1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十四年二月十九日（木曜日）午後一時二十五分開議
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議事日程 第十五號
大正十四年二月十九日
午後一時開議
第一 海上衝突豫防法中改正法律案（政府提出、貴族院送付） 第一讀會の續（委員長報告）
第二 米穀法中改正法律案（政府提出） 第一讀會の續（委員長報告）
第三 米穀需給調節特別會計法中改正法律案（政府提出） 第一讀會の續（委員長報告）
第四 義務教育普及助成に關する建議案（山口政二君提出）
第五 獸醫師法の制定に關する建議案（服部英明君提出）
第六 社會教育局設置に關する建議案（樋口秀雄君提出）
第七 社會教育振興に關する建議案（青木精一君提出）
第八 國定教科書の飜刻竝販賣の改善に關する建議案（樋口秀雄君提出）
第九 大間々長野原間鐵道建設に關する建議案（清水留三郎君外四名提出）
第十 航空行政中央統一機關設置に關する建議案（長岡外史君提出）
第十一 帝國在郷軍人會國庫補助に關する建議案（佐々木春作君外四名提出）
第十二 男子用通常禮服に關する建議案（菊池謙二郎君提出）
第十三 肥料政策確立に關する建議案（齋藤藤四郎君外四名提出）
第十四 國防會議設置に關する建議案（蟻川五郎作君提出）
第十五 鹽の賠償價格均衡に關する建議案（土井權大君外一名提出）
第十六 療養理想村補助に關する建議案（木檜三四郎君提出）
第十七 澁川長野原間鐵道速成に關する建議案（木檜三四郎君提出）
第十八 猿投神社昇格に關する建議案（岡本實太郎君提出）
第十九 山田豐岡間鐵道速成に關する建議案（齋藤隆夫君外二名提出）
第二十 青少年訓練實施に關する建議案（田中萬逸君提出）
第二十一 日本銀行の納付金制度に關する建議案（前田房之助君提出）
第二十二 實業補習教育振興に關する建議案（竹原樸一君外二名提出）
第二十三 國有林野所在府縣市町村に對し交付金下付に關する建議案（八田宗吉君外二名提出）
第二十四 二見港三田間鐵道速成に關する建議案（多木久米次郎君外一名提出）
第二十五 金鵄勳章年金令改正實施に關する建議案（土井權大君提出）
第二十六 京都市に國立音樂學校設置に關する建議案（森田茂君提出）
第二十七 滋賀縣に水産講習所設置に關する建議案（平井光三郎君提出）
第二十八 高等師範學校設置に關する建議案（一柳仲次郎君外六名提出）
第二十九 農業教育改善に關する建議案（湛増庸一君提出）
第三十 遠信鐵道速成に關する建議案（樋口秀雄君外三名提出）
第三十一 國防會議設置に關する建議案（長岡外史君提出）
第三十二 鶴岡市に高等師範學校設置に關する建議案（齋藤眞三郎君提出）
第三十三 女子高等教育の振興に關する建議案（内ヶ崎作三郎君提出）
第三十四 農村振興に關する建議案（荒川五郎君外十五名提出）
第三十五 農村振興に關する建議案（床次竹二郎君外十四名提出）
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/0
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001・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
議員ノ異動左ノ如シ
千葉縣第六區選出議員關和知君死去セラ
レタリ
政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
大正十一年度歲入歳出總決算
大正十一年度各特別會計歲入歲出決算
大正十一年度歳入歳出決算檢査報告
治安維持法案
(以上二月十八日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
法律事務取扱ニ關スル法律案
提出者
關直彥君砂田重政君
手代木隆吉君佐々木文一君
柏田忠一君
會計士法案
提出者
高木益太郞君黑住成章君
砂田重政君
(以上二月十七日提出)
公娼制度制限ニ關スル法律案
提出者松山常次郞君
(以上二月十八日提出)
借家人ノ利益保護ニ關スル建議案
提出者
廣瀨德藏君〓瀨一郞君
吉津度君售耕逸君
中島守利君
琵琶湖ヲ中心トスル國立公園設置ニ關ス
ル建議案
提出者
兼松寅太郞君藤澤萬九郞君
高井商二君
(以上二月十七日提出)
瀨戶內海ヲ中心トスル國立公園設定ニ關
スル建議案
提出者
山下谷次君膽哲君
廣島濱田間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者吉田眞策君
生計調査ニ關スル建議案
提出者加藤鯛一君
日南鐵道東部線速成ニ關スル建議案
提出者山道襄一君
酒田觀音寺及眞室川間鐵道敷設ニ關スル
建議案
提出者
熊谷直太君西澤定吉君
高橋熊次郞君西方利馬君
佐々木春作君
今泉坂町間鐵道起點變更ニ關スル建議案
提出者
石塚三郞君松井郡治君
關矢孫一君大竹謙治君
加藤知正君
鳥柄長尾間鐵道建設ニ關スル建議案
提出者加藤十四郞君
(以上二月十九日提出)
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲玆
ニ揭載ス〕
一去十七日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ
如シ
畜產組合法中改正法律案外一件委員
菅村太事君信太儀右衞門君
澤田利吉君谷原公君
志波安一郞君松實喜代太君
志賀和多利君宮島幹之助君
小橋藻三衞君
〓國及朝鮮國在留帝國臣民取締法廢止
法律案委員
田中萬逸君金澤安之助君
神田正雄君永田善三郞
柏田忠一君長峰與一君
來栖七郞君藤田包助君
平井光三郞君
鐵道敷設法中改正法律案外三件委員
田中善立君橋本喜造君
齋藤隆夫君福田五郞君
中野實君加藤十四郞君
田口文次君則元由庸君
倉元要一君大園榮三郞君
工藤十三雄君中村〓造君
木暮正一君大竹謙治君
木戶豐吉君今里準太郞君
井上利八君土居通憲君
〓育ノ機會均等ニ關スル建議案外六件
委員
樋口秀雄君石川安次郞君
山枡儀重君土生彰君
藤井敬愼君鹽田團平君
禱苗代君志村〓右衞門君
安保庸三君森肇君
浦野謙朗君山口政二君
靑木精一君松山常次郞君
神崎動君畔田明君
石坂豐一君田崎信藏君
一去十七日武道普及ニ關スル建議案外一件
委員小島七郞君中村貞吉君辭任ニ付其ノ
補關トシテ木檜三四郞君、手代木隆吉君
ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ
一昨十八日常任委員補闢選擧ノ結果左ノ如
第八部選出
決算委員齋藤太兵衞君(佐竹庄七君
補關)
一今十九日常任委員理事補闘選擧ノ結果左
ノ如シ
懲罰委員
理事渡邊伍君(理事吉田眞策君補
問
一昨十八日委員長及理事互選ノ結果左ノ如
シ
畜產組合法中改正法律案
委員長松實喜代太君
理事菅村太事君
〓國及朝鮮國在留帝國臣民取締法廢止法
律案
委員長田中萬逸君
理事來栖七郞君
鐵道敷設法中改正法律案
委員長田中善立君
理事
中村〓造君今里準太郞君
土居通憲君
〓育ノ機會均等ニ關スル建議案
委員長松山常次郞君
理事
石川安次郞君石坂豐一君
田崎信藏君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/1
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002・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、諸君(拍手)只今御報告ヲ申上ゲマシタ
通リ本院議員陸軍政務次官關和知君ハ、病氣
ノ爲ニ逝去セラレマシタ、同君ハ明治四十
二年議員ニ當選セラレマシテ、爾來今日ニ
至ルマデ議席ニ列セラレマシテ、常ニ憲政
ノ爲ニ努力シ、現ニ陸軍政務次官ノ要職ニ
在リ、大ニ將來ヲ期待セラレタ御方デアリ
やっ、今此悲ムベキ飛報ニ接シマシテ誠ニ
痛惜哀悼ノ至リニ堪ヘマセヌ、仍テ例ニ依リ
マシテ弔詞ヲ送ルコトニ致シマス-御諮
リ致スコトガアリマス、三木武吉君病氣ニ
依リ、二月十七日ヨリ二月二十四日マデ藤
井敬愼君事故ニ依リ、二月二十一日ヨリ三
月六日マテ、右兩君ヨリ請暇ノ申出ガアリ
マシタ、許可スルニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/2
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003・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ガナイト認メ
せっ、仍テ許可致シマス、是ヨリ日程ニ入
リマス、日程第一海上衝突豫防法中改正
法律案第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員長內
野辰次郞君
第海上衝突豫防法中改正法律案
(政府提出、貴族院送付)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一海上衝突豫防法中改正法律案(政府提
出、貴族院送付)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報〓候也
大正十四年二月十七日
海上衝突豫防法中
改正法律案委員長
內野辰次郞
衆議院議長粕谷義三殿
〔內野辰次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/3
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004・内野辰次郎
○內野辰次郞君 本案ノ審査ニ際シマシテ
ハ詳細ナル質問ト、懇切ナル說明ガアリマ
シタガ、要スルニ改正ヲ要スル點ガ極メテ
明瞭デアリ、改正スル點モ亦適切デアリマ
ス爲ニ、特別委員會デハ全會一致デ原案ヲ
可決致シマシタ、右報告ヲ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/4
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005・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ノ第二讀會ヲ開
クニ御異議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/5
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006・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/6
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007・作間耕逸
○作間耕逸君 直ニ本案ノ第二讀會ヲ開
キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報告ノ通
リ可決セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/7
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008・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニハ御
異議ナシト認メマス、仍テ直ニ本案ノ第二
讀會ヲ開キ、議案全部ヲ議題ニ供シマス
海上衝突豫防法中改正法律案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/8
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009・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ
通リ可決確定セラレマシタ-日程第二、
及第三ハ同一委員ニ付託セラレ、且ツ同種
ノ關聯セル議案デアリマスカラ、一括議題
ト爲スニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/9
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010・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス仍テ玆ニ日程第二、米穀法中改正法律
案、日程第三、米穀需給調節特別會計法中
改正法律案、右兩案ノ第一讀會ノ續ヲ開キ
マス、委員長ノ報告ヲ求メマス-委員長
井上敬之助君
第二米穀法中改正法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一米穀法中改正法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
大正十四年二月十八日
米穀法中改正法律案委員長
井上敬之助
衆議院議長粕谷義三殿
第三米穀需給調節特別會計法中改正
法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一米穀需給調節特別會計法中改正法律案
(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
大正十四年二月十八日
米穀需給調節特別會計
法中改正法律案委員長
井上敬之助
衆議院議長粕谷義三殿
〔井上敬之助君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/10
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011・井上敬之助
○井上敬之助君 米穀法外一件ノ改正法律
案ニ對シマスル委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御
報告申上ゲマス、此改正案ハ極メテ簡單ナ
ル改正デアリマスルガ、其及ビマス所ハ隨
分重大デアル、而シテ御承知ノ通リ國民多
數ガ多年希望シテ居ッタ所ノ問題デアリマ
ス、尙ホ現政府ノ重要政策ノ一ツデモアリ
やく、殊ニ國民生活ニ重大ナル關係ヲ有ス
ル所ノ法案デアリマスルガ故ニ、委員會ニ
於キマシテハ極メテ慎重ニ審議ヲ致シタノ
デアリマス、其質問應答ニ對シマスル御參
考ニナルベキ二三ノ點ヲ御紹介ヲ中上ゲヤ
ウト思フノデス、第一ニハ現行法ニ「市價」
ノ二字ヲ挿入ヲ致シマシテ、ソレガ爲ニ此
運用上從來ノ方法ト、今後執ルベキ方法ハ
如何ニ相違ガアルノデアルカ、斯ウ云フ質
問ニ對シマシテ、政府ハ從來ハ量ノ調節ヲ
專ラト致シタ譯デアル、故ニ甚ダ不徹底ノ
點ガ多カッタノデアリマスルガ、今後ハ價
格ノ調節ヲ致スト云フコトニ相成リマスナ
ラバ、政府ノ活動ノ範圍ガ廣クナッテ、隨
テ從來米價ノ暴騰暴落ト云フモノヲ防止
シ、而シテ値幅ヲ縮小スルコトガ出來ルガ
爲ニ、其消費者ニ於キマシテモ、生產者ニ
於キマシテモ、是ガ安定ヲ與ヘルコトガ出
來ルノデアル、例ヘテ申シテ見マセウナラ
バ量ノ調節ダケデアリマスルト、本年ノ
如キ不足ヲ生ジマス年柄ニ於キマシテハ
唯、外米ヲ輸入スルト云フ方法ヨリ他ニ執
ルベキ途ハ無イノデアリマス、併ナガラ是
ガ價格ノ調節ヲ致スト云フコトニ相成リマ
スルナラバ、是ガ原因トナッテ暴騰ヲ來ス
ト云フ場合ニハ、之ヲ調節スルト云フ利益
ヲ受ル譯デアル、故ニ頗ル從來トハ效果ヲ
多ク奏スルモノデアルト云フコトノ御答デ
アッタノデス、然ラバ暴騰暴落ヲ防止スル
ト云フコトデアリマスルナラバ、其價額ヲ
何レノ點ニ置クノデアルカ、價ト云フモノ
ヲ何レニ置クノデアルカ、又ソレハ何レノ
標準ニ據ルノデアルカ、其基礎ヲ何レニ置
クノデアルカ、而シテ其價額ハドレ位ノ價
格ヲ以テ相當ト認ムルモノデアルカ、斯ウ
云フコトノ質問デアッタノデス、之ニ對シ
マシテ政府ハ種々〓究ヲ致シタノデアル、
生產費デアルトカ、或ハ消費者ノ生活費デ
アルトカ、或ハ物價指數デアルトカ、是等
ノモノニ付テ調査〓究ヲ遂ゲテ見タガ、是
デ適當デアル、完全デアルト認ムルモノガ
無イノデアル、矢張已ムヲ得ナイ譯デア
ルカラ、其當時ノ物價ノ狀態ト、經濟上
ノ關係ト、米ノ需給關係ト云フモノヲ基
ニ致シテ、サウシテ達觀的ニ之ヲ定ムル
ヨリ外致方ガナイ、斯ウ云フ御答デアッタ
ノデアリマス、個々生產費ヲ取調べテ見マ
スト云フト、本年ノ如キ早魃ニ遭遇致スヤ
ウナコトニナリマスルト、一石ノ米ノ價ガ
三百圓モ掛ッテ居ルト云フ生產費ノ場所モ
アルノデアル、又石五十圓ト云フ如キ價額
ノモノハ全國ニザラニアルノデアル、デア
ルカラシヲ之ヲ以テ正當ノ價額ナリト認ム
ルコトハ出來ナイ、謂ハバ之ヲ何ト言ハウ
カ、社會的生產費トデモ言ハウカ、若クハ
限界的生產費トデモ稱スペキカ、斯樣ナ言
葉ヲ以テデモ言ハナケレバ言現ハスコトガ
出來ナイガ、要スルニ結局是モ達觀的ニ見
ルト云フコトニ判斷ヲスルノ外ハナイノデ
アル、而シテ其價額ハ今年ノ如キ、今日デ
ハ幾ラノモノデアラウカト云ヘバ、大抵政
府ノ見ル所ニ依レバ三十七、八圓ヲ以テ相
當ナリト認メルノデアル、斯ウ云フ答デアソ
タノデアル、ソレカラ政府ハ今後此法律ヲ
運用スル上ニ於テ、生産者ヲ保護スルノデ
アルカ、又消費者ヲ保護スル方針デ運用ス
ルノデアルカ、斯ウ云フ質問ニ對シマシテ
ハ政府ハ生產者ヲ特ニ保護スルト云フ譯
デモナイ、又消費者ヲ保護スルト云フ譯デ
モナイノデアル、要ハ卽チ兩者共ニ一年ヲ
通ジテ不平不滿ナカラシムルト云フ方法ヲ
執ルノダト云フ御答デアッタノデス、次ハ
米穀委員會ノ事ニ付キマシテ質問應答ガ
アッタノデス、米穀法ニ於ケル所ノ米穀委
員會ト云フモノガ組織サレテ居リマスル
ガ、從來餘リ開會サレタコトヲ認メテ居ラ
ヌ、而シテ其委員ニナッテ居ラルヽ人こガ
多クハ官吏、若クハ消費者ト認ムル所ノ人
人ノミデアル、故ニ政府ハ今後此米穀委員
會ナルモノヲモット之ヲ活用セシムルノ方
法ヲ執ラナイカ、尙又其委員ニ生產者ヲ少
クモ半數位入ルヽト云フ考ハナイカ、斯ウ
云フ質問ニ對シマシテ、政府ハ今日マデ委
員會ヲ開會シナカッタト云フコトハ、成程
其通リデアリマスルケレドモ、ソレハ量ノ
調節ガ專ラデアリマシタガ爲ニ、委員會ヲ
開催スルノ必要ハ認メナカッタノデアル、
併ナガラ今後價額ヲ調節ヲ致スト云フコト
ニ相成リマスナラバ、此委員會ノ必要ガ益、
多クナッテ參ラウト思ヒマスルカラ、大一
今後ハ此委員會ニ俟ツ所ガ多イト考ヘル、
而シテ其委員ハ御說ノ通リ官吏ガ全ク多過
ギルヤウナ感ジヲ持ッテ居ル、又只今御希
望ノ如ク生產者ノ中ヲ少クトモ半數之ニ入
レルヤウナコトニ致スコトニナリマスル
ト、又消費者ノ方カラモ半數入レナケレバ
ナラナイト云フコトニナッテ、結局消費者
ト生產者トガ利害相異ルガ爲ニ相爭フト云
フコトデ、滑カニ此委員會デ決メタ米ヲ納
メルト云フコトガ無クナル、故ニ此生產者
若クハ消費者ト云フヤウナ言葉ハ拔キニシ
テ、最モ適當ト認ムル人々ヲ今後增加ヲ致
シテ、サウシテ此委員會ノ全キ效用アラシ
ムル考デアル、斯ウ云フ答デアッタ、此外
ニ關稅ノ問題デアルトカ、或ハ米-外米
ノ管理、又ハ特許制度ノ問題デアルトカ、
或ハ米穀法ノ第三條ノ買人價格ノ告〓ノ問
題デアルトカ、或ハ本法運用ノ問題等ニ付
キマシテ、詳細ナル質疑應答ガアリマシタ
譯デアリマスルケレドモ、是等ノコトハ餘
リ長クナリマスカラ簡略ヲ致シマシテ、此
委員會ノ速記ヲ御覽下サルコトニ願ヒタイ
ト思フノデアル、ソレカラ討論ニ入リマシ
テ、各派カラ色々ノ御議論ガアリマシタガ、
要スルニ此問題ハ國民多數ガ希望致シテ
居ッタ問題デアル政府ハ此民意ヲ容レテ、
サウシテ此改正案ヲ出シタト云フコトハ最
モ多トスル所デアル、サリナガラ要ハ卽チ
本法運用如何ニ依クテ、此效果ヲ收ムルカ收
メナイカニ在ルノデアル、政府ハ此「市價」
ト云フ二字ヲ入レルト云フ精神ニ基イテ此
目的ノ貫徹ニ努メルコトニシヤウ、此意味
ニ於テ賛成スルト云フコトデアリマシテ、
結局全會一致ヲ以テ本案ハ可決ヲ致シタ譯
デアリマス、但シ政友本黨ノ原田君ヨリ、
本案ノ改正ニハ賛成デアルカ、之ニハ希望
決議ヲ致シタイト云フコトデアリマシタ
ガ、ソレハ本會ニ於テ其希望決議ノ案竝ニ
其理由ハ說明スルト、斯ウ保留サレテ居ル
譯デアリマス、以上ハ卽チ委員會ノ〓要ヲ
御報告申上ゲタ次第デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/11
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012・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ討論ニ入リマ
ス通告順ニ依シテ其發言ヲ許シマス、-
高田耘平君
〔高田松平君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/12
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013・高田耘平
○高田転平君 本改正案ハ只今委員長ヨリ
御報告ノ通リ、極メテ簡單ナル改正デアル
ケレドモ、其影響スル所ハ非常ニ重大ナル
關係ガアリマス、故ニ私ハ此米穀法及米穀
需給調節特別會計法ノ一一案ニ付キマシテ、
委員長報告ニ賛成シ、極メテ簡單ニ其理由ヲ
申上ゲテ見タイト思フノデアリマス、現行
法ハ大正十年第四十四議會ニ於キマシテ、
政府ヨリ發案サレタ案デアリマス、其當時
政府ノ發案ハ現行法ノ通リ、卽チ數量ヲ調
節スルト云フ法律デアッタノデアリマス、吾
々憲政會同志ハ數量調節ノミデハ到底完全
ニ生產者竝ニ消費者ノ安定ヲ得ルコトガ出
來ナイカラ、需給ノ調節ト同時ニ價格ノ調
節ヲ爲サナケレバナラヌト云フ理由ヲ以
テ、其當時修正意見ヲ提出シタノデアリマ
ス、遺憾ナガラ吾々ノ數量價格兩本位ノ主
義ハ少數ヲ以テ否決サレタノデゴザイマ
ス、但シ其當時ノ速記錄ニ依ルト云フト、
吾々ノ修正意見ニ反對シタ人々モ、決シテ
價格ノ調節ヲ爲スノガ惡イト云フノデハ無
カッタノデアリマス、數量ノ調節ト云フコ
トニ依シテ價格ノ調節ガ出來ルノデアルカ
ラ、殊更ニ價格ノ文字ヲ加フルノ必要ナシ
トノ理由ヲ以テ、價格ノ二字ヲ加ヘルト云
フ吾々ノ修正意見ヲ否決サレタノデアリマ
ス、爾來現行法實施ノ成績ヲ見マスルト云
フト、其施行ノ成績ガ數量ノ調節ニノミ重
キヲ置クノ結果、消費者ノ利益ヲ圖ルニ急
ニシテ、生產者ノ利益ハ本法ノ運用ニ依ク
テ、寧口阻害サレタ傾ガアルノデアリマス、
例ヘバ第二條ノ適用ニ付キマシテモ、關稅
ヲ撤廢シタコトハ度々アルノデアリマス、
併ナガラ加州米ノ如キ溫帶米、日本ノ米ト
同質ナル米ガ大正十一年ニハ五、六十万石
輸入サレタノデアリマスケレドモ、其當時
第二條ニ依シテ關稅ヲ增加スベキガ當然デ
アルノニ、更ニ增加サレナカッタノデアリ
さく、又政府ガ第二條ニ依ノテ種々ノ方法
ヲ以テ輸入ノ奬勵ヲ爲シタコトハアリマス
ケレドモ、併ナガラ輪入ノ制限ヲ爲シタコ
トハ無イノデアリマス、又餘剩米ヲ買入レ
ントスル場合ニ於キマシテ、其豫期ノ數量
ヲ買入レラレタコトハ無イノデアリマス、
要スルニ今日マデノ運用ノ實績ニ見マスレ
バ、數量ヲ曾スト云フコトニ付テ極端ナル
努力ヲ拂ハレマシタケレドモ、餘剩米ノ出
來タ場合ニ於テ此數量ヲ少クスルト云フコ
トニ付キマシテハ努力ガ足ラナカッタ虞
ガアルノデアリマス、其結果ト致シマシテ、
米穀法實施後端境期ニ於ケル米ノ殘在高
ハ米穀法實施前ノ三年間、卽チ大正七年、
八年、九年ノ端境期ニ於ケル殘存米ハ平均
四百万石デアリシモノガ、米穀法實施後ノ
大正十年、十一年、十二年ノ端境期ニ於ケ
ル所ノ殘存米ノ平均ハ七百四十万石ニ達シ
タノデゴザイマス、是等ノ爲ニ米穀市場ハ
此殘存米ノ爲ニ價格ノ壓迫ヲ被リマシテ、
大正十年、十一年、十二年ノ平均ノ東京深
