1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
大正十五年二月二十五日(木曜日)
午前十時十八分開議
━━━━━━━━━━━━━
議事日程 第十五號 大正十五年二月二十五日
午前十時開議
第一 所得税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第二 大正九年法律第十二號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第三 地租條例中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第四 明治三十七年法律第十二號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第五 營業税法廢止法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第六 營業收益税法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第七 資本利子税法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第八 相續税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第九 通行税法廢止法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十 酒造税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十一 酒精及酒精含有飮料税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十二 麥酒税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十三 醤油税則廢止法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十四 自家用醤油税法廢止法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十五 織物消費税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十六 賣藥税法廢止法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十七 骨牌税法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十八 清涼飮料税法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十九 大正九年法律第五十一號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第二十 地方税に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第二十一 明治四十一年法律第三十七號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第二十二 大正十二年勅令第四百五號廢止法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十三 市町村義務教育費國庫負擔法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會
第二十四 小出柳津間鐵道敷設の請願 會議
第二十五 帝國在郷軍人會國庫補助の請願 會議
第二十六 木次落合間鐵道速成の請願 會議
第二十七 木次三次間鐵道敷設の請願 會議
第二十八 花巻驛より遠野町を經て釜石港に至る鐵道敷設の請願 會議
第二十九 初山別村に漁港修築の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=0
-
001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲシテ報告ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
昨二十四日獸醫師法案特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ
如シ
委員長子爵曾我祐邦君副委員長男爵小原駐吉君
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
大正十四年勅令第二百四十五號(承諾ヲ求ムル件)可決報告書
請願交書表第五囘報告書
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
大正十五年度歲入歲出總豫算案竝大正十五年度各特別會計歲入歲出豫算
案豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
農林省所管事務政府委員
農林書記官長瀨貞-君
青山市立山南小寺木発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=1
-
002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、通告順ニ依リマシ
テ發言ヲ許シマス、森田福市君
〔森田福市君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=2
-
003・森田福市
○森田福市君 本員ハ今日、上程ニナッテ居リマス所ノ稅制整理案ニ付キマシ
テ、大藏大臣ニ御尋ネシテ見タイコトガアルノデゴザイマス、稅制整理案ノ
御說明ハ昨日、大藏大臣ヨリ詳細ニ承リマシタノデ、相當ニ了解ガ參ッタノデ
アリマスルガ、尙ホ御說明中ニ於キマシテ、私ノ分ラナイ點ガ多々アリマスル
ノデ、其不明ナル點ニ付テ、大藏大臣ノ御答辯ヲ煩ハス次第デアリマス、昨
日ノ御說明中ニハ稅制整理ハ所謂社會政策ヲ加味スル意味ニ於テ中產階級以
下ニ對シテハ相當ニ負擔ヲ輕クシ、資產階級ニ向ッテハ負擔ヲ多クスルト云フ
ヤウナ意味デアリ、且廢稅及減稅ヲ一方ニヤリ、一方ニ於テ增稅若クハ新稅ヲ
設ケテ負擔ノ均衡ヲ圖ヲタト云フヤウナ御說明デアッタノデアリマス、サウシ
テ差引ノ點ニ於テハ約七百萬圓ト云フモノハ尙且不足ヲ生ズルト云フヤウナ
御說明モアッタノデアリマスガ、根本ニ於テ我〓ガ承リタイノハ、今囘ノ廢稅
ト減稅ト、一方ニ於テ增稅ト新稅トヲ起サレテ、差引ニ於テ當局ハ歲入減額ヲ
生ズルトノコトデアリマスガ、私ノ見ル所デハ差引ニ於テハ大變ナル增徵ニ
ナルヤウニ考ヘラレルノデアリマス、其點ハ數字ヲ擧ゲテ私ハ御尋ネシテ見
テ、サウシテ果シテ、ドチラガ當ヲ得テ居ルモノデアラウカト云フコトノ判斷
ヲ諸君ニ御願ヒシタイト思フノデアリマス、先ヅ第一ニ營業收益稅ニ付テ御
尋ネスルノデアリマスガ、營業收益稅法ノ第二條ニ於キマシテ、保險、運河、棧
橋船舶碇繫業、貨物陸揚業、或ハ鐵道等ナドハ全部、個人ハ免稅トナッテ居リ
マスガ、是ハ將來ニ於テハ、會社ニ向ッテデナケラネバ御許シニナラヌカノヤ
ウニ思フノデアリマス、現在ノモノデアッテ是ガ合資會社、個人デ經營
スルモノハ全然免稅ニナルト云フ譯デアリマセウカ、如何ナルモノデアリマ
セウカト云フコトデアリマス、是等ハ必ズ稅ヲ免レルト云フコトニナレバ、現
在合資會社ヲヤッテ居ル者ガ斯樣ナ事業ヲ解散シテ、匿名組合ナリ其他ノ方法
ヲ個人經營デヤッタナラバ、是モ稅金ヲ免レルニ易々タルモノデアラウト思ヒ
やく、是等ニ對スル取締ヲ、政府ハドウ云フ御考デアリマセウカ、尙ホ昨日ノ
御說明中、要スルニ此大キナ貸家業デアリマス、所謂大建物、「ビルデイング」
ヲ持ッテ居ル銀行若クハ會社、斯ウ云フ方面ノ稅金、大建物ヨリ得ル所ノ收益、
是ハ地方稅ニシテ、政府ハ國稅トシテハ徵收シナイト云フヤウナ意味ノ御話
デアッタヤウデアリマスガ、私ハ此間、資本利子稅ト營業收益稅法トノ間ニ
矛盾ヲ生ズルカノヤウニ考ヘラレルノデアリマス、ナゼナラバ、此會社トカ、
銀行トカ、保險會社ハ其大部分ノ資金ヲ入レテ大キナ建物ヲ建テテ居ッテ、ソ
レカラ上ガッテ來ル所ノ家賃收入ニ向ッテハ所得稅ハ勿論、是ハドレデモ御取
リニナルノデアリマスカラ、當然デアリマスガ、營業收益稅ハ免レル、殊ニ定
款中ノ目的ニハ貸家業ヲ營ムト云フコトハ恐ラク無イヤウニ考ヘテ居リマス
カラ、サウスルト當然、營業ヨリ生ズル所ノ收益デナイ限リハ營業收益稅ヲ
免レルト云フコトハ當然ノコトデアラウト思ヒマス、サウスルト資本利子稅
ノ方ニモ亦更ニ關係ガ無イコトニナッテ來ルノデアリマス、サウ致シマスル
ト、是ハ家屋稅ト云フモノモ免稅ニ······國稅トシテハ關係ガ無イ、地方稅ニ
讓ルコトニナッテ居リマスガ、地方デハ單リ大キイ建物ヲ持ッテ居ル者ノミデ
ナク、小サナ建物ヲ持ッテ居ル者モ、何レモ今度ハ府縣稅ノ、府縣ノ稅トナッテ
戶數割ニ代ッテ納メルベキモノデアリマスカラ、當然、是ハ大小ノ建物ヲ論ゼ
ズ、家主ガ負擔スルヤウニ考ヘラレマスガ、此點ハ政府ハ如何樣ニ御考ヘニ
ナッテ居ルノデアリマセウカ、此點ヲ一ツ明カニ御願ヒシタイノデアリマス、
ソレカラ此營業收益稅ト資本利子稅トハ、之ヲ兼ネ合セテ考ヘテ見マスノニ、
營業收益稅ニハ地方ノ府縣市町村ノ附加稅ガ掛ルノデアリマスガ、資本利子
稅ト云フモノニ對シテハ府縣稅、市町村稅ノ附加稅ガ掛ラナイト云フコトハ
立派ニ同稅法中ニ記入シテアルノデアリマスガ、是ハ衆議院ニ於テ相當質疑
應答ガアリマシテ、特殊ノモノニ對シテハ何トカ考慮セラルルヤニ承ッタノデ
アリマスガ、特殊ニアラズシテ、一般ノ營業收益稅ノ納入者ハ免レムト欲スル
ナラバ、合法的脫稅ノ方法ハ極ク簡單ニ出來ルヤウニ思フノデアリマス、此
點ハ從來モアリマシタヤウニ一ツノ同族ニ於テ、商事會社、貸金營業會社ト
假ニ致シマシタ場合、一方ハ商事會社デアルカラ、一定ノ資金ヲ持ッテ居ル、
一方ハ貸金ヲ營業トスル同族會社デアルカラ、商業會社ニ向ッテ低利デ以テ···
···年ニ二分トカ三分トカノ低利デ以テ之ヲ假ニ供給スルコトヽシ、一方ニ公
債社債若クハ信託預金、斯ウ云フ方面ニ向ッテ預ケテ置イテ、其資本利子ヲ決
算期末ニ於テ拂フノデアリマス、サウ致シマスルト一方收益稅ノ收入支出差
引シマシタ額ニ對シテ課稅イタシマシタ場合、一方此收益稅金額カラ資本利
子稅ヲ引去リマシタナラバ、甚ダ僅少ナル收益ニナッテ參ルノデアリマス、其
上ニ資本利子稅ニ對シテ全然附加稅ヲ免レマスカラ、大變營業收益稅ノ附加
稅ハ、確カ本稅一圓ニ對シテ一圓二錢ト心得マスガ、約半額ノ稅金ヲ免レテ
來ルヤウニナリハセヌカト思フノデアリマス、是ハ勿論合法的ノ脫稅ノ方法
デアリマスカラ、法律ヲ以テ制裁スルコトハ、今ノ法律デハ出來ナイヤウニ
考ヘルノデアリマス、斯ウ云フ所謂合法的脫稅ニ向。ッテノ、政府ハ如何ナル取
締如何ナ手段ヲ講ゼラレタナラバ、之ヲ免カレルカト云フ御考ガアルノ
デアリマセウカ、是ハ大變ナ、私ハ問題デアルト思フノデアリマス、ソレカ
ラ營業收益稅ノ歲入ニ於テ、從前ノ營業稅ヨリ生ズルヨリモ、收益稅ノ方ガ少
イト云フヤウナ御說明デアッタノデアリマスガ、我〓ガ取調ベマシタ所デハ
大變ナ增徵ニナルヤウニ考ヘルノデアリマスガ、此點ハ最モ政府ノ御立テニ
ナッテ居ル所ノ豫算等ヲ信用シテ、其豫算ダケノ收入ガアルモノナリト云フ限
定ノ下ニ調査ヲ致シタノデアリマス、政府ノ豫算ヲ拜見イタシマスルノニ、
大正十二年度ノ營業稅ノ收入豫算ハ四千九百四十七万七千百四十二圓デアリ
マシテ是ガ調査額ハ五千六百四十六万五千五十六圓ニナッテ居ルノデアリマ
ス、十四年度ノ豫算ハ五千七百二十八万二千五百三十四圓デアリマス、サウ
シテ本年御提出ニナッテ居ル所ノ豫算ハ五千九百四十七万七千六百一圓デア
リマス、一方營業收益稅ノ方ハドウデアルカト申シマスト、大正十四年度ノ
法人第一種所得、第三種所得、個人所得、之ニ持ッテ行ッテ營業ノ第一種所得
ノ收益金ガ十四億二千万圓、個人所得ガ九億九万八千圓、之ヘ持ッテ行ッテ法
人ガ三「コムマ」六、個人ニ對シテ二「コムマ」八、百分ノ······掛ケテ見マスル
ト稅金ハ八千四百七十二万圓ニナルヤウニ考ヘルノデアリマス、サウ致シ
マスルト、資本利子稅ヲ御取リニナラヌデモ、既ニ此間ニ二千五百万ノ增徵
ガアルト云フコトハ明カデアリマスガ、尙ホ私ハモウ少シ多クナルト云フ理
由ヲ、モウ一ツ參考ニ申上ゲタイノデアリマス、是ハ我國一般ノ營業收益稅
ノ算出シタモノデアリマスガ、六大都市ニ於ケル所ノ法人ノ營業稅收益稅比
較表ハ、之ヲ簡單ニ申上ゲマシテ、合計ダケヲ申上ゲマスガ、此點ニ於テモ、
現行營業稅額ハ六大都市ニ於テ納メテ居ル八百二十七會社ガ九百三十一万五
千五百圓、新法ニ依ル營業收益稅千四百六十九万五千百五圓、增稅ト云フコ
トガ、差引ニ於テ五百三十七万九千圓ニナッテ參ルノデアリマス、之ヲモウ一
ツ小サク致シマシテ、所謂或區ノ······東京市ノ或區ノ一町內ダケノ大正十四
年度ノ調査ニ依リマスト、營業稅ヲ調ベテ見マシタノニ、荒物商、小間物商、
雜品商、此三業者ノ小賣業者ノ其收入ノ合計ガ······營業賣上額ガ五十六万七
千四百圓ニナルノデアリマス、サウシテ從業員八十六人アリマス、此稅額ハ
千六百九十四圓二十錢、大正十四年ニ於テ徵收サレテ居ルノデアリマス、然
ルニ十四年八月三十一日ニ決定イタシマシタ所ノ所得ハ、第三種所得ハ此三
業者ノ所得ガ八万五千五百二十三圓ニ決定ニナッテ居リマス、サウシテ之ヲ
營業收益稅ノ個人トシテノ分ガ百分ノ二「コムマ」ノ八ヲ掛ケマスレバ二千三
百九十六圓六十錢トナリマシテ、差引ノ增ハ七百二圓四十錢ノ增ニナルノデ
アリマス、一國ノ營業稅ト收益稅ノ增徵ハ約四割ニナリマスルシ、六大都市
ノ法人ニ依ルモノハ五割七分ニナッテ參リマス、此或區ノ一町內ダケノ此三業
者ノ賣上高ノ割合デハ四割五分ノ增稅ニナッテ參リマス、何レノ點カラ論ジマ
シテモ、今囘ノ營業收益稅ハ、從來ノ營業稅ニ比シテ、四五割ノ增徵デアル
ト云フコトハ明カニナルノデアリマス、政府ハ、大藏大臣ハ之ヲシモ尙且ツ
現在ノ營業稅徵收額ヨリ少シト御答辯ニナルカモ分リマセヌガ、是ハ私ハ次
ノ大正十七年度ニ於テ十五年度ノ決算ヲ御提出ニナッタナラバ明カニ直グ分ツ
テ來ルコトデアリマスルカラ、願ハクバ政府モ實際ノ數字ニ依ッテ御答辯ヲ御
願ヒシタイノデアリマス、此決定額ノ通知書ハ私ノ調ベマシタモノハ一箇町
內ニ於テ一件モ漏レテ居ラヌノデアリマス、是ハ具體的ニ何時デモ詳細ニ申
上ゲテ差支ナイノデアリマス、調查ハ十分行屆イテ居ル積リデアリマスカラ、
此點ハ誠意ノアル御答辯ガ願ヒタイノデアリマス、尙ホ營業稅ハ營業外形稅
デハ從來アッタケレドモガ、本質ニ對シテ所謂實際ノ收入ニ課稅スルモノデ
アル、斯樣ニ大藏大臣ハ昨日御說明ニナッタノデアリマスガ、現行法ノ營業稅
モ矢張リ收益稅ト何等變ラヌノデアリマス、是ハ損失ヲシタモノニ向ッテハ現
在デモ營業稅ハ免稅スルコトニナル、徵收シテアッテモ是ハ返スコトニナッテ
居ルノデアリマスカラシテ、今囘ノ營業收益稅法ハ以前ノ營業稅法ニ比較シ
テ論ジマスルト、劣ルト雖モ決シテ優ツタモノデハナイヤウニ我〓ハ考ヘルノ
デアリマス、尙ホ之ニ付テ政府ノ御答辯ト同時ニ、成ルベク、卽時トハ申シ
マセヌガ、大正十四年度ノ營業稅ハ曆年度デアリマスカラ、十四年一月一日
カラ十二月三十一日マデノ此間ノ事業年度ノ終リノ第一種所得合計額及大正
十四年八月三十一日ニ決定シタ所ノ第三種所得稅中ノ商業工業ヨリ生ズル所
ノ所得總額及今囘ノ新營業稅法ニ依ッテ豫算ヲ御組ミニナッテ居ル所ノ比較
表、此三ツノ表ヲ御提出ヲ願ヒタイ、デ之ニ依リマスレバ明カニ數字ガ判然
シテ來ルト考ヘルノデアリマス、之ニ依リマシテ尙ホ審議ヲ致シマシタナラ
バ、實際ノ現在御出シニナッテ居ル所ノ百分ノ三「コムマ」六、若クハ個人ノ百
分ノ二「コムマ」八ガ正當ナル從前ノ稅額ニ比シテ上ボルトモ下ラヌデアラウ
ト云フヤウナ考カラ、其點ヲ審議イタシマス上ニ於テ是非、必要ナモノデアル
ト考ヘルノデアリマス、尙ホ此唯今、御要求シマシタ表ノ御提出ハ必ズ決算調
書ノ時ニ現レテ來ルノデアリマスカラ、間違ナイモノヲ御提出ヲ願ヒタイノ
デアリマス、尙ホ政府ハ此營業收益稅法ヲ實施スルニ當リマシテ、課稅ノ標準
ハドウ云フ風ニ、オヤリニナルノデアリマセウカ、從來ノ如ク、其地方ノ一稅
務署ノ徵稅官吏······收稅官吏ヘ御一任ニナルモノデアリマセウカ、或ハ他ニ
相當ナ適當ナル施行細則デモ御設ケニナッテ十分ニ御調査ガ出來テ、オヤリニ
ナルモノデアリマセウカ、是ハ從來ノハ業種別ニ依ッテ稅率ガ變ヲテ居タノデ
アリマスカラシテ、相當詳細ニ適當ニ出來テ居ッタモノデアリマスガ、若シ萬
所得稅ノ第三種所得稅ヲ決定スル通リノ方法ヲ以テ御決定ニナリマス場
合ニハ中產階級以下ノ商人デアル所ノ決算報告モ作レナイ、所謂貸借對照表
デアルトカ、或ハ損益決算表ト云フヤウナ詳細ナル書面ヲ作ルコトノ出來得
ナイ、中產階級以下ノ小商人ニ向ッテノ收益ノ決定ガ、從來ノ賣上金額ニ對ス
ル所得ヲ以テ稅ヲ決定スル當時ノ如ク、賣上金額ノ百分ノ四若クハ五、若ク
ハ一割二割ト云フヤウニ、任意ニ收稅官吏ニ於テ決定イタスヤウナコトガア
リマシタナラバ、大變ナ間違ヲ生ジテ來ハシナイカト考ヘルノデアリマス、
法人ノ方ニハ十分ナ決算報〓ガ付イテ居ルノデアリマスカラ、是ハ勿論完全
ニ出來ルモノト信ジマスガ、中產階級以下ノ其機關ヲ備ヘテ居ナイ者ハ、此
稅法ノ爲ニ從來ノ所得稅ノ通リニ假ニ決定サレマセヌ、從來營業稅ニハ、卸
賣ニモ、小賣ニモ、甲乙ト云フ區別ガアリマシテ、生活必需品ハ何レモ甲ノ
部ニ屬シテ居フタノデアリマシテ、是等ノ所得ノ決定ニ當リマシテハ、甲乙ノ
區別ヲ付ケテ居リマセヌ、甲ノ營業稅ヲ持ッテ居ル者モ、乙ノ營業稅ヲ持ッテ
居ル者モ、一律ニ五分乃至一割ト云フ工合デ、政府ハ取ッテ居ラレタノデアリ
やき、左樣ニ致シマシテ營業收益稅モ其通リニ御決定ニナリマシタガ、是
直チニ轉嫁稅トナルノデアリマス、營業收益稅ヲ賣上物品ノ中ニ稅金ヲ加算
シテ行カナケレバナラヌヤウニナルノデアリマス、サウ致シマスト政府ノ說
明中ニ所謂社會政策ヲ加味シテ居ルト云フコトハ、何等意義ノ無イコトデア
リマシテ、是ハ社會政策ヲ加味シテ居ナイ、寧ロ中產階級以下ノ者ニハ不便
