1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十四年二月十二日(木曜日)
午前十時十三分開議
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議事日程 第十號 大正十四年二月十二日
午前十時開議
第一 預金部預金法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第二 大藏省預金部特別會計法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第三 臨時國庫證券收入金特別會計法廢止法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第四 海上衝突豫防法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲシテ諸般ノ報〓ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
去ル九日本院ニ於テ採擇スヘキモノト議決シタル鴛泊漁港修築ノ請願外一
件ノ請願ハ各意見書ヲ附シ卽日之ヲ政府ニ送付セリ
同日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
豫算委員會
委員長伯爵林博太郞君副委員長石渡敏一君
海上衝突豫防法中改正法律案特別委員會
委員長子爵片桐貞央君副委員長阪本彭之助君
同日特別委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
海上衝突豫防法中改正法律案可決報告書
一昨十日請願委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
請願文書表第四囘報告書
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
會計檢査院法中改正法律案
山本小山平山卓也発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、沖原男爵病氣ニ付
キ會期中請暇ノ申出ガゴザイマシタ、之ヲ許可スルコトニ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
四五八步손호発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第一、預金部預金法案、第二、大藏省預
金部特別會計法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
預金部預金法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年二月七日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
預金部預金法
第一條法律勅令ニ依リ大藏省預金部ニ預入ルル現金ハ預金部預金トシ大
藏大臣之ヲ管理ス
第二條郵便貯金トシテ受入レタル現金ハ之ヲ大藏省預金部ニ預入レ其ノ
利子ヲ以テ貯金利子ノ支拂ニ充ツヘシ
第三條預金部預金ノ種類、利子及取扱ニ關シテハ大藏大臣之ヲ定ム
第四條預金部預金竝大藏省預金部特別會計ノ積立金及支拂上ノ餘裕金ハ
之ヲ預金部資金トシ預金部資金運用委員會ニ諮問シ有利且確實ナル方法
ヲ以テ國家公共ノ利益ノ爲ニ之ヲ運用スヘシ
預金部資金運用委員會ノ組織權限及預金部資金ノ運用ニ關スル規定ハ勅
令ヲ以テ之ヲ定ム
第五條預金部資金ノ運用ニ關スル事務ハ大藏大臣ノ定ムル所ニ依リ日本
銀行ヲシテ之ヲ取扱ハシム
附則
本法ハ大正十四年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
預金規則、明治二十三年法律第七十五號及明治三十九年勅令第二百十一號
ハ之ヲ廢止ス
本法施行前大藏省預金部ニ於テ受入レタル預金ハ之ヲ預金部預金トス
預金規則第一條第三號ノ規定ニ依ル預金及其ノ預金ヲ以テ購入保管シタ
ル國債證券竝明治三十九年勅令第二百十一號ニ依ル預金及預託ノ國債證劵
ニシテ本法施行ノ際現ニ存スルモノニ付本法施行後三月內ニ預ヶ人之カ拂
戾ノ請求ヲ爲ササルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ預金ハ之ヲ郵便貯金ニ振
替ヘ國債證劵ハ之ヲ郵便貯金法第九條ノ規定ニ依リ購入シタルモノト看做
シテ保管ス
大藏省預金部特別會計法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年二月七日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家逹殿
大藏省預金部特別會計法
第一條大藏省預金部ノ會計ハ之ヲ特別トシ其ノ歲入ヲ以テ其ノ歲出ニ充
ツ
第二條本會計ニ於テハ預金部資金ノ運用利殖金及附屬雜收入ヲ以テ其ノ
歲入トシ預金部預金ノ利子、運用手數料、每年度豫算ノ定ムル所ニ依リ
他ノ會計へ繰入ルル金額、事務取扱費、附屬諸費及運用損失金ヲ以テ其
ノ歲出トス
第三條預金部資金ニ屬スル運用資產ニシテ價格ノ減損ヲ生シタルモノア
ルトキハ本會計ノ決算上生シタル剰餘又ハ積立金ヲ以テ之ヲ償却スヘシ
第四條本會計ノ決算上剰餘ヲ生シタルトキハ前條ノ償却ニ充テ殘餘アル
トキハ之ヲ積立ツヘシ
本會計ノ決算上不足ヲ生シタルトキハ積立金ヨリ之ヲ補足スヘシ
第五條所管大臣ハ日本銀行ニ命シ預金部預金ノ利子ノ支拂ヲ爲サシムル
爲之カ資金ヲ日本銀行ニ交付スルコトヲ得
第六條政府ハ每年本會計ノ歲入歲出豫算ヲ調製シ歲入歲出ノ總豫算ト共
ニ之ヲ帝國議會ニ提出スヘシ
第七條本會計ノ收入支出ニ關スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ大正十四年度ヨリ之ヲ施行ス
明治二十三年法律第二十一號ハ之ヲ廢止ス但シ大正十三年度分預金特別會
計ニ付テハ仍其ノ效力ヲ有ス
預金特別會計ニ屬スル積立金ハ之ヲ本會計ニ歸屬セシム
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=4
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005・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯今、議題ニ上ボリマシタ預金部預金法案及大藏
省預金部特別會計法案ニ付キマシテ簡單ニ說明ヲ致サウト存ジマス、大藏省
預金部資金ハ戰爭前卽チ大正三年六月末ニ於キマシテ二億九千餘萬圓デアリ
マシタモノガ、最近大正十三年十二月末ニ於キマシテハ十五億五千八百餘萬
圓ノ巨額ニ上ボリマシテ、今後尙ホ年ヲ逐ウテ增加スルノ趨勢ヲ有シテ居ル
ノデアリマス、而モ本資金ノ大部分ハ多數國民ノ零碎ナル資金ノ預入ニ係ル
モノデアルコトニ鑑ミマシテ、是ガ運用ニ付テハ最モ愼重ニ考慮ヲ拂ヒマシ
テ、適切公正ヲ期スルコトガ洵ニ緊要デアルト云フコトハ言ヲ俟タナイ所デ
アリマス、然ルニ本資金ノ運用ニ付キマシテハ、明治十八年太政官布〓預金
規則ニ於キマシテ、唯「大藏省中ニ預金局ヲ置キ驛遞局貯金其他ノ貯金積立
金ヲ預リ之ヲ保管利殖セシム」ト云フ極メテ簡單ナル規定ガ存スルニ止リマ
シテ、何等法令上ノ制限ナク、全ク大藏大臣ノ專行ニ委ネテ居ルノデアリマ
スルガ故ニ、是マデ動モスレバ其運用ガ放漫不確實ニ流レルトノ非難ヲ招ク
ニ至ッタノデアリマス、加之、預金部資金ノ收支經理ニ付テハ右ニ述べマシ
タ預金規則ニ於テハ殆ド何等規定スル所ガアリマセヌ、明治二十三年法律第
二十一號ニ於テハ、其規定ガ存シテ居リマスケレドモ、此法律ハ單ニ利殖金
及預金利子ニ付テノミ歲入歲出トシテ經理スルノ規定ヲ設クルニ過ギナイノ
デアリマシテ、要スルニ預金部資金ノ收支損益、資產ノ情況等ニ付キマシテ
ハ今日明確ナル經理ノ法制ガ存在シテ居ナイト云フ情況デアリマス、右ノ事
態ニ鑑ミマシテ、政府ハ今囘、行政財政ノ整理刷新ヲ行フヲ機トシテ、現行預
金部制度ニ改革ヲ加フルノ急務ナルヲ認メ、愼重考究ヲ重ネタル結果、預金
規則ハ之ヲ廢止イタシマシテ、新ニ預金部預金法ヲ制定シ、又明治二十三年
法律第二十一號ハ之ヲ廢止イタシマシテ、大藏省預金部特別會計法ヲ制定ス
ルコトニ致シマシテ、玆ニ是等ノ法案ヲ提出スルニ至ッタ次第デアリマス、
