1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十二年十二月十四日（金曜日）
午前十時七分開議
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議事日程 第三號 大正十二年十二月十四日
午前十時開議
第一 非常徴發令（承諾を求むる件） 會議
第二 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
第三 大正十二年勅令第四百九號（承諾を求むる件） 會議
第四 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
第五 大正十二年勅令第四百三號（承諾を求むる件） 會議
第六 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
第七 大正十二年勅令第四百七十一號（承諾を求むる件） 會議
第八 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
第九 大正十二年勅令第四百七十五號（承諾を求むる件） 會議
第十 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
第十一 大正十二年勅令第四百五號（承諾を求むる件） 會議
第十二 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
第十三 大正十二年勅令第四百十二號（承諾を求むる件） 會議
第十四 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、咋日ノ議事ヲ繼續
イタシマシテ、通告順ニ依リマシテ發言ヲ許シマス、藤村男爵ノ登壇ヲ望ミ
マス
〔男爵藤村義朗君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=1
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002・藤村義朗
○男爵藤村義朗君 昨日ノ質疑ヲ續行イタシマシテ今日ハ帝都復興院ノ帝都
復興計畫ニ付テ聊カ御尋ヲ致シタイト思ヒマス、復興院ノ帝都復興ノ計畫ハ
廣キ意味ニ於ケル復奮事業ノ全部デハアリマセヌ、唯其一部ニ過ギナイノデ
アリマスルガ、併ナガラ極メテ重要ナル部分デアルト考ヘマス、今囘ノ震災
ハ殆ド國難トモ申スベキ災害デアリマシテ、一府六縣ニ亙ル震災區域ハ勿論
ノコト、國ノ全體ニ亙ッテモ實ニ非常ナル災害デアリマシタガ、一面、國家ガ
多年計畫シテ居リマシタ所ノ東京及橫濱ノ都市計畫ヲ理想的ニ實行スルノ
端〓ヲ開イタト云フコトハ是ハ千載一遇ノ絕好機會デアッタト思フノデア
リマス、震災直後ニ於キマシテハ啻ニ東京ノ市民ノミナラズ、全國民ノ帝
都復興ニ關スル氣分ハ實ニ强烈ナルモノガアリマシタ、意氣天ヲ衝クノ勢デ
アツタノデアリマス、時ゾ來レリ、今コソ新帝都建設ノ時デアル、ト云フ信
念ハ震災ノ直後ニ於テハ何人ノ頭ニモ浮ビ出タコトデアリマス、一時ハ關西
地方ニ於テハ遷都論ト云フガ如キモ起リマシテ、相當ナル之ニハ理由ノ認メ
ラレルモノモアリマシタガ、大詔一下、忽チ遷都論ハ屏息シテ仕舞ッタノデ
アリマス、而シテ東京ハ依然トシテ國都タルコトガ確定サレタノデアル、而シ
テ私共ノ考ヘマシタコトニハ、東京ガ燒ケタカラトテ先年來研究調査シテ來
マシタ所ノ都市計晝ノ根本ガ何モ變ッタ譯デハナイ、唯計畫ノ實行ガ比較
的容易ニナリ、且ツ自由ニナッテ來タ、卽チモット理想的ニ、而カモ迅速ニ實
行シ得ル可能性ガ多クナッテ來タト云フモノデアルヤウニ考ヘテ居ルノデア
リマス、併ナガラ此理想ニハ際限ノ無イコトデアリマシテ、出來ルダケ立派
ニヤリタイト云フノハ、是ハ山〓デアリマスルガ、如何ニ理想ニ憧ガレマシ
テモ昨日モ首相ガ仰セラレマシタ通リニ、國力及民度ニ考ヘマシテ、ソレ
以上ニ立派ニスルト云フコトハ出來ナイト云フコトハ、是ハ勿論ノコトデア
リマス、實ハ都市計畫ノ實行ノ如キハ東京市民ニ依ッテ實行サレナケレバナ
ラヌノモデアリマスルガ、今日ノ市ハ其能力ニ於テモ、又財力ニ於テモ、此
帝都ヲ復興スルト云フコトハ不可能ノヤウニ私ハ思フノデアリマス、ソレハ
東京市政ノ歷史ニ顧ミマシテモ、又今日ノ東京市ノ財政ニ鑑ミテモ明白ナル
コトデアリマス、加之、東京ハ帝國ノ首府トシテ、天子ノ御膝元デアル而シ
テ所謂政治、經濟、文化ノ樞軸ヲ成シテ居ル、而カモ今囘ノ災害ガ如何ニ全
國ニ互ツテ精神的ニモ、亦物質的ニモ深甚ノ衝動影響ヲ與ヘテ居ルカト云フ
コトニ顧ミマスル時ニハ、今囘ノ事變ハ一東京市ノ災害ノミニアラズシテ、
帝國全土ノ災害デアルト云フコトハ、是ハ明カナコトデアリマス、從テ復興事
業ハ全國ノ協同ニ依ッテ完成シナケレバナラヌト云フコトハ當然ノ理義デア
ルト私ハ思フ、卽チ帝都復興事業ハ一ツノ地方的事業ニアラズシテ、國家的
事業デアルト云フコトハ、是ハ何人モ否認スルコトハ出來ナイコトト私ハ思
フノデアル、斯樣ナ見地カラ致シマシテ、私ハ帝都ノ復興事業ハ權力アル國
家ノ一機關ノ下ニ統一サレ、最モ組織的ニ、最モ經濟的ニ經營シ、而シテ其
經費ハ事業ノ性質ニ應ジテ國家、自治體其他ノ方面ニ於テ分擔スルト云フコ
トノ形式ヲ定メテ置イタナラパ、ソレデ宜カラウト私ハ思フノデアリマス、
若シ此大切ナル事業ヲ一部ハ國家、一部ハ自治團體、或ハ地方、或ハ公共〓
體ト云フガ如キ區々マチ〓〓ノ經營ニ委シテ置キマシタナラバ、假令其間ニ
如何ニ形式的ノ聯絡疏通ガアリマシテモ、所詮ハ相互意思ノ疏通ヲ缺イテ、
或ハ權限上ニ種々ノ紛爭ヲ起シ、或ハ緩急ヲ失シ、順序ヲ誤リ、能力、勞力
及財力ノ濫用浪費ヲ招キ、或ハ又時ニハ忌ハシイ不正事件ノ如キモ續發イタ
シマシテ、遂ニ收拾スベカラザル:紛糾ヲ起シテ醜態百出スルト云フコトニ
ナリマシタナラバ、是レ實ニ大事ヲ誤ルモノデアリマス、私ハ政府ガ大體此
方針ノ下ニ速ニ計畫ノ大綱ヲ定メラレテ、東京ノ燒跡ノ灰燼ガ未ダ冷メナイ
中ニ、臨時議會ヲ召集サレテ國民ノ協賛ヲ求メラレムコトヲ希望シテ居リマ
シタガ、政府ノナサルル所、此處ニ出デズ、唯一個ノ諮問機關、或ハ調査機
關ヲ御造リニナリ、平時ノ條規ニ拘泥シテ、形式ヤ技葉ノ案件ノミニ沒頭サ
レテ、其爲ニ時日ヲ空費シ、漸ク今日ニ至ッテ臨時議會ノ召集ヲ見ルニ至リ
マシタルコトハ、誠ニ私ハ遺憾ニ存ズルノデアリマス、又復興事業ノ總テヲ
統一スベク期待サレマシタ所ノ復興院ノ事業ノ如キモ、唯單ニ都市計畫ノミ
ニ局限サレタコトハ、是亦私ノ遺憾ニ思フ所デアリマス、復興院ノ事業ガ今
日ノ如キ狹小ナル規模デアリマスルナラバ、敢テ復興院ト云フヤウナ一ツノ
機關ヲ設クル必要ハ私ハ無イト思フ、今日アル所ノ內務省都市計畫局ノ規模
ヲ少シ擴ゲマシタナラバ、ソレデ十分デナイカト思フ、而シテ若シ都市計畫
局ノ事業ト致シマシタナラバ、既ニ計畫ノ實行ニ付テハ法律モ勅令モ備ッテ
居ルコトデアリマスルカラモウ疾クノ昔ニ計畫ガ決定サレテ、其爲ニ昨日
モ私ガ申シマシタ居住ノ安定ト云フガ如キモ行ハレテアッタノデハナイカト
私ハ思フノデアリマス、或ハ政府ノ初ノ御計畫ハ今私ガ申シタ如キ事業ヲ
統一スルト云フヤウナ御計畫デアッタノカモ知レマセヌガ、中頃段々議ガ變
ジテ今日ノヤウナ有樣トナッタノデハナイカト思フ、果シテ然ラバ是レ矢張
リ囚ハレタル官僚思想カラ出タ所ノ各省ノ分捕主義トカ、或ハ割據主義ト云
フモノガ其禍ヲナシタノデハナイカト思フノデアリマス、又之ヲ財政上カラ
見マス時ニハ、此政策政略ヲ超越スベキ問題タルベキ復興計畫モ一部ノ極
メテ少數ナル人〓ノ······私カラ見レバ誠ニ無理無體ノ言議ノ爲ニ、政局ニ幾
多ノ波瀾ヲ捲起シテ、之ガ爲ニ擧國一致ハサテ措イテ、擧閣一致サヘモ覺束
ナイト云フヤウナ有樣ト相成リ、不偏不黨一視同仁ノ看板ヲ塗替ヘナケレバ
ナラヌト云フヤウナ始末ニ相成ッタト承ハッテ居リマスルガ、果シテソレガ事
實デアリマスレバ、復興事業ノ爲ニモ又現內閣ノ爲ニモ實ニ悲シムベキ事態
ト言ハザルヲ得ヌノデアル、最近、帝都復興審議會ハ、政府ガ提出セラレマシ
タ帝都復興計畫ノ原案ニ向ッテ若干ノ修正ヲ加ヘラレタ、私ハ審議會ノ經過
ヲ新聞ニ依ッテ承ハッテ誠ニ驚キ入ッタノデアリマス、彼等ノ所謂閣外委員ト
カ申シマスル委員諸公ノ御議論ハ、皆サンニ於カレマシテモ、新聞紙上其他ニ
於テ御承知ノコトト存ジマスガ、要スルニ帝都ノ計畫ハ其根本ニ於テ大ナル
錯誤ガアル、計畫ハ復興デハイケナイ、復舊デナケレバナラヌ、街路ノ如キモ
從前ノ儘デ宜シイ、曲ッタ所ヲ少シ眞直グニスレバソレデ澤山デアル、京濱
間ヲ聯絡スベキ運河ノ如キモ、復興計畫ノ一部トシテハ無用デアル、市街ノ
形モ原ノ儘デ······舊形デ宜シイ、或ハ又帝都復興事業ハ自治團體ニ於テ爲ス
ベキ事業デ、國ノ事業トシテ行ハムトスルハ何事デアルカ、或ハ又政府ノ計
畫ハ國家ノ經濟ヲ破壞セムトスル庬大杜撰ナル計畫デアル、故ニ徹頭徹尾、
計畫及豫算ノ更始一新、立直シヲ計ラナケレバナラヌト云フガ如キ極端ノ言
說ヲ弄セラレマシテ、其甚シキニ至リテハ、自分ノ言フコトヲ聞カナケレ
バ、自分ハ委員ヲ御免蒙ルナドト威嚇的ノ態度ヲ以テ政府ニ臨マレタ委員ス
ラアルノデアリマス、世間ハ此委員ノ言議ヲ以テ、委員ノ一部ガ私憤ヲ漏ラ
サムガ爲ニ、或ハ私利ヲ計ラムガ爲ニ、或ハ政府ニ反感ヲ懷イテ、殊更ニ反
對セムガ爲ノ反對デアルト批評ヲシテ居ルノデアリマス、私ハ斯ノ如キ批評
ヲ信ゼムト欲スル者デハアリマセヌガ、委員諸公ノ言ハレル所ハ、今囘ノ慘
禍ガ如何ニ激甚デアルカト云フコトヲ、モウ、トント御忘レニナリ、又將來
ノ東京ハ如何ナルモノデナケレバナラヌカト云フコトヲ解セラレナイ固陋ノ
思想カラ出タモノデアルカ、サモナケレバ姑婆サンノ嫁苛メニ過ギナイモノ
ト私ハ思フ、併シ斯樣ニ猛烈ナル議論ヲナサレマシタ結果ハドウデアルカ、
一晩ノ中ニ委員諸公ノ態度ハ豹變サレタノデアル、初ノ復舊主義ハ、翌日ハ
復興主義ニ逆戾リヲナサレタ、根本的ニ修正ヲシナケレバナラヌト言ハレ
タモノガ、小異ヲ捨テテ大同ニ附クト云フヤウナ變ナ修正ニ變ッテ仕舞ッタ、
何タル喜劇デアリマセウカ、一人ノ委員ハ政府ノ案ヲ醉漢醉中ノ策デアルト
仰ッシヤッタサウニ承ハッテ居リマスルガ、私カラ見マスレバ、審議會ノ修正
ハ醉漢醉後ノ策デアルト申シタイノデアリマス、勿論、帝國ト致シマシテハ、
是等審議會委員ノ言フ所ニ何等頓著スル所ハ無イノデアリマス、併ナガラ唯
私ガ最モ怪訝ニ堪ヘナイノハ、之ニ對スル政府ノ態度デアル、政府ハ勿論相
賞、計畫上ノ確信ヲ持タレ、財政上ノ成案ガ有ッテ、其原案ヲ審議會ニ諮詢
サレタノデアルト思フノデアリマスルガ、何故、一言半句ノ議論辯明モ反駁モ
ナク、審議會ノ奇怪千萬ナル修正ニ屈從サレタノデアリマスカ、政府ハ審議
會ノ修正案ヲ以テ政府ノ原案ヨリモ改善セラレタル案ナリト認メラレタノデ
アリマスルカ、審議會閣外委員ノ言フガ如ク、一億カ一億五千萬圓ヲ五六箇
年ノ間ニ出ス出サヌト云フコトガ帝國ノ財政ノ安危ノ岐ルル所デアルト御認
メニナッタノデアリマスカ、或ハ又土地區劃整理法ノ實施ガ帝國憲法ニ違反
シ、帝國臣民ノ所有權ヲ侵害スルモノナリト認メラレタノデアリマスルカ、
更ニ不思議ニ思フノハ、審議會ノ所謂小委員ノ修正案ト云フ十箇條······此十
箇條ニ對シマシテハ審議會委員トシテノ各國務大臣ハ殘ラズ贊成サレタト私
ハ思フ、滿場一致ヲ以テ是ハ決セラレタノデアル、然ラバ政府諸公ハ復興院ノ
官制ヲ都市計畫法ヤ道路法又ハ市制等ニ牴觸スルモノト御認メニナッタモノ
ト私ハ見ナケレバナラヌ、併ナガラ政府トシテハ牴觸シタモノトハ認メヌト
云フヤウナ御辯解モアッタヤウニ承ハッテ居ルガ、ドウモ何ダカ其邊ノ所ガ少
々私ニハ受取レヌノデアリマス、實ニ私ハ此復興計畫ニ關スル政府ノ眞意ガ
那邊ニアルヤト云フコトヲ知ルニ甚ダ苦シムモノデアル、昨日モ後藤復興院
總裁ガ衆議院ニ於テ、復興計畫ハ見樣ニ依ッテハ狹イモノデモアルシ、或ハ廣
イモノデモアルト云フヤウニ仰セラレタト云フヤウニ承ハッテ居リマスガ、サ
ウシマスト云フト、此六億ノ計畫モ或ハ其實體ハ二十億或ハ二十五億デアル
カモ知レヌト云フヤウニ見ラレルノデ、ドウモ私ハ此復興計畫ニ關シテ政府
ノ本當ノ眞意ガ分リ兼ネル、兎ニ角七億二百萬圓案ヲ計畫シタ政府ハ之ニ對
スル財政遣繰リノ御確信ガ有ル筈ト思フノデアリマスルガ、若シ然ラバ何故
ニ政府ハ其所信斷行ノ誠意ガアッタナラバ、審議會ノ修正ヲ否決スルノ擧ニ
出ラレナカッタノデアルカ、少シデモ計畫ヲ小サクシテ、更ニ將來ニ於テ之
ヲ改善シヤウナドト云フコトハ一旦復舊復興ノ成ッタ曉ニハ甚ダ至難ノ仕業
デアルト私ハ思フ、少シデモ理想ニ近イ都市計畫ヲ實行スルコトガ如何ニ將
來ノ帝都市民ニ安全、愉快、便利利益等ヲ與ヘルモノデアルカト云フコトニ
思ヒ及ボシマシタナラバ、ドンナ立派ナ都市ヲ建設シマシテモ國民ハ之ヲ否
認スル理由ハ私ハ持タヌト思フ、是ガ爲ニ今日ノ市民ハ將來ノ市民ノ爲ニ出
來得ル限リノ負擔ニ耐エ忍バナケレバナラヌト思フ、國民モ亦世界ニ誇ルニ
足ルノ首府ヲ得ルガ爲ニハ出來ル限リノ負擔ヲ提供シテ可ナリト信ズルノデ
アリマス、若シ國家ノ財政ノ都合ガ惡ケレバ決シテ五箇年計畫ニハ及バヌノ
デ、之ヲ十箇年ニナサレテモ、或ハ十五箇年、二十箇年ニナサレテモ私ハ少
シモ差支ガ無イト思フ、實行ハ緩急ヲ圖ッテナサルベキデアルガ、計畫ニ至ツ
テハ出來ル限リ理想的ノモノデナケレバナラヌト私ハ思フノデアリマス
〔「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ〕
出來ルダケノ理想的首府ヲ實現セシメムトスルニ當リ、苟モ感情ヤ私利ノ爲
ニ計畫ヲ否認セムトシ、又ハ黨利黨略ノ爲ニ計畫ヲ妨害シ、或ハ阻礙ヲ來サ
シメムト圖ルモノガアッタナラバ、彼等ハ永久ニ東京市民ノ仇デアリ、國民
ノ敵デアルト云フコトヲ御覺悟ナサラナケレバナラヌト思フ、其責任ハ東京
市ガ帝都トシテ存在セム限リハ負ハナケレバナラヌト思フ、又今囘ノ震害ノ
爲ニ殪レラレマシタ所ノ十數萬ノ犠牲者ニ對シテモ實ニ申譯ガナイコトデハ
ナイカト思フノデアリマス、又一部少數ノ人〓ノ機嫌氣褄ニ迎合シ、或ハ政
黨政派ト妥協スル爲ニ之ニ屈從シテ理想的計畫ヲ抛棄セラレムトスルガ如キ
政府モ亦同樣ナ責任ヲ免レナイノデアリマス、國民ガ山本伯ニ信賴シテ所信
ノ斷行ヲ望ンデ居ルノハ茲デアリマス、山本伯ハ昨日モ申シマシタ通リ、九
月ノ內閣告諭ニ於テ、帝都ノ復興ハ單ナル此一首府ノ問題デハナイ、帝國ノ
國運ニ關係スル問題デアル、故ニ復舊ノミナラズ將來ノ發展ヲ豫想シテ計畫
ヲ立テナケレバナラヌト仰セラレテ居ルノデアル、此所信ヲ斷行スル御積リ
デアルカナイカト云フコトヲ私ハ伺ヒタイノデアリマス、敢テ六億、七億ノ
計畫ガドチラガ宜イカ、ドチラガ惡イカト云フヤウナ問題デモナシ、又道路
ノ幅ガ三十二間ガ宜イカ、二十四間ガ宜イカ、或ハ二十二間ガ宜イカ、其邊
ノ所ハ私共ノ如キハ少シモ分ラヌノデアリマス、將來ノ帝都ヲドウ造ルカ、
此根本問題ヲ私ガ承ハリタイノデアリマス、而シテ昨日以來申述べマシタ復
興事業ノ全部、卽チ百餘萬ノ罹災者ノ衣食住ノ安定、商工業ノ復活、破壞サ
レタル商工業機關ノ恢復發展及東京ノ帝都復興計畫ノ此全部ニ對シテ政府ガ
立テラレタ根本方針及計畫ノ遂行ニ對スル財政上ノ成案ガ如何デアルカ、其
