1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十一年三月十五日(水曜日)午後一時十六分開議
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議事日程 第二十九號 大正十一年三月十五日
午後一時開議
第一 健康保險法案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二 簡易生命保險法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 社寺現境内地無償下付に關する法律案(鵜澤總明君外二名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四 國有土地森林原野下戻に關する法律案(阿部武智雄君外三十三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第五 治安警察法中改正法律案(一宮房治郎君外一名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第六 治安警察法中改正法律案(清瀬一郎君外一名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第七 治安警察法中改正法律案(横山金太郎君外三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第八 治安警察法中改正法律案(松本君平君外一名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第九 古墳發掘竝埋藏物處分に關する建議案(龍野周一郎君外四名提出)
第十 下級軍人の待遇改善に關する建議案(仙波太郎君外二名提出)
第十一 別宮狹野神社昇格に關する建議案(陣軍吉君外三名提出)
第十二 東京帝國大學農學部實科に關する建議案(有馬秀雄君外四名提出)
第十三 神社調査會設置に關する建議案(岩崎勲君外十二名提出)
第十四 官國幣社國庫供進金増額に關する建議案(岩崎勲君外十二名提出)
第十五 府縣社以下神社經費國庫補助に關する建議案(岩崎勲君外十二名提出)
第十六 牧野法制定に關する建議案(吉良元夫君提出)
第十七 三國港築港に關する建議案(野村勘左衞門君外四名提出)
第十八 速記者の養成及優遇に關する建議案(木下成太郎君外一名提出)
第十九 國籍法中改正に關する建議案(植原悦二郎君提出)
第二十 松江隱岐間海底電信電話増設速成に關する建議案(若林徳懋君外四名提出)
第二十一 信樂(貴生川加茂間)鐵道速成に關する建議案(安原仁兵衞君外一名提出)
第二十二 淀川改修増補工事速成に關する建議案(吉川吉郎兵衞君提出)
第二十三 鹿兒島加世田間鐵道速成に關する建議案(樋渡次右衞門君外三名提出)
第二十四 寺泊築港に關する建議案(高橋金治郎君外三名提出)
第二十五 乃木神社昇格に關する建議案(植竹龍三郎君外三名提出)
第二十六 御殿場大宮間及吉田大月間鐵道速成に關する建議案(岩崎勲君外一名提出)
第二十七 熱海下田松崎大仁間鐵道速成に關する建議案(小泉策太郎君外一名提出)
第二十八 狩野川改修に關する建議案(岩崎勲君外一名提出)
第二十九 日本銀行及特殊銀行條例中改正に關する建議案(星島二郎君提出)
第三十 朝鮮に於ける參政權に關する建議案(多木久米次郎君外四名提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=0
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001・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 諸般ノ報告ヲ致シマス
〔原田書記官朗讀〕
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
簡易生命保險法中改正法律案ニ對スル修正案
提出者岡本幹輔君板野友造君
靑年團經費補助ニ關スル建議案
提出者樋口秀雄君
營業稅全廢ニ關スル建議案
提出者上田彌兵衞君
鹿兒島各離島築港國庫補助ニ關スル建議案
提出者禱苗代君
鹿兒島地方裁判所大島支部ノ事務取扱權限復活
ニ關スル建議案
提出者禱苗代君
營業稅法改正ニ關スル建議案
提出者竹上藤次郞君山田永俊君
赤田瑳一君野口忠太郞君
山口義一君久下豐忠君
高見之通君三善〓之君
戶待權之助君伊澤平左衞門君
若尾幾造君植竹龍三郞君
磯田粂三郞君大島實太郞君
樋口伊之助君菊川惣吉君
木村〓三郎君牧野良三君
菅野傳右衞門君櫻內幸雄君
毛里保太郞君有馬秀雄君
(以上三月十五日提出)
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ揭載
ス〕
一昨十四日明治四十四年法律第六十一號中改正法
律案委員牧山耕藏君辭任ニ付其ノ補闘トシテ久下
豐忠君ヲ、軍備縮少ニ基因シテ生スヘキ失業勞働者
ノ善後ニ關スル建議案委員橋本喜造君、横山金太
郞君辭任ニ付其ノ補關トシテ津原武君、早速整爾
君ヲ、明治四十年法律第二十一號中改正法律案外
一件委員梅田潔君辭任ニ付其ノ補闕トシテ日野辰
二君ヲ、銅、眞鍮及靑銅ノ輸入稅ニ關スル法律案委
員花岡次郞君辭任ニ付其ノ補關トシテ高見之通君
ヲ、奈良ニ美術學校建設ニ關スル建議案外二件委員
岡順次君辭任ニ付其ノ補〓トシテ金光庸夫君ヲ孰
レモ議長ニ於テ選定セリ
一昨十四日委員長補關選擧ノ結果左ノ如シ
辯護士法改正法律案委員
委員長熊谷直太君(委員長廣岡宇一郞君補
關
奈良ニ美術學校建設ニ關スル建議案外二件委員
委員長戶水寬人君(委員長山本悌二郞君補
國
一今十五日常任委員補國選擧ノ結果左ノ如シ
第二部惡出豫算委員川副綱隆君(山道襄一君
補閱)
第三部選出決算委員岩崎宗茂助君(高木第四郞
君補閱)
第四部選出決算委員長谷場敦君(小鹽八郎右
衛門君補國)
第六部選出決算委員松井鉃夫君(古賀三千人
君補閱)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=1
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002・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 會議ヲ〓キマス-諮問事項ガア
リマス、花岡次郎君ハ海外旅行ニ付本月十七日ヨリ本月
二十六日マデ、請暇ノ申出ガアリマス、之ヲ許可スルニ御異
議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=2
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003・奧繁三郎
○議長(臭繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、仍テ許可
スルコトニ決シマス-日程第一ハ委員長ヨリ、報告ノ都
合ニヨリ延期ノ中出ガアリマシタカラ、之ヲ許スニ御異議ハ
アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=3
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004・奧繁三郎
○議長(臭繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、故ニ延期
ニ決シマシタ、日程第二、簡易生命保險法中改正法律案
ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メマス-
鳩山一郞君
第二簡易生命保險法中改正法律案(政府
提出)第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一簡易生命保險法中改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スへキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十一年三月十四日
簡易生命保險法中改正法律案委員長
鳩山郎
衆議院議長奥繁三郞殿
〔鳩山一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=4
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005・鳩山一郎
○鳩山一郞君 簡易生命保險法中改正法律案ノ委員
會ノ經過ヲ御報告致シマス、委員會ニ於キマシテハ、二百
五十圖ノ現在ノ法律ヲ、五百圓ニ何ガ故ニ改正ヲ致サナイ
ノカト云フ點ニ付テ、種々ノ論據ヨリ質問應各ガゴザイマシ
タ、政府ノ之ニ對スル答辯ハ三百五十圓ニ改正スルコトニ
依シテ、死亡率ノ危險ガ豫定率ノ十割以上ニナル故ニ、五
百圓トスルト簡易生命保險ノ基礎ヲ危クスル虞ガアル、第
二ニハ三百五十圓程度以上ノモノニ付テハ、民間ノ保險
業ヲ以テ保險ノ恩澤ニ浴セシムルガ故ニ、是レ以上增額ス
ル必要ガ無シト云フ御答デアッタノデアリマス、之ニ對シテ五
百圓ニ爲スベシト云フ意見ヲ持ッテ居ラルヽ方々ハ、修正案
ヲ御提出ニナッタノデアリマス、委員會ニ於テハ此修正案ハ
少數ヲ以テ否決ニナリマシタ、原案ガ多數ヲ以テ可決ニナッ
タ次第デアリマス、此段御報告ヲ致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=5
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006・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤヲ御
諮リ致シマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=6
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007・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 第二讀會ヲ開クニ御異議ナシト
認メマス、仍テ第二讀會ヲ開クコトニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=7
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008・岩崎勲
○岩崎勳君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開カレンコトヲ望ミ
マス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=8
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009・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キマス-本案ニ對
シテ修正意見ノ提出ガアリマス、岡本幹輔君
第二簡易生命保險法中改正法律案
第二讀會
〔岡本幹輔君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=9
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010・岡本幹輔
○岡本幹輔君 本員ハ只今議題ニナッテ居リマスル所ノ
簡易生命保險法中改正法律案ニ對シマシテ、玆ニ修正ノ
意見ヲ申上ゲタイト思フノデゴザイマス、卽チ原案ノ「三百
五十圓」ヲ「五百圓」ニ修正スルモノデゴザイマス、玆ニ其理
由ヲ簡單ニ申上ゲヤウト思ヒマス、先年郵便貯金ノ限度ヲ
千圓カラ二千圓ニ改正サレマシタ當時、吾々ハ既ニ簡易生
命保險ノ限度モ、矢張其倍額ノ五百圓ニ改正サレナクテハ
ナラナイト云フコトヲ信ジテ居ッタ者デゴザイマス、然ルニ此
度政府ノ簡易生命保險法ヲ改正スルニ當リマシテ、二百
五十圓カラ僅ニ百圓ヲ增加シタル三百五十圓ニ止メラレ
タト云フコトハ、尠カラズ吾々ノ期待ヲ裏切ッタモノデゴザイ
マス、殊ニ私ハ此案ニ對シマシテ、政府カラ參考トシテ記付
サレマシタ所ノ各種ノ材料ニ依ッテ之ヲ〓究シマシテ、益〓其
感ヲ深クスル者デゴザイマス、御承知ノ如ク經濟界ノ狀勢
ヲ考ヘテ見マスルト、本法施行當時ノ大正五年度ト、最近
ノ物價トノ其指數ヲ比較スルニ、當時ノ百ニ對シテ最近ニ
於テハ二百二十五ニナッテ居ルノデゴザイマス、取リモ直サズ
當時五十圓デ一家ノ經濟ヲ立テ居ッタ者ハ、現在デハ百十
二圓餘ナクテハナラナイ事ニナッテ居ルノデゴザイマス、又勞
銀ノ上カラ見マシテモ、當時ノ百ニ對シ二百八十トナッテ居
ルノデゴザイマシテ、收支何レノ點カラ見マシテモ、二倍以上
トナッテ居ルノデゴザイマスカラ、本事業ノ如キ社會政策ノ
一端トシテ施行サレマシタ所ノ事業ニ於テハ、社會ノ狀勢
ニ順應シテ改正サレナクテハナラナイト云フコトハ、申上ゲル
マデモナイコトデゴザイマス、之ヲ民間ノ普通生命保險ニ付
テ考ヘテ見マスルト、本法施行當時ノ一口契約高ガ七百
七十七圓デゴザイマシタノガ、最近ニ於キマシテハ之ガ千百
五十六圓トナッテ居リマシテ、其金高ガ三百七十九圓ト云
フ增加ニナッテ居ルノデゴザイマシテ、此點カラ見マシテモ、
般經濟界ガ當時ノ經濟界ト比較シテ、非常ナ相違ガアルト
云フコトヲ認メルモノデゴザイマシテ、簡易生命保險ニ於キ
マシテモ、二百五十圓ヲ增加スルト云フコトハ、寧ロ當然ノ
事ト信ズルノデゴザイマス、又大正九年度加入者ノ年齡ニ
依シテ之ヲ〓究シテ見マスルト、大正九年度ノ加入者ノ總
計ガ七十八万八千人デゴザイマスガ、此中二十歲未滿ガ
十六万七千人、五十歲未滿ガ五十五万二千人、五十歲
以上ハ六万九千人デゴザイマシテ、二十歳未滿ハ全體ノ二
割一分、五十歳以上ガ九分デゴザイマシテ、殘餘ノ七割ト
云フモノハ、是ハ二十歲カラ五十歳迄ノ丁度人間ノ働キ盛
リデアルノデアリマス、二十歲カラ五十歲ノ人ト云ヒマスレ
バ、是ハ男デアラウガ、女デアラウガ、一家ノ殆ド中堅デゴザ
イマシテ、殊ニ本法ノ目的タル所ノ中流以下ノ家庭ニ於キ
マシテハ、此二十歳カラ五十歲マデノ人〓ニ依ッテ、生計ノ
大部分ト云フモノガ維持サレルノデゴザイマスカラ、若モ此
中堅ノ人ノ間ニ一旦不幸ナ事ガアリマシタナラバ、一家ガ
取敢ズ悲慘ノ狀態ニ陷ラナケレバナラヌノデゴザイマス、ソレ
デゴザイマスカラ、現在ノ經濟狀態ニ於キマシテハ如何ニ中
流以下ニ於キマシテモ、三百五十圓ノ僅カノ金高ニ依リマ
シテ、此窮境ヲ救フト云フコトハドウカト考ヘルノデゴザイマ
シテ、此ニ五百圓ニ修正スル理由ガ存スルノデゴザイマス、
次ニ過日本案提出ノ際、我黨ノ淺賀長兵衞君カラ質問サ
レマシタニ對シマシテ、秦遞信次官ノ御答辯及委員會ニ於
キマスル所ノ政府委員ノ御答辯ニ徵シテ見マスルニ、三百
五十圓ニ立案シタル理由ト云フモノハ、何等世間ニ言ッテ
居リマスル所ノ民間ノ營利會社ノ壓迫ニ依リマシテ牽制サ
レタモノデハナク、在來ノ例ニ徵シテ見マスルト、保險金ノ高
イ程體ノ弱イ者ガ多ク、随テ本事業ノ如キ、無檢査デ加入
出來ル仕組ノ保險デハ、金高ヲ引上ゲレバ體ノ弱イ者ガ多
ク加入スルコトニナッテ、本事業ノ基礎ヲ危クスルト云フノガ
第一ノ理由ニナッテ居ルノデゴザイマスガ、是ハ私ガ政府カラ
配付サレマシダ所ノ材料ニ依リマシテ、此御心配ハ本當ノ
杞憂ニ過ギナイト云フコトヲ證明シテ餘リアルノデゴザイマ
ス、何トナレバ簡易生命保險ハ無檢査ト云フコトハ、初カラ
是ハ分リ切ッタ事デアリマシテ、無檢査ノ爲ニ其保險料ノ率
ト云フモノハ、他ノ保險料ニ比較シマシテ、非常ニ高率ニナッ
テ居ルノデゴザイマス、其結果ハ徵收シマシタ保險料ト、仕
拂ヒマシタ保險金トハドウ云フ割合ニナッテ居ルカト見マス
ルニ、最近ノ調ベデハ、簡易生命保險ガ一箇年ノ收入保險
料九百九十三万圓ニ對シマシテ、仕拂ヒマシタル保險金ハ、
僅ニ百五十四万圓デアリマヌ、然ルニ普通保險ニ於キマシ
テハ一箇年ノ收入九千二百十八万圓ニ對シマシテ、支拂ヒ
マシタ保險金額ハ二千五百五十二万圓デアリマス、政府ノ
事業デアッテ、非常ニ高率ノ保險料ヲ徵收シテ居ルニモ拘ラ
ズ、其支拂ヒマシタ所ノ···
〔「分ラヌ分ラヌ」「謹聽々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=10
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011・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 節ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=11
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012・岡本幹輔
○岡本幹輔君(續) 其保險金ハ、民間ノ事業ノ保險料ノ
六割ニモ及バナイト云フヤウナ狀態デアリマシテ、是デ果シ
テ本事業ノ目的ニ副フコトガ出來ルデアリマセウカ、私ハ疑
フノデゴザイマス、本法ヲ制定サレマシタル當時、箕浦遞信
大臣ハ當議院ニ於キマシテ、次ノヤウニ說明サレテ居ルノデ
コザイマス、卽チ「多數ノ下級社會ヲシテ克ク恆ノ產ヲ治メ、
秩序アル生活狀態ヲ保タシムルト云フコトハ、貧富ノ懸隔
ニ伴ッテ起ル所ノ各種ノ缺陷ヲ救濟シ、社會組織ノ健全ナ
ル發達ヲ計ル所以デアリマス」「其方法トシテハ種々アルデ
アリマセウガ、今此法案ノ目的トスル所ハ、比較的低廉ナル
料金ヲ以テ簡單ナル手續ニ依リ、完全ナル基礎ノ上ニ保險
ノ恩澤ニ多數ノ下級社會ヲシテ浴セシムルコトガ一ノ緊急
ナル方法デアル」斯樣ニ申サレテ居ルノデアリマシテ、立法者
ノ精神ハ、明ニ社會政策ノ見地カラ致シマシテ、下級社會
ノ救濟ヲ目的トシタノデコザイマス、然ルニ現今ノ保險ノ局
ニ當ル者ハ、此立法ノ精神ヲ果シテ能ク諒解シテ居ルノ
デゴザイマセウカ、單ニ積立金ノ增加トカ、剰餘金ノ增加ト
カニ腐心致シマシテ、本法ノ眞ノ運用ヲ怠ッテ居ルヤウニ考
ヘラレルノデゴザイマス、其顯著ナル證據ト致シマシテハ、年
年積立金、剩餘金ナルモノハ非常ナル〓ニ依ッテ增加シテ
居ルノデゴザイマス、卽チ大正六年度ニ於キマシテハ百四十
二万圓、大正七年度ニ於キマシテハ二百六十四万圓、大
正八年度ニ於キマシテハ四百三十万圓、而シテ大正五年度
カラ現在マデ五箇年ヲ總計シテ見マスルト、準備金ガ千七
百二十七万圓、剩餘金ガ百六十一万圓、合計千八百八
十八万圓ニナッテ居ルノデアリマシテ、之ニ對シテ此五箇年
間ニドレダケノ保險金ヲ支拂ッテ居ルカト見マスルニ、僅ニ
四百十二万圓デアリマシテ、現在殘フテ居ル所ノ準備金竝
ニ剰餘金ノ四分ク一ニモ足ラナイノデゴザイマス、本法施行
ニ際シマシテ、國庫カラハ僅ニ六万九千圓ヲ支出サレタニ
過ギナイノデゴザイマス、是カラ考ヘテ見マスルト、政府ハ名
ヲ社會政策ニ藉リテ、此五箇年間ニ二千万圓近クノ金ヲ
下級階級カラ綾ラ取ッタト同樣ノ結果ニナルノデゴザイマス、
若シ個人若クハ營利會社ニシテ、斯樣ニ僅カノ資本ニ依リ
マシテ、斯樣ニ不當ノ利益ヲ舉ゲテ居ッタナラバ、世間デハ果
シテドウ云フ事ヲ言フデアリマセウカ、此點ニ於キマシテ政
府當局ノ御反省ヲ求メタイト思フノデアリマス、郵便貯金
ト同樣ニ、此簡易生命保險ノ剩餘金ヲ積立金ノ增加ニ向
ケルトカ、又ハ預金部ノ預金ノ高ヲ殖ストカ、又ハ公債ヲ增
加スルトカ云フコトハ、果シテ本法ノ精神ニ適ッテ居ルモノデ
アラウカ、ドウカト云フコトヲ疑フノデゴザイマス、ソレデゴザ
イマスカラ、例ヘバ從來ノ二百五十圓ヲ五百圓ニ增加致シ
マシテ、弱體者ノミガ加入致シマシテ、其保險金ノ仕拂ガ殖
エマシタ所デ、此簡易生命保險ノ經濟ノ基礎ニハ、何等ノ
變動ガナイノデゴザイマス、サレバ五百圓トスルコトニ對シテ
何等ノ支障ガナイ、然ルニ尙ホ三百五十圓ヲ固執サレルト
云フコトハ、其後方ニ何等カノ壓迫ガアッタデゴザイマセウカ、
私ハ左樣ニ信ジタクハナイノデゴザイマスガ、其以外ニ何等
ノ理由ヲ發見スルコトガ出來ナイノデゴザイマス、仍テ何卒
諸君ニ於キマシテモ、本修正案ニ御賛成アランコトヲ偏ニ希
望シテ止マナイ次第デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=12
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013・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 委員長ノ報告ニ贊成ノ討論ノ通
告ガアリマス、金光庸夫君
〔金光庸夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=13
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014・金光庸夫
○金光庸夫君 私ハ只今ノ修正案ニ反對致シマシテ、政
府ノ原案ニ賛成ヲ表スル者デアリマス、今其賛成ノ理由ヲ
少シク述ベテ見タイト思ヒマス、成ベク簡單ニ致シマスガ、其
理由ヲ述べマス前ニ、只今岡本君ガ修正ノ御意見ヲ御述
ニナリマシタ御演說中ニ、誤リガアリマスカラソレヲ正シテ置
キタイト思フノデアリマス或ハ御考違ヒノ點デハナイカト思
ヒマスガ、支拂保險金額ノ割合卽チ政府ノ支拂ッテ居ル保
險金ガ、收入シタル保險料ニ對スル割合ガ餘程少ナイ、民
間ノソレニ比シテ僅ニ六割ニ過ギヌト云フコトデアリマスガ、
ソレハ當然ノ事デアリマス、政府ノ保險ハ民間ノ保險ト違
ヒマシテ、削減期間ト云フモノガ付イテ居リマス、初年度ニ
