1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十二年十二月二十二日(土曜日)午後一時十九分開議
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議事日程 第七號 大正十二年十二月二十二日
午後一時開議
第一 大正十二年勅令第四百十二號(承諾を求むる件)(權利利益の存續期間の件)(貴族院送付)
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 大正十二年勅令第四百七十一號(承諾を求むる件)(株主名簿を喪失せる會社の件)(貴族院送付) (委員長報告)
第四 大正十二年勅令第四百七十五號(承諾を求むる件)(法人の破産宣告に關する件)(貴族院送付) (委員長報告)
第五 露國政變及事變に關する被害者救濟竝對露貿易企業促進に關する建議案(川崎克君外九名提出)
第六 現役を終りたる在郷軍人に選擧權附與に關する建議案(津野田是重君外五名提出)
第七 國政の大改造に關する建議案(荒川五郎君提出)
第八 輸入税免除廢止に關する建議案(小橋藻三衞君外一名提出)
第九 震災豫防調査機關設置に關する建議案(星島二郎君提出)
第十 燒失遊廓再興不許可に關する建議案(松山常次郎君外二名提出)
第十一 農務省新設に關する建議案(天春文衞君外九名提出)
第十二 農村振興に關する建議案(大津淳一郎君外十一名提出)
第十三 震災地方復興に關する建議案(吉植庄一郎君外二十四名提出)
第十四 震災地方復興に關する建議案(小泉又次郎君外十三名提出)
第十五 決議案(廢止緊急勅令提出の件)(原夫次郎君提出)
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001・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔原田書記官朗讀〕
一去二十日貴族院ヨリ受領シタル政府提出案左ノ
如シ
大正十二年勅令第四百十二號(承諾ヲ求ムル件)
(權利利益ノ存續期間ノ件)
-議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
震災地方復興ニ關スル建議案
提出者吉植庄一郞君濱口吉兵衞君
中山佐市君本多貞次郞君
竹澤太一君西川嘉門君
鵜澤總明君鈴木隆君
飯島信明君穴水要七君
三枝彥太郞君指田義雄君
長谷川宗治君秦豐助君
山崎猛君龍野周一郞君
若尾幾造君大濱忠三郞君
森恪君小鹽八郞右衞門君
松浦五兵衞君小泉策太郞君
宮崎友太郞君池田猪三次君
北井波治目君
震災地方復興ニ關スル建議案
提出者小泉又次郞君出口直吉君
小野重行君田川平三郞君
加藤定吉君鈴木富士彌君
井上到着石井〓二君
關現地點鵜澤宇八君
神谷彌平君野呂文太郞君
高田良平君齋藤小十郞君
(以上十二月二十日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ如シ
復興費財源及國債ノ負擔ニ關スル質問主意書
提出者多木久米次郞君
(以上十二月二十日提出)
支那政府特派調査委員ノ資格及待遇ニ關スル質
問主意書
提出者永井柳太郞君
(以上十二月二十一日提出)
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲茲ニ
揭載ス〕
一去二十日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
大正十二年勅令第四百三號(承諾ヲ求ムル件)
(治安維持ノ爲ニスル罰則ノ件)委員
理事原夫次郞君
委員長鵜澤總明君橫山勝太郞君
去二十日大正十二年勅令第四百二十四號(承諾
ヲ求ムル件)(手形割引損失補償ノ件)委員成田
榮信君辭任ニ付其ノ補闕トシテ大道寺慶男君ヲ
保險會社ニ對スル貸付金ニ關スル法律案外一件
委員武內作平君辭任ニ付其ノ補闕トシテ作間耕
逸君ヲ大正十二年勅令第四百三號(承諾ヲ求ム
ル件)(治安維持ノ爲ニスル罰則ノ件)委員望月
小太郞君辭任ニ付其ノ補闕トシテ鈴木富士彌君
ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ
一昨二十一日大正十二年勅令第四百三號(承諾ヲ
求ムル件)(治安維持ノ爲ニスル罰則ノ件)委員
川村數郞君辭任ニ付其ノ補闕トシテ木村作次郞
君ヲ議長ニ於テ選定セリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=1
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002・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、日
程第一大正十二年勅令第四百十二號(承諾ヲ求ム
(作)ヲ議題ト致シマス-竹內政府委員
第大正十二年勅令第四百十二號(承
諾ヲ求ムル件)(權利利益ノ存續期
間ノ件)(貴族院送付)
大正十二年勅令第四百十二號
朕玆ニ緊急ノ必要アリト認メ樞密顧問ノ諮詢ヲ
經テ帝國憲法第八條第一項ニ依リ震災地ノ行政
廳ノ權限ニ屬スル處分ニ基ク權利利益ノ存續期
間等ニ關スル件ヲ裁可シ之ヲ公布セシム
御名御璽
攝政名
大正十二年九月十二日
內閣總理大臣兼伯爵山本權兵衞
務臣
務臣子爵後藤新平
岡野敬次郞
軍軍部財部彪
男爵田中義
大鐵司遞農陸海文內外務大大大大大大大大大大男爵田健治郞
臣臣臣臣臣臣臣臣犬養毅
藏道法信商平沼騏一郞
山之內一次
井上準之助
勅令第四百十二號
震災地ノ行政廳ノ權限ニ屬スル處分(大正十二
年九月一日以前ニ爲シタルモノ)ニ基ク權利利
益ノ存續期間ニシテ大正十二年九月一日ヨリ大
正十三年三月三十日迄ノ間ニ滿了スヘキモノハ
之ヲ大正十三年三月三十一日ニ滿了スルモノト
看做ス但シ本令ノ施行前又ハ施行後法令ニ依リ
其ノ權利利益ノ消滅スヘキ旨ノ指令其ノ更新ヲ
許ササル旨ノ指令其ノ他其ノ存續期間ノ滿了ニ
關スル特別ノ指令アリタル場合ハ此ノ限ニ在ラ
ス
前項ノ規定ニ依リ延長セラレタル期間ハ行政處
分ニ依リ之ヲ短縮スルコトヲ得
震災ノ爲大正十二年九月一日ヨリ同年十月三十
日迄ノ間ニ行政廳ニ對シテ爲スヘキ出願、請求
其ノ他ノ手續ヲ懈怠シタル場合ニ於テ大正十二
年十月三十一日迄ニ其ノ手續アリタルトキハ當
該行政廳ハ其ノ懈怠ノ結果ヲ免レシムルコトヲ
得
震災ノ影響ニ因リ必要アルトキハ勅令ノ定ムル
所ニ依リ前項ノ期限ハ之ヲ延期スルコトヲ得
第一項ノ震災地ノ行政廳及權利利益竝前四項ノ
規定ノ施行ニ必要ナル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定
ム
附則
本令ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員竹內友次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=2
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003・竹内友治郎
○政府委員(竹內友次郞君) 只今議題ニ上ツテ居
リマスル本年九月十二日ニ公布致シマシタル本
年勅令第四百十二號ノ權利利益ノ保存ニ關スル件
ニ付キマシテ、憲法ノ條章ニ依ツテ議院ノ承諾ヲ
求メマスル次第デゴザリマスルガ、其趣旨ノ大要
ヲ玆ニ申上ゲマス、御承知ノ如ク九月一日ノ地震、
之ニ亞グ大火災ニ因リマシテ、東京ニ於ケル行政
廳ノ書類ノ大部分ヲ不幸ニシテ燒失致シマシタ、
又權利利益ヲ有スル當事者ノ持ツテ居ル書類ガ燒
失シタコト尠カラズト認メラルヽノデゴザリマ
ス、是ガ爲ニ九月一日以前ニ行政廳ノ處分ニ依リ
マシテ、之ニ基イテ生ジタル權利利益ガ此九月
一日以後ニ於テ其存續期間ガ到來スルモノガ尠カ
ラズアルト認メラルヽノデゴザリマスルガ、是ガ
書類ガゴザリマセヌガ爲ニ、適法ナル手續ヲ以テ
之ヲ繼續シ、若クハ其他ノ存續手續ヲ進行スルコ
トガ、役所ト致シマシテモ當事者ト致シマシテ
モ、事實上出來ナイト云フ不幸ノ場合ニ到著致シ
タノデゴザリマス、ソレデ斯ノ如キ種類ノモノ
ニ對シテ、〓括的ニ一定ノ期間ノ間ハ其期間ガ
到來シナイモノト認メル卽チ大正十三年ノ三月
三十日迄ハ期間ガ存續スルモノト認メルト云フコ
トノ規定ヲ致ス必要ガアルノデ、玆ニ法律事項ト
相成リマスル結果ヲ生ズル所カラ、政府ハ必要ナ
リト認メテ、憲法ノ定ムル所ニ依ツテ緊急勅令ヲ
公布致シマシタ次第デゴザリマス、詳細ノコト、
卽チ如何ナル權利ガ、如何ナル利益ガ、如何ナル法
律ニ基イテ行政處分ニ依ツテ發生スルカ、又ソレ
ハ如何ナル行政廳ニ關係スルカ、ト云フ詳細ノ事
項ニ亙リマシテハ何レ委員會ニ御付託ノ際、詳
細申上ゲル考デゴザリマス此次第デゴザリマス
ルノデ、政府ハ將來ニ亙リマシテ尙ホ此本令ノ存
續ヲ必要トスルモノト考ヘテ居ル次第デゴザリマ
ス、何卒愼重御審議ノ上、速ニ承諾ヲ御與ヘ下サ
ランコトヲ望ミマス次第デゴザリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=3
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004・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第二、右議案ノ審査ヲ
付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第二右議案ノ審查ヲ付託スヘキ委員ノ
選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=4
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005・高見之通
○高見之通君 本案ハ大正十二年勅令第四百九號、
承諾ヲ求ムル件、卽チ府縣會議員任期ノ件ノ委員
ニ併セ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=5
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006・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ御異議ア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=6
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007・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマス、仍
テ動議ノ如ク決シマス、日程第三、大正十二年勅令
四百七十一號、承諾ヲ求ムル件、日程第四、大正
十二年勅令四百七十五號、承諾ヲ求ムル件、右兩
案ヲ一括シテ議題ト致シマス、委員長ノ報告ヲ求
メマス、委員長指田義雄君
第三大正十二年勅令第四百主一號(承諾
ヲ求ムル件)(株主名簿ヲ喪失セル
會社ノ件)(貴族院送付)
(委員長報告)
報告書
一大正十二年勅令第四百七十一號(承諾ヲ求ム
ル件)(貴族院送付)
右ハ本院ニ於テ承諾ヲ與フヘキモノト議決致候
此段及報告候也
大正十二年十二月二十日
大正十二年勅令第四百七十一號
(承諾ヲ求ムル件)委員長
指田義雄
衆議院議長粕谷義三殿
第四大正十二年勅令第四百七十五號
(承諾ヲ求ムル件)(法人ノ破產宣
告ニ關スル件)(貴族院送付)
(委員長報告)
報告書
一大正十二年勅令第四百七十五號(承諾ヲ求ム
ル件)(貴族院送付)
右ハ本院ニ於テ承諾ヲ與フヘキモノト議決致候
此段及報告候也
大正十二年十二月二十日
大正十二年勅令第四百七
十五號(承諾ヲ求ムル件)
委員長指田義雄
衆議院議長柏谷義三殿
〔指田義雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=7
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008・指田義雄
○指田義雄君 兩案ノ御報告ヲ致シマス、大正十二
年勅令第四百七十一號ハ記名式ノ株式、株主名簿燒失
等ノ場合ニ於キマシテ總會ニ關スル便宜規定デ
アリマス要スルニ記名式ノ場合ニ於テモ無記
名式ト同樣ニ公告其他ノ或ル方法ヲ以テ、總會ニ
關スル手續ヲ適法ニ運ブコトガ出來ルト云フ結果
ニナルノデアリマシテ、委員會ニ於キマシテハ異
議ナク承諾ヲ與フルコトニ決定致シタノデアリマ
ス次ノ勅令第四百七十五號承諾ヲ求ムル件、是ハ結果
ト致シマシテハ委員會ハ承諾ヲ與フルコトニ決定
シタノデゴザイマスルガ、茲ニ本議場ニ特ニ御報
告ヲ申上ゲテ置カネバナラヌコトガアルノデアリ
マス本令ハ御承知ノ如ク法人ニ對スル破產ノ手
續ヲ債務超過ノ場合ニ於キマシテハ大正十四年八
月三十一日迄其原因ガ震災ノ影響ニ因ル場合ニ於
キマシテハ破產宣告ヲ爲スコトヲ得ズト云フコ
トヲ根本ノ目的ト致シマシタ法令デアルノデアリ
マス、之ヲ結果カラ見マスルト、勅令ニ依ツテ法
律ニ定メラレタ所ノ破產宣告ト云フモノヲ爲スコ
トヲ得ザルコトニ變ヘルノデアリマス言換ヘレ
バ法律ノ效力ヲ、勅令ヲ以テ或ル期間阻止スルト
云フコトニナルノデアリマス、由來此緊急勅令ガ
總テノ行政上ノ處分ニ亙リマス場合ハ、是迄モ其
先例ガアルノデアリマスガ、法律ノ效力ヲ勅令ニ
依ツテ或ル期間阻止スルト云フコトハ非常ニ憲
法上重大ナ意味ヲ持ツテ居ルノデアリマス斯ノ
如キ事ハ將來餘リ喜バシキ事例デナイト委員會ハ
認メマシテ、尙ホ此運用ノ上ニ付キマシテ、或ハ
震災ノ影響ニ因ツテ債務ヲ超過シタモノデアルカ
ドウカト云フ實際問題ニ付テモ大ニ訴訟ノ上ニ
種々ナル紛淆ヲ生ズル虞ガアルノデアリマス、此
勅令ガアルガ爲ニ却テ訴訟當事者ノ間ニ不必要ナ
ル爭テ生ズルヤウナコトガアルマイカト云フ懸念
ガゴサイマシテ、此點ニ付キマシテ詳細ニ亙ツテ、
委員會ハ司法當局ニ向ツテ質疑ヲ致シマシタノ
デゴザイマスルガ、司法當局ニ於キマシテハ
大體斯樣ナ立法ハ面白クナイト云フコトヲ能ク
諒解シテ居ル唯〓非常ノ場合デアツテ、應急
的ノ斯樣ナル處置ヲスル必要アリト認メタノデ
アルカラ、委員會ノ意ノ在ル所ヲ能ク諒解致シマ
シテ、此勅令ハ成ベク速ニ廢止スル意向ヲ持ツテ
居ル、斯樣ナ言明ヲ得タノデゴザイマスカラ、委
員會ハ滿場一致此言明ラ諒ト致シマシテ、本案ニ
承諾ヲ與ヘルコトニナツタノデゴザイマス本會
ニ於キマシテモ、其意味ニ於キマシテ、兩案トモ
御承認ヲ與ヘラレンコトヲ希望スルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=8
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009・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 右兩案ニ對シテ討論ノ通
告ハアリマセヌ、仍テ直ニ採決ヲ致シマス右兩
案トモ、委員長報告ノ通リ、承諾ヲ與フルニ、御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=9
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010・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマス、仍
テ承諾ヲ與フルコトニ決シマシタ、日程第五、露
國政變及事變ニ關スル被害者救濟竝對露貿易企業
促進ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマス、〓水留三
郞君
第五露國政變及事變ニ關スル被害者救
濟竝對露貿易企業促進ニ關スル建
議案(川崎克君外九名提出)
露國政變及事變ニ關スル被害者救濟竝對露貿
易企業促進ニ關スル建議案
露國政變及事變ニ關スル被害者救濟竝對露
貿易企業促進ニ關スル建議
政府ハ露國政變及西比利亞事變竝撤兵ニ際シ直
接又ハ間接ニ損害ヲ被リタル帝國臣民ニ對シ其
ノ損害ヲ救濟スルト共ニ對露貿易企業ノ促進ニ
資スル爲速ニ適當ノ方法ヲ講セラレムコトヲ望
ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=10
