1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十四年一月二十七日(火曜日)午後一時十五分開議
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議事日程 第五號
大正十四年一月二十七日
午後一時開議
第一 預金部預金法案(政府提出) 第一讀會
第二 大藏省預金部特別會計法案(政府提出) 第一讀會
第三 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第四 在外國帝國專管居留地特別會計法廢止法律案(政府提出) 第一讀會
第五 陸軍營繕費補充資金特別會計法廢止法律案(政府提出) 第一讀會
第六 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
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一 國務大臣の演説に對する質疑(前會の續)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=0
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001・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一議員ノ異動左ノ如シ
沖繩縣第二區選出議員手塚正次君ノ補闘
トシテ大城幸之一君當選セラレタリ
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
在外國帝國專管居留地特別會計法廢止法
律案
陸軍營繕費、補充資金特別會計法廢止法
律案
(以上一月二十四日提出)
臨時國庫證券收入金特別會計法廢止法律
案
(以上一月二十六日提出)
衆議院議事速記錄第六號
大學特別會計法中改正法律案
朝鮮醫院及濟生院特別會計法廢止法律案
(以上一月二十七日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
所得稅法中改正法律案
提出者村山喜一郞君
造林助成法案
提出者村山喜一郞君
釧路網走間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者小池仁郞君
食糧政策確立ニ關スル建議案
提出者坂東幸太郞君
(以上一月二十四日提出)
〓育ノ機會均等ニ關スル建議案
提出者
山枡儀重君樋口秀雄君
(以上一月二十六日提出)
金鵄勳章旭日章年金改正ニ關スル建議案
提出者
古川〓君山口義一君
靑木精一君志賀和多利君
獸醫師法ノ制定ニ關スル建議案
提出者服部英明君
(以上一月二十七日提出)
決議案(政府委員任命ノ件)
提出者
牧山耕藏君高見之通君
津崎尙武君原田佐之治君
岩切重雄君牧野良三君
原惣兵衞君向井倭雄君
(以上一月二十七日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
森林伐採ニ關スル質問主意書
提出者佐藤富十郞君
陸軍軍備ノ整理竝行政整理ニ關スル質問
主意書
提出者蟻川五郞作君
(以上一月二十四日提出)
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
去ル二十四日議長ニ於テ選定シタル委員左
ノ如シ
煙草專賣法中改正法律案
岡本實太郞君菅村太事君
齋藤太兵衞君金光庸夫君
寺田市正君坂梨哲君
榊原經武君山口左一君
高島兵吉君
去ル二十六日委員長及理事互選ノ結果左ノ
如シ
煙草專賣法中改正法律案(政府提出)委員
委員長岡本實太郞君
理事坂梨哲君
去ル二十六日常任委員補闕選擧ノ結果左ノ
如シ
第一部選出
豫算委員鳩山一郞君(中村啓次郞君
補闘)
第一部選出
決算委員寺田市正君(倉元要一君
補闕)
第一部選出
請願委員齋藤仁太郞君(蟻川五郞作
君補闕)
第一部選出
請願委員岸本賀昌君(福井甚三君
補闕)
第二部選出
請願委員齋藤眞三郞君(松本君平君
補闕)
第五部選出
請願委員志村〓右衞門君(宮崎友太
郞君補闕)
第六部選出
請願委員小島證作君(高木正年君
補闕)
第七部選出
豫算委員牧野良三君(平田民之助
君補關)
一去二十四日衆議院規則第十五條但書ニ依
リ議長ニ於テ議席ヲ左ノ通變更セリ
一五〇宇田友四郞君
一五五村山喜一郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=1
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002・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、御諮リヲ致ス事ガアリマス、原田佐之
治君病氣ニ付、一月二十七日ヨリ二月五日
マデ請暇ノ申出ガアリマス、許可スルニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=2
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003・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ許可致シマス、加藤內閣總理大臣
ヨリ發言ヲ求メラレテ居リマス、此際之ヲ
許可致シマス
〔國務大臣子爵加藤高明君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=3
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004・加藤高明
○國務大臣(子爵加藤高明君) 前內務次官
湯淺倉平君退官ノ事ニ關シテ、先日私ノ申
述ベタ事ニ付キマシテ行違ノ嫌ガアルヤウ
ニ存ジマスカラ、一言釋明致シマス、湯淺
君退官當時ノ事ハ私ハ當時其職ニ居ラヌノ
デアリマスカラ、固ヨリ詳シク知リマセヌ
ガ、間及ビマシタ所ニ依リマスト、本人ヨ
リハ其當時直ニ辭任シタイ希望ヲ申出ラレ
タト申スコトニ承ッテ居ル、其後懲戒免職
ニナラレタコトハ公知ノ事實デアリマシ
テ、私ハ固ヨリ其事實ヲ否認スル者デアリ
マセヌ、唯〓後ニ至ッテ優渥ナル恩命ニ
依 つく懲戒處分ヨリ生ジタ責任ヲ全然免
ゼラレタト云フ次第デアリマス、併シ其事
ヲ申述ベタノハ反面ニ於テ同君ガ懲戒免
官ニ處セラレタト云フコトヲ申上ゲタト同
シ事デアリマス、此事ヲ一言釋明シテ置キ
マス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=4
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005・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 此際一言致シ置キタ
イノデアリマス、去ル二十三日ノ會議ニ於
テ、木下謙次郞君ノ發言中ノ一部分ニ對シマ
シテ、當時議長ヨリ注意ヲ喚起シテ置キマシ
タ其後速記錄ヲ調査致シテ見マシタガ、
穩當ヲ缺クノ嫌アリト認ムルノデアリマ
ス、仍テ將來御注意アランコトヲ警告致シ
テ置キマス-尙ホ去ル二十四日ノ會議ニ
於テ、原惣兵衞君ガ議事進行ノ發言中、横
田司法大臣ノ各辯ヲ以テ詭辯ヲ弄スルモノ
ト言ハレマシタ、是モ亦穩カナラヌ事ト認
メマス、仍テ將來御注意アランコトヲ警告
致シマス-是ヨリ日程ニ入リマス、日程
第一及第二ハ關聯シタル議案ナルニ依リ一
括シテ議題ニ供スルコトニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=5
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006・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ハ無イト認メ
やっ、仍テ日程第一、預金部預金法案、及
日程第二、大藏省預金部特別會計法案ノ第
一讀會ヲ開キマス-早速大藏次官
第預金部預金法案(政府提出)
第一讀會
預金部預金法案
預金部預金法
第一條法律勅令ニ依リ大藏省預金部ニ
預入ルル現金ハ預金部預金トシ大藏大
臣之ヲ管理ス
第二條郵便貯金トシテ受入レタル現金
ハ之ヲ大藏省預金部ニ預入レ其ノ利子
ヲ以テ貯金利子ノ支拂ニ充ツヘシ
第三條預金部預金ノ種類、利子及取扱
ニ關シテハ大藏大臣之ヲ定ム
第四條預金部預金竝大藏省預金部特別
會計ノ積立金及支拂上ノ餘裕金ハ之ヲ
預金部資金トシ預金部資金運用委員會
ニ諮問シ有利且確實ナル方法ヲ以テ國
家公共ノ利益ノ爲ニ之ヲ運用スヘシ
預金部資金運用委員會ノ組織權限及預
金部資金ノ運用ニ關スル規定ハ勅令ヲ
以テ之ヲ定ム
第五條預金部資金ノ運用ニ關スル事務
ハ大藏大臣ノ定ムル所ニ依リ日本銀行
ヲシテ之ヲ取扱ハシム
附則
本法ハ大正十四年四月一日ヨリ之ヲ施行
ス預金規則、明治二十三年法律第七十五
號及明治三十九年勅令第二百十一號ハ之
ヲ廢止ス
本法施行前大藏省預金部ニ於テ受八レタ
ル預金ハ之ヲ預金部預金トス
預金規則第一條第三號ノ規定ニ依ル預金
及其ノ預金ヲ以テ購入保管シタル國債證
劵竝明治三十九年勅令第二百十一號ニ依
ル預金及預託ノ國債證券ニシテ本法施行
ノ際現ニ存スルモノニ付本法施行後三月
內ニ預ケ人之カ拂戾ノ請求ヲ爲ササルト
キハ命令ノ定ムル所ニ依リ預金ハ之ヲ郵
便貯金ニ振替へ國債證劵ハ之ヲ郵便貯金
法第九條ノ規定ニ依リ購入シタルモノト
看做シテ保管ス
第二大藏省預金部特別會計法案政
府提出)第一讀會
大藏省預金部特別會計法案
大藏省預金部特別會計法
第一條大藏省預金部ノ會計ハ之ヲ特別
トシ其ノ歲入ヲ以テ其ノ歳出ニ充ツ
第二條本會計ニ於テハ預金部資金ノ運
用利殖金及附屬雜收入ヲ以テ其ノ歲入
トシ預金部預金ノ利子、運用手數料、毎
年度豫算ノ定ムル所ニ依リ他ノ會計ヘ
繰入ルル金額、事務取扱費、附屬諸費
及運用損失金ヲ以テ其ノ歳出トス
第三條預金部資金ニ屬スル運用資產ニ
シテ價格ノ減損ヲ生シタルモノアルト
キハ本會計ノ決算上生シタル剩餘又ハ
積立金ヲ以テ之ヲ償却スヘシ
第四條本會計ノ決算上剩餘ヲ生シタル
トキハ前條ノ償却ニ充テ殘餘アルトキ
ハ之ヲ積立ツヘシ
本會計ノ決算上不足ヲ生シタルトキハ
積立金ヨリ之ヲ補足スヘシ
第五條所管大臣ハ日本銀行ニ命シ預金
部預金ノ利子ノ支拂ヲ爲サシムル爲之
カ資企ヲ日本銀行ニ交付スルコトヲ得
第六條政府ハ每年本會計ノ歲入歳出豫
算ヲ調製シ歳入歳出ノ總豫算ト共ニ之
ヲ帝國議會ニ提出スヘシ
第七條本會計ノ收入支出ニ關スル規定
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ大正十四年度ヨリ之ヲ施行ス
明治二十三年法律第二十一號ハ之ヲ廢止
ス但シ大正十三年度分預金特別會計ニ付
テハ仍其ノ效力ヲ有ス
預金特別會計ニ屬スル積立金ハ之ヲ本會
計ニ歸屬セシム
〔政府委員早速整爾君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=6
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007・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 只今議題トナリ
マシタル預金部預金法案、竝ニ大藏省預金
部特別會計法案ニ付テ大體ノ說明ヲ致シマ
ス、大藏省ノ預金部資金ハ、戰前、卽チ大正
三年六月ノ末ニ於キマシテハ二億九千餘万
圓ニ過キナカッタノデアリマスガ、最近大
正十三年十二月ノ末ニ於キマシテハ十五
億五千八百餘万圓ノ巨額ニ上ッテ居リマシ
テ、今後モ尙ホ年ヲ逐ウテ增加スル趨勢ヲ
有シテ居リマスガ、此資金ノ大部分ハ申ス
マデモナク、我ガ國民多數ノ零細ナル資金
ノ預入レニ係ルモノタルニ鑑ミマシテモ、
之ガ運用ニ付キマシテハ最モ愼重ノ考慮ヲ
拂ヒ適切公正ヲ期スルコトガ洵ニ緊要デア
ルコトハ言ヲ俟タザル所デアリマス、然ル
ニ本資金ノ運用ニ付キマシテハ明治十八
年太政官布告預金規則ニ於キマシテ「大藏
省中ニ預金局ヲ驛遞局貯金其ノ他官廳ノ積
立金ヲ預リ之ヲ保管利殖セシムト」云フ意
味ノ極メテ簡單ナル規定ガ存スルニ止マリ
マシテ、何等法令上ノ制限モナク大藏大臣
ノ專行スル所ニ委ネテ居リマシテ、從來動
モスレバ其運用ガ放漫不確實ニ流ルヽトノ
非難ヲ招クニ至ッタノデアリマス、加之預
金部資金ノ收支經理ニ付キマシテハ右ニ
述ヘマシタル預金規則ニ於テハ殆ド何等
規定ヲスル所ナク、明治二十三年法律第二
十一號ニ於キマシテ其規定ガ存在ハ致シテ
居リマスケレドモ、同法ハ單ニ利殖金及預
金利子ニ付テノミ、歲入歳出トシテ經理ス
ルノ規定ヲ設ケテ居ルニ過ギナイノデアリ
マシテ、要スルニ預金部資金ノ收支損益、
資產ノ狀況等ニ付キマシテ、明確ナル經理
ノ法制ガ存在セザルノ現況デアリマス、此
事態ニ鑑ミマシテ、政府ハ今囘行政財政ノ
整理刷新ヲ行フヲ機トシテ、現行預金制度
ニ改革ヲ加フルノ急務ナルヲ認メ、慎重考
究ヲ重ネマシタル結果、預金規則ハ之ヲ廢
止シテ預金部預金法ヲ制定シ、又明治二十
三年法律第二十一號ハ之ヲ廢止シテ、大藏
省預金部特別會計法ヲ制定スルコトヽ致シ
玆ニ是等ノ法案ヲ提出スルニ至ッタ次第デア
リマス、先ヅ預金部預金法案ニ付テ其要點
ヲ述ベマスレバ、郵便貯金其他法律勅令ニ
依リ大藏省預金部ニ預ケ入ルヽ現金ハ之ヲ
預金部預金トシテ大藏大臣之ヲ管理シ、大
藏省預金部特別會計ノ積立金及支拂上ノ餘
裕金ト共ニ、之ヲ預金部資金トシテ有利且
ツ確實ナル方法ヲ以テ、國家公共ノ利益ノ
爲ニ之ヲ運用スルコトヽシ、特ニ諮問機關
タル預金部資金運用委員會ヲ設置致シマシ
テ、本資金ノ運用ハ該委員會ニ諮問シタル上
之ヲ決定シ、以テ運用ノ一層適切公正ヲ期
スル制度ヲ立テルコトニシタノデアリマス、
而シテ該委員會ノ組織權限及資金運用ニ
關スル詳細ノ規定ハ、勅令ヲ以テ之ヲ定メ
ルコトニナッテ居ルノデアリマス、次ニ大
藏省預金部特別會計法案ニ付テ一言致シマ
スレバ、預金部牧支經理ノ完全ヲ期スル
ガ爲ニ、大藏省預金部特別會計ヲ設置スル
コトト致シ、運用利殖金及附屬雜收入ヲ以
テ其歳入トシ、又ハ從來ノ如ク預金ノ利子
ヲ歳出トスルノ外、運用手數科、每年度豫
算ノ定ムル所ニ依リ一般會計其他ノ會計ニ
繰入ルヽ金額、事務取扱費、附屬諸費、運
用損失金等ヲモ其歲出トスルト共ニ、從來
預金利子ハ一般會計ヲ經由シテ支出スルノ
制度デアリマシタノヲ改メマシテ、總テ歲
出ハ一般會計ヲ經由セズ、直接本會計ヨリ
支出スルコトヽ致シマシタ、尙ホ預金部資
金ニ屬スル運用資産ハ之ヲ評價シテ、價格
ノ減損ヲ生シタル場合ニ於ケル償却ノ方法
ニ付テモ規定スル等、收支經理ノ明確ヲ期
スルコトヽシタノデアリマス、何卒御審議
ノ上御協賛アランコトヲ切ニ希望スル次第
デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=7
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008・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ニ對シテ質疑ノ
通告ガアリマスカラ、其發言ヲ許シマ
ス-堤康次郞君
〔堤康次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=8
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009・堤康次郎
○堤康次郞君 大藏省預金部ニ付テハ、久
シク政界ノ伏魔殿トシテ世人ノ疑惑ニ包マ
レテ居ッタノデアリマスルシ、只今早速大藏
次官ノ御說明ニ依リマシテモ、放漫且ツ不
確實ナ嫌ガアッタト云フコトデアリマスカ
ラ、私ハ本案ノ審議ニ入ルニ先ダチマシテ、
現在ノ此預金部ノ資金ノ運用ノ方法ガ、如
何ニナッテ居ルカト云フコトヲ伺ヒタイノ
デアリマス、時々大藏省カラ發表ヲセラレ
マスケレドモ、是ハ極メテ大體ノ數字デア
リマシテ、其內容ニ付テハ深ク窺ヒ知ルコ
トガ出來ナイノデアリマスカラ、益〓世人ノ
疑ヲ招ク基ニナッテ居ルト信ズルノデアリ
マス、私ハ此機會ニ於テ此資金ノ運用ガ如
何ニナッテ居ルカト云フコトヲ明細ニ御說
明ヲ願ヒタイト思フ、又第一ハ只今早速大
藏次官ノ御說明ニ依レバ、委員會ヲ組織シ
テ諮問スルト云フコトデアリマシタガ、是
ハ委員會ヲ諮問機關トスルヨリモ、寧口此
委員會ヲシテ決議機關トシタ方ガ、遙二之
ヲ監督スル上ニ於テハ有效デナイカト信ズ
ルノデアリマス、此點ニ付テハドウ云フ御
考ヲ御持チニナッテ居ラルヽカ伺ヒタイ、委
員ハ省内ノ人ヨリモ、寧口大藏省以外ノ有
ユル職業ニ關係ヲシテ居ル人ヲ汎ク網羅ス
ル方ガ宜シイト考へマスガ、此點ニ付テノ
政府ノ御考ハ如何デアリマスカ伺ヒタイノ
デアリマス、尙ホ此資金ノ運用ノ範圍及最
高ノ金額ニ付テハ法律ヲ以テ之ヲ定メテ
置ク方ガ至當デアルト私ハ考ヘル申スマ
デモナク此貯金ハ國民ノ零細ナル貯蓄ノ集
ツデアリマスルカラ、是ハ國民全部ノ福利ヲ
增進セシムベキ事業ニ有利ニ之ヲ働カサナ
ケレバナラナイシ、且又全國民ニ汎ク之ヲ
徹底サセナケレバナラナイノデアリマスル
カラ、最高ノ金額ニ於キマシテモ、相當制
限ヲ加ヘテ置ク必要ガアルト私ハ信ズルノ
デアリマス、此點ニ付テモ政府ノ御考ヲ伺
ヒタイ、尙ホモウ一ツ只今早速次官ノ御說
明ノ通リ、十五億何千万圓ト云フ莫大ナル
總額ニナッテ居リマスガ、是ハ我國ノ一年ノ
歲計トモ等シイ金額デアリマスカラ、是ノ、
普通ノ歲計ガ議會ニ於テ豫算ト決算ニ於テ
監督ヲ受クルガ如クニ、此金ヲ使フト云フ
トキニ豫メ議會ニ御相談ガアッテ、又其結
末ニ付テモ、議會ニ其決算ノ報告ヲシタ方
ガ、是ハ十分ニ監督ガ行屆クト信ズルノデ
アリマスガ、是等ニ付テノ政府ノ御考ヲ伺
ヒタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=9
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010・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 早速政務次官
〔政府委員早速整爾君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=10
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011・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 只今ノ御質問ニ
御答ヲシヤウト思フノデアリマス、第一ニ
御尋ニナリマシタノハ、預金部ノ資金ノ運
用ノ内容ニ付テヾアリマシタ、是ハ大體ヲ
總括シテ玆ニ申上グルノ外ハナイノデア
リマス、一寸玆ニ書イタ物ニ就テ讀上ゲマ
スカラ、ソレデ御了承ヲ得タイノデアリマ
ス、是ハ昨年十一月末ノ現在高デアリマス
國債證劵トナッテ居リマスモノガ二億五千
二百九十万圓、ソレカラ一般會計及特別會
計ノ貸付金トナッテ居リマスノガ一億三千
八百八十万圓、ソレカラ地方ノ低利資金二
貸出シマシタ金額、是ガ一番金額ガ多イノ
デアリマシテ三億九千四百三十万圓、ソレ
カラ事業資金ニ貸出シマシタノガ一億一千
十万圓、ソレカラ對外投資、是ハ外國ニ對
シテ投資シテアル金等ヲ集メマシタノデ、
其高ガ一億四千三十万圓、ソレカラ在外預
金トナッテ居リマス金額ハ二億二千六百七
十万圓、內地ニ於テ預金トナッテ居リマス
ノガ二億七千七百十万圓、先ヅ大體斯樣ナ
數字ニナッテ現レテ居ルノデアリマス、此細
目ニ付テ尙ホ聽キタイト云フ御意見デアリ
マスナラバ、是ハ他日更メテ委員會等デ詳
細御說明申シテモ差支ナイノデアリマス、
