1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十三年七月十三日(日曜日)
午前十時十四分開議
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議事日程 第八號 大正十三年七月十三日
午前十時開議
第一 請願委員長報告
第二 大正十三年度歳入歳出總豫算追加案(第五號)審査期限を定むるの件
第三 大正九年法律第五十六號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第四 國籍法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第五 戸籍法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第六 朝鮮銀行法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第七 震災に因る喪失無記名國債證券に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第八 贅澤品等の輸入税に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第九 復興貯蓄債券法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十 借地借家臨時處理法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十一 借地借家調停法中改正法(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十二 高等諸學校震災復舊諸費に關する豫算の施行に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十三 大正十一年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十四 大正十一年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十五 大正十二年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十六 自大正十二年四月至同年十一月豫備金外に於て豫算外支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十七 大正十二年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十八 自大正十二年四月至同年十一月特別會計豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十九 臨時物資供給特別會計豫算外支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第二十 大正十三年勅令第二十一號(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第二十一 鑛業法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十二 大學特別會計法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十三 大正八年法律第十二號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十四 古社寺保存金の臨時支出に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十五 震災被害地の地租免除等に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十六 震災に因り地租を免除せらるる者の法令上の納税資格要件に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十七 砂防法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十八 小作調停法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十九 鶴見川改修費國庫補助の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ諸般ノ報〓ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
去ル十日特別委員會ニ於ラ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
鑛業法中改正法律案特別委員會
委員長伯爵勸修寺經雄君副委員長男爵伊藤文吉君
大學特別會計法中改正法律案外二件特別委員會
委員長伯爵松本宗隆君副委員長澤柳政太郞君
同日特別委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
鑛業法中改正法律案可決報告書
大學特別會計法中改正法律案可決報告書
大正八年法律第十二號中改正法律案可決報〓書
古社寺保存金ノ臨時支出ニ關スル法律案可決報告書
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
外務省所管事務政府委員
外務書記官酒匂秀-君
一昨十一日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
震災被害地ノ地租免除等ニ關スル法律案外二件特別委員會
委員長淺田德則君副委員長男爵黑田長和君
砂防法中改正法律案特別委員會
委員長伯爵松浦厚君副委員長平井晴二郞君
震災善後公債法中改正法律案外一件特別委員會
委員長子爵八條隆正君副委員長山之内一次君
小作調停法案特別委員會
委員長子爵伊東祐弘君副委員長和田彥次郞君
同日委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
震災被害地ノ地租免除等ニ關スル法律案可決報告書
震災ニ因リ地租ヲ免除セラルル者ノ法令上ノ納稅資格要件ニ關スル法律
案可決報告書
砂防法中改正法律案可決報告書
小作調停法案可決報告書
大正十三年勅令第二十一號(承諾ヲ求ムル件)可決報告書
請願委員會特別報告第一號
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
大正十三年度歲入歲出豫算追加案(第五號)
大正九年法律第五十六號中改正法律案
國籍法中改正法律案
戶籍法中改正法律案
朝鮮銀行法中改正法律案
震災ニ因ル喪失無記名國債證劵ニ關スル法律案
贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル法律案
昨十二日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
復興貯蓄債劵法案
借地借家臨時處理法案
借地借家調停法中改正法律案
高等諸學校震災復舊諸費ニ屬スル豫算ノ施行ニ關スル法律案
大正十一年度第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
大正十一年度特別會計第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
大正十二年度第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
自大正十年十年四月豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
至同
大正十二年度特別會計第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムルノ件)
自大正十二年四月特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件(承諾
至同年十一月
ヲ求ムル件)
臨時物資供給特別會計豫算外支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
同日衆議院ヨリ本院ノ送付ニ係ル左ノ政府提出案ハ本院ノ議決ニ同意シ奏
上セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
非常徵發令廢止ニ關スル法律案
大正十二年條約第二號海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ關スル法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、去ル九日本院議員
正二位勳一等功五級公爵一條實輝君薨去ノ報ニ接シマシテ、誠ニ痛歎ノ至リ
ニ堪ヘマセヌ、依テ用辭ヲ贈ルコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ議事日程ニ移リマス、日程第一、請
願委員長報告
〔伯爵勸修寺經雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=4
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005・勸修寺經雄
○伯爵勸修寺經雄君 請願委員會ノ報告ヲ致シマス、七月一日、正副委員長
ノ選擧ヲ致シマシテ、尙ホ分科ノ決定及分科擔當委員ノ選定ヲ致シマシタ、
分科ハ第一分科、大藏省、農商務省、第二分科、外務省、內務省、文部省、
第三分科、內閣、司法省、遞信省、第四分科、陸軍省、海軍省、鐵道省ト分ケマシ
テ、請願委員會ノ定日ハ每週金曜日ニ、請願分科會開會定日ハ第一分科ト第
三分科ハ每週月曜日、第二分科、第四分科ハ每週火曜日ニ定メマシタ、七月
二日各分科ノ主査、副主査ヲ選擧イタシマシタ、請願委員會ハ七月十一日、
請願委員分科會ハ四回、第一分科會ハ七月七日、第二分科會ハ七月四日、第
三分科會ハ七月七日、第四分科會ハ八日ニ開會イタシマシタ、請願文書表ハ
七月二日、七月九日ノ二囘ニ出シマシテ、請願委員會特別報〓ハ七月十一日
ニ一囘出シマシタ、本月十二日午後四時ノ締切ニ於キマシテハ、請願書受領
件數ガ九十三件、百八十七通デゴザイマス、其連署人名數ガ一萬九千七百七
十八人デゴザイマス、審査ノ經過及結果ハ請願文書表揭載件數ガ第一囘、第
二囘合セマシテ六十八件、百五十一通デゴザイマシテ、其結果、院議ニ付ス
ベシト議決シタモノガ一件一通、院議ニ付スルヲ要セズト議決シタモノガ二
件二通、審査未了ニ屬スルモノガ六十五件、百四十八通、請願文書表揭載ノ
件數ガ二十五件、三十六通デアリマス、右御報〓イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、大正十三年度歲入歲出總豫算追加案(第
五號)審査期限ヲ定ムルノ件
(第五號)大正十三年度歲入歲出總豫算追加案
右本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十一日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵徳川家達殿
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=6
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007・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 大正十三年戚歲入歲出總豫算追加第五號ハ歲入歲
出各、四十五萬五千百三十四圓デアリマシテ、小作調停ニ關スル經費、借地借
家臨時處理ニ關スル經費ガ主タルモノデアリマス、孰レモ今囘別途、本期議
會ニ提出イタシマシタル法律案ノ施行ニ伴フモノデアリマス、小作調停法施
行ニ關スル經費ハ三十二萬四千七百十圓デアリマシテ、借地借家臨時處理法
施行ニ伴フ經費ハ七萬八千七百六十七圓デアリマス、其他經費ハ何レモ災害
ノ復舊デアリマス、右ハ孰レモ已ムヲ於ザル經費デアリマスカラ、御審議ノ
上何卒速ニ可決セラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=7
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008・林博太郎
○伯爵林博太郞君 唯〓日程ニ上ボリマシタ大正十三年度總豫算追加案第五
號右審査期限ハ別ニ之ヲ定メマセヌデ、他ノ追加豫算案全部ト共ニ豫算委
員會ノ審査終了次第ニ報告イタシタイト云フ動議ヲ提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=8
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009・野村益三
○子爵野村益三君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=9
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010・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 林伯爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、大正九年法律第五十六號中改正法律案、
政府提出、衆議院送付、第一讀會
大正九年法律第五十六號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十一日
衆族院議長粕谷義三
貴族院議長公爵徳川家達殿
大正九年法律第五十六號中左ノ通改正ス
「五年」ヲ「十年」ニ改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス但シ從前ノ規定ニ依リ補助ヲ爲シタル地方
鐵道ニシテ本法施行前補助期間滿了シタルモノニ付ラハ其ノ滿了ノ日ノ翌
日ヨリ之ヲ適用ス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=12
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013・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 北海道ニ於ケル拓殖促進上、主要原野開發ノ急
務デアリマスコトハ申上ゲルマデモアリマセヌガ、此目的ヲ達スル爲ニ交通
機關ノ速成ヲ期シテ、曩ニ大正九年ヲ以テ拓殖鐵道及軌道ノ輔助ニ關スル法
律ガ制定ニナリマシタ之ニ依テ拓殖費カラ補助シテ居リマスモノガ三ツノ鐵
道ト、四ツノ軌道デアリマスガ、其多クハ年々缺損ヲ重ネツヽアルヤウナ狀
態デアリマスノデ、從テ現行法ノヤウニ之ガ補助ヲ營業開始後五年ニ止メテ
居リマシタノデハ現下ノ實情ニ察シテ見ルト、其多クハ補助期間ノ滿了ト共
ニ事業ヲ閉鎖スルコトノ已ムヲ得ザルコトニ至ルヲ保シ難イノデアリマス、
左樣ナコトニナリマシタノデハ拓地殖民ノ實ヲ擧グルコトニ於テ遺憾ガ少カ
ラザル次第デアリマスカラ、補助ノ年限ヲ五年ヲ變更シテ十年トスルト云フ
ノガ本案ノ趣意デアルノデアリマス、御審議ノ上ニ御協賛ヲ與ヘラレムコト
ヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=13
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014・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔小林書記朗讀〕
大正九年法律第五十六號中改正法律案特別委員
伯爵酒井忠正君子爵新庄直知君子爵蒔田廣城君
男爵山根武亮君平井晴二郞君笠井信一君
男爵藤堂高成君谷森眞男君矢口長右衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ガ無ケレバ日程第四、第五ハ一括シテ議題
トシ、說明ヲ煩シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第四、國籍法中改正法律案、第五、戶籍法中
改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
國籍法中改正法律案
右政府提出案木院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十一日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵徳川家達殿
國籍法中左ノ通改正ス
第二十條ノ二勅令ヲ以テ指定スル外國ニ於テ生マレタルニ因リテ其國ノ
國籍ヲ取得シタル日本人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ日本ノ國籍ヲ留保スル
ノ意思ヲ表示スルニ非サレハ其出生ノ時ニ遡リテ日本ノ國籍ヲ失フ
前項ノ規定ニ依リ日本ノ國籍ヲ留保シタル者又ハ前項ノ規定ニ依ル指定
前其指定セラレタル外國ニ於テ生マレタルニ因リテ其國ノ國籍ヲ取得シ
タル日本人當該外國ノ國籍ヲ有シ且其國ニ住所ヲ有スルトキハ其志望ニ
依リ日本ノ國籍ノ離脫ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ノ國籍ノ離脫ヲ爲シタル者ハ日本ノ國籍ヲ失フ
第二十條ノ三前條第一項ノ外國以外ノ外國ニ於テ生マレタルニ因リテ其
國ノ國籍ヲ取得シタル日本人カ其國ニ住所ヲ有スルトキハ內務大臣ノ許
可ヲ得テ日本ノ國籍ノ離脫ヲ爲スコトヲ得
前條第三項ノ規定ハ前項ノ規定ニ依リ國籍ノ離脫ヲ爲シタル者ニ之ヲ準
用ス
第二十四條中〔前六條〕ヲ「第十九條、〔第二十條及前三條」ニ「前七條」ヲ「前
八條」三四人
第二十六條中「第二十條、第二十條ノ二又ハ第二十一條」ヲ「第二十條乃至
第二十一條」ニ改メ同條第二項ヲ削ル
第二十七條ノ二國籍ノ離脫及囘復ニ關スル手續ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
戶籍法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十一日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
戶籍法中左ノ通改正ス
第百五十一條第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ國籍法第二十條ノ二又ハ第二十條ノ三ニ規定ニ依ル國籍喪失者ニ付
ラハ此限ニ在ラス
附則
本法施行ノ期日ハ勅合ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=16
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017・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 國籍法中ノ改正法律案ハ御承知ノ通リ所謂二重
國籍問題ナルモノガ多年考慮セラレテ居ッタノデアリマスルガ、此問題ヲ解決
シヤウト云フガ爲ニ制定セムトスル所ノ法律デアリマス、現在ノ國籍法ニ依
リマスルト云フト、外國デ生レタ故ヲ以テ其國ノ國籍ヲ取得イタシマシタモ
ノガ日本ノ國籍ヲ離脫スル其關係ガ頗ル圓滑ヲ缺イテ居リマスルガ爲ニ、所
謂二重國籍問題ナルモノヲ生ジテ居リマス、本法ニ依テ之ヲ改正シテ、外國
ニ於テ生レタ故ヲ以テ外國ノ國籍ヲ取得シタ者ニ國籍ヲ離脫スル關係上、便
宜ヲ與ヘヤウト云フノガ本案ノ趣意デアリマス、尙ホ戶籍法中改正ノ法律案
ハ國籍法ノ改正ヲ致スニ付テ、當然之ヲ改ムル必要ガアッテ、提出シタモノデ
アリマス、兩案共ニ御審議ノ上、御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=17
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018・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通〓ニ依リマシテ松本烝治君ニ質疑ヲ許シ
ずっ、松本烝治君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=18
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019・松本烝治
○松木烝治君 私ハ國籍法中改正法律案ニ付キマシテ質問ヲ致シタイノデア
リマス、此改正案タルヤ僅ニ數條ノ改正案ニ過ギナイノデアリマスルガ、事柄
ハ頗ル重大ナリト考へマス、私ハ最モ重要ナル點ト考ヘマスル二ツノ點ニ付
キマシテ御尋ヲシタイノデアリマス、第一ニ御尋ヲシタイノハ此國籍法中改
正法律案ノ第二十條ノ二ノ第一項ノ規定ニヨル國籍喪失デアリマス、現行法
ノ規定ニ依リマスレバ、二重國籍ノ場合ニ於キマシテ、我ガ國籍ヲ離脫スル
ニハ歸化其他ノ條件ヲ必要トシテ居ルノデアリマス、此難カシイ所ノ離脫ガ
時勢ノ進運ニ伴ハナイト云フコトニ付キマシテハ、恐ラクハ異議者ガ少イコ
トト思ヒマス、私ハ此改正ヲ歡迎スルモノデアリマスルガ、此唯今擧ゲマシタ
第一項ノ規定ニ依リマスルト、當事者ノ意思如何ヲ問ハズ、當事者ノ意思ニ
反シマシテモ尙ホ日木ノ國籍ヲ喪フト云フコトニナッテ居ルノデアリマシテ、
是ハ聊カ行キ過ギテ居ルノデハナイカ云フ樣ナ感ガアルノデアリマス、卽チ
第二項ノ如ク當事者ノ志望ニ依リマシテ國籍ノ離脫ヲ爲スコトヲ得ルト云フ
コトデアリマシタナラバ、ソレデ宜イノデハナカラウカ、若シ必要ガアリマ
スレバ第一項ノ如ク出生間近ノ間ノ離脫ニ付キマシテハ其離脫ノ效力ヲ出
生ノ時ニ遡ラスト云フヤウニシテモ宜クハナイカ、或ハ言ハレルカモ知レマ
セヌ、卽チ此第一項ノ規定ニ依リマスレバ當事者ノ國籍留保ノ意思ノ表示ヲ
ナセバ、矢張リ日本ノ國籍ガ保タレルノデアルカラ、結果ニ於テモ違ヒハナ
イノデアルト云ハレルカモ知レマセヌガ、私ノ考デハ大ニ違フト思フ、即チ
第一ニ理論上カラ申シマシテ、此規定ニ依リマスレバ當事者ノ意思ガ無ク
テモ尙ホ日本ノ國籍ガ喪失サレルト云フコトニナルノデアリマス、離脫ノ意
思ヲ要スルト云フコトニシマスルコトトハ理論上全ク違フト思ヒマス、實際
上カラ申シマスルト尙ホ大ニ違ヒガアラウト思フ、卽チ斯ノ如キ法律ノアル
コトヲ知ラヌト云フ者ハ非常ニ多數有リ得ルコトト思ヒマス、又此法律有ル
コトヲ知リマシテ、反對ノ意思ヲ表示シタイト或ハ考ヘマシテ、之ヲ法定ノ
手續ニ依テ表示ノ出來ナイ場合ガ多々生ジテ來ルコトト思ヒマス、斯ノ如キ
場合ニ於キマシテハ當事者ノ知ラザル間、或ハ當事者ノ意思ニ反シテ日本ノ
國籍ガ喪失サレルノデアリマス、是ハ聊カ慘酷デハナカラウカ、當事者ノ意思
ニ依ッテ容易ニ單純ナル志望ト云フ一ノ屆ニ依テ、離脫サレルト云フコトヲ規
定シマシタナラバ、之ヲ以テ十分デアルモノデハナカラウカト考ヘルノデア
リマス、何故ニ當事者ノ意思ニ關セズ當然日本ノ國籍ガ喪失サレルト云フ所
マデノ改正案ヲ制定サレタノデアルカト云フコトニ付テ伺ヒタイノデアリマ
ス、凡ソ血統主義ノ國籍法ト出生地主義ノ國籍法トガ相交錯スル場合ニ於キ
マシテハ、必ズヤ二重國籍ノ問題ヲ起スノデアリマス、斯ノ如キ二重國籍ノ
問題ヲ起シタ場合ニ於キマシテ、己ニ自國法ノ法ノ效力ヲ喪クナシテ仕舞ヒ、
當事者ノ志望ト云フヤウナコトト關係ナク、恒ニ他國法ニ準ゼシムル、斯ノ
如キ立法例ガアルノデアルカドウカト云フコトヲ伺ヒタイ······附ケテ伺ヒタ
イノデアル、是ガ第一ニ伺ヒタイコトデアリマス、第二ニ伺ヒタイコトハ
此改正法案ニ依ル所ノ國籍喪失者ノ家督相續權ニ關スル事デアリマスガ、國
籍ヲ喪失イタシマスレバ、勿論家督相續權ハ喪失サレルノデアリマス、併ナ
ガラ其喪失サレタ者ガ、更ニ國籍ヲ囘復イタシマシテモ、一旦失ハレタ所ノ
家督相續權ハ之ヲ囘復スル餘地ガ無イモノト思ヒマス、是ハ現行法ノ下ニ於
テモ、正ニサウデアリマス、併ナガラ現行法ニ於キマシテハ、國籍喪失ノ場
合ガ甚ダ少ナイ、又意思ニ反シテ國籍ヲ喪失スルト云フヤウナ事ハ無イト思
フノデアリマス、故ニ此家督相續權ニ付テハ考慮シナイノデモ或ハ宜シイカ
トモ思ヒマス、此改正ノ結果ニ於キマシテハ、國籍喪失者ガ非常ニ澤山出ル
譯デアラウト思ヒマス、又出ル事ヲ希望シテ改正ヲスルノデアラウト思ヒマ
ス、而シテ其中ニハ意思ニ反シテ國籍ヲ喪失スル者モ出來ルノデアリマス、
多々出來ルノデアリマス、是等ノ國籍喪失者ハ、假令國籍ニ付テハ囘復出來
マシテモ、此家督相續權タルヤ囘復出來ナイト云フコトニナリマスノハ、ドウ
デアラウカ、餘程考慮ヲ要スル事デアラウト私ハ考ヘルノデアリマス、我國
法ノ如キ家ト云フ觀念、又家督相續權ト云フ觀念ニ於キマシテハ、頗ル重キヲ
置イテ居ル、此我ガ日本ノ立法ト致シマシテ、改正案ノ如ク、多數ノ國籍喪
失者ヲ生ジ、又意思ニ反スル國籍喪失者ヲ生スルト云フ立法ニ際シマシテハ、
ソレノ喪失者ガ他日國籍ヲ囘復シタ場合ニ於ケル家督相續權ニ付テ、何等考
盧スル必要ナイト云フ御考デアッタカドウカト云フコトヲ第二ニ伺ヒタイノ
デアリマス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=19
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020・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 松本君ノ御質問ノ第一點ハ、今度外國國籍ヲ得
タガ爲ニ、日本ノ國籍ヲ離脫スルコトガ出來ルヤウニシタノハ宜シイガ、何
故志望ニ依ッテ離脫スルト云フヤウニシナイデ、當然離脫スルト云フ規定ヲ
取ツタカト云フノガ第一問ノヤウデアリマス、此第二十條ノ二ノ第一項ハ
第二項ガアリマスガ爲ニ、現在旣ニ生レテ居ル者デナクテ、今後生レル者ニ
ノミ適用サレルト云フ事ヲ先ヅ以テ申上ゲテ置キタイノデアリマス、ソレデ
アリマスカラ是カラ後、此勅令ヲ以テ指定スル國ニ於テ生レル者ニ付テハ、
是ハ當然日本ノ國籍ヲ離脫セシメルト云フ方ガ、寧ロ此二重國籍問題ヲ解決
スル上ニ於テハ宜シイト、斯ウ考ヘタノデアリマス、但シ御質問ニナリマス
通リ、本人ガ日本ノ國籍ヲ何處マデモ有ッテ行キタイト云フ意思ノ表示ヲシ
タ時ニハ、固ヨリ失ハヌノデアリマスカラ、左樣ナ必要ノアルモノハ之ニ依。ツ
テ留保スル事デアラウト思ヒマス、而シテ其意思ノ表示ヲシナイデ、留保ノ
意思ノ表示ヲシナイデ、第二十條ノ第一項ニ依ッテ日本ノ國籍ヲ離脫シタ者デ
アリマシテモ、本人ガ日本ノ國籍ヲ取得シタイト思ヘバ、第二十六條ノ規定
ニ依ッテ是ハ出來ルノデアリマスカラ、ソコニ途ガ開イテアリマス以上ハ、第
二十條ノ二ノ第一項ニ當ル者ハ當然國籍ヲ離脫スルト云フ規定ヲ取ッタ方ガ
相當デアル、但シ今日マデ旣ニ生レテ居ッテ日本ノ國籍ヲ有ッテ居ル多數ノ人
間ガ當然國籍ヲ離脫スルト云フコトニナリマシテハ、松本君ノ仰ッシヤル通
リ、其人ハ或ハ其意思ニ反スルカ知ラヌノデアリマスカラ、第二項ヲ設ケ
テ、是マデ既ニ生レテ居ッタ日本ノ國籍ヲ有ッテ居ル者ハ、本人ノ志望ニ依ッテ
離脫スルコトガ出來ル、唯今ノ規定デハ志望ダケデハイケヌノデアリマス、許
可ヲ受ケヌケレバナラヌコトニナッテ居リマスガ、其許可ヲ受ケルト云フコト
ダケ廢メルコトニシテ、本人ノ意思表示ガアレバ離脫スルコトガ出來ルト改
正シタノデアリマス、大體ハ此位ノ規定ノ方ガ二重國籍問題ヲ解決スル上ニ
於テ宜シイト考ヘテ居ルノデアリマス、家督相續權ノコトデアリマスガ、是
ハ日本ノ國籍ヲ有チマセヌケレバ家督相續權ヲスルコトガ出來マセヌガ、併
シ唯今申上ゲマス通リ、本人ガ意思ヲ表示シテ日本ノ國籍ヲ取得イタシマ
スレバ、此時ニハ家督相續ノ權利ハ發生スルノデアリマスカラ、大體ハソレ
