1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
大正十年三月二十二日(火曜日)午後一時二十六分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第三十一號 大正十年三月二十二日
午後一時開議
質問
一 霞ケ浦沿岸江戸崎入干拓に關する質問(田中萬逸君提出)
二 第十二師團兵器部下關倉庫移轉に關する質問(藤井啓一君提出)
三 養蠶業者救濟に關する再質問(山邊常重君提出)
四 軍紀振肅に關する質問(田中武雄君提出)
五 民心統一に關する質問(早川龍介君提出)
六 獨逸賠償船選擇に關する質問(田中萬逸君提出)
七 司法權の威信に關する第三質問(横山勝太郎君外一名提出)
八 火葬船葬禮株式會社の營業に關する質問(横山勝太郎君外二名提出)
九 朝鮮に於ける行政司法の衝突に關する質問(鮎川盛貞君提出)
十 蠶絲及織物の根本政策に關する質問(清水留三郎君提出)
十一 血清販賣及之に關聯する事項に關する質問(山田永俊君提出)
十二 陪審制度に關する質問(植原悦二郎君提出)
十三 人權蹂躪及辯護士會の權能に關する質問(横山勝太郎君外一名提出)
十四 窒素化合物に對する政策に關する質問(大口喜六君提出)
十五 國有土地森林原野下戻に關する質問(祷苗代君提出)
十六 中學校新設を黨勢擴張に利用したる件に關する質問(木檜三四郎君提出)
十七 文政竝大本教に關する質問(安藤正純君提出)
十八 行政裁判所組織改造に關する質問(井上剛一君提出)
━━━━━━━━━━━━━
第一 裁判所構成法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二 定年に因る退職判事檢事の恩給に關する法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第三 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第四 度量衡法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第五 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第六 刑法中改正法律案(祷苗代君提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第七 養蠶業竝絹絲工業調査會設置に關する建議案(飯塚春太郎君外四名提出)
第八 水産銀行設置に關する建議案(鵜澤宇八君外四名提出)
第九 縣社乃木神社昇格に關する建議案(横田千之助君外二名提出)
第十 斐伊川治水工事速成に關する建議案(原夫次郎君外五名提出)
第十一 長崎五島佐世保間交通運輸の設備に關する建議案(牧山耕藏君外三名提出)
第十二 大甕茂木間鐵道速成に關する建議案(石井三郎君外三名提出)
第十三 社寺境内敷地無償下付に關する建議案(鵜澤總明君外四名提出)
第十四 兵庫福崎間鐵道敷設に關する建議案(木下甚三郎君提出)
第十五 航空業保護奬勵に關する建議案(津野田是重君外一名提出)
第十六 平和記念東京博覽會費國庫補助に關する建議案(前田米藏君外十四名提出)
第十七 八王子高崎間鐵道速成に關する建議案(長谷川宗治君外十名提出)
第十八 東京大阪間高速度交通機關の設備に關する建議案(久下豐忠君提出)
第十九 三戸千曳間鐵道速成に關する建議案(野村治三郎君外七名提出)
第二十 五條新宮間鐵道速成に關する建議案(玉置良直君外五名提出)
第二十一 土器川外四川改修に關する建議案(大林森次郎君外四名提出)
第二十二 勞働組合法の制定竝勞働局設置に關する建議案(近藤達兒君提出)
第二十三 剩餘金竝益金の繰入に關する建議案(田川大吉郎君提出)
第二十四 青森築港國營に關する建議案(北山一郎君外十四名提出)
第二十五 信樂(貴生加茂川間)輕便鐵道敷設に關する建議案(安原仁兵衞君外一名提出)
第二十六 境港修築速成に關する建議案(清瀬規矩雄君外六名提出)
第二十七 阿武隈川阿賀川改修工事費國庫補助増額に關する建議案(八田宗吉君外六名提出)
第二十八 阿武隈川阿賀川改修工事費國庫補助増額に關する建議案(中野寅吉君外三名提出)
第二十九 信越東線鐵道速成に關する建議案(武田徳三郎君外一名提出)
第三十 敦賀今津間輕便鐵道豫定線追加に關する建議案(安原仁兵衞君外一名提出)
第三十一 橿原神宮第二期宮域擴張及建物修築に關する建議案(小橋藻三衞君外三名提出)
第三十二 有益鳥獸及有用植物保護法制定に關する建議案(吉良元夫君提出)
第三十三 滿洲大學設立に關する建議案(佐藤寅太郎君提出)
第三十四 御殿場大宮間及吉田大月間鐵道速成に關する建議案(岩崎勲君外二名提出)
第三十五 癩傳染絶對防止に關する建議案(鵜澤總明君外二名提出)
第三十六 官幣大社三島神社の修繕竝境内擴張整理に關する建議案(岩崎勲君外一名提出)
第三十七 水戸鹿島間高濱延方間及玉造鉾田間鐵道速成に關する建議案(宮古啓三郎君外二名提出)
第三十八 四國重要港灣整備に關する建議案(原田佐之治君外七名提出)
第三十九 四國鐵道各線速成に關する建議案(原田佐之治君外十五名提出)
第四十 宮河内谷川改修費國庫補助に關する建議案(岡順次君外三名提出)
第四十一 徳島監獄廳舎移轉に關する建議案(海原清平君外三名提出)
第四十二 社會政策に必要なる資金に關する建議案(三善清之君外八名提出)
第四十三 寺泊築港に關する建議案(高橋金治郎君外二名提出)
第四十四 宇都宮岐阜及和歌山監獄の移轉促進に關する建議案(植竹龍三郎君外二名提出)
第四十五 印紙税免除に關する建議案(安原仁兵衞君外一名提出)
第四十六 帝國在郷軍人會國庫補助に關する建議案(八田宗吉君外四名提出)
第四十七 稱號撤廢に關する建議案(奧村安太郎君提出)
第四十八 蛤港牛深間鐵道敷設に關する建議案(池田泰親君外四名提出)
第四十九 楠浦港富岡間鐵道敷設に關する建議案(池田泰親君外四名提出)
第五十 北海道産業資金充實に關する建議案(伊藤廣幾君外七名提出)
第五十一 横須賀より浦賀三崎を經て三浦半島を一周する鐵道敷設に關する建議案(森恪君外三名提出)
第五十二 山形福島高知神戸徳島及京都の監獄移轉に關する建議案(戸狩權之助君外五名提出)
第五十三 那賀川改修速成に關する建議案(原田佐之治君外三名提出)
第五十四 私立中學校私立高等女學校に補助金下付に關する建議案(鳩山一郎君外四名提出)
第五十五 醫師に對する適當の教育機關設置に關する建議案(香川保忠君外二名提出)
第五十六 竹田三田井間鐵道速成に關する建議案(吉良元夫君外六名提出)
第五十七 北海道糖業政策に關する建議案(木下成太郎君外七名提出)
第五十八 林間學校奬勵補助に關する建議案(大林森次郎君外五名提出)
第五十九 神祇に關する特別官衙設置建議案(岩崎勲君外十二名提出)
第六十 高田川井間及世田米水澤間鐵道敷設に關する建議案(志賀和多利君外一名提出)
第六十一 食料品供給施設に關する建議案(山本条太郎君外四名提出)
第六十二 地方税財源擴張に關する建議案(八田宗吉君外三名提出)
第六十三 片町四條畷間電力鐵道延長に關する建議案(植場平君外一名提出)
第六十四 直江津港築港に關する建議案(鈴木義隆君外三名提出)
第六十五 支那共和國留學生教育に關する建議案(一宮房治郎君提出)
第六十六 日本海沿岸鐵道完成に關する建議案(田邊熊一君外五名提出)
第六十七 千曲川鳴瀬川江合川改修工事費國庫補助増額に關する建議案(遠藤良吉君外十四名提出)
第六十八 仁淀川外五川改修費國庫支辨に關する建議案(水野吉太郎君外四名提出)
第六十九 佐原松岸間鐵道速成に關する建議案(濱口吉兵衞君外一名提出)
第七十 東洋文庫設立に關する建議案(澤來太郎君外五名提出)
第七十一 漢學振興に關する建議案(木下成太郎君外十名提出)
第七十二 岡崎大井間鐵道建設に關する建議案(齋藤鷲太郎君外二名提出)
第七十三 九州藥學專門學校設置に關する建議案(原田十衞君外六名提出)
第七十四 三原呉間沿海鐵道速成に關する建議案(山道襄一君外六名提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=0
-
001・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致シマス
〔原田書記官報告〕
二今二十二日政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
(第三號)大正十年度歲入歲出總豫算追加案
(第四號)大正十年度歲入歲出總豫算追加案
(特第三號)大正十年度特別會計歲入歳出豫算追
加案
一去十九日貴族院ヨリ受領シタル政府提出案左ノ如シ
裁判所構成法中改正法律案
定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案
度量衡法中改正法律案
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
府縣制中改正法律案ニ對スル修正案
提出者荒川五郞君大口喜六君
北海道會法中改正法律案ニ對スル修正案
提出者荒川五郞君大口喜六君
三原吳間沿海鐵道速成ニ關スル建議案
提出者山道襄一君早速整爾君
龍口了信君荒川五郞君
金尾稜嚴君横山金太郞君
山科愼二郞君
(以上三月十九日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
國有土地森林原野下戾ニ關スル質問主意書
提出者禱苗代君
中學校新設ヲ黨勢擴張ニ利用シタル件ニ關スル質問
主意書
提出者木檜三四郞君
文政竝大本〓ニ關スル質問主意書
提出者安藤正純君
行政裁判所組織改造ニ關スル質問主意書
提出者井上剛一君
(以上三月十九日提出)
一今二十二日政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ如シ
衆議院議員鈴木錠藏君外二名提出關稅定率法中
改正法律案ニ關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員藤井啓一君提出第十二師團兵器部下
ノ關倉庫移轉ニ關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員山邊常重君提出養蠶業者救濟ニ關スル
再質問ニ對スル答辯書
衆議院議員田中武雄君提出軍紀振〓ニ關スル質問
ニ對スル答辯書
衆議院議員早川龍介君提出民心統一ニ關スル質問
ニ對スル答辯書
衆議院議員田中萬逸君提出獨逸賠償船選擇ニ關ス
ル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員橫山勝太郞君外一名提出司法權ノ威
信ニ關スル第三質問ニ對スル答辯書
衆議院議員横山勝太郞君外二名提出火葬船葬禮
株式會社ノ營業ニ關スル質問ニ對スル各辯書
衆議院議員植原悅二郞君提出陪審制度ニ關スル質
問ニ對スル各辯書
衆議院議員橫山勝太郞君外一名提出人權蹂躪及
辯護士會ノ權能ニ關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員木檜三四郞君提出中學校新設ヲ黨勢
擴張ニ利用シタル件ニ關スル質問ニ對スル答辯書
〔關稅定率法中改正ニ關スル質問主意書ハ大正
十年三月八日速記錄第二十三號五四一頁掲載〕
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奧繁三郞殿
衆議院議員鈴木錠藏君外二名提出關稅定率法中改
正ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員鈴木錠藏君外二名提出關稅定率法
中改正ニ關スル質問ニ對スル答辯書
關稅定率法中改正案ハ本月十七日衆議院ニ提出シタ
リ
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
大藏大臣子爵高橋是〓
第十二師團兵器部下關倉庫移轉ニ關スル質問主意
書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月八日
提出者藤井啓
賛成者內藤濱治
外三十三人
第十二師團兵器部下關倉庫移轉ニ關スル質問主
意書
一山口縣丁關市大字關後地村字鳥越ニ設置セル陸軍
第十二師團兵器部下關倉庫ハ其ノ位置下關市直近
中央背面ニシテ市ノ地域市街ノ連絡上其ノ要部ニ在
リ而シテ下關市ハ近年舊觀ヲ改メ人口著シク增加シ
市公共營造物若ハ住宅建設等ニ甚シク支障ヲ來セリ
特ニ市區改正道路改良等所謂都市計畫ニ著手セル
今日ニ於テハ該倉庫ヲ適當ノ他ノ地點ニ移轉セシメ
其ノ敷地數萬坪ヲ下關市ノ市街住宅地其ノ他公共
營造物ノ數地ニ利用セシムルハ目下必要事ナリト思
料ス當局ハ之ヲ他ニ移轉セシムルノ意思ナキヤ如何
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奥繁三郞殿
衆議院議員藤井啓一君提出第十二師團兵器部下關
倉庫移轉ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員藤井啓一君提出第十二師團兵器部
下關倉庫移轉ニ關スル質問ニ對スル答辯書
下關附近ハ國防上須要ナル地點トシテ要塞ヲ設置シ又
重砲兵諸隊ノ配置アリ從テ之等ニ伴フ諸種倉庫ヲ必要
トス
第十一師〓兵器部下關倉庫ハ主トシテ右要件ノ下ニ
設置セラレアリ假令市區改正其他ノ都市計畫ノ企アル
トモ國防上須要ナル諸倉庫等ニ就テハ目下移轉スルノ
意思ナシ
但シ兵器部下關倉庫中火藥庫ノ一部ハ同市最近發
展ノ狀況其他萬一ノ危害等ニ鑑ミ之ヲ移轉シタキ意
思ヲ有スルモ政府財政上ノ都合ニテ直ニ之カ整理實
施ヲ爲スコト能ハサルヲ遺憾トス
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
陸軍大臣男爵田中義
養蠶業者救濟ニ關スル再質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月八日
提出者山邊常重
賛成者佐竹庄七
外三十一人
養蠶業者救済ニ關スル再質問主意書
政府ノ答辯書ニ依レハ大正九年度ニ於テ養蠶業者救
濟ノ趣旨ヲ以テ日本銀行ヨリ低利資金ヲ貸出相當ナル
好果ヲ收メタリト政府自ラ認メ居ルニ拘ラス大正十年
度ニ於テハ帝國蠶絲株式會社ヲ救済シテ絲價ノ維持
ヲ計ルノ結果間接ニ養蠶業者ノ救濟トナルカ故ニ新ニ
其ノ救濟ノ必要ナシト答辯セリ然シトモ帝蠶會社ハ一
法人ニ過キスシテ養蠶業者ハ全國ヲ通シテ二百萬戶ア
リ然ルニ政府ハ一法人ヲ救濟シテ多數ノ養蠶業者ヲ直
接ニ救濟スル必要ナシトハ國家ノ產業發達ヲ阻害スル
コト甚タ大ナリト信ス政府ノ所見果シテ如何
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奥繁三郞殿
衆議院議員山邊常重君提出養蠶業者救濟ニ關スル再
質問ニ對シ別紙答辯書差進候
衆議院議員山邊常重君提出養蠶業者救濟ニ關ス
ル再質問ニ對スル答辯書
帝國蠶絲株式會社ハ一法人二、過キスト雖絲價ノ調節
ヲ目的トシテ設置セラレタルモノナレハ其效果ハ絲價ヲ
安定セシメ金融ヲ圓滑ニシ延テ養蠶業者ニモ好影響ヲ
及ホス、モノト認ム
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
農商務大臣男爵山本達雄
軍紀振〓ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月九日
提出者田中武雄
賛成者小山松壽
外三十人
軍紀振〓ニ關スル質問主意書
三月八日束京日日新聞ハ左ノ記事ヲ揭載セリ
無意義ナル西伯利出征ノ副產物、金塊二百五十萬
圓ノ行方「セ」軍ヲ操ック平佐大尉ノ辣腕、彼ハ長間ナル
ガ故ニ陸軍當局ハ知ラヌ顏
我ガ西伯利派遣軍將校ノ中ニハ其行動頗ル怪シム可キ
モノアリ免角ノ風評絕エ間無キ折カラ此處ニ驚ク可キ事
實現ハレ若シ此ノ內容ガ公ニナレバ目下開會中ノ議會
ノ大問題トナリ調査ノ如何ニ依ッテハ將官佐官級ニ責任
者ガ續出シサウナノデ陸軍ノ要路ハ臭イ物ニ蓋主義ヲ
採クテ事件ヲ曖味ノ裡ニ葬リ去ラントシテ井ル、抑本件ハ
「セミヨノフ」軍ノ軍資タル數千萬圓ノ金塊ヲ狙ヒ是ヲ巧
ニ獲得スルト云フ大仕掛ケノ手段ヲ運ラシ遂ニ一一百五
十萬圓ヲ引張リ出シテ西伯利ノ天地ニ活動寫眞的ノ惡
事ヲ働イタモノデ其眞相ハ次ノ如クデアル
平佐大尉志願シテ浦鹽ニ行ク
目下三重郡久居第五十一聯隊第三中除長タル陸軍步
兵大尉平佐二郞ハ中尉時代ニ參謀本部附トナリ露語
〓究科ニ八ッタ人デンノ頃カラ巧ニ上長官ニ取入ッテ實
地〓究ノ名ノ下ニ歐露ニ派遣サレタガ間モ無ク歐洲戰
亂勃發ノ爲メ黑木少佐(今ハ退役シテ鎌倉ニ在リ)等ト
共ニ日本ニ引揚ゲテ來夕然ルニ其後氏ハ西伯利派遣軍
ニ加ハル事ノ最モ有利ナルヲ思ヒイロイロ其運動ヲ試ミ
遂ニ目的ヲ達シテ浦鹽特務機關附將校トシテ派遣サレ
タガ赴任スルト間モ無ク長閥ヲ辿シテ軍ノ要路ニ接近シ
種々面白カラヌ行動ガアルノデ太ク同僚ニ憎マレ爲ニ時
ノ所屬隊長志岐中將ハ參謀本部ニ對シテ彼ノ召還方
ヲ申請スルニ至ッタ
水モ洩ラサヌ大尉ノ辣腕
處カ當時特務將校トシテ滿洲里ニ在ッタ黒木少佐ハ此
ノ由ヲ聞イテ氣ノ毒ニ思ヒ志岐中將其他要路ニ對シ交
渉ノ結果平佐大尉ヲ滿洲里特務機關附ニシタ處黑木
少佐ハ間モ無ク流行感冒ニ罹リ肺炎ヲ併發シテ歸朝ス
ルノ止ム無キニ至リ平佐大尉ハ「セ」軍聯絡將校トシテ居
殘リ軈テ自己ノ地位ヲ利用シテ「セ」將軍ヨリ莫大ナル軍
資全ノ運用ヲ託セラレル迄トナッタ目的圖ニ當ッタ大尉ハ
北叟笑ミテ著々計略ヲ運ラシ先ヅ第一著手トシテ軍事警
察ヲ手中ニ丸メ込ムベク豫テ想意ノ間柄デ且ツ同縣人
タル哈爾賓ノ北滿意兵隊長憲兵少佐藤村成助氏ヲ抱
キ込ミ第二ニ軍司令部附ノ利ヶ者ヲ物色シ是モ同〓ノ
誼アル某參謀少佐ヲ丸メ込ミ斯クテ急所急所ニ渡リヲ
付ケ哈爾賓ニ於テ糧食竝ニ軍事品ヲ請負フ束露公司
ト結託スル迄ニ漕ギ付ケタ此ノ東露公司ナルモノハ彼ノ
有名ナル大浦事件ノ元兇白川友一ノ經營ニ係リ其ノ配
下ニハ松本世其他如何ハシキ人物アリ其筋ヨリモ夫レ
ト無ク注意サレタ札附ノモノデアル
金塊三十萬圓滿洲里附近デ紛失
計略ハ著々進行シ平佐大尉ハ巧ニ「セ」將軍ヲ說キ糧食
ノ買入竝ニ日本出兵論ヲ鼓吹スル爲メノ宣傳及ビ運動
費トシテ「チタ」會計院ヨリ金塊二百五十萬圓ヲ引出シ
是ヲ「チタ」停車場ヨリ汽車ニ乘セ哈賓爾ニ輸送スル途
中滿洲里附近ニ於テ約三十萬圓ニ値スル金塊ヲ紛失
シタト稱シテ事ヲ有耶無耶ニ葬リ去ツタ殘リ二百二十
萬圓ノ中約三十萬圓ハ軍ノ糧食トシテ麥粉ヲ買入レル
ト稱シ豫テ諜シ合セタ通リ前記白川友一ノ束露公司ヲ
指定シテ納入セシムル事トナツタ
貨車失踪麥粉一萬圓ヲ積ンデ
然ルニ此ノ麥粉ハ容易ニ輸送シテ來ヌ爲メ不審ヲ抱キ
取調ベタ處哈爾賓ヨリ輸送ノ途中貨車行方不明ノ爲
メ東露公司ニ於テモ調査中ダト云フ極メテ珍妙ナ挨拶
ヲ爲シ其後此ノ問題ニ就テハ何時モ「搜査中ダ」トノミ要
領ヲ得ズ今日ニ至ルモ其儘トナツテ井ル
「セ」軍ノ手ニ落チタ金塊ニ目ヲ付ク
是ヨリ先キ東露公司ハ吉富久孝氏經營ノ日露商會ト
共ニ貿易業トシテ相當重キヲ爲シ井上陸軍主計總監ノ
世話デ「セ」將軍ノ軍需ロ四ヲ納入スル事トナツタガ當時「ケ
レンスキー」留紙幣ノ通用禁止トナツタ爲メ兩商會ハ大
ニ手違ヒヲ生ジ已ムナク一時日本ニ引揚ゲタカ斯ル中
「コルチヤツク」政府倒レタ爲メ數千萬圓ノ金塊ガ「セ」軍
ノ「チタ」政府ノ手ニ歸シタノデ平佐大尉ハ此處ニ目ヲ付ケ
白川友一ヲ哈爾賓ニ呼ビ寄セ種々密議ヲ凝ラシタ後一
旦潰レタ東露公司ノ整理ヲ名トシテ「チタ」出張所ヲ八
幡組ニ賣渡シタ
益々冴ユル大尉ノ腕森林採伐····水田買收
蓋シ八幡組ナルモノハ白川友一ノ弟ナル岡島某ガ主ト
ナッテ經營セルモノデ資金ハ平佐大尉ガ提供シ事業ハ「チ
タ」西南方ノ森林伐採ニ在リ其ノ利權ノ如キモ平佐大尉
ノ手ニ依リ軍司令部某々將校等其ノ手先ニ使ハレテ苦
モ無ク獲得シ平佐大尉ハ同時ニ「セ」軍將來ノ爲メト稱
シ齊々哈爾附近ニ數萬「サアーゼン」ノ水田ヲ買收シタ是
レ大尉ガ「チク」會計院ヨリ金塊ヲ引出シ東露公司ノ手
ヨリ麥粉ヲ買入レル迄ノ辛辣ナ遣リ口デアル
出兵論ヲ種ニ三十万圓ノ運動費哈爾賓新聞事件
而シテ大尉ハ日本出兵論鼓吹ノ運動費トシテ金塊三十
万圓ヲ日本ニ持チ來ラシメ是ヲ白川等ノ手ニ依ヶテ日貨
ニ兩替シタガ該金ハ殘ラズ取扱者タル前記八幡組ノ店
員ガ拐帶逃走シ行方不明ノ爲メ搜査中デアルト稱シ荏
苒今日ニ至ツテ井ル次ハ、哈爾賓新聞ノ買收デアルガ此
買收ニ就テハ我ガ哈爾賓特務機關ト「セ」軍トノ間ニ種
々政略上ノ鬪ヒアリ卽チ特務機關ハ政策ノ上ヨリ哈爾
賓ニ機關新聞ノ必要ヲ感ジ石坂中將ハ意ヲ決シテ前記
哈爾賓新聞買收ノ件ニ就テ詳ナル意見書ヲ參謀本部
ニ提出シ其買收費數萬圓支出方ヲ申請シタ
金ノ相場ヲ狂ハス程「ハルピン」デ豪遊
然ルニ此計畫ハ端ナクモ軍司令部ノ前記某參謀少佐ガ
平佐大尉ニ漏洩シタ爲メ平佐ハ先手ヲ打ツベク「チタ」ヨ
リ莫大ノ金塊ヲ持チ來リ哈爾賓新聞社長ニシテ五時半
デ有名ナ代議士松本誠之氏ト會見協議ノ上五萬圓デ
同新間ヲ買收シ平佐大尉ハ多勢ノ乾兒ヲ引連レテ哈爾
賓第一ノ旅館北滿ホテルニ陣取リ同地ノ藝妓多數ヲ揚ゲ
ゲテ連日大景氣ヲツケ莫大ノ金塊ヲ湯水ノ如ク撒キ散
ラシ遂ニ同地金塊ノ相場ヲ狂ハシムルニ至ツタ事態斯ノ
如ク平佐大尉ノ爲メニ哈爾賓新聞買收ノ先手ヲ打タレ
タ特務機關ハ腹ガ立ツテ堪ラズ同機關ノ骨ノ硬イ將校
ハ石坂中將ニ肉薄シテ平佐大尉調査ノ件ヲ主張シ遂ニ
其議容レラレテ北滿憲兵除長藤村少佐ニ調査方ヲ依
賴シタ處ガ藤村隊長ハ前記ノ通リ平佐太尉ノ爲メニ抱
込マレテ居ルノデ突込ンダ調査ガ出來ズ遂ニ事ヲ「風
評」トシテ好イ加減ナ報告ヲ爲シタ
大井大將ノ喫驚部下ニモ同類ガアル
一方此ノ由ヲ聞知シタ時ノ派遣軍司令官大井大將ハ
大ニ心痛シテ特ニ司令部附將校ニ內命シテ調査セシメタ
處驚クベシ自分ノ配下タル參謀少佐カ其一味タル事判
明シ而モ軍ノ參謀ヨリハ平佐大尉ノ參謀タルノ觀ガアル
ノデ若此事實ヲ公ニスレバ事態容易ナラズト見テ取報告
ヲ握リ潰シテ素知ラヌ顏ヲシテ居タ
軍隊思想爲ニ惡化遂ニ陸軍大臣ニ報告
何シロ事件ガ事件デアリ既ニ内部ニ在ル一部將校。ニハ
知レ渡リ、果テハ下士卒ニ至ルマデ薄々知ルヤウニナツタ
ノデ平佐大尉一味ニ對スル非難漸ク高マリ派遺軍要部
ノ責任ヲ云爲スル考サヘアリ殊ニ將校ハ藩閥ノ關係ヲ痛
感シ下士卒ノ中ニハ思想惡化ノ[傾向サヘアルヲ以テ軍
ノ要路ハ益憂慮スルニ至リ事件ハ愈重大トナツタノデ憲
兵司令部モ默ツテ置ケズ種々手ヲ迴シテ、取調タル結果
田中陸軍大臣ニ詳細報告スル所アリ尙ホ參謀本部ヘモ
同樣報告サレタ筈デアルガ先月下旬藤村憲兵隊長竝ニ
其部下タル北滿憲兵分隊長牛島鼎氏ハ共ニ停職ヲ命
ゼラレタニ過ギズ某參謀少佐ハ依然何ノ障リモ無ク西
伯利ニ在リテ辣腕ヲ揮ヒ平佐大尉ハ右ノ如ク第五十一
聯隊ノ中隊長トシテ幅ヲ利カシテ居ル
金儲ケニ奔走スル大尉前途ヲ見越シテ
大尉ハ最近資本金三十萬圓ヲ投ジテ浦鹽ニ「オルガン」
商會ナルモノヲ設ケ陰ノ人トナツテ金儲ニ熱中シ又數日
前三十萬圓ヲ携ヘテ朝鮮ニ赴キ公務ヲ其儘ニシテ土地
買收ニ奔走中デアル、而シテ平佐大尉ハ前途ヲ見越シ
「己モ軍人ヲヤメテ實業界ニ入ラウ」ナゾト公言シ其筋ヨ
リハ平佐大尉ノ實兄ナル大阪ノ辯護士平佐純俊氏ニ對
シ種々調査シタノデ純俊氏ハ「彼レノ軍人タル事ハ父ノ
遺言デアルカラ今更軍人ハヤメサセラレヌ」ト答ヘタ、此ノ
如ウナ大惡事ヲ働イテ居ナガラ陸軍ノ要路ハ何故其儘
ニシテ置クノカ、實ニ奇々怪々デアルガ這ハ陸軍ニ附キモ
ノヽ長閥ガ絡ランデ公明ヲ掩ウテ井ルカラデアル
長閥軍人ヲ父トセル平佐ト陸軍頭目ノ惡因緣
卽チ平佐大尉ノ父ハ平佐是純氏ト云ヒ我ガ騎兵隊ニ大
ナル功績アリ西南役當時ハ山縣公ノ副官トシテ出軍シ
故寺內元帥、田中陸軍大臣其他陸軍ノ頭目ト親交ア
リ氏ガ大佐時代ニ病ヲ得テ危篤トナルヤ枕頭ニ集マツタ
今ノ陸軍ノ頭目ニ對シ二郞「(平佐大尉ノ事)ハ軍人ト
シテ名ヲ爲サシメ度イカラ何分宜敷賴ム」ト淚ヲ流シテ遺
言シタノデ故寺內元帥田中陸相ヲ始メ陸軍ノ要路ハ平
佐ヲ目ニカケ今囘斯ル大ソレタコトヲシタニ拘ラズ何ウス
ル事モ出來ヌノデアル
口止メ料二萬圓ヲ鎌田中尉ニ
尙ホ平佐大尉哈爾賓デ豫備陸軍中尉鎌田正一ニ對シ
口止ノ料トシテ二萬圓ヲ贈リ又西伯利竝ニ內地新聞ノ
操縱費トシテ三萬圓ヲ林原吉次郞ナルモノニ與へ林原
ハ日本ニ歸リ帝國ホテルニ滯在シテ豪遊ヲ極メ警視廳
ニ注意サレタ爲メ何レヘカ姿ヲ晦マシタ、白川友一ノ番
頭松本世ハ是レ又莫大ノ金ヲ儲ケテ露國將校ノ未亡人
ト結婚シ此ノ程日本觀光ニ來リ先月下旬相州鎌倉ナ
ル海濱ホテルニ滯在シ豪遊ヲ極メテ井タカ一昨々日午
前同中同ホテルノ支拂ヲ爲シ横濱ニ赴イテ同地ノ「オリ
エンタルホテル」ニ入リ晝食ヲ濟シテ哈爾賓ニ向ツタガ同
人ノ日本觀光ニ就テハ其筋ヨリモ極メテ注意深イ眼デ
睨マレテ井ル
無二ノ親交アル黑木少佐ハ曰ク
「セミヨーノフ」將軍蹶起以來將軍ト無二ノ親交アル黑
木親慶少佐ハ宿病猶癒エス目下鎌倉ニ靜養中テアル
同少佐ハ語ル
平佐君ノコトニ就テハ多少聞キ込ンダコトモアリマスガ
苟且ニモ死生ノ巷ヲ倶ニシタ間柄トシテハ僕ノ口カラ免
ヤ角言ヒタクアリマセン僕ハ平佐君ニ限ツテ左樣ナコトガ
ナイト信ズルモノデス然シ萬一事實デアッタトシテモ決シ
テ平佐君ノ私心カラ出タモノタトハ考ヘタクナイノデス「セ
ミヨーノフ」將軍ハ極メテ利慾ニ恬淡ナ人物デスカラ目的
サヘ正シケレバ隨分費用ヲ惜シマナイ方ノ性デスガダラ
シナク金錢ヲ亂費スルヤウナ男デハアリマセン僕ハ「セミ
ヨーノフ」將軍ノ名譽ノ爲ニモ切ニ平佐君ノ寃罪タラン
コトヲ祈ルモノデアリマス
果シテ右ノ如クナリトセハ我カ軍紀ハ爲ニ破壞セラルヘシ
右事實ノ眞相及政府ノ所見如何
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奥繁三郞殿
衆議院議員田中武雄君提出軍紀振肅ニ關スル質問ニ
對シ別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員田中武雄君提出軍紀振肅ニ關スル質
問ニ對スル答辯書
金塊二百五十萬圓輪送ノ件
金塊二百五十萬圓輸送ニ關スル東京日々新聞ノ記
事ハ全然事實ト相違ス但平佐大尉カ此輸送ニ若干
ノ關係ヲ有スルコトハ事實ニシテ其情況左ノ如シ
大正九年五月上旬平佐大尉ガ知多特務機關附トシ
テ服務中「セメノフ」ハ金塊五十六箱(價格約二百五
十萬圓)ヲ哈爾賓方面ニ輸送セントシ旣ニ發送ノ準
備ヲ終レルモ目下「セ」軍ノ力ヲ以テシテハ安全ニ之ヲ
輸送スルヲ得ス且日本軍憲ヨリモ其輸送ニ關シ便宜
ヲ與ヘラレサルノ理由ヲ以テ個人タル平佐大尉ニ其輸
送方法ニ關シ助言ヲ求メタリ因テ平佐大尉ハ確實ナ
ル日本人ヲ選ヒ之ニ輸送セシムル外方法ナキ旨助言
セリ此結果「セ」軍行政補助官「タスキン」ト日本貿易
商山内基信トノ間ニ本輸送ニ關スル契約ノ成立ヲ見
ルニ至レルモノナリ而シテ爾後ニ於ケル輸送ノ方法金
塊及代金ノ授受等ニ關シテハ平佐大尉ハ全然關係
ナシ從テ金塊三十萬圓紛失ノコトモ平佐大尉トハ何
等ノ關係ナキモ輸送途中多クモ三四萬圓ノ金塊カ滿
洲里方面ニ於テ山内基信ノ使用人坂上某ニ竊取セ
ラレタル事實ニシテ坂上某ハ大正九年七月哈爾賓警
察署ノ手ニ逮捕セラレ旅順ニ於テ裁判ニ附セラレタル
筈ナリ
二麥粉ノ納入竝約一萬圓ノ麥粉紛失ノ件
麥粉ノ納入竝麥粉紛失ノ件ハ事實此種ノ」コトアリシ
トスルモ平佐大尉トハ何等ノ關係ナシ
三八幡組ト平佐大尉トノ關係
八幡組ナルモノハ義勇兵トシテ「セ」軍ニ從軍セシ邦人
ノ一部カ鑛山森林等ノ經營ヲ目的トシテ「セメノフ」ノ
希望ニヨリ組織セルモノニシテ平佐大尉ハ當時「セ」軍
ニ從軍シアリシ關係上其成立ニ關シ「セメノフ」ニ助言
ヲ與へ「セメノフ」ハ其資金トシテ金塊十數布度(價格
約三十萬圓)ヲ支出シタルコトアリ尙ホ森林ノ利權獲
得等ハ「セメノフ」ノ命令ニヨリ主トシテ哥薩克司令部
ヨリ便宜ヲ與ヘタルモノナリ而シテ此八幡組ハ大正九
年七月頃解散シ現在ハ存在セス
四出兵論ヲ種ニ三十萬圓ノ運動費ヲ支出セル件
此事實ナシ
五哈爾賓新聞買收ノ件
哈爾賓新聞社長束〓俊明カ其社ノ權利ヲ永鳥義高
ニ譲リ渡スニ際シ平佐大尉カ幹旋ノ勞ヲ取リ「セ」軍
軍事補佐官「アフアナシエフ」ヲシテ「セ」軍宣傳費中ヨ
リ二萬圓ヲ支出セシメタルコトハ事實ナルモ軍參謀ノ
漏洩ニヨリ合爾賓特務機關ニ先キヲ打チ云々ノ東京
日々新聞ノ記事ハ全然事實ト相違ス
六「オルガン」商會ニ關スル件
平佐大尉カ浦鹽在勤中西伯利各地ヨリ避難シ來ル
邦人ニ對シ生業上若干ノ助言ヲ與ヘタルコトアルモ資
本金三十萬圓ヲ投シテ浦鹽ニ「オルガン」商會ナルモノ
ヲ組織セル事實全然ナシ同商會ハ東露公司ノ出張所
ナリ
七平佐大尉カ三十萬圓ヲ携ヘテ朝鮮ニ赴キタル件
平佐大尉ハ本年三月中病氣ノ爲メ約三週間ノ休暇
ヲ乞ヒ東京陸軍軍醫學校ニ於テ治療ヲ受ケ二月二
十七日歸隊セル外朝鮮ニ旅行セシコトナシ從テ本件
ノ事實ハ全然ナシ
八口止料トシテ二萬圓ヲ錄田正一ニ與ヘシ件
鎌田正一ノ哈爾賓ニ於ケル生活狀態ニ同情シ平佐
大尉カ幼年學校時代ノ知己タルノ故ヲ以テ岡島揆ヨ
リ三千圓ヲ融通セシムルコトニ助力セシハ事實ナルモ
口止メ料云々ノ事實全然ナシ
九林原吉次郞ニ新聞操縱費トシテ參萬圓ヲ與ヘシ件
林原吉次郞ナルモノカ「セメノフ」ノ内意ヲ受ケ帝國「ホ
テル」ニ滯在セシコトハ事實ナルモ平佐大尉トハ關係
ナシ
十白川友一ト平佐大尉トノ關係
大正七年八月頃平佐大尉「セ」軍ニ從事中白川友一
ト滿洲里ニ於テ會見セルコトアリ爾後白川友一カ「セ」
軍ニ糧食等ヲ納入セシハ事實ナルモ平佐大尉トハ束
京日々新聞記事ノ如キ關係ナシ
本事件ニ關スル平佐大尉ノ行動ハ〓ネ前記ノ如クニシ
テ之カ爲未タ軍紀ヲ破壞サルヽカ如キコトアルヲ認メス
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
陸軍大臣男爵田中義
民心統一ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月九日
提出者早川龍介
賛成者井上剛
外三十一人
民心統一ニ關スル質問主意書
世界戰亂ノ影響ヲ受ケ我カ帝國ニ於ケル民心ノ思想上
一大變化ヲ來サムトスルノ傾向アリ上下共ニ杞憂ニ
堪ヘサルトコロナリ此ノ時ニ於テ宜シク民心ノ統一ヲ圖
ラサルヘカラス依テ政府ノ所信ヲ問ハムトス
右及質問候也
大正十年三月二十二日
内閣總理大臣原敬
衆議院議長奧繁三郞殿
衆議院議員早川龍介君提出民心統一ニ關スル質問ニ
對シ別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員早川龍介君提出民心統一ニ關スル質
問ニ對スル答辯書
國民思想ノ穩健ナル發達ヲ見ムコトハ政府ノ最モ庶後
スル所ニシテ之カ爲ニ適當ノ施設ヲ爲シ國民思想ヲ善
導シ其歸嚮ヲ誤ラシメサルコトニ努メツヽアリ今後倍ニ
力ヲ此ニ致シ效果ヲ舉ゲムコトヲ期ス
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
內務大臣床次竹二郞
獨逸賠償船選擇ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十日
提出者田中萬逸
賛成者正木照藏
外二十九人
獨逸賠償船選擇ニ關スル質問主意書
帝國政府ニ於テハ過般獨逸ヨリ實物賠償ノ一部トシテ
數隻ノ船舶ヲ領得シタリ此ノ船舶中ノカツプ、フ井ニステ
ルレ號(總噸數一万四千五百零三噸、最高速力十六
哩)ハ優秀華麗ナル旅客運送船ナルカ東洋方面ニ於テ
平素之ヲ利用スルコト頗ル困難ニシテ從テ之ヲ維持
セムトスルニハ多大ノ經費ヲ要スルモノナリ然ルニ政府ハ
斯ノ如キ船種ヲ選ムテ賠償ノ一部トシテ傾得セシハ如何
ナル順序ニ出テ又如何ナル見込ヲ以テセシモノナリヤ明
確ナル答辯ヲ求ム
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奧繁三郞殿
衆議院議員田中萬逸君提出獨逸賠償船選擇ニ關スル
質問ニ對シ別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員田中萬逸君提出獨逸賠償船選擇ニ
關スル質問ニ對スル答辯書
聯合諸國ガ戰爭ニ因リ喪失シタル一切ノ船舶ハ對獨平
和條約第一編第一款第三附屬書(一)ニ規定スル如ク
噸數對噸數及等級對等級ノ原則ニ依リ現物賠償ヲ受
クヘキ義ナルカ賠償委員會ハ右標準ノ下ニ各被害船舶
ノ種類總噸數船齢及速力等ニ對比シ各國ニ夫々相當
分配ヲ爲セルモノニシテ我邦カカツプフイニステレノ引渡
ヲ受ケタルハ右委員會ノ決定ニ依リタルモノトス
而シテ政府ハ該船ノ利用處理等ニ付テハ海運界ノ狀勢
ニ順應シ機宜ノ措置ヲ講スヘク差當リ政府ハ相當ノ條件
ヲ以テ我當業者ニ同船ノ管理ヲ委託シ相當ノ航路ニ之
ヲ使用セシムル見込ニシテ其ノ利用ニ困難ヲ感セサルノ
ミナラス是ニ由リ我對外交通運輸上便宜ヲ加フルコト
鮮カラサルヘキヲ信ス
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
外務大臣伯爵內田康哉
大藏大臣子爵高橋是〓
遞信大臣野田卯太郞
司法權ノ威信ニ關スル第三質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十一日
提出者横山勝太郞八並武治
贊成者箕浦勝人
外三十一人
司法權ノ威信ニ關スル第三質問主意書
本員等ハ去三月一日付ヲ以テ「去二月十二日司法權ノ
威信ニ關スル質問主意書ヲ提出シタルニ政府ハ何等斯
ル事實ナシト答辯セリ〓其ノ一例ヲ擧クレハ前大分警
察署長警視小野忠藏ハ前大分警察部長山口織之進ノ
名譽ヲ毀損スヘキ記事ヲ新聞紙ニ掲載頒布セムコトヲ
中山鷹城ニ依賴シ醜惡ノ事實及寫眞等ヲモ提供シタル
件ニ關シ後日大分地方裁判所檢事局ハ中山鷹城等ニ
對シ名譽毀損罪ノ起訴ヲ爲シタルニ拘ラス司法大臣ハ
某政黨ノ請託ニ基キテ右小野忠藏ニ對シテハ起訴ヲ爲
スヘカラストノ命令ヲ下シタリト謂フカ如キ事例アリ之レ
司法權ノ威信ヲ失墜スルノ甚シキモノナリト信ス其ノ他
司法權ノ威信ニ關スル事例尠カラス政府ノ所見如何」ト
ノ再質問書ヲ提出シタルニ政府ハ三月八日付ヲ以テ「本
質問書例示ノ事件ニ付テハ當時ノ大分警察署長警視
小野忠藏カ中山鷹城等名譽毀損被告事件ノ共犯タルノ
嫌疑アリトシテ當該檢事正ヨリ其ノ處分方請訓有之取
調ヘタルニ同人ハ既ニ其ノ職ヲ退キ改悛ノ情著シク處罰
ノ必要ナキモノト認メタルニ因リ起訴猶豫處分ニ付スヘキ
旨訓令ヲ發シタルモノニシテ決シテ某政黨ノ請託ニ基キ
テ斯ル措置ヲ採リタルモノニアラス其ノ他司法權ノ威信ヲ
害シタル事實更ニ無之」ト答辯セリ然レトモ或方面ヨリ
司法省ニ向テ右小野警視ニ對スル不起訴ノ交渉ヲ爲シ
タルヲ以テ司法省ハ不起訴ノ内命ヲ下サムトシタルニ大
分地方裁判所檢事局ヨリ非公式ノ書信ヲ以テ若司法
當局ニ於テ該事件ニ關スル當該檢事ノ起訴處分ヲ高壓
抑止スルナラハ檢事局全員ハ假令野ニ下ルトモ司法當
局ノ非議ヲ糺彈シ之ヲ公明ナル社會ノ批判ニ訴フヘシト
ノ意嚮ヲ上申スルトコロアリタルヲ以テ司法省ハ小野警
視擁護ノ交涉ヲ拒絕シタリト云フ之レ大正八年十二月
中ノ事ニ屬ス
大正八年十二月二十七日大分地方裁判所監督書記
室ニ於テ檢事鳥原英治氏ハ中山鷹城ニ對シテ語テ日ク
雨三日中ニハ當局ヨリ小野警視起訴ノ許容沙汰ア
ルヘシト考フル故最早政友會員如何ニ狂奔スルトモ
徒勞ニ過キサルヘシ云々
ト然ルニ越へテ大正九年一月八日松田源治君突如歸
縣シ別府紅葉館ニ多數ノ同志ト會見翌九日暮夜竊ニ
大分日日新聞社長衞藤又三郞君ヲシテ檢事正男庭善
之助氏ヲ訪問セシム其ノ要談ノ內容ハ之ヲ知ルコトヲ
得サルモ略ホ推察スルニ難カラス之カ爲ニ當時大分縣ニ
於ケル民間ノ風說ハ司法省ノ檢事壓迫小野警視擁護
ニ在ルヲ傳ヘサルナク世論益高潮シ司法權ノ威信全ク地
ヲ拂フニ至ル斯ノ如クニシテ結局小野警視ハ不起訴ニ
終レリ
是レヨリ先大正八年十二月二十一日上京中ナリシ中
山鷹城ハ赤坂區榎坂町東亞同文書院表二階事務室ニ
於テ政友會代議士一宮房治郞君ト會見シタル際一宮
君ハ語テ曰ク
大分縣ノ政友會諸君ノ輕擧妄動ニハ寔ニ迷感至極
テアル今囘ノ事件(小野警視ノ起訴不起訴事件ヲ指
ス)ノ如キモ既ニ一度ハ農工銀行問題テ司法省ヲシテ
無理ナ處斷ヲ採ラシメタルニ拘ラス引續キテ又モヤ不
起訴ニセシムルコトハ實ニ困難テアル直接ニ交涉ノ任
ニ當テ居ル松田君ノ如キハ非常ニ困惑シテ居ル云々
尙同日中山鷹城ハ元田政友會總務ヲ訪問シタルニ病
床中ノ故ヲ以テ面會セサリシモ女中ヲ通シテ曰ク
余ハ病床中ニテ遺憾ナカラ會談スルヲ得サレトモ小野
ノ事件ハ目下松田君ヲシテ交渉セシメツヽアレハ同人
ニ一應會見ノ上委細ヲ聽取セラレ度シ云々
依テ中山鷹城ハ歸途松田源治君ヲ訪問シタルニ同君ハ
當方ニ於ケル揉消運動ハ既ニ絕對ノ餘地ナケレハ先
般大分日日新聞社長衞藤又三郎君カ小野警視ノ謝
罪狀ヲ携ヘテ島根(山口警察部長赴任地)ニ赴キ直
接山口ニ對シテ告訴取下方交涉中ナレハ之ニシテ不
可能ニ終レハ詮術ナシ斯ル事ヲ一々中央ニ持テ來テ
ハ甚タ困ル吾々ノ立場ヲモ考ヘテ吳レナケレハ云々
ト語ラレタル事實アリ此等ノ事實ニ依レハ小野警視ノ
不起訴處分ハ政府答辯ノ如ク改悛ノ情著シク處罰ノ必
要ナキモノナルカ故ニ非スシテ全ク政友會員ノ運動松田
源治君等ノ司法省竝檢事局ニ對スル交涉請託司法省ノ
壓迫等カ原因ト爲リテ瀆職犯罪名譽毀損罪ノ犯人ヲ
以テ不起訴處分ノ利益ヲ享ケシメタルコト極メテ明瞭ナ
リト信ス政府ハ此ノ點ニ關シ詳細ナル調査ヲ爲シ更ニ
答辯アラムコトヲ望ム
右及第三質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奥繁三郞殿
衆議院議員横山勝太郞君外一名提出司法權ノ威信ニ
關スル第三質問ニ對シ別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員橫山勝太郞君外一名提出司法權ノ
威信ニ關スル第三質問ニ對スル答辯書
本質問書ニ引用スル事件卽チ前大分警察署長警視小
野忠藏ニ係ル事件ノ處分ニ付テハ司法省ハ政友會會員
ノ交涉或ハ請託ヲ受ケタルコト絕對ニ無之又大分地方
裁判所檢事局ヨリ非公式書面ヲ以テ司法當局ニ於テ
該事件ニ關スル當該檢事ノ起訴處分ヲ抑止スルニ於テ
ハ該檢事局ノ全部假令野ニ下ルモ司法當局ノ非議ヲ糺
彈シ之ヲ公明ナル社會ノ批判ニ訴フヘシトノ趣意ヲ以テ
上申シ來リタルコト全然無之且又質問趣意書中檢事
鳥原英治カ大分地方裁判所監督書記室ニ於テ中山鷹
城ニ對シ兩三日中ニハ小野警視起訴ノ許容沙汰アルヘ
シト考フル故最早政友會員如何ニ狂奔スルトモ徒勞ニ
過キサルヘシ云々ト語リタリト謂フニ在ルモ本事案ニ付
テハ最モ祕密ヲ嚴守スヘキ旨特ニ檢事正ヨリ注意シアリ
タルモノナルヲ以テ鳥原檢事カ被告タル中山ニ對シ斯カ
ル談話ヲ爲スノ謂レナク大正八年十二月二十七日頃ハ
鳥原檢事ハ該事件ノ擔任ヲ離レ何等關係ナカリシモノ
ナリ而シテ趣意書中大正九年一月八日松田源治君突
如歸縣シ別府紅葉館ニ多數ノ同士ト會見翌九日暮夜
竊ニ大分日々新聞社長衞藤又三郞君ヲシテ男庭檢事
正ヲ訪問セシム其要談ノ內容ハ之ヲ知ルコトヲ得サルモ
略推察ニ難カラス云々ト云フ點ニ付テハ當時衞藤又三
郞カ男底檢事正ヲ訪問シ中山等ニ對スル告訴ハ示談交
涉中ナルヲ以テ暫時起訴ヲ見合ハサレタキ旨希望ヲ述
ヘタル事實ハ之レアルモ檢事正ヨリ司法省又ハ其ノ他ノ
者ノ意見ヲ談話シタルカ如キコト之レナキハ勿論右希望
以外何等ノ餘談モ之レナカリシナリ其ノ他該事件ニ關シ
テハ本年三月一日ノ司法權ノ威信ニ關スル再質問ニ對
スル答辯ト異ル所ナク毫モ司法權ノ威信ヲ害シタル事實
存セス
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
司法大臣伯爵大木遠吉
火葬船葬禮株式會社ノ營業ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十一日
提出者横山勝太郞高木正年
太田信治郞
賛成者三木武吉
外三十人
火葬船葬禮株式會社ノ營業ニ關スル質問主意書
第東京市芝區公園五號地ノ二藤田勇氏ハ警視廳
ヨリ芝浦埋立地繫船地及隅田川筋ニ於テ靈枢ヲ收
容シ夜間海上數浬ノ錨地ニ碇泊シテ燒却ヲ終リ翌朝
封印ノママ靈柩收容地ニ歸來シテ遺骨ノ引渡ヲ爲ス
ヘキ業務ノ特許權ヲ受ケ一面陸軍中將吉田平太郎、
男爵名和長憲、坂忻次郞、前警視立川太郞、東京市
會議員辯護士佐々木藤市郎、東京府會議員千葉博
巳、坪田金作、保坂政次郞、藤田勇、山下吉太郞氏ノ
發起ヲ以テ資本金二百五十萬圓ノ火葬船葬禮株式
會社ヲ創立シ、藤田勇氏ハ右特許權ヲ金二十萬圓ヲ
以テ該會社ニ賣渡シ該會社ハ其事務ヲ經營セムトセ
リ內務大臣ハ岡警視總監カ此ノ如キ許可ヲ爲シタル
ヲ相當ナリト思料セラルルヤ如何
第二元來今回火葬船葬禮株式會社ナルモノ東京市
民一般ノ爲ト稱シ海上火葬營業ヲ爲ス目的ヲ以テ其
ノ設立ヲ企テ既ニ警視廳ノ許可ヲ受ケ近ク設立ノ運
ニ至レルニ就テハ該會社事業開始ノ曉ニ於ケル事業
豫定地ニ接スル關係各町村ノ蒙ルヘキ打擊ハ一ニシ
テ止マラス一營利會社タル該會社カ營業許可ヲ受ク
ルニ至ル迄ノ經路ニ就テハ兔角ノ不審ヲ抱クモノサヘ
アリテ其ノ反對ノ機運ハ今ヤ殆ト絕頂ニ達セリ
凡ン死者其ノモノニトリテハ最嚴肅ナルヘク又其ノ關
係者ニトリテハ最大ノ悲哀タルヘク從テ之ヲ葬ルニ於
テハ最叮重ナルヘキハ當然ノコトナルヘキモ一面ニ於
テ死ニ對スル一般觀念ハ死屍ニ對スル汚穢ノ念ト關
聯シテ常ニ不快ノ念ヲ禁スル能ハス殊ニ我カ日本民
族ハ有史以前ヨリ死ニ對スル不淨觀念最甚シキ國民
ニシテ伊邪那美命黄泉國ヨリ歸リマシテ鹽ヲ以テ死
ノ不淨ヲ潔メ給ヒシ故事舊記ニ載スルトコロヲ見ル
モ明ナリ從來各地方ニ於テ火葬場設置ニ際シ附近住
民ノ之ニ反對スルノ理由素ヨリ多々アルヘシト雖主ト
シテ此ノ國民性的觀念ニ基クモノトス
右火葬船會社カ事業開始ノ曉芝ノ事業豫定地タル芝
區沿岸ヲ始メ東京灣沿岸各町村ノ蒙ルヘキ打撃亦一ニ
シテ止マラス就中左記各項ハ各町村又ハ個人ノ利益ヲ
蹂躪スルモノアルノミナラス東京府全般ニ關スル產業上
由々敷結果ヲ招致スルモノアリ殊ニ畏クモ高貴ノ尊嚴
ヲ冒瀆スルモノアルニ於テハ決シテ默過スヘキニ非スト
信ス
-最近ノ調査ニ係ル東京府下ニ於ケル漁業戶數ハ
九千五百二十三戶ニシテ漁業ニ從事スル者ハ一万八
千有餘人アリ右ノ内極少ナル淡水魚漁業者及遠洋
漁業者ヲ除キテ其ノ大數ハ東京灣内ニ出漁セリ而シ
テ火葬船會社ノ事業目論見ニ依レハ火葬船ハ常ニ之
ヲ芝浦沿岸ニ繫留シ置キ晝間市內各地ヨリ運搬シ來
