1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十四年三月十九日(木曜日)
午前十時十三分開議
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議事日程 第二十五號 大正十四年三月十九日
午前十時開議
第一 大正十四年度歳入歳出總豫算追加案(第一號)審査期限を定むるの件
第二 大正十四年度各特別會計歳入歳出豫算追加案(特第一號)審査期限を定むるの件
第三 豫算外國庫の負擔となるへき契約を爲すを要する件(追第二號)審査期限を定むるの件
第四 大正十四年度歳入歳出總豫算追加案(第二號)審査期限を定むるの件
第五 大正十四年度歳入歳出總豫算追加案(第三號)審査期限を定むるの件
第六 大正十四年度特別會計歳入歳出豫算追加案(特第二號)審査期限を定むるの件
第七 漁業財團抵當法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第八 登録税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第九 印紙税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十 行政整理又は軍備整理に際し退官退職したる者等に交付する公債發行に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十一 大正三年臨時事件に關する臨時軍事費特別會計の終結に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十二 大正十二年度第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十三 大正十二年度特別會計第一豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十四 大正十三年二月及三月中豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十五 大正十三年三月中特別會計豫備金外に於て豫算超過及豫算外支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十六 大正十三年度第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十七 大正十三年度豫備金外に於て豫算外支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十八 大正十三年度特別會計第二豫備金支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第十九 大正十三年度特別會計豫備金外に於て豫算外支出の件(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議
第二十 治安維持法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十一 日本無線電信株式會社法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十二 染料製造奬勵に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十三 震災被害地の營業税免除に關する法律案(衆議院提出) 第一讀會
第二十四 商業會議所法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十五 齒科醫師法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十六 少年團日本聯盟事業助成に關する建議案(公爵近衞文麿君外七名發議) 會議
第二十七 失業救濟に關する建議案(公爵一條實孝君外七名發議) 會議
第二十八 薩哈嗹州方面派遣陸海軍に對する感謝決議案(公爵近衞文麿君發議) 會議
第二十九 屯田兵の恩給に關する請願(文書表第四十號) 會議
第三十 輸入乳製品關税改正の請願(文書表第四十一號) 會議
第三十一 御肖像竝勅語掲載の印刷物取締に關する請願 會議
第三十二 義務教育費國庫負擔金増額の請願 會議
第三十三 宮崎神社を勅祭社に昇進の請願 會議
第三十四 屯田兵の恩給に關する請願(文書表第八十八號) 會議
第三十五 青森縣西津輕郡稻垣村に登記所設置の請願 會議
第三十六 根室地方に漁港修築の請願 會議
第三十七 根室港修築の請願 會議
第三十八 厚床斜里間鐵道敷設の請願 會議
第三十九 壽都漁港修築の請願 會議
第四十 國際補助語エスペラント教授調査に關する請願 會議
第四十一 女子高等教育に關する請願 會議
第四十二 鶴見川改修費國庫補助の請願 會議
第四十三 余市漁港修築の請願 會議
第四十四 輸入乳製品關税改正の請願(文書表第百三十六號) 會議
第四十五 輸入乳製品關税改正の請願(文書表第百三十七號) 會議
第四十六 土功組合事業助成に關する請願 會議
第四十七 北海道樺戸郡新十津川村に登記所設置の請願 會議
第四十八 石狩川本支流治水に關する請願 會議
第四十九 御肖像掲載の印刷物取締に關する請願 會議
第五十 石狩川架橋の請願 會議
第五十一 機船底曳網漁業取締に關する請願 會議
第五十二 水産増殖に關する請願 會議
第五十三 水産増殖法制定竝水産増殖助成に關する請願 會議
第五十四 漁村振興に關する請願 會議
第五十五 水質汚濁豫防法制定の請願 會議
第五十六 私立中等學校國庫補助の請願 會議
第五十七 財團法人私立中等學校協會國庫補助の請願 會議
第五十八 煙草罹災補償金交付規則中改正の請願 會議
第五十九 私立大學國庫補助の請願 會議
第六十 天賣漁港修築の請願 會議
第六十一 雄武漁港修築の請願 會議
第六十二 留萌港修築に關する請願 會議
第六十三 廣尾漁港修築の請願 會議
第六十四 枝幸漁港修築の請願 會議
第六十五 様似漁港修築の請願 會議
第六十六 岩内港修築に關する請願 會議
第六十七 札幌小樽間國道開鑿に關する請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲシテ諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
去ル十六日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可
決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
朝鮮鐵道用品資金會計法案
朝鮮私設鐵道補助法中改正法律案
特別都市計畫區域內ニ於ケル寺院ノ國有境內地讓與等ニ關スル法律案
船舶無線電信施設法案
同日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政府提出案ハ卽日之ヲ衆議院ニ囘付セ
リ
〓育改善及農村振興基金特別會計法案
同日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政府提出案ハ卽日之ヲ衆議院ニ送付セ
リ
外國人土地法案
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ衆議院提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ
旨ヲ衆議院ニ通知セリ
議院法中改正法律案
同日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
失業救濟ニ關スル建議案(發議者公爵一條實孝君外七名、賛成者侯爵鍋
島直映君外百三十一名)
同日豫算委員長ヨリ西野元君ヲ第一分科擔當委員ニ選定シタル旨ノ報〓書
ヲ提出セリ
同日特別委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
商業會議所法中改正法律案可決報告書
一昨十七日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
薩哈嗹州方面派遣陸海軍ニ對スル感謝決議案(發議者公爵近衞文麿君、
贊成者侯爵德川義親君外四十五名
同日特別委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
治安維持法案可決報告書
齒科醫師法中改正法律案修正報告書
同日内閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セ
リ
内務省所管事務政府委員
內務省衛生局長山田準次郞君
同日衆議院ヨリ本院ノ囘付ニ係ル左ノ政府提出案ハ同院ニ於テ本院ノ修正
ニ同意シ奏上セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
〓育改善及農村振興基金特別會計法案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
漁業財團抵當法案
登錄稅法中改正法律案
印紙稅法中改正法律案
行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職シタル者等ニ交付スル公債發行ニ
關スル法律案
昨十八日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
染料製造奬勵ニ關スル法律案特別委員會
委員長侯爵細川護立君副委員長三宅秀君
會計士法案特別委員會
委員長山脇玄君副委員長河村譲三郎君
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
日本無線電信株式會社法案可決報告書
染料製造奬勵ニ關スル法律案可決報告書
請願文書表第九囘報告書
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
大正十四年度歲入歲出總豫算追加案(第一號)
大正十四年度各特別會計歲入歲出豫算追加案(特第一號)
豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件(追第二號)
大正十四年度歲入歲出總豫算追加案(第二號)
大正十四年度歲入歳出總豫算追加案(第三號)
大正十四年度特別會計歲入歲出豫算追加案(特第二號)
大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ノ終結ニ關スル法律案
大正十二年度第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
大正十二年度特別會計第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
大正十三年二月及三月中豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件(承
諾ヲ求ムル件)
大正十三年三月中特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件
(承諾ヲ求ムル件)
大正十三年度第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
大正十三年度豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
大正十三年度特別會計第二豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
大正十三年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)
同日衆議院ヨリ本院ノ送付ニ係ル左ノ政府提出案ヲ同院ニ於テ可決シ奏上
セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
明治三十二年法律第七十號中改正法律案
明治四十一年法律第五十二號中改正法律案
明治四十四年法律第五十一號中改正法律案
大正十年法律第二十五號中改正法律案
同日衆議院ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
震災被害地ノ營業稅免除ニ關スル法律案
五〇五〇賣心〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、勝田主計君、山田
斂君、何レモ病氣ニ付キ衆議院議員選擧法改正法律案ノ特別委員ノ辭任ノ申
出ガゴザイマシタ、之ヲ許可ヲ致スコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、就キマシテハ右補闕トシ
テ宮田光雄君、中村圓一郞君ヲ指名イタシマス
五十五五章発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一、大正十四年度歲入歲出總豫算追加案、
第一號、第二、大正十四年度各特別會計歲入歲出豫算追加案、特第一號、第
三、豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件、追第二號、第四、
大正十四年度歲入歲出總豫算追加案、第二號、第五、大正十四年度歲入歲出
總豫算追加案、第三號、第六、大正十四年度特別會計歲入歲出豫算追加案、
特第二號、審査期限ヲ定ムルノ件
(第一號)大正十四年度歲入歲出總豫算追加案
右本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
(特第一號)大正十四年度各特別會計歲入歲出豫算追加案
右本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
(追第二號)豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
右本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年一月月八八
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
(第二號)大正十四年度歲入歲出總豫算追加案
右本院ニ於ア可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
(第三號)大正十四年度歲入歲出總豫算追加案
右本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
(特第二號)大正十四年度特別會計歲入歲出豫算追加案
右本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=4
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005・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 大正十四年度歲入歲出總豫算追加第一號ニ計上シ
テアリマス所ノ歲入歲出ハ各二千六百五萬三千三十圓デアリマシテ、今其主
モナル事項ニ付キ說明イタシマスレバ、第一、日露國交恢復ノ結果、露國ニ
各公館ヲ開設スルノ必要ガアリマス、卽チ莫斯科ニ大使館ヲ置キ、亞港及
「ハバロフスク」ニ總領事館ヲ、「ペトロパウロフスク」、「ブラゴエスチェン
スク」、尼港及「オデッサ」ニ領事館ヲ置キ、「オハ」ニ領事館分館ヲ開設セ
ムトスルノ計畫デアリマシテ、之ニ要シマスル經費トシテ經常部ニ於テ百一
萬餘圓、臨時部ニ於テ十九萬餘圓ヲ要求イタシテアリマス、第二、今囘ノ行
政整理ニ依ッテ退官退職又ハ解傭イタシマスル所ノ官吏以下雇傭人職工等ノ
總數ハ一般會計特別會計ヲ通ジマシテ約四萬四千人ニ上ボル見込デアリマス
ガ、内、鐵道省ノ分ヲ除キマスト約四萬人ニナリマス、是等ノ者ニ支給イタ
シマスル所ノ退職特別賜金ノ總額ハ四千三百餘萬圓デアリマシテ、其內、公債
ニ依リマスモノガ四千四十餘萬圓、之ヲ額面ニ換算イタシマスト四千八百餘
萬圓、現金支給ニ屬スル分ガ大正十四年度ニ於テ二百九十餘萬圓デアリマス、
此現金支給ニ屬スル所ノ二百九十餘萬圓ヲ今囘ノ追加豫算ニ於テ要求イタシ
マシタ、又此退官退職者中、官吏ニ支給イタシマス所ノ恩給ハ年金恩給ニ於
テ約六百萬圓、一時恩給ニ於テ約四百萬圓ノ見込デアリマスルガ、一時恩給
ノ內、二百萬圓ハ先キニ大正十三年度追加豫算ニ於テ要求イタシマシタニ依ツ
テ、大正十四年ノ追加豫算ニ於テ殘ノ一時恩給ノ二百萬圓ト年金恩給ノ六百
萬圓トヲ要求イタシマシタ、尙ホ退職者ニ支給スル公債ノ利子竝ニ國債雜費
トシテ總額二百四十餘萬圓ヲ要求イタシマシタ、其內、一般會計ニ屬シマスル
分ガ二百十餘萬圓デアリマシテ、殘ハ植民地等ノ特別會計ニ屬スル分デアリ
マス、第三、大正十三年度追加豫算ニ於テ說明イタシマシタ通リ爲替相場低落
ノ結果、在外公館ノ在勤者其他ニ在勤俸其他ノ臨時加給ヲ爲ス必要ガアリマ
ス、依テ之ニ要シマスル經費トシテ各省ニ亙リ總額六十五萬餘圓ヲ要求イタ
シマシタ、尤モ對外爲替相場ノ變動ノ傾向ヲ考慮イタシマシテ、大正十三年度
追加豫算ノ要求額ニ比較イタシマシテ、多少其割合ヲ減少シテ計上イタシテ
アリマス、第四、日露國交恢復ノ結果、薩哈嗹駐屯軍ヲ撤退スルニ依リマシ
テ、之ニ要スル所ノ經費竝ニ臨時軍事費特別會計ヲ廢止イタシマスル結果、
其殘務處理ニ要スル所ノ經費及臨時軍事費支辨ニ屬スル官吏以下ノ退職者ニ
對スル退職賜金等ヲ必要ト致シマスルニ依ッテ、是等ノ臨時軍事殘務ニ關ス
ル經費ハ陸軍省所管ニ於テ四百五十五萬餘圓、海軍省所管ニ於テ五十一一萬餘
圓ヲ要求イタシマシタ、第五、信濃川改修工事ノ箇所ニ於キマシテ地辷リガ
アリマシタノデ、其改修費ノ追加二十萬圓、又軍馬補充部元用地ノ買收費ト
シテ二十二萬一千圓ヲ計上イタシテ居リマス、以上ノ外、各省ニ亙リ災害復舊
費其他諸種ノ經費ヲ要求イタシマシタガ、何レモ必要已ムベカラザルモノデ
アリマス、尙ホ貨幣交換差金ハ今日ノ爲替相場ヲ以テ致シマスレバ、大正十
四年度ニ於テモ千數百萬圓ヲ要スル筈デアリマスケレドモ、最近、對外爲替相
場變動ノ傾向ヲ察シマシテ、果シテ其不足額ガ幾干ニ上ボルカト云フコトガ、
今日ニ於テ豫測スルコトガ困難ト思ヒマスノト、一ツニハ是ハ此年度末ニ於
テ精算スルモノデアリマスカラ、必シモ今期議會ニ追加豫算ヲ提出スルコト
ヲ要シマセヌニ依ッテ、次期議會ニテ必要ナル金額ヲ要求スルコトニ致シマシ
テ、單ニ其財源ヲ留保スルコトニ致シテ居リマス、以上歲出ニ對スル財源ト
致シマシテ、信濃川改修費追加ニ伴フ所ノ治水事業費分擔金ノ增加ノ五萬圓
ト、國有財產整理資金繰入ノ增加二十二萬一千圓ノ外ハ、前年度剰餘金繰入ノ
增加二千五百七十八萬圓餘デアリマス、次ニ、一般會計追加豫算第二號トシテ
貴族院令改正案ニ伴フモノ及火災復舊ニ要スル經費ノ二件デアリマシテ、貴
族院令改正案ニ依ッテ貴族院議員ガ增員ニナリマスノデ之ニ伴ヒマスル所ノ
經常費ノ增加三萬五千餘圓、又其議席ヲ設ケマス爲ニ議場ノ取擴ゲヲ要シマ
スノデ、之ニ要スル所ノ經費、臨時部ニ於テ九千餘圓ヲ要求イタシマシタ、又
濱松高等工業學校ノ實驗室ガ先般火災ニ罹リマシタノデ、是ガ復舊ニ要スル
經費二十七萬圓ヲ計上イタシマシタ、以上二件ヲ合セテ三十一萬四千餘圓デ
アリマス、追加豫算第三號ハ特別會計追加豫算第二號ト密接ノ關係ガアリマ
スノデ、是ハ後ニ說明スルコトニ致シマス、次ニ特別會計追加豫算第一號ニ
計上スル所ノ中、主モナル事項二三ヲ擧ゲテ申シマスレバ、國債整理基金特別
會計ニアリマシテハ、前ニモ一言イタシマシタ通リ、退職特別賜金トシテ交
付スル所ノ公債ノ利子等ニ關スルモノガ主モナルモノデアリマス、朝鮮以下
各植民地會計、大學竝ニ學校圖書館ノ各特別會計ニアリテハ、退職特別賜金
ニ關スル經費、對外爲替相場ノ下落ニ基ク所ノ在外勤務者ノ手當等ノ臨時加
給及災害復舊費等ガ主モナルモノデアリマス、次ニ特別會計追加豫算第二
號ハ一般會計追加豫算第三號ト相牽聯セルモノデアリマシテ、今期議會ニ提
案ヲ致シマシテ、唯今衆議院ニ於テ審議中ニナッテ居リマス所ノ、日獨戰爭
ノ結果損害ヲ被リタル者ニ對シ救恤金交付ニ關スル法律案ニ伴フモノデアリ
マシテ、特第二號ハ其救恤金ノ歲出デアリマシテ、追加豫算第三號ハ、其被
害者ノ申請ニ付テ救恤ノ範圍及程度等ヲ審查スル爲ニ設ケラレマス所ノ救恤
審査會ニ要スル經費デアリマス、其金額ハ一萬八千餘圓デアリマス、最後ノ
追第二號、豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ニ關スル件ハ二ツノ事項デアリ
Tv,其一ツハ多年我國ノ官立學校ニ於テ〓鞭ヲ執リ功勞ノアリマシタ所ノ
外國人ニ恩給支給ノ件デアリマシテ、他ノ一ツハ樺太廳特別會計ニ於テ災害
復舊費ノ財源トシテ借入金ヲ爲スヲ要スル件デアリマス、之ニ伴フ歲出ハ特
第一號、追加豫算ニ揭ゲテアリマス、以上ハ何レモ必要己ムヲ得ザル要求デ
アリマスルニ依ッテ、何卒御審案ノ上、速ニ協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=5
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006・石渡敏一
○石渡敏一君 唯〓、議題トナッテ居リマス豫算案、追加豫算案、第一カラ第
六マデハ、別ニ期限ヲ定メズ、直チニ審議終了次第、本會ニ報告スルト云フコ
トニ致シタイト思ヒマス、皆サン御贊成ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=6
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007・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=7
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008・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 石渡君ノ審査期限ニ關スル動機ニ御異存ゴザイマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼ブ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=9
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010・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
嘉禾세운호発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第七、漁業財團抵當法案、政府提出、衆議院
送付、第一讀會
漁業財團抵當法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候
也
大正十四年三月十七日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
漁業財〓抵當法
第一條漁業權若ハ其ノ登錄シタル賃借權ヲ有スル者、漁業ノ用ニ供スル
登記シタル船舶ヲ有スル者又ハ水產物ノ養殖場ヲ有スル者ハ之ニ付抵當
權ノ目的ト爲ス爲漁業財團ヲ設クルコトヲ得
第二條漁業財團ハ左ニ揭クルモノニシテ同一人ニ屬スルモノノ全部又ハ
一部ヲ以テ之ヲ組成スルコトヲ得
-漁業權又ハ其ノ登錄シタル賃借權
二船舶竝其ノ屬具及附屬設備
三土地及工作物
四地上權及土地若ハ水面ノ使用又ハ引水若ハ排水ニ關スル權利
五漁具及副漁具
六機械、器具其ノ他ノ附屬物
七物ノ賃借權
八工業所有權
前項ノ權利ニシテ其ノ移轉ニ付行政廳ノ許可又ハ認可ヲ要スルモノニ付
テハ其ノ許可又ハ認可ヲ、賃借權ニ付テハ賃貸人ノ承諾ヲ得ルニ非サレ
ハ之ヲ漁業財團ニ屬セシムルコトヲ得ス
第三條漁業權又ハ其ノ登錄シタル賃借權カ漁業財團ニ屬スル場合ニ於テ
ハ抵當權ハ其ノ漁場ニ定著シタル工作物ニ及フ
船舶カ漁業財〓ニ屬スル場合ニ於テハ抵當權ハ其ノ船舶ノ屬具ニ及フ
前二項ノ規定ハ設定行爲ニ別段ノ定アルトキ又ハ民法第四百二十四條ノ
規定ニ依リ債權者カ債務者ノ行爲ヲ取消スコトヲ得ル場合ニハ之ヲ適用
セス
第四條漁業權ニ付漁業財團ヲ設定シタル場合ニ於テ其ノ漁業免許ノ取消
アリタルトキハ其ノ處分ヲ爲シタル行政官廳ハ直ニ之ヲ抵當權者ニ通知
スヘシ
前項ノ場合ニ於テハ抵當權者ハ其ノ權利ヲ實行スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ抵當權ヲ實行セムトスルトキハ抵當權者ハ第一項ノ通
知ヲ受ケタル日ヨリ六月內ニ其ノ手續ヲ爲スヘシ
漁業權ハ前項ノ期間內又ハ抵當權實行ノ終了ニ至ル迄抵當權實行ノ目的
ノ範圍內ニ於テ仍存續スルモノト看做ス
競落ヲ許ス決定カ確定シタルトキハ漁業免許ノ取消ハ其ノ效力ヲ生セサ
リシモノト看做ス
前四項ノ規定ハ水產物ノ蕃殖保護、船舶ノ航行碇泊繫留、水底電線ノ敷
設若ハ國防其ノ他ノ軍事上必要アル場合、公益上害アル場合又ハ錯誤ニ
依リ漁業ノ免許カ與ヘラレタル場合ニ於ケル漁業免許ノ取消ニ關シテハ
之ヲ適用セス
第五條前條第一項ノ規定ハ漁業權ノ登錄シタル賃借權ニ付漁業財團ヲ設
定シタル場合ニ於テ其ノ漁業免許ノ取消アリタル場合ニ之ヲ準用ス
第六條漁業財團ニ付テハ本法ニ規定スルモノ及罰則ヲ除クノ外工場抵當
法中工場財〓ニ關スル規定ヲ準用ス但シ工場抵當法第十七條及第四十五
條ノ規定ノ準用ニ付テハ漁業權又ハ其ノ登錄シタル賃借權ハ其ノ漁場ニ
最近キ沿岸ノ屬スル市町村又ハ之ニ相當スル行政區劃、漁業ノ用ニ供ス
ル登記シタル船舶ハ其ノ船籍港ヲ以テ其ノ所在地ト看做ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員三土忠造君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=11
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012・三土忠造
○政府委員(三土忠造君) 唯今、上程サレマシタル漁業財團抵當法案ニ付キ
マシテ、提案ノ理由ヲ簡單ニ申上ゲマス、從來、我國ノ水產業ニ關スル金融ガ
頗ル圓滑ヲ缺イテ居リマスル爲ニ、斯業ノ發達上、不便不利トスル所ガ少クナ
イノデアリマス、而シテ其原因ハ多々アリマスルケレドモ、漁業ニ關スル抵當
物件ノ貧弱デアルト云フコトガ其主要原因デアラウト思フノデアリマス、漁
業權、漁船、漁具、水產養殖場、其他諸般ノ設備、副漁具、是等ノ物件ニ付
キマシテハ、個々ノ物件ト致シマシテハ頗ル擔保力ガ薄弱デアリマスルガ、
之ヲ打ッテ一團ト致シマシテ、集合財團ト致シマシテ始メテ擔保力ヲ生ズル
ノデアリマス、依テ工場抵當法、鑛山抵當法等ノ例ニ傚ヒマシテ、是等ノ權
利及物件ヲ一團ト致シマシテ抵當權ヲ設定シテ、之ニ依ッテ金融ノ圓滑ヲ圖
リタイト云フノガ本案提案ノ理由デアリマス、何卒御審議ノ上、御協賛アラ
ムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ御發言モナイト認メマスカラ、本案ノ特別委
員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
漁業財團抵當法案特別委員
伯爵勸修寺經雄君子爵曾我祐邦君男爵田健治郞君
上山滿之進君男爵小畑大太郞君橋本圭三郞君
志村源太郞君犬上慶五郞君平尾喜三郞君
五百五十三八重市発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=13
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014・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第八、登錄稅法中改正法律案、第九、印紙稅
法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
登錄稅法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候
也
大正十四年三月十七日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
登錄稅法中左ノ通改正ス
第三條ノ五漁業財團登記簿ニ登記ヲ受クルトキハ左ノ區別ニ從ヒ登錄稅
ヲ納ムヘシ
一抵當權ノ取得債權金額千分ノ
二信託ノ登記債權金額千分ノ一
三强制競賣、强制管理ノ申立債權金額千分ノ一
四假差押、假處分債權金額千分ノ一
五登記ノ更正、變更又ハ抹消每一件金二圓
第十九條第一項第五號中「漁業組合又ハ漁業組合聯合會」ヲ「漁業組合、
漁業組合聯合會、重要輸出品工業組合、重要輸出品工業組合聯合會又ハ輸
出組合」ニ、「產業組合法又ハ漁業法」ヲ「產業組合法、漁業法、重要輸
出品工業組合法又ハ輸出組合法」これん
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ各條別ニ之ヲ定ム
印紙稅法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候
也
大正十四年三月十七日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
印紙稅法中左ノ通改正ス
第四條第十號中「產業組合聯合會」ヲ「產業組合聯合會、重要輸出品工業
組合、重要輸出品工業組合聯合會又ハ輸出組合」ごめん
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員早速整爾君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=14
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015・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 登錄稅法中改正法律案、此內容ハ前刻說明ヲ致サ
シマシタル漁業財團抵當法ノ制定ニ伴ヒマシテ、登錄稅法中、工場財團、
鑛業財團等ノ登記ニ準ジマシテ、漁業財團ノ登記ニ關スル規定ヲ設ケマスノ
ト、又過日御協賛ヲ得マシタル重要輸出品工業組合法及輸出組合法ニ於キ
マシテ、組合及聯合會ノ設立、事務所ノ新設又ハ移轉及解散等ノ場合ニ、
ソレゾレ登記ヲ爲スベキコトヲ規定シテ居リマスガ、是等ノ登記ニ付キマシ
テハ、產業組合、產業組合聯合會等ト同樣ニ、登錄稅ヲ課セザルコトニ致シ
タイト考ヘルノデアリマス、何卒御審議ノ上、御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望
イタシマス、次ニ印紙稅法中改正法律案ニ付テ簡單ニ說明ヲ致シマスガ、是
ハ過日御協賛ヲ得マシタル重要輸出品工業組合法及輸出組合法ノ制定ニ伴ヒ
マシテ、是等ノ組合及聯合會ノ發スル出資證劵ニ三錢ノ印紙稅ヲ課スルコト
ニ致シタイト考ヘルノデアリマス、極メテ簡單ナル案デアリマスルガ、何卒
御審議ノ上、協贊ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此兩案ハ日程第七ノ法案ノ特別委員ニ付託イタシ
マス
五章호흡発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=16
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017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十、行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職
シタル者等ニ交付スル公債發行ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第
一讀會
行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職シタル者等ニ交付スル公債發行ニ
關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候
也
大正十四年三月十七日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
今囘ノ行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官若ハ退職シタル者、休職ヲ命セラ
レタル者、現役ヲ退カシメラレタル者、解職若ハ解傭セラレタル者等ニ特
別ノ賜金又ハ手當トシテ交付スル爲政府ハ額面五千萬圓ヲ限リ公債ヲ發行
スルコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員早速整爾君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=17
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018・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 唯今、議題トナリマシタル行政整理又ハ軍備整理
ニ際シ退官退職シタル者等ニ交付スル公債發行ニ關スル法律案、之ニ付キマ
シテ簡單ニ說明ヲ致シマス、今囘、政府ガ行政整理又ハ軍備整理等ヲ實行イタ
シタルニ付キマシテハ、短期間ニ多數ノ退官退職者ヲ生ズル次第デアリマス、
而シテ今日一般經濟上ノ不況ノ時機ニ際會シテ、是等多數ノ人〓ガ一時ニ其
職ヲ去リマスニ付キマシテハ、之ニ適當ノ待遇ヲ與ヘルコトノ必要ナルハ申
ス迄モナイコトト考ヘマシテ、先例ニモ依リマシテ退官退職者ニ對シ、ソレ
ゾレ特別ノ賜金又ハ手當ヲ支給スルコトニ計畫イタシマシタ、此特別ノ賜金
又ハ手當ハ財政計畫上、其一部分ヲ除クノ外ハ公債ヲ以テ交付スルコトニ致
シマシタ、之ヲ時價ニ換算イタシマシテ總額五千萬圓ノ公債發行ヲ要スルコ
トトナルノデアリマス、依テ此公債發行ニ關スル法律案ヲ提出イタシタ次第
デアリマス、何卒御審議ノ上、協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀致サセ
マス
〔成瀨書記官朗讀〕
行政整理又ハ軍備整理ニ際シ退官退職シタル者等ニ交付スル公債發行ニ關
