1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十三年七月二日(水曜日)
午前十時九分開議
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議事日程 第三號 大正十三年七月二日
午前十時開議
第一 非常徴發令廢止に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
第三 大正十二年條約第二號海軍軍備制限に關する條約の實施に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
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001・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
昨一日常任委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
請願委員會
委員長伯爵勸修寺經雄君副委員長倉知鐵吉君
同日請願委員會ニ於テ決定シタル分科及分科擔當委員ノ氏名左ノ如シ
第一分科(農商格省大藏省)
伯爵勸修寺經雄君子爵本多忠鋒君子爵秋田重季君
玉利喜造君男爵北大路實信君男爵岩佐新君
大谷嘉兵衞君山田斂君津村紀陵君
岡本榮吉君二階堂三郞左衞門君
第二分科(部好省納務)
子爵大河內輝耕君子爵白川資長君子爵〓岡長言君
子爵伊東二郞丸君北條時敬君佐藤三吉君
渡邊廉吉君若林資藏君男爵大鳥富士太郞君
倉知鐵吉君橋本辰二郞君小林八右衞門君
第三分科(内閣、司法
省、遞信省
侯爵中御門經恭君侯爵久我常通君子爵五條爲功君
子爵戶澤正己君子爵蒔田廣城君寺田榮君
男爵德川厚君男爵調所恒德君岡田文次君
齋藤善八君近岡理三郞君
第四分科(陸軍省、海軍)
省鐵道省
伯爵酒井忠正君子爵柳生俊久君子爵渡邊七郞君
男爵若王子文健君男爵島津長丸君男爵神山郡昭君
男爵高木喜寛君高橋源次郞君溝手保太郞君
富永猿雄君櫻井伊兵衞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、請暇ノ件ニ付キ御
諮リヲ致シマス、外松男爵病氣ニ付キ會期中ノ請暇デゴザイマス、許可ヲ致
スコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 昨日ニ引續キマシテ、國務大臣ノ演說ニ對スル質
疑ヲ許シマス、湯地君ハ昨日ノ續キヲナサレル御希望デゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=4
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005・湯地幸平
○湯地幸平君 左樣デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 宜シウゴザイマス
〔湯地幸平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=6
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007・湯地幸平
○湯地幸平君 私ノ質問ニ對シマシテ、昨日總理大臣ノ御答辯ヲ承ハリマシ
タガ、極ク低聲ニシテ聽取レナイ所ガゴザイマシタ、依ッテ本會議ニ於キマシ
テハ其聽取レタダケノ點ニ付テ質問ヲ致シマシテ、アトハ豫算總會ニ於テ更
ニ伺フ場合ガアラウト思ヒマス、昨日ノ御答辯デ總理大臣ハ護憲三派ト云フ
事柄ハ嘗テ言ッタコトハナイ、斯ウ云フコトデゴザイマス、是ハ新聞雜誌ガ勝
手ニ付ケタ名前デアルト云フコトデシタ、私ハ此事ヲ伺ヒマシテ、非常ナ又政
治上ノ知識ヲ得ルト同時ニ驚キマシタ、全ク新聞雜誌ニ私ハ騙サレテ居ッタ、
恐ラク六千萬國民モ此美名ノ下ニ今日マデ騙サレテ居ッタト思ヒマス、併シ
護憲三派ト云フ事柄ヲ御認メニナラナイノニ、主義政見ノ違ッタ高橋及犬養
兩政黨ノ首領ヲ殊更ニ入閣サセラレタノハ、ドウ云フ譯デアリマスルカ、總理
大臣ノ御統率ニナッテ居ル政黨ニハ立派ナ人達ガ澤山居ラレルニモ拘ラズ、特
ニ主義政見、數年ノ間、違ッテ居ッタ所ノ政黨ノ首領ニ向ッテ入閣サセラレタノ
ハ、ドウ云フ御方針デアルカ、私ハ是ハ全ク護憲三派ノ關係デ入閣セラレタモ
ノト思ッテ居リマシタガ、護憲三派ト云フコトハ認メナイト云フ御答デアリマ
スルト、更ニソコニ疑ガ起リマス、之ヲ一ツ御尋ネ致シタイ、其次ニハ昨日
ノ答辯ニ私ハ三派ノ異ッタ主義政見ハ讓合ヒカ、追隨カ、承ハリタイト申シマ
シタラ、讓リ合ヒデモ追隨デモナイ、皆三派ハ主義政見ハ棄テナイ、而シテ
圓滿ニ一致シテ居ルト云フ御答辯デアリマシタ、主義政見ノ違ッタモノガ政治
上ニ於テ圓滿ニ一致スルト云フ事柄ハドウモ普通ノ人間ノ頭デハ判斷ガ出來
マセヌ、之ニ付テ承ハリタイ、此二點ニ付テ承ハリタイノデス、尙ホ昨日總理
大臣ハ綱紀肅正ハ聲ヲ大ニシタノデハナイ、極ク細イ低聲デ言ッタト云フ揚足
ヲ御取リニナリマシタガ、私ノ聲ノ大キイト云フノハ、必シモ其聲ノ大小白身
ヲ言ッタノデハアリマセヌ、綱紀肅正ヲ天下ニ向ッテ大聲疾呼サレタ點デアリ
w b、是ハ私ノ揚足ヲ取ラレタノデアリマス、揚足政治ヲオヤリニナル御考
デナイカト思フ、尙ホ昨日ノ御答辯ハ甚ダ誠意ヲ缺クモノト思ヒマス、モウ
少シ誠意アル御答辯ヲ願ヒタイ、是ダケデアリマス
〔國務大臣子爵加藤高明君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=7
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008・加藤高明
○國務大臣(子爵加藤高明君) 唯今、湯地幸平君ヨリ再度ノ御質問デアリマ
シタ、私ノ聲ガ小サイノデ、聽ヱナカッタト云フ御話デアリマシタカラ、成ル
タケ大キナ聲ヲ致シマス、護憲三派ト云フコトヲ認メナイト云フコトヲ申シ
マシタヤウニ御話ガアリマシタガ、サウ云フ言葉ハ私ハ用ヒマセヌ、護憲三
派ト云フ名前ハ私ハ言ッタコトハナイト云フノデアリマス、護憲ト云フコトハ
惡イコトデモ何デモナイ、即チ憲法擁護、憲政擁護ト云フ趣意デアリマスカ
ラ、其趣意ニ於テ私ハ固ヨリ異論ノナイコトデアル、唯護憲三派ト云フコト
ヲ私ハ演說等ニ於テ用ヒナイト云フコトヲ御話シタダケデアル、次ニ目的ヲ
同ジウシテ、三派トモ働イテ居ルノデアリマスカラ、其事實ハ決シテ否定イ
タシマセヌ、ソレカラ主義政見ノ違ッタモノガ內閣ヲ組織シタノハ、ドウ云フ
譯カト云フ御尋デアリマスガ、主義政策ハ三ツノ大イナル綱目ヲ擧ゲマシテ、
內閣組織ニ際シテ外ノ派トモ相談シタノデアリマス、新聞紙上デ或ハ御承
知カ知レマセヌガ、卽チ綱紀ノ肅正、行政財政ノ根本的整理緊縮、普通選擧
ノ執行、此主義ニ於テ能ク合致シタノデアリマス、其他ニ於キマシテハ內閣
組織前ニハ詳シイコトハ、一々細カイコトマデ相談シテ居リマセヌガ、段々
相談シテ居リマス、是ハ一黨一派ノ中デモ銘々ノ考ハ多少違ッテ、議論ヲ鬪ハ
シタ末ニ相當ノ結論ニ達スルモノデアルト云フコトハ、是ハ實際ニアルコト
デアリマス、内閣組織ノ際ニ當ッテ細カイコトマデ一々相談シナクテモ大體ニ
付キ意見ガ合ヘバ、外ノコトハ、自ラ解決ガ出來ルト云フコトハ、私ハ確信
シタノデアリマシテ、又此內閣ニ這入ラレタ他ノ諸公モ同シク其趣意ヲ以テ
入閣ヲ內諾セラレタ次第デアリマス、ソレカラ綱紀肅正ヲ大キナ聲デ叫ブ云
々、大キナ聲ト云フコトヲ盛ニ昨日仰セニナリマシタカラ、別段ニ大キナ聲
ト云フモノノ、普通ノ聲デ申シタト申スノデ、併ナガラ聲ノ大小ニ拘ラズ最
モ熱心ニ之ヲ唱ヘタト云フコトハ其通リデアリマスカラ御承知ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=8
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009・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 私ハ演壇ニ登リマス前ニ簡單ニ事實ヲ確メテ置キタイ、
昨日米國大使館ノ國旗ヲ奪ヒ去ッタ者ガアッタヤニ承ハリマシタガ、其事實ハ
ドウ云フコトデアリマスカ、又如何ナル措置ヲ其後政府ハ御執リニナッタカ、
一應伺ッテ置キマス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=9
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010・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 唯〓阪谷男爵ノ御質問ニナリマスヤウナ事件ノ
生ジマシタコトハ洵ニ遺憾ニ考ヘルノデアリマス、今其事實ノ〓略ヲ申上ゲ
やり、事柄ノ起リマシタノハ昨日午後零時三十分頃デアッタノデアリマス、場
所ハ赤坂ノ米國大使館ノ燒跡ノ中ニ起ッタノデアリマス、其事件ノ模樣ハ大使
館ハ此度ノ地震火災ノ爲ニ建物ガ燒ケマシタノデ、目下ハ帝國「ホテル」內ニ
移轉シテ居ラレルノデアリマスガ、燒跡ニハ數十棟ノ天幕張ガアリマスノデ、
其處ニハ罹災民ガ住ッテ居ルノデアリマス、大使館關係ノ罹災民ガ居住シテ居
ルノデアリマス、牆壁モイタク崩レテ居ルヤウナ所ガアリマシテ、外部カラ
ハ自由ニ出入セラレルヤウナ狀態ニナッテ居ルノデアリマスガ、其構內ニハ
是迄通リ高サ約六間ノ木ノ柱ノ上ニ米國ノ國旗ガ揭ゲテアッタノデアリマス、
犯人ガ何時頃何處カラ入リマシタカト云フコトハ不明デアリマスガ、丁度唯
今申上ゲタ午後零時三十分頃ニ突然現ハレマシテ國旗ヲ取下シテ之ヲ抱ヘテ
土手構ヘヲ踏越ヘテ前面ノ街路ニ出テ行キマシテ田町方面ニ遁レテ行ッタノ
デアリマス、是ヨリ先キ豫テ同所警戒ノ爲ニ配置シテアリマス十數名ノ警察
官ガ正門ノ前ニ······警察官ノ中デ正門前ニ居リマシタ數名ノ者ガ其狀況ヲ見
マシタノデ、其中ノ一人ガ直グ追跡イタシタノデアリマスガ、巧ニ人家ノ露
路ヲ拔ケテ溜池町二番地先ノ所マデ行ッテ踪跡ヲ晦マシタト云フヤウナ事實