川市場ニ於ケル中米ノ平均價格ハ三十二圓
八十五錢デアリマス、面シテ生產費ハ如何
デアルカト云ッテ之ヲ能ク調ベテ見ルト、
帝國農會ガ全國ノ二十府縣ニ付テ調査シタ
ル結果ニ依レバ、三十八圓二十六錢ニナッ
タノデゴザイマス、卽チ此三箇年間ノ平均
ニ於キマシテ、約一石ニ付テ五圓四十一錢
ト云フモノガ生產額ヨリモ安イト云フ結果
ヲ見タノデゴザイマス、斯樣ナル結果ヲ見
タコトハ、吾々ハ單ニ米穀法ノ運用ガ其宜
シキヲ得ナカッタノミノ結果トハ申シマセ
又、他ニモ理由ガゴザイマセウケレドモ、
兎ニ角大正七年、八年、九年ノ端境期ニ於
ケル米ノ現存高ハ四百万石デアリシモノガ、
米穀法施行後ノ三年間ノ米ノ殘存高ト云フ
モノハ七百四十万ノ多キニ達シタ、此統計
ヲ見マスレバ、明ニ米穀法ノ運用ガ數量ヲ
增加スルト云フコトニ傾イタト云フコトヲ
私ハ立證シ得ルモノト思フノデアリマス、
此結果ハ米一石ニ付テ五圓四十一錢ダケ生
產費ニ對シテ不足ヲ來シタノデゴザイマス
カラシテ、假ニ全國ノ移動米ト中シマスカ、
商品ト申シマセウカ、兎ニ角商品トシテ市
場ニ現レル米ノ數量ヲ約二千四百万ト致シ
マスレバ、略〓其邊ト思ヒマス、先以テ大
正十年、十一年、十二年ヲ通ジテ、此間ニ
於テ生產者ハ利息其他ヲ計上セズシテ、三
億七千六百万圓ノ損失ヲ爲シタト云フ結論
ヲ大體ニ於テ得ルノデアリマス、卽チ農村
ハ他ノ物價ノ騰貴シテ居ル割合ニ米ノ價格
ハ下落シテ、農村ノ疲弊、困憊ノ狀況ガ今
日ニ至ッタト云フコトハ、他ニ種々ノ理由
ガゴザイマセウケレドモ、此米ノ價格ガ生
產費ヲ償フコトガ出來ナカッタト云フコト
ガ、一大理由デアルト吾々ハ見ルノデアリ
マス、ソコデ此大正十年ニ本法ノ制定サレ
タ場合ニ於テハ生產者ノ側ハ非常ニ米穀
法ニ多大ノ期待ヲ持チマシテ、米穀法ニ依ッ
テ少クトモ米ノ生產費ダケハ得ルコトガ出
來ルト思ッタ期待ガ裏切ラレタニ依ッテ、ソコ
デ全國ノ農會及農政關係者ハ此法律ヲ改正
シテ、少クトモ、數量價格併用主義ニ依ッ
テ是ガ調節ヲ圖ラナケレバナラヌト云フコ
トニ、大正十一年ヨリ其議ガ決マッタノデア
リマス、今囘此改正法律案ニ依リマシテ、
大正十年以來其運用宜シキヲ得ザリシ爲
ニ、農民ニ多大ノ損害ヲ掛ケ夕米穀法ハ改
正セラレマシテ、四年前ニ吾々ガ主張シタ
ル通リ、數量ノ調節ト同時ニ價格ノ調節ガ
出來得ルコトニ相成リシコトハ寔ニ吾々
ノ喜ビニ堪ヘナイ次第デゴザイマス(拍手)
吾々ハ當局者ヲ信ジ、此法律ノ運用ニ依リ
マシテ生產者モ良カレ、消費者モ良カレ、
卽チ少クトモ、米ノ生產費ヲ償フニ足ルダ
ケノ價格ヲ基礎トシテ、此法律ノ運用ニ深
甚ノ注意ヲ拂ッテ、現在ノ農村ノ疲弊困憊
ヲ救濟スルノ途ヲ講ゼラレンコトヲ切望ス
ル次第デゴザイマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/13
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014・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 東〓實君
〔東〓實君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/14
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015・東郷實
○東〓實君 私ハ只今議題ニナッテ居リマ
スル米穀法中改正法律案外一件、此兩法律
案ニ對シマシテハ、委員長ノ御報告ニ贊成
ノ意ヲ表スル者デアリマスルガ、同時ニ附
帶決議ヲ提案致シマシテ、諸君ノ御賛成ヲ
得タイト思フノデアリマス、本法律案ノ提
出ノ理由書ニハ國民生活ノ安定ヲ圖ル施
設トシテ、米穀ノ數量調節ノ外其市價ヲモ
調節スルノ途ヲ開カンガ爲ニ、米穀法中改
正ノ必要ガアルト書イテアルノデアリマ
ス、而シテ此改正案ノ實際ヲ點檢致シテ見
マスルノニ、唯〓其條文中「需給」ノ二字ヲ
「數量又ハ市價」ノ六字ニ改メタ以外ニ於
テ、何等ノ改正ガ無イノデアリマス、若シ
政府ガ米ノ價格ヲ積極的ニ、徹底的ニ、調
節スルノ御意思ガアルノデアッタナラバ
此法律ノ各條文ニ對シ、適當ナル改廢ガ行
ハルベキモノデアルト信ズルノデアリマス
ル、所謂第二條ニ於ケル〓稅ニ關スル規定
ノ如キ、或ハ第三條ニ於ケル米ノ買入、賣
出ニ關スル規定ノ如キ、少クトモ適當ナル
改廢ヲ加ヘ、更ニ必要ナル條項ガ添加サル
ベキモノデアルト思フノデアリマスルガ、
斯ノ如キ改正ハ何等デアリマセヌ、又本案
ガ上程サレタル本會議ニ於キマシテ、或ハ
豫算委員會ニ於テ、或ハ本案ノ特別委員會
ニ於キマシテ、高橋農商務大臣、其他政府
當局ノ御說明ニ依リマシテモ、此法案ニ依
リマシテ、從來數量ノ調節ト共ニ價格ノ調
節モシテ居シタノデアルガ、法文ニ何等明
ニ示シテナイ爲ニ、世人ノ誤解ガアル、故
ニ此誤解ヲ解センガ爲ニ、明ニ市價ノ二字
ヲ加ヘタニ過ギナイノデアルト云フ御說明
デアリマス、此御說明ニ依ッテ考ヘテ見マ
シテモ、政府ノ爲サントスル所ノ市價ノ調
節ハ從來ト何等異ル所ガナク、消極微溫的
ナ調節ヲ以テ御滿足ニナルモノデアルト私
ハ判斷セザルヲ得ナイノデアリマス、吾々
國民ノ政府ニ要望スル所ノ問題ハ、斯ノ如
キ消極微溫的ノ市價ノ調節ニアラズシテ、
積極徹底的ノ調節ニアルノデアリマス、併
ナガラ是等ノ問題ニ付キマシテハ有ユル
機會ニ於ケル質問應答ニ依リマシテ、現政
府ニ於テ斯ノ如ク積極的ナ調節ヲヤラレル
御意思ノ無イト云フコトガ明ニナッタノデ
アリマス、吾々ハ斯ノ如キ程度ニ於テ滿足
スル者デハナイノデアリマスケレドモ、政
府ニ於テ是レ以上、此場合、積極的ナ調節
ヲヤラレル意思ガ無イト致シマスレバ、已
ムヲ得マセヌカラ、此改正案ノ程度ニ於
テ、此機會ニ於テ贊成ノ意ヲ表シ、面シテ
政府ガ法ノ運用上ニ於ケル實際ノ成績ヲ
徐ロニ監視致シマシテ、其結果如何ニ依ヶ
テ他日改メテ適當ナ方法ヲ講ズルコトニ致
シタイト思ヒマス、此意味ニ於キマシテ私
ハ本案ニハ賛成ノ意ヲ表スル者デアリマ
ス、併ナガラ私ハ本案ニ賛成ノ意ヲ表スル
ト共ニ、玆ニ一個ノ附帶決議ヲ提案致スモ
ノデアリマス、今其附帶決議ヲ朗讀致シマ
ス「米穀法中改正法律案ニ關スル附帶決議、
米穀法ハ當面ノ急ニ應シテ聊カ暴騰暴落ヲ
牽制スルノ效ナシトセサルモ、微溫不徹底
ニシテ到底米價調節ノ目的ヲ達スル能ハサ
ルヤ既往ニ徴シテ明ナリ、隨テ是カ根本對策
ノ樹立ハ極メテ喫緊事ニ屬ス、政府ハ米價
安定ノ國民生活及農村振興ニ至大ノ關係ア
ルニ鑑ミ、米穀專賣其他ノ政策ニ付キ利害
得失ヲ審究シ、速ニ米價安定ノ根本政策ヲ
定ムヘシ」、諸君米穀ノ數量竝ニ市價ノ調
節ハ國民一般ノ生活ニ多大ナル關係ヲ有ス
ルコトハ申上ゲルマデモアリマセヌ、隨テ
此重大ナル米穀ノ數量竝ニ市價ノ調節ヲ徹
底的ニ爲サントスルニハ斯ノ如キ微溫的
ノ改正ニ於テハ私ハ目的ヲ達シ得ナイト思
フノデアリマス、(拍手)故ニ私ハ玆ニ賛成
ヲスルト共ニ、將來ニ向ッテ吾々ノ希望ヲ
申述ベルノデアリマス、現內閣ノ爲ス所ノ
政策ハ往々ニシテ甚ダ不徹底デアリマス、
例ヘバ農村振興ニ關スル計畫ニ致シマシテ
モ、二百五十万圓ヲ投ジテ計畫シタリト稱
セラレマスルケレドモ、其實際ヲ詳ニ點檢
シテ見マスレバ、恰モ古イ建物ノ汚レタル
壁ヲ白「ペンキ」デ塗ッテ、少シ許リノ装飾
ヲ施シ、且ツ僅ナ建增ヲシテ間數ヲ殖シ、
而シテ其玄關先ニハ農村振興館ト云フ新シ
キ大キナ看板ヲ掛ケテ、恰モ此建物ガ新シ
ク建テラレタガ如キ態ヲ装ウテ、國民ヲ瞞
著スルト云フヤウナ遣方デアリマス(拍手)
此米穀法ノ改正ニ致シマシテモ、正門ノ上
ニ米穀需給調節所ト云フ横額ノ看板ガアツ
タノヲ引卸シテ、之ヲ二ツノ立看板ニ書直
シタト云フガ如キモノデアリマス、卽チ右
ニハ米穀數量調節所、左ノ門柱ニハ米穀市
價調節所、斯ノ如ク看板ヲ書換ヘタ、併ナ
ガラ門ヲ這入ッテ事務所ニ這入ッテ見レバ、
此仕事ニ從事スル所ノ事務員ニハ何等ノ增
加モナク、其經費ニハ何等ノ增加ハナク、
又此調節ヲスル法律ニ於テハ實質ニ於テ何
等ノ變化ガ無イノデアリマス、所謂此法律
案モ唯、看板ヲ掛換ヘタニ過ギナイト云フ
コトハ寔ニ私ハ遺憾ニ存ズル次第デアリ
マイ、吾々ハ此重大ナル問題ヲ眞面目ニ實
行セントスルニ於キマシテハ、モットモット
根本ノ政策ニ現内閣ガ遡シテ御考究アラン
コトヲ希望スルノデアリマス、(拍手)申上
ゲルマデモナク米穀調節ニ付キマシテ、內
國ノ產米ニ付テ最善ノ努力ヲ致スコトハ勿
論デアリマス、併ナガラ之ヲ世界ノ〓際カ
ラ觀察シテ見マスレバ、文明國ニ於テ其國
民ノ消費スル所ノ食糧ノ全部ヲ內國ニ於テ
生產スルト云フ國ハ殆ド無イ、國民生活ニ
必要ナル食糧ノ一部分ト云フモノハ常ニ
外國若クハ植民地ヨリ之ヲ輸入シテ居ルノ
デアリマスルガ、我ガ日本ノ現在ニ於キマ
シテモ同ジク植民地、竝ニ海外ヨリ足ラナ
イ所ノ米穀ヲ輸入シテ居ルコトハ申上ゲル
マデモアリマセヌ、然ルニ我國ノ植民地ノ
產米政策ニ對スル過去ニ於ケル植設ハ寔
ニ微溫的ナモノデアリマス、私ノ知ッテ居
リマスル範圍ニ於キマシテハ、農商務省ガ
臺灣總督府若クハ朝鮮總督府ニ對シマシ
テ、將來三十年後ニ於ケル米ノ生產力、竝
ニ移出力ノ調査ヲ命ジテ居ル、而シテ總督
府ハ之ニ對シテ囘答ヲ與へ、是等ノ材料ニ
依ッテ農商務當局ハ將來三十年後ニ於ケル、
我國ノ米穀ノ生產、竝ニ消費ノ狀態ヲ統計
ニ元シテ居ルノデアリマスルガ、此統計ハ
單ニ三十年後ニ於テ我國ハ內國竝ニ植民地
ヲ通ジテ幾何ノ米ヲ生產シ、幾ラノ不足ガ
アルカト云フコトヲ示シテ居ル次第デアソ
テ、而シテ此重大ナル植民地ノ產米政策ニ
付テハ、何等統一サレタル徹底的ノ政策ガ
立テラレテナイノデアリマス、斯ノ如キ數
字ヲ徒ニ列ベテ、而シテ自ラ慰メテ居ルヤ
ウナ狀態デ、此重大ナル食糧政策ガ解決サ
レル筈ハナイト、私ハ信ジマス、ソコデ私
ハ先ヅ第一ニ植民地ニ於ケル產米政策ニ對
シ、政府當局ハ速ニ母國植民地ヲ打ッテ一
丸トシタル所ノ根本政策ヲ御〓究ニナリ、
而シテ是ガ實現ニ努メラレンコトヲ希望ス
ル者デアリマス、第二ハ外米ニ對スル政策
デアリマス、過去ニ於テ吾々ノ豫期シナ
カッタ所ノ加州米ガ輸入スルコトニナッタ、
是等ニ對シマシテハ關稅其他ノ政策ニ於
テ、適當ナ考慮ヲ致スト云フコトガ必要デ
アリマセウ、又現ニ主トシテ我國ニ輸入サ
レテ居ル所ノ外米ノ生產地タル、佛領印
度、緬甸竝ニ暹羅、是等ニ於ケル產米ニ對
シテハ、モット進ンデ適當ナル方策ヲ執ル
必要ガアルト、私ハ信ズルノデアリマス、
現在西貢ニ於テ、或ハ盤谷ニ於テ、或ハ蘭
貢ニ於テ、是等ノ產米ハ主トシテ支那人ノ
手ニ依ッテ左右サレテ居ルノデアリマスル
ガ、我ガ政府ハ是等ノ生產地ニ於テ-原產
地ニ於テ產米ヲ自ラ我ガ日本人ノ手ニ於テ
「コントロール」スル御計畫ニ向ッテ、過去ニ
於テ何等ノ御計畫ガ無イヤウニ思ッテ居リ
マスガ、是等ハ今日ニ於テ政府ニ於テハ相
當ノ御考慮、御〓究ニナッテ、而シテ適當
ナル方策ヲ講ゼラレルト云フコトガ、最モ
米ノ調節ノ上ニ於テ必要ナル問題ナリト信
ズルノデアリマス、更ニ內ニ返ッテ米價ノ
調節其モノニ付テ考ヘテ見マシテモ、吾々
ハモット徹底シタ所ノ方策ヲ案出シ、サウ
シテ是ガ實行ニ努メナケレバナラヌト思フ
ノデアリマス、或ハ米價ノ公定ノ如キ、或
ハ進ンデ米ノ専賣ヲ實行スルガ如キ、其一
例デアリマス、米ノ專賣ガ米價調節ノ最後
ノ手段デアルト云フコトハ、學理上ニ於キ
マシテ何人モ異論ノ無イ點デアリマス、而
シテ問題ハ之ヲ如何ニシテ實行スルカ、其
實行ノ方法如何ト云フモノガ殘サレタ問題
デアルト私ハ信ジマス、此點ハ現內閣ニ於
テモ明ニ御承認ニナッテ居リマス、ソレハ
去ル七日本案ガ此議場ニ提出サレタ場合ニ
於テ、吉植君ノ質問ニ對シテ高橋農商務大
臣ハ答ヘテ居リマス、之ヲ根本的ニヤラウ
ト云フニハ結局米ノ專賣ヲヤルヨリ外ニ仕
方ガナイノデアル、併ナガラ是ハ最後ノ問
題デアル、最モ嫌フベキ政策デアル、併ナ
ガラ國民ガ此專賣ヲ實行スルコトヲ要求ス
ルト云フヤウナ實情ニ達シタ場合ニ於テ
ハ政府ハ自ラ進ンデ之ヲヤラナケレバナ
ラヌト思フ、但シ現在ニ於テハ斯ノ如キ事
情ニ切迫シテ居ルノデハナイト云フ意味ノ
御話デアリマシタ、故ニ現内閣ハ我國ニ於
ケル米價調節-米穀調節ノ最後ノ手段ハ
米ノ專賣ニ在リト云フコトヲ御永認ニナフ
テ居ルノハ明デアリマス、而シテ唯〓〓日
ハ未ダ其時機ニ達シテ居ラナイト云フ點ニ
於テ、農商務大臣ハ實行サレナイノデアル
ト私ハ信ズルノデアリマス、故ニ今日ニ於
キマシテ、吾々ハ此米穀ノ專賣制度ニ付
テ、果シテ我國ニ之ヲ實行シテ適當デアル
ヤ否ヤ、ソレ等ノ方法ヲ速ニ政府ニ於テハ
〓究シ、而シテ適當デアルナラバ、之ヲ實
行スベキ最善ノ努力ヲシテ貰ヒタイノデア
リマス、又此專賣ト云フモノガ我國ニ於テ
實行ガ出來ナイト致シマシタナラバ、之ニ
代ルベキ適當ナル根本政策ヲ〓究シ、之ヲ
政策ノ實際ニ現ハシテ、而シテ一面ニ於テ
ハ米ノ生産者ニ取リ、一面ニ於テハ一般消
費者タル國民ニ取シテ重大ナ關係ヲ有スル
所ノ此重大問題ヲ解決シ、而シテ米穀安定
ノ根本策ヲ確立シ、國民生活ノ安定ニ資ス
ルト云フコトハ、今日政府ガ速ニ實行シナ
ケレバナラヌ所ノ重大問題ナリト信ズルノ
デアリマス、此意味ニ於キマシテ私ハ此附
帶決議ヲ提出シタノデアリマス、諸君御贊
成アランコトヲ希望致シマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/15
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016・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 八田宗吉君
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/16
-
017・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜肅ニ願ヒマス
〔八田宗吉君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/17
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018・八田宗吉
○八田宗吉君 本案ニ對シマシテ贊成ノ意
見ヲ申述ベマス、既ニ本案ニ對シマシテハ、同
僚高田耘平君ヨリ詳細ナル賛成意見ノ陳述
ガアリ、又只今東〓君ヨリ種々御演說ガア
リマシタガ、根本ノ此提案ニ對スル趣意ニ
付テハ賛意ヲ表シ、唯〓玆ニ附帶決議ノモッ
ト此運用上ニ於テ厚キ同情ヲ持ッテ、此生產
者側ニ利益アル運用ヲ執シ貫貰ヒタイト云
フ、希望ノ意ヲ陳述セラレタヤウデアリマ
スガ、要スルニ歸著スル所意見ヲ同ジウス
ルモノデアッテ唯、微溫的デアル、之ヲモウ
少シ同情アル運用法ヲ執ッテ貰ヒタイト云
フ希望ニ過ギナイノデアリマスカラ、殆ド
本案ハ政府ノ提案ニ對シテ滿場一致贊成カ
ノ如ク吾々ハ認メルノデアリマスカラ、本
黨諸君ニ於カレマシテモ、些細ノ事ニ拘泥
爲サレズシテ、今日ノ農民界ニ橫ッテ居ル
此多年ノ希望ヲ達成セシムベキ所ノ、此「價
格」ノ二文字ヲ人レ得ルヤウナ此提案ト云
フモノハ容易ナラザル政府ノ努力デアル
ト云フコトヲ認メマシテ、御賛成アランコ
トヲ希望スル者デアリマス、屑ク斯樣ナル希
望條件ヲ附サズシテ、眞實ノ熱情ヲ持ヲテ
政府ノ政策ニ考ヘテ、サウシテ贊成アラン
コトヲ切望致シマス、私ハ玆ニ本案ニ對シ
マシテ詳シク述ベル必要ハ無イノデアリマ
スケレドモ、米穀法ノ實施當時ノ事ヲ考ヘ
テ見マスト、吾々ガ此米穀法案ノ發布ニナ
ルマデノ間ニ於テ、農業界方面ノ此事ニ對
スル努力ハ容易ナラザルモノデアッテ、遂ニ
政府ガ之ヲ認メテ、原內閣ガ之ヲ提案シマ
シタルコトハ當時ノ狀況中ミ勇斷果決、
之ニ對シテ原内閣ガ餘程力ヲ致シタルコ
トヲ吾々ハ回顧致シマシテ、感謝ニ堪ヘザ
ル者デアリマス、當時御承知ノ通リ寺內內
閣ガ米騒動ノ爲ニ倒レ、其後ヲ善クセンガ
爲ニ原內閣ガ出來テ、サウシテドウナッタ
狀態ヲ現出シタカト云フト、益〓米ハ騰
貴致シテ居ル、サウシテ何等社會ノ狀況ニ
於テ變ルコトガ無キ現象ハ、原內閣ガ價ガ
高イノヂヤナイ-米ハ決シテ價ガ高イノ
ヂヤナイ、量ノ問題デアル、量ノ調節サヘ
スレバ玆ニ消費着ト雖モ何等不平ガ無イデ
ナイカト云フ聲明ヲ致シマシテ以來、苦
消費者モ生產者モ安定致シマシテ、爾來米
ハ益〓騰貴致シマシタケレドモ、少シモ世ノ
中ハ騒ガナカッタノデアリマス、然ルニ爾
來豐作ガ續イタル結果、遂ニ茲ニ米ノ暴落
トナリ、農民間ノ大運動トナッテ、遂ニ三
十五圓ナラデハ賣ラナイト云フ非賣同盟ト
カ、大擧シテ帝都ニ襲來ヲスルト云フヤウ
ナ農民間ノ一大運動ガ起リマシテ、遂ニ政
府モ大ニ此社會ノ狀況ニ鑑ミル所アッテ、之
ヲ提案致シマシタノデアリマスガ、當時固
ヨリ價格ノ調節ト云フコトヲ八レント欲ス
ル政府ノ誠意ハアリマシタケレドモ、社會
ノ狀況中〓之ヲ一面ニ於テ許サナイ、政治
ハ實際デアル、理想デハナイ、先以テ漸次
此理想ニ近ヅカントスルニハ、一步々々進
ムヨリ外ナイノデアリマス、此量ノ調節ト
云フコトヲ以テ進ンデ、サウシテ價ノ方面
マデモ調節セントシテ政府ハ臨ンダノデア
リマス、然ルニ此政府ノ提案ニ對シマシ
テ、貴族院ニ於テハ修正ヲ受ケタノデアリ
マス、當時ノ歷史ハ能ク御承知ニナッテ居
ルト信ジマス、卽チ貴族院ハ第三條ノ末項
ニ於テ「前條ノ價格ハ時價ニ準據スヘシ」時
ノ價ニ準據スベシト云フ文字ヲ入レタノデ
アリマス、賣ヲスル、賣拂ヲスルト云フ
告〓ハ卽チ時價ニ準據ヲシナケレバナラヌ
ト云フ文字ヲ入レタガ爲ニ、玆ニ徹底的ニ
量ノ調節ヲモ爲シ能ハザル所ノ法案ガ甚ダ
偏傾ノモノニナッテ參ッタノデアリマス、故
ニ此米穀法ヲ實行致シマシテ、卽チ大正十
年五月、大正十二年ノ二月、此二囘ダケ實
行致シタノデアリマス、前回ハ卽チ百万石
買上ゲルト云フ告示ヲ爲シ、第二回モ矢
張百万石買上ゲルト云フ告示ヲ爲シ、サ
ウシテ政府ハ如何ナル買上ヲ爲シタカト申
シマスト、第一回ハ三十五万八千石、第二
回ニハ僅ニ二十二万一千石シカ買上ニナラ
ナカッタ、百万石買上ントシテ其三分ノ一
ヲモ買上ニナラナイノデアリマスカラシ
テ、量ノ調節ノ趣意デモナイノデアリマ
ス、遂ニ價ガ相當ニ高マッテ來マスト云フ
トソレヲ停止スル、量ヲ徹底的ニヤルト云
フコトモ致シ兼ル狀態ニナッテ居ル、サウシ
テ此生產者ノ利益ヲ擁護スルニ當ッテハ、勿
論米價ヲ相當ニ維持シナケレバナラヌノデ
アリマス、サウシナケレバ効果ガ無イ、然
ルニ政府ノ本來ノ目的ガ量ノ調節デゴザイ
マスカラシテ、價格低落ノ場合ニ當ノテ、
如何トモ此買上ヲ實行スルコトガ出來ナイ
ノデアリマス、卽チ大正十一年ノ如キハ大
豐作デアッタ、米ハ暴落ヲ告ゲ、生產過剩
ノ結果、量ガ澤山アッタサウシテ價ハ益〓低
落ヲスル、斯樣ナ時ニ當ッテ價ハ低落スル
ケレドモ量ハ一定ノ旦里ガ具ッテ居リマスカ
ラ、ソレヲ政府デ買上ゲルト云フコトモ爲
シ得ナカッタ悲慘ナ狀況ニ在ッタノデアリマ
ス是レ卽チ量ノ調節ト云フ政府ノ聲明サ
レタ結果ニ囚ハレテ此ニ至ッタノデアリマ
ス、サウシテ遂ニドウナッタカト申シマス
ト、玆ニ量ノ調節ヲセント欲シテ爲シ能ハ
ス、價ノ調節ヲ爲サント欲スレバ法文ニ囚
ハレル、買入ヲ爲サント欲スル時ニハドウ
ナッテ居ルカト云フト、買入ハ二月五月實
行シテ居ル、吾ヒノ欲スル所ハ卽チ價ノ騰
貴、生產者側ノ擁護ヲ爲サシムルコトガ、
米穀法制定當時ノ根柢ニ在ル所ノ精神デ
アッタノデアリマス、併ナガラ政府ノ實收
米ノ計算ノ決マルノハ一一月中デアリマス」
二月中ニナッテ全國ノ富收額ガ決マルノデ
アリマスカラ、二月以後ニアラザレバ買上
ヲ爲シ得ナイ、二月後ニナッテ買上ヲスレ
バドンナ結果ヲ生ズルカト中シマスルト、
大農中農以上ノ者ハ恩典ニ浴スルカモ知レ
マセヌガ、大多數ノ小作人デアル所ノ小農細
民ト云フ者、此生產者側ノ斯樣ナ憐ムベキ
方面ニ立シテ居ル者ハ、何等利益ヲ得ナイ
ト云フ結果ニナッタノデアリマス、之ニ對シ
テ價格ト云フ二文字ヲ置キサヘスレバ、量
ノ調節モ安イ時ニハ出來ルノデアリマスカ
ラ、價格ト云フ文字ヲ入レザルベカラズト
シテ法律制定當時カラ希望シテ居ッタノデ
アリマスカラ、一歩進ンデ此量ノ調節ヲ以
テ徹底的ニ量デ買上ゲレバ玆ニ價ノ調節ガ
出來ルト信ジマシタケレドモ、政府ハ此價
ト云フ文字ガ法文上ニ無イ所ニ囚ハレマシ
夕爲ニ、買上ヲ爲ス時機ガ一般農民ノ希望
セザル時機ニ買入レヲ爲スト云フコトニ
ナッテ來マシテ、生產者側カラ申シマシテ
モ、此買入ノ時機ハ甚ダ不適當ナル時、又
消費者側カラ申シマシテモ何等幸福ヲ受ケ
ナイト云フコトニナッテ來マシテ、生產者
側カラモ怨マレ、消費者側カラモ何等歡迎
サレナイト云フヤウナ米穀法案ハ過去ノ經
歷デアッタノデアリマス、故ニ帝國農會其
他各農事團體ニ於テハ、是非共此米穀法ノ
運用上價格ノ二文字ヲ入レベシト云フコト
ガ本會議ニ於テハ建議案トナリ、曾テハ法
律案ノ提出トナンテ、サウシテ居リマシタ
ケレドモ、未ダ本院ヲ通過スルト云フダケ
ニ進マズシテ、サウシテ貴族院ニ至ッテ之
ヲ法律案ニセシムルニ至ラズシテ、今日マ
デ延期セラレテ居ルト云フノガ今日ノ實情
デアッタノデアリマス、然ルニ現政府ハ斷
乎トシテ一般農民ノ希望ヲ容レテ、此提
案ヲセラレタノハ頗ル英斷ノ處置デ、吾
吾ハ衷心ヨリ政府ノ處置ニ對シテ感謝措
ク能ハザルモノデアリマス(拍手)只今東
〓君ハ政府ガ生產者側一般農民ニ對シテ〓
溫的ノ處直バカリデヤッテ、少シモ同情ガ
ナイノガ殘念デアルト云フコトヲ言ハレ
マシタガ、現政府ハ成立以來農民界ニ對
シテ如何ニ輿望ヲ容レテ實施シタカト
云フ色〓ノ項目ヲ擧ゲマシタナラバ、吾々
ハ指ヲ折ルニ遑アラザル程ニ澤山アル
ト考ヘルノデアリマス(拍手)卽チ諸君
ハ高橋農商務大臣ガ職ニ就カレテ以來深
ク生產者側ニ同情ヲサレ、山本内閣ガ米
ノ關稅ニ對シテ九月十二日-大正十二年
ノ九月十二日ニ至ッテ關稅ノ撤廢ヲ爲シ、〓
浦內閣ガ現レ、之ヲ大正十三年ノ三月三十
一日デアッタモノヲ八月マデニ延期シマシ
タモノヲ、高橋農商務大臣ハ就職以來此關
稅ノ撤廢、斯樣ナ時ニ於テ撤廢スルコトハ
生產者ヲ脅スモノデアルカラ、撤廢スペカ
ラズトシテ八月以來之ヲ復舊シテ、ズット
そ繼續シテ參クテ今日ニ至ッテ居ッタ所デス、諸
君、御承知ノ通リ去ル二月中ニ於テ此關稅
ガ又撤廢ニナリマシタケレドモ、是ハデス、
歷代ノ內閣ヲ見マスルト、何時デモ此外米
ノ關稅撤廢ナルモノハ大正七年以來十一月
一日、ソレカラ翌年ノ十月三十一日マデ、
-此一箇年間ハ大正七年デアリマス、之
ヲ免除シテ居ル、外米ノ輸入稅ヲ免除シテ
居ル、大正八年十一月以後、大正九年十月
三十一日マデ免除シテ居ル、ソレカラ大正
十年ノ十一月二十二日以後大正十一年十月
三十一日マデ、矢張是ハ米穀法ガ實行ニナッ
テ居ル、政府即チ農商務大臣ガ勅令ヲ以テ
此外米ノ輸入關稅ヲ撤廢スルコトガ出來ル
權能ヲ持ッテ居ルヤウニナッテ來マシタ結
果、矢張之ヲ實行致シタノデアリマス、斯
樣ニシテズット先程來山本內閣、〓浦內閣
等ニ於ケル外米關稅ニ對スル狀況ヲ見マシ
タノデス、何時デモ農民ガ端境期、賣ラント
スルトキ、中農小農ガ賣ラントスルトキニ
當シテ外米ノ輸入稅ノ撤廢ヲ爲スト云フコ
トノ結果ハ、秋ニナッテ非常ニ米價ガ暴落ス
ルト云フ結果ヲ來シテ居ルノデアリマス、
然ルニ此高橋農商務大臣ハ此ニ見ル所アツ
テ、外米ノ輸入稅ノ撤廢ヲ本年スレバドウ
シテモ米ガ暴落スルト云フトキニヤラナケ
レバナラヌト云フコトヲ以テ、消費者側ハ
關稅ノ撤廢ヲ十月以來政府ニ要望スルコト
頗ル盛デアッタノデアリマス、併ナガラ斯
樣ナトキニ撤廢スレバ小農中農ヲ救フコト
ガ出來ナイト考ヘマシタカラ、此外米輸入
稅ノ撤廢ヲ延シ々々シテ、此二月ニナシテ
此外米ノ輸入稅ヲ撤廢スルト云フコトニ
ナッタガ爲ニ、如何ニ中農小農ヲ救ハレタ
デアリマセウカ、昨年ノ秋アタリニナリマ
スルト、初メテ-一般農民ハ初メテ愁眉
ヲ開クヤウナ米ノ價ニナッタコトハ諸君、
平生中農小農ニ接シテ居ラルヽ方〓ハ旣ニ
御水知ニナッテ居ルコトヽ信ジマス、漸ク