スル法律案特別委員
候爵德川圀順君候爵中山輔親君服部-三君
子爵樋口誠康君男爵坂本俊篤君岡喜七郞君
男爵〓誠之助君菅原通敬君馬場鍈一君
Wants호기가嘉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=19
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020・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十一、大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事
費特別會計ノ終結ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ノ終結ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候
也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
第一條大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ノ年度ハ大正十四
年四月一日ヲ以テ終結ス
第二條大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ノ歲入歳出ノ出納
ニ關スル事務ハ大正十四年七月三十一日迄ニ悉皆完結スヘシ
第三條大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費ノ支辨ニ係ル工事、製造又
ハ物品ノ買入若ハ運搬ノ經費ニシテ其ノ會計年度內ニ支出ヲ終ラサルモ
ノハ其ノ支出未濟ノ豫算額ヲ一般會計ニ移シ使用スルコトヲ得一時賜金
ノ支出ヲ終ラサルモノニ付亦同シ
第四條前條ニ規定シタルモノヲ除クノ外大正三年臨時事件ニ關スル臨時
軍事費支辨ノ諸費ニシテ旣ニ契約ヲ爲シ又ハ支拂ノ義務ヲ生シ其ノ會計
年度內ニ支出ヲ終ラサルモノハ其ノ支出未濟ノ豫算額ヲ一般會計ニ移シ
使用スルコトヲ得
第五條大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ニ於テ歲計ニ剩餘
アルトキハ之ヲ一般會計ノ歲入ニ繰入ルヘシ
第六條大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ノ歲入歲出決算ニ
シテ大正十二年九月ノ震災ニ因リ成規ノ樣式ニ依ルコト能ハサルモノニ
付テハ特別ノ樣式ニ依ルコトヲ得
第七條政府ハ大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ノ歲入歲出
決算ヲ調製シ大正十四年度歲入歲出ノ總決算ト共ニ之ヲ帝國議會ニ提出
スヘシ
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ヌ
〔政府委員早速整爾君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=20
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021・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 議題トナリマシタル大正三年臨時事件ニ關スル臨
時軍事費特別會計ノ終結ニ關スル法律案ニ付キマシテ大體ノ說明ヲ申上ゲマ
ス、本會計ハ御承知ノ通リ、大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費ヲ一般ノ
政費ト區別シテ、特別ニ整理スルタメ設ケラレタルモノデアリマシテ、事件
ノ終局マデヲ一會計年度トシテ取扱フコトトナッテ居ルノデアリマス、然ル
ニ右臨時事件ハ曩ニ大體終了イタシマシテ、之ニ關スル經費ハ最早特別會計
トシテ區分經理スルノ必要ナキニ至リタルニ依リ、本會計ハ夙ニ之ヲ閉鎖ス
ベキデアッタニモ拘ラズ、今日マデ之ヲ延期シテ居リマシタノハ、主トシテ其
財源調達ノ困難ナルガ爲デアリマス······、財源調達ノ困難ナリシガ爲デアッタ
ノデアリマス、卽チ本會計ノ財源ヲ公債又ハ借入金ニ俟ツベキ額、五億五千
五百萬圓ノ中、一億四百餘萬圓ハ、我國經濟上ノ情況ガ公債發行ヲ困難ナラ
シメル關係上、未ダ調達ノ運ビニ至ラナカッタタメ、已ムナク一時國庫金ヲ
流用シテ一時ヲ彌縫シ來ッタノデアリマス、然ルニ政府ハ來年度ヨリ貨幣改
鑄益金ヲ以テ新ニ〓育改善及農村振興基金ヲ設定スルコトヲ計畫イタシマシ
タノデ、此基金ノ中ヨリ本會計ノ資金調達未濟額一億四百萬圓ヲ借入レ、以
テ大正十四年四月一日限リ本會計ヲ閉鎖スルコトト致シ、玆ニ大正三年九月
以來十年ノ久シキニ亙リ存續イタシマシタル臨時軍事費特別會計ニ向ッテ終
局ヲ〓グシムルコトト致シタル次第デアリマス、何卒御審議ノ上、協賛ヲ與
ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=21
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022・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔成瀨書記官朗讀〕
大正三年臨時事件ニ關スル臨時軍事費特別會計ノ終結ニ關スル法律案特別
委員
伯爵溝口直亮君子爵伊東二郞丸君志佐勝君
男爵山内長人君神野勝之助君男爵黑田長和君
仁尾惟茂君藤本閑作君高橋隆一君
市東南北京発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=22
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023・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十二、大正十二年度第一豫備金支出ノ件、
第十三、大正十二年度特別會計第一豫備金支出ノ件、第十四、大正十三年二
月及三月中豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件、第十五、大正十三年
三月中特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件、第十六、大正十
三年度第二豫備金支出ノ件、第十七、大正十三年度豫備金外ニ於テ豫算外支
出ノ件、第十八、大正十三年度特別會計第二豫備金支出ノ件、第十九、大正
十三年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件、承諾ヲ求ムル件、衆議院
送付、會議
大正十二年度第一豫備金支出ノ件
大正十二年度特別會計第一豫備金支出ノ件
大正十三年二月及三月中豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件
大正十三年三月中特別會計豫備金外ニ於テ豫算超過及豫算外支出ノ件
大正十三年度第二豫備金支出ノ件
大正十三年度豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件
大正十三年度特別會計第二豫備金支出ノ件
大正十三年度特別會計豫備金外ニ於テ豫算外支出ノ件
右本院ニ於テ承諾スヘキモノト議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送
付候也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
〔政府委員早速整爾君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=23
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024・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 大正十二年度ニ於ケル一般會計第一豫備金支出、
特別會計第一豫備金、大正十三年二月及三月中一般會計豫備金外支出、特別
會計豫備金外支出、大正十三年度ニ於ケル一般會計第二豫備金及豫備金外支
出、特別會計第二豫備金及豫備金外支出ニ關スル事後承諾ヲ求ムルタメ、茲
ニ本案ヲ提出イタシマシタニ付キマシテ、其大體ノ說明ヲ致サウト存ジマス、
大正十二年度一般會計第一豫備金ノ豫算額ハ六百萬圓デアリマシテ、大正十
二年勅令第三百十二號ニ依リ補充イタシマシタル主モナル事項ハ國際聯盟事
務局費分擔金、傳染病豫防費補助、市町村交付金、刑務所收容費、染料及火
藥爆藥原料製造奬勵金等デアリマシテ、何レモ必要避クベカラザル豫算ノ
不足ニ對シテ流用シタルモノデアリマシテ、其總額ハ六百萬圓デアリマス、
又朝鮮總督府其他ノ特別會計ニ於キマシテモ、各〓其第一豫備金ヲ以テ豫算
超過ノ支出ヲナシタルモノデアリマス、次ニ大正十三年一月三十一日第四十
八囘帝國議會解散セラレマシタル結果、大正十二年度內ニ於テ支出ヲ要スル
費途ニ對シ、政府ハ己ムヲ得ズ同年二月及三月中、一般會計ニ於テ歲計剩餘
金及公債金ノ繰入ヲ以テ豫算超過及豫算外ノ支出ヲナシタルモノガアリマ
ス、其事項ノ主モナルモノハ外務省所管電信料、警察費連帶支辨金、復興
局經費、軍事費補足、衆議院議員臨時總選擧檢察費、震災ニ因ル貸付金及復
興事業費補助等デアリマシテ、其總額ハ三千百六十萬四千八百二十二圓デ
アリマス、特別會計ニ於キマシテモ、其歲計剩餘金或ハ歲入金ヲ以テ豫算超
過及豫算外ノ支出ヲ爲シタルモノガアリマス、大正十三年度ニ於ケル一般會
計第二豫備金ノ施行豫算額ハ八百萬圓、追加豫算額ハ三百萬圓、合計千百萬
圓デアリマシテ、國際阿片會議參列費、横濱港復興費、臨時警察費、主力艦
解體諸費、其他各省所管ニ亙ル震災火災風水害等ニ因ル廳舍官舍其他ノ復舊
費等ノ緊急已ムヲ得ザル費途ニ對シテ豫算外支出ヲ爲シタル總額ハ千五十五
萬千三百十五圓デアリマス、一般會計第二豫備金施行豫算拂切リトナリ、追
加豫算ノ成立ヲ俟ツ能ハザルガ爲ニ、政府ハ已ムヲ得ズ歲計剰餘金ヲ以テ、
豫算外ノ支出ヲ爲シタルモノガアリマス、其事項ノ主モナルモノハ、國際勞
働會議參列費、第四十三潜水艦救難費、大學及學校圖書館費其他ノ補足、保
險會社出捐助成金、米國渡航援助費及各省所管ニ亙ル職工解備特別手當、震
災火災風水害ニ因ル復舊費等デアリマシテ、其總額ハ九千百四十七萬四千八
百二圓デアリマス、尙ホ右ノ外、各特別會計ニ於キマシテモ、第二豫備金及
豫算外ニ於テ、其歲計剰餘金或ハ歲入金ヲ以テ、豫算外ノ支出ヲ爲シタルモ
ノガアリマスガ、玆ニハ其說明ヲ省略イタシマス、以上、十分御審議ノ上、
承諾ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十二ヨリ第十九マデノ議案ノ特別委員ノ氏
名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔長書記官朗讀〕
大正十二年度第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ求ムル件)外七件特別委員
侯爵德川義親君子爵實吉安純君子爵堀河護麿君
子爵西尾忠方君淺田德則君男爵名和長憲君
男爵安川敬一郞君福永吉之助君高橋源次郞君
배호우가호平正点発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=25
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026・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十、治安維持法案、政府提出、衆議院送
付第一讀會ノ續、委員長報告、二條公爵
治安維持法案
右可決スヘキモノトナリ議決セリ依テ及報告候也
大正十四年三月十七日
右特別委員長
公爵二條厚基
貴族院議長公爵德川家達殿
〔公爵二條厚基君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=26
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027・二條厚基
○公爵二條厚基君 治安維持法案特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告イタシ
PV、此委員會ハ前後ヲ通ジマシテ四囘ニ亙ッタノデアリマス、ソレデ御
承知ノ如ク、此法案ハ嘗テ提出セラレタル過激社會運動ノ法案ニ關係ヲ有ッ
テ居リマスノデ、今囘更ニ又其法案ノ出マシタコトニ付キマシテハ、各委員
ニ於キマシテハ誠ニ愼重ナル態度ヲ以チマシテ、熱心ナル質問應答ヲ致シタ
ノデアリマス、就キマシテハ其經過ニ付テ大體、該法案ノ提出理由竝ニ質問
應答ノ內容及討論ニ於ケル經過、ソレカラ採決ノ結果ト云フコトノ順序ヲ以
テ御報告ヲ致シタイト思ヒマス、先ヅ第一ニ提出ノ理由トシテ、司法大臣カ
ラ其理由ハ、此法案ハ提出ヲスル上ニ於テ誠ニ遺憾デアルケレドモ已ムヲ得
ナイ、近年、所謂無政府主義者、或ハ又共產主義者ノ誠ニ著シイ運動ヨリ致
シマシテ、社會ノ受ケル所ノ脅威竝ニ不安ト云フモノガ誠ニ多大デアル、偶〓
又日露國交ガ恢復イタサレマシテ、ソレニ伴ウテ宣傳煽動ノ機會ガ益、加ハツ
テ來タト云フコトカラシテ、誠ニ其必要ヲ感ジテ來タノデアリマシテ、十分
之ニ對スル取締ル法案ヲ要スルノデアルト云フノデアリマス、更ニ言ハレマ
スニハ現ニ此刑法、治安警察法、新聞紙法、出版法、サウ云フ制度ガ現ニ
設ケラレテアリマスルケレドモ、併ナガラ是等ノ法律ハ誠ニ其刑ニ於テ輕イ
ノデ、犯人ノ其處罰サルヽ所ノコトガ、サマデ彼等自身ニ取ッテ恐ロシクナ
イ、却テソレガ爲ニ處罰サレルト云フコトガ、仲間ノ間ニ聲望ヲ得マシテ、
勢力ヲ益〓ソノ爲ニ得ルト云フヤウナ有樣デアリマスルノデ、此際ハ是等法
律ニ委セルコトガ出來ナイノデ、更ニ新シイ所ノ法律ニ依ッテ取締ラナケレ
バナラヌト云フヤウナコトヲ理由トシテ言ハレタノデアリマス、斯樣ナ理由
ノ下ニ此法案ガ出タノデアリマスルガ、委員會ニ於キマシテハ之ニ對シテ愼
重ナル審議ノ下ニ、多種多樣ノ質問應答ガアッタノデアリマス、其〓略:
其主モナルモノヲ搔摘ンデ御報告イタシタイト思ヒマス、斯ウ云フ質問ガアッ
タノデアリマス、今囘ノ法案ハ頗ル嚴重ナモノデアルケレドモ、單ニ此法案
ノミデ取締ル目的ヲ達スルカドウカ、卽チ一方ニ思想惡化ノ原因デアリマス
所ノ、失業者ノ增加ガ益〓大トナリ、又其他、〓育上ノ缺陷ガ益著シクナッ
テ居リマシテ、ソノ爲ニ此思想ノ惡化ノ原因ガ益〓甚シクナル、之ニ對スル
對策ガアルカドウカト云フヤウナ質問ガアッタノデアリマス、其時ニ政府
當局ノ御答辯ニハ、ソレハ尤モノコトデアル、固ヨリ是バカシデ取締ルト云
フコトハ出來ナイノデアル、努メテ其生活ノ安定、思想善導ト云フコトニ對
シテハ十分ニ努力ヲ拂フ、其一ツトシテ社會事業ノ方面ニ於テハ、出來ルダ
ケ其意味ニ於テ研究ヲシテ、例ヘバ預金部ノ資金ヲ有效ニ利用スルトカ、或
ハ又既ニ成立サレテ居ル所ノ法規デアッテ、マダ實施サレナイモノガアル、
是等ノ事ハ財源ノアル時代ニ於テ一日モ早ク實行スル積リデアルト云フヤウ
ナコト、ソレカラ又健康保險法、失業政策等ヲ立テル上ニ於テ、財力ノ許ス限
リ十分ニ此方面ノ研究ヲ續ケル、努力ヲスルト云フヤウナコトト、ソレカラ
思想善導ニ努力スル一端トシテ、幸ヒ出來ルコトナレバ、此師範〓育ヲ何處マ
デモ十分ニ改善シテ、サウシテ各學校ノ方面ニ健全ナ〓員ノ分子ヲ遍ク配置
スルト云フコトニ努力シテ、サウシテ此目的ヲ十分ニ果シタイト思フト云フ
ヤウナ答ガアッタノデアリマス、併シ、ナカナカ此點ニ付キマシテモ、言フコ
トハ易クアリマシテ、行フコトハ難イノデアリマス、併シ我〓ハ政府ノ御言
葉ニ對シテ十分ニ信賴スルコトハ出來マセヌガ、併ナガラ其方針トシテハ誠
ニ必要ナコトトシテ、將來ノ其結果ヲ待タウト思フノデアリマス、其外ニ又
斯ウ云フヤウナ質問ガアッタノデアリマス、日露條約締結後ニ於キマシテ、
我國ノ思想界ト云フモノハ今後樂觀スベキモノデアルカ、悲觀スベキモノデ
アルカ、政府ハ如何ニソレヲ見ルカト云フヤウナ大體的ノ御質問モアタッノ
デアリマス、之ニ對シテモ政府ハ斯ウ云フコトヲ言ッテ居ラレマス、斯ウ云
フコトハ人〓ノ意見ニ依ッテ免ニ角、何レニモ見ラレマスガ、一例ヲ擧ゲテ
申シマスレバ「チエックスロヴァキア」ノ國ニ於テハ、其國ト露西亞トノ條約
ヲ結ブ前ニ當ッテハ、甚ダ不安ヲ懷イテ居ッタガ、條約ヲ締結シタ後ニ於テハ大
變ニ其想像ガ違ッテ居ッテ、露西亞ノ國ノ內情ガ「チエックスロヴァキヤ」ノ人
民ニ徹底的ニ能ク分ッテ、其悲慘ナルコト、其行詰ッタ方面ノコトヲ十分ニ知
ルコトガ出來タ爲ニ、却テ其國民ガ緊張シ、自重シテ、寧ロ案ズルヨリ產ム
ガ易シト云フヤウナ狀態ニナッテ居ル、現在ニ於テハ大變ニ宜イト云フヤウ
ナ例ヲ說カレマシタ、併ナガラ、日本ハ其國ト國情ガ違ッテ居ル、全然ソレ
ヲ以テ我國ニ好材料トシテ考ヘルコトハ出來ナイカラシテ、免ニ角、此法案
ニ對シテハ十分ニ審議サレテ通サレムコトヲ希望スルト云フヤウナ、樂觀的
ノ方面ノ實例ヲ話サレタノデアリマス、其次ニ又斯ウ云フヤウナ質問ガ有リ
マシタ、此法案ヲ、ナゼ單行法トシテ出シタノデアルカ、其理由如何ト云フ
ヤウナコトモ有リマシタ、之ニ對シマシテ、政府當局ノ答ハ、成程、刑法ニ
之ヲ加ヘテ出スト云フコトハ、最モ便宜カモ知レナイケレドモ、併ナガラ此
刑法ト云フモノハ、刑事犯ヲ處罰スルモノデアッテ、公益ヲ基礎トスルモノ
デナケレバナラヌ、本案ハ公益ト云フコトト大變ニ違ッタ所ノ性質ノモノヲ
處罰シナケレバナラヌ、取締ラナケレバナラヌト云フコトカラ致シマシテ、
刑法ニ之ヲ入レルト云フコトハ大變ニ困難デアル、其上ニ別ニ法規ヲ以テ明
カニ取締ルト云フコトヲ示ス必要ガ有ル爲ニ、是非トモ是ハ單行法トシテ已
ムヲ得ズ出サナケレバナラヌコトデアルト云フヤウナ御答モアッタノデアリ
やっ、デ、先ヅ大體論トシテノ質問ハ此クラヰニ止メテ置キマシテ、次ニ條
文ニ付テノ質問應答ガアッタノデアリマス、此條文ニ付キマシテ、第一條ノ
事ニ付キマシテ非常ニ多ク論議サレタノデアリマス、其中ノ二三ヲ御紹介イ
タシマスルト、此法案ノ最初ニ提出サレタ時ニ、「政體」ト云フ字ヲ入レテ
アッタガ、其「政體」ヲ除カレタト云フコトニ付テ、政府ニ執ッテハ遺憾ニ思
フカ或ハ否ヤト云フヤウナ質問モアッタノデアリマス、又次ニ斯ウ云フヤウ
ナ質問モ有リマシタ、第一條ニ「政體」ト云フ文字ヲ最初入レタル際ニ、當
局デハ極左傾ニ對スル極右傾ノ反動團體ノ結社、例ヘバ君主專制主義ノ如キ
團體等モ豫期シテ居ッタカドウカト云フヤウナ御質問モアッタノデアリマス、
サウ云フヤウナ御質問ニ對シテ政府當局ノ答辯ハ、大體斯ウ云フヤウナコト
デアリマス、本案ヲシテ成ルベク反對ノ聲ヲ低クシ、多少國民ノ後援ヲ得テ、
法律ノ權威ヲ保タセル爲ニハ、其適用範圍ヲ成ルベク狹クシテ、サウシテ緊
要トスル部分ヲ明カニシナケレバナラヌト云フヤウナ方針ノ下ニ、納稅制度
ノコトヤ兵役制度ノ否認ト云フヤウナコトデモ、初メ加ヘテアッタノヲ省イ
タ、ソレデ政體ト云フモノヲ其處ニ殘シタノデアル、此理由ハ立憲政體ノ運
用ノ根本デアリマスル代議制ヲ何處マデモ保護シテ行クト云フヤウナ意味デ
アッタノデアリマス、サウ云フヤウナ意味デ此政體ト云フモノヲ免ニ角入レ
テ置イタ所ガ、衆議院ニ於テ色〓ノ場合ヲ考察サレタ結果、君主專制ト云フ
コトノ場合ヲ今ドウスルカ、斯ウ云フ一ツノ〓體ガ起ッタ時ニハ、此〓體モ
十分ニ考慮シナクチヤナラヌノヂヤナイカト云フヤウナコト、又三權分立ト
云フコトニ此政體ト云フ意味ヲ擴ゲテ解釋シテ、サウシテ、裁判所ヲ否定ス
ルトカ、狹イ意味ノ行政府ヲ認メナイト云フヤウナ場合ヲ擧ゲテ論ジ、又甚
シキニ於テハ貴族院ノ否認ノ場合ナドモ論ジラレテ、衆議院ニ於キマシテハ、
其範圍ノ漠然タルコトニ對シテ非常ナル注意ガアッタノデアリマシテ、政府
モ併ナガラ此事ニ對シマシテハ、考慮シタノデアリマシタガ、元〓此種々ナ
ル場合ヲ想像イタシマシテモ實現スル上ニ於テハ殆ド斯ノ如キ場合ガ先ヅ
無カラウト云フヤウナコトカラ致シマシテ、此政體ノ根本トセラルヽ所ノ代
議制ノ保護ヲ單ニ明カニ圖リタイト云フヤウナ意味デアッタノデアリマス、
併ナガラ此國民ノ意思ヲ代表スル所ノ下院ノ大多數ノ意見ガ、其政體ト云フ
字ガ餘リニ適用上面白クナイト云フヤウナコトデアル以上ハ、政府トシテ强
ヒテ之ニ對シテ反對スル必要モ無イト云フヤウナ意味デ削除シタノデ、サウ
シテ尙ホ其上ニ此團體ニセヨ、政體ニセヨ、皆此文字ハ無政府主義者ヲ目
當ラデ取締ッタモノデアル、詰リ目的罪デアル、此狹イ一ツノ目的ニ向ッテノ
取締法デアルカラシテ、彼等ノ無政府主義者ノ總テト云フ者ハ、實ハ總テノ
支配權ヲ否認スルノデアッテ、其一部分ヲ排斥スルト云フ者ハ主義者デハ無
イト云フヤウナ有樣デアリマスルカラシテ、此際、衆議院ノ意見ニ從ッテ政體
ノ二字ヲ除イテモ、目的ニ於テハ何等差支ノ無イコトデアル、不都合ノ無イ
コトデアルト云フヤウナコトデ、今囘、衆議院ノ修正ニ對シテハ同意ヲ表シ
タノデアルト云フヤウナ御答辯デアッタノデアリマス、其次ニ又斯ウ云フヤ
ウナ御質問ガアッタノデアリマス、第一條ノ中ニ在リマスル結社ヲ組織スル
ト云フコトト、ソレカラ第二條ノ實行スルコトニ協議ヲシタト云フコトト、
其行爲ニ於テ其處ニ程度ガ多少違ヒハシナイカ、實行スルコトニ協議ヲシタ
ト云フ方ガ、結社ヲ組織シタト云フヨリモ一歩進ンダ行爲デハナイカ、ソレ
ニモ拘ラズ、前者ヲ十年トシ、後者ヲ七年トシテ刑罰ヲ課スルト云フコトハ、
ドウ云フ意味デアルカト云フヤウナ御質問モ出タノデアリマス、之ニ對シテ
政府當局ノ御答辯ハ、現在、我ガ國內ニ於テハ多ク露西亞ノ無政府主義竝ニ
共產主義ノ其形式ヲ單位ニシテ、各地ニ其根據ヲ置イテ、多クノ支部ヲ造ッ
テ、其宣傳ニ努メツヽアル、卽チ細胞的ノ運動ヨリシテ根柢ヲ固メツヽアル
ト云フコトガ最モ恐ロシイコトデアル、ソレデアリマスカラ協議スルト云フ
ヤウナコト、又煽動スルト云ッタヤウナコトハ比較的、一時的ノモノヨリモ、
此細胞的運動ニ依ッテ絕エズ宣傳サレツヽアル所ノ繼續的ノ結社ト云フモノ
ノ方ガ最モ恐ルベキモノデアル、最モ取締ラナケレバナラヌモノデアルト云
フヤウナコトカラシテ、更ニ重イ刑ヲ科シタノデアルト云フヤウナ御答辯モ
アッタノデアリマス、其他、色〓多岐ニ亙ッテノ質問應答ガゴザイマシタガ、
ソレヲ悉ク申上ゲルト云フコトハ不可能デアリマスルノデ、其他ノ點ニ付キ
マシテハ何卒速記錄ヲ御讀ミヲ願ヒタイト思ヒマス、サウ云フヤウナ質問應
答ノ結果、其次ニ討議ニ移ッタノデアリマス、各委員ノ多數ノ意嚮ハ、大體、
此法案ハ決シテ十分トハ言フコトハ出來ナイ、併ナガラ現在ノ必要ニ迫ラ
レテ居ルコトト、ソレカラ衆議院ノ決議ヲ尊重スルト云フ意味ニ於テ、此際
可決スルコトガ穩當デアラウト云フヤウナ意見ヲ多數有タレテ居ラレマシ
テ、サウシテ此際、次ノヤウナ意味ヲ附加シテ、政府當局ニ其傳達ヲ致シタイ
ト云フコトデ、斯ウ云フコトヲ特別委員全體デ政府委員ニ傳ヘタノデアリマ
ス、斯ウ云フ法案ヲ產ミ出シタト云フコトハ誠ニ遺憾千萬ナコトデアル、併
ナガラ事實必要アル以上ハ已ムヲ得ナイ、唯其將來ニ於テ其原因ヲ糾シ、
以テ十分ニ努力ヲ拂ッテ貰ヒタイ、其一ツニハ生活難ガ最モ此思想惡化ノ原
因デアル、其點ニ付テ十分ニ努力シテ貰ヒタイ、又次ニ〓育ノ缺陷ヨリシテ
思想上ノ惡化ヲ來シタノデアルカラシテ、其點ニ付テモ十分ニ思想善導ノ方
面ニ積極的ノ努力ヲシテ貰ヒタイ、ト云フヤウナコトヲ全部ノ委員ノ意思ト
シテ傳ヘタノデアリマス、ソレニ對シマシテ司法大臣ハ其意思ヲ尊重シテ、
出來ルダケ努力スルト云フ所ノ御答ガアッタノデアリマス、尙ホ其外ニ或一
委員カラ致シマシテ、政府當局ニ對シテ一言希望ヲ述ベラレテ居リマス、其
希望ハ、此法案ガ通過シタ後ニ於テ、嚴肅ニ此法案ヲ解釋サレテヤッテ貰ヒタ
イト云フ、サウシテ今マデモ動モスルト裁判官ノ世論ニ引カレル傾ガアル、
其點ヲ十分ニ匡正シテ貰ヒタイト云フヤウナ御希望ト、ソレカラ其次ニ此法
案ノ實行上、色〓其齟齬スルコトガ澤山アリハシナイカ、ソレヲ今ヨリ十分
ニ注意ヲシテ貰ヒタイト云フヤウナコトヲ述ベラレテ居ルノデアリマス、サ
ウ云フヤウナコトデ此大體ノ討論モ終リマシテ、サウシテ玆ニ本案ガ全會一
致ヲ以テ無修正、無條件ニテ可決サレタノデアリマス、以上御報告イタシ
マス
〔阪本彰之助君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=27
-
028・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通〓順ニ依リマシテ質疑ノ發言ヲ許シマ
ス、阪本彰之助君ハドウ云フコトデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=28
-
029・阪本さん之助
○阪本彰之助君 ソレヲ心得マセヌデシタガ、御幾人バカリゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=29
-
030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 兩君ゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=30
-
031・阪本さん之助
○阪本彰之助君 左樣ナレバ其次ヘドウゾ御加ヘヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=31
-
032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 通告セラレタモノト認メテ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=32
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033・阪本さん之助
○阪本釤之助君 宜シウゴザイマス、ドウゾ左樣願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=33
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034・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 志水小一郞君
〔志水小一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=34
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035・志水小一郎
○志水小一郞君 本員ハ主トシテ此法案ノ實行ノコト及本法中ノ文字ノ解釋
ニ付テ伺ヒタイノデアリマス、其中、就中重要ナ事項ニ付キマシテハ、司法大
臣ノ御答ヲ煩ハシタイト思フノデアリマス、本案ハ頗ル重要ノ法律デアリマ
シテ之ガ提出ニ付テ已ニ政府ハ十二分ノ御決心ヲ有セラルヽコトト思フノデ
アリマス、所ガ之ガ實行ニ付テハ更ニ一層ノ御決心ヲ要スルノデアラウト斯
ウ思フノデアリマス、所謂實行ト申シマスコトハ、主トシテ犯罪ノ捜査、訴
追ノコトヲ申スノデアリマス、何故ナレバ無政府主義ト云ヒ、共產主義ト云
ヒ、唯貧困窮迫、其境遇ニ依ッテ此仲間ノ中ニ驅リ入レラルヽト云ハムガ如
キ人ハ格別デアリマス、併ナガラ根柢アリ、其根抵深ク且ツ之ヲ信條トスル
ヤウナ人ニハ、之ニ數箇月乃至數年ノ懲役ハオロカ、縦シヤ死刑ヲ擬スルモ
以テ其決心ヲ飜ヘスト云フコトハ容易デハナイト心得ルカラデアリマス、要
スルニ、今ヤ各國共通トモ云ハムガ如キ時勢ノ生メル或種ノ人〓ニハ、刑罰ハ
殆ド效力ヲ見ナイヤウニ思ハレルノデアリマス、此點ニ於キマシテ政府ノ御
所見ハドウデアリマセウカ、本員ハ決シテ徒ラニ空想ヲ述ベルノデハナイノ
デアリマス、手近キ一例ヲ擧ゲテ申シマスレバ多年此主義者ヲ以テ聞エマシ
タル所ノ大杉サカフ······大杉榮ノ如キ、之ニ對シテハ、大尉甘粕正彥ト云
フ者ガ出マシテ、是ハ無論刑罰デハアリマセヌガ、大杉ヲ絞殺シテ自然ニ刑
罰的行爲ヲ敢テシタノデアリマス、然ルニ大杉一派ヲ威嚇シ得タリトモ見エ
ヌノデアリマス、第二ノ大杉ヲ出スカモ知レヌ、蓋シ第二ノ大杉ヲ出シマシタ
ナラバ、或ハ又第二ノ甘粕ヲモ出スコトナキモ保セヌト、斯ウ思フノデアリマ
ス、ナゼナラバ甘粕ノ私的刑罰ガ大杉一派ヲ懲ラスニ足ラザルト等シク、甘粕
モ亦其受ケタル刑罰ハ全ク之ヲ甘受シテ、毫モ憾ミタル樣子ガナイ、是等ノ點
ヨリ察シマスレバ、刑罰ノ威嚇ハ以テ當人ノ行爲ヲ阻止スルニ足ラナカッタモ
ノト思ハレルノデアリマス、要スルニ、確信アリ信條アリテ其根柢ガ甚シク深
イ者ニハ、刑罰ハ其效用ヲ見ザルヤウニ思ハレルノデアリマス、サレバトテ他
ニ是等危險ノ思想、危險ノ分子ヲ撲滅根絶スルヤウナ途モ無イヤウニ思ハレ
ルノデアリマス、デ、政府ノ御所見ハ如何デアリマセウカ、矢張リ斯ウ云フ御
考デアリマセウカ、斯ウ云フ御考デアルトスレバ、此種ノ者ニ對シテ政府ハ
如何ナル御決心、且ツ如何ナル御目的ヲ以テ此法案ヲ適用セラルヽデアリマ
セウカ、是ガ第一ニ伺ヒタイコトデアリマス、次ハ刑罰ノ目的デアリマスガ、
是ハ申ス迄モナク個人ノ個情ニ依ッテ、之ヲ取捨シテ以テ只管、改過遷善ヲ期
スル、斯ウ云フコトニ違ヒナイノデアリマス、併ナガラソレハ通常ノ犯罪人
ニ對シテノコトデアリマシテ、唯今述べマシタ如キ主義ヲ眞個ニ信條トシ、且
ツ其根柢甚ダ深キ者ニハ、所謂改過遷善ト云フコトハ殆ド望ガ無イダラウト
本員ハ思フノデアリマス、此類ニ對スル本法ノ適用ハ如何デアリマセウカ、
是ガ伺ヒタイノデアリマス、蓋シ此類ハ容易ニ法網ニハ觸レマスマイ、從テ
其筋ノ手ニモ落チマスマイ、法網ニ罹ッテ捕ヘラルヽ者ハ比較的價値ノ無イモ
ノニ多イノデハナカラウカト本員ハ思フノデアリマス、併ナガラ目的ハ巨魁
トカ巨頭トカ云フモノニ在リトセヌケレバナラヌノデアリマス、此巨魁巨頭
ニ對スル刑罰ハ如何デアリマセウカ、是等ニ對スル刑罰ノ目的ハ、改過遷善
デアル、卽チ感化デアルト云フコトハ言ヘナイノデハアリマスマイカ、寧ロ
排斥トカ離隔トカ云フコトニ在ルノデハアリマスマイカ、サスレバ僅々十年
以下ノ懲役ヲ以テ、果シテ其目的ガ達セラルヽデアリマセウカドウカ、是ガ伺
ヒタイノデアリマス、是ガ第二問デアリマス、モウ二三問アルノデアリマス、
次ハ本案ノ第一條ノ解釋デアリマスガ、本條ノ犯罪行爲ハ卽チ結社デアル、
結社ヲ組織シタルモノ、結社ガ卽チ犯罪行爲、サウシテ其結社ノ目的ガ國體
變更ニアラヌケレバナラヌ、國體變更ヲ目的トシテ結社スレバ、卽チソレガ
犯罪行爲デアル、斯ウ出來テ居ルノデアリマス、ソコデ問題デアルノハ所謂
國體變更、此國體變更ナル目的ガ、非常手段、卽チ暴力ニ依ルニアラズシテ、
達シ得ラルヽノデアルカドウカト云フノガ、本員ノ疑デアリマス、假ニ暴力
ニ依ルニアラザレバ國體變更ナドト云フコトハ不可能デアルト斯ウ致シマス
ト、所謂國體變更ト云フ目的ノ中ニハ、暴力ニ訴ヘルト云フコトガ包含サレ
テ居ルト讀マヌケレバナラヌヤウニモ心得ル、少クモ國體變更ヲ目的トシテ
結社ヲ組織スル人ニハ、機會ガ至ッタナラバ暴力ニ訴ヘヤウト云フ考ガアルノ
デハナイカドウカ、若シサウ云フ風ニ解釋イタシマスト、卽チ內亂罪ノ、少ク
モ豫備陰謀デハナイカ、斯ウ云フ疑ヲ本員ハ懷クノデアリマス、是ハ本案ノ
立法ノ趣旨ヲ審ニセナイカラデアラウト考ヘマスニ依ッテ、ドウカ立案ノ趣
旨ヲ懇ニ御示シヲ願ヒタイノデアリマス、是ガ第三問デス、次モ解釋ノ話デ
アリマスガ、結社ヲ組織スルト云フコトハ抑〓ドンナコトヲ意味サルヽノデ
アリマスカ、法律ノ所謂解釋ト云フ方カラ觀念ヲ畫イテ來ルト、色〓ナコトガ
想像サレルノデアル、併ナガラ軍事刑法、卽チ陸海軍刑法ナドニハ、結黨ト云
フコトガアリマス、是モ由來問題デアリマスケレドモ、凡ソ解釋ハ一定シテ
居ルノデアリマス、結黨ト云フノハ一人ヨリハ二人、二人ヨリハ三人、通謀
結託シテヤルト云フト害ガ益〓重大デアルト云フ觀念カラ來テ居ルノデア
リマス、デ、此本案ノ結社ヲ組織スルト云フコトハ、チヨット簡單ニ御說
明ヲ伺ヘバドウ云フコトデアリマセウカ、之ヲ伺ヒタイ、是ガ第四間デア
リマス、次ハ本法ノ罪ノ裁判管轄ノコトデアリマス、結社ノ目的ガ國體變更
ニアラヌケレバナラヌ、此罪ヲ組成スルノニハ······サウスルト此犯罪事件ガ
起リマスト、或ハ特定ノ事柄ガ果シテ國體ノ變更デアルカドウカト云フコト
ニ歸著スル、此問題ヲ解決スルコトハ、時トシテハ餘程面倒ナ重大ナコトニ
ナリハセヌカト思フノデアリマス、憲法第一條ノ規定ヲ云々スルト云ヘバ、極
メテ簡單デアリマス、併シ憲法第一條ニ伴ッテ、天皇ノ大權事項ガ憲法ニハ
羅列シテアリマス、是亦云々スレバ矢張リ國體變更ニナリハシナイカ、出版
法ノ第二十六條ニ「政體ヲ變壞シ國憲ヲ紊亂セムトスル文書圖畫ヲ出版シタ
ルトキハ」云々トアルノデアリマス、此犯罪事項ハ申ス迄モナク、裁判管轄
ハ通常裁判所ノ裁判管轄ニナッテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ例ガアルニ依ツ
テ、本案ノ犯罪モ通常裁判所ノ管轄デ足レリ、澤山デアルト云フコトニナル
ノデアラウカドウカト云フコトヲ、本員ハ疑フノデアリマス、是ハ例トシテ
當ルカドウカ存ジマセヌケレドモ、先般、露西亞ヤ獨逸ノ軍隊ノ崩壞シマシ
タ徑路ハ本員ハ懇ロニ注意シテ承ッテ居ルノデアリマス、ソレハドウ云フコ
トニナッタカト申シマスルト、先ヅ軍隊ヲ民衆化セシメナクチャイカヌ、斯
ウ云フ議論ガ起ッテ來タ、此軍隊ノ民衆化ト云フコトハドウ云フコトデアル
カ、第一ニ軍隊ハ所謂階級制度デアリマシテ、上下ノ秩序ト云フモノハ一番
大切デアル、其階級ヲ抹殺シタノデアリマス、之ニ次イデ徽章ヲ廢シタ、徽
章ハ卽チ階級ヲ外面ニ表象スル具デアリマス、次イデ敬禮ヲ抹殺シタ、軍隊
ヲ全ク無秩序ニ致シマシタ、次イデ死刑ヲ廢止シマシタ、死刑ト云フハ軍刑
法ノ骨子デアリマス、極メテ重イ、死刑ガ······死刑ヲ廢止シタカラ、別語ヲ以
テスレバ卽チ軍隊ニ軍紀ヲ廢シ、軍刑法ヲ廢シタ譯デアリマス、玆ニ於テ軍隊
ハ結合力ヲ失ッタ、勿チ崩壞シタノデアリマス、軍隊ノ崩壞ニ次イデ崩壞シタ
ノハ國家デアリマス、獨逸ノ國家、露西亞ノ國家ガ崩壞シタノデアリマス、サ
ウ云フ風ニ考ヘ來リマスルト云フト、事柄ハ個々デアリマスケレドモ、其
個々ノ事項ガ矢張リ國體變更ニナリハシナイカ、斯ウ云フ問題ニナルノデア
リマス、其意味ニ於テ此本案ノ被告事件ガ出來イタシマシタ時分ニハ裁判
所ニ於テ重要ナ問題ガ起リハシナイカ、寧ロ國事犯ニ付テノ裁判管轄ト同樣
ニスベキデハナイカ、是ハ本員ノ疑デアリマス、ソレデ之ヲ新聞紙條例、出