ニ相成ッテ居ルノデアリマス、其後犯罪ノ搜查ニ從事イタシマシテ、目下ノ所
デハ略〓犯人見込モ付イテ居リマスガ、唯本人ガ唯今居ル所ヲ晦マシテ居ル
ノデアリマスノデ、折角之ヲ突止メルコーニ從事ヲ致シテ居リマス、遠カラ
ズ逮捕ニ至ルコトト考ヘルノデアリマス、亞米利加ニ於テ新シキ移民法ガ制
定セラレテ、其移民法ノ中ニ日本ニ對スル差別ノ取扱ヲスルヤウナ條項ノア
リマス爲ニ、日本國民ガ今日ハ頗ル興奮シテ居ルト云フコトハ事實デアリマ
ス、其不滿ノ意志ヲ表示スルコトニ付キ、適法ニ之ヲ表示スルコトニ付テハ
政府ハ固ヨリ之ニ干渉スル意志ハアリマセヌ、併シ過日帝國「ホテル」內ニ起
リマシタ出來事ノ如キハ、之ハ實ニ擯斥スヘキ事柄デアリマスノデ、斯樣ナ
事柄若クハ類似シタ事柄ガ起ッテハ相成ラヌト考ヘマシテ、現內閣ガ出來マス
ト直チニ地方官ニ一般ニ其事ヲ申述ベテ、斯ノ如キ似寄ヲタ事柄ノ生ゼナイ
ヤウニ一般ヲ戒シメナケレバナラヌ、ソレト共ニ斯樣ナ事ノ起ッテハナラナ
イカラ、取締ニ付テハ十分ニ之ヲ致セト云フコトガ訓令シテアルノデアリマ
ス、昨日ハ恰モ米國ノ新シイ移民法ガ實施セラルル初日ニ當ッテ居ッタノデア
リマスカラ、方々ニ演說會等モアリマスノデ、或ハ間違ッタコトデモ起ッテハ
ナラヌトシテ警戒ノコトニ付テハ特ニ注意ヲ致シテ、警官ノ配置等モ致サセ
タノデアリマス、其結果、米國大使館ノ燒跡ニモ唯今申上ゲル通リ十數名ノ
警官ヲ配置シテアッタノデアリマスガ、其間ニ於テ斯樣ナ出來事ノ起リマシ
タコトハ洵ニ遺憾ニ存ジマスガ、事實ハ左樣ナ次第デアリマスカラ、此段ヲ
申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=10
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011・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本件ニ付テ外務大臣ハ如何ナル措置ヲ御執リニナリマシ
タカ
〔國粉大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=11
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012・幣原喜重郎
○國務大臣 男爵幣原喜重郞君)唯〓阪谷男爵ノ御質問ニ御答へ申シマス、
此事件ガ發生イタシマスト直グ亞米利加代理大使ヨリ私ニ會見ヲ申込ンデ參
リマシタ、四時過ニ私ハ亞米利加ノ代理大使ト會見イタシタノデアリマスガ、
亞米利加ノ代理大使ハ唯新事件ノ發生ニ付キマシテ私ノ注意ヲ喚起シタニ止
マリマシテ、何等交渉トカ談判トカ云フ筋合デハアリマセヌデシタ、私ハ事
件ノ成行ガ其當時マデ現ハレテ居ルコトデ私ノ知ッテ居ルコトダケハ述ベマ
シテ、斯ノ如キ行爲ハ日本國民ノ意志ヲ表明シタモノデハナイト私ハ固ク信
ジマシテ、一應ノ遺憾ノ意ヲ私ハ表シテ置イタノデアリマス、其後追〓事實
ガ確マリマシテ、先刻、內務大臣ヨリ御答辯ノアッタヤウナ事實ガ分ッテ來タ
モノデアリマスカラ、夕方ニナリマシテ······七時頃ニナリマシテ、更ニ米國
大使舘ヲ訪問イタシマシテ米國代理大使ニ面會イタシマシテ、更ニ政府ノ深
厚ナル遺憾ノ意ヲ傳ヘマシテ、此遺憾ノ意ハ米國代理大使ニ米國政府ヘ傳達
セラレムコトヲ望ムト云フ趣意ハ申シテ置キマシタ、私ガ關係イタシマシタ
事實ハソレダケデゴザイマス
〔男爵阪谷芳郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=12
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013・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本員ハ昨日ノ總理大臣竝ニ外務大臣ノ施政、竝ニ外交ニ
關スル御演說ニ付キマシテ質問ヲ致シマス、其前ニ唯今政府ヨリ御說明ニナ
リマシタ事件ハ如何ニモ殘念ナコトデアリマシテ、最モ忌ムベク最モ是ハ排
斥シナケレバナラヌ事件デアッテ、今後ト雖モ此日米關係ガ段々深厚ヲ加ヘ
マスニ付テハ、國民ハ一般ニ輕擧妄動ハ愼シマナケレバナラヌコトト思フノ
デアリマス、斯カル事件ハ我〓ノ相當ナル主張ヲ幾分カヅツ割引セラレルノ
デ、卽チ世界ニ對シテノ同情ハソレダケヅツ減退スルコトニナル、是ハ甚ダ殘
念ナコトト考ヘルノデアリマス、尙ホ政府ニ於テハ斯カルコトノ再發セヌヤ
ウニ御注意ヲ願フ次第デアリマス、昨日ノ外務大臣ノ日米問題ニ付テノ御所
見ハ伺ヒマシタ、段々御考ノアル所ハ承知イタシマシタノデアリマスルガ、將
來ドウスルト云フコトニ付テノコトハ餘リ御述ベニナラナイ、是ハ將來ノコ
ト、又政策ニ屬スルコトハソレハ言フコトハ出來ヌト云フヤウナ意味デアッタ
ト考ヘマスルデスカ、ソレニ付キマシテ私共ノ心配イタシマスノハ、外務大臣
ノ此問題ニ付テ日本國民ガ如何ニ考ヘテ居ルカト云フ、其觀察ガ誤ッテ居リ
ハセヌカ、日米ノ國交ト云フモノガ今日七十年來ノ親交ヲ保ッタ、今日モ尙ホ
其通リデアル、將來モ尙ホ其通リデアラネバナラスト云フコトハ論ヲ俟チマ
セヌ、日米ノ間ノ戰爭ト云フコトハ夢ニモ思フコトハ出來ヌ程ノ是ハ大切ノ
問題デアル、併シ國交ノ親善ト云フコトハ、國民ノ心ノ中ニ苟モ不愉快ノ念ガ
アッテハナラナイ、而シテ其不愉快ノ念ハ雙方カラ互ニ起サシメヌヤウニシ、
又起シタ場合ニハ其不愉快ノ念ヲ取去ルヤウニシナケレバナラナイ、現在ニ於
テ日本國民ガ此米國ノ移民問題ニ付テドウ考ヘテ居ルカト云フコトガ或ハ米
國ノ方ニ十分ニ通ジテ居ラヌノデハナイカ、或ハ外務大臣自ラドレ程ニ日本
人ガ不愉快ニ考ヘテ居ルカト云フ其程度ヲ誤ッテ居ルノデハナイカ、ソコガ本
員ノ大イニ伺ヒタイノデアリマス、抑〓今日ノ問題ヲ惹起ス以前ニ於テ加州移
民問題ニ付テノ事柄ト云フモノハ昨日外務大臣ノ御述ベニナリマシタ通リ長
イ問題デアッテ、遂ニ今日ノ事ガアリハセヌカト云フコトハ識者ノ久シク憂
ヒテ居ッタ問題デアッテ、民間有志ノ士カラハ屢〓政府ニ其事ニ付テハ忠言ヲ
與へ又日米兩國ノ有力ナル人〓ノ間ニモ、ソレガ爲ニ屢〓交涉ガアッテ、彼カ
ラモ有力ナ人ガ參ッテ、我カラモ有力ナル人ガ行ッテ、此コトニ付テ始終事茲
ニ至ラザルヤウ努メ來ッタノデアル、然ルニ旣ニ事茲ニ至ッタニ付テハ、其責
任ハドウモ政府當局ニアラネパナラヌ、政府當局ガ今日マデノ處置ノ仕方ノ
上ニ付テハ日本國民ノ主張、又日本國民ノ感情ト云フモノヲ十分ニ米國政府
ニ御傳ヘニナルコトガ不十分デアッタノデハナイカ、米國政府ハ甚ダ簡單ニ考
ヘテ居ラレルヤウデアル、移民問題ハ米國ノ當然ノ主權デアル、ソレハ日本
デモ同樣デ米國ハ嘗テ此主權ノコトニ付テ一步モ讓ッタコトハナイ、機會ノア
ル每ニ其事ハ言明シテ居ルト云フヤウナ譯デ、日本ノ主張ノ要點タル差別的
待遇ハ今日不都合デアル、又日本國民ト云フモノハ決シテ第二流ノ國民トシ
テ甘ンズルモノデナイト云フ、此ノ日本國民ノ卽チ深キ考、是ガ十分ニ徹底
シテ居ラヌノデハナイカ、デ加州ノ問題ニ付キマシテモ、今日マデ政府當局
ノナサレタコトハ一步々々皆後へ後へト下ガッテ居ルヤウニ見エル、學童問
題、寫眞結婚問題、遂ニ土地法ニ依ッテ今日現ニ「カルフォルニア」ニ居ル所ノ
日本國民ト云フモノハ殆ド其生活ノ途ヲ失ハムトシテ居ルト云フマデ至ッタ
ノデアル、此土地法ノ問題ノ解決ノ著カザルニ、更ニ進ンデ今日ノ此移民法
ニ付テ日本國民ヲ排斥スルト云フヤウナコトヲ中央政府ノ議會ガ敢テスルニ
至ッタノデアル、加之、又此ノ後ニ憲法ヲ改正シテ······憲法ヲ改正シテ、モウ
米國ニ生レテ居ル日本人ノ國籍ヲモ奪フ、斯ウ云フ法律ガ現ニ米國ノ議會ニ
ハ出テ居ルノデアル、ソレ故ニ私ハ今年一月二十三日ニ此演壇ノ上ニ於テ詳
シク日米關係ヲ論ジテ、此問題ハ決シテ容易ナラヌ所ノ問題デアル、此問題
ノ解決ヲ苟モ誤ルナラバ、實ニ此日米間ニ不幸ナル關係ヲ惹起シハシナイカ、
否、日米間ノミデハナイ、即チ亞細亞ト亞米利加ト云フヤウナ世界平和ノ上
ニ重大ナル關係ヲ惹起ス問題ニナリハシナイカ、デ此事ニ付テハ十分ニ政府
ガ能ク日本國民ノ意思ノアル所ヲ徹底スルヤウニ努メラレナケレバナラヌト
云フコトヲ述ベテ、當局ノ外務大臣カラモ御答ヲ得タノデアル、然ルニ遂ニ
今日ノ結果ヲ見ルニ至ッタ、甚ダ過去ッタコトデハアリマスケレドモ、旣徃ニ
於ケル外務當局ノ爲サレ方ガ如何ニモ我〓ハ不滿足ニ感ゼザルヲ得ヌノデア
ル、現大臣ハ御就任以前ノ事ニ付テハ或ハ責任ハ無イ、外務省ノ御方デハ
アルケレドモ、無イノデアルガ、併ナガラ何トカ今少シク外務當局ニ於テ努
ノラレタナラバ、事今日ニ至ラズシテ止ンダモノデハナイカ、從テ將來ノ處置
ヲ此上復タ誤ヲテ貰ヲテハナラヌト云フ觀念ガ我〓ニ强イト云フコトハ巳ムヲ
得ヌ、外務大臣ハ昨日十分ニ抗議ヲ致シマス、抗議フシテ聽カナカッタラドウ
ナルノカ、是井抗議ヲ聽イテ貰ヒタイト云フコトニ付テノ御考ガマダ十分デ
ナイ、又現在ニ於テ日本國民ノ心ノ中ニ如何ナル不愉快ノ念ガアル、日本國
民ガ非常ナル節制ヲ致シテ居ルト云フコトハ、外務大臣ガ御水知デアラウト
思フ、其節制ト云フコトモ段々色〓ナルコトガ重ナルト云フト破レル、卽チ
昨日モ米國大使館ノ旗ヲ奪ッタト云フコトハ實ニ忌ムベキ、排斥スベキ事柄
デアルケレドモ、畢竟スルニ國民ノ憤懣、六千萬人中ニハ色〓ナ間違ッタコ
トヲスル人ガ出テ來ルコトニナル、ソレハ日本バカリデハナイ、米國ノ方ニ
モ亦ソレニ對シテ日本人ヲ壓迫スル、迫害スルト云フヤウナコトガ起ル、到
頭サウ云フコトカラシテ日米兩國七十年ノ此ノ親善ナル日米兩國······又如何
ニ考ヘテモ此日米兩國ト云フモノガ互ニ干戈ヲ持ッテ立ツト云フコトハ想像
シ得ラレナイコトデアリマス、夢ニモ想像シ得ラレナイ、其親善ナル關係ニ
モ多少疵ヲ付ケルヤウニナリハシナイカ、玆ガ外務大臣トシテ私ハドウモ如
何ナル不愉快ナル觀念ガ日ト國民ノ腹ノ中ニ伏在シ、又ソレガ增長シツツア
ルカト云フコトノ外務大臣ノ御覽ニナリ方ガ間違ッテ居リハシナイカ、從テソ
レヲ能ク米國ノ方ニ御傳ヘニナル手段方法ガ盡サヌノデハナイカ、唯書面ノ
上デ互ニ······私ガ見ルト云フト〓務省ノ抗議、米國ノ答辯ト云フモノハドウ
ナルノカ、唯互ニ文書ヲ交バシテ居ル內ニ、段々段々兩國ノ間ニ不滿ノ情ガ
