第46回帝国議会　貴族院　本会議　第27号　大正12年3月24日

1. 会議録本文

本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。

• 000・会議録情報

  　　　大正十二年三月二十四日（土曜日）
  　　　　午前十時十七分開議
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　　議事日程　第二十七號　大正十二年三月二十四日
  　　　　午前十時開議
  　　第一　東京帝國大學臨時政府支出金繰入に關する法律案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會
  　　第二　大正十一年度第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第三　大正十一年度豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第四　大正十一年度特別會計第二豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第五　大正十一年度特別會計豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第六　競馬法案（政府提出、衆議院送付）　　　　　　　　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第七　遠洋漁業奬勵法中改正法律案（政府提出、衆議院送付）　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第八　大正十年法律第百二號中改正法律案（政府提出、衆議院送付）　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第九　工場法中改正法律案（政府提出、衆議院送付）　　　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十　工業勞働者最低年齡法案（政府提出、衆議院送付）　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十一　船員の最低年齡及健康證明書に關する法律案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十二　西比利亞引揚の爲損害を被りたる者等の救恤に關する法律案（政府提出、衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十三　水先法中改正法律案（衆議院提出）　　　　　　　　　　　　　　第一讀會
  　　第十四　災害地地租免除法中改正法律案（衆議院提出）　　　　　　　　　第一讀會
  　　第十五　所得税法中改正法律案（衆議院提出）　　　　　　　　　　　　　第一讀會
  　　第十六　産業組合中央金庫法案（衆議院提出）　　　　　　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十七　司法官試補及辯護士の資格に關する法律案（衆議院提出）　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十八　産業組合法中改正法律案（衆議院提出）　　　　　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十九　日本勸業銀行法中改正法律案（衆議院提出）　　　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十　郵便貯金法中改正法律案（衆議院提出）　　　　　　　　　　　　第一讀會の續（委員長報告）
  　　　　　————◇—————

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=0

  ---

• 001・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　是ヨリ報〓ヲ致サセマス
  〔小林書記官朗讀〕
  昨二十三日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日裁可ヲ奏請シ又可
  決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
  大正十二年度歲入歲出總豫算案
  豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
  同日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政府提出案ハ即日之ヲ衆議院ニ囘付セ
  大正十二年度各特別會計歲入歲出豫算案

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=1

  ---

• 002・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　是ヨリ會議ヲ開キマス、議事日程第一、東京帝國
  大學臨時政府支出金繰入ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
  〔左ノ通牒文及議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載錄ス以下之
  ニ傚フ〕
  東京帝國大學臨時政府支出金繰入ニ關スル法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  大正十二年三月二十一日
  衆議院議長粕谷義三
  貴族院議長公爵徳川家達殿
  東京帝國大學臨時政府支出金繰入ニ關スル法律案
  火災復舊ノ費用ニ充ツル爲大學特別會計法第二條ノ金額ノ外總額金六十萬
  圓ヲ大正十二年度及大正十三年度ニ亙リ每年度豫算ノ定ムル所ニ依リ一般
  會計ヨリ東京帝國大學特別會計ニ繰入ルヘシ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=2

  ---

• 003・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　鎌田文部大臣
  〔國務大臣鎌田榮吉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=3

  ---

• 004・鎌田榮吉

  ○國務大臣(鎌田榮吉君)　本案ハ東京帝國大學工學部應用化學〓室ガ、不幸
  ニモ去ヌル十月八日ヲ以テ火災ニ罹リマシテ、建物ノ大部分竝ニ諸般ノ設備
  ヲ燒盡イタシマシタ、ソレガ爲ニ學科ノ〓究竝ニ〓授上大ナル差支ヲ生ジテ
  居ル次第デアリマス、其復舊ヲ圖ラナケレバナラヌノデアリマスガ、是ニハ
  九十五萬圓ノ經費ヲ要スル譯デアリマス、而シテ同大學ノ特別會計財源ニ
  マキシテハ之ニ應ズルダケノ資金ガアリマセヌ、三十五萬圓ダケハ出スコト
  ニナリマス、從ッテ大正十二年度、十三年度ノ兩年度ニ於テ臨時ニ六十萬圓
  ヲ特別會計ニ繰入ルル必要ヲ生ジタノデアリマス、是ガ本案ヲ提出イタシタ
  次第デアリマス、何卒御審議ノ上御協賛アラムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=4

  ---

• 005・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　別ニ御質疑モナイト認メマスカラ、特別委員ノ氏
  名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
  〔小林書記官朗讀〕
  東京帝國大學臨時政府支出金繰入ニ關スル法律案
  特別委員
  子爵藤谷爲寬君子爵堤雄長君男爵古市公威君
  岡田良平君神野勝之助君男爵若王子文健君
  男爵千秋季隆君高倉虎君西川甚五郞君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=5

  ---

• 006・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　日程第二、大正十一年度第二豫備金支出ノ件、第
  三、大正十一年度豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件、第四、大正十
  一年度特別會計第二豫備金支出ノ件、第五、大正十一年度特別會計豫備金外
  ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件、承諾ヲ求ムル件、衆議院送付、會議、委
  員長報告、大原伯爵
  大正十一年度第二豫備金支出ノ件
  大正十一年度豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件
  大正十一年度特別會計第二豫備金支出ノ件
  大正十一年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件
  右承諾スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
  大正十二年三月二十三日
  右特別委員長
  伯爵大原重明
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔伯爵大原重明君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=6

  ---

• 007・大原重明

  ○伯爵大原重明君　大正十一年度第二豫備金支出ノ件、承諾ヲ求ムル件外三
  件ノ特別委員會ノ經過ト結果トヲ御報〓イタシマス、此四件ニ於テ政府ガ事
  後承諾ヲ求メマシタ金額ノ總計ガ二千三百四十七萬九千四百六圓デゴザイマ
  ス、此支出ノ形式ハ財源、或ハ其費途ノ主モナルモノハ既ニ本議場ニ於キマ
  シテ大藏當局ヨリ說明ガアリマシタカラ、私ハ茲ニ之ヲ繰返シテ御報〓イタ
  スコトヲ略シタイト存ジマス、而シテ委員會ニ於ケル質問ハ、第二豫備金
  ノ豫算外支出ノ中デ、海軍省所管ノ退職特別賜金三百六十八萬二千十一圓、
  之ニ對シテノ質問デアリマス、其要點ハ此金ハドウ云フ理由デ出シタノカト
  云フコトデアリマス、之ニ對シマシテ當局ハ大正十一年ノ勅令第四百二十八
  號此勅令ニ依ッテ軍縮制限ノ爲ニ解傭セラレタル海軍ノ職工ニ給與イタシ
  タノデアッテ、緊急已ムヲ得ナイ支出デアルト云フ答辯デアリマシタ、其次
  ハ消費節約奬勵金ノ中デ、是ガ內務省ト文部省ト農商務省ノ各省ニ支出サレ
  テ居リマス、是モ第二豫備金ナラ······之ニ對シテ質問者ハ各省ガ別々ニ支出
  シテ居ル上ニ於テ、重複シテ居ル所ハナカッタカ、又ソレガ有效ニ使ハレテ
  居ッタカト云フ質問デアリマス、之ニ對シテ當局ノ答辯ハ各省トモ協議ヲシ
  タコトデアルカラ、重複ハ致シテ居リマセヌ、又相當ニ有效ナルコトデ、有
  效ニ使用セラレタト思フ、斯ウ云フコトデアリマシタ、質問者ハ之ニ對シテ
  尙ホ經費節約ノ宣傳ヲセラレタ當時ニ於テ、消極的ニ儉約シロ、儉約シロト云
  フ宣傳ハアッタケレドモ、積極的ニ働ケト云フ宣傳ハナカッタヤウニ思フ、又
  内地產ノモノヲ使用スルヤウニト云フ宣傳ガ無カッタノヲ大變遺憾ト考ヘル、
  將來此事ニ付テ當局ハ考慮シテ貰ヒタイト云フコトデアリマシタ、之ニ對シ
  テ御答辯ハアリマセヌケレドモ、考慮スルト云フ風ニ見エマシタ、其外朝鮮
  總督府所管ノ臨時機密費四十萬圓、是ハ過激思想ガ入ッテ來マス所ノ防止ヲ
  スルノ費用デアルト云フコトデアリマス、之ニ付テハ速記ヲ止メマシテ當局
  ト質問應答ヲ致シマシタ、要スルニ總テ緊急巳ムヲ得ナイ支出デアルト云フ
  御答辯デアリマシタ、茲ニ於テ委員會ハ討論ニ入リマシテ、何等反對ノ意見
  モナク、愼重ニ審議ヲ致シマシタ結果、緊急已ムヲ得ナイモノト認メマシテ、
  採決ニ入ッテ此四件トモ全會一致デ承諾ヲ與ヘルコトニ議決ニナリマシタ、
  此旨御報告イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=7

  ---

• 008・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　唯今、大原特別委員長ノ報〓セラレマシタ各案ニ
  對シテ承諾ヲ與ヘルコトニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者多數

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=8

  ---

• 009・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　過半數ト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=9

  ---

• 010・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　日程第六、競馬法案、政府提出、衆議院送付、第
  一讀會ノ續、特別委員長報告、兒玉伯爵
  競馬法案
  右別冊ノ通修正セリ依テ及報告候也
  大正十二年三月二十三日
  右特別委員長
  伯爵兒王秀雄
  貴族院議長公爵徳川家達殿
  (非常委委員ノ修正ニ係ル條ノミヲ即刷シ其他ハ之〓
  ヲ略ス小字ハ修正文、-ハ同削除ノ符號ナリ
  競馬ノ開催ハ年二囘ヲ超ユルコトヲ得ス但シ主務大臣ノ許可ヲ受ケタルトキハ年三回開
  第二條年三囘以上競馬ヲ開催セムトスルトキハ主務大臣ノ許可ヲ受クヘ
  催スルコトヲ得
  シ
  競馬開催ノ期間ハ每囘四日內トス
  第十六條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ二百圓以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス
  -第一條ノ法人ニ非スシテ勝馬投票劵ヲ發賣スル者ヨリ又ハ第十三
  條第二號ノ停止若ハ制限ニ違反シテ勝馬投票劵ヲ發賣スル者ヨリ勝馬
  投票劵ヲ購買シタル者
  二第四條第一項又ハ【第二項ノ規定ニ依ル制限ニ違反シテ勝馬投票
  劵ヲ購買シタル者
  三第五條第一項ニ揭クル者ニシテ勝馬投票劵ヲ購買シタルモノ
  四
  三勝馬投票劵ヲ讓渡シ又ハ讓受ケタル者
  五
  四第六條ノ規定ニ依ル制限ニ違反シタル拂戾金ノ交付ヲ受ケタル者
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅合ヲ以テ之ヲ定ム
  本法ニ依ル競馬ヲ行フ法人ノ數ハ當分ノ內十一以內トス
  競馬法案特別委員會ノ報告ニ對スル少數者意見
  右貴族院規則第五十六條及第四十八條ニ依リ提出候也
  大正十二年三月二十三日
  侯爵細川護立
  子爵井上匡四郞
  荒川義太郞
  川上親晴
  湯淺倉平
  貴族院議長公爵德川家達殿
  競馬法案特別委員會ノ報告ニ對スル少數者意見
  本案ハ否決スヘキモノナリト信ス
  〔伯爵兒正秀雄君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=10

  ---

• 011・兒玉秀雄

  ○伯爵兒玉秀雄君　競馬法ニ關シマスル委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓申シ
  3>、御報告ニ先チマシテ御手許ニ參ッテ居リマスル競馬法案ノ修正案ニ付
  キマシテ正誤ヲ致スベキ箇所ガゴザイマスルノデ、先ヅソレヲ申上ゲテ置キ
  タイト思ヒマス、第二條ノ第二項ガ削除ノヤウナ形式ニナッテ居リマスルガ、
  是ハ誤リデゴザイマスルノデ、存置シテ居ルコトニ御承知ヲ願ッテ置キタウ
  ゴザイマス、何レ文書ヲ以テ正誤ハ申上ゲマスルガ、豫メ私カラ茲ニ正誤ヲ
  申上ゲテ置キマス
  〔副議長候爵黑田長成君議長席ニ著ク〕
  本案ハ一方ニ於キマシテハ國防上竝ニ產業上ノ必要ニ迫ラレ、一方ニ於キマ
  シテハ本議場ニ於テ屢〓論議サレマスル所ノ綱紀肅正ノ問題ニ觸レテ、其中
  間ニ介在シテ之ヲ解決セネバナラヌト云フ立場ニアッタノデゴザイマス、況.
  ヤ此競馬······馬劵附競馬ナルモノハ、往年一度之ヲ認メマシテ、禁止シタル
  モノヲ復活スル所ノモノデゴザイマスルガ故ニ、委員會ハ此點ニ付キマシテ
  特ニ嚴正ニ之ヲ審査スルノ必要ヲ感ジタノハ、寧ロ當然ノコトト思フノデア
  リマス、此意味ニ於キマシテ、委員會ハ開會ヲ致シマスルコト五囘、愼重ニ審
  議セラレマシタル結果、本案ニ對シマシテ三箇ノ修正ヲ認メ、過半數ヲ以テ
  之ヲ可決シ、尙ホ希望條件ヲ附シテ、是亦渦半數ヲ以テ可決シテ、今日御報
  告スルコトニ相成ッタノデアリマス、質問應答ノ大要ヲ申上ゲマスルナラバ、
  此馬政ニ關スル重大ナル法案ヲ、何故ニ馬政委員會ニ付議シナカッタノデア
  ルカ、諮問機關トシテ設置セラレタル所ノ馬政委員會ニ、本問題ノ如キ重大
  ナル關係アル法案ヲ諮問シナカッタノハ、如何ナル理由ニ基クノデアルカ、
  政府ハ馬政委員會ニ於キマシテ嚮ニ答申セラレマシタル內容ニ於キマシテ、
  大體ニ於テ馬劵ノ必要ナル御意見ノアルコトヲ認メテ、爾來法案ノ制定ニ付
  テ各方面ニ交渉ヲ致シツヽアル間ニ、段々ト時期ガ迫リマシテ、漸ク本議會
  ニ提案スルノ成案ヲ得ルニ至ッタ次第デアリマスルノデ、時日切迫ノ爲ニ遺
  憾ナガラ馬政委員會ニ付議スルノ暇ガナカッタノデアル、併ナガラ決シテ馬
  政委員會ヲ無視スルモノデモナク、其點ニ付テハ遺憾ニ存ズルト云フ答辯デ
  アリマシタ、次ニ競馬法ガ何故ニ法律ヲ以テ規定スルノ必要ガアルノデアル
  カ、往年馬劵ヲ許シマシタル際ニハ閣令ヲ以テ競馬ヲ認メ、馬劵ニ對シマシ
  テハ之ヲ默許イタシマシタル姿デアッタノヲ、其當時ニアッテハ競馬馬劵ニ關
  スル見解ガ一致シマセヌノデ、種々ノ議論ガアッタサウデアリマス、
  〔議長公爵徳川家達君議長席ニ復ス〕
  其ノ後ニ新刑法ガ制定セラレマシタル結果、馬劵ノ性質ガ明白ニ富籤ニ當リ
  マスト云フコトニ付テ、一點ノ疑ガ無イコトニ相成リマシタガ故ニ、之ヲ許
  可スル場合ニ於テハ、刑法ノ除外例トシテ法律ノ制定ヲ要スルト云フコトニ
  相成ッタノデゴザイマス、次ニ何故ニ馬劵復興ノ必要アリヤト云フ點デゴザ
  イマス、日露戰爭ノ後、經濟界ノ非常ナル好景氣ノ際ニ、唯今申上ゲマシタル
  通リ馬劵ガ許サレマシタル結果ハ、思ハザル弊害ヲ玆ニ釀シタルガ故ニ、之ヲ
  禁止スルノ已ムナキニ至ッタノデアリマスルガ、爾來年ヲ閱スルコト十餘年、
  其間、當局ニ於キマシテハ馬ノ改良增殖ニ付テ意ヲ用ヒマシタル結果其成績
  稍〓見ルベキモノガアリマスルケレドモ、統計ノ示ス所ニ依リマスレバ、近年
  馬ノ頭數ハ年々遞減ノ傾向ヲ示シ、且ツ軍縮ノ結果ト致シマシテ、軍馬ノ購
  買數ガ減少イタシマシタル結果ハ、著シク產馬界ノ衰頽ヲ來シテ、此儘ニ置
  キマスルナラバ、遞減スル傾向ト軍馬買上ゲノ減少トガ相俟ッテ將來馬匹ニ
  對シテ著シキ缺陷ヲ生ズル虞ハナイカト云フ憂ヲ懷クニ至リマシタガ故ニ、
  之ガ救濟ノ方法ト致シテハ競馬ニ其方法ヲ求ムルヨリ外ニ方法ガナイト云フ
  コトニ付キマシテ、已ムヲ得ズ馬劵附ノ競馬ヲ認メルコトニ相成ッタノデゴザ
  イマスル、而カモ前年ニ於キマスル弊害ノ起リマシタ原因ヲ考ヘテ見マスル
  ナラバ、一方ニ於キマシテハデス、馬劵ニ對シテ無制限ニ之ヲ許シタルガ故
  ニ、弊害ヲ生ジマシタル原因モソコニ存任シテ居ルト云フコトハ勿論デゴザ
  イマスルガデス、尙ホ一面ニ於キマシテハ、日露戰爭後ノ經濟界ノ好況ノ際、
  而カモ馬劵ヲ取扱フ所ノ者モ、馬劵ヲ買ヒマスル所ノ者モ、不慣レナル者ノ寄
  合ナルガ爲ニ、徒ラニ射倖心ヲ增長セシメタト云フ理由モソコニアルノデア
  リマス、今囘ノ法案ニ於キマシテハ、從前ノ經驗ニ鑑ミマシテ、苟モ弊害ヲ生
  ズベキノ原因ト認メマスル所ノモノニ於キマシテハ十分ナル制裁處罰ノ制
  度ヲ設ケ、法律ノ規定ニ依リマシテ、之ヲ制定シ、之ヲ實行スル上ニ於テ恐ラ
  クハ從前ノ如キ弊害ヲ再ビ繰返スコトハナイデアラウ、利ノアル所ニ害ノ伴
  ヒマスル事柄ハ免レ難イ所デアリマス、殊ニ此法案ニ於キマシテモデス、風紀
  廢頽ノ原因ヲ根絕スルコトハムヅカシイデハゴザリマセウガ、世界ニ殆ド比
  類ヲ見ザルガ如キ此制限ト、サウシテ處罰ノ規定ヲ設ケ、注意ニ注意ヲ加ヘテ
  制定セラレマスル此法案ノコトデゴザリマスカラ、恐ラクハ大ナル弊害ヲ是
  ガ爲ニ生ズルコトハナイデアラウ、一面ニ於テハ國防上竝ニ產業上、馬匹ノ增
  加ノ必要ノアル今日ニ於キマシテ、此競馬法ヲ今日ニ於テ復興スルコトモ誠
  ニ已ムヲ得ザルコトデアルノデゴザイマス、蓋シ競馬ナルモノハ馬ノ能力試
  驗デアルノデアリマス、能力試驗ニ及第ヲ致シマシタル優秀ナル馬匹ヲ種馬
  ト致シテ、其血ヲ各種ノ馬ニ注入スルニ於テハ馬ハ著シク改良セラレルノデ
  アリマス、又競馬ヲ致シマスル結果、需要ノ增加ヲ來スガ爲ニ產馬地ニ於キマ
  スル所ノ馬ノ增殖ヲ來スト云フコトニモ相成ルノデアリマス、一面ニ於テハ
  多數ノ國民ガ馬ト近接ヲシマスル所ノ機會ヲ生ジテ、馬ニ對スル趣味ノ向上
  ヲ來タシ、從ッテ國民ニ於ケル所ノ馬匹思想ノ普及ヲ圖ルト云フコトノ方便
  ニモ相成ルノデアリマス、斯ノ如ク致シマシテ馬劵附競馬ハ所謂本法第一條
  ニ示スガ如キ目的ヲ達スル爲ニハ他ニ求メ得ラレザル所ノ良方法デアルト云
  フ事柄ハ蓋シ誤リデナイヤウデゴザイマス、斯ノ如キ理由ヲ以チマシテ、今
  日ノ時勢ニ於キマシテ競馬法ヲ復興スルト云フ事柄ハ已ムヲ得ザルモノデア
  ルト云フ御說明デゴザイマス、尙ホ之ニ附ケ加ヘテ申シマスルノニハ、將來
  ノ產馬地ト認メテ居ル所ノ朝鮮又關東州ニ於キマシテモ是ト同樣ノ、內地ト
  同樣ノ、取締ガ出來マスルナラバ、本法ノ認メテアル程度ニ於ケル所ノ競馬
  ヲ許スコトニ於テハ毫モ差支ナイト認メテ居ルト云フヤウナ意見モゴザイマ
  シタノデゴザリマス、斯ノ如ク諸種ノ問題ニ付キマシテ質問應答ヲ重ネマシ
  タル上ニ討論ニ移リマシタノデゴザリマスル、既ニ少數意見ノ提出モゴザリ
  マスルカラ詳シク御述べニナルコトヽ思ヒマスルガ、反對論ニ付キマシテ茲
  ニ特ニ注意ヲシナケレバナラヌ所ノ事柄ハ、少數反對論者ノ論旨ガ根本ニ於
  テ二ツノ異リタル立脚點ヨリ立論サレテ居ル點デゴザリマス、一方ノ反對論
  ノ趣旨ト致シマスル所ハ、我〓ハ國防ニ付テモ產馬上ニ付テモ深ク同情ヲ有
  スルモノデアル、併ナガラヨリ以上國民ニ對シテ同情ヲ要スルノデアル、品性
  ノ墮落ヲ來スベキ所ノ競馬法ノ如キモノヲ成立セシメル事柄ハ我等ノ忍ビザ
  ル事柄デアル、馬ノ改良竝ニ增殖ハ競馬ニ依ラズトモ更ニ穩健適切ナル方法
  ニ依ルコトガ宜イト云フ反對ノ理由デゴザリマス、之ニ反シマシテ一方ノ反
  對論ノ立脚地ハ、馬券大ニヤルベシ、併ナガラ本案ニ認ムルガ如キ消極的ノ案
  デハ其目的ヲ達シ難キノミナラズ、又風紀廢頽ヲ根絕スルコトモ出來ナイデ
  アラウ、ソレ故ニ寧ロヤラヌガ宜シイト云フ議論デアリマス、一方ノ反對論
  ハ根本ノ反對論、一面ノ反對論ハ寧ロ馬劵賛成論カラ歸著イタシマシタル反
  對論トモ申上ゲテ宜シイカトモ思フノデゴザイマス、賛成ノ論旨ヲ伺ヒマス
  ルト云フト、此競馬ニ關シマシテハ、本院ニ對シテモ度〓請願トシテ現ハレ、
  且ツ我國ノ馬ノ狀況ヲ見マスルナラバ、各國ニ比シテ大ニ劣ル所ガアル、又
  年々今日ノ如キ頭數ニ於テ遞減ノ傾向ヲ示ス上ニ於テハ何等カノ茲ニ方法ヲ
  取ッテ馬ノ增殖改良ヲ圖ラナケレバナラヌ、況ンヤ本案ノ如キ弊害ト認ムベ
  キ諸點ニ付テハ最モ深キ注意ヲ拂ハレテアル上ニ於テハ、本法ヲ施行スルト
  云フ事柄ニ付テ毫モ差支ガナイデアラウ、一面ニ於テハ國防上及ビ產業上ノ
  要求ヲ充タシ、一面ニ於テハ風紀廢頽ノ虞モナイト云フ法案ニ對シテハ之ヲ
  賛成セザルヲ得ナイノデアルト云フ御議論ノ要旨デアリマス、大體ノ討論ヲ
  終リマシテ、大體ニ付テノ可否ヲ問ヒマシタ所ガ、本案ハ大體ニ於テ之ヲ可ト
  スルト云フ意見ニ過半數ヲ以テ決シマシタノデアリマス、次デ修正案ノ提出
  ト相成リマシテ、修正案ニ付キマシテ之ガ決ヲ採リマシタノデゴザイマスル
  ガ、修正案ハ旣ニ御手許ニ差出シテゴザイマスルカラ、茲ニ朗讀ヲ省キマ
  ス、省キマスガデス、第一ニ競馬ノ回數ヲ減ジマスル所ノ事柄ハ、競馬カラ生
  ジマスル所ノ弊害ノ一ツノ原因ハ競馬興行ノ囘數ノ餘リ多過ギルト云フコト
  ニアリト云フ議論カラ致シマシテ、原案ニ於キマシテモ相當ノ取締回限ハゴ
  ザリマスルガ、尙ホ一層之ヲ明確ニシ、其制限ヲ明カニ致シマシテ、原則ヲ
  二囘ニ致シ、已ムヲ得ザル時ニ於テハ三囘マデ之ヲ許スト云フコトニ致シマ
  シタノデゴザリマス、次ニ罰則ノ改正デゴザリマスルガ、原案、本法第五條
  ニ於キマシテ學生竝ニ未成年者ニ馬劵ヲ賣ルコトヲ禁ジテアルノデゴザリマ
  ス、賣ッタ者ハ之ニ對シテ嚴罰ニ處セラレルコトニナリマシテ、未成年者竝
  ニ學生ニ對シテ苟モ馬劵ヲ賣ルコトハ相成ラヌト云フ規定ガアルノデゴザリ
  マス蓋シ未成年者竝ニ學生ニ向ッテ馬劵ノ如キモノヲ購買セシムル事柄ハ、
  成ルベク之ヲ避ケタイト云フ希望ニ基イテ居ルモノデアリマスルガ、元〓此
  取締ハ頗ル困難デアリマス、併ナガラデス、成ルベク其弊害ヲ除去スルコト
  ニ付テノ完全ヲ期セムガ爲ニ、獨リ馬劵ヲ賣ッタ者ヲ罰スルノミナラズ、之ヲ
  買ッタ所ノ未成年者竝ニ學生ニモ處罰ノ規定ヲ設ケテ、學生竝ニ未成年者ヲ
  シテ馬劵ヲ買フコトノ出來マセヌヤウニ致シマシテデス、其弊害ノ根本ヲ除
  去スルコトニ努メムガ爲ニ此修正ヲ加ヘタノデゴザリマス、次ニ附則ニ於キ
  マシテ修正ヲ加ヘマシタノハ、競馬ノ弊害ノ起リマスルノハ其囘數ノ增加ス
  ルノト、モウ一ツハ競馬ヲ行ヒマスル所ノ場所ノ濫設等ニアルノデアリマス
  ルガ故ニ、此點ハ法律ヲ以テ之ヲ制限イタシテ置キマシテ、現在ゴザイマスル
  トコロノ十一箇所ヲ限度ト致シマシテ、ソレ以上ハ政府ガ漫リニ之ヲ增加ス
  ルコトノナイヤウニ致シ、成ルベク其場所ガ少クシテ弊害ノ少カラムコトヲ
  希望スルノ精神ヨリ致シマシテ、之ヲ十一箇所以內トスルコトニ茲ニ修正ヲ
  致シタノデゴザイマスル、此修正案ハ唯〓申上ゲマシタル通リニ、過半數ヲ
  以テ可決セラレタノデゴザイマス、本法ハ唯今申上ゲマシタル通リニ、原案
  ニ對シマシラ、三箇條ノ修正ヲ加ヘ可決セラレマシタノデゴザリマスガ、尙
  ホ政府ニ向ッテ、競馬ノ施行竝ニ運用上ニ付テ過ナカラシメムコトヲ期セシメ
  ルガ爲ニ、更ニ是ニ希望條件ヲ付ケマシテ、政府ノ責任ヲ明カニ致シタノデ
  ゴザイマス、希望條件ノ意味合ハ政府ガ國防上竝ニ產業上競馬ノ必要ハ認メ
  ルケレドモ、尙ホ馬劵ヲ許ス場合ニ於テハ、風紀ノ廢頽ヲ來スノ虞ガアルガ
  故ニ、是ガ監督上ニ付テハ、十分ノ注意ヲシテ、其弊害ノナキコトヲ期セラレ
  ムコトヲ望ムト云フ意味合ヲ以チマシテ、希望條件ヲ附シタノデゴザイマス、
  斯ノ如ク原案ニ對シテ修正ヲ加ヘ、且ツ又是ニ希望條件フ附シテ本案ニ付テ
  ノ完全ヲ期シマシテ、以テ今日現下ノ缺陷デアリマスル所ノ、馬匹ニ對スル
  產業上竝ニ國防上ノ缺陷ヲ補フコトニ致シ、且ツ又綱紀肅正ノ點ニ付テ、
  其弊害ノ成ルベク少ナカラムコトヲ期シテ、修正竝ニ希望條件ヲ附シテ委員
  會ハ可決イタシタノデゴザイマス、大體委員會ノ經過竝ニ其結果ヲ御報〓申
  上ゲマシテ、皆サンノ公平ナル御判斷ヲ仰グ次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=11

  ---

• 012・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　別ニ御質疑モナイト認メマスルカラ、是ヨリ通〓
  順ニ依リマシテ討論ノ爲ニ發言ヲ許シマス
  〔土方寧君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=12