邊ノ所ガ承ハリタイ、之ヲ斷行サレル抱負經綸ガ······私ノ質問ハ是デ終リマ
シタガ、尙ホ御答辯ヲ受ケマスニ付テ一言申上ゲテ置キタイ、昨日服部君及
山脇君ノ熱誠ナル御質問ニ對シテ御答辯ニナリマシタ國務大臣諸公ハ誠ニ簡
單ナ御答辯デ、委細ハ委員會デト御逃ゲニナツタ、國家報效ノ誠意アル政府
ハ貴族院ニ對シテ、モ少シ誠意ヲ披瀝シテ戴キタイ、私ハ決シテ誠意ノ押賣
ヲ强要スル譯デハアリマセヌガ、今少シ本會議ニ於ケル御答辯ハ深切氣ガア
ラムコトヲ私ハ希望スルノデアリマス、委員會ニ於テハ政府各諸公ノ御說明
ヲ全部殘ラズ伺フ譯ニハ行カナイノデアリマス、委員ダケシカ承ハル譯ニ行
カヌ、デアリマスカラ委員會、委員會ト仰ツシヤラズニ、ドウゾ成ルタケ本
議場ニ於テ出來ルダケ詳細ニ御說明アラムコトヲ私ハ希望スル、若シドウシ
テモ內閣諸公ヨリ委員會デナケレバ御答辯ガ出來ヌコトナラバ、本會議ヲ變
ジテ全院委員會トシナケレバナラヌト私ハ思フノデアル、ドウゾ其御含ミデ
御答辯ヲ願ヒマス
〔國務大臣伯爵山本權兵衞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=2
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003・山本權兵衞
○國務大臣(伯爵山本權兵衞君) 藤村男爵ヨリ昨日以來引續キ御質問ノ大要
ヲ拜シマシタ、其中第一ニ震災ノ善後策ニ對シ、國民精神上ノ振作如何ト云
フ問題ガゴザイマシタ、第一ニ之ニ對シテ御答イタシマス、今囘、震災ノ善後
策ト致シマシテ、國民精神上ノ振作ニ係リマスルコトハ、最モ重大ナルモノ
デゴザイマシテ、獨リ物質的復興ニアラザルハ固ヨリ藤村男爵ト感ヲ同ジウ
スルモノデアリマス、サテ政府ニ於キマシテハ、國民精神振作上ニ關シマシ
テ、第一ニ官吏ヲ督勵イタシマシテ、官吏タルノ本職、官吏タルノ本分ニ鑑
ミ、忠誠ヲ以テ綱紀ヲ振肅シ、又〓育上ニ關シマシテハ、智德併進ニ努メ竝
ニ其他一般ニ對シマシテハ宗〓諸團體其他各般ノ國民ト協力イタシテ努力
ヲ致サネバナラヌト努力シツツアルノデアリマス
〔「今少シ具體的ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕
又御質問中ノ各般ノコトニ關シマシテ、其中二三重要ナコトニ對シテ御答イ
タシテ置キタイト思フ、此大震災ニ際シマシテ、其善後策ト致シテハナカ〓〓
容易ノモノデハナイト云フコトハ諸君モ御承知ノコトデゴザイマス、總テノ
交通機關ヲ破壞セラレ、諸官廳ノ多クモ亦灰燼ニ歸シマシテ、諸事非常ナル困
難ヲ極メマシタル際デアリマシテ、殊ニ治安ノ爲ニ、人民生活上其他種々ノコ
トニ關係イタシマシテ、間髪ヲ容レヌ間ニ於キマシテ重要ナル問題ヲバ實行
セネバナラヌ運ビニ至リマシタコトモ是レ已ムヲ得マセヌ、願ハクバ事情ノ
許シマスル場合ニ於キマシテハ、直チニ臨時議會ヲ開キマシテ、諸君ノ協賛ヲ
仰グベキ重大ナ問題モ······是亦己ムヲ得ヌコトト御承知ヲ願ヒマス、其際ニ
於キマシテ、此罹災民ニ對シ生活狀態其他種々ノ點ニ對シマシテハ、ナカ〓〓
尋常ノコトデハゴザイマセヌ、申スマデモナク、遷都以來五十有餘年ヲ經マ
シタル帝都ハ、大震災ノ爲ニ火災ヲ惹起シ、僅カ數時間ノ間ニ此帝都ヲ灰燼
ニ歸シマシタルコトハ、實ニ痛嘆ニ堪ヘザルコトデアリマシテ、是レ人力ノ
及ブベキコトデハゴザイマセヌ、人力ヲ以テ之ニ處スベキコトハ最善ノ努力
ヲ致シタノデアリマス、此帝都ハ藤村男爵ヨリ仰セノ如ク、決シテ帝國ノ一
首府ニ止マラヌノミナラズ、政治經濟ノ中軸ハ申スマデモナク、〓育其他萬
般ノ基礎ヲ破壞セラレマシタノデアリマス、卽チココニ至ルマデ我ガ國家ハ
非常ナル努力ノ結果、今日マデ帝都ノ基礎ヲ鞏固ニ爲シマシタコトハ、畏ク
モ上御一人ノ力ニ依ルトハ申シナガラ、國民全體ノ努力ニ依テ、初メテ此日
本國ノ帝都タルヲ知ラシムルノ運ビニ至ツタノデアリマス、而シテ是ガ恢復
ヲ圖ラムト欲セバ宜シク全般ノコトニ考ヲ及ボシマシテ、サウシテ經綸ヲ立
テネバナラヌコトデアリマシテ、決シテ一官省ノ局位デ仕事ヲ纒メ得ベキモ
ノデハナイト信ジタノデアリマス、成程時日ヲ經過シマスレバ、ナカ〓〓議
論ヲ挾ムノ餘地ハ多々ゴザイマスルガ、實際其時ニ際シマシテハ、到底尋常
ノ考デハ及バヌノデアリマス、是マデ御承知ノ如ク我國ハ不幸ニシテ屢〓、外
難ニ禍セラレマシテ、未ダ今日ノ如キ非常時ニ際シテハ、此帝都ノ非常ニ有
力ナルモノヲ一時ニ破壞シマシタル困難ハ殆ド想像ノ及バヌノデコザイマ
ス、而シテ是ガ帝都ノ復興ヲ爲スニハ單リ我國ノ國力ノ試金石タルノミナラ
ズ、海外ヨリ日本人ノ之ニ對スル所ノ決心及經綸等種々ナコトニ對シマシ
テ、將來ニ重大ナル關係ヲ有ツモノナリト云フコトハ申スマデモアリマセヌ、
然ラバ此帝都復興ニ對シマシテハ如何ニシテ帝都ヲ從前ノ如ク、否又之ニ改
良ヲ加ヘテ、復興ノ程度ヲ如何ニシテ、サウシテ市民ノ安逸ト及ビ剛健ナル
實質ト國家經濟ト竝ニ國民經濟トノ大體ニ考ヘマシテ、爲シ得ルダケノ範
圍ニ止メルト云フコトハ申スマデモナイコトデアリマス、而シテ是ガ計畫ヲ
爲サムト致シマスルニハ大ト云ヒ、小ト云ヒ、考ハ最初及バヌモノデアラ
ウト思フ、是ハ私ハ未ダ其經驗ハ今度ニ行ッテ初メテデアリマスガ、一部分
國防ノ計畫ニ對シテ先輩ノ指揮ニ從ヒ、多少ノ計畫ヲ致シタコトガゴザイマ
スルガ、最初ノ輪廓ハ從ッテ大ナルモノデアリマス、此計畫ハ······而シテ百般
ノ事情ニ鑑ミマシテ、段々ト輪廓ヲ縮メテ來テ、我ガ國力ト及ビ國家ノ安全
ニ對シテ相當ナ經綸ヲ立ツベキモノデアラウト思フ、今囘ノ震災ニ於テモ大
體同ジ、私モ上野ノ高臺ニ登リマシテ其有樣ヲ望見イタシマシタ時ノ感想ヲ
露骨ニ御話申シマスルト、國家有事ノ際ニ於テ、卽チ今日ノ場合ニ處シテ各
人民ガ非常時ノトキニ宮城ノ御濠端マデ近寄ラムトスル距離僅ニ三丁ノ間
デスラ、三時間ヲ要シタト云フコトデアリマス、嘸サウデアッタデアラウ、
其時ハ各自各〓ノ所謂一己ヲ守リ、家ヲ守リ、國ヲ護ルト云フマデ精神的涵
養ガアッテ初メテ出來タノデアリト假リ定メタナラバ、左程ノ困難ハナカッ
タカモ知レヌ、是レ多少ノ疑問ヲ有ッテ居リマス、然ラバ有事ノ際ニ於キマ
シテ一方ニハ軍隊ノ集中ヲ爲シ、一方ニハ國民全體ガ自己ノ爲ニ安全ノ位置
ニ途ヲ取リ、又ハ交通機關ヲ完全ナラシムル事ニ於キマシテハ、實ニ恢復ノ
不十分ナルヲ感知スルノデアリマス、一方ニハ此慘澹タル所ノ火災ニ對シマ
シテ、相當ナ防備ノ必要アルヲ知ラネバナラヌ、然ラバ歐米各國ニアリマス
ル所ノ公園ノ如ク廓大ナルモノノ裝飾的働キヲナスコトハ出來ヌマデモ、爲
シ得ルナラバ、大都市ノ間ニ大ナル公園ノ區劃ヲ立テ、而シテ一方ニハ火災
ヲ防遏イタシ、一方ニハ火災ニ對シテ水道ノ不十分ナル時ニハ貯水ヲ設ケ
テ、是ガ防禦ノ一端トナシ、又ハ種々ナ方面ニ對シテ此大公園モ必要デアル
ト考ヘタノデアリマス、又上水下水ノ如キモ今日ノ如キ有樣デハ到底人民ノ
安定ヲ期スルコトハ出來マセヌ、斯ノ如キ場合ニ於テスラ最大ノ困難ヲ感ジ
タノデアリマス、總テ物ハ感ジタル、感動ヲ受ケマシタル咄嗟ニ初メテ大體
ノ計畫ヲ爲スベキモノデアリマスカラ、是ハ鎭靜ニ歸シマシテ、後ヨリ日ヲ
追ウテ考ヘマスルト、大ニ考慮ヲ要スベキコトハ多々有ルベキモノト信ゼネ
バナリマセヌ、政府ニ於キマシテモ此問題ノ如キハ實ニ重大ナ問題デアルガ
爲ニ、ドウシテモ「クロース」ノ大街路ノ必要ハ眞ニ感ジテ居ルノデアリマ
ス、又埋設物等到底海外ノ先進國ニ對シテ同ジ設備ヲ爲スコトハ到底我ガ國
力ノ容サヌ所デアリマスガ、ナレド、希望ノ一部分ハ百年ノ計畫ト致シマシ
テモ、幾分ノ導キハ取リタイト云フ考ヲ有ッテ居リマス、故ニ審議會ノ如キ、
復興院ノ如キハ其見地ヨリシテ必ズ大ナルモンデアッテ、到底政府ノ一部分
ノ力ニ於テ爲シ能ハザルガ故ニ、之ヲ大ニシテ皆ノ評議ニ俟ッテ、初メテ決定
ヲ爲スノ必要アリト信ジタノデアリマス、又申スマデモナク、日本國ハ種々
ノ歷史ヲ經マシテ、遂ニ世界列强ノ間ニ伍セラレ、今又此非常時ニ際シテ產
業其他ノ經濟的機關等モ總テヲ失ヒ、然ラバ之ニ向ッテ與國ノ識者ハ何ト之
ヲ描クデアリマセウカ、若シ此問題ニ對シテ我ガ國民ガ裝飾無クシテ、堅實
ナル精神ヲ以テ國力ノ容ス範圍ニ於テ爲シ得ルダケ基礎ヲ固メテ、御上ノ御
聖旨ニ御答申スト云フコトガ實ニ私ハ必要ナリト信ズルノデアリマス、而シ
テ初メテ我ガ國民ノ勇敢ニシテ此非常時ニ際シテモ、男女ヲ論ゼズ、非常ニ
沈著ニシテ、其一身ノ危キヲ脫レタル動作ニハ外國人ヲシテ非常ニ感動セシ
メタノデアリマス、然レドモ其他方ニ於キマシテハ實ニ喪心的態度ニ於キマ
シテ間〓常軌ヲ逸シタルヤウナコトモアリマスルケレドモ、日ナラズシテ常
態ニ復シ、今日ノ鎭靜ヲ得マシタルハ多年ノ國民精神上ノ涵養ノ然ラシメル
所デアルト考ヘルノデアリマス、願ハクバ滿堂ノ諸公ニ於カレマシテモ、政
府ノ意ノ在ル所ヲ十分ニ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒマス、又復興計畫ニ對シマ
シテ復興院ニ於ケル所ノ御話ガアツタヤウデアリマスルガ、是ハ實ニ·······勿
論、初ヨリ單リ政府ノ事業デハナイ、國民ト共ニ此大事業ヲ完成シナケレバナ
ラヌト云フ國家的全般ニ於ケル考ヲ考慮イタシタ精神ニ外ナラヌノデアリマ
ス、復興問題ノ如キハ政府ト致シマシテ日々ニ此成案ノ早カラムコトヲ望ン
デ居リマシタガ、如何セム、此問題ノ如キハ時日ノ經過スルモ覺エズ、日ノ益〓
進ムコトヲ知ッテ其問題ノ成ラザルヲ遺憾ト致シマシタ、是レ己ムヲ得マ
セヌ、決シテ其短時日ニ於テ此重大ナ問題ヲ完成シ得べキコトハ此內閣諸公
ノ及プダケノ努力ヲ盡シテモ遺憾ナガラ御滿足ニ、アナタ方ノ御滿足ニ答ヘ
得ナカツタト云フコトヲ遺憾ト致シマス、又復興院ハ內閣諸公ト等シク有識
ノ諸氏デゴザイマシテ、ソレガ爲ニ此問題ハ復興院ノ諮詢ニ問フタノデアリ
やり、成程、復興院審議會ノ諸氏ニ於カレマシテモ僅ナ時間ノ間ニ此重大ナ
ル問題ニ對シテノ御會得上、餘程御困難ナコトデアラウト一方ニ於テハ察シ
タノデゴザイマス、然レドモ賢明ナル諸君ノコトデアリマスルガ故ニ、僅ナ
時日ニ於テ此大體ノ御希望ガ終了イタシ、ソレニ對スル所ノ政府ノ氣持ヲ御
取リニナリマシタ、固ヨリ計畫ノ如キハ少シモ彈力ノ無イト云フモノデハゴ
ザイマセヌ、甲乙丙丁ノ人ヲシテ之ヲ意見ヲ問ヒマシタナラバ、其人每ニ於
テ多少ノ御意見ノアルト云フコトハ同ジコトデアリマセウト思ヒマス、而シ
テ結果ハ大體ニ於テ政府ノ基礎ヲ亂スコトナクシテ、二三修正ノ意見ガ出マ
シタノデアリマス、且ツ又此審議會ニ於ケル所ノ大體議ヲ此席上ニ於テ私ハ
申述ベル必要ヲ思ヒマセヌ、是ハ御承知ノ如ク諮問機關デゴザイマシテ、諮
問機關トハ云ヒナガラ責任アル重大ナ機關デアリマスルカラ、政府ハ全力ヲ
擧ゲテ之ニ臨ンダノデアリマス、又決議ノ大體ニ向ッテモ私ハ之ヲ尊重イタ
シ、出來得ル限リ之ニ副フノ精神ヲ以テ同意ヲ致シタノデアル、然ルニナゼ
ニ政府ハ決心シタルコトハ一步モ假借スル必要ハ無イデハナイカト云フ人ガ
アルガ、是ハ人ノ見方デアリマスル爲ニ、山本ハ之ニ向ッテハ卽チ其意ノ在
ル所ヲ諒シ、而シテ是ガ善後策ト致シマシテ、政府トシテハ餘地ヲ取ッテ居
リマス、出來得ル限リ、出來ヌモノハ致方ナイノデアリマス、第十ノ問題ニ
對シテ都市法案ト牴觸シハシナイカト云フコトデアリマスガ、是ハ大ナル御
疑問デゴザイマセウカラ、此場合ニ於テ一言ヲ致シテ置キマス、政府ノ見ル
所ニ於キマシテハ決シテ此法案ト牴觸スルモノデハナイト信ジテ居リマスル
カラ、是ハ又其特別委員會等ガゴザイマスナラバ、法制ノ局ニ當ル者ヨリ審
カニ事情ヲ申上ゲタイ積リデアリマス、以上申上ゲマシタ所ハ大體ニ於テ私
ヨリノ答辯ト御了承アラムコトヲ希望イタシマス、其他ノ點ニ於キマシテハ、
責任アル大臣ヨリ詳細御答辯イタスコトト御承知ヲ願ヒマス
〔政府委員子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=3
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004・後藤新平
○政府委員(子爵後藤新平君) 藤村男爵ノ御質問ニ對シテ御答ヲ致シマス、
私ハ茲ニ復興院總裁トシテ此御質問ノ諸點ニ向ッテ成ルベク簡單ニ御答イタ
シタイト考ヘマス、併ナガラ漏レタ點ハ更ニ御再問ヲ煩ハシタイト思ヒマス、
其記憶ニ從ッテ申上ゲマスガ、此度ノ震災ガ帝國ノ全體ニ影響ヲ與ヘタト
云フコトノ一面ノ現象ガアルト共ニ、帝都ノ復興ハ單リ帝都ニ局スルモノニ
アラズシテ、帝國復興ニ關スル所、大ニシテ又帝都ノ復興ヲ完成スルニハ帝國
復興ノ精神的、物質的勢力ニ依ッテ完成スベキモノデアルト云フコトノ御意見
ガ藤村男爵ニアラセラレテ御質問ガアッタヤウデアリマス、此點ニ付テハ藤
村男爵ノ御意見ト一致イタシテ居リマシテ、當初カラサウ云フ考ヲ有ッテ居
リマス、帝國ノ復興ハ廣義ニモ狭義ニモ解釋スベキモノデアッテ、此事ハ精
神的、物質的ニ諸般ノ了解ヲ要スルモノデアルト考ヘルノデアリマス、而シテ
此事ガ帝都復興ト云フ局部ノ事ニ限ルニ至ッタ所ノコトハ何故デアルカト云
フコトニ御質問ガ歸著スルヤウデアリマス、此事ハ最初ハ藤村男爵ノ御質問
ノ通リ、帝都ノ復興ニ關スル全部ノコトヲ支配スル所ノ、管掌スル所ノ特殊
ノ官衙ヲ設ケテ爲スベキヤ否ヤト云フコトニ付テモ考慮ヲ致シマシタノデア
リマス、此點ハ唯〓總理大臣カラ述ベラレマシタカラ私ハ詳シクハ申述ベマ
セヌガ、併ナガラ最モ急ヲ要スルモノハ何デアルカト云ヒマスト、此度ノ震
災ヲ再ビスルコトノ憂ヲ免カレルニハ、第一ニ此都市ノ計畫ガ必要ナノデア
リマス、都市計畫、或ハ帝都復興ト云フヤウナコトガ言葉ノ上ニ付テ混雜
イタシマシテ、私ガ甚ダ不辯デ明瞭ニ申上ゲ兼ネマスガ、御聽取ノ出來ヌ所
ガアリマシテ、御質問ガアリマスレバ、更ニ申上ゲルヤウニ致シマス、先ヅ
要スルニ都市計畫ト云フコトガナクシテ、帝都復興ノコトハ出來ナイノデア
リマス、併シ現在ノ都市計畫法ト云フモノガアリマシテ、其法案ニ依ッテ出來
ルカト云フト、ソレデハ出來ヌノデアリマス、ソコデ帝都復興計畫法案ガ提
出ニナツテ居リマスガ、是ガ卽チ現在ノ都市計畫法ニ依ッテ斯樣ナル大災害ノ
場合ニ處シテ、最モ迅速ニ處理スルニ於テハ缺點ガアル、法ノ上ニ備ハラザ
ル所ガアルト云フコトハ滿堂ノ諸公ニ於テモ御諒承下サルコトデアラウト思
ヒマス、ソレ故ニ都市計畫法ヲ、補充スルモノ、若クハ都市計畫法ト全ク異ツ
タル帝都復興法案、帝都復興計畫法案トカ云フモノニ依ッテ、初テ此法制ノ力
ノ完備スルモノヲ定メナケレバナラヌ、是ガ第一著デアル、斯ウ云フコトニ
ナリマシタカラシテ、帝都卽チ東京市若クハ橫濱ニ關スル所ノモノヲ一括シ
テ、帝都復興院ト云フモノヲ設立シテ、此區域ニ對シテ主トシテ、主トシテ
審議調査ヲ致スコトニナッタノデアリマス、審議會ノ官制ニ依リマスト廣ク
書イテアッテ、サウシテ帝都復興院ハ狭クナッタト云フコトガ或ル一部ニ說
ガアリマスガ、決シテ是ハ別々ニ出來テ、サウシテ矛盾スルト云フモノデハ
ナイノデアリマス、唯今申述ベマスヤウニ、帝都復興ノ義ハ廣キ意味ニ於テ
ハ全國的ニ力ヲ用ヰナケレバ局部ノ帝都、卽チ政治、文化、經濟ノ中心ヲ完
成スルコト能ハズト云フ關係カラ致シマシテ、廣キ意味ノ審議ノ機關ヲ置イ
タノデアリマス、而シテ其審議ノ機關ト相俟ツ所ノモノガ政府デアリマス、
