナ考ガ起リハシナイカト思フノデアリマス、甚ダ私ハ遺憾ナル感ジヲ持
チマスルガ故ニ、政府ニ於テ如何ナル理由ヲ以テ速ニ本院ノ方ニ御出シニナ
ラナカッタカト云フコトニ付テノ政府ノ動機ヲ承ハッテ置キタイト思フノデア
リマス、次ニ是ハ或ハ司法大臣ニ御尋ヲ申シマスルト云フヨリカ、寧ロ內務
大臣ニ御尋ヲ致シマスルト云フ方ガ適當デアルカト思フノデアリマスガ、本
法案、殊ニ借家法案ノ方ニ關聯ヲ致シテ居ルノデゴザイマスルガ、此ノ法律
案ガ一度新聞等ニ現ハレマスルヤ强慾ナル家主ハ、斯樣ナル法律ガ成立シ
タ場合ニ於テハ或ハ自分ナドノ權利ト云フモノガ縮小サレル憂ガナイカ、或
ハ自分ナドノ家ヲ貸シテ居ルガ爲ニ發生スルト云フ危險ト云フモノガ多クナ
リハシナイカト云フヤウナ考ヲ持チマシテ、俄ニ家賃ヲ上ゲ、俄カニ敷金ヲ
上ゲル等種々ノ手段ヲ執ルト云フコトガ、新聞ニチラホラ見エテ居リマスル
シ、又實際ニ私共左樣ナ事柄ヲ聞イタノデアリマスルガ、若シ斯樣ナル結果
ト云フモノガ來ルト致シマスルト、折角唯〓司法大臣ガ御說明ニナリマシタ
ル。住宅ノ安定ヲ期スルト云フ目的ニハ反スルヤウナ結果ト云フモノガ、本
法制定ノ效果トシテ起ルノデナイカト云フコトヲ憂フルノデアル、ソコデ目
下ノ憂ヒトスル所ハ何デアリマスカ、殊ニ此ノ住宅問題ニ付テ我ガ現社會ト
云フモノガ、非常ニ憂フベキ狀態ニアル點ハ何デアルカト申シマスト是一
恐クハ苟モ都市ニ居住シテ居ル者ガ、悉ク憂ヒヲ感ジテ居ルダラウト思ハ
ルル點ハ所謂住宅難デアル、所謂家賃高デアル、住宅ノ供給ガ少ナイ結果ト
シテ家賃ガ高イ、此ニアルト思フノデアリマス、而シテ此根本ノ住宅難ト云
フモノヲ、政府ノ政策トシテ調節セラレル方策ガ立ツニアラザレバ、一カニー
於テ權利ノ確認、權利ヲ確實ニスルト云フ方法ダケヲ執ラレルモ、所謂住宅
ノ安定ト云フコトノ目的ヲ達スルト云フコトハ甚ダ難イノデハナイカト云フ
感ジヲ起スノデアリマス、此權利ノ實體ノ安固ヲ圖ルト云フコトニ付マシ
テハ、本法案固ヨリ頗ル精細ニ亙ル所モアリマスガ、今日現在ノ狀態ニ於テ
ドウデアルカト申シマスト、或ハ大審院ノ判決例、或ハ判決例ナキ場合ニ於テ
モ紛爭ノ起リマシタ場合ニ、裁判所ガ調停ヲ爲ス其ノ調停方法ト云フモノガ、
殆ド本法案ニ定メテ居ラレルガ如キ狀態ニ、東京等ニ於テハアルヤウデアリ
マスガ故ニ、固ヨリ法律ガアルニ越シタコトハナイノデアリマス、或程度迄ハ
紛爭ヲ斷ツノ目的ヲ達シテ居ルト申シテ宜カラウカト思フ、然ニ一方根本ノ
住宅難、或ハ家賃高ニ困,テ居ルト云フ狀態ト云フモノハ少シモ變ル所ガナイ
ノデアル、否ナ年月ヲ經ルニ從ヒマシテ益〓甚シキヲ加ヘル、殊ニ今囘ノ大戰
ヲ經マシテ、益〓此問題ハ緊切ニ一般都市ノ住民ニ對シテ及ンデ居ルヤウニ考
ヘルノデアル、政府ハ此點ニ對シテ如何ナル政策ヲ施サムトスルノデアルカ、
此ノ根本案ト云ノモノガ決マルニアラザレバ、一方ノ權利保護ノ狀態ダケヲ
ヤルト云フコトハ、甚ダ其當ヲ得ナイモノデナイカト云フ感ジヲ起スノデア
ル、而シテ少シク立入ッタ話デゴザイマスガ、都市ノ住宅ノ問題ニ付テ目下非
常ナル窮迫ナル狀態ヲ大體的ニ觀察シテ見マスルト、私ハ此問題ハ元來國家
的ノ問題デアル、斯樣ニ考ヘルノデアル、我國ノ人口ノ國內的移動ト云フモノ
ヲ考ヘテ見マスルト、非常ナル著シキ現象ト云フモノガ、殊ニ最近ニ我〓ノ眼
ニ著クノデアル、今ヨリ凡ソ三十年以前ニ、卽チ內閣ノ統計局ニ於テ初メテ
靜態ノ調査ヲヤリマシタ時ノ人口ノ狀態ハドウ云フ狀態ニナッテ居ルカト見
マスルト、全人口ノ約八割七分ト云フモノハ人口一萬以下ノ郡村ニ散在シテ
居ッタノデアル、此總數ガ約三千五百萬人此時ノ都市ナルモノハ非常ニ人口ガ
少ナイノデアル、僅ニ全人口ノ一割二分カ三分ト云フモノガ都市ニ集中シ
テ居ッタニ過ギナイ、所ガ三十年ノ後デアリマスル所ノ大正七年、大正七年末
ヲ見マスルト云フト、人口一萬以下ノ町村ニ於テハ、依然トシテ人口ガ矢張
三千八九百萬デ甚ダ殖エテ居リマセヌ、三千五百萬ガ僅ニ三千九百萬ニナ
乃、四百萬人シカ殖エナイノデアリマスガ、之ニ反シテ都市ノ人口ハ非常
ナル增加デアル、全人口ノ約三割三分ト云フモノハ都市ニ集中シテ居ル、殊
ニ大正五年、七年、十年等ノ狀態ヲ見マスルト云フト、寧ロ最近ニ至リマシ
テハ郡村ノ人口ガ減リツヽアル、人口一萬以下ノ町村ノ人口ト云フモノハ減
リマスルガ、之ニ反シテ都市ノ人口ト云フモノガ非常ニ增シツヽアル、之ヲ
裏カラ申シマスルト、年々約六十萬人カラ殖エマスル所ノ日本ノ人口ト云フ
モノハ、其全部ガ、其全部若シクハ其以上ノモノガ都市ニ集中シ來ルト云フ
有樣ニナッテ居ルノデアル、假ニ六十萬ノモノガ全部人口一萬以上ノ都市ニ集
ルト致シマシタナラバ、此ノ六十萬人ニ對スル所ノ家屋ト云フモノハ、住宅
ト云フモノハ一戶平均五人ト致シマスレバ、卽チ年々十二萬戶ヅヽ而モ
郡村ニ建造セラレナイデ、大都會、主トシテ大都會、人口一萬以上ノ都會ニ、
十二萬戶ノ戶數ガ建設セラレナケレバ我國ノ需要ニ充テル譯ニ行カヌト、斯
ウ云フ譯ニナルノデアリマス、詰リ之ヲ一口ニ申シマセウナラバ、日本ノ人
口ノ國內的移動ト云フモノハ、非常ナル速度ヲ以テ都會ニ進運ヲシテ居ル、
田舍ノ人口ト云フモノハ全部都會ノ方ニ集ル、殆ド文明國ノ通有性デアリマ
スガ、都市ノ人口ノ增加ト云フモノハ、我國ニ於テ殊ニ最近ニ於テ著シク進
步ヲシテ居ルト云フコトハ明白ナコトデアル、斯樣ニ考ヘマスルト此ノ住宅
難ノ問題ト云フモノハ、決シテ一朝ノ問題デハナイノデアリマス、日本ノ全
人口ガ苟モ都會ガアレバ都會ノ方へ集中スル、工業ガアレバ工業ノ方ヘ集中
スルト云フ、大體的傾向ヲ有ッテ居ルノデアリマスルガ故ニ、之ヲ一地方ノ問
題トシテ、一地方ノ〓體ダケニ此問題ノ解釋ヲ委ネルト云フコトハ出來ナイ
モノデアルヤウニ思フノデアリマス、從ヒマシテ此問題ニ對シマシテハ國家
ガ全人口ノ配置、全人口ノ住宅ニ關スル所ノ問題トシテ、國家政策トシテ取ツ
テ以テ相當ノ方策ヲ立テナケレバナラヌコトデアラウト信ズルノデアル、之
ニ對シテ目ト政府ハ如何ナル政策ヲ立ッテ居ラレルノデアルカ、少シモ我〓ハ
聞クコトヲ得ナイノデアル、或ハ新聞等ニ於テハ住宅組合法案ナルモノヲ提
出セラレルト云フコトデアリマスガ、是亦今日未ダ提出ニナッテ居ナイヤウナ
次第デアル、縱令是アリト致シマシタ所デ、多少ノ便宜ハアリマセウケレド
モ、此年々十二萬戶カラ新ニ拵ヘナケレバナラヌト云フヤウナ狀態デアル、
而シテ甚ダ此供給ノ關係ト云フモノハ圓滑デナイ有樣ニ於キマシテ、僅ニ住
宅組合法ト云フガ如キモノダケデ其目的ヲ達スルト云フコトハ、斷ジテ私ハ
出來ナイコトノヤウニ思フノデアル、殊ニ住宅ノ不足カラ致シマシテ起リマ
スル所ノ問題ハ、何デアルカト申シマスルト、所謂家賃ノ高イト云フコトデ
アル、實ニ著シキ發達ヲ遂ゲテ居ルト中シテ宜カラウカト思ハレルノデアリ
マスガ、是ハ少シク古キ計數デゴザイマスルガ、僅カナル地方デハゴザイマ
スルガ、大阪ノ一部ニ於テ明治三十七年以來ノ家賃ノ指數ヲ調ベタモノヲ見
マスルト、三十七年ニ百デアッタ所ノ指數ガ、大正八年ノ暮ニ至リマシテハ三
百三十、其後ニ至リマシテモ、少シモ指數ト云フモノハ減ッテ居ラヌト云フコ
トハ一般ニ見エルノデアリマスゝ東京ニ於テモ定メシ左樣デアラウト思フノ
デアル、殊ニヒドイノハ、下層ノ人ノ住ミマスル所ノ家賃ト云フモノハ、非
常ナル高サデアル、是ハ何ニ歸スルカト申シマスレバ、住宅ノ供給ト云フモ
ノガ圓滑デナイト云フコトニ歸スルノデアルト思フノデアリマス、此方ガ寧
ロ先キニナッテ、サウシテ此ノ需要供給ノ關係デ、住宅ヲ獲得スル所ノ安固ト
云フモノガ得ラレテ、サウシテ其權利ト云フモノヲ保護セラルヽト云フコト
ハ實ハ後カラ付イテモ宜キモノデハナイカト云フ考ヲ起スノデアリマス
ルガ、兎ニ角モ此ノ住宅問題ト此ノ權利保護ノ問題ト云フモノハ分ツベカ
ラザル一ツノ物ノ表裏デナクテハナラヌト、斯樣ニ思フノデアル、若シ一方