  ---

• 013・土方寧

  ○土方寧君　唯今日程ニ上リマシタ此競馬法案デゴザイマスルガ、是ハ政府
  提出ノモノデゴザイマシテ、本員ハ多數閣員ノ御性格ニ徵シマシテ、政府ニ
  信賴シテ居ルモノデゴザイマスケレドモ、何ト致シマシテモ、四十年ノ長イ
  〓職ニ在ル身ニ取リマシテハ、斯ノ如キ法案ニ對シマシテハ、極力反對セザ
  ルヲ得ナイノヲ誠ニ遺憾トスル次第デゴザイマス、先刻モ本案ノ委員長ノ
  御報告ノ中ニ御話ガアリマシタ通リニ、此馬劵附ノ競馬問題ハ今日初メテ
  起ッタコトデハナイ、數年前苦イ經驗ヲ經タモノデゴザイマス、ソレハ申ス
  マデモナク御水知ノコトデアリマセウ、併ナガラソレハ無制限ニ馬劵ヲ賣買
  ヲ致シタカラデアルト云フコトデ、今度ハ種々ノ制限ヲ設ケマシテ、其弊害
  ヲ除却スル、除却出來ナイニシテモ輕減スルト云フ趣意デ此案ガ出來テ居ル
  ヤウデアリマス、第一讀會ノ初ニ於テ質問ニ對シテ、陸軍大臣ハ此制限ヲ設
  ケ、之ヲ勵行スレバ弊害ハ除却出來ルト仰ッシヤイマシタケレドモ、ソレハ私
  ハ事實ニ於テ不能デアル、輕減スルコトスラモムヅカシイト思フテ居リマ
  ス、此制限ノ中ニ無論取締ルコトノ客易ナモノモコザイマス、其取締リ得ル
  ト思フモノヲ申上ゲテ見マスト云フト、會社ノ設立、競馬會社、競馬場ノ數
  ソレカラ每年開催スル度數等、ソレカラ馬劵ノ代金五圓以上三十圓以下ト云
  フャウナコト、ソレカラ勝馬劵ノ拂戾金額トカ、斯ウ云フノハ無論規則通リ、
  實行スルコトハ出來マセウ、反則ナキヤウニ取締ルコトハ出來マセウケレ
  ドモ、是等ノ範圍內ニ於テモ例ヘバ五圓以上二十圓以下ト云フヤウナ代金デ
  當リ劵ヲ持ッテ居ッタ者デモ、其十倍以下ニシカ得金ガ無イト云フコトニシテ
  アル、其制限ハ行ハレマセウガ、併シ外ニ色〓重大ナ點ニ於フ到底實際取締
  ルコトノ出來ヌモノガアルト思フ、例ヘバ一人一枚、尤モ同日ニ數囘競馬ガ
  アリマス、一囘ヅヽヤリマスカラ一人ノ人ガ勝負每ニ買ヘバ何枚モ買フコト
  ニナリマスケレドモ、併シソレハマア當ッタラモウ一遍ト云フコトデヤルコ
  トモアル、外ヅレタラ今度ハト云フ風ニヤルコトモアル、二度モ買ッテ當ラ
  ヌト、モウ馬鹿馬鹿シクテヤメルカモ知レヌカラ、ソレハ制限ニナリマセウケ
  レドモ、併ナガラ或ル一ツノ勝負ニ付イテモ一枚以上買ッテ見タイト云フ人
  ガアッタ場合ニ、他人ノ名義ヲ以テスレバ出來ルコトデ、僕ハ二枚買ヒタイ、
  三枚買ヒタイガ、此勝負ニハ一ツシカ買ヘナイカラ、甲ガ乙ニ御前ガ買フナ
  ラ乙ノ名前デ買ッテ吳レンカ、譯ハナイ、其事實ハナカナカ觀破スルコトハム
  ヅカシイ、讓リ渡スコトハ出來ナイト云フコトニナッテ居ッテモ、ソレハ同ジコ
  トデアリマス、讓リ受ケル人間ノ存在シテ居ッタコトヲ外部カラ認知シテ犯
  則者ヲ認メルト云フコトハ客易ニ出來ルコトデハナイ、擧證ノ困難ガアリマ
  ス、此本案ニハ競馬ニ關係シテ居ル人、、ソレカラ未成年者、成年者デアリマ
  シテモ學生、生徒、是等ノ者ハ馬劵ヲ買フコトガ出來ヌコトニナッテ居リマ
  ス、今度ハ名前ガ何トカ勝馬投票劵ト云フ名前デアリマスガ、マア皆サン馬
  劵ト仰ッシヤイマス、古イ名前カラサウ云ッテ居リマスカラ、サウ申シテ置キ
  マス、馬劵ヲ買フコトガ出來ナイカラ、色〓自分ニ買へナイカラ他人ノ名義ヲ
  以テ買フ、何デモナイコトデアル、是モ其事實ヲ觀破スルコトハ客易ナコト
  デハナイ、ソレカラ、未成年者ハ競馬場ニ入場スルコトハ差支ナイ、併シ馬劵
  ヲ買フコトハ出來ナイ、馬劵ヲ買ハウト思ッテ行ッタ時ニ一見シテ未成年者ト
  云フコトガ判ルヤウナ幼少ノ者モアリマセウ、ソレカラ本員ノ如キハ未成年
  者ト見ラレルコトハナイ、大丈夫、ケレドモ二十前後ノ人ハ一見シテ未成年
  者カ成年者カ判リマセヌ、人ニ依ッテハ年取ッタ人デモ若ク見エル人モアリマ
  ス、ソレニ馬劵ヲ賣ラウト云フ時ニ、アナタハ未成年者デハアリマセヌカト聞
  〃、正直ナ未成年者デアッタナラバ嘘ヲツクノハ厭デスカラ正直ニ申シマス、
  ソレナラ賣リマセヌ、賣ラヌト云ハレテヘコタレテ歸ッテ行キマス、未成年
  者デ馬劵ヲ買ハウト云フ者ハ嘘ノコトヲ云ヒマス、其嘘ヲドウシテ觀破スル
  コトガ出來マスカ、此成年未成年ナゾハ少シ面倒デアリマスガ、戶籍ノ證明書
  ヲ持ッテ居ル者デナケレバ賣ラヌ、私等ハ要リマスマイガ、三十以上ノ人ハ
  要リマスマイガ、十八九カラ二十四五歲ノ間ノ者ハ馬劵ヲ買ハウト云フ者ハ
  戶籍更ノ生年月ノ證明書ヲ持ッテ來ナケレバ賣ラナイト云フヤウナ規則ヲ拵
  ヘナケレハナラヌ、ソレナラ幾分取締ガ出來ル、大變面倒ナ話、學生生徒ハ
  成年デモ買ヘヌ、成年ノ學生生徒ハ多クハ高等專門學校カ、高等學校ノ者
  カ、其外大學程度ノ者デアリマセウガ、多クノ學校ニハ正服正帽ガアリマス
  ガ、學生生徒ハ馬劵ガ買へヌト云フコトニナッテ居リマスカラ、正服正帽ヲ
  著ケテ行ケバ競馬場ニ這入ルコトハ出來ルガ、馬劵ガ買ヘヌカラ、孰レ學生ニ
  非ザルヤウナ常人ノ風ヲシテ行クニ相違ナイ、ソレヲドウシテ學生生徒デナ
  イカ、アルカト云フコトガ判リマセウ、學生生徒ニ非ザレバ買フコトガ出來
  ナイト云フ規則ナラバ、正直ニ學校ノ證明書ヲ持。ッテ來イト云フコトモ出來
  マスケレドモ、學生ニ非ズト云フ證明書ヲ何處カラ得ルコトガ出來マスカ、
  此等ノ馬劵ヲ買フコトカ出來ナイ者ガ買ヒニ行ヲタ時分ニ、買フ資格ガ無イ
  者デアルト云フコトヲ觀破スルコトハ困難デアルカラ、ソレヲ避ケル爲ニハ
  サウ云フ馬劵ヲ買フコトガ出來ナイ者ニハ入場セシメナイト云フコトニナレ
  バ宜イカモ知レマセヌガ、サウナルト又入場セシメル、セシメヌト云フ時ニ、
  同ジ問題ガ起ル、到底此問題ハ事實問題トシテ客易ニ解決ガ出來ナイト云フ
  證明ノ困難ガ生ジマス、ソレデ私ノ考デハ如何ニ取締リ注意ヲナサッテモ決
  シテ十分ノ取締ガ出來ナイト考ヘル、假リニ或程度マデハ規則通リニ取締ガ
  出來ル、犯則者ノ無イヤウニト云フコトガ出來タト致シマシテモ、私ノ考デハ
  之ガ爲ニ馬券賣買ニ依テ民心ヲ惡化セシムルト云フ弊害ヲ除却スルコトハ
  勿論、減少スルコトモ甚ダムヅカシイト思ヒマス、假リニ競馬場ヲ見物ニ未成
  年者ト學生トガ行ッテ居ル、是ハ這入ッテ宜イノデアルカラ······サウスルト資
  格ノ有ル成年者ガ盛ンニ馬劵ヲ買ッテ結果ヲ待ッテ居ル、サウスルト甲ナル者
  ガ當ッテ、大金ヲ得タ、或ハ乙モ得タ、大喜ビ、其狀態ヲ見タ所ノ未成年者
  學生ガデス、自分ガ自分ノ名義デ買ヘナイガ、ドウカアンナ事ヲヤッテ見タ
  イト云フ氣ニナラヌデ居リマセウカ、大變ニ甘イ話ダト云フノデ、自分モ
  ヤッテ見タイト云フ氣ノ起ルノハ人情デアラウ、出來ナイ時ハ他人ノ名義ヲ
  以テスル······判レバ犯則ヲ敢テセシムルニ至ル、是ハ場內ニ於ケル影響デア
  リマスガ、競馬場外世間ニ此馬劵熱ノ弊害ト云フモノハ廣ク及ブト思ヒマ
  ス、假リニ先刻想像シマシタ當リ券ヲ得タ、大金ヲ得タモノガ甲デアッタ、
  甲ガ如何ハシイ遊蕩家デアッタト假定シマス、大喜ビ、家ヘ歸ラヌデ豫テ心
  安クシテ居ル戶籍ニナイ親類筋ノ異性ノ者ト歡ヲ其ニシタイト云フ考デ、行
  キツケノ料理屋或ハ待合ニ上ッテ呼ンデ、其有リシ所以ヲ話ス、初メハ一向
  餘リ甘イ話デ眞ニ受ケナカッタ、色〓話シテ見ルト云フト、私ナゾハ子供デ
  アッタガ、姐サンカラ聞クト云フト、前ニ「バケツ」トカ馬劵トカ云フモノガ
  アッテ大變ニ景氣ガ好カッタサウダ、ソレデスカラ今度ハ名ハ變ヲテ居ル、勝
  馬投票劵ト云フ名ニナッテ居ル、名ハ大變立派ニナッテ居ルケレドモ、同ジモノ
  ダ、斯ウ云フヤウナ譯ダ、自分ハ偶〓ヤッタラ大變澤山儲カッタ、大喜ビデ話
  ヲスル、サウ云フ譯ナラドウカ妾ニ「ダイヤモンド」デスカ、天然眞珠ノ指環デ
  モ買ヲテ頂載、鼻下長先生オオ好シ好シト云ッテ買ッテヤル、サウスルトソレ
  ヲ嵌メテ朋輩ニ見セ散ラカス、其譯ヲ話シテ聞カスト大評判、彼等ノ間ニ忽
  チ其噂ガ擴ガッテ、大變ナ面白イコトガ始マッタ、今ノ政府ノ御頭サンハ軍人
  サンダト云フコトニ聞イテ居ル、私共ハ餘リ御目ニ掛ラナイガ、固イ方ダト
  云フコトデアルガ、案外碎ケタ方ダ、此調子デハ景氣モ直ラウ、私モ潤フデ
  アラウト云フヤウナ譯デ、彼等ノ間ニ非常ナ評判、中ニハ頌德表デモ建テヤウ
  カト云フ詮議サヘモ始マラウト云フ騒ギ、ソレ等ノ異性ガソレソレ御心安イ
  人〓ニ〓度競馬ガアッタラ伴レテ行ッテ下サイト云フ風ニ言フ、斯ノ如クニシ
  テ競馬熱ガ花柳界ニ蔓延スルコトノ速イコトハ恰モ流行性感冒ノ如シ、感冐
  ハ動モスレバ人命ヲ奪ヒマス、恐ロシイモノデアル、然ルニ馬券熱ハ生命ニハ
  別條ナイカラ心配ハ無イヤウデアリマスガ、本人ニハ却ッテ有害ト思ヒマス、
  ナゼデアルト申シマスト云フト、流行性感冐ナリ、其他ノ虎列刺ナリト色〓ノ
  激烈ナル傳染病、何レモ恐ルベキモノデアリマスガ、如何ニ注意シテモ感染セ
  ヌト云フコトハ言ヘマセヌガ、多クハサウ云フ病氣ニ罹ルノハ不注意ノ招ク
  所デアリマス、其病氣ニ罹ッタ上デアリマシテモ、平生衞生ノ心掛ガアッテ、
  規則正シイ生活ヲシテ居ル强健ナ者デアリマスナラ、抵抗力ガアリマスカ
  ラ、自ラ失フニハ至ラヌ場合ガ多クアリマス、病死スル者ハ、誰モ好ンデ病
  氣ニナラヌガ、多クノ場合ニハ自業自得デアリマス、サウ云フ人ガ此世ノ中ニ
  澤山居リマスルト云フト、實ハ一人前ノ活動力、能力ト云フモノハ少イ譯デ
  アリマス、故ニ人口過剰ニシテ、捌ケ口ニモ困ッテ居ル今日、斯ノ如キ人ニ
  對シテハ情ニ於テハ忍ビマセヌガ、不注意ノ招ク所ノ結果、病死スル者ガア
  ルト云フコトハ或ハ人智測ルベカラザル所ノ天然自然ノ攝理デアルカト思ヒ
  マスル、所ガ馬劵〓ハ先刻モ申ス通リ人命ヲ奪フ恐レハアリマセヌ、身體ニ
  障リノナク、而カモ其健全ナル精神ヲ傷ケルモノデアリマス、之カ頗ル恐シ
  イ、健全ナラザル精神ヲ有ッテ居ル者ガ此社會ニ多ク居ルト云フコトハ、諸
  般ノ弊害ノ本源デアリマス、原因デアルノデアリマス、先刻來面白クナイ例
  デアリマスケレドモ、花柳界ノコトヲ御話シマシタガ、斯ウ云フモノハ一體
  何ト言ヒマスカ、英語デ云フト「ネセサリーデヴイル」、惡イモノダガ、ドウ
  モ除ク譯ニ行カヌ、仕方ナイモノラシイ、ドノ文明國デモ裏面ニハ是ト同ジ
  ヤウナモノガアルヤウデアリマシテ、仕方ガアリマセヌガ、ナラウコトナ
  ラ、斯ウ云フ社會ノミニ斯ウ云フ弊害ガ止ッテ居ルナラ、敢テ意トスルニ足
  リマセヌガ、併ナガラ殘念ナコトニハ我國ノ現狀ニ於キマシテハ是等ノ花柳
  界ノ人〓ニハ現在朝野諸方面ニ於テ勢力ヲ有ッテ居ラレル方ニ對シテモ隱然
  宣傳ヲスル魔力ヲ有ッテ居ルト云フコトデアリマス、決シテ此關係ハ輕視ス
  ベキモノデナイト思フ、今ハ勝籖ヲ引當テタ人ガ遊蕩家デアッタト假定シテ
  御話シマシタ、花柳界ノ方面カラ馬劵熱ヲ傳播セシムルコトガ可ナリ勢力ガ
  アテウト思ヒマスガ、他ノ方面ヲ顧ミマシテ、假リニ先刻申シマシタ甲デア
  リマス、甲ガ良家ノ主人デアッタ、不時ノ金ヲ得テ大喜ビ、一刻モ早ク家ヘ
  歸ッテ妻子ニ其喜ビヲ告ゲタイト思ッテ歸リ途、電車ノ停ルノモモドカシイ
  位大喜ビ、歸心矢ノ如ク、電車ガ停電シテ思フヤウニイカナイ、モガキモ
  ガイテヤット歸ッテ玄關ニ這入ルト、「運ガ向イタゾ」ト云ッテ、歡聲ヲ發シテ飛
  込ンデ來ル、サウスルト奥サンガ何事ガ起ッタカ氣デモ狂ッタノデハナイカト
  眞靑ナ顏ヲシテ「アナタドウカナサッタノデハアリマセヌカ」ト驚イテ飛ンデ
  來ル、サウスルト旦那モ自分ガ嬉シカッタカラ、夢中ニナッテ大聲ヲ擧ゲテ這
  入ッテ來タガ妻君ガ眞靑ナ顏ヲシテ居ルノデ、御主人モ驚イタガ、「心配スル
  コトハナイ、好イコトガアッタノダ、何デソンナ靑イ顏ヲスル、ドウシタノ
  ダ」「アナタドウシタノデス」斯ウ云フ譯ダ、有リシ因緣ヲ話ス、ヤット解ッタ、
  ソレハマア可カッタ、胸ヲ撫デ下シテ大喜ビ、「デハ御願ガゴザイマス、モウ
  前カラ何度モ御願ヒシヤウト思ッテ居リマシタガ、外行キノ著物ガモウ何ト手
  ヲ入レテモ、著テ出ラレマセヌ、アンナモノヲ著テハ御顏ニ障ルカラ、行カ
  ナクチヤナラヌ所モ自然不義理ヲスルト云フコトニナリマスカラ、斯ウ云フ
  不時ノ金ガ這入ッタ時コソ幸デスカラ、ドウゾ一枚新調シテ下サイ」「ヨシヨ
  シ」其話ヲ夫婦デシテ居ルノヲ小學校卒業間際ノ坊チヤンガ何ダラウカト立
  聞ヲシテ居ッタガ、話ノ濟ムノヲ待チ兼ネテ、「オ父サン御目出度ウ、私ニハ
  自轉車ヲ買シテ下サイ」「御目出度ウトハ何ンノコトダ」「私聞キマシタヨ、御
  母サント、御話ノコト、私ニハ自轉車ヲ······」「ソンナモノハ不用ダ」「學校ヘ
  乘ッテ行キマス」「學校へ步イテ行ケバ宜イ」「ソレモサウデスガ、步クノハ足
  バカリ、自轉車ニ乘ルト腕モ使ヒマスカラ、是ハ呼吸モノダサウデ、運動ニ
  モナリマス、ソレタラアナタハ何時デモ靴ガ痛ンデ仕樣ガナイト小言ヲ仰シ
  ヤルヂヤアリマセヌカ、隔日ニ乘リマスト、年ニ二足要ルモノハ一足デ濟ミ
  マセウ、自轉車ハ大切ニスレバ、二年ヤ三年保チマス、經濟ヂヤアリマセヌ
  カ」ナカナカ悧巧ナ坊チヤン、御父サンモ坊チヤンノ物心ノ付イタノガ心中
  嬉シイ、金ハアルモノダカラ「ヂヤ買ッテヤラウ」大喜ど、サウスルト妹サン、
  一ツ違ヒ、是モ小學校ヘ行ッテ居ル、是モ歸ッテ來テ「御父サン御目出度ウ」
  「御前ノ知ッタコトヂヤナイ」、「能ク分ッテ居リマスカラ、御雛サンヲ買ウテ下
  サイ、「何ダ」「此間御友達ノオ梅サンノ所ヘ行ッタラ御雛サンヲ飾ッテ、澤山御
  友達ガ集ッテ、樂ンデ居リマシタ、家ニハチットモアリマセヌノデ、羨シクテ
  堪リマセヌ、私ニハドウカ御雛サンヲ買ッテ下サイ」、「御節句ハモウ濟ンダヂ
  ヤナイカ、來年ニナッタラ買ッテヤラウ」「ソレハ御父サンイケマセヌヨ、羽ガ
  生エテ飛ンデ來タヤウナ御金デスカラ、來年マデハアリツコハナイ、來年ノ
  コトヲ言フト鬼ガ笑フト云ヒマス、スグ買ッテ下サイ、サウスレバ今カラデ
  モ雛サンヲ買ッテ、御友達ヲ呼ビマス、政府デサヘ追加豫算ヲ出スト云フ世
  ノ中デスカラ、宜イヂヤアリマセヌカ」、ナカナカ理窟ヲ云フ御孃サン、「ヨ
  シヨシ」、到頭買ッテ貰フ、サウシテ妻子トモ大喜ビ、ソコデ又妻君提議シテ
  言フノニ、「マダドウモ私ノ胸算用ヂヤ御金ガ餘ルヤウダ、二度位當込ンデ
  モ四百圓儲カル、十位デアルカラ、二十圓デ二百圓、マダ殘リマス、ソレデ
  ドウカ女中ニモ木綿物デ宜シウゴザイマスカラ、反物一反ヅツデモ買ッテヤッ
  テ下サイ、他人ノ子供ダト云ヒマシテモ、一所ノ家ニ住ッテ、一ツノ竈ノ飯
  ヲ食ッテ、我〓ヲ世話シテ吳レルモノデアリマセヌカ、一體此頃ハサウ云フコ
  トガ西洋カラ渡ヲテ來タノヂヤアリマセヌカ、勞資衝突トカ、或ハ階級戰爭ト
  カ、私共ノ解ラヌムヅカシイコトヲ言ヒマスガ、畢竟私等ノ考ヘル所デハ女
  ノ考ヘデアリマスケレドモ、皆自分ダケ宜イコトヲシヤウト云フ利己心ド云
  フモノガ、增長シタ結果、アヽ云フ結果ニナッタト思ヒマス、互ニ持合フ、世ノ
  中ハ相持デアリマスカラ、女中ニモ斯ウ云フ時ハ喜バシテヤレバ、御互ノ爲ヂ
  ヤアリマセヌカ」ナカナカエライ見解ヲ持ッテ居ル人デス、フン、成ル程ソレモ
  尤モダ、ト其建議ヲ採用スル、サウスルト各〓反物ヲ買ッテ貰ッテ悅ブ、一 九〇、
  同馬劵大明神、萬歲ト云フヤウナ譯、歡喜屋内ニ滿ツ、是ガ屋内ニ止マレバ宜
  イノデアリマスガ、向フ三軒兩隣リニ響キ渡ル、何ダラウ御隣リハ······何ノ
  騷ギデアラウト不思議ニ思フガ、何カ善イ事ガアッタニ相違ナイカラ、別段
  心配アルマイト云フヤウニ、近所ノ者ガ噂シテ居ルト云フト、魚屋ガ來テ、
  臺所デ謂レ因緣ヲ女中カラ聽ク、ソレヲ又ソレソレ御得意先ニ行ッテ傳ヘルト
  云フト、家〓ノ臺所ヨリ奧ヘ傳ハル、斯ウシテ忽チ馬劵ノ噂ガ擴マル、細君
  ガヤット新調ガ出來タト云ッテ親粕ヤ心安イ者ノ所ヘ行ッテ、其新調ノ出來タ
  譯ヲ話ス「ソレハ旨イモノデスナー、ヤッテ見ルベキモノデスネー」、ト云フヤ
  ウナ話ガ度〓アル、男ノ子ハ自轉車ニ乘ッテ勢ヨク小學校ヘ行クト、學校友
  達ガ大勢捉ヘテ「豪氣ダナードウシタノダ」、「斯ウ云フ譯ダ」ト言ッテ話スト云
  フト、ソイツハ面白イ、ト云フヤウナ譯デ、ソンナラ僕等モ歸ッタナラバ御
  父サンニ今度此次ニ競馬ガアッタラ連レテ行ッテ戴ク、ソウシテ當ッタラ何カ
  買ッテ戴カウト甲モ行ク、乙モ行ク、丙モ行クト云フヤウニナル、大勢ノ學校
  デスカラ·····所ガ其ノ中ニ丁ナラ丁ト云フ者ガアッテ、「僕ノ御父サンハ何ト
  云ッテモ聽イテ下サラナイ、アナタ達何デスネー、助勢シテ下サイ、聲援シ
  テ下サイ、サウデナケレバ到底僕ノ御父サンハ承知シナインデス」近頃ハ道
  理アル事デモ、少數ノ言フコトハ通ラナイ、大勢組ンデヤルト多少曲ッタコ
  トデモ通ル世ノ中デス、皆ンナ來テ吳レ給へ、ト丁ノ所ノ御父サンニ大勢
  行ッテネダル、ソレガ目的ガ叶ッテ可ナリ馬劵熱ト云フモノヲ普及セシメル、
  御孃サンガ又節句過ギノ雛祭リヲシテ御友達ヲ呼ブト云フト、新調ノ物デア
  ルト云フノデ、珍ラシガッテ皆ガ見ル、或ル御孃サンガ、「御內エハ澤山アル
  ガ、私ノハ二ツカ三ツカシカナイ、皆御母サンヤ、御祖母サンヤ、曾祖母サンノ
  古イモノバカリデスワ、アナタノハ現代式デ宜イワネー」、ト云ウヤウナ譯デ、
  ソレデ「私モ歸ッタラ御父サンヤ御母サンニ御願シテ、現代式ノヲ買ッテ戴キ
  タイト思フワ」、ト云フ譯デ、是モソレソレ御孃サン達ガ家ニ歸ッテソレソレ
  父母ニネダル譯デ、目的ヲ達シテモ達シナクテモ、馬劵熱ヲ宣傳スルコト
  恰モ何デスネ、此蠅ガ病毒ヲ傳染セシムルニ類スルモノガアル、以上妙ナ例
  ヲ話シテ寔ニ時ヲ費ヤシタノデアリマスガ、是ハ私ノ想像ニ過ギマセヌケレ
  ドモ、ソレカラ或ハ又誇張ニ失シテ居ルカ知レマセヌガ、併ナガラ私ハ中ラ
  ズト雖モ遠カラザル斯ノ如キ惡影響ヲ及ボスデアラウト云フコトハ信ジテ疑
  ヒマセヌ、元來此競馬法案ノ趣旨トスル所ハ、馬事思想ヲ普及スルト同時
  ニ、之ニ伴フ所ノ馬劵熱ノ弊害ヲ除却シ、又ハ減少セシメムトスル所ニアリマ
  スケレドモ、併ガラ先刻申ス通リニ其弊害ヲ除却シ、又ハ減少スルト云フコ
  トハ寔ニ容易ノコトデハナイ、實際不能デアラウカト思ヒマス、是ハ恰モ鳥ノ
  翼ノドッチカ一方ヲ切ッテ飛ベト云フノト同ジコトダラウト思フ、二ツノ羽デ
  飛ベルモノヲ、馬事思想ノ普及ト云フコトト同ジヤウニ併行シテ行ク馬券熱
  ト云フモノヽ弊害ヲ除ク、丁度片一方デ飛ベト云フヤウナコトハ出來ヌコト
  デアル、ドウシテモ併行シテ離ルベカラザル關係ニアルノヲ、弊ノミ矯メテ
  利益ノミヲ收メムトスルハ出來ルコトデハナイ、恰モ一ツノ器ニ熱湯ト氷ト
  ヲ入レマシテ、二者共ニ熱湯及氷トシテ保存セシメムトスルモソレハ出來ヌ
  ト云フコトホド矛盾シテ居ルト思フ、ソレカラ此馬劵ノ賣買ト云フコトデア
  リマスガ、是ハ本案ノ第一讀會ノ初メノ質問ニ依リマシテ、政府ノ見ル所デ
  ハ、賭博デハナイガ、先ヅ刑法ノ所謂富籤ニ相當スルモノデアル、ソレダカラ
  シテ、此競馬法ノ如キ特別ノ法律ガナイ以上ハ刑法ニ依リ刑罰ヲ科セラルベ
  キ行爲デアル、犯罪行爲デアルト云フコトハ政府デ認メテ居ル、ソレヲ此本
  案ノ趣意デハ、種々ノ制限ヲ設ケテ弊害ヲ少クスルト稱シテ、無クスルト
  カ少クスルトカ稱シテ、除外例ヲ設クル、是ガナケレバ刑法デ犯罪トナル
  者モ、此特別法ヲ以テ犯罪ニアラズ、滴法ノモノデアルト云フ例外ヲ設ケヤ
  ウト云フ、是ハ政府當局者ガ認メテ居ルノデアル、此馬劵賣買ノ如キハ、私
  ノ考ヘデハ空相場、差額取引、是モ投機ノ性質ヲ帶ビタルモノデアリマス、
  此賭博ノ······ソレカラ又勸業銀行ニ許サレテ居ル割增付債券ノ發行ノ如キ、
  是モ賭博ノ性質ヲ帶ビテ居ル、賭博犯トハ云ヘナイカハ知レマセヌ、許サレ
  テ居ルカラ無論適法デアリマセウガ、是等ノ比デハナイ、空相場ハ資金ガ要
  リマスカラ中〓普通一般ノ無資金ノ者ニハ出來ニクイモノデアル、ソレガ自
  ラ例外ニナッテ居ル、ソレカラ割增付債劵ノ如キハ免ニ角元金ガ戾ル、所ガ
  馬劵ノ方デハサウデナイ、當レバ十倍ニモナラウガ、當ラナケレバ代金全損
  デアル、此點ニ於テ最モ賭博ノ性質ヲ有ッテ居ルモノデアル、刑法デハ賭博
  ト云ハヌニシテモ、富籖ノ性質ノモノデアル、罰スルト云フコトヲ政府デ見
  テ居ルモノヲデス、特ニ除外シテ適法トシヤウト云フ實ニ驚キ入ッタ話デア
  リマス、此規則ヲ行ッテ、制限ヲ犯ス者ノナイヤウニ取締ルト云フコトハ、出
  來ヌモノト思ヒマスルガ、出來ナケレバ犯則者ガ看過セラルヽ譯、取締ガ出