愁眉ヲ開ク價ヲ以テ此米ノ取引ヲ爲スト云
フコトハ昨年ノ秋現内閣ノ外米關稅撤廢
ニ對スル處置其宜シキヲ得タ爲デアルト云
フコトヲ申スト共ニ此買入、賣渡、拂渡、
斯ウ云フコトニ對シテ通當ナル處置ヲ執ッ
タコトハ、中農小農ヲ救濟スルニ厚キコト
ガ此ニ至ッタモノデアルト云云コトヲ私ハ
斷言スルニ憚カラザル者デアリマス(拍手)
斯樣ナ事ノ爲ニ如何ニ救ハレテ居ルカ知レ
ナイ、或ハ農務省ノ獨立問題、是ハ多年ノ
問題デアル、農業社會ノ大問題デアル、併ナ
ガラ何レノ政府モ之ヲ只行スルコトヲ聲明
シナイ、然ルニ高橋總理大臣ガ去ル四十四
議會ニ於キマシテ、農會法ノ改正ノ委員會
ニ於テ、消費者側ト生產者トヲ一緒ニシテ
取扱フ所ノ役所ガアルノハ甚ダ宜シクナ
イ、是ハ立ロニ實行スベキモノデアルカラ、
此豫算ヲ實行シタ後、卽チ來ルベキ議會ニ
於テハ之ヲ提案スルト云フコトヲ、當時ノ
高橋總理大臣、今日ノ農商商大臣ガ當時是
ハ聲明セラレタ所ノ事デアッテ、農會法委
員會ノ速記錄ニ明ニ在ル事實デアリマス、
其後ニ至ッテ〓浦內閣等ガ之ヲ實行セント
シテ、サウシテ實行スルコトヲ得ナカッタ
コトヲ、最初ノ聲明ノ如ク今回農務省ノ獨
立ヲ實行スベク豫算ヲ計上シテ提案サレタ
ト云フコトハ事ハ小ナルガ如シト雖モ農
民ノ權利ヲ伸スベキ所ノ機關ヲ置クコトニ
對シテ、躊躇ナク斷行セラレタ、此一事ニ
對シマシテハ農民タル者誰カ感謝セザル
者アランヤト私ハ申上ゲルノデアリマス
(拍手)事實ニ於テ斯樣デアリマス、私ノ澤
山ノ言辭ヲ玆ニ費ス必要ハ無イト信ズル
現政府ニ至ツテ如何ニ農村方面ニ多大ノ同
情ヲ持クテ居ルカ、人或ハ今囘ノ貨幣改鑄
益金二百五十万圓ヲ以テ農村ノ施設ニ充テ
タル處置ハ、甚ダ金額ガ小デアルト云フコト
ヲ言ヒマスルケレドモ、此財政ノ緊縮極リ
ナキ今日ニ方ッテ、斯樣ナ事ヲ實行スルト
云フコトハ如何ニ同情アル處置デアルカ
ト云フコトハ是ハ知ル人ゾ知ル、農民間
ニ於テ如何ニ感謝スルカト云フコトハ私
ガ玆ニ敷衍ヲ加ヘル必要ハ無カラウト信ズ
ル(拍手)私ハ斯樣ナ意味ニ於キマシテ、單
ニ名ヲ賣ランガ爲ニ徒ニ僅ナル附帶決議ナ
ドヲ提ゲテ、サウシテ本案ニ對シテ如何ハ
シキ議論ヲ試ミラレルト云フヤウナ事ハ敬
愛スル政友本黨ノ爲ニ私ハ取ラザル所デア
リマス(拍手)速ニ御撤囘アランコトヲ望
ミ、私ハ原案ニ對シテ贊成ノ意ヲ表スル者
デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/18
-
019・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 岡田溫君
〔岡田溫君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/19
-
020・岡田温
○岡田溫君 私ハ大體ニ於テ政府提出ノ改
正案ニ賛成デアリマス、唯〓併シ此法律ハ
實施日ガ淺イノデアリマスルカラ、其趣旨
ニ於キマシテモ、或ハ運用方ニ於キマシテ
モ、種々疑義ガアリマシタリ、或ハ人々見解
ヲ異ニスルヤウナコトガアリマスカラ、私
ハ此機會ニ賛成ノ理由ト共ニ少シク疑義ヲ
質シ、及少シク希望ヲ述ベサシテ戴キタイ
ノデアリマス、先ヅ第一ニ米穀法ハドウ云フ
種類ノ政策ニナルカト云フコトニ疑義ガア
リマス、歷代ノ政府ハ農業政策トシテ取扱
テ居ルノデアリマス、無論サウデアリマセウ
又世間デハ多クハ之ヲ以テ農業保護政策デ
アルト見テ居ラレルヤウデアリマス、所ガ
私共ノ考ニ依リマスト、成程此法律ノ運用
ノ部分ニ於キマシテハ、大ニ農業ヲ保護ス
ル所ガアリマスケレドモ、一面ニハ又農業
ノ利益ヲ抑ヘル所モアルノデアリマスカ
ラ、ソレ是レ差引シテ考ヘテ見マスト云フ
ト、農業保護政策ニ屬スルモノデハナイヤ
ウデアル、ノミナラズ何方カト云ヘバ、多少
農業者ノ利益ヲ犠牲ニ供スルヤウナ社會政
策デハナイカト思フノデアリマス、何故力
ト言ヒマスト、現今御水知ノ通リ農業ノ保
護政策ハ色々アリマス、耕地整理トカ開墾
助成法トカ、倉庫トカ、是等ハ大體ニ於キ
マシテ生產增殖ノ助長政策デ、無論大事ナ
保護政策デアリマスガ、今日一番大切ナノ
ハ價格ノ保護ニ屬スル政策ガ最モ大切デア
リマス、殊ニ外國ノ安イ輸入品ニ依シテ、内
地產ノ壓迫サレルモノニ對シテ、價格ヲ維
持スル政策ガ最モ重大デアリマシテ、ソレ
ハ從來御承知ノ關稅定率法ニ依シテ保護サレ
テ居ルノデアリマス、所ガ此米穀法ニ依リマ
シテ從來與ヘラレテ居リマシタ所ノ此保護
ノ効力ガ、餘程減殺サレルノデハナイカト
云フ疑ガアルノデアリマス、ソレハ米穀法
第二條ニ「政府ハ米穀ノ需給ヲ調節スル爲
特ニ必要アリト認ムルトキハ勅令ヲ以テ期
間ヲ指定シ米穀ノ輸入稅ヲ增減若ハ免除シ
又ハ其ノ輸入若ハ輸出ヲ制限スルコトヲ
得」ト云フノデアリマス、是デ以テ關稅定
率法ニ與ヘラレテ居リマシタ所ノ保護ハ大
變減殺サレルコトニナル、所ガ之ニ「對シテ
ハ說ガアル、サウデハナイ、是ガ無クトモ
關稅定率法ノ第六條ニ依ッテ矢張勅令ヲ以
テ輸入稅ヲ減ズルコトガ出來ルノデアルカ
ラ、米穀法ニ依ッテ特ニ減殺サレルノデハナ
イト云フ議論モアリマスガ、決シテサウデハ
ナイト思ヒマス、關稅定率法ノ第六條ハ
「米及籾ノ輸入稅ハ凶作ノ場合ニ於テハ勅
令ヲ以テ期間ヲ指定シ每百斤四十錢ヲ限度
トシ之ヲ低減スルコトヲ得」ト云フノデア
リマスカラ、此方ニハ凶作ト云フ條件ガア
リマスル上ニ、百斤一圓ノ稅率ヲ四十錢マ
デニ下ゲテ宜イト云フ限度ガアッテ、矢張
アトニ保護ノ精神ナリ形ガ殘リマスガ、米
穀法ノ第二條デハ其條件モ取去リ、ソレカ
ラ限度モ取去ッタノデアリマスカラ、是ニ
於テ少クトモ法律ノ形式ノ上ニ於キマシテ
ハ關稅定率法ニ定メラレテアル所ノ保護
ヲ取去ラレタノデアル、是ガドウ云フ風ニ
働イテ居ルカト云フト實際問題ヲ說明致シ
マスルト云フト、確ニ從來ヨリハ價格ヲ抑
ヘラレテ居ル作用ハアルノデアリマスガ、
長クナリマスカラソレハ略シテ置キマス、
所ガ斯樣ナ事ガ假ニアッタトシマシテモ、
其法律ノ他ノ部分ニ於テ償フ所ガアルナラ
バ是亦利害平均シテ考ヘナケレバナラヌ
問題デアリマスルガ、米穀法ノ何レノ部分
ヲ吟味致シマシテモ、特ニ生產者ガ保護セ
ラレルト云フ所ハ一ツモ無イノデアリマス、
斯ウ云フヤウニ從來ノ保護ヲ取去ラレタト
云フコトハ明ニ法律ノ上ニアリマスガ、從
來ヨリ保護ヲ加ヘルト云フ所ハ何處ニモ無
イ、所ガ之ニ對シテモ矢張議論ハアリマス、
イヤサウデハナイ、下落ノ場合ニ政府ガ買
上ゲルコトニ依ッテ下落ヲ防止スルト云フ
コトハ非常ナ保護デナイカト云フ議論デ
アリマスガ、ソレハ非常ナ保護デアリマ
ス、吾々モ是アルガ故ニ實ハ他ノ方面ノ不
利益ハ忍ンデ、サウシテ、此法ヲ遵奉シテ
居ルノデアリマスルガ、併シ下落ノ時ニ買
上ゲルダケナラバ宜イノデアリマスガ、騰
貴ノ時ニハ今度ハ抑ヘルト云フコトガ同ジ
ヤウナ作用ニ依ッテヤルノデアリマスカラ、
利害ヲ相殺シテ考へマスルト、何方ガ得デ
アルカ、損デアルカト云フコトハ、ハッキ
リシナイ、是ハ理論上ニ於キマシテ私ハ不
利益ガ多クシテ、利益ガ少イノデハナイ
カト云フ疑義ヲ持シテ居リマス、何故カト
云ヒマスルト、米價ノ下落ト云フコトハ、申
スマデモナク、市場ニ浮動米ガ澤山出來ル
ノデアルカラ、ソレガ壓迫スルカラ安クナ
ル故ニ下落ノ原因ヲ取去ルニハ浮動米
ヲ取去ラナケレバナラヌノデアルカラ、ソ
レヲ取去ルノデアリマスガ、政府ガ買上ゲ
タヾケデハ取去ルコトガ出來ナイ、買上ゲ
テ海外ニ出シテ、始メテ其浮動米ト云フモ
ノハ壓迫ヲ取去ルコトガ出來ルノデアリマ
スガ、ソレハシナイノデアリマスカラ、內
地ノ何處カニ貯ヘテアル、今日ノ米價ノ神
經ハ非常ニ過敏、銳敏デアリマスカラ、政
府ガ持シテ居ラウト、地主ガ持ッテ居ラウト
農家ガ持ッテ居ラウト、內地ニ食糧ニ供シ
得ベキ米ガアル以上ハ、實米ニ計算サレマ
スルカラ、始終ソレガ壓迫ヲシテ居ル、デア
リマスカラ假ニ此米穀法ノ作用ガ何ニモ之
ガ無イ場合ニ棄テヽ措イタナラバ、三十圓ニ
下ル場合ハ此調節ニ依シテ三十二圓ニ喰止
メルコトガ出來マス、サウスルト二圓方
ハンコニ保護サレタト云フテ、ソレハ大ナ
ル利益デアリマスガ、全儲ニハナラナイ、
今度市場ノ調節ガ多少出來マシテ、三十四
圓位ニ回復ヲシナケレバナラヌ事情ガ出來
テ來マシテモ、政府ノ持米ト云フモノガ實
米トナッテ壓迫シテ居リマスカラ、矢張三十
二圓、三圓ノ所ヲ往來シテ居ッテ、三十四
圓ノ所ニ來ナイ、サウデアリマスカラ前
ニ儲ケタ所ヲ後デ失フト云フコトニナシテ、
賣シタ個々ノ農家ヲ調ベタナラバ保護サ
レタ者モアリマセウガ、農業者全體ヲ平均
シテ見マスト云フト、サウ利益ニナルベキ
性質ノモノデナイヤウニナルノデアリマス、
尤モ斯ウ云フコトハハッキリ數字的ニ言へ
マセヌガ、米界ノ事情ハサウ云フモノデア
ラウト思ヒマス、又サウナンデアル、所ガ
騰貴ノ時ニドウナルカト云フト、上ーテテ
ク時ヲ抑制スルノハ騰貴ノ原因タル量ガ
不足シヤウカト云フ所ノソレニ對シマシ
テ政府ハ輸入稅ノ撤廢其他ノ方法ニ依ッテ
十分ニ米ヲ入レテ、而モ米穀法實施以來、
政府ノ食糧安定ヲ保障スル責任ガ出來タヤ
ウナ形ニナッテ居リマスカラ、十分ニ萬一
ニモ不足ヲシナイヤウニ用意スルノデアリ
マッ、サウデアリマスカラ、ズット騰貴ス
ベキ原因ガ完全ニ取去ラレテシマフノデア
リマスカラ、皆サンモ御承知ノ通リ米穀法
實施以來ハ-之ガ無カツタ従來デアッタ
ラ五十圓五十五圓ト云フ價ガ一寸出ナケ
レバナラヌ事情ノ下ニ出テ來テモ、サウ云
フ値段ハ少シモ出來マセヌ、非常ナ高價ナ
ト云フ相場ハ出テ來ナイ、之ニ反シテ米穀
法實施以來安クナル方ハ矢張安クナッテ居
ル二十七圓、六圓ト云フ相場ガ大正十一
年カラ十二年ニ大分出タノデアリマス是
等ノ上リ下リノ模樣ヲ見、卽チ米穀法ノ運用
作用ニ依ッテ、上ッタリ下ッタリスル所ヲ公
平ニ見マスルト云フト、利益ノ方ガ多イカ
不利益ノ方ガ多イカハ、ソレハ見ル人ニ依ツ
テ多少違ッテハアリマセウガ、私共ノ可ナ
リ精細ナル調査ニ依ッテ見マスルト、何ダ
カ不利益ノ方ガ多イノデハナイカト云フヤ
ウニ考ヘテ居ル、デ是ガ元〓農業保護政策
ト云フノデアルカ、社會政策デアルカト云
フ所ノソコガ疑義ノ岐レル所デアリマス
私ハドチラガ宜イト云フ意味デハナイ、法
律ノ性質ヲ糺シテ見タイト云フダケノコト
デアルケレドモガ一面ニ我國ノ食糧ト云
フモノハ世界中デ最モ不安定ナ狀態ニ在
ル國デアリマスカラ、何トカシテ國策トシ
テ食糧ノ安定ヲ圖ルト云フコトハ最モ必要
デアリマセウ、故ニ左樣ナル大ナル必要ノ
下ニハ縱シ私共ノ解釋ノ如ク米穀法ノ關
係影響ガ、生產者ニハ却テ不利益ノヤウナ
コトガ多イトシマシテモ、之ヲ尙ホ撤廢ス
ルナドヽ云フコトヲ考ヘタリ、唱ヘタリス
ルコトハ不穩當ダト考ヘテ居リマス、左樣
ナ途ニハ出マセヌガ、併ナガラ社會政策ナ
ラバセメテ此農業者ノ犧牲ヲ成ベク少イ
ヤウニヤッテ願ヒタイト云フ希望ハ强ク
持出サナケレバナラヌノデアリマス、若シ
又農業保設政策デアルト云フノデアリマシ
タラ、何所ノ方ガ保護政府デアッテ、如何
ナル時ニ保護セラレルノデアルカト云フコ
トヲ實ハ少シ伺ンテ見タイノデアリマス、之
ヲ要スルニ若シ是ガ農業ノ保護政策ナラ
農業者トシテハ洵ニ結構デアリマス、
結構デアリマスルカラ、ソレナレバ其保護
ノ實ガ舉ルヤウニ、現在ノ法律ヲモウ少シ
改正ヲシ、及運用法ノ方針ヲ改メテ保護ノ
實ガ舉ルヤウニ願ヒタイ、保護政策デハナ
1農業保護政策デハナイ、ソレハ生
產者モ消費者モ五分々々ノ利益ノ社會政策
ト言ハレルナラバソレモ宜シイ、ソレガイ
カヌト云フノデハナイ、然ラバ其社會政策
ナラ社會政策ダト云フコトヲ明ニシテサ
ウシテソレヲ實施ニ當四テ農業者ニ多クノ
犧牲ガ無イヤウニト云フコトヲ希望スルノ
デアリマス、農業者ヲ有利ニスルト云フノ
デハナイ、ドチラニナッテモ宜シイ、要ス
ルニ羊頭ヲ掲ゲルノナラバ羊肉ヲ賣ッテ貰
ヒタイ狗頭ヲ揭ゲルナラバ狗肉ヲ賣ッテ
貰ヒタイ、ドチラデモソレハ宜イガ、唯こ
玆ニ羊頭ヲ揭ゲテ狗肉ヲ賣ルヤウナ間違ノ
起ラナイヤウニト云フコトガ吾々ノ切望ナ
ンデアリマス、是ハ私共トシマシテハ重大
ナル意義ダト思ヒマスカラ申述べマシタガ、
併シ是デハ何所ヲ賛成スルカト云フコトノ
意義ガ不明デアリマスカラ、最後ニ一寸私
ハ賛成ヲスルト云フ要旨ヲ申上ゲタイノデ
アリマス、ソレハ第一米穀法ノ使命ノ何カ
ト云フコトガ從來ノ疑義デアル從來ノ內
閣デハ量ノ調節デアルト斯ウ言ッテ居ッタ、
所ガ量ノ調節ダトシテ見ルト、ドウシテモ
米穀法ノ目的使命ヲ說明スルコトハ出來ナ
イノデアリマス、昔ノ天明トカ享保時代
ノヤウナ時ナラバ量ノ調節ガ絕對ニ必要
デアッタカモ知レヌ當時東北地方ニハ
金銀ヲ首ニ掛ケテ餓死シタトカ、伊豫ニハ
麥種ヲ枕ニシテ餓死シタトカ云フヤウナコ
トガアッタサウデアリマスガ、今日ノ進步
シタル經濟事情ノ下ニ於テハ價格サヘ構
ハナケレバ即チ金ヲ出スト云フコトサヘ
問題ニシナイナラ、食フ物ガ無クナッテ餓
死スルナドヽ云フコトハ決シテ無謀デモ
無分別デモナイト思ヒマスダカラ結局ノ
調節ノ目的ハ端境期ニ四百万石ヲ繰越シ、
五百万石ヲ繰越サナケレバナラヌト云フノ
ハ本當ノ目的デハナイ、本當ノ目的ハ少々
不作デモ、米價ガ高クナラヌヤウニスルト
云フコトガ目的デアリマスカラ、卽チ價格
更ニ又量ノコトヲ言ッテ見ルト豐年ノ時
ニハ全ク說明ノシヤウガナイ、五穀豐饒ト
云フコトハ天下泰平ノ象徵デアルト云フコ
トハ昔モ今モ變リハナイト思ヒマス、然
ルニ氣候ガ良クテ農產物カ大分出來テ、ソ
レガ國家社會ニ有害デアルカラ調節ヲシナ
ケレバナラヌト云フコトデハ、說明ニモ何
ニモナラナイ、唯と價格ト云フモノヲ持出
シマスルト、如何ニ物ガ澤山出來テモ、今
日ハ貨幣經濟ノ時代デアルカラ、價ガ安カツ
タナラバ金ニナラヌ、サスレバ生產經濟ガ
破壞サレル、生產經濟ガ破壞サレルナラバ
次ニ生產ニ故障ガ起ルカラ調節セニヤナラ
ヌト云フコトニナッテ、始メテ調節ト云フ
コトノ說明ガ出來マス、故ニ米穀法ノ使命
ハ量ト云フモノハ第二義、第三義デ、目標
ハ必ズ價格ト云フコトデナケレバナラヌト
思ヒマス、高イ安イ共ニ價格デアル、ソレ
ガ從來ハ曖昧デアッタノガ、現政府ニ於テ
價格ト云フコトヲ加ヘテ、サウシテ此米穀
法ノ使命ヲ明ニシタ、ソレガ吾々ノ賛成ノ
點デアリマス、從來ノ米穀法ノ運用ニ於キ
マシテ、數千万圓ノ損得ガ始終行ハレテ居
ルノデアルカラ、ソレハ容易ナラヌ、而モ
斯樣ナ性質ノモノガ保護政策ト云フ名義ノ
下ニ行ハレテ居ッタト云フノハ容易ナラヌ
カラ、一應申上ゲルニ過ギヌノデアリマ
ス、今申上ゲタヤウニ要スルニ價格ガ目標
デアル所ニ、價格ヲハッキリシタコトガ改
正ノ要點デアルケレドモガ、前段申上ゲタ
ヤウニ大ナル疑義ガアッタリ間違ガ起ル
ト云フノハ事實ナノデアル、故ニ此改正ニ
依ッテ目的方針使命ガ明ニ元サレタ
大ナル進步ガアリマスルト同時ニ、今度ハ
運用上ニ於キマシテモ私ガ前段申述ベタヤ
ウナ、從來常ニ起シテ居ッタ間違ガ起ラナイ
ヤウニト云フコトヲ切望シテ私ハ賛成ヲス
ルノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/20
-
021・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ土居通憲君
〔土居通憲君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/21
-
022・土居通憲
○土居通憲君 私ハ只今上程ニナッテ居リ
マスル米穀法中改正法律案外一件ニ對シ
テ、賛成ヲスル者デアリマス是ハ頗ル簡
單明瞭ナ案デアリマシテ、委員會ニ於キマ
シテモ滿場一致ヲ以テ贊成ヲサレタ案デア
リマスルカラ今更賛成ノ理由ヲ述ブル必
要モ無イヤウナモノデアリマスルケレド
モ極メテ簡單ニ私ハ其賛成ノ理由ヲ述べ
タイト思ヒマス、今日農村振興ノ問題ガヤ
カマシク唱ヘラレマシテ、此狀態デ推移ス
ルナラバ農村ノ疲弊困憊ハ著シキモノデ
アルト云フヤウニ唱ヘラレテ居リマスル
ガ、要スルニ此農村ノ疲弊ノ原因ハ多クア
リマスルケレドモ、米價ノ高低ト云フモノ
ガ大ナル原因ヲ成シテ居ルモノト考ヘルノ
デアリマス、而シテ此米價ガ他ノ物價ニ比
較シマシテ著シク減退致シマシテ、サウシ
テ農村ノ經濟ガ破壞サルヽヤウナコトガア
ルナラバドウシテモ農村ノ人〓ハ經濟的
ニ安定ヲスルト云フコトガ出來ナイノデア
リマス、此米穀法ハ米價ノ調節ヲ圖シテ、
而シテ農村ノ經濟的緩和ヲ圖ルト云フ目的
ノ下ニ制定サレタモノデアルノデアリマス
ルガ、吾々ハ此制定ニ對シテ大ナル期待ヲ
有シテ居リマシタニモ拘ラズ、此運用上ニ
於キマシテ數量主義ニ依ッテアリマスガ故
ニ、ドウモ農民ノ滿足スルガ如ク此法ノ運
用ガ出來テ居ナイカノ如ク考ヘラレテ居ツ
タノデアリマス、是ニ於キマシテ政府ハ數
量調節ノミニ依シテハ、完全ナル運用ノ働キ
ヲ爲スコトガ出來ナイト云フ意味ニ於テ、
「市價」ト云フ文字ヲ此所ニ八レルト云フコ
トニナッタノデアラウト思ヒマスルガ、要ス
ルニ此市價ノ調節ヲ計。テ農民經濟ノ安定
ヲ圖ルト云フコトハ最モ時宜ニ適スルモ
ノデアラウト考ヘルノデアリマス、此意味
ニ於テ吾々ハ賛成スルノデアリマス併ナ
ガラ此法ノ運用ト云フモノハ其當局者ノ頭
ノ働キニ依ッテ、是ガ如何ヤウニデモナルノ
デアリマスルガ故ニ、從來ノ如キ米穀法ガ
甚ダ運用上吾々ノ期待ニ副ハナイカノ如キ
感ガアリマシタガ故ニ、此「市價」ヲ入レル
ト云フ上ニ於キマシテハ必ズ吾々農民ノ
期待スルヤウニ其運用ヲシテ完全ニ實行サ
レルヤウニ、當局者ニ於テ之ヲ期シテ貰七
タイト思フノデアリマス私ハ此案ニ付キ
マシテハ贊成ノ意ヲ表シテ、此壇ヲ降ル次
第デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/22
-
023・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是レニテ通告者ノ發
言ヲ全ク終リマシタ、仍テ討論ハ終局サレ
マシタ、先刻東〓實君ヨリ米穀法中改正法
律案ニ關シマシテ、附帶決議ガ提出サレテ
居リマス、是ハ先決問題デアリマスカラ、
先ツ附帶決議ヨリ採決ヲ致シマス、東〓實
君ノ附帶決議ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求メマ
ス
〔賛成者起立〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/23
-
024・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 起立少數デアリマ
ス仍テ附帶決議ハ否決サレマシタ、尋デ
兩案ノ第二讀會ヲ開クヤ否ヤヲ御諮リ致シ
マス兩案ノ二讀會ヲ開クニ御異議アリマ
セヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/24
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025・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/25
-
026・作間耕逸
○作間耕逸君 兩案ヲ一括シテ直ニ第二讀
會ヲ開キ、第三讀會ヲ省略シテ、委員長報
告ノ通リ可決セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/26
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027・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、仍テ直ニ兩案ノ第二讀
會ヲ開キ、議案全部ヲ議題ニ供シマス
米穀法中改正法律案第二讀會(確定議)
米穀需給調節特別會計法中改正法律案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/27
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028・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 別ニ御異議ナシト認
メマス、仍テ第三讀會ヲ省略シテ、兩案共
委員長報告ノ通リ可決確定セラレマシタ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/28
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029・作間耕逸
○作間耕逸君 議事日程變更ニ關スル緊急
動議ヲ提出致シマス、卽チ政府提出治安維
持法案ヲ此際特ニ上程シテ議題ト爲シ、其
第一讀會ヲ開キ、先ヅ政府ノ趣旨辯明ヲ聽
キ、續イテ其審議ヲ進メラレムコトヲ望ミ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/29
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030・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 作間君ノ日程變更ノ
動議ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/30
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031・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、卽チ茲
ニ治安維持法案ノ第一讀會ヲ開キ、政府ノ
趣旨辯明ヲ求メマス若槻内務大臣
〓食
治安維持法案(政府提出)第一讀會
治安維持法案
治安維持法
第一條國體若ハ政體ヲ變革シ又ハ私有
財產制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ
結社ヲ組織シ又ハ情ヲ知リテ之ニ加入
シタル者ハ十年以下ノ徵役又ハ禁錮ニ
處ス
前項ノ未遂罪ハ之ヲ罰ス
第二條前條第一項ノ目的ヲ以テ其ノ目
的タル事項ノ實行ニ關シ協議ヲ爲シタ
ル者ハ七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第三條第一條第一項ノ目的ヲ以テ其ノ
目的タル事項ノ實行ヲ煽動シタル者ハ
七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ處ス
第四條第一條第一項ノ目的ヲ以テ騷
擾暴行其ノ他生命、身體又ハ財產ニ
害ヲ加フヘキ犯罪ヲ煽動シタル者ハ十
年以下ノ懲役又ハ禁鋼ニ處ス
第五條第一條第一項及前三條ノ罪ヲ犯
サシムルコトヲ曰的トシテ金品其ノ他
ノ財產上ノ利益ヲ供與シ又ハ其ノ申込
若ハ約束ヲ爲シタル者ハ五年以下ノ懲
役又ハ禁錮ニ處ス情ヲ知リテ供與ヲ受
ケ又ハ其ノ要求若ハ約束ヲ爲ジタル者
亦同シ
第六條前五條ノ罪ヲ犯シタル者自首シ
タルトキハ其ノ刑ヲ減輕又ハ免除ス
第七條本法ハ何人ヲ問ハス本法施行區
域外ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ亦之ヲ適
用ス
附則
大正十二年勅令第四百三號ハ之ヲ廢止ス
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/31
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032・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 我國ニ於キマ
シテ、無政府主義者、共產主義者其他ノ者
ノ運動ガ近年著シク發展ヲ見ルニ至リマシ
テ殊ニ露國、獨逸ノ革命ニ關スル過激ナ
ル情報ハ一部ノ者ヲ刺戟致シマシテ、其運
動ヲ一層深刻ニ導キタルノ感ガアリマス
續イテ其一部ノ者ハ外國ノ同志ト通謀シ、
又ハ海外ヨリ資金ヲ仰ギ、過激ナル運動ヲ
