1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十四年二月十七日(火曜日)午後一時十九分開議
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議事日程 第十四號
大正十四年二月十七日
午後一時開議
質問
一 山林政策に關する質問(坂東幸太郎君提出)
二 教育に關する質問(山下谷次君提出)
三 教育上の新主義に關する質問(山枡儀重君提出)
四 外交及經濟に關する質問(中村嘉壽君提出)
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第一 畜産組合法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 商業會議所法中改正法律案(山本厚三君外二名提出) 第一讀會
第四 清國及朝鮮國在留帝國臣民取締法廢止法律案(柏田忠一君外一名提出) 第一讀會
第五 鐵道敷設法中改正法律案(橋本喜造君外五名提出) 第一讀會
第六 教育の機會均等に關する建議案(山枡儀重君外二名提出)
第七 義務教育普及助成に關する建議案(山口政二君提出)
第八 獸醫師法の制定に關する建議案(服部英明君提出)
第九 社會教育局設置に關する建議案(樋口秀雄君提出)
第十 社會教育振興に關する建議案(青木精一君提出)
第十一 國定教科書の翻刻竝販賣の改善に關する建議案(樋口秀雄君提出)
第十二 大間々長野原間鐵道建設に關する建議案(清水留三郎君外四名提出)
第十三 航空行政中央統一機關設置に關する建議案(長岡外史君提出)
第十四 帝國在郷軍人會國庫補助に關する建議案(佐々木春作君外四名提出)
第十五 男子用通常禮服に關する建議案(菊池謙二郎君提出)
第十六 肥料政策確立に關する建議案(齋藤藤四郎君外四名提出)
第十七 國防會議設置に關する建議案(蟻川五郎作君提出)
第十八 鹽の賠償價格均衡に關する建議案(土井權大君外一名提出)
第十九 療養理想村補助に關する建議案(木檜三四郎君提出)
第二十 澁川長野原間鐵道速成に關する建議案(木檜三四郎君提出)
第二十一 猿投神社昇格に關する建議案(岡本實太郎君提出)
第二十二 山田豐岡間鐵道速成に關する建議案(齋藤隆夫君外二名提出)
第二十三 青少年訓練實施に關する建議案(田中萬逸君提出)
第二十四 日本銀行の納付金制度に關する建議案(前田房之助君提出)
第二十五 實業補習教育振興に關する建議案(竹原樸一君外二名提出)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=0
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001・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
綿絲輸入關稅撤廢ニ關スル建議案
提出者
關直彥君〓瀨一郞君
淡路縱貫鐵道敷設速成ニ關スル建議案
提出者
千葉宮次郞君廣岡宇一郞君
奥野小四郞君
苫小牧廣尾間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
手代木隆吉君小池仁郞君
京極紋鼈間及京極壯瞥間鐵道速成ニ關ス
ル建議案
提出者
手代木隆吉君澤田利吉君
磐梯山猪苗代湖ヲ中心トスル國立公園設
定ニ關スル建議案
提出者
八田宗吉君堀切善兵衞君
日光國立公園設置ニ關スル建議案
提出者
高橋元四郞君生方大吉君
靑木精一君
速記ノ事項ヲ國定〓科書ニ記載ニ關スル
建議案
提出者
作間耕逸君黑住成章君
齋藤眞三郞君
下關漁港速成ニ關スル建議案
提出者
秋田寅之介君渡邊祐策君
(以上二月十四日提出)
高等工業學校設置ニ關スル建議案
提出者
一柳仲次郞君神部爲藏君
山本厚三君小池仁郎君
手代木隆吉君淺川浩君
澤田利吉君
北海道高等學校設置ニ關スル建議案
提出者
一柳仲次郞君澤田利吉君
淺川浩君手代木隆吉君
小池仁郞君山本厚三君
神部爲藏君
刑餘者ニ對スル法令ノ差別待遇撤廢ニ關
スル建議案
提出者
原夫次郞君松田源治君
則元由庸君廣岡宇一郞君
高見之通君
(以上二月十六日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
國民〓育ノ實質改善ニ關スル質問主意書
提出者
多木久米次郞君千葉宮次郞君
大正十四年度豫算案ニ關スル質問主意書
提出者〓水市太郞君
大藏省預金部ニ關スル質問主意書
提出者平井光三郞君
(以上二月十四日提出)
一去十四日政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ
如シ
衆議院議員今里準太郎君提出帝國國防竝
外交ニ關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員坂東幸太郞君提出朝鮮統治ニ
關スル質問ニ對スル答辯書
帝國國防竝外交ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月二十九日
提出者今里準太郞
賛成者菊池謙二郞
外二十九名
帝國國防竝外交ニ關スル質問主意書
一帝國ノ地位責任竝師〓設置ノ歴史ニ鑑
ミテ師團單位ノ變更ハ國防上政治上極
メテ重要問題ト信ス
イ、四箇師團ノ減少ハ作戰上至當ト認
メタルヤ卽チ財政上ノ見地ヨリ爲セ
ルニ非ス作戰上差支ナシトセルモノ
ナルヤ從テ十七箇師團ハ今後絶對ニ
動カサル所要師團數ナリヤ或ハ二十
五師團ヲ必要ト力說シ或バ二十一師
團ヲ唱ヘ曩ニハ五師團ニ相當スル兵
馬ヲ縮少シ今又四師〓ヲ減少セムト
ス斯ノ如クシテ帝國師團ノ兵馬ハ十
二師團ニ縮少サル變轉輕輕餘リニ甚
シカラスヤ
口、師團單位ヲ其ノ儘トシ全師團ノ中
隊以下ノ單位ヲ整理スルコトニ依リ
テ四箇師團減少ノ實ヲ擧クルハ一面
四箇師團減少ノ目的ヲ達シ師團單位
ニ變更ヲ加ヘス又常備軍所在地ノ地
方經濟ニ及ホス惡影響ナク此ノ際採
ルヘキ最上ノ手段ニ非スヤ當局カ此
ノ良手段ヲ採ラサリシ理由如何又師
團單位ヲ其ノ儘トシ全師團ノ中隊以
下ノ單位ヲ整理スルト今囘ノ政府案
タル四箇師團單位ノ減少トノ作戰上
竝地方經濟ニ及ホス利害ニ關スル比
較〓究如何
ハ今回ノ陸軍ノ整理竝新兵器ノ充實
ハ列國ノ現勢ニ比シ極メテ不徹底ノ
感ナキヤ卽チ政府ハ近ク陸軍ノ各般
ニ亙リ根本的改造充實ノ意ナキヤ
二東洋ノ平和ハ實ニ日支ノ協力ニ依テ
期スヘク勿論歐米各國トノ協調ハ必要
ナリトスルモ日支ノ關係ハ國ヲ接スル
カ故ニ直接利害關係ヲ有スル點ニ於テ
歐米各國ト其ノ趣ヲ異ニスト信ス
ィ、帝國政府ハ對支外交ニ關シ東洋ニ
於ケル特種ノ地位ト責任ヲ明確ニス
ルノ意ナキヤ
ロ東洋ニ於ケル利害責任全ク異ナル
歐米ニ漫然タル協調追從ヲ重ヌルハ
帝國ノ地位ト責任ヲ完ウシ得サルノ
ミナラス爲ニ支那ノ破滅ヲ招キ進ム
テ帝國ノ存立ヲ危クスルノ虞ナキヤ
ハ單ニ滿蒙ノ利益擁護ノミヲ高唱シ
帝國ノ特種地位ト責任ヲ顯ミス全亞
細亞民族ノ爲ニ計ラサルハ遠ク歐米
ニ親シミ却テ隣邦ノ支那ト離ルルモ
ノニシテ日支ノ親善ヲ根本的ニ破ル
モノニ非サル乎
右及質問候也
大正十四年二月十四日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員今里準太郞君提出帝國國防竝
外交ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進
候
〔別紙〕
衆議院議員今里準太郎君提出帝國國防
竝外交ニ關スル質問ニ對スル答辯書
イ今囘ノ軍備整理ニ於テ師團四個ノ
減少等ヲ斷行シタルハ戰後列强軍備
ノ趨勢ト帝國ノ現狀トニ鑑ミ慎重審
議ノ結果ニシテ今回企圖セル新施設
ノ整備ヲ見ル曉ニ於テハ師團數ヲ減
少スルモ國防上ニ支障ナク寧ロ其不
備ヲ補ヒ得ヘシト信シ居レリ
而シテ將來內外ノ形勢ニ變化ヲ來夕
ササル限リ整理後ノ威力ヲ以テセハ
國防ニ支障ナキモノト信ス
ロ陸軍ハ曩ニ大正十一年ノ軍備整理
ニ當リ既ニ中隊數及中隊內ノ人員ヲ
極度ニ減少シタルヲ以テ此上更ニ中
隊以下ノ單位ニ手ヲ觸ルルコトハ動
員、作戰、〓育、勤務等ノ關係ニ於
テ適當ナラスシテ今囘實施セントス
ル方法ヲ最良ト信シ之ヲ採用スルコ
トトセルモノナリ
今囘實施セントスル方法ハ中隊以下
ノ單位ニ手ヲ觸ルル案ニ比シ經濟的
影響ヲ蒙ルヘキ若干ノ地方ヲ見ルニ
至ルヘシト雖前述ノ要求ニ適應スル
爲ニハ亦已ムヲ得サル處ナリ
ハ、今囘ノ軍備整理ハ愼重〓究ヲ重ネ
タル結果新施設ノ實現ト相俟チテ國
防ニ缺陷ヲ生セサル限度ニ於テ均衡
按配ヲ圖リタルモノニシテ帝國ノ現
狀ニ於テ國庫ノ面目ヲ一新スル爲ニ
採リ得タル最良ノ策案ナリト信シ居
レリ然レトモ將來尙時代ノ要求ニ適
應スル如ク內容ノ改善進步ヲ圖ル考
ナリ
二イ、政府ハ對支外交ニ關シ列强トノ協
調ヲ保ツコト必要ト認ムルモ同時ニ
常ニ日支兩國特殊ノ關係ヲ顧念シ我
對支關係ヲ律シツツアリ
口、政府ハ前記ノ方針ニ從ヒ日支兩國
ノ利益ヲ增進スル爲最善ノ努力ヲナ
ス覺悟ナリ何等追從ノ事實ナシ
ハ、政府ハ滿蒙地方ニ對スル我カ密接
ナル關係ニ顯ミ同地方ニ於ケル我國
ノ利益擁護上適當ナル措置ニ出ツヘ
キハ勿論廣ク支那全局ノ關係ニ力ヲ
用ヰ支那國民力其康寧ノ增進ト東洋
ノ平和確保トニ貢獻セムトスル努力
ニ對シ出來得ル限リノ援助ヲ與ヘ以
テ益"。兩國民間ノ親善ヲ期セムトス
右答辯候也
大正十四年二月九日
外務大臣男爵幣原喜重郞
陸軍大臣宇垣成
朝鮮統治ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月二十九日
提出者坂東幸太郞
贊成著本田義成
外三十二名
朝鮮統治ニ關スル質問主意書
-自作農ノ增加ハ我カ國農業振興ノ一
良策タルハ世ノ定論ナリ東洋拓殖株
式會社ノ朝鮮ニ於ケル大地積ヲ兼〓
スルコトハ此ノ趨勢ニ逆行スルノ嫌
アリ加之會社ト小作人タル朝鮮人ト
ノ間ニハ屢階級的鬪爭ヲ生シ殆ト其
ノ怨府トナリ餘債ハ延テ國家ニ及ホ
サムトス政府ハ會社ニ關スル法令ヲ
改廢シテ之ニ善處スルノ意思ナキヤ
二慶尚南道昌原郡鎮海面全羅南道珍島
郡珍島面等ニ於テ內地人地主又ハ小
作權認許名義人タル內地人ト小作人
タル朝鮮人トノ間ニ激烈ナル小作爭
議ヲ生シ其ノ累ヲ國家ニ及ホサムト
ス政府ノ之ニ對スル方針如何
三慶尙南道尙州金鑛ハ元朝鮮人ノ舊式
採掘ニ委セシカ併合後之ヲ國家ニ移
シ總督府ハ大正二年鑛務所ヲ設ケ兩
三年以前ヨリ官營ヲ以テ採掘ニ著手
スル計畫ナリシカ俄ニ方針ヲ一變シ
或資本團ニ引渡シ資本團之ヲ採掘ス
ル由ナリシモ爾來今日ニ至リ尙著手
セサルヲ以テ朝鮮人ノ疑惑喧傳ス依
テ政府ハ其ノ內容ヲ圍明シ疑惑ヲ解
クノ意思ナキヤ
四朝鮮人ハ阿片「モルヒネ」「コカイン」
等ヲ嗜好スルニ乘シ其ノ賣買ハ內地
人ニ依テ盛ニ行ハレ之カ因ヲ爲シ其
ノ身神ヲ萎微衰弱セシムルコト甚シ
政府ハ之ヲ嚴重ニ取締ル意思ナキヤ
五江原道襄陽郡朱鳳山ノ國有不要林六
千町歩ハ併合前地方民ノ入會燃料採
取地ナリシノ故ヲ以テ當該地方ノ各
面(町村)ハ基本財產トシテ貸下出願
セルヲ無視シ之ヲ內地人ニ貸付セム
トスト聞ク果シテ然ラハ朝鮮人ノ先
取權ヲ排斥シ內地人ヲ曲庇スルノ結
果トナリ延テ內鮮融和ヲ害スルモノ
ト信ス之ニ對スル政府ノ所見如何
六朝鮮獨立運動者ハ不逞鮮人ナリトス
ルモ亦一種ノ偏狹ナル民族的義人ナ
リ故ニ之ヲ取締ルニ同情ト理解トヲ
以テシ須ク兩民族融和ノ本旨ニ副ハ
ムコトヲ要ス然ルニ由來政府ノ之ニ
臨ムヤ聊カ白眼ニ偏スルノ憾ミアリ
而モ之ヲ憤怒激情セシムルハ朝鮮統
治上ノ障礙ヲ爲スモノナリト信ス政
府ノ所見如何
七朝鮮ニ在住スル內地人中朝鮮人ヲ奴
隸ノ如ク嘲罵酷遇ヲ極ムル者往往ア
リ爲ニ其ノ餘怨國家ニ及ヒ人心離反
ノ深因ヲ爲スノ傾向アリ政府ハ之等
ノ内地人ヲ嚴重ニ取締ル意思ナキヤ
八朝鮮ヨリ內地轉住竝入稼者ノ年年增
加スルニ伴ヒ時トシテ種種ナル問題
ノ惹起スルハ永年間風俗習慣等ヲ異
ニスル結果ナルモノ多ク頗ル之ヲ遺
憾トスト雖亦同情ニ値ス然ルニ朝鮮
人中內地人及官憲ニ對シ差別待遇ヲ
受クルモノナリト誤解スルモノナキ
ニ非ス之レ實ニ內鮮融和上極メテ重
大問題ナリ依テ政府ハ之ニ對シ最善
ノ注意ヲ拂ヒ完全ナル方針ヲ樹ツル
ノ要アリト認ム政府ノ所見如何
右及質問候也
大正十四年二月十四日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員坂東幸太郞君提出朝鮮統治ニ
關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候也
〔別紙〕
衆議院議員坂東幸太郞君提出朝鮮統治
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
東洋拓殖株式會社ハ大正三年以來朝
鮮ニ於ケル土地改良工事用地等ノ外
社有地增加ノ目的ヲ以テ土地ノ買收
ヲ爲シタルコトナキノミナラス却テ
會社ハ自作農創成ノ目的ヲ以テ移住
民其ノ他ニ對シ年々土地ヲ讓渡シツ
ツアリ又現ニ所有スル土地ニ付テハ
會社ハ溫情ヲ以テ小作人ニ對スルカ
故ニ特ニ同社所有地ナルノ故ヲ以テ
小作爭議ヲ生シタル跡ナシト認ムル
ヲ以テ此等ノ點ニ關シ東洋拓殖株式
會社法ヲ改正スルノ必要ヲ認メス
二、慶尙南道昌原郡鎮海面ニ於ケル小作
爭議ハ農業用地トシテ內地人ニ貸付
セル國有地ノ內中間小作ニ付シタル
土地ニ關シ發生セルモノニシテ政府
ニ於テハ、貸付期限滿了シタルモノ
ハ將來可成實耕作者ニ貸付ノ方針ヲ
以テ事實調査中ナリ
全羅南道珍島郡ニ於ケル小作爭議ハ
同島ニ於ケル地主ト小作人間ノ一般
的爭議ニシテ内地人地主ノミニ付起
リタルモノニアラス而モ小作料不
納ノ普約アルニ拘ハラス平素相當溫
情ヲ以テ小作人ニ對セル內地人地主
ニ對シテハ既ニ大部分其ノ納付ヲ了
セルノ狀況ニ在リ從テ小作爭議ノ爲
累ヲ國家ニ及ホスカ如キ虞ナシ
三、慶尙北道尙州郡所在本府所屬金鑛區
ハ大正十年度末ニ於テ大體ノ探鑛作
業ヲ終了シタルカ同年九月朝鮮總督
府ニ於テ開催シタル產業調査會ニ於
テハ之ヲ民間ノ經營ニ移スヲ可トス
ル旨決議シタルヲ以テ其ノ後愼重ニ
詮議ヲ重ネ大正十二年九月相當ノ條
件ヲ附シテ民間企業者ヲシテ之カ經
營ニ當ラシムルコトトシ鑛業權者ト
爾來著々企業計畫ヲ進メ目下技術者
ヲ派シ更ニ詳細諸般ノ事項ニ付調査
中ナルノミナラス許可ノ日ヨリ三年
以內ニ株式會社ヲ組織シ事業ニ著手
スルノ條件ヲ附シアルヲ以テ近ク之
カ著手ヲ見ルニ至ルヘシ
四朝鮮ニ於ケル阿片煙ノ吸食ハ舊來ノ
弊風ニシテ殊ニ隣接國境地方ハ對岸
ノ影響ヲ受ケ其ノ流毒甚タシカリシヲ
以テ舊韓國政府時代ヨリ之カ取締ヲ
行ヒ併合後總督府ニ於テハ明治四十
五年三月朝鮮刑事令ヲ發布シテ阿片
ニ關スル制栽ヲ嚴ニシ癮者ニ對シ漸
禁主義ヲ採リタル結果惡習感染者ノ
減少ヲ見タリ依テ大正三年九月以降
絕體禁止ノ方針ニ改メ同時ニ極力癮
者ノ救治ニ努メ以テ弊習ノ一掃ニ努
メタリ然ルニ原料阿片ハ多ク支那地
方ヨリ密輸入セラレ且世界大戰藥品
ノ暴騰ニ伴ヒ鮮内ニ於テモ罌粟ノ密
栽培ヲ企ツル者アリタルヲ以テ大正
八年六月朝鮮阿片取締令ヲ發布シ之
カ取締ノ周到ヲ期スルコトトセリ又
「モルヒネ」「コカイン」及其ノ鹽類ノ
取締ニ付テハ大正九年十二月取締規
程ヲ制定シテ之カ輪移出入竝取引ニ
關スル制限ヲ設ケ更ニ大正十二年規
程ノ改正ヲ行ヒ警察官憲ノ認證又ハ
身分證明アルニアラサレハ此種藥品
ノ購入ヲ認メサルト共ニ適法ニ取得
シタル者ニアラサレハ其ノ所有所持
ヲモ禁止シ尙此等患者ノ治療ヲ爲シ
タル醫師ニハ屆出義務ヲ負ハシムル
等詳密ナル規定ヲ設ケ不正使用ノ禁
過ニ努メツツアリ
五、江原道襄陽郡朱鳳山ノ不要存國有林
ハ其ノ面積二百八十五町步餘之レカ
處分方針ハ目下尙未定ニシテ質問書
ノ如キ事實ナシ
六、朝鮮統治ノ大方針ト牴觸セサル政治
運動ニ對シテハ內鮮人間ニ於テ之カ
取締ヲ異ニスルコトナシ面シテ鮮人
ノ民族運動ニ付テハ近時德健ニ向ヒ
ツツアルモ尙名ヲ民族運動ニ藉リテ
治安ヲ紊スノ虞アル言行ヲ爲ス者ニ
對シテハ毫モ假借スル所ナク取締ヲ
勵行セムトス
七、朝鮮在住內地人ノ鮮人ニ對スル態度
ハ最近著シク其面目ヲ改メ日韓併合
ノ大精神ニ從ヒ兩者提携シテ共存共
榮ヲ圖ルノ要ヲ痛感スルニ至リ政治、
經濟、宗〓社會事業等各般ノ事項ニ
亙リ國家社會ノ爲共ニ努力セムトス
ルノ風ヲ馴致セルカ故ニ此點ニ關シ
特別ノ考慮ヲ加フルノ要ナキ狀況ニ
アリ
八内地在留朝鮮人カ風俗習慣等ヲ異ニ
スル結果往々誤解ヲ生シ易ク爲メニ
種々ナル問題ヲ惹起スルハ誠ニ遺憾
トスル所ナリ政府ハ之カ融和ヲ計ル
ノ必要ヲ認メ民間有志者ト協力シ鮮
人勞働者ノ職業紹介、宿舎給與延テ
ハ鮮人ノ〓育等ニ關シ相當施設ヲ爲
シテ指導誘〓ニ努力セリ而シテ政府
ハ將來益融和ノ徹底ヲ圖ラムトス
大正十四年二月十四日
內閣總理大臣子爵加藤高明
一昨十六日政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ
如シ
衆議院議員津崎尙武君提出海外移住奬勵
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員束幸治君提出對支外交ニ關ス
ル質問ニ對スル答辯書
海外移住奬勵ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月二十七日
提出者津崎尙武
賛成者宮崎友太郞
外三十二名
海外移住奬勵ニ關スル質問主意書
一海外移住政策ノ確立實行ハ帝國現下ノ
急務ナルニ拘ラス政府ノ施設極メテ不
十分ナルノ憾アリ政府ハ本件ニ關シ現
狀ヲ以テ滿足スルモノナリヤ若不滿足
ナリトセハ如何ナル方策ヲ樹テ之ヲ實
行セムトスルカ詳細ナル具體的各辯ヲ
望ム
一移殖民獎勵費ノ使途ニ關シ政府ハ如何
ナル處置ヲ執レリヤ其ノ詳細竝其ノ結
果ニ關スル政府ノ答辯ヲ望ム
右及質問候也
大正十四年二月十六日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員津崎尙武君提出海外移住奬勵
ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員津崎尙武君提出海外移住奬
勵ニ關スル質問書ニ對スル答辯書
政府ハ海外移殖民奬勵ニ關シ其ノ現
ニ實行シツツアル施設ヲ以テ未夕充
分ナリトハ思料セス將來財政其ノ他
諸般ノ事情ヲ斟酌シ更ニ出來得ル限
リノ施設ヲ講セムコトヲ期ス然レト
モ茲ニ豫メ其ノ內容ヲ具體的ニ言明
スルコトハ帝國公共ノ利益ニ反スル
所アレモノト認ム
移植民奬勵費ノ使途ニ關シテハ政府
ハ移植民思想ノ宣傳〓養ノ目的ヲ以
テ各地ニ講習、講演會ヲ開催シ又海
外興業株式會社、海外移植民奬勵團
移植民学校等ニ補助金ヲ交付シ
テ之ヲ助成スルノ外「ブラジル」移住
民コ對シテハ海外興業株式會社ヲ通シ
テ一人二百圓ノ渡航準備金ヲ交付シ
又海外渡航者ニ對スル移民會社ノ取
扱手數料ヲ補給シ其ノ他「ブラジル」
國ニ邦醫ヲ留學セシメ又内地移住ニ
關シテハ北海道及朝鮮移住者ニ一戶
當二百圓ノ補助金ヲ交付セシムル等
移植民ノ奬勵保護ニ努メツツアリ而
シテ大正十二年度ニ於ケル北海道移
住戶數ハ二百四十二戶、朝鮮移住
戶數三十三戶ニシテ海外興業株式會
社ノ取扱ニ係ル海外移植民ハ大正十
年一、八三九人、大正十一年一二
七〇人、大正十二年一、五二七人、
大正十三年四、七六七人、總計九、
四〇三人ニシテ相當效果ヲ收メツツ
アルモノト信ス
右及答辯候也
大正十四年一月三十一日
外務大臣男爵幣原喜重郞
內務大臣若槻禮次郞
對支外交ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月三十一日
提出者東幸治
贊成者高見之通
外三十五名
對支外交ニ關スル質問主意書
現內閣ノ對支外交ハ極東ニ於ケル日本ノ
地位ニ省ミ遺憾甚夕多シ殊ニ事每ニ英米
其ノ他ノ諸國ニ追隨シ一ノ以テ自主的外
交ヲ見サルハ國論ノ歸結ニ反スルモノト
認ム政府ノ所見如何
右及質問候也
大正十四年二月十六日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員束幸治君提出對支外交ニ關ス
ル質問ニ對シ別紙各辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員束幸治君提出對支外交ニ關
スル質問主意書ニ對スル答辯書
政府ハ對支外交ニ關シ列國トノ協調ヲ保
ツト共ニ極束ニ於ケル日本ノ地位ヲ顧念
シ我對支關係ヲ律シツツアリ徒ニ外國ニ
追隨シタルノ事實ナシ
右及答辯候也
大正十四年二月五日
外務大臣男爵幣原喜重郞
一今十七日政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ
如シ
衆議院議員坂東幸太郞君提出山林政策
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員中村嘉壽君提出外交及經濟
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員山下谷次君提出〓育ニ關ス
ル質問ニ對スル答辯書
衆議院議員山枡儀重君提出〓育上ノ新
主義ニ關スル質問ニ對スル答辯書
山林政策ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月二十七日
提出者坂東幸太郞
贊成者本田義成
外三十二名
山林政策ニ關スル質問主意書
-我カ國山林ノ材積(本國)ハ現在六百
億立方尺ニ過キス而シテ一箇年ノ伐
採高二十五億立方尺ニ達セムトス此
ノ趨勢ヲ以テ進ムトキハ二十四箇年
ニシテ伐採シ盡シ而モ幼木ノ成育之
ニ伴ハサルハ明白ナリト信ス之ニ對
スル政府ノ方針如何
二我カ國山林ノ最豐富ナルハ北海道
(二百四十億立方尺)樺太(約六十億
立方尺)ナリトス然ルニ山火豫防ノ
方法不完全ヲ極ムル爲大正十三年中
ノ被害北海道ノミニテモ尙三百七十
四件此ノ反別十九万九千三百七十一
町ヲ算ス是レ眞ニ國家ノ重大事ト謂
フヘシ政府ハ之ニ對シ徹底的豫防計
畫ヲ樹ツルノ意思ナキヤ
三山林政策ハ國家永遠ノ利害休戚ニ直
接影響スル大問題ナリ故ニ國有公有
私有等其ノ所有者ノ如何ニ關セス一
定ノ方針ノ下ニ經營セシムルヲ可ナ
リト信ス之ニ對スル政府ノ所見如何
右及質問候也
大正十四年二月十七日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員坂東幸太郞君提出山林政策ニ
關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員坂東幸太郞君提出山林政策
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
我國森林中御料林及國有林ニ付テハ
施業案ヲ編成シ生產保續ノ原則ノ下
ニ植伐シツツアルヲ以テ生產涸渴ヲ
憂フルノ要ナシ、公私有林一般ニ付
テハ樹苗養成費補助、竹林造成費補
助、山林會事業費補助等ニ依リ造林
ノ促進ヲ圖リ特ニ公有林ニ付テハ治
水事業費ニ依リ部落有林野統一入
會整理、施業計畫案編成等ニ依テ開
發ヲ圖ルノ外造林費補助ヲ爲シ更ニ
進テ公有林野官行造林法ニ依リ國營
造林ヲ實行シテ生產保續ノ道ヲ講シ
ツツアリ私有林ニ付テハ其ノ過伐ノ
現狀ニ鑑ミ値伐均衡ヲ得セシムル爲
相當考慮中ニ屬ス
二、樺太島ノ森林ハ古來斧鐵ヲ加ヘサリ
シ原生的森林ナルヲ以テ一朝之ニ火
氣ノ觸ルルアランカ其ノ損害實ニ計
ルヘカラサルモノアリサレバ之ヲ未
前ニ防禦スルノ方途ニ付テハ常ニ深
甚ノ注意ヲ拂ヒ取締規則等ヲ發布シ
殊ニ災厄季タル融雪季ニ於テハ當務
吏員ヲ督シ一般ニ山林出入者ノ取締
ヲ嚴ニスルト共ニ林內要所ニ消防設
備ヲ施シ一面ニハ國有林火防組合規
則ヲ發布シ地方住民ヲシテ火防組合
ヲ設ケシメ奬勵金ヲ交付シ出火豫防
ニ努ムルノ外樺太廳ニ於テハ年々火
防線ノ伐開ヲ爲シ萬一ニ備フル等極
力火災防備ニ力ヲ致シタル結果其ノ
被害漸次減少スルニ至レリ尙今後ニ
於テモ本件ニ對シテハ絕ヘス〓究ヲ
怠ラサルコトヲ期ス
北海道ニ於ケル山火發生ノ原因ハ多
ク融雪期開墾火入等ニアルヲ以テ之
カ防止ノ施設トシテ一面防火線ノ開
設森林主事之ニ附屬スル巡視入及騎
馬巡視ノ配置其ノ他消防器具ノ配備
等ノ外他面森林防火組合ノ奬勵竝地
方住民ノ愛林思想ノ涵養ヲ期シツツ
アリ漸次效果ヲ擧ケツツアルモ累年
山火頻出ノ狀況ニ鑑ミ今後尙是等施
設ノ十全ヲ期スルノ要アルヲ認メ目
下之カ調査中ニ在リ
三、森林經營ニ付テハ國有林ハ勿論公私
有林ニ付テモ常ニ治水其ノ他國土ノ
保安ヲ考慮シ生產保續ノ方針ノ下ニ
經營スル樣指導シ保安關係特ニ重大
ナルモノニ付テハ保安林編入其他森
林法上ノ監督ヲ爲シツツアリ
右及答辯候也
大正十四年二月十七日
內閣總理大臣子爵加藤高明
農商務大臣高橋是〓
內務大臣若槻禮次郞
外交及經濟ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月三十一日
提出者中村嘉壽
賛成者牧山耕藏
外三十名
外交及經濟ニ關スル質問主意書
ー輓近銀行支店ノ設置頻ニ行ハレテ政
府ハ之カ取締ヲ聲明セルモ毫モ其ノ
實擧ラサルノミカ制限ヲ受ケサル出
張所派出所ヲ濫設シテ支店ノ業務ヲ
執行シツツアリ政府ハ之ヲ取締ル意
思ナキヤ
二大正九年五月中露領「オホツク」地方
漁區ニ於テ漁場建設物漁船漁具用鹽
等ヲ燒棄セラレ我カ漁業者ニシテ致命
的損害ヲ被リタルモノアルカ之ニ對
シ政府ハ如何ナル補償又ハ援助ノ途
ヲ講セシヤ又今後之ヲ爲ス意アリヤ
三政府ハ明治四十四年華府ニ於テ日英
米露四箇國間海獸保護會議ノ結果締
結セラレタル條約ハ大正十五年十一
月三十日ニ期限滿了トナルカ政府ハ
更ニ之ヲ繼續スル意思アルヤ
四米國ハ第二次軍縮會議ヲ列國ニ提議
スルトノ說アリ我カ政府ハ周圍ノ事
情ニ鑑ミ其ノ必要ヲ認ムルヤ如何
五加藤首相ハ往年大隈內閣ノ外務當局
トシテ當時珍田大使ト米國國務卿
「ブライアン」氏トノ間ニ進行中ナリ
シ日米協定交涉ヲ打切リタルカ其ノ
理由及之ニ依リ生シタル日米國交ニ
關スル影響如何
六大正十三年七月一日ヨリ米國ニ於テ
施行セル排日的新移民法ニ對シ政府
ハ如何ナル交涉ヲ爲セシヤ米國ハ今
後更ニ邦人子孫ノ市民權ヲ剝奪セム
トノ計畫アリト聞ク果シテ然ルヤ
右及質問候也
大正十四年二月十七日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員中村嘉壽君提出外交及經濟ニ
關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員中村嘉壽君提出外交及經濟
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
銀行支店ノ設置ニ關シテハ數年來
漸次其ノ取締方針ヲ嚴重ニシ其ノ認
可申請アリタルトキハ常ニ嚴密ナル
審査ヲ爲シ濫設ニ陷ラサルコトヲ期
シ居レリ又銀行ノ出張所ト稱スルモ
ノノ內ニハ支店トシテ認可ヲ受ケ居
ルモノ尠カラサルモ出張所又ハ派出
所ノ名ノ下ニ支店ノ實ヲ收メ居ルモ
ノナキニ非サルヲ以テ之等ニ對シテ
ハ十分監視ヲ怠ラス尙一般出張所派
出所ノ設置ニ付テモ濫設ノ弊ナキ樣
取締リ居レリ
二、「オホツク」沿岸漁場損害事件ニ關
シテハ大正十年被害者ニ對シ漁業資
金調達上ノ援助ヲ與ヘ且同年及翌年
自治出漁ニ當リ露領水產組合カ被害
者ニ對シ借區料ヲ課セサルコトニ付
認可ヲ與ヘ又大正十二年六月露國政
變及西比利亞事變ニ因ル損害ニ對ス
ル救恤金下付ニ際シ損害者ニ對シ約
十万圓ヲ交付シタリ
三、膃肭獸保護條約ノ繼續方ニ關シテハ
關係國ノ意嚮ヲ參酌シテ帝國ノ態度
ヲ決定スル方針ナリ
四、國際聯盟主唱ノ軍縮會議開催ニ付キ
テハ大體賛意ヲ表シ居ルモ米國政府
ノ提議セントスト傳ヘラルル第二次
軍縮會議ニ付テハ其ノ開催ノ時期場
所討議ノ主要題目等ニ關シ具體的ノ
提案アルニ非ラサレハ果シテ其必要ヲ
認ム可キヤ否ヤ又其時宜ニ適スト認
ムヘキヤ否ヤヲ決スルコト能ハス
五、大正十三年六月珍田「ブライアン」國
務長官間ニ進行中ナリシ協約締結ノ