ノモノデアルカノヤウニ考ヘルノデアリマス、此點ニ付テ徵稅ノ手續ノ方ヲ
承ッテ見タイノデアリマス、尙ホ中產階級以下ノ、所謂相當ナ機關ノ備ッテ居ナ
イ帳簿ノ正確ナルモノノ備ハッテ居ナイ店ノ必要經費ト云フモノヲ承ッテ見
タイノデアリマス、此必要經費ハドノ程度ヲ指スモノデアリマスカ、一家族
全部ノ家事費ヲ差引クモノデアリマスカ、家事費ヲ差引カズニ、從業スル人
ノ給料ヲ假定イタシマシテ、ソレヲ算定シテ差引イタスモノデアリマセウカ、
是等ニ依ッテ擔稅額ノ變更ヲ來シテ來ルヤウニ考ヘルノデアリマス、唯、一徵
稅官吏ノ手加減ニ依ッテ此貴重ナル營業收益稅ガ決定スルト云フコトハ、從來
ノ外形的標準ヨリ見テ弊害アリトモ、國民ニ取ッテ我〓商工業者ニ取ッテ不利
デアルト考ヘルノデアリマス、此徵收ノ方法ノ機關ヲ相當完備セラレタモノ
ガ出來得マスナラバ、或ハ優ルカモ分リマセヌガ、サモナケレバ現行法ニ劣
ルトモ優ルモノデナイト考ヘマス、此徵稅方法ハ實際具體的ニ御說明ガ願ヒ
タイノデアリマス、尙ホ資本利子稅ノコトニ付テ承ッテ見タイノデアリマス
ガ、資本利子稅ニハ免稅點ガ無イヤウニ拜見イタシマシタガ、尙ホ說明中ニモ
無カッタヤウニ考ヘルノデアリマスガ、左樣ニ致シマスレバ免稅點ガ一ツモ無
イト云フコトニナリマスルナラバ、僅ニ百圓ノ貸金ノアル者ニ向ッテ年八朱ノ
利子ヲ取リマス、サウシテ八圓ノ收入ニ對スル百分ノ二ハ卽チ十六錢ニナル
ノデアリマスガ斯樣ナ少額ノモノニ向ヲテモ相當ナ手數ヲ要シテ徵稅ノ手
續ヲ執ラナケレバナラヌト云フコトニナリマスカラ、寧ロ手數料ノ方ガ多ク
ナル虞レガアルヤウニ考ヘルノデアリマス、是等ノ免稅點ヲ政府ニ於テハ如
何ナル理由デ御設ケニナラナカッタノデアリマセウカト云フコトヲ承ッテ見タ
イノデアリマス、尙ホ資本利子稅ニハ減損更訂ノ條文ガ無イノデアリマス、
所得稅ニモ營業收益稅ニモ減損更訂ノ手續ガアルニモ拘ラズ、資本利子稅ニ
限ッテ減損更訂ノ條文ガ無イト云フノハ如何ナル理由デアリマセウカ、必ズ決
定期間カラ後ニ這入ッテ來ル收入デアリマスカラ、相當減損更訂ノ方法ガ無
カッタナラバ、有ッテモ無クテモ是ハ納メナケレバナラヌト云フコトニ結果ハ
ナッテ來ハセヌカト、恐レル次第デアリマス、卽チ營業收益稅法、所得稅法ニ
減損更訂ノ方法アルニ拘ラズ、單リ資本利子稅ニ減損更訂ノ方法ガ無イト云
フノハ、如何ナル理由ニ基クモノデアルカト云フコトヲ御尋ネスルノデアリ
マス、次ハ所得稅ノ點ニ付テ御尋ネシタイノデアリマス、所得稅法ノ第二十三
條中ニ於キマシテ、山林所得ハ山林以外ノ所得ト之ヲ區分シテ、其金額ニ對
シテ稅率ヲ算出シタモノヲ、金額ヲ五倍ニスルトアルノデアリマス、併シ是
ハ五分ニシテ五倍ニスルト云フ譯デアリマスカラ結果ニ於テハ同ジデハナイ
カト思ヒマス、是ハ眞ニ徵稅官吏ヲシテ手數ヲ多カラシムルノミデアッテ、
結果ニ於テハ同ジコトト思フノデアリマス、此點ヲ御伺ヒシタイノトソレ
カラ大體、山林所得ト云フノハ山林ヲ採伐シテ金ニ換ヘタ時ノ所得デアルト
考ヘマスガ、此山林植付ヲ致シマシテ、ソレカラ三十年乃至五十年程經タナ
ケレバ賣ヲテ所得トスルコトガ出來ナイノデアリマス、然ルニ其稅金ガ一度ニ
取ラレルト云フコトニナリマスレバ······三十年乃至五十年ニ割付ケテ御取リ
ニナルコトガ至當デハナイカト思フノデアリマス、此點ヲ御改正ニナル御意
思ハ無イノデアリマスカ、如何デアリマスカ、御伺ヒシタイノデアリマス、
尙ホ六十四條ニハ營業繼續ニ因ル所得ノ減損ハ更訂セズトアリマスガ、營
業稅ノ繼續ハ親族其他ノ特殊ノ關係ニ依ル繼續ノ外ハ、普通、營業ニ失敗イ
タシマシテ破產ノ狀態ニ立至リマシタ者ヲ、何カノ事情ニ依ッテ第三者ガ引受
ケテ營業ヲ繼續スルノデアリマス、斯ウ云フ場合ニ之ニ向ッテ減損更訂ガ出來
ナイト云フコトハドウ考ヘマシテモ合理的ノ所得稅法デハナイト考ヘルノ
デアリマスガ、ココ等ハ區別シテ、左樣ナ理由ノ有ル者ニ向ッテハ矢張リ減
損更訂ヲヤッテ貰フト云フコトノ出來得ルヤウニ爲サル御考ヲ大藏大臣ハ御
持チニナッテ居ラレルノデアリマスカ、如何デアリマスカト云フコトヲ御尋ネ
スルノデアリマス、ソレカラ此地方稅ニ向ッテ、チヨット御尋ネシテ見タイノ
デアリマスガ、從來ノ府縣ノ戶數割ヲ廢シテ之ヲ家屋稅ニ依ルト云フコトニ、
今囘御變更ニナル案ガ出テ居ルノデアリマスガ、家屋稅ヲ賃貸價格ニ依シテ徵
收スルト云フコトニナリマスルト、少クモ都市ノ形ヲ成シテ居ル所ハ完全ニ
調査モ行屆キマス、サウシテ都市ノ形ヲ成シテ居ル所ニハ何レモ相當ノ家主
ガアリマスカラ是カラ徵收スルコトハ從來ノ市ガ取ッテ居。ヲタ屋屋稅ト變
リハナイヤウニ考ヘルノデアリマスガ、足一步、郡部ニ立至リマスト、此賃
貸價格ト云フモノガ、建物ノ坪數ニ依ッテ之ガ稅率ヲ算出スルモノデアラウト
思ヒマスガ左樣ニ致シマスト、從來小作人デアル所ノ者ハ單ニ家屋稅ヲ納
メルヤウニ考ヘルノデアリマス、サウシテ地主ハ自分ニ必要ナル所ノ家畜ヲ
飼フ所ノ厩舍ヲ持ッテ居ラズ、其他農產物ノ加工場ヲ持ッテ居ラズ、或ハ色〓ナ
附屬シタル所ノ建物ノ數ガ必要ガ無イカラシテ少ク持ッテ居ル、其小作農者ガ
多額ナル稅金ヲ負擔シテ、一方、大地主ト云フ方面ハ更ニ負擔ヲ免レルヤウ
ニナルト心得ルノデアリマスガ、從來ハ戶數割ハ資產ノ程度ニ應ジテ等級ヲ
設ケテ之ヲ微收シテ居ッタノデアリマス、然ルニ其方法ヲ廢シテ、家屋稅ニ
依ッテ府縣稅ノ稅金ヲ負擔スルコトニナリマスルト、一變シテ來テ、僅ニ資產
ノ無イ者ガ家ダケ大キイノヲ持ッテ居ルガ爲ニ多額ノ稅金ヲ負擔スルコトニ
ナルノデナイカト心得ルノデアリマスガ、是ハ家ノ坪數其他ノ方法ニ依ラズ
ニ、資產ニ依ッテ等級ヲ割出スモノデアリマセウカ、其點ハ御說明ヲ多少聽漏
ラシテ居ルノデハナイカト思ヒマスガ、私ガ聽イタ通リデアリマスレバ大キ
ナ地主ホド郡部ニ於テハ此稅金ヲ免レテ、小作人ホドガ多ク增徵サレルヤウ
ニナッテ來ルノデアリマス、此點ハ今少シ詳細ニ承リマシタ上デ質問スルガ適
當デナイカト心得ルノデアリマス、私ノ質問ハ以上デアリマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=3
-
004・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯今ノ森田君ノ御質問ハ、國稅ニ關シマシテハ十
箇條ニ亙ッテ居リマシテ、中ニハ極メテ詳細ナル點ニ付キマシテノ數字上ノ御
質問モアッタノデアリマス、是等ノ點ニ付キマシテハ能ク速記錄ヲ拜見ヲ致シ
マシタ上デ、委員會其他適當ノ場合ニ於キマシテ詳細ニ御答ヲシタイト思ヒ
マスガ、唯今私大體ノ御答ヲ致シマシテ、漏レマシタ點ハ委員會等ニ於テ詳シ
ク申述ベルコトニ致シタイト思ヒマス、第一ノ御質問ハ營業收益稅ニ付テ、
是迄營業稅ヲ課シテ居リマシタ所ノ營業業體ノ中カラ、運河業外四ツノ營業
ノ種目ヲ除外イタシマシテ、個人ニ營業收益稅ヲ課シナイコトニ致シタ、其點
ニ付テノ御質問デアッタノデアリマス、森田君ハ個人ニ對シテ營業收益稅ヲ課
セナイコトニ改正ヲスルト云フト、是迄法人デ其種目ノ營業ヲ致シテ居ノタ者
ガ、法人ヲ解散ヲ致シテ或ハ個人營業トナシ、或ハ組合ノ營業トナスト云フ
如キ場合ニ於テハ營業收益稅ノ課稅ヲ免ルルト云フ結果ニナルデハナイカ、
ソレデハ負擔ノ公平ヲ失フ憂ハナイカト云フ意味ノ御質問デアッタヤウデア
リマス、此五種類ノ業體ヲ個人ノ營業收益稅ノ課稅ノ範圍カラ除外ヲ致シマ
シタ其理由ハ、個人トシテ其業體ヲ營ンデ居リマスル者ガ極メテ少ナイノデ
アリマスト云フノガ第一點、第二點ハ其稅額モ亦極メテ少ナイノデアリマス、
此五種ノ業體ヲ通ジマシテ營業稅ノ收入高ガ一千圓ニ足リマセヌ位ノ少額デ
アリマス、卽チ多クハ法人ノ營ンデ居ル事業デアリマス、ソレ故ニ個人ノ課
稅業體カラハ除外イタシタノデアリマスルガ、若シ個人ニ課稅シナイト云フ
新法ノ規定ヲ利用イタシマシテ、脫稅ヲ圖ルノ目的ヲ以テ、法人ガ解散ヲ致シ
個人ノ營業ニナルト云フガ如キ場合ニ於テハ、私ハサウ云フ場合ハ餘リアル
マイト思ヒマスガ、若シサウ云フコトノアリマシタ時ニ於テハ、ソレハ地方
稅ノ課稅ヲ受ケルコトニナリマスカラ、國稅ノ代リニ地方稅ヲ課セラルルト
云フコトニナリマシテ、其負擔ハ餘リ變ラヌコトニナラウト思ヒマス、從テ
サウ云フコトヲ計畫スル者ハ蓋シアルマイト考へテ居リマス、第二點ハ會
社ノ經營イタシノ所リマス所ノ貨幣ノ榮耀ヲアリンス、他ノ事業ヲツ
テ、サウシテ此貸家ノ營業ヲ兼營イタシテ居ル場合ニ於テ、營業收益稅ノ關
係ハドウナルカト云フ意味ノ御質問デアッタト承リマシタ、サウ云フ場合ニ於
キマシテモ、此度ノ政府ノ提案ニ係リマス所ノ營業收益稅ハ、苟クモ營利法
人デアリマス以上ハ其業體ノ如何ニ拘ラズ、又本業ト兼業トノ事情ノ如何
ニ拘ラズ、齊シク之ヲ課稅イタシマスルガ故ニ、其貸家營業カラ生ジマスル
所ノ純益モ、亦營業收益稅ヲ課セラルルト云フコトニナリマス、第三ノ御質
問ハ、營業收益稅カラ資本利子稅ヲ控除スル結果トシテ、其控除ノ金額ガ多
クナッタ場合ニ於テハ營業收益稅ヲ納ムル金額ガ非常ニ減少ヲ致ス、ノミナ
ラズ資本利子稅ニハ地方稅トシテ附加稅ヲ課スルコトガ出來ナイト云フコト
ニナッテ居ル結果、營業收益稅カラ資本利子稅ヲ引キマシテ、其殘額ニ對シテ
營業收益稅ヲカケタ場合ニ於テ、ソレニ對シマシテ地方稅附加稅ヲ課スルト
云フコトハ其課スル本ノ本稅ガ非常ニ少ナイ結果トシテ、地方稅ノ附加稅
ハ極メテ少イコトニナル、或ル場合ニ於テハ全然附加稅ヲ受ケザル結果ニナ
ル、是ハ不都合デハナイカト云フ意味ノ御質問デアッタト承リマシタ、國稅ノ
場合ニ於テ營業收益稅カラ資本利子稅ヲ控除イタシマスト云フト、如何ニモ
御說ノ通リ營業收益稅ノ負擔ハソレダケ減リマスガ、併シ營業收益稅トシテ
納メマスル所ノ金額ト、資本利子稅トシテ納メマスル所ノ金額トヲ合計イタ
シマスルト云フト、御心配ノ如キ負擔ノ不權衡ハナイト考ヘマス、何レカノ
補完稅ヲ納メルコトニナリマスカラ、營業收益稅ノ形ニ於テ納ムル場合デア
リマシテモ、或ハ資本利子稅ノ形ニ於テ納ムル場合デアリマシテモ、其業體
ノ人〓······納稅者ガ補完稅ヲ納メテ居ルト云フ負擔ニ於テハ、別ニ輕重スル
所ハナイノデアリマスカラ、國稅ニ關スル限リニ於キマシテハ、御心配ノ如
キ不都合ハ生ジナイト思ッテ居リマス、ソレニ向ッテ地方稅ノ附加稅ヲ課スル
コトガ出來ナイカラ不都合デハナイカト云フ御質問デアリマシタガ、是ハ內
務大臣カラ御答辯ニナラウト思ヒマスケレドモ、此度衆議院ニ於テ修正サレ
マシタル所ノ地方稅ノ法律案。其法律案ニ依リマスレバ、地方稅ノ附加稅ヲ
課スル場合ニ於キマシテハ、營業收益稅カラ資本利子稅ヲ控除セザルモノト
看做シテ、其稅額ニ向ッテ附加稅ヲ課スルト云フコトニナッテ居リマスカラ、
其點ニ於テハ別ニ不都合ハナイト考ヘテ居リマス、第四點ハ營業收益稅ハ現
在ノ營業稅ニ對シテ負擔ノ輕減ニナルト云フ政府ノ說明デアルケレドモ、却
テ增稅ノ結果ニナルト云フ御疑ヲ以テノ御質問デアッタノデアリマス、其御質
問ヲ爲サルルニ當リマシテ、森田君ハ種々ノ統計ヲ御擧ゲニナリマシテ、斯
ノ如キ數字ヲ現ハスガ故ニ增稅ニナルト云フ意味ノ御質問デアッタノデアリ
Pさ、一局部ノ地方ノコトヲ基礎ニ致シマシテ統計ヲ取リマスト云フト或
ハ左樣ナル場合ガ生ズルカモ知レヌト思ヒマス、又營業ノ場合ヲ考ヘマシテ
部分的ニ計算ヲ致シテ比較ヲ致シテ見マスト云フト、或ハ營業收益稅ヲ起シ
マシタ結果、是マデノ營業稅ニ比較イタシマシテ、負擔ノ增加スル部分ガ有
ルデアラウト思ヒマス、併ナガラ全國ヲ平均シテ考ヘ、又總テノ營業ノ業體
ニ付キマシテ總括的ノ比較ヲ致シテ見マスト云フト、是ハ政府ノ說明ヲ致シ
マシタ通リ、總額ニ於テ四百十數万圓ノ減額ヲ見ルノデアリマス、何故ニ斯
ノ如キ結果ヲ生ズルカト申シマスレバ、是ハ御承知ノ通リ、現在ノ營業稅ハ
外形標準ニ依テ課稅ヲ致シテ居ル、卽チ或ル業體デアリマスレバ賣上金高ニ
依リ、又他ノ業體デアリマスレバ資本金額ニ依テ課稅ヲ致シテ居ル、賣上金
高ガ同ジケレバ其收益ノ如何ニ拘ラズ、同率ノ課稅ヲ致シテ居リマス、資本
金高ガ同額デアリマスレバ、其利益步合ノ如何ニ拘ラズ、同一ノ課稅ヲ致シ
テ居ルト云フコトガ、是ガ卽チ現行營業稅法ノ缺點デアリマス、其不公平ナ
ル所以デアリマス、從テ其缺點ヲ改メマスルガ爲ニハ、外形標準ニ依テテ稅
スルト云フ根本ノ組織ヲ改メナケレバナラヌ、其組織ヲ改メマシテ、賣上金
高ノ如何ニ拘ラズ、資本金額ノ如何ニ拘ラズ、其利益ノ步合ニ對シテ公平ニ
課稅セムトスルノガ、卽チ此度ノ營業收益稅法ノ精神デアリマス、從テ是迄
ノ營業稅法ノ適用ニ於キマシテ、賣上金高ハ多カッタケレドモ、其利益ノ步合
ガ少カッタト云フモノニ對シマシテハ、此度ノ改正ニ依ッテ少イ利益ニ應ジテ
課稅シマスルガ故ニ、其負擔ハ輕減サルル結果ニナルト思ヒマス、又其反對
ニ賣上金高ガ少クシテ利益ノ步合ガ多カッタト云フ營業ニ對シマシテハ現
在ノ營業稅法ノ適用カラ申シマスレバ、賣上金高ガ少イノデアリマスカラ、
其營業稅ノ負擔ハ少イノデアリマスケレドモ、此度ノ收益稅法ニ依リマスレ
び、賣上金高ノ多少ニ拘ラズ、利益ノ多少ニ依ッテ課稅イタシマスルガ故ニ、
其負擔ガ重クナル勘定デアリマス、資本金額ニ於キマシテモ亦同一ノ結果ヲ
生ズルデアラウト思ヒマス、是迄ノ稅法ノ規定ト云フモノガ、其營業ノ收益
ニ觸レナイ所ノ外形標準ニ依ッテ課稅ヲシテ居ルト云フ其缺點ヲ矯正スルガ
爲ニ、外形標準ノ課稅主義ヲ改メマシテ、茲ニ純益課稅主義ヲ採リマスル以上
ハ從來輕カッタモノガ重イ負擔ヲ受ケ、從來重カッタモノガ輕イ負擔ヲ受ケ
ルト云フコトハ是レ卽チ納稅者ノ負擔能力ニ應ジテ、公平ナル所ノ課稅ヲ
スル所以デアリマスカラ、或ル場合ニ於テハ負擔ノ增加スルモノアリ、或ル
場合ニ於テハ負擔ノ輕減サレルモノガアルト云フコトハ、是ハ已ムヲ得ザル
所ノ結果デアルト考ヘテ居リマス、世間デ往々此度ノ營業收益稅ト云フモノ
ハ却テ負擔ヲ增加セシムルモノデアルト云フ議論ノアリマスルノハ、其負
擔ノ增ス部分ノミニ付テ統計ヲ取ックモノダラウト思ヒマス、廣ク全體ノ營業
ニ付テ、又全國ヲ通ジテ精密ナル統計ヲ取ルト致シマスレバ、卽チ政府ノ說
明シマスルガ如ク、總額ニ於キマシテ、從來ノ營業稅額ノ負擔ニ對シマシテ、
四百十數万圓ノ輕減ヲ生ズルト云フコトハ、是ハ爭フベカラザル所ノ確實ナ
ル統計デアリマス、而シテ從來ノ營業稅ノ負擔ニ對シテ、四百万圓ノ輕減ヲ
生ズルト云フ、其根據ハドコニアルカト申シマスト云フト、是ハ斯樣デアリ
やべ、獨リ營業收益稅ニ限リマセヌガ、總テ此度ノ稅制整理ヲ行フニ當リマ
シテ、是迄ニ對シテ負擔ガ幾ラ減ル、或ハ幾ラ殖エルト云フ、其基本ヲ決メ
マスニハ、稅制整理ノ無カッタ場合ニ於ケル所ノ、大正十五年度ニ於テ生ズベ
キ收入、現在ノ制度ノ儘デ行ケバ、大正十五年度ニハ幾ラノ歲入ヲ得ルデア
ラウカト云フコトヲ、各稅目ニ付キマシテ一々精密ニ計算ヲ致シマシテ、其
計算ニ對シテ稅制整理ヲ行フ結果トシテ、何百万減ル、何千万圓殖エルト云フ
計算ヲ出シタノデアリマス、ソレ故ニ若シ或ハ大正十四年度ノ豫算ニ對シ、
或ハ十三年度ノ實蹟ニ對シテ、此度ノ稅制整理ニ依ル所ノ增減ヲ論ジヤウト
スルナラバ、ソレハ比較ノ宜シキヲ得タモノデナイト考ヘマス、其增減ノ比
較ヲスル場合ニ於テ、ドコ迄モ稅制整理ヲ行ハナカッタ場合ニ於テ、大正十五
年度ニ於テドレダケノ歲入ヲ生ズベキデアッタカト云フ、其金額ヲ基本ト致シ
テ、比較對照セヌケレバナラヌト思ヒマス、其對照シタ場合ニ於テ、營業收
益稅ハ、營業收益稅ニ改メナカッタ場合ニ於テ、大正十五年度ニ於テ現行營業
稅法ノ適用ノ結果生ズベキ、其歲入ノ見積リカラ比較イタシマシテ、四百十
餘万圓減少スル、斯ウ云フ計算ニナッテ居リマス、是ハ總テノ稅法ニ於テ同樣
デアリマスカラ、唯今ハ營業收益稅法ニ對スル御質問デアリマスガ、此機會
ニ於キマシテ一般的ノ說明ヲ申上ゲテ置ク次第デアリマス、尙ホ營業收益稅
ノコトニ關シマシテ、森田君ハ三ツノ數字上ノ調查ヲ御要求ニナリマシタガ、
唯今、手許ニ持ヲテ居リマセヌカラ、是ハ委員會ニ於キマシテ、能ク調査ノ上
デ御答ヲスルコトニ致シマス、第五點ハ、營業收益稅ノ徵稅ノ機關竝ニ徵稅
ノ手續ニ關スル所ノ御質問デアッタノデアリマス、此營業收益稅ノ課稅標準タ
ル所ノ營業ノ純益ヲ調查イタシマスルニハ是ハ別ニ調査ノ機關ヲ設ケル主
義デハアリマセヌ、是迄ノ所得稅ノ調査委員會ヲ利用イタシマシテ、其調查委
員會ノ調査ニ付シマシテ、政府ガ之ヲ決定スルト、斯ウ云フ考デアリマス、
何トナラバ、所得稅ニ於ケル所ノ第三種ノ所得ノ調査ト、營業收益稅ニ於ケ
ル所ノ營業收益ノ調査トハ大體ニ於テ其性質ヲ同ジクシ、其調査ノ方法モ
亦同樣デアルト考ヘマスルガ故ニ、事柄ノ煩雜ヲ避クルガ爲ニ、同一ノ調査
委員會ニ於テ、第三種ノ所得稅ノ調査モスレバ、營業收益稅ノ調査モスルト
云フコトニ致シタノデアリマス而シテ其調査ヲスル時ニ於キマシテハ、無
論營業者ノ申〓ヲ基礎ニ致シマス、當業者ノ申〓ニシテ政府ノ調査ト差違ノ
ナイ場合、卽チ申〓ガ正確ナリト認メタ場合ニハ、固ヨリ其申告ヲ採ッテ調査
會ニ出シマス所ノ原案ニ致シマス、其申告ガ正確デナイ、正シキヲ得テナイ
ト認メタ場合ニ於キマシテハ、之ニ向ッテ政府ハ十分ナル所ノ調査ヲ致シマ
ス、其調。査ニ基イテ調査委員會ノ議ニ付スルト云フ順序ニナリマス、ソレハ
恰モ今日ノ所得稅ノ調査ニ於テ、調查委員會竝ニ政府ノ調査機關タル所ノ稅
務署ニ於テ行ッテ居ルト云フ其手續ト同一ノ手續ヲ執リマシテ、調査ヲスル
積リデアリマス、卽チ各業體ニ依ッテ精密ニ其純益ヲ調査イタシマシテ、遺漏
ノナイコトヲ期スル考デアリマス、從テ御質問ノ如キ中流以上ノ營業者ニ對
シテハ寬大デアルケレドモ、中產階級以下ノ者ニ對シテハ嚴酷デアル、苛酷
デアルト云フ如キ嫌ハ、毛頭ナイコトト考ヘマス、又政府ニ於キマシテモ、
其調査ノ原案ヲ作リ申〓書ヲ調ベル場合ニ於キマシテ、決シテ中產階級以下
ニ偏重スルト云フ如キ結果ヲ生ジナイヤウニ、十分注意ヲ拂フ積リデアリマ
ス第六ノ御質問ハ營業收益稅ニ於テ營業ノ收入カラ控除スベキ所ノ必要
ナル經費トハ、如何ナルモノデアルカト云フ御質問デアッタノデアリマス、此
必要ナル經費ト申シマスコトハ其營業ノ收入ヲ得ル、ソレガ爲ニ必要トシ
タ所ノ經費デアリマス、卽チ其定義ハ今日ノ所得稅法ニ於キマシテ純益ヲ決
定スル場合ニ於テ、總收入カラ其收入ヲ擧グルガ爲ニ費シタ所ノ必要ナル經
費ヲ控除スルコトデアリマス、ソレト同一ノ精神デアリマシテ、又同一ノ適