ル柏枢ヲ搭載シテ夜間發航沖合ニ於テ船中火葬ヲ
爲ストアリテ勿論油滓灰燼等ハ海上ニ投棄スルカ如
キコトハ之レナカルヘシト雖前述ノ如ク死ニ對スル萬
人ノ不淨觀念ハ之ヲ除去スルヲ得スシテ直ニ東京灣
內ニ於ケル魚貝海草類ノ汚濱セラルヘキコトヲ聯想ス
ヘク魚貝海草類需要ノ減少ヲ來スヘキハ之ヲ想像ス
ルニ難カラサルナリ之レ從來陸上ニ於ケル火葬場設置
ニ際シ附近一帶ノ農產物カ其賣行ニ影響ヲ蒙レル事
實ニ照スモ明ニシテ若東京灣內魚貝類ノ需要ニ多少
トモ影響スルトコロアラムカ沿岸漁民ノ困惑ハ忽ニシ
テ其ノ死活問題ヲ惹起スヘク附近飮食店ノ蒙ルヘキ
打撃亦決シテ尠少ナラサルヘシト信ス殊ニ古來東京
ニ於ケル唯一ノ產物タル海苔ノ需要ニ影響スルコトア
ラムカ之レ決シテ個個一地區ノ問題ニ非スシテ東京
市全般ニ關スル重大問題ナリ
二都市ノ火葬場カ何レモ市街地ヲ離レテ設置シアル
ノ理由ハ敢テ贅言ノ要ナシト雖火葬場設置カ土地繁
榮上甚大ナル障害タルノ一事ハ直ニ首肯シ得ルトコ
ロナリト信ス而シテ火葬船會社ノ事業地タル芝浦沿
岸ハ會社自ラ公言セル如ク「東京市ノ中心」ニシテ市
ノ海上關門トモ云フヘキトコロタリ而モ右地域ハ近キ
將來ニ於テ實現セラルヘキ東京灣大築港ノ中心地ナ
リ從來火葬場設置ニ關シテハ山村水郭ト雖之ヲ快シ
トセサルノ理由ヲ是トスルニ於テハ帝國ノ首府タル大
東京ノ關門ニ火葬船ヲ繫留スルカ如キ不合理ノ最甚
シキモノト云フヘキナリ更ニ大正十一年度ニ於テ開催
セラルヘキ豫定ナル明治神宮記念博覽會ノ敷地十五
萬坪ノ內五萬坪ハ芝浦埋立地ヲ以テ之ニ充當スル計
畫アルニ於テハ敢テ後日築港完成ノ曉ヲ俟タストモ
都市繁榮上都港美觀上其ノ無暴不可ナルコト明ナリ
三芝浦沿岸一帶ハ今ヤ逐日市民ノ娯樂散策ノ適合
地トナリツツアリ海上ノ空氣カ國民保健ニ與フル效果
ハ政テ醫學士ノ說明ヲ俟ツノ要ナシ東京市附近ニ於
ケル海岸娛樂地ハ多々アリト雖時間ト經費ノ關係上
一般市民ハ遠ク市街ヲ離レテ一日ノ〓遊ヲ恵マレ居
ラス芝浦一帶ノ地カ朝夕ノ散策夏期ノ納凉ニ於テ市
民ヲ擇ハシムルコトハ如上時間ト經費トノ關係ニ於
テ最モ適合シ居ル所以ニシテ更ニ春秋沿岸ニ蝟集セ
ル釣魚者又ハ遊船ヲ浮ヘテ投網釣魚ノ典ヲ得ツツア
ル者又所謂潮干符ニ於テ團體的慰安ノ催シヲ爲スモ
ノノ數ハ明ナル數字ヲ以テ示シ難シト雖蓋莫大ナルヘ
シト想像スルコトヲ得ヘシ火葬船會社事業開始後果
シテ之ニ影響ヲ及ホスコトナキヤ果シテ市民ノ娛樂場
ヲ奪取ルカ如キコトナキヤ之レ保障ノ限リニ在ラサル
ヘシ
四畏レ多クモ芝區沿岸ニハ芝及濱離宮ノ二離宮アリ
芝區ノ或地域ニ於テ大煙筒建設ヲ許可セラレス又對
岸ナル月島沿岸ノ護岸ハ特ニ不體裁ナラサル岩壁ト
ナシ居レルハ右離宮ニ對シ不敬ニ亙ラサラシムル爲ニシ
テ殊ニ芝區民カ二離宮御鳥瞰區域ノ〓淨ヲ思フノ熱
情ハ事々ニ明ニシテ海草ヲ拾フ無智ノ幼童ト雖尙且
尊嚴ノ念ヲ忘レ居ラス然ルニ今火葬船ノ如キ不淨ヲ
以テ此ノ聖域ヲ汚瀆スルカ如キコトアラハ沿岸市民ハ
勿論一般國民ノ反感ヲ招クコト明ナリ
五芝浦沿岸埋立地ノ如キハ十七萬五千坪ノ膨大ナ
ル大地域ヲ多年放棄セラレタルヲ大正八年三月漸ク
東京市ヨリ民間ニ拂下セラレ爾來急激ニ發展シ來リ
テ軈テハ東京市內ノ商工業ノ最適地タラムトスルノ狀
態ナルニ若沿岸ニ火葬船繫留セラレムカ衰退ノ氣運
ニ向ヒ土地ノ發展ヲ妨クルト同時ニ芝區ノ繁榮ニ多
大ナル障害ヲ來スハ燎々火ヲ見ルヨリモ明ナリ
六最後ニ會社目論見書ノ示ストコロニ依レハ火葬料
一人平均十圓莽典料平均四十圓計一人五十圓ト
見積リ居リ以テ中流以下一般市民ノ利益ヲ圖ルトナ
シ居レルモ今日五十圓ノ葬祭料ハ決シテ安キニ非ス
而モ種ス之ニ附帶スル費用ヲ要スルトキハ之ヲ以テ中
流以下一般市民ノ利益タルヤ否ヤ甚タ疑問タラサル
ヲ得サルナリ然リトセハ多數市民ノ娯樂ヲ奪ヒ漁業者
ノ生活ヲ危殆ニ陷レ土地ノ發展ヲ妨ケ一營利會社ノ
設立セラルルカ如キハ社會政策上ニ於テモ亦重大
ノ問題タルヘシ政府ハ此ノ如キ事由ニ鑑ミ速ニ之カ特
許ヲ取消スノ意思ナキヤ如何
第三頃者傳フル所ニ依レハ右火葬船葬禮株式會社
ノ創立ハ東京市民ノ反感ヲ買ヒ非常ニ困難ナルモノ
アリシカ財界ノ巨頭早川千吉郞氏ニ於テ之レカ創立
事業ノ經營ヲ引受ケ著々其ノ事業ノ〓ニ著カムトス
ルモノアリト謂フ政府ハ一日モ速ニ相當ナル措置ヲ採
ルノ必要アリト思料ス床次内務大臣ノ所見如何
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奧繁三郞殿
衆議院議員横山勝太郞君外二名提出火葬船葬禮株
式會社ノ營業ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員横山勝太郞君外二名提出火葬船葬禮
株式會社ノ營業ニ關スル質問ニ對スル答辯書
本件ハ藤田勇ヨリ火葬船設置ノ出願アリタルニ對シ警
視總監ハ東京府下ニ於ケル逐年火葬人員ノ增加ト陸
上火葬場ノ實情トニ鑑ミ且衞生及公安上支障ナキヲ認
メ許可シタルモノニシテ本件ハ所謂特許ノ性質ヲ有スル
モノニアラス而シテ本件火葬ハ沖合六浬餘ノ海上ニ於
テ之ヲ實行スルモノニシテ其ノ方法及設備等ニ關シ當業
者ニ對シ取締上必要ナル措置ヲ命シ因テ障害ヲ生スル
コトナカラシムルニ依リ警視總監ノ爲シタル處分ハ相當
ニシテ政府ハ之カ許可ノ取消ヲ命スルノ意思ヲ有セス
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
內務大臣床次竹二郞
陪審制度ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十八日
提出者植原悅二郞
賛成者關直彥
外二十九人
陪審制度ニ關スル質問主意書
陪審制度ハ立憲政體ノ健全ナル發達ヲ期スルニ最必要
ナル制度ナリ之ニ對シ政府ハ如何ナル方針ヲ採ラレツツ
アリヤ
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奧繁三郎殿
衆議院議員植原悦二郞君提出陪審制度ニ關スル質問
ニ對シ別紙各辯書差進候
(別紙)
衆議院議員植原悅二郞君提出陪審制度ニ關スル質
問ニ對スル答辯書
陪審法案ハ其起草ヲ終リ目下樞密院ニ於テ審議中ナ
リ
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
司法大臣伯爵大木遠吉
人權蹂躪及辯護士會ノ權能ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十八日
提出者橫山勝太郞三木武吉
賛成者鈴木富士彌
外三十人
人權蹂躪及辯護士會ノ權能ニ關スル質問主意書
第一芙城縣稻敷郡長戶村大字長峰椎名貞五郞(四
三)ハ大正九年八月二十三日窃盜犯ノ嫌疑ヲ以テ龍
ケ崎分署ニ引致セラレ容易ニ其ノ犯罪事實ヲ自白セ
サルノ故ヲ以テ同署在勤刑事巡査二名ハ同分署演武
場ニ於テ貞五郎ニ對シ捕繩ヲ以テ兩手首ヲ緊縛シ兩
刑事ハ協力シテ吊シ上ケ數本ノ卷煙草ニ點火シテ臀
部ニ押シ當テ火傷ヲ負ハシムル等極メテ苛酷ナル手段
ヲ以テ之ヲ糺問シ遂ニ其ノ犯罪事實全部ヲ自白セシ
ムルニ至レリ現ニ貞五郞ノ手首及臀部ニハ生々シキ傷
痕ヲ殘シ龍ケ崎區裁判所ニ於テモ事態容易ナラスト
シ醫師渡邊謙吉氏ヲシテ貞五郞ノ創傷ヲ鑑定セシメ
タル事實アリ其ノ事寳ノ眞相如何
第二之カ爲貞五郞ハ第一審龍ケ崎區裁判所ニ於テ
ハ有罪ノ判決ヲ受ケシモ水戶地方裁判所ニ控訴セシ
結果前記栲問ノ事實發覺シ遂ニ無罪ノ判決ヲ受ケ
タリト云フ而シテ之カ檢擧ノ衝ニ當リシ警察官二名
ハ懲戒免官ニ處セラレ且水戶地方裁判所檢事ハ之
ヲ起訴シタリト云フ然ルニ大正九年十二月十九日水
戶地方裁判所辯護士會ニ於ニ
茨城縣稻敷郡長戶村大字長峰椎名貞五郞ニ
對シ同人窃盗被告事件ニ付龍ケ崎分署ニ於テ刑
事巡査篠根喜代松巡査靑山由之助ノ兩人カ栲問
ヲ爲シ自白ヲ爲サシメタル事ハ不當ト認ム
二右決議ヲ以テ司法大臣ニ建議スルコト
トノ決議ヲ爲シ建議書ヲ司法大臣ニ提出シタルニ司
法大臣ハ大正十年一月二十六日附ヲ以テ右水戶辯
護士會ノ決議ヲ無效トスル旨ノ指令ヲ下シタリト云フ
右ハ栲問ノ事實ヲ否認スルニ在ルカ辯護士會ノ決
議カ違法ナリト云フニ在ル乎
第三我カ司法界ニ於テ此ノ如キ人權蹂躪ノ事例カ依
然トシテ其ノ痕跡ヲ絕タサルハ其ノ因何レニ在リトス
ルヤ且司法大臣ハ人權蹂躪ノ事跡ヲ根絕セシメ以テ
司法權ノ威信ヲ發楊セシメ人權尊重ノ實ヲ全ウスル
ノ抱負アリヤ如何
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奧繁三郞殿
衆議院議員橫山勝太郞君外一名提出人權蹂躪及辯
護士會ノ權能ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候也
(別紙)
衆議院議員橫山勝太郞君外一名提出人權蹂躪
及辯護士會ノ權能ニ關スル質問ニ對スル答辯書
第茨城縣龍ケ崎警察分署刑事巡査二名ハ同縣稻
敷郡長戶村椎名貞五郎ニ對シ其窃盜事件ノ取調ヲ
爲スニ當リ陵虐ノ行爲アリタル事實アリトシテ起訴ヲ
爲シタリ
第二水戶地方裁判所所屬辯護士會ニ於テハ大正九
年十二月十九日總會ヲ開キ右刑事巡查ヲ處分セシ
ムル目的ヲ以テ司法大臣ニ建議ヲ爲シ辯護士會ニ於
テ決議スヘキ事項ノ範圍ヲ超越シタルカ故ニ司法大
臣ハ辯護士法第三十條ニ依リ其決議ヲ無效トスルノ
指令ヲ爲シタリ陵虐ノ事實ヲ否認スルモノニ非ス
第三第一項ノ如キ陵虐ノ行爲カ行ハレタルコトハ甚
タ遺憾トスル所ナリ司法當局ニ於テハ此等ノ行爲ヲ
根絕セシメ人權ヲ尊重スルノ抱負ヲ以テ常ニ司法權
ノ威信ヲ發揚スルニ努メツヽアリ
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
司法大臣伯爵大木遠吉
中學校新設ヲ黨勢擴張ニ利用シタル件ニ關スル質問
主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十九日
提出者木檜三四郞
賛成者橫山勝太郞
外三十五人
中學校新設ヲ黨勢擴張ニ利用シタル件ニ關スル質
問主意書
一京都府ニ於テハ舞鶴鎭守府在勤海軍軍人軍屬ノ子
弟竝其ノ附近町村住民ノ子弟〓育ノ爲ニ中學校ヲ
新舞鶴町ニ新設セムトシテ既ニ府會ノ決議ヲ經テ大
正十一年四月ヨリー開校スヘキ順序トナリ居ルモノナ
リ
右中學校ノ敷地ハ其ノ設立ノ趣旨ニ鑑ミ之ヲ新舞鶴
町ニ選ムヘキハ富然ニシテ何人モ之ヲ疑ハサル所ナリシ
ニ拘ラス本年二月ニ至リ舞鶴町(以下舊舞鶴町ト云
フ)ニ於テハ突然政友會ノ力ヲ借リテ其ノ位置ヲ奪ハム
トシテ運動ニ著手シ新舞鶴町ニ於テモ鎮守府ヲ通シ
テ之ニ應戰シ爲ニ兩町ニ於テ數千圓ノ運動費ヲ徒消
シ且此ノ間兩町ニ於テ各政友會員ノ募集ニ力メ舊舞
鶴町ニ於テハ三百六十七名新舞鶴町ニ於テハ百五
十餘名ノ新黨員ヲ得テ激烈ナル競爭ヲ試ムル等ノ滑
稽事ヲ演シタリ而シテ本年二月十日ニ至リ文部省ハ
新舞鶴町ノ期待ニ反シテ其ノ位置ヲ舊舞鶴町(接續
ノ中筋村)ニ選定スル旨告示セリ
爾來新舞鶴町ヲ中心トスル加佐郡東部八箇町村
ハ知事等カ當初ノ精神ヲ地チテ政友會ノ威壓ニ膝
ヲ屈スルニ至リタル事實ヲ探知シテ公憤其ノ極ニ達
シ現ニ郡治上容易ナラサル惡結果ヲ招致シツツア
リト云フ
斯ノ如キハ支部大臣カ黨勢擴張ノ爲ニ京都府知事ニ
命シタル不當ノ措置ニシテ黨利ノ爲ニ國家百年ノ大
業タル〓育事業ヲ犠牲ニ供シ延テ將來郡治上ノ圓滑
ヲ害スル甚シキモノト認ム當局ノ所見如何
右及質問候也
大正十年三月二十二日
內閣總理大臣原敬
衆議院議長奥繁三郞殿
衆議院議員木檜三四郎君提出中學校新設ヲ黨勢擴
張ニ利用シタル件ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進
候
(別紙)
衆議院議員木檜三四郞君提出中學校新設ヲ黨
勢擴張ニ利用シタル件ニ關スル質問ニ對スル答辯
書
京都府ニ於テ舞鶴中學校ヲ新設スルニ當リ其ノ位置ヲ
選定スルニ就キテハ精密ニ調査シ慎重ニ審議シテ之ヲ決
定シタルモノナリ本大臣ハ本件ニ關シテ京都府ニ對シ何
等ノ命令ヲナシタルコトナシ
右及答辯候也
大正十年三月二十二日
文部大臣中橋德五郞
一去十九日貴族院ニ於テ本院ノ送付ニ係ル左ノ議案
ヲ可決シタル旨同院ヨリ通牒ヲ受領セリ
煙草專賣法中改正法律案(政府提出)
大正五年法律第四號中改正法律案(政府提出)
朝鮮事業公債法中改正法律案(政府提出)
臺灣事業公債法中改正法律案(政府提出)
樺太事業公債法中改正法律案(政府提出)
大學特別會計法案(政府提出)
大正八年法律第十二號中改正法律案(政府提出)
軍用自動車補助法中改正法律案(政府提出)
大正四年法律第十六號中改正法律案(政府提出)
大正九年法律第五十三號中改正法律案(政府提
也
畜牛結核病豫防法中改正法律案(政府提出)
一今二十二日貴族院ニ於テ本院ノ送付ニ係ル左ノ議
案ヲ可決シタル旨同院ヨリ通牒ヲ受領セリ
執達吏規則中改正法律案(政府提出)
民事訴訟費用法中改正法律案(政府提出)
刑事訴訟費用法案(政府提出)
公有水面埋立法案(政府提出)
黄燐燐寸製造禁止法案(政府提出)
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ掲載
ス
一去十九日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如シ
山田川ニ河川法適用ニ關スル建議案
阿部武智雄君宇野勇作君北山一郞君
原田藤次郞君原夫次郞君野村治三郞君
淺川浩君村山喜一郞君最上直吉君
鴨綠江岸道路修築ニ關スル建議案外一件
高木第四郞君蓮井藤吉君高見之通君
牧山耕藏君松山常次郞君山崎猛君
山道襄一君松井鉃夫君山本藤助君
國幣大社大山祇神社昇格ニ開スル建議案外二件
河上哲太君上塚司君深見寅之助君
佐藤寅太郞君植竹龍三郞君門屋尙志君
森達三君早川龍介君砂田重政君
日本大博覽會開設ニ關スル建議案
竹澤太一君中島守利君山崎猛君
宮崎三之助君秋本喜七君土屋與君
阿由葉勝作君〓水留三郎君三輪市太郞君
第五回極東競技大會派遣選手援助ニ關スル建議案
鳩山一郞君花岡次郞君井坂豊光君
中島鵬六君池田泰親君土屋興君
野尻彌重郞君手島鍬司君近藤達兒君
一去十九日北海道本州連絡完成ニ關スル建議案委員
野村治三郞君松實喜代太君辭任ニ付其ノ補闕トシ
テ阿部武智雄君黑住成章君ヲ、西條松山間鐵道豫
定線一部變更ニ關スル建議案委員河上哲太君辭任
ニ付其ノ補闕トシテ淺石惠八君ヲ、發明奬勵ニ關スル
建議案外一件委員河上哲太君出口直吉君辭任ニ
付其ノ補闕トシテ深見寅之助君吉川吉郞兵衞君ヲ、
府縣制中改正法律案外八件委員深見寅之助君荒
川五郞君荻田悅造君井上剛一君野村嘉六君辭任
ニ付其ノ補闕トシテ宮崎三之助君太田信治郞君森
下龜太郞君田中善立君正木照藏君ヲ、辯護士法改
正法律案委員〓瀨一郎君辭任ニ付其ノ補闘トシテ
高柳覺太郞君ヲ、國分岩川間鐵道敷設ニ關スル建議
案委員柿原政一郞君辭任ニ付其ノ補闕トシテ池田
泰親君ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ
一今二十二日西條松山間鐵道豫定線一部變更ニ關ス
ル建識案委員矢野丑乙君辭任ニ付其ノ補關トシテ
深見寅之助君馬籍法案委員岩切重雄君辭任ニ付
其ノ補鬪トシテ萩亮君ヲ酒造稅法中改正ニ關スル建
議案外二件委員坪田十郞君辭任ニ付其ノ補闕トシ
テ海江田準一郞君ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ
一去十九日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
國分岩川間鐵道敷設ニ關スル建議案委員
委員長日野辰次君理事古賀三千人君
西條松山間鐵道豫定線一部變更ニ關スル建議案委
員
委員長渡邊修君理事大石大君
溫泉政策ニ關スル建議案外三件委員
委員長成田榮信君理事淺野順平君
三原吳間鐵道敷設速成ニ關スル建議案外三件委員
委員長海原〓平君理事佐野正雄君
酒造稅法中改正ニ關スル建議案外二件委員
委員長鐸木三郎兵衞君理事田中武雄君
北海道本州連絡完成ニ關スル建議案委員
委員長木下成太郞君理事井內歡二君
一去十六日參考トシテ政府ニ送付シタル請願左ノ如シ
明治四十三年三月以前ニ於ケル退職若ハ死亡文
官ノ恩給竝遺族扶助料增額ノ請願五通
空也上人墳墓確定ノ請願通
神職ノ俸給ヲ國庫支辨ノ請願一通
市、町、村吏員恩給法制定ノ請願一通
小學校〓員ニ被選擧權附與ノ請願二通
小學校〓員ニ各種議員被選擧權附與ノ請願
三五通
僧侶其ノ他諸宗〓師ニ各種ノ被選擧權附與ノ請
願一四四通
神職ニ各種被選擧權附與ノ請願通
改名許可法制定ノ請願
按摩術取締規則改正ノ請願二一一一通通通通
飮酒制限ニ關スル請願
兵役免除稅ニ關スルノ請願
監獄制度ノ改良及免囚救濟ニ關スル請願一一通
漁業ヲ營業稅法中ニ迫加スルノ請願一通
有價證劵割賦販賣業及營業稅法中改正ノ請願
一通
營業稅法改廢ノ請願一通
請負業者ノ議員被選擧權ニ關スル法令改正ノ請
願通
醫藥分業ノ請願
米專賣ノ請願一一一九-
西伯利亞撤兵ノ請願通通通通
川尻村ノ區裁判所管轄ニ關スル請願
姦通罪ニ關スル法規改正ノ請願通
揖保郡有限責任購買組合會ニ鹽元賣捌指定ノ
請願一通
煙草罹災補償ニ關スル請願通
衆議院議員竝縣會議員選舉人名簿調製ノ請願
一道
國旗取扱法制定ノ請願通
蠶種專賣法制定ノ請願一通
森林保險實施ニ關スル請願-
鑛業稅率引上ノ請願通通通通
高等水產學校設置ノ請願
水產銀行法制定ノ請願-
軍人恩給法附則改正ノ請願二通発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=1
-
002・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=2
-
003・遠藤良吉
○遠藤良吉君 所得稅法中改正法律案外四件ノ委員
會ヲ開キタウゴザイマスカラ、許可ヲ求メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=3
-
004・成田榮信
○成田榮信君 議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=4
-
005・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 成田君、何デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=5
-
006・成田榮信
○成田榮信君 溫泉政策ニ關スル建議案外三件ノ委員
會ヲ開キマスカラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=6
-
007・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 本日ノ日程ニ揭ゲテアリマス質
問ノ第一霞ケ浦沿岸江戶崎入干拓ニ關スル質問、是ハ提
出者ヨリ趣旨辯明ヲ省略スルト云フ申出ガアリマシタ、ソレ
カラ質問第二、第三、第四、第八マデー第八、ソレカラ第十
二、第十三、第十六、以上ノ質問ニ對シマシテハ政府ヨリ答
辯書ガ參ッテ居リマスカラ、日程カラ省キマス、質問第九、朝
鮮ニ於ケル行政司法ノ衝突ニ關スル質問-鮎川盛貞
君
九朝鮮ニ於ケル行政司法ノ衝突ニ關ス
ル質問(鮎川盛貞君提出)
朝鮮ニ於ケル行政司法ノ衝突ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十二日
提出者鮎川盛貞
贊成者鈴木梅四郞
外二十九人
朝鮮ニ於ケル行政司法ノ衝突ニ關スル質問主意書
-大正元年八月朝鮮制令第二號土地調査令第十
五條ニ依レハ「土地所有者ノ權利ハ査定ノ確定又ハ
栽決ニ依リテ確定ス」トアリ然ルニ右土地調査令ニ依
リ土地ノ所有者カ確定セラレタル後之ト抵觸スル司
法裁判所ノ確定判決アリタルトキハ政府ハ如何ナル
取扱ヲ爲スヘキ方針ナリヤ
二又執行力アル判決正本ニ依リ占有ノ引渡登記ノ
請求ヲ爲シ來リタル場合ハ政府ハ之ニ對シ如何ナル
處置ヲ執ル方針ナリヤ
右及質問候也発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=7
-
008・鮎川盛貞
○鮎川盛貞君 簡單デアリマスカラ、自席カラ御許ヲ願ヒ
マス、朝鮮ニ於ケル行政司法ノ衝突ニ關スル質問ハ質問書
ニ記載ノ通リデ、隨テ是ハ簡單明瞭デアリマシテ、更ニ其趣
旨ノ辯明ヲ加フル必要ヲ認メマセヌカラ省略致シマス、仍テ
政府ハ成ベク至急ニ、口頭若クハ書面ヲ以テ答辯アランコ
トヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=8
-
009・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 日程第十ハ質問者ヨリ延期ノ
申出ガアリマシタ、日程第十一、血〓販賣及之ニ關聯スル
事項ニ關スル質問-山田永俊君-是モ御出席ガ無イ
ヤウデアリマスカラ後ニ廻シマス、次ハ質問ノ第十四、窒素
化合物ニ對スル政策ニ關スル質問-大口喜六君-是
モ御出席ガ無イヤウデアリスカラ後ニ廻シマス-質問第十
五、國有土地森林原野下戾ニ關スル質問-禱苗代君啻
十五國有土地森林原野下戾ニ關スル質
問(禱苗代君提出)
國有土地森林原野下戾ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十九日
提出者禱苗代
賛成者舞田壽三郞
外三十五人
國有土地森林原野下戾ニ關スル質問主意書
幕政時代ノ公簿若ハ公書ニ於テ左ノ各號ノ記載若ハ事
實アルモノハ反證ナキ限リ國有土地森林原野下戾法第
二條第一項第一號ニ所謂所有ノ事實アルモノト解スヘ
キモノト信ス政府ノ所見如何左ノ各號ニ付各別ニ明答
アラムコトヲ望ム
一百姓山若ハ百姓林トアルモノ
二百姓持山若ハ百姓持林トアルモノ
三村持山若ハ村持林トアルモノ
村又ハ部落ノ內山トアルモノ
六五四村又ハ部落ノ圍山トアルモノ
〓括的ニ主產物ノ伐採若ハ賣却ヲ爲シタルモノ
七自由ニ使用收益シテ進退シ來リタルモノ
入進退勝手又ハ支配タル明文アルモノ
九報償ヲ牧メテ他ノ村若ハ部落ニ貸與シタルモノ
十村山、村林、〓山、〓林等ト稱シ手入保護ヲ加へ進
退シ來リタルモノ
右及質問候也発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=9
-
010・祷苗代
○禱苗代君 極ク簡單デアリマスカラ自席カラ述ベマス、
本件ニ就テハ詳細ニ書面ニ記載シテアリマシテ、更ニンレ以
上辯明ノ必要ハ無イト思ヒマス、政府ハ速ニ口頭、若クハ書
面ヲ以テ、御答辯アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=10
-
011・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 次ハ質問第十六-是ハ間違
ヒマシタ、質問第十七、文政竝大本〓ニ關スル質問-安
藤正純君
十七文政竝ニ大本〓ニ關スル質問(安
藤正純君提出)
文政竝大本〓ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十八日
提出者安藤正純
賛成者松下禎二
外三十九人
文政竝大本〓ニ關スル質問主意書
一政府ハ曩ニ學制ヲ改革シテ中學校第四學年修了者
ニ對シテ高等學校入學資格ヲ與ヘシ結果中學校第
五學年ノ〓育ヲシテ異常ノ混亂ニ陷ラシムルノ狀況
ヲ呈セリ想フニ中學校ハ國民思想ノ根底ヲ作リ一般
智識ノ基礎ヲ養フ〓育上重要ナル機關ナルニ拘ラス
該制度實施以來中學校〓育ハ破壊セラレムトス政府
ノ所見如何若此ノ弊ヲ認メハ之ヲ匡救スルノ途如何
一政府ハ國民思想ノ涵養ヲ唱道シナカラ其ノ善導ニ對
シテ誠意ヲ缺クノ嫌ナキカ現ニ改定尋常小學國史ノ
編纂ニ當リテ平安朝ノ下ニ弘法ノミヲ擧ケテ平安遷
都ノ密接ノ關係者タル傳〓ヲ全ク記述セサルカ如キ
最近ノ著シキ一例ナリ之ニ對スル政府ノ所見如何
一政府ハ大本〓ノ如キ國民思想ノ上ニ考慮セサルヘカ
ラサル〓義ノ宣傳ヲ認容シ居レリ將來同〓ニ對スル
政府ノ方針如何又政府ハ目下禁止中ノ記事ヲ解禁
シ同〓ノ現狀ヲ知ラシメ國民ノ惑ヲ解クノ意ナキカ
右及質問候也
〔安藤正純君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=11
-
012・安藤正純
○安藤正純君 閉會期ガ切迫シテ居リマスカラ、成ベク簡
單ニ質問ノ要旨ダケヲ述ペタイト思ヒマス、私ノ質問ハ文政
竝ニ大本〓ニ關スル質問ト申スノデゴザイマス、先ヅ文政ニ
關シマシテハ、中學校ニ關スル制度ヲ改正シマシタ結果、現
在非常ニ中學校ニ參ル者ガ困ル狀態ニ陷ッテ居ル事柄ガゴ
ザイマス、之ヲ簡單ニ申上ゲテ、當局者ノ御答辯ヲ得タイト
思フノデゴザイマス、御承知ノ通リニ先年學制改革ノ結果
ト致シマシテ、中學校ノ第四學年修了ノ者ハ、高等學校ノ
入學試驗ヲ受ケラレル資格ヲ得タノデゴザイマス、ソレガ爲
メニ中學校ノ第五學年ノ授業ト云フモノガ、全ク混亂狀態
ニ陷ッテ來タノデゴザイマス、斯ノ如ク高等學校ノ入學試驗
ハ、中學校第四年ヲ卒業スレバ受ケラレルノデアリテ、随テ
此入學試驗ハ、中學ノ四年ヲ程度トシテ入學ノ試驗ヲ課シ
テ居ルノデゴザイマス、デアリマスカラ、五學年ニ於テ始メテ〓
マス所ノ、三角デアルトカ、立體幾何デアルトカ、西洋歴史ノ
中ノ近世史デアルトカ、化學ノ中ノ有機化學デアルトカ云
フヤウナ學科ハ、高等學校ニ入學スル爲メニハ、全ク不用ノ
モノトナッテシマッタノデアリマス、隨テ高等學校ニ入學シタイ
ト思フ生徒ハ、五年級ニ通ヒマシテモ、是等不用ナル學科ヲ
勉强スルト云フ考ガ無クナッテシマッタノデアル、斯ウ云フヤウ
ナ弊害ガ多々起リ來ッタノデアルガ〓括シテ申上ゲマスト試
驗勉强ガ目的デアル、高等學校ニ早ク入リタイト云フノガ
目的デアリマスカラ、其結果中學ノ第五學年ト云フモノハ
缺席者ガ非常ニ多クナッテ、而シテ生徒ノ缺席者ガ多イ結
果トシテ、各學科ヲ受持ッテ居ル、〓員ガ亦熱心ニ〓授ヲス
ルト云フ態度ヲ缺イテ來タノデアリマス、要スルニ學生モ〓
師モ共ニ浮腰狀態ニナリマシテ、中學ノ五學年ハ』殆ド浮ハ
ツイテ居ルト云フ次第デゴザイマス、此狀態ハ全國ニ在ルノ
デゴザイマスガ、殊ニ都下ノ中學ニ此傾向ガ多イノデゴザイ
マス、實例ナドモ多少調ペテアリマスガ、申上ゲルノハ煩雜デ
アリマスカラ省キマスガ、現ニ此議院ニ近イ御隣ノ東京府立
第一中學校-是ハ模範中學ト謂ハレテ居ル所デアリマ
ス-其府立ノ第一中學ナドニ於キマシテモ非常ニ困ッテ居
ル、學生ノ統制ニ大變困ッテ居リマス、現ニ第五學年ノ中ノ
一組ノ五分ノ四ノ生徒ハ、出缺ガ全ク不定デアルト云フヤ
ウチ狀態ヲ招來シタノデゴザイマス、斯ノ如ク五學年卜云フ
モノハ全ク浮動狀態ニナリマシテ、一生懸命ニ五學年ノ學
課ヲ勉强シヤウト云フ熱心ヲ學生ガ缺イテシマヒ先生ガ亦
其熱ヲ缺イテ來タト云フコトハ、非常ニ中學校ノ〓育ニ於
テ考慮シナケレバナラヌ問題デアラウト思フノデアリマス、而
シテ其弊害ハ只ダ五學年バカリニ止マリマセヌ、一體五學
年ハ中學校ノ最高學級デゴザイマスカラ、五學年ノ生徒ノ
言行ハ一校ノ模範ニナラナケレバナラナイ、』然ルニ其模範タ
ルベキ最高學級ノ生徒ガ斯ノ如ク出缺不定ニシテ、自分ノ
所屬ノ五學年ヲ全ク放抛シテ、只ダ試驗ノ爲ノミニ勉强シ
テ居ルト云フヤウナ次第デアリマスカラ、其結果ハ一校ノ規
律ヲ紊シマシテ全體ノ風紀ガ弛ンデシマウト云フヤウナ結果
ニナッテ來タノデアリマス、卽チ上級生ニ見習ッテ下級生ガ之
ニ傚シテ全校ノ風紀ガ放漫ニナルト云フ結果ニ到著シテ來タ
ノデアリマス、弊害ハ之ニ止マラズ、更ニ高等學校ノ入學試
驗ハ從來ハ、六月或ハ七月ニヤッテ居ッタノデアリマスガ、本年
カラハ三月下旬ニ繰上ゲテ行クコトニナリマシテ只今現ニ高等
學校ノ入學試驗ヲ行ッテ居ル次第デアリマス、三月ニ繰上ゲタ
結果トシテ、中學校ヲ四年ヤッテ上ノ學校ニ進マウ-高等
學校ニ入ラウト云フノデアリマスカラ四學年ニ入ッテカラ生徒
ハ匆々試驗準備ヲシナケレバナラヌコトニナッテ來夕、詰リ中
學ノ第四年ト云フモノハ、犠牲ニ供セラレタト云フ結果ニナッ
チ居リマス、此結果中學ノ課程ハ五年デアルケレドモ、五年
級ノ一年間ハ入學試驗ニハ何ノ用モ無イ、又四年ノ初カラ
勿々高等學校ノ試驗準備ヲシナケレバナラヌノデアリマスカ
ラ、中學校ハ五年アリマスガ、實際ノ所ヲ言フト、三年半位
シカ無イト云フコトニナヲテシマッタノデアル、三年半位デハ到
底普通學ノ基礎ヲ學生二植付ケルト云フコトハ出來ナイ、
加之デス、中學校ニ於テ修得スベキモノトシテ、而モ修得ス
ルニ至ラナイ科目ガ出來ル』ヤウニナッテ來タ、ノレハ高等學
校ニ入ッテヤレバ宜イヂヤナイカト言ハレルカモ知レナイガ、高
等學校ノ方ニ參リマスレバ、其學科ハ旣ニ中學校デヤッテ
來タモノトシテ、又是ガ省カレテ居ルヤウナ點ガアルノデアリ
マス、中學、高等學校、大學ヲ通ジテ、一定ノ學系中ニ遂ニ
此ノ制度ノ爲メニ、或學科ノ或部分ヲ省カレテシマウヤウナ
結果ニナッテ來タノデアル、(「簡單」「確リヤレ」ト呼フ者アリ)、
要スルニ正味僅カ三年半デス、實質上三年半デハ、普通學
ノ基礎ヲ學生ニ植付ケルト云フコトハ出來ナイト云フ結果
ニナッタノデアル、更ニ考へマスト、[第四年ヲ卒業シテ試驗ヲ
受ケラレルノハ高等學校バカリデハナイ、一方ニ陸軍士官學
校、海軍兵學校、是等ノ學校ニハ中學ノ四年ヲ濟メバ、入
學試驗ノ資格ガ有ルノデアリマス、隨テ試驗ヲ受ケテ早ク
是等ノ學校ニ這入ルト云フコトニナリマスカラ、地方ノ學校
ハマアサウデモナイカ知ラヌガ、都下ニ於ケル所ノ中學校ニ
於キマシテハ、高等學校、海軍兵學校、陸軍士官學校、是等
ノ學校ニ競クテ入ルト云フガ爲メニ、五學年ノ學科ト云フモ
ノハ殆ド棄テテ顧ミナイデ、唯夕四五學年ニ於テ只管汲々
トシテ試驗準備ニ掛ルヤウナコトニナリマシテ、中學〓育ノ根
柢ト云フモノハ、此學制ノ爲メニ破壞セラレントシツヽアル
所ノ現狀デゴザイマス、加之私ガ更ニ憂ヘツヽアルハ、今日
何ガ大切カト言ヘバ、人格ノ養成ト云フ事程重要ナモ
ノハ無カラウト思フ、國民思想ガ動搖シテ居ルト言ッテ、
現內閣諸公ハ口ヲ開ケバ常ニ之ヲ憂ヒテ居ラレル、此點ハ
私モ同感デゴザイマスルガ、其國民思想ノ根本ト云フモノ
ハ.何所デ養フカト言ヘバ、學生ガ二十五六歳迄學校デ勉
强フル中デ、中學校ノ此五年間ノ〓育ト云フモノガ、國民
思想ノ基礎ヲ築上ゲルノデゴザイマス、然ルニ今日ノ如ク中
學校ノ眞面目ノ勉强ガ僅カ三年半位ニ致シマシテハ、思想
ノ根柢モ確立ガ出來ズ、而シテ唯試驗ノ爲ニノミ肝心ノ四
五年級デ勉强スルト云フコトデハ、人格ノ養成、思想ノ確立
ト云フコトハ、遂ニ日本ノ中學〓育ノ上デハ、出來ナイト云
フヤウナ結果ニ陷ルコトヲ虞レル次第デゴザイマス、之ヲ要ス
ルニ中學ノ今日ノ狀態ニ於テハ、第一ニ五學年ノ意義ヲ沒却
シ、第二ニ全校ノ風紀ヲ頽廢シ、第三ニ少年ニ思想ノ確立ヲ
セシムルコトガ出來ナイト云フコトデアリマス、更ニ考慮セネ
バナラヌ事ガアル、ソレハ中學ヲ終了シテ上ノ學校ニ行ク者
ハ、假リニソレデ宜シイトシタ所デ、中學ダケデ了ラントスル
所ノ多クノ子弟ノ〓育ヲ、ドウスルカト云フ問題ガ起ルノデ
アリマス、中學ヨリ上ニ進マナイデ、ソコダケデヤッテ行ク者ノ
爲メニハ、一方ニ試驗勉强ヲスル者ノ爲メニ、五學年ヲ混亂
サセラレ、而シテソコニ一〓ニ入ッテ中學ダケデ〓育ヲ了ラン
トスル、誠ニ不幸ナ結果ヲ來スト思フノデアリマス、斯ウ云フ
狀態デアリマスカラ、中學校ノ〓師ノ方モ非常ニ張合拔ケ
ガ致シマシテ、今日ノ中學〓育ハ、殆ド根本的ニ其意義ノ
破壞ヲ招クト云フヤウナ傾向ヲ來シテ居ルノデアリマス、成
程年限短縮ト云フコトハ結構デアリマス、併シ年限短縮ハ、
實質ヲ件ッテコン始メテ値打ガアルノデアリマス、實質ガ低下
致シマシテ、而シテ一年間ノ年限短縮ガ出來マシテモ、是八、
私ハ所詮何ノ效ハ無イト思フノデアリマス、是ニ於テ一ツ申
上ゲテ置キタイ事ハ政府ハ此事ヲ考ヘタ結果デアルカドウ
カ知ラヌガ、學制改革ト共ニ、七年制ノ高等學校ト云フモ
ノヲ拵ヘルコトニ定マッタノデアルガ、何故カ七年制ノ高等
學校ハ今日迄設ケラレナイ、若シ此七年制ノ高等學校ガ出
來レバ、此缺陷ニ多少ノ緩和ヲ來スコトガ出來ルデアラウト
思フノデアリマス、何故ニ七年制ノ高等學校ヲ政府ガ起サ
ナイノデアルカ、以上我國ノ中學〓育ト云フ「モノハ、斯ノ如
ク破壊シ去ラレント云フコトニ就テ、政府ノ御所見ハ如何
デアリマスカ、政府ハ果シテ此弊害ヲ認メテ居ルノデアルカ、
居ラヌノデアルカ之ヲ伺ヒタイ、面シテ政府ガ此弊害ヲ認メ
タトスレバ、中學校〓育ハ、未來ノ國民ノ中堅ヲ造ル最モ大
切ナル〓育デアル、如何ニシテ此弊害ヲ救濟シテ行クコトガ
出來ルノデアルカ、此ニ對スル政府ノ御見込ヲ伺ヒタイノデ
ゴザイマス、以上ハ第一ノ質問デアリマス、次ニ第二ノ私ノ
質問ハ、元來政府ハ國民思想ノ善導ト云フ事ヲ頻リニ言ッ
テ御在デニナル、併シ私ナドノ見ル所ニ依リマスルト、如何ニ
モ誠意ニ乏シイト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、而シテ此思
想ノ問題ノ事ニ就キマシテハ、旣ニ一再ナラズ私ハ此壇上
ニ於テ中上ゲマシタカラ、諄々シク今日ソレヲ言フコトヲ避
ケマシテ、唯一ツノ實例ニ就テ御說明ヲ願ヒタイト思フノデ
アリマス、矢張是ハ〓育上ノ問題デ、今度ハ小學校ノ側ニ
屬スル事デアリマス、卽チ小學校ノ歴史ノ〓科書ヲ編纂ス
ルニ當クテ、此ニ深イ注意ヲ用キテ居ラナイ、國民ノ思想ノ善
導ト云フ事ニ就テ、政府ハ如何ニモ誠意ト注意トガ足ラナ
イト云フコトヲ感ジ來ルノデアリマス、嘗テ私カラモ此處デ申
シタ通リ、原總理大臣ハ世界ノ進步ニ順應スル日本ノ新
文明ヲ建設スルニハ、明治時代ノ遣方デハ未ダ完成ノ域ニ
達シナイ、所謂新文明ノ建設ハ大正國民ノ使命デアルト言
ハレル、然ルニ政治ノ上ニソレガ徹底シテ居ラナイ、今度ノ歷
史〓科書ノ編纂ヲ見テモソレガ分ル、小學校ノ歷史〓科
書-四年目每ニ改訂セラレル歷史ノ〓科書-ハツイ此
頃出來上ッテ參リマシタ、卽チ小學校ノ五年六年デ使フ所
ノ〓科書デアリマス、之ヲ開イテ見マスルト戰爭ノ事バカリ
ガ多イ、成程日本ノ歷史ニ於テハ、武ヲ用ヰ戰ヲ爲シタト云
フコトハ從來多カッタノデアリマス、併ナガラ文化〓育ヲスル
ト云フコトガ、何ヨリモ今日ノ時代ニ適應シタ大切ナル〓育
デアルトスルナラパ、此軍事的偏武的色彩ノ記述ヲ、少シク
歷史〓科書ノ上カラ薄クシテ、今少シク文化的ノ記述ニ力
ヲ用井ル必要ハ無イカト云フコトヲ感ズル次第デゴザイマス、
更ニ第十一課デアリマシタカ、弘法大師ト云フ所ノ一課ヲ
設ケテアル、而シテ同ジ時代ノ平安朝ニ於ケル所ノ弘法ト
相併シテ、佛〓上ノ二大偉人デアルノミナラズ、日本ノ文化
史上ニ拔クコトノ出來ナイ關係ヲ有ッテ居ル所ノ、天台宗ノ
傳〓大師ヲ逸シ去ッタノハドウ云フ譯デゴザイマスカ、前ノ〓
科書ニハ僅カデハアリマスガ、傳〓ト弘法ト二人竝ベテ書イ
テアッタニモ拘ラズ、今囘ハ弘法大師ハ一章ニナッテアリマス
ガ、傳〓大師ハ全然之ヲ記述シテ居リマセヌ、弘法大師
ヲ擧ゲテ日本文化ノ貢獻者ヲ明カニシタハ誠ニ結構ダガ傳
〓大師ハ平安遷都ニ於キマシテハ缺クベカラザル關係ヲ有、
テ居ル日本ノ文明史上ニ大ナル關係ノアル所ノ人デアル、ソ
レヲ全然逸シ去ッタト云フコトハ如何ナル趣意ニ出デクノデ
アルカ、若シ之ニ意味アリトスルナラパソレヲ承リタイ、又不
注意デ知ラズ識ラズニ之ヲ拔イタトスルナラバ、如何ニモ國
民思想ノ上ニ本當ノ誠意ガ政府ニ無イ、文部當局ニ誠意
ガ無イト云フコトヲ認メナケレバナラヌト思フノデゴザイマス、
此點ヲ一言申上ゲマシテ、御返答ヲ願ヒタイ次第デアリマ
ス、以上ハ第二ノ質問デアリマス、最後ニ私ハ此頃頻リニ世
間ニ喧傳セラレテ居ル所ノ大本〓ノ事ニ就テ、一言質問ヲ
致シタイノデアル、大本〓ハ近年大分世間ニ信仰スル人ガ
出來マシタ、私共ノ考ヘル所デハ之ハ一種ノ迷信デアル、鎭
魂歸神ナルモノハ、日本ノ法ノ上デ禁ジテ居ル所ノ催眠術
ノ濫行デアルト思ッテ居ルノデアリマスガ、政府ハ何故ニ斯ノ
如キモノヲ只今マデ其儘ニシテ置イタト云フノデアリマス、
勿論日本ニ於テハ信〓ハ自由デアル、殊ニ宗〓ニ彼ノ宗〓
此宗〓ト徒ラニ甲乙ヲ附ケテ、之ヲ干渉掣肘スルト云フヤ
ウナコトハ、新シイ思想ノ上デハ之ヲ許シマセヌ、私モサウ云
フ事ハ反對デアリマスガ、日本ノ法ノ上ニ觸レントスル所
ノ傾向ノアル、或ハ世道人心ニ害ガアラントスル傾向ノア
ル、殊ニ日本ノ國家ノ基礎ニ、動搖ヲ與ヘントスルヤウナ
疑惑ノアル所ノ〓義ノ宣傳ヲ其儘許シテ居ルト一云フコトハ、
誠ニ不可思議ノ現象ト謂ハネバナラヌト思フノデアリマス、
今日此大本〓ハドウ云フ勢力ヲ持ンテ居ルカト言ヒマスト、大
正八年ノ調ニ依リマスレバ、當時ノ信者ハ日本全國ニ於テ
二万五千人アリマシタ、然ルニ其頃京都ノ警察部ガ之ニ手ヲ
入レテ調べニ掛ッタガ、徹底スル程ヤリマセナイデ、多少ノ注
意ト警告ヲ與ヘタバカリデ、放任ヲ致シタコトガ、却テ大
本〓ヲシテ逆ニ之ヲ利用セシメ、政府ガ此大本〓ヲ公認
公許シタルカノ如キ口實ノ下ニ、更ニ大宣傳ヲ致シタノデ
アリマス、斯ノ如ク致シマシテ大本〓ノ今日ノ信者ハ、全
國ニ於テ三十万ト稱スルニ至リマシタ、一昨年ハ僅ニ二万
五千人デアリマシタガ、政府ガ手ヲ入レカヽッテ止メタト云
フコトガ逆ニ利用セラレテ、大本〓宣傳ノ仲介トナッテ、今
日ハ三十万人ノ信者ヲ有スルト稱セラルヽニ至ッタノデゴザ
イマス、三十万人ハ私ハ嘘ト思ヒマスガ、併シ其半數ノ十五
六万人ハアラウト思ヒマス、而シテ各地ニ散在スル〓師ハ
八千人アルノデアリマス、宣傳地ハ京都、大阪、島根、兵庫、
東京、茨城、九州、石川、福井斯ウ云フ所ニ最モ盛ンニ宣傳
セラレテ居ルノデアル、然ルニ此怪シキ大本〓ハ本年二月ノ
末ニ當リマシテ、彼ノ綾部ノ根據地ニ檢擧ガ始マリマシテ、
今日ハ非常ノ事ニナッテ居ルノデアル、此點ハ之ヲ新聞紙デ
揭ゲサセナイヤウニ嚴禁シテアリマスカラ、其眞相ハ世間ニハ
知レナイガ-併シ今日デハ多少ハ世間ニモ漏ッテ居ルヤウ
デアリマスカラ、私ガ此壇上デ其一斑ヲ述ベテモ別ニ差支ハ
ナイデアラウト思フ-要スルニ大本〓ノ實際上ノ〓主デ
アル出口王仁三郞、ソレカラ此間マデ大正日々-大本〓
ノ機關新聞-ノ社長デアッタ所ノ淺野和三郞、及ビ吉田
祐定、此三人ハ收監セラレマシテ、嚴重ノ看視ノ下ニ今鐵
窓ニ繫ガレテ居ル次第デアリマス、而シテ其犯罪ニ就テ私ガ
特ニ玆ニ指摘シテ御聽致シタイノハ此點デアル、其犯罪ハ
何デアルカ、吉田祐定ノ如キハ新聞紙法違反デ訴ヘラレテ
居ル、ソレ位ノ事デアルカ、又出口淺野ニ至シテハ、其犯罪ハ
重罪デ收監セラレテ居ル、此結果ガドウ云フヤウナ事ニナル
ノデアルカ、只ダ不敬罪デ濟ムカ、不敬罪ニハ重イノモ輕イノ
モアリマスガ、私ハ恐ラク天地容レザル所ノ非常ナル事ヲ、
彼等ガ計畫シテ居ルノデハナイカト思フノデアル、(拍手)不
幸ニシテ其眞相ハ政府ガ新聞記事ニ禁止シテアルカラ、此
レ以上私ガ此處デ申スコトモ亦宜シクナイカモ知レヌカラ、
此點ハ此位デ止メル、唯ダ其宣傳ハ只今申上ゲマシタヤウ
ニ、京都、大阪、東京、島根、茨城、兵庫、九州ト云フヤウニ方
方ニ擴ガッテ居ル、更ニ一昨年ノ頃ニハ、臺灣ニ於キマシテ非
常ナ宣傳ヲ致シタノデアル、然ルニ臺灣デハ昨年ノ四月ニ全
ク之ヲ禁止致シテシマヒマシタ、臺灣ノ如キ所デモ-臺灣ノ
如キ所ト言ッテハ甚ダ宜シクナイガ-臺灣ニ於テ之ヲ禁ジ
タト云フコトハ、此點ニ於テハ餘程內地ノ當局ヨリハ識見
ガアルト思ッテ居ルノデアル、(拍手)臺灣ニハ御承知ノ通リ
大正四五年頃デシタカ、臺南ニ於キマシテ大陰謀事件ガ起
リマシタ、之ガ爲メニ千數百人ノ臺灣土人ガ監獄ニ入レラ
レマシテ、サウシテ數百人ノ者ハ斷頭臺上ノ露ト消エタノデ
アル、何故ニ斯ノ如キ事ヲシタカト申シマスレバ、臺灣ニ在ル
日本人ヲ鏖殺シ、日本ノ國家ノ基ヲ〓覆シヤウト云フヤウ
ナ所ノ大陰謀ヲ企テタノデアル、臺灣ノ陰謀事件ト云フノハ
卽チソレデアリマス、私モ其當時ヲ少シ過ギマシテカラ臺灣
ニ參リマシテ、實地ニ之ヲ視察シテ來タノデアル、其起リハ何
處カト云フト臺灣ノ舊都デアル所ノ臺南ニ西來庵卜云フ
寺ガアル、卽チ此陰謀ハ西來庵ノ陰謀事件ト稱セラレテ居
リマス、ドウ云フ事カラ起ッタカト云フト、御承知ノ通リ臺灣
ニハ童虬(タンキー)ト一云フモノガアル、臺灣ノ舊習ニ童虬ト
云フモノガアリマス、此迷信ガ臺灣ニ專ラ行ハレテ居ルノデアリ
マス、卽チ二股ノ桃ノ枝ヲ持チマシテ、ソレヲ頻リニ振ルノデアル、
振シテ居ル中冥想ニ入リ、自分ノ心ヲ奪ハレテ夢中ニナッテシマ
ウ、ソウシテ沒心ノ裡ニ一股ノ桃ノ枝ヲ頻リニ振ルサウシテ其
所ニ神ガ憑リ移ッタト稱スルノダガ、實ハ餘リ振ルモノダカラ其
桃ノ枝先ガ地面ニ觸レテ、桃ノ枝先デ自然ニ地上ニ線ガ出來
ル、字デハナイガ自然ニ何カ描イテシマウノデアリマス、ソレヲ
側ニ判斷ヲスル者ガアッテ、桃ノ枝ノ先デ書イタ線ノ方角ヤ
模樣ヲ見テ、吉凶禍福ヲ判斷シ、或ハ世上ノ局面ヲ判斷ス
ルノデアル、昔カラ斯ウ云フ舊習ガアルノデゴザイマス、然ルニ
彼ノ臺灣ニ於キマシテノ陰謀事件ト云フモノハ、此童虬(タ
ンキー)ノ迷信カラ起ッタノデアル、西來庵ニ於キマシテ童虬
ノ遊ビヲシツヽ、日本人ヲ鏖殺シヤウト云フ所ノ陰謀事件ノ
計畫ヲ致シタノデアル、卽チ迷信ノ媒介ト云フモノハ、斯ノ
如ク恐ロシイモノデアルト云フコトヲ、私ハ感ズルノデアリマ
ス、而シテ童虬ハ陰謀發覺ト共ニ禁ジラレマシタ、然ルニ其
後大本〓ガ臺灣ニ入リマシタ、大本〓ハ鎭魂歸神ト云フ事
ヲヤル、其鎭魂歸神ナルモノハ、臺灣人ノ見ル所ニ依ルト、童
虬ニ類似シテ居ルモノデアル、臺灣人ハ何故ニ臺灣ノ在來
ノ風習デアル所ノ童虬ヲ禁ジテ、而モ內地カラ入ッテ來タ童
虬ヲ禁ジナイノデアルカト云フテ、臺灣當局ニ大分非難攻
撃ヲ加ヘタサウデアリマス、總督府ハ色〓之ヲ調查シマシテ、
遂ニ大本〓ハ嚴禁セラレタノデアル、臺灣ノ此童虬ノ迷信
カラシテ大陰謀ガ起ッタト云フコトヲ、私ハ大本〓ノ今日現
狀ニ見テ、深ク思ヒ當ル事ガアルノデアリマス、大本〓ノ鎭
魂歸神ト云フコトガ危險思想ヲ朶ミ、共產主義ヲ胚胎シ、
畏クモ累ハ皇室ニ及ビハシナイカ、卽チ只今檢擧審問中ノ
犯罪ノ上デ恐ルベキ大罪ヲ構成スルコトガ、アリハシナイカ
ト云フコトヲ考ヘル次第デゴザイマス、尙ホ綾部ノ本部ニハ、
人柱トカ何トカ恠シイ數々ガアリ、貞操ノ破壞トカ何トカ忌
ハシイ數々ガアルト間キ及ブガ、私ハ是ヨリ以上ノ事ハ事實
ハ申上ゲマセヌガ、政府ハ此大本〓ヲ何故ニ、一昨年京都
府ヲシテ之ニ手ヲ著ケシメナガラ、半バニシテ之ヲ止メ、而
シテ大本〓ノ宣傳ガ餘計ニ行ハレルヤウニシタノデアルカト
云フコトヲ御伺申シタイ、第二ニ此危險ナル大本〓、-
此現在ノ大本〓ヲ、將來ハ矢張信〓自由ノ下ニ御許シニ
ナル見込デアルカ、ソレトモ之ヲ禁ジテ御シマヒニナル所ノ御