版條例等ノ違反ニ付テノ先例ガアルカラシテ、是モ普通ノ裁判管轄デ宜シイ
ト、斯ウ斷定ニナリマシタ理由ヲ伺ヒタイノデアリマス、是ガ第五問デアリ
マス、次ハ先刻、委員長カラ一通リ御話ガアッタヤウデアリマスケレドモ、又
私ノ御尋ネセムトスル所ノ點ハ少シク違ウノデアリマス、政府案ニハ最初「國
體若ハ政體」ト、斯ウアッタノデアリマス、之ヲ衆議院デ改正ヲシタ、衆議
院デ改正ヲシタカラ致方ガナイデハナイカト云フ御答デアリマスレバ、ソレ
ダケノ話、併ナガラ「若ハ政體」ト云フ四字ノ文字ガ有ッタト無イトニ依ッテ、
ドンナ違ヒガアリマセウカ、此法案ノ適用ニ著大ナル相違ヲ來タス、ソコデ
私ハ疑ヒマスノハ、是等重要ノ法律デアルノニ文字ヤ行文ニ付テモ政府ハ十
二分ニ愼重ノ態度ヲ御執リ爲サッタデアラウ、サウナクテハナラヌ、ソレデ
衆議院ノ修正トハ申シナガラ、ソレデモ仕方ガナイ、ソレデモ宜シイ、或ハ
却テ宜イト云フ風ニ仰ッシヤルト云フコトモ私ハ聞イテ居ル、サウ云フ風ニ
政府ノ立法事業ニ於ケル、冷淡ナモノデアラウカ、確信ナキモノデアラウカ、
之ヲ私ハ疑フノデアリマス、之ニ付テドウカ御示シヲ願ヒタイ、私ハ此法案
ニ根本カラ反對ノ意見ヲ持ッテ居ル者デナイノデアリマス、故ニ解釋ノ如何、
應用ノ如何ト云フコトニ付テハ就中心配ヲ致ス、凡ソ司法權ノ行使ニ付テ人
民カラ妨ゲラレタト云フヤウナコトハ、殆ド我國ニハ例ガ無イ、又有ッテハ
ナラヌ、併ナガラ外國ノ事例ナドニ付テ考ヘマスト云フト、本法案ノ如キモ
ノニ付テハ、···甚ダ不祥ナル豫言カモ知レマセヌケレドモ、政府ノ御決心
如何ニ依ッテハ司法權ノ行使ヲ敢テ阻止セムトスルヤウナ者ガナキニシモア
ラズト、本員ハ心配スルノデアリマス、旁、御尋ヲ致シマス
〔國務大臣小川平吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=35
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036・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君) 唯今ノ志水君ノ御問ニ御答ヲ申上ゲマス、第一ノ
御問ハ斯ノ如キ刑罰ヲ設ケマシテモ、無政府主義者、共產主義者ナドノ人〓
ハ、ナカ〓〓決心ノ堅イモノデアルカラシテ、之ニ對シテ餘リ刑罰ヲ設ケテモ
效ガナイデハナイカト云フ風ナ御問ノヤウニ伺ヒマシタ、此點ニ付キマシテ
ハ私ハ全然、志水君ト意見ヲ異ニスル者デアリマス、成程、極端ナル主義者ニ
至リマシテハ嚴刑酷罰ヲ以テ之ニ臨ムモ如何トモスベカラザル者モアルデア
リマセウ、又其決心ヲ飜スコトノ出來ナイ者モアルデアリマセウ、併ナガラ
多クノ場合ニ於テハ初メノ間ハサマデ熱心デナク、漸次漸次深入リヲシテ參
ルト云フノガ先ヅ殆ド大部分、或ハ全部ト申シテモ宜シイカト思フ、例ヘバ
大杉榮ニ致シマシテモ、御承知ノ通リ初メカラシテ決シテアレ迄ニナッタノ
デハナイ、幸德秋水デモ其通リデアリマス、一步踏入リ、二步踏入リシテ行
クノガ通常デアリマス、是ハ主義者ノ中ノ最モ有力ナル熱烈ナル人ニ付テ見
マシテモ、其通リデアリマス、況ヤ斯ノ如キ非常特別ナル人〓ヲ除キ、一般
ノ人間デ見マスレバ、是ハ亦尙更ノコトデアリマス、初メハサマデデナイ、踏
込ンデ、段々ト其境遇ヲ異ニシ、其交際スル所ノ人〓、論議スル所ノ事柄ガ、
每日每日其事ヲヤッテ居ルカラ深入リヲスルト云フ譯デ、是ガ多イノデアリ
やっく故ニサウ云フコトハ大變ナ事デアル、國家ニ對シテ非常ナ惡イ事デア
ル、又自分トシテモ非常ニ重イ刑罰ニ處セラレルモノデアルト云フコトガ明
カニナッテ來マスト云フト、是ハ大變ナ事ダト云フノデ以テ警メルト云フノ
ガ、先ヅ是ハ普通人ノ大部分デアリマス、現ニ今日、此治安維持法ガ衆議院ヲ
通過シ、貴族院ガ大多數ヲ以テ通過セムトスルト云フコトガ段々ト分リマシ
タノデ、旣ニ今日ニ於テモ、最早或人〓ノ如キハ極メテ不穩ナ印刷物ヲ發行
スル計畫ナドヲシテ居ッタモノガ解散ヲシタ、金ヲ作リ兼ネタノデ解散ヲシ
タト云フヤウナ報道モ既ニ有ル位デアリマス、今日旣ニ其通リデアル、又況
ヤ此刑罰ハ單ニ其主義者其人ニ對シテ決心ヲ飜ストカ、決心ヲ進メサセナイ
ト云フヤウナコトノミデハナイノデアリマス、其人ノ働ヲ止メテシマウ、其
主義ノ卽チ宣傳ヲ致シ段々ト國民ニ之ヲ擴ゲテ行クト云フ働ヲ、是ハ止メル
ノデアル、卽チ結社ヲ罰シ、煽動ヲ罰シ、金品ノ授受ヲ罰スルト云フノデア
リマスカラ、縱シンバ、其個人其人ニ對シテハ其考ヲ飜スコトガ出來ナイト致
シマシテモ、少クトモ其人ガ社會全般ノ多數ノ人ニ向ッテ、或ハ惡主義ヲ擴
メテ行クト云フ働ハ止メルコトガ出來ルノデアリマス、志水君ノ御述ベニナッ
タコトハ、極メテ極端ナル一代ヲ通ジテモ餘リナヤウナ熱心ナ主義者、サウ
云フ人ノ例ヲ御引キニナッタノデアリマスルケレドモ、サウ云フモノハ是ハ
致方モナイカモ知レヌ、併シ法ハ必シモサウ云フ非常特別、一代ヲ通ジテ幾
人シカナイト云フヤウナモノバカリヲ目的ト致シテ居ルノデハナイ、般
人、大多數ノ人ニ向ッテ臨ムノデアリマスルカラ、ソレニ對シテハ十分ナル
效力ガ有ルト考ヘテ居ルノデアル、次ニ第二ノ御問ト致シテ矢張リ改過遷善
ノコトニ付テ御話ガ有リマシタ、是ハ亦私ハ志水君ト意見ヲ異ニシテ居ル、
今日マデ既ニ斯カル主義者ガ刑ヲ受ケマシテ、而シテ刑ノ執行中ニ於テ改過
遷善ヲ致シタ例モアルノデアリマス、一旦過ッテ斯カル思想ヲ有ッタノデアル
ケレドモ、靜カナル所ニ這入ッテ、段々ト年月ヲ經過シテ考ヘテ行ッテカラニ、
是ハ間違ッタト云フコトデ、衷心カラ其前非ヲ後悔シタト云フ實例モアルノ
デアリマス、又是ハ無ケレバナラヌコトデアリマス、殊ニ此共產主義、無政
府主義ト云フガ如キ、能ク研究ヲシテ靜カニ思ヒヲ深ク致シテ見マスレバ、
必ズヤ是ハ過ッタト云フコトガ分ラナケレバナラヌコトデアルト、私ハ考ヘ
テ居ル
〔副議長候爵蜂須賀正部君議長席ニ著ク〕
或ハ血氣ニ逸ル餘リ、或ハ自己ノ境遇ガ社會ニ反抗スルヤウナ立場ニ居ッテ、
斯樣ナ所デ一種ノ道理ヲ聽カサレテ、是ハドウモ面白イト云フノデ、這入ルノ
ガ隨分多イノデアリマス、今日ノ實際ノ場合ニ於テ、是ガ果シテ實行出來ルカ
ドウカ、又是ガ果シテ人類全般ノ幸福ニナルカドウカ、併セテ自分ノ爲ニド
ウデアルカト云フヤウナコトハ、ソコニ這入ッテ、其輩ト一〓ニナッテ居ッテ、
サウシテ社會ノ逆流ニ反抗シテ行キマスカラシテ、益〓其反抗ノ念ガ强クナッ
テ、斯カル間違ッタ所ノ極メテ其不穩ナル思想ヲ段々進行スルノデアリマス、
一旦、此境遇カラ離レテ、サウシテ刑ニ就テ靜カナル所ニ起キ臥シヲ致シテ
居ル、サウシテ眞面目ナ書物デモ讀ミ、或ハ〓訓ヲ受ケル、其中ニハ年モ取ツ
テ参ルト云フコトニナルト云フト、是ハドウシテモ此改過遷善ヲスル方ガ寧
ロ多イト云フコトニ想像イタサナケレバナラヌト考ヘル、又斯カル極メテ危
險ナル主義ノ犯罪者ニ對シマシテハ、今日マデモ當局者ニ於テ相當ニ格別ナ
ル此改過遷善ヲサセタイト云フ途ヲ考究ヲ致シテ居ルノデアリマス、經費ノ
少イガ爲ニ思フヤウニモ出來マセヌガ、今日以後、法ヲ執行イタシマスル以上
ハ、又若シ不幸ニシテ此法ニ罹ルヤウナ人ガ多ク有リマシタ場合ニハ、特ニ
此點ニ向ッテハ力ヲ盡シテ見タイト云フ考デアリマスルカラ、想フニ、其效
果ト云フモノハ必ズヤ少々デナカラウト私ハ考テ居ルノデアリマス、故ニ
其犯罪ヲ致シタ所ハ其人自身ニ對シテ效ガ有ルノミナラズ、先刻モ申述ベマ
シタ通リ、法ハ斯カル惡思想ノ蔓延スルコトヲ防グノデアリマス、此點ニ御注
意ヲ十分ニ願ヒタイト思フノデアリマス、第三ハ、第一條ノ此結社ト云フコト
ハ、國體ヲ變革スルト云フヤウナコトハ、結局、内亂ニ依ラナケレバ出來ナイ
ノデアルカラ、詰リ是ハ內亂ノ豫備ノヤウナモノニナルデハナイカ、斯ウ云フ
御質問デアリマシタ、第一條ノ趣意ハ必シモ此暴力ニ依ル場合ト云フモノヲ
豫想シテ居リマセヌノデ、卽チ明文ニ示ス如ク、暴力ニ依ルトカ依ラヌトカ云
フコトハ問ハナイノデアリマス、單ニ國體ヲ變革スル目的ヲ以テ、サウシテ之
ヲ實行スル爲ニ結社ヲスル、或ハ人ヲ煽動スル、斯ウ云フモノヲ罰シヤウト云
フノデアリマス、暴力ニ依ルト依ラザルトヲ問ハヌノデアリマス、成程、多ク
ノ場合ニ於テ此目的ヲ完全ニ遂行スルニハ、內亂トカ暴動トカ云フモノデナ
クテハ出來ナイ場合ガ多イデゴザイマセウ、併ナガラ若シ此宣傳、或ハ煽動
ガ巧ニ行ハレテ結社ガ勢力ヲ得テ、而シテ先刻、他ノ場合ニ於テ志水君ノ述べ
ラレマシタガ如ク、或ハ軍隊ノ中マデモ此思想ガ蔓延シテシマウ、サウシテ
大多數ノ有力ナル部分ノ人〓ト云フモノガ斯ウ云フ思想ニナッテシマッタナラ
バ、必シモ內亂、暴動、暴力ヲ用ヰナイデモ革命ガ行ハレテシマフカモ知レ
ナイ、サウ云フ危險ガアルノデアリマス、サウ云フ事ガ我國ニ於テ有ラウト
ハ無論、是ハ想像イタシテ居リマセヌケレドモ、併ナガラ必シモ暴力ニ依ラ
ヌデモ、不幸ニシテ此輩ノ主義、宣傳ガ段々ニ擴ッテ行キマシタ場合ニハ、
ソレニ依ッテ革命ガ出來ルカモ知レナイ、要スルニ、本法ノ趣旨ハ暴力ニ依
ルト依ラザルトヲ問ハズ、其手段方法ノ如何ナルコトタルヲ問ハズ、單ニ國
體ノ變革ト云フ如キ恐ルベキ事ヲ目的ト致シテ、サウシテ結社ヲ致セバ、之
ヲ罰シテ、卽チ未然ノ豫備ノ又豫備ノ場合ニ於テ之ヲシッカリト防ギ止メル、
斯ウ云フ目的デ立法イタシタ次第デゴザイマス、第四ノ結社ノ意義ハ如何、
斯ウ云フ御問デアリマス、結社ノ意義ハ一定ノ目的ヲ有スル所ノ多數人ノ繼
續的結合ナリ、斯樣ニ御答ヘ申シテ置キマス、第五、管轄ノ點デアリマス、
御質問ノ御趣意ハ是ハ國體ノ變革若クハ私有財產制度ノ否認ト云フヤウナ大
切ナ事柄デアル、內亂罪、其外皇室ニ對スル罪ノ如キ、大審院ノ管轄ニ屬ス
ベキモノデナイカト云フ御問ノヤウニ伺ヒマシタ、是ハ私ノ見解ハ違フノデ
アリマス、成程、國體ノ變革其モノハ是ハ非常ニ重大ナ事デアル、若シ直接
ニ此法域ヲ犯スト云フ罪デアリマシタナラバ、勿論、是ハ大審院ノ管轄ニ屬
スベキモノデアルコトハ論ヲ俟タヌノデアル、恰モ皇室ニ對スル罪ノ如ク、
大審院ニ行クノハ相當デアリマセウ、然ルニ本案ハ、玆ニ御注意ヲ願ハナケ
レバナラヌコトハ、國體ノ變革ト云フ大キナ所ノ法域ヲ直接ニ犯シタ、ソレ
ヲ罰スルノヂヤナイノデアリマス、其國體ノ變革ト云フ非常ニ重大ナル事ガ
遠方ノ方ニアル、申セバ、奧ノ院ノ方ニ坐ッテ居ル、ソレヲ門前ニ於テ······サ
ウ云フ目的ヲ以テ仕事ヲスルコトハ何デアルカト云ヘバ、集會、結社或ハ煽動
或ハ金品ノ授受ト云フ風ナ事柄デアリマス、サウ云フ其門前ニ於ケル豫備ノ
又豫備ノ所爲ヲ罰スルノデアル、丁度、先刻志水君ノ述ベラレマシタガ如ク、
朝憲ノ紊亂ニ關スル事項ニ付テ文書ヲ發行スル、或ハ集會ヲスルトカ云フ風
ナ事ハ治安維持法等ニ於テ罰シテ居ル、朝憲ノ紊亂ト云フコトハ大キナ事デ
アリマスルケレドモ、之ヲ目的トシテヤッタ仕事ハ、一ツノ文書ヲ發行スルト
云フダケノ事柄デアル、本法ニ於ケル國體ノ變革ハ大變ナ事デアリマスルケ
レドモ、併ナガラ是ハマダ內亂トカ變革トカ云フ其場所マデハ到達ハシナイ、
遙カ遙カ手前ノ方ノ豫備ノ豫備ヲヤッタ所ノ事ヲ罸スルノデアリマスルカラ、
是ハ普通ノ裁判所ニ於テ罰スルノガ相當デアルト考ヘテ居ルノデアリマス、
第六、政體ノ二字デアリマス、是ハ原案ニ於テハ政體ト云フ字ガアリマシタ
ノデゴザイマスルガ、御承知ノ通リ、衆議院ニ於テ削除ニナリマシタ、衆議
院ノ削除ノ理由ハ豫テモ申述ベマシタル通リ、政體ト云フ字ハ色〓ノ解釋ガ
ツク虞レガ有ル、或ハ三權分立ト云フヤウナ點カラシテ、單リ代議制度ノミナ
ラズ、裁判所ヲ廢スルトカ、行政府ノ一部ヲ廢スルトカ、或ハ貴族院ヲ廢スル
トカ云フコトガ、ドウナルト云フヤウナ色〓ノ疑ノアル文字デアル、是ハ削、ツ
タラドウデアラウカ、若シ削ッテモ、今日ノ實際ノ情況ニ於テ最モ恐ルベキ所
ノ主義者ノ働ト云フモノヲ防グニ於テハ事ガ足リルデハナイカ、斯ウ云フ風
ナ先ヅ大體趣意デ削ラレタノデアリマス、デ、政府ニ於テハ固ヨリ原案トシテ
之ヲ出シタノデアリマスルカラシテ、削除ハ好ム所デハナイノデアリマスル
ケレドモ、豫テ申上ゲマスル通リ、今日ハ最モ恐ルベキ緊急已ムヲ得ザル所ノ
犯罪ヲ防遏スルト云フコトヲ目的ト致シテ、而シテ豫テ立案セラレテ居ッタ所
ノ事柄ニ付テモ、大分之ヲ削ッタコトノアルヤウナ場合デアリマス、大體、無
政府主義者ヲ取締ルト云フコトニ付キマシテハ、「政體」ト云フ字ヲ削ラレテ
モ、實際ノ場合ニ於テ餘リ大シタ不都合ガナイノデ、大凡ソ此立法ノ目的ヲ達
スルコトガ出來ヤウデハナイカ、斯樣ナ點ニ著眼ヲ致シマシテ、國民ノ代表者
タル衆議院ノ大多數ガ、之ヲ削除スルト云フコトニ決定ヲ致シマシタカラ、卽
チ之ニ同意ヲ表シマシタ次第デアリマス、決シテ此原案ヲ維持スルニ付テ冷
淡デアッタト云フ次第デアリマセヌカラ、ドウゾ惡カラズ御了承ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=36
-
037・志水小一郎
○志水小一郞君 唯今、司法大臣カラ御說明ヲ受ケマシテ、立案ノ趣意ニ付
テ承ッタコトデゴザイマスルガ、ソレ等、司法大臣ノ御述ベニナリマシタ事
ニ付テハ、私モ是認シテ居ル事モ有ル、ソレカラ又、ソレハ御前ト意見ヲ異
ニスルカラ仕方ガ無イト云ハムガ如キコトヲ仰シヤイマシタガ、誠ニ其通
リデアリマス、本員ノ意見ト政府ノ御意見ト大分違ッテ居ル所ガ此處彼處ノ點
ニ在ル、ソレカラ本員ガ司法大臣ノ御述べニナリマシタ事ニ付テ是認スル
所モ有ルト申スノハ斯ウ云フコトデアル、危險思想者ト謂ッテモ、マダ色彩
ノ濃厚ナラザル者ガアル、ソレハ其濃厚ナラザル內ニ救治救濟ノ途ガアルノ
デアル、斯ウ仰シヤル、無論、本員モ其事實ヲ認メテ居ルノデアリマス、ガ
是ハ危險思想者ニ限リマセズ、總テノ犯罪ニ付テ斯ウ云フ狀態デアルカラシ
テ、其色彩ノ濃厚ナラザル中ニ救治救濟ヲシナケレバナラヌト云フコトハ、
是ハ刑罰法ノ目的ダト本員ハ確信シテ居ル、ソレハ否認スルノヂヤナイ、併
ナガラ所謂、危險思想ノ主義者ナドト云フ者ハ頗ル價値ノアル者ガアル、サ
ウシテ政府ノ一網打盡ト云ハムガ如クシテ、政府ノ手ニ這入ル所ノ者ハ、多
クハ比較的價値ノ無イ者ダラウト本員ハ信ズル、ソレヲ以テ滿足ハ出來ナイ、
巨魁巨頭ヲ手ニ入レナケレバナラヌ、所ガ案外ソレガ手ニ這入ラスノデアル、
危險思想ヲ撲滅スルトカ何トカ云フ心配カラ來レバ、サウ云フ者ニ手ヲ著ケ
ナケレバナラス、兔角、ソレニハ手ガ著カヌノデアリマス、泰然トシテ居ル、
サウシテ、ソレ等ガ社會ニ向ッテ毒ヲ流シツヽアルノデアリマス、サア、偖
テサウ云フ者ニ······サウ云フ者ヲ待ツニハ刑罸法デハドウスルノデアルカ、
改過遷善ト云フコトハ固ヨリ期シ難イ、サウスルト學者ノ所謂、離隔トカ、
排斥トカ、遠ザケテ置クノモ必要デアル、所ガ僅ノ刑罸、十年以下ノ懲役ク
ラヰデ、ドウシテソンナ事ガ出來マスカ、斯ウ云フ御尋ヲシタノデアリマス、
併シモウ是レ以上、御尋ネ致シマシタ所デ討論ニナリマスカラ、是デ私ハ止
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=37
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038・蜂須賀正韶
○副議長(侯爵蜂須賀正韶君) 休憩ヲ致シマス、午後ハ一時半ヨリ開會ヲ致
シマス
午後零時六分休憩
山호小山平山三木
午後一時四十三分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=38
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039・蜂須賀正韶
○副議長(侯爵蜂須賀正韶君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、午前ニ引續キマシテ
通告順ニ依リ質疑ヲ許シマス、副島道正君
[伯爵副島道正君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=39
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040・副島道正
○伯爵副島道正君 國民ノ自覺心ヲ傷ケル所ノ治安維持法ガ今ヤ貴族院ヲ通
過シテ法律トナラムトスル時ニ當リマシテ、私ハ玆ニ五箇條ノ質問ヲ政府ニ
向ッテ致シタイト思フノデアリマス、而シテ此質問ハ旣ニ刷物ニ致シマシテ、
私ハ政府ノ手許ニ出シテ置イタノデアリマス、此政府ノ手許ニ出シマシタ所
ノ質問ニ付テ敷衍シテ述ベマスルコトニナリマスト、非常ニ多クノ時間ヲ要
シマスルガ故ニ、私ハ唯〓ハ唯、玆ニ私ノ政府ノ手許ニ差出シマシタ所ノ質問
書ヲ朗讀スルノミニ止メテ置キタイト思フノデアリマス、私ガ政府ノ手許ニ
出ジマシタ所ノ質問書ハ、斯ノ如クデゴザイマス、質問要旨······余ハ決シテ
治安維持法ニ反對スル者ニ非ズ、何トナレバ卽チ其ノ斯ノ如キ法律ガ制定サ
ルヽニ至リタル原因ハ······唯今、副議長カラノ御注意モゴザイマス故ニ、質問
要旨ヲ朗讀スルコトハ見合セマシテ、此政府ノ手許ニ差出シマシタ所ノ質問
要旨ニ依リマシテ簡單ニ質問ノ大體ヲ述ベタイト思フノデアリマス、私ハ治
安維持法ニ決シテ反對デハナイノデアリマス、併ナガラ其斯ノ如キ所ノ法律
ガ制定サルヽニ至ッタ所ノ原因ト云フモノハドコニアルカ、之ヲ考ヘテ見マ
スルト、誠ニ悲シムベキコトガ多イト思フノデアリマス、斯ノ如キコトヲ必
要トスルニ至リマシタ所ノモノハ何デアルカト申シマスト、詰リ今日マデ歷
代ノ政府ノ執リマシタ所ノ政治ト云フモノガ決シテ國利民福ト云フモノヲ土
臺トシテ居ルト云フ風ニハ認メルコトガ出來ナイノデアリマス、此國民ノ自
尊心ヲ傷ツケル所ノ事實ノ發生、之ニ付キマシテハ色〓司法大臣カラモ既ニ
說明ノアッタ所デアリマスガ、是等ノ事實ノ發生、或ハ其結果、遂ニ斯ノ如キ
法律ヲ制定シナクチヤナラヌト云フコトニナリマシタ所ノ責任ト云フモノ
ハ、果シテ誰ニ存スルノデアルカト云フコトハ、我〓ガ此法律案ヲ通過スル
前ニ〓究シナクチヤナラヌコトト思フノデアリマス、一言以テ申シマスレバ、
我國ノ現代政治ガ動トモシマスルト、眞ノ國利民福ヲ顧ミズシテ、唯一時ヲ
彌縫スル所ノ僞善迎合ノ策ヲ主トスルガ爲デアルト、私ハ思ヲノデアリマス、
故ニ私ガ玆ニ政府ニ出シマシタ所ノ趣意書ニハ······質問要旨ニハ、加藤總理
大臣ニ伺ヒタイト云フコトヲ述ベテ置キマシタガ、總理大臣ハ御差支ガアル
ヤウデゴザイマスカラ
〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
内務大臣竝ニ此處ニ御出席ノ大藏大臣ニ對シテ質問ヲ申上ゲタイト思ヒマス
ル點ハ、第一ハ假令、斯ノ如キ法律ヲ制定スルニ致シマシテモ、斯ノ如キ法律
ヲ制定スルニ至ッタ原因ヲ除去シ、又ハ之ヲ緩和スルニアラザレバ、結局、唯、
一土堰堤ヲ築イテ、上カラ流レル所ノ流水ヲ土堰堤ニ依ッテ一時止メルニ過
ギナイト私ハ思フノデアリマス、其故ニ是ハ早晩崩壞シテ、其結果ト云フモ
ノハ、更ニ戰慄スベキ所ノ非常ナル慘害ヲ生ズルニ至ルト云フコトハ、瞭乎
トシテ火ヲ睹ルヨリ明カデアルト私ハ思フノデアリマス、一時ノ流水ヲ堰止
ス、民心ヲ茲ニ一時緩和スルト云フコトモ、必要デモアリマセウケレドモ、
併ナガラ此水源ニ溯ッテ、何故ニ斯ノ如キ法律ヲ制定シナクチヤナラヌヤウ
ニナッタカト云フコトヲ十二分ニ研究スルニアラザレバ、結局、此法律ト云フ
モノモ十分ノ私ハ效果ヲ收メルコトハ出來ヌト思フノデアリマス、而シテ政
府ニ於テモ、必ズヤ斯ノ如キ我國ノ國體ニ對シテ、斯ノ如キ所ノ法律ヲ設ケナ
クチヤナラヌト云フコトヲ認ムルニ至リマシタノハ、必ズヤ相當ノ理由ガナ
クチヤナラヌ、必ズ之ヲ又十分ニ防グ所ノ方法マデ考ヘテ居ラレルト思フノ
デアリマス、デ、政府ニ於テ之ヲ防止スル所ノ方法モ講ゼラレテ居ルト云ヘ
バ、必ズ其方法ガナクチヤナラヌト思フノデアリマスルカラ、私ハ政府ニ今
日質問シタイノハ、サウ云フ方法ガ有ルトスレバ、玆ニ其方法ヲ第一ニ示シ
テ戴キタイト云フ考デアルノデアリマス、政府ハ動トモスルト普通選擧又
貴族院ノ改革ト云フモノハ、必ズ人心ヲ緩和スル所ノ一策デアルト云フコト
ヲ言ハレルデアラウト思ヒマスルケレドモ、併ナガラ普通選擧ニシロ、又
貴族院ノ改革ニシロ實際考ヘテ見マスルト、諸君モ御承知ノ通リ、矢張リ
煽動政治ノ產物ト云フニ過ギナイト私ハ思フノデアリマス、此壇上ニ於テ既
ニ私ガ述ベマシタ通リニ、煽動政治家ガ或ハ院前ニ於テ、或ハ山王臺ニ於テ
日當ヲ拂ッテ普選運動ヲヤッタノガ、元〓、此普通選擧運動ノ起リナノデ、是
等ヲ以テ人心緩和策ト云フコトハ私ハ出來ナイト思フノデアリマス、否、寧
ロ若シモ普通選擧ト云フモノガ實行サルヽコトニナレバ、或ハ益〓人心ヲ煽
動スル所ノ煽動政治家ガ出テ來ルコトナキヲ保シ難イト私ハ思フノデアリマ
ス、而シテ若シモ普選通過後ニ至リマシテ、人心緩和ノ美名ノ下ニ議會ヲ
速ニ解散シテ普選ヲ卽行シテ······卽行シロト云フコトヲ人民ガ迫ルヤウニナ
リマシタナラバ、之ニ對シテ政府ハドウ云フ考ヲ有ツデアリマセウカ、政府ハ
果シテ議會ヲ解散スルデアラウカ否ヤ、之ヲ私ハ第一ニ政府ニ向ッテ質問シタ
イト思フノデアリマス、第二ニハ申スマデモナク、我ガ建國ノ精神ト云フモノ
ハ萬世一系ノ皇統ヲ戴ケル所ノ金甌無缺ノ國體ヲ萬々歲ニ擁護シテ以テ國利
民福ヲ圖ルニアルノガ、是ガ卽チ我國ノ建國ノ精神デアルノデアリマス、故
ニ歷代ノ天皇ハ民ヲ以テ國ノ本ナリト云フコトヲ宣ハレ、或ハ是ハ旣ニ私ハ
此壇上デ前ニモ述ベマシタガ、食ハ卽チ民ヲ治ムルノ本ナリ、或ハ又王公諸
侯、其他ノ富豪ガ餘リ多クノ私財ヲ蓄ヘルコトヲ禁ズル所ノ詔ヲ賜ハッタ所ノ
天皇スラアルノデアリマス、然ルニ、我國ノ現代政治ハ今日如何デアリマセ
ウ、名ハ立憲政治デハアリマスルケレドモ、動トモスルト、政權ヲ掌握スル
所ノ人〓ガ、其政權ナルモノハ國民ノ委託デアルト云フコトヲ忘レ、其委託
ニ背キ、國民ノ實際生活ニ卽セザル所ノ政策ヲ執ル、是ガ卽チ民心惡化ノ一
原因デアルト私ハ思フノデアリマス、斯ノ如キ次第デアリマスルガ故ニ、富
者ハ益〓富榮ニ赴キ、貧者ハ益〓貧〓ニルルト云フ譯ニナルノデアリマス、而
シテ今日、國際間ノ經濟戰ト云フモノハ益、盛ンニナッテ、今ヤ此國際的經濟
戰爭ト云フモノガ酣ナル時ニ當リマシテ、我國ノ經濟信用ト云フモノハドウ
云フモノデアルカ、卽チ諸君ノ御承知ノ通リ、圓ノ値打ト云フモノハ三十弗
臺ニ下リ、我國ノ經濟信用ト云フモノハ正ニ地ニ墜チムトスル有樣デ、而モ貿
易ハ非常ナル逆調ニ陷リ、輸入超過ハ滔々トシテ底止スル所ヲ知ラザル有樣
デアルノデアリマス、故ニ今ニ於テ之ヲ防遏スルニアラザレバ必ズヤ其結果、
恐ルベキモノガアル、斯ノ如キ不祥ノ事ヲ言フコトハ欲シマセヌケレドモ、
或ハ國ヲ擧ゲテ破產ノ狀態ニ瀕スルヤウナコトガ無キニ至ルヲ······無キヲ保
シ難シト私ハ思フノデアリマス、故ニ斯ノ如キ狀態ヲ防ギ、又斯ノ如キ狀態
ノ結果、民心ガ益〓惡化スルニ至ルヲ防グ爲ニ、政府ハドウシテモ產業ノ發展、
物價ノ低落、輸入超過ノ防遏ト云フコトニ付テ、十分ナ策ヲ執ラナクチヤナ
ラヌト思フノデアリマスガ、之ニ對シマシテ政府ハ如何ナル胸中成案ガアル
ノデアルカ、之ヲ第二ニ······第三ニ伺ヒタイト思フノデアリマス、第四ニハ
國民經濟ノ生產及分配ニ適應スル所ノ稅制政策ヲ執ルト云フコトモ、是モ民
心緩和ノ私ハ最モ大切ナル所ノ問題ト思フノデアリマス、我國ノ財政政策、
經濟政策ヲ見マスト、動トモスルト、經濟上ノ機會均等ヲ缺クヤウナ風ナ傾
ガアルノデアリマス、故ニ經濟上ノ機會均等ヲ與ヘ、民心ノ緩和ヲ圖ルト云
フコトモ、是ハ私ハ非常ニ必要ナコトト思ヒマスガ、此點ニ付テハ私ハ此數
年來、唱道シ來ッタ所ノコトガアルノデアリマシテ、而モ私ノ唱道シマシタ
點ニ付キマシテハ、多クノ人ガ贊成ノ意見ヲ表シテ居ルノデアリマス、人動
モスレバ、斯ノ如キコトハ我國ノ家族制度ヲ破壞スル、或ハ又我國ノ產業ヲ
破壞スルト云フコトヲ言ハレルカモ知レマセヌケレドモ、併ナガラ旣ニ斯
ノ如キ制度ト云フモノハ、英國ニ於テハ行ハレテ居ルノデアル、而モ英國ハ
是ヨリ生ズル所ノ收入ヲ以テ經常收入ニ入レテ居ルノデアリマス、我國ニ於
テ同ジ稅率マデ之ヲ上ゲマシテ、而シテ之ヲ特別基金トシテ其一半ハ國家非
常時ニ備ヘ、其一半ハ又之ヲ社會政策ニ使フト云フコトニシマスレバ、私ハ
人心ノ緩和ノ爲ニ非常ナル效果ヲ擧グルコトヲ得ルト云フコトヲ信ジテ疑ハ
ヌノデアリマス、ソレハ何デアリマスカト申シマスト、卽チ相續稅ノ稅率ヲ
英國ニ於ケルト同ジ位ノ率マデニ上ゲルト云フコトガ、私ハ必要デアルト思
フノデアリマス、其非常時ニ備ヘル所ノ一半ト云フモノハ、元利共ニ蓄積シ
テ置イタナラバ、三十年ヲ出デズシテ國家ハ非常ナル所ノ此處ニ基金ヲ得ル
コトニナリ、之ニ依ッテ國家ノ非常時ニ備ヘルコトガ出來、又他ノ一半ハ之
ヲ其收入ヲ社會政策ニ充テルト云フコトニ致シマスレバ、必ズ民心緩和ノ上
ニ非常ナル私ハ效果ガアルト云フコトヲ信ズルノデアリマス、今一ツノ方法
ハ、民心緩和ノ方法ト云フモノハ、私豫算委員會ニ於テ年々歲々唱道シテ
來タ所デアリマスガ、勞働組合ト云フモノヲ制定シテ、公認シテ、勞働組合
ニ自由ナル所ノ發達ヲ與へ、其發達ヲ促進スルト云フコトガ私ハ必要ト思フ
ノデアリマス、然ルニ政府ハ勞働組合ニシロ、又ハ勞働爭議調停法ニシロ、
其成案ハ有ッテ居リマスケレドモ、併ナガラ之ヲ遂ニ今日議會ニ提出スルト
云フコトヲ致サナカッタンデアリマス、仄聞スル所ニ依レバ、此勞働組合法
ヲ提出シナイ所ノ原因ハ資本家ヲ恐レルノデアル、又勞働爭議調停法ヲ提出
シナイ所ノ原因ハ勞働者ノ反對ヲ恐レルノデアルト云フコトヲ聞クノデアリ
マスガ、是ハ私ノ最モ意外ニ思フ所デアリマス、何トナレバ、卽チ今日ノ如
キ時勢ニ當リマシテハ、一私人ト雖モ國法ノ許ス範圍內ニ於テハ所信ノ存ス
ル所ヲ以テ、大イニ國家ノ爲ニ盡瘁シ、國家ノ爲ニ猛進スベキト私ハ思フノ
デアリマス、然ルニ上、至尊ノ御信任ヲ辱ウシ、T、國民ノ委託ヲ受ケタ所
ノ現內閣ハ、動トモスルト、迎合策ヲ執ッテ、斯ノ如キ重大ナル所ノ法律案ヲ
提出シナイト云フコトハ、私ハ甚ダ遺憾ニ思フノデアリマス、何故ニ斯ノ如
キ重要ナル所ノ勞働問題ニ關スル所ノ法律案ヲ、政府ハ其成案ヲ有シナガラ
提出シナカッタデアラウカ、之ヲ私ハ伺ヒタイト思フノデアリマス、イマ一
ツハ事甚ダ小ナルガ如キモ、社會ノ上流ニ立ツ人〓ノ一擧一動ト云フモノハ、
私ハ民心ニ非常ナル影響ヲ及ボスモノト云フコトヲ常ニ信ジテ居ルノデアリ
マンク。國民ノ委託ニ依ッテ其權能ヲ有シ、國家ノ三權ニ參與スル所ノ人〓ガ、
其一擧一動ヲ愼マナケレバナラヌト云フコトハ、是ハ申ス迄モナイ事デアル
ノデアリマス、然ルニ聞ク所ニ依リマスルト、政府ノ大官ハ動モスルト政府
ノ政策ヲ樹ツルニ當ッテ、或ハ人〓ノ顰蹙スベキガ如キ旗亭ニ會合シ、或
政客或ハ政商ト會合シテ、國家ノ政治ノ方針ヲ樹テルト云フヤウナ事ヲ仄聞
スルノデアリマスルガ、斯ノ如キ事ハ私、矢張リ民心ニハ非常ナル惡影響ヲ及
ボスト云フコトヲ信ジテ居ルノデアリマス、之ニ對スル政府ノ御見解モ承リ
タイト思フノデアリマス、之ヲ要スルノニ、國民ノ大多數ハ、幸ニシテ今日マ
ダ忠良ナル所ノ臣民デアルノデアル、故ニ政府ガ時代ノ陋風タル所ノ僞善迎
合ノ政策ヲ廢シ、節義節操ヲ主トシテ、至公至誠、其職責ヲ盡スニ至ラバ、私ハ
國民精神ト云フモノハ大ニ作興サレ、社會上、風〓上ノ缺陷ハ、歲月ト共ニ一
掃セラルヽニ至ルト云フコトヲ信ズルノデアリマス、國家ヲ行詰リメ狀態、
否、實ニ非常ニ極端ナル事ヲ申シマスルヤウデアリマスルガ、此治安維持法
ノ如キモノヲ我ガ日本帝國ニ於テ制定シナケレバナラヌト云フコトニナリマ
シタ以上ハ、私ハ國家ヲ累卵ノ危キヨリ拯フト云フテモ宜イダラウト思フ、
國家ヲ累卵ノ危キヨリ拯フ所ノ責任ハ擧ゲテ政府ノ雙肩ニ在リト私ハ思フノ
デアル、政府ハ之ニ付テ如何ナル御考ガアルノデアリマセウカ、之ヲ承リタ
イト思フ
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=40
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041・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 唯〓、副島伯爵ガ憂國ノ至情ヲ以テ、國民精神ノ
作興竝ニ社會上及風〓上ノ缺陷ヲ一掃スルコトニ付テ御質問ニナリマシタコ
トニ向ッテハ、私ハ深ク敬意ヲ表スルノデアリマス、副島伯爵モ治安維持法
ノ制定ハ必要已ムヲ得ナイモノデアルト御認メニナリマシタ、唯併シ斯ノ如
キ法律ヲ制定セナケレバナラヌト云フコトニ至ッタコトヲ深ク悲ムモノデア
ルト仰セニナリマシタ、此點ニ於テハ私ハ全然、副島伯爵ト同感デアルノデア
リマス、若シ我國ノ現狀ガ斯ノ如キ法規ヲ制定セズシテ濟ムコトデアリマス
レバ、政府ハ決シテ好ンデ斯ノ如キ法制ヲ制定ハ致サヌノデアリマス、今日
ノ現狀、サウ廣イ部分ニ於テ有ル譯デハアリマセヌガ、誠ニ遺憾千萬デアリ
マスルケレドモ、國民ノ一部ニ思想ノ不健全ナル者ガ有ッテ、ソレガ爲ニ國
家ノ治安ヲ甚シク脅スト云フコトデアリマス以上ハ、遺憾千萬デアリマスレ
ドモ、玆ニ提出イタシタヤウナ法制ヲ立テナケレバナラヌ次第デアリマス、
副島伯爵ノ御質問ノ第一點ハ、斯ノ如キ法律ヲ制定スルノハ、一時ノ不都合
ナル現象ヲ食止メルコトハ出來ルノデアルケレドモ、ソレハ全ク一時ノ投藥
デアル、根本ニ於テ斯ノ如キ事ノナイヤウニ圖ラナケレバナラスト思フガ、
其點ニ付テ政府ノ見ル所如何、御言葉ハ違ッテ居リマスガ、大體ノ御趣旨ハ
左樣デアルト思フノデアリマス、私共モ此點モ亦······副島伯爵ハ此法律ヲ制
定シテモ一時土堰······土ノ堰堤ヲ築イタヤウナモノデアル、遠カラズ
〔副議長候爵蜂須賀正韶君議長席ニ著ク〕
是ガ崩壞スル虞レガアルト云フ御言葉デアリマシタケレドモ、其一點ダケハ
私ハ左樣ニハ考ヘテ居リマセヌ、併シ斯樣ナ既ニ在ル害惡ヲ除カウ、制壓シヤ
ウト云フ法律ヲ制定スルヨリモ、根本ニ遡ッテ左樣ナル必要ノ生ゼヌヤウニ努
メナケレバナラヌト云フ御考ニ於テハ、是モ亦私共ハ其感ヲ同ジウスル者デ
アリマス、ソレガ爲ニハ精神的ニモ物質的ニモ、種々ナル施設ヲ要スルコトト
思フノデアリマス、殊ニ何ト言ヒマシテモ、政治上ニ於テ正シキ道ガ行ハレテ
居リマセヌト云フコトデアリマスルト云フト、國民ノ不平不滿ナルモノハ到
底之ヲ免レルコトハ出來マセヌカラ、綱紀ノ肅正ヲ圖ルト云フ事柄ハ、足立
人心ヲシテ適正ニ歸セシムル上ニ於テハ勿論、必要デアルト考ヘテ居リマス
ル故ニ、現內閣ハ成立ト共ニ政綱ノ第一ニ綱紀肅正ト云フコトヲ置イタノデ
アリマス、而シテ人ヲ正サムトスレバ、先ヅ自ラ正サナケレバナラスト云フ心
掛ヲ以テ、政府當局ハ何處マデモ自ラ非違ノナイヤウニ努メナケレバナラヌ
ト云フノデ、其點ニ付テハ終始一貫シテ心掛ヲシテ居ルノデアリマス、菲才
或ハ私申上ゲマスルヤウニ至ッテ居ラナイカモ知レマセヌガ、心ダケハソ
レデアルト云フコトハ諒シテ戴キタイノデアリマス、ソレト共ニ一般官吏ヲ
シテ嚴正ニ官紀ヲ守ラシメテ、其間ニ腐敗ノ事實ナドノ無カラムコトハ、切ニ
部下ヲ督勵シテ努メツヽアル次第デアリマス、精神ノ作興ニ付テ精神的ニ施
設スベキ事柄ハ〓育上ノ關係ニ於テモ、又宗〓上ノ關係ニ於テモ、又社會一
般ノ制裁ノ上ニ於テモ、之ニハ大イニ依賴セヌケレバナラヌノデアリマス、
殊ニ其中、〓育ニ於テ最モ努メナケレバナラヌト思ヒマスガ、何ト申シマシ
テモ、政府ノ施設ナルモノハ常ニ財政ノ狀態ト離レルコトガ出來マセヌノデ、
財政ノ許ス限リニ於テ、必要ナルモノヲ實施スルノ外ハナイノデアリマスル
ガ故ニ、私申上ゲル所ノモノガ悉ク其通リニハ行ッテ居ラヌカモ知レマモヌ
ガ、方針トシテハ〓育ノ充實ヲ圖ッテ行カナケレバナラヌト云フコトヲ、出來
ルダケノ範圍ニ於テ、範圍ト申上ゲマスルノハ出來ルダケノ財源ノアル範圍
ニ於テハ、其事ニ付テ努メテ居ル次第デアリマス、又精神的ノ施設ヲ努メル
ト同時ニ、物質的ニ國民生活ノ安定ヲ圖リ、之ガ向上ヲ企テヽ行クト云
フコトモ亦必要デアルノデアリマス、其一ツトシテ現代ノ經濟界ノ諸現
象竝ニ租稅ノコトニ付テモ御質問デアリマシタガ、是ハ大藏大臣カラ答ヘ
ラルヽノデアリマスケレドモ、〓括シテ申上ゲレバ、國民ノ物質的ノ方面ニ
於テ、生活ノ安定竝ニ向上ヲ圖ルコトノ必要デアルト云フコトハ、固ヨリ考
ヘテ居ルノデアリマス、之ガ爲ニハ內務省所管ノ如キハ、社會政策ノ出來得
ルダケノ是ガ實施ヲ努メタイト思ウテ居リマス、唯、遺憾ニ思ヒマスノハ、現
ニ旣ニ成立シテ居ル法律デアリマス所ノ、健康保險法ノ實施ヲモ爲スコトノ
出來ヌト云フノハ、私ハ誠ニ慚愧ニ堪ヘナイ次第デアリマス、併シ是モ亦前
申上ゲル通リ、何事ヲ爲スニモ財源ナシニハ是ハ實行スルコトハ出來ヌ、今日
ノ財政ハ甚シキ整理ヲセナケレバ、財政ノ上ニ於テ、歲入歲出ノ上ニ於テ均
衡ヲ保ッテ行クコトガ出來ヌト云フ位ノ情勢デアリマス故ニ、已ムヲ得ズ本
年度卽チ此大正十四年度ニ於テ健康保險法ヲ實施スルコトハ出來マセナカッ
タケレドモ、成ルベク近イ將來ニ於テ之ガ實施ヲ見ルコトニ致シタイト心窃
ニ期シテ居ル次第デアリマス、其他總テ社會的施設、内務所管ノモノハ固ヨ
リ、各省所管ノモノニ付テモ、物質的ニ於テ國民ノ生活ノ安定向上ヲ圖ルト
云フコトニ努メナケレバナラヌトシテ、心掛ケテ居ルト云フコトダケハ申上
ゲテ宜シイノデアリマス、第二ノ御質問ハ政府ガ普通選擧竝ニ貴族院ノ改革
ヲ企テタコトハ、是デ人心安定ノ一策デアルト考ヘテ居ルカモ知ラヌガ、決
シテ左樣デハナイ、斯ウ御判斷ニナッタ、而モ普通選擧竝ニ貴族院改革ナル
モノハ、全ク煽動政治ノ產物デアルト御斷定ニナリマシタケレドモ
〔議長公爵徳川家達君議長席ニ復ス〕
其點ニ付テハ誠ニ遺憾千萬デアリマスケレドモ、全然、副島伯爵ト私ハ意見ヲ
異ニシテ居ルノデアリマス、立憲政治ヲ施行イタシマシテ普通選擧ヲ結局實
行スル所マデ至ルト云フコトハ、是ハ憲政當然ノ歸結デアラウト思ヒマス、
其時ガ何時來ルカハ、是ハ其場合場合ニ依ッテ、又其ノ國ノ情勢ニ依ッテ判斷セ
ナケレバナリマスマイガ、早晩イツカ普通選擧ニナルベキハ當然デアラウト
思ヒマス、日本ニ於テモ憲政布カレテ以來、三十有餘年ニナリマス、國民ノ知
識ハ啓發セラレ、文化ハ進展シ、政治ニモ一通リハ國民ガ慣熟シテ來タ、而シ
テ歐羅巴大戰ノ結果ニ依ッテ國民ノ思想ハ餘程變ハッテ參リマシタ、彼ノ人ガ
權利ヲ有ツノニ、何故ニ自分ハ權利ヲ有タヌカト云フ研究ニ付テハ、深刻ニ之
ヲヤルヤウニナッテ來タノデアリマス、左樣ナ時ニ於テ普通選擧ヲ行ハヌデ置
イタナラバ、ドウ云フ結果ニナルカ、此事モ亦考ヘナケレバナラヌノデアリマ
ス、ソレカラ諸般ノ關係カラシテ政府ハ普通選擧ヲ實行スルノガ當然デアル
ト云フ意味ニ於テ、此度、普通選擧法ヲ提案イタシタノデアリマス、決シテ煽
動政治ノ產物或ハ結果ナドト云フヤウニ御覽下サレテハ、誠ニ私共ハ遺憾ニ
考ヘル次第デアリマス、貴族院ノ改革ニ付テモ亦然リデアリマス、帝國ハ兩
院制度ヲ採ッテ居リマス以上ハ、常ニ貴族院ガ其構成分子ニ於テ充實セラレ
テ、何囘モ繰返シテ申上ゲマスガ、愼重、練熟、耐久ノ氣風ガ一パイニ貴族