ダケノ規定デ、特ニ規定ヲ設ケル必要ハアルマイ、斯ウ考ヘタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=20
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021・松本烝治
○松本烝治君 唯〓ノ御答辯ニ依リマスト、第一ノ質問ニ對シマシテハ、第
二十條ノ二ノ第一項ハ今後生レル者ニ關スルモノデアルカラ差支ナイト云フ
御話デアリマスガ、私ハ勿論生レル者ニ關スル規定デアルト云フコトハ之ヲ
一讀イタシテ能ク了解シテ居リマス、今後生レル者ハ甚ダ少イカラ宜シイト
云フカノ如クニモ伺ヒマシタ、即チ多數ノ者ハ第二項ノ方デ宜イノデアルト
云フ意味カト思ヒマス、隨分私ハ澤山生レルコトト思フ、決シテ今後生レル
者ハ少イトハ思ヒマセヌガ、而シテ今後生レル者ガ多イト少ナイトハ當事者
ノ意思ト關係ハナク、當事者ノ意思ニ反シテモ、尙ホ日本ノ國籍ヲ失ハシム
ル、斯ノ如キ主義ヲ採ル必要ガドコニアルカ、二重國籍問題ノ解決ニ宜シイ
ト云フコトハ伺ヒマシタガ、是ハ極メテ抽象的ノ御答デ、何ガ故ニ斯ウシナ
ケレバ······斯ノ如キ私ノ考デハ多少不條理ト考ヘル立法ヲシナケレバ、二重
國籍問題ノ解決ガ出來ナイノデアルカ、志望ニ依ッテ離脫、又必要ガアレバ其
離脫ノ效力ヲ出生ノ時分ニ遡ラシメルト云フヤウニシタナラバ二重國籍問
題ノ解決ハ濟ムデハナカラウカ、斯ノ如キ無理ヲシナイデ濟ムデハナカラウ
カ、斯ノ如キ無理ヲシテ日本ノ國籍ヲ有ツ者ガ、二重國籍ノ場合ニ當然意思
ト關係ナク、國籍ヲ喪失シテ仕舞フト云フヤウニ立法シテ居ル例ガアラウカ
ト云フコトモ併セテ實ハ伺ッテ見タイノデアリマス、議論ニ渉ルコトハ避ケ
Wで、又御答ヲ得マセヌデモ致方ハナイト存ジマス、意見ノ或ハ相違ニナル
カ知レマセヌ、而シテ第二ニ家督相續權ノ問題ニ付キマシテハ、是ハ御答ガ
私ノ問フタ所トハ違フヤウデアリマス、私ノ伺ヒマスノハ此改正案ノ結果、
非常ニ多數ノ國籍喪失者ガアル、又中ニハ意思ニ反シテ尙ホ喪失スル者モ生
ズル、是等ノ者ノ家督相續權ノ囘復ニ付テ何等カ立法ヲスルコトガ斯ウ云フ
改正ヲセラレル以上ハ當然デハナカラウカト云フコトヲ伺ッタノデアリマス、
第一項ノ場合ダケニ付テ必シモ伺ッタノデハナイ、第一項ノ場合ハ特別ノ意
思表示ヲ以テ國籍ヲ留保スレバ相續權ヲ失ハヌデハナイカト云フ御話ガアリ
マシタガ、斯樣ナコトヲ實ハ伺ッタ譯デハアリマセヌ
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=21
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022・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 本法施行後ニ生レ出デマス者ハ多數アリマセ
ウ、私ガ第二項ノ方ガ多イト申上ゲタノハ第二項ハ現ニ既ニ日本ノ國籍ヲ
持ッテ居ル者ハ多數アリマスカラ唯之ヲ申シマシタダケデアリマシテ、第一項
ハ將來ノコトデアリマスカラ、生レル者モ多數デアリマセウガ、今現ニ無イ
モノデアリマスカラ、私ハ第二項ガ多イト云フコトヲ申上ゲタ、ソレデ其方
ハドチラデモ宜シイノデアリマスガ、松本君ノ御考ニ依レバ、第一項ノ規定
モ矢張リ本人ノ意思ガアッタナラバ國籍ヲ離脫スルト云フヤウニシタ方ガ宜
カラウ、若シ本人ガ意思ヲ表示スルマデ國籍ノ離脫ガ出來ナイト云フコトガ
不都合デアレバ意思ヲ表示スレバ遡ッテ適用ガ出來ルト云フ規定ヲ設ケサヘ
スレバ宜イヂヤナイカ、斯ウ云フ御話デアリマス、原案ノ方ハ本人ガ日本ノ
國籍ヲ有チタイト思ヘバ其意思ヲ表示シタラ宜カラウ、サウデナケレバ默ツ
テ居ッテ當然日本ノ國籍ヲ有タヌヤウニナルト云フ方ガ寧ロ實際ノコトニ適
スルト斯ウ思ウテ立テテ居ルノデアリマス、現ニ亞米利加ナドデ澤山生レテ
所謂二重國籍ヲ持ッテ居ル者ノ中ニハ、聞ク所ニ依リマスト云フト、日本ノ戶
籍法ニ依テ屆ヲ出サナケレバ無論日本ノ國籍ハ無イモノダト思ッテ居ル者ガ
多數アルラシイ、然ルニ國籍法ニ依ッテ當然日本ノ國籍ヲ持タサレテ居ルノ
デアル、ソレガ爲ニ餘程迷惑ヲシテ居ル者ガアルト私ハ聞イテ居ルノデアリ
マス、ソレデアリマスカラ寧ロサウ云フヤウナ多數ノ者ガアル此際ニ於テ
ハ先ヅ法規トシテハ外國ニ生レタト云フ故ヲ以テ、而カモソレハドコノ國
デモト云フノデモナイ、勅令デ指定シタ國ニ付テダケハ、其國ニ生レタト云
フ理由ヲ以テ其國ノ國籍ヲ取得スルナラバ日本ノ國籍ヲ離脫スルト云フコ
トニシテ置イテ、日本ノ國籍ヲ有チタイト云フ意思ヲ表示シタ者ダケニ日本
ノ國籍ヲ有タシムルト云フ方ガ却テ實際ノ便利ニ適スルト云フノガ原案ノ趣
意デアリマス、此以上ハ或ハ意見ノ相違デアルカモ知レマセヌガ、原案ハ其
意味ニ於テ出來テ居ルノデアリマス、斯ノ如キ立法ガ外國ニ存スルヤ否ヤ、丁
度此通リノモノハナイカモ知レマセヌガ、似寄ッタ規定ノアル國モアルト云フ
コトデアリマス、若シソレヲ說明スル必要ガアリマスレバ委員會等デ政府委
員ノ方カラ十分說明ヲ致サセルコトニ致シマス、家督相續權ノコトハ松本君
ノ述ベラレタ所ト私ノ今申上ゲタ所ノ、是ハドウモ日本ノ國籍ヲ雖脫シタ者
ガ再ビ日本ノ國籍ヲ有タウト云フ意思ヲ表示シテ、之ニ依ッテ日本ノ國籍ヲ
得タ時ニ、松本君ハソレヲ既往ニ遡ッテ有タシメレバ宜イガ、此儘デ何トモ
規定ガナイト云フト其取得シタ時カラ以後ノコトニナルカラ、ソコガ工合ガ
惡イヂャナイカト云フ御意見ガアッテノ御質問デハナイカト思フノデアリマ
ス、サウデーイカモ知レマセヌガ、私ハサウ云フヤウニ想像ヲシテ答辯ヲ致シ
マスガ、ソレデアリマスレバ私ハソコマデ遡ッテ行カズトモ、國籍ヲ取得シタ
後ニ家督相續權ヲ得ルト云フノデ澤山デアラウト考ヘテ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=22
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023・松本烝治
○松本烝治君 第一點ニ付キマスシテハ意見ノ相違ノヤウニナリマスカラ何
モ申シマセヌ、第二ニ付キマシテハ全然御誤解ナノデアリマス、私ノ申スノ
ハ此改正ノ結果、國籍喪失者ガ非常ニ多クナル、又當事者ノ意思ニ反スル國
籍喪失者ガ澤山アラウ、是等ノ者ガ國籍ノ方ハ囘復ガ出來ル、國籍囘復許可
ト云フ手續ニ依レバ出來ル、家督相續權ハ全然囘復ガ出來ナイ、國籍ヲ囘復
イタシマシテモ其ノ囘復シタ者ハ從來國籍ヲ失ハナカッタナラバ、有ッテ居ル
ベカリシ家督相續權ハ囘復出來ナイ、是ハ多數ノ國籍喪失者ヲ生ズル、斯ウ
云フ立法ヲ作ルニ際シテ御考ニナルベキデナカラウカ、ドウ云フ御考デアツ
タカト云フコトヲ伺ッタ、全然違ッテ居リマスガ、併シ餘リ重ネマスルモ何デ
アリマスカラ御答ハ敢テ要求イタシマセヌ
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=23
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024・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 答辯ハ要ラヌト云フコトデアリマシタガ、松本
君ノ質問ノ意味ヲ私ハ想像シテ御答シタ所ガ、ソレガ違ッテ居ッタト云フコト
デアリマスカラソレ故一應申上ゲテ置キマス、私ノ方カラ申上ゲタ意見モ、
一旦日本ノ國籍ヲ離脫シタ者ガ再ビ日本ノ國籍ヲ得タイト云フ考ヲ以テ、其
日本ノ國籍ヲ得ル意思ヲ表示シマスレバ、ソレデ日本ノ國籍ガアルノデアリ
マスカラ、日本ノ法律ニ依ッテ家督相續權ガアルノデアリマス、ソレダケデ
私ハ澤山デアル、斯ウ云フノガサッキ答ヘタ所デアルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 兩案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔小林書記官朗讀〕
國籍法中改正法律案外一件特別委員
侯爵德川義親君伯爵松平賴壽君子爵井上匡四郞君
大島健一君河村善益君水上長次郞君
男爵大鳥富士太郞君鍋島桂次郞君竹村與右衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=25
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026・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第六、朝鮮銀行法中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會、大藏大臣
朝鮮銀行法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十一日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵徳川家達殿
朝鮮銀行法中左ノ通改正ス
第二條、第九條、第十條、第十七條、第十八條、第二十條乃至第二十二
條、第二十五條及第二十九條乃至第三十三條中「朝鮮總督」ヲ「大藏大臣
三六、
第三十四條中「朝鮮總督」ヲ「政府」ニ改ム
第三十七條ノ二本法中大藏大臣ノ職務ニ屬スル事項ハ勅令ノ定ムル所ニ
依リ朝鮮總督ヲシテ之ヲ行ハシムルコトヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=26
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027・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 朝鮮銀行ハ元、朝鮮ニ於ケル所ノ中央銀行トシテ
特設セラレタモノデアリマスルガ、此銀行ノ業務ハ取引ノ關係、又ハ國運ノ
進展ニ伴ヒマシテ、漸次、朝鮮總督ノ管轄ノ地域以外ニ發展イタシマシテ、
今日ニ於テハ是等ノ地方ニ於キマシテハ、店舗ノ數ニ於キマシテモ、取引ノ
量ニ於テモ遙ニ朝鮮內ニ於ケルモノヲ凌駕スルコトニ相成ッタノデアリマス
而シテ朝鮮銀行劵ハ關東州及南滿州鐵道附屬地ニ於テ强制通用力ヲ有シテ居
リマシテ、且ツ滿蒙及西比利亞地方ニ於テ事實上、巨額ノ融通ヲナシテ居
ルコトヤ、朝鮮銀行ノ重要ナル業務ニシテ、內地ニ於テ行ハルルモノガ益〓增
加シタルコト及朝鮮銀行ハ兌換劵發行銀行デアリマスルガ故ニ一般金融上樞
要ナル位置ヲ占メテ居ルコト等カラ見マシテ、現行ノ監督制度ハ其當ヲ得テ
居ナイモノト思ヒマス、加之、銀行ノ業務及財產ノ現況ハ大イニ改善ヲ爲サ
ナケレバナラナイ狀態ニアリマスルノデ、旁〓此銀行ノ一般監督ハ之ヲ大藏
大臣ノ權限ニ屬セシムルコトハ妥當且ツ必要デアルト考ヘルノデアリマス、
現ニ朝鮮銀行ノ監督ヲ中央ニ移スベシトノ議論ハ議會ニ於テモ屢〓問題ニナ
リマシタコトデアリマシテ、今日ハ適當ノ時機デアルト考ヘマシテ、臺灣銀
行ニ對スル取扱ニモ鑑ミマシテ、此際、朝鮮銀行法ヲ改正シテ、是ガ監督ヲ
大藏大臣ノ管掌ニ移スコトノ法案ヲ提出イタシタ次第デアリマス、何卒御審
議ノ上、速ニ御協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=27
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028・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセ
マス
〔小林書記官朗讀〕
朝鮮銀行法中改正法律案特別委員
侯爵細川護立君子爵松平直平君子爵渡 邊千冬君
岡野敬次郞君男爵平野長祥君男爵高崎弓彥君
三宅秀君仁尾惟茂君二階堂三郞左衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第七、震災ニ因ル喪失無記名國債證劵ニ關ス
ル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、大藏大臣
震災ニ因ル喪失無記名國債證劵ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十一日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
第一條大正十二年九月ノ震災ニ因リ滅失又ハ紛失シタル無記名國債證劵
ニ對シテハ本法ニ依リ新證劵ノ交付又ハ元利金ノ支拂ヲ爲スコトヲ得
第二條震災ノ當時前條ノ證劵ヲ所有シ又ハ占有シタル者ハ本法施行後三
月內ニ限リ喪失國債證劵審査曾ニ其ノ所有シ又ハ占有シタル證劵ノ滅失
又ハ紛失ニ付查定ヲ求ムルコトヲ得但シ證劵ノ名稱不明ナルモノニ付テ
ハ此ノ限ニ在ラス
本法施行ノ際外國ニ居住スル者ニ付テハ前項ノ期間ハ之ヲ六月トス
第三條證劵滅失ノ査定ヲ受ケタル者ニ對シテハ政府ハ滅失ヲ査定シタル
證劵ニ相當スル新證劵ヲ交付スルコトヲ得
證劵紛失ノ査定ヲ受ケタル者ニ對シテハ政府ハ新證劵ノ交付又ハ元利金
ノ支拂ニ因リテ生スルコトアルベキ損失ヲ塡補スル爲確實ナル擔保ヲ提
供セシメ又ハ保證人ヲ立テシメ紛失ヲ査定シタル證劵ニ相當スル新證劵
ヲ交付スルコトヲ得
前項ノ擔保及保證人ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第一項及第二項ノ場合ニ於テ證劵ノ記號不明ナルモノニ付テハ同一名稱
ノ證劵中適宜ノ記號ノモノヲ交付スルコトヲ得
第四條前條ノ規定ニ依リ新證券ノ交付ヲ爲スベキ場合ニ於テ滅失又ハ紛
失シタル證劵ノ償還期到來シタルトキハ政府ハ新證劵ノ交付ニ代ヘ元利
金ノ支拂ヲ爲ス
第五條紛失ノ査定ヲ受ケタル證劵ノ記號又ハ番號不明ナル場合ニ於テ新
證劵ノ交付又ハ元利金ノ支拂ニ因リ政府ニ損失ヲ生シタルトキハ同一名
稱ノ新證劵ノ交付ヲ受ケ又ハ之ニ代へ元者金ノ支拂ヲ受ケタル者ニシテ
記號又ハ番號不明ナル舊證劵ニ付紛失ノ査定ヲ受ケタルモノ新證劵ノ額
面金額又ハ元金額ニ按分シテ其ノ損失ヲ負擔ス
第六條滅失又ハ紛失シタル同一證劵ニ付第二條ノ規定ニ依ル査定ノ請求
二以上アリタル場合ニ於テハ新證劵ノ交付ハ請求者中震災ノ當時舊證劵
ヲ占有スヘキ權利アリタル者ニ之ヲ爲ス
滅失又ハ喪失シタル證劵ニ付存シタル權利ハ新證劵ニ付亦之ヲ行フコト
ヲ得
前二項ノ規定ハ第四條ノ元利金ニ付之ヲ準用ス
第七條喪失國債證劵審査會ハ審査ノ爲必要アリト認ムルトキハ證人又ハ
鑑定人ノ訊問其ノ他ノ證據調ヲ爲スコトヲ得
第八條喪失國債證劵審查會ハ審査ノ爲必要アリト認ムルトキハ宣誓ヲ爲
サシメタル上當事者ヲ訊問スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ宣誓ヲ爲シタル者虛僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ三月以
上十年以下ノ懲役ニ處ス
前項ノ罪ヲ犯シタル者新證劵ノ交付又ハ元利金ノ支拂ヲ受クル前喪失國
債證劵審查會ニ其ノ事實ヲ申出テタルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除スル
コトヲ得
第九條喪失國債證劵審査會ハ第七條及前條第一項ノ規定ニ依ル證據調ヲ
裁判所其ノ他ノ官廳ニ囑託スルコトヲ得
第十條喪失國債證劵審查會ノ組織及證據調其ノ他審査ニ關シ必要ナル事
項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一條第一條ノ證劵ニシテ震災ノ當時政府ノ保管シタルモノニ付テハ
第二條乃至前條ノ規定ニ拘ラス勅令ノ定ムル所ニ依リ新證劵ノ交付又ハ
元利金ノ支拂ヲ爲スコトヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=29
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030・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 現行ノ國債ニ關シマスル法律ニ依リマスレバ、無
記名國債證劵ヲ滅失又ハ紛失イタシマシタ場合ニハ、擔保ヲ提供セシメ又ハ
保證人ヲ立テシメマシテ、元金又ハ利子ヲ支拂ヒマスルケレドモ、代證劵
ハ發行シナイコトニナッテ居ルノデアリマス、然ルニ今囘ノ震災ニ因リマシ
テ、滅失又ハ紛失イタシマシタ國債ハ頗ル多額ニ上ッテ居リマシテ、之ニ對
シ代證劵ヲ交付シナイト云フコトハ、喪失者ニ對シテモ甚シキ苦痛ヲ感ゼシ
メルノミナラズ、一般經濟界ノ復興ノ爲ニモ少カラザル障碍ヲ與ヘルコトト
思ハレルノデアリマスノデ、政府ハ今囘ノ震災ニ因リ滅失又ハ紛失イタシマ
シタ所ノ國債ニ對シマシテハ、特別ノ審査ヲ爲シタル上、新證劵ヲ發行スル
ノ途ヲ開クコトヲ適當ト考ヘマシタノデ、玆ニ此法律案ヲ提出イタシマシタ
次第デアリマス、何卒御審議ノ上御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 通告ニ依リマシテ松本烝治君ノ質疑ヲ許シマス
松本君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=31
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032・松本烝治
○松本烝治君 此法案ニ付キマシテ二ツノ質問ヲ致シタイト思ヒマス、此法
案ハ昨年ノ震災ニ因リマシテ滅失又ハ紛失シタル無記名國債證劵ニ關スル救
濟ノ特別法デアリマス、同ジ震災ニ因リマシテ滅失又ハ紛失シタル公債證劵
又ハ社債等類似ノ場合ハ頗ル多イダラウト思ヒマス、是等ノ證劵ニ付キマシ
テ公示催告等ノ方法モアリマスガ、記號番號等ノ分ラヌ場合ニハ救濟方法ハ
ナイヤウニ考ヘマス、是等ノ類似證劵ニ付キマシテ、何等カ稍〓之ニ類似シタ
ヤウナ立法ヲスル必要アルト云フコトヲ政府ハ御認メニナッテ居ラナイノデ
アリマスカ、ドウカト云フコトヲ伺ヒタイ、是ガ第一ニ伺ヒタイノデアリマ
ス、第二ニ伺ヒタイノハ滅失ノ査定及紛失ノ査定ト云フコトデアリマス、此
法律ニ付キマシテハ、或ハ法文ノ文章字句等ニ付テ缺點ヲ持ッテ居ルコトガ頗
ル少クナイノデアリマス、併ナガラ是ハ一方法律的ノコトハ此議場デハ伺ハ
ナイ積リデアリマス、唯此滅失ノ査定及紛失ノ查定ハ此法案ノ骨子デアリマ
ス、其意味ニ付テ簡單ニ伺ッテ置キタイノデアリマス、第一條ニ依リマスト
滅失又ハ紛失ト云フコトヲ言ッテ居リマス、想フニ此字句ハ滅失ト云フノハ物
質的ニ燒ケテ仕舞ッタリ何カシマシテ、物質的ニ無クナッテ居ル、紛失ト云フ
ノハ物質的ニ無クナッテ居ラナイ、滅失デハナイ、其他ノ事由ニ依ッテ占有ヲ
失ッタル場合ヲ指スモノト私ハ解シマス、左樣解シマスルト滅失ノ查定及紛
失ノ査定ト云フ二ツノ查定デハ、私ハ不足デハナイカト考ヘルノデアリマス、
例ヘバドウモ滅失ラシイ、甚ダ滅失ラシイガ、併シ之ヲ滅失ト假定シテ、滅
失ノ査定ヲシテ、之ニ滅失トシテノ利益ヲ與ヘルコトハ出來ヌト云フヤウナ
場合ニ付キマシテハ滅失ノ査定ハ出來マイ、然ラバ紛失ノ査定ガ出來ルカト
云フト寧ロ是ハ紛失ラシクナイノデアリマスカラ、紛失ノ査定ハ私ハ出來マ
イト思フ、滅失ト紛失ト云フコトハ、之ヲ客觀的ニ見マシタナラバ喪失ノ場
合全部ヲ盡シテ居リマシテ、滅失ニアラザレバ紛失、紛失ニアラザレバ滅失、
併ナガラ之ヲ査定スルニ當リマシテ主觀的ニ見マシタナラバ、滅失カ紛失カ
分ラヌ、原因不明ノ場合ガアリ得ル、而モ尙ホ震災ニ因テ喪失サレタト云フ
場合ハ私ハ有リ得ルト思フ、此際ニハ如何ナル査定ヲナスノデアルカ、想フ
ニ是ハ滅失トハ査定ガ出來ヌカラ紛失ト査定スルノダト仰ッシヤルカモ知レ
ヌト思ヒマスガ、是ハ甚ダ事實ニ反スルコトデ、寧ロ滅失ラシイ、之ヲ紛失
ニ査定サレルコトハ出來ヌコトデハナイカト思フ、此點ニ付テ寧ロ此法ニハ
重大ナル缺點ガ無イカト云フコトヲ疑ヒマス、此點ヲ第二ニ伺ヒタイノデア
リマス
〔政府委員小野義一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=32
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033・小野義一
○政府委員(小野義一君) 御答ヘ致シマス、二個ノ御尋トモニ御尤ナル御尋
ト思ヒマス、併シ政府ハ斯ノ如クニ解釋イタシテ居リマス、第一問ニ付キマ
シテハ、國債證劵ハ政府自ラガ債務者デアルト云フコト、又今囘ノ震災ニ因
リマシテ喪失セルモノガ頗ル巨額デアリマスルカラ、是ハ是非トモ救濟シナ
ケレバナラヌト云フ必要ヲ認メテ居ルノデアリマス、他ノ地方債或ハ社債等
ニ付テハ、今後ノ〓究ニ委ネルト云フ積リデアリマス、第二問ハ是亦如何ニ
モ御尤ニハ考ヘマスルガ併シ松本君自身御話ノ通リ、客觀的ニ見ルナラバ
滅失、然ラザレバ紛失デアリマセウ、サウシテ政府ニ於キマシテハ從來存シ
テ居リマスル法律ノ精神ニ鑑ミマシテ、成ルベク代リ證劵ハ出シタクナイノ
デアリマス、ソレデアリマスカラ滅失ト云フ場合ニ限ッテ出スノデアリマスカ
ラ滅失ト云フコトガ證據調ベノ上ニ於テ判然シナケレバ、紛失ノ途ヲ採リマ
シテ擔保ヲ提供セシメテ、ソレヲ救濟スル、斯ウ云フコトヲスルノホカ致方
ナイト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=33
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034・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサ
セマス
〔小林書記官朗讀〕
震災ニ因ル喪失無記名國債證劵ニ關スル法律案特別委員
子爵前田利定君武富時敏君男爵阪谷芳郞君
神野勝之助君男爵池田長康君藤田四郞君
高田甲苗君花井卓藏君安田善三郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=34
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035・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第八、贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル法律案、政
府提出、衆議院送付、第一讀會
贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十一日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
關稅定率法別表輸入稅表ニ揭クル物品ニシテ本法ノ別表ニ揭クルモノニハ
當分ノ内同輸入稅表ニ依ラス從價十割ノ輸入稅ヲ課ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
(別表)
輸入稅品名
表番號
三一蔬菜、果實及核子(二甲ノ四ヲ除ク)
三二茶(紅茶粉ヲ除ク)
三三マーテ其ノ他ノ茶代用物
三六コーヒー(砂糖ヲ加ヘサルモノ)
四四蜂蜜
四五菓子
ほうわ
四六ジヤム、フルート、ゼリー類
四七ビスケット(砂糖ヲ加ヘサルモノ)
四九果汁及糖水
五四チース
六〇礦水、曹達水其ノ他砂糖又ハ酒精ヲ含マザル諸飮料
六二支那酒(釀造シタルモノ)
六三麥酒
六六別號ニ揭ケサル酒類
六七別號ニ揭ケサル飮食物
-砂糖ヲ加ヘタルモノ
六九毛皮(兎毛皮竝鞣ササル綿羊皮及山羊皮ヲ除ク)
七〇毛皮製品(別號ニ揭ケサルモノ)
七二革類
一牛革、水牛革、馬革、綿羊革及山羊革
甲塗リタルモノ
二羚羊革(模造羚羊革ヲ含ム)
四鰐魚革
五リザードレザー
七三革製品(別號ニ揭ケサルモノ)
三其ノ他
甲貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、貴石、半貴石、眞珠、
珊瑚、象牙又ハ鼈甲ヲ用ヰタルモノ
乙其ノ他ノ內羚羊革、模造羚羊革、鰐魚革及リザトーレ
ザーノ製品
七五羽毛
-粧飾用ノモノ
七七羽毛製品及羽毛皮製品(別號ニ揭ケサルモノ)
八一獸牙製品(別號ニ揭ケサルモノ)
八八鼈甲製品(別號ニ揭ケサルモノ)
八九珊瑚
九〇珊瑚製品(別號ニ揭ケサルモノ)
九一眞珠
九四皮毛骨角齒牙甲殻類製品(別號ニ揭ケサルモノ)
九五植物性揮發油
一芳香性ノモノ
-一七石鹼
一八薰香ヲ付シタル油、脂蠟及其ノ製品
一九香水
一三四麝香
一三五人造麝香
一三六甘松
一三七丁香
一三八沈香
一三九白檀
二其ノ他
二〇五龍腦、艾片及人造龍腦
二二一ヴァニリン、クマリン、ヘリオトロピン其ノ他別號ニ揭ケサル類
似ノ薰香性化學藥
二二二齒磨粉、齒洗藥、化粧粉其ノ他別號ニ揭ケサル調製薰香類
二二三線香
二二九ノ內人造香料
二三四煙火
二九一別號ニ揭ケサル織絲
-絹入、人造絹入又ハ金屬入ノモノ
二九九亞麻、苧麻、ラミー大麻又ハ黃麻ノ織物、其ノ交織物及此等
ノ纎維ト綿トノ交織物
五平織布、紋織布及繡織布(別項ニ揭ケサルモノ)
丙ノ二其ノ他ノ內
百平方メートルニ付四十キログラムヲ超エサルモノニシテ
五ミリメートル平方內ニ於ケル經緯ノ絲數三十ヲ超エタル
モノ
六其ノ他
乙ノ二其ノ他ノ內
百平方メートルニ付四十キログラムヲ超エサルモノニシテ
五ミリメートル平方內ニ於ケル經緯ノ絲數三十ヲ超エタル
モノ
三〇一毛織物、毛綿交織物及毛又ハ毛綿ト絹トノ交織物
-天鵞絨、プラツシユ其ノ他ノパイル織物(パイルヲ切リタ
ルト否トヲ別タス)
二其ノ他
丙毛絹製ノモノ及毛綿絹製ノモノ
三〇三絹織物及別號ニ揭ケサル絹入ノ織物
ー天鵞絨、プラッシユ其ノ他ノパイル織物(パイルヲ切リタル
ト否トヲ別タス)
三其ノ他
三〇五メリヤス地其ノ他類似ノ編ミタル布帛(起毛シタルト否トヲ別
タス)
-絹製又ハ絹入ノモノ
三〇六レース地及網地
-窻掛地
乙其ノ他
二蚊幮地
乙其ノ他
三ヴエーリング
五其ノ他
甲絹製又ハ絹入ノモノ
三〇八刺繡布
三一九防水布(護謨ヲ塗リ又ハ挿入シタルモノ)
一絹製又ハ絹入ノモノ
三二〇護謨入布及護謨紐類
-幅八センチメートルヲ超エタルモノ
甲絹入ノモノ
二其他
甲織リタルモノ
イ絹入ノモノ
乙其ノ他
イ絹入ノモノ
三二四手巾(單製ノモノ)
二亞麻製ノモノ(五ミリメートル平方內ニ於ケル經緯ノ絲數
三十ヲ超エタルモノ)
四絹製又ハ絹入ノモノ
三二七旅氈(單製ノモノ)
一絹製又ハ絹入ノモノ
三二八地氈(單製連製ヲ別タス)
-毛製又ハ毛入ノモノ
三二九テーブルクロース(單製ノモノ)
二ノ內亞麻製ノモノ
四絹製、絹入ノモノ、金屬絲ヲ用ヰタルモノ又ハ刺繡シタル
モノ
三三〇窻掛
二絹製、絹入ノモノ、金屬絲ヲ用ヰタルモノ又ハ刺繡シタル
モノ
三其ノ他
甲レース製ノモノ
三三一トリムミング
三三五エーアクッシヨン
三三六ベッドクイルト及クッシヨン
三四三別號ニ揭ケサル布帛製品
一絹製、絹入及貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、貴石、半貴
石、眞珠、珊瑚、象牙若ハ鼈甲ヲ加ヘタルモノ又ハ刺繡シ
タルモノ
三四四雨衣
-絹製又ハ絹入ノモノ
三四五シヤーツ、フロント、カラー及カフス
三四六肌衣(上下ヲ別タス)
メリヤス製ノモノ
丙絹製又ハ絹入ノモノ
二其他
甲絹製又ハ絹入ノモノ
三四七手袋
三四八足袋(綿製、毛製又ハ毛綿製ノモノヲ除ク)
三四九肩掛及襟卷
三五〇襟飾
三五一袴釣
三五二衣服用ベルト
三五三スリーヴサスペンダー及ストッキングサスペンダー類
三五四帽子及帽體
一貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、貴石、半貴石、眞珠、珊
理羽毛、造花等ヲ用ヰタルモノ
二其ノ他
甲絹製又ハ絹入ノモノ
丙パナマストロー其ノ他類似ノ植物纎維製ノモノ
丁麥桿製、經木製又ハ其ノ混製ノモノ
三五五靴其ノ他ノ履物(護謨製ノモノヲ除ク)
三五六靴紐
三五九身邊粧飾用細貨類
三六〇別號ニ揭ケサル衣類、同附屬品及其ノ部分品
-毛皮製、毛皮付、羽毛製、羽毛入、絹製、絹入及貴金屬、
貴金屬ヲ鍍シタル金屬、貴石、半貴石、眞珠、珊瑚、象牙
若ハ鼈甲ヲ用ヰタルモノ又ハ刺繡シタルモノ
三七三模造羊皮紙、パラフインペーパー及ワックスペーパー
一金屬ノ箔若ハ粉ヲ用ヰタルモノ、押形ヲ付シタルモノ又ハ
捺染シタルモノ
三七八別號ニ揭ケサル紙(四乙ヲ除ク)
三七九ペーパーレース及ペーパーポーダー
三八四アルバム
三九〇骨牌