用ヲスル積リデアリマス、第七ノ御質問ハ資本利子稅ニ免稅點ヲ設ケテナイ
ノハドウ云フ譯デアルカ、他ノ稅ニ於テハ各〓免稅點ヲ設ケテアルニ拘ラズ、
資本利子稅ニ限ッテ免稅點ヲ設ケテナイト云フノハ不都合デハナイカト云フ
御質問デアッタノデアリマス、御承知ノ通リ資本利子稅ハ甲乙ノ兩種ニ分レテ
居リマスルガ、是ハ大體ニ於テ源泉課稅デアリマス、卽チ資本利子ノ支拂ヲ
スル、其資本カラ支拂ヲスル時ニ徵收スル所ノ稅デアリマス、ソレハ恰モ今
日ノ所得稅法ニ於ケル所ノ第二種ノ所得ト同樣デアリマス、卽チ源泉課稅デ
アリマスルガ故ニ、免稅點ノ設ケヤウガナイノデアリマス、此點ハ今日ノ所
得稅ノ第二種ノ所得ト同樣デアリマス、第八ノ御質問ハ、資本利子稅ニ減損
更訂ノ規定ガナイト云フノハドウ云フ理由デアルカト云フ御質問デアッタノ
デアリマス、資本利子稅ハ今申上ゲマシタ通リ、甲乙ノ兩種ニ分レテ居リマ
スガ、甲種ニ屬スルモノハ源泉課稅デアリマスガ故ニ、減損更訂ノ致シ方ガ
アリマセヌ、減損更訂ト申シマスレバ、ドウシテモ其個人ニ綜合シタル場合
ニ於テ、減損更訂ノ必要ガ生ジテ來マスケレドモ、源泉課稅デアリマスト云
フト、ソレハ何人ニ歸屬スベキ收入デアルカト云フコトガ、支拂ヲスル時ニ
ハ分リマセヌカラ、減損更訂ノシヤウガナイノデアリマス、乙種ニ屬スル所
ノ資本利子稅ハ、實蹟ニ依ッテ課稅ヲ致シマスルガ故ニ、減損更訂ヲナス必要
ガナイト考ヘタノデアリマス、第九ノ御質問ハ山林所得ニ關スル件デアリマ
ス、此山林所得ノ改正ノ方法ニ關シマシテハ、政府ハ種々ナル所ノ調查〓究
ヲ遂ゲマシタガ、昨日モ說明ノ際ニ申上ゲマシタ如ク、何分合理的ニシテ徹
底的ナル所ノ方法ヲ發見スルコトガ出來ナカッタノデアリマス、、茲ニ於テカ各
方面ニ於テ是マデ行ハレテ居リマス所ノ各種ノ議論、各種ノ主張、各種ノ意
見ト云フモノヲ、比較〓究イタシマシテ、大體此點デアルナラバ先ヅ相當ノ
所ニ歸著スルデアラウト云フコトヲ捉マヘマシテ、大體ノ上カラ原案ノ通リ
決定シタ譯デアリマシテ、其數字上ノ根據ニ至ッテハ的確ニ之ヲ申上ゲルコ
トガ出來ナイト云フコトハ、誠ニ遺憾デアリマスルガ、此場合ニ於テハ原
案ノ外ニハ他ニ適當ナル方法ヲ採ルト云フコトハ甚ダ困難デアルト考ヘマ
ス、第十ノ御質問ハ、所得稅ニ關シ、營業繼續ノ場合ニ於テ減損更訂ヲナス
ト云フ規定ガナイノハドウ云フ譯デアルカト云フ、御質問デアッタノデアリ
マスガ、營業繼續ノ場合ニ於キマシテ、減損更訂ヲ認メマスルト云フト、或
ハ名義變更等ニ依リマシテ脫稅ヲ圖ルト云フ、各種ノ弊害ヲ生ズル虞ガアリ
マスニ依ッテ、之ヲ防グ爲ニ減損更訂ヲ認ムルト云フ規定ヲ置カナカッタ次第
デアリマス、尙ホ多岐ニ亙ッタ所ノ御質問デアリマシタカラ、私ノ御答辯ガ或
ハ御質問ノ全部ニ十分ニ適合シナイヤノ感ガアリマスルガ、若シ洩レマシタ
點ハ又他ノ機會ニ於テ詳細ニ御答ヲスルコトニ致シマシテ、大體ノ御答ヲ致
シマス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=4
-
005・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 森田君ノ地方稅ニ關スル御質問ハ二點アッタノ
デアリマス、其一ツハ資本利子稅ヲ納メテ居ル營業者ニ對シテ、營業收益稅
ニ對シテ附加稅ヲ課スル場合デアリマシタガ、之ニ對シテハ大藏大臣ガ唯今
併セテ答辯ヲセラレマシタト思ヒマスカラ、私ハ更ニ繰返ス事ヲ致シマセヌ
今一點ハ家屋稅ノ創設ニ付テ、家屋稅ヲ課スルト云フコトデハ、大地主ト小
作人トノ間ニ於テ負擔ガ不公平ニナリハスマイカ、小作人ノ方ガ割合ニ高ク
課稅セラレテ、大地主ノ負擔ガ少クナルヤウナコトハナイカト云フコトノ意
味デアッタヤウデアリマス、家屋稅ヲ府縣稅トシテ創設イタシマシテ、今マデ
府縣ノ持ッテ居。ッタ戶數割ト云フモノヲ市町村ニ移シマシテ、是ハ昨日申上ゲ
タ通リデアリマスガ、府縣ノ戶數割ヲ市町村ニ移シタ其代リニハ、唯家屋稅
ダケデハアリマセヌデ、家屋稅ト所得稅ノ附加稅ヲ併セテ府縣ノ財源ニシタ
ノデアリマス、是ノミデアルト申スコトハ出來マセヌガ、大體ハ府縣ノ戶數
割ヲ市町村ニ移シマシタ財源ノ代リニハ、大體ハ家屋稅ト所得稅ノ附加稅ト
云フモノヲ持ッテ來タト云フコトニナッテ居ルノデアリマス、而シテ市町村ニ
移シタ戶數割ヲ取ル場合ニ於テ、從前ハ戶數割ヲカケル時ニハ其標準ノ中
ニ住家ノ坪數ト云フモノモ入ルルコトニナッテ居リマシタガ、此度ハ是ハ除カ
スルコトニ致スノデアリマス、サウ云フヤウニシテ考ヘテ參リマスト、戶數割
ノ代リニ家屋稅ガ這入ッタノデアルガ、同時ニ所得稅ノ附加稅ト云フモノガ這
入ッテ居ル、所得稅ノ附加稅ハ申上グルニ及バズ、一般所得ニ比例ヲシタ稅デ
アリマスカラ、能ク其人ノ資力ニ順應シテ居ルト云フコトハ申上グル迄モア
リマセヌ、而シテ市町村ニ於ケル戶數割ノ中カラ住家ノ坪數ト云フモノヲ除
キマシタコトト相對照シテ、一方ニ於テ府縣ニ於テ家屋稅ヲ取ルト云フ事柄
ハ家屋稅ノ負擔ト云フモノヲ從前モ既ニ戶數割ノ中デ住家ノ坪數ト云フコ
トデ、矢張リ或程度マデハ家屋稅的ノ課稅ガシテアッタノデアリマスカラ、ソ
レガ今度純然タルモノニナリマシテモ、大體從前ノ課稅ノ仕方ノ方針トハ大
シテ變ハラヌト云ッテ宜カラウト思ヒマス、但シ戶數割デ取リマス時ノ標準
ハ、全體ノ戶數割ノ一部デアリマスガ、家屋稅トシテ全部家屋ノ賃貸價格デ
課稅シマス時ニハ若干從前ヨリモ各人ノ負擔ノ關係ガ變ハルコトハ認メナ
ケレバナリマセヌ、併シ家屋稅ハ唯坪數ダケデ取ルノデハアリマセヌ、其在
ル場所ノ關係モ大イニ影響シマス、又家屋ノ構造ニ大イニ影響スルノデアリ
マスカラ、必シモ坪數ニ依ッテ取ル故ニ、小作人ハ割合ニ多イ坪數ヲ持ッテ居
ルカラ負擔ガ不公平ニナルト見ルニ及バヌト思ヒマス、ノミナラズ地方稅ノ
負擔ノ上ノ全體ノ均衡ト云フノハ、總テノ課稅ヲ綜合シテ見ナケレバナリマ
セヌ、家屋稅一ツ離シテ見ル譯ニハ參リマセヌ、家屋稅モ一ツノ課稅デアル
ガ、戶數割モアリ、所得稅ノ附加稅モアル、サウ云フメヲ皆綜合シタ時ニ於
テ,各人ノ負擔ガ如何ニ相成ルカト云フコトヲ見ヌケレバナリマセヌガ綜
合シタ上カラ云ヘバ、矢張リ富者ニハ富者相當ノ課稅ヲシ、貧者ニハ貧者相
當ノ課稅ヲスルト云フヤウニナッテ、其間ニ擔稅力ニ應ジタ課稅ニ相成シテ居
ル、今囘ノ家屋稅ノ創設ナルモノガ、決シテ負擔ノ公平ヲ失フモノデナイト
考ヘテ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=5
-
006・森田福市
○森田福市君 唯今、大藏大臣ノ御答辯ニ依ルト、詳細ナ點ハ他ノ機會ニ於
テ答辯スルト云フ御答辯デアリマシタカラ、私ハ强ヒテ追究イタシマセヌ、
唯御答辯ノ中ニアリマシタ中ニ、私ノ御尋ネシタノト當局ノ御答辯トハチ
ヨット相違ヲシテ居ルノデアリマス、資本利子稅ニ對シテ地方稅ノ附加稅ヲ課
スルノニハ、衆議院ニ於テ修正ニナッテ居ル通リ、全部ノ本稅ヘ附加稅ヲ掛ケ
ルコトガ出來ルト云フヤウナ御答辯デアリマシタガ、ソレハ單ニ乙種ニ依ル
資本利子稅ニ對シテハ可能デアラウト思ヒマスケレドモ、甲種ノ資本利子稅
ニ對シテ不可能デハナイカト本員ハ考ヘルノデアリマス、此點ハ能ク御考ヘ
置キヲ願ッテ、御答辯ガ戴ケレバ結構デアリマスガ、御答辯ニナリマセネバ、後
トカラデモ、亦他ノ機會ニデモ宜シウゴザイマス、今日ノ質問者ハ澤山アル
ノデアリマスカラ、之ニ付テ伺ヘレバ結構デアリマス、唯、此點ハ要ヲ得テ
居ラヌト思フノデアリマス、ソレカラ必要ノ經費ノ點ハ收入ヲ得ル爲ニ要ス
ル經費デアル、是ハモウ能ク分ッテ居ル、收入ヲ得ルニ必要デアルト云フノ
ハドノ範圍ヲ指スカト云フコトヲ、私ハ具體的ノコトヲ質問シテ居ルノデ、
家族ニ要スル經費一般ヲ含ムヤ、否ヤ、其家ノ家事費デアリマス、詳細ニ申
上ゲマスレバ必要經費ニ是ハ含ムベキモノデアラウト思フノデアリマス、從
業家族ノ人ヲ、假ニ月給ヲ、卽チ給料ヲ定メテスルノデアルカ、ドウカト云
フ、具體的ノ御尋ヲ申上ゲタノデアリマス、ソレカラ一局部ノ統計ヲ示シテ
增徵デアルト云フノハ當ヲ得テ居ラヌ、全國一般ヲ通ジタラ、營業稅ヨリモ
營業收益稅ガ減ズル、斯ウ云フ御答辯デアッタノデアリマスガ、是ハ確ニ前年
度ニモ、大正十四年度ノ第一種ノ所得及八月三十一日ニ決定シタ中ノ個人ノ
商工業ヨリ得タル所ノ第三種所得等ヲ合シタモノノ所得金額······數字ヘ掛ケ
タ······率ヲ掛ケタ所ノ金額、六大都市ノ法人ノモノ或ル一町內ノモノ、三ツ
ニ分ケテ御尋ネシタノデアリマシタカラ、結局、一局部トハ申サレマセヌト
考ヘルノデアリマス、全部ヲ擧ゲテ······小中大ト云フヤウニ擧ゲテ、全部ノ
統計ヲ擧ゲテ御尋ネシタヤウニ心得テ居ルノデアリマス、其他ノ事ハ餘リ詳
細ニ涉リマスカラ、他ノ機會ニ本員モ讓ルコトニ致シマス、尙ホ意見ニ涉ル
トハ申シマセヌ、今ノ事ダケハ念ノ爲ニ申上ゲテ置ク次第デアリマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=6
-
007・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 最後ノ御質問ニ御答ヲ申上ゲマス、第一ニ營業收
益稅デアリマシテ、資本利子稅ヲ國稅トシテハ控除スルニ拘ラズ、地方稅ヲ
掛ケル場合ニ於テハ、控除セザルモノト看做シテ、附加稅ヲカケルト云フコ
トヲ申上ゲマシタコトニ對シマシテ、ソレハ乙種ニ付ラハ適用ガ出來ルカモ
知レヌガ、甲種ニ付テハ適用ガ出來ナカラウト云フ意味ノ御質問デアリマシ
タガ、左樣ナコトハアリマセヌノデ、甲乙何レニ均ラズ、其法人カラ控除シ
タル所ノ資本利子稅額デアリマスカラ、ソレヲ控除セザルモノトシテ、元ヘ戾
スコトハ出來ル譯デアリマス、其御心配ハアルマイト思ヒマス、第二點ハ必
要ノ經費ヲ控除スルト申シマシタコトニ對シテ、家族ノ生活費ハ其必要ノ經
費ノ中ニ入ッテ居ルカト云フ御質問デアリマスルガ、必要ノ經費ト申シマスル
ノハ其事業ヲスルニ付テ······其收入ヲ擧ゲルニ付テ要シタ所ノ經費デアリ
マスガ、家族ノ生活費ハ必要ノ經費ノ中ニハ入レナイ.是マデノヤリ方ニナッ
テ居リマス、此度ノ必要ノ經費ト申シマスコトモ、其本人及家族ノ生活ニ要
スル經費ハ控除シナイ積リデアリマス、第三ハ、御質問デハナカッタヤウデ
アリマスルケレドモ、全國ノ統計ヲ綜合シテ調査ヲ致シマシテ、サウシテ此
度ノ營業收益稅ニ依ッテ得ベキ所ノ收入金額ト營業收益稅ヲ起サズシテ營業
稅ヲ此儘十五年度ニ於テ施行スベキ場合ニ於テ、商工業者ノ負擔スベキ所ノ
金額トヲ比較イタシマスレバ、是ハ明カニ四百十餘万圓ノ負擔輕減ニナルト
云フ統計ガ現ハレテ居リマスカラ、何レ其詳細ノ數字ハ委員會等ニ於キマシ
テ十分ニ說明ヲ申上ゲルコトニ致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=7
-
008・森田福市
○森田福市君 モウ御尋ネ申上ゲマセヌ積リデアリマシタガ、第十五條ノ資
本利子稅ノ甲種ニ付テノ附加稅ニ於テ御引去リニナルコトハ困難デハナイカ
ト言ヒマシタガ、唯今、大藏大臣ノ御答辯デハ何等困難ヂヤナイ、矢張リ附加
稅ヲ課スルコトガ出來ルト、斯樣ニ御答辯ニナッタノデアリマス、デ、已ムヲ得
ズ御尋ネシテ見ルノデアリマスガ甲種ノ資本利子稅ニ付テハ「其ノ金額支拂
ノ際支拂者其ノ資本利子稅ヲ徵收シ」トアルノデアリマス、サウ致シマスト、
衆議院デ附イテ居リマス所ノ、所謂修正ニナリマシタ案ニ付テ、大藏大臣カ、
內務大臣ノ許可ヲ受ケタ場合ニ、資本利子稅ニ付テノ地方稅ヲ徵收スルコト
ガ出來ルト云フコトデアッテ、恰モ其府縣ガ許可ヲ受ケテ居ッタ場合ニ、其府
縣ガ大藏內務兩大臣ノ許可ヲ受ケテ附加稅ヲ取ルト決マリマシタナラバ、納
稅者ハ必ズ他ノ府縣ニ持テ行ッテ預金シ、ツ或ハ公債、社債ノ利子ヲ受取ルコ
トガ簡單ニ出來マス、是ハドウシテモ甲種ノモノニ對シテ附加稅ヲ掛ケラレ
ルト云フコトハ是ハ出來得ヌコトヂヤナイカト思ッテ御尋ネシタノデアリ
やす、大藏大臣ハ極ク簡單ニ出來ルヤウニ御答辯ニナリマシタガ、本員トハ
意見ガ相違シテ居ルヤウニ思ヒマス、今少シソレヲ御考ヘヲ願ヒマス
〔政府委員黑田英雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=8
-
009・黒田英雄
○政府委員(黑田英雄君) 御答ヘ致シマス、營業收益稅ヨリ資本利子稅ヲ控
除イタシマスルノハ、其法人ガ其事業年度間ニ於テ納メマシタ資本利子稅ノ
稅額ヲ控除イタスノデアリマシテ、卽チ法人ノ收益ヲ計算イタシマス際ニ於
キマシテ、其法人ガドレダケ其期間ニ於テ資本利子稅ヲ納メタカト云フコト
ヲ調查イタシマシテ、其稅額ヲ營業收益稅ノ稅額ヨリ控除イタスノデアリマ
スソレ故ニ營業收益稅ヲ決定イタシマスル際ニ於キマシテハ必ズ其法人ガ
其事業年度間ニ於キマシテ、ドレダケノ資本利子稅ヲ納メタカト云フコトヲ
調查イタスノデアリマス、是ハ支拂ッタ方カラ調査イタス譯デハアリマセヌノ
デアリマシテ、納メタ方ノ法人ニ就キマシテ、ドレダケノ資本利子稅ヲ納メ
タカト云フコトヲ調査イタスノデアリマスカラ、甲種ノ資本利子稅ハ其法人
ニ付キマシテハドレダケアルカト云フコトガ分ルノデアリマス、ソレ故ニ先
程大藏大臣ガ御說明申上ゲマシタヤウニ、其法人ノ營業收益稅ニ對シマシ
テ附加稅ヲカケマスル際ニ於テモ其資本利子稅ヲ控除シナカッタモノヲ標準
ニシマシテ課稅シマスルナラバ、卽チ其法人ガ拂ッタ資本利子稅ニ對シテモ
掛カル結果ニナルノデアリマス、併ナガラ支拂ヒノ方ノ資本利子稅ト云フモ
ノニ對シテ附加稅ヲ課スル次第デハナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=9
-
010・森田福市
○森田福市君 唯今ハ附加稅ノコトニ付テ御尋ネシタノデアリマス、本稅ニ
付テ御尋ネシタノデハアリマセヌカラ、是以上ハ矢張リ議論ニナリマスカラ、
質問ハ是デ打切リマシテ、他ノ機會ニ於テ··
〔中村純九郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=10
-
011・中村純九郎
○中村純九郞君 私ハ稅制整理ニ付テ政府ニ御尋ヲ致シタウ存ジマス、私ハ
不斷考ヘテ居リマスルノニ、租稅問題ハ衆議院ノ審議ヲ通過シテ貴族院ニ廻
付セラレタル場合ハ、宛モ豫算先議權ガ憲法上衆議院ニ付與セラレタヤウ
ニ、之ニ對シテハ特別ノ敬意ヲ拂ヒ、格別ノ遠慮ヲ加ヘテ審議セナクチヤナ
ラヌモノデアルト信ジテ居リマス、彼ノ憲法政治ノ模範國トモ申シマスル英
國ニ於テハ、租稅ニ關スル法案ハ矢張リ下院ニ先議權ガアルモノトシテ取扱
ハレテアルト云フコトヲ記憶致シテ居リマス、我ガ貴族院ノ先例ヲ取調ベタ
ルコトハゴザイマセヌガ、蓋シ衆議院ニ先立ッテ租稅法案ガ審議セラレタ例
ハ是ナキコトカト存ジテ居リマス、然ルニモ拘ラズ、此度稅制整理案ニ付キ
マシテ、疑ヲ懷キマスルノハ、サウシテ其疑ヒマシタ所ノ點ハ衆議院於テ
ハ餘リ論議セラレナカッタカノヤウニ存ジマス、其事ガ苟モ我ガ國體ノ精華
ヲ傷ケハセナイデアラウカ、我ガ風〓ヲ害スル虞ハナイデアラウカ、我ガ立
派ナル歷史ノ蹟ヲナクシハシナイデアラウカト云フ心配ノ末カラ敢テ御尋ヲ
致ス譯デゴザイマス、第一ハ地租條例ニ付テ御尋ヲ致シマス、政府及ビ近來
ノ政黨ノ諸君ハ今日ノ農村ノ衰頽ヲ救濟スルノ情切ナルガ爲メ、農村振興
ヲ策スルニ一日モ急ナルヲ感ゼラレタル熱心ノ爲メ、田畑ノ地租ヲ或ハ町村
ニ委讓セラレルガ宜シイト、斯ウ云フ論モゴザイマス、或ハ自作農者ノ田畑
ノ地租ヲ免ズルガ宜シイ、斯ウ云フ論モゴザイマスル、政府ノ提出案ハ御承
知ノ通リ新タニ免稅點ヲ設ケラレマシタ、サウシテ二百圓以下ノ地租ヲ免ズ
ルト云フコトニナリマシタ、免稅點ヲ設ケタルコトヲ、營業稅ヤ所得稅ノ如
ク同ジク同樣ニ取扱ハレタカノヤウニ感ジマスル、抑〓我ガ國ニ於ケル地租ト
云フモノハ······地租ハ外ノ稅デハアリマセヌ、地租ニ限ッテハ、他ノ租稅トハ
格別趣ヲ異ニシマシテ、悠久ノ歷史ヲ有テ居リマス、蓋シ神代ヨリ傳ハッタ
モノカト存ジマスル、謹ンデ按ズルニ我ガ天祖ノ天孫ニ下シ給ヒシ神勅ニ
「豐葦原ノ瑞穗ノ國ハ是レ我ガ子孫ノ王タルベキノ地ナリ」云々トゴザイマス
ル此頃ヨリシテ我ガ臣民ノ義務トシ、又誇リトシテ國家ニ貢獻シ來ッタモノ
ト存ジマス、勿論時代ニ依リ、其輕重厚薄ノ差ハゴザイマセウ、又鐮倉時代
以來ハ、武人豪族ノ收斂スル所トナッタ時代モゴザイマスガ、連綿トシテ國家
ニ奉仕スルノ務トシ、國家ノ公費ヲ負擔スルノ公務ヲ盡スノ本分トシテ、愉
快ニ奉納スルヲ光榮トシテ來タモノト存ジマスル、地租ヲ納ムルノ義務ハ丁
度兵役ノ義務ノヤウナモノデ、同時ニ權利トシ、榮譽トシテ盡シ來ッタモノト
信ジマスル、故ニ日本臣民ガ地租ヲ納ムルコトハ、君民ノ關係ヲ結ビ、君臣
ノ義ヲ明カニスル所ノ標識デアルト存ジマスル、恰モ西歐諸國ニ於ケル彼ノ
人頭稅ノ如ク「ポールタックス」、「タックス·オプ·カピターシヨン」ト云フガ如
キモノカト存ジマスル、我ガ列祖列聖ノ御代々ニ於カセラレマシテモ、農民
ノ疾苦ヲ叡慮ニ掛ケサセラレテ、稼穡ノ艱難ヲ知シ召シ給ヒシハ數尠カラズ
ゴザイマス、其一二ノ例ヲ申上ゲマスレバ、聖武帝ノ天平九年ニ地租ヲ免ズ
ルノ詔ガアリマス、元明帝ノ朝ニハ旱魃ノ末、雨ガ降ッタラバ其雨ヲ賀ビ給
ウタ詔ガ下ッテ居リマス、稱德帝ノ朝ニハ天平神護元年ニ正稅ヲ免ズルノ詔モ
ゴザイマス、延曆帝ノ九年ニハ五畿內ノ田租ヲ免ズルト云フ詔モゴザイマス、
又同十八年美作、備前、肥前等十一箇國ノ田租ヲ免ズルト云フ詔モ下ッテ居
リマス、降ッテ弘仁五年ニハ又是ハ反對ニ豐稔ヲ欣ビ給ウタ詔モ下ッテ居リマ
ス、近世ニ至リ、明治六年ニ地租改正ノ折ニハ、地租ヲ地價百分ノ三ニ減ズ
ルト云フコトニナッテ、其時ノ政府ノ聲明ニ、是ハ地價百分ノ三ニシテ置ク
ガ、他日物品稅ガ發達シタル時機ニナッタラバ百分ノ一マデ下ゲルゾヨト云
フ聲明ヲセラレテアリマス、明治十年一月ニハ更ニ地價百分ノ三ヲ地價二分
五厘ニ減ゼラレタ時モ詔勅ガ下ッテ居リマス、又歷代天皇ノ御製ニカカル詩ヤ
歌ノ中ニハ農民ノ疾苦ニ同情ヲ垂レサセラレマシテ、サウ云フ詩歌ハ少カラ
ズゴザイマス、殊ニ明治天皇ノ御製千四五百首ノ數多キ中ニ農村ノ實情、農
民ノ疾苦ノ狀ヲ變セラレタル御製ハ最モ多ク拜誦イタス所デアリマス、其二
三ヲ奉誦イタシマス「暑シトモ言ハレザリケリ煮エカヘル水田ニ立テル賤ヲ
思ヘバ」「窻ノウチニ扇トリテモ暑キ日ニ照ル日ヲウケテ賤ガ草取ル」「ヲサ