計畫實行セントスル者ガアリマス、運動自
體モ組織的且ツ大規模ニ行ハレントスル所
ノ狀況ニ在リマス、而シテ最近各種ノ社會
運動モ漸次熾ナラントスルノ狀況ニ在リマ
スノヲ奇貨ト致シテ、是等ニ對シテモ危險
ナル思想行動ヲ鼓吹シ、以テ運動ヲ惡化セ
シメ、又ハ社會主義的過激運動ト提携セシ
ムルヤウニ努メツヽアルヤウナ次第デアリ
マス、加之日露ノ國交モ早晩囘復ヲ見ルニ
至ルコトト存ジマスガ、其結果ハ彼我ノ來
往頻繁トナリ、過激連動者ハ各種ノ機會ヲ
得ルニ至ルコトデアラウト思ハレマス、要
スルニ各種ノ社會運動ハ漸ヲ追ウテ旺盛ト
ナルコトデアラウト思ハレマスルシ、此間
過激ナル思想ヲ有スル者等ガ帝國ノ治安ヲ
紊ルノ目的ヲ以テ不穩ナル行動ニ出ヅルノ
傾向ハ益〓增加スベキモノト認ムルノ外
ナイノデアリマス、然ルニ是等ノ行動ニ對
スル取締法規トシテハ刑法、治安警察法、
新聞紙法、出版法等ガ存シテ居リマスケレ
ドモ、其規定ガ不十分ニシテ、屢、危險ナ
ル行動ヲ全ク取締リ得ザル場合ガアリマス
ノミナラズ、其罰則ヲ適用シ得ル場合ト雖
モ〓ネ輕キニ失シマシテ、罰則ヲ賭シテ不
穩ナル行動ヲ敢行セシムルノ結果トナリ、
爲ニ取締ノ實ヲ擧グルコトヲ得ザルノ憾ガ
ナイデハアリマセヌ、以上ノ理由ニ依リマ
シテ本法案ヲ立案シタ次第デアリマスガ、
法案ノ內容ハ萬世一系ノ皇室ヲ奉戴シテ
居ル、帝國ノ此國體ヲ變革シヤウトスルヤ
ウナ事柄、又明治大帝陛下ノ大御心ニ依ッ
テ創定セラレタル、我ガ立憲政體ヲ變革シ
テ、議會否認ヲ爲スト云フヤウナ事ヲセン
トスルヤウナ事柄、又ハ私有財產制度ヲ根
本カラ否認シテ共產主義ヲ行ハントスルガ
如キ、我ガ國家組織ノ大綱ヲ破壞セントス
ルガ如キ、不法ナル結社-其謀議ト煽動
及敍上ノ犯罪ヲ醸成スベキ目的ニ出デタル
金品利益ノ授受ヲ禁ジテ、現今ノ過激ナル
社會的運動中ニ存スル最モ重大ナル危險
ト弊害トヲ尠カラシムルト同時ニ、一般社
會ヲ戒メ、不穩ナル行動ニ出ヅルガ如キ事
ヲ豫防セントスルノガ本案ノ趣旨デアルノ
デアリマス、願クハ愼重ニ御審議ノ上、本
案ニ御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ切ニ希望致
シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/32
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033・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ニ對シテハ多數
ノ質問通告ガアリマス、順次之ヲ許シマス
星島二郞君
〔星島二郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/33
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034・星島二郎
○星島二郞君 諸君、吾々ハ現政府ヲ信任
致シテ居ル一人デアリマス、普通選舉ヲ斷
行セントシ、貴族院改革ヲ致サントスル現
政府ヲ支持致シテ居ル一人デアリマス、然
ルニ其與黨ニ屬スル私共ガ突如此法案ニ、
而モ反對ノ意思ヲ以テ質疑ヲシナケレバナ
ラヌト云フコトハ洵ニ遺憾至極ニ存ズル
次第デアリマス(拍手)私ハ今日ノ此法案ニ
對シテ澤山ノ質疑ヲ致サレル方ガアリマス
ルカラ、極メテ自分ノ問ヒタイト思フ要點
ダケヲ伺ッテ見タイト思フノデアリマス、
第一ニ本法ヲ提出スル根本ノ意思、而シテ
現在政府ガ此日本ノ社會ニ對スル一種ノ思
想政策ヲドウ云フ風ニ一體考ヘテ居ラレル
カ、ドンナ風ニ一體セラレントスルノカ、
此根本ニ私ハ疑點ヲ持っテ居ルノデアリマ
ス、近時成程表面カラ見マスルト云フト、
如何ニモ思想ハ動搖致シテ居ル色ミナ社
會現象ハ不安デアル併シ私ハ發達スル所
ノ國家ハ常ニ動搖スルモノデアラウト思フ
ノデアリマス(拍手)其動搖ノ根源ニヨリ以
上向上シタト云フ若シ意思ガアルナラバ
其動搖ハ寧ロ歡迎致シテ宜シイト思フノデ
アリマス(拍手)死セル平和ハ望マナイ、月
ノ如キ世界ハ御互ガ望マナイ普通選擧ノ思
想ニモ、貴族院ノ問題ニモ、婦人ノ參政權
モ、奴隷制度ヲ否認スル此公娼制度ノ廢止
案モ、有ユル意味ニ於キマシテ其根源ヲモン
ト立派ナル社會ニシタイ、モットヨリ良キ
人間ラシキ生活ヲ營ミタイト云フ根柢ガア
ルカラ、普選ガ少々騷ガシクモ貴族院改革
ガ少々激烈ニナリマシテモ、其事態ハ御互
ガ歡迎センケレバナラヌノデアリマス拍
手)常ニ壓迫政策ヲ執ッテ居ル國ハ亡ンデ居
ル、衰へテ居ルヽ露西亞ノ「ピーターニコ
ラス」ハドウデアッタ、獨逸ノ「ビスマルク」
ハドウ云フ政策ヲ執ッタ、獨逸ノ最後ハド
ウデアル、今內務大臣ノ例示サレタ露西亞
獨逸ハドウシテ亡ンダカト云フ根本ニ至リ
マスレバ彼等ガ極端ニ壓迫政策ヲ執ッタ
カラ今日ノ狀態ニナッタノデアルマイカ、私
ハサウ云フ意味ニ於キマシテ、若シ日本ガ
歐米ノ例ヲ採ルナラバ英吉利ノ如キ、亞
米利加ノ如キ、實ニ此自由ヲ極端マデヤル
ガ宜シイ、英國ニハ現ニ共產黨ガアル、此
間モ實ニ英國ニ三百人四百人ノ共產黨ガ出
來テモソレガ爲ニ英國ノ國體ハビクトモ
スルノデナイト云フコトヲ現當局ガ言ウテ
居ルデハナイカ、私ハ日本政府ノ當局者ガ
サウ云フ風ナ度胸デアッテ欲シイノデアル
亞米利加ハ普通選擧ヲ施行シテ相當年月ガ
經ッテ居ル亞米利加ハ極端ニ自由デアル
其亞米利加ノ自由ノ中ニ今日社會黨ハ一向
諸君振ハナイデハナイカ、ソレハ自由デア
ルカラ宜シイノデアル、欝憤ガ晴ラセルカ
ラ宜シイノデ露西亞ヤ獨逸ノヤウニ之ヲ
壓迫シタラ、却テ反撥的ニ斯ウ云フ團體ガ
醸成サレルノデアリマス、私ハ一體日本ハ
今日ノ佛〓ガヤッテ來タ、儒〓ガヤッテ來タ
ソレ等ノ佛〓ヤ儒〓ノ其思想ノ根源ニ至レ
バ隨分日本ノ國體ヤ政體ニモ合致シナイ
モノガアルカモ知レヌケレドモ、之ヲ十分
消化シ盡シタ御互尊イ光榮アル歴史ヲ持シ
テ居ルノデアル(ヒヤ〓〓)政府ハモウ少シ
日本國民ヲ信賴シテ宜シイ、私ハサウ云フ
意味合カラ日本ガ此光榮アル歷史ヲ持チ、
殊ニ明治大帝ノ大御心ニ基イテ、明治ノ改
革以來今日ノ所謂立憲政治ガ布カレタノデ
アリマス、立憲政治トハ何カ、言論ノ自由
是ハ最モ重要ナルモノデアリマス、集會結
社ノ自由ヽ是ハ最モ自由ナルモノデアリマ
ス御互ガ既ニ經驗シ光榮アル歷史ヲ持チ
ナガラ、今此大正ノ御代ニ將ニ普通選擧ヲ
施行セラレ、貴族院モ改革セラレントスル
際ニ、何故ソンナニ慌テ、サウシテ之ヲ取
締ルヤウナ法規ヲ必要トスルカ、私ハ只今
ノ大臣ノ說明デハ十分ニ受取ラレナイノデ
アリマス、政府ハ此日本ノ光榮アル歷史ヲ
信ジ、日本ノ國民ヲ信賴シテ、モット自由
ニ、斯ウ云フ法案ヲ出サナイデ、自由ナル
此立憲政治ノ根本ニ復シテ、思想政策ノ樹
立ノ上ニ一體如何ナル考ヲ持ッテ居ラレル
ノデアルカ其根本ヲ承リタイノデアリマ
ス私ハ當初政府ガ出來マシタ時ニ、無論
此政府ハ普選ヲヤル貴族院ノ改革ヲヤ
ル此二大政綱カラ發スルモノトシマシテ
ハ當然現在ノ古臭イ新聞紙法ハ改正スル
ニ相違ナイ、現在ノ古イ所ノ治安警察法モ
改正スルニ相違ナイ、斯ウ云フモノガ進ン
デ普通選擧ヲ提出スル前ニ一體出ル筈デハ
ナイカ、今ニ新聞紙法ノ改正モ治安警察
法ノ改正モ出テ來ナイ時ニ、俄ニ未ダ十分
ニ三派ガ練ルニ練ッテ練ラナイ前ニ斯ウ云
フモノガ現レルト云フコトハ、私ハ洵ニ遺
憾デアリマス、故ニ今日ノ世相ヲ見マシテ
政府ハ思切ッタ自由ノ政策ニ出ヅル御意思
ハナイカ、今後如何ナル方針デ此日本ノ思
想此日本ノ社會現象ニ對スル態度ヲ執ラ
レルカ此根本ニ付テ十分ノ御說明ヲ先ヅ
第一ニ承リタイト思フノデアリマス、第二
番目ニハ此提案ヲサレマスマデニ、內務大
臣或ハ司法大臣ハ有志ト會見サレマシテ、
色々ノ說明ヲサレマシタ、是ハ過激法案ト
ハ全然違フノデアル、過激法案ノ如キ內容
ハ有ッテハ居ナイト云フコトヲ色々御說明
ガアリマシタガ、私ニ靜ニ之ヲ見マスレバ、
ドウシテモ往年憲政會ハ、殊ニ革新倶樂部
ハ此壇上ニ於テ、實ニ色々ナル奮闘激戰ヲ
シテ之ヲ葬ッタ、其歴史ヲ持ッテ居ル所謂社
會運動取締法案、其沿革ヲ持ヲテ居ルモノ
デアル、其變形デアルト云フコトハ是一
ドウシテモ私ハ否マレナイト思フノデアリ
マス、此歴史此沿革ヲ持ッテ居ル法案、而
シテ輿論ハ既ニ法文ノ文字ヤ或ハ字句ヨリ
モ、サウ云フ案ヲ出スト云フ其思想ノ根柢
ニ疑ヲ挾ンデ、文句ヤ條文ヨリモサウ云フ
案ヲ出スト云フ政府ノ方針ニ對シマシテ、旣
ニ反對ノ世論ガヤカマシイノデアリマス
之ヲ見テモ尙且ツ此普選ヲ斷行シヤウ、貴
族院ノ改革ヲヤラウト云フ內閣ニシマシ
テ、私共ノ、其他ノ部面ニ於テハ絕對ニ信
賴スル内閣ニシマシテ尙ホ之ヲ出サウト
言ハルヽハ、或ハ世上流布サレテ居リマス
ル現内閣ノ二大方針デアル成立ノ根本ト
モ謂フベキ卽チ普選ヲ能ク通サンガ爲ニ、
貴族院ノ改革ヲ完全ニ遂行センガ爲ニ、其
障礙ヲ突破スル一ノ手段トシテ、或筋ヨリ
交換的ニ何カ條件ヲ附ケマシテ、已ムナク
斯ウ云フ案ヲ出シタノデハアルマイカ、ソ
レナラバ多少私共モ同情スル點ガアルノデ
アリマス、然ラバ修正ノ如キハ思切ッテ修
正シテ宜イ、斯ウ云フ御意見デアルカドウ
カ此點ハ可ナリ世間ニ傳ハッテ居リマス
ルカラ明ニシテ欲シイト思フノデアリマ
ス第四番目ニハ-未ダ澤山ノ質疑者ガ
アリマスカラ、私ハ小サイ事ハ問ヒマセヌ
ガ、本法案ノ根本トモナッテ居リマスル三
ツノ字句ニ對シマシテ、御尋シタイト思フ
ノデアリマス、第一八第一條ニアリマス所
ノ「國體」ト云フ文字、日本ノ國民ニ國體ノ變
革、斯ウ云フコトヲ望ム者ハ一人モアルト
ハ信ジナイ、併シ假ニアルトシマスレバ
ソレハ今日ノ刑法デハ取締ラレザルヤ、又
「國體」ト云フ文字ガ所謂法文ニ現レントス
ルノハ是ガ初メテダガ「國體」ト云フ文字ニ付
テハ、今日大學ノ〓授ニスラ色々ノ議論ガア
ルガ、政府ハ一體之ヲドウ云フ風ニ解釋サ
レルノカ、具體的テ說明ヲシテ欲シイ現 2
彼ノ美濃部、上杉兩博士ノ憲法論爭ニ、國體
ト政府トハ區別ナシト言ッタデハナイカ、今
日尙ホ疑義アル文字ヲ使フノハ如何デアル
第二ハ「政體ト云フ文字デアリマス、政體
ノ變革ハ狹ク解釋シマスレバ是ハ立憲政
體所謂民選制度ニ依ル所ノ今日ノ議會制
度ノ變革ト云フコトニナルノデアリマセ
ウ、ケレドモ之ヲ廣義ニ解釋シマスレバ
樞密院ガ法制局ノヤウニヤカマシイ、アン
ナモノハ廢シテシマヘト云フコトハ、是一
卽チ政體ノ變革デアル貴族院ヲ廢スベシ
ト云フ若シ此運動ヲセンガ爲ニ結社ヲ造
ル言論ヲスル、是卽チ政體ノ變革デア
ル是ガ政體ノ變革デナイト云フコトハ
ドンナニ說明シマシテモ、此二字ダケヲ以
テハ到底ソレハ說明ヲシ切レナイ若シ斯
ウ云ウ法案ガ通過シマシテ、是ガ司法當局
ノ手ニ移ッタル場合ニ於キマシテ、廣イ意
味ニ解釋サレ、若シ貴族院ノ改革運動、或
ハ樞密院ヲ廢止スベシト云フヤウナコトガ
此法案ニ觸レマシテ、十年モヤラレルト云
フコトハ是ハ實ニ由々シキ日本ノ立憲政
治ヲ毒スルモノデアッテ、御互ガ未ダ立憲
政治ヲ布キマシテ漸ク三十有餘年、日本ノ
國體モ變ラナイ、日本ノ國體ヲ基礎トシ
テ、モットヨリ良キ政體ヲ造リタイト云フ
コトハ是ハ人間ガ進化スル、社會ガ進化
スル原則デナケレバナラヌ、ソレヲモ止メ
テシマフト云フコトハ是ハ所謂非常ナ非
立憲ナル文字デアッテ、此點ニ關スル明カ
ナル御說明ヲ願ヒタイト思フノデアリマ
ス、成程普通選舉ヲ斷行シ、貴族院改革ヲヤ
ラントスルヤウナ内閣ガアル場合、此立法
ノ趣旨ガ十分徹底シタル場合ニ於テハマ
サカ斯ウ云フ法案ガ通過シマシテモ、如何ニ
沒曉漢ノ裁判官デモ、貴族院ノ廢止、樞密院
廢止論ヲ以テ、十年ニ罰スルヤウナ者ハ無
イカモ知レナイガ、併シ此内閣ガ迭シテ、
反動內閣ガ天下ヲ取リマシテ、此條文ヲ楯
ニ取ッテ若シ言論ヲ壓迫シ、結社ヲ壓迫ス
ルナラバ-私ガ假ニ當局者トナッテヤル
ナラバ此法案ノ一條デ以テ、日本人大部分
ノ結社ヲ踏潰スコトガ出來ル若シ普通選
擧ガ布カレタ後ニ於キマシテ、無產政黨ガ
出來ルナラバ之ヲ解散シ之ヲフン縛ルコ
トモ出來ルノデアリマス、ダカラ斯ウ云フ
茫漠タル文字ヲ書カレルト云フコトハ最モ
遺憾デアリマス、內務大臣ハ之ニ對シテ如
何ナル考ヲ持ッテ居ラレルカ、第三ニハ所
謂「私有財產ノ制度」ト云フ文字デアリマス、
是モ先程來既ニ度と論議サレマシテ、有志
ノ會見ニ於キマシテ大臣モ御說明デアリマ
シタガ、鐵道國有ヲ斷行シタ日本ノ政治、
土地國有論ノヤカマシイ今日、電力國有
ノヤカマシイ今日、此國有ト云フモノガ此
私有財產制ニ反シタル制デアリ、共產ト云
フ言葉ニハ當ラナイケレドモ、其思想ノ根
本ニ於テハソレト同ジ所ノ意味デアルト
云フコトハ是ハ學說上否マレナイト思フ
ノデアリマス、私ハ寧口日本ノ將來ハ土地
國有、或ハ面白イカモ知レナイ、船舶ノ國
有、是モ面白イ、電力ノ國有、是モ面白
イ、ココガ宜イ宜イト計算シタ所ガ何ガ後
ニ殘ルカ、若シ學者ガ所謂經濟上生產ニ屬
スルモノハソレハ宜イ消費ニ關スルモノ
ハイケナイ、斯ウ云フ風ニ別ケテ見マスレ
バ家庭ノ基礎タル家屋ノ如キハ是レ最
モ大ナル消費財產デアリマスケレドモ、日
本ノ將來ノ社會ヲ本當ニ考ヘテ見マスレ
バ或ハ家屋ノ如キハ市營、國營ガ宜イカ
モ知レヌ、斯ウ云フ議論ヲ以テ御互ガ或ハ
國體ヲ作クテ其思想ヲ宣傳スル場合ニ、眞
ニ社會ヲ思ヒ、日本ノ將來ヲ思ウテヤル事
ガ却テ禍ヲシテ、十年ニ問ハレルト云フ結
果ニ相成ラヌカ(拍手)若シ司法當局ガ-
裁判官ガ狹ク廣ク此文字ヲ自由自在ニ使ハ
レタ際ニ於テハ、御互ハ非常ナ脅威ヲ感ゼ
ザルヲ得ナイノデアリマス殊ニ此「私有
財產」ト云フ文字ニ付テバ私有財產制ノ
根本ニ付テ考ヘルニ、日本ハ他ノ國ヨリモ
或意味ニ於キマシテ家族本位ノ國柄デア
ル此家庭本位、家族本位ノ此思想ヲ日本
ノ社會ニ合致セシメ、日本ノ政治ヲ能ク運
用スルコトニ依リマシテ、日本ノ國體ハ發
揮出來ルト思フノデアリマス、諸君、家庭
ノ本位、家族主義ノ根源ハ何デアルカ、ソ
レハ言葉ハマヅイケレドモ、一種ノ共產デア
ル家庭ガ平和デアレバアルダケ家庭ハ專
制デナイ、ソコニ日本ノ思想ガアル弘
斯ウ云フ意味ニ於テ、玆ニ日本ノ將來ノ思
想ニ於キマシテドウシテモ斯ノ如キ文字
ヲ採ルト云フコトハ非常ナ間違デアルト
思フデアリマス、第四番目ニ私ハ本案ノ第
二條ハ學問ノ〓究ヲ非常ニ障害スルコト
ニハナラナイカ、凡ソ大學ノ〓授ハ學問
ノ研究ヲスルノガ國家ニ命ゼラレタル所ノ
使命デアリマス、國家ニ關スル學問ヲスル
爲ニ極端ニ自由ヲ許サヌケレバナラヌ、其
爲ニハ進ンデ新シイ社會組織ヲ〓究シナケ
レバナラヌ、其組織ヲ〓究シマスルコト
ハ若シ本法ニ觸レルヤウナ心配ハ無キ
ヤ、先般我ガ全國高等學校ノ最モ純眞ナル
靑年達ガ社會學〓究會ヲ開キマシテ中ニ
ハ一二少シ脫線シタノガアッタカモ知レマ
セヌケレドモ、眞ニ今日ノ社會現象ヲ見テ
純眞ナル靑年ガ〓究シタイト云フノハ
是ハ慶ブベキ事デアリマス(「ノウ〓〓」)然
ルニ文部大臣ハ其當局ヲ通ジマシテ之ヲ解
散セシメ、福岡ノ高等學校デハ、二名以上ノ
學生ガ一緒ニナッテ社會學ヲ〓究シタラ、
嚴罰ニ處スル、放校ニ處スルト云フ、佐賀
ノ高等學校デハ書物ヲ燒イテシマハシタ、
鹿兒島ノ高等學校デハ或ル學生ヲ放校ニシ
タ熱心ニ純眞ナ心ヲ持チマシテ〓究セン
トスル是等ガ、若シ之ヲ壓迫シマスレバ、却
テ祕密ノ結社ヲ作リ、サウシテ純眞ニ〓究
スル者ハ之ニ觸レル心配ハ無イカ、是ニ於
テ日本ノ大學ノ〓授ハ新聞紙上其他ニ於
テ相當犠牲ヲ拂ッテ居ル私ハ第二條ハ殊
ニサウ云フ所謂學問ノ自由、〓究ノ自由ヲ
阻碍スル虞ハナキヤ、而シテ第三條ニ/開
動」ト云フ文字ガアル爲ニ、言諭機關、殊
ニ新聞紙ノ非常ナ脅威ナラザルヤ、私ハ以
上ノ四項ニ涉リマシテ、本案提出ノ根本ノ
政府ノ思想、思索、而シテソレニ起ル所ノ
字句ノ一二ニ付キマシテ、明快ナ說明ヲ聽
キタイト思フノデアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/34
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035・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 若槻内務大臣
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/35
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036・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 星島君ノ御質
問ノ第一點デアリマス所ノ人類ノ向上ヲ圖
ルニ付テハ思索ノ自由ヲ許シテ置カヌケ
レバナラヌト云フ御議論ニ對シテハ私モ
全然同感デアリマス、而シテ現內閣ハ思想
ノ〓究ニ付テ、壓迫的方針ヲ採ッテ居ルヤ
否ヤト云フ御問ニ對シテハ決シテ左樣ナ
考ハアリマセヌ、言論文章ノ自由ハ何所マ
デモ害セナイヤウニセヌケレバナラヌト云
フノハ現內閣ノ心掛ケテ居ル所デアリマ
ス(ヒヤ〓〓)唯〓併シ是ニハ一定ノ制限ガ
アリマス、國體ヲ破壞シテモ、經濟組織ノ
根本ヲ破壞シテモ言論文章ハ自由デアル
ト云フコトデハ國家ノ治安ヲ保ツコトハ出
來マセヌ(拍手)、ソレデアリマス故ニ言論
文章ノ自由ハ何所マデモ尊重致シマスケレ
ドモ、其害毒最モ甚シキモノハ取締シテ置
カナケレバナラヌト云フノガ、今日此治安
維持法ヲ提出シタ所以デアリマス、後ニ御
質問ニナッテ居ル事項ニ御答申上ゲルト、自
然ニ判リマス、此度ノ法律ガ抽象的ノ文字
ヲ使ハズシテ、國體ヲ變革スルトカ、政體
ヲ變革スルトカ、私有財產制度ヲ否認スル
トカ云フ具體ノ文字ヲ用キテ、決シテ瞹眛
ナ解釋ヲ許サヌト云フコトニ〓シマシタコ
トハ卽チ言論文章ノ自由ヲ尊重スル事デ
アッテ、若シ餘リニ〓括的、餘リニ抽象的
ノ文字ヲ用キテ居ルト議論ヲスル人、文
章ヲ書ク人ガ非常ナ不安ヲ感スルノデアリ
マスカラ、具體的ノ文字ヲ使ッテ、斯ノ如
キ人ノ言論文章ノ自由ヲ害セヌヤウニ努メ
タノガ、本法案ノ非常ニ意ヲ用キテアル所
デアリマス(拍手)第二段ノ御質問ノ普通
選擧ヲ實行シ、貴族院ノ改善ヲ圖ルト云フ
位ナ、此內閣ガ斯樣ナ法律ヲ出スト云フコ
トハ何等カ矛盾ガアルヤウニ御考ニナッテ、
何等カ他ノ勢力-威力ヲ受ケテ其擁スル
所トナッテ、斯樣ナ法律案ヲ提出シタノデ
ハナイカト云フ御疑念ガアルヤウデアリマ
ス、治安維持法ヲ制定シナケレバナラヌト
シタノハ、現内閣ガ成立シタ初カラ決心シ
テ居ッタコトデアリマス、昨年十二月ノ二十
二三日デアッタト存ジマスガ、豫算ノ內示
會ヲ開イテ各派ノ諸君ヲ招待シタコトガア
ルノデアリマス、其席上松田原治君カラ、
治安維持法ノヤウナ法律案ヲ提出スルヤ否
ヤト云フ御質問ノア夕時ニ、私ハ現内閣
ハ其法律案ヲ提出スル考デアリマスト云フ
コトヲ答ヘテ居ルノデアリマス、普通選擧
ノ法案ヲ方々デ寄査セラレタノハ其以後ノ
事デアリマス、其以前ニ於テ、旣ニ政府ノ
決心ヲ語ッテ居ルノデアリマスカラ、此法
案ガ決シテ他ノ勢力ノ壓迫ヲ受ケテ立案セ
ラレタモノデナイト云フ事柄ハ此事實ニ
依シテ明瞭デアラウト存ジマス、(拍手)第三
ノ御質問ノ國體ト云フ事ノ意味ガ明瞭デナ
イト云フ仰セデアリマス、國體ト云フノハ
前ニ申シタ通リ、帝國ノ國體ハ萬世一系ノ
天皇ヲ奉戴シタル常國ト云フ、是ガ日本帝
國ノ國體デアリマス、此金甌無缺ノ國體ヲ
變革セント企ツル者ガアルナラバ此法律
ニ依シテ取締ヲシナケレバナラヌ、斯ウ云
フノデアリマス、(拍手)政體ト申スノハ世
間學者ノ間ニモ、普通常識ヲ持シテ居ル者
ノ間ニモ、自ラチヤント決ソタ意味ガアル
ノデアリマス、立憲政體デアルトカ、獨裁
政治デアルトカ云フヤウニチヤント決ノタ
意味ガアル、常識ニ依ノテ世間ノ受取シテ居
ル意味ノ政體ト云フ意味デアリマス卽チ
我ガ日本ニ於テ今日日本ノ政體ガ如何ナル
モノデアルカト申セバ、卽チ立憲政體デア
リマス、代議政體デアルノデアリマス、之
ヲ破壞セントスル者ガアルナラバ、此法律
ニ依ッテ取締ルト云フノデアリマス、日本
ニ於テハ今日ハ二院制度デアリマス、ゑ
此二院制度ハ何所マデモ守ッテ行カナケレ
バナラヌト思ウテ居ルノデアリマス貴族
院ヲ廢止スルナドト云フ考ハ私ハ全然無イ
ノミナラズ、左樣ナ考ヲ懐クコトニ向シテ
全ク反對スル者デアリマス、併ナガラ貴族
院ヲ廢止スルト云フ議論ハ決シテ政體ヲ
變革スルト云フコトニハ相成ラヌノデアリ
やで、世界ニハ同ジ立憲政治ノ國ト雖モ一
院制度ノ國モアリマス、二院制度ノ國モア
リマス、一院制度デアルカラト云ウテ、其
國ガ立憲政體タルコトハ、チットモ妨ゲハ致
サヌノデアリマヌ(拍手)ソレデアリマスカ
ラ、私ハ貴族院ノ廢止ニハ全然反對スル者
デアリマスケレドモ、貴族院ヲ廢止スルト
云フ議論ヲ唱ヘタカラト云ウテ、決シテソ
レガ政體ノ變革ヲ唱ヘタモノデアルト云フ
コトハ言ヘナイノデアリマス、殊ニ樞密院
ヲ廢メヤウト云フコトニモ私ハ反對デアリ
マス樞密院ハ依然トシテ有シテ置ク方ガ
宜イト思ヒマス、併ナガラ世間デ樞密院ヲ
廢止シヤウト云フ議論ヲ唱ヘタカラト云ウ
テ、ソレハ決シテ政體ノ變革ヲ唱ヘタモノデ
ナイコトハ殊ニ〓瞭デアリマス(拍手)ソレ
カラ私有財產制度ノ否認ト申上ゲルノハ
是ハ詰リ財產制度ノ根本組織ヲ破壞シヤウ
十、斯ウ云フコトデアリマス、卽チ共產主
義ヲ行フコトデアリマス、鐵道ヲ國有ニシ
ヤウ、鎬山ヲ國有ニシヤウ、水力電氣ヲ國
有ニシヤウ、農耕地ヲ國有ニシヤウ、是ハ
私ハ決シテ私有財產制度ヲ否認スルモノデ
ナイト思ヒマス此法律案ニ於テハ決シ
テ左樣ナル事ガ籠ノテ居ナイノデアリマス
私有財產制度ノ根本ヲ破壞シテ、共產主義
ヲ行ハント云フ者ガ、卽チ私有財產制度ノ
否認ト云フコトニ相成ルノデアリマス本
法案ノ第二條ハ學者ガ〓究ノ自由ヲ持ツ
コトガ出來ヌコトニナリハセヌカト云フ御
疑〓デアリマス、本法案ハ只今申上ゲル俗
ノ言葉デ中上ゲレバ此法律ハ無政府主義、
共產主義ヲ取締ル法律デアルト言ッテモ
宜イノデアリマス、唯、無政府主義ト申シ
マシテハ共和政治ヲ主張シテモ矢張政府ガ
アル譯デアシソレデハイケマセヌカラ、
國體ノ變革ト云フ言葉ガ使ッテアリマスケ
レドモ、大體ノ見方ハ無政府主義、共產主
義ヲ取締ルト云フ精神カラ出デテ居ルノデ
アリマスガ、其事ヲ目的トシテ是ガ實行ヲ
協議シタ者ガ、本法案ノ第二條ニ依ノテ制
裁ヲ受ケルノデアリマス、學者ガ〓究ヲシ
タ所ガ、其事ノ實行ヲ目的トシテ世ノ中ニ
サウ云フ事ヲ言現セシメントシテ相談スル
ノデナイ限リハ決シテ本法案ニ依シテ妨
ゲラレルモノデナイノデアリマスカラ、此
點モ明瞭ニ申上ゲテ置キマス、尙ホ星島君
ノ質問ノ事項ニハアリマセヌケレドモ星
島君ノ持ッテ居ラルヽ疑念ニ關聯シテ、私ハ
玆ニ終リニ一言ヲ加ヘテ置クコトガ必要デ
アルト存ジマス、世間ニハ此法律案ガ勞働
運動ヲ禁止スルガ爲ニ出來テ居ルヤウニ誤
解シテ居ル者ガアルヤウデアリマス、此法
律ガ制定サレマスト、勞働者ガ勞働運動ヲ
スルニ付テ、何等カ拘束ヲ受ケルト云フヤ
ウニ信ジテ居ル者ガアルヤウデアリマス、
斯ノ如キハ甚シキ誤解デアリマス、勞働者
ガ自己ノ地位ヲ向上セシメルガ爲ニ勞働運
動ヲスルコトハ何等差支ナイノミナラズ、
私共今日局ニ當ノテ殊ニ內務省ハ其所管ノ
省デアリマスガ、左樣ナ事ニ向シテハ何等
拘束ヲ加ヘルト云フ考ヲ持タヌノデアリマ
ス、唯〓此問題ハ前ニ申上ゲル如ク無政府
主義、共產主義ヲ實行セントシテハイケヌ
ト云フ取締法デアリマス、勞働者ニシテ無
政府主義ヲ唱フルニ非ズ、共產主義ヲ唱フ
ルニ非ザレバ彼等ガ勞働運動ヲスル上ニ
於テ此法律案ニ何ノ拘束モ與ヘルモノデナ
イノデアリマス(拍手)此事ハ世ノ中ニ誤解
ガアルヤウデアリマスカラ、星島君ノ御質
問中ニハアリマセヌケレドモ、此際之ヲ述
ベテ本案ノ趣旨ヲ明瞭ニ致シテ置キタイト
思ヒマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/36
-
037・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 安藤正純君