見込デアルカト云フコトヲ伺ヒタイノデアル、私ノ質問ノ要
點ハ第一中學校〓育ノ事、第二小學校ノ歴史〓科書ノ事、
第三大本〓ノ危險ナル事、以上三箇條デゴザイマス、ドウカ
明白ナル御答辯アランコトヲ希望致シマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=12
-
013・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 質問第十四、窒素化合物ニ對
スル質問、大口喜六君
十四窒素化合物ニ對スル政策ニ關スル
質問(大口喜六君提出)
窒素化合物ニ對スル政策ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十九日
提出者大口喜六
賛成者濱田國松
外二十九名
窒素化合物ニ對スル政策ニ關スル質問主意書
一近時獨逸竝佛國ニ於テ發明セラレタル空氣中ノ窒素
ニ依リテ硝化物ヲ製造スルノ方法ハ實ニ國防上及產
業上ニ容易ナラサル影響ヲ及ホスモノニシテ現ニ某國ノ
如キハ右發明ヲ保護シテ一朝有事ノ日ニ備ヘムトスル
モノノ如シ政府ハ我カ國ニ於テモ亦之等ノ事業ヲ保
護獎勵シ國防上ニ產業上ニ確實ニシテ、有利ナル政策
ヲ實行スルノ意思ナキヤ
一若之レアリトセハ政府ハ如何ナル方法ニ依ラムトスル
ヤ
右及質問候也
〔大口喜六君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=13
-
014・大口喜六
○大口喜六君 私ノ質問ハ極メテ簡單ナルモノデアリマス
ガ、一言說明ダケハ致シテ置カナケレバナラヌト存ズルノデア
リマス、凡ン火藥デアルトカ、爆發物デアルトカ云フモノヽ原
料ハ御承知ノ通リドウシテモ硝酸ヲ要スルノデアリマス、硝
酸ト「グリセリン」ヲ要スルノデアリマスガ、其硝酸ノ原料トナ
ルモノハ、言フマデモナク是迄ハ硝石デアリマシテ、其硝石ハ
世界ニ於テ智利國ガ最モ多ク產出致シテ居ルノデアリマスガ
故ニ、我國ニ於テモ此智利硝石ヲ輸入致シマシテ、是ガ我
國ノ火藥ノ根本原料ニ相成ッテ居ルモノデアルト吾ミハ信
ズルノデアリマス、米國ノ如キニ於キマシテモ、矢張此智利硝
石ト云フモノヲ原料ト致シテ居ルノデアリマスガ故ニ、一朝
事有ル場合ニ此智利ヲ封鎖サレタナラバ、我國ノ火藥ノ原
料ハドウナルモノデアルカト云フコトニ就テハ、米國ノ議會ニ
於キマシテモ屢、質問サレテ居ルヤウニ、私共ハ承知シテ居
ルノデアリマス、然ルニ此世界大戰爭ニ方リマシテ、獨逸國
ニ有名ナル御承知ノ「ハーヘル」氏ノ發明ニ依リマシテ、空氣
中ヨリ窒素ヲ採ッテ、直チニ窒素ニ依ッテ安母尼亞ヲ製造シ
ソレカラ進ンデ硝酸ヲ製造スルト云フ此特許ガ、盛ニ成功
スルコトニ相成リマシタ結果、世界大戰ニ方リマシテ、時ノ
皇帝「カイゼル」ハ斯ノ如ク揚言サレタト云フコトヲ吾ミハ傳
ヘ間イテ居ル、此「ハーベル」ノ空中ノ窒素ヲ採ッテ硝酸ヲ造
ル所ノ方法ガ成功シタル以上ハ、世界各國ヲ對手ニシテ爭
ヲ致シテモ、決シテ爆發藥ニ困ラナイ、斯樣ナルコトヲ申シタ
ト云フコトヲ傳へ聞イテ居ルノデアリマスガ、戰後ニ至リマシ
テ、佛蘭西ニ於テ御承知ノ通リ「クロード」氏ガ更ニ其方法ニ
一步進メタルモノヲ發明致シマシテ、只今ハ是ガ大分盛ニナッ
テ居ルト云フコトヲ私共承知致シテ居ルノデアリマスガ、近
時亞米利加合衆國ニ於キマシテハ、是等ノ方法ヲ己ノ國ニ
於テ保護ヲ致シマシテ、益〓其盛ンナルコトニ努力致シテ、
朝事有ル場合ニ火藥ノ獨立ヲスルト云フコトヲ圖ッテ居ル
ト云フヤウニ、私共承ッテ居ル、是ハ此間中ノ亞米利加ノ議
會ニモ現ハレテ居ルヤウデアリマシテ、其一部ハ私共通信ニ
依ッテ承知致シテ居ルノデアリマス、是ニ於テ私共ガ憂ヘマ
スノハ、我國ノ是等ノ事ニ對シマスル現在ノ狀態ハ、甚ダ進
步致シテ居ナイヤウニ私共ハ窃ニ憂ヘルノデアリマス、勿論
此空氣中ノ窒素ヲ採リマシテ、直チニ硝酸ヲ製造スルト云
フ方法ヲ致シテ、稍、成功ヲ致シテ居リマスノハ、九州二一箇
所、北陸ニ一箇所北海道ニ一箇所アリマスヤウデアリマシ
テ、是等ハ益〓成功ノ域ニ進ムデアラウトハ存ジマスガ、我國
ガ此國防上ニ於キマシテ、又一面ニ農業上ニ於キマシテモヽ
是等ノ問題ニ對シテ世界的ニ一ツノ政策ヲ、今日ヨリ樹テ
ラレル必要ガアルノデアラウト思フノデアリマス、之ニ對シマ
シテ攻府ハ、相當ナ御所見ガアルコトヽ私ハ信ジテ居ルノデ
アリマスガ、御漏シガ出來マス限リハ之ニ對スル政府ノ政策
竝ニ現行政府ニ於テ立テヽ居ラレル所ノ方法ニ就キマシテ
承リ置キタイ、此趣意ニ於キマシテ質問書ヲ提出シタ次第
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=14
-
015・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 質問ナル、行政栽判所組織改
造ニ關スル質問、井上剛一君
十八行政裁判所組織改造ニ關スル質問
(井上剛一君提出)
行政裁判所組織改造ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十年三月十九日
提出者井上剛
賛成者野村嘉六
外三十一人
行政栽判所組織改造ニ開スル質問主意書
一現行行政栽判所ノ判決ニ對シ上訴ノ途ヲ開クノ必
要ヲ認メサルヤ
二行政栽判所出訴案件ノ制限ヲ撤廢シ弘ク行政官
廳ノ違法處分ニ對シ出訴ヲ許スノ必要ヲ認メサルヤ
三行政裁判所ノ長官及評定官ハ裁判事務ノ經驗ニ
富ミタル者ヨリ任命スルノ必要ヲ認メサルヤ
四行政裁判所ノ判決ヲ結審後一定期間ニ宣告セシ
ムルノ必要ヲ認メサルヤ
右及質問候也
〔井上剛一君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=15
-
016・井上剛一
○井上剛一君 私ノ政府ニ御尋ヲ致シタイト存ジマスル
行政裁判所組織改造ニ關シマスル問題ハ、黨派ノ總テヲ通
ジマシテ、蓋シ問ハント欲スル所ノ重大ナル問題デアラウト
斯樣ニ私ハ確信スルモノデアリマス、私ノ政府ニ御尋ヲ致シ
タイ點ハ四點ニ涉ッテ居リマスルガ、問題ハ私ハ極ノメテ直截
的ニ且ツ簡明ニ、其要點ヲ摘ンデ簡單ニ御尋ヲ致サウト思
フノデアリマス、爰ニ事新シク申述ベマスルマデモナク、行政
栽判所法ハ今ヲ距ル三十二年以前ニ於ケル、明治二十三
年ノ制度デアリマシテ、爾來幾變遷、我國ノ文化ノ進步ハ
實ニ昔日ノ比デナイコトハ、〓更事〓シク申スマデモナイ事
デアリマス、而モ我帝國ノ現在ト致シマシテハ、世界ノ一大
强國トシテ認メラレテ居リマスル、ソレダケニ隨テ人事ノ複
雑ナルコトモ、到底現行法ヲ以テ能ク律シ得ベキモノデアラ
ウカト云フコトハ、多クノ議論ノ餘地ナキヲ信ゼント欲スル
モノデアリマス、現行法ノ如ク一行政裁判所ノミ三依ッテ、果
シテ遺憾ナク萬般ノ事件ヲ裁斷シ得ベキヤ否ヤ、是亦大ニ
〓究ヲ要スベキモノデアルコトヲ信ズルノデアリマス、私ハ國
家財源ノ許ス範圍ニ於キマシテ、覆審制度ヲ採ルコトヲ欲
スルノデアリマス、而シテ此覆審制度ニ依ル第一審行政栽
判所ハ、少ナクトモ全國各控訴院所在地ニ第一審行政栽
判所ヲ置キマシテ、サウシテ現在ノ裁判所ヲ以テ覆審院ト
致シマシテ、サウシテ此所デ二審ノ制度トシテ、上訴ヲ許ス
途ヲ開キタイト思ヒマス、殊ニ現行法ニ依リマシテハ、行政
裁判所へ出訴致シマスル事件ハ、第一審ニシテ而シテ終審
デアリマス、萬々左樣ナ事ハナイ筈デアリマスルガ、裁判官モ
亦神ナラヌ身デアリマスル以上、時ニ誤判ナキニシモアラズ、
此場合ニ於テ如何ニ救濟セント欲スルモ、現行法ニ於テハ
救濟ノ途ハ無イノ『アアリマス(「ヒヤ〓〓」、拍手起ル)隨テ是
ガ上訴ノ途ヲ開クト一云フコトハ、識者竝ニ實際家タルヲ問
ハズ、常ニ此問題ニ觸レテ論議ノ聲絕エザル所以デアラウト
思フノデアリマス、而モ其初審ニシテ終審タルノ不便不利ハ
其當事者ノ行政官廳タルト將タ一般人民タルトヲ問ハズ
シテ、齊シク其不便ヲ喞チ居ルモノデアリマス、斯樣ニ御尋
ヲ致シマスト云フト、決シテ現行裁判所法ノ下ニ於テハ、初
審ニシテ終審ノ裁判ヲ下スベキ制度デハナイ、卽チ訴願ノ途
ヲ開イテ居ルト、斯樣ニ或ハ政府ハ御說明ニナルカモ知レヌ
ノデアリマス、併ナガラ訴願ハ以テ一般國民ガ信賴スベキ裁
斷ヲ受ケベキ、嚴正ナル判定ヲ下シ得ベキモノデアルヤ、ドウ
カト云フコトハ、既ニ多少ノ疑問ヲ有スルモノデアリマス、殊
ニ行政官廳ニ於キマシテハ所謂其栽決ノ上ニ於キマシテ
モ、手心ヲ用井ルコトガ出來ルノデアリマスルカラ、吾ミガ認
メテ以テ事件ノ裁判ヲ爲ス程度ニ達シ居ルモノトハ思ハナ
イノデアリマス、此故ニ訴願ノ途アル故ヲ以テ、一審制度ニ
爲スノ、決シテ不便不利ナキヲ辯ズルコトデアリト致シマシ
テモ、ソレハ一種ノ强辯ニシテ、而シテ吾ミガ常ニ要望スル所
ノ二審制度ヲ開カルヽ理由ヲ、阻止スルコトガ出來ヌコトヽ
確信スルモノデアリマス、故ニ政府ハ速ニ覆審制度ヲ採ラレ
ンコトヲ望ムノデアリマス、此點ニ於キマシテ政府ノ御所見
ヲ承リタイノデアリマス、是ガ第一點デアリマス、第二點ニ御
伺ヒ致シタイ事ハ、現行法ハ出訴ノ案件ト致シマシテ、制限
ヲシテ居ルノデアリマス、行政廳ノ違法處分ヲ行政裁判所
ニ出訴シ得ベキ事件ハ、之ヲ分ッテ五點ト致シテアリマス、第一
點ガ海關稅ヲ除ク外、租稅及手數料ノ賦課ニ關スル事件、
租稅滯納處分ニ關スル事件、營業免許ノ拒否又ハ取消ニ關
スル事件、水利及土木ニ關スル事件、土地ノ官民有區分ノ
査定ニ關スル事件、此五ツノ制限ニ依ッテ、此範圍ニ於テノ
ミ行政裁判所ニ出訴スルコトガ出來ルノデアッテ、所謂連記法
ヲ採ッテ居ラルヽノデアリマス、然ルニ前既ニ申述ベマシタ如
ク文化ノ發達人事ノ複雜ナルコトハ、到底三十二年前ニ於
テ制定シタル此制限ヲ以テシテハ、其範圍極メテ狹隘ニ失
シテ、以テ一般行政官廳ノ連記處分ヲ救濟スル所以ノ途
ガナイト思フノデアリマス、故ニ時代ノ要求ハ是ガ制限ヲ撤
廢シテ、汎ク行政官廳ノ連記處分ヲ救濟シ、以テ國民ノ權
利ヲ擁護シ、國民ノ權利ヲ仲張セシムルコトヲ以テ、適當ナ
ル方法ナリト信ズルモノデアリマス、此點ニ對シマシテ政府
ノ御所見ハ如何デアラウカヲ伺ヒタイノデアリマス、第三點
ハ現行法行政栽判法第三條ニ依リマスレバ、其長官及評定
官ハ五箇年以上高等行政官ノ職ヲ奉ジタル者ヨリ任命ス
ルコトヲ原則ト致シテ、裁判官ノ職ヲ奉ジタル者ヨリ任命セ
ラルヽコトヲ從トスルガ如キ規定デアリマス、是ニ於テ私ハ惑
フノデアリマス、無論現在ニ於キマシテハ、裁判官ノ職ヲ奉
ジタル者カラ評定官ヲ採用シテ居リマスコトハ、是ハ私ハ認
メルノデアリマス、併ナガラ其數ハ未ダ的確ノ調查ヲ致シマ
セヌガ、蓋シ行政官ヨリ評定官ニ任命セラルヽ者ノ數ガ多
イコトノヤウニ承ッテ居ル、デ苟モ行政裁判所ハ、行政廳ノ
違法處分ヲ糺彈スルコトヲ以テ目的トス所ノ法衙デアリ
マスカラ、隨テ其審理判決ニ對シマシテハ、公平且ツ嚴正ニ
職ヲ執ラルヽコトハ申スマデモナイ事デアリマス、然レドモ五
年以上ヲ行政官ノ職ニ在リマシタ者ハ、一種ノ習慣性ハ人
情ノ自然、不知不識勢ヒ行政處分ヲ爲シタル行政廳ヲ保
護スルノ嫌ナキヤ否ヤト云フコトガ、私ノ最モ憂トスル所デ
アリマス、固ヨリ行政裁判令第五條第六條ニ依ッテ、長官及
評定官ハ身分ノ保障ヲ受ケテ居リマス、斯ク身分ノ保障ヲ
受ケテ居リマスル以上、固ヨリ獨立シテ事件ノ栽斷ヲ爲ス
ベキコトハ、是ハ私ノ言ヲ俟タナイ、隨テ何等憂ナキガ如シト
雖モ、只今申述マシタ如クニ、多年行政ノ事務ニ參加サレ
テ居ッタト云フ人情ノ弱點ハ、遂ニ行政廳ヲ保護シ]ハシナイ
カト云フコトヲ疑フ節モ、ナキニシモ非ザルコトデアリマス、此
點ニ於キマシテハ私ハ承ハル所二依レバ原告ニ對シ-原
告ハ多クハ權利ヲ侵害セラレル一般國民デアリマス、此原
告ノ立證方法ニ就テハ、十分ナル立證ヲ許サレザル如キ傾
キガアルヤウニ承ッテ居リマス、是等ハ一般ニ實際家ニ於テ、
平素大ニ迷惑トスル點デアリマス、故ニ私ハ苟モ裁判ハ神
聖ナルペキモノデアッテ、而シテ其裁判ハ必ズヤ、一國民ノ信賴
ヲ拂フベキ徹底力ヲ有スベキコトヲ以テ、一大要諦ト確信
スルモノデアリマス、故ニ私ハ此評定官ヲ任命セラルヽ方リ
マシテハ、曾テ行政廳ニ關係ノ無キ裁判ノ事務ヲ執ル所ノ
經驗ノアル栽判官ヲ以テ、之ニ補充スルコトヲ以テ原則ト
スル必要ヲ認メルノデアリマス、此點ニ於キマシテ政府ノ御
所見ハ如何デアラウカト伺フノデアリマス、第三點ハ是亦事
務進捗ノ上ニ於テ、最モ必要ナル點デアリマス、事柄ハ些細
ノヤウデアリマスガ、事懸,テ重大ナル案件ダト信ズル事項デ
アリマス、其問題ハ行政栽判例第七條ニ依リマスレバ、「判
決ハ審問終結シタル期日又ハ其ノ期日ヨリ十四日間ニ之
ヲ言渡スヘシ」ト云フ規定ガ現存シテ居ルノデアリマス、併ナ
ガラ此規定ガ果シテ嚴格ニ應用サレテ居ルカ否ヤト云フコ
トガ、一ノ疑問トナッテ居ルノデアリマス、私ノ調ベマシタ一例
ヲ申上ゲマスト云フト、大正四年ノ事件デアリマシテ、其事
件ハ村會ノ爭論事件デアリマス、其辯論ノ終結致シマシタ
ノハ、大正七年ノ十月九日デアリマシテ、其終結ハ條件付
結審トシテ辯論ハ終結サレテ居リマス、勿論條件付デアリ
マスカラ、其間ニ雙方カラ擧證ヲ許スト云フ意味デアラウト
思ヒマス、所デ其間ニ何等ノ審理、何等ノ證據調ナクシテ判
決ノ言渡ガアリマシタノハ、越ヘテ越ヘテ大正九年十二月二
十七日ニ判決ガ下サレテ居リマス、此間約二年有餘箇月
デアリマス、是ハ最モ甚シキ一ツノ例デアリマセウガ、少クト
モ五年三年若クハ一年ト云フヤウナ如キハ、稀デハナイト斯
樣ニ思フノデアリマス、ケレドモ今斯ノ如キ例ヲ澤山列擧ス
ル、必要ナキヲ認メマシテ先ヅ其一斑ヲ申上ゲルニ過ギヌノ
デアリマス、ソコデ私ハ考ヘルノテアリマス當事者間ニ於キマ
シテ其判決ノ結果如何ヲ翹望致シマスモノヽ切實ナルモノ
ガアルノデアリマ、ス殊ニ人事煩雜ナル此實社會ニ接シテ居
ル者ト致シマシテハ、ヨリ以上ニ判決ノ結果如何ヲ望ムモノ
デアリマス、若シソレ絕海ノ孤島ニ棲息致シマシテ、現社會
ノ實狀ニ遠ザカッテ居ル者ナラバイザ知ラズ、實社會ニ齷齪
致シテ居ル者ニ對シマシテ、辯論終結ノ二年有餘ノ歲月後
ニ於テ、判決ノ言渡ヲ受ケルト云フ事實ノ如キハ、實ニ忍ブ
ベカラザル苦痛デアルト云フコトヲ絕叫スルモモデ『アリマスヽ
デ此點ニ於キマシテ、政府ハ裁判令第七條ヲ厲行サレマシ
テ、以テ事件ノ結果ヲ早カラシムルノ必要ヲ御認ニナリマス
カ、否ヤト云フコトヲ御伺スルノデアリマス、要スルニ其一般
當事者ノ權利擁護上、此質問ヲ爲ス所以デアリマス、願ク
ハ政府ニ於カレマシテハ、明快ナル御答辯アランコトヲ望ミ
マス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=16
-
017・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 質問ニ對シマスル政府ノ答辯書
ニ對シテ、意見ノ陳述ヲシタイト云フ申出ガアリマス、此發
言ヲ許可致サウト思ヒマス、木檜三四郞君
行政監督ニ關スル質問ノ答辯ニ對スル木
檜三四郞君ノ意見
〔木檜三四郞君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=17
-
018・木檜三四郎
○木檜三四郞君 私ハ去月十五日行政監督ニ關スル質
問ヲ致シマシテ、ソレニ對シテ大臣ノ答辯ガ數日前參リマシ
タ、之ニ對シテ簡單ニ意見ノ陳述ヲシテ置カウト思フノデア
リマス、私ハ此行政監督ニ對シテ質問ヲ致シマシタノハ、
黨一派ノ關係デ質問ヲ致シタノデハナイ、所謂國家行政ノ
信用ヲ保チ、更ニ國家行政ノ權威ヲ保ツ爲メニ、內務大臣ニ
質問ヲシタノデアリマス、然ルニ內務大臣ノ答辯ハ殆ド其要
ヲ得テ居ラヌ、私ハ事實ヲ捉ヘテ成ベク空想ニ涉ラナイヤウ
ニ、眞面目ニ質問致シマシタサウシテ國家行政ノ信用ヲ高
カラシメタイ此意思ニ過ギヌノデアリマス、然ルニ大臣ハ項
ヲ擧ゲテ答辯ヲ致シテ呉レマシタガ、更ニ要領ヲ得ナイ、事
實有ルモノヲ無シトシテ答辯ヲシテ居ルノデアリマス、所謂
內務大臣ガ眞面目ニ答辯ヲスペキモノデアルニ拘ラズ、形式
一行ノ答辯ヲ爲シテ、唯ダ此議會ノ質問ニ對シテ一例ヲ申
スト、斯ウ云フヤウナ狀態デアリマシテ、此點ハ甚ダ國家行
政ノ樞機ヲ握ッテ居ラレル內務大臣トシテハ、其行爲ヲ遺憾
ニ私ハ思ヒマスカラ、事柄ヲ明白ニスル爲メ簡單ニ大要丈
ケヲ申上ゲテ、大臣ノ反省ヲ促サウト思フノデアリマス(「簡
單」ト呼フ者アリ)第一ニ書イテアリスノハ、大臣ガ昨年ノ
選擧ニ際シテハ、最モ公平ニ行ッタト斯ウ書イテアル、(「其通
リ」ト呼フ者アリ)而モ干涉モ致サナケレバ、投票ノ僞造モ致
サヌト書イテアル、最モ公平ト書イテアル、此點ハ大臣、自カ
ラガ態、裏切ッタル言葉ヲ現ハシタノデナイカト思フ、最モ公
平ト云フマデ言葉ヲ强クシテ書クナラバ、內務大臣管下ノ
一小屬吏デアリマスケレドモ、郡書記ガ投票ヲ僞造シテ刑
辟ニ觸レテ居ルデハアリマセヌカ、斯ウ云フ内務行政ノ樞機
ヲ握シテ居ル內務大臣ガ監督シテ居ルト云フナラバ、其等ノ
者ガ無イ筈デアル、然ルニ秋田縣ニ於テハ、郡書記二名ガ投
票ヲ僞造シタト云フノデ、刑辟ニ觸レテ居ルデハアリマセヌ
カ、是等ハ最モ明白デアルト思フ、或ハ北海道ニ於ケル投票
ニ致シマシテモ、行政官憲ガ自署デナイモノヲ自署シタリト
シテ投票點數ニ入レテ、ンレガ爲メニ當選ニ非ザル人ヲ當
選者ト致シタト云フノデ、是等ハ大審院ノ判決ニ依ッテ明白
ニナッタト云フコトモ、是亦行政官憲ガ選擧ニ甚ダ公平デ無
カッタト云フコトヲ證明シテ居ル證據デアルト思フ、然ルニ內務
大臣ガ之ヲ最モ公平ニ致シタイト云フコトハ、如何ニモ事實
ヲ誤ッタル答辯デアルト私ハ思フ、今日全國ニ於テ斯ノ如キ事
ヲ擧ゲルナラバ、各府縣ニ皆ナアルト思フ、然ルニ態、言葉モ
アラウニ、最モ公平ニ致シタト云フコトハ、内務大臣トシテ甚
ダ穩カナラザル答辯デアル、一場ノ空言ナラバ宜シウゴザイ
マスガ、内務行政ノ主腦デアル床次内務大臣ガ斯様ノ答辯
ヲ致サレタノハ、甚ダ國務ニ對シテ不親切ヲ表明シテ居ルト
私ハ斯樣ニ思フ、更ニ黨勢擴張ノ爲メニ町村ノ自治ヲ攪亂
ヲ致スノデハナイカト云フニ對シテ、所謂國家ノ基礎タルベ
キ町村ノ自治ヲ、更ニ攪亂致サナイト斯樣ニ申サレテ居リマ
ス、而シテ町村長ガソレガ爲メニ-黨勢擴張ノ爲メニ官憲
ニ脅威セラレテ、町村長ガ罷メラレタト云フコトヲ私ガ申シ
タニ對シテ、ソレハ左樣ナ事デナイ、所謂町村ノ人望ヲ失シ
テ政務ヲ懈ッタ爲メニ、村民非難ノ聲アルガ故ニ罷メタノデ
アルト云フコトヲ答辯シテ居ラルヽ是亦內務行政ノ樞機
ヲ握ッテ居ル内務大臣トシテ、此答辯ハ甚ダ其要ヲ得テ居
ラナイ、私ガ一二ノ實例ヲ擧ゲテ門ヒマシタノハ、而モ群馬
縣ニ於ケル吾妻郡伊參村ト云フノヲ摘擧致シタ、此村ノ如
キハ町村制始ッテ以來、未ダ曾テ優良村トシテ表彰サレテ居
リマセヌデシタガ、曩ニ罷メラレタ綿貫宇十郞ガ村長トナッテ
模範村トナッタノデアル、内務大臣ハ此事ハ知ッテ居ラナイ筈
ハナイ、然ルニ此村長ガ罷メタノハ、職務ヲ懈リ村民非難ノ
聲ガアッタ爲メニ罷メタトシテアル、内務大臣ハ先頃委員會
ニ於テモ、模範村ノ數マデ舉ゲテ御示ニナッテ居ルニ拘ラズ
模範村ノ一デアル、而モ所謂自治制ニ功績アル-自治制
ヲ採用シテ以來、初メテ模範村ニナッタ此村ノ模範村長ガ罷
メラレタノハ、村政ニ非難ノ聲高キガ爲メニ罷メタト强辯ヲ
致シテ居ラレル、是等ノ事實ノ上ニ於テ內務大臣ガ唯ダ强
辯ニ事ヲ缺イテ、斯樣ナル答辯ヲ致シタコトハ明カデアル、或
ハ今一ツ實例ヲ擧ゲマシタ高山村長ノ如キモ、相當ノ德義ヲ
持ッテ居ル人デアリマスガ、又黨派問題ニ脅威サレタ爲メニ罷
メサセラレタノデアル、何等村政ノ非難モ無ケレバ、村民カラ何
等苦情ガ無イノデアリマス、斯ウ云フヤウナ事ハ小サイヤウナ
問題デアリマスガ、國家ノ基礎ハ自治行政デアリマス、是等
ノ事ハ床次內務大臣ハ、最モ重キヲ町村自治ニ置クノデア
ル、アルカラ御知リデアラウニ、更ニ之ヲ知ラナイ風ヲ致シテ
是等ノ事實卽チ自治ノ破壞ト云フヤウナ形ハ更ニ無イ、唯
ダ村政ノ上ニ職務ヲ懈ッタノデアルガ爲メデアルト云フヤウ
ナ答辯ハ、内務大臣自ラ反省シテ、今少シク眞面目ナ御答
辯ヲ爲サルガ宜シイト私ハ思フ、ソレカラ官紀振肅ノ問題、ン
レハ機會アル每ニ官記振肅ヲ致シテ居ルカラ、更ニ其缺點
ハ無イト申サレテ居ル、ンレモ實例ヲ擧ゲタノデ、ソレハ群馬
縣ニ於ケル土木課長ガ風水害ニ出張シタノデアッテ、其等ノ
者ニ向ッテハ何等官紀振肅ノ上ニ於テ缺點ハ無イト云フコ
トヲ述ベテ居リマスルガ、若シ左樣ナ事ヲ內務大臣ガ申スナ
ラバ、風水害ノ爲メニ土木課長ガ出張致シタナラバ、何故ニ
政府ノ有力家ヲ呼ビ集メテ、殊ニ縣會議員ノ候補者タル人
ト共と携へ行シテ町村ノ重立ッタ者ヲ召集シテ、其場所ニ於
テ道路法ノ實施ノ效能ナドヲ說イタノデアルカ、此點ハ內務
大臣自ラ何等ノ說明ヲシテ居ラナイ、所謂國家ノ官吏ガ風
水害ニ出張スル場合ニ、縣會議員ノ候補者ヲ伴ウテ、役場
ニ有力者ヲ召集シテ之ニ向ッテ其者達ノ宣傳ヲ爲スト云フ
コトハ、風水害ノ視察ハ何等ノ關係ハ無イト云フコトヲ證
明スルモノデハナイカ、是亦間違ッタル答辯デアル、更ニ又不
法支出ノ問題ニ就テハ、更ニザウ云フ事ハ跡形モ無イト云
フ答辯デアル、此事ニ就テハ私ハ昨年十二月ニ其調査ヲ致
シテ居リマスノデ、其一例ヲ舉ゲテ置イタ所ガ、其等ニ向ッテ
ハ詳シキ答辯ハ無クシテ、唯ダ縣費ノ不法支出ヲ致シタ事
實ハ無イト言ッテ居ル、併ナガラ是ハ明カニアル、縣道デナイ
所ニ向フテ-万場白田間ノ縣道デナイ所ニ卽チ廢道ト致
シタ所ニ向ッテ道路工夫笠原祐助ナル者ヲ配置シテ、縣費
デ支辨シタト云フコトハ明カデアル、是ハ昨年十二月調査
ヲシタノデアル、又群馬縣ノ豐岡里見間ノ道路ニ於テモ、昨
年初メ道路工夫ノ富澤孫三郞ト云フ者ヲ置イテ、途中其
者ガ亡クナッタノデ、佐々木淺次郞ナル者ニ代ヘテ、道路工
夫ヲ配置シテ縣費ヲ以テ支辨ヲシテ居ル、是等ニ向ッテ何等
ノ說明ヲシテ居ラナイ、是等モ唯ダ徒ラニ事實有ルモノヲ無
シトシテ取消スノミデ、甚ダ穏カナラザル答辯デアリマス、道
路問題ヲ道路法實施ノ際ニ惡用ヲ致シマシテ、黨勢擴張
ノ具ニ供シタト云フ左樣ナ事實ハ無イ其等ノ事ハ致シテ
居ラナイト云フコトデアリマスガ、內務大臣ガ一タビ各地ニ
行ッテ見タナラバ、殊更ニ東京ニ近イ群馬縣ノ如キニ於テハ、
道路法ヲ實施シタ爲メニ、交通ヲ一層紊亂シタト云フ事實
ハ認メルノデアル、内務大臣獨リ御分リナラナイト云フ筈ハ
ナイノデアリマス、是等ノ事實ノ上ニ就テ申上ゲ』ルコトハ時
間ガ掛リマスルカラ之ヲ省略致シマスガ、今日事實ノ上ニ於
テ道路法ヲ昨年四月ヨリ實施シタ其以前ト較ベテハ、交通
路ガ紊亂ニナッテ、國民ハ皆ナ不平ノ聲ヲ各所ニ放ッテ居ル
ト云フコトヲ申上ゲテ、此點ハ止メテ置カウト思フ、ソレカラ
〓育問題ニ於テ、更ニ官權ヲ濫用致シタコトハ無イト斯樣
ニ申上ゲテ居ル、併ナガラ此問題ハ今度事實ノ上ニ於テア
ル、現在昨年ノ暮マデ私共ノ同志デアッタ郡會議員デ出
テ居リマシテ、今デモ縣參事會員ヲシテ居リマスルガ-
卽チ桐生ノ中學校ノ如キハ、此人ガ自分自ラ政友會
ニ變節ヲ致シマシテ、ンレガ爲メニ桐生ノ町立中學校
ヲ縣立ニ此三月致スト云フダケノ發令ガアッタ、是ハド
ウカト云フト、所謂黨派ト云フモノヽ意ヲ迎ヘテ、サウシ
テサウ云フ風ナ事ヲ致シタト云フ爲メニ、始メテ成ッ
タト云フコトハ言ヘル、縣會議員ノ前原良太郞君ガ證
明シテ居ル、卽チ知事ノ脅威ニ依シテ、自ラ土地ノ爲メニ
黨籍ヲ變ヘネバ縣立ニナラヌト云フノデ已ムナク左様ニ致
シタト云フコトヲ明言致シテ居ル、更ニ實科高等女學校ト
云フヤウナモノヽ職員任免ノ事ニ向ッテモ、縣ガ官權ヲ濫用
シテ任免致サヌト云フコトヲ申シテ居リマスガ、卽チ罷メラ
レタ本人自ラ申シテ居ル、縣廳ノ官吏ガ來テ罷メニスルヤウ
ニト云フコトデ忠告ガアッタノデ、已ムヲ得ズ罷メニシタト云
フコトヲ申シテ居ル、總テ是ガ黨派關係ヲ以テ來テ居ル、更
ニ此問題ヲ證明スル爲メニハ、本年三月ヨリ桐生ニ市制ヲ
實施スルト云フノヲ、政友會ニ入レバ早ク市制ヲ實施シテ
ヤルト云フ是ハ證言ガアック、卽チ桐生町立ノ中學校ヲ縣立
ニ引直シ、市制ヲ早ク實施シテヤルト云フ證言デアッテ、昨年
縣知事ガ十二月十日ニ桐生ニ招カレテ行ッタ時ノ宴會ノ席
デ約束ヲ致シマシテ、而モ知事ハ公然ト此御馳走ヲ戴イテ
喰逃ハ致サヌトマデ、職務ヲ持ッタ知事ガ演說ヲシテ居ル、此
一事デモ明カデアリマス、是等ノ事ハ一國ノ內務大臣ハ地
方官ノ監督ヲシテ居ル以上ハ、是等ノ事ハ御知リデアルベ
キ筈デアリマス、唯ダ恬然トシテ更ニ顧ミナイト云フナラバ格
別デアリマスケレドモ、地方行政ニ重キヲ置ク內務大臣ハ、
是等ノ點ニ於テ一段ノ注意ヲ願ヒタイト私ハ思フノデアリ
マス、(「簡單」ト呼フ者アリ)內務大臣ハ免モ角モ一國ノ内
務行政ヲ背負ッテ立ツ者デ、皆サン御承知ノ通リ、官吏ハ廉
恥ヲ重ンジ貪惡ノ處置アルベカラズ、是ガ卽チ官吏ノ心情
デアリマセウ、是ダケ事ヲ爲サシムベク監督ノ樞機ヲ握ッテ
居ル内務大臣ハ、私共ガ一國ノ行政ノ上ニ憂慮ヲ致シマシ
テ、ソレガ爲メニ眞面目ナル質問ヲ致ス爲メニ、實例ヲ擧ゲ
テ質問ヲ致シタ其各辯ニ於テ事實有ルモノヲ無シト强辯
ヲスルガ如キハ、內務大臣トシテ爲スペカラザル事デアルト
私ハ思フ、明治大帝ガ御卽位ノ時ニハ、億兆一人其ノ處
ヲ得ザルモ朕ノ罪ナリト仰セラレテ、所謂一人ノ不平ノ徒
アルモ、陛下ハ之就テ御軫念遊パサレル旨ヲ申サレテ、所
謂民衆政治ヲ主ト爲サルコトヲ言ハレテ居ル、其下ニ一國
大臣ニナッテ居ル人ガ、多數ノ國民ガ不平ヲ放ツナラバ、之ニ
向ッテ眞面目ナル答辯ヲナサルノガ、大臣トシテ天皇陛下
ヲ輔弼シ奉ル當然ノ役目デアルト思フノデアリマス、(拍手
起ル)私ハ唯ダ如何ニ政友會ト云フモノヲ背景ニシテ大臣
ニナッタトハ申シナガラ、苟モ大臣トナッタ以上ハ、國家ノ爲メ
ニ政務ヲ爲スベキモノデアッテ、所謂政黨行政ヲ爲スベキモノ
デナクシテ、國家行政ヲ爲スベキモノデアルト思フ、內務大臣
ハ相當知識アル人デアリマスカラ、此點ハ國家ノ上ニ鑑ミラ
レテ眞面目ナル答辯ヲ爲シ、而シテ私ガ事實ヲ提ゲテ質問
シタ事ニ向ッテハ、眞面目ナル反省ヲナサレテ、有ルモノハ有
ルトシテ答辯シ、不正ナルモノハ正シウシテ、而シテ自己ノ行
政事務ニ厲精一番セラレンコトヲ私ハ望ム、何モ神ナラヌ身
デアリマスカラ、惡シキ事ガアリマシテモ、ソレヲ惡イモノトハ
申サヌ、反省ヲ致シテ國務ノ上ニ眞面目ニ爲サレバ、ソレデ
宜シイノデアリマス、私ハ爰ニ長ク諸君ノ御耳ヲ煩ハスコト
ヲ避クル爲メニ、國務大臣ノ國務ヲ爲サルニハ、黨派本位ヲ
離レテ、國家本位ノ上ニ猛省シテ戴キタイ、殊ニ私共ノ質問
ハ事實ヲ提ゲテ申上ゲタノデアリマスカラ、此點ニ向ッテハ特
ニ御調ヲ願ヒマシテ、若シモ內務大臣監督ノ上ニ不注意ガ
アッタナラバ、前ニ白己自ラ監督ノ手落ヲ改メテ、國家ノ爲
メニ、正シキ行政事務ヲ爲サレンコトヲ偏ニ冀フ次第デアリ
マス(拍手起ル)
養蠶業者救濟ニ關スル質問ノ答辯ニ對ス
ル山邊常重君ノ意見発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=18
-
019・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 山邊常重君
〔山邊常重君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=19
-
020・山邊常重
○山邊常重君 諸君、本員ハ養蠶業者救済ニ關シマシテ
政府ニ質問書ヲ提出致シマシタ所、之ニ對シマシテ政府カ
ラ應答ガアリマシタガ、併シ此答辯ニ私ハ滿足スルコトハ出
來ナイノデ、再ビ本壇上ニ現ハレタ次第デアリマス、政府當
局者ハ曰ク、大正九年度ニハ養蠶業者ヲ救濟スルト云フ趣
意カラ日本銀行カラ低利資金一千万圓ヲ貸出スコトニシ
タノデアル、所ガ其結果ハ非常ニ宜シイ、又相當ナ成績ヲ擧
ゲ得タノデアル、併シ大正十年度ニ於キマシテハ、一方ニ帝
死ん虹會社ガアルノデアッテ之ニ對シテ、三千万圓ノ助成金ヲ交
付スルコトニナッテ居ル、ソレガ爲メニ生絲ノ市價ハ十分ニ之
ヲ維持スルコトガ出來得ルカラ、大正十年度ニ於テハ、別ニ
養蠶業者ヲ救濟スルノ必要ガ無イノデアル、斯ウ云フ御答
辯デアリマス、甚ダ奇怪至極デアルト私ハ思フノデアリマス、
何トナレバ大正九年度ニ一千万圓ノ低利資金ヲ出シマシ
テ相當ナ成績ヲ擧ゲ、且ツ非常ナル效果ヲ擧ゲ得タノデアル
ト政府ハソレ自身ハ信ジテ居ル、然ルニ大正十年度ニハ是
ガ必要ガ無イ、此必要ガ無イト云フ其理由ガ那邊ニ在ルカ、
私ハ其議論ノ根據ノ發見ニ苦シムノデアリマス、私ハ大正
九年度ニ於テ、政府ガ相當ノ成績ヲ擧ゲタト云フコトヲ確
信サレタナラバ、大正十年度ニ於テモ、矢張日本銀行ヨリ一
千万圓乃至二千万圓ノ低利資金ヲ出シテ、一般養蠶業者
ヲ救濟スルト云フコトハ必要デアル、成程政府當局者ノ說
明ノヤウニ、市價ノ維持ヲ圖レバ養蠶家ハ矢張間接ニ其利
益ヲ得ル、本年ハ別ニ養蠶業者ヲ救濟スルノ必要ハ無イ-
成程一應尤モノヤウデアリマスケレドモ、大正十年度ニ於テ
帝蠶會社ニ三千万圓ノ助成金ヲ交付スルト云フコトハ、大
正九年度ニ於ケル生絲ノ始未デアルガ、マダ大正十年度ニ
對シテ何等ノ方針モ無イノデアル、勿論私モ帝蠶會社ニ三
千万圓ノ助成金ヲ交付スルコトハ、決シテ異論ハ唱ヘマセ
ヌ、併シ帝蠶會社ヘ三千万圓ノ助成金ヲ交付シテ、尙且ツ
絲價ノ維持ヲ圖ルト云フ心掛デアッタナラバ、大正九年度ニ
於テ相當成績ヲ擧ゲ得タリト云フ此低利資金ヲ、更ニ大正
十年度ニ於キマシテハ一般養蠶家ニ貸出シテ、大正九年度
ト同ジヤウニ之ヲ救濟スルト云フコトガ、最モ必要デアルト
思フ、成程生絲ヲ千五百圓ニ買仕切リマスルト云フト、繭ノ
價一貫六圓乃至七圓スルカモ知レマセヌ、併ナガラ本年ハ
物價ハ下落シテ居リマスルケレドモ、尙且ツ一貫目春繭ノ
時ニハ少クトモ七圓三十五錢程ノ生產費ヲ要スルノデア
ル、若シ三千万圓ノ助成金ノ交付ガアリマシテ、大正九年ノ
絲ハ全部是デ始末ガ付キマスケレドモ、大正十年度ニ於ケ
ル生絲ニ對スル資金ガ無イコトニナリマシタナラバ、恐ラク春
繭ノ如キハ、矢張一貫目四圓乃至三圓五十錢ニ下落スル
ダラウト思フ、サウシマスルト、養蠶業者ノ被リマス損害ハ實
ニ其額莫大デアリマス、過日支那ノ上海ニ於キマシテ、生絲
約八万數千梱前ヲ數千石燒キマシタ、是ハ只ダ燒イタノデ
ナイ、火災ニ罹シテ燒イタノデアリマス、其市價ガ約二千八
百万圓ト聞イデ居リマス、是ハ支那ニ取リマシテハ誠ニ御
氣ノ毒ナ話デアル、併ナガラ我ガ日本ニ取リマシテハ、殊ニ製
絲家養特業業取リマシテハ、非常ニ幸福ナ事デアル、是等ガ
動機トナリマシテ、數日來生絲ノ賣行ガ甚ダ好クナッテ來テ
居リマス、又市價モ千五百圓內外ヲ唱フルヤウニナッテ居リ
マス、併シ是ハ一時的ノ現象デアッテ、決シテ永久的ノ現象
デハナカラウト思フ、ソレガ爲メニ私ハ一方三千万圓ノ助成
金ヲ交付シテ、帝蠶會社ヲ救濟スルト同時ニ、更二一方ニ
日本銀行ヨリ低利資金一千万圓乃至二千万圓ヲ出シマ
シテ、サウシテ養蠶業者ヲ救済スルコトニ致シマシタナラバ、
兩々相俟ッテ始メテ此養蠶業者ト云フモノヲ、救濟スル目
的ヲ貫徹スルコトガ出來ルノデアル、只ダ帝蠶會社ダケ助成
シテ生絲ノ市價維持ヲ圖ルト云フコトハ、一見甚ダ宜シイ
ヤウニ思ヒマスケレドモ、其實情ヨリ〓究シマシタナラバ、是
ハ片手落ノ處置デアル、願クハ政府當局ニ於カレマシテモ、
大正九年度ニ於テ好成績ヲ擧ゲ得タノデアリマスカラ、大
正十年度ニ於テモ更ニ日本銀行ニ命ジマシテ、一千万圓
乃至二千万圓ノ低利資金ヲ一般養蠶業者ニ貸出シ、サウ
シテ此絲價ノ維持ニ努力スルト同時ニ、養蠶業者ノ益〓隆盛
ナランコトヲ期スルハ、國家トシテ當然執ルベキ途デアラウト
信ズルノデアリマス、聊カ卑見ヲ述ベマシテ更ニ深切ナル政
府ノ御各辯ヲ得タイノデアリマス、是デ壇ヲ降リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=20
-
021・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 橫山勝太郞君
〔「委員會ニ行キマシタ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=21
-
022・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 只今横山君ハ御出席ガ無イヤ
ウデアリマスカラ、是ハ後デ許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=22
-
023・岩崎勲
○岩崎勳君 モウ質問ノ答辯ニ對スル意見ハ盡キタノデ
アリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=23
-
024・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) サウデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=24
-
025・岩崎勲
○岩崎勳君 然ラバ議事日程變更ニ關スル緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ茲ニ政府提出、關稅定率法中改正法
律案、及政府提出、製鐵業奬勵法中改正法律案ヲ一括
議題ト爲シ、其第一讀會ノ續キヲ開キ、委員長ノ報告ヲ求
メ、且ツ其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=25
-
026・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議アリマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=26
-
027・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマス、仍テ日
程ハ變更セラレマシタ、關稅定率法中改正法律案、製鐵業
奬勵法中改正法律案、此兩案ヲ一括シテ第一讀會ノ續キ
ヲ開キマス、委員長報告、指田義雄君
關稅定率法中改正法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長0
報〓
報告書
一關稅定率法中改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十年三月二十二日
關稅定率法中改正
法律案委員長
指田義雄
衆議院議長奧繁三郎殿
製鐵業奬勵法中改正法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(報告調節を行う
報告書
一製鐵業獎勵法中改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スへキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十年三月二十二日
製鐵業獎勵法中改
正法律案委員長
指田義雄
衆議院議長奧繁三郞殿
〔指田義雄君登壇拍手起ルu発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=27
-
028・指田義雄
○指田義雄君 只今上程セラレマシタ兩案ノ委員會ノ經
過ヲ御報告申上ゲマス、關稅ノ改正ニ就キマシテハ、前議會
ニ於キマシテ各種ノ原料品ニ對スル稅率ノ按排ニ依クテ、我
ガ產業保護ノ政策ト致サレタノデアリマス、而シテ同議會ニ
於テ、本院全體ノ希望ト致シテ、製鐵亞鉛其他各工藝品
ニ對スル關稅政策ヲ、次ノ議會ニ適當ニ提案ヲスベシト云
フ希望ガ附セラレ居ッタノデゴザイマス、本案ハ卽チ其希望
ニ準應致スガ爲メニ提案セラレタモノデアリマス、而シテ此
內容ニ就キマシテハ、彼ノ財政經濟調査會ニ於テ決定セラ
レマシタ所ノ復申ノ趣旨モ、亦之ニ參酌セラレテ居ルノデア
リマス、故ニ私ハ此際本案ノ改正ノ要旨ニ就キマシテ、掻摘
ンデ御報告ヲ申上ゲテ置ク必要ガアラウト考へマス、暫時御
〓聽ヲ煩ハシタイト存ジマス、本案改正ノ要點ハ、先ヅ第一
ハ製鐵業ニ對スル〓稅ノ保護政策デアリマス、製鐵ノ輸入
稅ハ從來從量稅デゴザイマシタモノヲ、約一割五分見當ヲ
標準ト致シマシテ從價稅ニ改メマシタ、其結果ト致シマシテ
關稅ハ或程度ニ引上ケラレテ、内地製鐵事業ノ發達ヲ保
護スルコトニ相成ルノデアリマス、第二ハ造船材料タル所ノ
鋼材等ニ就キマシテハ、命令ノ定ムル所ニ依リマシテ輸入稅
ノ免除ヲ致シマス、併シ此鋼材ニ對スル輸入稅ノ免除ヲ致
シマス結果、内地ニ於ケル製鋼業ヲ壓迫致シマス虞ガゴザ
イマスル爲メニ、若シ内地ニ於テ製造致シマシタ所ノ鋼材ヲ
以テ、造船材料ニ使用セラレマシタ場合ニ於キマシテハ、其
鋼材ノ製造者ニ對シテ、奬勵金ヲ交付スルト云フコトニ相
成ルノデアリマス、卽チ之ニ從ッテ造船業ノ發達ヲ保護致シ
マスルト同時ニ、一面ニ於キマシテハ內地ニ於ケル製鋼業ノ
發達ヲ希望致シマシテ、國家ハ其負擔ニ於キマシテ、兩者ノ
權衡ヲ得セシメント云フ目的ヲ以テ制定セラレタノデアリマ
ス、次ニ化學工業ノ發達ヲ保護致シマスルガ爲メニ、色〓ナ
品目ニ對シマシテ、關稅々率ノ引上ヲ爲シタノデゴザイマス、
其主ナル物ヲ二三御紹介ヲ申上ゲマスレバ、例へバ苛性曹
達ハ從來百斤七十錢デアッタモノヲ、一躍一圓五十錢ニ引
上ゲ、炭酸曹達ハ從價二割トシテ、天然曹達ニモ曹達灰ト
同様ニ三十五錢ヲ課稅シ、過酸化曹達ノ如キハ從來四圓
六十錢ナリシモノガ十五圓六十錢ト相成リマシタ等、種々
ナル方面ニ於テ關稅ノ按排ヲセラレタノデゴザイマス、其品
目等ハ大分ニ色〓ノ種類ニナッテ居リマスカラシテ、本案ノ別
表ニ就テ御審査ヲ願ヒマシテ、爰ニ御報告ハ省略致スコト
ニ致シマス、之ヲ要シマスルニ化學工藝品ニ就キマシテハ、
詰リ曹達工業、油脂分解工業ヲ保護セントスル行政ヲ行
ハレントスルモノデアリマス、其次ニハ亞鉛工業ノ發達ヲ期
スルガ爲メニ、從來每百斤ニ付七十錢ノモノヲ、四倍强ニ當リ
マス所ノ三圓ニ引上ゲタノデゴザイマス、併ナガラ亞鉛ノ關
稅ヲ引上ゲマス爲メニ、其他ノ工業ニ及ボシマス所ノ影響
ヲ考慮致シマシタ、亞鉛苹厚○二五「ミリメートル」ヲ超エ
ザル所ノ薄板、又ハ命令ヲ以テ指定致シマシタル卽チ燐寸
包装用ニ供スルモノヽ如キ場合、或ハ又或命令ヲ以テ指定
致シマシタル肥料ノ原料ト致シマスル場合ニ於キマシテハ
輸入稅ノ全部又ハ一部ヲ免除シ、若クハ戾稅ヲスルト云フ
コトニ相成ッテ居ルノデアリマス、之ヲ要シマスルニ曾テ朝野
ノ間ニ問題ト相成ッテ居リマシタル彼ノ製鐵造船、若クハ化
學工業ニ就キマシテ、自給自足ヲ目的トシテ起リマシタル所
ノ各般ノ工業ヲ保護奬勵致シマスル爲メニ、關稅ノ按排ニ
依リマシテ、其發達ヲ或程度マデ助長センコトヲ期待セント
スルモノデゴザイマス、惟フニ戰後產業界ノ變動ヲ、折角我
國ニ勃興致シ來リマシタ所ノ是等ノ各種ノ事業ニ對シマシ
テ、多大ノ打撃ヲ與へ、今ヤ將ニ一頓挫ヲ來サントスル狀況
ニゴザイマスカラシテ、開稅ノ政策ニ依ッテ之ヲ保護致シマス
ルコトハ、目下ノ產業田ガニ取リマシテ、最大急務デアルト認
メラレタノデゴサイマス、然ルニ委員會ニ於キマシテハ、是等
ノ關稅改正ニマダ滿足ヲ表セラレズ、或ハ之ヲ評シマシテ不
徹底ナリトシ、或ハ之ヲ不十分ナリトシテ、非難セラルヽ向
モアッタノデゴザイマスケレドモ、御承知ノ如ク關稅ノ引上ハ、
他面ニ於キマシテハ、或程度マデ市價ノ昂騰ヲ已ムナクセシ
ムルノデゴザイマス、市價ノ昂騰ヲ當然是等ノ品物ヲ原料
ト致シマスル所ノ生產ロ四ニ對シテ、原價ヲ增加セシメデ、延
テ國民生活ノ間ニ影響ヲ及ボス結果トナルベキコトハ當然
デゴザイマスカラ、政府ガ本案ノ關稅ノ按排ヲ致シマス上ニ
就キマシテハ、此生產者ノ方面ト他面消費者ノ方面トノ其
均衡調節ヲ圖ルト云フコトニ、最モ苦·心ヲセラレマシタ跡ヲ
見出スコトガ出來ルノデアリマス、此意味ニ於キマシテ色と
本案以外ニ於キマシテモ、更ニ關稅ノ適當ナ按排ヲ要求ス
ルモノモアルノデゴザイマスケレドモ、先ヅ只今ノ程度ニ於キ
マシテハ、此改正ヲ以テ先ヅ相當ニ保護獎勵ノ出來ルモノ
ト致シマシテ、之ヲ是認スルコトニ致シタイト云フコトガ、委
員會全體ノ希望デアッタノデアリマス、但シ國民黨ノ星島君
ヨリ致サレマシテ、本案ヲ否決スベシトノ御意見ガ出タノデ
アリマス、其否決ノ理由ハ、大體ノ精神ニ於テハ之ニ反對ス
ルモノデハナイケレドモ、會期切迫致シテ居ル所ノ今日ニ於
テ、是等ノ重大ナ法律案ヲ提出シタト云フコトガ、其誠意ヲ
認メルコトハ出來ヌ、故ニ再調査ニ付スルト云フ意味ニ於
テ、之ヲ否決致シタイト云フ反對論ガ出タノデゴザイマスルヽ
サリナガラ委員會ハ既ニ前申上ゲマス如ク、目下產業界ノ
切迫シテ居ル問題ニ就テ、再調査ニ付スルト云フ論ニハ何
人モ同意セラレマセヌ、只ダ爰ニ一ノ希希條件ヲ付シテ更
ニ政府ノ適當ナル計畫ヲ次ノ議會マデ待ツト云フ意味ニ於
キマシテ、本案ヲ是認シヤウト云フコトガ多數アッタノデアリ
マス、其希望ノ條件ヲ爰ニ讀上ゲマス
一加里工業脂肪分解工業石炭酸「カポランダム」「アラン
ダム」ニ對シテ更ニ調査ヲ進メ速ニ關稅改正案ヲ提出
スヘシ
是ガ第一ノ希望條件デゴザイマス、更ニ製鐵業等ニ對シマ
シテノ一ノ希望ガアッタノデアリマス
一製鐵工業ニ對シテハ更ニ進ンデ合同經營ノ方法ヲ取
ルヲ必要ト認ム
此二箇ノ希望條件ニ就キマシテ、政府ハ第一ニ對シマシテ
ハ成ベク速ニ調査ヲ遂ゲテ、適當ナル提案ヲシタイト思ウテ
居ル、第二ノ製鐵業合同經營ノ問題ニ就キマシテハ、是ハ
財政經濟調査會ニ於ケル復申ノ中ニモ含マレテ居ル條項
デアッテ、成ベク官民合同ノ力ニ依ッテ、製鐵事業ノ資本ヲ統
一整理シ、之ヲ共同經營スルト云フ方針ニ進ミタイト考ヘ
テ居ルト云フ、何レモ答辯デアリマシタ、委員會ハ此政府ノ
答辯ニ敬意ヲ拂ヒマシテ、此希望ヲ附ケテ本案ヲ可決スベ
キモノデアルト云フコトニ決定致シタ次第デゴザイマスル、尙
ホ附加ヘテ中上ゲテ置キタイノハ銑鐵ノ事デアリマス、財政
經濟調査會ニ於テハ、銑鐵ニ對シマシテモ相當ノ保護政策
ヲ執ルベク希望セラレテアッタノデゴザイマスルケレドモ、政府
ノ見ル所ヲ以テ致シマスレバ、日英協定稅率ノ關係、或ハ最
惠國條款ノ關係等カラ考ヘマシテ、假令我國ノ關稅ヲ引上
ゲマシテモ、我國ノ工業ヲ威嚇致シマスル所ノ-脅カス所
ノ印度等ヨリノ輸入品ニ對シテハ、之ヲ適用スルコトガ出來
ナイ、最惠國條款若クハ日英協定稅率ニ依リマシテ、是等ニ
對シテハ高キ關稅ヲ課スルコトハ出來ナイノデアッテ、若シ我
國ノ關稅ヲ引上ゲマシタナラパ、是ガ適用ヲ受ケルモノハ、支
那滿洲ノ方面ニ於テ經營致シテ居ル所ノ事業ニ對シテ課
稅ヲスルト云フコトニナッテ、延テハ日本人自ラガ經營ヲ致
