1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十一年三月十三日(月曜日)午後一時十八分開議
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議事日程 第二十七號 大正十一年三月十三日
午後一時開議
第一 司法事務共助法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 裁判所構成法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第五 陪審法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第六 宇岩鐵道敷設に關する建議案(植竹龍三郎君外三名提出)
第七 地租過納金下付に關する建議案(日野辰次君外八名提出)
第八 官幣大社伊弉諾神社を伊弉諾神宮と改稱竝同神社境内整理擴張費國庫補助に關する建議案(木下甚三郎君提出)
第九 教育の實質改善に關する建議案(小橋藻三衞君提出)
第十 阿武隈川阿賀川改修工事費國庫補助増額に關する建議案(八田宗吉君外五名提出)
第十一 新舊文官恩給竝遺族扶助料不權衡更正に關する建議案(河上哲太君外四名提出)
第十二 「ローマ」字普及に關する建議案(松本君平君外七名提出)
第十三 日足鐵道速成に關する建議案(松岡俊三君提出)
第十四 (特別報告第百六十一號)壽都漁港修築の請願 (委員長報告)
第十五 (特別報告第百六十二號)利根川架橋速成の請願 (委員長報告)
第十六 (特別報告第百六十三號)按摩術を盲人の專業と爲すの請願 (委員長報告)
第十七 (特別報告第百六十四號)森林法第二十八條改正の請願 (委員長報告)
第十八 (特別報告第百六十五號)部落有林野管理に關する請願 (委員長報告)
第十九 (特別報告第百六十六號)樺太漁場損害賠償の請願 (委員長報告)
第二十 (特別報告第百六十八號)軍人恩給法改正に關する請願外四十八件 (委員長報告)
第二十一 (特別報告第百六十九號)軍人恩給法改正の請願外二件 (委員長報告)
第二十二 (特別報告第百七十號)屯田兵喇叭卒若は其遺族に土地給與の請願 (委員長報告)
第二十三 (特別報告第百七十二號)亙理逢隈郵便局に集配事務開始の請願 (委員長報告)
第二十四 (特別報告第百七十三號)高志村に電信事務取扱無集配郵便局設置の請願 (委員長報告)
第二十五 (特別報告第百七十四號)松茂村に無集配郵便局設置の請願 (委員長報告)
第二十六 (特別報告第百七十五號)雲城村に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第二十七 (特別報告第百七十六號)三好村に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第二十八 (特別報告第百七十七號)穴吹郵便局に電話事務開始の請願 (委員長報告)
第二十九 (特別報告第百七十八號)平群村大字信貴畑小字信貴山に無集配郵便局設置の請願 (委員長報告)
第三十 (特別報告第百七十九號)内之浦村大字岸良に無集配郵便局設置の請願 (委員長報告)
第三十一 (特別報告第百八十號)柏原郵便局に電信竝集配事務開始の請願 (委員長報告)
第三十二 (特別報告第百八十一號)小貝村字續谷に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第三十三 (特別報告第百八十二號)吉田村に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第三十四 (特別報告第百八十三號)奧浦村に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第三十五 (特別報告第百八十四號)千年郵便局に集配事務開始の請願 (委員長報告)
第三十六 (特別報告第百八十五號)莨町に郵便局新設の請願 (委員長報告)
第三十七 (特別報告第百八十六號)美濃波多村大字新田に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第三十八 (特別報告第百八十七號)神湊郵便局に電話架設の請願 (委員長報告)
第三十九 (特別報告第百八十八號)鹿屋、鹿兒島間直通電話架設に關する請願 (委員長報告)
第四十 (特別報告第百八十九號)中村郵便局に集配事務開始の請願 (委員長報告)
第四十一 (特別報告第百九十號)川東村に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第四十二 (特別報告第百九十一號)川西村下久田に無集配郵便局設置の請願 (委員長報告)
第四十三 (特別報告第百九十二號)中湧別郵便局に集配事務開始の請願 (委員長報告)
第四十四 (特別報告第百九十三號)錦生村大字安部田に郵便局設置の請願 (委員長報告)
第四十五 (特別報告第百九十四號)岡郵便局に集配事務開始の請願 (委員長報告)
第四十六 (特別報告第百九十五號)濱口郵便局に集配事務開始の請願 (委員長報告)
第四十七 (特別報告第百九十六號)佐那河内郵便局に電信架設の請願 (委員長報告)
第四十八 (特別報告第百九十七號)七取村に電話交換局設置の請願 (委員長報告)
第四十九 (特別報告第百九十八號)大野郵便局に集配事務開始の請願 (委員長報告)
第五十 (特別報告第百九十九號)鹽津郵便局に電信、電話架設の請願 (委員長報告)
第五十一 (特別報告第二百號)世知原村に登記所設置の請願 (委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=0
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001・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 奧議長病氣ノノ關闕席セラレマ
シタカラ代理ヲ致シマス-諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔原田書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
裁判所構成法中改正法律案
(以上三月十一日提出)
健康保險法案
簡易生命保險法中改正法律案
(以上三月十三日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
陪審法案ニ對スル修正案
提出者板野友造君
(以上三月十一日提出)
寺泊築港ニ關スル建議案
提出者高橋金治郞君木村〓三郞君
丸山嵯峨一郞君
乃木神社昇格ニ關スル建議案
提出者植竹龍三郞君石川玄三君
松岡俊三君友常穀三郞君
御殿場大宮間及吉田大月間鐵道速成ニ關スル建議
案
提出者岩崎動君三枝彥太郞君
熱海下田松崎大仁間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者小泉策太郞君岩崎勳君
狩野川改修ニ關スル建議案
提出者岩崎動君小泉策太郞君
日本銀行及特殊銀行條例中改正ニ關スル建議案
提出者星島二郞君
(以上三月十一日提出)
都市計畫促進ニ關スル建議案
提出者河上哲太君鳩山一郞君
山口義一君
第六回内國博覽會開催ニ關スル建議案
提出者加藤重三郞君下出民義君
三輪市太郞君山本〓三郞君
齋藤鷲太郎君舞田壽三郞君
吉原祐太郞君〓水市太郎君
加藤紋右衞門君
工業用酒精酒類其ノ他酒精含有飮料戾稅法改正
ニ關スル建議案
提出者植場平君福井甚三君
岩崎幸治郞君八木逸郞君
赤田瑳一君井坂豐光君
山口義一君樋口伊之助君
(以上三月十三日提出)
決議案(內閣不信任ノ件)
提出者安達謙藏君本田恆之君
小泉又次郞君森田茂君
小山松壽君西村丹治郞君
高柳覺太郞君押川方義君
山邑太三郞君
(以上三月十一日提出)
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ揭載
ス〕
一去十一日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如シ
臺灣私設鐵道補助法案
坂本素魯哉君友常穀三郞君玉置良直君
國重政亮君野口忠太郞君加藤久米四郞君
古賀三千人君山移定政君松田三德君
一去十一日大湯鐵道及魚沼鐵道買收ノ爲公債發行
ニ關スル法律案委員有森新吉君辭任ニ付其ノ補關ト
シテ山邑太三郎君ヲ、明治四十四年法律第六十一
號中改正法律案委員石川長右衞門君辭任ニ付其
ノ補關トシテ前川虎造君ヲ、工場法中改正法律案委
員正木照藏君辭任ニ付其ノ補閥トシテ野田文一郞
君ヲ、身元保證ニ關スル法律案外三件委員久木田
叶君辭任ニ付其ノ補關トシテ藏內次郞作君ヲ、社寺
現境內地無償下付ニ關スル法律案委員鵜澤總明君
辭任ニ付其ノ補〓トシテ澤來太郞君ヲ孰レモ議長ニ
於テ選定セリ
一去十一日委員長補關選擧ノ結果左ノ如シ
社寺現境内地無償下付ニ關スル法律案委員長
委員長長峰與一君(委員長多木久米次郞君
補闘
一今十三日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
臺灣私設鐵道補助法案委員
委員長坂本素魯哉君理事加藤久米四郞君
一今十三日常任委員補闕選擧ノ結果左ノ如シ
第四部選出豫算委員黑金泰義君(三木武吉君
補闕)
第二部選出請願委員津崎尙武君(久木田叶君
補關)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=1
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002・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、日程第
ハ只今政府委員ガ公務ノ都合ニ依ッテ出席ガアリマセヌ
カラ、後ニ廻シマス-日程第三裁判所構成法中改正法
律案ノ第一讀會ヲ開キマス-山内政府委員
第三裁判所構成法中改正法律案(政府提
出第一讀會
裁判所構成法中改正法律案
裁判所構成法中左ノ通改正ス
第十四條ノ二區栽判所ハ破產事件ニ付裁判權ヲ有
ス
第十六條中「第二ニ記載シタル罪ハ」ヲ削リ第二號ヲ左
ノ如ク改ム
第二短期一年以上ノ懲役又ハ禁錮ニ該ル罪ヲ除
ク外有期ノ懲役若ハ禁錮又ハ罰金ニ該ル罪
第二十七條第二號(ロ)ヲ左ノ如ク改ム
(三)大審院ノ權限ニ屬スルモノヲ除ク外區裁判
所ノ決定及命令ニ對スル法律ニ定メタル抗
告
第二十八條削除
第三十七條第二號ヲ左ノ如ク改ム
第二大審院ノ權限ニ屬スルモノヲ除ク外地方裁判
所ノ第一審トシテ爲シタル決定及命令ニ對スル法
律ニ定メタル抗告
第五十條第一號ヲ左ノ如ク改ム
第終審トシテ
(イ)上告
( )地方裁判所ノ第二審トシテ爲シタル決定及
命令竝ニ控訴院ノ决定及命令ニ對スル法
律ニ定メタル抗告
(ハ)地方裁判所又ハ區裁判所ノ爲シタル上告
棄却ノ決定ニ對スル抗告
第六十五條第一項ノ末尾ニ左ノ如ク加フ
司法官試補タル資格ヲ有シ朝鮮總督府判事又ハ朝
鮮總督府檢事タル者亦同シ
第七十一條ノ二中「司法省參事官」ノ下ニ「朝鮮總督
府判事朝鮮總督府檢事臺灣總督府法院判官臺灣
總督府法院檢察官關東廳法院判官又ハ關東廳法院
檢察官」ヲ加フ
附則
本法施行ノ期日ハ各條ニ付勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條ノ二及第二十八條ノ改正規定施行前從前ノ
管轄栽判所ニ於テ受理シタル事件ハ其ノ裁判所ニ於テ
之ヲ完結ス
〔政府委員山内確三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=2
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003・山内確三郎
○政府委員(山内確三郞君) 裁判所構成法中改正法
律案ノ提案ノ理由ヲ申上ゲマス、破產法ノ改正ト、刑事訴
訟法ノ改正ト關聯致シマシテ、裁判所構成法中改正ヲ要
スルコトガアルノデス、破產法ニ付キマシテハ、破產事件ハ地
方裁判所ノ事件トナッテ居リマシタノヲ、今回區裁判所事
件トスルト云フコトニナリマシタノデ、此點ニ關スル裁判所
構成法ヲ改正致シマス、又刑事訴訟法ニ於キマシテハ、第
一審判決ニ對スル上告ヲ認ムルト云フ點、ソレカラ其結果
上告棄却ヲ第一審裁判所ニ於テスル場合ガアリマシテ、之
ニ對スル抗告、其他是等ノ關係カラ、大審院ニ於テ新ナル
栽判權ヲ認メナケレバナラヌコトニナルノデス、ソレカラモウ
一ツ最後ニ朝鮮總督府、臺灣總督府、及關東廳ノ栽判官
ト、ソレカラ檢察官ノ資格ニ付テ、內地ノ判事檢事ト共通
スペキモノガアルノデアリマス、此點ニ付テモ亦改正ヲ要スル
モノデアリマスノデ、茲ニ是等ノ諸點ニ付テノ改正案ヲ提出
シタ次第デアリマス、何卒愼重御審議ノ上御協賛アランコ
トヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=3
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004・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 日程第四、右議案ノ審査ヲ付
託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ニ供シマス
第四右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=4
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005・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ政府提出貴族院送付破產法案外
一件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=5
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006・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ハナイ
ト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-只今後廻シニ致
シテ置キマシタ日程第一ノ政府委員ノ出席ガアリマシタカ
ラ、此場合議題ニ供スルコトニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=6
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007・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ハナイト認メマス、仍テ
日程第一、司法事務共助法中改正法律案ヲ議題ニ供シ
マス-川村政府委員
第司法事務共助法中改正法律案(政府
提出、貴族院送付)第一讀會
司法事務共助法中改正法律案
司法事務共助法中左ノ通改正ス
第一條中「關東州」ヲ「關東州、南洋群島」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員川村竹治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=7
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008・川村竹治
○政府委員(川村竹治君) 現行ノ司法事務共助法ハ、
御永知ノ如ク內地及樺太、朝鮮臺灣等ニ於テ、司法事務
ヲ取扱フ所ノ官廳間ニ於ケル事務ノ共助ヲ規定シタモノデ
アリマス、而シテ南洋廳ノ設置ニ伴ヒマシテ、此共助ヲ南洋
群島ニ及ボス必要ガアリマスノデ、今囘提案ヲ致シタ次第デ
アリマス、何卒御協賛ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=8
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009・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 日程第二、右議案ノ審査ヲ付
託スベキ委員ノ選擧
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=9
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010・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ政府提出貴族院送付破產法案外
二件委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=10
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011・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議アリマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=11
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012・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ハナイト認メマス、仍テ
岩崎君ノ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=12
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013・岩崎勲
○岩崎勳君 議事日程變更ニ關スル緊急動議ヲ提出致
シマス、卽チ茲ニ政府提出簡易生命保險法中改正法律案
ノ第一讀會ヲ開キ、政府委員ノ說明ヲ求メ、之ヲ審議シ、
引續イテ之ガ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ行ヒ、次ニ政
府提出健康保險法案ノ第一讀會ヲ開キ、政府委員ノ說
明ヲ求メテ之ヲ審議シ、引續キ之ガ審査ヲ付託スベキ委員
ノ選擧ヲ行ハレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=13
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014・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議アリマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=14
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015・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイモノト認メマス、仍テ
日程ハ變更サレマシタ-簡易生命保險法中改正法律案
ノ第一讀會ヲ開キマス-秦政府委員
簡易生命保險法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
簡易生命保險法中改正法律案
簡易生命保險法中左ノ通改正ス
第四條中「二百五十圓」ヲ「三百五十圓」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員秦豐助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=15
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016・秦豐助
○政府委員(秦豐助君) 本案ハ簡易生命保險ノ保險金
額ノ制限額、現在二百五十圓ヲ三百五十圓ニ引上ゲヤウ
ト云フ案デアリマス、是ハ御承知ノ通リ、大正五年ニ簡易生
命保險法ガ實施セラレマシテ、爾來歐洲大戰ノ結果、我國
ノ經濟事情ハ非常ニ變化致シマシタ、今日デハ當時ノ二百
五十圓ト云フコトデハ、此簡易生命保險ノ制度ヲ設ケマシ
タ目的ヲ達スルノハ如何デアラウカト云フコトニ考ヘラレル
ノデアリマス、ソレ故ニ之ヲ三百五十圓ニ引上ゲマシテサウ
シテ、此制度ノ目的ヲ達シタイト思フノデアリマス、又民間ノ
生命保險ニ於キマシテ、此三百五十圓程度-此現在ノ
二百五十圓以上三百五十圓ニ至ル程度ノ保險ト云フモ
ノハ、新契約ガ極テ稀デアリマス、卽チ言換ヘレバ此民間生
命保險ニ於ケル。所ノ缺陷ヲ補フ爲ニモ、此點ニ於テ極テ必
要デアラウト考フル次第デアリマス、又此保險金額ノ制限
額ヲ引上ゲタ爲ニ、此簡易生命保険ノ積立金ノ增加セラ
ルヽコトハ疑ヒナイ事實デアリマシテ、之ガ社會政策ノ實施
上ニ稗益スル所ハ少ナクナイト考ヘル次第デアリマス、是等
ノ理由ニ依リマシテ、本案ヲ提出致シマシタ、ドウカ十分ニ
御審議ノ上御協賛アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=16
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017・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 質疑ノ通告ガアリマス-淺賀
長兵衞君
〔淺賀長兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=17
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018・淺賀長兵衞
○淺賀長兵衞君 諸君、只今緊急上程セラレタル簡易生
命保險法中改正法律案ニ對シ、私ハ一二ノ點ニ付質疑ヲ
試ミタイト思フノデアリマス、玆ニ議題トナリマシタル簡易
生命保險法中改正法律案ニ關シ、實ハ野田遞信大臣ニ
對シ御質問ヲ致シタイト思ッテ居リマシタル所、生憎本日ハ
大臣席ニ御見エニナリマセヌケレドモ、私ハ御尋致シタイ點
ハ、既ニ兩三年來世ニ於テ論議セラレツヽアル本法規定ノ
保險金額ハ、其制定當時卽チ大正五年ノ本法制定當時
ノ保險金額二百五十圓ノ倍額タル五百圓程度ニ引上グ
ベシトノ輿論ニ對シマシテ、今回政府提出案ニ依リマスルト
引上額ハ僅ニ一百圓デアリマシテ、卽チ三百五十圓トセラ
ルヽガ如キハ、餘リニ輿論ヲ無視シタル少額デナイカト云フ
コトヲ疑フノデアリマス、斯クアッテハ、社會政策的保險制度
ノ根本義ニ背反セザルカヲ本員ハ大ニ疑フ者デアリマス、卽チ
大正五年本法制定當時ニ於ケル國民經濟ト、歐洲大戰後
非常ナル膨脹發展ヲ遂ゲタル現在ノ國民經濟トヲ比較考
覈致シテ見タナラバ金五百圓位迄此保險金額ヲ引上ゲル
ノガ至當デナイカト私ハ考ヘルノデアリ、マス加之第四十四議
會ニ於ケル簡易生命保險特別會計法中改正法律案ノ審
議ノ委員會ニ於キマシテ、偶〓保保金額ノ點ニ關スル南代
議士ノ質問、卽チ「現在ノ最高ハ金二百五十圓デアリマス
ルガ之ヲ今少シ金額ヲ高クスル必要ガアルト政府ニ於テ認
メマスカ認メマセヌカ」トノ質問ニ對シテ、野田遞信大臣ノ
答辯ノ一節ハ次ノ通リデアリマス、「御承知ノ通リ郵便貯
全ノ如キモ千圓デ制限シテアッタノヲ、金二千圓ニ此前ノ議
會デ引上ゲテ貰ッタ、政府デハ金二百五十圓デアッタガ、五
百圓マデ進メヤウト思ッテ居リマス、是ハ來年ノ問題デアリ
(マスガ、サウ云フ心持ヲ持ッテ居リマス」ト斯樣ニ答ヘラレテ
居ルノデアリマス、尙ふ又同委員會ニ於ケル神谷代議士ノ
質問ニ對シテ、卽チ「此保險法ハ大正五年ノ制定デ未ダ時
日ガ經クテ居リマセヌヤウナモノヽ戰後ノ今日ニ於キマシテ、
第四條ニ保險金額二百五十圓以下トスト、斯ウナッテ居リ
マスガ、是ハ今日ノ場合非常ナ少額ニナッテ居ルカト存ズル
ヲデアリマス、政府ハ之ヲ增額スルノ意思ガアリマスカドウ
カ、果シテ意思アリトスルナラバ、ドノ位マデ引上ゲマスコト
ヲ御考デアルカト云フコトヲ御尋シマス」トノ質問ニ對シマシ
テ野田遞信大臣ノ答辯ハ次ノ通リデアリマス「先刻南君カ
ラ御質問モゴザイマシタガ、實ハ政府デモ本年ノ議會ニ、此議
會ニ先ヅ五百圓マデ進メテ出シタト思フノデスケレドモ、此法
ノ成立ツトキ、非常ニ此保險業者カラ反對サレタ歴史ガア
ル、ソレデ此邊ノ諒解モ直接間接ニ得テ置ク方ガ宜カラウ
ト云フヤウナ議モゴザイマスノデ、當年ハ見合セタ、今日政
府ガ考ヘテ居ル所ヲ申上ゲマスレバ、昨年ノ秋ノ議會ニ於
テ、郵便貯金ノ千圓ノ制限ヲ二千圓ニ上ケタノデ、是モ倍
額デ五百圓マデ進メタイト考ヘテ居リマス、來年ハ出サウト
考ヘテ居リマス」斯樣ニ野田遞信大臣ハ答辯セラレテ居ル
ノデアリマス、故ニ本員ハ今回ノ簡易生命保險金額引上ニ
對シマシテハ當然前議會ニ於ケル野田遞相ノ言質ノ實行
ヲ心窃ニ期待シテ居ッタノデアリマス、然ルニ本改正案ニ於
ケル保險金額ハ、僅二百圓ノ引上ニ止マル、此點ニ關スル
疑點ト致ンマシテハ昨年ノ委員會ニ於テ野田遞相ノ御辯
明アリタル、本法制定當時ニ於ケル民間保險業者カラノ猛
無ナル反對運動ノ歷史ガ、爰ニ再ビ繰返サレタルヤヲ、私ハ
疑フノデゴザイマス、加之兩三日前ノ都下ニ於ケル各新間
ノ記事ニ依リマスレバ、大要次ノ如キ報道ヲ吾々ハ得タノデ
アリマス、「簡易保險金額引上裏面」ト題シ、其次ニ「遞信側
ノ讓步」ト書イテアリマシテ「政府ノ簡易保險金引上問題
ハ既報ノ通リ現在ノ最高限度ニ一百圓ヲ高メ、三百五十
圓ト爲スコトニ決定シタルガ、今此ノ間ノ事情ヲ聞クニ遞
信當局ハ郵便貯金倍額引上ノ例ニ倣ヒ、倍額ノ五百圓ニ
引上グベク省議ヲ決定シ居タルモ、一方民間當業者ハ昨
春初テ簡保引上ノ聲ヲ聞キシ當時ヨリ猛烈ナル反對運動
ヲ繼續シ、熱心ニ民間保險ノ主務官廳タル農商務當局ヲ
動カスコトニ努メタリ、其ノ結果農商務當局ハ民間保險業
保護ノ見地ヨリシテ、遞信當局ト民間當業者トノ意見ノ
折衷案ヲ提唱スルニ至リ、遞信當局ハテ飽迄モ五百圓說
ヲ固持シテ譲ラザリシガ、閣議ニ於テ遂ニ農商務當局ノ意
嚮通リ三百五十圓ト決定セモノナリト云フ」斯ル報道ヲ得
テ居ルモノデアリマス、若シ然リト致シタナラバ、昨年ノ委員
會ニ於テ、野田遞信大臣ノ言明セル所、卽チ保險金額ハ郵
便貯金制限額ノ倍額トナレル均衡上、之ヲ五百圓ニ引上
ゲルノガ相當ナリトノ言明ヲシナガラ、新改正案ニ於テ三百
五十圓ニ止メタル點ヲ忖度致シタナラバ、其間ニ於テ如何
ニ民間保險業者ノ反對運動ガ猛烈ナリシカ、其猛烈ナル運
動ノ爲ニ野田遞相ハ先年ノ言明主張ヲ、恰モ弊履ノ如ク
玆ニ放擲シ去リタルニアラザルカヲ疑フノデアリマス、斯クテ
ハ本法ノ如ク社會政策的保險制度ノ本旨ニ反對スル野
田遞相ノ御抱負ノ根柢ニ、聊カ疑義ヲ挾マザルヲ得ザルノ
結論ヲ生ジ而シテ遞相ハ此點ニ關シ、近頃社會ニ流行ノ
二枚舌ノ誹ヲ受クルニアラズヤト、本員ハ憂慮スルノ餘リ遞
相ノ率直ナル御答辯ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、終リニ
附加ヘテ申上ゲマスガ、只今秦遞信次官ヨリ此保險金額
引上ニ關スル理由ヲ御述ニナッテ居リマスガ、是ハ卽チ通リ一
遍ノ御說明デアル、ドウカ願クハ斯ル簡易保險法ノ如キハ、
社會政策的ノ見地ヨリシテ最モ國民ニ痛切ナル利害關係
アル問題ナルヲ以テ、此際ニ於キマシテハ、之ニ關スル前後
ノ事情ヲ詳細ニ率直ニ、御答辯ヲ願ヒタイト思フノデアリマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=18
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019・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 秦遞信次官
〔政府委員秦豐助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=19
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020・秦豐助
○政府委員(秦豐助君) 只今ノ御尋ニ御答致シマスガ、
此簡易生命保險ノ保險金額ヲ增加シタイ、斯ウ云フ御說
ガ前議會ニアリマシタ當時、野田遞信大臣ガ之ニ對シマシ
テ、其意思ノアル所ヲ申サレマシタ、先ヅ五百圓程度位ハ宜
カラウカト云フコトハ、確ニ言ハレタノデアリマス、併ナガラ同
時ニ又當局ト致シマシテハ南君ノ質問ニ答ヘマシテ、此保
險金額制限額ノ引上ニ付テハ、何分簡易生命保險法ハ診
察ヲシナイデ直ニ保險ニ付スルノデアリマスカラ、餘程考慮ヲ
シナケレバナラヌ、卽チ從來ノ統計ニ依ッテ見レバ、此最高額
ニ近イ方ノ保險ヲ致シタ者ニ死亡率ガ多イノデアリマス、決
シテ之ガ詐欺ニ依ルモノデアルトハ申サナイノデアリマスガ、
併ナガラ此最高制限額ニ近イ程死亡率ガ多イト云フコト
ヲ、免ニ角統計ガ示シテアルノデアリマスカラシテ、之ヲ引上
ゲルト云フコトニ付テハ、考慮シナケレバナラアト云フコトハ、
其時ニ御斷リヲシテアリマス、五百圓ト遞信大臣ガ申シタ
ノハ、大體ニ於テ其位ニシテモ宜クハナイカト云フコトヲ、遞
信大臣ノ御考トシテ言ハレタニ違ヒナイガ、之ヲ議會ニ提
出シテ兩院ノ協賛ヲ經ルト云フコトニ付キマシテハ、十分ニ
調査ヲシ、又關係ノ各省間等トモ協議ヲ致シマシテ、總テ
ノ方面ニ於テ差支ナイト云フダケノ見極メヲ付ケテ提出ヲ
シナケレバナラヌ譯デアリマス、卽チ此三百五十圓ト一云フコ
トノ引上ヲ提出致シマシタノハ、十分ニ調査ヲ遂ゲ、サウシ
テ是レナラバ差支ナイ、斯ウ云フ所デ此度初テ提出シタ次
第デアリマス、而シテ此簡易生命保險ノ制度ヲ大正五年ニ
設ケラレマシタ當時、政府當局ガ說明セラレマシタ如ク、此
制度ハ決シテ民間保險業ヲ壓迫スル、或ハ民間保險業者
ニ取ッテ代ルト云フ所ノ目的ヲ以テ出來タモノデハアリマセ
ヌ、卽チ民間保險業デハヤリ得ナイ所、其缺陷ヲ之ニ依シテ
補ッテサウシテ、薄資者ヲシテ生活ノ安定ニ資スル所アラシ
メントスル所ノ趣旨デアルト云フコトハ、當時大隈内閣ニ於
テ、簡易保險法ヲ制定シタル理由トシテ述ベラレタ通リデア
ル、今日ニ於テ三百圓ヲ五百圓ニセヨト云フコトデアリマス
ガ、五百圓以上ニ付キマシテハ民間生命保險業者ニ於テモ
爲シ得ル餘地ガアルト吾々ハ認メテ居ル、民間生命保險業者
ニ於テハ簡易保險ヨリモ實際ニ於テ保險料ガ安イ、ソレ故ニ
民間保險業者ノヤリ得ル範圍ニ於キマシテハ、寧ロ民間保
險ニ這入ッテ其保險ヲ受ケル方ガ、加入者ハ却テ利益デア
ル、ソレマデ簡易保險ノ方デ何デモ進ンデ行カナケレバナラ
ヌト云フコトハ、必シモ認メルコトハ出來ナイト思フノデアリ
やっ、卽チ三百五十圓迄ノ所ニ於キマシテハ、民間生命保
險ニ於テモ實際ノ統計カラ見マシテ極テ加入者ガ少イ、卽
チ此處ニ缺陷ガアルノデス、ソレ故ニ簡易保險ノ方デ制限
額ヲ其處迄定メテ行ッテヤル方ガ極テ必要デアルト云フコト
ヲ認メルノデアリマス、是等ノ理由ニ依リマシテ、十分ノ調
査ヲ遂グマシタ上ニ此案ヲ提出シタ次第デアリマスカラ、左
樣御諒承ヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=20
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021・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 右議案ノ審査ヲ付託スベキ委
員ノ選舉ヲ議題ニ致シマス
右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=21
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022・岩崎勲
○岩崎勳君 本案ハ板野友造君提出、工場法中改正法
律案外六件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=22
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023・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-次ニ健康保險法
案ノ第一讀會ヲ開キマス、田中農商務次官
健康保險法案(政府提出)第一讀會
健康保險法案
健康保險法
第一章總則
第一條健康保險ニ於テハ保險者カ被保險者ノ疾病、
負傷、死亡又ハ分娩ニ關シ療養ノ給付又ハ傷病手當
金、埋葬料分娩費若ハ出產手當金ノ支給ヲ爲スモノ
トス
第二條本法ニ於テ報酬ト稱スルハ事業ニ使用セラル
ル者カ勞務ノ對償トシテ事業主ヨリ受クル賃金給料
又ハ俸給及之ニ準スヘキモノヲ謂フ
賃金、給料又ハ俸給ニ準スヘキモノノ範圍及評價ニ
關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三條報酬ノ額ニ基キ保險料又ハ保險給付ノ額ヲ
定ムル場合ニ於テハ標準報酬ニ依リ之ヲ算定ス
標準報酬ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條保險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル徴收金ヲ徵
收シ又ハ其ノ還付ヲ受クル權利及保險給付ヲ受クル
權利ハ一年ヲ經過シタルトキハ時效ニ因リテ消滅ス
前項ノ時效ノ中斷、停止其ノ他事項ニ關シテハ民法
ノ時效ニ關スル規定ヲ準用ス
命令ノ定ムル所ニ依リ保險者ノ爲ス保險料其ノ他本
法ノ規定ニ依ル徵收金ノ徵收ノ告知ハ民法第百五
十三條ノ規定ニ拘ラス時效中斷ノ效力ヲ有ス
第五條本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ規定スル
期間ノ計算ニ付テハ民法ノ期間ノ計算ニ關スル規定
ヲ準用ス
第六條健康保險ニ關スル書類ニハ印紙稅ヲ課セス
第七條保險者又ハ保險給付ヲ受クヘキ者ハ被保險
者又ハ被保險者タリシ者ノ戶籍ニ關シ戶籍事務ヲ管
掌スル者又ハ其ノ代理者ニ對シ無償ニテ證明ヲ求ム
ルコトヲ得
第八條保險者ハ被保險者ヲ使用スル事業主ニ對シ
其ノ使用スル者ノ異動、報酬其ノ他健康保險ノ施行
ニ必要ナル事項ニ關シ報告ヲ爲サシメ又ハ文書ヲ提
用セシムルコトヲ得
第九條保險官署ハ必要アリト認ムルトキハ當該官吏
又ハ吏員ヲシテ保險事故ノ生シタル作業ノ場所ニ臨
檢セシムルコトヲ得
第十條主務大臣ハ本法ニ規定スル其ノ職權ノ一部ヲ
命令ヲ以テ保險官署ニ委任スルコトヲ得
第十一條保險料其ノ他本法ノ規定ニ依ル徵收金ヲ
滯納スル者アル場合ニ於テ保險者ノ請求アルトキハ
市町村ハ市町村稅ノ例ニ依リ之ヲ處分ス此ノ場合ニ
於テ保險者ハ徵收金額ノ百分ノ四ヲ市町村ニ交付
スヘシ
前項ノ規定ニ於テ市町村トアルハ市制町村制ヲ施行
セサル地ニ在リテハ之ニ準スヘキモノトス
第一項ニ規定スル徵收金ノ先取特權ノ順位ハ市町
村其ノ他之ニ準スヘキモノノ徴收金ニ次キ他ノ公課
ニ先ツモノトス
第十二條政府ノ事業ニ使用セラルル者ニ關シテハ本
法ノ適用ニ付勅令ヲ以テ別段ノ規定ヲ爲スコトヲ得
第二章被保險者
第十三條工場法ノ適用ヲ受クル工場又ハ鑛業法ノ
適用ヲ受クル事業場若ハ工場ニ使用セラルル者ハ健
康保險ノ被保險者トス但シ臨時ニ使用セラルル者ニ
シテ勅令ヲ以テ指定スルモノ及一年ノ報酬千二百圓
ヲ超ユル職員ハ此ノ限ニ在ラス
第十四條前條ニ規定スル工場及事業場ヲ除クノ外
左ノ各號ノ一ニ該當スル事業ノ事業主ハ主務大臣ノ
認可ヲ受ケ其ノ事業及之ニ附屬スル事業ニ使用セラ
ルル者ヲ包括シテ健康保險ノ被保險者ト爲スコトヲ
得
ー鑛物ノ採掘又ハ採取ノ事業
二物ノ製造、加工、選別、包装、修理又ハ解體ノ事
業
三電氣又ハ動力ノ發生、變壓又ハ傳導ノ事業
四土木工事又ハ工作物ノ建設、保存、修理若ハ破
壞ノ工事ニシテ主務大臣ノ指定スルモノ
五地方鐵道法又ハ軌道法ノ適用ヲ受クル事業
六前號ニ揭クルモノヲ除クノ外陸上ニ於テ爲ス貨
物又ハ旅客ノ運送ノ事業ニシテ主務大臣ノ指
定スルモノ
七貨物積卸ノ事業
八前各號ニ揭クルモノノ外勅令ヲ以テ指定スル事