ニ此權利ノ保護ト云フコトバカリヲ嚴重ニヤルト云フト其結果ハ必ズ住宅
難ト云フモノヲ、益〓甚シカラシムルト云フ結果ヲ起シハシナイカト思フノデ
アル、例ヘバ何レノ國ニ於キマシテモ能クアリマスル例デアリマスルガ、高
利貸ト云フモノガ非常ニ跋扈シテシヤウガナイ、ソコデ利息制限法トカ、或
ハ高利貸ヲ取締ル所ノ法律ト云フモノヲ制定シテ、或ハ質屋取締法ヲ設ケテ
質屋ノ取締ヲ嚴重ニスル、斯ウ云フコトヲヤリマスルト高利貸ノ方ニ於キマ
シテハ、利息ハ成程法律ノ制限ヲ超エナイ所ノ利息ト云フモノヲ證文ニハ書
クガ、或ハ天引デアルトカ、或ハ其他ノ手段ニ依リマシテ、自分ノ利益ト云
フモノヲ擁護スル手段ヲ執ルノデアル、折角法律デ利息制限法ヲ設ケタ目的
ト云フモノハ、全ク逹セラレナイ結果ヲ見ルノデアル、個人ヲシテ各〓圓滑ナ
ル金融上ノ便宜ト云フモノヲ得セシメヤウトスルナラバ、利息制限ノ法規ヲ
制定スルト同時ニ、一方ニ於テハ庶民銀行デアルトカ、農工銀行デアルトカ、
信用組合デアルトカ云フモノヲ益〓發達セシメ、法律若クハ國家ノ力デ之ヲ發
達セシメテ、サウシテ金融ノ便ヲ圖ッテヤルナラバ、初メテ利息制限法ト云フ
法律ガ力ヲ得ルト云フ結果ニナルノデアル、今囘ニ於テモ住宅ノ需給ト云フ
關係ト云フモノハ一向見ラレナイデ、唯權利ヲ保護スルト云フ點ヲ考ヘラレ
マスル結果ト致シマシテ、家主ノ方ニ於テハ家賃ハ成程一年間上ゲナイデモ
宜イ、或ハ一年間ノ借家人ノ權利ト云フモノハ認メル、サウスレバ敷金ト云
フモノヲ、今マデ三箇月取ッテ居ッタノヲ一年分取ルトカ、二年分取ラナケレ
バ家ヲ貸サナイト云フ結果ニナリ、今マデ相當ナ便利ヲ得テ居ッタ借家人モ、
却ッテ不便ヲ受クルト云フ結果ヲ來シハシナイカト云フコトヲ、我〓ハ憂フル
ノデアル、ソコデ私ハ必シモ本法案ノ大體ノ趣旨ニ反對スルトカ、批評ヲ試
ミルト云フ趣意デゴザイマセヌガ、政府ハ本法案ト共ニ、更ニ住宅ノ需給ト
云フ問題ニ對シテ、根柢的ニ或對策ト云フモノヲ持ッテ居ラレナケレバナラヌ
ト思フノデアリマスルガ、果シテ其考ヲ持ヲテ居ラルヽヤ否ヤ、現ニ戰役ニ於
キマシテ、英吉利ニ於テハ千五百萬磅ノ多額ノ金ヲ出シマシテ、此ノ住宅問
題ノ解決ニ努メテ居ル、佛蘭西亞米利加等ニ於テモ多少ノ計畫ガアルヤウデ
アリマス、私ハ他日更ニ斯樣ナル問題ガ出マシタ場合ニハ、其內容ニ立入ッテ
政府ノ意見ヲ尋ネテ見タイト思フ點モアリマスルガ、今日ハ取敢ヘズ、政府
ハ果シテ此住宅ノ需給問題ニ付テノ根本政策ト云フモノヲ立テラレテ、今期
議會ニ之ヲ提出セラルヽ考ナリヤト云フ點ヲ確メテ置キタイ考デアリマス、
此二點ヲ政府ヨリ辯明ヲ得タイト思フノデアリマス
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=20
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021・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 江木サンノ御質問ニ御答ヲ致シマス、種々ノ
御質疑デアリマシテ、第一豫算ニ關係スル所ノ法案ヲ、先議權ヲ有スル所ノ
衆議院ニ提案スルコトハ可ナリト雖モ、貴族院ニ於テハ法典關係ノ法案ヲ先
ヅ提案スルノガ習慣デアル、慣例デアル、所謂憲法上ノ慣例デアルト思ハレ
ルノミナラズ、本案ノ如キハ度〓貴族院ニ先キニ提出セラレタ例デアッタニ拘
ラズ、今囘ニ限リ衆議院ニ先ヅ提出シタコトガ、憲法上ニ於ケル慣例ノ上ニ
於テ、又本案ノ歷史ノ關係ニ於テモ甚ダ異樣ニ感ズルガ、之ニ對シテハ政府
ハ先ヅ衆議院ヲ通過セシメ、其通過ノ勢ヒニ乘ジテ貴族院ヲ壓スルガ如キ考
ヲ持ッテ居ッタヤ否ヤ、ト云フヤウナ御尋ニ拜承シタノデアリマス、政府ニ於
キマシテハ、成程豫算ニ關係スル法案等ヲ、先議權ヲ有スル衆議院ニ先ヅ提
案スベシト云フコトガ穩當デアルト云フ、江木君ノ御說ニハ甚ダ御同感ト思
フノデアリマス、併ナガラ法典ニ關スル法案ヲ必ズ貴族院ニ先ヅ提案セザル
ベカラズト云フヤウニハ解釋シテ居リマセヌ、私ハ能ク記憶ハ致シマセヌケ
レドモ、議會始マッテ三十年ノ間衆議院ニ提出シタル例ガ一ツモ無イノデアリ
マセウカ、私ハ能ク記憶シマセヌガ、法典關係ノ案ト雖モ衆議院ニ先キニ提
案セリト云フ實例ハアリハセヌカト思フノデアリマスガ、ハッキリトハ記憶シ
マセヌ、併シ其實例ナシト雖モ、法典關係ノ法案ハ必ズ貴族院ニ先ヅ提案ス
ベシ、左樣ニハ致サズトモ差支ハナイコトト信ズルノデアリマス、又本案ハ
貴族院ニ常ニ先ヅ提案セラレタ慣例アルニ拘ラズ、卽チ慣例トハ言ヒ條歷史
アルニ拘ラズ、今囘ニ限リ衆議院ニ先ヅ提案サレタルコトハ、衆議院ノ力ニ
依テ貴族院ヲ壓スルト云フヤウナ企デハナカラウカト云フ深刻ナル御質疑デ
アリマス、決シテ左樣ナ念慮ハ抱イテ居ラヌ、成程從來本案ハ一二囘先ヅ貴
族院ニ提案サレタルコトハ事實デアリマス、併ナガラ不幸ニシテ審査未了、
卽チ握潰シ、斯樣ナ運命ニ陷リマシテ、可否何レトモ決セザリシ歷史アル
コトハ、今日思ウテモ遺憾デアリマス、此場合ニ方リマシテ、國民ノ代表
デアル所ノ衆議院ニ提案シマシテ衆議院ノ意向ヲ問フト云フコトハ必ズシモ
違法デハナイト思フ、而シテ貴族院ヲ壓スルノ意味ニアラズヤト云フコトハ、
斯樣ナ御考ヲドウシテ御起シニナッタカ、私ハ却ッテ此御考ニ對シテ疑問ヲ抱
クノデアリマス、如何トナレバ衆議院ニ提案セリト雖モ、必ズシモ本案ガ
通過疑ヒナイト云フ確信ハ得ラレナイ、或ハ衆議院ニ於テモ否決セムハ固ヨ
リ、貴族院ニ於テ往々行フ所ノ如ク審査未了、卽チ握潰シニスルカモ知レナ
1、果シテ然ラバ衆議院ハ必ズ通過スルモノデアリ、通過スルト云ノ確信ア
リ通過スルト云フ情勢ヲ確知シテ後ニ於テコソ、其ノ貴族院ヲ壓スルト云
フヤウナ疑ヒモ起ルカ知レマセヌガ、元來之ガ衆議院ニ於テ必ズ通過疑ヒナ
イモノトハ思ハナイ、幾多論議ガアル、或ハ論議長引クガ爲ニ審査未了ニ終
ハラヌトモ限ラヌ、斯樣ナ次第デアリマスカラ、決シテ衆議院ノ力ニ依テ貴族
院ヲ壓迫スルト云フヤウナ念慮ハ抱イタコトハナイ、併ナガラ從來一二囘モ
常ニ未了ノ儘終ッタコトニ對シテハ、甚ダ遺憾ノ念ヲ抱イテ居ル、茲ニ於テ國
民ノ代表ナル所ノ衆議院ニ付議シテ其意向ヲ質スト云フコトハ差支ナイト思
フ、或ハ法典關係ノ法案、多クノ場合或ハ貴族院ヘ先ヅ提案サレタル實例ハ、
私モ先ヅ多イト思フ、併ナガラ必ズシモ貴族院ニ先キニ提案セザルベカラズ
ト云フコトニ解釋スルモノデナイ、併ナガラ實例ニ於テ其コトガ多カッタト云
フコトハ、是ハ事實デアル、併ナガラ本案ノ如ク度〓審査未了ノモノニ對シ
テ、衆議院ニ付議シテ意向ヲトスルト云フコトハ、必ズシモ違法デナイト斯
樣ニ信ズル、ソレカラ借地借家等ニ對スル紛爭ノ起リシ場合、裁判ニ於ケル
調停ハ、事實上大審院ノ判決例ノ如キハ、現在茲ニ提案サレタル所ノ法案ノ
如ク裁キガ付テ居ルヂヤナイカ、故ニ本案ヲ提出セズト雖モ、紛爭ノ結末ハ
多ク此本案ノ精神ニ依テ解決サレテ居ルヂヤナイカ、斯樣ナ御尋ノヤウニ思
ヒマス、併ナガラ本案ハ無用ダトハ思ハヌ、思ハヌケレドモ急イデ都市住宅
需給問題等ノ急務ヨリモ先キニ之ヲ出スコトハ、本案ヨリモ都市住宅ノ方ガ
先キデハナカラウカト云フ御尋ネデアリマシタガ、全クソレハ或ハサウデア
ルカモ知レマセヌ、併ナガラ借地借家等ニ對スル紛爭ニ紛爭ヲ重ネマシタ上
ニ於テ、本案ノ精神ノ如ク解決サレルト云フコトハ、必ズ其通リデアルト思
ヒマス、多クノ場合本案ニ規定セラレタ如キ結果ニナルノデアリマス、ケレ
ドモ之ヲ當事者間ニ於テ初メニ於テ熟知セザルガ爲ニ、紛爭ニ紛爭ヲ重ネ、
遂ニ大審院ニ迄持ッテ行ッテ解決サレルト云フコトハ、之ヲ司法當局トシテ之
ヲ未然ニ防グト云フコトノ方ガ、社會上經濟上カラ見テ至極採ルベキモノデ、
法律ニ於テ之ヲ明確ニ規定シテ置イタナラバ、幾多紛爭ヲ重ネ結局裁判ノ結