增長シテ行キ、愈〓之ヲ無事ニ治メルト云フコトハムヅカシクナリハシナイ
カ、甚ダ心配デ、今日ニ於テ日米間ノ親善ト云フコトニ寸毫デモ疵ノ付クト
云フコトハ人類ノ文明、又歐洲大戰ノアッタ後ノ今日ノ世界、一日モ早ク世界
人類ノ幸福ヲ增進シナケレバナラナイ急務ノアル今日ニ於テ、最モ忌ムベキ
コトデ、避ケナケレバナラヌコトデアル、ソレニ疵ガ付キハシナイカ、ソレ
ヲ卽チ私ハ憂ヘルノデアリマス、從テ單ニ抗議ニ止マラズ、何等カ其間ニ於
テ執ルベキ途ガナイモノデアリマセウカ、是ハ私ハ寔ニ見易イ道理デアルト
思フ、昨日本院ニ於テ決議案ヲ通過イタシマシタノモ、畢竟スルニ、ソレハ
極メテ重大ナル考ヲ以テ本院ハ全會一致之ヲ通過シタノデアッテ、本院ノ決議
案ハ外務大臣ニ於テ能ク其文字ノ裏面マデモ徹底シテ、能ク御熟讀ヲ願ヒタ
イノデアリマス、デ唯〓物ヲ成行ニ任シテ、段々火ニ油ヲ注グヤウニナッテ行
ッタナラバ、甚ダ心配スベキ結果ニナリハシナイカ、其間ニ何カ執ルベキ途ハ
ナイカト云フコトヲ第二ニ私ハ御聽キシタイ、第一ハ外務大臣ガ日本國民ノ
如何ニ憤慨シテ居ルカト云フコトヲ見ルコトガ誤ッテ居リハシナイカ、第二ハ
單ニ抗議ニ止メズ、何等カ今少シク兩國ノ間ニ此ノ問題ヲ解決シ、近ヅカセ
ル手段トシテ方法ハナイデアラウカ、是マデノ世界ノ歷史ノ上ニ考ヘマシテ
モ、單ニ成行ニ委セズシテ、其間ニ於テ執ルベキ所ノ手段ヲ執ッテ、物ノ解決
ノ付イタコトヲ見ルヤウニ思ヒマス、加之、此日米ノ問題ト云フモノハ、昨
日ノ決議ノ會議ニ於テ、ドナタカモ御述べニナリマシタヤウニ、移民法ノ中
ノ「歸化シ得ザル」云々ト云フ條項ヲ除イタナラバ日本國民ハ滿足スルノデ
アル、サウスレバ日本全國カラ米國ニ這入ッテ行ク移民ハ年々百四十六人ニナ
ル、サウスルト百四十六人ト云フモノヲ入レルカ入レヌカト云フ問題デアル
カラ、米國ノ方デ爭フ必要モナク、又日本ノ方ニ於テモ爭フ必要ノナイ今日
問題ニナッテ居ルヤウデアル、斯ノ如クモウ事實ノ方ハ解決ノ〓ニ就イテ居
ル、ソレニ唯形式ノ上ニ於テ日本ニ對シテ甚ダ日本國民ヲ不滿ナラシメ、不
愉快ノ心ヲ起サシムルト云フ必要ハ何處ニアル、米國大統領ノ聲明書ノ中ニ
モ不必要ニシテ悲シムベキ立法デアルト云フヤウナコトガ、タシカアッタカト
思ヒマスガ、實ニ不必要ニシテ悲シムベキ事柄デアル、ソレ位ノ事ノ分ラヌ
コトハナイト思フ、之ヲ何等カ、唯抗議ノ往復ヲ重ヌルバカリデナシニ、其
方ニ於テ今少シク執ルベキ途ガアリサウナモノデアル、卽チ兩國ノ人ヲ相接
近セシメテ、サウシテ話ノ解決ノ接近スルヤウナ手段ガアリサウナモノデア
ルガ、ソレハ無イノデアルカ、ソレハ御考ナイノデアルカト云フノヲ第二ニ伺
ヒタイデアリマス、ソレカラ次ニ伺ッテ置キタイノハ、假リニ紳士協約ト云
フモノハ玆デ廢棄セラレテ仕舞ッタモノデアル、斯クナルノデアリマスルガ、
紳士協約ガ廢棄セラレテ仕舞ッタトスレバ中央亞米利加、若クハ南米ニ對シテ
日本ガ移民ヲ送ル上ニ付テ何等米國ニ對シテ此遠慮スベキ事柄ハ全然無イ、
是モ當然ノコトト思ヒマス、當然ナ日本ノ是ハ權利デアリマスルガ、併ナガ
ラ今日マデノ政府ノヤリ方デアルト多少中央亞米利加ナリ、或ハ南米ナリニ
移民ヲ送ルコトニ付テ兎角制限ヲセラレテ居ルヤウデアル、旣ニ北米ニ日本
ノ移民ガ行カヌト云フコトニナレバ日本移民ノ行クベキ天地ト云フモノハ甚
ダ狹メラレタ譯デアル、然ラバ中央亞米利加ナリ、南米ナリニハ何等遠慮ナ
シニ行ッテ差支ナイコトト思フ、デ之ニ付テハドウ云フ事柄ニナッテ居リマス
カ、日本ノ將來ノ移民問題ノ上ニ付テ大事ナコトト思フノデアリマス、ソレデ
次ニ伺ッテ置キタイノハ此問題ハ、移民問題ハドウシテモ圓滿ニ平和的ニ解決
ヲ〓グナケレバナラヌト云フコトハ論ヲ俟タヌ、ソレニ付キマシテハ今日マ
デ屢〓議論ノアル日本ノ二重國籍法、二重國籍法ト云フモノノ改正ハ政府ニ於
テドウナサルカ、又日本ガ「カリフオルニア」ニ於テ土地法ノコトヲ不公平ナ
リト非難スルト同時ニ、日本ノ土地所有權ノコトヲ外國人ハマダ十分ニ其權
利ノ享有ガ出來ナイト云フ苦情ガアルノデアリマス、此二重國籍法ト云フコ
トモ、日本ニ於ケル土地所有法ノコトモ私ハ細カニ〓究シテ必シモ米國ノ人
ガ心配スルガ如キコトニナッテ居ラヌノデアリマスケレドモ、併ナガラ斯ウ云
フ問題ノアル際ニ更ニ此問題ト云フモノヲ日本ニ有利ニ又米國ノ爲ニモ滿足
ニ解決シナケレバナラヌ、此問題ノ場合ニ於テハ日本ニ於テナサレテ差支ナ
イコト、卽チ米國ノ人ガ是マデ異議ヲ唱ヘタコトデ而シテ日本ガソレニ應ジ
テ差支ナイコトハズン〓〓ナサッタラ宜イヂャナイカ、他人ニ向ッテ主張スル
場合ニハ先ヅ自分ノ方ノ故障アルコトハズン〓〓讓ッテ差支ナイコトト思フ
ガ、此二重國籍法ナリ、又日本ノ土地所有法ナリニ付テノ政府ノ御考ハドウデ
アルカ、其外、此移民ノコトニ付テ日本トシテ執ルベキ公平ナ途ハズン〓〓御
執リニナルト云フ御考デアラウカ、其事モ茲ニ併セテ伺ヒタイ、昨日ノ外務大
臣ノ外交演說ハ從來ノ外務大臣ノ演說ヨリモ餘程進ンダ御話デアッタト云フ
コトハ本員ハ認メマス、併シ問題ハ最早段々具體化シテ居ルノデアリマスカ
ラ、今本員ノ御尋ネシタ諸點ニ付テ十分ナル御辯明ガアリマシタナラバ、此問
題ヲ將來解決スル上ニ付テ色〓國民間ノ誤解モ解ケ不必要ニ憤慨セシメルコ
トモ無クナルデアラウト考ヘマスルノデ、此點ニ付テ伺ヒマス、昨日ノ首相竝
ニ外相ノ御演說ハ色〓ノ問題ニ觸レテ居リマスノデ本員ノ問題モ數ガ少シク
多クナリマスデ、演壇ヲ下リタリ上ッタリスルコトハ甚ダ本員モ困リマスカ
ラ、續イテ他ノ問題ニ移リマス、總理大臣ノ昨日ノ御演說ノ中ニ貴族院ノ改革
ハ云々、之ニ善處スルト云フ御言葉ガアリマシタ、今日マデ貴族院ノ院令改
正、或ハ選擧規則ノ改正ト云クヤウナコトニ付キマシテ段々考ヲ有スル人ガ
アリ、又考ヲ有スル會派ガアリマシテ、之ヲ〓究シテ居ルト云フコトハ、本員
モ承知イタシテ居リマス、併シ御承知ノ如ク貴族院改革ト云フ問題ニナリマ
スルト事重大デアリマスルデ、本員ハ此演壇ニ於テ此事ヲ申スノハ今日マデ
愼ンデ居リマシタガ、總理ガ大切ナル施政ノ方針ノ上ニ於テ貴族院改革ト云
フコトヲ言ハレタ以上ハ是亦將來ニ誤解ナカラシムル爲ニ、能ク御尋ネシテ
置カナケレバナラヌ、近來色〓世ノ中ノ思想其他ノコトガ始終變ヲテ參ツタニ
付キマシテ、兎角國ノ根本法ニ觸レタコトモ輕々ニ論ズル癖ガアルト本員ハ
考ヘル、併ナガラ本員ト致シマシテハ、是ガ白紙ノ場合ノ上ニ於テ論ズルナ
ラバ幾ラモ論ジヤウガアッテ又一向差支ナイコトデアル、又學者ガ學校ニ於テ
ソレヲ〓究スル、又貴族院ノ會派ノ人ガ各會派ニ於テ之ヲ私ニ〓究シテ見ル
ト云フコトハ差支ナイ、併ナガラ是ハ容易ニ言フベキコトデナイト思ヒマス
ノハ、衆議院竝ニ貴族院ト云フモノハ帝國憲法ノ骨子デアル、此衆議院竝ニ
貴族院ヲ苟モ改革セネバナラヌト云フコトニナレバ憲法ニ觸レナケレバ是ハ
出來ナイ是ハ申スマデモナク「帝國議會ハ貴族院衆議院ノ兩院ヲ以テ成立
ス」「貴族院ハ貴族院令ノ定ムル所ニ依リ皇族華族及勅任セラレタル議員ヲ以
テ組織ス」チヤント此兩院ノ組織權限ト云フモノハ憲法デ極マッテ居リマス、
而シテ憲法ノ制度ノ詔勅ヲ見ルト、此不磨ノ大典、此不磨ノ大典ニ付テ紛更ヲ
許サヌ、此改正ノ必要ガアル時分ニハ勅命ヲ以テ議案ガ提出セラレ、其時分ニ
ハ又之ヲ可否スルノ出席數、議決數ト云フモノモ極メテ特別ナ扱ニナッテ居ル
ノミナラズ、攝政ヲ置クノ間ハ憲法皇室典範ハ改正セヌ、斯ウ云フコトガアル
ノデアリマス、デ是ハ國ノ根本法ト云フモノヲ勝手ニコノ人ガ論議スルト云
フコトニナッテ來タナラパ、甚ダ憂フベキ事態ヲ起スデアラウト思フノデアリ
マス、ソレデ昨日ノ總理ノ貴族院ノ改革ト云フコトハ、多分ソレ等ノ憲法ニ於
テ定マッテ居ル事柄ニハ觸レヌコトデアラウト思ヒマスルケレドモ、誤解ノナ
イ爲ニ、重要ノ問題デアリマスルカラ茲ニ御尋ネシテ置ク次第デアル、又此貴
族院令ノ改正ハ貴族院ノ同意ヲ要スルト云フ一種ノ日本ハ制度ニナッテ居リ
PvS、其制度ノ白紙ノ上デアッタナラバ色〓得失論モアリマセウガ、先帝ノ御
定メニナリマシタ憲法ノ上ニ於テハ是ハ動カスベカラザルコトニナッテ居ル、
何レ院令御改正ニ付テハ此趣意ハ十分御尊重アルコトトハ思ヒマスケレド
モ、昨日ノ御言葉ガ如何ニモ簡單デアリ、或ハ誤解ヲ惹起スノ虞ガナイトモ存
ジマセヌカラ、玆ニ念ノ爲ニ御尋ネシテ置キマス、ソレカラ既ニ湯地君カラモ
御尋ガアリマシタガ、又柳澤伯カラモ御尋ガアリマシタガ、綱紀肅正トカ、行
政財政ノ整理トカ、又御話ハゴザイマセヌガ、物價ノ調節トカ、或ハ思想ノ問
題トカ云フコトハ、是ハ歷代ノ內閣ガ屢、其實行ヲ誓ハレタコトデアリマスル
ガ、孰レモ手形ノ濫發、手形ヲ濫發シテ少シモ其手形ヲ支拂ハレタコトハ殆ド
無イ、其結果、今日ニ於テ日本ノ財政ト云フモノハ行詰ッテ仕舞ッテ居ル、又國
民ノ生計費、又國ノ生產費、從ッテ生計困難カラ思想問題モ惡化シ、歷代ノ內閣
ノ失策ノ結果ガ積リ積ッテ遂ニ今日ノ行詰リヲ生ジタ、所謂行詰ッテ仕舞ッタ
ノデアル、此度コソハ加藤首相ニ於テモ手形ノ支拂ヲナサラニヤナラヌ、手形
ノ決濟ヲ御付ケニナラナケレバナラヌ、是ニハ確乎タル御決心ガアルカ、又從
來ノ内閣ノ如クニ大イニ手形ヲ振出シテ置イテ、後ハサッサト知ラヌ顏デ行ッ
テ仕舞フト云フヤウナコトガアルト、遂ニ國家ヲ誤ル、旣ニ誤ッテ居ラヌカト
云フノハ、外國爲替、卽チ米國トノ爲替ガ五十弗百圓デアルベキモノガ、四十
弗ニ下ッテ居ルノデハアリマセヌカ、何ノ事ダ、詰リ財政ニハ彌縫ニ彌縫ヲ重
ネ、不要ナル費用ト云フモノヲ、地方中央ヲ問ハズ、ドシ〓〓起シ、其實行ノ任
ニ當ル者ハ所謂綱紀ガ弛ンデ甚ダ無責任ナルコトヲ致スト云フヤウナコトカ
ラ、到頭此生計費ハ高クナル、物價ハ高クナル、勞銀ハ高クナル、輸入ハ超過ス
ル輸出ハ減ッテ仕舞フ、爲替ハドシ〓〓下落シテ仕舞フ、遂ニ四十弗ヲ割ッテ
三十弗臺ニモナッタノデアリマス、ソレ故ニ帝國經濟會議ニ於テ此事ニ付テヤ
カマシク論議シタ、其翌日頃カラ幾ラカ爲替ガ戾ッテ參ッタ、今日デハ四十一弗
ニモ戾リマシタガ、兎ニ角此百圓ガ五十弗デアラネバナラヌモノガ、四十弗ニ
モ三十弗ニモ下ッタト云フコトハ、財政上ニ於テモウソコニ破綻ガ生ジテ居
ル、一圓ガ一圓ノ實價ヲ失ッテ居ルノデアル、サウ云フコトフシテマダ顧ミナ