シテ居リマスルモノヽ關稅ノミヲ引上ゲル結果ニナルノデア
ルカラ、此銑鐵ノ問題ニ就テハ暫ク手ヲ觸レナイデ、現狀ノ
儘ニ置クト云フ趣意デアルト云フコトヲ說明セラレテ云云タ
ノデアリマス、尙ホ此從來ノ製鐵保護ノ-製鐵獎勵法ノ效
果ハドウデアルカト云フコトニ屬シマシテ、政府ハ答フル所ニ依
リマスレバ、大正十三年頃ニ相成リマスルナラバ、製鐵鋼製共ニ
日本內地ノ需要ノ七八割ヲ供給スルコトガ出來ルマデニ進步
シ得ル見込デアル、若シ是ガ更ニ相當ノ努力ニ依ッテ發達致シマ
シタナラバ、大正十三年頃ニ於テ內地ノ需要ヲ總テ內地品
ヲ以テ充タスコトガ出來ルト云フヤウニ、發達シ得ルモノデ
アルト考ヘテ居ル、現ニ奬勵法發布頃ニ於テハ、彼ノ獎勵法
ニ決メテゴザイマス所ノ、五千二百五十一噸級ノ設備ノアッ
タ工場ハ無クナッタノデアルケレドモ、今日ハ非常ノ數ニ增加
ヲ致シテ居ル、大正八年頃ノ成績ニ見テモ、大分發達ノ傾
向ヲ有シテ居ルノデアリマスカラシテ、政府ノ計畫致シマシ
タル所ノ製鐵事業ノ奬勵ハ、成功シテ居ルモデアルト考ヘテ
居ルト云フ御答デアリマシタ、尙ホ星島君ノ主張セラレマシ
夕會期切迫ノ場合ニ、斯ノ如キ法案ヲ提案シマシタノハ誠
意ガ無キモノデアルト云フ點ニ對シマシテハ、元來此製鐵等ノ問
題ニ就キマシテハ、財政經濟調査會ニ其意見ヲ諮ッテ居リ
マシテ、財政調査會ノ復中ノ政府ニ到達致シマシタノハ、本
年ノ二月半バ過ギデアッタノデアル、而シテ其間機械其他ノ
方面ニ就テ、始終調査ヲ重ヌベキ必要ガアッタガ爲メニ、洵
ニ遺憾デハアッタケレドモ、餘儀ナキ事情ハ之ヲ了解シテ貰
ヒタイ、卽チ誠意ヲ以テ-大ナル誠意ヲ以テ本案ヲ提出シ
タノデアルケレドモ、今ノヤウナ事情ハ、惡カラズ諒察シテ貰
ヒタイト云フ意味デアッタノデアリマスル、其他色ミナル細カ
キ點ニ就キマシテ、委員會ニハ詳細質問應答モゴザイマシタ
ケレドモ、是ハ速記錄ヲ御覽下サルコトニ御願ヲ中上ゲテヽ
報告ヨリ省略致シマス、之ヲ要スルニ本案ハ國民黨ノ星島
君ヨリ再調査ノ意味ニ於テ、否決シタイト云フ御議論ヲ除
キマシテ、滿場一致デアッタノデアリマス、尤モ玆ニ御報告ヲ
申上ゲテ置キマスガ、多分同樣ダラウト存ジマスガ、星島君
ノ否決スベシトノ御意見ハ、關稅定率法改正案ダケニ止マ
ルノデアッテ、此製鐵業奬勵法ノ方ハ贊成ヲセラレタノデア
リマス、爰ニ私ノ委員長トシテ御報告ヲスルニ少シク迷フ點
ガゴザイマスルノハ、關稅定率法ノ改正ヲ否決致シマシテ造
船用ノ鋼材等ニ免稅ヲスルト云フコトガ否決サレマスニ拘
ラズ、製鐵事業奬勵法ヲ賛成セラレマスルト云フト、製鐵業
獎勵ノ爲メニ交付金ヲ交付スルト云フ矛盾ヲ生ズルコトニ
相成リマスルデ、私ノ考デハドウモ其意味ヲ御紹介スルコト
ハ出來マセヌ、ドウモ矛盾ガアルヤウニ考ヘラレマスガ、何レ
是ハ否決ノ御意見ニ依ッテ明カニナルコトヽ考ヘマス、御參考
マデニ附加ヘテ御報告ヲ申上ゲテ置キマス、是デ報告ヲ終リ
マス、(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=28
-
029・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 關稅定率法中改正法律案ニ就
キマシテハ發言ノ御通告ガアリマス-星島二郞君
〔星島二郞君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=29
-
030・星島二郎
○星島二郞君 大體只今委員長ノ報告ノ通リデアリマス
ルガ、吾と國民黨ハ之ニ對シテ否決ノ已ムナキニ至ルト云フ
理由ヲ說明致サナケレバ、誤解ヲ招ク虞ガアリマス、故ニ今
簡單ニ其否決ノ理由ヲ說明致シタイト思フノデアリマス、關
稅改正ハ一國ノ重大ナル問題デアリマシテ、是ハ少クトモ與
論ニ問フ必要ガアリ、政黨デ申シマスレバ、其政黨ノ重大ナ
ル政綱ノ一ツデナケレバナラヌ、諸外國ニ在リマシテハ、總選
擧ノ當時、或ハ大統領ノ選擧ノ當時是ハ關稅改正ハ其政
綱ノ非常ナル重大案目デアルノデアリマス、ソレガ此會期切
迫非常ナ問題ガ多イ時ニ、突如トシテ之ヲ提案サレルト云
フコトハ是ハ眞面目デハナイ、又之ヲ一宜イトシテ通過サスコ
トハ、立法府ノ面目デハナイト斯ウ私ハ思フノデアリマス(拍
手起ル)何時モ委員長ノ報告ニハ、極リ文句ニ愼重審議ト
アルノデアリマスケレドモ、是ハ決シテ愼重審議ハサレテ居リ
マセヌ、委員會ハ僅ニ二囘、而モ當局ノ大臣大藏大臣或ハ
農商務大臣ハ多クハ出席サレテ居リマセヌ、今日モ出席ガ
アリマセヌデシタ、此重大ナル案件ガ議セラルヽ所ノ委員會
ニ、當局ノ責任アル大臣ガ出席サレヌト云フコトハ、是レ卽
チ慎重審議サレテ居ナイト云フコトヲ確證スルモノデアリマ
ス、(拍手起ル)殊ニ此鐵ノ問題ハ關稅ノ中ニ於キマシテモ、
一國ノ產業ニ非常ナル影響ヲ及ボスモノデアリマスカラ、是
コン特ニ審議シナケレバナラヌト思フノデアリマス、只今委員
長ハ、是ハ經濟調査會ニ於キマシテ審議シタモノデアルト仰
セラルヽケレドモ、調査會ハ調査會、立法府ハ立法府デアリ
マス、然ラバ此改正案ヲ見マシテモ、根本ニ於キマシテ製鐵
業者ノ保護ニハナッテ居ナイ、單ニ是マデノ從量稅ヲ從價稅
ニ直シタニ止マル、改正衆ハ大體ニ於キマシテ、一割五分ノ
從價稅トナッテ居リマスケレドモ、戰前ノ一噸七十圓ノ相場
ニ對シテ十圓十六錢當タリノ稅ハ、此改正案ニ依リマスレ
バ、今日ノ百三十五六圓見當ニ對シテ一割五分ハ二十圓
某デ矢張一割五分デ、大シタ改正ニハナッテ居ナイ、詰リ此
鐵ノ問題ニシマシテモ、若シ徹底的ニ保護スルナラバ、保護
スル目的ヲ達シテ居ナイ、サリトテ國家ノ收入ヲ增シテ居ル
カト云ヘバ增シテモ居ナイ、極メテ不徹底ナル案ト謂ッテ宜
イト思フノデアリマス、是ニハ政府委員モ委員會ニ於キマシ
テ、實ニ關稅ノ改正ハ重大ナル問題デアッテ、單ニ鐵ヤ色ニナ
問題ニ止マラズ、關稅全體ニ對シテ、大改正ヲ行フ必要ガ
アルト云フコトヲ言明サレテ居ルノデアリマス、サウシテ又一
般ノ所謂化學工業ニ對シマシテ、特ニ一ツノ實例ヲ擧ゲマ
スレバ、此度ノ改正ニナリマシタ「グリセリン」工業ノ保護
ニ對スル改正案ニハ、單ニ「ステアリン」ヤ、或ハ其他ノ二三
ノ脂肪酸ニ課稅ガサレテ居リマスケレドモ、若シ徹底的ニ「グ
リセリン」工業ヲ保護セントスルナラバ、「グリセリン」其物ニ
對シテ何故改正ヲ加ヘナカッタカ、或ハ「ダイナマイト」其物ニ
對シテ課稅サレナカッタカ、徹底的ニセントスルナラバ、其等ノ
物ニ對シテモ、當然課稅ヲ增スベキモノデアルノデアリマス、
斯ウ云フ物ニ對シマシテ本案ハ極メテ不徹底デアリマス、要
スルニ收入モ得ラレズ、保護ノ目的モ達セズ、而シテ其最モ
影響ノ多イ製鐵業者ニモ保護ニナラヌ、ケレドモ是ガ一旦
通過シマスレバ、關稅ハ上ッタト云フ理由ノ下ニ、諸機械器
具類ハ非常ニ實質以上ニ値打ガ騰シテ參リマシテ、ソレガ爲
メニ日本ノ產業ニ惡影響ヲ及ボシ、或ハ延テハ物價ノ騰貴
ヲ來スト云フヤウナ虞モアルノデアリマス、是ハ國民生活ニ
取リマシテ重大ナル案件デアリマス、練ヲテ練ッテ。サウシテ少
クトモ議會ノ最初ニ之ヲ提案サレマシテ、十分ニ慎重審議
サルベキ筈ノモノデアリマス、我黨二於キマシテモ、決シテ本
案ノ精神ニ無碍ニ反對ヲスルモノデハナイノデアリマシテ、
モント愼重審議立法府ノ責任ヲ明カニスル爲メニハ、モット多
クノ時日ヲ與ヘ、サウシテ十分ニ審議シナケレバナラヌ、卽チ
再調査ヲシテ、サウシテ此改正案ヲ立直シテ貰ヒタイト云フ
意味ニ於キマシテ、之ヲ否決シタイト思フノデアリマス、若シ
此案ガ本議會ヲ通過シマシテ、而シテ或ハ賢イ貴族院ガ之
ヲ握潰シニスルカモ知レマセヌ、サウ云フ場合ニ於テ一旦政
府ノ内意ガ國民ニ發表サレマスト云フト、氣ノ早イ商賣人
ハ見越輸入ヲヤルカモ知レマセヌ、サウ云フ場合ニ於キマシ
テ、其責任ハ決シテ國民黨ノ責任デハアリマセヌ、立法府ノ
責任デアリマセヌ、ソレハ政府ノ責任ト私ハ今ヨリ明カニシ
テ置キマス、(拍手起ル)只今委員長ノ報告ニモ御仕舞頃ニ
妙ナ御話ガアリマシタガ、吾ミノ此關稅定率ノ改正案ハ、サ
ウ云フ意味ニ於テ否決シマシタケレドモ、製鐵業ノ奬勵ニ
ハ、大ニ意ヲ用井テ居ル者デアリマシテ、是ハ政府提案ノ根
本ノ意思ハ、相關聯シタモノデアリマセウケレドモ、引離シテ
製鐵事業ハ大ニ奬勵スルヲ宜イト認メテ、製鐵獎勵法ニ贊
成シタノデアリマス、否決ノ理由ヲ誤解ナキヤウ說明シタ譯
デアリマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=30
-
031・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 今泉嘉一郎君
〔今泉嘉一郞君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=31
-
032・今泉嘉一郎
○今泉嘉一郞君 私ハ委員長ノ報告通リ、原案ノ通過ニ
賛成ヲ致シマシテ、随テ星島君ノ抗議ニ反對ヲスル者デアリ
マス、星島君ノ反對ノ理由ハ極メテ簡單デゴザイマシタカラ
私モ簡單ニ其反對ヲ申上ゲマス、星島君ハ會期切迫ノ場
合ニ於テ、斯ウ重大ナル問題ヲ提出スルノハイカヌト言ハレ
ルガ、私ハ斯ル重大ナル問題ナルガ故ニ、會期切迫ノ時期ニ
於テ、倉皇トシテ政府ハ提出シタモノデアルト思ヒマス(拍
手、「詭辯々々」ト呼フ者アリ)又星島君ハ、此議題タルヤ愼
重審議ヲ盡サヌト言ハレテ居リマスケレドモ、折〓此問題ヲ
決スルガ爲メニ、政府ハ大正八年十月ニ財政經濟調査會
ニ之ヲ議題ト致シマシテ、免モ角モ其當時日本ノ各部門ニ
於ケル所ノ「エキスバート」専門家ヲ召集シテ、十分審議ヲ盡
シテ今年二月ニ至ッタノデアリマス、一年有半此事業ノ爲メ
ニ審査ヲ盡シタモノヲ、之ヲ愼重ノ審議ニ非ズトスルカ如何、
又議會ニ提出致シマシタノハ十九日デアリマス、十九日ヨ
リ今日迄四日間ノ內ニ於テ、十分ニ此法案ヲ考慮スル遑ガ
無イデハナイノデアリマス、(「ヒヤ〓〓」)斯ル問題ヲ議スル場
合ニ當リマシテ、屢〓成方面ニ誤解ヲ生ズル點ガゴザイマスル
故ニ、私ハ此製鐵問題-製鐵事業ト云フモノニ就テ諸君
ニ說明ヲシタイト思フ、世間デハ此工業ヲ一ツノ營利的工
業、一ツノ大ナル工業ト考ヘテ"居ルノデアリマスケレドモ、ソ
レハソレニ相違ナイ、併ナガラ我ガ日本帝國ガ明治三十年
ニ官立製鐵所ヲ作リマシテ以來ノコトカラ考ヘマシテモ、爰
ニ二十何年ノ年月ト三億五千万圓ノ國費ヲ投ジテ居ル、而
シテンレダケノコトデアッテモ、一大工業タルコトハ失ハヌノデ
アリマスルガ、流石此問題ヲ解決スル場合ニ於テハ、斯ル歷
史ヲ有ッテ居ルカラ、爰ニ一ツノ大工業トシテ取扱ハナケレ
バナラヌト云フノデナクシテ、此事業ガ實ニ國家的事業デア
ルト云フコトヲ考ヘナケレバナラヌ、製鐵事業ト云フモノハ、
之ヲ極ク簡單ナル定義デ申シマスルト云フト、是ハ國家ノ軍
備、ソレカラ國家ノ經濟、竝ニ國家ノ文明ノ消長ニ關スル所
ノ最モ重大ナル事業デアル、斯ウ謂ハナケレバナラヌ、斯ル形
容ノ詞ト云フモノハ屢〓〓用サレマシテ、詰ラヌ事ニモ是ハ國家
事業デアルト云フコトヲ言ハレマスガ、私ガ最モ嚴重ナル意味
ニ於テ、是ハ國家的事業デアル、卽チ軍備ノ問題カラ申シマ
セウナラバ、今日ノ戰ト一云フモノハ、決シテ人ト人トノ戰爭デ
ナイ、機械ト機械トノ戰爭デアル、而シテ機械ノ-軍器ノ
主ナル部分ハ鐵材デアル、吾〓ガ問題ト致シマスル八八艦
隊ノ費用ノ大部分ハ、製鋼材デアルト御承知ニナラナケ
レバナラヌ、又數日前ノ新聞デ諸君モ御承知デアリマセウ
ガ、數日前ニ倫敦ノ議會ニ於テ、倫敦ノテ下院ノ問題ト致
シマシテ、我ガ日本帝國ニ軍備縮小ヲ强ユルガ爲メニ、英
吉利ハ宜シク亞米利加ト共同シテ、日本ニ鐵鋼材ノ供給ヲ
拒絕スベシト云フ動議ガ出テ居ル、之ヲ見テモ、如何ニ軍備
ト鐵鋼材ノ關係ノ大ナルカヲ知ルコトガ出來ル、又彼ノ歐羅
巴ノ戰爭ニ於キマシテモ、「ソンム」ノ戰ニ於テ、英吉利人ガ僅
カ一日カ二日ノ間ニ於テ、獨逸軍ヲ阻止スル爲メニ擊チマシタ
所ノ大砲ノ彈丸ノ數ハ一千万發デアル、而シテ之ヲ金額ニ換
算スレバ四億万圓ニ相當シ、之ヲ目方ニ換算致シマシテ、鐵
材ノ十万噸ニ相當シテ居ル、歐羅巴大戰/全體ヲ通ジマシ
テ、此鐵材ノ消費ト云フモノハ、戰爭ニ參加シタル兵隊一人
當リ一箇年三噸ニ相當シテ居ル、是ハ實際ノ經過デアル、
然ルガ故ニ我ガ日本帝國ガ若シ百万人ノ兵士ヲ戰場ニ出
シマシテ、完全ナル戰ヲ爲ス場合ニ於テハ、一箇年三百万噸ノ
鐵材ノ用意ガナケレバナラヌノデアル、斯ウ云フ場合ニ於テ
我ガ日本國今日ノ有樣ハドウカト云フト、一箇年ノ銑鐵百
五十万噸鋼鐵百五十万噸ヲ要スル場合ニ於テ自給自足
ノ出來ルノハ其半數デアル、其半數ハ尙ホ海外ヨリノ供給
ニ待ツト云フノ有樣デアル、斯ウ云フ有樣デアッタナラバ、四
方環海ノ我國ニ於テ一朝事有ル場合ニ於テ、何程自給自
足ヲシテ此戰鬪ヲ繼續シ得ルヤト云フコトニナリマスレバ、
吾人ハ實ニ寒心ニ堪ヘナイノデアリマス、更ニ經濟問題ニナ
リマス、我國ガ維新以來輸入ノ多イ關係ニ於テ、始終逆勢
ニ立フテ居リマス、又將來ニ於テ、海外貿易ノ恐ルベキ結果
ノ生ズルモノハ何ニ依ルカト云フト、鐵材ガ今日ノ有樣ノ如
クアッタナラバ、鐵材輸入ト云フコトガ其因ヲ爲スデアラウト
考ヘル、假リニ其一例ヲ擧ゲマスレバ、日露戰爭ノ三十八年
以來私ノ持ッテ居ル統計ノ、大正七年ニ至ルマデ十四年間
ニ於キマシテ、日本ガ外國ヨリ輸入シタル所ノ鐵材ト云フモ
ノハ、十六億噸ニ達シテ居ル、而シテ之ニ對抗スル所ノ日本
ノ輸出品ハ何デアルカト申シマスルト、御承知ノ通リ生絲デ
アル、其生絲ガ此十四年間ニ於テ二十四億弗、卽チ生絲ノ
七割ト云フモノハ鐵材輸入ノ爲メニ消滅サレテ居ル、尙ホ
大正七八年ニ於ケル鐵材ノ輸入ハ三億五千九百万噸、而
シテ生絲ノ輸出ハ僅ニ三億七千万、卽チ大正八年ニ於テ
日本ノ生絲ト云フモノハ、遂ニ鐵材ノ輸入ニ超過サレタノ
デアリマス、而シテ昨年ノ如キハドウデアル、我國ガ戰後ニ於
テ始メテ大輸入超過ヲ致シタノデ三億八千万、而シテ其中
ノ二億八千万ハ日本ニ必要ナル鐵材ノ輸入デアッタノデア
ル、斯ウ云フヤウナ有樣カラ見テモ、吾〓ハ經濟上非常ニ注
意スベキモノデアル、卽チ國家經濟ヨリ見ルベキ大ナル問題
デアルト思フ、次ニ文明ノ消長ト云フコトハ、勿論御承知
ノ通リ、機械、建築、船舶、鐵道、總テノ事ニ於テ、今日鐵材
ヲ度外致シテハ何等ノ事モ出來ナイ、甚シキハ電柱ニ至ル
マデ、(「脫線」ト呼フ者フリ)電柱或ハ枕木ニ至ルマデ、鐵材
ヲ使ハナケレバナラヌト云フ今日デアリマス、斯ウ云フ關係
カラ致シマシテ製鐵事業ヲ論ズル場合ニ於テハ、之ヲ一ツノ
營利事業デアル、之ヲ一ツノ大工業ト云フ觀察デハナラヌ、
是ハ國家存立上必要ナル國家的事業デアル、サウ云フ國家
的事業デアレバ、之ヲ經營スルノハ宜シク政府自ラヤルベキ
デアル、斯ウ云フ議論モ起ルノデアリマス、實際ニ於テ嘗テ露
西亞及獨逸ガ官營トシテ之ヲ始メタコトガアル、併ナガラ官
營ノ進步ト云フモノハ、到底民業ノ進歩ニ及バヌ、進步發
達ノ上カラ申シマシテ、是ハ民業ニ委ネテ、而シテ國家ハ之
ニ出來得ル限リノ援助ヲ與ヘル、斯ウ云フコトデナケレバナ
ラヌト云フコトニ歸著シタノデアリマス、(「簡單」ト呼フ者ア
リ)サウ云フ場合デアリマスガ、之ヲ國家ヨリ見ル場合ニ於
テハ、ドウシテモ國家事業デアルガ故ニ、國家モ其事業ノ成
立ノ一部ヲ負擔シテ行カナケレバナラヌ、卽チ保護政策ヲ
執ッテ行カナケレバナラヌ、又當業者モ亦之ニ對シマシテハ相
當自營ノ方法ヲ講ジ、國家ト同ジ意味ニ於テ、是ハ國家事
業ナリト云フ考ヲ持チマシテ、不當ノ暴利トカ云フ考ヲ持タ
ズニ、確實ニ之ヲヤラナケレバナラヌト云フノガ、當業者ノ本
質デナケレバナラヌ、之ヲ實際ニ爲シマシタノハ、米國ノ「スチ
ール、コーペレーシヨン」ハ其精神デヤッテ居ル、所謂「スチー
ル、オヴ、コーペレーシヨン」、亞米利加ノ鋼鐵「トラスト」/精
神ト云フモノガ、今日此製鐵事業ヲ經營スベキ所ノ當業者
ノ精神デアル、而シテ國家ハ之ヲ保護シナケレバナラヌ、斯ウ
云フコトニナルノデアリマス、斯ウ云フ場合デアリマスカラ
只今星島君ハ、今日ノ保護ハ是ハ當業者ノ利益ニナラヌ、
當業者ハ有難ク思ハヌ-ソレハサウモ言へマス、保護ダケ
ヲ以テスルナラバ、私共ノ持論ト致シマシテハ、少クモ二
割五分以上ニ非ザレバ、保護政策ニ非ズト考ヘテ居ル、
割五分以下今日ノ五分位デアリマシテハ、是ハ關稅手數料
或ハ自國ニ發達スベキ工業ガ無イ、自國ノ工業ニ就テハド
ウシテモ見込ガ無イカラ、全部外國品ニ依ルト云フ關稅手
數料デアル、苟モ内地ノ工業ニ見込ガアル場合、之ヲ保護
的ニ開發シヤウト云フ場合ニ於テハ、モウ少シ十分デナケレ
バナラヌ、是ハ然ルベキ事デアリマスケレドモ、今日ノ程度ニ
於テ財政經濟調査會ニ於テ此一割五分ヲ以テ至當ナリト
看做シテ、不肖ノ如キモ同會ノ委員ノ末尾ヲ汚シテ居ルガ、
一年有餘ノ〓究デ之ヲ以テ至當ナリト考ヘテ居ルノデアリ
マス、星島君ハ之ヲ至當ニ非ズト言ハレマス、私ハ其意ヲ了
シナイノデアリマス、ソレカラ收入ノ目的ヲ達セズ、成程政府
ガ關稅法ヲ設ケマシテモ、收入ノ目的ヲ達セヌト云フコトモ
アルカモ知レマセヌガ、精神ハ收入ニ在ルニ非ズシテ、此事業
ヲ保護スルニ在ルノデアリマス、而シテ政府ノ收入ト云フモ
ノハ、恐ラクマダ本年ハ堆貨ノ爲メニ好クアリマセヌガ、來年
以後ニ於テ可ナリ相當ノ金額ニナルト私ハ考へテ居リマス、
(「簡單」ト呼フ者アリ)見込輸入ガ有ルダラウト、今日ハ幸
ニシテ決シテ見込輸入ノ無イ時期デアル、今日ハ外國品ヲ
日本ヘ持ッテ來タ時ノ値段ト、日本ノ市場ノ値段ト比較シ
テ、二割三割ノ高價ニ付クノデアリマス、今日ノ如キハ實ニ
此方法ヲ改正致シマスル、最良ノ時機ト私ハ考ヘルノデ
アリマス、(「ヒヤ〓〓」「ノウ〓〓」ト呼フ者アリ)尙ホ此外申上
ゲタイ事モアリマスガ、大體反對ノ意見ハ述べタ積リデアリ
マス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=32
-
033・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 他ニ御通告モアリマセヌカラ採
決ヲ致サウト思ヒマス、先ヅ關稅定率法中改正法律案、本
案ニ對シテハ反對ガアリマスカラ、之ニ就テ第二讀會ヲ開ク
ヤ否ヤ御諮リ致シタイ卜思ヒマス、本案ノ第二讀會ヲ開ク
ベシトスル諸君ノ起立ヲ乞ヒマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=33
-
034・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 多數ト認メマス、本案ハ第二讀
會ヲ開クコトニ決シマシター次ニ製鐵事業奬勵法中改正
法律案、本案ニ對シテハ何等ノ御通告モアリマセヌ、本案ハ
第二讀會ヲ開クニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=34
-
035・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、卽チ本
案ハ第二讀會ヲ開クコトニ決定致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=35
-
036・岩崎勲
○岩崎勳君 緊急上程ニ係ル二案ヲ一括シテ直ニ第二
讀會ヲ開キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通リ可決確
定セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=36
-
037・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ直チニ第二讀會ヲ開キ、議案全部ヲ議題ニ
供シマス
關稅定率法中改正法律案
第二讀會(確定議)
製鐵事業奬勵法中改正法律案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=37
-
038・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、卽チ兩
案トモ第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告通リ可決確定サ
レマシタ、(拍手起ル)次ニ日程第一及第二ハ關聯セル議案
デアリマスカラ、一括シテ議題ト致シマス、日程第一、裁判所
構成法中改正法律案、日程第二定年ニ因ル退職判事檢
事ノ恩給ニ關スル法律案-大木司法大臣
第一裁判所構成法中改正法律案(政府
提出、貴族院送付)第一讀會
(小字及-ハ貴族院修正)
裁判所構成法中改正法律案
裁判所構成法中左ノ通改正ス
第八條第二項但書ヲ削リ同條第三項ヲ左ノ如ク改ム
外國語ノ通譯ヲ要スル栽判所及檢事局ニ通譯官ヲ
置クコトヲ得
第七十一條ノ二前三條ノ規定ノ適用ニ付テハ判事又
ハ檢事タル資格ヲ有スル司法省各局長司法省參事
官ノ在職ハ之ヲ判事ノ在職ト看做ス
第七十四條ノ二ヲ第七十四條ノ三トス
第七十四條ノ二大審院長年齡六十五年其ノ他ノ判
事ノ職ニ在ル者年齡六十三年ニ達シタルトキハ退職ト
ニ於テ
ス但シ司法大臣ハ控訴院又ハ大毒院ノ總會ノ決議
三ヘキ
ニ依リ五年以内ニ於テ期間ヲ定メ仍在職セシムルコ
モノト決議シタルトキハ其ノ期間滿了ノ時ニ於テ退職トス
トヲ得
第七十九條第一項中「勅任又ハ奏任」ヲ「親任勅任又
ハ奏任」ニ改メ同條第三項中「勅任檢事」ヲ「親任檢事」
三〇人
第八十條ノ二檢事總長年齡六十五年其ノ他ノ檢事
ノ職ニ在ル者年齡六十三年ニ達シタルトキハ退職ト
三
ス但シ司法大臣ハ五年以內ニ於テ期間ヲ定メ仍在職
セシムルコトヲ得
第八十八條中「書記長」ノ下ニ「及通譯官」ヲ加フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ判事又ハ檢事ノ職ニ在ル者ニシテ本
法施行ノ日ニ於テ第七十四條ノ二又ハ第八十條ノ二
ニ規定スル年齡ヲ超ユルモノ及本法施行ノ日ヨリ二十
日內ニ於テ其ノ年齡ニ達スルモノハ本法施行ノ日ヨリ
二十日ヲ經テ退職スルモノトス
前項ノ場合ニ於テハ判事ニ付テハ第七十四條ノ二但書
ノ規定ヲ、檢事ニ付テハ第八十條ノ二但書ノ規定ヲ準
用ス但シ第七十四條ノ二又ハ第八十條ノ二ニ規定スル
三
年齡ニ五年ヲ加ヘタルモノヲ超エテ在職セシムルコトヲ
得ス
第二定年ニ因ル退職判事ノ恩給ニ關ス
ル法律案(政府提出、貴族院送付)
第一讀會
定年ニ因ル退職判事檢事ノ恩給ニ關スル法律案
本法施行ノ際現ニ判事又ハ檢事ノ本官ニ在職スル者本
法施行後引續キ判事又ハ檢事トシテ在職シ裁判所構成
法第七十四條ノ二又ハ第八十條ノ二ニ規定スル年齡
ニ達シタル後退職シ又ハ其ノ官ヲ免セラレ恩給ヲ受クヘ
キ場合ニ於テハ其ノ恩給年額ハ官吏恩給法第五條ノ
規定ニ依リ計算シタル年額ニ其ノ百分ノ五十ニ相當ス
ル金額ヲ加ヘタルモノトス
前項ノ規定ノ適用ニ付テハ判事檢事相互ニ轉任シタル
場合ハ引續キ在職シタルモノト看做ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣伯爵大木遠吉君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=38
-
039・大木遠吉
○國務大臣(伯爵大木遠吉君) 只今上程サレマシタ所
ノ兩法案ハ、裁判所構成法ヲ改正致シマシテ、判事檢事ノ
服務年齡ニ一定ノ制限ヲ設ケルコトヽ致シタル次第デアリ
マス、是ハ後進ノ進路ヲ開キマシテ、以テ司法部內ノ士氣ヲ
新タニスル爲メニ必要ナル事デアルト信ジマシタガ故ニ、此
改正ヲ行フ次第デアリマス、又檢事總長ノ地位ヲ高メマシテ、
之ヲ親任トスルコトニ致シタノデアリマス、是ハ其檢事總長
ノ職責ニ鑑ミマシテ、且ツ會計檢査院長、竝ニ行政裁判所
ノ長官ト同等、若クハンレ以上ノ地位ニ在リマシタル所ノ歷
史ニ鑑ミマシタノデアリマス、蓋シ當然ノ改正デアルト認メ
ルノデアリマス、其他外國語ノ通譯ヲ必要トシマスル所ノ栽
判所檢事局ニ、新タニ奏任官タル所ノ通譯官ヲ置クコトヽ
致シタノデアリマス、而シテ尙ホ右申ス構成法ノ改正法ニ伴
ヒマシテ、又新法ノ適用ニ依リマシテ、定年ニ達シタル爲メ
退職致シマス所ノ判事及檢事ヲ優遇スル必要ヲ認メマシ
テ「一般ノ官吏ノ例ニ比シマシテ、其恩給支給ノ上ニ於キマ
シテ五割ノ增加ヲ立案致シタ次第デアリマス、何卒御審議
ノ上御協賛アランコトヲ偏ニ願ヒマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=39
-
040・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 質疑ノ通告ガアリマス、橫山金
太郞君
〔橫山金太郞君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=40
-
041・横山金太郎
○橫山金太郎君 私ハ政府、特ニ司法當局ニ向ッテ少シ
ク御尋ヲ致シテ見タイト思ヒマス、諸君、裁判ノ公正ナルト否
トハ吾と國民ノ生命、身體、名譽、及財產ノ上ニ、至大ナル
影響ヲ及ボスノデアリマス、今議題トナッテ居リマスル所ノ所
謂定年法案ナルモノヽ內容ハ、我ガ帝國憲法ノ條規ニ觸レ
强テ裁判ノ構成ヲ傷クルモノデナイカト云フ疑ガアルノデア
リマス、蓋シ憲法ノ五十八條二項ニハ「裁判官ハ刑法ノ宣
告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルノ外其ノ本職ヲ免セラルヽコトナ
シ」ト規定シテアルノデゴザイマス、故ニ現ニ裁判官ノ職ニ在
ル者ハ、刑法ノ宣告ニ由リマスルカ、懲戒ノ處分ニ由リマス
ル外ハ、裁判官其人ノ意ニ反シテ、强イテ職ヲ去ラシメラル
ルト云フコトハ無イコトニ、憲法ハ保障ヲ致シテ居ルノデゴ
ザイマス、然ルニ今囘ノ此定年法ノ骨子トモ認ムベキ條文
ニ於キマシテハ、右二箇ノ場合ノ外ニ、裁判官ガ一定ノ年齡
ニ達シタト云フ自然ノ事實ニ基ヅイテ、當然强テ其現職ヲ
去ラシメラレルト云フコトニ相成ッテ居ルノデアリマス、此點
ニ就テ貴族院ニ於ケル政府ノ御說明ニ依リマスト
〔粕谷副議長議長席ヲ退キ奧議長著席〕
憲法五十八條二項ニ揭ゲテアル免職ト云フコトハ、蓋シ官
ヲ奪フノ意味デアル、之ヲ刑法ノ規定ニ顧ミテモ、懲戒法ノ
規定ニ鑑ミテモ、總テ此官ヲ奪フト云フ意味ニナッテ居ッテ、
官ヲ奪フ結果ガ、自ラ職ヲ離レルコトニナッテ居ルノデアルカ
ラ、憲法五十八條ノ二項ノ免職ト云フコトハ、免官ト解釋
ヲシナケレバナラヌト云フ御說明ニナッテ居ルノデゴザイマス、
然ルニ此懲戒法ナドノ規定ヲ見テ見マスルト、現ニ「免職」トナ
リマシテ「免官」トハ書イテナイ、官ト職トヲ分ッテ書イテナイノ
デアリマス、之ヲ言葉ヲ切ニシテ申シマスト、「免職」ノ二字ニ
依シテ、其官ト職トヲ併セテ奪フノ意味ガ明カニセラレテ居
ルノデアリマス、斯ノ如クニシテ、始メテ此憲法ノ五十八條
ノ二項ノ「職ヲ免セラルヽコトナシ」トアル條規ト相俟シテ、爰
ニ始メテ此地位ノ保障ノ實ヲ完ウスルコトガ出來ルト思フ
ノデアリマス、而シテ只今申シマスル、此免職トゴザイマスル
文理的解釋ノ上カラ言へバ、無論免職ト云フコトハ、讀ンデ
字ノ如ク職ヲ免ズルト云フコトニナリマスルノデ、文理的解
釋ヲ別ト致シマシテ、精神的解釋ト申シマスルカ、將タ論理
的解釋ト申シマスルカ、其精神ニ立戾ッテ法理ヲ究メテ見マ
シタナラバ、一層的確ニナルト思フノデアリマス、ソレハ試ニ
此政府ノ御解釋ニナル如ク、官ト云フダケヲ殘シテ職ノミ
ヲ奪ッタト云フトキニハ、一體其裁判官ト云フモノハ、實際ニ
於テ如何ナル働ガ出來ルノデゴザイマスルカ、何ノ働モ出來
ヌデハゴザイマセヌカ、由來此裁判官ガ司法機關タル職責
ヲ完ウ致シマスルノハ、實ニ此天皇ノ名ニ於テ司法權ヲ行
使シ得ルガ爲メデアリマス、然ルニ今回ノ定年法ハ、事實上
自己ノ意思ヲ以テ、司法機關タル職務ヲ遂行スル能ハザラ
シムベク、一定ノ年齡ニ達シタ裁判官ノ職ヲ奪ッテシマウト
云フコトニナッテ居ルノデアリマス、斯樣ニシテ眞ニ[能ク司法
機關タル所以ノ、國家意思ノ決定ガ出來マセウカ、私ハドウ
シテモ出來ヌト思フノデゴザイマス、畢竟スルニ此憲法ノ規
定ハ、裁判官其人ノ個人ノ名譽位置ヲ擁護スル爲メデハナ
ク致シテ、其職務ヲ保障シテ立法及行政ニ對シテ特立シテ
權威ヲ保タシメ、仍テ以テ裁判ノ構成ヲ維持セント欲スル
趣意ニ外ナラヌト思フノデアリマス、是ニ由シテ之ヲ觀マスレ
バ、憲法ノ保障ヲ致シテ居リマスル點ハ、必ズシモ官ノミニ非
ズシテ、職ヲモ併セテ保障ヲスルモノデアルト云フコトニ歸著
スルト思フノデアリマスルガ、此點ニ就キマシテハ當局ハ如何
ナル御考ヲ有シテ居ラレマスルカ、是ガ第一デゴザイマス、其
次ニハ最モ頭惱ノ明晰ナ御方デアルトノ御評判ノアル山內
政府委員ハ、貴族院ニ於テ說明ヲシテ申サレルノニ、成程徒
ラニ此裁判官ノ職ヲ奪フト云フコトハ、ソレハ出來ヌデアラ
ウケレドモ、ガ裁判所構成法ノ七十四條ニ依ッテ見レバ、現
ニ職務ヲ執ルコトノ出來ヌ人ノ職ヲ奪フ規定ガアルデハナ
イカ、故ニ此意味ニ於テ、老齡ノ規定ヲ設ケテ老齡職ニ堪
ヘナイト云フ人ニ向ッテハ、實際職務ヲ執ルコトガ出來ルト
出來ヌニ拘ラズ、法律ノ規定ヲ設ケテサウシテ此職務ヲ退
カシムルト云フコトニシテモ妨ガナイデハナイカ、斯樣ナ說明
ヲセラレテ居ルノデゴザイマス、所ガ吾ヒトテモ此裁判所構
成法ノ七十四條ノ規定ガ、憲法ノ違反デアルト申スノデハ
ゴザイマセヌ、裁判所構成法ノ七十四條ノ規定ガ憲法ノ違
反デナイガ爲メニ、何故ニ定年法ノ規定ヲモ併セテ憲法違
反デハナイカト申スノデアルカ、此點ニ疑ヲ懷ク者デアリマ
ス、卽チ裁判所構成法ノ退職規定ト、定年法ノ退職規定ト
ノ比較ヲ致シテ見マスルノニ、退職ト云ヘル結果ニ於テハ、
何等異ル所ガ無イノデゴザイマス、サリナガラ其結果ヲ齎ス
マデノ間ノ此退職ノ條件及手續ト云フモノガ、非常ニ違ッテ
居ルモノデアルト云フコトヲ信ズル者デアリマス、更ニ言葉ヲ
換ヘテ申シマスルナラバ、裁判所構成法ノ七十四條ニハ、二
箇ノ特色ノアルト云フコトニ留意シナケレバナラヌノデアリ
マス、此二箇ノ特色ガアル爲メニ、始メテ此司法權獨立ノ保
障ヲスルト云フ精神法理ト相悖ラザルノミナラズ、寧口二者
併行調和シテ、益〓裁判官ノ地位ヲ鞏固ニ致ス所以デアル
ト斯ウ考ヘルノデアリマス、ザスレバ其構成法第七十四條ノ
特色トハ何デアルカト申シマスルナラバ、卽チ以下申上ゲル
所ノモノデアリマス、其一人身體若クハ精神ノ衰弱ニ因リ
職務ヲ執ルコト能ハザル場合、是ハ要スルニ事實上執務ノ
不可能ノ場合ヲ指シテ居ルノデアリマス、ソレデアリマスカラ
其結果ト致シテ、其裁判官ノ地位ノ獨立ヲ侵害スルト云
フコトニハナラヌノデアル、其二ハ何デアルカト申シマスルト、
斯ノ如キ場合ニ於ケル、卽チ身體若クハ精神ノ衰弱ノ
場合ニ於ケル退職ト云フト雖モ、單ナル立法作用若ク
ハ行政作用ニ委ネズ致シテ、特ニ大審院又ハ控訴院ノ
總會ノ決議ニ依ルベク、裁判所ノ自治作用ニ委シク
アルノデアリマス、此自治ノ規定コン全ク此行政權モ、
立法權モ得テ司法權ノ獨立ヲ覬覦スルコトノ出來ナ
イ憲法保障ノ實現規定デアッテ、眞ニ千萬無量ノ意味
ガ此ニ存シテ居ルト考へ『ルノデアリマス、然ルニ今回御
提出ニナリマシタ定年法ハ、生理上身體ニモ又精神ニモ何
等ノ異狀ノ無イ、矍鑠トシテ壯者ヲ凌グ底ノ元氣ノ旺溢致
シテ居ル栽判官デモ、一定ノ年齢ニ達シタ曉ニハ、其瞬間ニ
於テ否ガ應デモ、退カナケレバナラヌト云フコトニナッテ居ルノ
デアリマス、斯ノ如キハ單リ人物經濟上ニ於テ、不得策デゴ
ザイマスルノミナラズ、確ニ憲法五十八條ノ二項、裁判所構
成法七十三條七十四條ノ擔保ノ規定ヲ、根柢ヨリ破壞サ
レルモノデアルト考ヘルノデアリマス、此見地ヨリ致シマスルト、
今囘ノ此政府ノ說明ヲサレマシタ構成法ノ七十四條ガ、憲
法違反デナイカラ、定年法モ亦憲法違反デナイト云フ御
說明ニハ、直チニ服從ヲスル譯ニハ參ラナイノデアリマス、モ
ウ一ツ言葉ヲ切ニシテ申シマスルト、定年法ハ執務ノ不可
能卽チ執務上無力デナイ者ヲモ退カシムルト云フコトガ、
ツ挿マレテアルト云フコトヽ、ソレカラ構成法七十四條ニ依ッ
テ裁判所ニ許サレテ居ル、卽チ裁判所自カラ決議ヲシテ、サ
ウシテ退クト云フ此自治ノ規定ノ存在ヲ、破壞スルト云フコ
トニナッテ居リマスルノデアリマス、故ニ此定年法ハ憲法、構
成法ノ保障ヲ擁護セントシマスル所ノ、裁判官獨立ノ權威ヲ
遮斷スル所ノ立法的一大意圖デアル、一層言葉ヲ進メテ申
シマスルト、定年法ハ嚴正ニ申シマスレバ立法權、汎ク申シ
マスレバ一種ノ行政權ノ作用ヲ以テ、司法ノ獨立司法ノ自
治ヲ蹂躪セントスルノ端ヲ開カントスルモノデアッテ、正ニ憲
法ノ危機ニ瀕シテ居ルト斷言シテモ防ナイト私ハ思フノデ
ゴザイマス、政府ハ此點ニ就キマシテ、矢張裁判所構成法ノ
七十四條ノ退職規定ト、定年法ノ老齡ト云フ一事ヲ以テヽ
直チニ職ヲ退シムルト云フ退職規定トノ間ニハ、何等區別
ガ無イト云フ御考ヲ持ッテ居ラッシヤルノデアリマスカ、是ガ第
二ノ疑問デアリマス、又次ニハ政府ノ說明ニ依リマスルト、
裁判所構成法ノ七十四條ハ、十數年來徒法空文ニ屬シテ
居ル、今後ト雖モ之ヲ適用スルト云フコトニ困難デアルガ故
ニ、竿頭一步ヲ進メテ、老年ニナレバ身體又ハ精神ノ衰弱
ハ、絕對ニ來ルモノト看做スト云フ法律ノ擬制ヲ作ッテ、司
法部ノ改善刷新ヲ圖ラントスルモノデアル、斯ウ言ハルヽノ
デアリマス、併ナガラ申スマデモナク困難デアルト云フコトヽ、
不可能デアルト云フコトノ間ニハ、餘程ノ隔リガアルト田心フ
ノデアリマス、是ハ無論歷代ノ司法大臣ニモ貴任ガアルノデ
アリマスガ、今ヤ我ガ司法部內ニ密著固定致シテ居リマス
所ノ弊害ヲ除去スベク、此定年法案ヲ提出シタト申サレマ
ス所ノ大木司法大臣閣下ハ、何故ニ、其所謂困難ヲ排斥シ
テ、定年法ノ規定ヲ受クベキ裁判官二十幾名、更ニ政府委
員ノ口調ヲ藉リテ申シマスナラバ、老齡職ニ堪ヘナイ所ノ裁
判官ニ對シテ、裁判所構成法七十四條ノ發案ヲ爲サラナ
カッタノデアルカト御尋スルノデアリマス、現ニ定年法ト云フ
立法行爲ヲ以テ、[其裁判官タル人〓ノ意思ニ反シテ退職ヲ
强ヒントセラルヽ大木司法大臣ハ、其立法行爲ヲ企ツル前
ニ當ッテ、現在致シテ居ル所ノ構成法七十四條ヲ適用シテ、
同一ノ目的ヲ達成シ得ベキ境地ニ立チナガラ、其適用ヲ促
スベキ御發案ヲ爲サルト云フ御勇氣ハ無イノデアリマスカ、
斯樣ニ御尋スルノデアリマス、政府ハ貴族院ニ於テ、構成法ノ
七十四條ハ空文徒法用井ルニ所ナシト言ハレタ爲メニ、
貴族院議員ヨリ質問ヲ受ケラレマシタ、斯樣ニ權威ノ無イ
效用ノ乏シイ法律ナラバ、此場合斷然御廢止ニナッテハドウ
デアルカト云フ質問ヲ受ケラレタノデアリマス、之ニ對シテ政
府ノ御答ニナル所ニ依リマスト、イヤソレハサウハ參リマセヌ、
身體ノ衰弱致シタ者デアルカ否カト云フコトニ就テハ、是ハ
適用ガ出來ルノデアリマス、又年ノ若イ裁判官ニハ此適用
ノ餘地ガアリマスカラ、尙ホ存置スルノ必要ガアリマスト答
ヘラレテ居ル、此說明ノ趣旨カラ致シマスルト、裁判所構成
法七十四條ヲ適用スベキ範圍ハ、精神ノ衰弱致シタ年ヲ
取ッタ人ニ向ッテ適用スルコトハ、出來ヌト云フ意味ニ理解
ヌルコトガ出來マス、然ルニ其舌ノ根未ダ乾カザルニ當ッテ、
鈴木司法次官ハ斯樣ニ答辯致シテ居ラルヽノデアリマス、
定年法ノ規定ニ依シテ職ヲ退カシムルケレドモ、五箇年卜云
フ期限ヲ延ベ得ル所ノ決議規定ガアル、斯ウ云フノデ、此決
議規定ヲ說明セラルヽニ當ッテ斯樣ニ述べテ居ル、假令此
定年法ノ適用ヲシ得ベキ年齡ニ達シタ裁判官デアッテモ、此
男ハマダ精神ニ於テモ身體ニ於テモ、壯者ヲ凌グモノデアル
ト斯ウ認メタ場合ニ於テハ、總會ノ決議ヲ求メ、卽チ此決
議規定ノ運用ニ依ッテ、適材ヲ逸セザランコトヲ期待シタノ
デアリマスト答ヘラレタノデアリマス、若シ此定年法ノ中ニ
裁判官ノ延年規定ノ運用ノ出來ル位デゴザイマスルナラバ、
何故ニ裁判所構成法七十四條ノ退職規定ノ運用ガ出來
ヌノデゴザイマスカ、是ガ卽チ私ノ疑デアルノデアリマス、殊ニ
豊島政府委員ハ、定年法制定ノ已ムベカラザル所以ノ理由
ヲ說明セラレテ、斯樣ニ申シテ、居ラレマス、裁判官ハ他ノ行
政官トハ其趣ヲ異ニシテ、當面ノ問題デアル事件ニ關スル、
總テノ取扱ヲ自ラ爲サナケレバナラヌ特殊ノ職務ヲ有シテ居
ル官吏デアルカラ、年ヲ重ヌル多キニ至ッテハ、自然其職ニ堪
ヘナクナルノデアリマス、云々ト說明サレテ居リマス、其所謂
裁判事務ハ、普通一般ノ事務トハ性質色彩ヲ同ジクシナイ
ト云フ點カラ見マシテモ、裁判官ノ執務狀態ニ鑑ミテ、其
有形ノ事績カラ機能的ニ推斷察知致シマシタナラバ、執務
者タル裁判官ガ、果シテ精神的衰弱者デアルカ否カ、モウ一
ツ言葉ヲ換ヘテ言フト、其裁判官ハ執務上無能力者デアル
カ否カト云フコトハ、自ラ判明シ得ラレル譯デハアリマスマイ
カ、殊ニ此栽判所ガ裁判所構成法ノ七十四條ノ規定ニ依ク
テ、退職決議ヲ致シマスル場合ニ就テハ、何等證據方法ニ
就テ制限束縛ヲ致シテ居ラヌノデアリマス、アリマスカラ致シ
テ、傳統的困襲的惡習慣ニ囚ハルヽコトナク、敢然トシテ一
刀兩斷ノ處置ニ出ラレマシタナラバ、其困難ハ自ラ刀ヲ迎ヘ
テ解クコトニナル、隨テ裁判所構成法七十四條退職處分
ト云フモノハ、所謂能ハザルニ非ラズシテ、爲サヾルナリト云
フ歸結ニ接シハシナイカト云フコトヲ疑フノデアリマス、御承
知ノ如ク司法當局自己ノ職務ヲ閣上ニ束ネテ置イテ、徒ラ
ニ斯ル立法事業ヲ爲スベキモノデアルト云フ謗ヲ自ラ生ジ
テ參ルノデアリマス、是ガ卽チ私ノ第三ノ疑問デアリマス、
又其次ニハ司法大臣ノ御說明ニ依リマスト、能力ノ有無ヲ
判斷スルノニ困難ヲ感ズルノミデハナイ、一朝控訴院又ハ
大審院ノ總會ニ付議サレタ時ニ當ッテ、其決議ノ客體トナ
ルベキ裁判官ハ、舊イ人デアル、[位置ノ高イ人デアルガ爲メ
ニ、若クハ其決議ヲ爲スベキ裁判官モ、亦總テ同一ノ運命
ニ遭遇スベキ虞ガアル人デアルガ爲メニ、總會二付議シテモ
甚タ思ハザルノ兆候ヲ呈スル爲メニ、其付議ヲ撤回スルノ
已ムヲ得ザル所ノ虞ガアル、嘗テ右樣ナ實例モアッタヤウニ
記憶スルト云フコトヲ述」ベラレテ居ルノデアリマス、是ガ事
實デアルト云フコトニナリマスレバ、由々シキ大事デアルト考
ヘルノデアリマス、一時世間ニ喧傳セラレマシタ、司法官
ノ化石問題呼ハリ抔ト較ブベキモノデナイト云フ位
二重ニシク私ハ考へテ居ル、何トナレバ身苟モ裁判
官ノ職ニ在ル者ハ、謹嚴廉直ニシテ、職務ヲ執ルニ當ヲテハ
公明正大、其間ニ一點ノ私心アルト云フコトハ許サナイノ
デアリマス、然ルニ法相ノ御說明ノ趣旨ニ依リマスト、我ガ
帝國ノ裁判官中ニハ、一身ノ利害ニ關ハリ、若クハ情實因
緣ニ泥ンデ、自己本然ノ職務ヲ公正ニ取扱フコトヲシナイ
ト斯ウ仰シヤルノデアリマス、斯樣ナ人ニ對シマシテハ、別ニ
此定年法ヲ御設】ケニナラストモ、又栽判所構成法ノ七十
四條ヲ御適用ニナラズトモ、憲法五十八條第二項ノ埒外
ニ在ル所ノ裁判官ニ對シテハ、判事懲戒法ヲ直チニ御適用
ニナッタラドウデアリマス、判事懲戒法ノ第一條ニハ、斯樣ニ
規定セラレテ居ルノデアリマス、【第一條「凡ン判事ヲ懲戒ス
ルハ左ノ場合ニ於テ懲戒栽判所ノ一裁判ヲ以テスヘシ、第一
職務上ノ義務ニ違背シ又ハ職務ヲ怠リタルトキ」トアリマ
ス、裁判官タル者ガ自己ノ利害若クハ他人ニ對スル情實ノ
爲メニ、本然ノ職分ヲ行フコトヲ躊躇]スルガ如キ、若クハ之
ヲ行フニモ偏頗ナルガ如キ判事ハ、其職分上ノ義務ニ違背
シ、又職分上ノ義務ヲ怠ッタモノデハアリマスマイカ、政府當
局殊ニ司法省ハ、斯ノ如キ裁判官ノ存在ヲモ寛假認容ナ
サルノデアリマスカ、又右ハ確的ナル證據ニ立脚セズシテ、揣
摩憶測ニ依リマシテ、裁判官ノ立場ヲ斯ノ如ク理解ヲセラ
レテ斷言ヲセラレタモノト云フコトニナリマスレバ、其栽判官
ニ對シマシテハ甚ダ氣ノキ母ニ堪ヘヌト同時ニ、其裁判官ハ、
極メテ司法當局ノ爲メニ、誹毀侮辱ヲ受ケタモノト謂ハナ
ケレバナラヌノデアリマス、ソレカラ裁判官ト雖モ人間デアリ
マスカラ、現代ノ思想ガ極メテ複雑デアル際ニ、一ニ理想ニ
依シテノミ裁斷處理セラルベキモノデハアリマスマイ、デアリマスル
カラ普通裁判所ニ依ッテハ、民事刑事ノ事件ヲ扱ヒマス時分
ニ、場合ニ依リマシテ私ハ此事件カラ囘避シタイ、此事件ノ
裁判ハ致シタクナイト云フ規定ガアルノデゴザイマス、故ニ其
精神ヲ酌ンデ、若シ又其精神ヲ酌ムコトガ六ケシイト云フコ
トニナレバ、特ニ法律ヲ改正ナサッテモ、裁判官ノ退職ヲ決議
スル場合ニ回避ノ途ヲ御設ケニナッテ、サウシテ構成法七十
四條ノ運用ヲ圓滿ニナサルト云フコトニナレバ、何等妨ガ無
イデハゴザイマスマイカ、然ルニ一二ノ裁判官ガ云々ヲ致シ
タト云フ事例ノ有ル故ヲ以テ、直チニ裁判所構成法七十四
條ノ適用ニ御考ヲ御斷チニナッテシマッタト云フコトハ、餘リ
御輕擧ノ沙汰デアッテ、其職ニ忠ナル所以デナイト私ハ信ズ
ルノデアリマス、大木司法大臣ノ如キ練達堪能ノ士ガ其職
ニ在ラセラレル間ニ於テ、銳意熱心ニ部下ヲ督勵致シテ、裁
判官ヲ鞭撻ナスッタナラバ、定年法ノ施行ヲ待ツマデモナク
從來ノ積弊ヲ一掃致シテ、司法刷新ノ曙光ハ、確ニ之ヲ天
ノ一方ニ認ムルコトガ出來ハシナイカ、進ンデ其點ニ向ッテ御
努力ニナリマスト云フ御考ハ無イノデアリマスカ、是ガ第四
ノ疑デアリマス、第五ニハ大木司法大臣ハ此定年法ヲ擁護
スル爲メニ斯樣ナ御說明ニナッテ居リマス、大正二年山本內
閣當時ニ、單·行法ト致シテ裁判官ノ体職規定ヲ設ケタコト
ガアル、其体職規定ハ憲法違反デナイカラ、此定年法モ亦
違反デナイ、斯樣ニ御辯護ニナッテ居ルノデアリマスガ、併ナ
ガラ其休職規定ニハ三ツノ異リタル場合ガアルト云フコトノ
記憶ヲ、新タニセナケレバナラヌト私ハ思フノデアリマス、其
一ハ裁判所ノ廢止、及名稱變更ノ爲メニ栽判所ノ數ヲ減
少シタイト云フコト、其二ハ休職ハ一時的デアッテ、人數ガ限
ラレテアッタト云フコト、其三ハ休職ヲ命スル栽判官ガアルト
キニ於テ、裁判官自己ノ願ニ依ル場合ノ外ハ、總テ此大審院
ノ總會ニ掛ケテ決議ヲナスト云フコトガアッタノデアリマス、デ
アリマスカラ致シテ、之ヲ裁判所構成法ノ七十四條ノ自治
ノ規定ニ比較ヲ致シマスルト云フト、其間ニ何等ノ區別ハ
無イデアリマス、(「簡單」ト呼フ者アリ)又休職法ニハ其條文
自體ガ示シテ居リマスル通リニ、此一時限リト云フコト、裁
判所ノ數ガ減ッテシマウト云フコトハ明カニナッテ居リマスルノト、
此時ニ方ッテ此法律ヲ出サレタ趣意ハ、時ノ名大臣ト言ハ
レタ所ノ松田法相ガ、司法省ノ如キ貧乏世帶デモ、是ダケ
ノ行政整理ガ出來ルデハナイカト云フ手本ヲ示ス爲メニ、
時ノ權道トシテ出サレタ所ノアノ法案デア』リマス、實ニ已ム
ヲ得ナカッタモノデアルト同時ニ、其已ムヲ得ナカッタ場合ノ規
定デモ、矢張此司法省ガ獨斷專行デ以テ、若クハ立法作用
ニ依シテ、當然裁判官ヲシテ職ヲ退カシムルコトニハナッテ居