果ニ依テ解決サレルト云フガ如キコトヲスルヨリモ斯樣ナコトハ裁判ヲ經
ズトモ、權利義務ヲ明確ニシテ、法律ニ明カニシテ置イタナラバ、當事者間
ニ於テ貸主ニ於テモ借主ニ於テモ、斯樣ナ問題ノ爲ニ紛爭ヲ起シテ、裁判所
ノ手數ヲ掛ケテ初メテ後ニ解決スルト云フコトヲ、未然ニ防グガ效果大ナリ
ト云フ斯樣ナ見地ヨリシテ本案ヲ提出シタ次第デアリマス、又都市住宅需給
ニ對シテハ、自分ヨリ御答辯スルヨリ、內務當局ヨリ御答辯スル方ガ適當ト
思ヒマス、左樣ニ御承知ヲ
〔伯爵川村鐵太郞君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=21
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022・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 川村伯爵ハ何デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=22
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023・川村鐵太郎
○伯爵川村鐵太郞君 臺灣ニ施行スヘキ法令ニ關スル法律案ノ委員會ヲ開キ
タイト思ヒマス、就キマシテハソレニ關スル、ソレニ携ハル所ノ委員ノ退
席ノ御許可ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=23
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024・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 川村伯爵ノ特別委員會ニ退席ノ要求ハ、許可ヲ致
シテ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
〔國務大臣床次竹二郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=25
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026・床次竹二郎
○國務大臣(床次竹二郞君) 住宅問題ハ、近時益〓注意ヲ要スベキ問題トナッ
タト考ヘマス、殊ニ此ノ一兩年最モ其聲ヲ聞クニ至ッタヤウニ考ヘマス、政府
ト致シマシテハ取敢ヘズ低利資金約二千三百萬圓ヲ、公共團體、公益法人等
ニ貸付ヲ致シマシテ、又ソレト共ニ木材ノ供給等ニ便利ヲ與ヘマシテ、一時
ノ急ニ應ジヤウト致シタノデアリマス、此資金ノ爲ニ建設セラルベキ家屋ノ
數ハ約一萬五千六百餘ニナッテ、唯今進行中デアリマス、今後ニ於キマシテ
ハ、是ト共ニ、唯今御話ガアリマシタ如ク、住宅組合若クハ建築會社法等ヲ制
定イタシマスルコトハ、最モ必要デアラウカト考ヘテ居リマス、依テ社會事
業調査委員ヲ內務省内ニ設置サレマシテ、此二ツノ事項ノ調査ニ掛ッテ、住宅
組合法ダケハ既ニ案ヲ得テ、出來得ベクンバ此議會ニ提出イタシタイト思ウ
テ、折角手續中デゴザイマス、建築會社ノ方ハ條文、事項ナカ〓〓多イノデ、
ドウモ此議會ニハ到底間ニ合フマイト考ヘテ居リマス、要スルニ組合法若ク
ハ建築會社法等ノ制定ハ、極メテ必要ナリト考ヘテ進ミツヽアルト云フコト
ニ御承知ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=26
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027・江木翼
○江木翼君 大要了承イタシマシタガ、內務大臣ニ今一項確メテ置キタイト
思ヒマスガ、住宅組合法ハ本議會ニ必ズ御提出ニナルモノト、左樣ニ心得テ
宜シイノデゴザイマスカ、ソレカラ尙ホ此ノ建築會社法ノ方ガ私ハ住宅ノ供
給ヲ圓滑ニスル上ニ於テ最モ必要デアリ、又此ノ會社法ダケデハ行キマスマ
イケレドモ、此後口ニ於テ或ハ低利資金ナリ、或ハ利息ノ補給ト云フガ如キ、
英吉利ニ於テ執ッテ居ル如キ方法ヲ執ルト云フコトガ、目下ノ狀態ニ於テハ頗
ル必要デアラウト思フノデアリマスルガ、其法案ノ方モ本期議會ニ御提出ニ
ナルヤウニ御努メナサルト云フ御意嚮ハナイノデアルカ、此點ヲ承ハッテ置キ
タイト思フノデアリマス
〔國務大臣床次竹二郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=27
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028・床次竹二郎
○國務大臣(床次竹二郞君) 御答ヲ致シマスガ、住宅組合法ハ唯今申上ゲマ
スヤウナ具合デ進ミツヽアリマスガ、併シ果シテ政府部內ノ議ヲ固メテ提出
シ得ルヤ否ヤハ、今此處デハッキリ申上ゲラレマセヌ當局者トシテハ既ニ案
ヲ得テ今進ミツヽアルト云フコトデ御承知ヲ願ッテ置キタウゴザイマス、出來
得ベクンバ左樣ニ致シタイト思ッテ居リマス、ソレカラ建築會社法ノ方ハ、到
底今期議會ニハ提出ノ運ビハ進ミマセヌ、內容等ニ付テハ唯今御質問ノ如キ
事項ハ自然考慮ヲ致シテ居リマスルケレドモ、是ハ他日ノ機會ニ於テ申上ゲ
ルガ宜カラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=28
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029・鈴木そう兵衞
○鈴木摠兵衞君 私ハ簡單デゴザイマスカラ、此席カラ御許シヲ願ヒタイ、
私ガ質問イタシタイコトハ、大體此ノ借地法案、借家法案、兩案共ニ畢竟所有
者ト賃借人ノ權利ヲ保護スルト云フ御趣意ト承リマシタ、固ヨリ此ノ兩者間
ニ對シテ、偏重偏輕ハアルベキコトデナイト思ヒマスガ、逐條ヲ讀ンデ見マス
ト、或ハ恨ル、少シ賃借人ニ對シテ偏シテ居リハセヌカト云フ疑ヲ持ッテ居リ
マス、目下ノ狀態ハ世間ノ新聞紙、或ハ其他ノ方面ニ於テモ惡家主ノ征伐、或
ハ惡地主ノ征伐ト云フコトガ方々デ見エマスガ、是ハ又借主ノ征伐ト云フコ
トハ少シモ見エナイ、世上ニサウ云フコトハ絕無デアルカト云フト決シテ絕
無デナイ、內務省當局ニ於テハ御調ベニナッテ居ルコトト信ジテ居ル、此點ニ
付テ偏重偏輕デアルヤ否ヤト云フコトヲ、チヨット第一ニ伺ヒタイ、ソレカラ
第二ニハ、凡ソ土地或ハ家屋ニ對シテモ、所有者ノ承諾ヲ受ケズシテ恣ニ轉
貸スル、其轉貸ヨリ生ズル弊害ト云フコトハ多々アル、遂ニ法廷ノ爭トナル
コトモアル、是等ハ轉貸スルニ當ヲテ必ズ所有者ノ承諾ヲ經ベキモノデアル、
經ヌデモナシ得ルト云フコトハ、如何ナル御趣意ニ依テ居ルカ、ソレカラ又
賃借人ガ所有者トノ契約ニ背イテ、地料又ハ借家料ヲ出サナイ、遲滯スル、
斯ウ云フ場合ニハ、本法ニ定マッテ居ル權利········總テノ權利ヲ抛ツト云フ契約
ヲナシ得ルモノデアルカ否ヤ、第四ハ勅令ヲ以テ指定セラレタル地區ト云フ
ハ唯今ノ所デハ何レノ地區ニ定メラレルカ、以上ノ點ニ付テ當局ノ御辯明
ヲ願ヒマス
〔國務大臣伯爵大木遠吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=29
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030・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 御答ヲ致シマス、本案ハ賃借人ノ權利義務ヲ
ノミ保護スルノ傾デアル、卽チ賃借人ノ權利ヲ保護スルコトニ於テノミ偏
スルノ虞ガアル、又惡家主惡地主ト云フヤウナコトヲ盛ニ言フガ、一 一、二
於テモ惡シキ所ノ借家人モ借地人モアルト云フヤウナ御質問デアリマシタ
ガ、新聞紙等ニ於キマシテ如何ヤウナコトガ多ク現ハレマスルカ、ソレハ別