ナ兒ヲハグクミナガラ田ニ畑ニイソシム賤ノイトマナグナル」「早稻晩稻ノ
コルカタナク植ヱハテヽ賤モ田中ノ神祭ルラシ」「豐カナル年ノ初穂ヲサ
ゲツヽ賤モ縣ノ神ヲ祭ラン」「降ルニツケカルルニツケテ思フ哉我ガ民草ノ
上ハイカニト」澤山數ガゴザイマセウ、洵ニ九重雲深キ所ニ在ラセラレマシ
テ、ドウシテ斯ウ云フ大御心ヲ斯クモ農民ノ狀ニ垂レサセラレマセウカト云
フコトヲ思フ時ニハ、實ニ辱ナク感淚ヲ催ス次第デゴザイマス、謹ンデ案ズ
ルニ宮中ニ於カセラレテ、每年行ハセラルル所ノ祈年祭、又各府縣ノ官國幣
社ニ於テ行ハセラルル所ノ祈年祭、是ハ其年ノ豐年ヲ祈願スルト云フ意義ア
ル祭典デゴザイマセヌカ、其秋ニ至リマスト、新嘗祭、神嘗祭ト云フヤウナ
コトヲ行ハセラレマス、是ハ其年ノ豐年ノ報告祭ヲ意味スルモノト存ジマ
ス、而シテ其神明ニ供セラルル御饌米ハ適當ノ自作農者ニ仰付ケラレ、其自
作ノ耕作者ハ之ヲ無上ノ光榮トシ、齋戒沐浴シテ、此御饌米ヲ耕作シテ、奉
納スルト云フコトヲ承テテリリスス、是等ノ典禮ハ洵ニ君民一體トナリマシ
テ、此瑞穗ノ國土ヲ利用シ、豐年幸福ヲ祈ルト云フ、洵ニ外國ニ絕エテ無キ
珍シキ美シキ歷史デアルト存ジマス、又畏クモ天皇御卽位ノ大典ニ於テ擧行
アラセラルル大嘗會ノ式典ニ御神饌ヲ供スルノ爲ニ、良田ト良民ト兩方面ヲ
選擇アラセラレテ、悠紀田主基田ノ設ケガアルト云フコトハ是ハ諸君モ御
承知ノコトト存ジマス、然ルニ此度ハ免稅點ヲ設ケテ自作農者ノ田畑租ヲ全
免スル、全ク免ジテ仕舞フト云フコトハ、是ハ君臣一體タル此史蹟ヲ······立
派ナル美ハシキ史蹟ヲ廢滅シテ、農民ノ光榮アル義務ヲ廢棄セムトスルノデ
ハゴザイマスマイカ、將來帝室ハ何人ニ此神米ノ耕作ヲ御命ジニナルコトガ
出來マスカ、國家ハ誰ニ命ジテ此古式ノ大典ニ缺クベカラザル悠紀田主基田
ヲ耕サシメラルルデゴザイマセウカ、普通選擧ハ臣民翼贊ノ道ヲ廣メ政治上
ノ國民總動員デ、國民ヲ舉ゲテ國家ノ重キヲ負擔スル光榮アル義務ト權利ト
ヲ有セシメタルモノト存ジマス、是マデハ知ラヌコト、普通選擧モ行ハレテ
···普通選擧モ制定セラレタル時代ニ於キマシテハ、租稅ノ改廢等ヲ計ルニ
モ宜シク從來ノ考ヲ改メテ、能ク此臣民タル者ノ自負心ト自尊心ト云フコト
ヲ尊敬シテ考慮ヲ加ヘナクチヤナラヌコトト存ジマス、昔ノ獨裁君主ガ賤民
ヲ憐レムト云フヤウナ氣持デ、廢減ヲ行ハムト致シマシタナラバ、見方ニ依
テハ、是ハ臣民ヲ却ッテ侮辱スルノ觀ガアリハシマセヌカ、今日ノ自作農諸君
ハ減稅ハ固ヨリ希望スル所デゴザイマセウ、併ナガラ全部ノ免稅ヲ冀ウテ國
家ノ救助ヲ仰グト云フ者ハ、蓋シ一人モナカラウト存ジマス、私ハ地租輕減
ノ聲ハ久シキ前カラ聞キマス、又地租ヲ輕減シテ、地價百分ノ三ヨリ一ニ下
スト云フコトハ明治初年以來ノ理想デゴザイマス、自作農者ト小作人トノ
生活狀態貧富ノ程度等モ稍〓似寄ッタモノデゴザイマシテ、斯ノ如ク其自作人
卽チ地主トハ申シナガラ、其自作人ニ免ズルト云フコトハ、寧ロ小作人ニ走
ラシメテ却テ小作爭議ノ勢ヲ助ケ、階級鬪爭ノ助勢ヲスルヤウナ結果ニ陷ラ
ヌカト云フコトヲ心配イタシマス、斯ク申ス私モ、自作農者、卽チ自ラ未耜ヲ
執ッテ稼穡ノ艱難ヲ嘗ムルノ自作農者ニ限ッテハ、田畑ノ減租ハ最モ冀フ所デ
ゴザイマス、卽チ現行地價百分ノ四半ヲ百分ノ一ニ下シテモ宜シイ、百分ノ
五厘ニ下ゲテモ不可ナカラムト信ジマス、殆ド免稅ニ近キ點マデ引下ゲラレ
ムコトハ最モ希望スル所デゴザイマス、然レドモ全然免除スルト云フコトハ
前申ス通リニ自作農者ノ却テ失望スル所デアリハセナイカト云フコトヲ恐レ
ルノデゴザイマス、地價百分ノ四箇半ヨリ節約シテ無稅ニスル、如何ニモ急
激ノ改正デハゴザイマスマイカ、幾度モ申ス通リ我國ノ地租ハ古キ歷史ヲ有
シテ居リマシテ、他ノ所得稅營業稅等ノ取扱ト同ジクスルコトガ出來ナイモ
ノデアラウト思ヒマス、私ハ幾ラニ下ゲロト云フコトハ主張イタシマセヌ、
唯此自作農者ノ光榮トシ義務トシテ繼續シ來ッタ所ノ其美風ハ、歷代ノ列聖ガ
御心配遊バシタ所ノ其美シキ情トシテ長ク續ケテ置クモノデアルト云フコト
ハ固ク信ズルモノデアリマス、斯ク申シタラバ大藏省ノ諸君ハ、低率ノ田
畑地租ヲ存置シテ置イテハ徵稅上ノ事務ガ煩雜ニナリ、土地ノ文量モ、地價
ノ修正モ、地目ノ變換、分合筆ノ手數、土地臺帳ノ整理等中〓事務錯雜デ人
員ト費用ヲ要シテ、徵稅費ハ多額トナッテ却テ得ル所ハ失フ所ヲ償ハヌ、斯ウ
云フコトヲ大藏省邊ハ答ヘルカモ知レマセヌ、誠ニサウデゴザイマセウ、ケ
レドモ他ノ租稅ナラバ格別、地租ハ前申シタ通リニ、我國古代カラ歷史的君
民同治ノ標章デゴザイマシテ、床シキ此美風ハ存セナケレバナラヌカラ、啻
ニ算盤ニ依賴シテ制定スルモノデハナク、算盤上ノ得失ハ恐ンデ之ヲ保續シ
テ戴カナケレバナラヌモノデハナイカト云フコトヲ感ジマス、第二ハ此度稅
制整理ノ結果廢減稅ニ因テ生ジタ歲入ノ不足ヲ補充センガ爲ニ新稅ヲ起シ、
又ハ舊稅率ヲ高メラレタ廉〓ガ少カラズゴザイマス、其中ニ付テ他ニ課稅物
件モアリマシタラウニ、相續稅ノ累進率ヲ引上ゲラレマシタノハ、誠ニ一驚
ヲ喫シタノデゴザイマス、抑〓稅制ノ整理ト云フ以上ハ、成ルベク正義ニ適ヒ
成ルベク徵稅費ノ少クシテ收入ノ多キ種類ヲ求メ、成ルベク逋稅ノ少クシテ
納稅者ノ納稅能力ノ裕ナルモノヲ選ンデ加フルニ社會政策モ加味スルト云
フヤウナコトハ結構デゴザイマス、卽チ此度ノ交通稅ノ廢止、賣藥印紙稅ノ廢
止、醬油稅ノ廢止ノ如キハ是ハ惡稅廢止ト云フ御主意モアッタカト存ジマ
ス,私ハ平素存ジテ居リマスガ、彼ノ相續稅ト云フモノハ、西歐諸國ニ於テ
ハ人心······人ノ良心ヲ刺戟スルコト、衝動スルコト甚シクナイカモ知レマセ
ヌガ、我國ノ如キ家族制ヲ重ンジ、祖先ヲ崇敬シ、醇朴質實ノ風ヲ尊ンデ、
孝悌忠信ノ〓ノ盛ナル國風ニハ、甚ダ宜シクナイ租稅デアルト思ヒマス、ケレ
ドモ此創設セラレシ時機ハ、丁度明治三十八年一月日露戰爭ノ正ニ酣ナル時
デアリマシテ、租稅ノ外ニ國民ハ國力ヲ擧ゲテ是非戰ニ勝タネバナラヌト云
ウテ、有ラム限リノ力ヲ盡シ、財アルモノハ財ヲ盡シテ、其時ハ租稅ノ外ニ
祖先傳來ノ寶物、金塊、小判、大判ナドト云フモノヲ政府ニ獻納シタル篤志
ノ諸君ガ續々ゴザイマシタ、斯ウ云フ時機デゴザイマスカラ、何モ國風遺俗
ヲ顧ルノ遑ナイ時デアリマス、ソレデ通稅ノ最モ少ク徵收モシ易ク、收獲モ
裕ナルト、且又西歐ニ······歐洲諸國ニモ先例ガアルモノデゴザイマスカラ、
新ニ東洋ノ我國ニモ之ヲ採用セラレタ租稅デゴザイマセウガ、早晩是ハ廢止
セラレルカ、減稅セラルベキモノト窃ニ信ジテ居リマシテ、此度ノ稅制整理
ニハ必ズ廢減セラルベキモノト期待シテ居リマシタ、何ゾ圖ラン、廢減セ
ラレル所カ、却テ累進率ヲ引上ゲラレタルト云フコトハ、意外千萬デゴザイ
マス、前囘ノ改正ニハ、直系卑族ノ相續稅等ニハ稍〓稅率ヲ緩和セラレタノデ
ゴザイマス、然ルニ此度ハソレヲ引上ゲラレタ、聞ク所ニ依レバ、西歐諸國、
歐洲諸國ハ羅馬時代カラノ遺物デアル相續稅ヲ存シ、通稅ノ憂ガ少キ故、所
得稅ノ補完トシテ重寳ナル租稅トシテ、財政家等ハ主張セラレルサウデゴザ
イマス、西歐諸國ノヤウニ父子夫婦兄弟親族ト云フ、此父子夫婦親族間ノ死
ヲ待ッテ其遺產ヲ受ケルヲ喜ブト云フヤウナ、薄情冷淡ナ風俗ト、我ガ忠孝貞
節ノ情誼ヲ重ンズル風尙美風トハ、國柄ガ違ヒマス、同日ニ論ズベキモノデ
ハゴザイマセヌ、其忠孝節義ヲ重シトセズト申ス國デモ、「プロイセン」ハ直
系及夫婦間ノ相續稅ハ免除イタシマシタ、英國モ亦千八百八十一年ヲ以テ、
直系卑族ノ相續稅ハ免除シタル筈デゴザイマス、況ヤ東洋ノ君子國ト稱セラ
ルル我國殊ニ〓育勅語ヲ奉戴シテ居ル所ノ我國ノ國風ニ、斯ノ如キ、適ハナ
イ所ノ租稅ヲバ其儘ニシテ、減廢ヲ圖ラヌト云フコトハ、政府ノ眞意何處ニ
在ルカト云フコトヲ疑ヒマス、人ノ子タル者其父ヲ喪フ、不幸焉ヨリ大ナ
ルハナシ、人ノ妻タル者夫ニ死別ヲスル、悲慘焉ヨリ甚シキハナイ、父死シ
テ未ダ葬ラズ、國家ハ其不幸ニ附込ミ莫大ナル租稅ヲ課スル、夫ヲ喪ウテ墓
木未ダ新ニ、悲慘ノ淚未ダ乾カザルニ、國家ハ此遺產ノ一部ヲ沒收スル、何
ノ罪ガアッテ此遺產ヲ沒收シマスカ、私ハ之ヲ沒收ト云フ、何故ナラバ······私
ハ之ヲ課稅ト云ハズシテ沒收ト申シマス、所得ノ生ズル源泉ヲ奪フノハ沒收
デナクテ何デゴザイマセウ、凡ソ人ノ骨肉親子ノ死亡ヲ傷ムニ、貧富老少
ノ差ハゴザイマセヌ、試ニ改正ノ課稅額ヲ、二十万圓以上ノ家督相續ニ付テ
見テ見マスト、其價額ノ百分ノ五、其價額ニ對スル百分ノ五、卽チ五分ヲ稅
率トシテゴザイマス、ソレハ段々累進シテ價額ノ增進ニ遞次累進シマシテ五
百万圓ヲ超ユル價額ニ對シテ百分ノ十三、卽チ一割三分ヲ課セラレルコトニ
ナリマス、到底納稅者ノ一箇年內ニ其財產ヨリ所得ヲ得ベキ金額デハゴザイ
マセヌ、政府モ亦之ヲ豫期シテ居リマス、現行ニモサウデゴザイマス、其第
十七條ニ於テハ年賦延納ヲ許ストアリマス、卽チ一箇年ノ······財產ヨリ一箇
年間ニ所得シ能ハヌト云フコトハ、政府モ豫期シテ居ル、ソレデ年賦延納ヲ
許シテ居ル、其年賦ニ依ルモノハ此度ノ改正案ニ於テハ其「タリフ」ヲ上ゲタ
ル代リニ、年賦延納ノ五箇年ヲ七箇年ニ延長シテ居リマス、凡ソ租稅ノ原則
トシテ臣民ノ擔稅能力ト云フモノハ、其一年間ノ所得ヲ以テスベキハ、是ハ
言フマデモナイ、一年間ニ納入セザレバ國稅法ノ滯納處分ヲ受ケテ、其滯納
處分ニ依ッテ其年ノ納稅義務ヲ終了スル、彼ノ個人間ノ債務ノ如ク、永續的ニ
子々孫々ニ其負擔ノ義務ガアルモノデハナイ、然ルニ一年間ノ所得ヲ以テ納
入シ能ハザルコトヲ豫知シナガラ課稅スルト云フコトハ、是レ納稅ニ非ズシ
テ沒收ト云フ外ハナイノデアリマス、何トナレバ財產ノ幾分ヲ賣却スルカ、
獻納スルニアラザレバ、其相續稅ト云フモノハ完納スルコトハ出來ナイ、古
ヨリ明君賢相ガ往々ニシテ刀筆ノ吏、屬吏小人ニ誤ラレタルト云フ例證ハゴ
ザイマス、大藏省邊ハ其職務ニ〓心ナル餘リ、單ニ計數上ニ重キヲ置イテ、此
國家ノ大本、綱紀ノ維持ト云フコトニ思ヲ致サナカッタノデハアルマイカト云
フコトヲ心配シマス、併シ國務大臣タル大藏大臣ハ天皇輔弼ノ大任ヲ帶ビテ
居ラッシヤイマス、帝國ノ大體ヲ能ク通觀シテ政務ヲ執ラレル、大藏省屬僚ノ
人ニ蓋シ超越シタルモノガナクテハナリマセヌ、殊ニ若槻內閣ハ院外ニ於テ
デハゴザイマシタケレドモー正義公道ヲ以テ一枚看板トシテ進ムト云フコト
ヲ、聲明セラレテアルコトデアリマス、以上二箇ノ不都合ナル租稅ハ計數上
ニハ餘リ大イナル差異ヲ生ゼナイモノト信ジマスカラ、ドウカ此悖理的ノ稅
制ハ改正セラレテハ如何デアリマセウカ、又此稅法ヲ稅制整理ノ機會ニ於テ
整理セラレルノ御考ハゴザイマスマイカ、敢テ問フ、第三ニハ租稅ノ賦課ヲ
圖ルニハ其轉嫁ノ歸スル所如何ト云フコトヲ顧ミルハ是ハ言フヲ俟タナイ、
新稅ヲ起シ、又ハ增稅ヲ爲ス時ニハ、其轉嫁ハ直チニ消費者、利用者ニ歸ス
ベキト云フコトハ是ハ經濟上ノ法則デゴザイマス、從ッテ物價ガ變動ヲ來ス
ト云フコトハ必然デアリマス、例ヘバ增稅ノ場合ニ於テ、酒造稅ガ增シタナ
ラバ一升一圓ノ酒ハ明日ヨリ一圓五十錢ニナル、〓涼飮料ニ課稅セラルレバ
「サイダー」「シトロン」ノ一壜ノ價ガ二十錢ナラバ忽チ二十五錢三十錢ニナ
ルコトハ、經濟上ノ數理上已ムヲ得ヌコトデアリマス、然ルニ減廢稅ノ場合、
減廢稅ノ場合ハ若干時間ハ其減廢ノ餘澤ニ潤ハナイト云フコトガ、實例ノヤ
ウニ存ジマス、濱口大藏大臣ハ交通稅ヲ廢シタル結果、汽車賃、電車賃ヲ引
上グルガヤウナ公共團體、若クハ個人ノ交通營業者ニ對シテハ、適當ノ方策
ヲ講ズルト言ハレマシタデゴザイマスガ、醬油稅ナリ、織物稅ナリ、賣藥稅
ナリノ後始末ニ對シテハ同樣ニ矢張リ適當ナル方策ヲ講ゼラレルデゴザイマ
セウカ、此法律規則ヲ以テ租稅轉嫁ノ具合、經濟上ノ增稅カラ來ル、租稅轉
嫁ノ具合ヲ法律規則ヲ以テ定メルト云フコトハ如何デゴザイマセウカ、果シ
テ如何ナル方策ヲ以テ、之ニ臨マレルカヲ敢テ問フ、第四ニハ抑〓此度ノ稅
制整理ヲ爲スト云フニハ、國庫ノ收入ノ增減ヲ來サザル範圍ニ於テ計畫セラ
レルト云フコトデゴザイマスガ、之ヲ財政學者ニ聽キマスルニ、稅ト云フモ
ノハ惡稅デモ其「タリフ」ガ低ケシバ、必ズ惡稅デモ久シキニ亙ッテ施行シ
タルモノナレバ、轉嫁ヲ動カサナイカラ、安定ヲ圖ル爲ニハ据ヱ置イタ方ガ
宜シイ、斯ウ云フノガ財政學者ノ云フ所ノヤウデアリマス、凡ソ事物ノ整理
ト云フモノハ一ニハ多數ヲ統一シテ複雜ヲ避ケル、惡シキモノヲ淘汰シテ
良キモノヲ殘ス、減廢ヲ行ッテ新規ノ租稅ヲ起サナイナドト云フヤウナコト
デゴザイマセウ、然ルニ此度ハ約十有六種中ニ減廢シタル稅種ガ約八種バカ
リヲ有シ、新設又ハ增稅シタル稅種モ亦八種バカリアルヤウデス、然ラバ卽
チ稅目ニ於テモ餘リ增減ガナイ、稅額ニ於テモ增減ナシト政府ハ言ハレル、
之ヲ敢テ整理統一セラレタト云フコトハ何所ニ付テ言フモノデゴザイマセ
ウカ、是レノミナラズ國稅ノ改正ト同時ニ、地方稅ノ特別稅トカ、市町村ノ
所得稅ノ附加稅ヲ府縣ニ委讓スルトカ、隨分新舊混淆、混雜ヲ來シテ居リマ
ス、稅制整理ハ或ハ恐ル、却テ一時ノ稅制ノ混亂デハナイカ、延イテ物價ノ
攪亂ヲ來シハシナイカト云フコトヲ心配シマス、第五ニハ相續稅法改正ノ附
則デアリマス、抑モ稅法ノ改正ニ付テハ、稅法ノ改正ニ依リ人民ノ負擔ニ輕
重厚薄ヲ來スノ結果トナルコトガアル、玆ニ於テ過渡的ニ新舊ノ負擔ヲ比較
考量シテ其輕キニ從フト云フコトハ、是ハ立法上妥當ナルコトト存ジマス
ル、刑法改正ノ際ニ於テ新舊ノ刑罰ヲ比較考量シテ、其輕キニ從ハシムルト
云フコトハ、是ハ立法者ノ妥當ナル考デアルト信ジマス、然ルニ改正相續稅
法ノ施行前ニ相續ヲ開始シテ居テ、未ダ納稅濟ニナラザルモノデ免稅點ニ達
シタモノモアリマセウ、新法ニ從ッテ是ハ免稅セシムベキモノト存ジマス、又
第七條ニ依ッテ五年ノ年賦延納ヲ許可シタル者モ、新法ガ七年間ノ延納ヲ許シ
テ居リマスカラ、七年ノ延納ヲ許可シテモ宜シカラウト思ヒマス、是等ノコ
トハ唯徵稅上ノ便宜ヲ慮ッテ納稅者ノ便否ヲ顧ミナイ、洵ニ不親切ナル立法デ
ハナイカト云フコトヲ窃ニ憂フルノデアリマス、相續ガ開始シテモ三箇月間
ハ納稅セザルコトヲ得ル、故ニ免稅點ヲ引上ゲタル者ハ、稅金ノ旣納ノ分ハ
格別デスガ、納金ノ既納ニ非ザル限リハ之ヲ免ジテヤッテ宜シカラウト思ヒ
やべ、五年ノ延納分納ヲ許可シタル者ハ、既納ノ分ハ格別、是レ亦七年ノ分
納ヲ許シテ然ルベシト思ヒマス、現內閣諸公ノ推戴シテ最モ尊敬セラレタル
所ノ一大豪族ニ、不幸ニシテ悲ムベキ相續ガ開始セラレマシタ、其延納ノ期
ヲ新法ノ七年ニ均霑セシムルト云フコトハ、洵ニ情誼已ムヲ得ナイモノト存
ジマスル、ソレヲ徒ラニ······徒ラニデハナイカモ存ジマセヌガ、唯事務ノ便
宜上、相續法開始以前ニ於ケル者ニハ適用セズト云フ如キハ、洵ニ不親切ナ
ル立法デハナイカト云フコトヲ窃ニ憂フル者デゴザイマス、是ダケガ私ノ質
問デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=11
-
012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 休憩ヲ致シマシテ、午後ハ一時三十分ヨリ開會イ
タシマス
午後零時十四分休憩
불효율桌
午後一時四十三分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=12
-
013・蜂須賀正韶
○副議長(侯爵蜂須賀正韶君) 是ヨリ引續キ午後ノ會議ヲ開キマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=13
-
014・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 先刻ノ中村君ノ御質問ニ對シマシテ、御答ヲ致サ
ウト思ヒマス、質問ノ第一點ハ地租免稅點ニ關スル御質問デアッタノデアリマ
ス此點ニ關シマシテ中村君ハ我ガ國體ト土地トノ關係、君臣ノ義ト地租ト
ノ關係ニ付キマシテ、詳細ニ御說ヲ述ベラレ、殊ニ先帝ノ御製ヲ引用セラレ
マシテ、熱心ニ御議論ヲ爲サレタノデアリマス、其御熱心ナル態度ニ對シマ
シテハ、私衷心ヨリ敬意ヲ表スル次第デアリマス、然ルニ中村君ガ御心配ニ
ナリマシタ其國體竝ニ君臣ノ義ト云フ事柄ト、此度、政府ノ稅制整理案ニ規定
ヲ致シテアリマス所ノ地租免稅點トノ問題ハ餘リ大シタ關係ハ無イヤウニ私
ハ考ヘマス、此度ノ免稅點ヲ設置イタサムトスル所ノ政府ノ提案ハ申ス迄
モナク小農タル自作農ノ維持創設ヲ助成シヤウトスル所ノ國家ノ政策上ノ見
地ニ基イタル規定デアリマス、或ハ國體ノ問題、君臣ノ義ノ問題トハ、更に
關係ノナイコトト心得テ居リマス、政府ハ農村ノ狀況ニ鑑ミマシテ、又土地
ノ兼併ノ風ガ追〓ト行ハレマシテ、自作農ガ減少イタシ小作農ガ增加スルト
云フ事柄ヲ以テ、國家ノ將來ノ爲ニ憂フベキ事態デアルト考ヘテ居リマス、
此點ニ付キマシテハ、先刻、中村君ノ御演說ヲ承ッテ居リマシテモ、能ク御了
解ヲ下サッテ居ルコトデアラウト思ヒマス、私共ノ考ニ依リマスレバ、中產階
級殊ニ農村ニ於ケル所ノ中產階級デアリマス、自作農ト申シマスモノハ、卽
チ健康ノ中心デアリ、又道德ノ中心デアリ、常識ノ中心デアル、國家ノ組織
ノ上ニ於テ、社會ノ構成ノ上ニ於テ、最モ大事ナ階級デアルト思ッテ居リマ
ス、此大事ナ階級ガ追〓ト凋落ヲ致シマシテ、自作農ガ自分ノ土地ヲ失ッテ他
人ノ土地ヲ耕作ヲスルト云フ狀況ニ陷リマスコトハ大體ノ上カラ考ヘマシ
テ、誠ニ憂慮スベキコトデアルト思ッテ居リマス、此憂慮スベキ所ノ狀態ト云
フモノヲ、之ヲ救濟イタシマシテ、自作農ノ維持ヲ致シ、之ガ創設ヲ助成シ
ヤウト云フモノハ、獨リ稅制整理案ニ限リマセヌ、此政府ノ大體ノ政策デア
リマス、此見地ニ基キマシテ、此度ノ自作農ノ免稅點ヲ設クルコトヲ致シマ
スシ、又豫算ニ於キマシテモ、農林省ノ豫算ニ於テ、自作農ノ創設ヲ奬勵ス
ルト云フ經費ヲ要求イタシマシテアルヤウナ次第デアリマス、總テノ國家ノ
政策ガ相一致協力ヲ致シマシテ、此農村ニ於ケル中產階級タル所ノ自作農ノ
段々滅ビ行カムトスル狀況ヲ挽囘イタシマシテ、是ガ維持創設ニ力メタイト
云フノガ、此政府ノ希望デアリマス、此政策上ノ目的ヲ以テ地租條例中ノ改
正ヲ致シマシテ、自作農ノ免除······殊ニ小農タル所ノ自作農ニ對シマシテ、
地租ヲ徵收シナイト云フ規定ヲ設ケタ次第デアリマス、國體上若クハ君臣ノ
義ノ問題トハ、私ハ別ニ關係ノ無イ事柄デアルト思ヒマス、單リ關係ガアリ