交涉ヲ打切リタルハ當時此ニ依リテ
懸案解決ノ見込ナシト認メタルニ因
ル又當時米國當局ハ右ニ關スル我立
場ヲ充分諒承シタルヲ以テ右ニ因リ
テ何等國交上惡影響ヲ及シタリト認
メス
六、一九二四年米國移民法ニ對スル五月
三十一日附日本政府抗議竝之ニ對ス
ル六月十六日附米國政府回答ハ當時
政府ヨリ公表シタル所ニシテ既ニ周
知ノ事實ナリ其後ニ於ケル本件交涉
ニ對スル日本政府ノ立場ニ就テハ既
ニ本議會開會ノ當初本大臣ノ委曲說
述シタル所ニシテ茲ニ再ヒ〓述ヲ要
セサルヘシ又米國出生兒童ニ對スル
市民權剝奪ニ關スル憲法修正案ハ米
國前議會ニ提出セラレタルモ目下開
會中ノ同國議會ニ於テ提出セラレタ
ルモノアルヲ聞カス
右及答辯候也
大正十四年二月十三日
外務大臣男爵幣原喜重郞
大藏大臣濱口雄幸
〓育ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月三十日
提出者半谷次
贊成者志賀和多利
外二十九名
〓育ニ關スル質問主意書
〓育ハ國家百年ノ大計ニシテ眞ニ國家ノ
隆昌ト人民ノ幸福ヲ計ラムト欲スレハ〓
育ノ改善ヲ計ルヲ以テ第一ト爲ササルヘ
カラス然ラハ政府ハ此ノ更始一新ノ時機
ニ於テ
-小學校令私立學校令
中學校令高等女學校令
高等學校令大學令
帝國大學令師範〓育令
等ノ改正ヲ必要ト認ムルヤ
二大學專門學校實業學校等ノ整理ノ必
要ヲ認ムルヤ
三天才秀才ヲ認ムル〓育制度ヲ設クル
意思アリヤ
四〓員ノ地位ヲ高ムヘキ制度ヲ設クル
意思アリヤ
五私學ヲ奬勵スルノ意思アリヤ
六私立學校〓員ヲ優待スル意思アリヤ
七人格養成ハ今日ノ制度ニテ充分ナリ
ト認ムルヤ
八中學校ハ高等學校ノ豫備校ト認ムル
ヤ
九思想善導ノ方法如何
十〓員免許令ヲ改正スルノ必要アリヤ
十一〓育ノ大目的如何
右及質問候也
大正十四年二月十七日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員山下谷次君提出〓育ニ關スル
質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員山下谷次君提出ニ係ル〓育
ニ關スル質問ニ對スル答辯書
國運ノ隆昌ヲ期センカ爲ニ〓育ノ改善ヲ
圖ルハ當局ノ最モ深ク意ヲ用フル所ナリ
-諸學校令ハ時勢ノ進運ニ應シ斷エス
之カ改正ヲ圖リツヽアリ
二大學、専門學校、實業學校等今後益、
其ノ擴張ノ必要ヲ認ムルト同時ニ之
カ內容ノ整備ニ力ムヘシ
三從來ニ於テモ秀才ノ修學ニ關シ相當意
ヲ用ヒタレトモ尙學理ト實際トニ照シ
テ今後モ之カ〓究ヲ怠ラサルヘシ
四〓員ノ地位ヲ高ムルコトハ當局ニ於
テ相當ニ意ヲ用ヒ〓日ハ往時ニ比シ
テ大ニ優レルモノアリト信スレトモ
尙今後モ財政經濟トノ緩急ヲ計リテ
一層力ヲ盡スヘシ
五內容充實セル私立學校ノ發達ハ政府
ノ希望スル所ナリ
六私立學校〓員ノ優待ニ就キテハ當局
ノ常ニ留意スル所ナリ
七政府ハ學校〓育ニ於テ人格ノ養成ノ
緊要ヲ認メ大正八年以來諸學校〓育
ノ目的ヲ改正シタレトモ今後益〓當
事者ヲ督勵シテ一層之カ實績ヲ擧ク
ルニ力ムヘシ
八中學校ハ高等普通〓育ヲナスヲ目的
トスルモノニシテ高等學校ノ豫備校
ニアラス
九思想善導ノ事タル朝野ノ協力ヲ要ス
ヘシト雖學校〓育、社會〓育ニ就キ
テハ最モ深ク意ヲ用フルノ必要アリ
之カ爲ニ斷エス當事者ヲ策勵シ且其
ノ方法ヲ〓究セシメツツアリ
十〓員ノ免許ニ關スル規定ハ時勢ノ進
運ニ伴ヒ斷エス之ヲ改正シツツアリ
十一〓育ノ大目的ハ明治二十三年下賜
セラレタル〓育勅語ニ率由スルニア
リ
右答辯候也
大正十四年二月十七日
文部大臣岡田良平
〓育上ノ新主義ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
大正十四年一月三十一日
提出者山枡儀重
贊成者樋口秀雄
外三十名
〓育上ノ新主義ニ關スル質問主意書
岡田文部大臣ハ〓ニ大正十三年八月地方
長官會議ニ於テ〓育上ノ新主義ニ關シテ
訓示セラルル所アリシカ其ノ趣旨未夕〓
育者間ニ充分理解セラレサルノ憾アルカ
如シ故ニ左ノ諸項目ニ就キ明確ナル答辯
アラムコトヲ望ム
-學校〓員ニシテ輕卒ニ之ニ共鳴シテ
實際ニ之ヲ試ミツツアル〓育上ノ新
主義ノ名稱其ノ要旨及創唱者若ハ鼓
吹者ノ氏名ヲ示サレタシ
二右ハ其ノ主義其ノモノカ〓育上好マ
シカラサルヤ或ハ輕卒ニ之ヲ行フカ
故ニ不都合ナルヤ
三右何レニシテモ其ノ不都合ニシテ人
ノ子ヲ損フ諸點及其ノ理由ヲ明ニセ
ラレタシ
四新主義ニ依リ如何ナル法令上ノ規定
ヲ無視シタルヤ其ノ事實及其ノ學校
名ヲ例示セラレタシ
五學校〓員中ニハ何故ニ斯ノ如ク其ノ
新ヲ街ヒ奇ヲ弄シテ新主義ヲ輕輕ニ
試ムル者アルヤ其ノ原因ヲ示サレタ
シ
六一部ノ眞理ヲ有スル〓育上ノ新說ノ
名稱及其ノ要旨ヲ示サレタシ
七〓育上ノ新設ニ關シ〓員ヲシテ誤ナ
カラシムル爲政府ハ如何ナル方法ヲ
講シツツアリヤ
八政府ハ我カ國〓育ノ現情ニ鑑ミ目的
論上方法論上刷新ヲ要スヘキ點無シ
ト考フルヤ若有リトセハ其ノ重ナル
諸點及之ニ關シ政府ノ執リツツアル
對策ヲ示サレタシ
右及質問候也
大正十四年二月十七日
內閣總理大臣子爵加藤高明
衆議院議長粕谷義三股
衆議院議員山桝儀重君提出〓育上ノ新主
義ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進
候
〔別紙〕
衆議院議員山桝儀重君提出ニ係ル〓育
上新主義ニ關スル質問ニ對スル答辯書
〓育ノ內容及方法カ斷エス發達改善ヲ要
スルハ論ヲ須タス然トモ輕卒ニ新奇ノ說
ヲ實行シ嚴正ナル批判愼重ナル考慮ヲ加
フルコトナクシテ從來ノ〓育ノ方針竝其
ノ方法ヲ變更スルコトアラハ人ノ子ヲ賊
フノ結果アルヘシ殊ニ法令ニ定メタル學
科課程ニ違背シ〓科書ヲ無視シテ濫ニ〓
材及其ノ程度等ヲ定ムルカ如キハ嚴ニ之
ヲ戒メサルヘカラス但シ時勢ノ進運ニ應
スヘキ改正ニ就キテハ或ハ政府直轄ノ
機關ニ命シテ之ヲ〓究セシメ或ハ眞摯ナ
ル實際家ヲ招集シテ之ヲ討議セシムル等
ノ方法ニ依リテ之カ實施ニカムヘシ
右答辯候也
大正十四年二月十七日
文部大臣岡田良平
一今十七日提出者ヨリ撤囘セラレタル質問
主意書左ノ如シ
長尾原田間鐡道ニ關スル質問主意書
提出者加藤十四郞君
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一昨十六日衆議院規則第十五條但書ニ依リ
議長ニ於テ議席ヲ左ノ如ク變更セリ
二〇三栃木縣第七區
選出議員
二〇五內田信也君
二一七宮本逸三君
二二七山口路三分
一昨十六日內閣總理大臣ヨリ左ノ通發令ア
リタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
內務省警保局長川崎卓吉
內務省所管事務政府委員被仰付
司法省刑事局長山岡萬之助
司法省所管事務政府委員被仰付
去十四日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ
如シ
海上衝突豫防法中改正法律案委員
橋本喜造君福田五郞君
河野曉君岸本賀昌君
佐藤重遠君柏田忠一君
內野辰次郞君若尾幾太郞君
砂田重政君
齒科醫師法中改正法律案委員
中原德太郞君工藤鐵男君
石塚三郞君木下謙次郞君
〓水市太郞君吉津度君
飯村五郞君西方利馬君
宮島幹之助君
一去十四日裁判所構成法中改正法律案外一
件委員井坂豊光君辭任ニ付其ノ補闕トシ
テ〓水市太郞君ヲ遠洋漁業奬勸法中改正
法律案委員森〓昶君栗林五朔君辭任ニ付
其ノ補闘トシテ佐々木平次郞君成田榮信
君ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ
一昨十六日常任委員補閱選擧ノ結果左ノ如
第五部選出
決算委員前田兼寶君(永井作次郞
君補闔)
第九部選出
懲罰委員山本芳治君(板野友造君
補園)
一昨十六日委員長及理事互選ノ結果左ノ如
シ
海上衝突豫防法中改正法律案
委員長內野辰次郞君
理事福田五郞君
齒科醫師法中改正法律案
委員長中原德太郞君
理事吉津度君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=1
-
002・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、御諮リ致スコトガアリマス、第八部選
出決算委員、佐竹庄七君ヨリ常任委員辭任
ノ申出ガアリマシタ、御異議ハアリマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=2
-
003・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ許可致シマス、其部ノ諸君ハ速ニ
補關選擧ヲ行ヒ、御屆アランコトヲ希望致
シマス、尙ホ御諮リ致シマス、原田藤次郞
君ヨリ事故ニ付、二月十七日ヨリ三月二日
マデ請暇ノ申出ガアリマシタ、許可スルニ
御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=3
-
004・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス仍テ許可致シマス本日ノ日程ニ揭ゲ
マシタ質問一ヨリ四マデハ悉ク答辯書ヲ受
領致シマシタ、仍テ日程ヨリ之ヲ省キマ
ス、但シ之ニ對スル意見ノ陳述ガアリマシ
タナラバ、通當ノ機會ニ於テ之ヲ許シマス、
此際曩ニ保留シテアリマシタ質問ニ對スル
政府ノ答辯ニ對シ意見ノ陳述ヲ許シマス、
加藤知正君
蠶絲業ノ國策ニ關スル質問ノ答辯ニ對ス
ル加藤知正君ノ意見
〔加藤知正君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=4
-
005・加藤知正
○加藤知正君 諸君、私ハ昨年ノ四十九議
會ニ際シマシテ蠶絲業ノ國策ニ關スル質問
主意書ヲ出シタノデアリマス、ソレニ對シ
マシテ政府ヨリ答辯書ヲ載キマシタ、併ナガ
ラ私ハ其答辯書ニ對シマシテ滿足スルコト
ガ出來ズ、更ニ再質問ヲ致シタイト存ジマシ
タケレドモ、旣ニ會期ガ盡キタノデアリマ
ス、仍テ此議會ニ於キマシテ更ニ同一ノ質
問書ヲ出シタノデアリマス、所ガ又之ニ對
シマシテ答辯書ヲ戴キマシタケレドモ、尙
ホソレニモ滿足スルコトガ出來マセヌノ
デ、已ムヲ得ズ更ニ再質問ヲ致シマシテ、
暫ク自分ノ考フル所ヲ述ベマシテ、政府當
局ノ御答辯ヲ得タイト思フノデアリマス
諸君、昨年我國カラシテ生絲竝ニ絹織物其他
蠶絲ニ關係致シマシタルモノヲ輸出致シマ
シタ額ハ、御水知ノ如ク八億二千餘万圓ニ
達シテ居ルノデアリマス、年々我ガ蠶絲貿
易ハ順調ニ發達致シテハ居リマスケレドモ、
併ナガラ此蠶絲ハ獨リ我國ノ特有物產デハ
ナイノデアリマス、世界ニハ二十有餘ノ蠶
絲生產國ガアルノデアリマス、殊ニ隣邦支
那ハ我國ニ次デノ蠶絲國デゴザイマス、ノ
ミナラズ近來ハ人造絹絲ト云フヤウナ物モ
出マシテ、寸時モ吾々蠶絲業者ノ安心ヲ許
サナイヤウナ狀態ニナッテ居ルノデアリマ
ス、ノミナラズ近頃ハ米國ノ養蠶熱ガ著シ
ク勃興シタノデアリマス、故ニ吾々共ハ今
日我ガ蠶絲業ガ順調ニ發達致シテ居ルト云
フノデ、之ニ安心ヲ致シテ居ルコトガ出來
ナイノデアリマスカラシテ、今ヨリ之ニ對
スル所ノ對策ヲ講ジテ置ク所ノ必要ヲ認メ
ル者デアリマス、先ヅ第一ニ支那ノ蠶絲業
ニ付キマシテ、意見ノ存スル所ヲ述ベテ見
タイト思ヒマス、支那ノ蠶絲業ニ付キマシ
テハ悲觀說ヲ唱ヘル者ト、樂觀說ヲ唱ヘル
者トノ二ツアルノデアリマス、樂觀說ヲ唱
ヘマス者ハ、今日支那ノ蠶絲業ハ非常ニ恐
ロシイヤウナコトヲ申シテ居ルケレドモ、
併ナガラ是ハ一片ノ杞憂ニ過ギナイ、論ヨ
リ證據、彼ノ上海竝ニ廣東ヨリ輸出セラル
ル所ノ生絲ノ數量ハ十年一日ノ如キ狀態ニ
在ルノデアル、支那ノ動亂ガ相續イテ熄マ
ナイ結果ハ、決シテ支那ノ蠶絲業ガ我國ノ
如ク發達スル氣遣ヒハナイノデアル、今日
勞力ノ豐富、低廉ヲ唱ヘルケレドモ、併ナ
ガラ彼ノ支那ノ文化ガ發達スレバ、卽チ其
勞力、賃銀モ自然〓騰スルノデアルカラシ
テ、決シテ是等ノモノヲ以テ恐ルヽニハ足
ラヌト云フノデアルノデアリマス、之ニ反
シマシテ悲觀說ヲ唱ヘル所ノ者ハ、彼ノ支
那ノ面積ノ廣大ナルコト、我國ノ四十倍以
上ノ面積ヲ持ッテ居ル、而モ北ハ滿洲ヨリ
南ハ廣東ノ端ニ至ルマデ、到ル所トシテ桑
ノ出來ナイ所ハナイ、而モ氣候ハ良ク蠶兒
ノ飼育ニ適シテ居ルノデアル、而シテ其勞
力ノ豐富ナルコトハ、彼ノ山東省ダケデモ
年々百万人前後ノ勞働者ヲ省外ニ送ッテ居
ルノヲ見テモ分ルコトデアル、彼等ハ最モ
安イ所ノ賃銀ニ甘ンジテ能ク働ク所ノ、優
良ナル勞働者デアルノデアル、而シテ此蠶
絲業上ニ於ケル所ノ土地、面積、勞力、賃
銀桑葉等ヲ斯ノ如ク遺憾ナク具備シテ居
ル所ノ支那ノ蠶絲業ハ今日コソハ恰モ眠
レル獅子ノ如ク、死セル豚ノ如キ狀態ニ在
ルケレドモ、併ナガラ是ハ時機ノ問題デア
ルノデアル、何時マデモ今日ノ如キ狀態ニ
在ルモノト云フコトハ出來ナイ現ニ彼ノ
米國ハ我ガ日本ガ殆ド世界ノ生絲市場ヲ獨
占的ニヤッテ居ルノヲ深ク遺憾ト爲シテ、
此日本ノ向フヲ張シテ蠶絲ノ生產ヲ十分ニ
ヤラシムル見込ノアル所ハ支那デアルト云
フ所カラシテ、盛ニ支那ノ蠶絲業ヲ發達セ
シムベク努メテ居ルノデアル、現ニ中華合
衆國蠶桑改良會、或ハ廣東蠶業改良會、或
ハ金陵大學、嶺南學堂、又ハ上海ノ米支合
辨生絲檢査所等ヲ設立ヲ致シテ、桑園ノ改
良、蠶種ノ改良、生絲ノ改良、其他諸般
ニ亙ッテ是ガ改良ヲ促シテ居ルノデアル、
斯樣ナ次第デアルカラシテ、將來イツ何
時支那ノ蠶絲業ガ目ヲ覺マシテ、十分ノ活
躍ヲ致サヌトモ限ラヌノデアル、デアル
カラシテ決シテ安心ハ出來ナイノデアル、
斯樣ニ悲觀說ヲ唱ヘル者ハ主張シテ居ル
ノデアリマス、其悲觀說ニモ相當ノ根據ガ
アリ、樂觀說ニモ相當ノ根據ガアルノデ
アリマスル、其孰レヲ採。ッテ吾々共ハ進ン
デ宜シイノデアリマセウカ、此事ニ付キ
マシテ政府當局ノ御意見ノ存スル所ヲ
御伺致シテ見タイト思フノデアリマス、
第二ニ於キマシテハ人造絹絲ノ問題デアリ
マス、是ニモ悲觀說ト樂觀說トノ二ツガア
ルノデアリマス、彼ノ人造絹絲ガ佛國ノ「シ
ヤードンネー」伯ニ依ッテ呱々ノ聲ヲ揚ゲマ
シテカラ四十有餘年間經チマス、最初ハ殆
ド何ノ役ニモ立タナイヤウナ、實ニ兒戯ニ、
等シイヤウナ品物デアッタモノガ、今日ニ
於テハ非常ニ長足ノ進步ヲ致シテ居ルノデ
アル、之ニ就キマシテ悲觀說ヲ唱ヘル所ノ
論者ハ、斯樣ニ中シテ居ルノデアリマス、
今日此人造絹絲ハ非常ナル所ノ進歩ヲ致シ
テ、火ニ耐ユル所ノ力、水ニ耐ユル所ノ力
ト云フモノハ著シク進步致シテ、天然絹絲
ニ稍、近イ程度ニマデ進步ヲ致シテ居ルノ
デアル、纖度ノ如キモ、光澤ノ如キモ、殆
ド天然絹絲ニ近イ所ノ進步ヲ致シテ居ル
現ニ歐洲大戰前ニ於キマシテハ世界ノ產
額ハ僅ニ六百万「キログラム」ニ過ギナカフ
タノデアル、然ルニ今日ニ於テハ既ニ此四
千九百万「キログラム」ニ達シ、非常ナル所
ノ進步ヲ致シテ居ルノデアル、現ニ米國ノ
如キハ大正十二年度ニ於テハ、米國内ニ生
產致シタルモノハ三千五百万封度ニシテ、
他國ヨリ輸入致シタルモノハ五百万封度デ
アル、斯ノ如キ多量ノ消費ヲ致スヤウニナ
リ、其消費高ハ生絲ノ約八割ニモ達シテ居
ルヤウナ有樣デアル、是ガイツ何時天然絹
絲ノ如ク同ジ樣ナモノガ出來ヌトモ限ラヌ
ノデアル、現ニ彼ノ「エヂソン」氏ハ養蠶テ
フ蠻風ガ今ヨリ五十年經過スレバ此地
球カラシテ一掃セラルヽデアラウト言ハレ
タガ、詰リ此天然絹絲ガ驅逐セラルヽト云
フコトハ、要スルニ人造絹絲ノ爲ニ驅逐セ
ラルヽヤウナコトニナルト思フノデアル、
デアルカラ之ニ對シテハ吾々共ハ寸時モ安
心ガ出來ナイト云フノガ悲觀論者ガ主張ス
ル所デアルノデアリマス、之ニ反シマシテ
樂觀說ヲ唱ヘル所ノ論者ハ、一方ハ動物纖
維デアリ、一方ハ植物纖維デアル、如何ニ
植物纖維ガ進步發達致シタ所ガ、到底動物
纖維ノ如キ物ニ出來ル氣遣ヒハナイノデア
ル、如何ニ科學ガ進步致シ夕所ガ、天然絹
絲ト同ジヤウナ物ノ出來ル氣遣ヒハナイ、
論者動モスレバ天然ノ藍ガ人造藍二驅逐セ
ラレタノヲ舉ゲテ以テ此人造絹絲ノ恐ルベ
キコトヲ主張スルケレドモ、是亦一月ノ杞
憂ニ過ギナイト斯樣ニ說クノデアリマスル、
此悲觀說ヲ唱へ樂觀說ヲ唱ヘル所ノ者ハ矢
張支那ノ蠶絲業下同樣ニ、雙方ニ相當ノ根
據ガアルト思フノデアリマス、之ニ對シマ
シテ吾々共ハ悲觀說ニ從ッテ進ムベキカ、
樂觀說ニ從シテ進ムベキカ、此點ニ於キマ
シテ、政府當局ニ於テハ如何樣ニ御考デゴ
ザイマセウカ、之ヲ御伺致シテ見タイト思
フノデアリマス、又彼ノ米國ノ養蠶デゴザ
イマスル、彼ノ米國ノ養蠶ハ今始メテミハ
ナイノデアリマス、御承知ノ如ク「ゼーム
ス」第一世ガ、米國ニ向ッテ此養蠶ノ端緒ヲ
開キマシテ以來今日ニ至ルマデ、大分米國
ニ於キマシテハ此養蠶ノ獎勵ヲ致シテ居ル
ノデアリマス、併ナガラ米國内亂ノ爲ニ、
或ハ獨立戰爭ノ爲ニ、若クハ煙草栽培ノ爲
メ、或ハ棉花栽培ノ爲メ、今日マデ米國ノ
養蠶ト云フモノハ發達ヲシナカッタノデア
リマスル、併ナガラ今日マデ發達セヌト云フ
テ、將來モ斯ノ如クアルベシト推測スルコ
トハ出來ナイト思フノデアリマス、現ニ最
近傳フル所ニ依リマスルト云フト、彼ノ加
州ニハ隨分此養蠶熱ガ勃興致シマシテ、彼ノ
「サクラメント」ノ附近ニ於キマシテハ廣
島縣人ノ田村德之助ト云フ人ガ五十「エー
カー」ノ桑園ヲ開キマシテ、一大蠶室ヲ建
テ新奇ヲ好ム米國婦人間ニ盛ニ宣傳ヲ
致シテ居ルノデアリマス、-養蠶熱ヲ皷
吹シテ居ルノデアリマス、又「サクラメン
ト」ヲ距ルコト百哩バカリノ所ノ「ウロビ
ル」ト云フ所ニ「パレー」ト云フ豪農ガゴザ
イマス、其「パレー」氏ハ百「エーカー」ノ桑
園ヲ開イテ、養蠶室ヲ建テヽ盛ニ之ヲ獎勵
致シテ居リマス又紐育ノ豪商「ゴジット」
氏ハ二百五十万弗ノ資本ヲ投ジテ伊太利カ
ラ人ヲ傭ッテ、盛ニ此養蠶ヲ始メタノデゴ
ザイマス、斯樣ナ次第デゴザイマスルカ
ラシテ、米國ノ養蠶其モノニ付キマシテモ
吾々共ガ大ニ注意警戒ヲセナケレバナラヌ
ト思フコトハデス、彼ノ加州ノ如キハ御承
知ノ如ク我ガ日本ノ本土ト同ジヤウナ廣大
ノ)面積ヲ有シ、而モ其氣候ハ溫和ニシテ能
ク蠶兒ノ飼育ニ適シテ居ルノデアリマス、
十一月カラ三月マデハ雨季デハアリマスケ
レドモ、四月ヨリ十月マデノ間ハ晴天季デ
アリマシテ、能ク氣候ガ乾燥致シマスルカ
ラシテ、洵ニ能ク蠶兒ガ發育スルノデアリ
マスル、殊ニ土地ガ肥沃デアリマヌルカラ、
別ニ肥料ヲ用ヰマセヌデモ、能ク桑樹ハ
出來ルノデアリマスル、斯樣ナ次第デゴザ
イマシテ、彼ノ稻ノ如キモ始メハ見込ノナ
イヤウナモノニナッテ居リマシタケレドモ、
今日ニ於キマシテハ大成功ヲ致シテ、而モ
其米ナルモノガ非常ニ安ク生産セラレ、機械
ヲ用ヰテドン〓〓米ヲ作シテ居ルノデアリ
マスル、卽チ其生產費ハ我國ノ約八分ノ五
位デ以テ出來ルト云フ所カラ、我國ニ於キ
マシテ一石四十圓前後デ賣ラナケレバ間ニ
合ハナイヤウナ米モ、彼ノ亞米利加ニ於キ
マシテハ一石二十四五圓デ賣シテモ、信之
利益ガアルト云フコトデアリマス、斯樣ナ
次第デゴサイマシテ、彼等ハ盛ニ此機械ヲ
使用シ、以テ米ノ栽培ニ成功致シテ居ルノ
デアリマスルガ、今日此亞米利加ノ勞働賃
銀デハ一日三弗乃至四弗ト云フ高イ賃銀デ
アルカラ、日本流ノ養蠶ヲヤッテハ到底間
ニ合ヒマセヌケレドモ、併ナガラ若シ桑樹
ノ栽培又ハ蠶兒ノ飼育ニ於テ機械ヲ應用ス
ルヤウナコトヲ發明ヲ致シテヤルヤウニナ
リマシタナラバ、確ニ繭一貫目ノ生產費ハ
五圓前後デ以テ上ガル所ノ見込ガアルト稱
シテ居ルノデゴザイマスル、今日我國ノ繭
一貫目ノ生產費ハドノ位デアルカト申シテ
見マスルト、大正二年ノ頃ニ於キマシテハ
僅ニ四圓位デ以テ生產スルコトガ出來マシ
タノガ、大正十二年ニ至リマシテハ一貫目
ノ生產費ハ十圓前後ヲ要スルヤウナ狀態ニ
ナッテ居ルノデアリマスル、斯樣ナ次第デア
ルニモ拘ラズ、亞米利加ニ於キマシテハ此
機械ノ應用ト云フコトガ出來ルヤウニナリ
マスレバ、確ニ五圓前後デ出來ルヤウナ見
込ガアルト唱ヘテ居ルヤウナコトデアリマ
シテ、今日ニ於キマシテハ未ダ、其機械ナ
ルモノハ發明セラレタト云フコトハ聞キマ
セヌケレドモ、彼ノ亞米利加人ノコトデア
リマス、何時機械ヲ發明セヌトモ限ラナイ、
其機械ヲ應用シテドン〓〓養蠶ヲヤルコト
ニナリマスレバ我國ノ最大顧客ノ亞米利加
ニシテ、此養蠶ニ成功致シマシタナラバ、
一大打撃ヲ受ケナケレバナラヌノハ我國デ
アルト思フノデアリマスル、故ニ此亞米利加
ノ養蠶ト云フコトニ付キマシテモ、決シテ
吾々共ハ之ヲ輕視スルコトガ出來ナイト思
フノデアリマスル、之ニ就キマシテハ如何
樣ナ所ソ方法ヲ以テ進ンダナラバ宜イデゴ
ザイマセウカ、支那ノ養蠶ト云七、或ハ人
造絹絲ト云ヒ、亞米利加ノ養蠶ト云ヒ、之
ニ對シテ吾々共ハ今日ヨリ之ニ對スル所ノ
方策ヲ講ジテ進マナケレバナラヌト思フノ
デアリマス、而シテ之ニハ對外策ト對内策
トノ二ツアルト思フノデアリマスル、此對
外策ト致シマシテハ、先ヅ第一ニ私ハ此支
那及亞禾利加ニ對シマシテ、調査〓究ノ爲
ニ人ヲヤッテ貰ヒタイト思フノデアリマス、
斯ク申シマシタナラバ、支那ニハ傾事官モ
アリ商務官モ居ルコトデアリ米國亦然リ、
特ニ此蠶絲ノ爲ニ人ヲヤルノ必要ハ無イト
云フヤウニ仰セラレルカモ知レマセヌガ、併
ナガラ此領事官ト云フモノ、商務官ト云フ
モノニ吾々共ハ信賴シテ、之ヲ委シテ置ク
コトガ出來ナイノデアリマスル、支那四
百餘州ノ廣大ナル所ノ彼ノ所へ、唯一一
人位ノ商務官ヲ置イテ、ソレニ依ッテ以テ
此蠶絲業ノ十分ナル調査ヲサセヤウト云フ
コトハ是ハ無理ナ注文デアルト思フノデ
アリマスル、故ニ少クトモ支那ニハ四、五人
以上ノ調査員ヲ派シテ、而モソレハ一年ヤ
二年デハナク、長イ年月ノ間、殆ド終身其
調査〓究ニ從事シテ居ルト云フヤウナ人ヲ
ヤッテ貰ヒタイト云フ希望ヲ持ヲテ居ル者デ
アリマスル、又此支那ノ蠶絲業ハ今日ニ於
キマシテハ、彼ノ支那ノ政府ガ動亂相亞イ
デ、殆ド統一ノ出來テ居ラナイ結果ト致シ
マシテ、蠶絲業ニハ何等ノ奬勵モ致シテハ
居リマセヌ、併ナガラ必ズヤ早晩彼ノ支那
ノ政府モ立派ニ統一セラレテ、同時ニ又有
ユル生產業ニ對シマシテ保護奬勵スル時代
ガ來ルモノト考ヘルノデアリマスル、之ニ
對シマシテモ、或ハ我國ヨリ進ンデ此日支
蠶絲業ノ同盟ヲ結ブ所ノ必要ガ起ノテ來ヌ
トモ限ラヌト思フノデアリマスル、先年伊
太利カラシテ我國ニ對シマシテ、日伊蠶絲
同盟ヲ結バンカト云フコトヲ申込ンダコト
ガアルノデアリマス、其時我國ニ於キマシ
テハ何等ノ之ニ答ヲモセズシテ、其儘ニ
抛ッテ置イタノデアリマスルガ、ソレガ爲
ニ著シク伊太利蠶絲業家ノ感情ヲ害シマシ
テ、今日ニ於キマシテハ、我國カラ向フヘ
蠶絲業ノ調査ニ參リマシテモ、十分ニ蠶絲
製造ノ場所トカ、製絲工場ノ内容ヲ見セル
ト云フコトヲ避ケルト云フヤウナコトニ
ナッテ居ルノデアリマスル、故ニ今日世界
的ニ蠶絲其モノヽ覇權ヲ握。テ居ル我國ト
致シマシテハ、今左樣ノ必要ヲ認メヌトハ
言フモノヽ、將來此支那蠶絲業ノ發達如何
ニ依リマシテハ、大ニ其必要ヲ認ムル所ノ
時代ガ來ヌトモ限リマセヌカラシテ、今ヨ
リ之ニ對スル所ノ準備調査ト云フヤウナコ
トヲ致シテ置ク必要ガアルト思フノデアリ
やっ、又其次ニハ尙ホ吾々ノ希望ト致シマ
シテハ、此人造絹絲ノ問題デアリマスル、
是ガ果シテ天然絹絲ト同樣ノ物ガ出來ルヤ
ウニナルカナラナイカ、豫メ吾々人智ヲ以
テハ之ヲ測リ知ルコトガ出來ナイノデアリ
マスル、ト云フテ之ヲ此儘ニ捨テ置イテ、
植物纖維ナルモノハ決シテ動物纖維ト同ジ
ヤウナモノガ出來ル氣遣ヒハナイト云ッテ、
安心シテ居ル譯ニハ參ラヌノデアリマス、
故ニ此人造絹絲ノ爲ニハ特ニ此蠶業試驗
所竝ニ蠶絲ニ關係致シテ居ル所ノ專門學
校モ三ツモアルノデアリマスルカラシテ、
是等ノ機關ニ對シマシテモ十分〓究スルヤ
ウナ方法ヲ設ケテ戴キタイ、ノミナラズ、
一面ニ於キマシテハ宜シク歐米ヘ是ガ爲ニ
〓究スル所ノ人ヲヤッテ、十分ニ是ガ〓究
ヲサシテ貰ヒタイト思フノデアリマス、尙
ホ其上吾々ノ遠慮無イ所ノ希望ヲ申上ゲマ
スト云フト、先年佛蘭西ニ於キマシテ蠶病
ガ流行致シタコトガアル、殆ド燎原ノ火ノ
如ク蠶病ガ流行致シマシタ爲ニ、此佛蘭西
ノ蠶業ハ最早何トモスルコトガ出来ナイヤ
ウナ窮境ニ陷ッタコトガアッタノデゴザイマ
スルガ、其時、時ソ政府ハ一億法ノ懸賞金
ヲ掲ゲマシテ、以テ此蠶病ヲ發見シ、同時
ニ是ガ驅除ノ方法ヲバ獎勸募集致シタノデ
アリマス、其結果ト致シマシテ、彼ノ「パ
ストール」博士ハ微粒子病ナルコトヲ發
見スルト同時ニ、蠶種ノ袋取法ナルモノヲ
發明致シマシタ、是ガ爲ニ佛國ノ養蠶ハ窮
地ニ救ハレマシテ、今日ノヤウニ佛國ノ蠶
業ハ行ハレテ居ル次第デゴザイマスルガ、
此「パストール」博士ニ對シマシテハ時ノ
政府ハ非常ナル所ノ感謝誠意ヲ表スルト同
時ニ、貴衆兩院ハ此「パストール」博士ニ對
シマシテ、終生二千五百法ノ年金ヲバ贈呈
スルコトニ可決致シタノデアリマス、此「パ
ストール」博士ノ微粒子病發見ハ、啻ニ佛
蘭西ノ蠶業ガ救ハレタノミナラズ、我國ニ
於キマシテモ偉大ナル所ノ恩惠ヲ受ケテ居
ルノデアリマスル、斯樣十次第デアリマス
ルカラシテ、今日我國/輸出品ノ大宗タル
所ノ此蠶絲業ニ對スル所ノ一大勁敵ト目ス
ペキ所ノ此人造絹絲デアリマスル、此人造
絹絲ナルモノガ果シテ天然絹絲ト同樣ナモ
ノガ出來ルカドウカ、出來ナイナラ出來ナ
イデ宜シイ、若シ出來タ場合ニ於テハドウ
スル、斯ウ云フコトニ付テハ吾々共ハ寸時
モ安心ヲスルコトハ出來ナイノデアリマス
ルニ依クテ、之ニ對シマシテ我ガ政府ハ少ク
トモ十万圓位ノ懸賞金ヲ以テ、是ガ懸賞ヲ
セラレテ、大ニ此〓究ヲ奬勵セラレンコト
ヲ吾々共ハ切ニ希望スル者デアリマスル、
政府諸公ニ於テハ、是等ニ付キマシテ相當
御考ヲ煩シテ見タイト思フ者デアリマス
ル尙ホ對內策ト致シマシテハ大ニ施設
スベキモノガアルト思フノデアリマスル、
先ヅ第一ニ於キマシテハ、此生產費ヲ低減
致シマシテ、サウシテ成ベク優良=ヲヲク
拵へ上ゲルト云フコトガ、所謂此支那ノ蠶
絲業或ハ人造絹絲、米國ノ蠶業等ニ對スル
所ノ唯一ノ策デアルト思フノデアリマスル
ガ、併ナガラ其生產費ヲ低減スルト云フコト
ハ如何樣ニ致シタナラバ宜シイノデゴザ
イマセウカ、是ハ問題デアルノデアリマス
ル今日養蠶ニ於キマシテモ、製絲ニ於キ
マシテモ、其生產費ノ大部分ヲ占ムルモノ
ハ卽チ勞働賃銀デアルノデアリマスル、其
勞働賃銀ハ大正二年ノ頃ニ於キマシテハ男
一人ガ一日僅ニ六十錢、女一人ガ一日僅ニ
四十錢位ノモノデアリマシタノガ、大正十
二年ニ至リマシテハ男一人ノ勞働賃銀ハ一
圓八十錢、女一人ノ賃銀ハ一圓三、四十錢
ト云フヤウナヤウコトニナッテ居リマス、
斯樣ナ次第デアリマシテ、非常ナル所ノ賃
銀ハ高クナッテ居リマスルデアリマスルカ
ラシテ、之ヲ安ク拵ヘルト云フコトハ容易
ナ業デハナイノデアリマス、殊ニ今日ノ桑
園ノ狀態ヲ以テシテハ如何デゴザイマセツ
カ、今日ノ蠶兒飼育法ヲ以テシテハ如何デ
ゴザイマセウカ、今日ノ操絲法ヲ以テシテ
ハ如何デゴザイマセウ、蠶兒ノ唯一畝飼
料タル所ノ桑園ハ年々幾多ノ荒廢桑園ヲ出
シテ、未ダ之ヲ救濟スル所ノ方法ガ見出サ
レヌノデアリマス、蠶病ノ如キモ年々行ハ
レテ、現ニ近年二三年ノ間ハ、秋蠶ノ如キ
ハ洵ニ不良ナル所ノ成績ヲ元シテ居ルノデ
アリマス、斯樣ナ次第デアリマシテ、此桑
園ノ狀態ト云ヒ、或ハ蠶兒飼育法ノ如キモ
種々雜多ニ分レテ居ルノデアリマシテ、殆
ド歸從スル所ヲ知ラナイヤウナ有樣ニナッ
テ居ルノデゴザイマス、デアリマスカラ、
先ヅ今日此生產費ヲ安クスルト云フコトニ
付キマシテハ、勞働賃銀ノミデハゴザイマ
セヌ、是等露兒飼育法ノ改良、桑園ノ改
良、桑種圃ノ改良等ニ付キマシテ、大ニ努
メナケレバ到底生產費ヲ安クシテ、食イ物
ヲ拵ヘルト云フコトハ出來ナイノデアリマ
ス、然ラバ是ハ如何ニ致シタナラバ宜シイ
カ、是等ノ〓究調査機關ト致シマシテハ、
農商務省ノ下ニ蠶業試驗場ガゴザイマス、
此蠶業試驗場ハ蠶絲業ニ關スル所ノ調査〓
究ノ機關ト致シマシテハ、唯一ノ機關デア
ルノデアリマス、此蠶業試驗場ハ創立セラ