イト云フナラバデス、到頭此財政ト云フモノハ全ク行詰ッテ仕舞ハナケレバナ
ラヌコトニナル、デ行政財政ノ整理、是ハ聞クコトハ久シイ、之ヲ此演壇デ堂
々ト述ベラレタコトハ幾囘ナルヲ知ラナイ、併ナガラ少シモ其實行ハ見ナイ、
段々段々惡クナッテ仕舞ッテ、到頭大事ナ國家ノ通貨ノ上ニ疵ガ付イテ仕舞ツ
テ居ル、之ヲシモ尙ホ顧ミナイト云フナラバ、殆ド此國政ノ任ニ當ッテ居ル者
ハ其責任ヲ知ラヌト云ハナケレバナラヌ、甚シイコトデアリマス、デ此度ハ必
ズ手形ヲ決濟シテ載クト云フコトヲ國民ハ要求イタシテ居ル、又總理ノ御決
心モソコニアラウト思フ、其御決心ニ對シテハ我〓ハ何處マデモ御贊成スル
ノデアリマシテ、十分ニ其行政財政······中央地方ヲ問ハズ、ソレハ必ズ不平ハ
起リマセウ、費用ヲ減ズト云ヘバ必ズ其局ニ當ツテ居ル人ハ必ズ不平ヲ言ヒ
マセウガ、是ハ斷然タル處置ヲ執ラナケレバ、モウ國家ヲ奈何セム、斯ウ云フ
コトニナルデアラウト思フ、而シテ尙ホ一步進ンデ、大藏大臣ハ此外國爲替ノ
今日ノ四十一弗ト云フヤウナノデ、御滿足ニナッテ居ルノカ、之ヲドウニカシ
テ五十圓ハ五十圓、百圓ハ五十弗ト云フコトニ、引戾スト云フコトニ付テノ何
カ御成案ガアルノカ、ソレヲ一ツ伺ッテ置キタウゴザイマス、ドウ云フ政策ヲ
御執リニナルカ明カニ伺ヒタイ、又マダ速記ハ拜見イタシマセヌガ、昨日衆議
院ニ於テ大藏大臣ハ公債ノコトニ付テ御演說ガアッタ趣デアル、公債ノ募集ト
云フモノハ見合セル、ケレドモ預金部ガ引受ケルトカ、色〓ノコトガアッタト
云フコトヲ傳ヘ聞キマスガ、發行ヲ見合セル譯ニハ行カヌノデアリマスカ、
寧ロ御決心ナサルナラバ、民間デ一般ニ募ルノモ惡イガ、預金部カラ募ルノモ
矢張リ惡イ、發行ヲ止メルト云フ譯ニ行カヌノカドウカ、ソコマデ御決心ガ取
レヌノデルカ、又單ニ發行ヲ止メルバカリヂヤナク、償還ヲモット多クスルト
云フコトガ出來ヌノデアルカ、今日大藏大臣ハ發行シテ居ル公債ノ値打ヲ御
覽デゴザイマセウ、發行價格ヨリズント下ッテ居ルヂヤアリマセヌカ、九十五
圓ニ發行シタモノガ、九十圓ニモ下ルト云フヤウナ財政ノヤリ方ハ國民ハ滿
足イタシマセヌ、然ラバ旣ニ公債ノ價格ニ於テモ日本ノ財政ハ疵ガ付イテ居
ル、デ、政府ノ財政ニ向ッテ疵ガ付キ、公債ノ價格ガ下ルカラシテ金利ハ上ッ
テ來ル、工業ハ振ハヌヤウニナッテ來ル、又此非常ナル困難ト云フモノヲ日本
ノ經濟界ニ惹起シテ、今日日本ノ經濟界ハ生計費ヲ下ゲル、生產品ヲ下ゲル、
成ルベク安イ物品ヲ造ッテ、此輸入輸出ノ調節ヲ圖ラナケレバナラヌ時ニ、政
府ノ公債政策ト云フモノハ全ク之ニ逆行シテ居ルト云フヤウナ譯デアル、
之ハドウナサル、之ハ此手形ノ支拂ヲ付ケルニ付テハ、此公債政策ト云フモ
ノヲバ止メナケレバナラヌガ、衆議院デ御話ニナッタ速記ヲ見ナイデ、唯此處
デ申スノハ甚ダ疎忽ノヤウデアリマスガ、一傳へ聞ク所ニ誤リナクバ、矢張リ
發行ヲナサルト云フコトデアル、發行ナサレバ矢張リ公債ノ價格ガ下ル、又償
還ヲ增スト云フコトニ付テハ一向御考ガナイヤウデアリマス、近時、日本ノ公
債ハ短期公債短期期公債何デモカンデモ銀行屋ヲ呼付ケテ短期ノ公債ヲ無暗
ニ發行ナサルノデアリマスガ、其短期公債ノ期限ガ今輻輳シテ居ル、是レ亦行
詰リノ狀態ヲ呈シテ居ルノデアリマス、已ムヲ得ズ外國ヘ行ッテ高イ公債ヲ借
リテ來ナケレバナラヌト云フヤウナ不體裁ナコトヲシナケレパナラヌ、サウ
云フヤウナ姑息ナ財政ト云フモノハ國民ハ決シテ望ミマセヌ、貴族院モ贊成
シナイ、デ斷然タル此改革ト云フモノヲ一ツ御ヤリニナルコトハドウカ、私ハ
此追加豫算デ要求イタシマセヌ、是ハ無理ナコトデ如何ニ聰明ナ總理大臣、
大藏大臣ト雖モ此追加豫算ヲ以テ皆ヤレト云フコトハ是ハ無理デアリマセウ
ガ、此暮ノ本議會ニ於テ是等ノ實蹟ガ明瞭ニ現ハレルト云フコトデナイナラ
バ國民ガ憲政會其他二派ノ人ニ投票シタ意味ハ沒却セラレテ仕舞フ、幸ニ諸
公ガ從來ノ異論ヲ棄テ、擧國一致鞏固ナル內閣ヲ造ラレ、有力ナル政治家ノ
集マッタ此內閣ニ向ッテ私ハ此暮ノ議會ニ於テ斷乎タル行政財政ノ整理ノ實ヲ
擧ゲラレルト云フコトヲ希望シテ止マヌ、此事ガ御約束ガ出來ルカドウカ、更
ニ茲ニ伺ヒタイノデアリマス、次ニ一ツ二ツ伺ヲテ置キタイ、是ハ多少前內閣
ノ人ニハ御氣ノ毒ニ存ジマスガ、併シ私ハ憲法ヲ維持シ會計法ヲ維持スルニ
付テハ親疎ヲ論ズル譯ニ行カナイ、ソレ故ニ伺ヒマスルガ、火災保險ノ問題
ハドウナリマシタカト云フコトヲ伺ヒタイ、昨年九月一日ノ震災ノ爲ニ非常
ナル災害ガ起ッテ而シテ地震約款ガアルガ爲ニ、火災保險會社ガ火災保險ヲ支
拂ハヌト云フコトカラ、此日本ノ現在ノ商工業ノ制度ハ火災保險ノ基礎ノ上
ニ置カレテアルノデスカラ、此基礎タル火災保險ヲ支拂ハヌト云フコトニナッ
タナラバ、是ハ非常ナル困難ガ來ルコトハ已ムヲ得ヌ、ソレガ爲ニ此保險金ノ
幾分ヲ國庫ガ貸シテ、此困難ヲ救ッタラ宜カラウト云フ議ガ直チニ起ッタノデ
アリマス、併ナガラ其直チニ起ッタ所ノ說ハ其當時ノ內閣ガ容レナカッタ、而シ
テ之ヲ帝國議會ニ提出シタ所ガ衆議院ニ於テ異論ガアッタ、サウシテ衆議院ガ
之ヲ否決セムトシタノデアリマス、或ハ握リ潰サムトシタノデアリマス、其
時ニ於テ田農商務大臣ハ斷然責任ヲ執ッテ內閣ヲ御引キニナツタノデアリマ
スノデ、到頭政府ノ此議會ノ協賛ヲ經テ火災保險金ノ援助スルト云フコトノ
案ハソコデ實行ガ出來ナカッタ、續イテ次ノ內閣、卽チ〓浦內閣ニ於キマシテ
緊急勅令ヲ以テ解決シヤウトセラレタノデアル、然ルニ聞ク所ニ依レバ樞密
院ニ於テハ斯ノ如キモノハ緊急勅令ヲ以テ處分スベキモノデナイ、憲法ノ精
神ニ悖ルト云フヤウナ經緯ガアッテ、ソレヲ撤囘セラレタ趣デアリマス、而シ
テ其後ノ處分ニ尙ホ時ノ內閣ガ窮シタガ爲ニ國庫剰餘金支出ノ名義ヲ以テ六
千萬圓デアルカヲ支出セラレタト云フコトデアル、デ私ガ尋ネルノハ現內閣
ニナッテカラ、一錢一厘ヲ此爲ニ御出シニナッタコトガアルカ、一錢一厘モモウ
此爲ニハ現内閣ハ御出シニナラナカッタカ、又此問題ト云フモノハ何レ前內閣
カラ御引繼ニナッタデアラウガ、現内閣ハ正當ナリトシテ引繼ヲ御受ケニナッ
タカ、ソレガ伺ヒタイノデアリマス、私ハ此火保問題ハ金ヲ渡シテ救助スル
ト云フコトノ必要不必要ヲ今日論ズルデハアリマセヌ、如何ナル必要ナコト
ガアッテモ、此帝國議會ノ一院ガソレヲ否トシ、樞密院ニ於テ之ヲ否トシタモ
ノモ政府ガ勝手ニ出セルト云フコトデアレバ、此憲法ノ制度ノ上ニ一ツノ缺
陷ガアリハシナイカ、會計法ノ上ニ缺陷ガアリハシナイカト云フコトヲ恐レ
ルノデアリマス、サウ云フコトノナイヤウニ憲法、會計法ハ出來テ居ルノデ
ハナイノカ、斯ウ思フノデアリマスガ、是ハ現内閣ニ於テモ支出ナサッタノデ
アルカ、支出ナサラヌノデアルカ、支出ナサラヌニシテモ前內閣カラ正當ナリ
トシテ御引繼ヲ御受ケニナッタノデアルカドウカ、是ハ明カニ聞イテ置キタイ
ノデアリマス、又新聞ノ傳フル所ニ依レバ、朝鮮銀行ノ困難ナルガ爲ニ預金部
ノ資金五千萬圓ヲ低利ニ此朝鮮銀行ニ貸サレタト云フコトデアリマスルガ、
預金部ト云フモノハ何デアルカト云フト、零碎ナル國民ノ資金ヲ國庫ノ
國家ノ信用ヲ以テ預ッテ居ル、國家程國民ハ信用スルモノハナイノデアリマ
スカラ、國家ニ預ケレバ大丈夫ダト云フノデ、零碎ナル資金ヲ預ッテ居ラレ
ル、故ニ國家ハ此細民ノ貯蓄ト云フモノハ最モ安全ニ、又最モ有利ニ利殖スル
ノ義務ガアルノデアリマス、朝鮮銀行ト云フモノヲ救濟スルコトガ必要カ不
必要カト云フコトハ私ハ論ズルノデハアリマセヌ、朝鮮銀行ガ若シ困難ナラ
バ之ヲ救濟シテ差支ナイソレガ若シ國家ノ必要デアレバ差支ナイノデアリ
マスカラ、其事ニ付テ私ハ今日茲ニ論ズルノデハナイガ、併ナガラ其朝鮮銀行
ヲ救濟スルト云フナラバ、ソコハ少シク此銀行ノ信用ガ薄イト云ハナケレバ
ナテヌ、其信用ノ薄イモノヘ此預金部ノ金ヲ貸スト云フコトハドウ云フコト
デアルカ、ソレガ國民ニ對シ、貯金者ニ對シ深切ナル仕方デアルカ、又其事
柄ハ預金部ガ勝手ニ出來ルト云フナラバ甚ダ此預金部ノ規則ト云フモノハ不
完全ナモノデアル、帝國議會ハ豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ストキ
ニハ議會ノ協賛ヲ要スト云フ憲法ノ明條ガアル、併ナガラ運用ノ下ニ小サナ
金額マデハ問ハヌケレドモ、運用運用ト云フ名ノ下ニ斯ノ如キコトガ出來ル
ト云フナラバ、是レ亦憲法カ會計法ニ缺陷ガナクチヤナラヌ、是レ亦現內閣
ノ代ニナッテカラ朝鮮銀行ヘ預金部カラ金ヲ支出ニナッタコトガアリマスカ、
又無イニシテモ是ハ前內閣カラ正當ナリトシテ御引繼ヲ受ケラレタノデアル
カ、是モ御尋ネシケイノデアリマス、是ガ私ノ質問ノ要領デアリマス、少シ
數ガ多クナリマシタガ、甚ダ長イ時間ヲ費シマシテ······
〔國務大臣子爵加藤高明君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=13
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014・加藤高明
○國務大臣〔子爵加藤高明君〕 唯今、阪谷男爵ヨリ種々ノ事項ニ付キマシテ
御尋ガアリマシタ、其中ニハ主管大臣ヨリ答ヘテ貰ッタ方ガ便利ナ問題モア
ルヤウニ思ヒマスルガ、先ヅ以テ特ニ總理大臣ニ御尋ニナリマシタ事柄ニ付
テ私カラ御答イタシマス、私ガ昨日施政ノ方針ヲ述ベマシタ際ニ貴族院改革
ト云フ言葉ヲ用ヰタト云フコトヲ二三度申サレマシタガ、改革ト云フ言葉ハ
用ヰマセヌ、改善ト申シタノデアリマス、是ハ明カニ改革ト云フ言葉ト區別シ
テ改善ト云フコトヲ唱ヘタ積リデアリマス、而シテ如何ニ之ヲ改善スルカト
云フコトニ付テハ、是ヨリ時代ノ趨向ヲ見テ愼重ニ考究イタス積リデアリマ
スルカラ、未ダ結論ニ達シテ居ラヌコトハ申スマデモナイノデアリマス、併シ
是ダケノコトハ斷言シ得ルノデアリマス、憲法ニ關係スルコトマデ變史ヲ求
メルト云フ考ハ少シモゴザイマセヌ、今日、攝政ノ在ラセラレル內ハ出來ヌコ
トモ承知イタシテ居リマスルシ、サウデナクテモ憲法ニ觸レルト云フヤウナ
考ハ毛頭ゴザイマセヌト云フコトハ明カニ申シテ置イテ差支ナイノデゴザイ
マス、ソレカラ綱紀肅正、行政整理等ノコトニ付テハ是マデ屢〓時ノ政府ガ言
明シタケレドモ、何時モ實行ニ終ラズシテ濟ンダト云フ御話デアリマシタ、是