業
前項ノ認可ヲ申請スルニハ被保險者ト爲ルヘキ者ノ
二分ノ一以上ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
一事業ニ於テ作業ノ場所二以上アル場合ニ於テハ第
一項ノ規定ノ適用ニ付テハ主務大臣ハ其ノ一又ハ二
以上ノ場所ニ於ケル作業ヲ一事業ト看做スコトヲ得
第十五條前條ノ認可アリタルトキハ其ノ事業ニ使用
セラルル者ハ健康保險ノ被保險者トス
第十三條但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス
第十六條工場法又ハ鑛業法ノ適用ヲ受クル工場カ
其ノ適用ヲ受ケサルニ至リタルトキハ其ノ工場ニ付第
十四條ノ認可アリタルモノト看做ス
第十七條第十三條及第十五條ノ規定ニ依ル被保險
者ハ其ノ業務ニ使用セラルルニ至リタル日又ハ第十
三條但書若ハ第十五條第二項ノ規定ニ該當セサル
ニ至リタル日ヨリ其ノ資格ヲ取得ス
第十八條第十三條及第十五條ノ規定ニ依ル被保險
者ハ死亡シタル日、其ノ業務ニ使用セラレサルニ至リ
タル日又ハ第十三條但書若ハ第十五條第二項ノ規
定ニ該當スルニ至リタル日ノ翌日ヨリ其ノ資格ヲ喪
失ス但シ其ノ事實アリタル日ニ更ニ前條ノ規定ニ該
當スルニ至リタルトキハ其ノ日ヨリ其ノ資格ヲ喪失々
第十九條第十五條ノ規定ニ依ル被保險者ヲ使用ス
ル事業主ハ主務大臣ノ認可ヲ受ケ其ノ被保險者ノ
全部ヲシテ其ノ資格ヲ喪失セシムルコトヲ得
前項ノ認可ヲ申請スルニハ被保險者ノ四分ノ三以上
ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
第一項ノ認可アリタルトキハ被保險者ハ認可アリタル
日ノ翌日ヨリ其ノ資格ヲ喪失ス
第二十條第十八條ノ規定ニ依リ被保險者ノ資格ヲ
喪失シタル者ニシテ喪失ノ日前一年內ニ於テ百八十日
以上被保險者タリシモノ又ハ喪失ノ際引續キ六十日
以上被保險者タリシモノハ勅令ノ定ムル期間內ニ申
請ヲ爲ストキハ繼續シテ被保險者ト爲ルコトヲ得
第二十一條前條ノ規定ニ依ル被保險者ハ前條ノ規
定ニ依リ被保險者ト爲リタル日ヨリ百八十日ヲ經過
シタルトキ保險料ヲ納付セスシテ命令ヲ以テ定ムル猶
豫期間ヲ經過シタルトキ又ハ第十三條若ハ第十五條
ノ規定ニ依ル被保險者ト爲リタルトキハ其ノ資格ヲ
喪失ス
前條ノ規定ニ依ル被保險者死亡シタル場合ニハ第十
八條ノ規定ヲ準用ス
第三章保險者
第二十二條健康保險ノ保險者ハ政府及健康保險
組合トス
第二十三條保險者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ被保險
者ノ健康ヲ保持スル爲必要ナル施設ヲ爲スコトヲ得
第二十四條政府ハ健康保險組合ノ組合員ニ非サル
被保險者ノ保險ヲ管掌ス
第二十五條健康保險組合ハ其ノ組合員タル被保險
者ノ保險ヲ管掌ス
第二十六條健康保險組合ハ法人トス
第二十七條健康保險組合ハ事業主、其ノ事業ニ使
用セラルル被保險者及第二十條ノ規定ニ依ル被保
險者ヲ以テ之ヲ組織ス
第二十八條一又ハ二以上ノ事業ニ付被保險者常時
三百人以上ヲ使用スル事業主ハ健康保險組合ヲ設
立スルコトヲ得
被保險者ヲ使用スル二以上ノ事業主ハ共同シテ健
康保險組合ヲ設立スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ被
保險者ノ員數ハ合算シテ常時三百人以上タルコトヲ
要ス
第二十九條健康保險組合ヲ設立セムトスルトキハ組
合員タル資格ヲ有スル被保險者ノ二分ノ一以上ノ同
意ヲ得規約ヲ作リ主務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
二以上ノ事業ニ付健康保險組合ヲ設立セムトスル場
合ニ於テハ前項ノ同意ハ各事業ニ付之ヲ得ルコトヲ
要ス
第三十條前二條ノ規定ニ於テ被保險者トアルハ第十
四條第一項ノ規定ニ依ル認可ノ申請ト同時ニ健康
保險組合ノ設立認可ノ申請ヲ爲ス場合ニ在リテハ被
保險者ト爲ルヘキ者トス
第三十一條主務大臣ハ一事業ニ付第十三條ノ規定
ニ依ル被保險者常時五百人以上ヲ使用スル事業主
ニ對シ健康保險組合ノ設立ヲ命スルコトヲ得
第三十二條前條ノ規定ニ依リ健康保險組合ノ設立
ヲ命セラレタル事業主ハ規約ヲ作リ設立ニ付主務大
臣ノ認可ヲ受クヘシ
第三十三條第十四條第三項ノ規定ハ第二十八條、
第二十九條及第三十一條ノ規定ノ適用ニ付之ヲ準
用ス
第三十四條健康保險組合ハ設立ノ認可ヲ受ケタル
時ニ成立ス
第三十五條健康保險組合成立シタルトキハ事業主
及其ノ事業ニ使用セラルル被保險者ハ總テ之ヲ組合
員トス
前項ノ被保險者ハ其ノ事業ニ使用セラレサルニ至リ
タルトキト雖第二十條ノ規定ニ依ル被保險者タルト
キハ仍之ヲ組合員トス
第三十六條健康保險組合ノ規約ノ變更ハ主務大臣
ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其ノ效力ヲ生セス
第三十七條主務大臣ハ健康保險組合ニ對シ事實ニ
關スル報告ヲ爲サシメ、事業及財產ノ狀況ヲ檢查シ、
規約ノ變更ヲ命シ其ノ他監督上必要ナル處分ヲ爲ス
コトヲ得
第三十八條健康保險組合ノ役員ニ欠缺若ハ故障ア
ルトキ又ハ組合ノ役員保險給付其ノ他其ノ執行スヘ
キ職務ヲ執行セサルトキハ主務大臣ハ官吏又ハ其ノ
他ノ者ヲ指定シテ其ノ職務ヲ執行セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ其ノ職務ノ執行ニ要スル費用ハ健
康保險組合ノ負擔トス
第三十九條主務大臣ハ健康保險組合ノ決議若ハ役
員ノ行爲カ法令、主務大臣ノ處分若ハ規約ニ違反シ、
組合員ノ利益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ムルトキ又ハ
組合ノ事業若ハ財產ノ狀況ニ依リ其ノ事業ノ繼續ヲ
困難ナリト認ムルトキハ決議ヲ取消シ、役員ヲ解職シ
又ハ組合ノ解散ヲ命スルコトヲ得
第四十條解散ニ因リテ消滅シタル健康保險組合ノ
權利義務ハ政府之ヲ承繼ス
第四十一條本法ニ規定スルモノノ外健康保險組合
ノ管理、財產ノ保管及利用方法、分合、解散其ノ他
健康保險組合ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ
定ム
第四十二條同時ニ二以上ノ業務ニ使用セラルル被保
險者ノ保險者ハ主務大臣ノ定ムル所ニ依ル
第四章保險給付
第四十三條被保險者ノ疾病又ハ負傷ニ關シテハ療
養ノ給付ヲ爲ス
前項ノ療養ノ給付ノ範圍ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第一項ノ場合ニ於テ療養上必要アリト認ムルトキハ
保險者ハ被保險者ヲ病院ニ收容スルコトヲ得
第四十四條療養ノ給付ヲ爲スコト困難ナル場合又ハ
被保險者ノ申請アリタル場合ニ於テハ保險者ハ勅令
ノ定ムル所ニ依リ療養ノ給付ニ代ヘテ療養費ヲ支給
スルコトヲ得
第四十五條被保險者療養ノ爲勞務ニ服スルコト能
ハサルトキハ其ノ期間傷病手當金トシテ一一日ニ付報
酬日額ノ百分ノ六十ニ相當スル金額ヲ支給ス但シ業
務上ノ事由ニ因リ疾病ニ罹リ又ハ負傷シタル場合以
外ノ場合ニ於テハ勞務ニ服スルコト能ハサルニ至リタ
ル日ヨリ起算シ第四日ヨリ之ヲ支給ス
第四十六條病院ニ收容シタル被保險者ニ對シテ支
給スヘキ傷病手當金ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ減
額スルコトヲ得
第四十七條蔡養ノ給付及傷病手當金ノ支給ハ同一
ノ疾病又ハ負傷及之ニ因リ發シタル疾病ニ付百八十
日ヲ超エテ之ヲ爲サス
業務上ノ事ニ因リ疾病ニ罹リ又ハ負傷シタル場合以
外ノ場合ニ於テハ療養ノ給付及傷病手當金ノ支給
ハ一年內百八十日ヲ超エテ之ヲ爲サス
被保險者ハ前二項ノ規定ニ拘ラス傷病手當金ノ支
給ヲ受クル期間潦養ノ給付ヲ受ク
第四十八條左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テ保
險者ハ前條ニ規定スル期間ヲ超エテ療養ヲ必要トス
ル者ニ對シ繼續シテ療養ノ給付ヲ爲スコトヲ得
他ノ法令ノ規定ニ依リ事業主ヨリ扶助ヲ受クヘ
キ者ニ付其ノ事業主ヨリ中請アリタルトキ
二前號以外ノ場合ニ於テ療養ノ給付ニ要スル費用
ノ償還ニ付擔保ヲ提供シ其ノ他確實ナル方法ヲ
定メ本人又ハ第三者ヨリ申請アリタルトキ
前項第一號ノ場合ニ於テハ療養ノ給付ニ要シタル費
用ニ相當スル金額ハ事業主ヨリ之ヲ徵收ス
第四十九條被保險者死亡シタルトキハ被保險者ニ
依リ生計ヲ維持シタル者ニシテ埋葬ヲ行フモノニ對シ
理葬料トシテ被保險者ノ報酬日額ノ二十日分ニ相
當スル金額ヲ支給ス但シ其ノ全額カ二十圓ニ滿タサ
ルトキハ之ヲ二十圓トス
被保險者死亡シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ依リ埋
葬料ノ支給ヲ受クヘキ者ナキトキハ埋葬料ノ支給ヲ
受クヘキ者ナキトキハ埋葬ヲ行ヒタル者ニ對シ前項ノ
金額ノ範圍內ニ於テ其ノ埋葬ニ要シタル費用ニ相當
スル金額ヲ支給ス
第五十條被保險者分娩シタルトキハ分娩費トシテ二
十圓ヲ、出產手當金トシテ分娩ノ前後勅令ヲ以テ定
ムル期間一日ニ付報酬日額ノ百分ノ六十ニ相當スル
金額ヲ支給ス
第五十一條保險者ハ被保險者ヲ產院ニ收容シ又ハ
助產ノ手當ヲ爲スコトヲ得
產院ニ收容シ又ハ助產ノ手當ヲ爲シタル被保險者ニ
對シテ支給スヘキ分娩費及出產手當金ハ勅令ノ定ム
ル所ニ依リ之ヲ減額スルコトヲ得
第五十二條分娩ニ關スル保險給付ニ付テハ勅令ヲ
以テ分娩前一定ノ期間被保險者タリシ者ニ非サレハ
之ヲ爲ササルコトヲ定ムルコトヲ得
第五十三條分娩ノ前後ニ保險者ニ變更アリタル場
合ニ於テ、分娩ニ關スル保險給付ニ要スル費用ハ勅
令ノ定ムル所ニ依リ關係アル保險者之ヲ分擔ス
第五十四條出產手當金ノ支給ヲ爲ス場合ニ於テハ
其ノ期間傷病手當金ハ之ヲ支給セス
第五十五條被保險者ノ資格ヲ喪失シタル際疾病負
傷又ハ分娩ニ關シ保險給付ヲ受クル者ハ被保險者ト
シテ保險給付ヲ受クルコトヲ得ヘカリシ期間繼續シテ
同一保險者ヨリ其ノ給付ヲ受クルコトヲ得
第五十六條前條、規定ニ依リ保險給付ヲ受クル者
死亡シタルトキ、前條ノ規定ニ依リ保險給付ヲ受ケタ
ル者其ノ給付ヲ受ケサルニ至リタル日後九十日以內
ニ死亡シタルトキ又ハ其ノ他ノ「被保險者タリシ者被
保險者ノ資格ヲ喪失シタル日後九十日以內ニ死亡
シタルトキハ被保險者タリシ者ニ依リ生計ヲ維持シタ
ル者ニシテ埋葬ヲ行フモノハ最後ノ保險者ヨリ埋葬
料ノ支給ヲ受クルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ埋葬料ノ支給ヲ受クル者ナキ場合
及前項ノ埋葬料ノ金額ニ付テハ第四十九條ノ規定
ヲ準用ス
第五十七條被保險者タリシ者被保險者ノ資格ヲ喪
失シタル日後勅令ヲ以テ定ムル期間內ニ分娩シタル
トキハ分娩ニ關シ被保險者トシテ受クルコトヲ得ヘカ
リシ保險給付ヲ最後ノ保險者ヨリ受クルコトヲ得
第五十八條疾病ニ罹リ、負傷シ又ハ分娩シタル場合
ニ於テ繼續シテ報酬ノ全部又ハ一部ヲ受クルコトヲ
得ヘキ者ニ對シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ受クル
コトヲ得ヘキ期間傷病手當金又ハ出產手當金ノ全
部又ハ一部ヲ支給ヒス
第五十九條前條ニ揭クル者疾病ニ罹リ、負傷シ又ハ
分娩シタル場合ニ於テ其ノ受クルコトヲ得ヘカリシ報
酬フ全部又ハ一部ヲ受クルコト能ハサリシトキハ保險
者ハ之ニ對シ勅令ノ定ムル所ニ依リ傷病手當金又ハ
出產手當金ノ全部又ハ一部ヲ支給ス
前項ノ規定ニ依リ保險者ノ支給シタル金額ハ事業主
ヨリ之ヲ徵收ス
第六十條被保險者又ハ被保險者タリシ者自己ノ故
意ノ犯罪行爲ニ因リ又ハ故意ニ事故ヲ生セシメタル
トキハ保險給付ヲ爲サス
第六十一條被保險者闘爭若ハ泥醉ニ因リ又ハ故意
ニ危害豫防ニ關スル業務上ノ監督者ノ指揮ニ從ハサ
ルニ因リ事故ヲ生セシメタルトキハ傷病手當金ノ全部
又ハ一部ヲ支給セサルコトヲ得
第六十二條保險給付ヲ受クヘキ者左ノ各號ノ一ニ
該當スル場合ニ於テハ其ノ期間保險給付ヲ爲サス
陸海軍ニ徵集又ハ召集セラレタルトキ
二本法施行區域外ニ在ルトキ
三感化院其ノ他之ニ準スヘキモノニ入院セシメラレ
タルトキ
四監獄、留置場又ハ勞役場ニ拘禁又ハ留置セラレ
タルトキ
他ノ法令ノ規定ニ依リ國又ハ公共團體ノ負擔ニ於テ
病院、病含又ハ療養所ニ收容セラレタル者ニ對シテハ
療養ノ給付ヲ爲サス
前項ニ掲クル者ニ付テハ第四十六條ノ規定ヲ準用
ス
第六十三條保險者ハ正當ノ理由ナクシテ療養ニ關ス
ル指揮ニ從ハサル者ニ對シ之ニ支給スヘキ傷病手當
金ノ一部ヲ支給セサルコトヲ得
第六十四條保險者ハ詐欺其ノ他不正ノ行爲ニ依リ
保險給付ヲ受ケ又ハ受ケムトシタル者ニ對シ勅令ノ
定ムル所ニ依リ期間ヲ定メ保險給付ノ全部又ハ一部
ヲ爲ササルコトヲ得
第六十五條保險者ハ必要アリト認ムルトキハ保險給
付ヲ受クル者ノ診斷ヲ行フコトヲ得
保險者ハ正當ノ理由ナクシテ前項ノ診斷ヲ拒ミタル
者ニ對シ保險給付ノ全部又ノ一部ヲ爲ササルコトヲ
得
第六十六條保險給付ノ支給期日ニ關シテハ勅令ヲ
以テ之ヲ定ム
第六十七條保險者ハ事故カ第三者ノ行爲ニ因リテ
生シタル場合ニ於テ保險給付ヲ爲シタルトキハ其ノ給
付ノ價額ノ限度ニ於テ被保險者又ハ被保險者夕リシ
者カ第三者ニ對シテ有スル損害賠償請求ノ權利ヲ取
得ス
第六十八條保險給付ヲ受クル權利ハ之ヲ讓渡シ又
ハ差押フルコトヲ得ス
第六十九條保險給付トシテ支給ヲ受ケタル金品ヲ標
準トシテ租稅其ノ他ノ公課ヲ課セス
第五章費用ノ負擔
第七十條國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ各健康保險
組合ノ保險給付ニ要スル費用ノ十分ノ一ヲ負擔ス
前項ノ規定ニ依ル國庫負擔金ノ總額カ被保險者一
人ニ付一年平均二圓ノ割合ヲ超ユル場合ニ於テハ各
健康保險組合ニ對スル國庫負擔金ハ勅令ノ定ムル
所ニ依リ其ノ限度ニ至ル迄之ヲ減額スルモノトス
前項ニ規定スル被保險者ノ員數ノ計算ニ關シテハ勅
令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十一條保險者ハ健康保險事業ニ要スル費用ニ
充ツル爲保險料ヲ徵收ス
保險料ノ算定ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七十二條被保險者及被保險者ヲ使用スル事業主
ハ各保險料額ノ二分ノ一ヲ負擔ス但シ第二十條ノ
規定ニ依ル被保險者ハ其ノ全額ヲ負擔ス
第七十三條業務ノ性質上事故多キ事業ニ使用セラ
ルヽ被保險者又ハ少額ノ報酬ヲ受クル被保險者ニ關
スル保險料ニ付テハ勅令ヲ以テ事業主ノ負擔スヘキ
割合ヲ曾加スルコトヲ得
第七十四條被保險者ノ負擔スヘキ保險料額ハ一日
ニ付報酬日額ノ百分ノ三ヲ超ユルコトヲ得ス但シ第
二十條ノ規定ニ依ル被保險者ニ付テハ此ノ限ニ在ラ
ス
前項ニ規定スル制限ヲ超ヘテ保險料ヲ徵收スルコト
ヲ要スル場合ニ於テハ其ノ超過部分ハ事業主ノ負擔
トス
第七十五條健康保險組合ハ第七十二條若ハ前條ノ
規定又ハ第七十三條ニ基キテ發スル勅令ノ規定ニ拘
ラス其ノ規約ヲ以テ事業主ノ負擔スヘキ保險料額ノ
負擔ノ割合ヲ增加スルコトヲ得
第七十六條被保險者左ノ各號ノ一ニ該當スル場合
ニ於テハ其ノ期間保險料ヲ徴收セス
-傷病手當金又ハ出產手當金ノ支給ヲ受クルト
キ
二第六十二條第一項各號ノ一ニ該當スルトキ
第七十七條事業主ハ其ノ使用スル被保險者ノ負擔
スヘキ保險料ヲ納付スル義務ヲ負フ但シ第二十條ノ
規定ニ依ル被保險者ノ負擔スル保險料ニ付テハ此ノ
限ニ在ラス
第七十八條事業主ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前條ノ規
定ニ依リ納付スヘキ保險料ヲ被保險者ニ支拂フヘキ
報酬ヨリ控除スルコトヲ得
第七十九條保險料ノ納付期日ニ關シテハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第六章審査ノ請求、訴願及訴訟
第八十條保險給付ニ關スル決定ニ不服アル者ハ第一
次健康保險審査會ニ審査ヲ請求シ其ノ決定ニ不服
アル者ハ第二次健康保險審査會ニ審査ヲ請求シ其
ノ決定ニ不服アル者ハ通常裁判所ニ訴ヲ提起スルコ
トヲ得
第八十一條保險料其ノ他本法ノ規定ニ依リ徵收金
ノ賦課又ハ徵收ノ處分ニ不服アル者ハ其ノ處分ヲ爲
シタル保險官署又ハ健康保險組合ヲ監督スル保險
官署ニ訴願シ其ノ栽決ニ不服アル者ハ主務大臣ニ訴
願シ又ハ行政栽判所ニ出訴スルコトヲ得
第八十二條前條ノ規定ニ依ル訴願ノ提起アリタルト
キハ保險官署ハ第二次健康保險審査會ノ審査ヲ經、
主務大臣ハ第三次健康保險審査會ノ審査ヲ經テ栽
決ヲ爲スヘシ
第八十三條健康保險審査會ノ組織及審査ニ關シ必
要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八十四條第十一條ノ規定ニ依ル處分ニ不服アル
者ハ地方長官ニ訴願シ其ノ栽決ニ不服アル者ハ行政
裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第八十五條健康保險審査會ハ審査ノ爲必要アリト
認ムルトキハ證人又ハ鑑定人ノ訊問其ノ他ノ證據調
ヲ爲スコトヲ得
證據調ハ所要ノ事務ヲ取扱フヘキ地ノ區裁判所ニ之
ヲ囑託スルコトヲ得
證據調ニ關シテハ民事訴訟法ノ證據調ニ關スル規定
ヲ準用ス但シ健康保險審查會ノ爲ス證據調ニ關シテ
ハ罰金ノ言渡ヲ爲シ又ハ拘引ヲ命スルコトヲ得ス
第八十六條審査ノ請求、訴ノ提起又ハ訴願若ハ行政
訴訟ノ提起ハ處分ノ通知又ハ決定書若ハ裁決書ノ
交付ヲ受ケタル日ヨリ三十日以内ニ之ヲ爲スヘシ此
ノ場合ニ於テ審査ノ請求ニ付テハ訴願法第八條第
三項ノ規定ヲ、訴ノ提起ニ付テハ民事訴訟法第百六
十七條及第百七十四第乃至百七十七條ノ規定ヲ準
用ス
第七章罰則
第八十七條正當ノ理由ナクシテ第九條ノ規定ニ依ル
當該官吏又ハ吏員ノ臨檢ヲ拒ミ若ハ妨ケ又ハ其ノ訊
問ニ對シ答辯ヲ爲サス若ハ虛僞ノ答辯ヲ爲シタル者
ハ三百圓以下ノ罰金ニ處ス
第八十八條第八條ノ規定ニ依ル保險者ノ請求アリ
タル場合ニ於テ正當ノ理由ナクシテ報告ヲ爲サス、虛
僞ノ報告ヲ爲シ又ハ文書ノ提示ヲ拒ミタル者ハ百圓
以下ノ罰金ニ處ス
第八十九條健康保險組合ノ設立ヲ命セラレタル事
業主正當ノ理由ナクシテ主務大臣ノ指定スル期日迄
ニ設立ノ認可ヲ申請セサルトキハ其ノ手續ノ遲延シタ
ル期間其ノ負擔スヘキ保險料額ノ二倍ニ相當スル金
額以下ノ過料ニ處ス
第九十條健康保險組合カ第三十七條ノ規定ニ依ル
命令ニ違反シ又ハ處分ヲ拒ミ若ハ妨ケタルトキハ其ノ
役員ヲ百圓以下ノ過料ニ處ス
本法ニ基キテ發スル健康保險組合ニ關スル勅令ニ於
テハ組合カ之ニ違反シタル場合ニ於テ其ノ役員ヲ百
圓以下ノ過料ニ處スル規定ヲ設クルコトヲ得
第九十一條前二條ノ過料ニ付テハ非訟事件手續法
第二百六條乃至第二百八條ノ規定ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員田中隆三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=23
-
024・田中隆三
○政府委員(田中隆三君) 健康保險法案ノ提出理由ヲ
申上ゲマス、勞働保險ノ制度ヲ樹立致シマシテ、生活上ノ
不安ヲ除去スルコト、又勞働者ノ健康ヲ保持致シマシテ、勞
働能力ノ增進ヲ圖リマスコト、又其結果ト致シマシテ勞資
ノ圓滿ナル協調、ソレニ依リマシテ國家產業ノ健全ナル發
達ヲ期スルコトノ必要ヲ認メマシテ、政府ハ曩ニ勞働保險
ノ調査ニ關スル豫算ヲ編成致シマシテ、皆樣ノ御協賛ヲ得
テ、其後著々其調査ヲ進メマシタコトハ、各位ノ熟知セラル
ル通リデアリマス、而シテ勞働保險制度ヲ以テ救濟スベキ
事故ハ數々ゴザイマスケレドモ、遺憾ナガラ本邦ニ於キマシ
テハ、勞働事情ノ鮮明セラレザル事ガ甚ダ少クナイノデアリマ
ス、隨テ此種保險ノ基礎ト爲スベキ所ノ資料殊ニ參考ト致
サナケレバナラヌ所ノ、過去ノ經驗ニ基キマシタ所ノ、實際ノ
事實ハ甚ダ乏シウゴザイマスガ故ニ、此場合ハ主トシテ工場
ト鑛山ト、此二ツノモノヽ從業者ニ對スル健康保險制度ヲ
定メマシテ、傷病療養ヲ容易ニ致シ、勞働力ノ囘復ヲ迅速
ナラシムルコトヽ、又併セテ分娩ト死亡ノ場合ニ對シテ、一
定ノ給付ヲ致スト云フヤウナ意味合ヲ以チマシテ、此度ノ
健康保險法案ガ制定セラレタノデアリマス、之ヲ以テ先ヅ將
來施行スベキ他ノ健康保險制度ノ基礎ト致シマシテ、追々
調査ヲ進メマシテ、漸次此法案ニ改訂增補ヲ加ヘマシテ、
所謂世間デ謂フ所ノ勞働保險ト云フモノヽ全部ヲ完成致
シタイト云フコトヲ考ヘテ居リマスノデゴザイマス、ドウゾ十
分ニ御審査ノ上御協賛ヲ賜ランコトヲ御願ヒ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=24
-
025・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 右議案ノ審査ヲ付託スベキ委
員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選舉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=25
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026・岩崎勲
○岩崎動君 本案ハ板野友造君提出、工場法中改正法
律案外七件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=26
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027・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイモノ
ト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-次ハ日程第五、
陪審法案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長鵜澤總明君
第五陪審法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一陪審法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スへキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十一年三月十一日
陪審法案委員長鵜澤總明
衆議院議長奧繁三郞殿
〔鵜澤總明君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=27
-
028・鵜澤總明
○鵜澤總明君 諸君、陪審法案ノ委員會ノ結果及經過ノ
報告ヲ致シタイト思ヒマス、陪審法案ハ第一章、第二章、第
三章、第四章、第五章、第六章全部ニ於キマシテ百十四箇
條ヨリ成ル極テ簡單ナル法案デアリマス、併ナガラ制度ト致
シマシテ之ヲ確立スルト云フコトニナリマシテハ、先ヅ極テ重
要ナル審議ヲ要スルモノデアル、斯樣ニ考ヘラルヽノデゴザ
イマスルガ、委員會ハ八囘開キマシテ、先ヅ逐條ノ質問前ニ
案ノ全體ニ涉リマシテ、委員諸君ヨリ詳細ナル質問ガアリ、
之ニ對シテ政府ノ答辯ノアッタ次第デアリマス、次ニ各條審
議ニ移リマシテ、各條ニ付キマシテ又委員諸君ヨリ極テ詳
細ナル審議及質問ガゴザイマシテ、之ニ對シテ政府ノ鄭重
ナル答辯ガアッタ次第デゴザイマス、而シテ先ヅ此質問ノ極
テ要領ダケヲ掻摘ンデ御報告ヲ致シマスレバ、陪審制度ヲ
此度政府ノ提案ヲ致シタト云フコトハ、如何ナル理由ニ基
クモノデアルカト云フ質問ガ、委員諸君カラ提出セラレタノ
デアリマス、例ヘバ横山勝太郞君ノ質問ニ依リマスレバ人
民ガ司法ノ運用ニ參與スルノハ、何故ニ憲法上適當デアル
カ、其論理的ノ根據、倫理的ノ根據ハ何レニアルカ、官僚栽
判官ノ獨斷專行ヨリモ、人民ノ裁判ガ論理的、倫理的ニ優
テ居ルト云フノデアルカト云フヤウナ質問ガアリマシタ、之二
對シテ大木司法大臣ハ、常職栽判官ノミガ或ハ陷ラントス
ル時弊ヲ匡救スル爲ニ、國民ニ事實ノ判斷ニ與カラシムル
ト云フコトガ必要デアルト思フ、斯ウ云フヤウナ答辯ガアリマ
シタ、又山内司法次官ハ、常職栽判官ノミノ栽判ニハ民情
ニ徹底セザルコトガナイトモ限ラヌ、又専門裁判官ヲシテ事
實ノ判斷ニ至ルマデノ全責任ヲ負ハシムルト云フコトハ、畢
竟酷ニ失スル譯デハナイカ、此點ニ付テハ人民モ亦責任ヲ荷
フベキデハナイカト云フヤウナ答辯ガアッタノデアリマス、ソレ
カラ鈴木富士彌君ハ、何故ニ陪審法案ヲ獨立法案トシタ
ノデアルカ、事實ノ判斷ハ裁判ト言ハナイカ、マア斯ウ云フヤ
ウナ諸點ニ付テノ質問ガアリマシテ、之ヲ獨立ノ立法ト致シ
マシタコトニ付キマシテハ十分ナル說明ト致シマシテ、別ニ論
理的ノ根據ニ依ッタモノデハナイケレドモ、刑事訴訟法ニ對
スル所ノ特別ノ立法ト致シマシテ、又此度新ニ陪審制度ヲ
確立スル上カラ見レバ、獨立ノ立法ニ致シマシタ方ガ、總テ
ノ上ニ於キマシテ都合ガ宜シイト云フヤウナ答辯デアリマシ
タ、ンレカラ或ハ又此陪審制度ヲ置クト云フコトハ、是ハ裁
判官ニ對スル不信任ノ爲デアルカ、斯ウ云フヤウナ御問モア
リマシタガ、之ニ對シマシテ、日本ニ於テ特ニ各官廳ノ關係
カラ見テ、獨リ司法部ノミガ不備デアルトハ申サヌ、併ナガラ
往々ニシテ司法官ニ過チノアリシコトハ大木司法大臣、平沼
檢事總長等、或ハ其時ノ鈴木司法次官等ノ調令ヲ發シテ
戒飭ヲセラレタ所ニ依ッテモ明白デアルカラシテ専門司法官
ノ或ハ陷ルト云フヤウナ弊害ヲ救濟スル爲ニ陪審制度ガ必
要デアル斯ウ云フヤウナ政府ノ答辯モアッタノデアリッマス、ソ
レカラマダ専門的ノ事柄ニ涉ルヤウナ質問ハ大分ゴザイマ
シタガ、其方ハ之ヲ省略致シマシテ、委員會ノ速」記ニ依ッテ
御覧ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、此全體ノ質問ノ中ニ於
キマシテ、案其モノニ付テハ反對デハナイ、陪審法ト普通選
擧法卜云フモノハ、是ハ立憲政治ノ當然ノ歸結デアル、斯ウ
云フコトハ信ズル、併ナガラ政府ハ此大法案ヲ出スニ方リマ
シテ、何故ニ廣ク之ヲ一般ニ世間ニ公知セシムルノ手段ヲ
執ラナカッタノデアルカ、斯ウ云フヤウナ質問カ野村嘉六君
カラ提出セラレタノデアリマス、之ニ對シテ政府ノ答フル所ハ
如何ニモ大法案デアルケレドモ、此陪審法ト云フモノハ十數
年前ニ、民間ノ法曹ガ天下ノ國民ヲ代表致シマシテ、陪審
法ト云フモノハ裁判ノ上ニドウシテモ施行センケレバナラヌ
モノデアルト云フヤウナ意見ノ開陳ヲセラレテ居ル、又衆議
院ニ於キマシテモ、松田源治君カラノ提案デアッタラウト思
ヒマスルガ、陪審法案ノ施行ノ建議案ガ出マシテ、多數ヲ以
テ通過ヲ致シテ居ル、而シテ政府ハ朝野ノ裁判制度等ニ經
驗ノアリ、或ハ知識ノアル者ヲ集メテ、法制容議會ト云フモ
ノヲ組織シテ、此處ニ於テ十分ニ審議立案七シメ、更ニ此
法律案卜云フモノガ樞密院ノ議ヲ經マシテ玆ニ提案サレル
ト云フヤウナ順序ニナッタノデゴザイマスカラ、一一般ノ國民ニ
對シテ之ヲ公知セシムルト云フ時間ハナカッタノデアルケレド
モ、併ナガラ此事柄ハ一般國民ニ知ラレテナイトハ中ス譯ニ
參ラヌ、ソレカラ若シ此法案ガ通過ノ曉ニ於キマシテハ、有
ユル方法ヲ執ッテ之ヲ一般國民ニ理解シ得ルヤウナ途ヲ立
テタイト思フ、斯ウ云フヤウナ點ガ政府ノ答辯デアリマシタ、
以上ガ先ヅ大體質問ノ要領デゴザイマシテ、更ニ各條ノ質
問ニ入ッタノデアリマスガ、此各條ノ質間ニ付キマシテハ是ハ
直ニ質問ノ點ヲ申上ゲテモ或ハ不明瞭ニナルコトヲ惧レマ
シテ、大體此法案ニ於ケル陪審員ト云フモノハドウ云フ者
デアルカ、陪審制度ト云フモノハドウ云フモノデアルカト云フ
コトヲ、極テ簡單ニ御報告ヲ申上ゲマスルコトハ、委員長ノ
責任デハナカラウカト考ヘル次第デアリマス、シレデ甚ダ恐
縮ノ次第デゴザイマスルガ、暫ク其點ニ付テ御〓聽ヲ煩シタ
イノデゴザイマス(「謹聽」)陪審員ノ資格ハ第十二條ニ規定
サレテ居ルノデアリマスガ、ドウ云フ者ガ陪審員ニナルカト申
シマスレバ、帝國臣民タル男子ニシテ三十歲以上タルコト、
引續キ二年以上同一町村內ニ住居スルコト、引續キ二年
以上直接國稅三圓以上ヲ納ムルコトヽたく讀ミ書キヲ爲シ得ル
コト、斯ウ云フ條件ガ具ッテ居リマスレバ、卽チ陪審ト云フモ
ノヲ構成スル、陪審員ト云フ者ガ出來ルノデアリマス、而シ
テ此陪審ノ構成ハドウ致シテ構成スルカト中シマスレバ、本
法ニ於キマシテハ大體外國ノ例ニ於ケルガ如ク、十二人ノ陪
審員ヲ以テ陪審ト云フモノヲ構成スルト云フコトニ相成シテ
居ルノデアリマス、何故ニ十二人ト云フ數ヲ選ンダカト云フ
質問ニ對シマシテハ、特ニ此外國ノ例ヲ變ズル程ノ理由ヲ
見出サナカッタノデアルカラ、之ヲ十二人ト致シテ居ルト云フ
ノデアリマス、尤モ此陪審制度ニ先立チマシテ、明治六年、明
治八年等ニ於キマシテ、日木ニ於テハ一タビ參座制ト云フ
モノヲ採用致シタコトガアルノデアリマス、此參座ノ制度ニ
於キマシテハ、或ル場合ニ於テハ九人ノトキガアリ、或ル場
合ニ於テハ十二人ノトキガゴザイマス、此參座ノ事柄ハ今
日カラ申シマスレバ、取モ直サズ卽チ陪審制度デアル、ソコデ
陪審制度ヲ〓究致シテ居リマスル人ハ、明治六年、明治八
年等ニ於テ、既ニ日本ニハ陪審制度ノ第一步ガアッタノデア
ル、斯樣ニ申スノデゴザイマズ、此十二人ノ陪審員ハドウシ
テ造ルカト申シマスレバ、先ヅ第十二條ノ公民ニ當ル所ノ者、
此中カラ致シマシテ色〓陪審員タル資格ヲ喪フ規定ガ出
來テ居ルノガ卽チ十三條デゴザイマス、禁治產者デアルトカ、
準禁治產者デアルトカ、或ハ破產者ニシテ復權ヲ得ザル者ト
カ、ソレカラ聲者、啞者、盲者デアルトカ、懲戒六年以上ノ禁
錮、舊刑法ノ重罪ノ刑、又ハ重禁錮ニ處セラレタル者ハ是ハ
陪審員タル資格ガナイノデアリマス、卽チ陪審員タルコトヲ
得ズト云フ方ノ規定ニ入ルノデアリマス、又職務ノ關係其
他カラシテ、陪審員ニナルコトノ出來ナイ者ハ、第十四條
ニ規定ヲ致シテ居ルノデアリマス、ソコデ、先ヅ町村ノ公民ノ
中カラ致シマシテ、假ニ一府縣ニ於テ一万五六千人ノ適當
ナル賠審員ガアルト致シマスレバ、其中カラシテ、一ツノ事件
ニ付テノ陪審員ヲドウシテ選ブカト申シマスレバ、先ヅ地方
裁判所長ガ年々其地方裁判所管轄內ニ於キマシテ、本年陪
審ニ懸クベキ听ノ事件ガ十件アルトカ、或ハ二十件アルトカ、
或ハ三十件アルトカ云フ大體ノ豫想ヲ立テマシテ、其豫想
ニ從ヒマシテ、其年度ニ所要ノ陪審員ノ數ヲ定メルノデアリ
マス、デ定メラレタル所ノ數ヲ先ヅ村々ニ依シテ抽籤ヲ致シ
マシテ、而シテ一ツノ陪審席ヲ構成スル爲ニハ、十二人デゴ
ザイマスルガ、此十二人ヲ選ビマスル爲ニ、三十六人ノ陪審
員ヲ抽籤ヲ致シマシテ、而シテ此三十六人カラ十二人ヲ選
ブト云フコトニ相成ルノデアリマス、三十六人ハドウ云フコ
トニシテ採ルカト申シマスレバ、町村ノ順序ヲ豫メ定メテ置
キマシテ、一ツノ陪審席ヲ構成スル爲ニ、甲ノ村カラ一人、
乙ノ村カラ一人、丙ノ村カラ一人、丁ノ町カラ一一人ト云フヤ
ウナ工合ニ致シマシテ、先ヅ三十六人、之ヲ抽〓ニ依シテ選
出シマシタ、三十六人ヲ、裁判所ニ喚出スト云フコトニナル
ノデアリマス、ソコデ此三十六人ノ中カラ愈こ陪審ノ席ヲ構
成スルコトニナルニ當リマシテハ、【事件ガ簡單ナモノト複雜
ナモノトニ依ッテ區別ガアルノデゴザイマシテ、一日ニ濟ム所
ノ陪審デゴザイマスルナラバ、先ヅ十二人ト云フコトニ於テ
十分デゴザイマスルガ、事件ガ一日以上ニ亙ルコトニナリマ
スレバ、陪審ノ中カラ病氣其他ノ故障ガ起ラヌトモ限リマセ
ヌカラ、補充陪審ト云フ者ヲ十二人ノ外ニ三人ナリ四人ナ
リ選ンデ置キマシテ、其補充陪審ガ他ノ陪審ト同ジヤウニ、
訟廷ニ於キマシテハ事件ノ審理ヲ聽イテ居ルノデアリマス、
ンコデ故障ノアル場合ニハ、其補充陪審カ之ニ代ルト云フ
コトニナルノデアリマス、ンコデ三十六人ノ中、ドウ云フヤウ
ニシテ十二人ヲ選ブカト申シマスレバ、先ヅ此事件ニ依ッテ
定メラレテ居ル、抽籤ニ依ッテ選出サレテ居ル陪審員デゴザイ
マスルケレドモ、マダ陪審員ト云フ者ガ不公平ナル栽判ヲヤ
ルカモ知レナイ、或ハ國家ノ方カラ見マスナラバ、被告ニ利
益ノ裁判ヲスルカモ知レナイ、被告人ノ方カラ見マスナラバ、
被告人ニ不利益ナル栽判ヲスルカモ知レナイト云フヤウナ
所カラ致シマシテ、忌避ト云フ方法ヲ採ルノデアリマス、ソコ
デ先ヅ此陪審ノ三十六人ノ中カラ名前ヲ取上ゲマシテ、加
藤正〓、斯ウ言ヒマスト、檢事ガンレハ結構デアル、被告モソ
レハ結構デアルト言ヘバ、加藤正〓ト云フ者ハ立派ニ陪審
員トナルノデアリマス、其次ニ福島則正トフ云者ガ出テ參ル、
檢事ガソレヲ忌避スルト云フコトニナリマスト陪審員ニナレ
ヌ、次ニ山鹿甚五兵衛ト云フ者ガ參リマス、是ハ檢事ハ通
過シテモ、被告ガ忌避スルト云フ、斯ウ云フヤウナ工合ニ、檢
事ガ第一ニ忌避ヲシ、其次ニ被告ガ忌避ヲ致シマシテ、段々
ト忌避ヲシテ參リマシテ、十二人ノ所ニ至ッア、而シテ數ガ揃
ヘバ、之ヲ以テ陪審席ヲ構成スルト云フコトニナルノデアリ
マス、デ是ハ補充陪審ノトキニハ、其外ニ補充陪審三人、或
ハ四人ト云フモノヲ選ンデ、玆ニ陪審席ト云フモノヽ構成ガ
出來ルノデアリマス、ソレカラ奇數偶數ニ分レルコトガコザ
イマスガ、若シ此數ガ忌避ニ依シテ餘リマストキニハ、之ヲ忌
避スル所ノ權利ヲ被告ニ與ヘル、斯ウ云フコトニナルノデア
リマス、ソレカラ今ノ刑事訴訟法、先般御協賛ヲ經マシテ法
律ニナリマシタ刑事訴訟法ニ依リマスレバ、此訴訟ニ於テ裁
判官ヲ忌避スル場合ニハ、一々後カラ理由ヲ疏明シナケレ
バナラヌノデゴザイマスガ、陪審ノ忌避ニハ理由ノ疏明ナド
ト云フモノハ要ラナイ、唯忌避ヲスル、斯ウ云フ事ニナレバ、
其人ハ職務カラ離レルト云フヤウナコトニナリマシテ、茲ニ十
二人ガ出來レバ、先ヅ陪審員ノ席ハ構成サレル、陪審官ノ
席ハ構成サレル、官ト云フト語弊ガアリマスガ、陪審ノ席ガ
構成サレル、斯ノ如クシテ出來マシタノガ、之ガ卽チ陪審員
デゴザイマス、而シテ是ハ地方裁判所ガ管轄裁判所ニナリ
マスカラ、地方裁判所ニ三人ノ判事ガ居リマシテ、其三人ノ
判事ノ外ニ陪審員ヅ十二人出來ル、斯ウ云フコトニ相成ル
ノデゴザイマス、之ガ卽チ陪審ノ構成デアリマス、ソレカラ公
判手續ハドウナルカト中シマスレバ、此陪審ニ於キマシテノ
一番ノ特色ハ、公判ハ總テ直接審理ノ原則ニ從ヒ、公判以
外ニ於テ調ベマシタ所ノ證據、豫審ノ證據デアルトカ、或
檢事ノ調書デアルトカ云フヤウナモノヲ以テ參リマシテ、之
ヲ證據ニスル譯ニハ參ラヌノデアリマスガ、公判ニ於テ陪審
ノ前ニ於テ公ニ取調ベラレ、直接ニ取調ベラレル所ノモノガ
證據ニナリマシテ、此證據ニ依リマシテ、裁判ヲスルコトニ相
成ルノデアリマス、ソコデ先ヅ此陪審ガ出來マシテ、事件ガ始
マル、玆ニ放火事件ガアル、火ヲ放ケタ事件ガアルト云フコ
トニナリマスト、此事件ニ付キマシテ、先ヅ其檢事ガ被告ノ
某ト云フ者ハ、何月後日何時頃ニ何處其處ニ於テ、某ノ家
ヲ燒イタ者デアルト云フヤウナ事ヲ述ベテ、而シテ此審理ヲ
求メルノデアリマスガ、此法案ニ於キマシテハ、檢事ノ今ノ公
訴ヲ述べマシタル前ニー-公ノ訴ヲ述べマスル前ニ、陪審ニ
依ルコトヲ被告ガ不利益ナリト考ヘマスレバ、之ヲ辭退スル
事ガ出來ルノデアリマス、歐羅巴諸國ノ法律ハ、陪審審理
ヲ辭退スルコトノ出來ルト云フ例ハ少イノデアリマズ、唯英
吉利ニ於テ、近頃簡單ナル事件ニ對シマシテハ抛棄ガ出來
ル、辭退スル事ガ出來ルト云フコトニナッテ居リマスガ、大體
陪審ノ裁判ヲ辭退スルコトハ出來ナイノデアリマスガ、本案
ニ於キマシテハ、檢事ノ公訴陳述前ニ於キマシテハ辭退スルコ
トガ出來ル、専門裁判官、常職裁判官ノ裁判ノ方ガ被告ノ
爲ニ公平ニシテ、利益ノ裁判ヲ受クルコトガ出來ルト考ヘマ
スルナラバ、公訴陳述前ナラバ之ヲ辭退スル事ガ出來ル、斯
ウ云フヤウニナッテ居ルノデアリマス、所ガ辭退シナイト云フ
事ニ依ッテ公判ガ開カレル、サウナリマスト、檢事ガ公訴ノ事
實ヲ述ベル、裁判官ガ之ヲ調ベル、檢事ガ又證據ノ調ベヲス
ル辯護士モ亦證據ノ調ベヲスル、卽チ陪審制度ニ於キマシ
テハ、裁判官、辯護士、檢事ト云フヤウニ主ニ事實ノ調ベト
云フモノヲ各獨立致シマシテ、調ベルコトガ出來ルト云フヤ
ウニナルノデアル、之ガ今日迄ノ訴訟手續ト餘程違フノデア