其政府ノ仕事ノ中ノ最モ專心一意ニ從事スル所ノモノガ、帝都復興院ト云フ
コトニナリマシタ、其帝都復興院ノコトハ、主トシテ橫濱東京ニ關スル所ノ
復興事業ニ當ルコトニナリマシタノデアリマス、其他帝國ノ政治ノ中心トシ
テ、又文化經濟ノ中心トシテ、國ノ專ラ掌ルベキ所ノモノ、國ニ關係ノアル
コトデ各省ニ亙ッテ居ルコトハ、各省ニ於テ此事ニ當リ、而シテ其帝都復興
院ト相俟ッテ之ヲ處理スルト云フコトニ相成リマシタノデアリマス、然ルニ
例ヘバ或ル官省ニセヨ、或ル大學ニセヨ、ソレ等ノ位置ノ定マルト云フコト
ニ付キマシテハ、此市街街路計畫若クハ公園ノ計畫「カナール」ノ計畫、其他
交通通信ニ關係スル大體ノ計畫ガ宜シキヲ得ヌケレバ、各官廳ノ位置カラシ
テ亦定マラヌ、各官廳ノ位置ノミナラズ、國家生活ニ必要ナル、社會生活ニ
必要ナル所ノ工場商業地ト云フヤウナモノノ區域ノ分配モ、亦之ニ依ッテ定マ
ル譯デアリマス、ソレデ帝都復興院ノ事業ハ如何ニモ街路ノコト、即チ此度
ノ區劃整理ノコトニ對スル法制上ノ缺點ヲ補ハザレバ、第一著ニ事務ヲ爲ス
能ハザル爲ニ、其法案ヲ提出シマシタ所カラシテ、ソレニ限ッテアルカノ如
ク見エテ居リマス、併ナガラ是ハ唯其第一步デアリマス、是カラ其始マルノ
デアル、是ガ基礎デアル、斯樣ナ譯デアッテ、復興院ノ計畫ト云フモノハ、
精神的、物質的雙方ニ亙リマシタ所ノ大々的ノ經綸ヲ以テ爲スベキコトデア
リマスケレドモ、其著手ニ當ッテハ此街路公園等ノ總テノ國家生活、社會生
活ノ中心ニナルベキ所ノ運用ヲ妨ゲナイ程度ノ地理的關係ヲ明確ニシナケレ
バナラヌト云フ所カラシテ玆ニ到ッタ譯デアリマス、ソコデ又震災等ニ於テ
其災害ヲ避ケルト云フニ至ッテモ、街路ノ計畫ガ宜シキヲ得ヌケレバ、復タ
其災ニ罹ッテモ再ビ今日ノ慘狀ヲ見ルコトヲ免レヌノデアリマスカラ、此點
ハ現狀ニ鑑ミテ十分ニ復興ノ時機ニ於テ、之ニ深ク考察ヲ加ヘナケレバナラ
ヌト云フコトニナリマシタ、是ガ卽チ街路ヲ擴ゲルト云フコトニナッタ譯デ
アリマス、斯樣ナ所カラシテ帝都復興院ハ都市計畫局ノ仕事デ宜カッタノデ
ハナイカト云フコトノ考ヲ世人ニ持タシムルヤウニナッタノデアリマスケレ
ドモ、內務省ノ都市計畫局、卽チ最近ニ於テハ進步イタシマシタケレドモ、
元ノ市區改正カラ變化シテ來タ所ノ歷史ヲ持ッテ居ル規模デハ到底之ニ應
ズルコトハ出來ヌト云フコトハ諸公ニ於テモ御諒察下サルコトデアラウト思
フノデアリマス、殊ニ此度提案イタシテアル所ノ成案モ勿論理想ノ上カラ計
畫シマシタモノトハ、大小廣狹其規模ヲ同ジウセザル所ノモノハアリマスケ
レドモ、彼ノ東京市區改正以來、都市計畫局デ經營シマシタモノトハ自ラ其趣
ヲ異ニスルノデゴザイマス、申スマデモナク、地上物件ノ爲ニ都市計畫ガ如
何ニ妨ゲラレテアリシカト云フコトハ諸君ノ御諒察ニ難カラザル所デアリマ
セウ、其地上物件ガ不幸ニシテ焦土ニ歸シマシタ機會ヲ以テ之ヲ實行スルニ
ハ頗ル容易ノヤウニハ見エマスガ、又此機會ヲ逸スベカラザル點カラ見マス
ト却テ都市計畫局ノ經營ニ苦心シタ時代ヨリハ容易ニ行クカノ如クニモ見
エマスケレドモ、斯樣ナ大規模ニ於テ都市ノ計畫ヲ爲スト云フコトニナリマ
スト、到底、都市計畫局ノ經營ノ規模ヲ以テ少シク擴張シマシタノデハイカヌ
ノデアリマス、玆ニ於テ復興院ノ設立ヲ必要トスルコトハ事實上必要トナッタ
ノデアリマス、是ガ大體、都市計畫局ト異ナル所ノ帝都復興院ヲ設立シナケ
レバナラヌト云フコトニナリマシテ、其帝都復興院ナルモノハ必シモ一部ニ
局スルモノニアラズシテ理想ヲ持ッテ居ル所ノ帝國ノ復興ト開聯シテ其機能
ヲ全ウスルコトヲ得ネパナラヌト云フ責務ヲ持ッテ居ルト云フコトノ大體デ
アリマス、而シテ昨日ノ御質問ノ中ニハ罹災民ニ對スル思想ノコトモアリマ
シタガ、是等ノコトハ至極御同感ノコトデアリマス、又帝都復興ハ物質的ヲ
主眼トスルヤウニ見エルト云フ御質問ガアリマシタガ、是等ノコトハ必シモ
物質的ニ限ッタコトハナイ、精神的復興モ此機會ニ於テ必要トスル、必要ト
スルノミナラズ、其精神的復興ノ力ニ待ツニアラザレバ物質的復興ノ完成モ
期シ難イト云フコトニ付テハ、常ニ復興院ノ努メテ萬般ノ經營ヲ爲スニ當ッ
テ忘レザル所ノ要件ト致シテ居ル一ツデアリマス、而シテ二箇月間餘ニ亙リ
マシテ、此計畫ヲシテ出シマシタコトニ付テハ、要スルニ世間ニ於テ其緩慢
ナルコトニ付テハ不滿不平ヲ持ッテ居ラルルヤウデアリマス、是ハ誠ニ御尤
ノコトデアリマシテ、當局トシテモ非常ニ滿足ハシテ居リマセヌ、併ナガラ
九月二十七日ニ復興院官制ガ發布セラレマシタガ、是ハ申譯ニ言フノデハア
リマセヌ、事實ヲ告白シテ諸君ノ御諒察ヲ請ヒタイ爲ニ申スノデアリマス、
其官制發布ノ以前ニ於テハ諸君ノ旣ニ御經驗ニナッテ居ル通リデ、交通通信
ノ機關ガ斷エテ居リマシテ、震災前一日ノ仕事ハ三日間掛ルト云フ事情ノ下
ニ進行シテ來マシテ、初テ九月二十七日ニ復興院官制ヲ發布セラルルマデニ
至リマシタコトハ是レ萬般ノ進行ヲ妨ゲラレテ居ッタノデアリマス、勿論此帝
都復興ノ計畫ハ二三箇月ニシテ出來ルト云フコトハ餘程困難ナル事デアリマ
スケレドモ、縱令、不完全デモ早ク之ヲ計畫イタシマシテ、サウシテ各般ノ機
關ノ審議ヲ經テ之ヲ完成スルト云フコトニスルノガ宜イノデアッテ完全無缺
ナルモノヲ拵ヘル爲ニ、下手ノ按ズル休ムニ似タリニナッテハイカヌト云フ
コトハ一同ノ不休不眠ヲ以テ從事イタシテ來タ所以デアリマス、又一方ニ
ハ十三年度豫算ノ定マルヲ待ッテ初テ此帝都復興計畫ノ財政的關係ヲ定メナ
ケレバナラヌノデアリマス、是等ト對照イタシマシテ初テ此實際實行セラル
ベキ程度ノモノニナサネバナラヌト云フコトデ今日ニ至リマシタ譯デアリ
やく、臨時議會ノコトニ付キマシテハ藤村男爵ノ御質問ト同ジ考ヲ持ッテ居
リマスガ、サウ云フ譯ニ至ラナカッタト云フコトニ付テハ、唯〓、總理大臣カラ
申述ベラレマシタコトガアリマスカラ、唯此事業ノ經過ニ付テ斯ノ如ク遷延
シマシタ次第ノ大綱ヲ述ベテ置クニ止マルノデアリマス、昨日ノ御質問中ニ
消防ノ改善ノコトニ付テ御注意ガアリマシタ、是等ニ付テハ現在ノ慘メナル
經驗ニ徵シマシテ、ソレ〓〓具體的ノ設備ヲ改メヤウト云フコトニハナッテ居
リマス、殊ニ其一部ヲ申シマスト、破壞スル器具ノ如キニ至ッテハ從來ノ器
具ト違ヒマシテ、消防器具ト云フ中ニモ最モ不完全デアリマスカラ、是等
ノ設備ハ必要ニナッテ參リマシタ、此度ハ軍隊ノ力ニ依ッテ一時ノ補ヲ爲ス
コトガ出來マシタケレドモ、決シテ是等ヲ以テ現在ノ消防ノ助トシテ改善ヲ
加ヘズニハ置カレヌト云フコトハ自覺シテ居ル次第デアリマス、又消防「ポ
ンプ」ノ如キニ至リマシテモ先年、私內務大臣タリシ時ニ既ニ此自動車「ポン
プ」ノコトニ改善ヲ致シマシタガ、其後、經費ノ都合デ漸次進步スルノ外ナク
シテ其設備モ希望ノ如ク全ウスルコトガ出來ナカッタノデアリマス、左樣ニ
進步シテ居リマスケレドモ、街路ガ狹キガ爲ニ如何ニ「ホース」ヲ用ヰマンテ
モ十分ニ此火災ヲ防グニ足ラザル所ノモノガアリマス、即チ此街路計畫ガ此
度ノ重ナ問題ニナッテ居リマスモノハ、此消防ナドノ急務ニ對シテモ亦考ヘ
ナケレバナラヌ所ノ問題デ、消防ノコトハ街路ト相俟ッテ全キヲ致スヤウニ
シナケレバナラヌト考ヘテ、其邊ノコトニモ注意ヲ致シテ居リマス、消防ノ
コトニ付テ御尋ガアリマシタカラス大略申述ベテ置キマス、次ニ今日ノ御質
問ノ中ニ復興院ノ計畫ニ付テト云フコトデアリマス、是ハ昨日ノ御質問ト同
ジコトデアリマシテ、唯京濱ノ理想的復興計畫ノ端〓ヲ開クニ至ッタ事柄ニ
マデ想到セラレマシテ、詳シク御質問ガアリマシタガ、此事ニ付テハ藤村男
爵ノ御意見ノ通リ考ヘテ居ルノデアリマスカラ、都市計畫ハ自治體ノ經營ニ
於テ全ウスベキモノデアルガ本然デアルケレドモ、此際ニ於テハ國家ノ力ヲ
以テ、國家ノ力ニ俟チ、而シテ後ニ其分擔等ノコトモ明カニスルヤウニシタ
ラ宜カラウト云フコトノ御意見ノヤウニ承ハリマシタ、是等ノコトハ全ク意
見ヲ同ジウスル譯デアリマス、唯此自治體ト政府トノ關係ノコトニ付キマシ
テハ、:復興法案ヲ草案スルニ當リマシテモ篤ト考慮ヲ致シマシテ、成ルベク
現在ノ法制ノ力ニ依ッテ出來得ルモノハ其事ヲ酌量シ、而シテ帝都復興計畫
法ト云フモノニ致シテ、其不備ヲ補フニ止メテ以テ完全ニ此帝都復興ノ基礎
タル土地整理、卽チ區劃整理法ヲ實行スルコトヲ得ルヤウニ致シマシテ、サ
ウシテ之ヲ全ウシタイト云フ考ニナリマシタノデアリマス、ソレカラ都市計
畫ノミニ限局シタコトハ甚ダ遺憾デアルト云フコトノ御說モアリマシテ、此
都市計畫ダケデヤッタナラバ、ソレニ限局スルモノデアルナラバ、都市計畫
局ダケデ宜カッタノデナカラウカ、サレバ早ク事柄ガ進ンデ、居住ノ晏如ヲ
得タラウト云フ御說モアリマシタガ、實際ニ於テハサウハ運バヌ、此事ハ少
シ御意見トハ違ウヤウデアッテ、都市計畫法ニ依ルコトノミデハ出來ヌカラ、
帝郡復興院ヲ設立シ、又帝都復興計畫法ノ如キ法律ヲ發布シテ、以テ其實行
ヲ迅速ナラシムルコトニセネバナラヌ、之ニ對シテハ今マデノ自治體ノ事業
等ニ付テ色〓ノ障礙ノ生ズル所ノ點モアリマスルカラ、是ハ又時ヲ得テ、若
クハ御質問ニ依ッテ申上ゲルヤウニ致シマセウ、ソレカラ當初ノ政府ノ考ト
今日トハ餘程違ッタデハナイカト云フコトノ御話ガアリマスガ、此點ニ付テ
ハ〓括的ニ總理大臣カラ述ベラレマシタガ、是ハ確ニ有ラユル點ニ於テアリ
やっ、震害當時ノ氣分ト今日ノ氣分トハ段々違ッテ來マシテ、色〓變遷ヲ來
タスベキモノハ澤山アリマスケレドモ、政府トシマシテ、當初ノ初一念ヲ變
更スルコトハナイ、ソレハ一貫シテ居リマシテ、唯周圍ノ事情色〓ノ關係カ
ラ當初ノ考ノ如ク行カヌコトガアルノデアリマスケレドモ、一貫スルコトニ
於テハ決シテ變ッテハ居リマセヌ、ソレカラ審議會ノ經過ノコトガアリマシ
タガ、是ハ半面的ニハ審議會ノ意見ヲ參照スルコトハ最モ宜イコトデアルノ
デ、審議會ノ意見ト復興院ノ意見ト全ク反對シタカノ如ク見エルモノモナキ
ニアラズデアリマスケレドモ、審議會ノ意見ノ如キモノハ當初考慮ヲシタル
モノモアリマス、ソレ等ノコトニ付テハ總理大臣カラ述ベラレマシタ如ク、
決シテソレニ付テ參考ノ資料トシテ之ニ考慮ヲ加ヘルコトヲ辭セヌノミナラ
ズ、出來得ルモノハ之ヲ成ルベク實行シタイト云フ考ヲ持ッタノデアリマス、
ソレデ復興ノ計畫ノ廣狹ニ付テモ御說ガアリマシタガ、是ハ如上述べマシタ
所ヲ御參考下スッタナラバ、詳シク申上ゲヌデモ宜カラウト思ヒマス、要ス
ルニ震災ハ再ビ來ルコトハ成ルベク好マヌコトデアリマスケレドモ、避クベ
カラザルコトデアリマス、而シテ又火災ノ如キモノハ是ハ度〓來タル所ノモ
ノデアリマスルカラシテ、之ニ對シテハ此度ノ復興計畫ヲ以テ其禍ヲ全然免
レシムルヤウニシタイト云フマデノ考ヲ有ッテ居ルノデアリマス、是レ卽チ
道路ノ廣狹等ニ付テ審議會ト其意見ヲ異ニシタモノデアリマス、併ナガラ審
議會ニ於テモ、二大幹線ヲ認メルト云フコトニナリマシテ、縮小セラレルナ
ラバ縮小シタイト云フコトノ意見デアリマシタ、デ審議會ノ意見ニ從ッテ讓
リ得ラレルダケ讓ッテ行クコトハ勿論、交讓妥協ノ精神デアルト考ヘテ居リ
マイク、併ナガラ帝都復興ノ唯一ノ精神タル高速度鐵道ヲ架設スル所ノ準備ヲ
全ク破壞スルト云フコトニ至ッテハ、復興ノ意義ガ立チマセヌカラ、是ノ出來
得ル限リニ於テ交讓ヲシタノデアアリマス、之ヲ簡單ニ申上ゲマスルト云フ
ト二十四間道路ヲ二十間マデニ致シマシタ、其他二十間ノモノヲ十八間マ
デニ致シタモノガアリマス、是等ハ高速度鐵道ト云フモノニ對シテ將來妨害
トナル點マデ縮小スルコトハシナイ、斯ウ云フ見地カラ其程度ヲ定メタモノ
デアリマス、然ラバ何故ニ前ニ二十間ニシタカト云フコトニ付テハ是ハ其
方ガヨリ善キ方法デアルト云フコトハ考ヘタノデアリマスケレドモ、此點ハ
高速度鐵道ヲ架設スルダケノ設備ニ妨ゲナキ限リハ審議會ノ意見ヲ容レテ
然ルベシト云フコトニ考ヘマシテ變更ヲ加へタ譯デアリマス、其他審議會ノ
意見ニ於テ此原案ヨリモ他ノ設備ヲ加ヘルコトノ御意見モアリマシタ、ソレ
等ノモノハ當初ヨリ審議會へ出ス前カラシテ考へタコトモアリマシタガ經
費ノ都合ニ依ッテ之ヲ他日ニ讓ッテ置イタモノデアリマス、卽チ地下埋設物
ノ如キハ其一ツデアリマス、而シテ下水上水ノ實際工事ヲ擔任スル點ニ於テ、
國デヤル方ヲ主張セラレタリ、又此土地區劃整理法ヲ自治體ニ任スト云フコ
トヲ主張セラレタリスル所ニ意見ガ異ツテ居リマシタケレドモ、實際、此責任
ヲ取ッテ迅速ニ實行スルニ於テハ、ソレ等ノコトハ到底此自治體ノ負擔ノ理
論ノミニ依ッテ之ヲ制スルコト能ハザルヲ顧ミマシテ、ソレ等ノコトハ提案シ
タル······既ニ提案シテアル所ノ帝都復興計畫法案ニ示スガ如ク變ッタノデア
リマス、大體、唯今申上ゲマシタヤウナコトデ御答ヲ致シテ置キマス、尙ホ御
質問ガアリマシタナラバ申上ゲルヤウニ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 岡野文部大臣
〔國務大臣井上準之助君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 唯今、文部大臣ニ、發言ノ通〓ニ依ッテ許シマシタ
〔國務大臣岡野敬次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=6
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007・岡野敬次郎
○國務大臣(岡野敬次郞君) 昨日、藤村男爵ノ御質問中ニ於キマシテ、地震學
ノ研究ニ關スル施設如何ト云フ一節ガアッタヤウニ私ハ記憶ヲ致シテ居ルノ
デアリマス、固ヨリ御尋ニナリマシタル主要ノ點ハ、或ハ復興計畫ニ關係シ
テノ御尋デアッタカトハ存ジマスルケレドモ、學問ノ範圍ニ付キマシテハ私
ヨリ一應簡單ニ御答ヲ致スガ適當デアラウカト存ジマスルノデ、一應ノ御答
辯ヲ致シタイト思フノデアリマス、御承知ノ如ク地震學ノ〓室ヲ東京帝國大
學內ニ創設イタシマシテカラハ、是ハ既ニ相當ノ年所ヲ歷テ居ルノデアリマ
ス、併ナガラ私ハ地震學ノコトハ承知イタシマセヌケレドモ、併ナガラ専門
學者ノ說ヲ聞キマシテモ、此地震學ノ〓究發展ト云フコトニ付キマシテ、尙
ホ遺憾トスル所少クナイト云フコトハ一般ニ認メラレテ居ルヤウデアリマ
ス、是ハ學問其モノガ研究ニ困難ナルモノデアラウト云フ所モゴザイマセウ
ガ、又一ツニハ地震學ヲ專攻スル者ガ少クアッタ、多クナイト云フコトモ一
ツノ原因デアラウト思フノデアリマス、從來ハ東京帝國大學ニ於キマシテハ、
地震學ハ單ニ一ツノ研究機關デアッタニ過ギナイノデ、獨立ノ學科トシテ専攻
ノ學生ヲ養成スルト云フ課程ハ缺ケテ居ッタノデアリマスル、之ヲ大學ニ質
シマスルニ地震學ハ物理學、地質學ヲ基礎トシテ、之ニ加ヘテ土木學、建築
學等ノ補助アルコトヲ必要トスルノデアリマス、ソレ等ノ諸學科ニ精通スル
所ノ專攻ノ〓究者ヲ養成シナケレバ地震學ノ發達ハ容易ニ望ムベカラザルモ
ノデアルト云フ見地ヨリ致シマシテ、理學部ニ此度地震學科ト云フモノヲ增
設ヲ致シマシテ、其課程ヲ定メテ、サウシテ專攻研究者ヲ養成スルト云フ
コトニ致シタノデアリマス、又一面ニ於キマシテ御承知ノ如ク豫テヨリ震災
豫防調査會ナルモノガ設ケラレテアリマシテ、此度ノ震災ニ付キマシテハ震
災豫防調査會ガ此震災直後ニ於テ相當ノ調査ヲ爲スニアラズンバ其目的ヲ達