三九一寫眞
三九二書畫
三九三カードカレンダー及プロックカレンダー
三九四繪葉書
三九五クリスマスカード類
四一二貴石
四一三半貴石及別號ニ揭ケサル半貴石製品
四一四石及石製品
二其ノ他
乙其ノ他
四一五琥珀及琥珀製品(別號ニ揭ケサルモノ)
四一七メーアシャウム、人造メーアシャウム及同製品
四二四石膏製品ノ內人物及動物ノ像
四三九別號ニ揭ケサル陶磁器(碍子ヲ除ク)
四五三眼鏡
一貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、象牙又ハ鼈甲ノ緣又ハ柄
ヲ有スルモノ
四五四硝子鏡
-貴金屬又ハ貴金屬ヲ鍍シタル金屬ヲ用ヰタルモノ
四五七別號ニ揭ケサル硝子製品(二甲ヲ除ク)
四七五鍍金銀シタル金屬
四八九鏈(別號ニ揭ケサルモノ)
-貴金屬ヲ用ヰタルモノ又ハ貴金屬ヲ渡シタルモノ
四九一懷中時計用鏈、眼鏡用鍵其ノ他身邊粧飾用鍵
四九三蝶鋏、ハットフック及戶、窻家具等ニ用ヰル金具
-貴金屬ヲ用ヰタルモノ又ハ貴金屬ヲ鍍シタルモノ
四九四鎖及鑰
-貴金屬ヲ用ヰタルモノ又ハ貴金屬ヲ鍍シタルモノ
四九九刀物(別號ニ揭ケサルモノ)
貴金屬ヲ用ヰタルモノ又ハ貴金屬ヲ鍍シタルモノ
二其ノ他
甲ポッケットナイフ
イ柄ニ象牙、眞珠貝若ハ鼈甲ヲ用ヰタルモノ又ハ琺瑯ヲ
施シタルモノ
乙テーブルナイフ
イ柄ニ象牙、眞珠貝若ハ鼈甲ヲ用ヰタルモノ又ハ琺瑯ヲ
施シタルモノ
五〇〇テーブルフォーク及スプン
-貴金屬ヲ用ヰタルモノ又ハ貴金屬ヲ鍍シタルモノ
五二一貴金屬製品及貴金屬ヲ用ヰ又ハ貴金屬ヲ鍍シタル金屬製品別
號ニ揭ケサルモノ)
五二六懷中時計
-金側又ハ白金側ノモノ
五二七懷中時計部分品
側(ウオッチグラスヲ附著シタルモノヲ含ム)
甲金製又ハ白金製ノモノ
八其ノ他
甲金製又ハ白金製ノモノ
五二八ノ內置時計
五三三雙眼鏡及隻眼鏡(貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、貴石、半貴
石、眞珠、珊瑚、象牙、鼈甲又ハ貝殻ヲ用ヰタルモノ)
五五三寫眞器(焦點距離十七センチメートル未滿ノレンズヲ取付ケタ
ルモノ又ハ撮影スル感光面ノ長十六センチメートル未滿ノモノ
若ハ幅十一センチメートル未滿ノモノ)
五五四寫眞器部分品
-レンズ(焦點距離十七センチメートル未滿ノモノ)
二ノ內カメラ(撮影スル感光面ノ長十六センチメートル未滿
ノモノ若ハ幅十一センチメートル未滿ノモノ)
五五五蓄音器
五五六蓄音器部分品及附屬品
五六〇銃砲及同部分品
一小銃
六一二木材
-單ニ切リ、挽キ又ハ割リタルモノ
甲花梨木、鐵刀木、黃楊木、紅木、紫檀及黑檀(縞黑檀ヲ
除ク)
二其ノ他
丁ノ內花梨木、鐵刀木、黃楊木、紅木、紫檀及黑檀(縞黑
檀ヲ除ク)
六二四傘枝、杖鞭及其ノ手
六二五傘
一絹製又ハ絹入ノモノ
六二六本製品(別號ニ揭ケサルモノ)
-貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、貴石、半貴石、眞珠、珊
理象牙又ハ鼈甲ヲ用ヰタルモノ
二其ノ他
甲花梨木、鐵刀木、黃楊木、紅木、紫檀及黑檀ノ製品
六三四ブラッシユ及箒
-貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、象牙又ハ鼈甲ヲ用ヰタル
モノ
六三六寫眞用フイルム(活動寫眞用ノモノヲ除ク)
六三八造花(模造ノ葉、果實等ヲ含ム)及同部分品
六三九化粧具匣
六四〇ノ內ビリヤード、クリッケット、象棋其ノ他ノ遊〓具及同附屬品
(テニス具、野球具、フットボール具及同附屬品ヲ除ク)
六四一玩具
六四七別號ニ揭ケサル物品
二其ノ他
甲貴金屬、貴金屬ヲ鍍シタル金屬、貴石、半貴石、眞珠、
珊瑚、象牙又ハ鼈甲ヲ用ヰタルモノ
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=35
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036・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯今議題トナリマシタ贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル
法律案ニ付テ提案ノ趣旨ヲ說明イタサウト思ヒマス、我國ノ經濟界ハ今日極
メテ困難ナル場合ニ遭遇シテ居ルノデアリマシテ、官民共ニ一致協力イタシ
異常ノ覺悟ヲ以テ之ニ善處スルニアラズンバ、財界ノ整理安定ハ申スマデモ
ナク、國際貸借ノ問題モ之ヲ有利ニ解決スルコトガ出來ナイト思フノデアリ
PvS是ヲ以テ政府ト致シマシテハ一大決心ヲ以テ行政財政ノ整理緊縮ヲ行
と、民間ニ於テハ政府ノ政策ト相呼應シテ、全力ヲ擧ゲテ經濟界ノ整理安定
ヲ圖リ、一般國民モ亦深ク現下ノ狀勢ニ思ヒヲ致シ、消費節約ノ美風ヲ涵養シ
マシテ、以テ我ガ國民經濟ノ基礎ヲ鞏固ナラシムルコトニ努力イタサナケレ
バナラヌ所ノ極メテ大切ナル時デアルト信ズルノデアリマシテ、政府ニ於テ
ハ旣ニ行政財政ノ整理緊縮ヲ斷行スル覺悟ヲ致シテ居ル次第デアリマス、然
ルニ戰時好況時代ヨリ馴致サレマシタル所ノ奢侈安逸ノ氣分ハ深ク國民ノ間
ニ浸潤イタシ、客年大震炎ノ慘禍ヲ甞メタルニモ拘ラズ、今尙ホ此氣分ヲ一
掃スルコトガ出來ナイト云フコトハ諸君ト共ニ國家ノ爲ニ誠ニ痛歎ニ堪ヘナ
イ所デアリマス、元來奢侈ヲ抑制シ消費節約ノ美風ヲ養成シマスルコトハ其
根本ニ於テハ固ヨリ國民各自ノ精神的覺醒ニ俟タナケレバナラヌト云フコト
ハ、申スマデモナイ所デアリマスルガ、其覺醒ヲ促スニ當ッテハ徒ラニ從來ノ
如ク抽象的ノ言辭ヲ以テ之ヲ唱道スルニ止マラズ、政府ニ於キマシテモ亦之
ニ對シ相當ナル所ノ具體的ノ方策ヲ實行イタシマシテ、國民ノ精神ニ向ッテ
强烈ナル刺戟ヲ與ヘテ其覺醒ヲ促シ、諸般ノ施設ヲ組織的ニ實行イタシ、茲
ニ始メテ其目的ヲ達成スルコトガ出來ルト思フノデアリマス、此趣旨ニ鑑ミ
マシテ、右ニ關スル方策ノ一端ト致シマシテ、政府ハ此際、外國ヨリ輸入ス
ル所ノ贅澤品等ニ對シマシテ、當分ノ間、相當高率ノ輸入稅ヲ賦課スルコト
ト致シマシテ、之ニ依ッテ國民奢侈ノ弊風ヲ戒メ、以テ人心ノ緊張ヲ圖リ、各
般ノ施設ト相俟ッテ國民經濟ノ難局ヲ打開シタイモノデアルト考フルノデア
リマス、尙ホ是ト同時ニ一面、是等物品ノ輸入ノ減退ニ依リマシテ我國貿易
逆調ノ現狀ヲ緩和スルノ一助タラシメムトス"考デアリマス、諸君ハ我ガ國
民經濟ノ現狀ヲ洞察セラレ、政府ノ意ノ在ル所ヲ諒トセラレ、何卒、本案ニ
對シテ御審議ノ上、速ニ御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ切ニ希望スル次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=36
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037・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ通〓順ニ依リマシテ質疑ヲ許シマス、東郷
な
男爵
〔男爵東〓安君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=37
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038・東郷安
○男爵東〓安君 世界大戰以來我ガ朝野擧ゲテ沼々タル奢侈風ニ陷リマシ
テ、我ガ經濟財政兩方面ニ於テ又思想界ノ上ニ於キマシテ、頗ル困難ナル多
々多クノ問題ニ直面スルニ當ッテ、新內閣成立以來、日尙ホ淺キニ拘ラズ、今
囘、奢侈ノ風ヲ抑制スル意味ニ於テ斷乎トシテ本案ヲ提出サレマシタ其勇氣
ト努力ニ對シマシテハ、玆ニ私ハ先ヅ以テ謹シデ新內閣ニ敬意ヲ表スル者デ
アリマス、併ナガラ本案ノ內容ハ、施行卽日、直ニ國民ノ生活ノ安定ニ多大
ナル影響ヲ及ボスモノデアリマス、大戰以來諸物價騰貴ノ時ニ當リマシテ、
是レ以上我〓國民ガ物價ノ騰貴ヲ招來スルコトニ對シテハ、甚シキ困難ヲ感
ズルト云フコトハ、是ハ當然ナコトデアリマス、私ハ國民ノ生活ノ安定ニ此
案ガ如何ナル影響ヲ及ボスモノデアルカト云フコトヲ中心トシテ、茲ニ二三
質問ヲ提起スル次第デアリマス、本案ノ名稱デアリマス贅澤品等ノ輸入稅ニ
關スル引上法案ト申シマスルト、一見甚ダ明確デアルカノ如クニ又考ヘラレ
マスガ、能ク能ク考ヘテ見マスルナラバ、奢侈品ト云ヒ、贅澤品ト云ヒ果シ
テ如何ナルモノテアリマセウカ、其範圍ヲ定メマスルニ付キマシテハ、恐ラ
ク政府ニ於テモ愼重ナル態度ヲ執リ、熱心ナル攻究ヲサレタノデアラウト思
ヒマス、此根本ノ主義精神ガ十分此案ニ徹底シテ居ルノデアルカ、是ハ此本
案ヲ審議スル上ニ於テ重大ナル關係ヲ有ッテ居ルノデアリマス、私ハ第一ニ
此點ニ付テ政府ハ贅澤品ヲ選定サレルニ於テ如何ナルー主義ヲ有ッテ居ラレタ
ノデアルカ、唯今、御演說ニアリマスル通リ、奢侈ヲ抑制スル上ニ於テ贅澤
品ノ選定ヲ嚴ニシ、併セテ國際貸借上ノ關係ヲ緩和スル爲ニ、輸入防遏ノ方
法ヲ講ジタト仰セラレマスガ、別表ニ揭ゲラレタル各品目ヲ檢査スル上ニ於
キマシテ、私共ハ甚ダ不徹底ナルコトヲ感ゼザルヲ得ナイノデアリマス、政
府ノ方針ハ贅澤品ト申シマスモノガ、同時ニ半面ニ於テ輸入ノ防遏デアル、
ソレ以外何等及ンデ居ラナイノデアルカト云フコトニ付テハ、餘程疑問ガア
ルノデアリマス、卽チ政府ノ從朱發セラレマシタ所ノ答辯ニ於キマシテ
ハソレデアルカラ必シモ贅澤品ト云フモノヲ嚴格ニ定義スルコトハ困難デ
アル所カラ、「等」ト云フ字ヲ付ケテ贅澤品等ト云フ表題ニ致シタイノデアル
ト、斯ウ仰セラレテ居ル、然ラバ贅澤品等ト云フモノハ、其半面ニ於キマシ
テ輸入ノ防遏ヲナシ、而シテ其輸入防遏ノ範圍ト云フモノハ、必シモ奢侈品
デアルモノノミナラズ、其以外ノモノニモ場合ニ依ッテハ及ブノデアルカ、
ココガ本案ヲ審議スル根本ノ精神トシテ十分明瞭ニ伺フテ置カナケレバナラ
ヌ點デアルト思フノデアリマス、第二ニ奢侈ノ抑制、固ヨリ結構デアリマス
ガ、何人ガ考ヘマシテモ國內ノ奢侈ヲ抑制シ、是ガ徹底ヲ期スル上ニ於キマ
シテハ先ヅ順序トシテ國內ニ於テノ消費ヲ節約スルコトヲ努メナケレバナ
ラヌ、是ガ對策トシマシテハ、奢侈稅ト云フモノヲ國內稅トシテ先ヅ起シ、
而シテ其意味ヲ海外ヨリ輸入スル物品ニ徹底セシムル爲ニ、海外ニ對スル輸
入稅ヲ高メル、是ガ首尾一貫シタ所ノ方策デアラウト思フノデアリマス、然
ルニ政府ハ今囘ソレヲ逆ニ執ラレマシテ、先ヅ以テ關稅ヲ高メ、而シテ必要
ニ應ジテハ內地ノ奢侈品稅ニ對スル制度ヲ設ケル、斯ウ云フ御說明デアリマ
ス此點ニ付テハ、圖ラズモ衆議院ニ於キマシテハ非常ナル物議ヲ釀シタ
如クデアリマス、併ナガラソレデハ豫メ此法案ト云フモノガ甚ダ不備ノモノ
デアル、徹底シナイモノデアル、追ッテハ是ハ同種類ノモノニ對シテ內地デモ
消費稅ヲ課スルモノデアル、奢侈品稅ヲ課スルノデアルト、斯ウ徹底的ニ
相對的ニ御示シニナル積リデアルカ、或ハ實蹟ノ如何ニ依ッテ、之ヲ將來實行
スルノデアルカ、ドウスルノデアルカ、斯ウ御決メニナルノデアルカ、ココ
ノ所ハ餘程能ク明瞭ニ致シテ置キマセヌト云フト、我國ノ此種ノ產業ニハ重
大ナル影響ヲ及ボスモノデアルト信ズルノデアリマス、第三ニ本案ヲ施行セ
ラレマスト、其關係物品ハ內地ニ於テ著シク物價ガ騰貴スル、之ニ連レテ一
般ノ物價モ亦騰貴セズヤト云フコトニ對シテハ、何人モ此ノ疑ヲ挾ム所デア
リマス、此點ニ付キマシテ政府ハ固ヨリ關稅ヲ引上ゲタ物ニ對シマシテハ、ソ
レダケ若クハソレニ近イ程度ニ於テ物價ノ騰貴ハ已ムヲ得ナイモノデアル、
併ナガラソコハ能ク考ヘテ貰ヒタイ、其點ニ付テハ政府ハ深甚ナル注意ヲ拂ッ
タノデアル、卽チ關稅ヲ引上ゲタ種類ノ物ト云フモノハ或特定ノモノ、若
クハ專賣ノモノデナク、內地ニ於テハ多數ノ自由競爭ニ付セラレツツアル所
ノ產業生產品ヲ選ンダノデアル、斯ウ云フ說明デアル、隨テ例ヘバ一時關稅
ノ影響ニ依ッテ高クナラウトモ、他日自由競爭ノ結果、ソレ等ノ物品ト云フモ
ノハ次第ニ物價ガ下落スルデアラウ、斯ウ云フ說明デアリマス、ソレハ一應
御尤ナ話デアリマス、少クトモ机上ニ於テ論ゼラレル場合ニ於キマシテハ
是ハ眞理デアリマス、併ナガラ世ノ中ノ物價ト云フモノガ斯カル單純ナル
理窟ニ依テ左右セラレルモノデナク、決定セラレルモノデナイト云フコト
ハ、私ガ茲ニ敢テ詳シク申上ゲルマデモナイト思フノデアリマス、私ハ茲ニ
抽象論ヲ揭グマシテ、此本案ニ關係ノアル具體的ノ例ヲ以テ諸君ニ御說明ヲ
申上ゲタイト思フノデアリマス、御覽ノ通リ稅率表ト云フモノハ極メテ複雜
ナモノデアッテ、サウシテ是ハ極メテ専門的ノモノデ、普通素人ニハ容易ニ
如何ニシテ適用サレルモノカ、如何ナル意味ヲ有ッテ居ルモノデアルカト云
フコトヲ解釋スルニ非常ニ困難デアリマス、例ヘテ申シマスレバ〓度ノ法律
案ノ中ノ稅率表ノ二百九十九番「リンネル」ノ關稅ヲ高メルト云フ問題デア
リマス、政府ニ於テハ諸君ガ著ラ居ラレマスガ如キ上等ノ「リンネル」ニ對
シマシテハ奢侈品トシテ今後一躍十割ノ稅ヲ課スルト云フコトデアリマス、
暫ク其コト自體ハ宜シイトシマシテモ、果シテソレダケノ物價ガ騰貴シ、其
以外ノモノハ騰貴シナイノデアルカト云フコトヲ考ヘテ見タイト思フノデア
リマス、二百九十九番ノ五ノ丙ノ二ノ其ノ他ノ內、サウシテ其說明ニハ「百平
方メートルニ付四十キログラムヲ超エサルモノニシテ五ミリメートル平方內
ニ於ケル經緯ノ絲數三十ヲ超エタルモノ」是ガ今度ノ稅ヲ課スルモノデアリ
マス、所ガ是ハ素人ガ讀ンデ何ノ事ヲ云フノカ、サッパリ分ラヌノデアリマス、
品物ヲ見テモ是ガ果シテ此稅目ニ該當スルモノデアルヤ我〓モ更ニ分ラナイ
ノデアリマス、所ガ其類似ノモノニ、卽チ直グ隣ノ稅率表ニ卽チ私ガ申シマス
ノハ丙ノ一ノイノ一カラ二ニ揭ゲタルモノデ、同ジ種類ノモノデ唯絲數ガ少
イトカ太イトカ云フ點デ從前通リノ稅ガ課カルコトニナッテ居リマス、是ハ普
通商品トシテ市場ニ於テ取引サレマス時ニ、果シテコチラノ物ハ重稅ヲ課セ
ラレ、コチラノ物ガ通常稅ヲ課セラレルト云フコトガ一般ノ人ニ分ルデアリ
マセウカ、普通素人ガ斯ル商品ニ付テハ貧弱ナル知識ヲ有ッテ居ルノデアリマ
ス、洋服屋ガ持ッテ來マスレバドチラモ今度ハ重稅ガ課カリマスカラト云フ口
實ノ下ニ、巧ニ瞞著サレテ仕舞フノデアリマス、是ハ一例デアリマス、斯ノ如
キ同種類若クハ類似品代用品等ト云フモノハ縱令此重稅ヲ課セラレズトモ、
ソレニ連レテ巧ニ商人ガ物價ヲ引上ゲルト云フコトニハ最モ好イ口實ヲ茲ニ
與ヘルモノトナル、是ガ卽チ物價騰貴ノ重大ナル原因ノ一ニナルト私ハ信ズ
ルノデアリマス、現ニ先年重稅ガ或品物ニ付テ課セラレマシタ時ニ實際取引
ノ狀況ヲ見マスルト、其後餘リニ稅ノ負擔ガ大ナルニ拘ラズ、其左右ニ竝ン
デ居ル所ノ代用品若クハ類似品ノ稅ノ負擔ガ輕イ爲ニ其課カツテ居ル其ノ品
物ノ稅ノ負擔ヲ左右ノモノニ分ケテ、サウシテ實際取引ヲシタ、サウ云フ實例
ガアルノデアリマス、政府ハ是等ノコトニ付テハ長年ノ間ニ亙ッテ多大ノ經驗
ヲ有ッテ居ラレルト思ヒマス、果シテ斯ル事實ニ對シテ幾何ノ考慮ヲセラレタ
ノデアルカ、是等ニ付ラ謹ンデ〓ヲ受ケタイト思フノデアリマス、第四ニハ輸
出原料品ニ關スル問題デアリマス、唯今提出ニ相成ッテ居リマスル所ノ別表中
ニハ輸出原料トナルベキ種類モ多々アルノデアリマス、固ヨリ內地ノ物價ヲ
制限シ、輸入ヲ防遏スルト云フコトハ、趣意ニ於テ、我〓ハ何等異論ハナイ
ノデアリマスルケレドモ、ソレト同時ニ有ラユル手段ヲ講ジテ輸出ノ奬勵ヲ
圖ルベキハ是亦私共當然爲スベキコトデアルト思フ、然ルニ過ッテ若シ輸出ノ
原料ニ對シテ重稅ヲ課スル結果、對支對南洋方面ニ於ケル輸出貿易ノ萎縮ヲ
來タス虞ガアリマシタナラバ、是ハ如何ニ爲サルノデアリマスカ、此點ニ付
テハ本日マデニ政府ノ發表セラレテ居ル所ノ答辯ニ依リマスルト、例ヘバ石
鹼ノ如キ、成程、輸出ヲスル、而シテ其香料ハ輸入ノ人造香料若クハ天然香料、
化學香料等ニ待ツコトハ事實デアル、併ナガラソレニ使フ所ノ分量ト云フモ
ノハ極メテ輕微ナモノデアル、是ガ果シテ價格ニ及ボスヤ否ヤト云フコトハ
問題デアル、併ナガラ一方當業者ノ說ヲ聞イテ見マスレバ是レ頗ル重大ナル
關係ヲ持ッテ居ルモノデアルト斯ウ申ズ、而シテ更ニ政府ハ言葉ヲ進メテ、若
シサウ云フ場合ニ於テハ現今行ハレテ居ル假置場制度ヲ利用シタラ宜イデハ
ナイカ、斯ウ言ハレル、固ヨリ然リデアル、併ナガラ今日マデノ實驗ニ徵シマ
スレバ假置場制度ト云フモノハ相當大規模ナル生產工場デナケレバ經濟的適
用ガ十分圖ラレナカッタコトハ是ハ政府當局ニ於テ十分御經驗ノコトト思フ、
卽チ大阪諸方面ニ散在シテ居リマスル所ノ小規模ノ石鹼工場若クハ其他化
粧品等ノ工場又ハ「ドウロンウォーク」ノ如キ農家ノ從來ノ副產業トナッテ居
ル種類ノモノニ對シマシテハ、此假置場制度ト云フモノガドウシテモ十分ニ
利用スルコトガ出來ナイ、利用スルニハ餘リニ工業ガ小サ過ギルト云フモノ
ニ對シテハ、如何ニ爲サル積リデアルカ、是等極メテ小規模ノモノニ對シマ
シテ、彼等ノ職ヲ失ハシメルト云フコトハ是ハ社會上由々シキ問題デハナカ
ラウカト思フノデアリマス、是等ニ付キマシテハ政府ハ如何ナル〓究ヲ爲サ
レ、如何ナル御方針デ此案ヲ出サレマシタカ、是ハ十分ニ御說明ヲ願ヒタイト
思フノデアリマス、以上申上ゲマシタ程度ニ於テ略、御推察ガ御付キニナルト
思フノデアリマスガ、若シ奢侈品若クハ贅澤品ニ屬スル各種ノ生產事業ヲ關
稅ノ非常ナル高イ障壁ヲ以テ保護シマシタ結果、當然我〓ガ豫期シマシタ通
リ內地ノ此相當工業ガ之ニ依テ保護奬勵ヲ受ケ、生產ノ分量ヲ增シ、市況ノ
活氣ヲ得ルニ至リマシタナラバ、國家全體ノ經濟社會ニ付キマシテハ、產業
組織ハ如何ニナルカ、サラヌダニ我國ノ產業組織ハ歐米ノソレニ比シマシテ
精密ナル堅實ナル、而シテ國家ノ根本トナリ基礎トナルベキ所ノ工業ニ付テ
ハ、甚シク生產組織ガ薄弱デアルト云フコトヲ感ジテ居ル矢先ニ持ッテ來テ、
奢侈品ノ如キ見テ吳レノ好イ品物、ソレガ人氣ニ投ズル爲ニ益〓發達助長ス
ル場合ニ於テ、是等堅實ナル工業ガ如何ナル運命ニナルノデアリマセウカ、
私ハ此點ニ付テハ大ニ諸君ノ注意ヲ喚起シタイト思フノデアリマス、是等ニ
付テハ定メシ政府ニ於テハ相當ノ〓究御決心ヲ以テ此本案ニ揭ゲラレタモノ
デアラウト思ヒマス、是亦相當明快ナル御說明ヲ煩ハシタイト思フノデアリ
やっく、更ニ方面ヲ轉ジマシテ外務當局ニ伺ッテ見タイト思フノデアリマス、目
下、佛伊其他通商航海條約ノ改訂中ニ屬スル國ガ多々アルカノ如クニ伺ッテ居
リマス、一國ノ國際的ノ經濟關係ヲ締結左右スル所ノ重大ナル通商條約ノ締
結ヲスルニ當リマシテ、雙方ノ經濟的ノ立場カラ其主張、其根據トスル所ハ極
メテ複雜デアリ、交涉ハ困難デアルト云フコトハ從來ノ例ニ依ッテ明カナ次第
デアリマス、此矢先ニ當リマシテ今囘ノ如キ十割ト云フ世界ニモ稀ナル所ノ
高率ヲ課セラレ、而モ一列一體ニサウ云フモノヲ課スルト云フ其結果果シテ
如何デアリマス、國際經濟關係ノ微妙ナル作用ヲ利用シマシテ、從來國定稅率
ノ外協定稅率ト云フモノガ設ケラレテアルノデアリマス、之ニ依ッテ或特殊ノ
國若クハ最惠國約款ヲ締結シテ居リマス國ニ於キマシテハ、相當圓滿ナル諒
解ノ下ニ關稅ガ施行サレテ居ルニモ拘ラズ、今囘ノ如キ重稅ヲ突如トシテ課
セラレル場合ニ於キマシテハ、今日マデノ諒解ガ根本カラ破壞サレル、從テ協
定稅率ニ關スル所ノ談判ガ頗ル困難ニ陷ル憂ハナイノデアリマスルカ、之ヲ
イマ少シク具體的ニ申上ゲルナラバ、協定稅率若クハ比例稅率ヲ施行シテ居
リマスルニ拘ラズ、將來斯ノ如キ關稅ノ變革ガ起リマシタ場合ニ於キマシテ
ハ、其相手國ハ是ガ爲ニ影響ヲ蒙ル、殊ニ比例稅率ノ場合ニ於キマシテハ其影
響ヲ蒙ル場合ガ頗ル多イノデアリマスルカラシテ、當然彼ノ國ノ要求トシテ
ハ出來得ルダケ協定稅率ノ範圍ヲ廣メルト云フコトヲ提議シ、尙ホ比例稅率
ノ如キハ出來ルダケ廢棄スル、從テ其談判ニハ益〓困難ナル所ノ事情ヲ加ヘテ
來ルデナカラウカト推測サレマス、此點ニ付キマシテ外絡當局ハ如何ナル御
〓究ヲ爲サッテ居ルカ、謹ンデ〓ヲ伺ヒタイト思フノデアリマス、次ニ先刻モ
申上ゲマシタ通リニ、此本案ノ施行ハ我〓日常ノ生活ニ非常ナル影響ヲ及ボ
スモノデアル、生活ノ安定ノ上ニ多大ナル脅威ヲ及ボスモノト思ハレルノデ
アル、固ヨリ消費節約ニ對シテ十分ナル賛成ヲ表スルノデアリマスケレドモ、
併ナガラ此物自體ニ於テハドウシテモサウ考ヘナケレバナラヌノデアリマ
ス、然ルニ昨年ノ震災直後、我ガ政府ハ緊急勅令ヲ以テ多數ノ生活ノ必需品等
ニ對シテ非常ナ寬大ナル所ノ減免稅ノ制度ヲ布カレタノデアリマス、其效果
ハ見ヤウニモ依リマセウケレドモ、或意味ニ於テ非常ニ震災後ニ於ケル國民
生活ノ安定ニ寄與シタ所ガ多カッタノデアリマス、而シテ此緊急勅令ト云フ
モノハ本年三月末日ヲ以テ終ッタノデアリマス、併ナガラ此緊急勅令ノ爲ニ滔
々トシテ非常ニ物資ガ歐米諸國ヨリ輸入イタシマシテ、今ダニ尙ホ其經濟界
ニ及ボス所ノ影響ト云フモノガ終滅シナイト云フコトノ事實ハ諸君モ十分御
承知ノコトダラウト思フノデアリマス、其矢先ニ當ッテ來テ、今度ハ更ニ一躍
シテ十割ノ稅ヲ課スル、而モ其稅率表ノ中ニ同ジ物ガ入ッテ居ルノデアリマス
是ハ又當然ナコトデアリマセウ、併ナガラ同ジ物ガ人ッテ居ルトスルナ
ラバ或物ハ稅率ガタダデ入ツテ來タ、輸入稅ト云フモノガタダデ人ッテ來テ、
而シテ「ストック」ガ非常ニ澤山デ賣切レナイ所ニ十割ノ稅ヲ課スル、此間、
我ガ經濟界ハ如何ニナルカ果シテ我〓國民ハ其恩惠ニ浴スルノデアリマセウ
カ、卽チ前ノ緊急勅令ヲ以テ施行シタ精神ニ適ッテ我〓國民ノ日常生活ノ物
價ノ引下ナリ生活ノ安定ト云フモノガ得ラレタノデアル、又十割課セラレタ
爲ニドウナルノデアリマセウ、結局、其間ニ介在スル所ノ問屋、仲買人其他
商人ガ暴利ヲ取ルト云フコトデアル、我〓消費者ニ取フテハ甚ダ微細ナル影
響シカナイト云フ結果ニナルノデアル、ノミナラズ一般ノ期待スル所ニ依リ
マスレバ、多年我ガ政府ノミナラズ、官民ヲ通ジテ期待セラレテ居リマシタ
所ノ關稅率ノ根本的ノ整理改革ト云フモノガ本年ノ暮ノ議會ニ提出サルベク
豫期サレテ居ルノデアリマス、是ハ當然國民トシテ期待シテ居ル次第デアリ
やっゝ、然ルニ關稅政策ノ上ニ於キマシテ僅カ一年ノ間ニ、或時ハ稅率ガ「ゼ
ロ」ニナリ、或時ハ十割ニナリ、其次ニ更ニ平衡ト云ヒマスカ、普通ノ稅率ガ
課セラルベク豫期サレルモノノ如キ次第ニナッタナラバ、國內ノ產業ト云フモ
ノハ何處ニ安定ヲ爲スベキカ、經濟界ノ動搖ト云フモノハドウシテ是デ防ゲ
ルノデアリマスカ、私ハ此點ニ付テハ餘程注意ヲ拂ッテ〓究シナケレバナラ
ヌ問題ト思ヒマス、政府當局モ固ヨリ此點ニ付テハ深甚ナル注意ヲ拂ハレタ
モノデアラウト思ヒマス、之ニ付キマシテモ十分ナル御答辯ヲ煩ハシタイト
思フノデアリマス、最後ニ前ニ申落シマシタ事ヲ一言申上グマスルガ、稅率
表ノ中ニ貴石、卽チ「ダイアモンド」「ルビー」「サファイヤ」ト云フヤウナ種類
ノモノノ稅率ヲ從來ノ五「パーセント」ヲ引上ゲテ一躍百「パーセント」ニ
セラレルト云フ案ガアルノデアリマス、是ハ從來ノ關稅行政ノ經驗ヨリ見マ
スナラバ非常ニ捕捉ニ困難デアル、容易ニ斯カル高率ヲ課シタ以上ハ其品物
ヲ捉マヘルト云フコトガ困難デアル、總テノ輸入表カラソレガ除カレテ仕
舞フト云フ結果ニナル、而シテ半面ニ於テ是等貴石額ノ脫稅ヲ奬勵スル結果
ニ終ルト云フコトハ、是ハ我國ノミナラズ、各國ニ於テモ多年經驗シテ居ル
コトデ、關稅行政ノ上ニ於テハ殆ド鐵則ト云ッテモ宜イ次第デアル、然ルニ
單ニ贅澤品ト云フ名前ノミニ囚ハレテ斯カル鐵則ヲ無視シテ之ヲ引上ゲラレ
ルト云フコトハ如何ナル理由デアリマセウカ、是ガ爲ニ各稅關ニ於テ旅具ノ
檢查ハ一層嚴密ニ爲サナケレバナラヌ、從テ從來モ屢〓經驗シテ居リマスル
通リ、我國ニ入ッテ來ル遊覽客、殊ニ我國ノ事情トシマシテ外國ノ遊覽客ヲ歡
待シナケレバナラヌ、其遊覽客ガ足一歩我國ノ國土ニ觸レル刹那ニ於キマシ
テ、非常ニ嚴格ニ旅具檢查ヲ行ハレタ結果、其最初ノ「インプレッシヨン」最
初ノ印象ニ於キマシテ彼等ガ如何ナル感ジヲ持チマスカ、此感情ガ果シテド
ウ云フ影響ヲ及ボスノデアリマセウカ、洵ニ消費節約ト云フコトハ斷行スベ
キコトデアラウト思ヒマスケレドモ、此惡感情ヲ無視スルト云フコトハ國交
上、又我國ノ經濟上種々ナル方面ニ非常テ影響ガアルト思フノデアリマス、是
等ハ餘リニ明カナ事實デアリマス、政府ハ此點ニ付テハ如何ナル考慮ヲセラ
レタノデアリマスカ、此際ニ伺ヲテ置クコトハ極メテ必要ダラウト思ヒマス
〔國務大臣濱口雄幸君演埴ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=38
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039・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯今ノ東〓男爵ノ御質問ニ御答ヲ致サウト思ヒマ
ス、各項目ニ付ノ御答ヲ致シマスル前ニ私ノ答辯ノ全體ヲ包括スル所ノ根本
ノ考ニ付テ先ヅ以テ申上ゲテ置クコトガ必要デアラウト考ヘマスカラ、大體
ノ話ヲ先ヅ申上ゲマス、然ル後ニ各項目ニ入ル積リデアリマス、此法案ヲ提
出イタシマシタ理由ニ付テハ、先刻申述ベタ通リデアリマスガ、其時ノ說明
ニモ申シマシタ如クニ、此贅澤品等ニ關スル輸入稅ヲ重課スル所ノ法律案ト
云フモノヲ一ツダケ捉へマシテ其效果如何、果シテ國民全體ニ向ッテ消費節約
ヲ十分ニセシムルダケノ效果ガアルヤ否ヤ、此法律タケデ貿易ノ逆調ヲ緩和
スルノ效果ガアルヤ否ヤ、國民ノ精神ヲ刺激スルニハ是ダケデハ餘リニ貧弱
デハナイカト云フ疑ガ何人ニモ起ルデアラウト思フノデアリマス、私共ノ考
ト致シマシテモ、此法律案ガ幸ニ議會ノ協賛ヲ經マシテ法律トナッテ實行サレ
マスト云フ、其一事ニ依ッテ萬事ガ解決サレルトハ期待ヲ致シマセヌ、卽チ政
府ガ執ラムトスル所ノ總テノ政策、ソレガ民間ヲ刺戟イタシマシテ、民間ノ經
濟界ニ於テモ政府ノ政策ト相呼應シテ、財界ノ整理安定ヲ圖リ、國民モ亦是ト
同時ニ消費ノ節約ヲ厲行イタシ、擧國一致、官民相俟ッテ、初メテ所期ノ效果
ヲ收ムルニ庶幾カラムトスル場合デアルト考ヘマス、卽チ先刻モ申シマシタ
通リ政府ニ於テハ第一ニ行政財政ノ整理緊縮ヲ斷行スル、此ノ事柄ガ我ガ財
政經濟ニ累ヲ及ボシテ居ル所ノ總テノ弊害ノ基デアルト政府ハ信ズルノデア
リマス、行政財政ノ膨脹ト云フコトガ總テノ弊害ノ基デアル、ソレ故ニ政府
トシテハ何事ヲ差措イテモ財政ノ整理緊縮ヲ斷行セムケレバナラヌ、此政府
ガ整理緊縮ヲ斷行イタシマスト云フコトハ、取リモ直サズ全國ノ中ノ一番大
イナル所ノ消費者、卽チ年々十數億圓ノ金ト云フモノヲ使ヒマシテ、之ヲ國
內ニ於ケル所ノ勞働竝ニ物資ノ市場ニ向ッテ購買者トシテ立ツ所ノ政府、其政
府ガ一大儉約ヲ行ッテ、政府ノ消費ヲ減ズル、民間ニ於テモ之ト相呼應イタシ
マシテ、財界ノ整理緊縮ヲ行ッテ、サウシテ相俟ッテ官民トモニ財政經濟ノ基礎
ヲ立テ直サナケレバ國ガ危イ、其總テノ政策ヲ組織的ニ實行スルト云フコト
ニ依ッテ、初メテ目的ヲ達スルコトガ出來ルノデアラウト思フノデアリマス、
而シテ今日ノ財政經濟ノ狀態ト云フモノハ譬ヘテ申シマスレバ謂ハユル病
膏旨ニ入ッテ居ル、之ガ療治ハ餘程手後レデアリマス、手後レデアリマスケレ
ドモ、政府ガ責任ヲ以テ此難局ニ立ッタ以上ハ、萬難ヲ排シテ最善ヲ盡サナケ
レバナラヌ、其最善ヲ盡ス爲ニハ一ツヤ二ツノ政策デハ參ラヌト思ヒマス
一ツノ法律ヲ拵ヘル、一ツノ勅令ヲ發布スル、サウ云フコトダケデハ迚モ目
的ヲ達スルコトハ出來ナイ、ソレ故ニ各方面ニ亙ッテ組織的ニ諸般ノ施設ヲ
併セ行フ、ソレニ依ヲテ漸ク財政經濟方面ニ於ケル雜局ヲ挽囘スルコトガ出來
ルノデアラウ、其組織的ニ行ハムトスル所ノ諸般ノ施設ノ一端トシテ、本案
ヲ提案シタ次第デアリマス、固ヨリ財政行政ノ整理緊縮ガ根本義デアリマス
ガ、御承知ノ通リ此內閣ハ組織以來僅ニ二週間ニシテ議會ノ召集ニ遇ッタノデ
アリマス、如何ニ努力イタシマシテモ大正十三年度ノ實行豫算ニ於テ政府ノ
整理緊縮ノ考ト云フモノヲ遺憾ナク行フト云フコトハ是ハ出來ナイノデアリ
マス、固ヨリ出來得ルダケノ儉約ハ行ヒマスルガ、政府ノ考ヲ徹底的ニ實行ス
ルト云フコトハ、何ント致シマシテモ十四年度ノ豫算ノ編成ヲ待ツ外ナイト
云フ狀態デアリマス、ソレ故ニ政府ノ財政行政ノ整理緊縮ハ少シ後レマスル
ガ、然ラバ總テノモノモソレニ伴ッテ後レマシテ宜シイカ、少クトモ間ニ合フ