リマス、サウ云フヤウニナリマシテ、愈、此調べガ濟ミマスト、ド
ウ云フコトニナルカト申シマスレバ、所謂證據調べガ終ルト
云フコトニナルノデアリマシテ、其證據調ガ終リマスト、陪審
ノ事件ニ於キマシテハ、辯論ガ二ツニ分レルノデアリマス、今
日ノ刑事訴訟法ニ於キマシテハ、先ヅ事件ヲ調ベテシマヒマ
シテ、最後ニ檢事ガ被告事件ニ對スル事件ノ〓略ヲ述べ、
而シテ刑ノ量定ヲスル事ニ付キマシテ、裁判官ニ請求ヲスル
コトニナッテ居ルノデアリマスガ、陪審ニ於キマシテハ、立前ガ
先ヅ此陪審ニハ事實ノ判斷ヲセシメル、斯ウ云フコトニナッ
テ居ルノデアリマシテ、卽チ此本案ノ第一條ニ於キマシテ「裁
判所ハ本法ノ定ムル所ニ依リ刑事事件ニ付陪審ノ評議ニ
付シテ事實ノ判斷ヲ爲スコトヲ得」ト斯ウ云フ事ニ相成ッテ
居リマスカラ、事實有,タカ無イカ、卽チ火ヲ放ケタト云フガ、
火ヲ放ケタヤウナ事ガ有ッタカ無イカト云フ、此事實ノ判斷
ヲ陪審ニサセルト云フコトニナルノデアリマスカラ、一度證據
調ガ濟ミマスト、此時ニ始マル所ノ辯論ハ卽チ此事實ニ對
スル辯論ト云フコトニ相成ルノデコザイマス、ンコデ木案ノ第
七十六條ニ於キマシテ「證據調終リタル後檢事被告人及
辯護人ハ犯罪ノ構成要素ニ關スル事實上及法律上ノ問
題ノミニ付意見ヲ陳述スヘシ」卽チ犯罪ノ構成要素ニナル
部分ニ於テノミノ辯論ヲスルコトニナルノデアリマス、其辯論
ノアリマシタ後ニ、初テ此裁判官カラ致シマシテ、陪審員ニ
對シマシテ、說〓卜云フコトヲヤルノデアリマス、卽チ其事件
ノ說キ明シデアリマスガ、說キ明シテヤルノデアリマス、ソレガ
第七十七條ニ當ルノデゴザイマス、「前條ノ辯論終結後栽
判長ハ陪審ニ對シ犯罪ノ構成ニ開シ法律上ノ論點及問
題ト爲ルベキ事實竝證據ノ要領ヲ說示シ犯罪構成事實ノ
有無ヲ問ヒ評議ノ結果ヲ答申スベキ旨ヲ命スヘシ但シ證
據ノ信不及罪責ノ有無ニ關シ意見ヲ表示スルコトヲ得ス」
斯ウ云フコトニナリマシテ、先ヅ極ク平タク申シマスルナラバ、
栽判官ガ大體ノ此事件ノ說キ明シヲ致シマシテ、而シテ檢
事ノ述ブル所ノ議論、辯護人ノ述ブル所ノ說、檢事カラ出
テ居ル證據、辯護人カラ出テ居ル證據ニ付テノ唯說キ明シ
ヲスルノデアリマス、此證據ハ信ズルコトガ出來ルトカ、出來
ナイトカ云フコトハ申サナイ、唯有リノ儘ニ說キ明シヲ致シ
マシテ、而シテ此事實ガ有ッタカ、無イカト云フコトヲ陪審員
ニ評議ヲセシムルコトニナルノデアリマス、此說〓ヲ受ケマス
ルト、說示ヲ致シマシテ問ヒヲ發スルノデアリマシテ、其問ハ
卽チ主ナル問ト、ソレカラ補充ノ問ト、卽チ主問補問ニ區別ヲ
致シマシテ、、陪審員ニ於テ然リ、例ヘバ放火ト云フコトガ有ル
ト云フコトニナリマスレバ、然リト云フコトニナリマス、又放火
デナクシテ、之ガ過失デ火ガ起ッタノデハナイカト云フヤウナ
補問ト云フモノガ出來マスレバ、補問ニ對シテ答ヘルト云フ
ヤウニ、主問ト補問ニ分チマシテ、極テ簡單ニ然リトカ、然ラズ
トカ云フヤウニ答ヘル問ヲ出スノデアリマスガ、其問ヲ受取リ
マシテ、陪審員ガ陪審ノ評議室卜云フモノニ退イテ參リマシテ、
評議室ニ於テ陪審員長一人ヲ選ンデ、此陪審員長ノ下ニ
十二人ノ者ガ評議ヲスルノデアリマス、ソレデ陪審員長ガ一
番後ニ於テ意見ヲ述ベルコトニナッテ居ルノデアリマス、ソコ
デ說ガ六人六人ニ別レマスレバ無罪ニナル、本案ニ於キマシ
テハ-ソレカラ有罪ガ七人無罪ガ五人ト云フ場合ニハ、初
テ有罪ト云フコトニナッテ居リマス、英吉利ノ如キノ例ニ依リ
マスレバ、十二人ノ者ガ悉ク有罪ナリト言ハナケレバ有罪ノ
判斷ガ出來ナイ、十一人有罪ト言ッテモ、一人無罪ト言ヒマ
スレバ、有罪ノ判斷ガ出來ナイノデアリマス、日本ニ於キマシ
テハ、有罪無罪ヲ決セシムルノデナクシテ、甲ノ事實ガ有ッタ
カ、無イカト云フコトヲ決セシメルノデアリマスガ、之ニ對シマ
シテモ七人マデ放火ノ事實アリトスレバ、初メテ然リト云フ
答ヲスルガ、六人六人ニ別レマスレバ然ラズト斯ウ云フヤウ
ニ答ヘルノデアリマス、而シテ斯ノ如ク出來マスト、今度ハ答
申ト云フモノヲ、裁判長カラ出シマシタ問書、卽チ問書ト云
フモノニ記載致シマシテ、陪審員長ガ署名捺印シテ、之ヲ裁
判長ニ提出スルノデアリマス、ソレカラ書面ニ出シマシタノヲ、
裁判長ハ公判廷ニ於キマシテ、裁判書記ヲシテ問、及之ニ
對スル陪審ノ答申ヲ朗讀セシムルコトニナルノデアリマス、此
所マデガ先ヅ陪審ノ仕事ニナルノデアリマス、所ガ本案ニ於
キマシテ、屢、議論トナリマシテ、質問應答ヲ重ネラレマシタ
ノハ、卽チ本案ノ第九十五條デコザイマスガ、本案ノ第九十
五條ニ於キマシテハ「栽判所陪審ノ答申ヲ不當ト認ムルト
キハ訴訟ノ如何ナル程度ニ在ルヲ問ハズ決定ヲ以テ事件ヲ
更ニ他ノ陪審ノ評議ニ付スルコトヲ得」陪審ノ答ヘマシタ
事柄が、裁判官ガ考ヘテ見テ是ハ不當デアル、斯樣ニ思ヒマ
ストキハ、今マデノ陪審シ解キマシテ、今度新ニ他ノ陪審ニ
其事件ヲ判斷セシムルコトガ出來又其陪審ノ判斷ト云フ
モノハ不當ト認メマスルトキハ、更ニ他ノ陪審ニ判断セシム
ルコトガ出來ル、斯ノ如ク反覆致シマシテ、法律ノ規定カラ
致シマスレバ數十囘、數百回ニ亙ルト云フコトガ出來ルト云
フ意味ニ解釋ガ出來ルノデアリマス、ソレ故ニ之ニ對シマシ
テ、委員諸君ノ中ノ質問ニ依リマスレバ、陪審ノ意見ガ裁判
官ヲ拘束スルコトニナレバ、陪審制度ノ效能ガ十分有ルコ
トニナルダラウガ、裁判官ノ不當ナリト認ムル意見ニ依クテ
常ニ此陪審判斷ヲ變へテ答申セシムルコトガ出來ルト云フ
コトデハ陪審ノ效力ガ薄イモノデナイカト云フ質問ガアリ
マシタ、之ニ對シマシテ、政府ノ答ニ依リマスルト、成程法律
ノ條文ヲ極テ冷タク解釋致シマスレバ、幾遍デモ變ヘルコト
ガ出來ルヤウニナッテ居リマスケレドモ、併シ陪審制度ノ必
要ト云フ事柄ハ、常識ヲ以テ普通ノ專門ノ法律上ノ判斷
ヲ補フコトニナル、又吾々人間ガ共同生活ヲ送ッテ居ル以上
ハ事實ノ判定ニ於ケル吾々ノ常識ノ判斷ト云フモノガ、左
樣ニ甲ノ人ト乙ノ人ニ於テ非常ニ大ナル違ヒヲ生ズベキモ
ノデナカラウト思フ、ソレ故ニ先ヅ甲ノ陪審ガ答申ヲシテ、裁
判長ガ之ヲ不當ト認メル、次ニ乙ノ陪審ガ答申ヲ致シマシ
テ、又栽判長ガ不當ト認メテモ、一回二囘ト同一ノ答申ヲ
得ルコトニナレバ、裁判官モ自省致シマシテ、之ガ適當ノ判
斷デアラウト云フコトハ、常識ノ上カラ、又道德ノ上カラ、又
日常ノ吾々ノ生活ニ色〓共存シテ居ル所ノ思想ノ關係カ
ラ落付クコトデアラウ、ソレ故ニ理論トシテハ數十囘、數百
回繰返スコトガ出來ルケレドモ、實際ニ於テハ斯樣ナ場合ガ
無イ、加之裁判官ニ陪審ノ答申ヲスル事件ニ於テハ陪審ノ
答申無シニハ、ドウシテモ栽判ガ出來ナイコトニナルノデアリ
マスカラ、此意味ニ於テ相當ニ考慮ガアルト認メル、斯ウ云
フ事柄ガ政府ノ答辯デアリマス、先ヅ以上ガ陪審ト云フモ
ノヽ大體デゴザイマシテ、而シテ此陪審ノ制度ニ對シマシテ、
陪審員ナル者ヲ構成シ、是カラ陪審ノ答申ヲ得テ、事實ノ
判斷ヲ致シスル以上ハ、其事件ニ對シテ控訴ガ出來ナイ、斯
ウ云フコトニナルノデアリマス、併ナガラ上告ハ出來ル、上告
ノ場合ト云フモノモ、相當ニ廣ク本案ニ於テハ規定致サレ
テ居ルノデアリマス、次ニハ陪審ノ費用、ソレカラ陪審ニ對ス
ル所ノ罰則ト云フヤウナモノデゴザイマシテ、之ガ此本案ニ
於キマスル所ノ大體ノ極ク簡單ナモノデハアリマスルガ、大
體ノ說明デゴザイマスル、ンコデ私ハ先ヅ是ダケノ事ヲ說明
申上ゲテ置キマシテ、然ル後ニ此委員會ニ於ケル修正ノ事
ヲ御紹介致シタイト思フノデアリマス、本案ニ對シマシテハ、
討議ノ際ニ憲政會ノ鈴木富士彌君カラ修正ノ意見ガ
提案セラレタノデアリマス、卽チ此陪審法ノ中、第二條ヲ修
正スルト云フ御意見デアリマス、死刑又ハ無期ノ懲役、若ハ
禁錮ニ該ル罪、刑法第二編第一章乃至第四章及第八章
ノ罪、之ヲ陪審ノ評議ニ付スルト云フコトニナル次第デアリ
マス、ソレカラ第四條ノ第一號ヲ修正スルト云フ御意見デ
アリマス、第七十六條ノ第二項、卽チ辯護士ノ辯論ハ重複
スルコトヲ得ズト云フコトヲ削ルト云フ修正ノ御意見、ツレ
カラ七十九條第四項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フニ刑ノ加重減
免又ハ執行猶豫ノ原因ト爲ルヘキ事實ノ有無ヲ評議セシ
ムル必要アリト認ムルトキ亦前項ニ同シ」之ガ鈴木君ノ修
正意見デアリマス、ソレカラ決議條件デハゴザイマセヌガ、希
望條件ト致シマシテ、鈴木君ノ述ベラレマシタ所ニ依レバ、
第一ニ「陪審法ヲ實施シテ其成績ヲ見タル上他日適當ノ
機會ニ於テ法條ニ左ノ如キ改正ヲ加フルコト、-、裁判所
陪審ノ答申ヲ不當ト認メ更ニ事件ヲ他ノ陪審ノ評決ニ付
シタルトキ其ノ陪審ノ新ニ爲シタル評決答申ハ裁判所之ヲ
廢棄スルコトヲ得サル旨ノ規定ヲ設クルコト、二、陪審法中「評
議」トアルヲ凡テ「評決」ト改メ、第一條中「事實ノ判斷ヲ爲
スコトヲ得」トアルヲ「事實ノ判斷ヲ爲サシムルコトヲ得」ト
改正シ、第十七條第百一條及第百二條中「陪審ノ答申ヲ
採擇シテ」トアル文句ヲ全部削除スルコト、三、皇室ニ對ス
ル罪、内亂罪、外患罪、國交ニ關スル罪及騒授罪(刑法第
二編第一章乃至第四章及第八章ノ罪)ニ該ル事件ハ之ヲ
法定陪審(第二條)ノ範圍ニ加フルコト、四、刑ノ加重減免
又ハ執行猶豫ノ原因タル事實アル場合ニ於テ裁判所ハ檢
事若ハ被告人ノ申立アルトキ又ハ職權ヲ以テ其ノ事實ニ
付陪審ニ副問ヲ發スルコトヲ得ル旨ノ規定ヲ設クルコト」
之ガ第一ノ希望條件、第二ノ希望條件ハ「前記改正要目
中若シ帝國憲法ノ正條ニ牴觸スルモノアルトキハ憲法改
正ニ付愼重ノ考慮ヲ加フルコト」、第三ハ「陪審栽判ニ干與
スル司法官ハ特ニ練達堪能ノ士ヲ以テ之ニ補シ且ツ之ヲ
優遇スルコト」此希望條件デアリマス、此希望條件ノ第一、
第二ニ對シテハ、政府ハ今日直ニ同意ヲ與へルコトハ出來
ナイ、第三ノ點ニ付テハ大ニ此希望ヲ諒トスルノミナラズ、
之ヲ歡迎スル、斯ウ云フ意味ノ答辯ガアリマシタ、ソレカラ
國民黨ノ板野君カラノ修正意見ハ、矢張大體ニ於テ鈴木
君ノ修正意見ト似テ居ルノデアリマスガ、是ハ第二讀會ニ
於キマシテ、國民黨ノ諸君カラ修正意見ヲ提案セラルヽコ
トニナッテ居リマスカラ、此處デ之ヲ中上ゲルコトハ極ク簡略
ニ致シマスルガ、詰リ第一條ノ陪審ノ評議ニ付シテ事實ヲ
認定セシムルト云フコトニ改ムルコト、ソレカラ第一條ニ死
刑又ハ無期ノ懲役若クハ禁錮ニ該ル罪、刑法第二編第一
章乃至第四章及第八章ノ罪、之ヲ陪審ノ評議ニ付スルト
云フコト、ソレカラ第四條ニ陪審ノ評議ニ付セザルモノト致
シマシテ、裁判所構成法第五十條第二末段ニ規定セル罪
ト云フヤウナ點、マダ外ニモ修正ガアリマス、第九十一條ニ於
ケル修正、第九十五條ニ於ケル修正、是ハ何レ委シク第二讀
會ニ現レマスカラ省キマス、ンレカラ庚申倶樂部ノ森下惠太
郞君カラ第二十二條ニ對スル修正、卽チ「第二十二條地
方裁判所長ハ每年十一月三十日迄ニ第二十條及第二十
一條ノ規定ニ依リ整理シタル陪審員資格名簿ニ基キ各市
町村ヲ管轄スル區裁判所判事ノ意見ヲ聽キ翌年所要ノ
員數ノ陪審員候補者ヲ選定シ各市町村別ニ陪審員候補
者名簿ヲ調製ス可シ」第二項「區裁判所判事ハ前項ノ意
見ヲ述フルニ付市町村長ニ必要ナル資料ノ供給ヲ求ムル
コトヲ得」斯ウ云フヤウナコト、ンレ以外ニ、第二十三條、第
二十五條、第二十六條等ハ此修正ニ依ル結果トシテノ修
正ニナルノデアリマス、卽チ陪審員ヲ定ムルニ抽籤ニ依ラズ
シテ、地方裁判所長ノ意見ニ依ッテ暗審員ヲ選定スルコト
ニシタラ宜カラウ、斯ウ云フ趣旨ノ修正デアリマス、ソレカラ
作間耕逸君カラシテ、第十二條ノ第一項第四號ノ「讀ミ書
キヲ爲シ得ルコト」トアルノヲ、之ヲ「義務〓育ヲ卒ヘタル
コト」斯フ云フヤウニ改ムルト云フ修正案ガ出タノデアリマ
ス、是等修正案ニ對シマシテ、先ヅ各案ニ付テ採決致シマシ
タガ、鈴木案、板野案ンレカラ森下案、作間案ハ、何レモ少
數否決デアリマス、ソレカラ原案ニ付テ決ヲ採リマシテ、殆ド
大多數ヲ以テ可決セラルヽト云フコトニ相成ッタノデアリマ
ス、以上ガ此審査ニ於ケル經過及結果ノ報告ノ〓要デアリ
マスルガ、玆ニ私ハ極テ簡單ニ最後ニ一言スルコトヲ御許ヲ
願ヒタイト思フノデアリマス、我國ニ於ケル陪審制度ト致シ
マシテハ、此度ノ提案ガ初テデゴザイマスガ、御承知ノ如ク
參座ト云フモノヽ誠ミラレマシタト云フコトハ、明治六年-
明治八年ニアル、然ラバ斯ノ如キ思想ガ東洋ニ有ッタモノデ
アルカ、無カッタモノデアルカト云フコトニ付キマシテハ、東洋
ニ於テハ制度トシテハ現レマセヌケレドモ、斯ノ如キ制度ノ
精神ハ極テ古イ所ニ現ハレテ居ルト申シタイノデアリマス、
ソレハドウデアルカト申シマスレバ、一周禮ノ中ノ司刺ノ中ニ
「一刺曰ク群臣ニ訊ル再刺曰ク群吏ニ訊ル三刺日ク萬
民ニ訊ル云々、民情ヲ求メテ然ル後刑殺ス」斯ウ云フコトデ
一タビハ群臣ニ訊リ、再ビハ群吏ニ訊リ、三度ハ萬民ニ訊ソ
テ、而シチ民情ヲ求メ、然ル後ニ或ハ刑シ、或ハ殺スト云フコ
トガ周禮ノ司刺ノ中ニアルノデアリマス、ソコデ諸君ノ極テ
御承知ニナッテ居リマスル孟子ノ中ニ「左右皆殺ス可シト曰
フモ聽ク勿レ、諸大夫皆殺ス可シト曰フモ聽ク勿レ、國人
皆殺ス可シト曰ヒテ然ル後之ヲ察シ、殺ス可キヲ見テ然ル
後之ヲ殺セヨ」斯ウ云フヤウニ書イテ居ルノハ孟子ノ一家
言デハナイノデアリマス、周ノ時代ノ制度ヲ彼ガ說イタニ過
ギナイノデアリマス、斯樣ニ考ヘテ見マスルト、此支那ノ制度
ガ唐ニ傳ハリ、唐代ニ於テ裁判ノ一番ノ必要ナル事柄ハ、民
情ヲ求ムルト云フコトニアルノデアリマス、唐ノ制度ガ我國
ニ傳ハッテ、矢張同ジ民情ヲ求ムルト云フコトガ、極テ重要ナ
コトニ相成ッテ居ルノデアリマス、而シテ事實ノ判斷ト云フモ
ノハ、卽チ此民情ヲ求ムルト云フコトニ外ナラヌノデアリマス、
ソレカラ更ニ此民情ヲ求ムルト云フコトハ、ドウ云フコトニナ
ルカト言ヘバ、唯法律的ニ冷酷ニ流レル所ノ裁判ノ弊ヲ矯
メテ、民情ニ依ッテ極テ寬大忠恕ノ政治ヲスルト云フ事柄ガ
民情ヲ求ムルト云フ刑政ノ木領デアリマス、明治二年九月
ニ刑律改撰ノ詔ト云フモノヲ御發布ニナッテ居ルノデアリマ
ス、是ハ私ハ諸君ト共ニ玆ニ一言此詔勅ヲ拜讀スルコトヲ
許サレタイト思フノデアリマス「我大洲ノ國體ヲ創立スル遼
古ハ措テ不論神武以降二千年寛恕ノ政以テ下ヲ卒ヒ忠
厚ノ俗以テ奉ス大寶ニ及シデ唐令ニ折衷スト雖モ其律ヲ施
スニ至ノテ上ヲハ常ニ常律ヨリ寬ニス其間政ノ汚隆時ノ治亂
ナキニ非サルモ大率光被ノ德外蕃ニ及フ保元以降乾綱紐
ヲ解キ武士權ヲ專ラニシ法律以テ政ヲ爲シ刀鋸以テ下ヲ
率ユ寛恕忠厚ノ風遂ニ地ヲ掃フ今ヤ大政更始宜ク古ヲ稽
ヘ今ヲ明ニシ寬恕ノ政ニ從ヒテ忠厚ノ俗ニ復シ、萬民所ヲ
得テ國威始テ振フヘシ頃者刑部新律ヲ撰定スル時仍テ茲
旨ヲ體シ凡八虐故殺强盜放火等ノ外異常法ヲ犯スニ非
サルヨリハ大抵寬恕以テ流以下ノ罰ニ處セシメントスル抑
刑ハ無刑ニ歸スルニ在リ宜シク商議シ以テ上聞セヨ」斯樣
ナ詔勅ガ出テ居リマシテ、此詔勅ニ從ヒマシテ、更ニ立案セ
ラレタノデゴザイマスルガ、斯ウ云フヤウナ精神ガ既ニアルノ
デアリマス、ソレカラ委員會ニ於ケル質問應答ノ結果ト致シ
マシテ、外國ニ於ケル陪審制度ノ傾向ハドウデアルカト云フ
ヤウナ事、陪審員ガ之ヲ好ムカドウカト云フヤウナ事ニ對スル
所ノ質問應答ガゴザイマシテ、大陸ニ對スル答辯ハゴザイマ
シタガ、併ナガラ英國ニ對スル方ノ答辯ハナイノデアリマス、
私ノ思ヒマスルノニ、詰リ此陪審制度ヲ施クト一云フ事柄ハ、
第一ニ民情ヲ求メル、ソレカラモウ一ツハ吾々ノ-是ハ私
ガ思フノミナラズ、司法大臣ノ說明ニアルノデゴザイマスルシ、
法制審議會ニ於ケル前原總理大臣ノ御演說ニモゴザイマ
スルガ、吾々ガ立憲政治ヲ施行スルニ當フテ、吾々ハ立法ノ
部ニ於テ民意ヲ發揚スル場所ヲ求メテ居ル、吾々ハ自治制
度ノ上ニモ民意ヲ發揚スル途ヲ求メテ居ル、然ルニ司法ノ
部ニ於テハ、人民八ルベカラズト云フヤウナコトニナッテ居ル
ノハ、立憲政治トシテ完全ナリト申スコトハ出來ナイ、此意
味ニ於テ司法部ニ民意ヲ入レル、又裁判ガ此民意ヲ重ンジ
テ裁判ヲスルト云フヤウナコトニナルコトハ必要デハアルマ
イカ、斯樣ナ說明デゴザイマシタガ、此意味ハ詰リ警察部ニ
致シマシテモ、司法栽判ノ上ニ致シマシテモ、今日ノ狀態ニ
於テハ國民ハ常ニ司法警察ノ前面ニ在ルノデアル、國民ハ
常ニ司法警察ノ敵ニナッテ居ルノデアル、貴樣一寸來イト斯
ウ言ハレヽバ警察へ出ナケレバナラヌ、呼出サレヽバ證人ハ
出ナケレバナラヌト一云フコトニナル、證人ノ義務ガアルカラト
云ウテ引張リ出サレル、而モ國民ハ常ニ此前面ニ在ッテ、或
ハ司法權ノ敵ニナルコトガアリ、或ハ警察ノ敵ニナルコトガ
アリマスケレドモ、秩序ノ維持ト云フコトニ當リマシテハ、司
法ノ背後ニ於テ、或ハ司法ト共ニ司法ノ後援ヲ爲シ、敵ノ
後援ヲ爲スト云フヤウナコトハ、今日マデハ無カッタノデアル、
ソレデ此意味ニ於テ卽チ司法ノ背面ニ吾々國民ヲ持ツ、司
法ノ同列ニ吾々國民ヲ持ヲテ、事實ノ判斷ハ此國民ニ依ッテ
之ヲ實行セシメルト云フヤウナコトニナルノハ、他ノ立法行
政ト云フモノト對照致シマシテ、是ハ當然ノ事デハナカラウ
カト云フヤウナ說明ガアッタノデアリマス、ソレカラ尙ホ是ハ
所謂秩序維持ノコト、民情ヲ盡スコト、又人民ノ側カラ申
シマスルナラバ、國民ノ側カラ申シマスルナラバ、前面ノ裁判
官ト云フ者ノ栽判ニ依リマシテ、或ハ自由ノ拘束ヲ受ケル
場合ガアル、ンコデ英國等ニ於キマシテハ、七八百年前以來
陪審制度ヲ施行致シテ居リマシテ、或ハ英國ノ大憲章、或
ハ英國ノ憲法政治ハ、此陪審制度、公衆裁判ノ制度ニ對
セシメタト言ウテモ差支ナイノデアリマスガ、此國ニ於テハ、
今日ト雖モ矢張此陪審制度ヲ以チマシテ、是ハ英國人ノ
自由ノ守本尊デアルト一云フコトヲ言ウテ居ル位デゴザイマス、
ソレカラ一千九百十三年ニ於テ、英國ノ陪審制度ニ關スル
調査報告ガゴザイマスルガ、此報告ニ依リマシテモ、ドウシテ
モ此刑事ノ事件ニ於テ、陪審制度ニ付スルト一云フコトハ極
テ必要十モノデアルト云フ答辯ガ出テ居ルノデアリマス、而
シテンレハ制度ノ長所ハ人民ヲシテ法律ニ親シマシメ、法律
ノ運用ヲ通俗化スルノ效ガ極テ大キイト云フコトヲ最後ニ
附加ヘテ居ルノデアリマス、斯樣ナ次第デアリマスルシ、又獨
逸ノ如キ國民ノ自由ガ多少或ル方面ニ於テハ拘束セラレ
テ居ル、哲學者デアルトカ、學者ノ頭ニ思想的自由ト考ヘラ
レテ居リマスルケレドモ、國民ノ日常生活ニ於テ大ナル自由
ヲ抑ヘ付ラレテ居ル、斯樣ナ國ニ於テハ、陪審制度ハ十分ナ
ル發達ハ出來ナイ、ソレ故ニ斯樣ナル國ニ於テハ、陪審制度
ニ對スル幾ラカノ非難ガアル、佛蘭西ニ於キマシテハ「ナポレ
オン」ガ陪審制度ヲ採用致シマシテ、此陪審制度ニ對シテハ
佛蘭西ノ學者等ニ非難ガアルノデアリマスケレドモ、此佛蘭
西ノ學者ノ非難、例ヘバ「タルド」等ノ非難ハ、陪審制度ハ
事ニ依ルト感情ニ激シテ困ルケレドモ、併ナガラ今ノ陪審制
度ヲ廢シテ他ニ善良ナル裁判ノ方法ハ無イ、若シ善良ナル
裁判ノ方法ヲ求メルナラバ、專門的、科學的判事ヲ以テ栽
判所ヲ構成スル外ハナイ、ソレ故ニ今日ノ陪審制度ヲ改善
スルニハ、科學的判事ヲ以テ裁判所ヲ構成スルノ途ヲ取ル
ヨリ外ハナイ、斯ウ云フ論ヲ致シテ居リマスルガ、是ハドウ云
フ事ニナルカト申シマスレバ、詰リ再犯、三犯等、吾々ノ社會
ヲ蠧毒スル事ヲ重ネル、斯樣ナル者ニ對シテハ、一時ニ裁判
ヲサシテハイカヌノデアルカラ、是等ヲシテ眞ニ遷善悔悟ト
云フヤウナ趣旨カラ見ルナラバ、科學的專門ノ判事ヲ以テ
裁判シタラ宜カラウト云フニ過ギナイノデアリマス、之ニ對シ
テ獨逸ノ法理學者デアリ、而モ此佛蘭西ノ制度ヲ極テ能ク
〓究致シテ居リマス「コーラー」ノ如キハ、「ナポレオン」ハ流石
ニ烱眼デアル、彼ガ此陪審制度ヲ佛蘭西ニ施キマシテ、國
民ノ法律感情、卽チ束洋デ申シマスルナラバ民情デアル、此民
情ヲ求メルト云フコトニ力ヲ注イデ、民情ノ在ル所ヲ裁判ノ
上ニ現サント欲シタル所ノ「ナポレオン」ハ、流石ニ立派ナル
烱眼ナル者デアルト云フコトヲ言ッテ、稱讃致シテ居ルノデア
リマス、斯樣ナ次第デゴザイマスルカラ、先ヅ此制度ニ當リマ
シテハ、宜シク諸君ニ於カレマシテ、十分御討議ノ上ニ私一
個ノ考カラ申シマスルナラバ、願クハ此原案ニ御賛成ヲ願ヒ
タイノデアリマス、甚ダ長イ時間ヲ取ッテ恐縮ノ次第デゴザイ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=28
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029・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 是ヨリ討論ニ移リマス、通告順
ニ依リマシテ發言ヲ許可致シマス、上畠益三郞君
〔上畠益三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=29
-
030・上畠益三郎
○上畠益三郞君 諸君、私ハ本案ニ對シテ絕對反對ノ意
見ヲ持ッテ居ル者デアリマス、デ本案ハ政府ノ提出デアリマ
スルシ、政友會ノ政綱ノ第一義デゴザイマスカラシテ、大多
數ヲ以テ通過スルコトハ固ヨリ何等ノ疑ノナイ所デアリマス
ルガ、併ナガラ此普通ノ政治問題、又ハ法律問題ト異リマ
シテ、只今鶴澤委員長カラ深切丁寧ナル御說明ガアリマシ
タヤウニ、陪審問題ハ實ニ此國家百年ノ長計ニ關スルモノデ
アッテ、吾々ハ單ニ目前ノ一時ノ弊害ヲ矯正スル所ノ對症
的ノ考ヲ去ッテ、根本的ニ後世子孫ノ爲ニ永遠無窮ノ禍福
利害ヲ慮ッテ、之ヲ決定シナケレバナラナイノデアリマス、而シ
テ只今鵜澤委員長ノ言ハレマシタ通リニ、歐羅巴諸國ニ於
テモ、此陪審制度ノ弊害ニ非常ニ苦ンデ、多數ノ實際家、學
者ハ之ニ對シテ非常ナル反對ヲ表シテ居ル事實ガアルデ
我國ニ於キマシテモ、此賛成スルト賛成セザルトヲ問ハズ苟
モ實際ニ關係ノアル所ノ法律家ト云フモノハ陪審制度ノ
實際ノ結果ニ付テハ、前途一種ノ不安ナリ危惧ナリヲ、多
少感ジテ居ラナイ者ハ恐ラクアルマイト考ヘマス、而シテ此大
阪地方裁判所ノ所屬辯護士會ニ於キマシテハ、一昨年ノ
一月ニ總會ヲ開キマシテ、陪審制度ハ我國ニ採用スベカラ
ズト云フ決議ヲ致シテ居ルノデアリマス、斯ル次第デアリマ
スカラシテ、私ハ此議場ノ形勢ガ可決セラルヽコト判然タル
ニ拘ラズ、事態ノ甚ダ重大ナルニ鑑ミ、此演壇ヨリ反對ノ意
見、而モ此法曹界ニ於テ最モ有力ナル團體タル大阪辯護
士會ノ有スル所ノ反對ノ意見ヲ發表致シマシテ、直接ニハ
諸君ノ御參考ノ萬々一ニモ供シタイ、又間接ニハ廣ク國民
ニ向ッテ、只今鵜澤委員長ノ御報告ニナリマシタ陪審ノ可
ナル所以ト、サウシテ私ノ口ヲ藉リテ出ズル所ノ陪審ノ非ナ
ル所以、此利害雙方ヲ能ク聽分ケテ、サウシテ今後此陪審
ノ運用ニ參加シテ貰ヒタイト云フ考カラ、私ガ比演壇ニ立ッ
テ諸君ニ暫時御〓〓ヲ〓フト云フコトハ、私ノ重大ナル義
務ノ一ツデアラウト考ヘテ居リマス(拍手)先ヅ多少理窟ノ
ヤウニ涉リマスガ、第一ニ只今鵜澤委員長ノ御述ニナリマ
シタ如ク、陪審ノ議論ト云フモノハ矢張「デモクラシー」ニ其
根本ノ基礎ヲ置クノデアリマス、政治上ニ民意ヲ代表スル
爲ニ、各種ノ議會ヲ設ケルノデアルカラ、司法上ニモ矢張民
意ヲ代表スル爲ニ、陪審ト云フ所ノ代表機關ヲ設ケルノハ當
然デアル、大切ナル裁判ヲ單ニ官吏ノミニ一任スルト云フコ
トハ、是ハ甚ダ專制デアルト云フ議論デアリマス、此議論ニ
ハ私モ一種ノ敬意ヲ表シマス、謹聽ハ致シマス、併ナガラ「
步退イテ考へマスレバ、凡ン此少數ノ權力階級ガ、自由ニ
裁判官ヲ任命シ、自由ニ裁判官ヲ驅使シ、己ノ欲スル通リ
ノ裁判ヲ爲サシメ因テ以テ生殺與奪ノ重大ナル權利ヲ、自
己ノ掌中ニ握ルト云フ事ニ於テ、初テ其裁判ガ專制的デア
ルト云フコトガ言ヘルノデアリマス、我國ノ維新前、玆ニ歐
羅巴ニ於ケル十八世紀マデノ狀態ハ卽チ此通リデアル、併
ナガラ今日ハ我國ニ於テハ決シテ然ラズ、判事ノ資格ハ法
律ガ限定致スノデゴザイマス、憲法ハ諸君御承知ノヤウニ、
文武諸官吏ノ任免ト云フモノヲ、少シモ法律ニハ委ネテ居
ラナイ、特ニ栽判官ニ限ッテハ憲法ハ特別ノ規定ヲ以テ、全
然法律ニ其資格ノ決定ヲ一任致シテ居ルノデアリマス、故
ニ此裁判官ノ資格ト云フモノガ惡イ、今日ノ裁判官ガ一般
民衆-國民ノ氣ニ入ル所ノ裁判官ニ乏シイト云フコトデ
アレバ、是ハ其資格ノ定メ方ガ惡イカラデアル、諸君ハ此憲
法ノ與ヘタル所ノ權利ニ依ッテ、國民ノ意思ニ從シテ、此資
格ヲ變ヘテ、國民ノ期待ニ副フダケノ裁判官ノ資格ヲ定メ
テ、國民ノ希望ニ副フ栽判官ヲドシ〓〓栽判所ニ送リ込ム
コトガ出來ルノデアリマス、而シテ此法律ハ裁判官ノ資格ヲ
定ムルト同時ニ、一旦其資格ガ定クテ、裁判官トナリマシタ
以上ト云フモノハ、何人モ自由ニ之ヲ黜陟スルコトガ出來
ナイ、其裁判官ハ終身官タル擔保ヲ受ケテ居ルノデアリマ
ス、而モ此裁判官ガ裁判ヲスルノハ自己ノ知識ナリ、經驗
ナリ、良心ナリノ命ズル所ニ從フノデアッテ、國家ノ如何ナル
權力モ一指ダモ之ニ觸ルヽコトハ許サレナイノデアリマス、
故ニ此組織ノ上、此系統ノ上カラ中シマスレバ、今日ノ裁
判ハ專制的トハ正反對デアル、而モ此判事ノ資格ヲ定ムル
ニハ、誰ガ定メルノデアルカ、卽チ國民ノ代表者タル所ノ諸
君ガ、法律ヲ以テ之ヲ定メルノデアリマス、諸君ノ制定シタ
ル所ノ法律ニ從ッテ任命セラレタル判事ハ、諸君ノ制定シタ
ル所ノ手續ニ從ヒ、諸君ノ制定シタル所ノ法律ヲ適用スル
ノデアリマス、國民ノ意思ト云フモノハ系統ノ上ニ於テハ、
總テ完全ニ司法ノ運用ノ上ニ現レテ居ルノデアル、若シ其
間ニ不完全ナルモノアリトスレバンレハ法律ノ規定任用ノ
資格ノ定メ方ガ惡イト云フコトニ歸著スルノデス、故ニ必シ
モ總テノ國民ヲ直接ニ裁判官トシ、六千万ノ人民ガ直接ニ
裁判ヲシナケレバ、裁判ガ「デモクラシー」デナイト云フコトハ
決シテ言ヘナイ、此ニ至シテ私ハ諸君ニ申上ゲナケレバナラナ
イ、言葉ノ不穩當デアルコトハ、ドウカ御寛恕ヲ願ヒタウゴザ
イマス、是等ノ理窟ヲ棚ノ上ニ上ゲテ置イテ、籤ヲ抽イテ定
メタ所ノ十二人ノ陪審員ヲ法廷ニ列ベテ、然リ若クハ然ラ
ズ、鵜澤委員長ノ御報告ニアリマシタヤウニ、陪審ノ答ハ如
何ニモ重大ニシテ、如何ナル複雜ナル所ノ事件ニ付テモ、恰
モ病氣ニ罹ッテ機嫌ガ惡イ子供ガ、母親ノ尋ニ答ヘルヤウニ、
然リ若クハ然ラズ、頸ヲ縱ニ振ルカ橫ニ振ルカノ唯此一言
ノ返答デス、此一言ノ返答ヲ聽イテ、其通リ裁判シナケレバ
ソレガ「デモクラシー」デハナイ、民意ヲ代表スルモノデハナイ
ト云フ理窟ハ、是ハ何處カラ出テ來ルノデゴザイマセウ(拍
手)凡ン民意ヲ代表スルト云フコトハデス、總テ衆望ヲ荷ヒ、
多數ノ民衆カラ選出セラレタル一事ニ依シテ、吾々ガ之ヲ理
解スルコトガ出來ルノデアル、所謂代表、所謂民意、所謂參
政權ノ行使、是等ノ事ト云フモノハデス、總テ此多數人民
ノ信任、卽チ選擧ト云フコトヲ基礎トスルノデアリマス、選
擧ナクンバ民意ナシ、民意ナクンバ「デモクラシー」ナシ、寔ニ
明白ナル所ノ理由デアル、抽籤ニ依ヲテ小兒ノ戯ニモ劣ッタ
ル所ノ銭ヲ抽クト云フ、其籤ニ當ッタト云フコトニ依ッテ、唯
訟廷ニ立列ンデ居ル所ノ十二人ノ陪審員ガ、抑、何ノ權利
ガアッテ、吾ハ國民ヲ代表スル、我聲ハ卽チ國民ノ聲デアルト
云フコトヲ主張スルノ權利ガアリマセウカ(拍手)諸君、此一
地方裁判所ニ於ケル陪審員ノ數ハ、私ハ正確ナコトハ申上
ゲルコトガ出來マセヌガ、恐ラク少クトモ一万人、二万人、多
ケレバ二十万人、三十万人ト云フ人間ガアリマセウ、此多
數ノ人間ノ中ニハ、固ヨリ智者モアレバ愚者モアル、賢者モ
アレバ或ハ惡人モアル、其智愚賢不肖ヲ問ハズシテ、其人ノ
善惡邪正ヲ問ハズシテ、唯錢ニ當ノタダケノ人間ヲ訟廷ニ列
ハイト是デ民意ノ代表ガ出來ル、人民ノ意思ヲ司法ニ實行
ガ出來ルト言フナラバ、諸君、世ノ中ニ代議政體程簡便ナ
事ハアリマセヌ、四百六十本ノ籤ガアレバ立ドコロニ選擧モ
要ラズ、運動モ要ラズ、衆議院ノ構成ガ出來ルヂヤアリマセ
ヌカ、故ニ私ハ此點ニ於テ、單ニ「デモクラシー」ト云フモノヲ
基礎トシテ、陪審ヲ肯定スルノ甚ダ不合理ナルヲ信ズルノデ
アリマス、ソレカラ第二ニ陪審ノ必要ヲ人權擁護ノ上ニ据
エルコトデアル、今日法官タル者ハ濫ニ人ヲ訊問シ、或ハ家
宅搜索ヲ爲シ、或ハ未決勾留ヲ爲シテ、人權ヲ蹂躪スル惡
弊ガアル、此惡弊ハ人民ヲ司法ニ參與セシメタ後ニ於テ、初
テ之ヲ防止スルコトガ出來ルノデアッテ、官吏ノミニ一任スレ
到底惡弊ガ絕エルコトガナイ、卽チ陪審ハ人權蹂躪防
止ノ最モ有力ナル方法デアルト云フ說デアリマス、此說モ成
程尤ナコトヽシテ之ニ對シテ敬意ヲ表スルケレドモ、併ナガ
ラ此議論モ其內容ハ甚ダ私ハ貧弱デアラウト考ヘル、何ト
ナレバ諸君ノ御承知ノヤウニ、成程事實ニ於テ人權蹂躪ノ
弊ハ吾々モ認ムル所デアッテ、之ヲ防止スベキ方策ニ付テハ、
諸君ト其感ヲ同ジウスル者デアリマスケレドモ、是等ノ人權
蹂躪ノ行爲ト云フモノハ悉ク公判前ニ表ハレルノデアリマ
ス、公判前殊ニ檢事若クハ司法警察官ノ處分ノ上ニ、人權
蹂躪ト云フ惡弊ガ表ハレルノデアリマス、進ンデ豫審判事ト
ナルト、人權蹂躪ノ非難ガ甚ダ少ナイ、更ニ進ンテ公判ニ移
レバ、公開シテ辯設人ヲ付ケテ審判ヲスルノデアリマスカラ、
今日マデ人權蹂躪ノ非難ヲ公判廷ニ於テ現出ヨシタト云
フコトハ私ハ聞キマセヌ、斯ノ如キ次第デアリマスカラ、若シ
モ此陪審ト云フモノヲ檢事ノ搜査處分ニ付シ、或ハ豫審處
分ニ付スルト云フコトデアレバ、依テ以テ人權蹂躪ノ防止ト
云フコトガ出來マスケレドモ、豫審ニ付セズ、搜査ニ付セズ、
而モ人權蹂躪ノ何等非難モナク、嫌疑モナク、虞モナイ所ノ
公判ニ付スルノデス、人權蹂躪ニ何ノ關係モナク、人權蹂
蹣ハ諸君ノ御協賛ニナリマシタ刑事訴訟ノ改正ニ依ッテ、
其大部分ハ殆ド防止ハ出來ルダラウト考ヘル、又足ラザル
所ハ此手續ヲ改良シテ、依テ以テ人權蹂躪ノ防止ヲスベキ
モノデアル、陪審ノ設置ニ依ラネバ人權蹂躪防止ノ目的ヲ
達スルコトガ出來ナイト云フコトハ、恰モ大阪ニ行カント欲
シテ上野ノ「ステーシヨン」ニ駈付ケルト同樣デアル、其問ニ
何等ノ關係、何等ノ交渉ノナイト云フコトハ、諸君ガ實際ノ
手續ヲ御承知ニナッテ居ル御方ニハ、私ハ恐ラク異議ノアル
マイコトデアラウト考へル(「ノウ〓〓」)尙ホ茲ニ一言致シマ
スルノハ、陪審法ノ規定ハ私ノ考ヲ以テスレバ、或ハ寧口此
人權蹂躪ノ問題ヲ大キクスルヤウナ事ガアルカト一云フコトヲ
憂ヘル、何トナレバ人權蹂躪ハ悉ク被告ニ自白ヲ强イント
欲スル所カラ出テ來ルノデアリマス、而シテ陪審法ハ被告ノ
自白ト云フコトニ重キヲ置イテ居ル、被告ガ自白ヲスレバ陪
審ヲ付ケナイ、自白ヲシナイ場合ニ陪審ヲ付ケル、斯樣ニ陪
審ヲ被告ノ自白スルト否トニ掛ケテ居ルノデアルカラ、檢事
司法警察官ハ勢ヒ從來ヨリハ尙ホ一層力ヲ盡シテ被告ニ
自白ヲ强ユルト云フコトニ熱中スルコトハ、是ハ事實ノ當然
デアル、隨テ此機會ニ於テ人權蹂躪ガ行ハルヽ懸念ガ生ズ
ルコトハ、吾々ハ是ハ當然デアラウト考ヘルノデアリマス、ソレ
カラ第三ニハ私ハ此陪審ト云フモノハ、司法ノ根本的ノ性
質ト矛盾シテ居ルモノデアラウト私ハ考ヘル、此政治ハ多數
人民ノ一般的ノ支配デアリマシテ、總テノ國民ガ其利害問
題二付テ一人モ殘ラズ共同一致スルコトハ出來マセヌカ
ラ、已ムヲ得ズ政治ノ方針ト云フモノハ、多數人民ノ希望
ヲ取ッテ、之ヲ標準トシテ他ノ少數者ニ强制スルト云フコ
トニ於テ、此一般的支配ノ特質ヲ表ハスノデアリマス、故
ニ政治ニ於テ多數ノ民意ヲ知ル爲ニ、議會ヲ設ケ多數ノ
民意ヲ代表セシムルト云フコトハ、是ハ當然デアリマスルガ、
併シ此司法ハ之ニ反シテ、決シテ少數ニ對シテ多數ノ希望
ヲ强ユルト云フ特質ハ持ッテ居ラナイ、司法ハ唯單ニ其委ネ
ラレタル所ノ一個ノ特別ノ事件ニ付テ、其眞實ヲ發見シ、是
レノ正否ヲ確實ニスルト云フコトガ、司法ノ唯一無二ノ目的
デアリマス、此故ニ國民皆曰ク、彼ハ有罪デアル、然レドモ判
事ガ無罪ト證スレバ、無罪ノ宣告ヲシナケレバナラム、國民
皆彼ヲ無罪トシテモ、判事カ有罪ト思料スレバ、有罪ノ宣
告ヲシナケレバナラナイ、是ハデスナ、單ニ此裁判ト云フモノ
ガ、總テ絕對ノ眞實及誠意ト云フモノヲ唯一ノ目的トシテ
居ルノデアッテ、判事ハ自己ノ良心ノミニ從ッテ判斷スベク、良
心ノ判斷ヲ外ニ置イテ、單ニ多數ノ意見ニ盲從スベシト云
フ所ノ性質ガ無イカラ、斯樣ナ結論ガ出テ來ルノデアル、此
故ニ此政治家ト云フモノハ、國民ト云フ海ニ浮ベル船ト同
ジコトデアッテ、常ニ潮流風位ヲ測定シテ、之ニ順應シテ進
退去就ヲ決シナケレバナラヌガ、司法ハデス、是ハ決シテ浪ノ
マニ〓〓動イテハナラナイ、寧ロ波ニ逆ノテ如何ナル狂瀾怒
濤ニモ屹トシテ動カザル所ノ巖石ノ如クナラナケレバナラナ
イト云フコトニ於テ、初テ司法ノ威嚴ト云フモノハ認メルコト
ガ出來ル、初テ此司法ニ對シテ吾々ノ貴重ナル身體生命ノ
自由、竝ニ財產ヲ委託スルコトガ出來ルノデアリマス、故ニ
今日ノ陪審法ニ於テハ甚ダ不完全デゴザイマスケレドモ、陪
審ガ民意ヲ代表セシメテ、其代表セラレタ民意ノ上ニ基礎
ヲ置クト云フコトハ、若モ後日漸次徹底的ニ實現セラレテ、
理想的ニナルモノト致シマシダナラバデス、總テ民意ハ政治
上ニ於ケルト同一ノ程度ヲ以テ、同一ノ比例ヲ以テ司法上ニ
モ代表セラルヽモノト見ナケレバナラナイコトハ明カナ話デア
リマス、大キナ人格ト云フ點カラ言ヘバ、民意ト云フモノハ
政治上ノ議會ニ於テ代表セラルヽト同ジ分量同ジ比例ニ
於テ、司法上ノ裁判所ニ於テモ代表セラルヽト見ルト云フコ
トハ、是ハ勢ノ免ルベカラザル所デアリマス、若シ果シテ斯ノ
如キニ至ッタナラバ、卽チ陪審法ノ理想ト云フモノガ、民意
代表ト云フコトガ完全ニ實現セラルル曉ニ至ッタナラバデス、
恐ラクハ裁判所ノ裁判ハ、議會ノ懲罰問題ノ栽判ト恐ラク
ハ同一ノ非難ヲ受クベキ所ノ結果ニ立至リハセヌカ、是レ私ノ
甚ダ憂フル所デアリマス、吾々ハ決シテ今日ノ狀態ヲ基礎ト
シテ申シマセヌ、又今日ノ議會ニ對シテ申ス譯デハアリマセ
ヌガ、物ノ强弱ノ狀態ニ於テ、今日榮ヘルモノモ明日衰へ、今
日衰ヘル者モ明日ハ榮ユルコトモアル、政治上ノ多數、民心
ノ强弱ト云フモノハ一盛一衰ガアルノデアリマスカラシテ、
此政治上ノ一盛一衰ト云フコトガ、直接ニ司法上ノ問題ニ
及ンデ來テ、少數者ハ常ニ虐待セラレ、多數者ハ常ニ歡迎セ
ラルヽト云フ有樣ヲ來スハ、是ハ實ニ國家ノ根ヲ動搖スル
所ノ由々シキ問題デアラヴト私ハ密ニ憂フルノデアリマス、ン
レカラ第四ニ私ハ一言申上ゲタイノハ、陪審ガ歐洲ノ大部
分ニ行ハレテ居ルコトハ事實デアリマスガ、併シ如何ニ世界
全國ノ共同一致ノ制度デアリマシテモ、之ヲ我國ニ採用ス
ルニハ、其民情風俗ノ如何ヲ顧慮シテ、之ニ適合スルモノデ
ナケレバ、斷然採用スルコトノ出來ナイノハ、固ヨリ論ヲ俟タ
ズシテ明カナ話デアリマス、デ陪審ハ初テ佛國ノ大革命ニ依
テ、歐羅巴ノ大陸ニ英吉利カラ輸入セラレタモノデアル、革
命前ニ於キマシテハ、佛蘭西ハ王室專制デアリマシテ、王ノ
名代人タル檢事ガ其ノ横暴ナル權力ヲ揮ヒ、判事ハ其爪牙
トナッテ民刑ニ對シテ盛ニ壓制ノ栽判ヲ致シテ居ッタノデア
リマスカラ、十八世紀ノ法學者ガ、英國特有ノ此陪審制度
ヲ非常ニ讃美致シマシテ、之ヲ以テ理想的ノ良制度トシタ
爲ニ、大革命ノ際ニ密口是等ハ佛蘭西ニ輸入セラレタモノ
デゴザイマス、而シテ此大革命ノ餘波ヲ受ケタル所ノ各國モ、
相導デ革命ヲ爲シ、革命ト共ニ相尋デ此陪審制度ヲ採用
シタト云フコトハ、是亦歷史ニ甚ダ明ナル所デアル、故ニ今
日此陪審ト云フモノガ弊害ナシニ行ハレテ居ルノハ、私ガ先
輩カラ聞ク所ニ依レバ、唯英國一箇國ノミデアリマス、英國
ハ卽チ陪審制度ノ本家本元デゴザイマシテサウシテ其國
俗ガ法官ニ對シテ極度ノ尊敬ト信賴トヲ拂ッテ居ル、此故
ニ陪審官ガ殆ド一トシテ此法官ノ〓示ニ背ク事ハナイ、
ニモ二ニモ法官ニ服從シ、法官ノ意嚮ノ間ニ〓〓評議決定
スルノデアリマスカラ、名ハ陪審ト稱シテモ-名ハ陪審官ガ
裁判スルト言ウテモ、其實ハ法官一人ノ裁判デアル、故ニ英
國ニ於テハ陪審ニ於テ特ニ指摘スベキ弊害ナシ、斯樣ナコ
トニ相成ッテ居ル、是ハ司法省ニ於テ飜譯シテ配付セラレタ
所ノ私ガ昨日頂戴シタ參考書ニモ其趣旨ハ立派ニ載ッテ
居ルノデアル、佛蘭西ニ於テハ非常ナ弊害ガアル、獨逸ニ於
テモ非常ナ弊害ガアル、獨逸ニ於テハ、千九百二年ニ刑事
訴訟法、裁判所構成法ノ改正委員會ヲ設ケテ、其委員會
ガ數年ヲ經テ決定シタル結果ニ依レバ、陪審ハ將來ニ存續
スベキモノニ非ズト云フコトニナッテ居ルノデアル、墺地利モ
同然デアル、是等ノ諸國ニ於テハ陪審ノ弊ニ實際家ハ懲リ
懲リ致シテ居ルノデアリマスケレドモ、多年憲法上ノ權利ト
シテ行ハレ來ッタモノデアルカラ、一朝ニシテ之ヲ剝奪スルコ
トガ出來ナイト云フ、此政略上ノ理由カラシテ陪審ノ廢止