死ンダ者ニ保險料程度ノ金ヲ返ス、二年目ニ死ンダ者ニ對
シテハ保險金ノ半額ヲ支拂フト云フコトニナッテ居リマシテ、
民間保險ノ如ク、何時デモ全額ヲ支拂フト云フ譯デハナイ、
其制度ガ異ナッテ居リマス、是ハ當然ノ事デ、簡易保險ニア
リテハ無診査ノ保險デアリマスカラ危險ガ伴フ爲二斯樣ナ制
度ニナッテ居ルノデアリマス、其爲ニ支拂フ保險金ガ少イノ
デアッテ、決シテ豫定死亡率ニ對シテ死亡者ガ少イカラ、死
亡者ニ支拂ウタモノガコンナニ少イ、六割ニモ及バヌト云フ
譯デハナイノデアリマスカラ、其誤リヲ正シテ置キマス、ソレカ
ラ箕浦氏ガ曩ニ此簡易保險制定ノ當時ノ御演說ニナリマ
シタ、所謂低廉ナル保險料ヲ以テ云々ト云フコトガアッタヤ
ウニ私モ記憶致シテ居リマスガ、是ハ細カイ事ニンレ程ノ御
注意モ屆カナカッタデゴザイマセウ、低康ナル保險料デハナイ
ノデアリマス、此簡易保險ハ比較的高イ保險料ヲ取シテ居
ルノデゴザイマス、是ハ又事業ノ性質上已ムヲ得ヌコトデア
リマシテ、强チ其高イ保險料ガ惡イト言ッテ非難スル者デハ
アリマセヌケレドモ、民營ノ保險ノンレニ比シテ相當高イ保
險料ニナッテ居ルノデアリマス、ソレカラ今圖本君ノ御演說
ノ中ニ政府ハ簡易保險事業ノ爲ニ二千万圓ト云フ多額ノ
金ヲ細民カラ絞取シテ斯ノ如ク多クノ利益ヲ得テ居ル、若シ
民間ノ會社デ斯樣ナ事ヲシタナラバ、非常ナ非難攻擊ヲ受
ケルダラウト云フヤウナ意外ナ意味ノ御說ガアリマシタガ、ソ
レハ根本カラ間違シテ居ルト思ヒマス、決シテ二千万圓ハ利
益デハナイノデアリマス、之レハ積立金デアリマシテ此積立
金ナルモノハ、被保險者ノ爲ニ積立ツル金額デアリマシテ、決
シテ政府ノ利益金デハナイ、假リニ保險會社トスレバ、保險
會社ノ利得金デハナイ、保險會社自身ガ運用ハシテ居ルケレ
ドモ、其性質ハ被保險者ノ保險料ノ積立金デアリマシテ、加
入者ノ爲ニ積立テタル金額ト云フコトニナッテ居ルノデアリ
マイ、簡易保險ノ場合ニ於テモ政府ノ利益ニナル金デハナ
イノデアリマス、是ハ何等カ御考違デハナカッタカト思ヒマス
カラ、其誤リヲ正シテ置キマス、是カラ本論ニ入リマス、何故
ニ三百五十圓可ナリ、五百圓ニ引上ゲ不當ナルカト云フコ
トヲ、凡ン四ツニ分ケテ申上ゲタイト思ヒマス、第一ニハ物價
ノ指數ニ對スル關係如何、第二ニハ簡易保險ノ現狀カラ見
テ、簡易保險加入者ハ左樣ニ高額ナモノヲ要求シツヽアリ
ヤ否ヤト云フ點カラ、三百五十圓可ナリト云フ意見ヲ述べ
タイ、第三ニハ之ヲ五百圓ニ引上ゲルコトニ依ッテ、民營保
險會社ガ非常ナル壓迫ヲ感ズルト云フコトヲ述ベタイト思
ヒマス、其壓迫ヲ緩和スル程度ハ丁度三百五十圓位ガ相
當デアラウト云フ意見ヲ述ベタイ、ソレカラ第四ニハ委員長
カラ報告ノアリマシタ通リニ、無診査保險ハ不正契約ガ伴
フモノデアルカラ危險ガ伴フ、詐欺契約トカ弱體契約ガ澤
山出來ル爲ニ、簡易保險ノ基礎ニ不安ヲ感ズルト云フコト
ニ付テ述ベタイト思フノデアリマス、先ヅ第一ニ修正說ノ根
本トスル所ノ保險法制定ノ當時ト今日ハ、經濟事情ガ非
常ニ違クテ居ルデハナイカ、物價ノ指數ハ二倍以上ニナッテ
居ルデハナイカ、詰リ金ノ値打ガソレダケ下ッテ居ルコトニナ
ルノデアルカラ、以前ノ二百五十圓ハ〓〓〓ノ五百圓ニ該
當スルデハナイカト云フ意見デ、是ハ一應尤ノヤウニ思ハレ
マスケレドモ、此物價ノ騰貴ト云フコトハ、戰時戰後ニ於ケ
ル經濟界ノ膨脹ニ伴フ一時的現象ト見テモ差支ナイト思
ヒマス、尤モ之ガ直ニ戰前ノ狀態ニマデ回復スルト云フコト
ハ私ニ於テモ考ヘラレヌケレドモ、今日ニ於テハ尙ホ物價ハ
徐々ナガラ低落ノ傾向ニアルノデアリマス、殊ニ亞米利加ノ
如キモ、戰時、戰後、非常十經濟界ノ膨脹ノ際ニ於テハ、二
倍三倍ト非常ナル騰貴ヲシタノデアリマスケレドモ、今日ニ
於テハ戰前ノ約二割强位ノ增加程度マデ低下シテ居ルノ
デアリマス、日本ガ今後幾許ノ程度ニマデ之ガ低下スルカト
云フコトハ分リマセヌケレドモ、又亞米利加ノソレ程ニハ低
落ハ致シマスマイケレドモ、マダ〓〓今日以後低落ノ餘地ハ
アルト思ヒマス、殊ニ憲政會諸君ノ如キハ、常ニ物價調節ヲ
論ジテ、物價ヲ引下ゲナケレバナラヌト云フコトヲ御論ジニ
ナルノデアリマスカラ、今後之ガ實現シタナラバ其程度ノ如
何ニヨリ五百圓ガ宜イカ、或ハ四百圓ニスルガ相當デデルカ、
或ハ三百圓ガ相當デアルカト云フコトニナル譯デ、或ハ三百
五十圓モ尙高シト云フコトニナルカモ知レヌ、ソレナラバ三
百五十圓說モ理由ガナイデハナイカト云フ御說ニナリマセ
ウガ、要スルニ此簡易保險ノ制限ノ如キハ、朝三暮四、上ゲ
タリ下ゲタリスルコトガ出來ルモノデハナイ、物價ガ高クナッタ
リ安クナッタリスル度ニ、此制限ヲ增減スルコトハ出來ヌノデ
アルカラ、大凡ノ見當ヲ見定メテ、先ヅ此位ガ宜カラウト云
フノデ達觀的ニ極メルヨリ外ハナイノデアリマス、今日ノ物
價ノ下落ノ傾向カラ考ヘテ、先ヅ百圓增加位ノ程度ガ相
當デハナイカト思フノデアリマス、ツレカラ第二ニハ先刻申
上ゲタノト順序ガ前後致シマスガ、第二ニハ民業ヲ壓迫ス
ルト云フコトヲ中上ゲタイノデアリマス、是ハ何故カト申シマ
スト、只今保險會社ハ三百圓以上ノ契約ヲ取,テ居ルノデア
リマス、サウシテ簡易保險ハ二百五十圓以下ノ契約ヲ取シテ
居ルノデアリマスカラ、其間ニ五十圓程ノ開キガアルノデア
リマスガ、之ガ若シ五百圓ニ引上ゲラレルコトニナリマスト、
只今民間業者ハ五百圓以下ノモノガ四割四分カラアリマ
スカラ、此領分ヲ侵サレルノミナラズ、是マデ度々唱ヘラレタ
ヤウニ、五百圓ノモノガ一家二人ニ這入レバ、民營ノ千圓ニ這
入ル代リニナルノデアリマスカラ、千圓ノ領域モ侵サレルコトニ
ナリマス、會社ニ依シテハ殆ド立ツペカラザル大打撃ヲ受ケル
モノガアルダラウト田心フノデアリマス、ソレカラモウ一ツハ、保
險ト云フモノハ段々高イ所カラ低イ所ニ、取易イ所カラ取
リ難イ、易ヨリ難ニ進ム、先ヅ世間ニ申ス有ル所カラ取レ
ト申シテ、取易イ資產ノアル者ニ最初ニ勸誘スルノデアリマ
シテ、ソレガ段々發展シテ參リマスト、其資產ノアル階級卽
チ沃野ト云フモノハ耕シ盡サレテシマヒマシテ、今日デハ殆
ド隅カラ隅マデ、苟モ相當ノ暮シヲシテ居ル者ニハ皆保險ヲ
勸メテ取ッテ居ルノデアリマス、今後ハ比較的財產ノ少イ下層
ノ階級ノ方ニ向ッテ、民營保險ト雖モ發展シテ行カナケレバナ
ラヌノデアルカラ、此際政府ノ簡易保險ガ上ノ方ニ向ッテ進
ムト云フコトニナリマスト、其處ニ民營保險ト錯綜スル地域
出來ルノデアリマス、サウシテ非常ナ競爭ヲ見ルヤウナコトニ
ナリマスカラ、之ガ卽チ民營ヲ非常ニ壓迫スルト云フコトニ
ナルダラウト思ヒマス、此小口保險ヲ政府デ營ムト云フ趣
旨ハ、色ミノ理由ハアリマセウケレドモ、其最モ主ナハ理由ハ、
此極ク小サイ小口ノ保險ハ大變費用ガ餘計掛ル、サウシテ
此無診査ノ保險ハ危險ガ件フカラ民營デヤッテハ危イ、其
基礎ニ動搖ヲ來スノ恐レガアルカラ、政府ガヤルガ宜イ、卽
チ危險ノ伴フト云フ事ト、小サイ保險デアルカラ費用ガ掛カ
ル、手數ガ掛カルト云フ事ガ、官營ニシタ主ナル理由デアリ
マシテ、其創設ノ趣旨カラ考ヘマシテモ、上ニ發展シテ行ク
ト云フコトハ其理由ガ乏イノデアリマシテ、益〓下ノ方ニ發
展シテ行カナケレバナラヌノデアリマス、隨テ今ノ簡易保險
ノ平均百十圓ガ之ガ百圓ニ下リ、八十圓ニ下リ、五十圓ニ
下ッテコン、寧ロ社會政策ノ本義ニモ適シ、且ツ民營ニ於テ
困難ナル事業ノ部分ヲ政府ガ營ムト云フ趣旨ニモ適スルノ
デアルト思ヒマスカラ、上ノ方ニ益〓發展シテ行クト云フコト
ハ理由ニ乏シイ、併シ大體今日ノ經濟狀態ガ、簡易保險創
設當時ノ經濟狀態ト大分趣ヲ異ニシテ居ルカラ、多少ノ增
加ハ此際已ムヲ得ナイデアラウガ、其程度ハ三百五十圓可
ナリト、斯ウ私ハ信ズル者デアリマス、今申シマシタ段々保
險ハ下ノ方ニ普及シテ行クト云フ一例ヲ擧ゲマスレバ、物
價ガ二倍ニナッテ居ル、金ノ値打ガ半分ニ下ッテ居ルト申ス
ナラバ、大正五年簡易保險ノ創設當時民營保險ノ新契約
ガ、一件當リ七百七十七圓デアッタノデアリマスカラ、今日ハ
ソレガ二倍ノ千五百何十圓ノ平均デナケレバナラヌノデア
リマス、物價ノ指數ト伴フモノデアルト假定スレバ-然ル
ニソレガ千五百何十圓ニナラズシテ最近ノ一件當リハ千百
圓許リニナッテ居ルノデアリマス、卽チ約五割ノ增加ヲ示シ
テ居ルニ過ギヌノデアリマス、之ガ物價ノ指數ト正比例シテ
ナイト云フ證據デアリマスノミナラズ、簡易保險ヲ始メタ爲
ニ、民營ノ保險ハ少額ノ保險ガ取レナイコトニナッタカラ、斯
樣ナ經濟狀態ノ變化ガナクテモ、一件當リノ平均ハ增加ス
ベキ事情ニ在ッタノデアリマス、其簡易保險ノ爲ニ增加スル
ノガ、例ヘバ假ニ二割增加スルト云フコトデアレバ、物價ノ
騰貴ハ約十二割デアリマスカラ、合計十四割モ增加ヲシナ
ケレバナラヌノニ、之ガ約五割シカ增加シテナイノデアリマス、
之ヲ以テ見マシテモ物價ノ指數ニ比例シナイト云フコトガ
分ルノミナラズ、若シ物價ガ段々下ヲテ行クナラバ、其反對ニ
保險ノ一件當リノ平均モ下ラキパナラスト云フ運命ヲ持フ
テ居ルト思フノデアリマス、尤モ今囘三百五十圓ニ引上ゲ
ルコトニ依ッテ、小口ノ保險ハ益〓民營ノ方ニハ少クナリマス
カラ、其理由デ多少一件當リノ平均ガ殖エルカモ知レマセ
ヌケレドモ、是ハサウ云フ特別ノ事情デ殖エルノデアリマシテ、
其經濟事情ノ爲ニ下ルノト相殺サレタ高ガ、實績トシテ現
レルノデアリマス、ソレカラ餘リニ民營ヲ壓迫シテ、漸次民業
ヲ奪フヤウナコトニナリマスルト云フト、假令民業ヲ差止メ
ナイニシテモ-伊太利ノ如クアヽ云フ殘部ナコトヲシナイ
ニシテモ、總テノ民業ニ對シ不安ノ感ヲ與ヘルノデアリマス
カラ、其點ハ爲政者ハ餘程注意ヲ要スル點デアラウト思フ
ノデアリマス、私ハ只今申シマシタ民營ガ三百圓以上、簡易
保險ガ二百五十圓以下デアルカラ、其意味カラ申セバ成ベ
ク民營ト官營ト交錯シナイヤウニ、三百圓ト云フ程度ガ相
當デアルト思フノデアリマスケレドモ、之ヲ引上ゲルト云フ場
合ニ、五十圓引上ゲルト云フコトモ餘リニ額ガ少イ、先ヅ三
百五十圓マデハ大シテ民間ニヒドイ壓迫モ感ジマイト思ヒ
マスカラ、此程度ガ宜シカラウト思ッタノデアリマヌ、ソレカラ
第三ニハ此簡易保險ノ現狀ガソレ程-五百圓マデ增額
セネバナラヌト云フ程加入者ハ要求ヲシテ居ナイヤウナ實
績ガ現レテ居ルノデアリマス、ソレハ大正十年ノ四月カラ九
月ニ至ル簡易保險局調査ノ保險金高別ノ新契約ノ調書
ガアリマスガ、之ニ依リマスト、一件當保險金高五十圓以
下ノ契約ノ件數ノ割合ガ二割一分强デアリマス、ソレカラ
百圓以内ガ二割七分デアリマシテ、之ガ五十圓刻ミニ於テ
一番加入者ノ希望ノ多イ階級デアリマス、其上ニ行キマスト
段々下ッテ參リマシテ、百五十圓以内ガ二割二分ニ下ッテ居
リマス、ソレカラ二百圓以內ニナリマスト唯ノ六分ニナッテ、
之ガ卽チ簡易保險ノ必要ノ程度ノ終點デアルト見ルコトモ
出來ルノデアリマス、見樣ニ依シテハ-サウシテ今度二百
五十圓ニナリマスト、冬躍シテ二割一分ト一云フコトニ
增加シテ居ルノデアリマス、是ハ卽チ小口ノ簡易保險ヲ必要
トスル程度ヲ超エテ普通保險ノ領域ニ入ルベキ性質ノモノガ這
入ッテ居ルカラ、ソレデ急ニ二割一分ト殖エタノデハナイカト
思ハレル、ソレカラモウ一面ニハ不正契約ガ此中ニ多イト云フ
コトモ意味シテ居ルノデアリマスケレドモ、ソレハ後ニ述ベタイ
ト思ヒマス、斯ウ云フ實績カラ見マスルト云フト、最モ希望
者ノ多イノハ百圓程度ノモノデアリマシテ、最モ希望者ノ少
イノハ二百圓程度ノモノデアリマス、卽チ百圓ヲ中心トシテ上
ト下トニ漸次下ッテ行ッテ居ルノデアリマス、之ヲ圖表ニ現ハ
シテ見マスト、洵ニ面白イ結果ガ現レルノデアリマス、卽チ二
百圓程度ガ簡易保險ノ必要トスル終點ニナリハセヌカト云
フ一面ノ觀察モ爲シ得ルノデアリマス、併シ之ヲ以テ三百
五十圓不可ナリト云フノデハアリマセヌケレドモ、斯樣ナ事
モ御參考ノ一助ニナラウト思ッテ玆ニ述ベタノデアリマス、ソ
レカラ第四ニハ不正契約ガ多イト云フコト、金額ガ多クナレ
バ多クナル程、高クナレバ高クナル程不眞而目ナル契約ガ
多イ、詰リ此簡易保險ノ創設ノ趣旨ニ副ハナイ所ノ性質ノ
契約ガ多クナルト云フ事ヲ述ベタイト思フノデアリマス、是
ハ委員會ニ於テ政府委員ガ此說ヲ主張サレテ居リマシタヤウ
デシタガ、其政府委員ノ御說明ニ依リマスト件當保險金高
五十圓以下ノ契約ハ豫定死亡率ニ對シ約八割死ンデ居
ル、此豫定死亡率ト云フノハドウ云フモノデアルカト申シマ
スト、簡易保險ヲ創設スルニ方ッテ、凡ンドレグケノ死亡者ガ
アルデアラウカ、其死亡者ニ支拂フ金額ガドレダケニナルカ
ト云フ計算ノ基礎ニナルモノデアリマス、詰リ簡易保險事
業ノ基礎ニナル所ノ死亡生殘表ト云フモノガアリマス、人
間ハ何歲ノ者ハ平均何年生キテ居ル者デアルカ、例ヘバ十
五歲ノ者ハ平均何十年生キテ居ル、十六歲ノ者ハ平均何
十何年生キ得ル者デアルト云フヤウナ死亡ニ關スル統計表デ
アル、其簡易保険ニ使ッタ統計表ハ、內閣統計局ノ統計表
ノ第二號表ノ男子ノ表ヲ使シタノデ、ンレハ一般國民ノ死
亡率デ、保險ニ這入ル者ノ實際ノ死亡率デハナイ、日本國
民全體ノ達者ナ者モ、病人モ、弱者モ、健康者モ、皆併セ總
平均ノ死亡率ノ男子ノ表ニ二割增デ、此表ガ出來テ居ル
ノデアリマス、ソレハ無診查デアルガ故ニ、一般ノ國民死亡
率デハ迚モ追付クマイ、ソレデ二割程之ヲ增シタラ大丈夫
デアラウト云フノデ、增加シタ豫定死亡率ニシテアルノデア
リマス、普通ノ民營ノ方ノ會社デハ、診査ヲシテ健康體ヲ選
擇シテ採ルノデアリマスカラ、左樣ナ二割增トガ、三割增ト
カ云フコトハ致サヌノデアリマス、國民ノ死亡率其モノヲンツ
クリ取ッテ來マスカ、サモナケレバ舊イ會社ガ實際是マデ經
驗シタ經驗表、實驗表ト云フモノヲ基礎ニ致スノデアリマス、
近來ハ此國民表ノ方ヲ使ヶテ居ルモノガ多ウゴザイマスガ、
其民間ノ保險業ノ豫定死亡率ヨリモ、政府ノ方ハ無診査
デアルガ故ニ、餘計見込ンデアルニモ拘ラズ、政府委員ノ御
說明ニ依レバ、五十圓以下ノ契約者ハ豫定死亡率ノ八割
百圓以內ガ九割、一百五十圓以下ノ者ガ十割死ンデ居ル、
十割デアリマズカラ丁度豫定死亡率ト同額死ンデ居ル、詰
リ百五十圓迄ハ計算ノ基礎ニ少シモ危險ヲ感ジナイ立派
ニ豫定ト適合シタル程度-尤モ其豫定ト雖モ國民死亡
表ヨリハ高イノデアル、ソレカラ二百圓以下】ニナリマスト、簡
易保險ノ此豫想表ヨリモ二割程餘計死ンデ居ルノデアリ
マス、二百五十圓以上ニナリマスト四割程餘計死ンデ居ル
ノデアリマス、是カラ推測シテ參リマスルト云フト、政府委員
ノ御見込デハ、之ガ三百五十圓程度迄上リマシタラバ凡
ン豫定死亡數ニ對シテ十割程超過スルデアラウ、卽チ豫定
死亡數ノ二倍死亡スルデアラウト云フコトデアル、若シ三百
五十圓デ二倍モ死亡スルデアラウト云フ推定ガ正鵠ヲ得テ
居ルトシマスレバ、五百園迄引上ゲマシタラバ確カナ事ハ無
論中サレマセヌケレドモ、凡ソ三倍位ナ死亡率ニナリハシナイ
カト思フノデアリマス、此二倍ノ死亡率デモ相當ニ私ハ不
安ヲ感ズルコトデハナイカト思ヒマスルノニ、三倍モ死
亡率ガアリマシタラバ、ソレハ事業ノ基礎ニ動搖ヲ來スノ
ハ申ス迄モナイ事デアリマス、隨テ只今ノ施行シテ居
ル保險料デハ、到底收支ガ償ハナイ、保險料ヲ二割ナ
リ、三割ナリ引上ゲナケレバナラヌト云フ時期ガ必ズ到
來スルノデアリマス、之ニ對シテ先刻岡本君ハ、ソレハ杞
憂デアルデハナイカ、現ニ政府ノヤッテ居ル簡易保險ノ成績
ガ非常ニ宜シイ、其保險支拂金額ト保險料トノ割合ハ民
間ノ其ニ比シテ、六割ニシカ當ッテ居ラヌデハナイカト云フ御
話ガアリマシテ、先刻私ガソレニ對シテ御說明申上ゲテ置キ
マシタガ、ソレガ丁度之ニ嵌マルノデアリマス、決シテ民間ノ
六割ノヤウニ少イ死亡デハナイ、民間ノ死亡率ヨリモ遙ニ
高卒ノ死亡デアリマスカラ、杞憂ドコロデハナイ、大ニ不安ノ
念ヲ懷クノデアリマス、サウシテ此二百圓以下ノ二割、二百
五十圓以下ノ四割ノ增加ト云フコトハ、是ハ何故ニ增加ヲ
シタノデアラウカト云フコトヲ考ヘテ見マスルト、直グニ分ル
ノデアリマス、弱體ニアラザレバ不正ノ契約デアリマス、弱體
ト申シマスルヨリハ、多クハ不正契約デアリマス、其不正契
約ガ實際ニ多イト云フ一例ヲ中上ゲマス、是ハ決シテ政府
當局ガ惡イトカ何トカ云フ意味デハナイノデアリマス、是ハ
無診査デアルガ故ニ已ムヲ得ズ斯ウ云フ結果ヲ來スノデア
リマスガ、大正八年度ニ於ケル加入後二年以內ニ死亡シタ
ル者ノ統計ヲ見マスルト、死亡診斷書ニ依ッテ告知義務ノ
違反デアル、嘘ヲ申立テヽ這入ッタト云フ、卽チ不正契約ト
云フコトガハッキリ分ッテ居ル者ガ、死ンダ總數ノ中ニ二割ア
ルノデアリマス、ソレカラ死亡診斷書其他ノ調査ニ依ッテ、告知
義務違反デアルト推定シタル者ガ二割六分三厘アルノデア
リマス、此合計死亡者全體ノ四割六分三厘ト云フモノハ
不正契約デアッタノデアリマス、サウシテ又不正契約ノ疑ヒ
多キ者ガ一割四分五厘、疑ヒ少キ者ガ一割八分四厘、卽
チ不正契約タル疑ノアル者ノ合計ガ全體ノ三割二分九厘
アッタノデアリマス、サウシテ告知義務違反ニアラズシテ、少シ
モ疑ヒノナイ正當ナ契約デアルト認メラレタモノハ一割五
分六厘シカナイノデアリマス、其他自殺トカ、災害其他ノ原
因ニ依ッテ死亡シタル者ガ四分二厘アルノデゴザイマス、之
ヲ以テ見マシテモ、此無診査デアルガ故ニ如何ニ不正ノ契
約ガ多イカト云フコトガ判ルノデアリマス、是ハ餘程ノ注意
ヲ以テシテモ、尙ホ避クベカラザル結果デアルト言ハナケレバ
ナラヌト思フノデアリマス、斯樣ニ不正契約ガ澤山アルノデ
アリマシテ、只今申上ゲタヤウニ契約金額別件數ノ割合々
二百圓以內マデ少クナッテ、二百五十圓以内ノ所ニ急ニ一
躍シテ二割一分ニ增加ヲシタト云フコトハ、卽チ不正契約
者ガ其邊リニ多イト一云フコトヲ考ヘラレルノデアリマス、此
意味カラ致シマシテ、若シ之ヲ五百圓ト云フヤウナ金額ニ
增加致シマシタナラバ、到底此不正契約者ノ不安ニ堪ヘヌ
ダラウト思ヒマス、若シサウ云フコトニナリマスト云フトド
ウ云フ結果ヲ來スカト言ヒマスト、此不正契約者ガ無
クテ眞面目ナ契約者許リデアリマスレバ、或ハ此簡易保險
ノ成績ガ益、進ムニ從ッテ、相當ニ利益ガ生レテ參リマスト、今
ノ保險料ハ低下スル、安クスルコトガ出來ルノデアリマス、然
ルニ斯樣ナ不正契約ガ益、多クナルト云フコトニナリマスレ
バ、低下ドコロデハナイ、却テ保險料ヲ增加セネバ經營上堪
へ得ナイト云フコトニ立至ルダラウト思ヒマス、ソレカラモウ
一ツ簡易保險ノ加入者ガ非常ニ負擔ノ重イト云フコトハ、
民間ノ保險デアリマスト、保險料積立全ノ運用ガ約七分
四厘程ニ廻ッテ居ルノデアリマスケレドモ、簡易保險ハ特別
ノ運用規程ガアリマス爲ニ、此資產ノ運用ガ民營ノンレノ
ヤウニ都合好ク參ラナイノデアリマス、是モ制度ノ結果已ム
ヲ得ナイ事デアリマスガ、例ヘバ大正五年度ニ於テハ此加
入者ノ積立、年末現在ノ積立全ガ二十九万六千圓デアリ
マシタガ、利子ハ一文モ這入ッテ居ナイノデアリマス、大正六
年度ニ於テハ年始ノ現在積立金ガ二十九万六千圓、年末
ノ積立金ガ百七十一万九千圓、其平均數ガ百万八千圓デ
アリマシタニモ拘ラズ、此資產ノ運用ニ依ル利子ノ收入ハ只
ノ九錢シナカイノデアリマス、ソレカラ大正七年度ニ於テハ
年始現在ノ積立金ガ百七十一万九千圓デアリマシテ、年末
現在ノ積立金ガ四百三十六万三千圓、其平均ガ三百四
万二千圓デアリマシテ、此平均三百四万二千圓ノ積立金
ヲ運用シタコトニ依ヶテ、其利息ノ收入ハ僅ニ五千八百六
十七圓シカナイノデアリマス、此步合ハ大正五年ハ零デアリ
マシテ、大正六年ハ是モ九錢デスカラ零デアリマス、大正七
年度ニ於テハ一歩デナクテ一厘九毛ニシカ當ラナイノデア
リマス、斯ノ如ク此運用ノ歩合ガ非常ニ惡ルイノデアリマス
カラ、ソレガ皆加入者ノ頭ニ掛ッテ參リマス、尤モ大藏省ノ
預金部ニ預ケマシタ全デ翌年度ニ利子ヲ取ッタ利子ヲ取ッタ
ノガアリマスカラ、ソレヲ繰上合算致シマスト、多少ノ相違カ
出來テ參リマス、是ニヨレバ六年度ガ五厘八毛、其翌七年
度ガ二分二厘三毛ノ利廻ニ當リマシテ、九年度ハ三分三
厘弱ニナルノデアリマス、斯樣ニ大正五年カラ七年マデノ利
子ノ收入步合ハ、殆ド問題ニナラヌ程ノ少イモノデアリマシ
タケレドモ、現内閣ガ其局ニ當リマシテ以來、著シク其成績
ガ好變致シマシテ、八年度、九年度ニ至ッテハ、六年、七年ニ
比シテ非常ナル進境ヲ示シテ居リマス、ケレドモマダ〓〓民
間ノ利廻ニ比シテハ、其半バニモ達シナイヤウナ狀態デアリ
マシテ、加入者ハ此運用上ニ於ケル損失ト申シマスルカ、不
利益ノ犠牲ヲ拂ッテ居ルノデアリマス、社會政策ナル美名ノ
下ニ是ダケ犧牲ヲ拂ッテ居ル、加入者ノ負擔ハ随分重イノ
デアリマス、若シ之ガ民間ノ保險ノ如ク七分四厘ニモ、八分
ニモ、廻スコトガ出來マシタナラバ、可憐ナル加入者ハマダ今
日ヨリモ遙ニ安イ保險料デ加入スルコトガ出來タコトデア
リマセウニ、洵ニ私ハ御氣ノ毒ニ感ズルノデアリマス、斯樣ニ
隨分負擔ガ多イ、資產ノ運用ニ於テ民間ノ方ヨリモ非常ニ
不利益ト云フ大ナル負擔、大ナル犠牲ヲ拂ッテ居ル、其上ニ
無診査ニ依シテ不正契約者ガ澤山這入ル、爲ニ眞面目ナル
契約者ハ非常ナル損失ヲ來シ、非常ナル犧牲ヲ拂ハナケレ
ハナラヌト云フコトハ、忍ピ難イ事デアリハセヌカ卜思ヒマス、
然ルニ此資產ノ運用ニ依ル所ノ利子ノ收入ヲ今殖サウト
云フテモ、是ハ大シテ今日以上好成債ヲ擧ゲルコトハ出來マ
スマイ、是ハ制度ノ然ラシムル所デアリマスガ、少トモ不正契
約ニ依ル所ノ不利益、不正契約ニ依ル所ノ義牲ヲ成ベク
少クシテ、出來得ベクンバ保險料ヲ安クシテヤリタイ、少クト
モ今後保險料ヲ引上ゲルコトノナイヤウニ努メルト云フコト
ガ、最モ必要ナ事デハナイカト思フノデアリマス、假ニ五百圓
ニ引上ゲマシテ、ソコニ澤山ノ十割二十割ノ不正契約者ガ
出タト致シマスレバ、其五百圓ニ這入ルヤウナ比較的資產
ノ豐ナル者ノ不正ノ爲ニ、五十圓、百圓ト云フ零細ノ金ヲ
積ンダ細民階級ノ者ガ、犠牲ヲ拂ヒ損害ヲ蒙ルト云フコト
ニナリマスカラ、此簡易保險創設ノ趣旨カラ考ヘマシテ所
諳社會政策ノ根本義カラ考ヘマシテ、大ナル矛盾デアルト
恩フノデアリマスカラ、五百圓程度ニ增額スルコトハ非常ナ