ラズ、矢張此大審院ノ決議ニ依ルト云フ規定ガ遺サレテ居
ルノデアリマス、此點ニ就テハ、私ハ一ツノ證據ヲ擧ゲテ置キ
タイト思フ、現ニ時ノ政府委員デアッタ司法次官小山溫氏
ハ斯樣ニ言ッテ居ラレマス、同氏ノ說明セラルヽ所ニ依ルト、
「ドウモ刑法ノ宣告又ハ懲戒處分ニ非ラザレバ、如何ナル場
合ニ於テモ職ヲ奪ハルヽコトガ無イト云フノモ極端デアルガ
又アノ免職ト云フハ、官ノミヲ指シタモノデアルト云フ判事
タル虚名ヲ存シテ置ケバ、如何ナル。立法行爲デモ出來ルト
云フ主張モ亦極端デアル、故ニ此度ノ休職法ニハ大審院ノ
決議ニ依リテ、休職セシムルコトヲ得ル旨ノ一自治規定ヲ置
イタノデアル」斯ウ云フ趣意ノ說明ガセラレテ居ルノデアリマ
ス、今定年法ヲ見マスルト云フト、一體何所ニ其自治規定
ト云フモノガ遺シテ居ルノデアルカ、更ニ無イノデアリマス、立
憲思想ノ發達致シマシタル今日ニ於テ、自治作用ニ依ッテ
此憲法保障ノ富ヲ擧ゲラレテ居リマスル、其眼目ヲ取去ッテ
モ、尙ホ此司法權ノ獨立ハ冒濱セラレテ居ラヌト仰シヤルノ
ハ、一體ドノ點ニ在リマスカ、其次ニハ大木司法大臣ハ斯樣
ニ說明ヲシテ居ラレマスル「爰ニ必要ナル事ハ本案ノ效力要
不要ト云フコトデアル、諸君、極メテ冷靜ニ又司法ノ現狀ニ
鑑ミズシテ、御考慮ヲ願ヒタイト思フ次第デアリマス、何十
年モ以來殆ド七十三條以外ノ條件ハ實現シ能ハナイノデ
アリマス、實現スル必要ガ無カッタノデハナイ、ソレヨリモ前ニ
モ實例トシテ種々ノ實例ガアッタヤウデアリマス」云々ト述ベ
ラレテ、如何ニモ此定年法ノ成立ノ急ナルコトヲ鼓吹セラレ
テ居ルノデアリマス、私ハ其熱心ト努力ニ伴フ所ノ御誠意
ハ、飽マデモ諒ト致シマスルガ、唯ダ目的ノ爲メニ手順ヲ誤
ラレテ居ルデハナイカト云フコトヲ氣遣フノデアリマス、譬ヘテ
見マスレバ、大木司法大臣ガ自己ノ主張ヲ確ムベク御援用
ニナリマシタ休職法ノ如キデモ、司法ノ自治ヲ認メテ居ルノ
デアリマスカラ、今回ノ定年法ヲ、其体職法ノ程度ノモノニ
御改メニナルト云フ御趣意デハ無イノデアリマスカ、又根本
的ニ憲法ノ改正ヲ企テラレルノカ、ソレガイヤト言ハルヽナラ
バ、憲法五十八條一項ノ規定ニ立戾ッテ、定年法ノ此職ヲ
奪フト云フ規定ヲ、裁判官ノ任命資格規定ニ改メテ、以テ
所謂司法刷新ノ目的ヲ達スベキ手段ヲ、御變更ニナルト云
フコトノ御意志ハ無イカト御尋スルノデアリマス、憲法ノ五
十ハ條ノ第一項ノ規定ハ、裁判官ノ在職ノ規定ニ非ズ致
シテ、任命資格規定デアルト云フコトハ、其五十八條ノ一項
ニ「裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ備フル者ヲ以テ之ニ任
ス」トアル、此文理ヲ裁判所構成法第二編第一章ノ表題
「判事又ハ檢事ニ任ゼラルヽニ必要ナル準備及資格」トアル
ニ對照ヲ致シテ、明カナル所デアリマス、幸ニ此任命資格規
定ニ御改メニナッテ、現在ノ栽判官ニハ既得ノ權ヲ認メテ、定
年法實施後ニ任命ヲセラレタ裁判官ノミ、此定年法ヲ規定
セラルヽ云フコトニナリマシタナラバ、爰ニ始メテ憲法違反ト
云フ疑ガ晴レ、我判所構成法七十四條ノ規定ノ厲行ト相
俟ッテ、徐々ニ司法改善ノ效果ヲ奏スルコトガ出來ルト思フ
ノデアリマス、此點ニ就テハ政府ハ如何ナル御考ヲ御持ニナ
ルノデアリマスカ、之ニ就テ一寸私ハ引用致シテ置キタイモ
ノガアル、ソレハ此今六問ニ聯連ヲ致シテ居リマスガ、現ニ此
定年法ハ昨年ノ特別ノ議會ニ貴族院ニ出マシタトキニ、未
議了ニ終リマシタ、其未議了ニ終リマスト同時ニ、或ル裁判
官ガ憲法違反論ヲ公ケニセラレタニ就キマシテ、司法省ハ倉
皇トシテ皆川參事官ヲ致シテ、其反駁論ヲ公ケニセシメラ
レタコトガアルノデアリマス、所ガ其論ハ吾ミカラ見マスルト、
如何ニモ不徹底デ、寧ロ淺薄ノ嫌ガアル、更ニ此司法省ハ
人ヲ物色シテ中島弘道氏ヲ得ラレ、卽チ同氏ヲシテ定年法
ノ違憲デナイコトヲ論ゼシメラレタノデアリマス、中島氏ガ慥
ニ其議論ヲ公ケニセラレマシタノハ、此法曹界ノ記事-十
一月三十日法曹界ノ記事ニ載ッテ居リマス、中島氏ノ論ヲ
讀ンデ見マスルト、如何ニモ結論ニ至ッテハ、定年法ハ憲法
違反デハナイト論ジテ居ラレマスケレーモ、其結論ニ到著ス
ルマデノ間ノ此道程ニ於テハ、定年法ハ確ニ憲法違反デ
アルト明確ニ斷論ヲセラレテ居ルノデアリマス、其結果トシ
テ私ハ問ヒタイト云フノハ此點デアリマス、判事定年法ガ憲
法ニ違反ヲスルト云フノハ、同法ノ本質ニハ決シテ關係セズ
致シテ、規定ノ方法ガ不完全デアルカラデアルト斯ウ云フ論
ヲ立テラレテ、サウシテ若シ此定年法ヲシテ憲法違反ト云フ
非難ヲ免レシメント欲スルナラバ、[此二箇ノ法案ノ中其一
ツヲ採用シナケレバ、憲法違反タルコトハ、ドウシテモ免ルヽ
コトハ出來ヌト結論セラレテ居ルノデア.リマス、其言ウテ居
ラルヽ第一案ハ、本法公布後一定ノ期間其實施ヲ猶豫ス
ルコトヽ云フ事ガアル、ソレカラ第二案ト致シテハ、其實施當
時既ニ停年ニ達シテ居ル判事、其後一後ノ期間內ニ定年
ニ達スル判事ニ對シ、其定年退職ガ裁判所構成法ニ於ケ
ル、司法權ノ獨立ヲ害スルコトヲ理由トシテ、判事議會ニ向ッ
テ、退職猶豫ノ決議ヲ請求スルノ權ヲ與ヘルコトヽ、此二案
ヲ提供致シテ居ラルヽノデアリマスルガ、今回此提出ニナリ
マシタ栽判所構成法ノ附則ニ依リマスルト、斯樣ナ事ガア
リマス、「本法施行ノ際現ニ判事又ハ檢事ノ職ニ在ル者ニ
シテ本法施行ノ日ニ於テ第七十四條ノ二又ハ八十條ノ二
ヲ規定スル年齡ヲ超ユル者及本法施行ノ日ヨリ二十日內
ニ於テ其年齡ニ達スル者本法施行ノ日ヨリ二十日ヲ經テ
退職スル者トス」トアルノデアリマス、デ是ハ卽チ只今ノ此引
用致シマシタ中島氏ノ議論ヲ採用セラレタルモノニ非ラズ
ヤト云フ疑ガアルノデアリマス、若シ果シテサウデゴデイマス
ルナラバ、中島氏ノ議論ノ憲法五十八條ノ第一項ノ準用
論ヲ認ムルニ於テ、始メテ施行スル所ノ議論デアリマスルガ、
サウ致シマスルト云フト、政府ハ此中島氏ノ議論ヲ採ッテ、矢
張憲法五十八條一項ノ準用規定タラシメタト云フ意味デ
ゴザイマスルカ、是モ序ニ伺ッテ置クノデアリマス、ソレカラ(「簡
單」ト呼フ者アリ)餘計遣リマセヌガ、モウ少シデス、(「簡單ニ」
ト呼フ者アリ)斯樣ニ裁判官ノ資格任用規定ト一云フコトニ
致シマスルト、忽チ此爛頭焦眉ノ急ニ迫ッテ居ルト司法省ガ
仰シヤル所ノ、司法ノ改善ガ容易ニ擧ラナイト云フ憾ガアル、
此疑問ガ出テ來ルノデアリマスケレドモ、『併ナガラ老齢ナル
裁判官ノ此退職規定ノミガ、必ズシモ此司法部ノ刷新改
善ヲ圖ル唯一ノ方法デハナイト私ハ思フ、他ニ幾ラモ此方
法ガアルト思ヒマスルト同時ニ、若シ立法ノ必要ガアルトス
レバ、他ノ立法ヲ企テヽモ、矢張此司法部ノ刷新改善ヲ御
圖リニナルト云フ御考ハ無イカ、無暗ニ此老朽淘汰ノミガ、
司法刷新改善ノ絕對的方法デアルガ如ク言ハルヽノハ、
如何ニモ疑ハシイト思フノデアリマス、ソレカラ其次ハ(「長イ
ネドウモ」ト呼フ者アリ)若シ此政府ハ憲法違反デナイト云
フコトニ、確キ御自信ガアル譯デゴザイマスルナラバ、一體何ヲ
苦ンデ此延年規定デアルトカ、若クハ此退職ヲ致シタ者ニ五
割ノ增額ノ恩給ヲ附與スルト云フガ如キ規定ヲ、御置キニ
ナッタカト云フコトニ就イテ疑ガアルノデアル、ドウモ公明正
大ナル所ノ立法ニ伴フベキ規定デハ、是ハ斷ジテナイト私ハ
思フ、政府ノ說明ニ依リマスト、裁判所構成法ノ七十四條
ノ退職ト其精神ガ同ジモノデアルト政府ハ言ハレテ居ルガ、
老年裁判官ガ其職ニ在。テ進路ヲ塞イデ居ルノハ、司法部
內ノ一種ノ弊害デアルト言ハレテ居ルノデアリマス、法ノ適
用ヲ嚴正ニスルコソ當リ前デアッテ、其間何等斟酌ヲナサル
トカ、若クハ保護ヲナサルト云フ必要ハ無イノデゴザイマセウ
ガ、然ルニ却テ此延年規定デアルトカ、恩給ノ規定デアルト
カ云フノハ、寧口宋襄ノ仁、尾生ノ信タルノ嫌ハナイカト云フ
コトヲ疑フノデアリマス、尙ホ其次ニ定年法ト云フ立法行爲
ハ、今將ニ此文化發展ノ渦中ニ在ル我ガ裁判官ノ能力ノ有
無ヲ年齡ニ依シテ定メントスルモノデアッテ、是ハ確ニ時代錯
誤ノ甚ダシキモノデアル、政府ハ延年ノ規定ガアルト云フ故
ヲ以テ、有能力者ヲ逸スルガ如キコトハナイト言ハレマスケレ
ドモ、(「簡單」ト呼フ者アリ)一定ノ年齡ニ達スレバ、法律ノ
擬制ニ依ッテ、一樣ニ悉ク無能力者ニ推定ヲスルト云フコト
ニナッテ居ルノデアリマス、年ヲ延ブル-延年ト云フコトハ、
司法大臣ノ發案ト裁判所ノ決議トニ依ッテ、實現ヲ可能ナ
ラシムルニ過ギナイ所ノ、例外規定デアルコトニ思ヲ及ボシ
マシタナラバ、曆ノ上ノ年齡ヲ標準ト致シテ、我國現在ノ栽判
官ノ能力ノ有無ヲ斷ズルト云フ不當ニ陷イルコトハ、疑ガナ
イノデアリマス、(「餘リ長イ」「簡單ニ願ヒマス」「委員會デヤ
リ給へ」「議長々々」ト呼フ者アリ)勿論司法省ハ學者揃デ
アリマスケレドモ、法律的ニ專門デアッテ、生理學トカ醫學ト
カ云フ御方面ニハ確ニ門外漢デアル、定年法ヲ提出セラル
ルニ當ッテ、此點ニ御考慮ヲ御費シニナッタコトハ勿論デアリ
マセウケレドモ、進ンデ此専門家ノ意見ヲモ徵セラレ、考慮
ニ資セラレタノデアリマスカドウカ、若シ左樣ナ譯デアリマス、
ルナラバ、専門家ノ意見ナルモノヽ要旨ヲ承リタイ、若又左
樣ナ事ガ無イト致シマスレバ、其大膽ト不用意トニ驚カザル
ヲ得ナイノデアリマス、最後ニ御尋ヲシタイノハ是デアリマス、
本案提出ノ動議ニ就キマシテハ、世間ニ種々噂サレテ居リ
マスガ、其噂ノ一ニ斯様ナ事ガアル、今回ノ定年法ハ司法閥
野心ノ發露デアルト云フ噂デアリマス、其噂ノ內容ト致シマ
シテハ、定年法ガ通過實施ノ曉ニ於テハ、某大官ガ大審院長
ニ昇進ヲシ、司法省ノ某大官ガ其檢事長ノ後ヲ襲ヒ、又司
法省ノ局長以下ノ方々ハ、退職裁判官ノ後任者トシテ
ソレ〓〓補任ヲセラルヽノデアルト、斯樣ニ噂ヲ致シテ居リマス
ル、是ハ固ヨリ私ハ齊東野人ノ言ト致シテ信ズルモノデハゴ
ザイマセヌ、噂ハ飽マデモ噂デアッテ、事實デハナイト思フノデ
アリマスケレドモ、(「ソレナラ噂ナドヨシタガヨイ」ト呼フ者ア
リ)此構成法ノ七十一條ノ二ニハ斯樣ナ規定ガアルノデア
リマス、前三條ノ規定ノ適用ニ就テハ、判事又ハ檢事タル資
格ヲ有スル司法省各局長、司法省參事官ノ在職ハ、之ヲ判
事ノ在職ト看做スト云フ規定ガアルノデアリマス、申スマデ
モナク此現行ノ裁判所構成法ニハ、訟訴院ノ判事タルニハ
五年以上、大審院ノ判事タルニハ十年以上、官選辯護士
ノ職ニ在ラザレバ不可ナリト云フ趣旨ノ規定ガアルノデアリ
マス、而シテ定年法ガ實施セラレテ(「簡單々々」ト呼フ者ア
リ)職ヲ退ク裁判官二十幾名餘ノ大部分ハ(「ソンナ質問ガ
アルカ」ト呼フ者アリ)控訴院若クハ大審院ノ職員中ニ在ル
モノヽ如ク承ッテ居ルノデアリマス、此三箇ノ形影ガ伴フ所
ノ狀態ハ、一體何事ヲ語。テ居ルノデアリマセウカ、自然今述
ベタ世間ノ噂ニ册クト云フ(「噂ナドハヨシ給ヘ」ト呼フ者ア
リ(嫌ハアリマスマイカ、誤ッテ以上ノ噂ヲ信ズル者ガ若シア
タト致シマシタナラバ、折角ノ此司法ノ刷新改善ノ爲メノ提
案ガ、無權威無價値ノモノト墮スルノ虞ハアリマスマイカ、ソ
コデ私ガ御尋シタイノハ、【定年法第七十四條ノ二ノ規定ヲ
御置ニナッタ趣意ハ、ドウデアルカト云フ疑ガ起ルノデアリマ
ス、以上十一點ニ對シマシテ、明快ナル御答辯ヲ煩シタイノ
デアリマス、假令政府ノ御答ニ滿足シナイモノガアリマシテ
モ、再質問ハ勿論之ヲ委員會ニ讓リマシテ、此議場ニ於テ
重ネテ之ヲ爲スト云フコトハ致シマセヌケレドモ、幸ニ公開
セラレタ此議場ニ於テ御答ヲ得マシタナラバ、私ト感ヲ同ジ
ウスル他ノ多クノ國民モ亦疑ヲ解クコトヲ得マシテ、適從ス
ルコトガ出來ルト云フ便宜ガアリマス爲メニ、特ニ此一言ヲ
附加ヘテ置クノデアリマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=41
-
042・奧繁三郎
○議長(奧繁三郎君) 鈴木司法次官
〔政府委員鈴木喜三郎君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=42
-
043・鈴木喜三郎
○政府委員(鈴木喜三郞君) 横山君ノ御質問ニ御答ヲ
致シマスルガ、横山君ノ御質問中過半ハ御意見ト承リマシ
タノデゴザイマスルノデ、御質問ノ要領ニ向ッテ、私ハ簡單ニ
御答ヲ申サウト思フデアリマス、横山君ガ言ハレルガ如ク裁
判官ハ公平ヲ尙バナケレバナラヌ、司法ノ職務ト云フモノハ
最モ重大ナルモノデアル、吾人ノ生活條件ヲ維持スル爲メ
ニ、最モ必要ナル所ノモノデアルカラシテ、左樣ナ重大ナル職
務ヲ有ッテ居ル所ノ司法官ニ臨ムニ此定年法ヲ以テセバ所
謂司法權ノ獨立ヲ害スルコトナキカ、卽チ憲法五十八條ノ
第二項ニ牴觸シテ居ルモノデハナイカト云フ事柄ガ、御質問
ノ骨子ト承ッタノデアリ。マスルガ、政府ニ於キマシテハ、憲法
ノ條章何レノ點ニ於キマシテモ、[此定年法ガ憲法違反スル
ト云フ廉ナキヲ確信致シマシテ、提案ヲシタノデゴザイマス、
御示ニナリマシタル五十八條ノ二項ニ於キマスル「裁判官ハ
刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ處分ニ由ルノ外ノ職ヲ免セラルヽコ
トナシ」ト云フ文字ハ、此憲法ノ發布セラルヽ當時ニ於キマ
シテハ、職ト官トノ言葉ニ於キマシテ、儼然タル所ノ今日ノ
如キ明白ナル分界ハ無カッタノデ、ソコデ憲法五十八條ノ第
二項ニ用井タル所ノ職トハ、卽チ今日申シマスル所ノ官デア
ル、ソレ故ニ憲法發布ノ翌一年、卽チ明治二十三年ニ於テ
發布セラレマシタル所ノ懲戒法ニ依リマスレバ、懲戒法ハ確
カ第八條デアリマシタカ、懲戒處分ノ免職ト云フコトハ免
官ハスルノデアルト云フコトマデモ、明カニ規定シテアルノデ
アリマス、サウ云フ次第デアリマシテ、懲戒ノ一事項トシテ免
職ト云フ言葉ヲ用井テアルノハ、卽チ憲法五十八條ニ免職
ト云フ言葉ガアリマスルカラ、懲戒法ニハ免職ト書キマシタ
ガ、其第八條ニ免職ト云フノハ官ヲ免ズルノデアル、斯ウ云フ
事柄ノ註釋的ノ規定マデモアルノデゴザイマス、尙ホ此點ニ
就キマシテハ、司法省ガ裁判所構成法ヲ提出致シ、而シテ
樞密院ニ廻シマシタ卽チ明治二十二三年頃ノ裁判所構成
法ノ起案ノ沿革ヲ申上ゲマスレバ、最モ明白ニナラウト思ヒ
マスケレドモ、ソレハ委員會等ニ於キマシテ申上ゲルコトニ致
シマシテ、今日ハ省略致シマス、ソレカラ定年法ヲ斯樣ニ起
草スルニ先ダッテ、構成法ノ七十四條ノ適用ヲ試ミタルコト
ガ、無キヤ有リヤト云フ御質問デゴザイマスガ、ソレハ有リマ
セヌ、要スルニ構成法七十四條ハ身體精神ノ衰弱ニ由ッテ、
職務ヲ執ルコトガ出來ヌト云フコトノ事實的認定カラ致シ
マシテ、退職ヲ命ズル規定デアルノデス、今囘提出致シマシ
タル定年法ハ、法律ノ規定ニ依ッテ、先ヅ我ガ國人ニシテ、而
モ重大ナル司法權ヲ支配スル所ノ判檢事トシテ、六十三歲
六十五歳ガ先ヅ頽齡デアラウ、他ノ職務ニ就テハ六十五歲
七十歲ト云フコトニシテモ、職務ニ堪へ得ル職務ガアラウカ
ナレドモ、司法官ト云フ者ハ橫山君ノ仰セノ通リ、最モ貴重
ナル職務ヲ執ルノデゴザイマスカラ、六十三歲六十五歲ヲ
以テ頽齡ト法律ニ擬定シテモ宜カラウ、斯ウ云フ意味ニ於
テ出シタノデ、乃チ裁判所構成法七十四條ガ、既ニ違憲ニ
非ストノ御意見ヲ有スル橫山君デアルナラバ、此定年法
モ亦違憲ニ非スト云フ論結ヲ得ヤウト思ッテ居ッタノデアリ
やっ、(拍手起ル)サウ云フ趣意デアリマスカラ、構成法ノ七
十四條ノ精神ト今囘提案致シマシタル定年法トハ、毫モ精
神ニ於テ變ル所ガ無イ、斯ウ云フ考デアルノデアリマス、次ニ
ハ構成法七十四條ニ依ッテ退職ノ決議ヲ爲スー-總會ノ決
議ニ依シテ退職ノ決議ヲスル、卽チ精神ノ衰弱ヲ認定シテ退
職ノ決議ヲ爲シ得ルモノデアルナラバ、延長ノ決議ト云フ事
ニ就テモ、亦精神ガ良イカ惡イカト云フコトヲ見ルト云フコ
トニナル、若シ延長ノ決議ヲ本案ニ於テ認メ得ラルヽナラバ、
構成法七十四條ノ退職ノ理由タル所ノ、精神衰弱ヲ認定
スルコトガ出來ナイコトデナイヂヤナイカ、然ルニ貴族院ニ於
テ七十四條ノ適用ハ甚ダ困難デアル、ソレ故ニ七十四條ノ
存在スル外ニ、本法ノ如キモノヲ判定スル必要ガアルト政府委
員ガ言ッテ居ルガ、ドウモ合點ガ出來ヌ、斯ウ云フ仰セデゴザ
イマスルガ、成程理窟ハ理窟トシテ承リマスケレドモガ、實際
ニ於キマシテ延長ノ決議ト云フモノト、退職ノ決議ト云フモ
ノニ就テハ、運用ノ上ニ於テ如何ナル差異ガアルカト云フコ
トハ、横山君トシテハ常ニ訟廷ニ御出入ニナッテ居ル御經驗
上、是ハ御解リニナル事デアラウト私ハ思フノデアリマス、ソ
レカラ曾テハ司法省ニ於テ、七十四條ノ適用ヲ爲スベク總
會ノ決議ヲ求メタガ、半バニシテ之ヲ撤回シタ、其意味ト云
フモノハ、ドウモ裁判官ガ到底司法大臣ノ言フガ如ク、退職
決議ヲスルコトガ得ナイヤウニ思フ、卽チ私情ニ驅ラレテ、ド
ウモ或ル判事ノ退職ヲ決議スルト云フコトハ無イヤウニ察
知セラレタカラシテ、其申出ヲ撤回シタヤウナ事實ガ昔アッ
タト云フヤウナコトデアルガ、斯クテハ裁判官ト云フ者ハ實
ニ私情ニカマケテ、大切ナル己ノ守ルベキ分ヲ忘レテ、公正
ヲ缺クヤウナ司法官ガア"テハ由々シキ事デアル、左樣ナ者
ハ無イト思フガ、左樣ナ者ガ有リトセバ、大變ナ事デアルト
云フ仰セデコザイマスガ、ソレハ其通リ成程栽判官モ人デア
リマスカラ、情ハ勿論アル譯デアル、情ハアルケレドモ、私情
ニ驅ラレテ爲スベキ本分ヲ忘レ、爲スベキ職務ヲ外ニシ
テ、サウシテ正當ナル判斷ヲ爲サヌト云フヤウナコ
トハ決シテアリマセヌ、司法省ニ於テ一タピ總會
ノ決議ヲ求ムベク提出シタモノヲ、撤回シタト云フ事實ハ無
イノデアリマス、ソレカラ次ニハ大正二年ノ法律ニハ色〓ナ
條件ガアル、今囘ノトハ大ニ違フ、ソレカラ大正二年ノ法律
ノ程度ニシテハ、ドウデアルカト云フヤウナ御議論モアリマシ
タガ、大正二年ニ於キマシテハ、成程栽判所ノ廢止ニ依ッテ、
二百有餘名ノ判檢事ニ休職ヲ命スルト云フ規定デ、一時
的ノモノデアリマシタ、ソレハ裁判所ノ廢止ノ爲メニ穴員ヲ
生ジマスカラ、一時的ノ休職法律ヲ作ッタノデゴザイマス、是
トテモ左樣ナ法律ヲ作ラヌデモ、判檢事ニシテ行場所ガナケ
レバ、行場所ノ出來ルマデ待命ヲ仰付ケテモ宜イコトガ
アルノデアリマスカラ、斯樣ナ休職規定ヲ設ケナクテモ宜
イノデアル、併ナガラ休職ト云ヒ、退職ト云フ、決シテ憲法ニ
違反ヲシナイト云フコトハ、其時ニ於テ認メマシテ居ルカ
ラ、彼ノ規定ガ生レタノデアリマス、若夫レ職ヲ罷メ職ヲ退
ケシムルト云フコトガ、憲法違反デアルナラバ、大正二年ノ法
律又違憲ナラザルヲ得ヌノデアリマス、要スルニ違憲論トシ
マシテハ、私ハ左樣ナ考ヲ持タナイ、政府ハ其意味ニ於テ、本
法ハ違憲ニ非ズト考へテ居ル次第デアリマス、又大正二年
ノ程度ニ止メテ置ク考ハ無イカ、或ハ構成法ノ資格條件ト
シテ之ヲ規定スル考ハ無イカ、斯ウ云フ御質問デゴザイマシ
タガ、大正二年ノ法律ハ横山君仰セノ如ク一時的ノモノデ
アル、司法部ノ改善ハ、今年ヤ明年ニ止マル譯デハナイ、年ヲ
取ル者ハ年々一ツ宛年ヲ取シテ行クモノデアリマスカラ、年ヲ
取ッタト云フ故ヲ以テ、法律ノ擬制ニ依ッテ改革ヲ爲スモノデ
アルカ、今年ガ明年、明年ガ明年後ニ續クコトハ必然ノ結
果デアリマス、ソレデアリマスカラ、一時的ノ法律トスル譯ニ
參リマセヌ、又資格ト云フコトニシマスレバ、卽チ憲法ノ五十
八條ノ二項ト牴觸スルコトニナリマセウカラ、今囘提案シマ
シタルモノハ、資格ト云フコトニハ致サヌノデゴザリマス、ソレ
カラ次ニハ司法省ハ皆川書記官若クハ中島判事等ヲ手先
ニ使ッテ、本法ハ違憲ニ非ザルト云フコトノ論說ヲ書カシタ、
斯ウ云フヤウナ御質問ガゴザリマシタガ、左樣ナ事ハ絕對ニ
ゴザリマセヌ、成程皆川書記官、中島判事ハ、法曹記事ニ己
レノ信ズル所ノ論說ヲ揭ゲタコトハ是ハアリマスケレドモ、司
法省ガ命ジテ之ヲ爲サシメタト云フコトハ無イ、若シ夫レ司
法省ガ法曹記事ニ載セタト云フコトノ論說ガ、司法省ノ命
令デアルト云フナラパ、廣島控訴院長志方判事ガ此案ニ對
シマシテ、反對ノ意見ヲ表白シテ居ル、是亦司法省命ジタリ
ト謂ハナケレバナラヌ、左樣ナ事ヲ以テ司法省ガドウシタ斯
ウシタト云フコトハ到底ナイノデアリマスカラ、各自己レノ信
ズル所ノ意見ヲ法曹記事ニ載セルハ自由デアリマシテ、司法
省ハンレヲ止メル理由ハ無イノデアリマス、ソレニ依ッテ之ヲ
載セタノデアリマス、而シテ定年法ノ附則ニ於キマシテ、二十
日ヲ延長スルト云フヤウナ規定ヲ設ケタガ、是ハ中島判事
ノ意見ヲ採用シテソンナ事ヲシタノカト云フ、斯ウ云フ仰セ
デアリマスガ、サウ云フ事ハ無イノデアリマス、勿論誰ノ說彼ノ
說ト云フコトハ無イノデ、初カラサウ云フ事ニスルノヲ是ナリ
トシテ、提案シタ次第デアルノデゴザイマスル、尙ホ最後ニ本
案提出ノ動機トシテ、道路傳フル所ノ風說ニ依ルナラバ、其
栽判所ノ大官ガ大審院長ニナリ、其司法省ノ大官ガ其後
ヲ襲シテ、或ハ司法省ノ局長ガ出テ、裁判所ノ重要ノ地位ニ
著クト云フヤウナ風說ガアルガ、自分モ是ハ信ジナイト云フ
仰セデゴザリマスルカラ、更ニ之ニ答フルノ必要ハ無イト思ヒ
マスルガ、成程私モサウ云フ說ノアルコトハ聞イテ居リマス、或
ハ新聞ニサウ云フヤウナコトノアッタコトモ見マシタ、既ニ御質
問者橫山君ハ其疑ガ無イノデハアリマスルケレドモ、一旦
新聞等ニモ載リマシタカラ、此機會ニ於テ私ハ辯明シテ
置クコトガ宜カラウト思フノデゴザイマスル、決シテ司法省
ノ局ヲドウシヤウトカ、司法省ノ誰ヲドウスルトカ、誰ガド
ノ後釜ニナルトカ云フヤウナ事柄ハ、今カラシテ定ッテ居ル話
デハチイ、法ガ成立致シマシテ、實施期ニ至ッテ司法大臣之
ヲ實施スルノデアリマシテ、今カラ之ヲ豫測スベキ次第デハ
ナイノデアリマス、其中デ新聞ニ現ハレタ一節ニ、橫山君蓋
シソレヲ仰セダト思ヒマスカラ、私ハ進ンデ申上ケマスルガ、
私ノ名前ガ掲ゲラレテ、何カ私ガ司法省ヲ出テ、檢事總長
ノ後任トナルトカト云フヤウナ忌ハシイ事柄ガ記載シテアッ
タノデゴザリマス、私司法界ニ入リマシテ「ニニ三十年、未ダ
一點ノ私心私慾ヲ挾ンデ事ヲ爲シタコトハナイノデアリマス
(「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ、拍手起ル)本案提案ニ就キマシテ
モ、矢張私ハ此法律ヲ作ルニ就テ、最モ其立場カラ致シマシ
テモ、考ヘマシテ拵ヘタ法律デアルノデアル、此間ニ私ガ何カ
一ツノ地位ヲ得ンガ爲メニ、ソンナ汚イ根性ヲ以テ此法律
ハ作ラヌノデアル、(「ヒヤ〓〓」、拍手起ル)私ハ天下國家ノ爲
メニ、司法部ノ改善ノ爲メニ、此法律ノ必要ナルコトヲ確信
シテ提案シタノデゴザイマスルカラ、此點ハ幸ニ横山君御安
心アランコトヲ希望スル次第デゴザリマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=43
-
044・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧ヲ議題ニ付シマス
第三右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=44
-
045・岩崎勲
○岩崎勳君 兩案ヲ一括シテ、委員ノ數ハ特ニ十八名ト
シ、議長ニ於テ指名アランコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=45
-
046・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議三御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第四、度量衡法
中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス
第四度量衡法中改正法律案(政府提出、
貴族院送付)第一讀會
(小字ハ貴族院修正)
度量衡法中改正法律案
度量衡法中左ノ通改正ス
第一條度量ハメートル、衡ハキログラムヲ以テ基本トス
メートルハ融解シツツアル純粹ノ水ノ氷ノ溫度ニ於ケ
○示ス所ノ
ル國際メートル原器ノ○長トス
キログラムハ國際キログラム原器ノ質量トス
第二條メートルハメートル契約ニ依リ帝國ニ交付セラ
レタルメートル原器ニ依リ、キログラムハメートル契約ニ
依リ帝國ニ交付セラレタルキログラム原器ニ依リ之ヲ
現示ス
第三條度量衡ノ名稱命位ヲ定ムルコト左ノ如シ
度
ミクロンメートルノ百萬分ノ一
ミリメートルメートルノ千分ノ一
センチメートルメートルノ百分ノ一
デシメートルメートルノ十分ノ一
メートル
キロメートル千メートル
面積
平方ミリメートル平方メートルノ百萬分ノ一
平方センチメートル平方メートルノ一萬分ノ
平方デシメートル平方メートルノ百分ノ一
平方メートル
平方キロメートル百萬平方メートル
量
立方センチメートル立方メートルノ百萬分ノ一
立方デシメートル立方メートルノ千分ノ一
立方メートル
衡
ミリグラムキログラムノ百萬分ノ一
グラムキログラムノ千分ノ一
キログラム
トン千キログラム
前項ニ規定スル度量衡又ハ其ノ倍數若ハ分數ニ依ル
度量衡ニシテ土地又ハ液體ノ計量其ノ他特殊ノ場
合ニ用ウルモノノ名稱命位ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ
定ム
第四條ヲ削リ第四條ノ二ヲ第四條トス
第五條第一項中「度量衡ノ原器」ヲ「第二條ニ掲クル度
量衡ノ原器」ニ改メ同條第二項中「度量衡ノ原器」ヲ「前
項ノ原器」ニ、「原器ニ代用ス」ヲ「前項ノ原器ニ代用ス」
三段人
第五條ノ二本法又ハ本法ニ基キテ發スル勅令ニ依ラ
サル度量衡又ハ計量ノ單位ハ勅令ヲ以テ定ムル場合
ヲ除クノ外取引上又ハ證明上ニ之ヲ用ウルコトヲ得ス
第十五條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ百圓以下ノ
罰金又ハ科料ニ處ス
~第五條ノ二ニ違反シタル者
二當該官吏ノ訊問ニ對シ虚僞ノ答辯ヲ爲シ又ハ當
該官吏ノ職務執行ヲ拒ミ之ヲ忌避シ若ハ之ニ支障
ヲ加ヘタル者
第二十條ヲ削リ第十九條ノ二ヲ第二十條トス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
從來慣用ノ度量衡ハ勅令ノ定定ル所ニ依リ當分ノ內仍
之ヲ用ウルコトヲ得
本法施行前檢定ヲ受ケタル度量衡器又ハ計量器ニシテ
第三條第一項ノ規定又ハ同條第二項若ハ第四條ニ基
キテ發スル勅令ニ依ル度量衡又ハ計量ノ單位ニ依ラサル
モノニ付テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ其ノ檢定ノ效力ヲ失
ハシムルコトヲ得
〔國務大臣男說山本達雄君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=46
-
047・山本達雄
○國務大臣(男爵山本達雄君) 現今我國ニ行ハレテ居
リマスル度量衡ハ、尺貫等ノ固有ノ系統ト、又「メートル」封
度「ヤード」ト云フ如キ系統ガアリマシテ、色〓此物ヲ混用シ
テ居ルノデアリマス、故ニ總テノ取引ニ於テ、不不不利ヲ感
ズルコトガアルノデアリマス、旣ニ當議會ニ於キマシテモ、第
四十議會工業動員令ノ此法律ヲ制定スルニ當リマシテモ、
度量衡ノ統一ヲ圖ルト云フコトヲ附帶條件トシテ決シタル
事デアリマス、政府ニ於キマシテモ、此事ハ必要ト考ヘテ居
リマスガ、中〓重大ナル事デアリマスル故ニ、一昨年度量衡
及工業品規格調査會ヲ設ケマシテ、爾來此點ニ就キテ〓
究調査ヲ致シマシタ結果、之ヲ統一スベシ、而シテ其法律ハ
「メートル」式ニ統一スベシト云フコトノ答案ヲ得タノデアリ
マス、是迄我國ニ於テハ、尺、貫ノ如キ固有ノ度量衡ヲ用井
テ居リマシテ、至極便利デハアリマスルガ、是ハ內地ニ歸スル
ノデアリマシテ、外國ノ取引二對シ、又學術的ノモノニ對シ
マシテハ、不便不利ガ多イノデアリマスカラ、此度一切ノモノ
ヲ、世界ニ最モ汎ク通用致シマスル「メートル」式ニ改正シタ
イト云フ意味ヲ以チマシテ、此法案ヲ提出シタル次第デアリ
マス、ドウカ御賛成アランコトヲ希望致シマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=47
-
048・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 右議案ノ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ヲ議題ニ付シマス
第五右識案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=48
-
049・岩崎勲
○岩崎勳君 委員ノ數ハ九名トシ、議長ニ於テ指名アラ
ンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=49
-
050・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第六、刑法中改
正法律案第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長高見之通君
報告書
一刑法中改正法律案(禱苗代君提出)
右ハ本院ニ於テ別紙ノ通修正スヘキモノト議決致候此
段及報告候也
大正十年三月十八日
刑法中改正法律案委員長
高見之通
衆議院議長奧繁三郞殿
第六刑法中改正法律案(禱苗代君提出)
第一讀會ノ續((原題:窓)
(-ハ委員會修正)
刑法中左ノ通改正ス
第九十五條第一項中「三年以下ノ懲役又ハ禁錮二處
スヲ「三年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ千圓以下ノ罰金
ニ處ス」ニ改ム
第二百五十三條中「一年以上」ヲ削ル
〔高見之通君登壇、拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=50
-
051・高見之通
○高見之通君 禱君ヨリ提出ニナリマシタル刑法改正案
ノ委員會ノ經過ヲ御報告致シマス、其中第九十五條ト云
フモノヽ改正案ハ削除致シマシタ、第二百五十三條ダケノ
改正ヲスルコトニナッタノデアリマス、刑法第二百五十三條
ハ、業務上ノ自己ノ占有スル他人ノ物ヲ橫領シタル、詰リ業
務上横領罪ニ於キマシテ、一年以上十年以下ノ懲役ニ處
ストアルノヲ、一年以上ト云フダケヲ省クコトニシタノデア
リマス、ソレハ極ク些末ナ業務上ノ横領事件ニ於テモ、
年以上ト書イテアリマスル爲メニ、必ズ豫審ノ手續ヲ要スル
ト云フコトハ、實際ノ狀況ニ適セヌト云フコトカラシテ、此
「一年以上」ト云フ字ヲ削除スルコトノ改正案デアリマシテ、此
案ニ就キマシテハ最モ適宜ナル案トシテモ、政府ニ於テモ贊成
サレタノデアリマス、九十五條第一項ニ於キマシテハ、一般
ノ委員諸君ハ賛成デアリマシタケレドモ、政府ニ於テ未ダ全
然贊成ヲ表セラレナイ所ガアリマシタ故ニ、會期切迫ノ上ニ
之ヲ一部分ヲ削除シテ、最モ政府委員及委員會ノ全部ノ
一致シタル案ヲ貴族院ニ送ッタナラバ、必ズ此案ハ通過スル
ロト疑ナイト云フコトノ考カラシテ、一部ヲ削除シテ一部ヲ
決シタ次第デアリマス、故ニドウカ修正通リ御贊成アランコ
トヲ希望致シマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=51
-
052・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤヲ御
諮リヲシマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=52
-
053・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 第二讀會ヲ開ク】ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=53
-
054・岩崎勲
○岩崎勳君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、三讀會ヲ省
略シテ、委員長報告通リ可決確定セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=54
-
055・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ直チニ本案ノ第二讀會ヲ開キマス
刑法中改正法律案第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=55
-
056・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 御異議ナイト認メマス、仍テ本案ハ
委員長ノ報告通リ、可決致シマシタ、日程第七、養蠶業竝
ニ絹絲工業調査會設置ニ關スル建議案ヲ議題トシマス、
飯塚春太郞君
第七養蠶業竝絹絲工業調査會設置ニ關
スル建議案(飯塚春太郞君外四名
提出)
養蠶業竝絹絲工業調査會設置ニ關スル建議案
着蠶業竝絹絲工業調査會設置ニ關スル建議
政府ハ養蠶製絲竝絹絲工業ニ對スル統一的施設ヲ審
究シ以テ國策ヲ樹立スル爲養蠶業竝絹絲工業調査會
ヲ設置セラレムコトヲ望ム
右建議ス
〔飯塚春太郎君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=56
-
057・飯塚春太郎
○飯塚春太郞君 諸君本案ハ我蠶絲業竝ニ絹織物工業
ニ關スル問題デアリマシテ、本業ニ對シテ根本的發達政策
ヲ樹立シタイト云フノガ本案ノ目的デアリマス、(「分リマシ
タ」ト呼フ者アリ)サウ致シマシテ此ノ建議案ニ建議ノ理由
ヲ明記致シマセヌ爲メニ、此場合甚ダ恐縮ニ存ジマスルガ、
私共ノ責任上其大要ヲ、演說ヲ以テ爰ニ申述ベタイト存ジ
マスレバ、是非共此眞面目ナル案ニ就テ、暫ク御〓聽フ願
ヒタイト思ヒマス、(「謹聽」「簡單」ト呼フ者アリ)我ガ此蠶絲
竝ニ絹織物ハ、輸出貿易品ノ大宗ニ致シマシテ、國家經濟ニ
對シテ重大ナル關係ノ有ルト云フコトハ、諸君ノ篤ト御承
知ノコトデアリマスルガ、我蠶絲業ガ現在政府ノ保護獎勵
ト又當業者ノ不斷ノ努力ニ依リマシテ、近時大ニ發達ヲ致
シマシテ、其生產額ハ全世界ノ七割ヲ占ムルト云フヤウナ
場合ニナリマシタ、洵ニ盛ナリト稱スベキデアリマスガ、此輸
出生產額ノ約八割ト云フモノガ輸出致サレマシテ、又其輸
出額ノ八割ト云フモノガ、米國ニ輸出セラルヽノ實狀デアリ
マス、此輪出偏重ノ事實ガ、絲價激變ノ主ナル原因ノ一ツ
トナッテ居リマシテ、此我ガ輸出貿易ノ之ガ一大弱點デアリ
マス、(「成ベク簡單ニ願ヒマス」「是非簡單ニ願ヒマス」ト
呼フ者アリ)之ヲ除去調節スルニ非ザレバ、此我蠶
絲業ハ未ダ以テ基礎確實ノ產業ト云フコトガ出來
ナイノデアリマス、又支那ノ蠶絲業ハ、銀塊相場ノ低
落、世界的ノ絹織物ノ需用ノ增加、日本生絲ノ生
產費ノ暴騰、竝ニ近來歐米資本家ノ支那蠶業ニ
對スル啓發運動、其諸種ナル影響ニ依リマシテ、近キ
將來ニ必ズ大ニ勃興スルト云フコトハ明カデアリマス、
之ニ反シテ我蠶絲業ハ、玆許數年間ハ今日ノ盛況ヲ持續
シ得ルモ、之ヲ今日ノ儘ニ放任致シマスルナラバ、今後一二
十年ヲ出デズシテ、心ズヤ內ハ生產費ノ增加ニ苦ミ、外ハ支
那生絲ノ競爭ヲ受ケマシテ、頗ル困難ノ位置ニ陷ルト云フ
コトモ、是亦明カナル事ダラウト存ジマス、又翻ッテ我ガ輸出
絹織物ノ狀況ヲ察シマスルニ、其販路ハ殆ド全世界ニ亙リ、
其品種漸ク增加致シマシテ、輸出年額約二億圓ニ達シマ
シタ、之ニ生絲ニ比シマスレバ、未ダ其半バニ達セズト雖モ、其
輸出增加ノ年率ハ蠶絲ニ優リ、生絲ノ需要ガ近々數箇國
ニ限定セラルヽニ反シマシテ、絹織物ハ世界各方面ニ持續
的ニ交互的ニ需要セラレ、洵ニ前途洋々タルノ觀ガアリマ
ス、(「演說ヲ願ヒマス」ト呼フ者アリ)然レドモ我ガ絹工業ハ
未ダ幼稚ニ致シマシテ、歐米ノソレニ比シマシテ大ニ遜色ア
ルハ、頗ル遺憾トスル所デアリマス、我國ガ夙ニ絹業國トシ
テ名ヲ歐米ニ博シタルニ拘ラズ、我ガ此絹工業ノ發達ガ甚
ダ遲々タルハ、其原因種々アルト云ヒマスルガ、我國古來ノ
絹織物ハ著尺又ハ、帶類ト云フ〓ノニ致シマシテ、其形狀ガ
或ハ著尺ナラバ九寸幅、三丈、帶デアルナラパ一尺八寸一
丈ト云フヤウナ話デ、(「朗讀ヲ禁ジマス」ト呼フ者アリ)日本
ノ服装ニ特定専用セラレマシテ、國際的商品タルコトガ出
來ナイガ爲メニ、其生產ト其販賣ニ於キマシテ、國際的發展
ノ機會ヲ失シタルト云フコトガ主ナル原因ト存ジマスルガ
又我ガ從來官民ノ注意モ、絹工業ト云フモノヲ閑却シタル
結果ニ外ナラヌト信ジマス、惟フニ支那ノ蠶絲業ハ、近キ將
來ニ於テ、必ズ我ガ蠶絲業ノ動酸トナリマセウシ、又米國絹
業ノ發達ハ、今ヤ方ニ自國自給ノ域ヲ脫シマシテ、輸出絹
業國トシテ、我ガ輸出絹業ノ競爭者トナルノ形勢デアリマ
ス、洵ニ我ガ蠶絲業竝ニ絹工業ノ前途ニ對シテ、憂慮ニ堪
ヘザル次第デアリマス、ロ疋ニ於テ吾ミハ斯業ニ對シ根本的ノ
發展策ヲ講ジ、斯業ノ基礎ヲ堅實ニ致サナケレバナラヌト
存ジマスル次第デアリマス、(「マグ何枚アリマスカ」「速記者
ニ委セテシ給へ下トフ者アリ)而シテ蠶絲竝ニ絹工業ハ密
接ノ關係ヲ有スルモノデアリマスカラ、蠶絲業政策ノ根本方
針ト絹業政策ノ根本方針トニ於テ、一致點ヲ求メテ、ン
コニ始メテ、國策ト云フモノヲ樹立致サネバナラヌ
ト存ジマス、我蠶絲業ニシテ今日ノ盛況ヲ永遠ニ持續シ、進
ンデ世界的蠶絲界ノ覇權ヲ掌握セントスルナラバ、勢ヒ
原料勞銀ノ豐富低廉ナル天與ノ蠶業國タル支那ニ向ッテ、
發展ヲセネパナルマイト思ヒマス、而シテ彼我ノ蠶絲業ヲシ
テ經濟的ニ同化スルノ道ヲ講ジ、以テ世界無限ノ需要ニ應
ズルヤウニ致サネバナルマイト思ヒマス、然リ而シテ(笑聲)之
ヲ我ガ生絲貿易ノ現狀ニ徵シマスレバ、其生產額ハ輸出ニ
偏重シ、隨テ絲價ノ決定ガ常ニ他動的ニ支配セラレ、内ニ
其生產額ノ過半ト云フモノヽ消費力アリテ、之ヲ調節牽制
スルニ非ザレバ、時ニ或ハ劇甚ナル絲價ノ變動ヲ起シ、斯業
ノ根柢ヲ危ウスルノ虞ガアリマス、故ニ我ガ蠶絲業ハ世界的
ノ需要ヲ益〓增加セシムルト同時ニ、我國ニ於キマシテ絹工
業ヲ大ニ振興シ、國内ニ於テ生絲ノ消費額ヲ益〓增加スベ
キ所ノ方針ヲ立テナケレバナラヌト存ジマス、(拍手)又我ガ絹
工業ハ(「簡單々々」ト呼フ者アリ)內ニ豐富ノ原料ヲ有シ、風
土氣候全國殆ド之ニ適シ、操業ノ〓潔ナルコト、又機械操
縱ノ簡易ナルコト、我ガ婦女ノ勞働ニ適シ、又製作技術ノ如
キハ近時大ニ進步シ、一躍歐米ニ及ブベク、而シテ絹織物ノ
需要ハ益〓增加シ、販路世界方面ニ亙リ、交互的ニ需要ヲ持
續セラレルノ狀況ニ在リマシテ、前途洵ニ有望ナル事業デアリ
マス、今ニシテ官民協力保護獎勵其宜シキヲ得、尙ホ一般ノ
努力ヲ吝マズンバ、我國ノ眞ノ獨立的大工業トナシ得ルコトハ
信ジテ疑ヒマセヌ、又我ガ蠶絲業ヲ直接間接ニ最モ有力ニ
助長シ、内ハ以テ勞働問題ヲ緩和シ、外ハ以テ世界各國民
ヲ顧客トシテ、國利民福ノ增進ヲ圖リ得ル所ノ產業ハ、絹工
業ヲ措イテ他ニ求ムベカラズト信ジマス、我國ノ蠶絲業工業ノ
趨勢果シテ然リトセバ、(「簡單々々」ト呼フ者アリ)斯業ニ對ス
ル根本政策ハ我國ニ於テ大ニ絹工業ヲ振興シ、絹工業ト蠶
絲業トヲ統一的ニ連絡シ、又國內ニ於テ我ガ生產生絲ノ消
費額ヲ益、增加シ、斯業ヲシテ相互ニ經濟的彈力アル產業ト
ナラシムルコトヲ必要ト信ジマス、(「判ッタ〓〓」「委員會デヤリ
給へ」「謹聽々々」ト呼フ者アリ)故ニ斯業ニ對シ、品位品質ノ
向上、康價供給ノ實行、取引ノ安全、保護等ニ關スル一般的
改良施設ハ勿論ナルモ殊ニ絹工業中心主義ニ則リ、之ニ順
應スル諸種ノ施設ヲ實行セネバナリマセヌ、例ヘバ我國古來ノ
著尺又ハ帶類ヲ廣中長尺トナシ、內外共通國際的商品タ
ラシムルコトヲ奬勵スル施設、染色加工品ノ輸出ヲ奬勵スベ
キ施設、國際的特殊織物ノ製造販賣ヲ獎勵スベキ施設、織
物原料輸入稅ノ改正、商務官ノ官制ノ改正等ノ諸ミノ施
設ヲ實行シ又絹工業ト蠶絲業トノ統一的連絡ヲ圖リ蠶種
ノ選定又ハ製絲ノ方法ヲシテ特殊的織物ニ適セシメ、又製
絲操業ノ工程、竝ニ中間手數ニ於ケル無用ノ費用ヲ節約
スル等種々ノ施設ヲ實行セバ我ガ輸出絹織物ノ品種數量
益、增加シ、我ガ蠶絲生產額ノ過半ヲ我國內ニ於テ消費シ、
以テ我ガ製絲貿易ノ弱點タル輸出偏重ノ弊ヲ調節緩和シヽ
又相互ニ生產費ヲ減ジ、斯業ヲシテ經濟的彈力アル產業
タラシムルコトヲ得ルト信ジマス、(「マダ長イデスカ」ト呼フ者
アリ)モウ僅カデス、(笑聲)而シテ我ガ官民ノ斯業ニ對スル
對策ヲ見マスルニ、一定ノ方針ナク、施設區々ニシテ、更ニ
見ルベキナク、徒ラニ諸種ノ保護又ハ救濟ノ拙策ヲ弄シ、時
ニ或ハ大勢ニ逆行シ、斯業ノ進展ヲ阻碍スルコト之レ有ル
コトハ、從來ノ事情ニ徵シテ明カデアリマス、之ヲ今日ノ儘
ニ放任セバ、斯業ヲシテ前途或ハ危機ニ陷ラシムルノ虞ナキ
ヲ保スペカラズト信ジマス、故ニ吾ミハ我蠶絲竝ニ絹工業ニ
對シ、之ガ連絡統一ヲ圖リ、其發展ニ資スベキ根本的施設
ヲ審議シ一定ノ國策ヲ樹立スル爲メニ、政府ニ於テ速ニ絹
業調査會ヲ設立スルノ必要アルコトヲ認メ、本建議案ヲ提
出シタル所以デアリマス(「ヒヤ〓〓」拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=57
-
058・岩崎勲
○岩崎動君 本案ハ臭村安太郞君外二名提出、發明奬
勵ニ關スル建議案外三件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコト
ヲ希望シマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=58
-
059・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第八、水產銀行
設置ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマス、鵜澤宇八君
第八水產銀行設置ニ關スル建議案(鵜
澤宇八君外四名提出)
水產銀行設置ニ關スル建議案
水產銀行設置ニ關スル建議
水產業ノ發展ハ資金ニ在リ故ニ水產特殊銀行ヲ設ケ水
產家ニ金融ノ道ヲ計ルヲ以テ最急務ナリト認ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=59
-
060・鵜澤宇八
○鵜澤宇八君 此水產銀行設置ノ事ハ多年ノ宿題デア
リマス、而モ國家トシテハ、極メテ重要ナル案件デアリマスカ
ラシテ、十分ニ私ノ意見ノ在リマスル所ヲ披擬致シマシテ、
諸君ノ御批判ヲ乞ハント欲シタノデアリマスガ、會期切迫、
而モ定刻ニ近ヅキマシタ場合デアリマスカラ、簡單ニ其趣
旨ヲ申上ゲルコトニ致シマス、諸君、凡ン事業ト金融トハ、恰
モ車ノ兩輪鳥ノ雙翼ノ如キモノデ、決シテ離ルベカラザルモ