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011・清水留三郎
○〓水留三郞君 簡單デアリマスカラ此席ヨリ御
許ヲ願ヒマス此建議案ハ第四十五議會、第四十
六議會ニ於キマシテ、滿場一致之ヲ可決シタノデ
アリマス然ルニ其後ニ於キマシテ、政府ハ何等
ノ處置計畫ヲシナイノデアリマスカラ·速ニ貿易
企業促進ノ途ヲ講ゼラレマシテ、日露救濟關係ノ
復活改善ニ資セラレンコトヲ建議スル次第デアリ
マス前會通リ御贊成ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=11
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012・高見之通
○高見之通君 本案ハ森恪君外三名提出、相模西
部復興ニ關スル建議案ノ委員ニ、併セ付託セラレ
ンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=12
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013・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ異議ナシ
ト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第
六、現役ヲ終リタル在〓軍人ニ選擧權附與ニ關ス
ル建議案ヲ議題ト致シマス、提出者津野田是重君
第六現役ヲ終リタル在〓軍人ニ選擧權
附與ニ關スル建議案(津野田是重
君外五名提出)
現役ヲ終リタル在〓軍人ニ選擧權附與ニ關ス
ル建議案
現役ヲ終リタル在〓軍人ニ選擧權附與ニ關
スル建議
選擧權ハ固ヨリ報酬的ノ性質ヲ有スルモノニ非
スト雖抑國家ヲ保護シ國權ヲ維持スヘキ責務ヲ
有シ而モ前後十七年四簡月間ノ長年月ニ亙リテ
此ノ任務ヲ服行スヘキ義務ヲ有スル者カ何故國
政ニ參與スヘキ資格ヲモ認メラレサルカ如キハ
不合理モ亦甚シト謂ハサルヘカラス況ヤ其ノ任
務ヲ遂行スル爲短キモ數月長キハ數年間特別ノ
〓育ヲ受クルニ於テオヤ故ニ政府ハ切ニ如上ノ
諸點ヲ考察シ速ニ合法的處置ヲ採ラレンコトヲ
望ム
右建議ス
〔津野田是重君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=13
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014・津野田是重
○津野田是重君 提案ノ理由ヲ單簡ニ申シマス、
本案ハ私共同僚多數ガ多年ニ亙リマシテ、切ニ要
求シテ居ル所ノ重大件デアリマスガ、固ヨリ權利
義務ノ觀念カラ出發シテ居ルノデアリマセヌ、御
承知ノ通リ現行徵兵制度ナルモノハ、必任義務法、
卽チ强制的ノ制度デアリマシテ、前後通ジテ十七
箇年四箇月ニ亙ル長年月ノ間、血稅ヲ負擔スルノ
デアリマス、此血稅ヲ負擔スルガ爲ニ、短キハ數
箇月、長キハ數年ニ亙ツテ特別ナル〓育ヲ受ケマ
ス、然ルニ此國家ヲ保護シ、國權ヲ維持スベキ軍
人ガ、何等政治ニ關與スルノ權利ガナイト云フコ
トハ、如何ニモ不合理ト考ヘマス、故ニ本案ヲ提
出シタ譯デアリマスガ、聞ク所ニ依リマスレバ、
近キ將來ニ於テ-來ルベキ通常議會ニ於テハ
選擧權ニ關スル問題ガ當局カラ御提議ニナルト云
フコトデアリマスカラ、斯ノ如キ短イ臨時議會ニ
於テ玆ニ提出シタノデアリマスカラ、何卒私共ノ
微衷ノ存スル所ヲ御酌量ニナリマシテ、滿場諸君
ノ御贊成ヲ與ヘラレンコトヲ希望シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=14
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015・高見之通
○高見之通君 本案ハ大正十二年勅令第四百九
號承諾ヲ求ムル件、卽チ府縣會議員任期ノ件外
一件ニ、併セ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成一賛成」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=15
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016・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニ御異議ナシ
ト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第
七、國政ノ大改造ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマ
ス、提出者荒川五郞君
第七國政ノ大改造ニ關スル建議案(先)
川五郞君提出)
國政ノ大改造ニ關スル建議案
國政ノ大改造ニ關スル建議
曠古未曾有ノ大災厄ニ遇ウテ有形ノ諸物ヲ燒キ
盡スト同時ニ總テ捉ハレタル舊慣故弊ヲ打破シ
去リテ諸般ノ制政ノ大改造ヲ爲シ又政費ノ根本
的節約ヲ圖ルハ刻下極メテ緊切ノコトニシテ殊
ニ左ノ諸項ノ如キハ最急速銳意ニ之カ調査改善
ヲ爲スノ要務タルヲ認ム
第租稅ヲ全廢シテ國費ヲ道府縣市町村ニ賦
課徵收シ以テ國民負擔ノ均衡ヲ圖ルト共ニ大
ニ事務ノ簡捷徵費ノ節約ヲ圖ルコト
第二國務省ラ分合シテ大藏、內務、外務、軍
務、交通、勸業ノ六省トシ國務ノ統一整理ヲ圖
ルコト
一司法文部兩省ヲ廢シ文部省及司法省務中
ノ一部卽チ刑務所、少年ニ關スルモノ等
ヲ內務省ニ合スルコト
二陸軍海軍兩省ヲ合シテ軍務省トシ航空事
業竝其ノ〓養機關等モ總テ之ニ統一スル
コト
三遞信鐵道兩省ヲ合シテ交通省ヲ置キ內務
道路ニ關スル事務ヲ分屬シ鐵道港灣道路
等ノ政務ヲ連絡統一スルコト
第三大審院ノ制ヲ改メ其ノ權限テ擴張シ裁判
獨立ノ完全ヲ圖ルコト
司法省務中ノ人事又法務等ニ關スルモノヲ大
審院ニ分屬スルコト
第四會計檢査院ノ權限ヲ擴張シ財政監督ノ實
ヲ擧クルコト
第五地方制度ヲ刷新シ自治ノ整理改善ヲ圖ル
コト
府縣ノ分合ヲ爲シ其ノ組織ヲ改メ其ノ權
限ヲ擴張スルコト
二町村ハ凡ソ人口五千ヲ標準トシテ之カ分
合ヲ行ヒ郵便登記ノ事務モ之ヲ役場内ニ
分置スルコト
第六學制ノ根本的改造ヲ爲シ學科ヲ整理減少
シ外國語ハ之ヲ希望者ニノミ課スルコト
第七特立ノ帝國大學院ヲ新設シ各國語ニ堪能
ナル學者大家ヲ收容ジ左ノ三事ヲ掌行スルコ
ト
一各國ノ著書ヲ悉ク讀ミ易キ國語ニ飜譯刊
行スルコト
二前項民間飜譯書ヲ檢定買收スルコト
三此ノ種專門學者ヲ養成スルコト
其ノ他議院制度ノ改善植民地政務ノ統一行政裁
判所組織ノ改正等孰レモ之カ必要ヲ認ムルモノ
尠カラス仍テ政府ハ之カ大調査會ヲ組織シ速ニ
其ノ改造實行ニ著手セムコトヲ望ム
右建議ス
〔荒川五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=16
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017・荒川五郎
○荒川五郞君 國政ノ大改造ニ關スル建議提案ノ
趣旨ヲ說明申シマス、天災ナキ國民ハ發達セズト
申ス言葉ガアリマス、我國ハ大風アリ、大雨アリ、
大海嘯アリ、更ニ大地震ガアリ又大火モ屢〓ア
リマシテ、世界ニ於ケル最モ天災ノ多キ國ノ一ツ
デアリマセウ、天災ハ果シテ國民ヲ發達セシムベ
キヤ否ヤ、徒ニ天災アルノミデハソレハ大ナル
國民ノ禍デアリマス、唯ソレ天災ニ遭ツテ失望
セズ落膽セズ、更ニ反撥心ヲ發揮シテ、天災ト
鬪ヒ發憤シ、苦勵シ、努力シ、邁進スル所ニ向上
アリ、發展アル所以デアリマセウ、此度ノ事、世間
ニハ之ヲ國難トスラ申ス人ガアル位デアリマス
私ハ之ヲ國難ト申スノニハ當ラナイト思ヒマス、
國家ノ大ヨリ言ヘバ一部分ノ事デアリマシテ、マ
ダマダ大ナル難題ハ之ァルベキヲ豫想シ得ラレル
ノデ、其場合ニ於テモ敢然トシテ勇往遭進シテ努
力シナクテハナラヌコトデアリマシテ、ソレグケ
ノ健剛不拔ノ國民精神ハ平素ニ於テシツカリ養成
シテ置カナクテハナラヌト思ヒマス、而シテ此度
ノ事國難ト云フニハ當リマセヌケレドモ、古來未
グ台ア無キ災厄デ、多クノ人命ト物資財產等ノ有
形ノ損害百有餘億下云フノモ、旣ニ少クハアリマ
セヌガ、其外政治ヤ文化、又ハ人心ノ上ニ與ヘタ
損害ハ實ニヨリ以上ニ多ク、更ニ當時周章狼狽
シ疑惧混亂シテ無辜ノ同胞ヲ殺害シ、友邦人
ヲ誤殺シタル等ノ國損ハヨリ以上甚大ト中サナ
ケレバナラヌ斯樣ナ國損氏害ノ大ナルダケソレ
ダケ吾々ハ一層ノ大勇猛心ヲ以テ之ガ回復振
興ニ努力シナケレバナラスコトハ申ス迄モアリ
マセヌ在朝ノ人モ、在野ノ人モ、全國民ヲ擧ゲ
テ共ニ明治維新ノ志土ガ一身ヲ捧ゲテ至誠奮闘
シタル〓劍味ニ倣ヒ、又弘安ノ役上下身ヲ以テ國
難ニ當ツク緊張心ヲ以テ、銳意其事ニ從ハナクテ
ハナリマセヌ、ソレニハ先ヅ第一ニ國政ノ根本的
改造ニ著手致シテ、以テ天下ノ人心ヲ一新スルコ
トハ、一代ノ國民ヲ指導シテ質實剛健ノ氣分ヲ養
ヒ國民精神ヲ作興スル效ガ尠クナイノミナラズ、
仍テ以テ國民ノ富ノ上ニ於ケル負擔、精神上ノ負
擔ヲ減ジ、人間實際ノ眞髓ニ觸レタル生活安定ヲ
第一義ト致シテ、ヨリ住ミ好キ、ヨリ幸福ナル社會
ヲ打開スルコトハ時機ノ最モ剴切ナル仕事ト申
サナケレバナリマセヌ、明治以來幾多ノ改革變造
ハ行ハレマシタケレドモ、眞骨頭ニ觸レタル根本
的ノ改善ハマダ見出シマセヌ、洋服ヲ著、靴ヲ穿
〓、外觀ハ時代的、世界的ニ變遷シテ來マシタケレ
ドモ、其頭腦精神ハ矢張專制的、封建的ノ舊思想ガ
コビリ付イテ、兎角多年馴致シ來レル舊弊陋習
ニ因ハレ、因循姑息ニ流レ、時ニ財政行政ノ整理ガ
行ハレルコトガアリマシテモ、根本ノ精神ニ觸レ
ズシテ、唯〓枝葉末節ノ小細工ニ止マリマスカラ、
恰モ甘キニ集マル蠅ヲ追フ如ク、拂ヘドモ拂ヘド
モ數年ナラズシテ又元ノ狀態ニ復ツテ來ル有樣
デアリマス、洵ニ滿室ノ蒼蠅拂ヘドモ去リ難キ感
ヲ繰返シテ居ルニ止マルノデアリマス仍テ此際
此大災厄ニ遭ウテ有形ノ諸物質ヲ燒盡スト同時ニ、
無形ノ精神上ノ腐敗墮落等モ、悉ク打破シ去リ、
又因ハレタル思想、因ハレタル舊慣、弊習、ソレ等
モ皆破却シ去ツテ、全ク新生更始ノ大意氣ヲ以テ
是ガ改造ニ從事シ、速ニ大々的ノ調查會ヲ起シタ
イト私ハ衷心ヨリ切望致シテ居ルノデアリマス
實ハ私ハ先年來他事ヲ抛ツテ是等ニ關シテ調查〓
究ニ從事致シマシタ、半生ノ心血ヲ此處ニ注イデ、
出來上ツタ上ハ著述ニモシテ、世ニ問ヒタイト思
ツテ居ツタノデアリマスガ、斯樣ナ改革ハ平常デ
ハ容易ニ行ハレマセヌ、今日ノ如キ時機ヲ選ブガ
最モ必要ト心得マシテ、此度此案ヲ提出致シマシ
タ次第デアリマス、以下各項ニ亙リ、簡單ニ其要
旨ヲ說明致シマス、第一、租稅ヲ全廢シテ國費ヲ
分賦法ト致スコト、全體此項ノミヲ說明致スニモ、
少クトモ大凡二時間位ハ必要デアリマス、ケレド
モ短期議會、殊ニ切迫ノ今日、總テノ執著ヲ取去
ツテ唯〓項目ノミヲ述べマス、租稅ノ弊トスル所
ヲ列擧スレバ凡ソ十アリマス、第一ハ煩雜ナル現
行ノ大小各種ノ稅法ハ國民ヲシテ其煩ニ堪ヘザ
ラシムルコト第二、諸稅法中ニハ徵稅手續ノ爲ニ
大ニ手數ヲ要シテ、唯〓徵稅スルガ爲メノ徵稅ト
ナツテ納稅者ヲ苦メルノミニテ、國費ノ上ニ利益
スル事ガ極メテ乏シイモノガアリマス第三、一方
ニハ重複スルモノガアリ、一方ニハ全ク免カルル
モノガアセ極メテ不公平、不均一デアルコト第
四.什器、骨董、其他贅澤品等ニ財力ヲ殺シテ、天下
ノ財產ヲ無收益化スル弊害アルコト第五、國民ヲ
シテ申告ヲ僞リ脫稅ヲ企テ不正、詐僞ノ民風ヲ誘
フ弊アルコト第第、免稅最下點ヲ設クルコトハ國
民ノ向上心進取ノ氣象ヲ妨グル嫌アルコト、國民
ハ一步一進上達センケレバナラヌモノヲ、進サス
レバ稅ガ掛カルカラト、進取ニ阻碍スルト云フヤ
カナコトハ國民ヲ率ユル政道ノ本旨デハナイト
思ヒマス第七正直ナ者ハ重稅ニ虐ゲラレ、不正
直ナ者ハ免レテ耻無キ有樣デアルト云フコト、第
八官吏ト納稅者ト利益ガ相反スルカラ、官吏ハ人
民ヲ不正ノ者トシテ之ニ臨ミ、人民ハ官吏ヲ仇敵
ノ如ク視テ、互ニ相反目敵視スル爲ニ一般施設ノ
圓滑ヲモ障害致スコト第九、國稅ト地方稅ト互ニ
相扞格齟齬致シテ、種々ノ弊害ヲ釀スコト第十、
地租ノ如キハ鐵道道路等ノ開クルニ從ヒ、經濟狀
態ノ變化ヲ生ジマスルカラ年々地價ヲ修正シテモ
尙ホ公平ヲ期スルコトガ出來マセヌ、以上斯樣ニ
租稅ハ國民ノ進取心ヲ殺ギ、不公平ニシテ、不正其
他ノ弊害ガアリマスカラ、之ヲ全廢致シテ、全國民
ノ負擔力、竝ニ各地方ノ經濟狀態ニ應ジテ、總國費
ノ中、官有財產ノ收入、官業收入等ヲ差引イタル殘
額ヲ、道府縣ニ割賦致シ、道府縣ハ此國費ニ又自己
ノ要費ヲ加ヘテ市町村ニ分賦致シ、市町村ハ又之
ニ自治ノ要費ヲ合セテ人民カラ徵收スル方法ニ改
メタイ、之ニ依ツテ國民負擔ノ均衡ヲ得ルト共ニ、
徵收費ヲ大ニ減ズルコト、竝ニ大ニ事務ノ簡捷ヲ
圖ルコトガ出來ルト思フ、サウシテ其國民ノ負擔
力ノ調査方法等ニ付テハ是ガ公明且ツ正確ヲ期
スル法令ヲ設ケルコトノ必要ナルハ勿論デアリマ
スケレドモ是等ノ意見ハ此場合省キマス第二、
國務省分合ノコト、今日ノ各省ノ分配ハ一省アル
ガ爲ニ事務ガアル、又一事務ニシテ兩省ニ分割セ
ラレタリ、或ハ二樣ニ支配セラレルヤウナ極メテ不
統一ノモノモアリマシテ、爲ニ事務ノ煩雜ヲ來シ、
目ツ人民ノ不便ヲ感ズルコトモ少クアリマセヌ
例バ靑年團其他社會〓育、社會〓體ノコトヲ一方
ニハ內務省デ指圖スルカト思ヘバ他方デハ文部
省デ支配致ヲシテ居ル、從テ一ツノコトヲ通達ス
ルニモ內務、文部劑大臣ノ連署ヲ以テセネバナラ
スポーツ無用ノ手數タルニ止ラズ、靑年團等ノ適從ス
ル所ヲ知ラズ、迷惑少クナイノデアリマス又少
年法ニ關スル仕事ノ如キモ、第一步ハ司法省デ扱
ヒ其中間ノ主ナル感化院ノコトハ內務省デ取扱
ヒ又第三步ハ戾ッテ司法省デ管轄スルト云フヤ
ウニ洵ニ不統一ノ至リデ、ソレガ爲ニ國費ヲ損
シ少年法ノ精神ナリ目的ヲ妨グルコトハドレ
ダケデアルカ分ラヌノデアリマス、殊ニ國運ノ進
步、民力ノ發展ヲ期スル第一ハ文部文〓ノ仕事デ
アリマス、國運進步ノ第一線ニ立ツベキ人ヲ造ル
其〓育學問ノ仕事ハ國務第一ノ大切ナル仕事デ
アリマスルノニ文部作食ノ爲ニ此最大ノ仕事ガ
常ニ最モ手遲レニナル有樣デアリマス、且ツ文部
ノ微力ナル、折角自ラ働イテ造リ上ゲタ仕事ヲモ
漸次ニ內務省ニ吸收セラルヽト云フヤウナ例ハ少
クナイノデアリマス、前年府縣ノ〓育ヲ視察シ統
一ヲスルガ爲ニ府縣ニ有力ナ文部ノ視學官ヲ置ク
ト云フコトガ實施セラレマシタガ、何時ノ間ニカ
是ガ文部カラ取去ラレテ、內務ノ官吏トナリ、當
初ノ精神ハ全ク失ハレテ居ル如キ是レ一例デアリ
マス、又〓員ノ優待ト〓育ノ改善ヲ期スルガ爲ニ、
〓員棒給ノ國庫負擔法ガ出來マシテ、四千万圓ヲ
國庫カラ支出スルコトニナリマシタガ、是モ多ク
ハ文部ノ費用カラ轉ジテ內務費ニナツテ居リマ
ス卽チ〓員ノ優待ニ支給スルヨリカ、市町村
費ノ緩和ニ用ヒラルヽニ至ツテ居ルデハアリマ
セヌカ、斯ウ云フ譯デアリマシテ無理解ナル
分省法トナシタガ爲ニ斯樣ナル不統一、又矛盾ヲ
來スノデアリマスカラ、文部ハ之ヲ內務ニ合シテ
ソレカラ又司法ハ一部ハ內務ニ合シ、一部ハ大審
院ニ附ケテ事務ノ整理簡捷ト、人民ノ便利トヲ圖
ルト同時ニ文〓ノ振興、一方ニ裁判ノ最正ヲ圖
リタイト云フノデアリマス玆ニ此分合問題ニ關
聯シテ直ニ一ノ問題ノアルノハ農務省設置ノ件
デアリマス私ノ考デハ大キナ力ヲ背景ニ廣イ場
所ニ立ツテ仕事ヲヤル方ガ有力デアル力カ分ル
レバ分レルダケ弱ウナル、農務省設置希望ノ御方
ハ農政ノ振興ヲ期スルガ爲ニ之ヲ獨立シタイト
云フノデアリマスケレドモ斯カル力ヲ分ツト云フ
コトハ却テ力ヲ弱ウスルコトニナル、農業ニ理
解アル人ヲ求メテ其長官トスレバ大ニ振興シ得ル
ト思ハレマセウガ、政府ノ仕事ハサウ誂ヘ通リニ
ハ行キマセヌ、旣ニ文部省ノ如キ、今日迄ノ經驗
デ明カデハアリマセヌカ、全國農業者ノ利益、農
業ノ振興ヲ圖ルガ爲ニハ有力ナル廣イ地盤ニ立
ツテ、强キ背景ニ據ル有力ナル人ヲ以テ仕事ヲセ
ナケレバナラヌト思フノデアリマス力ハ集ムシ
バ强ク、分クレバ弱イ、殊更ニ農務ヲ分ツテ弱キ
狹キ範圍ニ入レントスルコトハ是レ果シテ有利
ナルヤ否ヤ、諸君ノ希望ヲ裏切リハシナイカ、此
點ハ私モ農民黨ノ熱心ナル一人トシテ、切ニ農業
ノ振興ニ御熱心ナル諸君ノ一考ヲ求ムルノデアリ
甲人ソレカラ海陸兩省ガ分立シテ居リマスガ爲
