1. 会議録本文
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000・会議録情報
大正十五年三月二十四日(水曜日)
午前十時二十五分開議
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議事日程 第三十號 大正十五年三月二十四日
午前十時開議
第一 日本興業銀行外二銀行の對支借款關係債務の整理に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二 關税定率法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 大正十五年度歳入歳出總豫算案竝大正十五年度各特別會計歳入歳出豫算案 會議(委員長報告)
第四 豫算外國庫の負擔となるへき契約を爲すを要する件 會議(委員長報告)
第五 暴力行爲等處罰に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第六 土地賃貸價格調査法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第七 大正十三年法律第十號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第八 民事訴訟法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 會議
第九 民事訴訟法中改正法律施行法案(政府提出衆議院送付) 會議
第十 府縣制中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十一 市制中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十二 町村制中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十三 北海道會法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十四 北海道地方費法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十五 水利組合法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十六 徴發令中郡及郡長に關する規定の適用に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十七 大正九年に於ける尼港事變及「オコーツク」事變の爲損害を被りたる者の救恤に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十八 明治三十三年法律第七十三號衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十九 大正十四年法律第四十七號衆議院議員選擧法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十 衆議院議員の選擧權に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十一 北海道會議員及府縣會議員の選擧權及被選擧權竝市町村會議員の公民權に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十二 土地收用法中郡長の職務を定むる規定の適用に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十三 大正十二年度歳入歳出總決算、大正十二年度各特別會計歳入歳出決算報告 會議(委員長報告)
第二十四 大正十三年度歳入歳出總決算、大正十三年度各特別會計歳入歳出決算報告竝決議案(二件) 會議(委員長報告)
第二十五 大正十一年度國有財産増減總計算書報告 會議(委員長報告)
第二十六 大正十二年度國有財産増減總計算書報告 會議(委員長報告)
第二十七 大正十三年度國有財産増減總計算書報告 會議(委員長報告)
第二十八 大日本聯合青年團補助金に關する建議案(公爵近衞文麿君外七名發議) 會議
第二十九 朝鮮に於ける鐵道の普及促進に關する建議案(淺田徳則君外四名發議) 會議
第三十 郡役所の廢止に關する決議案(男爵木越安綱君外六名發議) 會議
第三十一 八木春樹君選擧爭訟の件(資格審査委員長報告) 會議
第三十二 尾崎元次郎君及中村圓一郎君選擧爭訟の件(原告見城十作)(資格審査委員長報告) 會議
第三十三 尾崎元次郎君及中村圓一郎君選擧爭訟の件(原告小澤孝三)(資格審査委員長報告) 會議
第三十四 津久居彦七君選擧爭訟の件(資格審査委員長報告) 會議
第三十五 鳴海周次郎君選擧爭訟の件(資格審査委員長報告) 會議
第三十六 平田吉胤君選擧爭訟の件(資格審査委員長報告) 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ諸般ノ報〓ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
昨二十三日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可
決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
所得稅法中改正法律案
大正九年法律第十二號中改正法律案
地租條例中改正法律案
明治三十七年法律第十二號中改正法律案
營業稅法廢止法律案
營業收益稅法案
資本利子稅法案
相續稅法中改正法律案
通行稅法廢止法律案
酒造稅法中改正法律案
酒精及酒精含有飮料稅法中改正法律案
麥酒稅法中改正法律案
醬油稅則廢止法律案
自家用醤油稅法廢止法律案
織物消費稅法中改正法律案
賣藥稅法廢止法律案
骨牌稅法中改正法律案
〓涼飮料稅法案
大正九年法律第五十一號中改正法律案
地方稅ニ關スル法律案
明治四十一年法律第三十七號中改正法律案
〓育改善及農村振興基金特別會計法中改正法律案
農業倉庫業法中改正法律案
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ衆議院提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ
旨ヲ衆議院ニ通知セリ
市町村義務〓育費國庫負擔法中改正法律案
同日特別委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
府縣制中改正法律案可決報告書
市制中改正法律案可決報〓書
町村制中改正法律案可決報告書
北海道會法中改正法律案可決報告書
北海道地方費法中改正法律案可決報告書
水利組合法中改正法律案可決報告書
徵發令中郡及郡長ニ關スル規定ノ適用ニ關スル法律案可決報告書
明治三十三年法律第七十三號衆議院議員選擧法中改正法律案可決報告書
大正十四年法律第四十七號衆議院議員選擧法中改正法律案可決報告書
衆議院議員ノ選擧權ニ關スル法律案可決報告書
北海道會議員及府縣會議員ノ選擧權及被選擧權竝市町村會議員ノ公民權
ニ關スル法律案可決報告書
土地收用法中郡長ノ職務ヲ定ムル規定ノ適用ニ關スル法律案可決報告書
同日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
郡役所ノ廢止ニ關スル決議案(發議者男爵木越安綱君外六名、贊成者男
爵加藤定吉君外四十二名)
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ノ囘付ヲ受ケタリ
民事訴訟法中改正法律案
民事訴訟法中改正法律施行法案
同日衆議院ヨリ本院ノ送付ニ係ル左ノ政府提出案ハ同院ニ於テ之ヲ可決シ
奏上セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
王公族ノ權義ニ關スル法律案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
暴力行爲等處罰ニ關スル法律案
土地賃貸價格調査法案
大正十三年法律第十號中改正法律案
青山市立山南瓜山ホ〓〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此際、諸君ニ御諮リヲ致シタイコトガゴザイマス、
會期モ切迫イタシマシタカラ、日程第五、第六、第七ノ第一讀會ヲ開ク爲ニ
議事日程ヲ變更イタシタク考ヘマス、御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
MINI南小東発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一、暴力行爲等處罰ニ關スル法律案、政府提
出、衆議院送付、第一讀會
暴力行爲等處罰ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
大正十五年三月二十三日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
一小字ハ衆議院ノ修正文、ハ同削除ノ符號ナリ
第一條團體若ハ多衆ノ威力ヲ示シ、團體若ハ多衆ヲ假裝シテ威力ヲ示シ
○又ハ若
ト0兇器ヲ示シ又ハ數人共同シテ刑法第二百八條第一項、第二百二十二條
又ハ第二百六十一條ノ罪ヲ犯シタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百圓以下
ノ罰金ニ處ス
常習トシテ前項ニ揭クル刑法各條ノ罪ヲ犯シタル者ノ罰亦前項ニ同シ
第二條財產上不正ノ利益ヲ得又ハ得シムル目的ヲ以テ前條第一項ノ方法
ニ依リ面會ヲ强請シ又ハ强談威迫ノ行爲ヲ爲シタル者ハ一年以下ノ懲役
又ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
常習トシテ故ナク面會ヲ强請シ又ハ强談威迫ノ行爲ヲ爲シタル者ノ罰亦
前項ニ同シ
第三條第一條第一項ノ方法ニ依リ刑法第百九十九條、第二百四條、第二
百八條第一項、第二百二十二條、第二百二十三條、第二百三十四條、第
二百六十條又ハ第二百六十一條ノ罪ヲ犯サシムル目的ヲ以テ金品其ノ他
ノ財產上ノ利益若ハ職務ヲ供與シ又ハ其ノ申込若ハ約束ヲ爲シタル者及
情ヲ知リテ供與ヲ受ケ又ハ其ノ要求若ハ約束ヲ爲シタ者ハ六月以下ノ懲
役又ハ五十圓以下ノ罰金ニ處ス
第一條第一項ノ方法ニ依リ刑法第九十五條ノ罪ヲ犯サシムル目的ヲ以テ
前項ノ行爲ヲ爲シタル者ハ六月以下ノ懲役若ハ禁鋼又ハ五十圓以下ノ罰
金ニ處ス
附則
本法施行前刑法第二百八條第一項又ハ第二百六十一條ノ罪ヲ犯シタル者ニ
シテ本法ニ該當スルモノハ本法施行後ト雖〓訴アルニ非サレハ其ノ罪ヲ論
セス
〔國務大臣江木翼君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=5
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006・江木翼
○國務大臣(江木翼君) 議題トナリマシタル暴力行爲等處罰ニ關スル法律案
ニ付キマシテ御說明ヲ致シマス、近年ニ至リマシテ團體ヲ背景トシテ威力ヲ
用井又ハ暴力ヲ使用イタシマシテ、暴行トカ脅迫トカ或ハ器物ノ毀棄トカ、
或ハ面會强要、强談威迫、其他之ニ類スル犯罪ヲ敢テイタシマスル不逞ノ徒
ガ續出跋扈イタシマシテ、良民ニ迫害ヲ加フル者ガ甚ダ多イヤウデアリマ
ス、斯ノ如キ徒ノ跋扈スルニ至リマシタル原由ニ遡ッテ考ヘテ見マスレバ或
ハ思想上、經濟上、其他ノ社會上、特別ノ原因ニ基クモノガアルダラウト思
ヒマスルガ、又一面ニ於キマシテハ、法制上ノ不備モ亦其原因ノ一ツデアラ
ウト察セラレルノデアリマス、今其主ナルモノヲ擧ゲテ見マスレバ、是等ノ
暴行、脅迫其他ノ行爲ニ付キマシテ、親〓罪トナッテ居ルモノガアリマスル爲
ニ、其親〓罪ノ被害者ニ於テハ、後難ヲ恐レマシテ告訴ヲ爲サナイ、之ガ爲
ニ不逞ノ徒ハ跋扈スルト云フヤウニ至ルト云フコトモ其一ツノ原因デアラウ
ト思フノデアリマス、ソレカラ暴行脅迫、面會强請、强談威迫ト云フガ如キ
犯行ハ之ヲ犯スモ、其刑輕クシテ、彼等ヲ威嚇スルニ足ラザルコトモ亦、其
一ツノ原因デアラウト察セラレルノデアリマス、又斯ノ如キ犯罪ヲ爲ス徒ヲ
利用スル者ニ對スル所ノ取締規定ト云フモノハ、今日ノ所ニ於テハ全然缺如
イタシテ居ルノデアリマス、是亦其原因ノ一ツデアラウト察セラレマス、故
ニ之ヲ取締ラムガ爲ニ、親〓罪ヲ非親〓罪トナシテ訴追ヲ自由ナラシメ、其
刑ヲ重クシテ法ノ威力ヲ示シ、又所謂利用罪ナルモノニ付キマシテハ新ニ法
規ヲ設ケマシテ、其不備ヲ補フノ必要ガアルト認メタノデゴザリマス、是ガ
本案ヲ提出イタシマスル主ナル理由デゴザリマス、本案ニ對シマシテハ其第
一條ニ對シ衆議院ニ於キマシテ簡單ナル修正ガアリマシタ、卽チ「又ハ」トカ
「若ハ」ト云フ字句ヲ間ニ挾ンダノデゴザイマスルガ、畢竟スルニ原案ノ意義
ヲ明瞭ナラシムルノ意ニ外ナラナイノデアリマシテ、政府ハ之ニ同意ヲ表シ
テ居ルノデアリマス、何卒御審議ノ上、御協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=6
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007・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ質疑モナイト認メマスカラ本案ノ特別委員ノ
氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔小林書記官朗讀〕
暴力行爲等處罰ニ關スル法律案特別委員
伯爵二荒芳德君男爵立花小一郞君子爵板倉勝憲君
男爵田健治郞君志水小一郞君西久保弘道君
湯地幸平君松本勝太郞君山上岩二君
皇帝赤王平等発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=7
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008・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、土地賃貸價格調査法案、政府提出、衆
議院送府、第一讀會
土地賃貸價格調査法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十五年三月二十三日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
土地賃貸價格調査法
第一條政府ハ本法ニ依リ土地ノ賃貸價格ヲ調査ス
第二條賃貸價格ノ調査ハ大正十五年四月一日現在ノ地租ヲ課スヘキ土地
ニ付之ヲ行フ但シ地租條例其ノ他ノ法律ニ依ル各種ノ免租年期地ハ此ノ
限ニ在ラス
第三條土地ノ賃貸價格ハ各地目每ニ土地ノ情況類似スル區域內ニ於ケル
標準賃貸價格ニ依ル
標準賃貸價格トハ前項ノ區域內ニ於ケル標準ト爲ルヘキ土地ニ付貸主カ
公課、修繕費其ノ他土地ノ維持ニ必要ナル經費ヲ負擔スル條件ヲ以テ之
ヲ賃貸スル場合ニ於テ貸主ノ收得スヘキ金額ヲ謂フ
第四條前條ノ區域及標準賃貸價格ハ別ニ定ムル所ニ依リ賃貸價格調査委
員會ノ議ニ付シ政府ニ於テ之ヲ定ム
附則
本法ハ大正十五年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法ハ地租條例ヲ施行セサル地ニハ之ヲ施行セス
〔政府委員武內作平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=8
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009・武内作平
○政府委員(武內作平君) 唯今議題トナリマシタ、土地賃貸價格調査法案ニ
付キ提案ノ理由ノ說明ヲ申上ゲマス、曩ニ國稅整理ニ關スル諸法律案說明ノ
際、大藏大臣カラ申上ゲマシタ如ク、現行地租ノ課稅標準タル地價ハ明治ノ
初年ニ定メラレタルモノデアリマシテ、其後既ニ五十年ヲ經過イタシテ居ル
ノデアリマス、從テ經濟上ノ變遷交通機關ノ發達、農事ノ改良進步等各般ノ
關係ニ依リマシテ、土地利用ノ狀況ハ著シク變動ヲ來シタルニ拘ラズ、明治
四十三年宅地ノ地價修正ヲ行ヒマシタル以外、其他ノ土地ニ付キマシテハ局
部的ニ修正ヲ加ヘタルコトガアルノミデアリマシテ、大體ニ於テハ地價ノ修
正ヲ爲サズシテ今日ニ至ッタノデアリマス、故ニ現在ニ於ケル地租ノ負擔ハ、
地方ニ依リマシテ、又同一地方ニ於テモ、各地間ニ、著シク不公平ナル結果
ヲ來シテ居ルコトハ、殆ド疑ノナイ所デアルノデアリマス、茲ニ於キマシテ
地租負擔ノ公平ヲ圖ルガ爲ニハ、一般的地價修正ヲ行フノ必要ガアルノデア
リマス、而シテ地價修正ノ實行ニ付キマシテハ、種々ノ方法ヲ考ヘ得ルノデ
アリマスガ、政府ニ於キマシテ講究イタシマシタル結果ハ、其調査比較的容
易ニシテ而モ最モ能ク負擔ノ公平ヲ期シ得ル方法ト致シマシテ、土地ノ賃貸
價格ヲ以テ課稅標準トスルコトニ致シタノデアリマス、蓋シ賃貸價格ハ地主
ガ其土地ヲ賃貸スル場合ニ於テ普通ニ所得スル賃貸料ヲ標準トスルモノデア
リマスガ故ニ、地租ノ課稅標準ト致シマシテハ最モ適當デアルト思フノデア
リマス、固ヨリ賃貸價格ノ調査モ相當困難ナ事業デハアリマスガ、成ルベク
實行ノ簡易ナル方法ヲ擇ビ、各地目每ニ土地ノ狀況、類似スル區域內ニ於ケ
ル標準賃貸價格ニ依ルコトト致シ、以テ二年內ニ此調査ヲ完了スベキ見込デ
アリマシテ、其調査完了ノ曉ニ於テ、地租ノ制限ノ根本改正ヲ行フ考デアリ
マス、何卒御審議ノ上速カニ御協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=9
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010・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ハ所得稅法中改正法律案外二十三件ノ特別委
員ニ付託イタシマス
嘉禾北京東発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、大正十三年法津第十號中改正法律案、
政府提出、衆議院送付、第一讀會
大正十三年法律第十號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
大正十五年三月二十三日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
大正十三年法律第十號中左ノ通改正ス
第二項中「東京帝國大學特別會計」ヲ「帝國大學特別會計」ニ、「竝學校及
圖書館特別會計」ヲ「、官立大學特別會計ノ資金中東京商科大學ノ用ニ供ス
ル土地及建造物竝學校及圖書館特別會計」ニ、「及東京高等蠶絲學校」ヲ「、東
京高等蠶絲學校及東京外國語學校」ご依頼
參照
高等諸學校震災復舊諸費ニ屬スル豫算ノ施行ニ關スル法律大正十三年七月
法律第十號
大正十二年九月ノ震災ニ基ク復舊諸費ニシテ東京帝國大學、東京商科大學
及千葉醫科大學ニ關スルモノハ大學特別會計法第一條ノ規定ニ拘ラス之ヲ
一般會計ノ所屬トス
東京帝國大學特別會計ノ資金中東京帝國大學農學部及航空〓究所ノ用ニ供
スル土地及建造物竝學校及圖書館特別會計ノ資金中東京女子高等師範學校
及東京高等蠶絲學校ノ用ニ供スル土地及建造物ニシテ此等諸學校ノ震災復
舊諸費ニ屬スル豫算ノ施行ノ結果不用ニ歸スヘキモノハ當該資金ヨリ之ヲ
拂出スコトヲ得
〔政府委員鈴置倉次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=11
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012・鈴置倉次郎
○政府委員(鈴置倉次郞君) 大正十三年法律第十號中改正法律案ノ提出ノ理
由ヲ說明イタシマス、東京商科大學及東京外國語學校ハ元來敷地ガ甚ダ狹ウ
ゴザイマシタガ、更ニ此度東京ノ都市計畫ノ結果、其敷地ノ一部ヲ國家ノ用
ニ供スルコトニ相成リマシタ爲ニ、其殘存土地ニ於キマシテハ學校輕營上甚
ダ支障ヲ生ズルコトガ多イト信ジマシテ、此度之ヲ移轉改築ヲ致スコトニ致
シマシタノデアリマス、其結果ト致シマシテ特別會計ノ資金中新ニ其不用土
地建物ヲ特別會計カラ取減ラシマシテ、一般ノ國有財產ノ方ニ組入レマシテ、
之ヲ處分イタシタイト云フ趣意デアリマス、何卒御審議ノ上、御協賛ヲ與ヘ
ラレムコトヲ切ニ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサ
セマス
〔長書記官朗讀〕
大正十三年法律第十號中改正法律案特別委員
侯爵德川圀順君子爵本多忠鋒君子爵秋月種英君
嘉納治五郞君木場貞長君三宅秀君
宇田友四郞君田中一馬君森田福市君
###東小高発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=13
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014・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日本興業銀行外二銀行ノ對支借款關係債務ノ整理
ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會ノ續、委員長報〓、堀田
伯爵
日本興業銀行外二銀行ノ對支借款關係債務ノ整理ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十五年三月二十三日
右特別委員長
伯爵堀田正恒
貴族院議長公爵德川家達殿
〔伯爵堀田正恒君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=14
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015・堀田正恒
○伯爵堀田正恒君 本案ノ提出ノ理由竝ニ本案ノ內容ニ付キマシテハ、過日
大藏大臣ヨリ本議場ニ於テ御說明ガゴザイマシタカラ、此際御報〓ハ省略イ
タシマス、本案ニ依リマシテ政府ハ一億數千万圓ノ負擔ヲ致シ、國民ハ之ニ
依リマシテ大正十五年以降年々八九百万圓ヅツノ負擔ヲ生ズル重大法案デア
リマスルト共ニ、御承知ノ如ク本案ニゴザイマスル對支借款ト申シマスルハ、
卽チ一億圓借款ハ所謂西原借款デゴザイマス、故ニ其成立當時ノ狀況、借款
ノ性質、竝ニ借款ニ關シマシテ政府及日本興業銀行外二銀行トノ關係ニ付テ
隨分詳細ナル點ニ涉ッテノ御質問、或ル場合ニハ祕密ニ涉ッタ所ノ御質問
モゴザイマシタ、殊ニ本案ニハ直接關係ハゴザイマセヌケレドモ、密接ナル
關係ノゴザイマスル、目下北京ニ開カレテ居リマスル關稅特別會議ト本案ノ
關係ニ付テ、種々御質問ガゴザイマシタ、此際、此祕密ノ點ニ涉リマシタ事
柄ハ、御報告ハ出來マセヌケレドモ、御報告ガ出來マスル主ナル御質問ノ點
ニ付テ、此際御報告ヲ申上ゲタイト存ジマス、第一ニ本案ト對支借款トノ關
係ニ付テ、此本案ノ通過シタ際ニ、借款ニ何カ影響ハ無イカト云フ御質問デ
ゴザイマシタ、之ニ付テ政府當局ハ、何等變更ヲ來サナイ、當事者ハ矢張リ
從來ノ當事者デアリマス、然ラバ此法案ニ依ッテ整理セラルベキ借款關係債務
額ノ計算ニ於テ、借款ノ利廻ト興業債劵ノ利廻トノ間ノ利鞘ハドウ云フ風
ニ支出スベキカト云フ御質問ニ對シマシテ、政府ハ成程計算上ニ於テハ百十
四万餘圓ノ利鞘ヲ生ジマスケレドモ、此際、此法律ニ依リマシテ、ソレ等ハ控
除シテアル故ニ、日本興業銀行外二銀行ガ利益ヲ生ズルヤウナコトハ毛頭ナ
イ損益ハナイト云フ御答辯デゴザイマシタ、次ニ對支借款ノ目的遂行ニ關
シマシテ、從來、政府ハ本案ノ對支借款ノ目的遂行ノ爲ニ如何ナル努力ヲシ
テ居ッタカ、又今後如何ナル努力ヲスル考デアルカ、政府ハ、此對支借款ノ擔
保ハ甚ダ遺憾ナガラ不確實ナモノデアリマシテ、單ニ唯有線電信借款ノミハ
擔保ラシキモノガアリマスガ、其外ノモノハ擔保ト云フ擔保ハ無イノデアリ
マス、偶〓擔保タル爲ニハ、是カラ其事業ヲ興シ、其事業ヲ繼續シテ多額ノ費
用ヲ要シテ、初メテ擔保タルベキモノデアル、尙ホ或ル場合ニ國際關係ニ關
係シテ、此擔保ヲ取ルト云フコトハ、甚ダ困難デアッテ、殊ニ此借款ニ關係シ
テ目的遂行ノ困難ナノハ、支那政府ガ御承知ノ如ク始終更ッテ居ル爲ニ、ドウ
モ此借款ノ目的ヲ遂行スルコトガ出來ナカッタノハ甚ダ遺憾千萬デアル、依
テ今日、政府ハ北京ニ開カレテ居ル所ノ關稅特別會議ニ於テ、是ガ整理ヲ極
力シタイト思ッテ骨ヲ折ヲテ居ル次第デアル······尙ホ此對支借款ハ甚ダ不確實
ナル債權デアルケレドモ、此外ニ政府ノ關係シナイ、民間ノ關係シタ所ノ不
確實ナル債權ガ約二億圓近クノモノガアルヤウデアルガ、是モ共ニ今囘關稅
特別會議ニ於テ整理スル積リデアルカ、尙ホソレ等ヲ政府ノ關與スル所ノ此
對支借款トドウ云フ風ニ、一方ヲ重ク見、一方ヲ輕ク見ルヤウナコトハナイ
カト云フ、斯ウ云フ御質問ニ對シマシテ、政府ハ決シテ兩者ノ間ニ輕重ヲナ
スモノデハナイ、共ニ政府ハ整理セムト努力シツツアル、斯ウ云フ御答辯デ
ゴザイマシタ、若モ關稅特別會議ニ於テ、此目的ガ遂行ガ出來ナカッタ場合ニ
政府ハドウ云フ風ニスル積リデアルカ、此點ニ關シマシテ、政府ハ出來
得ルダケ目的遂行ノ爲ニ努力スル積リデアルガ、若モ不成功ニ終ッタ場合ハ
今後復タ斯カル會議ガ開催サレルト思フ、其場合ニ必ズ之ヲ提出シテ、整理
ヲ斷行シタイ、整理ヲセムト努力セムト考ヘテ居ルト云フ政府ノ御答辯デア
リマシタ、尙ホ此對支借款ニ付テ、從來政府ノ爲シタ所ニ缺陷ガアルヤウニ
思フ、併ナガラ其政府ノ責任ノミナラズ、一方ニ於テ特殊銀行ニ對シテ、卽
チ其特殊銀行ノ制度上ニ於テ、何等カノ缺陷ハ無カッタラウカ、政府ハ其點ニ
付テドウ考ヘルカ、此點ニ關シマシテ、政府ハ、御說ノ通リニ政府ガ不注意
デアッタノミナラズ、制度上ニ於テモ何等カノ缺陷ガアルヤウニ考ヘル、故
議會後金融調査會ヲ設ケテ、十分銀行制度ノ缺陷ヲ研究シテ、善處シテ行キ
タイト思フ、御承知ノ如ク其調査會ノ費用モ、目下追加豫算トシテ御協賛ヲ
仰ガムトシテ居ル次第デアル、斯ウ云フ御答辯デアリマシタ、討論ニ入リマ
シテカラ、何等反對ノ御意見ハゴザリマセヌデゴザリマシタガ、御贊成ノ意
味ニ於キマシテ、唯斯カル法案ヲ提出シナケレバナラナイヤウニナッタノハ、
甚ダ我〓遺憾トスル所デアル、暫ク政府ガ今後斯カル失態ヲシナイヤウニ十
分注意シテ行ク、尙ホ銀行制度上ニ缺陷ガアルノヲ認メテ、ソレヲ十分研究
シテ、是カラ改善ヲシテ行カウト云フ、其言葉ニ信賴ヲシテ、本案ニ贊成ヲ
スルモノデアル、之ニ對シマシテノ御贊成ノ御意見ガ二三ゴザイマシテ、採決
ニ入リマシテ、滿場一致ヲ以テ原案ハ可決スベキモノト確定イタシマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 通〓ニ依リマシテ阪谷男爵ノ發言ヲ許シマス
〔男爵阪谷芳郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=16
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017・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 唯今上程ニナッテ居リマス法案ニ付キマシテハ本員ハ勿
論贊成ナンデアリマスルガ、此法案ノミヲ以テ論ズル譯ニイカナイ、特殊銀
行ノ制度ノ上ニ適當ナル改善ヲ加ヘラレルヤ否ヤト云フコトニ付キマシテ、
大藏大臣ニ本員等ハ質問イタシマシタ、大藏大臣ハ特殊銀行制度ノ上ニ改正
ヲ加ヘルコトノ意見デアル、斯ウ述ベラレマシタ結果トシテ、追加豫算ノ上
ニ金融制度調査會ノ費用ガ若干提出セラレタノデアリマス、卽チ特殊銀行制
度ノ改革ト云フコトト、此法律ニ依ッテ銀行ニ與フル恩典ト云フモノガ、互ニ
聯繫イタシテ居ル、此以外ニ預金部或ハ日本銀行カラ、是等ノ銀行ニ對シマ
シテハ、低利資金ノ融通ト云フモノノ恩典モアリマス抑〓此借款ノコトニ付
キマシテハ、政府モ私ハ責アリト思フ其當時ニ此事ヲ實行セラレタ政府ハ、
甚ダ其當ヲ得ナカッタ、斯カル巨額ノ借款ト云フモノガ殆ド無意味デアル、當
時段祺瑞內閣ヲ助ケテ、政府ハ支那ノ統一ヲ圖ルト云フヤウナ考モ有ッタン
デアリマセウケレドモ、毫モ其目的ハ達セズ、又借款ニ依ヲテ多少ノ利權ノ
讓與ト云フコトモ有ッタンデアリマセウガ、ソレモ完全ニハ行ハレナイ、剰ヘ
支那ニ於ラハ此借款ニ關係シタ當路ノ人〓ハ、非常ニ非難ヲ受ケル、又支
那ノ國民ノ一部ニハ、日本ニ對シテ惡聲ヲ放ツト云フヤウナ、此借款ト云フ
モノハ甚ダ無意味デアッタバカリデナク、有害デアッタ、勿論多少ノ利益ト云
フモノモ有ッタニ相違ナイノデアリマスガ、初メヨリ支那ノ不安定ナル情勢ニ
對シテ、無擔保ノ借款ト云フコトガ、當時カラ既ニ物笑ヒトナッテ居タンデ、
今日アルコトハ殆ド皆其當時カラ物笑ヒトシテ、人ガ話シテ居ッタ譯デアリ
マス、斯カル借款ヲ實行セラレタル內閣ノ責任ト云フモノハ、極メテ重大ト
思フノデアリマス、其當事者ノ責任ト云フモノハ極メテ重大ト思フ、併シモ
ウ是ハ過去ノ歷史ニ屬スルノデアリマスガ、併シ當事者バカリデハナイ、銀
行モ亦責ヲ分タネバナラヌノデアル、デ、是等ノ銀行ノ爲ニ整理ヲ圖ラニヤナ
ラヌト云フコトカラ、預金部ナリ日本銀行ノ低利資金、其低利資金ヲ、遂ニ
預金部ノ分ハ利ヲ下ゲルト云フヤウナコトデ、尠カラヌ國庫ハ損害ヲ蒙ル譯
デアル、今又此法律ニ依ッテ······政府モ亦責ガアリマス、是等ノ法律ノ結果ト
云フモノハ、卽チ是等ノ銀行ノ恩典トナル譯デアリマス、從テ特殊銀行條例
ノ今後ニ於ケル改正ニ付テハ是等ノ銀行ノ當事者ハ勿論、株主ニ於テ敢テ
異論ヲ挾ムト云フコトハ甚ダ不都合ナコトト思フ、然ルニ昨日アタリノ新
聞ヲ見マスト云フト、何等カ是等ノ銀行ニ於テ、銀行條例ノ改正ニ異論ヲ挾
ムト云フコトガ、新聞ノ記事ニ見エテ居ル、新聞ノ記事ハ勿論確カナモノト
ノミ斷定ハ出來マセヌガ、株主等ノ間ニ是等ノ說ヲ懷ク者ガアルノデアラウ
ト思フ、一方ニ於テ國家ガ恩典ヲ加ヘルト同時ニ、一方ニ於テハ相當ナル條
例ノ改正ト云フコトハ當然アルベキ筈デアル是ハ殆ド交換問題トナルベ
キモノデアラウト思フノデス、併シサウ云フ考ヲ懷ク者アリトセバ、今玆ニ
此法律案ヲ可決シテ、是等ノ銀行ノ株主其他ノ者ノ利益ヲ圖ッテ、而シテ其利
益ヲ圖ヲタ結果ガ條例ノ改正ニハ應ジナイト云フ話ニナッテ來ルト云フト、甚
ダ面白カラヌコトト思フノデアリマス、勿論法律ノ改正ハ、兩院議員ト政府
トノ相談ニ依ッテ成立チ得ルノデアリマスケレドモ、之ニ對シテ反對ヲ試ミル
ト云フヤウナ意思ヲ持ツト云フコトハ······固ヨリ未ダ現ハレザル法律デアリ
マスケレドモ、法律其モノニ無理ノアラウ筈ハナイ、併ナガラ多少銀行ト云
フモノハ犠牲ヲ蒙ルト云フコトハ免レヌト思フ、故ニ本員ノ聽カムト欲スル
所ハ、今日ハ大藏大臣ガ居ラレマセヌカラ、總理大臣ニ御尋ネシタイ積デア
リマスガ、此法律ヲ施行セラルルニ當ッテ、又此法律ノ結果トシテ、是等ノ銀
行トソレ〓〓約束ヲ結バレルニ當ッテハ、今本員ノ述ブルガ如キ點ニ付テハ、
適當ナル注意ヲ加ヘラレルト云フコトノ御考デアルヤ否ヤト云フコトヲ、
應確メテ置キマス
〔國務大臣片岡直溫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=17
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018・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 唯今、阪谷男爵ヨリ總理大臣ニ御尋ネニ相成ッタ
ノデアリマスガ、總理大臣ハ唯〓衆議院ノ委員會ニ、要求サレマシテ出席ヲ
致シテ居リマス、此處ニ居リマセヌ故ニ、大體政府ノ意思ノ在ル所ヲ以テ御
答ヲ申シテ置キタイト存ジマス、唯今、議題ト相成ッテ居リマス問題ト、條例
改正トガ、離ルベカラザル關係ヲ持ッテ居ルトハ見テ居リマセヌガ、是等ノ事
ノ將來生ジナイヤウニ、條例改正ノ場合ニ於キマシテハ、御質問ノ趣旨ヲ以
チマシテ改正ヲ實行スルト云フ、卽チ其趣旨ヲ貫ク爲ニ調査ヲ致スト云フ方
針ヲ以テ進ンデ居ル場合デゴザイマス、是ダケノ御答ヲ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=19
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020・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=20
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021・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=21
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022・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=22
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023・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=23
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024・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
개호야하후発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
[「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=25
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026・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=26
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027・西大路吉光
○子傳西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=27
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028・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=29
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030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
불교가東京옮発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=31
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032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
불교가南〓東発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=32
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033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 關稅定率法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、
第一讀會ノ續、委員長報〓
關稅定率法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
大正十五年三月二十三日
右特別委員長
伯爵柳澤保惠
貴族院議長公爵德川家達殿
〔伯爵柳澤保惠君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=33
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034・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 委員會ノ經過竝ニ結果ヲ簡單ニ御報道申上ゲマス、簡單
トハ申シマスガ、是ハ御承知ノ通リノ浩瀚ナルモノデアリマスカラシテ、少
クトモ三十分グラ井掛リマスカラ、念ノタメ申上ゲテ置キマス、本案ニ付キ
マシテハ議ヲ開クコト九囘デアリマス、愼重審議イタシマシテ、衆議院送付
案ヲ可決イタシタノデアリマス、其結果委員ノ希望ガ四ツ出マシタ、尙ホ委
員會ノ希望ガ一ツ出マシタ、是デ以テ本案ヲ可決イタシタイノデアリマス、
此提案ノ趣旨ハ既ニ大臣ヨリ申サレタ如クデアリマスルガ、順序トシテソレ
ヲ簡單ニ先ヅ中上ゲテ置キマス、歲入ノ增加ト云フモノハ今度ノ改正ニ於テ
ハ目的ニシテ居ラヌト云フコトガ、第一、言ハレタノデアリマス、併ナガラ
左樣言ハレテ居ラレマスルガ、初年度ニ於テ約七百五十万圓、次年度以降約
二千万圓近イ所ノ增收ニナルノデアリマス、尙ホ衆議院修正ノ結果ト致シテ、
政府ノ言明ニ依リマスルト、小麥竝小麥粉ノ增收ガ約三百万圓、鳥卵ノ分ガ
五十餘万圓、卽チ初年度ニ於キマシテモ、合計彼此レ千百万圓位ノ增收ニナ
ルノデアリマス、而モ此小麥竝小麥粉ノ增收ニ付キマシテハ委員諸君ノ中
ニモ亦異議ガアリマシテ、尠クトモ五百万乃至六百万位ニナルダラウト云
フ御說モアリマス、私モ政府案ノ如ク三百万圓ト云フノハ餘リニ過少ナ見積
リカト考ヘテ居ルノデアリマスガ、免ニ角歲入ノ增加ヲ目的トセラレヌデモ
是ダケノ大增收ガアルノデアリマス、是ガ先ヅ提案ノ御趣旨ノ一トシテ伺ッ
タノデアリマス、其第二ハ贅澤稅ヲ課シタモノニ付テハ、今度ハ少シモ其品
目ニ觸レテ居ラヌト云フコトデアリマス、斯樣ナル一、二ノ御考デ以テ、根
本ノ方針ヲ決メラレタノデアリマスガ、尙ホ內地ノ重要產業ノ保護、消費者
ノ利害、國民ノ生活ノ安定、此三者ハ中〓調和シ難イ所ノモノデアリマスル
ガ、此三ツノ點ヲ能ク考慮セラレマシテ、稅率ノ按排ヲ決メタト云フ次第デ