レテ旣ニ十有三年以上ニモナッテ居ルノデ
ゴザイマスルガ、之ニ對シマシテ世間兎
角ノ批評ヲ爲ス者ハアリマスルケレドモ、
併ナガラ此靈業試驗場ナルモノガ我ガ蠶絲
業界ニ對シマシテ、非常ナル所ノ働ヲ致シ
テ居ルト云フコトハ、是ハ諸君旣ニ御承知
ノ事デアリマスガ、其蠶業試驗場ガ大正十
四年度ノ豫算ニ於テ十七万圓以上ノ經費ヲ
削減セラレマシタト云フコトハ吾々共ハ
先刻申上ゲマシタ如ク、蠶病問題ト云ヒ、
或ハ桑園問題ト云ヒ、或ハ桑種圃問題ト云
ヒ、大ニ研究調査ヲセナケレパナラヌ今日
ニ於キマシテ、是ダケ多額ノ費用ヲ削減セ
ラレマシタト云フコトヲ洵ニ遺憾ニ思フ者
デアリマス、是モ天引論デ已ムヲ得ナイト
云フ政府當局ノ御辯明デゴザイマシタガ、今
日行政整理ノ際デゴザイマスカラシテ、或
ハ財政整理ノ際デアリマスカラ、已ムヲ得
ナイトハ言フモノヽ、併ナガラ今日我國輸出
品ノ大宗タル蠶絲業其モノニ對シマシテ、
大ニ〓究調査ヲセナケレパナラヌ大問題ガ
眼前ニ横ヲテ居ル今日デアリマスカラ、大
正十四年ハ已ムヲ得ナイト致シマシテモ、
冀クハ大正十五年度カラハ更ニ其經費ヲ復
舊スルノミナラズ、更ニ其經費ヲ增加致シ
マシテ、是等ノ問題ニ對シマシテ十分〓究
調査ノ出來ルヤウニシテ戴キタイト云フ希
望ヲ申上ゲルノデアリマス、第二ニ於キマ
シテハ蠶絲局ノ問題デアリマス、是ハ昨年
私ハ一ノ建議案ヲ提出シタノデゴザイマス
ケレドモ、武藤代議士ガ蠶業國策ニ關スル
建議案ノ中ニ此蠶絲局設置ノ事ヲバ籠メ
テ建議ヲシテ居ラレ、又政府當局モ相當御
諒解ガアルヤウニ伺ヒマシタカラ、私ハ之
ヲ撤回ハ致シマシタケレドモ、併ナガラ此
蠶絲局設置ト云フコトハ同業者多年ノ希望
デアリマスノミナラズ、我國蠶絲業ノ現狀
ニ徵シマシテ、今日ノ繭絲課ダケデハ甘ン
ズルコトガ出來ナイ、又之ニ依シテ蠶絲業
界ニ横ハル大問題ヲ悉ク解決スルコトハ無
理ナ註文デアラウト思フノデアリマス、故
ニ冀クハ此蠶絲局ナルモノヲ更ニ設置致シ
マシテ、サウシテ内外ニ對シテ大ニ蠶絲業
ノ調査ヲ爲シ、〓究ヲ爲シ、更ニ斯業ノ一段
ノ改良、發達ノ出來ルヤウニシテ戴キタイ
ト云フ希望ヲ持ッテ居ル者デアリマス、
尙ホ對内策ト致シマシテハ横濱ニ於ケル
所ノ取引所ノ改良ヲスルト云フコトガ最モ
急務デアルト思フノデアリマス、今日横濱
ノ生絲取引ニ於キマシテ幾多ノ弊害ガアル、
之ヲ大ニ改良シナケレバナラヌト云フコト
ハ、何人モ能ク之ヲ認メテ居ル所デゴザイマ
スガ、之ニ對シマシテ「ゴールドスミス」卽
チ亞米利加ノ絹業協會長デアリマス所ノゴ
ールドスミス」ノ言ッタコトヲ私ハ引用致シ
マシテ、如何ニ其必要ナルカト云フコトヲ
玆ニ述ベテ置キタイト思フノデアリマス、
「吾々ハ絲價ノ變動ニ付テ橫濱ノ生絲取引
所ノコトヲ考ヘル、絲價ハ投機的性質ヲ有
スルモノニ非ズ現印ナクシテ品物ヲ賣買ス
ルハ投機デアル、投機ハ全然貨物ナクシ
テ、生産竝ニ消費ニ關係ナキ第三者ガ中間
ニ於テ轉々賣買スルコトニ依シテ、奇利ヲ
搏セントスルモノデアル、此事實ハ日米兩
國國民ニ存ス、農產物タル繭價ガ理由ナキ
變動ニ依リ、日本農民ニ惡影響ヲ與ヘツヽ
アルハ事實ナリ、吾人ハ絲價ノ正當チル上下
ハ之ヲ認ムルモ、不正當ナル人爲的投機ニ
基ク高低ヲ、何等カノ方法ニ依リ除去セザ
ルベカラズ、横濱ノ定期取引所ガ是等ノ改
正ガ出來タニ於テハ米國絹業家ハ全然生
絲ノ定期取引所ノ中止ヲ希望スル」云々之
ニ依ッテ如何ニ今日横濱ノ取引所ヲ改良シ
ナケレバナラヌカト云フコトガ明ニ證明セ
ラレルコトヽ思フノデアリマス、是等ノ事
ヲ十分ニ解決致サナケレバ、此重要品ヲ安
ク拵ヘルト云フコトハ到底望ムコトガ出來
ナイト思フノデアリマス、尙ホ詳細ニ亙ク
テ述ベタイト思フ事モアリマスケレドモ、
此位ニ致シテ止メテ置キマスガ、是等ノ點
ニ於キマシテ、幸ニ政府當局ノ御意見ヲ御
伺スルコトガ出來マスレバ洵ニ仕合セデア
ルト存ジマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=5
-
006・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ蟻川五郞作君
陸軍軍備ノ整理竝行政整理ニ關スル質問
ノ答辯ニ對スル蟻川五郞作君ノ意見
〔蟻川五郞作君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=6
-
007・蟻川五郎作
○蟻川五郞作君 本員ノ質問ニ對シマシテ
陸車大臣ヨリ御丁寧ナル答辯ニ預リマシタ
コトハ本員ノ感謝スル所デアリマス、想
フニ軍事問題ト致シマシテ本年ノ議會程重
要ナル問題ニ當面シタルコトハナカラウト
信ズルノデアリマス、卽チ國力之ヲ許セバ
軍備ヲ充實シ、又軍備ヲ擴張スルト云フコ
トハ國防上ノ見地カラ申シマスレバ、是ハ
問題デハアリマセヌ、卽チ是方爲ニ國防ヲ
危クスルト云フ虞ハ無イカラデアリマス、
之ニ反シテ國防上ニ苟モ懸念ノ存スル問題
ハ事ハ頗ル重大ト思ヒマス、卽チ本年ノ
議會ハツレト思ヒマス、此度陸軍ノ軍備竝
ニ行政ノ整理ニ付キマシテ、本員等ト共ニ
國防上ニ聊カ疑惑ノ念ヲ懷ク者モ少カラザ
ルコトヽ信ジマスルガ故ニ、此壇上ヲ借リ
マシテ意見ヲ陳述致シテ、國民ト共ニ其疑
ヲ解キタイト思フノデアリマス(拍手)第一
ニ質問ヲ致シマシタル要旨ハ、陸軍ノ軍備
ノ整理ニ就テハ師團數ノ減少メ外ニ、他
適當ノ方法ナキヤト云フノデアリマス、之
ニ對スル陸軍大臣ノ御答辯ノ要旨ハ、陸軍
ニ於テハ喫緊ノ新施設ヲ要スル、其經費ハ
新ニ國庫ニ要求スルコトハ現今ノ狀勢ニ於
テ到底不可能ナルガ爲ニ、經費捻出ノ方法
トシテ師團減ヲ行ウタ次第デアル、斯ウ云
フノデアリマス、本員ガ玆ニ疑ヲ生ジマス
コトハ、大藏大臣ハ此度行政財政ノ上ニ大
整理ヲ行ウテ、國家財政百年ノ基礎ヲ固メ
ラレントスル時ニ方リマシテ、陸軍ニ於テ
ハ俄ニ足許カラ鳥ガ起ツヤウニ喫緊ノ新施
設ヲ提唱セラレタノデアリマス、此新施設
ハ何デアルカト申シマスレバ、歐米諸國ハ
既ニ數年以前ニ歐洲大戰三實地ニ使用シタ
ルモノデ、謂ハヾ今ヤ將ニ陳腐ニ屬セント
シツヽアルモノデアリマス、然ルニ今之ヲ
俄ニ發見シタルガ如ク、之ヲ新設セントセ
ラレルノデアリマス、併シ遲レナガラモ是
ハナクテハナラナイ新施設デアリマスルガ
故ニ、之ヲ爲サレルト云フコトハ至極結構
ナ事デアリマスガ、何故ニ今日マデ是ガ問
題トナラナカッタノデアリマスカ、山梨陸
軍大臣ノ時ニ、先年議會ハ新兵器費トシテ
九千六百万圓ニ協賛ヲ與ヘテ居リマス、是
デ新施設ニ付キマシテハ今後十何年ト云フ
間ハ据置デ、何等心配ナシト深ク安心シテ
居ッタノデアリマス、我ガ陸軍ハ世界ノ何
レノ陸軍ニモ立遲レテ居ラウトハ夢ニモ思
ハズニ居ッタノデアリマス、然ルニ此信用
ハ全ク裏切ラレマシテ、我ガ陸軍ハ歐米强
國ノ陸軍ニ比シテ其施設ガ大ニ立遲レテ居
ルト云フコレガ明ニナッタノデアリマス、
抑、此責任ハ誰ガ負フベキモノデアリマセ
ウカ、此事ニ付キマシテハ既ニ度々議會ニ
於テ質問應谷モアリマシ夕事デアリマスカ
ラ、本員ハ略シマスガ、是ハ過去ッタ事デア
ルカラ今更何ト言フモ致方ハナイ、斯ウ云
フ陸軍大臣ノ言ヲ聞クノデアリマスルガ、
之ヲ一言質サズニ置クト云フコトハ果シテ
如何カト思ヒマス、個人間ノ事デアリマシ
テモ、法ニ從ッテ質スベキモノハ質サナケ
レバナラヌ、況ヤ國防上エ大影響ヲ及ポシ
タル本件ノ如キ、大事件ヲ、其儘ニ質サズ
ニ置クト云フコトハ如何デアラウカト思ヒ
マス、〓ニ角本件ニ付キマシテ、國民トシ
テ實ニ遺憾至極デアルノデアリマス、併シ
遲レナガラモ此新施設ヲ爲スガ爲ニ、陸軍
大臣ハ四個師團ノ影ヲ消シテ之ヲ決行セラ
レントスルノデアリマス、其御勇氣ト御英
斷ニハ滿腔ノ敬意ヲ表シマス、四個師團ハ
一寸永レバ大シタ事デモナイヤウデアリマ
スルガ、日露ノ戰役ニ於キマシテ兩車ガ沙
河ニ對陣ヲ致シテ、互ニ引張ルコトモ押ス
コトモ出來ナイ、此時ニ方リマシテ此均勢
ヲ破リテ我軍ノ大㨗ヲ得マシタモノハ申
ス迄モナク乃木軍ガ旅順ヨリ轉戰シタニ在
リマス、其力ハ正ニ四個師團デアルノデア
リマス、ノミナラズ此四個師團ナルモノハ
旅順ニ於テ散々ニ傷メラレマシタルモノデ
アリマシテ、謂ハヾ疵ダラケノモノデ、アル、
然ルニ其威力ハ斯ノ如ク偉大デアリマス、
尙ホ玆ニ附言致シマスルコトハ平時ノ師
團ナルモノハ戰時ニ於テハ之ニ數倍スル所
ノ師團ヲ作ルベキ根ヲ持シテ居ルト云フコ
トデアリマス、歐洲ノ大戰ニ於キマシテ獨
逸ノ如キハ平時ノ軍隊ニ數倍スル軍隊ヲ
作ッタノデアリマス、日本ノ事ハ私ハ存ジ
マセヌ、若シ獨逸ノ例ヲ以テ致シマシタナ
ラバ、此四個師團ナルモノハ、戰時ニ於テ
ハ或ハ十六師團トナリ、或ハ五倍シテ二十
師團トナル所ノモノデアリマス、實ニ此平
時ノ四個師團ナルモノハ奉天戰ニ於テ兩軍
ノ戰ヲ決シマシタル全日本軍ヨリモ、尙ホ
ヨリ以上大キクナル所ノ素質ノアルモノデ
アリマス、斯ク見マスル時ハ歐米諸國ニ於
キマシテハ今ヤ既ニ時勢ニ後レントスル
此新施設ヲ爲スガ爲ニ、又金額カラ申シマ
スレバ約ソ千六百万圓ヲ得ンガ爲ニ-ソ
レモ澤山元ノ掛ッタ師團ヲ消シテ、ソレヨリ
千六百万圓ヲ得ンガ爲ニ拂ハレタル陸軍大
臣ノ四個師〓減ト云フ犧牲ハ、實ニ偉大ナ
ルモノデアリマス、尤モ之ニ就キマシテハ
國民ニ軍事〓育ヲ施シテ、其缺ヲ補ハウト
云フ御考モ陸軍大臣ニアルヤウデアリマス
ルガ、其成果ハ未知數デアリマスガ、是ハ
確實ナル既知ノ數デアリマス、ノミナラズ
假令國民ニ軍事〓育ヲ施シマシテモ、步兵
ハ知ラズ、騎兵、砲兵、工兵ノ如キ特科兵
ノ要員ヲ之ニ依シテ得ルト云フコトハ、殆ド
望ミ難イ事ト思ハレマス、〓ニ角此大ナル
犠牲ヲ拂ハレル前ニハ、之ニ比ベテ其目方
ノ是ヨリ輕イモノ、其害ノ是ヨリ少イモノ
ハ悉ク犧牲トシテ拂ハレテ後、此大犧牲ニ
及バレテ然ルベキコトヽ信ズルノデアリマ
ス、然ルニ〓育總監部ノ如キモノハ依然ト
シテ今日存在シテ居ル、世界列强ノ陸軍ニ
比ベマシテ、數年間モ立遲レテ居ル此新施
設ヲ爲スニ、非常手段ヲ用ヰテ四個ノ師團
ノ影マデモ消サウト云フ場合ニ、歐米諸國
ニ於テハ例モ無イヤウナ〓育總監部ノ如
キモノヲ其儘存置スル必要ハ何處ニ在リ
マセウ、又平時ニ於テハ殆ド其必要モ認
メ難イ、一昨年ノ大震災ノ時ニ東京ニ五六
師團ノ兵ガ入ッタト云フヤウナ時ニ設ケマ
シタ所ノ束京警備司令部ノ如キモノヲ、
今日常置シテ置ク必要ハ何處ニゴザイ
マセウカ、又官衙、學校、尙ホ軍隊ノ
上級將校ノ如キモ其階級ヲ低下シ、又其數
ヲ減ジ得ベキ餘地ハアラウト信ズルノデア
リマス、之ニ就テ最近ノ小サナ例ヲ申上ゲ
マスレバ、大正三四年頃マデハ獸醫ノ最上
級ハ大佐級デ止ッテ居フタノデアリマス、之
ヲ全國ニ唯、一人少將級ノ者ヲ作リタイト
云フコトデゴザイマシタガ、是スラ出來ヌ
デ居ッタノデアル、然ルニ先日中將級ノ獸醫
總監ト云フモノモ出來タノデアリマス、卽
チ十年前マデハ大佐級デ勤マッテ居ッタ所ノ
役人ノ位置ヲ、今日ハ中將級ニマデシテ居
ルノデアル、是ハ一例デアリマス、本員ガ
師團數ヲ減少スル外ニ方法ハ無イノデアラ
ウカト申シマスルノハ卽チ是ガ其一ツノ
證據デゴザイマス、尙ホ此外ニモ一時經費
ヲ捻出スルノ方法ハ他ニ求ムル餘地ハ多々
アラウト信ズルノデアリマス、何故ニ師
團ノ如キ名木ヲ四本マデモ根カラ抜クト
云フ時代ニ於テ雜木ヲ御拔キニナラナイ
カ、雜木モ集メマシタナラバ一本ヤ二本ノ
名木ニ値スルモノガアッタラウト信ズルノ
デアリマス、甚ダ失禮ナ申分デハアリマス
ガ、之ヲ若シ忌憚ナク申シマシタナラバ、
家政ガ不如意ニナリマシテ、先代ガ折角築
キ上ゲタル身代ヲ端カラ賣リナガラ、贅澤
ヲ續ケテ居ルヤウナ感ガアルノデアリマ
ス、尙ホ之ニ關聯シテ、陸軍大臣ハ四個師
團ヲ減ズルモ、國防上ニ影響スルナシト言
ハルヽノデアリマス、卽チ新施設ヲ以テ之
ニ代ヘルカラト云フノデゴザイマスカ、國
防上ノ安全ヲ保障セラルヽノデアリマセウ
カ、是ガ何レカノ時機ニ伺ヒタイ一ツデア
ル、卽チ今日ノ四個師團ヲ減ジテモ國防上
安全ナリト保障セラルヽ御意見デアラウカ
ト云フコトヲ、何時カノ時機ニ承リタイト
思フ、次ニ本員ガ質問致シマシタコトハ
師團ノ數ヲ減ズルハ假ニ已ムヲ得ズト致シ
マシテモ、砲兵ヲモ併セテ減ズルト云フコ
トハ、果シテ機宜ニ適シタルモノデアルカ
ト云フコトデアルノデアリマス、之ニ對ス
ル陸軍大臣ノ御答辯ノ要旨ハ、各國共ニ步
兵ニ對スル砲兵ノ割合ヲ增スコトニ努メテ
居ル、我ガ國軍ニ於ケル此割合ハ、歐米諸
國ニ及バザルハ事實デアルガ、元來國軍ノ
装備ハ其行動スル舞臺ト相手ヲ考へ、又財
政ヤ工業力等ヲ考慮シテ決定スベキモノデ
アル、仍テ歐米列强軍ト同一ニセザルモ妨
ゲナイ、尙ホ砲兵ノ割合ハ從來ヨリ增加セ
ザルモ、其威力ハ大ニ改善セラルヽ筈デア
ル云々トノ答デアリマス、相當ニ長イ御答
辯デゴザイマシテ、實ハ一〓ニ要領ヲ得ル
ニ苦ムノデアリマス、併シ御丁寧ナル御答
辯ニハ謝意ヲ表シマス、唯〓之ニ就テ當局
ハ將來ノ國防ヲ慮リマスル上ニ於テ、其行
動スベキ舞臺ダトカ、相手ダトカ云フコト
ヲ考ヘルト云フコトハ萬全ノ策デナイト云
フコトハ、本員等ノ申スマデモナイコトヽ
思ヒマス、實例ヲ申シマシテモ、歐洲ノ大
戰前ニ獨逸ノ軍ハ果シテ佛國ヤ白耳義ノ國
土ニ於テ、米國軍ト相見ユルコトヲ豫期シ
テ居ッタデアリマセウカ、卽チ國防上萬全
ノ事ヲ申シマスレバ、列强中最モ强イモノ
ヲ相手ニ致シマシタ時ニ於テモ、決シテ之
ニ劣ラザル工夫ヲ爲シ置クコトニ努ムベキ
ハ當然ノ事ト信ズルノデゴザイマス、押
歐米强國ニ於キマスル步兵ト砲兵トノ割合
ハ果シテ如何ナルモノデゴザイマセウ
カ、又其砲兵ノ殺傷力ハ歲ト共ニ著シク增
大致シマシテ、今ヤ實ニ驚クベキ威カデア
ルノデアリマス、我ガ陸軍ノ步兵ト砲兵ト
ノ割合ハ、果シテ安心シテ居レル狀態デゴ
ザイマセウカ、尙ホ其割合ノミナラズ、砲
其モノヽ比較ハ如何デアリマセウカ、若シ
是ガ著シク劣ッテ居リマシタナラバ、實ニ
重大ナル問題デアリマス、卽チ不幸ニシテ
万一双方相見ユルコトニナリマシタナラ
バ、彼ハ機械ヲ以テスル、彼ハ砲火ヲ以テ
スルニ、我ハ血ヲ以テスル、卽チ我ノ血ヲ
以テ彼ノ砲火ヲ消スト云フコトニナルノデ
アリマス、實ニ是ハ重大デアル、斯ノ如ク
ナルガ故ニ、之ヲ若シ見越シマシタナラ
バ國民トシテ豫メ十分ニ之ヲ承リ、十分
ノ覺悟ト決心トヲシテ置ク必要ガアルノデ
アリマス、卽チ豫メ經費ヲ出シテ之ニ備ヘ
ルカ、或ハ然ラズシテ万一ノ時ニ血ヲ出ス
ノ覺悟ヲシテ置クカ、二ツニ一ツノ決心ヲ
要スルノデアリマス、此事ニ付テハ軍部當
局トシテハ豫メ國民トノ間ニ十分ナル諒
解ヲ遂ゲテ置クベキ必要ガアリマス、斯ノ
如キハ決シテ單ナル編成事項デハゴザイマ
セヌ、又單ナル編成事項トシテ取扱フベキ
モノデハナカラウト信ジマス、此二ツニ一
ツノ決心ヲ要スルコトニナリマシテハ、國
民ト御相談ニナリマシテ、篤ト諒解ヲ國民
トノ間ニ得テ置カレル必要ハ元來十分ニア
ルノデアリマス、尙ホ血ヲ流スコトハ萬々
忍ブト致シマシテモ、是デ果シテ戰勝、卽
チ國防最終ノ目的ヲ達セラルヽデアリマセ
ウカ、尤モ陸軍大臣ハ我國工業ノ狀態等ニ
鑑ミテ、砲兵ヲ斯ノ如ク減ジテモ可ナリト
セラルヽ御意見ノヤウデアリマスガ、我國
ノ工業狀態ハ今日ノ現況ニ留マルベキモノ
デハナカラウト信ジマス、追テ進歩發達ス
ベキモノデアルト云フコトヲ確信致シマ
ス、然ラバ工業狀態等ガ進ミマスルナラ
バ、隨テ砲兵モ亦何時カ增加サレルト云フ
御考デアルノデアリマセウカト云フコトガ
疑問デアル、ソレトモ四圍ノ狀況ニ大ナル
變化ナキ限リハ一般砲兵ニ付テハ考慮ニ
及バズトセラルヽノデアリマスカ、之モ疑
問デアル、本員ハ甚ダ不安ニ堪ヘナイノデ
アリマス、尙ホ此度ノ新施設デ、今後四關
ノ事情ニ特別ナル變化ナキ限リ、是デ十分
ナリト陸軍大臣ハシテ居ラレルノデアリマ
セウカ、是モ一ツ私共ハ疑問ヲ持ッテ居ル
ノデゴザイマス、私ノ陳述ハ是デ終リマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=7
-
008・小泉又次郎
○議長(粕谷義三君) 次ハ神崎動君
輸入超過竝農村振興ニ關スル質問ノ答辯
ニ對スル神崎動君ノ意見
〔神崎勳君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=8
-
009・神崎勳
○神崎動君 私ハ政府ニ對シマシテ輸入超
過ノ防遏下農村ノ振興、此二ツノ問題ニ付キ
マシテ先日來質問書ヲ出シテアッタノデア
リマスガ、然ルニ答辯者ガ參リマシタガ、
稍、不十分ナ感ガ起リマシタカラ致シマシ
テ、玆ニ意見ノ陳述ヲ爲サウト思フノデア
リマス、私ハ此二ツノ問題ニ關聯致シマシ
テ、尙ホ進ンデ關稅政策ト金利ノ高低按排
ニ付キマシテ、政府/御意見ヲ伺ッテ見ヤ
ウト思フノデアリマスシ斯ノ如キ問題ハ先
日來本會議及豫算委員會ニ於キマシテ質問
應答ノ屢、繰返サレテ居ルニモ拘リマセ
ズ、再ビ私ガ玆ニ論議スルト云フコトハ、
稍〓時後ノ感ガナイノデモナイノデアリマ
ス、併ナガラ何ト申シマシテモ此二ツノ問
題ハ我ガ日本帝國現時ノ政府問題ト致シ
マシテ、若クハ社會問題ト致シマシテ、最
モ重要ナル問題デアリマスト共ニ、又屢〓
繰返サレマシタ質問應答ノ稍〓神髄ニ觸レテ
居ラナイト云フ感ガ起リマシタカラ致シマ
シテ、私ガ此壇上ニ立チマシテ意見ノ陳述
ヲ爲スハ、必シモ徒爾デアルマイト考ヘタ
カラ、此演壇ニ立ッタ次第デアサマス、此二
ツノ問題ハ最モ密接ノ關係ガアリマシテ、
孰レカノ一方ニ於キマシテ其解決ノ宜シキ
ヲ得ナガッタナラバ、他ノ一方ニ波及サレ
マシテ、遂フコトノ出來ナイ破目ニ陷ルノ
デゴザイマスカラ致シマシテ、私ハ此二ツ
ノ問題ノ解決ニハ十分意ヲ用キナケレバナ
ラナイト思フノデアリマス、此二ツノ問題
ヲ高調サレマシテ、旣ニ長キ歳月ヲ經テ居
リマスルニ拘リマセズ、未ダニ解決スルコ
トガ出來ナイノミナラズ、其解決ノ曙光ダ
ニ見ルコトノ出來ナイト云フコトハ、洵
遺憾ニ堪ヘナイ事デアリマス、斯ノ如キコ
トデアリマスルカラ致シマシテ、最早今日
ニ於キマシテハ私ハ從來執リ來ッタ策ノミ
ニ依リマシテ、此二ツノ問題ヲ解決シヤウ
ト云フコトハ、決シテ策ノ得タルモノデハ
ゴザイマセズ致シマシテ、必ズヤ新政策ニ依
ラナケレバナラナイト思フノデアリマス、
政府モ茲ニ大ニ見ル所ガアリマシテ、本議
會ニ於キマシテ農村振興ト致シマシテモ、
種々ノ施設經營ニ付キマシテ案ガ提出サレ
テ居ルノデアリマスガ、然ルニ又輸出奬勵
ト云フコトニ付キマシテモ、輸出組合トカ
或ハ重要輸出品組合法案ノ如キモノガ提出
サレテ居ルカラ致シマシテ、是ガ實現サレ
マシタナラバ、大ニ效果ノ見ルベキモノガ
アラウト思フノデアリマス、併ナガラ私ハ
此輸入超過ノ防遏ト農村ノ振興、此二ツノ
問題ヲ解決シヤウト思ヒマシタナラバ、是
非關稅政策ト金利ノ高低按排ト云フコトヲ
見遁スコトハ出來ナイト思フノデアリマ
ス寧口私ハ此二ツノ問題ヲ徹底的ニ解シ
ヤウト思ヒマシタナラバ、是非此二ツノ問
題ニ依ラナケレバナラヌト思フノデアリマ
ス、然ルニ從來ノ政策ガ何故誤シテ居ッタカ
ト云フコトヲ論斷セントスルナラバ、此二
ツノ問題ヲ最初ニ唱ヘマシテ、其以後ニ於
ケル手段ニ付キマシテ詮議シナケレバナラ
ヌト思フノデアリマス、此二ツノ問題ノ高
調サレマシタノハ、確ニ大正九年頃デアソ
タト思フノデアリマス、大正八年ニ輸入超
過ヲ見マシテ、今日ニ引續イテ居ルノデア
リマスガ、大正三年ヨリ大正七年迄ハ海外
貿易ガ好況デアリマシタ爲ニ、常ニ輸出超
過ヲ見テ居ツタノデアリマス、然ルニ歐羅
巴戰亂ガ終熄ヲ致シマシテヨリ、貿易ハ逆
ニ變ジマシテ輸入超過ヲ來シタノデアリマ
ス、大正八年ヨリ輸入超過ヲ來シマシテ今
日ニ引續イテ居ルノデアリマスガ、是ガ引
續カルヽニ於キマシテハ、政黨政派ノ間ニ
於キマシテ、若クハ政府民間ニ於キマシ
テ、是ガ對策ニ大ニ苦心サレタノデアリマ
ス、種々論議サレタノデアリマスガ、一番
聲ノ高カッタノハ物價ノ引下デアッタノデア
リマス、物價ノ引下ハ一般國民ノ購買力減
殺デアリマシテ、一般國民ノ購買力ノ減殺
ハ通貨ノ縮小、通貨ノ縮小ハ消極政策ト金
利ノ引上ゲデアッタノデアリマス、爲ニ曰
本銀行ハ當時日歩一錢四五厘内外ヲ二錢四
五厘マデ引上タノデアリマス、併ナガラ更
ニ效果ガ無カッタノデアリマス、是ニ於キ
マシテ金利ノ引上ハ物價ノ引下ニ效果ノ無
イト云フコトガ分リマシテ、他ノ物價ノ引
下ノ策ヲ執ッタノデアリマス、然ルニ此際
ニ於キマシテ如何ナル考デアッタノデアリ
マセウカ、金利ヲ引上タモノヲ今日マデ其
儘ニナッテ居ルノデアリマス、物價ノ引下
ニ付キマシテ金利ノ引上ト申シマスノハ、
詰リ通貨ノ縮小デアリマシテ、一般國民ノ
購買方ノ減殺デアッタノデアリマス、是八
洵ニ廻リ遠イコトデアリマシテ、實ニ遠イ
間接ノ手段デアッタノデアリマス、然ルニ
物價ヲ構成サレテ居リマス所ノモノハ勞
銀原料、金利ノ此三ツヨリ構成サレテ居
ルノデアルカラ致シマシテ、其重要ナ金利
ヲ引上ゲタノデアリマスカラ致シマシテ、
ドウシテ物價ノ下ルコトハ出來ルデアリマ
セウ、物價ハ當然引下ゲナケレバナラナカツ
タト思フノデアリマス、然ルニ其際ニ引上
ゲマシタ所ノ金利ハ今日ハドノ位ニナッテ
居ルカト申シマシタナラバ、一割內外ト云
フコトヲ聞クノデアリマス、併シ吾々地方
ニ於キマシテハ、一割内外所デハナイノデ
アリマス、一割二分以上ノ金利ヲ拂シテ居
ルノデアリマスガ、併シ一割内外ト假定致
シマシテ、一割内外ノ利率ノ資木ニ依ッテ
生產サレマシタ物價ト亞米利加邊リノ年
四朱以下ノ資本ニ依リマシテ生產サレマシ
夕物價ト、ドウシヲ競爭スルコトガ出來ル
デアリマセウ、今日物價ハドウシテモ下ラ
ナイ所カラ致シマシテ、勞力ヲ省ク爲ニ機
械ノ應用ニ依リマシテ、大量生產的手段ニ
依ラナケレバナラヌト云フ議論ヲ聞クノデ
アリマス、是ハ私ハ洵ニ至當ノ言デアリマ
シテ、必ズヤ近キ將來ニ於テ實現スルノデ
アラウト思フノダアリマスガ、併ナガラ只
今申上ゲマシタヤウニ、年一割內外ノ利率
ノ資本ニ依リマシテ、購入サレマシタ所ノ
機械ニ依リマシテ生產サレマシタ物價ト、
年四朱以下ノ資本ニ依リマシテ購入サレマ
シタ所ノ機械ニ依リマシテ生產サレマシタ
ノガ、ドウシテ競爭スルコトガ出來ルデア
リマセウカ、少シク生產業ヲ解スル者デア
リマシタナラバ、當然分ル事デアラウト思
フノデアリマス、今日物價ノ下ラナイ事カ
ラ致シマシテ、是非金利ヲ引下ゲナケレバ
ナラヌト云フコレガ檯頭シ來ッタノデアリ
マスガ、然ルニ又反對者モ起ッテ居ルノデア
リマス、其反對ノ議論ト致シマシテハ
今金利ヲ引下夕所ガ、決シテ物價ト云フモ
ノハ下ルモノデハナイ、金利ノ引下ト云フ
モノハ自然ノ趨勢ニ待タナケレハナラヌ、
金利ハ今日ノ趨勢ナラバ必ズ下ルト云フヤ
ウナ事ヲ唱ヘテ居ル人ガアルノデアリマ
ス、是ハ私ハ誤ッタル議論デハアルマイカ
ト思フノデアリマス、金利ヲ引下マシテ物
價ノ引下ノ出來ナイト云フノハ矢張金利ノ
引下ニ依リマシタナラバ、何程カ通貨ガ膨
脹致シマシテ、物價ハ上リハシマイカト云
フコトガ頭ニコビリ附イテ居ルノデアラウ
ト思ヒマス、又一面ニ於キマシテハ、金利
ノ引下ニ依リマシテ何程カノ損害ヲ受ケル
所ノ國家的觀念ノ無イ銀行屋共ノ說デハナ
イカト思フノデアリマス、斯ノ如キ事デア
リマシテ、到底反對論者ノ說ハ立タナイト
思フノデアリマスガ、私ハ此物價ノ引下ニ
於キマシテ金利ヲ引上マシタコトハ確ニ
其策ヲ得タモノデハナカッタト思フノデア
リマス、尙ホ今日マデ金利ヲ其儘ニ爲シテ
置イタト云フコトハ、洵ニイカナイ事ト思
フノデアリマス、次ハ消費ノ節約デアリマ
スガ、消費ノ節約ニ依リマシテ物價ヲ引下
ヤウト云フコトハ歷代ノ内閣、又一般國
民ガ唱ヘラレテ居ルノデアリマス、消費ノ
節約ト云フコトハ、洵ニ結構ナ事デアリマ
シテ、消費ノ節約ガ眞ニ行ハレマシタナラ
必ズヤ物價ハ引下ルノデアラウト思フ
ノデアリマス、今日ノ財政經濟ノ行詰リ
ハ我ガ日本帝國一般國民ノ消費ノ不相應
ナル所カラ起因サレテ居ルト云フコトヲ、
私ハ或ハ申サレテ居ルノデアラウト思フノ
デアリマス、併ナガラ此消費節約ト申シマ
スルモノハ、容易ニ行ハレルコトハ出來ナ
イノデアリマス、之ヲ手近ク消費節約ヲヤ
ラウト思ヒマシタナラバ政府事業ノ中止
若クハ廢止ニ依ルカモ知レヌト思フノデア
リマス、併シ是ハ今日ニ於キマシテ到底言
フベクシテ行フコトノ出來ナイ事デアラウ
ト思フノデアリマス、政府事業ト致シマシ
テハ、ドンナモノデアリマセウ、鐵道事業
ノ如キ、道路事業ノ如キ、學校ノ如キ、港
灣ノ如キモノデアリマシテ、斯ノ如キ政府
事業ニ於キマシテハ、私ガ日本帝國將來ノ
文化ニ資スル所ノ最モ重要ナル事業ダケデ
アラウト思フノデアリマス、然ルニ又斯ノ
如キ事業ヲ一部デモ縮小スルト云フコトニ
ナリマシテモ、ソコニ一般社會ノ不景氣ヲ
來シマシテ、彼ノ失業者ノ如キモノヲ出シ
マシチ、新ナル社會問題ヲ起スカモ知レマ
セヌカラ致シマシテ、今日ニ於キマシテ
政府事業ノ中止若クハ廢止ニ依リマシ
テ、消費ノ節約ト云フコトハ到底出來ナイ
次第デアラウト思フノデアリマス、斯ノ如
キ事カラ考ヘマシタナラバ、消費ノ節約ナ
ルモノハ是非一般國民ノ各自ニ待タナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、然ルニ一
般各自ノ消費ノ節約ト申シマスルモノハ
容易ニ行ハレルモノデアリマセウカ、獎勵
位デ行ハレルモノデアリマセウカ、知識階
級ノ少數ナル人ニ於キマシテハ、或ハソ
ンナ事ガ出來ヤウト思ヒマスガ、多數一
般國民ニ於キマシテハ容易ニ行ハレルコ
トハ出來マイト思フノデアリマス、消費
ノ節約ト云フコトニナリマシテハドウデ
アリマセウカ、個人ト致シマシテモ一度嗜
好ノ習慣ノ付キマシタ所ノモノハ、容易
ニ止メ、若クハ減殺スルコトハ出來ナイ
ノデアリマス、又飮酒ノ如キ、喫煙ノ如
キニ於キマシテハドウデアリマスカ、財
產生命ニ關係ガアリマシテモ、容易ニ
止メルコトハ出來ナイノデアリマス、
併シ飮酒ノ如キ、喫煙ノ如キハ例外ト致シマ
シテモ、飮食物及衣類居住ノ如キニ於キマ
シテモ、習慣ノ付イタモノハ容易ニ制限ス
ルコトハ出來ナイノデアリマス、斯ノ如キ
モノニ向ヒマシテ、單ニ消費ノ節約ヲシナ
ケレバナラヌト云フコトデ、行ハレルモノ
デアリマセウカ、消費ノ節約ト云、フモノハ
ソコニ自然ノ法則ト云フヤウナモノガ現存
サレテ居ルノデアリマス、消費ノ節約ノ行
ハレル自然ノ法則トハ、ドンナモノデアル
カト申シマシタナラバ、物價ノ高騰サレタ
場合ニ、消費ノ節約ガ行ハレルノデアリマ
ス、物價ガ下リマシタ時分ニ消費ガ盛ニナ
リマシテ、ソコニ消費ト云フモノガ調節サ
レルノデアリマス、米ノ消費ノ節約ノ行ハ
レルト云フコトハ、如何ナル時代デアリマ
セウカ、米ハ一箇年ニ五千万石生產サレマ
シテ、石四十圓デアリマシタナラバ翌年四
千万石ニ減產サレマシテ、四十圓ノ米ガ四
十八圓ニナリマシテ、ソコニ米ノ消費ガ行
ハレルト思フノデアリマス、然ルニ斯ノ如
キ場合ニ際シマシテ、五千万石生產サレタ折
ニ四十圓シタ米ガ、矢張四千万石ニ減產サ
レマシテモ四十圓ノ價格ヲ維持シナケレバ
ナラト云フコトヲ以チマシテ、安イ外國米
ノ如キヲドシ〓〓輸入サレマシテ、ソレデ消
費ノ節約ガ行ハレルモノデアリマセウカ、
米ガ少クナッタ場合ニ米價ガ騰リマスト消
費ノ節約ガ行ハレルノデアリマス、食糧ノ
不足ヲ來シタ時分ニ馬鈴薯ヤ、甘藷ヤ、
麥ヤ、粟ノ如キモノガ代用サレマシテ、
食物ノ調節ガ行ハレテ居ッタノデアリマ
ス、斯ノ如キコトデアリマシテ、消費ノ
節約ト云フモノハ自然値ノ高低ニ依ラナケ
レバ行ハレナイモノト思フノデアリマス、
然ルニ又近來金輸出ノ解禁ニ依リマシテ、
輸入超過ノ防遏ヲ圖ラウト云フ說ヲ有力ナ
ル實業家間ニ於キマシテモ、段々唱フル者
ノ殖エルト云フコトヲ聞クノデアリマス、
本院ニモ金解禁ノ決議案ガ提出サレテ居ル
ノデアリマスガ、其決議文ニ依リマスレ
バ一定ノ豫告ノ下ニト云フコトガアリマ
スケレドモ、其解禁ノ趣旨ニ於キマシテ
ハ兌換劵制度ノ機能ヲ囘復スルト云フコ
トデアリマシテ、此金輸出解禁ノ一般經濟
界及他ノ產業界ニ及ボスコト如何ト云フコ