ル不安ヲ伴フ、不當ノ修正デアルト思フノデアリマス、マダ其
外ニ現行制度ニ付テ論議スベキ點ハ多々アリマセウケレド
モ、今日ノ場合左樣ナ論議ハ措キマス、今マデ申上ゲマシタ
所ノ要領ヲ摘ンデ見マスレバ、物價指數ニ比例シテ上ゲル
ト云フコトハ宜シクナイ、サウスレバ物價ハ下,タ時モ下ゲナ
ケレバナラヌ、サウ云フコトハ出來ヌデハナイカト云フ意味」モ
含マレル、而シテ契約件數ノ割合カラ見マシテモ、最モ必要
トスルノハ百圓以内デアッテ、殆ド必要ノ止マル程度、最少
加入者ノ所ハ二百圓程度デアルカラ、大シテ多額ナル契約
ノ要求シテ居ルヤウニモ見エナイ、然ルニ民間ノ保險ハ三百
園以上デアルカラ、此程度ノ引上ニ止メテモ宜イケレドモ、
經濟狀態ノ關係カラ、少シハ上ニ出シテモ大シタ壓迫ニモ
ナルマイ、又官營ハ、成べク下層階級ノ者ヲ救濟スル意味ニ
於テ、下ニ發展シテ行クト云フコトガ最モ喜ブベキ現象デア
リマスカラ、斯ウ云フ方面ニ進メテ貰ヒタイ、其意味カラ上
ノ方へ餘リ擴ゲルノハ宜クナイ、ソレカラ不正契約ノ危險ヲ
避ケテ、眞面目ナル少額契約者タル細民階級ノ犠牲ヲ少
クシテ、保險料ヲ輕クシテヤリタイ、斯ウ云フ論點ガ、私ノ修
正意見ニ反對シテ政府案ニ贊成スル所以デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=14
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015・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 採決致シマス、岡本幹輔君ノ修正
家ニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=15
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016・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 起立少數、仍テ修正案ハ否決サレ
マシタ-更ニ本案ノ採決ヲ致シマス、委員長ノ報告ニ御
異議ナキヤ否ヤヲ御諮リ致シマス、委員長報告ニ賛成ノ諸
君ノ起立ヲ求メマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=16
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017・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 起立多數、仍テ委員長報告ノ通
リニ決シ、第二讀會ヲ終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=17
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018・岩崎勲
○岩崎動君 直ニ本案ノ第三讀會ヲ開キ、第二讀會決
議ノ通リ、卽チ委員長報告通リ、可決確定アランコトヲ望
ミマス
〔「賛成」「贊成」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=18
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019・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ直ニ本案ノ第三讀會ヲ開キマス
簡易生命保險法中改正法律案第三讀會
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=19
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020・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、仍テ木案
ハ委員長報告通リニ可決確定致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=20
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021・岩崎勲
○岩崎勳君 議事日程變更ニ關スル緊急動議ヲ提出致
シマス、卽チ第一號大正十一年度歲入歳出總豫算追加
案ヲ議題トナシ、豫算委員長ノ報告ヲ求メ、且ツ其審議ヲ
進メラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=21
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022・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ議事日程變更ノ動議ニ
御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=22
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023・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、仍テ日程ハ
變更サレマシタ-第一號大正十一年度歲人歲出總豫
算追加案ヲ議題ト致シマス、委員長ノ報告ヲ求メマス-
委員長田邊熊一君
第一號大正十一年度歲入歳出總豫算追
加案
報告書
一(第一號)大正十一年度歳入歲入總豫算追加案
右ハ本院ニ於テ可決スへキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十一年三月十五日
豫算委員長田邊熊
衆議院議長奥繁三郞殿
〔田邊熊一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=23
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024・田邊熊一
○田邊熊一君 只今日程ニ上リマシタ本案ノ豫算委員
會ニ於ケル審査ノ大要及其決定ヲ極テ簡單ニ申スコトニ
致シタイト存ジマス、本案ハ高等諸學校創設及擴張ニ關ス
ル經費ヲ提出セラレタノデアリマシテ、政府ガ其提出ノ理由
ヲ簡單ニ此處ニ記載シテアリマスカラ、御紹介致シタイト
存ジマス、世運ノ進歩ニ伴ヒマシテ、高等〓育機關ノ擴張
整備ヲ要スルモノガアリマシテ、大正十一年度ヨリ大正十
三年度ニ於テ、東京高等工業學校大阪高等工業學校及
神戶高等商業學校ノ組織ヲ變更シテ、東京及大阪ニ工業
大學神戶ニ商業大學ヲ設置シ東京高等師範學校及廣島
高等師範學校ニ於ケル專攻科ノ組織ヲ變更シテ、新ニ文
理科ヲ内容トスル單科大學ヲ設置致シマシテ、又齒科醫學
專門學校ノ創設、旣設實業專門學校ニ於ケル專攻科ノ施
設學科增設等ヲ要シ、其外東京外國語學校ノ修業年限ヲ
延長セントスルノガ大體ノ主意デアリマス、此爲ニ是等學
校ノ創設擴張ニ伴ヒマシテ、〓官ノ養成ヲ圖ルノ必要ガア
リマスノデ、在外〓究員ヲ增派セントスル、而シテ之ニ要スル
ル經費ハ總額千百六十九万二千三百九十五圓デアリマ
スガ、之ヲ木年度以降三箇年度ノ繼續費ト爲スニ依リマシ
テ、其本年度ニ要スル經費三百二十九万七千七百圓ヲ要
求サレタノデアリマス、之ニ對シマシテ委員會ニ於キマシテハ、
精密ニ審査致シマシテ、數日間ニ亙リマシタガ、質問應答ノ
集中スル所ノモノハ、四五ノ點デアリマシタカラ、極テ簡略ニ
其質問應答ノ大要ヲ御紹介致シマス、ソレハ〓育界ノ大
問題トシテ世間ノ頗ル注意ヲ喚起シタ事デアリマスカラ、敢
テ無用ノ事デハナカラウト存ジマス、暫ク御〓聽ヲ煩ハシタ
イト存ジマス、第一小學〓育ノ國庫負擔、卽チ町村〓育
費補助ノ增加ハ當面ノ急務ナルニモ拘ラズ、之ヲ解決セ
ズシテ高等〓育機關ノ擴張ヲ急ガルヽト云フノハ、前後
緩急ヲ甚シク誤マレルモノデハナイカ、斯ウ云フ質問デアリ
マシタ、之ニ對シテ政府ハ小學〓育費ノ負擔ハ、恆久的財
源ヲ俟タナケレバナラヌモノデアル、是ハ何レ軍備縮小ニ依ノ
テ生ズル所ノ剩餘金ヲ以テ、相當ノ額ヲ支出スルト云フコト
ハ、豫テ考慮中デアルト云フコトヲ政府ハ機會アル每ニ屢、
之ヲ聲明シテ居ルノデアリマス、而シテ今回ノ高等〓育機
關ノ擴張ノ經費ハ臨時費デアッテ、大部分ハ既定ノ公債財
源ニ依ルモノデアルニ依ッテ、決シテ前後ヲ誤ッタモノデナイ
之ヲ要スルニ國民〓育ニ對シテハ、我ガ政府ハ十分ニ考慮
シ、此發達及完成ニハ努力スルト云フコトヲ言明シテ居ルノ
デアリマス、次ハ本案ノ如ク優秀ナル專門學校ノ組織ヲ變
更シテ大學トスル如キハ、其結果專門學校ヲ廢スルコトガ續々
踵ヲ接シテ、遂ニ跡ヲ絕ツノ虞ガアルガドウカ-是ハ極端ノ
質問デアリマスガ、遂ニ語氣ノ及ブ所ハソコニマデ至ッタノデ
アリマス、之ニ對シテ政府ハ既設及創設スベキ專門學校
ハ合計三十有餘ニ及ンデ居ルノデアル、其最モ必要ニ迫ル
部分ノ今回組織ヲ變更シタモノデアルガ故ニ、他ハ容易ニ
昇格セシムルコトハナイノデアル、故ニ決シテ質問者ノ憂ヘ
ラレルヤウナコトハ無イト云フコトヲ言明シテ居リマス、次ニ
今囘昇格スベキ大學ハ、實用ヲ主トスルモノナリト言フケレ
ドモ、帝大ト其間幾許ノ差ガアルカ、斯ウ云云フ質問デアリマ
ス、之ニ對シテ政府ノ答辯ハ、帝大ハ一般的ニ必要ナルモノ
ナルモ、今囘ノ工業大學ハ特殊ノ部門ニ付テ、深キ知識ヲ投
クルコトヲ目的トスルモノナルガ故ニ、其成績ハ必ズ見ルベ
キモノアルヲ信ズルト云フコトヲ明言シテ居リマス、次ニハ師
範大學ヲ必要トスル主ナル理由ハ何デアルカト云フニ對シ、
政府ノ答辯ハ、現時ノ狀態デハ現在ノ高等師範學校ノ卒
業者ヨリモ、一段高イ素養アル良〓員ヲ多ク供給スルノ必
要アルガ故ニ、其目的ヲ達セントスルニハ、帝大ノ文科理科
ニ於テスルヨリモ、今囘ノ文理科大學ノ如キ、殊ニ〓育者
養成ニ都合好キ大學ヲ設ケルコトヲ必要ト信ジタノデアル、
大要ノ質問應答ハ斯ノ如キモノデアリマシタ、其他是ト同
樣ノ色とノ質問ガアリマシタケレドモ、其詳細ハ願クハ速記
錄ニ依シテ御永知アランコトヲ希望致シマス、討論ニ入リマ
シテ、武藤全吉君ヨリ原案全部ニ對シテ贊成ノ動】譲ヲ提
出セラレマシタ、之ニ對シテ憲政會ノ大津淳一郎君ヨリ初
等〓育ノ發達完成ニ十分ナル施設ヲ見ザルニ先シテ、高等
〓育機關ノ設置ニ同意スルコトハ出來ナイト云フ反對ノ
意見ガアリマシタ、又國民黨ノ湯淺凡平君ヨリ其內容ニ於
テハ意見ヲ異ニスル所ガアリマスケレドモ、要スルニ反對論
デアッタノデアリマス、卽チ高等諸學校ノ昇格ニ對シ、若クハ
高等師範學校ニ對シテ特別ナル科目ヲ設ケルニ付テ、種々
意見ガアリマシタガ、ソレニ付テハ、何レ此會議ニ於テ十分ニ
意見ヲ鬪ハサレルコトヽ思ヒマスカラ、重複ヲ避ケテ私ハ省
略致シマス、結局採決ノ結果大津、湯淺兩君ノ意見、卽チ
反對論ハ少數デ否決ザレマシテ、武藤君ノ原案贊成說ガ
大多數ヲ以テ可決セラレマシタ譯デアリマス、願クハ諸君モ
直ニ御審議セラレマシテ、本案ニ協賛ヲ與ヘラレンコトヲ希
望致シマス、唯、一言玆ニ申添ヘタイコトハ、本案ハ近時政
界ノ問題ト致シマシテ、或ル一部ニハ暗礁ノ如ク唱ヘラレタ
ノデアリマスガ、幸ニ諸君ノ御協賛ヲ得マシテ、通過スルコト
ガ出來マシタナラバ、啻ニ此政界ノ暗礁ヲ除去スルノミナラ
ズ、我ガ〓育界ノ安定ヲシテ、國民ノ爲ニ洵ニ悅ブ次第ト
存ズルノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=24
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025・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 本案ニ付キマシテ討論ノ通告ガア
リマス、順序ニ依ッテ之ヲ許シマス、下岡忠治君
〔下岡忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=25
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026・下岡忠治
○下岡忠治君 本員ハ本追加豫算ニ對シテ反對ノ意見
ヲ有スル者デゴザイマスカラ、暫ク其理由ヲ述ブル機會ヲ與
ヘラレンコトヲ希望致シマス、只今田邊委員長ノ御話ニナッ
タ如ク、本案ハ所謂〓育界ノ一大暗礁トシテ、昨年來首相
及文相ガ寔ニ此問題ニ付テ非常ニ苦·心ヲセラレ、餘所ノ見
ル目モ甚ダ御氣ノ毒ナ狀況デアッタノデアリマスカ、暗礁ハ何
處マデモ暗礁デゴザイマス、抑〓其出發點ヲ誤リ、方向ヲ誤ッ
ク結果此暗礁ニ乘上ゲテ、必ヤ現内閣ハ是ガ爲ニ覆沒
スルト云フコトヲ私ハ信ジテ居リマス(拍手)先ヅ最初ニ第
一ノ理由トシテ申シテ見タイ事ハ、〓育上ノ施設ノ方針ニ
關スル點ニ於テ吾々ハ反對致スノデアル、言フマデモナク此
歐洲戰爭ノ後ニ於キマシテ、武力ノ戰爭ハ下火ニナッタコト
デハアルケレドモ、將來平和ノ戰爭、貿易ノ戰爭ト云フモノ
ガ非常ニ激甚ニナルト云フコトヲ御互ニ覺悟致サナクテハ
ナラヌコトデゴザイマス、隨テ此戰爭ニ對抗スル上ニ於キマ
シテハ、國民ノ全能力ヲ發揮シテ、民族ノ非常ナル發展ヲ
圖ルト云フ必要ガアルコトハ勿論ノ事デアル卽チ戰後ノ經
營ノ第一義ハ、普通〓育ノ振興ニアルト云フコトハ中スマ
デモナイ事デアルト思フノデアリマス、現内閣ハ四大政綱ト
シテ〓育ノ振興ト云フコトニ銳意スルト云フコトヲ掲グラレ
テ、又之ヲ實行スルコトニ努メラレテ居ルコトハ、吾々モ多ト
スル所デアル、併ナガラ過去三年間ニ於ケル現內閣ノ〓育
上ノ施設ト云フモノヲ見マスト、成程高等〓育機關ノ擴張
ト云フコトニハ多大ノ金ヲ使ヒ、御手許金マデモ拜領致シ
テ、一大計畫ヲ立テラレタト云フコトハ、是ハ一ノ經綸トシ
テ吾々モ認メル所デゴザイマス、併ナガラ普通〓育ノ方面ニ
於テ何ヲヤッタノデゴザイマス、成程小學〓員ノ俸給ヲ殖ス
ガ爲ニ、市町村ノ其負擔ヲ殖スト云フコトモサレマシタ、法
律ノ一部改正モヤリ、勅令ナリ省令等ノ改正ヲスルト云フ
事ニ付テハ相當ノ事ハヤッテ居ルケレドモ、是ハ〓育上所謂
尋常茶飯事、普通ノ政務デアリマシテ、之ヲ以テ現內閣ノ
普通〓育ニ對スル一大施設ト認メルコトハ出來ヌコトハ分
リ切ッテ居ルノデアリマス(拍手)而シテ一方ニ於テハ高等〓
育機關ニハ是ダケノ金ヲ使ヒ、普通〓育ニ對シテハ世間デ
囂々トシテヤカマシク言ッテ居ル所ノ、此所謂小學校〓員
俸給補助ト云フ問題ニ付テスラ、尙ホ何等ノ解決ヲシテ居
ラヌト云フ狀況デアル、吾々ガ數年來此問題ニ付テ屢〓議
會デモ聲ヲ嗄ラシテヤカマシク言ウテ居ルガ、政府及政府與
黨ノ人〓ハ殆ド風馬牛相關セズト云フヤウナ態度ヲ以テ之
ニ臨ンデ居ルノデゴザイマス(拍手)昨年ノ議會デアッタト承
知致シテ居リマスガ、確カ井上角五郞君ガ、市町村ニ於ケ
ル所ノ〓育費ハ餘程節約ノ餘地ガアル、尠クトモ三四割-
後ニハ四割ト云フ事ハ御取消ニナリマシタケレドモ、尠クト
モ三割位ノ剩餘節減ノ餘地ガアルト云フコトヲ言ハレテ天
下ノ笑柄トナッタコトハ諸君ノ記憶ニ新ナル所デアラウト思
ヒマス(拍手)此辻褄ヲ合スガ爲ニ、前首相ガ非常ニ御心配
ニナッテ、御承知ノ通リ〓育行政調査會ト云フモノヲ設ケラ
レタガ、此〓育行政調査會ト云フモノハ何ヲヤッテ居リマス
カ、或ハ二部〓授ヲ行ヒ、或ハ三學級ヲ二〓員ニ於テヤラ
スト云フコトヲスル、隨分無理ナ話デアリマス、私共モ豫テ
地方ニ居ッタ經驗ガアリマシテ、二部〓授ト云フモノガ果シテ
〓育上ニ如何ナル影響ヲ及ボスカト云フコトハ、疾クノ昔承
知シテ居リマスガ、マダ内閣ノ諸公ニハ此事ガ分ラヌト見エ
ル、最早二部〓授ト云フモノハ日本ノ〓育界ニ於テ不適
當ナモノト云フコトハ、王ハ下ノ定論ニナッテ居ル、又三學級ヲ
二〓員ニ依ヶテ之ヲ養フ、是ハ出來ヌコトハゴザイマセヌ、無
理ニヤラウト思ヘバ出來ルケレドモ、少クトモ〓育上ニ於テ
ハ非常ナ不利益ヲ忍バナクテハ出來ナイト云フコトモ、是モ
分リ切タ事デアル、斯ノ如ク無理ナ事ヲシテ、千万圓、千五
百万圓ノ金ヲ紋出シテ、サウシテ國庫カラ必シモ〓育費ニ
對シテハ補助ヲシナクテモ宜イト云フ口實ヲ設ケヤウト云フ
御考ノ如キハ實ニ普通〓育ニ對シテハ吾々甚ダ不深切ナ
ル態度ト思フノデアリマス(拍手)斯ウ云フヤリ方ヲシテ來
テ居ル、而シテ此頃ニナッタラ軍縮ノ結果ニ依ッテ金ガ出來
ル、其折ニナッタナラバ初テ小學校ニ對シテ相當ノ補助ノ途
ヲ行ハウト云フヤウナ事ヲ言ハレテ居リマスケレドモ、是モ捕
ラヌ狸ノ皮算用、果シテ之ガ小學校〓員ノ費用ノ爲ニドレ
ダケ向ケラレルカト云フコトハ、何等明言ヲシテ居リマセヌ
吾々ハ行政上ノ大整理ヲ行ヒ、行政ニ對シテ一大斧鉞ヲ
加ヘルト云フ確信ガアル(「何ガアルカ」ト呼フ者アリ)明ニ確
信ガアル、此確信ヲ實行スル場合ニ於キマシテハ、尠クトモ
現在ニ於ケル所ノ小學校ノ〓員ノ俸給ノ約半額ニ近イモ
ノハヤルコトガ出來ルト云フコトヲ確信ヲシテ居ル譯デアル
(拍手)然ルニ行政財政ニ關スル整理ト云フヤウナ事ハ全
然之ヲ雲煙過眼視シテ、唯軍縮ニ依ル所ノ結果ヨリ得ル所ノ
金ニ依フテ、初テ市町村ニ補助ヲシヤウト云フヤウナ事ヲ約
束ヲシテ居リマスケレドモ、寔ニ當ニナラヌ所ノ口約デアルト
私ハ信ジテ居リマス(拍手)隨テ少シデモー三百万圓デモ、
五百万圓デモ、金ニ餘リガ出來ルモノデアルナナラバ先以テ
之ヲ普通〓育ニ向ケ、而シテ猶ホ餘力アル場合ニ於テ、高
等〓育機關ノ改善擴張ニ使フト云フナラバ、私共ハ敢テ異
論ヲ言フ譯デハナイ、旣ニ第一期擴張計畫ニ於テ、約四五
千万圓ニ近イ所ノ金ヲ使ヲテ、而シテ此上尙ホ此方ニカヲ
入ルヽト云フ考ガアルナラバ、ソレヨリハ尙ホ急務中ノ急務
ト云フベキ小學校〓員ノ俸給補助ノ增加ト云フ方ニカヲ
入レテ、サウシテ猶ホ餘力ガアレバ第二次デアラウガ、第三
次デアラウガ、高等〓育機關ノ擴張ニ充テルト云フコトガ、
所謂事ノ緩急輕重ヲ得タル所ノモノデアラウト吾々ハ信ジ
テ居ルノデアリマス(拍手)然ルニ今申シマシタ通リ、當ニナ
ラヌ所ノ物ヲ當ニシテ、小學校ノ方ノ補助ヲ是デ增スト云
フコトヲヤラズシテ、而シテ餘リニ急ヲ要シナイト見ラルヽ所ツ
ノ第二擴張計畫ニ手ヲ著ケルト云フコトハ、全ク順序ヲ誤
テ居ルモノト言ハナケレバナラヌ事デゴザイマスガ、前刻委
員長ノ報告ニ申サレタ通リニ是ハ公債財源ダ、公債財源ト
是トハ違フノデアルカラ、公債財源ノ方ハ幾ラ擴張計畫ニ
使シテモ、市町村ノ補助ト云フモノハ又別ノモノダト云フヤ
ウナ事ヲ以テ辨解ノ一ニシテ居リマスガ、公債財源デアラウ
ガ、何ノ財源デアラウガ、サウ云フコトハ頓著ハナイ、政府ノ
施設トシテ孰レガ重キカ孰レガ輕キカト云フコトヲ見テ、而
シテ徐々ニ經費ノ支出スベキ途ヲ講ズルト云フコトガ、卽チ
財政上ノ按排上適當ナル事ト言ハナクテハナラヌモノト私
共ハ信ジテ居リマス、此見地カラシテ、普通〓育ヲ困却シテ
高等〓育ニ偏重シタル現在ノヤリ方ニ付テハ、吾々絕對ニ
反對ヲセザルヲ得ザル所ノモノト御承知ヲ願ヒタイノデアリ
マス(拍手)然ラバ第二ノ點、卽チ此擴張計畫ト云フモノヽ
內容ニ付テ見マスルノニ此點ニ於キマシテモ、實ニ計畫ガ杜
撰疎漏デアル、到底此儘ニ置イテハ吾々ハ之ヲ承認スルコ
トガ出來ナイモノデアル、元來ガ必要ニ迫ラレテヤルト云フ
ヤリ方デナイ、一種ノ情實費緣ニ因ハレテ計畫ヲ樹テタモノ
デアリマスルカラ、初カラ無理ガアル(「ノウ〓〓」「ヒヤ〓〓」
ト呼フ者アリ)此無理ハ何處マデ行シテモ無理デアリマス、大
正九年度ニ於テ、初テ計畫セラレタトキニハ、實ハ五校ト云
フノハ違フテ居ル、東京ノ藏前ノ高等工業ト、大阪ノ高等工
業學校ハ這入ル、又神戶ノ高等商業學校モ這入ッテ居リマ
シタガ、高等師範學校ハ束京ノモ、廣島ノモ、其計畫ノ中ニ
ハ這入シテ居ラナカッタ、別ニ秋田ノ鑛山專門學校ト云フモ
ノガ這入ッテ居ック、所謂四校ノ昇格案デアッタノデアリマス、
ソレヲ何時ノ間ニカ變更シテ、今日ノ五校昇格ト云フモノ
ガ出來タノデアルカラ、此一事ダケヲ見テモ、眞ニ當局者ニ
於テ一定ノ計畫、自信ノアル所ノ案ヲ持ッテ居ラナカッタト云
フコトヲ證明スルコトガ出來ル譯デアル(拍手)加之是ダケノ
五校ヲ昇格シタナラバ、將來ハドウ云フ風ニ行クカ、尙ホ直
ニ第二、第三ノ昇格運動ガ起ル憂ガアリ、又政府ガソレニ動
カサレルト云フ憂ガナカラウカト云フ點ニ付テ、當局者ニ聽
イテ見マスルケレドモ、當局者ノ之ニ對スル返答ハ實ニ曖昧
模稜ヲ極メテ居ル、當分ノ間ハヤラヌカモ知レヌケレドモ、四
圍ノ狀況如何ニ依レバ更ニ之ヲ擴張スルカモ分ラヌト云フ
ヤウチ、實ニ曖昧ナル各辯ヲシテ居ルノデゴザイマス
〔「何ガ曖昧ダ」「當リ前ヂヤナイカ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=26
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027・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 靜肅ニ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=27
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028・下岡忠治
○下岡忠治君(續) 隨テ此點カラ考ヘテ見マシテモ、政府
ハ昇格ノ事ニ付テハ殆ド一定ノ自信ト云フモノガ無イト云
フコトヲ、斷言シナケレバナラヌ(「ヒヤ〓〓」「ノウ〓〓」ト呼フ
者アリ)先ヅ高等師範學校ニ付テハ之ヲ觀テ見ルニ、我國
ノ高等師範學校ハ創立以來四十年以上ノ歴史ヲ持ッテ居
ル、我ガ國民〓育、普通〓育ノ上カラ申セバ、實ニ過去ニ於
テ多大ノ貢獻ヲ爲シテ居ル所ノ學校デアルト云フコトヲ信
ジテ居リマス、隨テ斯ノ如キ沿革ヲ持チ、又由緒ノアル所ノ
學校ハ何處マデモ其特色ヲ發揮セシメ、勿論時勢ニ順應シ
テ、場合ニ依レバ其資格ヲ昇スト云フ事ニ付テハ、決シテ異
存ヲ持ッテ居ラヌ者デアル、然ルニ此度ノ案ハ、名ハ昇格案