先ヅ預金部預金法案ニ付テ其要點ヲ申上ゲテ見マスレバ、郵便貯金其他法律
勅令ニ依リ大藏省預金部ニ預入レル所ノ現金ハ之ヲ預金部預金トシテ大藏大
臣ガ之ヲ管理シ、大藏省預金部特別會計ノ積立金及支拂上ノ餘裕金ト共ニ之
ヲ預金部資金ト致シテ、有利且ツ確實ナル方法ヲ以テ、國家公共ノ利益ノ爲
ニ之ヲ運用スルコトニ致シマシテ、特ニ諮問機關タル預金部資金運用委員會
ヲ設置イタシマシテ、本資金ノ運用ハ該委員會ニ諮問シタル上、之ヲ決定イタ
シマシテ以テ運用ノ一層適切公正ヲ期スルノ制度ヲ立テルコトニシタノデア
リマス、而シテ該委員會ノ組織權限及資金運用ニ關スル詳細ノ規定ハ勅令ヲ
以テ之ヲ定ムルコトトナッテ居ルノデアリマス、次ニ大藏省預金部特別會計法
案ニ付キ一言イタシマスレバ、預金部ノ收支經理ノ完全ヲ期スルガタメ大藏
省預金部特別會計ヲ設置スルコトニ致シマシテ、運用利殖金及附屬雜收入ヲ
以テ其歲入トシ、是マデノ如ク預金ノ利子ヲ歲出トスル外ニ、運用手數料、每
年度豫算ノ定ムル所ニ依リ一般會計其他ノ會計へ繰入ルヽ所ノ金額、事務取
扱費、附屬諸費、運用損失金ヲ其歲出トスルト共ニ、從來預金利子ハ一般會
計ヲ經由シテ支出スルノ制度デアリマシタノヲ改メマシテ、總テ支出ハ一般
會計ヲ經由セズ、直接ニ本會計ヨリ之ヲ支出スルコトニ致シマシタ、尙ホ預
金部資金ニ屬スル所ノ運用資產ハ之ヲ評價イタシマシテ價格ノ減損ヲ生ジタ
場合ニ於ケル償却ニ付テモ是ガ規定ヲ設ケマスル等、收支經理ノ明確ヲ期ス
ルコトトシタノデアリマス、何卒御審議ノ上、御協賛アラムコトヲ希望スル
次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通〓ニ依リマシテ菅原君ニ發言ヲ許シマス
〔菅原通敬君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=6
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007・菅原通敬
○菅原通敬君 私ハ簡單ニ御尋ネ致シタイト思フノデアリマス、私ノ御尋ネ
致シマスル所ハ固ヨリ政府攻擊デハアリマセヌ、又固ヨリ八百長デハナイノ
デアリマシテ、純眞ナモノデアリマスカラ、成ルベク御深切ニ御答辯ヲ願ヒ
タイト思フノデアリマス、預金部制度ノ改革ハ今囘政府ノ行ハレムトスル所
ノ行政財政整理ノ中ニアリマシテモ、最モ注目スベキモノノ一ツト致シマシ
テ、私ハ大ニ之ヲ歡迎スルノデアリマス、從來、財界政界各方面ヨリ幾多疑
惑ノ下ニ置カレテアリマス所ノ此預金部會計ナルモノガ、此度ノ改正ニ依リ
マシテ將來大ニ改善セラルヽデアラウト云フコトヲ私ハ喜ブノデアリマス、
デ、預金部制度ノ改革ハ洵ニ結構デアリマス、何サマ、明治十八年太政官布
告以來ノ改正ト云フコトデアルノデアリマスカラ、固ヨリ緊切ナコトデアル
ノデアリマス、併ナガラ制度ノ改正ハ唯將來ヲ律スルモノデアリマシテ、此
度ノ御提案ニナリマシタ二法案ニ就テ見マシテモ、何等過去ノ整理ニ及ンデ
居ラナイヤウナコトノアリマスノハ、私トシテ極メテ遺憾ニ感ズルノデアリ
Tv.過日、衆議院ノ委員會ニ於テ政府ヨリ開示セラレマシタ預金部資金ノ
運用內容ナルモノヲ新聞デ見タノデアリマス、之ヲ見テ世人何人カ之ニ驚カ
ザル者ガアルデアリマセウカ、之ヲ見テ驚クト同時ニ、直チニ此後始末ハド
ウスルカト云フコトノ疑ヲ何人ト雖モ有ツデアラウト思フノデアリマス、デ
此驚キト此疑トハ必ズ當然起ッテ來ベキコトデアリマス、預金法案理由書ニ
依リマスト云フト「預金部資金ノ運用ヲ一層適切公正ナラシムルカ爲」云
云ト書イテアリマス、卽チ從來ノ運用ガ適切公正デアッタガ、尙ホ一層之ヲ適
切公正ナラシムルト云フ意味ニナッテ居ルノデアリマス、從來、適切公正デ
アッタモノデアッタナラバ、何等玆ニ制度ノ改正ノ必要ガナイト思フノデアリ
やっゝ從來ノ運用ニ適切公正ナラザルモノアリシガ故ニ、玆ニ之ヲ改正スル
ノ必要ガ生ジテ來タモノデアルト言ハナケレバナラヌノデアリマス、又何人
モ過日來政府ノ開示セラレマシタ內容ヲ見テ從來ノ運用ガ適切公正デアッタ
トハ之ヲ認メル者ハ無カラウト思フノデアリマス、免モ角、從來ノ運用ト云
フモノハ適切公正ヲ得ザルモノガアッタト云フコトハ、唯今大藏大臣ノ御說
明ノ言葉ノ中ニモ之ヲ見ルコトガ出來ルノデアリマス、卽チ不良貸付、不當貸
付或ハ囘收ノ不能ナルモノ、囘收ノ容易ナラザルモノ等ノ數〓モ含マレテ居
ルト云フコトハ是ハ何人モ否認シナイコトデアラウト思フノデアリマス、
デ勿論、是等ノ運用ノ大部分ト云フモノハ歐羅巴大戰爭後ニ多ク屬スルノ
デアリマスカラ、當時ニ於キマシテハ國民皆醉ウテ居ッタ時代デアリマシテ、
民間ト言ハズ、政府ト言ハズ、上下悉ク放漫政策ニ陷ルコトヲ免レナイヤウ
ナ事情デアッタノデアリマスカラ、其事情ニ付キマシテハ、是ハ大ニ諒トシ
テ考ヘナケレバナラヌ點モアリマスケレドモ、免モ角、玆ニ斯樣ナ不始末ノ
事實ガアルト致シマシタナラバ、之ニ付テハ如何ナル方針ヲ以テ之ヲ整理シ
テ行クカ、之ニ對シテハ如何ナル對策ヲ以テ之ニ臨ンデ行クカト云フコトニ
付テハ、政府トシテハ相當ニ御考慮ニナラナケレバナラヌコトデナイカト思
フノデアリマス、然ルニ唯將來ニ向ッテ制度ヲ改正シテ行クト云フダケノ態
度ニ依ッテ之ニ御臨ミニナルト云フコトハ、聊カ物足ラナイヤウナ感ジガス
ルノデアリマス、デ、之ニ對シマシテハ政府ニ於カレマシテモ相當御苦心ノ
コトデアラウト思フノデアリマスガ、其御苦心ノアルダケ、此場合、其責任
ノ所在ヲ明カニセラレテ置クト云フコトガ必要ヂヤナイカト思フノデアリマ
ス、此後始末ト云フモノヲ如何ニ爲サラウト云フノデアリマスカ、之ニ對ス
ル御所信ヲ伺ッテ置キタイノデアリマス、是ガ第一ニ御尋ネスル點デアリマ
ス、次ニハ此郵便貯金ノ利子ノコトニ付テ御尋ヲ致シタイノデアリマス、預
金部ノ預金中ニハ郵便貯金ガ殆ド其九割ヲ占メテ居ルノデアリマス、從テ預
金部ノ資金ノ運用ト云フコトニ付キマシテハ、此國民ノ零碎ナル資金ノ預入
レテアル所ノ郵便貯金ト云フモノヲ運用スルコトデアルトシテ、之ヲ主眼ト
シテ考ヘテ行カナケレバナラヌモノデアラウト思フノデアリマス、サレバ今
囘ノ預金法案ニ於キマシテモ、有利確實ナル方法ヲ以テ國家公共ノ利益ノ爲
ニ之ヲ運用スルト云フコトニ御定メニナッタ所以デアラウト思フノデアリマ
ス、然ルニ此預金部ノ貸付金ハ、普通ニ低利資金ト稱セラレテ居リマスル通
リ、極メテ低利デアルノデアリマス、デ、其貸付ハ國家公共ノ利益ノ爲ニ爲ス
モノデアルト云フノデアリマスカラ、高利デアルト云フコトハ勿論宜シクナ
イコトデアルノデアリマス、又預金部ハ營利ヲ目的トシテ居ルモノデアリマ
セヌカラ、預金部ガ中間デ多ク儲ケルト云フコトノ必要ハナイノデアリマス、
成ルベク低利デアルト云フコトハ必要トスル所デアリマスガ、サリナガラ之
ヲ餘リニ低利ニスルト云フコトハ、一方ニハ大イナル弊害ヲ釀成スルノデア
リマス、而シテ他方ニハ又預金者ノ利益ヲソレダケ殺グト云フコトニナルノ
デアリマス、ソレデアリマス故ニ、預金部ノ貸付ト云フコトモ、餘リ過當ニ
低利デアルト云フコトハ宜シクナイコトデアルノデアリマス、デ、政府ニ於テ
ハ四分八厘ニ預カッタモノヲ五分ニ貸付ケテモ損ハシナイト云フカモ知ラヌ
ノデアリマスケレドモ、政府デ金ヲ借リル時分ニハ六分七厘、乃至九分ニモ、
八分ニモ近イ所ノ金ヲ借リテ置キナガラ、假令特別會計デアルト申セ、四分
五厘······八厘或ハ五分ト云フヤウナ······四分八厘ト云フモノハナカッタヤウ
デアリマスガ、五分ト云フヤウナ極メテ低利ニ於テ之ヲ貸付ケルト云フコト
ハ、餘リニ調子ノ合ハナイコトデアルト思フノデアリマス、而モ其低利資金
ヲ利用スルモノノ中ニハ、銀行會社ノ救濟資金若クハ整理資金ト云フヤウナ
モノモ大分出テ居ルヤウニアルノデアリマス、是等ノ銀行會社ハ極メテ低利
ノ預金部ノ資金ヲ借入レテ、唯其中間ニ在ッテ利鞘ヲ儲ケテ行クト云フコト
ダケニ依ッテ之ヲ處置シテ居ルモノモアルヤウニアルノデアリマス、是ハ取
リモ直サズ、其銀行會社ニ對スル一種ノ補助金デアリマス、其利鞘ニ相當ス
ル金ヲバ其銀行會社ニ與ヘテヤルト云フコトト結果ハ同ジデアリマス、而モ
其補助金ト云フモノハ誰ガ出シテ居ルノデアルカト云フト、預金者ノ利益ヲ
殺イデ之ヲ與ヘテ居ル結果ニナルト云フコトヲ見ルニ付キマシテハ、甚ダ公
正適切ナル所ノヤリ方デアルトハ言ハレナイコトニナルノデハナイカト思フ
ノデアリマス、玆ニ於テ私ハ郵便貯金ノ利子割合ヲモット之ヲ引上ゲルノ必
要ガアルト云フ感ジヲ起スノデアリマス、御承知ノ通リ郵便貯金ノ利子割合