  來タトスレバ犯則者ガ出來ル、此法律ニ依ッテ、多クハ罰金刑デアリマスガ、
  ソレヲ科セラルヽコトニナル、其犯罪犯則ト云フモノハ、此法律ガナケレバ
  無イノデス、競馬法ガナケレバサウ云フ犯則ガ起リヤウガナイ、故ニ本員カ
  ラ見マスルト云フト、刑法ノ除外例トシテ設ケタ競馬法アルガ爲ニ、ソレナ
  ケレバ無イ犯罪ト云フモノヲ生ゼシムルコトニナル、罪人ヲ作ルコトニナル、
  ト云フコトガ寔ニ不當デアルト思ヒマス、斯ウ云フコトマデモ敢テスルト云
  フ位ナラバ少シ比較ガ甚シイカ知レマセヌケレドモ、今日本員ノ見ル所デハ、
  人生ノ文化ノ缺陷ヲ示シテ居ルモノト思ヒマスガ、兎ニ角貧富ノ懸隔甚シ
  〃、諸種ノ方面ニ社會上色〓ノ困難ナ問題ヲ惹起シテ居ル、一方ニハ多數ノ
  貧民、一方ニハ少數ノ富豪、少數ノ富豪ハ一家一門ノ者ガ、如何ニ贅澤シテ
  モ產ヲ消費スルコトガ出來ナイ有リ餘ッタ財產、ソレガ鼠算デ殖エテ行ク、
  而カモサウ云フ階級ノ人ガ納稅ヲ怠ルヤウナコトガアル、保全會社ナドヲ設
  ケテ法律ヲ惡用シテ、適法ニ脫稅シテ居ルト云フヤウナコトモシテ居ル、之ヲ
  憤慨シテ資產ノ無イ或慈善家ガ、貧民救助ト云フコトヲ熱心ニ努メテ、富豪
  ヲ說イテ廻ルガ、ナカナカ出金者ガ無イ、モドカシクテ堪ラナイデ、一ツ取、ツ
  テ來テヤラウ、盜ンデ來テ貧民救助ヲスル、是ハ盗罪ニハ相違ナイ、動機ハ
  嘉スベシ、之ヲ除外トスル勇氣ハナイカドウカト云フ私ノ疑問デアル、是一
  比較ノ爲ニ申シタノデアリマス、當議會ノ初メニ當リマシテ、總理大臣ガ施
  政ノ御方針ニ付テ御演說ガアリマシタ、之ニ對シテ數名ノ方ガ色〓ノ點ニ付
  テ御質問ガアリマシタ、其中デ本員ガ心ニ止ッテ居リマスコトハ、確カ阪本
  君デアッタト思ヒマス、〓育勅語ト云フモノノ成績ガ一向擧ガラヌヤウデア
  ル、政府ノ見ル所如何、ト云フ質問者ニ對シテ、總理大臣ハ〓育勅語ノ完全
  ナル結果ヲ收メルト云フコトハ、容易ノコトデナイ、ケレドモ政府ハ極力努
  メテ居ルト云フ御答辯ガアリマシタ、當時本員ハ問モ尤モ、答モ尤モト拜聽
  イタシマシタ、ケレドモ其後斯ノ如キ法案ヲ政府ガ提出セラレマストニ云フ
  ト此初メ御尤ト思フタ御答辯ニモ、多少疑ヲ入レザルヲ得ナイヤウニ考ヘ
  マス、此競馬法案ノ第一讀會ノ初メニ、木員ハ約十點バカリニ付キマシテ政府
  ニ質問ヲ致シマシタ、ケレドモ當時陸軍大臣ハ御出ニナッテ居リマシタガ、
  外ニハ御出ガナク、司法省ノ政府委員ガ御出ニナリマシテ、本員ノ十點バカ
  リノ質問ニ對シテハ、丸デ御答ノ無イモノモアリマシタシ、御答ノアッタモ
  ノモ誠ニ腑ニ落チナイコトガ多カッタ、マア可笑シナコトヲ申シテ甚ダ失禮
  デアリマスガ、本員ノ經驗上多年學校デ試驗問題ヲ出シテ居リマス、其考ヲ
  以テ見マスト云フト、落第ト云フヤウナ御答シカナイ、學校ニハ再試驗ハ
  ナイ、再々出シテ聞イタ所ガ、質問ノ目的ヲ達スルコトハ出來ナイト思ヒマ
  シタカラ止メマシタ、其質問ノ中デ私ガ最モ重キヲ置イテ居リマス所ノ、本
  案ノ如キ提案ヲナサルト云フコトデアレバ、〓育勅語ノ精神ニ反スルモノデ
  ハナイカ、或ハ內閣ノ政綱トセラレル所ノ、官紀振肅ニ背反スルモノデナイ
  カト云フ質問デアリマスガ、之ニ對シテハ何モ御答ガ無カッタ、當時總理大
  臣ハ其席ニハ御出ニナリマセヌデシタケレトモ、其前デアッタト思ヒマスガ、
  上山君カラ本案ハ綱紀振肅ノ政綱ニ反スルモノデナイカト云フ御質問ニ對シ
  テ、之ニ對シテハ總理大臣ガ御答ニナッテ居リマス、ソレヲチヨット極ク大事
  ナコヽ思ヒマスカラ、此處デ朗讀ヲ致シマス「上山君ノ競馬ト綱紀肅正ト、
  之ガ關係ニ付テノ御意見ハ、一應御尤ナ御意見ト私モ認メルノデアリマス、勿
  論綱紀ヲ肅正イタシマスル上ニハ、之ニ惡影響ヲ及ボスベク考ヘラレマスル
  事柄ハ、如何ナル事柄デモ之ヲ致サナイニ越シタコトハナイト思フ、此點ニ付
  キマシテハ異論ノ無イコトデアラウト思ヒマス、今囘ノ競馬法案ニ付キマシ
  テ、其內容ニ於テ金ヲ賭ケルト云フコトガ、即チ綱紀肅正ノ趣旨ニ反スルト云
  フ御意見ハ、一應御尤ニ私モ考ヘル、此見地カラハ私ハ實ニ希望イタサナイノ
  デアリマス、併ナガラ一方ニ於キマシテハ、良イ馬ヲ作リタイト云フ希望ハ、
  國家トシテモ軍事上ノ見地カラモ、各種ノ方面カラノ多年ノ要望デアルノデ
  ス、而シテ此要望ヲ充タサウト致シマスルノニハ、今日マデ政府ノ考ヘテ居
  リマスル所デハ、此法案以外ニ良案ヲ見出シ得ナイノデアリマス、良案ヲ見
  出シ得マセヌガ爲ニ、多クノ弊害ヲ來サナイ範園内ニ於テハ、一方馬ヲ奬勵
  スルト云フ方ノ側ノ利益ガ大デアル、決シテ之ガ爲ニ弊害絕無ナリトハ當局
  ト致シテモ考ヘ得ラレナイノデアリマス、良馬ヲ得ル方ノ利益大ナリト考ヘ
  マシテ、此法案ヲ提案イタシタ次第デアリマス、故ニ綱紀肅正ト云フ一點カ
  ラ考ヘマスレバ、上山君ノ御意見ハ私ハ更ニ異存ハナイ、私一個ト致シマス
  ドードドチラカト言ヘバ希望シナイ、綱紀肅正ト云フ一點カラ考ヘマスレバ
  ······併シ良馬ヲ得ル方法ヲ考究スル上カラ見マシタナラバ、已ムナク此法律
  案ヲ提案シ、之ガ成立ヲ希望イタサザルヲ得ナイ、斯樣ナ次第デアリマス」
  此「已ムナク」ト云フコトガアッテ、私ニハ分リマセヌガ、ソレハ續イテ後デ
  御話ヲ致シマス、斯ウ云フ譯デ、實ハ總理大臣御自身ニハ本心提案ノ御趣意
  ハ無イト云フコトガ明瞭デアリマス、「巳ムナク」ガ分リマセヌ、ソレハ後ト
  デ少シ本員ノ見ル所ヲ御話シタイト思ヒマス、元來申スマデモナイコトデア
  リマスガ、我國ノ國民性ハ本來本分ヲ重ンジ、義務觀念ガ最モ强カッタ、權利
  思想ハ却ッテ乏シカッタノデアリマス、外人カラハ君子國ト目サレテ居ッタ、
  ソレハ遠イ過去ノコトデハゴザイマセヌ、明治十四年ノ頃改進黨、自由黨ガ
  勃興シマシテ、自由民權論ガ盛ンナ時代デアリマシテモ、國民全體ニ權利思
  想ガ乏シク、是デハナラヌト云フノデ、權利思想ノ鼓吹ヲ必要トシタ時代ガア
  リマシタ、然ルニ歲ヲ經ルニ從テ段々世ノ中ノ民心ガ變ヲテ來マシテ、動モス
  ルト權利ト言ヘパ自己心ヲ滿足セシメルモノノ如クニ誤解セラレテ、之ト同
  時ニ義務觀念ガ全然薄弱ニナッテ來タヤウデアリマス、實ニ歎スベキコトデ
  アル、殊ニ此歐洲大戰亂ノ影響ヲ受ケマシテ、最近ニ其弊害ガ益〓大ナルコ
  トヲ憂フルノデアリマス、此各人ニ責任觀念ガ乏シイト云フコトハ、其結果
  トシマシテ、當ニ爲スベキコトヲ爲サナイ、怠ルト云フコトニナリマス、是
  ガ諸般ノ事故ヲ發生スル原因デアルト考ヘマス、小ハ自動車電車ノ衝突、汽
  車ノ脫線、衝突、色〓ナ社會ニ事故ガアッテ、人命財產ニ損害ヲ及ボシマスガ、
  大元ハ故意ニ出ヅルデナク、少クトモ過失ニ出デルモノデアル、過失ハ何デア
  ルカト云ヘバ、各人ガ爲スベキコトヲ十分ニ忠實ニシナイ結果デアリマス、此
  爲スベキコトヲ爲サヾル人ハ、動モスルト爲スベカラザルコトマデモ爲スニ
  至ル、近年行政官廳、地方自治團體、會社、諸方面ニ於テ種々ノ不始末ガ惹
  起シテ·····惹起シテ居リマス、又疑獄事件モ近年ハ殆ド絕ヱ間ナク連續的ニ
  起ッテ來テ居リマス、何レモ相當ニ社會ニ名ヲ知ラレタ人ガ疑ヒヲ受ケルト
  云フヤウナコトガ多イ、是ハ他ノ文明國ニハ曾テ無イコトヽ私ハ思ヒマス、
  畢竟民心ガ廢頽シタコトニ起因シテ居ルト思ヒマス、斯ウ云ン事態デアリマ
  スカラシテ、何ハトモアレ、民心ヲ改善セシメ、其元ヲ正シウスルニ非ザレバ
  デス、假令現內閣ノ如ク綱紀振肅ト云フ政綱ヲ高唱セラレテモ、ソレハ空言
  ニ過ギナイコトニナリマス、此民心ノ改善ヲ圖ルト云フコトハ、本員ガ考ヘ
  ル所デハ決シテ行政ノ手段ヲ以テシテハ、容易ニ出來ルコトデナク、無論色
  〓ナ施設モ必要デアリマセウガ、行政ノ手段ヲ以テ民心ヲ改善セシメルト云
  フコトハ容易ナコトデナク、關ノ山ガ害惡ヲ豫防スル位ノコトデアラウト思
  フ、サウスレバ何ニ依テスルカト云ヘバ、〓育ニ俟ツノ外ハナイ、〓育ノ效果
  ハ容易ニ見ルコトハ出來マセヌケレドモ、氣長イ話デアリマスケレドモ、結
  局〓育ニ俟ツノ外ハ民心ノ改善ヲ圖ル手段ハ外ニナイト思ヒマス、學制發布
  以來我國ノ〓育ハ根本主義ト致シマシテ、道德體育及ビ智育ト云フモノヲ
  併行セシメルコトニナッテ居ル、本員ノ見マシタ所デハ、此三科目、イヤ三ツ
  ハ稍〓小學校ニ於テハ行ハレテ居ルト思ヒマス、此〓育ガ········ケレドモソレ
  モ其效果ノ大部分ハ家庭及ビ社會ノ爲ニ打破セラレテ居ル、中等學校以上ニ
  ナリマスト云フト、僅カバカリノ倫理ノ講釋ガ形式的ニアル位ノコトデ、マ
  ア殆ド智育一方ニ偏シテ居ル、斯ノ如キ有樣デアリマシタナラバ、何レノ時カ
  民心ノ改善ト云フコトヲ期スルコトガ出來マセウ、小學校デ習ッタモノガ後マ
  デ效果ガアルヤウナレバ、段々其者ガ一人前ノ人間ニナッテ、社會ニ働クヤウ
  ニナッタ時分ニハ、其人達ノ子モ亦同ジヤウナ〓育ヲ受ケテ來マセウカラ、
  民心ガ段々向上シ改善セラレマセウガ、今ノ所デハ家庭デ打壞シテ居ル、社
  會デ打壞シデ居ル、何ニモナラナイ、實ニ憂フベキコトデアリマシテ、〓育
  ノ任ニアル者ハ奮勵努力、良國民ヲ作ルヤウニシチクチヤナラス地位ニ居リ
  マン·然ルニデス、ドウ云フ譯デアリマセウ、往年旣ニ辛イ經驗ヲ經テ來マ
  シタ所ノ馬劵熱ト云フモノヲ、其時分ヨリ今日ハ私ノ見タ所デハ民心ハ惡化
  シテ居ルト思ヒマス、其實ニ憂フベキ時期ニ於テ多少ノ制限ヲ付ケテ、弊害
  ヲ少クシヤウト云フコトデ、ソレハ出來ルニシテモ、斯ノ如キ民心輕佻浮薄ニ
  流レ、益〓改惡セムトスル現代ニ、其惡弊ヲ助長セシメル、多少ナリトモ助
  長セシメル立法ヲナスト云フコトハ、實ニ本員カラ見マスレバ、正氣ノ沙汰
  トハ思ハレナイ、斯ノ如キコトヲスルト云フノハ詰リ〓育ノ效果ト云フ、モ
  ノヲ沒却スルモノデアリマス、恰モ權兵衞ガ種子ヲ蒔ケバ烏ガ拾フト云フ島
  ノ眞似ヲナサルモノトシカ見ヘナイ、又之ヲ賛成スル人ハ何ニシテモ鵜位デ
  アリマセウ、鵜ニモ比スベキモノデアラウ、鵜ハ御承知ノ通リ水ニ浮ンデ居
  リマス時ニハ、泰然ト首ヲ出シテ澄マシテ居リマスケレドモ、水ニ潜ッテ人ノ
  眼ニ見ヘナイ所デ魚ヲ取ッテ食フ、本案ハ衆議院ニ於キマシテ、政黨間ノ爭
  ナク、通過シテ來タヤウデアリマス、政治問題トシテ居ナイト見ヘル、純粹
  ノ風〓問題トシテ是認シタ意味デアルカト云フト、必ズシモサウヂヤナイト
  私ハ思フ、本員ハ政界ノコトニハ暗ウゴザイマスカラ、本當ノコトハ分リマ
  セヌガ、併ナガラ岡目八目ト云フコトモアリマスカラ、外部カラ洞見シタ所
  ニ依リマスト、衆議院ノ政黨ノ關係ナク、多數デ通過シテ來タト云フノハ、或
  ハ產馬地方、競馬場ヲ設置セラルベキ地方ノ選擧區ノ關係、竝ニ競馬會社ノ
  設立ト申ス所ノ利益問題ナドガ動機ニナッテ居ヤシマイカト推察イタシマス
  若シソレガ本當デアルトスレバ、其推察ガ當ッラ居ルモノト見マスレバ、比
  較的少數ノ人ノ利害關係カラシテ、國民全體ニ惡影響ヲ及ボスヤウナ立法ニ
  賛成スルト云フコトハ、其本心ヲ疑ハザルヲ得ナイ、私ナドニハドウシテモ
  正當ナコトト信ズルコトハ出來マセヌ、併シ此法案ノ主タル主張者ハ私ノ考
  ヘマス所デハ陸軍官憲デアラウト思ヒマス、陸軍官憲ガ馬匹ノ改良ノ必要ヲ
  唱ヘラルルノハ實ニ尤モナコトデ、其動機ニ少シモ疚シイ所ハナイ、私ハ其
  精神ハ諒解シテ居リマス、素人ナガラモ我國ノ馬匹ノ貧弱ナルガ爲ニ軍人ガ
  如何ニ苦心セラレタカト云フコトハ想像ニ餘リアリマス、日〓戰爭ノ時ハ
  ヤッテ見レバ、ラクナ戰デアリマシタケレドモ、併シアノ時ノ馬匹ノ貧弱ナ
  ル、兵站ナリ彈藥ナリヲ運ブ時、思フ時期ニ行ケナイト云フコトガアッタナラ
  バ、是ガ爲ニ勝敗ハドウ決シタカ分ラナイ、サゾ苦心セラレタコトデアリマセ
  ウ、マアアノ時ヤッテ見レバラクニ行カレテ宜イヤウナモノデアル、ソレカラ
  馬匹ハ多少改善セラレタノデアリマス、日露戰爭ノ時ニモ幾ラカ改善セラレ
  テ居リマスガ、誠ニ貧弱ナモノ、是亦我國開闢以來運命ヲ賭シタ大戰爭デア
  リマス、當時ハマダ飛行機ノ偵察用ノモノモ、自動車モ歐羅巴ノ方面ニハ使ツ
  テモ、他ノ方面ニハ使ッテ居ナイ、運搬用、偵察用軍馬ト云フモノハ非常ニ
  必要ナ時デアル、其貧弱ナ爲ニドノクラヰ苦心セラレタデアリマセウ、本
  員、素人ト雖モ戰場ニ臨マヌデモ、此處カラ推察シテモ、其事情ハ分リマス
  カラ、陸軍ノ方〓ガ馬匹ノ數量ヲ增ストカ改良ヲ望マレルト云フノハ無理モ
  ナイコト、本員モ是ハ十分ニ認メテ居リマス、今日デハ飛行機ヤ自動車モ出
  來テ來マシタカラ、元ホド馬匹ハ必要ガアリマスマイガ、併ナガラ我國本土
  ニ外敵ヲ受ケルヤウナコトデハ迚モナリマセヌガ、用意ト云フモノハサウ
  云フ所マデシナケレバナラヌ、サウシテ山國デ氣流ガ色〓不規則デアル所デ
  ハ自動車ヤ飛行機ノ方ガ尙ホ發達シテモ、大陸ニ於ケルト違ッテ馬匹ノ必要ガ
  一層多イデアリマセウ、ケレドモ幾ラ必要デアルト云ヒマシテモ、手段ヲ選
  バナイ、外ニドウ云フ惡影響ヲ及ボスカト云フコトモ顧ナイト云フコトハ
  實ニ驚キ入ッタ偏見デアルト思ヒマス、少シ言葉ヲ使ヒ渦ギマスケレドモ、
  馬匹ノ改良ガ必要ダト云フコトヲ一途ニ思込ンデ仕舞ッテ、左右前後········前
  後デナイ、左右後ロヲ見ナイ、馬車馬ノヤウデアル、馬匹改良ガ必要ダト馬
  車馬ノヤウニ一途ニ思込ンデ、左右後ロヲ顧ナイト云フニ至ッテハ實ニ驚
  キノ至リ、陸軍ノ軍人ガ、戰サノアル時、ソンナ偏重ナ戰略ヲセラレタラ負
  ケルニ決マッテ居ル、陸軍大臣モ國務大臣トシテ軍政ノミナラズ、政治全體
  ニ干與シナケレバナラヌノデアリマス、然ルニ斯ノ如キ偏見ニ基ク所ノ主張
  ヲ强クセラルルト云フノハ、本員ハ猪武者ノ妄斷デアルト斷ゼザルヲ得ナ
  イ、元來、此馬匹改良ト云フコトヲ唱ヘルノハ今日ニ始マッタコトデハナイ
  ノデアリマス、本員ノ聞ク所ニ依リマスト、初メ陸軍ノ管轄ノ下ニ馬政局ヲ
  新設セラレムトスルニ當リテ、時ノ政府ガ定メテ樞密院ニ諮詢ニナッタ官制
  二ハ、總裁ハ·········副總裁モ同樣デアッタカ、確デアリマセヌガ、親任官トス
  ト云フコトニナッテ居ッタ、當時ノ我國ノ大學ハ今日ノ東京帝國大學ガ單ニ帝
  國大學ト稱シテ一ツシカナカッタ時デアリマス、最高學府、唯一ノ最高學府
  ノ總長ガ勅任官デアリマス、馬政局ノ總裁ハ親任官トスル、サウ云フ官制ノ
  立案デアリマス、人ヲ馬鹿ニスルニモ程ガアルト思フ、尤モ其總裁ニ擬セラ
  レタ人ハ、前ニ親任官ノ大臣ヲセラレタ人デアリマスカラ、其人ニ對スル關
  係ガアリマシタラウケレドモ、ソレハ公私ヲ混同シタ話、故ニ此點ハ流石、樞
  密院ニ於テ反對ガアッテ勅任官ト云フコトニ改正ニナッタ、人ハ親任官ノ經歷
  ノアル人デアリマスカラ、特ニ親任官ノ待遇ヲ賜フト云フコトニナッテ、官制
  ハ勅任官ニナッタ、是ハ樞密院ガ小言ヲ言ッテ下サラナケレバ親任官ニナッテ
  仕舞フ、如何ニ馬匹ノ改良ガ必要デアラウトモ、唯一最高學府ヲ統督スル總
  長ヨリ官ガ重イト云フ理窟ガ立チマスカ、斯ウ云フコトガアルトシマスト、
  西洋ニハ本員ノ知ル所デハ西洋ノ立憲國デハ我國ニ於ケル如ク樞密院ノ活動
  スル所ハナイヤウニ思フ、ケレドモ斯ウ云フヤウナ問題ガ間〓起ッテ來ルト
  見レバ、我國立憲制ノ下ニ於テ尙ホ又憲法上ノ大權ニ基イテ樞密院ノ活動ヲ
  望マザルヲ得ナイ、陸海軍軍人ノ明治維新後、今日マデノ功績ハ實ニ偉大ナ
  モノ今日我國ガ列强、大國ノ一ニ列スルト云フコトハ主トシテ軍人ノ御蔭
  デアル、無論、國民ガ後援シナケレバ軍人獨リ御威張リニナッテモ勝テル譯
  デアリマセヌガ、併ナガラ直接ニ其任ニ當四ッテ國力ヲ發展セラレタノハ軍人
  デアル、國民一同ニ感激シテ居リマス、其代リ動モスルト外國カラハ軍國、
  侵略主義ト云フ猜疑ノ念ヲ以テ視ラレテ居ル今日、尙ホ又外交上ニ種々不便
  ヲ感ジテ居ル樣ナ譯デアリマス、外政上······内政ニ於キマシテモ先刻來申シ
  マスヤウナ鹽梅式ニ餘リ陸軍關係ノ方ガ馬匹ノ方ノコトノミヲ考ヘテ、民心
  ニドンナ惡影響ヲ及ボスカト云フコトヲ輕視サレルト云フコトデ、萬事其趣
  旨デ御進ミニナッタラ私ハ恐ル、唯今申シマスヤウナ赫々タル功績ヲ擧ゲラ
  レタ所ノ陸軍海軍ノ中デモ、陸軍關係ノ方ガ若シサウ云フ方針デ今後モ進マ
  レタナラバ、國民ノ或部分カラ、或ハ多數ノ部分カラ、陸軍ハ國防ノ爲ニ必要
  ト云フケレドモ、今ノヤウナ方針ニ行カレタラ軈テ亡國ノ因ヲナスモノデア
  ル、亡國ノ因ヲナスモノデアルト云フ風ニ見ラルヽ時ガ存外遠キ將來デナイ
  コトヲ恐レマス、本員ノ意見ハ大體盡シマシタガ、終リニ政府ニ對シテ一言
  希望イタシタイ、本案ハ一旦本院ニ御提出ニナッタノヲ直チニ御撤囘ニナッテ、
  サウシテ衆議院ニ今度ハ御提出ニナッテ、衆議院ヲ通過シテコチラヘ廻ッテ、
  今日議題ニ上ッテ居ルノデアリマスガ、一旦貴族院ニ出シテ御引込メニナッ
  テ、衆議院ニ御出シニナッタノハ、ドウ云フ譯ダラウカ、ソレハ知リマセヌ、
  ケレドモ出來ルコトナラバ、政府ニ御撤囘ヲ願ヒタイノデアリマスガ、併シ
  衆議院ヘ出シテ向フヲ通過シテ來タノデアリマスカラ、今更御撤囘ヲ願フト
  言ッテモ、ソレハ出來ル譯ハナイ、ソンナ無理ハ一申シマセヌケレドモ、總理
  大臣御自身ニハ自分ハ希望シテ居ナイト仰ッシヤル、「巳ムナク」其「已ム
  ナク」ガドウモ分リマセヌ、多分陸軍關係ノ主張ガ强イカラ「已ムナク」ダラ
  ウト思ヒマスガ、ソレハ能ク分リマセヌ、綱紀振肅ノ趣意ニ於テヤリタクハ
  ナイケレドモ、已ムナク馬ノ改良ガ必要ダカラ·······併シ馬ノ改良ト云ッテモ、
  綱紀振肅ノ趣意ニ反シテソレヲヤルマデノ必要ハナイ、「已ムナク」ハ外ノ所
  ニアルト思フ、私ノ推測ガ間違ッテ居ルカモ知レマセヌガ、本員ハサウ見テ
  居ル、是ハ餘計ノコトカ知レマセヌケレドモ、サウ云フコトヲ申シマシテハ
  總理大臣ガ今御出デニナルノニ、誠ニ失禮ニ當リマスガ、是ハ此政府ノ總理
  大臣、其人ニ對シテ別ニ御無禮デハナイト思ヒマスカラ、チヨット一言シマス、
  本員ノ見ル所デハ······無論政界ヤ政府ノ方ニ今マデ干與シタコトハアリマセ
  ヌ、全ク學究デアリマシテ實情ヲ能ク知リマセヌガ、専門ガ、専門デアリマ
  ス·····學界カラ政治ノ實況ハ注目シテ居リマス、本員ノ見タ所デハ、立憲政
  治ガ行ハレテ以來、今日マデ實際陸軍ノ官憲ヲ制御シ得タ內閣ハ一ツモナ
  イト思ヒマス、ソレヲ强イ言葉デ言ヘバ陸軍ハ我ガ帝國內ニ於テ、陸軍國
  ト云フ治外法權國ヲ造ッテ居ル感ガアリマス、今ニ其趣ガ幾分殘ヲヲ居リマ
  ス、此事ハ別ニ例ヲ舉ゲテ申シマセスデモ、最近ノ一例、テモ分リマセウ、
  陸海軍大臣ニ限ッテ武官デナケレバナラヌト云フコトハナイ、文官デモ宜イ
  デハナイカト云フ說ガ起ッタ時ニ、海軍大臣ヲ兼ネテ居ラレル總理大臣ハ、自
  分ハ同意デアルケレドモ、今ハ實行スルコトハ出來ナイ、何故出來ナイカト云
  ヘバ陸軍ガ反對スルカラ出來ナイ、斯ウ云フ譯ニナッテ居リマスカラシテ、
  私ノ考ヘタ所デハ、ドウモ總理大臣ハ自分ハ好マヌガ、已ムヲ得ナイ、已ムヲ
  得ズ御ヤリニナルト云フノハ、陸軍ガ强要スル所カラダラウト推察シマス、
  是ハ總理大臣ニ對シテ······今ノ總理大臣御一人デハナイ、今マデノ內閣ガ皆
  サウデアッタカラ、サウ云フ風ニ見ラレテモ仕方ガナイト思フ、ソレカラ次
  デ同僚ノ議員各位ニ希望ヲ申上ゲテ置キマス、本案ハ內容ニハ異同ハゴザイ
  マセウガ、先年旣ニ本院デ否決ニナッタモノデアルト云フコトデアリマス、
  新シイ問題デアリマセズ、政治問題デモアリマセヌ、全クノ風〓問題デアリ
  マスカラシテ、色〓ノ〓體ノ御協議ニ依テ、多數デ斯ウスル、アアスルト云フ
  コトモ、必ズナカラウト思ヒマス、又古イ問題デアリマスカラ、各位ソレゾ
  レモウ十分ニ御意見ハ御決定ニナッテ居ラウト思ヒマス、今更何人ガ何ト申
  シテモ、別ニ效能モナイカ分リマセヌガ、併シ先刻來屢〓申シマス通リニ、
  現時民心ガ廢頽シテ輕佻浮薄ニ流レ、益〓惡化セムトシテ居ル此場合ニ當ッテ
  何ガ必要カト云ヘバ民心ヲ改善スルニアル、善導スルニアル、サウ云フ時ニ
  於テ却テ弊害ヲ助長セシメムトスル如キ本案ニハ、何卒反對ノ御表決アラム
  コトヲ望ミマス、先帝及ビ歷代ノ御聖靈ニ對シ奉リ、我ガ帝國臣民大和民族
  ノ健全ナル精神ヲ擁護アラセラレムコトヲ、神カケテ祈リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=13