トハ、上程ノ日ヲ待チマシテ提出者諸君ノ
御說明ヲ聽カナカッタナラバ、是ハ諒解ス
ルコトハ出來ナイノデアリマスガ、併シ私
ハ此金輸出ノ解禁ニ依リマシテモ、輸入超
過ノ防遏ハ如何ナモノデアラウカト思フノ
デアリマス、金輸出ノ解禁ニ依リマシテ輸
入超過ヲ防遏シヤウト云フ考ノ起リマスノ
ハ單ニ物價ガ下リマシタナラバ輸人超過
ノ防遏ハ出來ルト云フ考カラ起ッタノデハ
アルマイカト思フノデアリマス、併シ物價
ハ如何ニ下リマシテモ、輸入超過ノ防遏ハ
出來ナイノミナラズ、輸入物價ノ價格ノ高
マルト云フコトハ考へテ置カナケレバナラ
ヌト思フノデアリマス、今金輸出解禁ヲ斷
行サレマシタナラバ、今日ノ弗相場ノ差ニ
依リマシテ、輸入物貨ハ確ニ二割以上下ガ
ラウト思フノデアリマス、併ナガラ是ガ爲
ニ輸入物貨ハ滔々トシテ流人サレマセウ
ガ、從來ノ輸入物貨ノ價格ヲ超エルノミナ
ラズ、是ガ爲ニ日本帝國ノ產業ヲ破壊スル
ト云フコトニナルノデアリマス、就キマシ
テハ我ガ日本ニ於キマシテモ一大打撃ヲ受
ケルト云フコトヲ考ヘナケレバナラヌト思
フノデアリマス、假ニ一箇年ノ輸入物貨ノ
數量ヲ千万〓ト假定致シマシテ、此價格ヲ
十九億圓ト致シマシタナラバ、是ガ二割引
下ガルニ於キマシテハ十五億二千万圓ニ減
ルノデアリマス、其價格ニ於キマシテ三億
八千万圓ノ價格ガ下ガルノデアリマスガ、
斯ノ如キ事デアリマシタナラバ、昨年ノ如
キハ例外ト致シマシテ、普通ノ年ニ於キマシ
テハ確ニ輸出入ノ金額ニ於キマシテ均衡ス
ルコトガ出來ヤウト思フノデアリマス、併
ナガラ此十九億圓ト云フ價格ガ十五億二千
万圓ニ下ガリマシタガ爲ニ、我ガ日本帝國
一般ノ國民ニ於キマシテハ外國物貨ノ消費
ト云フモノガ盛ニナリマシテ、其數量ニ於
テ千万噸ガ千二百万噸、千四百万噸ト殖エ
ルノデアリマスカラ、一方ニ於テ十五億二
千万圓ト云フモノガ十九億圓、二十億圓ト
云フモノヲ突破スルノデアリマス、斯ノ如
キ事デアリマスカラ輪入超過ノ防遏ドコロ
デハナイ、從來ノ輸入物貨ノ價格ガ超過サ
レマシテ、一面ニハ我ガ日本帝國ノ產業ヲ
根柢ヨリ破壞スルト云フコトニナラウト思
フノデアリマス、殊ニ我ガ農村ノ如キニ於
キマシテハ大ナル脅威ヲ受ケルト云フコ
トヲ考ヘナケレバナラヌト思フノデアリ
ママ、然ラバ金輪出解禁ト云フモノハ如何
ナル時ニ斷行スルカト云フコトヲ考ヘテ見
マシタナラバ、私ハ手段ト時トヲ擇バナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、金輪出解
禁ヲ斷行スル時ハ如何ナル時デアルカト申
シマシタナラバ、輸入物貨ノ滔々トシテ流
入スルコトガ出來ナイト云フコトノ政策ヲ
確立シテ、而シテ後デナケレバナラヌ、又
弗相場ガ或ル程度マデ恢復サレタ時、此二
ツヲ待タナケレバナラヌ、今日ノ如キ弗相
場ノ差額ノ多イ、今日ノ如キ輸入物貨ノ滔
々トシテ流入スルコトヲ制抑スルノ政策ガ
幼稚ナ場合ニ、金輸出解禁ヲ斷行サレマシ
タナラバ、我ガ日本帝國ニ於キマシテハ經
濟界ニ於テハ恐ルベキ大破綻ヲ受ケマシ
テ、農村ニ大ナル破綻ヲ來スト云フコトヲ
考ヘナケレバナラヌト思フノデアリマス、
農村振興ヲ唱ヘナケレバナラナイコトニ立
至リマシタノハ、其由シテ來ル所那邊ニ在
ルカト云フコトヲ考ヘテ見マシタナラバ
是モ矢張私ハ歐羅巴ノ戰亂ニ起因サレテ居
ルト思フノデアリマス、只今申上ゲマシタ
ヤウニ、大正三年ヨリ同七年マデハ外國貿
易ノ好況デアリマシ夕爲ニ、一般國民ノ懷
口合ガ好クナリマシテ、爲ニ消費ガ盛ニナ
リ、通貨ガ膨脹シ、勞銀ノ如キ、給料ノ如
キモノガ引上ゲラレマシテ、地方ノ負擔ガ
非常ニ嵩ンデ來タノデアリマス、縣費ノ如
キ、郡市町村費ニ於キマシテハ戰前ノ四五
倍ノ多キニ上ッタノデアリマス、併ナガラ
農村經濟ニ於キマシテハ、農產品ノ昂騰サ
レマシタ爲ニ少シノ痛痒ヲ感ゼザルノミナ
ラズ、被ノ鼓腹撃攘ヲ夢ミル時代トナッタ
ノデアリマス、然ルニ歐羅巴戰亂ガ終熄サ
レマスト同時ニ、農村ノ經濟ニ於キマシテ
ハ全然困憊ニ趨クコトニナッタ、是ニ於キ
マシテ農村ニ於キマシテモ實ニ由々敷キ重
大問題ト致シマシテ、是ガ對策ニ付キマシ
テ大ニ〓究サレタノデアリマス、其手段ト
致シマシテハ農業ノ副業ノ奬働、低利資金
ノ借入、產業組合ノ如キ、信用組合ノ如キ、
購買組合ノ如キ種々ノ手段ヲ執ッタノデア
リマス、固ヨリ何程カノ效果ハアリマシタ
カ、併ナガラ日ニ月ニ困憊ニ趨ク所ノ農村
ヲバ救濟スルコトハ出來ナカッタノデアリ
マット、ソレハ私ハ寧口當然デアッタラウト
思フノデアリマス、農村ノ疲弊スル所ノ根
本ニ向ヒマシテ策ヲ講ジナカンタカラト思
フノデアリマス、農村ガ日ニ困憊ニ趨ク所
ノ原因ハ何デアルカト申シマシタナラバ
一旦引上ゲラレマシタ負擔ヲ更ニ輕減スル
コトガ出來ナイノミナラズ、他ノ物價ノ下
ラザルニ拘ラズ、農產品ダケガ漸次下落サ
レタト云フコトデアッタノデアリマス、農
產品ト申シマシテモ、其主ナルモノハ米ト
麥トデアッタノデアリマス、米價ガ一番高
カッタノハドノ位デアシタカト申シマスレ
バ五十五圓以上デアッタノデアリマス、
此五十五圓以上ノ米ガ或ル事情ノ爲メニ、
社會ノ壓迫ノ爲ニ二十五圓以下ニナッタノ
デアリマス、然ルニ其後ニ少シク引締リマ
シテ三十二、三圓ヲ辿テ居シタノデアリマス
ガ、此時代ガ長カッタ爲ニ、農村ハ非常ニ疲
弊サレタノデアリマス、然ルニ今日ハドノ
位米價ガ致シテ居ルカト申シマシタナラ
バ、三十八九圓ノ價格ヲ保テ居ルノデア
リマス、今日ノ價格ニ於キマシテ既ニ一般
國民ニ於キマシテハ、農村ハ今日米價ナラ
バ十分デアラウ、是デ農村ノ疲弊ハ囘復ス
ルコトガ出來ヤウト云フコトヲ耳ニスルノ
デアリマス、私ハ此一事ヲ以チマシテ、如
何ニ一般國民ガ米價ニ冷淡デアルカト云フ
コトヲ窺知ルコトガ出來ルト思フノデア
リマス(拍手)三十八九圓ノ米價ハ、他ノ商
工業者ノ算盤ヲ以テ勘定サレマシタナラ
バマダ〓〓決シテ高イトハ言ヘナイノデ
アリマス、窒素株式會社ノ如キモノヲ創立
サレテ居リマシタナラバ、此三十八九圓ガ
四十圓ニナッテモ、確ニ配當ハ出來ナイノ
デアリマス、確ニ缺損ヲ致サナクテハナラ
ヌト思フノデアリマス、然ルニ米價ノミニ
對シマシテ、一般國民ガ何故斯ウ冷淡デア
ラウカト云フコトハ、私ハ農村ノ問題トシ
テノミナラズ、社會問題トシテ是非研究シ
ナケレバナラナイ重要ナル問題デアルト思
フノデアリマス(拍手)米ノ價格ヲ斯ク冷淡
ニスルト云フコトハソレノ由シテ來ル所
ハ種々アルデアリマスガ、物價ガ下シタカ
ラ引下ゲナケレバナラヌ、消費者ニ苦情ガ
アルカラ米ヲ引下ゲナケレバナラヌト云フ
コトガ、澎湃トシテ、全國ニ行渡シテ居ル
ノデアリマス、農商務省ガ主トシテ稱ヘマ
シテ、有力ナル筋ガ之ニ共鳴サレタノデア
リマス、物價ハ下ゲナクテハナラナイ、米
ハ下ゲナクテハナラナイ、斯ウ云フコトデ
アリマシタカラ致シマシテ、農村ニ於キマ
シテハ實際米ハ高イモノデアラウ、米ハ下
ゲナケレバナラナイト云フ考ヲ持ッテ居リ
マシテ、言フガ儘爲スガ儘ニシテ居ッタノ
デアリマスガ、然ルニ他ノ生產業者ニアッテ
ハドウカト云フコトヲ考ヘテ見マシタナラ
決シテサウデハナカタノデアリマ
ス、他ノ生產業者ニ於テハ、如何ニ社會ガ
囂々トサレマシナ、物價ガ高イト云フコト
ヲ叫ンデ居リマシテモ、原價ニ於キマシテ
ハ原料ガ幾ラ、勞銀ガ幾ラ、金利ガ幾ラト
云フコトヲ合算サレマシテ、若モ原價ヲ超
ユルコトガアリマシタナラバ、決シテ引下
ゲルコトハ出來ナイノミナラズ、組合ノ力
ニ於キマシテ、個人ノ力ニ於キマシテ是ガ
維持ニ努メテ居ッタノデアリマス、是ハ手
段ト致シマシテドウデアリマセウ、反物屋
ノ加キニ於キマシテハ機織業ヲ制限サレテ
居ッタノデアリマス、石炭採掘業者ノ如キ
ニ於キマシテハ石炭採掘ヲ制限サレテ
居ッタノデアリマス、酒屋ノ如キニ於キマ
シテハ釀造ヲ制限サレマシテ、價格ノ維持
ト云フコトヲヤンテ居シタ、然ルニ農民ニ於
キマシテハドウデアリマセウ、實際米ハ安
イモノト思フノデアリマスガ、安クシナケ
レバナラナイト思ウテ居リマシタノデアリ
マスカラ、如何ニ米價ヲ下ゲマシテモ、米
作制限ト云フコトヲヤッタ事ハナイ、又
固ミリ行ハレル事デハナカッタノデアリマ
ス、ドノ內閣デアッタカ能ク記憶致シマセ
ヌガ、時ノ農商務大臣ニ於キマシテハ、米
價ノ引下ト云フコトニ非常ニ努力サレテ
居ッタノデアリマス、然ルニ其内閣ハ崩壊
サレマシテ、野ニ下ッタ後ニ於キマシテモ
米價ノ引下ト云フコトヲ盛ニ唱ヘテ居ッタ
ノデアリマス、後繼内閣ノ農商務大臣ガ米
價引下ニ努カシナイト云フコトヲ以チ
マシテ、貴族院アタリニ咆哮サレテ
居ッタノデアリマスガ、斯ノ如キ事デア
リマスカラ致シマシテ、矢張米ハ高イ下ゲ
ネバナラナイト云フ考ヲ持ッテ居シタ、
然ルニ農村ガ段々困憊ニ趨クニ付キマシ
テ、何故農村ガ斯ウ疲弊困憊ニ陷ルガト云
フコトヲ取調ベテ見マシタ所ガ豈圖ラン
ヤ農產品ノ下リ過ギテ居ッタト云フ結果デ
アリマス、斯ノ如キ事カラ考へテ見マスレ
バ一時農商務省ノ如キガ米價ヲ引下ゲネ
バナラナイ、有力ナル方ノ米價ヲ引下ゲネ
バナラナイト云フコトハ、米ノ價ハ原價ガ
ドノ位ニ上ルカラ下ゲネバナラナイト云フ
合理的議論デハナク致シマシテ、單ニ消費者
ニ共鳴サレタ所ノ議論デアルト云フコトガ
分リマシテ、非常ニ驚人ッタノデアリマス、
是ニ於キマシテ農村ニ於キマシテハ斯ノ
如キ主務省ノ下ニ立ンテ居ッテハ、到底農村
ノ救濟ハ出來ナイ、農村ノ恢復ハ出來ナイ、
農村ノ發展ハ出來ナイカラト云フコトデ、
農務省ノ獨立ト云フコトヲ叫ンダノデアリ
やっ、地方ニ於ケル農務省ノ獨立ト云フモ
ノハ洵ニ熾烈デアリマシテ、不肖私等ノ如
キニ於キマシテモ其急先鋒ノ一人デアツ
タノデアリマス、然ルニ此十四年度ニ於キ
マシテ現内閣諸公ノ御計畫ニ依リマシテ、
農林省ノ新設ヲ見ルコトニ立至リマシタノ
ハ農村ノ爲ノミナラズ、私ハ我ガ帝國產
業界ノ爲ニ大ニ喜ブベキ事デアラウト思フ
ノデアリマス(拍手)斯ノ如キ事デアリマシ
テ、農村ノ振興ト申シマスルモノハ極ク單
純デアルカモ知レナイノデアリマス、農產
品ノ價格維持デアリマス、農產品ノ價格ノ
引上デアリマスガ、然ルニ輸入超過ノ防遏
ト云フコトニ付キマシテハ、物價ヲ引下ゲ
ナケレバナラナイト云フ事ト竝ビ行ハレル
ノデアリマセウカ、輸入超過ノ防遏ト云フ
事ニ付キマシテハ、是非物價ヲ下ゲナケレ
バナラナイト云フコトヲ一般國民ハ叫ンデ
居ルノデアル、又多數ノ農村ニ於キマシテ
ハ是非農產品ノ價格ノ維持ヲ圖ラネバナ
ラナイト云フコトヲ叫ンデ居ルノデアリマ
スガ、此二ツノ政策ガ竝ビ行ハレルモノデ
アリマセウカ、是ハ私ハ大ナル矛盾デアリ
ハスマイカト思フノデアリマス、併シ只今
申上ゲマシタヤウニ、農產品ハ確ニ割安デ
アリマスカラ致シマシテ、或ル程度マデハ
農產品ダケノ引上ハ出來ヤウト思ヒマスガ、
併ナガラ是ハ私ハ容易ナ事デハナカラウ
ト思フノデアリマス、是ノミナラズ輸入超
過ノ防遏ヲスル爲ニ、今日ノ物價ト云フモ
ノガソレダケ澤山引下ルノデアリマセウ
カ、ロヲ開ケバ物價ノ引下ト云フコトヲ叫
ンデ居ルノデアリマスガ、此物價ガ輸入超
過ノ防遏ヲスルマデ下ゲルコトガ出來ルノ
デアリマセウカ、產業界ニ少シク心得ノア
ル者デアリマシタナラバ能ク分ル事デアリ
マス、今日ノ我ガ帝國ノ生產業ニ於キマシ
テ暴利ヲ貪シテ居ッタナラバ、引下ゲルコト
ガ出來ルノデアリマセウ、若クハ悉クノ生
產品ノ十圓ノモノガ十一二圓デアッタナラ
バ引下ゲルコトガ出來ヤウト思フノデアリ
マスガ、二三ノ生產品ハ例外ト致シマシテ、
普通ノ產業界ヲ見渡シマシタナラバ、私
五圓ノ原價ノモノヲ四圓五十錢ニ賣ッテ居
ル所ノ產業者ハ澤山アルデアラウト思フノ
デアリマス、又十圓ノ價格ノモノヲ十圓デ
賣ッテ居ル工業者モ澤山アルデアラウト思
フノデアリマス、然ルニ輸入超過ノ防遏ノ
爲ニ物價ヲ引下ゲネバナラナイト云フ聲ハ
洵ニ高イノデアリマス、ドウシテ此物價ヲ
引下ゲルコトガ出來ルノデアリマセウ、是
モ少シク產業界ニ諒解ノアル人ハ分ル事デ
アラウト思フノデアリマス、物價ノ引下ゲ
ト云フコトハ非常ニ低廉ナル勞銀、非常ニ
低廉ナル原料ガアリマシタナラバ引下ゲル
コトガ出來マセウガ、今日斯ノ如キ低廉ナ
ル勞銀原料ヲ得ルコトハ到底出來マイト思
フノデアリマス、唯〓私ハ此物價引下ト云
フコトニ付キマシテハ僅ニ金利ノ引下ノ
ミデアラウト思フノデアリマス、先刻述べ
マシタヤウニ金利ハ是非引下ゲナケレバナ
ラヌト思フノデアリマスガ、又反對者ノ議
論トシテ金利引下ト云フコトハ日本銀行ノ
金利引下カモ知レナイガ、日本銀行ガ假ニ
金利ヲ引下ゲタト致シマシテモ、他ノ有力
ナル銀行ガ利子ヲ引下ゲナカッタナラバ、決
シテ其效果ガ無イト云フコトヲ唱フル人ガ
アリマス、是ハ間違"夕議論ト私ハ思フノ
デアリマス、金利ヲ引上ゲマシタコトハ如
何ナル事デアッタノデアリマセウカ、物價引
下ト云フコトニ付キマシテ、日本銀行ガ政
府ノ内意ヲ受ケテ金利ヲ引上ゲマシテ、今
日ノ金利高ニナッテ居ルノデアリマスカラ
致シマシテ、今度ハ物價引下ト云フコトニ
付キマシテハ、當然政府ノ意ヲ受ケテ日本
銀行ガ金利ヲ引下ゲテ天下ニ範ヲ示シタナ
ラバ、當然全利ハ引下ラナケレバナラヌト
思フノデアリマス、然ルニ又今日ノ財政界
ヲ見マシタナラバ、金利ハ故ラニ下ゲナイ
デモ、自然ト金利ハ下ガルト云フヤウナ、
コトヲ言ッテ居ル者ガアリマスガ、是モ私
ハ間違ッタ議論デアラウト思ヒマス、自然ノ
趨勢ニ依シテ下ガリマシタ所ノモノハ、決シ
テ物價ヲ下グル底ノ金利ノ引下デハナイノ
デアリマス、今一錢四五厘マデ下リマシタ
ナラバ、是レ以上ニ一ツノ政策ト致シマシ
テ四五厘デモ引下ゲナカッタナラバ、物價
ノ引下ハ出來ナイト思フノデアリマス、斯
ノ如キ勇氣ガナケレバ到底物價ハ下ラナイ
ノデアリマス、斯ノ如キ事ニ論斷サレテ見
マシタナラバ、私ハ此物價ノ引下ト云フコ
トハ僅ニ金利ノ引下ヨリ外ニナイト思フノ
デアリマス、農村ノ振興、輸入超過ノ防遏
ト云フコトハ關稅政策ヨリ外ニナイト思フ
ノデアリマス、關稅政策ト云フコトニナリ
マシテモ、詰リ或ル程度ノモノヽ關稅ノ引
上ヲヤラナクテハナラヌト思フノデアリマ
ス、斯ノ如キ事デアリマスカラ致シマシテ、
私ハ政府ニ御伺シタイノハ關稅政策ニ付
テノ御意見ト、金利ニ付テノ御意見ニ付キ
マシテ御伺致シタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=9
-
010・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 藏園三四郞君
樺太廳ノ綱紀〓正ニ關スル質問ノ答辯ニ
對スル藏園三四郞君ノ意見
〔藏園三四郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=10
-
011・藏園三四郎
○藏園三四郞君 私ノ問ハント欲スル所
ハ極メテ事實ハ簡單デゴザイマスルケレ
ドモ、其影響スル所ハ極メテ重大ナルモノ
デゴザイマス、曩ニ樺太長官ノ綱紀紊亂ノ
事實ニ付キマシテ、私ヨリ質問ヲ提出致シ
テ置キマシタ所、總理大臣ヨリ致シマシテ、
想フニ此點ハ昨年ノ十二月ノ官制ニ關ス
ルコトデアラウ、ソレナラバ不可抗力ニ
屬スルモノデアッテ、樺太良官ノ失政ニ屬
スベキモノデナイト云フ意味ノ御答辯ガア
リマシタ、本員ハ之ニ對シテ決シテ滿足ヲ
スルコトハ出來マセヌ、的ヲ外シタル御答
辯デアルノデアリマス、諸君、樺太長官ノ
昌谷彰氏ハ大正十三年ノ十二月十五日ニ、
其樺太廳ノ公布式ヲ以チマシテ廳令第三十
八號外六件、訓令第五十五號外十一件、告
示第三百九號外三件ト云フ、實ニ二十有三
件ノ法規ヲ發布致シテ居ルノデアリマス、
此發布ニ依リマシテ、卽チ同日ヨリ此法規
ヲバ施行スルト云フ附則ガ附イテ居リマ
ス諸君、此多數ノ法規ハドウ云フ內容ヲ
有スルモノデアルカト申シマスレバ、卽チ
今囘政府ノ行政整理ニ伴ヒマシテ、樺太廳
ニ於キマシテハ樺太廳、支廳二箇所ヲ廢シ
マシテ、之ニ代フルニ出張所二箇所ヲ新設
ヲ致シテ、又從來三部制度デアリマシタモ
ノヲ二部制度ニ改メマシテ、其拓殖部ヲバ
警察部ニ變更致シマシ夕次第デアリマス、
斯ノ如ク行政部内ノ改廢ヲ行ヒマシタル結
果ト致シマシテ、之ニ關スル所ノ諸法規ノ
必要ナル事ハ申スマデモアリマセヌ、卽チ
此二十三件ト云フ多數ノ法規ハ、其改廢ニ
基ク所ノ必要ナル事項ヲ規定シタ所ノ施行
法デゴザイマス、施行ニ屬スル所ノ法規デ
アルノデアリマス、諸君、申スマデモナク
施行法ハ本法ノ發布若クハ其後ニ屬スルモ
ノデアルコトハ是ハ論ヲ俟タヌコトデア
リマス、此根木法タル所ノ樺太廳官制ノ勅
令改正ノ後デナケレバ、樺太長官ハ何等ノ
職務權限ヲ有セヌ次第デアリマス、然ルニ
樺太廳ノ官制勅令ノ改正案ハ當時樞密院ニ
御諮詢中ノコトデゴザイマシテ、政府ト雖
モ果シテ其改正ガ政府豫期ノ如ク之ヲ實行
シ得ラルヽカ否カト云フコトハ未ダ未定
ノ事實デアルノデアリマス、此未定ノ事實
ナルニモ拘ラズ、樺太廳ニ於キマシテハ既
ニ之ヲ改正ヲ致シ、サウシテ多數ノ廳令ヲ
發布致シマシテ、人民ニ是ガ遵守ヲ迫ッタ
次第デアリマス、此事實ハ勅令ノ公布以前
ニ當リマシテ、旣ニ官憲ニ於キマシテ何等
ノ權限ナキ行爲ヲバ敢テ致シマシタル重大
ナル違法ノ行爲デアリマシテ、之ヲ正面カ
ラ論ジマスルナラバ、全ク勅令ノ違反デア
ルト申サナケレバナラヌノデアリマス、(ヒ
ヤヒヤ)又一面カラ之ヲ見マスルナラバ、
權限ノナイ違法ノ行爲デアルノミチラズ、
實ニ官紀ヲ紊亂シタル所ノ不法ナ行爲デア
ルト斷言スルコトガ出來ルノデアリマス、
政府ハ斯ル不法ナル官紀紊亂ノ行爲ニ對シ
マシテ、果シテ如何ナル監督ヲ致サレタ
カ、又之ニ對シテ如何ナル指揮命今ヲ下サ
レタカ、政府ノ所信ヲ伺ヒタイト云フノガ
第一段デアリマス、而シチ諸君、此樺太廳
ノ官制勅令ハ其後十日間ヲ經マシテ樺太長
官ガ既ニ改革-改正ヲ致シマシテ發布ヲ
致シマシタ、其後十日ヲ經マシテ大正十二
年十二月二十五日ヲ以テ御栽可ニナリ、公
布セラレテ、其翌日ヨリ施行スルコトニ相
成ッタ次第デアリマス、此時既ニ樺太廳ニ
於テハ勅令、訓令、告示ト云フモノヲバ既
ニ施行ヲ致シテ居ルノデアル、卽チ勅令發
布以前ニ於キマシテ無權限ナル樺太廳ニ於
キマシテハ、旣ニ之ヲパ實行シ終フテ居ル
ノデアル、幸ニシテ是ガ官廳ノ改廢、其他
人民ノ管轄ノ權限等ニ屬スル問題デアリマ
シタカラ、非常ナル不幸ヲ招カズシテ濟ム
コトガ出來マシタケレドモ、萬一是ガ國民
ノ權利義務ニ關スル所ノ重天ナル法案デア
リマシタナラバ、洵ニ恐ルベキ結果ヲバ見
ナケレバナラヌノデアッタノデアリマス
(「簡單々々」ト呼フ者アリ)而シテ諸君、此
愈、二十五日ニ至リマシテ官制ガ-勅令
ガ御栽可ニナッテ公布セラレタル時ニ於キ
マシテ、樺太長官ニ於キマシテハ之ニ對ス
ル如何ナル態度ヲ執ッタノデアリマスか、
モウ勅令ノ発布ニナリマシタル時ニ於キマ
シテハ、既ニ事悉ク實行シ終クテ居ル、此
際ニ於テ如何ニ之ヲ處理スレバ宜シイカ、
十二月ノ二十五日ニ於テ施行セヨト云フ公
布ガアッタノデアルカラ、其樺太廳官憲タル
モノハ十二月ノ二十五日ニ於キマシテ兢々
然トシテ是ガ奉公ノ實ヲ擧ゲナケレバナラ
又、然ルニ二十五日ハ愚カ、二十六日ニ
至ノテモ何等此施行ニ關スル所ノ表示ガナ
イノデアリマス、然ルニ翌々日ノ二十七日
ニ至リマシテ、初メテ樺太廳公報ヲ以チマ
シテ、從來出シマシタ所ノ此十二月十五日
ニ發布ヲ致シマシタ所ノ此十五日ヨリ施行
スルト云フ此附則ヲ正誤ヲ出シテ居ルノデ
アル-正誤文ヲ出シテ居ルノデアリマ
ス、諸君、此正誤ナルモノガ實ニ無謀ニシ
テ、又殆ド常識ヲ以テ判斷スルコトノ出
來ナイモノデアル、私ヲ以テ言ハシムルナ
ラバ、是ハ正誤ニアラズシテ再ビ過ヲ重ネ
タル不法ナ行爲デアルト云フコトヲ斷言シ
タイノデアル、ツレハドウ云フ風ニ正誤ヲ
至シマシタカト申シマスレバ、此公布ノー
前ノ方ヲ略シマスガ「公布ノ日ハ大正十三
年十二月二十五日ノ何レモ誤リ」斯ウ云フ
正誤ヲ致シテ居リマス、諸君、樺太廳長官
ニ於キマシテ十二月ノ十五日ニ此改正ヲ公
布シタル時ニ於テ、十二月二十五日ヨリ施
行スルト云フコトガ豫メ決定シテ居ルコト
デアル、又權限ヲ有スルコトデアルナラバ、
ソレハ他日ニ至ッテ之ヲ訂正シ、是ガ正誤
ヲ爲スモ宜シイデゴザイマセウ、併ナガラ
最初十二月十五日ニ發布シタル所ノ此法規
ト云フモノハ抑、無權限ノ行爲デアッテ、大權
ヲ十犯シタル行爲デ無法、卽チ法律上是ハ
無效デアルノデアル、無效ナルモノヲ再ビ
之ヲ訂正シテモ無效ヨリ有效ハ生ゼヌ、無
ハ有ヲ生ジナイ、瓦ハ二枚重ネテモ二枚重
ネテモ矢張瓦デアル、依然トシテ是ハ無效
デアルノデアル、斯ノ如ク無法ナル、而モ
無效ナル訂正ヲ致シマシタル其結果ニ付テ
之ヲ眺メテ見タイノデアリマス、ドウナリ
マスカ、十二月ノ二十五日ヨリ此樺太廳官
制改正ノ勅令ト云フモノハ、二十五日ヨリ
卽時施行ノ公布ガアルニモ拘ラズ、全ク此
公布ニ關スル所ノ-施行ニ關スル所ノ奉
公ノ事實ガ何等ナイノデアル、故ニ今日ニ
至ッテモ此十二月二十五日ヨリ改正シナケ
レバナラヌ所ノ此官制ハ、未ダ是ガ實行ヲ
果サヌト云フコトニ相成ルノデアリマス、
然ルニモ拘ラズ樺太廳ノ官廳ノ支廳二箇所
ヲ改正致シテ、而シテ新ニ出張所ヲ一一箇所
ヲバ設ケテ、サウシテ之ニ關スル所ノ豫算
ヲ計上致シテ居ルト云フコトニ考ヘテ見マ
スルナラバ、此法案ガ如何ニ重大デアルカ
ト云フコトモ私ハ斷言スルコトガ出來ルデ
アラウト思ヒマス(ヒヤ〓〓)抑〓此官廳ニ
於ケル所ノ發令權ト云フモノハ、其官憲ノ
實ニ生命トモ申スベキ所ノ職務權限ニ屬シ
テ居ルノデアリマス、然ルニ此大事ナ所ノ
職務權限ニ屬スル所ノ法規發令權ニ對シ
テ、斯ノ如ク等閑ニ取扱ヒ、斯ノ如ク粗末
ニ取扱フト云フコトニ至リマシテハ實ニ
官憲ノ威信ヲ損スルノミナラズ、世人ヲシ
テ法ノ神聖ヲ疑ハシメ、法ノ價値ヲ疑ハシ
ムル所ノ非常ナル罪惡デアルト云フコトヲ
私ハ斷言スルノデアリマス(拍手)政府ニ於
キマシテハ之ニ對シテ如何ナル方法ヲ執ラ
レタカ、此事モ政府ハ不可抗力デアルト言
ハルヽノデアルカ、之ヲシテモ尙ホ不可抗
力デアルト言フナラバ、天下何物カ不可抗
力ニアラザルモノハナイノデアリマス、次ニ
私ノ測尋ヲ致シタイ事ハ、此事ハ內閣直屬ノ
程太廳官憲ノ非違ニ關スル事デアッタガ、一
言內閣直接ノ責任ニ付テ一應伺ヒタイト思
デアリマス、前段申上ゲマスル通リニ、樺
太長官ハ此御裁可前、既ニ十日前ニ於テ目
下樞密院ニ於キマシテ御諮詢中デアル所ノ
改正案ノ內容ヲ詳細ニ之ヲ知ッテ居ルコト
デアル、デ此事ハ要スルニ內閣側ヨリ之ヲ
漏泄シタルモノデアルト云フコトヲ見ルニ
決シテ苦シマスノデアリマス、デ內閣ヨリ
致シマシテ、未ダ其勅令ガ內閣豫期ノ如ク
改正セラルヽカ否カト云フコトガ不明ナル
此勅令ノ內容ヲ漏泄シタルコトハ實ニ內
閣ノ其罪輕カラヌト私ハ思フノデアル、又
此事ハ實ニ大權ノ發動ヲ臆測シ、又尊嚴ヲ
冒瀆シ奉リタル所ノ僣上不臣ノ沙汰デアル
ト思フ、斯ル行爲ヲナシテ尙ホ恬然タルガ
如キハ、全ク私ハ厚顏ニシテ無恥デアルト
云フコトヲ斷言シタイ、現內閣ノ如キハ實
ニ綱紀肅正ヲ看板ト致シマシテー綱紀肅
正ガ一枚看板デハアリマセヌカ、然ルニモ
拘ラズ斯ノ如ク官紀ヲ紊亂シ、而シテ最モ
違法ナル、而シテ又勅令違反ニ類スル如キ
行動ヲ爲スガ如キニ至ッテハ是ヨリモ綱
紀重キモノガゴザイマスルカ、全ク現內閣
ハ此網紀肅正ノ看板ノ下ニ隱レテ、而モ綱
紀ヲ紊亂スル所ノ内閣デアルト云フコトヲ
私ハ斷言スル者デアル(拍手)デ之ニ對スル
所ノ政府ノ所信ヲ伺ヒタイ、而シテ此問題
ハ獨リ唯〓此法規ノ違反ノ跡ヲ責メルト云
フノミニアラズシテ、十二月二十五日ヨリ
施行スルト云フ此官制勅令ガ、未ダ施行ニ
相成ッテ居ナイト云フ此結果ヨリ見マスル
ナラバ、總豫算ノ中ニ揭ゲラレタル所ノ樺
太廳官制改正ニ關スル所ノ費目ノ如キハ
當然憲法違反ノ事實デアルト云フコトヲ斷
言シテ疑ハヌノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=11
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012・作間耕逸
○作間耕逸君 殘餘ノ意見ノ陳述ハ之ヲ延
期シ、日程ヲ進メラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=12
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013・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマ
シタ、是ヨリ議案ノ日程ニ入リマス、日程
第畜産組合法中改正法律案ノ第一讀會
ヲ開キマス、-三土政務次官
第畜產組合法中改正法律案(政府
提出、貴族院送付)第一讀會
畜產組合法中改正法律案
畜產組合法中左ノ通改正ス
第二條中「牛羊豚ヲ飼養スル者又ハ馬ノ
生產ヲ業トスル者」ヲ「家畜ヲ飼養スル
者」ニ改ム
第四十七條中「郡、」及「郡制、」削リ「之ニ
準スヘキモノニ」ノ下ニ「、郡トアルハ島
司又ハ北海道廳支廳長ヲ置キタル地ニ在
リテハ其ノ管轄區域ニ」ヲ加フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員三土忠造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=13
-
014・三土忠造
○政府委員(三土忠造君) 畜產組合法中改
正法律案ノ提案ノ理由ヲ御說明致シマス、
現行畜產組合法ニ於キマシテハ牛馬羊豚ノ
中、馬ノ關係ニ於キマシテハ生產者ノミガ
組合ニ加入スルコトガ出來マシテ、飼育者
及使役者ハ加入スルコトガ出來ナイ規定ニ
ナッテ居リマス、然ルニ近頃ノ狀況ニ依リ
マシテ、馬ノ生產者ノ外ニ飼育者、使役者
モ加ヘルコトニ致シマシタ方ガ、馬ノ產業
政策諸般ノ關係カラ便利デアラウト云フノ
デ、之ヲ加ヘルコトニ致シタノデアリマス、
極メテ簡單ナ法律案デアリマスガ、ドウカ
御審査ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=14
-
015・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第二、右議案ノ
審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シ
マス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=15
-
016・井本常作
○井本常作君 本案ハ委員ノ數ヲ九名ト
シ、議長ニ於テ指名セラレンコトヲ望ミマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=16
-
017・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 井本君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=17
-
018・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第三、
商業會議所法中改正法律案ノ第一詰會ヲ開
キマス、提出者ノ趣旨辯明ヲ許シマス、山
本厚三君
第三商業會議所法中改正法律案山
本厚三君外二名提出)第一讀會
商業會議所法中改正法律案
商業會議所法中左ノ通改正ス
第九條第五號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
六營業稅ヲ納ムル旅館業者
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔山本厚三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=18
-
019・山本厚三
○山本厚三君 本案提出ノ理由ヲ簡單ニ申
述ベマス、本案ハ我國ニ於ケル旅館業者ニ
商業會議所ノ選擧權、竝ニ被選舉權ヲ附與