ハ唯〓年四分八厘ト云フコトニ定メラレテアリマス、而モソレハ預入レノ月
ト拂戾シノ月トニハ利子ヲ附セナイト云フ定メニナッテ居リマスカラ、之ヲ
通算シテ見ルト云フト漸ク四分ソコ〓〓ニシカナラヌノデアリマス、デ、此
四分八厘ト云フ利子割合ハ何時定メラレテ居ルカト見マスルト、三十八年ノ
勅令ニ依ッテ定メラレテ居リマス、更ニ之ヲ遡ッテ見マスルト三十一年ノ勅令
ニモ矢張リ四分八厘ト云フコトニナッテ居リマスガ、更ニ又之ヲ遡ッテ調ベテ
見マシタル所ガ、明治十七年ノ農商務卿カラ太政官ニ屆出デラレテアル所ノ
改定約定書ト云フモノニ其淵源ヲ發シテ居ルノデアリマス、サウシテ見ルト
云フト今日ニ至ル此四十有餘年間ハ、此四分八厘ト云フ郵便貯金ノ利子割合
ハ其儘釘付ケニナッテシマッテ居ル、少シモ改正ハセラレテ來テ居ラナイ、市
場ノ金利ガドウナラウトモ、財界ノ情況ガドウ變ハラウトモ、ソレニハ無頓
著ニ、全ク沒交涉ニ、從來ノ仕來リノ儘ノ惰力ニ依ッテ、其儘推移セラレ
テ今日ニ來テ居ルモノデアルト見ルヨリ外ナイノデアリマス、デ、郵便貯金ノ
利子ガ四分八厘ト云フ低利ニ依ッテ、而モソレガ實際ニ於テ四分一二厘ニシ
カモ當ラヌト云フヤウナコトデハ、如何ニシテ一體國民ノ貯蓄ヲ奬勵スルコ
トガ出來ルデアリマセウカ、サレバ是マデモ郵便貯金ノ利子ノ引上ゲト云フ
コトニ付テハ度〓說モアッタノデアリマス、デ、現大藏大臣濱口君ナドモ嘗
テハ其論ヲ唱ヘラレタコトモアルヤウニ私ハ記憶イタシテ居リマス、然ルニ
今日ニ至ルマデ未ダ此利子割合ト云フモノガ改正セラレテ居ラナイ、今ヤ國
民ノ勤儉貯蓄ト云フモノヲ政府ニ於テハ頻ニ奬勵セラレテ居ル、デ、復興貯
蓄債劵ナント云フモノモ發行セラレテ居ル、而シテ盛ンニ勤儉貯蓄ヲ奬勵セ
ラレテ居ル此場合デアリマスカラ必ズヤ郵便貯金ノ利子割合ヲ高ムルト云フ
コトニ付テハ相當ナル御考慮ヲ費サレテアルコトト自分ハ信ジテ居ッタノデ
アリマス、然ルニ先囘、大藏大臣ガ衆議院ニ於テ御述べニナッタ所ヲ速記錄
ニ就テ見テ見マスルト、大藏大臣ハ郵便貯金ノ利子引上ゲニ付テハ御贊成ニ
ナッテ居ラヌヤウデアリマス、又寧ロ之ヲ引上ゲルト云フコトハ策ノ得タル
モノニアラズト言ッテ反對ノ意思ヲ表明セラレテ居ルノデアリマス、其理由
トスル所ハ若シ郵便貯金ノ利子割合ヲ高ムルコトニナレバ、國家公共ノ利益
ノ爲ニ貸付クル所ノ貸付金ノ利子割合モ之ヲ高メテ行カナケレバナラヌト云
フコトニナルノデ、此兩者ノ合致ヲ得ルコトガ出來ナイト云フガ爲ニ反對デ
アル、斯ウ云フヤウニ言ハレテ居ルノデアリマスガ、是ハ私ト致シマシテハ
甚ダ實ハ感服イタサヌノデゴザイマス、私思フニ此郵便貯金ハ國家ノ經營ス
ル所ノ所謂國營ノ貯蓄機關デアリマス、ドコマデモ國民ノ勤儉貯蓄奬勵ト云
フコトヲ其本旨トシテ考ヘナケレバナラヌコトデアラウト思フノデアリマ
ス、之ヲ國家公益、公共ノ利益ノ爲ニ貸付クルト云フヤウナコトハ、是ハ單
ニ其貯金ノ一ツノ運用方法ニ過ギナイノデアリマス、ドチラガ主デアッテ、
ドチラガ從デアルカ、、 、ハ能ク考ヲ要スル所デアルト思フノデアリマス、
勿論、郵便貯金ノ利子ヲ高メタガ爲ニ貸村ノ利子モ高メナケレバナラズ、貸
付ノ利子ヲ高メネバナラヌガ爲ニ、其運用ノ方法ガ十分出來兼ネル、斯ウ云
フ風ノコトデアリマスナラバソレハ勿論考ヘナケレバナラヌコトデアリマ
ス、サリナガラ今日ノ低利資金ハ先刻申シマシタ通リ過當ニ安イノデアリマ
ス、今ノ五分ノ貸付ヲ五分五厘ニ致シマシテモ、六分ノ貸付ヲ六分五厘ニ致
シマシテモ、矢張リ低利ハ低利デアリマス、低利資金ハ低利資金デアリマシ
テ世間ノ普通ノ金利ヨリハ頗ル安イノデアリマス、決シテ其運用ニ困ルヤ
ウナコトハナイノデアリマス、サウデアリマスカラ今日ノ郵便貯金ノ利子割
合ヲ五分ニ上ゲマシテモ、或ハ五分五厘ニ上ゲマシテモ、之ヲ公共ノ利益ノ
爲ニ運用シテ行クト云フコトニ付テハ少シモ困難ハナイト思フノデアリマ
ス、而モ此低利資金ナルモノノ非常ニ安イト云フコトハ、先刻申シマシタ通
リニ、一方ニ非常ナル弊害ヲソレニ依ッテ釀成スルト云フコトニナルノデア
リマスカラ、寧ロ之ヲ相當ニ高メルト云フコトガ宜シイノデハナイカ、デ
公共ノ利益ノ爲ニ運用スル其貸付金ヲ成ルベク安クシテ置クト云フコトハ、
是ハ結構デアリマス、是ハ結構ナコトデアリマスケレドモ、多數國民ノ貯蓄
者ノ利益ヲ殺イデ、ソレニ與ヘテヤラナケレバナラヌト云フコトハナイト思
フノデアリマス、ソレハ社會政策上カラ論ジマシテモ、大イニ考究シナケレ
バナラヌコトト思フノデアリマス、デ、或ハ申スデアリマセウ、成程、郵便
貯金ノ利子割合ハ安イカモ知ラヌ、安イカモ知ラスケレドモ、國民ハ未ダ何
モ愬ヘテ居ラヌデハナイカ、其證據ハ郵便貯金ハ年々非常ナル割合ヲ以テ增
加シテ來テ居ル、ソレニ依ッテ見テモ郵便貯金ノ利子割合ハ何モ安過ギルト
云フコトハナイデハナイカ、國民ハソレダケノ必要ヲ愬ヘテ居ラヌ、斯ウ言
ハレルカモ知リマセヌガ、郵便貯金ノ年々增加シテ來ルト云フコトニ付テハ
色〓原因モアルデアリマセウ、又若シ此利子割合ヲ高メルコトニナリマシタ
ナラバ郵便貯金ノ增加ト云フモノハ、或ハ今日ヨリモマダ數倍スルカモ知
ラヌ、又假令國民ノ方カラ利子引上ゲノ要求ガナイトシテモ、其零碎ナル資
金ヲ預入レタガ爲ニ得ラルベキ利益ヲ與ヘズニ置クト云フコト······當然與ヘ
テ然ルベキモノヲ國民ガ默ッテ居ルカラ與ヘナイト云フヤウナヤリ方ハ、是
ハ決シテ宜シキヲ得タモノデハナイト思フ、又或ハ郵便貯金ノ利子割合ヲ高
ムルト云フコトニナレバ、一般市場ノ金利ヲ高ムルニ至ル虞レガアルト云フ
コトヲ申サレルカモ知レマセヌガ、是ハ私ハ郵便貯金ノ利子割合ヲ高メマシ
テモ、一般市場ノ金利ニ影響スルトハ考ヘマセヌ、一步讓リマシテ、假
其虞レガアルト致シマシタ所ガ、其虞レアル爲ニ國民ノ利益ヲソレノ犠牲ニ
供セシムルト云フコトハ宜シクナイト思フノデアリマス、又或ハ郵便貯金ノ
利子割合ヲ高ムルコトニナレバ、國民ノ貯蓄ハ多ク郵便局ニ集マルト云フコ
トニナッテ、銀行ノ預金ヲ減ラスト云フヤウナ虞レガアリハシナイカ、ソコ
ニ顧慮セラルヽコトモアラウト思フノデアリマスケレドモ、私ハ斯カル問題
ニ付テ、左樣ナ御考慮ハ御無用ノコトデアルト考ヘルノデアリマス、斯樣ナ
譯デアリマシテ私ハ郵便貯金ノ利子割合ヲ高メラレルノ必要ガアルト思フノ
デアリマスガ、政府ニ於テハ如何ニ御考ヘニナルノデアリマスルカ、果シテ
衆議院ニ於テ御述べニナッタ通リノコトデアリマスカ、又ソレハ私ノ解釋違
ヒデアリマスカ、大藏大臣ノ御意見ヲ御伺ヒスルモノデアリマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=7
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008・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯今、菅原君ヨリ二箇條ノ御質問ガアリマシタ、之
ニ御答ヲ申サウト思ヒマス、第一問ハ預金部ノ資金ヲ從來各方面ニ貸付ケテ
居ル、中ニハ放漫不確實、或ハ不良ノ貸付ト認ムベキモノガアル、此整理、
此始末ヲ如何ニスル積リデアルカ、此度ノ政府ノ提案ニ依レバ、將來ニ向ッ
テ預金部ノ改善ヲ圖ル、預金部資金ノ運用ニ付テ適切公正ヲ期スルト云フコ
トハ誠ニ結構ナコトデアルケレドモ、ソレト同時ニ既往ノ貸付ヲ如何ニ整理
スベキヤト云フコトニ付テ政府ノ意見ヲ考慮シナケレバナラヌ、此點ニ付テ
ハドウ考ヘルカト云フ大體ノ意味ノ御質問デアリマシタ、預金部ノ資金ノ旣
往ノ貸付ニ付キマシテハ唯〓菅原君ガ御指摘ニナリマシタ通リ衆議院ノ委員
會ニ於テ委員諸君ノ要求ニ依リマシテ、或程度マデ之ヲ公表イタシタノデア
リマス、御覽ノ通リ其貸付ハ非常ニ多岐ニ亙ッテ居リマス、私ハ其旣往ノ多
岐ニ亙ッテ居ル所ノ貸付ガ必シモ放漫デアリ、不確實デアリ、不良デアルト
云フコトハ申シタクナイノデアリマス、何レ詳細ノコトニ付キマシテハ此法
律案ノ委員會ノ席ニ於テ内容ヲ詳シク申上ゲル機會モアラウト考ヘマスル
ガ、兔ニ角、其當時ノ政府當局ハ是等ノ貸付ヲ致シマスルニ付テ相當見ル所
ガアリ、又事情已ムヲ得ザルモノガアッテ此貸付ヲ行ハレタコトデアラウト
思ヒマス、其是非善惡ニ付キマシテ今日ヨリ之ヲ評論スルコトハ私ハ致シタ
クナイト思ヒマス、唯.唯〓法案ノ說明ノ場合ニモ申上ゲマシタ通リ、從來
ノ貸付方ハ兔角、放漫、不確實ニ流レテ居ッタト云フ非難ハ確ニアリマス、
其旣往ノ貸付ノ善惡ニ拘ラズ、現政府ノ當局ニ於キマシテハ將來ニ亙ッテハ