モノダケハ一日デモ早ク之ヲ實行スルコトガ必要デハナイカ、唯今ノ國民ノ
經濟狀態、國際貸借ノ狀態ハ誠ニ寒心ニ堪ヘザル程ノ逆境ニ立ッテ居ル、之ヲ
救フガ爲ニハ其效果ガ十分デナクテモ、多少タリトモ效果アリト信ズルモノ
ハ殘ラズ之ヲ採用イタシ、凡テノ政策ガ合體イタシマシテ、其綜合ノ力ニ依。ツ
テ時艱ヲ救フト云フ決心ヲスルヨリ外ニアリマセヌ、ソレ故ニ再ビ申シマス
ルガ、此議題ニ上ッテ居リマスル所ノ贅澤品等ニ關スル輸入稅ニ關スル法律案
是ダケ獨立ヲシテ考ヘテ見マスルト云フト、或ハ其效果ガ薄弱デハナイカト
云フ御疑ガアルト思ヒマスケレドモ、政府ノ考ハ右申ス通リ是ハ獨立シタル
所ノ一ノ法律デハアリマセヌ、是カラ行ハムトスル所ノ諸般ノ施設計畫ノ其
一部ニ過ギナイノデアリマス、其一部ヲ先ヅ以テ行ッテ、之ニ依ッテ廣ク國民
全體ニ向テ日本ノ財政經濟ノ狀態ハ斯樣ニナッテ居ル、國際貸借ノ模樣ハ斯樣
デアル、ソレ故ニ御互ニ力ヲ極メテ消費ノ節約ヲ行ハナケレバナラヌ、安逸ヲ
貪ッテ居ルベキ時代デハナイト云フコトヲ、廣ク國民ニ向ッテ警鐘ヲ亂打セナ
ケレバナラヌ、其亂打スベキ所ノ警鐘ノ第一聲ト御覽フ願ヒタイノデアリマ
ス、卽チ之ニ依テ貿易ノ逆調ヲ制スル所ノ働キハ金額カラ申シマスレバ左程
大キナ金額デハアリマスマイ、全部ノ輸入ガ止マッタ所デ三千萬圓カラ四千萬
圓ノ間デアリマス、全部ノ輸入ガ止マラウトモ考ヘテ居リマセヌ、其數字ヨリ
モ國民ニ及ボス所ノ精神的ノ刺戟ヲ私共ハ重ク見ルノデアリマス、其精神的
ノ刺戟ノ是ガ第一著手デアルト考ヘテ居リマス、願ハクハ其心持ヲ以テ此案
ニ對セラレムコトヲ希望イタシマス、其希望ヲ申上ゲテ置キマシテ是カラ東
〓男爵ノ御質疑ニ對スル說明ヲ致ス積リデアリマス、第一ニ此法案ノ見出シ
ニ贅澤品等トアルノハドウ云フ意味デアラウカ、此法案ノ目的トスル所ハ消
費節約ヲ爲サシメ、一面ニ於テハ外國品ノ輸入ヲ防遏スル、此兩面ノ目的ヲ
持ッテ居ル法案デアルガ、賛澤品等ノ輸入稅ト書イテアルカラ、其點カラ見ル
ト云フト贅澤品ニ屬スル部分ハ即チ國民ノ消費節約ヲ奬勵スルト云フ目的カ
ラ、玆ニ十割ノ高稅ヲ課ス、贅澤品以外ノ「等」ト云フモノニ對シテ重稅ヲ課
シタノハ、其目的ハ外國カラノ輸入ヲ減ジ、ソレニ依テ貿易ノ逆調ヲ緩和セム
トスル趣意デアルカ、斯樣ナ意味ノ御質問ト拜承イタシマシタガ、是ハ左樣
ナ區別ハアリマセヌノデ、此法案ノ贅澤品等ト書キマシタノハ、此品目ニ於
テモ御覽下サイマス通リ、澤山ノ種類ノ品物ガ悉ク贅澤品デアルト考ヘテ居
リマセヌ、贅澤品モ無論アリマスルガ、其以外ニ於テ嗜好品モアリマス、或
ハ遊〓ニ屬スル所ノ品物モアリマス、中ニハ其物ノ使用サレル目的カラ申シ
マスレバ、生活ノ必要品ト言ヒ得ルモノモアルノデアリマセウ、例ヘバ靴足
袋ノ如キ、苟モ洋服ヲ著テ靴ヲ窄ク以上ハ靴下ハ是ハ必要品デアルノデアリ
マスルガ、其必要品タル靴下ニ贅澤ナル原料ヲ用ヰルコトニ依ッテ、其部分
ニ限ッテ贅澤品トナルノデアリマス、左樣ナル所ノ品物ヲ此法案ノ中ニ包含
ヲシテ居リマスルガ故ニ、全部賛澤品ト云フ名ヲ冠セマスルコトハ不穩當デ
アルト考ヘマシテ、依 つつ「贅澤品等」ト云フ名稱ヲ用ヰタノデアリマス、ソ
レ故ニ此法案ニ揭ゲテ居リマスル所ノ總テノ品目ニ對シテ、此法案ノ目的ト
スル所ノ第一ニ國民ノ消費節約ヲ奬勵スルト云フコト、第二ニ幾分タリトモ
貿易ノ逆調ヲ緩和スル所ノ一助トスル、此二ツノ必要ヲ總テノ品物ガ共ニ持ソ
テ居ルト云フコトニ御諒解ヲ願ヒタイノデアリマス、第二ニ旣ニ國民ノ奢侈
贅澤ヲ戒メルガ爲ニ外國ノ輸入品ニ對シテ重稅ヲ課スル以上ハ、其目的ヲ徹
底セシムルガ爲ニ、內地產ノ奢侈品等ニ向ッテモ、同樣ノ高稅ヲ課セナケレバ
イカヌト思フガ、政府ハ必ズ內地品ノ奢侈稅ヲ起スト云フ考ヲ有フテ居ルカ、
若クハ今日ハ有ッテ居ナイケレドモ、此法案實行ノ成績ニ鑑ミテ、或ハ內地贅
澤品稅ト云フモノヲ起スヤウニナルカモ知レヌト云フ考デアルカ、斯ウ云フ
御質問デアリマシタ、如何ニモ輸入品ニ對シテ高稅ヲ課シマスル以上ハ、政
府ガ收入ノ目的ヲ以テヤル塲合ニ於テハ、內地ノ奢侈品ニ對シテモ同率ノ消
費稅ヲ課セナケレバ徹底シナイノデアリマス、然ルニ此度ノ目的ハ收稅主義
デアリマセヌノデ、卽チ國民ノ奢侈安逸ヲ戒メ消費ヲ節約セシムルト云フコ
トガ目的デアリマスルガ故ニ、輸入稅ヲ課シタカラト云ッテ、直チニソレト伴ツ
テ內地稅ヲ課セナケレバナラヌト云フ理由ハ無イノデアリマス、政府ノ期待
スル所ハ、外國カラ入ッテ來ル所ノ贅澤品等ニ對シテ重稅ヲ課スルト云フ其
政府ノ精神、ソレガ他ノ諸般ノ施設ト相俟ヲテ茲ニ國民ノ氣分ヲ一新シ、ソレ
ニ依ッテ全體ニ亙ッテ奢侈安逸ノ風ヲ除去スル、消費ノ節約ト云フコトヲ全體
的ニ行ハシメムトスル目的デアリマス、ソレ故ニ政府ノ目的ヲ達スル時ニ於
テハ、必シモ內地ノ奢侈品ニ向ッテモ重稅ヲ課シマセヌデモ、自ラ國民ノ氣分
ガ變ヲテ參リマスレバ其變ッタ氣分ヲ持ッタ所ノ國民ハ、獨リ外國ノ輸入品、
其中ノ贅澤品ヲ用ヰナイト云フコトニナルバカリデナク、其同一ノ氣分ガ內
地產ノ奢侈品ニ向ッテモ消費ヲ節約スルト云フコトニナルト私ハ期待ヲ致シ
テ居ル幸ニ此政府ノ期待ガ的中ヲ致シマスレバ、內地ノ同種類ノ奢侈品ニ向ツ
テ課稅ヲスル必要ハ無クナルノデアリマス、私ハ其必要ガ無クナルコトヲ
期待ヲ致シ且ツ信ズルモノデアリマス、ソレ故ニ今日ニ於テ輸入稅ヲ課スル
カラト云ッテ、內地ノ奢侈品ニ向ッテ同樣ノ課稅ヲスルト云フ考ハ有ッテ居ナイ
ノデアリマス、是ガ政府ノ信ズル所ヲ申上ゲタノデアリマスルガ、然ルニ世
間ニ於テハ輸入品ニ向ッテ高稅ヲ課スル以上ハ內地ノ奢侈品ニ向ッテモ同樣ノ
高稅ヲ課セナケレバ、其目的ヲ達シナイデハナイカト云フ議論ガアルノデア
リマス、私共屢〓之ヲ耳ニ致シマス、今日政府ノ考ト致シマシテハ、今申上ゲ
マシタ通リ其必要ヲ見ズシテ終ルト云フコトヲ期待ヲ致シテ居ル、然ルニ此
法律實施ノ結異、又政府ノ總テノ施設ヲ組織的ニ行ヒマスル結果、マダ國民
ノ目ヲ覺マスコトガ出來ナイ、國民ノ奢侈賛澤ヲ趁フト云フ氣分ガ、外國ノ
輸入品ニ對シテ高稅ヲ課シタケレドモ、其代リ內地ノ奢侈品ニ向ッテ移ルト云
フコトニ、政府ノ豫期シナイ結果ガ萬々一現ハレテ來タ時ニ於テハ、其時ニ及
ンデ政府ハ相當ノ考慮ヲ致ス考デアリマス、今日カラ內地品ニ奢侈稅ヲ課ス
ルト云フコトヲ政府ハ豫期シテ居ルモノデナイト云フコトヲ申上ゲテ置クノ
デアリマス、其次ニハ輸入品ニ向ッテ重稅ヲ課スル結果トシテ、同種類ノ內地
ノ製品ノ物價ヲ騰貴セシメ、延イテ一般ノ物價騰貴ヲ招徠スルト云フ結果ニ
ナリハシナイカト云フ御質問デアッタノデアリマス、如何ニモ此法案ニ擧ゲテ
アリマス所ノ、澤山ノ品目ニ向ッテ十割ノ課稅ヲ致シマスル以上ハ、其輸入品
ダケハ物價ガ騰貴スル結果トシテ玆ニ諸般ノ政策ト相俟ッテ國民ノ消費ガ減
ズルト見テ居リマス、國民ノ消費ガ減ズル以上ハ、內地ノ品物全體ニ向ッテノ
需要ハ減ジコソスレ、增加スルト云フ傾向ハ取ラヌト政府ハ考ヘテ居ル、單
純ニ國カラ、輸入品ハ高クナッタ······十割ノ稅ノ爲ニ輸入品ハ高クナッタガ
內地ノ品物ハ稅ガ掛ラヌガ故ニ、是ハ輸入品ヲ捨テテ內地ノ贅澤品ヲ使ハウ
ト云フコトニ、政府ノ豫期セザル所ノ不幸ナル傾向ヲ國民ガ取ッテ參リマス
レバ、其時ニハ相當ノ對策ヲ講ジナケレバナリマセヌケレドモ、之ニ依ッテ一
般的ニ消費ノ節約ト云フ氣分ヲ助成スルコトガ出來マシタナラバ、內地品ノ
物價ノ騰貴ヲ促スコトハ無カラウト思ヒマス、況ヤ內地ノ一般ノ物價ノ騰貴
ト云フ如キコトハ、我〓ノ夢ニモ想ハヌ所デアリマス、固ヨリ利ニ敏イ所ノ
商人ハ消費者ノ十分ニ事情ニ精通ヲシテ居ナイコトヲ奇貨ト致シマシテ、或
ハ商品ノ値段ヲ上ゲヤウトスル者ガナイトモ限リマセヌ、現ニ最近承ハル所
ニ依レバ此法案ガ衆議院ニ提案ヲサレマシタ時ニ、或商人ガ罐詰類ノ値段ヲ
上ゲタ、卽チ輸入品ニ向ッテ高稅ガ掛カルサウデアルカラト云フコトヲ理由ト
シテ罐詰ノ値段ヲ上ゲタト云フコトヲ承ハル、其品物ハ此度ノ法案ノ品目ニ
ハ除外サレテ居ル所ノ品物デアリマス、斯ノ如キ狡猾ナル商人ガ、消費者ノ素
人デアルコトニ乘ジテ、サウ云フ奸策ヲ弄スルコトガ絕對ニナイトハ是ハ保
證ハ出來マセヌ、又或ハ此法案ノ中ニ毛織物ト云フ品目ガ揭ゲラアル、卽チ
洋服地全體ニ向ッテ十割ノ課稅ヲスルト云フ政府ノ案デアルサウダ、ト云フ
コトカラ内地ノ毛織物業者ガ非常ニ喜ンダト云フコトヲ聞イタコトモアリマ
ス、是モ全然誤解ニ基クコトデアリマス、卽チ此度ノ法案ニ於ケル品目ハ毛織
全體ハ擧ゲテナイノデアリマス、毛織物ノ中ニ絹ガ織込ンデアルモノニ限ツ
テ品目ニ擧ゲテアリマスルガ、普通ノ洋毛製ノ織物ハ此度ノ增稅案中ニハ這
入ッテハ居ナイノデアリマス、從テ色〓ノ誤解ニ基キ或ハ其商人ハ自分デハ誤
解シテ居ナクテモ、無智ナル所ノ消費者ヲ瞞著センガ爲ニ一時左樣ナル狡猾
ナル手段ヲ執ラヌトモ限リマセヌガ、併ナガラソレハ直チニ分ルコトデアリ
マスルガ故ニ、左樣ナル奸策ハ永續キノスルモノデアリマセヌカラ、速ニ消
散ヲスルモノデアルト信ジマス、政府モ亦幸ニ此法案ガ通過ヲ致シマスレバ
品目ニ擧ゲテアル所ノ輸入稅ヲ引上ゲラルルベキ種類ノ品物ト、然ラザル品
物トノ區別ヲ最モ明瞭ニ最モ通俗的ニ一般ニ說明ヲ致ス考デアリマス、從テ
御質問ノ如キ御心配ハ一時ノ現象トシテハ或ハ絕無ヲ保シ難イノデアリマセ
ウガ、其現象ハ直チニ消滅ヲ致シ、ソレガ爲ニ一般物價ノ騰貴ヲ促スト云フ
如キ心配ハ萬々アルベカラザルコトデアルト政府ハ信ジマス、其次ニ此度ノ
品目ノ中ニ輸出品ノ原料タル品物ガ這入ッテ居ル、其結果トシテ輸出品ノ値
段ヲ騰貴セシメ、輸出貿易ヲ極力奬勵スベキ時ニ當ッテ其反對ノ結果ヲ招來ス
ル虞ガアルデハナイカ、假置場ノ制定ガアルトハ云ヒナガラ其制度ハ不備デ
アッテ未ダ輸出貿易ノ奬勵ヲスルニ十分デナイ之ニ對シテドウ云フ考ヲ持ノ
テ居ルカト云フ御意見ガアリマシタ、如何ニモ此御質問ハ御尤モ千萬ナル御
質問デアリマス、各方面ヨリ左樣ナル質問ヲ受クルコトガ屢〓アッタノデアリ
マス、此輸出貿易ニ對スル關稅引上ノ影響ヲ緩和スル爲ニハ執ルベキ手段ト
致シマシテハ唯今假置場ノ制度ニ向ッテ相當ナル所ノ改善ヲ加ヘ、又其取扱ヲ
敏活ニ致シマシテ當業者ノ便利ヲ圖リ、其方法ニ依ッテ輸出貿易ノ障碍ヲ除
クト云フ政府ハ考デアリマス、今日ノ假置場ノ制度竝ニ其運用ニ關シマシテ
ハ幾多ノ非難ガアルノデアリマス、幾多ノ故障モアルノデアリマス、ソレ
故政府ハ此法案實施ト同時ニ行政上ノ働キデ出來得ル限リハ假置場ノ制度ニ
向ッテ、竝ニ其運用ニ向ヲテ出來得ル限リノ改善改良ヲ加ヘタイト思ヒマス、ソ
レニ依ッテ輸出貿易ニ對スル所ノ障碍ヲ大イニ)和スルコトガ出來ルデアラ
ウト信ジマス、第五ニ御質問ニナリマシタ事柄ハ此法案ノ實行ノ結果內地ノ
產業ノ保護、其結果トシテ左ナキダニ缺乏ヲ〓グテ居ル所ノ內地ノ資本ト勞
力トガ、外國カラ這入ッテ居ッタ品物ノ代用品ノ生產ニ向ッテ注入ヲサルルコト
ニナッテ、堅實ナル所ノ產業、殊ニ基礎工業ニ用フベキ所ノ資本ト勞力トノ上
ニ缺乏ヲ〓グルニ至リハセヌカト云フ、誠ニ御尤モナル御質問デアリマス、
政府ハ品目ヲ選定スルニ當リマシテ努メテ其邊ニハ意ヲ用ヰタ積リデアリマ
ス、卽チ此法案ノ目的トス所ハ收入主義デモナイ、保護主義デモナイ、之ニ依ツ
テ內地ノ產業ヲ保護セムト云フ考ハ毛頭持ッテ居ナイノデアリマス、卽チ此品
目ニ擧ゲテアリマスル所ノ品物ヲ點檢イタシマシテモ、外國カラ安イ所ノ同
種類ノ品物ガ這入ッテ來ルガ爲ニ、ソレニ壓倒セラレテ內地ノ產業ガ伸ビナイ
ト云フ如キ品物ハ努メテ之ヲ避ケタ積リデアリマス、從ッテ外國輸入品ニ對シ
テ高稅ヲ課シ、ソレガ爲ニ其代用品ヲ造ルガ爲ニ内地ノ資本勞力ガ大ニ其方
面ニ注入ヲサルヽト云フ如キコトハ萬々無イコトデアルト思ヒマス、況ンヤ
前段申シマシタ通リ此法案ノ目的ハ他ノ政府ノ施設ノ目的ト相俟ッテ贅澤品、
嗜好品若クハ遊〓品、卽チ生活ノ必要品デナイ品物ノ消費ヲ節約セシムル
ト云フ大體ノ目的デアリマスルガ故ニ、此法案實行ノ結果、內地ノ產業ガ保
護セラレ、其方面ニ向ッテ資本勞力ガ集中ヲサレルト云フ心配ハナイモノデア
ルト考ヘテ居リマス、其結果ト致シマシテ東〓男爵ノ御心配ニナリマシタ我
ガ國民生活ヲ脅威スル、國民生活ニ向ッテ不良ノ影響ヲ及ボスト云フ如キ心配
ハ政府ハ決シテナイト考ヘテ居リマス、國民生活ニ向ッテ不良ナル影響ヲ及
ボス心配ハナイノミナラズ、大體政府ノ方針ト致シマシテ國民生活ヲ安定ナ
ラシメル、行政財政ノ整理緊締ヲ行ヒマスルノモ、消費節約ヲ奬勵イタシマ
スノモ、貿易ノ逆調ヲ憂ヒテ、其出入ノ不均衡ヲ出來得ル限リ緩和セムトシ
マスルノモ、一ニ國民生活ノ安定ヲ目的トシテ居ルノデアリマス、從テ諸般
ノ施設ガ相俟ッテ其效果ヲ發揮シマスル時ニハ、政府ノ期待スル所ニ依レバ、
我ガ國民生活ハ今日ヨリモ改善サルヽコトヲ期待ヲ致シ、且ツ信ジテ居ル者
デアリマス、其次ニ御尋ニナリマシタコトハ、內地ニ於ケル在庫品、其在庫
品ガ非常ニ堆積ヲ致シテ居ル場合ニ於テ此重稅ヲ課スルト云フコトハ、卽チ
在庫ノ儘デ其品物ノ價格ヲ騰貴セシメ、當該商人ニ向ッテ不當ノ利益ヲ得セ
シメルコトニナリハセヌカ、斯ウ云フ御疑デアッタヤウデアリマス、何時デモ
增稅ヲ行ヒ若クハ新稅ヲ起ス場合ニ於テハ多少御疑ノ如キ懸念ノアルコトハ
免レマセヌ、政府ハ努メテ其弊ヲ除クコトニ盡力致シマスルガ、絕對ニ商人
ガ不當ノ利益ヲ得ナイト云フコトハ之ヲ期待スルコトハナカ〓〓困難デアリ
マック、出來得ル限リ盡力ヲ致シマスルケレドモ、其絕無ヲ保障スルコトハ出
來マセヌ、在庫品ノ數量等ニ付キマシテモ段々調査ハ致シマシタガ、今日ノ
所在庫品ハ最モ少イ時デアルサウデアリマス、卽チ在庫品ノ數量等カラ勘考
イタシマスレバ、斯ノ如キ法案ヲ實行スル上ニ於テハ最モ適當ナル時機デア
ルト云フコトヲ考ヘマス、其次ニハ「ダイアモンド」其他貴石ノ類ハサナキ
ダニ密輸入ノ虞ノ多イモノデアルガ、今囘ノ如キ十割ト云フ高率ヲ課セラレ
ルト云フト、ソレガ盛ンニ密輸入ガ行ハレテ、政府ノ目的ヲ達スルコトガ出
來ナイデハナイカト云フ御疑デアリマス、如何ニモ從來其通ソデアリマス、
此法案ノ實行ノ結果ト致シマシテ密輸入ノ傾向ハ確ニ殖エルデアラウト思
ヒマス、之ニ對シマシテハ別ニ豫算ヲ要求シマセヌデ、現在ノ稅關ノ役人ノ
定員ノ範圍内ニ於テ努メテ是ガ監督ヲ嚴重ニ致シ取締ヲ周密ニ致シマシテ、
密輸入ノ弊ノ成ルベク少カラムコトヲ期待スル積リデアリマス、其結果トシ
テ外國ノ旅客ニ對シ或ハ嚴重ニ過ギル所ノ檢查ヲ行ヒ、外國人ノ荷物ニ對シ
テ嚴重ナル檢查ヲ行フ結果、外國カラ這入ッテ來ル旅客ニ對シテ好マシカラ
ザル所ノ印象ヲ與ヘル心配ハナイカト云フコトデアリマス、是ハ能ク法案ノ
由來ヲ說明ヲ致シ、今日ノ日本ノ國民經濟ノ狀態、外國貿易ノ狀態ト、其經
濟上ノ難局ヲ切拔クル所ノ方法ノ一ツデアル、已ムヲ得ザル所ノ制度デアル
ト云フコトヲ豫メ十分ニ說明ヲ加ヘテ置キマスレバ、ソレガ爲ニ惡印象ヲ與
ヘルト云フガ如キ心配ハ無カラウト思ヒマス、現ニ最近ノ外國電報ノ傳フル
所ニ依リマスレバ、亞米利加ノ商業會議所ニ於テハ、此度ノ日本ノ輸入品ニ
對スル所ノ課稅ト云フモノハ、是ハ外國ニ對スル所ノ非友誼的ノ行爲デハナ
イ、日本ノ貿易ノ逆調カラ考ヘテ見レバ、蓋シ至當ノ事デアラウト云フガ如キ
意見ヲ持ッテ居ルト云フ外國電報ヲ見タノデアリマス、斯ノ如クニ我國ノ經
濟上ノ現狀ニ付テ十分ナル了解ヲシテ吳レル所ノ我ガ友邦ノ國民ハ、能ク說
明ヲ加ヘマスレバ、東〓男爵ノ御心配ニナルガ如キ、惡イ印象ヲ與ヘルト云
フ事ハ無イモノデアラウカト考ヘマス、御質問ニ對シマシテハ、大體御答ヲ
申シタ積リデアリマスガ、尙ホ漏レマシタ點ガアリマシタナラバ重ネテ御尋
ニ預リマシタナラバ、更ニ又ソレニ依ッテ御答辯申上ゲマス
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=39
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040・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 唯今、東〓男爵ノ御質問ニナリマシタ一ツ
ノ點ハ、本案ノ規定イタシテ居リマスル所ノ物品ニ對シ、急激ニ斯ノ如キ多
額ノ關稅ヲ課スルト云フコトニナレバ、外國ニ於テ或ハ關稅ノ報復ヲ招キ、
或ハ通商條約改正ノ交涉ノ上ニ於テ困難ヲ生ズルヤウナ恐レハナイカト云フ
御趣意デアッタト了解イタシマス、此點ハ特ニ私ニ對シテノ御質問デゴザイマ
シタカラ、私ヨリ御答辯ヲ申上ゲマス、本案ノ外國貿易ニ對スル影響ニ付キ
マシテハ、目下外國ニ於キマシテハ調查中デアルト察セラレマス、從テ外國
ガ本案ニ對シ如何ナル態度ヲ執ルカト云フコトハ、確定的ニハ唯今斷言ハ致
シ兼ネル次第デアリマス、併ナガラ私ガ當地ニ於キマシテ、諸外國ノ代表者
ト、今日マデ接觸イタシマシタル所ニ依テ得タル印象ニ依リマスレバ、本案
ハ我國目下ノ社會ノ風潮、外國貿易ノ狀況、國民經濟ノ狀況ニ鑑ミマシテ、
ドウカシテ此難局ヲ打破セムトスル、日本ノ熱心ナル、眞面目ナル努力デア
ルト云フ事ハ一般ニ認メラレテ居ルヤウデアリマス、從テ本案ノ爲ニ外國ニ
於テ關稅ノ報復ヲ招イタリ、或ハ通商條約改正ノ談判ニ於キマシテ、重大ナ
ル困難ヲ生ズルト云フヤウナコトハ今日ノ狀況ニ於テハ先ヅアルマイト云フ
見込ヲ有ッラ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=40
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041・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 休憩イタシマシテ、午後一時三十分ヨリ開會イタ
シマス
午後零時十九分休憩
午後一時四十六分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=41
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042・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ報〓ヲ致サセマス
〔長書記官朗讀〕
本日可決シタル議員公爵一條實輝君ニ對スル弔辭ハ直ニ之ヲ贈レリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=43
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044・東郷安
○男爵東郷安君 午前ノ本員ノ質疑ニ對シマシテ、政府ヨリ懇切ナル御答辯
ヲ賜ハリマシタコトヲ深ク感謝イタシマス、唯二三ノ點ニ付キマシテ、私ノ
御尋ネ致シマシタコトト、御答辯ヲ得マシタ所ト齟齬スル點ガアリマス、其
點ニ付キマシテ、再ビ質問スルコトヲ御許シヲ願ヒマス、第一ニ在庫品ノ問
題ニ付キマシテ私ノ申上ゲマシタ趣意ト、在庫品ノ價格暴騰、從テ之ニ依ル
暴利取締ノ必要ヲ生ズルト云フ點ヨリハ、寧ロ僅々一年有餘ノ時口ニ於テ、
卽チ昨年大震災以來、僅々一年有餘ノ時日、短イ時日ニ於キマシテ、先ヅ第
一ニ緊急勅令ヲ以テ極端ナル減免稅ヲ施シ、更ニ今次、非常ナル酷稅ヲ課ス
ル關稅率ニ改メ、而シテ更ニ近キ將來ニ於テ一般的、根本的ノ關稅ノ改正ノ
計畫ガアルト云フナラバ、是ハ關稅政策上甚ダ好マシカラザル影響ヲ內外經
濟界ニ及ボスデハナカラウカ、此點ニ付キマシテ政府ノ御用意如何、斯ウ云
フ質問デアリマス、先ヅソレヨリ御答ヲ願ヒマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=44
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045・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 御答ヘ致シマスルガ、此度ノ法案ニ揭ゲテアリマ
ス所ノ品目ハ、唯〓御話ノ緊急勅令ニ依ッテ免稅サレマシタモノハ、出來得ル
ダケ避ケル方針ヲ執ッテ居リマシタカラ、重複シテ居リマスルモノハ恐ラク無
イデアラウト思ヒマス、品物ノ名稱ニ付テハ同一名稱ノモノガアリマスルガ、
各〓條件ガ附イテ居リマスノデ、其條件ヲ併セテ考ヘテ見マスト云フト、重複
シテ居ルモノハ無イト思ヒマス、唯、一種、類靴ガアッタト思ヒマスルガ、是ハ
成程、無稅デ這入リマシタ、アノ當時ニ於キマシテハ御承知ノ通リノ狀況デア
リマシタガ故ニ、靴ニ付テハ輸入稅ヲ免除シタノデアリマス、今日ニ於テハ
最早、内地ノ供給モ十分ニナッテ居リマスノデ別ニ其方ノ心配ハナイト考ヘテ
居リマス、ソレカラ關稅改正ノコトハ御尋ノ通リ、前カラノ宿題ニナッテ居リ
マシテ、種々調査ヲ重ネテ一般的ノ關稅改正ノ提案ヲスル準備ヲ致シテ居リ
マシタガ、御承知ノ震災ノ結果ニ依リマシテ、內地ノ產業ノ狀態ガ非常ニ變ッ
テ參リマシタノト、今一ツハ震火災ノ結果トシテ、調査材料ノ一部ヲ燒キマ
シタノデ、更ニ調査ヲ進メナケレバナリマセヌ、ソレ故ニ是カラ政府ハ極力
調查ヲ進行イタシマシテ、出來得ル限リ通常議會ニ出ス積リデアリマス、全
部ノ關稅改正ハ到底間ニ合ハヌデハナイカト思ッテ居リマスガ、重要ナル品物
ニ付テハ出來得ル限リ調查ヲ遂ゲマシテ、暮ノ議會ニ提案ヲシタイト云フ希
望ヲ有ッテ居リマス、其時ニ於テハ此度ノ贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル法律案ニ
計上シテアリマス所ノ品物ハ除外スル積リデアリマス、御承知ノ通リ今度ノ
法案ハ當分ノ間、關稅定率法ニ擧ゲテアル稅率ノ適用ヲ停止シテ、此度ノ單
行法律ニ依ッテ適用ヲ受ケル譯デアリマスカラ、今度ノ一般的ノ關稅改正ノ際
ニハ、今日議題ニナッテ居リマス所ノ法案ニ擧ゲテアリマス品物ハ、一般ノ關
稅改正トハ引離ス積リデアリマスカラ、其方ノ關係ハ別ニ心配ニ及バヌト思ツ
テ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=45
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046・東郷安
○男爵東〓安君 唯今、御答辯ノ中ニ重複スル品物ニ付テノ御辯明ガゴザ
イマシタ、此事ハ聊カ大藏大臣ト所見ヲ異ニ致シテ居リマスルガ、事柄ガ比
較的小サイコトデアリマスカラ他日ノ機會ニ於テ更ニ質問ヲ致シマス、〓·
先刻御尋ネ致シマシタ中ニ、私ニ徹底イタシマセヌコトガゴザイマシタ、ソ
レヲ伺ヒタイ、今囘ノ高率ナル關稅ヲ實施セラレマスル結果、勿論、關係外
國ニ於キマシテハ將來ノ國際貿易ニ於キマシテ、少カラザル危惧ノ念ヲ生ジ
マスル結果、目下、外務省ニ於テ進行イタシテ居リマスル所ノ通商航海條約
ノ改定ニ少カラザル影響ヲ及ボサザルヤ否ヤ、言葉ヲ換ヘテ申上ゲマスルナ
ラバ、第一ニ我國ニ對シテ協定率ノ範圍ヲ擴張セムコトヲ提議シ、一層協定
ノ意義ヲ確定的ノ拘束的ノモノトスル態度ニ出ル虞ガアル、之ニ對シテ當局
ノ所見如何、第二ニハ或國トノ協定稅率ニ於キマシテハ現ニ比例率ヲ持ッテ
居ル·····比例率ヲ定メテ居リマス、斯樣ナ伸縮自在ト申シマスカ、經濟ノ運
用ノ上ニ於テ巧妙ナル制度ガアルニ拘ラズ、此巧妙ナル制度ニ對シテ其相手
國ハ斯カル制度ヲ日本ガ實施シマシタ結果、確定的ノ協定稅率ヲ結ンデ貰ヒ
タイ、比例率ニ依ッテ關稅ガ高下スルト云フ妙味ヲ捨テ、確定的ニ協定率ヲ締
結シテ貰ヒタイト云フ態皮ニ出ル虞ハナカラウカ、此點デゴザイマス、是等
ニ付キマシテ幸ニ御答辯ガ願ヘマスレバ誠ニ仕合セデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=46
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047・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 唯今、東〓男爵ノ御質疑ニ相成ッタノハ外務省ニ
對スル御質疑ト考ヘマスガ、今外務大臣モ又外務省ノ政府委員モ出席シテ居
ラレマセヌカラ、今呼ビニ參ッテ居リマスルカラ、出席セラレタ時ニ更ニ御質
疑ヲ願ヒタイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=47
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048・東郷安
○男爵東〓安君 私ハ時間ヲ省略イタシマス爲ニ、此質問ハ特別委員會ニ於
テ御〓示ヲ仰グコトニ致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=48
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049・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 然ラバモウ東〓男爵ハ質疑ヲセラレルコトハゴザ
イマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=49
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050・東郷安
○男爵東〓安君 終リマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=50
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051・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 然ラバ次ノ通〓者卽チ山脇玄君ニ質疑ヲ許シマス
〔山脇玄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=51
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052・山脇玄
○山脇玄君 私ハ演壇ニ登ル必要ハ實ハ無クナッタノデアリマス、ト云フモノ
ハ前層問者東〓男爵ニ對スル大藏大臣ノ熱心ナル明快ナル御答辯ニ依ッテ政
府ノ意ノ在ル所ハ能ク分ッタノデアリマス、ケレドモ政府ノ御考ト我〓トガド
ウモ反對デアルヤウデス、此上、質問ヲシテモ無用デアリマスカラ其點ハ省キ
ずき、丁度私ノ質問シタイ點ハ六點デアッタノデアリマスガ、東〓男爵ニ對ス
ル大藏大臣ノ說明デ多數ハモウ無クナッテ仕舞ヒマシタ、唯ダ二點ダケヲチ
ヨット伺ッテ置キタイノデアリマス、政府ハ此法案ニ依リマシテ奓侈品ニ重稅
ヲ掛ケテ國民ノ消費節約ニ對スル民心ノ緊張ヲ圖ル、是ハ本案唯一ノ目的デ
アルヤウデアリマス、政府ノ考デハ参修品或ハ贅澤品ト云フモノハ何デアル
カト云フト日常生活ニ必要ノナイモノデアルト見ラレテ居ルヤウデアリマ
ス、理窟一片カラ申シマスルト、人間ガ生活ヲスルニハ食物カラ云ハバ米、味
堕香ノ物、服裝カラ申シマスルト、本綿類、綿類デ足リルノデアル、滋養
ノ點カラ行キマシテモ、我ガ大和民族ハ古來、是等ノ〓物ヲ選ンデ今日マデ生
存シテ來タノデアリマスル、ソレト現在ノ社會組織ニ於キマシテハ、國ノ富ノ
分配ガ次第〓〓ニ少數ノ人ニ集中シテ、各個人ガ·····我〓各人ガ平等ニ幸福
ナ生活ヲ爲シ得ルマデニハマグ進化シテ居ナイノデアリマス、假リニ我國ノ
富ヲ百圓トシテ人口ヲ百人ト致シテ〓算シテ見マスルト云フト、其中二人デ
七十五圓ヲ有シ、十八人デ十五圓ヲ有シ、殘リ八十人デ僅カ十圓ヲ有シテ居
ルト云フヤウナ割合ニナルノデアリマス、是ハ非常ニ雜駁ナ割合デアリマス
ガ、又サウ云フヤウナコトニナルノデアリマス、其有產者二十人デスガ、其
有產者ノ日常生活ト無產者八十人、有產者二十人無產者八十人トノ日常生活
トハ經濟事情ニ餘儀ナクサレテ自ラ異ナラネバナラヌ、マア現ニ異ナッテ居ル
ノデアリマス、其結果トシテ無產者ノ方カラ有產者ヲ眺メテ見マスルト、彼
等ハ麥侈ナ、贅澤ナ生活ヲシテ居ルト云フカモ知レマセヌ、又サウ見ラレテ
モ仕方ガナイ、金ノ有ル者ガ金殿玉樓酒池肉林ノ生活ヲシタカラトテ、彼等、
金ノ有ル者ハ、何モ我〓ハ奢侈ナ生活ヲシテ居ルノヂヤナイ、當リ前ノ生活
ヲシテ居ルノデアルト云フカモ知レマセヌ、又サウ考ヘテ平氣ノ平坐デ居ツ
ラモ是亦仕方ガナイ、世界大戰ノ爲ニ金ヲ儲ケタ人ガ俄ニ生活程度ヲ高メテ
富裕ニ生活ヲシタレバトテ、世人ガ之ヲ咎メテ成金、成金ガ世ノ中ヲ奢侈ニ
導クノハ怪シカラヌ、マア惡口ヲスル新聞ナドハ頻リニ成金、成金ト言ウテ