私ハ玆ニ大體ヲ申上ゲテ置キマス、第二ノ
御尋ノ運用委員會ヲ諮問機關ト爲サズシ
テ、決議機關トスルノガ適當デナイデハナ
イカト云フ御尋デアリマス、是ハ堤君ノ御
意見デアルト想像スルノデアリマスガ、政
府ハ之ヲ決議機關ト爲サズトモ、今日ニ於
テハ之ヲ諮問機關ト爲シテ、運用ノ適正ヲ
圖ルコトガ出來ルト信ジテ居ルノデアリマ
ス、元ハ大藏大臣ノ權限デアリマスケレド
モ、諮問機關ノ決定-諮問機關ノ答申ヲ
尊重シテ、此運用ヲ完ウスルト云フコトヲ
圖リマス以上、必シモ決議機關デナクトモ、
今日ニ於テハ此運用ヲ完ウスルコトガ出來
ルト信ジテ居ルノデアリマス、殊ニ大藏大
臣ノ行政ヲ致シマストニ於テ、決議機關ニ、
於テ之ヲ拘束スルト云フ意味ノモノヨリモ、
話問機關トシテ圓滿ニ之ヲ行フト云フコト
ガ、寔ニ妥當デアラウト信ジテ居ルノデア
リマス、ドウセ此特別會計ノ豫算ハ議會
ノ協賛ヲ經テ之ヲ執行スルコトニナッテ參
ルノデアリマスカラシテ、間接ニハ議會ノ
決議ニモ從ハナケレバナラヌト云フ結果ニ
モナルノデ、運用委員會ハ諮問機關デ足ル
!、斯樣ニ信ジテ居ルノデアリマス、只今
申上ケマシタル如ク、特別會計ノ豫算ハ之
ヲ議會ニ提出シ、更ニ決算ノ報告ハ議會ニ
向シテ之ヲ致スノデアリマス、デアリマスカ
ラ第三段ノ御尋ノ資金運用モ、此法律ニ於
テ規定シタラ宜イデハナイカト云フコトニ
付キマシテハ、其點ニ於テ御了承ヲ願ヒタイ、
全然資金ノ運用ノ範圍ヲ法律デ定メルト云
フコトハ致シマセヌケレドモ、兎ニ角決算
上ノ問題ハ議會ニ之ヲ提出シテ、議會ノ承
認ヲ求メルト云フコトニ相成ルト云フコト
ダケハ、附ケテ御記憶ヲ願ッテ置キタイノ
デアリマス、資金運用ノ範圍ハ大體ハ此預
金法ニモ定メラレテアリマスガ、併シ其詳細
ハ此法律ニ於テハ規定ハシテナイノデアリ
マシテ、詳細ノ事ハ之ヲ勅令ニ讓ルト云フ
考ニナッテ居ルノデアリマス、ソレデ少シモ
差支ナイコトデアラウト思フ、大綱ダケヲ
法律デ定メ、其他ノ細目ハ勅令ニ讓ルコト
ニ致シマシテモ、少シモ資金運用ノ範圍ヲ
紊スコトハナカラウト信ジテ居ルノデアリ
さく、尙ホドウ云フ風ニ勅令ヲ定メルカト
云フガ如キコトハ、委員會ニ於テ詳細申上
ゲテモ差支ナノデアリマス、最後ニ豫算ト
決算トノ問題ニ付キマシテハ先刻私ガ御
答致シタ通リデ御諒解ヲ願ヒタイト思フ
(拍手)
〔堤康次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=11
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012・堤康次郎
○堤庫次郞君 此預金部ノ資金ノ運用ノ內
容ニ付キマシテ、只今早速大藏次官カラ御
說明ガアリマシタケレドモ、是ダケ位ナ事
ハ常ニ大藏省ノ發表ガ新聞紙上ニ載ッテ居
リマスカラ、更メテ本議場ニ於テ御尋スル
必要ハナイノデアリマス、詳細ノ事ハ委員
會デヽモト云フコトデアリマシタガ、此興
業債劵、或ハ勸業債劵ナドノ投資ガ、長イ
間政商ト政府トノ間ニ於テ色々ナ請託ノ爲
ニ濫用ヲセラレテ、或ル汽船會社ヘ相當ノ
金ヲ貸シタトカ、或ハ又或ル特殊銀行ノ救
濟始末ニ使クタトカ、ソレ等ハ皆ナ何レモ
興業銀行ヤ勸業銀行ヲ通ジテヤッテ居ルト
云フヤウニ聞イテ居ッタ、是等ノ點ニ付テ
深ク國民ハ疑惑ヲ懷イテ居ルノデアリマ
ス、此貯金ハ言フマデモナク零細ナルモノ
ヽ集リデアリマスルカラ、此機會ニ於テ是
等ニ付テノ內容ヲ十分ニ說明シテ、國民全
體ニ安·心ヲ與ヘルト云フコトハ、最モ私ハ
必要ナ事デアルト信ズルノデアリマス拍
手)尙又委員會ヲ設置スルト云フコトニ付
テ、又運用ノ範圍及金額ヲ法律デ制定スル
ト云フコトニ付テノ早速君カラノ御意見ガ
アリマシタガ、是ハ各〓意見ノ相違ニ亙リ
マスカラ深ク問ヒマセヌ、併シ此議會ノ監
督ト云フ點ニ付テ、何レモ特別會計ニ於テ
最後ニ於テハ議會ノ決算ノ承認ヲ得ルノデ
アルト云フ御話デアリマシタガ、併シ特別
會計ニ於テハ總體ニ於テ利子ノ收入ガ一箇
年ニドレダケ、利子ノ支出ガ一箇年ニ是ダ
ケ、差引是ダケノ剰餘金ガアル、之ヲ特別
會計ノ運用資金トシテ積立テルト云フヤウ
ナ極ク茫漠タルモノデアリマシテ、十分議
會ノ監督ハ行屆イテ居ナイト思フノデアリ
マス、私ハ要スルニ此法案ハマダ國民ノ貯
蓄機關ヲ國家ガ營ンデ居ル、卽チ國家ノ貯
蓄機關トシテノ十分ノ機能ヲ働カセシムベ
キ徹底シタル大改革案デアルトハ信ジナイ
ノデアリマスルガ、政府ハ是デモウ十分ノ
改革案デアルト御認メニナリマスカ、若シ
又十分ノ改革案デナイト云フコトヲ御認メ
ニナルナラバ、近キ將來ニ於テ再ビ之ガ改
正案ヲ御提出ニナル御考ガアリマスルカ、
此點ヲモウ一度伺ヒタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=12
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013・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 早速政務次官
〔政府委員早速整爾君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=13
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014・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 堤君ノ御意見ニ
付テハ彼此申上ゲル事ハナイノデアリマス
ガ、政府ハ此法律案ニ依リマシテ、此法案
ノ實行ニ依リマシテ免ニモ角ニモ預金部ノ
資金運用ノ面目ヲ改メ、從來弊害ガアッタ
ト致シマスレバ、左樣ナ弊害ノ無キヤウニ
十分其目的ヲ達スルコトガ出來得ルト信ジ
テ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=14
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015・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第三、右各案ノ
審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シ
マス
第三右各案ノ審查ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=15
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016・作間耕逸
○作間耕逸君 此兩案ヲ一括シテ、委員ノ
數ヲ特ニ十八名トシ、議長ニ於テ指名セラ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=16
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017・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=17
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018・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第
四、第五ノ兩案ハ便宜上一括シテ議題ト爲
シタイト思ヒマスガ、御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=18
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019・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ日程第四ノ在外國帝國專管居留地
特別會計法廢止法律案、日程第五陸軍營繕
費補充資金特別會計法廢止法律案、右雨案
ノ第一讀會ヲ開キマス
第四在外國帝國專管居留地特別會計
法廢止法律案(政府提出)第一讀會
在外國帝國專管居留地特別會計法廢止
法律案
在外國帝國專管居留地特別會計法ハ大正
十三年度限リ之ヲ廢止ス
在外國帝國專管居留地特別會計ニ屬スル
現金及債権債務ハ之ヲ一般會計ニ歸屬セ
シム
第五陸軍營繕費補充資金特別會計法
廢止法律案(政府提出)第一讀會
陸軍營繕費補充資金特別會計法廢止法
律案
陸軍營繕費補充資金特別會計法ハ大正十
三年度限リ之ヲ廢止ス
陸軍營繕費補充資金特別會計ニ屬スル資
金及債權ハ之ヲ一般會計ニ歸屬セシム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=19
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020・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 早速政務次官
〔政府委員早速整爾君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=20
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021・早速整爾
○政府委員(早速整爾君) 日程第四ノ在外
圈帝國專管居留地特別會計法廢止法律案、
此在外國帝國專管居留地特別會計ハ、禦
知ノ通リ支那ニ於ケル日本ノ專管居留地ノ經
營ヲ目的ト致シマシテ明治三十三年ニ設置
セラレ爾來天津、蘇州、漢口ニ於ケル事業
ヲ經營シテ居ッタノデアリマスルガ、其事
業モ大半終了致シマシタノデ、本特別會計
ハ之ヲ廢止致シタイト思フノデアリマス、
尤モ天津居留ノ護岸工事等施行スベキ事業
モ多少アルノデアリマスガ、是ハ居留民團
ニ於テ直接施行スル豫定デアリマシテ、敢
テ之ガ爲ニ本特別會計存置ノ必要モナイト
認メマス、本案ヲ提出致シマシタル理由デ
アリマス、又日程第五陸軍營繕費補充資金
特別會計、此會計ハ明治四十二年ニ設置セラ
レマシテ、陸軍ニ於ケル土地建造物ヨリ生
ズル收入、及附屬ノ雜收入ヲ以テ特別ノ資
金ト致シ、該資金ハ陸軍ニ於ケル土地建造
物ノ利用ニ要スル諸費、及營繕費補充ノ爲
ニ使用セラレテ居ッタノデアリマス、然ル
二營繕費補充等ノ爲ニ特別ノ資金ヲ保有ス
ルコトハ、從來陸軍ニ於テノミ行ハレテ
居ッタノデアリマスガ、他省トノ權衡ヲ考
慮致シマシテ、必シモ特別ノ經理ヲスル必
要ガナイモノト認メマシテ、本案ヲ提出致
シマシタル次第デアリマス、兩案共御審議
ノ上協賛ヲ與ヘラレンコトヲ希望致シマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=21
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022・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第六、右各案ノ
審查ヲ付託スベキ委員ノ選舉ヲ議題ト致シ
マス
第六右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=22
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023・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間耕逸君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=23
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024・作間耕逸
○作間耕逸君 此兩案ヲ一括シ、委員ノ數
ヲ九名トシ、議長ニ於テ指名セラレンコト
ヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=24
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025・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、依テ動議ノ如ク決シマ
ス-是ヨリ國務大臣ノ演說ニ對スル質疑
ヲ續行致シマス、通告順ニ依ッテ其發言ヲ
許可致シマス、松本君平君
一國務大臣ノ演說ニ對スル質疑(前會
( /
〔松本君平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=25
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026・松本君平
○松本君平君 私ハ二三外交上ノ問題ニ付
テ質問ヲシタイト思→テ居ルノデアリマス、
外交ノ問題ニ付テハ成ベク政黨政派ノ問題
ヲ超越シテ、全國民、全政黨政派ノ問題トシ
テ常ニ考慮シタイト考ヘテ居ル一人デアリマ
ス、況ヤ現代外交ノ方針ガ全タ一變セラ
レテ國民的外交トナリ、從來「ピユーロウ」
ノ中デ陰謀ヲシタリ、或ハ陰險ナル政策ヲ
弄シタリスルヤウナ外交ノ時代ハ既
ニ去シテ、全ク國民ヲ背景トシ、國民ノ輿論
ヲ杖トシテ外交ノ方針ニ立タナケレバナラ
ナイ、現代ノ時ニ於テハ殊ニ國民ト共ニ外
交ヲスル考ヲ當局者ガ持タレタイコトヲ希
望スルノデアリマス、此機會ニ於テ私ハ二
三ノ重要ナル現代ノ外交問題ニ付テ質問ヲ
シタイト思ヒマスル、但シ此問題ニ依ッテ
必シモ政府若クハ政府外交當局者ヲ追窮シ
ヤウト思フノデハナイノデアリマス、又必
シモ之ニ依シテ現代ノ外交家及政府ノ外交
ヲ稱揚シヤウト云フノデモナイノデアリマ
ス、只今自國民トシテ考へ、政治ノ最モ重
要ナル方針ニ於テドウ云フ事柄ガ起リツヽ
アルカ、而シテ是ガ國民ニ眞ニ諒解ヲ得テ
居ルカドウカト云フコトニ付テ政府ノ意見
ヲ伺ヒ、併セテ此問題ヲ以テ國諭ノ眞ノ基
調ヲ定ムルヤウニシタイト思フノデアリマ
ス、第一ニ御尋シタイト思フ事ハ、國際間
ニ於ケル所ノ日本ノ立場ニ付テ、政府ノ意見
ヲ聽キタイト思フノデアリマス、議會開會
ノ當初ニ於テ首相ハ國際關係ハ愈、親密
ニナッテ居ルト云フコトヲ仰セラレテ居リ
やっ、是ハ歷代ノ内閣ノ總理大臣若クハ外
務大臣ガ議會ニ於テ述へラレル所ノ、所謂
對議會ノ一ツノ辭令デアルト心得ルノデア
リマス、眞ニ冷靜ニ今日ノ日本ノ世界ニ於
ケル立場ヲ考へ、外交ノ大局ヨリシテ現在ノ
日本ノ地位ヲ考ヘタトキニ於テハ、私ハ今日ノ
日本程外交上ニ於テ危機二立ッテ居ル時ハ
ナイト考ヘル、國際關係ガ愈、親密デアルヒ
ト云フコトハ勿論ノ事デアリマセウ、ケレ
ドモ國際關係ノ親密ナルコトハ國際關係ガ
破裂ヲスル、其最後ノ瞬間マデハ國際關係
ハ親密デアリマスル、今日ノ日本ノ世界ニ
於ケル所ノ外交上ノ地位ヲ考ヘテ見タトキ
ニハ私ハ日本ノ外交ハ實ニ危險ナ立場ニ
立ッテ居リハシナイカ、日本ノ國ハ孤立無
援ノ狀態ニ居リハシナイカ、更ニ言葉ヲ强
クシテ之ヲ言ッタナラバ四面楚歌ノ聲ヲ聞
イテ居ルヤウナ狀態ニ立ッテハ居ラナイカ
ト云フコトヲ寒心ニ堪ヘナイノデアリマ
ス、斯樣ナル危險ナル外交ヲ招致イタシタ
ルコトハ又今日ノ如キ非常ナル困難ナル
外交ノ環境ヲ來シタコトハ必シモ現内閣
ノミノ責任デハナイノデアリマセウ、是ハ
今日ノ外交ノ根本的缺陷ガ此所ニ在ルコト
ト信ズルノデアリマス、列國ハ今日日本ニ
對シテドウ云フ考ヲ抱カレテ居ルカ、無論
之ニ付テ此外交上ノ缺陷ニ對シテハ、之ヲ
矯正セナケレバナラヌ、又政府ハ之ニ對シ
テ如何ナル施設ヲシテ居ルカト云フコトヲ
問ハントスルノデアリマス、日本ガ好戰的
國家デアル、日本ガ侵略的國家デアルト云
フ所ノ誤解ガ、〓日ノ惡キ印象ヲ世界ニ與
ヘテ居ル、此惡シキ印象ガ列國ノ頭ヨリ取
去ラレナイ間ハ、日本ニ對スル列國ノ猜疑
ハ決シテ已ム時ハナイノデアリマス、日本
ニ對シテ何事モ不信猜疑ノ念ヲ有ッテ居ル
ス云フコトガ、今日ノ日本ヲシテ世界ニ於
テ孤立無援ノ地位ニ立タシムルノデアリマ
ス、植民問題ニ付テハ既ニ諸君ノ御承知ノ
如ク、亞米利加ニ於テモ、濠洲ニ於テモ、
南亞米利加ニ於テモ、若クハ南洋ニ於テ
モ、何處ニ於テモ日本ハ排斥セラレテ居
ル、是等ノ國ノ唱道スル所ニ依レバ移民間
題ハ單純ナル國内問題デアリ、又單純ナル
經濟問題デアルト云フコトヲ言ヒマスルケ
レドモ、其實ノ日本ガ好戰的國家デアル、
侵略的國家デアルト云フ所ノ强イ惡イ印象
ガ常ニ世界各國ノ頭ニ深キ印象ヲ殘シテ
居ルガ爲ニ、此植民問題ニ對シテモ日本ヲ
絕對ニ嫌ヒ、日本人ノ移民ヲ排斥スルヤウ
ニナッテ來ル、其根本ハ列國ニ於テ日本ニ
對スル大ナル誤解不信ト猜疑ノ念ト云フモ
ノガドウシテモ取レナイ、其取レナイト云
フコトガ今日ノ世界ニ於ケル日本ノ立場ヲ
惡クシ、日本ガ列國ノ中ニ立ッテ、常ニ危
險ナル好戰的若クハ侵略的國家デアルガ如
ク誤解シテ居ルノデアリマス、此惡印象ヲ
ドウシテ世界ノ人ミヨリ取去ルカ、此最モ
深ク日本ヲ害スル所ノ感情ヲ如何ニシタナ
ラバ拔去ルコトガ出來ルカト云フコトガ、
今日ノ外交ノ要締デアルト考ヘル、之ニ付
テ私ハ政府ノ當局者ガ從來爲シテ居ル所ヲ
必シモ攻撃スルモノデハナイガ、併ナガラ
今日ノ外交ハ動モスレバ此猜疑不信ノ念ヲ
增スヤウナ傾向ニ向ッテ進ンデ來テ居リハ
シナイカ、斯ウ云フコトヲ考ヘルトキニ、
日本ノ政府ノ周到ナル注意ヲ缺キ、又外交
ニ對シテ、根本ノ惡思想ヲ一掃スル十分ナ
ル手段ヲ缺イテ居リハセヌカト云フコトヲ
虞レルデアリマス、日本ニ對スル此誤解ガ
世界ニ於ケル日本ノ立場ヲ危クシ、日本ノ
周圍ニ常ニ黑キ雲ヲ密集セシムルヤウナ原
因ヲ作ッテ居ルノデアル、最近米國ニ於テ
計畫セラレタル海軍ノ大演習ハ殆ド半歲
以上モ費ス未曾有ノ大演習デアル、布哇ヲ
中心トシテ米國ノ大艦隊ガ太平洋ヲ舞臺ト
シテ此所ニ大演習ヲスルコトハ亞米利加
ニ於テ未ダ曾テ無イ所ノ事柄デアッテ、サ
ウシテ之ガ爲ニ何千万圓ノ金ヲ費スカ知レ
ナイノデアリマス、斯業ナル事柄ハ先日外
交ノ質問ガ之ニ對シテアッタヤウデアリマ
スガ、私ハ此事柄ガ善イトカ惡イトカ云フ
ノデハナイ、亞米利加ガ何千万圓ノ金ヲ投
ジ如何ナル大計畫ノ海軍大演習ヲヤルト
モ、ソレハ亞米利加ノ自由デアル、吾々ハ
之ニ向ッテ何等ノ苦情ヲ言フベキ所ノ權利
モ無ケレバ、又苦情ヲ言フベキ道理モ
持ッテ居ラナイノデアル、是ハ亞米利加ノ御
自由デアル、併ナガラ此大演習ヲ行フコト
ハ政府デ如何ニ之ヲ辯解シテモ、又ドウ云
フ風ニ之ヲ解釋致シマシテモ、日本ノ海軍、
日本ノ國民ニ對シテノ一ツノ脅威デアル、
此事柄ニ依シテ日本國民ヲ驚カシテヤラウ、
脅カシテヤラウト云フ根柢ニ考ガアルト云
フコトハ、日本國民ハ皆ナ承知シテ居ルノ
デアル、併ナガラ此亞米利加ノ大ナル脅威
ヲ日本ガ感ズルヤ否ヤハ亦自ラ別問題デア
リマスルガ、斯ノ如キ大規模ナル大演習、
日本ヲ敵視シタル所ノ、若クハ敵視スベク
考ヘテ居ル所ノ此大演習ヲ行フト云フコト
ノ其根本ノ動機ハ何處ニアルカト言ヘバ、
今言フ所ノ日本ニ對スル所ノ猜疑、日本ニ
對スル不信ノ念、日本ハ常ニ侵略國デアリ、
武力ヲ以テ人ノ國ヲ脅サントスルモノデア
ルト云フ此强キ信念ガ、ドウシテモ亞米利加
人ノ頭ヨリ取去ルコトガ出來ナイノデア
ル、又最近起"夕所ノ馬來半島ニ於ケル英
吉利ノ要塞ノ建築、若クハ飛行機ノ根據地
ヲ造ルト云フ此事柄モ、曩ニハ「マグドナル
ド」氏ノ勞働内閣ノ時ニ於テハ之ヲ否決シ
テ、今又保守黨ノ內閣ガ大勢力ヲ得テ議會
ノ多數ヲ制スルニ至レバ、忽チニシテ馬來
半島ノ英吉利ノ海軍根據地ノ計畫ヲ再興ス
ル、之ニ對シテモ色と辯解ハアラウ、英吉
利ハ日本ノ諒解ヲ得テ居ルト云フコトモア
ラウ、併ナガラ其根柢ニハ英吉利ト雖モ、
マダ日本ニ對シテ〓疑ノ念ヲ斷タナイノデア
ル、不信ノ考ヲ棄テナイノデアル、斯樣ニ
シテ英吉利ト云ヒ、亞米利加ト云ヒ、世界
到ル處ノ方面ニ於テ、日本ノ侵略國デアル、