成ルベク左樣ナル貸付ハ致サナイト云フ方針デアリマス、將來ニ向ッテハ左
樣ナ方針ヲ執リマスガ、既往ノ事實ニ至ッテハ是ハ如何トモスルコトガ出來
マセヌ、假令其貸付ハ放漫デアッテモ、不確實デアッテモ、中ニ幾分カ不良ノ
モノヲ包含シテ居ルト致シマシテモ、今日ニ於テハ是ハ既成ノ事實デアリマ
ス、旣ニ出來テ居ル所ノ事實デアル、此既成ノ事實ヲ現内閣ハ認メナイ譯ニ
ハ參リマセヌ、ソレ故、旣往ノ貸付ノ分ニ對シマシテハ、政府ノ方針ト致シ
マシテハ其既成ノ事實ハ事實トシテ之ヲ認ムルト云フ其點ニ立脚イタシマシ
テ。將來ニ向ッテ出來得ルダケ其整理、貸付金ノ囘收ニ努ムルト云フコトヲ
申上ゲル外ハナイノデアリマス、幸ニ致シマシテ今日マデノ所デハ貸付ケテ
アリマス所ノ各方面共ニ利子ノ支拂ハ遲滯ナク行ハレテ居リマス、既往ノ實
蹟ハ其通リデアリマスガ、將來ニ亙ッテ果シテ貸付ノ條件ガ完全ニ履行サル
ルヤ否ヤト云フコトニ付テハ責任ヲ以テ申上ゲル譯ニハ參リマセヌガ、出來
得ルダケノ手段ヲ盡シマシテ貸付金ノ整理竝ニ其囘收ニ努メルト云フコトヲ
御質問ニ對シテハ御答ヲ申上ゲル外ハナイノデアリマス、ソレガ第一點デア
リマス、第二點ハ郵便貯金ノ利子ヲ引上ゲル必要ヲ認メナイカ、ト云フ點ニ
付キマシテ各方面カラ觀察ヲ致サレタル所ノ理由ヲ御述ベニナリマシテ、政
府ノ所見ヲ御問ヒニナリマシタ、郵便貯金ハ申ス迄モナク確實ヲ旨トスルモ
ノデアリマシテ、僅少ナル利子ノ高低如何ニ依ッテ必シモ其貯金ガ增減スル
モノトハ考ヘテ居リマセヌ、併ナガラ郵便貯金ノ利子ニ致シマシテモ經濟全
體ノ情況、金融界ノ大勢ト云フモノト全然沒交涉ニ之ヲ定メル譯ニハ參ラヌ
ト思ヒマス、例ヘバ一般金融界ノ情勢ニ於テ金利ノ騰貴ハ已ムヲ得ザル所ノ
趨勢デアルト云フ場合ニ於テ、而モ其騰貴ノ趨勢ガ一時的ノモノデナクシテ
相當繼續性ヲ有ッタモノデアルト云フコトヲ政府ハ認メマシタ場合ニ於テハ、
郵便貯金モ其趨勢ニ從ッテ引上ゲヲスル必要ガアラウト思ヒマス、其反對ニ
金利ノ大勢ガ低落ニ傾ク、而モ其低落ノ趨勢ハ是亦相當永續性ヲ有ッタモノ
デアルト云フコトヲ確認スル場合ニ於テハ、郵便貯金ノ利子モ亦之ニ或程度
マデハ追隨ヲセナケレバナラヌモノデアラウト思ヒマス、然ラバ其見地カラ
考ヘマシテ現在ノ金融界ノ大勢ハ、金利ノ趨勢ハ果シテ騰貴ノ傾向ヲ有ッテ居
ルカ、而モ其騰貴ノ傾向ガ假ニアリト假定シテ、ソレハ永續性ノモノデアル
カト云フコトヲ考ヘテ見マスルト、將來ハ免ニ角、目下ノ情況ニ於キマシテ
ハ政府ノ見ル所デハドノ點カラ考ヘマシテモ、今日ノ金利ガ騰貴ノ趨勢
ヲ有ッテ居ルモノト見ルコトハ出來マセヌ、假令一時騰貴スルコトガアリト
假定シマシテモ、其騰貴ハ繼續性ヲ帶ビテ居ルモノト見ルコトモ出來マセヌ、
果シテ然ラバ此場合ニ於テ郵便貯金ノ利子ヲ引上ゲルト云フコトハ金利ノ趨
勢、金融界ノ大勢上カラ如何デアラウカト思ヒマス、其次ニハ菅原君モ御質問
ノ中ニ御指摘ニナリマシタ通リニ、此際ニ於テ郵便貯金ノ利子ヲ引上ゲマス
ト云フト是ハ直チニ貯蓄銀行ノ貯金利子ニ影響スルト見ナケレバナラヌ、其
影響ハ獨リ貯蓄銀行ノミノ貯金利子ニハ止マリマスマイ、延イテ一般ノ銀行
ノ預金利子ニ影響スルコトガナイトハ斷言ガ出來ナイト思ヒマス、其事柄ガ
果シテ今日ノ情勢ニ於テ適當ナルヤリ方デアリヤ否ヤト云フコトハ大イニ考
慮ヲ要スル事柄デハナイカ、第三ニハ是亦菅原君ガ御質問ノ際、御述べニナ
リマシタ通リ、今日或ハ地方ノ產業資金、或ハ社會政策ノ資金ト致シマシテ
仰グ所ノモノハ此預金部ノ資金デアリマス、其預金部ノ資金ノ中ノ大部分ハ
郵便貯金デアリマス、ソレ故ニ此郵便貯金ノ利子ヲ引上ゲマスルト云フコト
ハソレガ直チニ低利資金ノ引上ゲトナラザルヲ得ナイノデアリマス、其低
利資金ガ或程度マデ利子ガ上ガッテモ差支ガナイト云フ如キ御意見モアッタヤ
ウデアリマスガ、政府ハ左樣ニハ考ヘテハ居リマセヌ、無論極端ナル低利ハ
必シモ希望スル所デハアリマセヌガ、今日ノ程度以上ニ於テ、他ニ重大ナル
原因ナクシテ低利資金ノ利子ヲ引上ゲナケレバナラヌト云フ如キ、政府ガ處
置ヲ執ルト云フコトハ、目下ノ情勢ニ於テハ餘リ面白クナイ事デハナイカ、斯
樣ニ考ヘマス、以上三箇ノ理由カラ致シマシテ、今日政府ハ郵便貯金ノ利子
ヲ引上ゲルト云フ考ヲ有ッテ居ナイノデアリマス、唯〓、菅原君ハ低利資金ノ
弊害ヲ御擧ゲニナリマシタ、例ヘバ預金部ノ金ヲ以テ低利ニ銀行ニ貸付ケル、
其銀行ガ安ク借リタ所ノ金ヲ以テ普通ノ利率デ事業資金ニ貸付ケ、其利鞘ヲ
以テ銀行ノ整理ヲ圖リ、或ハ其利益ヲ增進スルト云フコトハ、是ハ目下ノ通
弊デアル、從テ低利資金ノ供給ト云フコトモ、其弊害ヲ伴フモノデアルト云
フコトヲ考ヘナケレバナラヌト云フ御意見ノヤウデアリマシタ、是ハ如何ニ
モ御尤ナ御意見ト思ヒマス、若シ政府ガ將來ニ亙ッテ、或ハ特殊ノ銀行、特
殊ノ會社等ニ、是マデノ如クニ低利資金ヲ供給スルト云フ方針ヲ改メナイン
デアルナラバ、御意見ノ如キ弊害ガ生ズルカモ知レマセヌガ、此內閣ト致シ
マシテハ、成ルベク左樣ナル貸付ハ致シタクナイト云フ考ヲ有ッテ居リマス
カラ、自然ニ其弊害ハ除クコトガ出來得ルデアラウト思ヒマス、又菅原君ノ
御話ニアリマシタガ、私ガ甞テ郵便貯金ノ利子引上ゲノ議論ヲ唱ヘタト云フ
コトヲ申サレマシタガ、如何ニモ其通リデアリマス、其當時ハ金融界ノ情勢、
一般經濟界ノ趨向ニ鑑ミマシテ、私ハ金融ヲ引緊メナケレバナラヌト云フ考
ヲ有ッテ居ッタ場合デアッタ、從テ一面ニ於テハ通貨ノ收縮ヲ唱ヘ、其手段ト
致シマシテ日本銀行ノ金利引上ゲヲ唱ヘ、郵便貯金ノ利子ノ引上ゲヲ唱ヘタ
コトガアリマス、其當時ノ財界ノ情況ト今日トハ全然趣ヲ一變イタシテ居リ
TV.ソレカラ今日ノ郵便貯金ノ利子ハ四分八厘デアリマスガ、菅原君ニ從
ヘバ明治十七八年頃カラ釘付ケノ利率デアルト云フコトデアリマスルケレド
モ、私ノ持ッテ居ル所ノ表ニ依リマスレバ、郵便貯金ノ利子ハ屢〓變動ヲ致シ
テ居リマス、最モ高カッタ時ハ、明治十四年カラ十七年ニ至ルマデ三箇年續
イタ所ノ七分二厘デアッタノデアリマス、ソレニ次イデハ六分ノコトモアリ
ひゞ、五分四厘ノコトモアリマス、最モ低カッタ時ハ明治七年ノ三分、次イ
デ明治九年ノ四分、斯樣ニ高低區々ニナッテ居リマス、サウシテ今日ノ四分
八厘ハ、イツカラ實施サレタカト申シマスレバ、ソレハ大正四年ノ四月カラ
四分八厘ニ改定ヲサレテ居リマス、其前ニ於テハ四分二厘デアッタノデアリ
やっ、斯樣ニ致シマシテ郵便貯金ノ利子ハ長イ間、左樣ニ釘付ケニナッテ居
ル程デモアリマセヌ、時ニ變動ガアリマス、最近ノ利率ハ大正四年四月カラ
繼續ヲ致シマシテ今日ニ至ッテ居ル情況デアリマス、以上申上ゲマシタ理由
ニ依リマシテ、政府ハ今日ノ所ニ於テ郵便貯金ノ利子ヲ引上ゲルト云フ考ハ
有ッテ居リマセヌシ、又其必要ヲ認メテ居ナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=8
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009・菅原通敬
○菅原通敬君 唯今詳細ニ伺ッタノデアリマスガ、大體諒承イタシヤシタガ、
預金部預金ノ經理ニ付キマシテハ、旣往ノ事ハ既往ノ事トシテ成ルベク囘收
ニ努メテ其損失ヲ少カラシムルコトヲ期スル、此以上ニハ今日ニ於テ何等言
フコトガ出來ナイ、云フヤウナ大體ノ御趣意ニ伺ッタノデアリマス、特別會
計法ニ依リマスルト云フト、運用ノ損失金ハ之ヲ歲出トシテ經理シ、運用資
產ノ價格減損ハ剩餘金又ハ積立金ヲ以テ之ヲ補塡スル、斯ウ云フコトデアリ
マスカラ、將來起ルベキ缺損若クハ損失ト云フヤウナモノハ、之ニ依ッテ整
理ハ出來テ行クダラウト思フノデアル、サリナガラ過去ニ於ケル缺損ト云フ
モノハ、大藏大臣ノ御陳述ノ中カラ察シマシテモ決シテ少額ト云フヤウナモ
ノデハナイト思フノデアリマス、ナカ〓〓巨額ニ達スルダラウト思フノデア
リマス、デ、之ニ對スル缺損ヲ此特別會計法ニ規定シテ居ルヤウナ方法ニ依ツ
テ經理シテ行カウト云フコトニナリマスト、是亦頗ル困難ナコトニナラウト
思フノデアリマス、强ヒテ缺損ノ財源ヲ作ラウト致シマスレバ、預金者ノ利
益ヲ殺グカ、或ハ貸金ヲ受ケタ者ノ利益ヲ殺グカ、卽チ預金ノ利率ヲ引下ゲ
ルカ、貸付ノ利率ヲ高メルカ、ソレ等ニ依ッテ無理ニ剰餘金デモ作ッテ來ルト
云フコトデナケレバ財源ハ出來ナイ、結局、是ハ國民ノ負擔ニ轉嫁セラル
ルト云フコトニナリハセヌカト思フ、恰モ臨時國庫證劵特別會計法ノ二ノ舞
ヲ演ズルヤウナコトニナリハセヌカト思フノデアリマス、是ハ甚ダ憂フベキ
コトデアリマスカラ、ドウゾ精々其御整理ニ當ラレルコトヲバ希望スルノ