ニ、諸種ノ不使國損ヲ致シタコトガ尠クナイノデ
アル想起ス旅順役ノ當時、海陸ガ不統一不連
絡ノ爲ニ何程ノ不利益ヲ來シマシタカ、是等ハ今
日一々類例ヲ擧ゲル必要ハアリマスマイ、殊ニ將
來國防ノ最モ犬切ナ地位ヲ占メルノハ航空事業デ
アリマスサナキダニ發達ガ遲々タル此事業ヲ、
兩者ニ力ヲ分ケテスルガ如キハ不利ノ甚シキノ
ミナラズ、其統一ヲ缺クガ爲ニ、國防緊切ノ目的
ヲ達スルコトガ出來ナイ虞ガアルト思ヒマス、將
來ノ國防ヲ一層經濟的ニ、一層有力ニ致ス爲ニハ
此兩省ヲ合一スルコトガ極メテ必要ト考ヘマス、
ソレカラ陸ニハ鐵道、海ニハ船舶、サウシテ全國
ノ道路、此三ツノ大交通機關ハ互ニ連絡統一シテ
其進步發達ヲ圖ラネバナラヌ譯デアリマスノニ
鐵道ハ鐵道省ニ管シ、船舶バ遞信省ニ屬シテ居リ、
更ニ道路ハ內務省ニ屬シテ居ルガ如キ、誠ニ其能
率ヲ缺キ、連絡ヲ缺キマスル上ニ損ヲ致シ、又不
利益ヲ見、發達ヲ害スルコトガ尠クナイト思ヒマ
ス又遞信省ノ第一ノ仕事ハ郵便デアルケレドモ、
其郵便ハ主トシテ鐵道ニ依ラナケレバナラヌノ
ニ鐵道ハ管轄ガ違フト云フ爲ニ、ドレダケノ手
數トドレダケノ不利益ヲ致シテ居ルコトデアリ
マセウ、是等ヲ一省ニ纏メテ、交通連絡ノ完全ヲ
期シテ、其利用ヲ大ニシテ、サウシテ國務ノ進捗
ヲ圖リタイト云フ爲ニ、之ヲ交通省トスル必要ガ
アルト思フノデアリマス、此鐵道ト道路、道路鐵
道ト港灣、港灣ト船舶、是ハ最モ關係ノアルモノ
デアリマシテ、是等ヲ互ニ連絡〓究スル必要ガア
ル近クハ東京灣築港ノ如キデアル、東京灣ニ築
港ラスレバ横濱ノ力ヲ殺グ許リデ無ク、本所、深
川ヲヨリ以上ニ侵害シ犠牲ニシナケレバナラヌ、
隨テ一般交通ニモ害ヲ及ボサナケレバナラヌ、又
今日荒川、江戶川ニ放水路ヲ設ケテ、非常ナ國費
ヲ多ク入レテ、サウシテ本所、深川ヲ助ケヤウ其
浸水ヲ防ガウトセラレマスガ、此大工事モ私カ
ラ見レバ更ニ效ハナイ、何故カト云ヘバ其放水路
ヲ外海ニ向ツテ開イタナラバ、其東京灣ニ漾フ水
ガ減リマセウケレドモ、本所、深川ハ土地低クシ
テ東京灣ト差ガ極メテ少イカラデアル、如何ニ放
水路ヲ造ツテモ、其水ガ同ジク東京灣ニ來ル以上
ハ本所、深川ハ浸水ノ脅威ヨリ免レルコトハ出
來ナイノデアル巨額ノ費用ヲ掛ケテ、マルデ無
效ノ仕事ヲスルノハ此大事ナ仕事ガ統一セラレ
テ居ラヌカラデアル、殊ニ東京灣ノ築港ガ出來レ
バ益〓其水ハ渟マリテ本所、深川ハ一層其浸水ノ
脅威ヲ受ケナケレバナラヌト云フコトガ明白デア
ルニ拘ラズ、斯樣ヲ事ガ常ニ政治社會ノ問題ニナ
ルト云フコトハ不思議千萬ト謂ハナケレバナラ
ヌ(拍手)尙ホ私ハ全國ノ港灣ニ亙ル關係等モ調ベ
テ居リマスケレドモ、ソレ等ハ此場合總テ割愛ヲ
致シマス第三ハ裁判ノ獨立完全ヲ期スルコト裁
判ノ獨立ハ憲法ノ保障スル所デアリマスガ、其裁
判官ノ任免黜陟ヲ行政國務官ニ於テ取扱フニ於テ
ハ間接ニ其獨立ヲ侵サルヽコトヲ免レナイノハ
人情デアリマス、裁判官ノ進退ヲ大審院長ノ權限
ニ屬セシメ、サウシテ其獨立ノ完全ヲ期スルト云
フコトハ外國ニモ例ノアルコトデアツテ、是ハ
我ガ政治社會ニモ議論ノ旣ニ現レテ居ルコトデア
リマスカラ、速ニ是ガ實行セラルヽヤウニト云フ
コトヲ希望シテ、此說明ハ省キマス第四、會計檢
查院ノ權限ヲ擴張スルコト、近年國民外交ノ言葉
ガ盛ニ行ハレマシテ、固ク鎖サレタ霧ヶ關ノ關門
モ、漸次國民ノ前ニ展開セラレツヽアルノハ時代
的進步デアリマスガ、私ハ外交ト共ニ等シク重要
ナ財政モ、同ジク國民ノ前ニ開放セラルヽニ至ツ
テ、國民外交以上ニ國民財政ガ行ハルヽヤウニ至
ランコトヲ切望致スノデアリマス、國費ハ國民ガ
負擔致スノデアリマスカラ、財政ノコトハ外交以
上ニ國民ニ直接シテ居ルモノデアリマス隨テ國
民ハ財政ノ實情ヲ知リ、以テ國民的財政監督ノ實
ラ擧グルニ至エココヲ理想ト致シテ、會計檢查院
ノ權限ヲ擴張シテ、其財政監督ノ實ヲ以テ改善ヲ
加ヘタイト思フノデアリマス、國ノ最モ大ナル仕
事デ、最モ關係スル所ガ多イノハ申ス迄モナク財
政デアリマス、隨テ財政ノ監督査定ヲ嚴密ニ致シ
テ、不當ノ支出ヲ禁ジ放漫ナル經濟ニ陷ラシメナ
イヤウニスルノハ、極メテ必要ノ事デアリマス、是
レ議會ガ事前ニ於テ豫算ノ審議ヲ致シ、事後ニ決
算ノ審査ヲ爲ス所以テアリマス然ルニ今日ノ現
狀ハ豫算ノ査定モ殆ド實際ハ有名無實デアリマ
ス殊ニ決算ノ如キハ多ク重キヲ置カナイ感ガア
ルノハ實ニ遺憾ノ事デアリマス、我ガ財政ノ放漫
ニ陷ルノ罪ハ議會ガ確ニ其半ヲ負ハナケレバナ
ラヌコトヽ私ハ思ヒマス、今是ガ改善ヲ圖ル細目
ハ茲ニ省キマシテ、大綱ノミヲ申シマス第一豫算
ハ勿論政府ガ作リ決算ハ會計檢查院ガ主トシテ
其編成ニ任ズルコト、是私ガ檢査院ヲ改造シ財政
監督ノ實ヲ擧ゲントスル中ノ大ナル主眼ト致ス所
デアリマスケレドモ、此場合其理由ノ說明ハ省キ
さ 、ソレカラ第二ガ會計檢査院ノ檢査ハ、從來
主トシテ形式上合法ナルヤ否ヤト云フコトヲ調べ
ルノデアルソレデハ私ハ實際ノ效ハ無イト思フ、
實質的ノ檢査ヲ致シテ、豫算ノ目的ニ適合スルヤ
否ヤ、經濟的ニ使用セラレ居ルヤ否ヤヲ進ンデ調
查スルト云フヤウナ方法ヲ求メンケレバナラヌト
思フ、隨テ些細ナル形式上ノ誤リ、僅カナ規則上
ノ間違ナドハ是ハ成ベク寬容致シテ、主トシテ
實際的ニ力ヲ用ユルヤウニ致シタイ、是ガ第二、
ソレカラ第三ハ之ヲ國民ノ前ニ解放スル必要ガア
リマスカラ、豫算決算ハ、少クトモ各府縣ニ一册
位パ廻付シテ置イテ、何人デモ希望者ハ自由ニ見
ラルヽヤウニ致シ、又豫メ希望ヲ申出ル者ガアレ
官報ト同ジヤウニ誰ニモ頒ツ方法ヲ設ケラレ
タイ.ソレカラ第四ニ此會計檢査院ノ檢査報告
書ハ、之ヲ必ズ官報ニ發表シテ廣ク國民ニ頒ツ
サウスレバ國民ハ自分ガ關係シタ事ヤ、或ハ見聞
シタ事ニ付テ、ソレガ如何ニ取扱ハレテ居ルカト
云フコトヲ知ルコトガ出來マシテ、國民財政ノ實
ヲ擧グルニ近イト考ヘルノデアリマス、私ハ前々
議會ニ於テ大正八年ノ決算ヲ審査致シマシタ、不
當違法、殆ド三百件ノ多キニ及ビ金額ニ於テ
モ何千万圓ニ及ブノヲ見テ、洵ニ一驚ヲ喫シタノ
テアリマス當時少數意見ヲ報告ヲ致シテ之ヲ
議會ニ說明ヲ致シマシタガ、其中ニハ違法ノ濫費
モアリマスガ、合法ノ濫費モアル、又脫稅ニシテ
モ、合法ノ脫稅モアル遂法ノ脫稅ノ外ニ合法
ノ脫稅モ段々アル斯ノ如キ右樣デハ會計監督ノ
實ハ擧ラヌト思ヒマスル隨テ不公平ナル徵稅ガ
行ハレ、又國費ノ濫費ニ陷ル是等ノコトニ付キ
マシテハ會計檢查ノ活用ニ俟タンケレバナラヌ
事ガ多イノデアリ一スカラ、唯ミ形式ニ偏シテ、
法文ニ拘泥スルヤウナ價値ナキ徒勞ヲ避ケテ、活
キタ國政ヲ爲ス人ノ肚デスル働キテ認メテ、-
方ニ自由ノ範圍ヲ與フルト共ニ最モ賢明ニ、最
モ經濟的ニ、此豫算ガ行ハレルヤウニ、國務ノ進
捗ヲ圖ルコトガ大切ト思ブノデアリマスソレカ
ラ第五、地方財政ノ檢査、監督ヲ爲ス途ヲ開キタ
イ東京府ノ如キ常ニ疑獄ガ絕エナイト云フノ
ハ此會計檢查ノ法が無イカラデアリマス、市民
ハ困難ノ中ニ多額ノ負擔ヲ爲シテ、サウシテソレ
ハ悉ク疑惑ノ裡ニ葬リ去ラレテ居ル狀態デアルノ
デアリマス、ソレドコロデハアリマセヌ、近クハ
此度ノ變災ニ於ケル救護品ノ分配等ニ付テスラ、
人ノ不幸ニ乘ジテ此同情ノ惠ミヲサヘ不正ノコト
ヲ爲スヤウナ事ガアリマシタノハ會計檢查法ガ
及バナイ爲ニ因ル事ガ多イト思フノデアリマス
ソレカラ又其外赤十字、愛國婦人會、其他ノ公共
團體、社會團體ニモ此會計檢查ヲ爲ス權能ヲ附與
シタイ、是ガ會計檢查院ノ擴張改造ノ要旨デアリ
マス第五ガ、地方制度改善ノ事デアリマス交
通機關ノ發達致シマシタ今日ニ、府縣ノ制度ハ
極メテ不便デアツタ、其從來同樣ノ儘ニ置クノ
ハ洵ニ謂レノナイ事デ、アリマシテ、一方ニハ
新文化ノ施設ヲ要スル事ガ多キニ伴ヒ、一ケニ
ハ之ニ對シテ事ヲ簡約ニシテ、改善スルト云フ
コトヲ圖ランケレバナラヌノデアリマス、然ル
ニ凡ソ人ハ現狀ノ内ニ居ル者ハ現在ニ捉ハレ勝
デアリマスカラ、須ラク著眼ヲ大ニシテ、六一
改造ヲ企テタイト思ヒマス又今日ノ町村ハ山
河自然ノ形勢ヨリモ、多クハ因襲ノ馴致ヨリ來
ルモノガ多イヤウデアリマスカラ、此際土地ノ
形勢カラ全國ニ及ンデ是ガ分合ヲ行ヒ、是ガ整理
ヲ爲スコトハ極メテ必要ト考ヘマス、今日此議會
ニ請顆ノ最モ多ク現レルノハ鐵道ノ敷設、郵便
局ノ設置、登記所ノ設置、是等デアリマス、是等
ハ有ルト無イトハ人民ノ便不便ハ非常ナ違ヒデア
リマシテ、地方ニ依ルト郵便局ニ往復スルニ一日
ヲ要シ、電信ヲ打ツニハ尙ホヨリ以上ノ時間ヲ要
スルト云フヤウナ有樣デアリマスカラ、人民ガ之
ヲ請願シ來ルノハ口當然デアリマス、ソコデ町
村ヲ分合シテ其範圍ヲ大キク致シテ、各町村內ニ
郵便ノ事、竝ニ登記ノ事務ヲ分置致シテ、人民ノ
便利ヲ圖ルハ時勢ニ伴フ必要ナ改造ト考ヘマス
尙ホ此項ニ於テ說クベキ事ハ自治權限ノ事、府
縣財政ノ事、ソレカラ知事公選論、參事會制度、
市郡ノ連帶、竝ニ關係ノ事、竝ニ市長ノ警察權、
是ハ一寸言葉ガ珍ラシイデセウガ、私ハソレニ意
見ガアルノデアリマス、是等ノ問題ガ澤山アリマ
スケレドモ、是モ此場合總テヲ省キマス、第六ガ
學制ヲ根本的ニ改造致ス事、凡ソ先ヅ世人ノ頭カ
ラ學校ガ〓育ノ全部デアルト云フ觀念ヲ取去ツ
テ、少時ヨリ實世間ニ接觸シテ、活キタ實學ニ精
神ヲ涵養スル組織ヲ採ツテ、小國民ノ普通〓育カ
ラ、今日ノ所謂、徵兵ヲ終ル迄ヲ之ヲ普通〓育〓
養ノ期間ド致シマシテ、其間ニ實業ニ從事シタリ
或ハ職工徒弟トナル者等ノ者モ皆之ヲ指導〓養
ノ範圍ニ入レテ、凡ソ人ハ必ズ相當ノ業務職業ニ
從事スベキモノデアル、遊〓、徒食ノ卑シムベキ
大生ノ罪惡デアルト云フ觀念ヲ養成致シマシテ、
實業的實際的ニ子弟ヲ仕立テ、又徵兵制度ヲ根本
的ニ改メテ、之ヲ靑年〓育ノ普通〓程ニ入レテ、
サウシテ其間ニ人トシテ立ツ精神ヨリ進ンデ社
會連帶ノ責任感ヲ自覺セシメ、以テ國民精神ノ根
抵ヲ各自能力上ノ實業ニ結合セシムル方法ヲ執
ルコトガ最モ必要ト考ヘマス、今日ノ小學ハ中學
ノ階梯デハナイ、中學ハ大學ノ階梯デハナイ、然
ルニ其學科ト實際トハ皆階梯豫備ノ如クナツテ
居リマスノハ是レ全ク改造ヲ要スル一ツノ理由
デアリマス、凡ソ〓育ハ知ル人ヲ造ルニアラズシ
テ行フ人ヲ造ルノデアル、然ルニ今日ノ有樣ハ
學校ガ〓育ノ全部デアルト云フヤウナ觀ガア
ツテ、隨テ知ル人ハ出來マスケレドモ、行フ
人ガ乏シイノデアル、此度ノ大災ニシテモ實
ニ全ク此大缺陷ヲ明々地ニ暴露致シテ居ルノデ
ハアリマセヌカ、例ヘバ金屬「カリューム」ヤ
「ナトリューム」或ハ燐ノ如キモノハ空氣ニ觸
レヽバ火ヲ發スルト云フコトハ、理科ノ初歩ヲ學
ンダ者ガ皆知ツテ居ル、唯ミソレヲ知ツテ居ルノ
ミデアリマスカラ、ソレガ空氣ニ觸レヽバ火ヲ發
スルト云フコトヲ知レバ、ソレニ對シテ相當ノ用
意ガナクテハナラヌノニ、唯ミ知ツテ居ルノミデ
アリマスカラ、罎ガ倒レテ破レヽバ火ヲ發シソレ
ガ大事トナル、是シ明カナコトデハナイカ、然ル
ニ此僅カナ用意ガ準備サレズシテ、所々ニ大火ヲ
生ジタ、帝國大學醫科大學ノ火事ハドウデアル
カ、學習院ノ火事ハドウデアルカ、又早稻田大學
ノ理化學實驗室カラ起ツタ火事ハドウデアルカ、
此度ソ大火ノ發シタ百餘所ノ火事ノ中デ、四十何
簡所ト云フモノハ皆此藥品カラ起キタノデアリマ
ス、其藥品ハ空氣ニ觸レヽバ火ヲ發スルト云フコ
トハ理學ノ初步ヲ學ンダ者スラ知ツテ居ル、ソ
レヲ知ツテ居ルノミデ行フ觀念ガナイ、實ニ〓育
ガ實際ニ觸レズ根本的ニ價値ノ無イモノニナツテ
居ルカラ、斯ノ如キ大慘害ヲ來シタノデアリマ
ス其他花崗石ハ火ニ弱イト云フコトハ是モ鑛
物學ヲ習ツタ者ハ知ツテ居ル、又眞鍮ナドノ火ニ
弱イト云フコトモ知ツテ居ル然ルニ殊更ニ花崗
石ヲ積重ネタ上ニ金庫ヲ置ク、其金庫ハ眞鍮ノ金
具ヲ以テ造ツテアルマルデ學問ハ只表面ノ飾リ
デ、實用ニハ關係ナイ、爲ニ金庫ハ倒レ、中ノ物
ハ燒ケル何ノ爲ノ學問ゾ、今日ノ有樣カラ見レ
學問ヲ爲ス其値幾何ゾト言ハンケレバナラス
デハナイカ、斯ノ如キハ學問ノ根柢ニ旣ニ大ナル
誤解ヲ持ツテ居ルカラデアルカラ是等ノ上ニ十
分ノ改造ヲ致シタイト申ス一例デアリマスソレ
カラ學科ノ整理減少ハ、世人ノ旣ニ唱道シツヽア
ル所デアリマスカラ之ヲ省キマスガ、外國語ヲ廢
シテ之ヲ隨意科トスル一點ハ世間ニハ議論ガア
ラウト思ヒマス、今日世間多クノ學生ガ最モ頭ヲ
苦メルノハ外國語デアリマス、而モ之ヲ卒業シテ
モ更ニ専門ノ學ニ入ラナイ以上ハ、其學ハ殆ド實
用ヲ爲サナイノデアリマス、遂ニ積年ノ苦心モ全
ク水泡ニ歸シテ、忘レテ終ルノガ多イノデアリマ
ス、他ノ多クノ有用ノ科目ヲ犧牲ト致シテ、實際
ニ役立タナイ、外國語ニ彼等ヲ苦メルト云フコト
ハ是ハ賢明ナル方法デハナイト思ヒマス、今日必
要ナル漢字スラ之ヲ減少整理シテ、學生ノ負擔テ
減ジヤウト苦心シツヽアルニ當ツテ此無益ナル
勞力ヲ强ユルハ實ニ解スベカラザルコトデアリマ
ス況ヤ外國語ヲ正科トスルガ如キハ、國ノ面目カ
ラ申シマシテモ不見識ノ至デアリマス、外國語ヲ
必要トスル者ニハ隨意ニ之ヲ課シタラ宜イノデア
リマス、正科トシテ之ヲ强制スベキデハナイト思
ヒマス、彼ノ辯護士試驗ヤ其他ノ國家試驗デモ、
之ニ外國語ヲ課シテ、サウシテ彼等ヲ苦メルト云
フコトハ是ハ避ケタイト私ハ思ヒマス、今日ノ實
際ハ小學校デ終ル者ハ、小學校デ學ンダコトヲ忘
レテシマヒ、中學校テ終ル者ハ、中學校ノ〓育ヲ忘
レテシマフ、是程非能率的、徒勞的ノコトハ無イト
思ヒマス〓育ハ須ラク終生利用シ、活用シ得ラレ
ル學制〓程ノ方法ヲ立テナケレバナラヌト思ヒマ
ス勿論外國語ヲ奬勵スルモノハ必要デアリマス
外國語ニ秀デタ人ヲ造ルコトハ勿論希望スルコト
デアリマス、唯〓學科ノ之ヲ正科ニ入レテ强制スル
コトハ速ニ廢止シタイ、假令其學校生徒ノ全部ガ
國語ヲ學ンデモ、ソレハ一向差支アリマセヌ、全
部希望スルモ之ヲ希望學科トスルニ何等妨ゲハ
ナイコトデアリマス、茲ニ一言シテ置キタイノハ
漢字制限デアリマス、今日使用ノ漢字ガ將來長ク
其通リ使用サレルモノナラ、此點ニ於テ之ニ力ヲ
入レルノハ宜シイケレドモ、社會ガ活キテ變遷ス
ル以上ハ諸般ノモノ、其名稱、其言語ナリ之ニ伴
ウテ文字ノ如キモ當然變リ行クノデアリマス、將
來ガ變リ行クコトハ旣往ノ變ツテ居ルノヲ見テモ
知リ得ラレル、今迄十年前ニ用ヒタモノデ、今日
用ヒラレヌモノガアリ、又十年前ニハ用ヒナイモ
ノガ、今日ハ出テ來タノデアリマス、今日ノ現狀ヲ
將來永ク釘付ノヤウニ思ツテ、之ニ力ヲ入レテ、
漢字制限ノ爲ニ腦力ヲ費シ、心配スル如キハ徒勞
デアルト私ハ思ヒマス、殊ニソレガ爲ニ文化ノ幾
分ヲ減殺シテ、犧牲ニスルコトデアルカラ、斯樣
ナ無用、無效ノ學生負擔ノ減少法ヲ考ヘルヨリモ、
現實二永久的ニ、效用大ナル外國語强制ノ負擔
ヲ減ズルノ英斷ニ出デラレンコトヲ切望致スノデ
アリマス、第七ガ、外國文化ノ簡易書及ヲ圖ルコ
ト.外國語ヲ讀ミ得ナケレバ新知識ヲ得ルコト
能ハザルハ今日ノ現狀テアリマスガ、其外國語ヲ
讀ムニ費ス勞力ハ極メテ多大ヲ要シマス、而モ其
效果ハ極メテ乏イノデアリマス仍テ茲ニ獨立ノ
帝國大學院ヲ造ツテ、各國語ニ堪能ナル博士、大
家ヲ入レテ有ユル世界ノ新著大著ヲ飜譯致シテ、
之ヲ高等小學ヲ卒業シタ者ナラバ大抵讀得ル位
ニ讀易キ國語ニ飜譯致シマシテ、サウシテ知識ヲ
渴望スル世人ニ、容易ニ便利ニ之ヲ讀ミ、且ツ之
ニ接シ得ルノ途ヲ開クコトハ極メテ必要ナ事デ
アリマシテ、前段ニ述ベタル外國語ヲ正科カラ除
外スルト云フ事ト相俟ツテ、大ニ靑年ノ腦力ノ負
擔ヲ減ジテ、各自天賦ノ個性ヲ自由ニ、十分ニ發
達セシメ、各〓其所ヲ得セシメル方法ヲ講ズルコ
トハ國運發展ニ應ズル實ニ緊切ナル事ト認メマ
ス、又民間學者ニ向ッテ、此種飜譯書ノ奬勵モ
亦斯ウ云フコトニ從事スル學者ヲ養成スルト云プ
コトモ之ニ伴ツテ當然ノ必要デアリマス、ソレ
カラ第八ガ議院制度ノ改正、帝國議會ノ決議ハ全
國各府縣ノ豫算、其他一般ノ施設計畫、各種ノ
民業、其他同業組合ノ事業等ニ大關係アルコトハ
勿論デアリマス中ニハ中央ノ補助ヲ受ケ得ルヤ
否ヤ、受ケ得ルトセバ其金額ハ幾何ナルヤ等ハ
直ニ地方豫算ノ基礎ニ大關係ヲ爲スモノデアルノ
ニ、帝國議會ハ何時デモ地方議會ヨリ遲レマスカ
ラ、ソレガ爲ニ地方ノ事務ニ障碍ヲ來シ、迷惑ヲ
及ボスコトハ尠クナイノデアリマスカラ、此議會
會期ノ方ニ於テ、豫算ハ少クトモ衆議院ダケナリ
トモ年內ニ決議スル位ニ、之ヲ運ブヤウナ途ヲ
開キタイト思ヒマス、ツレカラ總テノ官廳ヤ學
校ハ、一月ノ上旬ニハ皆開始シマスノニ政府
ノ豫算編成ニ手間ガ取レル關係上、已ムヲ得ヌト
ハ云ヘ議會ノミガ一月二十日マデ休ムノハ
世間ノ聞エカラ申シテモ宜シクナイト思ヒマス.