惡口ヲスル、デ諸君ドウデス、成金ニナルニハ其處ニハ手腕ガナケレバナレ
ルモノデハナイ、誰デモ成金ニサウ容易ニナレルモノデハアリマセヌ
〔「ヒヤ〓〓」ト呼フ者アリ〕
ソコデ私ノ疑ノ起ルノハ、全國民ニ向ッテ一樣ニ奢侈ト云フコトガ言ヒ得ルカ
ドウカト云フノガ私ノ疑問デス、全國民ニ向ッテ奢侈贅澤ト言フコトガ出來
ルカドウカ、大藏大臣ハ其點ニ付テドウ云フ考ヲ持ッテ居ラレルノデアルカ
ト云フコトガ、マア唯大變漠然トシタヤウデアリマスガ御伺ヒシタイ、ソレ
カラ二カラ五マデハ先刻ノ御答辯デ、政府ノ意ノ在ル所ハ十分了解イタシマ
シタケレドモ、政府ノ意ハ我〓ガ贊成ガ出來ナイ點ガ多々アリマス、ソレカ
ラモウ一ツ伺ヒタイノハ、消費節約ニ對スル國民ノ精神ヲ緊張セムトスルニ
ハ、本案ノ如ク奢侈品ニ重稅ヲ掛ケル位デハ私ハ到底目的ヲ達スルコトハ出
來ナイト思フノデアル、之ニ付テモ大藏大臣ハ先刻說明サレタノデハ、是ハ
唯片鱗デアル、色〓ナ他ノ施設ト相俟ッテノ成績ヲ見ル積リデアル、御尤モ、
ソレナラ私モ安心イタスノデアリマス、ケレドモ其邊ニ付テ伺ッテ置キタイノ
ハ、私ノ今考ヘル所デハ贅澤品ニ重稅ヲ課スル位デハナカ〓〓國民精神ノ緊
張ト云フモノハ圖ラレマイト思フノデアリマス、ソンナラドウ致シタラ宜カ
ラウカト云フト、私ノ考デハ一面ニ於テハ〓育ノ力、〓育ノ力ヲ以テ國民ノ
經濟心ヲ涵養スル、見テ御覽ナサイ、日本人ハ東洋風トデモ云ヒマセウカ、經
濟心ト云フモノハ非常ニ缺乏シテ居ル、ソレハ男ト女ヲ問ハナイ、缺ケテ居
ル、デ子供ノ時カラ無駄使ヒヲセヌト云フヤウナ躾ケ方ヲセヌケレバイケマ
イト思フ、私ガ獨逸留學ノ際ニ經驗シタコトヲ一二申シマスルト、大學ニ通
フ時分ニ、アチラノ大學生ヲ見ルト古イ蝙蝠傘ヲ持チ古イ杖ヲ持ンテ、是一
祖父サンノ形見デアリマス、祖父サンノ杖デアリマスト言ッテ平氣デ持ッテヤッ
テ來ル、ソレカラ今一ツハ長岡將軍カラ聞イタ話デアリマスガ、長岡將軍ガ
獨逸留學中ニ或裁判官ノ家ニ寄宿シテ居リマシタ、其處ニ御孃サンガ一人アッ
テ何時デモ鼻ノ缺ケタ手足ノ無イ玩具ヲ持ッテ遊ンデ居ル、將軍ハ可哀相デ、
御孃サン〓〓アナタニ好イ玩具ヲ買ウテ來テ上ゲマスト言ウテ、或時好イ玩
具ヲ買ウテ御孃サンニヤッタ時ニ、其時主婦ガ出テ來テ、大イニ長岡將軍ニ對
シテ不平ヲ言ウタ、內ノ子供ハ「クリスマス」カラ「クリスマス」迄ノ間ニ
新シイ玩具ヲヤルノデアッテ、平常ニサウ云フ玩具ヲ與ヘルト經濟心ガ丸デ無
クナル、アナタハ子供ノ育テ方ヲ妨害スルモノデアルト言ッテ叱ラレタト云
フコトヲ長岡將軍カラ聞イクコトガアル、サウ云フヤウニシテドウシテモ子
供ノ時カラ經濟心ヲ養成シナケレバ駄目ダト思フ、見テ御覽ナサイ、日本人
ハ無駄ナ正味ノ無イ生活ヲ平氣デヤッテ居ル、アナタ方モ御承知デアリマセウ
ガ能ク考ヘテ御覽ナサイ、ヤッテ居リマスヨ、我〓ハ是ガ非常ニイケナイ、ソ
レデ私ハ一面ニ於テハ〓育ノ力ヲ以テ國民ノ經濟心ヲ涵養シ、ソレモ大人ニ
ナッテカラハ駄目ダ、子供ノ時カラ經濟心ト云フモノヲ養フコトガ一ツ非常ナ
コト、今一ツハ主モニ家庭生活、家庭生活ニ正味ノ無イヤウナ費用ヲ掛ケル
ト云フコトヲ避ケニヤナラヌ、家庭生活ニ無用ナ費用ガ掛ラヌヤウニセネバ
ナラナイ、ソレハ此物價調節策此二ツノ政策、一方ハ〓育ヲ以テ國民ノ經濟
心ヲ養フ、一方ハ家庭生活ノ費用ノ掛ラナイヤウニ物價ヲ調節シテヤル、此
二策ヲ措イテハ私ハ恐ラク如何ナル聖人君子ガ出テモ名案ハアルマイト思フ
ノデアリマス、其物價調節ニ屈强ナル機關ハ何デアルカト云フト、公設市場
デアリマス、今日成程、府立市立ノ公設市場ハ多數アルニハアルガ、ドウデ
ス、其何レモマア誠ニ貧弱デアッテ中流上流ノ社會ノ需要ヲ充タス譯ニハイ
カナイ、唯形ガ存シテ居ルバカリデ、其實ハ一向無イ、東京ノ如キ大都市ニ
於テスラ今中央市場ガ無イトハ何ト云フコトデアルカ、ネー、サウデス、中
央市場ニ生產地カラ物ヲ集メテ、サウシテ自動車デドンノ〓小サイ市場ニ運
バネバナラヌ、是ハ分リキッタコトデ、我〓素人デモサウデナケレバナラスト
云フコトハ感付クノデアル、ソレガマダ中央市場サへ無イ、中央市場法ト云
フモノガ無イ、市ヤ府デ小田原評定ヲ開イテ何一ツヤッテ居リハシナイ、何
ノコトカ、サウ云フヤウナ市デモ府デモ唯議論バカリデ、實行ト云フモノガ
何モ擧ガリハシナイ。ソレドコロデハナイ、公設市場ト云フモノハ、是ハア
ナタ方ニ私ガ言フノハ釋迦ニ說法ノヤウデスガ、生產者ト消費者ト直接賣買
セシムル機關デアル、デアレバコソ新シイ宜イモノガ安ク買ヘルノデ、我〓
共ハ古イガ、獨逸留學ノ時分ニ主婦ハ皆寢卷ノ儘、籠ヲ提ゲテ白イ帽子ヲ被
ッテ市場ニ買物ニ行ク、何デモ日用品ハサウデス、今日、日本ノ市場ヲ御覽
ナサイ、下層ノ人ハ幾分カ用ヲナスニ足ルガ、我〓中流······中流ト云ヘバ、
語弊ガアルカモ知レマセヌガ、中流上流ノ人ガ行ッテモ、何モ買フ物ハアリヤ
シナイ、斯ウ云フモノガ公設市場ト言ヘルカ、ドウカ、ソレハ言ヘナイ然
ルニ上海ナドニ行ッテ御覽ナサイ、立派ナ完備シタ市場ガアルデハアリマセヌ
カ、ネ、ソレヲ日本ハイヤ文明國ノ一ツデアルトカ言ウテ居リナガラ、東京
ノ都市ニサヘ、一ツ完全ナ市場ガ無イト云フコトハ何事デアルカ、是ハ私共
ノ考デハ日用必需品ノ價格ヲ調節スル唯一ノ屈强ノ機關デアルト私ハ信ジテ
居ルノデアル、是ハ內務大臣ニ私ハ伺ヒタイノデスガ、御顏ヲ見ヌヤウデス
ガ、如何ニモ情ケナイト思フ、何故、内務大臣ハ監督權ヲ以テ東京府市ヲ督
勵シテ、モウ少シ立派ナ市場ニシナイカ、今日至當ナ必要ナ施設デアル、日
用品ノ物價調節ト云フコトハ、前ノ寺內內閣ガ御承知ノ通リ、數十箇條ヲ列
記シテ調節策ヲヤッタケレドモ、何モ效能ハアリハシナイ、唯中間ノ商人ノ
利益ヲ增シタダケデ、我〓消費者ニハ一ツモ利益ヲ與ヘラレナイ、丁度實ハ
今度ノ奢侈品ノ課稅ガサウ云フコトニ終リハシナイカト私ハ思ウテ居ッタガ、
併ナガラ先刻大藏大臣ノ〓誠ナル說明ヲ聽イテ、稍〓安心ヲシタ、是バカリ
デスルノデナイ、マダ是カラ實ハ百般ノ施設ヲヤッテ、相俟ッテヤルト云フコ
トヲ聽イテ、非常ニ安心シテ、モウ質問スル必要ハ無クナッタノデアリマス、
ガ、併シ此奢侈ト云フコトニ對シテハ日本人一般ニ對シテ言フコトガ出來ル
カ、ドウカト云フト、ドウシテモ私ハ疑ナキヲ得ナイ、金ノ有ル者ハ金ノ無
イ者カラ見ルト、贅澤ナ生活ヲシ奢侈ナ生活ヲシテ居ルト云フケレドモ、併
シソレハ少シ無理ダト思フ、金ノ有ル者ガ佳イ家ニ住ンデ美シイ著物ヲ著テ、
オイシイ者ヲ食ベル、ソレハ當リ前ノ話デアル、サウ云フヤウニ金ノ有ル者
ガ金ヲ使ヘバコソ、世ノ中ノ進步發達ハ出來テ行ク、建築ニシロ、衣服ニ
シロ、食物ニシロ、サウデス、所ガ情ケナイコトニハ、日本人デ金ノ無イ者ガ
金ノ有ル人ノスルコトヲ眞似ヤウトスル馬鹿者ガ居ル、何故カト云フト金ノ
有ル者ガ縮緬ノ著物ヲ著テ出ル場合ニ、金ノ無イ者ハ木綿ノ著物ヲ著テ澤山
デアル、ソレデ禮儀作法ニ違フト云フコトハナイ、ソレヲ金ノ無イ者ガ立派
ナ風ヲシテ、縮緬ノ著物ヲ著テ出ナケレバナラヌト云フ風ナ考ヲ有ッテ居ル
馬鹿者ガ多イノハ、洵ニ慨嘆ニ堪ヘナイ身分相應ナコトヲスレバ苦シイ
コトハナイ、ドウモ私ハ此奢侈贅澤ト云フコトハ日本國民一般ニ對シテ言フ
ベキモノデナイ、是ハドウシテモ有產階級ト無產階級トアッテ、違フダラウ
ト思フノデアルカラ、斯ウ云フ大體ノ考ヲ有ッテ居ルガ、大藏大臣ハドウ云
フ考ヲ有ッテ御居デニナルカ、モウ一ツ內務大臣ニ公設市場········是ガ物價
調節ノ唯一ノ機關デアルノニ、今日ニ至ルマデドウデスカ、此震災後ハ改善
ドコロデナイ改惡デス、私共ハサウ云フコトガ嗜キダカラ、餘程步キ廻ツ
テ見タガ、餘程惡クナッテ、震災後ハ例ヘテ見ルト雨ノ降ルヤウナ場合ニデ
ス、靑物ヲ買ハウトスルト傘ヲサシナガラ風呂敷ヲ擴ゲテ買ハナケレバナラ
ヌ、何事デス、丁度公衆便所ニ似タヤウナモノヲ設ケテ居ル、ソレヲチヤン
ト風呂敷ニ包ミ、靑物ヲ買フニシテモ······我〓ハ赤坂ニ住ンデ居ルガ、赤坂
見付ノ公設市場ヲ見テ御覽ナサイ、公衆便所デス、丸デ雨ガ降ルト傘ヲサシ
テ往還リガ出來ナイ、狹クテ······サウ云フモノヲ設ケテ平然トシテ構ヘテ居
ルノハ何事カ、斯ウ云フコトモ强チ東京府市ノ役人·····役人バカリデモナイ
ト私ハ考ヘテ居ル、東京ニ住ンデ居ルオカミサン、オカミサント言ッテハ失
敬ダ、主婦デス、家ヲ持ッタ女ノ人ガイケナイ、東京ニ家ヲ持ッタ女ノ人ガ一
致シテ、東京府ナリ市ナリニ迫ッテ御覽ナサイ、コンナ市場デナク、モット良
イ市場ヲ東京市デ設ケテヤルダラウト思フ、是ハ何故カト云フト、紐育デス
ガ、年數ハ知リマセヌガ、紐育ノ主婦ガ第一ニ小賣商人ヲ征伐シタノハ、
度量衡デス、非常ニ不正ナ度量衡ヲ使ッタカラ、主婦ガ同盟シテ、度量衡商ニ
談判ニ行ッテ改良シタ、其次ハ食糧品ノ調節ヲドウシテヤッタカー云フト、
生產地ノ値カラ、中間商人ヲ經テ小賣ヲスルニハ是ダケノ利益ガアレバ十分
ダト云フコトヲ調ベテ、サウシテ一々日用品ヲ賣ル所ノ小賣商へ行ッテ、談
判ヲシテ、若シ其小賣商人ガ其談判ヲ聽カナイト云フト同盟ダカラ買ハナ
イ、ダカラ仕方ガナイ、小賣商ガツヒ〓〓ソレニ負ケテ、ズット主婦同盟デ
製作シタ通リノ品物ノ値デ賣ッタ、ソレガ段々紐育カラ諸方へ擴マッテ初メテ
物價調節ガ行ハレタノデス、ト云フ風ニ、ドウシテモ是ハ臺所問題ダカラ婦
人ガ蹶起シナケレバ駄目デス、ドウシテモ婦人ガ蹶起シナケレバナラヌト云
フノハ、ドウモ日本人ト云フモノハ斷行スル勇氣ガナイ、マ男女共······ケレド
モ、之ニ付テ大藏大臣ニハ感服スル、大藏大臣ハ其決行スル御勇氣ガ御有リ
ノヤウデ、歷代ノ大臣ニモ此樣ナ勇心ヲ有ッテ居ル大臣ニハ御出會申シマセ
ヌ、今度ハ私ハ十分ニ財政ノ整理調節策ニ付テ諸般ノ設備ヲ爲シテ、サウシテ
日本國民ノ精神ヲ作興スルト云フ御考ニハ私ハ十分信用シテ宜イト思フ、ト
云フ譯デスカラ、私ノハ少シ抽象的ニナリマスガ、大藏大臣ハ奢侈資澤ト云フ
意味ニ付テノ私ノ疑ヲドウ御考ヘニナッテ居ルカ、御考ガ違ヘバ仕方ガナイ、
ドウ御考ヘニナッテ居ルカ、御伺ヒシタイ、市場ニ付テハ惜シイコトデスガ內
務大臣ノ出席ヲ見ナイヤウデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=52
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053・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 內務大臣ガ出席セラレテカラモウ一度···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=53
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054・山脇玄
○山脇玄君 宜シウゴザイマス、何囘デモヤリマス、私ノ得意ノ調節策デス
カラ··
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=54
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055・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯今ノ山脇君ノ御質問ノ趣旨ハ奢侈贅澤ト云フコ
トヲ言フケレドモ、是ハ國民ノ極メテ一小部分タル上流社會、富豪ノ人〓ガ
ヤッテ居ルダケデアッテ一般國民ニ向ッテハ奢侈贅澤ヲヤッテ居ルト云フコト
ハ出來ヌヤウニ思フガ、ソレハ言ヒ得ルカ、加之、上流社會ノ奢侈贅澤ハ金ヲ
持ッテ居ッテ使フノデアルカラ、ソレハ殆ド咎メヌデ宜シイデハナイカト云フ
ヤウナ御意見デアッタト思フノデアリマス、私ノ考ハ大分違ヒマス、第一ニ
上流社會ノ人〓ガ自分ノ金ノ有ルニ任セテ、山脇君ノ御話ノ通リ金殿玉樓酒
池肉林ノ生活ヲスルト云フコトハ、第一宜シクナイト思フ、ソレハ政府ノ干
涉スベキ限リデハアリマセヌガ、上流ノ人〓ガサウ云フ生活ヲスレバコソ、
國民全體ガ風儀ガ惡ルクナルノデアリマス、サウ云フ人〓ニ向ッテモ我〓ハ警
鐘ヲ打タナケレバナラヌ、卽チ此法律案ハ國民ニ向ッテ精神的ノ刺戟ヲ與フ
ルコトヲ目的トスルト云フコトヲ申シタノハソレデアリマス、又上流社會一
部ノ人〓ノミナラズ、廣ク全國民ガ今日ハ確ニ奢侈贅澤安逸享樂ノ氣分ニ浸
潤シテ居ルト思ヒマス、ソレニ相當スル所ノ收入ガアッテ、其收入ニ相當ス
ル生活ヲ營ンデ居ル間ハ、是ハ單純ナル社會道德ノ問題デアリマシテ、經濟
上カラ申シマスレバ差支ナイヤウニ見エマスケレドモ、戰後ニ亙ッテ財界ハ好
況時代ニ國民ノ收入ガ確ニ增シタ、其收入ガ增スニ從ッテ生活ヲ高メタノデ
アリマス、然ルニ一度高メタル生活ノ程度ハ收入ガ減リマシテモ、之ヲ低メ
ル譯ニハ參ラヌ、低メ惡イモノト見エテ、今日ニ於テハ財界ノ不況ノ結果、各
人各個ノ收入ハ減ッテ居ルニモ拘ラズ、生活ノ程度ハ依然トシテ高イ、其高イ
コトヲ稱シテ奢侈贅澤ト申ス、收入以上ノ生活ヲ致シテ居ルト云フコトハイ
ケナイ、サウ云フ生活ヲシテ居ルガ爲ニ、貯蓄ハ更ニ行ハレナイ、貯蓄ノ結
果タル資本ハ蓄積イタシマセヌ、玆ニ於テ產業ハ起ラヌ、物價ハ高イ輸入
ハ超過スル、是ガ今日ノ經濟上ノ時弊デアリマス、卽チ政府ノ見ル所デハ上
流社會ト言ハズ、中流社會ト言ハズ、下流社會ト言ハズ、國民ノ各階級ヲ通
ジテ全體ニ奢侈贅澤ノ風ニ浸潤シテ居ルト思ヒマス、其風ヲ矯メ、今一ツニ
ハ國際貸借ノ關係ノ改善ニ資セムガ爲ニ此法案ヲ提案シタ次第デアリマス、
今一ツ附加ヘテ御話ニナリマシタ〓育ノ力ヲ以テ國民ノ經濟心ヲ涵養スベシ
ト云フ御話デアリマシタ、是ハ全ク御同感デアリマス、單リ政府ノ法律ノ力
ノミデハイケマセヌ、租稅ノ力ノミデモ行キマセヌ、政府ノ各部ガ心ヲ一ニ
シテ力ヲ戮セテ其共通ノ目的ニ向ッテ邁進ヲシナケレバナラヌ、卽チ〓育ノ
力ニ依ッテ國民ノ經濟心ヲ涵養スルト云フコトハ全然御同感デアリマス、是
デ····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=55
-
056・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 山脇君、内務大臣ガ出席セラレマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=56
-
057・山脇玄
○山脇玄君 ソレデハモウ一遍ヤリマス、宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=57
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058・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御登壇ヲ願ヒマス
〔山脇玄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=58
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059・山脇玄
○山脇玄君 唯今、大藏大臣ノ御意見ハ能ク拜承イタシマシタ、ケレドモド
ウモ私ト大藏大臣ト說ガ違フノデアリマス、我〓ノ考デハ金ノ有ル者ハ贅澤
ヲスルガ宜シイ、唯金ノ無イ者ハソレヲ眞似ヲスルノハ馬鹿ダ、斯ウ云フ說
デス、若シ金ガ有ル者ガ金ヲ使ハズシテ默ッテ居ッテ御覽ナサイ、世ノ中ハ進
步シナイ文明ニモナリマセヌ、金ノ有ル者ガ金ヲ使ヘバ建築モ發達スル、
衣服モ發達スル、食品モ發達スル、ソレヲ一樣ニ國民ガ皆贅澤ノ生活ヲイケ
ナイト云フコトニナレバ世ノ中ハ闇ニナッテ仕舞ヒマス、私ノ說ハ斯ウ云フ說
デアリマスカラ、大藏大臣トハ全ク根本ニ於テ違ヒマス、ソレハ仕方ガアリ
マセヌ、私ハ此法案ニ對シテ物價調節ニ對スル民心ヲ緊張スル、是ハ非常ニ
宜シイ、是ダケデハ迚モ駄目ダト云フコトヲ考ヘテ居リマスガ、先刻、大藏
大臣ガ縷々ト深切ニ御說明下サッテ能ク分ッタ、唯茲ニ少シ疑ガアルト申シテ、
私ノ考デハ國民ノ精神ヲ緊張サセルノニハ一面ハ〓育······〓育ヲ以テ國民ノ
經濟心ヲ養フ、ソレハ大人ニナッテハ駄目ダカラ小供ノ時カラ此經濟心ヲ養フ
ト云フコトガ一ツ、今一ツニハ主モニ家庭生活ニ關係ノアル日常生活ニ無駄
ノ費用ノ掛ラナイヤウニ物價調節ト云フコトガ必要デアル、是ハ若槻内務大
臣ガ御承知ノ通リ、寺內內閣ノ時分ニ數箇條ヲ陳列シテ物價調節ヲヤラレマ
シタガ、一向何ニモナラナカッタ、唯中間商人ガ利益ヲ增シタ位デ、我〓消費
者ニハ一向利益ガ無カッタ、是ハ私ハ必要ダト思フ、此物價調節策ハ若槻内務
大臣モキット御承知デアルト思ヒマスガ、私ガ始終主張シタ此公設市塲、此
公設市場ガ日用品ノ物價調節ノ屈强ノ機關デアル、是ハ申スマデモナイ、支那
ノ上海ニモ完備シタモノモアルガ、此今日我ガ日本ニ於ケル東京府、東京市
ノ設置シテ居ル市場ハ澤山ニアルデハアリマセヌカ、サウシテ其現場ハドウ
カ、行ッテ見ルト情ナイ、何モ實ハナイ、唯形バカリ拵ヘテ居ル、今モ酷評
ヲシタヤウニ唯公衆便所ノヤウナモノヲ備ヘテ、形バカリ備ヘテ、是デ安閑
トシテ居ルノハ何事カ、是ハ決シテ內務大臣ヲ責メル譯デハアリマセヌガ、
東京府ナリ市ナリノ役人ハ何事カ、ネー我〓ハ中流····ト申シテハ嗚滸ガマ
シイカハ知レマセヌガ、中流上流ノ需要ヲ充スノニハ駄目デアル、我〓行ッテ
買ウテ見ルト駄目デアル、品物ガ駄目デ、幾分カ安イト云フダケデ、我〓ノ需
要ヲ充タスコトハ到底出來ナイ、是デハ私ハ······大藏大臣モ極メテ御同說ト
思フガ物價調節ト云フコトハ到底出來ル譯デナイ、是ガ物價調節屈强ナル
··若槻内務大臣モ知ッテ居リマセウガ、外國ニ御出デニナレバ分リマスガ、
向フニハ大キナ町ニハ市場ガアッテ、朝起キルト町ノ者······主婦ガ皆白イ帽
子ヲ冠ッテ出掛ケテ行ク、直グ用ハ便ズル、サウ云フ有樣デアルノニ日本ハド
ウデス、アア、日本ハ文明國ノ一ツデアルガ、東京市ニ市場ガナイト云フノ
ハ情ナイデハアリマセヌカ、大阪ハ私モチヨット行ッテ見タガ良イヤウデス、ア
ア云フ商業地デアッテ發達シテ居ルヤウデアリマス、良イ家ノオカミサンガ
丁稚ヲ連レテ買物ニ行クト云フヤウニ發達シテ居ル、東京ハ震災前ヨリモ震
災後ハ非常ニ惡クナリマシタ、內務大臣ハ馬車ニ乘ッテ···自働車ニ乘ッテ步
イテ御覽ナサイ非常ニ惡クナッタ、震災後ハ非常ニ惡クナッテ仕舞ッタヤウナ
有樣デ、ドウシテ是ガ用ヲ爲シマスカ、第一ガ此大キナ都市ニ中央市場ガ無
イト云フノハ何事デス、此議會デ以テ一昨年公設市場法ト云フモノヲ拵ヘテ
アンナ妙ナ變挺ナ法律ヲ拵ヘテ、マダ實施ガ出來ナイアア云フ法律ハ私共
感服出來ナイ、現在ノ市場·····問屋ガ無クナッタナラバドウシマス、我〓ノ
生活ハ出來マセヌ、問屋ヲ閉鎖シテ仕舞フト云フヤウナ怪シカラヌコトガ書
イテアル、今在ル靑物市場デモ魚市場デモ閉鎖シタナラバ我〓ハ生活ハ出來
ナイ、直チニ餓死ダ、斯ウ云フヤウナ馬鹿ナ法律ヲ作ッテ、其法律ガ實施出來
ナイカラ幸デアル、市場ト云フモノハ生產者ト消費者ガ直接賣買スルノデ初
メテ效能ガアルノデアリマスガ、ソレガ今日ハドウデスカ、其小賣商三 萬
土地デ非常ニ名望ノ無イ小賣商ガヤッテ居ル、私ハ赤坂ニ住ンデ居ルガ、アレ
ハ靑物ヲヤッテ居ルガ非常ニ詐僞師デアルト云フヤウナコトデ、私ハ是ハ慨
嘆ニ堪ヘナイ、物價調節ト云フコトヲ大藏大臣モ仰セラレテ非常ニ同感デア
リマス、消費節約モ必要デアル、併シ斯ウ云フ問題ヲ內務大臣ガ直接ナサル
ト云フコトハ出來マイ、監督權ヲソコデ以テ振廻シテ、サウシテ東京市ナ
リ、府下ナリノ役人ニ一ツ頭ニ拳骨デモ振〓シテ、モウ一ツ改良スルダケノ
御考ハアリマセヌカドウカト云フコトヲ伺ヒマス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=59
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060・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 消費節約ニ付テハ市場ノ設備ヲ良クシナケレバ
ナラヌト云フ由脇サンノ御意見ニハ全然同感デアリマス、中央市場ハ素ヨリ
公設市場ノ完備ニ努メルト云フコトハ當然ノコトデアリマス、震災後公設市
場ノ設備ガ惡クナッタト仰ッシヤルコトモ恐ラクハサウデアリマセウ、アレダ
ケノ大キナ災害ノ後デアリマスカラ、悉ク從前ノヤウニ急ニハ復シマセヌ、併
シ消費節約ノ爲ニ市場ハ必要デアル、殊ニ公設市場ガ必要デアルト云フ御論
ニハ全然同感デアリマスルガ故ニ、成ルベク府市ノ當局ヲ督勵シテ御希望ニ
適フヤウニ進メタイト思ウテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=60
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061・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 唯今議題ニ相成ッテ居リマス本法案ハ極メテ重要ナル
案件デアリマス故ニ、本法案ノ特別委員ノ數ヲ十五名トセラレムコトノ動議
ヲ提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=61
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062・大山綱昌
○大山綱昌君 賛成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ數ヲ十五名トナスト云フ西大路
子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=63
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064・徳川家達
○議長(公爵徳川家逹君) 御異議ナイト認メマス、委員ノ氏名ヲ書記官ヲシ
テ朗讀ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル法律案特別委員
子爵牧野忠篤君子爵大河內正敏君子爵伊東二郞丸君
和田彥次郞君上山滿之進君男爵東鄉安君
男爵伊藤文吉君倉知鐵吉君市來乙彥君
菅原通敬君樺山資英君片岡直輝君
藤山雷太君今井五介君伊丹彌太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=64
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065・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第九、復興貯蓄債劵法案、政府提出、衆議院
送付、第一讀會
復興貯蓄債劵法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
復興貯蓄債劵法
第一條政府ハ日本勸業銀行ヲシテ復興貯蓄債劵ヲ發行セシムルコトヲ得
第二條復興貯蓄債劵ハ無記名トシテ劵面金額ハ五圓又ハ十圓トス
第三條復興貯蓄債劵ハ割引又ハ利子据置ノ方法ニ依リ之ヲ賣出スモノト
ス
割引金額及利子步合ハ主務大臣之ヲ定ム
第四條復興貯蓄債劵ハ發行ノ翌年ヨリ二十年以內ニ每年二囘以上抽籖ヲ
以テ之ヲ償還スヘシ
復興貯蓄債劵ヲ償還スル場合ニハ割增金ヲ附與スルコトヲ得其ノ方法及
金額ハ主務大臣之ヲ定ム
第五條復興貯蓄債劵ニハ商法第百九十九條乃至第二百條ノ二ノ規定ヲ適
用セス
第六條復興貯蓄債劵ニハ印紙稅ヲ、復興貯蓄債劵ノ發行ニ依ル社債ノ登
記ニハ登錄稅ヲ、復興貯蓄債劵ノ利子ニハ所得稅ヲ課セス
第七條日本勸業銀行ハ復興貯蓄債劵ノ發行ニ依ル收入金ヲ大歲省預金部
ニ預入ルヘシ
前項ノ預入ニ依ル資金ハ震災地ノ復興及地方產業ノ振興ノ爲必要ナル用
途ニ之ヲ融通ス
第八條復興貯蓄債劵ノ模造ニ關シテハ通貨及證劵模造取締法ヲ準用ス
第九條復興貯蓄債券ニハ日本勸業銀行法第三十五條ノ二、第三十五條ノ
三、第四十條及第四十二條ノ規定ヲ準用ス
第十條復興貯蓄債劵ハ其ノ發行ニ依ル收入金二億圓ニ達シタルトキ又ハ
本法施行ノ日ヨリ五年ヲ經過シタルトキハ之ヲ發行セス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=65
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066・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 復興貯蓄債劵法案提出ノ理由竝ニ其內容ニ付テ大
體ノ說明ヲ申上グマス、我國經濟界ノ現狀ニ照シマシテ震災地ノ經濟的復興
竝ニ地方產業ノ振興ヲ圖リマスルガ爲ニ相當巨額ノ資金ヲ必要トスルノデア
リマス、又一面廣ク國民ノ貯蓄ヲ奬勵シ、其消費ヲ節制セシメルガ爲ニ、適
當ノ方策ヲ講ズルコトガ刻下ノ急務ナリト信ズルノデアリマス、右ノ事態ニ
鑑ミマシテ、政府ハ一般民間ニ於ケル零碎資金ヲ吸收シ、殊ニ今後數年ニ亙
リ帝都復興事業竝ニ震災復舊事業ノ爲ニ民間ニ散布セラルベキ巨額ノ資金ハ
努メテ之ヲ吸收シマシテ、徒ラニ民間ノ消費ヲ增加スルコトヲ防ギマシテ、
其吸收シタル資金ハ再ビ之ヲ震災地ノ復興竝ニ地方產業ノ振興ノタメ必要ナ
ル用途ニ融通スルコトガ、最モ機宜ヲ得タル措置デアルト考ヘマシテ、玆ニ
小額面ノ復興貯蓄債劵ヲ發行スルノ計畫ヲ立テマシタ次第デアリマス、本案
ニ依ッテ發行イタシマスル復興貯蓄債券ハ發行ノ期間ヲ五箇年トシ、發行ニ依
ル收入金ハ二億圓ヲ限度トシ、日本勸業銀行ヲシテ之ヲ發行セシムルコトニ
致ス積リデアリマス、之ガ發行ノ方法ニ付キマシテハ從來發行イタシマシタ
所ノ小額債劵ノ特色トスル所ヲ勘案攻究イタシマシテ、其額面金額ハ五圓又
ハ十圓ノ二種トシ、割引又ハ利子据置ノ方法ヲ執リ、償還期限ハ二十年以內
トシ、償還ノ場合ニ於テハ割增金ヲ附與スルコトガ出來ルモノト致シマシタ、
尙ホ此債劵ニハ印紙稅ヲ免除シ、其登記ニハ登錄稅ヲ免除シ、又債劵ノ利子
ニハ所得稅ヲ課セナイコトニ致シタノデアリマス、要スルニ本債劵ノ發行ハ
震災地ノ復興竝ニ地方產業ノ振興上頗ル重大ノ關係ヲ有スルト共ニ民間零碎
資金ノ吸收、國民貯蓄ノ奬勵上、適切ナル施設デアルト信ジマスカラ、何卒
御審議ノ上、速ニ御協賛アラムコトヲ切ニ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=66
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067・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ハ、日程第七ノ震災ニ因ル喪失無
記名國債證劵ニ關スル法律案ノ特別委員ニ付託イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=67
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068・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナケレバ日程第十、第十一ハ一括シテ說明
ヲ煩ハシ議題ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=68
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069・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第十、借地借家臨時處理法案、第十一、借地借
家調停法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
借地借家臨時處理法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵徳川家達殿
借地借家臨時處理法
第一條本法ニ於テ借地借家ト稱スルハ借地法及借家法ニ於ケル借地借家
ヲ謂フ
第二條地代、家賃、敷金其ノ他借地借家ノ條件カ著シク不當ナルトキハ
當事者ノ申立ニ因リ裁判所ハ鑑定委員會ノ意見ヲ聽キ借地借家關係ヲ衡
平ナラシムル爲其ノ條件ノ變更ヲ命ズルコトヲ得此ノ場合ニ於テ裁判所
ハ敷金其ノ他ノ財產上ノ給付ノ返還ヲ命シ又ハ其ノ給付ヲ地代若ハ家賃