デアリマス、ソレカラ郵便貯金ノ利子引上ゲノコトニ付テ大藏大臣ハ矢張リ
唯今ノ所、其必要ヲ認メテ居ラヌト云フコトデゴザイマス、ソレニ付キマシテ
縷々御說明モアッタノデアリマスガ、如何ニモ郵便貯金ノ利子割合ノ如キモ
此一般金融界ノコトナリ、金利高低ノ趨向ニ考ヘテ行カナケレバナラヌコト
ハ勿論ノコトデアリマス、勿論ノコトデアリマスガ、現在ノ四分八厘ト云フ
モノガ今ノ金利ノ關係ナリ、金融界ノ情況ナリニ適當ナルモノデアルト御認
メニナルカ否ヤ、今ノ金利ハ私ハ低過ギルト思フ、大藏大臣ハソレヲ適當ナ
ルモノト認メテ居ラルヽト云フコトデアルナラバ、將來之ヲ改正スルト云フ
ニ付テハ如何ニモ一般ノ趨向ナリ經濟界ナリト云フコトニ考ヘテ行カナケレ
バナラヌト云フコトニナリマス、コヽガ私ノ見ル所ト違フノデアリマス、今
ノモノガ適當ナモノデアッテ將來ニ考ヘテ之ヲ直シテ行カナケレバナラヌト
云フコトハ、是ハ別問題······私ハ今ガ旣ニ安過ギルノデアル、今ガ既ニ安過
ギルノデアルカラ、之ヲ適當ニ直スト云フコトガ必要デアル、而モ之ヲ今ガ
安過ギルト私ノ申スノハ先刻申シマシタ通リ、多年釘付ケニセラレテ居ルカ
ラ、一向金利ノ趨勢トカ財界ノ情況トカ云フヤウナコトニハ考ヘラレズ、是ト
ハ全ク沒交涉ニ唯惰力的ニ出來テ居ルカラト云フコトヲ申シタノデアリマス
ガ私ハ矢張リ斯樣ニソレハ信ジテ居ルノデアリマス、大藏大臣ハ郵便貯金
利子ノ割合ノコトハ何モサウ釘付ケニナッテ居ルデハナイ、大分時ニ依ッテ變ツ
テ來テ居ルト云フノデ、明治七年トカ八年ノ變ハッタコトマデ御引用ニナリマ
シタガ、私ハソンナヤウナコトマデ伺フ必要ハナイト考ヘル、明治七年九年ア
タリニドンナニ變ハッタ所ガ、之ニ依ッテ金利ト云フモノハ時〓ニ適當ニ改定
セラレテ來テ居ルモノデアルト云フコトハ信ズルコトハ出來ナイノデアル、
成程、六分以上ノコトモアリマシタ、七分以上ノコトモアリマシタ、之ニ付
テハ金額ニ制限ガアルト云フコトヲ御承知願ヒタイ、私ノ記憶スル所デハ金
額ニ付テ制限ガアッタ、四分八厘ト云フ淵源ハ何處ニアルカ、四分八厘ニナッ
タノハ何時カラカ、ソレハ明治十七年ノ太政官ノ通知セラレタル農商務卿ノ
改定約定書ニ現レタノガ四分八厘、其四分八厘ト云フコトハ、:.カラ淵源
ヲ發シテ居ル、斯ウ申シタノデアリマス、勿論其當時ニ於テハ全部四分八厘
デハアリマセヌ、金額ニ依ッテハ六分ト云フヤウナコトデアリマシテ、私ハ何
等過去ノ歷史ガサウ變ハッテ居ルカ、變ハッテ居ラヌカト云フコトニ付テハ餘
リ多ク論ズル必要ガナイノデアリマス、免モ角、四分八厘ト云フモノハ世ノ
中ノ金利ノ情況トカ財界ノ趨勢トカ云フモノニ依ッテ今マデ改正セラレテ來
テ居ラナイ、是ダケハ事實デアリマス、ソレデアリマスカラ今ノ四分八厘ハ
餘リニ安過ギハシナイカ、私ハ安過ギルト思フ、是ガ安過ギルト云フコトヲ
前提ニ置イテ、將來之ヲ改正スル意志ガアルカ否ヤト云フコトヲ今伺ヒタイ
ノデアリマス、私ハ大藏大臣ガ嘗テ金利引上ゲノコトヲ御論ジニナッタ其事
ニ付テ彼此申スノデハアリマセヌ、之ニ付テ御辯明モアリマシタガ、ソレヲ
私ハドウト云フノデハナイ、無論情況ガ變ハッテ居ルノデアリマス、時ニ考モ
變ハッテ來ナケレバナラヌ、私ハソレヲ申スノデハアリマセヌガ、嘗テハ唯斯
ウ云フヤウナコトモアリマシタト云フコトヲ申上ゲタニ過ギナイノデテリマ
ス、今日ノ御意見ヲ伺ヘバ宜シイノデアリマス、結局、今日ノ四分八厘ト云
フモノハ適當ナルモノト御考ヘニナッテ居ルノデアルカ否ヤト云フコトヲ伺
ヒタイ
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=9
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010・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 御答ヘ致シマス、明治四十三年ノ四月カラ四分二
厘ニナッテ居リマシタモノガ大正四年ノ四月ニ四分八厘ニ改定サレマシテ、其
以來、丁度十年ノ間、四分八厘ノ率ヲ維持シテ居ルノデアリマス、此十年ノ
間ニ於テ日本ノ經濟界ニハ容易ナラザル變化モアッタノデアリマス、金利モ
屢〓變動イタシタニ拘ラズ、十年間四分八厘ヲ維持シテ今日ニ至ッテ居リマス
ル、其郵便貯金ノ利率ヲ今日ニ至ッテ之ヲ變改セムトスルナラバ、改正ヲ必
要トスルダケノ相當ノ强イ理由ガナケレバナラヌ、私ハ其强イ理由ヲ發見ス
ルコトガ出來ナイノデアリマス、ソレ故ニ此四分八厘ガ適當デアルヤ否ヤト
云フコトハ、數字的ニ之ヲ立證スルコトハ困難デアリマスケレドモ、十年間
現狀ヲ維持シタモノヲ、ソレヲ變ヘヤウトスルナラバ、改正ヲ主張スル側ニ
於テコレ〓〓ノ理由ガアルガ故ニ之ヲ五分ニシナケレバナラヌ、斯樣ナル數
字ガ擧ガッテ來ル故ニ五分四厘ニセナケレバナラヌト云フ、寧ロ變ヘヤウト
スル側カラ之ヲ立證シナケレバナラヌ事柄デアリマス、私自ラ考フルニ、ド
ウシテモ之ヲ改正スルノ理由ヲ具體的ニ發見スルコトガ出來マセヌカラ十年
間續イテ來マシタ所ノ四分八厘ヲ今日ニ於テハ之ヲ維持スルコトガ適當デア
ルト申上グル外ニハナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=10
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011・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 マダ通告ガゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) モウ通〓ハゴザイマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=12
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013・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 質問ヲ致シタイ
〔男爵阪谷芳郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=13
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014・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 私ハ此預金部ノ改正法ニ付キマシテハ、聊カ立法ノ精神
ヲ伺ッテ後ノ誤解ノナイヤウニ致シテ置キタイト思フノデアリマス、先刻、
大藏大臣ノ說明ノアリマシタ通リニ、大藏省預金ハ永イ歷史ヲ有ッテ居ル、デ
從ヒマシテ憲法制定ノ際ニ此預金ト云フコトニ付テ大分議論ガアッタ、政府ガ
預金ヲ持ッテ銀行見タヤウナコトヲシテ善イカ惡イカ、其議論ハ十分ニ盡サ
レナイデアリマシタト云フ譯ハ、今日ノ預金規則ト云フモノガ甚ダ不完全デ
アッテ、十七八年頃ノ制定ノ儘現存シテ居ルヤウナ譯デアリマス、此度、政府
ガ愈〓預金ノ規則ニ手ヲ著ケラレルニ付テハ、矢張リ其問題ヲ明瞭ニシテ置
カナケレバナラヌ、デ、第一ニ政府ガ預金ヲ段々ト多ク預ッテ行クノガ善イ
デアラウカ惡イデアラウカ、國民ガ政府ニ信賴シテ零碎ナモノヲ持ッテ來ル
モノヲ拒ム譯ニハ行カヌ、卽チ郵便貯金ハ餘リ大キナ高ハ預ラヌト云フコト
ニ、預金ハ當初ノ規則ハナッテ居リマシテ、段々一口ノ制限モ設ケラレテ居
ル、是レ以上多クノ預金ハ預ラヌ、又旣ニ預ケタモノガ段々溜ッテ千圓トカ
二千圓ノ高ニナレバ預金者ニ戾スノガ本當デアルケレドモ、ソレモ迷惑デア
ラウカラ預金者ガ何トモ言ハナケレバ預金者ノ同意ナシニ政府ガソレデ公債
證書ヲ買ッテヤラウ、卽チ預金者ノ同意ナシニ政府ガ自分ノ勝手デ預金ヲ公
債證書ニ變換シテ保管シテヤル、斯ウ云フノガ最初ノ精神デアル、ソレニ伴
ッテ當時日本ノ國民中ニハ此國債ト云フコトヲ深ク心配スル觀念ガ强カッタ、
デ、色〓ノ建議ガ政府ニ出マシテ國民ガ毎日十錢ヅツ積ンデ國債ヲ早ク償還
シヤウヂヤナイカト云フヤウナ、國民ノ間ニ國債ノアルコトヲ痛ク心配スル
觀念ガ强カッタノデアリマス、ソレデ預金ト云フモノハ殘ラズ公債證書ニ換へ
テ運用シテ、成ルベク政府ノ負擔ヲ少クシ、併セテ此公債證書ノ價格ト云フモ
ノヲ市場デ維持シヤウ、是ガ本體ノ大藏省ノ趣旨デアッタ、所へ憲法實施ト
ナッタノデアリマシテ、憲法ノ六十二條ニハ公債ヲ起シ其他國家ノ負擔トナル
ベキ契約ヲ爲スニハ議會ノ協贊ヲ要ストアッテ、預金ヲ政府ガ預カレバ、ソコ