スルコトヲ得ナイト云フ要求ガアリマシテ、此調査ハ一日モ緩ウスベカラザ
ルモノデアルト云フ所ヨリ責任支出ヲ致シマシテ、此調査ニ從事セシムルコ
トニ致シタノデアリマス、從來、震災豫防調査會ノ事業ナルモノハ、餘程專門
的ニ涉ッテ居リマシテ、私ノ如キ者ガ玆ニ其專門的ノコトヲ申上ゲル資格ハ
ゴザイマセヌケレドモ、〓括的ニ申上ゲレバ、從來、震災豫防調査會ニ於キマ
シテハ、地震ノ發生ニ付テ、震災ノ防禦ニ付テ、噴火ニ付テ、又津浪ニ付テ、
各〓其專門トスル各種ノ點ヨリ長ク調査研究ニ從事イタシ來ッタノデアリ
ス、尙ホ是等ノ點ニ付キマシテ、從來、歐米各國ト協同シテ此地震學ノ範圍ニ
屬スベキ各種ノ項目ノ調査ニ從事イタシテ、今日マデニ研究ノ結果ハ邦文ノ
報告書ハ九十八册、歐文ノ報告書ハ六十三册ニ達シテ居ルト云フコトデアリ
マス、斯ノ如キ狀況デアリマスルガ、震災豫防調査會ニ於キマシテハ尙ホ重
要ニシテ且ツ基本的ナル問題ニ付テ十分ニ調査ヲ進ムルコトヲ得ナイ、其調
査ヲ進ムルコトヲ得ザルハ主トシテ經費ノ都合カラ來ルノデアルト云フコト
ヲ甚ダ遺憾ト致シテ居ルヤウナ譯デアリマス、尙ホ之ニ付キマシテハ震災豫
防調査會ヨリハ必ズ此度ノ震災直後ノ調査ニ依リマシテ報告書モ來ルデア
ラウ、又將來ノ方策ニ付テモ必ズ希望要求スル所ガアラウト思フノデアリマ
ス、今玆ニ文部省ト致シマシテ是等ニ對シ豫メ具體的ノ方策ヲ申上ゲル機會
ニハ至ツテ居リマセヌケレドモ、各種ノ方面ヨリ觀察ヲ致シマシテ、出來ル
限リハ此地震學ノ發展ニ對シ、相當ノ援助ヲ與ヘテ以テ將來ニ備フル準備ニ
致シタイト云フ考ヲ有ッテ居ルノデアリマス、此事ダケヲ一言申上ゲテ置キ
タイノデアリマス
〔國務大臣井上準之君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=7
-
008・井上準之助
○國務大臣(井上準之助君) 唯今、藤村男爵ノ御質問ニ對シテ私カラ御答イ
タシマス、震災地ニ於テ破壞サレタ商賣或ハ工業ノ資金ヲ政府ハ如何ナル方
法ヲ以テ援助スルカト云フ、斯フ云フ御問デゴザイマシタガ、是ハ昨日モ申
上ゲマシタヤウニ差當リノ方法ニ於キマシテハ山脇君ニ御答イタシテ置キマ
リタノデアリマスガ、根本問題ニ付キマシテハナカ〓〓重大ナ問題デアリマ
シテ、既ニ臨時支出ヲ致シマシタ金ガ一億三四千萬圓モ出シテ居リマス、尙ホ
火災保險ノ爲ニ一億圓以上ノ金ヲ本年內ニモ支出シナケレバナリマセヌ、是
等ノ復興ノ費用、或ハ復舊ノ費用ヲ加ヘマスルト合計シテ十四億ニナルノ
デアリマスガ、是ハ七八年間ニ此限ラレタ震災地ニ消費サレルノデアリマシ
テ、ソレガ此日本全國ノ商工業或ハ物價其他ニ如何ナル影響ヲ及ボスカト云
フコトニナリマス爲ニ、餘程是ハ愼重ナル考ヲ要スルノデアリマシテ、唯今
各種ノ事柄ニ付テ考ヲ定メツツアルノデアリマスガ、併ナガラ政府ハ直接商
賣ノ資金或ハ工業ノ資金ヲ援助イタシマスルトシマスルト、公平デ能ク行亙
リマシテ弊害ノナイ方法ト云フコトハナカ/〓ムヅカシイノデアリマス、從
ヒマシテ大體自分ノ抱イテ居リマス方針ト希望ヲ申述ベテ置キタイト思ヒマ
スルノデアリマスガ、大體ニ於キマシテ此通常在リマスル經濟機關、或ハ金
融機關ヲ動カス、之ヲ政府ガ援助シテ十分ニ活動ヲセシムルト云フコトハ最
モ力强イ方法デアリマシテ、同時ニ是ガ最モ震災地ノ商賣工業ヲ復活セシム
ルノニ弊害ノナイ方法デアラウト云フコトヲ考ヘテ居ルノデアリマス、從ヒ
マシテ是等ノ經濟機關、金融機關ノ故障ガアリマスレバ、政府ハ進ンデ此故
障ヲ取除クト云フコトハ大イニ努メテ、同時ニ是等ノ機關ヲ通ジテ援助ヲ致
シタイ、平時商業資金、工業資金ノ流レテ居ル道ヲ通ジテ政府ハ之ヲ援助シ
タイ、斯ウ云フ希望ト方針ヲ有ッテ居リマスノデ、是ハ一番將來ニ向ヒマシ
テ弊害ノナイ方法デ、又最モ有力ノ方法ト考ヘテ居ル次第デアリマシテ、研
究ノ結果ハ段々サウ云フ道ニ於テ又重ネテ御報告スルコトガ生ジテ來ルダラ
ウト考ヘテ居リマスカラ、ソレダケヲ御答イタシテ置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 上山滿之進君
〔上山滿之進君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=9
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010・上山滿之進
○上山滿之進君 私ハ火災保險問題ノミニ付テ質問ヲ致シタイノデアリマ
ス、總體、折角古今未曾有ノ大災害ノ眞最中ニ成立ヲシテ善後ノ策ニ晝夜銳意
シテ居ラレル此內閣ニ對シテ彼レ此レ申スノハ適當デナイト云フ大體ノ考ハ
私ハ有ッテ居ル、故ニ今日マデ政府ノ施設ニ對シテ公ケニ批評ヲシタコトハ
一囘モアリマセヌ、是ガ政府ヲシテ俗ニ言ヘバ氣ヲ腐ラセナイデ、此多難ノ
場合ニ處シテ貰フコトヲ望ム我〓ノ國民ノ執ルベキ適當ナ態度デアルト私ハ
信ジテ居ルノデアリマス、斯ク信ズル私ガ此場合ニ於テ火災保險問題ニ付キ、
政府ニ種々ノ御質問ヲシナケレバナラヌト云フコトニ立到ッタコトヲ私自カ
ラ深ク遺憾トスルノデアリマス、成ルタケ何モ申サナイデ居リタイノデアリ
マスガ、此問題ダケハ何トシテモ默々ニ付シ去ルコトガ出來ナイ、頗ル重大ナ
關係ヲ將來財政經濟上ニ有ッテ居ルコトデアリマス、ドウゾ微意ノ在ル所ハ
幾重ニモ滿堂諸君ノ御諒察ヲ望ムノデアリマス、併セテ政府ノ御諒解ヲ其點
ニ於テ願ッテ置クノデアリマス、第一ニ私ノ質問イタシタイノハ九月十二
日ニ降シ給ウタル御詔勅ト、此火災保險問題トノ關係デアリマス、質問ノ要
領ヲ先ヅ書キ付ケテアリマスカラ讀ミマス、「九月十二日ノ詔勅ニハ保險會社
ニ對シテ保險契約ヲ原因トスル支出ヲ諭シ給ヒ又政府ニ對シ其途ヲ講セヨト
命シ給ヘルノ聖旨ナキモノト拜察ス、政府ノ所見如何」世ノ中ニハ往々ニシ
テ九月十二日ノ詔勅ガサモ見舞金仕拂ノ如キコトヲ命ジ給フタカノ如ク述ブ
ル人ガアルノデアリマス、政府當局ノ御所見ハ、正式ニ伺ッタコトハアリマセ
ヌガ、新聞其他ニ依ッテ間接ニ聞ク所ニ依レバ、時ニ依ッテ多少違ッテ居ルヤ
ウニ思ハレル、要スルニ今日マデ明カニ政府當局ノ所見ヲ聞クコトガ出來ナ
イノデアリマス、所ガ此問題ハ申スマデモナク、我〓臣子ノ分トシテ十分ニ了
解シテ置カナケレバナラナイコトデアル、我〓ガ此議場ニ於テ火災保險問題
ニ對シ如何ニ之ヲ處理スルカト云フコトニ、根本ノ關係ヲ有ッテ居ルコトハ
申スマデモナイノデアリマス、此點ヲ第一ニ政府ニ伺ハナケレバナラヌ、九
月十二日ノ詔勅ハ勿論諸君ノ拜讀シテ居ラレル所デ、又御記憶ニ新ナ所ト思
ヒマスガ、順序トシテ其關係ノ極ク一部分一此場合此處デ拜讀致サナケレバ
ナラヌノデアリマス、前ノ所ヲ······後ノ所ハ〓論略シマシテ、其關係ノ有ル
所ノ御言葉ニ「或ハ個人若ハ一會社ノ利益保障ノ爲ニ多衆災民ノ安固ヲ脅ス
カ如キアラハ人心動搖シテ抵止スル所ヲ知ラス朕深ク之ヲ憂惕シ既ニ在朝有
司ニ命シ臨機救濟ノ道ヲ講セシメ」云々、斯ウ云フコトニナツテアリマス、
私ノ此御言葉ヲ拜察シ奉ル所ニ依レバ、元首ハ至仁至愛デ在ラセラルルコト
ハ申スマデモナイコトデアリマス、又國民一般ニ對シテ一視同仁デ在ラヒラ
ルルコトモ勿論デアルノデアリマス、決シテ元首ハ國民間ノ利害ノ爭ヒ衝突
ニ對シ、黑白ヲ定メ給フコトハ萬々アルベカラザルコトデ、又今日マデ甞テ
サウ云フコトノ無イコトハ、諸君ノ能ク御承知ノコトデアル、此詔勅ノ御言
葉ハ大體ニ於テ私ヲ以テ公ニ殉ゼヨト云フコトヲ訓ヘ給フノデアル、是ハ一
點ノ疑ヒヲ容ルルコトノ出來ナイコトデナケレバナラヌノデアリマス、然ル
ヲ此御言葉ガサモ保險會社ヲシテ保險金ナリ、見舞金ナリヲ拂ハセヨ、又保
險會社ハ拂ヘヨト仰セ給フタカノ如ク拜讀シ奉ルノハ······拜察シ奉ルノハ誠
ニ驚キ入ッタコトト言ハザルヲ得ヌノデアル、政府ハ如何ニ御考ヘニナッタン
デアリマスカ、政府ノ之ニ對スル御考ヲ······御意見ヲ間接ニ承ハル所ニ依レ
バ、詔勅ノ御言葉ハ保險ノ事ノミデハナイ、保險ノ事モアルガ、暴利取締ノ
コトモアルト云フ風ニ述ベテ居ラレタコトヲ承ハッタノデアル、私ノ申スノハ
是ト全ク違フ、保險ト暴利、サウ云フ具體的ノ問題ヲ一切仰セニナッタノデ
ナイ、斯ウ私ハ解釋シ奉ルノデアリマス、政府ハドウ御考ヘニナルノデアリ
マスカ、萬一此御詔勅ノ御言葉ノ中ニ保險ノコトダケデモ仰セニナッテ居ル
ト云フコトデアルト、此詔勅ヲ奏請シ、之ニ副署セラレタ山本首相閣下、臺
閣諸公ノ責任ハ、非常ニ重大デアルト云フコトヲ御覺悟ニナラナケレバナラ
ヌノデアリマス、ソレハナゼト申シマスト、詔勅ノ出マシタノハ九月ノ十二
日デアリマス、而シテ此火災保險問題ガ喧々囂々ト世ニ起ッタノハ、大震災
直後ニ起ッタ、而シテ政府側ガ此問題ニ喙ヲ容レラレタノハ大震災ノ九月一
日ヲ越ユルコト三四日、九月四日ニ明カニ世間ニ現レタノデアリマス、ソレ
ハ東京ノ有力ナ新聞ノ紙上ニ政府ノ大官······總理大臣ノ意思ヲ最モ能ク了解
シテ居ラレルト云フ大官ノ談トシテ、保險會社ハ拂ハナケレバナラナイ、拂
ハナケレバ承知シナイゾト、先ヅ云フ意味ノ談話ガ揭載サレテ居ルノデアリ
マス、是ヨリ引續イテ國務大臣ノ中ニ段々此問題ニ身ヲ入レラレタ方ガアル、
世論ハ非常ニ紛糾ヲ致シテ居ッタ、保險會社ノ、被保險者カラ盛ンニ迫ラレ、
迫ラレナガラ保險會社ハ地震約款ヲ楯ニシテ支拂フ可カラザルモノデアルト
云フコトヲ盛ンニ主張シテ居ッタノデアリマス、斯ノ如ク保險會社ト被保險
者トノ間ニ甚シキ利益ノ衝突ガ起リ、甚シキ論爭ガ生ジテ居ッタ場合ニ於テ、
政府ハ必シモ被保險者ニ私サレタ意味デハ無論アリマセヌ、唯大勢ニ順應シ
テデアラウト思ヒマスガ、被保險者ノ側ノ肩デモ持タレルカノヤウナ態度ヲ
執ラレタ、所ガナカ〓〓問題ガ解決シナイ、斯カル立場ニナッタ故ニ、此詔
勅ヲ奏請セラレタトハ、私決シテ申シマセヌ、斯ノ如キ不臣ノ行爲ガ現內閣
ニアルト云フコトハ寸毫モ私想像シナイ者デアリマスカラ、サウハ申シマセ
ヌケレドモ、此時ニ於テ······此十二日ニ於テ此詔勅ガ降サレタノデアリマス、
此詔勅ノ中ニ保險問題ガ含マレテ居ルト云フコトニナルト、元首ハ國民相互
ノ間ニ於ケル利益ノ爭ヒニ對シテ黑白ヲ分カチ給フト云フコトニナルノデア
リマス、是ガ私ノ最モ恐ルル點デアル、而シテ遺憾ナガラ政府ハ衰龍ノ御袖
ニ隱レ奉ッタト云フ譏ヲ受ケナケレバナラナイ、私ハ最初ニ申シマシタ通リ
二、ドウカ現ニ臺閣ニ立ツテ居ラレル山本伯爵其他ノ諸公モ、此國家多難ノ
場合ニ於テ災害善後ノ途ニ銳意當ッテ戴キタイト云フコトヲ熱望シテ居ル一
人デアリマスガ故ニ、其內閣ガ苟モ衰龍ノ御袖ニ絕リ奉ツタト云フ批評ヲ受
ケルコトハ喜バナイノデアリマス、此意味ニ於テ此點ハ極メテ明瞭ニ致シテ
置カナケレバナラヌ、其點ヲ第一ニ御答ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、今
日ハ時間ガ切迫イタシマシタカラ、此場合、私ノ質問ハ此一點ダケニ止メテ
置キマス、又後ノ機會ニ於テ他ノ質問ヲ續ケタイト考ヘマス、左樣御承知ヲ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 休憩ヲ致シマス、午後ハ一時三十分ヨリ開會イタ
シマス
午後零時一分休憩
午後一時三十八分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス、午前ニ引續キマシ
テ上山君ニ質疑ヲ許ス筈デゴザイマスガ、都合ガゴザイマスノデ、御異議ガ
無ケレバ上山君ノ質疑ハ明日ニ御讓リヲ顧ヒタク存ジマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ゴザイマセヌデスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=13
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014・上山滿之進
○上山滿之進君 宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本日ノ議事日程ニ移リタイト存ジマス、本會期ヲ
通ジマシテ御異議ガナケレバ通牒文ノ朗讀ハ省略イタシタク存ジマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一、非常徵發令承諾ヲ求ムル件、會議
〔左ノ通牒文及議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之
ニ傚フ〕
非常徵發令
右帝國憲法第八條第二項ニ依リ承諾ヲ求ムル爲
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十二年十二月十一日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
內務大臣子爵後藤新平
文部大臣岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義
農商務大臣男爵田健治
遞信大臣犬養次郞毅郞一
司法大平沼騏一
臣臣
鐵道大山之內一
大藏大臣井上準之助
外務大臣男爵伊集院彥吉
朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ帝國憲法第八條ニ依リ非常徵發令ヲ裁可シ之
ヲ公布セシム
御名御重
攝政名
大正十二年九月二日
內閣總理大臣伯爵內田康哉
臣伯爵內田哉
鐵外道務大大遠康
臣伯爵大木吉
陸軍大臣山梨半造
司法大臣岡野敬次郞
內務大臣
農商務大臣千葉県千代市
大藏大臣市來乙
文部大臣鎌田榮
遞信大臣子爵前田利彪定吉
海軍大臣財部
勅令第三百九十六號
非常徵發令
第一條大正十二年九月一日ノ地震ニ基ク被害者ノ救濟ニ必要ナル食糧、
建築材料、衞生材料、運搬具其ノ他ノ物件又ハ勞務ハ內務大臣ニ於テ必
要ト認ムルトキハ其ノ非常徵發ヲ命スルコトヲ得
第二條非常徵發ハ地方長官ノ徵發書ヲ以テ之ヲ行フ
第三條非常徵發ヲ命セラレタル者徵發ノ命令ヲ拒ミ又ハ徵發物件ヲ藏匿
シタルトキハ直ニ之ヲ徵用スルコトヲ得
第四條徵發物件又ハ勞務ニ對スル賠償ハ其ノ地市場ニ於ケル前三年間ノ
平均價格ニ依リ之ヲ定ム其ノ平均價格ニ依リ難キモノハ評價委員ノ評定
スル所ニ依ル
第五條非常徵發ノ命令ヲ拒ミ又ハ徵發物件ヲ藏匿シタル者ハ三年以下ノ
禁錮又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス徵發シ得ヘキ物件ニ關シ當該官吏吏員
ニ對シ申告ヲ拒ミ又ハ虛僞ノ申告ヲ爲シタル者亦同シ
第六條徵發物件ノ種類賠償ノ手續評價委員ノ組織其ノ他本令ノ施行ニ必
要ナル規定ハ內務大臣之ヲ定ム
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=16
-
017・後藤新平
○國務大臣(子爵後藤新平君) 唯今提出ニナツテ居リマスル非常徵發令ニ付
キマシテ提出ノ理由ヲ申上ゲマス、大正十二年九月ノ震災ニ基ク被害者ノ救
濟ニ必要ナル物件又ハ勞力ニ付キマシテ非常徵發ノ途ヲ開クコトノ必要アリ
シガ爲ニ、其必要ヲ認メマシテ、帝國憲法第八條第一項ニ依リ本勅令ヲ公布
セラレタノデアリマス、此徵發物件ニ對スル賠償價格ノ決定其他殘務ノ完了