スルガ爲ニ、商業會議所法ヲ改正スルト云
フノデゴザイマス、我國ノ商業會議所法第
九條乃至第十四條ニ於キマシテ、商業會議
所ノ權利-選擧權竝ニ被選擧權ニ關スル
規定ヲ致シテアリマスルガ、其中ニ此吾々
ガ平素普通ノ商工業者ト同一ニ取扱ッテ居
リマスル旅館業者ニ對シテ、ソレ等ノ權利
ヲ與ヘテ居ラヌノデアリマス、是ハ要スル
ニ、此事業ニ從事シテ居ル所ノ行爲ヲ商行
爲ト認メテ居ラヌノニ依ルノデアルト思ヒ
マスガ、一面殆ド同ジヤウナ業體デアル所
ノ飮食店業、卽チ料理業デアリマスガ、是
等ノ非常ニ澤山ノ者ニ對シテハ權利ヲ與ヘ
テ居ルコトハ〓商法規定ノ解釋ヨリ來テ居
リマスルノデアリマセウガ、此兩者ノ業體
ヲ比較シテ見マスルト、吾々ノ見ル所ニ於
テハ殆ド變リガナイノミナラズ、一面此旅館
業者ノ如キハ、其投下シテ居ル資本等ニ於
キマシテモ、無論此料理業等ヨリハ十倍乃
至數十倍ノ資本ヲ投下ヲ致シテ居リマス
シ、又日本ノ商工業ノ關係カラ申シマシテ、
餘程密接ナ關係ガアルト考ヘテ居リマス、
斯樣ナ次第デアリマスカラ、會議所ノ選擧
權竝ニ被選擧權ノ公正ヲ保ツ上カラ申シマ
シテモ、又從來ノ一般ノ同業者カラ非常ニ
熱心ニ此希望ガ出テ居リマスルノデ、是等
ノ一般ノ人ノ希望ヲ充ス點カラ申シマシテ
モ、是非是ハ均霑ヲ致シテ、同一ノ取扱ヲ
シナケレバナラヌモノト思ハレマス、加フ
ルニ此改正ヲ致シマシテモ、何等一般ノ有
ユル方面ニ支障ヲ生ズル事ガアリマセヌノ
デ、且ツ其改正タルヤ極メテ簡單ナモノデ
アリマシテ、複雜ナル法規ノ改正ヲ要セナ
イノデアリマス、大體斯樣ナ次第デアリマ
シテ、今日ニ於テ是ガ改正ヲ致スコトハ最
モ適切ナ事ト考ヘマスルカラ、本案ヲ提出
致シタ次第デアリマス、何卒御審議ノ上、
滿場一致ヲ以テ御決定アランコトヲ希望致
シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=19
-
020・井本常作
○井本常作君 本案ハ增田義一君提出、商
業會議所法中改正法律案ト同一委員ニ併セ
テ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=20
-
021・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 井本君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマ
シタ、日程第四、〓國及朝鮮國在留帝國臣民
取締法廢止法律案ノ第一讀會ヲ開キマス、
提出者伯田忠一君
第四〓國及朝鮮國在留帝國臣民取締
法廢止法律案(柏田忠一君外一名提
出第一讀會
〓國及朝鮮國在留帝國臣民取締法廢止
法律案
〓國及朝鮮國在留帝國臣民取締法ハ之ヲ
廢止ス
〔柏田忠一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=21
-
022・柏田忠一
○柏田忠一君 簡單ニ本案提出ノ理由ヲ申
述ベマス、〓國竝ニ朝鮮國在留ノ帝國臣民
ヲ取締ルト云フ規定ガ明治二十九年ニ制定
ヲサレタモノデアリマスガ、當時ハ日〓戰
爭ノ直後デアッタガ故ニ、在留邦人中ニモ
其居留地ノ風紀ヲ紊亂シタリ、或ハ秩序ヲ
紊ス者ガ多カッタガ爲ニ該法律ヲ制定シタ
ノデアリマス、然ルニ其後明治三十一一年ニ
至リマシテ、政府ハ更ニ領事官ノ職務ニ關
スル件、法律第七十號ヲ制定致シマシテ、
領事官ニ裁判權ヲ與ヘ、同時ニ行政權ヲ與
へ立法權ヲ與ヘタノデアリマス、非常ナ
廣汎ナル規定ヲ設ケマシテ、甚大ナル權利
ヲ領事官ニ持タシタノデアリマス、之ト同
時ニ朝鮮ハ其後ニ於キマシテ日本ノ領土
ニナリ、〓國及朝鮮國ト云フ、其朝鮮國
ガ該法律カラ滅却スルコトニナリマンタ、
隨テ最早該法ヲ存在シテ置クト云フ理田ノ
一半ハ消滅シテシマッタノデアリマス、其後
更ニ明治三十三年ニ至リマシテ、政府ハ領
事官ノ職務規則ト云フモノヲ制定致シマシ
テ、在留邦人ヲ取締ル上ニ於テ、送還ヲス
ルコトノ出來ル規則ガ制定サレタノデアリ
マイ、重ネ々々在留邦人ヲ取締ル規定ガ發
布セラレマシタガ爲ニ、今ヤ此法律ノ存在
ノ理由ガ無クナッタノデアリマス、加之在
支邦人ハ約二十一万許リアリマスガ、此法
律ノアルガ爲ニ、領事官ヲマルデ怨府ノ中
心トスルヤウナ傾向ガ見エテ居ルノデアリ
さく、ト云フノハ此法律ノ內容ハ既ニ其在
留地ノ風〓或ハ風紀ヲ紊亂シタル者ヲ束縛
スルモノデハナクシテ、紊亂セントスル
者、或ハ紊亂スルノ虞アル者ヲ取締ルト云
フノデアリマスカラシテ、領事官ガ此法律
ヲ以テオ前ハ將來-此後ニ於テ此地方ノ
風紀ヲ紊ス虞ガアルカラト云フ名目ノ下
ニ、隨分從來在留ノ禁止ヲシタノデアリマ
ス、在留ノ禁止ヲサレタガ最後、是ガ救濟
ノ途ハ容易ニ出來ナイノデアリマスルカラ
シテ、從來ハ此支那ニ向シテ商業上或ハ工
業上發展スル場合ニ於テ、領事官ト在留民
トハ仇敵ノ狀況ニ在リマシテ、色ミナ差障
ガソコニ生ジテ居ッタノデアリマス、是ハ
長イ間ノ輿論デアリマシテ、之ヲ廢止シテ
官民一致支那方面ニ向テー主トシテ大
陸ニ向ッテ發展ヲスルト云フノハ、今日ノ
急務ナリト信ズルノデアリマス、以上ノ理
由ニ依リマシテ此既ニ死ンダ法律ヲソンナ
名目デ存置シテ置ク必要ハナイト思ヒマス
ルガ故ニ、之ヲ廢止スルノガ適當デアラウ
ト思ヒマス、ドウカ滿場諸君ノ御賛成ヲ得
テ、該法律ヲ廢止シタイト思フノデアリマ
ス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=22
-
023・井本常作
○井本常作君 本案ハ議長指名九名ノ委員
ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=23
-
024・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 井本君ノ動議ニ御異
議ナイト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマ
シタ-次ハ日程第五鐵道敷設法中改正法
律案ノ第一讀會ヲ開キ、提出者ノ趣旨辯明
ヲ許シマス-福田五郞君
第五鐵道敷設法中改正法律案(橋本
喜造君外五名提出)第一讀會
鐵道敷設法中改正法律案
鐵道敷設法中左ノ通改正ス
別表百十四中「肥前山口附近」ヲ「佐賀」ニ
改ム
附則
本法ハ大正十四年五月一日ヨリ之ヲ施行
ス
〔福田五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=24
-
025・福田五郎
○福出五郞君 諸君、只今議題トナリマシ
夕改正法律案ノ提出ノ理由ヲ極ク簡單ニ申
上ゲマス、現時北九州ヲ横斷致シマシテ、
門司ト長崎トヲ連接致シテ居リマス所ノ鐵
道ハ、我國ト支那トノ交通ニ於テ最モ重要
ナル交通機関デゴザイマス、今日我國ヨリ
支那ニ到リマスルノニハ、殊ニ支那東岸ノ
各港ニ到リマスニ付テハ、長崎港ヨリスル
ノヲ最モ便利ト致シマス、而シテ支那東岸
ノ諸港中、上海ハ東洋ニ於キマシテ政治上
貿易上ニ重大且ツ樞要ナル地位ヲ有スルノ
デアリマスガ、此上海ニ到ルニ付テモ長崎
ヨリスルノガ最モ便利デアリマス、斯ノ如
キ關係ニ在リマスカラシテ、長崎港ハ我國
ト支那トノ交通關係ニ於キマシテ、非常ナ
ル關門トナッテ居ルノデアリマス、加之長
崎港ハ古來有名ナル外國貿易港デアリマシ
テ、今日諸外國トノ貿易關係、交通關係ニ
於テモ重要ナル地點デアリマス、斯ル關係
ニ於キマシテ長崎港ハ啻ニ支那トノ交通機
關ニ於テ關門タルノミナラズ、世界的交通上
ノ關門ニナッテ居ルノデアリマス、随ヒマ
シテ日本內地ヨリ長崎ニ到リマス鐵道、卽
チ門司ヨリ長崎ニ到リマス鐵道ハ、內國的
二·五、外國的ニモ非常ニ必要ナル線路デア
リマシテ、所謂國際幹線デアリマスルガ故
ニ、此鐵道ノ改善ト距離ノ短縮ヲ圖ラネバ
ナラヌト云フコトハ固ヨリ當然ノ事デアリ
マス、然ルニ現在敷設サレテ居リマス鐵道
ハ、佐賀市以西長崎縣諫早驛ノ間ニ於キ
マシテ非常ニ迂廻シ彎曲シテ居リマス、鐵
道當局玆ニ見ル所アリ、之ヲ不便ナリト致
シマシテ、大正十一年ノ鐵道敷設法ニ依リ
マシテ新ニ改良線ヲ計畫致シマシタ、ソレ
ガ卽チ肥前山口附近ヨリ長崎縣諫早驛ニ到
リマス新線デゴザイマス、此新線敷設ノ結
果長崎門司間ノ全線ニ涉リマシテ、短縮ス
ル哩數ハ十六理デアリマス、是ハ洵ニ時代
ノ趨勢ニ適應シタル非常ニ結構ナル改良線
デアルト信ジマス、果シテ然ラバ最早是デ
十分デアルヤ、最早此線路ハ短縮改良ノ餘
地ハ無イカト申シマスルト左樣デハゴザイ
マセヌ、尙ホ線路短縮ノ餘地ガアリマス、
卽チ豫定ニ在ル起點山口附近ヲ變更致シマ
シテ、之ヲ佐賀市ニ持來シマシテ佐賀市
ヲ起點ニ致シマスレバ、更ニ三哩ノ短縮ガ
出來ルヤウニナリマス、其結果全線ニ涉リ
マシテ十九哩ノ短縮ヲ得ルコトニナリマ
ス、是ハ最モ必要ナ事デアリ、殊ニ國際幹
線ノ機能ヲ十分ナラシムルノデアリマシ
テ、是ガ卽チ吾々ガ本案ヲ提出シタル主要
ナル理由デアリマス、次ニ附隨ノ理由ガゴ
ザイマス、ソレハ佐賀ヲ起點ト致シマスル
結果、其線路ハ自然ニ肥前ノ南方ニ位シテ
居リマス所ノ輸出人港タル、住ノ江港ヲ通
過スルコトニナリマス、住ノ江港ハ有明海
ノ北方ニ位シテ居リマスル唯一ノ輸出入港
デアリマシテ、北九州ニ於テハ重要ナル港
デゴザイマス、然ルニ此港ハ是マデ全ク鐵
道ノ恩惠ヲ蒙被ラナイ爲ニ、輸出入港タル
其機能ヲ十分ニ發揮スルコトガ出來ズニ居
リマス、尙又今回ノ豫定線ニナッテ居リマ
ス線ニ依リマスルモ、此住ノ江港ハ何等ノ
恩惠ヲ受ケズ、永久ニ鐵道ノ恩惠カラ取殘
サレルヤウナ狀態ニナッテ居リマス、斯ノ如
キハ鐵道政策トシテ洵ニ其當ヲ得ナイト思
ヒマス、ノミナラズ住ノ江港ニ付キマシテ
ハ尙ホ一ツ注意ヲ喚起スベキ點ガゴザイマ
ス、ソレハ近頃學者ノ發表シタル說ニ依リ
マスルト、住ノ江港附近ハ大炭田デアルト
云フコトデアル、而シテ其炭田ハ三池炭田
ト質ヲ同ジウシ、脈絡ヲ保シテ居ルトテフ
コトデアリマス、果シテ然ラバ近キ將來ニ
於キマシテ住ノ江港ハ石炭ノ大量輸出ニ依
リマシテ、運輸交通ノ重要ナル線トナルト
云フコトハ固ヨリ明白デアリマス、此故ニ
吾々ハ今日住ノ江港ガ鐵道ノ恩惠ヲ被ラナ
イコトヲ非常ニ遺憾ニ思ヒマスト同時ニ、
近キ將來ニ於テ非常ニ發展スベキ運命ヲ有
メル此住ノ江港ヲ縫ウテ、鐵道ガ通過シテ
行クト云フ必要ヲ痛切ニ感ズルノデゴザイ
マス、一タビ地圖ヲ開マシテ住ノ江港附近
ノ模樣ヲ見マスルト、現在ノ豫定線ニ於テ、
山口附近ヲ起點ニスルノガ得策デアルカ、
佐賀市ヲ起點ニスルノガ得策デアルカト云
フ其得失ハ一目瞭然デゴザイマス、山口
附近ヲ起點ニ致シマスレバ、線路ハ三角形
ノ兩邊トナリ、汽車ハ其二邊ヲ迂曲シテ走
ルコトニナリマス、然ルニ佐賀市ヲ起點ニ
致シマスレバ、汽車ハ三角形ノ一邊ヲ走ル
ト云フコトニナルノデアリマス、殊ニ又山
口附近ヲ起點ト致シマスレバ、其南方鹿島
町マデノ間ニ至リマス線ニ於テハ、何等貨
物ノ集散ノ場所ガゴザイマセヌ、唯〓茫々
タル夢ノ如キ原野ヲ汽車ガ走ルニ過ギナイ
ノデアリマス、之ニ反シマシテ佐賀市ヲ
起點ト致シマスレバ、今申上ゲマシタ住ノ
江港ヲ當然通過スルコトニナルノデアリマ
ス、斯樣ナ關係デアルノミナラズ、地方ノ
人ノ交通ト運輸ヲ圓滑スルト云フ關係ガ地
圓上一目瞭然デゴザイマス、デゴザイマス
カラ何故ニ此佐賀市ヲ起點トセズシテ山口
附近ヲ起點トシタカニ付テハ誰人モ直ニ
疑ヲ挿ムノデゴザイマス、然ラバ何故ニ佐
賀ヲ顧ミズシテ當時山口附近ヲ起點トシ
タカ、其原因ニ付テハ私ハ存ジマセヌ、鐵
道敷設法ハ大正十一年デアリマシタ、其當
時佐賀ヲ顧ミナカッタコトニ付キマシテ、色
色ノ事情モアッタト思ヒマスガ、ソレハ今
日探究スル必要ハアリマセヌ、唯〓其色〓
ノ事情ト共ニ、經費ガ幾分增スノデアルト
云フコトモ勿論デアッタラウト思フノデア
リマス、而シテ吾々ノ聞ク所ニ依リマス
ト、其增加スル經費モ格別ノコトハナイヤウ
デゴザイマス、財政緊縮ノ今日吾々ハ一圓
ノ經費ノ增加ニ付テモ考慮シナケレバナリ
マセヌ、併ナガラ只今ノ起點ヲ豫定ノヤウ
ニ致シマスレバ、汽車ハ徒ニ三哩ヲ遠廻リ
致シマス、最モ迅速ヲ要スベキ國際幹線タ
ル所ノ汽車ガ理由ナク三哩ヲ無駄ニ走ルト
云フコトハ僅ニ三哩デハアリマスガ、併
シソレハ每日三哩デアル、之ヲ引延バシテ
-永久ニ引延バシタラ、其時間ノ浪費、
經濟上ノ損失ハ非常ニ莫大ナルモノデアル
ト云フコトハ明デアリマス、要スルニ今日
僅ノ經費ノ增加ヲ吝ミマシテ、永久ノ計畫
ヲ忘レルノハ策ノ得夕ルモノデハナイト思
ヒマス、又此住ノ江港ヲ通過致シマスレバ
輸出入港デアリマス結果、貨物ノ集散其他
ニ依リ、運賃ノ增收ニ依リ、玆ニ增シタル
經費ハ遠カラズ取返スコトガ出來ルト信ジ
マス、要スルニ本案起點變更ノ理由ト致シ
マスノハ一方ニハ幹線ノ哩數ヲ短縮シ、
而シテ一方ニハ輸出入港タル住ノ江港ヲ活
カスト云フコトニナリマス、此輸出人港ヲ
活カスト云フコトハ、該地方一部ノ利益ノ
ミデハナク、内地全般ニ涉ル利益デアリマ
ス、卽チ鐵道ガ第一ノ目的ト致シマス所ノ
公益ヲ圖ルト云フ點ニ合致スルノデアリマ
ス、斯ル理由ニ於キマシテ此起點變更ハ一
舉兩待ノ策デゴザイマス、今後日支親善ハ
益、加リ、諸外國トノ關係ハ益〓複雑トナリ、
一分時間ヲ爭フコトモゴザイマセウ、秒
時間ヲ爭フコトモ度ミアルダラウト存ジマ
ス、デゴザイマスカラ國際幹線タル本線ニ於
キマシテハ、假令一哩デモ假令半哩デモ出來
得ルダケ之ヲ短縮致シマシテ、交通運輸ヲ敏
活迅速ナラシムルト云フコトハ最モ必要ト
思ヒマス、ソレガ卽チ國際幹線デアルト云フ
コトノ意義デモアルシ、尙又國際幹線デアル
ト云フコトノ目的ヲ完全ニ達スル所以デゴ
ザイマス、今日僅ノ經費ヲ吝ミマシテ永遠
ノ大計ヲ誤リ、永遠ノ幸福利益ヲ忘レルノ
ハ決シテ賢明ナル策トハ思ヒマセヌ、重ネ
テ申シマスガ、今日一投足ノ勞ヲ吝ミマシ
テ、國際幹線ヲシテ其機能ヲ考久ニ發揮ス
ルコトノ出來ナイヤウナ狀態ニ置キマスノ
ト、尙ホ一方輸出入港タル住ノ江港ヲ鐵道
ガ見遁スト云フコトハ、鐵道政策トシテ決
シテ策ノ得タルモノデナイノミナラズ、恐
クハ後世ニ嗤ヲ貽スコト大ナルモノデハナ
カラウカト云フコトヲ吾々ハ憂フルノデゴ
ザイマス、卽チ吾々ハ如何ナル點カラ見マ
シテモ、本案起點ノ變更ハ國家百年ノ大計
ナリト確信致シマス、斯ル際ニ於キマシテ
本案ヲ提出致シマシタ、何卒皆樣ノ御賛成
ヲ得マシテ、無事通過スルヤウ御取計ヲ願
ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=25
-
026・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ニ對シテ質疑ノ
通告ガアリマス、順次其發言ヲ許シマス、
田口文次君
〔田口文次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=26
-
027・田口文次
○田口文次君 諸君、私ハ只今問題ニナッ
テ居リマスル、九州ノ一角ニ於ケル所謂平
坦線ノ起點變更問題ニ付キマシテ、第一ニ
提案者ニ御尋申上ゲ、次ニ加藤首相竝ニ若
槻內相ニ御質問申上ゲタイト存ズルノデア
リマス、此平坦線ノ起點ヲ變更スルト云フ
コトノ提案者ノ理由ヲ只今拜聽致シテ見マ
スルト、何等一旦決定シテ居ル法律ヲバ
動カスニ足ルベキ所ノ理由ヲ私ハ少シモ拜
聽シナカッタ點ニ鑑ミマスルト云フト、是ハ
福田君等ガ佐賀市ノ一部人士ニ對シマシテ
ノ所謂人氣取政策デモアラウカト思フノデ
アリマス(拍手)然ラザレバ一種ノ人騷ガセ
ニ過ギナイ問題デアラウト考ヘルノデアリ
マイ、(拍手起リ「何ヲ言フ」「其理由ヲ述べ
ロ」ト呼ヒ其他發言スル者多シ)九州ノ事情
ニ精通サレテ居リマスル所ノ仙石鐵道大臣
ノ如キハ之ヲ聽カバ定メテ一笑ニ付シテ居
ルデアラウト私共信ズルノデアリマス、提
案者ノ唯一ノ例トシテアラルヽモノハ、住
ノ江港ト今度ノ改正ニ依レル所ノ佐賀市ヲ
起點トスル鐵道ヲ敷イテ、海陸ノ聯絡ヲ執
リ、大ニ公益增進ニ資セヤウト云フノガ、
第一ノ主要點ニナッテ居ルヤウデゴザイマ
スルガ私ハ是カラ住ノ江ノ眞價ヲ解剖シテ
見ヤウト存ズル者デアリマス、発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=27
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028・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 田口君ニ注意シマス
質疑ノ要點ダケヲ御述べ下サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=28
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029・田口文次
○田口文次君(續) 住ノ江ト云フ港ハ天惠
地利ニ乏シク、六角川ノ下流、彼ノ濁江ノ
一小部分ニ過ギナイ港デアリマシテ(「質問
ヂヤナイ」ト呼フ者アリ)質問ノ趣旨ヲ申述
ペテ居リマス、随テ船舶メ出入ト云フモノモ
不便極マル場所デアリマスカラ、港トシテ
何等價値モ無イ場所デアリマス(「質問ノ要
點ガ缺ケテ居ル」「質問ヂヤナイ」ト呼フ者
アリ)質問ノ趣旨ヲ申上ゲテ居リマス、唯ミ
住ノ江ノ生命ト致シテ居リマスルモノハ石
炭ノ輸出デアリマシテ、其關係スル炭坑ト
致シマシテハ、高取氏ノ經營ニ係リマス所
ノ杵島炭坑及朝鮮銀行ノ施設ニナッテ」居リ
マ、ス所ノ佐賀炭坑、此二ツノモノガ一番開
係アル炭坑デアリマス、併ナガラ杵島炭坑
ハ北八幡ノ驛デ、佐賀炭坑ハ大町ニテ、其出
炭ノ大部分ハ之ヲ鐵道ニ託送シテ居ルモノ
デゴザイマスルカラ、殘ル所ノ一小部分ハ
凡ソ一箇年ニ致シマスルト、五万噸內外ノ
石炭ガ六角川ヲ上荷船ニテ下ッテ參リマシ
テ、始メテ、住ノ江ニ輸出サレルノデアリ
マスガ(「脫線々々」「無駄口ヲ止メロ」ト呼
ヒ其他發言スル者多シ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=29
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030・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=30
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031・田口文次
○田口文次君(續) ソレトテモ五万噸位ノ
石炭ニ致シマシテモ、最早鐵道トハ何等ノ
關係ハ無イノデアリマス、所謂鐵道ニ託送
スベカラザルモノガ川ヲ下ッテ住ノ江ニ出
ルノデアリマスカラ、再ビ之ヲ鐵道ニ託ス
ル必要ガ無イカラデアリマス、又次ニ輸入
ノ物ト致シマシテハ、鐵道兩岸ニ於ケル蘆
刈村ヤ福富村ノ大部分ニ對シテ、農家ノ需
要スル豆粕若クハ人造肥料ガ、一箇年約二
三十万圓ノ價ノ物ガ輸人サレルダケデアリ
マシテ、其他多クノ輸入サレル物ハ無イノ
デアリマス、是ハ輸入スルト同時ニ直ニ農
家ノ手ニ依リ、馬ノ脊、若クハ荷車等ニ
依シテソレ〓〓各需要者ニ引取ラレルノデ
アリマスカラ、鐵道トハ何等輸入ニ付テノ
關保ハ無イノデアリマス、斯ノ如キ狀態デ
ゴザイマシテ、五六年前ニ於テハ長崎稅關
ノ出張所モ、或ハ廢止セラレルデハナカラ
ウカト云フヤウナ噂モ立ッタ位デゴザイマ
スルガ、大木伯爵ノ鐵相時代ニ於キマシ
テ、蘆刈村ノ一部ノ人士ニ依テテニ住ノ
江港ノ價値アルコトヲ大袈装ニ吹聽セラレ
タコトガアリマス、世人ハ之ヲ以テ何故ニ
斯ル吹聽ガ盛ニ行ハレルデアラウカト云フ
コトヲ奇怪ニ感ジテ居ッタ位デアリマシタ
ガ、只今其起點變更ノ理由及海陸連絡ノ必
要上ヨリ致シマシテ、恰モ住ノ江港ガ重大
ナル意義アル如ク、福田君ハ申サレマシタ
ケレドモ、事情ハ斯クノ通リデアリマス、
何等鐵道ト連絡ヲ取リマシテモ、利害關係
ヲ生ジナイ住ノ江港デアリマスカラ、之ヲ
福田君ガ斯ノ如ク言ハレルノハ、私ハ失禮
デゴザイマスルケレドモ、笑ヲ禁ズルコト
ガ出來ナイヤウナ狀態デアルノデアリマス
(拍手)、福田君ハ幼少ヨリ修學ノ爲ニ〓里
ヲ出デラレマシテ、近頃デハ神戶方面デ
運送業ヲ經營シテ居ラレルヤウニ聞及ンデ
居リマスガ、住ノ江港ノ狀態等ハドウシテ
御承知デアリマセウカ、住ノ江ガドノ方
面ニ在ルカ、地理方角モ分ラズシテ無鐵砲
ニ之ヲ吹聽セラレルト云フコトハ誰カニ〓
ハッテ之ヲ言ハレルモノデアラウト私ハ思
フノデアリマス、然ラザレバ其的確ナル反
證材料ヲ私ハ御市シヲ願ヒタイノデアル、
此平坦線ノ分岐點ヲバ、肥前山口ト既ニ法
律デ決定セラレテ居リマスモノハ、大ニ理
由アルコトデアルト私ハ思惟シテ居ルノデ
アリマス、第一平坦線敷設ニ付テノ最捷經
路デアリ、且ツ古來ヨリノ順路デアルノデ
ゴザイマス、鍋島侯爵ナドガ幕府ノ命ニ依
リマシテ、長崎ノ香燒島ニ往復セラルヽ場
合ニ於キマシテハ、常ニ肥前山口ヲ經テ鹿
島浦ニ人リ、長崎縣ノ小長井村ヲ往來セラ
レテ居ッ夕由緒アル道路デアルノデアリマ
ス、之ヲ佐賀市ニ變更致シマシタナラバ、
延長ニ於テ七哩餘-七哩半位ノ敷設哩數
ヲ增スサウデアリマス、其上ニ從來ノ鐵道
1、其間隔ニ於キマシテ僅カ一里·内外シカ
距リヲ有チマセヌ所ノ南ノ方ニ今一ツノ鐵
道ヲ引張ラウト云フノデアリマスカラ、建設
費ニ於テモ少カラズ增加ヲ要スルデアラウ
ト私ハ存ズルノデアリマス、又彼ノ方面ハ
有名ナル有明海ノ潟地ヲ干拓埋立等ヲ致シ
タ所ノ場所デゴザイマスルガ爲ニ、地盤極
メテ軟弱デゴザイマスル、是レ故ニ是等ニ
鐵道ヲ敷設スルト云フコトハ、到底不可能
ノコトデハナカラウカト云フ噂モアル位ノ
方面ニ向ッテ、之ヲ架ケヤウト云フコトハ、
及ビ其上ニ鹿島ニ一ツ橋梁ヲ餘計架ケナケ
レバナラヌ、ソレカラ又濁流洛々タル住ノ江
ニ地盤軟弱ナル場所ニ於キマシテ、一大鐵
橋ヲ又架ケナケレバナラヌト云フコトニナ
ルノデアリマスルカラ、此經費ノ差額ヲノ
ミ申シマシテモ、凡ソ三百万圓位ハ肥前山
ロヲ分岐點ト致シマスト、佐賀市ヲ起點ト
致シマストデハ差額ガ生ズルト云フコト
ハ素人計算デハゴザリマスルケレドモ、私
共ナンゾガ承知シテ居ルノデアリマス
〔「ソンナ事ハ縣會デヤレ」ト呼ヒ發言
スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=31
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032・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜肅ニ-田口君ニ
注意致シマス、質問ノ要點ダケヲ御述ニナ
ルヤウ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=32
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033・田口文次
○田口文治君(續) 財政緊縮ノ折柄、何處
カラ斯カル費額ノ財源ヲバ發見シ、捻出シ
來ッテ居ラレルカト云コトヲ御尋ネ申ス、
現內閣與黨ノ中堅ヲ以テ自任セラレテ居リ
マスル所ノ憲政會ノ一員タル福田五郞君
ハ此場合ニ於テ常ニ自ラ抑制シテ、政府
ノ方針ニ副フベク努メラレルノガ當然デア
ルニモ拘ラズ、一方ニ於キマシテ佐賀市ノ
方ニ於キマシテモ、餘リ格別ノ利益ヲ受ケ
ル問題デハナイ、停車場方面ノ旅籠屋カ飮
食店等ノ一部少數ノ人〓ニノミ利益シカナ
イト申シテ居ラレル問題ニ對シテ、而モ前
ニハ中立トシテ御當選ニナッタノデアリマ
ス、二度目ニハ實業同志會ニ入ラレタノデ
アリマス、今度ハ三轉シテ憲政會ニ入黨シ
テマデモ、斯ル一小部分ノ爲ニ努力サルル
ト云フコトハ(「何ガ質問ダ」「ソレガ質問カ」
ト呼フ者アリ)質問ヲ致シテ居リマスー
只今質問ヲシテ居ルノデゴザイマス、ト云
フコトハ斯カル一小部分ノ利益ノ爲ニ斯ク
マデ努力サルヽト云フコトハ苟モ一國ノ
選良タル資格ヲ下落セシムルモノデナカラ
ウカト云フ噂ガアルノデアリマス(拍手)兎
ニ角ト致シマシテ、三百万圓近クノ增加經
費ヲ要シマスル所ハ、何レノ方面ヨリ之ヲ
捻出セラルルカト云フコトヲ御尋申上ゲタ
イト思フノデアリマス、第三ニハ門司長崎
ノ間ニ於キマシテ三哩短縮スルト云フ御話
デゴザイマスガ、私ノ調査シタ所ニ依リマ
スルト、二哩以內シカ短縮シナイト云フコ
トデアリマス、長崎及門司ノ間ニ於テ、凡
二百哩ノ内デ一哩半ヤ二哩位ノ短縮デハ何
等ノ效用モ爲スモノデゴザイマセヌ、要點
ハ物資ノ集散、產業ノ開發、交通ノ便否等
ニ於キマシテ、大ニ考慮スベキ必要ガアル
ノデアリマス、又殊ニ其工事費ノ多寡ト云
フコトヲ重ク考ヘテ居ラナケレバナラヌニ
モ拘ラズ、唯、ソレ等ノ點ニハ少シモ考慮ヲ
拂ハレズシテ、此國家財政ノ危急ニ際シ
テ、僅ニ二哩以內ヲ短縮シマシタカラト
言う、何等ノ用ヲ爲スモノデゴザイマセ
ウカ、是等ノ點ヲモ併セテ御答辯ヲ御願ヒ
致シタイト思フノデアリマス、次ニハ若槻
内務大臣ニ私ハ御尋ヲ申上ゲタイ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=33
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034・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 田口君ニ御注意シマ
ス、內務大臣ハ只今御出席シテ居ラレマセ
又、又出席ハムツカシイト思ヒマスガ、ソ
レデモ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=34
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035・田口文次
○田口文次君(續) 豫テ運動好キ騒ギ好キ
トノ評判ガアリマスル所ノ佐賀ノ市長ハ
(「ソレガ何ダ」ト呼フ者アリ)內務大臣ニ聽
イテ居ルノデアリマス、本年一月初ニ方リ
マシテ、市會議員其他ノ有志家ヲ招集シ、
而シテ此平坦線起點ソ變更問題ニ付テハ自
分ハ一種動カスベカラザル所ノ確信ヲ持ツ
テ居ル者デアル、必ズ此起點ヲ佐賀市ニ變
更スルコトガ出來ルト云フ積リヲ持ッテ居
ルカラ、諸君モ一ツ奮發ヲシテハドウデア
ラウカト云フヤウナ協議會ヲ開イタコトガ
アルノデアル、恰モ其口吻ヨリ見マスルト
云フト、自分ガ鐵道大臣デモ兼務シテ居ル
ヤウナ權幕ヲ以テ、市會ニ臨ンデ各辯ヲシ
タノデアル、サウシテ一月早々上京ヲシマ
シテ、今ニ東京ニ滯在ヲシテ居ルサウデア
リマスルガ、其入費ノ如キモ少カラザル經
費ヲ要シテ居ルモノデアラウト考ヘマス、
ヨモヤ彼ノ市長ガ自腹ヲ切ッテ居ルモノト
ハ私ハ思ッテ居ナイ、綱紀肅正ヲ以テ一大
政綱ナリトシテ居ラレマスル所ノ····(「何
ノ質問ダ」「降リロ」ト呼フ者アリ)面白半
分ニ、慰ミ半分ニ二箇月ニ亙ヲテ市政ヲ抛
擲シテ、市ノ事務ヲ抛撈シテ、斯樣ナ運動
ニ浮身ヲ寧シ、慰ミ半分ニ東京ニ滯在シテ
居リマスト云フコトハ、綱紀肅正ヲ唯一ノ
看板トシテ居ラルヽ所ノ現內閣ニ於ケル若
概内務大臣ハ之ヲ如何ニ見ラレルデアラウ
カ、監督者トシテ如何ナル注意戒告ヲ與ヘ
ラレルデアラウカト云フコトヲ聽キタイノ
デアリマス、次ニー次ニー(「次ニ何ダ」
ト呼フ者アリ)次ニ加藤總理大臣ニ御尋ネ
申上ゲタイ、本問題ニ付キマシテハ多額ノ
經費ヲ更ニ要スルコトヽ修正後ニ於キマ
シテモ地盤ノ關係其他等ヨリ致シマシテ、
維持費ニ少カラザル增加經費ヲ要スルコト
トハ、明白ナル事實デゴザリマスルガ、此財
政緊縮ノ最中ニ於キマシテ、如何ニ總理大
臣ハ之ヲ處理セラレルデアラウカ、又佐賀
市ノ運動ヤ請託ニ依ッテ、旦決定セラレ
タ所ノ法律ガ輕ミシク變更スルヤウナコト
ガ萬一ニデモアリマシタナラバ、國民ハ法
律ナルモノハ何等ノ價値無キモノデアルト
ノ感ジヲ起スデアラウ、或ハ時ノ政情如何
ニ依ッテ、朝夕變更シ得ルモノトノ感ジヲ
持ツコトニナルモ亦致方ナイコトデアル、