ト云フコトニ躊躇シテ、唯此陪審ヲ改造シテ、將來ハ往ク
往ク之ヲ三審制度卽チ常職判事ノ外ニ、通常ノ人民カラ
責任アル裁判官ノ位置ニ就テ、總テ責任アル裁判ヲ爲サシ
ムルト云フ、此三審制度ニ向ヲテ漸時進ンデ行ク所ノ方針ヲ
採ッテ居ルノデアリマス、故ニ我國ニ於キマシテハ、幸ニ歐羅
巴大陸諸國ノヤウニ、是迄ノ因襲ニ囚ハレナイ、又歷史ノ拘
束ト云フモノヲ受ケナイ、自由自在ニ良イ制度ヲ選擇スルコ
トガ出來ルノデアリマス、故ニ今日若シ此官僚裁判、今日ノ
組織ノ裁判ガ官僚的ニ失シテ不都合デアルト言フノナレバ、
私ガ前ニ申シマシタヤウニ、此憲法ノ規定スル所ニ依シテ、判
事ノ任命資格ヲ改正スレバ宜イヂヤゴザイマセヌカ、判事ヲ
官僚的ニスルノモ、民衆的ニスルノモ、平民的ニスルノモ、是
ハ皆諸君ノ自由ニ定ノ得ル所デアル、判事ノ資格ニ付テ憲法
ト云フモノハ決シテ法律ノ作用ヲ制限シテ居ラナイ、議員ノ
如ク一定ノ社會ノ信用ヲ得、一定ノ信賴ヲ持ヲテ、サウシテ
社會的ニ勢力ヲ持ッテ居ルト云フコトヲ一ツノ資格條件ニ
スルト云フコトモ是ハ固ヨリ憲法ノ禁ズル所デハナイノデス
若シモ裁判ヲ民衆化スル、平民化スルト云フ諸君ノ意思ニ
シテ、サウシテ諸君ガ此意思ノ徹底ニ躊躇スルナクンバ、何
ゾ此方針ニ向ッテ御進ミニナラナイノデアリマスカ、デ此三審
制度ト云フモノガ、獨墺ニ於テ非常ナル好成績ヲ收メテ居
ルト云フコトハ、先〓ノ紹介ニ於テ何人モ知ッテ居ル所デア
ル、此新ナル三審制度ニ向ッテ進マズシテ、歐羅巴諸國ニ於
テ持餘シテ居ル所ノ、棄テルニ棄テラレナイ所ノ無用ノ長物タ
ル陪審法ヲ、其儘日本ニ輸入スルト云フコトハ、甚ダ思慮ノ
足ラナイモノデアラウト私ハ考ヘル、ソレデ陪審制度ガナケレ
バ、日本ノ國辱ニナルト云フヤウナ議論モナキニシモアラズデ
ゴザイマスケレドモ、是ハ事實ガ其然ラザルヲ證明致シテ居
リマス、諸君モ御承知ノヤウニ、日本ニ於テハ治外法權ノ撤
去ト云フコトニ非常ニ苦ンデ來テ、治外法權ヲ撤去スルニ
於テ、外國人ハ色〓ノ注文ヲ日本ニ發シテ、裁判官ヲ養成
シナサイ、法典ヲ實施ナサイ、監獄ヲ改良ナサイト云フ注文
ノ爲ニ、日本ハ二十年間全力ヲ擧ゲテ之ニ努力シタノデア
リマスガ、併ナガラ西洋人ハ嘗テ此陪審制度ヲ實施ナサイ
ト云フ注文ハシナイ、陪審制度ヲ實施セヌ栽判ハ官僚的デ
アッテ、安ンジテ自分ノ生命財產ヲ依託スルコトハ出來ナイ
陪審制度ヲ實施セザル司法制度ハ、是ハ不完全デアルトニム
フコトハ、一言モ言ハナイノデアリマス、西洋人自身ハ其本
國ニ於テ、旣ニ陪審制度ニ非常ニ苦ンデ居ルカラ、陪審無
キノ故ヲ以テ、其國ノ司法制度ノ缺點トシテ居ラナイ、此事
ハ最モ是ハ明カデアリマス、今日支那ニ於ケルアノ治外法
權ノ制度ニ付テモ同ジ事デス、其撤去ノ要求ヲスルヤ、日本
ヲ初トシテ、各國何レモ色々ノ注文ハ致シマスケレドモ、司
法制度ガ完備スルヤ否ヤヲ、此陪審制度ノ存在スルヤ否ヤ
ニ係ケタ所ノ國ト云フモノハ、未ダ一箇國モナイノデアリマス
此故ニ此陪審制度ガ有ルト無イト云フコトハ、決シテ此文
明國ノ汚點ニモナラナケレバ、缺點ニモナラナイト云フコトガ
此事實ガ私ハ證明シテ居ルト考ヘマス、私ハ此機會ニ於テ
陪審ノ弊害ヲ實際的ニ證明スル爲メ一二ノ例ヲ申上ゲル
コトヲ御許ヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレハ總テ〓日ノ社會的
科學ノ〓究ト云フモノハ物ノ現實性、卽チ「リアリテイー」ト
云フモノガ、今日ノ科學ノ特色デアリマス、單ニ空疎ナル理
論ノミデ、制度文物ノ改廢ヲ期スベキモノデナイト云フコト
ハ明カデアリマスカラ、私ハ甚ダ偕越デアリマスケレドモ、狹
隘ナル知識ノ中カラ二三ノ例ヲ申上ゲテ、如何ナル弊害ガ
アルカト云フコトヲ、一班ニ依シテ全豹ヲ推測スルコトヲ諸
君ニ御願ヒ致シタイト思フノデアリマス、デ甚ダ陳腐ナル例
デアリマスゲレドモ、佛國ニ於ケル最モ顯著ナル弊害トシテ、
總テノ〓科書ニ書カレテ居ルノハ卽チ決鬪ノ裁判デアリマ
ス、決鬪ハ詰リ正義ヲ劍ノ尖先ニ置クノデアッテ、野蠻ノ遺
習デアルト云フコトハ識者ノ常ニ唱ヘテ居ル所デアル、而シ
テ佛蘭西ノ刑法ニ於キマシテモ、千八百三十七年ノ六月
二十一日、有名ナル大審院ノ判例ガアリマシテ、之ニ依ッテ
立派ニ犯罪トシテ罰スルノデアル、故ニ決闘ヲシテ相手方ヲ
殺ス、檢事ハ是ハ殺人罪トシテ重罪裁判所ニ起訴スル、重
罪裁判所ノ陪審ハ故ナクシテ之ヲ無罪トスル、若シ殺サズ
シテ單ニ相手方ヲ傷ケル、檢事ハ之ヲ傷害罪トシテ輕罪裁
判所ニ起訴スル、輕罪裁判所ハ陪審ガナイ故ニ、判事ハ法
律ノ精神ニ從ッテ之ヲ有罪トスル、罪重クシテ人ヲ殺セバ
無罪トナリ、罪輕クシテ人ヲ傷ケレバ有罪トナル、不權
衡是ヨリ甚ノキハナイ(「ヒヤ〓〓」)此ニ於テ、檢事モ一切ノ
決闘罪ニ對シテ起訴ヲ見合ハスヤウニナリマシテ、人ヲ
傷ケ人ヲ殺ス決鬪罪ト云フモノガ、其後ニ於テハ白晝公行
スルコト犬ノ咬合ヒ、鷄ノ蹴合ト相異ラナイノデアリマス、此事
ガ餘リ甚シキニ至ラザルト云フコトハ唯是ハ文化ノ力デアリマス
斯樣ナ白晝殺傷行爲ヲシテ、其殺傷行爲ヲ國法ガ禁ズル
コトガ出來ナクシテ、偏ニ文化ノ力ニ待ツ、是ハ私ハ國法ノ
恥辱デアルト確信スルノデアリマス、又著シキ例ヲ擧ゲマス
レバ、嬰兒殺「エシフアンシイド」ト云フ初生兒ヲ殺ス罪ガア
ル、生レタ子供、墮胎トハ違フノデアリマス、立派ナ人間ヲ殺
シテシマフ、此嬰兒殺ハ普通ノ立派ナ謀殺又ハ故殺罪デア
リマスケレドモ、佛蘭西ノ法律ハ特ニ產婦ノ事情ヲ斟酌ヲ
致シマシテ、普通ノ殺人罪ヨリハ減刑シテ、重キトキハ無期
懲役輕キトキハ有期懲役ニ處スルト云フ規定ニナッテ居ル
ノデアリマス、然ルニ實際ハ如何デアルカ、初生兒ヲ殺ス、之
ヲ重罪裁判所ニ起訴スル、私ハ子供ヲ殺シマシタ、併ナガラ
是ハ貧苦ノ爲デアリマス、陪審員曰ク無罪、私モ子ヲ殺シマ
シタ、私ハ不義ノ子デアリマシテ、世間ニ面目ナイカラ殺シマ
シタ、嫁入ノ邪魔ニナルカラ殺シマシタ、陪審員曰ク無罪、此
嬰兒殺ト云フ人殺ノ犯罪ガ、今日モ明日モ是ハ重罪裁判
所デ悉ク無罪ニナッテ居リマス、單ニ之ガ斯樣ナ一ツノ犯罪
ノミデハゴザイマセヌ、他ニ多數アルノデアル、之ニ聞聯シテ
申上グレバ、婦人ニ對スル女ニ對スル、所ノ犯罪ト云フモノ
ハ、其統計ニ於テ百分ノ六十ガ豫審ヲ經タル事件ハ無罪ニ
ナルノデアル、而モ其中デ女ガ人ヲ殺スト云フ罪、就中此男
ヲ殺スト云フ罪ハ悉ク是ハ無罪デアル、殆ド是ハ例外ナシニ
無罪ト云ウテ宜イト云フコトハ、先輩ガ-其事情ニ通ジテ
居ル先輩ガ擧ゲテ、吾々ニ語ル所デアリマス、諸君モ御承知
ノヤウニ、先年日本ノ新聞ニ迄電報ガアッテヤカマシカッタ「マ
ダム、カイヨー」ノ人殺事件ノ如キ、矢張無罪デアッタ、ダカラ
シテ此男子ヲ殺スヤウナ罪ハ、婦人ハ其後顯ノ憂ガナクシテ
犯スコトガ出來ルノデアル、唯男子ヲ殺シタ場合ニ幾分カノ
間、未決勾留ヲ受ケルト云フコトガ、唯一ノ制裁デアルト云
フガ如キ有樣ニナッテ居ルノデアリマス、佛國ニ於ケル陪審ノ
實際ノ有樣ガ此通リデゴザイマスカラ、私ハ決シテ諸君ノ司
法改善ノ意ニ反對スルノデモナケレバ、其精神ニ反對スルノ
デモナイ、反對スル爲ノ反對ノ意思ハ毛頭ゴザイマセヌケレ
ドモデス、此佛國ニ於ケル所ノ、或ハ伊太利ニ於ケル所ノ拉
丁民族ノ性格ト云フモノト、日本人ノ性格ト云フモノハ極
テ相近似シテ居ルト云フ點カラ見レバ、恐ラクハ是ハ日本ニ
實施シタ後ニモ、佛國ノ如キ或ハ伊國ニ於ケル所ノ拉丁民
族ノ國ノ弊害ト、同ジ弊害ヲ日本ニ現實シハスマイカト云
フコトヲ私ハ衷心カラ憂フルノデアリマス、ソレデ此頃ハデス、
產兒制限論デ有名ナル「サンガー」夫人ガ來朝スルト云フ事
ニ付テ、政府ハ非常ニ頭ヲ御惱シニナッテ、殆ド一箇月間上
陸ヲ許可スルカ許可シナイカト云フコトヲ御考慮ニナッテ居
ル、洵ニ之ハ愼重ナルヤリ方デアル、然ルニ此嬰兒殺、或ハ男
子殺ノ此事件ヲ擧ゲテ無罪ニシテ、殆ド之ヲ公許スルガ如
キ履歴ノ付イテ居ル陪審制度ヲ容易ク我國ニ上陸セシメ
テ、十日ノ間ニ衆議院ヲ通過シテ、確定議トシヤウト云フ此
事ハ、私ハ政府ノヤリ方ハ、一面ニハ餘リ小膽デアッテ、一面
ニハ餘リ大膽デアルト考ヘマス、ソレカラ第五ニハ私ハ此陪
審ノ存在ハ、此裁判ノ存在ト兩立スベカラザル不合理ノ性
質ヲ持ヲテ居ルト云フ事ヲ申上グテ置キタイ、總テ此事實ノ
判斷ト云フモノハ、自己良心ノ滿足スベキ證據ヲ十分ニ取
調ベテ、良心ノ得心ヲ得タ上デナケレバ出來ナイト云フコト
ハ明カデアリマス、而シテ陪審ハ本法ノ規定スル所ニ依リマ
シテモ、證據調ヲスルノ權利ヲ持テテ居ラナイ、唯法廷ニ現レ
タル所ノ被告人及證人ニ向ッテ、萩判長ニ告ゲテ問ヲ發ス
ルダケデアリマス、其他ニ總テノ必要ナル證據調、此證據調
ヲ自カラ請求スルコトハ許サレテ居ラナイ、自ラ決定スルコ
トハ無論許サレテ居ラナイ、其裁判ニ付テ意見ヲ述ブルコト
モ許サレテ居ラナイ、全然證據調ニハ陪審員ハ無關係既ニ
諸君モ十二分ニ御承知ノ如ク裁判ト云フ上ニ於テ、百聞
ハ一見ニ如カズト云フ彼ノ實地檢證ノ場合、法廷內デ取
返シノ出來ナイ-補充ノ出來ナイ唯一ノ檢證ヲスル場合
ニモ、陪審員ハ之ニ立會スルコトガ出來ナイ、斯ノ如クニシ
テ自己ノ良心ノ滿足スベキ、良心ノ確信ヲ得ベキ證據調ヲ
スルコトノ出來ナイ陪審員ニ、汝ハ此事件ノ判斷ヲ爲スベ
シ、證據調ヲスル判事ニハ、汝ハ判斷ヲ爲スベカラズ、斯ノ如
キ制度ト云フモノハ是ハ冷靜ニ私ハ御聽取ヲ願ヒタイ思ヒ
マスルガ、全ク是ハ心證ト云フモノト、判斷ト云フモノヲ二ツ
ニ分ケルノデス、心證ト判斷トヲ二ツニ分ケテ如何ニシテ物
ノ現實、物ノ眞實ト云フコトガ發見スルコトガ出來ルノデア
リマセウカ、恰モ之ハ陪審員ニ向ッテ正確ナル事實ノ判斷ヲ
求ムルト云フコトハ、盲ニ物ヲ見ヨト命ズルト同ジデアル、ソ
レダケノ權利ガ與ヘラレテ居ラナイ、故ニ陪審ノ判斷ガ往々
ニシテ盲滅法ノ當推量ニナル、之ハ數ノ免カル可カラザル所
デアラウト私ハ考ヘル、故ニ歐羅巴諸國ニ於ケル立法例ト
同ジク、我ガ此陪審法ニ於キマシテモ、第八十八條ニ於テ
先刻申上ゲマシタヤウニ、陪審ノ判斷ト云フモノハ、然リ、或
ハ然ラズトノ規定デ十分デアル、是レ以上ニ事由ヲ附スルコ
トヲ許サナイ、理由ヲ附スベカラズト云フコトノ規定ニナッテ
居ルノデアリマス、併ナガラ吾々ガ冷靜ニ考ヘマスト、吾々ノ
身體、生命、財產、是等ヲ處分スルノ權利、卽チ生殺與奪ノ
權利、地上ニ於テ是レ以上人間ニ取シテ重要ナル所ノ問題
ハナイ、其最重大ノ問題ヲ何等ノ理由ヲ示サズシテ、自由ニ
之ヲ生殺與奪スルコトガ出來ルト云フ事柄ハ、實ニ私ハ責
任ト云フモノヽ親念ニ對シテ、雨立スベカラザル制度デアル
ト考ヘル、理由ヲ附セザル栽判ハ卽チ闇黑ノ裁判デアリマス、
闇黑ト云フコトハデス、或ハ曾迫、或ハ請託、或ハ情實、或ハ
愛憎、或ハ賄賂、有ユル惡德ト云フモノヽ伏在スル所ノ伏魔
殿デアル、此間黑ノ栽判ガ英吉利ニ於テ甚シキ弊害ヲ現サ
ナイト云フコトハ、是ハ畢竟此「サクソン」人種ノ性格ノ然ラ
シメル所デアル、訓練ノ然ラシメル所デアル、此闇黑ノ栽判
ガ旣ニ英吉利カラ一步海ヲ渡シテ佛蘭西ニ行キ、獨逸ニ行
ケバ、是ハ重大ニシテ殆ド國人ノ堪ヘ忍ブ事ノ出來ナイヤウ
ナ弊害ヲ現シテ居ルノデアリマス、有名ナル心理學者、社會
學者ノ「ギユスターブ、ルポン」ト云フ人ハ、民族心理ニ付テノ
書物ヲ著シテ總テ同一ノ制度デモ、同一ノ思想デモ「サクソ
ン」ト拉丁ト兩民族ノ間ニ全ク異シタ方面ニ效果ヲ發生シ、
現象ヲ發生スル、所謂此江南ノ橋ガ江北ニ行ッテ枳トナル、
民族ニ從ッテ其心理ニ從ッテ、全ク同ジ物ガ別々ニナルト云
フコトヲ極論シテ居ル、陪審ハ卽チ其一例デアリマス、私ハ
英、佛兩國民ノ相隔ツルコリハ、我國ト英吉利ノ國民ノ人
情、風俗、歷史、習慣、性格ト云フモノハ、更ニ百倍、千倍ノ
隔リガ多イト云フコトニ著目スル、而シテ此英、佛兩國ノ間
ニ於テモ陪審制度ガ斯ノ如キ相違ノアル結果ヲ發生シテ
居ル、然ラバ之ヲ我國ニ移シ來ッテ、サウシテ鵜澤委員長ノ
申サレマシタヤウニ、英吉利ニ於ケル完全ナル效果ト同一ノ
美果ヲ我國ニ牧メント致スモノデアルト云フコトヲ論斷スル
ノハ蓋シ私ハ餘リ大膽ニ失シテ居ナイカト云フコトヲ心配
スルノデアリマス、尙ホ今日ハ總テ祕密ト云フコトヲ斥ケル、
内治ニ、外交ニ、行政ニ、立法ニ、總テ暗黑ヲ排シ、祕密ヲ斥
ケル今日ノ世ノ中デアル、此世ノ中ニ於テ、人ノ身體、生命
財產ヲ與奪スル所ノ此大切ナル司法裁判ニ、單リ理由ヲ
付セザル祕密ノ裁判、暗黑ノ栽判ヲ許容スルト云フコトハ、
私ハ申シ過ギテハゴザイマセウケレドモ、自分ノ心ノ中デハ
斯ル陪審制度ノ存在ハ、全ク歷史ノ隋力ニ於テ西洋ニ存
在スルニ過ギナイ、寧ロ其存在ハニ十世紀文化ノ恥辱
デアルト考ヘルノデアリマス、歴史ノ隋力ガアレバ、如何ナ
ル事デモ人ガ注意セズニ通スト云フコトハ、亞米利加ニ於
テ「リンチ」ガ存在スレバ、「リンチ」ヲ公行シテ憚ラナイノト
少シモ異ル所ガナイト思フノデアリマス、此機會ニ於テ、私
ハ陪審ノ不合理カラ生ズル一例トシテ、鵜澤委員長ノ舉
グラレマシタ陪審ニ對スル無原因ノ忌避權ニ付テ一言
シタイ、若シモ此陪審ト云フモノガ民意ヲ代表スルモノ
デアッタナラバ、原因無シニ之ヲ忌避スルコトガ出來ルトハ
何事デアリマスカ、何等ノ原因ヲ示サズシテ忌避スルコトノ
主張ハ、私ハ容レルコトハ出來ヌ、而シテ此無原因ノ忌避
權ト云フコトガ、如何ナル方面ニ依ッテ利用サレテ居ルカ、西
洋ニ於テハ吾々先輩ノ說ニ聞ク所ニ依リマスレバ、總テ無
原因ノ忌避權ト云フモノハ、被告人ニ依ッテ常ニ害用許リサ
レテ居ル總テ〓育ノアリサウナ、物ノ分リサウナ人間ハ、片端
カラ忌避シテ行ク、成べク御人好シノ、大キナ聲デ言ヘバ本
當ニスルヤウナ人間ヲ定メテ置イテ、其陪審員ニ對シテ隨
分無責任千萬ナル議論ヲスル、斯ノ如クシテ被告人ノ爲ニ
萬一ヲ僥倖スルト云フ弊害ガアル、此弊害ガ歐羅巴ニ於テ
顯著デアルト云フコトハ蓋シ諸君モ十二分ニ御承知ノ事
ト考ヘマス、現ニ巴里ニ於ケル重罪裁判所ノ公判デ、第
流ノ立派ナル辯護士ガ、陪審員ニ對シテ陪審員諸君ハ證
憑ノ十分ナル、サウシテ犯罪ノ責任ノ顯著ナル事件ニ對シ
テモ、無罪ノ判決ノ言渡ガ出來ナイト云フ筈ハナイ、諸君ハ
每日婦人ニ對スル嬰兒壓殺等ニ付テ、無罪ノ判決ヲシテ
居ルデハナイカ、陪審員諸君ハ可哀相ト思ヘバ、本件ニ對シ
テ無罪ノ判決ヲシナサイ、斯樣ナ趣旨ノ無責任千万ナル辯
論ヲシタコトヲ私ハ書物ノ上デ讀ンダコトガアリマス、是等
ハ畢免西洋ニ行ハルヽ所デアッテ、我國ニ於テモ是ト同一ノ
弊害ヲ生ズルト云フコトハ、固ヨリ斷言シ能ハザル所デアリ
マスケレドモ、併ナガラ此兩民族ノ性格ノ相似タル點カラ考
ヘレバ、是ト同時ニ斯樣ナル弊害ガ我國ニ斷ジテ生ジナイト
云フコトヲ、何人ガ保證シ得ル者ガゴザイマセウ、ソレカラ第
六トシテ、私ハ陪審ト云フモノハ、極テ公衆心理ニ動カサレ
易キ最大ノ危險性ヲ帶ビテ居ル、而シテ此危險性ハ司法ノ
威信ヲ失墜セシムル所ノ最モ惡質ナルモノデアルト云フ意
見ヲ一言申上ゲデ置キタイノデアリマス、今日ハ所謂「プロ
パカンダ」ノ世ノ中デアリマシテ、ドンナ事デモ善カレ惡カレ
總テ之ヲ世一宣傳ヲ致シマシテ、多數ノ力ヲ以テ其目的ヲ
貫徹セントスル傾向ガ、追と顯著ニナッテ參リマス、而シテ人
ノ動作ヲ決定セシムル所ノ心理ニハ、御承知ノヤウニ個人
心裡ガアル、共同心裡ガアル個人トシテ冷靜ニ考フレバ誠
ニ馬鹿々々シクシテ、何故ニアヽ云フ事ヲシタカ譯ノ分ラヌ
事モ、共同心裡デ動カサレル場合ニハ譯モナク興奮シテ、之
ヲ實行スルモノデアリマス、而シテ此共同心理ハ、人ガ密集
スレバ所謂群衆心理ニナリ、散在スレバ所謂公衆心理ニナッ
テ來ル、共ニ個人的ノ思考ヲ離レタ、判斷ヲ離レタ妄斷ニ
出デシムルコトハ同一デアリマス、野蠻時代ニハ密集シテ談
話ヲ交換スルノ外、宣傳ノ機會ガアリマセヌカラ、群衆心理
アッテ公衆心理無シ、然レドモ追と〓育ノ進ムニ從ヒマシテ、
新聞、雜誌、印刷物、總テノ方法ニ依ッテ、最モ廣ク、最モ多
ク自己ノ思想ヲ宣傳スルト云フ、卽チ公衆心理ヲ煽動スル
ト云フコトノ爭ヒガ增加シテ參ルノハ今日ノ勢ヒデアリマ
ス、假ニ今重大被告トシテノ刑事事件ガ起ルトシテ、サウシテ
此被告人ニ對スル保護者或ハ反對者ト云フモノガ、全力ヲ
盡シテ被告人ノ利益或ハ不利益ノ爲メ、盛ニ宣傳スルト云
フコトヲ假定致シマス、此場合ニ於テ、此宣傳ガ陪審ニ對ス
ル影響ニ想ヒ到ッタナラバ吾々ハ實ニ寒心ニ堪ヘヌノデア
ル、斯樣ナ場合ニ於テ、新聞、雜誌、其他ノ宣傳ト云フモノ
ガ何トナク判事ノ四圍ノ空氣ヲ重カラシメ、判事ノ自由ナ
ル處分ヲ何トナク困難ナラシムル氣配アリト云フコトハ實
際ノ事實デアル、故ニ例ヘバ玆ニ或ル一地方ニ於テ、非常ナ
暴威ヲ揮ウテ居ル一人ノ親分ガアルト假定シテ、其被告事
件ガ起リマシタトキハ、常職ノ判事デアレバ、自己ノ終身ノ
名譽、自己ノ終身ノ榮辱、自己ノ終身ノ禍福ガ之ニ繫ノテ
居ルノデアルカラ、總テノモノヲ賭シ、總テノモノヲ犠牲トシ
テモ、斷然タル自信ノ許ス栽判ヲスルデアリマセウケレドモ、
陪審ハ其日限リ、其場限リデアルカラ、其陪審ガ果シテ四
圍ノ壓迫ニ抵抗シテ、自己ノ總テノ危險ヲ犯シテ、斷然タル
判決ヲ下シ得ルカ、下シ得ナイカト云フコトハ、是ハ非常ニ
考慮スベキモノデアルト思フ、斯ウ云フ場合ニハ他ニ裁判管
轄ヲ移ス規定モアリマスガ、ソレハ今日マデ嘗テ實行シタコ
トガナイ、是ハ特別非常ナ場合デアッテ、其栽判管轄ヲ移シ
テモ、脅威ノ手ハ直ニ新ナル管轄ニ向ッテ及ブコトヲ禁ズル
コトハ出來ナイノデアリマス、無論此陪審法ニ於テ、斯ウ云
フ外部カラ陪審員ノ心裡ヲ攪亂スル危險ヲ慮ッテ、裁判ノ
言渡マデハ陪審員ニ歸宅ヲ禁ジテ、一切外部トノ交涉關
係ヲ禁止致シテ居リマスケレドモ、是ハ公判ノ宣告マデヽ、
公判開廷前ニ宣傳威壓ト云フコトハ、是ハ如何トモスルコ
トガ出來ナイノデアリマス(「簡單」ト呼フ者アリ)ドウカ暫ク
御謹聽ヲ願ヒタイ(「謹聽」ト呼フ者アリ)私ハ愚論取ルニ足
ラナイコトデゴザイマセウケレドモ、多年自分ノ確信スル所デ
アッテ、正心誠意國益ノ爲ニ一般民衆ニ此陪審ノ利弊ヲ諒
解シテ戴ク爲ニ申上ゲテ置クノデアリマスカラ、ドウカ暫ク
反對論ニ對スル所ノ憎惡ノ感情ヲ去ッテ、御耳ヲ藉シテ下
サルヤウニ御願ヒ致シマス、私ハ此機會ニ於キマシテ、双ノ
物ノ實際ヲ申上ゲル趣旨ニ於キマシテ、物ノ現實ヲ明カニ
スル趣旨ニ於キマシテ、更ニ一ツノ例ヲ私ハ中上ゲタイ、是
ハ近代ニ於ケル所ノ大事件デアッテ、其判決ガ全世界ヲ驚
倒セシメタル所ノ「ラウールビレン」ト云フ者ノ佛國ニ於ケル
事件ガアル、諸君モ御承知ノヤウニ千九百十四年ノ七月
三十一日ニ、此「ビレン」ト云フ者ガ有名ナル佛國ノ社會黨
ノ領袖ノ「チヤンジヨーレー」ヲバ珈琲店、所謂「カフエー」ニ
於テ食事中ニ暗殺シタ事件ガアリマス、此「ジヨーレー」ト云
フ人ヲ「ラウールビレン」ト云フ靑年ガ賣國者ナリト誤信ヲ
致シマシテ、二日間此人ヲ附狙ウテ、二挺ノ拳銃ヲ懷ロニシ
テ、遂ニ珈琲店ニ於キマシテ其目的ヲ達シタノデアリマス、此
事件ハ證據ガ明瞭デアッテ、犯人ガ其場ニ於テ捕へラレタ、
其時ニ自分ハ此「ジヨーレー」ヲ暗殺シタル事ニ依ッテ、國賊
ヲ掃攘シタノデアル、此暗殺ニ依ッテ自分ハ滿足ト名譽トヲ
感ズルト云フコトヲ公言致シテ、豫審ニ於テモ言ヒ、公判ニ
於テモ言ウテ居ル、而シテ四名ノ鑑定人、専門ノ醫者ハ殆
ド一年半ニ亙シテ詳細ナル鑑定ヲ致シマシテ、此犯人ハ犯
罪ノ前ニ於キマシテモ、犯罪ノ時ニ於キマシテモ、犯罪ノ後
ニ於キマシテモ、共ニ精神ニ異狀ガ無イト云フコトニ確定致
シタ、而シテ此「ラウールビレン」ノ判決ノアル所ノ千九百十
九年三月二十九日ヨリ一二週前ニ於テ、時ノ宰相デ威權
赫々タル「クレマンソー」ニ對シテ暗殺ヲシテ遂ゲナカッタ所ノ
「エミールコテン」ト云フ無政府黨員ガアッテ、此「クレマン
ソー」ニ對シテ八日ノ疾病ニ至ルダケノ輕イ傷ヲ負ハセタ、此
人間ハ死刑ニ處セラレタ、然ルニ此有名ナル「ジヨーレー」ハ
社會黨員デハアリマスケレドモ、其學力ト云ヒ、其雄辯ト云
ヒ、其人格ト云ヒ、壓史上實ニ類ヒ稀ナル所ノ大人物ヲ誤
解ニ依ッテ殺シタ、此「ラウールビレン」是ハ無論死刑ニナルコ
トデアラウト何人モ疑ハナカッタ、故ニ「ジヨーレー」氏ノ遺族
カラ裁判所ニ對シテ、ドウカ酌量減刑ニテ輕キ刑罰ニ處シ
テ吳レト云フコトヲ嘆願シタ、檢事モ同ジ意見デアル、辯護
人モ殆ド同ジ意見デアルガ、唯辯護人ノ一人ノミガ此陪審
ニ對シテ、諸君ハ何者ヲモ無罪ニスル權力ヲ持ッテ居ル、諸
君ガ今日此法廷ニ於テ御考ニナルベキコトハ、被告人ガ國
家ノ爲ニ殺シタモノデアルカ、自己ノ利益ノ爲ニ、殺シタモノ
デアルカ、此二ツノ問題ヨリ外ナイ、是ダケヲ諸君ガ御考ニ
ナレバ宜シイ、若シモ國家ノ爲メデアッテ利慾ノ爲メデナイト
スレバ國家ハ被告人ニ對シテ無罪ノ判決ヲスルコトガ諸
君ノ義務デアル、是ダケノ事デアリマス、之ニ對シテ卽日ニ
圖ラザリキ陪審ガ無罪ノ判決ヲ下シテ居ル、蓋シ此陪審ガ
「ジヨーレー」氏ガ社會黨ノ首領タリシコトヲ憎ミ、「ジヨー
レー」氏ガ社會勞働運動ニ多大ノ援助ヲシタト云フ事ヲ憎
ミ寧ロ「ビレン」ガ「ジヨーレー」ヲ暗殺シタル事ヲバ衷心快シト
シテ、欣然トシテ此辯護人ノ暴論ニ應ジテ、卽日無罪ヲ言渡
シタノデアリマス、斯ノ如クドウモ世ノ中ニ立派ナル所ノ政治家、
一面カラ言ヘバ士志仁人ヲ殺ス行爲ヲ所謂此屠牛場デ牛
ヲ殺ス行爲ト同視ヲシテ、之ヲ不問ニ付シテ顯ミナイ、私ハ世
道人心ノ爲ニ實ニ恐ルベキ所ノ弊害ヲ生ジハシナイカ、之ヲ怖
ルヽノデアリマス、ソレデ此結果ガ如何ト言ヒマスルト、此無罪
ノ意外ナル判決ト云フモノハ、單ニ全世界ヲ驚カシタルノミナラ
ズ佛國ノ政界ニ於テ非常ナル大動搖ヲ來シタノデアリマス、
總テノ社會黨員卽チ勞働黨員、大戰ノ時ハ最モ忠實ニ働イ
タ所ノ此勞働黨員、社會黨員ノ憤懣ト云フモノハ極度ニ
達シテ、此無罪ノ判決ハ卽チ所謂「プルジヨワジー」ノ陪審、
所謂「クラス」ノ陪審、階級的資產家的陪審ガ、吾々社會黨
竝ニ勞働黨ニ對スル宣戰デアルト云フコトヲ公言ヲ致シマ
シタ、越エテ四日ニ宣戰ヲシタ所ノ敵對的ノ「ブルジヨワ
ジー」ノ陪審ニ對スル所ノ大々的ノ示威運動ガ始リマシテ、會
スル者ガ四十万人、歷史有リテヨリ以來ノ最モ多數ノ盛大
ナル示威運動ヲ致シマシテ、慷慨激烈ナル告文ヲ公ケニシ
テ、之ニ依ッテ本國ニ於ケル「ブルジヨワジー」階級ニ對シテ、
反感ヲ煽ッタノデアリマス、是ヨリ後勞働黨、社會黨ノ運動
ガ頓ニ惡化シテ激烈トナッテ、佛國ノ政府ハ遂ニ已ムヲ得ズ
「クーデター」ヲ使用シテ解散ヲ命ジテ、其首領株ヲ一網打
盡ニ牧監ヲシテ、以テ漸クニ一時ノ小康ヲ得タノデアリマス、
是ハ決シテ押切レルモノデナイ、此陪審ノ弊害ト云フモノハ、
斯ノ如ク吾々ガ最モ危險トシテ甚ダ恐レテ居ル階級的ノ
思想、階級的ノ憎惡心ヲ火ヲ點ケテ團扇デ煽ルヤウニ煽ツ
テ行クモノデアリマス、他年佛國ガ是等ノ社會黨員、勞働
黨員ノ暴動ニ依ッテ、大革命ノ慘禍ヲ再ビ受クルコトガアッ
タナラバ、私ハ大部分ノ責任ハ不完全ナル民意ヲ代表セザ
ル陪審ニ在ルト云フコトヲ、私ハ斷言スルノデアリマス、ソレ
デ私ハ其次ニ一言致シテ置キタイノハ、私ニ對シテ君ノ議
論ハ餘リ極端デアル、成程陪審ガ不當ノ判決ヲスルコトガ
アルガ、ソレハ恐ラクハ十中ノ一二ニ過ギナイ、此十中ノ一
二ニ過ギナイ不當ナル判決ヲ取ッテ、其全體ヲ攻撃スルト云
フコトハ、餘リ極端デアルト云フ議論ガ出ルダラウト思ヒマ
スガ、併シ是モ尤ニ違ヒナイ、其通リデゴザイマセウ、悉ク陪
審ノ判決ヲ吾々ハ不當ナリト申シマセヌ、併ナガラ今日ノ所
謂官僚裁判、之ガ百ガ百マデ悉ク不當デアルノデハナイ、此
不當ナル裁判ハ百中一二ニ過ギヌノデハゴザイマセヌカ、舊
幕時代ノ拷問裁判ト雖モ、拷問ニ依ッテ口供結案ヲ作ル、
口供結案ニ依シテ栽判ヲスル、此舊幕時代ノ裁判デモ、其
不當ナル犯罪者ヲ罰スルト云フコトハ、恐ラクハ百中ノ二
三ニ過ギナイト思フ、百中二三ニ此缺點ガアルガ爲ニ吾々
ハアノ制度ガ惡イ、此制度ガ惡弊ガアルト言ッテ論議スルノ
デアリマス、陪審制度ガ既ニ此顯著ナル有名ナル事件ニ付
テ、今迄斯ノ如ク容ス可ラザル所ノ缺點アル以上ハ、故ラニ
好ンデ之ヲ今日我國ニ多大ノ經費ヲ投ジテ、闇雲ニ輸入ス
ル必要ハアルマイト私ハ考ヘマス、ソレカラ其次ニ陪審ノ裁判
ハ絕對ニ栽判官ヲ拘束シナイ、不當ナル場合ハ裁判官ハ更
ニ他ノ陪審ヲ選定シテ、其評決ニ付スルコトガ出來ルヂヤナ
イカト云フ所ノ議論モアルノデアリマス、是モ御尤デアル、陪
審ノ弊害ハ此點ニ付テ幾分ガ矯正スルコトガ出來ル、併ナ
ガラ諸君若シ此理論ガ陪審制度ノ缺點ヲ宥恕スル原因ト
ナレバ、吾々ハ第二審ハドウデモ良イ、上告審ガアルカラ、第
二審ノ判事ハドウ云フ判事デモ宜シイ、第二審ガアルカラ、
第一審ハドウ云フ判事デモ宜シイ、大臣ガ確カリシテ居レバ
次官ハドウ云フ人物デモ良イ、次官ガ確カリシテ居レバ局
長ハドウ云フ人物デモ良イト云フガ如キ理論モ、矢張容サ
ナケレバナラヌ、ダカラシテ、陪審制度ノ善惡可否ト云フコト
ハ總テ此陪審ノ弊害ヲ矯正シ得ベキ所裁判長ノ特別-非
常ナル否認權ト云フモノヲ眼中ニ置カズシテ、陪審ノレ自
體二付テ徐ニ之ヲ〓究シナケレバナラナイノデアリマス、最
終ニ私ハ尙ホ諸君ノ御許ヲ得テ、モウ一ツ實例ヲ引クコト
ヲ御許可ヲ願ヒタイト思ヒマス-モウ長クハアリマセヌ
(「謹聽」)歴史上ニ於ケル有名ナル裁判上ノ空前絕後ノ出
來事ハ、諸君ノ御承知ノヤウニ佛國大革命ノ際ニ於ケル路
易十六世ノ審判事件デアリマス、是ハ革命政府ノ民約議
會ニ於テ、數百人ノ代議士ガ悉ク自ラ裁判官トナッテ、サウシ
テ有名ナル佛國ノ法典ヲ編纂シタル「マルセルブ」「ドロンセ
ー」「ドゼーヌ」是等三名ノ辯護士ノ辯論ノ下ニ、諸君ノ理想ト
セラルヽ所ノ方法トシテ、直接國民ノ裁判ヲ開イタノデアリ
マス、此場合ニ於テ直接國民ノ裁判-代議士ノ栽判ト
云フモノガ其中ノ過激派ノ-最モ激越ナル過激派ノ跋
扈スル所トナリ、控制スル所トナッテ、悉ク之ニ盲従致シマシ
テ、之ガ爲ニ「ドセース」等ノ最モ熱誠溢ルヽガ如キ所ノ冷
靜ノ辯論ヲ悉ク斥ケテシマッテ、一言ノ反證モ許サズシテ、善
良ナル路易十六世ニ對シテ、直ニ死刑ノ宣告ヲシタノデア
リマス、百世ノ下、吾々歷史ヲ讀ム者ハ實ニ此頁ニ至ッテ卷
ヲ掩ウテ流涕セザルヲ得ナイヤウナ殘忍冷酷ノ判決ヲ下シ
タデハアリマセヌカ、此故ニ單ニ此議會ノ多數ノ政治ト、政
治上ノ事實トヲ之ヲ同一視シテ、單ニ多數ノ民意ヲ以テ標
準トスルモノガ至上ノ裁判デアルト云フコトニナレバ、司法
ノ根本タル所ノ眞實正義ト云フコトヲ眼中ニ置カナイ結果
ト云フモノハ、實ニ私ハ他日吾々竝ニ諸君、皆様ノ頭ノ上
ニ恐ルベキ弊害トナッテ落下シ來ルコトヲ惧ルヽ者デアリマ
ス、總テノ是等ノ事情ヲ綜合シテ私ガ考ヘマスレバ、司法ト
政治トハ全ク別物デアル、司法ノ絕對無比ノ標準タル所ノ
眞實ト云フモノ、正義ト云フモノハ、單リ老練ニシテ嚴正ナ
ル所ノ判事ガ、深思精考ノ結果ニ成リタル所ノ判斷ニ依リ
之ヲ求ムルコトガ出來ルノデアリマス、決シテ此多數ノ心理、
群衆若クハ公衆ノ心理ニ動カサレテ、多數ノ顏色ヲ見テヤ
ルト云フガ如キ、多數決ノ所謂民意代表ノ機關ニ於テ之ヲ
求ムルコトガ出來ナイト云フコトモ、私共確信スルノデアリ
マス、現ニ最近ニ於テ千九百十九年四月一日ノ「プラブダ」
ト云フ新聞紙上ニ「ヂユケルト」〓授ノ質問ニ答ヘテ、露國
ノ「レーニン」ハドウ言ッタ「レーニン」ハ極テ黨派心ノ旺盛ナ、
執著心ノ最モ鞏固ナル人デアリマスケレドモ、此人ガ「ヂユケ
ルト」〓授ノ質問ニ答ヘテ、露國ニ於ケル革命裁判所ノ裁
判ハ最モ誠實ニシテ公平ナル、サウシテ總デノ黨派ニ關係ヲ
持タナイ、〓育ノ高イ人士ノ能力ニ俟タナケレバ、其目的ヲ
達スルコトガ出來ヌト言ッテ居ル、總テ「ソビエット」政府ニ依ツ
テ露國ヲ構成シタル「レーニン」ハ、栽判官ダケハドウシテモ
一切ノ黨派ニ關係ノナイ人間、サウシテ高等〓育ノアル人
間ガヤラナケレバナラヌト云フコトヲ「レーニン」ハ言ッテ居ル
ノデアル、諸君ハ今日我國ニ於ケル政黨ト云フモノガ、西洋
ニ於ケル政黨トハ甚シク其根本ノ形體ヲ異ニシテ居ルト云
フコトヲ御考ヲ願ヒタイ、我國ノ政黨ハ政治家ノ團結デ
ハナイ、政治家ノ〓結以外ニ、政治家ニ非ザル所ノ總テノ
人民ヲ勸誘シテ政黨ニ入レテ居ル、之ガ黨勢擴張デアル、所
謂宣傳デアル、日本ノ國民ニ大約二種アル、曰ク政友會ノ
系統ノ國民、曰ク憲政會ノ系統ノ國民、之ニ副ウテ國民黨
ノ系統ノ國民、總テノ人民ヲ悉ク平素カラ黨籍ヲ拵へ、之
ニ登錄シテ權兵衛ハ國民黨デアル、八兵衞ハ政友會デアル
又ハ憲政會デアル、此樣ニ人民ヲ色別ヲシテ居ルノデアル、
故ニ市會ニ於テモ村會ニ於テモ、甚シキニ至ッテハ、純乎タル
經濟本體タル所ノ銀行、會社ニ於テモ、各政黨孰レモ勢力
ヲ爭ウテ、互ニ排擠シテ居ルト云フコトハ、諸君ノ熟知セラ
ルヽ所デハアリマセヌカ、斯ノ如キ狀態ノ下ニ陪審ヲ施カウ
ト云フコトハ、恐ラク此陪審ガ諸君ノ理想ノ通リニ漸次完
全ニ進ムニ從ッテ、彼ノ拉丁民族ノ伊太利或ハ佛蘭西ヨリ
ハ、更ニ五倍、六倍、十倍スル所ノ弊害ヲ呈シハシナイカト
云フコトヲ、今日カラ私ハ非常ニ心配シテ居ルノデアリマス、
私ノ信ズル所ハ此通リデアル、定テ私ノ述ベタ所ニ粗漏杜
撰ガアッテ、事實ノ誤謬モ澤山アリマセウ、或ハ理窟ノ誤謬
モ澤山アリマセウガ、私ハ唯諸君ガ全部吾々ノ此熱誠ノ意
思ノ在ル所ヲ諒トシテ、之ヲ取捨選擇シ、万一ノ御參考ニ
供シテ下サイマシタナラバ、私ノ最モ光榮トスル所デアリマス、
諸君ノ努力ニ依ッテ此陪審ガ我國ニ行ハレルト云フコトハ、
是ハ唯單ニ一時ノ問題デアリマセヌ、願クハ諸君ガ十二分
ニ御注意ニナッテ、此陪審ヲシテ我國ニ行ハレテ、美果ヲ收
メルコト英國ノ如クデアッタナラバ私ハ今日此演說ガ極テ
先見ノ明ガナカッタコトヲ立證スルモノデアリマスカラ、卽チ
私ノ不幸デ國民ノ幸デアル、ドウカ諸君ハ黨派心ヲ去リ、反
對論ニ對スル憎惡心ヲ去ッテ、正心誠意ニ愼重ニ熟考ヲ遂
グラレテ、若シモ諸君ノ意思ガ囘轉スルコトガ出來ナカッタナ
ラバ、願クハ十二分ノ注意ヲ其實行ノ上ニ用井テ、斯ノ如キ
憂慮スベキ弊害ヲ生ジナイヤウニ努力セラレンコトヲ、謹デ
私ハ諸君ニ御願スルノデアリマス、終リニ臨デ私ノ詰ラナイ
此辯論ノ爲ニ、長時間諸君ノ貴重ナル時間ヲ割愛セラレタ
ルコトヲ謹ンデ謝スル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=30
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031・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 原夫次郞君
〔原夫次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=31
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032・原夫次郎
○原夫次郞君 本員ハ只今議題ト相成リマシタル陪審法
案ニ付テ賛成ノ意見ヲ開陳セントスル者デゴザイマス、申ス
マデモナク此陪審制度ノ是非、若クハ利害關係等ニ付テハ
從來多年ノ間、朝野ニ論議セラレタ問題デアルノデアリマス
又去ル明治四十三年、卽チ第二十六囘帝國議會ニ於キマ
シテ、本院ニ於テ建議案トシテ論議セラレ、審査ヲセラレ
タ其建議案ガ、大多數ヲ以テ通過シタ歴史ガアルノデゴザ
イマス、爾來法曹社會ニ於キマシテモ、又政治社會ニ於キマ
シテモ、十分ニ論議セラレタ問題デゴザイマスガ一昨年ニ於
テ勇斷果決ノ原前首相ニ依リマシテ、此朝野ノ論議ガ段々
ニ具體化シテ參リ、原前首相ノ熱烈ナル提唱ニ依リ、遂ニ
法案ノ具體化トナリ、幾多ノ審査機關ノ審議ヲ經テ終ニ今
日玆ニ委員會ヲ通過シ、本會議ノ議題トナッテ論議セラレ
シコトハ、本員等轉夕回顧ノ情ニ堪ヘナイモノガアルノデゴ
ザイマス、遮莫此陪審制度ニ付テハ、從來世ノ論者ハ或ハ
主トシテ、此問題ニ付キマシテ、政治論ヲ以テ之ガ根據ト爲
シ、或ハ或ル論者ハ單純ナル法律論トシテ、モトシテ法律問
題トシテ取扱ッテ論議シ來ッタノデアリマスルガ、政治論ト致
シマシテ、從來論ゼラレタ所ハ、多少雜駁ノ點ガナイデモナイ
ト思ハレルノデアリマス、又法律論ノ側カラ論ゼラレル議論
ト致シマシテハ、餘リニ大局ヲ閑却致シマシテ、極テ微細ナル
點ニ向ッテノミ著眼シテ、本末ノ大局ヲ〓倒シタル議論モアッ
タノデアリマス(ノー〓〓)本員等ノ考ヘル所ニ依リマスト、ド
ウシテモ此陪審制度ハ其出發點ヲ政論ニ置カナケレバナラ
ヌト思フノデアリマス、次デ來ルベキ問題ハ純然タル法律問
題ノ見地カラ之ヲ論及シナケレバナラヌ問題デアルト思フノ
デアリマス、卽チ陪審制度ハ是ハ施設ト致シマシテハ、法律
的施設若クハ司法的ノ施設デアリマスケレドモ、同時ニ政
治的施設ノ最モ大ナルモノデアルト思フノデアリマス、卽チ
此政治的施設ガ司法的施設ト相俟シテ、憲政有終ノ美ヲ
濟スベキモノデアルト思フノデアリマス、故ニ本員ガ以下述
ブル所ノモノハ、先ヅ此政論ノ上カラ立論致シマシテ、次デ
純然タル法律論ニ依シテ、此制度ノ根抵ヲ論究セントスルノ
デアリマス、實ハ只今斯クマデ詳論スルコトヲ欲シナカッタノ
デアリマスガ、先程圖ラズモ上畠君ノ絕體反對ノ詳密ナル
意見ノ開陳ガアリマシタノデ、木員ハ同君ノ後ヲ承ケテ此
演壇ニ立チマシタ以上、勢ヒ政論竝ニ法律論ノ兩點カラ此
制度ガ我國ニ必要デアル所以ヲ力說セネバナラヌコトニ立
至リ、ドウシテモ此二論點ニ俟タナケレバナラヌ、羽目トナッタ
ノデゴザイマス、抑〓陪審制度ガ今日萬國的裁判制度ト化
了シ、又世界各國共ニ陪審制度ナルモノハ憲法政治ノ後ニ
追隨致シマシテ、何レノ憲法政治ノ國家ニ於キマシテモ、此
陪審制度ヲ伴ハナイ國家ハナイノデアリマスガ、何ガ故ニ斯
ノ如キ陪審制度ト立憲政治トガ相密著シ、相追隨スルモノ
デアルカ、是ハドウシテモ政論ノ側カラ、此陪審制度ヲ立論
シナケレバナラヌ點デゴザイマス、我國ニ於キマシテ、申ス迄モ
無ク憲法政治が施カレテカラ、地方自治制度ヲ設ケテアリ
マス、故ニ唯、一ツ殘ッテ居ル問題ハ、此陪審制度、卽チ司
法權ニ國民ノ參與ヲ許サナイト云フ點ダケガ殘ノテ居ルノデ
ゴザイマス、從來此點ヲ論ズル者ハ唯憲法政治ノ後ニ此陪
審制度ヲ設ケナイコトハ、國民ノ參政權ト釣合ガ取レナイノ
デアルト云フ議論ダケニ止ッテ居ルノデアリマスガ、私ハ今何
ガ故ニ立法府ニ國民ノ參與ヲ許シ、地方自治制度ニ地方
民ノ參與ヲ許シ、而シテ我ガ國民ヲシテ國家ノ裁判ニ參與
スルコトヲ爲サシメナイカト云フ理由ニ向ッテ、簡單ニ其所見
ヲ述べヤウト思フノデアリマス、言フマデモナク此陪審制度ノ
起原ハ、是マデ諸君ノ論ゼラレマシタ通リ英國デアリマス、英
國ノ憲法政治ノ後ヲ承ケ、憲法政治カラ此陪審制度ヲ産
ンダノデゴザイマス、次デ佛蘭西革命ノ後ヲ承ケマシテ、先程
鵜澤委員長カラ申サレタ如ク「ナポレオン」一世ニ依リマシ
テ英吉利ノ此陪審制度ヲ佛蘭西ニ移植シ、次デ獨逸ガ此
佛蘭西ノ陪審制度ヲ模做シテ、段々歐米各國ニ傳播シ歐
米各國ノ思想界ノ怒濤狂瀾ニ乘ジテ、殆ド先程申上ゲマシ
タル如ク、憲法政治ノ國家ニアリマシテ陪審制度ヲ布カナ
イ所ノ國家ハ殆ドナイト云ッテ宜イ位ニ猛烈ニ此制度ガ採
用セラレタノデアリマス、吾々議員ガ此立法權ニ參政致シテ
居リマシテ、此議會ガ豫算權ノ議定、決算ニ依ル審査、其
他議員ノ質問權、政府ニ對スル彈劾權、是等ノ權限ヲ認メ
テアリマスルガ爲メ、吾々立法府ニ列スル者ハ、否、吾々立法
府ハ行政權ト司法權ヲ監督シテ居ルノデゴザイマス、卽チ
吾々立法府ハ行政權ト司法權ニ對スル監督權ヲ有シテ居
ルノデゴザイマスル、此監督權ノ行使ハ當然ニ行政各部ニ
向ッテ、若クハ國家ノ司法權ニ向ッテ、吾々ガ議定シタル所ノ
法律ガ如何ニ執行セラレツヽアルカト云フコトヲ、常ニ監督
スル權能ヲ有シテ居ルモノト見ナケレバナラヌモノデゴザイマ
スル、彼ノ十八世紀ニ於キマシテ、世界各國ヲ風靡シタ所ノ
彼ノ「モンデスキユー」ノ三權分立論ノ如キハ、今日ニ於キマ
シテハ政論家間ニ大ニ非難攻擊ヲ致シテ居ル點ガアルノデ
ゴザイマスルガ、ソレハ彼ノ三權分立論ニ依リマスルト云フ
ト、國家ノ統治權ガ分レテ三ツトナリ、各自對立ヲ致シテ居
ルト云フ議論デアリマスルケレドモ、今日國法學者ノ論難ス
ル所ノモノハ然ラズシテ、立法權ト法律執行ノ權力ヲ持ッテ
居ル行政司法ノ兩權ヲ合セタモノガ、立法府ニ對立スルモ
ノデアルト、斯ウ云フ議論ガ有力デアリマスルガ如ク、卽チ立
法府デ法律ヲ作リマシタナラバ、行政司法ノ府ニ於キマシテ
其法律ヲ執行スル任ニ當ッテ居ルノデアリマス、行政權ト云
ヒ司法權ト申シマシテモ孰レモ、法律執行ノ府デアルノデゴ
ザイマスルガ、其法律執行權ニ任ズル行政權ト司法權ナル