院ニ於テ發揮セムコトハ、是レ制度ノ上ニ於テ最モ望マシイコトト存ズルノ
デアリマス、憲法施行以來、三十有餘年ニナッテ大分時勢ガ變轉シテ居ル、而
モ衆議院ガ普通選擧ニナリマスレバ、衆議院ノ勢力ナルモノハ一段ニ增加ス
ルモノト見ナケレバナラヌ、左樣ナ場合ニ於テ貴族院ノ構成分子ガ充實セラ
レテ、貴族院ノ勢力ガ衆議院ノ勢力ト相對立シテ、其間ニ偏重偏輕ノナイヤ
ウニシテ、二院制度ノ精神ヲ全ウスルト云フコトハ、是ハ目下ノ極メテ大切
ナルコトデアルト考ヘルノデアリマス、此意味ニ於テ政府ハ普通選擧竝ニ貴
族院制度ノ改革ト云フコトヲ企テヽ居ルノデアリマス、決シテ是ハ煽動政治
ノ產物ナドト云フモノデハナイノデアリマスノデ、此點ニ關シテ副島伯爵ノ
批評ハ、私ハ全然意見ヲ異ニスルモノデアリマス、愈、普通選擧ノ法律ガ制定
セラレタ時ニ、國民ガ其普通選舉ノ卽時斷行ヲ希望シテ政府ニ要望シテ來タ
ナラバ、政府ハ衆議院ヲ解散シテ之ニ應ズル意ガアルヤ否ヤ、是モ亦御質問
ノ一點デアリマス、唯今提出シテアリマス所ノ普通選擧法、所謂普通選擧法、
卽チ衆議院議員選擧法ノ改正案ナルモノハ、其附則ニ於テ次ノ總選擧ニ於テ
之ヲ行フト云フコトニナッテ居ルノデアリマス、此法律ガ成立イタシマスレ
バ、此法律ガ適用セラレテ選擧ノ行ハルヽノハ、次ノ總選擧カラデアルト云
フコトガ定マルノデアリマスカラ、其以前ニ於テ衆議院ヲ解散シテ是ガ實行
ヲ望ム者ガアッテモ、政府ハ之ニ應ズルコトハ出來ヌト云フコトダケハ、茲
ニ斷言シテ申上ゲテ置キマス、第五ノ御質問ノ······第三ト第四ハ大藏大臣ヨ
リ答ヘラレマス、第五ノ御質問ノ、政府ニ於テハ勞働組合法竝ニ勞働爭議ノ
調停法ニ付テ相當ノ調査ヲシテ成案ヲ得テ居ルト聞イテ居ルガ、ソレヲ議會
ニ提出セヌノハドウ云フ譯デアルカ、是ガ御質問ノ一ツデアリマス、勞働組
合法竝ニ勞働爭議調停法ニ付テハ相當ノ調査ヲシテ居リマス、而シテ私共、見
ル所ニ依リマスト云フト、勞働組合ナルモノハ法律ノ有ルト無シトニ拘ラズ、
今日ノ如キ大量生產ノ行ハレテ勞働者ガ多數ニ工場地方ニ集合イタシマス場
合ニハ、必ズ組合ハ出來ルモノト思ッテ居ルノデアリマス、勞働組合ノ出來マ
スコトハ勞働組合法ノ有ルト無シニ拘ラヌモノデアラウト思ウテ居リマス、
而シテ勞働組合法ガアル方ガ勞働者ヲ指導スル上ニ、中心ガアリ、統一ガア
リ、規律ガアッテ、却テ宜イモノデアルト云フコトヲ私ハ固ク信ジテ居ル者
デアリマス、又勞働爭議ノ調停法モ、勞働ノ爭議ガ起ッタ場合ニ於テ、極ク公
平ナル調停案ガソコニ出來テ、是ガ丁度、此問題ヲ解決スルノニ適當ナ案ダト
云フモノガ目ノ前ニ出來テ來マスレバ、使用者ニ於テモ、勞働者ニ於テモ、是
ガ一番適當ダト云ッテ、定マッタ案ニ對シテハ、ドウシテモ大イニ離ルヽコトノ
出來ナイ德義上、良心上ノ關係ガ生ズルノデアリマスカラ、勞働爭議調停法
ナルモノノアルコトハ、誠ニ今日ノ實際ニ於テハ適當デアルト思ッテ居ルノ
デアリマス、併ナガラ之ヲ制定イタシマスト云フト、ソレカラシテ經濟上ニ
如何ナル影響ガ及ブカト云フ點ニ付テハ、人各〓見ル所ヲ異ニスルノデアリ
マシテ、必シモ人〓ニ依ッテ一致シタ意見ヲ持タナイノデアリマス、玆ニ至ッ
テ政府ニ於テ調査ガ出來テ居リマシテモ、愈〓之ヲ責任ヲ以テ議會ニ提出シ
テ御協賛ヲ仰グ時ニ於テハ、其調査ニ基イテ各人ノ意思ガ一致シマセヌト、
玆ニ至ルコトガ出來マセヌ、其處ニ至ル迄ニハ、マダ機ガ成熟イタシマセヌ爲
ニ、今囘ノ議會ニ於テ之ヲ提出スルコトガ出來ナカッタノハ甚ダ遺憾デアリ
マスケレドモ、尙ホ此上ニ考究シテ一日モ速ニ提案ノ出來ルヤウニ致シタイ
ト思ヒマス、決シテ資本家ヲ恐レテ勞働組合法ヲ提出セヌノデハナク、又決シ
テ勞働者ヲ恐レテ勞働爭議ノ調停法案ヲ提出セナイノデモアリマセヌ、其點
ニ付テハ特ニ申上ゲテ私ノ考ヘテ居ル所ヲ明カニ致シタイノデアリマス、最
後ノ御質問ハ、政府ノ大官ガ旗亭ナドニ至ッテ政客或ハ政商等ト色〓ナ政治
上ノ話ヲスルト云フコトハ、甚ダ不都合ト思フガ、ドウデアルカ、是ハ私共
モ大切ナル國政ノコトヲ左樣ナ所デ政客ヤ政商ト談議スルト云フコトハ宜シ
クナイト存ジマス、唯併シ日本ニ於テ社交的ニ或場合ニ旗亭ニ行クト云フ
コトノナイノデモアリマセヌカラ、大官タル故ヲ以テ旗亭ニハ一切行クコト
ガ出來ヌト云フ程マデ窮屈ニ之ヲ見ルニハ及バヌト思ウテ居ルノデアリマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=41
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042・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 副島伯爵ノ第三ノ御質問ノ要旨ハ、治安維持法ノ
制定ヲ必要トスルニ至ッタノハ人心ノ不安定ト云フコトデ、人心ガ不安定ヲ招
クニ至ッタ其原因ノ一ツハ、今日ノ經濟上ノ不安ト云フコトヲ擧ゲナケレバ
ナラヌ、今日ノ經濟界ハ、貿易ハ非常ナル逆調ニ陷ッテ居ル、對外的ノ信用
ハ大ニ失墜シテ居ル、產業ハ振ハナイ、物價ハ低落ヲ致サナイ、種々ナ方面
ニ於テ經濟上憂フベキ現象ガ多イノデアル、從テ人心安定ノ豫防策トシテ、
產業ノ發展、物價ノ低蒼、輸入超過ノ防遏等ニ付テ政府ハ如何ナル政策ヲ有ツ
テ居ルカト云フコトガ、御質問ノ要點デアッタト伺ヒマシタ、大體ノ御議論
ニ於キマシテ私共、全然御同感デアリマス、財界ノ不安ガ人心不安定ノ原因ノ
全部デアルトハ考ヘマセヌケレドモ、少クトモ財界ノ不安ト云フコトガ人
心ノ不安定ヲ助長スル所ノ一ツノ原因ヲ爲シテ居ルモノデアルト云フコト
ハ是ハ爭フコトノ出來ナイ事實デアラウト思ヒマス、從テ政府ハ政府ノ力
デ出來得ルダケノ手段ヲ講ジマシテ、又政策ヲ行ヒマシテ、此財界ノ不安ヲ
除クコトニ努力ヲスベキ筈デアリマス、茲ニ大體論トシテ一應、私ノ所見ヲ申
上ゲテ、伯爵ノ御諒解ヲ得テ置キタイト思フコトガアリマス、是ハ卽チ經濟
上ノ問題ニ對シマシテハ、政府ノ爲スベキ所ノ職分ナルモノハ、積極的ニ進
ンデ國民經濟ノ內容ニ干涉スルヨリモ消極的ニ政府ノ行ッテ居ル所ノ諸般
ノ政策、或ハ政治上ノ組織ト云フモノガ、國民經濟ノ自然ノ發展、自然ノ進
步ニ向ッテ若シ妨害ヲ與ヘテ居ル點ガ有リトスルナラバ、先ヅ以テ其妨害ヲ
除イテ、或ハ產業、或ハ貿易、或ハ物價ト云フモノヲシテ、經濟上ノ自然ノ
推移ニ依ッテ其正シキニ歸セシムルト云フ方針ヲ採ルコトガ、是ガ政治ノ第
一義デアラウト思ッテ居リマス、卽チ短イ言葉デ申シマスレバ、積極的ニ進
ンデ、世話ヲ致シ干渉スルト云フヨリモ、先ヅ以テ消極的ニ退イテ、民間ノ
產業經濟ニ對スル所ノ妨害ヲ除クト云フコトガ、先決問題デナケレバナラヌ
ト思フ、斯ノ如クニ、政府ガ民間經濟ニ及ボシテ居ル所ノ財政政策上、或ハ政
治上ノ妨害ヲ除イテ、民間ノ經濟ヲシテ自然ノ發達ノ徑路ヲ迪ラシムルト云
フ方針ヲ採リマシタ上ニ於テ、扨其以上ノ國力ノ發展、產業ノ振興ト云フ
コトハ、主トシテ國民自身ノ奮發ニ俟タナケレバナラヌ、勿論、政府ト致シ
マシテ、積極的ノ發展ニ對シテ相當ノ努力ハ致シマス、相當ノ指導ハ致シマ
スガ、其進步發展ノ本體ハ、何ト言ヒマシテモ、國民自身ノ奮發努力ニ俟ツ
ベキガ本體デアラウト考ヘマス、私ノ考ヘテ居リマス所ノ大體ノ主義ハ、此
點カラ出發シテ居ルノデアリマス、ソコデ今日ノ經濟界ノ不安ヲ除キ、產業
ノ發展ヲ妨ゲ、或ハ物價ノ低落ヲ阻止シ、貿易ノ伸張ヲ妨害イタシテ居ル所
ノ種々ノ原因、殊ニ財政上カラ來テ居ル所ノ原因ヲ除キマスト云フコトガ、
財政當局トシテノ第一ノ義務デアルト心得マス、政府ガ十四年度ノ財政計
畫ヲ立テ豫算ヲ編成スル上ニ於キマシテ、屢〓繰返シテ申シマスル如キ、緊
縮節約ノ方針ヲ採リマシタノモ、卽チ此見地ニ立脚シテ居ル積リデアリマス、
政府ノ見ル所ニ依リマスレバ、從來、政府ノ立テヽ居リマシタ所ノ財政ノ組
織財政ノ計畫ト云フモノガ、國民經濟ノ實際ニ適應ヲ致シテ居ナイ、固ヨ
リ世界大戰ノ半バカラ戰後ニ亙リマシテ、民間ノ財力ガ大イニ充實ヲ致シテ
居リマシタ時ニハ、是ハ兔モ角デアリマスケレドモ、一タビ、大正九年三月
ノ反動ニ出遭ヒマシテ以來、民間ノ經濟ハ御承知ノ通リ、非常ニ萎縮ヲ致シマ
シテ、萎靡不振ノ狀態ニ陷ッタニ拘ラズ、政府ノ財政ハ依然トシテ舊態ヲ改
メナイ、其舊態ヲ改メナイ所ノ膨脹シ切ッタ所ノ政府ノ財政ガ、如何ニ民間
ノ經濟ヲ壓迫シ、產業ノ發展ヲ妨ゲ、物價ノ低落ヲ妨ゲ、從テ財界ノ不安ヲ
招イタカト云フコトハ、世間自ラ定論ガ有ルト思ヒマス、此內閣ハ左樣ナル
考カラ致シマシテ、昨年ノ六月組織以來、大正十三年度ノ實行豫算ニ於キ
マシテモ、亦此度ノ十四年度ノ豫算編成ニ當リマシテモ、出來得ル限リノ力
ヲ盡シテ、政府ノ財政ヲ整理緊縮ヲ致シ、民間經濟ノ實力ニ成ルベク適應セ
シムベク努力シタノデアリマス、是ハ財政計畫ノ全體ニ於テ、殊ニ公債政策ノ
改善ニ於テ出來得ル限リノ努力ヲ致シタ積リデアリマス、其趣旨ハ一番冒
頭ニ申上ゲマシタ所ノ、民間經濟ニ對スル財政ノ壓迫、財政上ノ妨害ヲ除イ
テ、民間ノ產業經濟ヲシテ、妨害ノナイ、自由ノ野ニ於テ思フ存分ノ發達ヲ
遂ゲシメタイト云フ微意ニ外ナラヌノデアリマス、而シテ行政財政ノ整理、公
債政策ノ變更ノ結果ト致シマシテ、或ハ貿易ノ上ニ於テ、金融ノ上ニ於テ、
物價ノ上ニ於テ、將又金利ノ上ニ於テ、今日ニ至ルマデ如何ナル效果ヲ奏シ
タカト云フコトハ、未ダ具體的ニ之ヲ知ルコトハ出來マセヌ、政府ノ期待スル
所ハ必ズヤ此財政計畫、此公債政策ノ變更ト云フコトガ、將來ニ向ッテ產業貿
易ノ發展ノ上、或ハ物價金利ノ上ニ於テ、相當ノ效果ヲ奏スルデアラウト云
フコトヲ、窃ニ期待シテ居ル次第デアリマス、又昨年ノコトヲ申スヤウデア
リマスケレドモ、昨年ノ特別議會ニ於テ御協賛ヲ得マシテ、贅澤品ノ輸入ニ
關稅ヲ重課イタシ、或ハ貯蓄債劵ヲ發賣イタシマシテ、サウシテ國民ノ消費
ノ節約、勤儉力行ヲ奬勵イタシマシテ、國民全體ノ奢侈贅澤ヲ戒メ、資本ノ
蓄積ヲ圖ッテ、サウシテ國民ヲシテ出來得ル限リ恒ノ心ヲ保タシムル、卽チ
恒心アラシムルト云フ政策ヲ採ッタノデアリマス、固ヨリ其政策ヲ實行イタ
シマシテ、未ダ朞年ナラザル今日、果シテドレダケノ效果ヲ奏シ得タルヤト
云フコトハ、具體的ニ御示シヲスルコトハ出來マセヌ、惟フニ、將來ニ向ツ
テ相當ノ效果ヲ奏スルデアラウト云フコトヲ期待シテ居ル次第デアリマス、
其次ニ政府ノ考ヘテ居リマスコトハ、卽チ伯爵ノ第四ノ御質問ニモアリマス
ル如キ、稅制整理ニ關スル事柄デアリマス、我國ノ稅制ニ付キマシテハ、大
分、以前カラ致シマシテ免角ノ議論ガ有リマス、國民ノ負擔ガ重イ輕イト云
フコトハ、是ハ抽象的ノ議論デアリマスケレドモ、其總體ノ國民ノ負擔ノ輕
重如何ニ拘ラズ、租稅ノ組織ノ內容ニ於テ、兔角、寬苛、輕重ノ弊ガ有ル、
其負擔ハ必シモ公正ヲ得テ居ナイ、或ハ富者ニ輕クシテ貧者ニ割合ニ重イ、
或ハドノ稅ハ產業ノ發展ヲ妨ゲル、ドノ稅ハ國民ノ道德ニ害ガ有ルト云フ如
キ、各方面カラ致シマシテ、種々ノ非難ヲ承ルノデアリマス、政府自身ニ於
テモ今日ノ租稅ノ制度ヲ以テ決シテ完全無缺ナリトハ考ヘマセヌ、負擔ノ均
衡ヲ得テ居ナイ點ニ於テ、社會ノ各階級ノ間ノ負擔ガ公正ヲ得テ居ナイト云
フ點ニ付キマシテハ、政府ハ之ヲ認メテ居ルノデアリマス、ソレ故ニ此議會
ノ初メニ於キマシテ、總理大臣ヨリモ稅制ノ整理ヲ行フ、其結果ハ第五十一
議會ニ於テ、議會ニ提出ヲ致シタイト云フ希望ヲ有ッテ居ルト云フコトヲ演
說セラレタノデアリマス、此稅制ノ整理ヲ行ヒマシタ結果、果シテ國民ノ負
擔ノ總額ヲ輕減スルコトガ出來ルカドウカト云フコトハ、今日ノ財政ノ狀態
ニ於テ保證スルコトハ出來マセヌケレドモ、少クトモ、其各稅ノ間ニ於ケル
所ノ負擔ノ偏輕偏重、又社會ノ各階級ノ間ニ於ケル所ノ負擔ノ不公平ハ、十
分ニ調査〓究ノ上、出來得ルダケ之ヲ匡正緩和イタシマシテ、所謂、寬苛輕
重ノ弊ナカラシムルコトニ努メタイト考ヘマス、若シ其目的ヲ達スルコトガ
出來マシタナラバ、其點カラ致シマシテモ財界ノ不安ヲ緩和イタシ、延イテ
人心ノ不安定ヲ匡救スル上ニ於テ、多少ノ效果ガ無クテハナラヌト考ヘテ居
リマス、稅制整理ノ事柄ハ單リ內國稅ノ整理ノミデアリマセヌ、關稅ノ改正
ニ於テモ亦同樣ノ結果ヲ齎スベキモノデアリマス、此議會ガ了リマスレバ直
チニ內國稅制ノ整理、關稅ノ改正、此兩面ノ整理ニ向ッテ政府ハ直チニ著手ヲ
致ス考デアリマス、貿易ノ逆調ヲ緩和スル方法ト致シマシテハ、誰シモ申ス
コトデアリマスケレドモ、所謂、輸入ノ抑制ト輸出ノ奬勵、此事柄ハ所謂、
言フハ易ク行フハ難シデアリマシテ、具體的ノ方策ヲ以テ此方法ヲ實行スレ
バ、此輸入ハ抑制サレル、此政策サヘ行ヘバ輸出ハ奬勵サレルト云フ如キ有
效疑ヒノナイ政策ト云フコトハ、ナカ〓〓發見スルニ困難デアリマス、唯政府
ハ出來得ルダケノ力ヲ盡シマシテ、國民全體ノ努力ト相俟ッテ、所謂、消費
ノ節約ニ依ッテ輸入ノ抑制ヲ致シ、又此議會ニ提案ヲサレマシタ所ノ輸出組
合若クハ重要輸出品工業組合ノ活動ニ依リマシテ、又ソレニ財政上或ハ資金
ノ供給上、相當ノ便宜ヲ與ヘマシテ、ソレニ依ッテ輸出奬勵ノ一端ト致シタイ
ト考ヘテ居リマス、素ヨリ輸出ノ奬勵ト云フコトハ斯ノ如キ單一ナル手段方
法ノミニ依ッテ行ハレルモノデハアリマセヌ、常ニ調查研究ヲ怠ラズ、苟モ有
效ナル方法ヲ發見イタシマスレバ、政府ハ其方法ヲ採用イタシマシテ、輸入
ノ抑制、輸出ノ奬勵ニ出來ルダケノ力ヲ致シタイト考ヘテ居ル次第デアリマ
ス、其次ハ第四ノ御質問デアリマスガ、國民經濟ノ生產竝ニ分配ニ適用スベ
キ所ノ稅制ヲ確立シ、及ブベキダケ經濟上ノ機會均等ヲ圖ルト云フコトガ、人
心ヲ緩和スル上ニ於テ最モ必要デアルト云フ御議論デアリマス、此點ニ付キ
マシテハ、私共ニ於キマシテモ全然御同感デアリマス、ソレニ次イデ副島伯
爵ハ經濟上ノ機會均等ヲ圖ルベキ所ノ租稅制度ノ一種ト致シテ、相續稅ノ根
本的改正ノコトヲ御述ベニナッタノデアリマス、其大體ノ御趣意ハ一萬圓以
下ノ相續稅ハ之ヲ免稅ヲ致シ、ソレ以上ノ相續財產ニ向ッテ累進的ノ租稅ヲ
課シテ、恰モ英國ニ於ケル相續稅ト同等ノ稅率ニマデ之ヲ累進セシメ、ソレ
ニ依ッテ國家ガ收入スル所ノ餘分ノ歲入ヲ以テ、其一半ハ元利共ニ蓄積ヲ致
シテ、國家非常ナ事變ニ備へ、他ノ一半ヲ財源ト致シマシテ、各種ノ社會政
策ヲ行フコトニ致シテハ如何デアルカト、斯ウ云フ御趣意デアッタヤウデア
リマス、相續稅ノ改正ト云フコトモ、是ハ他ノ租稅ノ改正ト同時ニ考フベキ
事柄デアリマシテ、卽チ前段申上ゲマシタ所ノ一般的ノ稅制整理ニ際シマシ
テ、他ノ租稅ト相照應ヲ致シ、相比較ヲ致シテ、之ヲ研究イタシタイト云フ
考ヲ有ッテ居リマス、隨テ今日ニ於テ相續稅ト云フ一ツノ租稅ダケヲ引拔イ
テ參リマシテ、此相續稅ニ對シテハ斯ウ云フ組織ヲ採ッタラバ宜カラウ、斯
ウ云フ累進稅ヲ採ッタラバ宜カラウト云フコトヲ、豫斷的ニ政府ノ所見ヲ申
上ゲルコトハ甚ダ困難デアリマス、伯爵ノ御意見ニ付キマシテハ篤ト之ヲ承ッ
テ置キマシテ、調査上ノ參考ニ供シタイト考ヘマス、唯申上ゲテ置キタイ
事柄ハ、租稅制度ニ依ッテ、社會政策ヲ行フト云フ事柄デアリマス、租稅ノ
收入ニ依ッテ得タル所ノ歲入ノ一部ヲ割イテ社會政策ノ實行ノ財源ニ充テル
ト云フコトハ、勿論政府モ異論ハアリマセヌ、又租稅ニ依ッテ社會政策ヲ行
フト云フ意味ガ、租稅ノ種類ヲ定メ、其稅率ヲ極メル上ニ於テ、貧富ノ程度
ニ應ジ、擔稅力ノ大小ニ順應セシメテ、不公平ナク之ヲ決メルト云フ趣意デ
アルナラバ、是亦異論ノナイ所デアリマス、唯租稅ノ制度其モノニ依ッテ直
接ニ社會政策ヲ行フト云フコトニ付キマシテハ、伯爵ハ仰セラレマセヌケレ
ドモ、政府モ大イニ考慮スベキ事柄デアルト考ヘマス、斯ノ如キ租稅ノ仕組
ハ、卽チ財產ノ一部、資本ノ一部ヲ奪フト云フ極メテ急激ナル所ノ主義ニ動
モスレバ陷ル虞レガアルト考ヘマス、大體、國家ガ財政上、其他ノ點ニ於テ社
會政策ヲ行フ場合ニ於キマシテモ、其緩急ノ程度、其順序ト云フモノニ對シ
マシテハ、愼重ナル考慮ヲ要スルコトデアラウト考ヘマス、從テ政府ガ是ヨ
リ行ハムトスル所ノ稅制整理ノ調査ニ於キマシテモ、其點ニ付キマシテハ深
キ考慮ヲ拂ッテ、急進ニ陷ラナイヤウニ、成ルベク漸進的ニ之ヲ行フヤウニ
注意ヲ致シマシテ、租稅ノ整理ヲ實行イタシタイト考ヘテ居リマス、大體御
質問ニ對シマシテ所見ヲ申上ゲタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=42
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043・副島道正
○伯爵副島道正君 唯今、私ノ質問ニ對シテ內務大藏兩大臣カラ誠ニ御深切
ナル所ノ御答辯ガアッタノデアリマス、誠ニ以テ滿足ニ存ジマス、謹ンデ感謝
ノ意ヲ表スル次第デアリマス、併ナガラ内務大臣ノ仰セニナリマシタコトニ
付テ、一二點、私ハ內務大臣ト御同感ヂヤナイ點ガアルノデアリマス、其一ツ
ハ私ガ屢〓繰返スコトデゴザイマスガ、是ハ煽動政治ノ恐ルベキモノデアル、
卽チ今日、貴族院改革又普選ニシロ、主義ニ於テ私ハ決シテ反對デハナイノ
デアリマスケレドモ、併ナガラ斯ノ如キ事ガ實現スルニ至ッタト云フコトハ、
取リモ直サズ煽動政治ノ成功デアル、斯ウ云フ風ナ事ガ成功スルヤウニナレ
バ、將來大イニ憂ベキ事デハナイカト云フコトヲ、私ハ心配スルノデアリマ
ス、此故ニ私ハ若モ普選ガ通過シマシタ後デ、民衆ガ普選卽行ノ目的ヲ以テ、
議會ノ解散ヲ迫ルヤウナコトガアッタナラバ、政府ハドウナサルカト云フコ
トヲ質問シタノデアリマシタガ、內務大臣ハ斷ジテサウ云フコトハシナイ、
卽チ斯ノ如キ選動ニハ應ジナイ、議會ノ解散ハシナイノデアルト云フ御斷言
ガアリマシタノデ、ソレデ私ハ大變ニ滿足ニ存ズル次第デアリマス、卽チ斯
ノ如キ御言葉ガ政府當局者カラアレバ、民衆運動ト云フモノハ起シテモ役ニ
立タヌノデアルカラ、起ラヌデアルダラウト私ハ思フノデアル、ソレカラ此勞
働組合法竝ニ勞働爭議調停法ヲ提出スルニ至ラナカッタ所ノ理由ヲ內務大臣
ハ仰セニナリマシタガ、勞働組合法ト云フモノハ、旣ニ五年前カラ研究サレ
テ居ッタノデアリマス、五年前カラ產業調査會······臨時產業調査會ト云フモ
ノガ設ケラレタ、此目的ト云フモノハ勞働組合法、勞働爭議調停法、其外勞
働ニ關スル件、色〓ナ總テノ勞働ニ關スル所ノ法律案ヲ研究スルト云フコト
ガ目的デアッテ、原内閣ノ時ニ出來タノデアリマス、而シテ私モ亦其一員トシ
テ末席ヲ汚シテ居ッタノデアリマシタガ、併ナガラ其調査會ト云フモノガ存
續シテ居ル間、五年、六年間、唯ノ一度モ產業調査會ト云フモノヲ開催セラレ
タコトガ無クシテ、遂ニ無爲無能ニ終ハッタノデアリマス、政府ニ於テハ其時
分カラシテ勞働組合法、勞働爭議調停法、其外勞働ニ關スル諸種ノ法律案ヲ
制定スルノ必要ヲ認メテ居ナガラ、全ク無爲無能ニ終ハッタノデゴザイマス、
卽チ羊頭狗肉ト私ハ見テ居ッタノデアリマス、故ニ產業調査會ノ如キハ早ク
解散スルガ宜イト云フコトヲ主張シテ居ッタヤウナ次第デアリマスルガ、今日
デハ勞働組合法ニシロ、又勞働爭議調停法ニシロ、其成案ヲ得ラレタノデア
ル、大體ニ於テハ政府ニ於テモ之ヲ提出シタ方ガ宜イト云フ御意見ヲ持ッテ居
ラッシヤルト私ハ信ジマスルノデアリマス、故ニ來年度ニ於キマシテハ、ソレ
ヲ御提出アラムコトヲ希望スル次第デアリマス、私ハ小サイ問題ヲ第六トシ
テ政府ニ質問ヲ致シマシタ、政府ノ方〓ガ之ヲ實現サレヌト云フコトハ如何
ナルモノデアルカ、誠ニ小サナ問題ノヤウデアリマシタガ、是ガ私ハ人心ニ多
少ノ影響ヲ及ボスト云フコトヲ深ク信ジマスルガ故ニ、寧口日本ニ於キマシ
テハ斯ノ如キ旗亭モ必要デアルト、我國ノ社會ハ之ヲ認メテ居ルノデアルカ
ラ、已ムヲ得ヌ次第デハアリマスケレドモ、併ナガラ政治ハ斯ノ如キ場所ニ於
テ談ズベキモノデナイト云フコトヲ、私ハ深ク信ジテ居ルノデアリマス、又大
藏大臣カラノ御答辯、大體ニ於キマシテ誠ニ御深切ナル御答辯デ、私ハ深ク
感謝ヲシマスルガ、物價低落或ハ輸入超過防過等ニ付テ、是ト云フ御考ハ無
イノデ、昨年、臨時議會ニ於テ御提出ニナリマシタ所ノ贅澤品法案ノ如キ、是
ハ其當時カラ外國人モ言ウテ居ルノデアリマスガ、又日本人モサウ云フ風ニ
言ッテ居リマシタガ、却テ物價ヲ騰貴サセル所ノ原因ニナリハシナイカト云
フコトヲ言ウテ居ッタ、所ガ果セルカナ、其結果ト云フモノハ害アッテ益ナシ
デアルノデアリマス、輸入ヲ防遏スル輸入管理局ト云フヤウナモノデモ置キ
輸入ヲ管理スルト云フヤウナ風ノモノデモ設ケタラバ或ハ得策デナイカト云
フ風ニ自分ハ信ジテ居ルノデアリマスルガ、是ハ非常ナル所ノ大膽ナルヤリ
方デアル、併ナガラ徒ラニ稅ヲ掛ケタ所ガ輸入ヲ防遏スルト云フコトハ、實
際私ハ出來ナイト思フ、又外國人ガ能ク言ウコトデアリマス、我國デハ產業
ガ振ハヌ、振ハヌ所ノ原因ニ付テハ、政府當局者ハ色〓ナコトヲ言ウテ居ル
ケレドモ、併ナガラ斯ノ如ク金利モ高イ、物價モ高イ、賃銀モ高イ、如何ニ
シテ、我國ガ國際經濟ノ競爭ニ於テ立ッテ行クコトガ出來ルカト云フコトヲ、
外國人ガ、屢〓質問スルノデアリマス、私ハ我國ノ產業經濟財政等ニ付テ、
能ク外國人ノ意見ヲ徴シテ居リマスルガ、是ハ外國人ノ意見デアル、或ハ我
國ノ國情ニハ適セヌカモ知レマセヌケレドモ、斯ウ云フ意見ヲ述ベテ居ル人
ガアルノデアリマス、卽チ我國ニ於キマシテ銀行ト云フモノハ非常ナル所ノ
高利ヲ拂ッテ預金ヲ吸收スル、サウシテ之ヲ又非常ナ高利デ貸付ケル、其拂込
資本ニ對シテ三割四割位ニ當ルヤウナ利益ヲ得テ居ルト云フ所ノ銀行モアル
ノデアル、所謂、斯ノ如キ事ヲ彼等ハシテ、サウシテ金儲ケヲシテ居ル以上ハ、
決シテ產業ハ振フベキモノデナイト云フコトヲ言ッテ居ルガ、是ハ一理アル
コトデハナイカト思フノデアリマス、敢テ預金ノ利息トカ、或ハ貸付金ノ利
息ヲ如何ニ公定シナケレバナラヌト云フコトヲ主張スル譯デハアリマセヌ、
政府當局者ニ於テソレ等ノコトモ能ク御考究ニナリマシタナラバ、又或ハ物
價低落ノ原因、產業發展ノ一端ニモナルカモ知レヌト云フヤウニ自分ハ考ヘ
テ居ルノデアリマス、大體ニ於キマシテ誠ニ政府ノ御答辯ハ滿足ニ思ヒマス、
又大藏大臣ガ唯今、稅制ニ付テモ唯相續稅ノミヲ玆ニドウ斯ウト云フコトハ
言ヘナイト云フコトヲ言ハレマシタガ、誠ニ同感デアリマス、私ハ相續稅ヲ一
萬圓以下ノモノハ免稅シ、ソレカラ上ハ漸次ニ累進シテ、五百萬圓ニ至ッタ
ナラバ英國ニ於ケル最高率ト同一ノモノニシタラドウカ、ト云フコトヲ申シ
マシタノハ唯一例ヲ引イタニ過ギナイノデアリマス、ソレ故ニ、有ラユル例
ニ依テ、私ハ大イニ考究シナクチヤナラヌト思フノデアリマス、又私ハ郵便
ノ如キハ今日ハ三錢デアル、是ハタシカ松方內閣ノ時ニ三錢ニナッタモノト
記憶シテ居リマス、其當時マデハ二錢、端書ガ一錢デアル、然ルニ其當時ニ
於テ是ガ十數年、二十何年前ノコトデアリマスガ、其時ニ三錢ニナッタノデ
アル、今日ハ五錢ニシテモ差支ナイカト思フ位、併シ是ハ反對ガアル問題デ
アルカラ、總テノ點ニ付テ能ク御考究ヲ賜ハッテ、願ハクハ財政ノ基礎ヲ鞏
固ニシ、產業ノ發展ヲ圖ラレムコトヲ切ニ希望イタシマス、此內閣ト云フモ
ノハ國民ノ輿望ニ依ッテ出來タノデ、初メテ斯ノ如キ内閣ガ國民ノ輿望ニ依ッ
テ出來タト云フコトハ誠ニ祥事デアッテ、十分國利民福ノ爲ニ盡サレムコト
ヲ切望イタシマス、是デ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=43
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044・阪本さん之助
○阪本彰之助君 私ハ極メテ簡單ナコトデアリマスカラ、此席ヨリ申上ゲル
コトヲ御許シヲ願ヒタイト思ヒマス、私ハ先ヅ以テ特別委員長ニ御尋ネスル
次第デゴザイマスガ、第一條ノ「結社ヲ組織ス」ト云フ文字ガアリマスガ、
此「結社ヲ組織ス」ト云フ文字ト、第七條卽チ末條ノ「本法ハ何人ヲ問ハス
本法施行區域外ニ於テ」云々、此施行區域ト云フコトニ付キマシテ委員會ニ
於テハ何カ御問答ガアリ、其事ニ關シテ之ヲ御考究ニナッタコトガアリマス
カ、其有無ヲ御尋ネシテ置キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=44
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045・二條厚基
○公爵二條厚基君 唯今、阪本君カラノ御尋デアリマシタガ、委員會ニ於キ
マシテハ、此結社ヲ組織スルト云フコトニ付テノ字義ノ解釋ニ付キマシテハ
質問應答ハ無カッタノデアリマス、從テ委員會トシテ政府委員ノ御答辯ヲ聽
カナカッタコトヲ遺憾ニ思ウテ居リマス、ソレカラモウ一ツノ事柄ニ付キマ
シテモ、其點ニ付キマシテ同樣質問應答ハ無カッタノデアリマシテ、是モ委
員會ト致シマシテ同樣御答スルコトガ出來ナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=45
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046・阪本さん之助
○阪本釤之助君 然ラバ最モ簡單ナ御答辯デ宜シウゴザイマスガ、政府委員
ニ一應伺ッテ見タイ、第一條ニ「結社ヲ組織シ」ト云フ文字ガ使ッテアリマス
ガ、結社其モノハ社ヲ結ブコトデアッテ、社ヲ結ブノヲ組織スルト云フコト
ハ甚ダ奇態ナ文字ノヤウニ考ヘマスガ、治安警察法ニ結社組織ト云フ字ガ使ツ
テアリマスケレドモ、治安警察法ノ第一條ノハ「結社組織ノ日ヨリ三日以內
ニ」云々「警察官署ニ屆出ツヘシ」ト云フノデアッテ、結社組織ト云フコトハ
マダ許スベキ所ガアルガ、「結社ヲ組織シ」ト云フコトハ、社ヲ結ブコトヲ
組織シト云フコトハ、語ヲ成サヌヤウニ考ヘマスガ、併シ何カ斯樣ナ文例ガ
他ニアリマスカ、結社ト云フモノヲ一ツノ物體ト見テ居ル譯デアラウト思ヒ
マスケレドモ、文字ノ上カラ見テ「結社シ」デ澤山デアル、結社ヲ「組織シ」
ト言ハナクテモ、「結社シ」デモ澤山ダト思ヒマスガ、如何ナル意味デアル
カト云フコトヲ伺ヒタイ、ソレカラ第七條ノ「何人ヲ問ハス」ト云フコト
ソレカラ本法施行區域ト云フコトニ付キマシテ、立法上ノ精神、實例ヲ承ッテ
見タイ、其次ニ附加ヘテ伺ヒマスガ、此法條ニ依リマシテ、浦潮若クハ間島、
上海ナドト申シマス外國ニ於キマスル所ノ此危險區域ノ、日本ノ法權ノ及バ
ザル所ニ於テ罪ヲ犯シタ場合ニハ、ドウナルカ、ソレ等ノコトニ付テモ本法
ハ施行ガ出來ルノデアルカ、又此「何人」ト云フコトハ日本人バカリデハナ
イ、ヨソノ國モ含ムト云フコトデアルカトモ思ハレマスガ、免ニ角、斯樣ナ
事ヲ書カナクテモ、法ノ及ボスト云フ區域ニハ及ブノデアルカラ、書イタカ
ラト云ッテ、法ノ及バザル人、及バザル區域ニハ及ブモノデナイト思フノデ
アリマス、第七條ノコトニ付テモウ一應承ッテ見タイト思ヒマス
〔國務大臣小川平吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=46
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047・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君) 御答ヲ致シマス、「結社ヲ組織シ」ト申シマスル
言葉ハ成程、唯今、御質問中ニ御述べニナリマシタ如ク、文字トシテハ少シ
ク重複ノ嫌ヒガ有ルヤウニ考ヘラレマス、併ナガラ唯今、御述べニナリマシ
タル如ク、「結社組織」ト云フ言葉ハ已ニ他ノ法律ニ使ッテ居リマスルノデ、
今日デハ最早結社ト云フ言葉ガ一ツノ名詞ノヤウナ風ニナッテ居リマス、嚴
格ニ申シマシタナラバ、阪本君ノ御述べニナリマシタ通リ、社ヲ結ブト云フ
コトデアリマスルカラ、卽チ社ヲ組織スルト云フコトニナルデアリマセウガ、
今日ハ最早段々ト使ヒ慣レマシテ、結社其モノガ旣ニ名詞ノヤウニナッテ居
リマスルノデ、「結社ヲ組織シ」ト使ヒマシタ次第デアリマシテ、別段ノ意
味ハ無イ次第デアリマス、嚴格ニ申シマシタナラバ、或ハ餘リ適當デナイ言
葉デアルカモ知レナイト私ハ考ヘテ居リマス、次ニ第七條ノ「本法ハ何人ヲ
問ハス本法施行區域外ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニモ亦之ヲ適用ス」、是ハ唯今
ノ御述べニナリマシタ如ク、何人ヲ問ハズ、卽チ内國人デアリマシテモ、外
國人デアリマシモ、總テ此法律ニ觸レル、斯ウ云フ意味デゴザイマス、丁度
實例ヲ御述ベニナリマシタ如ク、或ハ上海ニ於テ、或ハ浦潮斯德ニ於テ、コ
ノ我ガ日本帝國ニ對シテ本條ノ規定スル如キ罪ヲ犯シタ者ガ有リマスレバ、
之ヲ罰スルト云フコトデアリマス、但シ日本ノ主權ノ及バザル所マデ參ッテ、
之ヲ逮捕イタシ檢擧イタスコトハ出來ナイノデアリマスルガ、罰スルコトハ
罰スルノデアリマスルカラ、苟モ日本ノ法權ノ及ブ範圍內ニ其人ガ參リマス
レバ、犯シタ所ノ罪、其行爲ハ上海ニ於テ致シマシタコトデモ、浦潮ニ於テ
致シマシタコトデモ、罰スベキモノトナッテ居リマスルカラ、我ガ法權ノ及
ブ範圍ニ其人ガ參リマスレバ直チニ之ヲ逮捕シテ法律ヲ適用スル、斯樣ナ趣
意デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=47
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048・阪本さん之助
○阪本彰之助君 能ク了解イタシマシタガ、モウ一應、伺ッテ置キマスガ、
第七條ハ偶〓其法權ノ及バザル所ニ於テ犯シタ罪ノ有ル人ガ、我ガ法權ノ及
ブ所ヘヤッテ來タ、洵ニ百人中一人カ、餘程、其危險ヲ冒シテ來ル人デアリ
〒×3サウ云フ者ヲ唯、網ヲ張ッテ居ッテ其處へ來タ者ダケヲ捕ヘル、矢張リ
唯今例示シマシタ浦潮、間島、上海邊リデハ、如何ナル者ニ對シテモ我ガ法
權ノ及バヌ所ハ手ガ著ケラレナイト云フコトハ申ス迄モナイコトデアリマス
ガ、矢張リ、サウ云フコトト了解イシテ宜シウゴザイマスカ
〔國務大臣小川平吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=48
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049・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君) 唯今、御述べニナリマシタ如ク、我ガ法權ノ及バ
ザル所ハ如何トモ致スコトハ出來ナイノデアリマス、併ナガラ今日以後ニ
於キマシテハ其策源地ヲ海外ニ置キマシテ、·····帝國法權ノ及バザル土地ニ
置キマシテ、日本ノ國ニ對シテ本條ニ規定シテアル如キ罪ヲ犯スコトヲ企テ
ル者ハ、今日旣ニ有ルノデアリマスカラ、今後ニ於テモ亦有ルダラウカト考
ヘマス、而シテ此人〓ガ矢張リ進ンデ我國ヘ參ッテ、或ハ此犯罪ヲ遂行シヤ
ウトスル者モ有リマセウ、ソレデゴザイマセヌデモ、コチラヘ來ルコトモア
ルノデアリマセウ、是ハ犯シタ所ガ外國デ犯シテモ、日本デ罰スル譯デ、然
ラバ平素ニ於テハ何等、爲スコトガ出來ナイカ、斯樣ナ御疑問モ有ルヤウデゴ
ザイマス、露西亞ニ於テハ先般締結イタシマシタ條約ニ於テ、御承知ノ通リ、
アノ條約ヲ規定シテ居リマスコトダケニ付キマシテハ、帝國政府トシテ、露
西亞政府ニ向ッテ條約上ノ義務ヲ遂行セシメテ、此犯罪ヲ條約ニ規定シテ居
ルコトダケニ付キマシテハ、防ガセルコトガ出來ル譯ニナッテ居リマス、其
以上ニ對シテハ法權ノ及バザル所デアリマスカラ、如何トモ致シ方ガ無イ次
第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=49
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050・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ニテ質疑ノ通告者ハ終ハリマシタ、是ヨリ通〓
順ニ依リマシテ討論ヲ許シマス、候爵德川義親君
〔侯爵德川義親君演壇ニ登ル]発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=50
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051・徳川義親
○侯爵德川義親君 玆ニ上程セラレマシタル治安維持法ハ衆議院ヲ通過イタ
シマシテ、今ヤ正ニ本院ヲ通過シヤウト致シテ居リマス、此法案ニ對シマシ
テ私ハ遽ニ贊成イタスコトガ出來ナイノデゴザイマス、私ハ玆ニ極メテ簡單
ニ其理由ヲ申上ゲテ見タイト存ジマス、小川司法大臣ハ、本案ノ實施セラレ
ルノヲ恐レマスノハ共產主義、無政府主義者ノミデアルト仰セラレマスケレ
ドモ、私ハ決シテ共產主義デモナク、決シテ無政府主義デモゴザイマセヌガ、
尙ホ此法案ヲ恐レルノデゴザイマス、特權階級中ノ特權階級デアル我〓ガ、
本案ニ遽ニ贊成イタサナイ意思ヲ表明イタシマスルノハ、餘程勇氣ヲ要スル
次第デゴザイマス、併シ敢テ茲ニ私ガソレヲ致シマスルノハ、或ハ此事ガ杞
憂カモ知レヌ、又杞憂デアレバ誠ニ幸ト存ジマスガ、本法實施ノ曉ニ於キマシ
テ、治安維持ノ目的ガ、却テ反對ノ結果ニ陷リハシナイダラウカト云フコト
ヲ、私ハ恐レルノデゴザイマス、共產主義、無政府主義等ノ不健全ナ思想ノ
起リマス原因ヲ我〓ハ先ヅ十分ニ考究シ、精神的方面カラモ、亦經濟的方面
カラモ、現在ヨリ遙ニ進ミマシタ施設ヲ致シマシテ、其不健全ナ思想ノ根ヲ
絕ッテ、サウシテ葉ヲ枯ラシタイノデゴザイマス、生活ノ安定ヲ得マシタナ
ラバ、卽チ裕カナ生活ヲスルコトガ出來ルヤウニナリマシタナラバ、斯カル
不健全ナル思想ハ起ラズ、又國ニ革命ナドト云フモノモ起ラナイト云フ論ヲ
私ハ聽クノデゴザイマスガ、併ナガラ人ハ「パン」ノミニ依ッテ生クルモノ
ニハアラズト云フコトヲ深ク考ヘナケレバナラヌノデゴザイマス、社會ニハ
感情生活ト云フモノノアルコトヲ忘レテノ議論デハナイカト思フノデゴザイ
マス、司法大臣ハ、本案ハ極メテ明瞭ナルモノデアッテ、曖昧ナ點ガナイ、
之ヲ用キルノニ當ッテ少シモ疑ノアル筈ガナイト仰シヤイマシタケレドモ、
果シテサウデアルカドウカト云フコトハ、私ハ信ズルコトガ出來ナイノデゴ
ザイマス、之ヲ立案イタシマシタ方、立法者ニ於キマシテハ成程、明瞭デ以
テ何等ノ疑ヲ挾ム所ハゴザイマスマイガ、之ヲ實際ニ用ヰマスノハ立法者デ
ハゴザイマセヌデ、又必シモ立法者ト同ジ心ヲ持ッテ居ル者デハナイノデゴ
ザイマス、實際、此法ヲ用キマス者ハ裁判官デモ至ッテ少イノデアリマシテ、
多クハ警察官デゴザイマス、必シモ之ヲ誤ッテ用ヰルコトナシトセナイノデ
ゴザイマス、外ノ法律ト違ヒマシテ、峻嚴極マリナイモノデゴザイマスルガ
故ニ、一タビ誤ッテ用ヰマシタ其結果ハ誠ニ恐ロシイモノデゴザイマス、我
我ハ社會ニ感情生活ノアルト云フコトヲ忘レテハイケナイノデゴザイマス、
此法案ガ······此法律ガゴザイマセヌデモ、新聞紙法、出版法、治安警察法等
ガアリマシテ、朝憲及國憲ノ紊亂ハ十分ニ取締ルコトガ出來ルモノデハナイ
カト私ハ思フノデゴザイマス、私ノ見マス所ニ依レバ峻嚴極マリナイ此法律