一月八日位ニハ開クヤウニ致シ、サウシテ私ハ三
箇月ノ會期ノ中ニハ、十二月末カラ一月初メ迄ノ
休暇ハ之ヲ計算ニ入レヌト云フ慣例ヲ作ルヤウニ
致シタイト思ヒマス、其他議事ノ進行法、豫算ノ
査定法、其他ニ付キ、之ニ伴ウテ種々ノ改造ヲ要
スルモノト思ヒマスガ、是ハ諸君ニ讓リマシテ
此處ニハ省キマス第九、行政裁判所ノ擴張ヲ致
スコト官吏ガ不法行爲ヲ致シタ爲ニ受ケタ其損
害ヤ、或ハ警察官ノ違法處分ニ因ル事等、之ヲ救
濟スル途ヲ缺イテ居ルト云フコトハ官紀ヲ維持
スル能ハザル大ナル缺點ト思ヒマス、デアリマス
カラ行政裁判ノ列記法ヲ改メテ〓括法ニ致シテ、
サウシテ行政裁判ノ範圍ヲ擴ゲルト云フコトガ第
一ニ必要ト思ヒマス、ソレカラ訴願デアリマスガ、
訴願ハ地方上級廳ヘ訴願致シマス、上級廳ハ我ガ、
下級廳ノシタコトヲ可否ヲスルノデアリマスカ
ラ多クハ人民ノ意見ガ通ラナイノデアル是 八
普通當リ前ト申シテモ宜イ、此制度ヲ改メタイト
思ヒマスル、官吏ノ寃枉不法ヲ救濟スル途ガ完全
ニアリマセヌ爲ニ、人民ノ思想ヲ善導スルコトガ
出來ナイノハ是ハ當然ノ歸結デアリマス、今日
ハ實ニ吏道ガ廢レテ居ル、封建專制ノ世ニハ汎
ク一般ニ下民ニ聽クコトヲ奬勵致シテ、忠告ヲ容
レ諫言ヲ受ケルコトヲ、吏人ノ第一ノ心得トシテ
居リマシタカラ、立憲ノ今日ヨリモ、却テ專制ノ
時ニ、民意ガ暢達シタ例ガアリマス、今日ノ官吏
ハ總テ部下ノ諛言ヲ聽イテ、サウシテ更ニ言路ヲ
開キマセヌガ爲エ、益〓自然ニ壓迫ヲ民意ニ及ボ
スコトハ、洵ニ遺憾ト致ス所デアリマス、一方ニハ
吏道ヲ興シ、一方ニハ官紀ヲ振肅スル、ソレニハ今
日ハ唯〓其人任意ノ働キニ賴ル譯ニ行キマセヌ、
其法ヲ設ケルガ宜イ其法ヲ設ケルノガ、卽チ行政
裁判制ノ改正ニアルト思ヒマス普通裁判ハ今日
餘程進步致シテ居リマス上ニ、尙ホ陪審法マデモ
行フト云フコトニナツテ居ルノニ、行政裁判所ハ
洵ニ遲々トシテ振ハヌノデアリマス普通裁判モ
同權同位ノ人ノ間ノコトデアリマスガ、行政裁判
ハ權力關係ニ在ルノデアリマスカラ、ソレニハ普
通裁判ヨリ尙ホヨリ以上ニ力ヲ注ガナケレバナラ
ヌコトヽ思ヒマス、第十、殖民地政務ノ統一私
ハ此總督政治ヲ廢シテ、内地ノ地方制度ニ準ジテ
之ヲ取捨斟酌シテ、府縣制度ノヤウニ致シテ、之
ヲ中央政府ニ直接スルコトガ、植民地人民ノ意思
ヲ疏通スルニ必要ト思ヒマス今ハ總督府ナル中
間政廳ガアリマスカラ、隨テ其間ニ誤解モ生ジ不
平モ起キルノデアリマス是等ハ之ヲ論ジマスレ
バ是ダケデモ中々時間ヲ要スルカラ、是ハ總テ
省キマス、以上論ズル所、第一ノ租稅ヲ廢シテ國
費ヲ分賦法ニシヤウト云フノハ國民ノ富ノ負擔
ヲ第一ニ減ジヤウ、ソレカラ第六、第七ニ申シタ
外國語ニ關スルコトハ學生學者ノ能力ノ負擔ヲ減
ズルコトヲ主トシヤウ、其他ニハ兩方ニ亙ルモノ
ガアリ、或ハ國民一般ノ便利幸福ヲ主トシタノガ
アリマス、又第三ニ大審院ノ制ヲ改メ、第九ニ行
政裁判所ノ組織ヲ擴張スルコトハ今日廢シタル
綱紀ヲ維持シ、紊レタル官紀ヲ振肅スルニ大關係
ガアルノデアリース、腐敗ノ中ニ在ル蟲ハ腐敗
ノ臭ヲ知ラナイ、其臭ヲ感ゼザルモノニ腐敗ヲ矯
メサセルト云フノハ聊カ注文ガ無理トモ申サレ
ル、唯、自己ノ榮達ノミヲ目的トスル人〓ニ迂遠
ナ正道ニ後レト云フノハ無效デアリマス、今日ハ
法治國デアリマス法ニ依ツテ之ヲ定ムルノ外ハ
ナイ、一方ニ裁判獨立ノ完全ヲ圖リ、一方ニハ行
政官ノ不法ヲ戒ムル途ヲ開クノ他ハ無イト信ジマ
ス世ノ財政論者モ、國防當務者モ〓育學者モ、
皆是等根本的ノ要點ニ心ヲ注ギ、共ニ之ガ〓究ニ
意ヲ用ヒラレンコトヲ切ニ望ムノデアリマス、終
リニ臨ンデ一言ヲ添ヘテ申シマス、今日ノ政治組
織ハ唯、獨リ少數ノ人ノ階級ノ進歩ノ便利ノ爲
ニ造ラレテ、決シテ人民ノ爲メノ政治デハナイト
云フ感ガアルノデアリマス先ヅ一靑年ガ大學ラ
卒業シテ國家試驗ヲ受ケマストソレカラ屬官ニ
ナルソレガ吏務ノ大要スラマダ會得シナイ中ニ、
忽然トシテ無關係ノ郡長トナリ尙ホ一二年、三
年經ツト、學務課長ニ轉ジ、又全ク飛離レタ警察
部長トナリ、內務部長トナリ、知事トナル郡治
ノ事務ノ爲ニ郡長ヲ置クニアラズ、郡務ハ多年從
事シテ居ル郡書記ノ仕事テ、郡長ハ唯〓榮達スル
踏段デアル學務課長ハ一縣ノ學事ヲ知ルニ非ズ
シテ、唯〓其人ノ進ムベキ踏段タルニ止マル斯
ノ如クシテ如何ゾ其務ノ進捗ヲ圖リ得マセウカ
又一方ニ官吏勤續法ノ如キモ當ヲ得ヌ、其勤續法
ナルモノハ其事務ノ習熱上達スルコトヲ奬勵ス
ルニアルノニ警部ガ郡長トナリ、學務課長ガ警
察部長ニナツテ、之ヲ勤續ニ算入スルトハ何等
其間ニ習熟上達ノ關係ハ無イノデアリマスデア
リマスカラ私ハ郡長ヲ勤メテモ其治績ノ擧ツタ
者ハ學務課長ヤ警察部長ニナラナイデモ、直一
內務部長ニナリ、知事ニナラルヽヤウニ吏務ノ
關係連絡ノ上ニ其奬勵ノ途ヲ開クヤウニセネバナ
ラヌト思ヒマスサウシテ其治績ヲ擧ゲルヤウニ
スルコトガ、根本的ノ改正ニ最モ重大ナ要部ヲ占
ムルモノト思フノデアリマス、諸君、近年國民ノ
氣風ガ著シク頽廢致シテ、多クハ浮華淫蕩ニ流
v、或ハ放縱詭激ニ陷リ、社會ハ墮落致シ、人心
ハ浮カレ浮カレテ、殆ド噴火山ノ上ニ舞踏スルガ
如キ今日ノ有樣ハ、恰モ羅馬ノ末路ノ歷史ヲ讀ム
ガ如キ有樣デアツテ、玆ニ此度ノ此大災厄ハ再ビ
生キヨト云フ天ノ警告トモ見ラルヽノデアリマス
カラ、此際ニ吾々ハ甦ランケレバナラヌ、決シテ從
來ノ頭、從來ノ考ヲ以テ、此機會ニ於キマシテ、
今迄ノ習慣モ、今迄ノ思想モ取去ツテ、眞劒味ニ
此國運ノ爲ニ根本的ノ改造ヲ致シテ、而シテ國民
前途ノ幸福、民族ノ繁榮ヲ圖ルベキハ吾々國民
ノ大ナル責任ト信ズルノデアリマス、希クハ滿場
諸君ノ御贊同ヲ祈リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=17
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018・高見之通
○高見之通君 本案ハ森恪君外三名提出、相模西
部ノ復興ニ關スル建議案外件ノ委員ニ、併セテ
付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=18
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019・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニ御異議ナシ
ト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第
八ハ只今提出者ガ席ニ御見ヱニナリマセヌカラ延
期致シマス、後廻シニ致シマス、日程第九、震災
豫防調査機關設置ニ關スル建議案ヲ議題ト致シマ
ス、星島二郞君
第九震災豫防調査機關設置ニ關スル建
議(星島二郞君提出)
震災豫防調査機關設置ニ關スル建議案
震災豫防調査機關設置ニ關スル建議
政府ハ今回ノ大震災ニ鑑ミ相當ノ規模ヲ有スル
震災豫防調査機關ヲ設置スヘシ
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=19
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020・星島二郎
○星島二郎君 簡單デスカラ、此席カラ申シマス、
今回ノ大震災ニ顧ミマシテ、今少シ之ヲ前ニ知ル
方法ガナイデアラウカ、假令震災ガアリマシテ
モ、之ニ對抗スル建築法、其他今少シ準備ヲシタ
ラト云フコトヲ、御互ニ深ク感ズル次第デアリマ
ス、ソレニ付キマシテハ現在豫防調査會ト云フ
モノガ、文部省内ニ置イテアルノデアリマスケ
レドモ、僅々三万圓ノ經費デ以テアルノデアリマ
ス、私共ハ國防ニ對シマシテ、何億ト云フ金ヲ使
ツテ居リマスガ、百億ノ富ヲ失ヒ、數万ノ人命ヲ
喪ツタ、此損害ニ對シテ今少シク金ヲ拂ツテモ、
決シテ惜クナイト思フノデアリマス震災ヲ前以
テ豫知スルコトモ全然不可能デハナイ、ト云フコ
トハ昨日此議院ニ御見エニナツタ中村博士モ言ツ
テ居ラレルノデアリマス、假令震災ガアリマシテ
モ相當ノ豫防ヲ致シマスレバ防止ヲ致シマス
レバアレ程大ナル火災ハ受ケナカツタデアラウ
ト斯ウ云フコトモ想像サレルノデアリマス、サウ
デアリマスカラ天然ノ國防費ト致シマシテ、私共
ハ三百万乃至五百万位ノ金ハ決シテ惜クナイト
斯ウ思フノデアリマス生前大森博士ニ私共知己
ヲ得マシテ、其學者ラシキ態度ニ感服致シマシタ
一人デアリマスガ、博士ノ遺族ヨリ、ドウシテモ此
調査機關ヲモツト改善シテ欲シイト常々博士ガ言
ツテ居ツタ、是非斯ウ云フ議案ヲ建議シテ通常議
會ニハ政府ハ相當ノ豫算ヲ組入レテ欲シイト云フ
願デアル私ハ洵ニ同感ニ思ウタノデアリマシテ、
政友會、憲政會、庚申倶樂部ノ皆樣方ノ御贊成ヲ
得マシテ本案ヲ出シマシタ次第デアリマス冀
クハ來ル通常議會ニ、政府ハ必ズ相當ノ豫算ヲ震
災豫防調査機關ノ爲ニ組入レラレンコトヲ茲ニ建
議致シマス、皆樣ノ御賛成ヲ仰ギタイト思フノデ
アリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=20
-
021・高見之通
○高見之通君 本案ハ森恪君外三名提出ノ、相模
西部ノ復興ニ關スル建議案外二件ノ委員ニ併セ付
託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=21
-
022・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ御異議ナ
シト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程
第十、燒失遊廓再興不許可ニ關スル建議案ヲ議題
ト致シマス、提出者松山常次郞君
第十燒失遊廓再興不許可ニ關スル建議
案(松山常次郞君外二名提出)
燒失遊廓再興不許可ニ關スル建議案
燒失遊廓再興不許可ニ關スル建議
帝都復興ニ際シ燒失セル遊廓ノ再興ヲ許可セサ
ルコトハ市民精神復興助長ノ一端トシテ極メテ
重要ナル問題ナリト信ス依テ政府ハ宜シク此等
燒失遊廓ノ再興ヲ許可スヘカラス
右建議ス
〔松山常次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=22
-
023・松山常次郎
○松山常次郞君 諸君、本建議案ノ目的ハ、此度
ノ大震火災後ニ於ケル精神復興ノ記念トシテ、我
國ニ現存スル公娼制度ノ撤廢ヲ斷行致シタイト思
フノデアリマス、而シテ其前提ト致シマシテ、此
度燒失セル吉原、洲崎等ノ遊廓ヲ再興セシメナイ
ヤウニ致シタイト云フノデアリマス、我國ニ於ケ
ル廢娼運動ニ付キマシテハ先年群馬縣會ニ於テ
此問題ガ起リマシ、テ、前後十二箇年ノ奮闘ノ結果、
遂ニ同縣會ヲ通過シ、群馬縣下ニ公娼制度ノ撤廢
ガ斷行セラレタンデアリマス、ソレガ今日ニ繼續
致シマシテ、良イ成績ヲ示シテ居リマス群馬縣ハ
今日我國ニ於ケル唯一ノ廢娼縣デアリマスヾ最近
ノ運動ト致シマシテハ基督〓婦人嬌風會ガ今カ
ラ七年前ニ此問題ヲ提起致シマシテ、今日マデ其
運動ヲ繼續致シテ居ルノデアリマス、一此度ノ災害
後ニ精神復興ノ輿論ガ勃興スルヤ、婦人矯風會ハ
非常ナル運動ヲ開始致シマシタ、殊ニ最近ノ如キ
ハ各地方ヨリ代表者ガ上京致シマシテ、諸所ニ演
說會ヲ開キ或ハ名士ヲ訪問致シテ、其主義ノ宣傳
徹底ニ盡力致シテ居リマス、其建議案ハ是等ノ人
人ノ熱誠ノ結晶デアリマシテ、衆議院ニ於ケル各
派合同ノ問題トナリマシテ、實ニ八十九名ノ多數
ノ賛成者ノ署名ヲ以テ議場ニ現レタモノデアリマ
ス公娼ノ解放ハ一種ノ奴隷解放運動デアリマス
奴隷解放ノ問題ハ既ニ西洋諸國ニ於テハ解決セラ
レタル問題デアル社會ノ隅トニ於テ殘ツテ居ル
個々ノ問題ヲ捉ヘテ今日ハ之ニ追擊戰ヲ加ヘテ
居ルト云フ狀態ニアルノデアリマス是ハ唯〓西
洋ニ於ケル問題タルノミナラズ、古來此思想ハ東
洋ニモアルノデアリマス釋迦牟尼ハ奴隷解放ヲ
實行シ、人身ノ賣買ヲ禁ジ賣淫ヲ禁ズル〓ヲ立
テヽ居リマス卽チ奴隷解放ノ思想ハ洋ノ東西ヲ
問ハズ、古來人道上ノ問題トシテ存スルノデアリ
マシテ、此廢娼ノ運動ハ人ノ良心ニ愬ヘテ、ドウ
シテモ決行シナケレバナラヌ問題デアルト考ヘル
ノデアリマス、是ヨリ愈〓本論ニ入ルノデアリマ
スルガ、此問題ヲ論議スルニ當ツテ、私共ハ第一
ニ其立場ヲ決定シナケレバナラヌト思フノデアリ
マチ、之ニ就キマシテハ私共ハ第一婦人ノ聲ヲ
聞カナケレバナラヌト思フノデアリマス、風〓ニ
關係スル人ハ警察關係ノ人ハ、風紀ノ取締上カ
ラ之ヲ論ズルデアリマセウシ、衞生ニ關係スル人
ハ社會衞生ノ立場カラ之ヲ論ズルデアリマセウ、
又遊廓ノ主人ニハ遊廓主人ノ議論モ出テ來ヤウ
ト思フ、之ヲ性的ニ考ヘマスルナラバ男子ニハ男
子ノ意見モアラウト思フ、併ナガラ此問題ニ對
シテ最モ痛切ナル利害關係ヲ持ツテ居ル之ニ
於ケル犧牲者ノ位置ニ在ル所ノ女子ノ意見ハ
最モ尊重シテ聞カナケレバナラヌモノデアルト
思フノデアリマス(ヒヤ〓〓)此問題ニ對スル決定
的論據ヲ與ヘルモノハ此婦人ノ聲デアルト私ハ信
ズルノデアリマス吉原ガ燒ケル度ニ娼妓ハ燒死
ヲシマス、此度ノ大震火災ニ於キマシテモ何百人
ト云フ娼妓ガ燒死ンタ、今カラ十三四年前ノ大火
事ノ時ニモ多勢ノ娼妓ガ燒死ニマシタ、彼等ハ其
平素ノ生活ニ於テ實ニ其自由ヲ奪ハレテ居ルノデ
アリマシテ、其身ニ危險ガ及ンデ來テモ、之ヲ逃ゲ
ル所ノ自由ヲ與ヘラレテ居ラナイノデアリマス、
貸座敷ノ主人ニ言ハシムレバ、若シ之ヲ自由ニ解
放スレバ逃ゲテシマフ、其稼業ガ成立タナイト言
フデアリマセウ、今日ノ制度ノ存スル限リ、私ハ
此悲慘ナル事ハ永久ニ絕滅セシメルコトハ出來
ナイト思フノデアリマス、制度其モノニ大ナル缺
陷ガアルコトヲ見ルノデアリマス、昔德川時代ニ
於キマシテハ藝者ニ對シテハ六年、娼妓ニ對シテ
ハ四年、年期ガ決マツテ居リマシテ假令此中ニ
這入ツテモ此年期ガ濟メバ必ズ自由ノ身トナツタ
ノデアリマス、併シ今日ハ唯〓金錢ノ貸借國係ニ
アリマシテ、其借金ガ濟マナイ間ハ永久ニ其人ガ
モウ役ニ立タナクナルマデハ此遊廓ヲ出ルコト
ハ出來ナイノデアリマス實ニ今日ノ公娼制度ハ昔
ノ德川時代ノソレニ比シテ、更ニ一層殘酷ナルモ
ノデアルト私ハ信ズルノデアリマス次ニ前借金
制度ニ付テ一言致シタイト思ヒマス是ハ唯〓法律
上ノ解釋ニ致シマシテハ民法上ノ貸借關係ニ過
ギナイノデアリマシテ、自由廢業スルコトハ勝手
デアリマス返セレバ返ス返セナケレバ返セルマ
デ待ツテ貰フ、强イテ取ラウト思ヘバ民事訴訟ノ
手續ニ依ツテ取ツテ貰へバ宜イノデ、決シテ其身
ノ自由ヲ束縛スルノデアリマセヌケレドモ悲シ
イ事ニハ是等ノ娼妓ハ無自覺ニシテ、自己ノ權利
ヲ主張スルノ力ノ無イ者デアリマス、之ニ乘ジテ
貸座敷ノ主人ハ巧妙ニ、又殘酷ニ身體ノ自由ヲ奪
ツテ居ルノデアリマス、此前借金ト云フモノハ先
ニモ申シマシタ通リニ、實ニ昔ノ身賣ト云フモノ
ニ比シテ、更ニ殘酷ナル結果ヲ娼妓ノ體ニ致シテ
居ルノデアリマシテ、是ハドウシテモ撤廢シナケ
レバナラヌモノダト思フノデアリマス、次ニ檢徵
制度ノコトニ付テ一言致シタイト思フノデアリマ
ス一體此檢徵ト云フコトガ有效ニ實施セラレル
ヤ否ヤト云フコトヲ、先ヅ〓究シナケレバナリマ
セヌ、專門家ノ說ニ依レバ、檢徵ト云フ事ハ中〓ム
ヅカシイ事デアツテ、顯微鏡ヲ用ヒテ五六時間ノ
時間ヲ掛ケナケレバ本當ノ檢黴ト云フモノハ行ハ
レルモノデハナイ、ソレデモ多クノ場合ニ於テ黴
菌ヲ見落ス、有菌者ト云フコトガ極マツテ之ヲ病
院ニ入レマシテモ、是亦中〓治療ガ困難ナ事デア
ツテ、四年、五年、若クハ六年ト云フ年限ヲ掛ケ
ナケレバ本當ノ根治ノ出來ナイモノデアルト云フ
コトデアリマス故ニ今日ノヤウニ二分間トカ三
分間トガノ檢黴ニ依ツテ、或ハ一箇月位ノ入院ニ
依ツテ此檢黴ノ目的ヲ逹スルト云フコトハ實際
ニ於テ出來ナイコトデアリマス、卽チ此今日實施
セラレテ居ル所ノ檢徽ト云フモノハ全ク無效ナモ
ノデアル此無效ト云フ事實ヲ前提ト致シマシテ
私共考ヘテ見マスル時ニ茲ニ恐ルベキ弊害ガア
ルノデアリマス之ヲ社會衞生ノ方面ハラ見マル
ナラバ却テ花柳病ヲ傳播サセル虞ガ多イノデア
リマス、危險ヲ感ジマセヌガ故ニ不用心ニ之ニ接
近スル、或ハ接近スルコトヲ誘發スル虞ガアルノ
デアリマス、英國ニ於キマシテハ千八百八十四年
ニ檢黴制度ガ撤廢セラレマシタガ、ソレヨリ四年
前千八百八十年ニ於テ壯丁檢查ノ結果ヲ見マス
ルニ、受檢壯丁一万人ニ對シテ花柳病患者ノ數ガ
百六人ト云フコトニナツテ居リマス制度ガ撤廢
セラレテ後二十七年ナル千九百七年ニ於キマシテ
ハ十八人ニ減ジテ居ルノデアリマス、此結果ヲ見
マシテモ、檢徵ト云フコトガ却テ花柳病ノ傳染ヲ
助長スルモノデアルト云フコトヲ證據立テヽ居ル
ノデアリマス、能ク誰シモ常識カラ考ヘマシテ、
公娼ヲ廢スルナラバ花柳病ノ傳染ヲ助長スルト云
フコトヲ心配スル人ガ多イノデアリマシテ、是ハ
尤ト一通リ考ヘラレル事デアリマスガ、我國ニ於
ケル例ヲ申シマシテモ、大正十年ニ於ケル壯丁檢
查ノ結果ニ依リマスルト、受檢壯丁一千人ニ對
シ花柳病患者ノ數ハ平均一八·五〇人ト云ブコ
トニナツテ居リマス、東京トカ神奈川トカ、大阪
トカノ遊廓制度ノ整ウテ居ル所ニ、於キマシテ
ハ却テ此平均數ヨリ皆多クナツテ居ルノデアリ
て·、而シテ先キ申シマシタ唯一ノ廢娼縣タル群
馬縣ニ於キマシテハ遙ニ少クテ一一·一三人ト
云フコトニナツテ居リマス、是ガ通常常識的ニ
考ヘテ、公娼ヲ廢メレバ花柳病ノ傳播ガ多クナ
ルダラウト云フ此心配ハ事實ニ反シテ居ルト
云フコトテ私共考ヘナケレバナリマセヌ、次ニ
此檢黴ト云フコトノ爲ニモウ一ツ大キナル弊害
ノアルコトヲ考ヘナケレバナリマセヌ、ソレ
ハ人間ハ自己防衞ノ思想ガアリマスカラ、花柳
界ニ居ル婦人デモ、若シ自分フ身ニ惡疾ヲ受ケ
テ居ルト云フコトヲ知ツタナラバ直ニ休養シ
テ、早ク健康體ニナリタイト云フ心ガアル近頃
衞生思想ノ進步スルト同時ニ此傾向ガ强クナツテ
來タ、殊ニ東京ニ於テハ此傾向ガ强クナツタト云
フコトヲ聞イテ居リマスケレドモ、娼妓ノ場合ニ
於テハサウハ行カナイ、貸座敷ノ主人ハ娼妓ガ休
業致シマスルナラバ、其利益テ害シマスルガ故
ニ成ベク之ヲサセマイトスル、ソレニ對シテ此