モノハ、卽チ唯行政權ト司法權トノ對立問題ダケデアリマシ
テ、之ヲ以テ司法權ガ立法府ニ對立シ、若クハ行政府ガ立
法府ニ對立スルト云フヤウナ議論デハナイノデアリマス、斯ノ
如ク觀察致シマシタナラバ一旦法律ガ出來、其法律執行ノ
任ニ當ル所ノ行政權、竝ニ司法權ニ於キマシテ、如何ニ法
律ガ執行セラレテ居ルカ、例ヘバ行政府ニ在リマシテハ、人
民ニ對スル機宜ノ處置ヲ執ルコトニ付テハ如何ニソレガ行
ハレテ居ルカト云フコトヲ監督シナケレバナラナイ、又司法
權ニ於キマシテハ、如何ニ此法律ガ運用セラルベキモノデア
ルカ、卽チ法律ハ如何ニ栽判官ニ依シテ活用セラレテ居ルカ
ト云フ點ニ向ッテハ、ドウシテモ吾々國民ガ協力シテ吾々國
民ノ參與權ヲ認メナケレバ、立憲政治ノ下ニ在リマシテハ未
ダ十分デアルト云フコトハ言ヒ得ラレナイノデゴザイマス、此
意味ヲ以チマシテ、卽チ國家ノ法律執行權ニ吾々國民ガ參
與スルト云フコトハ、司法管〓ノ下ニ於キマシテ、其地方地
方ノ人民ガ、法律ノ規定ニ基イテ、ソレ〓〓選出セラレタ所
ノ者ガ、裁判ニ參與シテ、裁判官ノ法律適用ノ前ニ事實ニ
關スル評議ノ權限ヲ持ツノデアリマス、我ガ陪審法案ニ於キ
マシテハ、歐羅巴各國ノソレト異リマシテ、總テ事實ノ側ノ
認定ニ付テハ、陪審員ノ全權ヲ有シナイ事ニナッテ居ルノデ
アリマスルガ、是ハ我國現在議題ニナッテ居ル法案ノ特徴デ
アリマシテ、此特徵ニ付キマシテハ、從來本會議竝ニ委員會
ニ於テ政府當局ガ詳シク述ヘマシタ如ク、我ガ憲法ノ條章
ニ基キ、我國民ノ文化ノ狀況ニ應ジマシテ、斯ノ如キ世界
各國ニ例ヲ持タナイ所ノ制度ヲ設ケテ、之ニ依シテ實際ノ側
ニ於テ栽判所ト人民ノ側ニ、圓滿ニ此法律ヲ施行シ、而シ
テ歐羅巴各國ニ於テ行ハルヽ此制度ノ實際上ノ弊害ヲ其
點ニ於テ總テ除去シヤウト期シタ法案デアルノデゴザイマス、是
等ノ點カラ見マスルナラバ此法案ノ立方ニ付キマシフ、或ハ世間
デ骨拔案デアルトカ、或ハ不徹底ナ案デアルトカ、非難攻擊
ヲ致シマスルケレドモ、本員等ノ見ル所ニ依リマスルト云フト、却
テ是ハ世界各國ノ陪審法ニ優ルモノデハナイカト思フノデ
アリマス、卽チ世界各國ノ陪審制度ニ於キマシテハ、陪審員ニ
事實ノ側ノ認定權全部ヲ持タシテアリマスルガ爲ニ、此點
カラ總テ色ミナ弊害ガ生ズルノデアリマスルガ、本案ニ於キ
マシテハソレ等ノ弊害ハ今ノ不徹底ナ點、若クハ骨拔ナ點
ニ依リマシテ大ニ緩和セラルヽノデアリマス、全ク歐羅巴各
國ノ陪審制度ノ弊害ノ點ノ骨ヲ拔キマシテ、我國ニ於キマ
シテハ老人デモ子供デモ、素人デアッテモ、何デモ此陪審法ヲ
食ベル事ガ出來ルヤウニ能ク取捨折衷ヲ致シテ能ク調理ヲ
致シテ、我ガ國民ニ提供致シテアルノデアリマス、是ハ我ガ
陪審制度ノ最モ特徵デアリマシテ、今後陪審制度ノ機能ヲ
發揮スル、是ガ本統ノ骨子ニナッテ居ルト思フノデアリマス、
一體吾々立法府デ審議シタ所ノ法律ナルモノハ、國民ノ生
活利益ヲ保護致シ、社會國家ノ福祉ヲ增進スルガ爲ノモノ
デアリマスルガ、併ナガラ固ヨリ人爲ニ成ッタル所謂死物デア
リマス、國民多數ガ豫メ其全般ノ生活利益保護ヲ認定シ
タ繩墨ニ過ギナイノデアリマス、如何ンゾ之ニ依リマシテ各
地方獨特ノ習俗デアルトカ、或ハ人情デアルトカ云フモノヲ
悉ク此法律ニ網羅シテ、各場合ヲ細則スルト云フコトハ、法
律デハ到底出來ナイモノデアルノデアリマス、況ヤ社會ハ有
機體デアリマシテ、時々刻々ニ變轉致スノデアリマスカラ、理
想ト致シテハ法律ハ出來ルダケ各地方ノ人情風俗ニ基イ
タル法律ヲ制定シ、又時々刻々ニ變ルベキ世態人情ヲ酌ン
デ隨時時々ニ改良ヲ加ヘナケレパナラヌモノデアルト思フノ
デアリマスルガ、事ノ實際ニ當リマシテ、決シテ斯ノ如ク容易
ナモノデハナイノデアリマス、故ニ法律ハ各地方全體ヲ取纏
メ、又本來ヲ豫想シテ一ツノ一般的ノ法律ヲ拵ヘルノガ、近
時法治國家ニ於テ行ハレル所ノ立法ノ形式デゴザイマス、
所デ一面ニ於テ此法律ヲ實行スル所ノ任ニ當ル行政權竝
ニ司法權ハ、先程申上グル如ク法律ヲ活用シナケレバナラ
ヌ、其法律ヲ活用スルト云フコトハドウ云フ事デアルカト言
ヘバ、卽チ時々ノ時〓ニ順應シ、又其地方々々ノ人情風俗
ニ照シテ、能ク適合スルヤウニ此法律ヲ適用シナケレバナラ
ヌノデアリマス、是ニ於テカ法治國家ニ於キマシテハ、一面ニ
於テ法律ヲ活用シナケレバナラヌト同時ニ、一面ニ於テハ法
律ガ儼乎トシテ存スルガ爲ニ、之ヲ活用スルニ當リテ非常ニ
困難ヲ感ズルノデアリマス、論ヨリ證據、例ヘバ各府縣ニ於
キマシテ、各府縣ノ地方々々ニ應ジタル違警罪規則ハ各府
縣デ制定スルコトガ出來ルガ如ク、若シ理想カラ申シテ此法
律ガ各地方每ニ各種ノ狀況ヲ參的シテ制定スルコトガ出
來ルナラ、之ニ越シタ事ハナイノデアリマス、併ナガラ事ノ實
際ニ當リマシテハ、サウ云フ譯ニハ參ラナイノデアリマスルガ
故ニ、裁判官デ其法律ヲ-一般的ノ法律ヲ各地々々ノ狀
況ニ應ジテ之ヲ活用シ、之ヲ適用スル場合ニ於テハ、ドウシ
テモ其地方々々ノ人情風俗ニ照シ、時代ノ變遷ニ應ジテ、其
法律ノ適用ヲ爲シ、活用ヲ爲サナケレバナラヌノデアリマス
ガ、之ガ卽チ一面ニ於テハ立憲治下ニアル所ノ國民ハ國家
枝判ニ關與スル所ノ權利ヲ持ツト同時ニ、又法律適用ノ
裁判ニ關シテ參與スルコトヲ得セシメナケレバナラヌト云フ
議論ノ根柢ニナルノデアリマス、以上主トシテ政論ノ側カラ
論ジタノデアリマスルガ、次デ純然タル法律論ノ上カラ陪審
制度ヲ論ジマスルナラバ、卽チ陪審制度ハ刑事裁判ノ機關
ノ一ツデアリマスルカラ、或ハ憲法ノ條章ニ基キ、或ハ刑法
若クハ裁判所構成法若クハ刑事訴訟法等ノ諸法律ニ立論
シナケレバナラヌノデアリマス、中ス迄モナク刑事訴訟學ノ
上カラ申シタナラバ其沿革ニ徴シ、或ハ又理論ニ徵シマシテ
モ、近時世界各國デ段々行ハレツヽアル所ノ彼ノ訴訟法上
ノ彈劾主義デゴザイマス、申ス迄モナク訴訟法上ノ理論ト
實際ニ於キマシテハ、彼ノ彈劾主義ト糺問主義ノ二ツガア
ルノデゴザイマスガ、其彈劾主義ナルモノハ原告トシテ犯罪
人ヲ訴フル者ト、又被彈劾者卽チ被告トシテ其犯罪行爲
ヲ訴ヘラレタル所ノ者ガアリマシテ、第三者タル所ノ栽判所
ガ其兩方ノ言フ事ヲ聽イテ之ガ判斷ヲ爲ス、之ガ卽チ彈劾
主義ノ根本觀念デアリマスガ、此根本義カラ割出サレタル所
ノ幾多ノ正シイ主義ガ包含致シテ居ルノデゴザイマス、先ヅ
第一ニ彈劾主義ノ訴訟手續ニ於テハ、裁判手續ハ公開ノ上
デヤラネバナラヌト云フ原則デアリマス、此公開主義ハ總テ栽
判ガ公平ニ行レ、公ケニ行レタ審理裁判ニ付テハ專橫ノ弊
ガナイ、隨テ國民ヲシテ安心セシムルモノデアル、國民ヲシテ
諦メシムル所ノ裁判手續デアル、是ガ一ツノ原則デアリマスガ、
第二ニハ其裁判公行ト同時ニ總テ審理ハ口頭審理デナケレ
バナラナイ、卽チ口頭ヲ以テ或ハ被告人ヲ訳問シ、或ハ證人
ヲ訊問シ、是モ總テ公ケナル場所デ公ケノ手續ヲ經ベキモノデ
アル、免角裁判ガ公行セラレズ、又口頭審理ヲナサナイ場
合ニ於キマシテハ、唯書面ノ上デ審理ヲ爲ス場合ニ於キマ
シテハ、或ハ今日ノ如ク檢事ノ聽取書ガ證據ニナリ、豫審
判事ノ密行主義ニ基イテ取調ヲ爲シタル所ノ書類ガ裁判
ノ證據ニナルヤウナ場合ニハ、餘程裁判官ノ素質ヲ良クシ、
檢事ノ素質ガ良カラナケレバ自然ニ密行主義ノ下ニ行ハレ
マシタル所ノ審理主義ハ、專橫ノコトガ起ル、或ハ又人權蹂
躪ノヤウナ種ハ總テ此審理ノ密行若クハ書面審理ノ作用
カラ出發致スノデアリマスガ、彈劾主義ノ原則タル裁判ノ公
行、若クハ口頭辯論ノ審理ト云フコトニナレバ、斯ル弊害ヲ
除去スルコトガ出來ルノデアリマス、又彈劾主義ノ第三ノ
主義ト致シマシテハ、斯ノ如ク國民ノ前ニ公行セラレ、斯ノ
如ク口頭デ總テ審理ヲ致サルヽト云フト、其代リ裁判ノ證
據ハ判斷者ノ自由デナケレバナラナイ、濫ニ之ニ向ッテ制限
ヲ附シテハナラナイ、例ヘバ被告人ガ自白シナケレバ裁判ヲ
スルコトガ出來ナイノデアルトカ、或ハ二人以上ノ證人ガ口
ガ合ハナケレバ其證言ヲ採ルコトハ出來ナイノデアルト云フ
ヤウナ證據フ制限ヲ附スルコトヲシナイ、總テ判斷者ノ自由
ナル心證ニ基イテ判斷ヲ爲サシムルコトガ出來ル、斯ウ云フ
ノガ彈劾主義ノ本據デアリマス、彈劾主義カラ行ハレ來ッタ
所ノ大キナル主義デアリマシテ、此大キナル主義ハ古代羅馬
希臘ニ行ハレタル時代カラ、今日理想ノ訴訟法ノ原則論理
トシテ採用致サレテ居ルノデアリマス、之ニ反シテ彼ノ糺問
主義ナルモノハ訴ヘル者ガナクシテ、唯被告人ラシキモノヲ引
張ッテ來テ、之ヲ裁判スル、之ヲ審理ヲスル、ソレガ爲ニ公ケ二
行ハレナイ、隨テ唯被告人ラシキ者若ハソレニ對スル證人ヲ
引張ッテ來テ、ソレト判事ト對談的ニ種々ナ訊問ヲ爲スノデ
アル、而シテ其訊問ヲ錄取シタル所ノ調書ヲ後日判斷ヲ爲
ス所ノ公判判事ノ下ニ持シテ行ッテ、其書面ニ基イテ公判判
事ガ心證ヲ作リ、之ニヨリテ裁判ヲ爲ヘト云フコトデアリマス、
所デ此糺問主義ノ不合理ナルコトハ今更申ス迄モナイノ
デアリマスルガ、殆ド今日ニ於キマシテハ此糺問主義ノ不都
合ナリト云フコトハ、皆異口同音ニ唱ヘテ居ル所デアリマス
故ニ、多ク論辯ヲ要セナイノデアリマス、併ナガラ今日ノ現
在ノ訴訟手續ニ於キマシテハ、此糺問主義ト先程述ベマシ
タル彈劾主義ヲ相折衷シ、相混淆シテ、現在ノ訴訟手續ヲ
成シテ居ル點デアリマス、成程彈劾主義ニ基キマシテ、今日
檢事制度ヲ採用シテ居ル、是ハ寔ニ結構ナコトデアル、併ナ
ガラ糺問主義ノ遺物デアル所ノ豫審制度ヲ採用シテ居リ、
又公判ニ於キマシテハ豫審若クハ檢事ノ作製ニ係ル所ノ
調書ハ、之ヲ證據ニ採用スルコトガ出來ルト云フ、矢張糺
問主義ノ遺物ヲ採用シテ居ルノデアリマス、〓ニ於テカ免
角現在ノ訴訟手續ニ於キマシテハ、前ニ糺問主義、若シク
ハ彈効主義ノ下ニ述べマシタ如ク、人權蹂躪ノ聲ガ絕エナ
イノデアリマス、甚ダ遺憾千万ナ事デアリマス、是ハ何故デア
ルカト申シマスナレバ、卽チ今日ノ豫審制度ガ密行主義、只
調ベラルヽ者ト調ベル者トノ對談ニ過ギナイ、公ケナル場所
デ公ケニ取調ベヲ受ケナイノデアリマス、檢事ノ取調ベモ矢
張左樣デアリマス、玆ニ於テカ免角專橫ノ事ガ有勝チニナッ
テ參ルノデアリマス、此意味カラ申スナラバ卽ヲ陪審制度ナ
ルモノハ全ク訴訟法上ノ理想案デアリマシテ、先程委員長
カラ詳シク報告アリマシタル如ク、總テ事件ガ起リマシテカ
ラ其事件ニ對スル判断ヲ爲スノニハ、陪審員參列ノ上裁判
所ガ公ケナル法廷デ公テニ取調ペヲ爲シ、公ケニ得タル所ノ
證據ニ依ルニ非ズンバ其被告事件ヲ判斷スルコトガ出來ナ
イト云フ大原則ノ下ニ行ハルヽノデアリマス、又先程政論ノ
下ニ申上ゲル如ク、一般的ノ法律ガ地方ノ人情風俗ニ合
シタル所ノ其事情ノ下ニ陪審員ノ意見ヲ參酌致シマシテ、
サウシテ裁判官ガ其事實ニ關スル陪審員ノ意見ノ下ニ、法
律的判斷ヲ下スノデアリマス、一體此刑事々件ニ於キマシ
テ、犯罪ノ事實ガ無ケレバ刑罰ガ無イノデアリマス、犯罪ノ
事實ガ有ッテ之ニ對スル法律ノ規定シタル刑罰ガ出テ來ル
ノデアリマスガ、其事實ニ對シテ眞デアルカ、眞デナイカ、卽チ
犯罪ヲ犯シタ者デアルカ、犯罪ヲ犯サザル者デアルカト云フ
コトノ此事實ノ認定ナルモノハ、之ヲ裁判ト見レハ一ツノ裁
判デアリマス、併ナガラ是ハ裁判ニ非ズト見レバ矢張裁判デ
ハナイノデアリマス、卽チ裁判ナルモノハ確定シタル事實ニ
對シテ法律ヲ適用スルコトガ裁判デアル、此確定シタル事
實ニ對スル法律ノ適用ガ、卽チ事實ヲ法律化スルノデアリ
マス、刑罰スルノデアリマス、此點ニ付キマシテハ從來專門
家ノ非常ニ論難ヲ致シタ所デゴザイマス、現在本案ノ審議
ニ際シマシテモ、朝野法曹ノ間ニ此問題ニ付テハ非常ニ論
難ヲセラレタ所デアリマスケレドモ、本員等ノ考ヘル所ニ依
リマスルト、是ハ左マデノ問題デハナイト思フ、何トナレバ從
來訴訟法ノ沿革ニ徵スルト、事實ノ確定ト云フコトニ向ッテ
ハ是ハ全ク證據ノ問題デ決スルコトガ出來ル問題デアリマ
ス、若シ法律ヲ以テ裁判官ノ心證ニ基ク證據ノ制限ヲ爲シ
タナラバ、制限ヲ爲スト云フ法律ノ下ニ裁判ヲ爲サシムルナ
ラバ、其法律ヲ以テ制限スルコト、ソレ自體ガ卽チ之ガ事實
ノ裁判ニ歸スルト云フコトモ言得ラルヽノデアリマス、事實
ノ裁判ハ法律デ如何樣ニモ極メルコトガ出來ルノデアリマ
ス、是ハ非常ニ複雜ナル法律問題ニ歸著スル問題デアリマス
ガ、免モ角モ本案ニ於キマシテハ總テ是等ノ複雜ナル點ヲ
避ケ、又其避ケタル理由ニ至リマシテハ、或ハ政府當局若ク
ハ樞密院邊リニ於キマシテハ、是ハ憲法違背ノ點ヲ避ケル
爲ト云フ理由デアッタカモ知レナイノデアリマスケレドモ、幸
カ不幸カ存ジマセヌガ、本員等ノ認メル所ニ依リマスト、此
陪審員ヲシテ事實認定ニ關スル全權力ヲ取ラセナカッタ點、
卽チ刑事裁判ヲ爲スニハ陪審ノ評議ハ要スルガ、併ナガラ
裁判所ハ必ズシモ此評議ニ拘束セラレナイ、併シ此陪審員
ノ詔議ナクシテハ刑事裁判ガ出來ナイト云フ極テ微妙ナル
法律規定ヲ設ケタ點ハ、是ハ立案者竝ニ審議者ニ向ヒマシ
テ、本員等ハ大ニ稱讃ノ辭ヲ呈シタイト思フノデアリマス、
若シ欧米各國ノ陪審制度ガ我が日本ノ本案ノ如キ立案ノ
趣意アアッタナラバ、欧羅巴各國ノ現狀ニ照シテ彼等ノ弊
害續出スル點ハ、恐ラク此點デ除却ガ出來テ居ルト思フノ
デアリマス、日本ノ現狀ニ照シ且ツ法律上ノ議論カラ見マ
シテモ、本案ガ斯ノ如キ微妙ナル規定ヲ爲シ而シテ總テ裁
判所ト陪審トノ間ニ協力シテ法律ノ運用ノ妙ヲ得セシメン
トスル此法條ハ誠ニ時勢ニ適スル理論ニ適スル、非常ナル
良イ法律デアッテ、世界第一ノ陪審法デアルト云フ讃辭ヲ
呈シテ差支ナイト思フノデアリマス、以上中シ述ベマシク趣
意カラ見マスナラバ本案制定ノ後ハ、我ガ國民自由ノ宇不
尊トシテ尊重セラルヽコーヽ思フ彼ノ本案ニ對シテ攻撃ヲ
スル人ノ如ク、本案ガ骨拔案デアル、斯ウ云フヤウナ議合計ノ
爲ス人ハ未ダ陪審制度ノ本當ノ本義ヲ諒解シナイ人ノ議
論デノルト思フノデアリマス、立法事業ヲ爲ス場合ニ於テ
ハ決シテ虐榮ハ要ラヌノデアリマス、歐羅巴各國ノ陪審制
度ガ陪審員ニ事實認定ノ全權ヲ與ヘルノデアルカラ、陪審
ト云フモノハ斯ノ如クアラネバナラヌモノデアル、斯ウ云フヤ
ラナ外國ノ制定ヲ鵜呑ニシタ斷定的ナ議論ヲ爲スノハ、是
ハ餘リニ西洋カブレヲ爲シタル議論デアッテ、陪審ノ云フコト
ノ本義ヲ究メナイデ唯鵜呑ニ致シテ居ル議論デアルト思フ、
陪容制度ナルモノハ先程モ縷々中上ゲマシタ如ク、政治論
ノ上カラ見ルナラバ一、唯裁判、卽チ國家ノ司法權ニ地方人
民ヲ參與セシメル、是デ宜イノデアリマス、此參與ノ結果、事
實認定權ノ全部ヲ國民ガ奪ハナケレバナラヌ、全部陪審員
ガ其權力ヲ持タナケレバナラマト云フ程度ノモノデハナイ、ソ
レハ全ク程度論デアリマス、全ウ其国民ノ文化ノ程度ニ依
ルベキ問題デアルト思フノデアリマス、唯徒ニ垣ヲ隔テ、隣ヲ
眺メテ、隣ノ庭ガ良イカラ自分ノ腕ニモ叶ハナイノニ隣ノ庭
ノ通リニシナケレバナラスト云フコトハナイノデアリマス、私
共ハ此陪審法案制定ノ後ニハ必ズヤ我ガ司法部ハ一大革
新ヲ來スモノト思フノデアリマス、本案ヲ審議スルニ當リマ
シテ、唯陪審員ガ事實全部ノ認定權ヲ持タナイカラ、此陪
審制度ガ何等効用ヲ爲サナイモノデアルトカ、或ハ此陪審
法案ニ情狀酌量ノ問題若クハ刑ノ減免ノ問題ニ關スル認
定權ヲ持タナイノデアルカラ、ンレデ此陪審法案ハ不徹底
極マルモノデアルカラ、ねえ貢成スルコトハ出來ナイト云フヤウナ
議論ハ、是ハ角ヲ矯メテ手ヲ殺スノ類デアリマシテ是ハホン
ノ枝葉ノ問題デアリマス、且又此法案ノ眞髓カラ立論スル
時ニ於キマシテハ、斯ノ如キ枝葉ノ論、程度論ハ、是ハ些末
ナ議論デアルト同時ニ、此木案ノ立テ方我ガ日本ノ文化ノ
程度ニ應ジテハ、ドウシテモ斯ノ如キ議論ニ贊成スルコトハ
出來ナイノデアリマス、孰レ後ニ本案二對スル修正意見ガ
出マスカラ、ソレニ對シテ我ガ同僚カラ反對ノ意ヲ述ベル場
合ニ、議論ガ出ルコトヽ思フノデアリマスカラ本員ハ之ヲ省
略シマスガ、一體一個ノ意見ト致シマシテハ、以上述ベタル
大體ノ政治論、大體ノ法律論カラ申シマシテ、本案ハ無修
正ノ儘、卽チ本案ハ極テ傑作テアリマシテ、無修正ノ儘贊成
スベキモノデアルト斷定致スノデアリマスガ、唯巨細ナ修正
ヲシテハ、ドウカト云フヤウナ意見ガ絕對ニ無イノデモアリマ
セヌケレドモ、是等ハ他日論議ヲ盡シ改正ヲ致ス機會モア
リマセウカソ、大體ニ於キマシテハ、以上述ベタル所ニ依シテ、
此法案ニハ全然賛成ヲ致ス者デアリマス、之ニ反スル議論
ハ大體ニ於テ反對デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=32
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033・粕谷義三
○副議長 柏谷義三君)森下龜太郞君
〔森下龜太郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=33
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034・森下亀太郎
○森下龜太郎君 木案ハ政友會ノ五大政綱ノ一ツトシ
テ數ヘラレタ重要法安デアリマス、斯ノ如キ法案ニ對シマシ
テ、眞正面カラ反對意見ヲ述ベルト云フコトハ、固ヨリ本員
共ノ本意トスル所デハナイノデアリマス、併ナガラ此本案ヲ
無條件デ受入レマシテ、之ガ實施ノ曉ニ於ケル效果フ
想見致シマスルナラバ、私共ハ今日マデ長ク築キ上ゲタル
司法權ノ尊嚴ナルモノヲ、其根抵カラ破壞サレルト云フコト
ヲ想見サレルコトヲ、甚ダ遺憾トスルノデアリマス、ソレト同
時ニ本案ノ施設ガ無代價ニ依ッテ施設サレルト云フコトデ
アリマスルナラバ、或ハ試ミノ爲ニ之ヲ施行シテ見テモ宜カ
ラウト云フ、極テ不徹底ナ意見ヲ之ニ加ヘルコトモ出來得
ラレマスケレドモ、政府委員ノ意見7承リマスレバ、本案ノ
設備ニ付テハ、其設備費ニ於テ實ニ三、四百万圓ト云フ莫
大ナ金額ヲ要スルノデアリマス、啻ニ設備費ニ於テ、是ダケ
ノ莫大ナル金額ヲ要スルノミナラズ、之ガ施行ニ當リマスレ
バ、年々歲々經常費トシテ三百五六十万圓ト云フ、又大
金ヲ吾々國民ノ負擔ノ下ニ支拂ハナケレバナラヌト云フコ
トニナルノデアリマス、固ヨリ私共ハ此陪審制度其モノヽ立
法ノ趣旨ニハ、上畠君ト同ジヤウナ步調ヲ執ルモノデハナイ
ノデアリマス、併ナガラ私共ハ此立法ノ內容ヲ吟味スルニ至
リマスルト、此陪審制度ノ資格ノ構成ニ關スル基礎條件ニ
於テ、到底忍ブ能ハザル一大缺陷ヲ發見致スノデアリマス、
ソレハ先程委員長カラモ委員會ニ於ケル經過ノ報告ガアリ
マシテ、其一端ヲ此席ニ於テ御報告ニナリマシタガ、私ハ實
ニ此木案ニ於ケル十二條ノ規定、卽チ陪審員タル所ノ資格
ト致シマシテハ、第一ニ年齡三十歲以上、而シテ納稅資格
直接國稅三圓以上ヲ納ムル者ト云フコトノ外ニ、僅ニ讀ミ
書キヲ爲シ得ル程度ノ者ニ、悉ク此陪審員タル資格ヲ與ヘ
ルト云フノデアリマス、斯ノ如ク廣キ意味ニ於テ、廣キ範圍
ニ於ケル陪審員資格者ノ中ニ付テ、特ニ有能力者、有能
者若クハ有識者ヲ、玆ニ銓衡シテ選ビ出スト云フコトデア
リマスナラバ、私共ハ雙手ヲ擧ゲテ贊成ヲ】致ス、併ナガラ本
案ノ規定ハサニアラズ、僅ニ讀ミ書キヲ爲シ得ルト云フ極テ
廣キ意味ニ於テ、其中カラ籤引ヲ以テ陪審員ヲ選ミ出スト
云フノデアリマス、熊公ガ出ルカ、八公ガ出ルカ、是ハ運ヲ天
ニ任セルト云フ、運天主義ニ於ケル木案ノ規定デアリマス、
斯ノ如キ立法ノ下ニ選ミ出サレタ所ノ能公八公ノ下ニ、吾
吾ノ貴重ナル身體生命、自由ヲ全部彼等ノ下ニ捧ゲルト
云フダケノ、吾々ハ襟度ヲ取ルコトハ出來ヌノデアリマス、私
ハ委員會ニ於テ、政府委員ニ其點ヲ確カメタ、セメテ中等
學校卒業程度ノ者ト云フ位ノ陪審員ノ資格範圍ニ限定
シテアルナラバ、或ハ籤引ニ依ッテ之ヲ極メルト云フ事柄モ、
或ハ或ル程度ニ於テ其弊害ヲ緩和スルコトガ出來得ルダラ
ウケレドモ、僅ニ讀ミ〓ロキヲ爲シ得ルト云フ者ノ中カラ、籤
引ヲ以テ採ルト云フコトハ、餘リ無責任デハナイカト云フコ
トヲ以テ詰ッタ所ガ、ソレニ對スル政府委員ノ辯明ハ、實ニ
驚クベシデアリマス、若シアナタノヤウナ御說ヲスルト云フコ
トナラバ、折角此陪審制度ヲ民衆化セシメントスル吾々ノ希
望ト云フモノガ、或ル程度ニ於テ官僚化スル虞ガアルト云フ
コトノ辯明デアリマス、諸君、果シテ市町村長ノ作リマシタ
資格名簿ノ中ニ付テ、唯僅ニ地方裁判所長ガ其中カラ相
當ノ銓衡方法ニ依リマシテ、適當ナル人物ヲ銓衡シテ、之ヲ
選定シタト云フ一事ニ依リマシテ、何ガ故ニ陪審員ガ官僚
化スルカト云フコトヲ言得ルノデアリマスセウカ、或ハ陪審
員ノ選定セラルヽト云フ事柄ガ、非常ニ利害ノ關係デモア
ルト云フコトデアリマスナラバ、或ハ官僚ノ御機嫌ヲ取ラナ
ケレバナラヌト云フ必要ニ迫ラレルトカ、或ハ官僚化スルト
云フ虞モアリマセウケレドモ、多數ノ有權者名簿ノ中カラ、
僅ニ栽判所長ガ適任者ト云フモノヲ銓衡ノ上ニ-而モ
私ノ提案ト云フモノハ、私ガ委員會ニ於テ述べタ修正案ト
云フモノハ、獨リ地方裁判所長ノ全權ニ之ヲ一任スルニア
ラズシテ、地方裁判所長ハ、自分ノ管內ノ區裁判所ノ判事
ノ意見ヲ聽イテヤル而モ區裁判所ノ判事ハ又自分ノ意
見ヲ定ムルニ付キマシテハ、各市町村長ニ就キマシテ、自己
ガ地方裁判所長ニ意見ヲ述ブル其參考資料トナルベキ所
ノモノヽ提供ヲ求ムル所ノ權利ヲ、區裁判所ノ判事ニ與フ
ル、斯ウ云フコトニ致シマシタナラバ、此籤ク引ヲ以テ盲減法
界ニ選ビ出ス-私ハ選ビ出ストハ言ハヌ、籤っ引ヲ以テ盲
滅法界ニ引ッ張リ出スノハ、之ヲ當テ出スト云フ、當テ出ス
ト云フコトヽ選ビ出スト云フコトハ、其意味ニ於テ非常ニ違
フ、サウ云フ意味ニ於キマシテ、之ヲ地方裁判所長ニ一任ス
ルト云フコトデアリマスナラバ、或ル程度ニ於テ、此陪審法
案ノ弊害ヲ緩和スルコトガ出來得ルト考ヘマシテ、斯ク私ハ
修正案ヲ出シタノデアリマス、ケレドモ其修正案ハ極テ少數
ヲ以テ否決サレタノデアリマス、而モ恐ラクハ是ハ個人別ニ
此黨派ト云フモノ、黨奧ト云フモノヲ離レテ、本當ニ各自ノ
自己ノ良心ノ指命スル所ニ依リマシテ、之ヲ一般ノ評議ニ
付シタト云フコトデアリマスナラバ、恐ラクハ吾ニノ議論モ、
或ル程度ノ賛成ヲ得ルニ相違ナイト考ヘルノデアリマス、ケ
レドモ何樣之ガ政友會ノ五大政綱ノ一トシテ、黨議ヲ以テ
拘束サレテ居ル案件デアル、吾々ガ如何ニ正シキ議論ヲ以
テ申述べマシタ所ガ、到底是ハ通過ノ見込ハ眞ニ無イト言
ハネバナラヌ、少數黨ノ怨メシサ、甚ダ吾々ハ可憐ナル地位
ニ在リト云フコトヲ考ヘルト同時ニ、併ナガラ此議會ノ後ヘ
ニ控ヘテ居ル所ノ七千万ノ國民ハ、如何ナル考ヲ以テ之ヲ
迎ヘルカト云フコトヲ、諸君ガ考ヘナケレバナラヌト云フコト
ヲ御警告ヲ申上ゲタイ、單リ私ハ唯本案ノ立法ニ付テ斯カ
ル非難ヲ申上ゲルノミデハナイノデアリマス、之ヲ外國ノ立
法例ニ付テ見マシテモ、本案ノ如ク極テ廣イ範圍ニ於ケル
有權者ヲ定メテ居ル場合ニ於キマシテ、之ヲ無條件ニ籤。ン
引ヲ以テ引出スナンテ云フヤウナ立法ハ、一モ言當ルコトガ
出來ナイノデアリマス、御承知ノ通リ、此陪審制度ノ鼻祖デ
アル英國ニ於ケル大陪審制度ニ付テ見マシテモ、或ハ十五
以上ノ窻ヲ有スル店舗、若クハ住宅ノ所有者ナルコトヲ要
スルト云フ資格ノ制限ヲシテ見タリ、或ハ百磅以上ノ動產
若クハ不動產ノ所有者ナルコトヲ要スルト云フ規定ヲ拵
ヘテ見タリ、或ハ巡回裁判所ニ於キマシテ、是ハ法律ヲ
以テ規定シテ居ルモノデハアリマセヌケレドモ、英國ニ於
ケル巡囘裁判ニ於キマシテハ、事實上ニ於キマシテ、地主
若クハ貴族ノ次位ニ位スル身分アル者デナケレバ、之ヲ
選定ヲシナイト云フ慣習ヲ持ッテ居ルノデアリマス、又先
程上畠君カラ此陪審制ヲ實施致シテ居リマス佛國ナド
ニ於ケル、實ニ忌ムベキ所ノ事例ヲ澤山舉ゲラレマシタガ、
實ニ諸外國ニ於キマシテ、此陪審制度ヲ實施シテ居ル國こ
ニ於キマシテハ、此陪審制度ノ實施ヨリ生ズル弊害ノ非常
ナル甚シキモノニ鑑ミマシテ、如何ニカシテ此陪審制度ヲー
歴史ヲ持シテ居ル陪審制度ヲ之ヲ全廢スルト云フコリカ、之
ガ改善ノ〓ニ付キタイト云フ所ノ考ノ下ニ、最モ新シキ法案
ト致シマシテハ、彼ノ墺地利ノ陪審制度ニ關スル立法デア
リマス、其陪審制度ニ關スル新法案ノ第十一條ニ依リマス
ルト、此陪審員ノ選定ヲ郡長ト云フモノニ一任致シテ居リ
マスルガ、併シ其郡長ニ一任スルニ付キマシテハ、二ツノ條件
ヲ附シテ居ルノデアリマス、其第一ハ、公正ナル理解力ヲ有
スルト云フコトヽ、第二ニハ尊敬スベキ人格ヲ有スル所ノ人
デアルト云フコト、此二ツノ條件ヲ有スル所ノ人ヨリ之ヲ選
定スルト云フ事ヲ郡長ニ一任スル、而モ此規定ト云フモノ
ハ、法律ノ第十一條ヲ以テ明ニ之ヲ明定致シテ居ルノデア
リマス、斯ノ如ク旣ニ外國ノ方ニ於キマシテモ、此陪審制度
ノ實施ニ由テ來ル所ノ弊害ト云フモノヲ取除クニ付キマシ
テハ、非常ナル苦心ヨ拂ッテ居ルト云フコトハ、或ル程度ニ於
テ之ヲ認メル事ガ出來得ルノデアリマス、ソレヲ今日我ガ帝國
ニ於キマシテハ、或ハ先程委員長カラノ報告ニ、日本ニハ明治
六年ニ參座法ト云フモノガアッタト云フヤウナコトデアリマス
是ハ僅ニ一年カ、半年ノ試ニ依シテ直ニ消滅シテシマッタ所
ノ事柄デアリマス、之ガ眞ニ事實上良イト云フコトデアリマ
スナラバ、今日迄ソレガ段々ト或ハ改善ノ〓ニ就イテ、今日
迄ソレガ生命ヲ保ッテ居ラネバナラヌノデアリマスケレドモ、是
ハ日本ノ國情ニ適セヌト云フ所デ、僅カ半歲カ、一年ノ生命
ヲ以テ葬リ去ラレテシマッタ所ノモノデアリマス、斯ノ如ク日
本ニ於キマシテハ、陪審制度ナルモノニ對シテハ事實上ニ
於キマシテハ、何等ノ經驗ヲ持ノテ居ラヌト言ハネパナラヌ、
其經驗ヲ持ッテ居ラヌ所ノ帝國ニ、初テノ試トシテ致シマス
所ノ此ノ陪審法案ニ對シマシテ、諸外國ノ立法ニ於テ、未
ダ曾テ殆ド見ルコトノ出來ヌ程ノ無責任ナル立法ヲ以テ、
此陪審法案ニ擬シヤウトスル此政府者ノ御意思ハ、私ハ果
シテ一片君國ヲ思フト云フ日本ノ司法權ナルモノヽ森嚴ニ
對シテ、如何ナル程度ニ於テノ御考ヲ運バレツヽアルカト云
フ事ヲ私ハ疑ハネバナラヌ、寧口斯ノ如キ杜撰ナル籤ヶ引ヲ
以テ、熊公八公ヲ出スカ、若クハ太郞兵衛ヲ出スカ、權兵衞
ヲ出スカ分ラヌヤウナ、萬一吾々ガ斯ノ如キ裁判ヲ受クベキ
地位ニ立ツト致シマシテ、而シテ斯ノ如キ無識無能ノ連中
ヲ以テ集メラレタ所ノ、貧乏籤ヲ引イタ所ノ陪審員ヲ以テ
据エラレタ時ニ於キマシテ、吾々ハ斯ノ如キ者ノ事實判定ヲ
受ケマシテ、果シテ日本ノ之ガ司法權ノ發動トシテ、吾々ハ
玆ニ陛下ノ御名ニ依ッテ下サルベキ所ノ判決トシテ、之ヲ
首肯スルコトガ出來得ルヤ否ヤト云フコトヲ考ヘテ見マスル
ト、又ソレト同時ニ陛下ノ御名ニ依ノテ行ハレル所ノ此裁
判、衣冠ヲ正シテ神聖ヲ保ツ所ノ此法廷ニ於キマシテ、貧
乏籤ヲ引イタ所ノ八公ヤ熊公ノ後ロニ竝ンデ、ソレガ此神
聖ヲ保ツ所ノ裁判ノ意見ヲ左右スルモノデアルト云フ事ヲ
考ヘマシタナラバ、吾々ハ此現在ノ司法制度ヨリカ、之ヲ改
善スベク拵ヘルト云フ此陪審制度其モノニ對シマシテハ、洵
ニ吾々ハ一大慟哭ヲ禁ズルコトガ出來ヌノデアリマス(「ヒヤ
ヒヤ」)本案ヲ提出サレタ時ニ於キマシテ、司法大臣ハ只今
原君ガ述ベラレタト同ジヤウナ意味ノ事ヲ以テ、提出ノ理由
トサレタノデアリマス、卽チ今日ニ於テハ既ニ立法竝ニ行政
ニ對シテ、國民ノ或ル程度ニ於テノ參加ヲ許シテ居ル、然ル
ニ司法制度ノミニ於テ今日國民ノ參加ヲ許シテ居ラヌノデ
アルカラ、玆ニ國民ノ參加ヲ許スコトニ於テ、初テ立憲ノ本
義ヲ全ウスルコトガ出來ルノデアルト云フ御說明デアッタノデ
アリマス、中〓諸君、此言葉ハ吾々ハ耳ヲ傾ケルニ足ルベキ
所ノ言葉デアリマシテ、其言葉ハ洵ニ表面立派ナ言葉デア
リマス、併ナガラ諸君、今日迄吾々ガ現ニ得テ居ル所ノ立法
竝ニ行政ニ對スル所ノ參與ノ權利ナルモノハ、如何ナル方
式ニ依ッテ之ヲ取得シテ居ルノデアリマセウカ、吾々ハ或ル有
權名簿ニ依リマシテ、盲滅法界ナル籤ッ引ニ依リマシテ、吾々
代議政體ト致シマシテ、代議士トシテ、玆ニ此席ニ立ツ所
ノ地位ヲ得タノデハナイノデアル、又地方制度ニ於テモ其通
リ、府縣制度ニ於テモ、市町村制度ニ於テモサウデアル、地
方制度ニ於テ、又此代議制度ニ於キマシテモ、或ル一ツノ
資格ヲ以テ、其中カラ盲滅法界ノ籤ヲ引ヲ以テ代表者ヲ出
スト云フコトニ定メタナラバ、恐ラク滿場諸君ノ一人モ之ニ
御賛成ナサル所ノ者ハ有ルマイト思フノデアル、然ルニ此司
法制度ノミハ、未ダ曾テ何等ノ歷史ヲ有セザル所ノ國民ガ
參加シヤウト云フコトニ當リマシテ、盲滅法界ニ籤ッ引ヲ以
テ之ニ當テルト云フコトハ、實ニ司法制度ノ尊嚴ヲ根本カ
ラ破壞スルモノデアルト中シテ、何等玆ニ私共ノ言葉ガ間
違ッテ居ルト云フコトガ言ヒ得ルデフリマセウカ、之ヲ眞實眞
正面カラ考へ、眞實何等政略若クハ黨派ト云フモノヽ臭味
ト云フモノニ囚ヘラレズシテ、眞ニ自己ノ所信ニ向ッテ意見
ヲ表示シ得ルト云フコトデアリマスナラバ、恐ラクハ上畠君
ノ意見ナリ、私共ノ意見ノ一部ニ對シマシテハ、少クトモ或
ル程度ノ御費成ヲ得ルニ相違ナイト確信スルノデアリマス、
併ナガラ私ハ到底其事ニ付キマシテハ、今日ノ時代錯誤デ
アル黨弊ニ囚ハレル此議會ノ有樣ニ對シテハ、何等一縷ノ
望セ囑スルコトハ出來ナイト云フコトヲ悲シム者デアリマス、
唯私ハ衆議院ノ後ニハ貴族院ト云フモノガ控ヘテ居ル幾千
万ノ國民ト云フモノヲ控ヘテ居ル、諸君ガ盲滅法界ニ唯陪
審制度ト云フ名ノ下ニ惚レ込ンデ、若クハ之ガ大政黨ノ一
大政綱デアルト云フ事柄ニ囚ハレテ、黨議ニ依リ心ニモ無
キ御賛成ヲ爲サルト云フコトデアルナラバ、或ハ後日諸君ガ
非常ナル政治的生命ヲ奪ハレルコトニナルト云フコトヲ御
警告申上ゲテ、唯私ハ眞實ナル僞ラザル國民ノ聲トシテ、諸
君ノ前ニ反對論ヲ主張シテ此壇ヲ降ルコトニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=34
-
035・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 横山金太郞君
〔橫山金太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=35
-
036・横山金太郎
○横山金太郞君 諸君、本員等ハ委員會ニ於キマシテ、修
正案ヲ一タビ提出致シタノデアリマスガ、不幸ニシテ否決ニ
ナッタ結果トシテ本會議ニ之ヲ提出センカトモ考ヘマシタケ
レドモ、大勢ハ旣ニ定ッテ居リマシテ、其運命ノ程モ自ラ察セ
ラレルノデアリマスカラ、玆ニ時間道德ヲ以テ、敢テ修正案
ヲ提出スルコトヲ致シマセヌ、而シテ直ニ木案ニ付キマシテ、
警告附賛成ヲ致シタイト思フノデアリマス、若シ此警告ト
云フ言葉ガ峻烈ニ失スルト云フ嫌ガゴザイマスレバ、茲ニ希
望附贊成ト改メテ宜シイノデアリマス、卽チ其趣旨ニ於テ簡
單ニ贊成ノ意味ヲ表明致シテ置キマス、只今賛成論者ノ
一人デゴザイマスル原氏ニ依シテ試ミラレマシタ賛成論ノ中
所謂正論ノ上ニ基調ヲ置カレル所ノ高遠ナル御理想ニハ、
必シモ賛成ヲスルモノデハナイノデアリマス、唯本案ハ司法改
善ノ爲ニ、黨派ニモ、感情ニモ超越ヲ致シテ、虛心平氣ニ冷
靜ニ、公平ニ取拾撰擇ヲシナケレバナラスト云フ理解ノ下ニ、
之ガ賛成ヲ致ス者デアリマス、只今上畠君ヨリ洵ニ調査〓
究ヲ重ネラレマシタル所ノ結果ヲ此壇上ニ公ニセラレマシタ
コトニ付テハ、私ハ多大ノ敬意ヲ拂フ者デアリマス、サリナガ
ラ仰シヤッタ議論ノ內容ニ至リマシテハ、不幸ニ致シテ立場
ヲ異ニシマスル所ノ結果ト致シテ、之ニ反對ヲセザルヲ得ナ
イノデゴザイマス、試ニ本論ニ入リマスル前ニ當テテ其其二二
ニ付テ駁論ヲ先ヅ試ミタイト考ヘルノデアリマス、上畠君ハ
第一番ノ所論ト致シテハ、凡ン此裁判所ガ裁判ヲ爲ス場合
ニ於テハ、法律ノ定メタル資格ノ有ル栽判官ガ、法律ニ定メ
タル範圍ニ於テ、裁判ヲスルノデアル、而シテ其立法ナルモノ
ハ、國民ガ參與ヲ致シテ作リ出シタモノデアルカラ自ラ、民
本的ノ思想ト云フモノガ其間ニ現レテ、所謂司法參與ノ實
ハ、業ニ既ニ擧ッテ居ルデハナイカト云フ議論ヲセラレタノデ
アリマス、併ナガラ若シ此論法ヲ不當ニ擴充シテ參リマスト云
フト、世間總テノ事、殊ニ政治方面ニ關シマスル事ハ、總テ
國民ガ料理按排ヲ致シテ居ルト云フ結論ニ到著ヲシナケレ
バナラヌノデアリマス、司法參與卜云フコトハ、主即リ立法ト行
政トニ獨立ヲ致シ、直接ニ其司法事務ニ參與スルト云フ意
味ガ、此陪審法ノ上ニ現レテ居ルノデアリマス、上島君ノ議
論ヲ以テ致シマスルナラバ、趙盾人ヲ殺スト云ノ此春秋ノ筆
法ハ、甚ダ其結果ニ於テ不當ニ陷ルノデアルト云フコトヲ、私
ハ實例ヲ擧ゲテ論破致シテ置キタイト思フノデアリマス、試
ニ此警察官ニ對スル所ノ非難ノ聲ハ、洵ニ高イノデアリマス
併シ此警察官ト雖モ、悉ク法律ノ定メタル資格ノ範圍ニ於
テ、法律ノ定メタル範圍ノ行爲ヲ致シテ居ルノデゴザイマスガ
若シ此警察官ニ不當ノ行爲ガアッタトキニ、是ハ卽チ法律ノ
定メタル資格者デアル、法規ノ定メタル範圍ニ於テ活動ヲ
致シタノデアルカラ、國民ガ參與政シタノデアルト云フ結論
ニ接シナケレバナラヌノデアリマス、此意味ヲ御理解ニナレバ
第一ノ論ハ此以上申上ゲル必要ハ私ハ無イト思フノデアリ
マス、サスレバ第二ノ議論ハト申シマスルト、第一一ノ議論ハ詰
リ吾々ガ衆望ヲ荷ウテ議員トナッテ居ルト云フコトハ、選擧ニ
依ッタノデアル抽籤トハ自ラ其間ニ趣ヲ異ニ致シテ居ル、勿
論選出ノ方法ハ違ヒマシテモ、矢張一ツノ選ミ出ス所ノ方
法ノ異ナルニ過ギヌノデアリマス、殊ニ此抽籤規定ト云フモ
ノハ、此過渡ノ時代ニ於テハ選出其モノニ付テ、極テ公平ノ
價値アラシムベク、苦慮セラレタル結果デアルト云フコトヲ
吾々ハ承ッテ、此意味ヲ諒ト致シテ居ルノデアル、ノミナラズ
總テ此陪審員ト致シテ選マルヽ人ハ、悉ク陪審法ノ上ニ細
カナル規定ガアッテ、其資格其モノヽ細カナル事ニ付テハ、非
難攻撃ヲスル餘地ガアリマスケレドモ、自ラ尺度ト標準ガ定
マッテ居ルノデアリマスカラ、此趣旨ニ於テ抽籖ヲシ、監督ト
云フ者ガ其上ニ在シテ宜シキヲ得マシタナラバ、上畠君ノ言
ハルヽ其憂ハ或ハ杞人ノ憂タルニ終ルカモ知レヌト私ハ考
ヘルノデアリマス、第三ノ御議論ハ、人權蹂躪ノ聲ガ高イト
云フコトハ、是ハ公判ニ付スル以前ノ事デアル、一應御尤デ
アル、ソレガ爲ニ吾々ノ方面デハ、鈴木君ガ起訴陪審ノ事ニ
付テモ質問ヲシタヤウナ譯デアリマスガ、暫クソレハ別問題
ト致シテ、人權蹂躪ノ聲ガアルト云フコトハ、成程起訴以前
ノ事若クハ公判ニ移サルヽ以前ノ事トシマシテ、公判ニ於テ
用キル所ノ證據ハ卽チ其人權蹂躪ノ結果ト致シテ移ルベキ
或ルモノヲ齎シテ居ルトー云フコトニ、御注意ニナラナケレバ
ナラヌノデゴザイマス、(拍手)此弊ヲ防グノデアル、而シテ陪
審法ハ陪審法ノ中ニ明ニ規定シテゴザイマス如ク、委員長
ノ御報告ニナリマシタ如ク、直接審理規定ニナッテ居ルノデ
ゴザイマスカラ、恐クハ左樣ナ憂ト云フモノハ、實際ニ於テハ
多クナイト論斷シテ妨ガナイト思フノデアリマス、今一ツ御
注意ヲ願ヒタイノハ、此陪審ノ規定ヲ、單リ人權蹂躪ト云
フガ如キ或種ノ事實ヲ排除スルノミデハナイ、從來極テ不
合理ナル、沒常識ナル栽判官ガアッタノデアリマス、是ハ裁判
官ンレ自體ニ附著シ、纏綿ヲ致シタ此弊ヲ排除スルト云フ
意味ヲ含ンデ居ルノデアリマスルカラ、此兩箇ノ見地ヨリ御
考ニナリマシタナラバ、此第三點ニ對スル駁撃モ、亦餘リ價
値ノアルモノトハ私ハ考ヘヌノデアリマス、第四ニハ自白ノト
キニハ陪審ヲ辭シ得ルトカ、若クハ自白ノトキニハ陪審ニ掛
ケナイト云フガ如キ規定ガアルト云フコトデゴザリマシタガ、
是ハ陪審法ノ上カラ見マスレバ、中心規定ヲ外レテ居ルノデ
アリマス、規定其物ガ惡カッタナラバ、修正シテ運用宜シキヲ
得ルノデアリマスカラ、眼目ヲ外レテ居ル、此點ニ多クノ力ヲ
傾注スル必要ハナイト田心ヒマス、第五ニハ司法ノ性質ト矛
盾ヲスル、多數デ以テ壓迫ヲスル嫌ガアル、是ハ勿論多數決
ニナッテ居ルノデアリマスガ、是トテモ英吉利ノ陪審法ニ定メ
テアリマスルガ如ク、全會一致ト云フコトニシマスルカ、若ク
ハ多數決ト云フコトニナルノガ是ガ惡イト云フコトニナリマ
スレバ、現行ノ構成法ノ規定ヲモ、非難ヲシナケレバナラヌコ
トニナルノデアリマス、裁判官ガ評議ヲ致シマスル時分ニハ、
總テ多數決ニ依ッテ、如何ナル事件ト雖モ裁判ヲ致シテ居ツ
タ、而シテ何等之ニ弊害ガ伴ウテ居ラヌト云フ事蹟ニ鑑ミ
ラレタナラバ、恐ラク思ヒ半ニ及ブコトデアラウト私ハ信ズル
ノデアリマス、其次ニハ議會ノ懲罰權、成程是ハ英吉利ノ
政治家ガ嘗テ英吉利ノ議會ヲ評シテ、男ヲ女トスルト云フ
コトハ出來ヌケレドモ、其他ノ事ニ於テハ何等不可能ノ事ハ
無イトシテ嘆ジツヽ英吉利ノ議會ヲ評シタト云フコトガアル
ト云フコトヲ承ッタノデアリマスガ、此評語ハ或時代ノ或政