アリマス、是ハ政府ノ言明デアリマス、デ本案ハ分レテ二ツニナリマス、
第一ガ條文ノ改正デアリマス、第二ガ別表稅率ノ改正デアリマス、先ヅ先キ
ニ條文ノ方カラ申上ゲマス、此條文ノ改正ハ、是ハ關稅ノ賦課減免竝拂戾ニ
關係スルコトデアリマス、是ハ明治四十三年制定以來、大正十年ニ至リマス
ルマデ、屢〓改正ガアリマシタノデ、今般ノ改正ニ於キマシテモ、骨子ニ觸レ
ザル改正ニ止マッタノデアリマス、而モソレハ別表ノ稅率ノ改正ニ關聯シテ、
實際ノ不便ヲ直シタト云フコトデアリマス、此箇條ノ說明ハ大分ゴザイマス
ガ、是ハ省略イタシマス、四條ノ改正、七條中ノ改正、八條中ノ改正、九條
ノ改正、斯ウ云フノデアリマス、其箇條ノ條項ダケデ、說明ハ略シテ申上ゲ
マセヌ、ソレカラ尙ホ附則ニ於テモ改正ガアリマスルガ、此附則ニゴザイマ
スル「大正十一年法律第二十二號及大正十四年法律第二號ハ之ヲ廢止ス」ト
云フノハ、是ハ別表ニ是等ノ品目ガ這入リマシタノデ、斯ウ云フコトニナル
ノデアリマス、次ニ稅率ノ方ノ改正ニ移リマス、此稅率ノ改正ニ付キマシテ
第一ニ申上ゲタイノハ、是ハ大正十一年七月ヨリ大正十二年六月ニ至リマス
ル輸入價格ヲ標準トシテ、此見積リヲ算定シタノデアリマス、現行法ノハ主
トシテ四十年乃至四十二年ノ分ヲ考慮算定サレタノデアリマス此分類ノ順序
竝ニ標準ニ付テ見マシテモ、是ハ現行ノ分類ト大シタ變リハゴザイマセヌ
ソレカラ改正ノ方針ハ、原料品ニ付テハ成ルベク安イ稅ヲ掛ケル、半成品ニ
付テハ稍〓高イ稅ヲ掛ケル、全製品ニ付テハ、モット以上ノ高イ稅ヲ掛ケルト
云フ、是ガ稅ノ掛方ノ標準デアリマス、而シテ有稅品デアッテ無稅トナリマ
シタモノガ、三十四種ゴザイマス、無稅ヨリ有稅トナッタモノガ六種アリマ
ス、又相當ニ按排セラレタモノガ六種アリマス、大體現行ノ儘据置ノモノガ
約半數位デアリマス、從量稅ト從價稅ト雙方代ッタモノモゴザイマスガ、成ル
ベク從量稅ニ代ヘタト云フ御話デゴザイマシテ、之ニ付テノ政府委員ノ詳細
ナル說明ガアッタノデアリマス、尙ホ此改正ハ農林大臣商工大臣竝ニ外務大臣
ニ說明ヲ願フコトガアリマスルノデ、委員會ニ於キマシテハ、適當ノ場合ニ
於テ三大臣ニ御說明ヲ願タノデアリマス、先ヅ農林大臣ノ方カラ中上ゲマ
ス、農林大臣ノ說明ノ趣旨ハ〓約シテ申上ゲレバ斯樣デアリマス、所管事項
ガ殊ニ生活必需品ニ付テノコトガ多イノデアッテ、ソレニ重キヲ置イテ、主要
食品ニ關スル御說明ガアッタノデアリマスルガ、其改正ノ趣旨ニ付テハ、全ク
大藏當局ト御同樣ナ精神デアルノデアリマス、然ルニ小麥、小麥粉ノ稅率ガ
衆議院ニ於テ修正ニナリマシテ、之ニ同意サレタノデアリマス、之ニ付テハ
斯樣ニ申サレテ居ラレマス、ソレハ現行法、卽チ提出ノ稅率ノ方ガ、其分ニ付
テハ生產ト消費ノ調和ヲ能ク取ッタ積リデアルノデアルガ、下院ノ修正、卽チ
稅率ノ引上ガアッテモ、是ハ左マデ消費者ノ脅威トハナルマイ、又是ハ一方農
民ノ保護トモナル、小麥ノ生產高ガ增加スルコトデアルカラ、之ニ同意シタ
譯デアル、鳥卵ノ方ハ現行据置ニナッタノデアリマスガ、是モ前同樣ノ理由、
卽チ內地ノ產業保護ノ意味ニ於テ同意シタト云フ、先ヅ御說明デアリマス、
一二ノ問答ヲ御紹介申上ゲマス、政府案ヲ可ト思フ、宜イト思フカドウカト
云フ御質問デアリマスガ、當局ハ之ニ對シマシテ、政府案ハ惡イトハ思ッテ
居ラヌ、唯生產ノ增加ト、消費者側ノ苦痛モ甚シクナイト思フカラシテ、ソレ
デ衆議院案ニ同意シタノデ、段別ハ之ニ依ッテ約四十七万町步程殖エルト云
フ見込デアルト云フコトデアリマス、次ニ小麥ノ稅率ハ約十割程上ッタ、小麥
粉ニ付テモ六割程上ル、而シテ今日マデノ現況デハ、作付段別ハ大分減ルノ
デアルガ、之ニ反シテ收穫量ハ數量上增シテ居ルヤウデアル、現在ノ儘デモ
增シテ居ル上ニ、尙ホ農村振興策トシテ補助金モアル、其上ニ關稅ニ依ッテ
保護ヲスルト云フノハ、餘リ保護ガ過ギヤシナイカト云フ、御尤モナ御質問
ガアッタノデアリマス、之ニ對シマシテハ、種々品種ノ改良其他ノ爲ニ補助費
ガ入用デアル、又生產費モ大分近來增シテ居ルノデアルカラシテ、相當ノ保
護ハ必要デアルト云フコトデアリマシテ、詳細之ニ付イテノ御說明ガアッタ
ノデアリマス、ソレカラ內地生產ノ小麥ト、外國カラ輸入ノ小麥トハ、本邦
ニ於テハ使ヒ途ガ異ナルヂヤナイカ、故ニ競爭ノ筈ガナイ、然ルニ此ノ外國
ヨリ輸入ノ小麥ノ稅率ヲ變更スルノハドウ云フ譯ダ、ソレハ必要ナイヤウ
ニ思フガ、ソレハドウ云フ譯カ、之ニ對シテ、成程品質ハ異ナッテ居ル、現在
デモ用途ハ違ヲテ居ルケレドモ、將來ハ內地產ノ小麥モ相當品質ガ良クナッテ、
全ク同ジ用途ニ使フノデアルカラ、全ク競爭ガナイト云フ譯デモナイト云フ
御辯明デアリマシタ、ソレカラ鳥卵ニ付テハ、原案ハ修正ニナッテ、現行法ノ
儘デアリマス、デ、今囘ノ修正ト云フモノハ、市價ニ影響ガアルト思フ、如
何、之ニ付テハ、內地ノ養鷄業ノコトヲ話サレテ、非常ニ發展ノ見込ガアル、サ
ホド影響ガアルマイト云フコトデゴザイマシテ、尙ホ內地鳥卵ノ供給モ相當
殖エルト云フ御話デアリマシタ、ソレカラモウ一ツノ質問ハ、政府ノ標榜サレ
ル所ノ政策ト、此關稅改正ハ矛盾スル所ガアル、例へバ小麥ノ率ヲ引上ゲテ、
一方ニハ農民保護ニナルガ、又一方消費者ノ方ニ對シテハ非常ニ不利益デナ
イカ、又醬油稅ヲ廢セラレルガ、小麥ノ値ガ今後ハ上ル、所謂醬油ハ値上ニナ
ルノデハナイカ、織物稅ハ廢止サレル、併シ染料ハ關稅ノ値ガ上ルノデアル
カラ、ダカラ織物ノ價格モ上ルデアラウト云フヤウナ、矛盾ノ點ヲ非難スル
御質問ガアリマシタガ、政府ノ答辯ハ、全ク違フ見解デアリマシテ、之ニ向ッ
テハ、滿足サレナイヤウナ質問者ノ意向ニ見受ケタノデアリマス、尙ホ小麥
問題ニ付キマシテ質問モ若干ゴザイマシタガ、是ハ省略シテ置キマス、是カ
ラ商工大臣ノ御話ニ移リマス、商工省所管ニ於キマシテハ、此度ノ關稅改正
中重モナルモノハ、綿絲、綿布ニ、鐵ト染料デアリマス、而モ其外ニ商工省
ノ領分ノモノハナカ〓〓多イノデゴザイマス、先ヅ商工省ニ於ケル、稅率算
定ノ標準ニ付テ申サレマシタ、是ハ內地生產費ト、外國品輸入ノ價格トノ差
額ヲ標準トシテ、先ヅ見積ッテ居ルノデアルト云フノデ、種々例ヲ引カレマシ
タ併シ尙ホ是以外ニモ實際ノ狀況ヲ考慮シテ見タト云フコトデアリマス、
次ニ綿絲綿布ニ付キマシテハ、是ハ現行ノ儘据置デアリマスガ、是ハ昨年衆
議院ニ於テ、關稅廢止ノ法案ガ可決セラレマシタ、其理由ハ、是ハ非常ニ生
產ガ多イモノデ、生絲ニ次グ重要輸出品デアル、而モ紡績會社ハ御承知ノ如
クニ多クノ配當ヲシテ居ル、是ハ需要者ガ高イモノヲ買ハサレテ居ルノデア
ルト云ッテ、關稅廢止論ガ出タノデアリマスガ、之ニ付テハ當局ニ於キマシテ
ハ尙ホ將來印度方面、及ビ支那方面ノ輸出ノ事ヲ考ヘテ見ルトドウモ關
稅廢止ト云フコトハ同意シ難イト云フコトデアリマシタ、此外色〓具體的ノ
御話モアッタノデアリマス、ソレカラ製鐵ノ御話ニ移リマス、鐵材ニ對シテハ
相當ノ改正ガアッタノデアリマス、而モ銑鐵ハ現行ノマヽ据置デアリマス、之
ニ對シテ實際上ノ狀況、價格、銑鐵ノ內地ノ產額、鋼材ノ產額ノ狀況ヲ述ベ
ラレマシテ、內地ノ製鐵事業ハ今日尙ホ幼稚ノ時ニアッテ、十分保護セネバ
ナラヌ、外國品トノ競爭ハ中〓面倒デアル、併シ將來ハ自給自足ノ確信モア
ル、此見地ヨリ製鐵奬勵法ヲ改正シテ、奬勵金交付ノ途ヲ今囘開クヤウニシ
タノデアル、之ニ依フテ關稅ヲ引上ゲズニ保護スルコトニスルノデアルト云
フコトノ說明ヲセラレタノデアリマス、ソレニ對シマシテ相當御質問ガ出タ
ノデアリマス、其二三ヲ御紹介申上ゲマス、鐵ニ關スル國策及ビ施設法策如
何將來自給自足ノ途、確ニアリヤ、保護ノ方策如何ト云フ御質問ガアリマ
シタガ、之ニ對シマシテ、製鐵調査會成立以後ノ沿革ノ御話ヲセラレマシタ、
調會査審議ノ結果、自給自足ノ途ガアリ、又其事業ノ組織ニ關スル決議モ出
マシタノデ、此調査會ノ決議ニ付テ、當局者ガ考慮セラレタ次第ヲ申述ベラ
レマシタ、其結果、當局ニ於テハ、調査會ノ提議ヲ大體正當ト認メラレマシ
テ、尙ホ實際ノ狀況ニ付キマシテモ、統一的合同事業ノ有利ナル點ニ鑑ミマ
シテ、此方向ニ向ッテ努力スルノデアルト云フコトヲ言ハレタノデアリマス、
ソレカラ銑鐵ノ稅率ニ關シテ、此率ヲ高メヤウト云フ話ガアッタガ、印度カラ
ノ苦情ヲ憂慮シテ中止シタサウデアル、サウシテ其代リニ今囘ノ奬勵金制度
ヲ取ッタト云フヤウニ聞イテ居ルガドウダ、ト云フ御質問ガアリマシタガ、是
ハ全ク祕密會デ御答辯デアリマシタカラ、是ハ御話申上ゲラレナイ、茲デ御紹
介モ出來ナイノデアリマス、ソレカラ染料ニ付テ申上ゲマス、之ニ付テ大體
御說明ヲ申上ゲマスト、染料問題ハ今日ノ場合ニ於テハ、之ヲ國際的ニ考ヘ
ネバナラヌ問題デ、斯クセザレバ解決ノ出來ヌト云フコトヲ第一ニ聲明セラ
レマシテ、彼ノ歐洲戰爭中、我國ニ於ケル所ノ染料會社勃興ノ次第ヲ申述べ
ラレー其結果、我國ニ於テ重要染料六十種ノ中三十二ハ出來タノデアル、併
シ戰爭後ハ外品ガ非常ニ這入ッテ來テ、非常ニ妨害ヲシタノデ、大正九年ニ
關稅ヲ上ゲテ之ヲ妨ゲタノデアル、防イダノデアル、然ルニ其後獨逸ノ製品
ハ歐羅巴ノ各國ニ於テ、大〓ノ國ニ於キマシテ禁止セラレタノデアリマス
ガ故ニ、今度ハ東洋方面ニ向ッテ來タ、是デ非常ニ我國モ影響ヲ受ケテ、結局
大正十三年輸入制限令ヲ布イテ防イダ、續イテ內地ノ生產保護ノ爲ニ二十種
ヲ指定シテ、成功スル見込ガ立ッタト云フコトヲ述ベラレマシテ、之ニ付テ尙
ホ具體的ニ御說明ガアッタノデアリマス、尙ホ染料生產ノ效用及ビ保護ノ必要
ヲ說カレマシテ、自給自足ノ途ハ立ッテ居ル、十分目的ハ達セラレル、併シ此仕
事ハ結局製鐵事業ノ隆盛發展ニ伴フベキモノデアルト云フコトヲ申サレタノ
デアリマス、ソレカラ染料問題ニ關シマシテ、日獨間ノ交涉〓末ニ付テノ御質
問ガアリマシタ、是ニ外務大臣ヨリノ御答辯ガアリマス、其大體ヲ申上ゲマス
ト斯樣デアリマス、先ヅ染料工業發達ノ必要ヨリ論及セラレマシテ、日本ノ今
日ノ染料界ノ現狀ニ付テ、獨逸モ大ニ國情ヲ認メテ居ルト云フコトヲ述べラ
レマシタガ、併シ獨逸品ノ輸入ニ關シテ、我ガ國ガ差別的待遇ヲシテ居ルト云
フコトヲ言ハレマシテ、斯ウ云フコトガアル以上ハ、到底日獨條約ト云フモノ
ハ進行シナイモノデアラウト云フコトカラ、尙ホ紳士條約ニ付テモ考慮セル
コトヲ述ベラレマシタガ、ソレ以上綿密ナコトニ付テハ、今ハ時機ニ非ズトシ
テ言明セラレナカッタノデアリマス、尙ホ染料ニ付キマシテ、輸入制限令ハ最
早要ラヌデハナイカト云フ御質問ガアリマシタガ、成程是ハ內地ノ生產モ相
當ニアルノデアリマス、又種類モ相當ニ出來タノデアルケレドモ、今制限令ヲ
撤廢スレバ、矢張リ外品ガ這入ッテ來テ壓倒サレルト云フコト······外國デモ斯
樣ナ例ガアル、暫ク本邦デモ此儘ニシテ置カウト云フ御答辯ガアリマシタ、又
支那ヘ將來加工綿布其他ノ染色シタ物ヲ輸出サレルコトト思フガ、此輸出奬
勵ハドウナサルノデアルカ、之ニ付テハ當局者ハ、假置場ノ制度ヲ應用シテ見
タク考ヘテ居ルノデアル、又此法令ニモ適當ニ修正ヲ加ヘテ、近キ將來ニ當業
者ノ便利ヲ圖ッテ見タイト云フ御答辯ガアリマシタ、次ハ佛領印度支那ノ關
稅改正問題、是ハ矢張リ我ガ國ノ輸入品ニ關係スルコトデアリマスノデ、御
質問ガ出タノデアリマス、此佛領印度支那ニ於キマシテハ、非常ニ我ガ輸入
品ニ對シマシテ關稅ヲ高クシテ居ルノデアリマス、是ハ何トカ改正スル方法
ハ無イカト云フ御質問デアリマス、之ニ付キマシテハ、政府ハ長イ間留意シ
テ居ルノデアル、現ニ「メルラン」總督ノ來朝、山縣公爵ガ彼ノ國ヘノ渡行以
來始終意思ノ疏通ニ付テモ相當心配シテ居ルノデアル、次第ニ交涉ハ進ム
ヤウニナッテ、巴里ニ於テ交涉ヲシテ居ルノデアルケレドモ、佛蘭西ハ、御承
知ノ通リ度〓政變ガアルノデ、サウ云フ爲デ、マダ十分ニ進捗シナイ、何カ
途中ニ難關ガアッテ是ガ行惱ムト云フ譯デハナイト云フ御說明デアリマシタ、
是ガ大體ノ御說明竝ニ御答辯デアリマシテ、尙ホ此條文ニ付テ色〓御質問ガ
アリマシタ、兵器ノ問題、或ハ學校用品ノ輸入等、ソレカラ不當廉賣、爲替
ノ關係等ゴザイマシタガ、是ハ略シテ置キマシテ、船ノコトニ付テ申上ゲマ
ス、是ハ後ニモ出マスガ、玆ニモ關係ガアリマスノデ、船ノ輸入ノコトダケ
ヲ申上ゲテ置キマス、我國ハ隨分古船ヲ輸入スルノデ、之ニ付テノ御質問デ
アリマス、我ガ國デハ造船業ヲ非常ニ奬勵シテ居ル、其奬勵保護ノ上カラ見
テモ、古船ヲ淘汰スルノハ當然デアルノニ、是ガ中〓相當這入ッテ來ル、是ハ
非常ニ我國ノ不利益デハナイカ、之ヲ將來ドウスルカ、又十條ノ規定デモ、
造船業ノ發達ガ不十分ニ思フガ、ドウデアルカト云フ御質問デアリマシタ、
當局者ハ之ニ對シマシテ、古船ニ付テハ稅率ヲ相當高クシテ、輸入防止ニ努メ
テ居ル、努メテ居ルガ、併シ絕對禁止ト云フコトハドウシテモ出來ナイコト
デアル造船業者ト海運業者トハ、能ク話ガ違フノデアルガ、當局ニ於テハ
兩者ノ說ヲ參酌シテ考慮シタノデアル、又造船事業ノ發達助長ハ助長スル上
ニ於テ、他ノ方法ニ依ルコトモ出來ルノデアルト云フヤウナ御答辯デアリマ
シタ、其他尙ホ條文ニ聯關スルコトニ付テノ御質問、其他協定稅率ノコトニ付
テ、各國トノ關係ニ付キ御質問ガアリマシタガ、是モ省略シテ置キマス、ソレ
カラ衆議院ニ於テ、······當院ニ廻ッタノデハアリマセヌガ、希望條項ガアルノ
デアリマス、ソレニ付テ御質問ガ出タノデアリマス、第一ハ品目ニ付テデア
リマス、ナカ〓〓品目ガ相當竝ベテアリマスガ、之ニ付テハドウ思フカト云
フ御質問デアリマシタ、政府ニ於テハ、免ニ角七百ニ近イ所ノ多數ノモノヲ
調ベルノデ、隨分面倒デアッタガ、相當ニ注意ヲシテ調ベタノデアル、ケレド
モ何分多クノコトデアルカラ、或ハ調査漏レモアルカモ知レナイ、將來調
査スベキモノガアレバ、是ハ常設ノ調査會ニ掛ケテ審議シテ見ヤウ、衆議院
ノ希望モ相當ニ考慮スルト云フコトデアリマシタ、ソレカラ不當廉賣防止ノ
コトニ付テハドウ思フカ、是ハ不當廉賣ニ處スル途ハ付イテ居ルガ是ハ中〓
適用ガ仕惡イ、是ハ將來改正スル積リデアル、併シ今日マデ一囘モ此不當廉賣
ノ法令ヲ適用シタコトガナイ、ガ將來ハ何トモ言ヘヌカラ、是亦考慮シテ見
ヤウ、ソレカラ合成染料ニ付テノ希望ハドウカ、是ハ染織業者ニサウ非常ニ
不便ガアルモノトハ思ハヌケレドモ、併シ衆議院ノ言フヤウニ不便アリトセ
バ是モ將來其モノニ對シテ、相當ノ處置ヲ執ッテ行ク積リデアル、又鐵ノ稅
率ニ關スル希望モ出タノデアリマス、之ニ付テハ先ニ申上ゲマシタヤウナ答
辯デアリマシテ、鐵ニ關スル國策樹立ノ上ヨリ、此關稅ハ不十分デアル、或
ハ不適當デアルト云フ時ニハ、又其都度ニ於テ考慮シテ見ヤウ、ケレドモ現
在ハ、サウ是ガ不十分ノモノトモ考ヘテ居ラヌ、製鐵業者ニハ、獎勵金ノ外
ニ免稅ノ特點モアリ、又相當保護モアルカラ、是デ相當ナ保護ニナルト云フ
ヤウナ御辯明デアリマシタ、是ヨリ此別表ニ付キマシテ、一號ヨリ六百四十
七、此內ノ御質問ニ付テ申上ゲルンデアリマスガ、無論全體ニ付キ一々御質
問ハ無カッタノデアリマスルガ、彼此レ三四十アルカト思ヒマス、其主ナルモ
ノハ先ッキ申上ゲマシタ小麥ナリ、綿絲ナリ、鐵ナリ、染料ナリ、船ニ關ス
ルコトデアリマス、私ハ諸君ノ御許シヲ得ルモノト見テ、此別表ニ付テノ質
問應答ハ全部略サウト考ヘテ居リマス、併シ若シ御註文ガアリマスレバ、私
ハチヤント分ケテ、質問表ヲ持ッテ居リマスカラ、御質問ガアレバ、御答ヘシテ
モ宜シイノデアリマス、最後ニ委員會ニ於テ討論ニ入リマシテカラノ模樣ヲ
申上ゲマス、ソレハ先刻申上ゲマシタ數〓ノ希望條件ガ、討論ノ際ニ於キマ
シテ出マシタ、先ヅ個人ノ希望カラ申上ゲマス、一ツハ染色加工綿布ノ輸出
ニ付テデアリマス、斯ウ云フ文句デアリマス、「染色加工綿布ノ輸出保護ノ爲
メ私設假置場法ヲ染色業ニ適スル樣來議會ニ於テ改正センコトヲ望ム」、是
ハ一委員ノ御希望デアリマス、其次ノ御希望、是ハ本會議ニ於テ質問シタノ
デアルガ、ドウモ政府ノ答辯ガ不十分デアル、故ニ其希望ヲ言フノデアルト
云フコトデアリマス、ソレハ斯ウ云フ文句デアリマス、「政府ハ產業ニ對スル
確乎タル政策ヲ樹立シタル上ニ於テ、其趣旨ニ鑑ミ、國情ニ適應シタル工業
ニ付テハ、十分之ヲ保護スルノ政策ニ出デザルベカラズ、必要ナル工業ト雖
モ、國情ニ適セザルモノハ、如何ニ之ヲ保護スルモ、到底將來ニ於テ之ガ發
展ヲ期スルコト難カラン、政府ハ近キ將來ニ於テ、常設ノ關稅委員會ヲ設立
サルルニ付テハ之ヲシテ十分權威アルモタラシメ、而シテ今囘ノ改正案審議
中、特別委員會ニ於テ議論ノ多カリシモノヲ可成早キ機會ニ於テ此常設委員
會ニ諮詢シ其訂正ヲ斷行セラレタシ」、斯ウ云フ文句デアリマス、モツ一ツハ
關稅定率法ノ單位ヲ「メートル」法ニ統一シテ貰ヒタイト云フ御希望デアリ一
ス、是ハ英量ヲ使ヒ、或ハ我が國ノ量ヲ使ヒ、或ハ佛ノ量ヲ使ッタリ、色〓單
位ガ混ッテ居リマス、ソレデ「メートル」ニ關スル法律モ出タコトデアリマスカ
ラ、定率法モ「メートル」法ニ統一シテ貰ヒタイ、斯ウ云フ御希望デ、此二ツ
ハ一委員ノ提議デアリマス、モウ御一人ノ希望ハ、是ハ文句ガアリマスカラ
申上ゲマス、「一、今囘改正ノ關稅法案ヲ通ジテ、我ガ國ノ基礎工業ニ對スル
政府ノ方針ヲ見ルニ、末ダ何等確立セル產業政策ノ存立セルモノアルヲ見ザ
ルハ頗ル遺憾トスル所ナリ、政府ハ宜シク國家總動員ニ關スル調査機關ト相
俟ッテ、速ニ是ニ對スル國策ノ樹立ニ努メラレムコトヲ望ム、二、今囘關稅改
正ノ結果、物價ノ騰貴ヲ促シ輸出貿易ニ支障ヲ來ス虞ナシトセズ、仍テ政府
ハ假置場ノ制度ヲ改メ、又戾稅ノ範圍ヲ擴張スルト同時ニ、其ノ手續ヲ成ル
ベク簡易ニシテ、加工貿易ノ奬勵ヲ圖ラレタシ、三、今囘ノ關稅改正ニ於テ、
原料ノ關稅ヲ引上ゲ其ノ製品ノ稅率ヲ引下ゲタルモノニ付テハ、愼重ニ調查
ヲナシ、原料ト製品トノ關稅ヲ適當ニ按配セラレタシ」、是モ個人ノ御希望デ
アリマス、以上御三人ノ御希希ハ、事柄ハ四ツニナッテ居リマスガ、其御希望
ハ委員會ノ空氣ヲ見マスルト、相當之ニ御贊成ノ方モヤルヤウニ見受ケタ
ノデアリマス、終リニ委員會ノ希望ヲ申上ゲマス、委員會全會一致ノ希望デ
アリマス
希望決議
一食料品タル小麥及小麥粉ノ關稅引上ハ其價格ノ騰貴ヲ惹起シ、國民生
活ニ惡影響ヲ及ホスノ虞アリ、政府ハ愼重講究ノ上、適當ノ處置ヲ採ル
ヘシ
二政府ハ鐵ニ對スル政策ニ關シ更ニ愼重ナル考慮ヲ加ヘ、銑鋼共ニ適
當ナル關稅ヲ按配スヘシ
三政府ハ染料其他ノ重要化學工業品竝ニ船舶ニ對スル政策ヲ確立シ、之
ニ關スル關稅ヲ適當ニ按配スヘシ
是ハ委員會ノ希望デゴザイマス、是ハ全會一致デ、此希望決議ヲ可決シマシ
タ、尙ホ衆議院送付案ニ付テハ、何等ノ修正モナク其儘可決シタノデアリマ
ス、之ヲ以テ報告ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=34
-
035・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通〓ニ依リマシテ、玉利喜造君ニ發言ヲ許
シマス
〔玉利喜造君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=35
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036・玉利喜造
○玉利喜造君 會期モ切迫イタシマシテ、貴重ノ時間ニナリマシテ、此壇ニ
立チマシタ、甚ダ恐縮デアリマスガ、昨日通〓ヲシテ置キマシテ、政府委員
モ居ラレヌノニ、質問ヲスルヤウナコトデアリマスルガ、モウソレヲ要セナ
イデ以テ、何レ此關稅定率ノコトハ、モウ此會デ以テ動カスコトハ、私モ好
ミマセヌカラシテ、此方ノ自分ノ主義ヲバ、少シ申述べマシテ、サウシラ
後日又御諮リヲシタイト思ッテ居リマスカラ、政府委員ハ私ノ質間ノ趣意ヲ聽
カレ、又同僚諸君ノ御參考ニナルヤウニト云フコトデ、此處ニ立チマシタ、
サウ長クハ時ヲ費サヌ積リデアリマス、問題ハ此農產物ニ付テデアリマス、
而モ此農產物ノコトニ付キマシテモ、穀類ヤ、米穀ヤ、小麥ノヤウナモノナ
ゾハモウ大抵宜イト致シマシテモ、殘ッテ居ル問題ガ、極ク些細ナ鷄卵問題
デアルノデアリマス、ソレデ僅カノ鷄卵問題ガアリマスケレドモ、是ハ我〓
共ガ農產、農業界ノ副產物トシマスルニハ、極ク倔强ナモノデアルノデアリ
マス、デ是ガ無クナルト困リマスカラ、ソレデ此問題ヲ以テ御尋ネヲシテ、
是ハ是非有利ナ事業ニシテ置キタイノデアリマス、且ツ是ガ誠ニ容易ナ仕事
デアルノデアルシ、又是ガ大變關稅ノ率ニ依リマシテ、盛衰消長ノ能ク見エ
ルモノデアリマス、デアリマスカラシテ先年支那鷄卵ガ輸入シ初メマシテ、
每年其量數ガ高マッテ來ルノデアリマシタカラシテ、其前カラ民間デハ西洋
鷄ノ改良ヲ大變努メタノデアッテ、羽數モ餘程殖エマシタシ、又產卵ノ數モ大
變多ウゴザイマスカラシテ、餘程從來ヨリモ卵ハ生產スルコトニナッテ居。タ、
ドウシテモ我〓共ガ見タ所デハ、從來ヨリモ是ハ、此事ハ明治二十年ニ私ガ
居ッタト云フ所デ御話ヲシマス、從來ヨリハドウシテモ四倍位ハ、倍ノ倍位ハ
殖エタト斯ウ見テ宜カラウト考ヘテ居ッタノデアル、ソレデモ矢張リ每年增シ
テ行クノデアリマス、其量數ハマア、例ヘバ其頃ノコトデアリマス、明治二
十年ガ此養鷄熱ガ起ッタ頃デアリマス、奬勵ヲシ初メタノデアルノデ、明治二
十年ノ頃カラ、其前ト後トシマスルト五六年ノ奬勵デ以テ、殆ド二倍又ハ
四倍ノ卵ガ出來ルノガ、ソレガ無クシテ居ッテ、初ハ二十万圓這入ッテ來ルノ
ガ、三十万圓、六十万圓、五十万圓、六十万圓、八十万圓、百万圓ト斯ウ云
フヤウナ風ニ這入ッテ來ルノデアリマス、ソレハ日〓戰爭ガアリマシテ、少シ
人民ガ奢リニ長ジタト云フ、奢リニ入ッテ來タノデアリマス、サウ云フ生活ノ
有樣ガ出來テ來タノデアリマス、ソレデ支那卵ハソンナニ入レルヤウニナツ
タ遂ニ百四五十万圓這入ッテ來ルヤウニナリマシタ、ソレダケ奬勵シタノ
ニ、又這入ッテ來ルノニサウ云フ有樣デアリマスカラシテ、稅ヲ以テ是ハド
ウカシナクチヤイカヌト云フ運動ヲ始メタノデアル、其ドウモ此方ノ當業者
ノ方デ希望スル稅率ニハ、遙ニドウモ及バヌノデアリマシタ、及バヌノデ、少
シバカリ從來ノ稅ヨリモ高マッテ來マシタ、一圓ノガ三圓位ニハナリマシタ、
サウ云フヤウナ先ヅ比例デアッタノデアリマス、所デソレデ喰止メテ來タヤウ
ナ有樣デアル、百三十万圓ト云ヒマシタケレドモ、ソレガ三十二三年ノ頃デ
アリマス、御承知ノ方ハアルカモ知ラヌガ、其時ハ此運動ハ腐レ卵ノ問題ダト
云ウテ起ッタノデアリマス、餘程當業者ト又輸入商トノ兩方ノ戰ガアッタノデ
アリマス、ソレデ喰止メマシタ、大抵喰止メタ、百五十万圓······先ヅ其實ハ
百五十万圓ヂヤト斯ウ言ウテ居ッタ、併シ十年カラ上喰止メテ行ッタノデアリ
マスケレドモ、明治三十年、遂ニハ矢張リ物價モ高クナッテ參リマシタカラシ
テ、ソレデモ持チ切ラヌデ以テ、矢張リ殖エテハ參リマシタケレドモ、マダ
ソレデ宜シイノデス、先ヅ其後ノ有樣ヲ申シマスルガ、大正七年ニハ金額ガ
僅ニ百八十万デアリマシタガ、今ハ二千万圓バカリ這入ッテ來ルノデアリマ
ス,其頃ハ大正七年百八十万圓、ソレカラ百五十万圓······其間ハ僅カノ間デ
ス、ソンナニ增シテハ居ナイノデス、百八十万圓デアッタノガ、八年ニソレヲ
免稅トシマシタ、ソレハ〓糧ガ足ラヌト云フ所デ、何デモ食物ニ對シテハ大
變寬ヤカナ風ニシテ、外國カラ入レル方針ヲ取ラレタ、ソレガ爲ニ米穀ノヤ
ウナモノナドモ、稅ガ安クナルト云フヤウナ、何デモ安クシテ、アヽ云フモ
ノハ、生活ノ資料ニナルモノハ入レルト云フ所ノ風ガ吹イテ居ッタノデアル、
輿論デアッタノデス、ソレデ八年ニハ免稅ニナリマシタ、其時ガ百八十万圓デ
アッタノデス、ソレガ俄ニ翌年ニナリマシテ、三百万圓ニナリ、三百五十万圓
ニナッタ、百八十万圓ガ、サウシマスルト殆ド倍ニナリマシタ、ソレカラ漸々
增シテ參リマシテ、五年ノ後ニハ千八百万圓ニナッタ、僅カ、七年ニ免稅ニナツ
タ其時ハ、百八十万圓デアッタノガ、十二年ニハ卽チ五年ノ後ニハ、ソレガ
千八百万圓ニナッタ、百八十万圓ガ千八百万圓、十倍ノモノガ這入ッテ來タノ
デアリマス、ソレデアリマシテ、十三年ニハ現行稅率ノ六圓ニナリマシタノ
デアリマス、マアソレデモマダ宜シウゴザイマス、現行稅率ノ六圓ニナリマ
シテ······無稅デアッタノデアリマスガ······此頃、マダ無稅ノ頃、其チト二三年
前ニ、四年カ五年カ前ノ時、私ハ其頃ハ農商務省ノ當局ニ、此稅ノコトヲ御
話ヲシタノデアリマス、其時ハドウモ目的通リ矢張リ大變這入ノテ來ルカラ、
ソレハ宜シイト云フヤウナコトデ、サウ云フヤウナ大變見識ノ高イ、當ルベ
カラザル御議論デアリマスカラ、モウ默ッテ議論モシナイデ置キマシタ、ソレ
デ今度デモ此分ハ餘程下ゲルコトニナッテ居ッタ、政府案ガナッテ居タノヲ漸
ク現行率デマア折合ガ付イテ、サウ云フ六圓デ矢張リ止マッテ居ルノデス、所
デ帝國農會ナドデハ之ヲ八圓ヲ希望シテ居ッタノデアル、政府デハ現行ヨリ
モ下ゲテ以テ、三圓五十錢デシタカ、四圓五十錢ニスル、六圓ヲ四圓五十錢
ニ下ゲルト云フ御方針ハ、其御趣意ガ分ラヌノデス、所謂外國カラ入レルコ
トヲ大變望ンデ御出デノヤウナ有樣デアル、其御趣意ヲ承リタイ、今度デモ
是ハ下ゲル方ニドウモナッテ居ルノデ、漸クソレガ現行率ト云フモノニナリマ
シタ、マダ是デモ宜シイノデアリマス、ソレデ之ヲ今日玆デ以テ上ゲルト云
フコトナゾハ言ウテモ迚モ行ハレヌコトデアリマスシ、申シマセヌガ、其
理由ヲバ承リタイト云フコトト、ソレカラ斯ウ云フモノハドウシテモ必要ヂ
ヤナイカト考ヘテ居ルノデアリマス、又農業家側デハ、ソレヲドウシテモ必
要ト認メテ居ルノデアル、此大事ナ副產物ヲ、家禽家ガ成立タヌト云フヤウ
ナコトデハイカヌ、勿論銘々ガ一家々々デ以テ、唯慰ミ半分デ飼フヤウナ
養鷄ナラバ、ソレハ宜シウゴザイマスケレドモ、家禽家ト云フモノハ······種
禽家ヤ、家禽家ガ矢張リ無クチヤイケマセヌ、サウ云フヤウナ種々ノ職業ト
シテヤル者ガアッテ、奬勵ノ仲介ニナルノデアル、政府ガ奬勵サレル其仲介ニ
ナル、又政府ガ奬勵サレヌデモ、値段ガ好ケレバ其モノガモウ奬勵シテヤッ
テ來ルノデアリマス、產卵鷄ノ卵ガ、又種卵ガデス、種ノ卵ガ高ケレバ、ソレ
デ以テ種禽家ガ出來マス、種禽家ガ利益ヲ得レバ、自然此養鷄ノコトハ大變
世話ヲ致シマス、ソレデアリマスカラ、政府ガ世話シナイデモ出來ルノデア
ル、サウ云フヤウナ有樣デアル、ソレヲ望ムノデス、私ナゾハ、皆ナ當業者
ガ仕事ヲシナクチヤナラヌ、政府ノ御世話ハナイデ以テヤルヤウニアリタイ
ノデアル、デサウ云フヤウナコトデアリマスガ、ソレデサヘモ潰シマシタ、
帝國家禽會ナドト云フヤウナモノハ、去年ノ春マデハヤッテ居ッタケレドモ、
モウ去年カラ潰レタ、殆ド活動シナイヤウニナリマシタ、其會ナゾハ、盛ン
ナ時ハ······盛ンデナイ時デモ隨分困難ニ出遭ヲテ······品評會ナドヲシマスガ、
金ノ「メタル」ヲ出シテ居。ダ、純金ノ「メタル」ヲ出シテヤッテ奬勵シタ間ガ二
十年間位アリマセウ、ソレガモウ昨年アタリニ活動シナクナッタト云フノハ
有志家ガ居ナクナッテシマッタ、政府デハ種禽所ヲ置イテ奬勵ニナッテ、卵ヲ安
クテ配付スルト云コトデアリマスケレドモ、私ナゾノ見ル所デハ、卵ハ高ク
シテ、一腹ノ卵ガ七箇デアリマスガ、其位ノ卵ノ値段ガ高カッタカラト云ウタ
所ガ、一圓カソコラ、二圓位ノモノデアル、チットモ構ヤセヌト見ルノデアリマ
ス、民間ニドウシテモ斯ウ云フ中ニ立ッテ盡力スル者ガ無クチヤイカナイノ
デアル、ソレデ此家禽業ノ有樣ハ、サウ云フヤウナ有樣ニ至ッテ居ルノデアリ
マスカラ、ドウシテモ此際之ニ付テ一言申述ベテ、其御趣意ヲ伺ッテ置キタイ
ノデアリマスカラ是ハ筆記ヲ御覽ニナッテ、來年デモ之ニ付テノ御答辯ヲ伺
<:ソレデ宜シウゴザイマス、ソレダケノコトヲバ申述ベテ置キタイノデ
アリマス
〔政府委員黑田英雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=36
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037・黒田英雄
○政府委員(黑田英雄君) 鳥卵ノ關稅ニ付キマシテハ、御述ベニナリマシタ
ヤウニ、大正八年ニ關稅ヲ免ジタコトガアルノデアリマス、併ナガラ其輸入
ハ御述ベニナリマシタ通リ漸次增加シテハ參ヲテ居リマシタガ、又內地ノ生
產モ漸次增加シテ參ヲテ居ッタノデアリマス、關稅ノ減免ガ直接ニ內地ノ生產
ニ脅威ヲ與ヘタトハ考ヘテ居リマセヌノデアリマスケレドモ、併ナガラ今囘
關稅率ヲ改正イタシマスルニ際シマシテハ、內地ノ生產、又ハ此鳥卵ガ國民
ノ生活ノ上ニ於キマシテ必要ナ品デアルト云フコトニ考ヘマシテ、成ルベク
ソレ等ノ價格ヲ安クシタイト云フ趣旨ヲ以チマシテ、是等ノ雙方ヲ調和イタ
シマシテ、適當ナ稅率ヲ盛ルコトガ宜シイト考ヘタノデアリマス、政府ノ提
案ハ、四圓五十錢ニ現行ノ六圓ヲ下ゲル案デアッタノデアリマスガ、衆議院ニ
於キマシテ、之ヲ現行通リ六圓ニ修正ニ相成ッタノデアリマス、併ナガラ之
ニ對シマシテハ、一方ニ於キマシテ、內地ニ於キマシテ鳥卵ノ生產ヲ增加ス
ルト云フコトハ、勿論努メナケレバナラヌコトデアリマシテ、段々鳥卵ノ消
費ト云フモノモ年々增加シテ參ヲテ居ルノデアリマス、サウシテ是等ノ價格
ヲ成ルベク下ゲテ、國民ニ消費ヲサセルト云フコトガ必要デアルノデアリマ
スカラ、一方ニ於キマシテハ內地ニ於キマスル養鷄業ノ助長、鳥卵ノ生產增
加ト云フコトニ付キマシテハ、別途ニ適當ノ方法ヲ講ゼラレツツアルノデア
リマシテ、關稅ニ付キマシテハ、成ルベク之ヲ安クスルト云フコトガ必要デ
アルノデアリマスガ、現行ノ儘据置キマシテモ、大シタ差支ナカラウト云フ
コトニ於テ、政府ハ之ニ同意ヲ致シタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=37
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038・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 他ニ發言者モナイト認メマスカラ、採決ヲ致シマ
ス、本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=38
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039・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=39
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040・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=40
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041・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=41
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042・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
桌冀불発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=43
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044・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 直チニ第二讀會ヲ開キマス、本案全部ヲ問題ニ供
シマス、全部原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=44
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045・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=45
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046・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=46
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047・櫛笥隆督
○子爵櫛笥隆督君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=47
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048・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=48
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049・徳川家達
○議長(公爵德川家逹君) 御異議ナイト認メマス
東京生発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=49
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050・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=50
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051・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、休憩ヲ致シマシテ、午後
ハ一時三十分ヨリ開會イタシマス
午前十一時五十九分休憇
五十五八山ホテ
午後一時四十七分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=51
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052・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス、大正十五年度歲入
歲出總豫算案竝ニ大正十五年度各特別會計歲入歲出豫算案、豫算外國庫ノ負
擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件、會議、委員長報〓、豫算委員長林伯爵
ノ登壇ヲ望ミマス
一大正十五年度歲入歲出總豫算案
一大正十五年度各特別會計歲入歲出豫算案
一豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
右衆議院ヨリ送付シタル各案ヲ審査シ總テ衆議院議決案ノ通可決スヘキモ
ノナリト議決セリ依テ及報告候也
大正十五年三月二十三日
豫算委員長伯爵林博太郞
貴族院議長公爵德川家達殿
〔伯爵林博太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=52
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053・林博太郎
○伯爵林博太郞君 大正十五年度歲入歳出總豫算案竝ニ大正十五年度各特別
會計歲入歲出豫算案、豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件、
右豫算案ニ付キマシテノ豫算委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告イタシマス、歲
入歲出各〓十五億九千八百二十万圓デゴザイマス、右ノ內、歲入ニ付テハ經常
部十三億六千五百万圓、臨時部ニ於テ二億三千二百八十万圓、前年度ニ比シ
マスト云フト、經常部ニ於テ六千六百十万圓ヲ增シテ居リマス、臨時部ニ於
テ千七百六十万圓ヲ減ジテ居リマス、差引四千八百四十万圓ヲ增加イタシテ
居リマス、此內譯等ニ關スル詳細ナル問題ニ付キマシテハ、既ニ大藏大臣ヨ
リ御說明モアリマシタカラシテ速記ニ讓リマス、此豫算案ノ中ニ就キマシテ、
最モ重大ナル關係ヲ有シテ居ルモノノ一二ヲ申シマスレバ、稅制整理竝ニ關
稅定率法ノ改正、此兩案ハ最モ重キヲ爲シテ居ルモノデアルト云フコトハ、
既ニ御承知ノ通リデアリマス、又大正十五年度歲出豫算ノ財源タルベキ公債
發行額一億五千万圓、是ハ財界ノ發展ニ鑑ミマシテ、一般市場ニ公募シナイ
ト云フコトモ既ニ御聽キノ通リデアリマス、多年ノ懸案タル小學校〓員俸給
國庫負擔ノ增加二千万圓、是ハ年額六千万圓ト相成ッタト云フコトモ、既ニ御
承知ノ通リデゴザイマス、又是モ多年ノ懸案デアリマシタ支那政府借款、此
整理ニ付キマシテ、七百万圓ヲ計上シテアリマス、其他細カイ事ニ付キマシ
テハ此際、全部速記錄ニ讓ルコトニ致シマス、次ニ質問ノ大體ニ付キマ
シテ、最モ簡潔ニ御紹介ヲ致シタイト考ヘマス、第一ハ一般政務、一般政務
ニ付テノ御質問ガ大分アリマシタガ、就中、重大ナモノデアルト考ヘマシタ
ノハ貴族院議員ノ互選規則デアリマス、貴族院議員ノ互選規則ガ委任命令ナ
リヤ否ヤ、之ニ對シテ政府ハ、互選規則ハ普通ノ勅令ヲ以テ定メラレテアル
ガ、其根據ハ貴族院令ニアル、卽チ院令ノ委任ニ依ッタモノデアルト認メル、
是マデ政府委員ノ答辯ニ於キマシテハ、委任命令デナイカノ如キ意味ヲ述ベ
タヤウデアルケレドモ、是ハ普通、委任命令ト云フ言葉ヲ、法律ガ命令ニ委
任シテ······委任シタル場合ニ用井シヨリ斯ノ如ク說明イタシタモノデアラ
ウ、要スルニ此問題ニ對シマシテハ、明カニ貴族院令ノ委任デアルト解釋ヲ
スルト云フ答辯デアリマシタ、其他ノ問題ハ省略ヲ致シマス、第二ハ內政、
內政ニ付キマシテハ、先ヅ診察料ノ高價、醫師ノ診察料ガ餘リニ高價デアル、
之ニ付テ政府ノ所見如何、醫學博土ノ濫造ガ甚シイヤウデアルガ、之ニ付テ
ノ所見如何等ノ質問モ出タノデアリマス、此無料、低廉診察ト云フコトノ普
及、是ハ目下理想ニハ遠イケレドモ、將來ハ大イニ此點ニ付テ努力スルト云フ
政府ノ答辯デアリマス、次ニハ港灣調査ノ統一ヲ圖ッテハドウデアルカ、又靑
年團ガ段々日本ニ於テ盛ニナッテ來ルガ、內務省ト文部省ト、是ガ兩方ノ官省
ニ屬シテ居ル、之ヲ文部省專屬トシテハドウデアルカト云フヤウナ質問ガ出
タノデアリマス、免ニ角、內政ノ問題ト致シマシテハ御承知ノ如ク、所謂
郡役所廢止案、是ガ最モ重大ナモノデアルト考ヘルノデアリマス、依テ簡單
ニ其贊否ノ狀況ヲ御報〓ヲ致シマス、此贊成ト云フ方面ニアリマシテハ、主
トシテ政府ノ主張スル所デゴザイマスガ、先ヅ第一ニ、事務ノ簡㨗、郡役所
ト云フモノハ是ハ今日ニ於テハ、既ニ餘リ之ニ專屬シタル行政上ノ要務ガ
ナイモノデアル、稅ニ付テハ既ニ稅務署ト云フモノガ別ニアルシ、今日ニ於