ニ政府ノ義務ガ生ズル、是ハ併ナガラ一々議會ノ協賛ヲ經ルト云フ譯ニ行カ
ナイデ、預金ト云フモノノ爲ニ自然ニ政府ノ義務ガ生ズルト云フコトハ已ム
ヲ得マイ、併ナガラ其預金ヲ運用スル時ニ議會ハ協贊權ヲ有ッテ居ル、其協賛
權ヲ侵スヤウナコトガアッテハナラヌ、ソレデ運用スルノハ宜カラウガ貸付
ト云フコトハ宜シクナイ、卽チ預金ヲ政府ガ預カッテ、ソレヲ運用スル、之ヲ貸
付ケルト云フコトハ或ハ低利デ貸スト云フヤウナコトニナレバ、丁度政府ガ
豫算デ同意ヲ得サウモナイヤウナ事柄へ金ヲ貸シタイト思フ時ニ之ヲ貸スト
云フコトニナルト、自然ニ此帝國議會ノ豫算權ヲ侵スコトニナル、先刻、大
藏大臣ノ御說明ノ中ニ貸付貸付ト云フ言葉ヲ容易ニ御用ヰニナッタヤウニ私
ハ聽イタノデアリマス、預金部ノ金ヲ以テ貸付ガ出來ルト云フコトハナイト
私ハ思フ、運用利殖ト云フコトハ出來ル、其運用利殖ヲスルニハ詰リ公債證
書ヲ買フトカ、確實ナル有價證劵ヲ買フトカト云フコトニ付テ、是マデハ議
會ハ運用利殖ト認メテ居ッタ、ソレデ興業銀行ノ債劵トカ勸業銀行ノ債券トカ
云フヤウナ、法律ヲ以テ特殊銀行ヲ作ッテ其銀行ニハ政府ガ監理官ヲ附ケテ、
恰モ政府ノ公債證書ト同ジヤウナ債劵ヲ發行スル銀行ガ出來タ場合ニ、ソレ
ナラバ其運用ト云フコトヲ政府ノ公債證書ニ限ラズニ、勸業銀行ナリ興業銀
行ノ債劵マデモ善イカ惡イカト云フコトモ其當時大變議論ガ喧シカッタ、デ
政府ガ特殊銀行ヲ作ッテ自分ガ監督シテ居ルモノハ確實ナリト見テ宜カラウ
ト云フ上カラ、今日、勸業銀行、興業銀行ニ政府ガ預金ノ金ヲ放資スルト云
フコトガ始マッタト私ハ記憶イタシテ居ル、其勸業銀行、興業銀行ノ債券ヲ政
府ガ引受ケルカラ、資金ガ勸業銀行、興業銀行ニ出來マスカラ、其資金ヲ以
テ如何ナル事ニ運用スルカト云フコトハ、是ハ政府ガ責任ハ持タヌコトニナ
ル、若シ損ガアレバ勸業銀行ノ損、興業銀行ノ損デアル、併ナガラ事實ハサ
ウデアルガ、府縣ナドヘ成ルベク安ク貸シテヤレト云フヤウナ話合ヒデ以テ
卽チ低利資金ナドト云フヤウナ言葉ガ出來タニ違ヒナイ過日、大藏大臣ガ
衆議院デ御發表ニナッタ數字ヲ見ルト色〓ノモノガアル、其モノト云フモノ
ハ、ソレハ興業銀行ノ總裁、勸業銀行ノ總裁ガ大藏大臣ノ所ニヤッテ來テ相
談シテ、斯ウ云フモノニモ金ガ要ルカラ債劵ガ發行シタイ、宜カラウト云フ
ヤウナコトハアッタカモ知レヌガ、併ナガラ大藏大臣ガ貸付ケルト云フコトデ
アルナラバ、議會ノ協賛ヲ經ナケレバ私ハ出來ヌコトト思フ、卽チ大藏大臣
ハ債券ヲ御引受ニナッタノデアル、確實ナル運用利殖ノ爲ニ御引受ニナッタモ
ノデアル、斯ウ思フ、此度ノ規則ニモ確實ナル運用利殖ト云フヤウナコトガ
アルガ、此確實ナル運用利殖ト云フコトハ貸付マデモ這入ルコトヂヤナイト
私ハ思フ、ケレドモ從來ノ大藏省ノ預金部ヲ國立ノ銀行ニシテハドウカト云
フヤウナ議論ハ大藏省デ多年アッタ議論デアリマス、今日モ尙ホ其空氣ガ殘
ッテ居ルト私ハ思フ、是ハドウモ此會計法ニ對シテモ面白クナシ、又一般ノ貯
蓄銀行ト云フ私立ノ貯蓄銀行ガアル、ドウモ是トノ關係モ面白クナイカラ、
寧ロ貯蓄銀行モ大藏省ノ預金部モ合併シタ一ツノ完全ナ國立貯蓄銀行ヲ拵ヘ
ラ。大藏省ノ預金部モ民間ノ貯蓄銀行モ、ソレニ總テ合同シタラドウダト云
フ議論モアッタ時代ガアル、併ナガラ其事柄ノ得失ノ議論ノ熟サヌ以上ハ、
大藏省トシテハ民間ノ貯蓄銀行ト云フモノヲ、ドコマデモ保護セナケレバナ
ラヌ、是ト競爭シテハイカナイ、デ、大藏省ハ自分ニハ銀行ヲ······大藏省預
金部ハ自分ニハ銀行ハ營マナイ、サウ云フ譯デアルカラ預金部デハ金ハ預カ
ル、金ハ預カッテ自分ガ此債務者ニハナルケレドモ、其運用ハ日本銀行或ハ勸
業銀行若クハ興業銀行ト云フ政府ノ直轄ノ下ニアル銀行ヲ通シテ運用利殖セ
シムル、此運用利殖ト云フモノハ日本銀行ノ場合ニ於テ公債證書ヲ買フ、卽
チ政府ノ發行セシメタ公債證書ヲ日本銀行ニ買ハセル、又此興業銀行、勸業
銀行ニ於テ其銀行ノ發行スル債劵ヲ引受ケサセル、卽チ預金部ノ預金ト云フ
モノハ極メテ安全ナモノデアル、如何トナレバ政府ガ發行サセル公債證書デ
アル以上ハ國ガ破產スルマデ大丈夫、又興業銀行、勸業銀行ノ債劵デモ興業
銀行、勸業銀行ガ破產スルマデハ政府ガ損ヲ受ケル筈ハナイ、併ナガラ興業
銀行、勸業銀行ニモ相當ナ理事者ガ居ルカラ、是ガ甚ダ拙イ運用ヲスルト云
フコトモ、マア想像ガ出來ナイ譯デアル、サウナリマスルト色〓······政府ハ
議會ノ協賛ハ經タクハナイ、議會ニ出スト云フト、ドウモ議會ハ喧シサウ
ダ、成ルベク此興業銀行、勸業銀行ヲ說キ付ケテ因果ヲ含メテ、御前責任ヲ以
テ貸セト云フ事柄ガ旣往ニ於テ無イカト言ヘバ、ドウモ有ッタヤウデアル、西
原借款トカ何トカ云フモノノ如キハ、ドウモ政府ガ其當時ノ政策上ヤッタ仕
事ノヤウニ見エル、是ガ愈〓不拂ヒニナッタ場合ニハ甚ダ興業銀行トカ何トカ
其當時之ヲ引受ケタ人ニハ氣ノ毒ニナル、氣ノ毒ニナルカラ先年ソレ等ノ責
任ガ政府ニアルノデハナイカト云フコトヲ貴族院デ質問シタコトモアル所
ガ政府ハ其責任ハ無イト、斯ウ云フカラ若シ西原借款ガ不拂ヒトナッタ場合
ニ迷惑ヲ銀行ガ受ケナケレバナラヌ、ソレハ銀行ガ因果ヲ含メラレテ、ウント
言ッタコトガ惡イト云フコトニナルガ、サウ云フクヽルヤウナコトヲ政府ガス
ルノガ全體惡イノデアル、デ、今度ノ預金規則ガ御改正ニナルニ付テハ是マデ
アッタ色〓ノムヅカシイコトヲ、茲デ一掃ナサルト云フ御方針デアラウガ、第
一ニ伺ヒタイノハ將來ハ之ヲ段々ト進メテ行ッテ、國立貯蓄銀行ト云フヤウ
ナモノニマデモスル御考ガ今日存シテ居ルカ、無論、今度ノ法律ハソコマデ
行ッテ居ナイケレドモ、他日ソコマデ行ク、サウシテ民間ノ貯蓄銀行ハ段々ニ
官營ニ移シテシマフ、斯ウ云フ御考ガ幾ラカ御考ノ中ニアルカドウカ、ソレガ
マア第一點、ソレカラ今ノ運用利殖、確實ナル運用利殖ノ中ニ貸付マデモ御入
レニナルノデアルカ、サウスルト預金部ガ直接ニ貸付ケナケレバナラヌヤウ
ナコトニ思ハレマスガ、私ハサウデナイト思ヒマス、併シ今ノ御說明ノ中ニ
貸付貸付ト云フ言葉ガアッタカラ、貸付マデ今後ハ入レル積リデアルカ、或
矢張リ從來ノ通リニ、日本銀行、勸業銀行、興業銀行ガ直接ニソコノ發行シタ
モノ、若クハソコノ公債證書ヲ御引受ケニナルト、斯ウ云フコトデアルカ
ソレヲ承リタイ、第三ニハ公債······私ハ此政府ガ借金ヲ二重ニスルト云フコ
トハ宜シクナイト思フ、當初ノ預金部ノ規則ガ大變ニ宜イノデ、成ルベク政
府ガ預金ノ集マッタモノデハ公債證書ヲ買ッテ置ケバ、例ヘバ五十億ノ公債證
書ヲ發行シテモ十五億ハ預金部デ償還シタ形ニナル、公債證書ノ値段モ宜
シ、政府ノ借金ヲ少クスル譯デアル、然ルニ公債證書ヲ政府ガ發行シ、預金
ヲ設ケテ居ルガ、多クハ貸付ケル、十五億ノ公債證書ノ外ニ政府ガ借金ヲ增シ
テ居ル形ニナル、從來ノ明治ノ財政ノ中ニ歷代ノ大藏大臣ハ此點ニ付キマシ
テハ······近頃方針ガ變ハッタヤウデスケレドモ、公債證書ニ預金部ヲ多ク運用
シテ居ル、英國ノ郵便貯金ノ如キハ全部公債ノ方ニ入レテ居ル、唯歐羅巴戰爭
ノ爲ニ金ガ無クナッタ爲ニ規則ガ一時變ハッタヤウデアリマスケレドモ、慣例
トシテハ殆ド全部公債證書ヲ買フカラ、其「コンソル」ト云フモノガ、始終値
打ガ宜イ、自然、英吉利ノ國民ノ郵便貯金ト云フモノハ段々ト預金部ヘ買上
ゲラレテ行ク、サウスレバ公債證書ノ値段ガ宜イ、公債證書ノ値段ガ宜ケレ
バ金利ガ自然下ガル、民間ノ株劵ノ値ハ宜クナル、洵ニ結構ナコトト思フ、然
ルニ近來公債證書ニ預金部ノ金ヲ多ク運用スルト云フコトヲ政府ガ免角ナサ
ラヌヤウニ思フ、當初ノ精神ガ變ハッタヤウニ思フ、是ハ甚ダ遺憾ト思フガ、大
藏大臣ハ此度預金部ノ改正ニ付テハ公債證書ヲ主タルモノニ運用セラレルト
云フ御方針ニ戾ラレルカドウカ、其事ヲ伺ヒタイノデアリマス、此三ツノ點
ニ付テノ御答ハ此法律ヲ審査スル上ニ付テノ精神ニ重大ナル關係アリト思ヒ
マスカラ、此場合、明カニ御答ヲ得テ置キタウゴザイマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=14
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015・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 阪谷男爵ノ御質問ニ御答ヲ致シマスガ、第一點ハ
貯蓄銀行ニ對スル所ノ政府ノ根本ノ方針ト申シマスカ、追〓貯蓄銀行ヲ纏メ
テ之ヲ現在ノ預金部ヲ合セテ、大國立ノ貯蓄銀行ヲ設ケルト云フ考ガアルカ、