マセヌノミナラズ、先刻、中村君ガ引用セラレマシタ所ノ、或ハ先帝ノ御製、
其他ノ事柄ノ其趣意ヲ擴充イタシテ參リマスト云フト、此自作農ヲ維持創設
イタシ、之ヲ奬勵スルト云フコトハ卽チ中村君ガ御說キニナリマシタ所ノ
其御精神ニ適フ所以デハナイカト考ヘル位デアリマス、固ヨリ地租ヲ徵收シ
ナイト云フ單一ナル事柄ヲ以テ、自作農ノ維持創設ヲ圖ルト云フコトハ或
ハ十分デナイト云フ嫌ヒモアルヤウデアリマスルガ、併ナガラ國家ガ一ツノ
目的ヲ極メマシテ、斯ウ云フ事柄ヲ成就シヤウト云フ場合ニ於テ、單一ナル
政策デハ其目的ヲ達スルコトガ出來マセヌカラ、此免稅點ヲ設クル以外ニ於
キマシテモ種々ナル所ノ政策ヲ施シマシテ、ソレガ相俟ッテ始メテ其目的ヲ
達スルニ近カラムト考ヘル次第デアリマス、斯ノ如キ趣意ヲ以テ自作農ニ對
シマシテ、免稅點ヲ設クルト云フ改正案ヲ提案イタシタ次第デアリマス、中
村君ノ御議論トハ、其精神ニ於テ、別ニ牴觸ヲシナイノミナラズ、却テ相調
和シテ居ルノデハナイカト私ハ考ヘマス、第二點ハ相續稅ニ關スル所ノ御質
問デアリマス、相續稅ハ我國ノ美風タル所ノ家族制度ト相反スルモノデアル
ニ拘ラズ、此度ノ稅制整理ヲ機會ト致シテ、之ヲ廢止スルノガ相當デハナイ
カト考ヘテ居ッタ所ガ單リ之ヲ廢止シナイノミナラズ、却テ增徵スルト云フ
案ヲ出サレタト云フコトハ、誠ニ遺憾デアルト云フ意味ノ御質問ト拜承イタ
シマシタ、然ルニ昨日モ整理案ニ付キマシテ大體ノ說明ヲ申上ゲテ置キマシ
タ通リ、地租ニ對シテ免稅點ヲ設ケ、或ハ所得稅ノ免稅點ヲ引上ゲ、其他直
接國稅ニ於テ相當ナル所ノ歲入ノ減少ヲ見マスルニ付キマシテ、此歲入ノ減
少ヲ直接國稅ノ新設若クハ增徵ニ依リマシテ、補塡ヲ致サウトスルコトニ付
キマシテハ、新ニ設ケマシタ所ノ資本利子稅ヲ以テ致シマスル外ニハ相續
稅ノ增徵ニ依リマシテ之ヲ補フト云フ以外ニ、他ニ方法ヲ發見スルコトガ出
來ナイノデアリマス、玆ニ於テ政府ノ方針ト致シマシテハ成ルベク、新稅
若クハ增稅ハ避ケタイト云フ考ヲ持ツテ居リマシタケレドモ、現下ノ財政上ノ
狀況ニ於キマシテ、歲入ノ減少ヲ來スト云フ整理ハ遺憾ナガラ是ハ出來兼
ネル次第デアリマス、玆ニ於テ一方ニ於テ減ズル所ガアリマスレバ、ソレヲ
補ヒマスルガ爲ニ新稅若クハ增稅ト云フ手段ニ出ナケレバナラヌノデアリマ
ス、其增稅ト云フコトヲ直接國稅ニ於テ求ムル場合ニ於キマシテハ、相續稅
ニ於ケル所ノ或ル程度ノ增徵ハ、誠ニ已ムヲ得ナイコトデアルト考ヘマス、
併ナガラ相續稅ニ於テ唯稅率ノ增加ヲ致シタト云フノミデハアリマセヌ、卽
チ法案ニ於テ御覽ニナリマスル通リ、從來ノ免稅點ヲ相當ノ程度ニ引上ゲマ
シテ、小サイ所ノ財產ヲ相續スル者ニ對シマシテハ、相續稅ヲ免除スルト云
フコトモ併セテ規定シテアルノデアリマス、卽チ家督相續ノ場合ニ於キマシ
テハ、免稅點ノ二千圓ヲ五千圓ニ引上ゲ、遺產相續ノ場合ニ於キマシテハ
免稅點ノ五百圓ヲ一千圓ニ引上ゲテアリマス、卽チ斯ノ如ク致シマシテ、小
財產ニ對スル所ノ相續稅ヲ免除イタシマスルト同時ニ、或ル程度以上ノ財產
ヲ相續スル者ニ對シマシテノミ、其稅率ヲ適度ニ高メタノデアリマス、而モ
其稅率ノ高メ方ハ四万圓マデノ相續財產ニ對シマシテハ從來ノ稅率ヲ變更
イタシマセス、現行法ノ通リノ稅率ニ致シテ置キマシテ、四万圓ヲ超過スル
分ニ限ッテ、徐々ニ其稅率ヲ或ル程度ニマデ引上ゲタノデアリマス、其引上ゲ
マシタ所ノ程度ハ是ハ能ク御承知ノ通リデアリマス、相續稅ト云フモノガ初
メテ施行セラレマシタ所ノ明治三十八年、其施行初年ニ於ケル所ノ稅率ニ對
シマシテハ寧ロ其以內ニ於テ增率ヲ決メタノデアリマス、數字ヲ申上ゲテ
見マスレバ、四万圓マデノ財產ニ對シマシテハ、現行法ハ稅率ガ千分ノ十二
デアリマス、此度ノ改正案ニ於テハ十五ニ引上ゲマシタガ、明治三十八年施
行當初ニ於テハ其稅率ハ千分ノ三十デアッタノデアリマス、卽チ四万圓マデ
ノ財產ニ對シマシテハ施行當初ノ稅率ニ對シマシテ、此度引上ゲマシタ高
ハ其半額ニ過ギマセヌ、卽チ三十ニ對スル所ノ十五デアリマス、試ニ二十万
圓ノ財產ニ付テ、新舊ノ稅率ヲ比較イタシマスルト云フト二十万圓ヲ超過ス
ル財產ニ對シマシテハ、現行法ニ依ル所ノ稅率ハ千分ノ三十デアリマス、此
度ノ改正案ハソレヲ千分ノ五十ニセムトスルモノデアリマス、然ルニ施行當
初ニ於ケル稅率ハ千分ノ五十五デアリマスカラ、施行當初ノ稅率ヨリモ、此
度ノ稅率ハ却テ低イノデアリマス、又五十万圓ノ場合ヲ想像シテ見マスレ
バ、現行法ニ於キマシテハ其稅率ハ千分ノ四十五デアリマス、此度ハ之ヲ
八十ニ增率ヲ致シマスルガ、而カモ施行當初ノ八十五ニ比較イタシマスト云
フト、此度ノ改正案ノ方ガ低イノデアリマス、而シテ施行ノ當初ニ於キマシ
テハ、御承知ノ通リ、最高ノ稅率タル所ノ千分ノ百三十ヲ盛リマシタ、其相
續財產ハ九十五万圓デアッタノデアリマス、此度ノ改正案ニ於キマシテハ同
ジク最高率タル所ノ千分ノ百三十ヲ適用イタシマスル相續財產ノ價額ハ五百
万圓以上ニナリ、卽チ此度ノ改正案ニ於ケル所ノ相續稅ノ稅率ト申シマスモ
ノハ、現行法ニ對シテハ相當程度ノ增率ニ當ッテ居リマスガ、其施行初年タル
明治三十八年ノ其當初ノ稅率カラ比較イタシマスルト云フト、マダ幾ラカ低
イ所ノ稅率ニ當ッテ居リマス、先刻、中村君ハ相續稅ノ施行セラレマシタ其
當時ノ狀況ニ付テ御演說ガアリマシタ、如何ニモ其通リデアッタノデアリマ
スルケレドモ、此相續稅ハ御承知ノ通リ、非常特別稅ノ範圍外デアリマシテ、
卽チ永久稅ノ目的ヲ以テ單行法トシテ制定セラレタ所ノ稅法デアッタノデア
リマス、其時ノ稅率ニ比較ヲ致シマスルト云フト、此度ノ改正案ヲ以テ致シ
マスレバマダ幾ラカ低イ所ノ稅率ニナッテ居リマスカラ、別ニ家族制度ノ關
係ヲ考ヘマシテモ、大シタル所ノ負擔デハナイ、斯樣ニ考ヘマス、クレグレ
モ申上ゲテ置キマスガ、新稅、增稅ハ成ルベク避ケタイト考ヘマシタ、此度
ノ此整理ニ於キマシテハ、歲入ノ減少ヲ許サナイ事情ガアリマスカラ、一
ニ於テ廢減稅ヲスルト同時ニ、他面ニ於テハ新增稅ヲヤルト云フコトハ誠
ニ已ムヲ得ナイト云フ事柄ヲ能ク御了解願ヒタイト思ヒマス、第三ニハ通行
稅ノ全廢ニ付テ稅ノ減ゼラレタ、廢セラレタ部分ダケヲ、地方ノ公共團體其
他ニ於キマシテ、運賃ヲ引上ゲテ、サウシテ乘客ノ負擔ハ少シモ減ラヌコト
ニナルト云フ結果ニナル虞レガアル、其場合ニ於テハ政府ハ政府ノ有ッテ居
リマスル所ノ認可權ヲ利用イタシマシテ左樣ナルコトハヤラセヌ考デアルト
云フコトヲ衆議院ニ於テ申上ゲマシタガ、通行稅ニ於テハ政府ノ統制ガ利ク
デアラウケレドモ、其他ノ廢稅、例ヘバ織物消費稅、或ハ醬油稅等ノ場合ニ
於テ、通行稅同樣ニ政府ノ統制ガ利カナイカラシテ、之ニ向ッテ如何ナル手段
ヲ講ジテ、消費者ノ利益ヲ圖ラムトスルカト云フ意味ノ御質問デアッタノデ
アリマス、如何ニモ織物消費稅ノ場合、或ハ醬油稅、賣藥稅等ノ場合ニ於キ
マシテハ、政府ハ法令ノ力ヲ以テ之ヲ拘束スルコトハ出來ナイノデアリマ
ス,然ラバ政府ガ法令ノ力ヲ以テ拘束出來ナイガ故ニ、折角免稅ニナッタ所ノ
綿織物消費稅、或ハ醬油稅、賣藥稅等ノ如キモノハ、毫モ消費者ノ利益ニナ
ラズシテ、中間營業者ノ利益ニ歸スルト云フ心配ハナイカト云フ事柄デアリ
マスルガ、政府ノ考ヘル所ヲ以テシマスレバ斯ノ如キ場合ニ於キマシテハ、
免ニ角當業者ノ生產費ガ租稅ノ減ゼラレタダケ減少シマスルガ故ニ、玆ニ於
テカ當業者ノ間ニ自然ニ競爭ガ起リマシテ、其競爭ノ結果ト致シマシラ稅
額ノ廢減セラレタモノダケハソレダケ物ノ値段ガ下ガルト云フ結果ニ私ハ
到達スルデアラウト信ジマス、當業者ノ自由競爭モ勿論デアリマスケレド
モ其以外ニ於テ私共ノ希望イタシマス所ハ、消費者卽チ國民全體ノ其輿論
ノ力ニ依ッテ、若シ當業者ガ中間ノ利益ヲ貪ンテ、消費者ノ利益ヲ無視スルト
云フ場合ガアッタナラバ、國民ノ輿論、消費者ノ輿論ヲ以テ、左樣ナル間違ッタ
コトヲ爲サシメナイヤウニ、御互ニ努ムベキモノデアルト思ヒマス、併ナガ
ラ大體ニ於キマシテハ當業者ノ自由競爭ニ依ッテ左樣ナル弊害ヲ生ゼズシ
テ濟ムデアラウト思フノデアリマス、第四ノ御質問ハ、此度ノ稅制整理ハ非
常ナル所ノ大規模ノ整理デアル、凡ソ租稅ハ其行ハレルコトガ久シキニ從フテ
國民ガ自ラ其施行ニ慣レルモノデアル、其慣レテ居ル所ノ現行ノ租稅ノ制度
ト云フモノハ斯ノ如キ大規模デアリ、或ハ廢減ヲシ、或ハ新稅ヲ起スト云
フコトハ是ハ稅制整理ヲスルニアラズシテ、却テ稅制ヲ攪亂スルモノデハ
ナイカ、物價ノ上ニ容易ナラザル所ノ變動ヲ生ズルモノデハナイカ、ト云フ
御質問デアッタノデアリマス、此度、政府ガ稅制整理ヲ計畫イタシマシタノハ、
昨日モ申上ゲテ置キマシタ通リ、租稅ノ體系ヲ正シ、今日不公平ニナッテ居
リマスル所ノ國民ノ負擔ノ公平ヲ圖ル、併セテ社會政策的ノ效果ヲ擧ゲ、更
ニ進ンデ事業ノ基礎ヲ鞏固ニ致シ、產業ノ發達ヲ助成セムトスルニアルノデ
アリマス、若シ國民ガ長年月ノ間、其施行ニ慣レテ居ルガ故ニ、之ヲ整理ス
ル必要ガナイト云フコトデアリマスレバ、國民ノ負擔ノ不公平ト云フモノハ、
イツマデモ之ヲ除クコトガ出來ナイデアラウト思ヒマス、產業ノ發達ト云フ
モノモ、イツ迄モ之ヲ期スルコトガ出來ナイデアラウト思ヒマス、又現在ノ
社會上、經濟上ノ狀況カラ將來ヲ考ヘテ見マシテ、最モ必要ト私共思考イタシ
マスル所ノ社會政策的ノ施設ト云フモノモ、イツ迄モ之ヲ實行スルコトガ出
來ナイデアラウト思ヒマス、ソレ故ニ此度ノ整理ヲ行ヒマシテ、稅ノ體系ヲ
正シマシテ、負擔ノ均衡ヲ圖リ、斯ノ如クニシテ私共ガ希望イタシテ居リマ
スル所ノ社會政策的ノ效果ヲ擧ゲタイト云フノガ、此整理案立案ノ趣旨デア
リマス、決シテ稅制ヲ攪亂セムトスルガ如キ考ヲ有ッテ居リマセヌシ、又左
樣ナル結果ヲ來スモノデナイト云フコトヲ固ク信ズル者デアリマス、勿論或
ル消費稅ニ對シマシテ之ヲ廢減ヲ致シ、又或ル消費物ニ對シマシテ其租稅ヲ
上ゲマスト云フコトガアリマスレバ、ソレハソレダケ物價ノ上ニ變動ヲ來
スコトハ勿論デアリマスケレドモ、是ハ稅制整理當然ノ結果デアリマシテ、
已ムヲ得ナイコトデアラウト信ジマス、第五番目ノ御質問ハ相續稅ノ附則ニ
關スルコトデアリマス、政府ノ原案ニ依リマスレバ、相續稅法ハ本年ノ四月
一日カラ之ヲ施行スルト云フコトニナッテ居リマス、但シ本法施行前ニ開始
シタル相續ニ付テハ仍ホ舊法ニ依ルト云フコトガ附則ニ書イテアリマスル
ガ、ソレニ對シテ中村君ハ本法施行前ニ開始シタル所ノ相續デアリマシテモ、
此新法ヲ遡ノテ適用セシムルコトガ宜シイデハナイカト云フ意味ノ御質問デ
アリマス、此度ノ相續稅法ノ改正ハ大體三點デアリマス、第一ニハ免稅點ノ
引上ゲ、第二ハ或ル程度以上ノ相續財產ニ對スル所ノ稅率ノ引上ゲ、第三ニ
ハ延納期間ノ延長デアリマス、若シ本法施行前ニ開始イタシマシタ所ノ相續
ニ對シテ、遡シテ新法ヲ適用セシメヤウト致シマシタナラバ、其改正ノ三點ト
モ、之ヲ適用セヌケレバナラヌト思ヒマス、ソレヲ適用イタシマスル場合
ニ於キマシテ、免稅點ヲ引上ゲタ場合ニ於テハ利益ヲ受ケマス、延納期間ヲ
延長シタ場合ニ於テモ利益ニナリマスルガ、稅率ヲ引上ゲマシタ點ニ於テハ
是ハ明カニ不利益ヲ受ケマス、其不利益ヲ受ケル點ダケハ適用セズニ、利益
ヲ受ケル點ダケヲ適用スルモノトナルト、是ハ明カニ合理的デナイト思ヒマ
ス、假令、一步ヲ讓リマシテ、ソレガ合理的デアルト致シマシタ所デ、本法
施行前ノ開始相續デアリマシテ、既ニ稅務署ニ於テ決定ヲ致シ、是ガ徵收ヲ
終ッテ居ル者トノ權衡上、未ダ決定ヲ致サナイモノニ限ッテ新法ヲ適用スルト
云フコトハ、甚ダ不公平ナル所ノ結果ヲ生ズルデアラウト思ヒマス、然ラバ
更ニ一步遡ヲテ既ニ徵收シテ居ル所ノ人ニ對シテハ、此徵收稅金ヲ還付スル
カト云フコトニナリマスト云フト、是ハ際限モナク既往ニ遡ル結果ニナル、
何レニ致シマシテモ、本法施行前開始イタシマシタル相續ニ對シマシテ此新
法ヲ適用スルト云フコトハ、是ハ出來ナイコトデアラウト政府ハ考ヘテ居マ
ス、大體御答ヲ致シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=14
-
015・蜂須賀正韶
○副議長(侯爵蜂須賀正韶君) 阪本釤之助君ノ登壇ヲ望ミマス
〔阪本釤之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=15
-
016・阪本さん之助
○阪本彰之助君 私ハ稅制ナドト申シマスルコトニ付キマシテハ殊ニ知識ノ
乏シイ者デアリマス、此壇上ニ於キマシテ質問ヲ試ミマスノハ如何ニモ鳴滸
ガマシキ所業ト心得マスルガ、此度發案ニナリマシタ廢止稅目ノ四ツノ中ニ
付キマシテ、通行稅、賣藥稅ノコトニ付キマシテハ聊カ腑ニ落チ兼ネマス
ル點ガアリマスルノデ、一應御尋ヲ致シテ見タイト思フノデアリマス、然ル
ニ此二ツノ事ニ付キマシテハ、先刻中村君ヨリ一應ノ御質問ガアリマシテ、
唯今、國務大臣ノ御答辯モアリマシタヤウナコトデアリマシテ幾分カ重複ヲ
致ス嫌ヒガアリマスルガ、私ノ質サムトシテ居ル所ハ、多少方面モ違フノデ
アリマス、如何ハシク存ジマスルガ、一應御尋ヲ致シテ見タイト思フノデア
リマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ著ク〕
第一番ニ御尋ヲ致シタイト考ヘマスルノハ此通行稅デアリマスガ、此通行稅
ト云フモノハ大變ニ施行ノ當初ニ當ッテハ評判ノ惡イ惡稅惡稅ト世間ニ唱
ヘラレタモノデアルノデアリマスガ、其惡稅ガ既ニ二十年內外モ實施サレテ
居リマシテ、今日ハ殆ド習慣性ヲナシテ左程ニ惡稅ラシク感ジマセヌヤウニ
思フノデアリマス、私ハ豫テ先輩ヨリ聞イテ居リマスノニ、政治ノ要目ハ十年
以上大ナル不都合ナクシテ行ハレテ居ル事ハ、寧ロ容易ニ變ヘヌ方ガ宜シイ、
變ヘルト却テ國民ニ不安ヲ感ゼシムル場合ガアル、是ハ餘程古風ナ說カモ知
レマセヌガ、私ハ多少ソレニ信條ヲ持ッテ居ルノデアリマス、既ニ二十年ニ近
ク行ハレテ、惡稅惡稅ト言ハレツツアッタ中ニ、今日マデ行ハレテ居ルノデア
ル、如何ニモ此市街鐵道、卽チ私共始終乘リマス市中ノ電車ナドニナリマス
ト、社會的、社會政策的方面カラ見マシテ、多少惡稅ト申シテ宜イカモ知レマ
セヌ、多少ヂヤナイ、大イニ惡稅ト申シテ宜イカモ知レマセヌガ、是亦勞働者
ノ中カラ一錢ヅツ稅ヲ取ルト云フコトハ、或ハ酷デアルト云フ議論ハ確ニ立
チマセウケレドモ、往復デ十五錢、割引ガアリマスレバモウ少シ安クナルノデ
アリマスガ、十五錢ト云フ極ク極マリノ宜イ金デ、我〓ハ乘ッテ居ルノデアリ
マスガ、是ガ若シ通行稅ガ無クナリマスルト十四錢ト云フモノニナルダラウ
ト思ヒマスガ、一錢デモ、ソレハ儲カル方ガ宜イカラ、四錢ト云フ錢ヲ持ッテ
行ッテモ、面倒デモ、其方ガ少イト云フ說モゴザイマセウガ、此節ノ人ハナカ
ナカ、我〓ト違ッテ隨分錢ヲ粗末ニ致シマシテ、十五錢ノ金デ一錢グラ井何ト
モ思ッテ居ナイ、寧ロ却テ勞働者社會ニ其弊ガ多イ位ナモノデ、多數ノ婦女ナ
リ老人ナリガ乘ルノヲ見テ居リマスノニ、十五錢デ往復ヲ買フト云フコトハ
頗ル便利デアル、釣リヲ出スニシテモ、五十錢出セバ三十五錢釣リガ來ルト云
フコトハ大變便利デアリマスガ、ソレニ持ッテ行ッテ三十六錢釣リヲ出スト云
フコトハ、餘程手數デアルノデゴザイマス、ト云フヤウナコトモゴザイマス
シ、殊ニ此鐵道ノ場合、汽船ノ場合ニ於キマシテ、社會政策的ノ理由ニ依ッテ
癈止スルト仰シヤイマスガ、此通行稅法ノ現行ヲ見マスト、二百哩以上ノ船ナ
リ汽車ナリニ乘リマス三等ニ乘ル人ハ、僅カ四錢ホカ稅ヲ取ラレナイ、四錢
デモ稅ニハ違ヒアリマセヌガ、二百哩以上旅行ヲ致シテ僅カ四錢ノ稅ホカ取
ラレナイノデアル、而モ一等ニ乘ル人ハ五十錢、二等ニ乘ル人ハ二十五錢取ラ
レテ居ル、此ノ位、社會政策的ノ事ノ行ハレテ居ルコトハナイ、餘程當時ノ立
法者モ考ヘマシテ、五十錢取ラレル所ニ此三等ノ人ハ僅ニ四錢シカ取ラレナ
イコトニナッテ居ルノデアリマス、百哩未滿ノ者ハ一等二十錢、二等十錢、三
等ニ乘ル人ハ僅ニ二錢ホカ取ラレテ居ナイ、卽チ此二錢、四錢ヲ免ズルガ爲
ニ、五十錢、二十五錢ト云フ稅ヲ拂フ人マデモ免除スルト云フコトハ如何ナモ
ノデアラウカト私ハ思フ、其證據ニハ皆サン御覽ノ通リ、近頃二等ニ乘ル乘客
ハ非常ニ多イ、又或ル場合ニハ一等ニ乘ル人モ餘程殖エテ居ル、卽チ此二十五
錢ノ稅ヲ拂ッテ二等ニ乘ル人ガ殖エルト云フコトハ生活ニ餘裕ガアルト申シ
マスカ、錢ヲ輕ク見ルト云フカ、一一十五錢位ノ錢ハ何トモ思ッテ居ナイト云フ
コトガ確ニ言ヘルト思フ、サウ云フ人〓殊ニ一等ニ乘ル人、一等ニ乘ル人ガ
長崎マデ行クノニ、五十錢稅ヲ拂ッテモ、何ガソレガ苦痛ニナル、サウ云フ免ジ
ナクテモ宜イモノヲ免ジテ、社會政策デアルト云ッテ、僅カ四錢ノ人ヲ救フガ
爲ニ、モウチヨット取ッテ宜イ、一等ニ乘ル客ナドヲ······自分等ガ無料ノ汽車ニ
乘ッテ居ルカラソンナ大キナコトヲ言フト御笑ヒニナルカモ知レマセヌガ是
ハ誠ニ特殊ノ仕合セヲ持ッテ居ルノデアリマシテ、甚ダ申スニ申シニクイデス
ガ、假ニ自分ガ拂フト致シマシテモ、長崎邊マデ旅行スル人、或ル少シ遠イ所
ノ海ノ船ニ乘ル人ハ、五十錢ヤ一圓ノ稅ヲ拂フコトハ何トモ思ヒハシナイ、ソ
レガ皆御相伴ヲシテ今度無稅ニナッテシマフ、折角二十年近ク慣習ガ付イテ、
大ナル非難モナク、惡稅ト云フ聲ハ殘ッテ居リマスガ、實際ニ於テハソンナニ
苦痛······解釋デハ色〓議論ガアリマセウガ、サウ苦痛トハ思ッテ居ラヌヤウ
デアル、先刻中村君カラモ御述ベニナリマシタガ、之ヲ御免ジニナリマシタ
所ガ、政府ノ鐵道ハ成程、明カニ五十錢ナリ二十五錢ナリ四錢ナリヲ御減ジ
ニナリマセウガ、市町村ノ持ッテ居ル電車、或ハ私設會社ノ電車トカ何トカ
云フモノニナリマスレバ、監督權デ取締ルト仰シヤイマスケレドモ、何トカ
カントカ云ッテ居ル間ニ、必ズ二錢三錢ヂヤナイ、何時ノ間ニカ五錢、十錢
上ッテシマフカモ知レナイ、詰リ乘ル人ノ身ニナッテ見ルト、此法令ガ無クナッ
タト云フコトガ、ドレ程有難味ヲ感ズルカ、私ハ實ハ疑ナキ能ハズト思ヒマ
スガ、ソレハ理論ト致シマシテ、今申シマス通リ一等二等ノ汽車ニ乘ル人マデ
免ジナケレバ社會政策ニナラヌノデアルカ、又市街ニ乘ル者ガ僅ニ一錢、往
復一錢、近郊ヲ歩ク人ナド、或ハ鶴見ノ花月園へ行クトカ、何處ヤラノ何ヤ
ラヘ行クトカ、隨分休暇、日曜ノ日ナドハ群集ヲナシマスガ、此中ニハ社會
政策的ノ人モ大分居ルニハ違ヒアリマセヌガ、此澤山ノ人ニ二錢三錢ヲ免ジ
ナケレバ社會政策デナイト云フコトハ、少シクドウモ名前ニ因ハレ、美名ノ
下ニ囚ハレテ、事實ハ一向國民ハソレ程ニ有難味ヲ感ジナイモノデアルト云