テハ、學事、兵事竝ニ此勸業等ガ殘ッテ居ルダケデアル、町村ノ監督デアルト
カ云フコトモ、是ハ實ハ縣廳デ出來ルノデアル、學事モ亦是ハ縣廳デ視學サ
へ置ケバ出來ルノデアル、兵事トシマシテハ戰時動員ナドガアルガ、是ハ成
程縣廳デハ不便デアルケレドモ、併ナガラ警察署ト云フモノガアルカラシ
テ、之ニ依ッテ動員ニ付テノ事務ヲサセルノデアル、尙ホ又郡役所ヲ廢止スル
ト云フコトニ反對ノ陳情書ナドハ、政府ナドニハ餘リ出テ居ラナイト云フコ
トデアリマス、第二ニハ、此財政上ノ節約、是ハ既ニ御承知ノ通リ五十万圓
ノ節約トナル、地方費トシテ五百万圓ノ節約トナル、一ツノ郡役所ト云フモ
ノガ廢止サレルノデアリマスシ、尙ホ郡長ノ二分ノ一卽チ其約半數ガ縣廳ニ
於テ事務官トシテ存在スルヤウニナルノデアリマスカラシテ、財政上ノ節約
ニナル、第三ニハ、自治制ノ自治ト云フモノガ、郡役所ガアルガ爲ニ之ニ依
賴心ヲ生ジテ、動モスルト其發展ガ遲レルノデアル、此故ニ町村ノ自治發展
ヲ圖ルガ爲ニハ寧ロ郡役所ナキニ如カズ、斯ウ云フ大體三ツノ理由ヲ述ベ
テ居ルノデアリマス、其反對論ノ方面ニ付キマシテノ事柄ヲ申上ゲマスレ
が、郡役所廢止ハ抑〓輿論ナリヤ否ヤ、輿論ト云フコトニモ色〓ノ定義ガア
ル、色〓ノ會合ヲ爲シテ輿論ト稱スルモノ、必シモ民衆ヲ代表スルモノデナ
イ.或ハ町長、村長ト云フモノニナレナイガ爲ニ、此郡役所ノ廢止ト云フコ
トヲ言フノデアラウ、卽チ村長、町長ト云フコトニナルガ爲ニハ郡役所廢
止ト云フヤウナコトガ誠ニ都合ガ好イ、ソレヲ標榜シナケレバ工合ガ惡イト
云フヤウナ、政治的問題モアルカラシテ、輿論必シモ正論デハナイデハナイ
カト云フヤウナ議論モ出マシタ、出張所ヲ置ク、其出張所ヲ澤山置クヤウナ
コトニ恐ラクナルデアラウ、郡役所ノ代リニ出張所ヲ置イテ、事務官ガソレ
ニ出張ヲシテ事務ヲ執ル、ソレガドウ云フ結果ヲ生ズルカト云フト是ガ重
キヲ爲セバ、結局、郡役所ノ併合ト云フコトト同ジコトニナルデハナイカ、
ソレナラ寧ロ郡役所ヲ半分ニ減ラシタ方ガ、却テ適當ナル處置デハナイカ、
又事務簡捷ニナル、事務ガ簡便ニナルト云フケレドモ、決シテサウデナカラ
ウト思フ、寧ロ郡役所ト云フ便利ナモノガ無クナルガ爲ニハ、事務ガ澁滯ス
ル虞レガアルト思フガドウカ、ノミナラズ郡ト云フモノハ、既ニ聖武天皇以
來我國ニ於キマシテ行政機關トシテ存在シテ居ル、永イ沿革ヲ有ッタモノ
デアル、又明治以後ニ於テモ郡役所ノ事務ニハ、所謂活キ字引、老練ノ
事務ニ能ク老練ナ、慣レタ所ノ吏員ガ居ッテ、是ガ町村ノ總テノムヅカシイ事
項ニ付テハ、圓滿ナル解決、調停ヲ爲シテ居ルノガ現狀デアル、然ルニ郡役
所ヲ廢止スルト云フト、此地方問題ニ付テノ圓滿ナル調停、而モ温情ヲ以テ、
同情ヲ以テ民衆ニ接スルト云フ機關ガ無クナル、是ガ縣廳ノ事務官ニ移レバ、
通リ一遍ノ官僚主義ニナルカラシテ、誠ニ冷メタイ所ノ關係ヲ生ズルデハナ
イカ、警察デハ疑ノ目ヲ以テ民衆ヲ見ル習慣ガアルカラシテ、迚モ民情ノ眞
ノアル所ヲ知ルコトガ出來ナイ、自治ノ發展ト云フコトヲ言フケレドモ、未
ダ圓滿ナル自治心ガ發展シテ居ラナイ今日ニ於テハ、直チニ自治ヲ許スヤウ
ナコトニナリマスルト云フト、却テ利己主義ノ跳梁ヲ來スモノデアル、自治
ノ圓滿ナル發展ハ望メナイノデハナイカ、殊ニ〓育ノ關係ニ於テハドウデア
ルカ、郡視學ト云フモノガアッテ、學校ノ視察ヲスルト云フコトハ、單ニ〓育
行政ノミノ意味デナイノデアル、〓育ハ〓授ノ方面ガ重キヲ爲スデハナイカ、
學校ノ授業ヲ參觀シテ、學校ノ〓育及〓授、衞生ノ諸方面ニ亙ッテ專門的ニ
指導ヲ與フルト云フコトハ、是ハ郡視學ト云フ其土地ノ事情ヲ能ク知ック所
ノ〓育者アッテ初メテ出來ルノデアル、此方面ガ殊ニ缺陷ヲ生ズルニアラズ
ヤト云フヤウナ質問應答ガアッタノデアリマス、尙ホ內政ニ付テ重大ナル問題
トシテハ、思想惡化問題、此思想惡化問題ハ、大體ニ於テ祕密會ニ屬シテ居
リマスカラ、玆ニハ省略ヲ致シマス、失業者ノ救濟、政府ハ勞働階級ニ於ケ
ル失業者ノ救濟ハ相當ニ考慮シテ居ルヤウデアルガ、知識階級ノ失業者竝ニ
專門學校其他ノ卒業生ガ直チニ地位ヲ得ル能ハザル現狀、是等ニ對シテハ如
何ナル考慮ヲ運ラシテ居ルカ、兔角日本ノ靑年ハ、會社員トカ或ハ吏員ニナ
リタイト云フヤウナコトヲ講ズルノデアルガ、成ルベク自ラ職業ニ從事スル
ヤウニ取計ラッタラドウデアラウト云フヤウナ質問ガ出タノデアリマス、政府
ハ之ニ對シマシテ、實業界ニ於ケル景氣、不景氣、波瀾消長ト云フモノハ是
ハ已ムヲ得ナイモノデアッテ、失業者ヲ絕對ナラシムルト云フコトハ、如何ナ
ル時ニモ不可能ナモノデアル、併ナガラ職業紹介所トカ、職業輔導、失業保
險、自由勞働者ニハ殊ニ大都市ニ於テ土木事業ヲ起シテ救濟ヲスルト云フヤ
ウナ計畫モ立テテ居ルノデ、又ソレニハ公債ヲ募集スルト云フコトニモ援助
シテ居ル譯デアッテ、決シテ失業者救濟ニ對シテハ、何等等閑視シテ居ルヤウ
ナコトハナイノデアル、出來ルダケノ努力ヲスルト云フコトデアリマス、其
外.保健衞生ニ付テ質問ガアリマシタ、又朝鮮臺灣ニ於ケル參政運動、其外、
沖繩縣ニ於ケル銀行ノ破綻竝ニ天災等ニ付テノ質問應答ガアッタノデアリマ
ス、第三ハ國防、航空威力ノ發展ト云フコトハ、今日ノ大勢ノ上カラ見テ、
一日モ忽セニスベカラザルコトデアル、然ルニ日本ニ於ケル航空威力ト云フ
モノノ發展ハ、誠ニ心細イ現狀ニアルデハナイカ、宜シク輜重兵ヲ廢シテ、
其方面ノ金ヲ航空威力ノ發展ニ向ケテハドウデアルカ、之ニ對シテ政府ハ、
輜重兵ノ任務ト云フモノハ、是ハ輸送ニアルノデアルカラシテ、到底、此輸
送力ト云フコトヲ考フル以上ハ、廢スル譯ニハ行カナイ、車輛ヲ改良スル等
ニ依リマシテ、將來輜重兵ト云フモノノ能率ヲ向上サセルコトガ出來ル、旣
ニ人ト馬ト云フコトニ付テハ、相當ニ減ジテアル以上、是レ以上廢減スルト
云フ餘地ガナイ、又下士ノ待遇ガ誠ニ面白クナイ、下士ノ〓育ノ向上ヲ圖ツ
テハドウデアルカ、其外科學戰、所謂毒瓦斯ノ〓究ニ付テノ質問應答又今日
ノ戰爭ハ在〓軍人ガ基礎ニナッテ、之ニ現役兵ガ加ハッテ出來ルノデアル、然
ルニ在〓軍人會國庫補助ト云フヤウナモノニ付テハ誠ニ貧弱ナモノデアル
又恩給ヲ何トカ工夫シテハドウデアルカ、思想ノ惡化セザル中ニ、最善ノ考
慮ヲ爲シテハドウデアルカト云フヤウナ、質問ガアッタノデアリマス、玆ニ御
紹介ヲスルモウ一ツノ事柄ハ、海軍ノ現有勢力維持ノ間題デアリマス、今囘、
驅逐艦四隻、二千六百餘万圓、是ガ計上シテアルガ、元來驅逐艦四隻ヲ豫算
ニ計上スルト云フコトハ、將來ニ亙リテノ計畫ノ一部デナクテハナラヌト思
フ是ハ本年度ノミニ限ルベキモノデナイ、其補充計畫ト云フモノガ有ルカ
ドウカ、又國防ハ一般政務トハ全然違フト云フコトヲ政府ハ言フ、一般政務
ト違フト云フコトニナレバ、財政ニ餘裕ガ有ラウト無カラウト、如何ナル時
デモ緩急アラバ之ニ應ズル方法ヲ講ジナケレバナラヌデハナイカ、故ニ一定
ノ海軍ニ對スル所ノ補充計畫ノ成案ヲ、政府ハ有スルニ違ヒナイト思フカラ、
之ヲ言明シテ貰ヒタイ、政府ハ之ニ對シテ申シマスニハ海軍ノ現有勢力ノ
必要ナルコトハ、之ヲ認メルノデアル、十五年度ニ於テノ豫算デハ驅逐艦
四隻アレバ十分デアル、或ハ海軍省ニハ將來ニ亙ッテノ私案ガアルデアラウ、
併ナガラ之ヲ閣議ニ提出シナイノデアルカラシテ、自然決定モシナイノデア
ル、是レ以上ノ補充計畫ニ付キマシテハ、十六年度ノ豫算ヲ組ム時ニ調査ヲ
スル、大藏省ノ財政計畫デモ、將來ノ補充ニハ若干ノ財源ハ考ヘテハ居ル、
併ナガラ多年ニ亙ッテ其全部ヲ準備セリト云フコトハ一出來ナイ、將來ノ全部
ハ是ハ今日ノ問題デハナイノデアル、併シ補充ハ必要デアルト思フ、サウ
云フ意味ニ於テ、今年度ニ於テ······十五年度ニ於テ、驅逐艦四隻ヲ計上シタ
譯デアル、之ヲ質問スル委員ノ方デ申シマスレバ、全體ノ計畫ガ出來テ、其
一端ガ驅逐艦四隻ニ現ハレテ居ルンデナケレバ、意味ヲナサヌデハナイカト
云フ質問デアル、政府ノ答ハ其全體ノ案ハ海軍ニハ有ルカモ知レヌ、併シ
閣議デ定マッタノデナケレバ言明スルコトハ出來ナイ、卽チ驅逐艦四隻デ本
年度ハ十分ナリト云フコトヲ決議シタノデアルカラ、ソレダケノコトヲ申ス
ノデアル、斯ウ云フ質問應答デアリマス、斯ノ如ク形式ニ於テハ、海軍ノ現有
勢力ヲ問題トシテ居ル質問應答デアリマスケレドモ、其質問ノ動機ト竝ニ政
府ノ答辯スル所トハ、大ニ其趣ヲ異ニシテ居リマスノデ、隨分、此質問應答ハ
長ク重複シマシタケレドモ、終始同ジ事ニ終ッテ居ルノデアリマス、又癈兵ノ
恩給增加ヲ近クスル計畫ハナイカ、是ハ誠ニ此點ニ付キマシテハ、一委員ハ
恩給ノ現狀ト其計算等ヲ詳カニ擧ゲテ質問ヲサレタノデアリマス、第四ハ〓
育デ、少年保護、不良少年少女ノ增加、是ハ誠ニ今日憂フベキ現狀ニアル、之
ヲ善導スル計畫ガ政府ニアルカドウカ、竝ニ東京大阪ノ少年犯罪者ト云フヤ
ウナモノハ是ハ今日ニ於テハ年少ナル者ハ成ルベク刑務所ニ送ラズシテ、矯
正院其他デ以テ善導スル方法ヲ講ジテ居ルケレドモ、其他ノ地方ニアルモノ
ハ皆刑務所ニ繫ガレルト云フヤウナ、不公平ナル立場ニアル、是等ノ善導ノ方
法ハ成ルベク早ク擴充シタラ宜イデハナイカ、又是等ノ方面ニ付テノ詳シイ
質問ガアッタノデアリマス、之ニ對シテ、少年法トカ、少年審判所、矯正院ノ狀
況ヨリ、今日マデノ成蹟ニ付テ、當局ヨリ答辯ガアリマシタ、趣味ト犯罪トノ
關係ニ付テノ質問ガアリマシタ、此趣味ト云フノハ、所謂活動デアルトカ、其
外少年ヲ誘惑スル所ノ趣味ヲ云フノデアリマス、又選擧權ノ行使ト共ニ、普選
デモ行ハレルヤウニナレバ、學生ガ學業ヲ怠ルト云フコトガ自然起ッテ來ル、
是ハ如何ニシテ取締ルカ、又文〓ノ上カラ見レハ、少年讀ミ物ト云フモノガ非
常ニ注意スベキモノデアル、然ルニ此印刷物ニ對スル所ノ監督ガ、餘リ〓育
的ニ屆イテ居ラナイヤウニ思フ、例ヘバ少年世界ニ日米戰爭ト云フヤウナコ
トガ書イテアルガ、斯ウ云フコトヲ續キ物ニシテ靑年少年ニ讀マセルト云フ
コトハ、如何ノモノデアラウト云フヤウナ質問ガ出タノデアリマス、政府ハ
之ニ對シテ、此少年世界ニ於ケル記事ハ知ッテハ居ルケレドモ、併シ能ク之ヲ
調ベテ見マスルト、興味本意ニ書イタモノデアッテ、何等ノ惡意ノ無イモノデ
アル、併ナガラ將來ニ於テハ大ニ〓育的ニ之ヲ注意スル、法律ノ上カラハ
取締ルコトノ出來ナイノハ遺憾デハアルガ、〓育的ニハ取締ヲシタイモノデ
アルト云フ意見デアリマシタ、又神祗院ヲ建設スルト云フコトニ付キマシテ、
質問ガアリマシタ、神祗院ト云フモノハ、適當ナル時ニ之ヲ拵ヘルト云フコ
トハ必要デハナイカ、又神社ノ制度ヲ十分ニ調査シテ、サウシテ之ヲ充實ス
ルト云フコトハ必要デハナイカ、ト云フヤウナコトニ付テノ質問ガアリマシ
テ、政府ハ是等ノ必要ト云フコトヲ認メルト云フコトデアリマシタ、〓育ノ
問題ノ中デハ、更ニ師範〓育改善ト云フコトガゴザイマス、是ハ貨幣鑄造益金
一億三千万圓ノ利息五分ト見積ノテ六百五十万圓、此一億三千万圓ハ今度又殖
エタト云フコトハ御承知デアリマスガ、此六百五十万圓ノ中カラ四百万圓ヲ、
師範〓育改善ニ使フト云フコトニ相成ッタノデアリマス、昨年、第五十議會ニ
於キマシテ、貴族院ニ於テハ二部ニ重キヲ置イテ、サウシテ九十七万圓ヲ削除
シタノデアリマス、今年ノ今囘ノ十五年度ノ豫算ニハ、四百五十万圓トシテ
提出サレテ居ル、飜ッテ、十四年度ニ於ケル文相ノ實行シタル所ヲ見マスルト
云フト、上ハ專攻科ニモ觸レナイ、又二部ノ寄宿舍ト云フコトニモ、之ヲナ
サレナイノデアル、是ハ如何ノモノデアラウト云フコトヲ暗示シタル意味ニ
於テ、質問ガアッタノデアリマス、之ニ對シテ文相ハ次ノ如ク申サレタノデア
リマス、「師範〓育改善ニ付テハ、昨年來、本議場ノ御煩ヒトナリマシテ、其
點ニ付キマシテハ當局者ハ誠ニ恐縮イタシテ居ルノデアリマス、大正十四年
度ノ豫算ヲ實行スルニ當リ、貴族院ニ於ケル議決ノ趣旨ニ背クヤウナ結果ヲ
生ズルコトニ相成リマシタコトハ、其時ノ事情ガ誠ニ已ムヲ得ザルモノガアッ
タノデアリマスガ、併シ斯ノ如キ結果ニ至リマシタコトハ、當局者トシテ誠
ニ恐縮千萬ニ存ズルノデアリマス、將來、卽チ十五年度ノ豫算ヲ實行スルニ
付キマシテハ、貴族院ノ趣旨ニ從ヒ、適當ノ措置ヲ執ルト云フコトヲ怠ラナ
イ考デアリマス」斯ウ云フ陳謝的ノ答辯ガアッタノデアリマス、次ニハ第五財
政此中ノ質問ノ一二ヲ擧ゲテ見マスレベ、地租一分減ト〓育費ノ關係、今
日、國民ノ負擔ハ稅其他ニ於テ隨分重イノデアル、國民ノ負擔輕減ノ意思ハ
政府ニハ無イカ、減稅ノ意思ハ無イカト云フヤウナ質問ガアリマシタガ、今
日、政府ハ十分ニ緊縮ヲシテ豫算ヲ立テテ居ルノデアッテ、是レ以上緊縮ノ餘
地ハ無イノデアリマス、緊縮ハシマスルガ、同時ニ實業界ノ發展ト云フコト
ハ無論考ヘテ居ルノデアルト云フ御答辯デアリマス、又恩給ノ費用ヲ全部
見積ルト云フト、一億三千万圓アル、總豫算ノ一割ヲ恩給ニ使フコトハ、財
政ノ上ニ於テ餘リ多大デハナイカト云フヤウナ御質問モアリマシタ、之ニ對
シテ、成程、一億三千万ニモナルト云フコトハ、是ハ誠ニ大キナ金高デアル
ケレドモ、併シ之ニハ自ラ理由ガ無イコトデハナイノデアル、卽チ行政整理
ノ結果ガ自然ニ玆ニ到達シテ居ルト云フコトモ、大ニ考ヘナケレバナラナイ、
殊ニ此恩給制度ノ改正ト云フコトハ、大正十二年ニ起ッタ許リデアル、今日ニ
於テ之ニ手ヲ著ケルト云フコトハ如何ナモノデアラウ、ノミナラズ、行政調
査會ノ問題トシテアルノデアリマスカラシテ、專斷的ニハイカヌト云フヤウ
ナ意味ノ答辯ガアッタノデアリマス、マア其外、稅制ニ付テノ質問ハ是ハ省
略イタシテ置キマス、第六ハ外交デアリマス、外交ニ於キマシテハ、卽チ軍
備縮小會議、國際軍縮會議、國際聯盟ノ如何ニモ無力デアル、是等ニ付テノ
其成行竝ニ現狀如何、對支借款ノ善後策ハドウスルカ、山東還付ノ條約ヲ支
那政府ハ果シテ今日實行セルモノナリト認メルカドウデアルカ、之ニ對シテ
當局ハ、此山東還付ト云フコトニ依ッテ多大ノ獲物ガアッタヤウニ思フ、卽チ
世界ニ於ケル我ガ日本帝國ノ地位ガ向上シタト云フコトハ、是ハ著シイ事實
デアルト思フト云フ答辯デアリマシタ、外蒙古ト露國トノ關係如何、支那ニ
對シテ不干涉主義ト云フコトヲ標榜シテ居ルヤウデアルガ、今囘ノ張郭戰爭
ノ如キ場合ニ於テハ、不干渉主義モ是ハ考ヘモノヂヤナイカト云フヤウナ質
問應答、又近クハ塘沽ノ砲擊問題、天津ノ時局ニ付テノ質問應答等ガゴザイ
マシタガ、餘リ長クナリマスカラ、其他ニ付テハ省略ヲ致シマス、第七ハ產
業是ハ產業ノ中ニ農業ヲ籠メマシテ、小作爭議ノコトヲ一言イタシテ置キ
タイト思ヒマス、此小作爭議ハ大正十年以來、漸次增加ノ傾向ニ在ッテ、甚ダ
憂フベキ問題デアル、耕地ハ六万五千町步許リアッテ、此六万五千町步許リ
ノ土地ヲ有ッテ居ル所ニ、小作爭議ト云フモノガ起ヲテ居ル、小作業同盟、小作
地ノ不返還、不納同盟、其他或ル場所ニハ法律蹂躙ノ形跡ガアル、思想惡化
トノ關係ガアルト云フヤウナコトニ付キマシテノ質問應答ガアリマシタ、是
モ皆樣ニ御話ヲシヤウト云フコトハ、祕密會ノ內容ニ屬シマス、仍テ之ヲ省
略イタシマス、又農民組合ト云フモノカラ、近頃ハ漸次ニ町村會議員ニ選擧
サレテ出ルト云フ傾向ガアル、之ヲ如何ニ考フルカ、思想問題ニ付テハ、思
想ヲ以テ治療シナケレバナラヌ、之ニ對スル政府ノ所見如何、又或ル委員ハ
思想ノミノ問題ナラバ純粹ノ思想ヲ以テ鬪フノモ宜イガ、今日ノ思想問題ハ
加フルニ力ヲ持ヲテ來テ居ルノデアル以上ハ、之ニ對抗スルニモ力ヲ以テ行カ
ナケレバナラヌト云フヤウナコトニ付テノ質問應答ガゴザイマシタガ、是等
モ其內容ハ速記錄ニ讓ラウト思ヒマス、又輸出組合法、重要物產組合法、工
業組合法ト低利資金ノ運用如何、之ニ依ッテ輸出ヲ奬勵スル方法ハドウデア
ルト云フヤウナ質問、商業會議所法ハ随分古イモノデアルカラ之ヲ一ツ改正
スル意思ハナイカト云フヤウナ質問、應答ガアッタノデアリマス、其他ハ省略
ヲ致シマス、第八ハ交通、航空路ト云フコトニ付テハ、今日ハ十分ニ考ヘナケ
レバナラナイ、又海運航路快速船ノ製造、日本ハ殊ニ此快速船ノ製造ト云フコ
トニ付テハ非常ニ遲レテ居ル、又英國ノ如キハ航空事業ニ非常ニ熱心デアル、
政府ガ非常ナ國庫カラ補助ヲシテ居ルヤウデアル、然ルニ日本ハ此點ニ付テ
ハ頗ル貧弱デアルガ、ドウデアルカ、電話ヲ民營トスル意思ナキヤ、之ニ付テ
ハ政府ガ言フノニハ、電話ト云フモノハ一般ニ普及シテヤラナケレバナラナ
イノデアル、若シモ民營ニスレバ、利益ノアル所ヲ先ニシテ、利益ノナイ所ハ
電話ヲ架ケナイト云フヤウナコトガアッテ、日本全國カラ見ルト云フト、支障
ヲ來スモノデアル、次ニ又通信ノ祕密ヲ保ツト云フコトニハ官業ニ限ル、又郵
便電話ヲ政府ガヤッテ居ル以上ハ電話ト云フ之ニ連絡アル機關ヲ民營ニスル
ト云フコトハ、如何ナモノデアラウ、監督ガ屆ク屆カナイト云フコトモ、官業
ニ讓ルト云フコトノ方ガ適當デアラウト思フト云フヤウナ意味ニ於テ、電話
ヲ民營ニスルノ意思ハ今日ハ無イ、又電力供給區域ニ付テノ質問應答、殊ニ此
電力國營ト云フコトハドウデアル、水力電氣ノ國營、是ハチヨイ〓〓民間ニ於
テハ聞クコトデアルガ、是ハ如何ニ考フルヤ、政府ハ今日ノ電力ヲ國營ニスル
ノニハ、〓略二十六億圓ト云フモノヲ用意シナケレバ國營ニナラナイ、サウシ
テ見レバ二十六億圓ニ對スル公債ノ利子ナドヲ拂フト云フコトヲ考ヘルト、
今日ノ政府ノ財力ニ於テハ到底堪ヘルコトガ出來ナイカラ、是モ其方法ハ考
ヘテ居ラナイ、又信濃川ノ水力······信濃川ノ水ヲ上流デ以テ直江津ヘ分ケテ
取ルト云フト、今日ノ計畫ヨリモヨリ良キ所ノ成蹟ヲ得ル筈デアルガ、其方面
ニ改正スル所ノ意思ナキヤ、是等ニ付テハ色〓ノ理由ニ依ッテ、政府ハ其意思
ナキ所以ヲ辯明シテ居リマス、又朝鮮鐵道ノ延長間題ナドニ付キマシテ朝鮮
ノ國產、殊ニ金······金鑛トノ關係ニ付テノ質問應答ガアリマシタガ、其內容
ハ是モ速記錄ニ讓リマス、斯ノ如クニシテ三月十六日ニ質問ヲ終リマシテ、三
月十七日ヨリ分科會ニ移シテ豫算ヲ審議シマシテ、第三分科ヲ除イテ三月二
十二日午後各分科ヨリ報告ニ接シマシタ、三月二十三日ノ午後豫算委員會總
會ヲ開キマシテ、先ヅ第三分科ヨリノ報〓ヲ了シ、總豫算案全部ヲ問題トシテ
討議ニ移リマシタ、一委員ヨリシテ、小作爭議防止ニ關スル希望決議案ヲ提
出サレマシタ、是ハ委員長ヨリ本會議ニ報告スベキモノトシテ可決ニ相成
リマシタ、此小作爭議希望決議、是ハ唯〓玆デ朗讀ヲ致シマス
小作爭議防止ニ關スル希望決議
小作爭議ハ年々其數ヲ增加シ爭議ノ內容亦漸次深刻ヲ加ヘムトス政府ハ小
作爭議ノ防止ニ付キ更ニ一層有效適切ナル方策ヲ講シ以テ農民ノ生活ヲ安
定シ農村ニ於ケル敦厚純良ノ美風ノ維持振作ニ努力セラレムコトヲ望ム
ソレヨリ內務省所管、一般會計經常部、第十一款、臨時部第二十八款豫算、
卽チ郡役所廢止ニ關スル豫算ヲ問題トシテ討議ヲ致シマシタ、第三分科ニ於
ケル之ガ附帶決議ニ付テノ質問應答ガアリマシタ、此豫算ニ付テ採決イタシ
マシタル所、滿場一致、可決ニ相成リマシタ、續イテ附帶決議ニ付テ採決イ
タシマシタル所、多數ニテ可決ト相成リマシタ、他ノ豫算諸案全部ヲ問題ト
シテ、分科會デ可決イタシマシタ希望決議ヲ本議會ニ報告スルト云フコトヲ
含メマシテ、豫算案全部各分科主査報告ノ通リ、全會一致ヲ以テ可決ニ相成
リマシタ、此希望決議ニ付キマシテ茲ニ朗讀ヲ致シマス
第三分科附帶決議
郡役所ノ廢止ハ地方ノ狀況ニ依リ反テ其ノ行政及自治ノ運用ヲ凝滯セシム
ルノ虞ナシトセス依テ政府ハ其善後處置ニ關シテ深甚ノ注意ヲ拂ヒ町村民
ニ對シ不便ヲ與フルト認メラルル地方ニハ支廳又ハ出張所ヲ設置スル等適
當ナル施設ヲ爲シ町村ノ指導監督上萬遺憾ナキヲ期セラレムコトヲ望ム
第三分科希望決議
思想問題ノ取締ニ關シテハ政府ノ努力ハ常ニ消極的不徹底ノ憾アリ故ニ政
府ハ今後一層周密ナル注意ヲ拂ヒ嚴格ナル態度ヲ持シ殊ニ思想善導ニ對シ
テ深甚ナル〓究ヲ爲シ充分ナル理解ヲ以テ之ニ臨マレムコトヲ望ム
第四分科補助艦艇製造ニ關スル希望決議案
政府ハ海軍ノ現有勢力ヲ保持シ國防上遺憾ナキヲ期スル爲補助艦艇ノ製造
ニ付財政トノ調和ヲ保チ豫メ將來ニ亙リテ適當ナル計畫ヲ樹テ來年度ノ豫
算ニ實現セラレンコトヲ望ム
第四分科燃料調査機關設置ニ關スル希望決議
燃料需給ニ關スル政策ヲ確立スルハ產業竝ニ國防上喫緊ノ要務ナルニ拘ハ
ラス未タ何等統制アル計畫ノ實現ヲ見サルハ寔ニ遺憾トスル所ナリ政府ハ
速ニ燃料調査ニ關スル相當ノ機關ヲ設ケ諸般重要事項ニ關スル政策ヲ樹立
セラレムコトヲ望ム
是等ノ希望決議ハ何レモ可決ト相成ッタ次第デアリマス、右ヲ以テ豫算委員會
ノ經過竝ニ結果ノ御報告ヲ終リマス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=53
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054・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 唯今、林豫算委員長ノ御報〓ニナリマシタ附帶
ノ決議ニシテ、郡役所廢止ニ關スルモノニ對シテ、玆ニ言明ヲ致シテ置キタ
イト思ヒマス、附帶決議ニ對シマシテハ、御趣旨ノ在ル所ハ出來ルダケ考慮
シテ、町村民ニ不便ヲ與ヘナイヤウ適當ニ處理スル考デ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ豫算案ニ對スル質疑ヲ通告順ニ依リマシ
テ、順次發言ヲ許シマス、大城兼義君
〔大城兼義君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=55
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056・大城兼義
○大城兼義君 大正十五年度ノ總豫算中ニ、新規要求ノ一トシテ、沖繩縣產業
助成費五十二万餘圓ガ計上セラレテ居ルノデアリマス、是ハ過去數十年ノ間、
歷代內閣ガ捨テテ顧ミラレザリシ沖繩縣救濟施設ニ對シ一步ヲ進ムルモノデ
アリマシテ、財政緊縮ノ際ニモ拘ラズ、此ノ經費ノ計上セラレマシタル事ハ
沖繩縣民ノ深ク感謝シテ居ル所デアリマス、併シ沖繩縣ノ救濟ナルモノハ
該豫算額ノミヲ以テシテハ到底十分ナル成果ヲ擧ゲ得ルモノトハ考ヘラレヌ
ノデアリマス、或ハ望蜀ノ誹ヲ受クルノ嫌ヒナシト致シマセヌガ、玆ニ沖繩
縣ノ現在ノ窮狀竝ニ其由ッテ來ル原因ノ大要ヲ申述ベテ、政府ニ於テハ一層之
ガ救濟ニ力メラルル御考ナリヤ否ヤヲ伺ヒタイノデアリマス、沖繩縣ノ疲弊
困憊ハ、決シテ一通リノモノデハアリマセヌ、依テ其窮狀ヲ各方面カラ、極ク
大略ニ述ベテ見タイト考ヘテ居リマス、地理上ヨリ觀タル沖繩縣、抑〓沖繩縣
ハ我國西南ノ洋中ニ散在セル群島デアリマシテ、五十五島ヲ以テ成リ、面積
僅ニ百五十六方里ニ過ギマセヌケレドモ、其散在セル距離ガ四百浬ニ亙リ、
而モ海上險惡ニシテ極メテ不便利ナ絕海ノ島嶼デアリマス、此故ニ文化ノ均
霑ヲ受クベキ土地柄デナイコトハ、今更私ノ喋々ヲ要スル限リデハアリマセ
ヌ顧ルニ斯カル不便利ナ島嶼ニ於キマシテハ豫メ臺灣ヤ北海道ヤ朝鮮
ノ樣ナ風ニ、民力涵養ノ施政方法ガアルベキデハナカッタデセウカ、然ルニモ
拘ラズ、今日ノ狀態ヲ見マスルニ、如何ニモ閑却サレタ樣ナ感ナキヲ得ナイ
ノデアリマス、生產高ヨリ觀タル沖繩縣、大正十年度各府縣ノ生產高ヲ見マ
スルニ、一道三府四十三縣中、大阪府一戶當リ千八百六十七圓十二錢ガ最高
額デアリマシテ、島根縣一戶當リ六百四十圓二十八錢ガ最低額ナルニ拘ラズ、
沖繩縣ノ生產高ハ一戶當リ四百十九圓七十四錢デアリマシテ、其最低縣タル
島根縣ノ六割六分ニシカ當ッテ居リマセヌ、沖繩縣ハ生產ニ營養不良ノ狀態ニ
居ル次第デアリマス、沖繩縣ハ生產上收支計算ノ相償ハヌ悲慘ノ狀態ニアリ
やす、沖繩縣ハ砂糖ガ主產物デアリマスガ、本年ハ特ニ砂糖値段ガ廉イ爲ニ、
目下ノ相場黑糖一挺當リ十圓デアリマス、然ルニ其生產費ハ一挺當リ十四圓
三十錢掛カッテ居ル次第デアリマス、差引勘定一挺ニ付キ四圓三十錢ヅツノ損
失ヲ蒙ル譯デアリマシテ、本年ノ總產出高六十万挺トスレバ、其總損失高實
ニ二百五十八万圓ヲ算スル悲境ニアルノデアリマス、沖繩縣ハ何故生產費ガ
斯ク高ク掛カルカト申シマスルト、其理由ハ次ノ通リデアリマス、沖繩縣ハ
暴風ノ中心地デアリマシテ、其速力二十「メートル」乃至五十「メートル」ノ暴
風ガ年平均五囘襲來イタシマス、而モ彈丸黑子ノ眇タル小島デアリマスカラ
更ニ海水ヲ浴セラレマシテ、年々歲々、其被害多大ナルモノデアリマス、沖
繩縣ニハ是マデ港灣ノ修築ト二十五哩ノ縣營ノ輕便鐵道ガアルノミデ、此外
ニハ產業開發ノ施設ガ殆ド皆無デアリマス、第一、沖繩縣ニハ農道ガ開發サ
レテ居ラナイノデアリマス、多角形ノ曲リ曲ッタ凸凹ノ細キ畝道ヲ通ッテ居リ
マスカラ、車モ牛馬モ挽カレナイノデ、大人デナケレバ物ノ運搬モ殆ド出來ナ
イ狀態ニアルノデアリマス、ソレ故ニ年寄ヤ子供ヲ利用シテ、他力的ニ能力ヲ
發揮スベキ適用ノ道ガナイノデアリマス、人口ノ密度カラ申シマスルト、日
本全國平均一方里二千三百二十人ニ比シ、沖繩縣ハ三千九百九十三人デアリ
マシテ、非常ナ稠密ニナッテ居マスケレドモ、能率增進ガ圖ラレテ居ナイタ
メ、徒ラニ貴重ナル穀物ヲ費スノミデ、仕事ノ割合カラ申シマスト
〔副議長候爵蜂須賀正韶君議長席ニ著ク〕
人口稀薄ト同樣デ、臺灣ヤ他府縣ノ十倍以上モ運搬費ガ掛カルノデアリマス、
其二ハ、沖繩縣ニハ耕地整理ガ未ダ出來テ居リマセヌ、又土地ガ狹隘デアリ
マスカラ、山巓谿谷ニ至ル迄、殆ド耕耘サレテ居リマスノデ、耕作ニハ極メ
テ不便デアリマス、加之、灌漑モ無ケレバ何等保護モ講ゼラレテ居ナイノデ、
傾斜地モ天然ノ儘、雨ガ降ル度每ニ肥料ガ流レヤウガ、土ガコボレ去ラウガ、
他日、地力ヲ失ヒ不毛ノ地ニ歸シヤウガ、唯天然ノ儘放任シテアリマス、
ソレ故ニ彼是レ冗費ガ餘分ニ掛カルノデアリマス、其三ハ、沖繩縣ニハ農具
ノ改良ガ何モ計ラレテ居ナイノデアリマシテ、全ク原始時代ノ農具其儘デア
リマス、而モ殆ド人力一方デアリマスカラ、勞銀ハ他府縣ヨリモ安イノデア
リマスケレドモ、耕耘ノ能率カラ申シマスト、他府縣ノ十分ノ一以下ニアリ
マスカラ、從テ耕耘ノ費用ガ非常ニ高ク掛カルノデアリマス、前述ノ四項ハ
生產上、收支計算相償ハヌ主モナル理由デアリマス、顧ルニ、沖繩縣ハ所謂骨
折リ損ノ草臥レ儲ケヲ爲シテ居ル次第デアリマス、若夫レ今ニ於テ根本的施
設ヲ爲サヌナラバ、沖繩縣ハ亡ブル外ハナイト考ヘラレルノデアリマス、今
ヤ沖繩縣ハ驚クベキ多額ノ輸入超過ヲ示シツツアルノデアリマス、沖繩縣ハ
大正二年ヨリ同十三年ニ至ルマデ、年平均百八十三万圓ノ輸入超過ヲ示シテ
居リマス、而シテ其主モナルモノハ食糧品デアリマシテ、食糧ヲ自給シ得ザ
ル悲境ニアルノデアリマス、又大正十四年ニハ縣民ノ常食タル甘藷ガ減收
シタル結果、急激ナル輸入超過ヲ來シ、其額實ニ七百十六万圓ニ達シテ居リ
マス、尙ホ來年モ大恐慌ヲ來ス見込デアリマス、沖繩縣ハ通貨流出ノ慘劇ヲ
演ジテ居リマス、大正八年以來、十三年ニ至ル六箇年間ニ於ケル國庫關係上、
國稅ヲ主トスル政府ヘノ支拂勘定ハ、一箇年平均三百三万四千圓ノ超過ヲ示
シテ居リマス、然ルニ銀行爲替關係ニ依リテ、一箇年平均流入超過額百四十
六万圓ヲ算シテ居リマスカラ、差引勘定支拂超過額ガ年平均百五十七万圓ヲ
示スノデ、事實ニ於テ約百万圓ノ現金流出ヲ見ルノ慘劇ヲ演ジテ居ル次第デ
アリマス、而モ沖繩縣ハ海外移民及出稼人ガ二万五千人、其送金高百八十万
圓アリマシテ、其受取勘定ガ包含シテ居ル結果、前述ノ流出高ニ止マッテ居リ
マスケレドモ、若シ此送金ナカリセバ實ニ三百三十六万圓ノ支拂超過ヲ見ル
ベキモノデアリマス、沖繩縣民ハ首モ廻ラヌ程負債ヲ持ノテ居ルノデアリマ
ス、沖繩縣ノ大正十三年四月現在ノ各銀行ノ貸付金總額ハ千五百二十万圓
デアリマシテ、預金總額ハ五百七十万圓デアリマス、全國ノソレヲ見マスル
ト.大正十四年四月現在、全國銀行貸付金額ハ一百十二億七千万圓デアリマ
シテ、預金總額ハ一百五億四千万圓デアリマス、而シテ此貸付總額ト預金總
額トノ差額ハ約一割シカ多クアリマセヌケレドモ、沖繩縣ノ貸付總額ハ預
金總額ノ殆ド三倍ニ近イ大額ヲ示シテ居リマス、而モ右貸付金ノ中約七百万
圓ハ、縣外輸入ノ資金デアリマス、斯ノ如ク沖繩縣民ハ首モ廻ラヌ程ノ大負
債ヲ持ッテ居リマスカラ、銀行ニ於テハ囘收不能ニ屬スルモノガ、恐ラク半數
ヲ占メテ居ルカト考ヘラレルノデアリマス、又沖繩縣ハ金利ノ高イ所デアリ
はっき
マスカラ、銀行デモ六步ノ延滯日步ヲ附ケテ居ルノデ、前述一千五百餘万圓ノ
貸付金ハ利息ノミニテモ亦二百万圓以上ニ上ボリマスカラ、此利息ノ支拂ニ
テモ容易ナラヌ次第デアリマス、沖繩縣民ガ組織セル銀行ガ全部ニテ三銀行
アリマシタノガ、此三銀行トモ枕ヲ竝ベテ破綻ニ陷リ目下整理中デアリマ
ス、此破綻ノ原因モ亦縣民破綻ノ影響ニ過ギヌノデアリマス、歷史上ヨリ見
タル沖繩縣、沖繩縣民ガ藩政時代ニ於テ重稅ニ苦シンデ居。ッタト云フコトハ、
今更私ノ喋々ヲ要スル所デハアリマセヌ、然レドモ其稅法ハ、明治十二年ノ
廢藩置縣ニ至リマシテモ、尙且改正ニナラズ、延イテ明治三十五年ノ地租改
正ニ至ルマデ、其儘ノ稅法デアリマシタカラ、窮乏セル縣民ハ其擔稅力ヲ有
シテ居ナカッタ爲、延滯稅ガ六十餘万圓ニ上リ、遂ニ之ヲ納付スルコトガ出
來ズシテ、免稅ニナッタノデアリマス、斯クテ窮乏ハ其儘デアッタニモ拘ラズ、
明治四十二年、始メテ縣制ヲ布カレマシテ以來、貧弱縣ノ故ヲ以テ多少特例ガ
アリマシタケレドモ、漸次一般制度ニ改マッテ、今日ニ至ッタ次第デアリマス、
斯ノ如ク沖繩縣ノ疲弊困憊ハ舊藩時代ヨリ尋常一樣ナラザル狀態デアッタ
ニ拘ラズ、爾來、今日ニ至ルマデ特別ナル民力涵養ガ無カッタ爲、年ヲ重ヌル
ニ從ッテ、益〓深刻ニ及ビ來ッタ次第デアリマス、要スルニ沖繩縣ハ、經濟的見
地ヨリ未ダ一人前ノ成年ニ達シテ居ナカッタ所ノ、未成年者デアッタノデアリ
やす、然ルニモ拘ラズ、此未成年者ニ對シ重荷ヲ負擔サシテ、之ヲ鞭チ、遂ニ
瀕死狀態ニ立到ラシメタヤウナ次第デアリマス、然ラバ此責任ハ獨リ沖繩縣
ニノミ歸スベキデアリマセウカ、然ラズ、私ハ歷代ノ內閣ニモ一半ノ責任ガ
アルト考ヘラレルノデアリマス、沖繩縣ハ今ニ於テ根本的施設ヲ爲サヌケレ
バ、挽囘ノ途ガ無イノデアリマス、今ヤ沖繩縣ハ前段ニ於テ述ベマシタ通リ、
各方面ヨリ驚クベキ缺損ヲ來シツツアリマシテ愈〓總破產ニ近ヅキツツアル
ノデアリマス、仍テ彼ノ產業助成費五十餘万圓ノミヲ以テシテハ、今日ノ場
合、到底救濟ノ實ヲ全ウスルコト能ハザルハ實際ニ徵シテ明カナル所デア
リマス、故ニ本員ハ此際、次ノ通リ考ヘテ居リマス、其一、沖繩縣民ハ現在
ノ負擔額ヲ輕減セヌト、立行ク見込ガ無イノデアリマス、其二、沖繩縣ノ破
綻セル三銀行ノ合併ノ立テ直シニ付テハ政府ノ徹底的御援助ナキ限リ、沖
繩縣ノ產業界ハ全然衰頽ノ外ハナイト考ヘラレマス、其三、沖繩縣縣營輕便鐵
道ハ、目下島ノ長サノ四分ノ一ニシカ達シテ居リマセヌガ、產業振與ノ策ト
シテ、之ヲ宜シク延長シ、運輸交通ノ便利ヲ圖ラネバナラヌト考ヘラレマス、
其四、沖繩縣ハ全戶數ノ七割五分ハ農家デアリマスガ、別ニ開拓スベキ餘地
ナキニ拘ラズ、耕地段別一戶當リ、僅ニ五段五畝ヲ有スルノミデアリマシ
テ、日本一般ノ平均一戶當リ一町一段ニ比較ヲ致シマスレバ、沖繩縣ハ其二
分ノ一ニ過ギザルノミナラズ、副業ガ無イノデアリマス、ソレ故ニ農業ニ對
スル種々ノ施設、卽チ農道開拓、耕地整理、農具改良ヲ爲シテ、之ガ能率增
進ヲ圖リ、其餘分ノ勞力ヲ他ノ各種ノ事業ニ移シ、以テ生產增加ヲ圖ラネバ
ナラヌト考ヘラレマス、其五、八重山ニ於ケル「マラリヤ」ノ撲滅ヲ完全ニ圖
リ、其地ノ開拓ヲ全ウシ、之ニ縣民ヲ移サネバナラヌト考ヘラレマス、其六、
沖繩縣ハ非常ニ汽船賃ノ高イ所デアリマシテ、大阪マデ百二十斤ニ對シ七十
錢掛カッテ居リマス、更ニ臺灣ハ沖繩ヨリハ遙ニ遠方ナルニ拘ラズ、百斤ニ付
テ二十九錢、卽チ沖繩ノ二分ノ一以下ニアルノデアリマス、又爪哇ハ沖繩ヨ
リ五六倍モ遠距離ナルニモ拘ラズ、百斤當リ四十錢ンカ掛カッテ居リマセヌ、
斯ノ如ク沖繩縣ハ汽船賃ガ非常ニ高イタメ、產業ノ開發ヲ阻害スルハ甚ダ遺
憾ナルニ依リ、此汽船賃ヲ引下ゲル方法ヲ講ジナケレバナラヌト考ヘラレル
ノデアリマス、以上ノ六項ニ付キ、政府ノ力ヲ以テスルニ非ザレバ、到底助
カル途ガ無イノデアリマス、總理大臣ハ之ニ付テ悲慘ナル沖繩縣救濟ヲ圖ラ
レル御考ハアラレマセヌカ、御意見ヲ承リタイノデアリマス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=56
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057・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 唯今大城君ヨリ、沖繩縣ノ現狀ヲ詳細ニ御述べ
ニナリマシタ、私モ過日、沖繩縣ノ經濟界ノ窮狀ニ對シテ、一通リ申上ゲテ
置キマシタガ、唯今ハ極メテ詳細ニ御述ベニナッテ、而モ之ニ對スル同君ノ善
後案ナルモノヲモ御述ベニナッテ、之ヲ實行スル意思ナキヤ否ヤト云フ御質問
デアリマス、沖繩縣ガ今日ノヤウナ窮狀ニ立チマシタノハ、過日モ申上ゲマ
シタ通リ、經濟界ノ變動ノ影響モアリマス、天災ノ結果モアルノデアリマ
ス,同時ニ又其間、經營者ノ經營其宜シキヲ得ナカッタト云フ結果モアルノ
デアリマス、大城君ハ累代ノ內閣ニモ責任ガアルト言ハレタノデアル、ソレ
ハ政府ガ沖繩ニ對スル施設ガ足リナカッタト云フコトノ御意味デアラウト思
ヒマスガ、或ハサウデアッタカモ知レマセヌ、併シ其中ノ若干ハ誠ニ同情ニ堪
ヘナイノデアリマスケレドモ、天然ノ原因デアッテ、是ハ人力ヲ以テシテ、如
何ニシテモ除クコトガ出來ヌノデアリマス、其天然ノ關係カラシテ、沖繩縣
ノ人ガ隨分經濟上ニ不利益ヲ受ケラルルト云フ點ニ向ッテハ我〓ハ十分ニ同
情セナケレバナラズ、又同情ヲ以テ施設ヲシテ居ル考デアリマス、御述ベニ
ナリマシタ各事項モ、私共ハ其何レノ項ニ向ッテモ異論ハ無イノデアリマス、
皆相當ノ理由ガアッテ、相當ノ御意見デアルト存ジマスガ、ソレナラバト云ッ
テ直チニ之ヲ實行スルコトガ出來ルヤ否ヤ、是ハ沖繩縣バカリデハアリマセ
ヌ、他ノ各府縣ニ於テモ色〓ナ事情ガアッテ隨分難儀ヲシテ居ル所モアリマ
スガ、ソレナラバト云ッテ、直チニ國費ヲ支出スルト云フ譯ニモ參リマセヌ、
財政ノ許ス限リニ於テ、大城君ノ望マルル所ヲ漸次ニ實行シテ行クヤウニス
ルノ外ナイト考ヘテ居ルノデアリマス、唯.御述ベニナル中ニ、政府ノ救濟
ハ唯、今日豫算ニ現ハレテ居ル五十二万九千圓ノミデアルヤウニ御考ヘニ
ナッテ居ルヤウデアリマスガ、是ハ繼續費デアリマセヌ故ニ、豫算ニハ唯、五
十二万九千圓ト現ハレテ居リマスケレドモ、是ダケノ事業ノ奬勵ヲ致シマス
ノニハ、一年ヤ二年デハ到底イケマセヌノデ、政府ノ考ヘテ居ル所ハ、五年
間ニ亙ッテ此奬勵ヲ致ス考デアリマシテ、五年間ノ總額ヲ申上ゲルト百六十二
万圓ニ相成ルノデアリマス、固ヨリ十分デアルトハ申セマセヌガ、唯.五十
二万圓デ救濟スルト云フヤウニ御考ヘニナッテ居ルナラバ、政府ノ考ハ唯今申
上ゲル如ク、五年ニ亙ッテ百六十二万圓ヲ支出セントシテ居ル次第デアリマ
スノミナラズ、縣ニ對スル補助モ今日ハ二十万圓カラ減ゼラレテ、十六万
幾ラト云フコトニナッテ居リマスガ、是ハ二十万圓ニ元戾シヲ致シマシテ、當
分ハ年々二十万圓ノ補助ヲスル考デ居ルノデアリマス、其他過日申上ゲマシ
タ通リ、或ハ大阪カラノ航路ノ補助ヲ致シマスコト、或ハ那覇ノ築港ニ付テ
後ト工事ヲ實行イタスコト、是等モ沖繩縣ノ今日ノ經濟界ノ現狀ニ同情スル
ガ爲ニ、割合ニ今日ノ緊縮財政ノ半デアルノニモ拘ラズ、何カ幾分ナリトモ
沖繩縣ニ役立ツコトガアルナラバ實行シタイト云フ精神ノ露ハレデアルト云
フコトダケハ御認メヲ願ッテ置キタイト思ヒマス、簡單ニ是ダケ御答ヘ致シマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=57
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058・大城兼義
○大城兼義君 今、總理大臣ノ御述ベニナリマシタコトニ對シテハ、私ハ別
段質問ガマシク致シマセヌ、故ニ玆ニ質問ヲ打切ッテ置クコトニ致シマス、而
シテ總理大臣竝ニ各大臣ニ對シ、一ツ玆ニ御願ヲ申上ゲテ置クコトガアリマ
ス、沖繩縣ニ對スル救濟ノ問題ハ尙ホ篤ト御熟考ナリマシテ、何トカ方法
ヲ付ケテ下サルヤウニ、御願ヲ申上ゲル次第デアリマス、以上
〔內田嘉吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=58
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059・内田嘉吉
○內田嘉吉君 私ハ運送ノ問題ニ關シマシテ、政府ノ御所見ヲ伺ヒタイト考
ヘルノデアリマス、豫算委員會其他ニ於キマシテ御質問ガゴザイマシタナラ
バ、私ハ御尋ヲスルコトヲ見合セタイト考ヘタノデゴザイマスルガ、不幸ニ
シテ其問題ニ觸レタ御質疑ガゴザイマセヌノデ、會期切迫ノ際ニ、茲ニ質問
致シマスコトハ甚ダ恐縮デゴザイマスガ、重要ナ問題デゴザイマスノデ、聊
カ皆樣ノ御〓聽ヲ汚シタイト思ヒマス、運送ニ大小ノ區別アルコトハ申上ゲ
ル迄モゴザイマセヌ、大運送ト申シマスレバ、鐵道船舶ヲ指シテ云フノデア
リマスガ、其大運送ナルモノハ、所謂小運送ニ依ッテ目的ヲ完全ニ達スルコト
ガ出來ルノデアリマス、小運送ト申シマスルモノハ、卽チ鐵道船舶ノ補助機
關トナリマシテ、我〓ノ經濟生活ニ最モ重要ナル働キヲ致スモノデアリマ
ス小運送ノ名前ハ甚ダ小サイ運送デアリマスノデ、問題モ小サイヤウニ御
考ヘニナルカ知レマセヌガ、我〓ノ調査イタシマシタ所ニ依リマスト、非
常ニ大キナ働キヲ致スモノデアルコトヲ知ル譯デアリマス、東京市ニ付テ中
上ゲマスト、鐵道省ノ調査シタル所ノ東京市及此附近ニ輸入シテ參リマスル
荷物ノ噸數ハ、兩三年前ノ調查デアリマスガ、約千百万噸ゴザイマスル、而
シテ鐵道ニ依ル所ノ分量ハ約七百万噸ニ上ボッテ居リマス、而シテ其他ノ四百
万噸許リト云フモノハ船舶或ハ連絡シタル陸運ニ依ッテ輸送サレテ來タモ
ノデアリマス、此千百万噸ノ荷物ニ對シマシテ、東京市民ハ實ニ六千四百万
圓ノ多額ニ上ル運賃ヲ拂ッテ居ルノデアリマス、大體ニ於キマシテ、約一人當
リガ三十圓年額運送料ヲ拂フ譯デアリマス、其他鐵道ガ一箇年ニ輸送イタシ
マスル荷物ノ噸數ハ六千二百万噸許リアリマシテ、之ニ對シマシテ鐵道省ガ
收入イタシマスル賃銀ハ一億七千五百万圓デアル、而シテ此六千二百万噸ノ
荷物ガ小運送ニ拂フ所ノ料金ト云フモノハ實ニ三億五千七百万圓ニ上ボッ
テ居ルノデアリマス、而シテ更ニ我ガ全國ニ於テ、小運送ノ爲ニ拂フ所ノ運
賃ガ、ドノ位アルカト精算シテ見マスト云フト、實ニ二十一億五千万圓ノ巨
額ニ上ボルノデアリマス、小運送、決シテ小サイモノデハナイト云フコトガ、
此數字ニ依ッテ御了解ヲ得ヤウト思ヒマス、而シテ此小運送ナルモノハ、唯今
中上ゲマシタヤウニ鐵道船舶ノ補助機關トナリマス、鐵道ハ申上ゲル迄モナ
〃一定ノ驛ト驛トノ間ヲ走ッテ、荷物旅客ヲ運搬スルモノデアリマス、併ナガ