ハ私モ御同樣ニ考ヘルノデアリマス、ケレドモ今度ノ政府ハ決シテ口先ニ唱
ヘルコトバカリデナク、力ノ及ブ限リ渾身ノ力ヲ以テ此事ニ當ル積リデ居リ
やっく而シテ其成績ノ如何ナルモノガ擧ルカト云フコトハ今ヨリ豫メ申上ゲ
ルコトハ出來マセヌガ、我s微力ナガラ力ノ及バム限リハ此目的ニ向ッテ勇
往邁進スル積リデアルト云フコトダケヲ申上ゲテ置キマス、ソレカラ火災保
險ノコト、是ハ前ノ內閣ノ時ニ種々ナル議論ヲ經テ出來タコトノヤウデアリ
マス、タシカ六千二百萬ノ金ヲ支出シテ、小口ノ保險者ニ厚ク、大口ノ保險者
ニ薄イト云フヤウナ趣意デ、五月五日ニ支拂ヲ開始シテ六月ノ末ニ〓ネ終了
シタト云フコトヲ承ハッテ居リマスガ、我〓ノ內閣ハ御承知ノ通リ六月十一日
ニ出來タノデアリマスカラ、其後ニ支拂ガ尙ホ有ッタヤ否ヤト云フコトハマダ
承ッテ居リマセヌガ、兎ニ角、事柄ハ善カレ惡シカレ、我〓ノ就職前ニ疾ク決マ
ッテ仕舞ッタコトデアリマス、多少ノ支拂ガ殘ッタトシテモ、我〓ガ職ニ就イタ
爲ニ俄ニ支拂ヲ止メルト云フコトモ困難デアツタカモ知レマセヌガ、事實唯
今私ハ知ッテ居リマセヌ、必要ナレバ農商務大臣ヨリ答辯ヲシテ貰フコトニ致
シタイト思ッテ居リマス、ソレカラ朝鮮銀行ヘ低利ニテ數千萬國ノ金ヲ預金部
ヨリ融通シタト申スコト、此事柄モドウ云フコトデアリマスルカ、前內閣ノ
時ニ出來タコトデアリマス、今玆デ當否ヲ論ジマセヌガ、其事ノ詳細モ大藏
大臣ヨリ御答シタ方ガ便利カモ知レマセヌ、是ダケノコトヲ申シテ置キマス、
而シテ外交ノコトハ外務大臣ヨリ精シク御答ヘスル筈デアリマス
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=14
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015・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 唯今、阪谷男爵ノ御質問ノ中デ外交ニ關ス
ル部分ニ付キマシテ御答辯ヲ申上ゲヤウト思ヒマス、第一ニ阪谷男爵ハ私ガ
此排日問題ニ關シ日本國民ノ感情ヲ誤解シ、輕ク視過ギテ居ルノデハナイカ
ト云フ風ナ御言葉ガアリマシタ、私ハ決シテ此問題ニ關シテ國民ノ感情ヲ輕
ク視テ居ル譯デアリマセヌ、最モ重要視イタシテ居ルノデアリマス、重要視シ
テ居ルカラドウカシテ此問題ノ圓滿ナル解決ニ盡シタイト思ッテ、唯〓百方苦
心イタシテ居ル次第デアリマス、尙ホ前內閣ノ時代ニ卽チ去ル五月ノ三十一
日附デ日本政府ノ米國政府ニ送リマシタル公文書中ニモ、日本ノ政府ガ如何
ニ此問題ニ重キヲ置イテ居ルカ、又日本國民ノ感情ガ何故此問題ニ依ッテ不安
ヲ感ズルカト云フ理由ハ十分說明イタシテアル通リデアリマシテ、其公文書
ヲ御覽下サレバ大體政府ノ有ッテ居ル意見モ御分リ下サルコトト存ジマス、又
米國ニ於キマシテモ少クトモ米國政府ハ此問題ヲ輕ク視テ居ルノデハナイト
私ハ信ジマス、此問題ノ性質ヲ輕視シテ居ラヌコトハ本案ノ米國議會ニ繫續
イタシテ居リマス間ニ、國務卿ガ下院ノ移民委員會ノ委員長ニ宛テタル書面
中ニ於テ相當ニ力强ク米國政府ノ態度ヲ說明イタシテ居リマス、其書面ノ中
ニハ先ヅ第一ニ其當時下院ニ現ハレテ居ッタ移民法案中ニハ條約違反ノ點ガ
アルト云フコトヲ主張イタシテ居リマス、此法律案成立ノ時ニ當リマシテハ
亞米利加ノ國務卿ノ意見ヲ參酌イタシマシテ相當ノ改正ヲ加ヘラレテアルノ
デアリマス、ソレカラ移民ノ問題ニ付キマシテハ國務卿ハ是ハ條約違反ノ問
顆デハナイケレドモ米國ノ國策トシテ、政策トシテ、極メテ其當ヲ得ナイモ
ノデアルト云フ說明ヲ致シテ居リマス、卽チ第一ニ斯ノ如キ立法手段ヲ此際
執ルコトハ必要ノナイコトデアル、事實不必要ナコトデアルト云フ說明ヲ致
シマシテ、其關係ニ於テ紳士協約ノ成行モ說明イタシテ居リマス、又斯ノ如
キ立法ガ成立スレバ不必要ニ日本國民ノ正當ナル感情ヲ刺激スルト云フコト
モ力說イタシテアリマス、米國政府當局者ガ此問題ヲ決シテ輕ク視テ居ルノ
デナイト云フコトハ其書面ノ中ニモ現ハレテ居ルト思ヒマス、此不愉快ナル
事態ニ際シマシテ我ガ國民ガ自分ノ感情ヲ節制シテ自重イタシテ居ルト云フ
コトハ、私モ能ク承知イタシテ居リマス、唯近來二三ノ不愉快ナル事件ガアリ
マシテ、日本國民ノ節制イタシテ居ルト云フ事實ヲ誤解セシメルヤウナ、外國
ニ於テ誤解セシメルヤウナ虞ガアッタノデアリマスケレドモ、大體ニ於テ此問
題ガ始マッテカラ以來、日本國民ノ執リ來レル態度ニ付キマシテハ、米國ノ大
體ノ輿論ハ必ズ諒トシテ居ルコトト信ジマス、今後ニ於キマシテモ日本國民
ハ大國民ノ襟度ヲ以テ合理的手段ニ依リ其目的ヲ貫徹セシムルコトヲ努ムル
コトト私ハ信ジテ居リマス、本件ノ解決方法ニ付キマシテ次ニ御質問ガアリ
マシタ、要スルニ本問題ノ根本ニ於キマシテハ結局米國ニ於ケル國民的覺醒
ニ俟ツシカ仕方ナイノデアル、是ガ爲ニハ日本ノ正當ナル主張ノ立場ト云フ
モノヲ能ク米國國民ニ徹底セシムルヤウニ努メナケレバナラヌト思ヒマス、
其目的ノ爲ニハ我〓ニ於キマシテモ出來ルダケ合理的手段ハ盡シタイト云フ
考ヲ持ッテ居リマス、要スルニ昨日モ申述ベマシタ如ク、本問題ノ圓滿ナル解
決ノタメ、又多年ニ亙ル日米ノ國交ヲ永遠ニ確保セムガ爲ニハ我〓ハ出來ル
ダケノ手段ハ執ル決心デ居リマス、次ニ紳士協約ト南米行移民ノコトニ付キ
マシテ御質問ガアリマシタ、南米行ノ移民ノコトハ紳士協約ト從來何等ノ
關係ガアリマセヌ、南米行ノ移民ヲ紳士協約ニ依ッテ制限シタリ取締ヲシタコ
トハ斷ジテアリマセヌ、唯紳士協約ノ中ニハ合衆國ノ領土ニ接近スル地方ニ
行ク移民ニ付テハ、同樣ノ制限及取締ヲ行フト云フ一箇條ガアルノデアリマ
ス、其結果ト致シマシテ墨西哥地方ニ到リマスル移民ニ付キマシテハ、從來ハ
相當ノ制限及取締ヲ行ヒ來タッタノデアリマスルガ、南米行ノ移民ハ全ク別問
題デゴザイマス、何レニ對シマシテモ紳士協約ナルモノハ此七月一日ヨリ效
力ヲ失ッタ次第デアリマスルカラ、最早日本政府ハ何等ノ德義上ノ責任モ、移
民ノ制限ニ付テハ何國ニ對シテモ有ッテ居ナイノデアリマス、從テ南米中米ハ
固ヨリ墨西哥ニ對スル移民ト雖モ今後ハ一方ニ於テハ日本、他ノ一方ニ於テ
ハ其當該國、其雙方ノ立場ヲ考ヘマシテ、適當ニ移民ニ關スル問題ヲ調節イ
タス考デアリマス、ソレカラ終リニ、二重國籍法及外國人土地所有權ニ關ス
ル法律改正案ノコトニ付キマシテ御質問ガアリマシタ、此二ツノ問題ハ誠ニ
重要ナル問題デアルト存ジマス、現ニ唯今政府ニ於キマシテハ、此二ツノ問
題ニ付キマシテ、十分熱心ナル考究ヲ盡シテ居ルノデアリマス、其中、二重國
籍ニ關スル法律案ニ付キマシテハ此議會ニ、此會期ニ、提出イタシタイ考ヲ
以テ唯〓大體案ガ纒ッテ居ル次第デアリマス、是等ノ問題ハ、日本ノ利益ヨリ
見テ必要ヲ認メル問題デアリマスカラ、移民法ノ成行、問題ノ成リ行ニ拘ラ
ズ、政府ニ於テ決定シテ必要ト認メルコトハ議會ニ提出シテ御協賛ヲ仰ギタ
イト存ジテ居リマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=15
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016・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯〓ノ阪谷男爵ノ御質問ニ對シテ御答ラ致サウト
思ヒマス、第一ニ爲替相場ガ今日ハ非常ニ低落ヲ致シテ居ルガ、此爲替相場
ノ囘復ニ付テハ政府ハ如何ナル方策ヲ持ッテ居ルカト云フ御質問デアリマス
如何ニモ今日ノ爲替相場ハ殆ンド前例ヲ見ナイ所ノ低落ヲ〓グテ居リマス、
最近ニ於キマシテハ、四十一弗二分ノ一ニナッテ居リマス、最モ下落ヲ致シマ
シタ時ハ四十弗ヲ少シ降ッタカト思ヒマスガ、幸ニシテ最近ニハ幾ラカ囘復
ノ傾向ガ現ハレテ居ルノデアリマス、併ナガラ四十一弗二分ノ一ノ安イ爲替
相場ヲ以テ、政府ハ決シテ滿足ヲスベキモノデナイコトハ、是ハ男爵ト全然
御同感デアリマス、然ラバ如何ニシテ此低落セル爲替相場ヲ囘復スベキヤト
申シマスト、私ノ考ヲ申シマスレバ、徒ラニ人爲ヲ以テ强ヒテ之ヲ釣上ゲルコ
トハ策ノ得タルコトデアルマイト考ヘマス、若シ今日ノ狀態ニ於テ、此爲替
相場ヲ、或ハ二分ノ一或ハ一弗ト云フ如ク釣上ゲヲ試ミムトシマスルナラバ、
ソレハ出來ナイコトハ無イト思ヒマスケレドモ、大體爲替相場ノ低落ノ原因
ガ御承知ノ通リ非常ナル所ノ貿易ノ逆調ニ基イテ居ル、其根本ノ原因ガ直ラ
ナイ限リニ於テハ、人爲ヲ以テ之ヲ左右イタシマシテモ、ソレハ僅ニ一時ノ
利キ目ニ止マリマシテ、其藥ノ利キ目ガ消滅イタシマスレバ、爲替相場ハ直チ
ニ元ノ通リニ低落スルコトハ極メテ見易キ道理デアルト信ジマスニ依ッテ、政
府ハ徒ラニ人爲ヲ以テ相場ノ變動ヲスルコトハ避ケタイ考ヲ持ッテ居リマス、
ソレ故ニ相場ノ囘復ノ唯一ノ方策トシマシテハ何ト申シマシテモ、爲替相場
ノ低落ノ根本ノ原因タル所ノ貿易ノ逆調ノ勢ヲ緩和スル外ニハナイト思ヒマ
ス、而シテ貿易ノ逆調ノ勢ヲ緩和イタシマスルニハ種々ノ方策ガアラウト思
ヒマスケレドモ、政府ト致シマシテハ、第一ニ努ムベキコトハ、是ハ行政財政
ノ思切ッタル整理緊縮ノ斷行ニ外ナラヌト思ヒマス、而シテ國民全體ニ向ッテ
私共ノ希望スル所ハ戰時中カラ段々ト馴致サレマシタル所ノ輕佻奢侈ノ氣分
ヲ一掃イタシマシテ、勤儉力行ノ氣風ヲ振作イタシ、ソレニ依ッテ消費ヲ節制
シ、又民間ノ經濟ニ於テモ出來得ル限リ財界ノ整理安定ニ努ムルト云フ方法
ヲ講ジマシテ、朝野相俟ッテ、始メテ財政經濟ノ基礎ヲ立直スコトガ出來ルト
アラウト思ヒマス、其財政經濟ノ基礎ガ立直リマスル時ニ於テ、始メテ貿易ノ
逆調ノ勢ガ緩和サレマシテ、其緩和サレルニ從ッテ、爲替相場ハ漸次騰貴ヲ
致シテ平價ニ近ツイテ來ルデアラウト思ヒマス、其根本ノ手段ノ外ニハ今日
執ルベキ方法ハ私ハ無イデハナイカト考ヘテ居ル次第デアリマス、第二ノ御
質問ハ公債政策ニ關スル御質問デアッタノデアリマス、政府ノ公債政策ニ付
キマシテハ、昨日衆議院ニ於テ演說ヲ致シマシタ、マダ速記ヲ御覽ニナッテ居
ラナイヤウデアリマスカラ、其大體ヲ先ヅ以テ申上ゲヤウト思ヒマスガ、前
內閣ノ公債募集ノ計畫ト致シマシテハ、大正十三年度ニ於テハ公債ノ募集ヲ
要スルモノガ、四億三千餘萬圓ニ上ボルノ計畫デアッタヤウデアリマス、現內