問題ト致シマシテ、現ニ衆議院ノ委員會ニ於キマシテモ、之ニ類似ノ質問ガ
アリマシタガ、政府ニ於キマシテ惡地主、惡家主、左樣ナ者ガ澤山アラウト
ハ思ハナイノデアリマス、併ナガラ若シサウ云フヤウニ類似ノ者ガアッタナラ
バ、ソレハ卽チ權利ノ濫用者デアル、權利ヲ矢鱈ニ濫用スル所ノ者ガ、世上
ヨリ惡地主惡家主ト云フ批評ヲ蒙ムルノデアラウト思フノデアリマス、惡地
主、惡家主ト云フ批評ハ起ラナクトモ、權利ヲ濫用シテ義務者ヲ虐グルト云
フコトハ甚ダ宜シカラヌコトト思フト同時ニ、又義務ヲ履行セザル所ノ者、
是モ此義務不履行ヲ擅ニナサシムルト云フコトハ、是ハ政府トシテ看過スベ
カラザルコトデアル、故ニ權利ヲ極端ニ濫用スル所ノ者ト、義務ヲ遂行ス
ル所ノ念慮ノ乏シキ所ノ者、是等ガ互ニ相爭フ、斯樣ナ者ノ爲ニ所謂土地家
屋ニ付テノ紛爭ガ頻次續出スルノデアリマスカラ、之ニ依テ本案ヲ益〓以テ確
定スルノ必要ヲ認メタノデアリマス、決シテ併ナガラ地借人、借家人ノミヲ
保護スルト云フノ趣意デハナイノデアリマス、ソコハ誤解ノナイヤウニ御了
解ヲ願ヒタイ、ソレカラ二ト三ノ點、第二第三ノ點ハ、私ガ申上ゲルヨリモ、
政府委員ヨリ申上ゲタ方ガ能ク御分リニナラウト思フ、第四ノ勅令ニ於テ地
區ヲ定ムル、是ハ六大都市竝ニ其市ニ接續セル所ノ町村ト云フヤウナ考案ヲ
懷イテ居リマスルケレドモ、是ハ尙ホ能ク事情ヲ審査シ狀況ヲ取調ベタ上ニ
其地區ハ勅令ヲ以テ定ムル次第デアリマス、第二ノ御質問ノ轉貸ノ弊、地料、
借家料ノ義務ヲ怠リシ所ノ者ニ向ッテノ制裁、之ニ付マシテハ、政府委員ヨリ
御答イタシマス
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=30
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031・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 第二問ニ御答イタシマスルガ、本法ノ認メテ居
リマスル轉貸借ト申シマスルノモ、矢張民法ノ規定シテ居ル所ノ轉貸借ト
同一ノ意義デゴザイマシテ、御承知ノ通リ民法ニ於キマシテ轉貸借ヲ適法ニ
ナシ得ルノハ、所謂所有者ノ···土地デ申シマスレバ土地所有者、家屋デ申
シマスレバ家屋ノ所有者ノ承諾ガナケレバ、轉貸借ハ出來ナイノデアリマス、
若シ所有者ノ承諾ナキニモ拘ラズ轉貸借ヲ致シマシタナラバ、其ノ賃貸借ハ
所謂適法ナル轉貸借デハゴザイマセヌカラ、所有者ニハ對抗ハ出來ナイノデ
アリマス、本法ノ轉借ト申シマスルノモ、矢張其意義ト同一デアルノデア
リマス、ソレカラ地借人又ハ借家人ガ義務ノ履行ヲナサナカッタ場合ニ於テ
ハ本法ノ適用ヲシナイト云フヤウナ特約ガ出來ルカ、斯ウ云フ御疑問ト承
ハリマシタガ、賃借人ガ義務ヲ履行イタシマセネバ卽チ契約違反デゴザイマ
スカラ、其時ニハ契約解除ガ出來ル、故ニ三十年ト期限ヲ約サウガ、五十年
ト期限ヲ約シマシテモ、義務違反デ契約ヲ解除イタシマスレバ、解除ノ結果
直ニ地所若クハ家屋ヲ明渡サナケレバナラヌ、斯ウ云フコトニナルノデゴ
ザイマシテ、義務不履行ノ制裁ハ、矢張民法ノ規定ニ從フ次第デアルノデゴ
ザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=31
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032・矢吹省三
○男爵矢吹省三君 私ハ簡單デゴザイマスカラ、此席カラ申上ゲタイト思ヒ
一六、七宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=32
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033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=33
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034・矢吹省三
○男爵矢吹省三君 此兩案御制定ノ御趣意ニ付テハ、私モ賛同スル一人デゴ
ザイマスガ、唯時弊ヲ救ハレルト云フ趣意ニ於テ制定サレタニ拘ラズ、或時
弊ニ付テハ尙ホ救ハレズニ殘ッテ居ル、又或ハ新ニ時弊ヲ造ルベキ場合ガア
リハシナイカト云フコトヲ恐レルノデアリマス從ッテ此點カラ一二御質問ヲ
申上ゲタイト考ヘマス、第一ハ從來借地人ニ於テ存續期間ヲ三年或ハ五年ト
云フヤウナ短期間ニ契約サレタモノヲ、今後ハ斯ル短期間ノモノヲ認メズ、
少クモ二十年或ハ三十年以上ノ存續期間ニシナケレバナラヌト云フコトニ、
規定ヲ設ケラレタコトハ私ハ甚ダ適當ナルコトト思フノデアリマス、唯併ナ
ガラ此ノ存續期間ガ切レ、卽チ期間ガ滿了シタ場合ニ、往々地主ハ其建物ヲ
取拂ッテ土地ヲ明渡セト云フ請求ヲ借地人ニ出ス、借地人ハ其損害ニ對シ之ニ
應ズルコトガ出來ナイ爲ニ、爭ヒガ起ルコトガ從來アルノデアリマス、此爭
ヒノ場合ハ尙ホ此ノ法案制定ノ後ト言ッテモ、矢張依然トシテ殘ッテ居リハシ
ナイカト私ハ考ヘル、卽チ期間到來ノ場合ニ於テ、當事者間ニ更新ノ契約、更
新ノ約定ガ出來ルカラ、地主ハ飽マデ土地ヲ明渡セト云フコトヲ請求スル場
合ニ於テ、借地人ノ權利ヲ如何ニシテ擁護サレルモノデアリマスカ、其點ヲ
念ノ爲ニ御伺ヒ致シマス、第二ト致シマシテハ、從來矢張此時弊ノ一ツナ
ンデゴザイマスガ、地代或ハ借賃ヲ地主或ハ家主ガ增額シタリ、反對ニ之ニ
對シテ地借人ガ、或ハ借家人ガ其增額ニ應ジ得ナイト云フコトニナッテノ爭ヒ
ガ、往々アルノデアリマス、之ニ付テ兩法案ニ唯一條ノ規定ガゴザイマスガ、
斯ノ如キ規定ヲ以テ斯ル場合ノ爭ヒヲ豫防シ、或ハ解決スル效力アリヤ否ヤ、
其點ヲ私ハ第二ノ疑問ト致シマス、第三ハ先程ノ江木君ノ御質問ト多少關聯
シテ居リマスガ借家法ガ制定サレタ後ニ於テ、此法案ヲ通覽イタシマスト、
借家人ノ權利ハ大分從來ヨリモ擁護サレテ居ルヤウニ思ヒマスガ、又是ハ私
ハ適當ナコトト思ヒマスガ、併シ或場合ニ於テ餘リニ其保護ノ過ギタルガ爲
ニ、家主ハ此權利ヲ制限セラレ、遂ニハ借家ヲ所有シテ居ルト云フコトハ甚
ダ不利益ナリト感ジテ、將來ハ家ヲ建テルコトヲ寧ロ見合ハスト云フヤウナ
コトノ爲ニ、自然住宅難ヲ增スヤウナ場合ガ起リハシナイカト想像スルノデ
アリマスガ、司法當局ニ於テハ斯ル虞ナシト御覽ニナッタルヤ否ヤ、之ヲ第三
ノ御尋ネト致シテ置キマス、私ノ質問ハ以上ノ三點
〔政府委員鈴木喜三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=34
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035・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 御答申上ゲマス、第一點ハ期間滿了ノ時ニ於テ、
借地人ノ權利ハドウスルカ、斯ウ云フ御問ト了承イタシマシタガ、期間ガ滿
了イタシマスレバ、借地人ハ借受ケタル土地ヲ使用スルノ權利ガナクナルノ
デアリマス、從ッテ地主ト致シマシテハ之ヲ明渡シヲ求メルコトノ出來ルノハ
當然デゴザイマス、此間ニ於キマシテハ地主ハ權利ヲ主張シテ明渡シヲ要求
スル、借主ノ方ハ權利ハナイガ、自カラ家屋ヲ建設シテ居ルノデアルカラ、
尙ホ引續イテ地所ノ使用ヲ得タイ、斯ウ云フヤウナコトニ於テ爭ヒガ起ルト
云フノデアリマスガ、成程爭ヒハ爭ヒデアリマセウガ、權利觀念カラ申シマ
スレバ、一方ハ權利ノ主張デアルシ、一方ハ無權利者ニナルノデ、期間ガ滿
了イタシマスレバ最早使用權ハ無クナルノデゴザイマスカラ、法律關係カ
ラ申シマスレバ、泣ク泣クモ地所ヲ明渡サナケレバナラヌ、斯ウ云フコトニ