デアリマスケレドモ、實際ハ昇格案デハナイ、別ノ大學ヲ新ニ
造ルト云フニ過ギナイノデアリマス、卽チ文理科ヲ內容トス
ル所ノ大學ヲ造リ、此大學ニ附屬シテ、只今ノ高等師範學
校ヲ引付ケテ置カウト一云フモノデアル、主タルモノガ文理科
大學ト云フコトデアレバ、之ニ附屬スル所ノ高等師範學校
ト云フモノハ、自然其附屬ニ屬スルモノデアリマスカラ、大學
ト云フモノヽ性質ニ順應スルモノニナルト云フコトハ、是ハ
當然ノ事デアリマス、然ルニ此文理科大學ト云フモノヽ內
容ヲ見テ見レバ、殆ド東京帝國大學、若クハ京都帝國大學
ニ於ケル文科ナリ、理科ト少シモ違ハヌ、僅ニ〓育科ト云フ
ヤウナモノニ付テ、學科ノ配置ヲ區別スルコトガ出來ルカハ
知ラヌガ、タッタ三年間ノ問ニ於ケル所ノ學科課程ノ配置ニ
於テ、東京或ハ京都ノ文理科大學ト性質ノ異ッタルモノニ
シヤウト思ウテモ、出來ルベキ筈ノモノデハゴザイマセヌ、隨テ
此文理科大學ト云フモノハ、東京ノ帝大ナリ、或ハ京都ノ
大學ト、殆ト其性質ヲ異ニスルコトハナイモノト謂ハナクテ
ハナラヌ、所ガ本〓ノ大學ニ於キマシテハ、文科ニシテモ、理
科ニシテモ、ワ現在ノ學生ノ數ト云フモノハ、百人以下デアリ
マス、併シ收容シヤウト思ヘバ、二百人デモ三百人デモ、幾ラ
デモ收容ガ出來ル、京都ノ文理科大學ハ恐ラクハ三十人カ
五十人ヲ上ッテ居ラヌノデアリマス、又是等ノ學校ニ於テモ、
若シ文理科ノ學生ヲ收容シヤウト思ヘバ、將來百名デアラ
ウガ、二百名デアラウガ、十分ニ入レルコトガ出來ルノデアリ
マス、又東北ノ大學ニ於テモ、近キ將來ニ於テ文理科ノ大
學ヲ造ルト云フコトニナッテ居ル、隨テ此方面ニ於テモ、文理
科ノ志望生ヲ入レルト云フ上ニ於テハ、綽々トシテ餘裕アリ
ト云フコトハ言得ル譯デアリマス、何ヲ苦ンデ斯ノ如ク文理
科ニ關スル所ノ設備ト云フモノガ、別ニ非常ニ澤山アルニ
拘ラズ、新ニ高等師範學校ノ設備ヲ利用シテ、文理科ノ大
學ヲ造ルト云フ必要ハ何處ニアリマスカ(「ヒヤ〓〓」)此一點
カラ考ヘテ見マシテモ、如何ニモ此案ガ姑息不徹底ノモノデ
アルト云フ事ヲ證明シテ居ルト謂ハネバナラヌ(拍手)又當
リ前カラ考ヘテ見マシテモ、高等學校ヲ卒業シタ者ガ、文理
科ノ〓育ヲ受ケヤウト田心ウテ此學校へ這入ルト云フコトノ
想像ガ付カヌ、別ニ立派ナ學校ハ本〓ニモアリ、或ハ京都ニ
モアルカラ、新ニ出來ル所ノ此文理科大學ニ、高等學校卒
業者ガドン〓〓這入ッテ來ルト云フコトハ、殆ド想像ガ付カ
ヌノデゴザイマス、隨テ此學校ハ高等師範學校ヲ卒業シタ
人〓ヲ、又更ニ之ニ入レルト云フコトニナルニ極マッテ居ル、
澤山望マヌカ知ラヌケレドモ、要求ハサウ云フコトニ自然ナ
ルデゴザイマセウ、所ガ御承知ノ通リ、高等師範學校ト云フ
モノハ、義務〓育ヲ終了シタ者ガ十一年間掛ッテ高等師範
學校ヲ卒業スルト云フコトニナルノデゴザイマス、場合ニ依
レバ九年間デ卒業スル者ガアルガ、普通ノ場合ニ於テハ十
一年間修業ヲシテ、高等師範學校ヲ卒業スル、此十一年間
修業シタ高等師範學校ヲ卒業シタ者ガ、尙ホ三年間此
文理科ヲ内容トスル大學ニ於テ〓育ヲ受ケルト云フコトニ
ナリマスカラ、都合義務〓育終了後ニ於テ十四年間修業
ヲスルト云フ結果ニナル譯デゴザイマス、然ルニ普通ノ徑路
ニ履ンデ來夕者、卽チ高等學校ヲ卒業シテ此文理科大學
ニ這入ル者ヲ考ヘテ見ルト、是ハ中學校ノ四年間及高等
學校ノ三年間、卽テ義務〓育終了後七年間ニシテ、)面シテ
此文理科ノ大學ニ入ルト云フコトニナルノデゴザイマス、七
年間ニ尙ホ三年間、卽チ十年掛ッタナラバ、此大學ヲ卒業ス
ルト云フコトニナル、一方デハ十四年掛カラナケレバ此大學
ヲ卒業シナイ、而シテ他ノ一方ニ於テハ十年間デ此大學ヲ
卒業スル者ト平等ノ位地ニ置ク、同ジ地位ニ置クト云フコ
トガ、斯ウ云フヤウナ學制ト云フモノガ、天下普通ニアリ得
ペカラザルコトデアルト云フコトハ、常識ノ上カラ判斷出來
ルコトデアラウト思ヒマス(拍手)此一點タケヲ考ヘテ見マシ
テモ、如何ニモ此高等師範學校ノ所謂昇格トシテ文理科
大學ヲ置クト云フコトハ、非常ナル無理ナモノデアルト云フ
コトヲ想像スルニ餘リアルデアラウト思フ、高等師範學校ヲ
卒業シタ者ガ、又態。頭ガ白クナッテカラ、ポツ〓〓此大學ニ
這入ルト云フヤウナコトニナラザルヲ得ヌノデアルカラ、恐ク
ハ此大學ヲ拵ヘマシテモ、此處ニ這入ル所ノ者ハ實ニ寥々、
折角多大ノ金ヲ使シタ所ノ大學モ、全ク收容スル所ノ生徒
ハ非常ニ少イト云フ結果ヲ見ルコトハ分リ切ッテ居ルト思フ
ノデアリマス、(「ヒヤ〓〓」「ノウ〓〓」ト呼フ者アリ)吾々ハ只今
申シタ通リニ、高等師範學校ノ昇格ト云フモノニハ反對ハ
シテ居ラヌノデアリマス、確ニ高等師範學校ト云フモノガ國
民〓育ノ淵源トデモ申シマスカ、參謀本部トデモ申シマスカ、
確ニ將來ニ於テモ自由〓究府タル所ノ大學以外ニ於テ、高
等師範學校ノ如キ設備ノ存在ヲ認メ、随テ是等ガ其程度
ヲ高メテ、所謂昇格ヲスルト云フコトハ敢テ惡イト思ヒマセ
ヌ、思ヒマセヌガ、此立テ方ハ全ク別ノモノヲ拵ヘ、文理科ヲ
內容トスル別ノ大學ヲ造ルト云フ立テ方デハ宜クナイノデ
アリマシテ、普通ノ中學校ヲ卒業スル者、或ハ師範學校カラ
來夕者ヲ一定ノ間、豫備〓育ヲ施スト云フコトヲヤッテ、而
シテ尙ホ其上ニ〓育的專門ノ學科ヲ與ヘテ、大學ト同一ノ
程度ニスルト云フコトデアルナラバ、是コソ所謂眞ニ師範大
學ト申シマスカ、〓育大學ト申シマスカ、世間ノ期待、又學
校當局者ナリ、生徒ナリ總テノ者ノ希望スル所ト、丁度一
致スル所ノモノガ出來ル譯デアル(拍手)所ガドウ云フ加減
デアリマスルカ、或ハ曰ク、樞密院ニ故障ガアル、或ハ曰ク〓
育ノ者宿、元老ノ間ニ反對ガアル、左顧右眄シ、彼方ヲ見、
此方ヲ見テ、遂ニ全ク本當ノ筋途ノ立タナイ、殆ド〓育ノ大
道ヲ全然紊ルヤウナ、斯ノ如キ提案ヲ見ルト云フニ至ッタト
云フコトハ、如何ニモ殘念至極ト言ハナクテハナラヌト思フ
ノデアリマス(拍手)工業大學ニ付テモ亦然リ、藏前ノ高等
工業學校ト云ヒ、又大阪ノ高等工業學校ト云ヒ、中〓設
備モ立派デモゴザイマス、〓員モ立派ナ人ガ澤山出テ居リ、
多年工業界ニ貢獻シテ居ルコトノ多キコトハ、吾々之ヲ認
メテ居ルノデアリマス、若シ出來得ベクンバ之ヲ昇格シテ、眞
ニ昇格シテ、此學校ノ程度ヲ高メルト云フコトニ付テハ、政テ
吾々異存ハナイノデアル、所ガ本案ハ如何デアリマスカ、昇
格デハアリマセヌ、工業學校ハ廢メニスル、而シテ別ニ大學
ヲ建テル、高等學校ヲ卒業シタ者ヲ收容シテ三年間ヤル所
ノ學校、丁度本〓ノ工科大學ト少シモ違ハヌト一ムウテ宜イ
譯デアル、當局者ニ聽キマスト、多少應用ヲ主トスル、本〓
ノ學校トハ特別ノ特色ヲ持ッタ所ノ學校ヲ造ルノデアル、斯
ウ云フ說明デゴザイマスルケレドモ、僅ニ三年間ノ〓育ニ於
テ、學科ヲ配置スル上カラ考ヘマシテ、僅カ三年間ニ於ゲル
總テノ專門〓育ニ付テ、本〓ノ學校ト藏前ノ學校ト大ナル
徑庭、差別、卽チ特色ヲ有スルモノヲ造ルト云フコトハ、是ハ
到底不可能ノ事デアル、委員會ニ於テ國民黨ノ大口君ガ
此點ニ付テ政府委員ニ段々色〓尋ネラレマシタガ、殆ド政
府委員ハ言葉窮シテ答フルコトガ出來ナイ(「ノウ〓〓」ト呼
フ者アリ)吾々橫カラ見テ居ッテ、實ニ情ケナイト云フ感ジガ
致シマシタ(「其ノ通リ」ト呼フ者アリ、拍手)斯ウ云フ所謂其
場逃レノヤリ方ヲスルカラ斯ウ云フ事ガ起ル、中學校ヲ卒業
シタ者ニ對シテ一定ノ豫備〓育、化學ナリ、理學ナリ、數學
ナリ、所謂應用大學ニ必要ナル像備〓育ヲ行ウテ、面シテ此
者ニ對シテ三年間、眞ニ應用的ノ專門〓育ヲ施スト云フノ
ナラバ、眞ニ本當ノ特色アル所ノ應用大學ガ出來ル譯デア
ル、然ルニ藏藏前ノ學校モ、大阪ノ學校モ、皆本〓ニ於ケル工科
大學ト同ジヤウナ立前ニシテヤッテ行ッテ、是デ特色アル學校
ヲ拵ヘルト云フコトハ、所謂木ニ緣ッテ魚ヲ求ムルガ如キモノ
デアルコトハ極リ切ッテ居ル、常識ノ上カラ考ヘテ必ズサウアル
ベキモノデアリマス、段々追窮シテ聽クト、遂ニ政府委員ハ言葉
窮シタ結果ハ設備ガ違フノデアル、是ハ帝國大學ノ方ノ設備
デ、藏前ノ學校トハマルデ設備ガ違フ、隨テ非常ニ實習等ヲ行
フニハ··そば詐〓前ノ學校ノ方ガ都合ガ宜イ、其方ガ應用大學デアッ
テ云々ト云フコトヲニロッテ居」リマス、然ルニ一體工科大學
ノ關係ハ應用ノ學科ヲヤル、是ハ本當ノ純粹ナル「サイエン
ス」デ所謂「アート」ニ屬スル應用ノ學校デアル、藏前ソレ自ラ
ノ應用ノ學科デアルノデアルカラ、隨テ藏前デアラウガ、或ハ
大阪デアラウガ、當然是ハ同ジヤウナ性質ノモノシカ必ズ行
ヘヌト云フコトハ吾々ノ推測ニ於テ必ズ誤リナイモノト信
ズル譯デアリマス、卽チ工業大學ニ關シテモ、丁度高等師範
學校ト同一ノ主義ニ於テ出直シテ呉レヽバ宜イ、全ク根本
ヲ立直シテ來ルナラ吾々政テ不賛成デナイケレドモ、賣子
見タヤウニ、一時遁レヲヤラウト云フノデ、縫合セヲスルモノ
デアルカラ、斯ウ云フ支離滅裂ノ案ガ出來上ッタ譯デアル、
商業大學ニナッテ來マスト、少シク趣ガ違ッテ居ルト思ヒマス、
併ナガラ大體ノ趣意ハ矢張同ジ事デアル、願クバ矢張高等
學校ヲ卒業シテカラ直ニ入レルト云フコトヲセズシテ、中學
校ヲ出夕者ニ對シテ或ル一定ノ豫備〓育ヲ行ウテ、而シテ
後ニ專門ノ商科大學ニ入レル方ガ宜イー云フ考ヲ持ッテ居
リマスガ、工業大學ナリ高等師範學校トハ、學問ノ性質ニ
於テ幾分ノ差ガアリマスカラ、絕對ニ同一ナリトハ認メマセ
ヌケレドモ、併シ少クトモ政府ノ計畫ソレ自ラニ付テハ非常
ニ疑ヒヲ持ツ、ドウシテモ根本ニ於テ一大改革ヲ加ヘナクテ
ハ、直ニ賛成スルコトハ出來ナイノデアリマスカラ、其內容ニ
對シテ中シマシテモ、五校トモ此儘ノモノデハ宜シクナイ、吾
吾ハ昇格ソレ自ラニハ敢テ反對デハナイケレドモ、先ヅ根本
ノ立方ヲ變ヘテ來ナケレバイケナイ、此杜撰孟浪ナル案ニ對
シテハ賛成ハ出來ナイ、計畫ヲ變ヘテ來ナケレバイカヌ、ソレ
ヲ變ヘタ上デ初テ贊成ガ出來ル、ソレデアルカラシテ卽チ〓
育ノ施設ノ方針カラ致シマシテモ、此案、此計畫セラレテ居
ル內容ノ有樣カラ考へテ見マシテモ、吾々ハドウシテモ贊成
ハ出來ナイ譯デアリマス、此以外ノ點ハ、十五ノ専門學校ニ
對シテ專攻科ヲ置クト云フ點デアリマス、此專攻科ヲ置ク
ト云フ點ニ付キマシテモ、現行法ニ於テモ專攻科ヲ置ケルコ
トニナッテ居ル、只今又置イテ居ル處モアルノデアリマス、所
ガ强イテ今日十五ノ學校ニ對シテ専攻科ヲ設クル必要ア
リヤ否ヤト云フコトニ付テハ、大ニ疑ハザルヲ得ナイ、例ヘバ
山口ノ高等商業學校ニ對シテ何ヲヤルカト云フコトヲ調ベ
テ見マスルト、金融科及保險科上云フ二ツノ專攻科ヲ設ケ
ヤウト云フ譯デスガ、山口ノ高等商業學校ヲ卒業シタ者ニ、
彼處デ保險ナリ金融ナリヲ專攻スル爲ニ、二箇年留ッテヤル
ト云フ者ガ果シテ何人アルデセウ、此點ヲ考ヘテ見マシテモ、
略こ想像ガ付ク譯デアル、若モ之ガ東京デアル、或ハ大阪デ
アルト云フ、卽チ金融ノ中心地ニ於テ、一方ニ於テ實務ニ
就テ、或ハサウ云フ專攻ヲシヤウト云フコトハ、是ハ有リ得ル
事デアルケレドモ、山口ノ高等商業學校ニ專攻科ヲ置イテ、
金融ト保險ノ事ニ付テ專攻セシムルト云フタ所デ、志願者
ノ數推シテ知ルベキノミ、、卽チ此點カラ考ヘテ見マシテモ、如
何ニモ此專攻科ト云フモノガ不急ノ施設デアルト云フコト
ガ想像ガ出來得ルト思ヒマス、傳ル所ニ依レバ、學校昇格
運動ガ非常ニヤカマシイ、各方面ニ於テ興起シテ、五校昇
格ノ例ニ傚シテ、私モ昇格ヲシテ吳レ、私ノ方モ昇格シテ吳
レト云フ運動ガ非常ニ盛ナリシガ爲ニ、此口塞ギヲスル爲
ニ-口塞ギヲスル爲ニ專攻科ヲ置イテ、ヤット一時ヲ鎭定
スルト云フヤウナ、一時ノ陋策カラ出テ居ルト云フニ至ッテハ、
實ニ〓育ヲ弄バレルモノト言ハザルヲ得ナイ、此意味ニ於テ
吾々ハ必シモ專攻科ガ全部イカナイト云フ意味デハゴザイ
マセヌケレドモ、不急ノ事業デアル、此際十五校ニ對シテ之
ヲ置クト云フコトハ不急ノ事デアルト云フ意味ニ於テ反對
ヲ致スノデアル、又外國語學校若クハ齒科醫學專門學校
ニ付テモ-議論ガ少シク細カクナリマスルガ、委員會ニ於
テモ段々之ニ付テ意見ガ述ベテアルカラ、其點ハ速記錄デ
御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス、要スルニ是等ハ宿題トシテ尙
ホ〓究ヲシナケレバナラヌ所ノ餘地ノアルモノデアル、例ヘバ
語學校ニ付テハ三箇年ヲ四箇年ニスルト云フコトデアルケ
レドモ、一般ノ當事者ノ望ンデ居ル所デハ、是ハ五箇年ニシ
テ貰ハナクチヤイカヌト云フコトデアル、四箇年ト云フコトハ、
帶ニ短シ襷ニ長シ、ドウモ是デハ本當ノ改良ニナラナイカラ、
ヤル以上ハ五箇年ニシテ貰ハナケレバナラヌト云フコトヲ言
ウテ居ルノデアリマス、又歯科醫學專門學校ニ付テ考ヘテ
見テモ、隨分官學萬能-云フ聲ニ反對スル上カラ、强イテ
今官立ノ齒科醫學専門學校ヲ設ケル必要ハ無イト云フ議
論ガヤカマシイ、現ニ我國ニハ齒醫者ガ非常ニ多イ-外
國ニ比シテ齒醫者ガ非常ニ多イ、是非共官立ノ學校ヲ設
ケテ齒醫者ノ補充ヲスルコトフ急務トハ認メテ居ラヌノデ
アルカラ、隨テ此意味カラ考ヘテ、齒科醫學專門學校ヲ急
ニ造ラナケレバナラヌト云フ必要ヲ認メナイノデアル、要スル
ニ何レノ點カラ考ヘテ見テモ、本追加像算ニ對シテハ到底
賛成スルベキ理由ヲ見出スコトガ出來ナイノデアルカラ、吾
々ハ宜シク政府ヲシテ此案ヲ立直シテ、確カリ計畫ヲヤリ
直サスベク再考セシムル爲ニ反對ヲ致ス譯デアリマス(拍手)
尙ポ一步ヲ進メテ申シテ見タイト思フノハ、本案ハ非常ナ
曰ク付ノ案デコザイマス此〓ニ付キマシテハ中橋文相ハ世
ニ所謂食言問題ナル問題っ惹起シテ、天下ノ耳目ヲ聳動
セシメタモノデアリマス(拍手)去年ノ議會ニ於テ、私ガ此壇
上デ中シク事ガアリマスガ、明ニ中橋文相ハ天下ニ公言シ
テ、大正十年度ニハ必ズ五校ノ昇格ヲスルト云フコトヲ申シ
タコトハ隱レナキ事實デアル、此問題ノ爲ニ貴族院ニ於キマ
シテハ、幾ド五十日ノ長キニ亙リ、或ハ風〓ニ關スル建議
案トナリ、或ハ文相ニ對スル彈劾的意味ノ決議案トナリ、
餘程政府ヲ擁護スル所ノ〓究會ヲ代表シテ居ル前田子爵ス
ラ何ト言ウタ、洵ニ中橋文相ノ行動ハ大輕卒、大失策デア
ル、九寸五分ハ必シモ文相ノ前ニ突出サヌケレドモ、一ツ御
考ニナッテ然ルペキデアラウ、斯ウ云フ事マデ言ハレテ居ルノ
デアリマス、之ヲドウ御解釋ニナルノデアリマス、私ハ此五校
昇格問題ニ於テ、實ニ忌ムベキ、斯ノ如キヤウナル結果ヲ見
ルニ至ッタノヲ悲ム者デアルガ、然ルニ其後恬然其位ニ
居リ、而シテ〓育評議委員會ナルモノヲ設ケテ、而シテ愈、
五校昇格案トナッテ、此議場ニ出サレルヤウナコトニナリマシ
タガ、縱シ五校昇格案ヲ爰ニ御出シニナッテ見タ所デ、之ニ
依ノテ文相ノ食言問題ト云フモノハ、決シテ帳消ニハナラヌ
ノデアリマス(拍手)加之、文相ノミナラズ、高橋總理大臣ハ
去ル二日ノ貴族院ノ豫算總會ニ於テ何ト言ウタ、首相ハ
頻リト祕密々々ト言ッテ、祕密會デアッタト言ハレマスケレド
モ、是ハ公然ノ祕密デアル、天下周知ノ事實デアリマス、其
時ノ首相ノ言ニ依レバ問題ハ左程內閣ノ運命ニ關スル程
ノ重大ナル問題トハ思ハヌカラ、此問題ニ關シテ吾々ニマデ
責任ヲ持タスト云フコトデアレバ考物デアルガ、文相一個ノ
考デヤルト云フコトデアレバ、オヤリニナッテモ宜カラウト云フ
コトヲ、內閣組織ノ當時ニ話シタト云フコトヲ、祕密會ニ於
テ御話ニナッタノデアリマス、何タル脫線デアラウ、內閣組織
ノ際ニ於ケル所ノ支部大臣ト總理大臣トノ話ヲ、赤裸々ト
申シマセウカ、之ヲ貴族院ニ於テ御公言ニナッタ譯デアル、文
相タルモノ此侮辱ニ對シテ決シテ晏如タルコトガ出來ナイ
ノハ當然デアルガ、御承知ノ通リ大磯ニ往ッタノハドウ云フ
譯デアル、是ニハ種々ノ議論ガアリ(「何ヲ言フ」「脫線スルナ」
ト呼フ者アリ)又ヤガマシイ問題ガ起リマシテ、四日ニナッテ
(「脫線」「豫算ニ何ノ關係ガアル」ト呼フ者アリ)二日ニ於テ
サウ云フ事ヲ貴族院ノ豫算總會ニ於テ申シテ置キナガラ、
四日ノ日-僅ニ二日ヲ隔テヽ首相ハ全ク其當時言ウタ
事ヲ知ラザルモノヽ如ク、全ク連帶責任デアル、其當時ハ內
閣組織當時ニ關スル事ニ付テ話ヲシタノデアッテ、現實ノ問
題トハ一向關係ガ無イ、現實ノ問題トシテハ之ヲ閣議ニ懸
ケテ而シテ提案スル以上ハ、連帶ノ責任ハ持ツノデアルト、
斯ウ云フ事ヲ言ハレマシ夕、確ニ食言デアル-確ニ食言デ
アル、苟モ一國ノ總理大臣タル者ガ、二日前ニ言ウタ事ヲ、
恰モ掌ヲ反スガ如ク之ヲ飜スト云フコトハ、洵ニ風〓ノ上カ
ラ考ヘ、政治道德ノ上カラ言ウテ、決シテ之ハ寬恕スベカラ
ザル罪惡ト思ヒマス(拍手)併ナガラ首相ノ後ニ飜シテ言ハ
レタ事ガ正當デアルカ、前ノガ間違ッテ居ルカ、吾々モ昇格問
題ナルモノハ非常ニ重要ナル問題ト思ウテ居リマス、五ツノ
學校ヲ昇格シヤウ、五ツノ大學ヲ設ケヤウト云フ問題ハ、決
シテ是ハ輕イ問題デハナイ、重大ナル問題デアル、加之此問
題ニ付キマシテハ、種々ナル沿革ヲ有シ、昨年來政治上非
常ニ厄介ナルモノ、重要ナル問題トシテ一般カラ認メラレテ
居ルノデアリマシテ、當時ニ於テ大藏大臣夕リシ高橋首相
ハ、ソレヲ知ラス筈ハナイ、又之ニ對シテ當然共ニ倶ニ責任
ヲ負フベキ筈ノモノデアッテ、隨テ内閣組織ノ當時ニ於テ、此
點ハ共同ノ責任アルコトハ分リ切シテ居ル、今日ニ於テ閣議
ニ懸ケヤウガ懸ケマイガ、連帶ノ責任-一蓮托生ノ運命
ヲ持タナケレバナラヌト云フコトハ、當然ノ事ト思フノデアリ
マス(拍手)諸君、本案ノ運命モ既ニ略〓分テテ居ルヤウデア
リマス、恐ラク貴族院ニ於テ握潰シノ運命ニナルト云フコト
ハ間違ナイコトデゴザイマセウ(拍手)本案ノ運命ガ既ニ決
マスレバ、此重大ナル案ニ對シテ、中橋文相ハ勿論、又之ヲ主
宰スル共同ノ責任デアルト云フコトヲ唱ヘテ居ル總理大臣
ニ於テモ、當然之ニ對シテ重大ナル責ヲ持ツト云フコトハ分
リ切ノテ居ル、願クハ足元ノ明ルイ中ニ宜シク此文相ト云ヒ
首相ト云ヒ、二人ノ人ガ食言ヲシタ、此食言ニ對シテ懺悔
ヲスル積リニ於テ、此案ヲ御敬回ニナルノガ然ルベキ事ト信
ズルノデアリマス(拍手)私ハ此意味ニ於テ、本案ニ對シテ反
對スル者デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=28
-
029・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 小田切磐太郞君
〔小田切磐太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=29
-
030・小田切磐太郎
○小田切磐太郎君 只今議題トナッテ居リマスル第一號
大正千一年度歲入歲出總豫算追加ガ、此中ニハ世ニ所謂
昇格案卜云フモノガ含マレテ居ルノデアリマス、只今田邊委
員長カラ御報告ガアリマシテ、ソレニ對シテ憲政會ノ下岡
忠治君カラ反對ノ御議論ガノッタノデアリマス、本員ハ玆ニ
昇格案ノ成立及經過ニ付テハ、何等言フ必要ヲ認メナイノ
デアリマスカラ、直ニ本案ニ這入リマシテ贊成ヲ述べ、併セテ
下岡君ノ反對議論ニ反對ヲ表スルノデアリマス、諸君、御承
知ノ通リ曩ニ政府ハ六年計畫ヲ以テ、高等〓育機關ノ大
擴張ヲ計畫シタノデアリマス、爾來世ノ中ノ進運ト云フモノ
ハ非常ニ著シイモノデアリマシテ、華府ニ於ケル平和會議が
終了シ、是ヨリ後我ガ日本帝國トシテ文化事業及經濟事
業ノ發展ヲ圖ッテ、日本帝國ノ富强ヲ圖ラントスル此際此
時ニ於テ、高等〓育機關ノ整備擴張ハ最モ時代ノ要求ニ
應ズル所ノモノト本員ハ信ズルノデアリマスル(拍手)此追
加案ノ內容ハ、只今委員長ヨリモ御報告ニナリマシタガ、多
種多様アルノデアリマスルカラ、尙ホ簡單ニ申上ゲマス、第
ニハ御承知ノ通リニ、東京高等工業學校、大阪高等工業
學校、神戶高等商業學校ノ組織ヲ變更シテ、東京工業大
學、大阪工業大學及神戶商業大學ト爲サントスルノデアリ
マスル、第二ニハ今日ノ東京高等師範學校及廣島高等師
範學校ノ專攻科:ノ組織ヲ變更シテ、束京文理科大學、廣
島文理科大學トセントスルノデアリマスル、第三ニハ實業専
門學校ニ專攻科ヲ設置シヤウトスルノデアリマスル、第四ニ
ハ東京外國語學校ノ年限ヲ一箇年延長セントスルノデア
リマスルシ、第五二ハ齒科醫學專門學校ヲ新ニ創設シヤウ
ト云フコト、第六ニハ之ニ伴フ〓員ノ養成ト云フコトニ相成ゾ
テ居ルノデアリマスル、爲ニ各項目ニ付キマシテ、極テ簡單ニ
本員ハ賛成ノ理由ヲ申述ベルノデアリマス(「謹聽」ト呼フ
者アリ)
〔奧議長議長席ヲ退キ粕谷副議長代リ著席〕
工業大學及商業大學ヲ設ケル理由ハ政府ノ說明ニ依ルト
二ツノ理由ガアルノデアリマスル、卽チ一ニハ大學ノ收容力
ヲ增加スルト云フコト、一ニハ應用ニ重キヲ置ク所ノ特色ア
ル所ノ大學ヲ設置スルト云フコトニ相成シテ居ルノデアリマ
スル、諸君ノ御承知ノ通リ、曩ニ政府ハ六年計畫ヲ定メテ、
高等〓育機關ヲ擴張シマシタ、其中高等學校ノ如キハ、其
當時ノ十五校ニ加フルニ十校ヲ增加シテ二十五校トスル
コトニ擴張シタノデアリマスル、高等學校ガ斯ノ如ク擴張致
シマシタナラバ、ソレニ伴ウテ大學ヲ擴張シナケレバナラヌコ
トハ當然ノ理窟デアリマスカラ、其當時ニ於キマシテハ、政府
ハ相當ノ擴張及新設ヲ致シタノデアリマス、併ナガラ時代ノ
進運ハ一日モ休ムコトナク、是ダケデハ今日不足ヲ感ジテ來
タノデアリマス、ソレ故ニ之ヲ滿足セシムル二ハ、新ニ大學ヲ
設置スルカ、然ラズンバ既設ノ大學ヲ擴張スルカノ二ツノ中
一ツヲ取ラナケレバナラヌト云フ所ノ狀況ニ今日ハ立至ッタ
ノデアリマスル、政府ハ如何ナル事ヲシタカト云フト、既設大
學ヲ擴張スル方法ヲ採ラズシテ、只今申上ゲタ應用ニ重キ
ヲ置ク、特色アル所ノ單科大學ヲ設置スルコトニ相成ッタノ
デアリマスル、今ヤ世ノ中ハ日ニ益〓進ンデ、殊ニ此學生ガ何レ
ノ方面ノ學問フ最モ修メル志望者ガ多イカト申シマスト、工
業及商業、經濟ノ方而ニ多ク走ルノデアリマスル、高等學
校完成ノ曉ニ於キマシテハ、其方面ノ志望者ヲ十分收容ス
ルト云フ所ノ力ト云フモルハ、今日ノ大學ニ於テハ無イノデ
アリマスル、故ニ今日ノ大學トハ組織及〓究ノ方法ヲ異ニ
致シマスルケレドモ、時代ノ要求ニ最モ應ズル所ノ應用ニ重
