1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
信託業法案
擔保附社債信託法中改正法律案
不動産登記法中改正法律案
非訟事件手續法中改正法律案
所得税法中改正法律案
相續税法中改正法律案
登録税法中改正法律案
印紙税法中改正法律案
日本興業銀行法中改正法律案
臺灣銀行法中改正法律案
北海道拓殖銀行法中改正法律案
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委員氏名
委員長 伯爵 兒玉秀雄君
副委員長 菅原通敬君
子爵 八條隆正君
石塚英藏君
岡田良平君
男爵 長松篤すけ君
男爵 横山隆俊君
男爵 藤村義朗君
加太邦憲君
橋本圭三郎君
倉知鐵吉君
小山健三君
室田義文君
早川千吉郎君
安田善三郎君
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大正十一年三月十六日(木曜日)午後一時二十五分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004501797X00119220316&spkNum=0
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001・兒玉秀雄
○委員長(伯爵兒玉秀雄君) ソレデハ開會イタシマス、政
府委員ノ說明ヲ求メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004501797X00119220316&spkNum=1
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002・池田寅二郎
○政府委員(池田寅二郞君) 司法次官ガ外ノ委員會ノ方へ
參ッテ居リマスカラ私ガ代ッテ說明イタシマス信託法案
不動產登記法中改正法律案非訟事件手續法中改正法律案ノ
三ツノ案ニ付キマシテ逐次ニ共要領ヲ御說明申上ゲマス、
先ヅ信託法案ニ付テ御說明イタシマス、法案ノ趣旨ニ付キ
マシテハ說明書ト云フモノヲ拵エテ今日皆サンニ御配布イ
タシテ置キマシタノデゴザイマス、大體是デ以テ其內容ノ
要點ヲ盡シタ積リデアリマス、御仕舞ノ所ニ其信託法ノ各
條ニ對スル索引ヲ付ケテ置キマシタノデアリマス、此索引
ノ方デ御對照下サイマスレバ法文其モノノ意味モ一通リノ
說明ハ盡シテ居ルモノト思ヒマス、詳細ノコトハ是ニ於テ
御覧ヲ敷ク事ニシマシテ其要領ヲ茲デ御說明申上ゲマス、
尙又御質問ニ應ジマシテ御答辯申上ゲタイト思ヒマス、先
ヅ我國ニ於ケル信託ト云フモノガ如何ナル發達ノ狀況ニア
ルカト云フコトヲ一言中上ル必要ガアラウト思ヒマス、我
國ニ於ケル信託ト云フ事柄ハ信託業ノ發達、殊ニ信託會社
ノ發展ニ伴ヒマ、シテ信託ト云フ事柄モ急速ニ發達ヲ致シテ
參ッタノデアリマス、又今後モ其發達ヲ致ス趨勢ヲ呈シテ居
ル次第デアリマス、ソレデ我國ノ信託會社ハ亞米利加ノ信
託業竝ニ信託會社ト云フモノヽ範圍ニ則リマシテ急速ニ發
達ヲ致シテ來タモノト思ハレマス、亞米利加ニ於キマシテ
ハ信託會社ト云フモノハ頗ル古イ沿革ヲ以テ非常ニ發達ヲ
遂ゲ居ル次第デアリマス、共信託會社ノ營ンデ居リマス業
務ト云フモノハ信託其モノ竝ニ性質ハ信託デハナイケレド
モ、信託業ニ附隨スルモノトシテ幾多ノ業務ヲ營ンデ居ル
次第デアリマス、卽チ信託其モノト信託ト云フ性質ハ無イ
ケレドモ、信託會社ノ附隨業務トシテ營ム、此二ツガ信託業
者ノ營ムモノトナッテ居リマス、之ヲ通俗ニ一言ニシテ信託
業務ト云フコトニ申シテ居リマス、亞米利加ニ於キマシテ
ハ信託ニ關スル根本ノ法律ト云フモノハ存シテ居ルノデア
ル、是ハ英吉利ノ系統ヲ受ケテ居ルノデアリマス、デ信託ニ
關スル一般ノ法則ガ定ッテ居リマスカラ、所謂信託業務ト云
フモノヽ中ニ信託ト云フ性質ヲ有スルモノト然ラザルモノ
トガ玆ニ包含セラレテ居ルト云フコトハ自カラ分カルノデ
アリマスガ、是ガ一〓ニ信託業務ト云フ名稱ノ下ニ我國ニ
輸入セラレテ信託會社業務トシテ玆ニ行ハレマスニ付テハ
其業務一切ヲ之ヲ信託事務ト稱スルト云フヤウナ普通ノ用
例ニナリマシテ、果シテ所謂信託ト云フモノト、其然ラザル
モノトヲ包含スルト云フコトハ、チヨット一見明瞭デアリマ
スシ、又我國ニ於キマシテハ信託ト云フモノニ付テノ一般
ノ法規ト云フモノガマダ完備シテ居リマセヌガ爲ニ我國ニ
信託業務ト云フコトヲ中シマスレバ、果シテ如何ナルモノ
デアルカト云フコトニ付キマシテ、稍〓共疑ヲ生ズルコト
ニナリマス、從ッテ信託ト云フモノヽ觀念ガ頗ル曖昧ニナッ
テ居ルト云フコトハ實際ノ事實デアリマス、サウシテ此ノ
一般信託法ト云フモノヲ玆ニ制定致シマスルノハ、其一ノ
目的ト致シマシテハ、所謂信託ト云フモノハドウ云フモノ
デアル、信託業務ト云フモノハ其信託ノ關係ヲ構成シ、信託
ノ性質ヲ有スルモノ竝ニ之ニ屬セナイケレドモ、信託會社
ノ業務トシテ行クモノトノ二ツノ性質ヲ備ヘテ居ルモノデ
アルト云フコトガ判然ト相成ル次第デアリマス、是モ我國
ニ於テ信託ト云フモノヽ法律關係ヲ明カニスル所ノ一ツノ
理由ニナルノデアリマス、ソレデ我國ニ於キマシテ信託ト
云フモノガ法制上認メラレマシタノハ興業銀行法デアリマ
ス、其後朝鮮銀行臺灣銀行北海道拓殖銀行ニ關スル法規ニソ
レ〓〓信託ト云フコトハ出來テ居ルノデアリマス、唯信託
業務ト云フコトガ揭ゲテアルダケデアッテ、其內容等ニ付テ
ハ少シモ規定ハナイノデアリマス、デ唯一ツ信託ニ關シテ
多少明細ノ規定ヲセラレマシタノハ擔保信託法デアリマス
是ハ社債權ニ擔保ヲ付シマスニ當リマシテ其擔保ノ名譽、
全カラシムル爲ニ特ニ擔保權其モノニ付キマシテ信託ノ法
理ヲ、應用セラレルモノデアリマス、短期信託ト申シマシテ
モ擔保權ト云フモノニ限リ信託デアリマス、一般ノ財產ニ
關スル信託デハナイノデアリマス、極ク一局部デアリマス
ケレドモ、其擔保權信託ニ關スル所謂擔保權ト云フモノヲ
明示セラレタノデアリマス、信託、是ガ今日マデニ我國ニ於
ケル信託トシテハ最モ明瞭ニ規定セラレタノデアリマス、
是ハ特ニ擔保支拂信託ト云フ一ツノ業務トシテ今日マデ發
達シテ來タリツヽアリマス、其外法令ニ特ニ認メラレテ居
ルモノハソレダケデアリマスカ、其他ノ關係ニ於キマシテ
所謂信託業ト云フモノハ是ハ頗ル最近發達シテ居ルノデア
リマシテ會社ノ數モ頗ル多クアリマシテ、其資本金等ノ數
モ大藏省ノ方デ十分取調ベガ付イテ居ルノデアリマス、頗
ル多額ニ上ッテ居ル次第デアリマス、斯ノ如ク所謂信託業務、
信託營業ト云フ方カラシテ、我國ニ於キマシテハ信託ト云
フモノハ頗ル發達ヲシテ來テ居ル、併ナガテ信託ト云フモ
ノハ法律上一種ノ特別ノ性質ヲ有シテ居ッタ、我國ノ在來民
法商法等ニ規定致シテ居ル所トハ一種異ック法律上ノ性質
ヲ有シテ居ル財產制度デアルニ拘ラズ、其一般法制ト云フ
モノハ備ッテ居リマセヌガ爲ニ、信託業務ト云フモノヽ性質
モ頗ル暖昧ニナッテ居ル之ヲ明確ニシテ其基本ノ觀念ヲ定
メルト云フコトガ、是ガ一ツノ必要ナコトデアリマス、ソレ
カラ只今申シマシタノハ信託營業ニ付テノコトデアリマシ
タガ、營業ノ關係ノ法規ニ於キマシテモ信託ノ性質ヲ持ッテ
居リマス事柄ハ既ニ我國ノ社會ニ於キマシテ頗ル色々ノ關
係ニ於キマシテ行ハレテ居ルヤウニ思ハレル、例ヘバ或國
體デ以テ仕事ヲ致シマスル場合ニ、倶樂部デアルトカ、或ハ
學會デアルトカ云フヤウナモノニ於キマシテ財產ヲ持ツト
云フ場合ニハ、ドウシテモ多數ノ名義ニスルト云フコトハ
不便デアルカラ、所謂會長デアルトカ、其他ノ代表者ノ意味
ヲ以テ其財產ニ付テハ、例ヘバ不動產ナラバ登記ヲスル或
ハ銀行ニ預金ヲスル、其名義ハ矢張リ其代表者ノ名義ニス
ル併シ代表者ノ固有ノ私有財產デハナイ、所謂ソレハ學會
ナラ學會、倶樂部ナラ倶樂部ノ一ツノ財產デアル云フコト
ハ頗ル多イノデアリマシテ、其外新聞雜誌等ニ常ニ出テ參
リマス關係デアリマスガ、色々ナ目的ノ爲ニ寄附金ヲ募集
スル、デ其募集シタ寄附金ハ其目的ノ爲ニ之ヲ使用スル、使
用スル迄ノ間ト云フモノハ發起人ナリ共他主催者ノ名義ヲ
以テ之ヲ銀行ニ預ケテ置クト云フコトハ常ニ行ハレテ居ル
ヤウナ次第デアリマス、此場合ニモ矢張リ其代表者ノ名義
=ナッテ居リマスケレドモ、代表者ガ自ラ勝手ニ使ッテモ宜
イト云フ財產デハナイコトハ是ハ明デアル其外又色々
ノ都合ヨリ致シマシテ、自分ノ財產ヲ自分ノ名義ニシテ
置カナイデ、之ヲ他人ノ管理名義ニ移シテ、サウシテ管理
ヲ託スルト云フ例ハ是ハ頗ル多イコトデアリマス、必シ
モ其場合ニ財產ヲ隱匿スルト云フヤウナサウ云フ惡イ意
味ノモノデナク、當リ前ノ意味ヲ以テ、自分ノ名義ニシテ
置クヨリモ之ヲ管理者ノ名義ニ移シテ管理セシムルガ
適當デアルト云フコトガ行ハレテ居ルヤウナ次第デアリマ
ス、或ハ又或友人ガ亡クナリマシテ、共遺族ガ大變困窮ヲス
ルト云フ場合ニ生前ノ友達ガ集リマシテ金ヲ集メル、サウ
シテ之ヲ今直ニ其遺族ニ與フルト云フ事ハ都合上不便デア
ルカラ之ヲ或期マデハ、或代表者、發起人デ保管シテ置テ
サウシテ其時期ガ來タナラバ其時之ヲ渡スソレ迄ノ間ハ之