閣ハ其四億三千餘萬圓ノ中カラ、成ルベク公債募集ニ依ル方法ヲ避ケタイト
云フ考ヲ以テ二三ノ事項ヲ削除イタシタノデアリマス、第一ニハ復興局ノ事
務費二百餘萬圓デアリマス、是ハ是マデノ計畫ニ依リマスレバ、公債支辨中業
デアッタノデアリマスルガ、此復興局ノ事務費ハ御承知ノ通リ帝都復興、若ク
ハ震災復舊ノ如キ實際ノ事業トハ違ヒマシテ、單ニ復興局ト云フ役所ノ事務
費ニ過ギマセヌガ爲ニ、此事務費マデモ公債財源ニ仰グト云フコトハ穩當デ
ナイト云フ考ヲ以テ、是ハ公債支辨事業カラ除キマシテ、普通ノ財源ノ支辨
ニ移シタノデアリマス、第二ニハ經濟復興ノ公債總額ハ二億三千五百萬ト云
フ前內閣ノ計畫デアリマシタ、其十三年度ニ於ケル年割額ハタシカ三千五百
萬デアッタト記憶ヲ致シマスガ、現內閣ハ經濟ノ復興ト云フコトノ必要ハ飽マ
デモ認メマスケレドモ、其財源ヲ公債ノ公募ニ仰グト云フコトハ然ルベカラ
ズト云フ考ヲ持チマシテ、其財源ハ別途之ヲ考究スルコトニ致シマシテ、一ト
先ヅ公債募集ノ計畫カラ控除イタシタノデアリマス、其次ニハ臨時電事費ノ
公債ノ是マデ募集スベクシテ、募集ガ未濟ニナッテ居リマシタ所ノ一億餘萬
圓此モノハ年度內ニ於テ必シモ募集ヲ要シナイト云フ狀況ニアリマスルガ
故ニ、十三年年ニ於ケル公債計畫カラハ省イタノデアリマス、其三口ヲ差引
キマスルト云フト大正十三年度ニ於テ公債ヲ募集スルト云フ必要ノアリマ
スル金額ガ二億九千五百九十餘萬圓ト相成ッタノデアリマス、然ルニ此三億ニ
近イ所ノ公債ヲ一般ノ市場ニ於テ公募シマスルト云フコトハ現在ノ經濟界
ノ現況ニ鑑ミマシテ甚ダ宜シクナイト云フ考ヲ私共ハ持チマシタガ爲ニ、成
ルベク此公債ヲ一般ノ市場ニ公募スルト云フコトヲ避ケルノ方針ヲ執ッタノ
デアリマス、其方策ト致シマシテハ、先ヅ以テ曩ニ御承知ノ通リ、英米ノ市
場ニ於テ募集イタシマシタ外債ノ中、一億五百餘萬圓ヲ以テ之ニ充當イタシ
マシタ、サウシテ預金部ノ餘力ガ幸ニ大分出來テ居リマシタカラ、其中一億
五千四百八十萬バカリヲ預金部ニ引受ケシメマシタ、殘リノ三千五百萬圓ハ
之ヲ郵便局ノ賣出シニ仰グト云フノ方法ヲ講ジマシテ、斯ノ如クニ致シマシ
テ、一般市場カラ公募スルコトハ十三年度限リニ於テハ之ヲ避ケルコトガ
出來タノデアリマス、而シテ十四年度以降ニ於キマシテ、果シテ十三年度ト
同樣ニ、總テノ公債ヲ一般市場ニ公募スルコトヲ絕對ニ避ケルコトガ出來ル
ヤ否ヤト云フコトハ、今日ニ於テ私責任ヲ以テ申上ゲルコトハ出來マセヌガ、
緊急已ムヲ得ナイモノヲ除クノ外ハ、公債ノ募集ハ成ルベク之ヲ差控ヘマシ
テ、殊ニ一般市場ニ於ケル公募ハ出來得ル限リ十四年度以降ニ於テモ、之ヲ
減少スルノ方針ヲ執リタイト思ッテ居ル次第デアリマス唯〓阪谷男爵ノ御說
ニ依リマスレバ、一般市場ニ於テ公募スルコトハ止メタケレドモ、預金部ニ
於テ之ヲ引受ケルト云フコトハ、ソレハ姑息ナ方法デハナイカト云フ意味ノ
御尋ガアッタノデアリマスルガ、如何ニモ是ハ御說ノ通リ姑息ノ方法デアリ
やく、出來得ルナラバ、公債支辨事業ソノモノヲ出來得ル限リ緊縮ヲ致シマ
シテ、預金部ノ引受ヲモ止メタイ考ヲ持ッテ居リマスケレドモ、此過渡ノ場
合ニ於テ、一擧ニシテ私共ノ理想ヲ達スルコトハ困難デアリマスカラ、已ム
コトヲ得ズ預金部ノ引受ノ數字ヲ大分多ク致シタ譯デアリマス、將來ニ於テ
一、預金部ノ資金ノ運用ノ方法ト致シテ公債ヲ引受ケルト云フコトハ、是ハ
別問題ニ致シマシテモ、財源ノ調達ノ爲ニ預金部ヲ利用スルト云フコトハ、成
ルベク之ヲ避ケル方針ヲ執リタイト思ッテ居リマス、其次ニ公債ノ政策ヲ改メ
テ、公債償還ノ金額ヲ增加スルト云フ考ハナイカト云フ御質問デアリマシタ
ガ、私共モ男爵ト御同感デアリマシテ、若シ財政ノ事情ガ許シマスルナラバ、
公債ノ償還額ヲモ增加シタイト云フ希望ヲ持ッテ居リマスケレドモ、奈何セ
ム、今日ノ我國ノ財界ノ現狀ハ殆ド病膏盲ニ入ッテ居ルト云フ狀態デアリマ
シテ、ナカ〓〓一擧ニ致シマシテ總テノ事柄ヲ解決スルト云フコトハ困難デ
アリマス、依ッテ漸ヲ逐ウテ我〓ノ理想ヲ達シタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、
ソレ故ニ直チニ減債基金ノ繰入ヲ增加イタシマシテ、公債ノ償還ノ金額ヲ殖
ヤスト云フコトハ責任ヲ持ッテ今日斷言スルコトハ遺憾ナガラ出來ナイ狀態
デアリマス、又短期公債ガ大分溜マッテ居リマシテ、年々數億萬圓ノ借換ガ輻
輳スルヤウナ狀態デアリマス、私共ノ希望ト致シマシテハ財政行政ノ整理緊
縮ニ依リ或ハ公債公募ノ出來得ル限リノ減少ニ依リ、其他國民ノ貯蓄ノ奬勵
ノ方法ニ依リ、成ルベク市場ノ狀況ヲ改善イタシマシテ、短期公債ノ如キハ、
期限ノ來リマスルニ及ンデ、出來得ル限リ之ヲ長期公債ニ借換ヘルト云フ
方針ヲ執リタイモノト思ッテ居リマス、火災保險ノコトニ付テハ旣ニ總理大臣
カラ御答辯ガアリマシタシ又農商務大臣カラモ御答ガアラウト思ヒマスカ
ラ私ハ之ヲ差控ヘマス、最後ニ朝鮮銀行ニ對シ預金部ヨリ何ガシノ金額ヲ融
通シタコトガアルト云フ御話ガアリマシタガ、如何ニモ是ハ男爵ノ御說ノ通
リサウ云フ事實ガアッタノデアリマス、而シテ是ハ單リ大藏省限リノ議論ヲ決
定イタシテヤッタバカリデナク、旣ニ朝鮮銀行ニ向ッテ其指令ヲ與ヘタ後ニ、內
閣ガ更迭シタノデアリマス、從テ金額ノ支出シマシタモノハ其一部分デアリ
マシテ、支出未濟ノモノガ多少アルカト記憶ヲ致シマスガ、其殘リハアルニ
致シマシテモ既ニ外部ニ向ッテ此事ヲ發表イタシ、當該銀行ニ向ッテ指令ヲ發
シ、其指令ヲ受ケタ朝鮮銀行ニ於テハソレゾレソレヲ目的ト致シマシテ種々
ナ計畫ヲ致シテ居リマス今日デアリマス故ニ、此支出ノ未濟金額ヲ取消ス
ト云フコトハ穩當デナイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、而シテ預金部ニ向ッテ斯
ノ如キ資金ヲ融通シタルコトヲ現內閣ハ正當ナリトシテ、前內閣カラ引繼ギ
ヲ受ケタノデアルト云フ御質問ニ對シマシテハ、前内閣ガ如何ナル事情ニ依ッ
テ朝鮮銀行ニ融通ヲ致ズト云フ方針ヲ決定シタカト云フ其當時ノ狀態ニ付テ
ハ前內閣ノ當局者、各〓見ル所ガアッタノデアラウト思ヒマス、從テ私ハ其當
時ノ狀況ニ遡ッテ其當否ヲ公然此處デ論ズルコトハ避ケタイト思ヒマス、唯
現內閣ノ方針トシテハ、將來ニ亙ッテハ斯ノ如キコトハ愼ミタイト云フ考ヲ
持フテ居リマス、又預金部ノ改善ノ問題ニ付キマシテハ、私共豫テヨリ御說ノ
通リノ考ヲ持ッテ居リマス、其運用ノ方法竝ニ制度ノ改善ニ付テハ相當ニ考
慮ヲ致シタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、是ダケヲ御答へ申シマス
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=16
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017・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 阪谷男爵ヨリ火災保險ノ問題ニ付テ御質疑ガアリ
マシタガ出來ルダケノ御答ヲ致シマスガ、昨年九月ノ震火災ニ伴ヒマシテ、
此火災保險問題ト云フモノハ起ッタノデアリマス、前々內閣ニ於キマシテ苦心
セラレタ結果、第四十七囘ノ帝國議會ニ、保險會社ニ對スル貸付ニ關スル法
律案、保險會社貸付資金公債法案ト云フモノガ御承知ノ通リ提出セラレマシ
テ、衆議院ノ委員會ニ於キマシテハ審議未了ニナリマシタコトハ先刻男爵ノ
御質疑中ニモ御述ベニナッタ通リテアリマス、本年ニ入リマシテハ被保險者
ノ方ノ側カラシテ見舞金ノ要求ノ聲ガ激烈ニナッタノデアリマス、而シテ保險
會社ヨリモ政府ニ對シテハ、政府ノ援助ヲ受ケル下ニ於テ見舞金ヲ支拂ヒタ
イト云フコトヲ前內閣ニ向ッテ請願シテ參ッタノデアリマス、ソコデ前内閣ハ
保險會社ニ對シマシテ見舞金ノ出捐ヲナス爲ニ、之ヲ援助スル爲ニ助成金ヲ
交付スルト云フ方法ヲ立テマシテ、サウシテ其經費ハ責任支出ヲ以テ辨ズル
コトト致シタノデアリマス、ソコデ四月十四日ニ勅令第八十四號保險會社ニ
對スル助成金ニ關スル件及同月十九日農商務省令第六號大正十三年勅令第八
十四號ニ依ル助成金ニ關スル件、斯ウ云フモノガ公布セラレ、同月二十三日
ニハ保險會社出捐助成金六千五百萬圓ノ豫算外支出ノ勅裁ヲ經マシテ、天ノ
同月三十日之ニ關スル事務費ノ豫算外支出ノ勅裁ヲ經マシテ、五月三日保險
會社ニ對スル助成金ニ關スル事務ニ從事スル臨時職員ノ設置ヲ要スル其官制
ガ公布セラレタ次第デアリマス、デ現今ニ於キマシテハ、此責任支出デ定メ
マシタ六千五百萬圓ノ中、旣ニ交付濟ノモノハ六干二百八十四萬圓餘ニナッテ
居リマス、而シテ前內閣存立中ニ支出シマシタモノハ六千百萬圓餘デアリマ
シテ、現內閣ニナリマシテカラ、其殘ノ中百五十一萬圓餘支出ガアリマシテ
最早八九分通リ實行濟ニナッテ居リマス、尙ホ詳細ノコトニ付テ御尋ガアリマ
スレバ、ドウカ豫算總會ニ於キマシテ政府委員ヨリ細カイコトハ御答ヲ致ス
ヤウニ致シタイト考ヘマス、大體御答へ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=17
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018・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 唯〓ノ農商務大臣ノ御答ハ、少シ私ノ聞イタノト所ガ外
レテ居リマス、併シモウ餘日ノナイコトデゴザイマスカラ、尙ホ此處デ問返
シマスト非常ニ時間ヲ要シマスカラ、本員ハ是デ宜シウゴザイマス、又他ノ
機會ニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 山脇玄君
〔山脇玄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=19
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020・山脇玄
○山脇玄君 私ハ此機會ニ於テ政府ニ向ッテ質問スルコトハ時機尙ホ早シト