ノ前拂ト看做シ其ノ他相當ナル處分ヲ命スルコトヲ得
第三條大正十二年九月ノ震災ニ因リテ滅失シタル建物ノ借主ハ其ノ建物
ノ敷地又ハ其ノ換地ノ上ニ新ニ築造セラレタル建物ニ付其ノ完成前賃借
ノ申出ヲ爲シタルトキハ他ノ者ニ優先シテ之ヲ賃借スルコトヲ得滅失シ
タル建物ノ敷地又ハ其ノ換地ノ上ニ築造セラレタル假設建築物ノ借主亦
同シ
前項ノ申出ヲ受ケタル者申出ヲ受ケタル日ヨリ二週間內ニ拒絕ノ意思ヲ
表示セサルトキハ申出ヲ承諾シタルモノト看做ス
第一項ノ申出ハ正當ノ理由アルニ非サレハ之ヲ拒絕スルコトヲ得ス
第四條前條ノ場合ニ於テ借家ニ付當事者間ニ協議調ハサルトキハ申立ニ
因リ裁判所ハ鑑定委員會ノ意見ヲ聽キ從前ノ賃貸借ノ條件、建物ノ狀況
其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ借家關係ヲ定ムルコトヲ得
第五條新ニ築造セラレタル建物ニ付第三條第一項ノ規定ニ依リ賃借ノ申
出ヲ爲シタル者數人アル場合ニ於テ賃借スヘキ建物ノ割當ニ付當事者間
ニ協議調ハサルトキハ裁判所ハ申立ニ因リ從前ノ建物又ハ假設建築物ノ
狀況、借主ノ職業其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌シテ其ノ割當ヲ爲ス
前項ノ規定ニ依リ難キ場合ニ於テハ裁判所ハ抽籤ノ方法ヲ用ヰテ割當ヲ
爲スコトヲ得
裁判所ハ當事者間ノ衡平ヲ維持スル爲必要ナリト認ムルトキハ割當ヲ受
ケサル借主又ハ著シク不利益ナル割當ヲ受ケタル借主ノ爲割當ニ因リ著
シク利益ヲ受ケタル他ノ借主ニ對シ相當ナル出捐ヲ命スルコトヲ得
第六條大正十二年九月ノ震災ニ因リテ滅失シタル建物ニ居住シタル者カ
其ノ建物ノ敷地ノ上ニ假設建築物ヲ築造シタル場合ニ於テ敷地ノ借主カ
之ニ同意シタルトキハ其ノ同意ニ付地主ノ承諾ヲ得サリシ場合ト雖地主
ハ之ヲ理由トシテ契約ノ解除ヲ爲スコトヲ得ス但シ裁判所ノ許可ヲ得タ
ルトキハ此ノ限ニ在ラス
第七條借地ノ上ニ存スル借地人ノ建物カ大正十二年九月ノ震災ニ因リ滅
失シタル場合ニ於テハ其ノ借地權ハ借地權ノ登記及其ノ土地ノ上ニ存ス
ル建物ノ登記ナキモ之ヲ以テ大正十三年七月一日以後其ノ土地ニ付權利
ヲ取得シタル第三者ニ對抗スルコトヲ得
第八條第二條及第四條乃至第六條ノ規定ニ因ル裁判ハ借地又ハ借家ノ所
在地ヲ管轄スル區裁判所ニ於テ非訟事件手續法ニ依リ之ヲ爲ス
第九條鑑定委員會ハ五人以上ノ委員ヲ以テ之ヲ組織ス
第十條鑑定委員ハ特別ノ知識經驗アル者其ノ他適當ナル者ニ就キ每年豫
メ地方裁判所長ノ選任シタル者又ハ當事者ノ合意ニ依リ選定セラレタル
者ノ中ヨリ各事件ニ付裁判所之ヲ指定ス
第十一條鑑定委員會ノ決議ハ委員ノ過半數ノ意見ニ依ル
第十二條鑑定委員會ノ評議ハ祕密トス
第十三條鑑定委員ニハ旅費、日當及止宿料ヲ給ス其ノ額ハ勅令ヲ以テ之
ヲ定ム
第十四條借地借家調停法第四條ノ二及第五條ノ規定ハ第二條、第四條及
第五條ノ規定ニ依ル申立竝第六條ノ規定ニ依ル許可ノ申請アリタル場合
ニ之ヲ準用ス此ノ場合ニ於テ調停ニ付スル裁判ニ對シテハ不服ヲ申立ツ
ルコトヲ得ス
第十五條第二條及第四條乃至第六條ノ規定ニ依ル裁判ニ對シテハ卽時抗
告ヲ爲スコトヲ得其ノ期間ハ之ヲ二週間トス
前項ノ卽時抗〓ハ執行停止ノ效力ヲ有ス
第十六條本法ニ依ル裁判ニシテ財產上ノ給付ヲ命スルモノハ執行力ヲ有
スル債務名義タルノ效力ヲ有ス
第十七條本法ニ依ル裁判ノ費用ニ付テハ民事訴訟費用法第十六條及民事
訴訟用印紙法第十六條ノ規定ニ依ル
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ地區ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ大正十八年四月三十日迄其ノ效力ヲ有ス
本法失效ノ際ニ於テ必要ナル經過規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
借地借家調停法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵徳川家達殿
借地借家調停法中左ノ通改正ス
第四條ノ二借地借家關係ノ爭議ニ付訴訟ガ繋屬スルトキハ受訴裁判所ハ
職權ヲ以テ事件ヲ調停ニ付スルコトヲ得
第五條調停ノ申立ヲ受理シタル事件ニ付訴訟カ繋屬スルトキ又ハ前條ノ
規定ニ依リ事件ガ調停ニ付セラレタルトキハ調停ノ終了ニ至ル迄訴訟手
續ヲ中止ス
第三十二條調停委員會ノ呼出ヲ受ケタル當事者カ正當ノ事由ナクシテ出
頭セサルトキハ調停事件ノ繋屬スル裁判所ハ調停委員會ノ意見ヲ聽キ五
十圓以下ノ過料ニ處スルコトヲ得
非訟事件手續法第二百七條及第二百八條ノ規定ハ前項ノ過料ニ付之ヲ準
用ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣橫田千之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=69
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070・横田千之助
○國務大臣(橫田千之助君) 借地借家臨時處理法及借地借家調停法中改正法
律案提出ノ理由ヲ說明イタシマス、昨年九月一日ノ大震火災ニ依ッテ幾多ノ家
屋ハ一時ニ滅失ヲ致シタノデアリマス、罹災地ニ於ケル多數ノ住民ガ是ガ爲
ニ營業ト住所ノ安定ヲ失ッテ、借地借家ノ關係ニ急激ナル變化ヲ生ジタノデア
リマス、而シテ今日ニ於テモ其急激ナル波動ハ尙ホ止マナイノデアリマス、
玆ニ於テ地主、家主、借地人、借家人間ノ紛爭ト云フモノ益〓激甚ヲ加ヘテ
幾多ノ事件ガ裁判所ニ繫屬イタシテ居リマス、是アルガ爲ニ、政府ハ此際借
地借家調停法ヲ改正スルト同時ニ借地借家臨時處理法ト云フ特別法ヲ制定イ
タシマシテ、是等ノ關係ヲ敏活圓滑ニ按排シヤウトスルノデアリマス、而シ
テ此借地借家調停法ノ改正案ノ內容ハ簡單デアリマシテ、此調停法從來ノ實
施ノ上ノ成蹟ニ鑑ミマシテ頗ル其成蹟ガ良好デアル、故ニ此規定ヲ擴大シ
テ、裁判所ニ繫屬シテ居ル是等ノ事件ニ對シテ職權調停ノ規定ヲ拵ヘテ、此
規定ニ基イテ一二ノ法則ヲ置イタニ過ギナイノデアリマス、借地借家臨時處
理法案ノ要旨ト致シマスル所ハ第一著シク不當ナル借地借家ノ條件ヲ變更シ
テ之ヲ衡平ニ定ムル、第二ニハ新築セラレタル建物ニ對スル從然ノ借家人ノ
先借權ヲ認ムルコト、第三ハ震災ニ因リ滅失シタル建物ノ敷地ニ從來ノ借家
人ガ築造シタル假設建築物ヲ保護スル、第四ハ震災ニ因リ借地上ニ於ケル建
物ガ滅失シタル場合ニ於ケル借地權ヲ保護スル、是ガ借地借家臨時處理法ノ
要旨ニナッテ居リマス、此兩法案ハ提出寧ロ後レテ居ルノデアリマスルガ、今
迄ハ提出ノ機會ガナカッタノデ、卽チ特別議會ニ急遽提出シテ御協賛ヲ仰グノ
必要ガ切迫シテ居ル次第デアリマスカラ、何卒速ニ御協賛ヲ仰ギタイト思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=70
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071・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 唯今、議題ニ上ボッテ居リマス各法案ハ極メテ重要ナル
案件デゴザイマスルガ故ニ、特別委員ノ數ハ十五名トセラレムコトノ動議ヲ
提出イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=71
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072・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=72
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073・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第十、第十一兩案ノ特別委員ノ數ヲ十五名ト
ナス西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=73
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074・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス、特別委員ノ氏名ヲ書記官
ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
借地借家臨時處理法案外一件特別委員
伯爵寺島誠一郞君子爵勘解由小路資承君子爵秋月種英君
子爵池田政時君河村讓三郞君土方寧君
男爵毛利五郞君男爵若王子文健君男爵二條正麿君
加太邦憲君阪本釤之助君松本烝治君
伊澤多喜男君馬場鍈一君橋本辰二郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=74
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075・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十二、高等諸學校震災復舊諸費ニ屬スル豫
算ノ施行ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
高等諸學校震災復舊諸費ニ屬スル豫算ノ施行ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十三年七月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
大正十二年九月ノ震災ニ基ク復舊諸費ニシテ東京帝國大學、東京商科大學
及千葉醫科大學ニ關スルモノハ大學特別會計法第一條ノ規定ニ拘ラス之ヲ
一般會計ノ所屬トス
東京帝國大學特別會計ノ資金中東京帝國大學農學部及航空〓究所ノ用ニ供
スル土地及建造物竝學校及圖書館特別會計ノ資金中東京女子高等師範學校
及東京高等蠶絲學校ノ用ニ供スル土地及建造物ニシテ此等諸學校ノ震災復
舊諸費ニ屬スル豫算ノ施行ノ結果不用ニ歸スヘキモノハ當該資金ヨリ之ヲ
拂出スコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員松浦鎭次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=75
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076・松浦鎭次郎
○政府委員(松浦鎭次郞君) 本案提出ノ趣旨ヲ一應御說明申上ゲタイト思ヒ
マス、帝國大學其他各大學ニ於キマスル建築費ハ現在ノ大學特別會計法ノ規
定ニ依リマシテ各特別會計所屬ノ事業トスルト云フコトニナッテ居ルノデア
リマス、然ル所、昨年ノ震災ノ結果ト致シマシテ東京帝國大學、東京商科大學
及千葉醫科大學ニ於ケル復舊ノ工事ガアルノデアリマスルガ、是ハ他ノ一
般會計所屬トシテヤリマスル他ノ學校ノ復舊工事ト一〓ニ致シマシテ之ヲ一
を
般會計ノ所屬トシテ施行イタス方ガ都合ガ宜シイト云フ關係ガアリマスルノ
デ、此工事ニ限リマシテ大學ノ特別會計カラ離シマシテ、之ヲ一般會計工事
トシテ施行シタイ、從テ大學特別會計法ノ例外規定ヲ設ケタイト云フコトガ
一ツデアリマス、尙ホ同ジク震災ノ關係カラ參リマスルノデアリマシテ、帝
國大學其他學校圖書館ノ敷地建物ハ是モ大學特別會計法及學校圖書館特別會
計法ノ規定ニ依リマシテ各特別會計ノ所屬トナッテ居リマシテ、之ヲ費消ス
ルコトヲ得ナイ規定ニナッテ居ルノデアリマスルガ、今囘震災復舊工事ヲヤリ
マスル關係上、東京帝國大學ノ農學部又航空〓究所、女子高等師範學校、高
等蠶絲學校、是等ノ學校ニ於キマシテハ敷地ヲ移轉スルト云フ關係ガ起リマ
スルノデ、從テ現在ノ敷地ガ不用ニ歸スル部分ヲ生ジテ參ルノデアリマス、
是ハ現在ノ規定ニ依レバ之ヲ特別會計ニ殘シテ置カナケレバナラヌノデアリ
マスルガ、是ハ一般會計ノ方ニ拂出ス方ガ適當デアルノデアリマスルカラ、
之ニ付キマシテモ特別會計法及學校圖書館特別會計法ノ例外規定ヲ設ケタイ
ト云フノデ本案ヲ提出イタシマシタ次第デアリマス、誠ニ簡單ナル案デゴザ
イマス、何卒御審議ノ上ニ御協賛アラムコトヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=76
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077・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案ノ特別委員ハ大學特別會計法中改正法律案外
二件ノ特別委員ニ付託イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=77
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078・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 諸君ニ於テ御異議ガ無ケレバ、日程第十三ヨリ第
十九マデノ議案ハ一括シテ議題トシ說明ヲ煩ハシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=78
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079・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第十三、大正十一年度第一豫備金支出ノ件、第十
四、大正十一年度特別會計第一豫備金支出ノ件、第十五、大正十二年度第二
豫備金支出ノ件、第十六、自大正十二年四月至同年十一月豫備金外ニ於テ豫
算外支出ノ件、第十七、大正十二年度特別會計第二豫備金支出ノ件、第十八、
自大正十二年四月至同年十一月特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支
出ノ件、第十九、臨時物資供給特別會計豫算外支出ノ件、承諾ヲ求ムル件、
衆議院送付、會議
大正十一年度第一豫備金支出ノ件
大正十一年度特別會計第一豫備金支出ノ件
右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送
付候也
大正十三年七月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
大正十二年度第二豫備金支出ノ件
自大正十二年四月豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件
至同年十一月
大正十二年度特別會計第二豫備金支出ノ件
自大正十二年四月特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件
至同年十一月
臨時物資供給特別會計豫算外支出ノ件
右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送
付候也
大正十三年七月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵徳川家達殿
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=79
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080・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 大正十一年度ニ於ケル一般會計第一豫備金支出外
六件ニ付キマシテ大體ノ說明ヲ致サウト存ジマス、臨時豫算超過及豫算外ノ
支出ニ付キマシテハ、本來會計法ノ規定ニ依リマシテ、第四十八囘帝國議會
ニ提出シテ御承諾ヲ求ムベキデアリマシタガ、其提出前ニ於テ衆議院ノ解散
ニ依リ御承諾ヲ求ムルコトガ出來ナカッタタメ、本期議會ニ之ヲ提出イタシマ
シタル次第デアリマス、大正十一年度一般會計第一豫備金ノ豫算額ハ六百五
十萬圓デアリマシテ大正十一年勅令第三百三十二號ニ依リ補充イタシマシタ
ル主ナル事項ハ、外務省所管電信料支拂戾及補塡金、陸軍一年志願兵諸費、染
料及火藥爆藥原料製造奬勵金等、何レモ必要避クベカラザル豫算ノ不足ニ對
シ充用シタルモノデアリマシテ、其總額ハ六百三十六萬九千餘圓デアリマス、
又朝鮮總督府其他ノ特別會計ニ於キマシテモ各〓第一豫備金ヲ以テ豫算超過
ノ支出ヲナシタルモノガアルノデアリマス、次ニ大正十二年度ニ於ケル一般
會計第二豫備金ノ豫算額ハ八百萬圓デアリマシテ、國際聯盟總會參列費、震
災救護費、臨時山東鑛山費、主力艦解體諸費、其他ノ各省所管ニ亙リ、火災
風水害等ニ因ル廳舍官舍其他ノ復舊及新營費等、緊急已ムヲ得ザル豫算ノ
費途ニ對シ是ガ全部ヲ充當イタシタノデアリマス、一般會計第二豫備金豫
算ガ拂切リトナリタルニ付キマシテハ、政府ハ已ムコトヲ得ズ、歲計剩餘金
ヲ以テ豫算外ノ支出ヲ爲シタルモノガアリマス、其事項ノ主ナルモノハ各省
所管ニ亙リ、震災ニ因ル諸般ノ應急費及復舊費、風水害ニ因ル復舊諸費、國際
勞働會議ノ參列費、帝都復興院費、主力艦解體諸費、海底電信線修繕費等デ
アリマシテ、其金額ガ一億三千四百五十餘萬圓デアリマス、尙ホ右ノ外、各
特別會計ニ於キマシテモ豫算超過支出及豫算外支出ヲ爲シタルモノガアリマ
スガ、玆ニハ其說明ヲ省略イタシマス、又臨時物資ノ供給特別會計ニ於テ其
歲入ヲ以テ豫算外ノ支出ヲ爲シタル金額ハ四千八百餘萬圓デアリマス、以上
ハ大體ノ說明デアリマスガ、何卒御審議ノ上、御承諾ヲ與ヘラレムコトヲ望
ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=80
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081・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔長書記官朗讀〕
大正十一年度第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)外六件特別委員
侯爵大隈信常君伯爵小笠原長幹君山脇玄君
子爵片桐貞央君男爵村上敬次郞君男爵藤田平太郞君
高橋琢也君鈴木摠兵衞君中村圓一郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=81
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082・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第二十、大正十三年勅令第二十一號承諾ヲ求
ムル件、衆議院送付、會議、委員長報告、淺田德則君
大正十三年勅令第二十一號
右承諾スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十三年七月十一日
右特別委員長
淺田德則
貴族院議長公爵徳川家達殿
〔淺田德則君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=82
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083・淺田徳則
○淺田德則君 唯今上程セラレマシタ勅令第二十一號承諾ヲ求ムル件ノ特別
委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申シマス、此案ノ主要ナル點ハ二點デアリマ
シテ、卽チ其一ハ營業稅ノ課稅ノ標準ハ前一箇年ノ實蹟ニ依リマシテ算定ス
ルノガ通則トシテ居リマス、昨年九月一日ノ大震火災等ノ爲ニ著シク其營業
ノ狀態ニ激變ヲ來タシマシタ故ニ、其賣上ノ金額又營業資金ノ金額ニ於キマ
シテモ變化ヲ致シマシタガ故ニ、之ニ依ルコトハ出來ナイノデアリマス、故
ニ本年ノ分ハ豫算ヲ以チマシテ、適當ニ算定ヲスルコトノ特例ヲ設ケラレタ
ノデアリマス、尙ホ他ノ一點ハ震火災ノ被害地域ニ在リマスル所ノ被害者ノ
租稅其他ノ所得稅、營業稅、相續稅等ノ徵收猶豫ノコトデアリマス、十二年
度ノ分ニ於キマシテハ既ニ緊急勅令ノ第四百十號ヲ以チマシテ規定ヲ致サレ
マシテ、更ニ此勅令ニ依リマシテ本年ノ四月ノ一日ヨリ八月ノ三十一日迄ニ
納稅イタス分ニ對シマシテ命令ノ定】ムル所ニ依ヲテ猶豫ヲスル事ヲ得セシメ
ルト云フ法律ノ規定デアリマス、法律デハアリマセヌ、其規定ガ卽チ緊急勅
令ニ依ッテ設ケラレタノデアリマス、是ハ御承知ノ如ク帝國憲法ノ第八條第
一項ニ依リマシテ、旣ニ公布セラレタモノデアリマスガ、將來尙ホ其效力ヲ
有セシムルノ必要アリト認メラレマシテ、玆ニ承諾ヲ求メラレタノデアリマ
ス、委員會ニ於キマシテハ、審議ノ結果、全會一致ヲ以テ承諾ヲ與フベキモノ
ト決定イタシマシタ、此段御報告申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=83
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084・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案ニ承諾ヲ與フルコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=84
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085・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=85
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086・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十一、鑛業法中改正法律案、政府提出、
第一讀會ノ續、委員長報告、勸修寺伯爵
鑛業法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十三年七月十日
右特別委員長
伯爵勸修寺經雄
貴族院議長公爵德川家達殿
〔伯爵勸修寺經雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=86
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087・勸修寺經雄
○伯爵勸修寺經雄君 鑛業法中改正法律案特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報
告イタシマス、特別委員會ハ去ル十日開會イタシマシテ、此法律案ハ、現行
鑛業法第八十條ノ鑛夫ガ業務上負傷シ疾病ニ罹リ又ハ其死亡シタル場合ニ本
人又ハ其遺族ヲ扶助スル規定ヲ、先議會デ改正イタサレマシタ所ノ工場法第
十五條ノ規定ト同樣ニ改正ヲシヤウト云フノデゴザイマス、委員會ニ於キマ
シテハ、扶助ヲ要スルモノノ範圍ニ付キマシテノ質問ガゴザイマシタ、政
府ハ是ハ命令デ定メルト云フコトデ返答ガゴザイマシテ、又扶助原因ノ制
限ヲ寬カニシマシタカラ、重大ナル過失ニ依ルモノ、又ハ斯カル寬カニナッタ
事ガ過失ヲ多クスルヤウナコトハナイカト云フ質問ガゴザイマシタガ、是
健康保險法第六十一條ト同一ノ趣旨ヲ採ルト云フヤウナ答ガゴザイマシテ、
審議ノ結果、滿場一致ヲ以テ原案ヲ可決スベキモノト議決イタシマシタ、右
御報〓イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=87
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088・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 木案ヲ第二讀會ニ移スコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=88
-
089・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=89
-
090・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=90
-
091・藪篤麿
○子爵藪篤麿君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=91
-
092・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=92
-
093・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=93
-
094・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=94
-
095・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=95
-
096・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=96
-
097・藪篤麿
○子爵藪篤麿君 賛成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=97
-
098・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=98
-
099・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=99
-
100・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=100
-
101・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=101
-
102・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ガ無ケレバ日程第二十二ヨリ第二十四マデ
同一委員ニ付託セラレマシタカラ、委員長ノ說明モ一括イタシテ煩ハシ、且
ツ議題ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=102
-
103・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第二十二、大學特別會計法中改正法律案、第
二十三、大正八年法律第十二號中改正法律案、第二十四、古社寺保存金ノ臨
時支出ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告
大學特別會計法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十三年七月十日
右特別委員長
伯爵松木宗隆
貴族院議長公爵徳川家達殿
大正八年法律第十二號中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十三年七月十日
右特別委員長
伯爵松木宗隆
貴族院議長公爵徳川家達殿
古社寺保存金ノ臨時支出ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
大正十三年七月十日
右特別委員長
伯爵松木宗隆
貴族院議長公爵徳川家達殿
〔伯爵松本宗隆君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=103
-
104・松木宗隆
○伯爵松木宗隆君 唯〓議題ニ上ボリマシタ三案ハ簡單ナ案デアリマスカラ
之ヲ束ネテ御報〓イタシタイト存ジマス、各案ニ對シマシテ二三ノ質問應答
ガアリマシタガ、是ハ速記錄ニ讓リタイト存ジマス、唯茲ニ史料編纂ノコトニ
付テ申上ゲテ置キタイト存ジマス、御承知ノ如ク、史料編纂ハ今後尙ホ百年