ヲ適當ニ利殖シテ、其益金ト云フ者ヲ其子供ナラ子供ノ〓
育費ニ充テルトカ、或ハ生活費ニ充テルトカ云フ樣ニ致シ
マスル例ハ是ハ頗ル多イ樣ナ樣デアリマス、其場合ニモ其
財產ト云フモノハ發超人ノ名義ニシテ置クケレドモ、決シ
テ發起人ノ者デハナイ、法律上ハ發起人ノモノデアルケレ
ドモ、其目的ト云フモノハ矢張其遺族ニ之ヲ與フルト云フ
目的デハアルノデアル、ソレカラ又是ハ今日普通ニ困ッテ居
ル一ツノ例ニアリマスカラ相當資金アル者ニシテ俄ニ當主
ガ亡クナリマシテ、遺族ガ極クマダ十分ニ財產ヲ管理スル
所ノ能力ハナイ、或ハ子供ガマダ頗ル若イ又未亡人デ多ク
ノ財產ヲ管理スルト云フコトハ困難デアルト云フヤウナ狀
況ノ生ジマスルコトハ多クアルノデアリマス、デ斯ウ云フ
場合ニ此信託方法ヲ以テ財產ノ管理ヲ託シテ置イテ、サウ
シテ例ヘバ其相續人ガ獨立ヲシテ家ノ支配ガ完全ニ出來ル
ヤウニナルマデ適當ナル信託會社ニ之ヲ託スル、或ハ自分
ノ親友ニ之ヲ託シテ置クト云フコトヲ以テ財產ノ管理ヲナ
サシムルト云フコトニ致シマシタナラバ餘程今日ニ於テ多
ク存在シテ居リマス所ノ當主ガ死亡シテ、後ト財產ノ管理
ト云モノヲ安心シテ安全ニ之ヲ託スルノ途ヲ玆ニ開カレル
ト云フコトデアラウト思ヒマシテ、是等ノコトニ付キマシ
テハ、此信託ノ判度ガ一旦認メラレマシタナラバ頗ル效用
ガ多イコトデアラウト思フノデアリマス、是等ノコトハ此
營業ト云フヤウナ關係外ニ於キマシテモ頗ル今日行ハレテ
居ルノデアリマス、デ大體ヲ中シマスレバ、今申上ゲタヤウ
ナ狀況デ、我國ニ於キマシテハ此信託ノ實際ト云フモノハ
隨分アル、而シテ信託會社ノ事務發展ニ伴ヒマシテ益〓此
信託ト云フモノ、範圍モ擴ガルト云フ傾向ガアル、而シテ之
ヲ擴ゲルト云フコトハ又頗ル效用ノアルコトデアラウ、殊
ニ有力ナル信託會社ガ出來マシテ、サウシテ確實ニ此財產
ヲ管理スルト云フコトニナリマシタナラバ頗ル社會上有益
ナコトデアラウト思フノデアリマス、所ガ前ニモチヨット申
シマシタヤウニ信託ノ法律關係ト云フモノハ一種ノ特別
ナモノデアリマシテ我ガ民法、商法等ニ於ケル財產ノ規定
ヲ以テ當事者ノ關係ヲ律スル事ハ十分デナイデアリマスカ
ラ此際此信託竝ニ信託業發展ノ機運ニ際會シテ參リマシタ
時ニ於テ此信託ノ根本ノ法律關係トモ云フモノヲ明確ニ致
シマシテサウシテ此當事者ノ權利義務ノ關係ヲ明瞭ニ定
メ、サウシテ其利益ヲ適當ニ保護イタシ、デ一旦信託ヲスレ
バ其信託ト云フモノハ完全ニ其目的ヲ達スルナウニ法律上
之ニ保護ヲ與フルト云フコトハ極メテ緊要ナコトデアルト
云フ事ニ認メラレルノデアリマス、ソレ等ノ事ヨリ今囘信
託法ノ立案ヲ致シタヤウナ次第デアリマス、次ニ信託ニ關
スル現行法ノ狀況ヲ一言申シマス、只今申シマシタ中ニ殆
ド盡シテ居リマスガ、モウ一應搔摘ンデ申シテ置キマス、信
託ニ關スル現在ノ法規ハ甚ダ少ナイノデアリマシテ、前ニ
申シマシタ此興業銀行法、北海道拓殖銀行法ニ信託ト云フ
コトガ出テ居リマス、ソレカラ營業稅法ニモ此信託業ト云
コトニ營業稅ヲ定メル爲メニ玆ニ規定ガ出來テ居リマス
信託ノ實體關係ニ付キマシテハ擔保付社債信託法ガアルダ
ケデアリマシテ、又其擔保付社債法ニ付キマシテハ其ノ業
務ヲ營ム所ノ所謂信託會社ニ付テノ規定ヲモ合セテ定メテ
居リマス卽チ信託ノ實體ノ關係竝ニ事業ノ實行ニ關スル
規定、此二ツヲ併セテ規定シテ居ル、此擔保付社債信託法ガ
今日ニ於キマシテ信託ノ法律ニナッテ居リマシテ是モ前ニ
申シマシタ通リニ單純ニ擔保權ノ信託ト云フコトダケデア
リマシテ、此信託ト云フモノハ一般ノ財產權ニ關シテ開ク
制度デアリマス、其ノ方カラ申セバ極ク一局部ニ限局シタ
部分デノ信託ヲ取敢ズ規定セラレテ居ルト云フニ過ギナイ
ノデアリマス、今囘提案イタシテアリマス信託法ト云フモ
ノニ比シマスレバ極ク一小部分ノ規定ニ過ギナイノデア
リマス、斯ウ云フ狀態デアリマシテ玆ニ信託法ト云フモノ
ガ成立ヲシタ場合ヲ考ヘマスレバ、卽チ此本案ト云フモノガ
法律ニナリマシタ場合ヲ考ヘマスレバ、本案ノ目的トスル
ル所ハ、信託ノ法令的ノ、卽チ民法的ノ法律關係ヲ決メ、權
利義務ノ關係ヲ定メルト云フガ目的デアリマス、法令ノ一
般方針デアリマス所ノ民法ニ、之ヲ對照シテ見レバ、共特別
法ト云フ所ニ立ツ譯デアリマス、ソコデ今囘火藏省ノ御提
案ニナッテ居リマス所ノ信託業法ト云フモノニ、之ヲ對照イタ
シマスレバ信託業法ハ此信託ノ引受ヲ業トスル場合ニ於
キマシテ、其業ニ關スル規定ガ主トナッテ居リマス、併ナガ
ラ又營業的見地ヨリシテ、其信託其者ノ實體、本體ニ關シマ
シテモ、多少ノ特別規定ガ設ケラレテ居ルノデアリマス、此
信託ノ本體ニ關スル特別規定ヲ設ケテ居ル所カラ見マスレ
バ信託業法ト云フ者ガ、信託法ノ一ツノ特別關係ニ立ツ者
ト云フ事ニナルノデアリマス、ソレカラ擔保附信託法ト、本
案トノ關係ヲ言ヒマスレバ、擔保附信託法ト云フ者ハ、前ニ
中シマシタ通リ擔保權ト云フノミニ付テノ信託デアリマス
木案ハ財產一般ニ付テノ信託ヲ規定スルノデアリマスカラ
擔保附信託ト云フモノハ、本案ニ對スル又特別關係ニ相成ル
次第デアリマス、卽チ此度提案イタシマシタ信託法案ハ信
託ニ關スル權利義務ニ付テ一般的ノ規定ヲ設ケルト云フノ
ガ、其趣旨ニ相成ッテ居ルノデアリマス、ソコデ第三ト致シ
マシテ、此木案ニ於テ執ッテ居リマス所ノ信託ト云フモノハ
如何ナルモノデアルカ、例ヘバ共信託ノ目的ト云フモノハ
何デアルカト云フコトヲ簡單ニ申上ゲタイト思ヒマス、
體此信託ト云フモノハ財產制度デアリマス、財產以外ニ色
色民法上ノ權利義務ガアリマスガソレハ信託ノ目的ニハナ
ラナイノデアリマス、全ク財產ノ一ツノ制度デアリマス、ソ
コデ此一番簡單ノ場合ヨリ段々想像ヲ致シマスレバ盛
或財產ヲ持ッテ居ル者ガアル、此所有者ガ其財產ヲ自分デ處
分スル、自分デ管理ヲスルト云フコトハ是ハモウ當リ前ノ
事デアリマス、處ガ自分デソレヲ處分スルヲ不便ナリトシ、
他人ヲシテ管理處分ヲナサシムル途ガアル、之ヲ民法ノ規
定ニ依リマスレバ、代理ト云フ事ガアル、卽チ他人ニ代理ヲ
サセマシテ、サウシテ自分ノ財產ヲ管理ト云フ者ヲ置キ、處
分ヲナサシムルト云フ事ハ出來ルノデアリマス、其場合ニ
代理人ト云フモノハ財產其者ノ所有主デナイケレドモ、代
理權ガアル、卽チ委任狀ガアリマス以上ハ、恰モ自分ガ本人
デアルカノヤウニ、本人ニ屬スル所ノ財產ヲ管理處分スル
コトガ出來ル、斯ウ云フ關係ニナルノデアリマス、是マデハ
我ガ在來ノ現行ノ規定ニ依リマシテ、是等ノ目的ヲ達スル
ノデアリマス、處ガ尙ホ一步ヲ進メマシテ、單ニ管理處分ノ
權限ヲ與ヘルニ止マラズシテ、財產權共者ヲモ對手方ニ之ヲ
直チニ與ヘル、權利ノ名義其者ヲモ對手方ニ與ヘル、與ヘル
ガ、併シ是ハ一ツ自分ノ爲ニ管理シテ貰ヒタイ、斯ウ〓〓云
フ目的ノ爲ニ管理處分ヲシテ貰ヒクイ、例ヘバ是ダケノ
公債證書ノ權利ヲ御前ニ移轉ヲスル、共公債證書ト云フ
モノヲ御前ノ物ニスル、併ナガラ此公債證書デ以テ之ヲ適
當ニ處分ヲシテ、ソレヨリ生ズル所ノ收入ヲ以テ自分ノ友
人ノ子供ノ何ノ某ト云フ者ノ學費ニ充テテ貰ヒタイ、而シ
テソレガ學校ヲ卒業シタナラバ其時ニ剩ッテ居ッタ所ノ財產
全部ヲ其者ニ與ヘテ貰ヒタイ、斯ウ云フコトヲ託スルト云
フコトデアリマスレバ共委託ヲ受ケタル者ガ單ニ本人ニ
屬シテ居リマス所ノ公債證書ノ管理處分ノ權限ヲ貰ッタト
云フニ止マラズ、公債證書自身ヲ貰ッタ公債證書自身ヲ貰
フタガ、併ナガラ自分ノ爲ニ貰ッタノデナイ、是ハ委託者ノ命
ジタ所ノ趣旨ニ從ヲテ、友人何ノ某ノ子供ノ學費ニ之ヲ與ヘ
ル、ソレガ卒業シタナラバ、其時ニ殘ッテ居ッタ所ノ財產ヲ擧
ゲテソレニ與ヘヌケレバナラヌ、自分ハ其財產ヨリ生ジタ
ル所ノ利益ヲ受ケルノデナイ、サウ云フ關係ガ生ズルノデ
アリマス、サウ云フ關係ガ生ジマシク時ニハ、此財產ヲ與ヘ
タル者ハ、卽チ受託者ト云フ共財產共者ヲ、卽チ信託セラ
レタル財產其者ヲ信託財產ト稱シテ居ル、ソレカラ其信託
財產ノ處分ニ依ッテ利益ヲ受ケル、卽チ其場合ニハ友人ノ子
供ニ與ヘル、其子供ヲ受益者ト稱スルノデアリマス、卽チサ
ウ云フ關係ニ於テ玆ニ信託ト云フモノガ成立ツノデアリマ
スルカラ信託ハ之ヲ一面カラ申シマスレバ、所謂信託財產
公債ノ信託財產ヲ受託者ニ移轉ヲ致シマシテ受益者
ノ爲ニ之ヲ管理處分セシムルト云フコトニナル、又之ヲ受
ケタル其事柄ヲ考ヘマスレバ受託者ト云フ者ガ信託財產
上ノ權利ヲ亨有シ、卽ヲ自分ノ物ニシマシテ、サウシテ之ヲ
受益者ノ爲ニ管理處分ヲスルト云フ義務ヲ負フト云フ關係
ニナルノデアリマス、ソレデ是ガ卽チ此信託ノ關係デアル
ノデアリマシテ、卽チ信託ノ場合ニハ信託財產ト云フモノ
ハ、詰リ此受益者ノ物ニナル、併ナガラ是ハ受益者ノ爲ニ一
ツノ目的ニ從ッテ管理處分ヲシナケレバナラメモノデアリ
マスカラ、隨ヒマシテ自分自身ガソレニ依ッテ經濟上ノ利益
ヲ受ケル所ノ性質デナイ、ソコデ信託財產上ノ權利ハ受益
者ガ持ッテ居リマスケレドモ、ソレヨリ生ズル所ノ利益ト云
フモノハ、之ヲ受益者ニ擧ゲテ與ヘナケレバナラヌ、又其管
理處分ニ付テハ委託者ノ命ニ從ッテシナケレバナラヌト云
フ制限ガアルノデアリマス、此關係ヲ生ズル場合ニ、之ヲ信