日本ノ武力ニ依ッテ人ノ國ヲ侵サウトスル
所ノ此誤レル考、誤解ト云フモノヲ、ドウ
シテモ世界ノ頭ヨリ取去ルコトガ出來ナイ
ノガ今日ノ狀態デアル、如何ニ辯明シヤ
ウトモ、又如何ニ方法ヲ講ジテモ、此考ヲ
棄ツルコトノ出來ナイ間ハ、殆ド日本ノ爲
ス所ノモノ、悉ク一カラ十マデ日本ノ外交
的態度ハ不信ト猜疑ヲ以テ滿タサレ、ドウ
云フ辭令ヲ以テシテモ日本ノ態度ト云フモ
ノハ疑ハレテ居ルノデアル、最近ニ國際聯
盟ニ於テ日本ノ代表者ノ爲シタル態度ナド
ニ付テモ、今日私ハ之ヲ批評スル時間ヲ持。シ
テ居ラナイノデアルガ、或ハ斯ウ云フコト
ガ日本ガ世界ニ對スル不信ヲ招ク一ツノ原
因デハナイカト思ハレルノデアル、斯樣ニ
考ヘテ來夕時ニ、國際間ニ於ケル日本ノ地
位ハドウシテモ此不信猜疑ノ念ヲ斷タナイ、
孤立無援ニ益〓陷ッテ行ク、日本ノ周圍ニハ
危險ナル雲ガ集ッテ來ル、此日本ノ國際的立
場ヲ改善スルコトニ付テ、現政府殊ニ外務
大臣ハ如何ナル方針ヲ執ラレテ居ルカ、又
ドレダケノ施設ヲセラレテ居ルカ、又之ニ
對スル今後爲サントスル所ノ考ニ付テ伺。ツ
テ置キタイノデアル、是ガ第一デアリマス
第二ハ軍備縮小ノ問題ニ付テ政府ノ意見ヲ
伺ヒタイノデアリマス、大戰後ニ於テ軍備
ノ競爭ガ非常ナ激甚ナル狀態ニナランコト
ヲ憂ヘテ、玆ニ米國ガ軍備縮小ノ會議ヲ開
イタノデアリマスルガ、華盛頓會議ニ於テ
列强ノ海軍主艦ノ制限ヲサレタト云フコト
ハ諸君ノ皆ナ御承知ノ事デアリマス、之
ニ對シテ日本モ、英吉利モ、亞米利加モ、
誠實ニ此ノ軍備縮小ニ對シテ實行シテ居ラ
レルコトト信ジテ居ルノデアル、ケレド
モ最近ニ亞米利加ノ海軍卿ノ「ウキルバー」
氏ガ論ズル所ニ依ルト、亞米利加ノ海軍ハ
非常ナ不利益ナ立場ニ立ッテ居ルノデアル、
軍備縮小ノ會議ニ於テ決メラレタル主力艦
ノ比例ハ、內容ニ於テ甚ダ不整頓デアル、
英吉利ノ十ニ對シテ亞米利加ハ八ノ力シカ
無イノデハナイカ、而シテ亞米利加ノ立場
ガ一番惡イト云フコトハ、英吉利ニ對シテ
十對八デアリマスルト同時ニ、日本ニ對シ
テ八對六ノ關係ニナッテ來ル、海軍主力ノ比
例ガ米國ニ不利益デアル、亞米利加ノ立場
ガ甚ダ惡イガ爲ニ、隨テ海軍ノ均勢ニ大ナ
ル影響ヲ及ボスト云フコトヲ海軍卿自ラ之
ヲ主張致サレテ居ル、且ツ亞米利加ニ於テ
ハ現ニ盛ニ海軍擴張ノ運動ガ起シテ居ル所
ヲ見ルト、第一ニ華盛頓會議ニ於ケル軍備
ノ制限ト云フモノガ、甚ダ怪シ氣ナルモノ
ニナッテ來ハシナイカ、是ハ憂フベキ現象デ
アルガ、斯ノ如キ憂フベキ現象ガ軍備擴張
ノ內容トナッテ起リ、殊ニ亞米利加ニ於テ
起ッテ來テ居ルト云フコトハ、一面ニ於テ
ハ日本ノ態度ニ對スル亞米利加ノ考ガ、非
常ニ變シテ來タコトヲ意味スルモノト謂ハ
ナケレバナラヌ、日本ニ對スル不信猜疑ノ
念ハ依然トシテ亞米利加ニ盛ニ其内部ニア
ルト云フコトヲ考ヘナケレバナラヌノデア
ル、最近第二ノ軍備縮小ノ會議ガ催サレル
ト云フ說デアリマス、此事ハ新大統領-
亞米利加ノ大統領ガ長ク自分ノ政見トシテ
居ッタ所デアル、又國民ニ公約セラレタ所デ
アッテ、早晩此事ガ起ッテ來ルニ相違ナイト思
ハレルノデアリマスルガ、果セル哉、去
ル二十日ノ電報ニ依レバ上院ハ第二ノ軍備
縮小ヲ可決シテ、大統領ヲシテ軍備縮小ノ
列國會議ヲ開カシムルト云フコトノ案ヲ決
議シタト云フコトデアル、然ラバ晩カレ
早カレ第二ノ軍備縮小問題ガ起ッテ來ル
ニ相違ナイト思ヒマスル、然ルニ昨年ノ
「ゼネバ」ノ聯盟會議ニ於テモ平和定議書ノ
中ニアル通リ、本年六月ヲ期シテ軍備縮小
ノ會議ヲ起スト云フコトニナッデ居リマス
ガ、是ハ濠洲ノ反對ノ爲ニ若クハ英吉利ノ
植民地ノ反對ノ爲ニ恐クハ行ハレマイト
思ヒマスガ、亞米利加ノ「クーリッヂ」氏ガ
招集スル所ノ列國會議第二ノ軍備縮小
會議ト云フモノハ、必ズ早晩起ッテ來
ルニ相違ナイノデアリマス、然ラバ
之ニ對スル我國ノ態度ハ、今日ヨリ
之ヲ考ヘテ置カナケレバナラヌノデアル、
又政府當局者ハ之ニ對シテトウ云フ考ヲ持
タレテ居ルカ、今度ノ軍備縮小卽チ第二次
ノ將ニ來ラントスル所ノ軍備縮小ハ第
囘ノ軍備縮小ヨリモモウ少シ困難ナ立場ニ
在ルト思フノデアリマス、ソレハドウ云フ
譯デアルカト云ヘバ、今マデノ間ニ-數
年ノ間日、英米ノ間ニ餘程此猜疑不信ノ
念ハ高マッテ來テ居ル、此軍備縮小ノ第二
ノ會議ヲ開クト云フコトハ非常ナル困難ナ
事デアッテ、是ガ果シテ實行サレルヤ否ヤ
ト云フコトハ疑問デアリマス、若シ此第二
次ノ軍備縮小ガ實行セラレズニ不幸ニシテ
不成功ニ了ッタトシタナラバ、其結果ト云
フモノハ驚クベキ、恐ルベキ所ノ影響ヲ世
界ニ與ヘルモノト考へナケレバナラヌ、之
ニ依シテ更ニ一層甚シキ軍備擴張ガ起ルカ
モ知レヌ、軍艦ノ製造ガ起ルカモ知レヌ、斯
樣ニシテ今度ノ第二次ノ軍備縮小ノ問題ハ
日本ニ取ッテハ勿論ノコト、世界ノ平和ノ
上ニ大ナル影響ヲ來スベキ問題デアルニ付
テ、政府ハ之ニ對スル何等ノ考慮ヲ持ッテ
居ルノカ、ソレヲ伺ッテ置キタイノデア
ル、第三ノ問題ハ對支問題、支那ニ對スル
國策ノ一定ニ付テ、外務大臣ノ之ニ對スル
意見ヲ伺シテ置キタイノデアル、外務大臣
ガ外交方針ノ演說ノ中ニ於テ、支那ニ對シ
テハ不干涉主義ヲ執ッタト云フコトヲ盛ニ
述ベラレテ居ッタノデアル、私ハ干涉主義
ハ決シテ好ムモノデハナイ、善イ事デハナ
イト思フ、不干渉主義ハ宜シイト思フガ、
其不干涉主義ハ何所マデ支那ニ對シテ不干
涉主義デ行カウトスルノデアルカ、何デモ
超然主義デ行カナケレバナラナイ、何デモ
構ハナイ、唯〓高見ノ見物ヲシテ居レバ宜
イト云フ意味ノ不干涉主義デアルナラバ
是ハ支那ニ對シテハ全ク無策無能ノ政策ト
謂ハナケレバナラナイノデアル、御承知ノ
如クニ支那革命以來熄ム時ナキ爭亂、間斷
ナキ支那ノ擾亂ニ依フテ、其間ニハ幾政變
ガ支那ニ起リ、或ハ其度每ニ日本ニ於テハ
或ハ袁世凱ヲ援クル人モアリ、或ハ段祺瑞
ヲ支持スル人モアリ、或ハ馮國璋ヲ援ケテ
ヤル人モアル、南北ニ付テ云フトキニハ南
方ヲ援ケントスル人アリ、或ハ北方ヲ支持
セントスル人ガアリ、常ニ支那ニ動亂ガアル
度ニ、日本ハ南ヲ援ケ、北ヲ援ケ、或ハ或ル一
個人ヲ援ケテ支那ノ統一ヲ圖ラントスルト
云フヤウナ、種々ナル政策ヲヤッテ來タノデ
アリマス、昨年ノ奉直戰爭ノ時ニ於テモ張
作霖ヲ援ケヤウトスル所ノ人ガアリ、又吳
佩孚ヲ援助シヤウトスル所ノ人ガアリ、支
那ノ內亂ノアル度ニ日本ノ政客ハ支那ノ勢
力ノ爲ニ遊說ヲシテ、東京ノ政界ハ支那ノ
內亂ノ反響ヲ受ケテ、政策ハ支離滅裂ヲシ
テ、政治上ノ醜態外交上ノ醜態ヲ露ハシテ
來テ居ルノデアル、是ガ日本ノ國ニ從來支
那ニ對スル一定ノ統一シタル所ノ國策ガ
樹ッテ居ラナイト云フ著シキ證據デアリマ
ス、ドウシテモ今日ハ支那ニ對シテ一定ノ
國策ヲ樹テヽヤラナケレバナラヌ時ガ來タ
ト思フノデアル、他人ノ國ニ無暗ニ干涉ス
ルトハ宜シクナイ、不干涉主義ハ宜シイ、
然ラバ不干涉主義デ唯、單ニ超然トシテ支
那ノ紛亂ガ何所マデモ續キ、支那ノ擾亂ガ
幾久シク續イテ居ル、其間モ斷ヘズ傍觀主
義、超然主義ヲ執ッテ行カウト云フコトハ
是ハ許サナイノデアリマス、支那ノ爲ニ圖
リ、或ハ東洋ノ平和ノ爲ニ圖リ、一點私心
ヲ挿マズ、支那ノ諒解或ハ列國ノ諒解ヲ得
テ、支那ノ現代ヲドウシタナラバ救フコト
ガ出來ヤウカ、督軍政治ヲドウシタナラバ
宜シイカ、聯邦ノ自治ハ果シテ支那ノ國情ニ
適スルカ、如何ニシテ支那ノ完全ナル統一
ヲ圖ルコトガ出來ルカト云フ、深切ニ支
那ノ爲ニ圖リ、東洋ノ平和ノ爲ニ考ヘテ、
眞ニ支那ノ國策トナルベキモノヲ考ヘテ、
サウシテ支那ノ爲ニ政府ト云ハズ、人民ト
云ハズ、一定シタル對支ノ政策ヲ樹テヽ
之ニ向ッテ支那ヲ救ッテ行クコトヲ圖ラナケ
レバナラヌト考ヘテ居ルノデアリマス、唯、エ
政府ガ超然トシテドチーラニモ關係シナ
イ、ドノ黨派ニモ偏頗ナ事ヲシナイト云フ
コトハ宜シイ、宜シイガソレハ程度ノ問題
デアル、今日幸ニシテ支那ノ內亂ハ一時段
祺瑞ノ出廬ト共ニ平定ヲ致シマシテ、假政
府ガ出來タガ、之ニ依ッテ支那ガ永久ニ統
一セラルベキモノデアルヤ否ヤト云フコト
ハ甚ダ疑問デアリマス、私ハ此段祺瑞ノ政
府ヲ豫言スルノデハナイガ、此段祺瑞ノ政
府モ、亦遂ニ紛亂ノ時期ガ來ハシナイカト云
フコトヲ惧ルノデアル、其時ニモ矢張日本ハ
不干涉主義デ立ヲ、超然主義デ行キ、何等支
那ニ對シテ手ヲ下サナイト云フコトニナフ
テ來ルト、何時マデ經ッテモ支那ノ混沌ヲ免
レナイ、日本人若クハ日本ノ政府ハ國論ヲ
一定シ、總テノ朝野ノ議論ヲ纏メテ、ドウス
ルノガ一番支那ヲ救フ所以デアルカ、今ノ
督軍政治ガ弊害ノ根源デアルナラバ、之ヲ
改ムベキ所ノ方法ヲ考へ、又支那ノ聯邦自
治ガ支那國民ノ輿論デアリ、希望デアルナラ
バソレニ向ッテ援ケル方法ヲ講スル、何
レニシテモ日本ガ一定シタル所ノ國策ヲ
樹クテ、支那ヲ救フト云フコトヲ考ヘナケ
レバナラナイ時ガ來タト思フノデアリマ
ス、殊ニ此度ノ大戰爭後ニ於ケル所ノ世界ノ
形勢ヲ考ヘテ見タナラバ、亞米利加ガ其巨
大ナル資本ヲ以テ、所謂資本的帝國主義、共
和黨ノ傳統的政策ニ依ッテ、支那ニ向ッテ巨万
ノ資本ノ侵略ガ這入"テ來ルコトハ無論ノ
事デアリマス、鏡ヲ見ルヨリ明カナル事實
デアリマス、隨テ起ルベキ所ノ問題ハ、必
ス列國ノ共同管理ノ問題デアリマス、鐵
道鑛山ノ管理デアル、隨テ又南滿洲鐵道
ノ問題モ是ト共ニ起ッテ來ルコトハ疑ノナ
イ事實デアリマス、此無限ノ富ト此無限ノ
資本トガ亞米利加ノ背後ノ力ヲ持ッテ、政
治的力ヲ擁シテ支那ニ來タル時ニ於テ、
日本ガ今日ノヤウヤ態度ヲ持スルト云フコ
トハ出來ナイノハ明カナ事實デアリマス、
日本ガ今日ノヤウナ能度デ居タナラバ、是
ハ勢ヒ此亞米利加ノ資本的帝國主義ノ勢力ノ
下ニ屈服ヲ餘儀ナクサレナケレバナラヌ時
ガ來ルノデアリマス、故ニ今日ニ於テマダ
其機運ガ熟セナイ先ニ於テ、日本ガ進ンデ
亞米利加ト協調シ、亞米利加ト此方面ニ向ラ
テ手ヲ携ヘテ公平ニ平和ノ裡ニ東洋ノ問題
ヲ解決シ、支那ノ百年ノ泰平ヲ築上ゲルコト
ヲ亞米利加ト共ニ諒解ヲ得ルコトニシタナ
ラバ、出來ナイコトハナイト思フノデアリマ
ス、唯〓漫然トシテ此勢ヲ見、唯ニ漫然トシ
テ支那ニ於ケル大勢ヲ考ヘテ居ッタトキニ
ハ、將來ニ於テ日本ノ立場ハ、支那ニ於テ
モ亦全ク困憊セザルヲ得ナイ時ガ來ルヲ信
ズルノデアリマス、故ニ政府人民協力シテ
此國策ヲ樹テ、支那ニ忠言シ、或ハ指導シ、
列國ノ諒解ヲ得テ、支那ノ現代ノ不安ナル
狀態ヲ一定シテ行クト云フコトハ、日本ノ
外交上ニ於ケル大ナル責任デアルト考ヘナ
ケレバナラナイノデアリマス、之ニ對スル
外務大臣若クハ總理大臣ノ御考ヲ承ツテ置
キタイト思フ、最後ノ問題トシテ、卽チ第
四ノ問題トシテ日本ト露西亞ト支那ノ同盟
ニ付テ、政府ノ所見、外務大臣ノ所見ヲ承
ツテ置キタイト思フ、外交上國際上ニ於テ
今日程恐ラク多難ノ時ハナイト思ヒマス、
然ルニ此國際上ニ於テ多難ノ時ニ、幸ニシ
テ去ル二十日北京ニ於テハ日露條約ガ調印
サレタト云フコトハ暗中ニ一道ノ光明ヲ
得タノデアル、日露兩國ノ外交ノ成功トシ
テ是ハ祝セザルヲ得ナイト思フノデアリマ
ス、吾々ハ露國ヲ速ニ承認セヨト云フコ
トハ、數年前ヨリシテ唱ヘテ居っ夕所ノ持
論デハアルガ、今日多クノ懸案ヲ解決セラ
レ、兩國ノ間ニ蟠ッテ居ッタ所ノ種々ノ問題
モ無事ニ解決セラレテ、茲ニ兩國ガ調印ヲ
スルニ進ンダコトハ、獨リ日本ノ爲ニ賀ス
ベキノミナラズ、露西亞ノ爲ニモ亦是ハ幸
ナ事デアル而シテ今度ノ日露條約ノ中ニ、
一ツ最モ重要視シスベキ所ノ條項ガ含マレ
テ居ルト思フ、ソレハ日露兩國ハ條約ニ於
テ兩締約國ノ不利益トナル取決メハ第三
國ト爲サナイト云フ條約デアル、私ハマダ
本條項ヲ見ナイノデ、之ヲ明瞭ニ論ズルコ
トハ出來ナイガ、斯樣ナル條項ガ存在スル
コトハ、夙ニ佛蘭西ノ「ル、タン」新聞ノ盛ニ
論ズル所デアッテ、サウシテ今度ノ日露條約
ニ於テ、最モ重要ナル點トシテ之ヲ擧ゲテ
居ルノデアリマス、此條項ガ果シテ日露條
約ノ中ニ含マレテ居ルモノトスルナラバ詰
リ日本ナリ露西亞ナリニ不利益ナル事柄
ハ第三國ト條約ヲ取決メナイト云フ意味
デアルガ、是ハ取モ直サズ消極的ニ日露同
盟ノ條項デアリマス、攻守同盟ノ意味ガ含
マレテ居ルノデアリマス、私ハ此日露兩國
ガ深ク提携ヲシテ、消極的ニ此點ニマデ進
ンデ來タナラバ、更ニモウ一步進ンデ積極
的ニ此日露ノ「アンタント、コーデアル」
ヲ締結スルト云フマデニ進マナケレバナラ
ヌト考ヘルノデアル、當局外務大臣ハ之ニ
對シテドウ云フ考ヲ持タレテ居ルカ、此條
項ハ旣ニ消極的ニ一部ノ攻守同盟ヲ形造ノ
テ居ルナラバ、更ニ一歩進ンデ積極的二之
ヲモウ少シ發展ヲ圖ッテ行ク方ガ兩國ノ利
益デアルト思フ、第一ニ考ヘナケレバナラ
ヌ事ハ吾々ハ人種的ニ於テモ、露西亞ト
同盟ヲ爲シ得ル共通ノ利益ヲ持ッテ居ル立
場ニ立ッテ居ル、今日ハ國際上ニ於テ非常
ニ人種ノ觀念、人種ノ思想ト云フモノガ大
ナル外交上ノ要素ニナッテ來テ居ルコトハ
諸君ノ御承知ノ通リデアル、世界戰爭ノ時
ニ於テ「アングロ·サクソン」人種ハ皆ナ團結
シテ「アングロ·サクソン」ノ聯盟ヲ造リ、「ゼ
ルマン」人種ハ皆ナ「ゼルマン」人種ト結著
キ、「ラテン」人種ハ皆ナ「ラテン」人種ト結プ
ヤウニ、外交上ニ於ケル人種的觀念、人種
的思想ガ著シク濃厚トナッテ來タコトハ最
近ノ事實デアル此人種聯盟ノ思想ノ勃興
ノ時ニ於テ吾々ガ最モ注意セナケレバナラ
ヌ問題ハ、日英同盟ガ遂ニ破裂ノ已ムヲ得
ザルニ至ッタコトハ種々理由ガアラウ、
其根抵ニ於テハドウシテモ人種問題ノ觀念
デアル「アングロ·サクソン」ノ人種ガ東洋
ノ民族ト聯盟スルコトノ、世界ニ於ケル立
場ガ之ヲ許サナイト云フ時代ガ來タノデア
ル、斯樣ニ考ヘル時ニ於テ「スラブ」人種ト
云フ露西亞人ガ、是ハ亞細亞民族ノ血族デ
アル、吾々ト共通スル所ノ人種的一ツノ靈
犀相通ズル思想觀念ヲ持ンテ居ル、此スラ
ヴ人種ト東洋ノ人種ガ聯盟ヲシ同盟ヲスル
ト云フコトハ、現代ノ人種的觀念ノ盛ニナッ
テ來タ時代ニ於テ、同盟ノ基礎トシテ此人種
的觀念ガ餘程大ナルカヲ持ッテ居ルコトヲ
考へ日本ト露西亞ガ將來ニ於テ、又進ンデ
現代ニ於テ手ヲ握ルベキ所ノ重大ナル要素
ト考ヘナケレバナラナイ點デアルト思フノ
デアリマス、又地理的ニ言ッタナラバ、僅ニ
一衣帶水ノ日本海ヲ挾ンデ、此露西亞ト日
本ガ非常ナル親密ナル地理上ノ關係ヲ持っ
テ、此大陸ト日本ガ手ヲ握ルト云フコ
トハ有ユル方面ニ於テ非常ナル利益ヲ得
ルコトヽ考ヘルノデアリマス、更ニ進ン
デ經濟上ノ問題カラ言ッテ見タナラバ著
シキ所ノ利益、露西亞ト手ヲ握ルコトノ大ナ
ル利益ヲ持ッテ居ルト思フノデアリマス、西
伯利ハ無限ノ大森林國デアル、此無限ノ
大森林國ハ世界ニ無イ所ノ材木ノ供給、吾
吾ハ現代亞米利加ヨリ一億圓內外ノ材木ヲ
輸入シテ居ルガ、此西伯利ノ富源ヲ開發ス
ルトキニ於テハ、總テ是等ノ生活ニ必要ナ
ル原料ハ西伯利ヨリ之ヲ得ルコトガ出來ル
亞米利加カラ得ル所ノ一億圓位デハナイ、
更ニ莫大ナル經濟的利益ヲ得ルコトガ出來
ルト思ヒマス、又北海ニ於ケル漁業ノ如
キ、又廣漠タル露西亞ノ數千里限リナキ所
ノ原野、農業ノ如キハ日本人ノ將來ノ開發
ヲ待ッテ居ル斯、樣ニ露西亞ト提携シ、更ノ
進ンデ同盟ヲ結フダケノ要素ハ幾ラモアル
ト思ヒマス、ケレドモ茲ニ昨日ノ豫算委員
會ナドニ於テモ議論ガ出タヤウデアルガ、
露西亞ト結フコトガ政治上ニ於テドウカ「ソ
ヴエット」露西亞ト日本ガ手ヲ握ルト云フコ
トハ危險デアル、日本ガ赤化スル憂ガアル
ト云フヤウナ議論ガ、尙ホ國民ノ一部ニア
ルト云フコトヲ見ルノデアリマス、併ナガ
ラ是程愚ナル考ハナイト思フ、「ソヴエット」
露西亞ト提携スルコトハ何等國民ニ對シテ
危險ハ無イ、憂フベキコトハ無イト信スル、
日本ノ國民ハ政治上ニ於テ他國ノ感化ヲ
受ケ、之ガ爲ニ國ノ基礎ヲ危ウスルト云フ
ヤウナ憂ハ少シモ無イコトヲ信ズルノデア
リマス、日本國民ノ二千五百年傳統的强キ
精神ハ、斯樣ナル今日ノ露西亞ノ思想位ニ
感化セラレルト云フヤウナ憂ハ寸分モ無イ
コトヲ保證スルノデアリマス、諸君、吾々ノ
祖先ノ中ニハ偉大ナル同化ノ力ヲ持ッテ居
ル露西亞ノ「ソヴエット」ノ思想ノ如キ恐
ルヽニ足ラナイ、數千年前ニ於テ我國ガマ
ダ基礎ガ鞏固デナイ時ニ、印度ヨリシテ佛
〓ノ「ニヒリズム」ノ說ガ入ッテ來タ時ハド
ウデアルカ、政治上ニ於テ一時幾ラカ動搖
ハ來シタケレドモ、忽チニシテ此佛〓ノ印
度思想ヲ日本ハ消化シテシマッタデハナイ
カ、支那カラ來タ所ノ儒〓ノ精神モ同樣デ
アリマス、殊ニ驚クベキハ今ヨリ千三百年
前大化ノ革命ヲ見レバ分ル、其大化ノ革命
ニ於テハ豪族ガ總テノ日本ノ國ヲ支配シ
テ、政治ハ根本的ニ行詰フテ來テ居ル、國
民ハ皆ナ豪族ノ奴隷デアル、此時ニ於テ此
豪族ノ政治ヲ根抵的ニ打破シ、サウシテ日
本ノ改造ヲ爲シタルモノハ皇室デアル、當時
葛城王子ガ自ラ其革命ノ原動力トナッテ居
ル、豪族ノ政治ヲ根本的ニ覆シテ、サウシテ
有ユル土地ヲ國家ニ之ヲ沒收シテ、國民ニ
平等ニ此土地ヲ與ヘタコトガアル、ザウシ
テ豪族ノ下ニ奴隷デアッタ所ノ國民ヲ擧ゲテ
解敖シテ、之ヲ自由ノ人民トシテ初メテ日
本ノ國ノ基礎ヲ作ッタノハ大化ノ革命デア
ル是ハ歐羅巴ニ於テ三百年ノ間社會黨ガ
夢想シテ成就スルコトノ出來ナカッタ所ノ
大ナル革命デアル、而シテ近代ニ於テ「レ
三つハ露西亞ノ政治ヲ率キ、サウシテ露
西亞ノ革命ヲ爲シタ、此露西亞ノ改革サヘ
モ尙ホ日本ノ皇室ガ千三百年前大化ノ革命
ニ於テ成就シタル大革命、所謂班田ノ法ニ
依ッテ國民ノ財產ヲ悉ク分配シ、サウシテ
奴隷ヲ解放シテ自民人民トシタ所ノ此ノ葛
城親王ヲ中心トシテ、鎌足ナドノヤッタ所
ノ大化ノ革命ハ、今日ノ「レニン」ナドノ夢
想スルコトノ出來ナイ徹底的ノ大革命デ
アル、歐洲ノ社會黨ガ考ヘテ三百年ノ間成
就スルコトノ出來ナカッタ仕事ヲ、吾々ノ
祖先ハ千三百年前ニヤッテ居ルノデアル
(拍手)吾々ノ血液ノ中ニハ偉大ナル民族ノ
思想ガ流レテ居ル、數千年ノ間試練セラレ
テ來夕所ノ吾々同胞ノ血ノ中ニハ征服ス
ペカラザル强イ精神ガアル、露西亞ノ「シ
ビエツト」政府ト「アンタント、コーデー
アル」ヲ結ンダ爲ニ日本ガ赤化セラレテ、
遂ニ日本民族ガ滅亡セラルヽデアラウト云
フヤウナ憂ヲ懷ク者ガアルナラバ、是ハ天
ノ落ルヲ憂フル所ノ杞人ノ夢ノ如キモノデ
アリマス(拍手)斯樣ニシテ吾々ハ考ヘテ見
テ、ドウシテモ日本ノ今日ノ立場ハ經濟上
カラ云ッテモ、又人種上カラ云ッテモ、露西
亞ト更ニ一步進ンデ玆ニ「アンタント、コ
ーデアル」ヲ結ヒ、サウシテ世界ニ於ケル
日本ノ外交上ノ立場ヲ建設スルコトヲ考へ
ナケレバナラヌ時デアラウト思フ、更二一
步進ンデ此ノ日本ト露西亞ノ「アンタント、
コーデアル」ノ中ニハ支那ヲモ之ニ入レ
ルコトヲ考ヘナケレバナラヌ、支那ハ既ニ
昨年デアリマシタカ、露西亞ノ「ソビエツ
ト」政府ヲ認メテ、玆ニ露西亞トノ條約ヲ
締結セラレテ居ル、サウシテ露西亞ニ對ス
ル感情、又露西亞ノ支那ニ對スル所ノ感情
ハ非常ニ溫カナモノデアル、殊ニ最近露西
亞ノ外交委員長ナル「チチエリン」氏ノ言フ
所ヲ見ルト、-此人ハ日本ト支那ト露西亞
ノ同盟ニ付テ盛ニ之ヲ唱ヘテ居ル所ニ依ク
テ見テモ、露西亞ニ於テハ必ズ此事柄ヲ歡
迎シテ、三國ノ同盟、-大陸ノ二大國ト日
本ガ同盟ヲシテ經濟的政治的ノ同盟ヲ作ル
ト云フコトハ之ニ依ッテ始メテ支那ノ獨
立ヲ完全ニスル、日本ノ外交上ノ立場ヲ强
クシテ、日本ガ從來周圍ニ於テ四面楚歌ノ
聲ヲ聞ク孤立無援ノ狀態ノ外交上ノ危地ヨ
リ救ハレテ、日本ガ眞ニ大ナル力ヲ發揮ス
ルコトガ出來ヤウト思フノデアル(拍手)吾
吾ハ日露協商ノ條約ノ締結セラルヽヲ喜フ
ト同時ニ、更ニ進ンデ日本ハ露西亞ト「ア
ンタント、コーデアル」ヲ結ヒ、是ニハ支
那ヲモ參加セシメタイノデアル、政府ハ進
ンデサウ云フ事ニ力ヲ盡スベキ考ヲ持ッテ
居ラナイカドウカ、之ニ對スル意見ヲ伺ヒ
タイノデアリマス、私ハ此問題ハ實ニ政黨政
派ノ問題デナクシテ、眞ニ國策ノ問題デア
ル、サウシテ、之ニ對シテ愼重ニ政府ニ於
テモ考ヘラレ、總理大臣若ハ外務大臣ガ、
之ニ就テ必シモ此席デナクテモ宜シイ、御
考ニナッタ上デ、篤ト之ニ對スル御答辯ヲ