セザルモノガゴザリマシテ、震災ニ罹ラザル地方ノ方ハ徵發ノ殘務モ大抵完
了イタシマシタ、併ナガラ此震災ニ罹リマシタ地方ノ分ハ未ダ完了セザルモ
ノガアリマスルカラ、完了ニ至ルマデハ本勅令ハ將來共ニ尙ホ其効力ヲ存續
セシムルノ必要ガアリマスルカラ、帝國憲法第八條第二項ノ命ズル所ニ依リ
マシテ、茲ニ御協賛ヲ得タイノデアリマス、御審議ノ上御協賛ヲ得ムコトヲ
希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=17
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018・若槻禮次郎
○若槻禮次郞君 此緊急勅令ハ新聞紙ニ依リマスト云フト、政府ハ廢止ノコ
トヲ樞密院ニ御諮リニナッタト云フヤウニ傳ヘラレテ居ルノデアリマス、而
シテ一旦其事ニナッテ居ッタモノ「ヲ撤囘セラレタヤウニ傳ヘラレテ居リマス
ルガ、サウ云フ事實ガアルノデアリマスカ、ドウデアリマスカ、ソレカラ內
務大臣ノ唯今ノ御說明ニ依ルト云フト、唯殘ッテ居ル罪人ヲ處罰スルダケノ
爲ニ、此緊急勅令ノ繼續ヲ議會ニ向ッテ承認ヲ求メラルルヤウナ御說明デアッ
タヤウデアリマスガ、ソレダケノ意味デアリマスカ、ソレヲ伺ヒマス
〔國務大臣子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=18
-
019・後藤新平
○國務大臣(子爵後藤新平君) 政府ハ之ヲ撤廢シタイト云フ考デ、ソレマデ
ニハ殘務モ完了スルデアラウト云フコトデ、督勵ヲ致シテ見マシタケレドモ、
之ヲ撤廢スルノ運ビニ至ラヌノデアリマシテ、尙ホ唯今申述ベタヤウニ存續
ノ必要アリト認メテ玆ニ提案イタシタ譯デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=19
-
020・若槻禮次郎
○若槻禮次郞君 殘務トハドウ云コトデス
〔國務大臣子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=20
-
021・後藤新平
○國務大臣(子爵後藤新平君) 是ハ徵發シマシタ物ノ評價、其價格ヲ定メテ
支拂ヲ致シマスノニ、評價ノ點ニ付テ、マダ運ビガ著カヌノガアリマス、是
ハ震災地方ニ於テ種々ノ持主トノ關係ガアリマシテ、俄ニ運ビ兼ネテ居ルノ
デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=21
-
022・若槻禮次郎
○若槻禮次郞君 唯今ノ御說明ニ依ルト、徵發シタ物ノ評價ガ決マラヌ、ソ
レダケノ爲ニ此勅令ヲ存スルト云フコトデアリマスガ、ソレダケデハ甚ダ理
由ガ乏シイヤウニ思ヒマスガ、私ガ前ニ伺ツタ此制裁ヲ加ヘルト云フコトハ
無イノデアリマスカ、罰金ヲ科スルトカ、或ハ刑罰ニ處スルト云フダケデア
リマスト、私共大イニ議論ガアルノデアリマスガ、其方ハ無イノデアリマス
カ
〔國務大臣子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=22
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023・後藤新平
○國務大臣(子爵後藤新平君) ソレハ事ノ成行キニ依リマシテ必要モ生ズル
ノデアリマシテ、唯今ハ斯樣ニシテ結尾ガ著クト云フコトヲ今申上ゲ兼ネマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=23
-
024・石渡敏一
○石渡敏一君 私モ唯今ノ若槻君ノ質問ト同ジ疑ヲ此法案ニ付テ持ツテ居リ
マス、今少シ殘務ト仰ツシヤル所ノ點ヲ明瞭ニ御答ヲ願ヒタイト思フノデス、
ドノ位ノ物ヲ徵發ナスツタノデアリマスカ、又今日ノ所デハドノ位ノ物ガ殘
ツテ居ル、評價ヲセズニ殘ツテ居ル、評價ヲシタ物ハドノ位ノモノデアラウ
カ、又是ハ噂デゴザリマスガ、此勅令ニ依テ罰セラレル者モアル、斯ウ云フ
話デスガ、ソレハドノ位ノ人數ニ當ルデアラウカ、ソコラモ少シ御說明ヲ願
ヒタイト思ヒマス
〔政府委員塚本〓治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=24
-
025・塚本清治
○政府委員(塚本〓治君) 此非常徵發令ノ將來ニ向ッテ其効力ヲ存セシメル
必要アリト認メマシテ、御協賛ヲ仰ギマスル所以ハ、先ニ大臣カラ申述ベラ
レマシタガ、其理由ト致シマシテ、此徵發令中ニ徵發シマシタ物件ニ對スル
賠償價格ハ市場ニ於ケル前三箇年ノ平均價格ニ依ッテ定ムルト云フコトニナッ
テ居リマスノガ原則デゴザイマス、其平均價格ニ依リ難イ物ガアリマシタナ
ラバ、評價委員ノ評定スル所ニ依ルト云フ規定ガゴザイマスノデ、其市場ニ
於テ前三箇年ノ平均價格ニ依リ難イ物ハ唯〓評價委員ノ選任ヲ經マシテ、價
格評定ニ掛ッテ居ル物ガアルノデゴザイマス、ソレ故ニ少クトモ其評價委員
ノ價格ノ評定ハ此緊急勅令ノ下ニ於テデナケレバ、適法ニ行ハレナイカト考
ヘマスノデ、其始末ヲ著ケマスル爲ニ、又其間此勅令ノ効力ノ存續ヲ必要ト
考ヘルノデアリマス、此緊急勅令ニ依リマシテ徵發サレマシタ物件ノ種類數
量ハ可ナリ多種多量ノ物デアリマスルガ、今其見込價格等ヲ總計イタシマス
ルト云フト凡ソ百四十一萬圓バカリニナリマスルノデ、其種類モ大麥、小
麥或ハ大豆、梅干、味噌、醬油、種々雜多ナ食糧品其他ノ物件ヲ徵發イタシ
タノデゴザイマス、而シテ今專ラ評定中ニ係リマスモノハ、主トシテ神奈川
縣下ニ於ケル徵發物件デアリマシテ矢張リ大麥モアリマスレバ、小麥モアリ
マスルシ、又罐詰ノ類モアリマシテ、是等ノ物ニ付テ尙ホ價格評定中デアリ
マスルノデ、是等ノ手續ノ未濟ノ間ハ、ドウシテモ此勅令ノ下ニ整理ガ行ハ
レナケレバナラナイト考ヘルノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=25
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026・江木翼
○江木翼君 私ハ此機會ニ於キマシテ、政府ノ所見ヲ簡單ニ承ハッテ置キタ
イト思ヒマス、本提出ニナリマシタ所ノ緊急勅令諸案竝ニ衆議院ノ方ニ既ニ
提出ニナッテ居リマスル所ノ緊急勅令竝ニ憲法七十條ニ依リマスル勅令ヲ全
部通ジテ見マスルト、此中ニハ旣ニ緊急勅令ヲ以テ廢止ニナッテ居リマスル
所ノ戒嚴令ノ一部適用ニ關スル件、竝ニ既ニ、或ハ自然消滅ニナッタモノデ
アラウカト思ハルル所ノ支拂猶豫ニ關スル所ノ緊急勅令ハ承諾ヲ求ムル爲ニ
御提出ニナッテ居ラヌカラデアリマス、既ニ廢止ニナッタ、若クハ消滅ニナッ
タ所ノ緊急勅令ノ如キモノヲ議會ニ提出サルルノガ適當デアルカ否カト云フ
コトニ付キマシテハ、隨分議論ノアル所デアルノデアリマス、從來內閣ニ於
キマシテハ多ク之ヲ提出シテ居ラナイ所ノ例ヲ取ッテ居ルカト思ヒマスルガ、
或ル內閣ノ時代ニ於キマシテハ、既ニ廢止シタル所ノ緊急勅令ト雖モ、政府
ガ政治上ノ責任解除ヲ受クル爲ニ議會ニ提出スルノガ、適當デアルト云フコ
トヲ政府委員ヲ以テ議會ニ表明セラレテ居ル時代モアルノデアリマス、ソコ
デ私ハ此處ニ疑ヒヲ存ジマスルガ故ニ、現內閣ハ是カラ先キ會期ノ繼續イタ
シマスル間ニ是等ノ二勅令ヲ承諾ヲ求ムル爲ニ議院ニ御提出ニナルノカ否カ
ト云フコトヲ第一ニ承ハル、若シ御提出ニナラヌト致シマスルナラバ、其理
由ハ如何ナルモノデアルカ、斯ウ云フ二點ヲ確メテ置キタイト思フノデゴザ
イマス
〔國務大臣子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=26
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027・後藤新平
○國務大臣(子爵後藤新平君) 唯〓江木君ノ御尋ニナリマシタノハ、江木君
御自身ニ述ベラレマシタ通リニ、ナカ〓〓內閣ニ於テモ考究シテアル所デア
リマスルガ、一込入ッテ居リマスルカラ是ハ法制局長官カラ御答ヲスルヤウニ
致サセマス
〔政府委員松本烝治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=27
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028・松本烝治
○政府委員(松本烝治君) 唯今ノ御質問ニ御答ヲ致シマス、唯今ノ御質問ニ
依リマスルト、旣ニ廢止セラレテ居ル緊急勅令及旣ニ效力ヲ消滅セル支拂
停止等ニ關スル緊急勅令ハ將來ニ於テ此議會ニ提出スル考ハナイノデアルカ
ドウカヲ確メタイト云フコトガ、第一ノ御問ノヤウニ思ヒマシタガ、是ハ提
出スル考ハナイノデゴザイマス、唯〓江木君ハ二ツノ勅令ヲ御擧ゲニナリマ
シタガ、實ハモウ一ツアリマス、即チ其緊急勅令ヲ廢止シテ居ル所ノ緊急勅
令、亦之ヲ提出シナイ積リデアリマス、即チ三ツノ勅令ハ之ヲ議會ニ提出
スル考ハナイノデコザイマス、デ其提出セザル理由如何ト云フ御話デゴザ
イマシタガ、此點ニ付キマシテハ學說ト致シマシテハ種々爭ヒガアリマス、
或ハ既ニ効力ヲ失ッテ居ル緊急勅令ト雖モ之ヲ議會ニ提出セナケレバナラ
ヌト云フ說モゴザイマスルシ、又之ニ反シテ、將來ニ向ッテ効力ヲ保續スル
必要アルモノノミヲ提出スベキモノデアル、其承諾ヲ求ムルノ趣旨タルヤ、
將來ノ効力ノ保續ト云フコトニアルノデアルト云フ說モアリマス、二說互
ニ拮抗シテ相下ラズ、既ニ二十年位前カラ其議論ハ學說トシテハアリマ
ス、此學說ノ當否ニ付キマシテ若シ御議論ガアリマスレバ又申上ゲルコト
ト致シマスルガ、政府ノ見ル所ニ依リマスレバ、何レノ說ニモソレハ多少
ノ理由ハアリマス、片ッ方ノ說ガ必ズ絕對的ニ正當デアリ、他ノ說ハ絕對
的ニ誤ツテ居ルト云フ程ノ强イ理由ハ或ハ無イカモ知レヌト思ウテ居リマ
ス、併ナガラ憲法行ハレマシテカラ既ニ三十餘年ヲ經過シテ居リマスガ、
此間將來ノ効力保續ノ問題ノナイ緊急勅令ヲ帝國議會ニ提出シタ所ノ先例
ハ一ツモ無イノデアリマス、唯今、江木君ハ多ク提出セザル例ヲ取ッテ居ル
ヤウデアルト云フ御話デアリマシタガ、私共ノ調ベマシタ所デハ一ツモ提
出シタ例ハ無イノデアリマス、之ニ反シマシテ、議會開會前ニ廢止セラレマ
シタ勅令及ビ之ヲ廢止シタ所ノ勅令ヲ提出セザリシ例ト云フモノハ凡ソ九
ツバカリアリマス、念ノ爲ニ此處ニ擧ゲテ見マスレバ、明治二十七年ノ勅令
第百三十四號、同二十九年ノ勅令第二百四號、同三十二年ノ勅合.第二百七
十八號、同三十八年ノ勅令第二百五號、同年ノ勅令第二百六號ノ五ツノ勅
令ト及其廢止ヲ目的トシテ居ッタ所ノ緊急勅令、卽チ明治二十七年ノ勅令
第百六十七號、同二十九年ノ勅令第三百九十八號、同三十二年ノ勅令第三百
七十六號、同三十八年ノ勅令第二百四十二號、四ツノ勅令、合セマシテ九ソ
ノ勅令ハ皆議會ニ提出セラレナカッタノデアリマス、凡ソ法制ノ解釋ニ關シ
マシテハ、此繼續シテ行ハレテ居ル所ノ先例ト云フモノハ濫ニ之ヲ變改ス
ベカラザルモノデアルト云フコトハ言フヲ俟タナイノデアリマス、デ此殊ニ
憲法ノ解釋ノ如キニ至リマシテハ重大ナル理由ナキ限リ從來行ハレテ居リマ
スル先例ヲ飜スト云フコトハ甚ダ面白クナイコトト考ヘルノデアリマス、斯
ノ如キ理由ニ依リマシテ、從來ノ先例一ツモ反對ノ例ハナイ、唯或ル機會ニ
於キマシテ政府委員ノ言葉トシマシテハ、稍〓之ニ反スルヤウナ結論ヲ生ジ
得ベキカト思ハレルヤウナ說明ヲシタコトハアルヤウデアリマスガ、議會ニ
於テ先例ト認ムベキモノハ一ツモナイノデアリマス、デ唯今述ベマシタヤウ
ナ理由ニ依リマシテ、此議會ニハ前ニ擧ゲマシタ三ツノ勅令ハ之ヲ提出セザ
ルコトニ決定ヲ致シタ次第デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=28
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029・江木翼
○江木翼君 大體御答辯ニ依ッテ滿足スル次第デゴザイマスガ、少シク要領ヲ
得ナカッタ、唯從來ノ例ガ提出スルト云フコトニシテ居ラヌカラ、其先例ヲ
尊重シタノデアル、斯ウ云フダケノ御要領ノヤウニ承ハッタノデアリマスガ、
或ハ御說明ノ中ニハ承諾ヲ求ムルト云フコトハ將來ニ効力ヲ存續セシムル爲
ニ承諾ヲ求ムルノデアルガ故ニ、旣ニ廢止ニ歸シタルモノハ承諾ヲ求ムル必
要ハナイト云フヤウナ語氣モ認メラレタカト思ヒマスケレドモ、併シ必シモ
ソレガ本當ノ御理由デモナイヤウニ思フ、唯先例ニ依ッタノデアル、併シ先
例ガ凡ソ出來マスト云フコトハ、何カノ根據ガナケレバナラヌコトデアラウ
ト思フノデアリマス、政府ハ其先例ニ依ラレタト云フコトニハ必ズヤ相當ノ
理由ノアルコトト思フノデアリマスルガ、其理由ハ如何ト云フコトヲ實ハ御
尋シタ次第ナンデアリマス、御決定ニナッテ居リマス理由ガアレバ、ソレヲ
承ハリタイ、若シナイト云フコトデゴザイマスナラバ、必シモ承ハル必要ガ
ナイ、總テ私ハ政府ノ趣旨ノアル所ヲ承ハルダケデ、敢テ議論ヲ致スト云フ
趣旨デハナイノデアリマス
〔政府委員松本烝治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=29
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030・松本烝治
○政府委員(松本烝治君) 唯今ノ重ネテノ御問ニ對シマシテ簡單ニ政府ガ從
來認メテ居リマシタ理由、而シテ是亦此政府ガ之ヲ採用セムト欲シテ居ル所
ノ理由ヲ簡單ニ御說明ヲ申上ゲマス、御承知ノ如ク憲法第八條ニ於キマシテ
ハ、第一項ニ於キマシテ緊急勅令發布ノ要件ヲ定メマシテ、第二項ニ於キマ
シテ「此ノ勅令ハ次ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出スヘシ若議會ニ於テ承諾セ
サルトキハ政府ハ將來ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ」ト云フヤウ
ニ定メテ居リマスル、此明文ハ甚ダ簡單デアリマスル、從テ含蓄スル意味ガ頗
ル多イノデ、其結果トシマシテ第二項ニ付キマシテ疑義アルト云フコトヲバ
先程述べタ通リデアリマス、併ナガラ此緊急勅令ヲ議會ニ提出シマスルニハ、
承諾ヲ求ムル趣旨デアルト云フコトハ爭フベカラザルコトデアリマス、而シ
テ此第二項ニ依リマスレバ、議會ガ承諾セザルトキハ勅令ハ將來ニ向テ其効
力ヲ失フト云フコトヲ規定シテ居リマスノデ、此事亦極メテ明瞭デアリマス、
果シテ然ラバ既ニ効力ヲ有スルコトノナイ所ノ勅令ハ之ヲ議會ニ提出シテ承
諾ヲ求メルノ理由ハナイノデアリマス、從テ之ヲ議會ニ提出スル必要ハナイ
ト見ナケレバナルマイト考ヘルノデアリマス、此說ニ反シマシテ緊急勅令ハ
其効力ヲ有シテ居ルト否トヲ問ヒマセズ、總テ之ヲ議會ニ提出スベシト云フ
反對說ノアルト云フコトハ先程モ述ベマシタガ、其說ニ依リマスレバ、緊急
勅令ヲ提出イタシマスルニハ其發布ガ憲法ノ要求シテ居ル條件ニ適合シテ居
ルヤ否ヤ、及ビ將來ニ向テ其ノ効力ヲ有セシムルノ必要アリヤ否ヤ、此二點
ニ付テ審議評決ヲ求メルノ趣旨デアル、卽チ議會ノ承諾ニ依リマシテ勅令發
布ニ關スル政府ノ責任ガ解除セラルルモノデアルト云フノデアリマス、併ナ
ガラ緊急勅令ノ發布ノ當否ニ關シマシテハ、政府ハ常ニ責任ヲ以テ居ルノデ