ラ驛ヘ到著スル以前ニ、又驛ヘ到著シタル後ニ、必ズ小運送ノ手ニ依ッテ荷物
ハ輸送ヲセラレネバナラヌノデアリマス、而シテ鐵道ガ驛ヲ拵ヘマスルニ付
テハ、ソレ〓〓鐵道省ノ所管ニ屬シマスル以上ハ、幾多ノ手續ヲ經テ驛ヲ造
ル、其驛ト云フモノヲ造ルニ付テハ、矢張リ相當ニ金モ要スル譯デアリマス
ルカラシテ、世間ガ希望スル如ク、澤山ノ驛ヲ造ルコトハ出來ナイノデア
ル、船舶ガ矢張リ荷物ヲ輸送シ、又荷物ヲ積下ロシ積上ゲヲ致シマスル場合
ニ、小運送ノ手ニ依ラナケレバ、海陸ノ連絡ハ出來ナイノデアリマス、是レ
亦莫大ナル金ヲ要スル譯デアッテ、築港ヲ致シマスルニシテモ、其計畫ハナカ
ナカ容易ニ出來ルモノデハナク、卽チ大船巨舶ガ出入イタシマス港灣ハ
定ノ數ニ限ラレタモノデアル、我〓ノ日常ノ生活ニ接觸イタシマスル運送ト
云フモノハ、此小サイト云フ名ヲ附ケテ居ル所ノ小運送ニ依フテ致ス譯デア
リマスノデ、此事ハ此議會ニ於テ、屢、內閣ニ於テ各大臣ガ御說明ニナリマシ
タ通リ、社會的ノ改善、社會的ノ施設、或ハ國民ノ經濟生活ト云フモノニ、
最モ直接ニ影響ヲ持ツコトデアリマスノニ拘ラズ、從來ノ政府ニ於テモ左樣
ニアッタヤウニ思ヒマスガ、今囘此ノ豫算ニ於キマシテモ、何等ノ此點ニ關ス
ル御施設ノナイコトハ、頗ル遺憾トスル所デアリマス、將來、政府ハ此小運
送ノ問題ニ對シテ、如何ナルー施設ヲ爲ス御考デアリマスルカ、其御所見ヲ
伺ヒタイト思ヒマス、又此小運送ニ付キマシテハ、時ヲ要シ、若クハ荷物ヲ
毀損ヲスルコトモ多イノデ、之ガ爲ニ國民同胞ガ損ヲ致シテ居ル所ノ分量モ、
決シテ少ナクナイト思ヒマス、其外、運送業者若クハ運送取扱業者ノ責任問
題ニ付キマシテモ、幾多ノ不便ヲ感ジテ居ル次第デアリマスノデ、是等ノ點
ニ付キマシテハ、政府ハ相當改善ヲ爲サル御見込ガアルヤ否ヤト云フコトヲ
御伺ヒシタイノデアリマス、次ニ尙ホ續イテ小運送ニ付テ御伺ヲシタイノハ
小運送ノ賃錢ハ相當ニ高價デアルト云フコトガ、自分モ唱ヘ、人モ唱ヘル所
デアリマス、唯今申上ゲマシタヤウニ、鐵道ノ運賃ニ付キマシテモ、小運送
ニ仕拂フ所ノ運賃ハ約倍ニナッテ居ルノデアリマス、一ツ一ツニ付テ申上ゲマ
スルト、大變ニ面倒デアリマスルガ、極ク簡單ニ申上ゲマスルト云フト、小
運送ノ運賃ハ、一噸ニ付キマシテ平均五圓七十錢ニナッテ居リマスルガ、鐵道
ノ運送ト云フモノハ、僅カ二圓八十錢デアル、殊ニ遠距離ノ輸送ニ付キマシ
テハ、鐵道ノ運賃ハ比較的低廉ニナッテ居リマス、然ルニ小運送ノ運賃ハ
其點ニ付テ何等ノ變更ハナイノデアリマス、唯今、小運送ノ各種ノ機關ガ徵
收シテ居リマス所ノ、運賃ノ收入高ヲ〓算シテ見マスルト、此馬匹卽チ馬車
ヲ括メマシタモノガ、約一箇年ニ七億七千万圓程ノ賃銀ヲ取ッテ居リマス、
又牛車ガ運送ニ使用セラレテ居リマシテ、是ハ約七千八百万圓ホド運賃ヲ
取ッテ居リマス、普通ノ荷車ハ是ハ其數モ餘程多ウゴザイマスルガ、約十二
億万圓ノ運賃ヲ取ッテ居リマスルシ、又次第ニ增加セムトシツツアル所ノ貨
物自動車ハ約一億万圓ニ垂ントスル運賃ヲ收メテ居ルノデアリマス、此
各機關ガ收メテ居ル所ノ運賃ハ方法ノ如何ニ依ッテ、尙ホ低廉ニスルコト
ガ出來ルコトハ明カデアラウト思ヒマスノデ、若シ假リニ先程申上ゲタ二十
一億万圓ノ運賃ノ一割ヲ玆ニ節約スルコトガ出來タト致シマスレバ、實ニ二
億一千万圓ニ相成リマスノデ、政府ガ此度、二十二ニ垂ントスル法律ノ修正
ヲ加ヘマシテ、其結果、九千万圓ノ減稅ヲ見ルコトニナッタノデアリマス
ガ、是等ニ比較イタシマシテ、モット大キナ效果ヲ國民ニ向ッテ與ヘルコトガ
出來ルノデアリマスカラ、此運賃ヲ低廉ニスルコトノ問題ハ、決シテ政府
ガ閑却スルコトガ出來ナイモノデアラウト思ヒマス、又次ニ唯今申述ベマ
シタ各種ノ運送、小運送ノ機關ガゴザイマスルガ、此機關ハ隨分、其數ニ
於テ多イモノデアリマス、普通ノ荷車ハ約二百二十万輛アリマス、又馬匹ハ
三十七万頭アリマス、牛車ハ約五万二千輛アリマシテ、更ニ此貨物自動車
ハ今日多少增加ハ致シタラウト思ヒマスルガ、私ノ調ベタ數字ニ依ルト
云フト、約一万六千輛デアリマス、而シテ次第ニ增加ヲシテ行クベキモノ
デアルコトハ疑ヲ容レマセヌ、此各種ノ機關ノ中デモ、馬匹、卽チ荷馬
車ト云フモノガ、最モ大切ナモノデアリマシテ、唯今申述ベマシタヤウニ、
馬匹ノ數ガ約三十七万頭デアリマシテ、之ニ相當シタ馬車ガアルノデアリマ
ス此馬車ニ付キマシテハ、外國ニ於キマシテハ、相當ニ改良ヲ圖ッテ居リ
マシテ、例ヘバ馬ノ扱ヒ方ナドニ付キマシテモ、日本デハ從來馬ノ口ヲ取ッテ
曳クコトニナッテ居リマス、所謂挽曳式ト申シマスルカ、之ヲ外國ノ例ニ依リ
マスレバ、卽チ乘御式、上カラ御者ガ馬ヲ御シテ走ラセルノデ、速力モ早ク
ナルト云フノデアリマスガ、是モ十年間一日ノ如ク、我國ニ傳ヘ來ッタ所ノ
方法ヲ採ッテ居ルノデアリマスカラ、卽チ依然トシテ此小運送ガ進步發達ヲシ
ナイ譯デアリマス、又馬ニ付キマシテモ、車ニ付キマシテモ、ソレゾレ馬ナラ
バ荷物ヲ運ブ馬ニ適當シタ馬ヲ養成スルコトガ必要デアッテ、陸軍省、農林省
ナドニ於テ、其事ハ御注意ニナッテ居ルヤウデアリマスルガ、マダ全體ノ小運
送ニ必要ナル馬匹ノ總テニ及プト云フコトガ出來テ居ラヌヤウデアリマス
又車ノ改良ノ如キモノハ最モ遲レテ、遲々トシテ居ル譯デアルヤウニ考ヘマ
ス、其外馬車ニ付キマシテハ、厩舍、卽チ馬屋ヲ造リマスニ付キマシテモ、
隨分衞生ノ見地カラ必要デアルト云フ理由モアリマセウガ、遠ク、卽チ小運
送ニ必要ナル場所カラシテ遠ク離レタ所ヘ厩舍ヲ設ケテアリマスル爲ニ、馬
ヲ無益ナ運動ヲサセルヤウナコトニナリマスノデ、是等モ從テ小運送ノ料金
ヲ高クスル原因ニナルノデアラウカト思ヒマスル、又是ヨリ海外ニ於キマシ
テモ、次第ニ需要ガ多クナッテ參リマスル貨物自動車デアリマシテ、我國ニ於
テモ段々ニ增加シテ參ルコトハ疑ヲ容レマセヌガ、是等ニ付キマシテモ、此
構造ニ付テノ〓究ヲシ、又貨物自動車ヲ大ニ增スヤウニ保護助長ヲスルノ必
要ガアラウト思ヒマスルケレドモ、豫テ貨物自動車ノ製造ニ付テ奬勵ヲサセ
テ居リマスルガ、是ハ軍事上ノ必要ナルモノヲ造ルノニ過ギナイノデアリマ
シテ、次第ニ貨物ガ殖エテ參ヲテ、次第ニ多クノ自動車ヲ必要トスルニ際シマ
シテハ、其所管ノ省デアル所ノ當局ニ於テ、是等ノ保護助長ニ付テノ色〓ナ
御制度ヲ拵ヘラレルト云フコトガ必要デアルト思ヒマスル、又更ニ海ノ側カ
ラ見マスルト云フト、港灣ハ次第ニアチラコチラニ修築ヲセラレマシテ、築
港ガ出來ルヤウデアリマスルガ、併ナガラ此築港ニ最モ必要ナル、卽チ港灣
ヲ利用シマス上ニ必要ナル、海陸ノ連絡設備ト云フモノガ、極メテ缺ケテ居
ルノガ遺憾デアリマス、海陸連絡設備ト申セバ、一々申上ゲル必要モアリマ
セヌガ、棧橋デアリマストカ、岸壁デアリマストカ、上屋デアリマストカ、
或ハ艀デアリマストカ、ソレ等ノ設備ガ極メテ缺如タルモノガアルノデアリ
マス、橫濱トカ、神戶トカ、二三有數ナル港灣ニ於キマシテハ相當ニ施設ガ
セラレテ居リマス、ケレドモ、マダ防波堤ハ出來タケレドモ、何等ナカナカ
荷物ヲ揚ゲ卸シ致シマスルノニ非常ニ必要ナル設備ガ無イト云フコトハ、甚
ダ遺憾ナコトデ、私ハ昨年、北海道方面ヲ少シ步イテ見マシタガ、豫テ修繕
築港ノ計畫ガアリマシテ稍〓完成ハ致シマシタガ、何等貨物ノ揚グ卸シニ是非
ナクテハナラヌト云フ所ノ、海陸連絡ノ設備ト云フモノガ缺ケテ居ルノニ驚
イタ次第デアリマスガ、政府ニ於キマシテハドウ云フ御考ヲ持ッテ居ラレマ
スカ、將來設備ヲ十分ニセラレルト云フ御意見デアリマスカ、之ヲ伺ヒタイ
ノデアリマス、更ニ最後ニモウ一ツ御尋ネシテ見タイノハ、唯〓運運ニ關シ
マシテ、色〓各省ニ行政ガ分レテ居ルノデアリマシテ、遞信省ニ於キマシテ
ハ海運、陸運竝ニ航空ノコトヲ所管ヲサレテ居リマス、內務省ニ於キマシ
テハ、ソレ〓〓道路或ハ港灣ノコトヲ所管ヲサレテ居リマス、更ニ農林省ニ
於キマシテハ、馬匹ノコトヲ所管ヲサレテ居リマス、又鐵道省ニ於キマシテ
ハ鐵道軌道ノコトヲ所管ヲ致サレテ居リマス、此各省ニ於テ、或ハソレ〓
運輸交通ニ關シマシテ、種々御調査ヲ致サレテ居ルカモ知レマセヌガ、遺憾
ナガラ此所管ノ異ナルニ從ヒマシテ、連絡ヲ取ッテ置カヌ爲、外ニ現ハレル點
ニ至リマシテハ極メテ遲々トシテ運送ノ改善ヲ見ルニ至ラヌコトハ遺憾デ
アリマス、各省ニ會議ガアリマス、例ヘバ鐵道會議デアリマストカ、其他斯
樣ナ問題ヲ討議スル目的ヲ以テ組織セラレマシタ會議ガアリマシテ、其會議
ニ於テ種々又調査サレテ居ル所モアルヤウニ聞及ビマスガ、官廳ノ調査ガ相
互ニ連絡ヲシナイヤウニ、各會議ノ調查モ御互ニ自分自分ノ調査ニ止マッテ
居リマシテ連絡ガ付イテ居リマセヌ、或ハ是等ノ行政ヲ統一シ、若クハ是等
ノ機關ニ屬スル調査ヲ集メテ、サウシテ此小運送ノ問題ノ改善ニ資スル所ガ
アレバ、國家ノ爲ニ利益スル所ガ決シテ少ナクナイデアラウト考ヘマスデ
私ハ以上申述ベマシタ第一ノ小運送事業ノ監督助長ヲセラレルニ付テ、政府
ハ如何ナル御考ヲ持ッテ居ルカ第二ノ小運送ノ料金ヲ低減スルコトニ付テ、
御政策ガ如何デアルカ、第三ノ小運送ノ機關デアル所ノ荷馬車竝ニ自動車ニ
關シテ、之ヲ監督助長スルコトニ付テノ御考ガ有ルカ無イカ、更ニ第四ノ海
陸連絡ノ改良ヲ圖ルニ、政府ハ如何ナル御考ヲ持ヲテララルルカ最後ニ第五
ト致シマシテ、政府ハ各省ニ互リ、運輸交通行政ニ關スル事項ヲ統一セラレ
調査ヲ一定セラレテ、公ケニスルコトノ御考ガ有ルカ無イカ、此五ツノ點ニ
付テ質問ヲ致スノデアリマス、是ハ時間ガアリマセヌノヲ憂ヘマシテ、自分
ノ所感ダケヲ申述ベテ、之ニ關スル御答ヲ煩ハシテ、御答ニ對シマシテ、更
ニ御尋ヲ致シマセヌカラ、十分ニ當局ニ於テ御答アラムコトヲ希望イタシマ
ス
〔國務大臣安達謙藏君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=59
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060・安達謙藏
○國務大臣(安達謙藏君) 唯今內田君ノ御問ニ對シマシテハ、私カラ御答ヲ
致シマス、其陸運ニ關シマシテハ、遞信大臣ノ監督ニ屬スルト云フコトノ官
制ニナッテ居リマス官制ヲ見テ見マスルト、水陸運輸事業ノ監督ハ遞信大臣ノ
職責トナッテ居リマスルガ、露骨ニ申シマシテ、遞信省ニ這入ッテ見マシテ、
此陸運ニ關スル所ノ監督ト云フコトハ、サウ云フ法文ハアルモノノ、何等從
來規則等ノコトモナイノデアリマス、是ハ從來ノ遞信省或ハ遞信大臣ガ其事
ヲ閑却サレタト云フコトデモナカラウト思ヒマス、之ヲ要シマスルニ、時代
ガ要求シナカッタ國民ノ輿論ガ此法ヲ餘リニ要求シテ居ナッカタ結果デハナ
カラウト考ヘマスルガ、何トナレバ從來ノ陸運ノコトハ、卽チ唯今ノ小運送ト
仰セラレル、第一運送具ガ頗ル小サナモノデアリマス、而シテ其運送ノ範圍ガ
又頗ル狹イ、極〓一地方ニ限ラレテ居リマス、ソレデ府縣デ追〓此荷車ナリ荷
馬車ナリノ取締ヲシテ居ルヤウナコトガアリマス、所ガ近年段々此事ガ發達
イタシマシタガ、地方ノ經濟狀態ガ變化シテ、物貨ノ集散ノ頻繁ニナリマシタ
爲ニ、近頃ハ非常ニ此小運送ノ必要ヲ認ムルコトニナッテ參ッタノデアリマス、
殊ニ關東方面ハ大震災ノ場合ニ當リマシテ、非常ニ其運送上ノ不便ヲ感ジ、又
不當ナル運賃ナドヲ取ラレマシテ、爾來頻ニ其小運送ノ監督統一ト云フコト
ニ、國民一般ニ氣付イテ參ヲタヤウデゴザイマス、併ナガラ唯今申シマシタ通
リ、從來其事ニ付テノコトハ、地方ニ於キマシテハ警察ノ取締、又御話ノ通リ
鐵道省ガ、小運送ニハ大關係ガアリマスガ、鐵道省デハソレ〓〓運送業者ノ公
認ナドモ行ハレテ居ルヤウデゴザイマスガ、全ク統一シテ玆ニ監督スルト云
フヤウナ法規ガナイノデアリマス、ソレデ私先般來官制ニサウアリマス以上
ハ能ク調査ヲ致シマシテ、サウシテ關係ノ鐵道省內務省邊リトモ協議ヲ致
シマシテ、成案ヲ得マシタナラバ、帝國議會ニ協賛ヲ仰ギタイト云フ考ヲ持ッ
テ居リマシタケレドモ、遞信省デ調ベマシタモノガ出來テ居リマスケレドモ、
完壁トハ申サレマセヌカラ、ソレデ此議會迄ニ案ヲ具シテ御協賛ヲ願フコト
ハ相成ラナカッタノデアリマス、又此歐米各國殊ニ歐羅巴邊リデ、ドウ云フ
具合ニ陸運殊ニ小運送ノコトヲ取扱ウテ居ルカト云フコトヲ、一應調ベテ見
タイ、實地ノコトヲ調ベマスル爲ニ、先般數名遞信省ノ書記官事務官ヲ歐米
視察ニ派遺イタシマシタガ、其中ノ一人ハ、專ラ此唯今御質問ノ意味卽チ小
運送等ニ關スル陸運ノコトヲ專門ニ調査スルコトヲ命ジテ置イタ次第デアリ
や り、ソレデ其事ハ大體論ト致シマシテ、十分調査〓究イタシマシテ、相當
ノ案ヲ作ル積リデアリマス、ソレカラ今日ノ小運送ノ料金ガ高イ、是ハ成程御
說ノ通リト考ヘマス、併ナガラ總體論ト致シマシテ、此大貨物ヲ、大機關ヲ利
用シテ、卽チ鐵道ノ如キ大ナル機關ヲ利用シテ大貨物ヲ輸送スル運賃ト、小
サナ馬車其他ニ依ッテ運送スル賃銀ハ無論是ハ運送ノ方ガ賃銀ノ高イガ、大
體ニ於テモ當然デアラウト考ヘマス、併シ其ノ程度問題デゴザイマシテ、御
承知ノ通リ、小運送ノ方ハ主モニ人又ハ馬ヲ使フノデアリマスカラ、必ズ其賃
銀ハ鐵道ナドト比ベルト高クアリマスガ、併シ各地ニ於テ、狀況ヲ異ニ致シ
テ居リマスカラ、ドコモ悉ク非常ニ高イト云フコトモ斷言出來ナイヤウニ考
ヘマスガ、〓シテ御話ノヤウナ意味モアリマスカラ、是モ能ク研究シテ、出
來得ル限リ此小運送ノ料金ヲ安クスル必要ガアルト云フコトヲ考ヘテ居リマ
スソレカラ第三ノ御問ノ荷馬車ノ改良トカ、馬匹訓練ト申シマセウカ、或
ハ馬夫ヲ養成スルコト、斯ウ云フ今日ノ三十七万頭モアル荷馬車ノ改良ト云
フコトモ、當然ト考ヘマス、全然御同感デゴザイマスガ、併シ是ハ政府ト致
シマシテヨリモ、運送業者自ラ爲スベキコトデハナカラウカト考ヘマス、政府
モ尤モ其改良スルコトニ付キマシテハ、出來ルダケ助力ヲスルガ當然ト考ヘ
マスガ、矢張リ運送業者ガ自ラ率先シテサウ云フ方面ノ改良ヲ圖ルコトガ當
然ト考ヘマス、尤モ厩ノ遠方ニアル、ソレガ爲ニ、馬ヲ曳出シテ借馬車ヲ
持ッテ來ル、多クノ時間ヲ費シテ、ソレガ、運送ノ料金ニモ關係スルト云フ御
話デアリマスガ、是ハ此市街ノ中ニ厩ヲ拵ヘルト云フコトハ、或ハ國民衞生
ノ上カラモ餘程考慮スベキコトト考ヘマスカラ、其邊ノコトモ餘程〓究スル
餘地ガアルト思フノデアリマス、ソレカラ貨物自動車ノ御話ガアリマシタガ
是モ全然御話ノ通リデアリマシテ、近年ハ著シク發達イタシテ居リマス、是モ
遞信省ト致シマシテハ、郵便物ヲ成ルベク自動車ノ通フ方面ハ迅速ニ送リタ
イ、斯ウ云フ希望ヲ持ヲテ居リマス、現在ニ於テスラ既ニ、里數デ申シテ、千
七百里以上モ自動車ヲ使ウテ居リマス、仄カニ承リマスルト、鐵道省デモ、
マダ鐵道ガ通ジナイ小都會、又採算上引合ハナイヤウナ方面デ、自動車ノ聯
絡ガ取レル所ハ、自動車ヲ以テ其間ノ聯絡ヲ取リタイト云フヤウナ御議論モ
アルカノ如ク傳ヘ聞イテ居リマスガ、私ハサウ云フコトノ益〓行ハレムコト
ヲ希望シテ居リマス、是モ出來得ルダケ遞信省トシマシテハ其發達助長ヲ圖
リタイ、斯ウ云フ考ヲ持ッテ居リマス、ソレカラ第四ノ御話ノ海陸聯絡ノコト
デアリマスガ、是ハ單ニ遞信省バカリノコトデハゴザイマセヌ、內務省大藏
省ナドニ大關係ヲ有スルコトデゴザリマスルガ、是ハ御承知ノ通リ少カラザ
ル巨額ノ經費ヲ要スルコトデゴザイマスカラ、財政上ノ都合ヲ考ヘテ唯今御
話ノヤウナ、不便不利ノ所ヲ改善スルト云フコトガ當然デアラウト考ヘマス、
第五ノ交通行政機關ノ統一ニ關スルコト、是モ簡單ニ申上ゲマスト唯今御
話ノ通リ各省ニ分レテ居リマスルガ、此各省ニ分レルニ付キマシテハ色〓
我國ノ發達ノ上ニ付テ山來ガアリ、歷史沿革ガアルノデアリマス、直チニ之
ヲ理想的ニ申シマシタナラバ、打ッテ一丸トシテ交通省デモ造ッタラ宜クハナ
イカ、斯ウ云フ考ガ起ルノデアリマスケレドモ、從來ノ歷史沿革等ニ鑑ミマ
シテ、直チニ玆ニサウ云フ單純ナル理想ノ通リニスルト云フコトモ餘程考慮
ヲ要スルコトデゴザイマス、現在ニ於キマシテハ、現狀デ出來得ルダケ相互
ノ各機關ノ間ニ注意ヲ拂ッテ、不便不利ノ無イヤウニ致シタイ、斯ウ云フ希望
ヲ持ッテ居リマス
〔和田彥次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=60
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061・和田彦次郎
○和田彥次郞君 本員ハ大正十五年度歲入歲出總豫算ノ中、文務省所管第九
款、第一項及第二項ニ付テ質問イタシタイト思ヒマス、立憲政治ノ有終ノ美
ヲ濟サシメムニハ、一ニ〓育ノ效果ニ俟タザルヲ得ヌコトハ勿論デゴザイマ
ス、〓育ノ精神ガ堕落イタシマシタ場合ニハ立憲政治ハ危殆ニ瀕セザルヲ
得ヌノデアリマス、殊ニ普選實行後ニ於テ愚民政治ノ端ヲ開キ、國家ノ根柢
ヲ覆滅シナイトモ限ラナイノデゴザイマスル、然ルニ今日ノ官立、大學ノ〓
授中ニハ著シク赤化セル者ガアルノデゴザイマス、文部當局ハ其監督權ヲ
行使セズ、大學自治ノ名ニ依ッテ、大學ノ〓授竝ニ學生ノ惡化ヲ放任シツツア
ル現狀デゴザイマスル、之ニ付テ文部當局ノ責任アル答辯ヲ求メムト欲スル
者デアル、此質問ヲ致シマスルニ先ダッテ、其事實ヲ先ヅ明カニ致シテ置キタ
イト思ヒマスル、茲ニ皆樣御承知ノ「テーゼ」會、「テーゼ」會ノ實情ヲ先ヅ申
上ゲマスル、其「テーゼ」會ノ組織、目的、手段、方法等ヲ玆デ〓述イタシマ
ス、此「テーゼ」會ナルモノノ本部ハ、芝公園五號、野村方ニ置イテアルノデ
ゴザイマス、其會員ハ約二千名、卽チ東京帝國大學ノ新人會員、早稻田大學
科學〓究會員、明治學院ノ科學〓究會員、日本大學科學研究會員等ヨリ是ガ
成ッテ居ルノデゴザイマスル、其指導機關ハ無產者新聞社ト名ヅケテ居リマ
ス,無產者新聞社ト云フモノガアッテ是ガ指導イタシテ居ルノデアル、其擔
任者ハ佐野學、猪股津南雄、德田球一、山本懸藏、斯樣ナル者ガ此無產者新
聞社ト云フモノノ主幹ヲ致シテ居リマス、而シテ其組織ハ大正十三年四月デ
アリマス、全國ノ專門學校ノ、各大學ノ生徒中ニ科學〓究會ト云フモノヲ組
織セシメテ、此科學〓究會員ヲ以テ大正十三年四月ニ之ヲ拵ヘタモノデゴザ
イマス、關東ニ於ケル準備會ト致シマシテ、大正十四年九月芝區櫻田本〓町
元園軒ニ是等ノ徒ガ會合ヲ致シタノデアリマス、其出席者ハ佐野學、猪股津
南雄、德田球一、山本懸藏及帝國大學ノ新人會員ノ是枝恭二、村瀨······村尾
薩男外五名、明治學院ノ〓水平九郞、外ニ衣谷賀眞ト云フ者共ガ會合イタシテ
居ルノデアル、而シテ產業調査所ト云フ名稱ヲ用井、極メテ平易ナル名ヲ
附シマシテ、全國ニ向ッテ共產主義ノ宣傳ヲ爲シテ居ルノデゴザイマス、專
ラ各學校ノ生徒ヲ遊說イタシテ居ルノデゴザイマス、其主幹ハ佐野學ガ此任
ニ當ッテ居ルノデアル、全國ヲ數區ニ分チマシテ、其各班ニ主任ヲ定メテ居
ルノデゴザイマス、數區ニ分ッテ一班二班ト定メテ、其各班ニ主任ヲ置イテ
居リマス、其主任ノ中デ京都帝國大學ノ藤井米三、京都帝國大學ノ逸見重雄、
京都帝國大學ノ鷲尾武二、京都帝國大學ノ古賀二男、關西學院ノ小澤正潔、
同志社ノ宮澤菊枝、同志社ノ澤田政雄、京都大學ノ石田英一郞、大阪外國語
學校ノ原田耕、大阪外國語學校ノ黑田憲藏、神戶高等商業學校ノ蓬台恒治、
以上十一名ガ全國ノ各班ニ分ッテ主任トシテ共產主義ヲ宣傳シ、之ヲ誘導シ、
勸誘シツツアルノデゴザイマス、此外ニ豫備ト致シマシテ、左ノ十七名ガ置
イテゴザイマス、帝國大學ノ永井哲二、同熊谷孝雄、同黑田久太、慶大ノ衣
谷賀眞、明治學院ノ〓水平九郞、東京帝國大學ノ村尾薩男、京都帝國大學ノ
橋本省三、泉隆、栗原佐、鈴木安藏、岩田義造、淡德太郞、白谷忠三、太田
遼一郞、山崎雄次、同志社ノ大浦梅男、內海洋一、此十七名ガ主任ノ豫備ト
シテ置イテアルノデゴザイマス、更ニ日本勞働組合評議會員山本懸藏、杉浦
慶一、關西學院ノ河上丈太郞、關西學院ノ新明正道、關西學院ノ松本兼人、
關西學院ノ田村一郞、福岡九州大學ノ助〓授石濱知行及東北大學政治〓究會
ノ會員外ニ支那人ノ學生ノ三名ガ無產者新聞ノ取次祕密配達ヲ爲シテ居ルノ
デゴザイマス、此無產者新聞ト云フノハ、祕密出版ヲ致シマシテ、共產主義
ヲ天下ニ宣布イタシテ居ル印刷物デゴザリマスル、是等ノ手先トナリ、主幹
トナリ、唯今此思想ヲ惡化セシムル本ハ、大學ノ〓授ヲ始メ大學ノ生徒デア
ル、之ヲ監督イタシマス所ノ責任ハ、文部大臣ニアルノデゴザリマスル、以
上ノ者ヲ正會員ト致シマシテ且ツ役員ト致シテ居ル、彼等ノ目的ハ、社會科
學研究會ノ名ノ下ニ、日本帝國國體及現在ノ經濟組織ニ相反スル「マルキシ
ズム」、「レニーズム」ノ社會改革思想ノ實現ヲ以テ目的ト致シ居ルモノデゴ
ザリマスル、其手段ト致シマシテハ、全國ノ學生三十四万··
〔議長公爵徳川家達君議長席ニ復ス〕
及無產階級ニ對シ、組織的ニ革命思想ヲ普及シ、所謂無產大衆ヲ包容スル大
〓體ヲ組織シ、以テ組織的大衆ノ革命運動ニ依リマシテ、日本帝國ノ根本的
組織ニ大變革ヲ加ヘ、且ツ經濟組織ヲ根本ヨリ覆シ、同時ニ私有財產制度ヲ
破壞シテ、以テ共產主義ノ社會ヲ建設セムト欲スルモノデゴザリマスル、其
策動方法ト致シマシテハ、右ノ目的ヲ實行スル第一手段トシテ、大正十四年
四月以降、我國ノ經濟界ノ中心タル關西地方、卽チ京都、大阪、神戶ノ三都
市ヲ主ト致シマシテ、其他ノ地方ニ於ケル無產者ニ對シ、先ヅ階級鬪爭ノ煽
動ヲ爲スタメニ、「プロカルト」機關ト云フモノヲ置キ此重要ナル策動機密ヲ
擔當シテ、今ヤ實行シツツアルノデゴザイマス、其活動機關トシテ、大正十
四年七月十六日以來、科學〓究會員間ニ班ノ組織ヲ開設シテ、京都市ニ無產
者〓育協會ナルモノヲ組織イタシタノデゴザイマス、而シテ此無產者〓育協
會ナルモノノ決議ハ、如何ナル事ヲ決議シタカト申シマスルノニ、先ヅ全國
的ニ會員ヲ京都ニ招集シテ、數囘ノ協議ヲ遂ゲタノデゴザイマスル、第一囘
ハ大正十四年七月十六日、京都ニ於テ大會ヲ開イタノデアル、第二囘ハ同年
ノ七月三十一日ニ大會ヲ開キマシタ、此時ニハ東京ヨリ帝國大學ノ新人會員
村尾薩男及是枝恭二ガ出席イタシテ居リマス、第三囘目ガ昨年ノ九月十六日
二、京都ニ於テ大會ヲ開イタ、此時ニハ芝櫻田本〓町ノ關東幹部全員ガ出席
シテ居ルノデアリマス、此會議ニ於テ團體ヲ變更シテ、私有財產制度ヲ否認
スル實行方法ニ於テ議決イタシテ居ルコトガアルノデゴザイマスル、以上ノ
事實ハ御列席ノ內閣諸公、岡田文相ニ於カレマシテハ、業ニ已ニ御承知ノ筈
デゴザイマスル、如何ニ詭辯ヲ弄スルニ巧ミナル者ト雖モ、此事實ヲ不得要
領ニ胡麻化スコトハ出來マイト信ジマスル、如何ニ待合通ヒガ御忙シウゴザ
イマシテモ、未ダ何等報知ヲ得テ居ラヌカラ取調ベタ上デ云々スルト云フガ
如キ、トボケタ御答辯ハ出來マイト思ヒマスル、又更ニ中上ゲタイ、天人共
ニ容レザル所ノ彼ノ大逆不逞ノ罪人難波大助ノ豫審調書ニ依リマスレバ······
豫審調書ヲ私ハ手ニ入レマスルノニ實ニ苦心イタシマシテ、漸ク數日前ニ得
タノデゴザリマスル、ソレ故ニ此質問ハ遲レタノデゴザリマスル、此豫審調
書ヲ全部茲デ朗讀イタシマスルノハ時間ガ掛リマスルカラ、其中ノ要點ノミ
申上ゲマス、大逆事件、此不逞ノ犯行ヲ爲シマシタ主因動機ハ、大學ノ〓授
ノ筆舌ニ在ルノデゴザイマスル、古今驚クベキ大逆事件ヲ起シタ動機主因ハ
何ニアルカト云ヒマスレバ、大學ノ〓授中ノ或ル者、大學ノ〓授ノ職ニ在ル
者ノ煽動、指導ニ依ッテ、此大罪ヲ犯シタモノデアルノデゴザリマスル、其豫
審ノ調書ハ玆ニ大要ダケ述ベマスルガ、斯樣ニ書イテアル、大正十年一月頃
ヨリ雜誌「改造」ヲ耽讀シ、「改造」ト申ス御承知ノ雜誌、其「改造」ヲ耽讀
シ、殊ニ同年ノ四月號ニ於テ、大正十年ノ四月號ニ於テ、博士河上肇、是一
申ス迄モゴザイマセヌ、京都帝國大學ノ〓授デゴザイマスル、博士河上肇ノ
斷片ト稱スル「テロリスト」ニ關スル論文ヲ讀ミ、「テロリズム」ハ現代ノ政
府ニ對スル當然ノ歸結ナリト思惟セリ云々トゴザリマスル、又大正十一年四
月一日早稻田高等學院ニ入學シタリ······早稲田高等學院ニ入學シタリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 和田君:発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=62
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063・和田彦次郎
○和田彥次郞君 ハイ······要スルニ、斯カル大罪人ガデス、事ヲ爲シマシタ
點ハ全ク此河上肇若クハ佐野學等ノ講義ヲ聽キ、彼等ノ意思ニ依ッテ、斯ノ
如キ忌ムベキ行動ニ出ヅルニ至ッタノデゴザイマスル、此明々白々ナル所ノ事
實ヲ私ハ根據ト致シテ、更ニ質問イタシタイノデアル、之ヲ根據ト致シテ、
此事實ヲ根據トシテ質問セムト欲スルモノデゴザイマス、第一ニ質サムト欲
シマスルノハ、東京帝國大學法學部試驗委員ハ、昨年春ノ入學試驗ニ於キマ
シテ、世界ノ社會主義思想ノ文獻中、最モ危險性ニ富ミタル「マルクス」ノ
共產黨宣言ヲ、入學試驗問題ニ課シタノハ、天下公知ノ事實デゴザイマスル、
文部省ハ之ニ對シテ如何ナル處置ヲ執ラレタデゴザリマセウカ、共產黨宣言
ハ往年我國ノ社會主義者ニ依ッテ飜譯セラレマシタノヲ、發賣頒布ヲ禁止セ
ラレテ居リマス、又原文モ輸入ヲ禁止セラレテ居ルノデアリマス、果シテ然
ラバ、東京帝國大學ノ法學部試驗委員ノ共產黨宣言課題ハ、實ニ由々シキ大
事デアルト云ハナケレバナリマセヌ、文部當局者ハ之ニ對シテ如何ナル責任
ヲ負フ積リデゴザイマセウカ、第一此點ヲ質シタイ、第二ニデス、私立早稻
田大學ハ、講師中ヨリ······〓授ヲ指スノデス、講師中ヨリ佐野學、猪股津南
雄等ノ共產黨事件ノ巨魁ヲ出シテ居ルノミナラズ、我國歷史有ッテ以來ノ最大
ノ逆徒タル······逆徒モ、早稻田大學在學中、佐野學ノ共產黨宣言ノ講義ニ動
カサレタモノデゴザイマスル、之ニ關シテ早稻田大學ノ當局者ハ一人トシ
テ責任ヲ負ウタル者ガ無イ、文部當局者モ之ニ對シテ何等監督權ヲ行使シタ
跡ヲ見マセヌ、其理由ハ如何デアルカ、更ニ一昨年、早稻田大學文學部長ノ
要職ニ在リマスル片上某ナル者ハ、早稻田大學構內ニアル恩賜記念館ニ於キ
マシテ、或ハ落第ヲ以テ威嚇シ、或ハ就職口ヲ以テ誘惑シ、或ハ露西亞文學
部ノ〓職ニ就カシムベシトノ甘言ヲ以テ、十數名ノ大學生ニ對シテ言フヲ
憚カル淫亂行爲ヲ爲シタノデアリマス、之ニ對シテ早稻田大學ノ當局者ハ何
等責任ヲ感ゼズ、又片上某ヲ解職セズ、却テ事ノ發覺ヲ恐レテ、片上某ノ解
職ヲ要求セシ某々ノ二講師ヲ斥ケ、片上某ニ金三千圓ヲ與ヘテ、露西亞ニ逃
亡セシメタノデゴザリマスル、而モ當時、日露國交恢復セズ、入國不可能ナ
リシヲ以チマシテ、片上某ハ駐支······支那ニ駐在シテ居ラレル露國大使「カ
ラハン」氏ニ、赤露ニ忠勤ヲ抽ンヅベシトノ契約ヲ與ヘテ、露國ニ入リ、昨年
歸朝シマシタガ、此片上某ハ、本年多數ノ赤化用ノ露國出版ノ書ヲ、早稻田
大學圖書館ニ向ッテ送付シタノデアリマス、其內百數十部ハ朝鮮總督府ニ押
收セラレタルコトハ、數日前ノ二三ノ新聞ニ載ッテ居ルノデゴザイマスルカ
ラ、皆サンモ御承知ノ通リデアリマス、此片上某ノ行爲ハ解職ニ値シ〓且ツ
責任ハ校長ニ及ブベキニ、片上某ハ却テ赤化用圖書ヲ輸入シ、或ハ早大ノ校
外〓育機關タル······早稻田大學校外ノ〓育機關タル文學講義錄ニ、文學〓論
ト稱シテ日〓筆ヲ執ッテ居ルノデゴザリマスル、文部省ハ早稻田大學當局者ノ
斯カル無責任ノ行爲ニ對シテ、何等監督權ヲ行使スルノ御決意ハ無イノデゴ
ザリマスルカ、、是ガ第二ノ問デス、第三ハ、京都大學モ甚シク赤化イタシマシ
テ,華胃界ノ某學士ハ既ニ收監セラレテ居ル、此事件ニ關聯シテ、東京ノ大學、
早稻田大學、京都大學、同志社、關西大學等ノ學生ノ收監セラレタル者ハ既
三十餘名ニ及ンデ居ルノデゴザリマス、是等ノ父兄ハ學資ヲ投ジテ、正シキ道
フルセー、正シキ道ヲ學ビ得ルモノト信ジテ、帝國大學及文部省ノ監督セル各大
學ニ入學セシメテ居ルノデゴザリマスル、然ルニ其學校ノ〓員ハ共產主義ヲ
持スル者ナルガ故ニ、其學生ニ向ッテ共產主義ノ〓育ヲ詰メ、其結果ハ最早ヤ
卒業シテ歸ルデアラウ、明年ハ卒業スルデアラウト宅ニ待ッテ居リマスル所ノ
父兄ノ望ニ相違イタシマシテ、罪人トナッテ〓固ニ繫ガレルヤウナコトニナツ
テ居ルノデゴザリマスル、學生ノ赤化ノ原因ハ、〓授ノ赤化ニアルノデゴザリ
マスル······學生ノ赤化ノ原因ハ〓授ノ赤化ニアルノデゴザリマスル、京都大
學經濟學部ノ〓授河上肇博士ハ、先年赤化宣傳ノ機關雜誌改造紙上ニ、斷片ト
題スル危險極マル論文ヲ發表イタシテ、其雜誌ハ禁止セラレタノデゴザイマ
スルガ、前ノ大逆ノ犯人ハ、之ヲ見テ感奮シタト言ウテ居ル、河上博士ハ道德
上ノ責任ヲ感ジテ自決スベキコトデゴザイマスルニ、何等其色ナク、却テ最近
ノ京都大學事件ヲ惹起シテ居リ、又社會科學〓究會ニ出席シテ之ヲ煽動イタ
シテ居ル、此事實ハ當ニ當局ノ御方ハ御存ジナイコトハゴザイマスマイ、又其
事實ハ未ダ知ラヌト仰セラレルナラバ、更ニ私ハ證據ヲ擧ゲテソレヲ問ヒマ
ス、文部大臣ハ之ヲ傍觀シテ御イデルノデアルカ、又監督權ヲ如何ニ執行ナ
サルノデゴザイマスルカ、是ガ第三ノ質問、第四、米國ハ······米國ハ申ス迄モ
ゴザイマセヌ、共和國デアッテ、其共和國ノ米國ハ、先年「ハーバート」大學ニ
於テ、講師「ラスキン」ナル人ガ社會主義的言辭ヲ弄シ、輿論ノ攻擊ガ甚シ
クナリマシタノデ、遂ニ解職イタシテ居リマス、又昨年共和國ノ佛國ノ「エ
リオ」內閣ハ、社會主義ヲ信條トスル者ヲ經濟學〓授ニ任命イタシマシテ、
全國大學生ノ反對ニ遭ウテ、遂ニ辭任イタシタノデゴザイマスル、然ルニ共
和國ニアラザル世界無比ノ君主國タル我ガ國家ノ、國費ヲ以テ······我ガ帝國
ノ國費ヲ以テ經營スル大學ニ、自ラ「マルクス」ノ學徒タルコトヲ公言スル
者ヲ〓授タラシムルノハ、何故デゴザリマスルカ、我ガ忠良ナル最大多數ノ
國民ハ、「マルクス」主義ヲ容シ、之ヲ〓授スル爲ニ國費ヲ支辨スルコトハ、
斷ジテ認メテ居ラヌト思ヒマス、「マルクス」ノ學徒ハ、例外ナク社會民主主
義者デゴザイマス、帝國ノ憲法ノ細目ハ適當ノ時機ニ適當ノ方法ヲ以テ改正
シ行クコトハ妨ゲナイト信ズル者デアル、併ナガラ君主政體ハ斷ジテ變易ス
ルコトヲ許サザルモノト私ハ信ズルノデゴザリマスル、然ルニ「マルクス」
主義、卽チ社會民主主義ヲ遵奉スル者ヲ〓授トスルコトハ當ニ帝國憲法ノ
精神ニ照シテ許スベカラザルコトデアルト信ズルノデアリマス、政府ハ、自
ラモ、天下萬衆モ、社會民主主義者ト認メテ居ル所ノ者ヲ、官吏トシテ待遇
サレル〓授タルニ差支ナシト御認メデゴザリマスルカ、是ガ第四點デゴザリ
一々、第五ハ、早稻田大學ノ大山某ノ如キハ、政府ノ危險ナリト認定イタシ
テ解散ヲ命ジタル無產政黨ヨリスラ、共產黨系統トシテ、入黨ヲ拒マレタル
コトハ、天下周知ノ事實デアリマス、政府ハ早稻田大學總長ノ高田博士君ガ、
口ニ新皇室主義ヲ唱ヘテ、富豪ヨリ寄附金ヲ集メテ、而モ同ジ大學ニ勤ムル
大山某ハ、共產主義ヲ以テ學生ヲ集メテ、之ヲ煽動スルガ如キ、二重人格的
學校ノ存在ニ、如何ニ監督權ヲ御行使ナサル御決心デアルヤ、政府ハ法律デ
サヘ許サレルナラバ、如何ニ危險ナル人物ガ大學ノ〓壇ニ立ッテ、隱語諷刺ヲ
以テ學生ノ赤化ニ努ムルモ、〓授タルニ毫モ差支ナシト認定スルノデアルカ、
帝國憲法ノ根本精神ト相容レザル社會民主主義者、又ハ共產主義者ガ免レテ
刑ナキ限リニ、學生ノ赤化ノ避ケ難キハ、論ヲ待タヌノデゴザイマスル、〓
ヘズシテ刑スルヲ孔子ハ戒メテ居リマス、政府ハ〓ヘテ却ッテ刑セザルバカ
ラザル現狀ニ對シテ、是ガ監督權ヲ有スル文相以下ノ責任觀念アリヤ否ヤト
云フコトヲ、私ハ質問イタシタイノデアリマス、以上五點ニ付テ明確ナル御
答辯アラムコトヲ望ミマス
〔國務大臣岡田良平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=63
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064・岡田良平
○國務大臣(岡田良平君) 唯今和田君カラ最モ熱心ナル御陳述ヲ拜聽イタシ
マシテ、御尋ニ對シテ御答ヘヲ致シマスル前ニ、私ガ此問題ニ付テ如何ナル
考ヲ懷イテ居ルカ、又從來如何ナル處置ヲ取ッタカト云フコトニ付テ一言申
述ベタイト思フノデアリマス、私ハ矢張リ和田君ト同樣ニ、此赤化ノ問題ニ
付キマシテハ深ク憂慮イタシテ居タル者デアリマス、ソレ故ニ私ハ就職ノ
初ニアタリマシテ、直チニ此問題ニハ注意ヲ致シマシテ、其狀況ヲモ調査ヲ
致シ、是ヲ防遏スルコトニ付キマシテハ、相當ニ手段ヲ講ジタイト試ミタノ
デアリマス、デ、先ヅ第一ニ執リマシタノハ高等學校以下ノ學校ニ於ケル社
會科學〓究會ナルモノヲ禁止イタシタノデアリマス、是ハ既ニ一昨年ノコト
ニナリマスガ、私ノ就職スル前ヨリ、多クノ高等學校ニ社會科學〓究會ト云
フモノガ成立ッテ居ッタノデアリマス、〓究ト申セバ、誠ニ言葉ハ穩ヤカデア
リマスルケレドモ、併シ高等學、校ノ學生ハ、マダ斯樣ナ問題ヲ〓究スベキ素
養ヲ持ヲテ居ラヌノデアリマス、素養ガナイモノガ徒ラニ斯樣ナ問題ニ沒頭イ
タシマスレバ、過チニ陷ルト云フコトハ、是ハ明カナコトデアリマスカラ、
各高等學校ノ社會科學〓究會ハ一齊ニ之ヲ禁止ヲ致シタノデアリマス、爾
後、此禁止ニモ拘ラズ、內密ニ多少ノ行動ヲ取ル者ナドガゴザイマシテ、ソ
レニ對シマシテハ、校長ニ於キマシテ怠ラズ制裁ヲ加ヘテ居ルノデアリマシ
テ、今日ノ所ニ於テハ、私ノ就職ノ當時ト比較イタシ、此方面ニ於テハ餘
程廓〓ノ實ヲ擧ゲ得タト信ジテ居ルノデアリマス、併シ大學ニ付キマシテハ、
是モ同一ニ取扱フト云フコトハ出來マセヌ、ト申スノハ大學ト云フノハ申
ス迄モナク學術ノ〓究ヲ致ス機關デアリマス、〓授モ致シマスルガ同時ニ〓
究モ致スノデアリマス、又是ニ入學スル所ノ學生ハ、相當ノ素養ノアル者バ
カリデアリマス、此素養モアリ、又〓究モ致ス學生ニ對シマシテハ、高等學
校ノ學生ト之ヲ同一ニ取扱フ譯ニハ參リマセヌ、又徒ラニ此思想ヲ壓迫セム
ト致シマシテ、却テ之ガ爲ニ反動ヲ來スト云フコトモ、注意イタサヌケレバ
ナラヌコトデ、唯、外部カラ之ヲ壓迫イタシマスレバ、往々ニシテ其反動ヲ來
スノ虞レモアルノデアリマス、故ニ此大學ニ於ケル所ノ、此思想問題ニ關シ
マシテハ、餘程深甚ノ注意ヲ要スルモノト私ハ考ヘタノデアリマス、ソレ故
ニ大學ニ於キマシテハ、純然タル學究的ノ〓究ハ之ヲ禁止イタサヌ方針ヲ取ツ
テ居ルノデアリマス、但シ或ハ宣傳ヲ致ストカ、或ハ外部ト連絡ヲ致シマシ
テ、一種ノ行動ヲ取ルトカ、云フガ如キコトニ付キマシテハ、是ハ嚴重ニ禁
止スルコトヲ定メマシテ、大學ノ總長ニ對シマシテハ、屢〓警〓ヲモ發シ、注
意ヲモ致シタノデアリマス、斯樣ニ致シテ相當ノ效果ヲ見タト、私ハ信ジテ
居ッタノデアリマスガ、圖ラズモ先頃京都ニ於キマシテ、數名ノ學生ヲ法ニ
觸レルト云フコトニ依ッテ檢擧サレタノデアリマス、此學生ノ檢擧セラレマシ
タルコトニ依ッテ、私共ノ承知イタシテ居ラヌヤウナ事實ガ多々現ハレテ參ツ
ノデアリマス、併シ是ハ司法官ノ手ニ在ルコトデアリマスノデ、私共ハマダ
其實際ヲ知ルコトハ出來マセヌ、唯其大體ヲ仄聞スルニ過ギナイノデアリマ
ス、此現ハレテ參リマシタ事實ニ付テ見マスト、先刻和田君ノ御述ベニナリ
マシタヤウナ事實ガ、段々現ハレテ參ッタノデアリマス、當局者ト致シマシテ
ハ甚ダ迂濶デアッタト云フコトニ對シテ、遺憾ニ堪ヘナイノデアリマス、併
ナガラ是ハ極ク祕密ニ行ハレテ居ルコトデアリマスノデ、學長ナリ、總長ナ
リニ於テモ、之ヲ十分ニ承知イタサナカッタモノト見エマス、誠ニ此點ハ遺憾
ニ考ヘテ居ルノデアリマス、併ナガラ既ニ斯ク事實ガ明カニナリマシテ、豫
想外ノ事實ガアル以上ニ於キマシテハ、之ニ對シテハ當局者ハ、十分有效
ナル手段ヲ執ル積リデアリマス、斯樣ニシテ監督ノ實ヲ擧ゲル積リデアリマ
ス、唯今日ノ所デハ、マダ其事實ガ十分ニ明瞭イタシマセヌノデ、暫ク此
事實ノ十分明瞭イタスノヲ待ッテ、相當ノ處置ヲ執ラムト欲シテ居ルノデアリ
やっ、併シソレ迄ノ所、之ヲ捨テテ置クト云フコトデハゴザイマセヌ、此問
題ノ中樞トナリマシタル京都大學ニ於キマシテハ過般來此問題ニ付キマシ
テ、學校ヲ促シマシテ、種々取締ニ付キマシテ方法ヲ講ジテ居ルノデアリマ
ス、卽チ各學部ニ於キマシテ、ソレゾレ適當ナル指導〓授ヲ定メマシテ、其
指導〓授ノ下ニ於テ特別ノ〓究ヲ致スト云フコトハ、是ハ許シマス、併ナガ
ラ其他ノ行動ハ、此指導〓授ガ十分ノ責任ヲ取ッテ取締ヲ致スト云フコトニ
致シマシタ、併シ私ハ尙ホ之ヲ以テ足レリトハ致サヌノデアリマス、事實ガ
明カニナリマスレバ、尙ホ進ンデ有效ナル防止ノ策、指導ノ方法ヲ講ズルト
云フ考ヲ致シテ居ルノデアリマス、唯今、箇條ヲ擧ゲテ和田君ガ御尋ネニナ
リマシタガ、第一ノ、東京大學ニ於テ「マルクス」ノ宣言書ヲ試驗問題ニ出
シタト云フ御話デアリマシタ、是ハ如何ニモサウ云フ事實ガアッタノデアリ
や、、之ニ付キマシテハ、如何ナル考ヲ以テ斯樣ナ問題ヲ出シタノデアルカ、
取調ベマシタ所ガ、全ク此問題ヲ出シタ所ノ〓授ハ、善意ヲ以テ出シテ居ル
ノデアリマス、何等惡意ハ無イノデアリマス、又其〓授ノ平生主張シテ居ル
所ノ學說モ、全ク共產主義ナドニハ反シタ考ヲ持ッテ居ル人デアリマス、唯、偶
然ニ、試驗問題ニ、是ハ大層面白イト云フナウナ、誠ニ罪ノ無イ考ヲ以テ此
問題ヲ出シタト云フ事實ガ明カニナリマシタ、ソレデ此〓授ニ對シマシテハ、
深ク注意ヲ促スト云フコトニ止メテ置イタ次第デアリマス、第二ノ御尋ハ、
早稻田大學ニ於ケル事柄デアリマス、此早稻田大學ニ於ケル事柄ハ、私ノ就
職前ノ事柄モ段々御尋ガアッタヤウデアリマス、又就職後ノ事柄モアリマシタ
ガ、之ニ付キマシテハ、私ハ遺憾ナガラ事實ヲ承知イタシテ居リマセヌ、若シ
御尋ノヤウナ事實ガ最近ニアリマシタトシタナラバ、是ハ決シテ捨置クベキ
コトデハナイト思ヒマス、學長ニ對シテ、總長ニ對シマシテ十分ノ注意ヲ促シ
タイト考ヘテ居ルノデアリマス、第三ハ、京都大學ノ〓授ノ赤化云々ト云フ
御話ガアリマシタ、之ニ付キマシテハ先刻申上ゲマスル通リニ、マダ事實ガ
明カニナッテ居リマセヌ、デ、唯今マデ承知イタシテ居リマスル所ニ依リマス
ルト、此京都大學ノ和田君ノ御名指シニナッタ〓授ハ、唯「マルクス」ナルモ
ノハ斯ノ如キ說ヲ主張シテ居ル、又共產主義ト云フモノハ斯樣ナ說デアルト
云フコトノ紹介ヲ致シテ居ルニ過ギナイ、自ラ其共產主義ヲ信奉シ、之ヲ實
行セムトスルモノデナイト云フコトニ、私ハ承ッテ居ルノデアリマス、併ナガ
ラ今囘京都ニ於キマシテ、多數ノ不都合ナル學生ヲ出シタト云フコトニ付キ
マシテハ、尙ホ其以上ノ事實ガアルノカモ分リマセヌガ、是ハ此事實ガ明カ
ニナリマシタ上ニ於テ、相當ノ處置ヲ執ルト云フ考ヲ持ツテ居ルノデアリマ
ス,次ノ第四ノ御尋ハ、米國ノ例ヲ御出シニナリマシテ、彼ノ國ニ於テスラ、
共產主義ノ〓授ヲ排斥スルト云フノニ、我國ノ大學ニ於テ、此共產主義ヲ懷
イテ居ル所ノ〓授ヲ任用スルト云フコトハ如何ナルモノデアルカト云フ御
尋デアリマシタ、私ハ我國ノ大學ニ於キマシテモ、共產主義ヲ懷キ、又此共