斯樣ニシテ朝夕法律ガ變更セラルヽモノデ
アリマシタナラバ、其弊害ハ遂ニ底止スル
所ヲ知ラザルコトニ至ルノデアラウ、法律
ノ確定ト云フモノハ何ノ義デアルト云フコ
トガ分ラナクナッテシマフノデアラウト云
フコトヲ憂フルノデアリマス、所謂財政ノ
點ヨリ申シマシテモ、綱紀粛正ト云フ點ヨ
リ申シマシテモ、今二ツノ私ガ今質問シテ
居ル問題ニ付テ如何ニ考ヘラレルデアラウ
カ、斯カルコトガ此議場デ認容セラレルヤ
ウナコトニナリマシタナラバ、現內閣ノ一
枚看板トシテ居ラレル所ノ綱紀肅正、財政
緊縮ノ八文字ハ、必ズヤ面ヲ蔽ウテ泣クデ
アラウト私ハ思フノデアリマス、此點ニ於
テ加藤總理大臣ハ此問題ヲ如何ニ御取扱ヒ
ニナルモノデアラウカト云フコトヲ御尋ス
ルノデアリマス、之ヲ以テ私ハ質問ヲ打切
リマシテ演壇ヲ降ルコトニ致シマス
〔福田五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=35
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036・福田五郎
○福田五郞君 田口君ノ御質問ニ答辯ヲ致
シマス、田口君ハ私ノ起點變更ノ理由トシ
テ申述ベマシタコトニ付キマシテ、何等ノ
理由ガ無カッタト言ハレマシタガ、矢張アッ
タト云フコトヲ自覺シテ居ラレルト見エ
テ、二三ノ點ヲ提ゲテ質問ヲサレマシタ、
私ハ賢明ナル田口君ガ斯樣ナ矛盾シタコト
ヲ言ハレルノハ、田口君ノ爲ニ惜ムノデア
リマス、私ノ演說ニ對スル御質問ノ中ニ、
答辯スベキ價値アルモノト思フ分ダケ答辯
致シマス、其他ハ何ダカ要領ヲ得ナイ、又
此議政壇上ニ於テ言フベキヤウナ事デモ無
カッタト思ヒマス、主要ナル點ニ付テ答辯
シマス、要スルニ主要ナル點ハ-私ノ主
要トシテ居リマスル起點變更ノ理由ハ三哩
ノ短縮デアル、所ガ是ハ二哩半デアルカラ
ドウトカ云フ御話デアリマシタケレドモ、
此點ニ付キマシテハ、曩ニ詳細ニ論及シタ
積リデゴザイマス、之ヲ長ク引延シテ永久
ニ考ヘマシタラ非常ナ國家的ノ損デアル、
若シ之ガ諸君ニ分ラヌナラバ、諸君ハ數學
的觀念ガ薄イノデアル、デゴザイマスカラ
シテ二哩ト言ハウガ、三哩ト言ハウガ、曩
ニ申シマシタヤウニ、私ハ一哩デモ宜シイ、
一哩半デモ短縮スレバ結構デアリマス、二
哩デアルカラ良クナイト云フノハ何等理由
ニナラナイ、次ニ又(「經費ハドウスル」ト
呼フ者アリ)追々說明ヲ致シマス、次ニ住
ノ江港ノ附近ノ炭田ニ付テ言ハレタガ、私
ハ是ハ何トモ申シテ居リマセヌ、將來起ル
ベキ炭坑ニ付テ申シテ居リマス、何モ今現
在シテ居ル杵島炭坑及其他ノ炭坑ヲ起點變
更ノ理由ニシタノデモアリマセヌ、是ハ田
口君ノ聽違ヒデアラウト思ヒマス、將來起
ルベキ炭坑變更ノ理由ヲ提ゲテ來タノデア
リマス、殊ニ此住ノ江港ヲ田口君ハ第一ノ
理由ニシタヤウニ言ハレマシタガ、ソレハ
間違ッテ居ル、最初ニ斷シテ置キマシタヤウ
ニ、是ハ私ノ附隨ノ理由デアル、第二ノ理
由デアル、斯ウ云フ理由ハ實ハナクテモ宜
イノデアリマス、次ニ此財源ハ何處カラ持ッ
テ來ルカト云フコトデアリマシタ、是ハ私
トシテハ頗ル理由ニ乏シキ質問ト思フ、是
ハ追加豫算モ出來マセウシ場合ニ依シテハ
今年ハ著手スル必要モナシ、次年ニ廻シテ
モ宜イノデゴザイマス、所デ私ハ田口君ニ
アペコベニ反問シタイノデアル、一體本黨
ハ何ト言ッタ、此間ノ決議案デハ何ト言ハ
レタ、鐵道ノ既定計畫ヲ遂行セヨト言ッテ
居ル、此財源ヲドウスル、此財源ハ分テ居
ル筈デアル、然ラ、田口君ハ斯樣ナ些細ナ問
題ヲ捉ヘテ、財源ヲドウスルナドト云フコ
トハ問題ニナラヌ、(拍手)尙ホ又次ニ言ッ
テ置キマス、是ハ本案ニ關スル質問デハナ
カッタヤウデアリマス(「モウヨカタイ」ト呼
フ者アリ)モウ少シヤル、私ノ提案ノ理由
ヲ聽キマシテ理由ノ空疎ナル笑フニ堪ヘナ
イト云フ御批評ヲ受ケマシタ、寔ニ有難
イ、私ハ田口君ノ質問ヲ聽イテ其内容ノ空
疎ナルニ茫然自失シタノデアル、而シテ私
ガ憲政會ニ這入っタコトニ付テ質問ガアリ
マシタ、併シ斯樣ナ事ハ此壇上ニ於テ言フ
ベキモノデナイ、苟モ私ハ一個ノ政治家デ
アル、政治家ノ進退ハ公明正大デナケレバ
ナラヌノデアル、(拍手)自分ハ自分ノ行ク
ベキ道ヲ行ク、之ニ付テ田口君、僕ニ聽キ
タケレバ此處ニ於テミナク願クハ私ノ自宅
ニ來テ戴キタイノデアル、懇切ニ御話致シ
やく、(拍手)要スルニデス田口君ノ爲ニ
惜ムノハ、私ハ田口君カラ政友本黨中ノ年
長者トシテ、モウ少シ眞摯ナ眞面目ナ議論
ヲ此壇上ニ於テ-堂々タル帝國議會ニ於
テモウ少シ眞面目ナ議論ヲ聽クコトヽ思シ
テ居リマシタニ拘ラズ、市長ガ何デアルト
カ、福田代議士ガ地理ヲ知ラヌトカ、何ト
カ云フヤウナコトヲ言ハレタノハ、田口君
ノ爲ニ非常ニ惜ムノデアル、モウ少シ愼重
ナル質問ヲシテ戴キタイト思フノデアリマ
ス、是デ質問ニ對スル答辯ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=36
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037・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 他ノ質疑ノ通告ハ取
消サレマシタ、他ニ質疑ノ通告ハアリマセ
ヌ
〔政府委員俵孫一君登病但〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=37
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038・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 田口君ニ一寸御詰
致シマスガ、只今總理大臣ノ御答辯ヲ求メ
ラレマシタガ、私デ宜シケレバ私ガ御答致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=38
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039・田口文次
○田口文次君 結構デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=39
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040・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 田口君ノ御問ハ、
私ハハッキリ聽クコトガ出來得マセヌカッタ
ガ、察スルニ-察スルニ敷設法デ決マッ
タ問題ニ付テ、若シ之ヲ改正ヲスレバ朝令
暮改ニナルガ、ソレニ對シテハ政府ハドウ
カト云フ御問デアッタヤウニ思ハレタ、勿
論是ハ既ニ御永知ノ通リニ、明年ヨリ此線
路ニハ著手スルコトニ決マッテ居ルノデア
リマス、旣ニ衆議院ニ於テハ豫算ノ決議ニ
ナッテ居ルノデアリマス、之ニ付テ今問題
ニナッテ居ルモノハ議員ヨリ提案サレタノ
デアル、政府ガ之ヲ變ヘヤウト云フノデハ
アリマセヌ、議員ノ提案デアル以上ハ、議
員ノ權能ニ依シテ議員ノ提案サルヽモノニ
對シテハ、政府ハ之ニ對シテ如何トモスル
コトガ出來ナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=40
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041・井本常作
○井本常作君 本案ハ議長指名、特ニ十八
名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=41
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042・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 井本君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマ
シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=42
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043・作間耕逸
○作間耕逸君 議事日程變更ニ關スル緊急
動議ヲ提出致シマス、卽チ政府提出、輸出
組合法案、同ジク政府提出、重要輸出品工
業組合法案ヲ此際特ニ上程シテ一括議題ト
爲シ、其第一讀會ノ續キヲ開カレンコトヲ
望ミマス
〔「賛成々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=43
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044・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=44
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045・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、卽チ茲
ニ輸出組合法案、重要輸出品工業組合法案
ノ兩案ヲ一括シテ、其第一讀會ノ續ヲ開キ
やっ、委員長高木益太郞君
輸出組合法案ノ續(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一輪出組合法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
大正十四年二月十七日
輸出組合法案委員長
高木益太郞
衆議院議長粕谷義三殿
重要輸出品工業組合法案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一重要輸出品工業組合法案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
大正十四年二月十七日
重要輸出品工業
組合法案委員長
高木益太郞
衆議院議長粕谷義三殿
〔高木益太郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=45
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046・高木益太郎
○高木益太郎君 簡單ニ委員會審議ノ西女旨
ヲ御報告中上ゲマス、本案ハ海外發展上、
時代ノ要求ニ應ジ、國民ノ歡迎スル案デア
リマスルカラシテ、委員會ハ和氣靄々、圓
滿ナル決議ノ下ニ滿場一致ヲ以テ可決致シ
マシタ、而シテ其委員ハ私ヲ除クノ外他ノ
委員諸君ハ何レモ海外貿易ノ事情ニ精通セ
ラルヽ方ミデアリマシタカラシテ、質問ハ
悉ク實際ニ亙ノテ頗ル熱心ニ〓究ヲセラレ
マシテ、之ニ對シテ政府ハ又懇切ナル說明
ガゴザイマシタ、條文ニ致シマスルト云フ
1、準用條文ト共ニ二百何箇條ニ亙ッタノ
デアリマスカラ、大體ノ質問カラ逐條審議
ニ亙リマシタノデ、其詳細ハ御手許ノ委員
會ノ速記錄ニ讓リマス、唯、津崎尙武君カ
ラシテ希望ノ申出ガアリマシタ、之ヲ朗讀
致シマス、「本法制定ノ目的ヲ達成スルニ必
要ナル資金ノ供給ニ關シ最善ノ努力ヲ爲ス
ヘシ、大量生產ノ實ヲ擧ケ輸出品ノ品質改
善ト價格ノ低廉ヲ期スル爲メ中小工業ノ資
本合同助成ニ努ムヘシ、輸出貿易ノ振興ヲ
圖リ商品販路ノ擴張、市場ノ維持開拓ノ爲
メ必要ナル施設ヲ爲スヘシ」斯ウ云フ次第
デアリマス、尙ホ御尋ガゴザイマスレバ御
答ヲ致シマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=46
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047・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ討論ニ入リマ
ス、通告ハ賛成ノミデアリマスガ、順次其
發言ヲ許シマス、津崎尙武君
〔津崎尙武君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=47
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048・津崎尚武
○津崎尙武君 只今議題トナッテ居リマス
ル輸出組合法案竝ニ重要輸出品工業組合法
案ニ付キマシテ、委員長ノ報告ニ贊成ノ意
ヲ表スルノデアリマスガ、此案ニ贊成スル
ニ付キマシテ、只今委員長カラ御報告ニナ
リマシタ通リ、吾々ハ今日ノ帝國ノ現狀ニ
顧ミマシテ、輸出貿易ノ振興ヲ圖ルコトガ
最モ大切デアルト信ジマスル故ヲ以チマシ
テ、本案ノ成立ヲ希望スルノデアリマスル
ケレドモ、折角此案ヲ制定セラレテ施行ス
ルニ當リマシテ、之ニ對シテ政府ノ執ラレ
ル方針ガ適當デナイト云フト、此案ノ成立
ノ目的ヲ達スルコトガ出來ナイト思フノデ
アリマスカラ、只今委員長カラ御報告ニナ
リマシタ如キ事柄ヲ、吾々議員ノ希望トシ
テ此案ヲ認メタイト思フノデアリマス、
段々此議會ニ於テ模樣ヲ見テ居リマスト云
フト、政府ハ日本ノ現狀ニ對シテ、殊ニ經
濟上ノ國難トモ云フベキ狀態ニ對シテ、政
府ノ行政財政ノ整理ヲスルト共ニ、國民ニ
消費節約ヲ奬勵シテ行ク外、對策ハ無イヤ
ウニ言ッテ居ラレマス、ケレドモ、其聲明ノ
間ニ偶〓輸出組合法竝ニ重要輸出品工業組
合法ト云フ、輸出貿易ヲ促進スル積極法案
ノ出タコトヲ、消極的ノ問題ノ多イ問ニ吾
ハ之ヲ多トスルノデアリマス、然レドモ此
法案ノ適用ニ當リマシテハ、折角此法案ヲ
作リマシテモ、政府ノ施設宜シキヲ得ナイ
場合ニ於テハ、法案ガ出來タヾケノ値打ガ
ナイト云フコトニナルト思フノデアリマス
カラ、委員會ニ於キマシテハ各委員ヨリ此
問題ニ付テ詳細ナル質問應答ガアッタノデ
アリマス、本案ニ付テ最モ大切ナ問題ハ、
資金ノ問題デアル、最初此資金ノ事ニ付キ
マシテハ政府ノ御答辯ハ相當ニ輸出組合
法ニ對シマシテモ、或ハ工業品ノ組合ニ對
シマシテモ、資金ノ供給ヲ致スベキコトヲ
言明セラレテ居ッタニ拘ラズ、段々質問ガ
進ムニ從ッテ、其財布ノ口ヲ塞ガレテシマッ
タヤウナ感ジガ致シタノデアリマス、サウ
云フ狀態デアリマスト云フト、本案ヲ施行
シテ此案ノ目的ヲ達スルニ付テ大切ナ資金
關係ニ付キマシテ、非常ニ疑ナキヲ得ナイ
ノデアリマス、デアリマスカラシテ、吾々
ハ此案ヲ承認シ、此案ノ成立スルコトヲ希
望シマス機會ニ於キマシテ、此資金ノ供給
ニ付テ政府トシテ最善ノ努力ヲ盡サレンコ
トヲ希望スルノデアリマス、卽チ輸出組合
ニ付キマシテハ輸出手形ノ割引ヲスル、長
期低利資金ヲ供給スル積リデアルト云フコ
トヲ最初御話ニナッタノデアリマスケレド
モ、段々追窮シテ行ク內ニ、ソレガ何トナ
ク怪シクナッテ來テ今マデヤッテ居ルコトハ
ヤッテ居ルカラ、サウ云フヤウナ同ジ事デ
ヤッテ行キタイト云フコトデアリマスケレ
ドモ、此事ニ付キマシテハ、特ニ政府ノ御
留意ヲ願ヒタイ點デアリマス、次ニ海外ニ
居ル所ノ日本商人ガ、資金ノ供給ヲ得ラレ
ヌ爲ニ、外國ノ商人ニ對シテ十分ニ商業上
ノ發展ガ出來ナイ事情ガアルノデアリマス、
斯ウ云フコトニ付キマシテモ、政府ハ資金
ノ供給ヲスルコトニ付テ十分ノ考慮ヲ拂,
テ戴キタイト云フコトヲ希望スルノデアリ
やっ、次ニ原料品ノ輸入ニ對シマシテモ、
資金ノ供給ガ極メテ不完全デアル、此事モ
政府ノ施設トシテ適當ナ計ラヒガナケレ
バ折角輸出品工業組合法ヲ制定致シマシ
テモ、其制定ノ目的ヲ十分ニ達スルコトガ
出來ナイト云フ事情ニ在ルノデアリマス、
次ニ工業組合法ニ付キマシテハ、如何ナル
方法デ資金ノ供給ヲスルカ、工業組合法ニ
付テハ資金ノ供給ガナケレバ其目的ヲ達ス
ルコトガ出來ナイ爲ニ、各員カラ熱心ナル
質問希望ガアッタニ拘ラズ、政府トシテハ
未ダ此事ニ付テ一定ノ方針ガ決マッテ居ナ
イ、大藏省ト日本銀行トノ關係ニ於テ如何
ナル方法ヲ以テ之ニ資金ヲ供給スルカト云
フコトハ、未ダ御決定ニナッテ居ナイヤウ
デアリマス、然ルニ日本ノ貿易ヲ促進スル
上ニ於キマシテ、粗製濫造ヲ防ギ、又其製
品ノ價格ヲ低廉ニシテ行ク爲ニハ、大量生
產ノ實ヲ擧ゲテ、サウシテ輸出貿易ノ振興
ヲ圖シテ行カナケレバナラヌ、其爲ニハ資
金ノ供給ガ第一デアル、折角此法案ガ出來
マシテモ、資金ノ供給ニ付テ適當ナル方法
ヲ講ジナケレバ、此案ノ制定ノ目的ヲ達ス
ルコトガ出來ナイト思フノデアリマスカラ、
之ニ就テハ特ニ政府ノ御考慮ヲ得タイ點
デアリマス、ソレカラ輪出品ノ生產ヲ盛
ニシテ、海外ニ市場ヲ開拓シテ行クニ付
キマシテハ、我ガ輸出品ヲ海外ニ紹介ス
ル必要ガアル、販路ヲ擴張シテ市場ヲ維
持シテ行ク必要ガアルノデアリマス、其
爲ニハ政府トシテソレニ相當スル適當ナ
施設ヲシテ行カナケレバナラスノデアル、
然ルニ此事ニ必要ナル商務官ハ三十六万餘
圓ノ豫算ガアリマシテ、數年前ニ設置セラ
レテ今日ニ及ンデ居ルニ拘ラズ、今期議會
ニ於テ其豫算ヲ削除シテ、商務官ヲ廢止セ
ラレルコトニナッタノデアリマス、ソレニ
代フルニ海外通信員ト云フ者ヲ置イテ、此
法案ニ依ノテ貿易ノ振興ヲ圖ルコトニ資シ
ヤウト云フ御考ノヤウデアリマスケレドモ、
其經費ガ幾ラデアルカト云ヘバ、僅ニ十四
万圓デアル、其十四万圓ノ經費ノ内ニ、內
地ニ於ケル監督官其他ノ費用ヲ除キマスト
云フト、海外ニ通信員ヲ設置シテ、海外ニ
於テ使ハレル金ガ僅ニ八万圓ニ過ギヌノデ
アリマス、折角輸出貿易ヲ盛ニシヤウト云
フ法案ヲ作ッテ、吾々ガ海外ニ其市場ヲ求
ムル、日本ノ製品ノ市場ヲ求メルニ必要ナ
商務官ヲ廢止セラレテ、斯ノ如キ輕少ナ費用
デ以テ通信員ヲ置カレテモ、其目的ヲ十分
ニ達シテ行クコトハ出來ナイ、ソレデ此問
題ハ外務省トシテ商務官ヲ廢止セラレマシ
テモ、之ヲ農商務省ノ所管トシテ海外ノ適
當ナ地ニ更ニ其市場ノ擴張ノ爲ニ、開拓ノ
爲ニ、必要ナル施設ヲ施シテ貰ヒタイト云
フコトヲ希望ニ堪ヘナイノデアリマス、斯
ノ如キ意味ヲ以チマシテ、吾々ハ本案ニ贊
成スルノデアリマスケレドモ、此案ヲ施行
シテ行クニ付キマシテハ、粗製濫造ヲ防ギ
價格ヲ低廉ナラシメルト共ニ、金融ヲ圓滑
ニシテ、サウシテ海外ノ市場ニ向シテ日本
製品ノ擴張ヲシテ、商品ノ輸出ヲ盛ニシテ
貿易ヲ振興セシムルニ付テ必要ナル商務官
ノ如キ制度ヲ擴張シテ行カナケレバ、此案
ノ目的ヲ達スル譯ニ行カヌト思フノデアリ
マスカラ、政府ニ於テ此事ヲ適當ニ御考慮
ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、是ハ委員
會ニ於キマシテハ、全員一致ノ意見ト致シ
マシテ、御賛成ガアッタノデアリマシテ、政
府ニ於テモ別ニサウ云フコトハ認メテ居ル
ノデアルカラト云フ御考ノヤウデアリマス
ケレドモ、吾々ハ此案ヲ認メルニ當リマシ
テ、特ニ本員ノ意見トシテ此事ヲ申上ゲテ
置クノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=48
-
049・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 前田房之助君
〔前田房之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=49
-
050・前田房之助
○前田房之助君 諸君、私ハ只今議題ニ供
セラレタル兩法案ニ付キマシテハ賛成致ス
者デアリマスケレドモ、法ノ運用ト云フコ
トニ付テ、少シク意見ヲ開陳致シマシテ、
政府當局ノ御考慮ヲ煩シタイト思フノデア
リマス、大體意見ノ大要ハ同僚津崎君ニ依ッ
テ述ベラレタノデアリマスガ、私ハソレヲ
少シ補足シテ見タイト思フノデアリマス、
現內閣ハ組閣以來既ニ半歲餘ヲ經過致シテ
居ルノデアリマス、然ルニ國民生活ノ基調
デアル所ノ物價問題、又國力充實ノ根源デ
アリマス所ノ外國貿易振興ニ對シマシテ、
何等具體的對案ヲ講ズル事ナクシテ今日ニ
及ンダト云フコトハ、私共ノ甚ダ遺憾トシ
タ所デアリマス、然ルニ今囘輸出貿易振興
ノ一策ト致シマシテ、兩法案ヲ御提案ニナッ
タト云フコトハ、其內容ハ兎ニ角ト致シマ
シテ、何トカシテ輸出ヲ振興セシメテ、國
民ノ期待ニ副ハウトセラレタル所ノ御努力
ニ對シテハ、私共ハ相當ノ敬意ヲ表スルト
共ニ、又兩法案ノ趣意ニ對シテハ賛意ヲ表
スル者デアリマス、併ナガラ此兩法案ノ内
容ヲ詳細ニ討議〓究致シマスルト云フト、
餘リニ其内容ノ貧弱デアリ、不徹底デアル
ト云フコトニ付テ、私ハ甚ダ失望ヲ喫シタ
ノデアリマス、諸君、今ヤ我ガ内外ノ情勢
ハ更始一新ヲ要スルノ際デアリマス(ヒヤ
ヒヤ)濫ニ空虛ナル所ノ政治ニ墮シマシテ、
國民生活ヲ基調トスル所ノ政治ニ重キヲ置
カヌト云フコトハ、甚ダ遺憾ナル點デアリ
さっ、申スマデモナク一國ノ政治ト云フモ
ノハ、道義ヲ離レテ政治ナキ如ク、經濟ヲ
離レテ又政治ハナイノデアリマス、而モ今
ヤ我ガ經濟的困難ニ直面致シマシテ、國家
ノ盛衰ニ甚大ノ影響ノアリマス所ノ經濟政
策又或ル意味ニ於キマシテハ現内閣ノ執
ラレタ所ノ唯一ノ經濟政策トシテハ積極政
策デアル所ノ此兩法案ガ、何ガ爲ニ斯樣ニ
貧弱デアリ、斯樣ニ不徹底デアルカト云フ
コトニ付テ、私ハ現内閣ノ經濟政策ニ對ス
ル誠意ニ對シテ多大ノ疑ガアルノデアリマ
ス、諸君、此兩法案ノ目的トスル所ハ粗製
濫造ノ弊ヲ矯メテ、販賣上ノ競爭ノ弊ヲ防
ギタイト云フノガ、兩法案ノ目的トシテ政
府ノ御說明ニナッテ居ル所デアリマス、然
ルニ兩法案ノ內容ヲ見マスト云フト、此目
的スラ達成スルコトハドウデアラウカト思
ハレル點ガ多々アルノデアリマス(「反對カ
贊成カ分ラヌ」ト呼フ者アリ)趣意ニハ賛成
デアリマス-諸君、獨リ是等ノ粗製濫造
ノ弊ヲ防ギ、販賣上ノ競爭ノ弊ヲ矯メルコ
トガ出來ヌノミナラズ、何等貿易振興ニ付
テノ根本義ニ觸レテ居リマセヌカラ、此法
案ノ實施サルヽニ方ッテ、幾何ノ對外貿易
ガ振興サレルカト云フコトニ付テハ、私共
ハ多大ノ懸念ヲ持シテ居ルノデアリマス、
御承知ノ如ク海外貿易ヲ振興セシメマスル
ニハ一般ノ物價ヲ引下ゲルト云フコト、
又今申述べマシタル所ノ資本ノ合同ヲ行,
テ、規模ヲ大ニシ冗費ヲ省イテ、生產費ヲ
低廉ニスルト共ニ、製品ノ改善、統一ヲ圖
ルト云フコト、又長期ノ低利資金ヲ供給ス
ルト云フコト、是等ガ對外貿易振興ノ最モ
肝要ナル要件デアルト云フコトハ、恐ラクハ
何人モ御異議ハナカラウト思フノデアリマ
ス(拍手)此點ニ付キマシテ、委員會ノ經過
ニ徵シマシテモ、與黨ノ諸君ノ委員モ多大
ノ不滿ヲ感ゼラレタノデアリマス、諸君、
物價政策ニ付キマシテハ吾々ハ不幸ニシテ
現內閣ト其所見ヲ異ニスルコトヲ甚ダ遺憾
ニ思フノデアリマスケレドモ、今ヤ經濟的
國難ニ處シマシテ、今回現内閣ノ爲サレタ
如キ、不徹底極マル所ノ財政行政ノ整理
ヤ、或ハ口舌言誠ニ依ルノミノ官民一致ノ
消費ノ節約、或ハ勤儉力行ノミニ依シテハ、
到底此國難ヲ打圓シテ財政ノ基礎ヲ鞏固ニ
スルコトハ困難デアリマス、私共ハ此物價
政策ニ付テ現内閣ガ斯樣ナ微溫的政策ニ
依シテ物價ヲ調節セラレヤウトスル所ノ方
法ニ付テハ、甚ダ遺憾ニハ存ズルノデアリ
マスケレドモ、今日ハ此物價政策ニ付テハ
是レ以上ハ論及致シマセヌ、唯〓此法案ノ
骨子デアリ、目的トスル所ノ粗製濫造ノ弊
ヲ矯メルト云フコト、竝ニ販賣ノ競争ヲ防
グト云フコトガ、此兩法案ノ實施ニ依テ
果シテ實現サレルヤ否ヤト云フコトヲ甚ダ
疑ヒマスルカラ、少シク自分ノ意見ヲ述べ
テ、政府當局ノ御考慮ヲ煩シタイノデアリ
マス、元來我ガ日本ノ輸出品ハ、御承知ノ
如ク生絲トカ-製絲竝ニ之ニ依クテ製造
致シマス所ノ製品、是等ノモノヲ除キマス
ト云フト、多クハ南洋、印度支那、濠洲方
面ニ出マス所ノ雜貨デアリマス、是等ノ雜
多品デアリマスガ爲ニ、是等ノ工業ハ大抵
五百人以下ノ勞働者ヲ使用致シテ居リマス
所ノ中小ノ工業デアルノデアリマス、隨テ
是等ノ中小ノ工業ハ其管理ガ甚ダ不徹底デ
アリ、又其組織ガ至テ貧弱デアルノデアリ
さく、左樣デアリマスガ爲ニ、若シ此法案
ニ規定シテ居リマス所ノ檢查員ヲシテ、嚴
重ニ粗製濫造ヲ防グガ爲ニ檢査ヲスルト云
フコトニナリマスト云フト、是等小資本ノ
集リデアル所ノ工業ト云フモノハ、忽チ立
行カナイノデアリマス、若シ此檢査ヲ厲行
シナイト云フコトニナリマスト云フト、詰
リ粗製濫造ノ弊ト云フモノヲ矯メルコトガ
出來ヌノデアリマス、要スルニ取締ヲ嚴重
ニ致スナラバ、現在ノ工業ト云フモノハ破
滅スル外ナイノデアル、若シ取締ヲ厲行シ
ナイト云フコトデアルナラバ、此兩法案ノ
目的デアル所ノ粗製濫造ノ弊ヲ矯メルト云
フコトハ出來ナイノデアリマス、何レニ致
シマシテモ此法律ノミニ依ノテ粗製濫造ノ
弊ヲ防イダリ、或ハ販賣ノ競爭ヲ防グト云
フコトハ甚ダ至難ノヤウニ私ハ思フノデア
リマス、ソコデ吾々ノ希望スル所ハ、所謂
同種工業ノ資本ノ合同ヲ行ッテ、サウシテ
規模ヲ大キクシテ、冗費ヲ省イテ生產費ヲ
安クスル)同時ニ製品ノ改善統一ヲ圖ル、
斯樣ナ事ヲヤラナケレバ、到底此法律ノ目
的デアリマス所ノ粗製濫造ノ弊ヲ防グト云
フコトハ庶幾スルコトハ出來ナイノデアリ
マス、又政府ハ販賣ノ競爭ヲ防グト仰シヤン
テ居ルノデアリマスケレドモ、此組合ノ規
定ニ依リマスト云フト、一部ハ組合ニ這
入ッテ宜イガ、一部ハ組合ニ入ラナクテモ
宜イ、斯ウ云フコトニナッテ居ルノデアリ
マスカラ、到底此販賣ノ競爭ノ弊ヲ矯メル
コトハ出來ナイノデアリマス、ソコデ私共
ハ今申上ゲル如ク此資本ノ合同ヲヤッテ、
利害關係ヲ一ニシテ、サウシテ製品ノ改
善ヲヤル、同時ニ商品ハ成ベク生產費ヲ
低廉ニセシムルト云フコトハ絕對必要ト思
フノデアリマス、ンコデ私共ハ農商務大臣
ニ果シテ政府ハ-此生產費ヲ安クシテ規
模ヲ大キクスル爲ニ大量生產ヲ行フ、ソレ
ガ爲ニ資本ノ合同モ必要デアルガ、果シテ
政府ハ之ヲ助長サレル御考デアルカドウカ、
斯ウ云フコトヲ御尋致シタノデアリマスル
ガ、農商務大臣ハ資本ノ合同ハ固ヨリ歡迎
スル、大量生產モ固ヨリ希望スル所デアル
ケレドモ、今日ノ吾々ノ希望シテ居ル所ハ、
之ヲ經營スル所ノ人ガ無イカラ、人材ヲ養
成シテ立派ナ經營者ガ出來ルマデ之ヲ待ツ
ヨリ外ハナイト云フコトヲ農商務大臣ハ御
答ニナッタノデアリマス、私共ガ要求シテ
居ルノハ斯樣ナ生溫イ話デナイノデアリマ
ス、今經濟的國難ニ陷ッテ居ルカラ、ドウ
シテモ國力充實ノ爲ニ海外貿易ヲ振興シナ
ケレバナラヌト云フコトヲ要求シタノデア
ル、然ルニ人物ヲ養成シテ、サウシテ自然
ノ儘ニ之ヲ抛棄シヤウ、斯ウ云フコトハ或
ハ農商務大臣ノ御孫サンガ大臣ニデモナラ
レタ時ニハ實現スルカモ知レマセヌガ、私
共ハ斯樣ナ手溫イコトヲ希望シテ居ルノデ
ハアリマセヌ、斯樣ナ譯デ私共ハ此兩法案
ヲ活カシテ、其目的ヲ達成セシメマスルノ
ニハ、ドウシテモ政府自ラ此資本ノ合同ヲ
スルト云フコトヲ助成サレテ、サウシテ大
量生產ノ實ガ一日モ早ク擧ランコトヲバ希
望シテ已マナイノデアリマス、之ガ私共ノ
希望ノ第一點デアリマスルガ、他ハ只今同
僚ニ依ッテ述べラレタ如ク、市場ノ調査、
或ハ販路ノ維持擴張ニ努ムルコト、又此低
利資金ヲ供給スルト云フコト、是ハ非常ニ
重大ナル問題デアリマス、然ルニ低利資金
ノ供給ハ今日此中小工業者ノ最モ渴望シテ
居リマス所ノ問題ハ、六箇月以上少クトモ
一年位ノ長期ニ亙ル所ノ低利資金ノ供給ト
云フコトヲ非常ニ要求致シテ居ルノデアリ
やっ、若シ此政府ノ御聲明ニナル如ク組合
ガ出來テ、サウシテ自然ニ組合ガ統一サレ、
信用ガ出來夕上ニ於テハ、自然ニ此銀行業
者モ金融ノ途ヲ開クデアラウ、又爲替銀行
モ隨テ金ヲ貸スデアラウ、斯樣ニ組合ノ將
來ノ推移ニ委シテ、此資金供給ト云フコト
ヲ御放任ナサルナラバ、假令組合ガ出來マ
シテモ、其組合ガ健全ナル發達ヲスル迄ニ、
此組合ハ消滅致ス虞ガアルノデアリマス、
斯樣ナ譯デアリマスルカラ、ドウシテモ此
低利資金ノ供給而モ長期ニ亙ル低利資金ノ
供給ガ、此法案ヲ實施サルヽト共ニ政府ハ
具體的對案ヲ作ッテ、サウシテ是等ノ人〓