檢徵ト云フコトガ有力ナル論據ヲ與ヘルノデアリ
マス、御醫者サンガ病氣デナイト云フコトヲ保證
シテ居ルノダカラ休ムコトハナラヌト言ツテ之ヲ
强ユルノデアリマス、斯ノ如クニシテ此檢徵ト云
フコトガアルガ爲ニ、病氣ヲ持ツテ居ル娼妓ニ醜
業ヲ强ユルコトヲ助長スル傾向ガアルノデアリマ
ス、是ハ色〓ノ方面カラ考ヘテ、洵ニ憂フベキ事
デアルト考ヘルノデアリマス、次ニ風〓上ノ惡影
響ニ付テ申上ゲタイ、モウ一ツ誰シモ能ク言ヒマ
スルコトハ公娼ヲ撤廢スレバ私娼ガ殖エルダラ
ウ、斯ウ云フノデアリマス、所ガ果シテソレガ事實
デアリマセウカ、私共之ヲ實例ヲ以テ申シタイト
思ヒマス、嘗テ群馬縣ニ於キマシテ公娼制度ノ撤
廢セラレタル時ニ、伊香保ニ十一軒ノ女郞屋ガア
ツタ、ソレガ廢サレタラ、私娼ガ殖エルグラウト思
ツテ居ツタ所ガ、却テ其私娼ガ殖エナカツタト云
フ事實ガアルノデアリマス丁度是ト逆ニナル事
實ガアリマス、ソレハ和歌山縣ノ新宮町ニ於キマ
シテ、今カラ十何年前ニ遊廓ガ初メテ出來タ、其
當時新宮ニハ四十人ノ私娼ガ居リマシタ、公娼ガ
出來タ爲ニ私娼ガ減ツタカト云ヘバサウデナイ
公娼ガ九十人出來タ所ガ、私娼ガ百二十人ニ殖エ
タノデアリマス、以前ニ四十人デアツタモノガ
百二十人ニ殖エタノデアリマス、ドウモ此性慾上
ノ關係ト食慾ノ關係トハ同ジヤウニ行カナイヤウ
デス、食慾ノ方デアリマスト四杯飯ヲ食フ者ガ、
蕎麥ヲ三杯食ヘバ飯ハ一杯デ宜シイト、斯ウ云フ
ヤウニ行キマスケレドモ、性慾ノ方ハサウ云フヤ
ウニ行カナイ、公娼ノヤウナモノヲ許シテ立派ナ
遊廓ヲ拵ヘマスルト、却テ性慾ヲ挑發スル虞ガア
ルソレガ爲ニ新ナル需要ガ起ツテ、公娼ノミナ
ラズ却テ私娼ノ數ヲ增スト云フコトニナルノデア
リマス是ガ爲ニ風儀ガ紊レテ、家庭ニマデモ其
弊害ヲ及ボスト云フ結果ニナルノデアリマス、通
常常識的ニ考ヘテ、公娼ガ出來レバ私娼ガ減ルダ
ラウ、或ハ公娼ヲ撤廢スレバ私娼ガ殖エルダラウ
ト考ヘルコトハ事實ニ反シテ居ルノデアリマス、
嘗テ或ル時代ニ於テ我國ノ大臣大官ガ、公然ト馬
車ヲ花柳界ニ牽込マセルト云フヤウナ時代ガアツ
タサウデス、其當時福澤先生ガ之ニ警告ヲ發シタ
ト云フコトヲ聞イテ居ルソレハ花柳界ニ行キタ
イナラバ行ツテモ宜シイガ、是ハ宜クナイ事デア
ルカラ、內證ニヤレ、之ヲ公然ヤルコトハ宜シク
ナイ、社會風〓ノ上ニ害ガアルト云フコトヲ言
ツタト云フコトデアリマスル、今日ハサウ云
フコトテヤル人ガアリマセヌケレドモ、嘗テ
サウ云フ時代モアツタト云フノデアリマス
誰ガ考ヘテモ女郞買ニ行クト云フコトハ宜クナ
イヤルナラヤツテモ宜イガ、之ヲ內證ニヤルガ
宜イ、遊廓ヲ拵ヘテ、ソレニ稅金ヲ課ケテ、正當ナ
ル職業ト之ヲ認メ之ニ對シテ通常ノ法律上ノ保
護モ與ヘル或ハ社會上ノ待遇モ與ヘルト云フコ
トデハ大ニ社會風〓ノ上ニ害ニナルト考ヘルノ
デアリマス、次ニ醜業婦ノ事ニ付テ一言致シタイ
ト思ヒマス、醜業婦ハ我ガ國民ノ名譽ヲ海外ニ於
テ汚損シテ居ルト云フコトハ誠ニ歎カハシイ事
デアリマスガ、海外ニ於ケル醜業婦ト國內ニ於ケ
ル公娼ト云フモノハ直接ノ關係ハアリマセヌケ
レドモ、其因テ來ル本ヲ探ネレバ一ツデアル、醜業
婦ヲ澤山出ス地方ニ於テハ娘ガ相當ノ年頃ニナ
ルト一ツ外國ニ行ツテ一儲ケシテ來イ、何處何
處ノ娘ハ金ヲ澤山持ツテ來タ、甲斐性ノアル子デ
アルト云フヤウニ奬勵スル傾ガアルト云フコトヲ
聞ィテ居リマス、娘ヲ賣ツテ之ヲ金ニスルト云フ
親ノ其心ト、娘ヲ娼妓ニ賣ルト云フ其親ノ心トハ
一ツデアリマス、若シ茲ニ公娼制度ノ撤廢ヲ行ツ
テ、斯ノ如キ事ハ爲スベキ事デナイト云フ斷案ヲ
下シマスルナラバ確ニ醜業婦ヲ出ス所ノ地方ニ
對シテ、社會上ノ一ツノ制裁ヲ加ヘルコトニナ
ル彼等ノ反省ヲ促スニ有力ナル手段トナルコト
ト信ズルノデアリマス.國際聯盟會議ニ於テ人身
賣買ヲ禁止スル條約ガ締結サレマシタ、我國ハ除
外例ヲ要求スルカ、或ハ國內法ヲ改正シテ公娼制
度ヲ撤廢スルカ、二者其一ヲ撰バナケレバナラヌ
潮戶際ニ立ツテ居ルノデアリマス今ヤ公娼制度
ノ問題ニ會シテ、日本國民ハ大ニ反省シナケレバ
ナラヌ時期ニ到達シテ居ルト思フノデアリマス、
私ノ演說ハ此所デ愈、結論ニ到達シタコトデアリ
マス前ニ申上ゲル通リ、今日公娼制度ニ於テ行ハ
レテ居ル前借金制度ト云フモノハ甚ダ宜クナイ
制度デアル、人身賣買ヲ認メル所ノ制度デアリマ
ス檢徵制度ト云フモノハ無效ニシテ有害ナル制
度デアリマス、之ヲ社會衞生ノ上カラ考ヘマスナ
ラバ花柳病ノ傳染ヲ助ケルモノデアル、又娼妓ノ
健康ヲ破壞スルコトヲ助長スル所ノ惡制度デア
ル公娼ヲ廢止スレバ私娼ヲ增加スルダラウト云
フコトニ對シテハ是ハ全ク事實ニ反スル非常ノ
杞憂ニ過ギナイト云フコトヲ述ベタノデアリマス
ガ是等ノ事ヲ考ヘテ、今日ノ公娼制度ト云フモ
ノ、ハドウシテモ撤廢シナケレバナラヌト私ハ思
フノデアリマス、我國ノ現狀ニ照シテ決行ヲ要ス
ルコトハドウシテモ此公娼制度ノ撤廢デアリマ
スソレニ付キマシテ私共ハ併セ考ヘナケレバナ
ラヌ事ハヽ私娼ニ對シテハ相當ナル取締ヲスルト
云フ程度ニ止メタイト思フ、之ニ餘リ嚴重ナル干
涉ヲシナイコトニ致シタイト思フノデアリマス
社會ノ風儀ノ亂レナイ程度ニ於テ餘リ嚴重ニ之
ニ干渉シナイコトニシタイト思フノデアリマス
此種ノ社會問題ニ對シテ、法律萬能ノ思想デ行ク
ト云フコトハ宜クナイ、社會ノ制裁、個人ノ自省ニ
重キヲ置クト云フ主義ヲ取リタイト思フノデアリ
マス而シテ此公娼廢止ト云フコトハ實際ニ於テ
極メテ困難ナル事デアラウト云フ說モアルト思ヒ
マスガ、序ニ私ハ愚見ヲ申上ゲテ置キタイト思ヒ
〒·そ、第一ニ源ヲ塞グト云フコトガ宜イト思ヒマ
ス、今日五万ノ公娼ニ對シアシテ、八千ノ新シイ若
イ娘ガ花柳界ニ流込ムト云コトデアリマスガ之
ヲ禁止スルト云フコトニスジバ宜イト思ヒマス
次ニ現存スル公娼ニ對シテ、成ベク有ユル方法ヲ
講ジテ、自由廢業ヲサセルト云フコトニスレバ宜
イト思ヒマス、此種類ノ金錢貸借ハ社會ノ良風、美
俗ヲ害スルモノデアリマスガ故ニ、之ニ對シマシ
テ法律上ノ保護ヲ禁止スルト云フコトモ宜イト
思フト最後ノ方法ト致シマシテハ、政府ガ之ニ對シ
テ賠償スルモ宜カラウ、今日ノ五万ノ公娼ニ對シ
テ政府ガ賠償ヲ與ヘルト致シマシテ、一人三百圓
トスレバ千五百萬圓デアル、政府ノ言明スル所ニ
依レバ此度ノ大震火災ニ於ケル復舊、復興ニ對
シテ十五億ノ金ガ要ルト云フコトデアリマス、物
質的復興ニ付テ十五億ノ金ヲ使フナラバ、精神復
興上ノ大問題タル是ガ爲メニ百分ノ一ノ千五百
万圓ノ金ヲ使ツタカラト云ウテ、敢テ〓クベキデ
ハナイカト思フノデアリマス、帝都復興ヲ行フニ
付テハ外部ノ美ヲ飾ルニ止メズ、社會ノ内容ヲ
充實シ、古來ノ惡習慣ヲ打破シ、精神復興ノ實ヲ
擧ゲナケレバナラヌト思フノデアリマス、此際我
國ニ現存セル公娼制度ノ撤廢ヲ斷行スルコトヲ得
マスルナラバ是ハ子孫後世ニ對スル一大貢献デ
アル世界人道ニ對スル功績デアルト私ハ信ズル
ノデアリマス、而シテ此復興議會ニ於ケル差當リ
ノ仕事ト致シマシテハ此度燒失セル吉原、洲崎
等ノ遊廓ヲ再興セシメナイコトニ致シタイト思フ
ノデアルカラ、政府ヲシテ此目的ヲ達スル爲ニ、
相當ノ手段、方法ヲ講ゼシメルノ必要アリト考ヘ
ルノデアリマス吉原ト云フ名ハ今日世界ニ有名
ニナツテ居リマスソレハ宜イ意味ニ於テヾアリ
マセヌ、東京ニ於ケル人肉ノ市場ト致シマシテ
二十世紀ノ今日、尙ホ我國ニ於テ現存スル白奴
制度ノ標本トシテ世界ニ有名ニナツテ居ルノデ
アリマス若シ吾人ノ努力ニ依ツテ此大震火災ヲ
機會ト致シマシデ吉原ノ名ヲ燒盡シデシマフコ
トガ出來ルナラバ國際關係上極メテ好キ影響ヲ
持來スト私ハ信ズルノデアリマス、復興ノ爲ニハ
外資ヲ募集シナケレバナラヌケレドモ、假令是ガ
爲ニ千五百万圓ヤ二千万圓ノ金ヲ使ウタト致シ
マシテモ、是ダケノ種ヲ播イテ置キマスナラバ
後日吾々ガ外債ヲ募ル場合ニ於テ、必ズ十倍、二
十倍、或ハ三十倍ノ收穫ヲ吾々ニ特來スコトヽ信
ズルノデアリマス、諸君、願クハ本建議ニ對シテ
愼重審議御贊成アランコトヲ希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=23
-
024・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 贊成演說ノ通告ガアリマス、
星島二郞君
〔星島一一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=24
-
025・星島二郎
○星島二郞君 今回ノ震災後ニ、非常ニ眞面目ニ
緊張スベキ議會ニ於テ、何トナシニ今迄厭ナ感ジ
ヲ以テ終始サレタノデアリマスガ、今日此議案唯〓
一ツガ此議會ニ於ケル精神的意味ヲ含メタ案ト致
シマシテ、私ハ之ニ贊成スルノ光榮ヲ有スルノデ
アリマス、私ハ公娼制度全廢論者デアリマス公
娼制度ヲ全廢スル前提ヨリ其實行方法トシテ此
案ハ誠ニ賢イ方法デアル、燒ケタ跡ヲ許サナイ斯
ウ云フ意味ニ於キマシテ私ハ木案ニ贊成ヲ表スル
ノデアリマス私ハ今提案者ノ說明ヲ聽キマシテ
非常ナ知識ヲ得タノデアリマスガ姑ク衞生問題、
或ハ其他ノ實際ノ方法カラ離レマシテ·法律問題
トシマシテドウシテモ公婦制度ハ存置サルベキ
筈ノモノデナイ、日木ノ憲法上、日本ノ民法上、
此現存ヲ見テ居ル現狀ガ怪シカラヌ事デアルト云
フコトニ付テ暫ク御〓聽ヲ煩シタイト思フノ
デアリマス、元來私ハ公娼制度全廢論ヲ致シマス
ル其根據ハ單ニ風紀衞生ト云フ問題デナクシテ、
婦人モ共ニ御互ニ人間デアルト云フ立場、モツト
日本ノ婦人ヲ人間ラシク扱ツテ欲シイサウスル
コトガ日木ノ文化ノ爲デアル勞働問題ニシマシ
テモ或ハ普選問題ニシマシテモ其論據ハモツ
ト御互ニ人間ラシクアリタイ、サウ云フ社會ニシ
タイト云フ前提カラ、此問題ヲ取扱ツテ見タイト
思フノデアリマス、御參考ノ爲ニ如何ニ現在ノ
日本ノ婦人ガ男子ト差別ノ待遇ヲ法制上受ケテ居
ルカト云フコトヲ調ベテ見タイト思フノデアリマ
ス實際ハ是ハ公法上、私法上、是程アルカト思
フ程ニ驚クノデアリマス、長クナリマスカラ其項
目グケヲ玆ニ羅列シテ見マスレバ、第一公法關係
ニ於キマシテ、議會、府縣會、市町村會、斯ウ云
フモノニ對シテ選擧權モ無ケレバ被選擧權モ無
1、是ハ公知ノ事實デアル、唯タタタタツツ一
議所ノ選擧資格ガアルヤウニナツテ居リマス第
二ニ官公吏トナリ得ル範圍ガ極メテ狭イ、第三ハ
辯護士其他ノ職業、之ニ對スル制度ガ餘程狹イ、
第四ハ高等〓育ノ機關ガ婦人ニ對シテハ非常ニ男
子ニ比シテ設備ガ劣ツテ居ル第五ハ婦人勞働者
ノ保護ガ甚ダ不十分デアル、男子ト比シテー
第六ハ婦人ノ人格及貞操ノ保護ガ十分デナイ、是
ガ卽チ公娼制度ノ最モ主ナル箇條デアリマス先
ヅ公法關係ニ於キマシテ此六項ガ主ナル事項トシ
テ私ハ揚グ得ルト思ヒマス第二ニ私法關係ト致
シマシテ、是ハ實ニ驚イタ狀態デアリマシテ、擧
ゲレバ澤山アリマスガ極ク主ナ點ダケヲ玆ニ羅
別シマスレバ第一ニ家督相續ノ順位ニ於テ男子
ニ劣ツテ居ル嫡出女子ヨリモ庶出男子ノ方ガ前
順位ニナツテ居リマス第二ハ妻ガ白痴ヤ其他ト
同ジヤウニ民事上ノ無能力者トナツテ居ルト云フ
コトデアル、第三ハ夫婦財產制度ガ妻ニ非常ナ不
利益ニナツテ居ル第四ガ妻ノ姦通ハ犯罪ヲ構成
シテモ、夫ノ姦通ニ對シテハ問題ニサレテ
居ナイ離婚ノ原因トナツテ居ナイ、第五ハ
內緣ノ夫婦關係ガ保護セラレテ居ナイ第六
ガ夫ノ遺產ニ對スル妻ノ相續權ヲ十分ニ認メ
テ居ナイ第七ガ子ニ對シテ母ガ第一位ノ親
權者トナツテ居ナイ、第八ガ母ガ親權者タル
場合ニハ親族會ノ監督ニ服サナケレバナラヌ、第
九ハ私生兒ノ母ノ保護ガ十分デナイ殊ニ其父ノ
死後、認知ノ請求ガ出來ナイコトニナツテ居ル、
第十ハ寡婦ハ婚家及實家ノ戶主ノ同意ガナケレ
バ實家ニ復歸スルコトガ出來ナイ.コンナ風ニ
列ベテ參リマスレバ、皆樣ガ聽クニ堪ヘヌ程ニ澤
山アル、ソレハ或ハ僅カノ時間ノ間ニ現在ノ日本
ノ婦人ガ得テ居ナイ權利.民事ダケデ左樣ニ聽ク
ニ堪ヘヌ程澤山日本ノ婦人ガ男子ト差別ノ待遇ヲ
受ケテ居ルノデアリマス、ソレガ婦人ノ奴隸的法
制ノ現狀デアリマスガ、其中デ最モ酷イノハ現在
ノ公娼制度デアリマス、私ハ此問題ヲ法律ノ本則
論ヨリ之ヲ姑ク考慮シテ見タイト思フノデアリマ
ス皆樣モ御存知ノ通リ、民法ノ九十條ニハドウ
規定シテアル公ノ秩序、善良ナル風俗ニ反スル
法律行爲ハ是ハ無效デアル、實際カラ言ヒマスレ
バ此民法ノ九十條ヲ徹底シマスレバ現在ノ特
別法規ハ無效トシナケレバナラヌト自分ハ信ズル
ノデアリマス、公娼制度ニ關シマシテノ特別法規
ハ明治三十三年ノ十月ニ內務省ノ娼妓取締規則
ト云フモノガアルノデアリマス而モ此取締規則
ハ現在ノ公娼制度トシテ現レテ居ル樓主ヤソレ
ヲ商賣トシテ營業シテ居ル所ノ人ヲ取締ルニ非ズ
シテ娼妓自ラニ對スル所ノ取締令トナツテ居ル
ノデアリマス假ニ姑ク民法ノ九十條カラ離レテ、
今日現存スル樓主ト、サウシテ娼妓トノ契約關係
上ヨリ論ジテ見マスレバ私ハ大審院ノ判例モサ
ウナツテ居リマスガ、雇傭契約ニ過ギナイ、卽チ
娼妓ト營業主タル樓主トノ所謂契約ハ雇傭契約
ト認ムルヨリ外ニ仕方ガナイ、雇傭契約トハ卽チ
勞務ヲ提供スルコトニ依ツテ成立スル契約デアリ
ママ、私ハ今日三十人以上ノ客ヲ取ツテ居ル彼ノ
憐レナル所ノ娼妓ノ行爲ヲ、諸君勞務ト認ムルコ
トガ出來ルカ、勞働ト認ムルコトガ出來ルカ、是
ガ卽チ既ニ大ナル疑問デアリマス、而モ雇傭契約
ノ原則ハ羅馬法、所謂奴隷制度カラ來ツタモノデ
アリマシテ、其根本ノ所謂奴隷的ノ感ジノスル契
約デハアリマスガ、私ハ現在ノ娼妓、彼ノ行爲ヲ
勞働ト見ルコトガ出來ナイ、勞務ト見ルコトガ出
來ナイ、サウシテ第二番目ニ甚ダオカシイト思ヒ
マスルノハ、多クノ娼妓ハ前借金ヲスル、卽チ樓
主ガ債權者デアル、其債權ニ對スル擔保ノ提供ハ
何デアルカ、私ハ現在ノ日本ノ此民法ノ精神カラ
考ヘマシテ、斯カル契約ヲ認ムルコトハ是ハ民
法九十條ノ精神ニ反シテ居ルト自分ハ思フノデア
リマス、卽チ債權ノ擔保ニ、最モ人倫ノ算ムベキ
貞操ヲ提供スルト云フコトハ是レ大ナル善良ノ
風俗ヲ攪亂スルモノデナイカト思フノデアリマ
ス而モオカシイノハ普通ノ債權債務ノ關係ヨリ
致シマスレバ多クハソレニ依ツテ得タル金ヲ其
債務者タル娼妓ガ先ヅ取ツテ、然ル後ニ之ヲ債權
者タル樓主ニ返スト云フ方法デナケレバナラヌ
此原則ヲ破ツテ、債權者タル者ガ之ヲ取ツテ、自
由ニ債權ニ充當スルト云フヤウナ不自然ナル事ガ
行ハレテ居ルノデアリマス、私ハ道德論ヨリ、サ
ウシテ神聖ナル法律ノ解釋ヨリシマシテ假令雇
傭契約デアルト云フコトヲ承認シマシテモ民法
ノ大精神ヨリ斯カル契約ハ無效デアルト當局者ハ
之ヲ判定シナケレバナラヌト自分ハ解釋ヲ下スノ
デアリマス、最モ酷イノハ現在ノ契約ニ於キマシ
テ、結婚ヲセザルト云フコトヲ條件トスルヤウナ
契約ガアツタナラバ是ハ勿論無效デアリマス樓
主ト娼妓トノ此雇傭契約ニ於キマシテ、或程結婚
ハ致シマセヌト云フ證文ハ入レテ居ナイ、併ナガ
ラ事實結婚テスルコトハ出來ナイコトニナツテ居
ルデハアリマセヌカ、若シ結婚シタル娼妓ガアル
トスルナラバ、正ニ姦通罪ガ成立スルカラデアリ
〒六法律論カラ致シマシテ、私ハ此所謂雇傭契約
ハ確ニ無效ト認ムベキモノデアルト自分ハ信ズ
ルノデアリマス、私ハ民法ノ九十條ノ解釋ヨリ、
今日ノ彼等ノ契約ハ無效デアル、其無效ナ契約ナ
以テ營業シテ居ルノヲ許スノハ當局者ガ惡イ、故
ニ今更此所デ公娼制度ノ廢止ヲ決議ヲシナイ迄
モ、正ニ政府ハ之ヲ取締ツテ公娼制度ヲ全滅シナ
ケレバナラヌト自分ハ思フノデアリマス、而モ茲
ニ面白イ「エビソート」ラ諸君ニ御紹介申シタ
イト思フ、私ハ明治ノ革新ニ於キマシテ、色ミ
ナ靑年政治家ガ思切ツタル斷行ヲシタルコトニ
對シテ非常ニ敬意ヲ拂フ斯クアツテコソ本當
ニ明治ノ革新ガ出來タンデアツテ、今日ノヤウ
ナ大震後ノ此議會ノ狀態デハ第二ノ維新ハ來ナ
イト自分ハ甚ダ憂ヘテ居ル、私ハ流石ニ明治維新
時代ノ政治家ハ偉カツタト今カラ思フ、ソレハ斯
ウ云フコトガアル明治五年ノ七月ノ事件デアリ
マス、「マリヤルーズ」ト云フ船ガ横濱ニ這入ツテ
來タ、其船ノ中ニハ祕露人ノ「ペロレー」ト云フ
人ガ二百三十人ノ支那ノ奴隷ヲ船ノ中ニ隱シテ來
タ所ガ隱レテ來ル苦痛ニ堪ヘナイノデ、ハイ
奴隷ガ海ニ飛込ンデ橫濱ノ沖デ逃ゲヤウトシタ、
之ヲ英國ノ船ガ救ツテ、日本ノ官憲ニ之ヲ渡シタ
コトガアル其當時橫濱ノ所謂神奈川縣令ガ大江
卓氏デアツタ、時ノ司法卿ノ江藤新平氏ガ此事件
ニ於キマシテ、一人ノ此奴隷ヲ救ツタノミナラズ、
思切ツテ-是ハ怪シカラヌ、祕露人ガ二百三十
人ノ奴隷ヲ一體連レテ來ルトハ怪シカラヌト斯ウ
云フノデ、二百三十人全體ヲ開放シテ支那ニ返シ
タ爲ニ非常ナ外交問題ヲ惹起シタ、其時ニ問題
ガ起リマシテ、到頭祕露政府ヨリ正式ニ日本ニ抗
議ヲ申出シタ、日本ノ外務當局モ困ツテ、到頭露
國皇帝ノ仲裁迄ガアツタノデアリマス、併ナガラ
當時ノ政府ハ斷乎トシテ之ヲ排シテ、到頭日本ノ
勝利ニ歸シタ、面白イノハ其時ニ祕密ノ政府カラ
日本ニドウ云フコトヲ言ツテ來タカ、人身賣買ハ
日本政府ノ公認スル所デアル、彼ノ吉原ヲ見ヨ、
洲崎ヲ見ヨト斯ウ言ツタヤウナ調子デ、勝ツコト
ハ勝ツタガ、日本ノ此公娼制度ヲ世界ニ發表シテ、
公ニシテ宣傳サレタノハ祕露政府デ、サウシテ時
ノ司法卿ハ成程ソコハ正直デ惡イ、確ニ自分ガ大
キナ顏ヲシテ此支那ノ奴隸ヲ開放シダノハ宜イケ
レドモ、成程考ヘテ見レバ日本ニモ人身賣買ハ現
在行ハレテ居ル、之ニ氣ガ付イタ、私ハ是ハ實ニ
江藤新平、流石偉イト思フ、明治五年ノ七月ニ斯ウ
云フ事件ガアツタニ拘ラズ、惡イト知リマシタノ
デ明治五年ノ十月二日ニハ直ニ成程忠イ、斯ウ云
フノデ太政官布告第一一百十五號、是ハ御參考ノ爲
ニ一ツ讀ンデ見タイト思フ第一ガ「人身ラ賣買シ
終身又ハ年期ヲ限リ其主人ノ存意ニ任セ虐使致シ
候ハ人倫ニ背キ有ルマジキ事ニ付古來制禁ノ處從
來年期奉公等種々ノ名目ヲ以テ奉公住爲致其實賣
買同樣ノ所業ニ至リ以テノ外ノ事ニツキ自今可爲
殿禁事」第二ガ「娼妓藝妓等年期奉公一切解放可致
右ニ付テノ貸借訴訟總テ不取上事」斯ウ云フ布告
ヲ出シテ居ルノデアリマス.而モ此布告ハ今決シ
テ反故ニナツテ居ナイノデアリマス、サウシテ太
政官布告トシマシテ之ヲ出シテ置イテ一面司法