  ---

• 014・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　休憩ヲ致シマシテ、午後ハ一時三十分ヨリ開會イ
  タシマス
  午後零時六分休憩
  午後一時五十一分開議

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=14

  ---

• 015・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　是ヨリ報〓ヲ致サセマス
  〔長書記官朗讀〕
  本日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
  行政裁判法中改正法律案外一件特別委員會
  委員長侯爵中山輔親君
  副委員長渡邊廉吉君
  本日本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決シタル左ノ政府提出案ハ直ニ之ヲ奏
  上シ又承諾スヘキモノト議決シタル旨ヲ衆議院ニ通知セリ
  大正十一年度第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
  大正十一年度豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
  大正十一年度特別會計第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
  大正十一年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件(承諾
  ヲ求ムル件)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=15

  ---

• 016・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ會議ヲ開キマス、西尾子爵
  〔子爵西尾忠方君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=16

  ---

• 017・西尾忠方

  ○子爵西尾忠方君　本案ハ名年民間當業團體カラシテ本院ニ請願ヲシテ居リ
  マスル所ノ國防ニ關係ヲ有スル極メテ重要ナル法案デゴザイマス、本問題ハ
  本院ニ於キマシテ多少議論ハゴザイマスガ、之ヲ非議ナサレル方ハ、唯徒ニ
  其弊害ノアル所ヲ誇大ニ論ジラレマシテ、其利益アル所ニ向ッテハ餘リ〓究
  セラレナイヤウデアリマスガ、何事モ利害ハ相伴フモノデアリマシテ、利益
  ガ大デアレバ若干ノ弊害ハ之ヲ忍バナケレバナラナイト思フノデアリマス、
  私ハ國防ノ方面ヨリ致シマシテ馬ノ改良增殖ノ急要ナルコトヲ信ズル者デア
  リマスカラシテ、之ヲ救濟スルノニハ、各列國ノ事例ニ鑑ミマシテ、競馬ニ
  依ルノ外、他ニ適切ナル政策ガナイノデアリマシテ、是ガ爲ニハ縱シ多少ノ
  弊害ノ虞ガアリマシテモ、此弊害ハ成ルベク僅少ニスル所ノ政府ノ取締ニ信
  賴ヲ致シマシテ、本案ニ賛成ヲスル者デアリマス、私ハ唯〓木案第一條ニアリ
  マスル所ノ、競馬ノ精神トスル馬ノ改良、增殖竝ニ馬事思想ノ普及ヲ圖ルト云
  フ點ニ付キマシテ、其競馬ノ大ニ利益アル方面ニ付キマシテ其理由ヲ簡單ニ
  述べ、馬ヨリ見タル國防上ノ危機ニ付テ論究シテ見タイト思フノデアリマス、
  第一ニ馬匹ノ改良上馬劵アル競馬ニ依ル必要ナルコトヲ申シマスルト、競馬
  ハ能力ニ富ム極メテ健全ナル種馬ヲ供給スル淵源トナルノデアリマス、種馬
  ハ唯外觀上格好ノ宜イモノヲ以テ滿足スベキ時代ハ旣ニ經過イタシマシテ、
  其用途ニ對スル能力ノ發達シタモノヲ撰擇供用シナケレバナラヌノデアリマ
  ス、競馬ノ馬ハ其骨格筋肉、肺臟、心臟等ノ大ニ發達シマシテ、極メテ健全
  ナルモノデナケレバ競馬場裡ニ立ツコトガ出來ナイノデアリマシテ、此健全
  性ヲ賦與シ、能力ヲ增進シ、是ガ維持ニ努メルガ爲ニハ、公明嚴正ナル能力
  檢定機關デアル此馬劵アル競馬ニ依ル外ハナイノデアリマス、諸君モ旣ニ御
  承知ノ通リ、彼ノ有名ナル英國ノ「サラブレット」ハ全ク此競馬ノ淘汰ニ依テ
  出來上リタル種類デアリマス、而シテ其乘馬ノ改良ニ向ッテハ世界唯一ノ權
  威アル種類デアリマス、是ト同時ニ輕輓馬ノ改良ニ付キマシテモ其體形ヲ整
  ヘ、四肢ヲ堅牢ニシ、性能ヲ改善シ、健全性ヲ遺傳シ、能力、就中速力ヲ向上
  セシムルガ爲ニハ、其血液ノ若干量ヲ必要トスルノデアリマス、歐洲各國ノ
  輕輓馬ハ悉ク「サラブレット」ニ依テ仕上ゲラレテ居ルノデアリマス、即チ乘
  馬竝ニ輕輓馬ノ改良ニ向ッテハ世界共通ノ種類デアルノデアリマス、此「サラ
  ブレット」モ輓近、其速力ト共ニ持久力ヲ貴ブヤウニナリマシテ、平地競走ニ
  於キマシテハ一哩以下ノ近距離ハ殆ド其跡ヲ絕チマシテ、二哩乃至三哩ニ及
  ンデ居ルノデアリマス、又一面ニ障碍競馬モ近頃大ニ發達イタシマシテ、平
  地障碍ノ外ニ不整地障碍ノ競馬ガ流行スルヤウニナッタノデアリマス、是ハ
  起伏アル地形、或ハ水溝、障壁等ヲ設ケマシテ、全長四哩ノ間ヲ三十幾囘ヲ
  モ飛越セシムルノデアリマスガ、是等ノ馬ニナリマスト競走ノ力量ト更ニ飛
  越ノ力量ヲモ兼備シテ居ラナケレバナラヌノデアリマス、取別ケ四肢ガ丈夫
  デ飛躍ガ確實デ最モ持久力ヲ有スルモノデナケレバナラヌノデアリマス、是
  等ノ馬ハ歐洲ニテ競馬場裡ヲ退クト種馬トナッテ牧場ニ送ラレマスガ、其產
  駒ハ何レモ體格良ク關節ノ極メテ健實ナルモノガ出來ルト云フコトデアリマ
  ス、現ニ佛蘭西ノ政府ニ於キマシテモ近頃種馬ノ購買ニ際シマシテハ障碍ノ
  試驗ヲ行ッテ後、之ヲ購入スルニ至ッタサウデアリマス、我國ノ種馬ハ是マデ
  能力ト云フコトハ全ク無視サレテ居リマシタ、眞ニ馬ノ改良ヲスルニハ能力
  ニ富ミ、體格性質等健全ナルモノヲ種馬トシナケレバ所期ノ目的ヲ達スルコ
  トガ出來ナイノデアリマシテ、競馬ニ依テ檢定セラレタルモノヲ種馬ニ供用
  スルコトハ、極メテ適切ナルコトト信ズルノデアリマス、然ルニ種馬用ノ馬即
  チ「サラブレット」ハ體格、飛躍ニハ骨ガ細イト言ハルル方モアリマスガ、之ヲ
  一朝牧場ニ移シテ繁殖用ニ供シマスルト、全ク見違ヘルヤウニ、體腹······腹モ
  出テ立派ニナルノデアリマス、又骨ガ細イト言ハレマスガ、實際ハ細クナイ
  ノデアリマス、大正十年陸軍騎兵學校ニ繫養シテアリマスル所ノ輕輓馬ノ一
  種デアル所ノ「トロッター」ノ管圍ガ六寸一分デアリマスルガ、某競馬倶樂部
  ノ「サラブレット」ノ殆ド五十頭ノ平均ガ六寸四分ニナッテ居ルノデアリマス、
  又某國立牧場ノ輕輓馬「アングロノルマン」十一頭ノ平均體量ガ百三十五貫デ
  アリマス、「サラブレット」六頭ノ平均體重ハ百三十七貫ニナッテ居ルノデアリ
  マス、「サラブレット」ノ脚ハ一見細イヤウニ見エマシテモ、其實質ハ極メテ緻
  密デ、鐵ノ如ク硬ク充實シテ居リマシテ、客易ナコトデハ骨瘤ノ疾病ハ出來
  ナイノデアリマス、輕輓馬ハ骨ハ細ク見エマスケレドモガ、實質ハ粗鬆デ骨
  瘤或ハ關節軟肢ノ如キ疾病ガ生ジ易イコトハ事實デアリマス、現ニ地方へ參
  リマシテ、見聞イタシマスル所ニ依リマスルト、土產馬、即チ日本ノ在來種
  ノ輕輓馬ヲ「アングロノルマン」ナドデ改良イタシマシタモノノ中デ四肢ノ脆
  弱ナルモノヲ見マスルノデアリマスガ、之ヲ改良スルノニ「サラブレット」ヲ
  以テ矯正サレテ居ルモノヲ見マスルト、其結果ハ頗ル良好ニ見受ケラレルノ
  デアリマス、本邦ノ在來種ハ四肢脆弱デアリマシテ、關節ガ不確實デアルコ
  トガ通有缺點ニナッテ居リマスルカラシテ、之ヲ改良スルノニハ、乘馬、輓
  馬ヲ問ハズ、幾分ノ「サラブレット」血液ノ注入ト云フコトハ、當然必要デア
  ルト信ズルノデアリマス、是ガ爲ニ飼ヒ難イト言ハルル方モアリマスガ、其
  血液ガ多量ニ注入セラレタル時ニハ、或ハ其憂モアリマセウケレドモ、適當
  ニシテ配合宜シキヲ得タ時ニハ決シテ其心配ナイノデアリマス、又價格ガ
  高クナルト言ハルヽ方モアリマスルガ、能力モ加ハリ馬モ良クナッテ、其價
  格ガ高クナルト云フコトハ、是ハ當然ノコトデアリマス、元來輓馬ヤ一般農
  家ニ使用シテ居リマスル所ノ馬ハ、使用ノ途ガ廣クアリマスルカラシテ、馬
  ノ中デモ先ヅ經濟ハドウカ斯ウカ立ツ方デアリマスガ、乘用馬ハ平素其用途
  ハ局限セラレテ居リマシテ、又生產費ヲ多ク要シ、又價格モ安イノデアリマ
  スカラシテ、其經濟ガ立行カナイノデアリマス、現ニ昨年ノ靑森縣ノ輕輓馬
  產地ト、乘馬產地ノ馬市場ノ統計ヲ見マスルト、輕輓馬產地デアリマスル所
  ノ東津輕郡ノ三百四十八頭ノ平均ガ二百二十八圓ニナッテ居ルノデアリマス、
  然ルニ乘馬產地デアル所ノ八戶郡ノ乘馬ハ千四百五十七頭ノ平均ガ百五十八
  圓ニナッテ居リマス、其間實ニ六十圓ノ差額ガアルノデアリマス、斯ウ云フ
  譯デアリマスルカラシテ、乘馬ノ方面ハ特ニ國家ガ之ニ保護奬勵ヲ加フルノ
  必要ガアルノデアリマシテ、歐洲各國ノ馬政ニ於キマシテモ、馬ノ改良ト云
  ハン、先ヅ乘馬ヲ第一トスルヲ便宜ト致シテ居ルノデアリマス、甚ダシキハ
  輓馬殊ニ重輓馬ノ如キハ全ク保護奬勵ヲ加ヘラレテ居ラナイ國モアルノデ
  アリマス、殊ニ「サラブレット」ハ重輓馬ト同時ニ輕輓馬ヲモ改良スル威力ヲ
  有シテ居リマスルカラシテ、各國ガ之ヲ奬勵シ、競ウテ之ヲ種馬トスル所以
  デアリマス、今囘ノ歐洲ノ大戰ノ實蹟ニ於キマシテモ、獨佛ノ報〓依リマ
  スルト、「サラブレット」ハ外觀ニ似ズ四肢丈夫ニシテ、能力上遺憾ナク、能ク
  不完全ナル飼養、管理ニ耐ヘマスカラシテ、將來騎兵用馬ハ必ズ此血液ヲ必
  要トスルト云フコトガ結論セラレテ居ルノデアリマス、又原產地デアル英國
  ニ於キマシテモ今囘歐洲大戰ノ結果、騎兵、砲兵用馬トナリ、輕乘馬、輕輓
  馬ノ補充ヲ確實ニスルノニハ、益〓優良ナル「サラブレット」種牡馬ノ繁殖ヲ奬
  勵スベシト云フ意見ガ軍事最高幹部ニ依テ主張セラレテ居ルノデアリマス、
  斯ウ云フ譯デ馬ノ改良ニハ是非トモ競馬用馬ノ血液ハ必要デアリマシテ、其
  種馬タルモノハ競馬ニ依ッテ檢定セラレタルモノデナクテハ、能力ガ薄弱
  デ實用ニ適セヌト云フコトデアリマス、然ルニ現在眞正ノ價値アル競馬ハ今
  日マデ日本ニハナイノデアリマシテ、今囘ノ此法案ニ依テ初メテ權威アル競
  馬ガ出來、即チ能力檢定機關ガ成立シヤウト云フノデアリマスカラシテ、本
  法ハ極メテ重要ナルモノト信ズルノデアリマス、此競馬ガナケレバ能力檢
  定濟ノ種馬ノ供給ハ我ガ日本ニ於テハ出來ヌト云フコトニナルノデアリマ
  ス、第二ニハ競馬ガ如何ニシテ增殖上必要デアルカト云フコトヲ申シマスル
  ト競馬ガ盛ンニナリマスルト、、賞金モ增加イタシマスルカラシテ、馬主モ
  大金ヲ投ジテ牝馬ヲ國ノ內外ニ求メルノデアリマス、從テ馬ノ販路モ擴張ヲ
  シ、價格モ騰貴シマスルカラシテ、產馬ノ經濟狀態ガ良クナリマシテ、一 一
  其業ヲ抛ッタ者モ、再ビ生產ニ從事スルニ至ルノデアリマス、現ニ先年馬劵ノ
  默許時代ハ民間ニ於キマシテモ優良ナル牝牡馬ヲ遠ク海外ヨリ六百餘頭モ
  輸入イタシテ居リマシテ、是等ハ競馬ノ後、國內ノ繁殖用ニ移サレテ居ルノデ
  アリマス、然ルニ禁止ノ翌年ニハ是等ノ輸入ハ絕無トナッタノデアリマス、其
  當時ハ內國產馬ノ市場ノ價格モ五割程騰貴イタシマシテ、全國總馬數百五十
  八萬頭ト云フ近年ニナイ頭數ニ上ッテ居リマシタガ、現在ハ百四十六萬頭トナ
  リマシテ、十二萬頭カラノ減少ヲ見ル至ッタノデアリマス、此事實ヲ見マ
  シテモ、馬ノ增殖ト競馬ト如何ニ關係ノ大ナルカヲ知ルコトガ出來ルノデア
  リマス、第三ニハ馬事思想ノ普及ヲ圖ル上ニ、競馬ガ如何ニ必要デアルカト
  申シマスルト、我ガ國程國民ノ馬ニ沒交渉ノ所ハ世界ニ殆ド例ガナイヤウニ
  思ハレルノデアリマス、是ハ遠ク佛〓傳來等ノ關係ガ與フテ力アリマセウガ、
  知識階級者ニシテ之ヲ口ニスルノハ餘リ好マヌヤウナ風ガアルノデアリマス
  ガ、歐米ニ於キマシテハ馬ハ實ニ紳士淑女ノ好伴侶デアリマシテ、都市ノ設
  備モ亦之ニ適ウテ居リマスカラシテ、散策ニ、遊獵ニ、馬車ニ、競馬ニ、競技ニ、
  到ル所ニ馬ヲ見ザルナキ狀態デアリマス近頃我國ニモ主ナル都會ニ乘馬會
  ノ如キモノガ成立イタシマシタノハ、誠ニ喜ブベキ現象デアリマスガ、唯單ニ
  賞金其他ノミニ依リ之ヲ勸誘シテモ、效果ハ少イノデアリマスカラシテ、馬劵
  ノ如キモノヲ以テ、多クノ公衆ヲ競馬場ニ引附ケテ、漸次馬ニ接觸スル機會
  ヲ與へ、馬事上ノ知識ヲ了解セシメ、其趣味ヲ感ゼシメ、延イテ自ラ體力ヲ
  養フト同時ニ馬匹ガ國家生存上極メテ重要ナ關係ノアルコトヲ知ラシメルト
  云フコトガ必要デアラウト考ヘルノデアリマス、第四ニ申上ゲタイノハ、
  馬ノ改良增殖ガ國防上如何ナル關係ヲ持ッテ居ルカト云フコトヲ申述べタイ
  ノデアリマス、今日ノ軍隊ハ益〓機化シテ參リマシテ、兵器モ複雜ニナリ、
  多種ニシテ多量ナ兵器彈藥及ビ材料ノ運搬ヲ要スルコトヽナッタノデアリマ
  ス、現ニ四十四年前ノ普佛戰爭ノ當時ハ兵員六人ニ對ン馬一頭ノ割ニナッテ
  居リマシタガ、今囘ノ歐洲大戰ニハ有ラユル文明ノ利器ヲ利用シタニモ拘ラ
  ズ、兵員三人ニ馬一頭ノ割ニナッテ居ルノデアリマス、其損傷ノ程度モ百分
  ノ七十一ニナッテ居ルノデアリマス、之ヲ今後日露戰爭ノヤウナ戰爭ガ不幸
  ニシテアルト致シマシタナラバ、其當時日本ノ出征兵員百萬九千人ニ割當テ
  テ見マスト、三十三萬六千頭ノ馬ヲ要スルコトニナリマス、七十一「パーセ
  ント」ノ損傷ト致シマスルト之ヲ補充スルト總數五十七萬五千頭トナリマ
  スガ、日露戰爭ニ於ケル我軍ノ實蹟ニ依リマスルト、損傷ノ程度ガ二箇年以
  上ニ亙ルト、殆ド倍數ヲ要スルト云フコトデアリマシタカラ、即チ約七十萬
  頭ノ軍馬ヲ要スルコトトナリマス、其損傷ノ步合ノ多イト云フコトハ、日本
  ノ馬ガ列國ノソレニ比シ著シク遜色ノアルカラノ結果デアリマス、七十萬頭
  ト申シマスト我國總馬數ノ約半數デアリマスガ、其總馬數ノ百四十萬頭、其
  中ニハ老幼病癈等モアリマスカラシテ、之ヲ除イタナラバ我國牡馬ノ殆ド總
  動員ト云フコトニナルノデアリマス、然ルニ軍馬ノ合格率ハ牡馬六割デアリ
  マスガ、牝馬モ用フルコトトナリマスト、ズット合格率ハ下ルト思ハレマス、
  然ル時ハ國家緊急ノ場合ニ、軍馬ニ大ナル缺陷ヲ來タスト云フ譯ニナルノデ
  アリマス、先年日英同盟ノ爲ニ、當時幸ニ海上權ヲ有シテ居リマシタカラ、
  濠洲カラ一萬頭ノ馬ヲ輸入スルコトガ出來マシタケレドモガ、將來ハ斯ノ如
  キコトヲ夢想シテ居ル譯ニハ參リマセヌカラ、馬ノ改良增殖ハ實ニ國防上急
  要ノコトヽ信ズルノデアリマス、最後ニ申上ゲタイノハ、馬劵ノ射倖心ヲ挑
  發スルト云フコトデアリマスルガ、如何ニモ其虞ハアルノデアリマス、歐米ニ
  於キマシテモ之ニ付テハ矢張リ議論ガアリマシテ、英國ヲ除クノ外獨佛米ニ
  於キマシラハ一時禁止シタコトモアリマシタガ、其爲メ產馬事業ハ非常ニ衰
  退ヲ來タシ、總馬數ガ減少ヲシ、甚ダシキハ軍馬ノ補充サヘ大困難ヲ來シタノ
  デアリマス、其爲ニ何レモ三四年ニシテ之ヲ解禁シタノデアリマス、各國モ馬
  ノ改良增殖ハ競馬ニ依ルノ他ニ適當ナル方法手段ガ無イト云フコトヲ以チマ
  シテ、政府ノ相當取締監督ノ下ニ公許シテ居ルヤワナ次第デアリマス、或ハ政
  府ノ奬勵金ヲ二百萬圓又ハ四百萬圓ヲモ出シタナラバ、斯ノ如キ法案ヲ出サ
  ナクテモ宜イデハナイカト云フ御議論モアリマスルガ、今日ノ我國ノ國帑ノ
  現況ハソレヲ遺憾ナガラ許サナイノデアリマス、殊ニ今囘ノ財政緊縮ニ依リ
  マシテ、其賞金ハ益〓削減セラレテ參ッタノデアリマス、縦シ多クノ賞金ガ支
  出サレタト致シマシテ、是ハ却テ嚴正ナル競馬ガ行ハレナイ虞ガアルノデア
  リマス、眞ノ公明嚴正ノ競馬ハ馬劵アル競馬ニ依テ初メテ見ルコトノ出來ル
  モノデアリマシテ、ソレハ即チ馬主ト共ニ馬劵購買者ガ利害關係ヲ生ジマス
  ルカラシテ、最モ多クノ觀覽者ニ依テ競馬ノ勝敗ガ監視セラルヽト云フ結果
  デアリマシス、先年馬劵禁止以來政府ハ唯單ニ奬勵金ノミニ依リマシテ、ソレ
  ヲ保護奬勵スルノ政策ヲ執ッテ參リマシタガ、今日ニ於キマシテハ產馬事業
  モ一頓挫ヲ來タシマシテ、馬數モ激減シツツアル現況デアリマスカラシテ、少
  シハ權道デハアリマスルガ、此際馬劵アル競馬ヲ公許イタシマスレバ、觀覽者
  ハ多數集中スルコトガ出來、倶樂部ノ收入ガ殖エテ賞金モ大イニ增加シ、又
  收入ノ一部ヲ以テ馬匹ノ改良ノ施設ヲスルコトニ規定サレテ居リマスカラシ
  テ、政府ノ改良事業ヲ援護助成スルコトニナルノデアリマス、現ニ佛國ニ於
  キマシテ、大戰前產馬奬勵費ハ一千萬圓デアリマシタガ、其中一割五分ガ政
  府ノ支出ニ該當イタシマシテ、是ハ馬劵ノ收入ニ依ルト申シマスルカラシテ、
  國家ニ貢献スル同國ノ馬劵ノ威力モ亦大ナルモノト思ハレルノデアリマス、
  我國ノ前囘ノ失敗ハ默許ノコトデアリマシタカラシテ何等ノ取締モナク、競
  馬倶樂部ノ裏面ニ營利會社ガアリマシテ、營利ヲ目的トンタノデ事ヲ誤ッタヤ
  ウデアリマスガ、現在ノ競馬倶樂部ハ殆ド諸般ノ設備モ整ヲテ居リマシテ、且
  ツ公益法人デアリマスカラシテ、前囘ノヤウナコトハ恐ラク無カラウト思ハ
  レルノデアリマス、又政府モ法律ヲ翳シテ其內外ヲ監督イタシマシタナラバ
  社會ニ害毒ヲ流スヤウナコトハ殆ド無カラウト思フノデアリマス、萬一ニモ
  世道人心ヲ毒茶スル虞ガアリマシタトキニハ何時ニテモ此法律ニ依リマシテ
  處斷スルコトガ出來ルノデアリマス、各列國ハ之ヲ實行シテ害ナク、又白人
  ノ世界各國行ク處トシテ見ザルナキ馬劵アル競馬ノ、單リ我國ニ於テノミ是
  ガ實現セラレナイト云フコトハ、實ニ我ガ國人ノ恥辱デハアルマイカト思ハ
  レルノデアリマス、又馬劵ノ復活ヲ以テ綱紀肅正ニ結付ケル方モアリマス
  ガ、是ハ少シク御無理カト思フノデアリマス、綱紀肅正ハ官吏或ハ公人ガ、
  職務ヲ顧ミズシテ窃カニ惡事ヲナス者ヲ彈効審糺セムトスルモノデアリマシ
  テ、是ハ法人ガ國防上大關係有ル所ノ公益ヲ圖ルヲ目的トシテ、嚴正ナル制
  限取締ノ法律ノ下ニ公許セムトスルモノト同一ニ論ズベキデナイト思フノ
  デアリマス、私ハ本案ヲ仔細ニ見マスルト、寧ロ姑息ナル感ガ浮ビマシテ、
  果シテ實施上其實績ノ點ニ少シク疑ガアルノデアリマス、此點ニ於キマシテ
  ハ委員會ニ於ケル少數ノ方ノ、此本案ヲ以テ姑息ナリトシテ、無制限ニ馬
  劵ヲ許スベシト云フ意味ニ於テ、原案ヲ否決セラレタ方ト多少考ヲ同ジウセ
  ザルデハナイノデアリマス、併シ一般國民ガ馬劵ト競馬トヲ理解イタシマシ
  テ、漸次道德的觀念ノ進步發逹イタシマシタナラバ取締ヲ緩ヤカニシテ歐
  米ト同樣ノ競馬法ニ致シタイト考ヘルノデアリマス、併シ先ヅ今日ノ所ハ是
  位ノ程度ニ致シマシテ、最初ノ法案トシテハ已ムヲ得マイト思フノデアリマ
  ス、本案ハ禁止後實ニ十六年間ノ懸案デアリマシテ、政府モ馬ノ改良增殖
  上、百策盡キテ大ナル自信ヲ以テ提出サレタノデアリマスルカラシテ、私
  其取締監督ニ付キマシテハ、政府ヲ信賴イタシマシテ、即チ弊害ヲ出來ルダ
  ケ少ナクシテ大ナル利益ヲ收メルト云フ信念ヲ以テ、本案ニ賛成ヲ致ス者デ
  アリマス
  〔湯淺倉平君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=17