黨ヲ評スル評語トハナルカモ存ジマセヌケレドモ、ソレハ稀有
ノ關係デアッテ、稀ニアル事相デアリマスルカラ、一般普通ヲ
期スル法典ノ上ニ言フベキ非難ノ言葉トシテハ、ドウシテモ
賛成スルコトハ出來ヌノデアリマス、其次ニハ總テ此陪審制
度ノ上ニハ、其運用ノ上ニ殊ニ非常ニ弊害ガ伴ウテ居ル、是
ハ一利一害デ、何事デモ實施ヲ致シマシタ際ニ於テ、利弊ノ
伴フト云フコトハ是ハ當然ノ數デアリマス、ノミナラズ此點ニ
付テハ、嚮ニ我黨ノ代議士鈴木氏ガ質問ノ際ニ詳細述べ
テ居ラレマスルガ如ク、弊害ノ聲モアルケレドモ、亦之ヲ廢止
シナケレバナラヌト云アガ如キ、强イ意味ノ議論ガ無イノデ
アルカラ、而シテ實際ニ於テ此陪審法ヲ適用致シテ、自ラ效
果ノ擧ッテ居ルト云フ此實例ハ、陪審法ヲ否定スル譯ニハ參
ラヌト云フ議論ガ唱ヘラレテ居リマスルカラ、此點ヲ拜借致
シテ御答ヲ致シテ置キマス、其次ニハ治外法權撤去ノ爲ニ
陪審制度ヲ創設セヨト云フ聲ガ無イト云フコトデゴザイマシ
タケレドモ、是等ノ如キハ殆ド駁論スル迄モゴザイマセヌ、人
人ニ依ッテ自ラ意見ガ異ナル、殊ニ治外法權ヲ行ハナケレバ
ナラヌ程、ソレ程文化ノ程度ノ低イ國ニ向ッテ、直ニ陪審制
度ヲ施行セヨト求ムルコトハ、寧口難キヲ責ムルト云フコト
ニナリマスカラ、此點ニ於テ必シモ治外法權撤去ノ爲ニ、ヨ
リ多ク完全ナル司法制度ヲ築ケヨト云フ言葉ノ中ニ特ニ「陪
審」ト云フ二字ガ含マナカッタト云フダケヲ以テ反對論ヲ爲
サルノハ、是ハ抑、こ理ノ當然ヲ言ヒ表ハシタモノデハナイ、若シ
私ヲ以テ申シマスルナラバ、司法制度ノ改善ヲ圖リ、內容刷
新ヲ圖レト云フ言葉ニハ、自ラ陪審制度ト云フモノヲ含ンデ
居ルモノト見テモ妨ナイノデアリマス、是ハ人〓ニ依ッテ意見
ガ違フ·デアリマスンレカラ、其次ニハ此第九デゴザイマスガ
九ノ分ニ付キマシテハ、或ハ佛蘭西ノ決闘ノ例トカ、若クハ
嬰兒壓殺ノ例トカ、婦人ノ罪、色ミノモノヲ擧ゲマシタガ、此
點ハ九デゴザイマシタケレドモ、此十五ノ場合ニ於ケル所ノ
社會黨ノ首領事例デゴザイマスル「クレマンソー」事例デゴザ
イマス、ソレカラ十八ノ場合ニ於ケル所ノ佛蘭西ノ革命ノ
場合是ハ一括シテ御答スルコトガ出來ルノデアリマス、稀ニ
アル現象ヲ以テ一般ヲ律スルコトニハ參リマセヌ、此點ニ付
テハ上畠君ハ左樣ナ議論ヲ屹度スルノデアラウト思フケレ
ドモ、實際此人權蹂〓トカ、其他之ニ類スル行爲ト云フモノ
ハ、十中一二シカ無イモノデナイカ、斯ウ云フ御議論モゴザ
イマシタケレドモガ、是ハ此陪審法ヲ議スル場合ニ於テ、委
員會ニ於テ質問應答ガ幾度モ重ネラレマシタ、其經過ニ徵
シマスルト、免ニモ角ニモ現在ノ司法ノ有樣ニ於キマシテハ、
此陪審法ト云フモノヲ實施致シテ、國民ヲシテ參與セシメ
テ、民衆的ノ裁判ヲ爲ス方ガ、免ニモ角ニモ從來ノ弊害ヲ
防イデ、更ニ改善ノ實ヲ擧ゲ得ルト云フ議論ガ盡サレテ居
リマス、此點ニ於テ私ハ御了承ヲ願ヒタイト思フノデアリマ
ス、ソレカラ又陪審法ト云フモノハ、祕密ニ事ヲ處理スルモ
ノデアルカラ宜シクナイ、併シ此祕密ト云フコトハ、先刻ノ多
數決ト同ジヤウニ、從來ノ裁判ト雖モ、總テ人ノ名譽トカ自
由トカ身體財產ト云フガ如キモノニ關係ヲスル事柄ハ秘密
ニ評決ヲ致シテ、公ニ栽判ヲ爲スコトニナッテ居ルノデアリマ
ス、陪審法ト雖モ決シテ公ニ裁判ヲ爲ス、ソレ自體ヲ禁ジテ
居ルノデハアリマセヌカラ、是亦殆ド反對ノ理由ニナラヌノ
デアリマス、ソレカラ原因無クシテ忌避ヲ爲スコトガ出來ルト
云フコトハ寧ロ是ハ此陪審法ノ特色デアルト考ヘテ居リマ
ス、ソレカラ公衆心理ニ囚ハレテ云々、是ハ時ニ依レバ左樣ナ
事ガアルカモ存ジマセスガ、私ノ淺キ經驗ニ依リマスルト、實
際ニ携ッタ人ト云フモノハ、事ノ眞相ヲ理解シテ居リマスカ
ラ、世ノ中ニ喧々囂々タル俗論ハアッテモ、之ニ動カサルヽヤ
ウナ裁判ヲスルト云フコトハ、是亦裁判官其人ノ扱アテ居ル
事例ニ徴シテ、斷ジテ私ハ無イト申シテ差支ナイト思フ位デ
アリマスノミナラズ、公衆心理ニ囚ハルヽ虞ガアルト云フコト
ニハ、陪審法ノ上ニハ、管轄ノ移轉ヲ爲スト云フコトノ規定
ガアリマスカラ、其公平ヲ維持セシムルニ足ルダケノ餘地ガ
置イテゴザイマスカラ、此點ニ對スル反對論モ自カラ價値ナ
キニ歸スルデアラウト私ハ思フノデアリマス、十七ノ場合ノ
此陪審ノ覊束力ノ無イト云フ點ハ、寧口陪審法ノ特色デア
ル、之ニ依ッテ調和スルコトガ出來ルト云フヤウナ事デアリマ
シタガ、私ノ意見トスレバ、此〓束力ノ無イ不徹底ナル點ガ
寧口本案ノ一大缺點デアルト考ヘテ居ルカラ、此點ハ後ニ
私ノ本論ヲ述べマス時分ニ、少シク論ヲ進メテ見タイト思フ
ノデアリマス、其他ハ殆ド駁シマセズトモ、自ラ理非明白ナル
事デアルト思ヒマスカラ、私ノ駁論ハ此點ニ止メテ置キマス、
本案ハ去ル八日ノ當議場ニ於キマシテ可決ニナリマシタ刑
事訴訟法案ト共ニ、司法制度ノ一大革新デアルト考ヘテ
居リマス、私共ノ黨ノ鈴木富士彌君ガ委員會ニ於テ用ヰマ
シタル言葉ヲ拜借致シテ、今少シク强キ言葉ヲ以テ申シマス
ルナラバ、本案ハ確ニ司法制度ノ上ニ於ケル所ノ、一大革
命デアルト申シテ妨ガナイト思フノデアリマス由來此自由ノ
存スル所ニハ、革命ハ無イノデアルト云フ見地カラ致シマス
ルナラバ、我國從來ノ司法制度ノ上ニハ一大缺陷ガアリ司
法事務ノ上ニ一大時弊ノアッタト云フコトヲ裏書スルノガ
此案デアル、卽チ斯ノ如キ革命的立法行爲ヲ企テヽモ、其
弊害ヲ去ラナケレバナラヌト云フ此理由ガ自ラ伏在致シテ
居ルガ爲ニ、本案ヲ提出セラレタモノデアルト云フ結論ニ到
達ヲ致シテモ、妨ガナイト私ハ思フ次第デアリマス、司法大
臣ナリ、玆ニ此本案提出ノ理由書ニ先ヅ依シテ見マスルト
云フト、斯樣ニ相成ッテ居リマス、本案提出ノ理由書ニ依リ
マスレバ「人文ノ發達國運ノ進歩ニ鑑ミ刑事事件ニ付陪審
ノ制度ヲ樹テ司法制度ノ完備ヲ圖ルハ最モ時宜ニ適スルモノト
認ム」トアルニ過ギマセヌ、又司法大臣ガ本會議竝ニ委員會ノ
說明ニ於キマシテ、其理由書ノ趣旨ヲ祖述シ擴張セラレ、
且ツ上職裁判官ノ陷リ易キ時弊ヲ防グ爲ニ云々ト附言セ
ラレタルニ過ギナカッタノデアリマス、之ヲ要スルニ本案提出
ノ理由書ニ依リマスルモ、將タ大木司法大臣ノ御說明ニ依
リマスルモ、單ニ我國ノ國情ト民度ニ顧ミテ、且ツ時ニ或ハ
上職栽判官ノ陷ルコトアルベキ弊害ヲ慮ッテ、本案ヲ提出シ
タノデアルト說明セラレタルニ止マリマシテ、未ダ我國ノ現
在ノ司法制度ノ上ニ缺陷ガアリ、又司法事務ノ上ニ時弊
ノ矯正ヲシナケレバナラヌモノガアルガ故ニ、本案ヲ提出スル
ノ必要ガアルト云フコトニハ言及ヲサレナカッタノデアリマス、
否ナ之ニ言及シ、之ニ觸ルヽト云フコトヲ、故ラニ御囘避ナ
サッタ傾向ガアルノデアリマスケレドモ、併ナガラ實際ニ於テ
ハ我國ノ過去現在ニ於テ、不合理沒常識ナル所ノ官僚裁
判ガ頻發シタト云フコトハ、顯著ナル事實デアッテ、容易ク之
ヲ否定セラルヽ譯ニハ參ラヌト思フノデアリマス、曾テ時ノ
大審院長デゴザイマシタ橫田氏ハ、其事實ノ存在スルト云
フコトヲ言明セラレ、其時ノ司法大臣デアッタ岡部長職子ガ
之ニ裏書セラレタルコトガアルト云フ事柄ハ、今尙ホ吾々ノ
記憶ニ新ナル所デアルノデアル、近時其人權蹂躪ノ事實ガ
多ク致シテ、檢事横暴ノ聲ガ高イト云フ事ト、竝ニ動モスレ
バ不適實、不合法ナル官僚栽判ノ弊ニ陷リ易イト云フ事
例ノ存スルコトハ、曩ニ鈴木代議士、關代議士ニ依シテ、此
本會議ニ於テ縷々演說セラレタ所デアリマス、又現ニ此在
野法曹界ノ權威者デアル原嘉道博士ハ、五十二頁ニ亙ル
所ノ大論文ヲ公ニセラレマシテ「司法改善ノ必要」ト題シテ
司法制度ノ缺陷ト、人權擁護ノ必要ヲ絕叫セラレテ居リマ
ス、而シテ其論ノ肯紫ニ中ッテ居ルコトハ勿論デアルノデアリ
マス、凡ン斯ノ如キ事例ハ殆ド枚擧ニ遑ガナイノデゴザイマ
スルガ、搗テ、加ヘテ、此司法大臣ノ言ウテ居ラレマスル所ニ依
リマシテモ、假令將來ニモセヨ、上職裁判官ノ陷リ易イ所ノ、
此不合理沒常識ノ官僚裁判ヨリ其弊ヲ救ハナケネバナラ
ヌト云フ、此意味モハッキリ致シテ居ルノデアリマス、要スルニ
本案ハ斯ノ如ク多クノ期待ヲ以デ此議場ニ現レタモノデゴ
ザイマスルガ、果シテ本案ノ內容實質ト云フモノガ、此期待
ニ副フダケノ價値ガ有ルカ無イカト云フコトニ付テ、忌憚ナ
ク申シテ見マシタナラバ、本案ノ内容實質ハ確ニ此期待ヲ
裏切ラレテ居ルモノデアルト斷ズルコトノ、極テ悲ンムベキモ
ノデアルコトヲ思フノデアリマス、蓋シ此人權ノ保護ノ最終
ノ保障ト云フコトハ、裁判ノ適正ナルニ在ルノデアリマス、陪
審制度ヲ設クルノハ事實ノ眞相ニ適シ、法律ノ所定ニ合ス
ル、其適正ナル栽判ヲ欲スルニ在ルノデアリマス、故ニ世ノ
所謂陪審制度ノ眼目規定ト致シマシテハ、第一ニ陪審ノ
答申ニ、十分ナル所ノ威力ヲ持タシメナケレバナラヌノデア
リマス、、第二ニハ陪審ノ權限ヲ犯罪構成ノ有罪ニ限ラズシ
テ、情狀ノ點ニ迄及ボサナケネバナラヌノデアリマス、第三ニ
ハ陪審ノ適用ノ範圍ハ、廣キ程度ニ迄及ボサナケネバナラヌ
卽チ此三ツノ眼目ヲ忘レテハナラヌノデアリマス、故ニ其規
定ノ充實ヲ致シマスルト否トニ依シテ、此裁判ノ適正ナルヤ
否ヤト云フコトニ極テ大關係ヲ持ツノデアリマス、然ルニ本
案ノ陪審法ハ、一條ヨリ百十四條ト云フ大キナ箇條ニ亙ッ
テ居リマスケレドモ、其中心規定ト致シマシテハ、第一ニ此
陪審ノ答申ノ效力ヲ認メタル所ノ第一條、及第九十五條、
第二ニハ陪審ノ權限ヲ認メタル第七十七條、陪審ノ適用
ノ範圍ヲ認メタル第二條、第三條ニ過ギナイノデアリマシデ
其他多クノ規定ハ悉ク其運用規定ニ外ナラナイノデアリマ
ス、而シテ就中此第一條ニ於キマシテハ事實ノ判斷ハ裁
判所ガ爲スコトニ規定サレテアル、陪審官ガ之ニ與ラナイ、
第九十五條ハ裁判所ガ陪審ノ答申ヲ不當ト認メタトキニ
ハ、訴訟ノ如何ナル程度ニ在ルヲ問ハス、決定ヲ以テ事件ヲ
他ノ陪審ノ評議ニ付スルコトヲ得ル旨ガ規定シテアッテ、陪
審ノ答申ニハ何等ノ〓束力ガ認メテナイノデゴザリマス、第
七十七條ハ、陪審ノ權限ヲ犯罪構成ノ事實ノ有無ニ限ラ
レテアッテ、情狀ノ點ニ迄ハ及ボシテ居ラヌノデアリマス、又
第二條及第三條ハ、陪審適用ノ範圍ヲ極テ狹小ナル程度
ニ止メラレテアルノデアリマス、是ヲ以テ陪審法ノ實施ニ依ッ
テ適實合法ノ裁判ヲ得ルト云フコトハ、甚ダ望少イノデアリ
マス、同時ニ銳意熱心ニ陪審法ノ制定實施ニ依ヶテ、過去
現在ニ於ケル制度上ノ缺陷-實際上ノ弊害トヲ除イテ、
更一司法改善ノ實ヲ擧ゲント欲スル國民ノ望モ、亦殆ド絕
エタリト謂ハナケレバナラヌ、實ニ浩嘆ノ極デアルノデアリマ
ス、大木司法大臣ハ、我國ノ國民ヲシテ司法ニ參與セシム
ルノデアル、從來我國ノ國氏ハ立法ニモ參與致シテ居レバ、
行政ニモ參與シテ居ルノデアルカラ、我國ノ人文發達ノ程
度ニ鑑ミテ、國民ヲシテ司法ニ參與セシムルト云フコトハ、
極テ必要適切ナル立法行爲デアルト力說サレタノデアリマ
スガ、併ナガラ我ガ國民ガ立法行政ニ參與致シテ居ルコト
ハ事實デゴザイマスト同時ニ、其參與ヲ致シテ居ル狀態ヲ
一瞥セラレマシタナラバ如何デゴザイマス、卽チ參與セル範
圍ニ於テハ、立法ニセヨ、行政ニセヨ、參與ノ程度ニ於テ、少
クトモ國民ハ國政ヲ左右シ得ベキ權威ト資格トヲ備ヘテ居
ルノデアリマス、單リ司法ノ參與ト中サレマス方面ニ於キマ
シテハ、陪審法中ノ眼目中ノ眼目トモ謂フベキ陪審ノ答申
ノ效力ニ付テ見マスルト、本案ニ依シテ國民ヲシテ司法ニ參
與セシメラレルト云フ程度ハ、長鞭馬腹ニ及バズト申シマス
ルカ、非常ニ不徹底無權威ノモノデアッテ、立法行政ノソレ
ノ如ク、參與ノ範圍ニ於テ司法栽判ヲ左右シ得ベキ威力ト
資格トヲ認メラレテ居ナイノデアリマス、隨テ名ハ陪審ト謂
ヒマスケレドモ、實ハ決シテ陪審ニ非ズ、啻ニ栽判官ノ參考
資料ト致シテ答申ヲ致ス、諮問機關ニ過ギナイ感ガアルノ
デアリマス、構田法制局長官ハ本會議ニ於テ、鈴木代議士
ノ質問ニ答ヘテ、斯樣ニ申シテ居ラレマス「陪審員ノ事實ノ
認定ガ常ニ裁判所ヲ必然的ニ覊東スルト云フコトハ現在
ノ憲法ノ解釋ノ如ク有力ナル部面ニ於テ非常ナル反對ガ
起シテ來ル此反對ハ合理性ヲ持ッテ居ル此點ハ避ケナケレバ
ナラヌ同時ニ陪審ノ評議ト云フモノヲシテ威力ナカラシムル
コトハ本案制度ノ大精神ニ背反スル是ニ於テ本案ハ陪審
ノ意見ニ悖戾シテ裁判所ハ事實ノ認定ガ出來ナイト云フ
組立ニナッテ居ル裁判所ノ意見ガ陪審ノ意見ヲ排除シ陪
審ノ意見ヲ無視シテハ常ニ出來ナイト同時ニ陪審ハ常ニ栽
判所ヲ拘束スルコトハ出來ナイ此中間性ノ性質ヲ採シタ所
ニ本案ノ妙用ガアルノデアリマス」ト辯明サレテ居ルノデアリ
マス、仍テ本員ハ委員會ニ於テ、其辯明ノ根據ハ本案中ノ
何レニ在リヤヲ御尋致シマシタケレドモ、不幸ニ致シテ其御
答ニ接スルコトガ出來得ナカッタノデアリマス、而シテ本案ニ
對スル同長官ノ答辯ノ要旨ハ運用ノ妙ヲ發揮スルニ在リ
ト答ヘラレタニ過ギナカッタノデアリマス、固ヨリ立法ノ精神
ノ存スル所ヲ吾々ガ究メントスルニ當リマシテハ、立法者ノ
立法ノ趣旨ヲ承ルト云フコトハ、其解釋ノ一資料タルニハ
相違ゴザイマセヌケレドモ、凡ン法令ノ解釋ト云フモノハ、法
文ノ上カラ、文理的ニ將夕論理的ニ、實意ノ存スル所ヲ追
究看取スベキモノデアリマシテ、決シテ法文ヲ離レテ解釋ヲ
下スベキモノデハナイノデアリマス、平タク申シマスト、法文ハ
如何樣デアッテモ、立案者ノ立案當時ノ考ハ斯ク々々デア
ルカラト云フ如キ解釋ノ仕方ハ、決シア此解釋ノ原理ノ方
カラ許スベキモノデハナイト信ズルノデアリマス、而シテ本案
中ニ、國民ヲシテ司法ニ參與セシムルト云フ規定ヲ索メテ
見マスト、前ニモ申上マシタ如ク九十五條デアリマスガ、此
條文ノ規定ノ趣旨ハ、陪審ノ答中ニシテ裁判所ノ意見ニ合
致シナイトキハ、何時デモ他ノ陪審ノ評議ニ付スルコトガ出
來ルノデアッテ、恰モ走馬燈ノ如ク、幾度モ幾度モ同一ノ手
續態度ヲ繰返スト云フコトガ出來ルコトニナッテ居ル、政府
ハ運用宜シキヲ得レバ、實務ヲ執ル上ニ於テ、何等ノ支障ガ
ナイト辯明セラレマスケレドモ、其辯明ニハ法理上何等ノ根
據ガ無イ、立案者ノ意見トシテハ斯ク々々デアルト云フニ過
ギナイノデアリマスカラ、此御議論ニハドウシテモ贊成スルコ
トガ出來ナイノデアリマス、況ヤ此裁判所ハ注文ノ示ス所ニ
從ヒマシテ、第一回ノ答申ガ竟ニ充タナイト第二回ノ答申
ヲ徴シ、尙ホ意見ガ合致シナイトキハ、第三回、第四回、甚シ
キニ至リテハ第百回ニ至リテモ、其答申ノ趣旨ガ裁判所ノ
意見ト反スルトキハ、其答申ヲ無視シテ、裁判所ノ獨自一個
ノ所見ニ基イテ、事實上ノ判斷ヲ爲スコトガ出來ルト云フ結
論ニ到達シナケレバナラヌノデアリマス、又一方カラ際限ナク
他ノ陪審ノ評決ニ付シ、同一ノ手續ヲ反覆シテ、事件ヲシテ
終局ノ機會ナカラシムルカノ二途ヨリ外ニハ無イ、又運動運
動ト申サレマシテモ、此法文ヲ曲グルコトハ到底不可能ト思
ヒマス、模倣トマデ參ラズトモ、多ク參考ノ資料トナリマシタ
歐米先進國ノ立法例ニ依リマスレバ、大抵陪審ノ意見ト云
フモノヲ判定、決定、若クハ認定ト云フ術語ヲ以テ表示シテ
アッテ、而モ或ル程度ノ手續ヲ盡スニ於テハ、陪審ノ意見ハ
事實認定ニ關シテハ、栽判所ヲ覊束シテ居ルノデアリマス、
要ハ歐米ノ陪審制度ハ名實相協フ規定ガ置カレテアッテ、
國民ヲシテ司法ニ參與セシムル所ノ民衆裁判ノ實ガ舉ッテ
居ルノデアリマス、然ルニ本案ニハ普通一般ノ陪審制度ト
目セラルヽモノヽ中性規定トモ謂フベク、答申ノ效力ニ付テ
規定スル所モ、歐米各國ノ立法例ニ反スルノミナラズ、世界
ニ類例ノ無イ、極テ不徹底無權威ノモノデアルト云フコト
ハ、前ニ述ベタ通リデアリマス、ンレ故ニ本員ハ斯ノ如キ微
溫的ナル規定ヲ以テ、政府當局ガ滿足セラレタノハ那邊ニ
存スルノデアルカ、我ガ國國民文化ノ程度ガ、ヨリ以上ニ司
法ニ參與セシムルニ足ラナイト認ノラレタニ依ルノデアルカ、
或ハ是以上ノ權能ヲ與フルト云フコトハ、憲法等ノ解釋ニ
於テ牴觸スルニ依ルモノカト云フ質問ニ對シテ、政府ハ辯
明セラレテ、前者デハナイ後者デアル卽チ憲法ニ裁判トア
ルノハ、總テ認定權ヲ含ンデ居ルノデアルカラ、陪審員ヲシテ
事實ノ認定ヲセシムルト云フコトハ、裁判ヲ爲スト云フコト
ニ歸著スルノ結果ト致シテ、憲法ニ背反スルノデアルト說明
ヲセラレタノデアリマス、若シ此見解ヨリ出發致シテ立論ヲ
致シマスルナラバ、本案ノ如キモ、亦國民ハ或種ノ刑事事件
ニ付テ幾多ノ手續ヲ經テ答申ヲ爲サシムルト云フコトハ、少
クトモ此陪審ノ斷定的見解ノ發露デアッテ、其內容ハ事實
ノ認定ニ屬スルモノデアルト私ハ思フノデアリマス、隨テンレ
自體ガ憲法ニ矛盾スル行爲デハナイカト云フコトヲ疑フノ
デアリマス、是ハ獨リ私ノ一私言デハナイノデアリマス、現ニ
此斯學ノ造詣ニ深キ所ノ泉二新熊博士ガ國家學會ノ雜
誌ノ上ニ論文ヲ公ニセラレテ居ルノデアリマス、其一齣ヲ簡
單デゴザイマスカラ、玆ニ讀ンデ參照致シテ置キマス、「憲法
ノ制定ノ時ニモ議論ガアッタ所々ノ憲法ニソレヲ用井ルコト
ヲ明ニ規定シテアルノガ可ナリアルノデアル例へバ亞米利加
合衆國憲法ノ第三條ノ一一項普魯西憲法ノ第百九十三條
墺地利憲法ノ十一條白耳義憲法ノ九十八條ガ其通リニ
ナッテ居ル日本ノ憲法ハ大分普魯西ノ憲法ニ倣ッタ所ガア
ルト云フ話デアリマスガ普魯西憲法ニ陪審ノ規定ガアルニ
拘ラズ我ガ憲法ニ之ヲ揭ゲナイト云フノハ全ク其事ニ考ノ
及バナイノデハナク歐米ニ於テ陪審ノ爲ニ寧口弊害ニ苦シ
ンデ居ルト云フ事ヤ日本デハ未ダソノ必要ガ無イト云フコ
トヤ種々ノ理由ガアッテ之ヲ特ニ入レナカッタノデアラウト思
ヒマス、ソレデ憲法ノ規定ヲ見マシテモ陪審ガ裁判ニ關與ス
ルト云フコトハ先ヅ少クナイトノ趣旨ニ解釋スル方ガ穩當
デアラウト思ヒマス」斯樣ニ申シテ居ラルヽノデゴザイマス、其
要ハ國民ガ裁判ニ干涉トカ、若クハ干與セシムルト云フコト
ハ、裁判ニ携ハルト云フコトニナルノデアッテ、結局憲法違反
ニナリハシナイカト云フ議論ヲ唱ヘラレテ居ルノデアリマス、
卽チ本員ガ只今本案ノ如キ規定デモ、憲法違反デハナイカ
ト云フ議論ヲ致シマスルノハ、決シテ本員ノ獨斷偏見デハナ
イト云フコトハ明デアルノデゴザイマス、サリナガラ本案ト此
憲法トノ權衡ヲ取ラレテ、本案ノ規定ノ程度ニ迄進メラレ
マシタト云フ此一致協調ヲ保タレタト云フコトハ、私ハ司法
制度改善ノ爲ニ非常ニ欣快ト致ス所デゴザイマスカラ、此
點ニ於ケル憲法違反論ハ暫ク閣上ニ束ネテ置キマシテ、論
ヲ上下スルコトハ致シマセヌケレドモ、果シテ政府說明ノ如
ク、本案ノ規定ヲ擴張シテ、陪審ヲシテ事實ノ認可ヲ爲サシ
ムルト云フコトガ、憲法違反トナルト云フ御考デゴザイマス
レバ、何ガ故ニ憲法ノ改正ヲモ御企テニナラナカッタノデアル
カト云フコトヲ疑フノデアリマス、固ヨリ此憲法ノ改正ト云
フコトハ重大デゴザイマシテ、極テ嚴肅莊重デナケレバナラヌ
ノデアリマスケレドモ、顧ミマスレバ我國ニ立憲政治ガ行ハ
レマシテカラ三十有餘年、議會ヲ開カルヽコトガ四十五回
ノ多キニ達シテ居リマシテ、時勢ノ變遷進歩ハ極テ著シキモ
ノガアルノデゴザイマス、特ニ此世界戰爭以來、急轉直下ノ
勢ヲ以テ改善ノ氣運ニ赴イテ居リマスノミナラズ、政府ノ說
明ニ依リマシテモ、本案ハ司法制度ニ於ケル所ノ一大革新
デアル、後世史乘ニ於ケル一大記錄ヲ遺スモノデアルトマデ
聲言ヲセラレテ居ルノデアリマスカラ、ソレ程有益ノ一大立
法行爲デアルノデアリマス、又御案内ノ如ク、吾々國民ガ立
法ニ參與致シマシタノハ、憲法實施ト同時デアル、司法行
政ニ參與ヲ致シマシタノハ憲法實施ノ以前ニアッタノデアリ
マス、司法參與ト云フ濫觴デアル所ノ此陪審制度ヲ確立
一致シテ、サウシテ一大新紀元ヲ形造ルト云フ機會ニ於テ、
憲法ヲ改正セラルヽト云フ事柄ハ、洵ニ相應シキ事業ニア
ラズヤト私ハ思フノデアリマス、同時ニ此絕好ノ機會ヲ逸シ
ナイト云フコトヲ、特ニ私ハ望ムノデアリマス、此意味ニ於キ
マシテ此意見ヲ提唱スルノデアリマス、政府ハ口ニ此國民ノ
輿望ニ副フベキ、司法制度ノ一大改善ヲ圖リシモノデアル
ト唱ヘラレマスケレドモ、惜ムラクハ實ハ之ニ伴ウテ居リマセ
ヌ、寧口國民ノ失望ハ名狀スペカラザルモノガアリマス、察ス
ルニ政府ハ此國民ヲ司法ニ參與セシムルノ權能ヲ與ヘルモ
ノデアルト云フ美名ヲ博スルニ急ニ致シテ、其事業ヲ企テ、之
ヲ遂行スルニ當ッテノ一大覺悟ト、一大決心ガ缺ケテ居ッタ
ノデハナイカト云フコトヲ疑フノデアリマス、此覺悟ト此決
心ガ缺如致シテ居ッタト云フコトハ、軈テ憲法ノ改正ト云フ
コトハ別ノ問題ト致シマシテモ、其他ノ點ニ於テ頑冥不靈
ニシテ、徒ニ固陋ノ見解ヲ持スル或ル一派ノ人々ニ願慮シ
テ、逡巡スルノ素因ヲ成シテ、遂ニ本案中ニ規定ノ不完全
ナル所ヲ留ムルニ至ッタモノデアルト私ハ思フノデアリマス、特
ニ前ニ申述ベマシタ如ク、本案ノ骨子、眞髓デアル陪審權
能規定ノ不完全ナルコトハ、假令憲法トノ調和ヲ保ツコトニ
與ッテ力アッタトハ申シナガラ、主トシテ是等眞劒味ノ努力
缺乏ニ原因スルモノデアルト云フコトヲ斷定スルニ、私ハ躊
躇シナイノデアリマス、或ハ此本案ハ國民ヲシテ司法ニ參與
セシムル新シキ最初ノ試ミデアル、未ダ十分デハナイケレドモ
全然之ヲ無キニ比スレバ、遙ニ優ッテ居ルデハナイカト唱ヘラ
ルヽ人ガアリマスケレドモ、本案實施ノ曉ニ於キマシテ、隨分
多クノ手數ト勞力トヲ費シテ、ンレニ伴フ所ノ經費モ亦
少クナイノデアリマス、果シテ其得失ヲ償ヒ得ペキカ否ヤト
云フコトハ疑問デアルト思ヒマス、ノミナラズ見方ニ依リマシ
テノ、徒ニ聲ヲ大ニシテ國民ノ心ヲ收攬スベク國ノ立法ヲ
弄ブモノデアルト評サレテモ、恐ラク辯解ノ辭ガ無イト思フ
ノデアリマス(「ノウ〓〓」)併ナガラ國民ガ陪審制度ノ實現ヲ
希望シテ居ルト云フコトハ熱烈デアリマスルガ故ニ、鷄肋ノ
棄テ難キモノトナルト言ウテハ極端デゴザイマスケレドモ、折
角ニ御提出ニナリマシタモノデアリ、且ツ御提案ニナリマス
ニ至ルマデノ當局者ノ苦心ト云フモノハ、之ヲ諒トシナケレ
バナラヌト私ハ思フノデアリマス、千丈ノ堤モ螻蟻ノ一穴ヨ
リ崩ルヽノ例モアルコトデアリマスカラ、本案ニ於キマシテハ、
國民司法參與ノ端ヲ啓カレタルト云フ點ニ、多大ノ敬意ヲ
表シマシテ、末遂ニ大海ノ波トナルトモ、山水ノ婁時木ノ葉
ノ下潜ルト云フ信條ヲ含ンデ居ル、意味深長ナル横田長官
ノ所謂妙用ノ存スルモノト云フ觀念ヲ致シテ賛成ヲスルノ
デアリマス、併シ古往今來時代ノ趨勢ハ、創業ノ易クシテ、
守成ノ甚ダ難キモノアルコトヲ示シテ居ルノデアリマス、本
案九十五條ノ運用ノ如キハ、何等他ノ法文ノ保障スルモノ
ガ無イノデゴザイマスカラ、當局御說明ノ通リニ、此實際上
ノ效果ヲ牧ムルヤ否ヤト云フコトハ洵ニ疑問、デアッテ、本員
衷心ヨリ其前途ニ向ッテ憂慮ヲ懷ク者デアリマス、願クハ政
府ニ於キマシテモ、此點ニ關シテハ周密ノ注意ト最善ノ努
力トヲ吝マルヽナカランコトヲ、政テ希望ヲ囑シテ置クノデア
リマス、其他陪審員ノ資格ニ關シマスル所ノ、法案第十二
條第一項第四號ノ讀ミ書キヲ爲シ得ルト云フ此法文ノ運
用ニ付キマシテモ、同樣ニ注意ヲ望ムノデアリマス、其次ニモ
ウ一ツ希望ヲ囑シテ置カナケレバナラヌ事ハ、此陪審法ノ十
二條一項ノ第三號ニ、引續キ二年以上直接國稅三圓以
上ヲ納ムルト云フ法文ノ如キハ、私ハ規定自體ニ於テ甚ダ
不滿足ヲ表スルモノデアリマス、陪審員トナルベキ者ノ資格
要件ト致シマシテ、納稅者タルコトヲ要スルト云フガ如キハ
私ハ是ハ時代後レノ規定デアルト考ヘルノデアリマス、退イ
テ歐米各國ノ立法例ヲ見マスルト云フト、成程略同樣ノ規
定ガアリマスケレドモ、外國ノ規定ハ古クカラ存在致シテ居
ルノデアリマシテ、餘程ノ年所ヲ經テ居リマス、謂ハバ惰力ノ
然ラシムル結果ト致シマシテ、改正ヲ爲サナイト云フノニ過
ギヌノデアリマス、又現狀打破ト云フコトハ、往々ニシテ之ヲ
爲スヲ難ンズルト云フノガ人間ノ弱點デアリマスカラ、母法
ノ國々ニ於テハ、大ニ是等ノ理由ニ基イテ改正ヲ爲サナイモノ
デアラウカト私ハ思フノデアリマス、要スルニ斯ノ如キハ舊時
代ノ遺物デアリマス、然ルニ其間何等ノ取捨ヲ加ヘラレルコ
トモナク、悉ク模倣ヲセラレタト云フ跡ノ存スルノハ甚ダ措
ムノデアリマス、此點ニ付テハ我黨ノ作間君ヨリ讀ミ書キト
云フ條項ニ對シテ、普通〓育ヲ卒ヘタル者ト云フ條項ヲ加
ヘラレタ、此點ヲ加味セラレテ、卽チ斯ノ如キ條文ノ成立ヲ
私ハ希望致シテ、納稅條件ノ如キハ、寧口撤廢セラルヽノ極テ
至當デアルコトヲ信ズル者デアリマス、其他委員長ノ報告ノ
希望條件ニ付キマシテハ、ドウカ不斷ノ〓究ト努力トニ依ク
テ、本案改正ノ機會ヲ捉ヘラルヽコトニ御留意アランコトヲ
特ニ希望致シマス、斯ウ申シマスルト、餘リ政府ヲ責ムルコ
トガ嚴ビシ過ギルデハナイカト云フ御非難ガアリマスルケレ
ドモ、若シ是ガ既ニ成立ッタル所ノ法典ニ付テ-成典ニ付
テノ解釋デゴザイマスルナラバ、如何樣ニモ之ヲ活用スベキ
立論ヲ致シテ、其法制ノ效果アラシムベキ運用ノ妙ヲ得ル
ヲ努ムルコトニ於テ、決シテ人後ニ落ツルモノデハアリマセヌガ、
苟モ新シキ立法事業デアル-一大立法事業デアルト云フ
以上ハ、明ニ不滿足ノ點ガアリ、不完全ノ點ノアリマス以上
ハ、徒ニ之ニ共鳴ヲ致シテ、輕ミシク看過スルコトハ出來ナ
イノデアリマス、サナキダニ隴ヲ得テ蜀ヲ望ムハ人間ノ自然
ノ欲求デアリマス、況ヤ只今申シマシタ本員ノ本案ニ對スル
希望條件ハ、固ヨリ當然ノ要求デアリマシテ、多キヲ望ムモノ
デハナイノデアリマス、恐クハ政府當局ト雖モ此趣旨ヲ諒ト
セラルヽコトヽ私ハ信ジマス、願クバ虚心坦懷ニ以上ノ希望ヲ
看取セラレマシテ、一ツニハ本案制定ノ趣旨ヲ達成スベク、運
用上ニ十全ノ努力ヲ怠ルコトナク、更ニ〓究考慮ヲ重ネ
ラレテ、近キ將來ニ其改正ノ機會ヲ作ルベク御盡力アラン
コトヲ、希望シテ已マナイノデアリマス、惟フニ斯ノ如キハ本
案ノ陪審制度ヲシテ、眞ノ國民裁判タルノ精華ヲ發揮シ、
以テ國民ノ信賴ヲ繋グ所以デアッテ、本案立法ノ效果始テ
完キヲ得ルノデアルト考ヘルノデアリマス、之ヲ以テ本案ニ
賛成ノ理由ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=36
-
037・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 定刻ニ近ヅキマシタガ時間ヲ延
長致シマス-別ニ他ニ發言ノ通告モアリマセヌカラ討論
ハ終結サレマシタ-本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤニ付決
ヲ採リマス、第二讀會ヲ開クニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマ
ス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=37
-
038・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 多數デアリマス、仍テ本案ハ第
二讀會ヲ開クコトニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=38
-
039・岩崎勲
○岩崎勳君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開カレンコトヲ望ミ
マス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=39
-
040・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議アリマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=40
-
041・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ハ無イト認メマス、仍テ
直ニ第二讀會ヲ開キ、議案全部ヲ議題ト致シマス
陪審法案第二讀會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=41
-
042・鵜澤總明
○鵜澤總明君 二讀會ニ於テ修正ガ一箇條アリマスカラ
修正案ヲ提出致シマス、卽チ第十四條第一項第十三號「辯
護士」ノ下ニ「特許辨理士」トアル「特許」ノ二字ヲ削ル修
正案ヲ提出致シマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=42
-
043・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 尙ホ板野君ヨリ、成規ノ賛成ヲ
得テ修正案ガ提出ニナッテ居リマス、何レ其趣旨辯明、其他
討論等ノ通告モアリマスカラ、此際暫ク休憩致クマス
午後五時五十八分休憩
午後六時十九分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=43
-
044・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 休憩前ニ引續イテ會議ヲ開キ
マス、板野友造君ヨリ御提出ニナリマシタ修正案ニ付キマ
シテ、提出者ノ趣旨辯明ヲ許シマス、板野友造君
「板野友造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=44
-
045・板野友造
○板野友造君 修正案ヲ提出致シテ置キマシタカラ、其
趣旨ヲ簡單ニ辯明致シタイト存ジマス、時間モ移ッテ居リマ
スカラ、極ク之ヲ要約シテ申述ベタイト思ヒマス、修正ハ第
一條、第二條、第四條、第九十一條ト九十五條、此五箇條
ニ亙リマスモノデ、其分量カラ申シマスレバ、極メテ小サナル
修正デアリマス、デ是ハ諸君ノ御手許ニ既ニ印刷シテ配付
サレテ居リマスト存ジマスルカラ、此修正ヲ致シタイト云フ
條項ニ付テ、一々申述べマスルコトハ、之ヲ省キマス、唯修正
致シタイト思ヒマスル眼目ハ、陪審ニ付スベキ事件ノ範圍ヲ
原案ヨリモ、モウ一ツ擴大シタイト云フコトガ第一點、モウ一
ツハ陪審ノ效力-陪審ノ效力ヲ原案ヨリモ、モウ少シ增
加シタイ、卽チ事實認定權ヲ陪審ニ與ヘテ、サウシテ陪審ノ
決定ヲ以テ裁判所ヲ拘束セシムルコト、斯ウ云フ事ニ致シ
タイ、前刻鵜澤委員長カラ委員會ノ經過及結果ヲ御報告
ニナリマシタ際ニ、委員長カラハ國民黨ノ修正案ハ、憲政會
ノ修正案ト餘リ違ハナイモノダト云フ御報告ガアリマシタ
ガ、憲政會ノ御修正ニナラウト云フノハ、陪審ニ付スベキ事
件ノ範圍ヲ擴大シヤウト云フ事ト、其他ハ辯護權ニ關スル
事ト、モウ一ツハ七十九條云々ト云フ事デ、委員會ニ於テ
憲政會カラ提出サレタ修正意見ハ、斯ウ云フ點デアリマス
ルガ、私共ノハ是ヨリハ餘程進ンデ、陪審ノ效力ニ關シ、憲
政會ノ諸君ガ委員會ニ於テ提出サレマシタヨリハ、進ンデ
陪審ノ決定ニ裁判所ヲ拘束スルノ力ヲ與ヘヨト云フ點ガア
リマシテ、此點ハ餘程違ッテ、趣旨ノ違フモノデアルト云フコ
トヲ-失禮デアリマスルガ、委員長ノ御報告ヲ訂正ヲ致ス
ト言ッテハ、語弊ガアルカモ知レマセヌガ、誤デアッタコトハ誤
デアリマスカラ、此點ヲ是正致シテ置キマス、斯ウ云フ事件
ノ範圍ヲ擴大スルコトヽ、其效力ヲ强カラシメルコト、是ガ
大ナルモノデアッテ、其他ハ唯原案ニハ陪審ノ答申ハ過半數
ヲ以テ決スルト云フモノヲ、全會一致ト云フコトニ致シ、委
員長ガ御報告ノ際ニ述ベラレマシタ如ク、英國ノ法制ニ則
リ、滿場一致ノ決ヲ要求致シテ、斯ウ云フ事ニナッタ、ソレカ
ラモウ一ツハ、屢〓問題ニナリマスル第九十五條デアリマス、
理論ノ上カラハ、十回デモ、二十回デモ、百回デモ、二百囘デ
モ突戾シテ、新ナル陪審ニ付シ得ルト云フ-不徹底ト申
シマスルカ、甚ダ古今獨歩、東西其例ヲ見ザル新案ノ此立
法ニ對シテ修正ヲ加へ、一一回ヨリ出來ナイ、斯ウ云フ制限ヲ
加ヘル、是ダケデアリマス、斯ウナリマスルト、別段何故ニ修
正ヲスルカト云フ理由ハ、餘リ管とシク申シマセヌデモ、此修
正ヲ致シタ條項ヲ讀ンデ直ニ分ルト考ヘマスルガ、事憲法ト
ノ關係ヲ持チマスルカラ、私モ一言辯明ヲ致シテ置キタイト
存ジマス、此陪審制度ガ必要デアルカ否ヤト云フコトハ、此
際申述ベル必要ハナイ、陪審制度ガ必要デアルト云フコト
ハ、我ガ衆議院ニ於テハ、第二十六議會ニ於テ大多數ヲ以
テ可決致シ、サウシテ政府ニ其提案ヲ要求致シテ居ル程デ
アリマスルシ、政府旣ニ此要求ヲ容レテ、本案ヲ出シテ居ル
ノデアリマスカラ、議會ノ所見ト政府ノ所見トガ、其必要ヲ
認メル上ニ於テ一致ヲ致シテ居ル、今日此陪審必要論ヲ唱
ヘル必要ハアリマセヌ、此點ハ略シマスルガ、前刻鵜澤委員
長ノ御言葉ニモ在リマシタ如ク、此普通選擧ト陪審制度、
普選ト陪審、是ガ立憲政治ノ骨髄デアリ、眞髓デアル、斯ウ
云フ意味ヲ鵜澤博士カラ此席ニ於テ述ベラレマシテ、私共
全然同感ニ存ジマス、普選ト陪審、是ガ立憲政治ノ兩骨子
デアルト私共ハ思ッテ居リマスルガ、陪審ノ必要ノコトハ、申述
ベルコトガ不必要デアリマスルカラ、是ハ略シマス、略シマス
ルガ、唯ソレデハ陪審トハドンナモノカ、政府ノ述ベル所ニ依ツ
テ見マスルト云フト、陪審ト云ッタ所ガ、別ニ一定シタモノデ
ハナイカラト云フヤウナコトガアリマスルガ、曩ニ我ガ衆議院
ガ、二十六議會ニ於テ可決ヲ致シ、或ハ日本辯護士協會
其他ノ學者若クハ政治家ガ、之ヲ要求ヲ致シテ居ッタ陪審
トハ、ドウ云フモノデアルカト申シマスレバ、一口ニ之ヲ述ベマ
スレバ、陪審トハ刑事ダケニ付テ述べマスレバ、犯罪トナルベ
キ事實ガ有ルカ無イカト云フ、此事實上ノ判斷、事實上ノ
認定ヲ、全然之ヲ國民ニ委スル、卽チ陪審ニ事實ノ認定權
ヲ一任シテ、サウシテ陪審ノ手ニ依ノテ認定確定ヲサレタル
事實ニ對シテ、裁判所ハ法律ノ適用ヲスル、法律ヲ適用シ
テ宣告ヲスル、斯ウ云フ風ニスルト云フ、制度ヲ要求致シテ
居ッタコトハ、洵ニ明カデアリ、且ツ是ガ陪審ト云フモノヽ世
界共通ノ意義デアルノデアリマス、卽チ事實ノ認定ヲ陪審
員ノ手ニ委スル、是ガ陪審ノ精神デアル、陪審制度ノ精神
デアルト云フコトダケハ、茲ニ明ニ致シテ置キタイト考ヘル、
是ガ我ガ修正說ヲ提出スル本ニナリマスルカラ、此事ヲ一言
致シテ置キマスル、所ガ本案ハ如何ニ相成ッテ居リマスルカ
ト申セバ、本案ハ第一條ニ於テ、第一條ニ裁判所ハ云々事
實ノ判斷ヲ爲スコトヲ得」ト斯ウ書イテアル「裁判所ハ本法
ノ定ムル所」云々デスガ、是ハ要ラヌ文字デ、裁判所ハ事實
ノ判斷ヲ爲スコトヲ得、卽チ裁判所ハ陪審ニ付シテ事實ノ
判斷ヲスルコトガ出來ルトアッテ、事實ノ判斷、卽チ事實ノ認
定權ハ、依然トシテ裁判所ノ手ニ存シ置カウト云フコトガ、
第一條ニ於テ確定ヲサレテ居ルノデアル、ソレデアリマスルカ
ラ、吾々ガ嘗テ日本辯護士協會ノ先輩諸君ト共ニ、絕叫ヲ
致シタ所ノ陪審ト云フモノトハ、本案ハ全然違ッテ居ルノデ
アリマス(拍手)吾々ガ要求致シ、又二十六議會ニ於テ我ガ
衆議院ノ可決ヲ以テ政府ニ要求シタ陪審ナルモノモ、陪審
員ニ事實ノ認定權ヲ與ヘル制度ヲ採レヨト云フ要求ガアッ
タノデアリマスルガ、本案ニ於テハ、是ト大ナル懸隔ガアリ、性
質ガ全然違ヲタ組織ニナッテ居リマス、唯裁判所ガ固有ノ事
實認定權ヲ行使スルニ於テハ、陪審ノ意見ヲ聽ケト云フダ
ケ、陪審ノ意見ハ聽クガ、認定權ハ裁判所ノ手ニ在ル、斯ウ
云フノデアリマスルカラ、其結果トシテ、陪審ノ意見、陪審ノ
答申ナルモノニ對シテノ取拾權ヲ裁判所ガ持っテ居ル、第九
十五條ノ規定ハ是デアル、第九十五條ハ屢。此處ニ於テ多
クノ人カラ繰返ヘサレテ論ゼラレマシタ如クニ、陪審ノ答申
ヲ聽イテ、裁判所ガ之ヲ不當ト認ムルナラバ、幾囘トナク、際
限ナク之ヲ他ノ陪審ニ新ニ付シ得ル、ソレデアリマスカラシ
テ、何等拘束力ハ無イ、政府自ラガ答辯スル如ク、何等拘束
カガ無イト云フコトニナッテ來ルノハ、是ハ其結果デアル、栽
判所ガ認定權ヲ持フテ居ルノダカラ、裁判所ノ認定ト合致
スルトキノ外ニ、何等ノ效力ガ無イ、斯樣ナ幾ノヤウナ結果
ニナルノハ當然ノ事ダト思フノデス、是ハ橫田法制局長官
ヨリ御言明ニナリマシタ如ク、裁判所ノ認定ト陪審ノ評決
答申ガ合致シタトキニ於テノミ、始メテ是ガ事實上ノ效力
ヲ生ズル、法律上ハ何等拘束力ハ無イ、斯ウ云フコトデアリ
マス、法律ヲ拵ヘテ法律上ノ效力ガ無イモノヲ拵ヘテ、甘ン
ズルガ如キハ、不徹底ト云フカ、矛盾ト云フカ、法律上カラ
言ヘパ無意味デアルト云フノ外ハナイノデアリマス、惡口ヲ
言フノデアリマセヌガ、法律ヲ拵ヘテ法律上ノ效力ノ無イモ
ノヲ拵ヘルトハ何ダ、滑稽ヲ去ルコト遠カラザルモノデナイカ
(拍手)是ハマルデ有名無實デアリマス、前回鈴木議員ガ羊
頭狗肉トカ云フヤウナコトヲ言ッテ居リマシタガ、マア是デモ
適當ナ評カモ知レマセヌガ、有名無實デアルト云フコトヲ此