產主義ヲ宣傳スルガ如キ〓授ガアリマシタナラバ、是ハ決シテ不問ニ措クコ
トハ出來ナイト考ヘテ居ルノデアリマス、唯、斯樣ナ問題ハ、餘程愼重ニ研究
ヲ致シマセヌト、人ノ精神ニ屬スルコトデアリマスカラ、僅ノ事實ヲ捉ヘマ
シテ、處置ヲスルト申ス譯ニモ參リマセヌノデ、十分ナル注意ヲ致シマシテ、
果シテ御話ノ通リニ共產主義ヲ信奉シ、又ハ之ヲ宣傳スルガ如キ者ガアリマ
シタナラバ、當局者トシテ相當ノ處置ヲ執ルコトハ、無論躊躇イタスモノデ
アリマセヌ、次ニ御尋ネニナリマシタノハ、早稻田大學ノ〓授某ノコトデア
リマス、之ニ付キマシテモ、今日マデノ所ニ於キマシテ、マダ詳シイ事情ヲ
私ハ承知イタシテ居リマセヌ、果シテ御話ノ通リニ、是ガ共產主義ノ宣傳デ
モ致スヤウナコトデアリマシタナラバ、是ハ直チニ治安維持法ノ規定ニ觸レ
ル者デアリマス、勿論學校トシテ監督ヲ致スバカリデナク、司法官ノ手ガ下
ルベキモノデアラウト思フノデアリマス、マダ併シソレダケノ事實デアリマ
スルカ、ドウデアリマスカ、十分ニ承知イタシテ居ラヌノデアリマスガ、左
樣ナ事實ヲ認メマシタナラバ、相當ノ處置ヲ執ルト云フコトニ躊躇イタサヌ
積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=64
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065・和田彦次郎
○和田彥次郞君 唯今文相ヨリ詳細ナル御答辯ヲ得マシテ、滿足イタシタノ
デゴザイマスルガ、一カラ五マデノコトヲ全部承服スルコトノ出來マセヌノ
ヲ遺憾ト致シマス、唯共產黨宣言ノ問題ヲ試驗課目トシタノヲ調ベテ見タ
ラ、何等故意デハナカッタンダ、フイト斯ウ云フコトモ宜カラウト云フ意味ニ
於テ、試驗題目ニシタノデアル、故意デハナイノデアルカラ、ソレキリ將來ヲ
注意シテ置イタナドト云フ御答辯ニ至ッテハ、殆ド私ハ之ニ對シテ用ウル語ヲ
存ジマセヌ、又京都ニ於テ云々ガアルガ、是モ裁判ニ於テ決マッタナラバ、ソ
レニ依ッテ更ニハッキリスルト云フコトデ、ソレマデノ事ハマダ何トモ云ヘナ
イ、又社會〓究會ト云フモノハ停止······禁止シ得ルト思フ、唯今和田君ノ言
フ通リノ事實デアルナラバ十分注意シマスト云フヤウナ御言葉ハ、失禮ナガ
ラ私ハ御言葉ヲ承服スルコトガ出來マセヌ、社會〓究會ナルモノガ、各學校
ニ設カッテ居ルノヲ、之ヲ禁止ナサッテ居ルノナラバ、先ニ演壇ニ於テ私ガ述
ベマシタ、全國ノ各學校ヲ通ジテ聯絡イタシテ、現在運動シツツアル事實ガ
アルノデゴザイマス、眞ニ之ニ解散ヲ命ジ禁止ナサッタナラバ、他ノ場所ニ於
キマシテ、他ノ名稱ナライザ知ラズ·······茲ニ私ハ尊敬イタシマスル文部大臣
ノ御言葉ヲ信ジタウゴザリマスルガ······社會〓究會ナルモノハ各學校ニ設
カッテ居ルノヲ禁止シテアルト仰ッシヤルノガ、事實デアルヤ否ヤト云フコト
ヲ疑ハザルヲ得ヌノデアル、果シテ御說ノ通リニ之レヲ解散シ、禁止ナサッ
テ御出デルナラバ、今日唯今、現ニ大阪、神戶、京都邊ニ於テ、彼等ト聯絡
シテ運動シテ居ルヤウナコトガアル筈ガナイ、併シ是ハ文部大臣ニ於カレマ
シテモ、其憂·······私ト等シク憂ヘルノデアル、十分其禍根ヲ絕チタイト云フ
御意思ノアル所ハ私モ信ジマス、敢テ文部大臣ヲ窘メルノデハゴザイマセヌ
ケレドモ、御言葉ダケデハ十分承服スルコトハ出來マセヌ、又一面ニ於キマ
シテ、屢〓質間ニナリマスル所ノ思想惡化、或ハ小作爭議ナドト云ウテ、種々
農林當局、商工當局ニ於キマシテハ、各工場ノ「ストライキ」、「サボターヂ
ユ」等ノ勞働問題ノ如キコトヲ懸念シテ、種々ノ方法ヲ講ゼラレテ居ル、誠
ニ其憂ヲ同ジウシテ努メラレテ居ルコトハ多ト致シマスルガ、一面ニ於テ學
校ニ、奏任待遇若クハ何〓待遇トシテ、國費ヲ以テ〓授ノ給料ヲ與ヘテアル、
其肩書アル所ノ〓授ガ、「マルクス」主義ヲ以テ一方ノ生徒ニ〓授シテ、ソレ
ガ實行委員トナッテ、全國ヲ各班ニ分ケテ支部ヲ置イテ、今運動ヲナシテ居ル
ト云フノデゴザイマスルカラ、一面ニ於テ勞働運動ノ取締トカ、若クハ小作
爭議ヲ調停スルトカ云フコトハ末事デアルト言ヒタイ、之ヲ若シ例ヘテ申シ
マスルナラバ、火事ノアル時ノ用意ヲセヌケレバナラヌト云フノデ、商工省
ヤ農林省デハ頻リニ井戶ヲ掘ッテ居ル、傍ラニ片端カラ官費デ以テ火ヲ付ケ
テ步ク奴ガアル、此放火者ヲ捨テテ置イテ、防火ノ用意ニ井戶ヲ掘ルナンゾ
ハ笑止千萬、滑稽ノ至リト思フノデアリマス、或ハ郡役所ヲ廢シテ云々、矢
張リ斯ノ如ク答ヘテカラ、此以上ハ問ウテ吳レルナ······何タル見苦シイザマ
デアルカ、今日ノ日本ノ社會ノ狀況ヲ何ト見テ居ラレルカ、斯樣ナ枝葉末節
二四、ッテ、區々タルコトニ心ヲ勞セラレルヨリハ.立憲政體ノ有終ノ美ヲ濟
スハ、〓育ニ基カザルヲ得ヌノデゴザイマスル、其〓育ノ根柢ニ斯ノ如キ缺
陷ガアルハ、其源ヲ濁シ其末ヲ〓ウセムトスルモノデアル、內閣諸公、宜シ
ク御一考アルコトヲ望ミマスル、是デ質問ヲ止メマス
〔男爵阪谷芳郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=65
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066・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本員ハ對支政策ニ付テ、重ネテ總理大臣ニ質問ヲ致シマ
ス,對支政策ニ付キマシテハ、屢〓本員竝ニ諸君ノ中ヨリ問答ヲ重ネタノデゴ
ザイマスルガ、未ダ十分ナル要領ヲ得ヌノデアリマス、殊ニ滿蒙ノ政策ニ付
キマシテ、外務大臣ノ御答辯ガ、我〓ノ見ル所ト隔タリガアルヤウナ感ガ致
スノデゴザイマシテ、段々本員等ノ所ニモ色〓ナ書面ガ參リマス、是等ノ書
面ニハ隨分激烈ナル文字ヲ以テ議論ヲシテ居ル人モアルノデゴザイマス、故
ニ更ニ滿洲政策ニ付テノ政府ノ御意嚮ヲ質シテ置キタイト考ヘマス、支那ノ
現狀ハ共和政治實施以來一盛一衰ト申シマセウカ、色〓變化ガアリマスルガ、
餘リ好キ方ニ進步シタトハ思ハレヌノデアリマシテ、殊ニ近年ニ至リマシテ
ハ兵亂ニ次グニ兵亂ヲ以テスル、殆ド收拾スベカラザルノ狀況ニナッテ居
ルノデアリマス、從ヒマシテ其動亂ガ滿蒙ニ波及スルト云フコトニ付テ、日
本帝國トシテハ深イ心配ヲ持ッテ居ル譯デアル、ソレ故ニ此議會始マリマシテ
カラ、屢〓政府ニ御意見ヲ叩イテ居ル譯デアリマスガ、總理大臣又殊ニ外務大
臣ノ御意見ニ依レバ、滿蒙ノ政策トシテハ治安ノ維持ト云フコトガ單ニ租
借地ニ止マルカノ如クニ解セラレルノデアリマス、又帝國臣民ノ利益ノ擁護
ト云フコトモ、極メテ狹義ニ解セラレマシテ、既往ニ於ケル帝國政府ノ政策
ト大分違ッテ參ッタノデナイカ、又現今ノ支那ノ政情ニ照シテ、甚ダ其當ヲ失
シテ居ナイカト云フコトヲ思ハシムルノデアリマス、滿洲、卽チ滿蒙、此滿
蒙地方ハ、私ハ玆ニ能ク貴族院トシテノ意思ヲ明カニシテ置クト云フコトハ
世界平和ノ維持ノ上ニ於テ大事ナコトデアラウト思フ、卽チ滿蒙ノ地域ニ對
シテハ日本國民ハ如何ナル考ヲ持ノテ居ルカト云フコトヲ明瞭ニシテ置キ
タイ、此日本國民ノ考ト云フモノニ觸ルルナラバ、茲ニ平和ガ破レルト云フ
コトガ明カニナッテ居ラナケレバナラナイ滿滿ノ地域ニ於テノ帝國臣民カ
百万乃至百五十万散在シテ居ル、又帝國ノ資本ハ十數億投入セラレテ居ル、
是ハ明瞭ナ事實デアリマシテ、此二ツヲ以テスルモ、滿蒙地域ニ於ケル事柄
ト云フモノハ支那ノ他ノ部分トハ全ク別デアルト云フコトハ、明瞭デゴザ
イマス、殊ニ滿蒙ニ兵亂ガ起ル時分ニハ、直チニソレガ朝鮮ニ波及シテ、帝
國ニ非常ナル迷惑ヲ被ムルノデアル、ソレ故ニ滿蒙ノ地域ト云フモノノ秩
序、治安······秩序ト云フモノヲ完全ニ保ッテ行クト云フコトガ、帝國政府ノ
最モ貫徹シタル政策デナクテハナラナイ、此治安秩序ノ維持ガ出來ルニ依。ツ
テ、始メテ帝國ノ利益ト云フモノ、滿蒙ニ於ケル利益ト云フモノガ擁護セラ
レル譯ニナッテ來ル、從ヒマシテ過日モ御尋ネ致シマシタヤウニ、外滿蒙ノ方
面ニ於テ、若シ露國ノ活動ガ激シクナルナラバ、卽チ帝國臣民ハ脅威ヲ感ズ
ル譯デアリマス、帝國ハ卽チ脅威ヲ感ズル譯デアル、又支那ノ內亂ガ滿蒙ノ
地域ニ波及シテ參ルナラバ、亦帝國トシテハ其影響ヲ感ズル譯デアルノデア
リマス、我〓滿蒙政策トシテノ眼目ハ、滿蒙ノ地域內ニ於テハ······其滿蒙ト
稱スルノハ東三省、內蒙古、其東三省內蒙古ノ此地域ニ於テハ治安秩序ガ常
ニ保タレ······支那ノ自身ノ力ニ依ッテ保タレ能ハヌ場合ニ於テハ、帝國政府ガ
之ヲ保タシムルコトニ努力シナケレバナラヌ、帝國以外ノ他國ノ力ニ依ッテ
治安維持ガ保タレルト云フコトハ、斷ジテ避ケナケレバナラヌ、私ハ滿蒙ト
云フモノガ現狀維持ト云フコトニハ毫モ異議ハナイ、現狀ヲ一歩進メテ帝國
ノ保護國ニスルトカ何トカ云フヤウナコトハ、決シテ茲ニ申シテ居ル意味デ
ハナイノデアリマシテ、現狀ヨリモ一步モ退カヌト云フコトガ、帝國ノ明確
ナル政策デアラネバナラヌ、既往ニ於テ然リ、今後ニ於テ亦然ラネバナラヌ、
此事ガ支那ノ國民ニモ、又世界一般ニモ、明瞭ニ了解セラレテ居ラナケレバ
ナラヌ、少シデモ滿蒙政策ニ付テ日本ノ意思ニ疑ヲ懷クヤウナコトガアッテ
ハナラナイ、ハッキリトシテ居ラナケレバナラヌ、熱イ物ニサハレバ熱イ、氷
ニサハレバ冷タイ、熱イ寒イト云フコトガ明瞭ニナッテ居ラナケレバ、茲ニ平
和ヲ紊スト云フ虞レガアル、滿蒙ノ地域ハ、支那ニ取ッテモ、帝國ニ取ッテモ、
露國ニ取ッテモ、是ハ最モ泰平ヲ希望シナケレバナラヌ土地デアリマス、滿蒙
ノ地域ノ秩序ガ紊レレバ、其迷惑ヲ被ルノハ日本、支那、露國、此三國ガ必
ズ迷惑ヲ被ヲテ、遂ニ其渦中ニ捲キ込マレル虞ガ始終アル、三十七八年ノ戰役、
卽チ二十億ニ近イ其費用ヲ投ジ、又四十万ニ近イ死傷ヲ出シテ、アノ慘劇ヲ
演ジタ三十七八年ノ戰役ハ、何ノ爲デアルカト云ヘバ、詰リ此紛糾セル關係
ヲ一掃シテ、支那、露國、日本、此三箇國ト云フモノガ永遠ノ平和ヲ保ツヤ
ウニ、問題ヲ解決スルノガ目的デアッタ、ソレハ一度ビハ解決セラレタノデア
リマス、然ルニ露國ノ······歐洲大戰ノ後ニ露國ノ形情ガ變ッテカラ、茲ニ又一
時不安ノ狀況ヲ生ジタノデアリマスルケレドモ、唯今デハ露國ハ北滿洲ヨリ
兵ヲ撤シ、免ニ角露國ノ現在ノ政府ガ支那ノ政府ニ向ッテ、約束若クハ明言セ
ルコトガ其通リニ行ハレルナラバ、何等帝國ガ脅威ヲ感ズルコトハ無イノデ
アル、然ルニ若シ此滿蒙ノ地域ニ動亂ガ起リマスルト、之ヲ鎭定スルトカ何
トカ云フガ爲ニ、ソコニ復タ露國、支那、日本、三國間ニ面倒ガ生ズルノデ
アリマスカラ、此滿蒙ノ地域ト云フモノハ、常ニ秩序治安ト云フモノヲ安全
ニ保タレ、苟モ亂レタ時分ニハ、早クソレヲ治メテ仕舞フト云フコトヲ考ヘ、
又亂レムトスル虞ガアル時分ニハ、亂レザルニ先ンジテ之ヲ消シ止メルト云
フコトヲ考ヘテ置カナケレバナラヌ、卽チ滿蒙ノ地域ト云フモノハ、三國ノ
爲ニハ實ニ平和保障ノ上ニ付テ大事ナ場所デアル、其三國ノ間ノ平和ハ、卽
チ世界ノ平和ニ直グニ關係スルノデアリマスカラ、滿蒙地域ノ秩序治安ノ維
持ト云フモノハ、世界ノ平和ニ於テ最モ大事ナコトデアル、是ハ世界列國何
人モソレニ付テ異存ノ有ル筈ハ無イ、私ハ此帝國政府ガ傳統的滿蒙ニ對スル
政策ト云フモノハ、既往ニ付テ然リ、今後ニ於テモソレガ貫徹スベキモノト
思ウテ居ルノデアル、ノミナラズ歐米ノ政治家、卽チ米國ノ國務卿デアッタ
「ブライアン」氏トカ、若クハ英國ノ有力ナル新聞アタリノ論說等ニ依ッテ見
マスト云フト、滿蒙地域ト云フモノニ對シテ、全然日本ニ此經濟的發展ノ事
柄ヲ一任シテ、滿蒙ノ地域ト云フモノニ向ッテ、我日本ガ常ニ其發展ノ場所ト
シテ、ソレヲ認メルノガ當然デアルトマデ言ッテ居ル人ガアルノデアリマ
ス、其意味ハ何ヲ言フカト云ヘバ、滿蒙ノ治安秩序ヲ維持スルト云フコトガ、
世界ノ平和ノ上ニ最モ大切デアルト云フ事柄ニ付テハ世界ノ人モ能ク了解
シテ居ルト思フノデアル、然ルニ先日來度〓總理大臣及外務大臣ト問答ヲ重
ネマシタ所ガ、滿洲卽チ東三省ノ總督ハ誰ガ總督ニナッテモ日本ノ關係スル
所デナイ、又日本ノ特殊利益ト云フモノハ此租借地ニ限ラレテ居ル、又日本
帝國ガ治安ヲ維持スルト云ッテ見タ所ガ、租借地外ニ出デヌト云フヤウナ意味
ニ解セラレルノデアリマスケレドモ、是ハ從來ノ傳統的政策、卽チ世界ノ了
解シテ居ル所ト違ヒハセヌカト本員ハ疑フノデアリマス、甚ダサウ致シテ見
ルト云フト狹イ意味ニナッテ、大事ナル世界ノ滿蒙地域ニ對スル日本ノ地位
ガ、世界ガ折角了解シテ居ル事柄ヲ誤解セシムルノ虞レガアルト感ズルノデ
アリマス、假ニ滿洲ノ總督ハ誰デモ宜イト云フ場合ヲ想像シマスト、若シ是
ガ露國ノ赤化ニ關係ヲ持ッタ人ガ總督ニナッタ時ニ、非常ナル是ハ滿洲政策ノ
上ニ變化ヲ來シ、日本ガ迷惑ヲ被ルノデアル、故ニサウ云フコトハ日本ノ了
解ナシニ出來可カラザルコトデアルト云フコトヲ、明カニ列國ニ了解セシメ
テ置ク必要ガアラウト私ハ思ヒマス、日本ハ鐵道租借地バカリデナイ、滿蒙
ノ地域一帶ニ關シテ、支那ノ發展······支那ノ經濟的發展、支那ノ文明進步ニ
付テハ最モ歡迎スルモノデアルガ、他國ノ勢力ガソコニ侵入スルコトニ付テ
ハ寸毫モ假借シナイト云フ趣旨ヲ明カニシテ置カナケレバナラヌ其秩序
ヲ維持スルト云フコトガ租借地ニ限リ、日本ノ特殊利益ト云フモノヲ狹義ニ
解セラルルコトガ、却テ列國ノ誤解ヲ來シ、又支那ノ誤解ヲ來ス所以デハナ
イカト、斯ウ思フノデアリマス、或ハ本員等ガ總理大臣外務大臣ノ御答辯ヲ
聽誤ッテ居ッタノカト思ヒマスルガ、此事ハ日本ノ滿蒙政策ニ對スル大事ナ點
デアル、卽チ支那ノ他ノ部分ト滿蒙ノ地域トハ極メテ特殊ノ地位ニ、帝國
トノ關係上置カレタモノデアル、從テ之ニ對シテノ帝國政府ノ政策ト云フモ
ノハ帝國政府······帝國ノ力ニ依ッテ常ニ此地域ノ發展、又治安秩序維持ト
云フモノガ期セラレナケレバナラヌ、支那自身ニ出來ザル限リニ於テ······支
那ガ今日全土ガ既ニ兵亂ノ巷ニナッテ居ルノデアル、滿洲ガ今日亂レヌノハ
帝國ノ力ガ有ル所以デアルト云フ事實ガ、常ニ存在シテ居ラナケレバナラヌ
ノデアリマス、其間ニ於テ支那ノ領土權ヲ侵ストカ、其他支那ノ國權ヲ侵ス
ト云フ意味ハ寸毫モ無イ、帝國トシテノ利益上是ハ當然ノ權利、サウシテ列
國ノ認ムル所ト、斯ウ思フノデアリマス、此點ニ付キマシテ總理大臣ヨリ
私ノ今見ル所ト同ジ考ヲ持ッテー居ラレルヤ否ヤト云フコトニ付テノ御意見ヲ
一應伺ッテ置キマス
〔國務大臣若槻禮次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=66
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067・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 帝國ノ支那ニ對シマスル外交方針、又滿蒙ニ對
スル方針ニ付キマシテハ、當院ニ於キマシテ、外務大臣カラ詳細ニ屢述べ
テアルノデアリマシテ、是ガ卽チ現內閣ノ對支外交方針、對滿蒙ノ方針デア
ルノデアリマス、唯今阪谷男爵ハ帝國ノ滿洲ニ持ッテ居ル特殊利益ト云フ
ノハ租借地ニ止マッテ居ルカノ如ク說明シタヤウニ、御聽取デアッタヤウデア
リマスガ、外務大臣ハ左樣ニ申シテ居ラヌト私ハ思ヒマスシ、又決シテ帝國
ノ滿洲ニ於ケル特殊利益ト云フモノガ租借地ノミニ止マッテ居ル次第デハナ
イノデアリマス、ソレデ誤解ガアリマスト宜シクアリマセヌカラ、私ハ書イ
タモノニ依ッテ茲デハッキリト申上ゲマス、而シテ此書イテアル所ヲ申上ゲル
以外ニ於ケル、阪谷男爵ガ斯ウ自分ハ思フガト仰セニナル點ハソレハ或ル
場合ニ悉ク其通リデハナイカモ知レマセヌ、ソレデ私ガ玆ニ書イテアルモノ
ガアリマスカラ、書イテアルモノニ依ッテ御答ヲ申上ゲテ、ハッキリト政府ノ
考ヲ申上ゲタイノデアリマス、帝國ノ接壤地域デアリマス所ノ南滿洲及東部
內蒙古ニ於ケル我ガ特殊利益ノ確保擁護ニ關シマシテハ、政府ハ常ニ深甚ノ
注意ヲ怠ラヌ所デアリマス、若シ同地方ノ秩序紊亂ノ爲ニ、帝國ノ康寧ニ影
響スルガ如キ虞レノアリマス事態ノ生ジマシタ場合ニ於キマシテハ、政府ハ
必ズ適當ノ手段ヲ講ジテ治安ノ維持ニ努ムルコトニ於テ、萬遺算ナキヲ期ス
ル積リデアリマス、又同地方ニ於キマシテ同胞國民ノ生命財產ノ安固ヲ保持
シ、正當ナル我ガ權利利益ヲ確保シ、國民ノ經濟的發展ノ助長ニ資スルコト
ニ付キマシテハ、政府ハ最善ノ努力ヲ致スコトハ申ス迄モナイコトデアリマ
ス、是等ノ事ハ私及外務大臣ヨリ種々ノ機會ニ於テ申述ベテ居ル所デアリマ
スガ、唯今、御質問ガアリマシタカラ、改メテ茲ニ言明イタシテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=67
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068・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本員ノ見ル所ト、今、首相ノ言明トハ、全然一致シタト
ハ申サレマセヌ、本員ハマダ少シ强キ意味ニ於テ考ヘテ居リマスガ、此問題
ハ既ニ度〓繰返サレタコトデゴザイマスデ、質問ハ玆ニ止メテ置キマス
〔中村純九郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=68
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069・中村純九郎
○中村純九郞君 私ハ機密費ノコトニ付テ、最モ此機密費ヲ多額ニ使用セラ
ルル所ノ內務大臣、外務大臣、陸軍大臣等ニ伺ヒタウゴザイマス、申スマデ
モナク財政整理ノ要諦ハ、豫算實行ヲ爲ス人ノ道德ノ最モ旺盛デナクテハナ
ラヌコトデ、德義心ノ最モ强クナクテハナラヌコトハ、百般ノ政務モ固ヨリ
德義心ヲ必要トシマスケレドモ、就中、財政ニ於キマシテハ、餘程ノ德義心
ガナクテハナラヌコトハ、是ハ玆ニ私ガ改メテ申上ゲルマデモナイコトト存
ジマス、豫算ノ定額ヲ超過シ、款項及年度ノ流用ヲ爲スコトノ出來ナイコト
ハ是ハ會計法規ニ嚴禁スル所デゴザイマシテ、固ヨリ茲ニ私ガ改メテ申上
ゲルマデモナイ、豫算款項ノ定額ヲ、國務大臣ガ其定額ノ範圍內ニ於テ、支
拂小切手ヲ振出シ得ルノ權限ヲ示シタモノデゴザイマシテ、固ヨリ此款項ヨ
リ超過シテ一錢一厘ノ支出モ爲スコトハ出來マセヌ、併シ之ニ反シテ、〓
一厘モ剩スコトハ出來ナイト云フコトハ法律ニナイ、ソレハ第一豫備金ヲ以
テ補充スル費目等ハ、或ハ足リナイ場合ニハ、其年度內ニ足リナイ場合ニハ、
補充シテ更ニ出スコトモゴザイマスルガ、其他、決シテ是ガ一錢一厘モ剩シ
テハナラヌト云フコトハナイ筈、又事實アラレナイコトデアルト信ジテ居リ
やさ、然ルニ大正十三年度歲入歲出總決算ヲ見マスルト、是ハ後刻、本日ノ
日程ニモ上ボッテ居リマスルカラ、決算委員長カラ何等カノ報告モゴザイマセ
ウガ、私ハ此前ニ決算ヲ見マスルト、各費目悉ク不用額ガ、幾許ヅツノ不用
額ガ存在シテ居リマス、是ハサウナクテハナラヌ、然ルニ此不用額ノ一錢一
厘モ殘シテナイ決算ガ不思議ニモ此機密費ニアルノデス、機密費ニハ一錢一
厘モ殘シテアリマセヌ、唯十三年度ノ決算ニ依リマスト、大藏省ノ一万七
千幾ラノ中、僅ニ不用額ガ六千八百七十五圓ト云フモノノ決算ガ出テ居リマ
スソレカラ外務省ハ年々一一百五十万圓ノ巨額ノ機密費ヲ持ッテ居ラレマス
ル、ガ、其剰ス所ノ不用額ハ、十一圓十四錢一厘ト云フ僅ナル額ガ出テ居リマ
ス、固ヨリ機密費ノ支拂ハ、物件ノ購入トカ、工事ノ請負トカ、俸給ト云フ
ヤウナ、豫メ定額ノ債權ガ決マッテ支拂ハルルモノデゴザイマセヌカラシテ、
各部ヘ配當セラルル金額ヲ除クノ外ハ、大方察シマスルノニ、〓算的ニ支拂
命令ガ發セラレテ、國庫ヨリ拂切リ勘定デ其使用者ニ金額ヲ渡サルルノデハ
ナカラウト云フ、唯、推定ヲナスノデアリマス、機密費ノ性質ハ讀ンデ字ノ如
ク國家ノ重要ナル事務ノ措置ヲ爲スニ缺クベカラザルモノデ、最モ此妙用
ト效用ヲ得ルコトヲ希望スルハ、申スマデモナイコトデゴザイマス、然ルニ
此度、衆議院ニ於テ機密費ノ間題ガ起リマシタ、私ハ玆ニ御斷ワリヲ致シテ
置キマス、機密費ノ問題ニ付テ、三瓶某トカ申ス者ノ刑事ノ訴追ガ起ッテ居
ルヤウデアリマスガ、其事ニ付テ伺フノデハゴザイマセヌ
〔「簡單ニ早ク願ヒマス」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=69
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070・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=70
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071・中村純九郎
○中村純九郞君 此機密費ハ陸軍省ノ機密費ノ問題ニ付キマシテ、餘程國
民ニ、及陸軍等ニ衝動ヲ起シマシタト見エマシテ、或ハ陸軍ト國民トヲ離間
スルトカ、或ハ軍ノ機密ヲ發カムトスルトカ云ッテ憤慨ワル者モゴザイマス
ガ、此事ニ付テ私ハ玆ニ伺フノヂヤゴザイマセヌ、ソレデ豫算ヲ國務大臣及
國務大臣ノ······支出官ノ支出ヲ爲スニ當リマシテ、唯今、私ガ推定スル所ニ
依リマスト、支出官ノ支拂命令ヲ發セラレマスルト、其機密費ハ或ハ殘額ガ
債權者ニ渡ラナイ前ニ······債權者ニ渡リマシテ、殘額ガ生ズルコトガアラウ
ト存ジマス、其場合ニ國庫カラ此金額ハ既ニ離レテ使ッテ居ル、然ルニ會計
檢査院ノ喙ヲ容ルル場合ハ生ゼズ、又是ガ歲入歲出外現金ノ如ク······政府ノ
義務トシテ保管スベキ、機密費ハ、歲入歲出外現金デモゴザイマセヌ、サウ
シマスルト此金額ニ對シテハ、若シ是ガ現金ノ收入ニ、國庫ノ雜收入ニ、此
現金ヲ國庫ノ雜收入ニ立テラレマスルモノデアリマスルカ、國庫ノ雜收入ト
致シマシテモ、遺失物、埋藏物ガ俄ニ出タ譯デモナシ、シマスルト、此殘金
ノ處分ト云フモノハドウセラレルモノデゴザイマスルカ、玆ニ於テ度〓此
議場ニ於テモ問題ニナリマシタル事前監督ト云フノガ、最モ必要デハナカラ
ウカト云フコトヲ感ジマスルノデ、唯今、コノ不思議ニモ、決算ノ上ニ機密
費ノミハ不用額ガ少シモ殘ラズニアルト云フガ第一伺ヒタイコトト、モウ一
ツハ債權者ニ〓算的ニ受ケタル人ガアッテ、其殘餘ガアッタ金ハ如何ニ處分セ
ラレルモノデアルカト云フコトヲバ、玆ニ幸ニ財政ニ精通セラレテ居ル現首
相及現內相ガ居ラレマスルカラ、此二件ヲバ此豫算ノ成立セムトスルニ當リ
マシテ伺ヒ置キタウゴザイマス
〔政府委員河田烈君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=71
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072・河田烈
○政府委員(河田烈君) 大藏大臣ガ病氣ノ爲ニ缺席イタシテ居リマスル爲
二、恐縮ナガラ私カラ御答辯ヲ申上ゲマス、唯今中村サンノ御質問ハ、十三
年ノ決算ヲ見ルニ、機密費ノ不用額ト云フモノハ甚ダ乏シイ、斯ノ如ク機密
費ト云フモノハ不用額ノ出ナイモノデアラウカト云フ御尋ト、第二ニ機密費
ニ殘餘ノ生ジタル場合ニ、如何ニ處理セラレルモノデアルカ、此二點ト伺ヒ
マシタ、或ハ伺漏レノ點ガゴザイマスカモ知レマセヌ、然ラバ更ニ御尋ネヲ
願ヒタイト考ヘマス、第一段ノ、豫算ニ於キマシテ、理想ト致シマシテハ、
殘餘ノ生ゼザルノガ當リ前ナノデアリマシテ、唯中村サンノ例證セラレマシ
タル十三年度ノ決算ハ唯今私、手許ニ持ッテ居リマセヌカラ、一々之ニ付
テ御說ヲ對照スルコトハ出來マセヌ、機密費ニ於キマシテモ中村サンノ仰セ
ラレマシタル通リ、或ル省ノ所管ニ於キマシテハ、多少ノ殘餘ハ出テ來ルコ
トト承知シテ居リマス、殘餘ノ出テ居リマセヌノハ、其場合ニ於テ機密費ハ
支出濟ニナッタ、其所用ノ中デ、之ヲ使用シ盡シタモノト思ヒマスルカラ、機
密費モ殘餘ガ生ジナイ、必要アレバ殘餘ハ生ゼズ、必要ガナケレバ殘餘ガ生
ジマスノハ、他ノ費目ト何等變ラナイノデアリマス、唯機密費ノ如キハ、殘
餘ガ生ゼザル機會ガ多イモノト考ヘル外致シ方ガナイノデアリマス、第二段
ノ殘餘ガ生ジタル場合ハ如何ニスルカ、殘餘ガ生ジマスレバ歲計上不用ト
ナッテ參リマス、是亦、他ノ費目ト變リハアリマセヌ、併ナガラ中村サンノ御
尋ニ依レバ、機密費トシテ支出濟トナヲテ居ルモノガ機密費トシテ使用セラ
レズニ、其資金ヲ受取ッタル人ニ於テ之ヲ使用シナカッタ場合ニ於テ、ドウナ
ルカト云フ御尋ト想像イタシマス、機密費ノ性質上、是ハ其必要ニ應ジマシ
テ、其都度支出イタシテ居ルノデゴザイマス、カルガ故ニ、サウ云フ場合ニ
機密費ト致シマシテ支出イタシマシタモノハ其意味ニ於テ殘餘ガ生ズルト
云フコトハ、私共ハ想像イタシテ居リマセヌ、併シ萬一生ズルコトガゴザイ
マスレバ、是ハ最近ノ例ガゴザイマセヌノデ私共承知イタシマセヌケレドモ、
會計法規ノ命ズル所ニ依リマスレバ、當該年度ニ殘餘ガ生ジマスレバ、定額
戾入ノ手續ヲ取リ、年度ヲ超過イタシマスレバ、返納金ノ手續ヲ取ッテ國庫
ニ收納セラルベキモノト思ヒマス、但シ私ガ經驗イタシマシテカラ例ガゴザ
イマセヌカラ、前例ニ依ッテ申上ゲルコトハ出來マセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=72
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073・中村純九郎
○中村純九郞君 機密費ガ國庫ヨリ拂切ニナッテシマッタ以上ハ、旅費ノ〓算
ヲ渡シテ居ルガ如ク、之ヲ戾入スルト云フコトモ出來ナイデアラウト存ジマ
ス、又會計法ノ第四條ニ禁ジテ居ル所ノ資金、卽チ公ケノ特別資金ニモ當ラ
ナイカト思ヒマス、恰モ銘々ノ俸給ヲ······人ノ懷ヲ勘定スルヤウナ形ニナリ
マシテ、私ノ金デモナシ又會計檢査院ノ喙ヲ容レル筋ノ金デモナイヤウニ考
ヘラレマスルカラ、此金ハ途デ拾ッタ遺失物ノ如クカ、若クハ當局者ガ翌年ナ
リ又ハ次囘ニ於テ、矢張リ其機密費ノ性質ヲ以テ、ドコ迄モソレヲ足シ前シ
テ行カレルト云フコトニナリマスルカ、ソコヲ伺ヒタイノデ、戾入ト云フコ
トハ出來ナイヤウニ考ヘラレマス、ソレト云ッテ、寄附金、國庫ノ寄附金ニハ
相成ラヌデゴザイマセウ、又遺失物、埋藏物ヲ拾得シタガ如ク、之ヲ國庫ニ
歸屬スルト云フモノデモナイト思フノデゴザイマスカラ、併ナガラ若シ殘餘
ガアリマシタナラバ、國家ニ無主ノ財物、所有主ナキノ財物ガアル譯ガゴザ
イマセヌカラ、之ヲ當然國庫ニ歸屬セシメラルルト云フモノカ、又ハ翌年ノ
機密費ニ矢張リ之ヲ使用シテ行カレルモノデアルカ、ドチラカ此場合ニ於テ
ハ一方ヲ採ラナクチヤナラヌモノデアラウト存ジマスルカラ、ソコヲ伺ヒタ
イノデス
〔政府委員河田烈君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=73
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074・河田烈
○政府委員(河田烈君) 再度ノ御質問ニ御答ヘ申上ゲマス、其御答へ申上ゲ
マスル前提ト致シマシテ、前囘ニモ申上ゲマシタル通リ、機密費ノ性質ハ、其
都度々々ニ必要ニ應ジテ支出イタス立前ニナッテ居リマス、從ヒマシテ、必要
ナキニ機密費ヲ支出シ、是ガ支出ヲ受ケタモノノ處ニ殘金トシテ殘ルト云フ
コトハ、機密費ノ制度ノ立前カラ致シマシテ、想像イタシテナイノデアリマ
ス、併ナガラ又機密費ノ性質上、今日支出ヲ受ケテ、直チニ之ヲ明日、サウ
右カラ左ニ拂フト云フコトノ出來ナイコトモゴザイマセウ、又或ル場合ニ於
テ、再ビ御質問ノヤウニ、萬一其殘餘ヲ生ジマシタル場合ニ、如何ニ之ヲ處
置スルカ、斯ウ云フ御質問デゴザイマス、前段申上ゲマシタル通リ、機密費
ノ性質上サウ云フコトヲ想像シテゴザイマセヌガ爲ニ、丁度唯今御例證ニナ
リマシタル所ノ前渡資金若クハ〓算拂ト云フヤウナ方法ヲ以チマシテ、或ハ
精算イタシマシテ定額戾入ヲスルトカ、或ハ資金ノ精算上ノ拂戾ト云フヤウ
ナ、サウ云フ制度ヲ會計規則上ニハ、明文上規定シテゴザイマセヌ、卽チサ
ウ云フ場合ヲ想像シテ居リマセヌノデゴザイマス、併ナガラ萬一サウ云フ必
要ガ生ジマシタル時ニハ、法規上明文ガゴザイマセヌカラ、之ニ極メテ近似
シタル所ノ豫算ノ支出ト同樣ニ、之ニ近似シテ解釋イタシマシテ取扱ハナケ
レバナラヌモノト心得マス、其方法ト致シマシテハ、唯今前囘ノ答辯ニモ申
上ゲマシタル通リ、最近實例ガゴザイマセヌカラ、今日之ヲ如何ニ實行イタ
シテ居ルト云フコトハ申上ケ兼ネマスケレドモ、私共ノ考究イタシマシタ所
ニ依リマスレバ、是ハ年度內ニハ〓算拂若クハ前渡資金ト同ジヤウニ、年度
內ニ於キマシテハ定額戾入ノ方法ヲ採リ、年度ヲ超過イタシマシタ場合ニハ、
返納金ノ如キ方法ヲ以テ國庫ニ收納スルト云フノガ、最モ適當ナル解釋デア
ルト考ヘテ居ルト申上ゲタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=74
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075・中村純九郎
○中村純九郞君 機密費ハ其支出ヲ要スル必要ノ度每ニ支出スルト云フコト
ハ是ハ機密費ニ限ッタコトデゴザイマセヌ、政府ノ豫算ノ支拂ヲ爲シマスル
ニ·其支拂フ時、必要ノ都度ニ支拂フモノデシテ、大方何百万圓ト云フ多
額ノ金ヲ支拂フニ付キマシテハ、幾度トナク小切手ヲ振リ出サレルモノト思
ヒマスル、其幾度モ振リ出サレル小切手ガ、不思議ニモ豫算定額ト合致シテ
ノ決算ニナッテ居ルノデス、是ガ卽チ私ハ不思議ト言フノデス
〔政府委員河田烈君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=75
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076・河田烈
○政府委員(河田烈君) 前囘竝ニ前々囘ノ御質問ハ、機密費ノ使用殘額ニ對
シ、如何ニ處理スルカト云フコトノ御尋デゴザイマシテ、之ニ對シマシテ一
應御答辯申上ゲマシタ、是ハ御了承下サッタコトト考ヘマス、最後ノ御尋ハソ
レガ不思議ニモ豫算額通リ全然合致シテ居ル、斯ウ云フ御尋デゴザイマスル
ガ、ソレハ强チニサウ云フ御疑ヲ御懷キニナラヌデモ宜カラウカト考ヘマス、
例ヘバ普通ノ經費ト致シマシテモ、何レモ豫算ノ範圍內ニ止マルモノデゴザ
イマシテ、前ニモ中村サン御自身中サレマシタル通リ、豫算ヲ超過シテ支出
スルコトハ、是ハ決シテ無イノデゴザイマス、然ルニ普通ノ歲出ニアリマシ
テハ、物品ヲ購入スルニ付キマシテモ、旅費ヲ支拂ヒマスニ付キマシテモ、
一定ノ計畫金額ガゴザイマスカラ、初メカラ其範圍內デ以テ之ヲ支出スルコ
トニナリマス、何レモ······併シ昨今ノ經費ニ致シマシテハ、豫算······國家ノ
藏入歲出ハサウ裕ニ見積ッテアルモノデハゴザイマセヌノデ、何レ多々益〓辨
ズルノヲ切リ詰メテ計上イタサレテ居ルノデアリマスカラシテ、機密費ノ如
キ、是ガ百圓デ以テ宜シイコトモアレバ、二百圓デ以テ宜シイコトモゴザイ
マセウ、其場合ニ機密費ガ二百圓ヲ實際ハ要スル場合デアッテモ、百圓シカ豫
算ガゴザイマセヌケレバ、百圓ニ切ルト云フコトガ、最モ機密費ノ如キ性質
ノ經費ニ於テハ有リ得ルコトデ、二百圓ノ物品ヲ買フノニ豫算ガ百圓シカゴ
ザイマセヌケレバ、是ハ足リマセヌカラ不用ニスルコトモアリマセウケレド
モ、二百圓ノ機密費ヲ要スル場合ニ、已ムヲ得ズ百圓ダケヲ支出スルト云フ
コトモゴザイマセウト思ヒマスガ、經費ノ性質上、機密費ノ如キハ殘額ノ生
ズル機會ガ少イト云フコトモ、是亦有リ得ル理窟デアラウト思ヒマス、イツ
モサウダト云フ實例ヲ擧ゲテ申ス譯デハゴザイマセヌガ、經費ノ性質上、殘
額ガ無イカラ極メテ不思議ダト云フコトヲ御疑ヒニナルコトハナイカト心得
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=76
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077・中村純九郎
○中村純九郞君 機密費ヲホジクッタヤウナ質問ヲ致シマシテ恐縮デゴザイ
マスカラ、是デ私ノ質問ハ止メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=77
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078・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ニテ通告者ハ了リマシタ
〔今井五介君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=78
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079・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 今井君ハ御質疑デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=79
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080・今井五介
○今井五介君 通〓ハ致シマセヌデシタガ、少シク伺ッテ見タイコトガアリ
マスガ·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=80
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081・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御質疑デゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=81
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082・今井五介
○今井五介君 左樣発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=82
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083・徳川家達
○議長(公爵德川家逹君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=83
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084・今井五介
○今井五介君 自席デ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=84
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085・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 大キナ御聲デ御質疑ヲナサイマシタラ宜カラウカ
ト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=85
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086・今井五介
○今井五介君 總豫算竝ニ各特別會計歲入歲出豫算案ノ上程サレタ以來、同
僚諸君ガ各問題ニ對シテ質問又應答ヲ重ネラレタコトヲ伺ヒマシテ、大ニ私
ハ喜ンデ拜聽イタシマシタノデアリマス、實ハ此會期切迫ノ際ニ、私ガ御尋
ネスルコトハ好マナイノデアリマス、少シク私ガ知ラムト欲スル事ヲ聽得ナ
ンダ點ガアルノデアリマス、此點ハ或ハ私ノ席ヲ離レタ時、又ハ缺席ノ場合
ニ、ドナタカラカ御話ガアッタカハ知レマセヌガ、若モアッタナラバ御赦シヲ
願ヒタウゴザイマス、此議會ハ重要ナル問題ガ御論議ニナリマシテ、赤化問
題.思想混亂、就職難、其他小作爭議、幾多ノ問題ガ玆ニ議論ヲ鬪ハセラレ
タノデアリマス、私ハ此問題ヲ那邊ニ原因スルカト云フコトニ付テ、又私ノ
考ハ根本ヨリ違ッテ居ル次第デハアリマセヌガ、諸君ノ論ゼラレタル如ク、經
濟ノ問題ニモ原因スルノデアリマスガ、私ノ考フル所ニ依レバ、斯カル總テ
ノ難問題ハ國民〓育ニ依ッテ解決ヲスルト云フコトガ、全ク其根本ニ觸レル
モノト私ハ考ヘルノデアリマス、若モ國民ノ〓育、卽チ普通〓育ヲ忘レタナ
ラバ、此問題ヲ論ジマシテモ、私ハ其目的ヲ達スルコトハ出來ナイト思フノ
デアリマス、ソレ故ニ政府當局ニ於カレマシテハ、我ガ國民ノ〓育ノ上ニ力
ヲ致サレテ、又殊ニ師範〓育ナルモノニ重キヲ置カレルノデアリマス、是
卽チ我國民ノ基礎ヲ養フ所ノ施設デアルノデアリマス、其師範學校ヨリ〓育
ヲ受ケマシテ、全ク善ナル所ノ、實ニ純ナル所ノ兒童ヲ〓フルコトニ、殊
力ヲ御入レナサルコトハ全ク私モ御同感デアルノデアリマス、然ルニ今日地
方ノ〓育ヲ見マスルト云フト、今日ハ〓員ノ不足ヲ〓ゲ、又適當ナル所ノ〓
員ニ乏シイト云フコトデ、年々多大ノ縣費ヲ以テ師範〓育ニ沒頭サレルト云
フコトハ、全ク私ハソコニ在ルト思フノデアリマス、然ルニ或縣ノ狀態ヲ見
マスレバ、此師範〓育ヲ受ケタ〓員ガ國民〓育ノ上ニ如何ニ從事シテ居ラレ
ルカト云フコトヲ見ルト、年齡平均三十七歲ニ達スルト云フト老朽ダト云ッ
テ、皆之ヲ淘汰サレテ居ル、此國民〓育ハ私ガ思フニ、三十歲以上、四十歲
以上ニ達シテ、總テ此世ノ中ノ酸イモ甘イモ辨ヘテ、人格ノ備ハッタ者ノ〓ヘ
ルコソ、國民〓育ノ神髓デアルト、私ハ思フノデアリマス、斯カル必要ナル
ニ拘ラズ、此〓育ニ大切ナル者ヲ、之ヲ老朽トシテ社會ノ〓育外へ逐出スト
云フコトハ、全ク私ハ師範〓育ノ上ニ力ヲ盡ス上ニ於テ、遺憾ト思フノデス、
何故斯カル結果ガ起ルカト云フト、御承知ノ通リ今日ハ、新シキ學問ヲ修メ
タ若イ者デナケレバ〓育ハ出來ヌ、師範學校ヲ出タテノホヤ〓〓ノ先生ハ、
所謂世間デ歡迎スルカモ知レマセヌガ、是等ノ人ガ少シク年長ケテ、稍〓頭ニ
霜ヲ戴クト云フ者ハ、老朽トシテ之ヲ皆ナ壓迫ヲ加ヘルノデアル、ソレ故ニ如
何ニ師範〓育ヲ盛ニシテ〓員ノ養成ヲ致シマシタ所ガ、滿足ナル國民〓育ハ
出來ナイト思フノデ、若イ者ガ學問ヲ有ッテ、此國民〓育ヲスルト云フコト
ハ最モ大切ナコトデアリマスルガ、寧ロ人格ト總テノ經驗、有ラユル辛酸
ヲ嘗メタ者ガ兒童ノ〓育ニ當ルト云フコトコソ、私ハ國民〓育ノ根本ニ觸レ
タモノデアラウト思フノデ、斯樣ナ有樣デアッタナラバ、如何ニ政府當局ニ於
カレマシテ、師範〓育ノ方面ニ力ヲ致サレテモ、其目的ヲ達スルコトガ出來
ナイト云フコトヲ、私ハ遺憾ト致シマスノデ、單リ此縣ニ止マラナイノデア
ル、私ハ此問題ヲ御聽キヲ願フニ先ダッテ、同僚ニ聞及ンダガ、何レノ縣ニ於