願ヒタイト思イマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=26
-
027・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 中村政務次官
〔政府委員中村巍君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=27
-
028・中村巍
○政府委員(中村巍君) 本日外務大臣ハ貴
族院ノ方ニ是非居ラナケレバナリマセヌノ
デ、此方ニ出ルコトガ出來マセヌデ甚ダ遺憾
デアリマス、只今ノ御質問ニ對シマシテ私
カラ大體御答ヲシタイト思ヒマス、第一問
ハ日本ノ國際的現狀ニ對シマシテ、松本君
ハ非常ニ憂慮ノ情ヲ述ベラレマシテ、外務
大臣ハ曩ニ日本ト列國トノ關係ハ頗ル順調
ニアルト言ウタケレドモ、事實ハサウ云フ
風ニ見エナイ、例ヘバ布哇方面ニ於ケル米
國海軍ノ大演習ノ催シノ如キ、或ハ英國ノ
計畫ニ係ル新嘉坡ノ海軍根據地問題ノ如キ
モノモ、畢竟スルニ日本ト列國トノ諒解ガ
能ク出來テ居ナイ結果デナイカト、斯ウ云
フ風ニ御見解ニナッテ居ッタヤウニ諒解致シ
マシタガ、私共ノ諒解致シテ居リマスル所
全ク松本君ノ御說トハ違ッテ居リマ
ス、日本ト列國ノ關係ハ事實上洵ニ良好ノ
狀態ニ在ルノデゴザイマス、米國ノ海軍
大演習、又ハ英國ノ新嘉坡海軍根據地建設
ノ如キモノハ日本ト英米兩國ノ間ニ誤解
ガ存在シマシタ結果トシテ生ジタモノデハ
アリマセヌ、併シ松本君ノ御述ニナッタ如
ク、國際間ニハ誤解ガアッテハナラヌ、苟
モ誤解ガ存在スルナラバ政府ノ局ニ當
ル者ハ極力之ヲ斐除スルコトニ努メナケレ
バナラヌト云フ點ニ對シテハ全然御同感デア
リマス、故ニ國際關係ニ於キマシテ如何ナ
ル方面ヲ論ゼズ、苟モ誤解ノ存在ガアルト
云フコトヲ認メマスレバ、政府ハ之ニ對シ
マシテ常ニ深甚ナル注意ヲ拂ッテ、此誤解
ノ消滅方ニ對シデ常ニ努力致シツヽアル次
第デゴザイマス、第二ニ軍縮會議ニ付テノー
御質問デゴザイマシタガ、帝國政府ノ軍縮
會議ニ對シマスル意向ハ、曩ニ國際聯盟ニ
於キマシテ本年五月軍縮會議開催ノ議ヲ決
シマスル際ニ、政府ハ既ニ趣旨ニ於テ之ニ
賛成ノ意ヲ表シテ居リマス、併シ松本君ノ
御質問ハ、米國政府ガ軍縮會議ヲ開催スル
ニ方シン·帝國政府ハ之ニ對シテドウ云フ
態度ヲ執ルカト云フコトノ御質問デアンタ
ヤウニ思ヒマス、米國政府ガ果シテ何時軍
縮會議ヲ開催セラルヽカト云フコトニ付キ
マシテハ、何等徹底シタ報道ニハ接シマセ
ヌ、併シ米國大統領ハ、若シ國際聯盟ノ豫定
シタル軍縮會議ガ實行セラレザル場合ニ
ハ米國ニ於テ軍縮會議ヲ開カウト云フ說
ガ非常ニ有力デアルコトハ事實デゴザイマ
ス、併シ此軍縮問題ハ帝國ニ取リマシテ非
常ニ重要ノ問題デゴザイマスガ故ニ、將來
若シ米國ニ於テ此軍縮會議ヲ開催スルト云
フコトニナリマシタ曉ニ於テ、其會議ノ目
的範圍、程度ノ如何ヲ見タ上デ愼重ニ攻究
ヲ遂グルニアラザレバ、豫メ之ニ對シテ贊否
ノ意見ヲ表示スルコトハ不可能デアラウト
思フノデゴザイマス、第三ハ支那問題ニ付
キマシテ、現政府ハ支那問題ニ付テ內政不
干涉主義ヲ執ッテ來テ居ル、不干涉主義ハ
宜シイケレドモ、絕對ニ之ヲ行フ場合ニハ
無爲無策ニ陷ル、無爲無策デアッテハナラ
ヌ、ドウスル積リデアルカト云フ御質問デ
アッタヤウニ諒解致シマスル、對支問題ニ
付キマシテハ、先般ノ外務大臣ノ御演說中
ニ十分ニ政府ノ態度ヲ說明サレテ居ルヤウ
ニ存ジマス、唯〓此際一言辯明致シテ置キ
タイ事ハ、政府ガ今日マデ支那問題ニ關シ
テ執リ來リツヽアル內政不干涉ト云フコト
ハ無爲無策ト云フコトデハゴザイマセ
又、今日ノ如ク支那ガ混亂ノ狀態ニ在リマ
ス間ハ、支那ノ事ハ支那人自ラ之ヲ解決セ
シムルト云フコトガ、獨リ支那ニ取ッテノ
ミナラズ、吾々ニ取リマシテモ、自他ノ爲
ニ此政策ガ最良デアルト信ズルガ故ニ、此
方法ヲ執ッテ來タモノデアル、併シ若シ支
那ノ狀態ガ安定シマシテ、政府ノ基礎ガ鞏
固ナルモノガ出來マシタナラバ、政府ニ於
キマシテハ支那ニ重大ナル利害關係ヲ持シ
テ居ル列國ト協調致シテ、而シテ支那ノ安
定、產產ノ發展等ニ對シテ、積極的ニ援助
ノ方法ヲ講ズル考ヲ持ッテ居ルノデゴザイマ
ス、故ニ此間中ノ支那ノ内亂ノ場合ニ於キ
マシテ絕對不干涉ノ態度ヲ執リ來ッタカラ、
將來ニ於テ無爲無策デハナイカト云フ御心
配ハ、全然御無用デアルト御承知ヲ願ヒタ
イノデゴザイマス、ソレカラ第四ハ日露協
約ニ付テノ御話ガゴザイマシタガ、協約ノ
内容ニ付キマシテハ御批准前ノ今日デモゴ
ザイマスカラ、詳シク玆ニ談論ノ題目トス
ルコトハ如何カト思ヒマスガ、唯一點此
日露協約ハ協約ノ結果トシテ、日露同盟ト
カ云フヤウナコトニナルノデナイカト云フ
ヤウナ想像說ヲ御述デゴサイマシタガ、此
點ニ付キマシテ明ニ私ガ玆ニ言ヒ得ルコト
ハ今囘ノ日露協約ハ日露兩國ノ國交ヲ回
復シ、經濟的ノ關係ヲ密接ニスルト云フコ
トガ趣意デアリマシテ、何等政治的ノ意味
ガ無イノデアルト云フ事ダケハ玆ニ明言ス
ルコトガ出來ルノデゴザイマス、其他ノ點
ニ付キマシテハ此日露協約問題ニ付テハ
追テ發表ノ後、適當ノ機會ニ於テ意見ノ交
換ヲスルコトガ寧口適當デアラウト思フノ
デゴザイマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=28
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029・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ武藤山治君
〔武藤山治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=29
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030・武藤山治
○武藤山治君 總理大臣竝ニ大藏大臣ニ
向ッテ質問申上ゲマス、私ガ第一ニ私ノ見
ル所ヲ申上ゲテ總理大臣ノ御意見ヲ伺ハン
トスルノハ經濟上ヨリ見タル支那ニ對ス
ル我ガ外交ノ問題ニ付テヾアリマス、諸君
ノ御承知ノ通リ、大正十年米國ニ開カレタ
ル軍備縮少會議ノ席上ニ於テ、支那委員ノ
建議ヲ容レテ、支那ニ於テ關稅會議ヲ開催
スルコトニ決議ニナッテ居ルノデアリマス、
然ルニ此關稅會議ハ今日マデ開催サレズニ
經過シテ居ルノデアリマス、此關稅會議ハ
單ニ支那ノ關稅ノ增加ヲ列國ガ認ムル會議
ニ非ズシテ、同時ニ支那ノ經濟ニ付テモ相
互ニ〓究スベキコトガ約束サレテ居ル所ノ
一ノ經濟會議デアリマス、併ナガラ私ハ我
ガ外務當局者ハ支那ノ爲ニ此關稅會議ガ
一日モ速ニ開カレンコトニ付テ、御努力ニ
ナッテ居ルコトヲ固ク信ズル者デアリマス、
故ニ私ガ玆ニ總理大臣ニ向ッテ御意見ヲ伺
ハンドスル所ハ、此關稅會議ガ何故ニ今日
マデ開催サレナイカト云フ點デハナイノデ
アリマス、私ハ我ガ帝國ハ今一步進ンデ支
那ノ財政ヲ援助スベク、何故ニ積極的ノ外
交ヲ御執リニナラヌカト云フコトニ付テ御
意見ヲ伺ヒタイノデアリマス、御承知ノ通
リ支那ノ今日ノ狀態ハ、其財政ノ困難ナル
ガ爲ニ、其政府ガ安定ノ出來ナイモノト私ハ
信ズルノデアリマス、故ニ其政府ノ安定ヲ
待ツヨリモ、其政府ノ安定ヲ圖ランガ爲ニ
ハ我ガ帝國ハ宜シク進ンデ支那ノ財政ヲ
援助スベキモノデアルト信ズルノデアリマ
ス(拍手)諸君、又私ハ大正八年米國華盛頓
ニ開カレタル所ノ第一囘ノ勞働會議ニ臨ミ
マシテ、其席上ニ於テ支那ノ委員ガ、治外
法權ニ對シテ訴ヘラレタ所ノ言葉ヲ今日マ
デモ記憶シテ居ルノデアリマス、支那ガ治
外法權ノ下ニ苦メラレテ、支那ノ法權ガ居
留地内ニ。及バヌト云フ點ニ付テ、支那ノ委
員ハ列國ノ委員ニ訴ヘラレタノデアリマス、
而シテ、支那ガ此治外法權ノ爲ニ苦ンデ居
ルト云フコトニ付テ支那ニ同情ヲ有スルモ
ノハ、此治外法權ノ爲ニ多年苦ンダ我ガ帝
國デナケレバナラヌト私ハ信ズルノデアリ
マツ、故ニ我ガ帝國ハ宜シク支那ノ財政ヲ
援助シ、支那ノ爲ニ一日モ早ク治外法權ヲ
撤去センコトニ付テ列國ノ間ニ斡旋シ、
定ノ年限ヲ定メテ、其間ニ支那ノ法制、財
政其他兵制等ノ確立ニ對シテ、我ガ帝國
ガ自ラ經過シタル所ニ依テ、支那ニ於テモ
同樣ニ經過センコトニ付キ、我ガ帝國ハ援
助ヲ與フベキモノデナイカト思フノデアリ
マス、果シテ然リト致シマスレバ、私ハ我
ガ帝國政府ハ〓一步進ンデ支那ノ財政ヲ援
助シ、支那ノ經濟ノ發展ニ資スルガ爲ニ、
支那政府及英、米佛等ノ諒解ヲ得テ、我
ガ東京ニ於テ一ノ私ハ財政經濟會議ヲ開催
スル所ノ提議ヲ爲サレテハ如何カト思フノ
デアリマス、(拍手)御承知ノ通リ此度ノ大
戰爭ハ世界ノ經濟ヲ全ク覆シ、今ヤ米國ハ
大富强ノ國トナリテ、昨年中米國ガ外國ニ
投ジタ金額ノミニテモ一一十億圓ノ多キニ達
シタノデアリマス、而シテ是等ノ多大ノ資
本ハ皆ナ歐洲ニ流レツヽアルノデアリマ
ス、吾々ハ宜シク此資本ヲ亞細亞ニ引入レ
ルコトニ付テ、我ガ帝國ノ外交ハ盡力スベ
キモノデナイカト信ズルノデアリマス、故
ニ私ハ此點ニ付テ總理大臣ガ如何ニ御考ニ
ナッテ居ルカニ付テ、御意見ヲ御漏シ下サレ
バ仕合ト考ヘル者デアリマス、次ニ私ガ總
理大臣ニ御伺シタイノハ綱紀〓正ノ問題ニ
付テヾアリマス、總理大臣ハ我ガ國風〓、
道德ノ日ニ衰頽スルヲ憂ヒラレ、綱紀肅正
ノ爲ニ深キ御注意ヲ御拂ニナッテ居ルコト
ハ吾々モ認ムル者デアリマス、併ナガラ總
理大臣ハ此綱紀ヲ肅正スベキ所ノ一モ根本
的ノ政策ヲ吾々ノ前ニ御示シニナッテ居ラ
ヌノデアリマス(拍手)諸君、現內閣ノ一大
政綱タル普通選擧ハ、惟フニ我ガ政界ノ革
新ニ向ッテ大ナル效果ヲ與フルモノト云フ
コトヲ信ズル者デアリマス、併ナガラ世界各
國ノ憲法史ニ依リテ之ヲ見マスルノニ、綱
紀ノ肅正ガ單リ選擧權ノ擴張ニ依シテノミ
其目的ヲ達シタ國ハ一モ無イノデアリマス、
現ニ今日普通選擧ノ行ハルヽ國ニ於テモ
尙ホ綱紀ノ紊レテ居ル國ガアルノデアリマ
ス、故ニ私ガ總理大臣ノ御意見ヲ伺ハント
スル所ハ、我國ノ綱紀ノ紊ルヽ根本ノ原因
ニ付テ、之ヲ改正スル御意見ガ無イカ否ヤ
ト云フコトデアリマス、卽チ我國ノ政府ハ
各種合計五十四億九千五百万圓ノ財產ヲ
持ッテオキデニナル、土地ガ十五億千七百万
坪、此評價ガ三十五億八千九百万圓、營林
財產ガ十五億九千六百万圓、雜種財產三億
一千万圓、合計五六十億ノ財產ヲ持,テオキ
デニナルノデアリマス、諸君、世界ニ於テ
斯ノ如キ財產ヲ所有スル政府ハ何レノ國ニ
在ルデアリマセウカ、皆ナ是レ綱紀紊亂ノ
原因ヲ成スモノデアルト思フノデアリマス
(拍手)更ニ政府ハ此多大ナル財產ヲ有スル
外ニ、種々ノ業務ヲ營ンデ居ルノデアリマ
ス、又政府ハ種々ノ認可權ヲ持シテ居ルノ
デアリマス、殊ニ其認可權ノ中ニ付テ、利
權ニ對スル認可權ニ至フテハ、世界如何ナ
ル國ニ於テモ、我國ノ如ク利權ノ認可權ヲ
行政官ノ自由ニシテ居ル國ハ一モ無イノデ
アリマス、是等ノ總テ政府ノ有スル財產、
致府ノ爲ス所ノ業態、政府ノ有スル廣大
ナル認可權ハ、私ハ我國ノ政界ニ腐敗ヲ來
シテ居ル所ノ腐敗黴菌要素ノ元素ト私ハ思
フノデアリマス、故ニ若シ總理大臣ガ我ガ
國家ノ爲ニ眞ニ綱紀〓正ヲ遂ケラレントス
ルナラバ、此根本ニ向ッテ斧ヲ揮ハレナケ
レバナラヌト私ハ思フノデアリマス、故ニ
此點ニ付テ私ハ總理大臣ノ御意見ヲ伺ハン
トスル者デアリマス、次ニ私ガ總理大臣ニ
伺ハントスルノハ、我國ノ貨幣ノ下落ガ國
民ノ風〓道德ニ關係ガ無イカ否ヤト云フコ
トデアリマス、凡ン個人ト致シマシタナ
ラバ、約束ヲ守ラナイ者程信用ヲ失フ者ハ
ナイノデアリマス(拍手)然ルニ我ガ政府ハ
貨幣法ニ依リ、兌換條例ニ依リ、明ニ其定
メタ所ノ約束ヲ守ラザルコトヲ中外ニ向ッ
テ發表サレテ居ルノデアリマス(拍手)諸
君、玆ニ私ノ有スル所ノ此兌換劵ニハ日本
銀行ニ持ッテ行クナラバ何時ニテモ之ヲ金
貨ニ引換ヘルト云フコトガ書イテアリマ
ス、御丁寧ニモ此裏ニ英語デ以テ何時デモ
持ッテ來レバ之ヲ金ト引換ヘルト云フコト
ガ書イテアルノデアリマス、斯ノ如ク政府
ガ海外ニ向ッテ宣スル所ノ貨幣法ヲ蹂躪シ、
兌換條例ヲ守ラズシテ、此貨幣ノ價値ヲ下
落サシテ居ルト云フコトハ、私ハ我國ノ首
相ノ憂ヘラルヽ所ノ風〓道德ニ最モ害ヲ及
ホシテ居ルモノト信ズルガ、如何デアリマ
セウ(拍手)次ニ私ガ總理大臣ニ御尋シタイ
ノハ、政府ガ製鐵鋼調査會ヲ設ケラレタ目的
如何デアリマス、政府ハ歷代内閣ガ設ケタ
各種ノ調査會ヲ無用ノ長物トシテ之ヲ廢棄
サレタノデアリマス、私共ハ政府ノ此御英
斷ニハ感服シタノデアリマス、然ルニ間モ
ナイ今日一部製鐵業者ノ運動ヲ容レテ斯ノ
如キ製鐵鋼調査會ヲ設ケテ、而モ當業者ノミ
ヲ集メテ國家ノ保護救濟ヲ爲ス所ノ此調査
會ヲ設ケラレタト云フコトハ、之ヲ風〓道
德ノ上ヨリ見ルモ、一國ノ經濟ヨリ見ルモ、
私ハ實ニ其當ヲ得ヌ事ト思フノデアリマ
ス、大正五六年ノ交ニ當リマシテ、我國ノ
富豪ガ製鐵業ニ資本ヲ投ゼラレルトキニ、
是等ノ富豪ハ如何ナルコトヲ新聞紙上ニ語
ラレタノデアリマスカ、是等ノ富豪ハ曰ク
製鐵業ハ急ニ利益ヲ擧ゲ得ル事業デハナ
イ、多少ノ損失ヲモ覺悟シナケレバナラナ
イ事業デアル、故ニ政府ハ宜シク之ニ向ッ
テ保護ヲ與フベシト唱ヘ、遂ニ當時ノ政府
ハ向フ十箇年間、營業稅ト所得稅ヲ免除ス
ル所ノ保護ヲ與ヘラレタノデハアリマセヌ
カ、然ルニ戰爭ガ終シテ財界ガ反動シテ損
失ヲ來スヤ、直ニ政府ニ向シテ更ニ保護救
濟ヲ求ムルト云フコトハ吾々國民トシテ
ハ何トシテモ忍ブコトガ出來ナイ問題デア
リマス、然ルニ綱紀肅正ヲ唱ヘラルヽ此總
理大臣ガ、何故ニ斯ノ如キ調査會ヲ設ケル
コトニ付テ御同意ニナッタカト云フコトニ
付テ、私ハ御意見ヲ伺ハントスルノデアリ
せて、更ニ私ガ此問題ニ付テ總理大臣ニ御
願ヲシタイノハ、國費ヲ以テスル議事ヲ公
開セラレンコトデアリマス、我國ノ政府ハ
國費ヲ以テスル種々ノ調査會ナドニ關スル
議事ヲ祕密トシテ公開サレヌノハ今日マデ
ノ狀態デアリマス、苟モ國ノ費用ヲ以テス
ル民間ノ人〓ヲ集メテ組織スル所ヲ調査會
ハ吾々國民ノ共有物デアリマス、故ニ政
府ガ之ヲ政府ノ所有物トシテ祕密ニ付スベ
キモノデハアリマセヌ、英國ニ於テハ斯ノ
如キ調査會ハ印刷サレ、詳細ニ書物トナッ
テ世界列國ノ人〓ニマデ之ヲ賣却スルノデ
アリマス、其態度ノ公明正大ナル、私ハ玆ニ綱
紀〓正ノ爲ニ御盡力ニナル總理大臣ガ、今
回製鐵鋼調査會ヲ始メトシテ、此調査會ニ
於テ各委員ガ如何ナルコトヲ述ブルヤ、詳細
議事ヲ速記錄ニシテ吾々國民ノ前ニ私ハ
提供サレンコトヲ望ムノデアリマス、若シ
政府ガ財政困難ノ爲ニ速記者ヲ雇フ費用ヤ
印刷費ガナカッタナラバ、吾々ハ之ニ對シテ
十分ニ提供スル者テアリマス、政府ニ向ッ
テ政府ガ相當ノ價ヲ徵收シテ、此速記錄
ヲ出サレヽバ吾々國民ハ喜ンデ之ヲ買フ
者デアリマス、次ニ私ハ法律第八十四號
ニ付テ首相ノ御意見ヲ伺ヒタイト思フノ
デアリマス私ハ法律ノ知識ニ付テハ極メ
テ暗イ者デアリマス、故ニ成ベク法律ニ
ハ觸レヌヤウニシテ居ルノデアリマス、
殊ニ此議場ノ左側ニオヰデニナル二三ノ
方ハ、私ガ法律問題ニ觸レルト、何カ失
策ガナイカト虎視烱々トシテ待シテ居ラレ
ルノデアリマス、併ナガラ私ガ玆ニ法律第
八十四號ニ付テ總理大臣ニ御尋セントス
ルニ至リマシタコトニ付テハ、決シテ
一朝一夕ノ事デハナイノデアリマス諸
君、御承知ノ通リ明治三十九年竝ニ大正
二年、大正三年、竝ニ大正七年ノ四囘ニ亙
リ、我ガ帝都ニ於テ騷擾ガ起ッタノデアリ
やっ、其騷擾ノ場合ニ於テ、私ノ常ニ不思
議ト致シマシタノハ、人民保護ノ任ニ當リ
民衆ヨリ最モ愛セラレナケレバナラナイ所
ノ巡査ノ派出所ガ燒打サレタ事デアリマ
ス、私ハ何ガ故ニ斯ノ如キ事ガ起ルデアラ
ウカト云フコトニ付テ多年疑ヲ持ッテ居ッタ
ノデアリマス、而シテ私ハ段〓調査〓究ノ
結果、此法律八十四號ナルモノニ付テ吾々
ハ重要ナル注意ヲ怠ッテ居ッタト云フコトヲ
考ヘルニ至ッタノデアリマス、法律八十四
號ハ明治二十三年ノ九月十八日國會開設前
ニ發布セラレタノデアリマシテ、其法律ノ
主ナル點ヲ玆ニ朗讀致シマスレバ「命令ノ
條項ニ違犯スル者ハ各其命令ニ規定スル所
ニ從ヒ二百圓以内ノ罰金若ハ一年以下ノ禁
錮ニ處ス」ト云フコトガ法律ニ依ッテ規定サ
レテ居ルノデアリマス、諸君、此法律第八
十四號ハ行政官ノ委任命令法ニ對シ、其中
ニ加ヘル所ノ制裁ニ對シ、吾々議會ガ之ニ
承認ヲ與ヘタ法律ト同樣ニアリマス、併ナ
ガラ此法律ハ議會開設前ニ發布セラレタル
モノデアリマシテ、當時ノ情勢ニ於テハ或
ハ私ハ斯ノ如キ事ガ已ムヲ得ナカッタカト
思フノデアリマス、併ナガラ今日ノ世ノ中
ニ於テモ、尙ホ議會ヲ通過シナイ立法部ノ
認メナイ行政命令ノ中ニ、法律八十四號ノ
如キ、入ヲ一箇年マデモ禁錮スル所ノ制裁
ヲ加フルコトヲ吾々議會ガ同意シテ居ルト
云フコトハ誤リデナイカト思フノデアリマ
ス、我ガ憲法ハ諸君御承知ノ通リ「日本臣
民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問處
罰ヲ受クルコトナシ」ト吾々ニ其權ヲ與へ
ラレテ居ルノデアリマス、然ルニ法律第八
十四號ノ如キ、一箇年ニ近キ禁錮二百圓ニ
達スル所ノ巨額ノ罰金ヲ行政官ガ自由ニ自
己ノ法令ノ中ニ加ヘテ、國民ニ制裁ヲ加ヘ
ルト云フ其權力ヲ與ヘテ置クト云フコト
ハ、私ハ常ニ多クノ民衆ガ反感ヲ懷ク所ノ
大ナル原因ヲ爲シテ居リハセヌカト思フノ
デアリマス、此點ニ付テ今ヤ國民大多數ノ利
益幸福ノ爲ニ普通選舉法案迄提案セラレン
トスル此總理大臣ノ私ハ御意嚮ヲ伺ヒタイ
ト思フノデアリマス、次ニ濱口藏相ニ向ッ
テ質問ヲ申上ゲマス、濱口藏相ガ我ガ財政
行政ヲ整理サレタ、其功ハ私ハ之ヲ認メザ
ルヲ得ナイノデアリマス、我ガ紊亂セル財政
行政ヲ整理シテ其辻褄ヲ合ハセルニ至ラレ
タト云フコトハ、是ハ吾々トシテ認メナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、併ナガラ
彼ノ英國ノ藏相「スノーデン」辭職後、僅カ
數週間ニシテモ尙ホ議會ニ提案シタ所ノ豫
算案ニ對シテ、歳計ノ五分、四億圓迄モ減縮
シテ、茶ヤ「コーヒー」ヤ國民總テノ階級ニ
亙リ減稅ノ恩典ヲ與ヘタト云フ此「スノー
デン」藏相ノ爲シタ所カラ見マスレバ、私
ハ遙ニ大ナル距離ガアルト思フノデアリマ
ス、併ナガラ我ガ財政ノ紊亂セルコトハ、
英國ノ財政ノ如ク整理シテ居ラナカッタモ
ノト考ヘマスレバ、此紊亂セル財政行政ヲ
整理サレタ所ノ濱口藏相ノ功ハ、是ハ偉大
ナリト私ハ信ズルノデアリマス(ヒヤ〓〓)
併ナガラ私ハ之ヲ以テ濱口藏相ガ序幕デア
ルト仰セラレズシテ、是ニテ打切デアルト
云フコトヲ仰セラルヽナラバ反對デアリマ
ス、濱口藏相ハ私ハ必ヤ更ニ大ナル努力ヲ
加ヘラレテ、來年ノ通常議會ニハ彼ノ「ス
ノーデン」ガ四億圓減ジタ如ク、少クモ一
億五千万ヤ二億圓ヲ減ジ、吾々國民各階級
ニ亙リ減稅ノ恩典ヲ蒙リタイト云フコトヲ
考ヘル者デアリマス、故ニ私ハ此點ニ付テ
ハ濱口藏相ノ一層ノ御努力ヲ希望スルニ止
メマシテ、是ヨリ金解禁ノ問題ニ付テ御尋
ヲ致シマス(拍手)金解禁ノ問題ニ關聯シテ
二十四日ノ議場ニ於テ濱口藏相ハ政黨政派
ヲ超越スベキコトヲ求メラレタノデアリマ
シタ、私ハ之ヲ最モ感服致スノデアリマ
ス、經濟上ノ問題ハ政黨政派ヲ超越シナケ
レバナリマセヌ、併ナガラ濱口藏相ハロ
ニ經濟上ノ問題ハ政黨ヲ超越センコトヲ求
メラレナガラ、藏相ノ爲サレタ事ヲ見マス
ルト云フト、常ニ私ハ黨派ニ拘泥セラレテ
居ルヤウニ考ヘルノデアリマス(「ノウノ
ウ」「ヒヤし〓」拍手)玆ニ一例ヲ擧ゲテ申シ
マスレバ、昨年ノ特別議會ニ於テ奢侈品ノ
輸入稅ニ關スル法案ヲ濱口藏相ハ提案サレ
タノデアリマス、此法案中ノ或種ノ品目ニ
付テハ、與黨三派諸君ノ中ニモ、又在野黨
ノ中ニモ修正ヲ求メラレントシテ居ッタノ
デアリマス、然ルニ濱口君ハ-濱口藏相
ハ之ヲ經濟上ノ問題デアリ、政黨政派ヲ超
越スル問題トサレナカッタト云フコトハ