ノ實施ニ當リマシテ、政府當局ニ果シテ十分ナ用意ガアリヤ否ヤ、細密ナ用
意ガ缺ケル所ガアルヤウニ思ハレルノデ、私ハ玆ニ俄ニ贊成出來兼ネルノデ
ゴザイマス、治安維持ト云フ大切デアッテ、サウシテ必要ナル爲ニ設ケラレ
タ此法律ニ對シテ贊成イタサナイ理由ト致シマシテハ、唯今申上ゲタダケノ
コトデハ誠ニ論據ガ薄弱デアッテ不徹底デゴザイマス、併ナガラナゼ私ハ十
分ニ論旨ヲ盡サナイカト申シマスルト、實ハ述ベル勇氣ガナイサウシテ述
ベタクナイノデゴザイマス、唯私ノ意ノゴザイマス所ハ唯一言デ盡キルノデ
ゴザイマス、我〓日本人ト致シマシテ永久ニ虎ノ門事件ノコトヲ忘レテハイ
ケナイト云フ、ソレダケノコトデゴザイマス
〔子爵大河内輝耕君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=51
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052・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 唯〓ノ德川侯爵ノ反對論ハ、言葉極メテ簡單デアッテ
意ノ在ル所極メテ重大デアル、此點ニ付キマシテ我〓ガ此法案ニ贊成ヲ致シ
マシタ理由ニ付キマシテハ一言辯明ヲ要スルコトカト存ジマシテ、玆ニ登壇
ヲ致シタ次第デゴザイマスル、侯爵ノ御心配ニナリマシタヤウナ唯〓ノ點ハ、
我〓ガ最モ先キニ心配ヲ致シタ點デゴザイマス、實ハ此度、委員會ヲ開カレル
ニ付キマシテ、私ガ委員ノ一人ト致シマシテ先ヅ以テ憂ヘタ所ハ、唯今ノ侯
爵ノ御心配ノ點デアル、之ニ付キマシテ司法當局ヨリ詳細ナル說明ヲ伺ッタ
ノデゴザイマス、所ガ伺ッテ段々狀態ヲ······社會ノ實狀ヲ伺ッテ見ルト、ナカ
ナカ極端ナ者ガアル、是等ニ對シテハ如何ニ寬大ナ心ヲ以テ處置シヤウトシ
テモ、是ハドウモ何トカ法ノ制裁ヲ以テスルニアラザレバ、到底之ヲ防グコ
トガ出來ナイ、是ガサウ云フ事ヲ用ヰナイデヤルコトガ出來ルヤウデゴザイ
マスレバ、誠ニ國家ノ爲ニ幸福デハアリマスルガ、司法大臣カラ色〓伺ヒマ
シタ所ニ依リマスルヤウナ事實ト云フモノハ、迚モ是ハ穩健寬大ナル方法ヲ
以テ指導シテ行クナント云フコトハ、到底出來ナイノデアリマス、此事實ヲ
私ハ玆ニ詳細ニ申上ゲレバ、勞働問題ニ造詣ノ深イ德川侯爵ハ直チニ此事ヲ
御了解ニナルトハ存ジマスガ、遺憾ナガラ此點ヲ申上ゲルコトガ出來ナイノ
ハ殘念ダト心得ルノデゴザイマス、ソレデ尙ホ一言此法案ノ趣旨トスル所ニ
付キマシテ、唯今ノ誤解ノ點ノ無イト云フコトヲ簡單ニ申述べタイト存ジマ
ス、此法案ハ御承知ノ通リ、先年出マシタ所ノ過激法案カラ見レバ、極メテ
狹イ、極メテ狹イ規定デアルノデ、此點ハ如何ナモノデアラウカ、寧ロ不備
ガアリハシナイカト云フヤウナコトマデモ非常ニ憂ヘラレタノデゴザイマ
ス、併シ政府當局ハ斯ノ如キ重刑ヲ科スル者ニ對シテハ、是ハ廣キニ失スル
ヨリモ、寧ロ狹イ方ガ宜イ、少シ言葉ガ惡イカモ如レマセヌガ、十分ニ狹イ
方ガ宜イノデアル、非常ナ愼重ナ態度ヲ以テ之ヲ起草セラレタト云フコトハ
此法文ノ上ニ歷々トシテ現ハレテ居ル、例ヘバ此前ノ過激法案ニハ、申スマ
デモナク朝憲紊亂、安寧秩序ト云フヤウナ字ガ使ッテアッタノヲ、國體ノ變革
トカ或ハ私有財產ノ否認トカ、明瞭ナル文字ニ之ヲ變へ、或ハ流布宣傳ト云
フヤナ字ヲ改メテ、極ク狹イ煽動ト云フ、澤山ノ法文ニ用ヰラレテ、略〓法
律上、解釋ノ一定イタシテ居ル煽動ト云フ字ニ之ヲ改メテ、サウシテ幾ラカ不
備デハアルト思ハレルガ、ソレヨリモ濫用サレナイヤウニ、最モ注意ヲシナ
ケレバナラヌト云フ點カラシテ、此點ヲ斯樣ニ起草サレタト云フコトハ、是
ハ法文ノ上カラ明カナコトデアリマスル、ソレカラ又適用ニ付キマシテモ、此
點モ研究ヲ致シタノデアリマス、是ハ政府當局ノ御答トシテハ最モ嚴正ニヤ
ル、決シテ杜漏ニハ致サヌケレドモ、何分重大ナル法案デアルカラ、其適用
ノ點ハ十分ニ愼ム次第デアル、斯ウ云フコトヲ言ハレテ居リマスノデ、唯今
ノヤウナ侯爵ノ御心配ハ私ハ毛頭無イコトト信ズルノデアリマス、尙ホ一
ツ御承知ヲ願ッテ置キタイノハ、之ニ依ッテ廢サレル所ノ勅令四百三號デアリ
マント是ハ御承知ノ通リ震災後ニ發布ニナリマシタ規定デゴザイマシテ、此
規定ハ寧ロ今ノヨリハ廣イ、安寧秩序、朝憲紊亂或ハ流布宣傳ト云フヤウナ
言葉ヲ使ッテ、非常ニ廣イ規定ニナッテ居ル、是ガ今囘ノ法案ニ依リマシテ、
此治安維持法ガ通リマスト同時ニ廢止ニナル、却テ此點カラ申シマスルト、
侯爵ノ御心配ノ點ハ非常ニ狹マッタコトト信ジマス、如何ニモ唯今御話ノ通
リニ、此法文バカリデハ到底效果ハ生ジマスマイ、是ハ何人モ信ジテ居ル所
ダト思ヒマスル、之ニ付キマシテハ政府ノ言明セラレタ如ク、思想ノ善導或
ハ生活ノ安定ニ付テ、極力努メラルヽト云フコトデアルシ、是ハ又政府バカリ
責メルベキ性質ノモノデハゴザイマセヌ、我〓モ其道ニ造詣ノ深イ德川侯爵
ト手ヲ携ヘテ、及バズナガラ此點ニ於テ大ニ盡シタイ、此法案ハ此儘通シテ
置イテ、サウシテ根本的ノ活動ニ付テハ、驥尾ニ附シテ盡力ヲ私ハ致シタイ
ト思ウテ居ル、健全ナル勞働者庶民階級ノ運動ニ付キマシテハ、我〓ハ寧ロ
之ヲ歡ブモノデアル、此法案ハ決シテ斯樣ナモノヲ彼レ此レスルノヂヤナイ、
國民的運動ハ國家經濟上、政治上ノ進運ヲ圖ルコトニ於テ必要缺クベカラザ
ル所ノ方法デアル、是等ニ付キマシテ決シテ此國體ノ變革デアルトカ、或ハ私
有財產ノ否認デアルトカ、或ハ煽動デアルトカト云フヤウナ言葉ヲ用ヰタ法
文ハ、如何ニ之ヲ擴張シテ解釋シテモ、是等ノモノニ向ッテナニスル所ハナ
イノデゴザイマス、委員會ノ席上ニ於キマシテハ侯爵ノ御出デハゴザイマセ
云カ、多少餘リニ御心配ニ過ギテ居リハスマイカト思フ點モゴザイマシタカ
ラ、一言贊成ノ趣旨ヲ辯明イタシテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=52
-
053・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 他ニ通告者ハゴザイマセヌ、······本案ニ付テ採決
ヲ致シマス、本案ノ第二讀會ヲ開クベシトスル諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=53
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054・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=54
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055・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=55
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056・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=56
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057・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開クト云フ西大路子爵ノ
動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
[「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=57
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058・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
WORLD賣警五発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=58
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059・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=59
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060・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=60
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061・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=61
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062・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長(德川家達君) 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=63
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064・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
부르고平山東発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=64
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065・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=65
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066・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認メマス
三重心小心市発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=66
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067・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十一、日本無線電信株式會社法案、政府
提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報告、大隈侯爵
日本無線電信株式會社法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十四年三月十八日
右特別委員長
侯爵大隈信常
貴族院議長公爵德川家達殿
〔候爵大隈信常君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=67
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068・大隈信常
○侯爵大隈信常君 唯今、問題トナッテ居リマスル所ノ日本無線電信株式會社
法案ニ付キマシテハ、過日、本議場ニ於キマシテ遞信大臣ヨリ御說明ガアリマ
シタ通リニ、現在、世界ニ於キマシテ國際通信ノ中デ、長距離ノ無線電信ヲ
行フ爲ニ必要ナル所ノ電波長ト云フモノニ限リガアリマシテ、其數ガ甚ダ少
クアリマス爲ニ、十分ニ世界各國ノ要求ヲ充タスコトガ出來ナイ狀態ニナッ
テ居ルノデアリマス、從テ各國ハ一日モ早ク國際通信用ノ大無線局ヲ建設イ
タシマシテ、自國ニ最モ有利ナル電波長ヲ獲得セムトスルコトニ努メテ居ル
ノデアリマス、從テ近ク開カレマスコトニナッテ居リマス、國際無線電信會議
ト云フモノニ於キマシテモ、矢張リ此電波長ノ分配問題ガ審議サレルト云フ
コトニナッテ居ルノデアリマス、然ルニ我國ノ國際無線電信局トシテハ、現
在ハ磐城ノ無線局ガ一局アリマスバカリデ、之ニ依リマシテ米國方面トノ通
信ヲ取扱ッテ居リマス有樣デゴザイマス、元來、我國ト他ノ諸外國トノ間ニ往
來シテ居リマス所ノ電報ハ、米國方面及支那ノ一部ヲ除キマシテ、其他ノ方
面ニ向ッテハ多ク第三國ノ海底電信事業者ノ仲介ヲ經ルコトヲ要スル次第ニ
ナッテ居リマス、我國ノ經濟上、政治上、爲ニ非常ナル不利不便ノ影響ヲ蒙ッ
テ居ル次第デゴザイマス、故ニ此第三國ノ覊絆ヲ脫シテ、速ニ相手國ト直接
ニ而モ迅速ニ正確ナル通信ヲ交換スルヤウニ致シマス爲ニハ、獨立ノ通信連
絡ト云フモノヲ開拓スル所ノ必要ガアルノデアリマス、而シテ此直接通信ノ
方法ト致シマシテハ、無線電信ニ依ルコトガ今日ノ狀態ニ於キマシテハ經濟
上其他ニ於キマシテ最モ便利デアルノデアリマス、所ガ前キニモ述ベマシタ
ヤウニ、電波長ノ數ガ非常ニ不足ヲ告ゲルコトニナッテ居リマスルガ故ニ、此
際、速ニ國際無線局ノ增設ヲ實施イタシマシテ、現實ニ電波長ノ獲得ト云フコ
トヲ致シテ置キマセナカッタナラバ、獨立ノ通信連絡ヲ確立スルコトガ出來
ナイト云フコトニナルノデアリマス、從テ以上ノ目的ヲ達スル爲ニハ、歐羅巴
方面トノ通信、米國方面トノ通信、又極東、南洋方面トノ通信ニ對シマシテ、
數箇ノ大無線局ヲ新設スルノ必要ガ起ルノデアリマス、其建設費ダケデモ實
ニ二千萬圓以上ノ巨額ヲ要スル次第デゴザイマス、然ルニ今日、政府財政ノ現
狀ヲ察シテ見マスレバ、近キ將來ニ於キマシテモ是ガ實施ヲ期スルト云フコ
トハ甚ダ困難ナル狀態ニ立至ッテ居リマス、故ニ民間ノ資本ニ依リマシテ必
要ナル無線局ノ建設、維持ト云フコトヲ爲サシメタ方ガ便利デアルト云フ次
第ニナルノデアリマス、是ガ卽チ本案ノ提出サレタ所ノ主モナル理由デアル
ノデアリマス、サテ其法案ノ要點ト申シマスノハ、卽チ資本金二千萬圓ノ特
殊ノ株式會社ヲ設立イタシマシテ、外國ノ無線電報ノ取扱ヲ爲スベキ所ノ無
線電信ノ設備竝ニ其附屬設備ヲ致サシメテ、政府ノ使用ニ供セシムルト云フ
コトデアリマス、而シテ政府ハ祕密ヲ保持スルガ爲ニ此設備ニ依リマシテ取
扱ハルベキ所ノ電報ノ受付、配達竝ニ機械上ノ送受信等、通信ニ關スル事務一
切ハ自ラ行フト云フコトニナッテ居リマス、尙ホ會社ハ政府ノ命令ニ依リマシ
テ、又ハ其認可ヲ得マシテ、外國ニ於ケル無線電信事業等ノ經營、投資等ヲス
ルコトガ出來ルコトニナッテ居リマス、而シテ政府ハ現ニ······前キニモ申上ゲ
マシタ現ニ存在シテ居ル所ノ磐城ノ無線電信局竝ニ歐洲局ノ建設ノ豫定ヲ以
テ旣ニ購入サレテ居リマス所ノ土地、卽チ名古屋附近ニ在ル土地ヲ此會社ニ
現物出資ヲスルト云フコトニナルノデアリマス、又政府ハ會社ノ設備使用ニ
對シテ、電報料金ノ收入ノ一部ヲ會社ニ交付スルト云フコトニナッテ居リマ
ス、併ナガラ政府ハ自分ノ持株ニ對シマシテハ、原則トシテハ十年間ハ配當ヲ
免除スルト云フコトニナッテ居リマス、併ナガラ初期ヨリ平均イタシマシテ
八分以上ノ利益ガアリマシタ場合ハ、一定ノ條件ノ下ニ政府ノ持株ニ對シテ
配當ヲ爲サシムルト云フ除外モアリマス、又每營業期ニ於キマシテ一割二分
以上ノ利益ガアリマシタ場合ニハ、或ル一定ノ割合ノ報效金ヲ政府ニ納メシ
ムルト云フコトニナッテ居ル次第デアリマス、而シテ政府ハ無論會社ノ業務
ニ對シマシテハ種々ナル嚴重ナ監督ヲ致シ、會社ノ設立委員ヲ任命イタシ、
會社ノ設立事務ヲ處理セシムルト云フコトニナッテ居リマス、尙ホ委員會ニ於
キマシテハ、技術者ヨリ所謂電波長ト云フ如キ專門的ノ說明ヲ求メマシテ、二
日間ニ亙リマシテ、技術上、外國ニ於ケル所ノ事例、其他料金關係等ニ付キマ
シテ質問應答ガ種々アリマシタ、是等ノ詳細ハ速記錄ニ讓リタイト思ヒマス、
唯、討議ニ移リマシテ一委員ヨリ政府ニ向ッテ、斯ノ如キ會社ニ對シテハ宜シ
ク大綱ニ關シテハ十分ナル緻密ノ監督ヲ爲サレタイケレドモ、同時ニ、小事ニ
付キマシテハ成ルベク自由ニ會社ヲシテ活動セシムル所ノ餘地ヲ與ヘテ貰ヒ
タイト云フ所ノ希望ヲ述ベラレマシタ、政府卽チ遞信大臣ニ於テ之ニ贊同ノ
意ヲ表サレタ次第デゴザイマス、デ、委員會ハ此法案ニ向ッテ全會一致、可決
スベキモノト致シマシタ次第デアリマス、右御報〓申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=68
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069・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=69
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070・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=70
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071・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=71
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072・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=72
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073・徳川家達
○議長(公爵德川家逹君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=73
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074・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
훌륭而止発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=74
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075・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=75
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076・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=76
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077・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=77
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078・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=78
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079・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
[「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=79
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080・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
重小山真M発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=80
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081・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=81
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082・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
重木香薰発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=82
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083・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十二、染料製造奬勵ニ關スル法律案、政
府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報〓、細川侯爵
染料製造奬勵ニ關スル法律案
右可決スベキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十四年三月十八日
右特別委員長
侯爵細川護立
貴族院議長公爵德川家達殿
〔侯爵細川護立君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=83
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084・細川護立
○侯爵細川護立君 唯今、日程ニ上ボリマシタ染料製造奬勵ニ關スル法律案
ノ委員會ノ經過及結果ヲ簡單ニ御報告イタシマス、此本案提出ノ理由ハ、裝ニ
本議場ニ於キマシテ政府委員ノ說明セラレタ如クデアリマスガ、簡單ニ便宜
ノ爲ニ申上ゲマス、曩ニ大正四年ニ、歐羅巴戰爭ノ爲ニ染料ガ海外カラ輸入サ
レルノガ杜絕サレマシタ結果、政府ハ染料醫藥品製造奬勵法ト云フモノヲ當
時制定イタシマシテ、其時ノ急ニ應ジタノデアリマス、而シテソレヨリ九年
ノ間ニ於テ染料ハ相當、其法律ノ結果、效果ヲ擧ゲマシテ、今日ニ於テ或程
度マデハ內地デ製造スルコトガ出來ルヤウニ相成ッタ次第デアリマス、然ル
ニ尙ホ高級ナ染料ニシテ內地デ出來ナイモノヲ、此度ハ二十種類ヲ擧ゲテ、
之ニ向ッテ此度ノ法律ノ保護ノ下ニ、其完成ヲ期シタイト云フノガ、此法律
ノ目的デアリマス、而シテ一方、其大正四年ノ染料醫藥品製造奬勵法ハ、本
年ノ十月マデノ期限デアリマシテ、此度ハ玆ニ新シイ此法案ヲ提出サレマシ
テ、此度ハ製品補助ト云フノ方法ニ依ッテ、六年間、正味ニシテ五箇年間、
金額ニシテ四百萬圓以内ノ補助ヲ以テ之ニ充テルト云フノガ本案ノ目的デア
リマス、委員會ニ於キマシテハ、色〓質問ガアリマシタガ、何レモ簡單ナモ
ノデアリマス、別ニ玆ニ御報告スル必要モナカラウト存ジマスガ、ソレヲ唯
便宜ノ爲ニ列擧イタシマスト、是等ノ補助ハ、補助ノ方法ガ宜シキヲ得ナケ
レバ、本當ノ眞ノ補助ニナルモノデナイ、本當ニ能ク出來ルモノデナイ、ト
云フヤウナ質問モアリマシタ、又此法律ノ結果、外ノ關稅ヲ引上ゲルヤウナ
コトハ無イカト云フ質問モアリマシタガ、ソレハ無イト云フ答デアリマス、
尙ホ內地ニ於ケル或ハ人造藍ノ如キ、尙ホ今日ノ現在ノ製造會社ノ狀態、或
ハ各國ノ······此染料ニ付テノ各國ノ方針等ノ質問ガアリマシタ、此內容ハ玆
ニハ省略イタシマシマス、質問ガ終ハリマシテ討議ノ宣告ヲ致シマシタガ、
何等ノ意見モナク、全會一致ヲ以テ此法案ハ可決サレタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=84
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085・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=85
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086・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=86
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087・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=87
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088・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=88
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089・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=89
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090・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
山东小山皇帝発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=90
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091・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=91
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092・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=92
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093・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=93
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094・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=94
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095・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=95
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096・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
###玉山素発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=96
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097・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=97
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098・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
吉市小王星水三木発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=98
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099・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十三、震災被害地ノ營業稅免除ニ關スル
法律案、衆議院提出、第一讀會、早速大藏政務次官
震災被害地ノ營業稅免除ニ關スル法律案
右本院提出案及送付候也
大正十四年三月十八日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
第一條大正十二年九月一日ノ震災(之ニ伴フ火災又ハ海嘯ヲ含ム)ニ因
リ著シク損害ヲ受ケタル營業稅納付者ニ對シ大正十三年ヨリ四年間其ノ
營業稅ヲ免除ス
第二條前條ノ規定ハ會社ノ納付スヘキ營業稅ニハ之ヲ適用セス
第三條第一條ノ震災被害者及震災地域ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員早速整爾君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=99
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100・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 本案ハ衆議院ノ提出ニ係ル營業稅免除ニ關スル法
律案デアルノデアリマス、震災地ノ營業者ガ非常ニ困難ヲ感ジテ居ルガ故ニ、
大正十三年以後四年間、個人ノ營業稅ヲ免除スベシト云ヘル趣意ノ下ニ立案
ヲセラレタル法律案ナノデアリマス、昨日衆議院ヲ通過イタシテ、本日茲ニ
上程セラレタノデゴザイマス、簡單ニ政府ノ意見ヲ申述ベテ、御聽キヲ煩ハシ
テ置キタイノデアリマス、政府ハ此案ニ對シテ同意ヲ致スコトガ出來ナイ、
卽チ反對ノ意見ヲ持ッテ居ルノデアリマス、衆議院ニ於テ議セラレマシタル
當時モ、震災地ノ住民ニ對シテ同情ヲ以テ此案ヲ可決スルヤウニト云フコト
ガ屢、繰返サレタノデアリマス、此點ニ於キマシテモ、政府ハ震災地ノ住民
ニ對シマシテハ、十分ノ同情ヲ以テ今日マデ參ッテ居ルノデアリマス、少シ
モ震災地ノ住民ニ對シテ苛酷ナル取扱ナドヲ爲シタコトモナケラネバ、爲ス
ベキ考ナドハ無論持ッテ居ラヌノデアリマスガ、營業稅ニ付テ申シマシテモ、
此震災當時、御承知ノ如ク大正十二年ニ於キマシテハ緊急勅令デ以テ、所得
稅モ營業稅モ其他相續稅ト共ニ地租モ這ッ入テ居リマスケレドモ、此租稅ノ
減免ヲ行ッタノデアリマス、ソレカラ大正十三年分ニ於キマシテハ營業稅ア
タリハ普通ノ場合ニ於キマスレバ、マダ震災前ノ狀態ヲ含ンデ居ル、卽チ九月
前ノ情況ニ應ジテ課稅ヲシナケレバナラヌ譯デアルニ拘ラズ、是ハ特例ヲ設
ケテ、豫算ヲ以テ此課稅ヲ斟酌スルコトノ出來ル特例ノ下ニ、同ジク十分ノ
此減稅ガ行ハレテ居ルノデアリマス、而シテ十三年度以降ニ於キマシテハ無
論、是ハ營業狀態ヲ基礎トシテ、現在ノ營業ノ狀態ニ適應スルヤウニ、租稅ノ
徵收ヲスルト云フコトニナルノデアリマスカラ、營業ガ甚ダ振ハナイ、營業
ガ縮小セラレタト致シマスレバ、縮小セラレタ程度ニ於テ、適宜按排ヲシテ
課稅スルト云フコトニナッテ居ルノデアリマスカラ、現ニ十三年ニ於キマシ
テモ、十三年度以降ニ於キマシテモ、國庫ノ收入ハ此營業稅ニ於テモ震災前
ニ比較イタシマスレバ、多額ノ減稅ニナル割合ナノデアリマス、左樣ナ次第
デゴザリマスカラ、政府モ出來得ルダケハ此營業者ノ負擔ヲ輕減シテ、營業
者ノ苦痛ヲ輕クスルト云フコトニハ今日ニ至ルマデモ十分努メ來ッタモノ
デアリマス、今日以後ニ於テモ、無論、此納稅者ノ苦痛ヲ輕クスルト云フコト
ニ付キマシテハ、出來得ルダケノ方法ヲ盡シタイト云フ考ハ持ッテ居ルノデ
アリマス、此法律案ノ如ク、今日以後三四年間ノ個人ノ營業稅ヲ免稅スルト
云フコトニ付キマシテハ、法律ヲ特ニ設ケル必要ハナイト考ヘテ居ルノデア
リマス、地租ガ免稅ニナッテ居ルカラ營業稅モ免稅シナケレバ權衡ヲ得ナイ
ト云フコトガ、衆議院ノ議論ノ根據ニナッテ居ルヤウデアリマス、是ハ申ス
迄モナク地租ノ方ハ昨年、特別議會デ御協賛ヲ經マシタ當時、其趣旨ハ明カニ
ナッテ居リマスル通リ、地租ハ法定ノ地價ヲ標準トシテ課稅ヲ致シマスルガ
爲ニ、震災ノ爲ニ著シク利用ヲ害セラレタルモノデモ、唯斟酌ヲシテ此間ノ
釣合ヲ取ルト云フコトハ出來ナイモノデアリマスルガ故ニ、著シク利用ヲ害
セラレタルモノニ對シテ、已ムヲ得ズ免稅ヲシナケレバナラヌト云フ結果ニ
ナッテ居ル、而モ此宅地ニ對シテハ此免稅ノ期間ハ一箇年半デアル、斯ウ云
フコトニナッテ居ルノデアリマシテ、此地租ノ免稅ハ蓋シ已ムヲ得ヌ、營業
稅ニ至リマシテハ是ハ營業ノ狀態ニ依ッテ伸縮スルコトガ出來ルノデゴザイ
マスカラ、地租ト同ジヤウニ免稅ノ法律ヲ設ケナケレバナラヌト云フ理由ハ
ナイト考ヘルノデアリマス、殊ニ此衆議院ノ法律案ニ依リマスレバ唯個人ノ
營業ニノミ免稅ヲセヨト云フコトニナッテ居ルノデアリマスガ、個人ノ營業稅
ノミヲ免除スルト云フコトニ付キマシテハ、是ハ法人ノ營業稅ト照シ合ハシ
テ非常ニ不權衡ニナリハシナイカ、尙ホ其以上、考ヲ運ラシテ見マスレバ、斯
ウ云フモノヲ可決スルト云フコトニ相成リマスレバ、更ニ進ンデハ營業稅ノ
減免モ考ヘナケレバナラヌト云フコトニ相成ルカモ知レヌノデアリマス、震
災地ノ納稅者ノ便利ヲ圖ルトカ云フ點カラ申シマシテモ、徹底的ニ此負擔ヲ
輕減スルト云フコトニ考ヘマスレバ、單リ個人ノ營業稅ノミデ滿足出來ナイ
ト云フ議論ニ歸結スルカモ知レヌノデゴザイマス、左樣ニナッテ參リマスレ
バ是ガ爲ニ減稅ヲ致サナケレバナラヌト云フ所ノ金額モ莫大ニ及ブノデゴ
ザイマスカラ、今日ノ財政狀態カラ申シマシテモ、政府ハ此案ニ同意ヲ致スコ
トハ出來ナイノデアリマス、殊ニ先刻申シマスル如ク、十三年度以後四年間、
免稅ヲシロト云フ此案デゴザイマスル、營業稅ニ於キマシテ大正十三年度分
ハ旣ニ徵收濟ニナッテ居ル、ソレカラ十四年度ハ當院ニ於キマシテハ目下豫
算ノ御審議中デアルノデアリマス、旣ニ豫算ニ於テ營業稅ノ收入ニ關スル豫
算ノ當院ニ提出シテアルト云フヤウナ狀態デアリマスルカラ、十三年度以後
免稅ヲシロト云フコトニナリマスルト、果シテ此歲入ヲ如何ニスルカト云フ
コトニ付テハ、重大ナル問題ガ起ッテ参ルノデアリマス、到底、實行不可能デ
アルト當局者ハ考ヘテ居ルノデアリマス、衆議院ニ於キマシテハ、此案ニ對
シテ政府ガ反對スルノハ震災地ノ住民ニ對シテ非常ニ苛酷デアルト云フヤウ
ナ議論モ起ッタノデアリマスルガ、申ス迄モゴザイマセヌ、政府ハ震災以後、
震災地ノ住民ニ對シテハ非常ナル同情ヲ以テ接シテ居ル、多額ノ國費ヲ此震
災地ノ爲ニ使ッテ居ルト云フコトハ御承知ノ通リデアリマス、多額ノ公債ヲ
募集シナケレバナラヌト云フ狀態ニモナッテ居ルノデアリマス、又多額ノ低
利資金等ヲ廻シテ此震災地復舊ノ爲ニハ出來得ルダケノ努力ヲ致シテ居ルノ