ノデアリマス、如何ナル有望ナ事業デモ、資金ガ之ニ伴ハナ
ケレバ、其發展其成功ハ決シテ出來ナイノデアリマス、(拍
手)四面環海ノ我國ハ、此沿岸ニ居住シテ居リマスル多ク
ノ住民ハ、漁業ニ從事シテ居ル者が極メテ多イノデアリマス、
然ルニ多數國民ノ從事シテ居リマスノニ拘ラズ、此漁業者
ニ向ッテ金融ノ途ガ立ッテ居リマセヌノデアリマス、斯ノ如キ
不條理ナ事ハ決シテアル可ラザル事デアルト私ハ信ズルノ
デアリマス、(拍手)諸君、此漁業ノ極メテ古イ歷史ヲ有シテ
居ルノデアリマス、往古ヨリ漁業ヲシテ來シテ居ルノデアリマ
ス、然ルニ此古キ所ノ漁業ガ今ニ遲々トシテ進マナイノデア
リマス、隨シテ漁業ガ進マナイ結果ト致シマシテ、國民ノ副
食物デアル所ノ魚類ハ、十分ニ國民ノ需要ヲ充タスコトガ
出來ナイノデアリマス、其結果各家庭ハ極メテ高キ魚ヲ買
ハナケレバナラナイノデアリマス、是ハ社會政策ノ上ニ於キ
マシテモ、大ニ考慮ヲ要サナケレバナラヌ所ノ問題デアリマ
ス、諸君此意味ニ於キマシテ吾ミハ、成ベク早ク政府ハ此
特殊ノ水產銀行ヲ起シテ、漁業者ニ資金ノ融通ヲ圖ルト
云フコトヲ切望シテ止マヌノデアリマス、而シテ單リ對內策
ノミデアリマセヌ、漁業ガ盛ンニナリマスレバ、進ンデハ海外
輸出ヲ致シマシテ、國ノ富ヲ增スコトガ出來ルノデアリマス、
此意味ニ於テ政府ハ十分調査ヲ致サレマシテ、卽チ水產
銀行ヲ設立セラレンコトヲ要望スル次第デアリマス、簡單ニ
意見ヲ申上ゲマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=60
-
061・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ岩本平藏君外九名提出、所得稅法
中改正法律案外六件ノ委員ニ、併セテ付託セラレンコトヲ
望ミマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=61
-
062・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第九、縣社乃
木神社昇格ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマス
第九縣社乃木神社昇格ニ關スル建議案
(橫田千之助君外二名提出)
縣社乃木神社昇格ニ關スル建議案
縣社乃木神社昇格ニ關スル建議
栃木縣縣社乃木神社ヲ別格官幣社ニ昇格セラレムコト
ヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=62
-
063・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ說明ヲ省略シテ、深見寅之助君外
五名提出國幣大社大山祇神社昇格ニ關スル建議案外二
件ノ委員ニ、併セテ付託セラレンコトヲ希望致シマス
〔「賛成々々」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=63
-
064・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第十、斐伊川
治水工事速成ニ關スル建議案ヲ議題ニ致シマス、原夫次
郞君
第十斐伊川治水工事速成ニ關スル建議
案(原夫次郞君外五名提出)
斐伊川治水工事速成ニ關スル建議案
斐伊川治水工事速成ニ關スル建議
河川法ノ第一期河川ニ編入セラレタル島根縣斐伊川ノ
治水工事今尙著手ナキ爲年々歳々春秋二季ニ亙リ沿
流一帶ノ地竝宍道湖沿岸地ノ浸水ニ依リ人畜ノ傷害
ト數万町步ノ耕地ノ荒廢實ニ名狀スヘカラサルモノアリ
故ニ政府ハ速ニ之カ治水工事速成ノ擧ニ出テムコトヲ
望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=64
-
065・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 說明ハ省略デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=65
-
066・原夫次郎
○原夫次郞君 省略ニ願ヒタウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=66
-
067・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ原田藤次郞君外五名提出、山田川
ニ河川法適用ニ關スル建議案ノ委員會ニ、併セテ付託セ
ラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=67
-
068・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ異議ナイト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第十一、長崎五
島佐世保間交通運輸ノ設備ニ關スル建議案、牧山耕藏
君
第十一長崎五島佐世保間交通運輸ノ設
備ニ關スル建議案(牧山耕藏君外
三名提出)
長崎五島佐世保間交通運輸ノ設備ニ關スル建議
案
長崎五島佐世保間交通運輸ノ設備ニ關スル建
議
政府ハ長崎五島佐世保間ノ航路ニ對シ國庫補助ノ下
ニ確實ナル交通運輸ノ便ヲ開カレムコトヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=68
-
069・牧山耕藏
○牧山耕逸君 本案提出ノ要旨ハ理由書ニ大體明瞭デ
アリマス、定メテ委員付託ニセラルヽコトヽ確信致シマスカ
ラ、詳細ハ其時ニ述べマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=69
-
070・岩崎勲
○岩崎動君 本案ハ成田榮信君外一名提出、溫泉政策
ニ關スル建議案外五件ノ委員ニ、併セテ付託セラレンコトヲ
望ミマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=70
-
071・奧繁三郎
○議長(奧繁二郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス-日程第十二、大甕茂
木間鐵道速成ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマス、石井三
郞君
第十二大甕茂木間鐵道速成ニ關スル建議案
(鵜澤總明君外四名提出)
大甕茂木間鐵道速成ニ關スル建議案
大甕茂木間鐵道速成ニ關スル建議
茨城縣多賀郡坂上村常磐線大甕驛ヲ起點トシ久慈郡
太田町那珂郡大宮町ヲ經テ栃木縣芳賀郡茂木町ニ至
ル三十五哩間ノ鐵道敷設ノ緊要ナルヲ認ム政府ハ速ニ
敷設ニ著手セラレムコトヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=71
-
072・石井三郎
○石井三郞君 提出ノ理由ヲ簡單ニ述ベマス、是ハ茨木
縣多賀郡坂上村常磐線大甕驛ヲ起點ト致シマシテ、久慈
郡太田町、那珂郡、大宮ヲ經テ、栃木縣芳賀郡茂木町ニ
至ル約三十五哩間デアリマス、委細ノ事ハ委員會デ申述べ
ルコトニ致シマス、ドウゾ諸君ノ御賛成ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=72
-
073・岩崎勲
○岩崎動君 本案ハ植竹龍三郞君外五名提出、宇岩鐵
道敷設ニ關スル建議案外十一件ノ委員ニ併セテ付託セラ
レンコトヲ望ミマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=73
-
074・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認メ
さ 、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第十三、社寺境
內敷地無償下附ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマス、宮古
啓三郞君
第十三社寺境内敷地無償下附ニ關スル
建議案(鵜澤總明君外四名提出)
社寺境內敷地無償下付ニ關スル建議案
社寺境內敷地無償下付ニ關スル建議
政府ハ速ニ社寺境內敷地ヲ無償ニテ當該社寺ニ下付ス
ヘキ法律案ヲ制定シ之ヲ帝國議會ニ提出スヘシ
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=74
-
075・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君 簡單ニ此席カラ提案ノ理由ヲ中シマ
ス、此案ハ社寺ノ境內敷地ハ、當該社寺ニ無償ニテ下付
スル所ノ法律ヲ作ッテ貰ヒタイト云フ趣意デフリマス、其理
由如何ト申シマスレバ、社寺上地處分ノ際ニ、社寺ノ所有
地ガ誤フテ官林ニナッテ居ルモノガ多クデアル、而シテ行政裁
判所ノ判決ニ於テモ、朱印地竝ニ除地ナルモノハ、其社寺
ノ所有デアルト云フコトニ判決サレテ居ル、其性質ニ至ッテ
ハ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=75
-
076・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 長サウデアリマスカラ登壇ヲ願ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=76
-
077・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君(續) 是デ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=77
-
078・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 登壇
〔宮古啓三郞君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=78
-
079・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君 只今申シマシタ通リ社寺ノ所有デアル
ト云フコトノ、行政裁判所ノ判決ヲ幾ツモ受ケテ居ルノデ
アリマス、其性質ニ至テハ他ノ社寺ノ境内地ニ就テモ變ル
コトハ無イ、ソレデアリマスカラ之ヲ國有ニシテ置クト云フコ
トハ宜シクナイ、穏カデナイ事デアルカラ、之ヲ其當該社寺
ノ所有ト云フコトニシテ下付サレタイト云フ次第デアリマ
ス、此種ノ事ニ就キマシテハ、當院ニ於テ幾ツモ通過ヲ致シ
テ居ルノデアリマスカラ、ドウカ此案ニ御贊成アランコトヲ
切望致シマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=79
-
080・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ深見寅之助君外五名提出、大山祇
神社昇格ニ關スル建議案外三件ノ委員ニ、併セテ付託セ
ラレンコトヲ希望致シマス
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=80
-
081・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第十四、兵庫
福崎間鐵道敷設ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマス、木下
甚三郞君
第十四風兵庫福崎間鐵道敷設ニ關スル建
案(木下甚三郞君提出)
兵庫福崎間鐵道敷設ニ關スル建議案
兵庫福崎間鐵道敷設ニ關スル建議
政府ハ速ニ兵庫福崎間ニ鐵道ヲ敷設セラレムコトヲ望ム
右建議ス
〔木下甚三郞君發壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=81
-
082・木下甚三郎
○木下甚三郞君 私ノ提案ハ神戶港ノ兵庫驛ヨリ播但
線神崎郡ニ在リマス福崎驛間、一市五郡ノ間ヲ縱貫スル
鐵道デゴサイマス、(拍手起リ「謹聽」「シツカリヤレ」ト呼フ
者アリ)此鐵道ノ線路ニ於キマシテハ、神戶港ガ其起點ニ
ナッテ居リマス、此神戶ハ我ガ東洋ノ第一市場タルコトハ諸
君ノ御承知ノ通リデアリマス、又殊ニ我國ノ咽喉ト致シマ
シテ、彼所ノ鐵道ノ交通ニ就テハ、最モ大切ナ所デアリマス、
其一番大事ナ神戶港ヲ見マスルニ、神戶ノ吏西ノ交通ハ
甚ダ地點ガ惡イノデアリマス、極メテ樞要ノ地デアリナガラ、
附近ノ地勢ヲ見マスレバ六甲山脈ガアッテ、一ノ谷ト云フ大
キナ山ガアリマシテ、交通上非常ナ要地デアル、若シ一ノ谷
ヲ占メラレマシタナラバ、日本交通ハ東京カラ四國ニ行クコ
トモ、馬關ニ行クコトモ出來ナクナルノデアリマス、而モ此所
ハ始終水害ニ罹ル、山陽線ノ不通ニナルノハ彼所ガ一番
多イノデアリマス、(ヒヤ〓〓)若シモノ時ニ彼所ニ故障ガ出
來タナラバ、國家ノ爲メ大ナル憂ガアルノデゴザイマス、爲つ一
此線ガ非常ニ有要ニナッテ來ルノデアリマス、ソレデ是ハ軍事
上モ極メテ重要ナ線路デアリマス、ンコデ彼嶮ヲ避ケマシ
テ、山ノ中ニ引張ヲテ行キマスト、攝州ノ東カラ播州ノ中央
マデノ沃野ニナル、此問ニハ人口モ澤山アリマス、町ノ數ガ
五ツアリマス、ソレカラ播州米ト云フ良イ米モ澤山出マス、
播州木綿ト云フ縞物モ澤山東京ニ來マス、三木ノ全物、
斯ウ云フ風ニ生產物ノ豐富ノ所デアル、人モ澤山居リマ
ス、ソレガ只今ノ所デハ北ノ方ノ山陰線ニ出ルカ、山陽線ニ
出ルカデアルガ、其間ハ十四五里アルノデス、一寸汽車ニ乘
ルト云ッテモ、五里七里ノ道ヲ步カナケレバ、サウ云フ結構ノ
土地デアリナガラ汽車ニ乘ルコトガ出來ヌ、若シ此鐵道ガ
敷ケマスト、其所カラ乘ッテ直グニ神戶ノ町マデモ行ケル、又
之ヲ拵ヘマスト、福知山カラ神戶ニ出ルマデニ、二十哩モ近ク
ナルノデアリマス、何ノ事ハナイ山カラ西ノ方ヲ向イテ進ン
デ、サウシテ束へ廻ッテ來ルモノガ、眞直ニ一遍ニ來マスカラ、
二十哩近ウナルノデアリマス、交通上サウ云フ便利ヲ得、廣
島ノ師團ヘデモ、姫路ノ師團ヘデモ、何ノ危險モ無ク行ケル
ノデアリマス、ソレカラ產業的ニ便利ガアル、斯ウ三ツノ利
益ガアルノデアリマシテ、是ハ是非造ラナケレバナラヌ線路
デアルト私ハ思フノデアリマス、ソレカラ今年之ヲ出シマシタ
ノハ、皆樣ハ此演壇デ御土產案ナドヽ云フヤウナコトヲ仰シ
ヤイマスガ、私ノ此案ハ決シテ御土產案デハナイノデゴザイ
マス、今日之ヲ出シタノハ、洵ニ適切ノ事デアリマスカラ政
府ニ於テモ、此時ニ大ニ奮勵シテヤラナケレバナラヌ、何故
カト云ヘバ都會ニハ銀行ニ金ガ庫ノ中ニ有リ餘ッテ泣イテ
居ルノデアリマス、又地方ヘ行キマスト、倉ノ中ニ米ガ呻シテ
居リマス、米ト金トガ澤山アッテ人ハドウカト云フト仕事ガ
ナクテ遊ンデ居リマス、此康イ米、澤山ノ金ガアッテ遊ンデ居
ル人ガ多イト云フ、此時ニ此鐵道ヲ造リマスト云フコトハ、
ソレ程結構ノ事ハ無イ、今日ヤリマシタナラバ、三年後ニ拵
ヘルヨリハ半分カ三分ノ一デ出來ル、人ハ澤山アル、米ハ廉
イ、金ハ澤山アル、此機會ニ睪山鐵道ヲ拵ヘテ、今度景氣
ノ恢復シタ時、皆ナガ力ヲ入レテ拵ヘタ產物ガドシ〓〓出ル
コトニナルノデアリマスカラ、ドウカ御賛成アランコトヲ望ミ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=82
-
083・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ井上角五郞君外三名提出、三原吳
間鐵道敷設速成ニ關スル建議案外四件ノ委員ニ、併セテ
付託セラレンコトヲ望ミマス
「「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=83
-
084・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ガ無イト
認メマス、仍ッテ動議ノ如ク決シマシタ、日程第十五、航空
業保護奬勵ニ關スル建議案ヲ議題ニシマス、津野田君
第十五航空業保護奬勵ニ關スル建議案
(津野田是重君外一名提出)
航空業保護奬勵ニ關スル建議案
航空業保護奬勵ニ關スル建議
飛行機ノ進步航空業ノ發達ハ國防上又ハ國家文化ノ
進運上絕大ノ關係ヲ有スルコトハ今更喋々ヲ要セサルト
コロナリ是レ歐米諸國ハ勿論隣邦支那ニ至ルマテ競フ
テ之カ發達進歩ヲ企圖シツヽアル所以ナリ然ルニ本邦ノ
現狀ヲ見ルニ飛行機ノ製作ハ遲々トシテ振ハス航空業
ニ至リテハ未タ全ク之カ開始ノ議スラ耳ニスルヲ得ス斯
ノ如クムハ國防ニ充ツルニ巨額ナル國家歲計ノ大半ヲ以
テスルモ尙龍ヲ畫キテ晴ヲ點セサルノ憾アルヘシ
航空業ハ本邦最初ノ試ミニ屬シ我カ經濟界ノ事情ヨリ
スレハ政府カ特別保護ヲ與へ宜シク之ヲ指導奬勵スルコ
ト由來船舶航路補助法ヲ設ケテ海運業ノ隆盛ヲ企圖
セル如クスルニ非スムハ其ノ成立發達ヲ見ルコト至難ナ
ルハ周知ノ事實ナリ顧フニ國際競爭ノ激甚ナル今日斯
ル業務開始ノ一日後ルルハ卽チ國家一日ノ損失ナルヲ
以テ政府ハ宜シク適當ノ法案ヲ設ケ速ニ斯業開始ノ氣
運ヲ進メ以テ國防ト國家文化ノ進運ニ遺漏ナキカ如ク
努メラレムコトヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=84
-
085・津野田是重
○津野田是重君 當席ヨリ述ベマス、此建議案ハ飛行機
ヲ以テ、旅客、貨物、及郵便物等ヲ敏速ニ輪送セントスル
ノデアリマス、英米佛等ノ諸國ニ於キマシテハ大ニ發達シテ
居リマスガ、我日本ニ於キマシテハ、全ク見ルベキモノガアリ
マセヌ、故ニ此案ヲ提出シタ次第デアリマス、詳細ハ委員會
ニ於テ述べマス、何卒御賛成アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=85
-
086・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ荒川五郞君外三名提出、非役壯丁
稅法案外七件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=86
-
087・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ハ無イト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第十六、平和
記念東京博覽會費國庫補助ニ關スル建議案ヲ議ニ付シマス
前田米藏君-山崎猛君
第十六平和記念東京博覽會費國庫補助
ニ關スル建議案(前田米藏君外十
四名提出)
平和記念東京博覽會費國庫補助ニ關スル建議案
平和記念東京博覽會費國庫補助ニ關スル建議
東京府開催平和記念東京博覽會ノ爲政府ハ同會費ニ
對シ相當補助ヲ與ヘラレンコトヲ望ム
右建議ス
〔山崎猛君登壇、拍手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=87
-
088・山崎猛
○山崎猛君 諸君本案提出ノ主意ハ東京府ノ主催ニ依
リマシテ、明年三月上野公園ニ開催セラレル平和記念東
京博覽會ニ對シマシテ、同博覽會ガ既定計畫ヲ擴張シナ
ケレバナラヌ必要ヲ感ズルニ至リマシタノデ、此必要ナル經
費ニ對シテ、國庫ノ補助ヲ要求シタイト云フノガ此案ノ主
意デアリマス、簡單ニ其理由ヲ申述べタイト思フノデゴザイ
マス、此博覽會ノ目的ガドウ云フモノデアルカ、其效果ガド
ウデアルカト云フヤウナ事ハ、今更茲ニ申上ゲルマデモナイト
考ヘマスガ、唯一ツ申上ゲタイト思ヒマスノハ、同博覽會ノ
特殊ノ目的デアリマス、ソレハ此博覽會ハ如何ナルモノヲ
目的トシ、如何ナル計畫ニ依シテ進ンデ居ルカト申シマスト、
戰時中ニ於ケル我國力ノ仲張ノ有樣竝ニ戰時中ニ於ケル我
國ノ殖產興業ノ發達シタル其眞相、其等ノモノヲ世界ノ表
ニ公表致シマシテ之ニ依ッテ內外ノ注意ヲ喚起シ、平和的
經濟戰ノ對策ニシタイト云フノガ主意デアルノデアリマス、博
覽會ハ度と我國ニモ計畫サレテ居リマスガ、併ナガラ此博
覽會ハ、其規摸ニ於テ、其計畫ニ於テ、餘程大ナルモノト
相成ッテ居ルノデアリマス、而シテ此計畫ガ一タビ發表ニナ
リマスト、國内ハ勿論、海外ヨリモ非常ナ人氣ヲ以テ迎ヘラ
レテ居ッテ、早ク既ニ其中込ガ陸續トシテ到來スルヤウナ狀
態ニ在ルノデアリマス、例ヘバ米國ノ如キハ十万坪ノ敷地ヲ
要求シテ來テ居ルノデアリマス、全體ノ計畫ガ十一万坪ニ
過ナイノニ對シテ、十万坪ノ要求ヲシテ居ルト云フ有樣デ
アリマス、若シ十万坪ガ出來ナケレケレバ、セメテハ、三万坪
デモヤッテ吳レナイカト云フヤウナ要求ヲシテ居リマス、其他
英國、加奈陀、支那、安南、智利ト云フヤウナ各國カラモ、ン
レ〓〓出來ルダケ大キイ面積ヲ分ケテ吳レト云フ要求ガ來
テ居ル、然ルニ外國ニ對スル陳列品ノ場所ハ、現在ノ計畫
ニ於テ、ドレ位取ツテアルカト云ヒマスト、僅ニ一千坪ニ過
ギナイノデアル、一千坪ノ面積ヲ以テ上述ノ如キ外國ノ非
常ニ多イ要求ニ應ゼズバナラヌト云フ現狀ニ在ルノデアリ
マス、今日ノ狀態ニ於テハ、唯夕之ニ應ズルノ方法ハ、此旣
定ノ計畫ヲ擴張スル、是ヨリ外ニ方法ハ無イヤウチ狀態ニ
相成ツテ居ル、外國バカリデハナイノデアリマス、拓殖方面
ニ於テモ非常ニ人氣ヲ煽ツテ居ル、臺灣ノ如キ、朝鮮ノ如
キ、樺太ノ如キ及北海道ノ如キモ、現ニ非常ナル意氣込ヲ
以テ、此博覽會ヲ迎ヘテ居ルヤウナ狀態ニ在ルノデアリマ
ス、外國拓殖方面ノ狀態ガ斯樣ナ風デアリマスカラシテ、之
ニ相應ジ、國內ノ出品者モ非常ナ人氣ヲ呈シテ居ルノデア
リマス、一體外國ニ於テ斯樣ナル人氣ヲ博シタト云フノハ、
東京博覽會トハ申スケレドモ、日本ノ主要ナル代表的ノ都
會ノ束京博覽會デアルト云フコトハ、直チニ日本博覽會デ
アルト云フヤウナ考ヲ特ッタ爲メデアラウト考へラレマス、免
ニ角ニ斯樣ナ人氣ヲ博シテ居ル所ノ平和記念東京博覽
會ニ對シテ、若シ規模ガ狹小デアルト云フヤウナ理由ノ下
ニ、此非常ナル好景氣ヲ呈シテ居ル所ノ外國ノ人氣、此出
品物ヲ拒絕シナケレバナラナイ、外國品ノ大部分ヲ斷ラナ
ケレバナラナイト云フヤウナコトハ、此博覽會主催者ノ立場
ヨリシテモ、餘程遺憾ナ事デアルト考ヘマスルガ、是ハ單ニ主
催者ノ眼カラ見テ遺憾ト云フバカリデナクシテ、上述ノヤウ
ナ目的ヲ以テ計畫サレ、外國ニ於テ斯ノ如キ人氣ヲ煽ツテ
居ル博覽會ニ對シテ之ヲ斷ッテシマウ、小サナモノニシナケ
レバナラナイト云フコトハ、申スマデモナク吾々ヨリ見テモ遺
憾ナ事ト考ヘルノデアリマス、然ルニ既定計畫ノ六百万圓
ノ豫算ノ範圍內ニ於キマシテハ、迚モ此要求ニ應ズルコト
ガ出來ナイノデアル、東京博覽會ハ固ヨリ一地方ノ計畫ニハ
相違ナイノデアリマスルケレドモ、目的ト云ヒ、其景況ト云
ヒ、今日ノ如キ狀態デアル以上ハ、是ハ國家的ノ使命ヲ
持ッテ居ルモノト斷ジテ差支ナイト思フノデアリマス、果シテ
國家的使命ヲ持ヲテ居ルモノト致シマスルナラバ、國庫ヨリ
其補助ヲ仰グト云フコトモ當然ノ事カト考へルノデアリマ
ス、是ガ本案ヲ提出シタ理由デアリマス、何卒御協賛ヲ仰
ギマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=88
-
089・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ竹澤太一君提出ノ、日本大博覽會
開設ニ關スル建議案ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望
ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=89
-
090・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第十七、八王子高
崎間鐵道速成ニ關スル建議ヲ議題ニ供シマス、長谷川宗
治君
第十七八王子高崎間鐵道速成ニ關スル
建議案(長谷川宗治君外十名提出)
八王子高崎間鐵道速成ニ關スル建議案
八王子高崎間鐵道速成ニ關スル建議
政府ハ東京府下八王子市ヨリ埼玉縣下飯能町、坂戶
町、小川町、寄居町、兒玉町ヲ經テ群馬縣下高崎市ニ至
ル鐵道ヲ速成シ交通運輸ノ利便ヲ促進セラレンコトヲ望
ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=90
-
091・長谷川宗治
○長谷川宗治君 當席カラ申上ゲマス、此八王子、高崎
間鐵道速成ニ關スル建議デゴザイマス、是ハ東京府八王
子ヲ起點ト致シマシテ、埼玉縣ノ飯野、越生、小川、寄居、
兒玉、群馬縣ノ藤岡、高崎ト參リマス線路デゴザイマス、此
線路ハ既ニ政府ニ於キマシテ御決定ニナリマシタ、鐵道敷
設法案ニ載シテ居リマス所ノ線路デアリマス、此線路ハ秩
父ノ連山ヲ一方ニ望ミマシテ、一方ニハ武蔵野ノ平野ヘ連
續シテ居リマシテ、重要ナ線路デゴザイマス、殊ニ其間ニ於
キマシテハ、私設鐵道ガ武藏野鐵道、若クハ東上鐵道、秩
父鐵道等ノ三線ガ連絡ヲスルコトニ相成リマスル次第デア
リマス、是ハ上武地方ノ產業ノ開發ハ勿論、遠クハ信越地
方ヨリ橫濱港へ直接ニ通ズル所ノ路線デアリマシテ、產業
上及軍事上ニ、非常ノ利便ガアリマスル線路デアリマスル
ガ故ニ、速ニ是ガ工事ニ著手セラレンコトヲ望ム次第デアリ
マス、ドウゾ滿場ノ諸君ノ御賛成ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=91
-
092・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ植竹龍三郞君外五名提出ノ、宇岩
鐵道敷設ニ關スル建議案外十二件ノ委員ニ、併セテ付託
セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=92
-
093・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第十八、東京大
阪間高速度交通機關ノ設備ニ關スル建議案ヲ議題ニ供
シマス、久下豊忠君
第十八東京大阪間高速度交通機關ノ設
備ニ關スル建議案(久下豐忠君提
四
東京大阪間高速度交通機關ノ設備ニ關スル建議
案
東京大阪間高速度交通機關ノ設備ニ關スル建
議
時間ノ經濟ハ國運ノ消長ト產業ノ盛衰ニ至大ノ關係ヲ
有スル大問題トシテ攻究セラレ交通機關ノ如キ歐米ニ
於テハ既ニ高速度ノ設備ヲ見タルノミナラス今正ニ航空
事業ノ完成ニ熱中シツツアリ此ノ時ニ方リ我カ鐵道ノ現
狀ヲ見レハ其ノ高速度ヲ有スル特急列車スラ一時間僅
ニ三十哩ヲ出テス彼我ノ懸隔實ニ甚シキモノアリ是レ國
民ノ常ニ最遺憾トスルトコロナリ於是乎先ツ我カ國ノ幹
線ノ一部東京大阪間ニ高速度ノ交通機關ヲ設備シ時
勢ニ順應スルハ刻下ノ急務ナリト信ス政府ハ宜シク速ニ
之ニ關シ適當ノ處置ヲ採ラレムコトヲ望ム
右建議ス
〔久下豊忠君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=93
-
094・久下豐忠
○久下豐忠君 本案ハ我國ノ交通政策上ニ少カラヌ關
係ヲ及ボス提案デアリマスルカラ、暫ク御辛抱御〓聽アラ
ンコトヲ御願致シマス、我國ノ交通政策ヲ論ジヤウトスルニ
ハ、先ヅ歐米ノ交通政策ガドウ云フ程度ニ行ハレテ居ルカ
ト云フコトヲ知ルノ必要ガアリマス、歐米ニ於キマシテハ、御
承知ノ如ク交通機關ノ發達ハ、今ヤ地上ヲ離レテ空中ニ
移リツヽアルノデアリマス、歐羅巴ノ如キハ各國ノ都市間ヲ
連絡致シマスルノニ、飛行機及飛行船ノ定期航空ヲ以テ
致シテ居ルノデアリマス、現ニ倫敦ト巴里トノ間ニハ、一昨
年十一月十日ヲ以テ定期航空事業ガ開始セラレマシテ
以來、今日ニ於キマシテハ、一日モ缺クベカラザル重要ナル交
通機關ト相成ッテ居ルノデアリマス、英佛兩國間ハ今日定
期航空路ガ四線ゴザイマスルガ、其他各國トモ殆ド空中ノ
交通路ノ連絡ノ無イ所ハ無イノデアリマス、現ニ英佛兩國
ノ商人間ニハ、近頃ハ「エログラム」ト云フモノガ盛ニ利用サ
レテ居ルノデアリマス、「エログラム」ト中シマスレバ御承知ノ
通リ電話ト飛行機トノ連絡ヲスルト云フコトヲ意味スルモ
ノテゴザイマシテ、爰ニ一例ヲ中シマスレバ、英京ニ於キマシ
テ飛行場ニ電話ヲ掛ケテ、佛蘭西ニ通ジサセルノ方法ヲ講
ズルト致シマスレバ、飛行場ハ其電話ヲ筆記致シマシテ、飛
行機デ佛蘭西ニ送ル、佛蘭西ノ飛行場ニ到著致シマシタナ
ラバ、直チニ又電話ヲ以テ一方ニ通ズル此時間ガ僅ニ二時
間四分ノ一ヲ以テ達スルノデアリマス、是ガ今ヤ盛ニ商人
間ニ於テ行ハレ、之ヲ利用スル者ガ優勝ノ位置ニ立ツト云
フヤウナ狀態ニナッテ居ルサウデゴザイマス、啻ニ英佛間ノミ
ナラズ、各國間ガ斯ノ如キ方法ノ下ニ、空中ニ於テ飛行機、
飛行船ハ定期航空、交通機關トシマシテ、是モ重要ナル機
關トシテ日々發達ニ發達ヲ重ネテ居ルノデアリマス、亞米
利加ニ於テモ、一昨々年ノ三月十五日以來、定期郵便飛行
船ヲ開始以來、各地到ル處此航空事業ガ非常ナル速度ヲ
以テ進ミツヽアルノデアリマス、又鐵道ニ於テモ今日ハ歐米各
國共鐵道ハ分業制度ノ下ニ、貨物ハ總テ蒸汽鐵道ニ托シ、遠
距離ノ乘客ハ高速度ノ電氣鐵道ヲ以テ充テラレルト云フ
狀態ニ相成シテ居リマシテ、尙ト是モ改良ニ改良ヲ加ヘ、今
日ニ於キマシテハ其速力ノ如キハ一時間五十哩以上、速
イノニ相成リマスルト、一時間七十哩ノ高速力ヲ出シテ居
ルノデアリマス、然ルニ顧ミマスレバ、我國ニ於ケル鐵道ハ今
日一時間二十哩、特急ト稱スル所謂特別急行列車ニ於テ
モ、尙ホ一時間三十哩ヲ出デナイノデアリマス、之ヲ彼我比
較ヲ致シマスレバ、其懸隔ノ大ナル事實ニ驚クベキ狀態デ
アリマス、斯ノ如キ我ガ國ノ狀態ニ於キマシテハ、到底此歐
米先進國ト同ジ步調ヲ以テ進ムト云フニトハ、總テノ上ニ
於テ難イノデアリマス、御承知ノ如ク今日ハ時間ノ經濟、
時間ノ經濟ヲ圖リ、時間ヲ利用スルコトノ優劣ニ依リマシ
テ、殆ド一國ノ盛衰ガ岐レヤウトスル場合デゴザイマスカラ、
我國ニ於テモ此交通政策ノ上ニ一變ヲ加へ、一新紀元ヲ
劃シマシテ、今後ハモウ少シ鐵道ノ速力ヲ大ナラシメ、時間
ヲ利用スルコトヲモウ少シ努メタイト考ヘルノデアリマス、尤
モ御承知ノ通リ我ガ國ノ鐵道ハ國有デゴザイマシテ、鐵道
國有法ノ第一條ニ依リマスレバ、鐵道ハ總テ國有デアッテ
地方ノ鐵道以外ハ民間ニ許可シナイコトニナッテ居ルノデ
アリマスガ、併シ時勢ハ此鐵道國有法ノ第一條ノ改正ヲ
必要ト致シテ居ルノデアリマス、又假ニ改正ヲ致サナイデ
モ、特ニ條件ヲ附ケテ民間ニ許可ヲ致シマスレバ、此高速
度ノ電氣鐵道ノ如キハ、確ニ架設シ得ラレルモノト私共ハ
信ジテ居リマス、今日デハ我ガ國ノ鐵道モ既ニ八千三百哩
ノ長キニ達シテ居リマスガ、尙ホ〓後敷設スベキモノガ六千
餘哩モゴザイマシテ、到底容易ナコトデ此鐵道ノ全普及ヲ
圖ルコトハ出來ナイノデアリマス、今日政府ニ向ッテ此我國
ノ幹線ニ高速度ノ鐵道ヲ敷設スルコトヲ要求スルト云フコ
トハ、頗ル無理ナル注文デゴザイマシテ、是ハ至難ナ事トハ
存ジマスガ、只今申上ゲル通リ、特別ニ便法ヲ設ケマシテ、特
別ニ條件ヲ附シテ、之ヲ民間ニ許可サレレバ、民業トシマシ
タナラバ、必ズ是ハ成功スベキモノト私ハ固ク信ジテ疑ハナ
イノデゴザイマス、啻ニ鐵道ノミナラズ、航空事業ニ於テモ
今日前ニ申上ゲル通リ、歐米各國ニ比較ヲ致シマシタナラ
バ、我國ノ遲ルヽ事遠イノデアリマスカラ、是ニ向っテモ政府
ハ適當ナル考慮ヲ拂ヒ、適當ナル施設ノ下ニ、定期航空事
業ノ開始ノ出來ルヤウニ、是ガ官設ト民營タルヲ問ハズ、政
府ハ此點ニモ努力セラレンコトヲ希望致スノデアリマス、
是ハ提案ノ理由デアリマス、ドウカ滿場ノ御賛成ヲ仰ギ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=94
-
095・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ杉浦五兵衞君外五名提出、遠美鐵
道速成ニ關スル建議案外五件ノ委員ニ併セテ付託セラレ
ンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=95
-
096・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ハナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマルタ-日程第十九、三戶
千曳間鐵道速成ニ關スル建議案ヲ議題ニ供シマス、野村
治三郞君
第十九三戶千曳間鐵道速成ニ關スル建
議案(野村治三郞君外七名提出)
三戶千曳間鐵道速成ニ關スル建議案
三戶千曳間鐵道速成ニ關スル建議
一靑森縣下三戶町ヨリ五戶町、三本木町及七戶町ヲ
經テ千史ニ至ル鐵道
右ハ國道ニ沿ヒタル線路ニシテ政府提出ノ鐵道敷設
法案別表中ニモ編入セラレ居リ其ノ敷設ハ產業發達上
最急ヲ要スルモノト認ム依テ政府ハ速ニ該鐵道ノ敷設
ヲ計畫セラレンコトヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=96
-
097・阿部武智雄
○阿部武智雄君 私ガ代ッテ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=97
-
098・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 阿部君ガ代ッテ說明サレマス
〔阿部武智雄君登壇、柏手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=98
-
099・阿部武智雄
○阿部武智雄君 本鐵道ハ東北本線ノ靑森縣三戶驛カ
ラ千曳驛ニ至ル三十六理ノ鐵道デアリマスガ、一度諸君ガ
東北本線ヲ通ッテ靑森縣ニ御通リニナルト、廣漠タル、原野
ヲ御通リニナリマスガ、此鐵道ハサウデハナイノデアリマス、
一町十六箇村人口十万以上ノ場所ヲ通ルノデ、地方ニ對
シテハ非常ニ關係場所デアリマス、數年前カラ衆議院ニ幾
囘モ請願ヲ出シ、當年ハ貴族院ノ採擇ニモ又ナッテ居リ
マス、地方ニ對シテハ大ナル關係ノ線デアリマスカラ、ドウゾ
御賛成アルヤウニ願ヒマス、委細ハ議長ノ許可ヲ得テ、此
說明ハ速記ニ載セテ載クヤウニ致シマス、ドウゾ宜シク御願
ヒ致シマス
〔參照〕
三戶千曳間鐵道速成ニ關スル建議案說明
一、東北本線三戶ヨリ五戶町及三本町七戶町ヲ經テ
千曳驛ニ至ル三十六哩輕便鐵道線ハ現在ノ線路ヨ
リ五哩九分近ク古來ヨリ國道ニシテ沿道又ハ直接關
係町村ハ三戶町人口七千附近、部落、向村、及猴邊
村、其人口二萬以上五戶町人口八千五百附近、戶
來村、及淺田、川內、倉石、野澤、豐崎ノ各村ニシテ其
人口貳萬五千以上ニ達ス三本木町人口約八千五
百其附近ハ法奧澤、六戶、藤坂、四和ノ各村ニシテ其
人口貳萬六千七百以上七戶町ハ九千以上ノ人口ニ
シテ其附近ハ天間林備ノ館、大深內ノ各村貳萬六千
以上ノ人口ヲ有シ野邊地町又最モ近ク甲地村其沿
通トナリ人口壹萬六千以上ナレハ五町拾六箇村拾
萬ノ人口ヲ有スル大區域ノ關係アリ
二、此沿道各村ハ物資豐富ニシテ盛岡以北靑森以南ニ
於ケル第一ノ米產地ニシテ他ニ輸出スル穀類年額數
十萬俵ニ達シ隨テ肥料ノ購入又數十萬吸ハ何レモ
人馬ノ背ニ依リ輸送セラレ一大不便ニ遭遇シツヽア
ルト共ニ道路運送ニ年數萬圓ヲ投シアリ、土地廣ク
人少キ新ニ壹萬町步以上水田開墾ノ原野アリ鐵道
開通ニ伴ヒ是等ノ事業隨テ興ルヘキハ期シテ待ツ可
キナリ
三、此ノ地方ハ所謂我カ國ノ驥北ノ野ニシテ乃チ、池月、
摺墨、ノ駿馬ヲ出シタリト傳フ畜產事業極メテ殷盛ニ
シテ馬政局統計表ニ依ル大正八年度二才幼馬七戶
組合ハ千二百六十五頭、此代金參拾五万六千餘
圓、三本木ハ千三百九十六頭、四拾貳万五千餘圓、
五戶ハ七百五拾六頭、八万八千餘圓三戶ハ五百三
拾七頭、拾四万三千餘圓、野邊地ハ三百八十九頭八
万五千餘圓、此ノ五組合幼馬、四千三百四拾三頭
此代金百拾九万九千四百八拾五圓、此他三才以上
ノ壯馬四五千頭、牛、貳千五百餘頭、故ニ每年產出
販賣牛馬一萬數千餘頭約參百万圓ニ下ラス春秋二
箇月間ニ涉リ牛馬市場ヲ開始シ南ハ、九州、四國、中
國北國、關東西ヨリ、北ハ北海道ニ至ル全國ノ賈客蝟
集シ鐵道敷設ナキ故ニ往來ノ難儀牛馬運送等ノ深
甚ナル不便ヲ感ツヽアリ
四、政府事業トシテハ現ニ三本木七戶ニ於ケル各軍馬
補充部支部アリテ(大正七年度)貳拾八萬六千餘圓
ノ經費ヲ支出シアリ又七戶町ニ奧羽種馬牧場及種
馬所アリテ年額拾七萬五千餘圓ノ經費ヲ支出スアリ
種馬及幼馬壯馬ノ出入秣草馬糧ノ運送其不便ト不
經濟ナルハ一度當地へ入リタル人々ハ鐵道敷設ヲ感
ツヽアリ
今上陛下明治四十二年東宮殿下ハ奧羽牧場へ御見
學トシテ御二泊遊ハサセラレ
各宮殿下寺內秋山兩大將始メトシテ朝野ノ名士多
ク牧場へ御出張アリ一昨年馬政調査トシテ委員一
行七戶ヘ視察セラレ其他元田鐵道大臣大岡前衆議
院議長等親シク此地方ノ不便ヲ感セラレ何レモ深キ
御同情ヲ以テ鐵道急設ヲ御援助セラレ地方關係民ノ
努力ヲ奬勵セラレシ程ナリ
五、政府事業ノ軍馬補充部支部及牧場其他七戶町ニハ
上北郡役所七戶警察署縣立種馬所、縣立蠶種製造
所、銀行、三本木ニハ縣立畜產學校、警察分所、五戶
町ニハ警察分署、三戶同上諸官公署ハ多ク此鐵道
沿線ニアリ從テ是等ノ不便一層大ナルヲ覺ユ
六、沿道地方ニハ山岳重疊深山幽谷多ク國有林野ノ
面積極メテ廣大ニシテ無盡藏ノ樹木欝蒼スルモノア
リ殊ニ十和田ノ大深林ノ如キ千古斧鉞ヲ加へサル良
材巨木數万町步ニ亙ルモノアリ薪炭用材ノ今日國
家經濟上鐵道ノ敷設ハ富源開發ノ基礎ナリ
七、郡内ニハ烏帽子岳八幡岳八甲田山赤倉山及十和
田山ヲ經テ戶來岳ニ至ルノ大山岳ハ萬山鑛脈ニシテ
金銀銅鐵及石灰等ノ鑛物ニ富ミ鐵道敷設ニ依リ土
中ニ埋沒シアル實物ノ發掘ハ敷設ノ費用ヲ償フテ餘
アルハ現在試掘シアルモ搬出ノ不便ニテ收支立タサル
數十箇所ノ鑛區アルハ明ナル事實ナリ又十和田電力
計畫ハ縣會調査ノ結果五万キロワットノ發電力ヲ有
スル一大會社ノ畫策中ニアリ近キ將來ニ事實トナリ
テ設立セラルヽヲ見ルニ至ラントス
八、十和田湖ハ海拔貳千尺ノ山頂ニアリテ周圍十六里
風光明媚ニシテ世界的ノ觀賞地タリ本多博士ハ世
界ノ景勝地ナリト激賞セラレ博士ノ名命セル新赤壁
ノ如キ實ニ神祕ナリ追良瀨川ノ渓流ハ奇巖怪石間ニ
配置セラレ雄大ニシテ千古ノ神木枝ヲ交ヘ日光爲メ
ニ暗ク一種ノ壯嚴ヲ爲セリ此ノ鐵道ニシテ開通セハ
最モ便宜ノ地ニ近ク今ヤ天然的大公園設定ノ議論
アル場合此ノ鐵道ハ十和田觀光ノ一大福音ト
ナル
如斯帝國ノ一大富源東北振興ノ策源地タル地方ニシ
テ未タ鐵道ノ敷設ナキヲ以テ其物資ヲ運搬スルニハ人
肩馬背ニ依ラサルヘカラサルカ故ニ其勞力ト時間トヲ要
スルコト多大ナル結果萬事不經濟ニ陷リ起ス可キ事業
モ起ス能ハス顧フニ東北ノ不振ハ識者ノ憂フル所ニシテ
今ヤ東北振興ノ聲朝野ニ滿チ其實行ニ汲々タルモノア
リ而モ之ヲ實行セムント欲セハ本鐵道則チ三戶千曳間
ノ鐵道ヲ速成スルヨリ急且切ナルモノナシ苟モ之ヲ速成
セムカ政府事業タル軍馬補充部支部及奧羽種馬牧場
ノ如キ多大ノ利益タルハ勿論民業ニ於テモ電氣事業及
鑛山業ノ如キ農工業ノ如キ駸々乎トシテ振興進步ノ域
ニ達スヘシ是獨リ地方ノ富源開發ニ於テ得策ナルノミナ
ラス戰後ノ經濟戰ニ於ケル帝國ノ一大國富ヲ增進スル
ニ必要欠クヘカラサルモノト云ハサルヲ得ス是本案ヲ提
出スル所以ナリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=99
-
100・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ伊藤廣幾君外四名提出北海道、本
州、連絡完成ニ關スル建議案外二件ノ委員ニ、併セテ付託
セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=100
-
101・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第二十五條新
宮間鐵道速成ニ關スル建議案ヲ議題ニ供シマス玉置良直
君
第二十五條新宮間鐵道速成ニ關スル建
議案(玉置良直君外五名提出)
五條新宮間鐵道速成ニ關スル建議案
五條新宮間鐵道速成ニ關スル建議
本鐵道ハ奈良縣下五條ヨリ十津川ヲ經テ和歌山縣下
新宮ニ至リ紀勢線ニ連絡セシメムトスル線路ニシテ沿線各
地ハ農產林產鑛物等天與ノ物資豊富ニシテ殊ニ吉野、
熊野ノ山林ニ至リテハ既ニ定評アリ熊野浦ノ海產物ト
併セテ國家ノ一大寶庫ナリ而シテ附近ニハ幾多光輝ア
ル歴史ヲ有スル史蹟在リ且奇勝絕景天下ニ誇ルヘキモ
ノ多シ然ルニ未タ運輸交通ノ利便ナク爲ニ富源ハ開發
セラレスシテ地方文化ノ進運阻害セラル斯ノ如キハ國家
經濟上將夕文化普及上決シテ閑却スヘキニ非サルナリ
依テ政府ハ速ニ本鐵道ノ敷設ニ著手シ其ノ速成ヲ期セ
ムコトヲ望ム
右建議ス
〔玉置良直君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=101
-
102・玉置良直
○玉置良直君 提案ノ趣旨ヲ簡單ニ申シマス、本案ハ奈
良縣五條ヲ起點トシテ、十津川村ヲ經テ和歌山縣新宮ニ
達スル鐵道デアリマス、此沿道ハ所謂吉野熊野ノ森林地
帶デ、古來合理的施行方法ノ下ニ植林ノ經營ヲナシテ居
リマスケレドモ、區域廣大ノ爲メニ未ダ大部分ハ原生林ナ
ノデアリマス、隨テ林產物ノ多大ナルコトハ、國內稀ニ見ル
所デ、此多大ナル林產物ハ、未ダ交通運輸ノ機關無キ爲
メニ、唯一ノ十津川ヲ利用シテ流下シツヽアルハデアリマス
ガ、而モ是ハ大ニ危險ヲ冒シツヽアルノデアリマス、其他農
產物アリ、鑛產物モ多々アルノデアリマス、殊ニ熊野ノ土地
ニハ豐富ナル海產物ヲ有シテ居ルノデアリマス、此沿道ニ於
テ十津川村ハ歷史上今更申上ゲルマデモナク、古來朝廷ニ
奉仕シテ忠勤ヲ擢ンデタ爲メニ、光輝アル幾多ノ歴史ヲ有
シテ居ルコトハ茲ニ喋々中上ゲルマデモアリマセヌ、隨テ史蹟
ニ富ミ、尙ホ此外ニ此沿道ニ於キマシテハ、天下ノ勝地タル所
ノ那智瀧ガアルノデアリマス、瀞八丁ガアルノデアリマス、其
他名所舊蹟、是亦枚擧ニ遑ナイノデアリマス、斯ノ如ク幾
多ノ史蹟、幾多豐富ナル所ノ富源アルニモ拘ラズ、未ダ交
通ノ便ノナイ爲メニ、此富源ハ開發サレズ、此史蹟名勝ノ土
地普ク天下ニ紹介サレナイ、洵ニ國家トシテ遺憾トスル次
第デゴザイマス、故ニ政府ニ於テハ、適當ナル案ヲ立テ、國
家經濟上且ツ文化普及促成ノ上ヨリシテ、本案鐵道ノ一
日モ速カニ達成セラレンコトヲバ、玆ニ建議スル次第デゴザ