ナルノデゴザイマスケレドモ、此間ニ於キマシテ地主ハ何デモ明渡セト言。ツ
テ、無理難題ヲ申シテ、明渡シヲ要求スル場合モ、先ヅソレハ德義ノ上カラ
申シマスレバ納メナケレバナラヌ話デアルノデアリマス、德義問題ト致シマ
シテハ矢張個人ト云フコトニナラウト思フ、ドウモ權利主張ヲ致シマシ
テ、地主ガ明渡シヲ求メマスレバ是ハ是非ナイコトデアラウト、私ハ思ッテ居
ルノデゴザイマス、ソレカラ第二點ニ於キマシテ、地代增加ノ爭ヒニ付テハ
ドウナルカ、斯ウ云フ御疑ト承知イタシマスルガ、成程本法ニ於キマシテハ、
公租公課ノ〓騰ニ依テ、又四隣ノ價格ニ比例シテ、地代ノ增減ヲ求メルコト
ガ出來ルト云フコトノ規定ハ一箇條アルノデアリマス、此場合ニ於テ此ノ地
代增加、增減ニ付マシテ爭ヒガ起ッタ時ニドウスルカト云フ事柄ハ、本法ハ
規定シテ居リマセヌ、ソレデゴザイマスカラ、到底示談的ニ其爭ヒガ解決ガ
出來ヌケレバ、裁判所ニ訴フル外、途ハナイノデゴザイマス、去ナガラ當局
ト致シマシテハ此點ニ於キマシテ裁判所ノ訴訟手續ニ依テ此問題ヲ解決ス
ルト云フ事柄ニナリマスルト、當事者間ニ費用モ要シ日時モ要スル譯ニナリ
マスルカラシテ、簡易ナル此ノ爭議調停法ヲ拵ヘヤウト考ヘテ居ルノデ、實
ハ本議會ニ提案ヲシテ皆サンノ御協賛ヲ得タイト考ヘタノデゴザイマスルケ
レドモガ、議論多岐ニ亙リマシテ、成案ヲ見ルコトガ出來ナカッタコトヲ甚ダ
遺憾トシテ居ルノデアリマス、出來ル限リ今後盡力ヲ致シマシテ、次ノ議會
マデニハサウ云フ法案ヲ提案シタイト考ヘテ居ルノデアリマス、ソレカラ第
三ニハ斯ル法律ヲ作ッタナラバ、家屋ヲ建設スル者ガ無クナルデアラウ、其結
果愈、住宅難ヲ來スデアラウ、斯ウ云フ御疑デゴザイマスガ、此點ニ付マシテ
ハ先程內務大臣ヨリモ申サレマシタ通リ、住宅建設ノ方面ニ向ッテハ極力出來
得ル限リ建設ノ方面ニ盡力シテ、益〓住宅ヲ建設セシメヤウト云フ政府ノ方針
デゴザイマシテ、我〓ノ見ル所ヲ以テスレバ、本法ノ制定ノ爲ニ住宅建設ノ
數ヲ減少セシムルノ結果ヲ見ルトハ考ヘテ居ラヌノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=35
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036・矢吹省三
○男爵矢吹省三君 御答辯ヲ得マシテ稍〓了解ヲ致シマシタ、私ノ質問ノ第一
點ニ付テ、期間滿了ノ際ハ從來同樣ニ、地主ハ明渡シヲ請求シ、借地人ハ之
ニ應シデ明渡サナケレバナラヌ、此點ハ已ムヲ得ナイト云フ御答辯ハ拜承イ
タシマシタノデアリマスガ、其點ニ付テ此際借地法ヲ制定スル上ニ、何等カ
兩當事者ノ利益或ハ便利ニナルヤウナ途ヲ設ケル餘地ガアリハシナイカト私
ハ考ヘマス、併ナガラ多少ノ自己ノ意見ヲ述ベルト云フコトハ、却ッテ質問ノ
意義ヲ失シマスカラ、此際ハ控ヘマスデスガ、先程ノ御答辯ニ依リマスレバ
尙ホソコニ餘地アルモノト私ハ信ジマス、ソレカラ地代或ハ地借人ノコトニ
付テハ、私ノ質問ニ付テノ御答ハ、矢張私ガ恐レマシタヤウナ場合ハ、此規
定ヲ設ケテモ避ケ得ナイト云フヤウニ私ハ拜承シタノデアリマス、卽チソレ
ニ對シテハ他ニ或機關デモ設ケナケレバイカヌト云フコトニ拜承シタノデス
ガ、併シ此點ニ付テモ新ニ機關ヲ設ケル上ニ、何等カ爭ヒヲ豫防スル途ガ
アリハシナイカト私ハ考ヘマス、ソレカラ第三點ノ私ノ質問ニ對シテノ御答
辯ハ、卽チ住宅難ハ斯ル法律ガ制定サレテモ起ラナイト云フ政府ノ御所見ハ、
私ノ見込ト相違シテ居リマスガ、併シ此點ニ付テモ更ニ申上ゲルコトハ議論
ニ亙リマスカラ、此際ハ差控ヘマス、最早是デ私ノ質問ハ終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=36
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037・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ニテ通告者ハ終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=37
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038・淺田徳則
○淺田德則君 此ノ兩法案ハ連繫事件ト致シマシテ同一委員ニ付託セラレ、
且ツ其委員ノ數ヲ十五名トシ、議長指名トスルノ動議ヲ提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=38
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039・八條隆正
○子爵八條隆正君 贊成イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=39
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040・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 淺田君ノ日程第四、第五ノ兩案ハ一括シテ同一委
員ニ付託シ、特別委員ノ數ヲ十五名トシ、議長指名ニ委スト云フ動議ニ御異
存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=40
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041・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、特別委員ノ氏名ヲ、書記
官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
借地法案外一件特別委員
伯爵寺島誠一郞君子爵勘解由小路資承君子爵毛利高範君
子爵永井尙敏君子爵池田政時君松室致君
河村讓三郞君內田嘉吉君男爵船越光之丞君
男爵中島久萬吉君男爵二條正麿君木內重四郞君
江木翼君伊藤傳七君中村圓一郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=41
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042・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ニ御諮リヲ致シマスノハ日程第六、第七、第八、
三案共一括シテ說明ヲ煩ハシタイト考ヘマスガ、御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、日程第六、朝鮮事業公債
法中改正法律案、第七、臺灣事業公債法中改正法律案、第八、樺太事業公債
法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
朝鮮事業公債法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
朝鮮事業公債法中改正法律案
朝鮮事業公債法中左ノ通改正ス
「前項」ヲ「前二項」ニ、「二億六百五十萬圓」ヲ「二億三千六十萬圓」ニ改メ第
一項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
朝鮮ニ於ケル煙草專賣制度ノ實施ニ要スル交付金トシテ交付スル爲政府ハ
公債ヲ發行スルコトヲ得
臺灣事業公債法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
臺灣事業公債法中改正法律案
臺灣事業公債法中左ノ通改正ス
第一條中「一億六百二十萬圓」ヲ「一億千五百六十萬圓」ニ改ム