此處ニ斷言ヲ致シマス、事實ノ認定ヲ國民卽チ陪審ニ委ネ
ルノガ、陪審ノ精神骨髓デアルノニ、依然トシテ栽判所ニ此
認定權ヲ持シテ置イテ、尙ホ陪審ト稱スル名前ダケクッ附イ
タ法律ヲ拵ヘルト云フコトデハ、有名無實ニ終ルノ外ハアリ
マセヌ、啻ニ此本案ノ組立ハ有名無實デアルノミナラズ、裁
判所ニ事實ノ認定權ヲ有セシムルコトガ至當デアルト云フ
コトノ確信ガアルナラバ、陪審制度ト云フモノハ否定シナケ
レバナラヌ、陪審無用論ヲ唱ヘナケレバナラヌ、裁判所へ事
實ノ認定權ヲ與ヘレバ陪審ト云フモノヲ介在セシムルノ要
ハ無イ、陪審ト云フモノヲ若シ認メルナラバ、裁判所ノ事實
認定權ハ之ヲ奪ハナケレバ、ドウシテモ納リハ付カナイモノデ
アル、裁判所ガ事實ノ認定權ヲ有スルコトヲ認メ、重ネテ陪
審ノ制度ヲ執ラウトスル本案ハ、矛盾撞著ノ極ヲ現シテ居
ルモノト云フノ外ハナイ(拍手)私共此處ニ無用ナ言ヲ弄ス
ルコトハ一切避ケマスルガ、此牙盾撞若、蓋シ政府之ヲ知ラ
ザルニ非ズト思フ、唯憲法トノ關係ヲ恐レラレタ點ガアルカ
モ知レナイ、是モモウ一ツ露骨ニ申シマスレバ、憲法ノ關係
ヲ恐レルト云フヨリハ、憲法違反デアルト云フ極テ少數ナル
論者ヲ恐レタノデハナイカ、斯樣ニ私ハ思ヒマス(拍手)マサ
カ憲法ノ解釋ニ付テ、陪審制度ヲ採ルコトガ違憲デアル、憲
法違反デアルナゾト云フ幼稚ナ考ハ、政府ニ於テハ無カラウ
ト思フ、サウ云フ事ハ無イガ、一部少數ノ官僚ノ反對ヲ恐レ
タカラ、此不徹底ナ立案ニ終クタノデアラウカト、私共密ニ御
察シヲ致シテ居ル譯デアリマス(拍手)此問題ハ陪審ノ根本
ニ横ハル問題デアルノミナラズ、全ク憲法上ノ解釋問題、憲
法上ノ大問題デアリマスルガ故ニ、此陪審制度ヲ論議スル
際ニ於テ、宜シク之ヲ決定致シテ置カナケレバナラヌ問題デ
アルト考ヘマス、卽チ事實ノ認定ト云フコトハ、之ヲ依然トシ
テ裁判所ノ手ニ留ムルニ非ズンバ憲法ノ違反ニナル、ナラナ
イカ、是ハ憲法上ノ關係デアッテ、憲法上ノ大問題デアルノダ
カラ、先囘大木司法大臣ハ、提案ノ說明トシテ御演說ニナ
リマシタヤウニ、是ガ憲法トノ關係ヲ非常ニ氣ニ掛ケラレタ
ト云フノデアルナラバ、宜シク此解釋ヲ一定シテ置カナケレバ
ナラヌ、サウシテ憲法上事實ノ認定ハ依然トシテ裁判所ノ手
ニ置カナケレバナラヌト一云フノデアルナラバ、陪審法ヲ立テル
餘地ハアリマセヌ、憲法上、又然ラズシテ濟ムモノデアルト云
フナラバ、モウ少シ徹底シタモノヲ立テヽ宜カラウト考ヘル、
私共玆ニ憲法上ノ理窟、法律上ノ解釋論ヲ彼此此時間少
キ際ニスルノデハアリマセヌ、唯私共ハ所信ノ眼目ダケヲ一
言致シテ置キマス、議論ノ順序トシテ一言ヲ致シテ置キマス
私共ハ憲法ニ所謂裁判-憲法ニ所謂司法權ノ行使此
裁判ナルモノハ事實ノ確定セルモノ卽チ一定シタル事實ニ
對シテ法律ヲ適用スルコトガ、憲法上ノ裁判デアルト確信
致シマス(拍手)多少ノ學者-一部學者ノ反對アルコトハ
承知致シテ居リマスガ、私共ハ此解釋カラ出發致シテ居ル
ノデアリマス、尤モ現在ノ裁判所ニ於テ、事實ノ認定ヲ致シ
テ居ルコトハ事實デアル、事實ノ認定ト法律ノ適用ト二ツ
ヲ掌ッテ居ルコトハ事安貝デアリマスケレドモ、其事實ヲ認定ス
ルト云フコトハ、憲法ガ裁判所ニ命ジタルガ故ニ、裁判所ガ
之ヲ爲セルモノニアラズ、唯法律ノ規定ガ本トナッテ、裁判所
ガ之ヲヤッテ居ルダケデアルノデアルカラ、裁判所ノ事實ノ認
定權ヲ奪フト云フ法律ヲ作ルコトハ憲法ノ違反ニハナリマ
セヌ、確定セル事實ニ法律ヲ適用スルト云フ權限ヲ裁判所
カラ奪フコトハ憲法違反デアル、事實ノ認定ヲ實際ハヤッテ
居ルケレドモ、其根據ハ憲法上ニ在ルニアラズシテ、構成法
デアルトカ、民刑訴訟法ニ規定サレタルガ故ニ、裁判所ハ此
法律ノ規定ニ基イテ事實ノ認定ヲヤッテ居ルノデアルカラ之
ヲ奪フ法律ヲ作ノテ奪フコトハ、憲法違反ニハナリマセヌ、單
ニ法律ノ變更デアルト信ジテ居リマス(拍手)法律上ノ解釋
論ヲ別トシテ、少クトモ我衆議院ニ於テハ、裁判所ノし憲
法ニ所謂「裁判」ト云フモノハ、確定セル事實ニ法律ヲ適用
スルコトヲ指スモノデアルト云フコトハ、第二十六議會ニ於
テ院議ヲ以テ決定シテ居ル、決定サレタル院議ノ趣旨ガ之
ヲ明ニ致シテ居ルト云フコトヲ御諒永ヲ願ヒタイ(拍手)是
モ私ハ時間ヲ省ク爲ニ極ク端折リマス、第二十六議會ニ於
テ明治四十三年三月ノ三日ニ可決サレテ居リマス、ソレハ
松田源治君外四名提出ノ陪審制度設立ニ關スル建議案
此建議案ニ於テ松田源治君ガ演說サレタ、其演說ニ依ルト
「事實ノ決定ハ」-モウ少シ前カラ讀ミマス、「國民ヲシテ
自己ノ代表者ヲ選バシメ、其人ヲ陪審員トシテ事實ノ認定
ヲ爲シマシテ、其事實ノ決定ハ裁判官ヲ羈束致シマシテ、裁
判官ハ單ニ専門的ニ自己ノ學ビ得タル法律ヲ適用スルノ
デ、是ガ陪審制度ノ一般ノ〓念デアリマス」ソレカラ少シ下〃
テ「刑事事件ニ於キマシテ、被告ハ有罪ナリヤ否ヤ、有罪無
罪ト云フ事實ヲ判決スルノハ、先程申シマシタヤウニ、陪審
員ニ依ッテ決定セラレマシテ、判事ハ専門的ノ智識ニ依リ其
結果ニ向フテ法律上ノ智識ヲ應用スルノデアリマス、言換へ
レバ被告ガ殺人ナリヤ否ヤ、放火ナリヤ否ヤ云々ノ事實ハ、
一ニ陪審官ニ依シテ決定セラレテ、放火ナリ殺人ナリト云フ
事實ガ決定シタナラバ、栽判官ハ之ニ對シテ法律ヲ適用ス
ル之ガ陪審デアル斯ウ云フ制度ヲ布イテ欲シイ之ヲ建議ス
ル」斯ウ云フ建議ガ明治四十三年ノ三月三日ニ本院ヲ通
過致シテ居リマス、卽チ本院ニ於テハ國民ノ代表者トモ云
フベキ陪審員ニ事實ノ認定ヲサセ、事實ノ判斷ヲサセ、其判
斷サレタ事實ニ向ッテ栽判所ガ法律ダケヲ適用スルヤウナ
組織ニシヤウト云フ、斯ウ云フ希望ヲ以テ之ガ建議ノ形
ヲ以テ本院ヲ通過シテ、其建議ガ政府ニ致サレテ居ルノデ
アリマス、事實ノ認定ハ栽判デナイト云フコトハ、此時ニ於
テ本院ガ之ヲ決定ヲ致シテ居ルノデアル、此建議案ヲ通過
致シタトキニ、憲法ニ對スル木院ノ決議ト云フモノハ、院議
ヲ以テ確定サレタト云フ外ハアリマセヌ、今日ニ至ッテ事實ノ
認定モ所謂裁判ノ中ダナドヽ云フコトハ、是ハ爲ニスルト云
フノ外ハナイ、爲ニスルト云フカ、或ハ此院議ノ趣旨ヲ沒却
セルモノデアルカ、二者其一ニ居ラザルヲ得ズト信ジマス、孰
レニシテモ誤レルモノデアルノミナラズ、此松田君外四名ガ
提出者トナッテ通過致シ夕此建議ニ基イテ臨時法制審議
會ガ出來、臨時法制審議會ニ於テ作ラレタル陪審制度ノ
綱領ト云フモノガ出來、之ヲ參考トシテ司法省ニ於テ陪審
法ノ草案ヲ作ッテ、之ガ樞密院ニ懸フテ、樞密院ノ議ヲ經タモ
ノデアルト云フコトハ、此順序ハ委員會ニ於テ政府モ之ヲ
御認ニナッテ居リマス、卽チ松田源治君ノ此建議ガ本トナッ
テ、本案ガ提出サレルヤウナ順序ニナッタ、此順序ニ付テハ政
府モ委員會ニ於テ答へラレ其通リト云フコトニナッテ居ル尤
其中ニ松田源治君ト云フ名前ハ私ハ聞カナカッタガ、此順
序ハ政府ニ於テモ述ベラレテ居リマス、所ガ大正八年七月
十六日ニ原內閣總理大臣ガ臨時法制審議會ニ於テ演說
ヲナサッテ居ル、其御演說ヲ伺ッテ見マスト、矢張只今ノ松田
君ノ建議案ニ基イテ、此陪審制度ノ審議ト云フモノガ始メ
ラレタト云フコトガ明ニナッテ居ル、其原總理大臣ノ御演說
ノ起旨ヲ伺ヒマスト云フト、斯ウ云フコトニナッテ居リマス、陪
審ハ憲法政治ニ伴フ司法權ノ行使デアル、我國亦之ヲ採
用セザルベカラズ裁判官ノ公正ハ之ヲ疑フノデハナイケレド
モ、國民ヲシテ法律上無關心ノ位地ニアフシムルハ憲法上
適當ニアラズ、往年衆議院之ヲ建議シタルハ眞ニ故アリト
謂フベシ、今ヤ國運振張シ、人文發達シ、宜シク此陪審制
度ヲ設クルニ於テ適當ナル時デアル、衆議院ノ建議ハ洵ニ
故アル建議デアルト云フノデ、法制審議會ト云フヤウナモノ
ヲ設ケラレタモノデアルト云フコトハ、疑無キコトニ相成ッテ
居リマス、益〓以テ此衆議院ノ建議ノ趣旨ト云フモノハ尊重
シナケレバナラヌト信ジマス、斯樣ナ譯デアリマスルカラシテ、事
實ノ認定ハ之ヲ憲法上ノ栽判ト云フモノニ含マスベキモノ
ニアラザルコトハ、我衆議院ニ於テハ之ヲ既ニ議決セルモノ
デアルト云フコトヲ覺悟シナケレバナラヌモノデアルト考ヘマ
ス、デ〓更陪審ニ事實ノ認定權ヲ與ヘルノガ憲法違反ダナド
ト云フコトハ言ヘナイモノダト私共ハ確信ヲ致シマス、ソレデ
アリマスルカラ殆ド憲法上ノ之ガ問題デアル、宇法法トノ牴觸
ヲ恐レタト云フコトハ恐レラレタカモ知レマセヌケレドモ、吾
吾カラ見マスレバ深ク問題トスベキモノデハナイ、斷乎トシテ
吾々ガ二十六議會ニ於テ要求ヲ致シテ居シタ趣旨ヲ貫徹ス
ルヤウニスルコトコソ、我衆議院ノ爲スベキ當然ノ道デアル
ト信ジマス、尙ホ玆ニ御一考ヲ願ヒタイト考ヘマスノハ、若シ
今日ニ於テ事實ノ判斷ガ憲法上ノ裁判ト解釋ヲ致シテ-
是ハ政府ニ於テハ斯樣ニ解釋致シテ居ル、政府ハ斯樣ニ中シ
テ居リマスカラ、若シ此解釋ノ下ニ立案サレタト云フ本案ニ
協賛ヲ與ヘ、玆ニ憲法ニ對スル本院ノ解釋ヲ一變シテ、サウ
シテ事實ノ認定ガ裁判デアルト云フコトニ致シタナラバ、將
來憲法ヲ改正スルニアラズンバ、吾々ガ要求ヲ致シテ居ル陪
審世界共通ノ意味ニ於ケル陪審ト云フモノハ、之ヲ施クコ
トガ出來ナイ結果ニナルト云フコトモ、亦覺悟ノ一ツニ入レ
ナケレバナリマセヌ、(拍手)デ斯様ナ譯デアリマスルカラシテ、
私共ハ此事實ノ判斷ハ陪審ニ一任スルト云フ世界共通ノ
理論ニ從ッタ立法ニ改メタイ、斯樣ニ考ヘマス、尙ホ一言ヲ
玆ニ附ケマスガ事實ノ認定ト云フコトガ絕對ニ憲法上ニ謂
フ裁判デアルト云フナラバ、頗ル遠慮ヲサレタル不徹底ナル本
案モ、亦憲法違反ノ誹ヲ免レナイコトヲ覺悟シナケレバナラ
ヌ、何故ナラバ政府ノ御言明ニナリマスル如ク、陪審ノ意見
ハ裁判所ヲ拘束スル力ハ無イ、裁判所ヲ拘束スルカハ無イ
ケレドモ、裁判所ハ陪審ノ意見ニ悖戾シテ事實ノ認定ガ出
來ナイト云フ組立ニナノテ居ル、之ガ横田政府委員ノ答辯、
斯ウ云フ風デ陪審ノ意見ニ悖戾シテ事實ノ認定ガ出來ナ
イ組立ニナッテ居ルト云フナラバ、此點ニ於テ事實ノ認定權
ニ消極的ノ制限ヲ受ケテ居ルデハナイカ、若シ事實ノ認定
モ憲法第五十七條ノ所謂天皇ノ名ニ於テ裁判所ガ行フモ
ノデアルナラバ、是ハ無限絕對ノモノデナケレバナラヌ、之ガ
天皇ノ名ニ於テ行フ栽判ダト云フコトニナレバ、何人モ之ニ
宕喙シ之ニ掣肘ヲ加へルコトヲ許サザルモノデナケレバナラ
ヌ、然ルニ政府自ラ言へル如ク、陪審ノ意見ニ拘束ハサレナイ
ケレドモ、意見ニ反シテ事實ノ認定ガ出來ナイト云フナラバ
旣ニ此點ニ於テ消極的ノ制限ヲ受クルコトニ相成ルカラシ
テ、矢張憲法違反ノ疑ヲ生ズルノデアル(拍手)斯樣ナ譯デ
アリマスルカラシテ、私共ハ不徹底ト申シマスカ、有名無實
ト申シマスカ、法律上ニハ何等ノ拘束力ヲ與ヘナイナドト云
フヤウナ無意味ナ、殆ド陪審ノ香ダケスルト云フヤウナ本案
ニ對シマシテハ、此儘賛成ハ出來マセヌカラシテ、修正案ノ
如ク修正ヲ致シテ、本當ノ陪審ト云フコトニ致シ、立憲治下
ニ於ケル眞髓ナリト委員長モ稱セラルルナラバ、國民ヲシテ
事實ノ認定權ヲ與ヘ、國民ガ承認シタモノニ裁判所ガ初テ
法律ヲ適用スルト云フ事カラ、之ガ立憲的デアリ立憲ノ骨
髓ニナル、名前ダケデ何等ノ認定權ヲ與ヘナイ、國民ニ何等
ノ事實認定權ヲ與ヘナイト云フナラバ、陪審ノ香ガスルダケ
デアルカラ、立憲政治ノ骨髓デモ眞髓デモアリマセヌ、斯樣
ナ意味ヲ以チマシテ、私共ハ本案ヲ運用シテ、最モ意義ノ有
ルモノニ致シタイ、、斯ウ云フコトデ其效力ニ甚大ナル拘束力
ヲ與ヘタイ、之ガ修正ノ一ツ、モウ一ツハ事件ノ範圍ヲ擴大
シタイ、是ハ殆ド說明ヲ要シマセヌ、元法制客議會デ決定ヲサ
レタ綱傾ニモ、亦其綱領ニ基キ司法省ガ作製シタ原案ニモ、
總テ刑法第二編第一章乃至第四章及第八章、卽チ政治
犯若クハ國事犯、或ハ騷擾罪、斯ウ云フモノハ總テ陪審ニ付
スベキモノト規定ヲサレテ居ッタモノガ、樞密院ニ行、テ突如
トシテ削ラレルコトニナッタノデアリマス、法制審議會ノ意見
モ、司法省ノ意見モ、是等ハ固ヨリ當然陪審ニ付スベキモノ
ト決定サレタノデゴザイマス、一面ニ於テハ多少此世ヲ騒ガ
シ、或ハ公正ナル冷静ナル、陪審員ノ判斷ヲ缺クノ虞ガアル
カモ知レマセヌケレドモ、是等國事犯、若クハ政治犯ト云フ
ヤウナモノハ、免ニ角世ノ事情ト合セテ見テ、サウシテ所謂國
民的判斷、卽チ陪審ニ付スベキ必要ガ斯ウ云フ事件ニコン
存在スルト思ヒマスカラシテ、私共ハ是等ヲ法定ノ陪審事
項ニ致シタイ、之ガ修正ノ趣旨デゴザイマス、ドウカ御贊成
ヲ願ヒマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=45
-
046・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 是カラ討論ニ入リマス、野副重
一君
〔野副重一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=46
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047・野副重一
○野副重一君 私ハ只今板野君ニ依ッテ說明セラレマシ
タ修正案ニ對シテ、反對ノ意見ヲ述ベル者デアリマス、板野
君ノ修正意見ノ第一ノ條項ハ、陪審ノ效力ヲ徹底ナラシム
ル案、卽チ陪審ガ事實ノ認定ニ下シマシタル斷案ハ、裁判
官ヲ〓束スルト云フコトニ更正ヲシタイ、若ン陪審ガ裁判官
ノ意見ノ通リニ決定ヲシナイ場合ハ、一回ダケハ更ニ新ナル
陪審ニ付スルコトガ出來ルト云フ第一條ト、第九十五條ノ
修正ヲシタイト云フノガ、陪審ノ效力ニ關スル修正デアルノ
デアリマス、此修正ニ付テハ色〓議論ノ有ッタコトデゴザイマ
シテ、委員會ニ於テモ錢多ノ議論ガ闘ハサレタノデアリマス、
實際上ニ於テ外國ノ立法ニ於テ、事實ノ認定ニ付テ陪審
員ガ下シタル判斷ハ、栽判官ヲ覊束スルト云フ立法ガ確ニ
多イニ違ヒハナイ、併ナガラ之ニ反スル立法ト云フモノガ、必
シモ不徹底デアル、必シモ不可ナルモノデアルト云フ斷案
ハ下スコトガ出來ナイノデアリマス、本案ニ於キマシテハ、陪
審員ガ事實ニ付テ判斷ヲ下シマシタ時分ニハ、裁判官ガ陪
審員ノ意見ニ一致シマスレバ、直ニソレガ裁判ノ内容ヲ爲
スノデゴザイマスガ、若シ裁判官ガ意見ノ違フ所ガアルト思
ヒマス時分ニハ、其陪審委員ヲ止メマシテ、新ナル陪審員ノ
審議ニ付スル、サウシテ今度又陪審員ガ前ノ陪審員ト同ジ
判斷ヲ致シマシタ時分ニハ裁判官モ成程自分ノ所說ガ誤ツ
テ居シタト云フコトヲ自省スルコトガアルデアリマセウ、又或
ハ陪審員モ新ナル陪審員ガ出テ參リマシタ時分ニハ、今度
ハ裁判官ノ意見ト一致スルヤウナ判斷ヲスルコトガアルデア
リマセウ、ソレハ實際ノ運用ニ於キマシテハ、誠ニ妙用ヲ發
揮スルコトガ出來ルデアラウト思ハレルノデアリマスカラ、時
トシテハ裁判官ノ意見ガ當ラヌ事モアル、又時トシテハ陪審
員ノ意見ガ當ラヌコトモアリマスカラ、互ニ其意見ノ違フ所
ガゴザイマス時分ニハ、相自省シテ一致スル所ニ進ムト云フ
コトハ、決シテ惡イ事デハナイ、サウ致シマスレバ非難トシテ
ハ何回デモ陪審員ヲ新ニスルコトガ出來ルト云フ時分ニハ、
判事ノ勝手ニ何十囘、何百回ト雖モ陪審員ヲ更ヘルコトガ
出來レバ陪審員ノ效能ト云フモノハ全ク無イデハナイカト
云フ議論モ、委員會ニ於テ度々繰返サレタノデアリマス、單
ニ理窟カラ申シマスレバ其通リデアリマスガ、此點ニ付テハ
馬場政府委員ガ誠ニ適切ナル說明ヲサレタノデアリマス、ソ
レヲ御紹介致シマス、憲法ノ第五條ニハ天皇ハ帝國議會ノ
協賛ヲ以テ立法權ヲ行フト云フコトガ書イテアル、第六條
ニハ天皇ハ法律ヲ栽可シ其ノ公布及執行ヲ命スト云フコ
トガ書イテアル、兩院ヲ通過シタル法律案ト雖モ、天皇ノ御
裁可ガナケレバ效力ヲ發生シナイノデアリマス、卽チ何回兩
院ヲ通過スルト雖モ、御裁可ニナラナケレバ法律ノ效力ヲ
生ゼナイ、此場合ニ於テ何十回、何百囘雨院ヲ通過シタル
法律ガ、御裁可ニナラヌト云フコトガアルカ、サウ云フコトヲ
吾々ハ想像ハシナイ、矢張實際ノ運用ニ於テサウ云フコトハ
無イノデアリマス、卽チ陪審ノ制ニ於キマシテモ、法規ノ上カ
ラ申シマスレバ、極端ナ例ヲ取リマスレバ、何十囘、何百回ト
雖モ、陪審ハ新ニスルト云フコトガ出來ルノデゴザイマスケレ
ドモ、實際ノ運用ニ至リマスレバ、陪審員モ常識ノ有ル人デ
アル、裁判官モ知識有ルノデアリマスカラ、互ニ自省ヲシテ
一致スル所ニ進ムノデアル、ソレガ正シイ見解ノヤウデゴザイ
マスカラ、原案ノ如ク致シマスレバ、陪審ノ效力ガ全ク無イ
モノデアル、或ハ陪審ガ行詰リニ終ルモノデアルト云フコトノ
議論ハ、ドウシテモ認定スルコトガ出來ナイ、實際ニ於テ相
當ニ運用シ能フモノデアルト云フコトハ、委員會ニ於テハ十
分ニ承認ヲサレタルコトデアルト思フノデアリマス、第二ノ問
題、卽チ板野君ノ說明ヲサレタル如ク致シマスレバ、憲法ニ
牴觸ヲスルヤ否ヤ、卽チ陪審員ノ決定ト云フモノハ、裁判官
ヲ覊束スルト云フコトニナレバ、憲法ニ牴觸スルヤ否ヤ、是ハ
重大ナル問題デアルノデアリマス、卽チ事實ノ認定ト云フモ
ノハ、是ハ裁判ト云フモノヽ中ニ包含ヲスルカ、シナイカト云
フコトニ依ルノデアリマス、此問題ニ付テハ、法曹ノ間ニモ隨
分ニ議論ガ分レテ居ルノデゴザイマス、今日此問題ニ對シマ
シテ、曩ニ衆議院ガ議決シタコトガアルカラト云ッテ、ソレヲ
推シマシテ、之ガ日本全國ノ通論デアル、何人モ異議ヲ挾ム
コトガ出來ナイモノデアルト云フコトハ、到底言フコトガ出
來ナイノデアリマス、委員會ニ於テモ、政府委員ニ於テモ此
點ニ付テハ、十分ニ合理的ト見ルベキ反對論ガアルノデアル
カラ、若シ之ヲ板野君ノ言ハレルヤウニ、事實ノ認定ハ裁判
官ヲ拘束スルト云フコトニナレバ、ドウシテモ憲法上ノ問題ヲ
惹起サズニ居レナイト云フコトヲ言ッテ居ラレルノデアリマス
今日ニ於テ此問題ヲ是非解決ヲセネバナラヌ必要ニ吾々ハ
迫ッテ居ルノデアルカ、此問題ヲ解決ヲシナケレバ陪審法ト
云フモノガ出來ナイノデアルカ、若シ出來ナイト云フコトデゴ
ザイマスルナラバ、如何ナル難關ヲ排シテモ解決ヲセナケレバ
ナラヌノデゴザイマセウケレドモ、幸ニ其難關ト一云フモノヲ解
決ヲセナイデ、適當ナル陪審法ト云フモノガ制定ガ出來ルト
云フコトデゴザイマスルナラバ、其問題ハ他日ノ〓究ニ殘シ
テ置キマシテ、サウシテ適當ナル法案ヲ解決シテ社會ノ實狀
ニ副フ所ノ制度ヲ立テルト云フコトハ、吾々立法者トシテ最
モ注意スベキ事柄デアルト思フノデアリマス(拍手)故ニ此
點ニ對スル板野君ノ憲法論ニ對シマシテハ、私ハ其所論ガ
適當デアルヤ否ヤト云フコトニ付テ玆ニ之ヲ明言スルノ必
要ハナイ、ソレハ板野君ノ御議論トシテ相當ナ根據ノアル
御議論ト思フノデアリマスケレドモ、其問題ヲ解決セナイデ、
其問題ニ觸レナイデ、今日ノ立法ヲ爲ス、卽チ原案ト云フモ
ノハ此場合吾々ガ最モ適當ト看做スベキモノデアルト云フ
事ヲ申上ゲテ置クノデアリマス、第二ノ修正ノ意見ハ陪審
ノ範圍、卽チ陪番ニ付スベキ事件ノ範圍ト云フモノヲ擴ゲ
タイ、是モ一應御尤ノ理由ノアル論デゴザイマスル、併ナガ
ラ陪審ト云フモノヲ如何ナル範圍ニ爲スベキカト云フ事
ニ付テハ、決シテ一定ノ原則ガアル譯デハナイ、第一ニ日
本ノ今日ノ原案ニ依ルト云フト、民事ト云フモノハ一切
陪審ニ付セナイト云フコトニナッテ居ル、外國ノ立法ハ
多分民事ニモ陪審ヲ付シテ居ルノデアリマス、又板野
君ノ認メラレル範圍ニ於キマシテモ、極ク輕イ刑期ノ犯罪
ニ付テハ陪審ヲ付セナイト云フ事ヲ認メラレテ居ルノデアリ
マス、如何ナル事案ニ對シテ陪審ヲ付スベキカト云フ事ハ、
唯〓一ニ其時ノ國情ニ依ルベキモノデアリマシテ、斯ノ如キ
モノハ必ズ陪審ニ付セナケレバナラヌト云フ根本ノ道理ガア
ル譯ノモノデハナイノデアリマス(拍手)卽チ板野君ノ修正ニ
依リマシテ如何ナルモノヲ陪審ニ付スベキカト一云フコトニ爲
サントサレルカト云フ事ヲ考ヘテ見マスレバ、皇室ニ對スル
罪、内亂ニ關スル罪、外患ニ關スル罪、國交ニ關スル罪、騷擾
ノ罪、是等ノ罪ニ對スル所ノ事案ヲ總テ陪審ニ付シクイト
云フ御意見デアルノデアリマス、勿論是等ノ問題ハ陪審ニ
付シテ適當ニ解決ヲスルニ宜シイ問題デアラウトハ思フノデ
ゴザイマスケレドモ、此皇室ニ關スル罪ノ如キ、內亂外冠其他
ノ騒擾等ニ關スル問題ニ付キマシテハ、動モスルト云フト判
斷ガ冷靜ヲ缺ク場合ガナイトモ限ラヌノデアリマスルノデア
ル、卽チ原案ニ依リマスレバ、死刑又ハ無期懲役又ハ無期
ノ禁錮ニ當ル事件ニ付キマシテハ、法律上當然陪審ヲ付サ
ナケレバナラヌ、又第三條ニ依リマスルト云フト、長期三年
ヲ超ユル有期ノ懲役又ハ禁錮ニ當ル事業ニ付キマシテハ、
當人ノ請求ニ依リマシテ陪審ヲ付スルト云フコトニナッテ居
ル、此第三條ノ長期三年ヲ超ユル有期ノ懲役又ハ禁錮ニ
當ル事件ト云フモノガ、ドレ位アルカト申シマスト、實ニ刑法
上幾十箇條アルト云フノデアリマスルノデアル、殆ド數へ立
テラレヌ位澤山ノ罪狀ガ其中ニ數ヘラレルノデアリマス、サ
ウ云フ風ニ考ヘテ見マスレバ、吾々ガ今回初テ陪審ノ法ヲ
制定ヲシヤウ、其陪審法ヲ制定スルニ付キマシテハ絕對ノ
反對ノ意見サヘモアル場合デゴザイマスカラシテ、最初ノ試
トシテ萬過失ナキヲ期スルガ爲ニ餘リニ冷靜ヲ缺クヤウナ
事ガアッテハ事實ノ判斷ニ非常ナ影響ノアルコトデゴザイマ
スカラシテ、原案ノ通リニシテ苟モ冷靜ヲ缺クガ爲ニ重大ナ
ル國ニ累ヲ及ボスヤウナ事案ト云フモノハ省イテ、先ヅ原案
ノ通リニ實行ヲ致シマシテ、陪審ノ制度ガ其運用ガ宜シキ
ヲ得ルト云フコトヲ確メタル曉ニ於キマシテ、之ヲ擴張スル
コトモ決シテ遲シトセナイト思フノデアリマス(拍手)ソレカラ
第三ニ板野君ノ修正ニ依リマスルト云フト、第九十一條ニ
修正ヲ加ヘマシテ、犯罪ノ構成事實ヲ肯定スルニハ、陪審
員全員一致ノ意見ニ依ルコトヲ要スト云フコトニシテ、全
員一致デナケレバ有罪ノ決定ハ出來ナイモノデアルト云フ
コトニ改メタイト云フ御意見、是ハ成程英吉利ノ法律ニハ
其通リニナッテ居リマスルガデス、之ニ付テハ餘程熟考ヲ要
スルコトデアリマス、十一一人ノ人ガ集リマシテ事實ノ判斷ヲ
スル時分ニ、總テノ人ガ一致スルト云フコトハ中〓困難、實
際ニ於テ非常ニ困難ナノデアリマス、其一致ヲセナイ間ト云
フモノハ陪審員ヲ外ニ出スコトハ出來マセヌノデアリマスル
カラ、陪審ニ入レラレルト云フ時分ニハ非常ノ覺悟ヲ要スル
ト云フ實際ニナッテ居ル、又成ベク一致サセヤウト云フノデア
リマスカラ、裁判所ハ陪審員ヲ密室監禁ノヤウニスルノデア
リマスルノデアル、殆ド今日デハ多少緩和ヲサレテ居リマス
ケレドモ、食物モ與ヘナイデ密室監禁ヲシテ、成ベク早ク一
致ヲスルヤウニト云フヤウナ工合ニシタノデアリマス、ソレガ
爲ニ或ハデス、籤引ヲシテ採決ヲシ夕例モアル、或ハ面白イ
例ガアリマシテ、陪審ニ喚バレルト云フト中〓歸ルコトガ出
來ナイ、御飯モ食ベルコトガ出來ナイト云フノデ、氣ノ利イタ
陪審員ハ長靴ヲ穿イテ長靴ノ中ニ豆ヲ一パイ詰メテ行ッテ
嚙ッテ居ッタト云フ話モアリマスルノデアル、中と此陪審員ノ
全員ノ一致ト云フコトハ困難デアリマスルカラシテ、矢張大
陸ノ立法例ニ於テハ此點ノ折衷ヲシテ多數決ト云フヤウナ
例ヲ採ッテ居ルノデアリマスル、是ハドウモ據ロナイコトデアラ
ウト思ヒマス、此一致ト云フコトヲ極端ニ求メマスル時分ニ於
テハ、陪審員ヲ幾度モ幾度モ變ヘナクテハイケナイ、英國ニ於
テハ陪審員ガ一致ヲシマセヌ時分ニ-相當ナ期間評議ヲサ
セテ一致ヲシマセヌ時分ニハ、其陪審員ヲ解散シテシマフト云
フコトニナッテ居ルノデアリマスルノデアル、解散ヲシテ何遍モ
何遍モ新シイ陪審員ニ付スルト云フコトガ容易ナコトデハ
ゴザイマセヌカラシテ、矢張先刻或ル御方ノ辯論ノ中ニモゴ
ザイマシタル通リニ、今日ハ裁判官ノ評議ト云フモノモ多數
決ニ依ッテ居ルノデアリマスルカラシテ、矢張多數決ニ依ルト
云フ原案ヲ認メテモ相當デアラト思フノデアリマス(拍手)
板野君ノ第九十一條ノ第二項ノ修正意見ハ、是ハ何ト考
ヘテモ而白クナイ、是ハ御熟考ガ或ハ失禮ナガラ足ラナカッタ
ト思フ、卽チ只今申上ゲマス通リニ、英吉利ニ於テハデス陪
審員ガ一致セナイト云フト解散ヲシテシマヒ、新シイ陪審員
ニ付スルノデアル、然ルニ之ニ折衷案ヲ第二項トシテ附加へ
ニナリマシテ、犯罪事實ヲ肯定スル、陪審員ノ意見一致セザ
ルトキハ、之ヲ否定シタルモノトスト云フコトヲ御出シニナッタ、
ドウ云フ結果ニナルカ、十二人ノ陪審員ガアル、一致セナイ
ト云ヘバ、十一人ガ有罪ト言フケレドモ、一人ガ無罪ト言フ
唯一人ノ爲ニ、十一人ガ有罪說デアルケレドモ、一人ガ無
罪說デアル爲ニ、矢張無罪ニナッテシマフト云フコトニナル是
ハドウシテモ實際ニ於テサウ云フコトハ宜クナイコトデアリマ
スルカラ、英吉利法制ヲ御採リニナルナラパ、矢張一致セナ
イ時分ハ新タナル陪審ニ付スルト云フコトニナサラナケレバ
ナラヌ、是ハ徹底セス爲ニ斯ウ云フ誤ヲ來シタモノト思フノ
デアリマス(拍手)陪審ノ制度ノ當否等ニ付テハ、上畠君等
ヨリ色〓御議論モアリマシタ、自分ニ於テモ相當申上ゲタイ
ト云フ意見ガゴザイマスルケレドモ、既ニ二讀會ニ移タテ居ル
コトデゴザイマスカラ、其點ニ付テハ意見ヲ申上ゲマセヌ、此
陪審法案ガ吾々ノ面前ニ現レル迄ニ於キマシテハ、朝野ノ
法曹ガ非常ニ長イ間論議ヲ致シマシテ、法制審議會ニ掛リ
法制審議會ニ於テ綱領ヲ定メ、其綱領ニ基キマシテ司法
當局其案ヲ立テ、其案ガ樞密院ニ渡リマシテ、長イ間樞密
院ニ於テ論議ヲサレタ結果、此案ニナッタノデアリマスル故
ニ、現下ノ狀勢ニ於テ吾々ハ此以上ノ案ヲ得ルト云フコト
ハ、出來ナイコトデアラウト思フノデアリマス(拍手)陪審ヲ
望マナイト云フ御議論ナラバ格別デアリマスケレドモ、是ダ
ケ國民ノ切望シマシテ漸ク出テ來タ案デアリマスカラ、多少
不滿足ノ點ガアルトシテ、モ、衆議院ノ全員ノ一致シタル意見
トシテ、是ハ可決シタイト私ハ思フノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=47
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048・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 〓瀨一郞君
〔〓瀨一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=48
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049・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 諸君、裁判制度ニ於テ事實認定ノ權限、
竝ニ事實認定ノ責任ヲ陪審員ガ取ルト云フノガ陪審制及
デアリマス、事實認定ノ權限ヲ裁判所ニ留保シ、隨テ又事
實認定ノ責任ヲ裁判所ガ取ルト云フコトナラバ、是ハ陪審
制度デハナイノデアリマス、本案ノ如クニ-本案ノ如クニ
陪審員ヲ呼集メテ評議ヲセシムルガ、併ナガラ事實認定ノ
權限ハ之ヲ裁判所ニ留保シ、隨テ事實認定ノ當否ニ關ス
ル責任ヲ裁判所ガ負擔スルト云フコトナラバ、是ハ純然タル
陪審制度ニ非ズシテ、彼ノ「アッセツソール」ト言ハルヽ所ノ制
度デアリマス、民間ノ多年唱ヘテ居ル所ノ陪審制度ハ實ハ
斯ノ如キモノデハナカッタ、又諸君ガ陪審制度ト云フコトヲ
政黨ノ重大ナル綱領トサレタノハ、吾々ハ斯ノ如キモノデア
ルトハ諒解致シテ居ラナンダノデアリマス、デ斯ノ如キ案ヲ
提出シテ、陪審制度ノ確立ニ盡力シタト言ハレルナラバ、所
謂羊頭ヲ揭ゲテ狗肉ヲ賣ラント致シタト言ハレテモ申譯ハア
ルマイト思ヒマスル(拍手)玆ニ野副君ノ御議論ノ憲法ノ解
釋ハ、之ヲ後日ニ譲ッテモ宜カラウ、ソレカラ陪審制度ヲ欲ス
ルナラバ、今日ノ程度ニ於テ出來ル所ノモノハ此位ナモノデ
アルカラ、是デ我慢シヤウ、此御議論デアリマス、吾々ハ遺憾
ナガラソレトハ全ク違ッタ思想ヲ持ツテ居リマスル、一體一ツ
ノ制度ガ憲法ニ違反スルヤ否ヤト云フコトヲ責任ヲ以テ
斷ズル所ハ、此衆議院アナクテ何處ニ在ル、吾々ガ一國ニ
於テ重大ナル法制ヲ審議スルニ當リ、是ハ憲法土疑ガアル
カラシテ、其疑ヲ避ケテ出來ルヤウナ案ニシマセウト云フコト
ハ、是ハ自ラ輕ンズルモノデアル、議院自ラ議院ヲ輕ンズルモ
ノト謂ハナクテハナラヌ(拍手)若シモ是ガ陪審制度ガ憲法
ニ反スルト言フナラバー憲法ノ精神ニ反スルト言フナラバ、
斷然之ヲ抛棄スルノ外ハナイ、併ナガラ吾々ノ確信ハ決シ
テ之ヲ憲法ニ反セヌト思フコトハ、板野君ノ論ジタ通リデア
リマス、又ドウカシテ陪審制度ヲ欲スルナラバ、不徹底デ
アルケレドモ之ニ辛抱シヤウト言ヒ、隨テ貴族院其他ノ機關
ニ於テ、撤底的ノ陪審制度ハ通過困難デアルト云フコトヲ、
此所デ心配スルト云フコトナラバ、是ハ單リ議院ノ權威ニ關
スル問題デハナク、二院制度ノ根本ニ觸レタモノデアル、吾々
ハ他ノ院ニ於テ如何ナル事ヲ將來論ズルヤ否ヤハ、是ハ玆ニ
顧ミル所ナク、吾々ノ良心ニ從ッテ信ズベキ制度ハ茲ニ確立
スルノガ、吾々ノ任務デアルト考ヘルノデアル、デ陪審制度ニ
關シテハ、事實認定、法律判斷、此二ツノ違ッタルコトヲ諒
解スレバ、此憲法ニ反セザルコトハ明瞭デアリマス、況ヤ吾々
憲法ノ解釋ハ、斯ノ如クニ技術的ニ小サク解釋スベキモノ
デナイ、體憲法ノ起リハ、此陪審制度ノ如キ制度ヲ認メル
コトガ起リデアル、彼ノ大憲章ニ於テモ人民ハ自己ノ同等ノ者
ノ-事實認定ニ依ラザル同等ノ者ノ認定ヲ經ザル案件ニ
依ッテ、罰セラルヽコトガ無イト云フノガ、此大憲章-此大憲
章ガ今日ノ我ガ帝國憲法第二章ト相成ッタト云フコトハ事
實デアル、憲法ニ反スルト云フ議論ハ出ル筈ハナイ、是ガ卽
チ憲法ノ本デ、益〓此制度ヲ採用シテ、益〓我ガ立憲政治ノ
美果ヲ牧メタイト云フノガ吾々ノ趣旨デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=49
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050・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 是ニテ討論ハ終結サレマシタ、先
ヅ板野友造君御提出ノ修正案ニ付テ採決致シマス、此修
正案ニ賛成ノ諸君ハ起立ヲ乞ヒマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=50
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051・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 少數デアリマス、修正案ハ否決
サレマシタ、次ニ鵜澤君御提出ノ修正案デアリマスガ、之ニ
ハ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=51
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052・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、仍テ鵜
澤君ノ修正案ハ決セラレマシタ(拍手)其他委員長ノ報告
ノ通リ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=52
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053・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、仍テ委
員長ノ報告通リ可決致サレマシタ(拍手)是ニテ第二讀會
ヲ終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=53
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054・岩崎勲
○岩崎動君 直ニ本案ノ第三讀會ヲ開キ、第二讀會議
決ノ通リ可決確定アランコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=54
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055・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ木案ノ三讀會ヲ開キマス
陪審法案第三讀會
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=55
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056・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 別ニ御異議ナイト認メマスカラ、
本案ハ第二讀會決議ノ通リ可決確定サレマシタ
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=56
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057・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 議事進行ニ關シテ高草美代藏
君ヨリ發言ヲ求メラレテ居リマス、高草美代藏君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=57
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058・高草美代藏
○高草美代藏君 私ハ過日本會ニ於キマシテ大湯鐵道
及魚沼鐵道ノ買收ニ關スル法案ニ付テ、十箇條ノ御問ヲ
出シタノデアリマス、其際政府委員ノ答辯ハ頗ル要領ヲ得
ナカッタノデアリマス、一二ニ付テ僅ニ應答ガアッタノデアリマ
スガ、其他ハ當局大臣カラ御答ヲスルト云フノデアリマシタ
ガ、其後書面ヲ以テ御問ヲ致シテ居ルノデアリマス、所ガ一
方ニ於キマシテハ、御承知ノ通リ鐵道調査委員ニ付託セラ
レテ著々進行セラレテ居ル場合デアリマスカラ、ドウカ此際
私ガ質問致シマシタ點ニ付テ、成ベク速ニ答辯アランコトヲ
議長カラ御取計アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=58
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059・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 高草君ノ御申述ノ事ハ政府ニ
通告ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=59
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060・鈴木錠藏
○鈴木錠藏君 便宜上此際日程ノ順序ヲ變更シテ、日程
第十四以下ハ請願特別報告ヲ一括議題トシ、請願委員
長ノ報告ヲ求メ、且ツ其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=60
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061・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 鈴木君ノ動議ニ御異議ハナイ
ト認メマス、仍テ日程ハ變更サレマシタ、請願特別報告ハ例
ニ依ッテ一括議題ト致シマス、請願委員長ノ報告ヲ求メマ
ス、委員長龍野周一郞君
第十四(特別報告第百六十一號)壽都漁
港修築ノ請願(委員長報告)
第十五(特別報告第百六十二號)利根川
架橋速成ノ請願(委員長報告)
第十六(特別報告第百六十三號)按摩術
ヲ盲人ノ專業ト爲スノ請願
(委員長報告)
第十七(特別報告第百六十四號)森林法
第二十八條改正ノ請願
(委員長報告)
第十八(特別報告第百六十五號)部落有
林野管理ニ關スル請願
(委員長報告)
第十九(特別報告第百六十六號)樺太漁
場損害賠償ノ請願(委員長報告)
第二十(特別報告第百六十八號)軍人恩
給法改正ニ關スル請願外四十八
件(委員長報告)
第二十一(特別報告第百六十九號)軍人
恩給法改正ノ請願外二件
(委員長報告)
第二十二(特別報告第百七十號)屯田兵
喇叭卒若ハ其遺族ニ土地給與
ノ請願(委員長報告)
第二十三(特別報告第百七十二號)亙理
逢隈郵便局ニ集配事務開始ノ