イマス、ドウカ御賛成ヲ願ヒマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=102
-
103・岩崎勲
○岩崎動君 本案ハ山口義一君外一名提出、大阪和歌
山間鐵道敷設ニ關スル建議案外五件ノ委員ニ併セテ付託
セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=103
-
104・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第二十一土器川外
四川改修ニ關スル建議案ヲ議題ニ致シマス、大林森次郞
君
第二十一土器川外四川改修ニ關スル建
議案(大林森次郎君外四名提出)
土器川外四川改修ニ關スル建議案
土器川外四川改修ニ關スル建議
本件建議ノ香川縣ニ於ケル土器川、香東川、財田川、綾
川、鴨部川等ノ河川ハ勾配急峻ニシテ一朝出水アル毎
ニ流水奔瀉如箭ノ激流トナリ比年堤防ノ決潰ノミナラ
ス其ノ被害ハ市及町村ニ及ヒ人畜死傷田園家屋等人
命財產ノ失亡セルモノ尠カラス其ノ悲慘ナル狀況ハ累年
ニシテ地方費ノ復舊工事ハ到底完全ノ改修ヲ成ス能ハ
サルニ依リ政府ハ速ニ之カ實査ヲ爲シ國庫支辨ヲ以テ
其ノ改修工事ヲ遂行シ以テ被害地方人民ノ救護ニ努
メラレムコトヲ望ム
右建議ス
〔大林森次郞君登壇、拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=104
-
105・大林森次郎
○大林森次郞君 只今上程サレマシタ所ノ土器川外四
川四川ト申シマスノハ、香東川、財田川、綾川、鴨部川デア
リマシテ、最早定刻ニ迫ッテ居リマスカラ、議長ノ御許ヲ得マ
シテカラニ、此提案ノ趣旨竝ニ理由ハ速記ニ載セテ戴クコ
トニ致シマス、ドウカ御賛成ヲ願ヒマス(拍手起ル)
〔參照〕
土器川、香東川、財田川、綾川、鴨部川ハ何レモ阿讃國
境ノ分水嶺ニ其源ヲ發シ瀨戶内海ニ注ゲルモノニシテ
各河川ノ現狀水害ヲ被ムル點ニ至リテハ全ク同樣ノ次
第ナルニヨリ會期切迫ノ今日一々之カ說明ノ煩ヲサグ
便宜上其一タル土器川ニツキテ說明申上ケ他ハ之レニ
依ッテ御推知ヲ願ヒマス
土器川ハ香川縣綾歌郡仲多度郡丸龜市ヲ貫流シ流域
ノ地勢ハ勾配强ク從ッテ其流レハ最急ニシテ然モ其水
源地方ノ地質山林ノ情勢上土砂崩潰シ易ク降兩每ニ砂
礫流下堆積シ河床ハ沿岸地ヨリ高キコト十數尺恰モ
水ハ屋上ヲ流レツヽアルノ現況ナルニ尙ホ土砂ハ每年
平均三寸以上積層ヲ加エツヽアリ愈倍々排水ヲ妨ケ毎
年雨季ニ入レハ必ス數囘汎濫沿岸部落殊ニ丸龜市東
部過半ノ家屋ニ浸水シ床上二三尺ニ達スルコト稀ナラ
ス大正元年ノ如キハ三十名ニ垂ントスル人命多數ノ家
畜ヲ損シ家屋ノ流失倒壊大破浸水數千戶ニ及ヒ田畑
ノ荒蕪作物ノ流腐資財ノ汚滅等其損害實ニ驚クヘキ
巨額ニシテ酸鼻ヲ極メタリ沿岸住民ハ日夜安キ心ナク
根本的治水策ノ急施ヲ要求シテ止マサルモ如何セン香
川縣ハ小縣ニシテ其經濟極メテ貧弱ナルニ縣費支辨ニ
屬スル河川バ其數八百二十四ノ多キヲ算シ其必要ヲ確
認セルモ地方費ノ負擔ニ顧ミ僅ニ堤塘ノ嵩置工事決
潰箇所ノ復舊工事不徹底ナル砂防工事ヲ施スニ過キ
ス而シテ水害史ヲ見ルニ水害ノ度ハ囘一回劇甚ヲ加エ
ツヽアリ故ニ現狀ノ儘推移センカ近キ將來必スヤ非常
ナル大慘害ヲ現出スルヤ明ナリ右諸川ハ內務省直轄河
川ニアラサルモ皆其準用河川ナルニヨリ政府ニ於テ速ニ
實査ヲ逐ケ根本的治水策ヲ施サレンコトヲ望ミ本案ヲ
提出セシ次第テアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=105
-
106・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ原田藤次郞君外五名提出山田川
ニ河川法適用ニ關スル建議案外十件ノ委員ニ併セテ付
託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=106
-
107・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=107
-
108・岩崎勲
○岩崎勳君 日程ノ審議ハ本日ハ此程度ニ止メ、殘餘ノ
日程ハ之ヲ延期シ、明二十三日定刻ヨリ特ニ本會議ヲ開
キ、他ノ日程ト共ニ之ヲ審議セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=108
-
109・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、本日ハ是デ散會
午後五時五十四分散會
衆議院議事速記錄第二十八號正誤
頁段行
六九二中三「野溝傳一郞君」ノ下ニ「熊谷直太君」ヲ
加フ
衆議院議事速記錄第三十號正誤
頁段行誤正
七四四下三〇會社會計
〔衆議院議事速記錄第三十一號衆議院議員仙波太郞君
提出西伯利派遣軍竝薩哈嗹洲占領軍ニ關スル質問ニ對
スル答辯書別册〕
浦潮及薩哈嗹州派遣軍ノ情況
第民舍若クハ兵舎ニ於ケル駐屯ノ情況
、兵營ノ情況
イ、浦潮派遣軍
大正八年四月我派遣軍改編ノ當初ハ列國軍ノ駐
屯ト避難民ノ集合等トニヨリ一般家屋ノ不足ヲ訴
ヘツツアリシモ大正九年四月露軍ノ武装解除實施
以來露國官憲ノ建築物ハ我軍ノ任意使用ヲ許ス
ニ至リシヲ以テ部隊ノ收容ハ大ニ寬裕ナラシムルヲ
得目下殆ント皆完全ナル露國煉瓦造兵營ヲ使用
シ唯高等司令部及之ニ伴フ職員宿舍ノ一部ノミ
位置ノ關係其ノ他ノ爲メ民有家屋ヲ借入レ使用
シツツアリ而シテ建物內部ノ設備ハ實用ヲ主トシ
且過去冬營ノ經驗ニ依リ其ノ改善ヲ計リタルヲ以
テ冬營上何等ノ支障ナシ
ロ、薩哈嗹州派遣軍
兵營其ノ他ノ建築ハ昨年八月上旬其ノ工ヲ起シ
同年十月中旬之ヲ完成セリ其ノ新築建物ハ約八
千七百餘坪ニシテ露國官有建物ヲ修繕應用セル
モノ約一萬一千六百餘坪ナリ兵室ノ幅員ハ一人
當リ約一坪二合ニシテ其ノ割合ハ內地兵營ト異ナ
ルコトナシ而シテ今回新築セシ建物ハ全部木造ニ
シテ各部ヲ防寒構造トナシ以テ冬營上遺憾ナキヲ
期セリ卽チ一部ハ校倉式丸太組、大部ハ基礎ヲ丸
太組トシ建物脚部周圍ニ盛土ヲ爲シ壁ハ厚板二
重張内部ニ建築紙ヲ張リ乾土ヲ塡充シ床及天井
モ亦二重厚板張其ノ間ニ乾土ヲ塡充シ以テ防寒
效力ヲ完全ナラシメタリ又露國在來ノ建物ハ總テ
丸太組校倉式防寒構造ナルヲ以テ之カ修繕ハ屋
根及內部ノ補修ニ止メタリ
二、駐屯ノ情況
以上述ヘタルカ如ク兩派遣軍ノ兵營ハ比較的完全ナ
ルモノニシテ其ノ駐屯ノ情況ハ別紙要圖ノ如シ
第二防寒ノ設備、防寒具ノ支給
一、防寒ノ設備
派遣軍ノ營舍ニハ全部採暖用トシテ露式煖爐若クハ
置媛爐等ヲ備付ケ其ノ燃料ハ石炭及薪ヲ用ヒ不足
ナク給與(露式煖爐一箇ニ付一日石炭十三貫若クハ
薪二十五貫、置煖爐一箇ニ付石炭十貫若クハ薪二
十貫內外)シツツアルヲ以テ極寒時ト雖何等支障ナキ
ノ情況ニアリ而シテ其ノ燃料ハ西伯利及亞港附近ニ
在リテハ現地ニテ購買シ需用ヲ充足シ得ヘク又之カ
調辨困難ナル北樺太東海岸所在部隊ニ對シテハ結
氷前冬季間所要量ノ追送ヲ了シアルヲ以テ何等懸
念スヘキコトナシ
二、防寒具ノ支給
通常冬季用被服一揃(第八參照)及寢具用毛布四
枚宛(薩哈嗹州派遣軍ニハ木綿蒲團一枚宛ヲ加フ)
ヲ給スルノ外防寒被服トシテハ從來ノ實驗ニ基キ制
定シタル毛皮製ノ帽、「胴著及羊毛製ノ橋袢、袴下、手
套、靴下等將校下士卒總テ同樣ノモノヲ各人ニ支給
シアリ其ノ防寒被服ノロ目員數左ノ如シ」
防寒帽(兜形、毛皮裏附)箇
同襦袢袴下)組
同手套毛「メリヤス」厚地製二
同靴下套組
同大手套手套ノ上ニ襲用ス)-組
表地絨、毛皮裏附
同胴着(表地綿布、毛皮裏附)箇
同襟(表地絨、毛皮裏附)一箇
同半袴袴ノ上ニ襲用ス箇
表地綿布、毛皮菜附)
同靴表地防水綿布、毛皮裏ヲ附シ滑一組
止メノ爲メ底部「フエルト」出
右ノ内薩哈嗹州派遣軍ニハ胴着ヲ支給セサルモ普通
外套ト略、こ同制式ノ毛皮裏外套ヲ支給シ又靴ハ厚地
「フエルト」製長靴トシ特ニ本「ネル」製襦袢、袴下ヲ貸
與ス
又歩哨勤務等極寒時ノ屋外勤務ヲ顧慮シ懷爐及同
灰ヲ追送給與シツツアリ
以上ノ如ク室內ニ於ケル採暖ハ勿論屋外勤務ノ際ニ於
テモ防寒ニ支障ナキ樣防寒具ノ給與ヲ實施シアリ
第三勤務、練兵、娛樂
一、勤務
嘗テ浦潮派遣軍カ黑龍、貝加爾地方迄モ作戰セシ當
時ニ於テハ兵力ニ比シ行動ノ範圍甚夕大ニシテ而モ
情況暗澹隨所戰鬪行動ヲ必要トセシ爲メ我將卒ノ
努力ハ實ニ絕大ニシテ克ク筆舌ヲ以テ盡シ能ハサル
所ナリシカ皇軍ノ威力ニ依リ極東露領ノ情況遂次安
定シ之ト共ニ昨夏後貝加爾地方ノ撤兵ヲ行ヒ引續キ
哈府方面ノ駐兵ヲ撤シテ浦潮附近沿海州南部ノ小
池域ニ其ノ守備線ヲ縮小シタルカ故其ノ勤務ハ漸次·
輕減セラレ目下ハ一般ノ警戒、居留民護衛及交通線
ノ保護等〓シテ平穏ナル守備勤務ニ服シツツアリ然レ
トモ所謂「パルチザン」、不逞鮮人若クハ無賴ノ徒輩等
所在出沒シテ危害ヲ加フルヲ以テ此等ニ對スル警戒
討伐等ノ爲メ我將卒ノ奮勵苦心察スヘキモノアリ
樺太方面ハ浦潮方面ニ比シ情況更ニ平穩ニシテ其
勤務ハ一般警戒ノ外郵便物遞送ノ護衞ナリ而シテ
宿營力ノ開係上駐屯部隊ノ小ナル地ニ在リテハ此ノ
特種勤務ノ爲メ下士卒ノ努力甚夕大ナルカ故時々
部隊ヲ交代セシメ其ノ勤務フ平均シツツアリ
二、練兵
守備勤務ノ性質上部隊ヲ各所ニ分駐スルノ已ムヲ得
サルモノアルカ爲メ又其勤務ハ內在屯在ノ部隊ニ比
シ著シク繁多ナルカ爲メ充分ナル練兵ヲ實施スルコト
ハ不可能ナル狀態ニアリ然レトモ〓育ハ軍ノ任務遂
行上須臾モ忽ニスルヲ得サルカ故銳意之カ實施ニ努
メ〓練、射擊、陣中勤務等ハ勿論特ニ比較的大部隊
ノ集團駐屯セル地方ニ於テハ稍〓大規模ノ行軍竝野
外演習等ヲ實行シツツアリ
三、娛樂
清鹽ニハ慰問倶樂部アリテ屢。各種ノ興業ヲ實施シ
下士卒ヲ無料入場セシメ又日本基督靑年會ノ娛樂
場アリテ隨時新聞雜誌ノ閱讀、圍碁將棋ノ娯樂ヲ爲
シ得シムル等ノ設備アリ其ノ他ノ地方ニ註屯スル部
除ニ在リテハ時ニ渡航シ來ル演藝者ヲシテ若干各除
ヲ巡廻演奏セシムルコトアルモ〓ネ勤務演習ノ餘暇
ニ於テ蓄音機、圍碁將棋若クハ兵卒中ノ功者カ浪花
節、落語、琵琶等ヲ行フコトアルニ過キス
尙將卒ノ犒勞慰安ノ爲メ〓酒、煙草、甘味品等ノ加
給品ヲ給與シ(第八給與參照)又各隊ニ酒保ヲ設ケ
テ廉價ニ各人ノ需要嗜好ニ應セシメ併セテ其慰安ニ
資シツツアリ
又大正七年八月二十一曰陸軍省告示ヲ以テ恤兵
事務開始ニ關シ公示シ爾來陸軍大臣官房ニ於テ其
事務ヲ取扱ヒツツアルカ出征者ニ對スル國民ノ同情
厚ク金品寄贈ノ情況左ノ如シ
自九月円慰問箇
大正七年至十二月貪一六二、八〇八·八九〇袋五〇六、五五五
自一月金員二八、七八〇·四八〇慰問一三、七四四
大正八年至六月袋
自七月金員三一、八〇〇·三七〇慰問三〇六
至十二月袋
自一月金員一八、四六四·八三〇慰問七九、九四四
大正九年至六月袋
自七月貪一五、九八五·九七〇慰問六八、一五二
至十二月袋
右ノ如ク大正九年末迄ニ金員合計二五七、八四〇
圓五四〇、慰問袋六六八、七〇一箇外ニ慰問品トシ
テ價額約五五、○圓ノ多額ニ上レリ而シテ慰問
品ノ內容ハ新聞、雜誌、繪葉書、酒、煙草、菓子、碁、將
棋、日用雜品等ニシテ金員モ亦此種物品ヲ購入シ咋
年末迄ニ西伯利方面ニ二十五回、薩哈嗹方面ニ八回
發送分配セリ卽チ一箇月一人當約三十錢內外ノ物
品ト慰問袋約一個受領ノ割合ニシテ出征者ハ此熱
誠ナル國民ノ同情ニ對シ頗ル感謝ノ意ヲ表シ陣中ノ
勞ヲ慰メ餘暇ノ娯ヲ爲サシムルニ甚大ノ效果ヲ收メツ
ツアリ尙恤兵金品受領ノ際ハ隨時官報ノ廣告ニ依
リ發送ノ際ハ新聞雜誌ニ寄稿シ揭載方取計ヒツツ
アリ
第四軍紀、風紀
兩派遣軍ノ軍紀、風紀ハ確實ニ保持セラレ軍隊內ノ
思想ニ動搖ヲ生スルカ如キ傾向ハ之ヲ認メス而シテ駐
屯長キニ亙ルモノ等ノ內ニハ間々軍人ノ本分ニ背キ
不法行爲ヲ敢テシ或ハ凱旋後不平ノ口吻ヲ漏ス等
若干ノ不心得者アルカ爲メ世上西伯利駐屯軍隊ノ
思想惡化ヲ云爲スルモノアルカ如キモ是レ多クハ故ラ
ニ事實ヲ誇張シテ爲ニセントシ若クハ特ニ過激主義
者等カ帝國軍隊ヲ攪亂シ其ノ主義ヲ宣傳セントスル
奸策ニ過キスシテ事實軍隊ハ健全ニ服務シ何等憂慮
スヘキ情況ニアラサルノミナラス一面ニ於テハ却テ忌ム
ヘキ過激主義ノ慘劇ヲ目擊シテ深ク其ノ覆轍ヲ戒メ
ツツアルモノアリ然レトモ近代思潮ノ傾向ニ就テハ深
甚ノ注意ヲ拂フヲ要スルヲ以テ各部隊長ハ嚴ニ部下
ノ非違ヲ戒飭スルト共ニ其ノ誘掖指導ヲ適切ニシ益、
軍紀、風紀ノ緊〓ヲ圖リ帝國軍隊ノ威信ヲ保ツニ
於テ遺憾ナキヲ期シツツアリ
第五交通
、西伯利方面
西伯利出兵ノ當初日、英、米、佛、支等ノ聯合各國ニ
於テ協定セシ西伯利鐵道管理ニ關スル取極ハ目下尙
依然存續セラレ我委員ハ東支南線、尼市以北ノ烏蘇
里鐵道及黑龍鐵道ヲ管理シ米國委員ハ「オムスク」鐵
道、後貝加爾鐵道、東支本線及烏蘇里鐵道ノ一部ヲ
管理スヘキコトトナリアルモ米國ハ昨年六月哈市及
浦潮ニ少數ノ委員ヲ殘置シ其ノ他ヲ總テ歸還セシメ
我國亦哈府ノ撤兵ト共ニ同地ニ在リシ管理委員ヲ
引上ケシメシカ故ニ目下事實上聯合國管理ノ行ハレ
ツツアルハ東支鐵道及烏蘇里鐡道ノ一部ニ過キサル
狀態ナリ
又別ニ陸軍ハ其ノ駐屯地域内ニ於ケル鐵道交通及
通信業務處理ノ爲ノ目下野戰交通部、臨時鐵道隊
及臨時通信隊ヲ派遣シ且「エフゲネフカ」浦湖間、「ポ
クラニーチナヤ」浦潮間、蘇城支線及哈市以東竝以南
ノ東支鐵道ニ於ケル重要ナル停車場ニハ我停車場
司令部及所要ノ機關ヲ配置ス
尙昨年四月上句沿海州ニ於ケル露軍ノ武装解除事
件ト共ニ烏蘇里鐵道沿線ノ過激派軍ハ殆ント全線
ニ亙リ鐵道電線ノ破壞ヲ行ヒ且總テノ勞働者及鐵
道從業員罷業シ交通機關全ク停止スルニ至リシヲ以
テ我派遣軍ハ自ラ之カ修理ヲ爲シ多大ノ苦心ト勞
力トヲ以テ五月末浦潮ヨリ哈府ニ至ル間ヲ完成セリ
而シテ「イマン」以南ハ全ク我軍ニ於テ復舊セシモノナ
ルカ故ニ此ノ區間大部ノ鐵道運行ハ爾來引續キ軍ニ
於テ實施セシカ露國當局ヨリ頻ニ其ノ還付ヲ請願シ
來リシヲ以テ第十四師團ノ哈府撤退ト共ニ之ヲ還
付セリ
尙現在ニ於ケル鐵道交通ノ狀態ヲ述フレハ左ノ如シ
イ、東支線
東支本線ノ昨年十二月中ニ於ケル一般交通列車
運行數ノ平均一日〓シテ五列車ニ達シアルモ最近
舊ノ「セメノフ」軍及「カッペリ」軍ニ屬セシ避難者輸
送ノ不規則ナル運行ト冱寒トノ影響ヲ受ケテ列車
運行ノ遲延減少多ク又一般經濟上ノ不況ニ關聯
シ鐵道ノ經濟狀態ハ益〓不良トナレリ
ロ、浦潮附近及烏蘇里線
我軍行動地域内一般ノ運行狀態ハ〓シテ良好ニ
シテ一般交通列車ノ一日平均運行回數ハ浦潮尼
市及浦湖「ポクラニーチナヤ」間約五列車、尼市「エ
フゲネフカ」間約二列車、蘇城支線約三列車ナリ然
レトモ其ノ經濟狀態ハ甚タ不良ニシテ燃料ノ支拂
ニモ窮シ動〓モスレハ之カ供給ヲ謝絕セラレントスル
情況ニアリ
ハ、日本軍守備地域外ノ交通情況
烏蘇里線中「イマン」以北ハ日々定期列車一往復ノ
運行アルモ線路ノ衰損、輪轉材料ノ不足甚シク其
ノ運行頗ル不規則ナリ黑龍線モ亦線路及材料ノ
衰損著シク其ノ交通狀態依然良好ナラスシテ普通
列車ノ運行、一週〓ネ二回ニ過キス後見加爾線
ハ知多滿洲里間ノ運行ヲ持續シアルノミ
又西伯利方面ノ我通信ハ臨時電信隊之ニ任シ主ト
シテ哈市ヨリ尼市ヲ經テ浦潮ニ至ル間及浦湖ヨリ朝
鮮國境慶興附近ニ至ル間ノ有線電信電話ノ通信
竝哈市、尼市、「ルスキー」島其ノ他ニ於ケル無線電信
所ノ通信ヲ擔任ス而シテ其ノ內地ニ至ル軍用通信經
路ハ「ルスキー」島、金澤兩無線電信所ニ依ルモノト
哈市、浦潮ヨリ夫々京城ニ至ル有線電信トノ二線アル
ヲ以テ通信ノ甚シク澁滯スルコトナシ
二、薩哈嗹州方面
北樺太ニ配置シタル軍隊の後後連絡ヲ確保スル爲メ
冬季海上交通斷絕ノ已ムナキヲ考慮シ陸路交通ノ
方法ヲ講セリ卽チ道路ハ亞港ヨリ〓ネ樺太ノ中央ヲ
縱貫シ國境ニ於テ樺太廳ニ委托修築セシ道路ニ連
接スルモノト中途ヨリ分岐シテ石油坑ノ所在地タル
「ヌイオ」及「チヤイオ」ニ連絡スルモノトノ二ニシテ前者
ハ〓ネ內地ノ縣道程度、後者ハ〓ネ輕車輛道ノ程度
ニ構築スル計畫ナリシモ實施ノ結果ニ於テハ多少變
更シタルモノアリ而シテ冬季北樺太ヘノ交通ハ南樺
太大泊ヲ起點トシ鐵路榮濱ヲ經由シ若クハ內路ヨリ
上記道路ニ依ラサルヘカラス其ノ輸送機關ハ犬橇、馬
橇及馴鹿橇ノ三種ニシテ犬橇最モ輕快ナリ卽チ單獨
旅行ノ場合ニ於テハ天候及道路良好ナラハ八十貫ノ
重荷ヲ一日二十里ノ遠キニ輸送ス然レトモ普通一日
十里フ基準トス而シテ榮濱ヨリ亞港ニ到ルニハ平均
〓ネ十日乃至十四日ヲ要シ「デルベンスコエ」ヨリ「チヤ
イオ」ニ到ルニハ五、六日ヲ要スルカ如ク沿道〓ネ四里
ヲ間シテ此ノ種交通ニ必須ノ驛舍ヲ設ケ宿營給養ニ
便ス
又薩哈嗹方面ノ通信ハ薩哈嗹電信隊之ニ任シ亞港
ヨリ國境ニ至ル間竝ニ亞港ヨリ「チヤイオ一ニ至ル間ノ
有線電信電話ノ通信ヲ擔任スル外亞港「ヌイオ」ニ於
ケル無線通信所ノ通信ヲ擔任ス而シテ其ノ內地ニ至
ル軍用通信經路ハ亞港ヨリ豐原及眞岡ヲ經由スル
各有線電信-亞港金澤間ノ無線電信トノ三線アル
ヲ以テ通信ノ甚シク澁滯スルコトナシ
尙昨年十二月ヨリ野戰郵便局ノ所在地タル亞港、
「ルイコフ」及「チヤイオ」等ニハ公衆郵便、爲替貯金及
公衆電報ノ取扱ヲ開始セリ
第六運輸
一一般ノ情況
浦潮派遣軍竝薩哈嗹州派遣軍兩方面各別ニ交通
船ヲ運行シ浦潮方面ニ對シテハ目下筑前丸、新高丸、
東〓丸及色丹丸ノ四隻總計約一萬噸ヲ使用シ宇
品浦潮間ニ新高丸及東〓丸ノ二隻ヲ、敦賀浦潮間
ニ筑前丸ヲ忘當シ色丹丸ハ之ヲ豫備船トシテ臨時ノ
使用ニ供シ以テ兩航路共〓ネ每週一回宛運行シツ
ツアルモ近ク一隻ヲ減少スル豫定ナリ
薩哈嗹方面ニ對シテハ中華丸及三國丸ノ二隻總計
約三千噸ヲ充當シ亞港方面結氷期間(十二月上旬
乃至四月上旬)浦潮ヨリ碎氷船貝加爾號ヲ借上ケ
碎氷ニ任セシメ尙ホ交通船ニ耐氷装置ヲ施シ〓ネ一
旬一回小樽ヲ基點トシ途中大泊ニ寄港シ亞港ニ運
行セシメツツアリシカ先般貝加爾號ノ故障以來暫ク
大泊若クハ情況ニ依リテハ內路ニ運行セシムルコトト
セリ
二、港灣ノ情況
時局ニ關係シテ使用シアル港灣ハ浦潮方面ニ對シテ
ハ宇品(途中門司寄港)敦賀ヲ起點トシ薩哈嗹方面
ニ對シテハ主トシテ小樽港ヲ起點トシ大泊、亞港、「デ
カストリー」、尼港及內路等ノ各港灣ヲ終點トス而シ
テ內地港灣ノ情況ハ特ニ說明ヲ要スルモノノ外之ヲ
略シ外地港灣中二、三ニ關シ述ヘントス
イ、浦潮浦潮港ハ每年十二月中旬ヨリ四月ニ至ル
間氷結シ船舶ノ出入不可能ナルヲ以テ此ノ期間ニ
於テハ露國海軍部其ノ他二、三ノ會社ヨリ所屬碎
氷船ヲ商港努局ニ提供シ同局ハ更ニ其ノ所屬碎
氷船ヲ加へ合計七乃至八隻ヲ以テ碎氷ニ任シ出
入船舶ヨリ一定ノ料金ヲ徵收シツツアリシカ露國
革命以來石炭ノ供給充分ナラス日本軍ヨリ其ノ
不足額ヲ供給シ本冬ニ於テハ我軍ヨリ石炭三千
五百噸ヲ供給シ運送船ハ勿論日本國旗ヲ揭クル
船舶一切ニ對シ料金ヲ免除セシメ其ノ他ノ船舶ニ
對シテハ總噸數一噸ニ對シ三十錢ヲ徴收スルコト
ニ協定セリ而シテ浦潮港ノ埠頭ハ東支鐵道所屬ノ
モノ、商港務局專用ノモノ、一般商船用ノモノ及舊
軍港所屬ノモノ等アリテ目下我陸軍ニ於テ使用中
ノモノハ東支鐵道所屬ノ一部ニ屬シ揚搭及海陸
連絡共ニ至便ニシテ且碎氷作業最モ容易ナリ
ロ、亞港亞港ハ殆ント一直線ノ海岸ニシテ而モ每
年十二月上句乃至四月上旬ノ間結氷スルカ故ニ
港灣タルノ價値ニ乏シ然レトモ他ニ良好ナルモノナ
キヲ以テ北樺太ノ開發ハ本港ノ築港ニ俟タサルヘ
カラス
ハ、「デカストリー」亞港ノ對岸ニ在リ良好ナル港湾
ヲ成形ス結氷ノ關係ハ亞港ト略〓同一ナリ
ニ、尼港尼港ハ黑龍江口ニ位置シ水深淺ク而モ航
路狹隘ナル間宮海峽ヲ控フルヲ以テ該地ヘノ航行
ハ五月下旬乃至六月上旬ヨリ九月下旬ニ亙ル期
間ノミ之ヲ許ス
オ、大泊及內路大泊ハ一月ノ交僅ニ四、五日間結
氷スルノミ內路ハ十二月下旬乃至二月下旬ノ間
結氷ス
ヘ、敦賀敦賀ハ浦潮及內地トノ交通上至便ノ位置
ニ在リ宇品ヲ基點トスルニ比シ航行日數一航海二
日ヲ減シ出征部隊ノ交代等ニ際シテモ其ノ衞戌地
ノ關係ニヨリテハ交通頻繁ナル山陽線及束海道線
ノ鐵道輪送ヲ省略シ得ル等ノ利益ヲ有スルヲ以テ
夙ニ之カ利用ヲ企テタリト雖歸還部隊ハ上陸ノ際
檢疫ヲ爲スノ要アリ從來敦賀ニ此ノ設備ナカリシ
カ爲メ前述ノ利益ヲ收ムルコト能ハサリシカ今回檢
疫所ノ設備完成セルヲ以テ今後ノ輸送上至大ノ
便宜ヲ收メ得ルコトトナレリ
三、輸送ノ情況
大正九年一月ヨリ同十二月ニ至ル浦潮方面輸送ノ
情況ハ第十三及第十一兩師團ノ派遣、第五及第十
四師團ノ歸還輸送ヲ主ナルモノトシ軍隊ノ外同地ニ
輸送セシ軍需品ノ總計約六萬噸ニ達ス亞港方面ニ
於テハ北部沿海州派遣隊竝薩哈嗹州派遣軍ノ輸送
ヲ主トシ尙ホ道路、建築及鐵道人夫等合計約七千
人ノ派遣及歸還一部人員ノ輸送ヲ實施シ軍隊ノ外
糧秣、建築材料竝鐵道材料等ノ數量約四萬五千噸
ニ達ス而シテ之カ爲メ使用シタル船舶ハ定期交通船
ヲ合シ浦潮方面九隻月延使用總噸數二〇七、九五
四噸、薩哈嗹方面二十一隻月延使用總噸數九三、
五五五噸ナリ
四、碎氷船ノ情況
冬期薩哈嗹方面ノ海上交通ヲ成ルヘク長ク持續スル
ノ必要上露國海軍部所屬ノ碎氷船貝加爾號ヲ借上
使用中ナリ本船ハ千九百十七年上海ニ於テ建造シ
タルモノニシテ總噸數約一實馬力約二、二
〇〇、速力一二浬ヲ有シ速力約二浬ヲ以テ厚サ約二
尺ノ氷ヲ碎破シ得ヘク氷ノ厚サ五寸以下ナラハ普通
速力ノ儘碎米シツツ航行シ得ヘシト雖元來浦潮灣
內ニ使用スルノ目的ヲ以テ建造シタルモノナルカ故炭
水ノ最大搭載量ハ約一週間ノ航海ニ堪フルニ過キス
又船體ノ構造モ外海ノ航海ニ適セザルヲ以テ之ヲ亞
港方面ニ使用スル爲メ特ニ我海軍將校ヲ監督官トシ
テ乘組マシメ船長以下同官ノ指導ノ下ニ困難ナル任
務ニ服シツツアリ而シテ本年一月中旬ノ遭難ハ前述
ノ如ク炭水ノ携行量多カラサリシニ途中舵機ニ故障
ヲ生シ且亞港ニ於テ氷上ヨリ炭水補給中究然氷二
大龜裂ヲ生シタル爲メ沖合ニ漂流スルノ已ムナキニ至
リタルモノナリ
第七衞生
西伯利及薩哈嗹州派遣部隊ノ內地港灣出發以降
ノ患者數別表ノ如ジ
流行性感冒ハ内地諸部隊ニ發生セシト殆ント期ヲ同
ウシ派遣部隊ニモ發生シ來リシヲ以テ各隊ハ極力其
ノ防遏ニ勉メ有熱者ノ發見ニ努力シ輕微ノ有熱者モ
咽頭其ノ他ノ氣道ニ炎症ヲ有スル者ハ總テ之ヲ重キ
ニ從ヒ流行性感冒患者トシテ取扱ヒ隔離療養ヲ加
ヘ以テ隊内流行ヲ防止セリ從テ左表ノ如ク感冒患者
トシテ計上セラルル者ハ內務省ノ地方患者統計ニ比
シ其ノ數多キカ如キ觀アルモ其ノ死亡率ニ至リテハ
著シク少數ナリ卽チ内務省ノ統計ニ依ル本年度流行
性感冒患者百人ニ對スル死亡者ノ割合ハ二、一九
(一月第二旬末迄ノ累計(名者ニ一、九三)ナルニ派遣部
八、死亡六九〇
隊ノ同割合ハ〇、五六%ニ過キス
一月第二旬派遣部隊流行性感冒患者表
部隊旬間新患大正九年十月
初發以降累計同死亡
浦潮派遣軍直屬二六一
部隊
第十師團七三五六{四
第十三師團三一七二)
薩哈嗹州派遣軍三三三一〇一
計五四八九九五
虎列剌ハ昨年夏季西伯利各地ニ散發シ危險狀態ニ
陷リシカ時機ヲ失セス豫防接種ヲ施行シ露國官憲ト
協力シテ其ノ防遏ニカメタル結果幸ニ大ナル慘害ヲ
見スシテ終熄セリ
「ペスト」ハ目下北滿地方ニ於テ露人及支那人間ニ漸
次流行擴大シ一月二十日調ニ依ルニ初發以來二百
七十六名發生セリト云フ病症ハ最モ危險ナル肺「ペス
ト」ニシテ最近更ニ南滿地方ニ侵入セシ形跡アリ浦湖
派遣軍ニ於テモ專門ノ軍醫ヲ派シ極力其ノ防遏ニ努
メツツアリ幸ニ未タ其ノ侵入ヲ見ス
尙從來陸軍ノ檢疫所ハ似島ノ一所ニ限ラレ爲ニ衞
戌地ノ關係ニ依リテハ歸還輸送ニ迂囘ヲ要シ不利不
便鮮カラス乃チ大正九年五月末敦賀檢疫所設置ノ
議決定シ六月以降設計ニ著手シ十月下旬起工十二
月末竣工ヲ告ケタルヲ以テ爾後內部ノ諸設備ヲ整ヘ
本年一月二十日該檢疫所ヲ開設スルニ至レリ而シテ
一月二十四日既ニ西伯利歸還者竝船員約三百名
及還送被服類約千四百梱ニ對シ檢疫消毒ヲ實施シ
爾後同地ニ上陸、揚陸スヘキ人馬物件ニ對シテハ悉
ク檢疫及消毒ヲ實施スルモノナリ
第八給與
浦潮及薩哈嗹州派遣軍ニ屬スル軍人軍屬ノ給與ハ
派遣ノ當初ニ於テハ一般ノ戰時給與ニ依リタルモ派
遺地方ニ於ケル特殊ノ氣候、交通及物資ノ情況等ニ
鑑ミ現、時ニ於テハ〓ネ之ヲ左記ノ如クニ改メ沍寒僻
陬ノ地ニ在リテ勤務上其ノ遺憾ナキヲ期シタリ
戰時增給
一般俸給料ノ外下級者ニ厚クスルノ趣旨ヲ以テ左ノ
戰時增給ヲ爲マ
准士官以上及軍屬ニハ俸給ノ四割
下士以下營外居住者給料ノ五割
營內居住者六割
卽チ下士以下ノ給額ハ左ノ如クニシテ衣食住及日用
品ヲ總テ官給セラルルカ故ニ日常ノ費用ヲ措辨セシム
ルニ足ル
下士以下戰時給料增給額
營外居住者營內居住者
階級區分
給料增給計給料增給計
円円円円円円
等六三·〇〇〇三一·五〇〇九四·五〇〇三九·〇〇〇二三·四〇〇六二·四〇〇
曹長二等六〇·〇〇〇三〇·〇〇〇九〇·〇〇〇三四·五〇〇二〇·七〇〇五五·二〇〇
三郎五七·〇〇〇二八·五〇〇八五·五〇〇三〇·〇〇〇一八·〇〇〇四八·〇〇〇
一千三一·〇〇〇二五·五〇〇七六·五〇〇二二·五〇〇一三·五〇〇三六·〇〇〇
軍曹二等四八·〇〇〇二四·〇〇〇七二·〇〇〇一八·〇〇〇一〇·八〇〇二八·八〇〇
三〓三五·〇〇〇二二·五〇〇六七·五〇〇一五·〇〇〇九·〇〇〇二四·〇〇〇
四等ロ二·〇〇〇二一·〇〇〇六三·〇〇〇一三·五〇〇八·一〇〇二一·六〇〇
伍長二 第三九·〇〇〇一九·五〇〇五八·五〇〇一〇·五〇〇六·三〇〇一六·八〇〇
CIS三七·五〇〇一八·七五〇五六·二五〇九·〇〇〇五·四〇〇一四·四〇〇
下士勤務上五·一〇〇三·〇六〇
等兵八·一六〇
上等兵一等三四·五〇〇一七·二五〇五一·七五〇四·五〇〇二·七〇〇
三三·〇〇〇一六·五〇〇四九·五〇〇七·二〇〇
二等卒三·六〇〇二·一六〇五·七六〇
二、糧食
派遣軍ノ糧食給與ハ將校下士卒總テ同樣ニシテ其
分量ハ戰時定量ヲ基準トシ約三千六百乃至三千
八百「カロリー」ノ營養量ヲ給シ保健上ノ必要ヲ充足
スルノミナラス紅茶砂糖等ノ防寒飮料ヲ給シ以テ酷
寒地給養ニ適應セシメ又慰安ヲ顧慮シテ菓子類、酒、
煙草等ヲ加給シ全般ニ互リ〓シテ良好ノ給養狀態ヲ
保持シアリ其給與ノ品種分量ノ詳細左表ノ如シ
普通定量換用定量
區分種一日一人ノ定量
品種人一日一人ノ定量品
精米四合五勺麵麭二百七十匁(內一
主食合一種
備麥一合九勺精米六
倉
生肉九十匁
肉罐詰肉四十匁
無骨甞
鹽魚五十匁內
副七十匁無付種
生肉鹽魚四十匁
類乾魚三十匁
卵四十匁
野菜生物百二十匁乾物三十
類
浦潮派遣軍ニ在リテハ以上糧食諸品中生肉、生野
菜及麵麭ハ現地物資ヲ相當ニ購買利用シ得ルヲ以
テ生物給養上ニ支障ヲ來スコトナク其ノ他ノ精米、精
罐詰肉、乾野菜、味噌、醤油、加給品等ハ內地又
ハ朝鮮及南滿洲ヨリ圓滑ニ追送シアリテ補給上不安
ナキノミナラス追送品ノ選擇ニ方リテハ品位ノ適當ナ
ルハ勿論各品種ノ配合ニ遺憾ナキヲ期シツツアリ例
ヘハ罐詰肉ノ如キ牛肉罐詰ノ外ニ鰹、鯖、鰛、鰤、秋刀
魚、鮪、赤貝等十數種ヲ乾野菜ニ在リテモ切干大根、
干瓢、干牛蒡、干蓮根各種豆類等是亦二十種ヲ超ヘ
鹽乾魚、甘味品等亦同樣數多ノ品種ヲ選ヒ以テ嗜
好ニ投合スルコトニカム
薩哈嗹州派遣軍ニ在リテハ燃料、生肉魚類等ノ一部
ノ外現地物資ノ利用シ得ヘキモノナク且ツ冬季間ハ
結氷ノ爲輸送困難トナルヘキカ故ニ昨秋本年七月迄
ノ所要量ヲ追送集積シアルヲ以テ補給上懸念ナキノ
ミナラス其集積糧秣ノ配合ニ就テハ特ニ注意ヲ拂ヒ
數多ノ品種ヲ選ヒ嗜好ニ合致セシメ又生物給與ノ必
要ニ鑑ミ北海道ヨリ生野菜ヲ追送貯藏セシメ豆類ヲ
以テ豆芽菜ヲ製造スル等ノ處置ヲナシ又現地ニ於テ
全ク生肉調辨ノ見込ナキ北樺太東海岸駐屯部隊ニ
對シテハ生豚、生兎、生鷄ヲ追送スル等各種ノ方法ヲ
講シ以テ之カ給養ニ遺憾ナキヲ期シアリ尙昨夏派遣
部隊ニテ種子ヲ携行シ現地ニテ野菜ヲ若干栽培セシ
實績ニ徴シ本夏ハ一層之ヲ栽培セシメ生物給與ヲ更
ニ圓滑ナラシムル計畫ナリ
三、被服給與
派遣軍ニ於ケル被服給與ハ下士以下ニ對シテハ全部
說明
浦潮派遣軍ニテハ〓ネ每日
一食薩哈連州派遣軍ニテハ
〓ネ隔日一食麵麭ヲ用ヒ良
好ノ成績ヲ舉ケツツアリ
生肉定量ハ現地ニテ調辨シ
得ル場合ノ分量ヲ示ス
浦潮派遣軍ハ目下〓ネ生肉
四割罐詰肉三割、鹽乾魚三
割ノ割合ニ配合給與シツツ
アリ
薩哈嗹州派遣軍亦略之二準
ス
浦潮派遣軍ニテハ目下〓ネ
生物六割乾物四割ノ割合ニ
匁配合給與シツツアリ
薩哈嗹州派遣軍亦略之ニ準
ス
及寢具ニ限リ貸與シ其ノ他ハ自辨セシム
ノ如シ
品種員數說
軍幅二箇
軍衣袴二組
夏衣袴二組
普外套箇
夏外套箇
襟布二箇
通夏福祥袴二組
下
冬橘祥袴二組
下
被軍靴二組
營內靴和1
靴下三組
服
手套二組限ル
卷脚絆二組
作業衣袴組
漬物一樣漬十五匁
類鹽漬二十五匁
調醬油四
食味噌二
味
食鹽三
品砂糖三
飮料茶
紅茶一
增給品砂糖十
脂肪若
(一箇月一名)
-甘味品百二
加給品煙草八
〓酒四
官給ニシテ出發ニ際シ平素戰時用トシテ貯藏シアル
新品被服ノ各身體ニ適合スルモノヲ著裝セシメ尙著換
用ヲモ貸與シ以テ洗濯修理等ノ場合ニ支障ナカラシ
メ又其ノ破損使用ニ堪ヘサルニ至レハ随時換給シ常
ニ需要ニ不足ナカラシムルト共ニ被服給與上帝國軍
人ノ威容ヲ損セシムル如キコトナキ樣注意ヲ拂ヒアリ
又將校及准士官軍屬等ニハ防寒被服等特種ノモノ
派遣軍下士卒ニ貸與シアル被服ノ種類及員數左表
明品種員數說明
背囊箇
雜囊一箇
装
飯盒一 國
水筒〓
具携帶天樹
幕
認識票一箇
被服手入揃
具
毛布四枚
寢藁蒲團茜
具
枕(覆夫)-
防塵眼鏡箇自動車運
乘馬者ニ轉手用
眼旅〓雪盲豫防
用
右ノ外極寒地ニ相應スル防寒被服ヲ貸與シアルコト
ハ既ニ詳記セシ所ナリ尙駐屯地方ニ依リ蚊虻等ノ害
内福神漬十匁內一鹽漬定量ハ現地製ノモノヲ
種梅干十匁種元ス
勺醬油五匁醬油「エキス」及煉味噌ヲ代
エキス用スルハ軍隊行動間等ノ場
十匁煉味噌十匁合ニ多シ
匁匁匁匁
三大節其ノ他特殊ノ場合ニ
ハ本表數量ノ外ニ加給品ヲ
匁給シ又特別ノ勤勞ニ服スル
場合ニハ主食副食等ヲモ增
干給ス
十匁新年用トシテ糯米、小豆、數
十本ノ子、鯣、蜜柑、〓酒等ヲ追送
加給ス
合
尙浦湖派遣軍ニ於ケル獻立ノ一例ヲ示セハ別表ノ如シ
虫多キ箇所アルヲ以テ之カ防護用トシテ將校以下一
般ニ防蚊覆面(蚊張地ニテ作リ軍〓ノ上ヨリ著裝使
用ス)同手套(薄キ密織ノ木綿製)各一箇宛ヲ貸與シ
アリ又被服補修材料卽チ石鹼、絲、針、手入油等ハ適
時相等量ヲ支給シアリ
四、日用品給與
從來ノ戰役ニ於テハ出征部隊ニ屬スル者ノ所要日用
品ハ各自ヲシテ自辨セシメタルモ今囘ハ地方ノ交通
物資ノ狀況等ニ鑑ミ左記標準ニ依リ日用品ヲ支給
シ必要ニ應シ他ノ品種ヲ換給シ以テ各自ヲシテ日用
必需品ニ缺乏スルカ如キコトナカラシメツツアリ
手拭二箇月ニ筋齒磨揚枝三箇月ニ一本
齒磨粉每月ニ袋落シ紙每月ニ五十枚
鉛筆三箇月ニ本葉書同右三枚
半紙白紙每月ニ十枚一狀袋同右五枚
第九氣象竝氣溫
浦潮ニ於ケル既往十年間ノ平均氣溫、降水量、風向
左ノ如シ
月次氣溫降水量風向
C(株)
月(一)一二·〇九九一主ニ北、時ニ東北
二月(一)九·〇一〇·二殆ト常ニ北
三月(一)一·四一三·五北風漸ク減シ風向定マラ
ス無風ノ時多シ
四月(十)五五二七·五北風滅シ東南、南ノ風層
ス
五月(十)一〇·四八二·六東南、南風多ク時ニ北風
アリ
七六月(十)一四·〇七九·七東南、南ヲ主トス
月(十)一八·〇七三·七六月ニ類ス
(十)二二〇〇一五六·一東南、南ヲ主トシ時ニ北
八月風アリ
月(+)一七·〇一一四·〇南ニ偏スル風減シ北風增
九ス
十月(4)あん四六·三九月ニ類ス
十一月(一)io一五·二南ニ偏スル風益〓滅シ北
風漸ク多シ
十二月(一)かんO一四·八主ニ北風時々東北風ナル
コト一月ニ類ス
平均(計)(十)五二(六二四·七)冬ハ北風多ク夏ハ南風多
シ其他ノ風向ハ少シ
一箇月中ノ非晴天日數
春一六、七夏二ハ
秋一三、六冬七、三
亞港ニ於ケル氣象左ノ如シ
氣溫(C)降水量風向速度
年月
平均最高最低箱米
大正八年十二月(一)八·四二〇五
平均(一)一〇·八二七·一
大正九年一月平(一)九·七(一)五·六(一)一二·五五六·七
均
大正九上旬平均(〓)二·三(一)〇·六(一)六·八七五北西七·四
年十一中旬平均(一)五·五(一)chan(一)九·六포르北西六·七
月下旬平均(一)ハム(一)三、(一)二二八一六百頁南東五·三
浦潮、亞港間ニ於ケル緯度ノ差ハ約〇·八度ニシテ亜
港ノ一年間ノ平均氣溫○度ニ對シ浦潮ハ六度ナレト
モ一般氣象ノ關係ハ略〓相近似ス
而シテ人體ニ感スル寒冷ノ直感ハ單ニ氣溫ノミヲ以
テ標準トナスコトヲ得サルハ勿論ナルモ風力、風向及
氣濕等ハ容易ニ之ヲ他ノ地方ト比較スルコト能ハサ
西伯利派遣部隊内地港灣出發以降患者表
浦潮派遣軍
直屬部隊
區分
十一月迄十二月九月迄
患者戰傷一心〇
總數其ノ他一六、七五一三三五一二、五一六
死亡戰死一〇八
總數其ノ他四七
虎列刺一五
(月)
傳一 一九 八
赤痢(三)
腸窒扶私六
(스)
染パラヲフス二八
(三五)
ルヲ以テ今氣溫ノミニ就キ他ノ地方トノ關係ヲ求ムル
ニ浦潮一月ノ平均氣溫ハ略〓薩哈嗹州南部及「ペト
ロバウロスク」ト相等シク七月ノ氣溫ハ畧、北海道網
走、日高平原附近ト相等シ又一年間平均氣溫ハ北
海道旭川、根室附近ト相等シ
第十土民竝外國人トノ關係
、西伯利方面
穏健ナル露人ハ大ニ我軍ヲ德トシ只管倚賴シ來ルモ
一部ノ過激主義者ハ愚民ヲ煽動シ巧ニ宣傳ヲ行ヒ
陰ニ陽ニ我撤兵ヲ促シツツアルモ徒ニ其聲ノミ大ニシ
テ情況〓シテ安定ナリ但シ不逞無賴ノ徒カ良民ヲ虐
ケ掠奪ヲ恣ニスルコトアルカ故ニ此等ニ對シテハ相當
ノ警戒ヲ加へ且其掃蕩ヲ實施セリ又在留外國人ト
ノ關係ハ〓ネ圓滑ニシテ特ニ指摘スヘキコトナシ只
言語風俗ヲ異ニスルノ關係上時々個人トシテ彼我意
志ノ疏通ヲ缺キ爲ニ多少ノ齟齬ヲ來スコト無キニアラ
スト雖相戒メテ國際關係ノ圓滿ヲ期シツツアリ
二、薩哈嗹方面
曩ニ尼港事件ノ發生スルヤ帝國ハ北部沿海州派遣
隊ヲ編成シテ之ヲ該方面ニ派遣セリ當時住民ハ日本
軍ノ來航カ復讐ノ爲ナルヘキヲ揣摩シ戰々兢々タルモ
ノアリシカ軍ハ上陸ト共ニ宣言ヲ發シテ其理由說明
シ救恤ヲ行ヒテ生活ノ窮乏ヲ緩和シ醫療ヲ施シテ病
羸ヲ救ヒ而モ軍紀森嚴秋毫モ冒ス處ナク彼等ヲシテ
悉ク愁眉ヲ開カシメタリ次テ薩哈嗹州要地ノ占領ヲ
聲明シテ軍政ヲ布キ專ラ安寧秩序ノ維持ニ力メ福利
增進ヲ圖リツツアルモ施政日尙淺ク加フルニ交通不便
第十四師團第十三師團第十一師團第十二
師團
十一月迄十二月十一月迄十二月八年
七月迄
三三八三〇七三六〇
七、五〇五丸八一、二九四一六、六三六
五五三101六四六九
二一八一ニ一六八
一二、二八〇五五二
三(一五)一
七三三村
三八一一
ニシテ我勢威普カラサルカ故ニ未タ實績ノ擧ケテ云フ
ヘキモノ多カラス然レトモ有識階級タル官公史ハ過
激派ノ慘禍ヨリ免レ且軍ノ施政ニヨリ生活比較的安
固トナリシ爲メ漸次親接セントスルノ傾向ヲ生シツツ
アリ但シ外國ノ統治下ニ在ルヲ潔シトセス浦潮方面
ニ渡航スルモノナキニアラス又勞働者中ニハ中流ノモノニ
シテ衣食ノ爲メ止ムヲ得ス勞役ニ服シツツアルモノアル
モ其ノ多クハ皆文盲ニシテ何等識見ナク〓肯ノ基準
ハ一ニ生活ノ難易ニシテ我軍ノ上陸當時ハ車馬物資
ノ徵發ヲ受ケ動モスレハ反抗的態度ニ出テ又ハ惡口
雜言ヲ敢テセシモ我傭役ニヨリ收入ノ途ヲ得加フルニ
若干救恤廉賣等ノ思澤ヲ被リシカ爲メ日本軍ヲ謳歌
スルニ至レリ然レトモー元來思想低級ナルノミナラス從
來因人流竄ノ地釋放既ニ年アリト雖今尙餘類ノ居
住スルモノ鮮カラス從ツテ彼等ノ思想ハ〓シテ穩健ナ
ラス流言蜚說ニ迷ヒ直ニ之ニ附和雷同スルカ故往々
ニシテ我施政ヲ曲解シ或ハ過激派ノ宣傳ヲ信シテ我
軍ニ反感ヲ抱クモノアリ尙地方一般ニ盜賊多キモ我
軍ノ檢擧迅速ナルカ爲メ住民ハ大ニ之ヲ德トセリ又昨
秋我軍カ尼港撤退ノ際任命セシ同地ノ代表者ヨリ
時々亞港ニ情報ヲ齎ラシツツアルカ彼等ハ恭順ニシテ
同方面亦〓シテ平穏ナリ然レトモ「チタ」政權ノ權力
カ逐次ニ進襲シ來リツツアルハ事實ナルカ如シ
目下北樺太ノ人口〓ネ露人五千四百、內地人千六
百、朝鮮人八百、支那人三百五十ナルカ如ク亞港ノ
日露人ハ合計約三千人ナリ
第三師團第七師團第五師團合計
八年八年九年十一月迄十二月計
十月迄三月迄八月迄
二九四二元九一、五二七一、五二七
二二、三〇六七、六三二一三、二一六九七、八五六一、二八三九九、一三九
三五一一六七一、四四二一、四四二
一六八五六二五五九一一五九二
一ニ元八
(四)(八)(八)
八三七二八三二一八三三
(九)四(二九)(二九)
量二八八四八四
(株)(12)(一七)(一七)
一二五六一四七一四八
(五)二八(一一八)(二二八)(二二八)
病
傳
染
病
及
主
要
傷
病
備
考
痘瘡
發疹チフス
猩紅熱
實扶垤利亞
流行性腦脊髄膜炎
破傷風
麻刺里亞
回歸熱
流行性感冒
肺結核
其ノ他結核
脚氣
中毒
喝病
腦膜炎
肺炎
胸膜炎
大腸炎
花柳病
凍傷
夜盲
雪盲
患者總數
-
一
-
一
三
(四〇)
一八〇
三
一、二〇二
二
ニ
二六五
三
一
三
二六四
七〇九
四二八
四九
六
一、本表中括弧ヲ附シアルハ菌保有者ヲ示ス
一、本調ハ大正九年十二月迄トス(第十一師〓ハ十一月迄トス)
薩哈嗹州派遣軍患者數
薩哈嗹州派遣軍ニ於ケル尼港派遣除編成以來十一月末日迄ノ患者數左ノ如シ
五、三〇五
二〇
八
九
二
五五
(一一五)
元
ニ
七三九
八
一三
五八
ニ
四
二
二二四
五九
二七九
一七円
三
ー
內傳染病全身病
三二三
六
(一九〇)
七九
九八
-〇
大
元
ー
西
三
一七〇
三
一月
三四
ニ
一二九
-
五
三
六
胸膜炎
二
(三)
一九九九
一
七
-
五
三
三
三
ニ
三
ヒ
(二六)
(一九)
三、四五三
-
一五四
一二五
二三
一、二〇五
三二六
三二四
一大
花柳病
一六
二
一九
(一二一)
ニ
五〇
一
二、三七二
一六
二
二七七
三
五
六七
二尺九
五〇
二三七七
·二六五
二
七
六一
-
-
ニ
(合)
111
一、〇七一
七
五八
ニ
三
一六三
-
一三七
五八
ニ
戰死
二
六
ニ
二
(一〇〇)
四二
一、四二〇
四
四
三七
一
ニ
一
八
一二八
一四つ
一一四
三三八
四六
六〇
二
大
三八
ニ
五
二六
(五九九)
二
三八四
(一九)
六
一〇、五五四
五八
三六
七〇三五
二二
三
八
二三一
一、三三八
二、一八六
一、六八一
一、二三二
一〇五
六八
戰
一四九九
-
-
三
九
111
六
傷
六
三八
三
五
二三六
(五九九)
三
三八四
(一九)
大
一〇、七〇三
五八
三六
七三六
二二七
三
八
二三五
一、三五一
二、一九五
一、七〇四
一、二四八
一〇五
六八
三
自十一月一日
大正九年至十一月七日獻立表
朝食晝食
區分
名稱品目一人分量名稱品目一人分量
二〇タ罐二〇匁
味豆玉噌腐菜二〇豚ㅎ
日汁噌味一五罐カ醬砂蒟大豚粉油糖蒻根肉100
汁詰-
レー
五匁漬子萬物引
粕鈴100燒
二日胡味人豆馬酒椒噌參腐薯粕二〇
一〇
汁一五魚
ー
二〇五北寄貝罐詰二〇
味バ味白夕噌某玉椒一
二干大根五
三日噌汁貝寄北醬砂生蒟切胡蒻二〇
姜
汁糖一
油
〔衆議院議事速記錄第三十一號思想問題審議機關設置
ニ關スル建議案星島二郞君演說ノ參照〕
先ヅ最初ニ御了解ヲ願ッテヲキタイト思フ事ハ、私ガ設置
ヲ願ヒタイト思フ審議機關ヲ以テ現在動搖セル思想界
ヲ統一シ取締ノ具ニ供シタイト云フ意味デハナイノデア
リマス何モ思想ヲ統一シヨウトカ、或ハ何カ決ツタ取締
方針ヲ決メテ大イニ取締ラナケレバナラヌトカ、斯ウ云フ
コトニ考ヘラレマスト、甚ダ迷惑致スノデアリマス。實際、
現在日本ノ思想界ハ非常ニ動搖致シテ居リマス。非常
ニ混亂致シテ居リマス。併シナガラ私ハ此動搖混亂ハ
決シテサウ心配シナクテモ宜イト思フ。何故ナレバ本當ニ
生キテ居ル所ノモノ、實際活動シテ居ルモノハ始終動イ
テ居ル。私共ハ死シタル平和ト云フモノハ望ヽタクナイ。
何處マデモ動搖シ活動スル平和ノ中ニ生キタル生活ヲシ
タイノデアリマス。動モスレバ多クノ人ハ眠ツタヤウナ、只
事無カレ主義ノ平和ヲ望ムノデアリマスルガ、私ハ是ハ
間違ツテ居ルト思フノデアリマス。併シナガラ何モ私ハ大
イニ混ゼルノガ宜イトハ云ヒマセヌ。動搖混亂スル夫レ自
身ガ決シテ宜イトハ申サナイノデアリマス。混亂スル動搖ス
ル其根本ノ精神ガ若シ意義アルモノナレバ大イニ宜シイ。
動搖モ宜イ混亂モ宜イ其動搖ト、混亂ノ後ニハ必ズ吾
吾ノ希望スル或ルモノガヤツテ來ル。卽チ動搖スル混亂
タ食
名稱品目一人分量
四五匁
煮條鈴二〇
醤砂粉馬生油糖絲薯魚五
ニ
ニウ魚二勺
一匁
一九九四五匁
牛鈴ㅎ
砂〓午大馬牛糖油蒡根薯肉一〇
汁肉一〇
ニウ
二双
匁魚四五匁
煮二〇
醬砂生馬人生鈴二〇
油糖美薯參ニ
ニニ
魚二勺
ーク
ウ思フノデアリマス
レテ、或ル意味ニ於キマシテ政府當局者モ、
私ハ此現在ノ日本ノ思想界ノ動搖、
フガ故ニ悲觀シナイ。何故ナラバ、
テモ或ハ普通選擧問題ニシマシテモ、
イ生活ヲシタイ、
トシテ、勿論歡迎
デアリマス。
亡ニ向ツテ來ルニ違ヒナイ
スル其根本ノ精神ガ若シ吾ノミ意義アル人間ノ生活ニ
觸レタモノデアルナラバ、吾ミハ決シテ之ヲ忌避シナイ、斯
最近我日本ノ思想界ハ非常ニ動搖致シマシタ。非常
ナル混亂ヲ致シテ居リマス。種々ナル所謂危險思想ガ現
モ一種ノ不安ニ驅ラレテ居ルノデアリマスガ、併シナガラ
其根本精神ニ於キマシテ非常ニ意義アルモノデアルト思
シテモ、之ヲ一言ニ盡セバ要スルニオ互ガモツト人間ラシ
オ互ヲ人間トシテ扱ヘ、
格者トシテ生活シタイ、最モ高尙ナル人間トシテ、本來ア
ルベキ希望ノ下ニ生活シタイト藻搔イテ居ルノデアリマ
ス。斯フ云フノデアリマスカラ、私ハ現在ノ思想界ノ混亂
動搖ハ將來ニ於キマシテヨリ善キ人間生活ヲ持來スモノ
ハシナイケレドモ、
モノデアラウカ、若シ之ヲ一步誤リマシテ無暗ニ之ヲ壓迫
スルト云フヤウナ政府當局ガアルナラバ、此社會ハ段々滅
サウシテヨク指導致シマスレバ、其國ハ非常ニ發展ヲナ
四日
五日
六日
七日
備
考
(附圖略ス)
然ラバ是ハ自由ニ放任シテ置ケバソレデ宜イ
澄醬ジ豆ヤ油ム腐
汁
味豆玉噌腐菜
汁噌味
粕バ味白酒夕噌菜粕
〓
味豆玉噌腐菜
噌味
汁
獸鳥肉及鷄卵
〇〇醬油
一般ノ人民
或ハ混亂ハ幸ニモ
或ハ勞働問題ニシマシ
其他ノ問題ニシマ
モツトオ互ハ人
餘リ絕望ハシナイノ
。若シ之ヲ巧ク楫ヲ執リマシテ、
二〇年
五
ニウ汁肉鷄
二〇匁
〓
一子親
汁
五名
100
一煮和大
ニ
二〇匁
60
五五鮭鹽
煮
本週間一日一人給與平均分量概數左ノ如シ
約五〇匁魚肉
約四勺砂糖
本表ノ外漬物一入一日給與量ハ十五匁乃至二十五匁トス
シマシテ、
ル意味ニ於テ、
ヌデモ、
四五匁
五
醬砂馬燒鷄鈴油糖薯麩肉二〇汁肉牛
一
二勺
二五夕
〓
÷摩
醤砂生白鷄鶏個油糖飩菜卵肉二〇
一汁
ニタ
四五匁
ㅎ煮
醤砂生馬大牛鈴油糖姜薯根肉ㅎ
二
-魚
ニウ