ヲ要スルト云フコトデアリマスノデ、豫テ貴衆兩院ヨリ希望モアリマシタノ
デ、此度增額セラレタノデアリマシテ、而シテ其計畫ト此增額ニ依リマスレ
バ約三十箇年ヲ以テ完結スルト云フコトデゴザイマシタ、此點ヲ御報告申上
ゲテ置キタイト存ジマス、採決ニ及ビマシテ各必要已ムヲ得ザルコトト認メ
マシテ、三案トモ委員會ハ全會一致ヲ以テ可決ニ相成リマシタ、此段御報〓
申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=104
-
105・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 唯今、特別委員長ノ報告セラレマシタ三案トモ第
二讀會ニ移シテ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=105
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106・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=106
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107・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=107
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108・藪篤麿
○子爵藪篤麿君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=108
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109・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ三案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=109
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110・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=110
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111・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 三案全部ヲ問題ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=111
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112・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=112
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113・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=113
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114・藪篤麿
○子爵藪篤麿君 賛成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=114
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115・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ三案ノ第三讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=115
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116・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=116
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117・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=117
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118・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=118
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119・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ガ無ケレバ日程第二十五、第二十六ハ同一
委員ニ付託セラレマシタカラ一括シテ議題ニ供シ、委員長報告ヲ煩ハシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=119
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120・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第二十五、震災被害地ノ地租免除等ニ關スル
法律案、第二十六、震災ニ因リ地租ヲ免除セラルル者ノ法令上ノ納稅資格要
件ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告
震災被害地ノ地租免除等ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
大正十三年七月十一日
右特別委員長
淺田德則
貴族院議長公爵德川家達殿
震災ニ因リ地租ヲ免除セラルル者ノ法令上ノ納稅資格要件ニ關スル法律
案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
大正十三年七月十一日
右特別委員長
淺田德則
貴族院議長公爵徳川家達殿
〔淺田德則君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=120
-
121・淺田徳則
○淺田德則君 唯今上程セラレマシタル震災被害地ノ地租免除等ニ關スル法
律案、其次ノ日程モ併セテ玆ニ御報〓ヲ致シマス、御承知ノ如ク、昨年ノ九
月一日ノ大震災ニ於キマシテ被害者ノ程度ニ依リマシテ、第三種ノ所得稅
及營業稅ノ減免等ニ付キマシテハ旣ニ緊急勅令ノ第四百十號及先刻御承認ニ
ナリマシタ所ノ勅令第二十一號ヲ發セラレテ、旣ニソレ〓〓救濟上ノ方法ヲ
設ケラレタノデアリマス、唯其當時、地租ニ關シマシテハ、他ノ稅種ノ如ク
火急ヲ要スルモノデナイノデアリマス故ニ、此兩勅令ニハ含ンデ居ラヌノデ
アリマシタガ、尤モ土地ノ荒地等デアリマスレバ、御承知ノ如ク地租條例等
ニ依リマシテ、ソレ〓〓荒地ノ處分ハ出來ルノデアリマスガ、此震災ノ爲ニ
ハ獨リ荒地ノミナラズ、土地ノ利用ヲ著シク妨ゲラレタモノガアリマス、ソ
レ等ニ對シマシテ、玆ニ此救濟ノ方法ヲ設クルコトニ相成リマシタノデ本法
律ヲ要スル次第デアリマス、又地租、所得稅、營業稅、相續稅ノ徵收猶豫ノ
コトニ付キマシテハ、十二年度分及本年ノ四月一日ヨリ八月三十一日マデニ
納付スベキモノニ付キマシテハ先刻ノ緊急勅令ニ依リマシテ處理スルコトガ
出來ルコトニ相成リマシタノデ、本年ノ九月以後ニ納ムベキモノニ對シマシ
テハ、右勅令ニハ無イノデアリマス、是ハ九月マデニハ臨時議會ガ開カルル
モノト云フコトヲ豫期サレマシテ、斯ク相成ッタンダサウデアリマス、卽チ此
臨時議會ニ提出セラレタ趣デアリマス、本案ハ固ヨリ救濟上必要ナモノデア
リマスニ依ッテ、委員會ニ於キマシテハ質問應答ノ結果、全會一致可決イタシ
タノデアリマス、又此次ノ日程ニアリマス地租ヲ免除セラレタ者ノ法令上ノ
資格ノ要件ニ關スル法律案デアリマスガ、是ハ災害ノ爲ニ免除ヲサレマシテ
モ市町村ノ公民權其他府縣會議員ノ選擧權、衆議院議員ノ選擧權等ニハ影響
ヲ及ボサシメザルモノト爲スト云フコトノ法案デアリマシテ、是亦適當ノ措
置ト認メマシテ、委員會ハ全會一致ヲ以テ可決イタシマシタ、此段報〓イタ
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=121
-
122・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 唯今、淺田特別委員長ノ報告セラレマシタ兩案ト
モ、第二讀會ニ移シテ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=122
-
123・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=123
-
124・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=124
-
125・秋月種英
○子爵秋月種英君 賛成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=125
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126・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ兩案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=126
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127・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=127
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128・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 雨案全部ヲ問題ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=128
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129・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=129
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130・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=130
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131・秋月種英
○子爵秋月種英君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=131
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132・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ兩案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=132
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133・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=133
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134・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=134
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135・徳川家達
○議長(公爵徳川家逹君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=135
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136・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第二十七、砂防法中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告
砂防法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十三年七月十一日
右特別委員長
伯爵松浦厚
貴族院議長公爵德川家達殿
〔伯爵松浦厚君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=136
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137・松浦厚
○伯爵松浦厚君 砂防法中改正法律案ノ委員會ノ御報告ヲ致シマスガ、此案
モ極メテ簡單ナ案デゴザイマシテ、又今各府縣ニ於キマシテ二縣ニ亙ッテ大
洪水其他ノ事ガアッタ際ニハ、之ヲ主務大臣ガ管理ヲシ國庫ヨリ之ヲ支辨スル
コトノ權限ヲ得テ居ラレタ、然ルニ此度ノ大震災ノ結果ト致シテ神奈川縣、
殊ニ花水川、早川方面ニ於テ流域ノ崩壞ハ甚大ナルモノデアル、之ニ付テ特ニ
特例ヲ開カナケレバナラヌト云フノデ、此案ヲ提出セラレタノデアリマス、
此案ニ付キマシテハ、委員會ニ於テ政府委員ト應答ヲ重ネマシテ、色〓質問
ガゴザイマシタガ、此案中ノ字句ノ工事ノ至難トカ、工費ノ至大ト云フヤウ
ナコトニ付テ質問ガゴザイマシタガ、是ハ全ク殊更ニ此案ニ付テ案出サレタ
文句デナク、是ト姉妹法デアル河川法ニ用ヰラレタ文句デアルカラ、之ヲ借ッ
テ用ヰタノデアル、斯ウ云フ特例ハ、之ヲ例トシテ屢〓此新法案ヲ用ヰルト云
フ考ハ主務大臣ニハ無イ、特ニ此際ニ提出スル必要ガアッタカラ出シタノデ
アル、此度ノ震災ニ付テハ一方ナラヌ損害デ此六河川ヲ、神奈川方面ニ於テ
六河川ヲ修繕スルニ付テ完全ナル工費ヲ請求スレバ、三千萬圓以上ノ費用ガ
掛ルケレドモ、此際ハサウ云フ譯ニ參ラヌ、十箇年繼續トシテ四百五十五萬
圓ノ繼續費ヲ出スコトニ致シマシタト云フ說明デアリマス、其他委シイ應答
ノコトハ速記錄ニ殘シマシタケレドモ、殊ニ委員ノ中ニ於キマシテ是マデ砂
防工事ハ屢〓行ハレテ居ルケレドモ、河口ノミノ砂防ニ止マッテ、川ノ淵源ト
云フノカ、上流ト云フカ、其方ニ付テノ注意ガ甚ダ行屆カヌヤウデアル、ソ
レデハ甚ダ折角修繕シテモ再ビ破壞ヲ來タスヤウナコトガアルカラ、其邊ノ
コトモ十分ニ注意ヲ致サレテ、此工事ニ取掛ルヤウニ希望イタス、又或ハ此
下水トカ、貯水トカ、又農民ニ此水ヲ分ツト云フコトニ付テ制限ヲ立テナケ
レバナラヌカラ、或ハ河川ノ區域內ニ於テ農作ヲ行フト云フコトカラ寧ロ洪
水ヲ爲スト云フコトガアル、其邊モ平素、直接間接ニ砂防工事ニ力ヲ盡サレ
ルヤウニシタイモノダト云フ希望條件ヲ加ヘマシテ、滿場一致デ委員會ハ此
案ヲ可決シタ次第デアリマス、右御報告申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=137
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138・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=138
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139・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=139
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140・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=140
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141・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=141
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142・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=142
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143・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=143
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144・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=144
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145・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=145
-
146・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=146
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147・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 賛成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=147
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148・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=148
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149・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=149
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150・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=150
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151・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=151
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152・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第二十八、小作調停法案、政府提出、衆議院
送付、第一讀會ノ續、委員長報告
小作調停法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
大正十三年七月十一日
右特別委員長
子爵伊東祐弘
貴族院議長公爵徳川家達殿
〔子爵伊東弘祐君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=152
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153・伊東祐弘
○子爵伊東弘祐君 小作調停法案特別委員會ノ御報告ヲ申上ゲマス、特別委
員會ハ一昨十一日正副委員長ノ互選ヲ終リマシテ、引續キ會議ニ移リマシタ
ノデアリマス、法案ニ付テ大體ニ亙リ又各條ニ亙ッテ多クノ質問ガアリマシ
タ、績イテ討論採決ノ結果、全會一致ヲ以テ原案ヲ可決シタノデアリマス、是
ヨリ簡單ニ經過ノ大要ヲ申上ゲマス、本案提出ノ趣旨ハ既ニ農商務大臣カラ
御說明ガアリマシタカラ、玆ニ省略ヲ致シマシテ、唯本案ノ規定スル內容ニ
付テ重ナル點ヲ申上ゲルコトニ止メテ置キタイト思ヒマス、第一、此調停ノ申
立デアリマス、小作爭議ノ起リマスノハ御承知ノ如ク普通廣キ區域ニ亙リマ
スモノデアリマスカラ、原則トシテ其土地ヲ管轄スル地方裁判所ニ當事者カ
ラ調停ノ申立ヲ爲スコトヲ許シテ居ルノデアリマス、唯當事者ノ合意ニ依ル
場合ニ例外トシテ區裁判所ニ中立ヲ爲スコトモ許シテ居リマス、又調停ノ申
立ハ農村ノ實狀カラ見マシテ、地理上ノミナラズ審理上カラモ其土地ノ市町
村長、郡長ト密接ノ關係ヲ有チマス、市町村長又郡長ヲ經由シテモ調停ノ申
立ヲ爲スコトヲ許シテアリマス、而シテ調停ノ申立ヲ爲シマスニハ、簡單ニ爭
議ノ實情ヲ明ニスレバ足ルコトトシテ、書面又ハ口頭ヲ以テモ之ヲ許スコト
ヲ得ルヤウニ規定シテアルノデアリマス、第二ニハ調停委員會ノ組織デアリ
マス、調停委員會ハ調停主任一人ト二人以上ノ調停委員ヲ以テ組織スルノデ
アリマシテ、調停主任ハ地方裁判所長ガ選任シタル判事ガ之ニ當ルノデアリ
かつう調停委員ハ各事件ニ付テ調停主任ガ順位ヲ定メマシテ其中ヨリ選ブコ
トニナッテ居ルノデアリマス、裁判所ガ調停ノ申立ヲ受理シタトキハ原則トシ
テ調停委員會ヲ開クコトニナッテ居リマス、調停委員會ハ爭議ノ場所又ハ適當
ナ所ニ開キマシテ、地主又ハ小作人ヲ呼出シテ雙方親シク談合シテ、之ヲ公開
セズシテ、其間ヲ調停委員ガ斡旋ヲシテ感情ノ融和ヲ圖リ、調停ヲ進ムルヤ
ウニナッテ居リマス、從來行ッテ居リマスル事實上ノ和解、卽チ勸解モ之ヲ併
セテ法律ニ認メテ居ルノデアリマス、裁判所ガ事情ニ依ッテ適當ナモノガアッ
テ却テ之ヲ爲サシムルコトガ宜シイト認メタナラバ、其モノヲシテ勸解ヲ爲
サシムルノデアリマス、調停委員會ノ評議ノ內容ハ絕對祕密ニシテ委員ヲシ
テ自由ニ、自由公正ナル意見ヲ述ベルコトヲ努メテ居ルノデアリマス、第三
ハ小作官ノ設置デアリマス、農業上ノ知識經驗ヲ有シ又農村問題ニ付テ趣味
ヲ有スルモノノ中カラ小作官ト云フ行政官ヲ設ケテ、是ハ特別任用デアリマ
ス、平素主要ナ地方ノ狀況ヲ視察シテ、調停ニ付テハ郡市町村ノ裁判所ト連絡
ヲ圖ッテ、爭議ノ調停ノ實ヲ進ムルコトニ努メルノデアリマス、第四ハ調停ノ
效力デアリマス、裁判所自體ガ調停ヲ爲シタ場合ハ其儘、裁判上ノ和解ト同一
ノ效力ヲ認メルノデアリマス、調停委員會ヲ開イテ調停ヲ爲シタ場合ハ、裁
判所ノ認可決定ヲ得テ初メテ裁判上ノ和解ト同一ノ效力ヲ有スルコトニナッ
テ居ルノデアリマス、其他不當ナ目的ヲ以テ調停ヲ申立テ、又ハ調停ノ眞意ナ
クシテ濫リニ申立ヲ爲シタ場合ニ於ケル申立却下ノ規定、又ハ訴訟ノ判決ト
調停ノ結果トガ齟齬シナイヤウニ之ヲ防グ爲ニ訴訟手續ヲ中止スルノニ依ッ
テ當事者多數ノ場合ニ於ケル總代ノ選任スル規定、利害關係人ノ參加呼出シ
ニ對シテ故ナクシテ之ヲ拒ンダ者ニ對スル制裁ニ關スル規定、又ハ調査委員
會ノ爭議ノ內容ヲ漏シタ者ニ付テ罰金ノ制裁ヲ加ヘテ、調停ガ成ラヌ場合ニ
於テ一定ノ猶豫期間ヲ定メマシテ調停條項ヲ當事者ニ送リマシテ異議ヲ述べ
ルコトガ出來ルヤウニシテ、サウシテ調停ノ步ヲ進メテ行ク規定モアルノデ
アリマス、又調停人ガ決定ニ對シテハ不服ノ申立ヲ禁ジテアル規定ガアルノ
デアリマス、以上ガ本案ノ規定ノ内容ノ主ナル點デアリマス、次ギニ特別委員
會ニ於ケル質問ノコトニ付テ申シマス、質問ハ前申上ゲマシタ通リ大體カラ
各條項ニ亙ッテ多クノ質問ガアリマシテ殊ニ各條項ニ付テノ質問ハ最モ多
カッタノデアリマス、ソレハ其規定ノ意味及適用ニ付テノ質問ガ多カッタヤウ
ニ思ヒマス、玆ニハ唯主ナルモノヲ申上ゲテ、他ハ速記錄ニ讓リタイト存ジ
マス、小作爭議ノ根本ノ問題ニ付テハドウ云フ調査、又ハ其調查ノ進行ノ模
樣ヲ取ッテ居ルカ、卽チ各地到ル所、生產ノ分配ガ異ナッテ居ルガ、之ニ付テ
又種々ナル團體ガ出テ小作人ハ其意ニ反シテ爭ヒヲ爲スヤウナ有樣ニアルカ
ラ是等ノ取締ハ必要デアル、是等ノ問題ニ付テ如何ナル調査ノ進行ヲシテ居
ルカト云フ質問ニ對シマシテハ、小作爭議ハ每年其數ヲ增スカラ其根本問題
ハ矢張リ經濟デ分配ノ問題ニナルト思フ、分配ヲ如何ニスルカト云フコトガ
玆ニ明言ガ出來ナイケレドモ、農村ノ經濟力ヲ增進セシムルニハ種々ノ施設
ガ必要ト考ヘテ居ル、例ヘバ農業〓育ノ改善、農業倉庫ノ改良ヲ圖ルノモ一
例デアルノデアッテ、出來ルダケ是等ハ調査〓究ヲスルト云フ答辯ガアッタノ
デアリマス、次ニ小作制度調査會ニ於テ爲シタル調查ノ方向程度ハ如何ナモ
ノデアルカト云フ質問ガアッタノデアリマス、小作制度、之ニ對シテノ政府ノ
答辯ニハ、小作制度調査會設立以來十一項目ニ亙ル事項ヲ調査シテ、內地ノ
各地及外國ノ制度ヲ調査〓究シテ分配問題、組合問題ノ如キモ調査ヲシタノ
デアル、尙ホ調査會廢止後モ農商務當局ニ於テ調査ヲ進メテ居ルト云フコト
デ、其經過ヲ詳シク政府委員ヨリ御說明ガアッタノデアリマス、次ニ小作法、
永小作法ヲ制定シテ之ヲ早ク進メル意思ハ無イノデアルカト云フ御質問ニ對
シテハ、小作法ハ調査ヲシテ實體法ヲ作ラウト考ヘテ居ルケレドモ、各地種
種ノ慣行ガアッテ困難ナ問題デアルカラ近年小作ノ爭議ガ一方ニ增加シテ來
々、故ニ先ヅ之ガ對策ヲ定メテ種々ナル事例ヲ集メテ之ヲ統一シテ參考材料
トシテ小作法ヲ制定シヤウト云フ考ヲ有ッテ居ル、出來得ルナラバ當局トシ
テハ成ルベク早ク作リタイト思フ、永小作法ハ大ニ調査ヲ進メテ居ルト云フ
答辯ガアッタノデアリマス、第四ハ本法ヲ施行セザル區域ハ何レデアルカ、之
ニ對シテハ現在事情ガ變レバ多少ノ變更ハアルケレドモ、今日ノ豫定デハ沖
繩南九州ノ一部、東北ノ數縣デ、小作爭議ノ最モ輕微ナ所カ又ハ絕無ノ所
デアッテ、十縣以內ニ止マッテ居ルト云フコトデアリマス、次ニ勸解ノ效力ハド
ウ云フモノデアルカ、又勸解成立ノトキハ爭議ノ調停ハドウナッテ行クノデ
アルカ、之ニ對スル答辯ハ當事者ガ爭ヒヲ止メルト云フ行爲ガ出來タノデア
ルカラ、是ハ民法上ノ效力以外ニハ何等他ノ效力ガ無イノデアル、又勸解ガ
成立ニナッテモ此調停事件ト云フモノハ矢張リ裁判所ニ續イテ行クモノデア
ルト云フ答辯ガアッタ、又若シ「ブローカー」ノヤウナ者ガ小作人トナッテ總
代ニ選定セラレタ時分ニハ、此資格ヲ認ムルカドウカ、之ニ對シテハ若シ其
者ガ當事者ヨリ非常ナ信望ヲ得テ居ルモノデアレバ話合フコトモアルガ、斯
カル者ガ出テ來テ不適當デアルト認メタトキハ事情ヲ述ベテ之ヲ罷メシメル
ノデアル、是ハ全ク法ノ認容ニ依ルノデアル、而シテ解任ノ規定ヲ設ケナイ
ノハ、却テ之ヲ設ケルノハ當事者ノ感情ヲ害スル虞ガアルカラ殊更ニ法文ニ
ハ之ヲ削除シタト云フコトデアリマス、最後ニ小作官ヲ設クルト云フコトハ
宜イト思フガ、本法ヲ施行シナイ區域ニモ共通ニ一人クラヰノ小作官ヲ置イ
テ、之ヲ利用スル考ハ無イノデアルカ、之ニ對シマシテハ此點ハ當局ニ於テ
考究シタトコロデアル、小作爭議ノ無イ地方デモ本省ニ居ル小作官ガ各地方
ヲ注意シテ、サウシテ連絡ヲ取ルヤウニ努メシムニ積リデアルト云フ答辯ガ
アッタノデアル、大體主ナル質問應答ハ以上ニ止メテ置キマス、次ニ討論ニ
移リマシテ、本案ハ時宜ニ適スル必要ナ案デアルカラ、全部原案ニ贊成スル
トノ意見ガアッタノデアリマス、採決ノ結果、前述イタシマシタ通リ、全會一
致ヲ以テ可決イタシタ次第デアリマス、以上ヲ以テ御報告ヲ終ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=153
-