ニ融通スル所ノ御聲明ガナイ限リハ、此雨
法案ト云フモノハ或ハ死文ニ終ル處ガナカ
ラウカト云フコトヲ私共恐レルノデアリマ
ス、是ハ其處ニ居ラッシヤル加藤君ノ如キ、
委員會ニ於テ極論サレタノデアリマス(「委
員會デナイ」ト呼フ者アリ)委員會デアリマ
セヌ-極論サレタノデアリマス、諸君靜
ニ、此經濟政策ハ黨派ニ關係ナク銘々ニ〓
究シナケレバナラヌ、委員會ニ於テハ與黨
ノ諸君ハ、政府ノ聲明ニ對シテ甚ダ遺憾ニ
感ゼラレタノデアリマス、斯樣ナ譯デアリ
マスカラ、吾々ハドウシテモ政府當局ガ此
法案ヲ實施サレルト共ニ、又長期ニ亙ル低
利資金ニ付テ具體的ノ對案ヲ作成サレルコ
トヲバ私ハ政府當局ニ希望スルノデアリマ
ス、是ハ恐ラクハ委員會ノ經過ニ徵シテ、
與黨ノ諸君ト雖モ恐ラクハ異議ガ無カラウ
ト思フ、私ハ本案ニ賛成ヲ致スト共ニ、强
キ意味ニ於テ政府當局ニ向ッテ御考慮ヲ煩
シタイト思フ點デアリマス、若シ現內閣ガ
組合ヲ造ルケレドモ、資金ノ供給ヲヤラナ
イ、對案ヲ作リ得ナイト云フコトデアルナ
ラバ、世間ノ人ハ或ハ疑フデアリマセウ、
何ノ爲ニ世間ノ人ガ疑フカト申シマスル
ト、現內閣ハ物價日々ニ騰貴シテ、サウシ
テ國民ハ生活ノ脅威ヲ受ケテ居ル、失業者
ハ市中ニ滿チテ居ル、而シテ中流以下ノ家
庭ニハ悲話哀談ガ起ノテ居ルコトハ日々ノ
新聞紙上ニ於テ明カデアル、又對外爲替ハ
暴落ヲ致シテ、我ガ兌換制度ノ基礎ニ種々
ノ危惧ノ念ヲ懷イテ居ル、我ガ財政ノ信用
ト云フモノハ地ニ墮チテ居ル、斯樣ナ際ニ
拘ラズ現内閣ハ之ニ對シテ何等ノ對案ヲ講
ゼナイガ爲ニ、國民ノ信用ガ地ニ墜ル、國
民ノ信用ガ地ニ墜ルカラ急遽トシテ一ツノ
人氣ヲ得ルガ爲ニ、一時ヲ糊塗スルガ爲ニ
此法案ヲバ提案ナサッタト云フコトノ疑ノ
目ヲ以テ見マシテモ、恐クハ辯解ノ言葉ハ
ナカラウト思フノデアリマス、要スルニ現
內閣ハ此世間ノ誤解ヲ解クガ爲ニ、宜シク
今申上ゲタ所ノ資本ノ合同ヲ行ッテ、大量生
產ノ實ヲ擧ゲ、同時ニ此法案ノ實施サレル
ト共ニ、資金ノ融通ニ付テハ具體案ヲ作製
サレテ、直ニ組合ニ資金ノ供給ヲ爲サルヤ
ウニ御考慮ヲ煩シタイ卜思ヒマス、是ハ單
リ吾々ノ意見ノミナラズ、恐ラク國民全體
ノ希望スル所デアラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=50
-
051・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 三土政務次官
〔政府委員三土忠造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=51
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052・三土忠造
○政府委員(三土忠造君) 只今前田房之助
君ガ政府ノ提案ニ對シテ御贊成下スッタコ
トヲ感謝致シマス、而シテ之ニ對スル御希
望ノ廉〓モ度〓委員會ニ於テ申上ゲタ通
リ、政府ニ於キマシテハ相當考慮致シテ居
ルノデアリマス、唯〓此案ノ組織ニ付キマ
シテ前田君ニ誤解ノ點ガアリハセヌカト思
ヒマスカラ、此際ニ於テ正シテ置キマス、
前田君ハ此目的ハ宜イケレドモ、目的遂行
上二案共頗ル不徹底デアル、何故ナラバ此
目的ヲ遂行スル爲ニハ、物價ノ引下ノ政策
ヲ第一ニ講ジナケレバナラヌ、第二ニ資金
ノ關係ヲ決メテ掛ラナケレバナラヌ、第三
ニ强制加入ヲ致サナケレバナラヌ、斯ウ云
フ風ニ言ハレタヤウデアリマスガ、物價引
下ノ政策ハ此法律ノ與リ知ル所デアリマセ
ヌ、此法律ハ唯、粗製濫造ヲ防止シ、我國
ノ輸出工業品ノ品位ヲ向上シ、生產費ヲ低
廉ニシ海外ノ信用ヲ維持スルト云フコトニ
努メルノガ目的デアリマス、物價政策ハ他
ノ法律デ決メル、此法律デ決メルベキモノ
デアリマセヌ、此法律ガ規定スベキデアリ
マセヌ故ニ、是ハ這人ッテ居リマセヌデモ
不徹底ト云フ誹ハナイト思ヒマス、又資金
ノ關係ニ付テモ、勿論政府ハ資金ノ關係ニ
付テハ考慮シテ居リマスガ、此資金ノ関係
ヲ此團體法制ノ中ニ規定スベキ性質ノモノ
デアリマセヌ、假ニ輸出組合ニ對シテ資金
ヲ供給スルト致シマシテモ、或ハ法律ノ制
定ヲ要セナイカ知レヌ、他ノ方法ニ依リマ
シテ相當低利ノ資金ヲ長期ニ貸付ケル方法
ガアラウト思ヒマス、之ニ就テハ目下攻究
中デアリマス、又工業組合ニ對シマシテ低
利資金ヲ融通スルト致シマシテモ、其融通
ノ方法ハ勸業銀行、農工銀行、興業銀行ノ如
キ、特殊銀行ノ法規ヲ改正スレバ宜イノデ
アリマシテ、此法律其モノニ何ノ關係ハ無
イノデアリマス、又組合ハ强制加入ヲ認メ
テ居ラナイ、一部分ノ者ハ加入シテモ加入
セヌデモ宜イコトニ出來テ居ルカラシテ徹
底シナイト申シマスルケレドモ、御承知ノ
通リ此兩組合法案共ニ、組合員ニ對シマシ
テハ賦課金ノ外出資ヲ要求致シテ居ルノデ
アリマス、凡ン世界各國ノ團體法制ニ於キ
マシテ、出資ヲ要求スル團體法制ニ强制加
入ヲ認メル所ハ法理上無イ筈デアリマス
(拍手)故ニ此法律ガ成立致シマシク際ニ於
キマシテ、是ガ十分目的ヲ達スルヤウニ働
カセマスルガ、併ナガラ强制加入ト云フコ
トハ右申ス事情デ認メテ居ラナイ次第デア
リマスルカラ、此段御諒水ヲ願ヒマス拍
き発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=52
-
053・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 松井君
〔松井郡治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=53
-
054・松井郡治
○松井郡治君 私ハ簡單ニ本案賛成ノ意見
ヲ述ベテ置キタイノデアリマス、本案ハ先
程委員長ガ御申述ニナリマシタヤウニ、委
員會ガ滿場一致ヲ以テ可決シタ案デアルノ
デアリマス、ソレニ對シテ御希望ガ津崎君
カラアリマシテ、ソレモ吾々ハ必要ハ無イ
ト信ジマシタケレドモガ、折角ノ御希望デ
アリマスカラ、其希望ヲ委員長カラ述ブル
コトニ付テ贊成ヲシタノデアリマス一
体其希望ハ私共ハ大體考ヘマスルノニ、賛
成ヲシタ案ニ對シテ而モ其案自身ノ目的ハ、
御希望ヲ御述ニナリマスル事、ソレト一致
シテ居ル事デアルノデアリマスルカラ、特
ニ此場合ニ其希望ヲ述フル必要ガ無イモノ
デアルト私共ハ信ジテ疑ハヌノデアリマ
ス、然レドモ吾々ハ諸君ト大ニ國事ヲ談ズ
ル上ニ於キマシテ、要ナキ事柄ニ紛爭ヲ釀
スコトハ甚ダ感心致シマセヌカラ、謹デ諸
君ノ申出ニ應ジタ譯デアリマス、デアリマ
スカラ之レアルガ故ニ只今津崎君竝ニ前田
君カラハ、或ハ本議場ニ於テ何カ言フコト
ガアルカモ知レヌカラト云フコトヲ言ハレ
テ居ッタノデアリマスルガ、吾々ハ此御言
葉ニ對シテ聊カ奇異ノ感ヲ懷イテ居ノタノ
デアリマス、所ガ只今御申シニナル所ヲ聽
キマスルト云フト、其事柄ハ總テ政府ノ提
出サレマシタ案ノ理由ノ中ニ書イテアリマ
スカラ、私ハ簡單ニ申述べテ見タイト思フ
ノデアリマス、重要輸出品工業組合法案ノ
中ニ「重要輸出品ニ關スル工業者ニ適切ナル
組合制度ヲ樹立シ其ノ共同施設ニ依リ輸出
品工業ノ改善發達ヲ期シ貿易ノ振興ヲ圖ル
カ爲重要輸出品工業組合法ヲ制定スル必要
アリ」ト云ヒ、而シテ此說明ト致シマシテハ、
當局者ハ從來往々此輸出製品ニ對シテハ粗
製濫造ノ弊ガアル、隨テ又中、小工業者中
ニ屢、無益ノ競爭ヲシタ爲ニ、品質ヲ賣崩ス
弊害ガアッタノデアル、其弊害ヲ矯正スル
目的デ此案ヲ拵ヘマシタノデアッテ、是マデ
同業組合ノ働ガ、動モ致シマスレバ兎角消
極的ニ流レテ居ッタ弊ガアッタ、ソレ故ニ今
囘ハ積極的ノ此案ヲ提出シテ、卽チ粗製濫
造ノ弊ヲ防イデ、製品ノ國際信用ヲ博スル
爲ニハ是等ノ制度ハ頗ル必要デアルト唱破
サレマシタ、又輸出組合法ニ付キマシテモ、
今マデ輸出商人ノ中デハ往々資産ノ關係カ
ラシテ、互ニ競爭致シテ海外市場ニ賣崩ス
ノ弊害ガアル、サウシテ徒ニ競爭ヲ致シマ
スルカラ、是等無益ノ競爭ヲ避ケテ、サウ
シテ製品ノ統一ヤ連絡ヲ圖リ、共同ノ經營
ヲ爲ス爲ニ此案ヲ提出シタト云フコトデア
リマスカラ、諸君ノ御心配ニナッテ居ル事
柄ハ、一切擧ゲテ政府ノ聲明スル所デアル
ノデアリマス、ソレニ拘ラズ徒ニ諸君ガ理
由ニ反對センガ爲ニ、或ハ不完全デアルト
申シ、或ハ不徹底デアルト申シナガラ、何所
ニ不徹底ノ點ガアリ、何所ニ不完全ノ點ガ
アルノデアリマスカ、私ハソレヲ聽クヲ得
ナイ、只今御述ニナリマシタ所ニ依リマシ
テモ、何等新ナル意見ノ發表ガ無イノデア
リマス、是等ノ事柄ニ付キマシテハ、多ク
ノ辯ヲ弄シマセヌデ可決確定サレンコトヲ
希望スルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=54
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055・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ加藤知正君
〔加藤知正君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=55
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056・加藤知正
○加藤知正君 諸君、私ハ只今提案ニナッ
テ居リマスル所ノ此兩法律案ニ對シマシ
テ、雙手ヲ擧ゲテ贊成スル者デアリマス、
諸君、米國昨年ノ海外貿易ハ十億万弗餘ノ
輸出超過デアリマシタ、然ルニ我國ノ昨年
ノ海外貿易ハ、六億四千五百万圓ト云フ輸
入超過ヲ示シタノデアリマス、日米關係ノ
面白カラザル今日、彼我貿易ヲ對照シ、洵
ニ吾々國民ハ遺憾ノ念ヲ禁ズルコトガ出來
ナイノデアリマスル、由來我國ハ輸出超過
ト云フコトガ洵ニ少ウゴザイマシテ、輸入
超過ノ年ノミ多イノデアリマス、試ミニ明
治十年ヨリ昨大正十三年ニ至リマスル四十
八年間ノ貿易表ヲ結イテ見マスレバ、輸入
超過ノ年ガ三十一年間デアリマシテ、輸出
超過ノ年ガ僅ニ十七年間デアルノデアリマ
ス、更ニ遡シテ明治元年ヨリ大正十二年ニ
至リマスル間ノ對外貿易ノ狀態ヲ見マスル
ト、輸出入ノ差引計算ガ十一億四千三百八
十餘万圓ダケ輸入超過ニナッテ居ルノデア
リマス、之ニ大正十三年度ノ六億四千五百万
圓ヲ加ヘマスレバ、卽チ十七億八千八百八十
餘万圓ノ正貨ガ海外ヘ流出スル所ノ計算ニ
ナルノデアリマス、之ヲ以テ吾々國民ハ實
ニ心細ク感ジテ居リマシタガ、是レ畢竟我
ガ海外貿易ガ常ニ輸入超過デアルト云フ結
果ガ此ニ至ルノデアリマスルカラ、如何ニ
シテモ此輸入超過ヲ轉ジテ、輸出超過ニセ
ヌケレバナラスノデアリマス、是ガ卽チ今
日ノ急務デアルノデアリマス、此時ニ際シ
マシテ我國輸出貿易ノ發展シマスルヤウニ
此二ツノ法律ヲ出サウトシテ、玆ニ提案セ
ラレマシタノハ、實ニ吾々國民トシテハ雙
手ヲ舉ゲテ贊成セザルヲ得ヌノデアリマス、
所ガ此二ツノ法律案ニ對シマシテ、只今前
田君ハ洵ニ其內容ガ貧弱デアッテ、不徹底デ
アルト云フコトデゴザイマシタガ、私ハ全
ク是ト反對デ、斯ノ如キ豐富ナル所ノ法案、
斯ノ如キ徹底的ノ法律案ハ無イト思フノデ
アリマス、其豐富ナルコトハ此兩法律案ヲ
御覽ニナレバ、如何ニ豐富デアルカト云フ
コトハ多言ヲ要セザル所デアリマス、而シ
テ其徹底的ナルコトニ付キマシテハ、私
二三玆ニ其箇條ヲ擧ゲテ申述ベテ見タイト
思ノデアリマス、先ヅ第一ニ於キマシテハ、
所謂輸出工業品ヲ製造スルモノハ多クハ小
規模ノモノデアル、卽チ大規模ノモノハ實
ニ少イ、五百人以上ノ職工ヲ使用スル所ノ
工場ハ、全國ニ於テ僅ニ四百五十ヲ算スル
ニ過ギナイ、面シテ百人以下ノ職工ヲ使用
スル所ノ工場ハ、是ハ四万八千餘ノ多キヲ
算シテ居ルノデアリマス、而シテ是等ノ中
小工業者ハ雜然トシテ混在シ、之ガ爲ニ或
ハ不利益ナル所ノ無益ノ競爭ヲ爲シ、或
粗製濫造ノ弊ニ陷ノテ居ルト云フコトハ、既
ニ諸君御承知ノ事柄デアリマス、之ガ爲ニ
玆ニ此法律ヲ制定致シマシテ、是等雜然ト
シテ混在スル所ノ當業者ヲパ打ッテ一團ト
爲シ、聯絡統一ヲ圖シテ、以テ協同一致海
外市場ニ向ハシムルヤウノ仕組ニナッテ居
ルノガ此法律ノ特徵デアリマシテ、之ニ依
リマシタナラバ、徹底的ニ大量生產モ之ヲ
期スルコトガ出來ルト私ハ考ヘルノデアリ
マス(ヒヤ〓〓)第二ニ於キマシテハ檢査云
云ノ御話ガアリマシタケレドモ、此檢査ノ
事ニ付キマシテハ、卽チ製造工程ニマデ立
入ッテ製品ノ檢査ヲ爲シ、或ハ取締ヲ行ヒ、
或ハ事業ノ制限ヲモ加へルト云フヤウナ仕
組ニナッテ居リマス、之ヲ厲行シマスル上
ニ於キマシテハ、檢查其モノガ徹底的ニ行
ハレルト云フコトハ、敢テ多言ヲ要セザル
コトヽ信ズルノデアリマス(拍手)第三ニ於
キマシテハ、政府當局者ハ卽チ此爲替資金
ト云フコトニ付テハ、特別ノ援助ヲ與ヘル
ト云フコトヲ申シテ居リマス、此事ハ再三
再四繰返サレテ居ルノデアリマスカラ、此
點ニ於キマシテハ吾々共ハ政府當局ノ言明
ヲ信ジテ、何等心配スルコトハ要ラヌト思
フノデアリマス、斯樣ナ次第デ、此法律案
ガ實行セラレマシタナラバ恰モ暗夜ニ太
陽ノ現レタルガ如ク、久シク暗雲ニ鎖サレ
テ居ル所ノ輸出業界ハ、之ガ爲ニ一大光明
ガ輝クデアラウト私ハ思フノデアリマス、
前田君ハ不徹底デアルト云フコトヲ言ハレ
マシタガ不徹底デアルナラバ何故ニ委員會
ノ席上ニ於テ、之ス對シテ修正案ヲ提出セラ
レナカッタノデアリマセウカ、委員會ニ於
テ何等修正案ヲ出サズシテ、此席上ニ於テ
不徹底呼ハリヲ致サレルノハ、恰モ犬ノ遠
吠ト同ジ事デアラウト思フノデアリマス
(拍手)斯樣ナ次第デアリマシテ、私ハ此法
律案ニ對シテハ彼此申ス必要ハナイ、雙手
ヲ擧ゲテ賛成スルト云フ意思ヲ玆ニ表明シ
テ壇ヲ降ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=56
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057・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ニテ討論ハ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=57
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058・土屋清三郎
○土屋〓三郞君 議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=58
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059・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 土屋君何デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=59
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060・土屋清三郎
○土屋〓三郞君 此法案ニ關シマシテ、政
府ニ一ツノ質疑ヲ致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=60
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061・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 土屋君
〔「登壇々々」「無用々々」ト呼フ者アリ〕
〔土屋〓三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=61
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062・土屋清三郎
○土屋〓三郞君 私ハ只今議題トナッテ居
リマスル此重要ナル法案ガ、將ニ滿場一致
ヲ以テ可決セラレントスルニ方リマシテ、
政府ニ對シテ一ツノ質疑ヲ致シタイト思フ
ノデアリマス、本法案ノ内容ヲ通ジ、又委
員會ノ模樣ヲ拜聽致シマシテモ、我國刻下
ノ急務ハ、粗製濫造ノ弊ヲ矯ムルト云フコ
トニ在ルヤウニ承ッタノデアリマス、然ルニ
不幸ニシテ今日我ガ政府、殊ニ大藏省專賣
局ニ於テ製造セラルル所ノ煙草ニ至リマシ
テハ、屢、粗製濫造、甚シキニ至ッテハ、內
容半バ空虛デアリマシテ、洵ニ粗製濫造ノ
模範ト見ラレル物ガ爲イデハアリマセヌ、
(拍手)固ヨリ煙草ハ煙ニナルコトデアリマ
スカラ、敢テ之ヲ問ハヌト云フコトデアレ
バ(笑聲起ル)是ハ別デアリマスケレドモ、
苟モ政府ノ製品トシテ之ヲ國民ニ專賣致シ
マスル以上ハ、其結果ガ人心ニ如何ナル影
響ヲ及ポスカト云フコトハ考ヘナケレバナ
ラヌノデアリマス(「ヒヤ〓〓」拍手)私ハ此
法案ノ決定セラルルト同時ニ、政府ハ先ヅ
自ラ省ミテ、內ニハ國民ノ信用ヲ維持スル
ガ爲ニ、外ニ向ッテハ我ガ國產ノ信用ヲ維持
スル爲ニ、先ヅ此政府ノ製品ニ向ッテ、粗製
濫造ノ弊ヲ矯正スルノ御意思ガ無イカト云
フコトヲ承リタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=62
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063・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 答辯ハアリマセヌ
-本案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤヲ御諮リ
致シマス、本案ノ第二讀會ヲ開クニ御異議
ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=63
-
064・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=64
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065・作間耕逸
○作間耕逸君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開キ、
第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ、特
ニ滿場一致ヲ以テ可決セラレンコトヲ望ミ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=65
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066・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニハ御
異議ナシト認メマス、仍テ直ニ兩案ノ第二
讀會ヲ開キ、議案全部ヲ議題ニ供シマス
輸出組合法案第二讀會(確定議)
重要輸出品工業組合法案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=66
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067・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 別ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ第三讀會ヲ省略シテ、委員長
報告ノ通リ可決確定セラレマシタ、日程第
六〓育ノ機會均等ニ關スル建議案ヲ議題ト
致シマス、提出者ノ趣旨辯明ヲ許シマ
ス-山桝儀重君
第六〓育ノ機會均等ニ關スル建議案
(山桝儀重君外二名提出)
〔山桝儀重君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=67
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068・山枡儀重
○山桝儀重君 私ハ只今議題トナッテ居リ
マスル〓育ノ機會均等ニ關スル建議案ノ趣
旨ヲ說明致シタイト思ヒマス、現在日本ノ
社會ニハ或ル一種ノ不安ナ空氣ガ漂ウテ居
ルコトハ何人モ之ヲ否ムコトガ出來ナイ
ト思フノデアリマス、其社會ノ思想ノ不安
ノ根柢ハ、今日ノ人々ガ要求スル所ノ社會
秩序ガ、十分保タレテ居ナイト云フ所ニ在
ルノデアリマシテ、現代ノ人々ガ何ヲ社會
ニ要求致シテ居ルカト申シマスナラバ、各
々持ッテ生レタ所ノ天賦ノ能力ガソレ相當
ニ社會ニ認メラレテ、社會統制上ノ地位ヲ
得ルト云フコトデアラウト思フノデアリマ
ス、然ルニ現代ノ社會組織ニ於テ、其點ニ
若干遺憾ナル點ガアリマスルガ故ニ、茲ニ
一種ノ不滿ヲ感ジテ、社會組織ノ上ニ一ツ
ノ不安ナル空氣ガ横ハッテ居ルノデアラウ
ト考ヘラルヽノデアリマス、今日ノ此自由
競爭ヲ基礎トシ、資本主義ノ現代ノ組織ニ
於キマシテハ、何人モ此要求ヲ爲サナケレ
バナラナイコトハ當然デアリマスガ、此組
織ノ下ニ於テ其自由競爭ガ最モ公平ニ行ハ
レ得ルナラバ、而シテ其公平ナル競爭ノ下
ニ於テ各々貧富ノ懸隔、地位ノ高下ガ生ジ
マシテ、貧シキ者トナリ、地位ノ低イ者トナッ
テモ、是ハ其人ノ責任デアッテ、何人ヲモ怨
ム譯ニハイカナイモノデアルト考ヘルノデ
アリマス、然ルニソレガ現在ニ於テ公平ニ
行ハレテ居ナイ點ガアルガ故ニ、玆ニ不滿
ガ起ルノデアラウト思フ、之ヲ公平ナル競
爭ヲ爲サシムル爲ニ第一條件トスル所ノモ
ノハ持ッテ生レタ所ノ天賦ノ能力ヲ十分
ニ磨ク爲ニ、〓育ノ機會ヲ均等ニ與ヘマシ
テ、其與ヘラレタル〓育ノ機會ニ於テ、十
分自己ノ天賦ノ能力ヲ發揮シテ、社會ニ於
テ自由競爭ヲ致シマスルナラバ、玆ニ何人
モ滿足シ得ル社會ガ出來ルト思フノデアリ
さく、是ガ私ノ本案ヲ提出致シマシタル所
ノ一ツノ要件デアリマス、而シテ之ヲ他面、
國家社會ノ上カラ眺メマスルナラバ、今日
社會ノ用ニ立ツ所ノ有爲ナル材ハ敢テ富メ
ル者ノ中ニノミアルノデハナイノデアリマ
シテ、陋巷ノ間ニモ亦アルノデアリマスガ
故ニ、其等ノ人々ヲ社會國家ハ探シ求メテ、
十分ニ其等ノ者ヲ〓育スルト云フコトガ社
會國家ノ發達ノ爲ニ、社會國家ノ福社ノ爲
ニ、極メテ重要ナルコトデアルノデアリマ
ス、斯ノ如キ意味ニ於キマシテ、私ハ國民
ガ〓育ノ均等ナル機會ヲ受ケル爲ニ、玆ニ
四ツノ事項ヲ擧ゲマシテ政府ニ是ガ實現ヲ
要求致シタイト思フノデアリマス、第一ハ
義務〓育年限ヲ八箇年ニ延長スルト云フコ
トデアリマス、之ヲ歐米各國ノ狀況ニ較ベ
マスルノニ、南歐ノ諸國、殊ニ西班牙、葡
萄牙ノ諸國ニ比ベマスルナラバ、遙ニ我國
ノ〓育ハ普及發達致シテ居ルト思フノデア
リマス、併ナガラ之ヲ北歐ノ諸國竝ニ亞米
利加合衆國ニ較ベマスルナラバ、甚シク劣ッ
テ居ル、最モ發達致シマシタ所ノ獨逸ニ於
テハ義務〓育年限八箇年、小學校ノ其八箇
年ノ上ニ更ニ十八歳迄補習〓育ガ義務制ニ
ナッテ居ル、更ニ發達致シテ居ル所ノモノハ
亞米利加合衆國ノ「ユタ」州ニ於テハ、滿十八
歲迄、中學校ヲ完成スルマデハ是ガ義務〓
育ニナッテ居ルノデアリマス、此諸國ニ比ベ
マスルナラバ、我國ガ是等ノ諸國ト對抗致
シマシテ、世界ノ一等國トシテ玆ニ彼等ト
相鬪ハナケレバナラナイ時ニ、我國モ亦彼
等ニ負ケナイヤウニ、北義務〓育ヲ仲張セ
シメナケレバナラナイト思フノデアリマ
ス、而シテ現在滿十二歳迄義務ノ制度ガ布
カレテ居ルノデアリマスガ、若シ之ヲ世間希
望スル通リ滿十四歲迄ヲ義務〓育ト致シマ
スルナラバ、文部省ノ計算ニ依リマスルト
云フト、玆ニ五十八万ヽノ兒童ガ新ニ〓育
ヲ受ケルコトニナルノデアリマス、元來尋
常小學校ヲ卒業致シマシテ高等小學、竝
ニ中等學校ニ入リ得ナイ者ハ、是ハ貧困ナ
ル兒童デアリマシテ、今日ニ於テモ金ノア
ル所ノ家ノ子供ハ高等小學ニ入學スルカ、
若クハ中等學校ニ入學シテ十分ナル〓育ヲ
受ケ得ル機會ヲ與ヘラレテ居ルノデアリマ
ス、然ルニ貧困ナルガ故ニ此機會ガ奪ハレ
テ居リマスノデアリマスカラ、此義務〓育
年限ヲ延長スルト云フ問題ハ、是ハ貧困ナル
者ニ對スル所ノ問題デアリ、無產者階級ノ問
題ナノデアリマス、英國ノ文部大臣「フイ
ツシヤーガ」此大戰中、千九百十八年ニ義
務〓育年限延長ノ法案ヲ出シマシタ、其法
律ノ第一條ニハ總テノ人〓ニ利用セラレテ
利益ヲ與ヘ得ル爲ニト書イテアルノデアリ
マス、義務ト云フ言葉ハ義務ヲ負ハスノデ
ハナクシテ、是ハ〓育ヲ受クル兒童ニ取リ
マシテハ權利デアリ、線テノ兒童ニ其權利
ヲ行使スル所ノ機會ヲ與ヘルト云フコトガ、
義務〓育制度ノ根本精神デアルト思フノデ
アリマス、今日迄義務〓育年限延長ノ運動
ヲ致シテ居リマスル所ノ者ハ、主トシテ〓
育者デアリマシテ、〓育者ガ政府ニ向ッテ之
ヲ要求シテ居ルノデアリマスガ、私ノ考フ
ル所ニ依ルト、寧口是ハ無產者ガ大ニ要求
スベキ所ノモノデアル、然ルニ今日ノ勞働
者ハ勞働條件ノ改善ノ爲ニハ隨分鼓ヲ鳴ラ
シテ鬪ィテ居リマスルノデアリマスガ、此
問題ニ對シテ餘リ興味ヲ持タナイト云フコ
トヲ私ハ甚ダ遺憾ニ考ヘテ居ル、(拍手)斯
ノ如クシテ彼等ガ十分ニ〓育ヲ受クルコト
ヲ要求シ、彼等ノ其知能ガ磨カレマシテ人
格ガ涵養致サレマスルナラバ、玆ニ彼等ノ
地位モ高マリ、而シテ總テノ社會問題ノ解
決ノ根柢ヲ爲スコトガ出ネルデアラウト思
フノデアリマス、更ニ又普通選擧ガ愈〓布
カレントスル時ニ當ッテ、極メテ是ハ重要ナ
ル問題デアルノデアリマス、殊ニ國際勞働
會議ノ條約ニ依リマスルト、滿十四歲迄ノ
兒童ヲ工場ニ使用スルコトヲ禁ズルコトニ
ナッテ居ル、唯、日本ガ第五條ニ於テ是ガ除
外例ヲ求メテ居ル、一等國タル日本ガ斯ノ
如キ除外例ヲ求メテ居ルト云フコトハ日
本ノ大ナル耻辱デアルト私ハ考ヘルノデア
リマス(拍手)斯ウ云フ意味ニ於テ義務〓育
ノ年限ヲ延長スルト云フコトハ、是ハ日本
ニ取リマシテ極メテ重要ナル問題デアル、
加之玆ニ明年度ヨリ義務〓育費國庫負擔額
ヲ二千万圓ニ增額致シマシタノデアリマス
カラ、此機會ニ於キマシテ是ガ延長ノ端緒
ヲ企テタルコトハ極メテ重要ナル、極メテ
緊切ナル問題デアルト考ヘルノデアリマ
ス、斯ノ如クシテ義務〓育年限ヲ延長致シ
マシタ所デ、之ニ入レルベキ兒童ハ貧困ナ
ルモノデアリマス、併ナガラ此貧困ナル兒
童ヲ如何ニシテ尙更ニ二箇年間學校ニ學バ
シムルカト云フコトニ付キマシテハ、茲ニ
問題ガ起ル、ソレハ次ノ問題デアリマシ
テ、是等ノ貧困ナル兒童ニ學費ヲ支給シ、
或ハ〓物、衣服ヲ支給シテ之ヲ學パシムル
ヤウニ致サナゲレバナラナイノデアリマ
ス、此制度ハ歐米各國ニ於テ既ニ行ハレテ
居ルノデアリマス、日本ニ於キマシテモ昨
年ノ春、皇太子殿下ノ御成婚ノ記念ニ畏ク
モ一百万圓ノ御下賜金ガアッタノデアリマ
ス、併ナガラ文部省ハ尙ホ之ヲ十分デナイ
ト考ヘテ、之ニ更ニ地方カラ資金ヲ加ヘマ
シテ、此徹底ヲ圖リタイト企テタノデアリ
マスケレドモ、今尙ホ之ヲ十分ニ爲シ得ナ
イノデアリマスルカラ、政府ハ速ニ是ガ完
全二實現セラルヽヤウニ努メラレタイト思
フノデアリマス、第三ニ小學校ヲ卒リマシ
テモ中等學校ニ入リ得ル者ハ、又是レ多額
ノ資產ヲ持ツ者デナケレバナラヌノデアリ
マス、然ルニ世ノ中ニハ非常ニ才能ヲ持
チ、而モ家貧ニシテ之ヲ入ル能ハナイ者ガ
甚ダ多イノデアリマス、文部省ノ計算ニ依
リマスルト、資產ガ乏シイ爲ニ中等學校ニ
入リ得ザル所ノ者ハ九千七百七十八人年々
アルノデアリマス、之ヲ中等學校五箇年ノ
計算ヲ致シマスレバ、約五万人ト云フモノ
ハ中等學校ニ入リ得ナイデ居ルノデアリマ
ス、之ニ公費其他ノ方法ヲ以テ其志ヲ伸べ
シムルト云フコトハ今日日本ノ爲ニ極メテ
大切ナ事デハナイカト私ハ考ヘルノデアリ
マス(拍手)更ニ第四ニハ其他旨者、聾啞
者、或ハ低能兒ナドハ日本ノ今日ノ現狀ニ
於キマシテハ、完全ニ〓育ヲ受ケル所ノ機
會ヲ奪ハレテ居ルノデアリマス、盲者、聾
啞者ニ付キマシテハ、盲啞學校ヲ起ス爲
ニ學校令ガ制定サレタノデアリマスケレド
モ、今尙ホ是ガ普及シテ居ナイ、殊ニ中等