樺太事業公債法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
樺太事業公債法中改正法律案
樺太事業公債法中左ノ通改正ス
第一條中「千二百五十萬圓」ヲ「千九百六十萬圓」ニ改ム
〔國務大臣子爵高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=43
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044・高橋是清
○國務大臣(子爵高橋是〓君) 日程第六ノ朝鮮事業公債法中改正ヲ要シマス
ル譯ハ、既定ノ計畫ニ屬シマスル朝鮮事業費ノ中デ、咸鏡線、ソレカラ平壤
炭礦線等ノ鐵道改良費ト、ソレカラ仁川海岸工事費、是等ガ物價騰貴ノ爲ニ、
大正十年度年割額ニ於テ、合計六百七十五萬圓ノ追加ヲ要スルコトニナリマ
シタ、又朝鮮ニ於キマスル新規ノ事業ト致シマシテ、此度煙草專賣制度ヲ始
メルコトニナリマシタ、大正十年度以降三箇年度間ノ繼續費ト致シマシテ、總
額千七百三十二萬餘圓ヲ支出スルコトト致シタノデゴザイマス、以上合計二
千四百十萬圓ノ經費ハ、之ヲ國債支辨トナスガ適當ノコトデアリマスノデ、
現行ノ起債法定額二億六百五十萬圓ヲ、二億三千六十萬圓ト改正ヲ致シタイ
ノデゴザイマス、日程第七ノ臺灣事業公債法中ノ改正モ、此ノ臺灣ニ於キマ
シテモ、鐵道ノ旅客貨物ガ著シク增加イタシマシテ、現在ノ設備ヲ以テ致シ
マシテハ、殆ド其用ヲ辨ジ難イト云フヤウナ場合モアルノデ、ソレ故ニ大正
十年度ニ於テ六百二十五萬餘圓ヲ支出イタシテ、之ヲ以テ車輛ノ增備及ビ線
路ノ改良ヲ圖ルコトニ致シタノデアリマス、又臺灣東部地方ニ於キマスル交
通機關ノ整備ヲ圖ルコトモ、亦同島ノ開發上頗ル必要ノコトデアリマスルカ
ラ、大正十年度以後三箇年度間ノ繼續費ト致シマシテ、二百十餘萬圓ノ鐵道
建設費ヲ請求スルコトト致シタノデゴザイマス、之ニ縱貫鐵道ノ建設費ヲ、
大正十年度年割額百萬圓ヲ追加スルノ必要ガアリマスルノデ、以上合計九百
三十五萬餘圓ヲ公債財源ニヨリ出スコトニ致シマシテ、現行起債法定額一億
六百二十萬圓ヲ、一億千五百六十萬圓ト改正ヲ致シタイノデアリマス、日程
第八ノ樺太事業公債法中ノ改正デゴザイマスルガ、樺太ノ開港ニハ交通ノ便
ヲ增進スルコトガ急務デアリマスルカラシテ、此度眞岡港ノ修築ヲナスコト
ト致シ、其經費ノ總額二百九十五萬圓ヲ、大正十年度以降五箇年度間ニ亙リ、
繼續費ト致シテ支出スルコトニ致シマシタ、し又大泊、境濱間ノ鐵道ハ、從來
應急的補修ヲ爲スニ止メテ居リマシタガ爲ニ、現在ノ如キ貨物ノ增加ニ對シ
テ輸送力ノ缺乏ヲ感ズルコトガ甚ダシクナリマシテハ、動モスレバ危險ヲ感
ズルヤウナ場合モアル位デアリマスカラ、此度之ニ根本的ノ改良ヲ加ヘルコ
トニ致シマシテ、大正十年度以降三箇年度間ノ繼續費、後總額四百九萬圓ヲ支
出スルコトニ致シマシタ、以上合計七百四萬餘圓ノ事業費ヲ、之ヲ公債支辨
トシテ、現行ノ起債定額一千二百五十萬圓ニ增加イタシマシテ、之ヲ千九百
六十萬圓ニ改正ヲセムトスルノデアリマス、以上三件ハ何レモ國運ノ進展ニ
應ズル施設デアリマシテ、目下ノ急務ト認メル次第デアリマスルカラシテ、
愼重御審議ノ上御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=44
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045・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ御異議ガアリマセヌケレバ、唯今大藏大臣
ノ說明セラレマシタ三案トモ、同一委員ニ付託ヲ致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=45
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046・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ御異議モナイヤウデゴザイマスカラ、特別委
員ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
朝鮮事業公債法中改正法律案外二件特別委員
伯爵奧平昌恭君子爵渡 邊千冬君男爵佐竹義準君
男爵藤堂高成君男爵矢吹省三君仁尾惟茂君
福永吉之助君星島謹一郞君山田純精君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=46
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047・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ニ御諮リヲ致シマスノハ、日程第九、第十ハ二
案トモ一括シテ說明ヲ煩シタイト思ヒマスガ、御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=47
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048・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、日程第九、大學特別會計
法案、大正八年法律第十二號中改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
大學特別會計法案
右政府提出案木院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵徳川家達殿
大學特別會計法案
大學特別會計法
第一條帝國大學ハ各別ニ、其ノ他ノ官立大學ハ之ヲ通シテ一ノ特別會計
ヲ立テ資金ヲ所有シ政府ノ支出金、資金ヨリ生スル收入、授業料、寄附
金其ノ他ノ收入ヲ以テ其ノ一切ノ歲出ニ充テシム
第二條前條ノ政府支出金ハ東京帝國大學ニ在リテハ每年度二百九十五萬
三千三百五圓、京都帝國大學ニ在リテハ每年度百七十一萬五千四百二十
八圓トシ其ノ他ノ帝國大學及官立大學ニ在リテハ每年度豫算ノ定ムル所
ニ依リ一般會計ヨリ繰入ルヘシ
東京帝國大學ニ在リテハ前項ノ金額ノ外航空ニ關スル〓究ノ費用ニ充ツ
ル爲必要ナル金額ヲ毎年度豫算ノ定ムル所ニ依リ一般會計ヨリ繰入ルル
コトヲ得
第三條各帝國大學及官立大學ノ資金ハ政府ヨリ交付シ又ハ他ヨリ寄附シ
タル動產及不動產竝歲入殘餘ヨリ成ル但シ官立大學ニ在リテハ第七條ノ
施行豫算ノ歲入殘餘ニシテ資金ニ編入シタルモノハ官立大學每ニ區分シ
之ヲ整理スヘシ
第四條大學ノ歲出ニ充ツル爲必要アルトキハ其ノ資金ヲ支消スルコトヲ
得但シ用途指定ニ係ル資金ニ付テハ用途指定者ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第五條政府ハ每年各帝國大學及官立大學ノ特別會計ノ歲入歳出豫算ヲ調
製シ歲入歳出ノ總豫算ト其ニ之ヲ帝國議會ニ提出スヘシ
第六條大學特別會計ノ豫算中ニハ豫備費ヲ設クヘシ但シ東北帝國大學、
九州帝國大學、北海道帝國大學及官立大學ノ特別會計豫算ニ在リテハ此
ノ限ニ在ラス
第七條文部大臣ハ歲入歲出豫算決定ノ後豫備費ヲ除クノ外各大學毎ニ歲
入歲出ノ施行豫算ヲ調製シ當該大學ノ總長又ハ學長ヲシテ之ヲ施行セシ
ムヘシ
文部大臣ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前項以外ノ者ヲシテ歲入歲出豫算ノ
部ヲ施行セシムルコトヲ得
第八條大學ニ於テ外國ヨリ直接ニ圖書、機械、標本又ハ實驗用材料ノ買
入ヲ爲ス場合ニハ前金拂ヲ爲スコトヲ得
第九條寄附金ニシテ特ニ用途ヲ指定シタルモノハ其ノ條件ニ從ヒ之ヲ使
用スヘシ