フコトヲ、私ハ深ク感ズルノデアリマス、此點ニ付テ政府ハ、ソレデモ矢張
リ是ハ誠ニ結構ナ政策デアルト御考ヘニナルノデアリマセウカ、此疑ヲ解ク
ニ足ル所ノ御說明ヲ一ツ承ッテ見タイト思フノデアリマス、次ハ賣藥稅デア
リマスガ、此賣藥稅ト云フモノハ、古イコトヲ申スヤウデアリマスガ、明治
十六年頃ニ、時ノ内務當局ガ企テラレテ······當時ハ「コレラ」病ガ非常ニ流行
リマシテ、殆ド連年ノヤウニ「コレラ」ノ大流行ガアッテ、衞生的施設ト云フ
コトガ非常ニ必要デアルガ、ナカ〓〓政府ガ金ヲ出シテ吳レヌ、大藏省ガ金
ヲ出シテ吳レヌ、外國ノ模樣ヲ見ルト、衞生ト云フコトハ非常ニヤカマシイ
モノデアッテ、我國ハ實ニ劣等ノ立場ニ居ル、出來得ベクンバ衞生省デモ立
テタイ、衞生省ト迄ハ行カズトモ、衞生院位ハ置イテ、大イニ現在ヨリモ擴
張スル必要ガアルト云フコトヨリ發シマシテ、段々政府部內ニ於テ何カ財源
ハ無イカト云フ所カラ、時ノ內務當局ガ發案ヲ致シテ、賣藥ト云フモノカラ
稅ヲ御取リニナッタラ宜イデナイカ、是ハ今日ハドウカ知レマセヌガ、當時
ハ內務省ガ直接檢査ヲ致シテ居ッタノデアリマスガ、檢查ノ方針ハ無害無效
ト云フコトガ賣藥ノ方針デアル、無害無效ノモノナラバ幾ラ稅ヲ取ッテモ宜
イデハナイカト云フ······少シ暴論カモ知レマセヌガ、サウ云フヤウナ議論
モアッテ、遂ニ稅ヲ取ラウ、大藏省モ財源ヲ見付ヶ出シテヤラウト云フコト
ナラバ、ソレハ多少上ゲマセウト云フコトデ、當時八十万圓ト云フモノガ取
レルコトニナッタ、印紙稅ニシマシテモ、其八十万圓ガ今日デハ、一千百万
圓ニナッテ居ルノデアリマス、所ガ八十万圓ノ稅ヲ取リマシタケレドモ、ナ
カ〓〓其金ヲ內務省ノ言フヤウニ認メテ吳レマセヌ、而モ衞生當局者ノ微力
ナル、段々減サレテ、元ノ杢阿彌デ、矢張リ他ノ局ト餘リ違ヒハナイ所ノ待
遇ヲ今日受ケテ居ラレルヤウデアリマスガ、實ハ一千百万圓上ガレバ皆ナ衞
生ニ使ッテ宜シイ、今後ハ私ハ之ヲ御廢メニナル位ナラバ、此金ヲ、一ツウン
ト衞生的方面ニ御使ヒ下サレテ、現在帝都ノ下ニ一千何百人ト云フ「チブス」
ヲ出シテ居ル世ノ中デアルカラ、シッカリ衞生施設ヲ、毎年一千百万圓ヲ此方
面ニ御使ヒニナレバ、可ナリノ事ガ出來ル、或ハ衞生省ヲ御立テニナル、少
クモ衞生院ヲ御立テニナッテ、シッカリ御ヤリニナッタガ宜カラウ、要ラヌ御金
ナラバ······社會政策的ニ、サウ云フ譯ニハイカヌ、斯ウ仰ッシヤルデアリマ
セウガ、是亦、私ニ言ハセルト、悉ク社會政策的方面ニ有難味ヲ感ゼシメル
モノデハナイト思フ、寒村僻邑ノ醫者ニ手ヲ握ヲテ貰フコトガ出來ナイカラ、
賣藥ニ依ッテ九死ニ一生ヲ得ルト云フコトハ、此中ノ幾分デアリマセウカ、何
分ニホカ當ラヌデアラウ、多クハ矢張リ中產以上若クハ中產以下デモ、或
口ニ含ンデ香味ヲ感ズルトカ、或ハ顏ニ塗ッテ光ヲ發スルトカ云フヤウナ、
極端ニ申セバ寧ロ贅澤品ノ方面ニ使ハレテ居ルモノガ澤山アル、ソレヲモ社
會政策デアルト云ッテ免ズルト云フコトハ如何ナモノデアリマセウカ、矢
張リ此度、〓涼飮料ニ稅ヲ新ニ御課シニナルヤウデアリマスガ、私ニ言ハセ
ルト、〓涼飮料ニ稅ヲ課スルト云フコトト、賣藥ノ或ル部分ノモノニ稅ヲ取
ルト云フコトトハ、同ジ趣意ダト思フ、然ルニ一方ハ、今度ハ之ヲ廢サウ、
一方ハ新稅ヲ起サウ、此位、矛盾シタコトハナイト思フノデアリマス、〓涼
飮料ヲ飮ミマスレバ人ハ愉快ヲ感ズル、暑イ時ニハ大變氣持ガ宜イ、賣藥ノ
口ニ含ンデ香味ヲ感ズルトカ、或ハ部屋ニ吊ッテ置ケバドウヤラナルト云フ
ヤウナモノト、同ジヤウナ意味デアルト思フノデアリマス、然ルニ、一四、
新稅ヲ起シ一面ハ免ズル、詰リ、賣藥ト云フモノヲ非常ニ買ヒ被ッタ、政府當局
ハ此位ノコトヲ御承知ナイト云フコトハナイト思ヒマスガ、私ニ言ハセルト、
賣藥ト云フモノハソレ程結構ナ效能ノアルモノハ頗ル小部分デ、今日デハ無
害無效デハアリマスマイ、方針モ變ッテ居リマセウガ、私ノ存ジテ居ル所デ
ハ無害無效デナケレバ危險ダ、田舍ニデモ持ッテ行ケバ是ハ效クト云フノ
デ、三日ニ飮マナケレバナラヌモノヲ一遍ニ飮ムト云フヤウナ虞レガアルカ
ラ、餘リ效クヤウナモノハイケナイ、賣藥ト云フモノハ氣休メデアルト云フ
趣意デヤラレタノデアリマスルガ、今日ハ地方廳デ一定ノ方針デヤッテ居ラレ
ルデアラウト思ヒマスガ、醫藥用ノ代用ヲスルモノハ別問題ト致シマシテ、
半バ以上ハ矢張リ贅澤ノ意味ノ香料ニ使ハレテ居ルト私ハ認メルノデアリマ
ス、而モ其金モ使ヒヤウニ依ッテハ、非常ニ唯今ノ衞生的ノ方面ノ施設ニ使フ
ノミナラズ、其山間僻邑ノ醫藥ニ親シムコトガ出來ナクテ死ンデシマフト云
フヤウナ者ノ爲ニ、出來得ルダケ巡廻診療トカ、或ハ村醫トカ云フヤウナモ
ノヲ配置スルトカ、政府ハ補助デモ與ヘテ、此金ノ中カラサウ云フ方面ニ御
使ヒニナリマシタナラバ、本當ニ社會政策ノ運用ガ出來ルト思フニ拘ラズ、
是ハ四十年來取ッテ居ル稅デアル、四十年來大シタ苦情モ無クシテ來タモノ
ヲ、此稅ヲパット廢メテ一千万圓ノ損ヲ爲サルト云フコトハ、餘リ勇氣ガアリ
過ギハ致シマセヌデアリマセウカ、通行稅ト賣藥稅ト兩方寄セマスルト、二
千万圓以上ノ金ニナル、今度、〓涼飮料デモ新稅ヲ御起シニナッタナラバ、
ザット三百万圓餘ノモノデアル、地租ノ減額ト申シテモ一千六百万圓、此二ツ
ヲ存置サルレバ、地租ノ······此內閣ノ最モ力ヲ御入レニナラナケレバナラヌ
ト思フ地租一分減ト云フモノモ、實行ガ出來ルノデアル、〓涼飮料モ取ッテ宜
ケレバ取ル、是モ取リマスレバ二千四五百万圓ノ金ガ出來ル、出來レバ義務
〓育費ノ國庫負擔モ餘リ御心配ナサラズニ、ソレモ使フコトガ出來ル、此結
構ナ財源ヲ弊履ノ如ク棄テテ、サウシテ一方ノ方デハ非常ニギウギウ云ッテ
御苦ミニナッテ居ルト云フコトハ、甚ダ素人評デアリマスガ、素人カラ考ヘ
ルト少シ拙デハナイカト思フノデアリマスガ、ドウシテモ餘儀ナク斯ウシナ
ケレバナラヌ、賣藥ハドウシテモ稅ヲ取ッテハイカヌト云フ、矢張リ根本的ノ
所ヲ伺ハナケレバ、唯社會政策的ノ御一言デハ、本員ノ腹ニハ這入リマセ
ヌノデアリマス、此方面ニ向ッテ相當ナ了解ヲ得ルダケノ、一ツ御說明ヲ承ッテ
見タイモノト存ジマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=16
-
017・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 唯今、通行稅ト賣藥稅ノ廢止ニ付キマシテ御質問
ガアッタノデアリマス、通行稅ノ廢止案ヲ出シマシタノハ社會政策的ノ施設
ノ一端トシテ、之ヲ提案イタシタノデアリマスルガ、如何ニモ阪本君ノ御說
ノ通リ、通行稅ハ施行以來、長年月ヲ經過シテ居リマシテ、其施行ニ國民モ
大分慣熟ヲ致シ、苦痛ヲ感ズルコトガ少イカラ、之ヲ廢止セヌデモ宜カラウ
ヂヤナイカト云フ說モアリマス、更ニ第二ノ理由ト致シマシテ、通行稅ヲ徵
收スルニハ徵收ガ極メテ便宜デアル、ソレ故ニ之ヲ廢止スルコトハ然ルベ
カラズト云フ論モアルノデアリマス、其點ニ付キマシテ、政府ハ相當ニ考慮
ヲ重ネタノデアリマス、第一ノ施行ニ慣レテ居ルガ故ニ、國民ガ苦痛ヲ感ズ
ルコトガ少イ、仍テ之ヲ廢止セナクテモ宜カラウト云フ、サウ云フ說ニ對シ
マシテハ私共ノ考ヘル所ニ依リマスルト、一國ノ總テノ政治、是ハ稅法ニ限
リマセヌ、總テノ政治ニ對シマシテ各方面ニ於テ種々ノ議論ガ起リマス
或ル制度ニ對シマシテ、或ル方面カラ非常ナル所ノ反對ガ起ル、又或ル稅法
ニ對シマシテ、其利害關係者カラ、非常ナル所ノ不平ガ起ル、斯ノ如キ場合
ニ於キマシテ、其關係者ガ有力ナル所ノ人〓デアッテ、而モ其勢力ヲ集中スル
所ノ機關ヲ有ッテ居リマス場合ニ於テハ、其反對ノ聲ガ非常ニ大ニナルノデア
リマス、盛ニ聞エルノデアリマス、或ハ其運動ガ集中セラレマシテ、非常ニ
猛烈ナル勢ニナルコトガアリマス、サウ云フ時ニ於テハ、其聲ガ世間ヲ動カ
シ、又政府ヲ動カシ、議會ヲ動カスト云フコトガ容易ニ行ハレルノデアリマ
スケレドモ若シ其政治、或ハ其稅法ヲ施行スルガ爲ニ、苦痛ヲ受ケテ居リ
マス所ノ其社會ノ階級ト云フモノガ、纒マッタル所ノ中心勢力ヲ爲シテ居ナ
イ或ハ其輿論ヲ發表スル所ノ中心ノ機關ヲ有ッテ居ナイ場合ニ於テハ、其問
題ニ對スル所ノ不平ノ聲ト云フモノハ、外部ニ纒マッテ現ハレズシテ濟ム場
合ガ往々アルト思ヒマス、通行稅ニ對シマシテ、世間ニ廢止ヲ要望スル輿論
ガ餘リ聞エナイノハ、寧ロ其後者ノ場合ニ屬スルノデナイカト考ヘマス、賣
藥稅ニ付テモ左樣ニ私ハ思ウテ居リマス、ソレ故ニ國民ガ內心苦痛ヲ感ジテ
居リマシテモ、其苦痛ヲ感ジテ居ルト云フコトヲ外部ニ發表スル聲ガ高イ低
イト云フコトヲ、ソレヲ聽キ分ケルニ付キマシテハ、時ノ政府トシテ十分ナ
ル所ノ用意ヲ要スル、非常ナル熟慮ヲ要スルモノデアルト考ヘマス、通行稅
ノ施行ニ依ッテ苦痛ヲ受ケテ居リマスル如キ階級ノ人〓ハドチラカト申シマ
スレバ、其勢力ガ散漫デアリマス、從テ縱令、苦痛ヲ感ジテ居ッテモ、ソレニ
反對スベキ所ノ機關ヲ有ッテ居ラヌ、從テ其聲ガ十分ニ中央ニ徹底イタシマセ
ヌ、其中央ニ徹底シナイカラ不平ハ無イト云フ譯ニハ私ハ參ラヌト思ヒマス、
サウ云フ場合ニ於キマシテハ議會ニ致シマシテモ、政府ニ致シマシテモ、
能ク其邊ノ事情ヲ考慮イタシマシテ、民情ニ察シテ、其政治ヲ改メテ行クト
云フコトガ、是ガ最モ肝要ナルコトデハアルマイカト存ジテ居リマス、又汽
車ノ二等客、三等客ノ例ヲ以テ御話ニナリマシタガ、此點ニ付キマシテハ
大正十二年度ノ統計ヲ持ッテ居リマスカラ、之ヲ申上ゲマスガ、電車ノ乘客ト、
汽車ノ三等乘客ノ負擔スル所ノ稅額ハ通行稅ノ總收入ノ中ノ九割三分ヲ占
メテ居リマス、若シ電車ノ通行稅ヲ廢シ、汽車ノ三等ノ通行稅ヲ廢シ、三
等ノミヲ存續スルト云フ場合ニ於キマシテハ、其收入金額ハ百万圓ニ足リナ
イト云フ結果ニナリマシテ、最早、之ヲ存續イタシマスルト云フ財政上ノ理
由ハナクナルト思ヒマス、從テ若シ之ヲ存續イタシマスルナラバ、全部ニ付テ
之ヲ存續致シ、其一部ヲ廢止ヲシマスルナラバ、寧ロ全部ヲ廢止スルト云フ
外ニハ執ル途ガナイノデアリマス、然ラバ、其何レヲ選ブカト云フ問題デアリ
マスルガ、是ハ前段申上ゲマシタ如キ趣意ニ依リマシテ、此際、寧ロ之ヲ全
廢スルト云フコトガ相當デアラウト考ヘルノデアリマス、殊ニ通行稅ニ付キ
マシテ、甚ダ權衡ヲ失ッテ居ルト考ヘマスル事柄ハ御承知ノ通リ、現行法ニ
於キマシテハ、汽車ト電車ト汽船ノ乘客ニノミ之ヲ課稅イタシテ居リマス、
最近、自動車ノ發達ニ依リマシテ、此自動車ヲ利用スル所ノ乘客ガナカ〓〓
多イノデアリマスガ、此自動車ノ乘客ニ對シマシテハ、通行稅ヲ課スルト云
フコトハ、實行殆ド不可能ト考ヘマス、自動車ノ客ニ對シテハ之ヲ課セズ、
電車、汽車、汽船ノミノ乘客ニ對シマシテ之ヲ課シマスト云フコトハ通行
稅ヲ存續スル場合ニ於キマシテハ、甚ダ權衡ヲ得テ居ナイト思ヒマス、旁〓是
等ノ理由ニ依リマシテ、此度ノ稅制整理ヲ機會ト致シマシテ、之ヲ廢止スル
ト云フコトニ意ヲ決シタ次第デアリマス、其次ニハ賣藥稅ノコトデアリマス
ルガ、如何ニモ賣藥ノ中ニハ阪本君ガ御指摘ニナリマシタ如ク、嗜好品、
或ハ更ニ一歩ヲ進メテ贅澤品ニ近イト思ハレル如キモノモ無イデハナイト思
ヒマス、併ナガラ、賣藥全體トシテ之ヲ考ヘマスルト云フト、斯ノ如キハ寧
ロ例外ニ屬スルモノデアラウト思ヒマス、其大部分ハ卽チ山間僻邑ノ住民、
或ハ然ラザルモ、貧困ナル所ノ階級ノ人〓デアリマシテ、病氣ノ場合ニ醫師
ノ診療ヲ受ケル所ノ資力ニ乏シイ場合、或ハ醫師ノ診療ヲ受ケマスル迄ノ間
ノ應急ノ治療方法トシテ、之ヲ消費スル人〓ガ最モ多イデアラウト思ッテ居
リマス、卽チ賣藥ト云フモノガ、國民ノ間ニ如何ニ消費セラレテ居ルカト云
フコトヲ、大體カラ觀察ヲ致シマシテ、寧ロ是ハ無產階級ノ間ニ大部分消費
サレテ居ルモノデアルト云フコトヲ、政府ハ考ヘマシタガ故ニ、社會政策的
ノ意味ヲ以テ之ヲ廢止スルノガ、相當デアラウト思ッタノデアリマス、勿論、
例外ト致シマシテハ、阪本君ノ御指摘ニナリマシタ通リ、中產以上ノ階級ノ
人〓デアリマシテモ、之ヲ嗜好品トシテ、或ハ贅澤品トシテ使用スル場合ハ、
私ハ無イトハ申シマセヌガ、其方ハ寧ロ小部分デアラウト思ッテ居リマス、要
スルニ、大體カラ達觀ヲ致シマシテ、之ヲ廢止スルコトガ社會政策ノ趣旨ニ
合致スルモノト認メタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=17
-
018・阪本さん之助
○阪本釤之助君 原案トシテ御提出ニナリマシタ以上ハ、唯今ノ如キ御說明
デアルト云フコトハ、已ムヲ得ヌコトト思ヒマスルガ、質問者ニ取ッテハ滿足
ヲ得兼ネマスルノデアリマス、此上ハ議論ニナリマスカラ差控ヘタイト思ヒ
マスルガ、唯今、大藏大臣モ、賣藥ノ中ニハ嗜好品、甚シク云ヘバ贅澤品モ
無イデハナイト云フヤウナ御說モアリマシタ、御認メニナッテ居ルト云フコ
トハ私ノ誠ニ喜ブ所デアリマス、果シテ然ラバ其賣藥稅法ノ廢止ト同時
ニ、賣藥ノ取締ヲナシ、賣藥法ヲ御改正ニナリマシテ、眞ニ貧民若クハ山間
僻邑ノ人〓ガ醫藥ニ代ハルベキ性質ノモノダケヲ賣藥トナサレマシテ、アト
ハ別ニ名前ヲ付ケテ稅ヲ御取リニナルカ、或ハ免許稅ヲ澤山御取リニナルカ
·····現ニ賣藥ト云フモノハ非常ニ儲カルモノデ、新聞ノ廣〓、其他新聞ノ廣
〓バカリデアリマセヌ、種々ノ出版物ナドヲ出シテ、大阪アタリカラハ、莫
大ノ金ノ掛カッタモノヲ、我〓ノ家ニ配布スル人ガアルノデアリマス、是等ヲ
以テ見マシテモ、賣藥商ト云フモノハ如何ニ儲カルカト云フコトハ分シテ居
ル、而モソレハ醫藥ノ代用ニナラナイモノヲ、コノ世智辛イ世ノ中ニ、地租
輕減サヘ出來ナイト云フノニ、地租ノ輕減ハ差措イテ、之ヲ無稅ニスルト云
フコトハ、是ハ甚ダ不當ナコトデアルト私ハ思フノデアリマス、故ニ內務當
局トシテ、此賣藥法デモ御改正ニナッテ、何トカモット適當ナ方法ヲ講ゼラル
ル御考ハ無イデセウカ、此點ヲ一應伺ッテ置キマス
〔政府委員潮惠之輔君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=18
-
019・潮惠之輔
○政府委員(潮惠之輔君) 内務大臣ガ唯今此處ニ居ラレマセヌカラ、私カラ
唯今ノ御尋ニ御答ヲ致シマス、賣藥ノ將來ノ取締方針ニ付キマシテハ、先日
來衆議院デ各稅法ノ御審議中ニ於キマシテモ、唯今御述ベノヤウナ御希望
モ出テ居リマス、其當時、內務大臣ガ直接ニ賣藥ノ取締ノ將來ニ關シテハ篤
ト考慮イタシテ、相當ナ方法ヲ執ッテ見タイト考ヘテ居ルト云フ御答ガアリ
マシタ、尤モ御承知ノ通リ賣藥ノ取締ト申シマシテモ、色〓世間ノ希望ニハ
困難ナ事情ガアリマスカラ、其邊ノ所ハ專門ノ當局ニ於キマシテ、十分ニ調
查ヲ致シマシタ上デ、相當ノコトニ進ンデ參ルコトト信ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=19
-
020・阪本さん之助
○阪本彰之助君 何レ特別委員會モ開カレマセウカラ、先ヅ不十分デアリマ
スガ本員ノ質問ハ之ニ止メテ置キマス
〔森平兵衞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=20
-
021・森平兵衞
○森平兵衞君 私ハ昨日、本院ニ上程サレマシタル國稅整理改正法律案ニ對
シマシテ、聊カ、先輩ノ各位ノ御質問ニナリマシタ點ト重複ノ嫌ハアリマス
ルガ、單簡ニ四五點ヲ政府當局ニ御質問ヲ致シタイト思フノデアリマス、第
一ニ政府ハ國家ノ重大ナル時機ニ際シ、財政上ノ極メテ重要政策タル稅制整
理ヲ爲スニ當リマシテ、何故ニ產業ノ不振民力ノ疲弊ヲ顧慮セズシテ、新稅ヲ
起シ、且ツ增稅ヲ爲サレタルカト云フコトヲ質問シタイト思フノデアリマ
ス、現政府ノ在野時代ニ於キマシテハ、常ニ行政ヲ整理シ、財政ヲ緊縮シテ、
以テ民力ノ休養、產業ノ振興ニ資スト云フコトニ、御主張ニナッテ居ッタノデア
リマス、是レ我〓國民ノ大ニ共鳴シタル所デアリマス、先ニ護憲內閣ノ組織
セラルルヤ、憲政會ハ實ニ其中心デアッタノデアリマス、而シテ組閣ノ初メニ
於テ施政ノ方針トシテハ我國財政經濟、其他各方面ノ行詰レル狀態ヲ展開
スルノ途ハ、緊縮政策ヲ以テ、國民ニ勤儉力行、消費節約ノ範ヲ示シ、以テ
人心ヲ作興スルノ外ナイモノトシテ、之ヲ中外ニ聲明セラレタモノデアリマ
ス、而シテ大正十四年度ノ豫算ニ於キマシテハ、少額ナガラモ緊縮ノ實ヲ御
擧ゲニナッタノデアリマス、公債ノ公募ヲ打切リ、多年膨脹シ來リタル所ノ國
家ノ財政ヲ整理セラレタルコトハ、吾人ノ大ニ多トシタル所デアリマス、唯、
其程度ニ於テ我等國民ハ最初ノ期待ニ副ハザリシコトハ寔ニ遺憾ニ存ズル次
第デゴザイマスルガ、三派協調ノ内閣ニ於テ、先ヅ已ムヲ得ザルモノトシテ、
之ヲ諒トシタモノデアリマス、今ヤ憲政會ノ單獨內閣ガ成リマシテ、稅制ノ
大整理斷行セラルルニ當リテハ、必ズヤ多年聲明セル抱負ヲ實行セラレテ、
大ニ緊縮ノ實ヲ擧ゲ、民力ノ涵養、產業ノ振興、貿易ノ發展ニ資セラルルコ
トデアラウト期待ヲシテ居ッタ者ハ、獨リ我等一部ノ商工業者デナカッタモノ
ト思フノデアリマス、然ルニ政府ハ今囘ノ稅制整理ハ極メテ微温的デアリマ
シテ、歲人ニ著シキ增減ヲ來サザルコトヲ根本方針トシテ立案セラレ、毫モ
財政緊縮ノ實ナキコトハ、吾人國民ト共ニ甚ダ遺憾トスル所デアリマス、今
ヤ我國ノ現狀ハ、物價昂騰シテ貿易振ハズ、產業萎靡シテ失業者續出シ、思
想日々ニ惡化シ、尙ホ各方面ニ行詰リタル狀態ニ在ルノデアリマス、國家ハ
誠ニ重大ノ危局ニアルモノト思フノデアリマス、此時ニ當リマシテ國內第一
ノ事業家タル、十六億ニ近キ大事業ヲ經營セラルル所ノ政府ガ、毫モ其事業
ノ上ニ整理緊縮ヲ加ヘズ、却テ新稅ラ起シ增稅ヲ敢テシテ、前年度豫算ニ比
シマシテ、四千八百餘万圓ヲ增加ナスト云フガ如キハ、國民ニ對シテ勤儉力
行消費節約ヲ高唱セラルルコトハ如何デアリマセウカ、私ハ單ニ負擔ノ公
正均衡ヲ圖ル意味ニ於テハ、今囘ノ稅制整理ニ於テ大體贊成スルニ客ナラザ
ル者デアリマスルケレドモ、此國家重大ノ危局ニ際シテ、政府ハ何故ニ今一
層行政ヲ整理シ、減稅的ノ稅制整理ヲ斷行シテ、以テ國民ノ負擔ヲ輕減シ、
民力ノ涵養、產業ノ振興ニ資セラレザリシカヲ問ハムト欲スル者デアリマ
ス、昨日、本議場ニ於キマシテ大藏大臣ハ、歲入ノ減ズルコトハ不可能デア
ルト云フコトヲ言明セラレマシタガ、稅制整埋ヲ致シマスル最初ニ於テ、歲
入ニ著シキ減少ヲ來サザル範圍デ、調査〓究ヲスルト云フ御方針デアッタノ
デアリマスルカラ、其結果モ亦當然デアルト云ハネバナラヌト思フノデアリ