  ---

• 018・湯淺倉平

  ○湯淺倉平君　私ハ唯〓上程ニナッテ居リマスル競馬法案ニ反對ノ意見ヲ述
  ベル積リデゴザイマス、貴重ナ時間デゴザイマスカラ、成ルベク簡單ニ述ベタ
  イト存ジマス、暫ク御〓聽ヲ煩ハシタイノデゴザイマス、此法案ニ付キマシテ
  今朝ハ土方博士ノ〓育家トシテ德育上ノ見地ヨリ、眞摯ナル御反對ノ意見ヲ
  拜聽イタシマシタ、更ニ唯今ハ馬ニ付テ最モ該博ナル知識ヲ有セラルヽ所
  ノ西尾子爵ノ國防上本案ヲ必要トスル理由ニ付キマシテノ御高見ヲ拜聽イ
  タシマシタ、私ハ此賛否兩樣ノ御意見ニ付キマシテ、何レモ極メテ眞摯嚴正ナ
  ル態度ニ於テ、御意見ヲ御述べニナリマシタコトニ付テ、深ク敬意ヲ表シマ
  ス、大戰後世界人心ノ大動搖ノ波及ヲ受ケマシテ、我國國內人心ノ動搖モ亦
  誠ニ憂フベキモノガアルト思ヒマス、然ルニ明治四十二年ニ、一度馬劵發賣公
  許ノ弊害ニ懲リマシテ、時ノ政府ハ英斷ヲ以テ之ヲ禁止イタサレマスルシ、
  更ニ續イテ衆議院ヨリ今囘ノ如キ馬劵發賣公許ノ法律案ヲ提出サレマシテ、
  本院ニ囘付ニナリマシタ場合ニ於テ、貴族院ハ之ヲ否決ニナリマシタ、兀ハ
  第四十四議會デアッタカト存ジマスルガ、我ガ貴族院ハ馬劵公許ノ競馬法案
  ノ制定ノ請願ニ付キマシテ、之ヲ採擇セザルコトニ院議ヲ以テ決定イタシタ
  ノデアリマス、明治四十一年馬劵發賣禁止以來十五年間、內閣ノ更迭ノアル
  コト幾囘、陸軍當局ノ更迭モ屢、ゴザイマシタガ、此間當局ハ馬劵ノ發賣ヲ
  公許スルト云フコトノ弊害ヲ顧慮イタサレマシテ、今日マデ此種ノ法案ノ提
  案ヲ見ナカッタノデアリマス、然ルニ歐洲大戰ノ餘響ト致シマシテ、國內人
  心ノ動搖甚シク、朝野ヲ通ジテ綱紀振肅ヲ以テ、極メテ必要ナリトスル時代
  ニ遭遇イタシマシテ、現內閣ハ其成立ノ當初、三大政綱ノ第一ニ綱紀ノ肅正
  ヲ以テ政綱ニ揭ゲラレタノデアリマス、此綱紀肅正ヲ標榜セラルヽ所ノ內閣
  ニ於テ歷代內閣ガ躊躇逡巡イタサレマシタ所ノ競馬法案ヲ提出サレマシタ
  ノハ、誠ニ奇妙ナル出來事デアルト考ヘルノデアリマス、此法案ハ申スマデ
  モナク、馬ノ改良ヲ目的トスルモノデアリマス、馬ノ增殖ヲ企圖セラルヽ計
  畫デアリマス、馬ニ關スル思想ノ普及ヲ圖ラムトスル目的ヲ有ッテ居ル法案
  デアリマスガ、サリナガラ此法案ハ一面ニ於テ國民ヲ毒セムトスル所ノ法
  案デアルノデアリマス、此法案ヲ賛成セラルル所ノ諸君ニ於キマシテモ亦
  馬ノ生產者ニ於キマシテモ、馬ノ競馬倶樂部ニ關係ノアル諸君ニ致シマシ
  テモ、悉ク此法案ガ半上落下何レトモ付カナイ極メテ微温不徹底ノモノデ
  アルト云フコトニ於テハ一致イタシテ居ルノデアリマス、即チ此法案ハ人ヲ
  毒スルコト最モ少ナカラムコトヲ欲シテ居ルノデアリマス、之ト同時ニ馬
  ノ改良增殖、馬事思想ノ普及ト云フ點ニ於テ多少ノ效果ヲ舉ゲルコトニ進マ
  ムトシテ居ル所ノ法案デアルノデアリマス、當局者ハ馬ノ改良增殖、馬事思想
  ノ普及ハ競馬法ヲ以テ最上ノ方策ト考ヘテ居ラレルノデアリマス、此馬劵ヲ
  伴フ所ノ競馬ガ是等ノ目的ヲ達スル上ニ於テ最良デアルト同時ニ、又國民ヲ
  損フ所ノ甚ダシキモノデアルト云フ點ニ付テ、當局者ハ多大ノ憂慮ヲ持ッテ
  居ラルルト信ズルノデアリマス、宜ベナルカナ、此案ニ賛成ヲ致サレ、且ツ
  多少ノ修正ヲ加ヘテ、此案ノ通過ヲ圖ラムトスル諸君ニ於キマシテモ、希望
  條件ナルモノヲ之ニ附ケテ賛成ヲ致サレタノデアリマス、唯〓西尾子爵ハ綱
  紀ノ肅正ト云フコトト、此法案トヲ結ビ付ケテ考ヘルノハ誤リデアル、綱紀
  ノ肅正ト云フコトハ官吏ガ暮夜陰カニ惡事ヲ致スト云フガ如キコトヲ指ス
  ノデアル、斯樣ニ申サレマシタ、子爵ノ仰セラルル所誠ニ綱紀頽廢ト云フ事
  實ノ主タルモノニ該當スルト考ヘマスル、サリナガラ本案ニ賛成シテ、之ニ
  希望條件ヲ附セラレマシタ諸君、西尾子爵モ其御一人デアラセラレタノデゴ
  ザイマスガ、此希望條件ニハ綱紀頽廢ノ虞アリト認メルト云フコトヲ希望條
  件ニハ述ベテ居ラルルノデゴザイマス、斯樣ナ次第デ綱紀ノ肅正ト云フコト
  ハ、朝ニアル者ト野ニアル者トヲ問ハズ、上下擧ッテ國民ノ風紀ヲ肅正スルト
  云フコトデナクテハナラヌト思フノデアリマス、誠ニ現時ノ世相ヲ見マスレ
  バ、如何ニ綱紀ガ紊レテ居ルカ、御承知ノ通リ一方デ、平等ヲ求メテ止マナ
  イ所ノ運動ガアリマス、又一方ニハ差別ヲ維持セムトスル所ノ思想モアリマ
  ス、思フニ人間ノ欲求ト致シマシテハ、一面ニ差別ヲ求メルト云フコトモ人
  性ノ自然デアルト思ヒマス、之ト同時ニ平等ヲ求メル欲求モ人性ノ自然デ
  アルト思フノデアリマス、併ナガラ其間ニ於テ思想ノ混亂衝突、是ガ種々ノ
  現象トナッテ現レテ居ルノデアリマス、現時著シク運動スル水平社ノ運動ノ
  如キ其一デアリマス、勞働爭議ノ如キ、小作爭議ノ如キ失業者ノ各種ノ運動
  ノ如キ、斯樣ナルモノガ主トシテ新聞ノ紙面ニ現レナイコトハナイノデアリ
  やっ、殺伐ノ風、刄傷沙汰ガ、殊ニ著シク現時ノ世ノ中ニ現ハレテ參フテ居
  ルコトハ、御承知ノ通リテアルノデアリマス、然ルニ官吏ニシテ往々不心得ナ
  者モアリマス、官吏ノ俸給ハ國民ノ膏血ヨリ出デテ居ル、國民ノ膏血ニ衣食シ
  ナガラ兇暴ナル政治ヲ致シマシテ、是ガ爲ニ國民ヲ敵トシテ戰ッテ居ルヤウナ
  不心得ナ地方官モアルノデアリマス、凡ソ見來レバ私ハ甚ダ國運ノ前途ニ付
  テ深ク憂ヲ懷カナケレバナラヌト考ヘルノデアリマス、斯ノ如キ場合ニ綱紀
  肅正ヲ標榜シ、其使命トシテ居ラルル所ノ現内閣ガ更ニ數等人心ノ頽廢ヲ助
  長セムトスル法律ノ提出ヲ致サレマシタト云フコトハ、恰モ禁酒論ヲ高唱シ
  ナガラ酒盃ニ親シムト異ナラヌモノデアルト考ヘルノデアリマス、唯〓西尾
  子爵ハ馬ノ改良ヲ圖ルニハ馬劵ノ伴フ所ノ競馬ニ依ラナケレバナラヌト云フ
  コトヲ力說イタサレマシタノデアリマス、御意見ノ大體ニ付キマシテ、私ハ必
  ズシモ反對ヲ致スモノデハアリマセヌ、併ナガラ競馬ノ必要ナリト云フ御意
  見ニ付キマシテハ拜聽スルコトヲ得マシタガ、何故ニ馬劵ヲ伴ハセナケレバ
  ナラナイカト云フ一點ニ至ッテハ、御論及ニナラナカッタト考ヘルノデアリマ
  ス、之ニ付キマシテハ今日マデ私ガ政府當局及ビ本案ニ御賛成ノ方ヨリ伺ッタ
  所ヲ試ニ述べマスレバ斯樣ニ申サレルノデアリマス、優秀ナル能力ノモノヲ
  甄別スル所ノ方法ハ競馬デアル、斯樣ニ申サレルノデアリマス、其速力ノ遲
  速ヲ見ルコト、或ハ内臟ノ强弱ヲ見ルニト、斯ノ如キ甄別方法ノ競馬ヲ以テ
  最良ノ方法トスルノデアル、此點ニ付キマシテ私ハ兵馬乘馬斯ノ如キモノノ
  優劣ヲ判ズル方法トシテ競馬ガ最良ノ方法デアルト仰セラルルニ付キマシ
  テ、必ズシモ異議ヲ挾ムノデハアリマセヌ、併ナガラ何故ニ之ニ馬劵ヲ伴ハ
  ナケレバ馬ノ優劣ヲ判スルコトガ出來ナイト仰セフレルノデアリマセウカ、
  陸軍ハ軍馬ノ育成上ニ於テ或ハ軍馬ノ競馬場ノ設備ガアルノデアリマス、之
  ニ於テ競馬ヲ行フト云フコトハ不可能デハナイ、又現ニ行ハレツヽアルノデ
  アリマス、サリナガラ本案ニ賛成セラレタル所ノ方〓ハ馬劵ヲ發賣シナケレ
  バナラヌ、馬劵ヲ購買シタル所ノ觀覽者ガ多數ナケレバ、馬ノ最大能力ヲ發揮
  セシムルコトガ出來ナイト云フ御主張デアルノデアリマス、私ハ竊ニ疑フノ
  デアリマス、人ガ馬劵ヲ買フ、馬ガ最大能力ヲソレガ爲ニ出スト云フ此間ノ
  論理上ノ脈絡ハ何レニアルノデアリマセウ、人ガ馬劵ヲ買ヲテ其勝敗ニ熱狂ス
  ル、〓狂スルガ故ニ馬ガ最大ノ能力ヲ發揮スルト云フコトハ誠ニ私ハ解シ難
  イコトデアルト思フノデアリマス、馬ノ最大能力ヲ發揮セシメル方法ハ騎手
  ヲ激勵スルニ依ッテ初メテ馬ノ能力ヲ公平ニ見ルコトガ出來ルノデハナイカ
  ト思フノデアリマス、馬劵ノ發賣ハ絕對必要ナリトスル理由ニ至ッテハ、不
  幸ニシテ私ハ尙ホ此惑ヒヲ解クコトガ出來ナイノデアリマス、又本案ニ御賛
  成ノ諸君竝ニ陸軍當局ハ競馬ハ馬ヲ織弱ナラシメルト云フ反對論ニ對シテ
  ハ、非常ナル輕侮ノ念ヲ以テ迎ヘラルルヤウニ感ゼラルルノデアリマス、西尾
  子爵ハ左樣ニハ御述ニナリマセヌケレドモ、競馬馬ハ體格ガ强大デアル、斯樣
  ニ御述ニナルノデアリマス、是ハ私モ西尾子爵ノ御說ニ反對イタスモノデハ
  ゴザイマセヌガ、競馬ガ馬ヲ菲薄ナラシメルノデハナイカト云フコトノ疑ヲ
  持タレルノハ當然ノコトデアルト思フノデアリマス、即チ西尾子爵ガ唯今御
  述ニナリマシタ英吉利ノ如キ競馬ノ盛ンナル國、又優秀ナル馬ヲ持ッテ居ル所
  ノ英吉利ニ於キマシテモ優秀ナル馬ノ出ヅルト同時ニ馬ガ纎弱ニナル傾向ヲ
  帶ビテ居ルト云フコトハ陸軍當局ヨリ我〓ニ與へラレタル所ノ參考材料ノ中
  ニ明カニ揭ゲラレテ居ルノデアリマス、サリナガラ私ハ此點ニ付テ詭辯ヲ弄
  セムトスル者デハアリマセヌ、反對論者ハ必ズ斯樣ニ仰セラルヽデアリマセ
  ウ、ソレハ競馬ノ方法宜シキヲ得レバ其弊ヲ防ギ得ルノデアル、私モ左樣ニ考
  ヘルノデアリマス、サリナガラ競馬ノ方法ガ嚴密ナル監督ヲ受ケナイ限リハ
  普通馬ノコトニ付テハ素人ノ疑、即チ競馬ハ馬ヲ纎弱非薄ナラシメルト云フ
  所ノ疑モ必ズシモ皮相ノ言トバカリ言フベキモノデハナイノデアリマス、馬
  ニ付テノ先進國タル英吉利ニ於テ旣ニ左樣ノ事實ガアル、左樣ノ嫌ガアルノ
  デアリマス、是ハ必ズヤ陸軍當局及ビ本案ニ賛成セラレル所ノ方ニ於キマシ
  テハ、ソレハ競馬ノ嚴重ナル監督ニ依ッテ之ヲ防グノデアルト申サレルノデ
  アリマセウ、其點ハ私ハ否ム者デハゴザイマセヌ、又之ニ付テ詭辯ヲ弄シ、揚
  ゲ足ヲ取ラムトスル者デハアリマセヌ、アリマセヌガ、斯ノ如キ疑ハ當然ノ疑
  デアル、一向無理ノナイ所ノ疑デアルト云フコトダケヲ申上ゲテ置キタイト
  思フノデアリマス、更ニ私ハ明治四十一年ニ時ノ當局ガ英斷ヲ以テ馬劵發賣
  ヲ禁止イタシマシテ以來十五年ノ間、我國ノ馬ハ如何ヤウナ狀態ニナッテ居ッ
  タカト云フコトヲ御參考ノ爲ニ申上ゲテ見タイト思フノデアリマス、馬ハ馬
  劵ヲ伴フ所ノ競馬ノ禁止ニ依ヲテ我國ノ馬ハ漸次退化シタデアリマセウカ
  漸次良クナッタノデアルカト云フコトデアリマス、是ハ漸次我國ノ馬ハ改良
  サレテ參ッタノデアリマス、今尙ホ進ミツヽアルノデアリマス、曾テ一年モ
  退却ハ致シテ居ラヌノデアリマス、此事實ハ何ヲ語ルモノデアリマセウカ、馬
  劵ヲ伴フ所ノ競馬ニ依ラザレバ馬匹ノ改良ガ絕對ニ不可能デアリトスル議論
  ハ誤レルコトヲ證明スルモノデハナイデアリマセウカ、諸君モ新タナル御記
  憶ニアラセラレルコトヽ考ヘマスルガ、此議會ノ劈頭第一ニ我〓受取リマシ
  タ所ノ政府提出ノ法律案ハ種牡馬檢査法中改正法律案デアッタノデアリマス、
  此種牡馬檢査法中改正法律案ハ我國ノ種牡馬ガ年々改良サレマシタ結果ト致
  シマシテ舊法律ハ每年一囘檢查ク必要ト致シタモノヲ、三年ニ一度ノ檢查ヲ
  スレバ宜シイト、其理由ト致シマシテ、我國ノ種牡馬ガ比年改良サレタ結果
  デアルト云フコトハ、當局ハ申サレテ居ルノデアリマス、是ガ即チ其一ツデア
  リマス、更ニ競馬ノ禁止ニナリマシテ以來ノ馬ノ平地競走ノ速力ガ如何ヤウ
  ニナッテ居ルカト申シマスルト、所謂競走········長短種々ノ競走ニ於キマシテ、
  連年ノ「レコード」ヲ見マスルト、一ツモ退却シタコトハナイノデアリマス、
  盡ク進歩ノ跡ヲ止メテ居ルノデアリマス、明治三十九年以來一哩ノ競走、一哩
  八分ノ一ノ競走、一哩四分ノ一ノ競走、一哩二分ノ一、一哩四分ノ三、二哩、此
  各種ノ競走ガ明治三十九年ヨリ大正十一年ニ至ルマデノ間ニ於キマシテ、何
  レノ「レコード」モ未ダ曾テ退却シタコトハ一ツノ例外モナイノデアリマス、
  即チ爾來今日マデ、我國ノ馬ハ現ニ改良サレツヽアル、進步シツヽアルノデア
  リマス、是ガ即チ其二デアル、更ニ陸軍當局ヨリ頂戴イタシマシタル資料ニ付
  テ、我國ノ馬ノ改良ノ行程ハ如何ヤウニナッテ居ルカト云フコトノ〓略ヲ簡單
  ニ申上ゲタイト存ジマス、陸軍當局ハ曩ニ馬政局ヲ設ケラレマシテ、十八年
  計畫ナルモノヲ定メテ、馬ノ改良ニ努力ヲ致サレタノデアリマス、而シテ之
  ニハ一定ノ豫定目標ヲ立テテ、之ニ到達イタサムコトヲ努力セラレタノデア
  リマスガ、其豫定ニハ見事ニ到著ヲ致シテ居ルノデアリマスル、即チ國有ノ
  種牡馬ヲ千五百頭ニ充實ヲスルト云フ計畫ヲ立テラレタノデアリマス、是ガ
  第二期ヲ殘シテ居リマスル第一期末、即チ大正九年度末ニ於テ、豫定ノ數ニ
  達シテ居ルノデアリマス、即チ千三百頭ニ逹シテ居ルノデアリマス、尙ホ又
  當局ハ全國ニ於ル馬ノ總數ノ三分ノ一ニ對シテ、血液ノ更新ヲ豫定セラレ
  テ居ッタノデアリマス、即チ在來ノ馬ニ對シテ、優種ノ血ヲ交ヘルト云フコ
  トニ付テ、全頭數ニ對シテ、其三分ノ一ノ血液ノ更新ト云フコトヲ豫定サレ
  テ居ッタノデアリマス、然ルニ當局御努力ノ結果、其豫定ハ既ニ超過ヲ致シ
  テ居ルノデアリマス、三分ノ一ニ達スルヲ目度ト致シテ居リマシタモノガ
  五分ノ二ニ達シテ居ルノデアリマス、斯ノ如ク何レノ方面ヨリ見マシテ
  モ、馬劵ヲ伴フ所ノ競馬ノ許可ナキニ拘ラズ、我國ノ馬ハ比年改良サレタト
  云フコトハ爭フコトノ出來ナイ事實デアリマス、即チ馬劵ヲ伴フ競馬ガ、
  馬ノ改良ニ絕對唯一無比ノ方法ナリト云フノハ、事實ヲ誣フルモノデアリマ
  ス、サリナガラ是ダケノ事柄ハ私モ之ヲ認ムルモノデアリマス、即チ質實ナ
  ル穩健ナル方法ニ依リテ、馬ノ改良ヲ圖ルト云フコトハ極メテ困難デアル、
  多クノ努力ヲ要スル、深慮ヲ要スル、競馬ニ依ッテ馬劵ノ發賣ヲ公許シ、國
  民ノ射倖心ニ訴ヘテ馬ノ改良ヲ圖ルト云フコトハ、極メテ容易デアリマス、卽
  チ刑法第百九十五條ノ禁ヲ解イテ賭博ノ一部ヲ解禁ヲ致セバ、ソレデ足ルノ
  デアリマス、茲ニ於テハ陸軍當局ハ難キヲ去ッテ易キ道ヲ選バムトセラレル
  ノデアリマス、質實ナ方法穩健ナ方法、殊ニ財政當局者ニ折衝シテ、陸軍ノ
  豫算金ヲ增加スルト云フコトノ困難ナル方法ヲ避ケテ、國民ノ射倖心ニ訴ヘ
  テ、馬ノ改良ヲナサムトセラルレバ極メテ易イ方法、之ヲ選バレムトスルノ
  デアリマス、競馬ニ依ル馬ノ改良ハ速度ニ於テ或ハ早イト云フ事實ハ肯定イ
  タサナケレバナリマスマイ、サリナガラ之ガ如何ニ國民ヲ毒スルカ、此點ニ付
  キマシテ、私ハ此弊害ニ付テノ過去ノ事實ヨリ現ハレマシタ所見ヲ申上ゲテ
  見タイト思フノデアリマス、今朝土方博士モ御述ベニナリマシタ通リ、馬劵ノ
  發賣ヲ歡迎スル者ノ種類ハ、最モ同情スベキ馬ノ生產家ヲ第一ト致シ、又國
  防ニ熱心デアル所ノ軍事當局ヲ第二ト致シマシテ、更ニ競馬倶樂部ヲ持ッテ
  居ラルヽ所ノ人〓、之ニ次グ者ハ何デアルカト言ヒマスト、花柳社會ノ者
  デアルト思フノデアリマス、ソレデ競馬ガ如何ナル影響ヲ社會ニ及ボシマス
  カト云フコトヲ、過去ノ事實ニ依ッテ類推イタシマスルト、或ハ花柳社會、
  或ハ奢侈品ヲ賣ル所ノ商人、或ハ競馬場ニ往復スル所ノ商人ト云フヤウナ者
  ニ案外ノ影響ヲ與ヘルノデアリマス、明治四十、四十一年ノ頃ニ於キマシラ
  競馬場ニ於テ如何ハシキ婦人ノ群ヲ見ルト云フコトハ屢〓アッタノデアリマ
  ス、是ガ今囘ノ法案ニ依ッテ賭博ノ解禁ヲ見ルト云フコトニナリマスレバ、
  此過去ニ於ケル事柄ハ再ビ繰返サルルモノト信ズルノデアリマス、卽チ遊治
  郞ノ輩ガ花柳ノ巷ニ於テ如何ハシキ婦人ノ强要ニ依ッテ白晝公然自動車ニ乘ッ
  テ競馬場ニ向ヒ馬劵ヲ買フ、勝テバ勝祝ト稱シ、負ケレバ自棄酒ヲ飮ム、斯樣
  ナ意味ニ於テ又ソレ等ノ如何ハシキ者ノ强要ニ依ッテ遊蕩ノ機會ヲ多クスル
  ト云フコトハ是ハ疑ノナイコトデアルト思フノデアリマス、デ此事實ハ我ガ
  國ニ特有ノ風デアルト考ヘルノデアリマス、今朝土方博士ノ申サレマシタ通
  リ、所謂「ネセサリーデヴイル」何レノ國ニモ社會ノ裏面ニハ、忌ムベキ厭フ
  ベキ事實ハ存在スルノデアリマスケレドモ、白晝花柳ノ巷ヨリ綺維ヲ飾ッタ
  婦人ノ多クヲ携ヘテ競馬場ニ出入往來ヲスルト云フコトハ、他ノ各國デハア
  リ得ベカラザル事柄デアルノデアリマス、而シテ此法案ハ斯ノ如キ場所ニ、
  斯ノ如キ事實ヲ現認スル場所ニ、學生生徒ノ入場ヲ許ス所ノ法案デアルノデ
  アリマス、文部當局ハ此法案ニ對シテハ極メラ冷ヤカナル態度ヲ持ッテ居ラ
  ルルノデアリマス、學生生徒ガ解禁セラレタ賭博場ニ出入スル、旣ニ之ヲ許
  ス以上ハ何ノ不審ガアル、斯樣ナ態度デアルノデアリマス、又多クノ幼年兒童
  ヲ〓養スル所ノ小學校ノ〓員ノ如キ者ガ競馬場ニ這入ッテ馬劵ヲ購買スル、斯
  ノ如キコトヲ致シテモ是亦差支ナシトセラレルノデアリマス、私ハ最モ深ク
  憂フル所ノモノハ、富ミ且ツ尊キ人ガ前ニ申上ゲタヤウナ態度デ以テ馬劵ヲ
  發賣スル所ノ競馬場ニ出入往來スル、白晝之ヲ衆人ノ前ニ曝スト云フコトガ、
  今日ノ不景氣ニシテ職ヲ失ッテ居ル多數ノ社會下層ノ者、其日ノ「パン」ヲ求メ
  テ汲々タル所ノ者ノ階級的反感ヲ刺激スルコトナキカト云フコトヲ衷心ヨリ
  憂フルモノデアリマス、競馬場ヲ中心ト致シマシテ其附近ニハ有ラユル弊害
  ガ竝ビ起ルト云フコトハ疑モナイノデアリマス、競馬ノ外ニ於テ種々ノ賭ケ
  事ガ行ハレルト云フコトハ、過去ノ事實ニ於テアッタコトガアリマス、又外國
  ノ事例ニ於テ其事實ハ明カニ存在スルノデアリマス、競馬場ニ親シム所ノ者
  ノ中ニハ賭博ノ常習犯ヲ見遁ス譯ニハ參リマスマイ、明治四十一年ニモ賭博
  ノ常習者ガ競馬場ニ這入ッテ廔〓騒動ヲ惹起シタ事實ガアルノデアリマス、更
  ニ又競馬場ヲ最モ得意ノ場所ト致ス者ニハ摸掏ノ常習者ガ有ルノデアリマ
  ス、馬ノ持主ハ競馬ニ勝テバ勝祝ヲ致スノデアリマス、或ハ其場デ「シヤン
  ペン」ノ「コップ」ヲ擧グルト云フヤウナコトハ通常ノ事態デアリマス、有ラユ
  ル奢侈ノ機會ヲ與ヘルノデアリマス、先進國ノ競馬場ニ於キマシテモ「レデイ
  スデー」貴婦人ノ日、婦人ノ日ト云フ日ガアルノデアリマス、此日ニハ羽衣ノ
  ヤウナ薄物ノ絹ノキラビヤカナ衣服ヲ纒ッテ多ク婦人ガ之ニ集マルノデアリ
  やっく、即チ婦人ノ晴ノ衣裳ノ共進會ト云フコトガ同時ニ行ハルヽノデアリマ
  ス、競馬場ニ於ケル此種ノ弊害ハ馬劵ノ公許ニ依リマシテ、必ズ踵ヲ接イデ起
  ルト云フコトハ、私ノ確信シテ疑ハナイ所デアリマス、更ニ其弊害ガ地方農村
  ニ及ボス所ノ影響ハ如何デアリマセウ、剛健質朴ナル所ノ地方ノ農民ガ自己
  ノ所有ノ馬ヲ競馬場ニ運ブガ爲ニ長キ準備ヲ是ガ爲ニ要スルノデアリマス、
  勞苦ノ多イ耕作ノ業ヲ抛ッテ競馬ニ熱中ヲ致スノデアリマス、馬ノ所有者ハ馬
  ニ對シテハ强キ愛著心ヲ有ッテ居ルノデアリマス、同時ニ又優良ナル馬ヲ持ッ
  テ居ルト云フコトニ付テノ大ナル虛榮心ヲ有ッテ居ルノデアリマス、是ガ爲ニ
  ハ有ラユル準備ニ熱中ィルノデアリマス、斯ノ如クニシテ農村ノ質實ナル氣
  風ハ打破セラルルノデアリマス、西尾子爵ハ本案賛成ノ理由ノ一ツトシテ、競
  馬ガ馬ノ增殖ニナルト云フコトヲ述ベラレマシタ、馬ノ値ガ高クナルガ故ニ
  馬ノ生產ガ多クナル、現ニ曾テハ我國ノ馬ノ數ガ百五十萬頭ヲ超ヱテ居ッタモ
  ノガ今日ハ旣ニ百四十六萬頭ニ減ッテ居ルデハナイカ、ト云フコトヲ述べラレ
  ルノデアリマス、此數ニ付テハ私ハ爭ヒマセヌ、曾テ百五十餘萬頭ニ達シテ居
  リマシタモノガ、今日十餘萬頭ヲ減ジテ居ルト云フ所ノ事實ハ、私ハ爭ハナ
  イノデアリマス、併ナガラ是ハ左樣ニ輕々ニ論ジ去ルコトノ出來ナイ數字デ
  アルト思フノデアリマス、西尾子爵モ申サレマシタ通リ四十年、四十一年頃、
  競馬熱ノ旺盛ナル際ニ濠洲ヨリ五六百頭ノ馬ノ輸入ガアッタト云フコトハ事
  實デアリマス、サリナガラ之ガ百五十萬頭ノ馬ニ比ベマシテ、何程ノ數デアリ
  マセウ、九牛ノ一毛ニ過ギナイノデアリマス、馬ノ値ガ高クナレバ馬ノ生產
  者ガ馬ノ生產ニ努力スルト云フコトモ、是モ疑ノナイコトデアリマス、私ハ
  之ニ反對スルモノデアリマセヌ、サリナガラ我國ニ於キマシテハ、非常ニ多ク
  ノ馬ヲ食フノデアリマス、食ベルノデアリマス、馬ノ統計ニ依リマスト、過去
  十數年ノ間ニ我國ノ馬ノ生產ハ未ダ曾テ十二萬頭ニ達シタコトハナイノデア
  リマス、然ルニ我國人ノ馬ヲ食フ所ノ數ハ、多キ年ハ十萬頭ニ達シテ居ルノデ
  アリマス、十數年前ニハ僅カ四五萬頭デアッタ馬ガ、····食用ニ供サレタル馬
  ノ數ハ四五萬頭デアリマシタモノガ、其多キ年ニハ十萬頭ヲ超エテ居ルノデ
  アリマス、其年ノ斃死シタ馬ヲ合セテ見マスルト、十三萬五千頭ノ馬ヲ失ッテ
  居ルノデアリマス、馬ノ生產ハ十二萬頭ニ達セズ、馬ヲ食フ所ノ數ハ十萬頭ヲ
  超エ、自然ニ斃死スル所ノ馬ヲ加ヘレバ、馬ヲ失フコト十三萬五千頭ニ達シテ
  居ルノデアリマス、斯樣ナル事實ガ一面ニ存在スルノデアリマス、而シテ一
  方ニハ牛豚肉ノ連年ノ騰貴······肉ヲ要求スル所ノ人〓ガ高貴ナル牛肉ヲ味フ
  コトガ出來ズ、豚肉ヲ得ルコトガ出來ナイ場合ニ於テ、廉價ナル馬ノ肉ニ向
  フト云フコトノ事實ガアルノデアリマス、勿論之ニ付キマシテハ馬ノ價格ニ
  モ關係ヲ有ッテ居リマス、牛又ハ豚ノ肉ニモ關係ヲ有ツノデアリマス、即チ
  〓糧問題トシテ見ナケレバナラヌ所ノ方面ガアルノデアリマス、單ニ馬劵ヲ
  伴フ所ノ競馬ガ禁止セラレタル結果、馬ガ減ジタ、或ハ馬劵ノ發賣ヲ許サレタ
  ルガ爲ニ馬ガ著シク增加シタト云フヤウナ、簡單ナ事實デハナイノデアリマ
  ス、馬ノ增殖ト云フコトニ付キマシテハ、私ハ更ニ一言ヲ費サナケレバナラヌ
  ト思フノデアリマス、即チ陸軍當局ハ、我國ニ更ニ五十萬頭ノ馬ヲ增加セム
  トセラルヽ意嚮ヲ有フテ居ラレルノデアリマス、即チ我國ガ有シテ居ル所ノ
  現在ノ馬百五十萬頭ニ對シテ、更ニ其三分ノ一タル五十萬頭ヲ此上ニ增加セ
  ムトスル考ヲ有ッテ居ルノデアリマス、斯ノ如キコトガ競馬ニ依テ望ミ得ベ
  キコトデアリマセウカ、私ハ甚ダ失禮ナ言葉デゴザイマスケレドモ、痴人夢
  ヲ說クト云フノハ此類ノコトデハナイカト思フノデアリマス、何ヲ以テ斯樣
  ニ申スカト云ヒマスルト、申スマデモナク、我國ノ人口ノ密度ハ世界第一デア
  ルノデアリマス、私ハ敢テ申シマス、日本ノ人口ハ世界第一ノ密度ヲ有ッテ
  居ルモノデアル、我〓ハ地理ノ先生ヨリ、我國ノ人口ノ密度ハ之ヲ自耳義ニ
  比シ、和蘭ニ比シ低位ニアルト云フコトヲ〓ハッタノデアリマスルガ、是ハ甚
  シキ誤デ、全國少シモ山ノナイ平坦ナル白耳義、和蘭ト云フガ如キ國ト八割
  六分ノ山林面積ヲ持ッテ居ル我國ト對比シテ考ヘマシタナラバ、我國人口ノ密
  度ハ世界第一デアルノミナラズ、遙ニ群ヲ拔イテ稠密デアルノデアリマス、
  即チ平地ノ二平方哩ニ於ケル人口ノ密度ハ和蘭、白耳義ニ比ベマスレバ、五
  六倍ニ上ボッテ居ルノデアリマス、斯ノ如キ人口ノ過剩ナル國、而シテ比年急
  激ニ生活程度ノ向上シツツナル國民、年々〓糧問題ニ付テ朝野共ニ頭ヲ惱メ
  テ居ル所ノ國、此國ニ於キマシテ土地ガ日ニ日ニ狹マリツツアルト云フコト
  ハ申スマデモナイコトデアリマス、而シテ政府ハ此年々增加スル所ノ國民ノ
  食糧ノ供給方法ニ付キマシテ、有ラユル苦心ヲ致サレテ居ルノデアリマス、米
  穀法ノ制定ハ其一デアリ、開墾助成法ノ制定ハ其二デアリマス、奬勵金ヲ與ヘ
  テ開墾ヲ奬勵スル、更ニ本年ハ又農商務省ノ所管ニ於キマシテハ排水灌漑ノ
  補助ニ多大ナル繼續費ヲ掲ゲラレテ居ルノデアリマス、斯ノ如クニシテ苟モ
  耕シ得ベキ所ノ土地ニ向ッテハ政府ハ全力ヲ擧ゲテ之ヲ開墾セシメ、而シテ
  此有リ餘ル所ノ國民ノ食糧ノ需要ニ應ゼムトスル計畫ヲ立テヽ居ラレルノデ
  アリマス、斯ノ如キ際ニ五十萬頭ノ馬ヲ何レニ入レムトスルノデアリマセウ、
  當局ニ伺ヒマスルト二十萬頭ヲ北海道ニ增加セシメル積リデアル、斯樣ニ申
  サレテ居リマスガ、北海道ト雖モ、內地ノ人口ノ過剩ノ餘波ヲ受ケテ、比年
  人口ハ增加シツヽアルノデアリマス、開墾モ連年進メツツアルノデアリマ
  ス、此馬匹ノ增殖、是ハ西尾子爵ノ申サレ通リ戰時所要ノ數カラ計算ヲ取リ
  マシタナラパ、馬匹ノ頭數ノ多カラムコトヲ欲スル點ニ於テハ、私モ同感デ
  アリマス、又事實多々益〓辨ズルモノデアルト考ヘマスルケレドモ、此狹小
  ナル國土ト、此人口ノ稠密ナル我國ニ於キマシテ、旣ニ人ガ人ヲ食マムトス
  ルヤウナ有樣ニナッテ居ル此國土ニ於キマシテ、更ニ數十萬頭ノ馬ヲ之ニ入
  レマスト云フコトハ、無理デアルト云フコトハ論ノナイコトデアルト考ヘル
  ノデアリマス、況ヤ是ガ馬劵ノ發賣ニ依テ馬ノ增殖ガ斯ノ如クナルト云フガ
  如キハ、期シ得ベキコトデナイノデアリマス、而シテ此點ニ於キマシテハ、
  西尾子爵モ反對ノナイコトハ私ハ確信スルノデアル、或ル程度マデノ增殖
  ハ是ハ西尾子爵ノ御述ベニナル通リデアルト考ヘマスケレドモ、斯ノ如キ
  多大ナル馬ノ頭數ノ增加ト云フコトハ、到底馬劵ヲ伴フ所ノ競馬ニ依テ望ミ
  得ベキモノデハナイト信ズルノデアリマス、果シテ然ラバ一朝有事ノ際、馬
  ノ資源ヲ何處ニ求ムルカト云フコトハ、陸軍當局ノ强ク論ゼラレル所デアル、
  本案ニ賛成ノ諸君ノ最モ重キヲ置カレタ所デアルト考ヘマスルガ、私ハ試ミ
  ニ當局ニ伺ヒタイノデアル、一朝有事ノ際、我國ハ鐵ヲ何處ニ求メルノデアリ
  マスカ、我國ハ鐵ノ自給自足ノ政策ハ確立イタシテハ居ナイノデアリマス、
  又石油ハ如何デゴザイマス、燃料政策ハ確立ヲ見テ居ナイノデアリマス、棉
  のみゆかりを
  ハ如何デアリマス、羊毛ハ如何デアリマス、更ニ鹽ハ如何デアリマス、戰時
  平時ニ於テ此國土ノ狹小ナル自給自足ノ途ニ於テ遺憾ナガラ其方法ヲ得ザル
  モノハ多々アルノデアリマス、勢ヒ是ハ他ニ求メザルヲ得ヌノデアリマス、
  馬ニシテモ同樣デアルト私ハ確信スルノデアリマス、此人口過剩ナル國土ニ
  於テ莫大ナル馬ノ頭數ヲ增スト云フコトハ馬ノ爲ニ人ヲ饑餓ニ陷レルノデア
  ル、國民ハ〓料ヲ得ルニ途ナク、陸軍當局ノ馬ヲ見テ人ヲ見ザル政策ノ爲ニ
  國民ハ益〓生活ノ苦痛ニ陷ルノデアリマス、滿蒙ニ於ケル所ノ馬、アノ廣大ナ
  ル土地ニ生產スル所ノ多數ノ馬、固ヨリ馬種ニ於テ優秀ナモノデハアリマス
  マイ、併ナガラ一朝事有ルノ場合ニ於テ資源ヲ求ムベキハ此處ニアリハセヌ
  ノデアリマセウカ、軍事當局ハ國防ニ専心御盡力ニナルノハ誠ニ無理カラヌ
  コトトハ考ヘマスルケレドモ、鹿ヲ追フ獵夫山ヲ見ズ、馬ノ改良增殖是ノミニ
  〓中セラレル結果ハ國民ヲ忘レラレハシナイカト云フコトヲ疑フノデアリマ
  ス、非常ナ有事ノ場合ヲ考ヘ々スナラバ、之ヲ滿蒙ノ野ニ求メル、之ニ付テ思
  慮アル計畫ノ確立是ガ最モ必要ナコトデアルト考ヘルノデアリマス、競馬ニ
  依テ馬匹ノ非常ナル增加ヲ求メルト云フ如キコトハ是ハ到底求メ得ベキコト
  デハナイト考ヘルノデアリマス、尙ホ此法案取締ノ困難デアル、若クハ不可能
  デアルト云フコトニ付キマシテハ、今朝土方博士モ詳細御述ベニナリマシタ
  通リデアリマス、到底學生デアルカ、生徒デアルカ、未成年者デアルカ、斯樣ナ
  モノノ見別ノ出來難イ場合ハ多々アル、是ハ競馬倶樂部ニ關係ノ有ル方ニモ
  認メラレテ居ル所デアリマス、一人一枚ノ馬劵ニ限ル、斯樣ナル事ハ行ヒ易イ
  コトデゴザイマセウカ、數千人ノ人ガ一人一枚ヅツノ馬劵ヲ買フト云フヤウ
  ナコトハ多數ノ人ノ雜關スル場合ノコトヲ考ヘテ見マシタナラパ、甚ダ容易
  デナイト云フコトハ誠ニ見易イコトデアルト考ヘルノデアリマス、或ハ觀櫻
  ノ御宴ノ際、或ハ觀菊ノ御酒宴ノ際、斯樣ナル場合ニ於キマシテ數千人ノ人ガ
  酒饌ヲ頂戴イタス時ノ光景ヲ見マシテモ、是ハナカナカ容易ニ運ブコトデハ
  ナイト考ヘルノデアリマス、固ヨリ絕對不可能ト申ス次第デハゴザイマセヌ、
  其他一日ニ十番、或ハ十五番ノ競馬ヲ行フモノト致シテ考ヘマシタナラバ、
  是ハ容易ナコトデハナイト考ヘルノデアリマス、而シテ此取締ノ困難ト云フ
  コトハ當業者ガ非常ニ嚴重ナル設備ヲ造ルト云フコトノ困難ト云フコトト相
  俟チマシテ忽チ起ル所ノ問題ハ、此法案ノ制限ノ緩和運動デアリマス、陸軍
  大臣ハ此法案通過ノ曉ニハ之ヲ嚴重ニ厲行スル、是ガ制限ヲ緩和スルガ如キ
  コトハ斷ジテヤラナイト云フ御言明ハアリマシタ、私ハ之ヲ信ズルモノデア
  リマス、併ナガラ陸軍當局ハ今日マデ此法案ヲ何故ニ御提出ニナラナカッタ
  ノデアリマセウ、陸軍當局ハ貴族院ノ情勢ヲ窺ッテ居ラレタノデアリマス、毅
  然トシテ其所信ヲ敢行スルト云フ勇氣ヲ御有チニナッテ居ラヌコトヲ私ハ遺
  憾ナガラ信ゼザルヲ得ナイノデアリマス、每年每歲貴族院ノ情勢ニシテ許ス
  ナラバ、競馬法案ヲ提出シヤウト云フコトヲ試ミラレタノデアリマス、陸軍大
  臣ガ國防上必要ナリト信ジマシタナラバ、敢然トシテ其所信ヲ遂行セラルヽ
  ニ何ノ恐ルヽ所ガアルデアリマセウ、私ハ大正八年以來、馬券公許ノ風紀ヲ紊
  ルト云フコトニ付キマシテ深キ憂ヲ懷イテ居リマシタガ爲ニ、之ニ對シテ終
  始一貫反對ヲ致シテ居ル者デアリマス、併ナガラ當局ヨリ內意ヲ尋ネラレマ
  ス場合ニハ私ハ斯樣ニ答ヘテ居ルノデアリマス、陸軍大臣ニシテ國防上ノ必
  要ヨリ致シテ競馬ニ依ル外、絕對ニ馬ノ改良ノ途ナシト云フコトノ御確信ガ
  アルナラバ、敢然トシテ其所信ヲ御行ヒニナッタラ宜シカラウ、若シ又競馬ニ
  依ラナイ所ノ穩當ナル方法ニ依リテ馬ノ改良ノ餘地アリトシタナラバ、是一
  財政當局ニ對シテ其信ズル所ヲ以テ力爭セラレテ然ルベキデアル、此馬產家
  ノ運動ヲ擅ニシ、競馬倶樂部關係者ノ狂熱的運動ニ任セテ貴族院ノ態度ヲ窺ツ
  テ居ラレタト云フコトガ甚ダ私ニハ解シ難イコトデアル、陸軍當局ハ曠職ノ
  謗ヲ免レルコトガ出來ルノデアラウカ、斯樣ニ私ハ申シタノデアリマス、陸軍
  大臣ニ向ッテデハアリマセヌ、陸軍大臣ノ部下ノ人ニ對シテ斯樣ナ答ヲ絕エ
  ズ致シテ居ッタノデアリマス、斯ノ如ク國防上必要ナリトセラルヽ場合ニ於
  テ陸軍當局ガ國防ノ缺陷ヲ其儘ニシテ置クト云フコトハ、是ハ國家ニ對シテ
  相濟マヌコトデアル、是ハ論ノ無イコトデアルト考ヘルノデアリマス、其陸
  軍當局ガ貴族院ノ意向如何ト云フコトニノミ顧慮セラレテ居ッタノデアリマ
  ス、斯ノ如キ軟弱ナル態度、斯樣ニシテ今後ニ於ケル競馬關係者ノ運動、馬
  ノ生產者ノ運動、政黨ノ有力者ノ運動、之ニ對シテ陸軍當局ガ妥協ヲナサラ
  ナイト云フコトガ果シテ出來マセウカ、今日ノ御決心ハ此制限ノ緩和ヲシナ
  イト云フコトヲ信ジタイト思フ、サリナガラ一面カラ申シマスレバ、陸軍當局
  ノ態度ニ付テ疑ヒナキヲ得ナイノデアリマス、以上述べマシタル通リ私ノ本
  案ニ反對スル所ノ理由ヲ約メテ申シマスレバ、馬ノ改良ハ本案ノ制定ヲ見ザ
  ルモ、現在旣ニ行ハレツヽアル、未ダ曾テ退步ノ事實ガ無イ、即チ馬ノ改良
  ハ馬劵發賣即チ賭博ノ解禁ト云フコトヲ致サナイデモ、穩當ナル方法、質實
  ナル方法ニ依テナシ得ル餘地ガアルト云フコトヲ、第一ノ理由ト致シマス、
  更ニ馬劵ノ發賣ガ國民ヲ毒スルコト甚シキモノデアルト云フコトヲ確信スル
  者デアリマス、更ニ此害毒ハ玆ニ一タビ俑ヲ作リマシタナラバ、今後擴大セ
  ラレルノミデアルト云フコトヲ確信スルノデアリマス、馬ノ資源ヲ國內ニ求
  メムトスルコトハ、是ハ無謀ナル計畫ナリト云フコトヲ信ズルノデアリマ
  ス、公益法人ヲシテ馬劵ノ發賣ヲナサシムル、此事ガ弊害アリト信ズルノデア
  リマス、公益法人ナルモノガ賭博ノ寺錢ヲ取ルガ如キ性質ノ公益法人ノ存
  在、之ヲ以テ面白カラザル事實ナリト信ズル者デアリマス、一タビ之ガ許サ
  レマシタナラバ、百弊踵ヲ次デ起ル、其結果悔ユトモ及バザルコトニナルノ
  ヲ恐レルノデアリマス、私ハ終リニ臨ンデ誤解ヲ防グ爲ニ一言ヲ加ヘテ置キ
  タイト存ジマス、馬ノ生產者ニ對シテ私ハ決シテ同情ヲ有タナイ者デハナイ
  ノデアリマス、カルガ故ニ陸軍當局ニ對シテハ、馬ノ購入價格ヲ引上ゲルト
  云フコトニ依テ、馬ノ生產地ヲ救濟シ得ルモノナリト云フコトヲ常ニ述ベテ
  居ルノデアリマス、又私ハ國防上ノ必要ト云フ事柄ニ向ッテ、之ニ殊更ニ反
  對ヲ致ス者デハナイノデアリマス、即チ陸軍當局ノ御意嚮ニ對シテモ、相當
  ノ了解ト同情ヲ有ッテ居ル者デアルコトヲ信ズルノデアリマス、併ナガラ私
  ハ正義ノ信念ニ於テ國民ヲ毒スル所ノ法案ニ賛成スル能ハザル者デアリマ
  ス、言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ、私ハ陸軍ニ對シ同情スルヨリモ、ヨリ以上
  全國家ニ向ッテ、全國民ニ向ッテ滿腔ノ同情ヲ有ツ者デアリマス、此意味ニ於
  テ私ハ本案ニ反對ヲ致スノデアリマス、何卒本案ハ御否決ニ相成ラムコトヲ
  切望シテ止マナイノデアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=18

  ---

• 019・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　是ヨリ磯部四郞君ニ發言ヲ許シマスガ、磯部君ハ
  御步行御不自由デゴザイマスカラ議席カラ御述べニナルコトヲ望ミマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=19