アリマシテ、此責任タルヤ議會ハ質問ニ依リ或ハ決議ニ依リ、上奏等ニ依リ
マシテ之ヲ問フコトハ妨ケラルルモノデハナイノデアリマス、此意味ニ於テ
緊急勅令ヲ議會ニ提出スル必要ハナイト考ヘルノデアリマス、デ若モ此議會
ニ提出ノ趣旨ハ反對說ノ云フガ如ク二點ニ付テノ審議ヲ求メルニアリト致シ
マスレバ、將來ノ効力ノ保續ハ必要デアルガ、發布ハ不法デアルト云フ場合
ニ於キマシテ議會ハ如何ニスベキカ、議會ハ緊急勅令ニ對シマシテ、承諾ス
ルカ、承諾セザルカノ二ツシカ途ガナイノデアリマスルガ、此場合ニ若シ之
ヲ承諾シマスレバ、責任ノ解除ヲ生ズルト云フ結果ヲ生ズルノデアリマス、
又反對ノ場合ニ於キマシテ、卽チ發布ハ適法デアル、併ナガラ將來ノ効力ノ
保續ハ必要デアルト云フ場合ニ於キマシテ、之ヲ承諾イタシマスレバ、將來
ノ効力ノ保續ヲ生ズルト云フヤウナ結果ヲ生ズル譯デアリマス、斯ノ如キ矛
盾ヲ生ズルノデアル、其所謂承諾タルヤ、卽チ將來ニ勅令ノ効力ヲ保續セシ
ムル趣旨ノ承諾デアルト解スルニアラザレバ、此矛盾ヲ解クコトガ出來ナイ
結果ヲ生ジヤウカト考ヘルノデアリマス、デ是等ハ從來此政府ガ既ニ効力ヲ
消滅シテ居ル緊急勅令ヲ議會ニ提出セザル例ヲ採ッテ居リマルコトノ理由デ
アラウカト考ヘルノデアリマス、先程述べマシタヤウニ、反對論ニ全ク理由
ノナイト云フコトヲ言フノデハナイノデ、ドチラノ議論ニモ之ヲ公平ニ極ク
率直ニ申シマシタナラバ、ドチラノ議論ニモ五分五分ノ理由ハアルト思フノ
デアリマス、玆ニ於テカ學說ハ二分シテ互ニ爭ツテ居ルノデアリマス、既ニ
十數年前デゴザイマスルガ、法理研究會等ニ於テ學者間ニ大イニ爭ヒガアッ
タヤウナ次第デアリマス、デ政府ハ寧ロ斯ノ如キ雙方ニ理由ノアル場合ニ於
キマシテ從來幾ツカノ先例ガアル、其先例ヲ覆スト云フダケノ强イ理由ガ反
對論ニアルモノト認メナイ、其意味ニ於キマシテ既ニ効力ヲ消滅シテ居ル所
ノ三勅令ハ此議會ニ之ヲ提出シナイト云フコトニ決定シタ次第デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=30
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031・河村譲三郎
○河村讓三郞君 唯今詳細ノ說明ヲ承ハリマシタガ、其御說明ニ關聯イタシ
テ尙ホ又一點ノ質疑ヲ致シマスルコトハ適當デアラウカト思ヒマスル、緊急
勅令ノ中、二三ハ承諾ヲ求メヌ爲ニ提出セヌト云フ御答デアリマシタ、此勅
令ハ之ヲ廢止スル別段ノ勅令ニ依テ消滅スル、或ハ自然ニ消滅ヲシタモノデ
アルガ故ニ提出ノ必要ヲ認メヌト云フ御話デアリマス、自然ニ消滅スルト云
フコトハ如何ナル意味デアルカ存ジマセヌガ、緊急勅令ノ四百四號ノ所謂「モ
ラトリウム」ニ關スル緊急勅令デアリマス、此勅令ガ本院ニモ衆議院ニモ提出
ニナッテ居リマセヌ、蓋シ之ハ自然ニ消滅シタト云フ御意見デアラウカト察
シマスルノデアリマス、此勅令ノ內容ヲ伺ヒマスルト、第一條第一項ニハ
「大正十二年九月一日以前ニ發生シ同日ヨリ同年同月三十日迄ノ間ニ於テ支
拂ヲ爲スヘキ私法上ノ金錢債務」斯ウアリマスルガ、九月三十日以後ノ分ニ
付テハ、此規定ノ勅令ハ自然無イコトニナリマス、ソレデ此一項ハ一條モ三
條モ、最早存續スベキモノデナイト云フ御解釋ニナルモノト存ジマス、然ル
ニ其一條······三條ノ第二項ニ、一條ノ方ニハ「震災ノ影響ニ因リ必要アルト
キハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ規定ハ大正十二年十月一日以後ニ支拂ヲ爲
スヘキ私法上ノ金錢債務ニ付之ヲ適用スルコトヲ得」ト云フコトガアリマス、
ソレデ第二項ニ依リマスルト、實行ノ期限、卽チ三十日以後、卽チ十月一日
以後ノ金錢債務ニ付テモ必要ガアレバ勅令ヲ發シテ之ヲ適用スルト云フコト
ガ出來ルコトニナッテ居リマス、第三條ニモ之ヲ準用シテアルノデアリマス、
サウシマスト此勅令ノ規定ハ全部當然、自然消滅シタト云フコトノ解釋ヲ
果シテ適當ナリトスルヤ否ヤト云フ疑問ヲ生ズルコトヲ免レヌト思ヒマス、
定メテ此勅令ヲ御提出ニナラヌ位デアリマスカラ、此事ニ對シテハ明確ナル
御判斷ガアッタコトト思ヒマスガ、念ノ爲メ伺ッテ置キタイ、ソレカラ尙ホ
若シ政府ガ是ハ當然御解釋ニナッテ居リマスケレドモ、今後若シ勅令ガ此儘
ニナッテ居リマシテ、別ニ之ヲ解釋スルモノハ尙ホ震災後必要デアルト云
フ解釋ヲ以テ、後ニ之ヲ適用スルト云フコトガアリマスレバ、ソレハドウナ
サレマスカ、卽チ緊急勅令ノ効力ノマダアルモノニ付テハ、政府ハ之ヲ特ニ
發布スルト云フコトデ議會ノ承諾ヲ求メルト云フコトモナサラズ、其儘ニシ
テ置イテ、サウシテ後デ御解釋ヲスルニ付テ事態ニ應ジテ之ヲ出スト云フコ
トガアレバ、是ハ如何ニスルノデアリマセウカ、此點ニ付テノ御見解ヲ併セ
テ伺ッテ置キタイト考ヘマス
〔政府委員松本烝治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=31
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032・松本烝治
○政府委員(松本烝治君) 唯今ノ御質問ハ甚ダ御尤ナコトデゴザイマシテ、
政府モ此勅令ノ提出ニ付テハ、十分ニ考慮シ、愼重ニ調査ヲシタノデゴザイ
マス、デ此勅令第一條第二項ニハ唯〓御述べニナリマシタ通リ、一災災ノ影響
ニ因リ必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ前項ノ規定ハ大正十二年十月一
日以後ニ支拂ヲ爲スヘキ私法上ノ金錢債務ニ付之ヲ適用スルト書キマシテ、
尙ホ此規定ノ第三條ニハ之ヲ準用シテ居ル次第デアリマス、政府ノ見ル所ニ
依リマスト又此立法當時ノ考ニ於キマシテハ、此規定タルヤ、前ノ猶豫ガ
出來テ居リマスル期間內ニ、更ニ之ヲ引續イテ延バシテ行ク必要ガアルト云
フコトハ、勅令ヲ以テ延バシ得ルト云フコトヲ書イタ意味ニ外ナラヌ、サウ
解シテ居リマス、卽チ假令震災ノ影響ガアルト云フコトガアリマシテモ例
ヘバ來年ニデモナリマシテ、更ニ勅令ヲ出シテ此非常ナル時機ニ發セラレタ
支拂停止ト云フコトヲ行フト云フコトヲ許ス趣意デ立法サレタモノデハ勿論
ナイ、是等細カイコトニ付キマシテハ唯今十分ナル記憶ハシテ居リマセヌ
ガ、色〓之ニ類似シタ先例モアリマスル、斯ウ云フヤウナ場合ニ於キマシテ
ハ前ノモノヲ引續イテ延バシテ行クト云フ觀念、既ニ此勅令ニ依テ行ヒマ
シタコトハ此手形ノ方ノ第三條ノ方ニ付テハ一囘勅令ヲ以テ之ヲ延期、
延バシタノデアリマス、其結果十一月末日マデ、確カ此勅令ガ働イテ居ッタ
譯デアリマス、併ナガラ十一月末日ヲ以テ終リマシタ、旣ニ此間一ツノ越ユ
ルコトノ出來ナイ所ノ境ガ出來マシタ、今後、緊急勅令ヲ以テ適用スルコ
トハ出來ナイ、卽チ此緊急勅令ノ効力ハ既ニ消滅シタモノデアルト云フヤウ
ニ政府ハ考ヘテ居リマス、併ナガラ其疑問タルヤ頗ル御尤ナコトデアリマシ
テ、之ニ付キ十分ナル考慮研究ヲ遂ゲマシテ、尙ホ細カイコトニ付テハ委員
會等ニ於テ申上ゲルコトモ出來ルダラウト云フコトヲ此處デ更ニ申上ゲテ置
キマス、而シテ若シ他ノ政府ガ誤ッテ此勅令ヲ用ヰマシテ、後ニ至ッテ第一
條第二項或ハ第三條ノ準用條文ニ依リマシテ、別ニ勅令ヲ出スト云フヤウナ
コトガアッタナラバ、ドウダト云フ御話ガゴザイマスガ、凡ソ將來ニ効力ヲ
持續スベキ緊急勅令ハ必ズ次ノ議會ニ之ヲ提出スベキモノデアリマスカラ、
左樣ナ御疑ハ如何ナル場合ニ於テモ先ヅ出來ナイコトト思ヒマス、萬一出來
マシテモ、次ノ議會ニ於テ承諾ヲ得テ居ッタ所ノ緊急勅令ニアラザルモノニ
基イタト云フコトニナリマスレバ、斯ノ如キ勅令ノ効力ハ無イコトハ、至つ
テ明白ナコトデアラウカト考ヘマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=32
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033・花井卓藏
○花井卓藏君 唯今出席イタシマシテ既ニ質問應答モゴザイマシタノデアリ
マセウ、其經過ヲ存ジマセヌカラシテ、或ハ重複イタスカモ知レマセヌガ、
一二點、政府ノ御意見ヲ質シタイト思ヒマス、第一ニ緊急勅令ヲ發シテ之ヲ
議會ニ提出セズ、其緊急勅令ヲ廢止スル、緊急勅令ヲ發シテ之ヲ議會ニ提出
セズ、是ハ憲法ノ條規トシテ如何ナル根據ガ憲法條規ノ上ニ於テ存スルカ、
憲法第何條ノ命ズル所ナリヤト云フコトヲ伺ヒタイ、第二ニ一旦廢止シタル
緊急勅令ハ之ヲ帝國議會ニ提出スルヲ要セズ、斯ノ如キノ規定ガ憲法ニアリ
マセヌ、是ハ如何ナル理論上ノ根據ガアルノデアリマスカ、之ヲ伺ヒタイ、第
三ニ唯今ノ御答辯ノ中ニモアッタヤウデアリマスガ、緊急勅令ハ將來ニ効力ヲ
持續スルノ必要アルニ於テハ、之ヲ提出ス、其然ラザル場合ニハ提出スルヲ要
セヌト云フ解釋ヲ執ラレテ居ルガ如ク承ハリマシタ、或ハ承ハリ違ヒデアル
カモ存ジマセヌガ、斯ノ如キ規定モ亦憲法ニハ無イノデアリマス、將來ニ効
力ヲ持續スルノ要アリト否トニ拘ラズ、一旦發シタル緊急勅令ハ次ノ議會ニ
提出セザルベカラザルノ責任ヲ憲法ハ政府ニ課シテ居ルノデアル、言フマデ
モナク、緊急勅令ハ卽チ一種ノ非常命令デアル、帝國議會ガ當然有スル所ノ
立法權ヲ國家ガ一時變例的ニ執ルダケノコトデアリマシテ、而カモ其條件ト
シテハ、次ノ議會ニ出シテ承諾ヲ求メネバナラヌト云フコトヲ命ジテ居ル譯
デアルノデアル、全體、憲法第八條ノ規定ハ、是ハ一種ノ大臣問責ノ規定デ
アッテ、帝國議會ノ有スル權能ヲ政府ガ假リニ行ヒタルコトノ當否ヲ審査シ
テ、其責任ノ解除ヲ求ムルト云フノガ本旨デアル、純然タル大臣問責ノ規定、
内閣問責ノ規定、是ハ伊藤公ノ憲法義解ニハ明瞭ニ書イテアルノミナラズ、文
字ハ一々能ク記憶ハ致シテ居リマセヌガ、緊急勅令ヲ議會ニ提出セザル場合
ニ於テ政府ハ當然ニ憲法違反ノ責任ヲ荷ハナケレバラナヌト云フ强イ文字ガ
使ハレテ居ルヤウニ覺エテ居ル、將來ニ効力ヲ持續スルノ必要ガナケラネバ
緊急勅令ハ提出シナイノデ、責任ノ解除ヲ立法府ニ求ムルト云フ趣旨ハ全然
ナイノデアル、斯ウ云フ解釋ヲ御執リニナッタノデアルカ、之ヲ承ハリタイ、
附加ヘテ申シテ置キマスガ、緊急勅令ニ關スル政府ノ責任觀念ト云フモノハ、
歷代ノ時ノ內閣ニ於キマシテ沿革的ニ頗ル推移ノ傾向ヲ有ッテ居ル、變遷ノ
傾向ヲ有ッテ居ル、併ナガラ據ルベキ根據ハ理論的ニハナイ、此理論ト云フ
文字ハ所謂理論ト云ウテモ强イ憲法的理論ノ上ニハ無イノデアル、故ニ從來
執ラレタル先例ガアル、其先例ガ卽チ憲法的理論ニ根據ヲ有ッテ居ナイノ
デアッテ、先例ニ據ルト云フコトハ辯解ノ意味ニナラナイ、先例アリト云フ
答辯ヲ得ムガ爲ニ本員ハ問フノデアリマセヌ、先例ニ拘ラズ大臣問責ノ規定
ト云フコトニハ解釋セラレナイト云フ趣旨デアリマスカ、若シ然リトセバ、
國家ハ變例的立法行爲ト云フ名ノ下ニ、時ニ從ヒ場合ニ應ジテ何事デモ立法
シ得ラルルコトニナルノデアル、而シテ議會開クルノ前ニ當ッテ廢止スレバ
宜シイ、責任ハナイ、ソコデ常ニ變例立法行爲ヲ執ル、常ニ必要ナキモノト
シテ廢止スルノデアル、而シテ議會ニ提出セザルモ可ナリト云フコトナラバ、
立憲政治ノ精神ハ何レノ所ニ在ルカ、私ハ多年此問題ニ付テ疑ヲ有シテ居
ル、屢〓衆議院ニ於テ論爭シタコトデアリマスガ、未ダ曾テ明快ナル御答ヲ
得タコトガナイ、寧ロ此答ヲ避クルノ傾向ノアッタコトハ今ノ政府モ御存ジ
ノ通リデアラウト思フ、極メテ簡單ナル問題トシテ取敢ヘズ此三項ノ事項ニ
付テ政府ノ責任アル御答ヲ煩ハシタイノデアリマス、松本君ノ御答モ得タイ
ノデアリマスケレドモ、幸ニ閣臣モ見エテ居ル時デアリマスシ、極メテ重大ナ
ルコトデ、國家ノ執リタル變例立法ニ對スル後藤內相、平沼法相ノ御答ヲ得
タイト思フノデアリマス
〔國務大臣子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=33
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034・後藤新平
○國務大臣(子爵後藤新平君) 唯今、花井君カラ御質問ノコトハ、法理ニ關
係シ、其點ハ松本法制局長官カラ縷々述べラレタト思ヒマス、尙ホ其足ラザ
ル所ニ付テハ、松本長官カラ述ベラレル方ガ理路明晰デ宜シカラウト考ヘル
ノデアリマス、司法大臣モ出席サレテ居リマスカラ、司法大臣カラ述ベラレル
コトニ對シテハ、私玆ニ別ニ言明イタシマセヌガ、私ガ述フルヨリハ其點
ニ付テハ明瞭ナル御滿足ナル答ヲ得ラレルデアラウト存ジマスカラ、其事ヲ
一言シテ置キマス
〔政府委員松本烝治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=34
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035・松本烝治
○政府委員(松本烝治君) 唯今、花井君カラ三ツノ御質問ガアッタヤウニ思
ヒマス、緊急勅令ノ不提出ハ、憲法ノ何條ニ依ルモノデアルカ、次ニ廢止シ
タ所ノ勅令ヲ提出スルヲ要セズト云フノハ是亦憲法何條ニ依ルノカ、又第三
ニ、將來保續ノ必要ナキ勅令ヲ提出シナイト云フノハ、憲法何條ニ依ッテ認
メラレルカト云フ御問デアリマシタガ、實ハ此御問ニ對スル答ハ、花井君御
出席ノ前ニシタノデゴザイマス、重ネテ議場ヲ煩ハシテ、幾囘モ討論ヲ致ス
ベキモノデモナカラウカト思ヒマス、別ノ機會ニ御讓リヲ願ヒタイト思ヒマ
ス、而シテ附ケ加ヘマシテ、此緊急勅令提出ニ關スル規定ハ、大臣問責ノ規
定デアル、責任ノ解除ノ必要ガナイト云フヤウナ見地カラ不提出ニ爲スノカ
ト云フ御問ヒデアッタヤウニ思ヒマスガ、我〓ノ觀ズル所、政府ノ認メテ居
リマスル所ニ依リマスレバ、責任、政府ガ責任ヲ負フト云フコトハ、提出、
不提出ト何等關係ハナイコトデアリマス、政府ハ百般ノ政務ニ付テ常ニ責任
ヲ負フテ居ルノデアリマス、而シテ此責任ヲ問フノ手段ハ議會ニ存シテ居ル、
敢テ提出ノ機會ヲ待タナイモノデアルト云フコトヲ、實ハ先程述ベタノデア
リマス、政府ハ左樣ニ考ヘテ此緊急勅令ヲ提出シナイト云フコトニ決定シタ
ノデゴザイマス、更ニ速記錄等ニ依テ御讀ミヲ顯ヒタイ、花井君ノ此反對ノ
御議論ノアルコトハ具サニ承知シテ居ルノデアリマス、或ハ討論、或ハ議會
ニ於テ、常ニ其御說ノ御主張ニナッテ居ルコトハ承知シテ居リ、又其御說ガ
大ニ理由ノアルコトモ承知シテ居リマス、併ナガラ政府ノ執ッテ居リマス見
解ニモ又强イ理由ガアリマシテ、憲法行ハレテ以來三十年ニ亙ッテノ一貫シ
テ行ハレタ所ノ先例ヲ飜スダケノ、反對論ニハ强イ論據ハナイト云フコトヲ
認メタガ故ニ、從來ノ先例ニ依ッタモノデアルト云フコトヲ先刻述ベタノデ
アリマス、左樣御諒承ヲ願ヒタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=35
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036・花井卓藏
○花井卓藏君 誠ニ前ノ質問應答ヲ承ハラナカッタコトハ遺憾デアリマスガ、
私ノ主トシテ承ハリタイ點ニ付テノ御答ハ不完全ナガラ最後ノ點······是ハ得
タノデアリマスガ、尙ホ其點ニ付テ重ネテ伺ヒタイノデアリマスガ、御答ハ