託ト申スノデアリマス、デアリマスカラシテ財產ノ管理處
分ヲ委託シマシタ場合ニ於キマシテモ、財產ノ權利名義ノ
關係マデ、其管理委託ヲ受ケルモノニアラズ、ト云フ場合デ
アレバ、信託デナイノデアルカラ、其場合ニハ代理ノ關係ヲ
生ズルニ止マルト思フノデアリマス、ソレカラ又此財產權
ノ移轉ヲ以テ其目的トシ、其財產權ノ管理處分ヲナスヲ以
テ目的トスルノデアリマスカラ、身分上ノ權利關係ノ如キ、
或ハ財產權ニ基カザル所ノ事務ヲ託シヤウト云フト、玆ニ
執ッテ居リマス所ノ信託トハ申セナイノデアリマス、ソレデ
何所マデモ此信託財產ハ受託者ノモノニナル、併ナガラ受
託者ト云フモノハ之ヲ受益者ノ爲ニ委託者ガ指定シタ目的
ニ從ッテ管理處分シ、共利益ハ受益者ニ生ズルノデアリマ
ス、其債務ト云フモノガ發生シテ居ルト云フコトガ、是ガ信
託ノ觀念トシテ玆ニ取ッテ居ルヤウナ次第デアリマス、ソコ
ヲ此信託ノ目的ト云フモノハ、是ハ別ニ法律上何等制限ヲ
致シテ居ラナイノデアリマズ、公ケノ秩序善良ノ風俗ニ反
スル所謂公益ニ害ノアルヤウナコトデサヘナケレバ如何ナ
ル事項ヲ目的トシテ信託ヲ設定スルノモ差支ヘナイノデア
リマス、デ財產ヲ託シマシテ事業ヲ經營スルト云フコトモ
矢張リ一定ノ目的ト云フ中ニアルノデアリマスカラ、別ニ
本案ニ於キマシテハ信託目的トシテ差支ヘハ毛頭ナイノデ
アリマス、デ不法ナ目的ヲ以テ託信ヲナシマシ夕時ニハ、是
ハ民法ノ規定ノ當然ノ働キトシマシテ是ハ無效ト相成ル
ノデアリマス、卽チ信託法案其モノニ付テハ、其點ニ付テハ
特別ノ規定ハ置イテ居ラヌノデアリマス、唯二二二ノ[點ニ付
キマシテ法律ヲ潜ルヤウナ信託ニ付キマシテ、制限規定ヲ
置イテアリマスノデアリマス、其委細ノコトニ付テハ更エ
次ノ機會ニ於テ御說明ヲ申上ゲルコトニ致シマス、ソレカ
ラ信託ト云フモノハ、財產上ノ權利マデモ受託者ニ移シマ
シテサウシテ委託者ガ指定シタ目的ニ從ッテ、受益者ノ爲ニ
之ヲ管理セシメルト云フ方法デアリマスカラ、ソコデ單ニ
代理權ヲ委任シテ居ルト云フヤウナ場合トハ異ナリマシ
テ、受託者其モノガ其權利ヲ濫用イタシマシタ時、卽チ財產
權ノ名義ハ自分ニナッテ、法律上ハ自分ノ權利デアルケレド
モ、此權利ヲ濫用シマシテ、サウシテ信託ノ目的ニ反スルト
云フヤウナコトヲヤリマシタ場合ニ於テ、法律デ受益者ノ
權利ヲ保護スルト云フコトハ是ハ頗ル必要ナコトニナルノ
デアリマス、又之ヲ保護スルガ爲ニ取引ノ安全ヲ害スルト
云フコトニナリマシテハ、是亦大變ニ受益者ニ偏シテ居ル
ト云フヤウナ批難ハ免レナイノデアリマス、其他ノ關係ヲ
考慮イタシマシテ、適當ニ權利ヲ保護スルト云フコトハ極
メテ必要ナモノデアリマスカラ、ソレデ其位信託法ノ一ツ
ノ重要ナル條項ト致シマシテ、信託財產、竝ビニ信託財產ノ
保護ト云フモノハ是ガ一ツノ重要ナル事項ニナルノデアリ
マシテ、デ之ニ關シテ幾多ノ規定ヲ設ケマシタ次第テゴ
ザイマス、先ヅ信託財產卽チ信託トシテ委任セラレタ所
ノ財產、其財產ト云フモノハ、是ハ一ツノ資產ヲ爲ス「フ
アンド」ト申シマスカ、資產ヲ構成スル、卽チ先ノ例デ申
スト公債ヲ信託スルト云フコトハ例ヘバ一万圓デアリ
マスト、此一万圓ト云フ資產ヲ構成スル、ソレデ其財產ト
云フモノハ先ヅ信託セラレマシタ當時ノ形ハ公債デアル、
併ナガラ此公債ト云フモノヲ是ハ處分ヲスル處分シマ
スレバ代價ト云フモノハ玆ニ起ル、是ハ金錢デアル、此金錢
モ矢張リ信託財產デアッテ、形ハ變リマシテモ元ノ「フアン
ド」ト云フモノヽ變形デアル是ハ信託財產デアル、例ヲ申
シマスレバ玆ニ建物ヲ信託シテ居ル、建物ハ信託財產デア
ヲテ、例ヘバ其建物ヲ賣却シタナラバ其代金ハ信託財產デア
ル、若シ此建物ガ不幸ニシテ燒ケタ場合ノ、保險ガ付イテ居
レバ保險金ト云フモノハ信託財產デアル、何所マデモ元々
託シマシタ所ノ一万圓ノ財產ト云フモノヽ形ハ變リマシテ
モ財產ガアルト云フコトヲ認メラレル以上ハ何所マデモ信
託財產ト云フコトニ相成ル次第デゴザイマス、此信託財產
ト云フモノハ是ハ今申シマシタヤウニ、受託者ノ自己ノ爲
ノ財產デハナイ、受託者ガ自分ノ利益ノ爲ニ使ッテ宜イ財產
デハナイ、一ツニ受益者ノ爲ニ信託ノ目的ニ之ヲ使ハナケ
レバナラヌ、性質ノモノデアリマスカラ、受託者ガ自分ノ債
務、自分ノ爲ノ債務ヲ負擔スルト云フ場合ニ自分ノ借金ヲ
支拂フコトニ充テルト云フコトハ出來ナイモノデアルデ
アリマスカラ此信託財產ト云フモノハ是ハ受託者ノ債務ノ
爲ニ差押ヘヲ受ケルト云フコトヲナイコトニシナケレバナ
ラヌデ、是ハ一ツノ重要ナル事項デアルノデアリマス、併ナ
ガラ如何ニ信託財產ト雖モ、信託財產ノ管理處分ヨリ生ズ
ル債權ノ爲ニハ是ハ差押ヘナケレバナラメノハ當然ノコト
デアリマス、例ヘバ今ノ例ヲ出シマスガ其家ノ修繕ヲ託ス
ト云フ場合ニ大工ニ對シテ修繕料ヲ拂ハネバナラヌト云フ
此債權ガ之ハ其家ニカカッテ返濟ヲ受ケベキ性質ノモノデ
アルカラ、卽チ信託事務ノ處理ニ依テ生ジタ所ノ債權ナラ
バ、是ハ差押ヲ致スモ宜シイ、併シ信託關係外ニ於テ是ヨリ
受益者ガ債務ガアル、固有ノ債務ガアル、ソレヲ信託財產デ
拂フコトガ出來ナイカラ、從ッテ債權ニ基イテ差押ヘラルコ
トハ出來ナイト云フコトニナッテ居ルノデアリマス、デスカ
ラ又此關係ハ恰モ家族世襲財產ニ於ケル類似ノ點デアルノ
デアリマス、ソレカラ此信託財產ト云フモノハ受託者ノモ
ノニナッテ居リマス、法律ノ規定ニ從ヘバ受益者ノ爲ニ之ヲ
管理處分シナケレバナラヌ、管理處分ノ方法ト云フモノハ
委託者ガ定メタ所ニ從ハネバナラヌト云フコトニナッテ居
リマスガ、是ハ不法ニ處分スルコトガナイトモ限ラヌ自分
ノ財產ニナッテ居リマスカラサウ云フ法律上竝ニ信託上ノ
義務ニ背キマス如キ處分スルト云フコトモナイトモ限ラナ
イ、其處分サレルコトモ仕方ガナ』イト云フコトガアルト信
託ノ目的ヲ達スルコトガ出來ナイ、デアルカラ其場合ニ其
處分ヲ受益者ノ方カラ取消スコトガ出來ルト云フコトニシ
テ信託財產ヲ元通リニ取戾スト云フ途ヲ開イテ居ルノデア
リマス、所ガ無條件ニ許スト云フコトデアリマスレバ、受益
者ヨリ其財產ヲ委託サレタモノハ如何ニモ窮窟デアルト云
フコトニナルノデアリマス、ソコデ此信託ノ關係ト云フモ
ノハ之ヲ行使スルノ必要ガアル、デアリマスカラ、不動產デ
アリマスナラバ、之ヲ登記スルト云フコトガ特ニ必要デア
ルノデアリマス、デ或ハ此有價證劵等ニ付キマシテハ共信
託ノ旨ヲ之ニ記入スルト云フコトモ一ツノ方法ニナッテ居
ルノデアリマス、サウ云フ風ニ信託ノ公示ヲ致シ、サウシテ
第三者ヲシテ不測ノ損害ヲ受ケシムルコトノナイヤウニ保
護スル、ソレニモ拘ラズ、買取ッタト云フヤウナ場合ニ、矢張
リ其買取ッタ者ガ取戾サレテ損失ヲ蒙ッテ仕方ガナイソレカ
ラ公示方法等ノナイモノニ付キマシテハ、是ハ信託財產デ
アッテ、受託者ガ勝手ニ處分スルコトガ出來ナイモノデアル
ト云フニモ拘ラズ、受託者ガ之ヲ不法ニ處分スル、其情ヲ知
リマシテ之ヲ受託者ヨリ買受ケタル場合ニハ、之ニ對シテ
モ取消シガ出來ル是ハ惡意デアリマスカラ取消ヲ許スコ
トニ致シマスレバ、第三者ヲ不當ニ害スルト云フコトハナ
イ、デアリマスカラソレ等ノ場合ニハ之ヲ取消ヲシテ信託
會社ヨリ取戾シ、惡意デ以テ信託ノ處分スベカラザル事ヲ
知ラシメ、其處分スルト云フコトノ情ヲ知ッテ買受ケマシタ
場合ニハ、之ニ對シテ取消ヲ爲サシムル、信託ノ公示アル場
合ニ付テハ、其公示アルニ拘ラズ之ヲ買受ケタト云フ場合
ニハ之ヲ取消サントシテ、是等ノコトデ以テ不當ニ信託財
產ヲ買受ケラレタ者ノ構利ヲ害スルト云フコトヲナカラシ
メマシテ、サウシテ或ル程度ニ於テ此信託財產ト云フモノ
ヲ保護シテ、信託財產取戾シト云フ途ヲ開イタノデアリマ
ス、是ハ信託財產ノ保護ニ關スル一ツノ重要ナル點デアル
ノデアリマス、ソレカラ次ニハ信託ノ方法ヲ濫用イタシマ
シテ財產ヲ隱匿スルト云フ樣ナ事ガアッテハ、是レ亦信託法
制定ノ趣旨ニ反スルノデアリマスカラ、自分ガ債務ヲ澤山
負擔シテ居リナガラ財產ヲ隱匿スル爲ニ財產ヲ他ニ信託シ
テ仕舞フト云フヤウナ弊ヲ防ギマスル爲ニサウ云フ場合ノ
債權者ノ保護ヲ厚ク致シマスル目的ヲ以テ、民法ニ於ケル
所謂財產ノ隱匿、卽チ詐害行爲ヲ取消スト云フ方ノ手續ヲ更
ニ擴張シ容易ナラシメマシテ、サウシテ信託ヲ惡用シマシ
テ之ヲ隱匿スルノ弊ノナイ樣ニ致シタノデアリマス、其爲
ニ規定ヲ設ケテ居ルノデアリマス、ソレ等ガ先ヅ信託ニ付
キマシテ重要ナル法律ノ關係ノアル點デアルノデアリマシ
タ、其他受託者ノ權利義務、資金、等ニ付キマシテモ詳細ナ
規定ヲ設ケマシタ次第デアリマス、ソレカラ次ニ信託ニ關
係スル場合ニアリマシテハ、長イ期間ニ亘ル事モアリマス、
先程申上ゲマシタ例ノ中ニモ相當長クナリサウニ思ハレル
モノモアルノデアリマス、所ガ受託者ガ其目的未ダ完了前
ニアッテ死亡スル樣ナ事モアリマセウ、或ハ色々ノ事情カラ
致シマシテ、ドウシテモ其信託ヲ止メナケレバナラヌ、受託
者タル地位ヲ退カナケレバナラヌト云フヤウナコトモ隨分
アルノデアリマス、ヨク會ノ會長ガ受託者デアルヤウナ場
合ニ於キマシテハ、會長ト云フ資格ノ下ニ受託者トナッテ居
ル、規則上サウナッテ居ル、所ガ會長ヲ辭任シタガ爲ニ信託