第十條奬學ヲ目的トスル寄附金ハ之ヲ當該大學ニ交付シ總長又ハ學長ニ
經理ヲ委任スルコトヲ得
第十一條委任經理ニ係ル會計ノ檢査ハ會計檢査院法第十六條ノ規定ニ依
ル
第十二條官立大學ニ屬スル收入ヲ以テ其ノ歲出ヲ支辨シ別ニ政府支出金
ヲ要セサルニ至リタルトキハ當該大學ノ爲ニ特別會計ヲ設クルモノトス
第十三條大學特別會計ノ收入支出ニ關スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條官立大學ノ創設費ハ第一條ノ規定ニ拘ラス一般會計ノ所屬トス
第十五條官立大學特別會計ノ設置及官立大學ノ創設ニ付一般會計及學校
及圖書館特別會計ニ關渉シ必要ナル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ大正十年度ヨリ之ヲ施行ス
帝國大學特別會計法及大正七年法律第四號ハ之ヲ廢止ス但シ大正九年度分
ニ付テハ仍其ノ效力ヲ有ス
他ノ法律ニ於テ帝國大學特別會計法トアルハ大學特別會計法トス
仙臺高等工業學校ノ設置ニ付東北帝國大學特別會計及學校及圖書館特別會
計ニ關渉シ必要ナル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
參照
大正七年法律第四號
東京帝國大學及京都帝國大學ニ於テ時局ニ基因シテ生スル經費ノ不足ヲ補
充スル爲必要ナル金額ハ帝國大學特別會計法第二條ノ規定ニ依ル金額ノ外
一般會計ヨリ當該帝國大學特別會計ヘ臨時之ヲ繰入ルルコトヲ得
附則
本法ハ大正七年度ヨリ之ヲ施行ス
大正八年法律第十二號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奥繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
大正八年法律第十二號中改正法律案
大正八年法律第十二號中左ノ通改正ス
「工學部ノ擴張ヲ爲ス」ヲ「工學部ノ擴張竝傳染病〓究所ニ於ケル〓究事項
增加」ニ、「百八十萬圓ヲ」ヲ「二百四十七萬圓ヲ大正八年度乃至大正十三年
度ニ亙リ」ニ、「八十三萬千二百七十一圓」ヲ「百六萬五千六百五十二圓」ニ、
「帝國大學特別會計法第二條」ヲ「大學特別會計法第二條」ニ、「擴張ニ伴ヒ」
ヲ「東京帝國大學及京都帝國大學ノ擴張ニ伴ヒ」ニ改ム
參照
大正八年法律第十二號
東京帝國大學醫學部及工學部ノ擴張ヲ爲スノ費用ニ充ツル爲總額金百八十
萬圓ヲ、京都帝國大學工學部及理學部ノ擴張ヲ爲スノ費用ニ充ツル爲總額
金八十三萬千二百七十一圓ヲ大正八年度乃至大正十一年度ニ亙リ帝國大學
特別會計法第二條ノ金額ノ外每年度豫算ノ定ムル所ニ依リ一般會計ヨリ當
該帝國大學特別會計ニ繰入ルヘシ
前項ノ規定ニ依ル臨時政府支出金ノ外擴張ニ伴ヒ要スル經常費ニ充ツル爲
當分ノ內每年度豫算ノ定ムル所ニ依リ必要ナル金額ヲ一般會計ヨリ當該帝
國大學特別會計ニ繰入ルヘシ
〔國務大臣中橋德五郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=48
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049・中橋徳五郎
○國務大臣(中橋德五郞君) 大學特別會計法案ヲ提出イタシマシタ譯デアリ
マスガ、是ハ從來大學ノ會計ニ付マシテハ、帝國大學特別會計法ト云フモノ
ヲ出サレテ、ソレガ實施ニナッテ居ッタノデアリマス、然ニ本囘單科大學ガ出
來マシタノデアリマスルデ、從來ノ綜合大學、單科大學ト云フモノヲ一〓ニ
シテ、之ニ共通スル所ノ特別會計ヲ今囘制定イタシテ、サウシテ從來ノヲ廢
止イタシタイト云フ考デアリマス、同時ニ又是モ每年出テ來マスガ、東京京
都兩帝國大學ニ於キマシテハ定額ノ政府ノ支出金ヲ增額イタシタイト思ヒマ
スノデ、是ガ爲ニモ改正ヲ要シマス箇條ガアルノデアリマス、ソレカラ今一
ツハ大正八年法律第十二號中改正法律案デアリマスガ、是ハ本年度ニ於キマ
シテ、東京帝國大學ニ精神病室、傳染病〓究所ノ新營ヲ致シマス、又京都帝
國大學ニ臨海實驗所ヲ設ケマシテ、ソレカラ地質鑛物學ノ〓室ノ新營ヲヤリ
やじ、尙ホ又東京、京都兩帝國大學ニ於キマシテ、醫學部ノ擴張ヲスルコト
ニナッテ居リマスカラ、此豫算ガ通過イタシマスルト云フト、政府支出金ノ繰
入ヲ要スル次第デアリマスカラ、本案ヲ提出シタ譯デアリマス、ドウゾ御審
議ノ上御協賛ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=49
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050・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ於テ御異議ガナケレバ、唯〓文部大臣ノ說
明セラレマシタ兩案トモ、同一委員ニ付託イタシマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=50
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051・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ朗讀イタサセマ
ス
〔瀕古書記官朗讀〕
大學特別會計法案外一件特別委員
候爵蜂須賀正韶君男爵木越安綱君子爵牧野忠篤君
北條時敬君福原鐐二郞君男爵橫山隆俊君
石井省一郞君阪本 影之助君藤本閑作君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=51
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052・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十一、朝鮮醫院及濟生院特別會計法中改正
法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
朝鮮醫院及濟生院特別會計法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十年二月二十二日
衆議院議長奧繁三郞
貴族院議長公爵德川家達殿
朝鮮醫院及濟生院特別會計法中改正法律案
朝鮮醫院及濟生院特別會計法中左ノ通改正ス
第二條中「九十二萬圓」ヲ「百十四萬圓」ニ改ム
〔政府委員男爵齋藤實君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=52
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053・齋藤實
○政府委員(男爵齋藤實君) 朝鮮醫院及濟生院特別會計ニ屬シマスル事業
ハ、漸次發展ヲ致シマシテ、明年ニ於キマシテハ地方ニ三箇所ノ醫院ノ業務
ヲ開始イタシマスルコトニナリマシテ、又看護婦養成機關ヲ增設イタシマシ
テ、他ニ既設醫院濟生院ノ充實擴張ヲ致シマスル爲ニ本特別會計ニ屬スル經
費ノ上ニ於テ、約七十二萬圓ヲ增加スル次第デゴザイマスルガ、其中約五十
萬圓ハ醫院ノ入院料、藥價等ニ於キマシテ收入ガゴザイマスルカラ、之ヲ以
テ補充ヲ致シ、其ノ足ラザル所ノ殘額二十二萬圓ヲ、政府ノ支出金ニ俟タナ
ケレバナラヌノデアリマス、ソレ故ニ本案ヲ提出イタシマシタ次第デアリマ
ス。何トゾ御審議ノ上ニ、御協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=53
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054・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ朗讀イタサセマ