見テ居ルノデアリマス、デ昨日ノ總理大臣ノ御演說、外務大臣ノ御演說ノ御
趣意ニハ滿腔ノ熱誠ヲ以テ贊成スルモノデアリマス、唯〓日一言外務大臣ニ
御尋ヲ致シタイノハ、私ハコノ露國トノ通商條約ヲ成ルベク早ク締結シタイ
ト云フ論者デアルノデアリマスカラ、其將來ノ方針ヨリハ寧ロ是マデノ內閣
ガ執ッタ其手續ニ付テ當外務大臣カラ御答ヲ得テ見タイノデアリマス、申スマ
デモアリマセヌ、今ヤ我國ノ國力ハ次第次第ニ疲弊シテ、此儘ニシテ打置イテ
置キマシタナラバ、如何ニ成リ行クデアラウカト云フコトハ國民一般ノ憂ヘ
テ居ル所、先程モ大藏大臣ガ申サレ、阪谷男爵ノ申サレル通リデアルト我〓
モ考ヘテ居ルノデアリマス、明治年代ニナリマシテ、明治四十二年、四十三年
ヲ除イタ外ハ、每年每年輸入ガ超過シ來リ、然ルニ世界大戰中、大正三年ヨ
リ七年ニ至ル五箇年ノ間ニハ、幸ニ輸出ガ大イニ超過シテ來タ、其超過シタ
額モ〓算シテ見ルト云フト、十五億餘ニ過ギナイノデアリマス、ソレガ戰爭
ガ終結スルト云フト、直チニ又逆轉シテ今日ニ至ル迄ノ間ニハ戰時中ノ輸出
額以上ノ額ニ達シテ居ルト云フヤウナ有樣デアルノデアル、私共ガザット調べ
テ見マスト云フト、モウ戰後〓日マデニハ十八億位ニ達シテ居ルヤウナ有樣
ニナッテ居ルノデアリマス、此趨勢ヲ以テ今後モ進ンデ行キマシタナラバ、我
國ノ正金ハ次第次第ニ減ッテ遂ニハ皆無トナリハシマイカ、甚ダ心細イ感ジヲ
致シマス、今是ガ救濟策ヲ講ゼズシテ放ッテ置イタナラバ、我ガ大和民族ノ血
ト肉トハ吸ヒ取ラレテ、遂ニハ自然自然ト消滅スルヤウナ悲境ニ陷リハシマ
イカ、之ヲ救濟スル策トシテハ多種多樣ノ方法手段ガアリマセウケレドモ、
不肖ノ考ニ依リマスト云フト亞細亞方面殊ニ露國方面ニ向ッテ通商ノ途ヲ開
キ、我ガ製造品ノ販路ヲ開拓シ、發展スルヨリ外ニハ他ニ名案ハナイデハナ
カラウカト思フノデアリマス、昨日モ外務大臣ノ言ハレマスルヤウニ我國ト
露西亞トハ領土ヲ接シ、通商上有無相通ズルニハ屈强ノ位置ヲ占メテ居ルノ
デアリマス、ソレデアリマスルカラシテ歷代ノ內閣ハ或ハ大連、或ハ長春、
東京ナドニ於テ内交涉ヲサレマシタケレドモ、イツモ不調ニ終ッテ仕舞ッタノ
デアリマス、此點デス、此點ガ我〓ニ甚ダ分ラナイ、ダガ數囘交涉ヲ開イテ
モ協議ガ調ハナイト云フノハドウ云フ譯デアルカト云フコトヲ一言外務大臣
ニ御尋ネシタイノデアリマス、是ニハ二ツノ疑問ガアルノデアリマス、其一
ツハ昨日外務大臣モ申サレルヤウニ先ツ露西亞ト國交ヲ始メル前ニハ幾多ノ
解決シ置クベキ案件ガアルト云フコトヲ言ハレタノデアリマス、正式ノ國交
ヲ開ク前ニ解決シナケレバナラヌ案件トハドウ云フモノヲ云フノデアルカ、
ソレヲ具體的ニ先ヅ第一ニ伺ヒタイノデアル、不肖ノ考デハ此際ハ從來蟠ツ
テ居ル所ノ案件ハ先ヅ後廻シニシテ通商ヲ早ク開イテ、徐ロニ橫ハッテ居ル所
ノ案件ヲ解決スルト謂フ方法ニハ出來ナイモノデアラウカト云フ考カラ、此
事ヲ先ヅ御尋ネシタイ、第二ニハ歷代ノ內閣ハ或ハ小共和國ヲ相手ニシ、或
ハ今日デハ支那ニ對シテ談判ヲ開クトカ云フノハ如何ナルモノデアラウカ、
不肖ノ考デハ直接ニ我ガ外交官ノミナラズ、我國ノ有爲ノ大實業家ガソコニ
加ハッテ莫斯科へ乘リ出シテ、彼ノ政府ト直接ニ談判ヲシタナラバ早ク事ガ調
ヒハシナイカ、今日ノ樣ニ北京デ以テ開クト云フコトニナレバ何カ多少ムヅ
カシイコトガ起レバ直グ各〓ノ政府ニ向ッテ訓令ヲ請ハネバナラヌト云フヤ
ウニ廻リ諄イ手續ヲ執ラネバナラヌカラ、ソレヨリハイッソノコト有爲ノ實
業家ト外交官ト一致シテ莫斯科ヘ乘出シテ直接談判ヲ開クト云フコトニ、ナ
ゼシナイノカ、此手續二ツニ付テ將來ノ方針ヨリハ是マデドウ云フ譯デ、サ
ウ云フヤウナ手續ヲナサレタカト云ンコトヲ、一言御答ヲ得ラルレバ幸デア
リマス
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=20
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021・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 唯今ノ山脇君ノ御質問ニ御答ヲ致シマス、
第一點ハ露西亞トノ條約關係ノコトデアリマス、昨日モ申述ベマシタ如ク、
我〓ハ露國ト成ルベク速ニ條約關係ヲ恢復イタシタイト云フコトハ希望スル
所デアリマシテ、其方針ヲ以テ唯今進ミツツアルノデアリマス、唯茲ニ一ツ
御注意ヲ仰ガナケレバナラヌコトハ條約關係ガ出來マシテモ、ソレガ爲ニ當
然通商ナルモノハ一朝非常ニ繁榮ヲ見ルヤウニ御考ヘ下サレバ御失望ニナル
ダラウト思フ、或國ハ露國ト通商關係ヲ·····條約關係ヲ締結シタ國モアリマ
スケレドモ、其爲ニ通商ガ非常ニ增大シタト云フ結果ニハナッテ居ナイノデ
アリマス、要スルニ通商關係ト云フモノハ露國ニ於キマスル經濟狀態ト生產
ノ狀態ニ重大ナル關係ヲ有ッテ居ルモノデアリマシテ、條約其モノニハ直接
ノ關係ハ有ッテ居ナイノデアリマス、併ナガラ條約ト云フモノヲ··關係ヲ樹
立スルニ私等ガ重キヲ置カヌカト云フト、私等ハ重キヲ置イテ居ルコトハ昨
日モ申述ベタ次第デアリマス、此交涉ノ成行キヲ然ラバ說明シロト云フ御請
求デアリマシタガ、前內閣ノ時代ニ於キマシテ行ハレタル交渉ノ〓末ハ私ハ
マダ十分〓究ヲ致ス餘日ヲ持ッテ居リマセヌ、大體ノコトハ存ジテ居リマス、
併ナガラ此際、前內閣ノ時代ニ行ハレタル交渉ノ中デ如何ナル點ガ議論ニナッ
テ居ッタカ、之ニ對スル露西亞ノ主張ハ如何ニ、日本ノ主張ハ如何ニト云フヤ
ウナコトヲ稍〓具體的ニ申上ゲルコトハ日本ノ爲ニモ、露西亞ノ爲ニモ甚ダ得
策デナイト考ヘマス、是ハモウ少シ問題ノ發展スルノヲ御待ヲ下サルヤウニ
御願ヒシタイノデアリマス、ソレカラ第二ニ日本ノ官吏、實業家ト云フ風ナ
各種ノ露西亞問題ニ利害ヲ有ッテ居ル人等ガ〓體ヲ成シテ莫斯科ヘ出掛ケテ、
莫斯科デ談判ヲ始メタラドウデアラウト云フ御質問ノヤウデアリマシタ、凡
ソ此交涉ヲ始メマスルノニ統一ノナイ交涉ヲ始メルト云フコトハ極メテ不利
益ナ話デアリマス、何レノ場合ニ於キマシテモ、一ツノ統一セル精神ヲ以テ
進ンデ行カナケレバナラヌノデアリマス、從テ此場所ハ唯〓北京デ行ッテ居リ
マスガ、必シモ北京デ行ハナケレバナラヌト云フコトハアリマスマイ、莫斯
科デヤッテモ差支ナイデアリマセウガ、從來ハ北京デ行ヒ來ッタモノナルガ故
ニ、北京ニ於テ引續キ交渉ヲ繼續シタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、場所ハ必
シモ北京デナケレバイカヌト云フ理窟ハ無イノデアリマス、併ナガラ各種ノ
雜多ナル意見ヲ代表スル者ガ、北京デモ或ハ莫斯科デモ參リマシテ交渉ヲ始
メルト云フヤウナコトニナリマスレバ、是ハ由々シキ大事デアリマス、矢張
リ一ツノ政府ノ任命ニ係ル交涉委員ト云フ者ガ無クテハ到底圓滑ニ話ハ行ハ
レルモノデハナクシテ、此良好ナル結果ヲ期待スルコトハ出來ナイト思ヒマ
ス、日本ノ委員ノ中ニ實業ノ事ヲ心得テ居ル人ヲ加ヘルコトガ、必要デアル
カドウカト云フコトハ、固ヨリ別問題デアリマシテ、唯私ガ唯今申シマスノ
ハ雜多ナル意見勢力ヲ代表シテ居ル人間ガ莫斯科ヘ行ッタ所ガ、ソレデ以テ良
好ナル結果ヲ得ラレナイト云フコトヲ申上ゲタイノデアリヤス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=21
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022・山脇玄
○山脇玄君 重ネテ質問ヲスル譯デアリマセヌガ、大體私ノ質問ノ趣意ヲ誤
解ナスッテ御居デニナルカラ其點ヲチヨット申上ゲテ置キタイソレハ第二ノ
點デアリマス、私ノ錚々タル實業家ト外交官トガ莫斯科ヘ乘出スト云フノハ、
何モ種々雜多ナ不統一ナ者ガ行クト云フコトデハナイノデアリマス、勿論、莫
斯科ヘ乘出ス前ニ外交官ト實業家ト意見ヲ鬪ハシテ、其意見ガ一致シタ者ガ
向ウニ出掛ケルト云フ無論意味デアリマスカラ、續々雜多ナ者ガ乘出シテ談
判スル、ソンナ粗雜ナ考デハナイノデアリマスガ、サウ云フヤウナ意味デ尙
ホ御答下サルナラバ有難シ、御答下サラヌナラバソレデモ宜シカラウ
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=22
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023・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 私ハ山脇君ノ御意見ヲ誤解シテ居ッタ譯ヂ
ヤナイノデアリマスルガ、サウ云フ結果ニナッテハイカヌト云フコトヲ申上ゲ
タノデアリマスカラ、然ルベク御諒水ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=23
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024・山脇玄
○山脇玄君 モウ一ツ·····決シテ今外務大臣ヲ窘メルノデハナイノデアリマ
ス、不統一ナ者ガ行ッタ所ガ良好ナ結果ヲ得ラレナイト云フコトヲ仰セラレ
ルガ、我〓共ハ一致シタイト云フ意味ヲ以テ多數ノ者ガ出掛ケル、唯外交官
ノミデハ整理ガ甚ダ疑ハシイ、ドウシテモ經濟社會ノ實地經驗ヲ有ッテ居ル
人ガ行カネバイカヌト思ヒマス、事ガ圓滿ニ行カナイ早ク決シナイト云フ
サウ云フ意味デ、多數ノ委員ガ行クト云フコトニナルノデアリマス、決シテ
種々雜多ノ者ガ行クト云フ粗雜ナ考デハナイノデアリマス、此段ヲ申上ゲテ
御答ハナクテモ宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ御諮リヲ致シタイコトガゴザイマス、本日
ハ議事ノ進行上、是ヨリ議事日程ニ移リマシテ、國務大臣ノ演說ニ對スル質
疑ハ、次囘ノ會議ニ於テ繼續スルコトニ致シタク存ジマス、ソレデ御異議ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=25
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026・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=26