〔安藤正純尹登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/37
-
038・安藤正純
○安藤正純君 私ガ此法案ニ付キマシテ質
問ヲ致シタイト思ヒマスル其一斑ハ星
島君ノ質問ニ依リマシテ、內務大臣ノ御答
ニ依ッテ解スルコトヲ得マシタカラ其點
ハ略シマシテ、尙ホ私ノ不明ニ思フ點ヲ簡
單ニ御尋ヲ致シタイト思フノデアリマス、
治安維持法ヲ政府ガ提出ヲセラレタイ云フ
コトハ共產土義、竝ニ無政府主義ヲ防遏
スルト云フ其桔神カラ出タト云フ今ノ內務
大臣ノ御答辯デアリマス、此國家ノ爲ニ害
毒ヲ流ス所ノ此兩主義ヲ防遏スルガ爲ニ
國家ノ前途ヲ思フ其精神ニ至ッテハ勿論私
モ同感デアリマス併ナガラ之ヲ防遏スル
ト云フコトニ對シマシテ、斯ノ如キ法律ヲ
嚴行スルト云フコトガ果シテ有利デアルカ
有利デナイカト云フコトハ大ニ攻究スベ
キ問題デハナイカト思フノデアリマス、先
年過激運動取締法案ガ議會ニ提出ヲセラレ
マシタ時ニ、是ハ時代錯誤ノ法律案トシテ
非常ニ不許判デアッタ、遂ニ會期ガ參リマ
シテ、審議未了ニ終リマシタガ、此治安維
持法モ思想ノ系統カラ言ヒマスルト、矢張
此思想ノ系統ヲ迪ルモノデアラウト思フ
尤モ前ノ法案ヨリハ餘程緩和セラレテ居リ
マスルガ、思想ノ系統ハ同ジデアルト思フ
ノデアリマス、殊ニ此議會ニ於キマシテ豫
算總會ニ於テ、新聞紙法ノ問題ヲ私ガ御尋
致シマシタ時ニ、若槻内務大臣ハ新聞紙法
モ今日ノ如キデハ自由ヲ束縛シ過ギテ居ル
カラ、此點ニ向ッテ改正スルノ意ガアル
內務省モ目下之ヲ調ペテ居ル但シ此議會
ニ提出スルコトガ間ニ合ウカドウカト云フ
コトハ問題デアルガ、政府モ改正ニハ意ガ
アルト云フコトヲ言明セラレテ居リマス、
サウシテ見レバ一方ニ新聞紙法ノ如キモ、
モット自由ニシヤウト云フ意思ガアルニ拘
ラズ、一面ニ此治安維持法ノ如キヲ急イデ
御制定ニナルト云フ、其思想ノ系統ガ私ニ
ハ分ラナイノデアリマス、要スルニ思想ノ
上ニ矛盾ガアリハシナイカト云フ點ニ付テ、
今一度御尋ヲ致シタイノデアリマス、第二
ニ我國ノ歷史ニ徵シマスルト我國位昔カ
ラ多クノ思想ヲ融和シ來ッタ國ハアリマセ
又、多クノ外來思想ガ皆我國ノ中ニ這入リ
マシテ、同化セラレテ居ルノデアリマス
只今星島君モ言ハレテ居リマシタガ、儒〓
ガ輸入シ來ッタ時モ、佛〓ガ這入ッテ參リマ
シタ時モ、將夕近ク基督〓ガ這入ッテ參リ
マシタ時モ、ソレ〓〓色とノ問題ガ起ッタ
ノデアル、併ナガラ皆是ガ渾然融和サレテ、
我國ノ國民思想ノ涵養助長トナッテ居リマ
ス、元來思想ト云フモノニ境ハ無イノデア
リマスルカラ、唯〓之ヲ喰止メヤウトスルノ
ハ是ハ無理デアル、私ハ唯〓此外來思想トカ
危險思想トカ云フモノハ、無理ニ止メヤウト
思ッテモ止マルモノデハナイノデアリマスカ
ラ、ソレヨリハ幾ラサウ云フ思想ガ這入ッテ
參リマシテモ、所謂此萬世一系ノ國體觀念ヲ
明徵スル所ノ思想ヲ、國民ノ間ニ强ク涵養
スルト云フコトガ一番デアラウト思フ、其
國體觀念ヲ確立スルト云フコトニハドウ
シタラ宜イカト云フト、ソコガ政府ト聊カ
所見ヲ異ニシテ居ルノデアリマス、政府ハ
其國體觀念ヲ崩スカラ斯ウ云フ法律ヲ拵ヘ
テ嚴罰ニ處スルト云フノデアリマスガ、私
ハ寧ロサウ云フコトヲスルヨリハ思想ヲ
大膽ニ解放シテミス、而シテ腹ノ底カラ自
由〓究ヲサセテ、其結果我ガ國民ヲシテ國
體ヲ自覺セシムルト云フ、斯ウナッテ來タ
時ニ本當ニ此義勇奉公ノ精神ト云フモノガ
腹ノ中カラ流露トシテ湧出デルノデハナカ
ラウカト思フノデアリマスデアリマスカ
ラ却テ斯ウ云フ法律ヲ拵ヘテ置クコトハ
事ニ依ルト寧口亂暴ナ危險思想ヲ懷イテ居
ル者ヲ助長スルヤウナ結果ヲ來ス憂ハナイ
カト云フコトヲ深ク憂フルノデアル、併シサ
ウ云フ者モアルカモ知レナイケレドモ、大
抵ノ者ハ嚴罰ニ處セラレルカラ止メテシマ
フダラウト斯ウ云フノデアルケレドモ、其
止メルト云フノハ罪ガ怖イ、七年ニナッタ
リ、十年ノ懲役ニナッタリシテハ堪ラナイ
カラ、一時止メルト云フノデ腹ノ底カラン
レハ止メテ居ルノデハナイノデアリマスカ
ラ、サウ云フ遣方デハ本當ノ國體觀念ノ確
立ハ出來ナイ寧口此國體觀念ヲ確立セシ
ムル爲ニハ腹ノ底カラソンナ無政府主義ヤ
共産主義ヲ止メサセナクテハイケナイ、止
メサセルヤウニ導クト云フコトガ必要デア
ラウト思フノデアリマス、ソレハ其爲ニハ、
斯ウ云フ法律ハ唯、目先ダケヲ一寸止メル
ト云フダケデ、本當ノ腹ノ中ハ却テソレガ
反感ヲ助長スルヤウナ結果ニナリハスマイ
カ、斯ウ云フコトヲ憂ヘルノデアリマシテ、
要スルニ私ハ國家ヲ憂ヘル、其精神ハー
而シテ此共產主義、無政府主義ト云フモノ
ヲ止メタイト云フ其精神ハ政府ト少シモ違
ハナイ、唯、ソレヲヤルノニ斯ウ云フ法律
ヲ茲ニ作ル方ガ宜イカ、作ラナイ方ガ宜イ
カ斯ウ云フコトガ見ル所ノ岐レル所デア
リマス私ハ餘リニ目ノ先ヲ抑壓スル斯
ウ云フ法律ヲ作ルト云フコトハ寧口事ニ
依ルト反感ヲ助長シ、斯ノ如キ惡運動ヲ助
長スル結果ニナリハシナイカト云フコトヲ
憂ヘルノデアリマスカラ、此點ヲ一應御尋
致シタイノデアリマス、最後ニモウ一ツ御
尋シテ置キタイ事ハ、政體ノ變革ト云フコ
トデル、ドウシテモ此法律ヲ作ラナケレバ
ナラヌト、斯ウ云フコトニ政府ガ御認ニナッ
夕時ニハ政體ノ變革ト云フコトニハ非常
ナ疑義ガアリマス、隨分廣ク解釋ガ出來ル、
而シテ言論ニ從事シテ居リマスル-單リ
勞働運動者バカリデハアリマセヌ、多クノ
言論ニ從事ヲシテ居ル者、新聞ニ從事ヲシ
テ居ル者ノ如キハ是ガ爲ニ却テ累ヲ及ポ
ス者ガ多ク起ッテ來ハシナイカト云フコト
モ考ヘテ置カナケレバナラナイ、ソコデド
ウシテモ此法律ヲ制定シナケレバナラヌト
スレバ、此政體ノ變革トカ、或ハ私有財產
ノ否定ヲスルトカ云フコトヲモット明確
ニ一々具體的ニ-一ツ何、一ツ何ト列擧
主義ニ、一々具體的ニ列擧スルト云フ御考
ハアリマセヌカ、如何デアリマスカ、此三
點ニ付テ御尋ヲ致シテ置キタイト思フノデ
ゴザイマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/38
-
039・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 若槻內務大臣
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/39
-
040・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 過日安藤君ガ
豫算總會ニ於テ新聞紙法改正ノ意思アル
ヤ否ヤト云フコトヲ御尋ニナリマシタ其
時ニ私ハ新聞紙法ニ付テハ若干改正ヲ要ス
ル所ガアラウト思ヒマスケレドモ、マダ調
査ガ出來テ居リマセヌカラ、此議會ニ提出
出來ルヤ否ヤハ斷言ガ出來マセヌト申上ゲ
マシタ、私ノ申上ゲタ趣旨ハ其意味デアリ
マシタガ、只今此處デ御述ニナッ夕所ニハ
稍〓敷衍シテアリマシタノデ、ソレ故ニ繰
返シテ、私ハ豫算總會ニ於テ御答ヲ申上ゲ
夕意味ヲ此處デ申上ゲルノデアリマスガ、
右ノ如キ答辯ヲ致シテ居ルノデアリマス、
其答辯ヲ致シテ居リマス事ト、此治安維持
法案ノ如キ法案ヲ提出スル事トハ考ノ上
ニ於テ大ナル矛盾ガアルヤウニ思フガ、如
何デアルカト云フコトデアリマシタガ、先
程モ大體ノ說明ヲ申上ゲルトキニ申上ゲテ
置キ、竝ニ星島君ニ御答スル時ニモ申上ゲ
テ置キマシタ通リ、此法案ハ最モ極端ナル
者ヲ取締ラウト云フノデアリマス最モ國
家社會ニ害毒ノアル者ヲ取締ラウト云フノ
デアリマス、其事柄ト新聞紙法ノ若干改正
ヲ行フト云フコトハ思想ノ上ニ於テ何等
牴觸スルコトノ無イ事柄ト私ハ信ジテ居リ
マス又同ジ御考ノヤウデアリマスガ、日
本ハ外來ノ思想ヲ咀嚼シテ之ヲ融合同化ス
ル歴史ヲ持シテ居ル、ソレデアルカラ如何
ナル考ガ外國カラ來テモ抛ッテ置イタナラ
バ自然ニ善イ所ニ是ガ同化セラレテ行ク
ノデアル、而モ餘リソレヲ抑ヘントスレバ
却テ反撥シテ效果ガ少イ自然ニ委セテ置
イタラバ各人ガ心ノ中カラ覺ッテ來ルカラ、
ソレガ宜シカラウト云フ御意見ノヤウデ
アッテ、第二段ノ御質問ガ出タヤウデアリ
ママ、併シ事柄ニ依ルノデアリマス、無政
府主義、共產主義ト云フヤウナモノヲ融合
同化シヤウト言ウタ所ガ、私ハ到底是ハ日
本ノ社會ノ根本ノ組織ニ於テ、融合ノ出來
ル事デナイト信ズルノデアリマス(拍手)斯
ノ如ク極端ナル者ハ矢張之ヲ防グノガ相當
デアルト思フ、又大體ニ於テハ餘リ壓迫シ
テ思想ヲ抑ヘ付ケヤウトスルノハ宜クナイ
ト云フ御論ハ私モ同感デアリマス、成ベ
ク思想ニ向シテハ寬容ナ態度ヲ執ル方ガ宜
シイ、是ハ御同感デアリマス、併シ無政府
主義、共產主義ニ對シテ寬大ナル態度ヲ執
ルト云フコトニシテ、其害毒ヲ國內ニ流サ
シムルト云フコトハ私ハ是ハ宜シクナイ
ト斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス(拍手)第
三ノ御質問ハ洵ニ申譯アリマセヌガ、モウ
一遍御繰返シヲ願ヒマス、ドウ云フ事デア
リマシタカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/40
-
041・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 安藤正純君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/41
-
042・安藤正純
○安藤正純君 第三ノ質問ハ此法律ガ無ク
トモ斯ノ如キ罪ハ刑法ナリ、或ハ治安警察
法ナリデ罰スレバ宜イト思フノデアル若
シ治安警察法ナドハ輕イトスレバ、之ヲ重
ク改正スレバソレデ用ハ足リハシナイカト
思フノデアルガ、併ナガラ讓ッテドウシテモ
共產主義ヤ無政府主義防遏ノ爲ニ此法律制
定ノ必要アリトスレバ此政體ノ變革ト云
フ所、或ハ私有財產ノ變革デアリマス
ガ、此點ヲモット具體的ニ一々條項ヲ擧ゲ
テ列擧ナサル御考ハアリマセヌカト云フコ
トヲ御尋シタノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/42
-
043・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君)(續) 私ハ此法
案ニ起草シテアリマスヤウナ政體ト云フ文
字ハ、洵ニ明瞭デアルト思ヒマス、日本帝國
ニ於ケル現在ノ政體ト言フナラバ立憲君主
政體デアリマス、ソレ故ニ立憲政體ヲ變革
スル者ノミガ之ニ適用セラレテ、其以外ノ
者ハソレハ關係ナイノデアリマスカラ、是
ヨリ明瞭ナル文字ハ無イト思フノデアリマ
ス、又私有財產制度ノ否認、私有財產制度
ヲ根本カラ破壞スルト云フナラバ私有財
產制度ノ否認ト云フ文言程明瞭ナル文言ハ
無イト私ハ思ウテ居リマス、併シ若シ安藤
君ニシテ、モット私ノ申上ゲルヨリ意味ガ
明瞭ニ現ハレルヤウナ文字ヲ御提供下
スッタナラバソレハ考慮致シテ見マスガ、
私ハ此原案ニ在リマス政體ノ變革、私有財
產制度ノ否認ト云フ言葉ガ一番明瞭デアツ
テ、是ヨリ明瞭ナル文字ハ只今ノ所デハ考
ヘ及バナイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/43
-
044・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 〓瀨一郞君
〔〓瀨一郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/44
-
045・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 只今種々ナル點ニ付テ、既ニ
質問ヲ盡サレテ居リマス、又詳細ナル點ハ委
員會ニ於テ伺フ機會モアラウト思ヒマス
ソレデ簡單ニ私ノ疑トスル大キナ問題ヲ四
點バカリ條項ヲ擧ゲテ御尋ヲ致シマス、第
一ハ此提案ヲ爲サル動機タル事實デアリマ
ス、大正十一年三月ニ彼ノ過激法ガ葬ラレ
マシテカラ既ニ三年、此間ノ日本ノ思想
運動、社會運動、勞動運動、總テ私共ノ見
解デハ段々温和ニナッテ居ルト見テ居ル
內務大臣ハ無政府主義、共產主義ノ言葉ヲ
容易ク御用ヰニナッテ世問ヲ威嚇セラルヽ
ケレドモ、內務大臣ノ恐レラルヽヤウナ團
體ガ、現存スルカドウカ、先般同僚山崎達
之輔君カラシテ、刑ノ執行ノ期日ニ付テモ
酌量ノ必要ガアルガ、今現ニ此法ヲ以テ處
斷サルヽヤウナ結社ガ有ルノデアルカ、無
イノデアルカヲ御尋ニナッタサウデアリマ
ス、ソレニ對シテ山岡刑事局長ハ祕密結
社ハ現ニ治安警察法デ處罰シテ居ル公然
ノ結社デ本法ニ觸レルヤウナモノハ無イト
御答辯ニナッタト云フコトデアリマス、改
メテ内務大臣ニ御伺致スガ、此法律ヲ作ン
テモ之ヲ適用スルヤウナ結社ナドガ、今現
在ニ有ルノデアルカ、無イノデアルカ、若
モ御發表ニ差支ラルヽナラバ、祕密會ヲ以
テ御聞キ致シテモ宜シイ、吾々國政ニ參加
スル者ト致シテハ洵ニ心配ニ堪ヘナイ、私
ハ無イト思ッテ居ルガ、內務大臣ハ如何ニ
モ有リサウナコトヲ言ッテ此法案ヲ御提出
ニナリマス、世ノ中ヲ嚇スモノデアルト私
ハ見テ居ル、(ノウ〓〓)本當ニ無ケレバ私
共モ諸君ト共ニ國家ノ爲ニ祝福スルガ、若
シアッタ場合ニ如何ニスルカソレ故ニ此
點ニ對シテ明ナル御答辯ヲ本議場ニ於テ御
願致シマス、ソレカラ第二ニ此提案ノ徑路
デアリマス、本來總理大臣モ內務大臣モ、
先年ノ過激法ニ付テハ御反對ノヤウニ拜
承致シテ居ル然ルニ玆ニ突如トシテ本案
ノ提出ヲ見タノデアル之ニ就テ世ノ中ノ
人ガ色々ナ推察ヲスルト云フコトハ是レ
無理カラヌコトデアル、星島君ノ御質問ニ
對シ、內務大臣ハ他ノ勢力ニ强要セラレタ
リト云フコトハ無イト仰シヤッタ、サモア
ルベキコトデアル苟モ國家ヲ預ッテ居ル
內閣ニシテ、他カラ强要サルヽト云フコト
ハ無イトハ思ヒマスルガ、他ノ方面カラ聞
キマスルト、彼ノ樞密院ニ於テハ治安維
持法案ハ提出スルノカドウガ、何時提出ス
ルノカ其内容ハドウデアルカト云フコト
ヲ度々質問シタト斯ウ云フコトデアリマ
ス本來樞密院ハ施政ニ關與シナイト云フ
立前デアル名ヲ普通選擧ノ法案ニ藉リテ
治安維持法案ヲ出スノカ出サヌノカ普
選案ノ討論ニ於テツレヲ質問スルト云フコ
トハ卽チ施政ノ關與デハアルマイカト私
ハ之ヲ心配スル、ソレ故ニ樞密院ニ於テ斯
ノ如キ質問應答ナカリシヤ否ヤ、殊ニ普通
選擧審議ノ場合ニ此質問ガ出ナカ。ツタカド
ウカ、此事ニ付テ明ナル御答辯ヲ願ヒタ
イ獨リ私ノ蒙ヲ啓クノミナラズ、天下ノ
疑ヲ解ク爲ニ必要デアリマス、第三ニ政府
ハ政體ト云フハ民選ノ議員ノアルコトガ政
體ダ、是ガ立憲政體デアルト、斯樣ニ說明ニ
ナッテ居ル、私共ノ信念デハ民選議員ガアル
ダケデハ眞ノ立憲政體デハナクシテ、此議
院ノ立法政策ニ依レバ如何ナル事デモ之ヲ
議シ得ルト云フノガ立憲政體デアル我國
ノ事デアリマスルカラ國體ノコトハ姑ク論
ジマセス、事政體ニ關スルコトデモ、私有
財產ニ關スルコトデモ、議會ヲ是認シテ
立法政策ニ依ッテ之ヲ行フ以上ハ之ヲ寬
容スルト云フコトガ立憲政體デハナイカ
(拍手)私ハ無論共產主義者デモナケレバ
無政府主義者デモナイ、唯〓併ナガラ議會
ノ立法ニ依ッテ所有權ニ關スル制度ヲ作ル
ト云フコトナラバ之ヲ許スト云フコトニ
我國ノ政體ガアル、是ガ出來ナイト云フコ
トハ卽チ却テ政體ノ變更デアル若シ政
體ノ變更ヲ文字通リ議スベクンバ本案ノ
如クニ財產權、所有權ノ事マデモ議會ノ立
法デ以テ之ヲ議スルコトガ出來ナイヤウニ
スルト云フ此法案コソ、我國ノ政體ヲ變更
スルモノデハナイカ、大正十二年ノ三月ニ
英吉利ノ議會ニ於テハ勞働黨ハ今日ノ資
本主義制度ハ天然資源ヲ十分ニ利用スル
コトニ失敗ヲシテ居リ、殊ニ多數國民ハ必
需品ヲ得テ居ラヌ、此失敗ノ原因ニ鑑ミ
テ、私有制度、生產分配ノ管理ハ漸次此
議會ニ於テハ民主的管理ヲ基礎トセル生
產的社會組織ニ向ッテ努力センコトヲ決議
スト云フ決議案ヲ提案シテ居ル、是ハ內務
大臣ノ言ハレル土地ノ國有ダケデモナシ
鑛山ノ國有ダケデモナイ、船舶動產ノ國有
ダケデモナイ、總テノ經濟組織ヲ民主的管
理ノ下ニ置クト云フコトヲ、漸次ヤラウデ
ハナイカト云フ決議案、贊否如何ニ拘ラ
ズ、斯ノ如キ決議案モ認容セラルヽト云フ
所ニ立憲政體ノ價値ガアル議會ニ於テ之
ヲ爲シ得ルト云フ以上ハ政黨ノ政綱政策
トシテモ之ヲ許サナケレバナラヌ、政黨ハ
結社デアル、今將來無產政黨ガ出來テ、斯
ノ如キ政綱政策ヲ以テ日本ノ議會ニ臨ミ
之ヲ議場ニ提出シヤウト云フコトヲ申スナ
ラバ、是ヲモ寬容スルト云フ所ニ明治大帝
ノ下サレタ憲法ノ精神ガ在ルノデハナイ
カソレガ我國ノ憲法ノ精神デアル以上
ハ、其精神ヲ打壞ス所ノ此治安維持法コソ
我國ノ政體ノ破壞ヲ企テルモノデハナイカ
ト私ハ考ヘルノデアリマス(ノウ〓〓)此點
ニ關シテ條理井然タル御答辯ヲ求メマス、
第四ニ本法施行ノ影響デアリマス、若シモ
第一ノ問ニ對シ、本法ガ實行サルヽト云ウテ
モ、只今之ヲ適用スベキ事案ガ無イト云フ
コトナラバサモアルベシ將來モ是ガ無ケ
レバ益〓仕合セデアル、所ガ本法ノ如キモノ
ガ制定サレテ、苟且ノ結社モ十年ノ刑ニ處セ
ラレ苟且ノ文章モ亦煽動ヲ以テ論議セラ
レ本案第六條ハ自首ヲシタ者ハ之ヲ無罪
ニスルト云フコトニ相成シテ居ル、是ハ何
カト申スト、彼ノ間牒-「スパイ」政略ヲ
使ッテモ宜イト云フコトニナル「スパイ」
政略ノ結果ハドウデアッタカ、警察、國家、
附キ物デアル星島君モ論ジ及バレタガ
露西亞ノ國ノ崩壞、獨逸帝國ノ倒壞、其本
ヲ質スト云フト自首シタ「スパイ」ヲ無罪ニ
シテ、憂國ノ士ヲ牢獄ニ投ジ、積リ積ル怨
ガ重ッテ遂ニ國家ノ組織ヲ破壞スルコトニ
ナッタ、此十年ノ刑ヲ以テ之ニ臨ミ、コノ々
イ」ヲ自由自在ニ頤使シテ、ソレデ我國ノ
將來ハ如何ニナルト田心召スカ、私共ハ我ガ
國體ノ變更ニハ無論異存ガアルケレドモ
安藤君モ言ハレタ通リニ、之ヲ防グニハ法
律ヲ以テスベキモノデハナイ、法律ハ固ヨ
リ萬能デハナイ、況ヤ思想取締ニ對シテハ
法律ハサマデ效力ノ無イモノデアル法律
ヤ國家ノ權力ヲ以テ國體ヲ維持シヤウ我
國ノ政體ヲ維持シヤウト云フコトハ洵ニ淺
墓ナ企デアッテ、今マデノ多クノ政治家ハ
悉ク之ニ失敗ヲ致シテ居ル一々此處ニ例
證ヲ取ルニハ及バヌ、今現在ニ治安警察法
デ處分シテ、ソレデ吾々ハ斯ノ如ク安全デ
アル明日カラ此法規ヲ作ッテ尙ホ安全ニ
ナルノカ、尙ホ危險ニナルカ、此法律施行
ノ結果ニ付テ内務大臣ハ如何ニ思召スカ、
私ハ法案ノ文字ニ付テハ種々疑義ヲ持ッテ
居リマス、併ナガラ提案者ノ說明ハ法律ヲ
執行スル者ノ參考ニハナラナイト云フ信念
ヲ持ッテ居ル、立法者ノ意思ハ法律ノ意思
ニアラズ、況ヤ今日代議政體ニ於テ、提案
者ノ說明ト贊成者ノ賛成スル意思トハ合致
シナイ場合ガアルノデアルカラシテ、內務
大臣ノ提案理由ト議員ノ賛成理由トニハ
齟齬ノアルコトガアリ得ルノデアリマスガ
故ニ、格言ニモアル通リニ法律ハソレ自身
ヲ以テ解釋スベシ、此法律ガンレ自身ヲ以
テ解釋セラレ、總テノ國體ニ關スル問題
政體ニ關スル問題國際聯盟ハ我國ノ天皇
ノ大權ヲ制限スルノ「レフエレンダム」ハ代
議政體ヲ破壞スルナドト申サレテ、日本ノ
國ヲ落シ穴ダラケノ國ニ爲サルヽト云フコ
トハ眞ニ國家ヲ愛セラルヽ政治家トシテ
ハ如何デアラウカ、かハ衷情ヲ披瀝シタル
御答辯ヲ求メル次第デアリマス(「答辯無用」
ト呼フ者アリ)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/45
-
046・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 若槻內務大臣
〔國務大務若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/46
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047・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 法案ガ成立致
シマスト直ニ此法律ニ依シテ制栽ヲ加ヘ
ル者ガアルカ否カト云フコトデアリマスナ
ラバ只今左樣ナ見込ヲ立テヽ居ル者ハア
リマセヌ、併シ目下無政府主義、共產主義
ト云フ思想ニ依ッテ、危險ナル考デ行動シ
テ居ル者ハ澤山アリマス、之ニ付テハ委
員會ニ於テ御要求アリマスレバ、十分ニ事實
ヲ說明スル積リデアリマス、提案ニ至リマ
ス間ノ徑路ニ付テ御尋デアリマス、今ノ總
理大臣竝ニ若槻ハ、貴族院議員トシテ此前
ノ過激社會運動取締法案ニ反對デアッタヤ
ウデアルガ、今日提出スルト云フコトハ
如何ニ辯解シテモ何處カラカノ勢力ノ强要
ヲ受ケテ居ルニ相違ナイト云フヤウナ御質
問ノヤウデアリマシタ、過激社會運動取締
法案中ニハ朝憲紊亂ノ事項トカ、社會ノ
根本組織ト云フヤウナ文字ガアリマシテ、
餘リ具體的デナカッタ、具體的デアリマセ
ヌト言論文章ハ大ニ其自由ヲ害セラルヽ
ノデアリマスカラ、私共ハ之ニ贊成スルコ
トヲ躊躇シタノデアリマス、此度ハ左樣ナ
〓括的ノ文字ハ一ツモ使ッテナイ總テ具
體ニシテアルノデアリマスカラ、全ク言論文
章ノ自由ヲ妨ゲルコトハ全クナイノデア
リマス、此點ハ能ク明ニシテ置キタイノデ
アリマス、而シテ樞密院ニ於テ此法案ノ內
容ヲ問ハレタカ、何時提出スルカト云フヤ
ウナ問答ガアッタカ否カト云フコトヲ此處
デ明言セヨト云フコトデアリマシタガ樞
密院ノ會議ハ總テ秘密デアリマスル故ニ
私ハ此處デ說明ヲ致スコトガ出來ヌノデア
リマス政體ノ革ト云フコトガ私有財
產制度ノ否認ヲ議會ガ議スルコトガ出來ナ
ケレバ、政體ノ變革ニナルト云フ御論デア
リマスガ、私ハ何處カラサウ云フ結論ガ生
ジテ來ルカ理解スルコトガ出來マセヌ拍
手)政體ノ變革卜云フノハ立憲政體ヲ變革
スルト云フコトデアリマス、ソレカラ此法
律ヲ施行シタナラバ其影響ガ如何ニナル
カト-此法律ヲ施行シタトキニ其影響ハ如
何ニナルカト云フコトデアリマシタガ、前
ニ申上ゲマシタ通リ、是ハ全般ニ於ケル取
締ヲスルノデアンテ、只今此處デドノ問題
ヲ制裁ヲ加ヘルト云フ考デ制定セントスル
ノデハアリマセス、唯一〓瀨君ノ申サレマ
シタ所ノ、法律ハ法律自體デ解釋スベシ、
立法者ノ意見ハ法律ノ意見ニ非ズト仰セニ
ナル點ニ付テハ一言ヲ申上ゲテ置カナケレ
バナラヌ、此法案ノ如キ洵ニ文句ガ明瞭ニ
シテ、一點ノ疑ナイト思フモノヲ、裁判官
ガ特ニ之ヲ曲ゲテ、〓瀨君ノ御心配ニナル
ヤウナ所カラ之ヲ持シテ行クト云フコトハ
私ハ全然ナイコトヽ思ヒマス、併ナガラ栽
判官ガ若シ此明瞭ナル法文ニ付テデモ、尙
且ツ疑ヒヲ挾ムナラバ其時ハ此帝國議會
ニ於テ之ガ論ゼラレ、然ル後結局決定セラ
レタトキノ意思ガ如何デアッタト云フコト
ガ最モ大ナル力ヲ持ツモノデアリマス、ソ
レヲ無視シテ裁判官ガ裁判スルナドト云フ
コトガアリマスレバソレハ裁判官ハ適當
ナル法律ノ解釋ヲ爲サヾルモノデアルト申
サナケレバナラヌト思フノデアリマス拍
き)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/47
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048・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 鳩山一郞君
〔鳩山一郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/48
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049・鳩山一郎
○鳩山一郞君 私モ本法ニ付テ三ツノ疑問
ヲ持ッテ居リマス、第一ト第二ノ疑問ハ普
通選擧法トノ關係ニ於テ、抱イテ居ルノデ
アル、第三ノ疑問ハ曾テ提出セラレマシタ
所ノ過激社會運動取締法、此關係ニ付テ
持ッテ居ルノデアリマス、第一ノ疑問ハ曾
テ大正八年、普通選舉法ノ議論ガ當議會ニ
現ハレマシタトキニ憲政會ノ諸君ガ二圓
ノ納稅資格ヲ以テ適當ナリトシテ、普通選
舉法案ニ反對ヲセラレタコトガアル其反