  ---

• 020・磯部四郎

  ○磯部四郞君　今朝、土方博士ノ反對論モアリマシテ、又唯〓、湯淺君ノ反對
  論ヲ伺ヒマシタ、ソレニモ拘ラズ私ハドコマデモ原案ヲ賛成スルノデアリマ
  ス、就キマシテ私ハ此點ニ付テ少シ述ベタイト考ヘマス、詰リ勝馬投票劵發賣
  ハ射倖的行爲ノ性質ヲ持ッテ居ルモノダト云フ事柄ヲ以テ攻擊セラレルナラ
  バ、私ハソレニ付テ御答スルコトガ出來マセヌ、唯今ノ湯淺君ノ終リニ至リマ
  スルト云フト、馬劵法ノ成立ハ博奕ノ解禁デアル、斯ウ云フ論點ヲ以テ即チ最
  レモ强キ理由トセラレタ、成ル程、傅奕ノ解禁デアルト云フコトニ從テ、所謂
  綱紀肅正ニ關係スルト云フヤウナ議論ガ起ッテ來ルモノデゴザイマス、甚ダ
  餘計ナコトデアルカ知レマセヌガ、私ハ此勝馬投票劵ノ發賣ハ博奕ニモアラ
  ズ、曾テ政府當局者ヨリシテ或意味ヲ以テ推セバ、富籤ニ當ルモノデアルト
  云フ御發言モゴザイマシタ、私ハ是ハ射倖的ノ、射倖行爲ノ性質ヲ持ッテ居
  ルト云フニ付ラハ、全然同意デアリマスケレドモ、博奕若クハ富籖ト云フヤ
  ウナモノト同一ノモノデナイト云フ點カラ、甚ダ恐縮デアリマスケレドモ、チ
  ヨット辯ジテ見タイト思ヒマス、即チ刑法ノ第百八十五條ニ「偶然ノ輸贏ニ關
  シ財物ヲ以テ博戯又ハ賭事ヲ爲シタル者ハ」云々、茲ニ於テ博奕ノ何タルコ
  トヲ申シテ居リマシテ、博奕ト申シマスルモノハ、是マデ學說上ニ於テ私ノ
  承ハッテ居ル所デハ、苟モ殖產興業ヲ奬勵スルノ關係ヲ以テ、或ハ射倖的行爲
  ヲナシタル場合ニ於テハ、決シテソレハ博奕デナイ、如何ナルモノガ博奕デ
  アルカト言ヘバ、數人相寄ッテ甲ヨリ乙ノ懷ニ金ガ入リ、乙ノ懷ヨリ丙ノ懷
  ニ入リ、何時間ヤッテ居ッテモ、幾度ヤッテモ何等殖產興業ニ利益スル所ナクシ
  テ、唯徒ラニ日時ヲ費シテ、徒ラニ金ガアチラヘ行ッタリ、コチヘ行ッタリシテ
  居ル、之ヲ即チ博奕ト稱シテ居ル、又富籤ノコトノ定義モ即チ此第百八十七
  條ニ明カニ書イテゴザイマス「富籤ヲ發賣シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ三
  千圓以下ノ罰金ニ處ス」、富籤ト云フモノハ如何ナルモノデアルカ、詰リ茲
  ニ一ツノ札ヲ賣リマシテ、サウシテ何等是ト云フ目的ナク、一圓若クハ十圓
  ノ札ヲ多ク賣ッテ、ソレヲ賣上ゲタ所ノモノガ當リ籖ヲ拵ヘテ、唯之ニ當ッタ
  者ニ集ッタ金ヲ與ヘテヤル、此富籤ニ依テ何等殖產興業ニ利益スル所ガ無イ、
  所謂徒ラニ金ヲ集メテ、徒ラニ損失者ヲ拵ヘテ、他ノ一方ニ與ヘルト云フノガ
  富籤デアル、而シテ此馬劵ノ發賣ト云フモノハ何デアルカト云フコトヲ論ジ
  テ見マスト云フト、唯〓モ申上ゲマシタ通リ、又政府當局ヨリモ十分御述べニ
  相成リマシタ通リ、先達テ此案上程ノ砌リ、首相ヨリモ所謂射倖ノ性質ガア
  ルモノニハ違ヒナク、併ナガラ其利益ハ寧ロ即チ國防上若クハ產馬ノ必要上、
  幾ラカ是ハ其邊ハ讓ラナケレバナラヌト云フコトヲ述ベラレタガ、之ヲ以テ
  博奕ナリ、斯ウ云フ議論ヲナサッタ方ハ、今日マデアリマセズ、又私ハ淺見
  ニシテ知リマセヌガ、今マデ承ハッタコトガナイ、故ニ是ハ博奕デアル、博奕
  デアルト云フコトヲ湯淺君ニ於テ述べラレルコトハ、唯多クノ諸君ノ耳ヲ惡
  クシテ、依テ以テ自分ノ期セラレル所ノ廢案ヲ求メラレルモノデアル、甚ダ
  私ハドウモ湯淺君ノ爲ニハ採ラザル議論デアリマス、射倖ノ性質ガアルカラ
  是即チ綱紀肅正ニ反スルモノデアル、德育ヲ廢頽セシムルト云フ御議論デア
  リマスナレバ、私ハソレヲ受取ッテ御答ヲスルコトハ出來ナイ、自分ノ意見
  ヲ述ベルコトハ出來ナイ、誰モ之ヲ以テ博奕ナリト言ハズ、政府當局ニ於テ
  モ、强ヒテ言ヘバ富籤ニ當リマセウ、ケレドモ是ハ富籤其モノデハナイト云
  フテ居ラレル、是ハ又サウナクテハナラナイモノデアラウト思フ、其以前ニ
  競馬法ト云フモノハ勅令ヲ以テ許サレテ居ル、昔ヨリ明治十五年以來刑法ニ
  於テ富籤ハ罰シマスガ、又博奕モ明カニ罰シテ居ル、旣ニ法律ニ於テ刑罰ヲ設
  ケテアル所ノ其行爲ヲ、單ニ勅令ヲ以テ反對ヲ定メタト云フコトハ出來ナイ
  譯デアラウト思ヒマス、而シテ其以前ノ競馬法ト云フモノモ、矢張リ此競馬
  ニ依テ馬劵ヲ發賣スルト云フ事柄ハ博奕デハナイ、斯ウ云フ······ソレヲ引例
  シテ博奕ナリト論ゼラレテ、之ヲ風紀ヲ紊ストカ、或ハ綱紀肅正ニ反スルモ
  ノデアルト言ハレマスノハ如何デアラウカ、其邊ニ付テハ宜シク御考慮ヲ煩
  ハシタイト思ヒマス、ソレカラ私ガ此處ニ申上ゲマスノハ、若シ射倖的行爲
  ト云フモノガ、詰リ博奕デナイトシタ所ガ、所謂僥倖ヲ以テ利ヲ期スルモノ
  モアリ、不幸ニシテ損失ヲスルモノガアルガ、所謂是ガ矢張リ僥倖ヲ期スル
  モノデアルト、斯ウ云フ御論結デアルト致シマスレバ、然ラバ今日我國ニ於
  テ行ハレテ居リマス所ノ射倖的性質ノモノハ何デアリマセウ、總テノ保險契
  約ハ盡ク射倖的デアル、是モ反對論者ハ保險契約ヲ博奕ト云フコトヲ絕叫セ
  ラレルデアリマセウカ、何トナレバ年々歲々幾分ノモノヲ拂ヒマシテ、サウ
  シテ其目的トスル所ノ事故ガ起レバ、之ニ依テ或金ヲ受取ル、此意味ニ於テ
  保險契約盡ク射倖的ノ性質ノモノデアル、又今日米穀取引所若クハ兜町ノ取
  引所、是等モ私ハ博奕ニ非ズ、富籖ニモ非ズ、立派ナ行爲デアル、サリナガラ
  是モ矢張リ射倖的ノモノデアル、サリナガラ是ハドウデアルカト云ヘバ、此現
  設備ガ存在シテ居リマス爲ニ、經濟上、所謂各種ノ會社ノ株劵トカ債劵トカ
  云フモノヲ消化シテ行キマスノハ、國家ニ取ッテ大利益デアル、若シ取引所
  ト云フモノガナイコトニ致シマシタナラバ、或ハ私ハ斯ク斯クノ株ガ欲シ
  イ、斯ク斯クノ米ガ欲シイト云フ場合ニ、東京中戶々ニ就テ其賣手ヲ求メテ
  步カナケレバナラナイ、ソンナコトデハ世ノ中ノ取引ハ出來ルモノデナイカ
  ラ、茲ニ於テ取引所ト云フモノヲ設ケテ、賣ラムトスル者、得ムト欲スル者
  ガ、其處ニ來テ賣買ヲスル、會社ノ資本或ハ株劵等ガ自由自在ニナル大體
  ノ利益ガアリマスカラ、此取引所ト云フモノヲ今日公然許シテ居ルノデアリ
  ずっ、今一步進メマシテ、彼ノ普通所謂商行爲ト申シマスカノ賣買、是ハ如
  何ナルモノデアリマセウ、成ル程、所謂我カ土地デ生ジタル所ノ收穫物ヲ賣ラ
  ウ、我家デ消費スル所ノ米ヲ買ハウ、我ハ自分ノ家デ消費スル所ノ酒ヲ買ハ
  ウ、醬油ヲ買ハウト云フヤウナコトハ、是ハ決シテ射倖ノ性質ハナイノデア
  ル、サリナガラ再ビ轉賣スル爲ニ買フ所ノ行爲ハ盡ク射倖行爲デアル、今日商
  人ガ色〓ノ物ヲ仕込ム、注文ヲ受ケズトモ品物ヲ仕入レル、由ッテ以テ之ヲ
  自分ガ相當ナ利益ヲ得テ、賣レルカ賣レナイカニ、ソレヲ賣ラウト買集メル
  所ノモノガ、是ガ射倖デアリマス、利益ガアルカナイカ分ラヌ、民事上商業
  上苟モ利益ヲ的ニスル所ノモノハ、皆射倖ノ性質ヲ帶ビテ居ルモノデアリマ
  スカラ、此射倖ノ性質ヲ帶ビテ居ルモノヲ禁ズルニ及バナイ、單ニ一囘二囘
  シカ或ハ三囘、四日カ五日シカナイ所ノ、日本全國ニ於テ十一箇所ノ競馬場
  ニ於テ、所謂馬劵ヲ法律ノ制限ノ上ニ發賣スル、一時之ニ趣味ヲ有スル者ニ
  娯樂ヲ與ヘルト云フ事柄ハ、綱紀肅正ニ反スルモノデゴザイマセウカ、若シ
  綱紀蕭正ト云フコトヲ以テ論ヲ致シマスナラバ、唯今申上ゲマス通リ、偶
  然ノコトヨリ得ムトスル利益、或ハ偶然ノコトヨリ損失スル事柄ガ、盡ク
  風紀ヲ害スルモノデアルトシタナラバ、丸デ商業界ハ闇ニナッテ仕舞ヒマシ
  テ、財界ハ是ガ爲ニ仆レテ仕舞フト云フヤウナコトニナリハシナイカト思フ
  ノデアリマス、又年ニ十一箇所ニ於テ二囘ヅヽアル所ノ競馬ガ、幾分ノ利益
  ヲ與ヘルト云ッテ、是ガ即チ日本全國ノ七千萬ノ人民ノ所謂德義心ト云フモ
  ノヲ仆シテ仕舞フト云フコトハ、ドウモ餘リ大業ニ言ヒ過ギテ居ルト思ヒマ
  ス、私ノ見ル所デハ斯ノ如ク大業ニ論ゼラレテハ、其反對論ニ賛成セラレム
  トスル方モ却テ是ハ面倒ナコトデアル、トンデモナイコトデアルト云ッテ、
  反對セラレルデアラウト私ハ思フノデス、又土方君ハ先程ノ御議論中ニ、私
  如何ニモ驚キマシタノハ、土方君ハ苟モ年少ノ時分カラ身ヲ大學ニ寄セテ、サ
  ウシテ〓鞭ヲ執ッテ居ラレル方デアリマスカラ、方正ノ君子デアルト私ハ今
  日マデ思ッテ居リマシタ、然ルニ其方ガ女子ヨリ物ヲネダラレル、ネダラレテ
  與ヘル、又待合ノ內部ノ機密ニ精通シテ居ラレルト云フコトニ至ッテハ、是
  亦油斷ノナラナイ方デアルト私ハ考ヘル、斯樣ナ次第デアリマスカラシテ、
  私ノ見ル所ニ於テハ、如何ナル點ガ茲ニモ申上グル通リ風紀ヲ害スルカ分ラ
  ナイ、先程湯淺君カラシテ馬劵ニ伴ウテ馬ガ立派ニナル、段々增殖ガ出來ル
  シ、陸軍省ノ目的モ達スルデアラウト云フコトヲ言フガ、何故馬劵ニ伴ッテ
  サウ云フコトガ出來ルカト云フコトヲ何モ理由ヲ言ハレナイト言ッタガ、蓋
  シ御言ヒナサラナカッタノハ、恐ラク言ハズトモ分ッテ居ルデアラウト思ッテ言
  ハレナカタノデアラウト思ヒマス、私ハアノ御追窮ニ依テ自分ノ考ヘル所ヲ
  申シマスルニ、總テノ深切ナ所謂改善ト云フモノハ、其モノヲ一人ヨリ二人、
  二人ヨリ三人、十人ヨリ百人、我ガモノトシテ之ヲ愛スルト云フ念ヲ生ズルノ
  ガ、眞ノ改善ヲ期スルモノト私ハ思フ、成ル程、今日マデ陸軍省ニ於テハ十分
  御盡シニ相成リマシタ、又馬政局ニ於テモ十分御盡シニ相成リマシタ、言フ
  ベカラザル所ノ莫大ナ金員ヲ支出ニナッテ居リマセウガ、併シ其馬匹ノ全體
  ニ付テ何人ガ眞ニ我ガ馬ノ如ク、我ガ子ノ如ク我ガ家ニ養ッテ居ル犬ヤ猫ノ
  如ク之ヲ愛シ來ッタカト云フコトニ付テ、恐ラクハ之ニ確タル御返答ハアルマ
  イト思フ、馬劵ヲ買ッテ、サウシテカラ投票イタシマスニハ、詰リ五匹ナリ七
  匹ナリ馬ノ候補者ガアル、其候補者ヲ鑑識シテ而シテ之ニ投票スルコトニ付
  テハ馬ノ性質カラ能ク〓究シテ、其結果ハ自分ガソレヲ持ツト云フコトニナッ
  テ、遂ニ其馬ヲ愛スルノ念ガ自分ノ懷ロニ關係スル以外、自分ガ馬ヲ飼フト云
  フコトニナッテ來ル、是ガ馬匹改良ノ基ニナッテ來ルノデハナイカト思ヒマ
  ス、唯陸軍省デ先デ惚レテ居ナイ馬ニドノ位金ヲ捨テタト云ウテモ、是ガ爲
  ニ馬ガ立派ニナラウト云フコトハ期スベカラザルコトデアリマス、若シ此馬
  劵ト云フモノヲ、或ル制限ノ下ニ於テ十分ニ取締ラレテ御發行ニナリマスレ
  バ、矢張リ貴顯紳士モ十分其馬ヲ飼ッテ樂ムヤウニナル、又四千萬人悉ク入場
  ヲ望ンデモ精々這入ッテモ三千人カ一萬人デアリマスカラ、十一箇所ノ競馬場
  ガ一遍ニ開場セラレタ所デ、精々十萬カ二十萬ノ人間デ、其先生等ガソコニ
  出デ、日ニ月ニ段々ト馬ノ鑑識ガ明カニナッテ來マスレバ、遂ニ自分ガ幾分ノ
  資本ヲ抛ッテ、馬ヲ飼フト云フコトカラ、一匹ノ馬ヲ仕立テル爲ニ、段々多
  クノ馬ガ立派ニナル、又產馬場ト云フモノニ如何ニ金ヲ御入レニナッテ奬勵
  シテモ、之ニ肥料桶ヲ載セ油桶ヲ載セテ置ケバ、斯ウ云フヤウナ馬ヲ千圓一
  萬圓出シテ買フ者ハアルマイ、ソレ故ニドノ位金ヲ入レテ馬ヲ御造リニナッテ
  モ、其供給ガアッテモ、需要者ガ相當ニ犠牲ヲ拂ッテ飼フヤウニシナケレバナラ
  ヌ、之ヲ飼ッテ或ハ競馬ヲサシテ樂シムトカ、自ラ之ヲ養ッテ愛スルトカ云フ念
  慮ガアッテ、初メテ莫大ノ金員ヲ投ズルノデアリマス、唯金サヘ出セバ何デモ
  出來ルト云フコトハ昔云フ田舍大盡ノ考デ、物ハ順ヲ以テ行カナケレバ、何
  事モ出來ルコトデナカラウト考ヘル、ソレカラ土方君ガ斯ウ云フコトヲ言ハ
  レタ、コンナ法律ヲ拵ヘタ所ガ到底行ハレッコハアルマイ、斯ウ言ハレル、是
  レ所謂司法當局ヲ無視シタ御言葉デアル、土方君ハ大學ニ居ラレテ實際ノコ
  トハ御承知デゴザイマスマイガ、ナカナカ司法當局ハ陪審法案ニ付テモ、反
  對論ガアッテハイカヌト云フノデ、蚤取眼デ法律ノ調査ニ從事シテ居リマス
  カラ、アナタノ御心配ノヤウナコトハゴザイマスマイ、其外、馬匹增殖ノコ
  ト、改良ノコトハ即チ先程ヨリ西尾君ガ御辯明ニナリマシタ、私ハ身體ガ疲
  レテ居リマスシ、此上申上ゲマスコトハゴザイマセヌガ、ドウゾ私ノ賛成ノ理
  由ハ馬ヲ愛スルヤウニシテ、之ニ導クノニハ、唯金バカリ入レテモサウナルモ
  ノデハナイ、供給者ガアッテモ、需要者ガナイ、其需要者ト云フ者ガ莫大ノ金
  員ヲ投ジ、其馬ヲ飼養シテ自ラ樂ム、又世間カラ褒メラルルカスル、今日一
  文ニモナラナケレバ瓦ニ等シイ、「ダイヤモンド」デモ骨董物デモ多額ノ金ヲ
  以テ買フノハ何デアリマセウ、矢張リソレヲ欲シガル者ガ他ニアルカラデア
  リマス、「ダイヤモンド」ト雖モ誰モ愛スル者ガナケレバ瓦ニ等シイモノデア
  ル、ドンナ立派ナ馬ヲ御造リニナッテモ五十萬頭ト云フモノヲ馬肉ニシテ〓ツ
  テ仕舞フ、是ハ馬ノ方カラ考ヘレバ殘念至極デアラウト思ヒマス、唯馬ガサ
  ウ考ヘルノミナラズ、屠ッテ馬肉ニスレバ、其價格ハ豚肉牛肉ヨリ安クナル、
  兎ニ角屠ヲテ仕舞ウト云フコトハ殘念ニ考ヘマス、右樣ノ次第デ私ハ漠タル
  議論デゴザイマスガ、ドコマデモ今囘ノ法案ト云フモノガ通過イタサザルニ
  於キマシテハ眞ノ馬匹ノ改良ハ望ムベカラザルコトト考ヘマスカラ、玆ニ賛
  成ノ意ヲ述ベテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=20

  ---

• 021・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　討論終結ノ動議ヲ提出イタシマス、滿場ノ諸君ノ御賛
  成ヲ請ヒマス
  〔「賛成」ト呼フ者アリ〕
  〔湯淺倉平君發言ノ許可ヲ求ム〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=21

  ---

• 022・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　湯淺君ハドウ云フコトデスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=22

  ---

• 023・湯淺倉平

  ○湯淺倉平君　私ハ何ニモ意見ヲ申スノデハアリマセヌガ、一身上ノ釋明ヲ
  極メテ簡單ニ致シタウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=23

  ---

• 024・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　極メテ簡單ニ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=24

  ---

• 025・湯淺倉平

  ○湯淺倉半君　承知イタシマシタ、唯〓、磯部君ノ御說ヲ駁スルノデモ何デ
  モゴザイマセヌ、唯磯部君ノ御發言中ニ、私ガ馬劵ノ發賣ハ賭博ノ一種ナリ
  ト申シタコトニ付テ何カ詭辯ヲ弄シテ居ルト云フコトデアリマシタガ、私ガ
  左樣ニ申シマスコトハ、其根據ハ政府カラ頂戴イタシマシタ此書類ニ左樣ニ
  論斷ヲ下シテアルノデアリマシテ、ソレニ基イテ馬劵ノ發賣ハ賭博ノ一種ナ
  リト云フコトヲ論ジタ次第デゴザイマスカラ、左樣御諒承ヲ願ヒタイト存ジ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=25

  ---

• 026・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　西大路子爵ノ討論終局ノ動議ニ定規ノ賛成者ガ
  アッタト認メマス、故ニ西大路子爵ノ動議ニ付テ先ヅ採決ヲ致シマス、西大
  路子爵ノ討論終局ノ動議ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者多數

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=26

  ---

• 027・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　過半數ト認メマス、本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤ
  ノ採決ニ付テ蜂須賀侯爵外三十五名ヨリ記名投票ヲ要求セラレマシタカラ、
  規則第百十八條ニ依リマシテ記名投票ヲ以テ行ヒマス、念ノタメ申述べマス
  ガ、規則第百十九條ニ依リマシテ、本案ノ第二讀會ヲ開クベシトスル諸君ハ白
  色票ヲ、第二讀會ヲ開クベカラズトスル諸君ハ靑色票ヲ、投票凾ニ御投入ヲ
  請ヒマス、茲ニ御諮リ致スコトハ、磯部君ハ步行不自由ニ付キマシテ、前例モ
  ゴザイマスカラ、隣席ノ御方ニ投票ヲ御委託ニ相成ッテ宜カラウカト考ヘマス
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=27

  ---

• 028・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス、又書記官ヲシテ諸君ノ氏
  名ヲ點呼スルコトモ省略イタシタイト考へマス
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=28

  ---

• 029・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス、是ヨリ二條公爵ヨリ順次
  御投票ヲ請ヒマス
  〔投票執行〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=29

  ---

• 030・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　投票漏レハゴザイマセヌカ······投票漏レハ無シト
  認メマス、書記官ヲシテ投票ヲ計算イタサセマス
  〔書記官投票ヲ計算ス〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=30

  ---

• 031・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　記名投票ノ結果ヲ御報告ニ及ビマス、投票總數二
  百二十五、白色票ヲ投ジタル者百七十五、靑色票ヲ投ジタル者五十、故ニ本
  案ハ第二讀會ヲ開クコトニ決シマシタ
  〔參照〕
  賛成百七十五名
  反對五十名
  賛成者氏名
  侯爵黑田長成君侯爵蜂須賀正韶君伯爵萬里小路通房君
  子爵伏原宣足君伯爵吉井幸藏君伯爵寺島誠一郞君
  伯爵兒玉秀雄君伯爵中川久任君伯爵林博太郞君
  伯爵松平賴壽君伯爵小笠原長幹君伯爵堀田正恒君
  伯爵大原重明君男爵小澤武雄君男爵木越安綱君
  服部一三君子爵藤波言忠君子爵唐橋在正君
  子爵靑山幸宜君子爵鍋島直虎君子爵土方雄志君
  子爵山口弘達君子爵京極高德君子爵本多實方君
  子爵勘解由小路資承君子爵藤谷爲寬君子爵稻垣太祥君
  子爵毛利高範君子爵松平直德君子爵靑木信光君
  子爵冷泉爲勇君子爵牧野忠篤君子爵酒井忠亮君
  子爵永井尙敏君子爵伊集院兼知君子爵堀河護麿君
  子爵高橋是〓君子爵五辻治仲君子爵細川立興君
  子爵櫛笥隆督君子爵西大路吉光君子爵六〓政賢君
  子爵五條爲功君子爵榎本武憲君子爵柳生俊久君
  子爵京極高備君子爵黑田〓輝君子爵京極高義君
  子爵今城定政君子爵水野直君子爵吉田〓風君
  子爵大給近孝君子爵本多忠鋒君子爵藪篤麿君
  子爵秋月種英君子爵伊東祐弘君子爵片桐貞央君
  子爵大河內正敏君子爵松平乘長君子爵堤雄長君
  子爵白川資長君子爵野村益三君子爵池田政時君
  子爵丹羽長德君子爵立花種忠君子爵新庄直知君
  子爵秋田重季君子爵渡邊十七番地子爵牧野一成君
  子爵戶澤正己君子爵西尾忠カ合子爵大浦兼一君
  子爵蒔田廣城君子爵竹屋春光君子爵板倉勝憲君
  男爵山中信儀君大山綱昌君男爵杉溪言長君
  北里柴三郞君男爵山根武亮君男爵沖原光孚君
  大久保利武君大島健一君道家齊君
  犬塚勝太郞君河村善益君水上長次郞君
  富谷鉎太郞君男爵宇佐川一正君佐藤三吉君
  男爵西村精一君黑岡帶刀君和田彥次郞君
  河村讓三郞君男爵高千穂宣麿君石塚英藏君
  小松謙次郞君男爵名和長憲君岡喜七郞君
  男爵太秦供康君男爵新田忠純君男爵南岩倉具威君
  男爵平野長祥君男爵鍋島直明君男爵山內豊政君
  男爵竹腰正己君笠井信一君神野勝之助君
  若林賚藏君男爵若王子文健君男爵德川厚君
  男爵船越光之丞君男爵北大路實信君男爵眞田幸世君
  男爵永山武敏君男爵黑川幹太郞君男爵長松篤棐君
  男爵島津長丸君男爵神山郡昭君男爵楠本正敏君
  男爵永山盛興君男爵橫山隆俊君男爵今園國貞君
  男爵藤村義朗君男爵二條正麿君男爵〓誠之助君
  男爵小畑大太郞君男爵調所恆德君男爵野田龜喜君
  男爵藤堂高成君男爵伊藤文吉君男爵中川良長君
  男爵辻太郞君男爵島津健之助君男爵岩佐新君
  男爵周布兼道君男爵寺島敏三君男爵高崎弓彥君
  高橋琢也君石渡敏一君加太邦憲君
  福永吉之助君橋本圭三郞君倉知鐵吉君
  市來乙彥君磯部四郞君室田義文君
  安樂兼道君馬場鍈一君湯地幸平君
  竹越與三郞君大村彥太郞君麻生太吉君
  和田豊治君伊藤傳七君石橋謹二君
  佐藤友右衞門君藤武喜助君桑原善吉君
  村野常右衞門君三田義正君竹村與右衞門君
  鎌田勝太郞君犬上慶五郞君金杉英五郞君
  二階堂三郞左衞門君高橋源次郞君花井卓藏君
  近岡理三郞君田中〓文君勝田銀次郞君
  平尾喜三郞君橫山章君成〓信愛君
  櫻井伊兵衞君
  反對者氏名
  公爵二條厚基君侯爵佐佐木行忠君伯爵松木宗隆君
  伯爵副島道正君伯爵勸修寺經雄君山脇玄君
  子爵樋口誠康君子爵〓岡長言君子爵八條隆正君
  松室致君男爵村上敬次郞君嘉納治五郞君
  石原健三君渡邊廉吉君玉利喜造君
  木場貞長君江木千之君荒川義太郞君
  仲小路廉君男爵坂本俊篤君男爵西紳六郞君
  內田嘉吉君土方寧君男爵阪谷芳郞君
  岡田良平君中村是公君上山滿之進君
  男爵斯波忠三郞君男爵岩倉道倶君男爵赤松範一君
  男爵矢吹省三君谷森眞男君藤田四郞君
  阪本 多之助君志村源太郞君川上親晴君
  菅原通敬君伊澤多喜男君西久保弘道君
  岡田文次君江木翼君湯淺倉平君
  大谷嘉兵衞君片岡直輝君鈴木摠兵衞君
  齋藤善八君岡本榮吉君矢口長右衞門君
  藤本閑作君西川甚五郞君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=31

  ---

• 032・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=32

  ---

• 033・大山綱昌

  ○大山綱昌君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=33

  ---

• 034・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　マダ重要ノ法案デ未了ガ多クゴザイマスカラ、御
  退席ハ御注意ヲ請ヒマス、直チニ本案ノ第二讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=34

  ---

• 035・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=35

  ---

• 036・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　題名、第一條ヲ問題ニ供シマス、原案ニ御異存ゴ
  ザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=36

  ---

• 037・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　次ハ第二條ヲ問題ニ供シマス、特別委員會ノ修正
  ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=37

  ---

• 038・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=38

  ---

• 039・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　次ハ第三條ヨリ第十五條マデ問題ニ供シマス、原
  案ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=39

  ---

• 040・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=40

  ---

• 041・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　次ハ第十六條竝ニ附則全部ヲ問題ニ供シマス、特
  別委員會ノ修正ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=41

  ---

• 042・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス、是ニテ第二讀會ヲ終リマ
  シタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=42

  ---

• 043・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=43

  ---

• 044・大山綱昌

  ○大山綱昌君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=44

  ---

• 045・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=45

  ---

• 046・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=46

  ---

• 047・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=47

  ---

• 048・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=48

  ---

• 049・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　日程第七、遠洋漁業奬勵法中改正法律案、政府提
  出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、佐佐木候爵
  〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
  遠洋漁業奬勵法中改正法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
  大正十二年三月二十日
  右特別委員長
  侯爵佐佐木行忠
  貴族院議長公爵徳川家達殿
  〔候爵佐佐木行忠君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=49

  ---

• 050・佐佐木行忠

  ○侯爵佐佐木行忠君　本案特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報〓イタシマス、
  本委員會ニ於キマシテノ質問ハ、一切御報告ヲ省略イタシマス、討論ニ入リマ
  シテ委員曾ハ希望決議ヲシテ居リマス、其希望決議ヲ御報告申上ゲマス、
  「一、本法案實施ニ關スル細則ヲ設クル場合ニ於テ保藏設備ノ如キハ其範圍
  ヲ定メ置クノ必要アリ」「二、奬勵金額ハ最高額ヲ示セルモノナルモ往々最
  高額ヲ支出スルノ巳ムヲ得サルコトアリ、船體ニ對スル金額ノ如キハ、船價
  ニ略〓比例シテ定メタルモ船價ノ高下ハ時期ニ依リ甚シキモノアリ、金額支
  給ノ場合ニハ過大ナラサルヤウ十分考慮セラレタシ」「三、發動機一馬力ニ對
  スル奬勵金モ發動機ニハ其種類多シ、又其種類優劣等ヲ十分考査セラレテ、
  金額ニ差等ヲ付スルコトヲ適當ナリト認メラルヽニ依リ、奬勵金支給ニ際シ
  テハ此點ニ留意セラレタシ」「四、漁船ノ改良ニ對シ適當ナル改造ヲ爲シタル
  場合ニハ、其改造費ノ三分ノ一以內ノ金額ヲ奬勵金トシテ交付スルコトトナ
  リ居レルモ、改造費ハ其範圍ヲ見定ムルコト往々困難ナルコトアリ、從ヲノ
  改良等ヲ名トシ過分ノ金額ヲ支出スルニ至ルノ懸念アリ、當局ハ此點ヲ十分
  嚴重ニ審査セラレ、遺憾ナキヲ期セラレタシ」「五、漁業ノ發展ヲ期スル爲船
  舶行政ノ主管タル遞信省ト協議シ速カニ二十噸以下五噸以上ノ漁船ニ關スル
  法規ヲ制定シ、漁船ノ檢査ヲ行ヒ登錄スルノ方法ヲ講シ、漁夫ノ生命ノ安全
  ヲ期スルト共ニ水產金融ノ圓滑ヲ圖ラレタシ」右五ツノ希望決議ヲ致シマシ
  タ、尙ホ本案ニ付キマシテハ何等ノ異議ナク可決イタシマシタ、御報〓申上
  ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=50

  ---

• 051・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
  カ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=51

  ---

• 052・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=52

  ---

• 053・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス
  〔「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=53

  ---

• 054・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　直チニ本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=54

  ---

• 055・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=55

  ---

• 056・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=56

  ---

• 057・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=57

  ---

• 058・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス
  〔「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=58

  ---

• 059・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=59

  ---

• 060・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=60

  ---

• 061・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=61

  ---

• 062・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=62

  ---

• 063・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　日程第八、大正十年法律第百二號中改正法律案、
  政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、大島君
  大正十年法律第百二號中改正法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
  大正十二年三月二十日
  右特別委員長
  公爵近衞文麿
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔大島健一君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=63

  ---

• 064・大島健一

  ○大島健一君　大正十年法律第百二號ノ改正案、此法案ハ恩給法改正委員會
  ニ審査ヲ付託ニナリマシタ、委員長近衞公爵ハ御缺席デゴザイマスルカラ、私
  ヨリ單簡ニ御報告ヲ申上ゲマス、此法案ノ趣意ハ一昨年裁判所構成法ノ七十
  四條デゴザリマスガ、判事檢事ノ定年退職ノ規定ニ伴ヒマシテ出來マシタノ
  デ、ソレ等ノ退職判事檢事ニ恩給ノ二分ノ一、百分ノ五十ヲ增加支給スルコ
  トニナッテ居リマス、是ガ此金額ヲ目的トシテ定メマシタモノデアリマスノ
  デ、今囘ノ恩給法ノ改正ニ依リマシテ恩給額ガ著シク增加イタシマシタカラ、
  前ノ百分ノ五十ヲ三十ニ改メルト云フ法案デゴザイマス、全會異議ナク審査
  可決イタシマシテゴザイマス、此段御報〓申シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=64