デアリマスルカラシテ、決シテ此震災地ノ住民ニ對シテハ政府ハ苛酷ナル考
ハ持ッテ居ラヌト云フコトハ、事實上、諸君モ御承認下サルコトト信ズルノデ
アリマス、斯樣ナル理由ニ依リマシテ、此法律案ニ對シテハ政府ハ同意ヲ表ス
ル譯ニハ參ラヌノデゴザイマスルカラ、玆ニ此意思ヲ表明イタシテ置キマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=100
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101・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔長書記官朗讀〕
震災被害地ノ營業稅免除ニ關スル法律案特別委員
山脇玄君子爵大河內輝耕君子爵白川資長君
石原健三君荒井賢太郞君男爵藤田平太郞君
大谷嘉兵衞君村野常右衞門君二階堂三郞左衞門君
五十五후보発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=101
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102・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十四、商業會議所法中改正法律案、衆議
院提出、第一讀會ノ續、委員長報告、候爵德川圓順君
商業會議所法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十四年三月十六日
右特別委員長
候爵德川圀順
貴族院議長公爵德川家達君殿
〔侯爵德川〓順君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=102
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103・徳川圀順
○侯爵德川〓順君 商業會議所法中改正法律案ノ委員會ノ經過竝ニ結果ヲ簡
單ニ御報告申上ゲマス、本案ハ衆議院ヨリノ提出デアリマシテ、其趣旨ハ從
來旅館業者ニハ選擧權被選擧權ヲ與ヘマセヌデシタガ、時代ノ進運ニ伴ヒマ
シテ之ヲ除外スベキ理由ナキ現在ノ狀態トナッタノデアリマス、カルガ故ニ、
之ヲ付與スルヲ適當トスルト云フノデアリマス、而シテ此案ニ對シマシテハ
政府モ同意ヲ表シテ居ル次第デアリマス、委員會ニ於キマシテノ質問ノ主ナ
ルモノヲ申上ゲマスレバ、從來旅館業者ニ選擧權竝ニ被選擧權ヲ與ヘナカッ
タ理由ガドウ云フ譯デアルカト云フコトデアリマス、之ニ對シマシテ政府委
員ノ答辯ニ依リマスト、商法第二百六十四條第七號ニ規定セラレテアルモノ
ハ其商工業トノ關係ガ密接デナク、卽チ明カニ商業デモナク、又工業デモナ
イトノ理由デ選擧資格ヲ付與シテナカッタト云フノデアリマシタ、要スルニ委
員會ニ於キマシテハ質問ヲ終ハリマシテ、討議ニ入リマシタガ何等、反對ノ
意見モアリマセヌ、全會一致ヲ以テ原案ヲ可決シマシタ次第デゴザイマス、
右御報〓申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=103
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104・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセス
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=104
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105・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=105
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106・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=106
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107・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=107
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108・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=108
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109・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
불교가〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=109
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110・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=110
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111・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=111
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112・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=112
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113・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=113
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114・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=114
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115・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
후루가후皇帝発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=115
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116・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=116
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117・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
吉吉小山南水〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=117
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118・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十五、齒科醫師法中改正法律案、衆議院
提出、第一讀會ノ續、委員長報告、中川伯爵
齒科醫師法中改正法律案
右別册ノ通修正セリ依テ及報告候也
大正十四年三月十七日
右特別委員長
伯爵中川久任
貴族院議長公爵德川家達殿
特別委員ノ修正ニ係ル條ノミヲm印刷其其他
(升略ス小字ハ修正文、-ハ同削除ノ符號ナリ
ル者ノ
第四條ノ二命令ヲ以テ定ムルモノヲ除クノ外-齒科醫師ニ非サレハ齒科
ニ關スル規定ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
診察所治療所者ハ技工所ノ開設又ハ管理ヲ爲スコトヲ得ス
〔伯爵中川久任君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=118
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119・中川久任
○伯爵中川久任君 唯今、議題トナリマシタル齒科醫師法中改正法律案ハ御
承知ノ通リ衆議院提出案デゴザイマス、本案ノ改正ノ要旨ハ齒科醫術ノ發達
シテ居ル今日、此齒科醫師會ノ資格ヲ向上セシメ、又是ガ統一ヲ圖リ以テ齒科
醫術ノ進步發達ヲ圖ルト云フノガ本案改正ノ趣旨ノヤウニ窺ハレマス、改正
ノ箇條ハ數箇條ニ亙ッテ居リマス、其箇條ハモウ既ニ御手許ニ渡シテ居リマス
ノデ御承知ノコトト思ヒマスカラ略シマス、又委員會ニ於キマシテ、大體此案
ニ付テ政府ノ考ハドウデアラウカト云フコトヲ先ヅ以テ尋ネマシタ所ガ、政
府ニ於キマシテハ此改正案ハ大體ニ於テ同意スル、併シ此改正案ノ一箇條ニ
付テハドウモ此儘ノ條文デハ同意スルコトガ出來ナイト云フコトデアリマシ
タ、其一箇條ト申スノハ第四條ノ二デゴザイマス、「命合ヲ以テ定ムルモノヲ
除クノ外齒科醫師ニ非サレハ齒科診察所治療所若ハ技工所ノ開設又ハ管理ヲ
爲スコトヲ得ス」、斯ウゴザイマス、此條文ノ儘デハ同意ハ出來ナイ、其理由ト
シテ縷々御說明ニナリマシタガ、要スルニ此條文ノ儘デハ之ヲ運用スルニ於
テ困難ナル場合ヲ生ズルコトガアリ得ルト信ズルガ故ニ、直チニ同意ハ出來
ナイト云フコトデゴザイマシタ、其他、委員諸君ヨリ三四ノ御質問ガゴザイマ
シタガ、是ハ改メテ玆ニ御紹介申上ゲル程ノコトデモゴザイマセヌト思ヒマ
スカラ、是ハ速記錄ニ讓リマス、而シテ討議ニ移リマシタガ、委員中ノ一人
ヨリ唯今申上ゲタ第四條ノ二ニ付テ修正ノ意見ガ出マシテ、其修正意見ハ、
第四條ノ二ハ成程、政府ノ申サレル通リ、此條文ノ儘デハ其運用ニ付テ或ハ困
難ナコトガ出來得ルト信ズルカラ、之ヲ斯ク修正ヲ自分ハシタイト思フト云
フ御意見デゴザイマス、其修正案ハ、「齒科醫師ニ非サル者ノ齒科診察所治
療所若ハ技工所ノ開設又ハ管理ニ關スル規定ハ命合ヲ以テ之ヲ定ム」、斯ク
修正ヲシタイト云フコトデゴザイマシテ、之ニハ殆ド全會一致ヲ以テ贊成イ
タシマシタ、ソレデ委員會ニ於キマシテハ此一箇條ハ唯〓讀上ゲマシタ修正
通リニ全部、全會一致ヲ以テ可決イタシマシタ、尙ホ附加ヘテ申上ゲマスガ、
政府ニ於テモ斯ク改正スレバ同意ヲシテ宜シイト云フ意嚮ヲ漏ラサレマシ
タ、是ハ附加ヘテ申上ゲマス、チヨット御報告申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=119
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120・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=120
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121・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=121
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122・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=122
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123・大山綱昌
○大山綱昌君 賛成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=123
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124・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=124
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125・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
불가喜発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=125
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126・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 先ヅ問題ニ供シマスノハ「齒科醫師法中左ノ通リ
改正ス」ヨリ「第三條中「禁錮」ノ上ニ「六年未滿ノ懲役若ハ」ヲ加フ」、之
ヲ問題ニ致シマス、原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
[「異議ナシ」ト呼フ者フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=126
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127・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=127
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128・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ハ第四條ノ二ヲ問題ニ供シマス、委員會ノ修正
ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=128
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129・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=129
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130・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ハ殘リ全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異
存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=130
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131・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=131
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132・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=132
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133・大山綱昌
○大山綱昌君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=133
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134・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=134
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135・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
南窖京山市発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=135
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136・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=136
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137・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
草东面発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=137
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138・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十六、少年團日本聯盟事業助成ニ關スル
建議案、公爵近衞文麿君外七名發議、會議、建議案ヲ朗讀イタサセマス
〔成瀨書記官朗讀〕
少年團日本聯盟事業助成ニ關スル建議案
右貴族院規則第六十九條ニ依リ提出候也
大正十四年三月十四日
發議者
公爵近衞文麿男爵加藤定吉北條時敬
內田嘉吉澤柳政太郞鎌田榮吉
菅原通敬田所美治
贊成者
候爵佐佐木行忠伯爵松木宗隆伯爵中川久任
伯爵松平賴壽伯爵溝口直亮伯爵小笠原長幹
伯爵堀田正恒服部I IIH男爵大井成元
子爵靑木信光子爵牧野忠篤子爵酒井忠亮
子爵井上匡四郞子爵前田利定子爵西大路吉光
子爵柳生俊久子爵大河內正敏子爵今城定政
子爵水野直子爵吉田〓風子爵本多忠鋒
子爵豐岡圭資子爵大河內輝耕子爵白川資長
子爵池田政時子爵米津政賢子爵〓岡長言
子爵八條隆正子爵立花種忠子爵伊東二郞丸
子爵秋田重季子爵渡邊千冬子爵戶澤正己
子爵秋元春朝子爵西尾忠方子爵板倉勝憲
子爵米倉昌達淺田德則大島健
嘉納治五郞富谷 は太郞男爵宇佐川一正
水野鍊太郞男爵坂本俊篤鈴木喜三郞
荒川義太郞石塜英藏小松謙次郞
男爵山内長人中村是公男爵鍋島直明
志水小一郞男爵斯波忠三郞勝田主計
男爵船越光之丞男爵千秋季隆男爵北大路實信
男爵永山武敏男爵黑川幹太郞男爵福原俊丸
男爵安藤直雄男爵藤村義朗男爵小畑大太郞
男爵東郷安男爵池田長康男爵矢吹省三
石井省一郞原保太郞藤田四郞
仁尾惟茂石渡敏倉知鐵吉
南弘西久保弘道岡田文次
永田秀次郞馬場鍈湯地幸平
德富猪一郞鎌田勝太郞齋藤善八
矢口長右衞門橋本辰二郞土田萬助
西川甚五郞勝田銀次郞島定治郞
小川貞
貴族院議長公爵德川家達殿
少年團日本聯盟事業助成ニ關スル建議
少年團ハ學校〓育ト相俟チテ純眞無垢ナル少年時代ニ於テ信義ヲ旨トシ愛
情ヲ厚クシ崇高ナル國家觀念ヲ涵養シ心身一如文武一途ノ精神ヲ體得セシ
ムル新〓育法ナリ
今ヤ我國ニ於ケル少年團ハ發達ノ途上ニ在リ之カ指導策勵ノ機關トシテ少
年團日本聯盟成立シ著々其ノ發達ニ貢獻シツツアリ右聯盟ニ於テ少年團指
導講習所ヲ開設スルノ擧アリト聞ク依テ政府ハ右事業助成ノ爲相當ノ補助
金ヲ交付シ以テ少年團運動ノ堅實ナル發達ヲ遂ケシメラレムコトヲ望ム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=138
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139・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 澤柳政太郞君
〔澤柳政太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=139
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140・澤柳政太郎
○澤柳政太郞君 唯今、議題ニナリマシタ本建議案ノ趣旨ヲ簡單ニ御說明申
上ゲマシテ滿場諸君ノ御賛成ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、今日、兒童少年
ハ殆ド皆學校ニ這入ッテ居ラヌ者ハナイ次第デアリマスガ、時ヲ以テ申シマス
レバ、學校ニ居リマスル時間ハ一日ノ間、五六時間ニ過ギナイノデアリマス
ルシ、日ヲ以テ申上ゲマスレバ一年三百六十五日ノ中、多クテ二百二三十日
ニ過ギナイ次第デアルノデアリマス、ソレ故ニ、學校ノ〓育ガ如何ニ完全ニ行
ハレルトハ申シマシテモ、ソレヲ以テ十分ニ人格ノ陶冶、智能ノ啓發、良習
·····善良ナル習慣ノ養成等ノ目的ヲ達成スルコトガ出來ナイノデアリマス、
況ヤ學校ノ〓育モ決シテ今日完全ノ域ニ達シテ居ルト云フコトハ出來ナイ、
殊ニ又現下ノ社會モ、或ハ家庭モ、學校ト力ヲ戮セテ、此兒童少年ノ育成ニ對
シテ力ヲ戮セテ其目的ヲ達スルコトニナッテ居ルカト申シマスレバ、動モスレ
バ、學校ニ於テ努メマスルコトヲ却テ現在ノ社會、或ハ家庭ニ於テハ破壞イ
タシツヽアルヤウナ模樣モアルノデアリマス、ソレ故ニ本員ハ學校ノ成績ノ
偉大ナルコトヲ信ジマスルシ、學校ノ〓員ノ努力ノ決シテ少クナイト云フコ
トヲ十分ニ信ジマスルケレドモ、學校ト相俟ッテ此〓育ノ目的ヲ達成スル所
ノ補助ノ機關ノ必要ナルコトハ申ス迄モナイコトト思フノデアリマス、少年
〓ハ實ニ此必要ニ應ゼムガ爲ニ自然ニ玆ニ發達シタモノデアルト申シテ宜カ
ラウト思フノデアリマス、極メテ近年ノ發達ニ係リマスケレドモ、旣ニ其團
體ノ數ハ五千ニ達シマシテ、之ニ加入シテ居ル所ノ少年ハ六十萬ノ多キニ達
シテ居ルト稱セラレテ居ルノデアリマス、斯クテ此多クノ〓體ガ、三四年前ニ
於テ少年團日本聯盟ナルモノガソコニ組織セラレマシテ、此聯盟ハ全國ノ少
年團ヲ指導シ策勵スル上ニ於テ、ソレゾレノ努力ヲ致シテ居ルノデアリマス、
現ニ昨年ハ萬國少年靑年團ノ大會ガ丁抹ノ「コペンハーゲン」ニ開カレルニ
當リマシテ、何等ノ公ケノ援助ヲ求メズシテ二十一人ノ代表者ヲ參列セシメ
ル等ノ仕事ヲ致シテ居ルノデアリマス、併ナガラ少年團ヲシテ此目的ヲ十分
ニ達成セシムル爲ニハ、其指導者、適當ナル指導者ヲ養成スルコトガ極メテ
切要、必要デアルノデアリマスルノデ、コノ日本聯盟ニ於キマシテ、指導者
養成機關ヲ設置スル計畫ヲ致シテ居ルノデアリマス、各地方ノ少年團ト云
ヒ、又日本聯盟ト云ヒ、各〓自治的ニ維持經營ヲ致シテ行クベキハ當然デア
ルノデアリマスルガ、多額ノ費用ヲ要スル所ノ此指導者養成機關ニ對シマシ
テハ、國家トシテ相當ノ補助ヲ致スコトガ必要ト考ヘマシテ、此建議案ヲ提
出シタ次第デアルノデアリマス、其金額ノ如キハ當局者ニ於テ適當ニ考へ、
又期間ノ如キモ何時マデト云フコトデナクテ宜イコトデアラウト思フノデア
リマス、殊ニ此補助ノ目的ハ、建議案ニモ明カニ示シテアリマスルガ如ク、日
本聯盟全體ノ事業ニ向ッテ補助スルト云フノデナク致シマシテ、極メテ特定
ナル少年團指導者ノ養成ノ機關及維持經營ニ向ッテ或補助ヲ致シテ貰ヒタイ
ト云フ極メテ特定ナル、明確ナル目的ヲ以テノ補助デアルノデアリマス、極
メテ必要ナルコトト存ジマスルノデ、ドウゾ、滿場ノ御贊成ヲ願ヒタイト思
フノデアリマス
〔山脇玄君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=140
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141・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 山脇君ハ何デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=141
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142・山脇玄
○山脇玄君 チヨット建議者ニ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=142
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143・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 澤柳君ニ對スル質問···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=143
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144・山脇玄
○山脇玄君 サウデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=144
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145・徳川家達
○議長(公爵德川家逹君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=145
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146・山脇玄
○山脇玄君 少年團ノコトニ付テハ至ッテ不案內デアリマスガ、少年團、唯
今ノ少年團指導者ヲ養成スルト云フコトハ至極贊成デアリマスガ、私ノチヨッ
ト疑ヲ懷イタノハ、少年〓ガアッタラ少女團ガアリサウナモノデゴザイマス
ガ、其邊ノ聯絡ハドウ云フ譯デアリマセウカ、チヨット御說明ヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=146
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147・澤柳政太郎
○澤柳政太郞君 御答ヲ致シマスルガ、英米其他ノ國ニ於キマシテハ殆ド少
年團ト同ジヤウニ少女團ガ發達シ成立ヲ致シテ居ルノデアリマス、我國ニ於
テモ最近ニ少女團ガ少シヅツ出來テ參リマシタケレドモ、マダ聯盟ヲ組織ス
ル迄ニハ至ラヌノデアリマス、恐ラクハ、將來ニ於テハ少年團ト同樣ノ發逹
ヲ遂ゲルコトト思フノデアリマスルガ、今日ハマダ極メテ其數モ少イノデア
リマスガ、將來ハ必ズ發達スルニ至ルデアラウト信ジテ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=147
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148・山脇玄
○山脇玄君 分リマシタ
〔子爵柳生俊久君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=148
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149・柳生俊久
○子爵柳生俊久君 私ハ唯〓、上程ニナッテ居リマスル少年團日本聯盟事業助
成ニ關スル建議案、之ニ贊成スル者デゴザイマス、唯今、澤柳君カラ段々少
年〓ノ指導者養成ニ付テノ御演說ガゴザイマシタガ、大要、ソレデ御了解ト
ハ存ジマスケレドモ、聊カ現今ノ我ガ少年團ニ於ケル現狀ヲ御話イタシマシ
タナラバ、一層 か我國ニ於テ少年團ノ訓練ナルモノガ必要デアルト云フコト
ヲ御了解ニナルダラウト存ジマシテ、是カラ實況ヲ申上ゲヤウト存ジマス、
現代ノ我ガ國民ノ狀態ハ御覽ノ通リデアリマシテ、此儘デ推移シタナラバ、
將來、我國ノ國運總テノ事ガ如何ニ成リ行クカト云フコトハ諸君モ御諒察ノ
コトデ、我〓ハ非常ニ其點ヲ憂フルノデゴザイマス、家庭ト學校ノ〓育、又
社會ノ〓育ト云フモノハ、是ハ非常ナ發達デアリマシテ、殊ニ社會〓育ノ不
十分デアルト云フコトハ、少年ガ學校以外ノ放任サレテ居ル時間ニ於テ、謂
ハヾ我儘ニナル、我儘ガ增長スルト云フト、詰リ國民ノ品性モ惡クナル、其
儘推移シタナラバ、遂ニ昨今、新聞紙上ニ現ハレテ居ル不良ト云フ文字ノ附
ク靑年少年男女ガ出ルヤウナ次第デゴザイマシテ、是ハ全ク學校ノ〓育、ガ
不十分ト云フ意味デモナイ、唯學校以外ニ於テノ家庭ノ〓育モ十分ニイカ
ヌノハ已ムヲ得マセヌガ、又社會〓育トシテ色〓ナ〓化〓體モ段々出來テ居
リマスルケレドモ、此〓化〓體ノヤウナモノガ、果シテドウ云フ狀況デアルカ
ト云フト、唯人數ノ多イノヲ誇ルヤウナ工合デアリマシテ、1円.其實蹟
ニ於テハ見ルベキモノガ無イ、故ニ少年團ノ如キハ段々後ニ申上ゲマスルガ、
〓育法ガ新〓育法デアルト云フコトハ其建議案ノ理由ニモ出テ居リマスル
ガ。此新〓育法ト云フモノハ、ドウ云フ法デアルカト云フコトヲ一應申上ゲ
テ見タイト思フ、元來、此少年團ナルモノハ御存知ノ通リ、英國ノ「ベーデ
ンパウエル」中將ガ創設シタモノデ、此御方ハ長ラク植民地等ニ於テ軍職ニ
就カレテ、軍隊ノ〓育ヲ基礎トシテ、色〓國民性ノ涵養ニ付テハ研究サレタ
御方デゴザイマス、而シテ其成績ガ少國民、少年團ノ〓育ニ非常ニ宜シイガ
爲ニ、獨逸、露西亞等、總テソレヲ模倣イタシマシテ色〓改良イタシマシタ
結果、非常ニ少年團ナルモノノ評判ガ世界各國ニ響キマシテ、而シテ歐洲
大戰ニ於テハ、彼ノ少年團ノ活動ト云フモノガ矢張リ少國民ラシク相當ニ國
難ノ爲ニ働イタ、ソレガ爲ニ一層、此少年團ナルモノヲ讚美スル者ガ多クナッ
テ參リマシタガ、其讚美スル方面ノ中ニハ、又或ハアレハ軍國主義デアル、
ト云フヤウナコトヲ唱ヘル者モ有リ、大イニ其少年團ナルモノノ本質ヲ疑ハ
ルヽヤウナ狀態ニモナッタノデアリマス、併ナガラソレハ大變ナ誤解デアッ
テ。少年團ノ運動ハ成程、英國ノ「ベーデンパウエル」中將ノ創設デハアリ
マスルガ、其組織訓練ノ方法等モ我ガ日本ノ今日ノ少年團ハ則ッテ居リマス
ルケレドモ、決シテ軍國主義デハ無イ、又歐化主義デモ無イ、又能ク申ス直
譯主義デモ無イ、寧ロ此「ボーイスカウト」ナルモノノ其精神ハ何カラ出テ
居ルカト云フト、我ガ日本ノ武士道カラ出テ居ルト云フコトガ確メラレタノ
デアリマス、我ガ武士道ト申セバ、所謂、薩摩ノ健兒ノ社デアリマス、是ハ
ナゼサウ云フ精神カラ出テ居ルカト云フト、現ニ此創成者タル「ベーデンパ
ウエル」中將ノ申サレタコトニモアルノデアリマス、是ハ先頃、東宮殿下ガ
海外御巡遊ノ際、英國ニ御滯在中ニ、此「ベーデンパウエル」中將ガ御旅館
ヘ伺ヒマシテ、書面ヲ以テ左ノ如キコトヲ東宮殿下ニ申上ゲラレタ、曰ク生等
ハ日本武士道ノ精神ニ依リ少年ヲ〓育ス、斯ウ云フ言葉ヲ「ベーデンパウエ
ル」中將ガ申サレテ居リマス、ソレカラ先頃、又皇太子殿下御外遊記ヲ拜讀
イタシマシテ其百十六頁ノ一節ニ斯ウ云フコトガゴザイマス、「少年斥候隊
ノ運動ハ少年ヲ軍人ニ仕立テル豫備〓育ノヤウニ考ヘル者ガアルガ、是ハ甚
シキ誤解デアル、實ハ少年ヲシテ名譽ト愛國トノ觀念ヲ信條化セシメ、精神
身體共ニ强壯ナル人間ニ仕立テヤウトスルモノデアル、從テ其訓練ノ如キモ
日本武士道ノ眞髓ヲ取ッテ之ヲ行フモノデアル」云々之ニ依ッテ考ヘマスルト
云フト、最早、我國デ今日、少年團日本聯盟ガ統括シテヤッテ居リマスル所
ノ少年團各〓ハ、斯ウ云フ次第デゴザイマシテ、最モ日本ノ尊ムベキ武士道
ノ眞髓ヲ骨子トシテヤッテ居ルト云フコトハ、能ク御了解ヲ願ヒタイト存ジ
マイク。次ニ少年團ノ組織ニ付テ少々申上ゲタイノハ、是ハ班制〓育ト申シマ
シテ、六人乃至八人ヲ組ト致シマシテ、ソレヲ單位ト致シマシテ、更ニ二乃
至四ノ「パトロール」ヲ以テ指導單位ト致シマシテ、「ツループ」卽チ隊制
度ト致シマス、詰リ軍隊デ申セバ各個〓練カラ先ヅ始メルト云フノト同ジデ
アルノデアリマスデアリマスルカラシテ例ノ學校〓育ノ如ク、少年ヲ
集メテ十把一搦ケニシテ〓育ヲ行フト云フヤウナモノデハナイノデアリマシ
テ、アレデハ到底效果ノ擧ガラウ筈ハナイデアリマス、個性ノ陶冶、自治自
制ノ訓練ニハ十把一搦ゲノ〓育デハ、是ハ申スマデモナイ不適當ト存ジマス、
ソレカラ又組織ノ順序ト致シマシテ、指揮者ノ手ノ及ブ範圍デ成ルベク少イ
普通ノ少年ヲ以テ組織イタシマシテ、其訓練ガ或程度ニ達スルノヲ待ッテ漸
次他ノ少年ニ及ボス、斯ウ云フノガ少年團〓育ノ主義デアリマス、ソレデ
一ツノ村、一ツノ學校等ヲ總テノ少年團ニ網羅イタシマスノハ最終ノ目的デ
アリマシテ、最初カラ一町一村ヲ集メ、一ツノ學校ヲ集メテ少年團ニスルト云
フコトハ是ハ組織ノ順序ヲ誤ッタモノデアリマス、其誤ッタ證據ハ現ニ今日
各種ノ〓體ガゴザイマス、靑年團アリ、或ハ日本靑年協會アリ、在〓軍人團
アリ、色〓ゴザイマスケレドモ、名アッテ實ナキモノノヤウナ〓體ガ多イノ
デゴザイマス、是ハ〓體精神ガ詰リ缺如シテ居リマスノデ、又中ニハサウ云フ
〓體ノ美名ヲ藉リテ何カ自分ガ、ソレヲ利用シヤウト云フヤウナ惡辣ナ手段
ヲ運ラスト云フヤウナ者ガ有ルクラヰデ、少年團ノ〓育ハ全然其出發點ガ違ツ
テ居ルノデアリマス、ソレカラ少年團ノ〓育訓練法ハ學校ト違ヒマシテ專ラ
野外デヤリマス、野外ガ詰リ少年團ノ〓育場デアッテ、實物ヲ〓育ノ本トシ
テ更ニ室內〓育ニ段々〓育ヲ及ボシマスガ、之ニハ多數ノ指導者ガ要ルノデ
アリマス、一郎1大抵七人乃至八人クラヰノ指導者ヲ置イテ訓練ヲスルノデ
アリマスカラ、此指導者ノ數ト云フモノハ非常ニ要ルノミナラズ、又其指導者
ノ技倆ト云フモノガ餘程、鍛鍊ヲシナケレバ少年團ノ成績ノ上ニ大イニ利害
ガ及ブノデアリマス、ソレデ團長及指導者ハ少年ヲ集メテ直接ニ少年ト談笑
遊〓ヲシテ其間ニ自然ニ感化スルノデアリマス、〓育ノ時間ノコトニ付テハ
唯今、澤柳君カラ御話ガゴザイマシタカラ申シマセヌガ、學校ノ〓育ヲ妨ゲ
ハセヌカト云フ御疑念ガ隨分アルノデアリマスガ、決シテ妨ゲナイ、詰リ
少年彼等ガ學校カラ歸ッテ詰ラナク何ノ據所ナク惡サヲシテ遊ンデ居ル時間
ヲ利用スルノデアリマシテ、殊ニ少年團ノ最モ訓練ニ使用シマスノハ土曜日
カラ日曜日、若クハ暑中休暇、斯ウ云フノガ最モ宜イノデアリマシテ、ソレ
ガ爲ニハ皆、色〓計畫イタシマシテ指導スルノデアリマス、ソレデ少年ノ〓
育ノ爲ニハ學校ガアリ、家庭モアリマスルケレドモ、大抵、少年ハ家庭內ニ
押籠メラレテ居ルモノデハアリマセヌデ、必ズ社會ト何等カノ關係ヲ結バウ
ト云フ意思ガアルノデアリマス、社會ト何カノ關係ヲ結ビタイト云フ意思ガ、
詰リ彼等ニ社會ノ惡イコトヲ覺エサセルト云フコトニナリマスノデ、餘程、
其點ハ少年團ハ氣ヲ付ケテ〓育ヲスルノデアリマス、詰リ、サウ云フ學校ノ
〓育、家庭ノ〓育ヲ援助シテ、補助シテ更ニ少年〓本來ノ薰陶鍛鍊ヲ經テ〓
育ノ完成ヲシテ人格ヲ確實ナラシムルノデアリマス、ソレカラ少年團ノ「モッ
나標語、標幟、ソレハ標語ハ「備へヨ常ニ」、是ハ帽子ノ徽章、襟章、旗