御答ニナッタヤウデアリマスガ、結論ガ結局曖昧ニ葬リ去ラレテ居ルヤウニ考
ヘラレル、本員ノ尋ネル所ハ憲法第八條ノ規定ハ、責任解除ヲ議會ニ求メルノ
趣旨デアルカナイカ、此意味ノ中ニ大臣問責ノ規定ト解スルト云フ事柄ノ當
否ハ自ラアルノデアル、ソコデ本員ノ疑フ所ハ、若シ答辯者ノ說ノ如クンバ、
先程ノ質問ノ際ニモ申シテ置キマシタ通リ、歷代ノ內閣、ソレハ暫ク措イテ、
今ノ内閣ハ先例ヲ重ンズルト云フ趣旨ニ於テ、國家ガ國家自身ノ考ヘ、換言
スレバ政府自身ノ勝手、之ニ依ッテ法律ニ代ハルベキ命令ヲナス、國家ノ利
害、國民ノ得失ヲ考ヘルノデハナク、政府ノ自由勝手ニスル、併シ之ヲ議會
ニ出シタナラバ必ズ承諾ヲ與ヘヌデアラウ、之ヲ豫測シ、玆ニ於テ議會開
會ノ前ニ之ヲ廢シテ、先例アリノ故ヲ以テ、憲法ニ條規ナシト雖モ先例アル
ガ故ニ提出ノ要ハナイ、斯ノ如キコトヲ防グノ途ハ今ノ內閣ハ努メラルベ
キ筈ノモノデハナイカ、凡ソ綱紀肅正ト云フ文字ノ廣イ中ニ憲法上ノ理義ヲ
正シウスルト云フ、是ヨリ重イ意味ノモノハアルマイト私ハ考ヘテ居ルノデ
アル、政府ハ常ニ善キ事ノミヲスルモノデアル、政府ハ決シテ彈効ヲ受クベ
キモノデナイト云フコトハ、憲法ノ中ニ無イ、玆ニ於テ政府ノ有スル權限、
議會ノ有スル權限、自ラ憲法ハ之ヲ定メテ居ルノデアル、伊藤公ハ憲法義解
ニ於テ、緊急勅令ノ審査ヲスルト云フコトハ議會ノ有スル當然ノ監督權デ
アルト云フヤウナ强イ言葉ヲ用ヰラレテ居ル、極メテ簡單ナル先例遵守ト云
フ一語ヲ以テ、政府ニモ强イ根據ガアルト言ハレルコトノ理由ガ曖昧ダト思
フ、尙ホ以前ノ如キ答辯ヲ固執セラルルカ、之ヲ重ネテ伺ツテ置キタイノデ
アリマス、私ハ相當ノ機會ニ於テ、相當ノ論爭ヲ政府ト致シテ見タイトモ考
ヘテ居リマスケレドモ、取敢ヘズ此最後ノ點ニ付テ、所謂强イ理由ト云フノ
ハドノ程度デアルカ、ドレ程ノ分量ノ强サデアルカヲ確メテ、豫メ承知イタ
シテ置キタイノデアリマス
〔政府委員松本烝治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=36
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037・松本烝治
○政府委員(松本烝治君) 唯〓花井君ノ御質問ハ大分御議論デアリマスル
ガ、政府ハ自由勝手ニ不都合極マル緊急勅令ヲ發シマシテ、而シテ議會前ニ
之ヲ廢止スル、サウナリマスレバ、其責任ヲ問フコトガ出來ナイデハナイカ
ト云フ御話デゴザイマシタガ、是ハ先程申上ゲタ通リ花井君ノ御出席前ニ、他
ニ議會ガ責任ヲ問フ手段ハ有ルト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、花井君
ハ唯今政府ハ單ニ先例ノミニ依ッテ何等理論上ノ根據ナク、先例ノミニ依ッテ
此事ヲ主張スルノデアルト云フヤウニ御認メニナリマシタヤウデアリマスル
ガ、サウデハナイノデアリマス、政府ハ憲法第八條第二項ノ規定ガ斯ノ如キ
趣旨デアルト解スルノデアリマス、其事モ詳細既ニ述ベタノデゴザイマスル
カラ、唯〓再說スル必要ハ無イカト思ヒマスル、決シテ先例ノミニ依ルト云フ
ノデハナイ、先例ニ理由アリ、之ヲ飜スニ足ルダケノ强イ理由ガ······反對理
由ガ無イト云フノデ、先例ニ依ルト云フコトヲ言フノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=37
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038・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第二ニ移リタク存ジマス、日程第二、右
議案ノ審査ヲ付託スベキ特別委員ノ選擧発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=38
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039・淺田徳則
○淺田德則君 本會期ヲ通ジマシテ、特別ナル場合ヲ除キマシテ、特別委員
ノ選擧ハ總テ議長ニ一任イタシタイト存ジマス、又本案ハ特ニ十五名ノ委員
ヲ議長ニ於テ指名サレムコトノ動議ヲ提出イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=39
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040・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 賛成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=40
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041・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 淺田德則君ノ本會期ヲ通ジテ特別委員ノ選擧ヲ議
長ニ一任スト云フコトデゴザイマス、又日程第一ノ非常徵發令承諾ヲ求ムル
件ノ委員ノ數ヲ十五名ニスルト云フ動議デゴザイマス、是ハ二箇ノ動議デゴ
ザイマスカラ、二度採決イタシマス、今會期ヲ通ジテ特別委員ノ指名ヲ特別
ノ場合ヲ除クノ外ハ議長ニ一任スルト云フ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=41
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042・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ハ日程第一ノ承諾ヲ求ムル件ノ特別委員ノ數ヲ
十五名トナス動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=43
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044・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、直チニ特別委員ノ氏名ヲ
書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
非常徵發令(承諾ヲ求ムル件)特別委員
伯爵寺島誠一郞君服部-三君子爵野村益三君
松室致君大久保利武君犬塚勝太郞君
男爵名和長憲君若林賚藏君男爵福原俊丸君
男爵佐竹義準君男爵小畑大太郞君谷森眞男君
藤田四郞君石渡敏一君横山章君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=44
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045・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、大正十二年勅令第四百九號承諾ヲ求ム
ル件、會議
大正十二年勅令第四百九號
右帝國憲法第八條第二項ニ依リ承諾ヲ求ムル爲
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十二年十二月十一日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
內務大臣子爵後藤新平
文部大臣岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郞
遞信大臣犬養毅
司法大臣平沼騏一郞
鐵道大臣山之內一次
大藏大臣井上準之助
外務大臣男爵伊集院彥吉
朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ樞密顧問ノ諸詢ヲ經テ帝國憲法第八條第一項
ニ依リ東京府神奈川縣等ニ於ケル現任府縣會議員ノ任期等ニ關スル件ヲ裁
可シ之ヲ公布セシム
御名御重
攝政名
大正十二年九月十二日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
兼外務大臣臣
內務子爵後藤新平
大大臣岡野敬次郞
文部
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郞
遞信大臣犬養毅
司法大平沼騏一郞
臣臣
鐵道大山之内一次
大藏大臣井上準之助
勅令第四百九號
東京府、神奈川縣、埼玉縣、千葉縣及靜岡縣ニ於ケル現任府縣會議員ハ其
ノ任期滿了スルモ後任議員選擧ノ期日ノ前日迄在任ス
前項ニ規定スル府縣ニ於テハ前項ニ規定スル選擧ノ期日迄府縣會議員ノ補
闕選擧ハ之ヲ行ハス
第一項後任議員選擧ノ期日ハ內務大臣之ヲ定ム
第一項ニ規定スル府縣ニ於テハ大正十二年ニ調製スヘキ府縣會議員ノ選擧
人名簿ニ關スル府縣制第九條乃至第十二條ニ規定スル期日及期限ハ內務大
臣ノ定ムル所ニ依ル
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣子爵後藤新平君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=45
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046・後藤新平
○國務大臣(子爵後藤新平君) 唯〓提出ニナッテ居リマス大正十二年勅令第
四百九號ニ對シテ提出ノ理由ヲ申上ゲマス、府縣制ノ定ムル所ニ依リマスル
ト、九月十五日ノ現在ニ依テ正確ナル選擧人名簿ヲ調製スルコトニナッテ居
リマス、然ルニ此度ノ震災ニ依リマシテ東京府、神奈川縣、埼玉縣、千葉縣、
靜岡縣ハ此府縣會ノ選擧ヲ行フ······府縣制ノ定ムル所ニ依テ人名簿ヲ調製ス
ルコトガ不可能ノコトニナリマシタ、是ハ辯ヲ俟タヌコトデアリマスガ、而
カモ强ヒテ之ヲ實行スルガ如キハ却テ公共ノ安全ヲ保持スルコト、又其災厄
ヲ避ケシムル所以ノ道ニアラズト認メマシタガ爲ニ、憲法第八條第一項ニ依
リマシテ本勅令ガ公布セラレタノデアリマス、而シテ本勅令ハ將來尙ホ効力
ヲ有セシムル必要ガアリマス、依テ帝國憲法第八條第二項ノ命ズル所ニ從ヒ
マシテ、帝國議會ノ承諾ヲ求ムル爲ニ、玆ニ提出イタシタ譯デアリマス、御
審議ノ上、協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=46
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047・淺田徳則
○淺田德則君 此委員ハ十五名ニ致シタイト存ジマス、各員ノ御贊成ヲ······発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=47
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048・八條隆正
○子爵八條隆正君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=48
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049・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三ノ特別委員ノ數ヲ十五名トスルト云フ淺
田德則君ノ動議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ」〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=49
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050・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
大正十二年勅令第四百九號(承諾ヲ求ムル件)特別委員
伯爵副島道正君子爵榎本武憲君子爵板倉勝憲君
富谷 は太郞君渡邊廉吉君男爵千秋季隆君
男爵今園國貞君男爵伊藤文吉君木內重四郞君
阪本釤之助君西久保弘道君湯地幸平君
村野常右衞門君山田斂君勝田銀次郞君
A発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=50
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051・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第五、大正十二年勅令第四百三號承諾ヲ求ム
ル件、會議
大正十二年勅令第四百三號
右帝國憲法第八條第二項ニ依リ承諾ヲ求ムル爲
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十二年十二月十一日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
內務大臣子爵後藤新平
文部大臣岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郞
遞信大臣犬養毅
司法大臣平沼騏一郞
鐵道大臣山之內一次
大藏大臣井上準之助
外務大臣男爵伊集院彥吉
朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ帝國憲法第八條第一項
ニ依リ治安保持ノ爲ニスル罰則ニ關スル件ヲ裁可シ之ヲ公布セシム
御名御重
攝政名
大正十二年九月七日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
兼外務大臣
內務大臣子爵後藤新平
文部大臣岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郞
遞信大臣犬養毅
司法大臣平沼騏一郞
鐵道大臣山之內一次
大藏大臣井上準之助
勅令第四百三號
出版、通信其ノ他何等ノ方法ヲ以テスルヲ問ハス暴行、騷擾其ノ他生命、
身體若ハ財產ニ危害ヲ及ホスヘキ犯罪ヲ煽動シ、安寧秩序ヲ紊亂スルノ目
的ヲ以テ治安ヲ害スル事項ヲ流布シ又ハ人心ヲ惑亂スルノ目的ヲ以テ流言
浮說ヲ爲シタル者ハ十年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ三千圓以下ノ罰金ニ處ス
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣平沼騏一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=51
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052・平沼騏一郎
○國務大臣(平沼騏一郞君) 唯今問題ト相成リマシタ治安維持ノ爲ニスル罰
則ニ關スル緊急勅令ニ付キマシテ理由ヲ申述べマス、此緊急勅令ハ今囘ノ未
曾有ノ變災ノ爲ニ一部人心甚シク不安ニ陷リマシタ際ニ當リマシテ、或ハ之
ニ乘ジマシテ、國家社會ノ安寧秩序ヲ紊亂シ、人心ヲ惑亂スルガ如キ行爲ヲ
敢テスルノ虞ガアリマシタタメ之ヲ防遏イタシマス爲ニ發布セラレタノデア