  ---

• 065・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　二十分間休憩イタシマス
  午後四時二十三分休憇
  午後五時開議

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=65

  ---

• 066・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ報〓ヲ致サセマス
  〔長書記官朗讀〕
  本日衆議院ヨリ本院ノ囘付ニ係ル左ノ政府提出案ハ本院ノ修正ニ同意シ奏
  上セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
  大正十二年度各特別會計歲入歲出豫算案
  本日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政府提出案ハ直ニ之ヲ衆議院ニ囘付セ
  リ
  競馬法案
  本日衆議院ヨリ左ノ法律案ヲ提出セリ
  人事訴訟手續法中改正法律案

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=66

  ---

• 067・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ會議ヲ開キマス、唯〓大島副委員長ガ報告
  ヲセラレマシタ日程第八ノ法律案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=67

  ---

• 068・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=68

  ---

• 069・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=69

  ---

• 070・藪篤麿

  ○子爵藪篤麿君　賛成
  〔「贊成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=70

  ---

• 071・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　直チニ本案ノ第二讀會ヲ開イテ御異議アリマセヌ
  カ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=71

  ---

• 072・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=72

  ---

• 073・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　全部ヲ問題ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=73

  ---

• 074・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=74

  ---

• 075・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=75

  ---

• 076・藪篤麿

  ○子爵數篤麿君　賛成
  [「賛成」ト呼フ者アリ]

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=76

  ---

• 077・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　直チニ本案ノ第三讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=77

  ---

• 078・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=78

  ---

• 079・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=79

  ---

• 080・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=80

  ---

• 081・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　日程第九、工場法中改正法律案、第十、工業勞働
  者最低年齡法案、第十一、船員ノ最低年齡及健康證明書ニ關スル法律案、政
  府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、中川伯爵ノ登壇ヲ望ミマ
  ス
  工場法中改正法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
  大正十二年三月二十一日
  右特別委員長
  伯爵中川久任
  貴族院議長公爵徳川家達殿
  工業勞働者最低年齡法案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
  大正十二年三月二十一日
  右特別委員長
  伯爵中川久任
  貴族院議長公爵德川家達殿
  船員ノ最低年齡及健康證明書ニ關スル法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
  大正十二年三月二十一日
  右特別委員長
  伯爵中川久任
  貴族院議長公爵徳川家達殿
  〔伯爵中川久任君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=81

  ---

• 082・中川久任

  ○伯爵中川久任君　唯今上程セラレマシタ各法案ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ
  御報〓イタシマス、第一ニ工場法中改正法律案ヨリ御報告イタシマス、此法
  案ノ提出ノ理由ハ、先般本議場ニ提出當時ニ政府委員ヨリ說明ニナリマシタ
  カラ是ハ略シマシテ、今度改正ニナルベキ要點ヲ御報〓申上ゲマス、改正要
  點ハ適用ヲ受クベキ工場ノ範圍ヲ擴張シタコト、保護職工ノ範圍擴張デアリ
  Kv18尙ホ保護職工ノ勞働時間ヲ短縮シタコト、又保護職工ノ深夜業禁止ノ
  猶豫期間ヲ短縮シタコト、尙ホ深夜ト云フ範圍ヲ延長シタコトデゴザイマ
  ス、是等ニ付ラノ細カイコトハ略シマス、ソレニ付キマシテ主モナル御質問
  ハ、工場法ノ改正法律案ガ成立イタシマシテ、此法案ヲ施行サレタ曉ニハ、生
  產能力ニ如何ナル影響ヲ及ボスカト云フコト、今一件ハ此法案ハ勞働會議ノ
  條約案ノ趣旨ヲ參酌イタサレテ制定サレタモノデゴザイマスルカラシテ、其
  條約案ノ御批准ニナッタ曉ニハ、此法律ト如何ナル關係ヲ有ツデアラウカト云
  フコトヲ質問ニナリマシタ、討論ニ移リマシタ所ガ、別ニ異議ヲ唱ヘル人モ
  ナク、全會一致デ此法案ヲ可決イタシマシタ、次ニ工場勞働者最低年齡法案ニ
  付テ御報告ヲ致シマス、此法案モ勞働會議ノ條約案ノ精神ヲ參酌イタサレマ
  シテ、新タニ制定サレタモノデゴザイマス、此法案ハ從來ハ此法案ヲ適用サレ
  タ範圍ハ、工場法及鑛業法ニ適用サレテ居リマシタノヲ、其範圍ヲ擴メマシ
  テ、鑛山業土木建築運輸等ノ業ニモ其範圍ヲ及ボスコトニナリマシタ、尙ホ
  其年齡ヲ現行ノ工場法及鑛業法ニ於キマシテハ、最低年齡ヲ原則トシテ十二
  歲デゴザイマスケレドモ、極ク輕易ナル業務ニ限ッテ十歲マデヲ使用スルコト
  ガ出來ルト云フコトニナッテ居リマシタノヲ、此度ハ滿十四歲以上ヲ原則ト致
  シマシテ、尋常小學校ノ〓科ヲ終了シタ者ヲ使用スルト云フコトヲ特別ニ許
  サレテ······使用ヲ許サレマシタ、尤モソレモ滿十二歲以上ト云フコトニナッタ
  ノデアリマス、之ニ付キマシテ別ニ此法案ニ反對ノ意見ハゴザイマセヌガ、
  併ナガラ最低年齡ヲ十四歲ト定メラレマシタカラシテ、十四歲以下ノ者ハ使
  用サレルコトガ禁ジラレタ譯ニナルノデアリマス、尙ホ一方ニハ小學校令ニ
  於テハ、貧困ナル者ハ之ヲ小學ニ這入ルコトヲ免除スルト云フ現行法ノ規定
  ニナッテ居リマス、然ラバ工場ニ這入ッテ此職業ニ就クコトハ、十四歲以下ハ
  此法律デ禁ジ、又小學校ニ這入ルコトヲ免除サレテ居ル、其間ノ兒童ハ職ニ
  就クコトモ出來ズ、又學業ニ就クコトモ出來ナイヤウナ有樣ニナッテ、自然
  不良ノ性質ヲ帶ビル機會ガ餘計ニナルト云フガ爲ニ、茲ニ一ツノ希望條件ガ
  出マシタ、其條件ヲ讀上ゲマス「工業勞働者ノ最低年齡ヲ規定スルニ當リ、
  小學校令第三十三條第三項ハ之ヲ削除シ、且ツ貧困兒童ニ對シテ、尋常小學
  校ノ〓科ヲ修了セシムヘキ適當ノ施設ヲ講セラレムコトヲ望ム」斯ウ云フ希
  望條件ガ出マシタ、是ハ異議ナク全會賛成デゴザイマシタ、此希望條件ヲ添
  ヘテ此案ハ可決ニナリマシタ、次ニ船員ノ最低年齡及健康證明書ニ關スル法
  律案、此案モ勞働會議ノ決議案ノ趣旨ヲ參酌イタシテ制定サレタモノデゴザ
  イマス、此案ニ付テハ別ニ大シタ質問モナク、原案ニ可決サレタ次第デアリ
  やっゝ、此段御報告申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=82

  ---

• 083・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　諸君ニ於テ御異議ガナケレバ唯今中川委員長ノ報
  告セラレマシタ三法案トモ、一括シテ議題ト致シマス、通〓ガゴザイマスカ
  ラ山脇君ニ御質疑ヲ許シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=83

  ---

• 084・山脇玄

  ○山脇玄君　極ク簡單デゴザイマスカラ、此處デ述ベテ宜シウゴザイマスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=84

  ---

• 085・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　宜シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=85

  ---

• 086・山脇玄

  ○山脇玄君　農商務大臣ニ二三伺ヒタイノデアリマスガ、此工場法監督ト云
  フコトハ、ナカナカ困難ナ問題デアルヤウデアリマス、デ監督スル人ハ技術
  上衞生上十分經驗ノアル人デナケレバ監督ハ出來ナイノデアリマス、又サウ
  云フ經驗ノナイ人ガ工場ニ臨ンデモ、其工場主カラ輕蔑サレテ一向監督モ出
  來ヌト云フコトニナラウト思フ、ソコデ私ガ伺ヒタイノハ、此工場法施行以
  來、監督官ノ監督ノ成績ト云フモノハドウ云フ風デアルカ、私共チラチラ聞
  キマスト、工場ノ監督ト云フモノガ行届イテ居ラナイト云フノハ、即チ工場
  主ガ監督官ヲ餘リ尊敬モセズ、監督ヲ受ケルノヲ快シトシナイト云フ點ニア
  ルノデアラウト思フ、ソレハマア世上ノ一二ノ評デアリマスガ、農商務省ノ
  方ハ久シク其狀況ヲ御調ベニナッテ居リマセウカラ、今日マデノ監督ノ有樣、
  成績ハ能ク擧ッテ居ルカドウカ、ドウモ擧ガラヌノデ、今斯ウ云フ方法ヲ講
  ジテ居ルト云フヤウナ、監督ノ模樣ヲ承リタイノト、今一ツハ工場監督ヲ致
  シマスルト云フト、報告書ト云フモノガアルデアラウト思フ、其實況ハ私ハ
  知リマセヌガ、報告書ハアルデアラウト思フ、其報告ガアルトスルト、報〓
  ハドウナッテ居ルカ、唯農商務省ニ納ッテ居ルノデアッテ、世上ニハ一向發表
  シナイト云フノデアルカ、私共ガ希望スル所ハ、報〓書ガアレバソレヲ世上
  ニ發表シテ欲シイ、世上ニソレヲ發表スルト云フト、國民ガ工場ノ有樣ト
  カ、或ハ危險ノ工場デアレバドウ云フ設備ガシテアルトカ云フヤウナ、工場
  ノ有樣ヲ世人ガ知リ、又工場ニ於ケル職工ノ有樣ト云フモノガ世人ニ解ル、
  今ハドウ云フ有樣デアルカト云フコトガ一向解リハシナイ、其報〓書ガ公ニ
  サレルト餘程國民ガ日本ノ工場ト云フモノハ斯ウ云フモノデアッテ、危險ノ
  アル工場ニハ斯ウ云フ設備ガアルト云フヤウナ智識ヲ得テ、サウシテ改良ス
  ベキモノハ改良スルト云フ考ガ起ッテ來ルノデアラウト思フ、ソレカラ第三
  ハ、監督ト云フコトニナリマスルト云フト、其人ガ餘程大切デアル、デ私ノ
  伺ハムトスルノハ、日本ハ申スマデモアリマセヌ、纎維工業ト云フモノハ他
  ノ工業ヨリハ數モ多イシ、又之ニ使用スル職工ハ男子ヨリモ女子ガ多イ、其
  點カラ言ッテモ、日本ハ女子ノ職工ガ多イノデアリマス、ドウシテモ此工場
  ヲ監督スルニハ女子ノ監督······(聽取シ難シ)ト云フコトガ必要デアラウト思
  フ、ソレハ外國デモ矢張リ其通リデ、初メハ男子デアッタケレドモ、纎維工
  業ナドガ發達シ、殊ニ寄宿舍ナドノ場合ハ、男子ガ行ッテ調ベタッテ一向解ラ
  ヌ、ドウシテモ女子ノ監督官ト云フモノヲ置カナケレバナラヌヤウニナッタヤ
  ウデアリマスガ未ダ日本デハサウ云フ必要ヲ御感ジニナラヌノデアルカド
  ウカ、今一ツハ失業保險ノコドヲ伺フノデアリマスガ、今ヤ申スマデモアリ
  マセヌ、日本ノ工業ト云フモノハ次第ニ衰頽シテ來タ、ソレハ其筈デアル、
  先達カラ御話ガアリマシタ通リ、我國ノ工業ハ模倣工業デアル、眞似ヲシタ
  工業デアル、是ハ他ノ國ガ日本ヲ······(聽取シ難シ)皆ナ其方ニ行ッテ仕舞ウ、
  一番困ルノハ支那デアル、支那ハ申スマデモアリマセヌ、資本モ豊富デア
  リ、原料ガ何デモ、鐵モ、石炭モ、其他皆備ハッテ居ル、我國ニハソレガナ
  イ、其支那人ガ今日自覺シテ、外國品デ生活シテ居ル譯ニハ行カヌ、自分デ
  ヤラウヂヤナイカト云フノデ、紡績モ起リ、燐寸製造モヤル、硝子製造マデ
  モ既ニ起ッテ來タ、此有樣デ是ガ段々盛ンニナレバ、日本ノ紡績ハ奪ハレテ仕
  舞ウ、模倣ノ工業ハ皆支那ニ行ッテ仕舞ウ、サウスルト今日ノヤウナ段々人
  口ハ殖エル、國民ノ生活狀態ハ充實スルト云フコトニナリマスレバ、ソレハ
  德川時代ノヤウナ鎖國デハ出來ナイノデアルカラ、之ヲドウスレバ宜イカト
  云ヘバ、是ハ申スマデモアリマセヌ、ドウシテモ日本固有ノ工業ト云フモノ
  ヲドウシテモ發達シナケレバナラヌ、ハヤ、今日海外ニ輸出シテ居ル生絲ハ當
  テニナリマセヌ、是ハ天候ニ支配サレル、サウ云フモノハ當テニハ出來ナイ、
  ドウシテモ人工ヲ以テ築上ゲタ所ノ工業ニ土臺ヲ置カナケレバナラヌ、其工
  業ヲ起スニ付テハ、過日カラ段々論議モアリマシタヤウニ、ドウシテモ〓究
  ニ俟タナケレバナラヌ、一體日本ノ技術家ハ〓究スル頭ガナイト云フコトヲ
  言フガ、決シテ私ハサウハ信ジナイ、詰リ金ノ問題デアル、金サヘ十分出セ
  バ日本特殊ノ工業ト云フモノハ出來ル譯デアル、ソレヲ早ク今日カラ講ジテ
  置カヌト云フト、ドウシテモ模倣工業ハ支那ニ奪ハレテ仕舞ッテ、日本ニハ
  何モ殘ラヌト云フコトニナル、ソレデハ國ハ成立チハシナイ、今カラ其方ニ
  金ヲ注ギ込ンデ日本獨創ノ工業ト云フモノヲ起スヤウニ意ヲ用ヒナケレバナ
  ラヌ、サウ云フヤウナ目下ノ地位ニアル、危急ニ迫ッテ居ルカラ、此際段々
  不景氣ニナッテ、失業者ガ澤山出來テ來ル、是カラ段々出テ來ルニ違ヒナイ
  ト思フ、少シ悲觀說デアルガ、出テ來ルニ違ヒナイ、モウ是カラアナタ獨逸
  ノ賠償問題デモ······(聽取シ難シ)必ズ製藥品ガヤッテ來ルニ違ヒナイ、ソロ
  ソロヤッテ來テ居ル、製藥品ガ澤山獨逸カラ良イ品物デ廉イ直段ノモノガ來
  タラ、日本ノ製藥業者ハ將棊倒シニバタバタ倒レテ仕舞フノハ解リ切ッタコ
  トデアル、其他ノモノデモ大部分倒レテ居ル、今度來ルノハ製藥ニ違ヒナ
  イ、其製藥品ガ來タラアナタドウシマス、澤山アル日本ノ製藥業者ハ皆潰レ
  テ仕舞フト云フヤウナ有樣デアル、ソレデ今申シマシタ通リ、ソンナニ危急
  ノ場合デアッタナラバ、尙更早ク金ヲウント使ッテ、日本特殊ノ工業ヲ發達セ
  シメナケレパナラヌ、サウスルニハ矢張リ熟練職工ヲ得ルコトガ必要デアリ
  マシテ、其職工ヲ······(聽取シ難シ)スルコトガ必要デアル、ソレニハ私ハド
  ウシテモ失業保險ガ必要デアラウト思フ、失業保險ト云フモノハソレハナ
  カナカムヅカシイデアリマセウ、拵ヘルコトハ難カシイニ違ヒナイ、ケレド
  モソレハ英吉利ナドハ其保險デハ一番完全ダト思ヒマスガ、其他ニモ幾ラデ
  モアル、之ヲ御調べニナッテ···モウ御調べニナッテ居ルデアラウガ、此失業
  保險ト云フモノヲ餘リ遠キ未來デナク、近々御發表ニナルト云フヤウナ御考
  ガアリヤ否ヤ此數點ヲ伺ヒマス
  〔國務大臣荒井賢太郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=86

  ---

• 087・荒井賢太郎

  ○國務大臣(荒井賢太郞君)　山脇博士ノ御質問ニ御答ヘ致シマス、第一ノ御
  質問ハ工場法ノ監督ニ關スル從來ノ成績如何ト云フ御質問ノヤウデアリマ
  ス、工場法ノ監督ニ關シマシテハ、從來各府縣ノ主ナル所ニ監督官ヲ置キマ
  シテ、監督ヲ致シテ居リマス技術方面、衞生方面、又事務方面ニ對シマシ
  テ監督ヲ行ッテ居リマスル、固ヨリ此監督ノコトハ唯今山脇博士ノ御述べニ
  ナリマシタ通リ、頗ル困難ノモノデゴザイマスルカラシテ、必ズ之ヲ以テ滿
  足シタル成績ヲ擧ゲ得タトモ信ジテ居リマセヌケレドモ、隨分綿密ナル監督
  ヲ施シテ居リマス而シテ其監督ノ結果ハ年報ヲ發表イタシマシテ、其年報
  ニ載セテアリマス、次ニ女子ノ職工ニ對シテノ監督ハ矢張リ女子ヲ使用スル
  ト云フコトガ適當デハナカラウカト云フ御質問デゴザイマスガ、是レ如何ニ
  モ女工ニ對シマスル監督ハ矢張リ婦人ヲ使用スルノガ宜カラウト思フノデア
  リマス、併ナガラ其適任者ヲ得ルト云フコトガ極メテ困難デアリマシテ、今
  囘ニ於テハ考慮ハ致シテ居リマスガ、未ダ女子ノ監督官ヲ置クマデニ至ラナ
  カッタノデアリマス、今後此點ニ付テハ考慮ヲ要スルコトヽ存ジマス、第二
  點ノ失業保險ノコトニ關シマシテハ、是ハ目下內務省社會局ニ於キマシテ調
  査考究中デゴザイマス、若シ詳シイコトデアリマシタナラバ、社會局ノ擔任
  者カラ御答申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=87

  ---

• 088・山脇玄

  ○山脇玄君　能ク分リマシタガ、監督報〓ハ年報ト云フコトヲ仰セニナリマ
  シタガ、其年報ハ何ト云フ名デ出テ居リマスカ、ソレヲモウ一應御自席カラ
  デ宜シウゴザイマスカラ····

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=88

  ---

• 089・荒井賢太郎

  ○國務大臣(荒井賢太郞君)　此席カラ御答イタシマス、工場監督年報ト云フ
  名前ノ下ニ每年發表イタシテ居リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=89

  ---

• 090・山脇玄

  ○山脇玄君　社會局長ハ御出席ニナッテ居リマスカ、私ハ目ガ惡クテ見エマ
  セヌガ、御出席ニナッテ居ッタラ御答ヲ願ヒタイト思ヒマス
  〔政府委員塚本〓治君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=90

  ---

• 091・塚本清治

  ○政府委員(塚本〓治君)　失業保險ノ調査中デアルコトハ旣ニ御答ガアリマ
  シタデスガ、社會局ニ於キマシテ既ニ昨年高等官ヲ海外ニ派遣イタシマシテ
  專ラ外國ノ前例ヲ取調ベサセマシテ、漸ク此二月ノ半バニ其者ガ歸任イタシ
  マシタヤウナコトデアリマス、一面ニ於キマシテ內地ノ實情ヲ調查イタシテ
  居ルノデアリマス、唯〓モ御話ノアリマシタ通リ英國ノ如キ失業保險ヲ强制
  イタシテ居リマスル所ニ於キマシテハ、其前提ト致シマシテ職業紹介所ノ設
  置ノ普及シテ居ルコトガ必要ナノデアリマス、ソレ故ニ我國ニ於キマシテモ
  御承知アラセラレマス通リ、一昨年十月以後、各地ニ職業紹介所ノ設置ヲ促
  シマシテ今日デハ百九箇所マデニ達シマシタノデアリマスルケレドモ、失業
  保險ヲ行ヒマスルマデニハ其數ガモット多クニ上ボリ、モット普遍イタスデナ
  ケレバ、卽チ勞働ノ需要供給ノ圓滿ナル統合ガ圖ラレマセヌカラ、其普及ニ
  依テ勞働ノ需要供給ノ圓滿ナル調節ニ依テ、而シテ尙ホ其勞働者ノ業務ヲ得
  ラレナイ失業者ニ對シテ失業保險ヲ行フト云フコトニナラナケレバナラヌト
  思フ、ソレ故ニ一方ニ於キマシテ內地ノ實情、海外ノ先例ヲ取調ルト共ニ失
  業保險ノ前提タルベキ職業紹介所ノ普及ニ努メツヽ居リマス次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=91

  ---

• 092・山脇玄

  ○山脇玄君　今一應社會局長ニ伺ヒタウゴザイマスガ、唯〓仰セノヤウニ失
  業保險ハ職業紹介所ガ完全シテ居ナケレバイカヌ、ソレハ御尤デアルト思ヒ
  マス、サウ致シマスト、今日ノヤウニ個人ヤ自治團體ニ任セテ置ク譯ニハ行
  クマイ、ドウシテモ國家ガソレニ加ハッテ統一スルト云フコトニナラナケレ
  バ完全ニ職業紹介所ハ行ハレヌ、是ハ英吉利ノヤウニ國家ガ統一シテ居ル職
  業紹介所ガ出來ニヤ失業保險ガ出來ナイ、英吉利デハ政府ガ統一シテ居レバ
  コソ、失業保險ガ非常ニ完全ニ行ハレテ居ルト云フヤウニ承ッテ居ル、此職業
  紹介所ト云フモノニ政府ハ是ニ加ハッテ統一スルト云フ御考ハアルノデアル
  カドウカト云フコトヲモウ一應伺ヒマス
  〔政府の員塚本〓治君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=92

  ---

• 093・塚本清治

  ○政府委員(塜本〓治君)　御答ヘ申上ゲマス、英吉利ニ於キマシテハ職業紹
  介所其モノガ數多ク、而シテ各地ニ普及イタシテ居リマシテ、サウシテ其上
  ニ各職業紹介所ノ事務ノ聯絡統一ヲ圖リマス機關ノ設ケガアルヤウニ、我國
  ニ於キマシテモ斯樣ナ組織ニ致シタイト存ジマシテ、旣ニ豫算デ御覧下サ
  イマシタ通リ、來年度ニ於キマシテハ此各地ニ於ケル職業紹介所ノ聯絡ヲ圖
  リマスルガ爲ニ、地方的ニ來年度ニ於キマシテ大阪地方、ソレカラ東京地方
  ト云フ風ニ、全國ヲ二分イタシマシテ、各地方ノ勞働ノ需要供給ノ統一ヲ圖
  ラセル機關ヲ設クル、其上ニ全國ヲ統一イタシマシタ中央職業紹介所事務局
  ト云フモノヲ東京ニ設置スル見込ヲ以チマシテ、既ニ經費ノ要求ヲ致シマシ
  タ次第デアリマスカラ、來年度カラハ丁度御話ニナリマシタコトガ實現セラ
  レル見込デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=93

  ---

• 094・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　三案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
  カ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=94

  ---

• 095・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=95

  ---

• 096・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=96

  ---

• 097・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=97

  ---

• 098・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　直チニ三案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=98

  ---

• 099・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=99

  ---

• 100・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　三案全部ヲ問題ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=100

  ---

• 101・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=101

  ---

• 102・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=102

  ---

• 103・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=103

  ---

• 104・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　直チニ三案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=104

  ---

• 105・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=105

  ---

• 106・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=106

  ---

• 107・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認ノマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=107

  ---

• 108・和田彦次郎

  ○和田彥次郞君　私ハ此際日程變更ノ動議ヲ出シタイト思ヒマス、日程第十
  六、產業組合中央金庫法案、此法案ヲ日程ヲ變更シテ直チニ議スルコトノ動
  議ヲ提出イタシマス、皆サン御賛成ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=108

  ---

• 109・八條隆正

  ○子爵八條隆正君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=109

  ---

• 110・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=110

  ---

• 111・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　和田彥次郞君ノ議事日程變更ノ動議ニ同意ノ諸君
  ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者多數

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=111

  ---

• 112・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　過半數ト認メマス、是ハ衆議院提出案デゴザイマ
  スカラ政府ノ同意ヲ求メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=112

  ---

• 113・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　政府ノ同意ヲ得マシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=113

  ---

• 114・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第十六、產乗組合中央金庫法案、衆議院提出、
  第一讀會ノ續、委員長報〓、勸修寺伯爵ノ登壇ヲ望ミマス
  產業組合中央金庫法案
  右別冊ノ通修正セリ依テ及報〓候也
  大正十二年三月二十三日
  右特別委員長
  伯爵勸修寺經雄
  貴族院議長公爵德川家達殿
  (特別委員ノ修正ニ係ル條ノミヲ印刷シ其他ハ之ノ
  ヲ略ス小字ハ修正文、ヲ略ス小字ハ修正又、-ハ同削除ノ符號ナリ)ハ同削除ノ符號ナリ
  第十五條產業組合中央金庫ハ左ノ方法ニ依ルノ外業務上ノ餘裕金ヲ運用
  スルコトヲ得ス
  ー國債又ハ公債ノ買入、大藏省預金部若ハ主務大臣ノ認可ヲ受ケタル
  銀行ヘノ預金又ハ郵便預金ト爲スコト
  유 八
  二產業聯合組合會、產業組合、公共團體其ノ他營利ヲ目的トセサル
  法人ニ對シ短期貸付ヲ爲スコト
  第十六條無擔保ニテ借入ヲ爲シタル府縣市町村其ノ他法律ニ依リ組織セ
  ル公共團體ニ於テ元利金ノ拂込期日ヲ過キ之ヲ拂込マサルトキ又ハ期限
  前ノ置還請求ニ對シ其ノ拂込ヲ爲ササルトキハ產業組合中央金庫ハ監督
  官廳ニ其ノ處分ヲ請求スルコトヲ得
  前項ノ場合ニ於テ產業組合中央金庫ハ府縣ニ對シテハ內務大臣ニ市町村
  其ノ他法律ニ依リ組織セル公共團體ニ對シテハ第一次監督官廳ニ其ノ請
  求ヲ爲スヘシ
  監督官廳請求ヲ受ケタルトキハ府縣市町村其ノ他法律ニ依リ組織セル公
  共〓體ニ命令シテ延滯元利金ヲ拂込マシムヘシ
  六
  第十七條產業組合中央金庫ハ本法ニ記載セサル業務ヲ營ムコトヲ得ス
  第四章產業債劵
  七
  第十八條產業組合中央金庫ハ拂込金額ノ十倍ヲ限リ產業債劵ヲ發行スル
  コトヲ得但シ資付金現在高割引手形現在高及其ノ所有ニ係ル有價證劵現
  在高ヲ超過スルコトヲ得ス
  產業債劵ノ發行ニ關シ必要ナル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〓所得稅法及
  ○登錄法中社債ニ關スル規定ハ產業債劵ニ付キ之ヲ準用ス
  八
  第十九條產業債劵ハ劵面金額五拾圓以上トシ無記名利札附トス但シ應募
  者又ハ所有者ノ請求ニ依リ記名ト爲スコトヲ得
  十九七
  第二十條產業組合中央金庫ハ產業債劵借換ノ爲一時第十八條ノ制限ニ依
  ラス低利ノ產業債劵ヲ發行スルコトヲ得
  前項ノ規定ニ依リ產業債劵ヲ發行シタルトキハ發行後一箇月以內ニ抽籤
  ヲ以テ其ノ發行劵面金額ニ相當スル舊產業債劵ヲ償還スヘシ
  (第二十一條ヲ第二十條ニ改メ以下第三十四條マテ條數順次繰上ケ)
  四
  第三十五條左ノ場合ニ於テハ產業組合中央金庫ノ理事長、副理事長、理
  事又ハ監事ヲ百圓以上千圓以下ノ過料ニ處ス
  -本法ニ於テ主務大臣ノ認可ヲ受クヘキ場合ニ其ノ認可ヲ受ケサルト
  キ
  二主務大臣ノ命令ニ反シタルトキ
  三第十五條ノ規定ニ反シ業務上ノ餘裕金ヲ使用シタルトキ
  六
  四第十七條ノ規定ニ反シ本法ニ規定セサル業務ヲ營ミタルトキ
  七十九
  五第十八條第一項及第二十條第二項ノ規定ニ反シタルトキ
  (第三十六條ヲ第三十五條ニ改メ以下第四十一條マテ條數順次繰上ケ)
  〔伯爵勸修寺經雄君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=114

  ---

• 115・勸修寺經雄

  ○伯爵勸修寺經雄君　產業組合中央金庫法案ノ特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ
  御報告イタシマス、委員會ハ四囘開キマシテ、本案ハ全國ニゴザイマス各種
  產業組合ガ約一萬四千ゴザイマスガ、中央ニハ何等之ヲ統一スル機關モアリ
  マセヌ、又是等組合ガ必要トシマスル資金ハ僅ニ日本勸業銀行或ハ農工銀行
  カラ融通ヲ受ケテ居リマスルケレドモ、其額ハ至ッテ少ク、而カモ是等ノ銀行
  ニテハ信用ヲ以テ貸スト云フコトガナク、又主モニ長期ノ貸付デゴザイマス
  カラ、組合ノ中以下ノ者ニ向ッテハ甚ダ其資金ヲ得ルノニ困難デゴザイマス、
  ソレデ各組合ガ自カラ資金ヲ持寄リマシテ、金庫ヲ造ッテ、所屬ノ組合ニ對
  シ預金ヲモ受ケ、又信用ヲ基礎トシテ、相互ニ扶助ヲシヤウト云フ主義ニ依
  リマシテ、成ルベク無擔保デ五年以內ノ定期貸付ヲスル爲ニ設立スルト云フ
  ノデゴザイマス、組合相互ノ出資ノミデハ、甚ダ額ガ少ウゴザイマスカラ、
  全資本ノ半分ヲ政府カラ出資イタシマシテ、尙ホ拂込濟ミノ資金ノ額ニ依リ
  十倍限リノ債券ヲ發行スルコトヲシヤウト云フノデゴザイマス、政府ニ於キ
  マシテモ豫テ斯ウ云フ風ノ案ガ調査研究中デゴザイマシタガ、今囘農村振興
  ノ一方法トシテ、衆議院カラ提出サレマシタカラ、政府ノ意見ヲモ十分之ニ
  加ヘテ此案ガ出來タ譯デゴザイマス、委員會ニ於キマシテハ色〓金ヲ無擔保
  デ組合ニ貸付ケルノデゴザイマスカラ、ソレニ付テノ色〓ノ質問ガゴザイマ
  シタガ、最モ大ナル注意ヲセネバナラヌコトヲ二ツ三ツ御紹介申上ゲマス
  ト、無擔保デ制限ガナク貸付ケルノデアルシ、組合ノ方ハ多ク有限デアルカ
  ラドウデアラウカト云フ御質問モゴザイマシタガ、是ハ業務規程デ詳細ニ規
  定スルカラ、其心配ハナカラウト云フヤウナ政府ノ答デゴザイマシタ、又勸
  業銀行其他ガ今囘規則ヲ改正セラレテ、割引債劵モ發行サレ、零碎ノ資金ヲ
  集メテ、少額ノモノデモ貸スコトニナットルノニ、又斯ウ云フ金庫ガ出來テ
  ハソレ等銀行ニ對スル影響ハドウデアラウカト云フヤウナ御質問モゴザイ
  マシタガ、是モ組合ノ方ハ主モニ短期デアリマシテ、尙ホ頗ル額ガ少イモノ
  デゴザイマスカラ、其影響モナカラウカト云フコトデアリマス、又組合ノ方
  ニ對シテハ成ルベルク低利デ融通ヲシタノデアルカラ、組合ガ債劵ナドヲ出
  シタ時ニハ從テ高イ利子モ拂ハナケレバナラヌカラ、組合ノ融通ヲ受ケル額
  モ高クハナリハセヌカト云フ御心配ノ御質問モゴザイマシタケレドモ、ソレ
  等ハ勸業銀行ガ產業債劵ヲ引受ケルコトモアルカラ、サウ云フ風ノ心配モナ
  カラウト云フコトノ返事ガアリマシタ、監督方法ニ於テモ色〓ト御質問ガア
  リマシタ、愼重審議ヲ致シマシタ結果、修正スルコトニナリマシテ、ソレハ
  第十五條ノ第二項ノ「產業組合聯合會」ト「產業組合」ト云フ間ニ「又ハ」ノ二
  字ヲ加ヘマシテ、「產業組合」ノ下ノ「公共團體其ノ他營利ヲ目的トセサル法
  人」ノ十八字ヲ削ルコトニナリマシタ、ソレニ依テ自然第十六條ハ全部削除
  ヲ致シマシテ、第十八條ノ第三項ノ「登錄稅法中」ノ上ニ「所得稅法及」ノ五字
  ヲ加ヘマシタ、ソレデ第十六條ガ削除サレマシタカラ、自然總テ其以下ノ條
  項ハ一條ヅツ繰上ゲマシテ、又條文中ニゴザイマスル條モ一ツヅツ其數字ヨ
  リモ上ッタ譯デアリマス、此修正ハ滿場一致デ議決サレマシタ、尙ホ監督ノコ
  トニ付テ希望ガ出マシテ、貸出ハ主モニ無擔保デアリマスカラ、相當ノ保證
  又ハ貸出ノ制限ニ付テ調査ヲスル必要ガゴザイマス、現今ニ於キマシテハ產
  業組合ノ監督トシテ、中央ニ五六人ノ官吏ガアリ、地方ニ多少ノ官吏ガ居ルパ
  カリデゴザイマスカラ、前條ノヤウナ次第ニナリマスルト、是ダケデハ迚モ足
  リマセヌカラ、サウ云フコトヲ十分一ツ監督ヲ嚴ニシテ、嚴重ニ事業ヲ監督
  シテ貰ヒタイト云フコトデ希望ノ條件ガ出マシタガ、是モ滿場一致ヲ以テ希
  望決議ヲ致シマシタ、其決議ノ文ヲ朗讀イタシマスル「本法ヲ施行スルニ當
  リ特ニ監督ヲ嚴ニスルノ要アルヲ認ムルヲ以テ政府ハ之ニ關シ適當ナル處置
  ヲ執ラレムコトヲ望ム」是ダケヲ以テ委員會ノ御報告ヲ終リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=115