キヲ置ク大學ヲ造ルト云フコトハ、一ニハ希望者ノ志望ヲ完
ウセシムルト同時ニ、我ガ日本帝國ノ國運ニ應ズル最モ善
良ナル策ト本員ハ信ズルノデアリマスル(拍手)次ニハ所謂
支理科大學ノ設備ト云フコトニナルノデアリマスル、御承知
ノ通リ今日中等學校ノ〓員ヲ供給シマスル所ノ機關ハ男
女ノ高等師範學校ヲ中心ト致シテ居リマシテ、其他帝國
大學ノ文學部及理學部ノ卒業及檢定試驗ニ合格シタル
者ガ、中等〓員ニ相成ッテ居ルト云フヤウナ狀況ニナッテ居
リマスル、是モ時代ノ要求ニ應ジマシテ、一層人格ノ優レタ
ル、而モ學識ノ一層深ク深刻ナル所ノ〓員ヲ要スルト云フ
コトハ、是亦我ガ日本帝國ノ今日ノ狀況ニ於テ、最モ必要
ナ事ニ相成ルノデアリマスル、此必要ニ應ジマスルガ爲ニ、今
日ニ在リマスル所ノ高等師範學校ノ専攻科ノ組織ヲ變更糸
シテ、文理科大學ヲ設置スルト云フヤウナコトデアリマスル、
之ニ依シテ我ガ日本帝國ハ、今日以後ニ於テ、今日ヨリモ一
層善良ナル、而モ優秀ナル所ノ良〓員ヲ多々得ルコトガ出
來ルノデアリマスルカラ、我ガ帝國ノ爲ニ洵ニ幸福ト言ハナ
ケレバナラヌノデアリマス、第三ニハ實業專門學校ニ專攻科
ヲ置クト云フコトデアリマスル、今日ハ卒業生ハ其専門學
校ヲ卒業致シマシテモ、其學校ニ於テ尙ホ特殊ノ〓究ヲ續
ケルト云フ利便ハ爲イノデアリマス、而シテ學校ヲ卒業シテ
モ、尙ホ特殊ノ科目ニ付テ〓究シヤウト云フ風潮ト云フモ
ノハ、段々多クナルノデアリマスル、此急ニ應ズルガ爲ニ、實
業專門學校ニ專攻科ヲ置イテ、此志望者ノ希望ヲ充タス
ト云フコトハ、是非我ガ日本帝國ノ文運ノ進化ノ上ニ最モ
必要デアリ、且ツ有益ナ事業デアルト信ズルノデアリマス、其
次ハ、其次ハ外國語學校ノ修業年限ノ一箇年延長ト云フ
事デアリマスル、外國語學校ハ御承知ノ通リ、外國語ノミノ
專修デアリマシタガ、併ナガラ今日ノ時勢ニ於テハ、單ニ外
國語ノミガ出來ルト云フ事ダケデハ決シテ十分ナリト云フ
コトハ出來ナイノデアリマスル、其故ニ政府ハ曩ニ外國語學
校ニ、移民及貿易ノ學科ヲ挿入スル事ニ相成ッタノデアリマ
ス、之ガ爲ニ一方ニ於テハ外國語修養ノ時間ヲ割カンケレ
バナラヌト云フ事ニ相成ルノデアリマスカラ、一箇年ノ延長
ト云フ事ハ是亦最モ適切ナル處置ト言ハナケレバナラヌト
信ズルノデアリマスル、次ニ齒科醫學專門學校設圖ノ事デ
アリマスル、今日齒科專門醫學校ニ付テハ、官立ノモノハ我
ガ日本帝國ニ於テ一モ無イノデアリマスル、今日マデドウ云
フ事ヲ以テ是等ノ醫師ヲ供給シテ居クタカト云フト、御承知
ノ通リ東京齒科醫學專門學校、或ハ日本齒科醫學專門學
校、其他大阪齒科醫學專門學校卒業生、其他檢定試驗
ノ合格者ヲ以テ充タシテ居ッタノデアリマスケレドモ、併ナガラ
是等ノ人ノミヲ以テシテハ十分ナル事ハ出來ナイノデアリマ
スル、其故ニ政府ハ官立デ以テ齒科醫専門學校ヲ設置シ
テ、世ノ中ノ需要ニ應ズルト云フコトハ、是亦今日ノ時勢ニ
於テ最モ適當ナル事ト本員ハ信ズルノデアリマス、斯ノ如キ
理由ニ依シテ、本員ハ政府提出原案ヲ賛成スル者デアリマ
スル、只今憲政會ノ下岡君ハ、縷々反對ノ御意見ヲ御述ニ
ナッタノデアリマスルガ、其中ニ如何ナルコトヲ言ハレタカト
云フト、今日ノ〓育上、我ガ日本帝國ニ於テ最モ缺陷アルモ
ノハ普通〓育デアル(「其通リ」ト呼フ者アリ)此普通〓育ノ
完備ヲ先ニ圖ラズシテ、高等〓育機關ノ擴張ヲ圖ルモノハ、
本末ヲ誤レルモノデアルト言ハレタノデアリマスルケレドモ、
本員ハ爾ク認メナイノデアリマスル、今日諸君御承知ノ通
リ、義務〓育ハ假令政府直接ノ事、業トシテデハナイデアリ
マスルケレドモ、山村水郭、到ル處普通〓育ト云フモノハ相
當ニ發達シ來シテ居ルノデアリマス、之ニ反シテ高等〓育機
關ノ設備ト云フモノハ如何デアリマセウカ、中學ヲ卒業シテ
學パント欲シテモ學校不足ノ爲ニ入ルコトガ出來ナイ、ソレ
ガ爲ニ幾多ノ靑年子弟ト云フ者ガ頻悶シ苦ンデ居ル狀況
ト云フモノハ實ニ慘澹タルモノト言ロハナケレバナリマセヌ(拍
手)由來普通〓育ガ重イカ、高等〓育ガ重イカト云フコト
ハ無論抽象的ニ之ヲ論ズルコトハ出來ナイノデアリマス、其
時ノ帝國ノ國情ニ依テテ、時ニ或ハ高等機關ノ擴張ヲ先ニ
ヤランケレバナラス事モアリマス、時ニ或ハ普通〓育ニ金ヲ
投ゼンケレバナラスコトモアリマセウガ、私ハ只今申シマシタ
通リ、今日ニ於テハ政府直接ノ事業トシテデハナイデアリ
マスルケレドモ、我ガ日本帝國ノ普通〓育程開ゲテ居ルモ
ノハ他ニ多クノ類例ヲ見ナイト信ズルノデアリマス(拍手「ノ
ウ〓〓」ト呼フ者アリ)併ナガラ之ヲ以テ滿足スルコトハ出來
ナイノデアリマスルカラ、政府トシテハ、此點ニ付テ今後ニ於
テモ亦多大ノ努力ヲ要スルモノガアリ、吾々モ亦政府ヲ鞭
控シテヤラセル義務ガアルノデアリマス、斯樣ナ次第デアリマ
シテ、今日ノ場合ニ於テ高等〓育機關ノ擴張ヲ云爲スルト
云フコトハ實ニ時代ヲ諒解セザルモノト言ハナケレバナラヌ
(拍手「ヒヤ〓〓」「ノウ〓〓」ト呼フ者アリ)先程下岡君ハ曩
ニ首相ガ本院ニ於テ軍縮ノ結果剩餘金デ出タナラバ、之ヲ
小學校〓員俸給負擔ノ增加額ニ充テルト云フコトヲ言ハ
レタニ對シテ、實ニ是ハ賴ムベカラザルモノヲ賴ムノデアルト
云フ御意見ガアリマシク、而シテ言ハレルニハ、行政整理ノ
結果、小學〓員ノ俸給ノ半額位ハ國庫支辨デ負擔スルコ
トガ出來ルト言ハレル、是ハ何人ガスルノデノアリマスカ、若モ
下岡君及憲政會諸君ガヤルト云フコトナラバ、天下是レ程
賴ミニナラヌ事ハナイノデアリマス(拍手「何ヲ言ッテ居ルノ
ダ」ト呼フ者アリ)ソレカラ内容ニ於テ、色ミ下岡君ガ縷々
御述ニナリマシタケレドモ、ソレ等ノ事ハ只今私ガ本案ノ內
容ニ付テ贊成シタ所ノ理由ニ於テ、寔ニ明ニナッテ居ルト信
ズルノデアリマス、重ネテ重複ニ涉ッテ之ヲ述ベルコトハ避ケ
ルノデアリマス、要スルニ今日ニ於テハ、我國ノ文化ハ進ミ
又平和會議ノ結果、只今申上ゲタ通リ、文化的施設、及經
濟的方面ノ發展ヲ頗ルセンケレバナラヌノデアル、之ハドウ
シテモ高等〓育機關ノ擴張、及整理ト云フコトハ、先決問
題ニナッテ必要デアルノデアリマス、然ルニ只今下岡君ノ述
ベラレル所ノ議論ニ於テ、之ヲ阻止スルト云フヤウナコトハ、
實ニ時代ヲ諒解セズ、國民ノ希望ニ副ハザル甚シキモノト
言ハナケレバナラヌノデアリマス、以上ノ理由ニ依リマシテ、
本員ハ下岡君ノ意見ニ反對ヲシ、委員長ノ報告、卽チ政府
原案ニ滿腔ノ誠意ヲ以テ賛成ヲ表スル者デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=30
-
031・粕谷義三
○副議長(粕谷義三君) 砂田重政君
〔砂田重政君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=31
-
032・砂田重政
○砂田重政君 本員ハ只今議題ニ供サレマシタル後ちょった。
ニ對シテ、政府ニ之ヲ返付シテ編成替ヲ要求スルト云フ意味
ニ於テ反對ヲ致シタイト思フノデアリマス(「謹聽」ト呼フ者
アリ)吾々ハ此案ヲ單ニ一括シテ昇格案ト云フ言葉ノ中ニ
含マシテ居リマスルガ、本件ノ此豫算案ハ單純ナル昇格案
デハナイノデアリマス、唯此中ニ單科大學ヲ設ケルト云フ一
部分ガアリマシテ、而モ此問題ハ大正九年以來、此政治界ニ
横ハッテ居ル一ツノ宿題デアリマシテ、随テ此問題ガ本件ノ豫
算ヲ通ジテ、昇格案ト云フ言葉ニ葬ラレテ居ルモノト思フノ
デアリマス、大正九年ニ文部大臣ハ或ハ藏前ノ高等工業
ニ於テ、或ハ大阪ノ高等工業ニ於テ、神戸ノ高等商業ニ於
テ、其感想デアリマスルカ、或ハ言明デアリマスルカ分リマセ
又が、是等ノ學校ヲ昇格ヲシテヤルト云フ約束ヲ結パレタノ
デアリマス、甚シキニ至ッテハ(「約束デハナイ」ト呼フ者アリ)
默ッテ御聽キナサイ、文部大臣ハ此演壇ニ於テ湯淺君ノ演
說ニ對シテ約束ト御認メニナッテモ宜シイト云フコトヲ言明
サレテ居リマス(「其通リ」ト呼フ者アリ)其結果、或ル學校ニ
於テハ學生或ハ卒業生ガ大學ニシテ貰フト云フ約束ヲ眞
實ナリトシテ、土地ノ買入ヲ爲シ、建物ノ建築等マデモ爲シ
テ居ル場所ガアルノデアリマス、斯樣ナ事實ガアリ、此昨年
ノ議會ニ於テ、當議場ニ於テ此問題ノ爲ニ或ハ文部大臣
ニ對シテ二枚舌ト云フヤウナ言葉ガ流行スルニ至リ、延テハ
貴族院ニ於テ、之ヲ風〓ノ問題トシテ遂ニ文部大臣ニ對シ
テ、反省ヲ促ス意味ノ建議案マデモ提出スルニ至ッタノデア
リマス、而シ尙ホ本年ノ議會ニ於テ、之ガ爲ニ總理大臣及
文部大臣ノ間ニ、殊ニ貴族院ニ於テハ一蓮托生ト云フ問
題マデモ惹起シタ重大ナ案デアリマス、併ナガラ吾々ハ豫算
會議ニ於テ、此豫算ノ提案ヲサレマシタ以上ハ、斯ノ如キ情
寳、感情政策、或ハ文部大臣ノ信任ニ關スル問題、風〓ノ
問題等ヲ此豫算ヲ審議スル上ニ於テ、頭ニ之ヲ入レテ〓究
スルト云フコトハ誤リデアルト云フ考ヲ持ッテ居ルノデアリマ
ス、何處マデモ吾々ハ此感情ノ問題、行懸リノ問題ニ超越
シタル立場ニ於テ、帝國ノ〓育ノ根本義ニ立脚シテ此案ニ
對シテ愼重ナル審議ヲスルト云フコトガ、吾々議員トシテノ
職責ナリト考ヘテ居リマス(拍手)此見地ヨリ本案ニ對シテ
國民黨ハ最モ愼重ニ、最モ眞而目ニ質問ヲ試ミ、應各ヲ盡
シタノデアリマス、而シテ其内容ニ至ッテ文部當局ノ意見ヲ
聽キ、總理大臣ノ說明ヲ承リマスト、遺憾ナガラ此案ハ吾々
ガ常ニ理想ト致シタル眞ノ昇格ニ適合スルモノニアラザルコ
トヲ發見シタノデアリマス(拍手)之ガ卽チ本案ニ對シテ反
對ヲシナケレバナラヌト云フコトニ立至ッタ所以デアル、吾々
ハ第一ニ現在ノ日本ノ〓育制度ノ上ニ、殊ニ最高ノ〓育
制度ヲ樹立スル上ニ於テハ、文部當局トシテ最モ重大ナル、
最モ理想ヲ實現スベキ適當ナル主義ガナケレバナラヌト思
フノデアリマス、此點ニ對シテ第一ニ吾々ノ同志ニ依ッテ質
問致シタコトハ、最高學府ヲ設ケ、高等ノ〓育ヲ授ケルト云
フコトハ、必シモ富豪ノ子弟ニ對スルノミノ問題デハナイ、國
民全體、貧者、富者ノ別ヲ問ハズシテ、總テノ人ニ此高等〓
育ヲ授クベキ適當ナル方法ヲ執リ、主義ヲ執ルト云フコトガ
文部當局トシテノ責任デアラウト考ヘル、此點ニ關シテ、文
部大臣ハ如何ナル方針ヲ執ッテ居ルカト云フコトヲ說明ヲ
求メマシタケレドモ、文部大臣ヨリ遂ニ要領ヲ得タル囘答ヲ
得ナカッタノデアリマス、次ニ此〓育問題ノ根本、殊ニ今回
ノ昇格案ニ對シテハ、應用ヲ目的トシタル最高ノ〓育ヲ授
ケルト云フコトヲ前提ト致シテ居リマス以上ハ、吾々ハ此主
義ニ於テ之ヲ現實ニ表現スベキ政策ヲ持ッテ居リマス以上
ハ、此豫算ニ對シテ賛成ヲ致シタイト思ウテ居ッタ所ガ、此
豫算ニ對スル說明ヲ永リマスト、全然其期待ニ反シテ、一七
眞ニ應用ニ適合スベキ計畫ハ、此中ニ含マレテ居ラヌノデア
リマス、多少細カナ問題ニ這入ルヤウデアリマスガ、吾々ハ此
點ニ對シテ、十分ニ說明ヲ爲シ十分ニ理解ヲ爲シ、之ニ對
スル反對ノ理由ヲ闡明スルト云フコトハ單リ此頃ヤカマシ
ク主張ヲ致シテ居リマス學生ノ爲ニモ、〓員ノ爲ニモ、又昇
格ヲ希望シテ居ル各府縣ノ爲ニモ、最モ吾々ノ責任トシテ
盡サナケレバナラヌ點ト考ヘテ居ルノデアリマス、(拍手)第一
ニ本案ニ對スル問題ハ、大阪、東京ノ高等工業及神戶ノ高等
商業學校ノ組織ヲ變更シテ、單科大學ヲ設ケルト云フノデ
アリマスルガ、要スルニ此案ハ東京及大阪ノ兩高等工業學
校、卽チ專門學校ヲ玆ニ破壞シテシマッテ、全ク之ヲ滅却シ
テシマッテ、新ナル單科ノ大學ヲ造ルト云フノガ、此高等工
業ニ對スル方針デアリマス、神戶ノ高等商業學校ニ對シテ
モ同樣、專門學校デアル此商業學校ヲ全ク廢止シテシマッ
テ、新ナル單科ノ大學ヲ造ルト云フノガ、此工商兩大學ニ
對スル案デアリマス、束京、廣島、兩高等師範學校ハ、專攻
科ノ組織ヲ變更ヲシテ、新ニ文理科ノ大學ヲ設ケルト云フ
コトニナッテ居ルノデアリマス、其他ノ小サナ問題ハ後ニ述べ
マスガ、斯樣ニナッテ居ル、而シテ此中ニ於テ是等ノ東京及
大阪竝神戶ノ各專門學校ガ昇格ノ運動ヲ爲シ、昇格ヲ希
望シタル所以ノモノハ何レノ點ニアルカト云ヘバ、彼等ハ眞
ニ應用ヲ目的トシタル大學ヲ設立シ、而シテ現在ノ專門學
校ヲ大學組織ニ昇格ヲシテ貰ヒタイト云フコトヲ希望シタ
ノデアリマス、然ルニ此案ニ依リマスト、東京大阪ノ高等工
業學校ハ、其〓育ヲスル內容ニ於テハ、東京ノ帝國大學及
京都ニ於テ〓ヘテ居リマスル科目ト、何等其間ニ差異ハ無
イノデアリマス、特ニ應用ヲ目的トシテ此學校ニ對シテ特別
ナル政策ヲ執ルベキ方法ハ、一ツモ本件ノ案ノ中ニハ含マレ
テ居ラスノデアリマス、細カナ問題ノヤウデアリマスルガ、其一
例ヲ中上ゲマスレバ、東京ノ高等工業學校ニ於テ、今回新ニ
出來ル此高等工業ヲ大學ニシタ分科ハ、機械、應用化學、
建築及電氣、此外ニ大阪ハ造船ノ一ツガ含マルヽダケデアリ
マス、ソレガ爲ニ從束東京ノ高等工業ニ於テ〓育ヲ致シテ居
リマシタガ窯業部デアルトカ、或ハ紡織デアルトカ、染織等ニ
屬スル科目ト云フモノハ、全部東京ノ工業學校中ヨリ無クナッ
テシマッテ、是等ノモノハ何處ニ之ヲ持ッテ行クガト云フコトヲ
質問致シマスト、窯業ハ京都ニ持ッテ行ク、紡織ハ米澤カ何
處カニ持ッテ行ク、斯樣ナル風ニ全ク東京ニハ斯樣ナモノヲナ
クシテシマッテ、サウシテ機械デアルトカ、應用化學デアルトカ、
建築デアルトカ、電氣デアルトカ云フモノハ、總テ東京ノ帝
國大學ニ於テ、特ニ分科ヲ設ケテ〓育ヲシツヽアルモノト同
一ノモノヲ造ラウト云フノガ、本件ノ案ノ内容デアリマス、試
ニ帝國大學令ヲ出シテ見マスト、東京ノ帝國大學令、是ハ大
學全體デアリマスガ、此大學令ノ第一條ニハドウ書イテアル
「大學ハ國家ニ須要ナル學術ノ理論及應用ヲ〓授シ竝其
蘊奥ヲ攻究スルヲ以テ目的トシ兼テ人格ノ陶冶及國家思
想ノ涵養ニ留意スヘキモノトス」卽チ大學ハ理論ノ〓究ヲ
爲スト同時ニ、應用ヲ〓授スルコトガ、帝國大學ノ目的デア
リマス、然ルニ同シ學校ヲ設ケ、同ジ年限ヲ定メテ、而モ同ジ
東京市內ニ二ツノ大學ヲ設ケテ同一ノ事ヲ〓授シテ、帝國
大學ト此工科大學トノ間ニドレダケノ應用ノ差ガ出來ルノ
デアリマス、吾々ハ如何ニ考ヘテ見テモ、其差ヲ發見スルコト
ハ出來ナイノデアリマス、之ニ對シテ昨日ノ委員會ニ於テノ
吾々ノ同志ノ質問ニ對シテ、東京ノ帝國大學ニハ、紡織ノ
機械ナドハ無イカラ實行ガ出來ナイ、應用スベキモノヲ〓育
ガ出來ナイ、併ナガラ高等工業ノ中ニハ之ガアルカラ、此中
デ〓ヘルノダト云フ答辯ヲ專門學務局長カラサレマシタガ、
何ゾ圖ラン、此紡織機械ハ全ク今日ニ於テ、此東京ノ高等
工業ヲ大學ニ直ス以上ハ、全ク用ニ立タヌモノニナッテ、他ノ
學校ニ移送シナケレバナラヌ狀態ニナッテ居ル、斯樣ニシテ
東京ノ帝國大學ト何等差異ノ無イ〓育ノ仕方ヲスルナラ
バ、何ヲ苦シデ一市町村内ノ中ノ一ノ市ノ中ニ二ツノ大學ヲ
別々ニ造ルト云フ必要ハ全然認メラレナイノデアリマス、大
阪ニ於テモ同樣デアリマス、殊ニ此高等師範學校ニ至ッテハ
高等師範學校ノ專攻科ヲ引直シテ大學ニスルト云フコト
ヲ言ハレテ居リマスガ、此點ニ付テハ實ニ甚シキ點ガアル、先
程下圖君ノ演說中ニアリマシタガ、現在ノ〓育制度ニ依レ
バ、高等師範學校ヲ卒業スルマデニハ尋常小學校ヲ卒業
シタル者ヲ、更ニ二年間高等小學校ニ入レ、普通ノ師範學
校ニ入レ、然ル後ニ高等師範ニ行クノデアルカラ、是ハ十一
年間經ル、又中學卒業シテ高等師範ニ入ッタ者ハ、九年間
デ此高等師範ヲ卒業スルコトニナルノデアリマス、一面ニ中
學校ヲ卒業シテ高等學校ニ這入ッテ、此高等學校ヲ出テ然
ル後ニ此高等師範ノ文理科大學ニ入ル者ハ、丁度六年間デ
這入レルコトニナル、六年若クハ七年デ這入ルコトニナル、斯樣ニ
シテ而モ高等師範學校ニ於テ〓育致シマスル科目ハ、特別
ノ技藝、技術、卽チ〓育ニ關スル總テノ一應ノ〓育ハ終2
居ル人デアル、普通高等學校ヲ卒業スル人ニハ未ダ〓育ニ
開スル全ク何等ノ〓育モ施サレテ居ラヌ、此人〓ヲ對等ノ
地位ニ置イテ之ニ〓育ヲ致シマスル以上ハ、〓育ノ程度ガ
高等師範ニ於テ一度學ピ得タル者ヲ再ビ〓ヘルニ非ザレ
バ、高等學校ヨリ入學シタ人〓ニ對シテハ、程度ガ高過ギル
モノニナルノデアリマス、斯樣ニ〓育ノ程度ノ異ナリ、殊ニ多
數ノ年限ヲ經タル者ト、短イ年限ヲ經タル者トヲ一ツノ中
ニ入レ〓育ヲシテ、是デ果シテ今日以上最モ優良ナル〓員
ヲ得ルト云フコトハ、吾々ハ如何ニシテモ考ヘルコトガ出來
ナイノデアリマス、殊ニ一面カラ此點ヲ考ヘマスルト、高等師
範學校ニ入ル人ミハ多クハ普通師範學校ヲ出ル人デアリ
マス、普通師範學校ヲ出ル人ハ、地方ニ於テハ餘リ富裕ナル
財產ヲ持ッテ居ル人デハナイ、成ベク僅カナ金ニ依ッテ〓育ヲ
受ケルト云フ方針デ進ンデ居ル者ト、十分ノ財產ヲ持チ、十
分ノ〓育資金ヲ得テ高等學校マデ經タル者ト、一方ハ貧
者ニ對スル〓育組織デアッテ、而モ是ハ十一年ノ年限ヲ要
シ、富者ニ對シテハ六年ノ年限ヲ經タル者ヲ、對等ノ地位ニ
置イテ、ソレカラ大學ノ〓育ヲスルト云フ如キハ、洵ニ根本
ニ於テ富者ニ厚クシテ、貧者ニ薄キヤリ方デアルト謂ハナケ
レバナラヌノデアリマス(拍手)斯樣ニ〓育ノ根本ニ於テ政
府ノ主張シタル特色ヲ有シ、特ニ此應用ニ適スベキ人ヲ造
リ上ゲル場所デアルト言ヒナガラ、モ其點ニ對スル特色ト
認ムベキ點ガナイノミナラズ、一面ニ於テ此高等工業學校、
高等商業學校ノ如キニ對シテハ、非常ナル不利便ヲ與ヘル
ノデアリマス、先程小田切君ハ此高等學校ヲ卒業シタル人
人ガ這入ル場所ガナイト云フコトヲ救フ爲ニハ、多數ノ大學
ヲ造ル必要ガアルト云フコトヲ滔々述べラレマシタ、吾々モ
此點ニ於テハ、決シテ小田切君ノ人後ニ落ル者デハアリマ
セヌ、併ナガラ此六年計畫ヲ以テ高等〓育機關ヲ造ルコト
ヲ計畫サレタル大正八年ノ當時ニ於テハ、一面ニ高等學校
ヲ殖シ、大學ヲ殖ス必要ガアルト同時ニ、實業專門學校ニ對
スル希望者ガ非常ニ多數ノ數ニ上シテ、之ヲ收容スベキ場
所ガナイト云フノデ、一般ノ高等實業學校ヲ澤山ニ創立サレ
ル計畫ニナッテ居ルノデアリマス、然ルニ今日ニ至ッテ此高等實
業專門學校ノ中ニ於テ、帝國ノ中最モ大キナ學校デ、多數ノ
生徒ヲ收容シ、且ツ多數ノ人こニ對シテ最モ權威アル〓育ヲ
致シテ居リマスル東京高等工業學校ヲ大學ニ引直シテシマフ、
大阪ノ高等工業ヲ大學ニ引直シ、神戶ノ高等商業ノ組織ヲ
ゑ變更シテシマッテ、而シテ之ニ收容スベキ人間ハ、高等學校若
クハ實業専門學校ヲ卒業シタル者ハ、僅ニ神戶ノ高等商業ニ
於テ六百人、其他ハ僅ニ四百人ニ足ラナイ人數ヲ收容シヤウ
ト云フノデアリマス、果シテ然ラバ此六年計畫ニ依ッテ、實業
專門學校ニ入學志望スル者ガ多數デアッテ、之ヲ收容スル
途ガ無イト云ウテ、一面ニ殖シテ置キナガラ、此大キナ三ツ
ノ學校ヲ廢シテシマフ以上ハ、茲ニ一大缺陷ヲ生ジテ、實業
專門學校ノ大不足ヲ生ズルト云フコトハ免ルコトノ出來ナ
イ事實デアリマス(拍手)此點ニ對シテ何等ノ考慮ヲ拂ハレ
ナカッタト云フコトハ、私ハ小田切君ニ對シテ洵ニ遺憾ニ存
ズルノデアリマス、神戶ノ高等商業學校ハ、今日マデ千二百
人ノ生徒ヲ收容シテ居ルノデアリマス、而モ此千二百人ノ
生徒ノ大多數、其四分ノ三ハ阪神ニ住居スル多數ノ商人
ノ子弟ガ之ニ入學ヲ致シテ居ルノデアリマス、然ルニ今囘之
ヲ大學ノ組織ニ直シテ、僅ニ其半數デアル六百人ヲ牧容ス
ルコトヽ爲シ、而モ是ハ各地ノ高等學校、若クハ各專門學
校ヲ卒業シタル者ヲ入學セシメル、而シテ此入ルコトノ出來
ナイ神戶及兵庫縣若クハ大阪府ニ於ケル此專門學校ニ志
望スル人とハ、何處へ之ヲ牧メルノカト云フ質問ヲ致シマス
ルト文部省當局ハ、是ハ文部大臣ノ說明ニ依ルト、和歌山
ノ高等商業ニ入レル、彥根ノ高等商業ニ入レル計畫デアル
ト言ハレタ、是等ノ學校ハ此神戸ノ高等商業學校ノ存在
ヲ前提トシテ、尙ホ志望者ニ堪ヘ切レナイト云フノデ置カレ
タ學校デアル、サウスレバ、此學校ニ神戶ヲ志望シタル者ヲ
入レテシマヘバ、初ニ六年計畫デ立テラレタ目的ト云フモノ
ハ全然滅却サレテシマフノデアリマス(拍手)ソコデ文部大
臣ガ御困リニナルト、専門學務局長ガ出テ來テ、ソレハ北海
道ノ小樽、名古屋、山口、長崎ニヤル積リデアルト云フ說明
ヲサレタ、神戶大阪ニ四分ノ三ヲ占メ、大多數ヲ占メテ居ル
此大阪神戶ノ中間ニ在リマスル神戶高等商業學校ヲ志
望シタ者ハ、自分ノ子弟ヲ自分ノ脚下ニ於テ〓育ヲシタイ
ト云フ爲ニ、斯樣ニ多數ノ生徒ガアルノデアリマス、然ルニ
之ヲ札幌ニヤル-北海道、九州ノ端ニヤルト云フヤウナコ
トデハ、眞ニ吾々ハ此高等專門學校ヲ各地ニ置カレタ趣旨
ト云フモノハ、根柢ヨリ覆サレタモノト言ハナケレバナラヌノ
デアリマス(拍手)甚シキハ其收容スルコトヲ得ザル人間ヲ、
各地ノ-北海道其他ノ場所ニ牧容セシムル爲ニ、此豫算
ノ上ニ於テ、其金ガ要求ヲシテアルト云フ說明ヲナサッタ、其
說明ヲサレタル北海道及九州若クハ名古屋或ハ山口ニ於
ケル此豫算ノ內容ヲ見マスルト、全然其答辯ハ虚僞デアル、
是ハ特ニ專攻科ヲ置ク爲ニ、一ツノ建物ヲ建テルダケノ豫
算ヨリ此中ニハ要求シテナイノデアル(拍手)答辯ニ窮シタ
結果、其專攻科ヲ設ケル爲ニ、唯、一箇ノ建物ヲ建テル費
用ヲ、此神戶ノ高等商業學校ニ收容シ能ハザル者ヲ收容
スル爲ニ、此豫算ヲ設ケタナドト云フ詭辯ヲ弄セラレルト云
フ事ハ、確ニ此點ニ於テ本案ハ矛盾ガアル(拍手)非常ナル
過チノアル、根本ノ趣意ノ定マッテ居ラヌ案デアルト云フコト
ヲ、吾々ハ確信ヲシタノデアリマス(拍手)殊ニ諸君ト共ニ最
モ考慮シナケレバナラヌ問題ハ、學校ト云フモノハ唯數ヲ增
スト云フ事ダケガ〓育ノ根本ノ目的ヲ達スルモノデハナイノ
デアリマス、殊ニ神戶ノ高等商業、大阪ノ高等工業、東京ノ
高等工業ノ如キハ、最モ古イ歴史ヲ持チ、日本ニ於ケル專
門學校中ニ於ケル最モ古イ歷史ヲ持チ、而モ此學校ニハ各、
獨立シタル淳良ナル校風ヲ持ッテ居ル學校デアリマス、此
校風ヲ造リ上ゲルト云フ事ハ、唯〓一朝一夕ニシテ爲シ得
ルモノデハナイノデアル、此議場ニオヰデニナリマスル諸君ニ
シテモ、早稻田ニハ早稻田ノ校風ガアリ、帝國大學ニハ帝
國大學ノ校風アリ、各こ其校風ノ發揮シタル思想ヲ持チ、
最モ健實ナル玆ニ學校ノ誇リト云フモノハ總テ持ッテ居ラレ
ルデアリマセウ、此校風ヲ造リ上ゲ、而モ東京ノ高等工業ノ