省ノ告示第二十二號トシマシテ、是ハ先ノハ明治
五年十月二日デ、司法省ヨリハ明治五年ノ十月九
日ニ之ハ餘程面白イノデアリマス、序ニ讀ミマス
ガ第一ハ「人身ヲ賣買スルノハ古來ノ制禁ノ處
年期奉公等種々ノ名目ヲ以テ其賣買同樣ノ所業ラ
至ルニツキ娼妓藝妓席人ノ資本金ハ贓金ト看做ス
故ニ右ヨリ苦情ヲ唱フル者取糺シノ上其全額ヲ可
取揚事」實ニ面白イ斷案デアリマス、第二ガ「同上
ノ娼妓藝妓ハ人身ノ權利ヲ失フ者ニテ牛馬ニ異ナ
ラズ人ヨリ牛馬ニ物ノ返辨ヲ求ムルハ理ナシ故ニ
從來同上ノ娼妓藝妓ニ借ス所ノ金銀竝ニ賣掛滯金
等ハ一切責ルベカラザルコト」之ヲ詰リ當時ノ司
法卿江藤新平氏ガ出シテ居ルノデアリマス、明治
五年ニ斯ノ如キ斷乎タル特別命令ヲ出シテ居ルノ
デアリマシテ、サウシテ明治三十三年ニ現存ノ所謂
藝娼妓ノ取締規則ガ出テ居ルノデアリマス、私ハ
憲法ニ於キマシテ天皇ノ大權トジテ第九條ニ、議
會ニ於キマシテ協賛シタル以外、議會ニ於キマシ
テ協賛シタル法律、其法律ノ精神ヲ能ク徹底ズル
ヤウニ各省或ハ警視廳、其他ノ官衙ハ命令ヲ出シ
マス此命令ハ天皇ノ大權ニ屬スル事項デアツテ
勿論有效デアリマスケレドモ其命令ガ若シ法律
ノ本則ニ違反シタル時ハソレハ無效デアル斯カ
ルコトヲ命令スルコトハ出來ナイ、私ハ一面カラ
云ヒマスレバ現在ノ公娼制度ニ關スル色〓ナ警視
廳令其他ガアルカ知レマセヌガ、サウ云フモノハ
全部民法ノ大本ヨリ、而シテ太政官達、若クハ司法
省告示等ノ精神ヨリシマシテ、現在ノ別段廢止ノ
法律ヲ規定セナイ迄モ、私ハ無效デアルト信ズル
ノテアリマス、サウ云フ意味ニ於キマシテ、私バ明
治ノ初年江藤司法卿ガ取ツタヤウニ、此大震災ノ
革新スベキ時ニ御互ガ笑ツテ斯ウ云フ問題ヲ討議
ニ當ツテ議スルデナク、眞ニドウカシテ此新東京
ニ-日本ノ中心ニ精神的文化ノ中心ヲ造ル爲ニ
ハ斯ウ云フ問題コソ本當ニ、眞面目ニ御互ニ議
員ガ収扱フベキモノデハナイカト自分ハ思フノデ
アリマス、總テ黴菌ヲ燒盡シタ此東京ノ焦土ニ再
ビ斯カル吉原ヤ洲崎ヲ實現スルト云フコトハ澤山
ノ同情、〓イ金ヲ以テ此東京ヲ救ハントシタ或ハ
亞米利加、英國、其他ノ人ニ對シテ濟マナイト自分
ハ一面カラ思フノデアリマス實際諸君、一人ノ憐
レナル娼婦ガ居ル、三十人、四十人ノ客ヲ取ツテ其
絞ル金カラ稅金ヲ取ルヤウナコトデ其稅金デ何
デ日本ノ本當ノ國ガ文化ニ導カレマセウガ私
サウ云フ意味カラ法律論ト致シマシテモ、實際論
ト致シマシテモ、今更制度ヲ廢止スベキ法律ハ作
ラナクトモ、旣ニ廢止スベキモノデアルト云フ前
提カラ、其實行方法トシテ最モ賢イ、先ヅ第一ニ
焦土カラ許サナイデ、段々ト之ヲ廢シテ行クト云
フ、斯ウ云フ公娼制度ノ絕對的全廢論ヨリ推シマ
シテ、此原案ニ對シテ非常ナル贊成ノ意ヲ表スル
一人デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=25
-
026・高見之通
○高見之通君 本案ハ森恪君外三名提出、相模西
部ノ復興ニ關スル建議案ノ委員ニ併セテ付託セラ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=26
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027・中野寅吉
○中野寅吉君 議長、私ハ質疑ノ通告ヲ致シテア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=27
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028・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 中野君カラ質疑ノ通告ガア
リマスカラ、ソレヲ許シマス-中野君-早
ク.
〔「登壇」「登壇」ト呼フ者アリ〕
〔中野寅吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=28
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029・中野寅吉
○中野寅吉君 私ハ極ク簡單ニヤリマス、先ヅ提
案者ニ對シテ私ハ質疑ヲシマスガ、是ハ何デスカ、
其······燒失遊廓再興不許可トアル是ハ燒ケタヾ
ケノ遊廓ヲ不許可ニシテ、ソレデ公娼ノ制度ガ廢
メラレテシマフト云フノカ、燒ケタノヲ幸トシテ
サウスルノカ、サウ云フ情ケナイ事ヲスルモノデ
ハナイ(「ヒヤ〓〓」拍手)本當ニ公娼ト云フコトハ
人道ニ反スルモノデアル我ガ日本帝國ノ爲ニナ
ラヌ、何カ其世界ノ人道トカ、又其外國ノ詰ラナ
イ分ラナイ言葉デ言ウタケレドモ、俺ハ外國語ナ
ドハ知ラヌ奴デアルカラ分ラナカツタガ、日本帝
國ノ國會デ議論スル時ハ帝國ヲ本位トシナケレ
バナラヌ-帝國ノ爲ニナラヌト云フ公娼デアツ
タナラバ、何ガ故ニ吉原、洲崎ダケニシテ、他ノ
モノヲ置イテ宜イカ、ケツメドノ小サイコトデ、
是デモ國會議員ト言ハレルノカ、卽チ吉原、洲崎
ノミヲ廢シテ、燒失シタ遊廓ノ再興ヲ認メナイ
デ、各府縣ノ娼妓制度ハ之ヲ認メテ居ル斯ウ云
フノカ是ガ徹底シナイ、不徹底ダカラシテ僕ハ
此質問ヲスル、ソレカラ松山君ハ今、朝鮮ニ居ル
ガ、アナタノ居ラレル其朝鮮ノ新附ノ民ヲ助ケル
ト云フヤウナ精神モ、是ハ帝國ノ國會議員トシテ
必要ダ、此壇上デ君ガ吉原、洲崎ノ話ヲスル前ニ、
先ヅ以テ朝鮮ノアノ奴隷制度ニ等シイ所ノモノヲ
何故改革シナイ、朝鮮ノ兩班ト稱スルモノハ十二
三ニナル見目容ノ好イ者ヲ五十圓、六十圓ノ金ヲ
出シテ、未グ性慾ヲ知ラヌ奴ヲ買ツテ行クデハナ
イカ、其足許カラシテ綺麗ニシテ、サウシテ此吉
原ノ話、東京ノ話テシタ方ガ私ハ宜カラウト思フ
(笑聲)徹底シナイ、星島君ハ法律家トシテ私ハ
知ツテ居ツタカ、詰ラヌコトヲ言フ姦通罪ハ女ニ
成立スル男ニ成立セヌト言フ、サウ云フヤウナ
コトハ決シテナイ-速記錄ニチヤントアル-
夫ガ他ノ女ニ對スル場合ニモ姦通罪ハ成立シマ
ス夫ガ他ノ妻ニ對シテサウ云フコトラシテハ成
立シマス法律家ト云フ者ハサウ云フコトヲ言ツ
テハ餘リ安ツホツナルト私ハ思フノデアル、ソレ
デモ宜シイノカ、斯ウ云フノデス、ソレカラ統計
ラ擧ゲテ、群馬縣ハ壯丁ニ花柳病患者ハナイト云
フ併シソレハ經路ヲ糺シテ見ルベキコトデア
ル花柳病ニ感染シタ時ト壯丁檢査ノ間ニハ御
醫者樣ニ掛ツテ癒ホシテ貰フト云フ經路ガアルノ
デアル(ニヒヤ〓〓」)群馬縣ニ於ケル所ノ外科醫者
ノ跋扈シテ居ル有樣ヲ見テモ、群馬縣ハ如何ニ花
柳病ガ盛ンデアルカト云フコトガ分ツテ居ルデハ
ナイカ(「ヒヤ〓〓」「ノウ〓〓」)ソレカラモウ一ツ
言ヒタイコトハ、壯丁々々ト言ツテ壯丁計リヲ此
花柳病ノ標的ニスルノハ是ハイカヌ壯丁外ニ
不良老年ト云フモノガアル(拍手)卽チ壯丁ノ滿二
十歲ニナル迄ノ間ハ先ヅ地方ナラバ親ニ內證デ米
ノ二斗モ胡麻化シテ賣ツテ、。ウウシテ漸ク勞ヲ休
メニ行クノデアル、ソレヲ今度一家ノ戶主ニナル
ト人ニ借用證文ノ書方モ覺エレバ人ニ分ラズ
ニ、サウ云フ方ノ目的ヲ達スル爲ニ行ク者ガ、却
テ此病毒ニ感染ヲシテ居ル、然ルニ壯丁ニ徵毒ガ
無イカラ不良老年ノ方ニモ無イト斷ズルノハ、是
ハ全ク事實ヲ知ラヌ所ノ議論デアルト言ツテモ私
ハ宜シイト思フ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=29
-
030・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 中野君注意致シマス、アナ
タハ質疑ノ通告デアリマス討論ノ通告デハナイ
ノデアリマスカラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=30
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031・中野寅吉
○中野寅吉君(續) 是ガ質疑ニナルノデアリマス
ガ議長ノ御注意ヲ尊重致シマシテ、私ハモウ少シ
二三分、時計ヲ見テ置イテヤリマス-ツレカラ
斯ウ云フモノヲ廢シテ、自由ニ此性慾ノ滿足ヲ得
ル所ノ場所ヲ開放スルコトヽナツタナラバ世ノ
中ノ風紀ト云フモノガ紊レルノデアル、良家ノ子
女ガ第一ニ害サレル御覽ナサイ、人間慾ノ中デ
一番猛烈ナル慾ハ、何デアルカト云ヘバ性慾デバ
ナイカ雲井龍雄ト云フ偉イ人ガ居ツタ、安井息
軒ト云フ儒者ニ就テ學ンダトキ一年程經ツラ安
井息軒ノ前ニ雲井龍雄ガ出タ、其時迄ハ先生ニハ
何事モ質問ヲシナカツタガ、先生一ツ御伺ヒカア
リマス、何ダ、私ハ······(「質疑ニアラズ」ト呼フ
者アリ)質疑ダ、是ガ質疑ニナルノダ、君ハ吉原
廢止論ナドラヤルト落選スルヨ(「帝國議會ダ眞面
目ニヤレ」ト呼フ者アリ)眞面目ニ聽ケ-雲井
龍雄ガ安井息軒ニ問ウテ曰ク、私ハ色慾ラ制スル
ノガ一番難事ト思ヒマス、之ヲ制スルノハドウシ
タラ宜シウゴザイマセウト言ツテ、安井息軒ニ雲
井龍雄ガ聽イタ、其時ニ安井息軒ハオ前ハ一年以
上モ此處ニ居ルカラ何カ質問シテ來ルト思ツテ居
ツタガ、私ハソレヲ待ツテ居ツタ、サウシテ安井
息軒答ヘテ言フニハソレハ極ク易イ事デアル
卽チ人間一生懸命ニナラナイカラ色慾ト云フ茲ニ
邪念ガ發スルノデアル利口ナ雲井龍雄ダカラシ
テ飜然トシテ悟ツテ一生懸命ニナツタ、諸君、安
井息軒ノ如キ、雲井龍雄ノ如キ偉イ人ニシテ、初
メテ此性慾ハ制シ得ラレタト私ハ思フ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=31
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032・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 中野君-中野君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=32
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033・中野寅吉
○中野寅吉君(續) 其性慾ノ滿足ヲ得ント欲シテ
之ヲ滿タスベキ場所ガナカツタナラバ、良家ノ細
君、良家ノ娘マデモ或ハ害サレルヤウニナル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=33
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034・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 中野君、質疑デナイカラ注
意致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=34
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035・中野寅吉
○中野寅吉君(續) ソレカラモウ一ツ、此公娼制
度ガ徵稅ノ目的デアルト云フ····
〔「中止」「中止」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=35
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036・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 中野君-中野君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=36
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037・中野寅吉
○中野寅吉君(續) 中止デアリマスカ-議長ハ
注意ト云フノニ、アナタ方ハ中止ト云フガ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=37
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038・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 注意ヲ肯カナケレバ中止ヲ
命ジマス
〔「注意ダ」「注意ダ」「簡單」「簡單」ト呼フ者
アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=38
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039・中野寅吉
○中野寅吉君(績) 簡單ト言ハレヽバ、マダ殘ツ
テ居ルノデ、私ハ簡單ニヤラウト思ツテ居ルノデ
ス、ソレカラ公娼制度ガ徵稅ノ目的ダト云フコト、
ソンナ箆棒ナ話ガアルモンヂヤナイ、是ハ全ク人
間ノ性慾デスネ、性慾ノ滿足ヲ得ル能ハザル者ニ
對シテ、性慾ノ滿足ヲ得セシメルト云フ所カラ出
來タモノダー是ハ稅金ヲ取ル目的デモ何デモアリ
マセヌゾ、仕方ガナイデハナイカ、人間ガ斯ウ云フ
時ニ、人間ト云フ此身體ノアル以上ハ、ソイツヲ
各方面ニ調和シテ、サウシテ堰ケバ溢ルヽト云フ
ヤウナ、此危害ノナイヤウニシテ行タノガ私ハ宜
カラウト思フ、卽チ公娼制度ヲ廢シテ性慾ノ滿足
ヲドウ云フ制度デ以テ得セシメルト云フノカ、是
ハ松山君ト贊成シタ星島君ニ私ハ聽ク、公娼ヲ廢
止シテ、ソンナラバ自由自在ニ性慾ヲ各方面ニ逞
ウセヨト云フノカドウカ、ソレデハ破壞論デアル
私ノ言フコトハ一通リ理窟ハ有ルト思フ、宜シク
之ニ對シテ答辯ヲ願ヒタイ、発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=39
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040・高見之通
○高見之通君 議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=40
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041・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 松山君ガ今答辯セラレマス
〔「無用」「無用」「ヤレ〓〓」ト呼フ者アリ〕
〔松山常次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=41
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042・松山常次郎
○松山常次郞君 只今ノ中野君ノ質問ニ對シテ、
簡單ニ御答致シマス、吉原、洲崎ノミヲ廢メヨト
云フコトハイケナイト云フ御議論デアリマシタ、
私ハ一番初メニ、私ノ議論ノ目的ヲ闡明シテ置イ
タ筈デアリマス、卽チ公娼制度ノ撤廢ト云フコト
ガ目的デアリマス、唯〓復興議會ニ於テ差當リ
爲スベキ事トシテハ吉原、洲崎ダケラ今廢メナ
ケレバナラナイト云フノデアリマス、次ニ第二ノ
朝鮮ノ兩班云々ノ事ガアリマシタガ、是ハ答ヘマ
セヌ、必要ガナイト思ヒマスカラ答ヘマセヌ、ソ
レカラ群馬縣ニ於ケル花柳病患者ノ事ニ付キマシ
テ私ノ引イタ例ヲ論駁セラレマシタ、其論駁ト致
シマシテハ、私ノ確ナ數字ニ對シテ中野君ハ數字
ヲ以テ考ヘテ居リマセヌ故ニ、是ハ有力ナル論駁
トハ思ヒマセヌ、唯〓不良老年ノコトヲ申サレマ
シタガ、不良老年ノ爲ニ公娼制度ヲ置ク必要ハ無
イト思ヒマス次ニ中野君ハ雲井龍雄ノ事、安井
息軒ノ事ニ付テ御話ニナリマシタガ、是ハ私共ガ
此公娼制度ヲ廢シ、性慾ヲ或ル程度ニ制スルト云
フコトニ付テ、靑年ノ思想ヲ向ケタイ、第一ノ私
共ノ論ゼントスル所ヲ言ウテ下サツタノデアリマ
ス唯〓之ヲ例ニ引カレタ中野君ノ目的ハ是ハ
絕娼論ノ論駁ニナツテ居リマスガ、廢娼論ノ論駁
ニハナツテ居リマセヌ、吾々ハ絕娼論ヲ唱ヘテハ
居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=42
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043・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見之通君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=43
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044・高見之通
○高見之通君 念ノ爲メ先刻ノ動議ヲモウ一度繰
返シマス本案ハ森恪君外三名提出ノ、相模西部
復興ニ關スル建議案外二件ノ委員ニ併セ付託セラ
レンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=44
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045・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ御異議ナ
シト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=45
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046・鈴木錠藏
○鈴木錠藏君 議事進行ノ事ニ付テ發言ヲ求メマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=46
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047・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 鈴木君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=47