ノ受託者クルコトヲ止メナケレバナラスト云フヤウナコト
ガ生ジテ來ルコトモアル、サウ云フヤウナ場合ニ色〓ナ關
係カラシマシテ信託ハ未グ自的ヲ完全ニ達シナイ間ニ受
託者ト云フモノガ缺員ヲ生ズル、ナクナッテ來ルト云フヤウ
ナ場合ガアリマス、其場合ニハ新ニ之ニ代ル所ノ受託者
ト云フモノヲ選任イタシマスル方法ヲ、構ズルコトガ、是ハ
最モ必要デアリマスカラ、受託者ガ死亡シマシタヤウナ場
合ニハ、勿論共相續人ヲシテ之ニ代ラシムルト云フヤウナ
性質ノモノデナイ、ドウシテモ其本人ヲ信用スルノデアルカ
ラ、共子供ガ當然之ヲ引繼グト云フ性質ノモノデハナイ、民
法ノ委任ニ於キマシテモ一方ガ死亡スレバ消滅スルト云フ
コトニナッテ居リ、委任以上ニ財產ノ名義マデ之ヲ渡シテ委
託管理セシムルト云フ事ナ關係ノモノデアリマスカラ、其
人ガ死亡スレバ相續人ニ之ヲ賴ムト云フ意思ハ無論ナイ、
デアリマスカラサウ云フ場合ニ於キマシテハ矢張リ他ノ者
ヲシテ之ニ代ラシメナケレバナラヌト云フコトガ起ッテ參
ルノデアリマス、玆ニ於キマシテ新受託者ト云フモノハ如
何樣ニシテ之ヲ選任スルカト云フ事ニ付キマシテモ諸多ノ
規定ヲ設ケテ、其新受託者ト云フモノガ玆ニ出來テ參リマ
スレバ、其全體ノ財產ヲ始メ、前任者トノ既定ノ關係ニ於テ
生ジテ居リマシタ所ノ權利義務ヲ、之ヲ新任者ト云フモノ
ガ引繼グコトニ付キマシテモ、承繼セシムルニ付キマシテ
モ、諸多ノ規定ガ入用ナ次第デアリマス、之ニ付キマシテモ
色〓ノ規定ヲ設ケタ次第デアリマス、ソレカラ信託ノ監督
ニ付キマシテ、只今申上ゲタヤウニ信託ト云フモノハ隨分
種々ノ關係ヲ生ジテ參リマスノデ、當事者ノ利害ニモ餘程
重要ナル關係ヲ生ズル次第デアリマスカラ、此信託ノ監督
ト云フモノニ付キマシテ特別ノ規定ヲ設ケル必要ガアリマ
ス、普通ノ信託ニ於キマシテハ裁判所ガ之ヲ監督スルト云
フコトニナッテ居リマス、其監督ニ關スル規定ヲ設ケテ居ル
ノデアリマス、又公益ヲ目的トスル所ノ信託ニ付キマシテ
ハ、其事業ノ種類ニ從ヒマシテ、或ハ學校デアルトカ、或ハ
宗〓團體デアルトカ、其他色〓ノ種類ニ從ヒマシテ、各主務
官廳デ以テ之ヲ監督スルト云フコトニ致シテ居ル次第デア
リマス、是等ノ點ニ付キマシテモ相當ノ規定ヲ設ケテ居リ
マス、大體信託法案ノ內容ノ要點ハ只今申上ゲマシタヤウ
ナ次第デアリマス、尙ホ詳細ニ付キマシテハ御質問ニ應ジ
テ御囘答申上ゲルコトニ致シマス、ソレカラ不動產登記法
ノ改正ハ、是ハ玆ニ信託法ト云フモノガ新ニ出來マシタノ
デ、之ニ付キマシテ登記ノ制度ヲ設ケマシタ次第デアリマ
ス、大體ハ當事者ヨリ信託ノ要領ト云フモノヲ書キマシタ
書面ヲ出サセマシテ、而シテソレヲ登記所ニ取置キマシテ、
ソレヲ整理イタシマシテ一面個〓ノ不動產ニ付テハ其信
託ノ登記ト云フモノヲ簡單ニ致シマシテ、詳細ノコトハ其
取置イタ所ノ書面、之ヲ信託原簿ト稱シテ居リマス、其書面
ト云フモノニ對照シテ見レバ其關係ガ解ルヤウニ、極ク簡
單ニ相成ッテ居リマス、ソレカラ非訟事件手續法ノ方ハ、只
今申シマシタ通リニ信託事務ノ監督ヲ裁判所ニ屬セシムル
コトニナリマシタノデ、其裁判所ノ監督、管轄、其他ノ點ニ
付テ二三ノ規定ヲ設ケマシタニ過ギナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004501797X00119220316&spkNum=2
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003・黒田英雄
○政府委員(黑田英雄君) 私カラ信託業法ニ付キマシテ、
業法ヲ提案イタシマシタ趣意、竝ニ是等ノ規定ニ付キマシ
テ大體ノ御說明ヲ中上ゲタイト思フノデアリマス、、信託業法
ヲ提案イタシマスル所ノ理由ニ付マシテハ曩キニ本議場ニ
於キマシテ大藏大臣カラシテ說明ヲ申上ゲタノデアリマス、
近頃御承知ノ通リニ我ガ國ニ於キマスル所謂此信託業ト云
フモノノ發達ガ著シイノデアリマシテ、是ハ日露戰爭以後
漸次增加スルヤウニナッテ參タノデアリマスガ、殊ニ大正七
八年頃カラ致シマシテ非常ニ增加イタシマシタ尙ホ資本
モ大ナルモノガ出來テ參ッタノデアリマシテ、今日所謂信託
業者ト云フモノハ其數ガ五百十四ニナッテ居ルノデアリマ
ス、是ハ勿論本質ニ於キマシテハ大藏省ニ於キマシテ信託
會社ニ對スル監督權ト云フモノヲ有ッテ居ラナイノデアリ
マスルカラ、詳細ナル調査ハ困難デアリマシテ、十分正確ト
云フコトハ申上ゲルコトハ出來ナイノデアリマスガ、大體
五百十四アリマス、其中會社組織ノモノガ四百八十七、會社
ノ資本金ガ三億四千七百餘万圓ト云フヤウナ次第デアルノ
デアリマス、サウシテ段々大資本ノモノガ年ヲ追フテ其數
ヲ增シテ來テ居ルヤウナ狀況ニアルノデアリマス、其信託
會社ノ目的ト云フモノハ先程司法省ノ政府委員カラ申上ゲ
マシタ通リ信託ノ引受ケト云フコトヲ營業トシテ居ルノデ
アリマス、此信託ト申シマスルモノハ所謂社會ノ靜的資金
ト申シマスカ、普通ニ銀行等ノ資金ノ如キ活動シテ居ラヌ
所ノ資本ヲ或ハ株トカ、工場資金ト云フヤウナモノニ管理
運用イタシマシテ、之ヲ社會ニ活動イタシマスル所ノ資本
化スルト云フ働キヲ有ッテ居ルノデアリマス、或ハ自分デ財
產ヲ管理スル能力ノナイモノ、卽チ年ノ若イ所ノ孤兒デア
ルトカ子供デアルトカ、或ハ寡婦デアルトカ云フヤウナ自
カラ之ヲ運用管理スル所ノ能力ヲ有ッテ居ラヌモノサウ云
フモノニ代ッテ是ガ安全ニ、有利ニ管理運用スル、或ハ自カ
ラ其力ヲ有ッテ居リマシテモ、之ヲ爲ス所ノ暇ノナイヤウナ
モノノ爲ニ代ッテ之ヲ管理運用スルト云フ風ノ使命ヲ有ッテ
居ルモノデアリマシテ、卽チ社會ニ活動シテ居ラヌ所ノ資
金ヲ經濟的ニ活動サセルト云フコトノ結果ニナルノデアリ
マシテ、將來我ガ國ニ於キマシテ相當ニ發達シテ行クベキ
モノダラウト云フ考ヲ有ッテ居ルノデアリマス、ソレ故是等
將來堅實ノ發逹ヲサセルト云フコトニ付テ十分ニ考慮スル
ト云フコトハ非常ニ國家ノ急務デアラウト考ヘルノデアリ
マス、殊ニ今日我ガ國ニ置キマスル所ノ信託業者ノ狀況ヲ
見マスト云フト隨分其數ハ增加シテ參ッテ居ルノデアリマ
スケレドモ、其業務ノ實際ヲ見マスト云フト非常ニ廣汎ナ
色〓ナ仕事ヲイタシテ居リマシテ必ズシモ前申上ゲマスル
如キヤウナ所謂本統ノ信託ト云フモノノ引受ケテ業トシテ、
其使命ヲ全フスルト云フヤウナ働キヲ致シテ居ルト云フコ
トガ出來ナイモノガ隨分多々アルノデアリマス、ソレノミ
ナラズ此實際ノ狀態ヲ見マシテモ必ズシモ堅固デアッテ、確
實デアルト云フコトヲ申スコトガ出來ナイモノガ隨分多ク
アルヤウニ見エルノデアリマス、左様ナモノハ所謂他人ノ
信認ヲ受ケマシテ財產ヲ預ッテ仕事ヲシテ行クト云フコト
ニハ極メテ不適當デアル、非常ニ危險デアルト言ハナケレ
バナラナイノデアリマス、ソレ故隨分此信託ト云フ新シキ
美名ノ下ニ隠レテ隨分色ヽナ仕事ヲシ、或ハ銀行ニ類似ノ
仕事ヲスル、銀行ハ御承知ノ通リ一方ニ相當ナ監督ヲ受ケ
テ居ルニモ拘ラズ何等ノ監督ヲ受ケズシテ銀行類似ノ仕事
ヲシテ居ルト云フ風ナモノモ隨分出來テ來タノデアリマス、
又ソレ等ノ資金ヲ放慢、無節制ナ業務ニ用ヰマシテ隨分經
濟界ニ惡イ影響ヲ及ボスト云フコトモアルノデアリマス、
或ハ橫領等ノ罪ヲ犯シテ居ル者モ實例ガアルヤウニ見エル
ノデアリマス、中ニハ其場所ヲ常ニ轉ジテ或ハ其名前ヲ屢
屢變ジテ、サウシテ其義務ノ履行ヲ怠ル、ト云フ風ナモノモ
隨分アルノデアリマス、サウ云フ狀態デアリマスルト云フ
ト一方ニハ社會ガ安心ヲシテ自己ノ資產ヲ信託スル者ハナ
イコトニナルノデアリマシテ、從ッテ此信託ノ引受ケヲ業ト
致シマシテモ十分ニ其機能ヲ發揮スルコトガ出來ナデイノ
アリマス、又知識ノナイモノハソレ等ノ信託ノ名前或ハ廿
言ニ迷ハサレテ財產ヲ委託シマスト云フト遂ニハ其爲ニ不
事ノ損害ヲ蒙リ、獨リ個人ニ損害ヲ與ヘルノミナラズ經濟
社會ニ非常ナ惡イ影響ヲ及ボスト云フ風ナコトガ起ッテ來
ルト云フコトノ虞レガ非常ニ强イノデアリマス、ソレ故今
日ニ於キマシテマダ、其弊ノ餘リ著シクナイ時ニ當ッテ先ヅ
此司法省ノ政府委員カラ御說明申上ゲマシタヤウナ信託法
ヲ制定シテ此信託ノ法律關係ヲ明ニシマスルト同時ニ是等
ヲ營業イタシマスル所ノモノノ營ム所ノ業務ノ本質ヲ明
ニシテ、卽チ信託會社ノ本質ヲ明ニシテ其向フ所ヲ明カニ
スル、之ニ對シテ相當必要ナ監督、卽チ受益者ヲ保護スル
ニ付キマシテ必要ナ所ノ監督取締ノ規定ヲ設ケルト云フ
コトガ目下ノ急務デアラウト考ヘテ居ルノデアリマス、ソ
レ故ニ玆ニ其目的ヲ以テ信託法案ヲ提出イタシタ次第デア
リマス、ソレ等ノ規定ノ內容ニ付キマシテ詳シイコトハ又
御質間等ニ應ジマシテ十分ニ御說明ヲ中上ゲルノデアリマ
スガ、先ヅ規定ノ重ナル點ニ付キマシテ少シク御說明ヲ申
上ゲテ見タイト思フノデアリマス、業法ノ第一ノ重ナル點
ハ第四條ニ規定シテ居ルノデアリマス、卽チ信託會社ガ信
託ノ引受ヲ爲シマスル所ノ財產ノ種類ヲ制限イタシタノデ
アリマス、是ハ信託法ニ依リマスト云フト、先程モ御說明ヲ
申上ゲマシタ通リ、苟クモ權利ノ移轉設定ヲ爲シ得ルモノ
デアリマスレバ、詰リ財產權デアリマスレバ信託ノ目的ニ
成リ得ルノデアリマスガ、此信託ノ引受ヲ營業ト致シマス