對ノ理由ハ今ヤ人心動搖ノトキ、普通選
擧法ヲ實施スルト云フコトハ極メテ危險デ
アル此人心動搖ノ治マル所ヲ見テ、然ル
後ニ普通選擧法ヲ實施スルモ遲クハナイデ
ハナイカ、私ノ丁度前面ニ坐ッテ居ラルヽ
所ノ齋藤隆夫君ノ口調ヲ以テ之ヲ言ヒマス
レバ風ノ吹キ模樣ヲ見、治マル所ヲ見テ、
然ル後ニ普通選擧法ヲ實施スベシト云フ御
議論デアッタト記憶致シテ居ルノデアリマ
ス、卽チ普通選擧法ト云フモノハ人心動搖
セザルトキニ提出スベシト云フ御議論デ
アッタ、本日普通選擧法ノ提出セラレ、卽
時斷行ヲ御議論セラルヽナラバ其前提ト
シテ人心動搖セザルト云フ事實ガ、確定セ
ラレテ居ルモノト考ヘテ居ルノデアリマス
ガ、若シ果シテ然ラバ何ヲ苦ンデ治安維
持法ヲ御出シニナルノカ、其理由ヲ最初ニ
御尋ヲ致シマス(拍手)第二ノ理由ハ若槻内
務大臣ハ選擧權附與ノ理由ハ政治能力ノ
有無ニ依ッテ決スベシト云ハレタ、之ニ對
シテ義務〓育機關ノ延長ヲ此理由ニ依ッテ
主張セラレタコトモアリマス、義務〓育ヲ
延長セズシテ既ニ政治能力アリトシテ、而
モ此普通選擧ト云フモノハ全ク無制限デ
アッテ、二十五歳以上ノ靑年男子總テ政治
能力アリトシテ普通選擧ヲ實施セラレント
スルノデアリマスガ甲ト乙ト御互ニ議論
ヲ聞イテ其是非ヲ判斷スル能力アル者ガ
之ガ多數デアルトシテ普通選擧法ヲ實施シ
テモ宜イト云フ御議論ヲ立テラレタノデア
ル斯樣ニ普通選擧法ガ無制限ニ實施スペ
シト云フ時代ニ於キマシテハ思想ヲ自由
ニ委スト言ッテモ、決シテ國家ニ不利益ヲ
來スコトガナイデアラウト云フ結論ニ到達
セザルヲ得ナイノデアリマス、此點ニ付キ
マシテモ若槻内務大臣ノ明快ナル御答辯ヲ
煩シタイノデアリマス第三ニ過激社會連
動取締法案、之ニ付キマシテモ先刻來若槻
內務大臣ハ、以前ノ法案ハ茫漠トシテ居ッ
タ、今囘ハ國體政體ノ變革、私有財產制度
ノ否認ト云フヤウナ具體的ノ事實ヲ列記シ
テ居ルカラシテ、今囘ノ法案ハ洵ニ字義明
暸デアルト申サレタノデアリマス、以前ノ
提案ニ就テ見レバ朝憲紊亂トカ、社會ノ
根本組織ノ破壞トカ云ヘバ是等ノ文字ダ
ケヲ切離シマシテ議論ヲ致シマシタナラ
バ或ハ疑ヲ挾ムカモ知レナイノデアル
併ナガラ朝憲ヲ紊亂スル、社會ノ根本組織
ヲ破壞スルト云フノニハ制限ガ附イテ居
タノデアル、卽チ外國人ト通謀ヲシテ朝憲
ヲ紊亂スル、外國人ト通謀シテ社會ノ根本
組織ヲ破壞スルト云フ文字デアリマシタナ
ラバ丁度今日此立法ノ主旨說明ニ依リマ
シテ、若槻內務大臣ガ玆ニ御述べニナッタ
議論ノ全部ト云フモノハ丁度外國人ト通謀
シテ朝憲ヲ紊亂スル、外國人ト通謀シテ社
會ノ根本組織ヲ破壞スルト云フコトニ結局
ナルノデアル、卽チ若槻内務大臣ノ說明ノ
全體、說明ノ精神ヲ酌ンデ取リマジタナラ
此治安維持法ト、前囘提出セラレマシ
タ過激社會連動取締法案トハ全ク同一ナ
モノデアルト言ッテ差支ナイノデアル其
過激社會運動取締法案ガ出タトキニ憲政
會ノ諸君ハ之ニ反對ヲセラレタノデアル
今日掌ヲ飜スガ如ク、其說ヲ變ゼラレタノ
ハ理由何處ニ存スルヤト云フコトニ疑ヲ懷
クノデアリマス、其變說ノ理由ヲモ伺ヒタ
イノデアリマス(拍手起ル)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/49
-
050・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 若槻内務大臣
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/50
-
051・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 鳩山君ノ御質
問ニ御答へ申上ゲマス、普通選擧ヲ行フヤ
ウニナッタ今日デアレバ、思想ハ健全ニナツ
テ居ルデアラウカラ、本案ハ必要ナイノデ
ハナイカト云フノガ第一問デアルヤウデア
リマス普通選擧ヲ實行シテ宜イ時期ニ今
日ハナッテ居ルト思ヒマス、是ハ〓育ガ普
及シテ居ル國民ノ智能ガ開發セラレテ居
ル、文化ガ進ンデ居ルト云フ點カラ見テ、
其時代ハ來ッテ居ルト思ヒマス、併ナガラ
其間ニ洵ニ困シタコトニハ意思ノ薄弱ナ
ル者ニシテ不健全ナル思想ヲ持ッテ居ル者
ガアルノデアリマスカラ、ソレデ此法律案
ノ必要ガアルノデアリマス、又第二點ハ普
通選舉ヲ實行スルヤウニナッタナラバ思想
ハ自由ニシテ置イテ宜カリサウナモノデア
ル、斯樣ナ取締ノ案ハ要ラナイノデアラウ
ト云フ御質問ノヤウデアリマス、是ハ第一
ニ御答ヲ致シマシタト同樣デアリマシテ、
普通選擧ヲ行ヒマスル時代ニ於テモ、洵ニ
遺憾ナルコトデアリマスガ、玆ニ一部ニ危
險ナル思想ヲ懷イテ居ル者ガアリマス以上
ハ本法案ノ必要ガアルノデアリマス第
三ノ御尋ノ過激社會運動取締法案ト本法案
トハ同樣デアルト云フ御見解、是ハ大變ニ
違シテ居リマス、其違シテ居リマスコトハ
先程比較シテ申上ゲタノデ明瞭デアルト存
ジマスルガ、尙ホ委員會ニ於テ詳シク其差
異ヲ申上ゲテ、兩案ノ違ッテ居ル所ヲ明カ
ニ致シマス(拍手起ル)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/51
-
052・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ニ田崎信藏君
〔田崎信藏君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/52
-
053・田崎信藏
○田崎信藏君 私ノ御尋セントスルコト
ハ既ニ二三ノ方ニ依ッテ盡サレテ居ッタノ
デアリマス、併ナガラ私ハ一二ソレニ付テ
補足シテ御尋シタイノデアリマス、若槻內
務大臣ハ大正十一年ノ過激思想社會運動ノ
取締法律案ニハ、具體的ナル文字ガナカツ
タ故ニ、今囘ノ治安維持法案ハ具體的ニ之
ヲ示サレテ居ルノデアル、斯樣デアリマス、
是レ私ガ立憲政治家トシテ斯樣ナル言辭ハ
私ハ詭言ナリト斷スル者デアリマス、何故
カト申シマスレバ其當時ノ憲政會諸君竝
ニ革新倶樂部ノ諸君ガ、此壇上ニ於テ論ゼ
ラレタ速記錄ヲ御覽ニナレバ、今日ノ日本
ニ於テ政治家タル正確ナル良心ノ所有者ト
シテハ、斷ジテ許サヌノデアリマス、幾ラ口
先バカリ國體ノ至善主義ヲ唱ヘラレマシテ
モ、事實ニ於テ國民ノ不平ヲ誘發スル如キ
コトガアッタナラバ、何等ノ效果ガナイノ
デアリマス、私ノ尋ネントスルコトハ、卽チ我
國ハ法治國トシテ法律ノ制定ハ敢テ歐米ノ先
進國ニ劣ラヌノデアリマス、サリナガラ最
初ノ出發ハ是レ歐米ノ模做デアルノデアリ
マス、斷ジテ創作的法律ハ獨立シテ無カツ
タノデアル外國ノ模倣ノミデアッタト私
ハ斷言シテ憚ラヌ者デアリマス、若シアル
ナラバ示シテ御覽ナサイ、此治安維持法案
ガ制定サレテ、必ズ內務大臣ノ言ハレタ共
產主義、無政府主義ガ取締リ得ルト信ジテ
出サレタノデアリマセウケレドモ、私ハ今
申ス如クソレハ反對ナル結果ヲ見ルト云フ
コトヲ私ハ惜ム者デアリマス、何ガ故デア
ルカト申シマスレバ十一年ノ過激思想社
會運動スラ-貴族院ニ於テ三年ノ刑罰デ
アッタノデアリマス、然ルニ今日ハ其刑罰
ハ十年ニナッタノデアリマス、罪ノ罰ガ殖
エル程、反對ニ犯罪者ガ殖エルト云フコト
ハ過去ノ我國ノ事實ニ徵シテ明カデアルコ
トハ、內務當局ガ御調ベニナレバ明カニナル
ト思ヒマス、其證據ハ私ガ申スマデモナク、
我ガ內務省ガ危險ナル思想トシテ調ベテ居
ル其事實ハ幾ラホドアルカ、內務省ノ調査
ト陸軍省ノ調査トヲ比較シタナラバ何レ
ガ大デアルカ、小デアルカ恐ラク內務當
局ノ思想ニ對シテノ調査ハ現在我國ニ於
テ第二流第三流ニ私ハ低下シテ居ルモノト
信ジテ居ルノデアリマス、此意味ニ於テ私
ハ內務當局ニ御尋スルノデアル先程ヨリ
政體ノ變革ハ、明治先帝陛下ノ吾々帝國臣
民ニ與ヘ給ウタ所ノ權利デアル吾々常ニ
此立憲政體ニ謳歌シテ感激シテ居ルノデア
リマス、併ナガラ内務大臣ノ言葉ヲ以テスル
ナラバ、明治先帝ノ御思召ニ背クモノハ卽
チ此治安維持法案デアルト云フコトヲ斷ジ
テ申ス者デアリマス(此時發言スル者多シ)
諸君靜ニ御聽キナサイ、明治先帝陛下ノ御
製ニ何ト宣ハセ給ウタカ(此時發言スル者
多シ)オ默リナサイ、「淺クトモセケバ溢ル
ル谷川ノ流レヤ民ノ心ナルラン」ト云フ御
製ガアル此御製ノ御思召ハ那邊ニ在ル、
今申上ゲマス如ク如何ニ其罪ヲ罰シマシテ
モ、思想ハ決シテ善導出來ルモノデハナイ
ノデアル、如何ニ內務大臣、司法大臣ガオ
偉イ方デアリマシテモ、諸君ガ施政上思想
ノ善導ニ付テ如何ナル力ヲ以テシテモ、恰
モ空氣ヲ斧ニテ打ツガ如キ結果ヲ見ルノデ
アル之ヲ以テ私ハ內務大臣ニ質問スルノ
デアル治安維持法ノ結果ニ付テ、今御尋
シタ事ハ御考慮ニナッテ居ルノカドウカ
私ハ唯。諸君ノ冷靜ナル御考慮ヲ乞フ者デア
リマス、昨是今非ハ現代ノ政治家ノ常ニ執
ル方法カハ知レマセヌ、併ナガラ危險思想
取締法案ニ於テ罪ガ輕カッタモノガ治安
維持法ニ依シテ其罪ガ十年ニナッタ理由、之
ヲ內務大臣ニ問フノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/53
-
054・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 若槻内務大臣
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/54
-
055・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 過激社會運動
取締法ト、今日問題ニナッテ居リマス所ノ
治安維持法トノ違ヒマスコトハ先程申上
ゲテ置イタ通リデアリマス、又其違ッテ居
ルコトハ此處デ何囘繰返シマシテモ用ノ無
イ事ト存ジマスカラ、是ハ委員會デ十分申
上ゲマス其他ハ田崎君ノ御意見デアリマ
シテ、私答辯スルコトヲ要セヌト思ヒマス
(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/55
-
056・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 此場合田崎君ニ御相
談致シマスガ、アナタノ御演說中頑迷-
固陋ノ貴族院云々ト言ハレマシタコトハ穩
當デナイト考ヘマスガ、御取消ニナリマスカ
〔「無用々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/56
-
057・田崎信藏
○田崎信藏君 只今議長カラ御注意ノアリ
マシタコトハ私ハ之ヲ取消シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/57
-
058・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 有馬賴寧君
〔有馬賴寧君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/58
-
059・有馬頼寧
○有馬賴寧君 私ハ只今提案サレマシタ治
安維持法ニ付キマシテ、細カイ事ハ委員
會デ質問スル機會ガアラウト存ジマスカ
ラ、唯と一點御尋ヲ致シタイト思フノデア
リマス、治安維持法ノ中ニハ、「國體」ト
「政體」、及「私有財產制度」ト云フモノガ同
ジ條文ノ中ニ入ッテ居ルノデアリマスガ、
是ハ決シテ其輕重ニ於テ同ジモノデアルト
云フ考ノ下ニサレタモノデハナイト信ズル
ノデアリマス、國體ハ司法大臣ノ御話ニモ
アリマシタヤウニ絕對ノモノデアル、併ナ
ガラ政體トカ或ハ私有財產制度トカ云フモ
ノハ是ハ絕對ノモノデハナイト云フ御話
ガアッタノデアリマス、其絕對ノモノデア
ル所ノ國體ト、絕對デナイ所ノ政體及私有
財產制度ト云フモノヲ、同一ニ取扱ハレル
理由ハ無イト私ハ信ズルノデアリマス、私
ガ御尋致シタイノハ國體ニ關スル問題デア
リマスガ、國體ノ變革國體ノ維持ト云フコ
トハ言換ヘテ見レバ皇室ノ擁護ト云フコ
トデアルト思ヒマス、然ルニ此治安維持法
ヲ制定スルコトニ依ッテ、吾々ガ日本ノ皇室
ヲ擁護シヤウトスルコトニ、何等カノ支障ヲ
來ス虞ガナイモノデアラウカト云フコトヲ
私ハ憂フル者デアリマス、勞働階級ノ靑年
ノ人々ノ曰ク、吾々ガ日夜殆ンド身體ヲ粉
ニシテ働イテ見テモ生活ノ安定ヲ得ル
コトガ出來ナイノニ、一方ニハ何等勞働モ
スルコトナクシテ、安逸ナル所ノ生活ヲ送
ルコトノ出來ル階級ガ澤山ニアルデハナイ
カソレハ果シテ何ニ原因スルノデアルカ
ト云フナラバ其靑年ノ人々ノ曰ク、ソレ
ハ現代ノ政治ニ於テ大ナル缺陷ガアルカラ
デアルト云フコトヲ言ッテ居ルノデアリマ
ス、此治安維持法ガ果シテ無產階級ヲ壓迫
スルモノデアルカドウカト云フコトハソ
レヲ私ハサウデアルト斷定スルノデハアリ
マセヌケレドモ、現在ノ無產階級ノ靑年ノ
人々ハ、確ニ此治安維持法ナルモノガ、無
產階級ニ對スル壓迫デアルト感ジテ居ルノ
デアリマス(「ソレハ誤解ダ」ト呼フ者アリ)
勿論ソレハ誤解デアリマセウ、併シ誤解ヲ
生ゼシメルト云フコトハ少クトモ政府ト
シテノ一ツノ失態デアルト思フノデアリマ
ス此誤解ヲ無クスルト云フコトガ勿論必
要デアルニ違ヒナイト思フノデアリマス
若シ此法律案ガ無產階級ニ對スル所ノ壓迫
デハナクテ、ソレガ誤解デアルト云フナラ
バ尙更私ハ之ヲ遺憾トスルノデアリマ
ス無產階級ノ人々ガ之ヲ所謂無產階級ニ
對スル壓迫ナリト感ジサウ誤解シタ場合
ニ、所謂其反撥トシテ行ク所ノモノハ何デ
アルカ、何處ニ其反動ガ行クモノデアルカ
ト云フコトヲ私達ハ考ヘナケレバナラヌノ
デアリマス、虎ノ門事件ニ付キマシテ、豫
算ノ分科會ニ於キマシテ、私ハ內務大臣ニ
皇室ノ警護ニ付テ御尋ヲシタコトガアリマ
ス、虎ノ門事件以來皇室ノ行幸啓ノ場合ニ
於テハ、其取締警護ニ付テ、何等カ考慮サ
レル所ハナイカト云フコトヲ御尋シタ時ニ、
別ニ考慮ハシテ居ナイト云フヤウナ御答辯
ガアッタノデアリマス、唯:ソレハ嚴重ニサ
レル、勿論嚴重ニサレルコトハ必要デアリ
マセウケレドモ、之ヲ擁護シ、之ヲ警護ス
ルト云フコトハ唯、徒徒巡査ノ數ヲ增シ、
憲兵ノ數ヲ增シテ、之ヲ警護スルト云フコ
トガ、警護ノ本旨デハナイト私ハ思フノデ
アリマス、隨テ日本ノ政治ト云フモノハ唯と
濫ニ斯ノ如キ取締ノ法律ヲ拵ヘテ、濫ニ取
締ノミヲ嚴重ニスルト云フコトガ政治ノ妙
諦デハナイト思フノデアリマス、勿論無產
階級ニ對スル所ノ壓迫ヲ目的トスル法律デ
ハナイノデアリマセウケレドモ、斯ノ如ク
感ジ、斯ノ如ク誤解スルト云フコトノ結果
ガ、果シテ如何ナル結果ヲ持來スカト云フ
コトヲ考ヘテ見ルトキ、治安維持法制定ノ
目的ト却テ反對スル所ノ結果ヲ生ジハシナ
イカト云フコトヲ、私ハ憂フル者デアリマ
ス、其點ニ付キマシテ内務大臣ノ御所見ヲ
承リタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/59
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060・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 若槻内務大臣
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/60
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061・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 有馬君ハ無產
階級ノ人達ガ本法案ノ規定ヲ誤解シテ居ル
コトニ付テ、御心配ニナンタヤウデアリマ
ス、私モ亦無產階級ノ人達ガ本法案ヲ誤解
シテ居ルコトヲ深ク憂ヘテ居ル者デアリマ
ス此法律案ハ初ニ申上ゲマシタ通リ、國
體ノ變革、政體ノ變革-少シ俗語デ申上ゲ
テ精密ナコトデアリマセヌケレドモ、無政
府主義ニ當ルヤウナ事ト、私有財產制度ノ
否認卽チ共產主義、此二ツノモノヲ取締ル
ト云フダケデ出テ居ルノデアリマス、ソレ
ヲ無產階級ノ人ガ、何カ自分等ガ主張スル
コトヲ此法律デ妨ゲラレハセヌカト云フ誤
解ヲシテ居ラルヽノデアリマス、ソレハ大
ナル誤解デアル、若シ彼等ガ無政府主義、
共產主義ヲ主張スル者デアルナラバソレ
ハ取締ラルヽノデアリマス苟モ國體ヲ變
革シ、政體ヲ變革スルト云フコトナシニ
私有財產制度ヲ根本カラ破壞スルト云フ考
ガナケラネバ、決シテ無産階級ノ人ノ運動
ヲ拘束スルモノデハナイノデアリマス拓
手)此所ハ洵ニ明瞭ナ點デアル、若シ誤解
ヲシテ居ル者ガアルナラバ、此議場ノ應答
ニ依シテ、ドウゾ誤解ヲ解イテ貰ヒタイト
思ウテ居ルノデアリマス、私モ有馬君ト同
樣ニ誤解ノアルコトハ洵ニ宜クナイト思ヒ
マス、ソレ故ニ努メテ誤解ヲ解クヤウニシ
テ居リマス、本法案ハ決シテ左樣ナ事ニマ
デ及ブモノデハアリマセヌ、無產階級ノ人
ガ適法ナル運動ヲスルコトニ向ッテ、決シ
テ拘束ヲ加ヘルモノデアリマセヌ、故ニ誤
解ガ解ケサヘスレバ、彼等ハ悠然トシテチソ
トモ心配セヌヤウニ相成ルコトヽ思フノデ
アリマス(拍手起ル)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/61
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062・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 原夫次郞君
〔原夫次郎君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/62
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063・原夫次郎
○原夫次郞君 諸君、私ハ只今議題トナッ
テ居ル法案其モノニ付テハ全ク白紙ノ意
見デアルノデアリマス先程來若槻内相ノ
答フル所ヲ拜聽致シテ居ッタノデアリマス
ルガ、此答辯ニ依リマシテ、又此法案自體
ヲ見テ幾多ノ疑問ヲ生ジタノデアル、ソコ
デ私ハ是マデ諸君ガ御質問ニナッタル以外
ノ點ニ付テ玆ニ疑ヲ披瀝致シマシテ、政府
當局ノ御答ヲ得タイノデアル、而シテ私ノ
問ハントスル所ノモノハ、多少科學的ニ、
法律的ナル疑惑デアリマスカラ、能ク政府
當局ニ於テ御留意ヲ願ッテ、若シ卽時ニ是
ガ答辯ガムヅカシイト云フコトデアルナラ
バ是ハ委員會ニ於テ御答ニナッテモ宜イ
ノデアル、私ガ質問セントスル所ハ何レモ
本案ニ付テノ大體論デアル、先ヅ第一ニ御
伺シタイノハ、若槻内相ハ先程來本案ハ極メ
テ多大ノ注意ヲ拂ヲテ、法文其モノニハ具
體的ナル文字ヲ使用シタノデアル隨テ若
シ後日ニ於テ裁判官ガ之ニ疑ヲ懷キ、若ク
ハ自分ノ言ウタコト以外ニ於テ裁判ヲ爲ス
ナラバ、ソレハ裁判官ハ非常ナル曲解ヲ爲
シ、誤ヲ爲スモノデアルト云フ御答辯ガ
アッタノデアリマスガ、誠ニ驚入ッ夕話デア
ル裁判官ハ政府提案者ノ提案ノ理由若ク
ハ意見ニ拘束セラルヽ者デハナイ從來ノ
法律ニ於テモ澤山其例ハアル結局斯ウ云
フヤウナ法律ニ於キマシテハ大審院ノ判
事ガ結局最後ノ權ヲ握ルノデアル內務大
臣ノ答辯其モノハ實際問題ニ至レバ毫
末ノ價値ハ無イト云フ結果ニナルノデアル
ソコデ先ヅ私ハ本案ニ付テ第一ニ、本法ノ
第一條デハ國體若クハ政體ノ變革ト私
有財產制度ノ否認トニ依リテ結社ヲ爲シタ
ル場合ニ於テ、犯罪ガ構成スル規定デア
ル所デ國家組織ノ大綱ヲ破壞セントスル
所ノ、例ヘバ邦土ノ僣竊デアルトカ、或ハ
天皇ノ大權ヲ制限セントスル所ノ行爲デア
ルトカ、或ハ立憲政體ノ要素タル帝國議會
ノ權限ヲ變更セントスル所ノ事項デアルト
カ、或ハ兵役ノ制度ヲ破壞セントスルヤウ
ナ事デアルトカ云フヤウナ、國家ノ大綱ヲ
破壞セントスル所ノ事項ヲ目的トシテ結社
ヲ爲シタル場合ニ於テハ何故ニ本法中ニ
之ヲ加ヘザリシカト云フコトノ點ヲ御伺致
スノデアリマス、此理由ト致シテハ刑法
デハ是等ノ事項ヲ揭ゲテ、而モ此目的ノ下
ニ暴動ヲ起サナイト云フト暴動ヲ目的トセ
ナイト云フト刑法ハ罰セナイノデアル、又
刑法デハ豫備若クハ是等ノ陰謀ヲ罰シテ居
ルノデアリマスケレドモ、併ナガラ豫備陰
謀ハ、何レモ暴動ト云フ其行爲ヲ目的トシ
テ居ル所ノ豫備陰謀デアッテ本法ノ結社
其モノニ付テハ刑法デハ之ヲ罰スル規定
ガ無イ、然ルニ本法ニ於テ-第一條ニ於
テ三箇ノ目的ヲ限定致シ、而シテ其中ニ是
ダケノ大キナ事項ヲ揭ゲル國家ノ大綱ヲ
破壞セントスル事項ニ付テハ何故ニ本法
ニ之ヲ規定セザリシカト云フコトヲ第一ニ
伺ッテ置ク、唯、以上申述ベタヤウナ事柄ヲ
今日罰シ得ルノハ、卽チ治安警察法ノ第二
十七條ニ依ッテ、祕密結社ヲ爲シタ場合ニ
於テ、始メテ之ヲ罰シテ居ルノデアルサ
ウスルト云フト此治安警察法ノ祕密結社
ノ罰則ナルモノハ御承知ノ如ク僅ニ六箇
月以上一年以下ノ輕禁錮デアル、サウスル
ト云フト政府ハ本案ヲ提出シテ、十年以下
ト云フ重刑ヲ規定シテ居ルニ拘ラズ、治安
警察法ニ於テ其祕密結社ノ規定ハ六箇月
以上一年以下ノ規定デアルカラシテ、其間
ニ非常ナル懸隔ヲ生ジテ居ル、然ルニ治安
警察法ノ改正案ヲ卽時ニ出サナイデ、唯〓本
案ノ此法律ダケヲ出スト云フコトハ現在
ニ於テ刑ノ權衡ヲ得ナイコトノ甚シイモノ
ガアルノデアル、何故ニ斯ノ如キ矛盾若ク
ハ不公平ナル法律ヲ制定セントスルモノデ
アルカ、之ヲ先ヅ御伺致スノデアル、第三
點ニハ本法ノ第一條ニ規定シテ居ル所ノ結
社其モノヲ、行爲トシテ處罰スル規定デア
ルノデアリマスルガ、何故ニ此結社前ノ陰
謀ヲ處罰スル所ノ規定ヲ置カナカッタノデ
アルカ、若シ此陰謀ノ規定ヲ置カナイトス
ルナラバ、此法律ニ依クテノ根本ノ趣意ヲ
沒却スルモノト謂ハナケレバナラヌノデア
ル一體此場合ニ於テ內務大臣ニ御注意願
ヒタイノハ治安警察法ニ於テハ秘密結社
ヲ處罰スルガ爲ニ、斯ノ如キ比較的輕イ刑
罰ヲ以テ臨ンデ居ルノハ卽チ此內務警察
ノ方デ是ガ取締ヲ爲シ、成ベク斯ノ如キ犯
罰ガ-大ソレタ犯罪ハ無イヤウニ之ヲ制
御センガ爲ニ、警察デ努力ヲ盡シテ居ラネ
バナラヌ事柄デアル然ルニ拘ラズ本法ニ
於テハ-此本法ノ趣意ハ卽チ此犯罪ヲ
無カラシムルコトヲ政府當局ハ考ヘナケレ
バナラナイノニ拘ラズ、旣ニ結社ヲ爲セ
バ-結社ヲ爲シタナラバソレカラ先ノ
實行力ニ至ッテハ非常ナル猛烈ナル勢ヲ
持ツ性質ノ犯罪デアルカラ-デアリマス
ルガ故ニ、若シ眞ニ此法律ノ趣意ヲ徹底ス
ルナラバ其結社前ニ遡ッテ、是等ノ陰謀罪
ヲ制御スルニ非ズンバ本法ノ本當ノ精神ヲ
貫クコトハ出來ナイノデアル、政府當局ハ
果シテ此陰謀罪ト云フモノヲ本法ニ處罰規
定ヲ設ケナイデ、唯〓結社ヲ爲シタト一ムフ
場合ニ之ヲ處罰スルト云フナラバ眞ニ之
ヲ取締ル意味デアルカ、實際ニ此結社ノ
起シタ場合ニ於テ、唯こ處罪スルト云フコ
トヲ能事ト爲スモノデアルカト云フ問デフ
リマス
〔「ソンナコトヲ言フト辯護士ガ廢シテ
シマフゾ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/63
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064・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 生方君、御靜ニ願ヒ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/64
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065・原夫次郎
○原夫次郞君(續) 諸君、諸外國ノ例ヲ見
テモ、例ヘバ佛蘭西ノ如キ、此犯罪ノ起ラ
ナイ前ニ犯罪ヲ宜シキニ制御センガ爲ニ
ハ幾多ノ法律ヲ出シテ居ル、其法律ノ中
デ、例ヘバ「パンド、アツソシアシヨン、ド
ウ、マルフイトール」ト云フヤウナ法律、此
法律ハ卽チ本法ノ如キ目的ヲ定メズシテ
而シテ何等ノ事實若クハ目的ヲ問ハズ結社
ヲ爲シタナラバ秘密結社ヲ爲シテ惡事遂
行ノ爲ニ働ク場合ニ於テハ是ハ非常ナ嚴罰
ニ處スル規定ヲ設ケテ居ルデアルカラ其