請願(委員長報告)
第二十四(特別報告第百七十三號)高志
村ニ電信事務取扱無集配郵便
局設置ノ請願(委員長報告)
第二十五(特別報告第百七十四號)松茂
村ニ無集配郵便局設置ソ請願
(委員長報告)
第二十六(特別報告第百七十五號)雲城
村ニ郵便局設置ノ請願
(委員長報告)
第二十七(特別報告第百七十六號)三好
村ニ郵便局設置ノ請願
(委員長報告)
第二十八(特別報告第百七十七號)穴吹
郵便局ニ電話事務開始ノ請願
(委員長報告)
第二十九(特別報告第百七十八號)平群
村大字信貴畑小字信貴山ニ無
集配郵便局設置ノ請願
(委員長報告)
第三十(特別報告第百七十九號)內之
浦村大字岸良ニ無集配郵便局
設置ノ請願(委員長報告)
第三十一(特別報告第百八十號)柏原郵
便局ニ電信竝集配事務開始ノ
請願(委員長報告)
第三十二(特別報告第百八十一號)小貝
村字續谷ニ郵便局設置ノ請願
(委員長報告)
第三十三(特別報告第百八十二號)吉田
村ニ郵便局設置ノ請願
(委員長報告)
第三十四(特別報告第百八十三號)奧浦
村ニ郵便局設置ノ請願
(委員長報告)
第三十五(特別報告第百八十四號)千年
郵便局ニ集配事務開始ノ請願
(委員長報告)
第三十六(特別報告第百八十五號)莨町
ニ郵便局新設ノ請願
(委員長報告)
第三十七(特別報告第百八十六號)美濃
波多村大字新田ニ郵便局設置
ノ請願(委員長報告)
第三十八(特別報告第百八十七號)神湊
郵便局ニ電話架設ノ請願
(委員長報告)
第三十九(特別報告第百八十八號)鹿屋、
鹿兒島問直通電話架設ニ關ス
ル請願(委員長報告)
第四十(特別報告第百八十九號)中村
郵便局ニ集配事務開始ノ請願
(委員長報告)
第四十一(特別報告第百九十號)川東村
ニ郵便局設置ノ請願
(委員長報告)
第四十二(特別報告第百九十一號)川西
村下久田ニ無集配郵便局設置
ノ請願(委員長報告)
第四十三(特別報告第百九十二號)中湧
別郵便局ニ集配事務開始ノ請
願(委員長報告)
第四十四(特別報告第百九十三號)錦生
村大字安部田ニ郵便局設置ノ
請願(委員長報告)
第四十五(特別報告第百九十四號)岡郵
便局ニ集配事務開始ノ請願
(委員長報告)
第四十六(特別報告第百九十五號)濱口
郵便局ニ集配事務開始ノ請願
(委員長報告)
第四十七(特別報告第百九十六號)佐那
河內郵便局ニ電信架設ノ請願
(委員長報告)
第四十八(特別報告第百九十七號)七取
村ニ電話交換局設置ノ請願
委員長報告)
第四十九(特別報告第百九十八號)大野
郵便局ニ集配事務開始ノ請願
(委員長報告)
第五十(特別報告第百九十九號)鹽津
郵便局ニ電信、電話架設ノ請願
(委員長報告)
第五十一(特別報告第二百號)世知原村
ニ登記所設置ノ請願
(委員長報告)
特別報告第百六十一號
意見書
請願文書表第一〇一八號
壽都漁港修築ノ請願北海道壽都郡壽都町土谷重右衞門外
百六名呈出(紹介議員中西六三郞君外一名)
右請願ノ要旨ハ北海道壽都郡壽都港灣ハ水深ク殊ニ函館、小樽
間航路ノ中間ニ於ケル避難場トシテ天然的良港ナリ若夫レ之ヲ
修築セムカ該港ハ本道西海岸ノ貨物集散ノ地トナルヲ以テ忽チ
繁盛ヲ極ムルヤ必セリ依テ該港ヲ國費ヲ以テ修築セラレタシト
謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百六十二號
意見書
諸願文書表第一〇四四號
利根川架橋速成ノ請願茨城縣北相馬郡取手町長根本守外
二十八名呈出(紹介議員高野毅君)
右請願ノ要旨ハ利根川ニ於ケル取手町靑山渡船場ハ往昔ヨリ第
六號國道ニ沿ヒ東京ヲ中心トシテ奧羽ニ通シ國勢上樞要ノ線路
タリ而シテ今ヤ物質文明ノ進歩ニ伴ヒ殖產興業ノ勃興ヲ來シ愈
交通運輸ノ頻繁ヲ極ムルニ至レルヲ以テ利根川ノ架橋ハ國費ヲ
以テ速成セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百六十三號
意見書
請願文書表第一〇二五號
按摩術ヲ盲人ノ専業ト爲スノ請願東京市神田區南中賀町
八番地士族敏術業千葉勝太郎外四百八十八名呈出(紹介
議員龍野周一郞君外四名)
右請願ノ要旨ハ按摩業ハ盲人保護ノ意味ニ依リ之ニ適業タルノ
故ヲ以テ由來專ラ盲人ノ從事スルトコロタリ然ルニ近時ニ至リ
盲人ニ非サル者ニシテ斯業ヲ營ム者漸ク多キニ及ヒ之カ爲盲人
ハ其ノ業ヲ奪ハレ生活上ノ困難一方ナラサルニ至レリ依テ盲人
ニ對スル獨立ノ生活ヲ保證シ不具癈疾者タル盲人ヲ枚濟スル趣
旨ニ於テ按摩業ヲ盲人ノ專業トシ常人ニシテ斯職ニ從事スルコ
トヲ絕對ニ禁止セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百六十四號
意見書
請願文書表第七三號
森林法第二十八條改正ノ請願靜岡縣山林會長道岡秀彥呈
出(紹介議員池田猪三次君外一名)
右請願ノ要旨ハ森林法第二十八條ハ同法二十七條ノ場合ニ於ケ
ル補償ニ付テノミ適用アリテ他ニ及ハサルハ不權衡ノ憾ナクム
ハアラス依テ保安林ハ其ノ立木竹伐採ヲ禁止セラルルト否トヲ
問ハス相當ノ補償ヲ與ヘラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百六十五號
意見書
請願文書表第八七九號
部落有林野管理ニ關スル請願兵庫縣宍粟郡神野村與位三
十一番屋敷平民農丸山小太郞外百二十六名呈出(紹介議
員土井權大君外一名)
右請願ノ要旨ハ兵庫縣宍栗郡神野村與位ノ部落有林野ノ立木ニ
對シ旣定ノ伐採年限アルモノハ其ノ樹齡ニ達スレハ其ノ伐採ヲ
許可セラレ其ノ立木賣却代金ハ租稅公課山林管理費ニ充當シ尙
餘裕金ハ古來ノ習慣ニ依リ部落ノ公共事業費竝部落住民ノ生活
費ニ使用シスハ分配スルコトヲ許容セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百六十六號
意見書
請願文書表第一〇五三號
樺太漁場損害賠償ノ請願北海道函館區大町三番地平民漁
業栖原角兵衞呈出(紹介議員黑住成章君)
右請願ノ要旨ハ栖原家ハ祖先以來身命ト莫大ノ資金ヲ擲ツテ樺
太ニ漁場ヲ開キ我カ帝國ノ漁業ニ貢獻シ來リタリ然ルニ明治八
年樺太ノ版圖變更ノ際祖先以來ノ旣得權ハ何等ノ賠償モナク廢
棄セラレタルカ爲請願人ノ受ケタル損害實ニ百萬ニ逹セリ今ヤ
該漁場ハ莫大ナル價格ヲ以テ拂下タルニ付是カ囘復ノ望ハ玆ニ
斷絕セラレタリ依テ其ノ代債トシテ金額若ハ代物ヲ以テ是ニ對
スル補償アリタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百六十八號
意見書
請願文書第七七三號
軍人恩給法改正ニ關スル請願茨城縣眞壁郡下館町丙九十
七番地坂本福太郞呈出(紹介議員根本正君)
同第七七四號
同上東京市浅草區金龍山尾町二十番地士族陸軍騎兵中佐
香宗我部順外四十五名呈出(紹介議員根本正君)
同第七七五號
同上呉市上古江百六十五番戶平民海軍特務中尉〓水彌三
郞呈出(紹介議員根木正君)
同第七七六號
同上岡山縣川上郡平川村一萬千百十九番地元陸軍步兵上
等兵保木仲藏呈出(紹介議員根本正君)
同第七七七號
同上弘前市大字銅屋町六十七番地士族退役陸軍步兵少尉
疋田義甫呈出(紹介議員根本正君)
同第七八二號
同上東京府豊多摩郡落合村大字下落合五百十三番地平民
陸軍步兵大佐隈部又雄外十六名呈出(紹介議員松實喜代
太君)
同第七九二號
同上三重縣安濃郡新町字古河百七十六番屋敷平民退職海
軍機關大佐吉水正直外一一十三名呈出(紹介議員宮田光雄
君。
同第七九三號
同上三重縣安濃郡村主村大字川西三十番地平民後備役陸
軍步兵特務曹長中山藤之丞外八名呈出(紹介議員宮田光
雄君)
同第七九四號
同上三重縣安濃郡安西村大字小野平三十三番屋敷平民吉
川米吉外十名呈出(紹介議員宮田光雄君)
同第七九五號
同上三重縣安濃郡雲林院村三百八十二番地平民陸軍步兵一
等卒療兵近澤庄九郞外一名呈出(紹介議員宮田光雄君)
同第七九六號
同上三重縣安濃郡明合村大字粟加五百八番地平民故陸軍
步兵一等卒平松八郞母平松みと外十九名呈出(紹介議員
宮田光雄君)
同第七九七號
同上三重縣安濃郡辰野村大字穴食五百五十七番地平民故
陸軍騎兵伍長稻垣九市父稻垣定四郞外七名呈出(紹介議
員宮田光雄君)
同第七九八號
同上三重縣安濃郡神戶村大字神戶百五十三番屋敷豫備役
陸軍步兵特務曹長黑川昇平外五名呈出(紹介議員宮田光
雄君)
同第七九九號
同上三重縣安濃郡草生村大字草生千九百九十番地平民後
備役陸軍步兵軍曹長野嘉三次外十名呈出(紹介議員宮田
光雄君)
同第八〇〇號
同上三重縣安濃郡高宮村大字三〓四百二十二番地平民元
陸軍步兵軍曹谷口政太郞外六名呈出(紹介議員宮田光雄
君
同第八〇一號
同上三重縣安濃郡片田村大字井戶二百六十七番地平民元
海軍一等兵曹前川半次郞外四名呈出(紹介議員宮田光雄
君の
同第八〇二號
同上三重懸安濃郡藤水村大字垂水八百七十九番地士族後
備役陸軍步兵特務曹長河邊吳三郞外七名呈出(紹介議員
宮田光雄君)
同第八〇三號
同上三重縣安濃郡河內村九十一番地ノ一平民元海軍一等
兵曹落合信五郎外六名呈出(紹介議員宮田光雄君)
同第八〇四號
同上三重縣安濃郡安東村大字觀音寺五百七十番地平民退
役陸軍步兵中尉鈴木與三郞外十一名呈出(紹介議員宮田
光雄君)
同第九三四號
同上三重縣多氣郡五ヶ谷村大字朝柄三千八百八十五番地
平民農高山傳七外十一名呈出(紹介議員荻田悅造君)
同第九三五號
同上大阪府豊能郡セ豐島村大字宮ノ前二十六番屋敷士族
陸軍步兵少佐前田利貞外十四名呈出(紹介議員中馬興丸
君)
同第九五一號
同上佐賀縣佐賀郡春日村大字尼寺二千七百八十四番地陸
軍歩兵中佐山田佐六外二百二十四名呈出(紹介議員金光
唐夫君)
同第九五二號
同上島根縣能義郡安來町大字安來千七百四番地平民元陸
軍步兵一等卒渡部唯太郞外四十五名呈出(紹介議員高木
正年君)
同第九五三號
同上岐阜市本町四丁目十二番地士族陸軍步兵大佐宮本雅
之助外五十二名呈出(紹介議員高木正年君)
同第九五四號
同上香川縣香川郡直島村二千一一百六十一番地元陸軍步兵
軍曹關本數之助外十名呈出(紹介議員高木正年君)
同第九五五號
同上福岡縣嘉穂郡飯塚町大字菰田四百二十番地士族陸軍
步兵大尉山口〓外三十一名呈出(紹介議員高木正年君)
同第九五六號
同上静岡市西草深町百五十八番地士族無臟陸軍中將竹內
正策外七十一名呈出(紹介議員高木正年君)
同第九五七號
同上神戶市葺合町字三十八號四八二平民陸軍砲兵少佐古
谷四五郞外三十二名呈出(紹介議員高木正年君)
同第九五八號
同上宮城縣宮城郡鹽釜町字町二百八番地ノ二平民陸軍憲
兵曹長鈴木榮之進外二十四名呈出(紹介議員高木正年君)
同第九五九號
同上島根縣能。義郡安田村大字安田關三十八番地平民農陸
軍步兵二等卒吉木伊三郞外八名呈出(紹介議員高木正年
君
同第九六〇號
同上福岡縣三井郡御井町四百六十九番地後備役陸軍步兵
中佐貝塚豐藏外一名呈出(紹介議員高本正年君)
同第九六一號
同上島根縣大原郡阿用村大字上久野九百二十二番地平民
陸軍步兵軍曹管田倉太郞外五名呈出(紹介議員高木正年
君
同第九六三號
同上岐阜縣土岐郡多治見町一一千百三番地平民元陸軍輜重
兵一等蹄鐵工長竹澤仁太郞外二十七名呈出(紹介議員高
木正年君)
同第一〇〇五號
同上靜岡縣駿東郡楊原村下香貫二百九十六番地ノ二平民
無 後備役陸軍步兵大佐田上他二郞外十五名呈出(紹介
議員根本正君)
同第一〇〇六號
同上島根縣能義郡母里村大字東母里四百九十番地農鶴田
イン外十名呈出(紹介議員根本正君)
同第一〇〇七號
同上鳥取縣東伯郡倉吉町大字瀬崎町四十七番地士族陸軍
憲兵大尉吉村正敏呈出(紹介議員根本正君)
同第一〇〇八號
同上長崎縣南高來郡島原村八百番戶平民後備陸軍砲兵中
尉富田龍若外十九名呈出(紹介議員根本正君)
同第一〇四五號
同上水戶市大字上市田見小路六百六十六番地士族無職陸
軍少將富岡三造外二十八名呈出(紹介議員小山田信藏君)
同第一一〇九號
同上熊本縣玉名郡高瀨町平民隊軍三等軍醫正土井正雄外
二百六十三名呈出(紹介議員門田新松君)
同第一一一〇號
同上福井縣遠敷郡雲濱村西津第十四號六番地士族退役陸
軍砲兵少佐佐藤良韻外二十三名呈出(紹介議員根本正君)
同第一一一一號
同上愛媛縣愛知郡天白村大字平針六十五番戶平民陸軍三
等主計三輪德次郞外十三名呈出(紹介議員根本正君)
同第一一一二號
同上兵庫縣多可郡西脇町西脇九十八番屋敷平民陸軍工兵
大尉德図貞藏外十一名呈出(紹介議員根本正君)
同第一一一三號
同上明石市大明石村千百四十五番地ノ一平民陸軍憲兵大
尉大島間二外十四名呈出(紹介議員根本正君)
同第一一一四號
同上茨城縣新治郡榮村大字古來四十一番屋敷平民沼尻み
つ外八名呈出(紹介議員高木正年君)
同第一一一五號
同上靑森縣南津輕郡黑石町大字甲大工町二十一番地農陸
軍步兵少尉木村吉彌外六名呈出(紹介議員高木正年君)
同第一一一六號
同上新潟縣岩船郡村上本町百十五番地平民退役陸軍二等
軍醫正細野見勇外九名呈出(紹介議員高木正年君)
同第一一一七號
同上埼玉縣北足立郡浦和町二千七百番地陸軍砲兵大佐二
味篤之助外十五名呈出(紹介議員高木正年君)
同第一一一八號
同上和歌山縣日高郡上山路村大字西八十番地平民元陸軍
歩兵軍曹寒川茂市外六名呈出(紹介議員高木正年君)
同第一一一九號
同上大分縣速見郡杵築町大字杵築二百六十一番地平民陸軍
步兵大佐松村安雄外二十六名呈出(紹介議員高木正年君)
右請願ノ要旨ハ軍人恩給法ハ曩ニ大正九年法律第十號ヲ以テ改
正增額セラレタリト雖大戰後ノ諸物價ノ騰貴ハ依然トシテ繼續
シ生活ノ安定ヲ脅威シツツ在リ依テ軍人恩給法ヲ改正增額セラ
レタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百六十九號
意見書
請願文書表第九三一號
軍人恩給法改正ノ請願東京市牛込區矢來町十一番地豫備
役陸軍砲兵大佐朝川瀨平外三十三名呈出(紹介議員石川
玄三君)
同第九三二號
同上東京市牛込區市谷富久町百十三番地元陸軍步兵曹長
神林增治外三十二名呈出(紹介議員石川玄三君)
同第九三三號
同上東京市牛込區通寺町八番地元陸軍工兵上等兵吉原熊
三郞外三十名呈出(紹介議員石川玄三君)
右請願ノ要旨ハ現行軍人恩給法ハ蟲ニ改正增額セラレタリト雖
是等軍人ノ生計ハ今尙安定ヲ保持シ難シ加之戰傷、公傷者遺族
扶助料ノ算定ノ基礎ハ文官恩給法ニ比シ不備ノ點尠カラス依テ
軍人恩給法ヲ根本的ニ改正セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當四ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百七十號
意見書
請願文書表第一〇一七號
屯田兵喇叭卒若ハ其ノ遺族ニ土地給與ノ請願北海道札幌
郡江別町大字篠津村十五番地士族農安部孝吉外十四名呈
出(紹介議員岡田伊太郞君外一名)
右請願ノ要旨ハ永年北海道警備ノ重任ニ服シ來レル屯田兵喇叭
卒ニシテ土地給與ノ恩典ニ漏レタル者若ハ其ノ遺族ニ對シ普通
屯田兵及琴似、山鼻兩屯田兵喇叺卒若ハ其ノ遺族ノ如ク明治二十
三年九月法律第七十八號屯田兵土地給與規則ニ基キ相當土地ヲ
給與セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百七十二號
意見書
請願文書表第五九四號
互理逢隈郵便局ニ集配事務開始ノ請願宮城縣亙理郡逢隈
村十文字二百六番地農伊藤龍之進外五百五十七名呈出
(紹介議員野副重一君)
右請願ノ要旨ハ宮城縣亙理郡逢隈村ハ廣袤東西一里二十町餘南
北二里餘人口六千五百餘ノ大村ナリ然ルニ通信機關ハ西南部ハ
亙理郵便局ヨリ東北部ハ荒濱郵便局ヨリ又北端ノ一小部分ハ岩
沼郵便局ヨリ集配ヲ受ケ通信上ノ支障尠カラス依テ亙理逢隈圖
便局ニ集配事務ヲ開始セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付侯也
特別報告第百七十三號
意見書
請願文書表第六五二號
高志村ニ電信事務取扱無集配郵便局設置ノ請願德島縣名
西郡高志村長井內啓三呈出(紹介議員原田佐之治君外二
名
右請願ノ要旨ハ德島縣名西郡高志村ハ吉野川ニ沿ヒタル大村ナ
ルニ拘ラス郵便局ハ吉野川ヲ隔テタル一里餘ノ郵便局ヨリ集配
セラレ郵便電信事務ノ敏捷ヲ缺クコト甚シ殊ニ夏期出水時冬期
烈風ノ時ニ至レハ忽チ渡船ノ交通杜絕シ郵便電報ノ集配ヲ缺ク
コト多ク甚シキハ數日ヲ遲延スルコトアルヲ以テ高志村ニ電信
事務ヲ取扱フ無集配郵便局ヲ設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百七十四號
意見書
請願文書表第六五三號
松茂村ニ無集配郵便局設置ノ請願徳島縣板野郡松茂村
長代理助役淺野虎太郞呈出(紹介議員岡順次君外一名)
右請願ノ要旨ハ德島縣板野郡松茂村ハ面積一方里ニ過キサルモ
人口五千七百有餘アリ米麥ノ產額饒多ニシテ就中醸造機械等ノ諸
工業亦逐年發達シツツアリ然ルニ通信機開ハ隣村一里餘ヲ隔ツ
ル郵便局ニ往復セサルヘカラサル狀況ニ在リテ村民ノ不便不利
甚シ依テ該村ニ無集配郵便局ヲ設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリ小認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百七十五號
意見書
請願文書表第六五七號
雲城村ニ郵便局設置ノ請願島根縣那賀郡雲城村長山東吉
三郞呈出(紹介議員島田俊雄君)
右請願ノ要旨ハ島根縣那賀穗雲城村ハ同縣済田町ヨリ廣島縣加
計町ニ至ル縣道ニ沿ヒ人口二千五百餘アリ主トシテ米穀、薪炭、
木材、瓦等ヲ產出シ近接町村トノ物貨集散上樞要ノ地ナリ然ル
ニ所管今福郵便局ハ二里餘ヲ距ツルヲ以テ往往郵便物ノ遲著ス
ルコトアリテ通信上ノ不便實ニ甚大ナリ依テ該村ニ郵便局ヲ設
置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依り別册及御送付候也
特別報告第百七十六號
意見書
請願文書表第七四九號
三好村ニ郵便局設置ノ請願靑森縣北津軽郡三好村大字鶴
ケ岡字鎌田二百三十八番地青森縣會議員長尾角左衞門外
二十九名呈出(紹介議員阿部武智雄君外五名)
右請願ノ要旨ハ靑森縣北津輕郡三好村ハ五所川原郵便局ノ管轄
ニ屬スト雖同郵便局ノ管轄區域ハ廣汎ナル爲事務ノ圓滑ヲ缺キ
請願人等ノ不便至大ナリ加之近時村內經濟上ノ發達ハ郵便局ノ
增加ヲ來シタルヲ以テ前記三好村ニ郵便局ヲ速ニ設置セラレタ
シト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百七十七號
意見書
請願文書表第七六一號
穴吹郵便局ニ電話事務開始ノ請願徳島縣美馬郡穴吹村長
岩尾久吉呈出(紹介議員原田佐之治君外一名)
右請願ノ要旨ハ德島縣美馬郡穴吹村ハ縣道ニ沿ヒ各都市ニ通ス
ル樞要ア地ニ在リテ交通頻繁ナルノミナラス商業殊ニ殷盛ナリ
然ルニ穴吹郵便局ニハ電話ノ架設ナキ爲通信上ノ不便實ニ甚大
ナリ依テ該局ニ電話事務ヲ開始セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百七十八號
意見書
請願文書表第七六三號
平群村大字信貴畑小字信貴山ニ無集配郵便局設置ノ請願
奈良縣生駒郡平群村信貴畑小字信貴山平民僧侶野澤密昇
外五十三名呈出(紹介議員磯田粂三郞君)
右請願ノ要旨ハ奈良縣生駒郡平群村大字信貴畑小字信貴山ハ本
尊毘沙門天王ノ所在地ニシテ參詣者遊覽團體等四季ヲ通シテ實
ニ夥シク曲遂閑雅風景絕佳ナリ加フルニ各種ノ事業家續出シ當
山ヲ中心トシテ四圍ノ發展著シク從テ郵便物逐年激增シツツア
リ然ルニ所管郵便局ハ四十餘町ヲ隔ツル王寺驛ニ在リテ其ノ不
便實ニ名狀スヘカラス依テ該村中信貴山ニ無集配郵便局ヲ設置
セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百七十九號
意見書
請願文書表第七七八號
内之浦村大字岸良ニ無集配郵便局設置ノ請願鹿兒島縣肝
屬郡內之浦村長松下嘉納次呈出(紹介議員津崎尙武君)
右請願ノ要旨ハ鹿兒島砦肝屬郡内之浦村大字岸良ハ人口二千五
百餘アリ土地豐饒ニシテ林產物ニ宮ミ加フルニ開墾適地トシテ
他府縣ヨリ移住スル者夥シク從テ逐年產業發達ノ傾向ヲ示セリ
然ルニ該村ハ內之浦郵便局ノ管轄ニ屬スルヲ以テ其ノ間ニ於ケ
ル山岳難道等ノ爲郵便物ノ遅著ヲ來シ其ノ不便名狀スヘカラス
依テ前記內之浦村岸良ニ無集配郵便局ヲ設置セラレタシト謂フ
二作)
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十號
意見書
請願文書表第七七九號
柏原郵便局ニ電信竝集配事務開始ノ請願鹿兒島縣肝屬郡
東申良村長上羽坪藤太郞呈出(紹介議員津崎尙武君)
右請願ノ要旨ハ鹿兒島縣肝屬郡東串良村柏原ハ農、海產物ニ富
ミ將來有望ノ村落ナリト雖郵便物ハ縣下屈指ノ急流肝屬川ヲ隔
ツル波見郵便局ヨリ配達セラルルヲ以テ村民ノ不便甚シキモノ
アリ依テ東串良村及關係村落ヨリ千三百圓ノ寄附ヲ爲スヘキニ
付柏原郵便局ニ集配竝電信事務ヲ開始セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十一號
意見書
請願支書表第七八四號
小貝村字績谷ニ郵便局設置ノ請願栃木縣芳賀郡小貝村大
字績谷二十九番地農稻村玉吉外十一名呈出(紹介議員植
竹龍三郎君)
右請願ノ要旨ハ栃木縣芳賀郡小貝村大字續谷ハ鹽田、見上、竹內
羽佛、刈生田、田野邊、支谷、椎谷、杉山、大谷津等ノ部落ヨリ成リテ
小貝村役場ノ所在地タリ而シテ通信、郵便貯金ノ數多ク之カ爲
村民ハ郵便局ノ設置ヲ望ムコト切ナリ依テ前記續谷ニ郵便局ヲ
設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十二號
意見書
請願文書表七九〇號
吉田村ニ郵便局設置ノ請願鹿兒島縣鹿兒島郡吉田村本名
原平民郡會議員枝元四郞次外十六名呈出(紹介議員岩切
重雄君)
右請願ノ要旨ハ鹿兒島縣鹿兒島郡吉田村ハ五里以上ヲ距ツル重
富郵便局ノ管〓ニ屬シ通信上ノ不便甚大ナリ依テ吉田村ニ郵便
局ヲ設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議
決セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十三號
意見書
請願文書表第七九一號
奧浦村ニ郵便局設置ノ請願長崎縣南松浦郡奥浦村長山本
精一郞呈出(紹介議員收山耕藏君)
右請願ノ要旨ハ長崎縣南松浦郡奥浦村ハ福江郵便局ノ管轄ニ屬
スルヲ以テ通信上ノ不便甚大ナリ加之爲替貯金其ノ他郵便事務
ノ如キハ海產物ノ生產能率ノ增進ニ伴ヒ愈頻繁ヲ加フルニ至ル
ヘシ依テ該村ニ速ニ郵便局ヲ設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別〓告第百八十四號
意見書
請願文書表第八四五號
千年郵便局ニ集配事務開始ノ請願廣島縣沼隈郡千年村長
岡崎快造呈出(紹介議員井上角五郞君)
右請願ノ要旨ハ廣島縣沼隈郡千年村ハ山南郵便局ノ集配ニ屬シ
通信上不便尠カラス依テ千年郵便局ニ集配事務ノ取扱ヲ開始セ
ラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十五號
意見書
請願文書表第八四六號
莨町ニ郵便局新設ノ請願靑森市大字新町四番地平民〓員
淺井潔外二十名呈出(紹介議員阿部武智雄君外五名)
右請願ノ要旨ハ靑森市大字莨町十番地四號ハ市ノ東部中央ニ位
シ近來著シキ發達ヲ遂ケタリ然ルニ獨郵便事務ハ濱町郵便局ノ
管轄ニ屬シ不便尠カラス依テ速ニ前記莨町ニ郵便局ヲ新設セラ
レタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十六號
意見書
請願文書表第八五二號
美濃波多村大字新田ニ郵便局設置ノ請願三重縣名賀郡美
濃波多村大字新田千七百十二番地平民農龜澤增藏外三名
呈出(紹介議員大道寺慶男君)
右請願ノ要旨ハ三重縣多賀郡美濃波多村ハ近來非常ナル發達ヲ
送ケタルニ拘ラス獨郵便局事務ハ約二里ヲ距ツル名張郵便局ノ
管轄ニ屬シ不便尠カラス之地方民ノ誠ニ遺憾トスルトコロナリ
依テ前記美濃波多村大字新田ニ郵便局ヲ設置セラレタシト謂フ
ニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十七號
意見書
請願文書表第八八〇號
神湊郵便局ニ電話架設ノ請願福岡縣宗像郡神湊町長江口
藤太呈出(紹介議員中村〓造君)
右請願ノ要旨ハ福岡縣宗像郡神湊郵便局ハ本郡沿海五箇町村ノ
中央ニ位ス而シテ該地方ハ漁業殷盛ニシテ其ノ年產額實ニ數十
萬圓ニ達シ其ノ販路ハ遠ク筑豊ノ炭坑地方ニ及ヘリ加フルニ近
來該地方一帶ハ養蠶業著シク發達シ繭市場ノ開設ヲ見ルニ至リ
タルニ拘ラス通信機關不備ノ爲取引上ニ於テ地方民ノ不便不利
甚大ナリ依テ神湊郵便局ニ電話ヲ架設セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テジ院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十八號
意見書
請願支書表第八八七號
鹿屋、鹿兒島間直通電話架設ニ關スル請願鹿兒島縣肝屬
郡鹿屋町長宮田勇助呈出(紹介議員注崎尙武君)
右請願ノ要旨ハ鹿兒島縣南隅地方ハ鹿兒島市ト通信上密接ナル
關係ヲ有スルニ拘ラス適當ナル通信機關ナキ爲油方民ノ受クル
不便甚大ナリ依テ鹿兒四、西櫻〓間海底電線及本年度出願ニ係
ル垂水電話線ヲ利用シ西櫻島、垂水間ニ直通電話ヲ架設シ若ハ
鹿屋鹿兒島間直通電話ヲ架設セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百八十九號
意見書
請願文書表第九三九號
中村郵便局ニ集配事務開始ノ請願千葉縣君津郡中村村長
齋藤元吉外十九名呈出(紹介議員關和知君外一名)
右請願ノ要旨ハ千葉縣君津郡中村郵便局ハ集配事務ヲ取扱ハサ
ル爲通信ノ遲延ヲ來シ不便尠カラス依テ前記中村郵便局ニ集配
事務ヲ開始セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十號
意見書
請願文書表第九四〇號
川東村ニ郵便局設置ノ請願德島縣海部郡川東村長影石作
次呈出(紹介ズ員原田佐之治君外一名)
右請願ノ要旨ハ德島縣海部郡川東村ハ隣村淺用、鞆臭、川西、川上
ノ各村ノ中央ニ位シ近來製材事業著シク發達セリ然ルニ郵便物
ハ一里餘ノ坂路ヲ隔ツル浅川郵便局ノ管轄ニ屬シ電信ハ海部川
ヲ挾ミテ鞆矢局ヨリ配達セラルルヲ以テ一朝洪水ノ際ハ通信全
ク杜絕シ其ノ不便不利實ニ甚大ナリ依テ前記用束村ニ郵便局ヲ
設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ。依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十一號
意見書
請願文書表第九八五號
川西村下久田ニ無集配郵便局設置ノ請願茨城縣眞壁郡川
西村長柴長左衞門呈出(紹介議員鈴木錠藏君)
右請願ノ要旨ハ英城縣眞壁郡川西村ハ梨樹栽培ノ盛ナルコト縣
下第一ナルノミナラス電力ニ依テ各種產業ノ開發ヲ計畫スル等
極メテ富裕ナル村落ナルニ拘ラス四隣郵便局ト遠ク距リ村民ノ
不便尠カラス依テ一面ニハ其ノ不便ヲ除去シ一面ニハ下層民及
學齡兒童ノ貯蓄心ヲ涵養セムカ爲關係村落ヲ管轄區域トスル無
集配郵便局ヲ川西村大字下久田ニ設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十二號
意見書
請願文書表第一〇一三號
中湧別郵便局ニ集配事務開始ノ請願北海道紋別郡上湧別
村字中湧別市街平民商佐々木知治外三十四名呈出(紹介
議員木下成太郞君外一名)
六請願ノ要旨ハ北海道絞別郡中湧別郵便局ハ無集配局ナルカ故
郵便物ノ大部分ヲ鐵道郵便車ニ託送シ辛ウシテ其ノ用ヲ辨シ受
信郵便物ハ悉ク上湧別驛ニ逆送セラルルカ如キ狀態ニ在リテ不
便尠カラス依テ前記中湧別郵便局ニ集配事務ヲ開始セラレタシ
ト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十三號
意見書
請願支書表第一〇一九號
錦生村大字安部田ニ郵便局設置ノ請願三重縣名賀郡錦生
村長吉元正直外三十九名呈出(紹介議員大道寺慶男君)
右請願ノ要旨ハ三重縣那賀郡錦生村ハ名張、三本松雨郵便局ノ
中間ニ在リト雖其ノ距離遠クシテ不便尠カラス又瀧川郵便局ニ
隣接スルモ其ノ間ニ黑田、瀧川ノ兩川ヲ挾ム爲洪水等ノ際ニモ
亦甚タ不便ヲ感セリ依テ前記錦生村大字安部田ニ無集配郵便局
ヲ設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ主旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十四號
意見書
請願文書表第一〇二〇號
岡郵便局ニ集配事務開始ノ請願奈良縣高市郡高市村長河
合岩造外一名呈出(紹介議員八木逸郎君)
右請願ノ要旨ハ奈良縣高市郡高市、飛鳥ノ兩村ニ於ケル商工業
發逹ニ伴フ通信上ノ圓滑ヲ圖ル爲明治四十年岡郵便局ヲ設置シ
同四十四年電信竝電詁事務取扱ヲ開始セラレタリト雖無集配局
ナルカ故ニ地方民ノ不便不利尠カラス依テ前記岡郵便局ニ於テ
集配事務ヲ開始セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十五號
意見書
請願文書表第一〇四三號
濱口郵便局ニ集配事務開始ノ請願秋田縣山本郡濱口村長
〓水新五郞外二十名呈出(絡介議員三浦權兵衞君)
右請願ノ要旨ハ大正八年秋田縣由本郡濱口郵便局ニ電信事務ヲ
開始セラレタリト雖尙集配事務ヲ取扱ハサル爲村民ノ不便尠カ
ラス依テ隣接鵜川局ヨリ二名ノ集配人ヲ派遣シ以テ濱口郵便局
ニ集配事務ヲ開始セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十六號
意見書
請願文書表第一〇六〇號
佐那河内郵便局ニ電信架設ノ請願德島縣名東郡佐那四内
村長東條兵二呈出(紹介議員原田佐之治君外二名)
右請願ノ要旨ハ德島縣名東郡佐那河内村ハ四通八達物貨集散ノ
要地ニシテ人口戶數共ニ逐年增加シ產業ノ發展亦著シク且佐那河
內水力電氣株式會社等ノ設立ヲ見電信事務ハ逐日增加スルニ拘
ラス二里乃至四里餘ヲ距ツル國府、横瀬、廣野及神領等ノ郵便局
ヨリ配達セラレ不便甚シ依テ佐那河内郵便局ニー電信ヲ架設セラ
レタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十七號
意見書
請願文書表第一〇六二號
七取村ニ電話交換局設置ノ請願三重縣桑名郡七取村大宇
香取十六番屋敷伊藤榮一外三十三名呈出(紹介議員加藤
久米四郞君)
右請願ノ要旨ハ三重縣桑名郡七取村ハ古來西濃方面ヨリ三重縣
ニ通スル要路ニシテ近來異常ノ發達ヲ遂ケタリ而シテ電話ハ既
ニ開通セリト雖之カ交換ナキ爲不便尠カラス依テ速ニ電話交換
局ヲ設置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十八號
意見書
請願文書表第一〇八三號
大野郵便局ニ集配事務開始ノ請願滋賀縣甲賀郡大野村長
長政次郞呈出(紹介議員中村喜平君外一名)
右請願ノ要旨ハ滋賀縣甲賀郡大野村ハ束海道ノ要衝ニ在リテ水
口、土山兩町ノ中間ニ位シ近來產業ノ發達實二著シキモノアリ
然ルニ所管郵便局ハ水口郵便局ニシテ僅ニ一日一回乃至二回ノ
集配ヲ受クルニ止マリ其ノ不便不利尠カラス依テ該大野郵便局
ニ集配事務ヲ開始セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第百九十九號
意見書
請願文書表第一〇八四號
鹽津郵便局ニ電信、電話架設ノ請願滋賀縣伊香郡鹽津村
長平塚享三君外十二名呈出(紹介議員中村喜平君外一名)
右請願ノ要旨ハ滋賀縣伊香郡鹽津村ハ北陸ニ通スル要衝ニシテ
地方ヨリ產出セル木材、米穀等物貨集散ノ地タリ然ルニ電信竝
電話ハ遠ク二里餘ヲ行クニ非スムハ便シ得サルノミナラス殊ニ
冬期ハ積雪ノ爲交通杜絕ノ狀態トナリ徒ニ商機ヲ逸シ不便極マ
リナシ依テ鹽津郵便局ニ電信、電話ヲ架設セラレタシト謂フニ
在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
特別報告第二百號
意見書
請願文書表第七五一號
世知原村ニ登記所設置ノ請願長崎縣北松浦郡世知原村長
片山要呈出(紹介議員中倉万次郞君)
右請願ノ要旨ハ長崎縣北松浦郡世知原村ハ諸種ノ事情ニ因リ登
記所設置ノ必要ナルコトハ世上夙ニ之ヲ認メ衆議院ニ於テモ數
度之ヲ採擇セラレタリ然ルニ未タ之カ實行ヲ見サルハ關係地方
民ノ遺憾トスルトコロナリ依テ速ニ前記世知原村ニ登記所ヲ設
置セラレタシト謂フニ在リ
衆議院ハ其ノ趣旨ヲ至當ナリト認メ之ヲ採擇スヘキモノト議決
セリ依テ議院法第六十五條ニ依リ別册及御送付候也
〔龍野周一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=61
-
062・龍野周一郎
○龍野周一郞君 此機會ニ經過ノ〓略ヲ一言御報告ヲ
致シテ置キマス、一昨十一日迄ノ請願受理ノ件數ハ、累計
一千六百七十四件デアリマス、其中既ニ審査ヲ終了致シタ
ルモノガ一千二百三十二件、其內譯ヲ申上ゲマスルト、採
擇ヲ致シマシタルモノガ千百四件、政府參考送付ト決定シ
マシタモノガ百十八件、不採擇ト決定致シマシタモノガ十件、
審査未了ノモノガ四百四十二件デアリマス、願クハ今日迄
モ御精勵下サイマシタガ、今後請願委員諸君ニ一層ノ御精
勵ヲ委員長ヨリ希望シテ置キマス、只今一括日程ニ上セラ
レマシタル此請願ノ諸案件ハ、一々紹介議員諸君ノ熱誠ナ
ル御說明ヲ承リ、政府委員ノ說明、竝ニ必要アル場合ニ於
テハ政府ノ意見ヲ徵シマシテ、委員會ニ於テハ最モ鄭重深
切ニ審査ヲ遂ゲマシテ、此案件ハ全部大多數ヲ以テ採擇ス
ベシト決定致シタモノデアリマス、其理由ノ詳細ハ一々說明
ヲ致サズ速記錄ニ讓リマス、本會ニ於テモ滿場一致御採擇
ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=62
-
063・鈴木錠藏
○鈴木錠藏君 日程第十四以下ノ請願特別報告ハ、之
ヲ一括シテ請願委員長ヨリ報告ノ通リ採擇アランコトヲ望
ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=63
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064・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 鈴木君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ委員長報告ノ通リ採擇スルニ決シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=64
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065・鈴木錠藏
○鈴木錠藏君 殘餘ノ日程ニ對シテ延期ノ動議ヲ提出
致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=65
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066・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 鈴木君ノ動議ニ御異議ナイト
認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、明日モ本會議ヲ開キ
マス、日程ハ追テ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是ニテ
散會致シマス
午後七時二十四分散會
衆議院議事速記錄第二十七號中正誤
頁段行誤正
六四四下四八年五月ニ、只今ノ九年末ニ支出シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X02819220313&spkNum=66
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