印ニモ皆、書キ記シマス、常ニ備ヘヨト云フ語デアリマセウ、是ハ丁度、我
ガ武士道ノ精神ニ能ク合致シテ居ルノデアリマス、少年團員ノ誓約ヲ致シマ
スル是ハ詰リ綱領デアリマスルガ、是ハ各國トモニ三箇條デゴザイマス、日
本ニ於テハ目下、少年團日本聯盟ニ於テ規定シテアリマスル少年團員ノ誓約
ノ綱領ハ左ノ通リデアリマス、「私ハ神聖ナル信仰ニ基キ名譽ニカケテ次ノ
三條ヲ誓ヒヤス、一、神明ヲ尊ビ皇室ヲ敬ヒマス、二、人ノ爲メ世ノ爲メニ
盡シマス、三、少年團ノ掟ヲ守リマス」マア子供ラシイ綱領デゴザイマス、
而シテ、掟ト云フノハドウ云フ風ニナッテ居ルカト申シマスルト云フト、是
ハ〓ニ依ッテハ守則トモ申シマスガ、其掟ハ「一、忠誠ヲ盡スコト、二信
義ヲ重ンズルコト、三、義勇公ニ奉ズルコト、四、博愛衆ニ及ボスコト、五、
禮儀ヲ正シクスルコト、六、動植物ヲ愛護スルコト、七、從順ナルコト、八、
快活ナルコト、九勤勉質素ヲ旨トスルコト、+、純潔ナルコト」、是ガ少
年團ノ掟デゴザイマス、ソコデ少年團員ガ此團ニ入團シタイト云フ時分ニハ
嚴カナル儀式ヲ設ケマシテ、此三箇條ノ綱領ノ誓約ヲ致サセルノデアリマス、
其時分ニハ其少年團、少年團ニ依ッテ違ヒマスケレドモ、先ヅ最初ニ國旗ヲ
揚ゲマシテ、ソレニ向ヒ皆、敬禮ヲ致シマシテ「君ガ代」ヲ合唱イタシマシ
テ、ソレカラ入團セムトスル少年ガ一人、前ニ出マシテ、團長ノ前ニ於テ此
言葉ヲ述ベルノデアリマス、ソレカラ初メテ少年團員ニナルノデアリマス、
斯ウ云フ儀式法ノコトニ付キマシテハ言葉デ申上ゲテモ、ナカ〓〓分リマセ
ヌノデアリマスカラ他日、少年團ノ運動ヲ御實見ニナラウト云フ御希望ガゴ
ザイマシタナラバ其時ニ讓リマス、ソレカラ少年團日本聯盟ニモ規約ガゴザ
イマス、規約ノ第二條ニ「本聯盟ハ日本ノ少年團竝ニ外國在留日本人少年團
ヲ以テ組織ス」、「第三條、本聯盟ハ少年團相互ノ聯絡統一ヲ保チ其普及發逹
ヲ助成シ併セテ外國少年團トノ連繫ヲ圖ルヲ以テ目的トス」「第四條、本聯
盟事業左ノ如シ、少年團ノ補導誘掖、二、少年團ニ關スル圖書雜誌ノ刊
行三、「ジヤンボリー」講演會講習會ノ開催、四、少年團事業研究調査、
五少年團指導者ノ養成、六、其他必要ナル事項」、是ガ聯盟ノ規約ノ必要
ナ點デゴザイマス、ソレカラ少年團ノ訓練課目ト致シマシテハ、ドウ云フモ
ノガアルカト申シマスト云フト、衞生救護法、衞生救護法ト申シマスト云フ
ト、御承知ノ通リニ〓略ノ衞生ノコトモ〓ヘテ置キマスルシ、ソレカラ體操
モ致シマスル、ソレカラ繃帶三角巾、色〓ノ仕事ヲ致シマス、ソレカラ第二
ノ訓練項目ハ野外〓練、是ハ例ノ天幕ヲ張リマス、天幕ヲ張ッタリ炊事ヲ致
シマシタリ、色〓ノコトヲ致シマス、第三ガ自然研究、自然研究ト申シマス
ト天文氣象、湖ノ差引、色〓ナ距離ノ測量トカ、色〓ナ地形、土質ノ研究
トカ、色〓ヤリマスガ、是ハ省キマス、第四ガ奉仕訓練、是ハ例ノ自分ノ家ノ
掃除ヲスルトカ、自分ノ家ノ近所ノ溝ノ掃除ヲスルトカ云フノデアリマスガ、
其他、色〓ゴザイマス、第五、集會及見學、第六ガ運動遊〓、第七ガ技能章、
此訓練課目ノ中デ特ニ御參考ニ申上ゲテ置キタイノハ、野外〓練ニ於テ天幕
ヲ張ルト云フコトハ非常ニ彼等ハ喜ブノデアリマス、一夜ノ天幕ノ生活ノ爲
二、彼等ガドレダケノコトヲ練習シ體驗スルカト云フコトハ想像以上デゴザ
イマス、奉仕訓練ト申シマスノハ、詰リ自分ノ家ノコトヲ自分デヤッテ他人
ノ仕事ヲ助ケルト云フノガ、綱領ノ第二ニアルノデアリマスカラ、是モナカ
ナカ今迄ズルイ橫著ナ少年モ、三四箇月モ少年團ニ這入リマシテ〓育イタシ
マスト大變ニ子供ノ柄ガ違ウヤウニナリマス、ソレカラ運動遊〓ニ付テハ
日本ノ遊〓モヤリマスガ、又少年團ノ運動モゴザイマス、併シ運動ノ中ニ例
ノ選手ヲ選ンデ、ソレヲ外ノ多數ノ者ガ應援ヲシテヤルト云フヤウナヤリ方
ハ少年團ノ遊技トシテハ大禁物デアルノデアリマス、五人ナラ五人、十人ナ
ラ十人ガ、皆全力ヲ盡シテヤルト云フノヲ專ラ貴ビマス、ズット以前ノコト
デゴザイマシタガ、乃木大將ガ御在世中、英國皇帝陛下ノ御戴冠式ノ時分ニ
我ガ遣英宮殿下ニ隨行シタ時分ニ、矢張リ此英國ノ「ベーデンパウエル」中
將ニ會ハレテ、色〓少年團ノ遊技ヲ見テ來ラレタ、其時ニ特ニ乃木大將ガ感
服サレタノハ、普通日本ナドデヤル競走デゴザイマス、競走スル時分ニ普通
ナラバ一番カラ三番位ノ到著ノ者ガ一所懸命ニ駈ケルガ、五番以下ノ者ハモ
ウ途中デ怠ケテ駈ケテ來ナイ、所ガ英國ノ「ボーイスカウト」ノ競走ヲ見マ
スト云フト、總テ十人ナラ十人、十三人ナラ十三人ガ、同ジク競走スルモノ
ハ假令後トニナッテモ全力ヲ盡シテ駈ケテ來ルノニ、非常ニ感服サレテ學習
院ノ少年ニ對シテ講演會ヲ開カレタコトモ聞イテ居リマスガ、少年團ノ主義
ガサウ云フ風ノ所ニアリマス、ソレデ唯今ノ三項ノ綱領、誓ノ中ニ、第一ニ
ハ神明ヲ尊ビ、皇室ヲ尊ビマス、斯ウ云フコトガゴザイマスガ、アノ三項ノ
綱領ニ付テ、先頃矢張リ少年團日本聯盟ノ顧問ヲサレテ居リマスル高島平三
郞先生ガ「少年團ノ理想」ト云フコトニ付テ述べラレタコトガゴザイマスガ、
是ハ誠ニ三項ノ綱領ノ意味ヲ誠ニ能ク御話ニナッテ居ラレルノデアリマスガ、
一應玆デ朗讀ヲシテ御參考ニ供サウト思ヒマス
「少年團ノ理想」、少年團ニ於テハ種々ノ作業ヲナサシメ、諸種ノ訓練ヲ施
スガ、單ニ其作業ニ熟セシムルノガ最終ノ目的デハナイ、少年團ノ理想ハ
立派ナ人格ヲ造ルノニアル、立派ナル人格ノ養成ハ道德的品性ノ修養ニ待
タネバナラヌ、是ハ學校〓育ニ於テモ重キヲ置イテ努メテ居ルノハ勿論、
家庭ニ於テモ特ニ其基礎ヲ養ハネバナラヌノデアルガ、今日ノ家庭モ、學
校モ、單ニ其〓育ノミニ放任シ措イテハ、此大切ナル訓練ガ甚ダ心元ナイ、
其レ故ニ少年團ニ於テハ學校ヤ、家庭デ、理智トシ、形式トシテ〓ヘラレ
タル事ヲ實際ニ體驗セシメ品性ノ修養、人物ノ養成ニ努メルノデアル、現
代ノ人類ハ到底國家ナクシテ生活ノ安全ヲ期スルコトハ出來ヌ、サレバ人
類ハ先ヅ國家ノ人、卽チ國民トシテノ修養ヲ積ミ、又其最善ヲ盡スモノト
ナラネバナラヌ、併シ善キ國民トナルニモ、善キ人類トナルニモ共通ニ大
切ナルコトハ、人ハ自己以上ノ靈格ヲ認メルコトニ由テ謙遜ノ情モ起リ、
向上ノ心モ生ズルノデアル、其レ故ニ少年團ニ於テハ、其綱領ノ第一ニ神
ヲ尊敬スルコトヲ規定スル、之レト共ニ君主ヲ尊敬スルコトヲ規定スル、
此レハ少年團ガ君主國タル英國ニ於テ起ッタカラデアル、此精神ガ國民ト
シテ極メテ大切デアル、今日種々ノ宣傳ニ惑ハサレ、徒ラニ總テノ權威ニ
反抗スルガ如キ弊風ノ行ハルヽコトハ、實ニ憂フベキデアル、少年ノ純粹
ナル心ニ神ト祖國ノ君主ヲ敬愛スルト云フガ如キ高尙ナル情操ヲ養ハシメ
ルコトハ最モ大切ナコトデアル、少年團綱領ノ第二ハ、他人ヲ助ケルコト
ガ規定シテアル、是ハ國民トシテ必要ナルコトノミナラズ、人類トシテ國
際的道德ノ實踐上喫緊ノコトデアル、如何ニ無智無力ノ人モ、全ク他人ノ
爲ニ盡シ得ヌト云フコトハナイ、唯〓一言ノ慰メモ、親切デアリ、助ケデ
アル、兒童ノ時ヨリ他人ノ爲ニ親切ニナル習慣ヲ養ハシメ、喜ビテ之ヲ行
ヒ得ルニ至ラシメネバナラヌ、少年團ハコノ事ヲアラユル機會ニ實行セシ
メル、他人ニ盡シタ深切ヲ其受ケタル人ガ喜ビ感謝スル時ノ快感、及ビ其
深切ノ行動ヲ目擊シタ第三者タル觀衆カラノ賞讚ハ、共ニ少年ノ心ニ深刻
ナル感激ヲ體驗セシメル、少年ノ頃ハ、名譽心發動ノ基礎的事實トシテ、
注意集注欲ガ盛ニ現ハレルガ、善ヲナシテ衆人ガ之ニ注意ヲ集メ更ニ之ヲ
讚美スルニ至レバ、本人ノ滿足ハ頂點ニ達スル、少年團ハ是レ等ノ本能ヲ
利用シテ兒童ヲシテ漸次ニ喜ビヲ他人ノ爲メニスルノ習慣ヲ得セシメルコ
トニ努ムルノデアル、少年團綱領ノ第三ニハ其團ノ規則ニ服從スルコトガ
規定シテアル、是レ亦タ個人トシテモ國民トシテモ極メテ大切ナルコトデ
アル、凡ソ服從ノナキ所ニ統一ハナイ、而シテ統一ノナキ所ニハ偉大ナル
力ハ無イ、人ガ〓體ヲ作ッテ生存スル社會デアルカラ服從ガナケレバナラ
ヌ、自己ニ勝ル人ノ善意ノ〓訓ニ從フ事ハ自己ノ品性ヲ進メ眞ノ自由ヲ得
ル爲メニ大切ノ事デアル、然ルニ近年思想ノ主潮タル自由ヲ誤解シテ一切
ノ服從カラ解放サレル事ガ眞ノ自由デ、ソレガ此ノ社會ニ實現シ得ラル
ガ如クニ思惟シ、自恣ノ行動ヲナス者サヘ少ク無イ、此時ニ當リテ自己ノ
屬スル團體ノ規則ニ服從スルコトヲ誓テ實行スル少年團ノ訓練ハ、現代社
會ノ對症療養デアルト共ニ又カヽル誤謬的思想ノ根本的防衞デアル
斯ウ云フヤウナコトヲ述ベラレテ高島先生ハ、少年團ノ綱領ノ三項ニ付テノ
理想ヲ述ベラレテ居リマス
〔「簡單ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ〕
ソレカラ現今ノ少年團ノ情況ヲ申上ゲマスト云フト、先ヅ方々デ自發的ニヤ
リ出シマシタノハ七八年デゴザイマス、ソレデ東京ニ初メテ各地ノ少年團ガ
集マリマシテ出來マシタノガ今四十程ゴザイマスガ、是ハ東京聯合少年團ト
ナリ、又靜岡方面ニモ出來マシタノガ、先程モ澤柳君ガ言ハレタ通リ、少年團
日本聯盟ハ大正十一年四月デゴザイマス、ソレデ素質ノ惡イ少年團ハ加盟ニ
入レマセヌ、東京ノ聯合少年團ハ震災ノ時分ニ非常ニ賞讚スベキ働キヲ致シ
マシタ、其時ノコトハ活動寫眞ニ收メテゴザイマスカラ他日御覽ヲ願ヒマス、
訓練ノ力空シカラズ、大ニ震災當時ニ役ニ立ッタノデアリマス、ソレカラ震
災後、久通宮殿下ノ御邸ヘ召サセラレテ、親シク少年團ノ運動ヲ御覽ニナリ
マシテ、又東京ノ聯合少年團ハ大正十一年ニ横濱ノ三溪園デ夏ノ村ヲ天幕デ
造リマシテ、村落ノ自治體ノ自習ヲヤリマシテゴザイマス、ソレカラ昨年八
月中旬、畏レ多クモ秩父宮殿下ニハ我〓少年團日本聯盟ガ猪苗代ノ湖畔ニ於
テノ露營ニ御臨ミニナッテ、而カモ露營地ニ御一泊ニナリ、翌日ハ又磐梯山ニ
御登リニナリ、皇太子殿下モ共ニ上ガラレテ、少年團モ御供ヲシタノデアリ
マス、第三日ハ秩父宮殿下ハ態&「カスケード」ヲ持タレテ色〓〓習ヲサレ、
午後ニハ游泳ノ演習ヲサレタノデアリマス、是等ノコトハ、少年團日本聯盟
デ發行イタシマスル「少年團研究」ト云フ雜誌ノ昨年ノ十月號ニ出テ居リマ
スカラ、適當ノ時分ニ御覽ヲ願ヒマス、要スルニ少年團ノ運動ハ今日マデヤ
リマシタ日ガマダ淺イノデアリマシテ、殊ニ指導者モ不十分デアリマスケレ
ドモ、ソレニモ拘ラズ大イニ將來ノ光明ヲ認メルノデアリマス、而モ色〓、
皇太子殿下ヲ始メ秩父宮殿下其他ノ大御心モ深ク少年團ノ運動ニハ色〓御〓
究ヲ重ネラレ、此翁島ノ御滯在中モ大御心ヲ加ヘラレタノデアリマスカラ、誠
ニ今後ノ國民ノ養成上、最モ少年團ノ運動ハ適當ノコトト存ジマス、斯クノ
爲ニ私ハ原案ニ贊成ヲ致ス次第デアリマスガ、ドウゾ滿堂ノ諸君モ此建議ノ
趣旨ヲ能ク御了解下サイマシテ、雙手ヲ擧ゲテ御贊成アラムコトヲ希望イタ
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=149
-
150・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本建議案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=150
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151・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス
小山市小山発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=151
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152・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十七、失業救濟ニ關スル建議案、公爵一
條實孝君外七名發議、會議、建議案ヲ朗讀イタサセマス
〔長書記官朗讀〕
失業救濟ニ關スル建議案
右貴族院規則第六十九條ニ依リ提出候也
大正十四年三月十六日
發議者
公爵一條實孝候爵德川義親子爵渡邊千冬
淺田德則男爵阪谷芳郞男爵福原俊丸
鎌田榮吉菅原通敬
贊成者
侯爵鍋島直映侯爵四條隆愛侯爵佐佐木行忠
子爵伏原宣足伯爵松浦厚伯爵松平賴壽
伯爵小笠原長幹伯爵堀田正恒伯爵大原重明
男爵木越安綱服部三子爵唐橋在正
男爵加藤定吉男爵大井成元子爵山口弘達
子爵高倉永則子爵稻垣太祥子爵靑木信光
子爵牧野忠篤子爵五辻治仲子爵井上匡四郞
子爵西大路吉光子爵柳生俊久子爵大河內正敏
子爵水野直子爵吉田〓風子爵本多忠鋒
子爵豐岡圭資子爵秋月種英子爵大河內輝耕
子爵堤雄長子爵白川資長子爵池田政時
子爵〓岡長言子爵八條隆正子爵秋田重季
子爵牧野一成子爵戶澤正己子爵秋元春朝
男爵山根武亮嘉納治五郞北條時敬
石原健三富谷 注太郞男爵宇佐川一正
木場貞長水野鍊太郞男爵坂本俊篤
男爵名和長憲鈴木喜三郞荒川義太郞
石塚英藏小松謙次郞內田嘉吉
男爵山内長人福原鐐二郞荒井賢太郞
上山滿之進男爵平野長祥男爵鍋島直明
志水小一郞男爵斯波忠三郞勝田主計
男爵船越光之丞男爵千秋季隆男爵北河原公平
男爵北大路實信男爵永山武敏男爵中島久萬吉
男爵黑川幹太郞男爵神山郡昭男爵黑田長和
男爵藤村義朗男爵二條正麿男傅赤松範
男爵小畑大太郞男爵野田龜喜男爵東郷安
男爵池田長康男爵辻太郞男爵矢吹省三
男爵周布兼道男爵寺島敏三男爵高崎弓彥
男爵藤田平太郞男爵安川敬一郞男爵高木喜寛
石井省一郞原保太郞藤田四郞
鮫島武之助仁尾惟茂石渡敏
福永吉之助橋本圭三郞倉知鐵吉
山之内一次高田早苗中村純九郞
南弘松本烝治安樂兼道
安立綱之川上親晴西久保弘道
永田秀次郞馬場鍈一湯地幸平
西野元佐竹三吾片岡直輝
佐藤友右衞門藤武喜助村野常右衞門
山内佐五兵衞鎌田勝太郞齋藤善八
矢口長右衞門阿部秀逸橋本辰二郞
土田萬助小林八右衞門西川甚五郞
近岡理三郞勝田銀次郞橫山章
高橋隆富永猿雄靑木才次郞
小川貞成〓信愛櫻井伊兵衞
貴族院議長公爵德川家達殿
失業救濟ニ關スル建議
貴族院ハ近時失業者ノ多キニ鑑ミ政府ニ於テ深甚ナル考慮ヲ拂ヒ其ノ救濟
ニ付適切ナル對策ヲ講セラレムコトヲ望ム
〔公爵一條實孝君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=152
-
153・一條實孝
○公爵一條實孝君 唯〓、議題トナリマシタル建議案ニ付テ、發議者ノ一人ト
致シマシテ、簡單ニ之ガ提出ノ理由ヲ申述ベタイト存ジマス、諸君ノ御承知ノ
如ク、近時失業者ノ數ハ漸ク增加イタシマシテ、動モスレバ社會ノ不安ヲ招
致スル虞レアルコトハ誠ニ憂慮ニ堪ヘナイ次第デゴザイマス、而シテ其失業
者ナルモノハ何レモ勞働ニ堪フルノ能力ヲ有シ、且ツ喜ンデ其業ニ就カムト
欲スル人〓デアリマス、而モ其職ヲ得ル能ハズト云フコトハ誠ニ氣ノ毒ナコ
トト存ジマス、社會ノ發達ヲ期スル見地ヨリ致シマシテ、斯ノ如キ有爲ナル
失業者ヲ其儘ニ致シテ置キマスコトハ甚ダ不利ナコトデアリマス、而モ是等
ノ失業者カ自己ノ生活ノ不安ヲ感ズルノ餘リ、延イテ現社會ヲ呪ヒ、或ハ自
暴自棄ニ陷リ、或ハ現社會組織ヲ破壞セムトスルガ如キ觀念ヲ抱懷スルニ至ツ
テハ、國家ノ一大不祥事ト云ハナケレバナリマセヌ、失業問題ニ付キマシテ
ハ、曩ニ同僚福原男爵ト內務大臣トノ間ニ質問應答ヲ重ネラレ、其速記錄ニ依
リマシテ、本員ハ略、政府ノ失業問題ニ對スル態度ヲ承知イタシテ居リマスノ
デアリマスガ、遺憾ナガラ其對策ガ微温的ナル感ヲ懷クノデゴザイマス、經濟
界不況ノ今日、又近クハ政府ノ行政財政整理緊縮實現ノ曉、更ニ失業者ノ續出
ハ免ルベカラザル狀態デアリマス、如何ニ此本問題ヲ解決セラルヽノデアリ
マセウカ、或ハ多少ノ事業ヲ起シテデモ此失業問題ヲ緩和スル必要ガアルノ
デナイデアリマセウカ、或ハ速ニ失業保險ノヤウナ制度ヲ立テヽヤル必要ハ
ナイノデアリマセウカ、或ハ勞働組合法ノ如キモノヲ速ニ其大綱ダケデモ決
定スル必要ガナイノデアリマセウカ、觀ジ來レバ政府ノ執ラレル對策ハ多々
アルト存ジマス、今日マデノ所、政府ハ職業紹介ニ稍〓力ヲ入レテ居ラレルト
存ジマス、其他ニ於テ餘リ目立ッタコトモ割合ニ我〓ニハ見受ケラレナイノデ
アリマス、此失業統計ノ如キモノニ對シテモ、其爲ニ僅ニ十五萬圓二箇年繼
續費ヲ以テ行ハルヽ如キ狀態デゴザイマス、斯ノ如キ狀態ヨリシテ今一層此
失業救濟ノ對策ヲ十分ニ立テラレムコトヲ望マザルヲ得ザルノデアリマス、
抑〓失業救濟ハ其效果、失業者其者ノ救濟ニ止マラズ、前述イタシマシタ如
ク失業者ノ增加ガ軈テ社會ヲ脅威スル所以デアリマスガ故ニ、失業者救濟ハ
卽チ社會ヲ救濟スル所以デアリマス、更ニ現在ニ於ケル我ガ思想界ハ如何デ
アリマセウカ、國民中、極ク小部分ノ分子ヲ取締ルハ必要トハ申シナガラ、治
安維持法ヲ制定シナケレバナラナイ、狀態ニ達シテ居ルノデアリマス、此不
健全ナル思想ト、不平怨嗟ノ聲ガ相結付キマシタナラバ、如何ナル國家ノ不
祥事ヲ惹起スルヤモ測リ知ルベカラザルモノガゴザイマス、以上ノ次第デゴ
ザイマスガ故ニ、政府ニ於キマシテ速ニ失業救濟ニ關シ十分ナル對策ヲ立テ
ラレムコトヲ切望スルノ餘リ、本建議案ヲ提出シタ次第デゴザイマス、何卒
諸君ニ於カセラレマシテモ滿場一致、本趣意ニ御贊成アラムコトヲ希望イタ
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=153
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154・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 山脇玄君
〔山脇玄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=154
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155・山脇玄
○山脇玄君 私ハ本建議案ニハ贊成スル者デアリマス、贊成スル者デアリマ
スカラ、先ヅ以テ此内務大臣ガ御出デニナラヌガ······内務大臣ニ伺ッテ置キマ
シテ、其次ニ唯今、發議者ノ御一人ガ遺憾ナク趣旨ヲ御辯明ニナリマシタガ、
尙ホ一二私モソレニ蛇足ヲ加ヘテ贊成ヲスル積リデアリマス、我國ニ於ケル
失業問題ハ英米ニ於ケル如ク緊急ナル問題デナイカモ知レマセヌ、サリナガ
ラ由來、失業ハ勞働者トシテハ最モ苦痛ヲ感ズルノデアリマス、時間ノ過長、
賃銀ノ低廉ノ如キ程度上ノ問題デハアリマセヌ、全ク生活問題デアリマス、
失業ノ弊害ハ唯〓發議者モ述ベラレタ如ク、唯勞働者ノ心身ニ及ボス影響バ
カリデハアリマセヌ、社會ノ犯罪ヲ釀シ、延イテハ國家組織、經濟制度ノ根
本ニ反抗的精神ヲ懷カシメル虞レガアルノデアリマス、其對策ハ······之ニ對
スル應急策ハ、社會政策トシテ誠ニ愼重ナル熟慮ヲ要スベキモノデアリマス、
早晩、國家的統一ノ下ニ職業紹介所ガ出來、强制的失業保險ヲ實施スルノ必要
ヲ生ズルニ違ヒナイ、ソコデ私ハ內務大臣ニ伺ッテ見タイノハ、今日デス、
唯今申シマシタ國家的統一ノ下ニ職業紹介ヲ設ケルトカ、或ハ失業保險、是
ハナカ〓〓統計ヲ集メマスルノニ非常ニ困難ナヤウデアリマスカラ、是ハマ
ア將來ノ問題トシタ所デ、今日差當リ我國ニ於テ此失業施設トシテ實施サレ
テ居ルモノハ、ドウ云フモノガアリマスカト云フコトヲ、內務大臣ニ一應伺
ヒタイ
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=155
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156・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 山脇君ノ御質問デアリマシタガ、失業ニ對スル
對策ハ誠ニ困難ナル問題デアリマス、結局ハ之ニ職ヲ得セシメルト云フコト
デアラネバナリマセヌ、ソレガ爲ニハ建議案ノ提出者ノ一人デアリマス一條
公爵ノ御述べニナリマシタ通リ、事業ヲ幾ラカ計畫ヲシテ職ヲ得セシメルト
云フヤウニ考ヘルコトモ一方法デアリマス、同時ニ今日ノヤウナ財界ノ不況、
之ヲ成ルベク速ニ恢復ヲ促シテ、ソレカラ職業ヲ得セシメルヤウニスルノモ
努メナケレバナラヌ點デアルト思ヒマス、申上ゲル迄モナク、失業ト云フ事
柄ハ大量生產ノ行ハレル大工業地ニ勞働者ガ集合スルヤウニナリマスレバ、
ドウシテモ失業ト云フコトガ起ッテ參リマス、如何ナル對策ヲ致シテ置イテ
モ、經濟界ノ好景氣、不景氣、是ハ必ズ來ルノデアマリスカラ、好景氣ノ時
ニハ從業多ク、不景氣ノ時ニハ失業多シ、是ハドウモ已ムヲ得ナイ社會現象
デアリマス、ソレ故ニ不景氣ガ來タナラバ、成ルベク好景氣ヲ來ラシメルヤ
ウニ努メテ、失業者ヲ職ヲ得ル方面へ導イテ行クト云フコトヲセネバナリマ
セヌ、ソレト共ニ季節ニ於テモ、失業者ノ生ズルコトハ御承知ノ通リデアリ
やっ、外デ働クヤウナ勞働者ハ冬季、寒イ時分トカ、梅雨時分、雨ノ多イ時、サ
ウ云フ時ニハ職ヲ得ルコトガ出來ヌ、出來ニクイ、是モ亦天然上巳ムヲ得ナ
イ現象デ、矢張リ失業者ヲ生ズル現象デアル、免レシメムトシテモ免レルコ
トノ出來ヌモノデアリマス、ソレデアリマスガ故ニ、失業ト云フコトヲ無ク
シタイケレドモ無クスルコトハ出來ヌ、ソレナラバ失業者ガ生ジタナラバ成
ルベクソレニ職ヲ得セシメルヤウニシナケレバナラヌ、職ヲ得セシメルニハ
財界ノ好景氣ヲ圖ッテ、職ヲ得セシメルヤウニスルノモ方法、又一條公爵ノ
御述ベニナリマシタ通リ、左程、急要デナイ事業ノ如キモ企テヽ職ヲ得セシメ
ルコトニモ努メナケレバナリマスマイ、ソレト共ニ、サウヤッテ居ッテモ週期
的ニ失業ガ來タル、ソレニハ山脇君ノ仰セニナルヤウニ失業保險ト云フヤウ
ヤウナモノヲ設ケテ、ドウシテモ來タル失業ニ對シ、一時生活ヲ維持スル方
法ヲ持タシメルト云フコトモ必要デアリマス、總テサウ云フヤウナ事ヲ實行
シナケレバナラヌト思ヒマスガ、失業保險ノコトハ唯今マデ失業者ノ統計ス
ラ出來テ居リマセヌカラ、保險制度ヲ定メマシテモ基礎ガマダ調バッテ居ラ
ナイヤウナ情勢デアリマスカラ、基礎カラ調査シテ掛ラナケレバナリマセヌ
ソレガ今日豫算ニ於テ失業統計ノ爲ニ二年繼續費ヲ要求シテ居ル所以デアル
ノデアリマス、唯今ノ所デハ主トシテハ、サウ云フ場合ニハ事業ヲ繰合セテ
成ルベク失業者ノ多カリサウナ所デ仕事ヲスルヤウニ努メマスルコトト、ソ
レカラ職業紹介ニ依ッテ、一方ニハ職人ヲ得タイ所ガアリ、他ノ一方ニハ職
ヲ求メテ居ル者ガアリ、其間ノ聯絡ガ付カヌガ爲ニ從業スルコトガ出來ヌモ
ノハ、其聯絡ヲ作ッテ成ルベク從業セシメルヤウニ、卽チ職業紹介ニ努メル
ト云フコトヲスルノ外アリマセヌノデ、目下ノ所デハ左樣イタシテ居ルノデ
アリマス、其以上、極ク季節ニ依ッテ失業者ガ出マシテ而モ如何ニ紹介シテ見
テモ職ガ得ラレヌ、ソレガタメ食糧ニ窮スル、宿泊ニ窮スル者ニ對スル一時
ノ便宜ヲ圖ッタト云フコトハアリマスケレドモ、是ハホンノ其時〓ノ一時ノ
コトデアリマシテ、先ヅ大體、對策トシテ云ヘバ、唯今申上ゲルヤウニ成ルタ
ケ事業ヲ繰合セテ、失業者ノ多カルベキ所デ事業ヲスルヤウニ努メテ居リマ
スコトト、職業紹介ヲスルト云フコトガ主ナルモノニナッテ居リマス、併シ
早晩、失業保險ヲ設ケナケレバナラヌコトハ申ス迄モアリマセヌ、ソレ故、今
日ハ失業統計ヲ取ルコトニ著手イタサムトスルノデアリマスカラ、ソレガ出
來マシタナラバ失業保險ノ制度ヲ立テタイト考ヘテ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=156
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157・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 中島男爵
〔男爵中島久萬吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=157
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158・中島久萬吉
○男爵中島久萬吉君 私ハ本案ニ贊成ノ意ヲ表スルガ爲ニ、成ルベク簡單ニ、
平生、此失業救濟ノ問題ニ關シテ懷イテ居リマスル愚見ノ一班ヲ申述ベマシ
テ、政府當局ノ御考慮ニ訴へタイト存ジマス、唯今、我ガ帝國議會ノ內外ニ
起ッテ居リマスル政治問題ハ、重大ハ卽チ重大ナルカハ存ジマセヌケレドモ
私ヲシテ忌憚ナク言ハシムレバ、未ダ以テ大イニ我ガ國民ノ實生活ニ交涉ヲ
有スルモノトモ存ジマセヌ、獨リ今日ノ建議案ノ問題タル此失業問題ニ至リ
マシテハ、御案内ノ如ク、現代ノ產業制度竝ニ經濟組織ノ中ニ胚胎イタシマシ
タル所ノ所謂、社會的疾患トモ申スベキモノデゴザイマシテ、諸外國ニ於テ
ハ既ニ重大ナル政治問題ニナッテ居リマスルシ、我國ニ於テモ輓近、漸ク朝野
ノ注意ヲ惹起ス所ノ事態ニ立進ンデ參ッテ居リマス、此問題ノ解決ハ固ヨリ
朝一夕ニ出來ルモノデハゴザイマセヌ、差當リ當面ノ救濟ヲ必要ト致シマ
スルシ、ソレニモ增シテ重要ナルコトハ是ガ豫防ノ一事ニ存スルノデゴザイ
PV,蓋シ失業ノ原因タル多クハ經濟的竝ニ社會的事情ニ其深キ根柢ヲ持ッ
テ居リマスルノデゴザイマスルカラ、固ヨリ事後ノ手段方法ニ依ッテノミ問
題ノ解決ヲ期待スル譯ニハ參リマセヌ、先ヅ豫メ一般失業狀態ノ觀測ニ對シ
テ周到ナル調査ヲ行フノ必要ガアルノデゴザイマス、卽チ第一ニハ一般失業
狀態ノ調査ト云フコトデゴザイマス、一國失業率ノ高低ハ其國民ノ脈搏ノ高
低ヲ意味スルト云フコトガ學者ノ說デゴザイマシテ、更ニ國力ノ榮養ナリ、
國民ノ特性ナリ、社會ノ能率ナリ、將又國家ノ進步ナリ、總テ是等ノモノハ
其國ニ於ケル失業者ノ多少ニ依ッテ觀測イタサレルト云フ所カラ、之ヲ一國
社會狀態ノ「パロメートル」トモ稱セラレルノデゴザイマス、然ラバ此重要ナ
ル社會問題タル失業ノ統計的基礎ガ果シテ我國ニ存在イタシテ居ルカト申シ
マスルノニ、是ハ此失業統計ハ特ニ我國ノミナラズ、先進諸外國ニ於テモ未ダ
其適確ナルモノハ之ヲ見ルコトガ出來マセヌノデゴザイマス、成程此失業者
ノ實數ト云フガ如キコトハ或ハ之ヲ得ル能ハザルマデモ、セメテ一般失業狀
態ノ趨勢ナリ、是ガ消長ナリニ對シマシテハ、平生其觀測ヲ怠ラザルヤウニ
致シマスコトガ、爲政者ノ今後ニ向ッテ大イニ爲サネバナラヌコトト信ジマ
ス、我國未ダ失業保險制度ノ實施ナキ今日ニ於テハ、差當リ職業紹介機關ヲ
通ジテ、乃至ハ鑛山工場ニ於キマスル勞働者ノ傭入竝ニ解雇ノ調査ニ依リマ
シテ、一般失業狀態ヲ觀測イタシマスル外ニ其途ハナイノデゴザイマスルケ
レドモ、ソレニ致シマシテモ、先ヅ平生ニ於テ出來得ル限リ最善ノ調査ヲ行
ヒマシテ、豫メ臨機ノ對策、施設等ヲ考究イタシテ置キマスルコトガ社會不
安ノ原因ヲ除キマスル上ニ於テ當面ノ必要事デアラウカト存ズルノデゴザイ
マイカ第二ガ所謂自由勞働者ノ失業救濟ト云フコトデゴザイマス、一昨年ノ
大震火災直後ニ於ケル事態ハ姑ク措キマシテ、本年ノ一月九日ニ我ガ帝都ノ
眞中ニ行ハレマシタル失業者ノ「デモンストレーション」ト云フコトハ、我國
ニ於ケル最モ新シイ社會事實デゴザイマシテ、此事ハ大ニ識者ノ考慮ニ値ス
ルコトト存ジマス、此際因ニ申上ゲマスルガ、最近一月十日現在ノ統計ニ依ッ
テ見マスルト、我ガ東京府下ニ於ケル此自由勞働者ノ失職數ハ丁度七千程デ
ゴザイマス、斯ノ如ク此都會ノ地ニ集リ來リマスル勞働者ノ中ニ就テ、其職
業ノ不安定ト熟練ノ缺乏トヲ特長ト致シマスル此自由勞働者ナルモノガ、
箇所ニ密集イタシマスルガ爲ニ、日々變動イタシマスル勞働市場ニ於テ、
種慢性的失業ヲ體驗ヲ致シマスル者ガ頻出イタシテ居ルト云フコトハ、實ニ
是非ナイ事實デゴザイマス、併ナガラ何トカ致シマシテ、是等ノ自由勞働者
ノ失業ニ對シテ救濟ノ對策ヲ講ジ、之ヲ所謂、定傭化イタシマスルコトガ、
社會政策上、最モ急務ト致シマスル所デゴザイマシテ、殊ニ唯今、若槻内務
大臣ヨリ御話デゴザイマシタ通リ、此冬ノ季節乃至梅雨ノ季節ニ於テ、是等
ノ自由勞働者ノ失業事態ガ最モ憂フベキ現象ヲ呈スルコトニ深甚ノ注意ヲ拂
ハナケレバナラヌノデゴザイマス、此季節的關係カラ起リマスル失業ニ對シ
マシテハ、或ハ事業上ノ按排ニ依リマシテ、例ヘバ冬季ニ向ッテ豫メ勞働ノ
保留ヲ行フトカ、或ハ冬ノ季節ノ間ハ裏日本竝ニ北國ヨリノ出稼人ヲ調節イ
タシマスルトカ、何トカ是等ノ方法ニ依リマシテ、關係當局者ニ注意ヲ與フ
ルナリ、乃至必要トアラバ、相當ノ權限ヲ付與スルナリ致シマシテハ、如何
カト存ジルノデアリマス、免ニ角、此數年以來、冬ノ季節ニ於テ是等ノ自由
勞働者ガ示威運動ヲ起スノ風ヲ生ジマシタコトニ付テハ、大ニ考慮ヲ加ヘナ
ケレバナラヌモノト信ジマス、第三ガ工場勞働者ノ失業問題ト云フコトデゴ
ザイマス、我國、輓近財界ノ不振ニ伴ヒマシテ鑛山、工場ノ整理淘汰ニ依リ
集團的解雇ガ行ハレマシタル以外、更ニ官營諸工場ニ於テモ亦屢〓整理ガ行
ハレマシタル結果ト致シマシテ、今日、都會ノ地ニ深甚ナル失業狀態ヲ現出
イタシテ居ルコトハ事實デゴザイマス、唯幸ニシテ我國特有ノ制度トモ申
スベキ退職手當支給ノ制度ガゴザイマスルノト、道ニ固來家族制度ノ美風的
習俗ガ存在イタシテ居リマスガ爲ニ、其儘ノ狀態ニ於テ社會ノ表面ニ現ハレ
來ラナイト云フ迄ノコトデアルノデゴザイマス、此工場ノ勞働者ノ失職問題
ハ大正十年以來、漸ク我國ニモ痛切ニ起ッテ參リマシテ、財界ノ恢復未ダ〓ゲ
ザル間ニ、不幸ニシテ一昨年ノ震火災ニ伴フ失業狀態ヲ現出イタシマシテ、當
時我ガ帝都ニ於ケル失業者ノ數、無慮二十萬人ト註セラレテ居ッタノデゴザイ
マス、今日ノ所デハ、是等ノ失職者ニ對シマシテハ、職業紹介制度ニ伴ヒマス
ル勞働需給ノ調節ニ依ッテノミ對策スル外ハナイノデゴザイマスルケレドモ、
若シ幸ニシテ私ガ先キニ申シマシタル退職手當支給ノ制度ヲ一層合理化シ、
一時.法制化スルコトガ出來マスルナラバ、或ハ是ガ我國ニ於ケル特徵アル
一失業對策ト認ムルコトガ出來ルヤウニ相成ルコトカトモ存ジマス、第四ガ
知識階級者ノ失職問題ト云フコトデゴザイマス、政府ノ行政財政ノ整理ノ結
果ト致シマシテ、官公吏ノ其職ヲ失フタル者、巷間或ハ之ヲ二萬ト稱へ、或ハ
之ヲ三萬ト稱ヘテ居リマスルガ、若シ此上ニ雇傭人全體ヲ合計イタシマシタ
ナラバ、其數或ハ五七萬ニ達スルカモ存ジマセヌト思ヒマス、併ナガラ其實數
ハ固ヨリ判然イタシマセヌ、併ナガラ此不確實ナル數字ガ却テ一層、一般ノ失
業狀態ニ脅威ヲ與ヘマシテ、人心ヲ暗黑ナラシメテ居ルトモ觀察スルコトガ
出來ルノデゴザイマス、今日、公設職業紹介所ニ於ケル求職人ニ依ッテ取調べ
マシタ結果ニ依リマスト、昨年以來、矢張リ所謂、精神勞働者ト云フモノガ其
多數ヲ制シテ居リマシテ、殊ニ昨今、就職難ノ折柄、夥シク學校卒業生ノ數ガ
此以外ニ存在シタルコトニ考ヘ至リマシタナラバ、實情、眞ニ思ヒ半バニ過
グルモノガアルト存ジマス、殊ニ是等ノ知識階級者ガ一度就職難ヲ體驗イタ
シマスル結果、延イテ思想界ノ方面ニモ亦惡影響ヲ與フルコトニ注意ヲ致サ
ナケレバナラヌノデゴザイマス、今日帝都ノ一角ニ如何ナル世相ガ現存シテ
居ルカト云フコトヲ考ヘ來リマシタナラバ、何人モ慄然タラザルヲ得ザルコ
トト信ジマス、第五ガ鮮人勞働者ノ問題デゴザイマス、昨今、御案內ノ如ク
朝鮮ヨリ年々多數ノ勞働者ガ我國ニ渡來イタシマスル結果ト致シマシテ、サ
ナキダニ、緩慢ナル我ガ勞働市場ニ於テ少カラザル壓迫ヲ感ジマシテ、延イ
テ內地勞働者ノ失業狀態ヲ一層深刻ナラシメテ居ルコトガ事實デゴザイマ
ス、大正八年ノ四月朝鮮總督府ノ鮮人旅行取締ニ關スル命令ガ發布セラレマ
シタル以來、同十一年ノ十二月ニ此命令ガ一旦廢止ニナリ、十二年ノ九月ニ
ハ復活イタシ、更ニ昨年ノ五月ニ再ビ廢止セラルヽ等ニ依リマシテ、其間、多
少ノ消長ハゴザイマスケレドモ、朝鮮ヨリノ渡來イタシマスル勞働者ノ數ガ
累年增加イタシマシテ、試ニ今日關門ヲ通過シテ流入イタシマスル鮮人ニ付
キ、彼ノ大正十三年內地渡航歸還表ト云フモノガアリマスルガ、ソレニ依ツ
テ見マスルト、大正十三年六七八ノ三箇月ヲ通ジマシテ朝鮮ヨリ渡來イタシ
テ參リマシタル者ガ一日平均六百九人、一箇月平均一萬八千二百七十一人、右
ニ對シマシテ內地ヨリ朝鮮ニ歸還イタシマシタル者ガ一日平均百八十二人、
一ヶ月平均五千四百五十人デゴザイマシテ、差引一萬二千八百二十一人ノ多
數ガ、此多數ガ卽チ內地ニ於ケル鮮人ノ增加數トシテ算セラレルノデゴザイ
マス、而シテ其九割以上ガ卽チ勞働者デアルノデゴザイマス、此事態ハ我ガ
內地ニ於ケル失業救濟問題ヲ解決イタシマスルニ當ッテ、少クトモ當局者ノ考
慮ニ値スルコトト存ズルノデゴザイマス、第六ガ職業紹介機關ノ充實ト申ス
コトデゴザイマス、大正十年ノ七月ニ職業紹介法ガ實施セラレマシタル以來、
旣ニ三年ノ星霜ヲ閱シマシタ、其間、一方ニ於テハ人ヲ求メル場合、他方ニ於
テハ職ヲ求ムル場合、此二ツノ場合ニ於テ紹介件數モ就職件數モ共ニ累年增
進ヲ致シマシテ、其數、最初ノ年度ニ比シテ二倍以上ニ當ッテ居リマスル、
是ハ畢竟、紹介所ノ增設、之ニ伴ッテ世人ノ紹介所ヲ利用スル者ガ次第ニ多
キヲ加ヘタ結果デハゴザイマスルケレドモ、尙ホ大體ヨリ申シマスルト云フ
ト、紹介ヲ通ジテ未ダ雇傭ヲ行ハザル會社工場モ亦澤山ゴザイマスルノデア
リマスルカラ、此際、一方ニ於テハ彼ノ營利的又ハ個人的職業紹介所ノ實際ヲ
取調ベマスルト共ニ、更ニ一方ニ於テハ公益、職業紹介所ニ伴フ······公益職
業紹介所ヲ充實シ······其內容ヲ充實シ、是ガ統一連絡ヲ圖ルノ必要ガ大イニ
アラウト存ジマス、是ハ啻ニ眼前一時ノ失業對策トシテ、一般勞働需給ノ調
節ヲ目的トスルノミナラズ、更ニ將來ニ向ッテハ我國ニ於ケル失業保險機關
ト致シマシテ、今日十分ニ是ガ素地ヲ作ルノ必要ヲ認ムルカラデゴザイマス、
私ハ右等ノ理由ニ依リマシテ、本建議案ニ對シテ滿腹ノ贊成ヲ表スルモノデ
ゴザイマス、何卒、滿場一致ノ御贊成ヲ得テ速ニ本案ノ通過ヲ見ルニ至ラム
コトヲ切望ノ至リニ堪ヘマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=158
-
159・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 山脇玄君
〔山脇玄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=159
-
160・山脇玄
○山脇玄君 モウ私ハ蛇足ヲ添ヘル必要モアリマセヌガ、一言申述ベタイノ
デス、唯今、内務大臣ノ御答辯ニ依リマスルト、今日ノ失業施設トシテハ職
業紹介所、ソレト此公共事業ノ按排ト、此二ツデアルト云フ御話デ、私共マ
ア今日ノ所デハ應急策トシテ、ソレヨリ外ニ別ニアルマイト思フノデス、彼ノ
失業保險トカ、或ハ國家的統一ノ下ニ紹介所ヲ設ケルト云フコトハ、ナカ〓〓
困難ナコトデアリマスシ、迚モ大英斷ガナケレバ出來ナイコトデアリマスカ
ラ、ソレハ私ハ今日望ミマセヌ、併シ唯今仰シヤッタ所ノ公共事業ノ按排ニ
付テ、内務大臣ノ御考通リ實行サレテ居ラナイト私ハ思フノデス、諸君御承
知ノ通リ、此貴衆兩院ノ橫デ昨年ノ夏頃カラ仕事ヲシテ居ル下水工事ハ御覽