法律ノ中ニハ社會主義者モ無政府主義者
モ總テ取締ガ出來ルコトニナッテ居ル然
ルニモ拘ラズ本法ニ於テハ其根本ノ精神ガ
間違ッテ居ル、既ニ結社サヘシタナラバソ
レガ犯罪行爲デアッテ、結社セントスル者
ノ處罰規定ガナイノハ如何ナル理由デアル
カ、之ヲ御尋スルノデアル、第四ニハ先程
來若槻内相ハ此第一條ノ政體ヲ變革ス
ルト云フ事項ニ於テ、若シ貴族院廢止ノ如
キ議論ガ出タナラバ、是ハ本法デハ處罰シ
ナイノデアル、併ナガラ反對ニ若シ今日以
後ニ此直接ニ民選議員ガ餘リニ宜シキ行動
ヲシナイト假ニマア假定スル、世論ニ反ス
ル、ンコデ一院制度ヲ採用シテ、寧口貴族
院ト云フモノハ矢張今日デモ國民ノ代表デ
アル、卽チ六千万國民ノ代表デアッテ、若槻
内相ノ如キハ貴族院デハ常ニ貴族院議員
ハ吾々六千万民衆ノ代表デアルト言ハレタ
如ク、貴族院ノ各種ノ種類ノ人ガ各種ノ國
民ヲ代表セラレテ居ル、其一院制度ヲ採用
シテ、若シ衆議院ヲ廢止スルト云フヤウナ
議論ヲ爲シタ場合ニ於テハ矢張是ハ本法
第一條ノ違犯行爲ニナルカドウカ之ヲ御
尋致シタイノデアル(「ソンナ寢惚ケタ演說
ガ聽イテ居レルカ」ト呼フ者アリ)マア默。ン
テ聽キ給へ-第五點ハ若槻内相ハ此私有
財產制度ノ否認ニ付テ、土地國有論ト云フ
モノハ是ハ私有財產制度ノ破壞デハナイ、
否認デハナイ是ハ土地私有制度ノ根本ヲ
破壞スルモノデナイカラシテ、此法文ニハ
當嵌ラナイト云フコトヲ言ハレテ居ッタノ
デアル、何故此第一條ノ土地私有制度ノ根
本ト云フ文字ヲ此所ヘ入レナイノデアリマ
スカ、唯、私有財產制度ト云ヘバ-制度
ト云ヘバ吾々ノ所有權ノ基礎デアル所ノ
國家ノ構成要素デアル所ノ土地制度ノ此私
有財產制度ヲ國有ニ移スト云フ、-國有
ニ移スト云フコトソレ自體ト云フモノハ
私有財產制度ノ否認ニ非ズシテ何デアルカ
第六點ト致シテ-第六點ニハ此法案ノ第
一條ノ第一項ノ目的ヲ以テ、其目的タル事
項ノ實行ヲ〓唆シタル者ハ假令本法ニ〓
唆罪ノ規定ガ無イト雖モ、是ハ刑法ノ規定
ニ依ッテ當然ニ〓唆罪デ處刑ヲ受ケルモノ
デアル、然ルニ此〓唆罪ノ成立ノ上ニ、尙
ホ本法ニ於テ第三條竝ニ第四條ニ於テモ煽
動罪ト云フモノヲ認メテ居ル、此煽動ナル
モノハ〓唆ヨリカヨリ以上ニ非常ナル此脅
威ノ文字デアラネバナラヌ、卽チ〓唆罪ハ
刑法ニ規定シテアル所ノ如ク、先ヅ犯罪ヲ
實行セントスル所ノ者ヲ目當ニシテ、其人
ヲシテ犯罪ヲ實行セシムル所ノ意思ヲ注入
スルコトデアル、隨テ〓唆罪ノ成立ニハ数
唆シタトハ云ヒナガラ、實際ニ犯罪者ガ犯
罪ノ實行ヲ爲サナケレバ、〓唆罪ハ無罪デ
アル、〓唆罪ハ成立致サナイノデアル、
然ルニ拘ラズ此本法ノ三條竝ニ四條ニ於テ
ハ煽動ナル文字ヲ使ッテアリマスガ爲ニ、
犯罪者ガ實際其犯罪ヲスルトシナイトニ拘
ラズ、唯〓或種ノ行爲ヲ爲シ、煽動ヲシタ
ト云フコトニ依ッテ、直ニ處罰ヲ受ケルノ
デアル、極メテ是ハ曖昧ナル文字デアッテ
非常ナル危險ナル文字デアル一面ニ於テ
刑法ノ當然〓唆罪ノ成立スルト同時ニ、更
ニ又此煽動ト云フ隱レタル威力アル、非常
ナル脅威ノ文字ヲ使ッテ、後日斯ノ如キ煽動
ト云フ文字ガアルガ爲ニ、裁判官ガ例へバ
新聞記事ニ-此目的ト云フモノハ卽チ人
ノ頭ノ中ニ隱レテ居ル問題デアルガ故ニ、
此目的ト云フコトノ認定セラレ、而シテ唯〓
一片ノ新聞記事其モノデ以テ煽動デアルト
シテ、檢事ガ起訴ヲ爲シ裁判官ガ之ヲ罰
シタル場合ニ於テハ一體何トスルノデア
ラウカ、甚ダ危險千萬ナ法文デアルガ一體
何ノ爲ニ斯ノ如キ煽動ト云フ文字ヲ使用シ
タノデアルカ此點ヲ御伺ヒ致スノデアル
第七ニハ本法ノ第四條ニハ、煽動セラルベ
キ犯罪ヲ列擧致シテ、騷擾ト暴行、其他生
命身體又ハ財產ニ害ヲ加フベキ犯罪トアツ
テ、此中ニ脅迫ト名譽ト云フコトヲ除外數
シテアル理由如何、之ガ第七デアリマス
第八點ト致シテハ本法ニ於テ第一條第一
項ノ目的ヲ以テ、其目的タル事項ノ遂行ノ
爲ニ、第四條ニ掲グル騷擾暴行、其他生命
身體又ハ財產ニ害ヲ加フルガ如キコト以外
ノ手段ニ訴ヘテ、其遂行ヲ爲サシムルコト
ヲ目的トシテ、第五條ニ列擧スル利益供與
又ハ其申込若クハ約束ヲ爲シタル者、ヌ、
其情ヲ知リテ供與ヲ受ケ、又ハ其要求若ク
ハ約束ヲ爲シタル者ノ處罰規定ノ無イノハ
如何ナル理由デアルカ、之ヲ御伺ヒシタイ、
第九ト致シテハ本法ニ規定シテアル所ノ刑
罰ノ方面ヲ見ルト云フト、懲役刑ト禁錮刑
ト併置致シテアルノデアル、一體刑法ニ於
テモ、國事犯ノ如キ若クハ大逆罪ノ如キ
內亂罪ノ如キ、是等ノ犯行ニ對シテハ總テ
禁錮刑ダケヲ規定致シテ居ルノデアル又
諸君モ御存知ノ如ク彼ノ犯罪人引渡條約ナ
ル條約ニ於テモ、國事犯ニ付テハ引渡ヲ拒
ムト云フ規定ガアル然ルニ拘ラズ本法ノ
ヤウナ此刑罰規定ニ破廉恥罪ニ對スル刑罰
ヲ以テ臨ム所ノ懲役刑ヲ併置致シタノハ
如何ナル理由デアルカ、是ハ刑法ノ刑罰法
規ヲ紊ルモノデハナイカト云フコトノ質問
デアル、第十ハ本法ニ於テハ何故ニ本法ノ
附則ニ於テ卽時ニ施行スルト云フ附則ヲ設
ケナカッタノデアルカト云フ點デアリマス、
政府ハ此法案ヲ提出致シテ、此立法ヲ爲サ
ント致シテ居ル精神デアリマスルナラバ、
少シデモ早ク之ヲ制定致サナケレバナラ
ヌ、現ニ今日デモ吾々ノ手許ニ此法案ヲ受
取ッタノハ今日デアッテ、議院法ニ依ッテ二日ノ
案ヲ晒スコトスラモ避ケテ居ルノデアル、
然ルニ拘ラズ本法ノ附則ヲ見ルト云フト
本法ハ公式令ニ依シテー公布令ニ依ッテ二
十日ノ猶豫ノアル-猶豫ヲ置イテモ差支
ナイト云フ法律ノ立テ方デアル、吾々ハ其
理由ヲ解スルニ苦ムノデアリマス、第十一
ニハ本法附則ニ於テ、大正十二年勅令第四
百三號ハ之ヲ廢止スト云フ規定ニナッテ居
ル是ハ一體何タル事デアルカ、此勅令ハ
一昨年震災ノ場合ニ於テ、緊急勅令ヲ以テ
發布ニナッタル所ノ彼ノ流言蜚語ニ關スル
法律デアリマス、本法ノ如キ國家ノ重大ナ
ル刑罰規定ヲ設ケタルモノトハ違フ、取締
ノ一時ノ便宜的ノ法律デアル然ルニ拘ラ
ズ本法ヲ提出スル場合ニ於テ、斯ノ如キ法
律ヲ附則ト爲シテ廢止案ヲ規定致シテ居ル、
何故ニ政府ハ堂々トシテ此一時的ノ四百三
號ノ法律ハ法律デ別ニ之ヲ廢止スルト云
フコトヲ提案致サナイノデアリマスカ、是
ハ蓋シ本法ガ若シ議會ヲ通過セザル場合ニ
於テハ此四百三號ダケノ廢止案ガ直ニ通
過スルノデアルカラ、ソコデ斯ウ云フ兩天
秤ノ規定ヲ爲シテ、附則ト致シタモノデア
ルト思ハレルノデアルガ、一體如何ナル理
由ニ基イテ斯ノ如キ事ヲ致シタノデアル
カ最後ニ一體本法ノ主管ハ內務省デア
ルカ、司法省デアルカ、是ハ極メテ重大
ナル刑罰規則デアリマス、唯一時ノ取締
規則デハナイ、國體ヲヲ革シ、若クハ政
府ヲ變革スル無政府主義者ヲ取締ルト云
フ重大ナル法律案デアル然ルニ此提案
ノ理由ヲ見マスルト云フト、唯〓政府ハ一
時ノ帝國ノ治安ヲ紊ル目的ヲ以テ、不穩
ナル行動ニ出デントスル者ヲ取締リスル
爲デアルト云フヤウナコトヲ申シテ居ル
ノデアリマスガ、本法ニ規定シテアル所
ノ第一條ノ此事項ガ若シ實際ニ發生シ、
若クハ實際ニ本法規定ノ第二條、第三條ノ
規定ガ假ニ-斯ノ如キ不祥事ハ無イニ致
シマシテモ、若シ起ッタト致シマシタナラ
ソレコン大變ナコトデアル、其場合ニ
於テ勝テバ官事敗レバ賊デ、假政府ガ出來
ルト云フヤウナ重大ナコトニ-サウ云フ
コトハ斷ジテナイノデアリマスケレドモ、
法律ヲ審議スル場合ニ於テハ、ソコマデ注
意ヲ拂ハナケレバナラヌ、然ルニ斯ノ如キ
法律ヲ內務省ガ提案ヲ致シ、實際ニ於テ斯
ノ如キ事項ヲ取締ヲスルト云フノハ此事
實ノ現レナイ前ニ於テ、斯ノ如キ思想ヲ取
締リ、斯ノ如キ事實ノ起ラザランコトヲ制
禦スルト云フ眞ノ希望ガアルト云フコトデ
アリマスルナラバ內務當局ノ御手許ヲ拜
見セザルヲ得ナイ、內務當局ノ御手許ハ如
何デアル、我ガ日本ノ警察ノ遺方ハ如何デ
アルカ、幾ラ無暗ニ理想的ノ法律バカリ雨
ノ如ク降ラシテモ、之ヲ實際ニ行フ所ノ警
察官宜シキヲ得ナイ場合ニ於テハ、人權ハ
蹂躪セラレ、國家ハ却テ其爲ニ亂レルノデ
アル現ニ殷鑑遠カラズ、一昨年ノ彼ノ大
外レタ大逆事作ノ發生ヲ致シタノハ如何デ
アリマスカ、之ヲ取締ラザリシ所ノ此事實
ヲ未然ニ防ガナカッタノハ我警察ノ怠慢
デハアリマセヌカ、幸ニモ彼ノ時ニ-幸
ニモ彼ノ時ニ攝政殿下ニ於カセラレマシテ
ハ御無難デアッタノデアリマスルケレド
モ、彼ノ爲ニ若モ一朝事有ル場合ニ於テハ
我ガ警察ガ斯ノ如キ事ヲ爲シタト言ハレテ
モ仕方ガナイデハナイカ、之ヲ末然ニ防グ
コトガ出來ナカッタノデアル、又昨年ノ十
一月三日ノ出來事デアル警祝廳ニ於テハ
豫メ攝政殿下ノ參內ノ御警ヲ爲サナケ
レバナラナイ御通知ヲ受ケテ居ッタノデア
ル然ルニ攝政殿下ノ御出門前、僅ニ三分
ヤ五分前ニ其事實ヲ知ッタト云フコトデア
ルンコデ若槻内相ハ-若槻内相ハ幸ニ
モ御警備申上ゲルコトノ任務ハ盡シ得タト
云フコトデアルケレドモ、斯ノ如キ事ハ何
タル失態デアリマセウカ、蓋シ當時ニ於テ若
槻内相其者モ、攝政殿下ノ御手許へ恐懼措
ク所ヲ知ラズトシテ、辭表ヲ捧呈若クハ進
退伺ヲ出サレタニ相違ナイト思フ、若槻内
相ノ御手許ノ準備ハ、斯ノ如キ我國ノ警察
狀態デアル、然ルニコンナ法律ダケヲ立派
ニ作ノテ置イテ、之ヲ實際ニ行フ所ノ者ガ、
斯ノ如キ若槻内相配下ノ警察官デアルトス
ルナラバ吾々人民ハ之ニ對シテ危惧ノ念
ヲ懷カズシテ何ト申シマセウカ、要スルニ
以上ノ點ニ向ッテ十分ナル御答辯ヲ得タイ
ノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/65
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066・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 小川司法大臣
〔國務大臣小川平吉君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/66
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067・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君) 原君ノ御質問ニ
御答申シマス、第一條ニ於テ原君ノ御質問
ハ邦土ノ僣竊或ハ天皇ノ大權ヲ制限スル
トカ云フ種類ノ事柄ヲ何故處罰セヌカ、斯
樣ナ御趣意ト承知致シマシタガ、本法ハ國
家ノ根本ヲ紊ル所ノ者ヲ罰スルト云フ考デ
アリマス、卽チ國體ヲ變革シ若クハ立憲君
主政體ヲ變革スルト云フ如キ、此根本ノ問
題ニ對シテ特別ニ重キ刑罰ヲ設ケテ處分ス
ルト云フ趣意デアリマス、其部分々々ノ事
ニ付テハ今日之ニ對シテ特別ニ重刑ヲ科
スル必要ヲ認メテ居ラヌノデアリマス、第
二ハ今日ノ治安警察法ノ罰ト、今囘ノ治安
維持法ノ刑罰トノ刑期ガ、甚シキ相違ガアフ
テ權衡ヲ失スルト云フ風ナ御趣意ト承リマ
シタ、今日ノ治安警察法ノ規定ニ依リマシ
テハ、先刻來内務大臣ヨリ縷々述ベマシタル
ガ如ク、此危險ナル行動ヲ防止スルコトガ
出來ナイノデアリマス、故ニ治安警察法ノ
輕キ處罰ノ規定アルニモ拘ラズ、殊更特別
ニ法律ヲ設ケテ重キ刑罰ヲ科シ、仍テ以テ此
危險ナル行動ヲ防止シタイ、斯樣ナ考デア
リマスルカラ、此間ニ刑期ノ長短ニ甚シキ
差異ノアルト云フコトガ、卽チ本法ノ特色
トスル所デアルト御承知ヲ願ヒマス(拍手)
第三ハ本法ハ結社ヲ罰スルガ、結社ノ前ニ
陰謀ヲシタ場合ヲ何故罰セヌカ、斯ウ云フ
御趣意ノヤウニ承リマシタガ、是ハ第二條
ヲ御覽ニナリマスルト、此國體政體ノ變革
若クハ私有財產制度ノ否認ヲ目的トシテ、
其實行ヲ協議シタル者ヲ罰スルトアリマ
ス苟モ實行ノ目的ヲ以テ實行ヲ協議ヲ致
セバ罰スルノデアリマス、陰謀デアルト陽
謀デアルト問フ所ニ非ズ、總テ謀議シタル
者ヲ罰シテ居リマスカラ、此點ハ御安心ニ
ナッテ宜カラウト思ヒマス(拍手)ソレカラ
第四ノ政體ニ關係スルコトデアリマス、是
ハ先刻來內務大臣ヨリ御答ヲ申シタ通リデ
御質問ノ如キ事柄ハ無論本法ノ制裁ヲ受ク
ルモノデハゴザイマセヌ、第五ハ此所有制
度ノ一部分ノ變更ヲスルコト、卽チ例ヘバ
土地ヲ國有トスルト云フガ如キコトハ本
法ノ規定ニ係カルカドウデアルカト云フ御
尋ト承知致シマシタガ、是ハ財產制度ノ一
部分ノ變更デアリマスルカラシテ、無論本
法ノ制裁ヲ受クルモノデハナイノデアリマ
ス、本法ハ卽チ財產制度ヲ根本ヨリシテ否
認スル法文ニアリマス通リ私有財產制度
ヲ否認スル、所謂共產主義ヲ罰スルノデア
リマシテ、其一部分々々々ノ所有権ノ方法
ヲ法律ヲ以テ變更スル如キコトハ無論本
法ニハ係カラナイノデアリマス、第六ハ煽
動ヲ何故割スルカ、〓唆ノ程度マデ行カナ
イ者ヲ何故割スルカ、斯ウ云フ御質問ト承
知致シマシタガ、之ガ卽チ本法ノ特色デア
リマス、共產主義ヲ皷吹シテ之ガ實行ヲ圖
ルト云フガ如キ事柄ハ、或ハ人ヲ殺ストカ、
叩クトカ云フ、犯罪ヲ〓唆スル場合トハ違
フノデアリマス、此主義ヲ實行スル目的ヲ
以テ、其實行ヲ人ニ煽動スルト云フコト
ガ、卽チ國家ニ非常ナル危害ヲ及ボスノデ
アリマス、之ヲ取締リマセヌケレバ段々ト
全國ニ亙ッテ此共產主義ガ瀰漫シテ、十分
ニ人心ヲ惡化シテシマンテカラ後ニ至ッテ
ハ如何トモ致方ガナイ、故ニ實行ヲスル
考デ、其目的ヲ以テ其實行ヲ人ニ煽動スレ
バ之ヲ罰スルト云フコトガ今日ノ時代ニ
於テ最モ必要ヲ感ジテ居ル次第デアリマス
(拍手)何レ祕密會ニ於テ段々ト御話ヲ申上
ゲタイト考ヘテ居リマスルガ、今日澤山ナ
文書ニ依シテ、此犯罪ヲ犯シタ者ガ今日マ
デ澤山ニアル、卽チ煽動ヲ致シタ者、目前
我國ニ於テ最モ取締ノ必要ヲ感ズルノハ
卽チ此實行ノ目的ヲ以テ實行ノ煽動ヲシテ
居ル者ガ一番酷イノデアリマスカラ、〓唆罪
ヲ罰スル事柄トハ全然本法ハ別段ノ趣意
デ拵ヘテアルノデアリマス、ソレカラ第七
ハ暴行、騷擾、其他生命財產ニ對シテ此
共產主義等ヲ實行スル目的ヲ以テ、害ヲ加
ヘルヤウナ煽動ヲシタ者ノ罰スルト云フコ
トニ付テ、名譽ヲ毀損スルコトヲ煽動シタ
ル場合ニ何故罰セヌカ(「脅迫モ」ト呼フ者
アリ)脅迫トカ、名譽毀損トカ云フ事柄ハ
比較的間接デアッテ、今日ノ場合ハ直接ニ生
命財產等ニ危害ヲ加フベク煽動スル分ガ一
分番恐ルベキ狀態デアリマスカラ、故ニ其
點ヲ罰シテ、名譽若クハ脅迫ニマデ及バナ
カッタ次第デアリマス、成ベク是ハ狹クスル
所ノ考ヲ以テ、斯樣ニ甚シク恐ルベキ分ダ
ケニ對シテ、本法デ規定シタ次第デアリマ
ス、第八ハ忘レマシタガ簡單ニ一寸···発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/67
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068・原夫次郎
○原夫次郞君 第八ハ御手許ニアル第五條
ノ第一條第一項ノ目的ヲ以テ、其目的タル事
項ノ罪ヲ犯サシムルコトヲ目的トスル犯罪
其モノガ、之ニ脫カッテ居ル、ソレハ何故
脫カッデ居ルカト云フコトデアリマス、委
員會デモ宜シウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/68
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069・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君)(續) ソレデハ委
員會デ申上ゲマス、第九ハ本法ニ禁錮ノ外
懲役ノ刑ヲ設ケタノハドウカト仰シヤル
是ハ本法ノ犯罪ノ中ニハ、懲役ヲ以テ科スル
ノガ相當デアル所ノ犯罪ガ澤山アルノデア
リマス故ニ懲役ト云フ刑ヲ設ケタ、第十ハ
卽時ニ實行スルカドウカ、無論法令ノ規定
ニ依ッテ、公布ノ日ヨリ二十日經テバ法律
ハ效力ヲ生ズルノデアリマス、第十一ハ震
災ノ場合ニ發布ニナリマシタ勅令第四百三
號、之ヲ廢スルノニ附則トシテ廢シタノハ
甚ダ不都合デアルカノ如キ御口吻ニ伺ヒマ
シタガ、是ハ本案ヲ出シマスル以上ハ、彼ノ
勅令ハ不必要ニナリマスカラ、附則トシテ
之ヲ消滅セシムル譯デアリマス、又原君ハ
萬一本法ガ成立致サナカッタ場合ニハ此
勅令ヲ活カス考デヤッタノデハナイカト云
フ御話デアリマシタガ、別段左樣ナ考ヲ持ノ
夕譯デモアリマセヌ、併ナガラ假ニ否決ニ
ナリマスレバ、矢張勅令ハ活キテ存續スル
結果ニナルノデアリマス、當局者トシテハ
別ニ左樣ナ考ヲ持ッテヤッタ譯デハナイ、當
リ前ノ法律ノ例文トシテ今日新法ヲ出シタ
場合ニ、舊法ノ效力ヲ失ハシメルト云フ場
合ニハ附則ヲ以テ之ヲ規定スルコトガ最
モ相當デアルト考ヘテヤッタ次第デアリマ
ス第十二ハ所管ノ問題、是ハ內務省、司
法省、兩省ノ所管ニナッテ居ル次第デアリ
マス、其他警察官云々ノコトニ付テ御話ガ
アリマシタガ、是ハ御質問トハ認メマセヌ
カラ、答辯ハ申上ゲマセヌ(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/69
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070・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 山口政二君
〔山口政二君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/70
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071・山口政二
○山口政二君 多數ノ質疑者モゴザイマシ
タカラ、重複ヲシナイ程度ニ於キマシテ
要領ダケヲ御質疑致シタイト思ヒマス第
一ハ若槻内相ノ提案ノ御說明ニ依リマス
ト日露國交ガ恢復致シマシテ、彼我ノ往來
ガ盛ニナルカラ云々ト云フコトガゴザイマ
シタ、多分之ガ一ツノ動議ヲ爲シテ此法案
ヲ提案スルニ至ンタモノト考ヘマスガ、第
一條ニ於キマシテ私有財產制度ノ否認ト云
フコトハ共產主義ノ實行ダト斯ウ云フ風
ニ御說明ニナッテ居リマス、シテ見ルト政府
ハ我國ニ於キマシテ共產主義ガ實行サレル
モノデアルト信ジテ店ルヤウデアリマス
ガ、是ハ御承知ノ通リ露西亞ニ於キマシテ
モ、新經濟政策ニ於テハ共產主義ヲ實行シ
テ居リマセヌ、故ニ私ハ若モ之ガ一ツノ提
案ノ理由デアルナラバ我國ニ於テハ共產
主義ノ實行ヲセラレル虞ハ無イト信ズルガ
故ニ、第一條ノ私有財產制度ノ否認ト云フ
ヤウナ言葉ハ全ク無用ノ言葉デアルト信
ズルノデアリマス、此點ニ付キマシテ若槻
內相ノ御所見ヲ更ニ御伺ヒ致シタイノデゴ
ザイマス第二ハ此法案ノ目的デアリマス
ガ、是ハ祕密結社ノ取締及思想宣傳ノ取締
ト解釋シテ宜イノデアリマセウカ、祕密結
社ノ事ニ付キマシテハ他ノ議員諸君ヨリ
既ニ御質問ガゴザイマシタガ、私ハ思想宣
傳ノ取締ト解釋シテ宜キヤヲ御尋致シマ
ス例ヘバ煽動ト云フ言葉ハ大審院ノ判例
ニ依リマスト他人ノ感激ヲ利用シテ主義
ヲ宣傳スルモノデアルト云フコトニナッテ
居リマス、然ルニ政府トシテハ此議場外ノ
御說明デハアリマスケレドモ、煽動ハ宣傳
ニ非ズト言ッテ居ラレル、併シ煽動ハ矢張
宣傳ナリト解釋サレルノデアリマスガ判
例ニ依リマスト-シテ見ルト此第三條ニ
依ッテ言論機關其他社會連動家、是等ノ多
クノ者ガ此煽動ト云フ言葉ノ爲ニ、其取締
ヲ受クルコトニナルノデアリマス、サウシ
マスト煽動トハ宣傳ニ非ズト言フ御說明
デアリマスケレドモ、此點ニ付キマシテ玆
ニ明確ナル御答辯ヲ煩シタイノデコザイマ
ス、第三點ハ此法律ヲ提案スルニ至リマシ
タ必要デアリマスガ、政府ハ之ヲ祕密會ニ
於テ說明スル、若クハ委員會ニ於テ說明ス
ルト云フ御各辯デアリマスガ、此法案ノ提
出ノ必要ハ何デアルカ、如何ナル程度ノモ
ノデアルカト云フコトハ宜シク政府ヨリ
公明正大ニ御發表ニナルノガ却テ宜イト云
フコトヲ信ズルノデアルガ、此點ニ付キマ
シテ、政府ノ御所見ヲ御伺ヒ致ス次第デア
リマス、第四ハ此法案ノ影響デアル此點
ニ付キマシテハ既ニ他ノ諸君ヨリモ御尋ガ
アリマシタケレドモ、其一トシマシテ此法
律施行ノ結果、政府ガ本當ニ取締ラウト云
フモノガ免レテ、眞面目ナル社會運動ガ阻
止セラレルヤウナコトニナリハシナイカ、
其二ハ政體ノ變革ヲ禁止シテ居ルノハ、他
ノ諸君ガ屢、〓御尋シタヤウニ、之ガ爲ニ政治
ノ進步進運ヲ阻止スルノ結果トナリハシナ
イカ、其三ハ政府ハ此法案ノ第一條ヲ以
テ、私有財產制度ト云フ言葉ヲ恰モ金科玉
條絕對ニ眞理ナルガ如ク裏書ヲサレテ居
ルヤウニ見エルノデアリマスケレドモ、此
點ニ付キマシテ果シテ政府ハ私有財產制度
ヲ金科玉條ナリトシテ誤ラザル眞理デアル
ト云フ意思ヲ持ッテ居ルノデアリマスカド
ウカ、是ハ將來ニ於テ屢、立法手段ヲ以テス
ル所ノ社會政策運動、是等ニ非常ナル關係
ガアリマスガ故ニ、特ニ政府ノ御所見ヲ御
伺シタイノデアリマス最後ニ此法案ハ第
一條ニ於キマシテ無條件ニ其運動ヲ取締ニ
ナルノデアルカ、他ノ諸君ノ御質疑ニモア
リマシタ如ク、立法手段ヲ以テスル合法的
ノ政體變革ヲモ取締ルノデアルカ、例ヘバ
政體ノ變革ト云フコトヲ立法手段ヲ以テス
ル場合、私有財產制度ニ付テ立法手段ヲ以
テ一部ヲ否認スル若クハ制限ヲスルト云
フヤウナコトヲモ取締ルノデアルカト云フ
コトヲ御尋致シタイノデアリマス、以上ヲ
以テ私ノ此質疑ヲ打切リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/71
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072・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 若槻内務大臣
〔粕谷議長議長席ヲ退キ小泉副議長代
リ著席〕
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/72
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073・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 御質問ノ第一
點ハ今日ノ露國政府ノ共產主義ト云ッテ
モ、新經濟政策ヲ執ッタ爲ニ若干ノ私有ヲ
認メテ居ルノデアルカラ、日露ガ往來ヲ頻
繁ニシタ所ガ、政府ノ憂フルヤウナ共產主
義ノ傳播ハ無イト思フガドウカト云フ御質
問デアリマス、私有財產制度ノ否認ト云フ
ノハ、大體ニ於テ私有財産制度ノ根本的破
壞ト云フノデアリマス、ソレ故ニ私有財產
制度ノ制度ノ認メナイト云フ中ニ、唯〓自
ラ働イテ得夕果實ハ其者ノ所有デアル、或
ハ身邊身廻リノ衣類等ハ其者ノ所有デアル
ト云フ位ナコトガアリマシテモ、ソレハ私
有財產ノ所有タルコトヲ妨ゲナイデアリマ
ス、卽チ今日ノ露國ニ於テ行ハレテ居ル共
產主義ハ現行法ニ只今私有財產制度ノ否
認トシテ取締ラントスル所ノモノニ正シ
ク當ッテ居ルノデアリマス、第二ノ御質問
ハ煽動ト云フノハ宣傳ト同一デハナイカ
ト云フ御質問デアリマス、煽動ト云フノハ
其事ヲ爲ス者ガ其事ヲ意識シテ居ッテ、更
ニ其事ノ實現スルコトヲ期待シ希望シテ、
他人ニ之ヲ勸メルト云フコトデアリマス、
ソレデアリマスカラ、唯〓事實ヲ流布シタ
トカ、唯〓事實ヲ宣傳シタト云フノハ、第
三條ノ「煽動」ノ中ニハ入ラヌノデアリマ
ス、第三ノ御質問ハ、此法律案ヲ提出スル
ニ付テハ洵ニ危險ナル事柄ガ澤山アル、
ンレハ委員會等デ能ク說明ヲスルト言ッタ
ガ、却テサウ云フ事ハ此公開ノ席上デ發表
シタ方ガ宜クハナイカト云フ御問デアリマ
ス、併ナガラ事柄事體ノ性質ニ考ヘマスル
ト、斯樣ナ公開ノ席上デ一々申述ベルコト
ハ私ハ宜シクナイト思ッテ居リマス、說明
ヲシナケレバナラヌナラバ祕密會議ヲ御
聞キニ相成リタイシ、又委員會ニ於テ祕密
會議ヲ御開キニナレバ十分此事實ハ說明
スル積リデアリマス、ソレカラ本案ガ若シ
成立シタ場合ニ於ケル影響トシテ、眞面目
ナル社會運動ヲ妨グルコトガアリハセヌカ
ト仰セニナリマシタガ、前ニ申上ゲマシタ
通リニ、本案ハ國體ヲ變革スル政體ヲ變
革スル、私有財產制度ヲ破壞スルト云フ事
柄ヲ取締ルノデアリマシテ、眞面目ナル社