ます。故ニ政府ハ第一ノ質問ノ如キニ對シテハ、何等善處スルノ意思ガ最初
ヨリ無カッタモノデアリマスカ、御尋ネシタイノデアリマス、第二番ハ政府
ハ明年度以後ニ於テ更ニ新稅ヲ起シ、又ハ增稅ヲ爲サムトスル御意思ガアル
カドウカ、御伺ヒシタイノデアリマス、道路傳フル所ニ依リマスレバ、政府
ノ豫定セル所ノ海軍計畫ヲ完成スルガ爲ニハ、明年度以後ニ於テ三億一一千五
百万圓ノ巨費ヲ投ジ、其財源トシテ新稅ヲ起スカ、或ハ增稅ヲ爲サムトスル
意思アリト云フコトヲ聞クノデアリマス、政府ガ果シテ斯ノ如キ意思アルカ
ドウカ、國防上、海軍計畫ノ必要ハ如何、若シ有リトスレバ、是ガ財源ハ新
稅又ハ增稅ニ依ラムトスルモノデアルカ、或ハ此財源ヲ行政財政ノ緊縮ニ依ツ
テ之ヲ捻出セラレムトスルノデアリマスカ、御明答ヲ得タイノデアリス、第
三ハ營業收益稅ニ付テ御尋ネシタイト思ヒマスガ、今囘新ニ設ケラレマシタ
所ノ營業收益稅ハ、實際ニ於キマシテ、徵稅上、手數ガ煩瑣デ、調查ガ困難
デアルト思フノデアリマス、故ニ弊害ガ百出シテ、延イテ國民ノ納稅思想ヲ
惡化セシムル虞レ無キカヲ心配スルノデアリマス、其理由ト致シマシテハ、
今囘ノ御提出ノ營業收益稅法案ハ營業者ノ純收益ノ負擔能力ニ應ジテ課稅ヲ
セムトスルモノデアリマシテ、理論上ハ極メテ公正均衡ヲ得タヤウニ思ヒマ
スルガ、實際ニ於テハ營業ノ純益ハ、其狀態ニ依リテ千差萬別デアッテ、一樣
ナラザルガ故ニ、同一業體ニアリマシテモ、其規模ノ大小ト、其營業ノ巧拙
ニ依リマシテ、又甚シキ差違ヲ生ズルモノデアリマス、是ガ公正的確ナル調
査ハ頗ル困難デアッテ、稅務官吏ト納稅者トノ間ニ、必ズ紛爭ガ絕エヌコトト
思フノデアリマス、ノミナラズ、收益稅ノ課稅標準ハ現行ノ營業稅ノ課稅標
準ト異ナリマシテ、直チニ所得稅ノ課稅標準ニナルモノデアリマスルカラ、
苛酷ナル査定ニ依ヲテ被ムル所ノ納稅者ノ痛苦ハ極メテ甚シク、爲ニ國民ノ納
稅觀念ヲ惡化スルノ虞レアルデハナイカト思フノデアリマス、其點ニ對シテ
政府ノ御所見ハ如何デアリマスカ、次ニ營業收益稅ガ現行營業稅ニ比シ、增
稅ノ結果ヲ來シタル場合ハ、政府ハ稅率ヲ改正スルノ御意思ガアルカ、ドウ
カヲ御尋ネシタイノデアリマス、政府ハ營業收益稅ヲ以テ現行營業稅ニ比シ
テ稅額ノ減少ヲ來スモノデアルト云フコトハ、昨日來、屢〓此壇上ニ於テ言明
セラレテ居ルノデアリマス、然ルニ全國商業會議所聯合會其他ノ實業團體ニ
於キマシテハ綿密ナル調査統計ニ依ッテ、約五割程度ノ增稅ヲ來スト云フコ
トヲ唱ヘテ居ルノデアリマス、政府ノ言明ガ······調査ガ宜イカ、或ハ民間實
業團體ノ調査ガ行屆イテ居ルカト云フコトヲ、私ハ茲デ爭ヒマセヌ、然レド
モ、此事ハ大正十六年度ノ徵稅實蹟ニ徵シタナラバ、明カニ分ル事デアル、
其時ニ今、民間ノ主張スル如ク、增稅ノ結果ヲ若シモ來シタ時ニハ、政府ハ
今日ノ言明ニ鑑ミテ、當然稅率ノ輕減ヲ斷行セラレルコトト思フノデアリマ
ス、果シテ斯ノ如キコトヲ爲サレル意思ガアルカドウカ、御尋ネシタイノデ
アリマス、第五ハ政府ハ何故、營業收益稅法中ニ、第二十五條卽チ稅務官吏
ヲシテ營業上ノ帳簿物件ヲ檢査セシムル規定ヲ設ケラレタカト云フコトヲ御
尋ネシタイト思フ、現行營業稅法ガ惡稅デアッテ、商工業者ガ多年之ガ全廢ヲ
唱道シタト云フコトハ、昨日モ大藏大臣ノ御話ニナッタ如ク一ハ外形標準ニ
依ッテ課稅スルコトガ、負擔ノ均衡ヲ得ヌモノデアルト云フコトガ一ツノ理由
デアリマス、第二ニハ此稅務官吏ニ對シ營業ニ關スル帳簿物件ヲ檢查スルノ
權限ヲ付與シタノガ第二ノ此爭點デアルノデアリマス、今囘ノ收益稅ニ於テ
ハ之ニ鑑ミラレマシテ、大藏當局ハ外形標準ニ依ッテ課稅スルコトヲ廢シ
テ、收益稅ニ之ヲ變ヘルト云フコトハ其弊害ノ一半ヲ除キタルモノニ拘ラ
ズ、此第二十五條ニ於テ現行營業稅法ノ第三十三條ヲ其儘規定シテ一般ノ弊
害ヲ存置シ置カレタト云フコトハ、甚ダ了解ニ苦シム所デアリマス、元來、
營業收益稅ハ營業上ノ所得デ課稅スルモノデアリマシテ、言葉ヲ換へテ申シ
マスレバ、所謂營業所得稅デアリマス、而シテ一方、納稅者ニ於キマシテ、
肝腎ノ所得稅法ニ付テハ稅務官吏ガ帳簿物件等ヲ檢査スルノ規定ガ無イノデ
アリマス、然ルニ其所得稅法ニ付キマシテハ、徵稅上、何等ノ不平ガ無イノ
デアッテ、極メテ圓滑ニ施行セラレテ居ルノデアリマス、殊ニ文明ノ進步、〓
育ノ普及ニ伴ヒマシテ國民ノ納稅思想モ年ト共ニ向上シツツアル時ニ當リ、
昔日ノ蠻風トモ云フベキ條項ヲ存置シテ置カレルト云フコトハ、反面ヨリ見
タナラバ、國民ノ品性ヲ侮辱セラレタモノト云フコトヲ憚カラヌノデアリマ
ス、政府ハ何故、此二十五條ヲ存置セラレタモノデアルカ、是ダケヲ御尋ネ
シタイノデアリマス、ドウカ大藏當局ニ於テ御答辯アラムコトヲ希望イタシ
マス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=21
-
022・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 第一ノ御質問ハ稅制整理ヲ行フニ當ッテ、何故、減
稅的ノ整理ヲ行ハナカッタカ、卽チ新稅增稅ヲ何故行ナカッタノデアルカ、斯ウ
云フ御質問デアッタノデアリマス、政府モ出來得ベクンバ、此度ノ稅制整理ヲ
機會ト致シマシテ、國民ノ負擔ヲ輕減スルト云フコトヲ希望イタシマシタノ
デアリマス、然ルニ財政ノ現狀ハ到底減稅的ノ整理ヲ許サナイ狀況ニアリマ
ス森君ノ御擧ゲニナリマシタ三派內閣ニ於テ、御承知ノ通リ、大正十四年
度ノ豫算ヲ編成スル時ニ當リマシテ、一般會計ニ於テ一億五千二百万圓、特
別會計ニ於テ一億四百餘万圓、通計イタシマシテ二億五千六百餘万圓ノ整理
ヲ行ッタノデアリマス、是ダケノ整理ヲ行ヒマスニ付キマシテハ、其時ノ事情
ニ於テ我〓出來得ルダケノ力ヲ致シタ積リデアリマス、是以上ノ整理ガ出來
マスナラバ、無論ソレヲ希望シタノデアリマスケレドモ、其當時ノ財政上ノ
事情ニ於テ、是以上ノ行政財政ノ整理緊縮ヲ行フト云フコトハ事情ガ許サナ
カッタノデアリマス、其事情ト申シマスコトハ、內閣ノ成立ノ事情デアルト
カ、或ハ政黨ノ事情デアルトカ云フ意味ノ事情デハアリマセヌ、我國ノ財政
上ノ狀態ガソレヲ許サナイ、斯ウ云フ意味デアリマス、從ッテアレ丈ノ整理ヲ
行ヒマシテ、ソレニ依ッテ大體財政ノ基礎ヲ鞏固ニスルコトガ出來タト信ジ
テ居リマス、若シアノ整理ヲ行ハナカッタナラバ、公債ノ發行額ハ今日以上ニ
ナラナケレバナラヌ譯デアッタノデアリマス、又或ハ此結果ト致シマシテ、此
度ノ稅制整理モ歲入ニ著シキ增減ヲ生ゼシメザル範圍内ト云フコトデナクシ
テ、寧ロ增稅的ノ整理ヲヤル必要ガ起ッタカモ知レヌト思フノデアリマス、要
スルニ當時ノ財政ノ狀態ハ增稅ヲヤリマスカ、公債ノ發行ヲ大イニ增加イ
タシマスルカ、然ラズンバ行政財政ノ整理ヲヤルトカ、此三ツノ中一ヲ選ブ
ト云フ外ニハ方法ハナカッタノデアリマス、玆ニ於テ私共出來得ル丈ノ整理ヲ
致シ、ソレニ依テ公債ノ增發ヲ防ギマシタ、又增稅ノ危險ヲモ防グコトヲ得
タノデアリマス、ソレ以上ニハ當時ノ事情ニ於テ遺憾ナガラ整理ヲ進メルコ
トガ出來ナカッタノデアリマス、然ラバ其當時ノ行政財政ノ整理ハ總テ打切"
テシマッタカト申シマスレバ、ソシハサウデアリマセヌ、一時ニ官吏ヲ多數淘
汰イタシ、一時ニ巨額ノ財政ノ整理ヲヤルト云フ仕事ハ一先ヅ打切リマシタ
ケレドモ、所謂行政ノ組織ニ關スル內容ニ關スル所ノ整理、言ヒ換ヘテ申シ
マスレバ、或ハ事務ノ簡㨗、或ハ能率ノ增進ト云フ事柄ノ如キニ至リマシテ
ハ是ハ政府部內ニ於キマシテ、行政調査會ヲ設ケマシテ、其調査ニ付シテ
居ル今日デアリマス、其調査ガ完了イタシマスレバ、ソレハ豫算ノ上ニ追〓
ト現ハレテ參リマシテ、ソレニ依ッテ幾許カノ財政ノ緊縮ガ出來ルカモ知レ
ヌト考ヘマスルガ、是ハ調査會ノ繼續中ノコトデアリマスルカラ、今日其結
果ヲ豫斷ヲ致シマシテ申上ゲルコトハ困難デアリマスガ、免モ角モ此事務ノ
簡捷、能率ノ增進ト云フコトニ付テハ、銳意調査中デアリマス、若シ此問題
ヲ離レマシテ一時ニ巨額ノ財源ヲ得ルガ爲ノ行政財政ノ整理ト云フコトデア
リマスレバ、是ハ十四年度ニ行ヒマシタ所ノ、前段申上ゲタ一般會計、特別
會計ヲ通計イタシマシテ、二億五千六百万、其以上ニハ今日ノ所私ハ整理ノ
餘地ガ乏シイモノト考ヘマス、其整理ノ餘地ノ乏シイ限リハ稅制整理ヲ行フ
ニ當リマシテモ、歲入ヲ大イニ減少セシムルト云フ如キ稅制ノ整理ハ是ハ到
底行ハルルモノデハアリマセヌ、餘地ガアリマセヌ、玆ニ於テ已ムコトヲ得
ズ、歲入ノ著シキ增減ナカラシムル範圍內ニ於テ、此度ノ稅制整理ヲ行ッタノ
デアリマス、新稅、增稅ヲ行ッタノハ不都合ダト云フ御議論デアリマスルガ、
是ハ新稅、增稅ト云フ其モノノミヲ捉ヘテ御非難ニナルカラ、サウ云フ疑ガ起
リマス、新稅、增稅ヲヤッタト云フノハ他面ニ於テ減稅、廢稅ヲ行ッタノデア
リマス、其結果ヲ受ケタル所ノ新稅、增稅デアリマス、總額ニ於キマシテ國
民ノ負擔ハ著シク增減スル所ガナイ、唯其增減セザル所ノ國民負擔ノ總額ノ
範圍內ニ於テ、負擔ノ均衡ヲ正シタト云フノデアリマス、第二點ハ明年度ニ
於テ海軍等ノ爲ニ新稅、增稅ヲ行フト云フ考ガアルカト云フ御質問デアリマ
ス、是ハ今日ニ於テ大正十六年度ノ豫算ヲ編成スル際ニ新稅、增稅ヲ行フト
云フ考ハ毛頭持ッテ居リマセヌ、是ハ明カニ申上ゲラ置キマス、素ヨリ海軍ノ
問題等刻下ノ緊要ナル所ノ仕事ヲ行ヒマスル爲ニ要スル財源、ソレ等ノ點ニ
付キマシテハ、明年度ノ豫算ヲ編成スル時ニ當リマシテ、歲入ノ狀況等ヲ篤
ト勘案致シマシテ、適當ニ之ヲ決定スベキコトハ勿論デアリマスルガ、是ハ
明年度ノ豫算ヲ編成スル時ニ至リマセネバ、今日ヨリ豫メ何トモ申上ゲルコ
トハ出來ナイノデアリマス、唯、新稅ヲ起ス、增稅ヲ行フト云フ考ハ毛頭持ッ
テ居リマセヌ、第三點ハ營業收益稅ガ今日ノ營業稅ノ負擔ヨリモ却ッテ增稅
ニナルト云フ御疑ノヤウデアッタノデアリマス、又殊ニ其調査ガ頗ル煩雜ニ流
レテ、ソレガ爲ニ納稅者ニ苦痛迷惑ヲ蒙ラシムルコトハ大ナルモノガ有ルデ
アラウト云フ御疑デアッタノデアリマス、營業稅ヲ廢シテ營業收益稅ヲ起シマ
スト云フコトニ依ッテ國民ノ負擔ヲ增加スルモノデナイ、却ッテ數百万圓ノ減
收ノ來スモノデアルト云フ其事柄ハ、先刻森田君ノ御質問ニ對シテ御答ヲ致
シタ通リデアリマス、而シテ第二段ノ調査ガ頗ル煩雜ニ陷ッテ、ソレガ爲ニ當
業者ニ苦痛ヲ與ヘルト云フ其御質問ニ對シマシテハ私ハ左樣ナルコトハ無
カラウト思ッテ居リマス、何故ニ、營業稅ヲ廢シ、營業收益稅ヲ起ス結果ト致
シテ、今日ノ程度以上ニ、納稅者ニ煩累ヲ與ヘルト云フコトニナルカト云フ
其疑ヲ起サレマシタ趣意ニ付テ、私十分ニ了解スルコトガ出來ナカッタノデ
アリマスルガ、營業稅ヲ改メテ營業收益稅ニ致シタ、外形標準ノ課稅ヲ廢シ
テ純益主義ニシタト云フコトニ依ッテ、當業者ニ煩累ヲ與ヘルト云フ理由ハ毛
頭無イト心得テ居リマス、勿論其調查ハ嚴重ニセヌケレバナリマセヌ、綿密
ニ致サナケレバナリマセヌガ、ソレガ爲ニ當業者ニ今日以上ノ迷惑ヲ掛ケ煩
累ヲ與ヘルト云フコトノアルベキ筈ハナイト考ヘテ居リマス、第四ノ御質
問ハ、營業稅ノ收入、今日ノ程度ヨリモ、營業收益稅ノ收入ノ方ガ增スト思
フガ、政府ハ增サナイト云フ、若シ大正十六年ノ豫算ヲ編成スルニ當ヲテ、十
五年度ノ實蹟ニ鑑ミテ增收ニナルト云フコトガ明瞭ニナッタ時ニ於テハ其增
收ニナッタ部分ダケ稅額ヲ減ズル如クニ、稅率ヲ下ゲルト云フ考ハナイカト云
フ御質問デアッタノデアリマス、營業收益稅ガ減收ニナラズシテ增收ニナルデ
アラウト云フ御疑ハ、御當院ニ於ケルノミナラズ、衆議院ニ於テモ屢、受ケタ
所ノ疑問デアッタノデアマリス、質問デアッタノデアリマス、政府ノ計算ニ依
リマスレバ、繰返シテ申シマスルガ如クニ、サウ云フ結果ハ生ジナイト確信
ヲ致シテ居リマス、無論民間ノ諸團體ニ於キマシテモ、或ハ商業會議所ノ如
キニ於テモ、相當ノ材料ヲ御蒐集ニナリマシテ統計ヲ御作リニナッテ居ルノ
デアラウト思ヒマスルガ、政府ガ全國ニ持シテ居リマスル所ノ此機關、卽チ稅
務監督局ナリ、稅務署ナリ、是等ノ機關ニ依ッテ綿密ニ調査イタシマシタル所
ニ依リマスレバ、是ハ屢〓申上ゲマスルガ如ク、決シテ增稅ニナリマセヌ、數
百万ノ減收ニナルト云フコトヲ信ジテ居リマス、從テ大正十六年度ニ於テ、若
シ增稅ニナッタナラバ、ソレダケ稅率ヲ減少スルカト云フ御質問ニ對シテハ、
唯〓御答ヘスルコトガ甚ダ困難デアリマス、何トナレバ增收ニハナラヌト思ツ
テ居リマスルガ故ニ、若シ增收ニナッタナラバドウスルカト云フ御質問ニ對シ
マシテハ、豫メ御答ヲスルコトハ困難デアリマス、若シ十六年度ノ豫算ヲ編
成スル時ニ於テ、或ハ十七年度ノ豫算ヲ編成スル時ニ於テ、意想外ノ增收ガ
來マシダナラバ、其增收ノ由ッテ來ル所ノ原因ト云フモノヲ十分ニ研究セヌ
ケレバナリマセヌ、是ハ御承知ノ通リ營業收益稅ハ十六年度カラ施行スルコ
トニナッテ居リマスルカラ、其十六年度一年間ノ施行實蹟ヲ見ズンバ果シテ增
收ニナッタカナラヌカト云フコトハ分リマセヌカラ、十六年度ノ豫算ヲ編成ス
ル時ニ於テハ、未ダ其結果ハ不明デアリマス、十七年度ノ豫算ヲ編成スル時
ニ於テ、初メテ一年間ノ施行ノ結果ガ現ハルルノデアリマス、其現ハレタ結
果ニ依リマシテ、其增收ハ何ニ依ッテ來ッタカ、是ハ政府ノ最初カラノ見込違
ヒデアッタカ、或ハ政府ノ見込違ヒデハナカッタカ、經濟上ノ狀況ノ變化ニ依
ル自然增收ガ多カッタ爲ニ增收ニナッタカト云フ、其增收ノ原因ヲ分析シテ、
之ヲ考慮セヌケレバナラヌノデアリマス、其分析ヲ致シテ十分ニ考慮イタ
シ、尙ホ他ノ歲入科目カラ生ズル所ノ收入ヲ綜合イタシマシテ、茲ニ經常歲
入ガ幾ラ、臨時歲入ガ幾ラ、合計歲入ガ幾ラニナルト云フコトヲ計算ヲ致シ、
ソレニ對シテ所要ノ歲出ハ幾ラニナルト云フコトヲ積算イタシマシテ、玆
初メテ豫算ヲ編成スルノデアリマスカラ、增收ガアッタナラバ、ソレヲドウ使
フカト云フコトヲ今日豫メ申上ゲルコトハ甚ダ困難デアリマス、御質問ノ第
五點ハ帳簿物件ノ檢査ノ權能ヲ稅務官吏ニ與ヘテアルト云フ理由如何、是一
御承知ノ通リ現行ノ營業稅法ニ於キマシテモ、帳簿物件ノ檢査ノ權限ヲ與ヘ
テアリマス、其同ジ規定ヲ襲用イタシマシテ、營業收益稅ニ之ヲ採ッテアル
ノデアリマス、政府ト致シマシテモ、徵稅ヲスル場合ニ於テ、當業者ノ帳簿
物件ヲ檢査スルト云フコトハ是ハ決シテ好ンデ爲スコトデハアリマセヌ、願
クハ當業者ノ申告ニ依ッテ直チニ課稅ヲ致シタイ、其申告ノミヲ信賴ヲ致シマ
シテ、ソレデ徵稅ノ目的ヲ達スルコトガ出來マスレバ、誠ニ此上ノコトハア
リマセヌガ、遺憾ナガラ今日ノ我ガ國民ノ納稅思想ノ程度ニ於キマシテハ
マダ〓〓十分ニ申〓ヲ信賴スル譯ニハ參リマセヌ、是ハ御互ニ遺憾トスル所
デアリマスガ、實際ハ正ニ其通リデアリマス、玆ニ於テ其當業者ノ申〓ト云
フモノガ果シテ正當デアルカ否ヤト云フコトヲ決スル爲ニハ當該官廳ト致
シマシテハ、相當ノ材料ヲ持タナケレバナラヌ、其材料ヲ得ル爲、已ムコト
ヲ得ズ當業者ノ帳簿物件ノ檢査ニマデ及バナケレバナラヌ、併シ是ハ規定ヲ
殘シテ置キマシテモ、之ヲ適用スル上ニ於キマシテハ、出來得ルダケサウ云
フコトハ避ケタイト考ヘマス、唯比規定ヲ削除シテシマヒマスルト云フト、
帳簿物件ハ如何ナル場合ニ於テモ、檢査サレル心配ガナイト云フノデ、當業者
ノ申〓ハ愈、實際ト遠ザカルト云フ虞レガアリマス、其虞レヲ防グ爲ニハ此規
定ハ是ハ從前ノ如ク存續シテ置ク必要ガアルト思ヒマス、又必要ナ場合ニ於
テハ、之ヲ適用イタシマシテ檢査ヲスルト云フコトモ、誠ニ已ムヲ得ナイコ
トデアルト思ヒマス、森君ノ御說ヲ伺ッテ居リマスレバ、所得稅法ニ於テハ其
規定ガナイデハナイカ、規定ガナイニ拘ラズ、所得稅ノ調査徵收ト云フコトハ
圓滿ニ行ハレテ居ルデハナイカト云フ御話デアリマシタガ、是ハ所得稅ノ調
ベニ付キマシテハ、例ヘバ俸給給料ト云フ如キモノニ付テハ、ソレヲ支拂フ
所ノ官廳ニ照會ヲ致スト云フ途ガアリマス、從テ當業者······納稅者ノ申〓ト
云フモノハ僞リヲ申ス餘地ガアリマセヌ、商工業カラ生ジマスル所ノ所得
稅ニ付キマシテハ、帳簿物件ノ檢査ヲスルト云フ機能ヲ所得稅法ニハ與ヘラ
レテ居リマセヌガ、現在ノ營業稅法ニ與ヘラレテアリマスカラ、其材料ニ依ツ
テ商工業カラ生ズル所得ヲ、所得稅法ノ適用ニ於テ、政府ハ正確ニ知ルコト
ガ出來テ居ルノデアリマス、ソレ故ニ若シ營業收益稅法ノ規定カラ致シマシ
テ、帳簿物件ノ檢查ヲスルト云フ規定ヲ取ッテシマヒマスト云フト營業收益
稅法ノ適用ガ十分ニ行ハレマセヌノミナラズ、延イテハ所得稅法ノ適用施行
モ是亦完全ニ行ハレルコトガ出來ナクナルノデアリマス、ソレ故ニ是ガ濫用
ハ飽迄モ戒メマスルガ、此規定ハドコ迄モ存續シテ置クト云フコトガ必要デ
アルト思フノデアリマス、少クトモ現在ノ我ガ國民ノ納稅觀念ノ程度ニ於テ
ハ是ハ存續スルコトガ必要デアルト信ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=22
-
023・森平兵衞
○森平兵衞君 御親切ナル御答辯ニ依リマシテ大體了承イタシマシタ、併シ
第四番日ニ質問イタシマシタ大正十六年度ノ實蹟ニ徵シマシテ、若シモ此營
業收益稅ガ現行營業稅ヨリ著シク增收ヲ致シマシタ場合ニハ、今大藏大臣ハ
稅率ヲ引下ゲルト云フコトニ付テハ明言ガ出來ナイト云フコトデアリマス
ガドウカ民間ノ方ノ調査モ決シテ杜撰デハ私ハナイト信ズルノデアリマス、
必ズ相當ノ根據ガアッテ調査シテ來タモノト思フノデアリマス、其際ニハ百
分ノ三·六、二·八ト云フコトニ付テ十分御考慮アラムコトヲ希望シテ置キマ
ス、是デ質問ヲ打切リマス
〔石川三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=23
-
024・石川三郎
○石川三郞君 此案ハ既ニ衆議院ニ於テ十分論議サレテ居ルノデアリマスル
ガ故ニ、私ハ唯一點ニ付テ御尋ネヲ致スノデアリマス、而シテ其質問ノ要點
ハ此度ノ稅制整理ハ少クモ無產階級者、其中デモ農民ニ對シ負擔ヲ增加イタ
シ、其生活ノ脅威ヲ致スモノデハナイカト云フガ質問ノ要旨要點デアリマ
ス、之ガ爲ニハ先ヅ農業者ト商工業者ノ負擔ノ變化ヲ調ベヌケレバナラヌノ
デアリマス、之ヲ調ベテ見マスルト、ドウナルカト申シマスレバ、直接國稅
ニ於キマシテハ農業者モ商工業者モ負擔ヲ輕減イタサレテ居ルノデアリマ
ス、卽チ農民ハ四千二百万圓、商工業者ハ四千百万圓、尤モ私ハ衆議院ニ於キ
マシテ修正セラレタルモノヲ原案トシテ申スノデアリマスルカラ、一分減ハ