テモ左樣ナ傾ガアルト云フノデ、此老朽デアルト云ウテ淘汰サレル、〓育外
ニ逐出シタ者コソ、全ク私ハ大切ナモノデアルト思フノデアリマス、師範〓
育ハ地方自治ニ任セルカラ、是モ巳ムヲ得ヌトスレバソレ迄デアリマスルガ、
是等ニ對シテ文部當局ニ於カレマシテハ、如何ナル御考ヲ御持チニナルカ伺ッ
テ見タイト思フノデアリマス、元來、我ガ國民ガ〓育ト云フコトノ、私ハ其
根本ヲ誤ッタノデハナイカ、誤解シテ居ルト思フノデアリマス、國民ハ卓子上
ノ學問ヲ受ケレバ必ズ目的ヲ達シ、又國ノ爲ニ資スルコトガ出來ルト云フヤ
ウナ誤解ガ漲フテ居ルノデアリマス、明治初年ヨリ明治ノ御代ノ末期ニ至ルマ
デハ、學問ヲ修メタ者デナケレバ人ニ成レナイ、學問ヲシタ者デナケレバ重
ク用井ラレナイ、確カニサウデアッタ、此當時ハ子弟ヲ〓育スルニ當ッテ、祖
先傳來ノ財產ヲ賣リ盡シ、更ニ窮スレバ兄弟姉妹ヲ金ニシテ、〓育ノ資ニ充
テテ來タノデアリマスルガ、其當時ニ於キマシテハ其〓育ニ費シタ所ノ資
金ヲ還元スルコトガ出來タ、或ル程度ノ學校ヲ卒業スルト云プト、直チニ要
職ニ就カレタノデアリマス、此弊ト申シマセウカ、此因ガ今日ニ段々流レテ、
今ニ其形式ヲ〓育ノ上ニ存シテ居ルノデアリマス、今日ノ就職難ヲ訴ヘ、或
ハ思想問題、赤化問題、是ハ私ノ勘考スルニ、此〓育ノ弊ノ結果デアルト思
フノデアリマス、高等ノ學問ヲ修メテモ直グニ職ヲ求ムルノ途ガ無イ、此父
兄ハ財產ヲ〓育ノ資ニ充テ、更ニ是ガ還元サレナイノデアリマス、之ヲ譬ヘ
テ見ルト云フト、今日ノ〓育ハ配當ノ見込ノ無イ會社ヲ拵ヘテ之ヲ喜ブト同
ジク、〓育ヲ修メテ、費シタル所ノ〓育費ヲ還元スルコトガ出來ナイト云フ
コトハ、恰モ配當ヲシ得ザル所ノ會社ト私ハ等シキモノデアルト思フ、〓育
ヲスルト云フコトハ、私ハソレト同ジモノデナケレバナラヌト思フノデアル、
是等ガ今ニ國民ノ自覺ガ無イト申シマセウカ、全ク國民ガ理解セザル點デア
ラウ、此自覺ヲ促スニハ、小學校ノ〓育ヨリ出發シナケレバナラヌト思フ、
〓育ヲ我ガ國情ニ應ジテ遺憾ナク各方面ニ分配スベキ方針ヲ取ラナケレバナ
ラヌ、又國民モ此考ヲ以テ子弟ノ〓育ヲシナケレバナラヌト思フノデアル、
此自覺ナキ國民ヲ指導スルニハ、爲政者ノ是ハ力ニ依ラナケレバナラヌ、此
儘ニシテ、我國ガ單ニ目途ノナイ所ノ〓育ニ沒頭シタナラバ、私ハ〓育ノ爲
ニ國ハ亡ビルト心配シテ居ル、私ハ長クハ申シマセヌガ、其老朽ノ〓員コソ
尊ブベキモノデアル、此老朽ノ〓員ヲ更ニ延長シテ、六十歲ニ達スルマデ用
井タナラバ、〓員ガ餘ヲテ困ルト私ハ思フ、私ハ今日ノ有樣ヲ見テハ、師範〓
育ハ〓員ノ粗製濫造ニ陷ッテ居ルト私ハ見ル、此私ノ叫ビト申シマセウカ、何
ハ御聽キ下サル價値アリヤ否ヤ、私トシテ玆ニ於テ一面ハ國民ニ訴ヘテ置キ
タイト思フノデアル、願ハクハ此〓育ノ根本ヲ私ハ變ヘナケレバナラヌト思
フ,根本ノ方針ガ定マラズシテ枝葉ヲ論ズルノ嫌ヒガアルト思フ、私ハ、〓
育ハ需要ニ於テハ或ハソレ程ニ屆カナカッタノデアル、供給ノ點ハ多カッタ、
〓育モ需要供給ヲ離レテハイカナイ、謂ハバ、今日ノ〓育ハ或ル方面ニハ生
產過剩デアリマス、ドウカ斯樣ナ大切ナ時間ニ於テ、多岐ニ亙ルコトヲ申上
ゲルコトハ甚ダ恐縮デアリマスルカラ、ドウゾ私ノ言葉ノ足ラザル所ハドウ
カ宜シク御考慮ヲ願ヒタイ.是ダケ申上ゲテ置キマス
〔國務大臣岡田良平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=86
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087・岡田良平
○國務大臣(岡田良平君) 唯〓今非君ノ御述ベニナリマシタ、〓育ノ極メテ
大切デアル、又其〓育ノ基礎トナルモノハ小學〓育ニアル、サウシテ其小學
〓育ヲ預ッラ居ル所ノ小學〓員ナル者ハ、最モ老練ナル人格ノ優良ナル者デナ
クチヤナラヌト云フ御話ニ對シマシテハ、當局者ニ於キマシテモ矢張リ全ク
同樣ノ考ヲ持ッテ居ルノデゴザイマス、然ルニ三十五六ノマダ年ノ若イ、經驗
ノ寧ロ漸ク熟シタ位ナ者ヲ既ニ老朽ト看做シテ之ヲ淘汰シ、學校出タテノ者
ヲ之ニ代ヘムトスルガ如キコトノアルノハドウ云フモノデアルカト云フノ
ガ、今井君ノ御尋ノ要點デアッタト思フ此點ニ付キマシテハ、私ハ左樣ナ事
實ヲ餘リ聞イテ居ラヌノデアリマス、三十五六歲ト申シマスレバ、マダ誠ニ
働キ盛リ、學校ヲ出マシテマダサウ長イ年ヲ經テ居ルト云フ譯デモアリマセ
ヌ、漸ク職務ニ練熟ヲ致シマシテ、人格モ漸ク備ハラムトスル所デアリマス
カラ、斯樣ナル年齡ノ〓員ヲ惜氣モナク排斥スルト云フガ如キコトハ、是ハ
餘リ常識ニ反シタコトデ、私ハ信用イタシ兼ネルノデアリマスガ、併シ此小
學校〓員ノ中ニハ、地方ニ於テ刺戟ノ最モ少イ位置ニ就イテ居ルノデアリマ
スカラ、動モスルト、年若ク致シテ所謂若朽ニ陷リマス、從テ勉强モ致シマ
セズ、或ハ職務ニ精勵ヲ致サヌヤウナモノガ往々アリマス、是ガ或ハ排斥ヲ
受ケルヤウナコトニ至ルノデハナイカト思フノデアリマス、斯樣ナ事實ハ私
モ往々見聞ヲ致シテ居ルノデアリマス、ソレ故ニ其弊ヲ矯正スルト云フコト
ヲ主眼ト致シマシテ、今囘ノ師範〓育改善ニ於テハ專攻科ヲ設ケマシテ、此
專攻科ニハ現ニ在職シテ居ル所ノ〓員ヲ收容イタシテ、一箇年〓育ヲ施シテ、
再ビ之ヲ町村ニ戾シテヤルト云フ制度ヲ設ケルコトニ致シタノデアリマス、
尙ホ其以上ニ今年ノ豫算ニ計上イタシテ居リマスルガ、各府縣ノ師範學校ニ
於キマシテ長期ノ講習ヲ設ケルコトニ致シタノデアリマス、從來ノ講習ト申
シマスルト、多クハ一週間トカ十日ト云フ短時日ノ講習デアリマス、是デモ
決シテ無益デハアリマセヌガ、何分效果ガ薄イモノデアリマスカラ、今囘各
師範學校ニ、少クトモ三箇月以上ノ講習科ヲ置キマシテ、繰返シ講習ヲ致シ
マシテ、町村ニ出テ居リマスル所ノ〓員ハ、此處ニ於テ更ニ新ラシクシテ行
カウ、サウ云フ組織ヲ設ケルコトニ致シタノデアリマス、斯樣ニ致シマスレ
バ、地方ニ出テ居ル〓員ハ老朽ニ陷ルト云フコトヲ免レマシテ、絕エズ新知
識ヲ得テ、時代ト共ニ進ンデ參ルコトガ出來マスカラ、年ノ若イノニ町村ニ
於テ之ヲ排斥スルナント云フコトハ、免レルコトガ出來ヤウカト思フ、斯樣
ニ致シテ六十マデモ七十マデモ其職ニ從事シテ居ルト云フコトハ最モ望マ
シイコトデ、又最モ完全ナル〓育ヲ施シ得ルコトガ出來ルト考ヘマス、尙ホ
唯今今井君ノ御述べニナリマシタヤウナ事實ハ、私ハ聞イテ居リマセヌケレ
ドモ、能ク調查イタシテ見ヤウト存ジテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=87
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088・今井五介
○今井五介君 唯今文務大臣ノ御答ニ依リマシテ、師範〓育ノ上ニ深甚ノ御
注意ヲ拂ハレテ居ルト云フコトハ、國民ヲ通ジテ感謝スルノデアリマス、先
刻申土ゲタ三十七歲ト云フコトハ平均デアリマス、中ニハ或ハ四十五歲、或
ハ五十歲ト云フノモアリマセウガ、是ハ年齡ニ依ヲテ詳シク調查ヲ致シタノ
デアリマス、或ル縣ニ於テ平均ガ三十七歲ト云フコトデ、就職〓員ノ年齡三十
七歲、斯ウ云フコトヲ申上ゲタノデアリマシテ、先刻、三十七歲ニナルト皆
淘汰サレルト云フコトデハナイト云フコトヲ御了承ヲ願ヒマス、私ハ是デ終
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=88
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089・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ豫算案ニ付テノ討議ニ移リマス、通告順ニ
依リマシテ、永田秀次郞君ニ發言ヲ許シマス
〔永田秀次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=89
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090・永田秀次郎
○永田秀次郞君 本員ハ唯今問題ニ上ボッテ居リマスル總豫算ニ付キマシテ、
其大體ニ於テ何等異議ハ無イノデアリマス、併ナガラ、唯一ツ郡役所ノ廢止
問題ニ關シマシテハ、我〓地方ニ種々ノ經驗ヲ有ノテ居ル者ノ眼カラ致シマ
シテ、不幸ニシテ政府ト所見ヲ異ニスル所ガアリマスルノデ、此豫算案ノ決
定ニ當リマシテ、成ルベク簡潔ニ其意見ヲ申述ベタイト思フノデアリマス、
郡役所廢止ノ問題ハ、經費ト致シマシテハ、誠ニ數十万ノ僅少ナルモノデア
リマスケレドモ、地方行政機關ノ改廢デアリマシテ、其影響スル所、誠ニ重
大·デアリマス、從テ當議會ニ於キマシテハ、最モ贊否兩方ノ種々ノ意見ガ交
換サレタノデアリマス、我〓ノ考ヲ以テ致シマスレバ、現在ノ狀況ニ於テ郡
役所ヲ如何ニスベキカト云フコトハ、此交通機關ノ發達ニ伴ッテ、凡ソ之ヲ二
分ノ一位ニ併合スルガ最モ適當シタモノデアルト考ヘテ居ルノデアリマス、
此事ハ從來、內務行政ニ關係シテ居リマスル內務當局者、又地方長官等ヲ致
シテ居リマスル者ノ間ニ於テ、殆ド全ク一致シタル所ノ意見デアルノデアリ
マリ、所デ此郡役所併合ト云フコトヲ事實ニ行ハウトスルニ當リマシテハ、
地方ノ利害關係ガ餘リニ切實デアリマス爲ニ、種々ノ問題ヲ生ジテナカ〓〓
之ヲ實行イタシニクイ、ソレデ、ドウモ郡役所ノ併合ハムヅカシイカラシテ、
郡役所問題ニ手ヲ觸ルルナラバ、現在ノ儘ニシテ置クカ、或ハ全然之ヲ廢止
スルノ外ニ仕方ガナイ、斯ウ云フコトヲ能ク聞クノデアリマシテ、遂ニ此郡
役所併合ヲ可ナリト考ヘル考ヘ方ガ、實施上ニ於テノ困難ノ爲ニ、到頭廢止
スルヤウナコトニナッテ現ハレテ居ルノデアリマス、此狀況ト云フモノハ
丁度全ク議論倒レヲシタヤウナ感ジガスルノデアリマシテ、我〓ハ東京都制
案ノコトニ付テ、其例ヲ······是ニ能ク似タ例ヲ見ルノデアリマスガ、卽チ東
京市ノ區域ヲドウ決メルト云フコトニ付テ、隣接町村ヲ入レルト云フ議論ヲ
スレバ、ソレデハ足ラヌカラ十哩半徑内ノ町村ヲ入レルト云フ意見モ出、更
ニ其次ニハ隣接五郡ヲ入レルト云フコトヲ言ヒ出ス、ソレデモ、マダ三多摩
ガ承知ヲシナイ、到頭、此都制案ノ區域ヲ決メルナラバ現在ノ儘カ、或ハ小
笠原諸島ヲ入レルカ、現在ノ儘カ、小笠原諸島カト云フコトニ、東京都制案
ノ區域問題ガナッテ來ル、此郡役所問題ニ付テモ、現在ノ儘カ、廢止スルカ、
斯ウ云フヤウナコトニナッテ來タト云フコトヲ對照シテ考ヘルト、自己ノ心
中ニ確信ナクシテ、人ノ言葉ニ聽イテ居リマスルト、遂ニ船ガ山ニ奔ルト云
フ例ニ漏レナイモノデアルト思フモノデアリマス、我〓ハ此郡役所ノ廢止ヲ
決行スルト云フ政府ノ行動ヲ以テ、甚シク輕率ナル行動デアルト思フノデア
リマス、地方問題、地方ノ行政機關ト云フモノハ國民ノ實際生活ニ直面シ
テ居ルモノデアリマシテ、是ガ改廢ハ實ニ國民ノ直接ノ便利利害ニ關係スル
ノデアリマス、從テ餘程愼重ナル〓究ヲ遂ゲ、サウシテ熟慮ニ熟慮ヲ重ネタ
上ニ之ヲ爲サナケレバナラヌノデアリマス、然ルニ政府ノ今囘之ヲ廢止シヤ
ウト云フコトニ付テハ、唯單ニ郡制ガ廢止サレタカラシテ、法令ノ上カラ見
テ郡役所ノ仕事ガ段々減テテタタ、ソレデ之ヲ廢止スルノダト云フヤウニ、簡
單ニ申シテ居リマス、併ナガラ我〓ハ疑フノハ、ソレヲ廢止スルト云フ所ノ
本當ノ原因ト云フモノハ、矢張リ近頃開ク所ノ全國町村長會議ト云フモノノ
決議ガ、眞實政府ノ心ヲ動カシタノデナイカト云フコトヲ疑ハザルヲ得ヌノ
デ·アリマス、デ此事ニ付テ、此町村長會ノコトヲ免ヤ角申スノデハアリマセ
ヌケレドモ、事實ハ一万二千ノ町村長ノ中デ、昨年ノ如キハ百五十七人ノ者
ガ集マッテ郡役所廢止ヲ決議シタ、卽チ百分ノ一强ノ人ガ集マッテ協議ヲシタ
ノデアル、是ガ果シテ全國ノ町村長全部ノ意見デアルカト云フコトニ付テ、
我〓ハ多少ノ疑ヲ持ッテ居ルノデアリマス、現ニ我〓ノ所ニモ町村長ニシテ反
對ノ意見ヲ申シテ來タ者モアリマスルシ······
〔副議長侯爵蜂須賀正詔君議長席ニ著ク〕
又我〓同僚ガ或縣ニ就イテ調ベタ所ニ依リマスルト、三百五十ノ町村ノ中デ
二百七十マデハ郡役所ノ廢止ニ反對デアルト云フコトマデ調ベタ者ガアルノ
デアリマス、是ハ或縣ノ一例デアリマスルガ、是等ノ實狀カラ考ヘマシテモ、
町村長會議ノ意見ハ、如何ニシテモ全國町村長ノ全部ノ意見デアルトハ我〓
ハ考ヘラレヌノデアリマス、今假ニ是ガ全國町村長ノ意見デアルト致シマシ
テモ、町村長ノ意見ハ必シモ町村民ノ意見デアルト考へ難イノデアリマス、
譬ヘバ、是等ノ人ハ、町村全體、町村民全體ヲ代表シタ者デアリマセヌカラ、
恰モ議院ニ於テ歲費增加ノ問題ガ起ッテモ、是ガ果シテ國民ノ全體ノ希望デア
ルカ、意思デアルカト云フコトハ、遽カニ斷定ノ出來マセヌノト同ジヤウナ
關係ニ在ルモノダラウト思フノデアリマス、ソレデ斯ウ云フヤウナ都合デア
リマスノミナラズ、更ニ地方長官······殊ニ此事ニ直接ノ關係アル所ノ地方長
官ノ意見ヲ見マシテモ、三府四十三縣一道廳ノ中デ、廢止ニ贊成ノ者ハ僅ニ
三人デアッテ、其他ノ四十四名ト云フモノハ皆反對デアルト云フコトハ、明カ
ナ事實デアルヤウニ思フ、然ルニ現內閣ニ於テハ、曩ニ地方官會議ノ時ニ、
地方長官ニ對シテ、郡役所廢止ノ問題ニ付テハ、廢止ヲ政府ハ決心シテ居ル
カラシテ、廢止シタ後ノ善後策ニ付テ意見ヲ述ベロト云フコトヲ聽カレタサ
ウデアリマス、デサウ云フ風ニシテ、地方長官ニ意見ヲ述ベシメルコトノ出
來ナイヤウナ狀態ニ置イテ、サウシテ此問題ヲ解決シヤウトサルルノハ、甚
ダ此重大ナル問題ヲ取扱フコトニ於テ、愼重ナル態度ヲ缺イテ居リハセヌカ、
斯ウ云フ感ヲ懷カザルヲ得ヌノデアリマス、之ヲ內務大臣ニ質シマスルト、
ソレハ何事モ十分ニ述ベロト云フコトデ、十分ニ其意見ヲ述ベル自由ヲ與ヘ
タ斯ウ仰シヤルノデアリマス、成程御前方ハ十分ニ意見ヲ述べロトハ言ッ
タデハアリマセウケレドモ、第一ノ前置キガ、政府ハ既ニ決心ヲシテ居ルカ
ラシテ、善後策ニ付テ意見ヲ聽クノダト言ッタ以上ハ、現今ノ官吏ノ氣風ト致
シマシテ、ソレヲ十分ナ意見ガ皆ガ言ヘルモノデアルカ、言ヒ難イモノデア
ルカト云フコトハ、凡ソ常識ヨリ相當ノ判斷ガ出來ルモノデアラウト思フノ
デアリマス、斯ウ云フヤウナ狀態ニ於テ郡役所廢止ハ殆ド天下ノ聲ノ如クニ
考ヘテ、之ヲ決行スルヤウニ至ッタト云フコトニ付テ、私ハ第一ニ政府ガ甚
ダ輕卒ナ行動ヲ致シタモノデアルト云フコトヲ申上ゲタイノデアリマス、第
二ニハ、郡役所ノ廢止ト云フコトハ是ハ必ズ行政ノ運用上ニ不便ヲ來スモ
ノデアルト確信スルノデアリマス、凡ソ物ノ大キサニハ程度ガアリマス、餘
リ大キ過ギテモイケナイ餘リ小サ過ギテモイケナイ、斯ウ云フモノデアリマ
シテ、現在一万二千ノ町村各府縣ニ於テ、地方長官會議ニ於テ政府ガ訓示ヲ
サルルト云フト、其地方長官ガ、五十名以下ノ者ガ集マッテ訓示ヲ聽クサ
ウシテソレガ自分ノ縣ニ歸ッテ、郡市長ヲ集メテ訓示ヲスル、凡ソ是位ノ數デ
アレバ、シンミリト打チ解ケテ話モ出來ルシ、又落著イタ考デ研究モ出來マ
ス、然ルニ玆ニ郡役所ヲ廢止シマシタ後ニハ此郡長ガ無クナッテ、各府縣知
事ハ直チニ町村長ニ此事ヲ申シ傳ヘナケレバナラヌ、サウ云フ時分ニ、大體
各府縣ノ町村ハ二百乃至五百位モゴザイマスルガ、平均三百ト假定イタシマ
シテモ、三百ノ町村長ヲ集メテ知事ガ訓示ヲスルト云フコトハ、全ク事實上
政談演說會ノ如キ光景ヲ呈シテ、決シテシンミリトシタ訓示トカ法令ノ〓
究トカ、善後策トカ云フヤウナコトノ相談ニハナリ難イモノデアラウト思ヒ
やっ、之ヲ內務大臣ニ質シマスルト、ソレハ各府縣ニ於テ町村長會議ヲ召集
スルコトモアルシ、又町村長全部ヲ呼バナイ時分ニハ二郡乃至三郡ヲ一纒
メニシテ、其處ニハ郡役所ヲ廢止シテモ建物ハ殘ヲテ居ルカラ、其處ニ集メテ
事務官ヲ派遣シテ訓示ヲサスノダト云フ御話デアリマシタ、斯ウ云フコトヲ
致ス必要ガアルト云フノハ卽チ物ノ大キサニモ凡ソ程度ガアルト云フコト
ヲ示スモノデアッテ、且ツ二郡乃至三郡ヲ集メテヤル方ガ最モ適當デアルト云
フコトハ、卽チ取リモ直サズ、郡役所ハ併合スルコトヲ以テ最モ適當トシ、
之ヲ廢止スルコトヲ以テ甚ダ不便ナリト云フコトヲ裏書スルモノト思フノデ
アリマス、我〓ハ此物ノ大小ニ付テ······元〓生レハ百姓デアリマスルカラシ
テ百姓ノ米俵ノコトニ付テ考ヘテ見マスルト、一俵ガ四斗入ニナッテ居リ
マスガ、此四斗ト云フモノハ、人ガ取扱フニ便利ナ爲ニ斯ウ云フ風ニ出來テ居
ル若シ之ヲ五石俵トカ十石俵トカ云フモノヲ拵ヘマスルト、甚ダ取扱ニ不
便デアリマス、況シテ此俵ハシッカリト中繩ヲ締メテ置カナイト云フト、梅
雨ヲ越シマスト蟲ガ附キマス、物ヲ餘リニ大キクシタ儘ニシテ其締括リガ緩
ムト云フト蟲ガ附ク、此府縣知事ガ直接ニ二百乃至三百ノ町村ヲ直接ニ其
儘ニ監督シヤウ、其儘ニ之ヲ指導シテ行カウト云フコトハ、恰モ五石俵十石
俵ヲ拵ヘテ中繩ノ緩ンダト云フヤウナモノデアッテ、何處カニ蟲ガ生ズルト云
フヤウナ危險ガアリハセヌカ、卽チ實際ノ我〓ノ取扱ニ於テ、郡ヲ廢止スル
ト云フコトハ行政ノ運用上、又法令ノ徹底上、極メテ不便不利ナルモノデ
アルト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、第三ニ、郡役所廢止ト云フコトハ
地方ノ實際生活ニ甚ダ不便ヲ來シ、地方ノ發達ヲ阻害スルト考ヘルノデアリ
マス、御承知ノ通リ現在ノ郡ト云フモノハ、凡ソ一ツノ川ニ沿ウテ居ルトカ、
一ツノ山脈ノ間ニアルトカ、海岸ニ沿ウテ居ルトカ云フヤウナ工合ニ、自ラ
山川ノ狀況ガ一地域ヲ成シテ居ルノデアリマス、從テ生活ノ狀態モ先ヅ似寄。ツ
テ居ル、サウ云フ利害關係モ凡ソ共通シテ居ル、ソレデアリマスカラシテ、
何事ガアッテモ、其一ツノ郡ヲ單位ト致シマシテ寄集マルト云フ必要ガアル、
交通問題、道路問題ニ致シマシテモ、或ハ〓育デ中學校ヲ拵ヘルト云フ問題
ニシマシテモ、勸業ノ問題ニシマシテモ、サウデアル、法令ノ研究ヲスルト
カ、事務ノ打合セヲスルトカ云ノテ、凡ソ其一ツノ區域ヲ成シテ集マリ易イ、
又狀況ガ凡ソ似寄ッテ居ルト云フ者ガ、相集マッテ相談ヲスルト云フコトハ、
自ラ定マッタル必要ニ迫ッテ居ルノデアリマス、從テ斯カル種々ノ會合ヲ致シ
相談ヲスル時ニ、常ニ此郡役所ナルモノガアッテ、其中樞機關トシテ是ガ世話
ヲシテ來テ居ルノデアリマス、各種ノ會長、例ヘバ〓育會長トカ、或ハ靑年
團長トカ、農會長トカ、色〓ナ會長ハ、假令是ガ郡長ガ會長ヲシテ居ルト、
或ハ有力者ガ會長ヲシテ居ルトニ拘ラズ、郡役所ガ其內面ニ於テ有ラユル便
利ヲ圖リ、世話ヲシテ居ルト云フコトハ、世間周知ノ事實デアルノデ、從テ
郡役所ノ存在ト云フモノハ、其地方ニ取ッテ極メテ便利デアリマス、假令之ヲ
廢止シマシテモ、今度ドウシテモ、サウ云フ機關ガ必要デアル、私設ノ郡役所
ニ類似シタヤウナモノデモ、事實出來ハセヌカ又出來ナケレバ郡役所ヲ廢
メタカラト云ッテ、其地方ノ會合ヲ止メル譯ニイカヌ、其一地域ヲ成セル所ノ
利害ヲ代表スル相談ヲ止メル譯ニイカヌドウシテモソレ位ノ地域ヲ一單位
トシテ、相寄ッテ相談スルト云フコトハ、地方生活上免ルベカラザル情勢ニ在
ルノデアリマス、從テ郡役所ヲ廢止シマシテモ、之ニ代ルベキ機關ノ必要ガ
アル、何ヲ苦ンデ今日此必要ナル便利ナル機關ヲ廢メヤウトスルノデアルカ、
徒ラニ地方ノ者ガ自ラ苦シムノ結果ニ過ギナイ、斯ウ云フ風ニ思フノデアリ
やっ、第四ニ、我〓ハ郡役所廢止ト云フコトハ、却テ地方ノ事務ヲ澁滯セシ
ムルト云フコトヲ考ヘルノデアリマス、是ハ御承知ノ通リニ、今ハ三次監督
ニナッテ居リマスガ、三次監督ヲ二次監督ニスレバ、事務ガ簡㨗ニナル、斯ウ
云フノハ成程ナリサウニ思フノデス、更ニ進ンデ二次監督ヲ一次監督ニスレ
バ、事務ガ益、簡捷ニナリマセウ、内務省ノ次ニ直チニ各市町村、一万二千ノ
市町村ト云フコトニスレバ、一層簡潔ニナリマセウ、ソレハ議論デアル、併
シソレハ簡潔ニナリサウデアッテ、サウシテ事實簡潔ニナラナイ、益、紛亂狀
態ヲ來スモノデアリマス、現在ノ町村ノ實情ハ、誰シモ知ッテ居ル通リニ、中
中負擔ガ重クテ澤山ノ金ハ出セヌカラ、町村ノ吏員ト云フモノノ俸給ハ平
均三十五圓デアルガ、三十五圓デ優良ナル者ヲ得ルト云フヤウナコトハ無
論ムヅカシイ、ソレデアリマスカラシテ、成ルダケ町村吏員ヲ少クシテ居ル、
然ルニ近頃ノ實情ハ、町村ニ對シテ各中央政府カラシテ、樣〓ノコトヲ言ウ
テ來ル、サウシテ法律ハ每年雨ノ如ク降リ來ッテ、其降ルコトガ實ニ頻繁デア
ル、餘程頭ノ良イ者デモ其法律ヲ能ク咀嚼シテ居ルト云フコトハ中〓出來
ナイノデアル、ソレデアリマスカラシテ、各地方ノ實情ハ、何カ法令ノ改廢
其他ノ手續ガ分ラナイ時分ニハ町村ノ吏員ガ自轉車デ郡役所ニ駈ケ付ケル、
サウシテ郡役所ノ吏員ノ中デ、勸業ノ主任トカ或ハ兵事ノ主任トカ云フ者ニ
手續ヲ聽イテ、又自轉車デ戾ッテ來テ半日デ用ヲ足シテ、分ラナケレバ又出掛
ケテ行クト言フヤウナ工合ニシテ、サウシテ極メテ少ナイ町村吏員デ事務ヲ
ヤッテ居ルノデアル、然ルニ今郡役所ヲ廢シテ、極メテ便利ナル所ノ共同相談
所ヲ廢止シ、極メテ深切ナル所ノ顧問所······顧問ヲ廢止シテシマッテ、サウシ
テ直ニ町村カラ府縣ノ方ニ物ヲ出スト云フヤウナコトニナリマスト云フト
中〓ソレガ事務ガ簡捷デアリサウデアッテ、中〓簡捷ニイカナイ、今日種々事
務上ニ於キマシテ認可、許可ヲ要スルモノノ書類ナンカヲ見マスト云フト、
各書類ニ附箋ガ附イテ、恰モ繩暖簾ノ如クニ附箋ガ書類ニ附イテ居ルノヲ
屢〓見受ケル、是等ノ實情ヲ知ッテ居ル者ハ、郡役所ヲ廢止シタラバ繩暖簾ガ
益〓加ハルニ違ヒナイ、斯ウ云フコトヲシテ、サウシテ郡役所ガ無クナレバ、
三次監督ガ二次監督ニナルカラ事務ガ簡捷ニ行クダラウト云フコトハ、全ク
机ノ上ノ空論デアル、決シテ事實事務ノ簡捷ガ理論上行クベクシテ實際ハ行
カヌ、斯ウ云フ風ニ我〓ハ思フノデアリマス、第五ニハ、郡役所ヲ廢止シマ
スレバ經費ガ減ルト云ヒマスルコトニ付テ、我〓ハ却テ經費ヲ增加シ國民ノ
負擔ヲ增スト云フ所ノ確信ヲ持ッテ居ル、郡役所ヲ廢止スレバ、國費ニ於テ五
十万圓程減ル、是ハ確ニ減リマセウ、又府縣費ニ付テ五百万圓程減ル、是モ
或ル程度マデ凡ソ此位減リマセウ、併シ減ルコトバカリヲ政府ハ言フガ、殖
エルベキモノヲ言ハナイノデアル、之ニ反シテ町村費ハ必ズ增加スルコトハ、
火ヲ睹ルヨリモ明カデアル、今ノ狀態ニ於テ郡役所ヲ廢止シテ、町村ノ事務
ニ付テ餘リニ澁滯ヲ來サナイヤウニ致サウト思ヒマスレバ勢ヒ町村ニ少ク
トモ一人位ノ吏員ヲ增サナケレバナラヌ、之ヲ三十五圓ノ平均ニシマシテ、
全國デ五百万圓以上ノ金ガ掛カル、又唯今ハ自轉車デ郡役所ニ通ウテ濟ンデ
居ルヤウナ事務ノ打合セヲ、郡外出張トシテ多額ノ金ヲ取ッテ、懸廳マデ參ッ
テ打合セヲスルト云フコトニナレバ、恐ラク其旅費ト云フモノハドンナニ
少ナク見積フテモ、各府縣ニ於テ五百万圓ヤ六百万圓ノ增加ハ明カニアルト斯
ウ思フノデアリマス、卽チ國費府縣費ニ於テ減リマスルガ、町村費ニ於テ驚
クベキ程增加スルノデアル、然ルニ政府ハ、町村費ノ方ノ增加ヲ言ハズシテ、
國費、府縣費ノ減少ノミヲ言フ、恰モ算盤ヲ知ラナイ者ガ鮨屋ヲ始メテ、米
ノ價ヲ引カナイデ、儲カッタ儲カッタト言ウテ居ルヤウナモノデアル、儲カツ
タヤウニ見エテ居ッテモエライ損ヲシテ居ルノデアル、斯ウ云フヤウナ實情
ノアルモノデアッテ、必ズヤ郡役所ヲ廢止スレバ國民全體ノ負擔ハ著シク增加
スルモノデアルト、私ハ確信シマス、第六トシテ、郡役所ノ廢止ニハ種々ノ
弊害ガ伴フト思ヒマス、其種々ノ弊害ノ中デ、我〓ノ最モ憂慮ニ堪ヘザルコト
ガ二ツアル、其一ツハ、小學校〓員ノ地位ノ不安定ヲ來スコトデアリマス、
現今ノ小學校ノ〓員ノ任免ト云フモノハ、校長ガ申立テ、サウシテ郡視學ガ
之ヲ能ク見テ、凡ソ決定ヲシテ、ソレヲ更ニ知事ニ申立テルノデアリマスル
ガ、今度ハドウナルカト云ヘバ、ソレハ校長ノ任免ノコトハ、縣視學ノ方デ
見サセテ、知事ガ直接ニヤル、他ノ〓員ノコトハ校長ニ云ッテ來サス、サウシ
テ校長ニ云フテ來サスト公平デアルト、內務大臣ハ考ヘテ居ラレルカ知ラヌ
ガ、能ク其實狀ヲ探ッテ見レバ、校長ニ依ッテ、······内申權ガ校長ニアルト云
フコトガ分リマスルト云フト、地方ノ有力者其他ハ必ヤ校長ヲ虐メマス、ソ
レハ明カニ虐メルト思ヒマス、現在デモ此事柄ニ付テハ、郡視學ハ憎マレ者デ
ス、郡視學ハ色〓ノ弊害ガアルト云フコトヲ私ハ能ク知ッテ居リマスガ、大體
ニ於テ郡視學ナルモノハ、〓育上非常ニ必要ナ機關デアッタノデアリマス、是
ガ居ラナクナレ、バ必ヤ小學校長ニ非常ナル鋒先ガ向イテ來ルノデ、現在ノ
郡視學ハ地方ノ有力者カラ〓員ノ運動ヲ受ケルコトヲ嫌ッテ、有力者ニ會ハナ
イヤウニ、會ハナイヤウニシテ逃ゲ廻フテ居ルト云フ狀況ヲ、到ル所ニ我〓ハ
見受ケルノデ、サウ云フ現在ノ狀態ニ居ルノデアルガ、之ヲ罷メテ仕舞ウテ、
郡役所ト云フ機關ヲ廢止スルト、小學校長ハ必ヤ地方ノ有力者カラ色〓ノコ
トヲ言ハレテ、惡イ〓員ヲ使ヘト云フ、又惡イ〓員ヲ淘汰シヤウト言ヘバ、
ソレヲ防止スル奴ガ出來テ、馘ルコトモ出來ナイ、結局、一〓員ニ一有力者
ト云フヤウナ關係ガ生ジテ來ヤセヌカ、此點ハ實際憂慮ニ堪ヘヌト考ヘルノ
デアル、之ヲ縣廳ニ居ル縣ノ視學ノ中デ、斯ウ云フコトノ內情マデ分ッテ監
督ガ出來ルカト云フコトハ、ナカ〓〓困難ナコトデアルト思ヒマス、是ガ我
我ノ最モ憂慮スル弊害ノ一ツ、今一ツ憂慮スベキ弊害ト思フノハ、知事ノ耳
目トシテ今日ハ郡長ト警察署長トガ居ルノデアル、然ルニ今後ハ郡長ハ罷メ
テシマッテ警察署長バカリニナル、色〓ナコトヲ自然ニ警察署長ヲ通ジテ聽ク
トカ、或ハ警察署長ヲ通ジテ色〓ナコトヲ言ハスト云フコトガ、自然ニ是ハ
起ッテ來サウナコトデアルト思フ、此事ニ付テハ色〓ナ弊害ヲ生ズルコトト
私ハ思フ、今日、現ニ兵事ノコトヲ警察署ヲ通ジテヤラシメルト云フ、此事
ハヤレサウニアル、我〓モマア大體警察ニヤラセレバ、先ヅ兵事位ガ適當カ
トハ思ヒマス、併シ是トテモ種々ノ弊害ガ起キテ、入營スルヤウナ者ニ對シ
テ、「サーベル」ヲガチヤ〓〓云ハセタバカリデハ、入營スル者ノ心持ガ和ラ
イデ、サウシテ樂ンデ入營スルヤウナ風ニナリ惡イモノダラウト思フ、此處
ニ郡役所ガアッテ温情ヲ以テヤル、又向ウモ打解ケルト云フヤウナコトデヤッ
テ行ケルノデ、初メテ兵事ノコトハ旨ク行ク、ソレデ是ハ矢張リ警察ヨリモ
郡役所ノ方ガ宜イ、郡役所ガ廢メニナッタカラ巳ムヲ得ズ、警察ニヤラスト云
フノデアルガマア兵事ニ付テモサウ思ヒマスガ、其他色〓ナコトヲ郡役所
ヲナクシテシマッテ警察ヲ使フト云フト、必ヤ色〓ノ面倒ガ起リ、弊害ガ生ズ
ルト云フコトヲ心配スル、此事ガ、我〓ノ如ク警察ニ經驗ノアルモノカラ言
ハセルト云フト警察ニ取ヲテモ甚ダ迷惑デアル、警察ノ當然ノ仕事デナイコ
トヲ、色〓ナ事ヲ調ベサストカ、色〓ナ事ニ使ハレル、助長行政ニ使ハレル
ト云フコトハ警察ニ取ッテ甚ダ迷惑デアル、斯ウ云フコトヲヤッテ居ルト、警
察ノ當然ノ職務ヲ嚴格ニ執行スルコトニ對シテ、種々ノ故障ヲ來スコトデア
ルト思フ、デ、私ノ弊害トシテ最モ大キイ弊害ト思フコトハ、小學校〓員ノ地
位ノ不安定ニナルコトト、警察署ノヤリ方ニ付テノ間違ガ起ッテ來ヤセヌカ
ト云フコトヲマア考ヘルノデアリマス、先ヅ大要、斯ウ云フヤウナ六ツノ理
由ガ、我〓ノ郡役所廢止ニ反對スル所以デアリマス、政府ハ之ニ對シテ、郡
役所ヲ廢止スレバ自治權ガ擴張スルンダト云フコトヲ言ヒマスガ、是ハ少シ
ク見當違ヒデアルト思フノデス、自治權ト云フモノハ町村ノ權限ヲ擴張スレ
バ宜イノデアル、サウシテ町村ノ監督ヲ減ズレバ宜イノデアル、郡役所ガアッ
テモ町村ノ權限ハ擴張出來ル、町村ノ權限ヲ擴張シ監督ヲ減ラセバ、自然ニ
自治權ノ擴張ニナル、然ルニ郡長ガ罷メテモ事務官ガ半數程居ッテ、縣廳カラ
行ッテ、郡長ノヤウナ生溫イヤウナコトデナクシテ、ヒシピシト監督ヲスルト
云フコトデアル、ソレデアレバ、ドウ云フ風ニ自治權ガ擴張サレルノデアル
カ、我〓ハ疑ナキヲ得ヌ、又郡役所ガアレバ自治權ガドウ云フ風ニ侵害サレ
ルノデアルカ、我〓ハ疑ナキヲ得ヌノデアル、畢竟、郡役所ガアッテ自治權
ガ迫害サレルヤウニ思フノハ、是ハ役人ヲ嫌フ昔ノ習慣、昔ハ民權トカ云ウ
テ、民權論ノ盛ナ時分ニ役人ヲ嫌ウタガ、斯ウ云フ心持ノ發露ニ過ギナイノ
デナイカ、時代ガ違ッテ居ルト思フ、今日甚ダ人ノ名前ヲ申シテ失禮デアリマ
スガ、野田卯太郞君ガ度〓大臣ニナッタリ、安達謙藏君モ現ニ大臣ニ居ラレ
ル、斯ウ云フヤウナ方〓ハ誰ガ見テモ生粹ノ民間ノ人デアル、役人官僚デハ
ナイ、斯ウ云フ人ガ役人ヲスル時代ニ於テ、何ガ故ニ此役人ガ居ルコトガ嫌ヒ
ナノデアルカ、ソレハ全ク昔ノ古イ舊式ノ考デアル、サウ云フ役人官吏デアツ
テモ、郡役所ノ官吏郡長ナドニ對シテモ、自分達ノ都合ノ宜イヤウニ相談シテ
行クト云フコトガ必要ナノデアル、サウ云フ氣持ガ必要デアルト思フ、今日、
郡役所ノ實狀ト云フモノハ郡長ハ官吏ト云フ名前ハアルケレドモチヨット
半官半民ノヤウナコトヲシテ居ルノデ色々町村ノ仲裁ヲシタリ、重大ナ事件
ノ世話役ヲシテ居ッテ、半官半民ノヤウナ地位ニアル、又郡書記ハ恰モ其土地
ニ生レタ······大抵ハ其土地ニ生レタ者デアッテ、土地ノ事情ヲ知リ事務ニモ通
ジテ居ル、、サウシテ可ナリ財產ヲ持ッテ居ッテ、一方ノ方デ治メルト云フ地位ニ
在ルト共ニ、一方ニ於テハ又治メラレルト云フ地位ニモ居ル、治者ト被治者ノ
關係ヲ兼ネテ居ルノガ今ノ郡書記ガ多クハサウデアリ、斯ウ云フ工合ノ實狀
デアリマスルカラシテ、自ラ郡役所ト云フモノハ、官ト民トノ間ニ在ル所ノ
「バネ」ノヤウナ作用ヲシテ居ルノデアル、緩衝地帶ノヤウナ作用ヲシテ居ル
ノデアル、ソレデアルカラシテ、此「バネ」ト云フモノハ、上ノ方カラモ時トシ
テハ邪魔ニ思ハレ、下ノ方カラモ時トシテハ邪魔ニ思ハレマスケレドモ、其實
ハ非常ニ必要ナモノデアル、是ガ無クナッタナラバ、初メテ必要ダト云フコト
ガ分ルデセウ、併シ無クナッテ初メテ必要ダト云フコトガ分ルノデハ晩イ、今
能ク考ヘテ見レバ能ク分ル、デ、ソレヲ單ニ郡長ガ上ニ居ルノガ忌〓シイカラ、
先ヅ郡長ヲ罷メテシマヘ、其次ハ知事ヲ公選ニセヨ、ト云フヤウナコトヲ町村
長會議ガ決議シテ居リマスルガ、サウ云フコトヲ次〓ト聽イテ居ッタナラバ、
際限ガナクナリハセヌカ、要スルニ斯ウ云フコトニ付テ、今ノ郡役所ノ本當ノ
働キガドウ云フ風ニナッテ居ルカト云コトヲ、能ク之ヲ徹底シテ洞察シナケレ
バナラヌト思フノデアリマス、デ、私達ハ斯ノ如クニ考ヘマスルカラシテ、郡役
所廢止ト云フ事ニハドコマデモ反對シタイ、斯ウ云フ考ヲ持ッテ居ル者ト致シ
マシテハ、此豫算案ニ對シマシテハ、道理トシテ此郡役所廢止ニ反對シ、サウシ
テ豫算ニ修正ヲ爲スベキ筈デアリマス、ソレデナケレバ筋ガ立チマセヌ、デ、
又是ガ或ル一部ノ人ノ言フ通リニ、是ハ衆議院ヲ通ッタモノデアルカラシテ、
兩院協議會ヲ開クノハ好マシクナイト······私モ是ハ好マシクナイト思ヒマス、
好マシクナイト思ヒマスルガ、國民ノ負擔ヲ第一トシタ事ニ付テハ、衆議院
ノ意思ヲ尊重スルノガ政治道德上然ルベシト思ヒマスルガ、此問題ノ如ク國
民ノ負擔トスレバ四十万圓カソコラノ僅カナモノデアッテ、實質ハ制度ノ改廢
ニナルト云フ問題デアリマスルカラ、斯ウ云フ問題ニ於テコソ貴族院ハ貴族
院本然ノ機能ヲ發揮スルノガ寧ロ當然デハナイカ、、斯ウ云フ風ニ考ヘテ、甚ダ
ドウモ心苦シク考ヘタノデアリマス、何ガ爲ニ兩院ノ存在ガ必要デアルカト
云フヤウナコト迄考ヘシメラレタノデアリマス、併シ斯ウ云フ考ヲ持ッテ居ル
ニ拘ハラズ、又全體ノ意嚮ガ、此郡役所廢止ハ、サウ云フ理由ニ依ッテ兩院協議
會ヲ開カネバナラヌト云フコトガ、豫算不成立ヲ招クヤウニナリハセヌカト
云フコトヲ、餘程憂慮サレル方ガ多イノデ、斯ウ云フ風デアリマスト云フト、
我〓ノ態度ハ如何ニスベキカ、自ラ潔クシテ一人デモ二人デモ此案ニ飽クマ
デ反對ヲシテ、削減ヲスルヤウニ、單ニ自ラ潔クスルノデアレバ、餘リ苦勞ガ
要ラヌノデアリマス、併シ自ラ潔ク致シマシタ所デ、郡役所ハ結局廢止セラレ
テ、後トハ甚ダ皆ガ不便デアルト云フヤウナコトハ我〓トシテ誠ニ恐ビ惡
クイ、ソレデ何ントカ郡役所ノ廢止ガ已ムヲ得ナイトスルナラバ、之ニ對ス
ル善後策ヲ何ントカ考ヘタナラバ宜カラウト云フヤウナコトカラシテ、先刻
豫算委員長ガ申述ベラレマシタヤウナ附帶決議ヲスルコトニナッタノデアリ
マス、私モ亦附帶決議ニハ······我〓ノ意思ニハ副ハナイコトデアルケレドモ、
無イヨリハ有ル方ガ宜イ、又成ルタケ此附帶決議ヲシテ有意義ナラシメタイ、
之ニ付テハ旣ニ總理大臣カラモ言明サレル所ガアッタノデ、我〓ハ此附帶決議
ヲ成ルタケ廣義ニ解釋ヲシ、サウシテ地方ノ不便ナル土地ニハ支廳ナリ出張
所ヲ置クト云フ風ニシテ······不便ト云フノハ地理的ノミナラズ有ユル點ニ於
テ不便ト思フ所ガアレバ置クト云フヤウナ風ニシテ行キタイ、サウスレバ假
令我〓ノ極メテ反對スル所ノ郡役所廢止ト云フコトガ實行サレテモ、或ハ幾
分カ其地方民ノ不便不利益ト云フコトガ減殺サレハセヌカト云フコトヲ期待
シテ、サウシテ甚ダ遺憾千萬デアルケレドモ、此豫算案ハ其儘ニ通シテ、サウ
シテ此希望決議ヲ通過セシメヤウ、斯ウ云フヤウナ次第ニナッタノデアリマ
ス、斯ノ如クシテ私共ハ實ニ滿々タル不平ヲ懷イテ、已ムヲ得ズ此豫算案ヲ
通過セシメ、サウシテ此附帶決議ニ對シテ誠ニ遺憾千萬ナル贊成ノ意ヲ表ス
ル者デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=90
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091・蜂須賀正韶
○副議長(侯爵蜂須賀正詔君) 休憩ヲ致シマシテ午後八時ヨリ開會イタシマス
午後六時二十七分休憩
보草冀市
午後八時二十二分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=91
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092・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲシテ報告ヲ致サセマス
〔長書記官朗讀〕
本日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
勞働爭議調停法案外一件特別委員會
委員長公爵二條厚基君副委員長鎌田榮吉君
暴力行爲等處罰ニ關スル法律案特別委員會
委員長西久保弘道君副委員長子爵板倉勝憲君
大正十三年法律第十號中改正法律案特別委員會
委員長子爵本多忠鋒君副委員長嘉納治五郞君
本日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
議院法中改正法律案否決報告書
勞働爭議調停法案可決報〓書
治安警察法中改正法律案可決報告書
暴力行爲等處罰ニ關スル法律案可決報告書
大正十三年法律第十號中改正法律案可決報告書
請願文書表第九囘報告書
勳四等鵜澤宇八君
本日貴族院議員ヲ免セラル
本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ伴フ損害ノ補償ニ關スル法律案
特別都市計畫法第五條ノ土地區劃整理ニ伴フ〓算金及補償金ニ關スル法
律案
本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ノ囘付ヲ受ケタリ
產業組合法中改正法律案
幸ぎ幸木発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=92
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093・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、坂本男爵ノ登壇ヲ望ミマ
ス
〔男爵坂本俊篤君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=93
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094・坂本俊篤
○男爵坂本俊篤君 本員ハ會期切迫ノ折柄、極メテ簡明ニ本員ノ所懷ヲ披瀝
イタシマシテ、本豫算案ニ贊成ノ意ヲ表白イタシタイト思ヒマス、大正十
五年度海軍省所管豫算中ニハ驅逐艦四隻三箇年繼續費トシテ二千六百餘万
圓ガ計上サレタノデアリマス、其規模ニ於テ、又其金額ニ於テ、比較的輕微
ノモノデアリマスルガ、併ナガラソレガ將來所謂補助艦建造計畫ナルモノニ
連ナル意味ニ於キマシテ、問題ノ重要味ハ玆ニ根ザスノデアリマス、然ラバ
補助艦計畫ナルモノハ如何カト申シマスルニ、卽チ巡洋艦四隻、驅逐艦二十
隻、潛水艦五隻、砲艦三隻、特務艦五隻、大正十五年度ヨリ大正十九年度ニ
亙ル五箇年繼續費三億二千五百餘万圓ナルモノガソレデアリマス、世上一部
ノ論者中ニハ今ヤ歐州ニ於キマシテハ「ロカルノ」條約新タニ成リ、軍備縮
小準備委員會サヘ近々開設サレムトスル日ニ於テ、斯樣ナ計畫ヲ立テルコト
却テ他國ノ軍備競爭ヲ挑發スル虞ナキカト申ス者モゴザイマスルガ、
應尤モナル說ノヤウニ聞エマスケレドモ、併シ是ハ世界列强海軍ノ形勢ヲ知
ラザル味者ノ言デアリマス、焉ゾ知ラム、我ハ疾ニ却テ彼等ヨリ挑發セラレ
ナガラ、關東ノ大震災ノ餘波其他財政上ノ困難ノ爲ニ、遺憾ナガラ彼等ノ挑
發ニ應ズルコト能ハズシテ、荏苒今日ニ至ッタノデアリマス、華府會議ヲ劃時
期ト致シマシテ、其以後新タニ計畫セルモノハ、米國ニアリマシテハ、巡洋
艦八隻、英國ニアリマシテハ、巡洋艦二十三隻、驅逐艦二十九隻、潛水艦二
十九隻ト云フ多數ヲ算スルノデアリマス、然ルニ帝國ニ至リマシテハ華府
會議以後ニ、巡洋艦ハオロカ、驅逐艦、潛水艦、一隻ダニ新計畫ト云フモノ
ハナイト云フ有樣デアルノデアリマス、又他ノ平和論者ハ、今ヤ武力競爭ノ
時代ハ去ッテ協調ノ時代トナッタ、所謂弓ハ袋ニ刀ハ鞘ニ兵氣茲ニ銷沈シテ世
ハ武陵桃源ノ平和〓ニモ近ヅキツツアルガ如ク考へル者モアリマスガ、是ハ
恰モ大河ノ表面ノ水流ノ平靜ナルヲ見マシテ、却テ其川床ニ激湍ノ暗流ノ潛
ンデ居ルコトニ氣付カザル、短見者ノ亞流デアルト存ジマス、其證據ニハ
歌洲國際政局ニ致シマシテモ、「ロカルノ」條約ガ締結サレタト云フノデ、ヤッ
ト近來ニナリマシテ軍備縮小ノ可能性ヲ說クニ至ルコト程左樣ニ、國際政局
ノ暗流ト申シマスルモノハ不安デアルト云フコトヲ、如實ニ語ルモノデハア
リマスマイカ、其「ロカルノ」條約ニ致シマシテモ、既ニ諸君ノ御承知ノ通リ、
先キニ常任理事國增加ノ問題ヨリ紛糾ヲ生ジマシテ、獨逸ノ聯盟ノ加入ノコ
トヲ決定スルコトガ出來マセズ、從テ獨逸ノ聯盟加入ヲ以テ效力發生ノ條件
ト致シマシタ所ノ「ロカルノ」條約ハ、當分其效力ヲ發生スルコトガ出來ナク
ナッタコトヲ見マシテモ、如何ニ列國間ノ競爭〓ノ熾烈ナルカト云フコトガ分
ルノデアリマス、諸君、歐洲大戰ノ結果、世界海軍ノ中心ハ、大西洋ヲ去ッテ
太平洋ニ移ッタノデアリマス、英ハ新嘉坡ノ海軍根據地ヲ新設イタシマシタ
シ、最近ニハ印度海軍ノ創設等、悉ク是英國海軍勢力ノ東漸ヲ語ルモノデア