此度ノ提案ニ於テハサウ云フコトハ見エテ居ナイケレドモ、將來ニ於テサウ
云フコトヲスル考ガアルカト云フ意味ノ御質問ト伺ヒマシタ、國立貯蓄銀行
ノ問題ハ申ス迄モナク極メテ重大ナル問題デアリマシテ、其影響ノ及ブ所ガ
相當ニ深甚デアリマスルガ故ニ、大藏省ニ於テハ、阪谷男爵モ御承知ノ通リ、
年來研究ヲ怠ラナイ問題デアリマス、併ナガラ今日ニ於キマシテハ未ダ預金
部ノ組織ヲ改メ國立ノ貯蓄銀行ヲ作ルト云フ結論ニハナカ〓〓容易ニ達シ
マセヌ、併ナガラ此問題ハ相當ニ重大ナル問題デアリマスルガ故ニ、引續キ
マシテ調査研究ニハ怠ラヌ積リデアリマスケレドモ、マダ實行的ノ考ヲ有ツ
ニ至リマセヌ、是ハ將來ノ問題デアルト御承知ヲ願ヒタイ、第二點ハ預金部
ノ資金ノ運用ハ專ラ公債ノ應募、引受、買入或ハ其他ノ有價證劵ニ運用スベ
キモノデアル、貸付ト云フモノハ運用ノ範圍ヲ出デテ居ル所ノヤリ方デアル
云フ如ク今ノ御質問デアリマシタガ、法律上カラ申シマスレバ私ノ解スル所
ニ依レバ貸付モ亦一ツノ運用デアル······運用ノ一種デアルト、斯樣ニ心得テ
居リマス、先刻來、菅原君ノ御質問ニ對シマシテ預金部ノ資金ヲ各方面ニ貸付
ケテアル如キ口吻ヲ以テ御答ヲ致シマシタガ、是ハ實際ノ事實ヲ申上ゲタノ
デアリマス、唯〓、阪谷男爵ノ御話ノ通リ、形式上、法律上ニ於テハドコマデモ
興業債劵ノ引受デアリマス、或ハ勸業債劵ノ引受デアリマス、其債劵ヲ預金部
ニ引受ケシメタコトニ依ッテ金ヲ得マシタ、資金ヲ手ニ入レマシタ所ノ興業銀
行ナリ勸業銀行ナリガ、其資金ヲ各種ノ事業會社ニ貸付ヲ致シマス、併シ是
ハ實際ノ働キデアリマシテ、法律上カラ申シマスレバ、預金部ノ資金ヲ運用イ
タシマシタ所ハ、卽チ特殊會社、特殊銀行ノ債劵デアリマス、先刻ノ菅原君ニ
對スル御答ハ、私ハ法律上ノ關係ヲ離レテ實際上ノ見地カラ御答ヲ致シテ居
ッタノデアリマス、是ハ能ク御諒承ヲ願テ置カヌトイカヌ、併ナガラ是マデ
トテモ、特殊銀行ニ對シマシテモ貸付ガ運用ノ範圍ノ下デ行ハレテ居リマシ
タ、御承知ノ漢冶萍公司ニ貸シマシタ所ノ金、是ハ正金銀行カラ出テ居リマス
ガ、預金部ノ關係カラ申シマスレバ、是ハ正金銀行ニ對スル所ノ貸付ニナッ
テ居リマス、卽チ正金銀行ハ、或ハ勸業銀行或ハ興業銀行ノ如クニ債券ヲ發
行イタシマセヌカラ、正金銀行ニ融通スル方法ト致シマシテハ貸付ノ外ナイ
ノデアリマス、從テ現在ニ於テハ預金部ノ資金ヲ有價證劵ニ放資ヲセズ、貸
付ニ致シテ居リマスノハ、特殊銀行會社ニ對スル外ニハ、政府部內ノ他ノ會
計卽チ一般會計若クハ預金部特別會計以外ノ、他ノ特別會計ニ對シテ貸付
ヲ致シテ居リマスル外ニハ無イノデアリマス、然ラバ將來サウ云フ貸付ハ絕
對ニ出來ヌカト申シマスルト、ソレハ前段申シマシタ通リ、其貸付ノ程度方法
ハ之ヲ別問題ト致シマシテ、法律上カラ貸付ハ運用ニアラズト政府ハ考ヘテ
居リマセヌ、其事柄ノ選擇ハ無論委員會ニ於テ十分ナル所ノ審議ヲ盡サヌケ
レバナリマセヌガ、其諮問機關タル所ノ運用委員會デ十分ノ審議ヲ致シ、大
藏大臣ガ之ヲ適當ナリト認メタ場合ニ於テハ、法律上ハ私ハ貸付ヲモ爲シ得
ルモノデアラウト、斯樣ニ心得テ居リマス、第三點ハ預金部ノ資金ノ運用ト
公債トノ關係デアリマス、從來ノ沿革ハ唯〓、男爵ノ御話ノ通リデアラウト思
ヒマス、從テ將來ニ於キマシテモ國債ノ應募引受又ハ買入ニ重キヲ置クコト
ハ此處デ申上ゲテ毫モ差支ハアリマセヌガ、併ナガラ飜ッテ他ノ方面カラ考ヘ
テ見マスルニ、預金部ノ資金ハ卽チ郵便貯金ガ其主タルモノデアル、其郵便
貯金ハ全國ノ多數ノ國民ノ零碎ナル資金ガ集マッテ、十億圓以上ノ郵便貯金
ヲ成シテ居ルノデアリマスカラ、其財源ハ卽チ廣ク全國カラ吸收ヲサルヽノ
デアリマス、廣ク全國カラ吸收ヲサレマシタ所ノ多數ノ國民ノ貯蓄ニ成ル零
碎ナル資金ト云フモノ、例ヘバ公債ナラバ公債ト云フガ如クニ、政府ノ一般
ノ目的ノ爲ニ其全部若クハ大部分ヲ使ヒマスルト云フコトハ、地方ノ資金ヲ
中央ニ吸收イタシ、其結果、地方ノ產業資金ガ涸渴スルト云フ他ノ弊害ヲ伴
フ虞レガアリマス、ソレ故ニ一面ニ於テハ公債ノ應募引受ニ運用イタシマス
ト同時ニ、他ノ一面ニ於テハ之ヲ地方ニ還元ヲ致シマシテ、ソレニ依ッテ、地
方ノ產業資金ノ涸渴スルコトヲ防ギ、產業ノ發達ヲ圖ルト云フコトガ今日國
民全體ノ希望シテ居ル所デアルト考ヘマス、從テ何レニ重キヲ置クカト云フ
コトハ遽ニ申上ゲルコトハ困難デアリマスガ、一面ニ於テハ之ヲ公債ニ運用
スルト同時ニ、殆ドソレト同ジ位ノ力ヲ以テ之ヲ地方ニ廻シマシテ、低利資金
トシテ地方ニ運用イタシマシテ、ソレニ依ッテ地方ノ產業資金ニ充當スル、此
二ツノ目的ガ相對立イタシマシテ、之ニ依ッテ初メテ預金部ノ資金ノ運用ガ
其完全ニ近ヅクコトガ出來ルデナイカト政府ハ左樣ニ考ヘテ居リマス、從テ
公債ニ運用スルト云フコトニ付キマシテハ男爵ト全然其意見ヲ同ジウスル者
デアリマスガ、ソレト同時ニ地方カラ吸收シタル資金ハ之ヲ成ルベク地方ニ
還元スルト云フコトモ併セテ考ヘタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=15
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016・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 唯今御答辯ノ漢冶萍ノ正金銀行ヲ通ジテ貸付ガアルト云
フコトハ憲法ノ六十四條、六十四條ニ觸レハ致シマセヌカ、國家ノ歲入歲出
ト云フモノニ私ハナルト思フ、ソレヲ運用デヤッテ居ルト云フコトニナルト
法律ト憲法トガ牴觸スル、法律ト憲法ガ牴觸スル場合ニ、矢張リ豫算デ以テ
御協賛ヲオ經ニナラナケレバナラヌ、漢冶萍ノ貸付ト云フモノハ現内閣ノ貸
付デナイ、今ノ濱口大藏大臣ヲ私ハ責メルノデナイ、ソレガ誰ノ内閣デアッタ
カ知ラヌガ、甚ダ宜シクナイ、憲法ヲ無視シタヤリ方ト思ヒマス、是ダケヲ
申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=16
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017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一及第二ノ法案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官
ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
預金部預金法案外一件特別委員
伯爵柳澤保惠君子爵牧野忠篤君武富時敏君
男爵阪谷芳郞君仁尾惟茂君市來乙彥君
菅原通敬君鎌田勝太郞君安田善三郞君
三重小三木香壳発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=17
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018・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、臨時國庫證劵收入金特別會計法廢止法
律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
臨時國庫證券收入金特別會計法廢止法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年二月七日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
臨時國庫證券收入金特別會計法ハ大正十三年度限リ之ヲ廢ス
臨時國庫證劵收入金特別會計ニ屬スル資金及債務ハ之ヲ一般會計ニ歸屬セ
シム
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=18
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019・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 臨時國庫證劵收入金特別會計法廢止ニ關スル法律
案ニ付キマシテ簡單ニ提出ノ趣旨ヲ說明イタサウト存ジマス、臨時國庫證劵
收入金特別會計法ハ大正六年輸出爲替資金ノ疏通、輸出軍需品代金ノ決濟及
聯合國ニ對スル財政上ノ援助ノ目的ヲ以テ、是ガ資金調達ノ爲ニ發行セラレ
タル臨時國庫證劵ノ收入金ヲ經理スルガ爲ニ設ケラレタルモノデアリマスル