デアリマセウ、行ッテ見ルト云フト、ポツ〓〓勞働者ガ仕事ヲシテ居ル、丁
度冬ニナッテ蟻ガ地ヲ掘ッテ〓物ヲ貯ヘルト云フヤウナ形デヤッテ居ル、ソレ
ナゾハモウ少シ餘計ニ自由勞働者ヲ御使ヒニナラヌノガ私ハ不思議デタマラ
ヌ、先ヅ今ノヤウナ話デヤッテ居リマシタナラバ、品川マデ持ッテ行クニハ何
年掛カルカ分リマセヌ、サウ云フヤウナ公共事業ガアルノニ、ソレヲ何
故按排ヲナサラヌカ、ソレカライマ一ツハ復興事業、復興事業ノ爲ニ四月カ
ラデスカ、四谷見附ヘ持ッテ行ッテ砂ヲ揚ゲル大キナ設備ガ出來ルコトニナッ
テ居ルヤウデス、是モデス、四月カラヤルナラバ其年度ヲ繰上ゲテ、モット早
クヤルベシト私共ハ思フノデス、サウ云フヤウニ政府ノ趣意ハ尤モダガ、實
行ガ出來テ居ラナイ、是ハ私ノ今日ノ施設等ハ甚ダ遺憾ニ存ズルノデアリマ
スカラ、勿論此建議ガアルノハ大贊成デアルガ、私共露骨ニ申上ゲルト云フ
ト、政府ニ建議スルナラバ、モチット具體的ニシテ欲シイ、政府モ失業問題
ニ付テ考慮中デアルコトハ無論デアル、斯ウ云フ事業ヲ斯ウ云フ工合ニシヤ
ウ、斯ウ云フ事業ヲ斯ウ云フ工合ニシヤウト云フ、建議案ヲ私ハ具體的ニシ
タイノデアリマスガ、今日ハサウ云フコトヲ言ウ餘地ハアリマセヌカラ、今
日ハ内務大臣ガ御出席デアリマスカラ、此公共事業ノ速度ヲモウ少シ早メテ
欲シイト云フコトヲ附加ヘテ、私ハ大贊成ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=160
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161・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本建議案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
總員起立発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=161
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162・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 全會一致ト認メマス
개호사태우호発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=162
-
163・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二十八、薩哈嗹州方面派遣陸海軍ニ對スル
感謝決議案、公爵近衞文麿君發議、會議、該決議案ヲ朗讀イタサセマス
〔成瀨書記官朗讀〕
薩哈嗹州方面派遣陸海軍ニ對スル感謝決議案
右提出候也
大正十四年三月十七日
發議者公爵近衞文麿
贊成者
候爵德川義親候爵久我常通伯爵小笠原長幹
伯爵堀田正恒子爵實吉安純子爵靑木信光
子爵井上匡四郞子爵水野直子爵伊東祐弘
子爵八條隆正子爵渡邊千冬淺田德則
櫻井錠二北條時敬石原健三
富谷 注太郞男爵宇佐川一正佐藤三吉
荒川義太郞石塚英藏男爵阪谷芳郞
笠井信勝田主計男爵船越光之丞
男爵千秋季隆男爵北大路實信男爵福原俊丸
男爵黑田長和男爵〓誠之助男爵小畑大太郞
男爵東郷安男爵辻太郞男爵矢吹省三
三宅秀藤田四郞橋本圭三郞
倉知鐵吉南弘鎌田榮吉
菅原通敬西久保弘道永田秀次郞
鎌田勝太郞矢口長右衞門土田萬助
橫山章
貴族院議長公爵德川家達殿
薩哈嗹州方面派遣陸海軍ニ對スル感謝決議
我薩哈嗹州派遣軍、臨時海軍防備隊及北樺太方面派遣艦船ハ嚮ニ歐州戰亂
終熄ノ後尙五箇年ノ久キニ亙リ朔北猛寒ノ地ニ在リテ克ク其ノ任務ヲ竭セ
リ貴族院ハ玆ニ忠勇ナル我將卒ノ功勞ニ對シ深ク感謝ノ意ヲ表ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=163
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164・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 近衞公爵
〔公爵近衞文麿君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=164
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165・近衞文麿
○公爵近衞文麿君 決議案ノ趣旨ヲ簡單ニ申述ベマス、曩ニ世界ノ戰亂ガ終
熄イタシマシタ時ニ、世界ヲ舉ゲテ歡喜ノ聲ニ滿チテ、何人モ雀躍シテ平和
ヲ祝福シタノデアリマス、唯、其際、獨リ日露ノ兩國ハ紛爭未ダ解決セズ、從テ
我國ハ朔北ノ野ニ於テ、マダ最近ニ至ルマデ、此兵ヲ解キ干戈ヲ收ムルコトヲ
得ナイ事情ニアッタノデアリマス、從テ我ガ派遣軍ハ世界ガ歡喜ノ聲ニ充チ
テ居ル際ニ、獨リ故〓ニ錦ヲ飾ルコトモ出來ズ、滿目荒涼タル薩哈嗹ノ野ニ、
或ハ風雪ト鬪ヒ、或ハ寒氣ト鬪ッテ、五箇年ノ長キ歳月ニ亙ッテ紛骨碎身、國
家ノ爲ニ其職務ヲ盡シタノデアリマス、此事ハ國民ノ共ニ稱歎シテ措カナイ
所デアリマス、今ヤ幸ニシテ日露ノ協約ガ成立イタシマシテ、國交ガ舊ニ復
シマシタル際ニ、我〓ハ斯ノ如キ國交恢復ニ至ル迄ニハ實ニ堪ユベカラザル
所ノ困苦艱難ト鬪ヒツヽ局面ノ維持ニ努メタル派遣軍ノ忠勇ナル將卒ノ在ル
コトヲ忘レテハナラヌト存ジマス、今ヤ續々トシテ此派遣軍ノ撤兵セラルル
ニ際シマシテ、我ガ貴族院ハ特ニ院議ヲ以テ忠勇ナル將卒ノ勞苦ヲ犒ヒ、感
謝ノ意ヲ表スルコトハ最モ機宜ヲ得タコトデアルト信ジマス、是レ此決議案
ヲ提出シタル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=165
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166・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本決議案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
總員起立発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=166
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167・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 全會一致ト認メマス
〔國務大臣宇垣一成君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=167
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168・宇垣一成
○國務大臣(字垣一成君) 唯今、滿場一致ヲ以テ御決定ニナリマシタル院議
ニ對シマシテ、私ハ薩哈嗹州派遣軍ニ關係イタシテ居リマシタ所ノ將卒一同
ニ代リマシテ、玆ニ深甚ナル感謝ノ意ヲ表シマス、囘顧イタシマスレバ、大
正九年七月、同軍ガ薩哈嗹州ニ駐屯イタシマシテ以來、玆ニ五閱年、之ニ參加
イタシマシタ所ノ將卒ハ通計イタシマシテ、無慮二萬有餘デアリマス、其中
ニハ骨ヲ朔北ノ野ニ埋メタ者モ亦尠カラヌノデアリマス、今ヤ將ニ軍ハ任務
ヲ了ヘテ歸還セムトスルニ際シマシテ、極メテ同情アル御決議ヲ得マシタト
云フコトハ、彼等將卒ガ國家ノ爲ニ盡シテ居ッタ所ノ努力ノ上ニ一段ノ光彩
ヲ添ヘルコトト信ジマス、現在任務ニ就テ居リマスル者ノミナラズ、永ヘニ
氷雪ノ下ニ眠ッテ居ル所ノ我〓ノ僚友、又既ニ戎衣ヲ解イテ歸ッテ〓間ニ在ル
所ノ者、是等ヲ問ハズ、何レモ此御厚情ニ對シテハ深ク感激イタスコトト信ズ
ル次第デアリマス、此深厚ナル御決議ハ普ク傳逹ヲ致シ、又是ノ徹底スルヤ
ウニ最善ノ方法ヲ執ッテ取計フ考デアリマスガ、取敢ズ玆ニ謹ンデ深厚ナル
所ノ感謝ノ意ヲ表シテ置キマス
〔拍手ヲ起ル〕
〔國務大臣財部彪君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=168
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169・財部彪
○國務大臣(財部彪君) 唯今、全會一致ヲ以テ御議決ニ相成リマシタル御懇
篤ナル決議ニ對シマシテ、私ハ帝國海軍ヲ代表イタシ深厚ナル感謝ノ意ヲ表
シマス、尙ホ此決議ノ次第ニ付キマシテハ、ソレゾレ關係ノ有ル各指揮官等
ヘ直チニ傳達ノ手配ヲ致ス筈デゴザイマス、取敢ヘズ玆ニ謹ンデ御禮ヲ申
上ゲマス
〔拍手起ル〕
市东南発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=169
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170・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ於テ御異議ガナケレバ、日程第二十九ヨリ
第六十七マデノ請願ハ一括シテ議題ト致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
意見書案
屯田兵ノ恩給ニ關スル件
北海道札幌郡琴似村士族農中島德次郞外七十名ロ王出
右ノ請願ハ屯田兵ハ豫備役編入後尙現役ニ異ナラサル軍務ニ服シ而モ何等
ノ支給ナク其ノ家族モ轉住轉職ニ嚴重ナル拘束ヲ受ケツツ開墾上多大ノ辛
勞ヲ爲シタルニ拘ラス其ノ豫備役期間ハ恩給年數ニ加算セラレサルニ反シ
豫備役ヲ終ラスシテ公務員トナリタル者ハ其ノ在職年數ヲ現役期間ニ通算
セラルルニ比シ甚不權衡ナルニ依リ恩給ニ關シテハ屯田兵ノ豫備役期間ト
又兵役相續者ニハ被相續者ノ年數トヲ各通算セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依
リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
輸入乳製品關稅改正ノ件
東京市京橋區新富町平民畜產業木村專太郞外一名呈出
右ノ請願ハ我國生產ノ乳製品ハ其ノ質ハ輸入品ニ優リ其ノ量亦國內ノ需要
ヲ充シ得ルニ拘ラス需要者カ好ミテ高價ナル外國品ヲ購買スルハ一種ノ贅
澤ナリ然ルニ這般關稅改正ノ際乳製品ヲ贅澤品ヨリ除外シ其ノ輸入防遏ノ
途ヲ講セサルハ國產奬勵上甚遺憾ナルニ依リ該品ニ對スル關稅增率ヲ行ハ
レタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
御肖像竝勅語揭載ノ印刷物取締ニ關スル件
鳥取縣鳥取市西町平民疊職井口千代藏呈出
右ノ請願ハ新聞雜誌ニ奉揭スル御肖像竝勅語ニ對シテハ不知不識ノ間ニ不
敬ノ取扱ヲ爲ス恐アルニ依リ斯カル不敬ナキヤウ其ノ奉揭ニ關シ取締方法
ヲ講シ且三大節ノ式後學校長ヲシテ生徒ニ對シ其ノ奉拜方法ヲ訓示セシメ
尙校則トシテ之ヲ厲行セシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體
ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候
也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
義務〓育費國庫負擔金增額ノ件
岡山縣吉備郡岩田村長長尾俊憲外二百七十三名口玉出
右ノ請願ハ義務〓育費國庫負擔金ノ增額ハ刻下ノ重要懸案ニテ全國民ノ利
害休戚ニ關スルニ拘ラス若來年度ニ於テ之カ實現ヲ見サルトキハ國民〓育
上ニ重大ナル影響ヲ及ホシ加之地方財政ヲ著ク困難ニ陷ラシメ自治體ノ發
達ヲ阻礙スルモノアルハ甚遺憾ナルヲ以テ速ニ增額セシメラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
宮崎神宮ヲ勅祭社ニ昇進ノ件
宮崎縣宮崎市長大迫元繁外六十名呈出(六通)
右ノ請願ハ橿原神宮等ハ勅祭社ナルニ拘ラス神武天皇ヲ奉祀スル官幣大社
宮崎神宮ハ勅祭社ニ非スシテ彼此待遇ヲ異ニスルハ國民ヲシテ敬神崇祖ノ
精神ヲ涵養セシムル所以ニ非サルヲ以テ速ニ同社ヲ勅祭社ノ列ニ加ヘラレ
タシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ
議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
屯田兵ノ恩給ニ關スル件
北海道上川郡永山村農松野萬壽外六百十名呈出
右ノ請願ハ屯田兵ノ豫備役ハ現役同樣ニシテ且其ノ家族ニ至ル迄嚴重ナル
拘束ヲ受ケ殊ニ有事ノ際ニ於テハ常備師團現役兵以上ノ訓練ヲ受ケ劇務ニ
服シタルヲ以テ其ノ豫備役服務期間ヲモ恩給年數ニ通算スルヤウ規定セラ
レタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
靑森縣西津輕郡稻垣村ニ登記所設置ノ件
靑森縣西津輕郡稻垣村長長內長五郞呈出
右ノ請願ハ靑森縣西津輕郡稻垣村ハ戶數多ク登記事件夥多ナルニ拘ラス管
轄登記所ハ距離遠ク加之出水又ハ降雪ノ爲交通杜絕シ住民ノ不便不利多大
ナルハ遺憾ナルニ依リ速ニ同村ニ登記所ヲ設置シ同村一圓及出精村大字出
野里、大字善積、大字兼館等ヲ管轄トセラレタク所要ノ敷地建物ハ同村ヨ
リ寄附スヘシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
根室地方ニ漁港修築ノ件
北海道根室郡根室町平民牧畜業中島義一外三百八名呈出
右ノ請願ハ根室、千島ハ太平洋及オコツク海ニ面シ海岸線延長七百餘里ニ
亙リ海產豐富ニシテ漁業益隆盛ナラムトスレトモ適當ナル漁港ナキ爲所期
ノ發展ヲ成シ難キハ甚遺憾ナルニ依リ根室國落石、羅臼、花咲及千島諸島
ノ中恰適ノ地ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體
ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
根室港修築ノ件
北海道根室郡根室町平民牧畜業中島義一外三百十一名呈出
右ノ請願ハ根室港ハ本道東海岸ニ於ケル樞要ナル港灣ニシテ貨物ノ輸出入
ハ殆ト釧路港ニ匹儔スルニ拘ラス其ノ修築費ハ該港ノ三分ノ一ニモ達セサ
ル爲大正十三年度結了ノ豫定工事費ニテハ到底設備不完全タルヲ免レサル
ヲ以テ工事費ヲ增額シテ修築ヲ繼續セラレ之カ完成ヲ期セラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵徳川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
厚床斜里間鐵道敷設ノ件
北海道根室郡根室町平民牧畜業中島義一外三百十名呈出
右ノ請願ハ北海道根室原野ハ天然ノ豐富ナル利源ヲ藏スル寳庫ニシテ農牧
ノ好適地ナルニ拘ラス未タ交通ノ便ナキ爲同地方開發ノ遲遲タルハ甚遺憾
ナルヲ以テ根室本線厚床附近ヨリ別海、標津ヲ經テ斜里ニ通スル鐵道ヲ速
ニ敷設シ根室、網走兩港ヲ連絡セシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決、政候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及
送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
壽都漁港修築ノ件
北海道歌棄郡歌棄村平民漁業佐藤孝二外四百六十七名呈出
右ノ請願ハ北海道壽都外附近三郡ノ沿岸ハ漁業地トシテ古キ歷史ヲ有スル
モ近時森林ノ濫伐潮流ノ變化ニ因リ魚族陸地ヲ遠カリシ爲勢沖合ニ出漁セ
サルヘカラス然ルニ附近ニ安全ナル漁港ヲ有セサルハ漁業ノ發展上遺憾ナ
ルヲ以テ天然的良港タル壽都港ヲ漁港トシテ修築セラレタシトノ旨趣ニシ
テ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條
ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
國際補助語エスペラント〓授調査ニ關スル件
東京府豐多摩郡千駄ヶ谷町平民官吏鈴木金之助外七百四十五名呈出
朝鮮慶尙南道釜山府平民〓員中村嘉一外三千九百六十四名呈出(三
通)
右ノ請願ハ第三囘國際聯盟ノ議ニ上リタル國際補助語エスペラントハ世界
人類問ノ直接理解ニ資スルコト多大ナルモノアリ我國ニアリテモ同語ノ普
及ハ國際關係上最緊要ナリト認ムルヲ以テ國內諸學校ニ於テ該語〓授ヲ課
目ニ編入スルコトニ關シ速ニ調査ニ著手セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院
ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別
册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
女子高等〓育ニ關スル件
東京府豐多摩郡戶塚町士族松岡節外五名呈出
東京府南葛飾郡小松川町平民無職業安井榮子外五百三十六名呈出(三
通
右ノ請願ハ〓育ハ男女共ニ均シク向上發展ヲ期スヘキモノニテ現行大學
令、專門學校令ハ何等性的區別ヲ認メサルニ拘ラス高等學校令、專門學校規
則ニ於テ女子ノ入學ヲ拒否スルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ女子高等學校竝各
種專門學校ヲ設立セラレタク若實現不可能トセハ現在ノ高等學校竝各種專
門學校ヲ女子ニモ開放シ男子ト同一ノ資格ヲ與ヘラレタシトノ旨趣ニシテ
貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
依リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
鶴見川改修費國庫補助ノ件
神奈川縣川崎市池上新田農池上幸操外二百六十一一名呈出
右ノ請願ハ東京府及神奈川縣ヲ貫流スル鶴見川ノ沿岸地方ハ農作地ニシテ
殊ニ下流一帶ノ地ハ橫濱港ニ近ク適當ナル工場地ナリト雖一朝洪水汎濫ス
ルトキハ農作物、工場ノ被害多ク且京濱間ノ交通ヲ杜絕シ同地方ノ發展ヲ
阻礙スルコト大ナルノミナラス過般ノ大震災ニ依リ甚大ナル損害ヲ被リ地
方費ノミニテハ到底修理シ難キヲ以テ同川ノ大改修ヲ行フ爲工費ノ三分ノ
二ヲ國庫ヨリ補助セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
余市漁港修築ノ件
北海道余市郡余市町漁業猪俣安造外二百八十五名呈出
右ノ請願ハ北海道余市郡余市町ハ夙ニ海陸交通ノ便備リ殊ニ豐饒ナル鰊漁
業ノ中心地ニシテ天然ノ良港灣ヲ有シ沖合漁業、遠洋漁業ニ對シ最適當ナ
ル策源地ナルニ依リ速ニ拓殖費ヲ以テ同町ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
輸入乳製品關稅改正ノ件
千葉縣安房郡北條町房南煉乳株式會社社長高橋銀太郞外四千四百八十
一名呈出
右ノ請願ハ歐洲大戰ノ當時煉乳ノ輸入激減シタルヲ以テ國內ニ於ケル乳牛
ノ飼育盛トナリ爲ニ農村ノ經濟稍救濟緩和セラレタルニ拘ラス近時煉乳ノ
輸入增加シ國產品ハ至大ノ壓迫ヲ受ケ農村ノ振興上甚遺憾ナルニ依リ煉乳
ノ關稅ヲ相當增加セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
輸入乳製品關稅改正ノ件
兵庫縣飾磨郡城北村平民農柳井久米次外百五十二名呈出(二通)
右ノ請願ハ農村振興ノ策トシテ有利ナル乳牛ノ飼育ヲ奬勵スル必要アルノ
ミナラス已ニ國產乳製品ハ其ノ質優良其ノ量亦豐富ナルニ拘ラス今尙外品
ノ輸入盛ニシテ斯業者ノ受クル壓迫大ナルハ生產品保護上甚遺憾ナルニ依
リ輸入乳製品ニ對シ禁示的高率ノ關稅ヲ課セラレタシトノ旨趣ニシテ貴教
院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
土功組合事業助成ニ關スル件
北海道札幌市北海道廳管內土功組合聯合會長得能佳吉呈出
右ノ請願ハ北海道ニ於ケル土功組合ノ事業ヲ助成シ農村ノ疲弊ヲ救濟スル
ハ本道拓殖上必要ナルヲ以テ同組合ニ關スル灌漑溝ノ工事費ニ對シテハ幹
線ニ限リ國庫ヨリ補助セラルヘキ現行規定ヲ改正シ幹線工事費ハ國庫支辨
トナシ支線分派線排水溝ニ對シテモ更ニ補助ノ途ヲ講セラレタク其ノ他請
願人所案ノ如キ七箇條件ノ下ニ組合事業ノ助成ヲ圖ラレタシトノ旨趣ニシ
テ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條
ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
北海道樺戶郡新十津川村ニ登記所設置ノ件
北海道樺戶郡新十津川村士族公吏澤渡兵一外百三十二名呈出
右ノ請願ハ北海道樺戶郡新十津川村ハ地域廣ク戶口增殖シ登記事務夥多ナ
ルニ拘ラス管轄登記所ハ距離遠ク住民ノ不利不便尠カラサルハ甚遺憾ナル
ニ依リ同村ニ岩見澤區裁判所出張所ヲ新設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族
院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
石狩川本支流治水ニ關スル件
北海道空知郡栗澤村長山田勢太郞呈出
右ノ請願ハ石狩川竝其ノ支流ノ治水及石狩河口ノ改修ハ雨龍郡外七郡ニ亙
ル荒蕪地ノ開拓上最急務ナルニ拘ラス其ノ工事進捗セサル爲諸川氾濫シテ
拓殖上障礙甚シク且人畜ノ被害夥シキハ遺憾ナルニ依リ速ニ該工事ヲ完成
セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致
候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
御肖像揭載ノ印刷物取締ニ關スル件
山梨縣甲府市柳町鍼術業長田保春呈出
右ノ請願ハ近時新聞雜誌等ノ刊行物ニ天皇陛下竝攝政殿下ノ御肖像ヲ奉
揭スル爲不知不識ノ內ニ之ヲ汚瀆シ不敬ニ涉ル虞アリ斯クテハ國民風〓上
甚遺憾ナルニ依リ是等ノ刊行物ニ奉揭セシメサルカ若奉揭セハ附錄トナス
カ又ハ永久保存シ得ル方法トナスカ相當ナル取締方法ヲ設ケラレタシトノ
旨趣ニシテハ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法
第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
石狩川架橋ノ件
北海道權戶郡月形村公吏植松適外二百二十九名ロ王出
右ノ請願ハ石狩川ノ流域地方ハ農產、林產、鑛產等豐富ナル資源ヲ包藏シ
物資ノ集散夥シキニ拘ラス石狩川ニ橋梁尠ク交通ハ主トシテ渡船ニ依ル狀
態ニシテ住民ノ不安不便甚シキヲ以テ樺戶郡月形村ト空知郡沼貝村トノ間
ニ架橋セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト
議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
機船底曳網漁業取締ニ關スル件
東京市京橋區木挽町帝國水產會會長伯爵吉井幸藏呈出
右ノ請願ハ曩ニ機船底曳網漁業取締規則發布セラレタルモ尙不十分ナル爲
漁場ヲ荒廢セシメ漁業秩序ヲ紊亂スルモノアルハ甚遺憾ナルニ依リ同規則
中第二條第二項ヲ削除シ一地方長官ノ許可ノ效力ヲ他ノ地方長官ノ管轄ニ
及ホサシメサルコト、其ノ他請願人所案ノ如キ數條件ノ下ニ適當ナル改正
ヲ圖ラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
水產增殖ニ關スル件
愛知縣愛知郡下之一色町淺海利用研究會長村上隆吉呈出
右ノ請願ハ輓近水產增殖事業ニ依リ天然產水族ノ不足ヲ補ヒツツアレトモ
之ニ對スル國家ノ施設完カラサル爲斯業ノ發達尙十分ナラサルハ甚遺憾ナ
ルニ依リ水質保護ニ關スル法律及水產增殖法ヲ制定シ且淺海增殖用種苗ノ
配給竝淺海利用模範場ノ設置ヲ國營ニテ實行セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依
リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
水產增殖法制定竝水產增殖助成ニ關スル件
東京市京橋區木挽町帝國水產會會長伯爵吉井幸藏呈出
右ノ請願ハ我國ニ於ケル水產食料ノ需要ハ年ト共ニ益增加スルニ拘ラス供
給之ニ伴ハサル傾向アルハ甚遺憾ナルニ依リ水產業ノ保護奬勵策トシテ水
產增殖法ノ制定其ノ他請願人所案ノ如キ諸種ノ施設ヲ實行セラレタシトノ
旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
漁村振興ニ關スル件
東京市京橋區木挽町帝國水產會會長伯爵吉井幸藏呈出
右ノ請願ハ四面環海ノ我國ニ於テ水產業ヲ奬勵スルハ最急務ニシテ斯業ハ
漁村ノ振興ト相俟テ發達スヘキニ拘ラス漁村振興策ノ觀ルヘキモノナキハ
甚遺憾ナルニ依リ漁村指導機關ノ充實、漁業權制度ノ改善等其ノ他請願人
所案ノ如ク漁村保護ノ方策ヲ講セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
水質活濁豫防法制定ノ件
東京市京橋區木挽町帝國水產會會長伯爵吉井幸藏呈出
右ノ請願ハ鑛山業、工業ノ勃興、石油發動機船ノ激增等諸種ノ原因ニ依リ
近時海水ノ汚濁益甚シク之カ爲水產業ノ受クル損害至大ナルニ拘ラス其ノ
豫防ニ關スル法規ノ不備ナルハ誠ニ遺憾ナルニ依リ水質汚濁豫法法ヲ制定
セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致
候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
私立中等學校國庫補助ノ件
東京府荏原郡大井町〓員湯本武比古外百二十七名呈出
右ノ請願ハ私立中等學校カ國家〓育ニ貢獻スルコト多大ナルニ拘ラス官公
立中等學校ニ比シ職員ノ待遇及〓育ノ設備十分ナラサルハ文化ノ普及上甚
遺憾ナルヲ以テ私立中等學校職員待遇ノ向上ト設備ヲ完成スル爲國庫ヨリ
相當ノ補助金ヲ交付セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇
スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
財團法人私立中等學校協會國庫補助ノ件
東京府荏原郡大井町〓員湯本武比古外百五十九名呈出
右ノ請願ハ私立中等學校ニ於ケル〓員ノ移動多キハ主トシテ恩給等ノ給與
ナキニ依ルヲ以テ曩ニ財團法人私立中等學校協會ヲ設立シテ一時給與金及
年金額ヲ支給スルコトトシタルモ協會ノ自營ノミニテハ十分ノ支給ヲ爲シ
得サルハ遺憾ナルヲ以テ官公立〓員ニ等シキ恩典ニ浴セシムルヤウ同協會
ニ國庫ヨリ相當ノ補助金ヲ交付セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付
候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
煙草罹災補償金交付規則中改正ノ件
東京府豐多摩郡澁谷町士族無職業中村枝幸呈出
右ノ請願ハ葉煙葉ノ耕作ニハ長期間多大ノ勞力ヲ要スルニ拘ラス其ノ買上
價格ハ他ノ農作物ニ比シ低廉ニシテ平年作ヲ得ルモ尙耕作者ノ常ニ苦痛ト
スル所ナルニ災害ノ場合ニ於ケル煙草罹災補償金カ少額ニシテ耕作者ヲ救
濟スルニ十分ナラサルハ甚遺憾ナルニ依リ煙草罹災補償金ヲ增額セラレタ
シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議
院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
私立大學國庫補助ノ件
東京市小石川區茗荷谷町東洋協會大學學長子爵後藤新平外八名呈出
右ノ請願ハ曩ニ大學令發布セラレ慶應、早稻田、明治、中央、日本及國學
院ノ七校ハ昇格ト共ニ每年補助金ヲ下附セラルルニ比シ之ト同一ノ內容ヲ
有セル東洋協會大學外八校ハ昇格ヲ認メラレタルニ拘ラス補助金ノ恩典ニ
浴セサルハ權衡ヲ失シ甚遺憾ナルヲ以テ是等ニモ補助金ヲ下附セラレタシ
トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院
法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
天賣漁港修築ノ件
北海道苫前郡天賣村平民商木村宇太郞外二百三十三名呈出
右ノ請願ハ北海道苫前郡天賣村ハ四面環海ノ島嶼ニシテ其ノ附近ハ豐富ナ
ル海產漁場ナルニ拘ラス適當ナル漁港ナク漁船ノ遭難スルモノ夥シク爲ニ
近時戶口增殖セル本村モ出漁不安ノ念ニ驅ラレ漸ク疲弊セムトスルハ甚遺
憾ナルニ依リ速ニ同村ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及
送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
雄武漁港修築ノ件
北海道紋別郡雄武村士族公吏山内騰一郞外百六十九名呈出
右ノ請願ハ北海道紋別郡雄武港ハ有名ナル漁場「オコツク」海ニ面スルモ
沖合漁業ニ最必要ナル漁船避難ノ設備ナキハ甚遺憾ナルヲ以テ僅少ナル工
費ニテ修築シ得ヘキ要素ヲ具備スル同港ニ對シ國費ヲ以テ適當ナル施設ヲ
實行セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
留萌港修築ニ關スル件
北海道留萌郡留萌町平民商山本仁次外五十三名呈出
右ノ請願ハ北海道屈指ノ要港タル留萌港ハ近時鐵道ノ開通ト相俟テ町勢頓
ニ進步シ益膨張セントスルニ拘ラス曩ニ十二箇年計畫ヲ以テ同港ノ修築工
事ヲ始メタルモ豫定年度內ニ完成シ難キ狀態ニアルハ同道發展上竝海陸交
通連絡上甚遺憾ナルニ依リ相當豫算ヲ增額シ以テ豫定年度內ニ其ノ工事ノ
完成ヲ圖ラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト
議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
廣尾漁港修築ノ件
北海道廣尾郡茂寄村平民漁業松波四郞吉外二百七十五名呈出
右ノ請願ハ北海道廣尾郡廣尾港ヲ修築セハ本邦屈指ノ大漁場ノ稱アル十勝
國沖合ノ漁業ヲ發展セシムルノミナラス陸上ノ大富源ヲモ開發シ得ヘキニ
ヨリ速ニ該港ヲ漁港トシテ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付
候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
枝幸漁港修築ノ件
北海道枝幸郡枝幸村平民公吏瀧本瑞龍外百三十四名呈出
右ノ請願ハ北海道枝幸郡枝幸港ノ沖合ハ「オコツク」海ノ一部ニ屬スル大
漁場ナルニ拘ラス該港ニ漁船避難ノ設備ナキハ漁業ノ發展上甚遺憾ナルニ
依リ速ニ同港ヲ漁港トシテ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
樣似漁港修築ノ件
北海道樣似郡樣似村平民漁業三上重藏呈出
右ノ請願ハ北海道日高國沿岸就中襟裳岬沖合ハ本邦屈指ノ大漁場ニシテ前
途大ニ開發スヘキ運命ヲ有スルモ沿岸ハ良灣ニ乏シキヲ以テ一朝暴風ニ襲
ハルルトキハ漁船ノ避難困難ニシテ斯業ノ發達ヲ阻害スルコト尠少ナラサ
ルヲ以テ天與ノ良港ニシテ工事容易ナル樣似港ヲ修築シ漁船避難港ト爲シ
以テ漁業ノ發展ヲ期セシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
岩内港修築ニ關スル件
北海道岩內郡岩內町公吏佐藤文吉外五百二十一名呈出
右ノ請願ハ北海道岩內郡岩內港ハ同地方ニ於ケル豐富ナル海陸物產ノ集散
地ニシテ同道屈指ノ港灣ナルカ故ニ其ノ修築ニ對シテハ多年種種ノ努力ヲ
重ヌルモ其ノ結果應急的施設ニ止マリ未完全ノ域ニ達セサルハ甚遺憾トス
ル所ナルヲ以テ國費ヲ以テ完全ナル修築工事ヲ施サレタシトノ旨趣ニシテ
貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
依リ別冊及送付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿
意見書案
札幌小樽間國道開鑿ニ關スル件
北海道小樽郡朝里村士族公吏大淵〓樹外二百七十三名呈出
右ノ請願ハ北海道札幌市ヨリ小樽郡朝里村大字錢函村ニ至ル國道ヲ改修シ
竝錢函村小樽市問ノ道路ヲ開鑿スルハ沿道地方ニ於ケル豐富ナル產業ヲ開
發シ交通ヲ便ニシ本道拓殖上緊要事ナルニ拘ラス未其ノ改修竝開鑿ナキハ
甚遺憾ナルヲ以テ速ニ之カ實施ヲ圖ラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意
ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送
付候也
大正十四年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣子爵加藤高明殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=170
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171・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是等ノ請願ハ請願委員長ノ報告通リデ御異存ゴザ
イマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=171
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172・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=172
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173・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 明二十日午前十時ヨリ開會イタシマス、議事日程
ハ本院彙報ヲ以テ御通知ヲ致ス積リデゴザイマス、本日ハ是ニテ散會イタシ
マス
午後五時四十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005003242X02519250319&spkNum=173
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