如キハ、明治十九年頃ノ設立ト思ヒマスルガ、非常ナ古イ
歴史ヲ持ッテ居ル、此學校ヲ卒業シタト云フコトハ、他ノ田
舍ノ高等工業學校ヲ卒業シタル者トハ、全ク其權威ヲ異ニ
シテ居ルガ故ニ、多數ノ希望者ガ之ニ集マルノデアリマス、
斯樣ナ淳良ナル校風ヲ持チ、而モ多數ノ卒業生ヲ出シテ、
今日ハ社會ニ出テヽ一大權威ヲ成シテ居ル此專門學校ヲ
根柢ヨリ覆シテシマッテ、玆ニ單純ナル學科大學ヲ造リ上ゲ
テ、新シキモノヲ造ルト云フコトハ、餘程ノ考慮ヲ拂ハナケレ
パナラヌノデアリマス、商業學校ニ付テモ同樣デアリマス、神
戶ノ高等商業學校、或ハ東京ノ-今日ハ大學ニナリマシ
タガ、高等商業ノ如キハ多年ノ歷史ニ依リマシテ、非常ナル
學校ノ權威ヲ持っテ居ル、東京高等商業ヲ出タ人ノ給料、
神戶ノ高等商業ヲ出夕人ノ給料、初メ使ハレル場合ニ、此
人〓ト山口ノ高商、或ハ長崎ノ高商、小樽ノ高商ヲ出夕人
トハ、全ク其扱ヒヲ異ニシテ居ルト云フコトハ、此土地ニ最
モ〓育ノ普及サレテ居ルト云フコトヽ共ニ、多年ノ歷史ニ
依ル校風ガ之ヲ成立シテ居ルノデアリマス(拍手)然ルニ斯
樣ナモノヲ根柢ヨリ覆シテシマッテ、サウシテ大學ヲ造リ上ゲ
テ、平然トシテ此最モ歷史アル學校ヲ破壞スルト云フ文部
省ノヤリ方ハ、吾々ハ現ニ今日行ハレテ居ル赤化シタルヤリ
方デアルト斷言シテモ語弊ハナイト思フノデアリマス(拍手)
吾々ハ斯樣ナ赤化シタル文部省案ニ賛成スルコトガ出來ナ
イノデアル、重ネテ吾々ハ一言ヲ致シマスルガ、初ニ述ベマシ
タ如ク、吾々ノ主張ハ此特色アル大學ヲ造ルト云フコトニ
反對ヲスルノデハナイ、併ナガラ全然特色ヲヲ失ヒ、而モ從來
アル淳良ナル此校風ヲ破壞スルヤウナ本案ニ賛成ハシナイ
ノデアリマス、此方法ハ幾ラモアリマセウ、先程下岡君ノ言
ハレタ、特ニ中學ヲ卒業シタル時代ヨリ、特殊ノ〓育ヲ施シ
タル豫科ヲ設クルト一云フコトモ、其一ツノ方法デアリマセウ、
又專門部ヲ置イテ、專門部ヨリ大學ニ入學セシムルト云フ
方法ヲ執ルノモ一ツノ方法デアリマセウ、斯ノ如キ事ハ、今
少シク徹底シタル考ヲ文部省デ御持チニナリ、今少シク根
柢ノアル御考ヲ以テ之ヲ改良サレルナラバ、大學案ト云フモ
ノニ付テモ、單科ノ大學ト云フ事ニ付テモ、吾々ハ文部省ト
共ニ十分ノ考慮ヲ拂フノデアル、此點ハ吾々ノ最モ切望ス
ル點デアル、殊ニ今日ニ於テ切ニ述ベマシタ如クニ、文部大
臣ノ言ヲ信ジ、土地マデ買ッテ借金ニ苦ンデ居ルヤウナ學生
ガアルノデアリマス、斯樣ナ事マデシタ此責任ハ、直ニ徹底シ
タル應用ヲ主トスル學生ヲ養フト云フ事ニ向ッテ、十分ノ努
力ヲナサラナケレバナラヌト信ズルノデアリマス、吾々ハ此意
味ニ於テ、此大學ノ昇格案ノ杜撰ナルコトニ反對ヲ致スノ
デアリマス、更ニ進ンデ本案ノ中ニ於ケル實業專門學校ニ
專攻科ヲ增設スルト云フ計畫ニ付テハ、初ニ述ベマシタ如
ク、吾々ハ此專門〓育ニ對シテ高等ノ〓育ヲ更ニ施スト云
フ意味ニ於テハ、之ニ賛成ヲシテ居ルノデアリマス、矢張此
實業專門學校ニ專攻科ヲ置クト云フ考ニハ賛成ノ意ヲ持ツ
テ居ル、併ナガラ此豫算ヲ見マスルト、先程述べマシタ如ク
ニ、文部大臣ト主張ト、學務局長ノ主張トハ全ク相反シ、
而モ此豫算案ニハ東京ノ高等工業ヲ廢シ、大阪ノ高等工
業ヲ廢シ、神戶ノ高等商業ヲ廢シタル爲ニ生ズル多數ノ生
徒ヲ收容スル金ガ、此中ニ這入ッテ居ルト云フコトヲ辯明サ
レルノデアル、併ナガラ幾ラノ金ガ這入ッテ居ルカト云フコト
ハ辯明ガ出來ナイ、之ヲ辯明スレバ、吾々ハ此案ニ對シテハ
修正ヲ加ヘルノデアル、併ナガラ其辯明ハ文部省ニ於テ出
來ナイノデアルカラ、全部ヲ返納シテ更ニ此組替ヲ要求スル
ヨリ外ニ途ハナイノデアル、ソレカラ東京外國語學校ノ修業
年限延長ニ付テハ、下岡君ト同一ノ意見デアリマスカラ、茲
ニ之ヲ繰返シマセヌ、齒科醫學專門學校ニ至フテハ、吾々ハ
絕對ニ反對ノ意見ヲ持ッテ居ル、今日ノ日本ニ於ケル齒醫
者ハ、總計デ六千人ニ達シテ居ルノデアリマス、而モ今後ニ
於テ齒醫者ヲ〓育スル場所ハドノ位アルカト云ヘバ、學校
ハ七ツ、各醫科大學ニ屬シテ居ルモノガ七ツ、或ハ此學校ハ
八ツカモ知レマセヌガ、一ツハ出願中カモ知レヌト思フ、斯
樣ニ澤山ノ學校ガアッテ、之ヲ歐羅巴列國ノ例ニ見マシテモ
獨逸ノ如キハ總計デ七千人ヨリ齒醫者ト云フ者ハ無イ、其
他列國ニ於テモ、是位ノ數ヲ上下シテ居ルノデアリマス、然
〓ニ日本ハ現在ノ學校ヲ卒業スル者デ、此齒科醫學專門
學校ヲ大正十三年ニ完成スルマデニハ、少クトモ一万以上
ノ齒科醫ヲ得ルコトハ、今日ノ學校ノ制度デ十分ナノデア
リマス、然ルニ尙ホ此上ニ公立ノ學校ヲモ、而モ大學ニ於テ
〓育ヲ致シテ居リマスル者ト相對抗シテ、文部省内ニ斯樣
ナモノヲ置クト云フコトハ、此豫算ノ本會議ニ於テ、大口君
ガ主張サレマシタ如クニ、所謂豫算ヲ各省ニ於テ分取ヲス
ルト云フコトニ歸著スルモノト吾々ハ信ズルノデアリマス(拍
手)此問題ニ付テハ、文部當局ハ能ク御考ニナッタナラバ、此
同ニ幾多ノ暗聞ガアルモノデナイカト云フ事ヲ吾々ハ竊ニ
愛フル者デアリマス、斯樣ニ見テ參リマスナラバ、本件ノ案ニ
對シテハ、吾々ハ何處迄モ其組替ヲ要求シテ、再ビ之ヲ最モ
適切ナル實業〓育ニ對スル最高ノ學府ニ編成替ヲスルト
云フコトハ、文部當局ノ貴任デアラウト思フノデアリマス、
唯最後ニ一言ヲ致シマスルノハ、此問題ハ文部大臣ガ先程
遠ベラレマシタ如ク、非常ニ苦境ニ陷ラレテ居ル、其苦境ニ
陷ラレテ居ルト云フコトヲ救濟スル意味ニ於テ之ヲ出シ、或
ハ二枚舌問題デアルトカ、二枚舌ニ非ズト云フコトヲ證明
シヤウト云フ意味デ御出シニナッタト云フコトハ、吾々モ之ヲ
諒トスルノデアル、併ナガラ既ニ斯ノ如キ杜撰ナルモノヲ出
シテ、而モ貴族院ヲ通過シナイト云フコトハ、今日ニ於テモ
明瞭+案ヲ、唯文部大臣ノ責任ヲ貴族院ニ轉嫁スルガ如
キヤリ方ハ、吾々ハ賛成ガ出來ナイノデアル(「ヒヤ〓〓」拍手)
吾々ハ斯ノ如キ不微底杜撰ナル案ヲ提案サレマシテ、是デ
又部大臣ノ二枚舌ガ綺麗ニ療治ガ出來ルモノトハ思ハヌ、
以ニ二枚舌ノ療治ヲスルト云フコトハ、徹底的ニ外科手術
ノ以テ舌ヲ引拔クヨリ外ニ途ハナイト思フノデアル(拍手)
國議長(柏各義三君)東武君
〔東武君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=32
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033・求武君
○求武君 私ハ本追加案ニハ原案ヲ賛成スル意見ヲ述べ
ル者デアリマス、此昇格案ト云フコトハ甚ダ文字ニ於テ相當
ヲ得ナイト考ヘマスルガ、併シ世ニ謂フ昇格案ト致シマシテ
之ヲ諭ズルコトガ、極テ便利デアルカラシテ-昇格案ト云
フ名ノ下ニ論ズルコトガ、甚ダ便宜ト考ヘマスカラシテ、此點
ニ於テ豫メ御斷リシテ置タノデアリマス、私共ハ此帝國ノ〓
育問題ハ、實ニ純〓育觀ノ立場ニ於テ之ヲ論議スベキモノ
デアルト云フコトヲ年來考ヘテ居ルノデアル、先程砂田君ノ
御演說ハ矢張私ト同感デ、純〓育觀ト云フ立場ニ於テ、此
議論ヲ論ズルト言ハレマシタガ、私ハ極テ同感デアル、此昇
格案ニ對スル沿革ヲ見マスルト云フト、是ハ決シテ中橋文
部大臣ニ依シテ起ッタモノデハナイノデアル、此起リハ大正七
年ノ寺內內閣當時ニ、臨時〓育會議ガ設立サレマシテ、帝
國ノ〓育ノ大問題ヲ解決スルト云フトキニ於テ、此時ニ我
ガ大學令ヲ改正致シマシテ、我ガ帝國ノ大學ハ綜合大學
制ヲ採ルカ、單科大學制ヲ採ルカト云フコトハ、殆ド二十年
來ノ懸案デアッタノデアリマス、私共、北海道大學ヲ創設サレ
ル時分ニ、屢、當局者ト此問題ニ付テ折衝ヲ致シタノデア
リマスガ、此綜合大學ト云フコトハ、元來ハ是ガ眞ノ最高
文〓ノ〓究ノ府ト致シマシテハ、此綜合大學制ト云フモノ
ガ、之ガ本則デアル、併ナガラ單科大學ヲ許スヤ否ヤト云フ
コトモ、亦時勢ノ進運、又帝國ノ〓育ノ狀態ニ鑑ミテ、此單
科大學ヲ許スガ宜シイカ否ヤト云フコト、此問題ガ臨時〓
育會ノ重大ナ問題デアッタ、然ルニ臨時〓育會ニ於キマシテ
ハ綜合大學ト同時ニ、單科大學ヲ認メルト云フ所ノ新學
令ガ發布サレタノガ、卽チ大正七年ノ一月デアル、大正七
年ニ此大學令ガ改正サレルト同時ニ、單科大學ヲ許スト云
フ以上ハ、ドノ方面デモ其資格、內容、設備ノ整ッタモノハ、
悉ク大學ニ昇格スル希望ヲ持ツコトハ、當然ノ歸結デアル
ノデアリマシテ、決シテ中橋文相ノ二枚舌云々ニ依ッテ問題
ガ淵源シタデナイト云フコトハ、此一事ヲ以テ明カデアルノ
テアリマス(「責任者ハ誰ダ」「默ッテ聽ケ」ト呼フ者アリ拍手)
君等ハ攻擊シナイカラマア安心シ給ヘ、ソレデ然ラバ單科
大學ヲ許スコトガ宜シイトシタナラバ、ドレノ〓ノモノヲ許シ
テ宜シイカト云フコトノ問題ガ其處ニ起ヲテ來ル、ンコデ高
等〓育ノ擴張ノトキニ於テハ、醫學專門學校ヲ皆ナ昇格
致シ、名古屋ノ醫學専門學校、或ハ京都ノ醫專、是等ノモ
ノヲ悉ク昇格サセタ、醫學者專門學校ヲ昇格シ、一ツ橋ノ
東京高等商業學校ヲ昇格致シタノデアル、既ニ此醫學專
門學校ヲ單科トシテ昇格スル以上ニ、又一ツ橋ノ高等商業
學校、之ヲ大學トスル以上ニ於テハ、此外ノ是等ト同等若
クハ同等以上ノ内容設備ヲ備ヘタル所ノ學校ハ之ヲ昇格
スルト云フコトハ、是ハ當然ノ歸結デアル(拍手)何等此間
ニ疑ヒハナイノデアル、故ニ藏前ノ高等工業ノ如キハ其當
時カラシテ、藏前ノ高等工業ノ卒業者四千幾人同盟シテ、又
先輩其他有識者ト共ニ圖ッテ、旣ニ其當時ニ於テ此工業
大學ノ設立ヲスル希望ト云フモノヲ世ノ中ニ發表ヲ致シテ
居ル、是ハ卽チ大正八年ノ一月デアル、大正七年ノ十二月
ニ單科大學合ガ發布サレテ、大正八年一月ニ藏前ノ工業
會ガ決議ヲサレテ居ル「本會ハ工業立國ノ國是ト母校發
達ノ歷史ニ鑑ミ母校ノ現制度ニテハ時〓ニ適切ナル工業
〓育ノ效果ヲ擧クルコト不可能ナリト信ス仍テ速ニ現制度
ヲ改メテ單科大學ノ必要緊切ナルヲ認ム仍テ極力其ノ目
的ノ貫徹ヲ期ス」ト云フノガ大正八年一月デアル、此時ニ既
ニ藏前高等工業學校デモ、或ハ神戶ノ商業學校デモ、單科
大學ニナルト云フコトノ希望ト實現ヲ其時カラ期シテ居ッタ
ノデアリマス(拍手)デ、此問題ガ偶〓中橋文相ニ依リマシテ、
中橋文相ガ或ル場合ニ藏前工業ノ關係者ニ藏前工業ヲ
單科大學ニスル希望ヲ持ッテ居ル、神戶ニ出張ヲ致シタトキ
二、神戶ノ學校職員其他關係者ニ對シテ、神戶ノ商業學校
ヲ所謂商業大學ニスルト云フ希望ヲ持ッテ居ルト云フ話ヲ
シタ、之ガ何ガ二枚舌ニナルノデアルカ、政府ガ當然ニヤラウ
ト云フ希望ト、方針ヲ話シタッテ何モ差支ナイ、シレガ大正
十年度ノ豫算ニ出ナカッタト云フノデ、此事ガ貴族院ノ問
題トナッタノデアリマス、併シ貴族院ノ問題ニナッタト云フノ
ハ其當時ニ於テ文部省ニ於テハ十年度ニ於テ昇格スル積
リデアッタ、其方針ニ進メテ居ッタ、所ガ種々ナル機關ヲ經、種
種ナル調査ヲシナケレバナラヌト云フガ爲ニ、此問題ガ十年
度ノ豫算ニ計上サレナカッタト云フ爲ニ、各學校ガ非常ニ紛
糾ヲ起シタト云フノガ、之ガ世間ニ云フ昇格運動ト高唱シ
テ居ルノデアル、併シ之ガ文部ノ當局者ガ、自分ノ方針ヲ斯
樣ナ事ヲシヤウト云フ考ヲ話シタト云フコトハ、幾ラモ例ノ
アルコトデアル、屢〓之ガ貴族院ニ於テ、原首相ガ辯難應答
シタ、吾々ハ斯樣ナ事ヲシヤウト思ッタガ、來年度ノ豫算ニ於
テヤラウト思ッタガ出來ナカッタ、來々年度ノ豫算ニ必ズ出ス
ト云フコトデ、之ガ本年度又調査ガ不十分デアッタ、マダ調
査ガ出來ナイト云フノデ初テ〓〓評議委員會ヲ組織シテ
總テノモノヲ調査致シテ、此議會ノ劈頭ニ出スト云フノデアッ
タガ、尙ホ議會ノ劈頭ニ出ス時機ニ達シナカッタ、シレハ〓育
評議委員會ノ調査ガ結了セズ、此案ノ決定ヲ見ナイ爲ニ、
此會期半バニ之ヲ出シタト云フコトガ、何ガ之ガ文部省ノ
不都合デアルカ、何ガ之ガ文部大臣ノ食言ト云フコトガ出
來ルノデアル、極テ事理明白ナ事デアル
〔粕谷副議長議長席ヲ退キ奧議長復席〕
而シテ貴族院ニ於キマシテハ、昨年大正十年度ニ此豫算ヲ
出ス時機ニ達シナカッタト云フガ爲ニ、非常ニ貴族院ハ之ガ
爲ニ文部省ニ對シテ要求ヲシ、尙ホ原首相ニ就テ言明ヲ迫。ツ
タノデアル、殆ド會期五十日間ノ間ハ、此昇格問題ノ爲ニ
必ズ來年度出スノデアルガ、何故ニ追加豫算ヲ出サヌノデ
アルカト云フコトヲ、口ヲ極メテ原內閣ニ肉薄シタノデアル、
ソコデ原內閣ハ相當ノ時機ニ達シタナラバ、必ズ此昇格問
題ヲ解決スルノデアルケレドモ、未ダ其時機ニ達シナイカラ
シテ、何時之ヲ迫加豫算ヲ出スカ、明年度ハ必ズ之ヲ出ス
ト云フコトハ、約束出來ナイト云フコトヲ貴族院ニ屢〓明
言サレタノデアリマス、然ルニ此貴族院ハ世間ニ對シテ如何
ニモ反響ガ大デアル、又學校當局者ガ心配憂慮ニ堪ヘナイ
ト云フコトデアル、是デハ甚ダ思想問題、風〓問題ニモ面白
クナイト云フノデ、貴族院ハ例ノ昇格問題ノ建議案ヲ提出
シクノデアル、其貴族院ノ昇格問題ノ建議案ト云フモノハ、
世ニ有名ナル前田利定君ガ之ヲ貴族院ニ說明シ、阪谷芳
郞君ガ之ヲ說明シタノデアリマス、之ガ彈劾デアル、或ハ政
府ノ當局者ニ適當ノ措置ヲ執レト云フ問題デアルト云フノ
デ、是ハ二樣ノ解釋ニナッテ來テ、或ハ立憲政治ハ謎デハイ
カヌ、書イク所ノ文章ニ依フテ、內閣ハ之ヲ解釋スル外ナイト
云フノデ、斯樣ナ爭ヒニ依ッテ貴族院ハ紛糾シタ、其時ノ貴
族院ノ建議案ハ如何ナルモノデアルカト中シマスト「現下學
校ニ關スル問題ハ事態漸ク紛糾ヲ加ヘントス政府ハ速ニ
適當ノ措置ヲ執ランコトヲ望ム」ト斯樣ナ建議デアル、是
ハ極テ事理明白デアリマシテ、政府ニ對シテ一日モ速ニ此
學校ノ問題ノ紛糾ヲ鎭メ、適當ナル解決方法ヲ執レヨト云
フ貴族院ノ建議デアルノデアリマシテ、此建議フ趣意ニ副ウテ
直ニ〓育評議委員會ヲ設ケテ調査ヲシテ、若シ出來ルナラ
バ追加豫算デモ出シタイト云フ考デアッタガ、迫加豫算ニ間
ニ合ハズシテ、到頭此四十五議會ノ劈頭ニ漸ク〓育評議
委員會ノ調査ガ解決シテ、サウシテ此昇格ノ追加豫算ガ議
會ニ只今上程スルト云フ運ビニナッタノデアリマス、之ニ依
テ見レバ、此政府ノ施政若クハ文部省ノ執ルベキー数多
所ノ態度、之ニ何等不公明ナ所モナケレバ、何等ノ缺點ハ
無イノデアリマス(拍手)唯是ニ於テ、吾々ハ先程申上ゲタ
如ク帝國ノ〓育ハ純〓育ノ立場ニ於テ論議サレタイト云
フノハ此意味デアル、私ハ貴族院ニ對シテ一矢ヲ酬ユル考
ハ持チマセヌガ、貴族院ガ此問題ニ對シテ、如何ニモ〓育ト
云フ所ノ公明ナル問題ヲ捉へ來クテ、之ヲ陰險ナル此內閣ノ
攻撃ノ具ニ供スルト云フコトハ、私共ハ甚ダ其當ヲ得ナイト
考ヘル、ソレハ貴族院ノ大多數トハ申シマセヌ、私共ノ友人
若クハ私共ノ知人、其他ノ個人々々ニ就テ聞イテ見マスル
ト、成程御尤デアル、此昇格案ト云フモノハ、行懸リ負緣ヲ
捨テヽ、公明正大ニ之ヲ論議スベキモノデアルト云フコトヲ
言ハレテ居ル、然ルニ奈何セン、此問題ハ一種ノ闇カラ闇ノ
陰險陰謀ノ此道具ニ使ハレテ居ルト云フコトハ、吾々ハ內
閣ノ爲ニアラズシテ、帝國〓育界ノ爲ニ吾々ハ非常ニ悲シ
ム者デアルノデアリマス(拍手)此政治ハ-總テ政治ハ
立憲政治ハ男性的ノ態度デナケレバナラヌ、女性的ノ態
度デ陰謀ヲ企テ、暗黑ニ引入レテ、サウシテ事ヲスルト云フ
コトハ是ハ立憲政治ノ常道デハアリマセヌ、政治ハ正義ト
公明トニ依クテ堂々ト論エ議シテ、初テ立憲制度ノ要ヲ具ヘル
ノデアリマスガ、何デアリマスカ、、中橋文相ガ二枚舌デアルト
カ、或ハ千島ノ香爐ヲ毀ハシタノデアルトカ、或ハ千鳥ノ香
爐デハナカッタ、ソレハ今戶燒デアッタトヤラ、或ハ此建議案ニ
對シテ、政府ニ措置ヲ執レト云フノハ、之ガ彈効的ノ決議
案デアルトカ、何故彈劾的ノ決議デアルナラバ、之ヲ彈劾的
ノ決議ニシナイノデアルカ、之ニ依シテ吾々ハ此不公明ナルコ
トヲ、此一點デモ證據立テルコトガ出來ル、殊ニ中橋文相ガ
先日以來大磯ニ行ッタト稱スル、此大磯ニ行ッタノハ何デ行
タノカ所勞デ行ヲタトカ、辭意デ行ッタトカ云フコトガ、二日モ
三日モ論議スルト云フコトハ、貴族院ハ民意ヲ代表セザルモ
ノトシテモ、民衆ニ媚ビズ、公明正大ノ見地ニ立ッテ堂々トシ
テ國家國策ニ對應スル所ノ議論ヲシテ、初テ天下ニ權威ガ
アルノデアリマス、若シ今日ノ如キ不公明ナル態度ヲ執ッテ
行クナラバ、早晩ハ貴族院ニ對シテモ、何等カノ變動ガ起ラ
ザルヲ得ナイモノト吾々ハ信ズルノデアリマス、諸君千九百
十一年ニ英國ノ立憲政治、英國ノ議會ニ於キマシテハ如何
ナル事ガアリマシタカ、衆議院ニ對シテノ豫算ヲ故ナクシテ貴
族院ガ否決シタト云フガ爲ニ、遂ニ千九百十一年「アスキス」
內閣ノ當時「ロイドジヨージ」氏ガ此詰リ貴族院ノ改革案ヲ
提ゲテ、サウシテ幾度カ鬪シテ議會ヲ解散シタ、結果ニ於キマ
シテ、金錢法案ニ關スル問題ハ貴族院ハ之ヲ論議スルコト
ハ出來ナイ、否決スルコトガ出來ナイ、貴族院ノ否決權ヲ取
去,タト云フコトハ御永知デアラウ、又金錢法案ニ關スルト
云フコトハ豫算ノミデハナイ豫算ノ數字ニ關スル所ノ法案
ハ、貴族院ハ之ヲ拒否スルノ權利ハナイ、否決スル權利ハナ
イ、千九百十一年ニ於テ之ガ英國ノ立憲政治ニ於テ、貴族
院ノ不公明ニ依ル態度ニ依シテ之ガ解決サレタ問題デアル、
私ハ現時我ガ帝國ノ貴族院ニ對シテ、左樣ナ事ヲ要求セン
トスル者デハアリマセヌケレドモ、苟モ租稅ヲ出ス所ノ衆議
院先議權ヲ持テ居ル所ノ衆議院ニ於テ、公明正大ニ論議
シタ案ヲ、之ヲ唯徒ニ不公明ナル見地ニ依シテ、闇黑カラ闇
黑闇カラ間ニ葬リ去ルト云フガ如キ事ハ斷ジテ許スコトノ
出來ナイモノデアルト吾々ハ信ズル者デアリマス(拍手「此處
ハ衆議院ダ、問題ハ違フ」ト呼フ者アリ)衆議院ナラ衆議院
ノ態度デヤリ給へ-此昇格問題ナ內容ニ付テ色々ニ議
論ガアリマス、先ヅ此文理科大學設置ニ付テ議論ガ非常ニ
アル是ハ成程文理科大學ト云フモノヲ、今直ニ設立スルト云
フコトハ。是ハ過渡時代デアリマスカラ、多少議論ノアル
コトハ免レナイガ、是ハ詰リ高等學校ノ卒業者ノ中カラ
之ニ入學志願者ヲ入レル、或ハ師範〓育ヲ受ケタ者ノ
中カラ志願者ヲ文理科大學ニ入レルト云フコトデ、是ハ
多少其所ニオ盾ガアルガ如ク見エル、一方ハ十一年、一ノ
ハ九年ト云フコトニナルガ、併ナガラ此帝國ノ〓育ノ見地カラ
立ッテ見マシタナラバ、現在中等〓員ノ非常ナ缺乏ヲ感ジテ
居ルコト、又知識ノ非常ニ足リナイト云フ缺陷ノアルト云フ
コトハ、諸君ハ御承知デアラウト思フ、是ハ臨時〓育調査
會ニ於テモ、專攻科ヲ設ケテ尙ホ一層內容ヲ改善スベシト
云フ決議ニナッテ居ルノデアル、此點ニ於テ當局者ハ此臨時
〓育調査會ノ決議ノ趣意ニ基イテ、専攻科ト云フモノヲ更
メテ、此單科大學制度ニ引直スト云フノデアルノデアリマス、
此單科大學制度ニ引直セバ、高等師範ヲ卒業シタ者モ、高
等學校ノ普通高等〓育ヲ受ケタル者モ、一緒ニ〓育スルコ
トハ是ハ非常ニムヅカシイ、恰モ二人三脚ノ運動ヲヤルヤウ
ナモノデハナイカト云フヤウナ感ガ一寸起ルケレドモ、私共ハ
左樣ニハ考ヘナイ、現在帝國大學ニ於テハ、高等學校ヲ卒
業シタ者モ行フテ居ルシ、高等師範學校ヲ卒業シタ者モ行フ
テ居ルシ、又他ノ私立學校ヲ卒業シタ者ヲ橫カラデモ這人
ルコトヲ許シテ居ル、是ニ於テ學問ノ妙用ガアルト私ハ考へ
ルノデアル(拍手)諸君ハ〓育ハ系統ガ劃一デナケレバイカ
ヌト言フガ、割一ト云フコトモ、ひ沉一ト云フコトモ、或ル程度
マデハ宜イケレドモ、劃一ノ弊ニ陷ルト云フコトハ是亦考へ
ナケレバナラヌ、我ガ日本ノ〓育ハ多ク此大學デモ、中等〓
育デモ劃一ノ弊ニ陷ノテ居ルト云フコトハ、一方カラ見レバ
我ガ帝國ノ〓育ノ一ノ弊害デアルト吾々ハ考ヘテ居ル、大
學ニ入ルモノハ尋常中學校カラ高等學校ヲ經テ、サウシテ
大學ニ行カナケレバナラヌト云フヤウナコトハム是ハ一種ノ
官僚的頭デアッテ、斯樣ナ事ハ却テ學問ノ進步ヲ害スルモノ
デアル、寧口學問ハ放膽デアッテ、經済的デアッテ、自由ニ〓
育ガ出來ルト云フコトニシテ、初テ學問ハ蔚然トシテ文物
章ヲ成スモノデアラウト思フ、之ヲ型ニ嵌メテ〓育スルト云
フコトハ、高等〓育ニ於テモ或ハ大學ニ於テモ、或ハ小學ニ
於テモ、此弊ガアルト思フ、私ノ方デ室蘭ノ製鋼所デ小銃ヲ
拵ヘル、此小銃ヲ拵ヘルニハ長イヤツヲ寸法ニ依ッテ行ケバ一日
ニ何万ト云フ小銃ガ出來ル、大阪ノ造幣局ニ於テ銅貨
ヲ拵ヘルニハ、矢張銅ヲ鎔イテ型ニ入レテ鑄リ出セバ幾ラデ
モ出テ來ル、詰リ人間ノ〓育ト云フモノモ、砲兵工廠ニ於テ
小銃ヲ拵ヘルガ如キ、或ハ造幣局ニ於テ金貨、銅貨ヲ拵ヘ
ルガ如キ型ニ嵌メルコトハ廢メテ、須ク型ヲ破シテ自由ニ、放
膽的ニ、經濟的ニ、學問ヲサスト云フコトガ、寧ロ長所ガアル
ト言ハナケレバナラヌ、此點ニ於テハ我ガ帝國ノ〓育ト云フ
モノハ、大學ニハ大學ノ弊ガアリ、私立學校ニハ私立學校ノ
長所ガアル、此長所ト短所ハ何處ニ在スルカト云フコトヲ能
ク〓究シテ、此師範大學ト云フモノヲ拵ヘルト云フノハ、全
國ノ幾多ノ〓員志望者、卽チ數十校、數百校アル所ノ師
範學校ニ這入ッタ所ノ者ガ、前途自分等ハ學問ヲスレバ、大
學マデ行ッテ、サウシテ學士ニモナレル、博士ニモナレルト云フ
所ノ一ノ光明ヲ前途ニ與ヘルト云フ上ニ於テ必要ガアルノ
デアリマス(拍手)此點ニ於テハ、歐羅巴諸國、殊ニ獨逸ナド
ニハ綜合大學ガ二十モ三十モアル、日本ニ於テモ左樣ニナッ
テ來ルナラバ師範〓育高等師範ト云フモノヲ廢シテ
純然タル師範大學ニシテ、一種ノ綜合的ノモノトシテモ差
支ナカラウト思フノデアリマスガ、今日直ニ高等師範ヲ廢ス
ルト云フト、中等〓員ノ非常ナ缺乏ヲ來スノデアリマスカラ
多少ノ變則デアリマシテモ、自由ノ〓究-自由ノ〓育者
ヲ養フ上ニ於テ、之ヲ昇格スルト云フコトハ極テ機宜ヲ得ル
モノデハアルマイカト私共ハ考ヘテ居ルノ·デアリマス(拍手)ン
レカラシテ、此藏前工業-此藏前工業ト云フ專門學校ヲ
廢スルノガ惡イ單科大學ニスルノガ惡イト云フ議論ガアル
ケレドモ、是ハ專門〓育ヲ全然廢スルノデハナイ、他ノ方ニ
收容スルト當局者ハ說明シテ居ル、私ハ當局者ノ言フ事ヲ
善意ニ解釋シテ居ルノデアリマス、サウシテ藏前ノ高等工業
ヲ單科大學ニスルノハ何デ惡イ、校風ヲ維持スル上ニ於テ
惡イト言フガ、校風ヲ維持スルニハ之ヲ大學ニスルナラバ、尙
ホ一層校風ヲ維持スルコトガ出來ルノデアル、藏前工業ハ