154・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ討論ニ移リマス、通告順ニ依リマシテ發言
ヲ許シマス、阪本釤之助君
〔阪本彰之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=154
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155・阪本さん之助
○阪本釤之助君 本日ハ長時間、議事ヲ御開キニナリマシテ皆樣モ御倦怠ノ
コトト御察シ申上ゲマスカラ相成ルベクハ差控へタイトモ存ジマシタガ、誠
ニ重大ナ問題デアリマシテ、殊ニ農村問題ニ付テハ本員ハ微力ナガラ既ニ數
年來憂慮イタシテ居ル一人デアリマス、ドウモ已ム譯ニ參マセヌ、成ルベ
ク切詰メマシテ要點ダケ申述ベテ見タイト思フノデアリマス、小作對地主ノ
關係ニ付キマシテハ、旣ニ數年前ニ此壇上ニ於テ質問ヲ試ミタコトガアリマ
シタガ、當時ハ政府ニ於テモ餘リ重要ナル問題ト認メテ居ラナカッタヤウデ
アリマシテ、答辯モ頗ルバットシタモノデアッタノデアリマス、ガ其後段々御
調查ニナリマシテ案外重大ナ問題デアルト云フコトガ御分リニナッタヤウデ
アリマシテ、其後ハ段々詳細ノ御調査モ出來テ居ル樣子デアリマス、遂ニ今囘
ハ斯ノ如キ案等モ發案サレルヤウニナリマシタノハ兎ニ角、農村ト云フコト
ニ付テノ政府ノ注意ガ徹底イタシタト云フコトハ本員モ喜ブノデアル、併シ
此小作調停法ナルモノハ前々內閣、モウ少シ前カモ知レマセヌ······カラ段々
懸案ニナッテ居リマシタノガ、遂ニ現内閣ニ依ッテ發案サレタヤウナ次第デア
リマスガ、本員ガ此農村問題ナルモノヲ痛感イタシマシタ感ジハ、之ヲ全國ニ
付テ見マスルト、一極端ナル地主對小作人ノ紛爭ヲ極メテ居ル所ト案外平穩無
事デ昔ノ有樣ト異ラザル所モアルカノヤウニ見受ケラレマスノデアリマス、
カルガ故ニ此案モ全國ノ中デ施行セザル地方モアル見込ミラシウゴザイマ
之、唯今、委員長カラノ御報告ニモアリマシタガ、或部分ニハ此法律ヲ施行
サレヌト云フコトデアリマス、トコロデ自分ガ考ヘマスル所デハ、今日ノ農
村問題ト云フモノハ頗ル面倒ナモノニナッテ居リマシテ、此紛爭ノ甚シキ地
方ニ付テ見マスルト、根本的ニ小作人ト云フモノト地主ノ關係、モウ少シ擴
メテ申シマスレバ農村ト云フモノヲ如何ニスルモノダト云フコトノ解決ヲ〓
究スベキ時機ニ接シテ居リマシテ、僅ニ斯ノ如キ法律ガ出來マシテ小作人ト
地主トノ間ニ、調停ヲ試ミルナント云フ微温的ナコトデハ治マリノ付カナイ
ヤウニナッテ居ルヤウニ思フノデアリマス、而シテ又平穩ナ方ニ參リマスト妙
ナ法律ガ出タガ是ハドウ云フコトデアルカト云フ位ニ思ッテ居ル所モ、稀ニハ
アルカ知レマセヌ、是ダケノ堂々タル帝國議會ノ議ヲ經テ出ス法律ガ或部分
ニハ必要デアルガ或部分ニハ感ジノ無イヤウナ法律ヲ出スコトモ既ニ考ヘ物
ヂヤナイカト思フノデ、是ハ旣ニ非常ニ必要デアル不必要デアルト云フ所ガ
アルト云フコトハ、政府當局モ認メラレテ居ルト云フコトモ察スルニ餘リア
ル譯デアリマスガ、自分等ノ考デハ必要デ無イ所デアッテモ、此法律ガ出タ
ト云フコトヲ見マスレバ、斯ノ如キコトガアルナレバ一ツ地主ト爭ウテ見タ
ラドウカト云フコトヲ考ヘル人モ出テ來ルカモ知レマセヌ、又今日紛争ヲ極
メテ居ル處デアリマスルト斯ノ如キ生温ルイコトデハ治マリガ付カザルノミ
ナラズ、之ニ依ッテ立チ所ニ澤山ノ調停モ起ッテ來ルデアラウト思ヒマスノ
デ今日マデモ隨分或地方ニ於テハ斯ノ如キモノガナクテモ裁判所ヘ段々出シ
テ居ル所ガアルノデ、裁判所ヘ出シマスルト、裁刊官モ頗ル之ヲ而倒ナ問題
ト見マシテカ容易ニ裁判ヲサレマセヌ、尤モ裁判所ト云フモノハ非常ニ裁判
ヲスルコトノ遲クナル慣習ノモノノヤウニ感ジラレマスガ、殊ニ斯ノ如キ事
柄ハ其裁判ガ非常ニ長引キマス、大〓ハ裁判ヲセズニ此調停ノヤウナコトヲ
勸メテ地主ト小作人ノ間ニ說諭ガアルノデアリマス、或ハ此間ニ警察署長モ
這入レバ郡長モ這入ル、デ私共見聞イタシテ居ル所デハ、イツモ地主ノ方ガ
抑ヘ付ケラレテ小作人ノ申出ガ通ルト云フ場合ガ多イヤウデアル、是ハ今日
ノ時代ニ於テ總テ勞働者側ノ方ニ同情ガ多クテ、資本家ト云フモノハ先ヅ不
同情ガ多イ、ト云フノガマア一般ノ傾キニナッテ居ルヤウデアリマシテ、其思
想ガ自然、裁判官邊リニモ多少アルモノデハナイカト疑ハレルヤウナ次第デ
アルノデ、其地主ト云フモノガ資本家デアルト云フ風ニ見ラレルノガ旣ニ間
違デアルト思フ、農村ヘ參リマスト大キナ地主モアリマス、稀ニハ大變巨大ナ
地主モアリマスガ、是ハ頗ル少數ナモノデアリマシテ、多クハ僅ニ五十俵ト
カ、少キハ三十俵多クテモ百俵ノ小作米ヲ取リマシテ、ソレデ數代生活ヲ致
シテ居ル、其村デハマア中流ノ人、上流ノ人ト見ラレ、或ハ縣會議員ヲ勤メ
郵便局モヤル、忰ハ中學校ヘ通フ、今日デハ高等學校へモヤラナケレバ承知
セヌト云フヤウナ情態デアルト云フノガ多數ノ地主デアリマス、其多數ノ地
主ガ唯今ノ次第デ小作人カラハ頻リニ値切ラレル、最初ハ年柄ガ惡イト云フ
コトデアリマシタガ、年柄ガ惡イバカリデハナイ、今日ハ年柄ノ善惡ニ拘ラ
ズ、例ヘバ一石五斗ノ小作米ニ二割五分ダケ上ゲルカラソレデ宜カッタラ持ツ
テ來マス、詰リ七割五分値切ルト云フコトデアリマス、ソレデイケナケレバ
持ッテ來マセヌ、二年モ三年モ持ッテ來ナイト云フコトガ極端ナ土地ニアル、現
ニ私ガ承知イタシテ居ル或郡村デハ裁判所ノ御世話ニナッテ協定シタノガ、二
割五分デマケテヤレ、二割五分ダケ納メルコトニ承知セヨト地主ガ說諭ヲ受
ケテ、已ムヲ得ズ七割五分マケタト云フ實例ガアルノデアリマスカラ、隣ノ村
デモ之ヲ聞ケバ最早餘計出スノハ馬鹿氣テ居ル、裁判所ニ持ッテ行ッテ調停シ
テ貰ッテモ二割五分デ濟ンダノデアルカラト、斯ウ云フコトデ、其隣ノ村モ
二割五分ナラバ上ゲルガ、サウデナケレバ御免蒙ルト云ッテ、二年モ三年モ
持ッテ來ヌ所ガアル、其二割五分ト云フモノデアリマシテハ殆ド地租諸入費
ヲ納メテ足リナイ位ノモノデアルヤウニ承知シテ居リマス、サウ云フ所ハ尤
モ是ハ極端ノ所デアリマスガ、サウ云フ所ガ現ニ在ルノデアリマス、サウ云
フ事情デアッテ、甚シキ所ハ斯ノ如キモノデアル、又現ニソンナコトヲ知ラナ
イ所モアル、昨日、豫算總會ニ於テ主務大臣ニ御尋ネ致シマシタ時ニ、サウ
云フ所ガアッテ、如何ニモ都合ヨク行シテ居ルト云フ御話デアリマシタガ、左
樣ニ極端ト極端ニナッテ居リマス所ヘ斯ノ如キ法律ガ出來テ、調停ノ方法ニ依
ラシムルト云フコトガ果シテ時宜ニ適シタモノデアルカ、ドウカ、餘程講究
ヲ要スルト思フ、本員ノ考デハ、斯ウ云フヤウナコトヨリモ全體農村生活ノ
狀態ト云フモノハドウ云フモノデアルモノカ、段々時勢ノ變遷ニ依リマシテ
此農民ガ今日マデノ如ク甚シキ勞働ニ服スルト云フコトハ、旣ニ好マヌ所デ
アリマシテ、サウシテ近傍ノ都會地へ出マスレバ相當ノ賃銀ガ取ラレルト云
フノデアリマスカラ、農事ト云フヤウナ煩サイ勞働ハ避ケテ、何處ゾヘ行ッテ
日給ヲ取ッテ稼ガウ、デ息子ハ相當ナ身裝リヲ致シテ、自轉車ニデモ乘ッテ、
都會地へ稼ギニ行ケバ、出來ノ好イヤツハ三圓、五圓ト云フ日給ヲ取ッテ歸ッ
テ來ル、家ニ居ッテ、オ父サンハ昔ノ如ク農業ヲヤッテ居レバ一日一圓ニモ足
リナイ勞役賃銀ニシカ當ラヌノデアリマス、デアリマスカラ小作人ノ方カラ
云ヒマスト、地主ヘ十分ノ小作米ヲ納メルト云フコトハ不服デアルト云フコ
トニナルノハ無理カラヌコトデアリマス、畢竟スルニ農村ノ生活程度ガ低ク
テ、地主ノ方カラ云ヘバ今日マデハ一石五斗ナリ、一石ナリ取レタモノガ、
僅二三斗カ、ソコラシカ取レナイー云フコトニナレバ、食ヒ足リナイシ、小
作人ノ方デハ都會地へ行ケバ相當ナ勞銀ガ取レルノニ、一圓ニモ足リナイ勞
銀デヤッテ居ルト云フコトデアレバ是モ食ヒ足リナイコトデアル、デ是ハ
斯ウシテ居レバ田畑ハ草ガ生ヘテ、二人減リ、三人減リ、皆是ガ都曾ヘ行ッ
テ勞銀ヲ稼グト云フコトニ傾イテ來ル、是モ畢竟、世ノ中ガ景氣ガ好クテ勞銀
ヲ得ル見込ガアル間ハ宜シイ、不景氣ニナッテハ都會へ行ッテモ、サウ云フ勞銀
ヲ與ヘル者ガ無イヤウニナリマスレバ、農村ノ景氣ガ復スルカモ知レマセヌ
ガ、併シ日進月步ノ世ノ中デ、一時不景氣ト申シマシテモ、都會地へ出ル者
ガ絕エザル限リ、農村ト云フモノハ引合ハナイコトデアッテ、勞役ノ酷イ所
デアルカラ之ヲ避ケルト云フノハ自然ノ勢デアル、小作人ガ之ヲ避ケテ小作
米ヲ納メヌト云フコトニナリマスト、地主ノ方デモ堪ラヌカラ、地主ハドウ
ゾシテ、其持ッテ居ル田地ヲ捨賣リニデモシテ、都會地ヘ行ッテ小賣商賣デモ
スルカ、モウ少シ上等ナ人ハ公債證書デモ買ッテ、氣樂ニ暮シタイト云フコ
トデ、地主モ其村カラ去ラウト考へ、小作人モ其村ヲ去ラウト始終考ヘテ
居ッテ、其間ニ前提トシテ小作人ト地主ト頻リニ紛爭ヲスルト云フノガ今日農
村ノ方ノ極端ト云フ方ノ側ノ現況デアルノデアリマス、政府モ之ヲ憂慮セラ
レテ、法律デモ出來タナラバ幾分ナリトモ、ソレヲ緩和スルコトガ出來ハセ
ヌカト云フ心カラ出タモノト思ヒマスカラ、決シテ之ヲ私ハ駁擊スル考デモ
何デモナイノデアリマスガ、モウ少シ考慮ヲ要スベキ場合デハナカラウカト
思フノデアリマス、現ニ小作法ト云フモノモ制定サレル筈ニナッテ居リマシ
テ、今特別委員長ノ御報〓モアリマシタガ、大分進步シテ居ルト云フ話デア
リマス、畢竟、小作法ガ出來マシテ、小作法ナルモノハ餘程ムヅカシイ法律
ニナルダラウト思ヒマスガ、ドウ云フ風ニ御組立ニナルモノカ知レマセヌガ、
最早今日以後ニ出來ル法律ガ、昔ノ小作地主關係ナドヲ基礎ニシテ作ッテ置
イタ所ガ、殆ド徒勞ニ屬シテ、行ハレナイモノデナイカト私ハ憂フルノデア
ル、此困難ナル法律ガ早晩出來ルト致シマシテ、其小作法ナルモノガ出來マ
シテ、ソレガ基礎ニナッテ、果シテ斯樣ナ道行ニ依ッテ此紛爭ヲ解決スル所ノ手
續ナドモ出來ルト云フコトモ、或ハ順序デアルカモ知レマセヌガ、畢章、洵
ニ一時ヲ糊塗スル爲ニ、マダ根本ノ小作法モ出來ナイノニ、斯樣ナモノヲ作ツ
テ、今ヤカマシク言ハレテ居ル所ノ事柄ヲドウニカ少シデモ融和シテ見ヤウ
ト云フ積リデ出來タ法律案ト思ヒマスガ、私共ノ考デハ洵ニ時宜ニ當ラザル
法律デアルト、斯ウ思フ、デ私ハ全然之ヲ惡イモノデアルト云ウテ、之ガ否
法說ヲ唱ヘルノデハアリマセヌガ、姑ク留保シテ置イテ、此邊ノコトヲモウ
一應能ク御考ヘニナッテ、他日完全ナル小作法ト同時ニ御提出ニナルた、或
ハ是ハ御廢メニナルカシマセヌト、愁ジッカ斯ンナモノガ出マスト唯〓申シ
マシタ通リ人ニ依ッテハ斯ンナモノガ出タカラ、之ヲ一ツヤッテ見ヤウト云フ
ヤウナコトヲ小作人ノ方カラモ致シマセウシ、地主ノ方カラモ苦シ紛レニ之
ヲヤル、斯ウ云フコトニナリマスルト、又其間ニ立ッテ所謂モグリト云フヤウ
ナモノガ·····之ヲ避ケルヤウニモ出來テ居ルヤウデアリマスガ、無論代人ト
カ、何トカ稱シテ出マスレバ、出來ルノデアリマスカラ、サウ云フ者ガ橫行シ
テ、地主ト小作人ノ間ノ血ヲ啜リマシテ、詰リ健訟ノ風ガ一層彌漫シテ來ルト
云フコトヲ恐レテ居ルノデアリマス、田舍へ參リマスト、兎ニ角斯ウコ云フ
トガ其ノ人〓ノ喰物ニナル虞ガアルノデアリマス、左樣ナコトガ憂慮ノ中ニ
アルニモ拘ラズ、今急イデ之ヲ御出シニナル必要ガナイト考ヘマスガ故ニ、
此議會ニ於テハ姑ク留保セラレテ、更ニ現內閣ガ宜シク······寧ロ是ハ前內閣
ノ引繼ノ案ト見テモ宜シイト思ヒマスガ故ニ、現內閣ハ總テノ施設ヲ新ニス
ルト云フヤウナ御考デアリマセウカラ、現內閣ノ眼光ヲ以テ能ク農村ノ實況
ヲ御覽ニナリマシテ、サウシテ他日又何等カノ講究ヲナサルガ適當ナル處置
カト考ヘマスガ故ニ、唯今、本院ニ於テハ之ヲ留保イタシテ、二讀曾ニ移ス
ベカラズト云フ本員ハ意見デアリマス、段々申述ベタイコトモアリマスガ、
要點ダケハ是デ盡キテ居ルト思ヒマスカラ、是デ引退リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=155
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156・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 志村源太郞君
〔志村源太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=156
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157・志村源太郎
○志村源太郞君 私ハ今日ノ農村ノ實況ニ鑑ミマシテ、小作調停法ノ極メテ
必要デアルコトヲ感ジマスルノデアリマス、少シク其理由ヲ申述べタク存ジ
マスルガ、旣ニ委員長ヨリ比較的詳細御報告ガアリマシタ後デアリマス、時
刻モ移リマス唯今ノ場合、極メテ簡單ニ其必要ノ所以ヲ述ベテ見タイト存ジ
やっと、今日ノ農村ノ狀態ハ實ニ局面ガ何レニ變ズルカト云フ場合ニ遭遇シテ
居ルヤウニ感ゼラレルノデアリマス、世界大戰ノ影響カラシテ、經濟上ニ
非常テル變動ヲ來タシマシタ、其波動ノ農村ニ及ビマシタ結果ハ、唯今阪本
君ヨリモ御述ベニナリマシタ通リ、地主ノ側ニ於キマシテモ、又小作人ノ側
ニ於キマシテモ、雙方共ニ經濟上ノ壓迫ヲ被ッテ居ルノデアリマス、又此文化
ノ進步、生活ノ向上、是等ガ農民ノ經濟ニ及ボス影響ハ共ニ現時ノ農民ノ經
濟狀態ニ非常ナル變化ヲ及ボシテ居リマス、此農民ノ收入ハ限リアル土地、
限リアル地方デアリマス、維新以來、農民及政府當局ノ努力ニ依リマシテ其
生產力ハ多大ニ增加イタシマシタ、併ナガラ經濟ノ變化、文化ノ變化ニ對應
シテ之ニ伴ウテ、行クダケノ地力ノ增進ハ行詰リマシタノデアリマス、茲ニ於
テ此經濟ノ壓迫ノ爲ニ收穫物ノ分配ニ付キマシテ地主小作ノ爭ガ最近ニ至ツ
テ各地ニ頻々ト起ルノデアリマス、是ハ詰リ此大原因カラ起リマス所ノ爭議
デアリマシテ、決シテ一部ノ煽動者ノ行爲トカ云フヤウナ、左樣ナ目前ノ原
因カラ起ッタモノデナイト信ズルノデアリマス、故ニ其爭議タルヤ、其原因
極メテ深ウゴザイマス、而シテ今日ノ農村ノ狀態ニ於キマシテ之ヲ如何ニ解
決スルカト云フヤウナコトニ付キマシテハ、唯此小作調停法ヲ以テ解決ガ付
クモノデハアリマセヌ、各般ノ方面ニ於テ、或ハ其負擔ノ方面ニ於キマシテヽ
或ハ其生產力ノ增加ニ於キマシテ、能力ノ增進、機械ノ使用若クハ色〓ノ農
業制度、卽チ產業組合ヲ造ルトカ、サウシテ互ニ貧富地主小作共ニ扶ケ合ッテ
使用制度、販賣、購買、若クハ利用ノ方面等ヲ講ズルトカ、各般ノ事柄ヲ盡
シマシテ此經濟ノ變化ニ對應スル外ナイノデアリマス、勿論是レ一ツヲ以テ
今日ノ農村ノ狀態ヲ救濟スルコトガ出來マセヌコトハ明カデアリマス、併ナ
ガラ近年ノ立法ヲ見マスト、段々此農村ノ狀態ガ明カニナリマシテ、貴衆兩
院ニ於キマシテモ之ニ對應スル所ノ政策ヲ段々決セラレルノデアリマス、旣
ニ昨年ノ議會ニ於テ產業組合ノ活動ニ稗益スル爲ニ中央金庫法ガ兩院ヲ通過
イタシテ居リマス、是ガ發達イタシマスレバ其金融ナリ、其生產物ノ販賣、
若クハ需要品ノ購買等ニ付キマシテ相當ニ便宜ヲ大小ノ農民ガ得ルコトトナ
ラウト思ヒマス、又大小ノ農民ガ共ニ一ノ組合ニ這入ッテ居リマシテ互ニ平
等ノ資格ヲ以テ協力シテ仕事ヲ致スコトニナリマシタナラバ農村ノ融和
ト云フコトガ期セラレルコトガ出來マセウト思ヒマス、又本年ニ於テ此小作
調停法ガ玆ニ衆議院ヲ通過シテ此貴族院ノ壇上ニ現ハレルコトニナリマシタ
ノデアリマス、詰リ此農村ノ近年ノ狀態ハ頻々トシテ重大ナル法案ヲ議決ヲ
要スル狀態ニアルノデアリマス、本案一ツガ此農村ノ狀態ヲ改良スベキモ
ノデハアリマセヌト思ヒマス、又今後ニ於テ、政府當局ニ於テ議會ニ於テ大
ニ審議考究シ制定スベキコトガアラウト存ズルノデアリマス、併ナガラ其理
山ヲ以テ本案ヲ不必要デアル、目下急ヲ要セナイト云フ譯ニハ參ラヌト思ヒ
マス、何トナリマスレバ此地主小作ノ爭ガ元〓地方ノ經濟ノ逼迫カラ起ッテ居
リマス、而シテ此農村ノ小作ノ爭ト云フモノハ、今日ノ日本ノ此農村ノ狀態ニ
於テハ地主側モ多數デアリマス、小作側モ多數デアリマス、其地主側ノ中ニ
ハ理解アル地主モアリマス、小作人ノ中ニモ理解アル小作ガアリマス、併ナ
ガラ互ニ多數デアッテ相對峙イタシマスル場合ニ於キマシテハ、自分ガ如何
ニ理解イタシマシテモ他ノ人ガ既ニ經濟ノ逼迫ニアルト云フコトヲ目前ニ見
ナガラ其爭議ヲ自ラ切リ出シテ相當ニ緩和シヤウト云フコトハナカ〓〓困難
ナコトデアリマス、玆ニ於テ日一日ヲ經ル中ニ互ニ感情ガ昂マリマシテ、或
場合、煽動的ノ人モ加ハリマシテ旣ニ意外ナル結果ヲ生ジマシテ、土地ガ荒
蕪ニ付セラレルトカ、中ニハ或ハ主從ノ關係或ハ親族ノ關係、若クハ隣保ノ
關係デアッテ、極メテ融和的態度ヲ執ッテ居ッタ農民ガ互ニ相反目スル、斯ウ
云フヤウナコトヲ實現スル場合ガアリマスノデアリマス、其結果、近來ノ統
計ヲ見マスルト、農村ノ農地ノ耕作面積ノ增加ト云フモノハ段々其步合ガ
減ッテ參ルト云フヤウニ見エルノデアリマス、最近ノ·····大正十一年ノ統計
ハ最モ著シイモノデアリマス、今其數字ヲ精シク存ジマセヌガ大正八年ヲ
最極端ト致シマシテ、ソレ以後ハ小作面積ノ增加率ニ於キマシテ、其他ノモ
ノニ於キマシテモ段々減ジテ居ルノデアリマス、勿論農家ノ戶數ノ減ルコト
ハ是ハモウ數年······十年以前カラノコトデアリマシテ、是ハ日本ノ農民ガ
耕作面積ノ少イ事情カラ顧ミマスト、農業ヲ轉ジテ工業ニ段々ト移ッテ行ッテ、
サウシテ各農家ノ生活ハ安定ヲ致サナケレバナラヌ必要ガゴザイマスルガ故
二、農家戶數ガ減ルト云フコトハソレハ長イ事情デアリマスカラ、敢テ憂フ
ルニ足ラヌト思ヒマス、併ナガラ耕作面積ノ減ルト云フ······減リハ致シマセ
ヌガ、增加ノ率ガ段々減ッテ行クト云フコトハ、是ハ大ニ注目スベキ現象ト存
ズルノデアリマス、何故ナレバ我國ハ一方ニ開墾助成法等ノ法律ヲ適用シテ
居リマシテ耕作面積ノ擴張ニ頗ル努力イタシテ居ルノデアリマス、ソレニモ
拘ラズ其增加ノ步合ガ段々減ッテ行クト云フコトハ、人爲的ノ政策ヲ用ヰル
ニ拘ラズ增加ノ步合ヲ减ルト云フコトハ頗ル注目スベキコトト存ズルノデア
リマス、既ニ〓糧ノ第一デアル所ノ米ニ於テ、年々內地產額ニ於テ五百萬石
足ラナイノデアリマス、之ヲ新領土ノ朝鮮カラシテ三百萬石前後、臺灣カラ
シテ七八十萬石前後、其外外國カラシテ二百萬石前後ノモノヲ輸入シテ、僅
ニ此米ノ需要ヲ充シテ居ルノデアリマス、斯樣ナ國柄ニ於キマシテ耕作面積
ノ增加率ガ人口ノ增殖ニ伴ハズシテ、寧ロ減退スル狀況ヲ現ハスト云フコト
ハ頗ル憂慮スベキコトト存ズルノデアリマス、是ハ卽チ此耕作イタス所ノ農
民ノ狀態ニ於テ互ニ從來扶ケ合フ所ノ氣風ヲ持ッテ居ッタ所ノ地主小作ガ互ニ
反目シナケレバナラヌ狀態ニ立ッテ居ル、其爲ニ或ハ土地ヲ抛棄スル者ガア
ル、不毛ノ土地ニ致ス者ガアル、或ハ開墾スベキ所ヲ開墾セズニ置ク所ガア
リマス、斯樣ナコトハ餘程、日本ノ此農業ノ上カラ見マシテ考ヘナケレパナ
ラヌコトト存ズルノデアリマス、此狀態ヲ何トカシテ改良シ、農民ヲシテ其
仕事ニ······假令其仕事ハ商工業ノ如ク有利デナイニシテモ、薄利デアルニシ
テモ、其事業モ少クモ安定ヲシテ、サウシテ安ンジテ、其仕事ニ從事スルヤ
ウニ致サヌト、日本ノ食糧、此物資ノ少イ日本ニ於キマシテハ他日ニ於テ國
民全體ガ臍ヲ嚙マナケレバナラヌ時代ガ參ラウカト存ズルノデアリマス、地
主小作ノ關係ニ付キマシテハ色〓論者ガアラレマシテ、是ハ土地ノ分配制度
ガ宜シクナイノデアル、宜シク東歐羅巴ノ土地改革ノ如ク、土地ヲスッカリ
割直シタラ宜カラウト云フヤウナ論者モアルヤウデアリマス、或ハ又之ヲ國
有ニスベシト云フヤウナ論者モアルノデアリマス、土地所有權ヨリハ小作權
ニ重キヲ認メタガ宜カラウ、斯樣ナ色〓ナ論モアリマシテ、諸外國ノ實施イ
タシマシタ實例モ無イデハゴザイマセヌ、併ナガラ我國ニ於キマシテ此農業
ヲ重シトシ、サウシテ主トシテ農產物ニ依ッテ食糧ヲ充タシテ居リマスル我國
ニ於キマシテ、左樣ナ急激ナル實情ニ變化ヲ來タスヤウナ政策ハ決シテ我國
ニ行フベキモノデナイト考フルノデアリマス、唯經濟ノ變化、推移ニ從ヒマ
シテ白然自然ニ此土地ノ分配モ變リ、富ノ分配モ自ラ變ルト云フヤウナ狀態
ニ致サナケレバナラヌカト存ズルノデアリマス、從テ收穫分配ノ如キモ直チ
ニ如何ニセヨト云フコトヲ決メルコトハ、ナカ〓〓ムヅカシイノデアリマシ
テ、古來ノ習慣ガアリマス、又秩序ノ急激ナル變化ヲ見ナケレバナリマセヌ、
玆ニ於テ此小作調停法案ノ規定ト云フモノハ政府ガ數年來、相當ノ人士ヲ
集メラレテ、〓究セラレマシタ結果、遂ニ今日ノ場合、土地ノ分配法ヲ議ス
ルナドト云フ時デナイ、又小作法ヲ制定スベキ時デナイ、ソレデ在來ノ習慣
ガ非常ニ違フノデアリマスカラ、先ヅ以テ現時ノ狀態ニ應ズル所ノ小作調停
ノ方法ヲ定メテ、サウシラソレニ依ッテ當業者ヲシテ互ヒ互ヒノ事情ヲ能ク諒
解セシメ、而シテ妥協スベキ點ニ妥協セシムル、卽チ理解アル地主ノ意見、
理解アル小作人ノ意見、理解アル第三者ノ立會ヲ以テ玆ニ合體セシムル、
サウシテ差向キノ問題ヲ解決シテ行ク、是ガ小作調停法ノ骨子ト思ハルルノ
デアリマス、ソレデ此案ノ大體ノ立テ方ハ詰リ借地借家ノ調停法ノ趣旨ニ
依ッテ居ルモノト見ラルルノデアリマス、今日ノ場合ニ於テハ地方ノ事情ニ適
合シ、多年ノ習慣ニ對應イタシマシテ、相當ノ解決ヲ付ケルト云フコトハ、
此調停ノ主義ニ依ルコトガ一番妥當デアルト信ズルノデアリマス、先刻、特
別委員長カラ御報告ニナリマシタル通リ、平素中央及各地方ニ小作官ヲ置イ
テ、而シテ其小作官ハ特別任用ニ依ッテ、相當ニ農業ニ經驗ノアル人ヲ採用シ
テ、地主小作關係ヲ平素能ク調查シ、成ルベク爭議ノ起ラヌコトヲ努メル、
萬一、起ルヤウナ場合ニアリマシテハ能ク其事情ヲ究メ、一朝爭議ノ起リマ
シタ場合ニハ、裁判所ハ或ハ其ノ土地ノ名望家ヲ以テ一應勸解セシムル、又
ハ委員ヲ相當ノ人ヲ參加セシメテ委員會ヲ組織シテ、其前ニ雙方當事者ヲ集
メテ能ク熟談シ、互ヒノ事情ヲ打明ケテ、サウシテ其ノ解決ヲ求メルト云フ
方法ニ此案ハナッテ居ルヤウニ考ヘルノデアリマス、是ハ此仕組ハ最モ適當
ナル仕組デアリマシテ、現時ノ農村ノ狀態、又我國ノ將來ノ此農業ノ變化ト
云フモノニ對應ヲシテ行キマスルノニハ斯ノ如キ手段ヲ執リマスルコトガ最
モ適當ナリト信ズルノデアリマス、依ッテ本案ハ私ハ成ルベク其成立ヲ希望
イタシマスル故ニ、此場合、敢テ贊成ノ趣意ヲ以テ諸君ノ御〓聽ヲ汚シタ次
第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=157
-
158・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 別ニ御發言モ無イト認メマスカラ採決ヲ致シマ
ス、本案ヲ第二讀會ニ移スベシトスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=158
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159・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=159
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160・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=160
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161・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=161
-
162・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存アリマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=162
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163・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマメ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=163
-
164・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=164
-
165・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=165
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166・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=166
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167・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=167
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168・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=168
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169・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=169
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170・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=170
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171・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=171
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172・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十九、鶴見川改修費國庫補助ノ請願、會
議
意見書案
鶴見川改修費國庫補助ノ件
神奈川縣橋樹郡大綱村農飯田助太夫外百九十六名呈出
右ノ請願ハ東京府及神奈川縣ヲ貫流スル鶴見川ノ沿岸地方ハ農作地ニシテ
殊ニ下流一帶ノ地ハ橫濱港ニ近ク適當ナル工場地ナリト雖一朝洪水汎濫ス
ルトキハ農作物、工場ノ被害多ク且京濱間ノ交通ヲ杜絕シ同地方ノ發展ヲ
阻礙スルフト大ナルノミナラス這般ノ大震災ニ依リ甚大ナル損害ヲ被リ地
方費ノミニテハ到底修理シ難キヲ以テ同川ノ大改修ヲ行フ爲工費ノ三分ノ
二ヲ國庫ヨリ補助セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
大正十三年月日
貴族院議長公爵徳川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=172
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173・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本請願ハ採擇スルコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=173
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174・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス、次ノ議事日程ハ決定次第、
本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後四時八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=004903242X00819240713&spkNum=174
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