會運動ニハ何等關係アリマセヌカラ、眞面
目ナル社會運動ハ決シテ之ガ爲ニ妨ゲラ
ルヽコトハ無イノデアリマス、影響ノ第二
點トシテ、政體ニ付テハ色々〓究スルコト
ガ必要デアルケレドモガ、サウ云フ事ヲ阻
止スルヤウナコトガアリハセヌカト云フ、
仰セデアリマシタ、政體ヲ破壞スル變革
スルト云フコトノ實行ニ付テ結社ヲスル
實行ノ相談ヲスル、ソレヲ煽動スル、ソレ
ガ爲メニ生ズル重大ナル犯罪ヲ煽動スルト
云フヤウナコトハ取締リマスケレドモ、政
體中ノ一部ニ付テ、殊ニ私ハ此「政體」ト云
フ言葉ニハ含マレテ居ナイト申上ゲル所ノ
今日ノ憲法上ノ統治組織ノ一部等ニ付テ〓
究ヲ致シマスコトハ決シテ此法律ガ制定
セラレマシテモ關係ハ無イノデアリマス
ソレカラ最後ノ御尋ハ私有財產制度ノ否認
ト云フコトニ大變重キヲ措イテ居ルガ、-
體今日ノ財產制度ト云フモノハ、是ガ一番
良イノカ、或ハモット良イ制度ガアルカモ
知レヌ、ソレヲ政府ハ之ヲ金科玉條ト見テ
居ルカ、斯ウ云フヤウナ意味デアッタヤウ
ニ思ヒマス、若シ私ガ只今申上ゲタノガ誤
解デアレバ別問題デアリマスガ、若シ其意
味デアリマスナラバ、今日ノ日本ノ社會組
織ノ根本、經濟組織ノ根本ハ、私有財產制度
在リト見テ居ルノデアリマス、之ヲ否認ス
ルト云フコトハ、是ハドウシテモ許スベカ
ラザルコトヽ認メテ居ルノデアリマス拍
手起ル)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/73
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074・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 靑木精一君
〔靑木精一君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/74
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075・青木精一
○靑木精一君 諸君、段々同僚諸君ノ質問
應答ヲ承ッテ居リマシテ、唯一點私ガ尙ホ
諒解ニ苦ム點ガアリマスノデ、一點ダケ政
府ニ向ッテ質問ヲ致シタイノデアリマス、
本案ニ付キマシテハ、私ハ大體ニ於テ其必
要ナルコトヲ痛切ニ感ジテ居ル一人デアリ
やっ、ソレハ內務大臣ガ提案ノ說明ノ中ニ
モ言ハレタ通リ、日露ノ交通ガ開始セラル
ル其一ノ事實ト、本案ノ取締ノ對照トナル
ベキモノハ茲ニ明知サレテ居ル通リ無政
府主義共產主義ノ實行ニ對シテヾアルナ
ゼ私ハ本案ノ必要ヲ痛切ニ感ジテ居ルカト
申シマスレバ、所謂日露通商ノ開始ヲ前ニ
致シマシタ今日ニ於テ、露西亞ノ共產黨政
府及第三共產「インターナシヨナル」ノ、平
生カラノ極東ニ對スル所ノ宣傳準備、宣傳
計畫、ソレ等ノ事ニ付テ頗ル憂ヘテ居ル者
デアルカラデアリマス共產黨第十二回大
會ニ於キマシテハ共產黨領袖デアル所ノ
「プフエーリン」ハ斯ウ云フコトヲ申シテ居
ル「東京植民地コン實ニ「プロレタリヤ」
ノ偉大ナル常備軍ニシテ我ガ共產黨ハ須ク
此常備軍ヲ世界革命ノ先頭ニ誘致セサルベ
カラズ」又「第三インターシヨナル」ノ議長
デアル所ノ、例ノ「ジエノヴイエフ」書簡事
件ヲ起シタル所ノ「ジエノヴイエフ」、此領
袖ハ斯ウ云フコトヲ演說シテ居ルノデアリ
マス「東方トノ接近ヲ頻ニカ說シテ目下
最モ重大ナル事實ハ束方問題ナリ、我國際
政策ノ本義ハ-我ガト云フノハ共產黨デ
アル-「プロレタリヤ」革命ノ最初ノ勝利
者タル「ソヴイエツト」共和國ヲ目覺メツツ
アル所ノ東方及我ニ依存シツツアル半植民
地的國民ノ間ニ行動ノ協調ヲ取ルコトデア
ル」ト言ッテ居ル、是ハ卽チ共產黨ガ支那、
印度、朝鮮、日本、是等ノ束方諸國ニ對シ
テ、東洋ガ目下思想問題、社會問題ニ付テ
目覺メツヽアル此間隙ニ乘ジテ、共產主
義ヲ鼓吹シテ、サウシテ此東洋ノ天地ニ於
テ共產主義ノ立脚地ヲ立テントスルノハ
是ハ共産黨ノ深イ所ノ豫定ノ行動デアッテ、
東方ニ對スル所ノ宣傳ト云フコトハ彼等ノ
有力ナル「プログラム」トナッテ居ルノデア
リマス、斯ウ云フ「プログラム」ト云フモノ
ハ既ニ世界ノ前ニ展開サレテ、何人モ承知シ
テ居ル筈デアル、我國ガ此時機ニ方ッテ
日露交涉ノ結果日露協約ノ成立ヲ見、日
露通商ノ開始ヲ見ルト云フ時ニ方シチ、吾
々ハ此共產黨ノ東方宣傳ト云フコトニ付
テ、深ク思ヲ致サナケレバナラヌノデア
ル然ルニ本法ノ第三條ニ於キマシテハ
「其目的タル事項ノ實行ヲ煽動シタル者ハ」
云々ト云フコトガアリマスガ、宣傳ト云フ
コトニ對シテ制裁ノ規定ガ設ケテナイ、宣
傳ト云フコトヲ除外シテアルノデアリマ
ス私ハ此點ニ付テ政府ノ的確ナル御說明
ヲ伺ヒタイノデアル、共產黨ノ仕事ノ最モ
有力ナル過程ハ宣傳デアリマス、巧妙ナル
所ノ方法ヲ以テ、微妙ナル所ノ働ヲ以テ宣
傳ヲ爲スノデアリマス、此宣傳事業ト云フ
コトガ、共產黨ノ最モ重要視シテ居ル所ノ
仕事デアル、其宣傳タルヤ或ハ祕密出版ヲ
以テシ、或ハ言論機關ヲ買收シ、印刷職工
ヲ買收シ、隱微ナル間ニ於テ、非常ニ人心ニ
投ジ易イ所ノ文句文章ノ組立ヲ巧ニシテ、
人心ニ喰込ンデ行クノデアリマス、此所謂
煽動ト云フ部類ニ入ルコトヲ避ケテ、非常
ナル微妙ナル反語ヲ用ヰテ宣傳ニ努メルノ
ガ共產黨獨得ノ技能デアル然ルニ此法
律ヲ見ルノニ宣傳ト云フコトヲ除外サレテ
居ル私ハ此「宣傳」ト云フ文字ガ、內地ノ
現狀ニ於テハ新間雜誌等ノ取締ノ上ニ「宣
傳」ト云フ文字ガ往々ニシテ逆用セラレハ
セヌカト云フ憂慮ハ、私モ深ク持ッテ居ルノ
デアル、ケレドモ苟モ無政府主義共產主義
ノ取締ヲセントスルナラバ此「宣傳」ト云
フ文字及其內容ヲ逸シタナラバ取締ノ徹
底ヲ缺クコトニナルノデアリマス、煽動ト
云フ表ニ現ルヽ所ノ行爲ノ外ニ、宣傳ノ力
ニ依ッテ民衆ニ傳播サレル所ノ其感化力、
其影響、其時ニ於テマダ宣傳ダカラ宜シイ
ト言ッテ居ッタナラバソレヨリ培ハレテ來
ル所ノ結果ト云フモノガ恐シキモノニナッ
テ來ルノデアルデアルカラ政府ハ唯こ
「煽動」ト云フ文字ヲ以テ宣傳マデモ取締ラ
レル考デアルカ、或ハ「宣傳」ト云フ文字ヲ
何等カノ理由ニ於テ玆ニ避ケラレタノデア
ルカ、私ハ此法律ノ效果ヲ完ウスルガ爲ニ
ハ共產黨ノ最モ重ジテ店ル所ノ此宣傳ニ
對スル所ノ取締ト云フコトヲ逸シタナラ
バ、此法律ノ效力發揮ノ上ニ非常ナル所ノ
支障ヲ來シハセヌカト思ヒマスカラ、政府
ノ御答辯ヲ望ム次第デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/75
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076・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 會議時間ヲ延長
致シマス
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/76
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077・若槻禮次郎
○國務大臣(若稅禮次郞君) 只今靑木君ガ
露西亞ニ於テ行ハレテ居ル思想ノ傳來ニ對シ
テ、御憂慮ニナリマシタ點ニ付テハ其精
神ニ於テハ私全然御同感デアリマス、併ナ
ガラ政府ガ此法案ニ於テ「宣傳」ト云フ文字
ヲ用ヰズシテ「煽動」ト云フ文字ニ致シマシ
テ、其事柄ノ實行ヲ期待シ、希望シテ、他
人ニ之ヲ勸メタ場合ニ限ッテ此重イ制裁ヲ
加ヘルコトニシテ、唯、宣傳シタリ流布シ
タダケノモノハ或ハ之ヲ治安警察法ニ讓
リ或ハ之ヲ新聞紙法ニ譲リ、或ハ之ヲ結
社ノ法規ニ讓クテ置キマシタ所以ノモノハ
宣傳ト云フ所マデ參リマスト、中ニハサウ
阻止シナイデ宜イ所マデ此法律ノ力ヲ及ボ
シテ、ソレガ爲ニ言論、文章ノ自由ヲ甚シ
ク奪ハナケレバナラヌコトニナル其虞ガ
大ニアリマスガ故ニ、精神ニ於テハ靑木君
ノ憂ヘラレル所ノモノハ政府モ亦憂ヘテ居
ル所ノモノデアリマスケレドモ、法規ヲ設
ケタル結果トシテ玉石倶ニ焚クト云フコト
ニ相成ッタノデハ、又其法規ノ弊ノ及、フ所
ガ餘リニ甚シク相成ルト存ジマシタ爲ニ
(拍手)ソコデ言論文章ノ自由ヲ尊重スルト
共ニ、甚シキ弊害ヲ杜絕シヤウト云フ兩者
ノ調和ヲ取ッタノガ、只今御質問ニナリマ
シタ「宣傳」ト云フ文字ヲ用ヰズシテ「煽動」
ト云フ文字ヲ用ヰタ所以デアリマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/77
-
078・山口政二
○山口政二君 議長発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/78
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079・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 山口君、何デス
カ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/79
-
080・山口政二
○山口政二君 只今若槻内相ハ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/80
-
081・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 一寸御待チ下サ
イ通告ノ順序ニ依シテ發言ヲ許可致シテ
居リマス、アナタノハソレガ了ヘマシテカ
ラ直ニ許可致シマス-前野芳造君
〔前野芳造君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/81
-
082・前野芳造
○前野芳造君 政府ガ此案ヲ提出サレマシ
タコトニ付テハ、其精神ニ於テ洵ニ贊意ヲ
表スル者デアリマス、然ルニ私共ノ憂ヘマ
スル所ハ、此法律ニ依ッテ取締ラントシマ
スル所ノモノハ普通ノ犯罪ニ非ズシテ、
元〓思想ニ關シマスルモノデアリマスルガ
故ニ、斯ノ如キ法律ヲ特ニ設ケテ豫メ之ヲ
抑壓スルト云フコトヨリハ、現在ノ法律ニ
依ッテ之ヲ取締リ、若シ現行法ニ於テ不備ノ
點ガアリマスルナラバ之ヲ補フコトニ致シ
テ、特ニ斯樣ナ法律ヲ設ケナイコトニ爲
サッテハ如何デアラウカト考ヘルノデアリ
マス、固ヨリ刑法其他ノ法律ガ直ニ本案ノ
如キ働キヲ爲スト云フ譯ニハ參リマセヌコ
トモアリマス併ナガラ私共ノ考へマスル
所ハ斯樣ナ法律ヲ設ケルコトガ、日露ノ國
交ノ恢復或ハ若干近代ノ思想ノ變化ナドニ
依ッテ、俄ニ急要ニナッタト云フコトガ、甚
ダ可笑シク考ヘルノデアリマス、只今モ內
務大臣ガ財產ノ果實ト云フコトニ付テ御說
明ガアッタヤウデゴザイマス、財產ノ果實
ニ付テ其爭ノ爲ニ私有財產制度ニ彼此レト
致スヤウナコトガアリマスルコトハナイ
トハ言ヘマセヌケレドモ、恰モ吾々ガ屢〓體
驗致シマスル所ノ勞働者ト資本家ノ間ニ於
テ、事業ノ利益ノ分配ヲ求メルコト卽チ
「プロフヒットシエア」ナルコトガ直ニ資本
主義ナルモノヲ破壊スルモノデナイト同ジ
コトデ、必ズシモ財產ニ依ッテ生ズル果實
ノ如何ガ、直ニ共產主義トナリ或ハ私有財
產制度ヲ破壞スルモノトハ信ジ得ナイノデ
アリマス私共ハ御趣意ニ付テハ同感致ス
者デアリマスルガ、斯樣ナ法律ハ今直ニ行
ハレナクトモ、マダ今後、日露ノ國交、其他
ノ實績ニ御覽ニナッテカラ、何等カノ施設
ヲ爲サルコトニシテモ、敢テ遲クハナカラ
ウト考ヘルノデアリマス、此點ニ付テ內務
大臣ノ御答辯ヲ願ヒタイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/82
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083・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 若槻内務大臣
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/83
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084・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 前野君ノ御質
問ハ初メ御述ニナリマシタ所ト、後ニ御述
ニナッタ所ト變シテ居リマスノデ、ソレ故ニ
御質問ノ要點ガ何處ニアリマスカガ、少シ
ク明瞭デアリマセヌ、併シ兩方ニ對シテ御
答申上ゲテ置ケバ、何レカガ當ルノデアラ
ウト思ヒマス、前野君ノ初メノ方ニ仰セニ
ナッタ御質問ハ、刑法其他ノ法律ニ遺漏ガ
アッテ此法律ヲ作ルト云フナラバ、寧口
斯ウ云フ法律ヲ作ラズシテ、其根本ノ刑
法ナリ、治安警察法ナリニ改正ヲ加ヘタラ宜
イデハナイカト云フ、御質問ノヤウデアリ
マシタ、ソレハソレデモ宜シイノデアリマ
ス、併シサウ云フ風ニ色とナ法律ニ改正ヲ
加ヘマスルヨリモ、一番必要ナル所ヲ明瞭
ニ此處ニ法律ニ現スノガ相當デアラウト思
ウテ本案ヲ提出シタノデアリマス、後ノ程
ニ御問ヒニナル所ノモノハ先ヅ露國ナド
ト交際ガ恢復セラレタナラバ、其結果ヲ見
テカラ本案ノヤウナモノヲ出シタラ宜カラ
ウ、其前ニハ斯樣ナモノヲ出スニ及バヌデ
ハナイカト云フヤウニ御仕舞デハ仰シヤツ
タ、是ト前トハマルデ違テ居ルヤウデア
リマスガ、二ツノ質問ナリトシテ私ハ之ニ
モ御答ヲ致シマス日露ノ國交ガ恢復ヲ致
シマスト云フト、兩國ノ人間ノ往來ガ頗繁
ニナリマスカラ、危險ナル思想ニ觸レル機
會ガ多クナリマス、ソレデアリマスカラ、
其事モ亦本案ヲ制定スル上ニハ考慮ノ一
ツニハナッテ居リマスケレドモ、ワレノミ
デ本案ヲ出スノデアリマセヌ、今日日本國
民ノ一部ニ於テハ洵ニ殘念デアリマスケ
レドモ、危險ナル思想ノ者ガアッテ、既ニ取
締ラナケレバナラヌ必要ニ迫シテ居リマス、
故ニ日露國交ノ恢復シタ時ヲ待ッテ、其結
果如何ヲ見ルト云フ譯ニハ參リマセヌソレ
カラ御質問ニハアリマセナカッタケレドモ、
先程私ノ答辯ノ中ニアッ夕事柄ヲ誤解ナスッ
テ、此所デ御述ニナリマシタ、是ハ申上ゲ
テ置キマセヌト云フト大ナル其處ニ世間ノ
誤解ヲ惹起シマスカラ申上ゲテ置キマス、
先程ノ御尋ニ露國ト雖モ今日ハ總テノ財產
ガ皆政府國有デアル譯デハナイ、其中ノ或
ハ自分デ耕作シテ得タモノハ其者ノ所有ニ
ナルトカ、其者ノ著テ居ル著物ハ其者ノ所
有ニナルトカ云フ風ニナッテ、近來ハ露國
ニ於テモ新經濟政策ヲ行ッテ、自己ノ働キ
デ得タ果實ハ矢張其者ノ所有ニスル、斯ウ
ナッテ居ルカラ、ソレ故ニ政府デ言フガ如
ク私有財產制度ノ全部ノ否認ト云フヤウナ
事ハ露國ニ於テスラモナイ、ソレダカラ
斯ウ云フ法律デハ何ニモ無イ事ヲ心配ス
ルヤウナコトニナッテ居リハセヌカト云フ
意味ノ御質問ニナル、ソレデ私ハ答ヘテ
私有財產制度ノ根本ヲ破壞スルト云フコト
ガモウ既ニ原則トシテ行ハレテ居ルナラ
、偶〓果實ダケハ私有權ヲ許スト云フダケ
ノ除外ガアッテモ、ワレハ矢張私有財產制
度ノ否認デアルカラ、是ハ取締ラナケレバ
ナラヌ、露國ノ現在ノ共產主義ノ如キモノ
ハ矢張日本ニ行ハレテハナラヌカラ、之
ヲ取締ル考デアル斯ウ申上ゲタノデアリ
マイ、ソレ故ニ小作人ト地主トガ、小作料
ニ付テ爭フナント云フコトハ、此方法ニ全
ク關係ノ無イト云フ事柄ハ之ヲ强ヒテ申
上ゲル必要ハナイト思ヒマス(拍手)発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/84
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085・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 山口政二君-
山口政二君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/85
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086・山口政二
○山口政二君 簡單デアリマスカラ-若
槻内相ハ私ノ最後ノ御尋ニ對シテ御答ガゴ
ザイマセヌデシタ、極メテ重要ナ點デゴザ
イマスカラ、御答ヲ願ヒタイノデアリマ
ス、若シ御聽落シデアリマシタラ、モウ一
遍繰返シマス、ソレハ第一條ニ於キマシテ、
無條件ニ政體ノ變革及私有財產制度ノ否認
ト云フコトヲ規定シテアリマスガ、之ヲ合
法的ノ手段ヲ以テ政體ヲ變革スルコトハ何
故ニ惡イノデアルカ又合法的ノ手段ヲ以
テ私有財產制度ノ制限若クハ一部否認ト云
フヤウナコトハ何故ニ惡イノデアルカト
云フ點ヲ御尋シタノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/86
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087・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 若槻内務大臣
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/87
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088・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 明治大帝陛下
ノ大御心ニ依シテ今日創定セラレテ居リマ
ス所ノ我ガ立憲政體ナルモノヲ、如何ニシ
テ合法的ニ變革スルコトガ出來ルノデアリ
マスカ、私ハ左樣ナルコトハ事實ニ於テ無
イト思フノデアリマス、ソレカラ私有財產
制度ノ根本ヲ破壞スルコトガ、卽チ此法律
案ニ依ッテ取締ラントスル所ノモノデアリ
マス、是ハ合法的ニ爲サルト云フコトヲ想
像スルコトガ出來ヌノデアリマス(拍手)
若、夫レ一部ノ私有財產制度否認ト云フ御
言葉ガ、例ヘバ水力電氣ハ國有ニスルト
カ或ハ鐵道ハ國有ニスルトカ云フコトデ
アリマスナラバソレハ合法的ニソレヲ爲
サルコトハ此法律案ニ依ッテハ何等坊グ
ルモノデハナイノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/88
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089・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 質疑ハ全部終了
致シマシタ、右議案ノ審査ヲ付託スベキ委
員ノ選擧ヲ議題ト致シマス、
右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ選擧発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/89
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090・作間耕逸
○作間耕逸君 本案ハ委員ノ數ヲ特ニ、二
十七名トシ、議長ニ於テ指名セラレンコト
ヲ望ミマス
〔「賛成」「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/90
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091・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郎君) 作間君ノ動議ニ
御異議ガナイト認メマス、仍テ動議ノ如ク
決シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/91
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092・作間耕逸
○作間耕逸君 重ネテ議事日程變更ニ關ス
ル緊急動議ヲ提出致シマス、卽チ議員、原
惣兵衞君、同佐藤重遠君ニ係ル懲罰事犯ノ
件ヲ此際特ニ上程シテ、一括議題トナシ、
懲罰委員長ノ報告ヲ求メ、其審議ヲ進メラ
レンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/92
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093・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 作間君ノ動議ニ
御異議ナイト認メマス、仍テ日程ハ變更サ
レマシタ、懲罰事犯ノ議事ハ祕密會ナルガ
故ニ、傍聽人ノ退席ヲ命ジマス
議員原惣兵衞君、同佐藤重遠君懲罰事犯
ノ件
〔午後六時三分祕密會ニ入ル〕
〔午後六時二十三分祕密會ヲ終ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/93
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094・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郎君) 是ヨリ會議ヲ公
開致シマス-傍聽人ノ入場ヲ許シマ
ス-佐藤重遠君ノ入場ヲ許可致シマ
ス-祕密會ノ結果ヲ報告致シマス、祕密
會ニ於テハ議員原惣兵衞君、同佐藤重遠君、
懲罰事犯ノ件ヲ議決致シマシク、仍テ其議
決ニ基イテ宣告ヲ致シマス、議員原惣兵衞
君ニ對シ、議院法第九十六條第一項第三
號ニ依リ、二週間ノ出席停止ヲ命ジマス
議員佐藤重遠君ニ對シ、議院法第九十六條
第一項第三號ニ依リ、二週間ノ出席停止ヲ
命ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/94
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095・作間耕逸
○作間耕逸君 殘餘ノ日程ニ對シテ延期ノ
動議ヲ提出致シマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/95
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096・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 作間君ノ動議ニ
ハ御異議ナイト認メマス、仍テ日程ハ延期
致シマシタ-諮問事項ガアリマス、佐々
木長治君病氣ニ付、二月二十一日ヨリ三月
二日マデ、吉松忠敬君病氣ニ付、二月二十
日ヨリ三月十一日マデ、中村貞吉君病氣ニ
付二月十九日ヨリ二月二十八日マデ、右
請暇ノ申出ガアリマシタ、許可スルニ御異
議ハアリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/96
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097・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ガアリマ
セヌケレバ許可致シマス、次ノ日程ハ公報
ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是ニテ散會
致シマス
午後六時二十六分散會
衆議院議事速記錄第十五號中正誤
頁段行誤正
二九八二三七蠶絲製造蠶種製造
二九九-一五食イ物良イ物
同二一七繭絲課蠶絲課
同三七出來タ出來ヌ
三一二九困難國難
三一四四三四「フイツシヤ「フツシヤ
ーガ」ー」ガ
三一五三二七東華塾桃花塾発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/txt/005013242X01619250219/97
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