鹽二五匁
條五
カ砂大粉粉糖根絲鮭二〇汁噌味肉豚
ニ
約二八匁野菜(四〓)〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
約三匁
スノデアリマス。日本ハ此岐路ニ立ツテ居ルノデアリマシ
テ、是ガ吾とノドウシテモ默視スルコトノ出來ナイ所デア
リマス。今日日本ニ於ケル古イ頭ノ人達ハ非常ニ心配致
何ゾト云ヘバ壓迫スル、
風デ無暗ニ·心配シテ居ラレル。其御心配ノ精神ハ實ニ同情
ニ堪ヘナイノデアリマスガ、只無暗ニ壓迫致シテハ將來決
シテヨリ善キ生活ヲ持來スコトハ出來ナイノデアリマス。ソ
コデ私ハ若シ所謂思想政策ト云フヤウナ言葉ハ少シ無
理デアリマシテ斯ウ云フ場合ニ使フ適當ナル熟語デアル
トハ思ヒマセヌケレドモ、
致シマスレバ、何カ此際オ互ヒ日本ノ政府當局者、或ハ
サウ云フ階級ニ位スル人達ガ日本ノ人民全體ヲ指導ス
ナイカト斯フ思フノデアリマス。ツマリ今日當局者ノヤツテ
居ル所謂言論文章ノ取締ハ矛盾極ツタモノデアツテ
局者モ自分デ爲サツテ置イテ自分デ甚ダ不審ニ思フテ居
ルノデアラウト思フノデアリマス。其ノ結果ヲ見マシテ、
在ノ當局者ガ所謂在來危險思想家ト云フベキ人ト一
堂ニ集ツテ、總テノ感情ヲ拔キニシテ、色とナ事ヲ談合ツ
テハドウカ、斯ウ云フ意味合カラ思想問題審議會ト云フ
ヤウナモノヲ作ツテ行ケバ、何モ其會カラ積極的ニ生レマセ
少ナクトモ現在當局者ノ頭ヲ啓キ又好イ意味ニ
四五匁
二〇
砂〓人大牛糖油參根肉二〇
ニヲ
二多
四五匁
100
胡味砂午白豚椒噌糖蒡菜肉二〇
ニ
五
一
四五匁
鈴二〇
〓砂生大馬生油糖美根薯魚〓0
ニ
二
ニョ
四五匁
五
胡砂味馬芋豚鈴椒糖噌薯殼肉一〇〇
一五
味噌約二
直グニ差止メルト云フ
若シ思想政策ナルモノガアルト
玆ニ何カ一ツノ大方針ヲ確立スル時デハ
當
現
於ケル非常ナ參考ニモナルト考ヘルノデアリマス。-
體歐米先進國ガ執ツタ方針デドウイフ方法ガ成功シテ
ドウイフ遣リ方ガ失敗シテ居ルダラウカト云フコトヲ考
ヘタノデアリマス。是ハ一々批評シマスレバ甚ダ長キ時間
ヲ要シマスカラ、今日ハ極メテ雑駁ニ極クヒントダケヲ批
評シテ見タイト思フノデアリマス。
先ヅ今度ノ戰亂ノ戰敗國デアリマス所ノ獨逸、或ハ今日
大動搖致シテ居ル所ノ露西亞、此二ツノ國ハ或意味ニ
於テ亡ンダノデアリマス。此亡ンダル獨逸竝ニ露西亞ガ、
戰前非常ニ極端ナル言論文章ノ取締ヲヤツテ居ツタ。而
シテ或意味ニ於キマシテ非常ニ寛大デアリ自由デアツタ
所ノ英國若クハ米國、之ニ次グ露獨ト英米ノ間ナル佛蘭
西、是等ノモノガ案外國ガ亡ビズシテ寧ロ將來ノ大ヲナサ
ントシテ居ル。斯ウイフ狀態ヲ見マシテ私ハ非常ニ興味
深ク思ツタノデアリマス。御承知ノ如ク獨逸ハ、勿論獨逸
ノ國情ヨリ察シマスレバ無理カラヌ點モ多クアツタノデア
リマスガ、ナポレオンノ戰爭ノ波動ヲ受ケマシテ、獨逸ハ中
歐ニ於テ實ニ轗軻不遇ノ位置ニ居ツタ。斯ウイフ時代ニ
於キマシテ彼ノビスマルクノ執リマシタ政策ハ、何モ獨逸
ガ世界的ニ覇ヲ唱ヘヤウト云フノデハナク、所謂多クノ獨
逸聯邦ヲ統一シマシテ、中歐ニ覇ヲ唱ヘ、サウシテ自己ノ
安全ヲ期セント欲シタ爲メニ、澤山ナ獨逸ノ小聯邦ヲ纏
メル爲メニ非常ナル苦心ヲ致シタノデアリマス、丁度日本
ガ明治維新ノ際ニ統一ヲ圖ランガ爲メニ各藩ニ對シテ
有ラユル壓迫ヤ統一的ナ仕事ヲヤリマシタヤウニ、ビスマ
ルクハ隨分思切ツタ政策ヲヤリマシタ、ソレガ成功致シマ
シテ戰前ノ所謂獨逸トナツタ。所ガ其跡ヲ受ケマシタル
所ノカイゼルハ餘リニビスマルクノ成功ニ誇リマシテ、自
己ノ有ツテ居リマシタ所ノ有ラユル智識ト武力ヲ用井、獨
逸聯邦ノ統一ノミデナクシテ、一層進ンデ歐羅巴全體、
否、全世界ニ覇ヲ唱ヘヤウトイフ大野心ヲ起スニ至ツタノ
デアリマス。卽チビスマルクガアノ獨逸聯邦ヲ形成センガ
爲メニ消極的ニ納テノ統一政策ヲ行ヒ、夫ガ成功スルト
今度ハカイゼルガ積極的ニ、一般ノ思想界ハ申スニ及バ
ズ有ラユル方面ノ統一、所謂獨逸主義、或ハ帝國主義、
或ハ汎獨主義、普魯西主義トイフモノヲ作ツタノデアリマ
ス、是レガ爲メニ大學ニ於テハ御用學者、獨逸程御用學
者ノ多イ國ハナイ。日本デモ隨分御用學者ナルモノガア
リマシテ、自分ノ腹ニ無イコトヲ書イタリ言ツタリスル人
モアリマスガ獨逸ハ中々御用學者ガ多カツタノデアリマ
ス。サウシテカイゼルノ氣ニ入ルヤウニ、大獨逸帝國ヲ樹
立センガ爲メニ積極的所謂思想政策ト云フモノヲヤツ
夕。是ガ餘リニ度ガ過ギマシテ世界ノ總テノ國民ガ之ヲ
呪ヒ、其獨逸主義ノ反抗ト云フモノガ今囘ノ大戰亂ヲ
捲起シタノデアリマス。ビスマルクハ中歐ニ獨逸ノ國ヲ
確立センガ爲メニ奮闘努力シタ。其結果ヲ漸ク得タ時ニ
カイゼルガ起ツテ其カイゼルノ野心ノ爲メニ、積極的統一
主義ノ爲メニ今度獨逸ハ亡ンダト中シテモ私ハ差支ナ
イト思フノデアリマス。或ハベルンハーデイ、クライセル等
ノ思想ハ隨分日本ニモ入ツテ參リマシタガ、是等ハ戰前
ニ於ケル所謂御用學者ノ本領ヲ發揮シタモノデアリマ
ス。私ハ獨逸ノ例ヲ色々ナ意味ニ考ヘマシテ之ヲ日本ノ
現在ニ比ベマスト、非常ニ興味深ク感ズルト同時ニ、又
非常ニ恐ロシサヲ感ズルノデアリマス。何故ナレバ多クノ
點ニ於キマシテ戰前ノ獨逸ト、現在ノ日本ノヤリ振ガ能
ク似テ居リハセスカト心配スルノデアリマス。若シ斯ウイ
フ風ニ行キマスレバ、日本ハ維新前ニ各藩ニ分レテ居ツ
タ勢力ヲ經メテ、所謂新日本ガ出來タ、サウシテ夫ガ勢ヒ
餘ツテ東洋ニ覇ヲ唱ヘルヤウニナツタ、之ニ驕リガ長ジテ今
度積極的ニ日本イズムト云フモノヲ世界ニ覇ヲ唱ヘシメ
ント致シタナラバ、サウ云フ思想ヲ若シ當局ナリ國民全體
ガ持ツバカリデナク、御用學者ガ祖述スルト致シマスレバ、
所謂第二ノ獨逸ニナリハセヌカトイフ心配ヲ持ツテ居ル、
サウシテ日本ハ世界全體カラ呪ハレ、孤立ノ狀態ニナツ
テ來ルトイフ結果ニナリハセヌカト、ツク〓〓獨逸戰前ノ
狀態ト日本ノ現在ヲ比ベマシテ心配致シテ居ルノデアリ
マス
第二番目ニ私ハ露西亞ノ事ヲ考ヘテ見タイト思フノ
デアリマス。露西亞ハ或意味ニ於キマシテ獨逸ヲ學ンダ。
獨逸程積極的ニハヤラナカツタケレドモ、其反對ニ獨逸ヲ
學ビマシテ、消極的ニハ凡ユル手段ヲ講ジタ、夫ハ隨分ヒ
ドイノデアリマシテ、先ヅカザリンヲ初メニコラス時代、殊ニ
ニコラス時代ニ於キマシテハ殆ド極端ニナリマシテ、非常
ナル檢閱政策ヲ行ツタ。文章ノ檢閱、新聞ノ檢閱、書籍
ノ檢閱、其他凡ユル物ノ檢閱ト云フモノガ實ニ完全ニ行ハ
レマシテ、具嚴格ナル事驚ク程デアツタノデアリマス。夫デ
アリマスカラ勿論戰前ノ露西亞ト云フモノハ、彼ノロマノ
フ王朝ガ數多ノ官僚富者ノ間ニ在リマシテ其權力ヲ擅ニ
センガ爲メニハ、又尨大ナル大露西亞ヲ治メンガ爲メニ
ハ、相當ナ消極政策モ必要デアラウト思フノデアリマス
ケレドモ、ソレガ餘リニ嚴格デアリマシタ爲メニ、少シク自
由思想ヲ持ツテ居ル人ハ皆國ヲ脫レテシマツタ。露西亞
ニハ實ニ世界ニ名ヲ成シタル新進自由ノ大思想家ガ
アツタケレドモ、サウイフ人ハ皆國ヲ脫レテ英國其他ノ國
ヘ亡命シタ。丁度英吉利ハ世界ノ自由思想家ノ避難所
ノヤウニナツタ。斯クマデ嚴格ニ致シマシタル所ノ露西亞
ハ、却ツテ夫ガ爲メニ亡シデ今日ノヤウナ狀態ニナツテ居
ルノデアリマス。私ハ日本ガ露西亞ノ思想家ノ影響ヲ受
ケタコトハ、非常ニ大デアルト思ヒマスガ、ンレハ或意
味ニ於キマシテ多ク小說ヨリ受ケタモノデアラウト思フ。
直接思想上ニ於キマシテゞナク、文藝ヲ通ジテ隨分日本
ノ思想界ハ露西亞ノ感化ヲ受ケタ。小說ガ露西亞ニ盛
デアツタト云フコトハ、私ハ如何ニ露西亞ノ政府ガ峻嚴
ナル思想政策ヲ行ツテ居ツタカト云フコトガ立證出來ル
ヤウニ思フ論文トシテ書ケバ直グヤラレテシマフカラ、其
欝勃タル自分ノ精神ヲ小說ニ現ハシテ皆ニ讀マセタ、彼
ノ有名ナルトルストイ、ドストエフスキー、ツルゲーネフ等ノ
大小說家ノ露西亞ニ輩出シタノハ故アリト云ハネバナラ
ヌ。若シ日本ガ餘リニ總テニ窮窟デアリマスレパ、矢張リ
日本ニモ段々小說家ガ現ハレ、カノ森戶君ノ如キ議論
ヲ小說ニ作リ、小說ヲ通ジテ自分ノ經綸ヲ述ベタラ宜カ
ラウト思フノデアリマス。(拍手)免ニ角獨逸ニシマシテモ
露西亞ニシマシテモ、斯ノ如ク極端ニ或ハ積極的ニ或ハ
消極的ニ取締ツタ結果ハ、今日ノ如キ狀態デアル。彼ノ
浦鹽ニ近頃隨分靑年ガ參リマスガ、サウイフ人ノ話ヲ聞
キマスト、浦鹽ノアノ砲臺ノ防備ハ實ニ頑丈デアル。斯ウ
イフ大キナ鐵ヲ差込ンデ其丈夫ナコト能クモコンナニ出
來タモノダト云フコトヲ熟々考ヘサセラレルト云フ事デア
リマスガ、私ハ此點ガ非常ニ面白イト思フ。露西亞ガ非
常ニ嚴格ニ峻嚴ニ取締レバ取締ル程、實際ノ國ハ危イ。
此獨逸露西亞ノ最近ノ狀態ニ見テ、現在ノ日本ノ當局
ハ大イニ顧ミル所ガナケレバナラヌト自分ハ思フノデアリ
マス。
然ラバ英國ハドウデアルカ、英國ハ諸君御承知ノヤウ
ニ實ニ自由ナル國デアル。歐羅巴ノ所謂新進思想家ニシ
テ獨逸ヲ逐ハレ露西亞ヲ逐ハレタ者ハ、皆英國ニ脫レタ、
左程ニ英國ハ自由思想ニ於キマシテハ思切ツテ寬大デ
アルノデアリマス。勿論何レノ國ト雖モ、絕對的ニ自由ト
ハ云ハナイ。英國ニ於キマシテモ所謂國〓トイフモノヲ作
ランガ爲メニ隨分新シイ宗〓家ヲ壓迫シタ。ソレガ爲メ
ニ其等ノ宗〓家ガ亞米利加ノ新天地ヲ臨ンデ亡命シタ
實例モアリマス、ケレドモ大體ニ於キマシテ英國ハ有ラユ
ル點ニ於キマシテ自由デアツタ。サウシテ英國人ハ御承
知ノ如ク非常ニ形式ヲ重ンズル國民デアリマスカラ、ソノ
自由ナル思想ト實際ノ行爲トイフモノハ嚴格ニ分ケマシ
テ、今日マデ所謂實利本位ニヤツテ來タ随分極端ナ議
論ニ對シテモ、理論トシ〓究トシテハ絕對自由デアル歐
洲大戰中ハ一時或程度ノ思想政策ヲヤリマシタケレド
モ、併シ學者ノ理論〓究ト云フモノニ就キマシテハ指一
本染メナイノデアル。彼ノアダムスミスノ議論ハ今日ニ於
テハ或ハ陳腐カモ知レナイ。ケレドモアノ時代ニ於キマシ
テハ-當時英國ハ立憲政治ヲ布イテ居リマシタケレド
モ實際ハ貴族富豪ノ支配ニ在ツタ-スミスノ議論ハ
今日ノ危險思想ト同程度ノモノデアル。或ハコブデン、ブ
ライト、サウイフ人達ノ思想ニ依ツテ段々動カサレテ、グ
ラツドストンニシマシテモ皆考へ來レバ中々思切ツタ自
由ノ政治ヲヤツテ來タノデアリマス
英國ハ勿論サウデアリマスルガ、モウ一ツ近ク米國ハ
何ウデアルカ、是ハ健國ノ精神トシテ自由ハ卽チ彼等ノ
精神デアル。斯ウ云フ意味ニ於キマシテ米國ハ或意味ニ
於テ思想〓究ハ勿論凡ユル事ニ於キマシテモ絕對自由
デアル。或時ニ於テハ大統領自ラ無政府主義者ノ大統
領ヲ出シタ時代モアツタ。斯ウ云フ自由ナル亞米利加ハ
其後ニ於キマシテモ益々自由ナル精神ノ發揮ニ依ツテ
亞米利加ハ今日ノ大ヲ成シタノデアリマス。尤モ戰爭中
ニ於キマシテ或種ノ人々ヲ捕縛シタト云フコトヲ聞イテ
居リマスガ、ソレモ少シク研究シマスレバ、所謂〓究家ヤ、
思想家ハ決シテ捕縛シテ居ナイダラウト思フ。實際ノ行
動ヲ見セ付ケテソレガ現在社會ノ安寧ヲ防害スルト云
フナラバ、ソレハ已ムヲ得ズ捕縛シナケレバナラヌ。ケレド
モ如何ニ戰争中デアリマシテモ、米國ノ大學ノ〓授ガ〓
究室ニ於テ發表シタル議論ニ對シ、之ヲ拘束シタト云フ
コトハ絕對ニ私ハナカツタラウト思フノデアリマス。佛蘭西
ハ何ウカト云ヒマスト、御承知ノ通リ佛蘭西バ歷史上ヨ
リ觀テモナポレオン時代アリ、帝政時代アリ、遂ニ革命ガ
勃發シテ今日ノ自由國トナツタノデアリマシテ、丁度佛
蘭西ハ獨逸露西亞ト英米ノ間ニ位スルモノト思フノデア
リマス。或時ハ帝王主義ニナルカト思ヘバ、或時ハ非常ナ
ル自由ヲ要求スルト云フヤウナ點カラ考ヘマスルト餘程
面白イノデアリマス、
斯ウ云フ極ク雜馭ナル觀察デアリマスケレドモ、此歐
米ノ今日マデ執リ來ツタ、所謂思想政策ナルモノヲ見マシ
テ、若シ現在ノ日本ガ如何ナル點ヲ此歐米ノ國々ニ學
バナケレバナラヌカ、日本ハ或ハ戰前ノ獨逸ガナシタルガ
如キ政策ヲ施サナケレバナラヌカ、日本ノ軍閥ヤ、官僚ナ
ドハ、マダ〓〓〓日デモ戰前ノ獨逸ノ政策ヲ金科玉條
ノ如ク心得テ居ル者ガ隨分アルヤウデアリマス。或ハ露
西亞ノロマノフ王朝時代ノヤウナ心持ヲ有ツテ居ル者モ
アルヤウデアリマスガ、是ハ大ナル誤リデアツテ若シ左樣
ナル者ガ日本ノ國民ノ多數ヲ占ムルナラバ、日本ノ運命
ハ非常ニ危イノデアリマス。然ラバ日本ハ實際現在何ウ
云フ風ニ取扱ツテ居ラレルカ、其實際ノ結果ヨリ見テ、
暫ク日本ノ現在ヲ觀察シテ見タイト思フノデアリマス。
諸君、壓迫アレバ必ズ之ニ對シテ反抗ガアリ、アクシヨンガ
アレバ、其後ニリアクシヨンガアルコトハ、是ハ物理學ノ原
則デアリマス。現在日本ガ此非自由政策ノ爲メニ如何
ニ多クノ犠牲者ヲ出シテ居ルカ、一體政府當局ハ如何
ナル考ヲ有ツテ居ルカ、一般ノ國民ハ之ニ就テ何ウ云フ
風ニ考ヘテ居ルカト云フコトヲ暫ラクノ間考ヘテ見タイ
ト思フンデアリマス。先ヅ近頃デ有名ナ彼ノ森戶君ノ事
件ニツキマシテモ、一體森戶君ノ說カムトシタノハ何デ
アルカ、クロパトキンノ思想ハ如何ナルモノデアルカ、森戶
君ハ決シテ、日本ノ政體ヲ破壞シヨウトノ意田心ハ毛頭ナ
イ、只本當ノ政治ハ權力ヲ中心ニセナイデ德ト云フモ
ノデ、統率スヘキデアル、卽チ德ノ政治ヲ以テ理想トシテ、
是ヲクロバトキンノ說ヲカリ解說シタノデアリマス斯ウ
云フ事ガ非常ナ問題ニナリマシテ、有爲ナル才ヲ懷カレ
ナガラ、三ケ月牢屋ノ中ニ入ラナケレバナラナカタノデア
リマス。所ガ之ニ就テ政府ガ若シ森戶君ノ文書ヲ發賣禁
止ヲシテ、而モ之ヲ法廷ニマデ爭ツタカラ取締ツタ、ト斯ウ
思ウテ居ラレルナラバ、是ハ大キナ間違ヒデアル。若シ本
當ニ政府當局者ガ思想政策ヲ樹テナケレバナラヌ、此儘
ニ放ツテ置イタナラバ日本ノ將來ハ大變デアルト思フナ
ラバ、何故ソツトシテ置イテ之ヲ問題ニセズシテ葬ツテシ
マハナイカ、之ヲ發賣禁止スル、森戶君ノ大學〓授ヲ免
職スル、附加ニ大シタ關係ノナイ大内君マデ引ツ張リ出
シテ、之モ休職ニシテシマフ。新聞ガワイ〓〓ト書立テヽ、社
會ヲ混セル、其爲メニ雜誌ハ飛ブヤウニ賣レテ、アレ程賣
レタ雜誌、又高クナツタ雜誌ハ近頃ナカラウト思フ.若シ
政府ガ斯樣ナル姑息ナル壓迫ニ依ツテ、其論文ノ傳播ヲ
防グ方法デアルト考ヘラレタラ、是ハ大ナル間違ヒデア
ル。眞ニ政府當局ニ思想政策ガアツテ危險思想ヲ防遏シ
ヤウト思フナラバ、ソレ相當ノ方法ヲ講ジナケレバナラ
ヌ。又早稻田大學講師ノ帆足君ノ事件ハ何ウデス。アノ
極ク短イ論文ノ何處ニ一體發賣禁止ヲシテ、之ヲ朝憲
紊亂トシテ法廷ニ爭ハネバナラヌ所ガアルカ。標題ハ確カ
「支配ヨリ管理ニ制御ヨリ自治ニ」ト云フノデアツタト思
ヒマスガ、何等問題トスベキ所ハナイノデアリマス.是モ何
ト云フ雜誌デアリマシタカ、名モ知レヌヤウナ雜誌デアリ
マシタガ、多分相當ニ賣レタコトデアラウト思フノデアリ
マス。或ハ最近野村隈畔君ノ書イタモノモアリマス。今日
モ挨拶狀ガ來マシテ、自分ハ日本ノ裁判ハ第一審、第二
審、第三審トアツテ、地方裁判所カラ控訴院、控訴院カ
ラ大審院マデ行ツテ栽判ヲ仰グンガ相當デアルケレド
モ、ドウモ調子ガ惡イヤウダカラ、此邊デ自分ハ諦メマスト
云フヤウナ挨拶狀ガ來テ居リマスガ、本人ハ少シモ惡イト
思フテ居ラヌ、本人ガ惡イト思フテ居ラヌノミナラズ、世間
モ却ツテ彼ニ同情シテ居ル。或意味ニ於テハ多少名譽ノ
ヤウニ思フテ居リマス。斯ウ云フコトデ一體現在日本ノ
當局者ガ言論文章ヲ取締ツタモノト思ウテ居ルノデアル
カ。餘リ馬鹿氣タ事デアルト思フ.又最近ニ早稻田大學
ノ木村君ガ甚イ事ヲシタヤウニ云ツテ居ル。前ノ森戶君ヤ
野村君帆足君ノ事件ヨリモ性質ガ惡イヤウニ皆考ヘテ
居ルガ、實際ハサウデハナイ。木村君ドウモ日本ノ思想
界ハ露西亞ノ過激派ト云フモノヲ非常ニ危險ナルモノ
ノヤウニ思フテビク〓〓シデ居ルガ、一體過激派トハ何ン
ナモノカト云フノデ、非常ナル興味ヲ以テ〓究シ、其熱心
ノ餘リ、色々ノ材料ヲ蒐メタ。其ノ材料ノ中ニ多分朝鮮
人カ何カガ、露西亞ノ過激派ヲ宣傳シタ誠ニ子供ノ書イ
タヤウナ拙イ文章ノビラガアツク。實ニ馬鹿ラシイヤウナ
文章デアツタケレドモ、研究材料ニナルト云フノデ、ソレヲ
飜譯シタ。其ノ中ニ惡イ文句ガアリマシテ、遂ニ斯ウ云フ
コトニナリマシタガ、是ハ實ニ〓究ニ熱心ノ餘リ斯ウ云フ
コトニナツタノデアリマス。斯樣ナ次第デ斯ウ云フ事件ノ
アル度ニ政府當局ガ之ヲ取締ツテ居ルト安心シテ居ラ
レルナラバ、ソレハ大キナ間違ヒデアル。現在ヤツテ居ル遣
リ方ハ根本方針トシテ實ニ拙イ。假リニ私ガ政府當局
者トナツテ考ヘテテ見モ、實ニ拙イ遣リ方ナノデアリマス。
〓瀨一郎君ガ前議會ニ於キマシテ、質問演說ヲサレタ。其
質問ハ一體森戶君何カノ論文ヲ危險思想トシテ取締ツ
テ居ラレルガ若シ果シテ危險思想デアルナラバ、アノ判決
文ハ何ウデアルカ、彼ノ判決文ニハ森戶君ノ文章ノ中ノ
最モ危險ナリト見ラルル部分ヲ撰リ拔イテズツト書イテ
アル。サウシテ其判決文ハ天下ニ公表サレテ、全國ノ新
聞ガ發表シテ居ルノデアル。斯ウ云フ結果ニナツテ居ルモ
ノヲ、政府ハ一體何ウ考ヘテ居ルカト云フ趣旨ノ質問ヲ
サレタノデアリマス。實ニ私ハ現在ノ政府當局者ノ餘リニ
滑稽デアル。而モ根本ヲ誤ツテ居ル此狀態ヲ見テ實ニ可
笑シク思フノデアリマス。
左樣ナ事ハ兔モ角トシテモ、又二人三人ノ犠牲者モマ
ダ忍プコトハ出來ルトシテモ、日本ノ文化ノ進步發達ト
云フモノガ之ニ依ツテ害サルルナラバ、ソレハ實ニ由々シ
キ大事デアルト思フノデアリマス、森戶君野村君、サウ云
フ人達ノ犠牲ハ、先ヅ御兩君トモ各〓人生觀ヲ懷イテ居
ラレマスカラ、、諦メテ居ラレマセウシ、又吾こモ已ムヲ得ヌ
トシテ忍ビマスガ、ソレガ爲メニ大學〓授ノ〓究ノ自由
或ハ獨立、日本全體ノ思想界ニ及ボス影響ト云フモノ
ハ實ニ由々シキ大事デアルノデアリマス。若シアクシヨンニ
對スルリアクシヨンガ强クナツタラ、日本ハ何ウシマスカ、
私ハ斯ウ云フ點カラ考へマスレバ、少ナクトモ日本當局者
ノ現在行ツテ居ル方法ハ實ニ矛盾極マルモノト批評スル
他ナイト思フ。是ハ多分當局者自身デモ、自分ノヤツタコ
トヲ妙ナモノト考ヘテ居ツシヤルト思フノデアリマス。私ハ
其意味ニ於キマシテ、所謂大學ノ〓究ナドト云フモノ
ハ絕對的自由デナケレバナラヌ。ソレハ行爲トナツテ現ハ
レタナヲバ、勿論社會全體ノ安寧ヲ脅威スルモノデアリマ
スカラ、其場合ノ行爲ンレ自身ハ放任スルコトハ出來ナ
イノデ、或程度マデハ取締ラナケレバナラヌ。是ハ仕方ガ
ナイト思ヒマス。併シナガラ〓究ソレ自體ハ絕對ニ自由
デナケレバナラヌ。殊ニ〓究アレバ必ズ發表ガアルカラ、學
者ノ發表ト云フモノハ絕對自由ニシナケレバナラヌ。發
表ナクシテ〓究ナシ、ヨク〓究ハ幾ラシテモ宜イガ、發表
スルノハイカヌト云フヤウナコトヲ申シマスガ、私ハソレハ
イカヌ。所謂學者ノ發表機關ト云フモノハ、新聞雜誌ト
違ヒマシテチヤント限界ガアルモノデアルカラ、決シテ差支
ヘナイ。私ハ伺處マデモ〓究ト發表ト云フモノハ不離不
卽ナモノデアルト思フガ故ニ、〓究ト發表ト云フモノハ絕
對自由ニスベキモノデアル。只實際的運動ニ現ハレタ場
合、或程度マデ取締ツテモ宜イ、斯ウ思フノデアリマス。ソ
レニ就テ今度ノ森戶事件ニ於キマシテ、色〓辯護的論文
ガ出マシタガ、其中デ最モ面白イ代表的ノモノト思ヒマ
シタノハ、彼ノ京都帝國大學〓授河上博士ノ論文デア
リマス。河上博士ハ森戶君ヲ辯護シテ、國家ハ大學ノ〓
授ニ國家ノ事ヲ〓究セヨト云ッテ斯ウ命ズル、サウスルト
學者ガ命令ニ依リマシテ、〓究シ、サウシテ或モノヲ發表
シタ。サウスルト、ソレハイカヌト云ツテ政府ガ止メル。實ニ
妙デハナイカ、ソレハ丁度監獄ノ獄吏ニ死刑囚ヲ死刑臺
ニ上ボセテ、首ヲ斬レト云フ命令ヲ出シテ置イテ、サウシ
ニ嫌ヤナ仕事ヲサセテ置イテ、殺人者ヲ殺シタト云フ理
由ヲ以テ直ニ監獄吏ヲ捕ヘテ、死刑囚ダト云ツテ罪人ニ
スル、ソレモ同ジモノデアルト云フヤウナコトヲ、或新聞カ
雜誌ニ發表サレタコトヲ見マシタガ、最モ適切ナ論文デア
ルト思フ。政府ハ森戶君ヲ帝國大學〓授ニ任ジ、オ前ハ
經濟學ヲ〓究シロト命令シテ、月給ヲ拂ツテ〓究サセナ
ガラ、其〓究シタモノヲ大學カラ出ス機關雜誌ニ發表シ
タラ、ソレハイカヌ、怪シカラヌト云ツテ、決マッテ居ッタ洋
行モサセズ休職ニスル。斯ウ云フノデアリマシテ甚ダ矛盾
極マルコトデアルト田心フ。
所デ一體サウイフ風ナ政策ヲ行フ政府ノ中心人物ガ、
果シテ能ク危險思想トハ一體ドンナモノカ諒解シテ居ラ
レルカドウカトイフコトヲ、調ベテ見マスト、コレガ又實ニ
驚イタ。日本ノ政府ノ中心人物ハ現在ニ於キマシテ原總
理大臣デアル。總理原大臣ハ一體ドノ程度ニ現代思想
ヲ了解シテ居ラレルカ、コレハ明カナ證據ヲ以テ批評シ
テ見タイ。此前ノ議會ノ豫算本會議ニ於キマシテ國民黨
ノ鈴木梅四郞君ガ原總理大臣ニ質問ヲシタ。卽チ危險
思想トハ何デアルカ、政府ハ如何ナル程度ニ危險思想ト
イフモノヲ諒解シテ居ルカトイフノデ、ンノ實例トシマシテ
今日貴族院ヲ廢スベシトイフコトハ危險思想ト思召サル
ルカドウカ、斯ウイフ質問ヲサレタ、所ガ原總理大臣ハ答
ヘテ曰ク、サウイフ議論ハ自分ハ危險思想ナリト思ヒマス
ト、コレハ速記錄ニモ出テ居リマスガ、一體貴族院ヲ廢止
スペシ、或ハ進ンデ樞密院ヲ廢スベシ、現在内閣ノ制度ヲ
變更スベシ、斯ウイフコトガ危險思想デアツタナラバ、-
體憲法論ハ出來ナイ、憲法ノ講義スラ出來ナイ譯デア
ル。御承知ノ如ク憲法ハ議員ノ三分ノ二以上ノ贊成ヲ
以テ、ソウシテ相當ノ手續ヲ踏ミマスレバ改正スルコト
モ出來レバ、樞密院ノ制度ヲ廢スルコトモ出來ル。憲法ハ
絕對ニ、變更スベカラズトイフ條文ハ憲法ニハ無イノデア
リマス。憲法ハ何時カハ改正サレルヤウニ、チヤント憲法ノ
條文ノ中ニ憲法ハコレダケノ手續ヲ踏メバ改正出來ル
卜書イテアル。ソノ憲法ノ一條ダニ了解出來ナイ總理大
臣ガ中央ニ居ルノデアリマスカラ普通選擧ヲ危險思想ナ
リト考ヘルノモ無理カラヌ事デアリマス、原總理大臣ハ普
通選擧ハ尙早ダト云ツテコレヲ危險思想ナリトハ斷言シ
ナイケレドモ、一般國民ニ普通選擧ハ危險ナモノデアルト
宣傳ヲヤツタ事ハ事實デアル。斯ウイフ次第デアリマシテ
其レ以下ノ内務省ニ色ミナ學者モアリマスケレドモ、免モ
角只單ニ共產主義トカ無政府主義トカ過激思想トカイ
フ言葉ヲ云ヘバ直グニ危險ダ怪シカラヌ、ト斯ウ簡單ニ
考ヘテ居ラレルノデハナイカト自分ハ思フノデアリマス。私
ハコノ點ニ就テ若シ今晩森戶君ガオ出ニナラナカッタラ
大イニ過激思想トハ何ウイフモノデアルカ、共產主義或
ハ無政府主義トハ斯ウ云フモノデアルト云フコトヲ詳シ
ク申シタイノデアリマスガ、専門家ヲ前ニ置イテ彼是申スノ
ハ如何カト思ヒマスカラ、極メテ簡單ニ述ベテ見タイト思
ヒマス。
一體過激派トイフト、日本人ノ多クノ人ハソノ過激ト
イフ文字ニ依シテ危險ダ怪シカラヌト、斯ウイフ風ニ解サ
レル方ガ多數アルト思フノデアリマスガ、ポルセヴイキトイ
フ字ノ意味カラ譯セバ多數派ト譯サナケレバナラヌ、卽チ
露西亞ノ社會民主黨ガ大會ヲ開キマシテ、一方ハ中央
集權的ニ、現代ノ所謂官僚資本家階級ニ何處マデモ對
抗シテ行カウデハナイカト主張スルニ對シテ、一方ハ中央
分權說ヲ取ツテ、或點ニ於テハ官僚資本家ト妥協シテ
世ノ中ノ進步ヲ圖ツテ行カウ、漸次ニ自分等ノ理想ヲ實
現シタラ宜カラウトイフ說ガアツテ、非常ナ議論トナリ、遂
ニ採決ノ結果前者ノ說ガ多數トナツタ、ソレガ卽チ多數
デ、今日ノボルセヴイキデアリ、敗ケタ方ノ少數派ガメンセ
ヴイキデアル、コノポルセヴイキヲ日本デ過激派ナドヽ譯シ
タカラ大變恐ロシイモノヽヤウニ考ヘラレルヤウニナツタノ
デアル、詰リ譯ガ惡カツタト思フ。或ハ無政府主義ノ如キ
モ、單ニ政府ヲ無クスルトサウイフ風ニ解釋スルカラ怪シ
カラヌトイフ事ニナルカモ知レマセヌケレドモ、コレハ少シ
ク專門的ニ〓究致シマスレバ、決シテ危險ナモノデハナ
イ理論ヲ其通リ實行スレバ當然極端ナモノデアルカモ
知レヌケレドモ。隨分採ツテ以テオ互ヒ學バナケレバナラ
ヌ點ガ澤山アル。コノ間三宅雪嶺博士ガ森戶君ノ辯護
ヲシテ大變面白イコトヲ云ハレタ。無政府主義ノ無トイ
フ字ハ無イト云フ意味デナイ、無トイフ字ノ下ニ上ノ字ヲ
付ケタ無上トイフノト同ジ意味デアル、卽チ無政府ト云
フノハ今ノ政府ヨリモヨリ良キ政府、今日ヨリモモツト良
イ政府、ト斯ウ云フ意味デアルトサウ云フ風ニ解釋シテ
宜カロウト、斯ウ云フ巧妙ナル辯護ヲサレタガ大イニ私ハ
面白ク感ジタノデアリマス。サウ云フ譯デ理想的無政府
主義ナドヽ云フモノハ、決シテ危險ナルモノデハナイ。或ハ共
產主義ニシテモ、單ニ共產ト云ヘバ、普通恐ロシイコトノ
ヤウニ考ヘラレテ居ルガ能ク考ヘテ見ルト、日本ノ家庭モ
共產主義デアルト思フ。日本ノ家庭ハ親ノモノモ子供ノ
モノモ一ニスペキモノデアルト云フカラ共產主義デアル。
而シテ日本ハ家庭本意ノ國デアルトスレバ、日本ハ共產
主義ノ國デアルト云ハナケレバナラヌ。
ザウ云フコトデアリマシテ、無暗ニ字ヲ解釋シテ、之ヲ
壓迫スルト云フコトハ怪シカラヌ話デアル。要スルニ現在
ノ日本ノ政府當局者ガ果シテ是ハ危險ナリト云フ、所謂
危險思想ヲ以テ任ズルモノヽ中ニサヘ、決シテ危險ナルモ
ノハナイノデアリマス。是ハ大イニ現在ノ學者ガ共產主義
トハ此ンナモノデアル、ポルシエヴイキトハ此ンナモノデア
ル、無政府主義トハ此ンナモノデアル、クロポトキンノ相互
扶助トハ斯ウ云フモノデアルト云フコトヲ國民ニ知ラセ、
國民ニ〓究セシメ、サウシテ其粹ヲ取ツテ、而シテ之ヲ日
本ノ發展ニ資スル所ガナケレバナラヌト思フノデアリマス。
殊ニ日本ガ今日ノ文明トナルニ就テ與ツテ力アル所ノ佛
〓ノ眞理ノ中ニハ隨分今日カラ申セバ危險思想ガアル。
或ハ儒〓ノ中ニモ隨分アル。殊ニ孟子ノ中ニハ之ヲ赤
裸々ニ說明スレバ、直グニ發賣禁止ヲ食フダケノ材料ガ
澤山アル。君々タラズンバ、臣々タラズト云フコトナドハ一
例デアル。或ハ基督〓ニシテモ-基督〓ト云フモノハ或
意味ニ於キマシテ、厄介視サレテ居ルヤウナ傾キガアリマ
スケレドモ、日本ノ現在ノ文明ハ基督〓ニ大ナル恩惠ガ
アルト思フノデアリマス-此基督〓サヘモ充分消化致
シマスレバ、隨分危險思想ガアル、卽チ基督〓ノ天國ノ
中ニハ皇室モナケレバ、天皇モナイ、併シナガラ天國ヲ尊
ブカラト云ツテ、日本ノ皇室ヲ尊バナイト云フコトハ考へ
ラレナイ。益々皇室ノ繁榮ヲ希ウテ居ル所ノ精神ガアレ
バ、斷ジテ危險ガナイト思フノデアリマス。日本ノ此國體
ト云フモノハ基督〓ヲ入レマシテモ、儒〓ヲ入レマシテモ、
佛〓ヲ入レマシテモ、益々日本ノ國體ノ精華ヲ發揮シ、
オ互ヒ民族ノ幸福ヲ增進スルコトガ出來、コレガ爲メニ決
シテ國ヲ危ウスル事ハナイノデアリマス。
斯ウイフ意味合ニ於キマシテ若シ日本ノ思想政策ト
イフモノヲ樹立セント致シマスルナラバ、獨逸露西亞ノ例
ニ學バズシテ、英米ヲ範ト致シマシテ、サウシテモツト新シ
イ進ンダル自由ナル思想政策トイフモノヲ樹立スルガ宜
シイ。唯、〓究トイフモノト事實ノ行爲トイフモノヲ明確
ニ分ケマシテ、若シ政府當局者ガ或思想政策ヲ行ハント
スルナルバ、其行爲ノミニ及ブベシ、或ハ森戶君ノ書イタ
モノヲ履キ違ヘテ極端ナ行爲ヲスルナラバ、ソレハ取締ラ
ナケレバナラヌ、卽チ思想ンノモノト具體的行爲トイフモ
ノヲ明確ニ分ケテ、サウシテ政策ノ根本方針ヲ樹テタラ
宜イ、要スルニ一言以テ之ヲ申シマスレバ、現在ノ滑稽ナ
ル矛盾セル政策ヲ廢シテ、絕對自由ナル思想政策ヲ樹
立スベシ、ト斯フ云フ事ニ私ノ希望ハナルノデアリマス、然
ルニ甚ダ篇マシイ事實ガ現在吾々ノ眼前ニ見エテ居ルヽ
先般佐々安五郞君ガ床次內相ニ對スル決議案證明
ノ折申述ベラレタ通リ澤山ノ矛盾壓迫セル事實ガアル
ノデアリマス、私ハ此樣ナ際ニ於ル當局大臣ハ實ニ種々
ノ事ガ起リ御心配デアリ、ソシテ色々ノ計畫ヲサレテ居ル
御熱心御努力ニ對シテハ實ニ敬意ヲ拂フモノデアリマス然シ
少シウロタヘラレテカ、奈良丸ヲ御伴ヒニナツタリ、國粹會
ヲ御勵マシニナツタリムヤミニ新聞雜誌ヲ禁止ナサレテ居
ルコトハ、ドウ見テモ、ロシヤ流カ、獨逸流ノ政策ヲ學バレ
テ居ルモノトシカ思ハレヌノデアリマスコレコン眞ニ日本ニ
取リマシテ危險千萬ナ事ト思フノデアリマス私ハ床次內務
大臣ガ去年ノ夏四十三議會ノ終ツタ後デ地方長官ヲ集
メテ訓示サレタ一節ニ思想ハ決シテ私力ヲ以テ壓迫出來
ルモノデナイ思想ハ思想ヲ以テ對セシメナケレバナラヌト云
ハレタ事ヲ間イテ、非常ニ歡ンダ次第デアッタノデアリマス
然シ其歡ハ裏切ラレテ、其後社會主義同盟ノ發會式
ノ時デモ、此度ノ宮中重太事件ノ折デアッテモ、ドウモ、ア
マリニ權力ヲ亂用サレタ樣ニ思フ、ンシテ其反對ニ却ッテ
色ミナ反動思想ガ起ッタ事ハ明カナ事實デアリマス
ンコデ私ハ考ヘタ、コレハ此樣ナ重大時期ニ、內務當局
トシテハ事勿レト色〓心配サレ其結果ツイ取締リガ嚴
ニナル、常規ヲ失スル事ハ多少無理カラヌ事トハ思フ又
司法當局ニシテモ、單ニ法律ノ適用ニ腐心サレ居ル間ニ
時代ハヅン〓〓變化シテ行ク、コレヲ充分ニ諒解スル事ハ
中と困難ナ事デアルトハ思フンシテ内務當局ト司法當
局トハ見解ガマタ違ッテ來ル、又陸軍當局モ中こ關係ガ
アル、其他各方面ニ色ミナ關係ガ湧イテ來ル、文部省ニ
シテモ先般モ水戶デ菊地問題ガ起ッタ、アレデモ、ナンデモ
ナイ事ナノデアル、否現在ノ〓育家ノ中デ稀ニ見ル見識
アル人デアル、職ヲ去ラシテハ惜シイ人デアル、ソコデ此
際一ツ各當局者、卽チ內務モ司法モ文部モ、又陸海軍
モ一所ニナッテ、コレニ加フルニ、各大學ノ新進思想家ト
テ目サル人ヤ貴衆兩院議員ノ中ノ此方面ノワカル人〓
ヤ又民間ノ評論家ヲ以テ、一ツ思想問題審議機關ヲ作
リ互ニ理解シ、互ニ〓究シ、一ツ根本方針ヲ大體キメテ
ハドウカ、コレハ必ズ互ニ集ッテ審議スレバ必ズ好イ結果ガ
生ルヽモノト思フノデアリマス、尤モ當局者ニ加フルニ所
謂古イ人バカリ集メタ日ニハ却ツテ惡ルクナリマスガ、思
切ツテ所謂新進思想家ト當局者!ノ會合スル事ハ確カ
ニアルモノヲ生ミ出ス事デアラウト思フノデアリマス、願ク
パ此建議ニ贊成セラレンシテ、當局者モ此建議ヲ採用サ
レテ斯ノ如キ審議機關ヲ速カニ設ケラレム事ヲ願フノデ
アリマス
〔衆議院議事速記錄第三十一號米穀貯藏方法調査〓究
ニ關スル建議案山口嘉藏君演說ノ參照〕
米穀貯藏方法ノ說明
貯藏米變質ノ原因ハ其主要成分ナル澱粉、蛋白質、脂
肪ガ自然ノ溫度ト空氣中ノ水分及ビ細菌卜ノ影響ヲ受
ケテ其實質中ニ包藏セル種々ナル酵素ガ各成分ノ自然
分解ヲ起スニ由ル
故ニ此原因ヲ刈除セザル由來倉庫ノ貯藏米ガ短年月
間ニ著シク變質スルハ理ノ當然ナリトス
本方法ノ主眼點ハ別圖ノ如ク眞空壁ニ依リテ包圍サレ
タル貯藏室中ヲ眞空狀態ニ置ク操作ト其貯藏室中ニ
一定ノ溫度及水分ヲ含メル炭酸瓦斯ヲ充滿セシムル操
作トヲ交互間歇的ニ連續操作スル方法ニシテ其操作時
間ノ長短ハ本倉庫建設地方ノ氣溫、濕度等種々ナル條
件ニ依リテ一定セズト雖モ一ヶ年間八千七百六十時間
ヲ通シテ平均
眞空狀態ニ置ク總計時間二八八時間
炭酸瓦斯充滿狀態ニ置ク總計時間八、四七二時間
ヲ標準トシテ適宜按排ス
圍繞セル眞空壁ニ依リテ外氣ノ溫度、水分、細菌ノ侵入
ヲ遮斷シタル貯藏室中ハ時々ノ眞空操作ニ依リテ貯米
堆積ノ壓力其他種々ナル原因ニテ發生セル不良瓦斯ノ
混入セル炭酸瓦斯ヲ排泄シテ更ニ新ナル炭酸瓦斯ヲ充
滿セシムルガ故ニ永久ニ米ノ新鮮度ヲ保タシム、但シ入
庫前ニ俵裝ノ儘豫メ適宜殺菌スルモノトス
炭酸瓦斯ハ米ノ各成分ニ對シテ全然無作用ノ性質ヲ
有スルモ眞空狀態ニ次グニ乾燥セル炭酸瓦斯ヲ充滿セ
シムルノ操作ヲ永續スレバ米穀固有ノ水分ヲ抽出シテ
其光澤ヲ失ヒ之ヲ飯ニ炊イテモ普通ノ炊飯方法ニテハ
風味ヲ損スルガ故ニ圖示スルガ如ク新ニ裝入スベキ炭酸
瓦斯ニハ常ニ一定ノ溫度ヲ有スル一定ノ水分ヲ含マシ
メテ此缺點ヲ除クコトニシタノデアル大規模ノ眞空作業
ハ工業上稍、Z困難ナル操作ニ屬スレドモ今ヤ熟練セル
特殊ノ技術ニ依リテ完全無缺ニ設備シ得ベシ
又炭酸瓦斯ハ最モ廉價ニ生產供給シ得ラルベキ瓦斯ナ
ルノミナラズ一度使用セル不純ノ排泄瓦斯ヲ更ニ囘收
精製シテ幾回モ使用スルガ故ニ操作中ニ消失スル少量
ノ瓦斯ヲ補充スルノミナルヲ以テ經常費ハ頗ル少額ニテ
足ル
圖面ノ說明(一部分ヲ切斷シテ內部ヲ顯出ス)
貯藏室(1)ニ米(88)ヲ積込ミ了レバ出入口(2及8)ヲ蓋
(4及6)ニテ緊密ニ密閉シ〓(171819)ヲ閉チ弇(20.21.22.23.
24.25.26)ヲ開キ眞空ポンプ(15)ヲ運轉セシメテ内、外壁間
ノ眞空室(7)及貯藏室(1)ヲ眞空ナラシメタル後ニ弇
(2122.23.24.)ヲ閉チ眞空ポンプ(16)ノ運轉ヲ止メテ弇(26.26.)
ヲ閉チ弇(1720)ヲ開テ壓縮瓦斯容器(9)ヨリ炭酸瓦斯
ヲ迸出奔入セシメ瓦斯濕潤塔(10)ヲ經テ貯藏室(1)中
ニ炭酸瓦斯ヲ充滿セシメ各弇ヲ閉テ一定時日經過ノ後
更ニ前記順序ニテ貯藏室(1)中ニ新シキ炭酸瓦斯ヲ充
滿セシム此間周圍ノ壁間ト眞空室ハ常ニ眞空ヲ保タシ
ム
貯藏米ヲ取出スニハ先ツ眞空ポンプヲ運轉シテ貯藏室
(1)中ノ炭酸瓦斯ヲ排除囘收シタル後〓(18.20.)ヲ開キテ
眞空ヲ破リ蓋(45)ヲ開キ出入口(2又ハ8)ヨリ搬出ス
最初ニ貯藏室及ヒ眞空壁ヨリ排泄セル空氣ハ回收瓦
斯精製器(10)ヘノ導管中途ニ設ケタル放出枝管(36)ヲ
開テ大氣中ニ放散セシム
眞空ポンプ及回收瓦斯精製器ハ各々一臺ニテ倉庫數
棟分ヲ負擔セシム
要スルニ貯藏米變質ノ眞原因ヲ探究闡明シテ完全ニ之
レヲ刈除シ得タル本方法ノ顯著ナル效果ハ漆付セル標
本ニ明確ナリトス殊ニ本倉庫ノ建築及附屬設備竝ニ之
レガ操作運用ノ技術ニ至ツテハ極メテ熟達完全ノ域ニ
到著セル事ヲ聲明ス、
C舊來ノ普通方法ニ年々分析表
テ貯藏セル玄米ノ
但シ此之米ハ越後產ニシテ收穫後
四ヶ月ヲ經過セルモノヲ試驗ニ供ス
○原米ノ各成分數字ヨリ各年度各成分ノ數字ヲ
減シタル殘數カ其年度迄ノ減損成分ナリ
水分及澱粉蛋白質脂肪計減損計
揮發分
原米一四、二六七二、一四カニ二、三〇九七、九一
一ケ年目一五、一五六七、〇〇八、八〇二、二一九三、一六四、七五
二ケ年目一一、七二六二、一一八、〇〇一、八一八三、六四一四、二七
三ヶ年目八、〇六五四、八四大ハー一七〇七〇、六一二七、三〇
四ケ年目八、二〇五二、六〇五、五〇一、六〇六七、九〇三〇、〇一
五ヶ年目七、三〇四八、一〇五、〇〇一、五二六一、九二三五、九九
七ヶ年目七、〇〇三六、一八四、七〇一、四〇四九、二八四五、六三
十ヶ年目六、〇〇一七、五二二、〇一一、三二二六、八五七一、〇六
十二ヶ年目四、〇〇二、〇六一、〇二1·1·〇八、二九八九、六二
0同一ノ玄米ヲ新式ノ十二ヶ年貯藏米ノ分析表
方法ニテ貯藏セル
水分及澱粉蛋白質脂肪計減損計
揮發分
十二ヶ年目一四、二〇七二、一〇八、九八二、二二九七、五〇
〔衆議院議事速記錄第三十一號自治體ノ貯苦銀行經營
ニ關スル建議案赤田瑳一君演說ノ參照〕
貯蓄事業ガ社會政策上必要ノ事業ニシテ自治團體ガ
此事業ニ關係ノ深キモノアルハ言ヲ俟サルモノデアリ
マス
我國ノ現狀ヲ見ルニ私立貯蓄銀行ハ稍モスレバ信用動
搖シ易ク且ツ營利的ニシテ公益的ノモノハ少ナイノデ
アル
國營ノ郵便貯金アリト雖トモ都市ノ貯金機關トシテハ
未タ甚タ遺憾ノ點カ多々アルノデアル
都市政策トシテ貯蓄機關ノ不備ノ如キハ決シテ輕々ノ
問題ニアラズ
聞ク處ニ依レバ政府ハ貯蓄銀行條例ヲ改正シ私立貯
蓄銀行ノ取締ヲ嚴ニシ專ラ之カ堅實ヲ計ルト共ニ營利
的ノ弊ヲ脫シ公益的主趣ニヨリ之レカ經營ヲ爲シメム
ト企圖セラルヽカ如シ蓋シ其措置宜シキヲ得タルモノト
謂フ可シデアル
此意味ニ於テ此際實力アル自治ノ發達セル大都市ヲシ
テ此貯蓄銀行事業ヲ營ムコトヲ得セシメ專ラ公益的見
地ニ立チ市民ノ利便ヲ計リ適切ナル取扱ヲ爲サシメ努
メテ貯蓄ヲ奬勵シ之レカ啓發指導ニ任セシメナハ其効
果ノ著シキモノアルハ疑ヲ容レサルモノト信ズルノデアリ
マス
貯蓄事業ノ振ハザル原因ハ種々アル可シト雖トモ就中
民衆ニ對スル利便ノ充分ナラサルコト
貯蓄機關ノ基礎信用共ニ確實ナラサルコト
其重ナル原因デアロート思ヒマス
由來私立貯蓄銀行ハ其信用動搖シ易ク預金者ニ慘害
ヲ蒙ラシメ多年養ヒ來タル貯蓄思想ヲ一朝ニシテ破壞
シ去ル例尠ナカラズ
風聲鶴涙一片無根ノ風說ヲ以テスルモ直ニ湖ノ如ク預
金取付ヲ惹起シ意外ノ慘禍ヲ府ラセルコトハ多々アルノ
デ御座イマス
先年大阪市ニ於テ貯金銀行解散ノ際ニ於ケル取付近
クハ東京ニ於ケル貯藏銀行其他各地ノ取付ノ如キ多ク
ハ之レ預金者ノ無智ナル掻擾ニ因ルモノナリトハ言へ之
レカ影響ハ結局彼等ノ貯蓄思想ノ發達ニ少ナカラサル
障害ヲ與ヘタルハ言フ迄モナイ事デアル
斯ノ如キハ卑意私立貯蓄銀行ノ信用ガ未ダ一般ノ信
賴ヲ繫グニ足ラザルモノデアル
預金者ハ內心常ニ疑惧警戒ノ念ヲ解カズ不安ナガラモ
免モ角一日ノ安キニヨリ預金セルモノデアル
尙ホ私立貯蓄銀行ハ其性質トシテ固ヨリ株主ノ利益ヲ
本意トシ預金者ノ利便ヲ次トセザル可カラザルガ故ニ其
營業タルヤ全ク打算的ニシテ貯蓄政策ノ本義ニ基キ其
見地ニ立チ市民ノ利便ヲ計リ之レカ啓發指導ニ任ズル
モノ少ナキヲ洵ニ遺憾トスルモノデアリマス
又一方郵便貯金ハ國營ニシテ信用確實全國各所ニ取
扱所ヲ有シ民衆的貯蓄機關トシテ便利此上ナキガ如シ
ト雖トモ之レ只極メテ皮相ノ見ニシテ一步其内容ニ八
リテ之レヲ觀察スレバ是レ又諸種ノ缺點ノ有シ少クトモ
都市ノ蓄貯機關トシテ適當ナラズ且ツ果效甚ダ薄キモ
ノアルヲ見ル蓋シ
郵便貯金ハ固ト郵便事務ノ副業ニシテ取扱者ハ主
トシテ郵便事務ニ忙殺セラレ貯金事務ニ專ラナル能
ハス
郵便事務ニ閑散ナル田舍ニハ適當ナラムモ繁劇ナル
都會ニ於テハ然ラズ一意專心之レニ從事シテ尙且ツ
足ラサルヲ覺ユ可キナリ
又之レカ取扱所タル郵便局ハ頗ル多數アリト雖トモ
此ハ只多數アリト云フ而已ニシテ其配置ハ主トシテ
郵便區域ノ適否ニ依リテ定メラレ
預金區域預金階級ノ便否ヲ本意トシテ決定セルモノ
ニアラサルナリ
又郵便貯金ノ取扱時間ハ夏季ハ單ニ午前中而已ナリ
此ハ貯蓄機關ノ取扱時間トシテハ適當ナルモノト言フ
ヲ得ズ
如何ニ郵便貯金ガ郵便局本位ニシテ預金本位ニアラサ
ルカヲ察スルニ足ラム
次ニ其取扱方ニ於テ其取扱振ニ於テハ決シテ預金階級
ヲ誘導啓發シテ之レニ滿足ヲ與フルニ足ラズ殊ニ最モ貯
蓄ノ良習慣ヲ養成スルノ必要アル幼者婦人及ヒ下層階
級ニ向ツテ果シテ懇切町嚀ニ彼等ヲ指導激勵スルニ足
ルモノアリヤ疑ナキ克ハサルモノデアル
如斯キハ貯蓄ニ對スル積極的良機關ナリト言フヘカラサ
ル而已ナラズ都市ノ貯蓄機關トシテ寧ロ不適當ノモノ
ト言ハサルヲ得ナイノデアル
現今各都市ニ於ケル郵便貯金ハ其取扱所タル郵便局
ノ數ハ相當多數ナルニ拘ハラズ其成蹟ノ甚タ振ハサルモ
ノテアルハ又如何ニ郵便貯金カ貯蓄機關トシテノ效果
ノ薄弱ナルカヲ察スルニ足ル可シ
昨年三月末現在ニ於テ大阪市内ニ於ケル郵便局ノ數
ハ實ニ百七箇所ニシテ此預金則チ郵便貯金總額ハ僅カ
ニ二千八百十二萬九千圓ナルニ拘ハラス銀行貯蓄預金
ニ於テハ本支店數僅カニ約五十箇所ニシテ貯蓄預金
總額五千一百萬圓ニ達セリ以テ一例トシテ考察スルニ
足ラム
尙ホ郵便貯金ハ又實ニ左ノ缺點ヲ有ス則チ郵便貯金ハ
地方ノ預金ヲ以テ國庫ニ集中シ多クハ之レヲ地方的ニ
放資セズシテ寧ロ國家的ニ放資セリ
方今各地諸般施設ヲ要スヘキ事業多シ之レガ資金亦
實ニ尠カラズ殊ニ都市計畫ノ如キ國家的大事業ヲ遂行
スル衝ニ該レル都市ノ一層其資金ヲ要スルコト切ナルモ
ノアリ而シテ是等ハ大抵公債ヲ發行シテ地方ノ資金ヲ
蒐集セサル可カラス地方財源ノ移出サルヽト否トハ其影
響尠シトセズ
昨年十月末現在ニ於ケル大藏省預金部資金ノ狀況ヲ
見ルニ郵便貯金其他合計拾壹億圓ニシテ之レカ運用ノ
狀ハ直接地方ノ爲メニ放資セル金額僅カニ地方債證劵
四千八百萬圓アル而已ニシテ他ハ凡テ國庫債劵外國
債券社債及鐵道會計等へ放資セリ
卽チ地方ヨリ集メラレタル資金ハ多ク地方ノ爲メ運用セ
ラレズシテ大抵國庫又ハ海外方面ニ運用セラレアルヲ見
ルナリ此ノ如キハ地方資金ノ關係ヨリ言フモ地方財源
ノ涵養ヨリ見ルモ共ニ採ラサル所ナリ
是レヲ要スルニ郵便貯金ハ貯蓄機關トシテハ決シテ萬
能最善ナルモノニハアラズ
但シ其取扱所カ能ク山間辟地ニ迄行渡リ分布シ得
ル特長ハ愼ニ他ノ及フ能ハサル所ナリト雖モ都會ニ於
ケル貯蓄機關トシテハ不備ト言ハサルヲ得ス寧ロ無キニ
勝ルト云フヘキ而已
私立貯蓄銀行未ダ一般ノ信用ヲ繋クニ足ラズ又郵便
貯金ノ不備斯ノ如シ貯蓄事業ノ振ハサル又故ナキニア
ラズヤ
思フニ貯蓄事業ハ單純ノモノニ非ス時ト所ニヨリ各種
各樣ノ特色アル幾多ノ機關ガ相綜錯シテ互ニ奮勵努力
シテ始メテ其發達ヲ期スヘキデアル
貯蓄機關ノ現狀ヲ觀レハ未タ甚タ振ヘリト言フ可カラス
速ニ各種適應ノ機關ヲ設置シテ共ニ與ニ斯業發達ノ爲
メ盡サシメムコトヲ切望ス
此意味ニ於テ市營貯蓄銀行設立ノ如キハ最モ機宜ヲ
得タルモノト言ハサル可カラズ
貯蓄銀行本來ノ性質ガ營利的機關ニアラズシテ公益的
機關タルコト前述ノ如シ都市ガ進ンテ此事業ニ當リ專
ラ社會〓育的見地ニ立チ親シク市民ノ指導啓發ニ任ス
ルコトハ寧ロ當然ノコトヽ言ハサル可カラズ
而シテ市カ此事業ヲ營マントスルハ決テ市民預金ヲ獨
占セムカ爲メニハアラズ從來存スル貯蓄機關ノ不備ヲ補
ヒ專ラ市民ノ貯蓄思想ヲ涵養セムトスルニ外ナラザルモ
ノデアリマス
或ハ窃ニ憂フルモノアラム市立貯蓄銀行ノ出現スルアラ
ハ已設貯蓄機關ガ打撃ヲ蒙ルコトナキヤト是杞憂ナラム
斯ノ如キ機關出現ノ刺激ハ却テ各自ノ機能ヲ激勵シ各
各異ナル特色ニ向ツテ益々領土ヲ開拓シ結局成績ノ總
和ニ於テ頗ル大ナルモノアルニ至ル可シ
由來同業ノ開始ニヨリテハ互ニ相利シ相繁榮スル例尠
シトセズ
先年政府ガ簡易生命保險業ヲスルヤ開始一般保險思
想ニ多大ノ覺醒ヲ與へ延テ一般ノ保險業者ニ多大ノ好
影響ヲ齋セシト同樣市営貯蓄銀行開始モ必ラス一般
貯蓄思想ノ發達ヲ促シ他ノ預金業者ニ好影響ヲ與フル
ノ結果ニ至ル可シト思フノデアル
郵便貯金ハ固ト政府カ國民ノ貯蓄思想涵養ノ爲メニ
設ケタルモノニシテ預金多寡ハ事口第二ノ要件デアリマス
去レハ今日政府ノ夫レト其主旨ヲ同シクスル此市營貯
蓄銀行カ設立セラレテ共ニ斯業ノ爲メニ盡スコトハ寧ロ
歡迎スル所ナラサル可カラズ
例令然ラズトスルモ此市營貯蓄銀行ガ果シテ市民ノ希
望ニ副ヒ益々發達シテ多數預金者ヲ得テ巨額ノ預金ヲ
吸收シ爲メニ幾分貯蓄機關ニ打撃ヲ與ヘタル如キコト
アリトスルモ夫ハ寧ロ多數市民ニ利便ヲ與フル結果ナリ
トセハ又止ムヲ得サルモノデアリマス決シテ市營貯蓄銀
行ヲ非難スヘキノ理由ナキモノデアル
都市ノ爲メ市民ノ爲メ此有益必須ノ市營貯蓄銀行ノ
實現ヲ希望スル次第テアリマス願クハ滿場諸君ノ御賛
成ヲ得テ速ニ可決セラレンコト切望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004413242X03219210322&spkNum=109
-
本文はPDFでご覧ください。
3. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。