リマス、米國ニ致シマシテハ、太平洋ニ精銳ノ艦隊ヲ集中イタシ、布哇海軍
根據地ノ擴張、是等ハ皆米國海軍勢力ノ西漸ヲ暗示スルモノデナクシテ何デ
アリマセウ、英ノ勢力ノ東漸、米ノ勢力ノ西漸、此二大勢力ノ遭遇點ノ西部
太平洋上ニ在ルベキコトハ、是ハ自然ノ趨勢デアリマス、此間ニ處シテ單リ
我國ハ、其現有勢力ヲ年ト共ニ衰殘ニ委セマシテ晏如タルコトガ、果シテ出
來ルデアリマセウカ、是レ今囘海軍省ガ補助艦建造計畫ノアル所以ト存ジマ
ス、此計畫ノ由來竝ニ今後ノ措置ニ對シマシテ、豫算總會竝ニ分科會ニ於キ
マシテ、海軍當局其他ニ付テ確メ得タ所ノモノヲ玆ニ要約イタシマスレバ、
第一ニ此計畫ナルモノハ、現有艦艇ガ其歲月ト共ニ衰朽イタシマシテ、戰鬪
力ヲ消磨シ、近ク戰線ニ立ツコト能ハザル所ノモノノ代艦トシテ、建造サレ
ル所ノモノデアリマシテ、決シテ海軍擴張ヲ意味シタモノデナイコトデアリ
マス、第二ニハ、此現有勢力ヲ維持セムト致シマスルニハ、今ヨリ大正十九
年ニ亙リ此計畫ヲ完成スルニアラザレバ、國防上ノ缺陷ヲ來スト云フコトデ
アリマス、第三ニハ現有勢力ヲ維持スルコトハ、國防上絕對必要ナルコト
ハ首相初メ閣僚一同ノ認メラレル所デアリマス、第四ニ此計畫ハ元來大
正十五年度ヨリ著手スベキ筈デアリタシタガ、財政上己ムコトヲ得ズ、之ヲ
十六年度ニ持越シマシテ、唯其一部タル所ノ驅逐艦四隻ノ建造ニ著手シテ、
僅ニ造艦工業能力ヲ維持シ得タルニ過ギザルノデアリマス、故ニ原計畫ノ殘
部ハ之ヲ明年度ニ實施スベク、極メテ堅キ決意ヲ財部海相ハ懷抱セラレルト
云フコトデアリマス、斯樣ニ煎ジ詰メテ參リマスルトキハ、唯、剩ス所ハ、其
財源ハ之ヲ如何ニスベキカト云フ一點ニ歸著スルノデアリマス此點ニ付キ
マシテハ本員ハ屢〓大藏大臣ニ向ヒマシテ質問ヲ試ミマシタケレドモ、濱口
藏相ハ此問題ハ次年度ノ豫算編成期ニ際シマシテ、其時期程度及四圍ノ狀
況等ヲ考慮セネバナラヌカラ、今日彼此レ言明スルノ限リデナイト、固ク執ツ
テ其言明ヲ避ケラレタノデアリマス、之ニ對シマシテ本員ハ曰ク、時期ハ大
正十九年度ヲ限ルコトニ於テ最早決マッテ居ル、又程度ハ巡洋艦以下大小艦艇
三十七隻ト云フコトニ於テ動カザルモノガアルノデアリマスカラ、斯カル明
白ナル「デタ」ノアル所ニ依リマシテ、之ニ依ッテ見込ヲ立テ得ザルト云フ筈ハ
ナイト追究ヲ致シマシタケレドモ、遂ニ濱口藏相ヨリ的確ナル御答辯ヲ得ル
コト能ハザリシハ、頗ル遺憾トスル所デアリマス、勿論藏相ノ立場トシテ、其
言責ノ重大ナルコトニ顧ミラレテ、言明ヲ避ケラレタト云フコトハ、是亦深
ク藏相ノ苦衷ヲ諒トスル所ノモノデアリマス、唯茲ニ最モ喜ブベキハ若槻
首相ヨリ、本計畫ノ遂行ニ關シテ肝腎ナル所ノ言明ヲ得タルコトデアリマ
ス、曰ク、現有勢力ノ維持ト云フガ如キ國防上大切ナル費途ニ對シテハ財
政ニ餘裕ノアル場合ハ勿論、之ナキ場合ニハ如何ヤウニモ工面シテ、之ガ調
達ヲ期セネバナラヌ、ト云フコトデアリマス、諸君現有勢力ノ維持、卽チ補
助艦建造計畫ハ、國防問題ヨリ今ヤ一轉シテ、其重心點ハ財政問題ニ移ラム
トシツツアルノデアリマス、而シテ我ガ財政ノ前途ハ、必シモ樂觀ヲ許スモ
ノデハアリマセヌ、海軍ノ既定計畫ノ遂行ニハ、尙ホ二億三千餘万圓ヲ剩ス
ノデアリマス、今次補助艦建造計畫ヲ遂行イタシマスルニハ、大正十六年度
以降ニ於テ尙ホ約三億ヲ要スルノデアリマス、而シテ如何ニシテ其財源ヲ見
出スベキカト云フコトハ、將來ニ向ッテ課セラレタル所ノ一大命題タルヲ失ハ
ヌノデアリマス、然レドモ此計畫遂行ニ關シテハ、豫算ノ第四分科ニ於キマ
シテ、各派滿場一致ノ希望決議ト致シマシテ、既ニ豫算委員長ヨリモ當議場
ニ報告サレタル所ノモノデアリマス、又以上述ベマシタ如ク、首相竝ニ海相
ノ言質ハ繫フテ必ズ吾人ノ希望ヲ空シウセザルベキコトヲ信ズルモノデアリ
〒一、本員ハ此希望ニ滿チマシテ此豫算ヲ贊成セムト欲スルモノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=94
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095・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 阪谷男爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=95
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096・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 簡單デゴザイマスカラ、此席カラ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=96
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097・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=97
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098・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本員モ永田君ト同ジヤウニ、內務省所管第十一款郡役所
ノ廢止問題ニ付キマシテ、甚ダ心配ヲ致シマスルノデゴザイマス、併シ今日
ノ場合、豫算ノ不成立ト云フコトハ甚ダ好ミマセヌノデ、據ロナク贊成イタ
シマスルガ、ソレハ別ニ善後策ニ付テ決議案ヲ提出イタシテ置キマシタノデ、
其趣旨ニ依リマシテ據ロナク贊成ノ意ヲ表シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=98
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099・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ニテ通告者ハ終リマシタ、是ヨリ大正十五年度
歲入歳出總豫算案、大正十五年度各特別會計歲入歳出豫算案、豫算外國庫ノ
負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件、之ヲ議題ト致シ、全部ヲ問題ニ供シ
マス、全部原案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=99
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100・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス
山东水平和车発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=100
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101・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此際、諸君ニ御諮リヲ致シタイコトガゴザイマ
ス、先刻書記官ヲシテ報告ヲ致サセマシタ、本日衆議院ヨリ送付セラレマシ
タ海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ伴フ損害ノ補價ニ關スル法律案、竝
ニ特別都市計畫法第五條ノ土地區劃整理ニ伴フ〓算金及補償金ニ關スル法律
案、此兩案ノ第一讀會ヲ、議事日程ヲ變更イタシマシテ議シタイト存ジマス、
御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=101
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102・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
吴亦〓〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=102
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103・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ伴フ損
害ノ補償ニ關スル法律案ノ第一讀會ヲ開キマス
海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ伴フ損害ノ補償ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
大正十五年三月二十四日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
一-ハ衆議院ノ修正、削除ノ符號ナリ
第一條海軍軍備補充計畫遂行ノ爲政府ノ爲シタル勸〓ニ基キ軍艦、兵器
又ハ其ノ材料ノ製造ニ必要ナル施設ヲ爲シタル會社カ大正十二年條約第
二號海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ伴フ軍艦及兵器製造計畫ノ變更
ノ爲被リタル損害ニ對シテハ本法ニ依リ之ヲ補償スルコトヲ得
第二條前條ニ規定スル補償金ノ總額ハ二千二百萬圓以內トス
第三條補償金ハ主務大臣補償審査會ノ審査ヲ經テ之ヲ決定シ額面金額ニ
依リ五分利付國債證劵ヲ以テ之ヲ交付ス
補償審査會ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條政府ハ前條ノ規定ニ依ル交付ニ必要ナル額ヲ限度トシ國債證劵ヲ
發行スルコトヲ得
第五條本法ニ依リ補償金ヲ交付スル場合ニ於テハ政府ハ相手方ニ對シ補
償ノ目的タル設備ノ無償讓渡其ノ他必要ナル條件ヲ附スルコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣財部彪君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=103
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104・財部彪
○國務大臣(財部彪君) 唯今上程イタサレマシタル、海軍軍備制限ニ關スル
條約ノ實施ニ伴フ損害ノ補償ニ關スル法律案ニ付キマシテ、大要御說明申上
ゲマス、數年前、我ガ海軍軍備充實ノ計畫ガ確定イタシマシテ、漸次八八艦
隊完成ノ實行ニ取掛リマスルニ當リマシテ、當時ノ海軍當局者ハ、其軍艦兵
器又ハ其材料ノ製造ヲ請負ハシメムトスル所ノ、造船、造兵等ノ當業者ニ對
シマシテ、豫メ其計畫ノ大要ヲ內示イタシ、之ヲ實施スルニ差支ナキヤウ、
既設會社ノ製造能力ノ擴張ヲ促シ、或ハ又新會社ノ設立ヲ勸告イタシタノデ
ゴザイマス、玆ニ於テ是等當業者ハ、此勸告慫慂ニ應ジマシテ、ソレゾレ巨
額ノ資本ヲ投ジテ諸般ノ施設ヲ致シマシタ、然ル所、彼ノ華府會議ノ結果ト
致シマシテ、大正十二年八月海軍軍備制限ニ關スル條約ガ實施セラルルコト
ニ相成リマシタ爲、折角ノ是等ノ設備モ之ヲ利用スルコトガ出來マセズ、加
フルニ職工モ亦多數不用ト相成リマシテ、少カラヌ手當金ヲ與ヘテ之ヲ解備
スルノ已ムナキニ立至リマシタ、ソレガタメ諸會社ハ莫大ナル損害ヲ被リマ
シテ、中ニハ極度ノ悲況ニ陷ッテ居ルモノガアルノデゴザイマス、政府ハ當
時ノ海軍當局者ガ會社ニ對シテ致シマシタ勸〓慫慂ガ、豫約ノヤウナ私法上
ノ關係ヲ生ゼシメタルモノトハ認メマセヌ、從テ此損害ニ對シマシテ、政府
ニ當然賠償ノ義務ガアルトハ考ヘマセヌ、サリナガラ政府ノ勸告ニ基キマシ
テ、或ハ設備ヲ擴張シ、或ハ會社ヲ新設イタシ、而モ國際條約實施ノ爲ニ莫
大ノ損害ヲ被ノタ者ニ對シマシテ、何等補償ノ途ヲ講ジナイト申スコトハ德
義上甚シク失當ノ譏リヲ免レナイモノデアルト考ヘルノデゴザイマス、加之、
是等ノ損害ニ對シマシテ、相當ノ補償ヲ與ヘマスコトハ帝國政府ノ威信ヲ
保持スル上ニ於テ、已ムヲ得ザル處置ナリト信ズル次第デゴザイマス、如上
ノ趣旨ニ基キマシテ、政府ノ原案ハ補償額二千二百万圓ト致シマシテ、曩ニ
衆議院ニ提案イタシタノデゴザイマスガ、同院ニ於テ審議ノ結果、之ヲ二千
万圓ニ査定イタサレタノデゴザイマス、政府原案ノ二千二百万圓ナル數字ハ、
政府ニ於テ數年間研究イタシマシテ、相當根據ノアル數字デハアリマスルガ、
併ナガラ是トテモ損害ノ總額ヲ示スモノデハゴザイマセヌノデ、結局損害ノ
一部分ヲ補償スルコトニ過ギナイノデゴザイマス、衆議院査定ノ通リ二千万
圓ト致シマシテモ、此目的ハ、卽チ補償ノ目的ハ略〓達成セラルルノデゴザイ
マスカラ、政府ハ此修正ニ同意イタシマシタ、何卒御審議ノ上、御協贊ヲ與
ヘラレムコトヲ切ニ希望スル次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=104
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105・阪本さん之助
○阪本彰之助君 一應御尋ネ致シタイノデアリマスガ、衆議院ノ修正ニ對シ
マシテ、唯今海軍大臣ヨリ一應ノ御說明ハアリマシタガ、苟モ政府ガ二千二
百万圓以內トシテ御提出ニナリマスルニハ確カナ根據ガアルニ相違ナイ、
斯ノ如キ相手方ノアル仕事デアリマシテ、相手方ニ補償ヲスルニハ二千二百
万圓迄ヲ要スルト云フコトハ、確カニ據ロガナケレバナラヌ、ソレヲ衆議院ガ
二百万圓ヲ値切レバ、ソレデモ出來得ルト見タト云フコトハ、如何ニモ政府
ハ掛値ノアル案ヲ御出シニナッタト云フコトニナルノデアリマス、何故ニ二百
万圓ヲ御讓歩ニナリマシタカ、御讓歩ニナッテ差支ナイモノナラバ、帝國議會
ニ掛値ヲ御出シニナッタト云フコトニナルノデアリマス、斯ウ了解イタシテ宜
シイカト云フコトヲ伺ッテ置キマス
〔國務大臣財部彪君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=105
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106・財部彪
○國務大臣(財部彪君) 御答ヘ申上ゲマス、本案ニ申シマス所ノ諸會社ノ被
リマシタル損害額ト云フコトハ、頗ル此正鵠ヲ得ル爲ニハ困難ナ問題デゴザ
イマシテ、之ヲ立論イタシマスル所ノ見地ニ依リマシテ、諸種ニ變更イタス
ノデゴザイマス、且又今囘ノ此補償ノ目的ハ、諸會社ガ被リマシタル損害ヲ
當然政府ノ義務トシテ、法律上ノ義務トシテ、之ヲ賠償イタスモノデハゴザ
イセヌノデ、俗ニ所謂淚金トデモ申スモノデゴザイマスルカラ、各會社ヨリ
請求イタシタル所ノ幾分ノ一ニ過ギナイ次第デ元ミアルノデゴザイマス、故
ニ二千二百万圓ト申シマシテモ、二千万圓ト申シマシテモ、是ハ程度ノ問題
デゴザイマシテ、政府ハ一一千万圓ヲ以テシテモ略、當初ノ目的ヲ達スルコトガ
出來ルト斯ウ認メマス、若シ衆議院デ査定ヲ致サレマシタ所ノ此二千万圓ニ
同意イタシマセヌケレバ、衆議院ニ於テ本案ノ通過ハ、ナカ〓〓早急ノ問ニ
合ハヌト云フコトヲ認メマシテ、若シ萬一斯ノ如キコトガアリマスレバ、折
角ノ此補償ノ目的ヲ達スルコトガ出來マセヌカラ、是ハ二千二百万圓ヲ二千
万圓ニ致シテモ、當初ノ目的ヲ達スル上ニ於テハ大差ハナイト、斯ウ云フコ
トヲ認メマシタカラ、今日ノ場合、此査定案ニ同意イタシマシタ次第デアリ
マス、以上御答ヘ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=106
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107・阪本さん之助
○阪本彰之助君 會期切迫ノ場合、甚ダ恐縮デゴザイマスルガ、如何ニモ併
シ奇怪ナコトト存ジマスノデアリマス、由來衆議院ハ、相當ノ大豫算ヲモサッ
サト通スノデアリマス、場合ニ依ッテハ自己ノ利益ノコトナラバ、相當ノ歲出
ヲ增スコトデモ發案ヲシヤウト云フ狀勢デアルニ拘ラズ、僅カ二百万圓、大
キイ金デハアリマスガ、今日ノ世ノ中ノ狀勢デハ僅カト云フテ宜シイ、其事ニ
限ッテ一割ヲ減ズルト云フコトハ、何等カ根據ガナケレバナラヌ、政府モ亦二
千二百万圓ト決メテ出サレタモノガ、二百万圓ヲ値切ラレテ讓步サレルト云
フコトハ、頗ル怪シムベキコトデアリマスガ、衆議院ガ此二百万圓ヲ値切ッタ
ト云フコトハドウ云フ根據ニ依ッテ値切ッタノデアリマセウカ、又此二百万圓
ヲ、政府ガ讓ラヌケレバ此議案ガ成立タヌカモ知レヌカラ讓ノタノデアル、ト
云フヤウナ御辯解デアリマスガ、左樣ナコトナラバ、ソレニ對スル方法ハ幾
ラモアルダラウト思フ、御讓リニナル所ヲ見レバ、苦痛ハナイモノト見ナケ
レバナラヌ、眞ニ苦痛ノアルコトナラバ、若シ衆議院ガ否決スレバ、又否決
スルダケノ御考モアラウト思ヒマスガ、何故ニ衆議院ハ二百万圓ヲ値切リ、
又政府ハ僅ナ事情ニ囚ハレテ之ヲ御讓リニナッタカト云フコトヲ、尙ホモウ一
應御辯明ヲ願ヒタイト思ヒマス
〔國務大臣財部彪君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=107
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108・財部彪
○國務大臣(財部彪君) 此二千二百万圓ヲ二千万圓ニ査定案ノ出マシタノ
ハ其間ニ議論モゴザイマシタ、職工ノ解備、豫定ノ註文ニ對シテ備ヘテ居
リマシタ所ノ職工數ヲ急ニ減ゼナケレバナラヌ爲ニ、此職工ニ對シテ······職
工ノ解備ニ對シテ各會社ハソレゾレ手當金ヲ與ヘマシテ、相當ノ損害ヲ被リテ
居リマス、之ヲ基準トシテ算出ヲ致シタノデゴザイマスルガ衆議院ノ委員
會ニ於キマシテハ、細カナ話ガ出マシテ、或ル會社ニ於テハ、實際ハ職工ハ自
然減耗ニ委シテ、註文取消ノ爲ニ、註文ガ實現シナカッタ爲ニ解備イタシタ所
ノ職工ハ居ラヌトカ何トカ云フヤウナ、個人的ノ知識ヲ有ッテ居ル方ノ色〓御
議論モ出タ、ナカ〓〓ソレハ證據立テルコトハムヅカシイ事情ニナリマシ
タ、斯ノ如キ議論ガナカ/〓錯綜イタシマシタガ、政府ハ其外ニ、此問題ハ
宜シク此二千二百万圓ノ所ヲ二千万圓ノ査定ニ應ジテ、玆ニ速ニ決定ヲ見ナ
ケレバ、本議會開會中ニ決定ヲ見ルコトガ出來ヌト斯ウ認メマシタ、近·一
込ガ惡イト云フコトナラバ致シ方アリマセヌガ、私ハ正ニ其通リ認メマシタ
カラ、是ハ折角國家ガ莫大ノ、少カラヌ經費ヲ出シマシテ、私立會社ノ補助
ヲ致スト云フコトハ、其目的トスル所ハ、單リ其損害ニ對スル······旣往ノ損
害ニ對スルノミナラズ、將來、是等ノ會社ヲシテ生存ノ意義アル如ク之ヲ維
持シテ行ッテ、將來國防上ニ於テモ目的ヲ達スルヤウニナラナクチヤナラヌト
云フ所ガ、大主眼デゴザイマスカラ、ソレガ爲ニハ今日ニ於テ宜シク解決ス
ベキデアルト固ク信ジマシタカラ、ソレデ今日二百万圓バカリ彼此レ申ス時
デナイト思ヒマシテ同意イタシタ次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=108
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109・阪本さん之助
○阪本釤之助君 段々御說明ヲ承リマシテ、政府ノ提案ガ甚ダ杜撰デアッタト
了解イタシマシテ此質問ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=109
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110・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 他ニ發言モナイト認メマスカラ、本案ノ特別委員
ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
海軍軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ伴フ損害ノ補償ニ關スル法律案特別委
員
伯爵松平賴壽君子爵西尾忠方君男爵坂本俊篤君
福原鐐二郞君黑岡帶刀君藤田四郞君
馬場鍈一君林平四郞君若尾謹之助君
옮기호八山凡ネ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=110
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111・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別都市計畫法第五條ノ土地區劃整理ニ伴フ〓算
金及補償金ニ關スル法律案、第一讀會
特別都市計畫法第五條ノ土地區劃整理ニ伴フ〓算金及補償金ニ關スル法
律案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
大正十五年三月二十四日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
小字ハ衆議院ノ修正文、一
ハ同削除ノ符號ナリ
第一條本法ニ於テ〓算金ト稱スルハ特別都市計畫法第五條ノ土地區劃整
理ヲ施行スル場合ニ於テ耕地整理法第三十條ノ規定ニ依リ徵收シ又ハ交
付スヘキ金錢ヲ謂フ
第二條〓算金ヲ納付スヘキ義務アル者ニ對シ同一土地區劃整理施行地區
內ニ於ケル土地ニ關スル權利ニ付特別都市計畫法第八條ノ補償金ヲ交付
スヘキ場合ニ於テハ整理施行者ハ徵收スヘキ〓算金ニ之ヲ充ツルコトヲ
得但シ其ノ補償金カ耕地整理法第二十五條ノ規定ニ依リ供託スヘキモノ
ナルトキハ其ノ補償金ヲ交付スヘキ土地ニ關スル權利ニ付徵收スヘキ〓
算金ニノミ之ヲ充ツルコトヲ得
第三條整理施行者ハ主務大臣ノ定ムル所ニ依リ徵收スヘキ〓算金ニ付利
五
子ヲ附シ三年ヲ超エサル期間ニ於テ分納スルコトヲ認ムルコトヲ得
前項ノ利子ハ之ヲ〓算金ト看做ス
第四條整理施行者ハ〓算金交付ノ爲必要アルトキハ耕地整理法第三十條
ノ規定ニ拘ラス他ノ土地區劃整理施行地區ニ於テ徵收シタル〓算金ヲ以
テ繰替支辨シ又整理施行者カ行政官廳ナルトキハ國、公共團體ヲ統轄ス
ル行政廳又ハ公共團體ナルトキハ其ノ公共團體ノ立替金ヲ以テ支辨スル
コトヲ得
整理施行者前項ノ規定ニ依リ繰替又ハ立替支辨シタルトキハ徵收シタル
〓算金ヲ戾入シ又ハ返還スヘシ
第五條〓算金ニ剩餘ヲ生シタルトキハ其ノ剰餘金ハ整理施行者カ行政官
廳ナルトキハ國、公共團體ヲ統轄スル行政廳又ハ公共〓體ナルトキハ其
ノ公共〓體ニ歸屬ス
第六條土地ニ關スル權利ニ付〓算金ヲ徵收セラレ又ハ交付セラルヘキ場
合ニ於テ其ノ權利ヲ讓渡シタルトキハ當事者雙方連署ヲ以テ遲滯ナク整
理施行者ニ其ノ旨ヲ屆出ツヘシ
前項ノ屆出ヲ爲ササル場合ニ於テハ〓算金ノ徵收又ハ交付ニ關シテハ其
ノ讓渡ハ之ヲ以テ整理施行者ニ對抗スルコトヲ得ス
土地ニ關スル權利ニ付〓算金ヲ徵收セラレ又ハ交付セラルヘキ場合ニ於
テ其ノ權利ノ分割讓渡ニ付第一項ノ屆出アリタルトキハ整理施行者ハ遲
滯ナク各當事者ヨリ徵收スヘキ〓算金額又ハ各當事者ニ交付スヘキ〓算
金額ヲ通知スヘシ
第七條前條ノ規定ハ土地ニ關スル權利ニ付〓算金ヲ徵收セラレ又ハ交付
セラルヘキ場合ニ於テ其ノ權利ノ消滅シタル場合ニ之ヲ準用ス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員〓野長太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=111
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112・清野長太郎
○政府委員(〓野長太郞君) 唯今上程ニナリマシタ法律案ノ趣旨ヲ大要申上
ゲ、御說明ヲ申上ゲタイト思ヒマス、東京橫濱ノ復興計畫ノ基礎ニナッテ居リ
マスル土地區劃整理ノ仕事モ、漸ク昨今順調ニ進捗ヲ致シマシテ、所謂換地
ノ面積、又位置等モ段々ニ確定ヲ致シマスルノデ、此換地ハ御承知ノ通リニ
土地ノ面積、等位等ヲ標準ニ致シマシテ、所謂此換地ノ計畫ヲ立テルコトニ
ナッテ居リマスノデ、但シ實際ノ事業ニ於キマシテ、其地位等級ノ同一ノ値打
ノ所ヘ持ッテ參ルコトノ事實出來マセヌ場合ニハ、金錢ヲ以テ〓算イタスコト
ニ法律ノ規定ガナッテ居リマスノデ、此度ノ區劃整理ニ付キマシテハ、金錢デ
〓算ヲ致シマスル額ヲ成ルベク少ク致シタイト云フ方針ヲ以テ、設計、實行
ヲ致シテ居リマスル、併シ技術ノ上デ實際已ムヲ得ズ致シマシテ、換地處分
ニ伴ハレテ〓算金ノ徵收モ致シ、又同時ニ徵收ヲ致シタモノヲ、他ノ方面ノ
當事者ニ交付ヲ致ス額ガ、相當多額ニ實ハ上ボッテ居リマスノデ、然ルニ此〓
算金ノ性質ト致シマシテ、之ヲ交付スル場合ニハ一時ニ其金額ヲ交付シ、
當事者ニ渡スコトニナッテ居リマスルガ、又徵收モ、法律ノ趣旨カラ申シマス
レバ、卽時ニ、一時ニ之ヲ徵收スル精神ニナッテ居リマスノデ、然ルニ御承知
ノ通リ、此大震火災後未ダ年所ヲ歷マセヌ爲ニ、東京、橫濱ノ罹災民ノ創痍
ノ今日ハマダ十分癒エテ居ルト云フコトヲ申上ゲ兼ネマスノデ、其困憊ヲ致
シテ居ル現在ノ實況ニ鑑ミマシテ、唯法律ノ解釋ニ依ッテ〓算金ノ多額ナモノ
ヲ一時ニ徵收イタシマスルコトハ、目下ノ事情トシテ頗ル困難デモアリ、罹災
民ニ對シテ同情ヲ致スベキ理由ガアルト信ジマスルノデ、ソレ故ニ市民ノ此
經濟ヲ考慮イタシマシテ、玆ニ提出ヲ致シマシタル此法律ノ規定ニ依リマシ
テ、一時ニ徵收スベキ〓算金ヲ分納ヲスルコトヲ許ス、サウ致シテ此市民ノ
困難ヲ幾分デモ緩和ヲ致シタイト、斯ウ云フ政府ハ考ヲ持ッテ居リマスノデ、
交付ノ方法ニ關シマシテハ、特別都市計畫法ノ此第八條ニ依リマシテ、御承
知ノ通リニ一割以上潰地ノ出來マシタ所ハ、一割以上ノ分ニ對シテ政府ヨリ
補償金ヲ交付イタスコトニナッテ居リマスルガ、此交付イタシマスル補償金
ト,又徵收ヲ受ケマスル金ト、同一ノ場合ニハ、之ヲ差引ヲ致ス、卽チ補償
金ヲ以テ徵收スベキ〓算金ニ充當スル途ヲ、此法律ニ依リマシテ開キタイト
申スノガ第一ノ要點デアリマス、第二ハ、國又ハ公共團體、卽チ東京市或ハ
橫濱市ノ此經費ヲ以チマシテ、一時〓算金ヲ當事者ヨリ取リマスル其金ヲ立
替ヘテ支辨スル方法ヲ設ケマシテ、此困難ナル區劃整理事業ノ圓滑ナル進行
ヲ圖リタイト申ス點ガ、重要ナル點デアリマス、此度提出イタシマシタ法案ハ
右ノ次第デアリマスノデ、何卒御審議ノ上、御協賛ノ程ヲ切ニ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=112
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113・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔瀨古書記官朗讀〕
特別都市計畫法第五條ノ土地區劃整理ニ伴フ〓算金及補償金ニ關スル法律
案特別委員
子爵大河内輝耕君子爵渡邊千冬君石塚英藏君
上山滿之進君男爵紀俊秀君若林賓藏君
山之內一次君宮田光雄君高廣次平君
よ幸福嘉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=113
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114・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 民事訴訟法中改正法律案、政府提出、衆議院囘付、
民事訴訟法中改正法律施行法案、政府提出、衆議院囘付、會議
民事訴訟法中改正法律案
右貴院ノ送付ニ係ル政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十
五條ニ依リ及回付候也
大正十五年三月二十三日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
衆議院囘付案ト本院ヨリ同院ニ送付シタル案
ト比照シ衆議院ノ修正ニ係ル部分ノミヲ印刷
シ其ノ修正ナキ部分ハ印刷ヲ略ス小字ハ衆議
院ノ修正、ハ同削除ノ符號ナリ
第三十一條裁判所ハ其ノ管轄ニ屬スル訴訟ニ付著キ損害又ハ遲滯ヲ避ク
ル爲必要アリト認ムルトキハ其ノ專屬管轄ニ屬スルモノヲ除クノ外申立
又ハ職權
ニ因リ決定ヲ以テ訴訟ノ全部又ハ一部ヲ他ノ管轄裁判所ニ移送スルコト
ヲ得
第三十五條判事ハ左ノ場合ニ於テハ法律上其ノ職務ノ執行ヨリ除斥セラル
一判事又ハ其ノ妻若ハ妻タリシ者カ事件ノ當事者ナルトキ又ハ事件ニ
付當事者ト共同權利者、共同義務者若ハ償還義務者タル關係ヲ有スル
トキ
二判事カ當事者ノ四親等內ノ血族若ハ三親等內ノ姻族ナルトキ又ハナ
リシトキ
三判事カ當事者ノ後見人、後見監督人、保佐人又ハ同居ノ戶主若ハ家
族ナルトキ
四判事カ事件ニ付證人又ハ鑑定人ト爲リタルトキ
五判事カ事件ニ付當事者ノ代理人又ハ輔佐人ナルトキ又ハナリシトキ
六判事カ事件ニ付仲裁判斷ニ關與シ又ハ不服ヲ申立テラレタル前審ノ
裁判ニ關與シタルトキ但シ他ノ裁判所ノ囑託ニ因リ受託判事トシテ其
ノ職務ヲ行フコトヲ妨ケス
第八十一條訴訟代理人ハ委任ヲ受ケタル事件ニ付反訴、參加、强制執行、
ヲ爲シ且辨濟ヲ受領スル
假至抑及假處分ニ關スル訴訟行爲モが之ヲ爲スコトヲ得
左ニ揭クル事項ニ付テハ特別ノ委任ヲ受クルコトヲ要ス
-反訴ノ提起
二訴ノ取下、和解、請求ノ抛棄若ハ認諾又ハ第七十二條ノ規定ニ依ル
脫退
三控訴、上〓又ハ其ノ取下
四代理人ノ選任
訴訟代理權ハ之ヲ制限スルコトヲ得ス但シ辯護士ニ非サル訴訟代理人ニ
付テハ此ノ限ニ在ラス
第百三十九條當事者カ故意又ハ重大ナル過失ニ因リ時機ニ後レテ提出シ
タル攻擊又ハ防禦ノ方法ハ之カ爲訴訟ノ完結ヲ遲延セシムヘキモノト認
申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ却下ノ決定ヲ爲ス
メタルトキハ裁判所ハ決定ヲ以テ之ヲ却下スルコトヲ得
攻擊又ハ防禦ノ方法ニシテ其ノ趣旨明瞭ナラサルモノニ付當事者カ必要
ナル釋明ヲ爲サス又ハ釋明ヲ爲スヘキ期日ニ出頭セサルトキ亦前項ニ同
第百四十四條調書ニハ辯論ノ要領ヲ記載シ殊ニ左ノ事項ヲ明確ニスルコ
トヲ要ス
一和解、認諾、抛棄、取下及自白
二證人、鑑定人ノ宣誓及陳述
三檢證ノ結果
四裁判長ノ記載ヲ命シタル事項及當事者ノ請求ニ因リ記載ヲ許シタル事項
五
四書面ニ作ラサル裁判
'六
五裁判ノ言渡
○申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ
第百四十八條裁判所必要アリト認ムルトキハ○速記者ヲシテ口頭辯論ニ
於ケル陳述ノ全部又ハ一部ヲ筆記セシムルコトヲ得
第百五十二條期日ハ裁判長之ヲ定ム
受命判事又ハ受託判事ノ審問ノ期日ハ其ノ判事之ヲ定ム
期日ノ指定ハ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ之ヲ爲ス
口頭辯論ニ於ケル最初ノ期日ノ變更ハ顯著ナル事由ノ存セサルトキト雖當事者ノ合意アル場合
ニ於テハ之ヲ許ス準備手續ニ於ケル最初ノ期日ノ變更亦同シ
第百七十條當事者、法定代理人又ハ訴訟代理人ハ受訴裁判所ノ所在地ニ
住所、居所、營業所、又ハ事務所ヲ有セサルトキハ其ノ裁判所ノ所在地ニ
於テ送達ヲ受クヘキ場所及送達受取人ヲ定メ之ヲ屆出ツルコトヲ要ス」
送達ヲ受クヘキ者カ前項ノ屆出ヲ爲ササルトキハ其ノ者ニ對シテ送達ス
○書留
ヘキ書類ハ前條第一項ノ規定ニ依リ送達スヘキ場所ニ宛テ○郵便ニ付シ
テ之ヲ發送スルコトヲ得
第一項ノ屆出ハ送達ヲ受クヘキ者カ受訴裁判所ノ所在地ニ住所、居所、
營業所又ハ事務所ヲ有スル場合ニ於テモ亦之ヲ爲スコトヲ得
第百七十二條前條ノ規定ニ依リテ送達ヲ爲スコト能ハサル場合ニ於テハ
○書留
裁判所書記書類ヲO郵便ニ付シテ之ヲ發送スルコトヲ得
○交付ヲ受ケタル日ヨリ二週間內ニ之ヲ
第百九十三條判決ハ○當事者ニ之ヲ送達スルコトヲ要ス
判決ノ送達ハ正本ヲ以テ之ヲ爲ス
第二百六十二條裁判所ハ必要ナル調査ヲ官廳若ハ公署、外國ノ官廳若ハ
○學校、商業會議所、取引所其ノ他ノ團體
公署又ハ○法人ニ囑託スルコトヲ得
第三百三十六條裁判所カ證據調ニ依リラ心證ヲ得ルコト能ハサルトキ
其ノ他必要アリト認ムルトキハ申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ當事者本人ヲ
訊問スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ當事者ヲシテ宣誓ヲ爲サシムルコト
ヲ得
第三百六十一條財產權上ノ請求ニ關スル判決ニ對シテハ控訴ニ因リテ受
クヘキ利益ノ價額カ二百圓ニ滿タサル場合ニ於テハ再審ノ事由アルニ非
サレハ控訴ヲ爲スコトヲ得ス
前項ノ規定ハ訴訟ノ目的ノ價額カ二百圓以上ナル事件ニ付裁判所カ訴訟
ノ一部ニ付爲シタル判決ニハ之ヲ適用セス
第一項ノ價額ハ控訴提起ノ時ヲ標準トシテ之ヲ定ム
控訴審ニ於テ擴張シタル請求ノ價額ハ第一項ノ價額ニ之ヲ算入セス
第一項ノ價額ヲ算定スルコト能ハサルトキハ其ノ價額ハ二百圓ト看做ス
第二十三條ノ規定ハ第一項ノ價額ノ算定ニ之ヲ準用ス
第三百六十二條ヲ第三百六十一條ニ修正シ以下第三百七十條迄條數ヲ順次繰上ク
七
第三百七十一條第二百二十八條ノ規定ハ控訴狀カ第三百六十八條第二項
ノ規定ニ違背スル場合、法律ノ規定ニ從ヒ控訴狀ニ印紙ヲ貼用セサル場
合及控訴狀ノ送達ヲ爲スコト能ハサル場合ニ之ヲ準用ス
第三百七十二條ヲ第三百七十一條ニ修正ス
第三百七十三條被控訴人ハ控訴權消滅ノ後ト雖口頭辯論ノ終結ニ至ル迄
附帶控訴ヲ爲スコトヲ得附帶控訴ニ因リテ受クヘキ利益ノ價額カ二百圓
ニ滿タサルトキ亦同シ
第三百七十四條ヲ第三百七十三條ニ修正シ以下第三百九十二條迄條數ヲ順次繰上ク
二
第三百九十三條訴訟完結シタル後上訴ノ提起ナクシテ上訴期間滿了シタ
ルトキハ裁判所書記ハ判決又ハ第三百七十一條ノ規定ニ依ル命令ノ正本
ヲ訴訟記錄ニ添附シ之ヲ第一審裁判所ノ書記ニ送付スルコトヲ要ス
第三百九十四條ヲ第三百九十三條ニ修正シ以下第三百九十七條迄條數ヲ順次繰上ク
第三百九十七條上告裁判所ノ書記ハ原裁判所ノ書記ヨリ訴訟記錄ノ送付ヲ受ケタルトキハ遲滯
ナク其ノ旨ヲ當事者ニ通知スルコトヲ要ス
前條ノ通知ヲ受ケタル
第三百九十八條上告狀ニ上告ノ理由ヲ記載セサルトキハ遲クトモ上害期
間滿了ノ日ヨリ三十日內ニ上告理由書ヲ提出スルコトヲ要ス
三
第四百四條第三百九十四條第二項ノ規定ニ依ル上〓アリタル場合ニ於テ
ハ上〓裁判所ハ原判決ニ於ケル事實ノ確定カ法律ニ違背シタルコトヲ理
由トシテ其ノ判決ヲ破毀スルコトヲ得ス
民事訴訟法中改正法律施行法案
右貴院ノ送付ニ係ル政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十
五條ニ依リ及囘付候也
大正十五年三月二十三日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
衆議院囘付案ト本院ヨリ同院ニ送付セシ案
ト比照シ衆議院ノ修正ニ係ル部分ノミヲ印
刷シ其ノ修正ナキ部分ハ印刷ヲ略ス小字ハ
衆議院ノ修正、-ハ同削除ノ符號ナリ
第十一條新法施行前ヨリ繋屬スル訴訟ニ付言渡シタル判決ニ對シテハ上
訴ニ因リテ受クヘキ利益ノ價額二百圓ニ滿タサル場合ニ於テモ上訴ヲ爲
スコトヲ得
第十二條ヲ第十一條ニ修正シ以下條數ヲ順次繰上ク発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=114
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115・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通告順ニ依リマシテ發言ヲ許シマス、水上
長次郞君
〔副議長侯爵蜂須賀正詔君議長席ニ著ク〕
〔水上長次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=115
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116・水上長次郎
○水上長次郞君 唯今日程ニ上ボッテ居リマスル民事訴訟法中改正法律案ハ、
御承知ノ通リ最前、政府ヨリ貴族院ヘ提出ヲ致サレマシテ、貴族院ニ於テハ
審査熟議ノ上デ若干ノ修正ヲ加ヘラレマシテ、衆議院ノ方へ移サレタノデア
リマス、衆議院ニ於キマシテハ、又十數項ノ條項ニ亙ッタ所ノ修正ヲ加ヘラレ
マシテ、本院ヘ向ケテ囘付セラレタノデアリマス、今其修正ヲセラレマシタ
ル所ノ條項ニ付テ檢討ヲ致シマスルニ、修正ニ係ル條項ハ丁度十四箇條ニ
亙ッテ居ルノデアリマス、其內、十一箇條ハ極メテ細微且ツ些細ナル所ノ修正
デアリマシテ、多クハ字句ヲ挿入スルトカ、或ハ又少シク意味ノ不明ナル所
ハ鮮明ニ致スト云フヤウナコトデアリマシテ、格別大シタ修正デモゴザイマ
セヌ、尤モ中ニハ結構ナ修正ト考ヘル箇條モアルノデアリマス、其外ノ四箇
條ニ付キマシテハ極メテ重大ナル修正デアリマシテ、改正法律案ノ根本主義
ニモ觸レ、又其趣意ニモ頗ル違フ所ノ修正案デアリマス、殊ニ其內四ツノ內、
一箇條ト云フモノハ此貴族院ニ於カレマシテ審議熟慮ノ末、修正ヲ致サレ
マシタ箇條ヲ、全ク本案ヨリ除去セラレタノデアリマス、今囘政府ヨリ民事
訴訟法法律案ヲ提出セラレマシタ趣旨ハ、申ス迄モナク種々ナ譯ガアリマシ
テ、其譯ハ多岐多端ニ亙リマスルガ、要スルニ訴訟ノ延滯ヲ防グ······遲々ト
シテ進マナイ所ノ訴訟事件ヲ成ルベク早ク處理ヲシテ、サウシテ適正ナル所
ノ判決ヲ與ヘテヤリタイト云フ趣意ニ外ナラヌノデアリマス、今日マデ此現
行民事訴訟法ガ實施セラレマシテ以來ト云フモノハ、御承知ノ通リ四十餘箇
年ニナルノデアリマス、法律實施ノ際ニハ、ソレ程感ジテ居リマセナンダガ、
實施後十數年ノ後カラ以來ト云フモノハ免角訴訟ガ延滯イタシマシテ、裁
判所ニハ未濟事件ガ山積シテ、サウシテ終了落著スル事件ト云フモノガ極メ
テ少イノデアリマス、折角ニ此私權保護ノ機關タル所ノ裁判所及民事訴訟ト
云フモノノ運用ノ上ニ於キマシテ、斯クモ訴訟ガ遲延シテ落著シマスノガ遲
ウナルト云フコトハ.實ニ心外千萬ナ話デアル、之ガ爲ニ朝野囂々ノ非難ガ
絕エヌノデアリマス、私共極ク乏シイ經驗デハアリマスルガ、此非難ニ對シ
テハ何トモ申譯ガ無カッタノデアリマス、ドウニカ致シテ進マザル所ノ訴訟ヲ
早ク結著シテ、サウシテ私權擁護ノ實ヲ擧ゲテ、民衆ヲシテ安ンジテ裁判所
ニ信賴ヲスルト云フコトニ致サナケレバナラナイト云フコトハ、切々常ニ感
ジテ居ッタノデアリマス、所ガ如何セム、法律ノ不備ト、其訴訟ニ關係スル所
ノ人〓ノ誠意、努力ガ或ハ足リナクハナイカト云フ感ジガアリマシタノデ、