ル信託會社ニ於キマシテハ其目的ヲ制限ヲスルト云フコト
ガ必要デアラウト考ヘルノデアリマス、ソレハソレ等ノ制
限ハココニ四條ニ列記イタシテ居ルノデアリマスガ、大體
是等ノ制限ハ信託會社ガ營ミマシテ將來發達ノ見込ノアル
モノ、卽チ信託會社ノ營業トシテ最モ適當デアリ、又實際ニ
於テ行ハレ得ベキモノヲ標準ニ致シタノデアリマシテ、又
之ヲ營ミマスニ付キマシテ危險ヲ伴フ虞ガ少イ、從ッテ他ニ
害ヲ及ボスト云フ風ナ危險ノ虞ノ少イト云フモノヲ選ンダ
ノデアリマス、又監督ヲ致シマス上ニ於キマシテモ、十分ニ
共監督ノ目的ヲ達シ得ルモノト云フモノヲ標準ト致シマシ
テココニ記載イタシタノデアリマス、卽チ之ヲ言換ヘマス
レバ危險ノ伴ヒ得ベキモノト云フモノヲ認メナイコトニ致
シタノデアリマス、先ヅ第一ニ其認メナカッタモノカラ先キ
ニ御話ヲ中上ゲテ見タイト思フノデアリマスガ玆ニ列擧
ニ洩レテ居リマスモノハ船舶デアルトカ、或ハ工業權漁業
權ト云フ風ナ財產權デアルノデアリマスガ、是等ノモノハ
船舶ニ付キマシテハ船舶ヲ以テ運送業ヲ』ムム工業權デア
リマスレバ之ニ依ッテ信託ヲ受ケマシテ工業ヲ營ム、漁業權
デアリマスレバ漁業ヲ營ムト云フ風ニ或事業ヲ營ムト云
フコトヲ致シマセスケレバ信託ノ目的ヲ十分達スルコトハ
出來ナイノデアリマスカラ、左樣ナ事業ハ往々危險ヲ伴フ
ノデアリマシテ、是等ノ事業ノ爲ニ失敗ヲ致シマシタ場合
ニ勿論受益者ガ共損害ヲ負擔スルト云フコトハ勿論デアリ
マスケレドモ、財產者ノ關係カラ見マスト云フトソレ等ノ使
用ノ結果財產者ニ對シテ負擔シタ所ノ債務ニ付キマシテハ
勿論自己ノ個有財產ヲ以テ之ニ當ラナケレバナラヌノデア
リマシテ、隨ッテ假ニ信託ノ管理ガ失當デナカッタト致シマ
シテモ會社ノ基礎ニ影響ヲ及ボス虞ガアルノデアリマス
隨ノテ他ノ信託ノ財產ニモ影響ヲ及ボスノデアリマスカラ、
他人ノ信任ニ基イテ、財產權ヲ自己ノ名ニシテ之ヲ管理維
持シテ行カウト云フ業務ヲ本體ト致シマスル會社ニ於キマ
シテハ左樣ナ危險ノ業務ヲ營ムト云フコトハ極メテ不適當
デアラウト云フ考ヲ持ッテ居リマス、是ハ能ク例ニ引カレマ
スル亜米利加等ニ於キマシテモ信任ニ基ク所ノ受託者ノ如
キモノハ危險ナ業務ニ近ヅクベキモノデナイソレ等ハ例ニ
ハ或ハ保證トカ色〓ナモノガ擧ゲテアリマスヤウデアリマ
スガサウ云フ論ガ一般ニ此頃行ハーレテ居ルヤウニ聽イテ
居ルノデアリマス、サウ云フ越意カラ致シマシテ是等ノ信
託ノ目的ト成リ得ベキ財產權ノ內カラシテ左樣ナモノハ除
キマシタ、ココニ列記イタシマシタ所ノモノニ限リマシタ
次第デアリマス、此內デ先ヅ第一ニ此金錢デアリマスガ、金
錢ハ隨分信託ノ目的ト致シマシテハ過去ニ於テモ嚴格ナル
意味ノ信託ト云フコトハ申サレヌカモ知レナイノデアリマ
スケレドモ、所謂信託受益者ノ仕事ト致シマシテハ隨分金
錢ノ信託ト云フコトガ行ハレタノデアリマス、將來ニ於キ
マシテモ是等ハ最モ發達ヲ期待シ得ベキモノト考ヘテ居ル
ノデアリマス卽チ相當ノ機關ヲ持ッテ居ッテ之ヲ銀行ニ預ケ
テ其利子ヲ收得スルコトガ無論アリマセウ、其運用ニ伴フ
所ノ危險ト云フモノガ伴ヒマスガ、併シ其運用ニ依ッテ得タ
所ノ利益ヲ全部ヲ收得スルト云フ希望ヲ以チマシテ、之ヲ
信託會社ニ信託スルト云フコトハ將來ニ於テ隨分行ハレル
コトト考ヘルノデアリマス、是等ノ金錢ノ信託ト云フモノ
ニ付キマシテハ往々銀行ノ預金ト類似シテ參ルノデアリマ
シテ、銀行トノ預金トノ間ニドウ云フ區別ガアルカト云フ
事ハ能ク問題ニナルノデアリマスガ、銀行ノ預金ト信託サ
レタ所ノ金錢ト云フモノトハ其本質ニ於テ經濟上ノ性質ニ
於キマシテ大イニ異ッテ居ルト考ヘテ居ルノデアリマス先
程モチヨット申シマシタヤウニ所謂信託會社ニ參リマス所
ノ財產ハ社會ノ靜的資金デアル、銀行ニ參リマスモノハ所
謂動的ノ資金デアルト大體ニ言フコトガ出來ルノデハナイ
カト考ヘテ居ルノデアリマス、銀行ニ於キマシテハ共預リ
マシタ所ノ預金ト云フモノハ銀行ガ自分ノモノトシテ之ヲ
運用イタスノデアリマス、之ヲ運用スルトセザルトハ全ク
銀行ノ自由ニアルソデアリマス、銀行ハソレヲ運用スベキ
義務ヲ持ッテ居ルモノデハナイノデアリマシテ、唯其預金ニ
對シテ一定ノ利息ヲ拂ヘバソレデ宜シイノデアリマス
ガ、信託一財產タ』ル金錢ハ信託會社ガ之ヲ運用スベキ卽チ
善良ノ管理者ノ注意ヲ以テ之ヲ管理運用スル所ノ義務ヲ
負ウテ居ルノデアリマス、サウシテ又預金ニ於キマシテ
モ一定ノ利息ヲ拂ヘバ宜イノデアリマスルガ信託財產
タル金錢ニ付キマシテハ其運用ニ依リテ出マシタ所ノ利益
ノ全部ヲ受益者ニ收メナケレバナラヌ、唯必運用ニ付キマ
シテ一定ノ手數料ヲ取得スルニ過ギナイノデアリマス、ソ
レラハ性質上大ニ異ナッテ居ルト考ヘルノデアリマス、從ツ
テ是ヲ管理運用シテ行キマス上ニ於テ當然銀行ノ預金トハ
異ナルノデアリマシテ、卽テ之ヲ別個ノ整理ヲシテ帳簿等
ニ於キマシテハ別個ニ之ヲ處理致シマシテ、今日其財產ガ
ドウ云フ風ニ變形運用サレテ居ルカト云フコトガ一目瞭然
シナケレバナラヌト考ヘルノデアリマス、左樣ニ此銀行預
金ト金錢ノ信託ハ共性管ハヲ異ニシテ居リマスルカラ從ッテ
之ニ付キマシテハ命令ヲ以チマシテ相當ナル此制限ヲ設ケ
マシテ金錢信託ニ付キマシテハ、其信託致シマスル所ノ期
間ニ付キマシテ其最低期間ヲ相當長キ期間ヲ定メタイト
云フ考ヲ持ッテ居ルノデアリマス、デ金錢ニ付キマシテモ
一口ノ金額ニ付キマシテモ、銀行ノ如ク、或ハ零碎ノ金
ヲ預リ或ハ動的資金ヲ預ルノデナイノデアリマスルガ、相
當纏ヲタ金ヲ預ルベキ性質ノモノデアルカラシテ一口ノ最
低金額ヲ命令ヲ以テ制限ヲ致シタイト云フ考ヲ持ッテ居ル
ノデアリマス、ソレカラ此金錢信託ヲ致シマスル場合ニ於
キマシテ、大體三種ノ方法ガアルダラウト考ヘルノデアリ
マス、卽チ運用ノ方法ヲ何等指定スル所ナラ、會社ニ一任ス
ル場合、又ソレラノ運用方法ヲ指定スル場合、或ハ之ヲ有價
證劵ニ適用シテ吳レ、或ハ之ヲ動產ニ運用シテ吳レト云フ
ヤウナ風ニ指定ヲスル場合、又更ニ進ンデ之ヲ指定シテ、之
ヲ以テ東京取引所ノ株ヲ貝ッテ運用シテクレト云フヤウナ
コトガアルト思フ、是等ノ何カ指定ノ利益ヲ以テ會社ニ一
任シタ場合ハ信託法ノ第二十一條ニ依リマシテソレガ管理
運用ニ付キマシテ、相當ナ制限ヲ命令デ以テ設ケラルルコ
トニナルノデアリマス、ソコデチヨット前ニ十條ニ······〓倒
致シマシタガ、第四條ノ制限ハ信託ノ引受ヲ致シマスル際ニ
ハ、財產ヲ制限致シタノデアリマシテ、引受ヲ致シマシタ後
ニソレヲ運用シテ歸屬スル財產ニ付テノ制限デハナイノ
デアリマス、ソレ故ニ玆ニ列擧致シテ居リマスルモノハ僅
カナモノデアリマスルガ、之ヲ管理運用シテ行キマス間ニ
於テ一粒ノ財產······茲ニ列擧シタモノニ限ラナイノデ、ソ
レ故ニ此金錢信託ヲ受ケマシテ、金錢ヲ運用シテ各種ノ運
用ノ方法ヲ採リ、指定シ若クハ特定シ得ルト云フコトハ勿
論デアリマス、是等ノ管理運用ニ付キマシテハ、特ニ此業務
ノ種類方法ヲ定メサセル、之ニ對シ會社ニ認可ヲ致ス考ヲ
持ッテ居リマス、其認可ノ際ニ相當之ニ對シテハ、制限ヲ設
ケル積リデアリマシテ唯信託者ガ希望デアルカラシテ、之
ヲ運用スル······ドウ云フ風ニデモ運用スルト云フコトハ許
サナイ積リデアリマス、相當ノ制限ヲ設ケテ、所謂危險ノ伴
フベキ仕事ヲ避ケルト云フコトニ致シタイト云フ考ヲ持ッ
テ居ルノデアリマス、此金錢ノ信託ニ付マシテ、此業法ニ於
テ規定シテ居ルマスル他ノ重要ナル······重ナル點ト閣聯シ
テ居ルマスルノデアリマスカラ、併セテソレヲ御說明申上
ゲタイノデアリマスルガ、卽チ九條デアリマス、金錢ヲ信託
致シマスル際ニ、例ヘバ玆ニ十万圓信託ヲシテ、之ヲ五年間
運用シテ每年ソレカラ······金融カラ得タ所ノ利益ヲ、每年
之ヲ受益者ニ給付シテサウシテ五年ノ後ニ至ッテ、十万圓ヲ
受益者ニ給付シテ受益者ニ給スルト云フ風ナ場合モアリマ
シテ、サウ云フ風ニ金錢ノ信託ヲシテ、サウシテ受益者ニ歸
屬シマスル場合ニモ、金錢デ行クト云フ風ナ金錢主義カ
ラ、之ヲ申シタイト思ウテ居ルノデアリマス、其運用方法ヲ
特定シナイ、先程モ申シマシタ通リ東京ノ取引所ノ株ヲ買。ツ
テクレト云フヤウナ特定ヲシテ居ルモノニ付テハ、勿論信
託ノ本旨ハ立替カラシテ······損益ハ共ニ受益者ガ負擔ス
ル損ガアッタナラバ受益者ガ損ヲシ、益ガアッタナラバ益ノ
全部ヲ受益者ガ得ルト云フコトハ信託ノ本質デアルカラ特
定ヲ持ッテ使ッテクレト云フ時ニハ、勿論ソレガ爲ニ相當ノ
注意ヲ以テ信託會社ガ運用イタシマシタニ拘ハラズ損
失ノアリマシタ時ニハ是ハ受益者ニ歸屬セシメル其損ヲ
負擔セシメルト云フコトハ當然デアラウト思ヒマスガ左
樣ナ特定ヲシナカッタ場合ニ於キマシテハ、會社、受益者等
ニ一定ノ利益步合ヲ保證スル、又元:本ヲ保證スルト云フコ
トハ隨分從來カラ行ハレテ居ルコトデアリマシテ、之ヲ將
來ニ於キマシテモ、斯ノ如キ方法ヲ認メマスルト云フコト
ハ、相當必要デアラウト云フ考ヲ以チマシテ、九條ノ規定
ヲ設ケタノデ、卽チ今申ス樣ナ運用法ヲ特定セズ、金錢信託
ニ限リマシテ信託行爲ヲ以テ財產ヲ信託致シマスル際ニ