藏前工業ノ校風ヲ維持シ、商科大學ハ商科大學ノ校風ヲ
維持シ、北海道大學ハ北海道大學ノ校風ヲ維持スルコト
ニ依ッテ、初テ意義ヲ成スノデアル、之ヲ何デモ一〓ニ東京ニ
集中シナケレバナラヌ、帝國大學ノ內ニ何デモ一〓ニシナケ
レバナラヌト云フコトハ、是ハ出來ナイ話デアル、又或人ハ師
範〓育デモ、帝國大學ニ空キガアルカラ、之ニ伴レテ行ッタラ
宜カラウ、或ハ工業〓育ハ工科大學ニ空キガアルカラ、之ニ
伴レテ行ッタラ宜カラウト斯ウ言フケレドモ、是ハ學生ノ心
理狀態ヲ知ラヌノ人ノ言フコトデアル、何處カ空キガアルカラ
這入レト言ッタ所デ、學生ハ決シテ這入ルモノデハナイ、學生
ノ心理狀態ハ昇格シタ大學ニ這入リ、學士ニナリ、博士ニナ
ルト云フノガ心理狀態デアル、是ハ決シア卑劣ナモノデハナ
イト思フ、〓育ヲ施ス上ニハ是ハ極テ必要ナモノト思フ、帝
國大學ニ這入ラナケレバ學士ニモナレヌ、博士ニモナレヌト
云フヤウニ、サウ窮屈ニ看板ヲ占領スベキモノデハナイ、單科
大學デモ大學ト云フ名稱ヲ持ッテ居ル、其處ニ入ッテ學士ニ
ナリ、博士ニナルト云フ心理狀態ヲ學生ニ持夕セ、向上心ヲ
持タセルト考フコトハ、何ノ不可カアルカ、大學ノ名前ヲ與
ヘルノヲ國家ガ吝ム必要ハナイ、吾々モ何デ之ヲ吝ム必要ハ
ナイ、早稻田ノ專門學校モ大學デアル、慶應義塾モ大學デ
アル、皆單科大學ヲ許サレテ居ル、藏前ノ高等工業、或ハ大
阪ノ高等工業ト云フ立派ナモノガ備ッテ居ルニ拘ラズ、大學
ト云フ看板ヲ與ヘルコトヲ吝ムト云フコトハ、是ハ學生ノ心
理狀態、〓育ノ心理狀態ヲ知ラヌモノト吾々ハ考ヘル、ソレ
カラシテ、神戶ノ商科大學モ其通リデアリマス、私共ハ此點
ニ於テ餘リ多クノ議論ヲ費ス必要ハナイノデアリマスルガ、
憲政會ノ諸君ノ此反對ハダ、私ハ先程下岡君ノ演說ヲ細
カニ承ッタノデアル、承ッタノデアルガ、下岡君ノ御說ハ是案ハ
公債財源デアル、公債財源デモ宜シイカラ、何故普通〓育
ノ改善ニ之ヲ使ハナイカト云フコトヲ仰シヤッテ居ル、公債
財源デ此高等〓育機關ノ擴張ヲヤッテ居ルノハ明カデアル、
ソレヲ初等〓育改善ノ國庫負擔ノ問題ヲ、一時的ノ公債
財源ニ依ッテ解決シ得ラレルカドウカト云フコトハ極テ明
瞭ナコトデアル、又此財源ニ付テ御話ヲシナケレバナラヌノ
デアリマスガ、今度ノ既定ノ學校ノ財源ハドウナッテ居ルカト
申シマスト、公債發行ノ餘力ガ今マデ使ッタ金ノ中八百五
十万圓アル、今度ノ第二次計畫ニ付テ、只今ノ追加豫算ニ
付テハ一千百八十九万ト云フ金ガ必要デアル、差引スルト
結局第一次計畫カラ繰延ベタ財源ノ剩餘金ヲ計算致シマ
スト、差引財源ハ三百三十七万一千四百四十圓、斯ウ云
フコトニナッテ居ルノデアリマスガ、此中二百八十七万圓ト
云フモノハ、大正九年十年ノ兩年度ニ於テ、臨時事件費ノ
變形トシテ、事務費及〓官養成費ニ追加シタル金額ナルニ
依リ、之ヲ控除シテ差引スルト、今回ノ昇格案ノ一千何百万
圓ト云ウテ、非常ニ大問題ノ如ク諸君ハ論ゼラレルケレドモ、
其財政計畫ニ及ボス所ハ、差引四十九万八千圓デ此問題
ガ解決スルノデアル、五十万圓ニ達シナイ金ニ於テ此十六
校ニ專攻科ヲ置キ、五校ノ昇格ヲ致ス所ノ財源ガ間ニ合〃
テ居ルノデアルカラ、財政上ニ於テハ何等苦痛ヲ及ボサナイ
ノデアルガ、此金ヲ以テー-五十万ノ金デ下岡君ノ言ハルヽ
如ク、義務〓育費ノ〓員給ノ半額ヲ支辨スルト云フコトガ
ドウシテ出來マセウカ、五十万、四十万ノ金デドウシテ初等
〓育ノ改善ガ出來マセウカ、餘リニ首尾〓倒シタル議論ト
言ハナケレバナラヌ、サウシテ下岡君ハドウ云フコトヲ言ハレ
ルカ、私ハ下岡君ノ演說ハ少シモ分ラナカッタ、昇格案ニハ
反對デハナイカノヤウニ結論ニハ言ッテ居ル、又專攻科ニ付
テモ反對デハナイト言ウテ居ル、初ニハ反對デアルガ如ク滔々
タル議論ヲ致シテ居リマシテ、終ヒニハ何ダカ尾ガ曲ッテシ
マッテ、吾々ノ議論ニ賛成ヲシテ居ルヤウデアル、恐ラク諸君
モ其通リデアラウト思フ、神戶ニ商業大學ヲ設立スルト云
フコトハ、神戶ノ市會モ決議シテ居リ、商業會議所モ決議
ヲシテ居ル、神戶全市ノ人間ガ熱狂シテ運動ヲシテ居ル問
題デアルガ、下岡君ハ神戶附近ノ御出身者デアッテ、最モ緣
故ノ深イ方デアル、廣島師範學校昇格ニ付テハ、早速君ア
リ、〓育ニ精通シテ居ラルヽ荒川君アリ、是等ノ人ガ居ルニ
モ拘ラズ、此問題ニ反對スルト云フコトハ、是ハ首尾一貫セ
ズ、不徹底極マルト云フコトハ當然デアルト私ハ情ナク思フ
ノデアル、ソレカラ又國民黨ノ諸君ノ議論ハ矢張豫算返
付ノ御議論デアル、又憲政會ノ下岡君ノ議論ハ、實ハ贊成
デアルヤラ、反對デアルヤラ、私共ニハ能ク分ラヌノデ、或
贊成ノ如クモ見エタノデアリマスガ、國民黨ノ諸君ノ議論モ
之ニ反對デハナイ、豫算ヲ撤回シテ編成替ヲセヨト言フ、私
ハ諸君ノ豫算返付ト能ク〓〓〓故ガアルト見エテ、此返付
論デハ屢〓アナタ方ニ憎マレルノデアリマスガ、一千百万餘圓
ノ計上ニ對シ、僅カナ數字デ十六校ノ專攻科設置、五校ノ
昇格ガ出來ル、之ヲアナタ方ハ豫算ヲ返付シナケレバ修正
ノ意見モ立タヌ、或ハ反對ノ意見モ、否決スルト云フ意見モ
立タナイ、豫算ヲ返附スル、撤回セヨト云フノハ、餘リニ議院
ノ權能ヲ無視シタルモノト言ハナケレバナラヌト考ヘルノデ
アリマス、以上ノ理由ニ依リマシテ、私ハ此昇格問題ハ純〓
育ノ見地ニ立チマシテ、貴族院デハ握潰シニスルト云フヤウ
ナコトヲ世間ニ傳ヘテ居リマスガ、是ハ齊束野人ノ言デアラ
ウト思フ、貴族院ニモ相當賢明ナ人ガアリ、相當正義ナ人
ガアリ、又貴族院ノ本體ヲ忘レナイ人ガアル、唯ヤカマシク
ガアー〓言フノハ、三人カ五人ノ札附ノ人デアリマスカラ、此
問題ハ必ズ相當ノ議決ヲ見テ、此案ガ貴族院ヲ通過スルコ
トヽ信ジテ疑ヒマセヌ、故ニ此案ヲ賛成スル理由ヲ述ベテ私
ハ壇ヲ降リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=33
-
034・岩崎勲
○岩崎勳君 討論終結ノ動議ヲ提出致シマス
〔「賛成」「賛成」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=34
-
035・奧繁三郎
○議長(奥繁三郞君) 岩崎君ヨリ討論終結ノ動議ガ提
出ニナリマシタ、賛成ガアルヤウデアリマス、之ニ御異議ハア
リマセヌカ、
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=35
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036・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 討論ハ終結サレマシタ-採決致
シマス、岩崎君外二十五名ヨリ成規ノ賛成ヲ得テ、本案ノ採
決ハ記名投票ヲ以テセラレタシト云フ要求ガアリマス、仍テ
記名投票ヲ以テ採決致シマス、委員長報告ニ贊成ノ諸君
ハ白票、反對ノ諸君ハ靑票-閉鎖-氏名點呼ヲ始マス
〔書記官氏名ヲ點呼ス〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=36
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037・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 投票漏ハアリマセヌカ-無シト認
メマス-開鎖-投票ノ結果ヲ報告致シマス
〔寺田書記官長朗讀〕
投票總數三百四
可トスル者二百十六
否トスル者八十八
〔拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=37
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038・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 委員長報告通リ可決確定致シマ
シタ(拍手起ル)
委員長ノ報告ヲ可トスル議員ノ氏名左ノ如シ
石川善盛君石川玄三君石川淳君
今井今助君今泉嘉一郞君岩崎宗茂助君
岩崎動君岩崎幸治郞君岩本平藏君
岩切重雄君市村貞造君一宮房治郞君
禱苗代君飯島信明君伊藤廣幾君
伊澤平左衞門君井上敬之助君井上角五郞君
磯田粂三郞君池田泰親君池田猪三次君
原田十衞君次郞君原夫次郞君
八田宗吉君カネットル毅陸君蓮井藤吉君
長谷川宗治君長良野敦君花城永渡君
濱口吉兵衞君萩亮君波多野承五郞君
泰豐助君鳩山一郞君西澤定吉君
西川嘉門君西村正則君本多貞次郞君
堀切善兵衞君寒人君戶狩權之助君
富安保太郞君成石休休二郞君陣軍吉君
小田切磐太郞君小山田信藏君川君
大石大君岡崎邦輔君郞次君君
岡田伊太郞君大島實太郞君渡大岡小森祐次順平策郎次吉
國分析師渡邊修君邊林君
河老大大家幾造君若林德懋君柿原政一郞君
〓君河上哲太君川原茂輔君
川村數郞君改野耕三君海原〓平君
粕谷義三君加藤重三郞君加藤久米四郞君
加藤紋右衞門君金光庸夫君春日俊文君
吉植庄一郞君吉原正隆君吉野小一郞君
吉木陽君米原於苑男君米澤與三次君
高橋長二君高橋長七郞君高橋光威君
高橋善五郞君高見之通君髙島七郎右衞門君
髙野〓君竹内明太郞君竹上藤次郞君
武田德三郎君田中隆三君田邊熊一君
田村順之助君瀧正雄君玉置良直君
大道寺慶男君津野田是重君津崎尙武君
土屋典君坪田十郞君鶴見孝太郞君
根本正君中百六三郞君中山佐市君
中村〓造君中村喜平君中島鵬六君
中島守利君中橋德五郞君中倉万次郞君
仲田德三君成田直一郞君永屋茂君
南里琢一君長峰與一君向井倭雄君
武藤金吉君梅田潔君植竹龍三郞君
植場平君宇野勇作君鵜澤總明君
上塚司君上埜安太郞君內山安兵衞君
野村勘左衞門野村治三郞君野副重一君
野口忠太郞君野田卯太郞君野呂駿三君
國澤新兵衞君黑住成章君熊谷直太君
藏内次郞作君久慈貫一君久下豐忠君
山田永俊君山口義一君山口熊野君
山崎猛君安原仁兵衛君柳原九兵衞君
矢野丑乙君八木逸郞君松浦五兵衞君
松實喜代太君松岡俊三君松田源治君
松野鶴平君松山常ズ郞君松本孫右衞門君
牧野良三君牧山册藏君前田米藏君
舞田壽三郞君麓糸純義君福井甚三君
深見寅之助君古林奥六君古林新疆線
小久保喜七君小坂順造君穴水(R)B
阿部武智雄君淺石惠八君有馬秀雄君
秋本喜七君東武君赤田瑳一君
天春文衞君靑木恆太郎君靑柳郁次郞君
佐野正雄君佐藤寅次郞君佐藤良平君
齋藤鷲太郞君齋藤壽雄君阪上貞信君
阪本素魯哉君指田義雄君崎山克治君
櫻內幸雄君榊田〓兵衞君菊川惣吉君
〓瀨規矩雄君吉良元夫君木下成太郞君
北井波治目君三好德松君三善〓之君
三浦權兵衛君水野吉太郎君宮崎友太郞君
白井博之君志賀和多利君下出民義君
島田俊雄君廣岡宇一郞君廣瀨
廣瀨鎭之君樋渡次右衛門君
日野辰次君平田民之助君匹田銳吉
毛里保太郞君森恪君營養師 陳扆時請問望月賀氏 政鏡之爲政友消費者
管原傳君菅野傳右衞門君鈴木
鈴木錠藏君鈴木義隆君
山本藤助君佐々木平次郞君宮田光雄君
委員長ノ報告ヲ否トスル議員ノ氏名左ノ如シ
磯貝浩君石井研二君濱口雄幸君
本田恆之君友田文次郞君中馬興丸君
岡本幹輔君大竹貫一君大津淳一郞君
太田信治郞君小野重行君加藤定吉君
川副綱隆君神谷彌平君川崎克君
吉田磯吉君吉川吉郞兵衞君武內作平君
武富時敏君賴母木桂吉君高木正年君
高田耘平君田中武雄君田中善立君
津原武君內藤濱治君永井柳太郎君
紫安新九郞君村山喜一郞君鵜澤宇八君
野村嘉六君野尻彌重郞君黑金泰義君
山移定政君八並武治君正木照藏君
松井鉃夫君牧口義矩君降旗元太郞君
古屋慶隆君小山松壽君小池仁郞君
小泉又次郞君手島鍬司君淺賀長兵衞君
安達謙藏君阿由葉勝作君齋藤巳三郞君
定行八郞君作間耕逸君菊池良一君
箕浦勝人君〓水留三郞君下田勘次君
下岡忠治君平出喜三郞君森達三君
森山儀文治君森田茂君望月小太郞君
栗山博君鈴木周三郞君鈴木久次郞君
鈴木富士彌君徳島産板野友造君
西村丹治郞君明信號 關係富永孝太郞君
大口喜六君渡土邊井中川幸太郞君
植原悅二郞君倉石知藏君前川虎造君
小橋藻三衞君近藤達兒君鮎川盛貞君
秋田清君〓瀨一郞君湯淺凡平君
最上直吉君砂田重政君松下禎二君
仙波太郞君大濱忠三郞君押川方義君
山科慎次郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=38
-
039・岩崎勲
○岩崎勳君 議事日程變更ニ關スル緊急動議ヲ提出致
シマス、卽チ茲ニ政府提出、臺灣私設鐵道補助法案及政
府提出銅眞鍮及靑銅ノ輸入稅ニ關スル法律案ヲ各別ニ
議題ト爲シ、其第一讀會ノ續ヲ開キ、各ミ委員長ノ報告ヲ
求メ、且ツ其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=39
-
040・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ日程ハ】變更サレマシタ、臺灣私設鐵道補助法
案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メマス、委
員長坂本素魯哉君
臺灣私設鐵道補助法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報〓)
報告書
一臺灣私設鐵道補助法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十一年三月十五日
臺灣私設鐵道補助法案委員長
坂本素〓哉
衆議院議長奥繁三郞殿
〔坂本素魯哉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=40
-
041・坂本素魯哉
○坂本素魯哉君 本案ハ臺灣ニ於キマシテ、公衆ノ用ニ
供スル私設鐵道ノ經營ニ對シ、其益金ガ建築費ノ八步ニ
利益ノ足ラナイ場合ニ、臺灣總督ハ之ニ對シテ補助ヲ爲ス
コトヲ得ル規定デアルノデアリマシテ、委員會ニ於キマシテ
臺灣ノ開發上、殊ニ交通上及產業ノ開發上ニ於キマシテ、
最モ必要ナリト認メマシテ、滿場一致ヲ以テ可決セラレタノ
デアリマス、右御報告申上ゲマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=41
-
042・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤヲ
御諮リ致シマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=42
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043・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 第二讀會ヲ開クニ御異議ナシト
認メマス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=43
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044・岩崎勲
○岩崎動君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、第三讀會ヲ省
略シテ、委員長ノ報告通リ可決確定アランコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=44
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045・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キマス
臺灣私設鐵道補助法案第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=45
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046・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 御異議ナシト詔メマス、仍テ本案
ハ委員長報告通リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=46
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047・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 銅眞鍮及靑銅輸入稅ニ關スル
法律案/第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メマ
ス、委員長今泉嘉一郞君
銅眞鍮及靑銅ノ輸入稅ニ關スル法律案
(政府提出)第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一銅、眞鍮及靑銅ノ輸入稅ニ關スル法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十一年三月十五日
銅、眞鍮及靑銅ノ輸入稅
ニ關スル法律案委員長
今泉嘉一郞
衆議院議長奧繁三郞殿
〔今泉嘉一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=47
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048・今泉嘉一郎
○今泉嘉一郞君 委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告致シ
マス、本案提出ノ理由ハ、旣ニ本會議ニ於キマシテ政府委
員ノ說明シタ通リデアリマスガ、是ハ大體銅ノ輸入稅ヲ增
加シ、隨テ銅ノ製品竝ニ銅ノ合金トスル所ノ眞鍮、靑銅ト
云フ風ノモノヽ稅ヲモ上ゲヤウト云フノデアリマス、元來銅
鑛業ト申シマスモノハ、是ハ日本ノ古來ヨリ重要ナル產業
ノ一ツニナッテ居リマスルモノデアリマスルガ、殊ニ我國ノ鑛
物界ニ於キマシテ、銅ハ最モ天惠ヲ厚クサレテ居リマス關係
カラ、苟モ此鑛山ト申シマスレバ、總テ銅山デアルト云フガ
如キ關係ニナッテ居リマスノデ、殆ド此鑛業界ノ代表的ノ
事業ニナッテ居ルノデアリマス、ソレ故ニ我國ニ於キマシテハ、
古來此精鍊方法ト云フ風ナモノモ非常ナル特殊ノ發達ヲ
致シテ居リマスルガ、殊ニ維新以後ニ於キマシテハ、西洋ノ
理化學ノ應用ニ依リマシテ、今日ニ至リマシテハ、此銅ノ精
鍊技術ト云フモノハ、我國ニ於テハ世界ニ習フニ非ズシテ、
大ニ殺フベキ迄ニ進步シタノデアリマス、隨テ從來會テ精鍊
サレナカッタヤウナ非常ナル含有少量ノ貧鑛ト云フモノモ完
至ニ處理〓サレマシテ、同銅鑛ニ伴フ所ノ金鑛、若クハ亞
鉛或ハ「アルセニック」ト云フヤウナ從來古人ハ捨テヽ居ッタヤ
ウナ貴重ナル副產物ガ、悉ク採取セラルヽコトニナッタノデア
リマス、今日我國ニ於テ產出スル金及銀ノ年額二千万圓
ノ大部分ハ、此銅ヲ採取シテ出ル所ノ副產物デアリマス、而
シテ銅ノ工業ニ至リマシテハ、或ハ銅線、銅管ト云フヤウナ
モノ、或ハ「ケーブル」線ト云フヤウナモノニ至リマシテモ、極テ
精巧ナル製品ヲ作ルコトガ出來テ、海外ニ輸出シテ居ルノ
デアリマス、斯樣ナ次第デアリマスカラ、此生產事業モ、非常
ニ進歩致シマシテ、今日デハ過去十數年ニ涉リマシテ、此銅
ハ既ニ內地ノ需要ヲ完全ニ充タシ、尙ホ海外ニ輸出ヲシテ
居ッタノデアリマス、世界全體ノ銅產出額カラ致シマシテ、亞
米利加ハ世界ノ七割ヲ產出シテ第一ニ居リ、其次ハ日本
ガ世界ノ總產額ノ百分ノ八ヲ產出致シマシテ、第二ニナッテ
居ルノデアリマス、日本ガ第二デアル所ノ位置ト云フモノハ、
過去十數年ニ涉ッテ會テ一回南米智利ニ依シテ取ラレタコ
トガアルダケデアリマシテ、常ニ亞米利加ニ亞イデ世界ノ筆
頭ナル銅生產國トナッテ居ルノデアリマス、ンコデ我國產業
ノ數多々アリト雖モ、農產界ニ於ケル生絲及鑛業界ニ於ケ
ル銅ノミガ、完全ニ自國ノ原料ヲ使用シテ、自國ノ人民ニ
十分ナル需要ヲ供給シ、尙ホ其餘リヲ以テ世界ニ輸出ヲシ
テ居ルノデアリマス、然ルニ戰後ニ至リマシテ、世界ノ經濟
界ノ變動ニ依テテ、玆ニ非常ナル銅鑛業ノ打撃ヲ來タシマシ
タコトハ當然デアリマスルガ、殊ニ戰爭中ニ外國、就中米國
ガ軍備ノ爲ニ非常ニ作ッテ蟹キマシタル所ノ過剰ノ銅此銅
ヲ處分スルガ爲ニ、其販路ニ苦ンデ、東洋ニ持ッテ來テ有ユ
ル低價ヲ以テ我國ニ侵入セントスルニ至リマシタ爲ニ、遂ニ
玆ニ日本ノ銅業界ニ於テハ會テ知テ知ラザル所ノ非常ナル
困難ニ陷ックノデアリマス、今日ニ於キマシテハ全國ノ銅山
百三十一箇所ノ中、採掘シテ居ルモノガ僅ニ五十箇所ニナ
リ、全國ノ銅精鍊所五十箇所ノ中、僅ニ二十箇所ガ殘ッテ
居ルト云フ姿デアリマス、此殘ッテ居ル所ノ大部分ハ大規模
ノ鑛業デアリ、且ツ其資本等モ相當ニ融通ノ出來ル關係カ
ラシテ今日ニ在ルノデアリマスガ、ソレ等ガ利益ヲ以テ作業
シテ居ルカト云フト、決シテサウデモナイノデアリマス、ソレハ
皆損失ヲ以テ營業シテ居ルノデアリマスルガ、勞働者或ハ
從業者ノ處分ノ困難ナルコト、竝ニ一旦鑛業ヲ廢止スルト
キニ於テハ、之ヲ再閱スル場合ニ非常ナル費用ヲ要スルト
云フ關係カラシテ、已ムヲ得ズ今日事業ヲ繼續シテ居ルノ
デアリマス、餅ナガラ之ヲ此儘ニ等閑ニ付シテ置キマスルト、
是等モ亦今後二三年ノ間ニハ、或ハ事業ヲ止メルデアラウ
ト思ヒマス、只今デハ一時ノ半額ノ銅ヲ生產致シテ居ルノ
デアリマスガ、是モ近キ將來ニハ、或ハ今言フ通リ全滅スル
カモ知レナイノデアリマス、銅ハ日本ノ今日ノ製造能力ハ約
十万噸デ、此完全ナル生產能力ヲ發揮シマシタノハ、大正
五六年ノ頃デアリマス、此價額ト云フモノハ大〓一億數千
万圓ニ達シテ居ルノデアリマス、其輸出ハ一番盛ンナノハ大
正七八年ノ頃デアリマシテ、其場合ニハ矢張一億圓以上ノ
輸出ヲ爲シテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ風ナ狀態ニ在ル所
ノ我國重要ナル產業タル銅鑛業ヲ、此儘等閑ニ付スルト云