ガ、本特別會計ノ運用トシテ保有シテ居リマスル所ノ對露對支債權ニ付テ
ハ數年來、利息ノ收入ガアリマセヌガ爲ニ、已ムヲ得ズ年々元本ヲ費消シ
テ臨時國庫證劵ノ利拂ヲ爲シツヽアル情況デアリマシテ、若シ從來ノ方法ヲ
踏襲シテ參リマスルトキハ、大正十五年度ニ至リマスレバ同會計ノ資金ハ無
クナリマシテ、臨時國庫證劵ノ利子ハ之ヲ支拂フコトガ出來ナイ狀態ニナル
ノデアリマス、故ニ之ヲ現狀ノ儘ニ致シ置キマスコトハ、財政上ノ禍根ヲ貽
ス所以デアリマスカラ、同特別會計ハ大正十三年度限リ之ヲ廢止イタシマシ
テ。其負擔ヲ一般會計ニ移シ、現存シテ居ル所ノ臨時國庫證劵ハ、其償還期
限ノ到來スルニ從ヒマシテ、順次普通ノ公債ニ借換へルコトニ致シ、借換ノ
實行ニ伴ヒマシテ國債整理基金特別會計法ノ適用ヲ受ケマシテ、元金償還ノ
途ガ開カルヽヤウニ致ス考デアリマス、以上ノ理由ヨリシテ玆ニ臨時國庫證
劵收入金特別會計法廢止ニ關スル法律案ヲ提出イタシタ次第デアリマス、何
卒御審議ノ上、御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=19
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020・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ハ日程第一及第二ノ法案ノ特別委員ニ付託イ
タシマス
北京市小石永山吉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=20
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021・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第四、海上衝突豫防法中改正法律案、政府提
出、第一讀會ノ續、委員長報〓、片桐子爵
〔左ノ報告書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚
フ〕
海上衝突豫防法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十四年二月九日
右特別委員長
子爵片桐貞央
貴族院議長公爵德川家達殿
〔子爵片桐貞央君演増ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=21
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022・片桐貞央
○子爵片桐貞央君 海上衝突豫防法中改正法律案ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ
御報告申上ゲマス、委員會ハ去ル九日開キマシテ、正副委員長ノ選擧、引續キ
マシテ會議ヲ開キマシテ全會一致、可決ニ相成ッタ次第デアリマス、此法案ノ
改正ノ要點ハ、現行法ノ三十條ニゴザイマスル「地方長官」トゴザイマスノヲ
「行政官廳」ト改正ヲシタイト云フ趣意ナノデゴザイマス、現行法ハ明治二十
二年ノ華盛頓ニ開催セラレマシタ國際海事會議ノ決定事項ヲ基礎ト致シマシ
テ。明治二十五年ニ法律第五號ヲ以テ發布セラレタモノデゴザイマス、其後
一二囘、萬國ノ協定ヲ經マシテ修正ヲセラレマシテ、現在ノ法律ニナッテ居
ルノデゴザイマス、此三十條ノ規定ハ、港或ハ川、內海等ニ於ケル水路ニ於
キマシテ、特別ノ情況其他ニ鑑ミマシテ、船舶ノ運航上ニ關シテ、特別ノ規
則ヲ施行スルコトヲ認メラレテ居ルノデゴザイマシテ、此法律ノ規則ノ制定
ヲ地方長官ニ限定セラレテ居ルノデゴザイマス、ソレガ爲ニ或場合ニ依リマ
シテハ、狹隘ナル水路等、各二三ノ府縣ニ跨ッテ居ル場合ニハ是ガ統一的ノ
規定ヲ出スコトガ出來ナイ不便ガゴザイマス、ソレハ各府縣ニ跨ッテ居ル爲
ニ利害關係ノアル爲ニ、規則ガ區々ニナッテ居ルコトガアルノデ、之ヲ統一
スル規則ヲ作リタイト思ヒマシテモ、ソレヲ出スコトノ出來ナイヤウナ事情
ニナリマスノデ、甚ダ不便ガ多イノデゴザイマス、尙且ツ今囘ハ港灣ノ行政
機關ノ統一ノ結果ト致シマシテ、各府縣ニゴザイマス所ノ港務部ノ如キハ稅
關長ノ管掌ニ移リマスノデ、其結果、此規則ヲ制定イタシマスル權限ハ地方
長官ニゴザイマスルト、或場合ニ依ッテハ不合理ノ結果ヲ來スヤウナコトニ
ナッテ、是等ノ理由ニ依リマシテ、今囘此三十條ノ「地方長官」トゴザイマス
モノヲ「行政官廳」ト改正ヲシテ、廣ク其權限ヲ以テ統一的ノ規定ヲ出シ得ル
ヤウニシタイ、斯ウ云フ趣意ナノデアリマス、委員會ハ斯ノ如キ簡單ナ案デ
ゴザイマスルノデ一二簡單ナ質問ガゴザイマシタガ、歸スル所、全會一致ヲ
以チマシテ可決ニ相成ッタ次第デゴザイマス、此段御報告申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=22
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023・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=23
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024・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=24
-
025・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=25
-
026・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=26
-
027・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=27
-
028・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
廿九九九平山南発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=29
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030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=30
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031・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=31
-
032・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=32
-
033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=33
-
034・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
호흡수호小山王発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=34
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035・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=35
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036・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=36
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037・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ノ議事日程ハ決定次第、御通知ニ及ビマス、本
日ハ是ニテ散會イタシマス
午前十一時五十八分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X01019250212&spkNum=37
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