學校ニ至リマシテハ甚ダ不完全デアリマシ
テ、中等以上ノ普通〓育ヲ受ケルコトガ出
來ナイノデアリマス、之ヲ完全ニ〓育ヲ受
ケシメルナラバ、多クノ有用ノ材料ヲ得ル
コトガ出來ルト思フノデアリマス、更ニ低
能兒ニ至リマシテハ全國ニ其數ガ十六万人
アルノデアリマス、全國兒童ノ中十六万、
卽チ二「パーセント」ノ低能兒ガアリマシ
テ、是ハ普通小學校ニ於キマシテハ學級ノ
片隅ニ置カレテ棄テラレテ、サウシテ卒業
ノ時ニハ唯、年限ガ來タカラト云ッテ卒業
證書ヲ與ヘテ出シテ居ルノデアリマス、之
ニハ適當ノ方法ヲ講ジマスナラバ、彼等ヲ
指導シテ一人前ノ人トシテ、社會ノ一單位
トシテ活動スルコトガ出來ルヤウニ爲シ得
ルノデアリマス、然ルニ今日之ヲ棄テヽ願
ミナイノデアリマス、最モ注意スベキコト
ハ今日不良少年ニ社會ハ脅サレテ居ルノデ
アリマスガ、其不良少年ノ中小田原分監ニ
牧容致サレテ居リマス所ノ者ハ三十급
セント」ハ低能兒デアリマス、武藏野學園
ニ收容サレテ居ル所ノ者ノ中六十五「パー
セント」ハ低能兒デアル、之ヲ考ヘマスナ
ナラバ低能兒ヲ〓育スルト云フコトハ、軈
テ將來ノ不良ナル分子ヲ除クト云フコトニ
ナルノデアリマシテ、社會上極メテ重要デ
アルコトハ言フマデモナイノデアリマス
(拍手)然ルニ今日是ガ〓育ノ任ニ當ッテ居
リマス者ハ、特別ノ學校ハ僅ニ東京ニ瀧ノ
川學園、京都ノ白河學園、大阪ノ東華塾ガ
アルノミデアリマシテ、更ニ小笠原ニ一院
アルダケデアリマス、學校內ニ於テ特別ニ
學級ヲ設ケテ〓育ヲ致シテ居リマスノハ、
文部省ノ調ベニ依ルト僅ニ二百三十五校ニ
シカ過ギナイノデアリマス、是等ニ向ヲテ
適當ノ方法ヲ以テ、彼等ガ〓室ノ片隅ニ置
カレテ虐待サレテ居ナイヤウニ、十分彼等
ガ天賦ノ能力ヲ發揮シ得ルヤウニ〓育シ得
ルナラバ、國家ノ爲ニ極メテ重要デアルト
思フノデアリマス、(拍手)是等ノ意味ニ於
キマシテ、私ハ此四ツノ事項ニ付テ政府ガ
速ニ案ヲ立テヽ、是ガ完全ナル實行ヲ希望
スルノデアリマス、是レ本案ヲ提出致シマ
シタ所以デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=68
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069・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 質疑ノ通告ガアリマ
ス-菊池謙二郞君
〔菊池謙二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=69
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070・菊池謙二郎
○菊池謙二郞君 諸君、只今山枡君ヨリノ
〓育ノ機會均等ニ關スル建議案ニ付テ御演
說ガアリマシタ、第一、第二、第三、第四
項ニ分ケテ御趣意ヲ御述ニナリマシテ、私
ハ第二ヨリ第四マデハ悉ク贊成デアリマス
ガ、第一ノ義務〓育年限ヲ八箇年ニ延長ス
ルト云フコトニ付テハ、少ナカラズ疑問
ヲ有シテ居ル者デアリマス、義務〓育年限
ヲ八箇年ニ延長スルト云フコトハ、單リ山
枡君ノミカ、今日ノ〓育社會ニ於テモ又
政治社會ニ於テモ、頻々トシテ其聲ヲ聞ク
ノデアリマス、併ナガラ熟ミ〓育社會ノ內
面ヲ顧ミマスルト云フト、私ト同樣ニ多大
ノ疑問ヲ持ッテ居ル者ガアルノデアリマス、
私ハ自分ノ疑問ヲ此機會ニ於テ御披露ヲシ
テ、果シテ〓日義務〓育年限ヲ八箇年ニ延
長スルコトガ適切デアルカ否カト云フコト
ヲ、諸君ト共ニ〓究シタイト思フノデアリ
マス、要領ヲ摘ミマシテ極ク簡單ニ申上ゲ
マツ、第一義務〓育年限ヲ八箇年ニ延長ス
ルト云フ其八箇年ト云フコトハ、何ヨリ割
出シタカト云フコト、何故ニ七箇年ト云フ
コトヲ考ヘナイノカ、又ハ九箇年ト云フコ
トヲ考ヘナイノカ、元來ガ義務〓育ヲ亞米
利加ノ或ル聯邦デハ六年トシテアル、或ハ
七年トシテアル、或ハ八年トシテアル、或
ハ九年トシテアル、又獨逸ニ於テ山枡君ノ
言ハレタ通リ八年、英吉利モ八年、斯ウ云
フコトデアリマスガ、是等ノ六年、七年、
八年、九年ト云フヤウナ年限ハ、何等科學
的ノ根據ガ無イノデアル、皆專斷的ノ事デ
アル、我國ノ〓育延長論者ハ、文明諸國ガ
八年デアルカラ我國モ八年ニシナケレバナ
ラヌ、斯ウ云フコトヲ言ハレマスケレド
モ、是ハ單ニ體面ヲ考ヘルダケデアッテ、
何故ニ八年ニシナケレバナラヌト云フ論據
ハ更ニ無イ、此義務〓育年限ヲ論ズルニ付
テハ國民ノ生活ノ程度ト今日ノ我國ノ現
狀竝ニ將來ニ照シテ如何ナル〓育ヲ如何
ナル程度マデ施スカト、斯ウ云フ二ツノ問
題ヲ解決シナケレバ、義務〓育年限ヲ八年
ニスルトカ云フ論ハ成立タヌ筈デアル、然
ルニ我國ノ國民ノ生活程度ヲ考慮スルト云
フコトハ、或ハ出來ルカモ知リマセヌケレ
ドモ、我國ノ今日ニ鑑ミ、或ハ又將來ニ鑑
ミテ、〓育ヲ如何ナル程度マデ國民ガ受ケ
ナケレバナラヌカト云フコトハ大問題デア
ル、容易ニ解決ノ出來ナイ問題デアルノデ
アル、此問題ヲ解決シナイデ、唯〓單ニ義
務〓育年限ヲ八箇年ニ延長スルト云フコト
ハ何等ノ根據ガアルカ之ヲ承リタイ、第二
ニハデス(「簡單ニ願ヒマス」ト呼フ者アリ)
簡單ニ申上ゲマスガ、第二ニハ我國ノ今日
ノ國民ハ、自分ノ子弟ヲ〓育スルト云フ義
務ニ付テ甚ダ冷淡デアルカドウカ、若シ我
國ノ國民ガ自己ノ子弟ヲ〓育スル上ニ於テ
甚ダ冷淡デアル、其義務ヲ能ク知ラヌト云
フヤウナ事デアルナラバ、義務〓育年限ヲ
延長シテ、我ガ國民ニ〓育ヲ强行シテモ宜
イノデアリマスケレドモ、吾々ノ見ル所ニ
依シテ考フレバ、我ガ國民ハ決シテ大體ニ
於テ自己ノ子弟ヲ〓育スル義務ヲ等閉ニ考
ヘテ居ルモノデハナイト云フコトヲ認メル
ノデアリマス、例ヘバ都會ノ高等小學校ニ
進ム兒童ハ卒業生ノ中八九割アル、村落ニ
在ッテハ五、六割デアル、是ハ村落ト都會
ノ住民トハ義務〓育ノ、其義務ニ付テノ程
度ガ多少違フ點モアリマセウガ、〓シテ都
會ニ於テ小學卒業ノ兒童ハ、村落ノ兒童ヨ
リモ多ク高等小學校ニ入ルト云フコトハ、
村落ニ於テハ都會ニ於ケルヨリモ生活ニ餘
裕ガ無イカラデアル、又金錢ノ融通ガ、村落
ニ於テハ都會ヨリ窮迫シテ居ルカラデア
ル、生活ニ餘裕サヘアレバ、我ガ國民ハ自
己ノ子弟ヲ〓育スルト云フコトニ於テ、決
シテ其義務ヲ盡サヌモノデナイ、其義務ニ
對シテ冷淡ナルモノデナイノデアルト私ハ
考ヘル、斯ウ云フ國民ニ對シテ法律ヲ以テ
義務〓育ヲ强ユルヨリモ、寧口國家タルモ
ノハ國民ノ生活ニ餘裕ヲ與ヘルコトヲ第一
ニ努メナケレバナラヌ、國民ノ生活ニ餘裕
ガアレバ、法律ヲ以テ强行セズトモ、國民
ノ〓育ハ自ラ行ハレルノデアル、之ヲ山枡
君、或ハ文部當局モ、義務〓育八年ト云フ
コトヲ稍、聲明シテ居リマスガ、斯ウ云フ
コトニ對シテ如何ナル考ヲ持ッテ居ラル
カ、是ガ第二ノ疑問デアル、第三ノ疑問ハ
義務〓育ト云フ以上ハ、國家ガ其義務ヲ盡
サナケレバナラヌ、今日我國ガ義務〓育ヲ
國民ニ强イテ居ッテ、サウシテ果シテ十分ニ
國家ガ其義務ヲ盡シテ「居ルカ否ヤ、私ハ十分
ニ國家ガ義務ヲ盡シテ居ラヌト云フコトヲ
斷言シテ憚ラヌノデアリマス、第一ニ明治
四十年ニ義務〓育年限ヲ六年ニ延長シマシ
タ、其以前ニハ四年デアッタ、義務〓育年
限ガ四年デアッタ時モ、師範學校ノ修業年
限ハ四年デアル、義務〓育年限ヲ六年ニ延長
シテモ、師範學校ノ〓育修業年限ト云フモ
ノハ矢張四年デアル、今日モ然リデア
ル、第一ニ義務〓育ヲ國民ニ强行スルニ於
テハ、國家ハ師範〓育ト云フコトヲ十分ニ
シナケレバナラヌ、此點ニ付テハ今日ノ文
部當局ガ玆ニ著眼ヲセラレテ-ソレハ私
ノ多トスル所デアリマスガ、其案ニ付テハ
兎角ノ議論ハアルガ、ソレハ此所デハ申シ
マセヌ、唯、今日以後ハ師範〓育ヲ十分ニ
完全ニシナケレバナラヌ、然ル後ニ始メテ
義務〓育年限ヲ延長セント欲スレバ、延
長スルト云フ段取ニナルノデアル、此師範
〓育-〓師ノ學力ヲ高メナイデ、四年ノ
時モ六年ノ時モ八年ノ時モ、同樣ノ〓師ヲ
以テ〓育セシメルト云フコトハ、國家ハ十
分其義務ヲ盡シテ居ナイノデアル、隨テ延
長論者ハイツノ時ニ此義務〓育ノ年限ヲ
延長スルト云フ考デアルカ、師範〓育ノ完
全ヲ待ッテ、然ル後ニ年限ヲ延長スルト云
フノデアルカ、今日直ニ年限ヲ延長スルト
云フノデアルカ、若シ今日延長スルト云フ
コトデアルノナラバ、餘リ義務〓育ヲ國民
ニ强ユルノ酷ナルコトヲ私ハ疑ハザルヲ
得ヌノデアリマス、其次ハ國家ガ十分ニ義
務ヲ盡シテ居ラナイト云フ最モ大切ナル事
ガアリマス、ソレハ日本ノ小學校、高等小
學校モ這入リマスケレドモ、一學級ノ兒童
數ト云フモノガ非常ニ多イ、尋常小學校ニ
在"テハ一學級七十人以下、高等小學校ニ
在クテハ一學校六十人以下、斯ウ云フ規定
ニナッテ居ル、一人ノ〓師ガ幾何ノ兒童ヲ
〓育シ得ルヤト云フコトハ〓育上大切ナ問
題デアル、英吉利、獨逸、亞米利加デハ三
十五人乃至四十人デアル、然ルニ我國ニ於
テハ一學級七十人或ハ六十人、殆ド倍デア
ル、斯ノ如キコトデ十分〓育ノ目的ヲ達ス
ルコトガ出來ルカ否ヤ、之ヲ今日改正シナ
ケレバ到底十分〓育ノ目的ヲ達スルコトガ
出來ナイ、所謂「チヨーク」ト「トーク」ノ〓
育デアッテ、決シテ兒童ノ學力ヲ增進セシ
ムルコトガ出來ナイ、若シ今日一學級ノ兒
童數ヲ三十五人若クハ四十人トスルナラ
バ六年ノ年限ニ於テ少クトモ七年ノ〓育
ヲ施スコトガ出來ル、斯ノ如キ事ヲ國家ガ
セズシテ、六年デ足ラヌカラ八年ニ延長シ
ナケレバナラヌト云フノハ、國家自ラ其義
務ヲ十分ニ盡サズシテ、國民ニ無理ヲ强ユ
ルモノト謂ハネバナラヌト私ハ考ヘルノデ
アルガ、義務〓育延長論者ハ斯ノ如キ事ヲ
何ト見ルカ、此問題ヲ解決セズシテ、徒ニ
義務〓育年限延長ヲ論ズルト云フソハ、其
根本ヲ忘レテ全ク末ニノミ趨ルモノト謂ハ
ナケレバナラヌ、又第五ニハ、若シ義務〓
育年限ヲ八年ニ延長シタ曉ニ於テハ、比較
的有產階級ノ者ハ多クハ中等學校ニ這入ル
ノデアル、多クハ中等學校ニ這入ルガ、中
等學校ニ在學シテ一年、二年、若クハ三年
ノ間ニ多數ノ半途退學者ガアル、中等學校
ニ在ッテハ一年二年ノ間ニ多數ノ半途退學
者ガアルト云フコトヽ一方ニ於テ比較的
貧困ナ家ノ兒童ガ八年ノ義務〓育ヲ强行サ
レテ、受ケネバナラヌト云フ事實トヲ比較
トスルナラバ、其有產階級ノ子弟ハ半途退學
ヲシテ義務〓育八年モ終ハラヌデ、其儘國
家ヨリ看過サレルコトニナル、國家ハ斯ノ
如キ場合ニ、一々半途退學者ヲ調ベテ、〓
育八年ヲ受ケナイ者ハ更ニ小學校ニ進入
セシムルト云フヤウナ手段ヲ執ルヤ否ヤ、
恐クハ斯ノ如キ事ハ今日ノ國家ガ煩ハシト
シテ爲サヌ所デアラウト思フ、然ル時ニハ
有產階級ノ子弟ノ幾分ハ、義務〓育ト云フ
モノヲ履行セズシテ、無產階級ノ者ハ義務
〓育ヲ履行シナケレバナラヌト云フヤウナ
矛盾ヲ來ス、斯ウ云フ事ニ付テ義務〓有延
長論者ハ何ト考ヘテ居ルカ、之ヲ承リタ
イ、第六ニハ義務〓育年限ヲ八年ニシテ、
之ニ就テ如何ナル學科ヲ〓育シヤウト云フ
ノデアルカ、義務〓育、卽チ國民一般ニ施
サナケレバナラヌト云フ〓有デアルナラ
バ普通〓育デナケレバナラヌ、普通學
デナケレバナラヌ、然ルニ一方有產階級ノ
者ハ中等學校ニ進入シテ職業〓育ヲ受ケ
ル、或ハ職業〓育ノ豫備ヲ受ケル、玆ニ矛
盾ガ生ズル、無產階級ノ子弟ハ一時贅澤ナ
リトモ云フベキ普通〓育ヲ八年間受ケテ、
有產階級ノ子弟ハ職業〓育ヲ早ク受ケル、
之ガ矛盾ヂヤナイカ、若シ小學校ニ八年ノ
課程ニ職業〓育ヲ授ケルト云フ案ヲ立テル
ナラバ、是ハ國民一般ガ受ケル〓育トシテ
ハ其道理ヲ裏切クテシマフ、一般ノ〓育ナラ
バ職業〓育ヲ授ケルト云フコトハ理論ニ於
テ間違ッテ居ル、矛盾シテ居ル、ダカラシ
テドウシテモ是ハ「ヂレンマ」ニ陷ル、斯ウ
云フコトニ付テ義務〓育論者ハ如何ニ考ヘ
テ居ルカ、〓スルニ今日我國ノ小學校ノ〓
育ト云フモノハ不完全デアル、之ヲ完全ニ
スルノニハ第一ニ〓師ノ素質ヲ向上シナケ
レバナラヌ、是ハ年限ト費用トヲ要スル、デ
アルカラ直チニ義務〓育年限ヲ八箇年ニ延
長スルコトハ不可能デアル、且又前ニモ言
フ通リ、一學級ノ兒童數ト云フモノハ極メ
テ多イ、〓育上ノ效果ヲ阻碍スルコトガ甚
シイノデアルカラ、之ヲ改正シナケレバナ
ラヌ、之ヲ改正スルニ付テハ多大ノ費用ヲ
要スル、今日ノ小學校ノ費用ノ殆ド倍以上
ヲ要スルデアラウト思フ、之ヲ如何ニスル
カ、斯ウ云フ費用ト、小學校ノ〓師ノ向上
トヲ眼中ニ置カズシテ、徒ニ義務〓育年限
ノ延長ヲ叫ブ如キハ、私ノ最モ疑問トスル
所デアリマス、之ニ付テ文部省ノ當局、殊
ニ文部當局モ稍〓八年間延長ト云フコトヲ是
認セラレテ居ルヤウデアリマスガ、先ヅ第
一ニ伺ヒタイノハ、今日ノ〓育ハ完全デア
ルカ不完全デアルカ、必ズ不完全デアルト
御答ニナルニ相違ナイト思フ、然ラバ小學
校ノ施行規則ノ一學級ノ人數ヲ改正サレル
意思ガアルカドウカ、之ガ今日ノ〓育ノ不
完全ノ最大ノ原因ヲ爲スモノト思フ、之ヲ
改正セズシテ〓育ノ向上ヲ圖ヲテモ無益デ
アラウト思ヒマスガ、之ニ付支部當局ノ御
意見ヲ十分ニ伺ッテ置キタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=70
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071・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 定刻ガ近ヅキマシタ
カラ時間ヲ延長致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=71
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072・山枡儀重
○山枡儀重君 議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=72
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073・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 山枡儀重君
〔山枡儀重君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=73
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074・山枡儀重
○山枡儀重君 只今ノ菊池君ノ御質疑ニ對
シテ各辯ヲ致シマス、第一ノ御質疑ハ義務
〓育ノ年限ヲ滿十四歳迄トスル根據如何ト
云フコトデアリマス、此事ハ既ニ我國ノ法
令ニ於キマシテハ、學齡年限ヲ十四歲迄ト
致シテ居リマシテ、六箇年間在學スルコト
ト致シテ居リマシテ、既ニ其時ニ十四歲迄
ヲ義務〓育ノ年限トスルト云フコトヲ豫定
致シテ居ルモノデアリマス、サウシテ今日
ノ世界ノ大勢ヲ見マスルナラバ、滿十四歲
以下デハ勞働ニ從事セシムルト云フコトハ
不當デアルト云フ考ニ大體一致ヲ致シテ居
リマシテ、國際勞働會議ニ於テ滿十四歲ヲ
其年限ト致シタヤウナ次第デアリマス、此
點ニ付キマシテ明確ニ統計的ニ之ガ果シテ
適當ナリヤト云フ議論ヲ爲スコトハ、今日
ノ學界ニ於テ色〓異說モアリマスカラ、明
確ニハ參リマセヌガ、凡ン其邊デアルト云
フコトハ今日學界ノ一致シテ居ル所デアリ
やっ、而シテソレガ爲ニ强制セラルベキモ
ノガ財力ノ關係ニ於テ不都合デハナイカト
云フ御議論モアリマスガ、文部省ノ計算ニ
依リマスト、大正十六年ニ尋常小學校ヲ卒
業スベキ兒童數ノ豫想ハ百三十三万幾ラデ
アリマス、其中中學校ニ入學スベキ豫想ノ
者ハ十五万二千幾ラデアル、高等小學校ニ
入學スベキ豫想ノ者ハ八十八万五千デアリ
さっ、而シテ學校ニ入ラズシテ直ニ社會ニ
出ル者ガ二十九万二千餘人ニナッテ居リマ
ス、此二十九万二千餘人ガ義務〓育年限延
長ノ結果殘ルベキモノデアラウト思フ、是
ダケガ强制セラルベキモノデアラウト考へ
ルノデアリマス、デアリマスガ故ニ尋常小學
校ヲ卒業致シマス百三十三万ニ對シテ二十
九万人殘サレテ居リマスガ故ニ、今日義務
〓育ヲ終リテ直ニ社會ニ出テ居ル者ハ、小
學校ヲ終シタ者、全數ノ二割强ニシカ當ラ
ナイノデアリマシテ、今日ノ日本ノ經濟狀
態ガ此處マデ進ンデ來テ居ルモノデアリマ
シテ、今一步ト云フ所デアリマスルカラ、
之ニ努力ヲ致シタイト思フノデアリマス、
第二ノ御問ハ日本ノ親達ハ子供ヲ學校ニ入
學セシムル所ノ意思ガ甚ダ强イノデアル、
併ナガラ經濟上已ムヲ得ズ之ヲ入學セシム
ルコトガ出來ナイノデアルト云フ御說デア
リマス、私モ寔ニ御同感デアリマシテ、親
ノミナラズ、子供デモ亦學校ニ行キタイト
云フ意思ハ、是ハ寧ロ亞米利加ナドノ子供
ニ比シテ更ニ强イモノガアルト云フコトヲ
私ハ誇リト致シテ居ルノデアリマス、故ニ
金サヘアレバ法律ニ依ッテ强制シナクテモ
宜イト云フ事デアリマス、寔ニ御同感デア
リマス、我國ノ生活費ヲ安クシ、或ハ收益
ヲ多クシテ、此餘裕ヲ生ジタイモノデアル
ト思ヒマスルガ、更ニ私ハ此必要ガアルカラ
シテ建議案ノ中ニ第二ノ條項ヲ加ヘマシテ
學資ヲ支給シ或ハ食費ヲ給シ、衣服マデモ
給シテ、彼等ノ親及ビ子供ノ意思ノアル所
ヲ伸べシメタイト斯ウ考ヘテ居ル譯デアリ
マシテ、之ガ第二ノ點ヲ述ベタ譯デアリマ
ス、此第二ノ點ニ付テハ後ニ政友會ノ山口
君ガ此問題ノ建議案ヲ提出致シテ居ラレマ
スカラ、ソレニ付テ詳細御說明ガアルコト
ト思ヒマス、第三ノ問題ハ、過去ニ四箇年
ノ場合ニ之ヲ六箇年ニ延長シタトキニ、師
範學校ニ何等ノ改善ヲ加ヘナカッタト同
時ニ、今又此六箇年ヲ八箇年ニ延長スルニ
方リマシテ、師範學校ノ改善ヲ行フ點ニ於
テ疑點ガアルト云フ事デアリマシタガ、過
去尋常小學校四箇年ノモノヲ六箇年ニ延長
シマシタケレドモ、是ハ一體師範學校ノ〓
育ハ尋常小學四箇年、高等小學四箇年、合
計八箇年ノ小學校〓育ニ適スル所ノ〓員ヲ
養成スルト云フコトガ、初メカラノ趣旨デ
アリマシテ、此點ニ於テ少シモ異論ハ無イ
ト思フノデアリマス、唯、四箇年ノ尋常小
學校ノ場合ニ於キマシテハ尋常科正〓員
ト云フ者ガアリマシテ、之ガ學力不完全デ
アリマシタカラ、義務〓育年限ヲ六箇年ニ
延長致シマシタ場合ニハ、更ニ之ガ補習ノ
〓育ヲ行ヒマシテ、學力ヲ進メタト云フ政
策ヲ執ッタノデアリマス、此度八箇年ニ延
長致サレマシテモ、是マデノ師範學校ノ趣
旨カラシテ、其資格アルコトヲ豫想サレテ
居ルノデアリマス、併ナガラ尙ホ不完全デ
アル點ガアルカモ知レナイト云フ考カラシ
テ、此度文部省ニ於キマシテハ、御考案ニ
+ッテ更ニ一箇年間專攻科ト云フモノヲ設
ケテッ一層此學力ヲ充實シタイト云フ計畫ヲ
サレタノデアリマシテ、此點ニ向ッテ一層努
力サレルコトヲ私共ハ眞ニ希望致シタ譯デ
アリマス、更ニ是ハヤガテ專門學校ノ程度
ニ師範學校ガナルト云フコトヲ私共ハ豫想
致シテ居リマス、サウシテ此〓師ガ完全ニ
出來テカラデナケレバ、此年限ヲ延長スル
ト云フコトハ不當デハナイカト云フ御考ノ
ヤウデアリマシタガ、先程申シマシタヤウ
ニ、約半數ノ〓員ハ八箇年ヲ目當トスル所
ノ〓育ヲ受ケテ居ルノデアリマス、殘リノ
者ニ付キマシテハ之ガ補習ヲ爲セバ宜イノ
デアリマスガ、ソレガ完全ニナッテシマッテ
カラ義務〓育ノ年限ヲ延長スルト云フヤウ
ナコトハ、是ハ斯ウ云フ石橋ヲ叩イテ渡ル
ヤウナコトハ、私共若イ者ハ餘リ主張致シ
マセヌノデ大ニ斯ウ云フ事ニドシ〓〓押込
ンデ行クト云フコトガ大切デアルト思フノ
デアリマス、第四番目ニ今日ノ現狀ニ於テ、
小學校ノ一學級ノ兒童數ガ非常ニ多イノデ
〓育ガ不完全デアル、之ヲ一學級ノ兒童數
少クシテ〓育ヲ完全ニシタ方ガ、目的ヲ十
分ニ達セラレルノデハナイカト云フ御議論
デアルト思フ、洵ニ同感デアリマシテ、左
樣ニ致シタイト私モ希望致スノデアリマ
ス、併ナガラ飜ッテ此二十九万人ガ卒業シ、
之ヲ七八學年ニ較ベタナラバ、五十八万人
ノ兒童ト云フモノハ何等ノ〓育ヲ受ケズシ
テ外ニ殘サレテ、街ニ遊、フカ、若クハ工場
ニ行カナケレバナラヌノデアリマス、私ノ
調ベタ所ニ依レバ、工場ニ於テ働イテ居リ
マス所ノ者ガ滿十歲カラ十二歳マデノ者ガ
二千八百二十七人、十二歲カラ十四歲マデ
ノ兒童ガ六万七千九百八十三名デアリマス、
是等ノ小サイ子供ガ、殊ニ此大部分ハ女ノ
兒デアリマシテ、紡績工場ニ働イテ居ルノ
デアリマスガ、アノ埃ト、アノ塵ノ中ニ、彼
等ハアノ機械ノヤカマシイ中ニ働イテ居ル、
ソレヲ比較的不完全デアッテモ、學校へ入レ
テ學パシムルコトハ私ハ日本國家ノ將來ヲ
思ヒ、眞ニ同胞ヲ愛スル眞情ガアルナラバ、
比較的良イ此方ヲ選ブノガ當然デアルト考
ヘルノデアリマス(ヒヤ〓〓)第五番目ニ中
等學校ニ入學スル者ハ大體ニ於テ資産家ノ
者ガ多イ、是ガ第一學年若クハ第二學年ノ途
中ニ於テ退學ヲ致シタ場合ニハ是等ハ七
年乃至七年半デ學校ヲ終ル譯デアル、比較
的貧乏人ハ八年間强制セラレナケレバナラ
ヌガ、却テ資產家ノ方ガ强制ヲ受ケナイコ
トニナルト云フ御議論デアルト思ヒマスガ、
今日既ニ尋常五學年カラ中學校ニ入學スル
コトヲ許シテアリマシテ、餘程多數ノ子供
ガ既ニ入學致シテ居ルノデアリマス、卽チ
マダ義務〓育年限ハ一箇年殘ノテ居リマス
ガ、中學校ニ這入ッテ居ル、是ガ中途退學
ヲスレバ免除ノ手續ヲ執ルカ、若クハ高等
小學校ニ入ッテ六學年ノ〓育ヲ受ケナケレ
バナラナイノデアリマシテ、此間モ矢張義
務制度デアリマス、學校ノ如何ニ拘ラズ、
十四歲マデ義務〓育ヲ受ケルノデアリマス
カラ、中等學校ヲ中途退學ヲシナケレバナ
ラナイ所ノ者ハ、高等小學校ニ戾ルベキガ
當然デアル、左樣ナ手續ヲ執ルノハ行政ノ
手續上、何等不都合ハ無イト考ヘルノデア
リマス、第六番目ニ若シ七八學年ニ延長
セラレタナラバ、其所デ何ヲ〓ヘルカト云
フ御疑デアルヤウデアリマス、其場合ニ於
テ普通學ヲ選ブノガ當然デアルト云フ御議
論デアリマスガ、普通學ヲヤラナケレバナ
ラヌト云フノハ、ソレハ假定デアッテ、菊
池君御一人ノ御假定デアリマシテ、左樣ナ
論理ハ無イノデアリマス、七八學年ニ於テ
實業的〓材ヲ〓ヘルト云フコトハ何等差支
ノナイノミナラズ、此方ガ私ハ義務〓育年
限延長ノ趣旨ニ副フモノト考ヘルノデアリ
マス、何故ナラバ義務〓育ハ國民トシテノ
最低〓育程度デアリマシテ、而シテ之ニ依シ
テ日本國民トシテノ一單位ヲ成スニ至ラシ
メルノデアリマス、國民ハ唯、單ニ普通ノ
〓育ヲ受ケルノミナラズ、或ル社會經濟ノ
一單位トシテ活動シナケレバ其資格ハ無イ
ノデアリマシテ、何カ經濟的若クハ其他ノ
社會ノ一要素ヲ成ス資格ヲ與ヘナケレバナ
ラヌ、若シサウデナイナラバ、義務〓育ヲ
完成セシメタトハ言ハレナイノデアリマ
ス、今日義務年限退延長ト申シマスト、直
ニ小學校年限延長ト云フコトヲ豫想致シマ
スノハ、是ハ觀念ノ錯誤デアリマス、小學
校ノ年限延長ト云フコトヽ、義務〓育年限
延長ト云フコトヽハ、全然別問題デアリマ
ス、私ノ考ヘル所ニ依リマスト云フト、此
普通〓育ノ小學校ハ六箇年デ十分デアル、
而シテ後トノ二箇年ニ於キマシテハ、實業
〓育ヲ主トスル所ノ學校ヲ設クベキデア
ル、更ニ其學校ハ私ハ高等小學ト稱セズニ、
何カ他ノ名前ヲ以テ氣分ヲ新ニシタ學校ニ
致シタイト思フ、今日ノ高等小學ニ於キマ
シテモ、文部省ノ訓令ニ依リマスレバ、出
來ルダケ實業的色彩ヲ持テト云フコトデア
リマス、既ニ三十時間許リノ中ニ六時間實
業ノ課目ヲ加ヘテ居ルノデアリマス、併シ
是ハ加味セヨト云フコトデアル爲ニ、ドウ
モ不徹底ヲ免レナイノデアリマス、故ニ全
然氣分ヲ新ニシタ實業學校トシテ、眞ノ人
間ヲ造上ゲルコトガ必要デアル、現二二箇
年間ノ實業學校ハ、大阪市ニ於テ商業學
校工業學校デ實驗致シテ居ル所ナノデア
リマスカラ、斯樣ニ致スガ宜イト思フ、殊
ニ文部大臣ハ此點ニ留意セラレマシテ、師
範學校ノ專攻科ニ於テハ特ニ實業的〓養ヲ
シテ、此種ノ〓育ニ當ラシメルト云フ御趣
旨デアルト云フコトハ、師範〓育改善ノ會
議ノ時ニ十分御述ニナッテ番ルノデアリマ
スカラ、斯樣ニ致シマスナラバ、何等御心
配ニナル必要ガナイノミナラズ、七八學年
ノ此實業ヲ中心トシタ〓育ヲ受ケテ、眞ノ
國民トシテノ一單位トシテ社會ニ送出スコ
トガ出來ルノデアリマシテ、洵ニ國民トシ
テ仕合ナコトデアルト私ハ考ヘルノデアリ
やく、以上ノ理由ニ依リマシテ私ノ意見ヲ
支持シタト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=74
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075・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 鈴置文部政務次官
〔政府委員鈴置倉次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=75
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076・鈴置倉次郎
○政府委員鈴置倉次郞君 只今菊池君ヨリ
義務〓育年限延長ニ對シテ、文部當局ノ意
嚮ヲ御尋ニナリマシタ、實ハ此建議案ガ文
部當局ニ對スル義務〓育年限延長ノ建議デ
アルノデ、ソコデ若シ私ガ菊池君ノ御尋ノ
如ク何年カラ之ヲ實行スルト云フ如キ詳細
ナル答ヲ若シ致シ得ルモノナラバ、此建議ノ
必要ハ無クナッテシマフノデアリマシテ、先
刻菊池君ノ御話ノ如ク、諸君ト共ニ此所デ
〓究スルト云フ御話モアリマシタ、義務年
限延長ハ時期ノ問題トシテ最モ〓究ヲ要ス
ベキ重大ナル問題デアリマスルカラ、幸ニ
此建議ガ議會ヲ通過致シマスレバ、文部當
局ハ衆議院ノ院議ヲ重ンジマシテ、十分ニ
考慮致ス考デアリマス、是ダケ御答致シマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=76
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077・井本常作
○井本常作君 本案ハ議長指名、特ニ十八
名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=77
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078・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 井本君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマ
シタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=78
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079・作間耕逸
○作間耕逸君 殘餘ノ日程ニ對シテ延期ノ
動議ヲ提出致シマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=79
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080・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、仍テ其通リ決シマス、
次囘ノ日程ハ追テ公報ヲ以テ御通知致シマ
ス、今日ハ之ニテ散會
午後六時九分散會
衆議院議事速記錄第十四號中正誤
頁段行誤正
二七一二二一年功俸年功加俸
二七八四一八第二讀會第二讀會
(確定議)
同同同同二二マシタルマシタ
二五アリマスカアリマセヌカ
二七必然必任
二二二二七六六四八七四一二四〇採擇採決
五仍テ第二仍テ直ニ第二発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005013242X01519250217&spkNum=80
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