一定ノ利益ヲ生ジナクテモ、或程度マデ會社ガ之ヲ保證ス
ルト云フコトノ契約ヲイタスノデアリマス、之ヲ信託ノ本
質カラ申シマスレバ、先程申シマシタヤウニ損害共ニ利
益者ニ歸屬スルト云フコトガ本來ハ同一デアルカラ、之
ヲ保證スルコトハ、信託ノ本質ニ反スルト云フ虞ガアルノ
デアリマシテ、ソレ故ニ是ハ信託ノ行爲ニ附隨シテ、別個
ノ契約ヲ致シタモノト見レバ、何モ差支ナイコトト考へ
マス、特ニ左樣ヲ疑問ヲ生ズル虞ガアリマスル爲ニ、法律ヲ
以テ明ニサウ云フコトヲ爲シ得ルト云フコトヲ、規定致シ
マスルト同時ニ運用方法ヲ特定セズ、又金錢信託ニ限ルト
云フ事ノ趣旨ヲ明ニ致シタノデアリマス此一定ノ利益步合
ヲ保證シマスル、損ニ付キマシテハ命令ヲ以テ相當ナ制限
ヲ設ケマシテ之ニ付キマシテハ銀行ノ預金ノ利率ヨリモ
其當時行ハレナ居ル······普通ニ行ハレマスル預金ノ利率ヨ
リモ相當低キ程度ニ於テ其保證ノ步合ハ最高ノ步合ヲ限定
イタシタイ考ヲ持ッテ居ルノデアリマス、是ハ銀行ノ頂金
ト信託金ト云フモノト其本質ガ違フノデアリマスルカラ
飽クマデモ其本質ニ副フ樣ニイタスコトガ違當デアラウト
云フ考ヲ以テ、制限致シタイ考ヲ持テ居ルノデアリマス、第
四條ニ付キマシテハ、是ハ多クハ特ニ御說明申上ゲルマデ
モナイト考ヘルノデアリマス、此四ノ「土地及其ノ定著物」
ト申シマスノハ、土地ノ管理、若クハ此定著物トハ主トシテ
家屋等デゴザイマスルガ、家屋等ノ管理ヲ信託スル場合ヲ
考ヘテ居ルノデアリマシテ、五ノ「地上權及土地ノ賃借權」
ヲ認メマシタノモ、家屋等ヲ主トシ、或ハ立木ト云フヤウナ
モノモ矢張リ此定著物ノ中ニ包含スルト云フコトヲ考ヘテ
居リマシテ、立木トカ、或ハ家屋ト云フモノヲ主トシテ想像
イタシテ居リマス、此案ニ付キマシテハ衆議院ニ於キマシ
テ「動產」ヲ入レル、政府ノ原案ニハ動產ヲ拔イテ居フタノデ
アリマスガ動產ヲ入レルト云フ修正ガアリマシテ、政府モ
之ニ同意イタシタノデアリマスガ、動產ニ付キマシテハ或
ハ會社ノ財產ノ整理ヲスルトカ云フ樣ナ場合ニハ、動產ノ
信託ヲ受ケル事モ時ニ必要ガアラウト考ヘマス、其他又或
種ノ動產ニ付キマシテハ弊害ガナイト考ヘルモノモアル
ダラウト考ヘマシテ、是ハ先程申シマシタヤウニ業務ノ種
類方法ヲ定メマシテ、認可ヲ致シマス際ニ相當ノ制限ヲジ
タイト云フ考ヲ有ッテ居リマス、ソレカラ次ノ主モナル點ハ
卽チ五條デアリマシテ、信託會社ハ信託ノ引受ヲスルト云
フ事ヲ以テ會社ノ本質ト致シマシテ、卽チ信託會社ニハ他
ノ者ガ、信託會社ニ非ザルモノガ信託ノ引受ヲ營業スル事
ハ許サナイト云フ事ニナッテ居リマス、併シ信託ノ引受ノミ
ヲ致スカト云フト、今日ノ信託會社ノ實際カラ申シマシテ
モ、各種ノ業務ヲ營ンデ居ルノデアリマス、亞米利加等ニ於
テモ色〓附隨シタ業務ヲ營ンデ居ルノデアリマスカラ、或
ル種類ノ業務、所謂或ル種類ノ附隨業務ニ付キマシテハ、之
ヲ認メマスト云フコトモ會社ノ基礎ニ危險ヲ及ボスコトガ
ナイ、會社ノ發達ヲ促ス所以デアルト考ヘマシテ、玆ニ揭ゲ
マシク附隨ノ業務ヲ認メタノデアリマス、大體此會社ト云
フモノハ他人ノ信任ヲ基礎トシテ業務ヲ致シテ居リマスカ
ラ、大體此附隨業務ニ付キマシテモ信任ニ基ク所ノ性質ノ
モノヲ選ンデ居ルノデアリマス、其他ノ者ニ付キマシテハ、
亞米利加等ニ行ハレマスル附隨業務ニ付キマシテモ大體講
究ヲ致シテ居リマス、是ハ我國ノ法制ノ上ニハ直ナニカニ
得ナイモノガアル、或ハ會社ノ株式登錄ノ事務トカ、或ハ後
見人ノ事務デアルトカ或ハ其責任者ノ財產ノ管理ト云フヤ
ウナ事ハ我國ノ法制上認ラレテ居ラヌト考ヘルノデアリマ
シテ、サウ云フ風ニ法制ガ認メテ居ナイ、又其他ノモノハ今
日實際ニ行ハレテ居ラナイモノデアルシ、若クハ實際ニ其
必要ノナイト考トタモノガ省カレテ居ルニ過ギナイノデア
リマシテ、大體ハ玆ニ採用サレテ居ルト申シテ宜シイカト
考ヘテ居ルノデアリマス、之ニ付キマシテハ殊ニ當業者ア
タリカラモ色〓陳情モアリ、意見モ聽イテ居リマスガ、ソレ
等ニ付テモ十分ニ考慮致シマシテ認ムベキモノハ玆ニ採
用ヲ致シテ居ルノデアリマス、當業者ノ希望ノ中デ採用致
サナカッタモノニ付キマシテハ、又適當ノ機會ニ於テ其理由
ヲ申上ゲテ見タイト考ヘテ居ルノデアリマス、此中デ債務
ノ保證ニ付テハ命令ヲ以テ必要ナル制限ヲ設ケタイト考ヘ
テ居ルノデアリマス、是ハ會社ガ自己ノ資力ヲ願ミズ妄リ
ニ多額ノ保證ヲ致スト云フ事ハ非常ナル危險ヲ生ジ、延イテ
ハ經濟界ニ惡イ影響ヲ及スト云フ結果ニナルノデアリマス
カラ、之ニ付キマシテハ會社ノ資本トカ、或ハ其資本ニ對ス
ル擔保ノ種類等ニ依リマシテ、相當ノ限度ノ制限、或ハ一ト
口ニ付テノ金額ノ制限、總額ニ付テノ制限トカノ相當ノ制
限ヲ命令ヲ以テ定メタイト云フ考ヘヲ有ッテ居ルノデアリマ
ス、幸ニ信託會社ハ此四條ニ依リマシテ營ミスル信託業、其
附隨ノ業務、ソレ丈ケニ限ルノデアリマシテ他ノ業務ヲ營
ム事ヲ認メナカッタノデアリマス、兼菜ヲ許サナイノデアリ
マス、卽チ其許シマセヌ兼業ノ主ナルモノハヨク問題ニナ
リマス銀行ノ業務デアリマスルトカ、銀行ノ業務ト信託會
社ノ業務ト云フ者ハ前カラモ申上ゲマスル通リニ非常ニ性
質ヲ異ニシテ居リマス、根本ニ於テ性質ヲ異ニシテ居リマ
スノミナラズ、其ノ營ミマスル業務ノ方法ニ付キマシテモ
大イニ異ッテ居ルコトハ私ガ申ス迄モナイコトデアリマシ
テ、大體信託ノ財產ヲ銀行ノ一般ノ事務ニ用フルト云フコ
トハ時ニ其財產ニ危險ヲ生ズル虞レガアルノデアリマス、
亞米利加等ニ於テモ信託會社ノ失敗ヲ致シマシタ多クノモ
ノハ、銀行ヲ兼ネテ居ルモノデアルト云フコトモ言ハレテ
居ルト云フコトヲ聞イテ居ルノデアリマシテ、又弊害ノ方
ヲ考ヘマスト、自己ガ銀行ヲ同時ニヤッテ居リマスト、銀行
ノ業務ニ用ヒテ利益ノアッ時ニハ銀行ノモノトスル、利益ノ
少イ時ハ信託ノモノトスルト云フコトモ想像スレバアリ得
ルノデアリマス、取締ノ上ニ於キマシテモ危險デアリマス
カラ、性質ガ違フノデアリマスカラ、是レハ其兼業ヲ許サナ
カッタ次第デアリマス、唯此擔保附社債信託法ニ依ル信託
業務、是ハ前ニ司法省ノ政府委員カラモ申上ゲマシタ
通リ大體信託ノ中ニ這入ルモノデアリマスカラ、是ハ信
託ノ擔保附社債信託法ニ依ッテ認可ヲ受ケマスレバ是
ハ兼業スルコトガ出來ルヤウニ致シタノデアリマス、ソ
レカラ此信託會社ハ他人ノ信任ニ基イテ他人ノ財產ヲ預
カルノデアリマスカラ、信託法ニ依リマシテ各種ノ義務
ヲ負擔シテ居ルノデアリマス、是等ノ義務ヲ擔保イタシマ
ス趣旨ヲ以テ七條ニ資本ノ十分ノ一以上ノ金額ニ相當ス
ル國債ヲ供託ヲスル、サウシテ之ヲ以テ受益者ガ他ノ債
權者ニ先立ッテ辨濟ヲ受クルノ權利ヲ有セシメテ居ルノデ
アリマス、是ハ丁度貯蓄銀行等ニ於テ供給ヲスルト同ジヤ
ウナ趣旨ニ出テ居ルノデアリマス、其他會社ノ一般ノ資產
ト云フモノハ、拂込資本金、積立金ノ一般ノ資產ト云フモノ
ハ、矢張リ此會社、卽チ受託者トシテ其信託ノ義務ニ反シテ
信託財產ニ損害ヲ及ポシマシタ時ニ之ヲ補塡スル所ノ義務
ヲ負フテ居ルノデアリマスカラ、ソレ等ノ一般的ノ擔保ノ
性質ヲ會社ノ資產ト云フモノハ有ッテ居ルノデアリマス、ソ
レ故ニ會社ノ資產ハ確實ニシテ置ク必要ガアルノデアリマ
ス、其爲ニ之ニ付キマシテハ共運用ヲ制限イタシマシテ、十
一條ニ是ガ制限ヲ設ケタノデアリマス、是ハ貯蓄銀行ニ比
較イタシマスレバ貯蓄銀行ヨリハ非常ニ寛ニナッテ居リマ
ス、ソレハ貯蓄銀行ノ場合ニ於キマシテハ運用スル資產ハ
卽チ貯蓄預金其モノガ其一部ヲ構成シテ居ルノデアリマス
其資產ヲ失ヒマスレバ卽チ預金ヲ支拂フコトガ、出來ナイ
ト云フコトニナルノデアリマス、然ルニ信託會社ノ場合ニ
於キマシテハ、信託會社ノ資產ハ是ハ擔保ノ性質ヲ持ヲテ居
ルモノデアリマス、信託財產ト云フノハ別箇ニ管理整理サ
レテ居ルノデアリマスカラ、万一ノ場合ノ擔保ニナルノデ
アリマスカラシテ、幾分カ貯蓄銀行或ハ其運用ノ範圍ヲ廣
メマシテ、大イニ緩ニ致シテ居ル次第デアリマス、之ニ付キ
マシテモ衆幸院ニ於キマシテ修=ノ意見ガアリマシタ、之
ニ同意ヲ致シタノデアリマスガ是等ハ動產ニ付キマシテ
ハ動產ノ種類ニ付テノ主務大臣ノ認可ヲ要スル不動產等
ニ付キマシテモ十分ニ監督ヲ致シマシテ、其運用ヲ制限イ
タシマシタ目的ニ副フ様ニ致シタイ考ヲ持ッテ居ルノデ
アリマス、ソレカラ信託會社ニ於キマシテハ此信託法ニ對
スル一ツノ例外ヲ設ケテ居ルノデアリマスガ、疋ハ卽チ十
條ニ規定シテ居ルノデアリマシテ、受託者ハ信託財產ヲ個
有財產ニスルコトガ出來ナイト云フコトハ、原則トシテ信
託法ニ認メラレテ居ルノデアリマス、只裁判所ノ許可ヲ受
ケマシタ場合ニハ出來ルト云フコトニナッテ居ルノデアリ
マスガ、信託ノ引受ヲ營業トシテ居リマス所ノ會社ニ付キ
マシテハ、或モノニ付キアシテハ隨分此固有財產ニスル必要
ガアリ、又是ガ便利ナ場合ガアルノデアリマス卽チ前ニ申
シマシタ所謂金錢信託金錢ヲ信託シテ此金錢ヲ拂ッテ貰フ
所ノ金錢信託、其場合ニ於キマシテ途中ニ之ヲ運用シテ、是
ハ有價證劵ナリ或ハ共他ノモノニナッテ居リマス場合ニ於
テ其期限ガ出マシタ時ニ之ヲ金ヲ換ヘテ拂ハナケレバナラ
ヌト云フ爲ニ、態〓之ヲ競買ニスルトカ市場ニ賣出シテ之