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027・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ議事日程ニ移リマス、日程第一、非
常徵發令廢止ニ關スル法律案、政府提出、第一讀曾、通牒文ノ朗讀ハ本會期
ヲ通ジテ御異議ナケレバ省略イタシタイト存ジマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
〔左ノ通牒文及議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ茲ニ載錄ス以上
之ニ傚フ〕
非常徵發令廢止ニ關スル法律案
右
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十三年六月二十八日
內閣總理大臣子爵加藤高明
内務大臣若槻禮次郞
非常徵發令ハ之ヲ廢止ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=27
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028・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 昨年九月震災ニ基キマシテ、被害者ノ救濟ヲ致
シマス爲ニハ、物件又ハ勞務ニ付テ非常徵發ヲ行フト云フ必要ガアリト認メ
ラレマシテ、當時ノ政府ハ之ヲ實行セラレタノデアリマス、當時ハ此事アッテ
應急ノ救濟ガ出來タノデアリマスカラ、至極結構デアッタト存ジマスガ、是ハ
一時ノ必要デアッテ、後マデ繼續セシムル必要ハナイノデアリマスケレドモ、
事柄ノ中デ賠償價格ノ決定トカ、其他殘務ガアリマス爲ニ、徵發令ヲ直チニ
廢止スルト云フコトガ出來マセヌガ爲ニ、第四十七帝國議會ニ當ッテ、將來
ニ效力ヲ有ツヤウニ御承認ヲ受ケルコトニ相成ッタノデアリマス、ソレガ爲ニ
今日ハ矢張リ、此勅令ハ存シテ居ルノデアリマスケレドモ、今日ハ殘務モ總
テノ事ガ終リマシタノデ、此非常徵發令ヲ存シテ置ク必要ガ無クナッタノデア
リマス、依ッテ法律ヲ以テ、之ガ廢止ヲ定メルコトニ致シタイノデアリマス
就キマシテハ玆ニ御協贊ヲ仰イダ次第デアリマス、ドウゾ御審議ノ上ニ此法
案ノ通過イタシマスヤウニ御願ヲ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ御質問モ無イト認メマスカラ日程第二ニ移リ
やつゝ右議案ノ審査ヲ付託スベキ特別委員ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=29
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030・八條隆正
○子爵八條隆正君 特別委員ノ選擧ハ特別ナ場合ヲ除イテ、本期議會ヲ通ジ
テ議長指名ニ一任イタシタイト思ヒマス、動議ヲ提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=30
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031・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=31
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032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 唯今ノ八條子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=32
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033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=33
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034・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔瀨古書記官朗讀〕
非常徵發令廢止ニ關スル法律案特別委員
侯爵鍋島直映君子爵藪篤麿君子爵野村益三君
若林賚藏君男爵周布兼道君藤田四郞君
石渡敏一君湯地幸平君土田萬助君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=34
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035・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、大正十二年條約第二號海軍軍備制限ニ
關スル條約ノ實施ニ關スル法律案、政府提出、第一讀會
大正十二年條約第二號海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ關スル法律
案
右
勅旨ヲ奉シ帝國議會ニ提出ス
大正十三年七月一日
內閣總理大臣子爵加藤高明
遞信大臣犬養毅
海軍大臣財部彪
外務大臣男爵幣原喜重郞
第一條左ニ揭クル行爲ハ主務大臣ノ許可ヲ受クルニ非サレハ之ヲ爲スコ
トヲ得ス
-軍艦ヲ建造スルコト
二船舶ヲ軍艦ニ變更スルノ目的ヲ以テ之ニ武裝ヲ施シ又ハ武裝ヲ施ス
ノ準備ヲ爲スコト
主務大臣ハ大正十二年條約第二號海軍軍備制限ニ關スル條約ノ規定ニ依
ル義務ヲ履行スル爲必要アリト認ムル場合ニ於テハ前項ノ許可ヲ爲ササ
ルモノトス
第二條當該官吏ハ必要アリト認ムルトキハ前條ニ揭クル事項ニ關シ調査
ヲ爲ス爲造船所、工場、軍艦、船舶其ノ他必要ナル場所ニ立入リ若ハ檢
査ヲ爲シ又ハ關係者ニ對シ調査資料ノ提供ヲ命シ若ハ供述ヲ求ムルコト
ヲ得
第三條第一條第一項ノ規定ニ違反シタル者又ハ同條同項ノ許可ノ條件ニ
違反シタル者ハ二年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス
第四條第二條ノ規定ニ依ル官吏ノ職務ノ執行ヲ拒ミ妨ケ若ハ忌避シ、調
査資料ノ提供ヲ爲サス若ハ虛僞ノ調査資料ヲ提供シ又ハ供述ヲ拒ミ若ハ
虛僞ノ供述ヲ爲シタル者ハ三月以下ノ懲役若ハ禁鋼又ハ三百圓以下ノ
罰金ニ處ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣財部彪君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=35
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036・財部彪
○國務大臣(財部彪君) 大正十二年條約第二號海軍軍備制限ニ關スル條約ハ
御承知ノ通リ、昨年八月十七日ヨリ效力ヲ生ズルコトニ相成リマシタ、此條
約ノ規定ニ依リマスルト、政府ハ單ニ政府自身ノ行爲ヲ覊束セラルルノミニ
止マリマセヌ、其國內一般ニ於ケル一定ノ行爲ヲモ亦之ヲ禁遏スルノ義務ヲ
負ハセラレルコトニ相成リマシタ、從テ此義務ヲ履行イタシマス爲ニハ、國
內法ノ發布ヲ必要ト致ス次第デゴザイマス、本法律案ハ此必要ニ應ジテ立案
セラレタルモノデゴザイマス、條約ニ規定シテゴザイマス所ノ制止禁止制限
事項ハ多種多樣デゴザイマシテ、之ヲ列擧スルコトハ誠ニ繁雜ニ亙リマスカ
ラシテ、本案ニ於キマシテハ〓括的ニ規定ヲ致シマシタカラ總テ豫メ主務官
廳ノ許可ヲ得ルコトヲ要件ト致シテ居リマス、之ニ依リマシテ禁止制限ニ關
スル違反モ未然ニ取締リマシテ、サウシテ條約ニ依ル國際義務ヲ誠實ニ遂行
セムト致スモノデゴザイマス、以上申述べマシタ通リ本法律案ハ海軍軍備制
限條約ヲ履行スル上ニ於キマシテ極メテ必要ナルモノデゴザイマスルカラ何
卒速ニ御協賛ヲ賜ハラムコトヲ冀ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=36
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037・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 唯今、八條子爵ノ動議ノ可決セラレマシタ結果、
日程第四ハ削除イタスコトニ致シマス、本案特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ
朗讀ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
大正十二年條約第二號海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ關スル法律案特
別委員
伯爵副島道正君志佐勝君男爵坂本俊篤君
黑岡帶刀君男爵安藤直雄君鍋島桂次郞君
室田義文君馬場鍈一君勝田銀次郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=37
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038・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 此議會ハ會期モ短クゴザイマスカラ、唯今議長ヨ
リ指名イタシマシタ特別委員諸君ハ成ルベク速ニ審査ニ著手セラレムコト
ヲ望ミマス、次ノ議事日程ハ本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニ
テ散會ヲ致シマス
午後零時二十二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00319240702&spkNum=38
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