申上ゲヌノデアリマス、デアリマスルカラ、直接國稅ニ於キマシテハ却テ農
業者ガ負擔ヲ輕減サレルコトニナッテ居リマス、併ナガラ之ヲ地方稅ニ及ボシ
テ見マスルト云フト、地方稅ニ於キマシテハ農民ハ少シモ負擔ノ輕減ヲ受ケ
テ居リマセヌ、寧ロ家屋稅ナルモノガ新設セラレテ居ルノデアリマスルカラ、
無產階級ノ農民ハ、地方稅ノ附加稅ハ從來ヨリモ多クセラレテハ居ナイカト
云フ心配ガアル、之ニ反シマシテ商工業者ハ直接國稅及ビ營業收益稅ノ附加
稅ニ於キマシテ、府縣デハ八十万圓、市町村ニ於キマシテハ百四十三万圓、
營業稅、雜種稅ニ於キマシテハ、府縣ニ於テ四百二十七万圓、市町村ニ於テ
五百十七万圓、計千百六十七万圓、之ト直接國稅四百十万圓ヲ合シマスルト、
商工業者ハ確ニ、千五百七十七万圓ノ負擔ノ輕減ニ相成ルノデアリマス、之
ヲ千二百万圓ノ輕減ニナッタ農民ト比較イタシマスルト云フト、一朝ニシテ商
工業者ガ農業者ニ對シ三百七十七万圓ノ負擔輕減、卽チ均衡ヲ茲デ破ラテ居ル
ノデアリマス、之ニ對スル當局ハ如何ナ考ヲ持タレルノデアリマスカ、御尋
ネスルノデアリマス、而シテ此負擔均衡ノ破壞ハ直チニ無產階級者デアル所
ノ農民ニ苦痛ヲ及ボス結果ニ相成ルノデアリマス、之ガ爲ニハ資產別卽チ資
產者ト中產階級ノ者ト無產階級ノ者トノ負擔ノ變化ヲ申上ゲヌケレバナラヌ
ノデアリマス、今直接國稅ヲ納ムル者以上ヲ資產者ト致シテ之ヲ調ベテ見マ
スルト、資產者ニ對シマシテハ、營業稅ノ變化、卽チ收益稅ニナリマシタ爲
ニ,四百十万圓ノ內百九十万圓、同ジク所得稅ニ於テ五百四十万圓、計七百
三十万圓ヲ減ジテ居リマス、併ナガラ又一面ニハ資本利子稅ニ依ッテ千四百
八十万圓、相續稅ノ引上ゲニ依リマシテ六百八十万圓、計二千百六十万圓ヲ
增シテ居ルノデアリマスカラ結局資產者ニ對シマシテハ、千四百三十万圓
ノ負擔ノ增加ヲ致シテ居ルノデアリマス、中等階級ニ對シテハドウナッテ居
ルカ、卽チ所得稅ハ納メマセヌケレドモ、將ニ納メムトスル階級ノ者デアリ
甲〓、此者ハ所得稅ニ於キマシテ四百七十万圓、卽チ千二百圓ニ引上ゲマシ
タ結果······地租ニ於キマシテ千二百万圓、營業稅四百十万圓ノ中二百二十万
圓、相續稅ニ於テ六十万圓、計千九百五十万圓ノ負擔ノ輕減ヲ致シ、他ニ一
厘一毛增加ガナイノデアリマス、無產階級者卽チ之ヲ含ム所ノ一般國民ハド
ウナッテ居ルカト申シマスルト通行稅ニ於テ千百六十万圓、醬油稅ニ於テ七
百十万圓、賣藥稅ニ於テ千零十万圓、又織物消費稅ニ於テ二千五百三十万圓、
計五千四百十万圓ヲ減ジ、他ニ所得稅ニ於テ二千七百九十一万圓、麥酒稅ニ
於テ五百五十万圓、骨牌稅ニ於テ五十万圓、煙草ノ値上ゲニ依ッテ二千二百二
十万圓、飮料稅ノ新設ニ依ッテ四百三十万圓、計六千零四十万圓ヲ增加イタシ
テ居ルノデアリマスガ故ニ、結局無產階級ヲ含ム一般國民ハ玆ニ六百三十万
圓ト云フ負擔ノ增加ニ相成ルノデアリマス、而シテ此無產階級者ノ中ニ於キ
マシテモ、商工業者ハ前申シマスル通リ地方稅ニ於テ幾分輕減ニナッタ點ガ
アリマスケレドモ、農民ハ一ツモ輕減ニナッテ居ラヌ、從ッテ無產階級ノ農民
ハ何ト仰シヤッテモ、負擔ノ過重ニ相成ッテ居ルコトハ蔽フ可カラザル事實デ
アルト思フノデアリマス、今申シマシタ所ノ結果ヲ綜合シテ申シマスルト、
次ノヤウナコトニナラウカト思フノデアリマス、此度ノ稅制整理ハ一般國民、
殊ニ無產階級マデモ踏付ケテ、唯獨リ中產階級ノミニ對シ多大ノ負擔ノ輕減
ヲ爲シタルコト第二ハ今度ノ稅制整理ガ矢張リ租稅、地租、營業稅、所得
稅之ヲ本體ニシテ行ウテ置イテ······斯ウ言ハレマスケレドモ、金高、ソレ
カラ實際上カラ見マスルト云フト、矢張リ間接稅ノ引上ゲニ依ッテ初メテ行
ハレテ居ルノデアリマス、間接稅ト云フモノガ無カッタナラバ、ドンナニ巧妙
ナ理窟ヲ付ケラレテモ、此度ノ稅制整理ハ決シテ實施ガ出來テ居ラナイ、實
現サレテ居ラナイモノト思フノデアリマス、斯樣ナ結果デ稅制整理ガ行ハレ
テ居リマスルカラ、此上私ガ進メテ質問イタシマセヌデモ、此度ノ稅制整理ハ
卽チ無產階級ノ農民ニ對シテ之ヲ苦シメルモノデアルト云フコトハ最早殆
ド私ハ盡シテ居ルト思フノデアリマス、併ナガラ質問ノ要旨要點デアリマス
ルガ故ニ、尙ホ箇條ニ致シマシテ順ヲ逐ウテ御尋ヲスルノデアリマス、第
ハ中產階級者ノ負擔ヲ減ラスト云フコトハ勿論賛成デアリマス、反對デハア
リマセヌ、併ナガラ共存共榮ヲ以テ初メテ立ツ所ノ今日ニ於キマシテ、無產
階級者ヲ踏付ケテ、唯、中產階級バカリ斯ンナニ引キ立テタ稅制整理ヲヤリマ
シテ、果シテ是ガ社會政策ニ叶フモノデアルカドウカト云フノガ第一點、第
二ハ同ジク通行稅モ賣藥稅モ綿織物稅モ消費稅等ノ免稅モ勿論私ハ贊成デア
リマス、反對ノ意見ハ寸毫モ持ッテ居リマセヌ、併ナガラ之ヲ行フニ當リマシ
テ、酒麥酒等ノ總テノ間接稅ヲ引キ上ゲヌケレバ斷行出來ナイト云フニ至
リマシテハ、非常ニ考ヘテ致サヌケレバナラヌコトト思フノデアリマス、何
トナレバ先般質問モアリマシタル如ク、一般ノ國民ハ是等ノ稅ハ既ニ恒久稅
トシテ稅ノ體系ニ付テ怪シク思ッテ居ラナイ、又此稅ガアル爲ニ非常ニ困ッテ
居ラナイ、殊ニ今日困ッテ居ル所ノ無產階級ノ農民ハドウデアルカ、金ガナケ
レバ一里二里ハ步イテ行ク、又藥ニ致シマシテモ彼等ガ用ウル所ノ藥ハ解熱
劑虫下シ、皸切疵ノ時ニ用ウルモノデ、其價ハ十錢內外ノモノデアル、
而カモ一年ノ中ニ何度カニ過ギナイ、五十錢以上ノモノヲ使フト云フコトハ
容易ニ無イノデアリマス、五十錢以上ノ賣藥ヲ使フト云フノハ中產階級以上
デアル、サウ云フ風デアリマスルケレドモ、此酒、煙草ト云フコトニナリマ
スルト、全ク其趣ヲ異ニ致シテ居ルノデアリマス、殊ニ申ス迄モナク、農民
ハ從來酒ト煙草ハ自分ガ作ヲテ飮ンデ居フッタノデアリマスカラ、百姓ノ年ヲ取。ツ
タ者程煙草酒ヲ餘計ニ飮ンデ居リマス、從テ、此百姓ノ年寄ノ居ル家コソ煙
草酒ノ値段ニ追ハレ、生活難ニ追ハレテ居ル、其事實ガ現在アル上ハ、假令
煙草酒ガ贅澤品デアラウガ嗜好品デアラウガ、名ハ何デモ宜シイ、卽チ農民
ガ、此酒ト煙草ノ値段ヲ每日無クサヌヤウニスルト云フコトニ付テハ、非常
ニ苦ンデ居ルト云フ事實ガアル以上ハ、此事實ヲ土臺ニシテ稅制整理ヲ爲ス
ノガ至當デハナイカ、サウスルト云フト、サウ困ヲテモ居ラナイ所ノ通行稅ナ
ドヲ廢スル爲ニ、直グ明日カラ困ル所ノ、此間接稅ヲ上ゲテ行フガ如キ稅制
整理ハ爲サヌニ如カヌノデアリマス、私ハ却テコンナ事ハ爲サヌ方ガ宜イト
思フ、是ガ質問ノ第二點、質問ノ第三點ハ、間接稅ト云フモノハ容易ニ引上
グベキモノデナイト云フ考ヲ持ッテ居ルノデアリマス、何トナレバ酒ト煙草ヲ
一遍飮ンデ其味ヲ知リマスルト、假令生活難ニ追ハレ其値ハ高クナリマシ
テモ止メ得ルモノデハアリマセヌ、止メ得ナイノガ人情デアリマス、ソコ
デ政府ハ其缺點ニ付込ンデ、サウシテ此間接稅ヲ引上ゲサヘスレバドレシ
キデモ稅ト云フモノハ立ドコロニ取ルコトガ出來ルヤウニ相成リマス、而シ
テ無產階級ノ農民ハ其都度非常ニ困難ヲ感ズルヤウニ相成ルノデアリマス
ガ故、私ハ平素ニ於キマシテハ此間接稅ハ容易ニ引上グベキモノデハナイ、
卽チ之ヲ引上ゲマスルノハ濱口藏相ノ平素申サレル如ク、國家有事ノ場合、
其時ニ限ルモノト私ハ考ヘルノデアリマス、然ルニ今度之ヲヤラレタト云フ
ノハ矢張リ濱口君モ此間接稅ハ他ノ直接稅ト同樣デアル、特別ニ之ヲ大事ニ
スル必要ハナイ、必要ガアレバ之ヲ他ノ直接稅ト一〓ニ上ゲル、何モソンナ
別ニ間接稅ト云フモノハ大事ニスル必要ハ無イト云フ御考デヤラレタノカ、
サウデハナイケレドモ、背ト腹トハ替ヘラレヌカラヤラレタ、斯ウ云フ御考
デアルカ、腹藏ナク御意見ヲ承ハリタイノデアリマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=24
-
025・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 石川君ノ御質問ハ三點デアッタヤウニ思ヒマス、第
-或ハ此度ノ稅制整理ハ中產階級ニ厚クシテ、無產階級ニ薄イノハ不公平デ
ハナイカト云フ意味デアッタヤウデアリマス、政府ハ別ニ左樣ニ考ヘテハ居リ
マセヌ、此度ノ稅制整理ニ於キマシテハ、中產階級以下多數國民ノ負擔ヲ輕
減シ、其福利ヲ增進スルト云フコトヲ目的トシタノデアリマス、而シテ中產階
級以下多數國民ノ負擔ト云フ內デ、幾ラガ中產階級ノ負擔デアッテ、幾ラガ無
產階級ノ負擔デアルト云フコトヲ、統計的ニ數字ヲ以テ示スコトハ、是一個
難デアラウト思ヒマス、唯今石川君ハ數字ヲ以テ御說明ニナリマシタガ、私
承ハッテ居リマシタケレドモ其御擧ゲニナリマシタ數字ガ、果シテ無產階級
ト中產階級ノ區別ニ付テ正當ナリヤ否ヤト云フコトヲ判斷スルダケノ資料ヲ
有ッテ居リマセヌ、試ニ政府ノ考ト致シマシテ、此度ノ稅制整理ニ依ッテ中產
階級以下多數國民ノ負擔ヲ輕減スル爲ニ、如何ナル稅ヲ如何ニ減ジ、如何ニ
廢シタカト云フコトニ付テ、昨日ノ說明ト重複ヲ厭ハズ一應申述ベマシテ、
石川君ノ御了解ヲ得タイト思ヒマス、先ヅ通行稅ノ減少ニ依ッテ千百六十餘
万圓ノ減少ヲ見テ居リマス、醬油稅ノ全廢ニ依ッテ七百十餘万圓、賣藥稅ノ
全廢ニ依ッテ千十万圓、綿織物消費稅ノ免除ニ依ッテ二千五百三十万圓、是ダ
ケノ合計ガ五千四百二十餘万圓ニナルノデアリマス、大體ニ於テ此金額ヲ以
テ無產階級ノ負擔ノ輕減ニ當ルモノト見レバ見ラレヌコトモナカラウト思ヒ
マ六、無論例外ナシデハアリマセヌガ、大體左樣カト思ヒマス、而シテ此外
ニ所得稅ノ免稅點ノ引上ゲ其他ニ依リマシテ、四百七十餘万圓ヲ減少イタシ
やえ、是ハ中產階級ノ負擔ノ輕減ニナラウト思ヒマス、其次ニハ地租ノ免稅
點ノ設定ニ依リマシテ、千二百餘万圓ノ減少ヲ見マス、是亦中產階級ノ負擔
輕減ト見テ差支ナカラウト思ヒマス、次ニハ相續稅ノ免稅點ノ引上ゲニ依ツ
テ六十餘万圓ノ減收ヲ見マス、是亦中產階級ノ負擔ト言ヒ得ルト思ヒマス、
ソコデ此所得稅ノ免稅點ノ引上ゲト、地租免稅點ノ設定、所得稅ノ免稅點ノ
引上ゲ、此三ツノモノヲ合計イタシマスト、千七百四十餘万圓ト云フ數字ガ
出マス、是ガ大體ニ於キマシテ、中產階級ノ負擔減少ニ當ルダラウト思ヒマ
ス、通行稅以下ノ免除ニ依ッテ、先ヅ無產階級ノ負擔輕減ニ當ルト見ルベキ金
額五千四百餘万圓ニ、唯今申シマシタ直接國稅ノ免稅點ノ設定若クハ引上ニ
依ッテ減少イタシマスル所ノ千七百四十餘万圓等ヲ合セマスト云フト、合計金
額七千百七十餘万圓ト相成リマス、是ダケノ金額ガ、此度ノ稅制整理ニ依ツ
テ、中產階級以下、多數國民ノ負擔ヲ輕減スルト云フ數字デアラウト思ヒマ
ス然ラバ此減收ヲ補塡スルガ爲ニ、新稅、增稅ヲ行ッタノデアルガ、其中デ
消費稅ヲ幾ラ增加シタカト申シマスト云フト、消費稅ノ增加イタシマシタモ
ノガ、酒ノ稅ガ三千三百餘万圓、煙草ノ値上ゲニ依ル增收ガ二千二百餘万圓、
〓涼飮料稅ノ新設ニ依ル所ノ增收ガ四百餘万圓、此三口ノ合計ガ六千四十餘
万圓ト相成リマス、此六千四十餘万圓ト云フ消費稅ノ增徵ヲ、初メニ申シマ
シタ所ノ社會政策的ノ減稅、卽チ七千百七十餘万圓カラ控除イタシマスト云
フト、其差引減少ガ千百二十餘万トナリマス、是ダケノ金額ガ卽チ中產階級以
下ト申シマスカノ負擔ノ輕減ト相成ルト考ヘテ居リマス、尤モ御斷リヲ申シ
テ置キマスガ、此數字ハ正確デアリマスガ、是ガ果シテ中產階級以下ノミノ
負擔ノ輕減ニナル、或ハ無產階級ノミノ負擔ノ輕減ニナルトハ、私ハ責任ヲ
以テハ申シマセヌガ、石川君ノ御說ヲ伺ッテ居リマスト云フト、酒稅ノ增徵、
煙草ノ定價引上、〓涼飮料稅ノ設定ト云フコトハ是ハ總テ無產階級ノミノ
負擔ニナルカノ如クニ御考ヘニナッテノ御議論ノヤウデアリマス、私ハ左樣ニ
ハ考ヘテ居リマセヌ、是ハ國民一般ノ消費デハアリマスルガ、特ニ無產階級
ノミノ負擔トハ考ヘテ居リマセヌ、殊ニ煙草ノ如キニ至リマシテハ、中產階
級以上、資產階級ニ於テ、上等ノ煙草ヲ使用サレテ居ルト云フコトハ、是一
爭フベカラザル事實デアリマスルカラ、此酒煙草ノ增率若クハ値上ゲト云フ
コトニ依ッテ生ジタル歲入ノ增加ガ、全部無產階級ノ負擔デアルト御計算ニナ
ルコトハ、是ハ聊カ無理デハナイカト考ヘマス、加之同ジ消費稅ノ減免、若
クハ增稅ニシマシテモ、唯其金額ノミヲ單純ニ比較スル譯ニハ參ラヌト思ヒ
やべ、金額ヲ比較スルノモ無論必要デアリマスルガ、金額以外ニ於キマシテ、
消費物ノ內容、其消費物ノ國民生活上ニ於ケル所ノ地位ト云フコトモ、併セ
テ考究スル必要ガ有ルデアラウト思ヒマス、此見地ニ立ヲテ考ヘマスルト云フ
ト、私ハ此度稅制整理ニ依ッテ、政府ガ免稅セムトスル所ノ通行稅、醬油稅、
賣藥稅、綿織物消費稅ノ如キモノハ是ハ卽チ國民ノ生活必需品ニ對スル所
ノ課稅ノ減免デアル、而シテ其代リニ新ニ增徵セムトスル所ノ酒ノ稅、煙草
ノ値上、〓涼飮料稅ノ設定ト云フコトハ、前申シマシタ通行稅以下ノモノト
比較ヲ致シマスルト云フト、國民生活上ニ於ケル地位ハ大分違フト思ヒマ
ス、是ハ生活ノ必需品ト申スヨリモ、寧ロ生活ノ嗜好品······生活上ノ嗜好品
ト申上ゲル方ガ適當デアラウト思フ、卽チ此度ノ稅制整理ニ於キマシテハ、
生活ノ必需品ニ對スル所ノ課稅ヲ大體ニ於テ減免ヲ致シ、其歲入ノ缺陷ヲ補
塡スルガ爲ニ、生活上ノ嗜好品ニ對スル所ノ課稅ノ增徵、若クハ新稅ヲ起シ
タト云フコトガ、此稅制整理ノ特長デアルト.政府ハ信ジテ居リマス、卽チ
金額ニ依ッテ御比較ニナルト云フヨリモ、金額ノ外ニ、其課稅物件ノ內容、卽
チ國民ノ生活必需品デアリヤ否ヤト云フ點ニモ特ニ重キヲ置イテ御〓究アラ
ムコトヲ希望イタシマス、第二點ハ酒、麥酒、煙草ノ增稅ハ宜シクナイト云
フ說デアリマス、如何ニモ政府モ昨日モ申シマシタ通リ、稅制整理ノ場合ニ
於キマシテ、新稅、增稅ヲ起スト云フコトハ······ヤルト云フコトハ、出來ル
ダケ之ヲ避ケタイト云フコトニ全力ヲ盡シタノデアリマス、併ナガラ屢、申
上ゲマスル如ク、財政上ノ理由ニ依ッテ一方ニ減ズル所アレバ、之ヲ補フ爲ニ
一方增ス所ガナケレバ、財政上立行カヌト云フ目下ノ狀況デアリマス、茲ニ
於テ何カ補塡スル財源ヲ發見シナケレバナラヌ場合ニ於キマシテ、サテ何ニ
依ッテ其財源ヲ求ムルカト申シマスト、ソレハ申ス迄モナク、國民生活上ノ必
需品ヲ離レタル所ノ物件、卽チ嗜好品若クハ贅澤品、而シテ其負擔ヲ受ケル
消費者ノ負擔力ト云フモノガ、割合ニ負擔ヲ受ケ易イ地位ニ在ル所ノ物品、
其物品ヲ選ムコトガ至當デアルト考ヘマシテ、酒麥酒、煙草等ニ於テ其歲
入缺陷ノ補塡ヲ求メタ次第デアリマス、政府ハ必シモ之ヲ以テ希望スル所デ
ハアリマセヌケレドモ、目下ノ狀態誠ニ已ムヲ得ナイ場合デアルト考ヘマス
ノデアリマス、第三點ハ間稅ノ引上ト云フコトニ付イテハ如何ナル考ヲ持ツ
テ居ルカト云フ御質問デアリマス、是ハ第二點ニ付テ御答ヲ申ス時ニ併セテ
申述ベテ置キマシタガ、間接稅ノ引上、消費稅ノ增徵、單リ消費稅ニ限リマ
セヌ、凡テノ稅ノ新設若クハ增徵ト云フコトハ、出來得ル限リ是ハ避ケナケ
レバナラヌ、又出來得ル限リ、政府モ之ヲ避ケタ積リデアリマスガ、右申シ
タ如ク財政上ノ狀態カラ已ムコトヲ得ズシテ、之ヲ決定シタノデアリマス、
左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=25
-
026・石川三郎
○石川三郞君 唯今ノ藏相ノ說明ハ遺憾ナガラ私ハ腑ニ落チルコトガ出來ヌ
ノデアリマス、蓋シ有產者ト、中產階級ト、無產者ノ定義ト云フモノハ、特
ニハツキリシタモノハアリマセヌ、ソコデ私共ハ此無產階級ノ者ガ苦ミハシ
ナイカト云フコトデ、無理ヤリニ中產階級ト無產階級ヲ區別シテ、其負擔ヲ
求メテ研究イタシテ居ルノデアリマス、濱口君ハ中產階級ト無產階級ヲ殊更
ニゴッチヤ混ゼニシテ、說明ドコロカ逆襲的ニ出ラレマシテ說明ヲセヌノデア
リマス、唯茲ニ私ハ一言申上ゲテ置キタイノハ、中產階級ニ對シテ私ハ千九
百五十万圓ヲ輕減シ、之ニ對シテ大藏大臣ハ、千七百万圓位ト申サレテ居ル
ノデアリマスガ、是ハ大藏大臣ノ間違デハナイカ、卽チ其內ニハ四百十万圓
ノ營業稅ノ內、收益稅ヲ四百圓マデハ取ラナイ、之ニ依ッテ二百二十万圓ノ免
稅ガアルガ、是ハ中產階級ノ免稅デナクシテ、ドレノ免稅デアリマス、ソレ
カラモウ一ツハ此間接稅ノ負擔ノ增加ハ無產階級ノミデ負フト言フヤウニ申
サレタガ、濱口君ハ熱シテハ居ルマイカト思フ、私ハ一般國民、卽チ無產階
級ヲ含ム一般國民トシテ言ッテ居ル、サウシテ他ノ無產階級ハ經費ノ輕減ト云
フモノハ無イカラ、確カニ一般國民ト共ニ六百三十万圓ノ負擔ハ增加ニナ
ル、斯ウ云フコトヲ言ッテ居リマスノニ、一般國民デアル、無產階級ノミガ酒稅
ヲ負フノデナイト、子供ニ言フヤウナコトハ御愼ミ下サラムコトヲ希望イタ
シマス、私ハ是デ質問ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=26
-
027・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 阪谷男爵ニ伺ッテ見タイト存ジマハ、此次ハ阪谷男
爵ノ御順デゴザイマスガ、阪谷男爵ノ御質疑ハ大分時間ヲ要シマセウカ、如
何デゴザイマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=27
-
028・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本員ハ政府ノ所信ヲ伺ヒマスノデ、政府ノ御答ガ長ケレ
バ從ッテ長クナリマス、多分二時間位掛カラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=28
-
029・徳川家達
○議長公爵德川家達君) 此際諸君ニ御諮リヲ致シタク存ジマス、本日ハ此
程度ニ於テ延會イタシテハ如何デゴザイマス、是位デ延會イタシテ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=29
-
030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、明二十六日ハ午前十時ヨ
リ開會イタシマス、議事日程ハ本院彙報ヲ以テ、御通知ニ及ビマス、本日ハ
是ニテ散會イタシマス
午後三時五十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X01519260225&spkNum=30
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。