ス
〔瀨古書記官朗讀〕
朝鮮醫院及濟生院特別會計法中改正法律案特別委員
公爵二條厚基君子爵實吉安純君子爵松平直平君
子爵米倉昌達君北里柴三郞君男爵北大路實信君
男爵高崎弓彥君岡田文次君佐藤傳兵衞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵德川家達君 日程第十二、南部支那ニ於ケル領事官ノ裁判ニ關
スル法律案、政府提出、第一讀會ノ續、委員長報告
〔左ノ報〓書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス〕
南部支那ニ於ケル領事官ノ裁判ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
大正十年二月二十三日
右特別委員副委員長
磯部四郞
貴族院議長公爵德川家達殿
〔磯部四郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=55
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056・磯部四郎
○磯部四郞君 今日ハ委員長佐佐木侯爵ニ於テ御差支ガゴザイマスノデ、私
ヨリ代ッテ特別委員會ノ經過ヲ報〓スルヤウニト云フコトデゴザイマス、私ガ
代ッテ玆ニ報〓ヲ致シマス、本案ニ對シマスル委員會ハ二囘開キマシテ、其ノ
第一囘ハ委員長及ビ副委員長ノ互選ニ終リマシテゴザイマス、後一囘ニ於キ
マシテハ、先ヅ以テ本案ノ大體ノ理由ヲ政府委員ヨリ御說明ヲ得タ次第デア
リマス、要スルニ其ノ御說明ノ趣意ハ、南部支那ニ於ケル所ノ所謂我ガ領事ニ
於テ取扱ヒ來リマシタ所ノ、刑事被〓人ノ從來ノ處分ハ、所謂其領事ニ於テ輕
罪トシテ裁判シ終ラナイモノハ長崎控訴院ニ於テ取扱ヒ來リマシタ次第デ
アルノデアリマス、然ル所ガ此ノ南部支那ノ所謂福建省及ビ廣東竝ニ雲南省、
是等ノ所ハ支那ノ南海ニ接シテ居リマシテ、丁度臺灣ノ臺北ニ面シテ居リマ
スカラ、實際ノ便宜上臺北ノ覆審部ノ方ニ其事件ヲ送ル方ガ、先ヅ司法ノ仕
事ニ於テ極ク便宜デモアルシ、又運送ノ費用等ニ付テモ大變ニ減ル譯デモア
ルシ、ノミナラズ多クハ此ノ南部支那ト稱シマスル三處ニ於ケル所ノ、日本
人ノ籍ガアッテ刑事被告人ト相成リマス者ハ多クハ臺灣人ガ多イ、臺灣ニ籍ノ
在ル所ノ日本人ガ多イ、故ニ長崎ニ於テ此事ヲ取扱フヨリモ、寧ロ臺灣ノ方
ニ於テ取扱フ方ガ、卽チ此裁判ヲ受ケル所ノ被〓人ノ方ニ於テモ大ニ便利デ
アル、是等ノ理由ヨリ此本案ノ提出ニ至リマシタ次第デアルサウデアリマス、
而シテ其中此ノ領事ニ於テ取扱ヒマスルノガ、取リモ直サズ豫審モ何モナイ
輕罪及ビ違警罪ト云フガ如キ、輕微ナ事件デゴザイマス、其以上以前ノ法律
ニ於テ重罪ト稱スル所ノ、所謂領事裁判デハ公判ヲ爲シ得ナイ所ノ事件ト云
フモノハ、ソレハ是マデ長崎控訴院ノ取扱ヒ來リマシタモノヲ、之ヲ臺北ノ
高等法院ニ送ヲテ、高等法院ノ所謂覆審部ニ於テ取扱ハセル、斯ウ云フコトニ
相成ッタ次第デゴザイマス、此事柄ニ付マシテ、卽チ政府委員ヨリ逐條審議ヲ
求メマシテ、サウシテ二三唯今ノ點ニ付テ、何ガ故ニ是マデハ長崎ニ於テ之
ヲ取扱ヒ來ッタモノデアル、何ガ故ニ此度臺灣ニ之ヲ送ッタモノデアラウト云
フ一二ノ質疑モアリマシタガ、卽チ此法案其モノノ各條ニ付テハ一言ノ質問
モゴザイマセズ、且修正ノ說モゴザイマセズシテ、卽チ委員會ハ全會一致ヲ
以テ可決イタシマシタ次第デゴザイマスノデ、是ハ全ク刑事被〓人ノ所謂領
事裁判ニ於テ取扱ヒ來リマシタル所ノモノヲ、ソレヲ長崎ヲ止シテ臺北デ取
扱フト云フダケノ簡單ナル法律デアリマスカラ、ドウゾ御贊同アラムコトヲ
願ヒマス、此段御報告ニ及ビマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=56
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057・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=57
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058・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=58
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059・八條隆正
○子爵八條隆正君 直ニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=59
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060・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=60
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061・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直ニ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、全部ヲ問題ニ供シマス、
全部原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長 公爵德川家達君)御異議ナトイ認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=63
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064・八條隆正
○子爵八條隆正君 直ニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=64
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065・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=65
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066・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直ニ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=66
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067・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、第二讀會ノ決議通リデ御
異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=67
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068・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、次ノ議事日程ハ決定次第
御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會
午後零時七分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004403242X01419210225&spkNum=68
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