ヲ金ニ依ッテ拂ハナケレバナラヌト云フコトガ起ルノデア
リマス、其場合ニ於キマシテ是ガ取引所ノ相場ガアルモノ
デアリマシタナラバ、市場ニ態〓賣出シテ、手數料ヲ拂ッテ
態〓賣出シテ金ニハシナクトモ自分ノ會社ガ、卽チ自分ノ
個有財產ニスル、之ヲ通俗ニ申シマスレバ自分ガ買フコト
ニナルノデアリマス、ガ自分ノ固有財產ニスルト云フコト
ニ致シマシテモ、別ニ弊害ガナイト考ヘマシテ、且ツ便利デ
アルト考ヘマシテ、特ニ此信託會社ニ對スル例外ヲ認メタ
ノデアリマス、只之ヲ何時デモサウ云フコトガ出來ルト云
フ事ニ致シマスルト、期間ノ中途ニ於キマシテ値段ノ下ッタ
時ニ自分ノモノニシテ置クト云フ風ナ事ガ起リ得ルノデア
リマスカラ、是ハ信託法ニ依ッテ定ッタ受益者ニ對スル債務
ヲ履行スル時ニ限ッテ、卽チ期間ノ滿了、或ハ每年一定ノ時
ニ支拂フ共時期、其時ニ於テノミ之ヲ爲シ得ルト云フ事ニ
制限ヲ致シタノデアリマス、ソレカラ尙ホ一ツ其例外ニナッ
テ居リマス者ハ此信託、個人ノ信託ニ付キマシテハ受託者
ガ死亡シタナラバ信託ヲ終了スル、會社ニ付キマシテハ、其
會社ガ解散ヲ致シマシタ場合ニ於テハ、信託ガ終了スルト
云フコトニナッテ居ルノデアリマスガ、會社ガ合併ニ依リマ
シテ解散スルトカ、或ハ一一ツ以上ノ會社ガ合併シテ新設シ
テ解散スルト云フ風ナ場合ニ於キマシテハ、個人ノ場合ト
ハ異リマシテ會社ノ合併ハ特ニ信託ヲ終了セシムルト云フ
必要ハ無イト考ヘマシテ、此例外ヲ十六條ニ設ケタノデア
リマス、只此場合ニ於キマシテモ、會社ノ合併ニ付テ異議ヲ
述べマシタ場合ニ於テハ受益者ガ異議ヲ述ベマシタ場合
ニ於キマシテハ、其異議ヲ述ベマシタ信託ニ付テハ之ヲ終
了スルコトニ致シマシテ、信託法ノ原則ニ立チ戾ルコトニ
ナッテ居ルノデアリマス、其事ハ一般ノ此檢査監督等ノ取締
ノ規定等デアリマシテ特ニ玆ニ御說明ヲ申上ゲルマデモナ
イ事カト存ズルノデアリマス、而シテ是ガ施行ヲ致シマス
ルノハ、勅令ヲ以テ時日ヲ定メルコトニナッテ居ルノデアリ
マスガ、大體、幸ニ本案ガ本議會ヲ通過イタシマシテ、成立
ヲ致シマスレバ、來年ノ一月一日ヨリ施行イタシタイト考
ヲ持ッテ居ルノデアリマス、サウシテソレマデニ一年以上引
續イテ信託ノ業務ヲ營ンデ居リマス者ハ直チニ此資本金
ヲ百万圓ト云フコトニ致スト云フコトモ困難ナ事情ガアラ
ウト考ヘマシテ、五年間ハ二十五万圓以上デアレバ宜イト
云フ附則トシテ規定ヲ設ケタノデアリマス、尙ホ御說明申
上ゲルベキ點デ申シ落シテ居ル點ハ多々アルノデアリマス
ガ、是ハ後ニ他ノ機會ニ於テ私カラ進ンデ申上ゲマシテ、又
けど
御質問ニ應ジマシテ其折々ノ御質問ニ對シテ御說明申上ゲ
ルコトニ致シタイト考ヘテ居ル次第デアリマス、ソレカラ
擔保附社債信託法中ノ改正ハ、信託會社ガ此信託業法ニ依ツ
テ擔保附社債信託業務ノ免許ヲ受ケレバ、擔保附社債信託
ノ業務ガ出來ルト云フ事ニ致シタノデアリマス又擔保附
社債信託法ニ依ッテ擔保附社債信託ノ營業ヲ營ンデ居ル者
モ亦此信託業法ニ依ッテ免許ヲ受ケレバ信託業ノ兼營ガ出
來ルト云フ修正ヲ致シタノデアリマス、只御承知ノ通リ此
擔保附社債信託ノ業務ハ銀行ニ限リ兼營ヲ許シテ居ルノデ
アリマス、此點ニ付キマシテハ本會議ニ於テモ御質問ガアッ
タト記憶シテ居リマスガ、何故ニ擔保附社債信託業ヲ銀行
ニ營ムコトヲ禁ジナカッタカト云フ御質問デアリマシタガ、
是ハ誠ニ其通リデアリマシテ、信託ノ業務ヲ銀行ノ業務ト
區別シテ共兼營ヲ認メナイ主義ヲ採リマシタ以上ハ、擔保
附社債信託業ニ付キマシテモ、銀行ノ業務ニ兼營ヲ認メナ
イコトガ、主義一貫シテ居ルコトト思フノデアリマシテ、ソ
レハ主義ニ於テ左樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、唯今日ノ
現狀ニ於キマシテハ擔保附社債信託業ヲ營ンデ居リマスモ
ノハ、銀行ニ限ッテ居ルノデアリマス、此種ノ銀行ハ現在二
十行アリマスガ、皆銀行業者デアリマシテ銀行ノ經營ヲ致
シテ居ラヌ所ノ純粹ノ擔保附社債信託業ヲ營ンデ居ル所ノ
會社ト云フモノハ今日無イノデアリマス、ソレカラ今日ソ
レラノ銀行ニ兼營ヲ直チニ禁ジマシテ、サウシテ今アル所
ノ信託會社ガ直チニ是等ノ擔保附社債信託ノ業務ヲ引受ケ
ルコトニナッテ、不都合ナイモノト考ヘマスルガ、此點ニ付
テハ未ダサウ云フコトヲスルマデノ狀況ニナッテ居ラヌヤ
ウニ考ヘマス、ガ將來信託會社ガ發達ヲ致シマシテ立派ナ
信託會社ガ相當ニ出來テ來テ、サウシテソレラガ擔保附社
債信託業ヲ營ムト云フコトニナリマシタナラバ、其曉ニハ
或ハ銀行ノ兼營ヲ禁ズルト云フコトニナル時期デアラウト
考ヘルノデアリマスガ、今日ニ於テハ前申シマス通リノ狀
況デアリマスルカラ、必要上此銀行業トノ兼營ハ認メテ置
キマシテ、只銀行ヲ兼營シテ居ラヌ所ノ者ニ限リマシテ擔
保附社債信託業法ニ依ッテ信託業務ヲ許シマシテ此案ヲ提
出イタシタ次第デアリマス、其他日本興業銀行法中改正法
律案、臺灣銀行法改正法律案竝ニ北海道拓殖銀行改正案ニ
付テ、本議場ニ於テ大藏大臣カラ御說明申上ゲマシタノデ、
大體ハ盡シテ居リマス、今日ノ信託業務トシテ居リマスモ
ノ一般ノ信託業務ハ銀行ニハ兼ネナイト云フ主義デ、擔
保附業務、今日ノ信託ノ業務ト云フ樣解釋デ色〓ナ代理事
務ヲ行ッテ、居ル、ソレ等ノ銀行法ニハ法律ニ揭ゲテ營ムヲ
得ズト云フコトニナッテ居リマスガ、特ニ之ヲ認メル必要ア
リトシテ、御手許ニ參考書ヲ差上ゲテアリマス、其趣旨カラ
シテ此案ヲ追加イタシタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004501797X00119220316&spkNum=3
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004・松本重威
○政府委員(松本重威君) 信託ノ制定ニ依リマシテ各附隨
法ノ規定中ニ改正ヲ要スルモノガアリマス、改正ノ要點ヲ
申上ゲタイト存ジマス、先ヅ以テ所得稅ニ付テ申上ゲマス、
信託擔保附社債ハ信託補助ニ於テ受託者ガ所有シテ居ルモ
ノデアリマスケレドモ、其財產カラ生ズル所得ハ結局受益
者ノ所得トスルモノデアリマスカラ、經濟上ノノ實値カラ見
マスト受益者ハ直接財產ヲ所有シテ居ルト同一ノ所得ヲス
ルモノデアリマス、デアリマスカラ所得稅ヲ課シマス上ニ
於テハ受益者ガ信託ノ財產ヲ所有シテ居ルモノト看做シテ
受益者ニ掛ケル、從ッテ受託者及ビ依託者ニ對シテ課稅シナ
イト云フ事ニナリマス、受益者ガ信託財產ヲ所有シテ居ル
モノト看做シテ所得稅ヲ課シマス結果、先キノ如キ結果ヲ
生ズル次第デアリマス、信託財產カラ生スル所ノ收益ハ一
旦其財產ノ所有者タル所ノ受託者ガ收得スルモノデアリマ
スカラ、現行法ノ所得稅法ニ依レバ受託者ニ對シテ所得稅
ヲ課シ、又更ニ受益者ナルモノハ受託者カラ收益ノ引渡シヲ
受ケマスカラ、受益者ニモ又其收益ニ對シテ所得稅ヲ課サ
ナケレバナラヌ事ニナル、卽チ收益ニ對シテ二ツノ所得稅ヲ
課サナケレバナラヌ事ニナル、所得稅ノ改正案ニ於テ此場合
ニ於テ受益者ニ對シテーノミ課稅スル〓卽チ實際ニ適應セシ
ムルト云フ事ガ一ツデアリマス、今一ツハ受益者ガ受託者ヨ
リ受ケマシタ所ノ所得ト云フ者ハ受益權ト云フ一ツノ債權
關係カラ生ズルモノデアリマスカラ若シ現行稅法ヲ其儘ニ
適用シマスト、信託財產ノ所得ノ如何ヲ問ハズ、其收入金全
部ニ對シテ課稅スル事ニナリマス、斯ノ如クシマスト受益
者ガ直接ニ其財產ヲ所有シテ居ル場合ニ比較シテ甚ダ釣合
ガ取レヌコトニナッテ居ル、併シ改正案ノ如ク受益者ガ直接
其財產ヲ所有シテ居ルモノト看做シテ、所得稅ヲ課シマス
ト、例ヘバ信託財產ガ田若クハ畑デアリマスト、滿三年ノ平
均ニ依ッテ所得稅ヲ課スルトカ、株式デアルト其配當金ノ
中カヲ四割ヲ控除シテ課稅スル、財產デアリマスレバ其財
產利子支拂ノ際ニ第二種ノ所得稅ヲ課スルダケデ、第三種ノ
所得稅ヲ課セナイ、所ガ公債デアリマスレバ其利子ニ對シ
テ何等所得稅ヲ課セナイ、全部所得稅ヲ免除スルコトニナッ
フルタン而シテ一般ノ場合ニ於テ取扱フコトニナリマス、ソ
レデ課稅ノ公平ヲ得ヤウト思ハレマス、右申述ベタ通リ詰
リ所得稅改正ノ根本デアリマスケレドモ、多少ノ例外ハア
リマス、卽チ受益者ガ不特定ナル場合、又ハ未ダ存在セザル
場合ニ於テハ受益者ニ課稅スルコトガ出來マセスカラ、此
場合ニ於テハ受託者ヲ受益者ト看做シテ課稅スル、斯樣ニ
規定シテ置キマシタ、此例外ノ場合ニ於テハ受託者ノ固有
ノ所得ト、ソレカラ又特ニ受益者ト看做サレタ所ノ所得ト、
兩所得ノ間ニハ勿論何等關係ノナイモノデアリマスカラ、
從ッテ此所得ハ合算イタシマセヌ、所得稅ヲ課スル上ニ於テ
此兩所得ハ合算イタシマセヌ、又受託者ノ同居家族トノ所
得トモ合算イタシマセヌ、卽チ信託ニ依ッテ其所得ノミヲ別
個ノモノトシテ稅率ヲ適用スルコトト致シマシタ、若シ同
一ノ受託者ノ手ノ中ニ數個ノ信託ガアリマシタナラバ是
亦合算イタシマセヌ、別々ニ所得稅ヲ課スルト云フヤウナ
コトニ致シマシタ、又右申シマシタ通リ受託者ヲ受益者ト
看做シテ課稅イタシマシタ場合ニ於テ、受託者ガ法人デア