遂ニ三派ヲシテ奇怪ナル希望ヲ附シテ決議
ヲ通過セシムルニ至ッタノデアリマス、彼
ノ英國ノ藏相「マツケンナ」ハ關稅法案ヲ提
出スルトキニ、反對黨ノ修正ニモ尙ホ快ク
應ジタノデアリマス、是レ卽チ眞ニ經濟問
題ハ政黨政派ヲ超越スル問題デアルガ爲デ
アリマス(ヒヤ〓〓)然ルニ濱口藏相ハ口ニ
政黨政派ヲ超越センコトヲ求メナガラ、奢
侈品ノ輸入稅法案ニ對シテ一ツノ品物スラ
モ修正スルコトヲ同意サレナカッタコトハ、
是レ極メテ黨派ニ拘泥サレナケレバ(「ノウ
ノウ」「ヒヤ〓〓」拍手)餘リニ獨斷的ノモノ
デアルト私ハ思フノデアル、若シ濱口藏相
ニシテ眞ニ金解禁問題ヲシテ重大ナル國氏
經濟上ノ問題トシ、政黨政派ヲ超越スベシ
ト御考ニナルナラバ、何故ニ此問題ヲ獨斷
的ニ定メズシテ、吾々國民ヲ代表シテ居ル
此議場ニ向フテ其可否ヲ問ハレナイノデア
リマセウカ(「ヒヤ〓〓」拍手)濱口藏相ハ之
ヲ獨斷的ニ金ノ解禁ヲ不可ナリト定メ、政
黨政派ヲ超越シテ居ラルヽニモ拘ラズ、之
ヲ提唱スル吾々ノミニ向テ其非ヲ責メラ
ルヽト云フコトハ酷デハナイカト思フノデ
アリマス(「ヒヤ〓〓」拍手)併ナガラ此問題
ニ對シテハ吾々ハ近ク本議會ニ向ッテ決議
案ヲ提出シ、議會ニ討議ヲ求メル積リデア
リマス、其節ハドウカ此問題ニ對シテ政黨
政派ヲ超越シ、各政黨ノ諸君ニ於テモ此討
議ニ私ハ參加セラレ、少クモ二日間ヲ此討
議ノ爲ニ御費シニナリタイト云フコトヲ豫
メ希望シテ置ク次第デアリマス、諸君、私
ハ濱口藏相ニ是ヨリ御尋ヲシタイノハ
藏相ガ手形交換所ニ於ケル御演說ハ、
我ガ對米爲替ガ三十八弗以下ニナッタ時
ニハ、必ズ在內正貨ヲ出シテモ三十八
弗以下ニハ下落セシメヌト云フコトヲ
御演說ニナッタヤウニ、新聞紙ニ依シテ報
告ヲ受ケテ居ルノデアリマス、斯ノ如ク
解シマシテ宜シキカ、此點ニ付テ今一應本
議場ニ於テ私ハ濱口藏相ノ御說明ヲ願ヒタ
イノデアリマス、又濱口藏相ハ特別議會ニ
於テ種々ノ方策ヲ施シテ爲替相場回復ニ努
ムベキコトヲ明言セラレタノデアリマス、
然ルニ其後爲替ハ囘復セズシテ反對ニ下落
致シタノデアリマス(拍手)藏相ノ財政方針
ノ中ニ御〓シニナッタ所ノ爲替囘復ノ根本
方針ナルモノヲ承ッテ見マスルト云フト、
是ハ爲替囘復ニ對スル根本的方策デハナイ
ノデアリマス、恰モ病人ニ對シ醫者ガ衞生
論ヲシテ居ルト同樣デアリマス(拍手)我ガ
國民經濟ハ今ヤ病氣ニ罹ヲテ居ルノデアリ
マシテ、大藏大臣ト云フ此名醫ノ治療方法
ヲ承ランコトヲ國民ハ望ンデ居ルノデアリ
マス(ヒヤ〓〓)然ルニ此病苦ニ惱ンデ居ル
國民經濟ノ杭元へ來テ街生論ヲ說カルヽニ
至ッテハ(ヒヤ〓〓)私ハ實ニ其時晩シト言
ハナケレバナラヌト云フノデアリマス、吾
吾ハ有ユル不衛生ヲシテ今ヤ此病苦ニ苦ン
デ居ルノデアリマシテ、之ニ對スル根本政
策トシテハ、衞生論ヨリモ治療方法ヲ藏相
ヨリ聽カンコトヲ求メテ居ルノデアリマ
ス、故ニ私ハ藏相ガ今少シク今日ノ下落セ
ル爲替ヲ回復スル根本的有意義ノ治療方法
ヲ御示シヲ願ヒタイト思フノデアリマス、
次ニ私ハ藏相ニ申上ゲタイノハ、藏相ハ輸
入業者ト云フモノヽ實情ヲ十分ニ御理解ニ
ナッテ居ラヌト斯ウ思フノデアリマス、輸
入業者ニモ二種類アリマス、第一ハ思惑ヲ
スル輸入業者デアリマス、第二ハ眞面目ナ
輸入業者デアリマス、先日此議場ニ於テ此
金解禁ノ問題ノ論議ノアッタ節ニ、ドナタ
カ三菱ト云フコトヲ仰シヤッタ方ガアリマ
ス三菱ヤ三井ノ如キ眞面目ナ輸入業者ハ
思惑ヲ毫モ爲サヌノデアリマス、故ニ如何
ニ爲替ガ上リマシテモ下リマシテモ、三井
ヤ三菱ノ如キ眞面目ナ輸入業者ハ寸分ノ損
害ヲ被ラヌノデアリマス、之ニ反シテ思惑ヲ
スル輸入業者ハ爲替相場ノ上下ニ依シテ儲
ケタリ損ヲシタリスルノデアリマス、藏相
ガ金ヲ解禁シテ、爲替ガ囘復シテ、ソレガ
爲ニ惱ムベシト最モ憂ヘラレル輸入業者
ハ思感ヲスル輸入業者デアリマス、吾々
ハ我ガ財界ノ安定ノ爲ニ思惑ヲ常ニ爲シ、
儲ケタ時ハ自分ノ懷ロヘ入レテ、損ヲシタ
時ハ國家社會主義ニ依ッテ保護ヲ受ケヤウ
トスルヤウナ此思惑ヲ常ニスル所ノ商人
ハ寧口私ハ無クナランコトヲ望ムノデア
リマス(拍手)濱口藏相ハ若シ一タビ金ヲ解
禁シタナラバ、輸入業者ハ大迷感ヲ受ケ、
隨テ我ガ經濟組織ハ破壞サレルヤウナ非常
ナ御言葉ヲ御使ヒニナリマスガ、決シテ一
國ノ經濟組織ハ濱口藏相ガ仰シヤルヤウ
+、サウ云フ薄弱ナモノデハナイノデアリ
ママ、若シ藏相ノ仰シヤルヤウニ經濟ヲ立
テ直ス爲ニ、財界ヲ整理スル爲ニ一國ノ經
濟組織ガ滅ビルヤウナ我國ノ經濟組織ガ弱
イモノデアリマシタナラバ、西南戰爭後ノ
紙幣整理ノ際ニ我國ノ經濟組織ハ正ニ潰レ
テ居ラナケレバナラヌノデアリマス、又明治
三十三年義和團事件後ニ我國ノ財界ニ起,
タ恐慌ハ、我ガ財界ヲ覆滅シテ居ラナケレ
バナラヌノデアリマス、然ルニ之ニ反シ西
南戰後ニ於ケル紙幣ノ整理、三十三年義和
團事件後ニ於ケル恐慌ハ我ガ財界ニ振興力
ヲ與へ、爾來駿々トシテ我ガ財界ノ進歩ヲ
見タト云フコトヲ考へテ見マスレバ、今日
濱口藏相ガ僅ニ少數ノ輸入業者ノ惱ムノヲ
虞レ、其結果トシテ我國全體ノ經濟界ガ覆
滅スル如キ考ヲ御持ニナルト云フコトハ
私ハ間違ッテ居ルト思ヒマス(拍手「ノウノ
ウ」)濱口藏相ハ金ノ解禁ヲスルト云フコト
ハ我國ノ兌換制度ヲ危クスルト斯ウ云フコ
トヲ仰セラレテ居ルノデアリマス、私ハ我
國ノ兌換制度ヲ危クシテ居ル者ハ藏相デナ
イカト思フノデアリマス(拍手「ヒヤ〓〓」
「ノウ〓〓」)今日我國ハ戰爭ノ爲ニ苦ンデ
居ルノデハナイノデアリマス、又此度ノ世
界ノ大戰爭ノ爲ニ英國ノ如ク巨額ノ負擔ノ
爲ニ惱ンデ居ルノデハナイノデアリマス、
而シテ我國ハ今日尙ホ多額ノ正貨ヲ有シテ
居ルニモ拘ラズ、金ノ輸出禁止ヲ解クト云
フト兌換制度ヲ危クスルト仰セラレマスケ
レドモ、今日我國ノ兌換制度ハ旣ニ傷イテ
居ルデハアリマセヌカ(拍手)我ガ藏相ハ更
ニ昨年ノ輸入超過ガ六億四千五百万圓デア
リ、臺灣朝鮮ヲ加ヘテ七億圓以上ニ達スル
トシテ吾々ニ大ナル恐怖ヲ與ヘラレタノデ
アリマス、併ナガラ諸君、昨年ノ貿易ノ如
キハ腐ル程材木ヲ買ヒ、十年掛ッテモ使ヒ
切レヌヤウナ亞鉛板ヲ買ハレタノデアリマ
ス、斯ウ云フ政府ニ依シテ指導サレタ貿易
ノ結果ハ六億圓ノ輸入超過トナルノハ、私
ハ當然ノ結果デナイカト思フノデアリマス
(拍手)併ナガラ諸君、私ハ玆ニ藏相ニ伺ヒ
タイノハ六億圓ノ輸入超過ハ既ニ過去ノ
問題デアリマシテ、先頃橫濱正金銀行ノ兒
玉氏ガ公ニセラレマシ夕所ノ書面ニ依リマ
スルト、我國ノ國際貸借ノ純差引不足ハ二
億ニ過ギナイト云フコトヲ公ニサレタノ
デアリマス、六億圓以上ノ購入超過ガアッ
タト云フ事ト、最早今後一箇年我國ノ國際
貸借ノ差引純不足ハ二億ニ過ギナイト云フ
事トハ此問題ヲ判斷スル上ニ於テ國民ノ
上ニ私ハ大ナル迷ヒヲ與ヘルト思フノデア
リマス、故ニ私ガ藏相ニ御尋シタイノハ、
此橫濱正金銀行頭取ノ今後我國ハ一箇年國
際貸借ノ差引純不足ハ二億圓デアルト云フ
此意見ヲ御承認ナサイマスカ、或ハ之ヲ否
ト十サイマスカト云フコトデアリマス、今
日我國ノ苦ンデ居リマスルノハ、多クノ議
論ヲ費サナクテモ、我國ガ戰後財界ノ立テ
直シヲ怠リ、今日世界ニ於ケル最高ノ物價
國トナッテ居ル點ニアルト云フコトハ藏
相ニ於テモ御意見ハナイト思フノデアリマ
ス、而シテ金ノ輸出ヲ禁止シテ圓ノ價ヲ下
落サセルト云フコトハ物價ヲ引下ゲナケ
レバナラナイ所ノ反對ニ、騰貴ヲサセラレ
タト云フコトデアリマシテ、此點ニ付テ藏
相ノ御意見ハ私ハ正ニ矛盾シテ居ルト思フ
ノデアリマス、尙ホ私ハ申上ゲタイノハ
古今ノ壓史ニ依リマシテ貨幣ノ價値ヲ減損
シタ國ハ皆衰亡シテ居リマス、我ガ德川幕
府ノ亡ビタノモ實ニ此點ニ在ルノデアリ
やで、圓價ヲ下落セシムルト云フコトハ我
國ヲ衰亡セシムルト云フコトデアリマス、
故ニ此政策ニ反對スル者ハ正ニ國家ニ忠誠
ナル者デアルト私ハ思フソデアリマス(拍
手)次ニ私ハ預金部ノ問題ニ付テ御尋シタ
イト思フノデアリマス、此預金部ノ改善ニ
付キマシテハ本日政府カラ御提案ニナリマ
シタ通リ、濱口藏相ガ是ガ爲ニ改善ノ方法
ヲ御案出下サレタコトヲ私ハ厚ク謝スル者
デアリマス、併ナガラ濱口藏相ガ今日迄預
金部ノ運用方法ガ放漫不確實デアッタト云
フ一面ノ事實ヲ認メラレナガラ玆ニ提出ナ
サレマシタ、之ヲ强制スル法案トシテハ極
メテ不備ナモノデナイカト思フノデアリマ
ス、私ノ玆ニ伺ヒタイノハ、先程堤君カラ
御尋ニナッタ事ニ對シマシテ、政務次官ヨリ
御答辯ガアリマシタケレドモ、私ハ其御答
辯ニ付テ實ニ不思議ニ思フ點ガ一ツアルノ
デアリマス、數日前ニ大藏省ガ發表サレタ
所ノ預金部運用ノ內容ニ付テ見マシテモ、
本日政務次官ガ此議場ニ報告セラレタヨリ
モ更ニ明細ナル報告ガ旣ニ新間ニ公ニサレ
テ居ルノデアリマス、然ルニ之ヲ委員會ノ
問題トシテ此議場ニ明言スルコトヲ御避ケ
ニナルト云フコトハ何故デアルカト云フコ
トデアリマス、此大藏省ノ御發表ニナッタ
所ノ預金部資金ノ運用ノ内容ヲ見マスルト
云フト、一千万圓ニ亙ル金額ノ貸出先モ明
言サレテ居ルノデアリマス、然ルニ其最後
ニ至リ內國預金二億六千六百万圓ト云フ一
項ガアルノデアリマス、預金ト云フ言葉ハ
是ハ實ニ不思議ナ言葉デアリマス、預金デ
ナクシテ、是ハ貸金ダラウト私ハ思フ、言
葉デ云ヘバ預金デアリマスケレドモ、國民
ノ零細ナル資金ヨリ二億六千万圓モ貸出シ
テ居ッテ、其貸出先ヲ公表サレナイト云フ
ノハドウ云フ譯デアリマスカ、政務次官ヲ
此貧乏ナ財政ノ中カラデモ設ケルノニ贊成
シタノハ斯ノ如キ問題ニ對シテ明細ニ議
場ニ報告ヲ得ンガ爲ニ吾々ハ贊成シタノデ
アリマス、若シ之ヲ委員會ノ問題トシテ二
億六千万圓ト云フヤウナ此大額ノ貸出先ヲ
モ明示スルコトヲ避ケラレルト云フコト
ハ吾々ハ眞ニ遺憾ニ思フノデアリマス、
殊ニ私ガ藏相ニ申上ゲタイノハ、藏相ハ此
預金部ノ資金ヲ運用スル爲ニ何故ニ斯ノ如
キ綿密ナル法律ヲ設ケラレル必要ヲ認メラ
レタノデアリマセウカ、若シ之ヲ英國ヤ米
國ノ政府ガ爲ス如ク、預金部ノ資金卽チ國
民ノ零細ナル郵便貯金ハ議會ノ承認ヲ經タ
ル債劵以外ニ投資スルコトハ相成ラヌト定
メタナラバ、私ハ斯ノ如キ面倒ナ法律モ諮
問委員モ御拵ハニナル必要ハナイト思フノ
デアリマス、思フニ濱口藏相ハ今日旣ニ此
預金部ノ資金ガ放漫不確實ニ貸出サレテ、
英國ヤ米國ノ如キ政府ガ規定シテ居ル法律
ノ如ク、議會ノ承認スル債劵以外ニ貸シテ
ハ相成ラヌト定メルコトガ出來ヌカラデハ
ナイカト思フノデアリマス、併ナガラ若シ
今日出來ナケレバ其實行期限ヲ多少二三年
先キニ御延バシニナッテモ、今日放漫ニ貸
出サレタ所ノ資金ヲ大藏省ハ宜シク回牧シ
テ、此議會ニ於テ協賛ヲ經タル-議會ノ
承認ヲ經ナイ債劵ニハ貸出サヌヤウニ願ヒ
タイト私ハ思フノデアリマス、若シ一タビ
サウ云フ風ニ藏相ガ爲サレタナラバ、私ハ總
テノ問題ハ解決スル、之ヲ日本銀行ニ委託
シテ置イテモ、日本銀行ノ書記一人ノ手ニ
依テ十分ニ之ヲ投資シ運用シ得ルダラウト
思フノデアリマス、次ニ私ガ御尋シタイノ
ハ臺灣、朝鮮銀行ニ關スル問題デアリマス、
今日臺灣、朝鮮銀行ハ我國ニ於テ預金部ノ
問題ト同時ニ疑惑ノ的トナッテ居ルノデア
リマス、思フニ此二億六千万圓ノ内地預金
ヲ茲ニ御明言ニナリマシタナラバ、恐ラク
ハ此臺灣、朝鮮銀行ト深キ關係ヲ持ッテ居
ルモノデハナイカト私ハ之ヲ想像致スノデ
アリマス、今日朝鮮銀行ハ三億六千万圓ヲ
貸出シテ居リマス、臺灣銀行ハ四億三子万
圓ヲ貸出シテ居ルノデアリマス、而シテ朝
鮮銀行、臺灣銀行ニ發行權ヲ與ヘルガ爲ニ
之ヲ特殊銀行トシ、其業態ノ全部ハ普通商
業銀行ト毫モ異ナラナイモノデアリマス
私ハ賢明ナル我ガ藏相ガ何ガ故ニ斯ノ如キ
特殊銀行ノ其根本ニ向ッテ、斧ヲ揮ハレナイ
カト思ヒマスガ、私ハ濱口藏相ハ臺灣、朝
鮮銀行ノ發行權ハ宜シク日本銀行ニ移シ、
兩行ハ普通ノ商業銀行トシテ商法ノ制裁ヲ
受クルヤウニスルコトニ付テ御考ハナイカ
ト云フコトヲ伺セタイノデアリマス、殊ニ私
ハ濱口藏相ニ伺ヒタイノハ、昨年ノ特別議會
ニモ申上ゲタノデアリマスケレドモ、臺灣
朝鮮、兩銀行ハ會計檢査院ノ檢査ニ付セラ
レンコトデアリマス、會計檢査院法ニ依レ
バ勅令ニ依ッテ容易ニ此兩銀行ハ檢査シ得
ルコトニナッテ居リマス、故ニ藏相ハ眞ニ
我ガ國民經濟ヲ慮ラルヽナラバ宜シク勅令
ヲ發布シ、サウシテ此臺灣、朝鮮兩銀行ノ
內容ヲ會計檢査院ノ檢查ニ付シ吾々ノ前ニ
御而シアランコトヲ私ハ切ニ望ムノデアリ
さく、次ニ私ガ藏相ニ中上ゲタイノハ、近
來藏相ガ民間ノ實業ニ干涉セラルヽ傾向ノ
アル事デアリマス(ヒヤ〓〓)先頃金錢ノ信
託期間ヲ突如一年ニ縮小シ、或ハ預金利子
ノ協定ヲ促シ、更ニ銀行ノ合同等ニ付テ、
常ニ大藏省ガ民間ノ銀行ニ向ッテ干渉セラ
ルヽト云フコトハ、是ハ私ハ最御避ケニナラ
ナケレバナラヌ事デナイカト思フノデアリ
ママ、銀行デモ種々アリマシテ一定ノ利子
ノ下ニ營業スルト云フコトヲ强ユルノハ是
レ難キヲ强フルモノデアリマス(「ヒヤヒ
ヤ」「ノウ〓〓」)預金利子ヲ協定セシムルガ
如キハ銀行業者ノ間ニアッテモ私ハ不滿足ノ
意ヲ表スル者ガアルト思フノデアリマス、
唯、藏相ガ金融ノ權ヲ握ッテ居ル爲ニ、今日
ノ銀行業者ハ藏相ノ前ニ其不服ヲ訴フルノ
勇氣ガ無イノデアリマス、更ニ此銀行ニ金
ヲ預ケル者ノ側カラ考へテ見レバ、銀行ノ如
キ大ナル勢力ヲ持ッテ居ルモノガ利子ヲ
協定シテ預金利子ノ率ヲ安クシテ置クト云
フコトハ、中產以下ノ人とハ銀行ニ預金スル
爲ニ非常ナ損害ヲ被ル、普通選擧ヲ實行シ
ヤウト云フ多數ノ國利民福ヲ圖ル政府トシ
テハ一體預金利子ノ協定等ニ干涉スベキ
モノデナイト思フノデアリマス、更ニ銀行ノ
合同ニ付テハ現政府ノミナラズ、歷代ノ政
府ガ常ニ民間ノ銀行ニ對シ干涉ヲ試ムルノ
デアリマス、併ナガラ銀行ノ合同程日本ノ
實情ニ適シナイモノハナイト思フノデアリ
ママ、元來此銀行ノ合同論ヲ唱ヘルノハ
英國ノ銀行ガ大資本ヲ以テ居ルカラ之ヲ唱
ヘルノデアリマスガ、英國ノ國情ト日本ノ
國情トハ全ク相違シテ居ル事ヲ知ラナイガ
爲デアリマス、我國ノ如キ小資本ヲ以テ商
ヒヲスル多クノ小賣商人中產ノ營業者ナル
國ニ於テハ小資本ノ銀行ハ最モ歡迎スベキ
ノデアリマス、更ニ私ハ此點ニ付テ申上ゲ
タイノデアリマス、今日マデ大資本ノ銀
行ガ果シテ破綻シタカ、地方ニ於ケル小資
本ノ銀行ガ破綻シタカ、何レデアリマス
カ、小資本ノ方ノ銀行ヨリモ大資本ノ銀行
ノ方ガ多ク破綻ヲ見テ居ルノデアリマス、
故ニ私ハ如何ナル點カラ見マシテモ、免
ニ角大藏省ガ民間ノ實業家ニ向ッテ干渉
スルト云フコトハ宜シク御愼ミアランコト
ヲ望ムノデアリマス、藏相ノ之ニ對スル御
考ヲ伺ヒタイノデアリマス、次ニ私ガ藏相
ニ伺ヒタイノハ奢侈ノ輸入稅品ノ中ニ、最
早藏相ノ之ヲ改正スル必要ヲ認メラルヽヤ
否ヤデアリマス、此奢侈品ノ中ニハ我國ニ
在留スル外國人ノ使フ日用品モ含マレテ居
ルノデアリマス、先程御議論ノアッタ如ク
外交ハ最モ重大ナモノデアルト致シマスレ
バ我國ニ在留致シテ居ル數千ノ外國人ガ
最モ不滿、不愉快ニ思フヤウナ日用品ノ食
料品ヲ、贅澤品ノ中ニ無理ニ加ヘテ、之ニ
十割迄モ稅ヲ課スルト云フコトハ、是ハ經
濟上ヨリノミナラズ外交上ヨリモ賢明デア
ルヤ否ヤヲ疑フノデアリマス、若シ此席ニ
外務大臣ガオキデニナリマシタナラバ、奢
侈品ノ中ニ我國在留ノ外國人ガ日用トスル
品物ヲ加ヘテ置クト云フコトガ、外交ニ毫
モ影響ハナイカト云フコトヲ伺フコトガ出
來レバ仕合セト思ヒマス、故ニ私ハ最早濱
口藏相ハ此奢侈品ノ中デ改正ヲスル必要ヲ
御認メニナッタト思ヒマスガ故ニ、之ニ對
シテ自ラ御提案ナサルヽカ、或ハ最早吾々
ノ修正ヲ御許シニナルカト云フコトヲ伺ヒ
タイノデアリマス、最後ニ私ガ濱口藏相ニ
伺ヒタイノハ、法人及個人ノ納稅額ヲ公表
サレタイト思ヒマス、今日迄政府ハ法人及
個人ノ納稅ヲ公表スルコトヲ許サレナイノ
デアリマス、先頃米國ニ於テ此問題ガ起リ、
遂ニ法人及個人ノ納稅ヲ公表シテ納稅觀念
ヲ高メルト云フコトニナッタト承知シテ居
リマス、故ニ我國ニ於キマシテモ法人及個
人ノ納稅額ヲ御公表ニナルコトニナリマシ
タナラバ我ガ國民ノ納稅觀念ヲ高メル上
ニ於テ大ナル利益ヲ生ズルモノト思フノデ
アリマス、以上ノ點ニ付テ幸ニ御〓示ヲ賜
ハレバ光榮デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=30
-
031・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 加藤總理大臣
〔國務大臣子爵加藤高明君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=31
-
032・加藤高明
○國務大臣(子爵加藤高明君) 武藤君ハ昨
日私ニ書簡ヲ送ラレマジテ、本日ノ質問ニ
於テ述ベラルヽ箇條ヲ豫メ御知セ下サッタ
ノデアリマス、是ハ洵ニ善イ事デアリマス
カラ、此後トモ出來ル御方ハ豫メ質問ノ要
旨ヲ御知ラセ下サルト、答辯ノ上ニモ大變
便宜デアリマス、此新例ヲ開カレタコト
ハ洵ニ結構ナ事デアルト云フコトヲ御披露
シテ置キマス、但シ少々變更ガアリマシテ
之ニ書イテナイ事ヲ御尋ニナッタコトモア
リ、書イタ事ヲ御尋ニナラナカッタ事モア
リマスガ、大體ハ書イテ送ラレタ書面ニ依ッ
テ御尋ニナッテ居リマスカラ、其點ヲ先以
テ感謝致シテ置キマス、第一ニ御導ニナリ
マシタ箇條ハ支那ニ於ケル海關稅ノ問題、是
ハ主義上水諾シテ置キナガラ未ダ實行ガ出
來ヌカラ、速ニ增稅ガ行ハレルヤウニ支那ノ
財政ノ援助ヲ圖シタラドウカト云フ御尊デ
アッタヤウデアリマス、是ハ成程主義トシテ
ハ既ニ關係諸國ノ間ニ條約ガアリマシテ、二分
五厘輸入稅ヲ曾スト云フコトニナッテ居リマス、
多分其事ヲ云ウタコトヽ思ヒマス、然ルニ其調
印國ノ中デマダ條約ヲ批准シテ居ラヌ國ガ
アルノデアリマス、關係ノ諸國ガ悉ク批
准シテカラ初メテ實行ノ會議ガ開カレル譯
デアリマスガ、未ゲ調印未濟ノ國ガアル爲
ニ今日迄會議ガ開カレヌノデアリマシテ、
帝國ガ決シテ延バシテ居ル譯デモナシ、帝
國一人デ之ヲ促進スル譯ニ參ラヌト云フコ
トヲ御承知願ヒタイ、支那ニ於ケル治外法
權ヲ撤去シタラドウカト云フコトガ次ニ
アッタヤウデアリマス、是ハ支那ニ於ケル治
外法權ヲ撤去致シテ、法權ヲ彼ヲシテ囘復セ
シメタイト云フコトハ餘程前カラ我國ニ
於テハ希望トシテ持シテ居ルノデアリマス
ガ、我國ト外國トノ間ニ不利ナ條約ヲ結ビ
マシテ、治外法權ト云フモノヲ持タレテ居ッ
テ、常ニ不利ノ地位ニ陷フテ不快ノ念ヲ持シ
テ居ッタト云フコトハ尙ホ記憶ニ新ナル事
デアリマスカラ、隣國ノ支那ガ先年我ガ日
本ガ經驗シタト同樣ナ苦痛ヲ尙ホ今日モ感
ジテ居ルト云フコトハ洵ニ氣ノ毒ナ事デア
リマスカラ、主義トシテハ先年來同情ヲ表
シテ居リマスガ、遺憾ナガラ支那ノ法典ガ
マダ近世文明的ノ法律ニ出來テ居ラヌ、栽
判官ガ又吾々ノ生命財產ヲ託スルニ足ルダ
ケノ者ガ揃ッテ居ラヌ、栽判上ノ制度ガ備ラ
ズ、人モ十分デナイ、斯ウ云フ點カラ氣ノ
毒ニハ思ヒナガラ、未ダ俄ニ治外法權ノ撤
廢ニ同意スル譯ニ行カヌノデアリマス、而
シテ是等ノ問題ニ付テ東京デ會議ヲ開クト
云フ御議論デアッタヤウデアリマシタガ、是
ハ只今東京デ會議ヲ催シテ見タ所ガ、格別
效能ガ無イト思ヒマスカラ、政府ニ於テハ
是等ノ會議ヲ開ク積リハアリマセヌ、ソレ
カラ此問題モサウデアリマスガ總理大臣ニ
御尋ニナリマシタガ、只今大藏大臣ニ關シ
テ長〓ト御述ニナリマシ夕事ノ外ハ、總理
大臣ニ直接ニ關係スル事ハ洵ニ僅カデアフ
テ、或ハ外務大臣、或ハ農商務大臣、其他
種々ナ方ガゴザイマスカラ、其各大臣ノ中
出席セラレテ居ル方モアリ、或ハ一二貴
族院トノ時間ノ衝突ガアリマスカラ、見エテ
居ラヌ方モアルカモ知レマセヌ(「オカシイ
事ヲ言フナ」ト呼フ者アリ)格別オカシイコ
トハナイ、時間ガ衝突シテ居ルト云フコト
ハ當リ前ノ事デアル、ソレカラ次ニハ貨幣
ノ下落ハ道德風〓ニ關係ハナイカト云フ御
話、貨幣ノ下落ノ事ニ付キマシテハ先日來屢、