リマス、政府ハ此緊急勅令ガ此際ニ當リマシテ、治安維持上ニ相當ノ効果ノ
アリマシタコトヲ認メテ居リマス、而シテ今日ハ震災直後ニ比較イタシマス
ど、社會ノ狀態ハ餘程平靜ニ赴イテ居リマスナレドモ災火ノ跡ハ未ダ復奮
イタシマセヌ、而カモ餘震尙ホ熄ミマセヌ爲ニ人心未ダ全ク常態ニ復シテ居
ルト云フ次第デハゴザイマセヌ、尙ホ今後ニ於キマシテモ此勅令ノ必要ハ依
然トシテ繼續イタシテ居ル次第ト考ヘマスカラ、憲法第八條第二項ニ依リマ
シテ本案ヲ提出イタシマシタ、何卒、此勅令ニ對シマシテハ承諾ヲ與ヘラレ
ムコトヲ切望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=52
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053・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此特別委員ハ日程第三ノ承諾ヲ求ムル件ノ特別委
員ニ付託イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=53
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054・江木翼
○江木翼君 既ニ特別委員ヲ御指名ニナリマシタガ、簡單ナ質問ヲ致シタイ
ト思ヒマスガ如何デセウカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵德川家逹君) 唯今司法大臣ノ說明セラレマシタ承諾ヲ求ムルノ
件ニ···発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=55
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056・江木翼
○江木翼君 ソレニ付キマシテ···発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=56
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057・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=57
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058・江木翼
○江木翼君 今囘非常權ト致シマシテ、緊急勅令並ニ緊急財政處分ヲ御施行
ニナリマシタ、是ハ勅令ノ明文ニ於テモ亦其內容カラ察シマシテモ大體ニ於
テ此大震災ニ關係ノアルモノデアルト云フコトヲ示シテ居ルノデゴザイマ
ス、例ヘバ非常徵發令ニハ明カニ九月一日ノ地震ニ基ク被害者ノ救濟ニ必要
ナル所ノ非常徵發ヲヤル、或ハ名簿ノ編製ト云フガ如キモ此際ニ限ッタモノ
デアル、或ハ物資供給ニ致シマシテモ此際ニ限ッタモノデアルシ、總テ勅令
ノ明文上若クハ其意味カラ致シマシテ、明カニ大正十二年九月一日ノ震災後
ニ基ク場合ノミニ限ッテ居ルト云フコトヲ明記イタシテ居ルノデゴザイマス、
所ガ獨リ此四百三號ニ限ヲテ明文ノ上ニモ將又意味合ノ上ニモ左樣ナコトガ
揭ゲテナイノデゴザイマス、唯今、司法大臣ノ述べラレタ所ヲ見マスト、明
カニ震災ニ限ルンデアル、此震災ニ關スル影響ガ終熄イタシタ場合ニ於テハ
此勅令ハ固ヨリ必要ナイノデアル、斯ウ云フ意味ニ述ベラレタノデアリマス
ガ、果シテ左樣ナ御意味合デゴザイマセウカ、多少私ハ懸念ヲ持ツノデゴザ
イマス、昨年デゴザイマシタカ、一昨年デゴザイマシタカ、本院ニ於テモ非
常ナル論議ヲ重ネマシタ所ノ例ノ過激思想取締法案、遂ニ不議了ニ終リマシ
タ所ノ議案ノ條項ノ一部ト云フモノガ本案ノ中ニ這入ッテ居ルト思フノデゴ
ザイマス、マサカ政府ニ於テ此場合ニ災厄ヲ藉リテ宿昔ノ希望ヲバ遂ゲヤウ
ト云フ意味ニ於テ此勅令ヲ御發布ニナッタモノデハアルマイト思ヒマスガ、
多少懸念ガゴザイマシテ、唯今、司法大臣ノ御述べニナリマシタ如ク此際ニ
限ルノデアル、是ハ總テノ狀態ガ平靜ニ復シタ場合ニ於テハ之ガ廢止ノ法律
案ヲ出ス、斯ウ云フ御趣意デアルコトト承ハリマスガ、果シテ左樣デゴザイ
マセウカ、此點ヲ念ノ爲ニ承ハッテ置キタイノデアリマス
〔國務大臣平沼騏一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=58
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059・平沼騏一郎
○國務大臣(平沼騏一郞君) 唯今ノ江木君ノ御質問ニ對シテ御答イタシマ
ス、固ヨリ此緊急勅令ヲ發布イタシマシタ際ハ御承知ノ通リノ狀態ノ場合デ
ゴザイマス、此狀態ガ此緊急勅令ヲ發布スルノ必要ヲ生ジマシタコトハ申ス
マデモナイノデアリマス、此內容ノ緊急勅令ハ固ヨリ此震災ニ依リマシタル
所ノ狀態ノ持續スル間、此必要ヲ認メルノデゴザイマス、併ナガラ先刻江木
君ヨリ御引例ニナリマシタ法律、斯ノ如キ內容ノ法制ヲ必要トスルヤ否ヤト
云フコトハ全ク是トハ問題ハ別デゴザイマスル、決シテ政府ハ震災ニ乘ジマ
シテ斯ノ如キ內容ヲ有スル所ノ法制ヲ定メタ、斯ウ云フ次第デハゴザイマセ
ヌ此緊急勅令ハ全ク震災ニ依リマシテ其必要ヲ認メテ公布シタモノデゴザ
イマス
へ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=59
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060・徳川家達
○議長(德川家達君) 議事日程第七、大正十二年勅令第四百七十一號承諾ヲ
求ムル件、會議
大正十二年勅令第四百七十一號
右帝國憲法第八條第二項ニ依リ承諾ヲ求ムル爲
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十二年十二月十一日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
內務大臣子爵後藤新平
文部大臣岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郎
遞信大臣犬養毅
司法大平沼騏一郞
臣臣
鐡道大山之內一次
大藏大臣井上準之助
外務大臣男爵伊集院彥吉
朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ帝國憲法第八條第一項
ニ依リ震災ニ因リ株主名簿ヲ喪失シタル會社ノ株主總會等ニ關スル件ヲ裁
可シテ之ヲ公布セシム
御名御重
攝政名
大正十二年十二月三十一日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
內務大臣子爵後藤新平
文部大臣岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郞
遞信大臣犬養毅
司法大臣平沼騏一郞
鐵道大臣山之內一次
大藏大臣井上準之助
外務大臣男爵伊集院彥吉
勅令第四百七十一號
大正十二年九月ノ震災ニ因リ株主名簿ヲ喪失シタル會社ニ名義人ヲ確知ス
ルコト能ハサル記名株式アルトキハ會社ハ其旨ヲ公〓スヘシ此ノ場合ニ於
テハ其ノ株式ハ商法中株主總會及優先株主ノ總會ニ關スル規定ノ適用ニ付
之ヲ無記名式ノモノト看做ス
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣平沼騏一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=60
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061・平沼騏一郎
○國務大臣(平沼騏一郞君) 此勅令ハ震災ニ依リマシテ株主名簿ヲ喪失イタ
シマシタル所ノ會社ノ株主總會等ニ關スル件デゴザイマス、御承知ノ如ク株
式會社、株式合資會社ニアリマシテハ商法上每年一定ノ時期ニ於テ株主總會
ヲ招集イタシマスル必要ガゴザイマス、而カモ十一月十二月頃ハ下半期ノ決
算期ト致シマシテ多數ノ會社ガ株主總會ヲ招集イタシマスル時期デゴザイマ
ス、然ルニ今次ノ震災ニ依リマシテ株主名簿ヲ喪失イタシマシタル所ノ會社
ハ其數頗ル多イノデゴザイマス、是等ノ會社ハ株主名簿ヲ喪失イタシマシタ
爲ニ記名株式ノ名義人ヲ確知スルコトガ出來ナイモノガ多多アリマスル、從
テ株主總會ヲ招集イタサウト致シマシテモ記名株主ニ對シマシテ商法ノ規定
ニ依リマシテ總會招集ノ通知ヲ發スルコトガ出來ナイノデアリマス、右ノ次
第デゴザイマスカラシテ、本令ニ於キマシテ株主名簿ノ喪失イタシマシタル
多數ノ會社ノ爲ニ特例ヲ設ケマシテ、是等ノ會社ヲシテ名義人ヲ確知スルコ
トノ出來マセヌ記名株式ノアリマスル場合ニハ其旨ヲ公〓セシメマシテ、其
株式ハ總テ總會ニ關スル所ノ商法ノ規定ノ適用ニ付キマシテハ之ヲ無記名式
ノモノト見做シマシテ、該株主ニ對シマシテハ各別ニ總會招集ノ通知ヲ爲ス
コトヲ要シマセヌ公〓ノ手續ヲ以テ足ルモノト致シマシテ、適法ニ總會ノ招
集ヲ爲スコトノ出來マスル便法ヲ設ケマシタノデゴザイマス、此勅令ハ將來
ニ於キマシテモ尙ホ其効力ヲ存續スル必要ガゴザイマス、依ッテ玆ニ憲法第八
條第二項ニ依リマシテ承諾ヲ求メル次第デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔瀬古書記官朗讀〕
大正十二年勅令第四百七十一號(承諾ヲ求ムル件)特別委員
伯爵松浦厚君子爵伊東二郞丸君河村善益君
土方寧君男爵長松篤棐君男爵岩倉道倶君
男爵矢吹省三君菅原通敬君鈴木摠兵衞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第九、大正十二年勅令第四百七十五號承諾ヲ
求ムル件、會議
大正十二年勅令第四百七十五號
右帝國憲法第八條第二項ニ依リ承諾ヲ求ムル爲
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十二年十二月十一日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
內務大臣子爵後藤新平
文部大部岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郞
遞信大臣犬養毅
司法大臣平沼騏一郞
鐵道大臣山之内一次
大藏大臣井上準之助
外務大臣男爵伊集院彥吉
朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ帝國憲法第八條第一項
ニ依リ法人ニ對スル破產宣告ニ關スル件ヲ裁可シテ之ヲ公布セシム
御名御璽
攝政名
大正十二年十一月十日
內閣總理大臣伯爵山本權兵衞
內務大臣子爵後藤新平
文部大臣岡野敬次郞
海軍大臣財部彪
陸軍大臣男爵田中義一
農商務大臣男爵田健治郞
遞信大臣犬養毅
司平沼騏一郞
道法大大
鐵臣臣臣山之內一大
大藏大井上準之助
外務大臣男爵伊集院彥吉
勅令第四百七十五號
大正十二年九月一日以後ニ於テ法人ノ財產ヲ以テ其ノ債務ヲ完濟スルコト
能ハサルニ至リタル法人ニ對シテハ大正十四年八月三十一日ニ至ル迄ノ間
破產ノ宣告ヲ爲スコトヲ得ス但シ其ノ法人カ支拂ヲ爲スコト能ハサル場合
ハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ法人ノ理事又ハ之ニ準スヘキ者ハ前項ノ期間其ノ法人ニ對シ破產ノ
申立ヲ爲スコトヲ要セス
前二項ノ規定ハ〓算中ノ法人及大正十二年九月ノ震災ノ影響ニ因ラスシテ
債務ヲ完濟スルコト能ハサルニ至リタルコト明ナル法人ニ付テハ之ヲ適用
セス
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣平沼騏一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=63
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064・平沼騏一郎
○國務大臣(平沼騏一郞君) 此勅令ハ法人ニ對スル破產宣告ニ關スル件デゴ
ザイマス、今囘ノ震災ニ依リマシテ經濟界ニ一大變動ヲ來シマシテ有價證劵
其他ノ財產ノ價格ハ著シク減少ヲ致シタル爲ニ會社其他ノ法人ニ致シテ自己
ノ財產ヲ以テ其債務ヲ完濟スルコトノ出來ナイ狀態、卽チ債務超過ノ狀態ニ
陷リマシタモノガ少クゴザイマセヌ、而シテ民法、商法、破產法其他ノ法令
ノ規定ニ從ヒマスレバ、法人ハ債務超過ニ陷リマシタ時ハ破產ノ宣告ヲ受ク
ベキ譯デアリマス、又理事取締役其他之ニ準ジマスルモノハ自ラ進ンデ斯ル
場合ニハ破產ノ申立ヲ致ス所ノ義務ヲ持ッテ居ルノデゴザイマス、此義務ニ
違背イタシマシテ申立ヲ致シマセヌ時ニハ罰則ノ適用ヲ受ケナケレバナラ
ヌノデゴザイマス、右ノ次第デゴザイマスルカラシテ、現在法ノ規定ニ依リ
マスレバ、多數ノ法人ハ震災ニ因リマシテ俄ニ破產ノ危機ニ瀕シマシタモノ
ト言ハナケレバナリマセヌ、若シ法規ヲ嚴格ニ適用イタシマシタナラバ、破
產者ハ續出イタシマシテ忽チ財界ノ混亂ヲ激成スベキ所ノ狀態ヲ呈シタノデ
ゴザイマス、然ルニ這般ノ債務超過ハ震災ノ影響ニ起因イタシマスル所ノ一
時的ノ現象ニ屬スルモノガ多イノデアリマス、若シ之ニ假スニ相當ノ日月ヲ
以テ致シマシタナラバ、多クハ自ラ恢復ノ見込ガアルモノト認メルコトガ出
來ルノデアリマス、斯ノ如キ次第デゴザイマスルカラシテ、是等ノ法人ニ對
シマシテ一定ノ期間、破產ヲ停止スルノ特例ヲ設ケマスルコトガ經濟界ノ不
安ヲ防止スル爲ニ誠ニ緊要ノコトデアルト信ジマスル、是ガ卽チ此緊急勅令
ヲ發布セラレマシタル所ノ理由デゴザイマス、而シテ此緊急勅令ハ尙ホ將來
其効力ヲ存續スル必要ガゴザイマスル、依ッテ帝國憲法第八條第二項ニ依リマ
シテ承諾ヲ求メマスル次第デゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=64
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065・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ハ日程第七ノ承諾ヲ求ムル件ノ特別委員ニ付
託イタシマス、本日ハ御異議ナケレバ都合ニ依リマシテ議事ハ是デ止メタイ
ト存ジマス、玆ニ御諮リヲ申上ゲタイコトガゴザリマス、本會期モ御承知ノ通
リ短期日デゴザイマスカラ、特別委員ノ諸君ハ成ルベク速ニ正副委員長ノ互
選ヲ行ハレ、付託セラレマシタ案件ノ審査ヲ進行セラレムコトヲ希望イタシ
やく、明十五日ハ午前十時ニ開會イタシマス、議事日程ハ本院ノ彙報ヲ以テ
御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後三時一分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004703242X00319231214&spkNum=65
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