リマスレバ法人ノ所得、卽チ第一種ノ課稅ヲスベキモノヽ
ヤウニ見エマスケレドモ、此場合ノ所得ト云フモノハ受託
者ト法人、其法人ノ資本金ノ運用ニ依ッテ生ズルモノデハ無
論デゴザイマセヌ、現行所得稅ノ方ノ規定ニ依ッテ超過留保
所得ト云フヤウナモノト別ニスルコトハ出來マセヌ、又受
託者ト云フモノハ大體受益者ニ代ッテ此所得稅ヲ納メシム
ルト云フ趣意デ課稅スルモノデアリマスカラ、結局受託者
ト云フモノハ眞ノ租稅負擔者デハナイ譯デアリマス、旁〓
以テ受託者ガ法人デアラウト、個人デアラウト之ニ依ッテ其
課稅ノ方法ヲ固持スベキ理由モアリマセヌカラ、受託者ガ
法人ナル場合ニ於テハ之ヲ個人ノ所得ト看做シテ課稅スル
コトニ致シマシタ、ソレカラ又受託者ニ對シテ課稅スルト
云フコトガ、前申シタ通リ一時ノ便宜ノ規定ニ外ナラヌ譯、
デアリマスカラ、例ヘバ受託者ガ公益法人等デアリマシテ
モ、普通ノ場合ニ於キマシテハ所得稅ヲ課セナイ所ノモノ
デアッテモ、此受託者ニハ大體受益者ノ代理人ト云フ觀念ノ
下ニ課稅スル事デアリマスカラ、其眞ノ租稅負擔者タル受
益者ノ方ニ課稅スルト云フ趣意ヲ以チマシテ、卽チ言葉ヲ
換ヘテ言ヘバ受託者ニ課稅スルケレドモ結局是ハ受益者
ニ轉嫁セシムベキモノデアルト云フ趣意ノ下ニ課稅スル
ノデアリマスカラ、假令受託者ガ公益法人デアリマシテ
モ其所得ニ對シテハ課稅ヲスルト云フコトニ致シテ
置キマシタ、以上述ベマシタ所デ大體要領ヲ盡シマシタ
ガ、此外ニ手續等ニ關シマシテ、一二規定シマシタ信託
ニ關係シマス所ノ所得ノ算定ニ付キマシテハ、受託者カラ
共信託ニ關スル所ノ計算書ヲ提出セシムル必要ガアリマス
カラ此事ニ關シマシテ現行ノ所得稅ニ於テ俸給トカ又ハ配
當金等ヲ支拂フモノハ、其支拂者カラ支拂調書ヲ提出セシ
ムル現定ニ準ジマシテ信託ニ關スル計算書モ受託者カラソ
レ〓〓提出セシムルト云フ規定ヲ設ケタ次第デアリマス、
次ニ相續稅ニ付テ申上ゲマス、現行ノ相續稅法ニ於キマシ
テハ財產ヲ贈與シテサウシテ相續稅ノ課稅ヲ免レヤウトス
ル者ヲ防グ爲メニ、二三ノ規定ヲ設ケテ居リマス、而シテ信
託ニ依ッテ委託者ガ他人ヲ受託者ト爲スト云フコトハ丁度
其財產ヲ贈與スルノト同一ノ結果ヲ來スコトニナリマスル
カラ、相續稅法ニ於キマシテハ此信託ト云フモノヲ贈與ト
同一ニ取扱フノ必要】ガゴザイマス、ソレガ爲メニ一ツ委託
者カ死亡隱居等ニ依リマシテ相續ガ開始シマス、其相續開
始シテ一年以内ニ信託ニ依ッテ他人ニ受益權ヲ與ヘマシタ
ナラバ、現行ノ相續稅法ノ第三條ヲ適用シテ、其受益權ノ價
格ヲ相續財產ニ加算スルコトニ致ーシテ居リマス、ソレカラ
次ニ信託ノ利益ヲ與ヘラレタル者卽チ受益權ヲ與ヘラレタ
ル者ガ、委託者ノ推定相續人デアルカ又ハ分家ノ戶主又ハ
家族デアリマシタナラバ現行相續稅法ノ第二十三條ヲ適ヲ
イタシマシテ相續ノ開始ガアッタモノト看做シテ相續稅用
課スルコトニ致シマシタ、尤モ此場合ニ於テ信託財產ガ不
動產又ハ船舶デアリマスレバ現行相續稅法ノ例ニ依リマシ
テ相續稅ハ課セナイデ、、別ニ登錄稅ノ方ニ於キマシテ重イ
稅ヲ課スルコトニ致シテ居リマス、而シテ受益權ノ價格ハ
相續稅ノ決定ノ上ニ如何ニ認ムルカト云フ事ニ付キマシテ
ハ、是ハ現行相續稅法ニ於キマシテ條件附ノ此期限或ハ存
續期間ノ複雜ナル權利ノ算定方ヲ規定シテアリマスカヲ、
ソレノ同一方法ニ依ルト云フコトニ致シマシタ、其次ハ登
錄稅ニ付テ申シマス、信託ニ關係シテ登錄スルコトニ付キ
マシテハ、通ジテ信託共モノノ登記又ハ登錄ト、信託ニ依ル
財產權ノ移轉ノ登記斯ウ云フ登錄ノ二ツアリマス、而シテ
信託スルモノノ登記又ハ登錄ニ付キマシテハ比較的輕イ稅
率ヲ課スルコトト致シマシタ、ソレカラ信託ノ結果財產權
ガ移轉スル所ノ登記又ハ登錄ニ付キマシテハ普通財產權
ノ移轉ヨリ比較的重イ登錄稅ヲ課スルコトニ致シマシタ、
但シ不動產又ハ船舶ニ付キマシテハ信託行爲デ其財產ノ贈
與ヲ致シマシテモ相續稅ヲ課セナイト云フコトハ先程申
上ゲタ通リデゴザイマスカラ、其補:足トシテ登錄稅ノ方ニ
於テ比較的高イ稅率ヲ以テ、恰モ此普通ノ場合ニ於テ不動
產又ハ船舶ヲ贈與シタモノト同樣ニ取扱フコトニ致シマシ
タ、ソレカラ信託ニ依ル財產權ハ先ヅ委託者カラ受託者ニ
移轉シ次イデ又受託者カラ受益者ニ移轉シテ參リマスモノ
デゴザイマスカラ、普通ニ考ヘレバ共財產權ノ移轉ノアル
度每ニ登錄稅ヲ課スベキモノデアリマスケレドモ、先ヅ以
テ受託者ガ財產權ヲ取得一シマスノハ、元々受益者ノ爲メニ
取得スルモノデアリマシテ、結局他日ハ之ヲ受益者ニ移轉
スルモノデアリマス、他日受益者ニ移轉シマスノハ詰リ信
託行爲ノ目的ヲ遂行スルニ過ギマセヌニ依ッテ實質カラ中
シマスレバ、前後通ジテ一囘ノ財產權ノ移轉ガアッタニ過ギ
ナイモノト考ヘマス······デアリマスルカラ此信託ニ依ル財
產權移轉ノ登錄稅ハ、委託者カラ受託者ニ移ル場合ハ課稅
シナイト云フコトニ致シマシタ、尙ホ其今中上ゲル他ノ場
合ニ於キマシテ形式的ニ財產權ト移轉ヲ生ジマスケレ
ドモ、實質的ニ權利ノ移轉ガ無イモノト認メテ登錄稅ヲ
課セナイト云フコトノ例外ヲ設ケマシタ卽チソレヲ申上ゲ
マスレバ委託者ガ信託行爲ニ依ッテ信託ノ財產ヨリ生ズ
ル所受益權ハ勿論歸屬權ヲ享有スル、言葉ヲ換ヘテ申セ
バ信託利益ノ全部ヲ委託者ガ享受スルト云フ場合ニ於キ
マシテハ單ニ受託者ヲシテ財產ノ保管ヲ爲サシムルニ
過ギナイコトデアッテ實質的ニハ更ニ權利ノ移轉ト云フ
事ヲ認ムベキ點ガナイノデアリマスカラ、斯ノ如キ信託
行爲ニ依ッテ委託者ヨリ受託者ニ財產權ノ移轉ヲ爲ス時
ニ登錄稅ヲ課セナイ、斯樣ニ致シタ、其次ギニ受益者又ハ
歸屬權利者ガ財產權ヲ取得イタシマス場合ニ於キマシ
テハ、前ニモチヨット申上ゲマシタル通リ、事實上ニ於テ
ハ受託者ヲ以テ一定期間保管サレテ居ル所ノ財產ヲ自分
ノ手ニ取戾スト云フコトニ過ギナイモノト認メマスカラ、
此受益者又ハ歸屬權者カ共財產權ヲ取得スル時ニ登錄稅ヲ
課稅セヌト云フコトニ致シマス、其次ニ受託者ノ更迭ノ場
合ヲ考ヘテ見マスト、矢張リ受託者ガ更迭ノ時ニ於テモ、形
式上財產權ノ移轉ガ生ジテ來ルノデアリマス、併ナガラ其
更迭タルヤ單ニ管理者ガ變更スルニ過ギナイモノデアッテ、
實質的ニハ權利ノ移轉ガナイモノト認メマスルカラ、新ラ
シキ受託者ガ財產權ヲ取得シタ場合ニ於テモ、登錄稅ヲ課
セナイ、斯樣ニ致シタ次第デアリマス、次ニハ印紙稅ニ付テ
申上ゲマス、一體信託行爲ニ付テ作製イタシマス所ノ證書
ハ現行印紙稅法ノ所謂財產權ノ移轉消滅等ヲ證明スルモノ
デアリマスカラシテ、印紙稅法ノ規定ニ依リマスト何等此
際特別ノ規程ガナイ限リハ、現行印紙稅法第二條ニ依リテ
シテ、其證書ニ記載シタ金額ニ對シテ、一万分ノ五ノ割合ヲ
以テ、印紙稅ヲ收メナケレバナラメト云フ譯ニナッテ居リマ
ス、ケレドモ元來此信託行爲ニ依リ財產權ノ得喪ハ、、普通ノ
賣買贈與ト云フヤウナ普通ノ法律行爲ニ依ル財產權ノ得喪
トハ違ヒマシテ、其移轉ハ單ニ形式ニ止ッテ其實質ニ於テハ
受託者ハ受益者ノ爲ニ管理シテ居ル、又ハ受益者ハ其財產
ヨリ生ズル所ノ收益ヲ受取シ、又ハ將來ニ財產ヲ取得スル
權利ヲ得ルニ過ギナイノデアッテ、殊ニ就中此委託者ガ、受
益者ニナッテ居ルヤウナ場合ニ於キマシテハ、實質上ニ於テ
ハ殆ド何等財產權ノ移轉モナイヤウナモノデアリマスカラ
斯ノ如ク實質ニ於テ賣買贈與トハ餘程違ッテ居ル所モアリ
マスカラ、是ハ賣買贈與ト同一ニ看做シテ、其證書ニ記載シ
テ居ル金高ノ万分ノ五ノ稅ヲ課スルト云フコトハ、聊カ酷
ニ失スル嫌ガアルト認メマス、而シテ此信託行爲ノ內容ヲ
伺ヒマスレバ、其實質ガ或ハ定期權ノ契約ヲスルト云フ法
律行爲ニ稍〓類似スル點モアリマスカラ、印紙稅法ノ見地
カラハ、大體此寄託若クハ定期權ノ契約ノ例ニ準ジマシテ、
三錢ノ定額稅ヲ課スルト云フコトニ致シマシタ、最モ此受
託者ガ其信託財產ノ管理條文上ニ作製シマス所ノ證書ニ於
キマシテハ、是ハ普通法律行爲デアリマスカラ各〓其證書
ノ種類ニ從フテ現行印紙稅法ニ依ッテ印紙ヲ貼用スルコト
ハ勿論デアリマス、大體是デ說明ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004501797X00119220316&spkNum=4
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005・兒玉秀雄
○委員長(伯爵兒玉秀雄君) 本日ハ是ニテ散會シマス、明
日ハ一時カラ開キタイト思ヒマス
午後三時三十五分散會
出席者左ノ如シ
委員長伯爵兒玉秀雄君
副委員長菅原通敬君
委員
子爵八條隆正君
男爵長松篤柔君
男爵橫山隆俊君
男爵藤村義明君
加太邦憲君
倉知鐵吉君
小山健三君
室田義文君
安田善三郞君
政府委員
大藏省主稅局長松本重威君
大藏省銀行局長黑田英雄君
司法次官山內確三郞君
司法省民事局長池田寅二郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004501797X00119220316&spkNum=5
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