  ---

• 116・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　別ニ御發言モナイト存ジマスカラ採決ヲ致シマス
  ル、本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=116

  ---

• 117・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=117

  ---

• 118・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直ニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=118

  ---

• 119・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=119

  ---

• 120・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　直チニ本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=120

  ---

• 121・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=121

  ---

• 122・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　初メヨリ第十四條マデ問題ニ供シマス、原案ニ御
  異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=122

  ---

• 123・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス、次ハ第十五條ヨリ終リマ
  デ問題ニ供シマス、委員會ノ修正ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=123

  ---

• 124・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=124

  ---

• 125・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=125

  ---

• 126・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　賛成
  擔

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=126

  ---

• 127・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=127

  ---

• 128・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=128

  ---

• 129・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=129

  ---

• 130・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=130

  ---

• 131・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　日程第十二、西比利亞引揚ノ爲損害ヲ被リタル者
  等ノ救恤ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報
  〓、寺島伯爵
  西比利亞引揚ノ爲損害ヲ被リタル者等ノ救恤ニ關スル法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
  大正十二年三月二十日
  右特別委員長
  伯爵寺島誠一郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔伯爵寺島誠一郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=131

  ---

• 132・寺島誠一郎

  ○伯爵寺島誠一郞君　唯今日程ニ上リマシタ西比利亞引揚ノ爲損害ヲ被リタ
  ル者等ノ救恤ニ關スル法律案特別委員會終了ノ結果ヲ御報告申上ゲマス、
  此法案ハ以下申述べマスルヤウナモノデアルノデゴザイマス、大正十一年派
  遣軍撤兵ニ際シ、沿海州及ビ樺太ノ對岸ニ在留シテ居リマシタ者デ、引揚ゲ
  マシタ帝國臣民ノ損害ヲ被ッタ者ヨリ救恤方ヲ願ヒ出テ居ル者ガ多數アルノ
  デアリマス、又ソレ等ノ土地ニ居リマシテ、引揚ゲザル者ニシテモ亦ソレ
  ニ準ズベキ同樣ノ損害ヲ被ッタ者モ可ナリノ人數ガアルノデゴザイマス、斯
  ノ如クシテ今尙ホ救恤方ヲ願出デツヽアル者モアルノデアリマス、無論此種
  ノ損害ニ對シマシテハ、政府ト致シマシテハ賠價ノ責任ニ任ズルモノデナイ
  ノデアリマス、併ナガラ是等ノ人々ハ西比利亞地方ニ於テ大切ナ方面ニ於キ
  マシテ、帝國臣民ノ經濟的發展ニ努力シテ居ーテテ動動シテ居ッタ者デアリマシ
  テ、其地方ニ相次イデ起リマシタ擾亂ノ爲ニ打擊ヲ被ッタノハ勿論、此度ノ
  撤兵、ソレハ三箇月前ニ豫〓セラレタノデアリマスルガ、其撤兵ノ後ニ於ケル
  赤白兩軍ノ衝突ヲ懸念イタシマシテ、急速ニ引揚ゲタル爲メ損害ヲ受ケタ者、
  或ハ引揚ゲザルモ相應ノ損害ヲ受ケタ者ガ少ナカラヌノデアリマス、而シテ
  此法案ハ是等ノ損害ニ對シテ、損害ヲ被リタル者ニ對シテ一定ノ金額ヲ限
  リ數字デ申上ゲマスルト、損害額ヲ約三千萬圓ト推定サレマシテ、其二十分ノ
  一、即チ金一百五十萬圓ノ範圍ニ於テ彼等ヲ救恤シ、將來更ニ發展スルニ聊カ
  便ナラシメムト圖ルモノデアル、是ガ此法案ノ趣旨デアルノデアリマス、委
  員會ニ於キマシテハ、次ニ申述べマスル諸點ガ審査〓究ノ要點デアッタノデア
  リマス、一、前例ト致シマシテ日露戰役ノ際ニ行ハレタモノト、昨年ノ法律
  第三十九號ニ基ク救恤ガ將ニ行ハレムトシテ居ルノデアリマス、是等ノ例ヲ
  參酌シマシテ、金額ハ先程申上ゲマシタ通リ金一百五十萬圓ト推定セラレマ
  シテ、公債ヲ以テ是ハ交付スルモノデアリマス、二、實行方法ハ救恤審査會
  ト云フモノヲ設ケマシテ愼重審査ノ上ニ其救恤程度、範圍及ビ救恤割當金額
  等ヲ決定スルノデアリマス、三、金一百五十萬圓ニ對シマシテ救恤ヲ現在
  願ッテ居リマスモノハ其數一千五十件餘リアリマシテ、尙ホ五六百件ハ申
  請シテ來ルモノト政府ニ於テ豫想シテ居ルノデアリマス、而シテ其引揚ゲマ
  シタ人數ヲ御參考ニ申上ゲテ置キマスルガ、六千一一百人アリマシテ、彼ノ地方
  ニマダ在住シテ居リマスル者ガ六百有餘人アルノデアリマス、四.此法案ノ
  救恤ト離レテ露國政變ニ伴フ事變ト、今囘ノ撤兵トノ爲ニ起リマシタ損害ヲ
  救濟スルト云フコトハ救恤デアリマセヌデ、救濟スルト云フコトハ政府當局
  ニ於テ〓究、愼重ニ考慮中デアルコトヲ承ツタノデアリマス、又此法案決定
  ニ際シマシテ賛成意見ノ御陳述ト同時ニ救濟ノ點ヲ御力說ニナラナカッタ人
  ハナカッタノデアリマス、即チ此方面ノ帝國臣民ノ經濟的施設ヲ破壞サレタ
  ルノヲ囘復スル爲メ、將來更ニ活動シ得ル爲ニ、國策上政府ガ努力セナケレ
  バナラヌト云フコトヲ、皆賛成意見ノ御陳述ト同時ニ御述べニナッタ次第デ
  アリマス、五、法律第三十九號ニ基ク救恤ハ〓尙ホ未了デアルノデアリマス、
  併ナガラ審査上、十分經驗ヲ是カラ得タコトデアリマスカラ、今度ハ申請
  締切、即チ、七月三十一日以後ニ於テ審查ヲ早クシテ此焦眉ノ急ヲ救フ、寧口
  拙速ヲ尊ブトデモ言フベキ位ニシテ年內ニモ其實ヲ擧ゲタイ、斯ウ云フコト
  デアリマス、六、救恤ノ金額ノ一部分デモ集團的仕事、公共的トカ、其他ノ
  方面ニ向ケテ行ク、善用スルコトヲ忘レラレヌヤウニサレタイト云フ意見ガ
  出マシタガ、ソレニ對シ政府ハ同意ヲ述ベラレタノデアリマス、七、救恤ハ
  救濟ノ趣旨ヲ含ンデ居ラナイカラ、從ッテ露露政府カラ將來賠償セシムルデ
  アラウガ其賠償ノ立替ヘト云フモノハセヌト、斯ウ云フコトデアリマス
  ル、八全體ノ觀察ト致シマシテ此救恤ノ爲ニ損害ヲ被フタ人〓ハ喜ンデ大
  イニ感謝ヲシテ居ル、斯ウ云フコトデアリマス、是等ノ審査研究ヲ重ネマシ
  テ、委員會ニ於テハ全員一致ヲ以チマシテ研究シタ次第デアリマス、何卒本
  會ニ於キマシテモ速ニ可決確定アラムコトヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=132

  ---

• 133・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　第一讀會ノ時ニチヨット御尋ネシタイト存ジマシタガ機會
  ヲ失シマシタカラ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=133

  ---

• 134・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　チヨット唯今通〓ガアルト云フコトヲ申上ゲルノ
  ヲ落シマシタ·

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=134

  ---

• 135・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　ソレナラ後デ······

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=135

  ---

• 136・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　矢口長右衞門君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=136

  ---

• 137・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　阪本君ニ御許シニナッテ······

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=137

  ---

• 138・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　聞エマセヌ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=138

  ---

• 139・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　阪本君ニ御許シニナッテ宜シイト思ヒマスカラ·····

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=139

  ---

• 140・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　ソレハ規則ニ反シマスカラ矢口君ニ許シタ方ガ適
  當ト考ヘマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=140

  ---

• 141・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　此席カラデ宜シウゴザイマスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=141

  ---

• 142・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　宜シウゴザイマス、大キナ御聲デ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=142

  ---

• 143・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　私ハ此問題ニ付キマシテ餘程疑〓ヲ持ッテ居ッタノデアリ
  きず、併シ唯〓委員長ノ報〓ニ依リマシテ殆ド自分ノ疑團ヲバ解クコトガ出
  來タノデアリマス、ダカラ玆ニクダクダシク質問ヲスルコトヲ止メマシテ、唯
  簡單ニ一事ダケヲ委員長ニ向ッテ御尋ネ致シマス、金額ハ一百五十萬圓ヲ限
  度トスル、是ハ少シク少額ニ過ギハセヌカ、斯ウ本員ハ觀察スルノデゴザイ
  やっゝ之ニ對シマシテ委員會ノ御意見ハ是ハ少ナイガ此邊ニシテ置クト云フ
  ノデゴザイマスカ、ソレヲ此狀況ヲバ委員長ヨリ御報告ヲ願ヒマス、御答辯
  ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=143

  ---

• 144・寺島誠一郎

  ○伯爵寺島誠一郞君　矢口君ニ御答ヲ申上ゲマスルガ、委員會ニ於テハ格段
  ニ其金額ノ點ニ付テハ問題トナラナカッタノデアリマシテ、政府ノ初メ爲サ
  レタ說明ニ依ッテ委員ハ諒解サレタコトト委員長ハ信ジテ居リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=144

  ---

• 145・矢口長右衞門

  ○矢口長右衞門君　先刻ノ委員長ノ御報告ニ依リマスト、此露國ノ大革命ノ
  爲ニ邦人ノ被リタル賠償ニ付テハ、政府ハ適當ナル處置ヲ執ルト云フコトノ
  御辯明ガアッタト思ヒマスガ、ソレニ違ヒゴザイマセヌカ、之ヲ一委員長カ
  ラ御答ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=145

  ---

• 146・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　唯今ノハ政府ニ對スル質疑デゴザイマスルカ、委
  員長ニ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=146

  ---

• 147・矢口長右衞門

  ○矢口長右衛門君　委員長デゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=147

  ---

• 148・寺島誠一郎

  ○伯爵寺島誠一郞君　矢口君ニ御答イタシマス、委員長竝ニ委員會ノ諸君ニ
  於カレマシテハ、政府ニ於テ御辯明ニナリマシタ通リ、此地方經濟的發展ヲ
  破壞サレ、而カモ速ニソレノ恢復サレテ、帝國臣民ノ更ニ活動ノ起ラムコト
  ヲ望マレル點ニ於テ、救濟ヲ何トカシナケレバナラヌト云フ點ニ付テ、政府
  ノ誠意ヲ認メテ居ル次第デアリマス、ソレダケヲ申上ゲテ置キマス、後トハ
  ドウゾ政府ニ對シテ御質疑ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=148

  ---

• 149・矢口長右衞門

  ○矢口長右衛門君　私ハ今一箇條政府ニ御尋ネ致シマス、此露國政府ト通商
  條約ト云フモノヲ締結スルノ必要ガゴザイマス、デ此事ニ付キマシテハ其交
  渉開始ノ時期等ハ未ダ不明デアル、斯ウ御述べニナッタヤウニ覺エテ居リマ
  ス、豫算總會デノ、サウ云フ御答ト覺エテ居リマス、是ハ未ダ左樣ナ運ビニハ
  參リマセヌノデスカ、又ソレトモ進行シテ居リマスノデゴザイマスカ、ソレ
  ヲ外務大臣ニ伺ヒタウゴザイマス
  〔國務大臣伯爵内田康哉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=149

  ---

• 150・内田康哉

  ○國務大臣(伯爵內田康哉君)　政府ハ屢〓聲明ヲ致シタ通リニ、一日モ早ク
  露國ト通商關係ヲ結ビタイト存ジテ居リマス、其爲ニ一昨年來或ハ大連會議
  ヲ開キ、或ハ長春會議ヲ開キマシタケレドモ、不幸ニシテ談判ハ調ハナカッ
  タノデアリマスガ、今後機會ガアリマスレバ、其機ヲ逸セズ、速ニ日露ノ間
  ニ先ヅ通商關係ナリトモ結ビタイト存ジテ居リマス、併シ唯〓其時機ニ付キ
  マシテ、茲ニ明確ニ申上ゲルコトハ遺憾ナガラ出來兼ネルノデアリマス、左
  樣御承知ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=150

  ---

• 151・矢口長右衞門

  ○矢口長右衛門君　先般伺ヒマシタ際ニモ、マダ明確ニ答ガ出來ナイト云フ
  何デゴザイマシタ、今日モ亦ソレヲ聽キマシタノデスガ、併シ政府ニ於テハ
  十分之ヲ促進スル、成ルベク急グト云フコトヲ御希望イタシテ置キマス、私
  ハ此事ニ付キマシテハ他ニ質問ハゴザイマセヌ、モウ是デ·····
  こういうの

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=151

  ---

• 152・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　此陪審······イヤ陪審法デハアリマセヌ、救恤デゴザイマス
  ガ、百五十萬圓ト限定セラレタノハ、旣ニ被害者ノ數、其他ニ付テ十分ニ御
  調ベガ付イテ居ッテ、之ニ對シテ百五十萬圓ヲ御救恤ニナレバ治マリノ付ク
  モノデアルト私ハ信ジテ居ッタノデアリマスガ、其點ニ付テ第一讀會ニ於テ
  御尋ネシタイト思ッテ居リマシタノデスガ、唯今委員長ノ御報告ヲ承ハリマ
  スルト、益〓疑ヲ增スノデアリマス、マダ出願中若クハ出願セムトスル者モア
  ル位デアリ、又是マデ出願シテ居ル者ニモ、ドレ程ノ分配ヲスルカト云フコ
  トモ御未定デアルカノヤウニ思ハレル、而シテ金ハ百五十萬圓ト議會ガ決定
  ヲ致シマスルト、詰リ百五十萬圓ノ範圍ニ於ラ救恤ヲ受ケル者ノ數ハ未定デ
  アルトスレバ、ソレデ然ルベク割振ル、斯ウ云フ風ニナルヤウニ思ヒマスガ、
  サウスルト自然厚薄ヲ生ズル譯ニナルノデ、數ガ少ナケレバ餘計貰ヘル筈デ
  アリマス、又是ガ澤山出テ來レバ少ナク分ケラレル、斯ウ云フ樣ナ形ニナリ
  マスルヤウニ存ジマスガ、百五十萬圓ノ金ハ被害者ノ多少ニ拘ラズ最早ヤ確
  定ノ動カスベカラザルモノトシテ······無論法律デ極マリマシタ上ハ斯クアル
  ベキモノト存ジマスルガ、政府ハ尙ホ未定ノモノニ向ッテ百五十萬圓ト先ヅ
  決定シテ、サウシテ此金ハ增減ナシニ御分配ニナル、斯ウ云フ御考デアルヤ
  否ヤ、ソレヲ一ツ伺ヒタイ
  〔國務大臣伯爵内田康哉君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=152

  ---

• 153・内田康哉

  ○國務大臣(伯爵内田康哉君)　此百五十萬圓ト算定イタシマスノハ、是マデ
  此浦鹽方面ニ居リマス者、又ハ北樺太ノ對岸ニ居リマシタ者等ヨリ、政府ニ歎
  願ヲ出シテ居リマス者ヲ算當ニ入レ、又愈〓此法案ガ議院デ可決サレマシテ、
  之ヲ公布イタシマシタ場合ニ於キマシテハ更ニ追加ガアルデアラウ、其邊
  ノコトモ豫測ヲ致シマシテ、大〓此位デ宜カラウト云フ算定ヲシタノデアリ
  やっゝ即チ總テノ損害ヲ先ヅ三千萬圓內外デアラウ、即チ其二十分ノ一デア
  リマスカラ百五十萬圓、即チ是ハ日露戰役ノ場合ニ於キマシテモ、同ジ率ヲ
  採リマシタノデアリマス、又昨年同ジ種類ノ救恤金ヲ議會ノ協賛ヲ得タル時
  モ同ジ率ヲ採ッタノデアリマス、固ヨリ斯ノ如キ救恤金ノ額ハ、ドレ程正確
  ナモノデアルカ是ハ分ラナイ、多イ程避難民ハ之ヲ好ムニ違ヒアリマセヌケ
  レドモ、政府ト致シマシテハ、サウ多額ノ金ヲ救恤スルト云フコトモ如何デ
  アラウカトモ思ヒマスルカラ、是マデノ例ヲ參酌イタシマシテ、大抵此邊ノ
  所デ適當デアラウ、斯ウ云フ意味合デ百五十萬圓ト計上シタノデアリマス、
  或ハ實際ノ場合ニ於キマシテハ、多少ノ出入リアルカモ知レマセヌケレド
  +、是ハ致方ノナイコトト御承知ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=153

  ---

• 154・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ、御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=154

  ---

• 155・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=155

  ---

• 156・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=156

  ---

• 157・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=157

  ---

• 158・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　直チニ本案ノ第二讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=158

  ---

• 159・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=159

  ---

• 160・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　本案全部ヲ問題ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=160

  ---

• 161・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=161

  ---

• 162・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=162

  ---

• 163・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　賛成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=163

  ---

• 164・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
  ヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=164

  ---

• 165・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=165

  ---

• 166・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=166

  ---

• 167・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=167

  ---

• 168・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　日程第十三、水先法中改正法律案、衆議院提出、
  第一讀會
  水先法中改正法律案
  右本院提出案及送付候也
  大正十二年三月二十一日
  衆議院議長粕谷義三
  貴族院議長公爵德川家達殿
  水先法中左ノ通改正ス
  第三條中第一號ヲ削リ第二號ヲ第一號ニ改メ以下順次繰上ク

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=168

  ---

• 169・勝田銀次郎

  ○勝田銀次郞君　チヨット政府ニ質問ヲ致シタイノデゴザイマスガ、此席ヨ
  リデ宜シウゴザイマスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=169

  ---

• 170・徳川家達

  ○議長(公爵徳川家達君)　宣シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=170

  ---

• 171・勝田銀次郎

  ○勝田銀次郞君　本案ハ明治四十四年來、今回デ四回衆議院ヲ通過シテ本院
  ニ廻付サレタモノデゴザイマスガ、現ニ各國ノ例等ヲ調べマシテモ、其水先
  法ニ年齡ヲ制限スルモノハ、餘リ見當ラヌノデゴザイマスガ、政府ニ於カレ
  マシテハドウ云フ御考デアリマスルカ、其意見ヲ伺ヒタウゴザイマス
  〔國務大臣子爵前田利定君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=171

  ---

• 172・前田利定

  ○國務大臣(子爵前田利定君)　御答へ致シマス、水先人ノ年齡ヲ制限ヲ致シ
  テ居リマスノヲ撤廢シヤウト云フノガ、本案ノ趣旨デアラウト思フノデアリ
  やって、政府ニ於キマシテハ甚ダ遺憾デアリマスルケレドモ、本案ノ御趣旨ニ
  賛同ヲ表スル譯ニハ參ラヌノデアリマス、其理由ヲ簡單ニ申上ゲマスレバ、
  水先人ノ職務ハ申上ゲルマデモナク、衝突或ハ海難等ノ起リ易イ極メテ難澁
  ナル所ノ場所ニ於テ水路ノ嚮導ヲ致シマスノガ水先人ノ職務ナノデアリマ
  ス、從ヒマシテ如何ナル荒天ノ場合ニ於キマシテモ、雨雪ノ日デアリマシテ
  モ、常ニ船橋ニ立チマシテ、サウシテ其船ノ嚮導ヲ誤リナカラシムルヤウニ努
  メナケレバナラヌノデアリマス、從ヒマシテ身體ノ健全ナルコトハ申スマデ
  モナイコトデアリマスルガ、殊ニ視覺、聽覺ニ於キマシテ秀デテ居ラネバ其
  職責ヲ全ウシ難イモノデアリマス、御承知ノ通リニ瀨戶內海ノ如キ水路ノ殊
  ニ面倒ナル所ヲ船ガ航行イタシマス場合ニ於キマシテハ、晝夜不斷ノ努力ヲ
  拂ハネバナラヌト云フヤウナ次第デアリマス、尙ホ又船長其他ト異リマシ
  テ水先區ニ於ケル水先人ノ人員ヲ制限イタシマス必要ガアルノデアリマス、
  ト申シマスノハ水先區ニ於キマシテ水先人ガ餘リ居リマスト云フコトハ御
  互ノ水先人同士ノ安定モ付キ兼ネマスシ、收入其他ニ於キマシテ自然競爭
  スルト云フヤウナコトニナルモノデアリマスカラ、ソレヨリ生ズル所ノ弊
  害モ多々生ジテ來ルノデアリマス、故ニ一ツノ水先區ニ付キマシテハ、水先
  人ヲ要求イタシマス程度ヲ慮リマシテ、ソレゾレ人員ノ制限ヲ致シテアルノ
  デアリマス、左樣ナ一面ニ於キマシテハ水先人、彼等自衞上、又競爭上ヨリ生
  ズル所ノ弊害ヲ防止スルト云フコトニ於テ人員ニ相當制限ヲ置クト云フ必要
  ガアルノデアリマス、然ラバ船長其他ニ於キマシテハ何等年齡ノ制限ガナイ
  ノニ、單リ水先人ニ付テ制限スルノハドウカト云フヤウナ或ハ御疑問モ起ル
  カモ知レヌト思フノデアリマスガ、併シ船長等ニ於キマシテハ成ル程、實際ニ
  於テ定年ト云フヤウナ制モゴザイマセヌガ、實際ニ於キマシテ老齡ナル船長
  ガ水先人ヲ要スルヤウナ大船巨舶ノ船長トシテ、實際上職務ヲ執ッテ居ル者
  ハナイノデアリマス、大〓六十位ナ老船長ガ實在ヲシテ居ルト云フコトハナ
  イト思フノデアリマス、大〓其位ナ年配ニナリマスレバ、陸上生活ニ移ルコト
  ガ極メテ多イト信ジテ居ル次第デアリマス、申上ゲルマデモナク今日ニ於キ
  マシテハ、軍人ニ於キマシテモ司法官ニ於キマシテモ其他ノ方面ニ於キマシ
  テモ、定年制ガ追〓設ケラレテ來ル時勢デアリマス、然ルニ水先人ノ方面ヲ
  見マスルト云フト、成ル程、人ニ依リマシテハ體質其他ニ依リマシテ、老齡ノ
  者デモ若者ヲ凌グト云フ老イテ益〓壯ナル者モナイトモ申サレマセヌガ、先ヅ
  大體ニ於キマシテ身體ノ健康ヲ損ヒマセヌデモ視覺或ハ聽覺ト云フヤウナ所
  ニ於テ若イ者ニ劣ッテ來ルト云フコトハ、先ヅ大體左樣見テ間違ナイコトト
  思ヒマス、而シテ又ソレ等ノ者ガ引退スレバ後ノ代リノ者ガナイノデアラウ
  カ、サウ云フ心配ハ實際ニ於テ無イノデアリマシテ、新陳代謝ヲ致シマシテモ
  何等水先ノ事ニハ事ヲ缺キマセヌ次第デアルノデアリマス、成ル程、此水先ト
  云フ職務ニ付キマシテハ熟練ト云フコトモ必要ナコトデアリマスケレドモ、
  併ナガラ如何ニ熟練ナ者デアリマシテモ、身體ノ關係ノ上ニ於キマシテ缺陷
  ガ生ジ、或ハ生ジ得ル時期ニ達シテ居リマス者ヲ、强ヒテ止メテ置ク程ノ必
  要ハナイコトト信ジテ居ル次第デアリマス、故ニ政府ニ於キマシテ遺憾ナガ
  ラ御同意ヲ表シ兼ネルノデアリマス、〓略申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=172

  ---

• 173・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
  セマス
  〔長書記官朗讀〕
  水先法中改正法律案特別委員
  子爵實吉安純君子爵永井尙敏君子爵伊集院兼知君
  黑岡帶刀君男爵坪井九八郞君男爵島津長丸君
  桑原善吉君勝田銀次郞君成〓信愛君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=173

  ---

• 174・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第十四、災害地地租免除法中改正法律案、第
  十五、所得稅法中改正法律案、衆議院提出、第一讀會
  災害地地租免除法中改正法律案
  右本院提出案及送付候也
  大正十二年三月二十一日
  衆議院議長粕谷義三
  貴族院議長公爵德川家達殿
  災害地地租免除法中左ノ通改正ス
  第一條第二項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
  第一項ノ田畑ニ再植ヲ爲シタルトキハ收穫ノ有無ニ拘ラス仍其ノ地租ヲ
  免除ス
  所得稅法中改正法律案
  右本院提出案及送付候也
  大正十二年三月二十一日
  衆議院議長粕谷義三
  貴族院議長公爵德川家達殿
  所得稅法中左ノ通改正ス
  第一條ノ二本法ニ於テ貸付信託ト稱スルハ信託會社ノ引受ケタル金錢信
  託ニシテ信託財產ノ運用方法ヲ預入又ハ貸付ノミニ限定シタルモノヲ謂フ
  第二條中「前條」ヲ「第一條」ニ改メ「利子」ノ下ニ「若ハ貸付信託ノ利益ノ」ヲ
  加フ
  第三條中「利子」ノ下ニ「若ハ貸付信託ノ利益」ヲ加フ
  第三條ノ二第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
  但シ本法施行地ニ於テ信託利益ノ支拂ヲ爲ス貸付信託ニ付テハ此ノ限ニ
  在ラス
  第三條ノ二第三項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
  信託會社ノ所得計算ニ付テハ貸付信託ニ因ル收入及支出ハ其ノ總益金及
  總損金ヨリ之ヲ控除ス
  附則
  本法ハ大正十二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
  本法施行地ニ於テ信託利益ノ支拂ヲ受クル貸付信託ノ所得ニシテ從前ノ規
  定ニ依リ第三種所得トシテ計算スヘキモノニ付テハ信託利益ノ支拂期カ本
  法施行前ニ在ルモノニ限リ大正十二年分第三種所得トシテ計算ス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=174

  ---

• 175・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　此法案ハ曩ニ選定イタシマシタ所得稅法中改正法
  律案外一件ノ特別委員ニ付託イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=175

  ---

• 176・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第十七、司法官試補及辯護士ノ資格ニ關スル
  法律案、衆議院提出、第一讀會ノ續、委員長報告、堀田伯爵ノ登壇ヲ望ミマ
  ス
  司法官試補及辯護士ノ資格ニ關スル法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
  大正十二年三月二十三日
  右特別委員長
  伯爵堀田正恒
  貴族院議長公爵徳川家達殿
  〔伯爵堀田正恒君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=176

  ---

• 177・堀田正恒

  ○伯爵堀田正恒君　唯今日程ニ上ボリマシタ司法官試補及辯護士ノ資格ニ關
  スル法律案ノ特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマス、本案ニ對シマ
  スル政府ノ所見及ビ本案ノ內容ニ付キマシテハ過日ノ本議場ニ於ケル富谷君
  ノ御質問ニ對シマシテノ司法大臣ノ御答辯ニ依リマシテ諸君モ旣ニ御承知ノ
  コトト存ジマスルカラシテ茲ニ省略イタシマスルガ、唯今ヨリ質問應答ニ付
  キマシテ御報告申上ゲマスルニ依ッテ大體本案ノ內容及ビ趣旨ヲ御了解ニナ
  ルコトト存ジマス、本案ノ第一項ニ於キマシテ明治二十六年司法省令第九號
  辯護士試驗規則ニ依ル試驗ノ受驗者ニ對シマシテ本法施行後五年間高等試驗
  令ノ適用ヲ免除スル、其五年間ト云フモノハドウ云フ譯デアルカ、此質問ニ對
  シマシテ、政府ハ高等試驗令ヲ制定シタ當時直チニ高等試驗令ヲ施行シタナ
  ラバ受驗者ニ對シテ非常ニ氣ノ毒デアル、故ニ直チニ施行セズシテ先ヅ五年
  間·····先ヅハ要リマセヌ、五年間之ガ施行ヲ猶豫シヤウト云フコトデ、本年
  ノ三月一日マデ施行ガ猶豫サレタノデゴザイマス、ソレデ其施行ヲ許サレル
  當時法律學校ニ入學イタシマシタ所ノ學生ハ、其後三年ニシテ學校ヲ卒業シ
  テ、殘ル二箇年デ辯護士ノ試驗ニ及第シナケレバナラナイノデアル、然ルニ
  事實ハ受驗者ノ多數ハ辯護士試驗ヲ二囘或ハ三囘、或ハ四囘、或ハ十囘ニ
  亙ッテ受驗ヲシテ始メテ及第ヲシタ者ガ多イノデアル、故ニ本年施行スルト、
  彼等ハタッタ卒業後二箇年ニ及第シナケレバナラヌト云フ事實デアッテ、甚ダ
  氣ノ毒ナ運命ニアルノデアル、故ニ此際モウ五年延バシテヤッタナラバ彼等ノ
  爲ニ仕合セデナカラウカ、又或ル論ニ依レバ一年デモ宜カラウト云フ論ガ出
  ヤウト思フケレドモ、併シ一年デハ折角延バシテヤル所ノ趣旨ニモ副ハズ、
  又十年トシテモ宜カラウト云フ御意見モ出ルカモ知レヌガ、ソレハ餘リ長過
  ギル、依ッテマア五年間位デ宜カラウ、又五年間ノ中ニハ受驗者ハ大〓及第
  シ得ルダラウ、又及第シ得ナカッタナラバ此五年間ニ彼等ハ諦メルダラウ、
  斯ウ思フ、依つ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=177

  ---

• 178・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　定足數ニ充チマセヌカラ是デ延會イタシマス、明
  日ハ午後一時ヨリ開會イタシマス、議事日程ハ本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビ
  やく、本日ハ是ニテ散會イタシマス
  午後六時十三分散會

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004603242X02719230324&spkNum=178

4. 会議録のPDFを表示

この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。