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048・鈴木錠藏
○鈴木錠藏君 只今中野寅吉君ノ御演說ハ用語ガ
卑猥ニ亙リマシテ、議會ノ品位ヲ傷ケルモノガ大
分アルヤウニ思ヒマスサウ云フ箇所ガアリマス
ナラバ速記錄カラシテ削除アランコトヲ希望致
シマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=48
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049・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 議長ニ於テモ能ク取調ベテ
注意シマス、日程第十一、農務省新設ニ關スル建
議案、本案ハ提出者ヨリ延期ノ申出ガアリマス
之ヲ許スニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=49
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050・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマス、仍
テ延期致シマス、尙ホ此際先刻後廻シニ致シテ置
キマシタ日程第八、輸入稅免除廢止ニ關スル建議
案ヲ議題ト致シマス土井權大君
第八輸入稅免除廢止ニ關スル建議案
(小橋藻三衞君外一名提出)
輸入稅免除廢止ニ關スル建議案
輸入稅免除廢止ニ關スル建議
外國ヨリ輸入スル米大麥小麥及コンデンスドミ
ルク輸入稅ノ免除ハ國內ニ於ケル其ノ價格ヲ壓
迫シ農村ヲシテ一層窮苦ニ陷ラシムルノ虞アル
ヲ以テ政府ハ速ニ是等輸入稅ノ免除ヲ廢止スヘ
シ
右建議ス
〔土井權大君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=50
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051・土井權大
○土井權大君 極メテ簡單ナ建議デアリマス、卽
チ我ガ革新倶樂部ヨリ致シマシテ、輸入稅免除廢
止ニ關スル建議ノ提出ヲ致シテアリマス、其說明
ノ理由デアリマスガ、極メテ簡單デアリマス、御
承知ノ通リ震災以前迄ハ、外國カラ米ガ輸入サレ
ル場合ニ、一石ニ付二圓五十錢ノ關稅ヲ取ツテ居
ツタノデアリマス、ソレカラ大麥ハ百斤ニ付五十
五錢、小麥ハ百斤ニ付七十七錢、「コンデンスミ
ルク」ハ五圓五十五錢ハ斯ウ云フコトニ相成ツテ
居ツタノデアリマスガ、震災ノ爲メ政府ニ於テ
ハ是等〓料品ノ分量ヲ多カラシムルト云フ目的
ト一方ニハ其價格ノ上ルノヲ防グト云フ目的
ヲ以テ其關稅ノ撤廢ノ爲ニ、一ハ緊急勅令ヲ
出シ、一ハ米穀法ヲ適用サレタノデアリマス卽
チ此米ノ關稅廢止ハ米穀法第二條ニ依ツテ廢
止ヲシタノデアリマス、大麥、小麥、「コシデシス
ミルク」等ハ緊急勅令第四百十一號ニ依ツテ、此
輸入稅ヲ免除シタノデアリマス面シテ此期限
ハ明年三月三十一日迄、斯ウ云フコトニナツテ
居ル併ナガラ最早今日ハ御承知ノ通リ餘程復興
モ出來、世ノ中モ平和ニ治リ、而シテ一方此農村
ハドウデアルカト云ヘバ御承知ノ通リ非常ニ窮
狀ニ陷ツテ居ル特ニ此小麥、大麥ト云フガ如キ
モノハ農業ニ於ケル所ノ冬作デアリマシテ、米
ノ安クナルヨリモ寧ロ此小麥、大麥ガ安クナリマ
シタナラバ農村勞働者、竝ニ小作勞働者ガ困ル
コトハ御承知ノ通リデアリマスドウシテモ是等
ノ關稅ヲ免除スルト云フガ如キコトニ相成リマシ
テハ農村ヲ苦メルノミナラズ、農業勞働者ヲ苦
シメ、且又此小作爭議ト云フノヲ頻發セシムル
ノデアリマス、「コンデンスミルク」ニ致シマシテ
モ其通リデアリマス、是モ農家ノ副業デアリマス
仍テ吾々ハ輸入稅免除廢止ニ關スル建議ト致シマ
シテ、「外國ヨリ輸入スル米、大麥、小麥及コンデ
ンスド、ミルク輸入稅ノ免除ハ國內ニ於ケル其
ノ價格ヲ壓迫シ、農村ヲシテ一層窮苦ニ陷ラシム
ルノ虞アルヲ以テ、政府ハ速ニ是等輸入稅ノ免除
ヲ廢止スヘシ、右建議ス」是グケデアリマス、革
新倶樂部カラ提案シタノデアリマスケレドモ、事
ハ農村一般ニ關係ノアルコトデアリマスガ故ニ、
ドウゾ滿堂ノ御贊成ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=51
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052・高見之通
○高見之通君、 本案ハ非常徵發令、承諾ヲ認ムル
件外一件ノ委員ニ併セテ付託セラレンコトヲ望ミ
マス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=52
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053・粕谷義三
○議長(粕谷義ニ 君)高見君ノ動議ニハ御異議ナ
シト認メマス仍テ動議ノ如ク決シマシタ-次
ハ日程第十二、農村振興ニ關スル建議案ヲ議題ト
致シマス、鵜澤宇八君
第十二農村振興ニ關スル建議案(大津
淳一郎君外十一名提出)
農村振興ニ關スル建議案
農村振興ニ關スル建議
近時生活ノ向上ト物價ノ騰貴トハ農業生產費ヲ
著大シ公課ノ增加ト相伴ヒ農村ヲシテ疲弊困憊
ノ極ニ陷ラシメムトス國家ノ爲誠ニ深憂ニ耐ヘ
ス政付ハ宜シク前期議會衆議院多數ノ建議ニ鑑
ミ更ニ農村不振頽廢ノ實狀ニ察シ之カ根本的對
策ヲ立テ速ニ其ノ實行ヲ期セムコトヲ望ム
右健議ス
〔鵜澤宇八君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=53
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054・鵜澤宇八
○鵜澤宇八君 會期モ切迫致シテ居リマスル此場
合デアリマスルカラ、極メテ簡單ニ其要領ノミヲ
申上ゲテ置キマス諸君、今日ノ地方農村ハ實一
疲弊困憊ノ極ニ陷ツテ居ルノデアリマス、生產費
ガ嵩ムノニ、其收益ハ甚ダ少ナイノデアリマスル
然ルニ物價ハ騰貴致シテ居リマスルガ爲ニ、種々
ノ生活費ニ追ハレテ、公租諸役ノ重稅ニ苦シミ子
弟ノ〓育等ニモ非常ナ多額ノ金ヲ要スルノデ、地
方ノ農村ノ困難ナ狀況ト云フモノハ實ニ名狀ス
ベカラザルモノガアルノデアリマス、吾々ノ地方
ニ一ツノ通語ガアリマスルガ、農家ニ於キヾシテ
ハ稼グニ追付ク貧乏ナシト能ケ言フタモノデア
リマス、稼ギマスレバ必ラズ貧乏スルモノデナイ、
身上ハ殘ルモノデアルト云フ、一ツノ農家ヲ勵マ
ス所ノ言葉デアリマス、然ルニ地方ノ農村ハナン
ボ働イテモ金ガ殘ラナイ寧ロ苦シミツヽアルノ
デアリマス全ク地方ノ農民ハ朝ハ鷄鳴ニ出デ、夜
ハ星ヲ戴イテ歸ル斯ノ如ク能ク朝暗クカラ夜迄
働イテモ、生活ノ安定ヲ得ルコトガ出來ナイノガ
現在ノ狀況デアルノデアリマス諸君、此働イテモ
働イテモ生活ガ出來ナイ安定ヲ得ルコトノ出
來ナイ結果ト致シマシテ、地方ノ農民ノ中デ
ハ多年住慣レタ所謂祖先傳來暮シテ居ツタ所
ノ郷關ヲ後ニシテ、卽チ親戚故舊ニ別レ、墳墓
ノ地ヲ離レテ、中央ニ出テ勞働ニ從事スルト云
フヤウナ者モ多々アルノデアリマスル、此結果
ドウナルカト云フト、地方ノ農村ハ荒廢ニ歸スル
ノデアリマス、良田ガ全ク狐狸ノ棲息スルト云フ
ヤウナ場所モ出來ルノデアル、其結果ト致シマシ
テハドウナルカト云フト、卽チ人口ハ御承知ノ通
リ年々增加スルニモ拘ラズ、其生產ガ少クナツタ
ナラバ往年騷動ヲ起シタヤウニ又米騒動ヲ起
スヤウナ事モ無イトモ限ラナイノデアリマス是
ハ單リ地方農村ノ事バカリデハアリマセヌ、都市
民ノ最モ思ヲ此ニ致サナケレバナラナイノデアリ
マスル此意味ニ於キマシテ、卽チ今春ノ議會ニ
於キマシテモ、滿場一致ヲ以テ農村振興ノ決議ヲ
致ンタノデアリマスルカラ、政府ハ此意味ヲ採ツ
テ、速ニ農村救濟ノ根本政策テ立テ一日モ早ク
ク農村ノ安定、農村民ノ生活ノ安定ヲ得ルコトニ
圖ラレルコトヲ切ニ希望スルノデアリマス、極ク
簡單ニ此一言ヲ以テ本建議案ノ趣旨ト致スノデア
リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=54
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055・高見之通
○高見之通君 本案ハ森恪君外三名提出、相模西
部ノ復興ニ關スル建議案外四件ノ委員ニ併セ付託
セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=55
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056・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニ御異議ナシ
ト認メマス仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程
第十三、震災地方復興ニ關スル建議案ヲ議題ト致
シマス、提出者吉植庄一郎君
第十三震災地方復興一ニ關スル建議案
(吉植庄一郞君外二十四名提出)
震災地方復興ニ關スル建議案
震災地方復興ニ關スル建議
神奈川縣郡部千葉縣埼玉縣靜岡縣由梨縣ニ於ケ
ル這回ノ震災地方復興ニ關シ政府ハ速ニ適當ノ
案ヲ立テ次期議會ニ提出セラレムコトヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=56
-
057・吉植庄一郎
○吉植庄一郞君 當席ヨリ簡單ニ建議案ノ趣意ヲ
申述ベマス、政府ガ今回ノ大震火災ニ付テ、旣ニ
帝都復興ニ關スル豫算及法律案ヲ提出セラレ數
日前ニ本院ノ院議ヲ以テ修正セラレタ、然ルニ神
奈川縣、千葉縣、埼玉縣、靜岡縣、其他ノ同ジク
今回ノ災害ニ罹ツタル地方ニ對シテハ從前ノ法
律ニ依ツテ、地方廳ノ出願ニ對スル若干ノ補助貸
付等ヲ政府ガ致シテハ居リマスケレドモ、是ハ極
メテ輕微ナルモノデアツテ、應急的ノ施設ニ過ギ
ナイノデアリマス、政府トシテ今回ノ大震災ニ
對シテ、中央帝都ノ復興ノミノ經費ヲ要求シ、計
畫ヲ定メタノデアリマシテ、未ダ地方ニ對シテハ
政府ノ施設トシテ見ルベキモノナキコトヲ甚ダ遺
憾ト致シテ居リマス、故ニ來ルベキ通常議會ニ對
シテ、政府ハ速ニ地方ノ災害復興ニ對スル計畫ヲ
定メテ提出セラレンコトヲ希望スルト云フ趣旨デ
アリマス、何卒諸君ノ御贊成テ希ヒマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=57
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058・高見之通
○高見之通君 本案ハ森恪君外三名提出、相模西
部ノ復興ニ關スル建議案外五件ノ委員ニ併セ付託
セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=58
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059・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ御異議ナ
シト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日
程第十四、震災地方復興ニ關スル建議案ヲ議題ト
致シマス、小泉又次郎君
第十四震災地方復興ニ關スル建議案
(小泉又次郞君外十三名提出)
震災地方復興ニ關スル建議案
震災地方復興ニ關スル建議
横須賀市神奈川縣郡部千葉縣埼玉縣靜岡縣山梨
縣ニ於ケル這回ノ震災地方復興ニ關シ政府ハ速
ニ適當ノ案ヲ樹デ次期議會ニ提出セラレムコト
ヲ望ム
右建議ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=59
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060・小泉又次郎
○小泉又次郞君 簡單デアリマスカラ、自席デ說
明ヲ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=60
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061・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=61
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062・小泉又次郎
○小泉又次郞君 本案ハ只今吉植君ガ其理由トシ
テ御述べニナリマシタ通リノ同一ノ案デアリマ
ス唯震災地方ノ區域範圍ニ於キマシテ、吉植
君ノ案ハ神奈川縣郡部、千葉縣、埼玉縣、靜岡縣、
山梨縣、斯樣ナ處ニ及ンデ居リマスガ、其意ハ蓋
シ東京橫濱ヲ除イタル震災害地全部ヲ合セルト云
フニハ相違ナイノデアリマスガ、其字句ノ上ニ於
キマシテ、神奈川縣郡部トゴザイマスト神奈川
縣中最モ被害ノ激甚ナル橫須賀市ヲ除クノデアリ
マスカラ、特ニ私ノ案ト致シマシテハ橫須賀市
ヲ入レタノデアリマス、其理由ハ重ネテ申上ゲマ
セヌ、吉植君ノ御述べニナリマシタ通リノ理由デ
アリマス、何卒御審議ノ上御賛成アランコトヲ希
望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=62
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063・高見之通
○高見之通君 本案ハ森恪君外三名提出、相摸西
部ノ復興ニ關スル建議案外六件ノ委員ニ併セ付託
セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=63
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064・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見若ノ動議ニ御異議ナシ
ト認メマス仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程、
第十五、決議案ヲ議題ト致シマス、提出者原夫次
郞君
第十五決議案(廢止緊急勅令提出ノ件)
(原夫次郞君提出)
決議案
決議
政府ハ大正十二年勅令第三百九十八號大正十二
年勅令第四百四號及大正十二年勅令第四百七十
八號ヲ帝國憲法第八條第一一項ニ基キ速ニ帝國議
會ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムヘキモノトス
右決議ス
〔原夫次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=64
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065・原夫次郎
○原夫次郞君 本員ハ只今上程セラレタル決議案
ノ理由ヲ開陳スル、ニ先ダチマシテ、本員ガ茲ニ此
決議案ヲ提出致シマシテ、之ヲ院議ニ訴フルコト
ノ洵ニ已ムヲ得ザルニ出デタルコトヲ深ク遺憾ト
スル者デアリマス、サリナガラ事ハ我帝國議會審
議權ニ關スル極メテ重大ナル事柄ニ關シテ居リマ
スルガ故ニ吾々六千万國民ノ代表者ト致シマシ
テ、之ヲ看過スルコトガ出來ナイ爲デアリマス
世界何レノ立憲國ニアリマシテモ、必ズヤ政府ト
議會トハ亙ニ相獨立シ、亙ニ對峙致シテ居リマシ
テ、此二ツノ獨立ノモノハ時ニ其勢力ノ消長ガ
アリ、或ハ强弱ガアリマシテ或ハ官僚政治ノ實
現トナリ、或ハ又議院政治ノ實現トナルコトガア
ルニ致シマシテモ、是ハ洵ニ己ムヲ得ナイ時ノ勢
力關係ニ過ギナイノデ、若シ議會ノ勢力ガ實際ニ
强大デアリマスルナラバ必ズヤ議院政治ガ實現
セラレザルヲ得ナイ、歐羅巴各國ノ議院政治ノ如
キモノハ卽チ是デアリマス、之ニ反シテ若シ君權
ノ方ガ實際勢力ガ强大デアリマスル時ニハ
爲ニ帝國議會ナルモノハ此勢力ノ壓迫ヲ受ケマ
シテ、常ニ官僚政治ガ實現ヲ致スノデアル
サリナガラ斯ノ如キハ唯〓一時ノ勢力ノ均衡
如何ト云フコトニ原因スルノデアリマシテ
先程申述ベマシタル如ク、立憲治下ニ於ケル政府
ト議會ト相對立致シテ居ル所ノ各自ノ權限其モノ
一ハ些少タリトモ影響ハ無イノデアリマス我
立憲政治ノ下ニ在リマシテハ政府ト議會ノ各自
ン權限ニ付テハ大日本帝國憲法ノ條章ニ明ニ
示シテアル所デアリマシテ、此憲法ノ條章ニ依リ
マシテ、各自其權限ヲ超越スルトカ或ハ其間ニ
些少タリトモ蹂躪若クハ侵害等ノ事ハ斷ジテ許サ
ナイノデアリマス而シテ、我日本帝國憲法第八
條ノ規定ヲ以チマシテ、政府ニ許ス所ノ所謂緊急
勅令ノ規定事項ナルモノハ憲法第五條、第六條、
第三十七條等ノ規定ヲ綜合統轄致シマシタ時ニ
ハ其規定事項ハ必ズヤ帝國議會ノ同意ヲ要スベ
キ所謂法律事項デアルノデ、決シテ天皇ノ大權
ニ專屬スベキ所謂勅令事項ナルモノデハナイノデ
アリマス、是ハ我憲法上一貫シタル所ノ法律精神
デアルノデアル唯一.國家非常ノ場合ニ於キマシ
テ、帝國議會ノ同意ヲ得ルコトガ出來ナイ、所謂
緊急ノ場合ニ際會致シマシテ、一時的若クハ暫定
的ニ此法律事項ヲ勅令ニ依リマシテ發令スルコト
ヲ得セシメテアル所ノ、眞ニ事情已ムヲ得ザル緊
急必要ニ處スル所ノ所謂立法ノ權道デアルノデア
ル故ニ憲法第八條ニ於キマシテハ、其第二項ニ依
リマシテ、此緊急勅令ハ政府ヲシテ必ズヤ之ヲ次
ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出スベキコトヲ命ジテ
居ルモノデアル、是ハ申ス迄モナク、憲法ガ斯ル
立法ノ權道ニ出デタルモノハ成ベク早ク之ヲ立
法ノ本然ニ復歸セシメンコトヲ期シタルガ爲デア
ルノデアル故ニ其緊急勅令ハ旣ニ廢止ニ歸シタ
ルモノ卽チ譬ヘテ申スナラバ一旦發シマシタ
ル緊急勅令令後ノ廢止令ニ依ツテ廢止シタルモノ
ハ固ヨリノ事、又一旦發シタル緊急勅令ガ、其緊
急勅令ノ規定自體ニ於テ、帝國議會開會前ニ旣ニ
其效力ヲ失ウテ居ツタモノデアリマシテモ、現.