此議場ニ於テ論議ヲ重ネラレタ事デアリマシ
テ、尙ホ必要トアレバ大藏大臣ガ更ニ論議
セラレマセウガ、私ハ是ダケノ事ヲ申上ゲ
テ置キマス、貨幣ノ問題ハ道德風〓ノ問題
ニ何等關係ナシ、斯ノ如ク申上ゲテ置キマ
ス、ソレカラ明治二十三年八十四號ノ法律
此事ニ付テ御尋デアリマシタ、是ハ現今ノ
國情ニ於テ是ガ改正ヲ必要ト御考ニナラザ
ルヤ、此事ニ付テハヱライ昔ノ法律デハア
リマスガ、尙ホ今日其必要ヲ感ジテ居ル次
第デアリマス、公共ノ安全ヲ保持シ、國民
ノ福利ヲ增進スルコトノ爲ニ、命令ヲ發ス
ルノ必要ガアリ、其必要ガアルトキハ命令
ヲ發スルコトガ出來ルコトハ憲法ニ定メガ
アリマス、而シテ命令ヲシテ實效ヲ擧ケシ
ムルニハ、罰則ヲ附スルコトノ必要モアルノ
デアリマス、此必要ヨリ起ッテ明治二十三
年ノ法律第八十四號ト云フモノガ出來タノ
デアリマス、今日モ尙ホ其必要ハ依然トシ
テ存在シテ居ルノデアリマス、是ハ法律デ
アリマスカラ、法律ハ帝國議會貴族院若ハ
衆議院ニ於テ、改正若クハ廢止ヲ議決シ得
ル所ノ權能ヲ有。ツテ居ラレルニ拘ラズ、今日
ニ至ルマデ其事ナキハ偶、以テ其必要ノ事
實ヲ裏書シテ居ルト申シテ宜シイコトヽ思
フノデアリマス、或ハ何ノ事ヤラ御承知ナ
イ方ガアルカモ知レマセヌガ、是ハ命令ニ
罰則ヲ附スルコトニシタ法律デアリマス、
卽チ勅令、省令、府縣令等ニ罰則ヲ附スル
コトヲ得ルト云フコトデアリマス
〔「分リマセヌ更ニ····」「靜ニ」「謹聽」
ト呼フ者アリ其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=32
-
033・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=33
-
034・加藤高明
○國務大臣(子爵加藤高明君)(續) 其必要
ノ存シテ居ル今日ニ於テハ、依然トシテ存
續スルコトガ必要デアルト云フコトヲ申上
ゲテ置キマス、ソレカラ政府ガ莫大ナ財產
ヲ有シテ居リ、又大ナル認可權等ニ於テ政
府ノ權力ガ强過ギルト云フコトモアリマ
シタ、政府ガ財產ヲ有シテ居ルコトト相當
ノ權力ヲ有シテ居ルコトト綱紀紊亂ノ事ニ
掛ケテ御話ガアリマシタガ綱紀紊亂ト云フ
問題ト政府ニ財產ガアル、權力ガアルト云
フコトハ關係ノ無イ事ト思フノデアリマス
(拍手)併シ政府ノ有シテ居ル認可權ト云フ
モノガ餘リニ繁瑣ニ亙リマシテ繁文ニ過ギ、行
政ヲ遲滯ナラシムル嫌ヒガナイデハアリマセ
ヌカラ、是等ノ事ニ付テハ是迄モ多少改メタ
イコトモアリマスガ、先日モ申シマシタ如
クニ、尙ホ今後政府部内ニ委員ヲ設ケテ調査
ヲ爲シ、其中ニ法律ノ不備ノモノガアレバ
議會ニ提出シテ諸君ノ協賛ヲ乞フ積リデア
リマス、ソレカラ製鐵製鋼ノ鑛業ノ事ニ付
テ御尋ガアリマシタガ、是ハ農商務大臣ガ
御出席デアリマスカラ、何レ詳シク御說明
ガアラウト思ヒマスガ、是亦綱紀紊亂ト云
フ事ニ關聯シテ御尋ニナリマシタガ、製綱製
鐵ト綱紀紊亂トハ何等關係ノ無イコトヲ申上
ゲテ置キマス、製鐵事業、製鋼事業ノコト
ハ國ノ基礎工業デアリマスカラ、是マデモ
調査ニナッタコトモアリマスガ、マダ盡サ
ザル所ガアリマスカラ、國策トシテ此工業
ヲ維持スルト云フコトハ定ノテ居リマスケ
レドモ、尙ホ時ニ應ジテ宜キヲ制スルト云
フ必要ガアル爲ニ、此度委員ヲ設ケテ調査
ヲスル積リデアリマス、詳シイ事ハ農商務
大臣ヨリ說明ガアラウト思ヒマス、ソレカ
ラ右等ノ調査會ノ速記錄ハ必シモ祕密ニセ
ズ、祕密ニハ致シマセヌ、必ズドノ速記錄
デモ祕密ニシタコトモナケレバ、併シ同時ニ
是等ノ會議ヲ悉ク速記スルトモ極ッテ居ラ
ヌノデアリマス時ト場合ニ依シテ速記スル
コトモアレバ、速記セヌ事モアリマス、隨
テ武藤君ノ御請求ノ如ク、協議等ハ必ス速
記ニ付シテ、發賣頒布スルト云フコトノ御
約束ハ致シ難イノデアリマス、併シ差支ノ
ナイモノハ是マデノ通リ成ベク公表スルコ
トニ致シマス
〔「分ッタ人ハ手ヲ擧ゲテ」ト呼フ者アリ
笑聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=34
-
035・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 原君ニ御注意致シマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=35
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036・加藤高明
○國務大臣(子爵加藤高明君)(續) 武藤サ
ンノ御尋ニ對シテハ一通リ御答辯致シマシ
タカ、尙ホ必要ナレバ詳細ナル事ハ主務大
臣カラモ答ヘラレルコトト思ヒマス
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=36
-
037・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 先刻武藤君ヨリ
御質疑ノ中ニ、製鐵鋼調査委員會ノ事ニ付
テ御述ニナリマシタガ、此問題ニ付テハ武
藤君ハ根本カラ誤解ヲセラレテ居ル、一言
其誤解ヲ解ク必要ガアルト思ヒマスカラシ
チ御答ヲシマス成程戰爭中俄ニ民間ニ於
テ澤山ノ製鐵所、製鋼所ガ起リマシテ、而
シテ平和克復後卽チ休戰後ニ於テ、非常ニ
苦境ニ陷ッテ今日ニ及ンデ居ルノデアリマ
ス、其部類カラ政府ニ對シテ救濟ヲ求メタ
ルコトハ過去ノ事デアリマス、現政府ニナ
リマシテカラハ其救濟ノ運動ヲ受ケタコ
トハ無イノデアリマス而シテ今度設ケマ
シタル所ノ調査會ハ、既設民間ノ製鐵所ヲ
救濟スル目的ヲ以テ起シタモノデハナイノ
デアリマス、有ユル鑛業ノ基礎トナル此製
鐵事業、製鋼事業ト云フモノガ、我國ニ於
テ將來外國ノ同業者ト相對シテ、十分ニ持
久策ガ立ツモノノデアルカナイカト云フコ
トノ根本ノ調査ニ在ルノデアリマス、民間
ノ製鐵業ノ救濟トハマルデ離レタ問題デア
ルノデス、若シ民間ノ既設ノ製鐵事業ノ救
濟ガ必要ナリトスルナラバ、是ハ別個ノ問題
トシテ攻究セネバナラヌノデアリマス又
此委員ニナッタ人とハ、武藤君ノ說ニ依リ
マスト所謂製鐵事業ニ關係ガアッテ、何ヤラ
自分ノ爲ニ計ル人々ノ如クニ御批評ガアツ
タヤウデアリマスルガ、如何ナル人々ガア
ノ委員ニナッテ居ルカト云フコトヲ御調ニ
ナッタナラバ、天下何人ト雖モ此委員ノ中
一人タリトモ、己レノ會社若クハ一個人ノ
爲ニ公器ヲ利用シテ、不正ナル富ヲ得ント
スルヤウナ人格ノ低イ人トハ思ハレナイ、
一人ト雖モ天下此人格ヲ疑フ者ハ無イダラ
ウト思ヒマス(拍子)且又鐵鋼事業ノ國策ヲ
樹ツルニ方ッテ、從來其鐵若ハ鋼ノ事業ニ何
等知識經驗ノ無イ者ヲ集メテ、何トシテ之ガ
調査ガ出來マセウ(拍手)全ク武藤君ガ誤解
デアリマス、又調査委員ノ如何ナル人〓デ
アルカト云フコトヲ御存ジナイカラ、ア
ンナコトヲ言ハレルノダラウト思フ、又此
委員ヲ設ケマシテ、大層金デモ使フヤウナ
コトヲ言ハレル、是ハ一ツモ豫算ニ金ハ求
メテ居リマセス、此委員ニナッタ人とハ手
當ガナケレバ嫌ダト云フヤウナ人ハ無イノ
デアル(拍手)又委員會ノコトハ祕密ダト云
フ、何レノ國ノ委員會デモ結果ヲ得ルマデ
ニ時々會合ヲスル之ヲ公開シテ居ルモノ
ガアリマスカ、調査ノ成ツタ上ハ皆ナ是
ハ公ニスルノデアリマス、從來ノ政府ニ設
ケラレタル委員會ト雖モ、大抵其結果ニ付
テ印刷シテアルノデアル、武藤君ハサウ
云フモノヲ得ル便宜ガ無カッタカモ知レヌ、
此委員會ハ決シテ祕密デ〓デ利益ヲ計ルナ
ドヽ云フヤウナ性質ノモノデナイノデアリ
マスカラ、此點ハ十分ニ御安心ニナッテ宜
カラウト思ヒマス、是ダケ申上ケテ置キマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=37
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038・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 濱口大藏大臣
〔國務大臣濱口雄幸君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=38
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039・濱口雄幸
○國務大臣(消口雄幸君) 武藤君ノ御質問
ニ順序ヲ遂ヒマシテ御答ヲ致シマス、第
ノ御質問ハ、昨年十一月下旬ニ私ガ手形交
換所大會ニ出席致シテ、其時ニ爲替相場ハ
三十八弗以下ニハ下落セシメナイト云フ演
說ヲシタト云フコトデアルガ、同ジ趣意ノ
事ヲ此議場ニ於テ更メテ言明スルコトヲ希
望スルト云フ御希望デアリマシタ、爲替對
策ノ事ニ付テハ既ニ本月二十二日ノ財政演
說ニ於テ明瞭ニ申述べテ置イタノデアリマ
ス、其演說ノ速記錄ヲ御一覽アランコトヲ
希望致シマス、ノミナラズ特ニ諒解ヲ避ケ
ル爲ニ一言致シテ置キマスガ、三十八弗以
下ニ下ゲヌ、或ハ三十八弗二分ノ一以下ニハ
下ゲナイト云フガ如キ、具體的ノ數字ヲ私
ハ判然申シテハ居リマセヌ、若シ其邊ノ誤
解ガアリマスレバ、只今ノ言明ニ依ッテ御
了承アランコトヲ希望致シマス、第二ノ御
質問ハ爲替調節ノ根本策如何、政府ノ說明
ニ依レバ、爲替調節ノ應急策ト致シテ此上
ノ暴落ヲ防ギ市場ノ安定ヲ圖ランガ爲ニ、
内外ニ於テ政府ガ保有シテ居ル所ノ正貨ノ
拂下ヲモ行フ積リデアルト云フコトヲ說明
致シテ置キマシタガ、是ハ如何ニモ爲替ノ
維持竝ニ安定ニ對スル所ノ對策デアリマ
ス、然ラバ根本策ハ如何ト云フコトニナリ
マスト、武藤君ガ御質問ノ時ニ衞生論ト治
療論トノ例ヲ御引キニナリマシタガ、此複
雜極マル爲替問題ト云フガ如キ大問題ヲ御
互ニ論議致シマスル際ニ、左樣ナル比喩ヲ
以テ簡單ニ解決スル譯ニハ參リマセヌ、爲
替相場ノ調節ニ要スル所ノ根本策ニ付テハ
甚ダ困難ナル問題デアリマス、極メテ容易
ナラザル所ノ問題デアリマスガ、是ハ國民
ガ能ク一致ヲ致シ、ソレニ依ッテ貿易ノ逆
調ヲ緩和シ、國際貸借ノ均衡ヲ恢復スルト
云フコトニ努メル外ハナイノデアリマス、
而シチ其國民ノ努力ヲ勵マスガ爲ニ政府ノ
執ルベキ所ノ先決問題、政府ハ如何ナル方
策ヲ講ズベキヤト云フコトニ付テハ、從來
屢〓述べテ置イタ通リデアリマス、卽チ其根
本策ヲ實行スルニ方ッテノ先決問題ト致シ
マシテハ第一ニ行政財政ノ整理緊縮ガ是
デアリマス、第二ニハ民間ノ消費節約ガ是
デアリマス、此兩樣ノ目的ヲ達スルガ爲ニ
ハ、既ニ說明ヲ致シテ置キマシタ通リ、大
正十三年度ノ豫算ニ對スル節約、竝ニ大正
十四年度ノ財政計畫ニ對スル說明ハ既ニ十
分ニ申上ゲテ置イタ通リ、此財政計畫ノ緊
縮殊ニ公債發行ノ節約ニ依リマシテ、通貨
ノ膨脹ヲ防ギ、物價ノ暴騰ヲ防ギ金利ノ上ル
コトヲ防ギマシテ、之ニ依ッテ進ンデ貿易
ノ逆調ヲ緩和致シ、國際貸借ノ均衡ヲ保タ
ントスルノデアリマス、其以外ニ或ハ民間
ノ消費ヲ節約スルガ爲ニモ、只今武藤君ガ
御指摘ニナリマシタ所ノ、昨年ノ特別議會
ニ於テ諸君ノ御協賛ヲ得マシテ、目下實行
中ニ屬シテ居リマスル所ノ贅澤品ノ課稅ノ
問題、竝ニ復興貯蓄債劵行ノ事柄、其他汎
ク民間全體ニ涉ッテ、消費ノ節約勤儉力行
ノ奬勵ニ努メテ居ルコトハ御承知ノ通リデ
アリマス、是ガ卽チ爲替調節ノ根本策ヲ實
行スル先決問題デアルト政府ハ信ジテ居ル
次第デアリマス(拍手)其他貿易ノ逆調ヲ緩
和スルト申マスレバ、何ト致シマシテモ輸
入ノ抑制、輸出ノ奬勵ニ俟ツノ外ハナイノ
デアリマス、此事柄ニ付テモ屢〓說明申上ゲ
テ置キマシタ通リ、又十四年度ノ豫算ニ於
テモ相當ノ施設ヲ致シテアルコトハ豫算
ニ依ッテ御承知ニナッテ居ルコトヽ思ヒマス
ガ、輸入防遏ノ具體的ノ方策ニ至リマシテ
ハ御承知ノ通リ我國ノ輸入品ノ大部分ハ
食糧品デアルトカ、或ハ製造工業ノ原料
品若クハ材料品デアルト云フ其事實ニ鑑
ミマシテ、濫ニ輸入ヲ防遏スルト云フコト
ハ出來マセヌノミナラズ、然ラバ既成品ニ
對シテ爲替調節ノ爲ニ輸入ノ防遏ヲスルコ
トガ適當デアルヤ否ヤト云フコトモ、是亦
物價調節上ノ見地カラ輕々ニ判斷スルコト
ノ出來ナイ問題デアリマス、然ラバ能ク世
間デ申シマス所ノ、政府ガ輸入ヲ管理スベ
シ、或ハ輸入ヲ制限スベシト云フ議論ニ至
リマシテハ是亦實行至難ノ事情モアリマ
スニ依ッテ、容易ニ之ヲ判斷スルコトハ困
難デアリマス、其他總テ輸入ノ防遏ニ付テ
政府ガ如何ナル方策ヲ行スペキヤト云フ
コトハ、政府ニ於テ常ニ〓究調査ヲ致シテ
居ル所デアリマス、又輸出ヲ奬勵スルト致
シマシテモ、產業組織ノ改善、卽チ生產竝
ニ金融ニ關スル所ノ各種ノ機關ノ合同統一
ヲ實行スルトカ、或ハ豐富低康ナル所ノ產
業資金ヲ疏通セシムル、其他大量生產ノ奬
勵ヲ行フト云フ如キ方法ニ依ッテ、出來得
ル限リ生產費ノ低廉ヲ圖シテ、品質ヲ能ク整
ヘ、又價格ガ低廉ナル所ノ商品ヲ海外ニ輸
出ヲ致シマシテ、我ガ市場ノ開拓ヲ圖ルト
云フ如キ方法ヲ用キルコトガ最モ必要デア
ルト思フノデアリマス(拍手)其他十四年度
ノ豫算ニ於キマシテ、直接ニ輸出奬勵ノ爲
ニスル所ノ施設ガアルノデアリマス、卽チ
農商務省ノ所管ニ於キマシテ、或ハ海外通
信員ノ設置ノ如キ、或ハ共同組合法、輸出組
合法ノ制定實施等ニ至リマシテモ、何レ輪
出奬勵上相當ノ效果ガアルト思フノデアリ
マス、更ニ一言致シマスレバ、政府ガ前段
ニ申上ゲマシタ通リ、爲替ノ安定策トシテ
內外ノ正貨ヲ利用スル場合ニ於キマシテ、
其正貨利用ノ結果トシテ必然ニ起ル結果デ
ハアリマセヌガ、多クノ場合ニ起ル結果デ
アラウト信ジテ居リマスルガ、自然ニ通貨ノ
收縮ヲ招キマシテ、其點カラ物價ノ調節ト
ナリ、延テバ爲替相場恢復ノ端ヲ啓クニ至
ルコトヲ政府ハ期待シテ居ルモノデアリマ
ス、尙ホ本年ノ上半期ノ貿易ノ狀況ニ依リ
マシテ能ク〓究ノ上、之ニ適應シタル所ノ方
策ヲ〓究致シマシテ、苟モ國家經濟ノ爲ニ
利益アリト信ズル方策ガアリマシタナラバ
躊躇ナク之ヲ實行スル積リデアリマス、其次
ニ武藤君ノ御說ニ依リマスレバ、恰モ私ガ
金ノ輸出ノ解禁ニ反對スルノハ、少數ノ輸
入業者ノ苦痛ヲ慮ル爲デアルト云フ御趣意
ノヤウニ承リマシタガ、若シ私ノ聽違ヒデ
ナイト致シマシタナラバ、是ハ重大ナル誤
解デアリマス(拍手)私ハ決シテ左樣ナル事
ヲ申シタ覺エハナイノデアリマス、ノミナ
ラズソレト反對ニ二十三日デアリマシタカ
二十四日デアリマシタカ、吉植君ノ御質問
ニ對シテ答辯ヲ致シマシタ時ニ、其事ハ明
瞭ニ述ベテアルノデアリマス、ソレヲ繰返
シテ申シマスレバ、爲替相場ノ急激ナル恢
復ニ依クテ差當リ痛擊ヲ受ケル者ハ輸入業
者輸入品「ストック」ノ所有者、或ハ輸入
品ヲ原料材料トスル所ノ製造業者、是等ノ
商品ノ販賣業者、竝ニ斯ノ如キ人〓ト取引
ノ關係ヲ有シテ居ル所ノ金融業者デアルガ、
吾々ノ最モ恐ルヽ所ノモノハ是等部分的ノ
打擊ニ非ズシテ、國民經濟全體ニ及ボスベ
キ所ノ破壞的ノ衝動デアルト云フコトヲ明
瞭ニ述ベテ居リマス(拍手)然ラバ其所謂破
壞的ノ衝動トハ何デアルカト申シマスレ
バ是亦吉植君ノ御質問ニ對シテ其同ジ時
ニ御答ヲ致シテ置キマシタ通リ、今日ノ場
合ニ於テ直ニ金ノ解禁ヲ行ヒマスルトキニ
ハ爲替相場ハ三十八弗二分ノ一ノ今日ノ
相場カラ一擧ニ致シマシテ四十九弗餘ノ平
價ニ復シ、其結果輸入ハ奬勵ヲセラレ、輸
出ハ防遏ヲセラレ、貿易ノ逆調ガ今日ヨリ
モ一層甚シキニ至ルデアラウト思フノデア
リマス(ヒヤ〓〓)其結果トシテ內地ノ金
ハ無制限ニ海外ニ流出ヲ致シ、金ノ流出ノ
結果トシテ、通貨ト信用トハ急激ニ收縮ヲ
致シ、其結果經濟界ノ全局ニ向ッテ容易ナ
ラザル所ノ衝動ヲ惹起シ、甚シキニ至リマ
シテハ兌換制度ノ根柢ヲ動カスニ至ルト云
フ虞ガアルノデアリマス、卽チサナキダニ
整理ガ未ダ完全ニ出來テ居リマセヌ所ノ今
日ノ內地ノ財界ニ激甚ナル打擊ヲ與ヘマシ
テ、我ガ產業界經濟界ヲシテ玉石俱ニ碎ク
ルト云フ慘害ヲ被ラシメ、國民經濟ノ全局
ニ對シ、殆ト破壞的ノ惡影響ヲ及ボスニ至
ルト云フコトヲ虞ルヽノデアリマス(「ヒヤ
ヒヤ」拍手)斯ノ如ク申シマスレバ政府ガ金
ノ輸出ノ解禁ニ今日反對致シマスル其理由
ハ武藤君ノ御考ニナッテ居ル如ク、決シテ一
部輸入業者ノ痛苦ヲ慮ルガ爲ニ非ズシテ、
國民經濟全體ニ渉ル所ノ大打撃ヲ虞ルヽ結
果デアリマス(拍手)其次ニ武藤君ノ御質問
ハ、大藏大臣ハ金ノ解禁ヲスレバ我國ノ兌
換制度ヲ危カラシムルニ依ッテ、解禁ニハ反
對デアルト言フガ、解禁ヲシナイカラ却テ
兌換制度ノ基礎ヲ危クシテ居ルノデハナイ
カト云フ御意見ノヤウニ承リマシタガ、是
ハ意見ノ相違デアリマス、私ハ左樣ニハ決
シテ考ヘテ居ナイ、解禁ヲ致シマスレバ只
今申上ゲマシタ理由ニ依テ、我國ノ兌換制
度ノ根柢ハ頗ル薄弱ニナルト云フコトヲ心
配スル者デアリマス(拍手)其次ニ昨年ノ輪
入超過ガ六億圓ヲ算シタト云フコトハ、是
ハ一時ノ異例デアル、斯ノ如キ輸入超過ガ
年々アルモノデハナイト云フ如キ御意見ノ
ヤウニ承リマシタガ、成程昨年ノ輸入超過
ハ異例デアリマセウ、ソレガ異例デアルコ
トヲ私ハ希望致シマス、併ナガラ兎ニモ角
ニモ大正八年以來ノ我國ノ輸入超過ノ累計
ハ御水知ノ通リ二十七億八千三百万圓ノ
多キニ達シテ居リマス、此貿易ノ逆調ノ大
勢ト云フモノハ、サウ容易ニ恢復スルコト
ハムツカシイノデアリマス、之ヲ恢復スルガ
爲ニハ非常ナル努力ヲ要スノデアリマス、
是ニ於テ武藤君ノ御質問ニアリマシタ正金
銀行頭取ノ兒玉君ガ、我國ノ國際貸借上ノ
不足ハ約二億圓ト云フコトヲ發表致シテ居
ルガ、大藏大臣ハ此兒玉君ノ意見ヲ承認ス
ルヤ否ヤト云フ御質問デアッタ、洵ニ驚入。ツ
タ御質問デアリマス、正金銀行ノ頭取ガ如
何ナル意見ヲ發表シテ居ルカ、如何ナル觀
察ヲ公ニシテ居ルカハ政府ノ關スル所デア
リマセヌ(「ヒヤ〓〓」拍手)其次ノ御質問ハ、
今日ノ物價ノ騰貴ハ洵ニ國民生活上困ッタ
事デアル、此物價ノ調節ヲスルガ爲ニ、金
ノ輸出ヲ解禁スルコトガ適當デナイカト云
フ御意見デアリマシタ、是ハ他ノ機會ニ於テ
モ申述ベタト記憶致シテ居リマスガ、物價
問題ハ如何ニモ重要デアリマス、國民生活
上其他總テノ關係ニ於キマシテ、極メテ重
要ナル問題デアルニハ相違アリマセヌガ、
併ナガラ物價問題ハ國家問題ノ全部デハア
リマセヌ(拍手)一ノ物價問題ヲ解決スルガ
爲ニ金ノ輸出ノ解禁ヲ行ヒ、ツレニ依ッテ
經濟界ノ全體ヲ殆ト破壞的ノ慘害ニ導クト
云フコトハ、政府ノ今日ノ場合忍ビナイ所
デアリマス(拍手)其次ノ御質問ハ古來貨幣
ノ價格ガ下落シタ國ハ必ズ亡ビル、ソレ故
ニ此歴史上ノ慘害ヲ繰返サナイヤウニスル
ガ爲ニ、卽チ圓價恢復ノ爲ニ頻リニ金ノ解
禁ヲ爲スベシト云フコトヲ主張スル、斯ウ
云フ意味ノ御質問デアリマシタガ、是ハ餘
リ簡單ナ御意見、ソレニ向ッテ私ハ深ク御
答ノシヤウガナイノデアリマス、ソレ程簡
單ナ問題デナイカノヤウニ私ハ心得テ居ル、
(拍手)次ニ預金部改善案ニ付キマシテ御質
問ガアリマシタガ、是ハ法律案ノ委員會ニ
於キマシテ何レ詳細說明ヲ申上ゲル所ノ機
會ガアラウト思ヒマスルガ、英吉利、亞米
利加ノ狀態ガ如何ニナッテ居ルカト云フコ
トハ詳シク調査シタモノガアリマスケレド
モ、只今此席ニ持ッテ居リマセヌ、併ナガラ
英吉利、亞米利加ノ兩國ニ於テ預金部ノ金
ヲ放資スル所ノ證券ノ種類ト云フモノハ
一々其時々ノ議會ノ協贊ニ依ッテ決スルト
云フ如キコトハ恐ラクハアルマイト思フノ
デアリマス、假令外國ニ如何ナル例ガアリマ
シテモ、濫ニ外國ノ例ヲ傚フ必要ガナイノ
デアリマス(拍手)日本ニ於テ公然ト思フ所
ニ依シテ決定ヲ致シテ、少シモ差支ナカラウ
カト考ヘテ居リマス、其次ニハ特殊銀行ノ
整理、殊ニ朝鮮銀行ト臺灣銀行トヲ擧ケマ
シテ、之ヲ整理スルニ付テノ意見ヲ御尋ニ
ナリマシタ、此兩銀行ノ事柄ニ對シマシテ
ハ、政府ニ於キマシテモ從來調査ヲ繼續シ
テ居リマス、而シテ銀行自身ニ於キマシテ
モ、著々ト整理ヲ行ッテ居ル今日ノ實況デア
リマス、武藤君ノ御尋ニナリマシタ如ク、
發行權ヲ取上ゲテ日本銀行ニ移シテ、此二
ツノ特殊銀行ヲ普通ノ商業銀行トスル意志