フコトハ、是ハ單ニ大ニ事業當局者ノ利害關係ノミナラズ、
我國產業政策ノ見地カラ致シテ相成ラヌト云フコトデ、政
府ハ此案ヲ提出致シタノデアリマス、但シ外國銅ガ內地ニ
侵入スルト云フコトハ、最近數年間ノ事デアリマシテ、從來
會テサウ云フ事ハナカッタノデアル、ソレ故ニモウ少シ市場ガ
落付イタナラバ、或ハ此外國銅侵入ト云フコトガサウ長ク
繼續スルモノデナイカ知ラヌト云フ玆ニ疑問ガアリマスル爲
ニ、此法案ノ實行期間ハ一時ト云フコトニシテ居ルノデアリ
マス、ソレ故ニ外國銅侵入ノ危害ガ除カレル場合ニ於テハ、
其際ニ適當ノ改正ヲシヤウト云フ案デアリマス、委員會ハ
此案ヲ客議スルニ當リマシテ、最モ深キ注意ヲ拂フ點ハ言
フマデモナク一ツデアルノデアリマス、其第一ハ此關稅改正、
卽チ關稅ノ增加ノ由テ來ル所ハ、ドウ云フ所ニ在ルカ、其根
據竝ニ其程度ガ果シテ適當ナリヤ否ヤト云フコトデアリマ
ス、第二ニハ斯ノ如キ政策ガ物價政策上竝ニ國家經濟上
利害如何ト云フコトデアリマス、ソレ故ニ委員諸君ノ質問
サルヽ所、政府ノ應答スル所、竝ニ此議論ノ生ジタル點モ、
専ラ此二點デアルノデアリマス、其第一ノ程度ノ問題ニ付
キマシテ、大體政府案ヲ見レバ、銅ガ百斤一圓二十錢デアツ
タモノラ、今回七圓ニ改メタイト云フノデアリマス、是ガ根柢
デアッテ、其外ニ銅ノ製品若クハ合金ト云フモノハ之ニ準シ
テ直ッテ居ルノデアリマスカラ、之ヲ論據ニ致スノデアリマス、
而シテ之ガドウ云フ理由デ七國ニナッタカト云フト、外國カ
ラ這入ル所ノ銅ト云フモノハ-外國殊ニ米國カラ這入ル
所ノ銅ト云フモノハ、百斤三十八圓、日本デ今幾ラデ出來
ルカト申シマスルト云フト、一年ニ一千万斤以上ヲ產出ス
ル所ノ銅精鍊所ノ合計ノ統計ニ依リマスルト、四十五園掛
ル、サウスルト玆ニ七圓ノ差ヲ生ズル、故ニ七圓ト定メタノデ
アル、然ラバ其根據ハ分ッタガ、斯ル急激ナル增額ハ適當ナ
リヤ斯ウ云フコトニ付テ議論ヲ生ジタノデアリマス、併シ多
數ノ意見ハ一體從前銅百斤ガ一圓二十錢ト云フガ如キハ
非常ナル低落デアル、價格ニ對シテ僅ニ三分ニシカ當ラヌト
云フ風ナ稅ハ、世界ノ文明國ニアルベカラザル關稅デアル、
或ハ支那印度等ノ如キ、他國ノ命令ニ依ッテ造ラレタル關
稅ト雖モ、尙且ツ五分ノ關稅デアル、五分ハ卽チ最低ノ手
數料デアル、關稅手數料ニモナラヌ所ノ三分ト云フノハ、ド
ウ云フ譯デアルカ、是ハ日本ガ維新前ノ習慣維新前ニ外
國ト結ビタル其時ノ事情ニ依ッテ出來タル、五分率、其五
分率ノ明治ノ初年ニ於ケル所ノ非常ナル安イ値、ソレ
ヲ基礎ニシテ出來タ案デアルカラ、非常ニ低イノデアリ
マイ、此低イ銅ノ稅卒ト云フモノガ、今日迄世間ニ何等苦
痛ヲ感ゼラレナカッタ所以ノモノハ、卽チ我國ハ輸出國デ
丁ジ、輸入國ニアラザリシ關係ニアルノデアリマス、而シテ今
之ヲ七圓ニスル場合ニ於テハ、如何ナル稅率ニナルカト申
シマスレバ、稅率ハ三十八圓ニ對シテ七圓ハ、卽チ一割八分
デアル、一割八分ト云フ稅ガ抑、稅率トシテ如何ナルモノデ
アルカト申シマスレバ、斯ノ如ク重大ナル國家ノ產業ヲ保護
スル所謂保護稅トシテハ殆ド稀ニ見ル所ノ低率デアルノデ
アリマス、御永知ノ通リ戰後ノ經營ニ於ケル世界各國ノ稅
率ヲ御覽ニナリマシテモ分ル、此保護ヲ必要トスル場合ニ
於テハ、何レモ二割以上三割若クハ四割ヲ要求スルノハ當
然デアルガ、此一割八分殊ニ今回ノ增額ハ一圓二十錢ヲ
七圓ニスルノデアルカラ、一割五分ノ增額ニ過ギナイノデア
ル、斯ウ云フコトヲ諒解致シマシテ、委員ノ多數ノ方ハ、第
一ノ問題ニ對シテハ諒解シタノデアリマス、第二ノ問題ハ是
ハ大切ナ問題デ、物價政策上利害如何、之ニ付テ攻究ヲ
致シマシタ所ガ、成程假令一割五分ナリト雖モ玆ニ增額ヲ
スルノデアル、其期間ト雖モ茲ニ或ル期間ハ此法律ヲ施行
スルノデアリマスカラ、ソレダケノ間ハソレダケノ量ハ矢張銅
ガ高クナルト云フコトハ、是ハ當然ナ事デアル、當然デアリマス
ルガ、是ハ銅ナル物ハ抑、こ生活必需品ニアラザルト云フコト
ヲ考ヘナケレバナラヌ、銅ハ或ル一定ノ工業ニ使ハレル物デ
アリマシテ、今日日本ノ銅ノ大部分ト云フモノハ、電氣事業
ニ使ハレルモノデアル、電氣事業ノ企業費ノ何程ヲ占メルカ
ト云ヘバ、統計ニ依リマスト電氣企業費ノ約十分ノ一ト云
フモノハ、銅ノ爲ニ使ハレル費用デアル、其十分ノ一ノ費用
ヲ占ムル所ノ銅ガ一割五分增額ヲスルト云フト、資本ノ總
額ニ於テ百分ノ一、五ヲ增スコトニナルノデアリマス、此開
係ハ甚ダ輕キモノデアルト云フコトヲ見ラレマス、次ニ日本ノ
銅ノ價ト云フモノガ、一體一般物價ノ上ニ於テ如何ナル位
置ヲ占メテ居ルカト云フコトヲ觀察シマシタガ、從來日本ハ
銅ノ價ニ於テハ實ニ世界中一番安イ銅ヲ使ッテ居ッタノデ
アリマス、卽チ世界ノ金屬市場ト云フモノハ、紐育ニ非ザレ
バ倫敦デアル、其紐育或バ倫敦ノ價格ヲ標準トシテ、ソレヨ
リ運賃ヲ差引イタモノガ、卽チ日本ノ銅ノ價デアルノデアリ
マス、而シテ其絕對的ノ價ハドウデアルカト申シマスト、日本
銀行ノ拵ヘマシタル物價指數表ニ依リマスルト、是ハ大正
十年十二月ノ物價ヲ取リ、而シテ明治三十三年十月ノ物
價ヲ百ト看做シテ、重要ナル日本ノ物資ノ値段ガ何程デル
カヲ見マスト云フト、米ハ三百二十四、卽チ大正十年十一
月ガ明治三十三年十月ニ比シテ三倍餘ニナッテ居ル、砂糖
ハ三百十五、木材ハ三百四十四、洋紙卽チ紙ハ三百十六
石炭ガ三百十、銅ガ百零九、而シテ重要品五十六種ノ平
均ガ二百七十六、九五、斯ウ云フ風ニ、昨年ノ十二月ハ明
治三十三年ニ比シテ總テノ物價ガ三倍以上ニナリ、而モ其
五十六種ノ平均ガ二百六七十ニナッテ居ルニモ拘ラズ、銅ハ
軟然トシテ殆ド同額デアル、百零九デアルノデアリマス、ソレ
カラ戰爭中ニハ總テノ物價ガ上リマシタ、此場合ニ於キマシ
テ米ノ如キハ四百六十一一、砂糖ガ六百九十五、木材ガ四
百五十一、洋紙ガ六百二十五、石炭ガ三百十、斯ウ云フ風
ニ上ッテ居リマスルガ、銅ハ此際ト雖モ最高ガ百九十九ニ止
マッテ居リマス、又世界物價ノ標準ニナル倫敦ノ相場ト云フ
モノモ、昨年ノ十二月ハ明治三十三年ニ比シテ二百二十
デアル、總テノ標準カラ言ヒマシテモ今日日本ノ銅價ト云フ
モノハ一般物價ノ寧口例外的ニ低イ所ニ在ルノデアリマス、
斯ノ如ク觀來リマスルト云フト、完全ナル自給自足ノ域迄
ニ發達シタ工業ノ思惠ト云フモノガ、至大ナルコトヲ吾々ハ
感ズルノデアリマス、免モ角モ日本ノ原料ニ用井、日本ノ需
要ヲ充シ、サウシテ海外ニ供給スル餘力ヲ存スル迄ニ發達シ
Yタ所ノ鑛業ヲ有スレバコン、此場合ニ於テモ斯ノ如キ安價
ナルモノヲ使フコトガ出來ルノデアル、併ナガラ同時ニ玆ニ考
ヘナケレバナリマセヌノハ、銅ヲ取卷ク所ノ總テノ事業、總テ
ノ物價ト云フモノガ何レモ、非常ナル騰貴ヲ現シテ居ル、是
ニ於テカ銅鑛業ノ苦ミト云フモノハ一層深甚ナルモノデア
ルト考ヘナケレバナラヌノデアリマス、若シ今回ノ救濟策-
保護策ヲ等閑ニ付スルト云フヤウナ事ガアッタナラバ其結
果如何ト云フコトヲ亦大ニ考慮シナケレバナリマセヌ、是ハ
政府委員ノ說明モ大ニ混ッテ居リマスカラ申上ゲマス、若シ
此事業ヲ等閑ニ付シテ何等救濟ノ行ハレナカッタ場合ニ於
テハ、ドンナ事ガ起ルカ恐ルベキ事ガアル、第一ニ困ルノハ此
勞働爭議、是ガ盛ニナル時分ニハ十六万以上ノ坑夫ヲ使
ヒ、今日ト雖モ尙ホ七万八千ノ坑夫ヲ使シテ居ル所ノ金
屬鑛山殆ド其全部ハ銅業ニ從事シテ居ルノデアリマスガ、
此始末ヲドウスルカ、現·ニ昨今デモ足尾、小阪或ハ飯盛、或
ハ木戶ケ澤ト云フガ如キ勞働爭議、勞働騒擾ト云フモノハ、
今後益〓盛ニナラザルヲ得ヌノデアリマス、又之ニ伴ッテ或ハ
銅山ノ爲ニ出來夕所ノ村落-部落、市町村ト云フヤウナ風
ノモノガ、中ニハ立派ナ數万ノ人口ヲ有シテ居ル所ノ市街ガ
銅山ノ部落ト共ニ非常ニ暗憺タル形勢ニナルデアラウ、其
繁盛ヲ失フノハ當然ノ事デアリマスガ、非常ニ暗憺タル有樣
ニナルデアラウト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、次ニ無形ノ
財產デアリマスガ、從來我國ニ於テ大學、高等工業或ハ各
種ノ専門學校ニ於テ〓成シタル所ノ多數ノ採鑛治金ノ俊
才ナドト云フ者ハ、其學術ト共ニ墜落シテシマフコトニナル
デアラウ、又資本的ニ之ヲ中シマスレバ、今日マデ活動シテ
居フタ所ノ三億餘圓ノ銅山資金、精煉資金ナルモノガ、玆ニ
其活動ヲ止メテ、單ニ活動ヲ止メルナラバ宜シイガ、殆ド將
來救フコト能ハザルマデニ、從來ノ固定資產ヲ消盡シテシマ
ウデアラウ、卽チ一旦事業ヲ廢シマスレバ地下數百尺若クハ
數千尺ノ坑道モ、坑木ハ府レ而シテ排水ハ益〓溜リ、內外ノ
機械設備等ハ全ク朽廢ニ歸スルト云フコトヲ考ヘナケレバ
ナラヌ、若シサウナリマスレバ他日再ビ救フベカラザル狀態ニ
ナルト考ヘナケレバナラヌ、次ニハ世界生產額ノ七割ヲ占ム
ル所ノ亞米利加ガ爰ニアル、而シテ世界生產額ノ百分ノ八
ヲ造ッテ、其第二位ニ在ル所ノ日本ガ、自分ノ製鋼ヲ廢シテ
全ク彼ニ賴ルト云フコトニナッタナラバ、其結果如何、其結
果ハ恐ルベキモノデアル、卽チ亞米利加ノ獨占權、亞米利加
ノ銅市場ニ於ケル横口於卜云フコトモ考ヘナケレバナラヌ、是
ハ戰争前ニ世界各國ガ屢、官メタ所ノ苦痛デアル、戰前ニ於
テ一封度九仙デ出來タ所ノ亞米利加ノ銅ガ、世界ノ狀況
次第デ一封度十五仙ニ賣ラレテ居ッタ、若シ我國ガ其製銅
業ヲ廢シテ全ク彼ニ賴ルト云フヤウナコトガアリマシタナラ
バ、今後決シテ日本人ハ安イ銅ヲ使フコトハ出來ナイノデア
ル、次ニ恐ルベキ狀態ハ天恵ノ損失ト云フ事デアル、卽チ今
日尙ホ存シテ居ル鑛山ハ、其損失ヲ忍ビツヽ仕事ヲシテ居ル
ノデアリマスカラ、成ベク此損失ヲ輕カラシメンガ爲二ハ、良イ所
許リヲ採ッテ居ル、政府委員ノ說明サレタ俗語デ中シマスルト、
饅頭ノ餡許リヲ喰ベテ、皮ヲ殘シテ居ルト云フ仕方デアル、是
ハ鑛山ノ統計表デ見マシテモ、各所ノ鑛山ガ其平均ノ銅含
有量ト云フモノガ益、高クナッテ居ル卽チ良イ所許リ採ッテ
惡イ所ヲ〓テヽ居ル、サウシナケレバ其損失ヲ輕減スルコト
ハ出來ナイコトニナッテ居ル、之ヲ此儘放任シテ置ケバ、流石
ノ我國ノ天惠タル銅モ、何レノ銅山モ殆ド再ビ手ノ著ケル
コト〓出來ナイ金屬ノ理沒所ニナッテシマフト云フコトヲ考
ヘルノデアリマス、モウ一ツハ先程モ申シマシタ通リ、銅ニ伴ッ
テ出ル所ノ金銀ダケデモ、一箇年ニ二千万圓近クアル、此
二千万圓近クノ金屬生產モ失フ、而シテ今日尙ホ日本ガ
時價デ消費スル所ノモノガ七八万噸ノ銅デアル、此銅ヲ全
部外國ニ賴ルト云フコトニナリマシタナラバ、是ノミデモ矢
張四五千万圓ノ海外貿易決済ニナルノデアリマス、之ガ卽
チ貿易上ノ損失トモ中スコトガ出來ルノデアル、又軍事上
カラ申シマシテモ、軍需品トシテ最モ大切ナ物ハ何デアルカ
ト云ヘバ、言フマデモナケ鐵ト銅デアル、其銅ノ獨立ヲ失フコ
トニナルモノデアリマス、又此銅ヲ一番消費スルモノハ誰人
デアルカト云ヘバ、先程モ中シマシタ通リニ、電氣事業デアル、
其電氣事業ハ是ハ將來日本ノ殆ド唯一ノ-唯一ト申シ
テハ如何デアルカ知リマセヌガ、動力トシテハ殆ド唯一ノ天
惠デアル、將來日本ノ工業ト云フモノハ其動力ヲ水力電氣
ヨリ取ラザルヲ得ヌノデス、サウ云フ事ヨリ考ヘマシテモ、此
日本ノ電氣事業ガ全ク其大切ナル原料ノ銅ヲ失ッテ、之ヲ
外國ニ賴ラナケレバナラヌト云フコトニナリマシタナラバ、寔
ニ不都合ナ次第デアル、今日マデノ日本ノ電氣事業ハ世界
ノ電氣事業ニ比シテ最モ安イ銅ヲ使クテ居ッタ、ソレガ一朝
斯ウ云フ場合ニナッタノデアリマスカラ、其場合ニハ電氣事
業ハ思ヒ切ッテ銅事業ヲ救ハナケレバナラヌト云フヤウナ關
係ニモナッテ居ルノデアリマス、デ之ヲ要スルニ斯フ云フ利害關
係カラ致シマシテ、委員ノ多數ハ本案ヲ至當ト認メタノデア
リマスガ、玆ニ國民黨ノ富永君ハ先程中シマシタル所ノ物
價政策ノ上カラ見テ、本案ニ反對ヲ唱ヘラレマシタ憲政會
ノ鈴木久次郎君竝ニ〓水留三郞君ハ本案ノ趣意二ハ贊成
デアルガ、玆ニ附帶條件ヲ附ケタイ、其附帶條件ハ二ツデア
リマシテ、第一「本法施行ノ爲メノ輸入緩和セラルヽニ至ラバ
成ヘク速ニ此法律ヲ廢棄セラレンコトヲ望ム」第二ハ物價
調節ハ今日ノ急務ナリ此方針ニ悖戾スルカ如キ法律案ノ
提出ハ政府ニ於テ當分計畫セサルコトヲ望ム」斯フ云フ希
望條件ヲ附セラレテ、此案ニ贊成セラレタノデアリマス、ソレ
カラ河上君、高見君ハ政府委員ノ說明ニ依リマシテモ、此
憲政會諸君ノ御希望條件ハ旣ニ含マレテ居ルノデアリマス
カラ、此案ハ何等ノ附帶條件無シニ、全部政府案ノ通リニ
賛成シタイト言ハレルノデアリマス、採決ノ結果河上君ノ意
見ノ通リ決シテ、詰リ政府案ノ通リニ全部決シタノデゴザイ
マス、御報告申シマス(拍手)
〇議長(奥繁三郞君)本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤヲ
御諮リ致シマス
〔「異議ナシ」「反對」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=48
-
049・議長(奧繁三郞君)
○議長(奧繁三郞君) 反對ガアリマスナラバ起立ニ依シテ
決シマス、本案ノ第二讀會ヲ開クニ賛成ノ諸君ノ起立ヲ求
メマス
〔賛成者起立〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=49
-
050・議長(奧繁三郞君)
○議長(奧繁三郞君) 起立多數、仍テ第二讀會ヲ開クニ
決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=50
-
051・岩崎動君
○岩崎動君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、第三讀會ヲ省
路シテ委員長報告ノ通リ可決確定アランコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=51
-
052・議長(奧繁三郞君)
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニハ御異議ナシト
認メマス、仍テ直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キマス
銅、眞鍮及靑銅ノ輸入稅ニ關スル法律案
第二讀會(確定議)
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=52
-
053・議長(奧繁三郞君)
○議長(奧繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、仍テ本案
ハ委員長報告ノ通リ可決確定致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=53
-
054・岩崎動君
○岩崎動君 重ネテ日程變更ニ關スル緊急動議ヲ提出
致シマス、卽チ茲ニ便宜上日程第一ニ掲ゲタル政府提出、
健康保險法案ノ第一讀會ノ續ヲ開キ、委員長ノ報告ヲ求
メ、且ツ其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス
「「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=54
-
055・議長(奧繁三郞君)
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ日程變更ノ動議ハ御異
議ナシト認メマス、仍テ日程ハ變更サレマシタ、健康保險法
案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長ノ報告ヲ求メマス、鳩
山一郎君
第健康保險法案政府提出
第一讀會ノ續(委員長報〓)
報告書
一健康保險法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致候此段及報告
候也
大正十一年三月十四日
健康保險法案委員長
鳩山一郎
衆議院議長奥繁三郞殿
〔鳩山一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=55
-
056・鳩山一郎
○鳩山一郞君 健康保險法案ノ委員會ノ經過ヲ御報告
致シマヌ、此法律案ハ災害保險ノ一部ト疾病保險トヲ同
時ニ行ハントスルモノデアリマス、卽チ勞働者ノ一時的疾病
又負傷ニ因ル短期ノ障害之ニ對シテ救濟ヲ與ヘントスルモ
ノデアリマス、尙ホ是ト同時ニ死亡及分娩ニ對シテモ救濟
スルコトニナッテ居ルノデアリマス、工場法ト鑛業法ニ於キマ
シテモ、勞働者ニ對スル救濟ガ規定セラレテ居ルノデアリマ
スガ、此法律案ガ可決ニナリマシタ後ニハ、其重複スル部分
ハ兩法共改正サレルコトニナルノデアリマス、而シテ此救濟
ヲ受ケル權利ヲ勞働者ノ合法上ノ權利トシテ認メントスル
モノデアルノデアリマス、本法ノ適法ノ範圍ハ工場法ト鑛
業法ノ適用ヲ受クル工場及事業場ニ從事スル所ノ勞働者
及下級職員ニ對シテ先ヅ適用シテ、之ニ對シテハ强制的ニ
之ヲ適用スルノデアリマス、此以外ノ工業的起業ニ於ケル勞
働者及下級職員ニ對シテハ、認可ヲ得テ、包括的ニ加入ヲ
許サルヽコトニナルノデアリマス、本法ニ於キマシテ危險ニ思ハ
ルヽコトハ、此法律案ガ通過セラレマスト、假病ヲ使シテ救濟
ヲ求ムル者ガ生ジハセヌカ、卽チ此法律案ガ怠業奬勵ニナ
リハシマイカト云フコトヲ一部ノ人ガ危惧シテ居ルノデアリ
マス、併ナガラ此危惧ニ對シマシテハ、本法ニ於キマシテ相當ナ
規定ガセラレテ居ルノデアリマス、尙假病取締ノ爲ニ大規
模ノ工場及事業場ニ於キマシテハ、之ニ健康保險組合ト
云フモノヲ設立サシテ、相互組合ニ依シテ此危險ヲ除カント
シテ居ルノデアル、其以外ノ勞働者ニ對シテハ、官營ヲ以テ
之ヲ行ハントシテ居ルノデアリマス、本案ニ於キマスル保險
給付ハ、疾病、負傷ニ對シテハ療養トシテ日給ノ六割、ソレ
カラ死亡ニ對シマシテハ日給ノ二十日分ノ埋葬料ヲ給スル
コトニナッテ居リマス、分娩ニ關シマシテハ二十圓ノ分娩費
ト日給ノ六割ニ當ル出產手當ト云フモノヲ出スコトニナッテ
居リマス、次ニ費用ノ負擔デアリマスガ、費用ノ負擔ニ付キ
マシテ保險給付ノ一割ヲ政府ニ於テ負擔スル、尙ホ監督費
モ政府ニ於テ負擔スル、其殘額ヲ工場主ト職工ニ依ッテ、原
則トシテ半分宛負擔スルト云フコトニナッテ居リマス、ソレ以
上ニ特別ノ場合ニ於テ工場主ニ於テ出スト云フコトニナッテ
居ルノデアリマス、尙ホ爭議ノ審査ニ付テハ健康保險審査
會ト云フモノヲ設ケテ、普通ノ栽判手續ニ依ル以外ニ、迅
速ニ簡易ニ審査ヲセシムル爲ニ、此委員會ヲ設ケルコトニ
ナッテ居リマス、要スルニ本案ハ先刻申シマシタ怠業ノ奬勵
ニナリハシマイカト云フコトヲ一部ノ人ガ考へル以外ニ於キ
マシテハ、一般ニ社會政策ノ重要ナル一ツノ方法トシテ、之
ヲ〓究セラレタル原內閣、之ヲ立案シテ提出セラレタル高
橋内閣ノ功績ノ上ニ特筆大書スベキモノデアルト云フコト
ヲ一般ニ考ヘテ居ル事ト存ジテ居リマス、委員會ニ於キマシ
テモ、斯樣ナ說ガアリマシテ、愼重ニ審議ヲシテ、官業勞働
者ニ付テモ、此健康保險法ガ適用サルヽヤ否ヤト云フ質問
ニ對シテ、適用スルト云フ御答ヲ得テ、滿場一致可決シタ
次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=56
-
057・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤヲ
御諮リシマス
「「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=57
-
058・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 第二讀會ヲ開クニ御異議ナシト認
メマス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=58
-
059・岩崎勲
○岩崎動君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、第三讀會ヲ省
略シテ、委員長報告通リ可決確定アランコトヲ望ミマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=59
-
060・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キマス
健康保險法案第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=60
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061・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 御異議ナシト認メマス、仍テ本案
ハ委員長報告通リ可決確定致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=61
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062・岩崎勲
○岩崎勳君 殘餘ノ日程ニ對シテ延期ノ動議ヲ提出致
シマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=62
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063・奧繁三郎
○議長(奧繁三郞君) 岩崎君ノ動議ニ御異議ナイト認
メマス、仍テ延期サレマシタ、本日ハ是ニテ散會
午後五時四十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004513242X03019220315&spkNum=63
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