效力ヲ存シテ居ル緊急勅令ト等シク、政府ハ皆之
ヲ次ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出シテ、其事後承
諾ヲ求メナケレバナラナイ筋合ノモノデアルノデ
アル而シテ若シ其議會ニ提出シタル勅令ニ致シ
マシテ、其勅令自體ニ於テ提出前ニ旣ニ效力ヲ失
フタルモノ若クハ其提出前ニ旣ニ廢止勅令ニ依
ツテ其效力ガ廢止セラレタルモノデアツタナラ
バ議會ノ審查ニ委セ、承諾ヲ與ヘタルモノハ政
府ノ責任解除トナリ、又承諾ヲ與ヘザリシ所ノモ
ノハ其效力ハ其儘何等影響スル所ナクシテ、唯
政府ノ責任ガ殘ルダケデアリマス、此外ニ若シ
其提出勅令ニシテ尙ホ現ニ效力ノ存續シテ居ルモ
ノニ付キマシテハ議會ガ之ニ承諾ヲ與ヘマシタ
ナラバ其勅令ニ關シ政府ノ行爲ヲ是認シ、政府
ノ責任ヲ解除シ、將來其勅令ヲ法律トシテ確定ノ
效力ヲ持タスノデアリマシテ、議會ガ若シモ之ニ
承諾ヲ與ヘナカツタナラバ將來ニ向ツテハ全ク
效力ヲ失フノデアリマスカラ、憲法第八條第二項
後段ニ於キマシテハ特ニ議會ニ於テ承諾ヲ與ヘ
ザル時ハ政府ハ固ヨリ將來ニ向ツテ其效力ヲ失
フコトヲ公布セナケレバナラヌト云フコトヲ命ジ
テアルノデアリマス、故ニ此憲法第八條第二項末
段ノ規定ガアリマス爲ニ、政府ハ旣ニ效力ヲ失フ
タル緊急勅令ヲ帝國議會ニ提出セズシテ可ナリト
ノ理由ノ根據ト爲スコトハ出來ナイノデアリマ
ス、言葉ヲ換ヘテ申スナラバ旣ニ效力テ失フタル
緊急勅令ヲ帝國議會ニ提案セズシテ可ナリトノ此
第八條ノ推理解釋ハ、同條ノ規定自體ニ於キマシ
テ、斷ジテ斯ル解釋ヲ强要スベキモノデハナイノ
ミナラズ、却テ同條ノ規定ノ性質上、假令效力ヲ失
ウタルモノデアルト否トニ拘ラズ、苟モ緊急勅令
タル以上ハ、悉ク皆帝國議會ノ立法審議權ニ屬ス
ルノ故ヲ以チマシテ、政府ハ之ガ事後承諾ヲ求メ
ンケレバナラヌト云フ結論ヲ生ズルノデアリマ
ス此事ハ旣ニ憲法ノ立案者デアル所ノ伊藤公ノ
憲法義解ニモ明ニ註釋致シテアリマスルガ如
ク若シ政府ニシテ此特權ニ託シテ容易ニ議會ノ
公議ヲ回避スルノ方便ト爲シ、又以テ容易ニ既定
ノ法律ヲ破壞スルニ至ルヤウナコトガアリマシタ
ナラバ憲法ノ條章ハ空文ニ歸シ、一モ臣民ノ爲ニ
保障ヲ爲スコト能ハザラントスルノデアル、故ニ
本條ハ又議會ヲ以テ特權ノ監督者タラシメ、緊急
勅令ヲ事後ニ檢査シテ、之ヲ承諾セシムベキコト
ヲ定メタルモノデアリマシテ一點ノ疑ノ存スル
餘地ハ無イノデアリマス、然ルヲ若シ山本內閣ノ
解スルガ如ク致シマシタナラバ議會ノ閉會中ニ
幾ラデモ政府ノ施設如何ニ依ツテ、生殺與奪ノ權
ヲ揮フコトガ出來ルノデアリマス、卽チ議會閉會
中ニ幾多ノ緊急勅令ヲ發シ、議會開會前ニ一擧ニ
シテ之ヲ廢スルナラバ其廢シタル重大ナル緊急
勅令ハ之ヲ帝國議會ノ審査ヲ受ケルコトヲ要シ
ナイトスルナラバ何デモ彼デモ專制政治ヲ行フ
コトガ出來ル結果トナラザルヲ得ナイノデアリマ
ス是等ノ事ヲ考ヘマスナラバ御同前ニ肌寒キ
ヲ感ゼザルヲ得ナイ、又斯ル特權ハ是ハ英吉利ノ
憲法ニ致シマシテモ、亞米利加ノ憲法ニ致シマシ
テモ、佛蘭西ノ憲法ニ致シマシテモ、又白耳義ノ
憲法ニ致シマシテモ、未ダ斯ル大キナル特權ハ認
メテハナイノデアル、唯斯ル特權ヲ認メテ居ル
ノハ、獨逸諸國ノ憲法ト、墺地利ノ憲法ダケニ認メ
テアル、此兩國ノ學者達ハ多少色〓ナ議論ヲシテ
居ルヤウデアリマスケレドモ併ナガラ此議論ヲ
直ニ我國ニ移シテ之ヲ議論スルト云フコトハ是
ハ國情ヲ異ニシテ居ル我國ニ取ツテハ全ク無益
ノ事デアル、斯ノ如キ次第デ、旣ニ我帝國議會ニ於
キマシテハ去ル二十六帝國議會ニ於テ鳩山和夫
君外四名ノ提案ニ依リマシテ、當時議會閉會中緊
急勅令ヲ以テ法律ヲ廢止シ、其緊急勅令ヲ議會ニ
提案致サナカツタガ爲ニ、滿場一致ヲ以テ速ニ此
法律ヲ廢止シタル緊急勅令ヲ提案セナケレバナラ
ヌト云フコトヲ決議致シテアル、現內閣ニ於キマ
シテハ、此先例ハ今般ノ場合トハ趣ヲ異ニシテ居
ルノデアル、卽チ今度ノ事例ハ戒嚴令一部適用ニ
關スル緊急勅令ノ廢止セラレテ居ル今日、又支拂
猶豫令其物ハ旣ニ其規定自體ニ於テ效力ヲ失シ
テ居ルモノデアルカラ、此三ツノ緊急勅令其物ハ、
我帝國議會ニ於テ先例トナツテ居ル所ノ此院議ト
ハ趣ヲ異ニシテ居ルノデアルカラ、今度ハ矢張政
府ノ先例ニ依ツテ之ヲ提案セズシテ可ナリト云フ
意見ヲ持ツテ居ルノデアリマス、併ナガラ是レノ
誤ツテ居ルト云フコトハ今更茲ニ私ガ呶々ノ辯
ヲ要シナイ所デアリマスカラ、之ニ付テハ述ベマ
セヌ、我ガ帝國憲法布カレテ茲ニ三十有餘年、今
山本內閣ノ爲ニ、此明白ナル我日本帝國憲法ノ條
章ヲ曲解シ、事ヲ先例ニ託シテ本決議案ニ示シテ
居ル所ノ三箇ノ緊急勅令、而モ此勅令ノ公布ニ依
リテ臣民ノ權利義務ニ多大ノ影響ヲ及ボシタ所ノ
此重要ナル勅令ヲ當議會ニ提出セザルト云フコト
ハ卽チ我帝國議會ノ立法審議權ヲ蹂躙シタルモ
ノト謂ハズシテ何ト申シマセウカ、又現內閣ハ非
立憲ノ所置ヲ爲シタルモノト謂ハズシテ何ト申シ
マセウ、更ニ又山本內閣ノ爲ニ、我ガ憲政ガ逆轉
スルト申サズシテ何ト申シマセウ、更ニ又山本內
閣ハ、所謂憲法政治ノ名ニ於テ、專制政治ノ實ヲ
取ルモノデアルト申シタナラバ、山本內閣ハ果シ
テ憲法治下ニ於テ存立スベキ內閣デアルト云フコ
トガ言ヒ得ラレマセウカ、ドウデアリマセウカ、
斯ノ如キ事態ニ於キマシテ、我ガ憲法政治ノ爲ニ
ハ斷ジテ斯カル事例ヲ看過スベカラザルコトデ
アルト信ズルノデアリマス、吾々六千万ノ國民ノ
代表者ト致シマシテハ政府ニ對スル正ニ憲法上
ノ正當防衞權テアルト謂ハナケレバナラヌ、本員
ガ此決議案ヲ提出致シマシタノハ總テ以上ノ理
由ニ基ク所ノモノデアリマス、何卒御審議ノ上、
院議ヲ決セラレンコトヲ望ム次第デアリマス( 日
手発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=65
-
066・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 議事進行ニ付テ横山勝太郞
君ヨリ發言ヲ來メラレマシタ、之ヲ許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=66
-
067・横山勝太郎
○橫山勝太郞君 極メテ簡單デアリマスカラ、此
席カラ御許シヲ願ヒマス、只今承ル所ニ依リマス
ルト、火災保險貸付金ニ關スル委員會ニ於キマシ
テ其內容ハ能ク分リマセヌガ、審議ヲ停止スルト
云フ意味ノ決議ヲシテ散會ヲシタト云フコトヲ承
リマシタ、私ノ信ズル所ニ依レバ、委員會ニ於テ
審議ヲ停止スルト云フガ如キ決議ヲ爲スト云フコ
トハ法規ノ許サザル所デアリマスルノミナラズ、
今回ノ震災者ニ對シテ、甚ダ不深切干萬ナル事デ
アルト私ハ思量致シマス此故ニ其內容等ヲ能ク
存ジマセヌガ議長ニ於カレマシテ其眞相ヲ至急
ニ御確メノ上デ、成ベク速ニ其審議ヲ進メテサ
ウシテ決議ヲ得ルヤウニ御取計ラヒヲ願ヒタイト
思ヒマス之ヲ議長ニ請求シテ置キマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=67
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068・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 發言ノ通告ガアリマス、副
島義一君
〔副島義一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=68
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069・副島義一
○副島義一君 諸君、私ハ本決議案ニ贊成ヲ致ス
者デアリマス、此決議案ニ於テ含マレテ居ル所ノ
緊急勅令ニ關スルコトハ、事頗ル簡單明瞭ノコト
デアリマス、唯、法文ヲ曲解スルコトニ依ツテ、
紛糾スル問題トナルノデアル元來申ス迄モナイ
事デアリマスガ、緊急勅令ハ法律ニ代ルベキ規定
デアル法律ノ規定、法律ノ範圍ニ變動ヲ及ボス
規定デアル而シテ法律ハ議會ノ協賛ヲ以テ制定
セラルヽモノデアルカラ、法律ノ規定及其範圍ニ
變更ヲ及ボスコトハ卽チ議會ノ權限ニ影響ヲ及
ボスコトニナルノデアル、隨テ緊急勅令ハ假令
實際ノ必要上發セラルヽモノデアルトシテモ、之
ヲ議會ニ提出シテ、其審查及議決ヲ經ネバナラヌ
ト云フコトハ議會ノ權限ヲ重ンジ、立憲ノ原則
ヲ保護スル所以ノ當然ノ事デアル、蓋シ緊急勅令
ハ例外的ノモノデアリマスカラ、種々ノ條件ヲ具
備シタル場合デナケレバ、之ヲ發スルコトハ出來
ナイ、其條件等ガ具備セズシテ濫ニ緊急勅令ヲ
發スルコトノナイヤウニ、議會ハ之ヲ審查シ、之
ヲ是正スルコトガ出來ネバナラヌ、是ハ尙ホ憲法
第七十條ニ於テ、政府ガ財政上ノ緊急處分ヲ爲ス
場合モ同樣デアル御存知ノ如ク歳入歳出ハ豫算
ニ依ツテ議會ノ協賛ヲ經ルコトガ常則デアル
唯七十條ノ場合ハ例外デアルカラ、サウ云フ
處分ヲ爲シタル場合ニ於テハ之ヲ議會ニ提出
シテ審查ヲ受ケネバナラヌノデアル、是ハ議會ノ
地位ヲ保護スル其權限ヲ完タカラシムル所以ノ
規定デアル、緊急勅令モ猶ホソレト同樣デアル若
シ此法律事項ヲ勅令デ自由ニ規定シテ、法律ノ規
定ヲ變更シテ何等議會ニ審査議決ノ權ヲ興ヘナイ
ト云フコトニスルナラバ原君モ今述ベラレタ如
ク、憲法第五條ニ議會ハ立法權ヲ有シテ居ルト云
フコトヲ規定シテ居ル、憲法第三十七條ニ法律ハ
議會ノ協賛ヲ經ベシト規定シデ居ル、此規定ガ有
名無實ニナルノデアル、若シ政府ガ議會閉會中ニ
於テ、多クノ緊急勅令ヲ發スル、サウシテ法律ヲ行
ハナイ、而シテ議會閉會中ニソレヲ廢シテシマツ
テ、議會ニハ少シモ之ヲ提出シナイ、何等審查議
決ノ機會ヲ與ヘナイトスルナラバ議會ノ權限ハ
侵害セラルヽコトニナリ、議會ノ面目ハ毀損セラ
ルヽコトニナルソコデ憲法ハ用意周到デアツテ、
サウ云フ危險ノ生ジナイヤウニ、之ヲ議會ニ提出
セネバナラヌト云フコトヲ規定シテ居ルノデア
ル、今更喋々述ベル必要ハアリマセヌガ憲法第八
條第一項ニハ緊急勅令ヲ發スベキ條件ヲ規定シ
テ居ルノデアル、又其第二項ニハ此勅令ハ次ノ會
期ニ於テ議會ニ提出スベキコトヲ規定シテ居ル
此第二項ニ「此ノ勅令ハ」トアル所ノ之ニ著眼スル
コトガ必要デアル、卽チ「此ノ勅令」トアルノハ第
八條第一項ニ依ツテ發セラレタル勅令ヲ指シテ言
フノデアル、故ニ如何ナル勅令デアツテモ、卽チ勅
令ガ廢止セラレテモ、或ハ勅令ガ最早ヤ其效力ヲ
終ツテ居ル場合デアツテモ、苟モ此第八條第一項
ニ依ツテ發セラレタモノデアルナラバ、此第二項
ノ規定ニ基イテ議會ニ提出センケレバナラヌノデ
アル卽チ議會ガ立法ニ付テ協贊權ヲ有スル地位
カラシテモ、又此憲法ノ明文ノ規定カラ見テモ緊
急勅令ヲ發シタル場合ニハ何時デモ之ヲ議會ニ
提出セネバナラヌト云フコトハ一點疑ヲ容ルベ
キ餘地ハ無イノデアル、然ルニ今回政府ハ前ニ原
君ガ言ハレタ所ノ緊急勅令ニ付テハ未ダ之ヲ議
會ニ提出シテ居ラヌノデアル、最早此議會ノ會期
モ了ヘントシテ居ル今日ニ於テ、尙ホ提出セズニ
居ルノデアル是ハ實ニ不法不當、議會ノ權威ト面
目トヲ蹂躙シ、立憲ノ根本精神ニ違反スル所ノ甚
シキモノデアル(拍手)固ヨリ今回ノ不提出ノ緊急
勅令ノ實質ニ付テハ私共必ズシモ反對スル者デ
ハナイ、若シ是ガ提出セラルヽナラバ之ニ承諾
ヲ爲スニ吝ナル者デハナイノデアル、併ナガラ全
ク之ヲ提出シナイ、其事ハ不法ノ事デアル、况ヤ
若シ緊急勅令ノ實質ガ不正不當デアツテ、國家人
民ニ害ガアルト云フ場合ニ於テモ、尙ホ政府ノ爲
ス儘ニ委セテ、之ヲ議會ニ提出シナイト云フ如キ
事ガアルナラバ卽テ是ハ一種ノ専制政治ヲ行フ
ト云フコトニナルノデアル(「ヒヤ〓〓」拍手)或ハ
政府ノ方デ言フ所ニ依レバ緊急勅令ガ議會ノ召
集前ニ廢止セラルヽカ、又ハ旣ニ其效用ヲ終ツテ
居ルト云フモノデアルナラバ之ヲ議會ニ提出ス
ル必要ハ無イ、憲法ハサウ云フ緊急勅令ヲ提出ス
ル規定ヲシテ居ルモノデナイト言ツテ居ルケレド
モソレナラバサウ云フ緊急勅令ハ憲法ノ如何ナ
ル條規ニ基イテ發シタノデアルカ、併ナガラ議會
ニ提出スルコトヲ要シナイ緊急勅令ノ發布ヲ認メ
テ居ル憲法ノ規定ハ無イノデアル憲法ノ規定ノ
無イ所ニ依ツテ政府ガサウ云フ勅令ヲ發シタト云
フノハ、憲法違反デアル、若シモ又緊急勅令ヲ憲法
第八條第一項ニ依ツテ發シタモノデアルト云フナ
ラバ第二項ノ規定ニ從ツテ議會ニ提出シナケレ
バナラヌノデアル之ヲ提出シナイト云フノハ憲
法違反デアル若シ緊急勅令ハ將來ニ效力ヲ有ス
ルモノヽミ議會ニ提出スベシトスルナラバソレ
ヲ發布スルニ付テモ、將來ニ效力ヲ有スルモノヽ
ミ發布シナケレバナラヌト云フコトニナル、併ナ
ガラ憲法ニハサウ云フ制限ハ無イ、如何ナル緊急
勅令デモ之ヲ發布スルコトガ出來ルト思フト同時
ニ又之ヲ議會ニ提出シナケレバナラヌコトニナ
ル、是ハ憲法ノ規定スル所、毫モ疑ナイ所デアル
固ヨリ憲法第八條第二項ノ末段ニ於テ、若シ議會
ノ承諾ヲセザル時ハ政府ハ將來ニ效力ノ無イト
云フコトヲ公布スベシト云フコトヲ規定シテアル
ケレドモ、併ナガラ是ハ唯〓緊急勅令ノ將來ニ效
力アルコトニ付テノミノ規定デアル之ガ爲ニ政
府ガ緊急勅令ヲ提出シテ審查ヲ求ムベキ一般ノ義
務ヲ決シテ除外シタルモノデハナイ、デ或ハ若シ
緊急勅令ガ發布當時ニ於テ適當デアツテモ、將來
ニ效力ヲ保續セシムルコトヲ不當デアルト云フヤ
ウナ場合ニハ議會ハ承諾ヲスルコトモ出來ナイ、
不承諾モスルコトガ出來ナイ、議會ハ困ルダラウ
ト云フヤウナコトヲ先達ハ松本長官ハ言ハレタデ
アルケレドモ是ハ餘計ナ心配デアル斯カル場合
ニ於テ議會ハ何レニ重キヲ置クベキヤヲ能ク考慮
シテ、緊急勅令全體ニ付テ、或ハ承諾ヲシ、或ハ
不承諾ヲ爲スノデアル、若シ斯カル場合ニ、議會
ハ緊急勅令ヲ將來ニ保續セシムルコトヲヨリ多ク
不當トスレバ不承諾ヲスルコトニナル又將來ニ
於テ效力ヲ保續セシメテ差支ナイト云フコトナラ
バ承諾ヲスルコトニナル、議會ガ承諾ヲスル承
諾ヲシナイト云フコトハ緊急勅令ノ全般ノ形體
ヲ見テ決スルノデアツテ、少シモ議會ニ於テ困ル
ト云フ問題ハ生ジナイノデアル、此緊急勅令ニ付
テハ議會モ審査スル權能ノアルノミナラズ、又審
查セネバナラヌノデアル此權限ヲ保護スル爲
ニ立憲ノ原則ヲ保護スル爲ニハ審查スルコト
ガ出來ネバナラヌ、又審査スル義務ガアル議會
ガ審査スルト云フ義務ガアルナラバ其義務ヲ盡
スコトノ出來ルヤウニ、政府ニ於テモ之ヲ提出ス
ル義務ガナケレバナラヌ、而シテ政府ガ提出スレ
バ提出シタ時ニ能ク其詳細ノ說明ヲ爲ス、其說
明ヲ聽イテ、議會モ能クソレヲ審查議決スルコト
ガ出來ルノデアルカラ、必ズ是ハ政府ニ提出スベ
キ義務ガアルトシテ、議會ニ於テモソレヲ審查ス
ルコトガ出來ル而シテ議會ノ權限ヲ完ウスルコ
トガ出來ルノデアルカラシテ、ドウシテモ是ハ政
府ガ提出シナケレバナラヌ、憲法上一點ノ疑ノ無
イ事デアル、デ固ヨリ緊急勅令ヲ發シテか議會ニ
提出シナカツタ先例ハアル、併ナガラ先例ガア
ルト云フコトガ不提出ノ理由ニナルモノデハナ
イ若シ不適當ノ先例デアルナラバ、之ヲ改ムル
コトガ政治家ノ面目デアル、デ先例ニ於テ之ヲ提
出シナカツタノハ、時ノ政府ガ亂暴ノ緊急勅令ヲ
發シテ、議會ノ糺彈ヲ恐ルヽ爲ニ、憲法ヲ曲解シテ
提出シナカツタ不吉ナ先例デアルサウ云フ不吉
ナ先例ハ之ヲ改メルト云フコトハ苟モ誠意誠心
ヲ標榜シテ居ル山本內閣ニ於テ、是ハ當然ノ事デ
アルト謂ハナクテハナラヌ緊急勅令ヲ發シタナ
ラバソレガ適當デアルカト云フコトヲ議會ニ提
出シテ誠心ヲ打明ケテ議會ノ是正ヲ仰グト云フ
コトガ、誠意誠心ヲ標榜スル當然ノ事デアル妹
山本內閣ハ第一流ノ政治家ヲ以テ組織セラレテ
アルト云フコトヲ世ノ中ニ噂セラレテアリマ
ス第一流デアルナラバサウ云フ不吉ノ先例ヲ
改ムルト云フコトモ、亦第一ニシナクテハナラ
ヌノデアル、ソレデナケレバ第一流モ糸瓜モ何
ニモ無イノデアル、且ツ此緊急勅令ノ問題ニ付
テハ、將來議會ノ長キ生活ノ間ニ於テハ始終起ル
ベキ問題デアルカラ、果シテ誠意誠心ヲ有スル
山本内閣デアルナラバ、將來ニサウ云フ問題ノ生
ジナイヤウニ之ヲ解決シ置クト云フコトハ非常
ニ必要ナ事デアラウト思フノデアル、私ハ議會ノ
面目ト權威ノ爲ニ、此建議案ノ通過セラレンコト
ヲ希望スルノデアル願クハ滿場ノ諸君、全會一
致ヲ以テ可決セラレンコトヲ希望シテ已マヌノデ
アル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=69
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070・高見之通
○高見之通君 本案ハ大正十二年勅令第四百三號
承諾ヲ求ムル件、卽チ治案維持ノ爲ニス、ル罰則ノ
件ノ委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=70
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071・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 高見君ノ動議ニハ御異議ナ
イト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマス、是ニテ本
日ノ日程ヲ終リマシタ、明日ハ會期終了日デアリ
マスカラ、例ニ依リマシテ午前十時ヨリ開會致ス
ベキデアリマスガ、御承知ノ通リ議案モ餘リハ澤
山無イノデアリマスカラ、特ニ午後一時ヨリ開會
致ス考デアリマス、其事ヲ御承知ヲ願ヒマス、本
日ハ是ニテ散會致シマス
午後四時二十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004713242X00819231222&spkNum=71
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