ナキヤ否ヤト云フ御質問デアリマシタガ、
少クモ今日ニ於テハ左樣ナル考ハ持ッテ居
リマセヌ、其次ハ近頃政府ハ民間ノ實業ニ
干涉スルコトハ宜シクナイト云フコトヲ御
述ニナリマシテ、其例ト致シマシテ預金利
子ノ協定ト配當ノ減少、銀行ノ合同ノコト
ヲ御擧ゲニナリマシタ、此三ツハ孰レモ干
涉デハアリマセヌ、政府ハ相當ノ預金利子
ノ協定ガ圓滿ニ行ハルヽコトヲ希望致シ、
其行ハルヽコトヲ勸告ハ致シマスルケレドモ、
決シテ干渉ヲ致シテ居リマセヌ、銀行ノ合
同配當ノ減少亦同樣デアリマス、是ハ勸
告デアリマス、銀行自身ノ自發ニ俟ツベ
キモノデアリマシテ、政府ノ干涉ニ依ッテ
如何トモスルコトノ出來ナイモノデ、干渉
スル意思ハ毛頭持ッテ居ナイノデアリマス、
唯、武藤君ト或ハ意見ノ相違ニナルカ知リ
マセヌガ、武藤君ハ銀行其モノヽ合同ニ反
對セラレタノデアリマス、是ハ私ノ意見ト
ハ全ク違フ、今日日本ノ銀行ハ本店ダケデ
モ御水知ノ通リ殆ト二千ヲ算スル、支店ヲ
合セマスレバ五千ニ近イノデアリマス、斯
ノ如ク多數ノ銀行ガ、今日ノ日本金融機關
トシテ存在スルト云フコトガ必要デアリマ
セウカ-絕對ニ必要デアリマスルカ、私
ハー左樣ニハ考ヘテ居ナイノデアリマス、其
必要デナイ所ノ銀行、而モ小銀行、弱イ銀
行ガ多數ニ存在ヲシテ居ルト云フニトガ
我國ノ金融機關ノ組織ノ薄弱デアルト云フ
證據デアリマス(拍手)斯ノ如ク薄弱ナル銀
行ノ組織ヲ持ッテ居ルト云フコトノ爲ニ、一
朝經濟界ニ激變ノ來タ場合ニ於キマシテ、
其多數ノ小銀行ハ經濟界ノ逆調ノ潮流ニ支
ヘル所ノ力ガ弱イノデアリマス、カガ弱イ
結果トシテ到ル處ニ破綻ヲ起シ、金融界ノ
一角ニ起ッタル所ノ破綻ハ、延テ金融機關ノ
組織ノ全體ニ及ボシ、經濟界ニ向ッテ言フ
ベカラザル所ノ害毒ヲ流スト云フコトハ
今日ニ至ルマデ屢、御互ニ遭遇シタ所デア
リマス(拍手)故ニ斯ノ如キ基礎ノ薄弱ナル
全融機關ヲ整理致シ」マシテ銀行ノ合同ヲ
ほうと、基礎ノ鞏固ナル少數ノ銀行ニ依ッテ
我國ノ金融ヲ支配セシムルコトニスルコト
ガ、將來ノ事業ノ發展、產業ノ發達ノ爲ニ
モ極メテ望マシイ所デアルト政府ハ確信ヲ
致シマス(拍手)其次ニハ贅澤品ノ關稅、是ハ
政府ニ於テ改正ノ意思アリヤ否ヤト云フコ
トデアリマシタ、目下政府ニ於テ改正ノ必
要ノ有無ニ付テ調査中デアリマス、マダ材
料ガ十分ニ揃ヒマセヌガ、材料ガ揃ヒマシ
タナラバ、改正ノ意見ヲ附シテ議會ニ提案
ヲスル運ビニナルカ知レヌト思ヒマス、最後
ノ御質問ハ法人竝ニ個人ノ納稅額ヲ公表ス
ルコトハ納稅思想ノ涵養/爲ニ必要ト考
ヘルガドウカト云フコトデアリマシタ、是
ハ米國ニ例ガアルト云フコトヲ御話ニナリ
マシタガ、米國ニ於テハ或ハ成績ヲ擧ゲテ
居ルカ知リマセヌガ、此自分ノ財產竝ニ自
分ノ所得ニ對スル祕密ヲ嚴守スル觀念ノ極
メテ强烈ナル所ノ日本ノ國情ニハ此遣方
ハ適應シナイモノト思ヒマス、仍テ左樣ナル
考ヲ持ッテ居リマセヌ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=39
-
040・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 廣岡宇一郞君
〔廣岡宇一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=40
-
041・廣岡宇一郎
○廣岡宇一郞君 本員此演壇ニ立ッテ、時
ノ政府當局ト言論ノ應酬ヲ爲シタルコト數
年デアリマス、而モ今ヤ最近ニ於ケル政府
ノ質問應答ノ結果ヲ見テ、默シテ已ムベカ
ラザルモノガアルノデアリマス、玆ニ數項
ニ涉ッテ最モ簡單率直ニ政府所信ノ在ル所
ヲ伺ヒタイト思フノデアル、此質問ヲ爲ス
前ニ當ッテ、豫メ憲政會出身ノ閣臣、特ニ
加藤首相ニ對シテ一言警告ヲ爲シテ置カナ
ケレバナラヌ事ガアル(拍手)加藤首相ガ議
員ノ質問ニ對スル答辯ハ極メテ誠意ヲ缺イ
テ居ル、徒ニ片言隻語ヲ捉ヘテ末節枝葉ニ
亙リテ、質問ノ本旨ニ副ウテ質問者ノ了解
ヲ求ムルコトニ努メテ居ラヌ、甚シキニ
至ッテハ與黨少數ノ人ノ質問無用ト云フ聲
ニ聲援ヲ得テ、再質問ノ時ニ至シテハ答辯
セザルコトガ甚ダ多イノデアル(拍手)殊ニ
其態度ニ至ッテハ私ノ遺憾トスル點ガ甚ダ
尠カラヌノデアリマス、去ル二十二日ニ加
藤首相ガ此演壇ニ立タレテ居ルトキニ、議
場ニ笑聲ガアッタカ知リマセヌガ、議場ニ
笑聲ヲ聞クコトハ甚ダ遺憾デアルト言ハレ
テ居ル、成程遺憾デアリマセウ、併シ加藤
君自身ハドウデアル、高見君ノトキニモ、
木下君ノトキニモ、先刻ノ武藤君ノ演說ノ
トキデモ、隣席ノ幣原君ト私話ヲ交換シ、
冷笑ヲ以テ迎ヘテ居ルヤウナ例ハ澤山アル
デハナイカ、人ヲ責ムルコト嚴ニシテ己ヲ
待ツコト甚ダ寛デアル、斯ノ如キハ啻ニ誠
意ヲ缺クノミナラズ、不謹愼且ツ無禮ナリ
ト謂ハナケレバナリマセヌ、斯ノ如クニシ
テ加藤首相ハ貴族院ヨリモ嚴重ナル警告ヲ
受ケヲ居ル、新聞ノ報ズル所ニ依レバ、貴
族院ノ警告ヲ受ケテ各議員控室ヲ廻シテ諒
解ヲ得タト云フコトデアルガ、足一タビ衆
議院ニ來レバ、依然トシテ舊態ヲ保持シテ
居ルノデアル、私ハ加藤君ガ堂々タル帝國
ノ宰相トシテ、此點ニ付テ深ク留意ヲ求ム
ルノデアル、國民ハ過ヲ改メザル人ヲ頑冥不
靈ト言ッテ居ル、加藤首相ニ此頑冥不靈ノ
文字ガ適用ガ出來ルカ出來ヌカハ本員今此
處デ言明致シマセヌ、併ナガラ加藤首相自
身ハ少クモ此點ニ付テ深甚ナル注意ヲ拂ハ
ナケレバナラヌノデアル、故ニ本員ノ質問
ニ對シテハ不誠意不謹愼、若クハ無禮ノ言
動ハ斷ジテ之ヲ許サヌノデアル(拍手笑聲
起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=41
-
042・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜肅ニ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=42
-
043・廣岡宇一郎
○廣岡宇一郞君(續) 加藤首相ニ質問ヲ致
シタイ事ガアル、去ル二十四日ノ高見君ノ
質問應答ニ關係ヲ致シテ居リマス、併ナガ
ラ質問ノ趣意ハ高見君ノ趣意トハ大ニ異ッ
テ居リマスカラシテ、此點ニ御留意アラン
コトヲ希望致シマス、高見君ノ質問ノ要旨
ハ洵ニ滔々數千言デアリマス、併シ之ヲ要
約スレバ、時ノ警視總監湯淺倉平君、此人
ガ懲戒免官ノ處分ヲ受ケテ、其後ニ至ッテ
優渥ナル恩命ニ接シタ、此人ヲ直ニ重要ナ
ル大官ニ任用スルコトヲ奏請シタノハ國
民精神ニ惡影響ヲ及ボスガドウデアルカ、
此問題ヲ解決スルコトニ於テ私ハ此質問ヲ
爲スノデハナイ、之ニ就テ加藤總理ノ答辯ハ
差支ガナイト云フノデアルガ、私ハ此處デ
一ツ御聽ヲシナケレバナラヌノハ、一體此
湯淺ト云フ人ヲ總理ガ內務次官ニ任用スベ
ク奏請シタ當時ニ於テ、加藤首相ハ湯淺ト
云フ人ノ位置、其所在ヲドウ認メテ居ッタ
カ是ガ一ツノ問題デアル、總理ノ答辯ヲ見
マスルト云フト當時ノ湯淺君ヲ斯樣ニ見テ
居ル、卽チ「優渥ナル恩命ノ爲ニ其責ヲ免
レテ奇麗ナ人トナッタノデアリマス」湯淺
君ヲ此恩命ノ爲ニ立派ナ人トナッタト認メ
テ居ルガ、加藤總理ハ昨年一月二十六日ノ
官吏懲戒、又ハ懲罰ノ減免ニ關スル勅令ノ
效力竝ニ性質ヲ如何ニ解釋サレテ居ルカ、
此勅令ニ依ル卽チ優渥ナル恩命ヲ受ケテド
ウシテ湯淺君ガ奇麗ナ立派ナ人ニナッテ居ル
カ、憲法ニ謂フ所ノ大赦ナルモノトハ全然
其性質ヲ異ニシテ居ルノデアル、故ニ此恩
命ガアリマシテモ、湯淺君ノ前非ト云フモ
ハ(此時發言スル者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=43
-
044・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 生方君ニ注意シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=44
-
045・廣岡宇一郎
○廣岡宇一郞君(續) 此恩命ガアリマシテ
モ、湯淺君ノ前非ハ決シテ消滅シテ居ルモ
ノデハナイ、此根本ガ卽チ此問題ヲ解決ス
ベキ基本デアルノデハナイカ、之ニ付テ總
理ハ如何ナル考ヲ持ッテ居ラレルカ、憲法ニ
所謂大赦ニ依シテ一切ノ前非ハ消滅スルモ
ノデアルト云フ考デアルナラバ過デアル、
本員ヲシテ更ニ一步ヲ進メテ論ゼシムルナ
ラバ、總理ハ本日此處ニ於テ釋明ヲ致シテ
居ル、併シ此釋明ハ後日ニ至ッテ强辯人ヲ
欺クモノデアルト言ッテ差支ナイ、高見君ノ
質問ニ對スル答辯ハ何ト言ッテ居ル「只今高
見君ヨリ云々質問ガアッタ但シ其適用ニ付
キマシテ現内務次官湯淺倉平君ノ任命ノコ
トニ御當テニナリマシタコトハ少々間違ン
テ居ルヤウニ思フ」卽チ懲戒免官ノ人ヲ任
命シタト云フ質問ニ對シテ、是ハ間違ッテ
居ルノデアル、アノ人ハ責任ヲ感ジテ辭職
ヲシタノデアル、所ガ其後ニ於テ辭職デナ
イ懲戒免官デアルト云フ事實ガ分ッテ來タ
カラ、今日釋明シタノデアル、少クモ此答
辯ヲ爲ス當時ニ於テハ、加藤君ノ頭ニハ懲
戒免官ト云フ事實ハ無カッタノデアル、更
ニ進ンデ言ヘバ、此奏請當時ニ於テハ、加
藤君ガ先刻言ッタ言葉ノ言外ニ現レテ居ル
卽チ「私ハ其當時ハ職ニ居ナカッタ、居ナ
カッタガ辭職ヲシタト云フ話ハ聞イテ居ッ
タ」ト斯樣ニ言ッテ居ル、此奏請ノ當時ニ於
テ懲戒免官ノコトハ加藤君ノ頭ニ無カッタ
ト云フコトハ、洵ニ明瞭ニ推定ガ出來ルノ
デアル、而シテ今日ニナッテ斯樣ナ事ヲシ
テモ不都合ガナイト思ヒマスト言フ、當時
ニ於テ懲戒免官ト云フコトガ加藤君ノ腦中
ニ無イニ拘ラズ、不都合デアルカ不都合デ
ナイカト云フコトヲ考慮スルノ餘地ガ何所
ニ在ルカ、斯ノ如キ不用意ナル有樣ヲ以テ
此重大ナル奏請ヲ爲スト云フ不謹愼ノ狀態
ニ於テ、陛下輔弼ノ責任ガ盡セリト思フ
ノデアルカ(拍手)更ニ他ノ點ニ付テ伺ヒタ
イ加藤君ハ斯樣ニ言ハレテ居ル、此優渥ナ
ル恩命アリタルニモ拘ラズ、其人ニ罪ガア
ルヤウニ扱ッテハ恩命ヲ空シウスルモノデ
アル、誰ガ罪ガアルヤウニ扱ヘト言ッタ、
身ハ國家ニ對シテ重大ナル責任ガアルノ
デアル、或ル行爲アッテ職ヲ辭セントシ
ク、其責任ヲ免レントシテ辭職ノ申出ヲシ
タノデアル、大抵ノ場合ナラバソレガ御聽
屆ニナッテ濟ムベキデアルガ、此辭職ノ申
出ヲ御許シニナラズシテ、文官分限令ニ依ッ
テ懲戒ノ處分ヲ受ケタトスレバ、其事態ノ
重大ナルコトハ問ハズシテ明デアル、臣子
タル者ハ謹愼ニ謹愼ヲ重ネテ居ラナケレバ
ナラヌ、假令優渥ナル恩命ガ下リマシテ
モ、更ニ一段ノ謹愼ヲ加ヘテ、皇恩ノ厚キ
ニ感泣ヲスルノガ當然ノ事デアル(拍手)當
時ノ山本内閣デサヘモ辭表ヲ捧呈シタ時
ニ、優渥ナル御諚ガアッタヤニ承ッテ居ル、
然ルニ若シ此優渥ナル御諚ヲ空シクシテハ
相濟マヌト言ッテ辭職ヲシナカッタナラバ、
立憲政治ノ下ニ於ケル政治家ハ如何ナル非
難ヲ受ケルノデアルカ、殊ニ加藤總理ハ非
常ニ深切ナヤウニ言ッテ居ルケレドモ、當
時此湯淺君ノ配下ニシテ警視廳ニ居ッタ所
ノ人ガ同ジク懲戒免官ニナリ、同ジク後ニ
恩命ニ接シタ人ガアルケレドモ、是等ノ人
ハ下級ノ人デアル、下級ノ人デアッテ恩給
年限ノ權利モ剝奪サレテ、今ヤ憫ムベキ狀
態ニ在ルニモ拘ラズ、之ヲ見殺シニシテ抛ッテ
アルノハ、卽チ恩命ヲ空シウスル所以デハ
ナイカ、一湯淺君ニ對シテハ之ヲ許サナケ
レバ恩命ヲ空シクスルト言ウテ、他ハ顧ミ
ナイト云フハ何タル事デアル、殊ニ加藤君
竝ニ若槻君ノ如キハ湯淺君ト云フ人ヲ用チ
ナケレバ、何カ我ガ內務ノ政務ガ舉ラヌ、
練達堪能ノ人デアルトカ、得難イ人物デア
ルトカ言ッテ居ル、何タル不仕鱈ナコトヲ
言フノデアル、日本ノ廣キ、人材ノ多キ、
一内務次宦ヲ得ルニ何ノ苦ム所ガアルノデ
アルカ、畢竟是ハ加藤君ナリ、若槻君ナ
リ、廣ク人材ヲ求ムルコトヲセズシテ、自
己ノ身邊ヨリ人ヲ集メ、所謂門黨相寄ッテ
政權ヲ私スルノデアルト思フ、日本ニ於
テ一内務次官ヲ得ルノニ湯淺君以外ニ無シ
ト云フ、眼孔ノ小ナルコト驚クニ絕エタリ
ト謂フベキデアル、ノミナラズ他面ヨリ言
へ、斯ノ如キハ洵ニ我ガ日本國民ヲ侮辱
スルモノデアルト私ハ斷言シテモ差支ナイ
ト思フ、此點ニ付テ加藤首相如何ナル所信
ヲ持タレルカ、更ニ私ハ新ナル事實トシテ
首相ニ御尋ヲシナケレバナラヌ、卽チ此湯
淺君ノ問題ハ昨年任用シタリト云フ事實ニ
關係スルノデハナイ、此任用ヲシタリト云
フ事柄ガ、昨年以來議會ノ問題トナリ、本
年モ亦問題ニナッテ連日ニ亙シテ議院ニ於テ
討論ヲ致シテ居ル、而シテ政府之ニ耳ヲ傾
ケザルノミナラズ當ノ湯淺君ハドウシテ居
ルカト云ヘバ、何ノ辯解ヲモ與ヘズ、默々
トシテ其日ヲ送ッテ居ル、官職ニ戀々トシ
テ執著·心ノ强キコト驚クニ絕エタルモノデ
アル、湯淺君ハ山口縣ノ人デアル、アノ事
件ノ犯人ハ山口縣デアル、山口縣〓有會ノ
會長モ村長モ皆ナ職ヲ辭シテ、サウシテ謹
愼ノ意ヲ表シテ居ルノニ、當ノ山口縣ノ湯
淺君ガ獨リ平然トシテ其職ニ安ンジテ居
ル、こ唯、此新ナル事實ガ如何ニ國民精神ノ
上ニ影響ヲスルカト云フ此一端ヲ考慮シナ
ケレバナラヌノデアル、之ヲ徒ニ强辯ヲ弄
シテ何等不都合ナシト斷ズルニ至ッテハ、
餘リニ政治家トシテノ責任ノ輕キヲ感ゼザ
ルヲ得ナイノデアル、總理ハ尙ホ此點ニ付
テモ何等國民ノ思想ニ影響ナシト信ズル
カ、次ニ濱口君ニ御尋致シタイ事ハ、矢張櫻
內君對濱口君ノ質問ニ關係スルノデアリマ
ス、是モ先刻加藤首相ニ申シタノト同ジク
本員ノ質問ハ其趣意ガ違フノデアル、是尺
特ニ御注意ヲ願シテ置キタイ、濱口君ハ櫻
內君ノ質問ニ對シ、特ニ金輸出解禁ニ對ス
ル質問ニ對シ答辯ヲ爲シ夕後ニ於テ、斯ノ
如キ經濟上ノ重大ナル問題ヲシテ、政黨政派
ノ政治上ノ爭ノ道具ニ供スルコトノナイヤ
ウニシタイト言ッテ居ル、尤ノ事デアラウ
ト思フ、併ナガラ此言葉ハ只デナイ、苟
モ此文字ヲ讀ム者眼光紙背ニ徹スル者ハ、
是ハ櫻內君ニ當テコスリヲ言ッタモノデ
アルト思フノハ當然デアル、或ハ吉植君ヤ
櫻内君ノ辯論ニ對抗シタル言葉ト謂ハナケ
レバナラヌ、如何ニモ金輸出解禁ノ問題ハ、
我ガ國家ノ當時ノ重要ナル問題デアル、
卽チ最近ニ於テ數年ニ亙。テ朝野ノ學者、
竝ニ實際家ガ此點ニ付テ論及シテ居ル事柄
モ亦爭フベカラザル事實デアル、此時ニ
當ノテ最モ國民生活ニ直接關係ヲ有スル經
濟上ノ大問題、之ヲ議會ニ於テ論難攻究ス
ルニ何ノ不都合ガアル、之ヲ以テ政爭ノ具
ニ供スルモノデアルト言フノニハ、他ニ何
等カノ理由ガナケレバナラヌ、本員ハ此點
ニ付テ如何ナル御考デアルカ、濱口君ガ第
四十六議會ノ當時、卽チ在野ノ當時ニ於テ
同ジク金輪出解禁ニ論及シテ居ル、而シテ
時ノ政府ガ濱口君ノ意見ヲ贊成セザル時ニ
當ッテ、今日ノ政府ガ吉植君ナドカラ攻擊
サレテ居ルヤウナコトヲ言ッテ、時ノ政府
ヲ攻擊シテ居ル、然ルニ濱口君ハ-私ハ
當時ノ濱口君ヲ以テ、金輸出解禁問題ヲ政
爭ノ具ニ供シタルモノト見テ居ラナカッタ、
所ガ今ヤ變說改論ヲシテ金輸出解禁ニ反對
スルノ態度ヲ執ッテ居ル、卽チ他人ヲ政爭
ノ具ニ供スルト云フ濱口君ハ、自己ノ變說
改論ノ跡ヲ蔽ハンガ爲ニ、故ラニ此言ニ藉ッ
テ、議院ニ於ケル言論ノ壓迫ヲ試ミルモノ
ト謂ハナケレバナラヌ(拍手)若シ本員ヲシ
テ率直ニ言ハシムルナラバ、此金輪出問題
ヲ以テ政治上ノ爭ニ供シタリト云フナラ
バ、ソレハ濱口君自身デアラネバナラヌ
濱口君ハ曩ニ野ニ在ッテ政權ヲ得ルガ爲ニ
ハ金輪出解禁ヲ論ジ、一タビ政權ヲ得レバ
金輸出解禁ニ反對ノ意見ヲ述ベ、政權ヲ得
ルガ爲ニハ積極的ニ之ヲ利用シ、政權ヲ失
ハザランガ爲ニハ消極的ニ之ヲ利用シ、積
極消極雨方面カラシテ此金輪出解禁ノ問題
ヲ政爭ノ具ニ供シテ居ル者ハ、濱口君御自身
デアルト謂ハナケレバナラヌ(拍手)之ヲモ
顧ミズ、厚顏ニモ此演壇ニ登クテ、他人ノ言說
ヲ捉ヘテ政爭ノ具ニ供スル、能クモ左樣ナ
言葉ガ君ノ口カラ出タモノデアル、之ニ對
シテ濱口君ハ如何ノ所信ヲ持ッテ居ルカ、
更ニ第二ニハ金ノ-地金拂下價格引上ニ
關スル事柄ニ付テ-是モ私ハ同ジク此問
題ヲ論究スルノデハナイ、此問題ニ關シテ
濱口君ハ斯樣ニ言ウテ居ル、斯ノ如キ重大
ナル問題ハ矢張是ハ愼重ノ考慮ヲ以テ同
ジク政治上ノ意味合ト云フコトヲ含ンデ居
ルモノト本員ハ解釋シテ居ル、故ラニ此議
會ヲ通ジテ六千万國民ニ愬ヘテ居ル、此事
柄ハ去ル二十二日ニ於テ吉植君ヨリシテ質
問ヲ發シマシテ、斯ノ如キ政策ハ我國ノ兌
換制度ノ根柢ニ疑ヲ起サシムルモノデアル
ト論及ヲシテ居ルノデアル、濱口君ハ國民
ニ對シテ希望ヲ、述ブルト同時ニ斯樣ニ言ッ
テ居ル、日露戰爭ノ時ニハ皆ナ我ガ日本ノ
國民ハ簪ヲ持ッテ行キ、指輪ヲ持ッテ行ッテ
貨幣制度ノ基礎ノ鞏固ニ努メタノデアル、
然ラバ今日ノ國民ハ尙ホ日露戰爭ノ當時ノ
國民ト同ジ國民デアル、此間ニ日本ノ國民
ノ國家ニ對スル觀念ニ毫末ノ差異アリト私
ハ信ジテ居ラヌ(拍手)日露戰爭ノ當時ニ於
テ貨幣制度ニ斯ノ如キ忠實ナル、兌換制度
ニ斯ノ如キ忠實ナル、國家觀念ニ旺盛ナル
國民ガ-此問題ハ今日豫算委員會ニ於テ
や、亦此處デ武藤君モ述べラレタカラ、私
ハ深クハ言ハヌガ、斯ノ如キ問題ガ玆ニ起、ツ
テ居ルノニモ拘ラズ、同ジ日本ノ國民ガ今
囘ニ於テハ兌換制度ノ基礎ニ疑ヲ懷イテ、
日本銀行ヘ兌換ノ要求ヲ爲ス者頻々タルモ
ノアリト云フニ至ッテハ、是ハ何ガ故デア
ルカ、之ヲ國民性ニ求ムルト云フコトハ國
民ヲ責メルノ甚シキモノデアル、是ハ我國
ノ國民ガ啻ニ日露戰爭ノ當時デハナイ、今
日ト雖モ一國ノ狀態ガ自然ニ兌換制度ノ基
礎ニ影響ヲ及ボスコトガアレバ、如何ナル
犧牲ヲ拂ッテモ此制度ノ根本ヲ擁護スルニ
吝ナルモノデハナイ、唯、誤レル政府ノ政
策ニ依シテ兌換制度ノ根本ニ影響ヲ來ス場
合ニ於テハ、日露戰爭ノ時ト比較シテ如何
ニ國家ニ對スル觀念ガ强クトモ、之ヲ犧牲
トシテ加藤內閣ヲ擁護スルダケノ雅量アル
國民デハナイ(拍手)デアルカラシテ此警告
ヲ爲サント欲スルナラバ、先以テ御自身ガ
自己ノ政策ヲ改メルノガ當然デハナカラウ
カ、此政策ヲ固持シテ强テ國民ニ强要シ、
國民ヲ强制シ、而シテ自己政第ノ援護ニ努
メシメントスルガ如キハ誤レルノ甚シキモ
ノデアル(拍手)之ニ對スル濱口君ノ所信ハ
如何デアルカ、終リニ蒞ンデ一言致シテ置
〃、濱口君ハ御答辯ノ外ニ、此議場ヲ通ジ
テ六千万國民ニ對シテ或ル希望ヲ述ベタ、
本員モ六千万國民ヲ代表シテ此議場ヲ通ジ
テ政府當局ニ希望ヲ述べテ置キタイ、第
ノ希望ハ、內務次官湯淺君ハ速ニ其職ヲ辭
シテ謹愼ノ意ヲ表シ、以テ國民ノ精神狀態
ノ安定ニ資センコトヲ希望スル(拍手)第二
ノ希望トシテハ、濱口君ハ速ニ其誤レル政
策ヲ抛タレンコトヲ希望スル、此政策ヲ抛
ツコト能ハズンバ、速ニ其職ヲ辭シテ天下
ニ謝サレンコトヲ希望スル(拍手)玆ニ濱口
君ガ議場ヲ通ジテ國民ニ爲シタル希望トア
ベコベニ、本員ハ國民ヲ代表シテ此議場ヲ
通ジテ政府ニ希望ヲ述べテ置ク次第デアル
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=45
-
046・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 加藤總理大臣
〔國務大臣子爵加藤高明君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=46
-
047・加藤高明
○國務大臣(子爵加藤高明君) 只今廣岡君
ノ御尋ニナリマシタ事ハ(此時發言ス
ル者多シ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=47
-
048・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=48
-
049・加藤高明
○國務大臣(子爵加藤高明君)(續) 御尋ニ
ナリマシタ事柄ハ、先日私ハ御答致シマシ
タガ、稍、言葉ニ不足ガアッタカ、行違ガ
生ジタト云フコトモ承リマシタカラ、本日
更メテ意味ヲ補足シテ釋明致シテ置キマシ
タ、只今廣岡君ノ御尋ガアリマシタガ、前
ノ御尋ト同ジ事デアリマスカラ、別段答辯
致シマセヌ(「ヒヤ〓〓」拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=49
-
050・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 濱口大藏大臣
〔國務大臣濱口雄幸君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=50
-
051・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 只今ノ御質問ニ
對シテ御答ヲ致シマス、第一ノ御質問モ第
二ノ御質問モ、失禮ナガラ私ノ言フ趣意ヲ
誤解ナサレテ居ル、速記錄ヲ能ク御覽ニナ
レバ明瞭デアラウト思フ、是ハ櫻内君ニ對
スル答辯ハ既ニ終ッタ-終ッタト云フコト
ヲ私ハハッキリ申上ゲテ、此機會ニ於テ自
分ノ所感ヲ一言申上ゲタイト云フコトヲ冒
頭ニ申述ベテ居ルノデアリマス、卽チ第一
節ヲ讀ンデ見マスレバ「金ノ輸出ヲ解禁ス
ベキヤ否ヤト云フ如キ問題ハ國民經濟上極
メテ重大ナル問題デアリマス」是ハ御異存
ハアリマスマイ、ソレカラ「政黨政派ヲ超
越シタル所ノ純乎タル經濟上ノ大問題デア
リマス」是モ御異存アリマスマイ、「此大問
題ニ付テ御互ニ立法府ト致シマシテ意見ヲ
交換シ討論ヲ重ネルト云フコトハ政府ニ於
テモ最モ希望スル所デアリマス」卽チ斯ノ
如キ重大ナル問題ニ付テ御互ニ此立法府ニ
於テ十分ニ意見ヲ交換シ、討論ヲ重ネルト
云フコトハ政府ノ最モ希望スル所デアリ
マスト云フコトヲ申上ゲテ居ル「併ナガラ
政府ガ吳々希望スル所ノモノハ願クバ斯ノ
如キ經濟上ノ重大ナル問題ヲシテ政黨政派
ノ政治上ノ爭ノ道具ニ供スルコトノナイヤ
ウニシタイ」ト云フノデアリマス(拍手、
議場騒然)答辯ハ最後マデ御聽キ願フコト
ヲ希望致シマス、ソレカラソレニ引續キマ
シテ斯樣ニ申述べテ居リマス、「是ハ私ノ將
來ニ向ッテ希望ヲ申述べルニ止マルノデア
リマス」斯樣ニ明ニ申シテ居リマス、只今
廣岡君ノ御質問ヲ承ッテ居リマスレバ、或ハ
私ガ斯樣ニ申シタコトハ、吉植君ノ御質問
若クハ櫻内君ノ御演說ニ對シテ政爭ノ具云
云ト云フコトヲ申シタヤウニ誤解サレ居リ
ヤセンカト思フ、私ハ吉植君ノ御演說モ櫻
内君ノ御質問モ共ニ此問題ニ付テ十分ニ御
〓究ヲ積マレタ所ノ立派ナル御質問デアル
ト拜承致シテ居ッタノデアリマス、此兩君
ノ御演說ヲ以テ政爭ノ具ニ供シタリト云フ
考ハ毛頭持ッテ居ナイ、ソレ故ニ···
〔議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=51
-
052・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜靜ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=52
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053・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君)(續) ソレ故ニ
「是ハ私ノ將來ニ向ッテノ希望デアリマス」ト云
フコトヲ申述ベテ居リマス、將來ニ向ッテ
ノ希望ヲ申述ベルト云フコトヲ態ヒ申上ゲ
テ居ルノデアリマス、此點ハドウカ誤解ノ
ナイヤウニ希望致シマス、私ハ御互ニ此立
法部ニ於テ政治家トシテ意見ヲ交換シ討論
ヲスル上ニ於テ、言葉ノ端ヲ捕ヘテ御互ニ議
論ヲスルト云フコトハ好ミマセヌ、私ハ決
シテ廣圖君ノ御話ノ如キ趣意ヲ以テ申シタノ
デハナイト云フコトヲ明瞭ニ申シテ置キマ
ス、ソレカラ是ハ御質問カドウカ分リマセ
ヌガ變說改論云々ノコトガアリマシタ、是ハ
御質問デアリマスカ或ハ御批評デアリマス
カ、御質問デアレバ御答辯ヲ致シマス····
〔廣岡宇一郞君「政爭ノ具ニ供シタノ
ハ濱口君自身デアル、斯樣ニ考ヘルガ
ドウデアルカ」ト呼フ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=53
-
054・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 私ガ在野ノ時ニ
於テ、卽チ大正九年若クハ十年ノ頃ニ於テ
金ノ輸出解禁論ヲ主張シタコトハ事實デア
リマス、凡ン經濟上ノ政策ハ其當時ノ內外
ノ經濟上ノ情勢ニ依ッテ意見ヲ決メルベキ
モノデアリマス、金ノ輸出ヲ禁止スルカ或
ハ解禁スルカト云フ如キ問題ガ、是ガ一定
不易萬世不變ノモノデハアリマセヌ(拍手)
吾々ガ金ノ輸出ノ解禁ヲスベシト云フコト
ヲ主張シタ大正九年若クハ大正十年ノ當時
ニ於テ、諸君ハ日本ノ對米爲替ノ相場ハ幾
ラデアッタト御記憶ニナッテ居リマスカ、其當
時ノ爲替相場ハ四十八弗半デアッタノデア
リマス、四十九弗ノ平價ニ對シテ四十八弗
半、其差ハ僅ニ百分ノ三デアッタノデアリ
マス(拍手)其當時ノ貿易ノ差額ハ如何デ
アッタカ、無論輪入超過デハアッタケレド
モ、ソレデモ輸入超過ノ金額ハ精々二億圓
若クハ三億圓デアッタノデアリマス、諸君
大正九年若クハ十年カラ四五年ヲ隔テタル
今日ニ於テ、內外ノ經濟事情ハ如何ニ變化
シタト諸君ハ御覽ニナッテ居ルカ、今日ノ爲
替相場ハ御承知ノ通リ諸君ガ屢〓攻撃ニ使
ハルルガ如ク三十八弗二分ノ一デアリマス
ゾ、其平價ヲ距ルコト二割一一分七厘デアリ
マス(拍手)斯ノ如キ爲替相場ガ平價カラ非
常ナル懸隔ノアル時ニ於テ、一擧ニシテ金
ノ輸出解禁ヲ卽時斷行スルコトハ、餘リニ値
段ガ違フカライケナイト云フコトヲアナタ
方ノ總務タル吉植君ガ言ッテ居ル、吉植君
ノ御意見ハ今日ノ豫算總會ニ於テ私ハ承ッ
タノデアリマス、卽チ吉植君ノ御意見ハ卽
時解禁ニアラズシテ期限附ノ解禁デアッタ
ノデアリマス、其期限附ノ解禁ヲ主張セラ
レタル所ノ理由ハ、現在ノ爲替相場ガ平價
ト餘リ懸隔ガ甚シイガ爲ニ卽時解禁ハ不利
益デアルト云フ御意見デアッタヤウニ私ハ
承知ヲ致シマス、卽チ內外ノ貿易ノ情勢カ
ラ申シマシテモ、爲替相場ノ變動ノ狀態カ
ラ言ヒマシテモ、吾々ガ金ノ輸出解禁ヲ主
張シタル所ノ大正九年十年ハ一昔ノ感ガア
ルノデアリマス、此時代ノ趨向ヲ察スルコ
トナクシテ、政治家ガ一度唱ヘタル所ノ政
治上ノ政策ガ如何ニモ柱ニ膠スルガ如キモ
ノデナクテハナラヌト云フ考ヲ以テ他人ノ
政策ヲ批評致シ、甚シキハ此議場ニ於テ私
ニ向テテ辭職ノ勸告ヲスルト云フ如キハ洵
ニ驚入ッタル話デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=54
-
055・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 廣岡宇一郞君
〔廣岡宇一郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=55
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056・廣岡宇一郎
○廣岡宇一郞君 本員ハ加藤君ノ演說
ガ-答辯ガ大抵斯樣ナ程度ノモノデアラ
ウト初メカラ憂ヘタガ故ニ、シレデ以テ先刻
警告ヲ與ヘタ、然ルニ平然トシテ同一ノコ
トヲ繰返ス、厚顏ニ至ッテ極マレリト言ハ
ナケレバナラヌ、濱口君ハ唯其聲ヲ大ニシ
其言葉ヲ長クシテ居ルガ、何等要領ヲ得テ
居ラヌデハナイカ、故ニ本員ハ斯ノ如キ人
ヲ相手ニシテ何時マデモ質問ハ續ケマセ
又、今日ノ辯論ヲ公開シテ徐ニ國民ノ判斷
ヲ受クルニ遲シトシナイ、而モ唯是ニ於テ
一ツノ明白ナル事實ヲ得タコトハ本員甚ダ
愉快デアル、卽チ加藤君ト云ヒ、濱口君ト
云ヒ、責任有ル立憲政治家トシテノ資格ニ
甚ダ乏シキモノデアルト云フ事實ヲ得タコ
トデアル、此點ニ滿足ヲシテ本員ハ此演說
ヲ終了スル次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=56
-
057・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 議事進行ニ關シテ發
言ヲ求メラレテ居リマス、吉良元夫君
〔吉良元夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=57
-
058・吉良元夫
○吉良元夫君 私ハ議事ノ進行ニ付テ發言
ヲ求メタノデゴザイマスルガ、此議事進行
ニ付テ發言ヲ求メマシタル冐頭ニ於テ多少
前提ト致シマシテ-只今廣岡君ヨリ首相
及藏相ニ對シテ御質問ニナッタノデアリマ
スルガ、藏相ハ多少御答辯ガアッタノデア
リマスガ、遺憾ナガラ其答辯ハ吾々滿足ハ
致シマセヌケレドモガ、認メマス、首相ニ
至ッテハ同一事ニ對シテ再ヒ辯明スル必要
ナシトシテ御谷辯ヲ御避ケニナッタノデア
リマス、私ハ謹嚴ナル首相ニ對シテ揚足取
ヤ何カハ決シテ致シマセヌ、私ハ二十四日
ノ首相ノ御演說ニ對シマシテ本日開會劈頭
ニ於テ、成程前日ノ御發言ニ對スル御釋明
ガアッタノデアリマス、併ナガラ其御釋明タ
ルヤ決シテ自ラ悔ヒテ前言ヲ改メルト云フ
ヤウナル御態度デハナイノデアル、其御態
度デナイノモ姑ク忍プベシト致シマスルガ、
私ハ先日ノ二十四日ニ御述べニナリマシタ
ル御言葉ト-此御言葉ヲ決シテ御咎メ申
スノデハナイノデアル、御言葉ハ御咎メ申
上ゲマセヌケレドモガ、首相ニハ懲戒免官
ニナッタ者デモ、陛下ガ-陛下デハアリ
マセヌ攝政宮殿下ガ之ヲ御寬恕ニ相成ッ
タル以上ニ於テハ、何等遠慮スヘキモノデ
ハナイト云フ御精神デアル、所ガ私ハ左樣
ニ考ヘヌノデアリマス、苟モ陛下ガ御寬
怒ニ相成リマシテモ、日本帝國ノ國體トシ
テ、臣民ノ分トシテ、此虎ノ門事件ノ警戒
ニ於キマシテ十分ナル警戒ヲ爲ス能ハズシ
テ、斯ノ如キ我ガ三千年ノ歷史ニ未曾有ナ
ル大汚點ヲ印シタ如キコトヲ仕出カシタ人
ヲ-マダ生々シイノデアル、ソレガ一年
經ツカ經タヌ間ニ之ヲ奏請シテ、又(「議事
進行ニ關係ナシ」ト呼フ者アリ)再ビ內務次
官ノ要職ニ置クト云フヤウナルコトハ、是
ハ不謹愼極マルコトデアルト私ハ信ジマ
ス、此點ニ於テ
〔「議事進行デハナイ」ト呼フ者アリ發
言者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=58
-
059・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 議事進行ニ
〔「議事進行デハナイ」「降リロ」ト呼フ
者アリ、其他發言者多ク聽取スル能ハ
ス〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=59
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060・吉良元夫
○吉良元夫君(續) ソレデアリマスカラシ
テ斯樣ナコトガ多々アル以上ハ餘程御謹愼
ニナラネバナラヌコトデアルト、私ハ其點
ヲ思フカラシテ先日御取消ガアルカト云フ
コトヲ申上ゲタノデアル然ルニモ拘ラズ、
是ハ總理大臣一人デナイ、內務大臣ニ於テ
モ、文部大臣ニ於テモ、ソレハ當然ナリト
言ハレテ居ルノデアル、殊ニ岡田文部大臣
ノ如キハ斯樣ナルコトハ決シテ國民ノ風〓
ノ上ニ影響ヲ持チマセヌト云フコトヲ信ズ
ルノデアリマス、御分リデゴザイマスカト
云フヤウナ贅言ヲ御挾ミニナッテ居ル(「議
事ノ進行ニアラズ」ト呼フ者アリ)此岡田文
部大臣ハ曾テ四十九議會ニ於テ非常ナル奇
怪ナルコトヲ御述べニナッテ居ル(「質問ト
議事進行トヲ混同スルナ」ト呼フ者アリ)追
追議事進行ノコトガ分ルノデアル、四十九
議會ニ於テ安藤正純君ガ〓育ノ問題ニ付テ
御質問ガアッタ時ニ、斯ウ云フコトヲ御述
ベニナッテ居ル、師師タラズンパ弟弟タラズ
トモ差支ハナイト云フヤウナ意味ノ御答ガ
アッテ居ル、是ハ蓋シ孔安國ガ孝經ノ終ノ方
ニ論ジタコトヲ轉用シテノ御話デアラウト
思フ、苟モ一國ノ國務大臣トシテノ御言葉
トシテハ私共ハ非常ニ奇怪ノ感ヲ懷イテ居
ルノデアル、其爲ニ其後ニ於キマシテモ全
國ノ各學校ニ於テ甚ダ子弟ノ義ヲ破リマシ
テ、師匠ニ對シテ弟子ガ反抗スル如キコト
ヲ續々繰返シテ居ルト云フコトハ、此文部
大臣ノ言ノ薰化ヲ受ケタモノデアルト私ハ
信ジテ居ルノデアル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=60
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061・粕谷義三
○議長(粕各義三君) 吉良君···
〔發言者多ク聽取スル能ハス〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=61
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062・吉良元夫
○吉良元夫君(續) 是ヨリ申上ゲマス、私
ノ感ジマスル所ニ依リマスト云フト、本日
ハ最早定刻ニ近イノデアリマフルガ、與黨
三派ニ於テハ本日ヲ以テ質問ヲ打切ラント
セラルヽト云フ計畫デアルト云フコトヲ
承ッテ居ルノデアル、是ハ吾々ノ断ジテ服ス
ルコトガ出來ヌノデアル、卽チ四十五帝國
議會、四十六帝國議會、四十七帝國議會ニ
於テモ、五日間國務大臣ノ演說ニ對スル質
問應答ヲ致シタノデアル、況ヤ此度ノ第五
十議會ハ非常ナル重大問題ガアル、遣方ガ
惡ケレバ日本國ノ國礎ヲ危ウスルヤウナ大
問題ガ玆ニアルノデアル、ソレカラ又實ニ
重大ナルコトハ軍備ニ對シテ整理サレ
テ-整理ト云フ言葉ヲ御用ヰニナッテ居
リマスルケレドモガ、師團ヲ四箇師團減少
シテモ新兵器ヲ用ユレバ國防ニ何等缺陷ナ
シト云フ御說ヲ御述ニナフテ居ル併シ吾々
ハサウ云フヤウニハ斷乎トシテ信ゼヌモノデ
アル、此師團减少ノ如キモノハ輕々ニヤル
ベキ問題デハナイト思フノデアリマス、是
等ニ付テハ十分ニ吾々ハ質問ヲ致シタイノ
デアル、現ニ質問通告者ガマダ四十名ニ垂
垂トスル通告者ガ殘シテ居ルノデアル斯ノ
如キ場合ニ於テハ必ズ此質問ト云フコトニ
付テハ十分私ハ致ス必要ガアルト思フノデ
アリマスカラシテ、若シモ吾々ノ聞及ブガ
如ク本日ヲ以テ質問ヲ打切ルト云フヤウナ
コトヲシテ、吾々少數ノ野黨ニ對シテ言論
壓迫ヲ爲スガ如キコトガアッタナラバ、斷乎
トシテ反對セナケレバナラヌノデアリマ
ス、カルガ故私ハ少クトモ一週間質問ヲ繼
續セラルヽヤウニ議事ヲ進行サレンコトヲ
切望シテ已マヌモノデアルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=62
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063・伊坂秀五郎
○伊坂秀五郞君 議事進行ニ付テ發言ヲ求
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=63
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064・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 伊坂君
〔伊坂秀五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=64
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065・伊坂秀五郎
○伊坂秀五郞君 私ハ眞ノ議事進行ニ付テ
發言ヲ要求致シタモノデアリマス、往事憲
政會ノ諸君ガ在野當時ニ於キマシテハ、議
事進行ニ名ヲ藉リテ随分長ク此演壇ヲ占領
セラレタコトヲ私ハ記憶スルモノデアリマ
ス、現ニ目下ノ大藏省政務官ノ三木君ノ如
キモ其一例デアル、而シテ議長ガ其當時ニ
於テ取ラレタ態度ハ、我國ニ於テモ有名ナ
ル議長トシテ稱セラレタ奧議長デアル、奧
議長ノ態度ハ頗ル野黨ニ重キヲ置イテ、與
黨ノ者ガ餘リ騷擾ヲ極メル時分ニハ大ニ之
ヲ制止セラレタヤウニ吾ニハ記憶シテ居ル
ノデアリマス、然ルニ粕谷議長ニ於テハ此
與黨ノ極メテ橫暴ナル能度ニ對シテ何等ノ
御制裁ノナイコトハ、議事進行上頗ル遺憾
ニ思フ、私ハ議長及與黨ノ諸君ニ謹デ御願
ヒスルコトハ反對黨ノ議論ハ成ベク之ヲ
尊重シ、與黨ノ諸君ハ靜肅ニセラレテ議事
進行ヲ圖ラレタイト云フコトヲ、東·心ヨリ
希望シテ發言ヲ致シタモノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=65
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066・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 只今伊坂君ノ申述べ
ニナリマシタ事ニ御答ヲ致シテ置キマス、
議長ハ無論公平ヲ主ト致シテ居リマシテ、
私ノ眼中ニハ野黨モ與黨モナイノデアリマ
ス、左樣御永知アランコトヲ希望致シマ
ス-岡田文部大臣
〔國務大臣岡田良平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=66
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067・岡田良平
○國務大臣(岡田良平君) 只今吉良君ノ御
辯明中ニ、私ガ前議會ニ於キマシテ師師タ
ラザレバ弟子弟子タラザルモ可ナリト云フ
コトヲ申シタト云フ御話デアッタ、是ハ速
記錄ヲ御調ベヲ願ヒタイ、サウスレバ直グ
分リマス、左樣ナ事ハ申シテ居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=67
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068・作間耕逸
○作間耕逸君 殘餘ノ質疑ハ之ヲ延期シ、
次ノ本會議ノ日程議了後ニ尙ホ繼續セラレ
ンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼ヒ拍手起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=68
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069・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=69
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070・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、御諮リ致
ス事ガアリマス、第一部選出豫算委員鳩山
一郞君、第五部選出請願委員中山貞雄君、
右常任委員辭任ノ申出ガアリマシタ、許可
スルニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=70
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071・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、其部ノ諸君ハ速ニ補缺選擧ヲ行ヒ御屆
アランコトヲ希望致シマス、本日ノ日程ハ
是ニテ終リマシタ、次囘ノ日程ハ公報ヲ以
テ御通知致シマス、本日ハ是ニテ散會
午後五時二十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X00619250127&spkNum=71
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