誠ニ歎クバカリデアッテ、如何トモスルコトガ出來ナカッタンデアリマス、歷
代ノ司法大臣ニ於カレマシテモ、此點ニ付キマシテハ苦心焦慮、實ニ一方
ナラヌノデアリマスケレドモ、何分訴訟法ト云フモノハ、御承知ノ通リ大部
ノモノデアリマスルカラシテ、ドウモ之ヲ改正スルト云フコトハ、迚モ一朝
一夕ノ業デハナイノデアリマス、ソレデ改正ヲシヤウト云フヤウナ意思ハ十
分ニアリマシテモ、容易ニ之ヲ實行スルト云フコトノ場合ニ立至ラナカッタ
ノデアリマス、所ガ現司法大臣ニ於カレマシテ、歷代司法大臣ノ苦心焦慮セ
ラレ、又色〓計畫セラレタ所ノ案ニ基カレテ、サウシテ此度愈〓此改正法律案
トシテ御提出ニナッタンデアリマス、私共ハ司法大臣ノ此改正案ヲ提出イタサ
レマシタニ付キマシテ、其誠意ト努力ト、而モ幾多ノ困難ヲ踏ミ破ヲテ之ヲ決
行スル所ノ勇斷ニ至リマシテハ、實ニ稱讃ノ外ハナイノデアリマス、デアリ
マスルカラシテ、ドウニカ致シテ、此改正法律案ハ無事無難ニ通過ヲ致シテ、
一日モ早ク實行ノ運ビニ立至ッテ、多年堆積イタシテ居ノタ所ノ事件ヲ一掃シ、
サウシテ朝野ヨリ受ケテ居リマシタ所ノ非難ヲ全ク一掃シタイト云フコト
ハ實ニ希望シテ已マナイノデアリマス、ソコデドウ云フ趣意デ以テ此法律
改正案ヲ提出セラレタト云フコトヲ吟味イタシマスルニ、先キニ申上ゲマシ
タ通リ、改正案提出ノ趣意ト云フモノハ、全ク事件澁滯、卽チ停滯シテ居ル
所ノ事件ヲ一掃シテシマフト云フノガ、根本ノ考ナンデアリマス、ソレハド
ウシタラ宜イカト申シマスルニ、此訴訟法ノ主義ト申シマセウカ、立前ト申
シマセウカ、根本カラシテ立テ直サナケレバナラナイノデアリマス、御承知
ノ通リ現行民事訴訟法ノ主義ト申シマセウカ、立前ト申シマセウカ、極メテ
自由ナ主義ヲ取ッテ居ッタンデアリマス、自由ト申シマシテハ、或ハ御分リ難
イカモ知レマセヌガ、此訴訟人ノシタイ放題ニ訴訟ノ進行ヲ委サレテ居ッタ
ノデアリマス、デ、訴訟ノ進行ニ付テハ、殆ド裁判官ト云フ者ハ門外漢デアル
カノヤウナ感ジガ致シテ居。ッタノデアリマス、ソレデ訴訟ヲ致シマシテ、裁判
所ニ於テ審理取調ヲスルニ、日ヲ決メテ呼出シヲ掛ケル、所ガ原告ナリ被〓ナ
リ自分ノ氣ガ向カナイ時ニハ無斷デ其日ニ出席セズトモ宜イコトニナッテ
居ルノデス、サウスルト裁判所ハ出席ヲ致サナケレバ審理ガ出來マセヌカラ
シテ、又呼出シノ期日ヲ定メテ、新タニ其日ニ呼出スコトニナルノデス、又
其日ニナッテモ、原告ナリ被〓ナリガ氣ガ向カヌ時ニハ、默ッテ出席セズトモ
構ハヌト云フヤウナコトニナッテ居ルノデアリマス、デアリマスカラ今日ノ狀
態デハ訴訟人ノ勝手次第ニ訴訟ハ延ビ勝チニナルノデアリマス、裁判所ニ
於テ、其點ニ付テ少シデモ干涉ガマシキ又指圖ガマシイヤウナコトデモアリ
マスト云フト、直グニ干涉呼ハリヲシテ、甚ダ裁判官ニ於テハ迷惑ニ感ジテ
居ッタノデアリマス、サウシテ訴訟ヲ判斷ヲ致シマスルノニ、申ス迄モナク證
據ト云フモノガ一番大切ナノデアリマス、所ガ不慣レナ訴訟人デアルトカ、
或ハ又、裁判所ノ取扱ノ模樣ヲ深ク承知シテ居ナイ者デアリマスト云フト、
免角、其訴訟······證據物ヲ出シ後レシタリ、或ハ出サヌナラヌ所ノ證據物ヲ出
サズシテ、無益ナ所ノ證據物ヲ出スヤウナコトヲ致シマシテ、其審理ニ付テ少
カラヌ面倒ヲ來スノデアリマス、又事ニ依リマスト、其證據ノ出シ方ニ依ッテ
ハドウニモ裁判ノ出來ナイヤウナ場合ニモ立至ルノデアリマス、デ、サウ云
フ場合ニデス、若モ裁判官ニ於テ進ンデ證據ノ調ベヲスルトカ、或ハ斯ウ云
フ證據ガアレバ出セト云フヤウナ事ヲ注意シマスト直グ干涉ガマシイ仕方
ナリト申シテ、忽チ八方カラ非難攻擊ヲ受ケルノデアリマス、デアリマスカ
ラシテ、斯ウシタナラバ宜カラウ、斯ウシタナラバ訴訟ガ早ク進マウト云フ
コトヲ考ヘテ居リマシテモ、ドウモ隊ヲ出スコトガ出來ナカッタノデアリマ
ス詰リ此訴訟ト云フモノハ本人任セ、卽チ訴訟人任セ、裁判所ハ唯本人ノス
ルガ儘ニシテ居。ヲタト云フヤウナ有樣デアリマス、卽チ斯ウ云フ主義ヲ以テ非
干渉主義トカ或ハ本人主義トカ學者ナリ或ハ實務家ナリガ申シテ居ッタヤウ
ナコトデアリマス、サウ云フ主義デハ迚モ其訴訟ト云フモノハ敏速ニ處理
シ、又適正ナル所ノ判決ヲスルト云フコトハ出來ナイ、ドウシテモ根本カラ此
主義若クハ立前ト云フモノヲ改メナケレバナラヌト云フノデ、ソレデ今度其
改正法律案ニ於テ其主義ヲ明カニシ、是デ以テ此本人ガ勝手氣儘ニ訴訟ヲ延
滯······審理ヲ延滯セシムル所ノ弊ヲ一掃シヤウト云フ所ノ考デ以テ、此提出
ヲ致サレタノデアリマス、其第一、改正法律案ノ最モ骨子ト致シマシテ、最モ
重要ナ點ト致ス其所ハ、此期日變更ト云フ·······變更ノコトデアリマス、期日變
更ト申シマシテモ、或ハ御分リ難イ方モ在ラセラレルカモ知レマセヌガ、是ハ
取調ヲスル日ト云フ意味ナンデアリマス、卽チイツ幾日訴訟事件ノ取調ヲス
ル、事ニ依ッタラ取調ノ後ニ直チニ裁判ヲスルト云フヤウナコトヲ、豫メ定メ
テ居ル日ガ卽チ期日ト云フノデアリマス、其期日ト云フモノガ、前ニ申上ゲマ
シタ通リ免角遲レ勝ニナル、今日期日ヲ定メマシテモ、訴訟當事者ガ今日ハ用
事ガアルカラシテ延バシテ貰ヒタイ、宜シイ、更ニ期日ヲ定メマス、又其期
日ニ至ルト云フト、今日斯ウ云フ都合ガアルカラ延バシテ貰ヒタイ、宜シイ
ト云フコトニナル、斯ウ云フコトニナッテ居ルノヲ此度改メマシテ、此期日ト
云フモノハ裁判長ヨリ外ニ定メルコトハ出來ナイモノデアル、當事者ノ申立
又ハ裁判長ノ職權ニ依ルニ非ザレバ之ヲ定メルコトガ出來ナイノデアリマス
カラシテ、是マデノヤウナ勝手氣儘ニ期日ヲ變更スルト云フコトハ相成ラヌ
ト云フコトニ定メラレタノデアリマス、卽チ是マデハ訴訟ノ進行ヲ當事者任
セニシテアッタノヲ、ソレヲ止メテシマッテ、裁判長ノ全指揮ノ下ニ、全責任ノ
指揮ノ下ニ訴訟ノ進行ヲ圖ルト云フコトニ致サレタノデアリマス、所ガデス、
衆議院ニ於キマシテハ此箇條ニ付テ少カラヌ制限ヲ設ケラレタノデアリマ
ス、皆サンノ御手許ニ配付シテアリマス所ノ此法律案ノ第八······百五十二條
ヲ御覽ニナルコトヲ願ヒマス、此百五十二條ニ依リマスト、訴訟期日ト云フ
モノハ裁判長ガ定メルノデアル、訴訟人ガ勝手次第ニ、今日ニシテ貰ヒタ
イ······今日ハ都合ガアルカラ明日ニシテ貰ヒタイト云フヤウナ、自由勝手ハ
許サナイ、サウ云フコトニ極メテアルノデス、尤モ當事者ニ於キマシテモ、
誠ニ餘儀ナイ已ムヲ得ナイ所ノ差支ガナイトモ限ラレマセヌカラシテ、其樣
ナ場合ニハ能ク裁判長ニ對シテ其事情ヲ述ベラレテ、退引ナラヌ事情ト裁判
長ニ於テ認メラレタ時ニハドウモ致シ方ガアリマセヌカラ、期日ヲ變更ス
ルヤウナコトハ差支ナイノデアリマス、ケレドモ、唯、今日ハ問ヘガアル、此
次ハ用事ガアルト云フヤウナ單純ナコトデハ許サヌト云フコトニナッテ居ル
ノデアリマス、斯ウ云フコトニ極メマスト云フト、今迄ノヤウニ度〓期日ヲ
變更シテ、サウシテ裁判ヲ延バシ、審理ヲ延バスト云フヤウナ弊ハ全ク無ク
ナル譯ナンデス、所ガ衆議院ニ於キマシテハ、此細字デ以テ書イテアリマス
ル通リ、口頭辯論ニ於ケル最初ノ期日ノ變更ハ顯著ナル事由ノ存セザルト
キト雖モ、當事者ノ合意アル場合ニ於テハ之ヲ許スト、斯ウ云フ修正ヲ致サ
レタノデアリマス、折角ニ期日ヲ變更ノ爲ニ訴訟ガ遲延ニナリ勝チデアルカ
ラ之ヲ矯メルカラト云フノデ、裁判長ノ職權ニ任サレタノニ、斯ウ云フ修
正ヲ加ヘラレマスト、全ク現行ノ法律ト殆ド變ラナイヤウニナッテシマフノ
デアリマス、サウスルト云フト、此法文ハ殆ド何ノ役ニモ立タナイモノニナ
ルノデアリマス、尤モ最初ノ期日ト云フコトガアリマスルカラシテ、是マデ
再三期日ノ變更ヲ許シタノハ、惡イガ、此後ハ最初ノ期日ダケノ變更ヲ許シ
テ貰フト云フノデアルカラシテ
〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
決シテ是マデ通リノヤウニ弊害ハナイト云フヤウナ、申分モアルカモ知レマ
セヌガ、ソレハ大變ナ間違デアリマス、ト申シマスルノハ今度ノ改正法律案
ニ依リマスト云フト、是マデノ訴訟調ベ方トハ全ク違ヒマシテ、準備手續ト
云フ一種ノ手續ヲ新ニ設ケルコトニナッタノデアリマス、ソレデアリマスカラ
シテ普通ノ事件ニ於キマシテハ、先ヅ以テ此準備手續······受命判事ト云フモ
ノヲ拵ヘマシテ、サウシテ其人ガ一人デ訴訟ノ準備ヲ專ラスルト云フヤウナ
立前ニナッタノデアリマス、丁度貴族院デ、提出ニナリマスル所ノ······政府ヨ
リ若クハ議院ヨリ提出ニナリマス所ノ議案ヲ、特別委員ニ付託シテ、サウシテ
下調べヲシテ、下調ベガ出來上ッタ上ニ本會議ヘ提出シテ、一氣呵成ニ審議議
了スルト云フヤウナ鹽梅式デアッテ、丁度ソレト能ク似タヤウナ立前ニナッタ
ソレデ先ヅ玆ニ訴訟ガ起リマスト云フト、固ヨリ輕重難易ハ能ク取捨ヲ致シ
マセヌケレパナリマセヌガ、凡ソ地方裁判所ヘ出テ參リマスル所ノ事件ハ、
先以テ準備手續ニ付スルノデ、丁度玆デー貴族院ニ提出ニナリマス所ノ議案
ハ先以テ委員ニ付託スルト同ジ格ナンデアリマス、ソコデ準備手續······受
命判事ト云フモノハ準備手續ヲスルノデアリマスガ、其受命判事ト云フ者ハ
期日ヲ定メマシテ、サウシテ原〓被〓ヲ呼出シテ雙方ノ主張ヲ聽キ、雙方ノ
主張ヲ支持スル所ノ證據物ヲ取調ベテ、サウシテ十分ノ準備ヲシテ、是ナラ
バ直グニ裁判ガ出來ル程度ニ至ッタモノデアルト云フ見込ガ付キマシテ、初メ
テ口頭辯論ト云フ新ナル期日ヲ指定シテ、之ヲ呼出スノデアリマス、サウシ
テ茲ニ修正文ニアリマスル口頭辯論ニ於ケル最初ノ期日ト申シマスルハ受
命判事ガ準備手續ニ於テ十分ニ調ベヲシタ上デ、初メテ開ク所ノ期日ヲ、此
口頭辯論ノ最初ノ期日ト云フノデアリマス、ソレデ此最初ノ期日ト云フノハ、
最初ト云フ文字ニ拘泥シマスト云フト、如何ニモ後ニ幾ラモ期日ガアルヤウ
ニ考ヘラレマスケレドモ、サウデハナイノデアリマス、最初ノ期日ハ殆ド最
後ノ期日ト同樣ノモノニ見テ宜カラウト思フノデス、大〓ノ事件ニ付キマシ
テハ今申上ゲマシタ通リ、受命判事ニ於テ十分ニ調査審議ヲシテ、サウシ
テ手續ヲ結了シマシタ以上ハ、一囘カ若クハ二囘グラ井掛ッタナラバ、大〓ノ
事件ハ終了結著スルト云フノ見込デアリマス、是ハ私一己ノ見込デナクシテ、
政府委員ニ於テモ明カニ其事ヲ言明セラレテ居ルノデアリマス、デアリマス
カラシテ、此改正法律案ノ下ニ於ケル最初ノ辯論ノ期日ト云フモノハ、極メ
テ重要ナル所ノ期日デアルノデス、是マデ通リ再三再四、若クハ再五再六ノ
期日ヲ開イタ場合デアリマスト、ナカ〓〓一遍ヤ二遍デハ出來ナイコトハ極
リ切ッテ居リマスカラ、最初ノ期日ニ一度缺席ヲシ、若クハ變更イタシマシタ
所ガ、大體ニ於テハ進行ニ付テ格別ノ影響ヲ及ボサヌノデアリマスケレドモ、
玆ニ謂フ所ノ口頭辯論ニ於ケル最初ノ期日ト云フモノハ、最初ノ期日デアッ
テ,ソレハ同時ニ最後ノ期日ニナルノデアリマス、若モ此最初卽チ最後ノ期
日ガ、雙方ノ合意、卽チ原被兩〓ノ申合セニ依ッテ、勝手次第ニ之ヲ延バスコ
トガ出來マスルト云フト、サウスルト數囘若クハ數十囘受命判事ノ手許ニ於
テ十分調査シテ居ッタ所ノ事柄ハ、全ク徒勞ニナッテシマフノデアリマス
ソレナラバ、其期日ト云フモノハ若シ差支ガアッタナラバ、翌日ニシタラ宜
イヂヤナイカ、翌日問ヘガアルナラ、其翌日ニシタラ宜イヂヤナイカト云フ
御考ノアル方モアリマスルカ知レマセヌガ、期日ト云フモノハサウタヤス
ク容易ニ定ムルコトノ出來ナイモノデアリマス、ト申シマスルノハ此裁判
所ニアリマスル所ノ未濟事件ト云フモノハ非常ニ多イノデアリマス1少イ
所デ四五十件、多イ所ニナルト百モ二百モ三百モアルノデアリマス、其堆積シ
テアル所ノ事件ヲ、相當ノ日割ヲシマシテ、卽チソレニ依ッテ今日ハ十件、
明日ハ二十件、明後日ハ三十件ト云フヤウナ工合ニ、三十日若クハ三十五六
日ニ亙ッテ、大〓日々ノ割當ハ出來テ居ルノデアリマス、デアリマスカラ、差
支ガアッテ口頭辯論ヲ變更イタスト云フト、ドウシテモ其割當ノ後ノ日ヲ選
ンデ、新タナ期日ヲ定メナケレバナラヌノデアリマスカラシテ、一度期日ヲ
變更イタシマスルト云フト、少クモ一月ヤ一月半ト云フモノハ遲レルノデア
リマス、若モ其一月若クハ一月半後ニ於キマシテ、裁判所ノ間ヘ若クハ當事
者ノ差支等ガアリマスルト云フト、或ハ二箇月三箇月ノ後デナケレバ、新タ
ナル期日ヲ定メルコトガ出來ナイト云フヤウナ場合ガ多々アルノデアリマ
ス、デアリマスカラ、チヨット聞キマスルト云フト、期日ノ變更ハ何デモナイ
カノヤウデ、今日出來ナカッタナラバ明日デモ宜イヂヤナイカ、サウシタナラ
バ二日位ノ猶豫ト云フモノハ、一向進行ニ差支ナイト云フヤウナ御考ノアル
方ガ隨分世間ニハ多イノデアリマス、所ガ今申シマシタ通リ、ナカ〓〓期日
ヲ容易ニ······近イ期日ヲ定ムルト云フコトハ、絕對ニ出來ナイノデアリマス
カラ、一事件ニ付テ、期日ヲ二度モ三度モ變更イタシマスルト云フト、ドウ
シテモ三月ヤ四月、若クハ六月クラ井掛ラナケレバ、一件ノ終了ト云フモノ
ハ出來ナイノデアリマス、デアリマスカラ此衆議院ノ修正通リニ致シマスル
ト云フト、折角期日ノ指定ト云フモノハ、裁判長ノ職權ヲ以テ定ムルト云フ
コトニ致シタナレドモ、最初ノ期日バカリハ原被雙方ノ合意ノ上、而モ如何
ナル事由ガナクテモ、今日差支ガアル、都合ガアルカラシテ延バシテ吳レト
云フヤウナ場合ニハドウシテモ許サナケレバナラヌト云フコトニナリマス
ルト云フト、到底此百五十二條ノ規定ト云フモノハ、其全體ノ趣旨ヲ發揮ス
ルコトガ出來ナイコトニナッテシマフノデス、半分ハ效能ガ無クナルト云フヤ
ウナコトニナルノデアリマス、ソレカラ其次ハ本人訊問ト云フコトデアリマ
スガ、皆サン御承知デモアラセラレルカモ知レマセヌガ、此裁判所ニ於テ訴
訟事件ヲ審理判斷ヲ致シマスルニハ、申スマデモナク證據ト云フコトガ第一
入用ナノデアリマス、其證據ト云フモノハ色〓種類ガアリマス、先ヅ第一ニ
證人、次ニ證文若クハ書類、ソレカラ第三ニハ鑑定人ノ鑑定、ソレカラ第四
ニハ檢證或ハ場所ニ付テ調ベル、或ハ物ノ所在ニ付テ調ベヲスルト云フヤウ
ナ方法デアリマス、ソレカラ第五番目ニハ本人訊問、此五ツノ方法ヲ以テ訴
訟事件ノ審理判斷ヲ致スノデアリマス、此以外ニハ證據ト云フモノハ全ク無
イノデアリマス、所ガデス、事ノ實際ヲ見マスルト云フト、此證據ノアルモ
ノハ十中八九マデハ證據ガ眼前ニ備ハッテ居リマスルモノデアリマスルケ
レドモ、隨分中ニハ證據ノ備ハラヌモノガアル、初ハ證據ヲ持ッテ居ッタケレ
ドモ、或ハ紛失ヲ致シタトカ、或ハ盜難ニ罹ッタトカ、或ハ火災ノ爲ニ燒ケテ
シマッタト云フヤウナコトデアッテ、折角持ッテ居ッタ所ノ證據、證文若クハ書
類等ヲ無クシタト云フヤウナモノハ、隨分アルノデアリマス、又證人ニ致シ
マシテモ、證人トシテ立派ニ證據立テルコトノ出來ル人ガ、或ハ死ンデシマッ
タトカ、或ハ他行ヲシテ裁判所所在地ニ居ラナイト云フヤウナコトデ、隨分
其證據ハアッテモ埓ガ明カヌヤウナモノガ、隨分アルノデアリマス、サウ云フ
場合ニハ本人ヲ直接ニ呼出シマシテ、直接其人ニ付テ訊問シ、サウシテ其人
ガ尋ネタコトニ對シテ白狀ヲ致ストカ、白狀ヲ致シマセイデモ、或ハ事實ノ
眞相ヲ見ルヤウナ程ノ申立デモ致シマスルト云フト、ソレヲ一ツノ證據トシ
テ裁判ヲスルコトガ出來ルコトニナッテ居ルノデアリマス、併ナガラ現行ノ法
律ノ下デハ、外ニ證據ガアリマシタ場合ニハ、假令本人ニ就テ訊問シタナラバ
立派ナ證據ガ擧ガルコトガ出來ルト思ヒマシテモ、他ノ證據物ヲ差措イテ本
人ヲ訊問スルコトガ出來ナイコトニナッテ居ルノデアリマス、デ、是モ亦訴訟
非干渉主義トカ、或ハ本人自由主義トカ云フヤウナコトカラ生ジテ來テ居ル
所ノ不便ノ一ツデアリマス、ソレデアリマスカラ實際事ニ當ル者ハ、證據ノ
有ル場合デモ、又眼前ニ證據ノ無イ場合デモ、一應本人ニ就テ訊問ヲ致シマ
シタナラバ、忽チ事件ノ眞相ガ分ッテ、直グ樣判斷ヲスルコトガ出來ヤウト
思ヒマシテモ、如何セン法律デ、總テノ證據ヲ調ベタ後デナケレバ本人ヲ訊
問スルコトガ出來ナイト云フコトガ書イテアルガ爲ニ、本人ヲ訊問スルコ
トガ出來ナイコトニナッテ居リマス、所ガ前ニ申上ゲマシタヤウニ、今度ノ
民事訴訟法改正法律案ト云フモノガ、現行法ノ非干涉主義トカ、或ハ本大主
義ト云フコトヲ改メラレマシテ、職權主義、卽チ裁判所ガ總テ訴訟ノ指揮ヲ
シ訴訟ノ進行ヲ圖ルコトニスルト云フ主義ノ下ニ改正ヲ致サレタノデアリ
マスルカラシテ、此本人訊問ニ付テモ、極メテ自由自在ニ訊問スルコトガ出來
ルコトニナッタノデアリマス、卽チ草案ノ三百三十六條ヲ御一覽ヲ願ヒマスル
ガ、此條ニ依リマスト云フト、裁判所ガ證據調ニ依リ心證ヲ得ルコト能ハサ
ルトキ其他必要アリト認ムルトキハ、申立ニ因リ又ハ職權ヲ以テ當事者本
人ヲ訊問スルコトガ出來ルト云フヤウニナッテ居ルノデアリマス、デアリマ
スルカラ、此改正案ガ成立チマシテ、サウシテ實行セラレマシタ曉ハ、如何
ナル證據ガアリマシテモ、又無イ場合ニ於キマシテモ、直グ樣本人ヲ呼出
シテ、サウシテ本人ノ自白ヲ得ルカ、或ハ又自白ガナクテモ、事實ニ近イ
所ノ事實ヲ發見スルコトガ容易ニ出來ルコトニナッタノデアリマス、是モ亦
訴訟ノ延滯ヲ防ギ、訴訟ノ進捗ヲ圖ル所ノ一手段トナッテ居ルノデアリマス、
デ、私共ハ乏シキ經驗デハアリマスガ、此現行法ノ下ニ於キマシテ、本人ヲ
訊問シタナラバ確カナル事實ヲ探リ聞キ得ルコトガ出來ルト思ヒナガラモ、
出來ナカッタコトハ、非常ニ痛切ニ不便ヲ感ジテ居リマシタガ、斯ノ如ク其
必要ノ時ハ、何時ニテモ訊問スルコトガ出來ルト云フコトニナリマシタカラ、
其不便ハ除カレ、又之ガ爲ニ非常ニ訴訟ノ進行ヲ早メルト云フコトニナリマ
シタノデ、非常ニ私共喜ンデ居ッタ次第デアリマス、所ガ衆議院ニ於キマシテ
ハ此大切ナル所ノ「其ノ他必要アリト認ムルトキ」ト云フ文句ヲ全ク削ッテ
シマッタンデス、是モ亦前ニ申上ゲマスト同樣ニ、衆議院ニ於キマシテハ、今
度ノ改正法律案ノ根本主義ニ觸レテ、根本主義ヲ覆スコトニナッタヤウナ結果
ヲ見ルノデアリマス、ソレカラ其次ニハ、控訴制限ニ關スル規定デアリマス
ガ、御承知ノ通リ今日現行法ノ下ニ於キマシテハ、如何ナル微細ナ事件デモ
控訴ヲ許サレテ居ッタノデアリマス、十圓ノ事件デモ二十圓ノ事件デモ、百圓
ノ事件デモ、モウドンナ事件デモ一審ノ裁判ニ不服デアッタナラバ控訴スル
コトガ出來、控訴ノ裁判ニ不服デアッタナラバ大審院ニ上告スルコトガ出來ル
ヤウニナッテ居。ッタノデアリマス、所ガ事ノ實際ヲ見マスト、微細ナル事件ニ
付テ控訴ヲ爲スト云フコトガ極メテドウモ不經濟デアリ、又甚ダ不便ナコト
ヲ感ズルノデアリマス、何故是ハ不經濟カト申シマスルニ、訴訟ヲ致シマス
ルニハ必ズ多少ノ費用ヲ要スルノハ、申スマデモナイコトデアリマス、殊
本人訴訟デモナク、辯護士デモ賴ンデ訴訟ヲシテ貰フト云フ場合ニハ、少カ
ラザル費用ヲ要スルノデアリマス、デアリマスルカラシテ、成ルベク訴訟ナ
ドハセズシテ、下方示談デ事ヲ纏メルト云フコトガ萬全ノ策デアルト云フコ
トハ、申スマデモナイコトデアリマスガ、、萬カ一下方示談デ纏マラズシテ、裁
判所ニ訴ヘナケレバナラヌト云フヤウナ場合ニ、成ルベク費用ヲ少クシ、成
ルベク簡便ナ方法デ、其事件ノ終結落著ヲ見ルト云フコトハ.官民共ニ經濟
上カラ申シマシテモ、能率上カラ申シマシテモ、極メテ必要ナコトデアラウ
ト考ヘルノデアリマス、デ此今度ノ改正案ニ依リマスルト云フト、二百圓以下
ノ訴訟事件ニ付テハ控訴スルコトガ出來ナイト云フコトニ決メラレタノデア
リマス、デ、チヨット考ヘマスルト云フト、如何ニモ、金額ガ少ナウテモ、控訴
ノ出來ナイト云フコトハ隨分不自由ナコトデアリハシナイカ、三百圓ニナレ
バ控訴ヲ許シ、二百圓デアレバ許サナイ、金ノ多少ニ依ッテ控訴ヲ許ス許サヌ
ト云フコトハ、如何ニモ不公平ノ扱ヒデハナイカ、又今日二百圓ト云フノハ金
持ニ取ッテハ極メテ少額ナモノデアリマセウガ、貧乏人ニ取ッテハ二百圓ト云
フモノハ極メテ大金デアリマス、デ、二百圓位ノ訴訟ヲスルモノハ、多クハ貧
乏人トマア申サナケレバナラナイ、金持デアリマシタナラバ、二百圓、三百圓
ノモノハ取ラウガ捨テヤウガ餘リ痛痒ハ感ジナイノデアリマスガ、又サウ
云フ少額ヲ以テ裁判所ニ爭ヲスルヤウナコトハ、其人ノ面目ニモ關ハルト云
フヤウナコトデアリマスカラ、金持ナドハサウ云フ少額事件ニ付テ爭ヲスル
コトハナイノデアリマスカラ、裁判所ニ向ッテ百圓ヤ二百圓位ノ訴訟ヲスルノ
ハ、極メテ貧乏人デアル、極メテ其金ガ大切ナル大金デアルト云フヤウナ場
合ニ限ルモノト申サナケレバナラヌ、然ルニ裁判所ハ一審デ裁判ヲ打切ッテ
シマッテ、控訴ヲ許サナイト云フコトハ、卽チ金持ニハ控訴ヲ許シ、貧乏人ニ
ハ控訴ヲ許サナイト云フヤウナ、實ニ依估偏頗ノ處置ト申サナケレバナラヌ、
ト云フコトノ攻擊ガアルノデアリマス、所ガ此議論ト云フモノハ實ハ贔負ノ
引倒シデ、唯理窟ニ於テハ或ハサウ云フ理窟ガ立ツカモ知レマセヌケレドモ、
經濟上カラ考ヘ又實利上カラ考ヘ、又實生活カラ考ヘマスルト云フト、極
メテ不經濟ニナルノデアリマス、ナゼカト申シマスルニ、裁判所ニ於テ二百
圓以下ノ事件ニ付テハ杜撰ノ裁判ヲスルトカ、宜イ加減ノ裁判ヲスルト云フ
ヤウナ前提ガアリマシタナラバ、是ハ控訴ヲ許スノハ當リ前ノコトデアリマ
スケレドモ、裁判官ト云フモノハ立派ナル知識ヲ持チ、又豐富ナル經驗ヲ持ッ
タ人バカリガ居リマス、殊ニ區裁判所邊リデ事務ヲ扱フ所ノ裁判官ト云フモ
ノハ多クハ老練ナル人ガ多イノデアリマス、サウ云フ人ガ日常ノ經驗、日
常ノ扱フ所ノ經驗手並ニ依ッテ裁判ヲスルノデアリマス、萬々間違ヒハ無イノ
デアリマス、併シソレハ裁判官モ人間デアリマスカラ、千件ノ中若クハ數千
件ノ中ニハ誤リノ無イト云フコトハ斷言ハ出來マセヌケレドモ、殆ド間違
ガ無イト云ッテモ宜カラウト思フノデアリマス、是マデノ經驗上ニ於テ、其事
ガ分ルノデアリマス、二百圓若クハ百五十圓位ノ訴訟ト云フモノガ控訴ヲ致
シマシテモ、其控訴ノ成立ツト云フコトハ殆ド無イノデアリマス、デ、實際カ
ラ考へ又經濟カラ考ヘ、又實蹟カラ考ヘテモ、此通リデアリマスルガ、先
ヅ經濟ノ點カラ、モウ一度他ノ方面カラ考ヘマスト云フコトハ、若モ一審デ
落著ヲ致シマシテ、控訴シナイト云フコトニナリマスト云フト、控訴ヲスル
爲ニ要スル費用ト云フモノガ省ケルノデアリマス、サウシテ又控訴ヲ致シマ
スト云フト。二箇月ヤ三箇月間ハ決シテ落著ヲシナイノデス、少クモ數箇月
ヲ要スルノデアリマス、其數箇月ノ間ト云フモノハ一審ニ於テ勝ッタモノハ
其裁判ヲ執行スルコトガ出來ズ、卽チ得ベキ所ノ利益ヲ得ルコトガ出來ズ、負
ケタ者デアリマスルト云フト、負ケタ上ニ尙ホ費用ヲ出サナケレバナラヌト
云フコトニナッテ、雙方共ニ多分ノ費用ヲ要スルノデアリマス、又控訴ヲ許サ
レルト云フコトニナッテ居リマスト云フト、意地ニモ假令自分ノ衷心デ
ハ負ケタノハ當リ前デアル、仕方ガナイト諦メマシテモ、控訴ガ出來ルト
云フコトニナリマスト云フト、控訴セヌノハ如何ニモ卑怯未練ノヤウニ考ヘ
ラレルノデアリマス、デアリマスカラシテ、自分ノ本心ニ於テハ此裁判ハ
間違ハ無イ、モウ致シ方ガナイ、諦メナケレバナラヌト思ッテ居リマシテモ、
意地ヅク上控訴ヲスルト云フコトニナルノデアリマス、所ガ若シ微細ナ事件
デ格別利害ノ關係ガナイモノニナッタナラバ控訴ヲ許サナイト云フコトニナ
リマスト、今申シマシタヤウナ人〓ハ、控訴シタイケレドモ出來ヌカラ仕方
ガナイカラ、此儘ニ甘ンズルノデアルト云フ、一時的ニ、申譯的ニ遂ニ其裁
判ニ服スルト云フコトニナルノデアリマス、其裁判ニ服スルノハ、形ノ上デ
服スルノデハナイ、事實上心服スルト云フヤウナコトニナル譯ニナルノデア
リマス、此點カラ申シマシテモ、微細ナ事件ニ付テ總テ控訴ヲ許スト云フコ
トニナレバ、甚ダ不便デアル、不經濟デアル、不爲デアルノデアリマス、是
ハ今日日本ガ初メテサウ云フ制度ヲ設ケタノデアリマセズシテ、歐米ニ於キ
マシテハ殆ド悉ク同一ノ制度ヲ採ッテ居ルノデアリマス、佛蘭西ニ於テモ、獨
逸ニ於キマシテモ、英國ニ於キマシテモ、皆同一ノ制度ヲ採ッテ居リマス、サウ
シテ別ニ其制度ガアルカラト云ウテ、人民カラ不平ノ聲ガ絕エナイト云フコ
トモ聞キマセズ、又ソレガ爲ニ不實ナ裁判ヲ受ケ、サウシテ控訴ガ出來ヌガ
爲ニ大變ナ迷惑ヲ感ジテ居ルト云フヤウナコトモ、一向聞イタコトガ無イノ
デアリマス、寧ロ反對ニ官民共ニ頗ル便利ト云フヤウナ感ジヲ持ッテ居ルコ
トヲ聞クノデアリマス、デアリマスルカラシテ、此控訴ヲ制限スルト云フコ
トハ極メテ結構ナ制度デアッテ、之ガ爲ニ人民ニ於テハ經濟上非常ニ助カリマ
ス事デモアリ、又裁判所ノ能率ノ上カラ申シマシテモ、非常ニ能率ヲ高メル
上ニ付テモ結構ナ事デアリマス、サウシテ又訟訴ヲ落著始未スル上ニ於テモ
非常ナ效能ガアルノデアリマス、デアリマスルカラシテ、今度改正法案ニ於
テ此干渉主義ヲ改メテ、職權主義若クハ裁判所デ總テ引受ケテヤルト云フ主
義ヲドコ迄モ發揮シヤウト云フ上ニ付テハドウシテモ此控訴制限ト云フモ
ノガ無ケレバナラヌコトデアルノデアリマス、所ガ衆議院ニ於キマシテハ矢
張リ此條モ削ラレタノデアリマス、而モ此條ニ付キマシテハ、卽チ控訴制限
制度ニ付キマシテハ、貴族院ニ於キマシテ非常ニ熟慮イタシマシテ、サウシ
テ初メ原案ニ於キマシテハ三百圓デアリマシタノヲ二百圓ニ減ジマシテ、
二百圓以下ノ訴訟事件ニ付テハ控訴ヲ許サナイト云フコトニ決メタノデアリ
やく、卽チ此條項ハ貴族院ノ修正ニ係ル條項デアリマスノデス、所ガ衆議院
ニ於キマシテハ、全ク此條項ヲ改正法律案カラ取除カレタノデアリマス、斯
ノ如ク此民事訴訟法改正法律案ノ根本ノ趣意、又ハ骨子トナル所ノ三ツノ事
柄ニ付テ、斯ノ如キ無殘ナル修正ヲ加ヘラレタノデアリマス、若モ此修正案
ガ此儘成立チマシテ、貴族院ニ於カレマシテ此修正ニ同意セラレ、サウシテ
此法律ガ裁可實施セラレルト云フコトニナリマシタナラバ、此改正案ノ最モ
大切ナル所ノ趣意、最モ大切ナル所ノ根本要義ト云フモノハ、全ク無クナッテ
シマフ、全クト云フノハ少シ語弊ガアルカモ知レマセヌガ、其趣意效能ト云
フモノノ一半ハ無クナッテシマフ譯デアリマス、サウ致シマスルト云フト、四
十年來モ實施ヲ致サレテ居ノテ、官民共ニ習熟シテ居ル所ノ訴訟法ヲ改メテ、
裁判運用ノ機關ニ一大革命ヲ起サシテ、サウシテ實施シタ所ノ法律ハ、何等
ノ效能モ無イト云フコトニナルト云フト、所謂蜂モ取ラズ虻モ取ラヌト云フ
結果ニナリハセヌカト云フコトヲ私ハ憂フルノデアリマス、以上ノ理由デア
リマスルカラシテ、ドウカ當院ニ於カレマシテハ、此衆議院ニ於テ修正ヲ致サ
レタ三大事項ハ、改正法律案ノ根本骨子デアリ、又一大改革ヲスルニ付テ大
切ナル趣旨ニ悖ルモノデアルト云フコトヲ考ヘラレテ、サウシテ又院議ノ重
キニ鑑ミラレマシテドウカ衆議院ノ修正案ニ同意ヲ表セラレヌコトヲ、切ニ
希望シテ已マナイ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=116
-
117・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 佐竹三吾君ノ登壇ヲ望ミマス
〔佐竹三吾君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=117
-
118・佐竹三吾
○佐竹三吾君 私ハ衆議院ノ修正意見ニ賛成ヲ表スル者ノ一人デアリマス、
其理由ヲ申述ベマスル前ニ、一應政府ノ此修正ニ對スル意見ヲ承知シタイト
思フノデアリマスルガ、其意見ヲ聽キマスル時機ヲ失シタノデアリマスカ
ラ私ガ一應ノ說明ヲ申シマシテ後ニ政府ノ意見ヲ求メタイト思フノデアリ
〒8、衆議院ニ於ケル修正ノ箇條ハ、唯今水上君ノ御話ノ如ク、條文ノ數カ
ラ申シマスルト、十九箇條ニ亙ッテ居ルノデアリマス、其中ノ三箇條ハ、條文
ヲ動カシマシタガ爲ニ當然起ル結果デアリマシテ、他ノ十六箇條ガ內容ニ付
テノ修正デアリマス、其十六箇條ノ中デ、十三箇條ハ比較的經微ナル文句ノ
修正デアリマシテ、寧ロ衆議院ノ修正ガ條文ノ不明ナル點ヲ明カニシタト云
フヤウナ便宜ガアルト思フノデアリマス、他ノ三箇條ハ、唯今水上君カラ反
對ノ理由ヲ御說明ニナリマシタノデアリマスカラ、其說明ニ對シマシテ、私
ハ極メテ簡單ニ、修正案贊成ノ理由ヲ申述ベタイト思フノデアリマス、其第
一ノ點ハ百五十二條ニ關スルコトデアリマシテ、百五十二條ハ三項カラ成ッテ
居ルノデアリマスガ、衆議院ニ於キマシテ、之ニ第四項トシテ、一項ヲ加ヘ
タノデアリマス、其意味ハ期日ニ關スルコトデアリマシテ、現行法ハ、口頭
辯論ノ期日ハ申立ニ依ッテ之ヲ變更スルコトヲ認メテ居ッタノデアリマスル
ガ、改正案ハ、總テ職權ニ依ッテ期日ヲ定メマシテ、訴訟代理人、或ハ本人ノ
都合ニ依ッテ期日ヲ變更スルト云フコトノ自由ヲ認メヌコトニシタノデアリ
やさ、然ルニ衆議院ニ於キマスル修正ハ、先程申サレマシタ如クニ、口頭辯
論ニ於ケル訴訟ノ期日ヲ一囘ダケ變更スルコトニナッテ、ソレカラ準備手
續ノ初メニ於ケル期日ノ變更ニ付キマシテ、一囘ダケハ當事者ノ合意ニ依ル
延期ヲ許スコトニ改メタノデアリマス、デ、是ハ現行法ニ於キマシテハ、當事
者ガ勝手ニ期日ヲ變更スルコトガ出來ルノデアリマスカラ、ソレガ訴訟ヲ
遲延セシムル重ナル理由デアルノデアリマスルガ、改正案ハ之ヲ絕對ニ禁
止セムトスルノデアリマス、然ルニ衆議院ニ於ケル修正ハ、其中ノ一囘分ダ
ケノ變更ニ付キマシテ、當事者ノ合意ヲ認メルノデアリマスルカラ、一向
分ダケガ延ビルト云フ差異ヲ生ズルノデアリマス、然ラバ一囘分ダケハナ
ゼ當事者ノ合意ニ依ッテ延期ヲ許スコトガ相當デアルカト申シマスルト是
ニハ二ツノ理由ガアルノデアリマシテ、其一ツノ理由ハ、一訴訟依賴人ガ辯
護士或ハ訴訟代理人ニ訴訟ヲ賴ミニ持ッテ參リマスル時ニ、其期日ガ切迫シテ
愈〓裁判所ニ呼出サレタ期日ガ近ヅイタ、此事件ガドウ扱ッテ宜イカ困ルト
云フノデ、辯護士ノ所ニ相談ニヤル、サウ云フコトガ隨分多イノデアリマス、
其際ニ辯護士ハ其事件ニ付テ十分取調ヲスルコトノ暇ナク、裁判所ニ出頭ヲ
シナケレバナラヌノデアリマスカラ、此際ニ訴訟代理人ノ準備ノ爲ニ一囘ダ
ケ延期ヲ許スト云フコトハ、必シモ理由ノ無イコトデハナイト思フノデアリ
R〓.卽チ若シ訴訟依賴人ガ十分ナル餘裕ヲ置キマシテ、辯護士ニ其事件ヲ
依賴スルコトニナリマスレバ、或ハ其必要ガナイカモ知レマセヌケレドモ、
實際ノ事情カラ考ヘテ見マスルト、期日ニ切迫シテ依賴ヲスルト云フコトガ
多數アルノデアリマスカラ、其際ニハ一囘ダケノ延期ヲ許スト云フコトハ、
確カニ理由ガアルト思フノデアリマス、ソレカラ他ノ理由ハ、最初ノ期日ハ
裁判所ニ於テ、裁判長ガ勝手ニ、卽チ裁判所ノ都合ニ依ッテ決メルノデアリ
マシテ、當事者ノ都合ヲ聽ク餘裕ハナイノデアリマス、ソレデアリマスカラ、
第二囘以後ノ期日ノ指定ニ付キマシテハ當事者ノ都合ヲ聽キマシテ、裁判
長之ヲ決メルコトガ出來ルノデアッテ、又其都合ヲ聽イテ決メルノデアリマス
ガ、第一囘ダケハ裁判長ガ其都合ヲ聽クコト能ハズシテ勝手ニ決メルト云フ
コトニ、多少ノ無理ガアルノデアリマス、ソレデアリマスカラ、其一囘ダケ
ハ合意ニ依ッテ延期ヲ許ス、訴訟代理人ノ都合ヲ考ヘルト云フコトハ、決シテ
是ハ不當ノコトデナイト思フノデアリマス、卽チ現行法ニ依リマスレバ、其
度數ガ何囘デモ延期ガ出來ルノデアリマスガ、改正案ニ依リマスルト、一囘
ダケニ之ヲ止メタノデアリマスカラ、其結果ハ、訴訟ノ遲延ヲ防グト云フコ
トニ大ナル效果ガアルト思フノデアリマス、デ、勿論原案ノ如クニ、全然其事
由ヲ認メナイ、裁判長ガ勝手ニ之ヲ決メタナラバ動カスコトヲ許サナイト云
フコトニスルノモ、、理窟トシテハ正シイ點ガアリマスケレドモ、今日ノ訴訟
ノ實際カラ考ヘテ見マスト.ソコニ多少ノ餘裕ヲ認メル、而モ現行法ハ無制
限デアル、ソレヲ制限スルト云フコトニナルノデアリマスカラ、幾分カ之ニ
餘裕ヲ置クト云フコトハ斯ノ如キ制度ヲ改正スルニ當リマシテハ、當然取
ルベキ順序デアラウト思フノデアリマス、其意味カラ考ヘテ見マスレバ、衆
議院ニ於ケル修正ハ、今日ノ訴訟ノ實際ニ適應シタ、サウシテ弊害ノ餘リ多
カラザル相當ノ修正意見ト考ヘマシテ、之ニ贊成ヲ致ス次第デアリマス、從
テ唯今、水上君ノ御述ベニナリマシタ如クニ若シ之ヲ認メタナラバ、改正
案ノ根本方針ガ破壞サレル、改正ノ本旨ガ半バ失ハレルト云フコトノ御話ガ
アリマシタケレドモ、私ハソレ程重大ナコトトハ考ヘヌノデアリマス、第二
ノ助三百三十六條ニ關シマシテ、原案ハ當事者本人ヲ訊問スルニハ、證
據調ニ依ッテ裁判官ガ心證ヲ得ルコトガ出來ナカッタトキ、「其ノ他必要アリト
認ムルトキ」ト云フ文字ガアッタノデアリマスガ、之ヲ衆議院ハ削除イタシタ
ノデアリマス、其削除スル理由ヲ考ヘマス前ニ、「其ノ他必要アリト認ムル
トキ」ト云フノハ、ドウ云フコトデアルカト云フコトヲ考ヘマスト云フト
是ハ全ク注意的ノ規定デアリマシテ、卽チ當事者本人ヲ調ベルト云フコトハ、
出來得ルダケ後ニスル、他ノ證據ニ依リマシテ、他ノ證據方法ニ依ッテ事件
ノ眞相ヲ明カニスルコトガ出來マスル場合ハ、當事者ヲ訊問スルト云フコト
ハ無イノデアリマス、併ナガラ證據調ベニ依ヲテ十分ナル心證ヲ得ルコトガ
出來ナイ、斯ウ云フ場合ニハ己ムヲ得ズ卽チ最後ノ手段トシテ、當事者本人
ヲ調ベルノデアリマスケレドモ、併ナガラ當事者本人ヲ調ベマシタ結果、或
ル事實ヲ發見イタシマシテ、其事實ヲ調査スル必要ガアレバ、更ニ證據調ニ
移ルト云フコトハ、今日ニ於テモヤッテ居ルノデアリマス、ソレデアリマスカ
ラ、當事者本人ヲ調ベタ後ハ證據調ガ絕對ニ出來ナイト云フコトハ無イノデ
アリマシテ、現在ニ於キマシテモ、裁判官ガ證據調ニ依ヲテ心證ヲ得ルコト
ガ出來ナイト一應ハ考ヘマシテ、當事者本人ヲ調ベマシテモ、調ベタ後ニ尙
ホ必要ガアレバ、證據調ヲ爲スコトガ出來ルコトニナッテ居ルノデアリマス、
サウ云フ解釋ガ又正シイノデアリマス、ソレデアリマスカラ衆議院ノ修正ニ
依ら、「其ノ他必要アリト認ムルトキ」ト云フ文字ヲ削除イタシマシテモ、
先程水上君ノ御話ノ如クニ、是ガ非干涉主義カラ干涉主義ニ移ッタト云フ原
則ヲ破壞シタト云フコトニナラヌノデアリマス、卽チ注意的ノ規定ヲ除キマ
シタダケデアッテ、此修正ノ結果、取扱上ニハ何等ノ差異ハナイノデアリマ
ス言葉ヲ換ヘテ申上ゲマスレバ、證據調ニ依ッテ心證ヲ得ルコト能ハザル
時ハ當事者本人ヲ訊問スル、斯ウ云フコトニナッテ居リマスガ、其當事者本人
ヲ訊問シタ後ニ於キマシテモ、尙ホ必要ガアレバ證據調ヲスルコトガ出來ル、
其事ヲ結果カラ考ヘテ見マスルト、「其ノ他必要アリト認ムル」ト云フコトガ
若シ無カッタナラバ、所謂最後ニアラザレバ本人ノ訊問ガ出來ナイ、ト云フ風
ニ御話ガアリマシタケレドモ、私ハ前申上ゲマシタ如クニ、現行法ニ於テモ、
或ハ此修正案ニ依リマシテモ、何レニ依リマシテモ、當事者本人ヲ訊問シタ
後ニ於テモ、尙ホ證據調ベヲスルト云フコトハ一向差支ナイト云フ解釋ニ依。ツ
テ、更ニ何等ノ不都合ヲ認メナイノデアリマス、卽チ此點ヲ削除スルト云フ
コトハ、唯今御話ノ如ク、サウ云フ根本主義ノ變更ニ非ズシテ、單ニ注意的
ノ規定ヲ削除シタニ止マルト思フノデアリマス、第三ノ點ハ上訴權ノ制限
デアリマシテ、三百六十一條ニ關係イタシテ居ルノデアリマス、先程御述べ
ニナリマシタ如クニ、上訴權ハ現行法ニ依リマスト無制限デアリマスカラ、
訴訟價額ガ五十錢デモ一圓デモ、上訴ガ出來ルノデアリマス、然ルニソレハ
訴訟經濟上不都合デアルト云フコトデ、訴訟價額ガ二百圓ニ達シナイモノハ
上訴ヲ許サナイ、卽チ一審ニシテ終審ト云フコトニ定メタノデアリマス然
ルニ此點ニ付キマシテ、衆議院ニ於テ起リマシタ議論ハ大體三ツアルノデ
アリマス、第一ノ理由ハ一體民事訴訟法ト云フモノノ性質カラ考ヘマシテ、
民事訴訟ハ私法上ノ權利ノ有無、或ハ確認ニ付テノ爭デアルカラシテ、假令
其權利ガ小サクテモ、或ハ又金錢ノ價額ノ評價ガ出來ナイ、サウ云フモノデ
アッテモ、總テ其權利ガ有ルカ無イカト云フコトニ付キマシテ、法律上ノ總テ
ノ手段方法ヲ認メナケレバナラナイ、卽チ控訴權ヲ訴訟價額ノ點カラ制限ス
ルト云フコトハ甚ダ不都合デアル、詰リ訴訟ニ依ッテ權利ノ有無ガ確定スル
ノデアッテ、若シ訴訟ヲ許サナイト云フコトニナリマスルト、折角權利ガアル
ト云フコトヲ主張シテモ、其主張スル途ヲ塞グト云フコトニナルノデアリマ
スカラ、上訴權ヲ制限スル事柄自體ガ甚ダ不都合デアルト云フコトガ、一ツ
ノ理由デアリマス、第二ノ理由ハ社會政策ノ上カラ考ヘマシテ、此制限ハ
不都合デアル、是ハ必シモ餘リ理由ガアルコトトハ思ハヌノデアリマスガ、
衆議院ニ於ケル論爭ヲ申上ゲマスルト、中流以下ノ比較的資力ノ乏シイ者ノ
間ニ於ケル訴訟ハ訴訟價額ガ低イ、卽チ金錢ガ、······訴訟價額ガ少イ、ソレ
カラ比較的資力ノ多イ資本家階級ノ訴訟ハ訴訟價額ガ大キイ、其大キイモ
ノニ付テハ、第一審、第二審、第三審ト云フ如クニ、訴訟ノ手段方法ヲ認メ
テ、其低イ者ニ對シテハ一審デ終審ニスルト云フコトガ、社會政策ノ趣旨カ
ラ云ッテ、多少現代ノ思想ニ反スルト云フ非難ガアッタノデアリマス、是ハ私ノ
見ル所ニ依リマスレバ、訴訟價額ガ大キイトカ小サイトカ云フコトハ、決シ
テ訴訟當事者ノ資力ト云フモノニ關係ハナイコトト思フノデアリマス、全ク
事件其モノノ性質ニ依ルノデアリマシテ、金持デアルカラ大キナ訴訟ヲスル、
貧乏人デアルカラ、小サナ訴訟ヲスルト云フコトニハ限ラヌト思フノデアリ
マス、第三ノ點ハ、事件ニ依リマシテハ訴訟價額ヲ現ハスコトガ出來ナイ、
例ヘテ申シマスレバ、家屋ノ明渡シ訴訟、家屋ノ明渡シヲ請求スル訴訟ハ、
其訴訟價額ガ幾ラデアルカト云フコトヲ評定スルコトハ餘程困難デアラウ
ト思ヒマス、又地上權確認ノ訴訟ノ如キハ、地上權其モノノ價額ト云フヨリ
モ、其權利ガ有ルカ無イカト云フコトガ問題デアルノデアリマスカラ、斯ウ
云フ訴訟ニナリマスト、果シテ訴訟價額ヲ何ニ依ヲテ定メルカト云フ議論ガ
アルノデアリマス、斯ウ云フ訴訟價額ノ評定ニ付キマシテ議論ノアリマスル
モノニ對シテハ、斯ノ如キ制限ハ全ク理由ガ無イ、卽チ總テノ訴訟ハ之ヲ價
額ニ評價スルコトガ出來ルト云フコトヲ前提トシテ、初メテ價額ニ依ッテ制
限ヲスルト云フ結論ヲ生ズルノデアリマスガ、斯ノ如キ前提ガ正シクナイト
致シマスレバ、自ラ金額ニ依ッテ之ヲ制限スルト云フ理由ハ乏シイノデアリ
マス、尤モ現行法ニ於キマシテハ訴訟價額ノ不明ナルモノハ訴訟印紙法
ニ依ッテ何圓ト云フコトニ定マッテ居ルノデアリマスルガ、併ナガラ是ハ唯ド
レダケノ印紙ヲ貼ルカト云フコトノ問題ダケデアッテ此上訴權ニハ關係ガ無
イノデアリマス、然ルニ若シ改正案ノ如ク致シマスレバ、其訴訟價額ヲ定メ
ルコトノ出來ナイモノニ對シマシテハ、餘程問題デアラウト思フノデアリマ
ス、デアリマスカラ、此點ニ關スル衆議院ノ修正ハ、相當理由アリト認メル
ノデアリマス、尙ホ上訴權ノ制限ニ付キマシテ、外國法ノ御話ガアッタノデ
アリマスルガ、外國法ニ於キマシテモ、成程制限ハアリマスルケレドモ、制
限ノ定メ方ガ區々デアリマシテ、例ヘテ申シマスレバ、獨逸ニ於キマシテハ
訴訟價額ガ五千馬克以上デアル、佛蘭西ニ於テハ三百法以上デアル、英吉利
ニ於テハ十磅以上デアルト云フ風ニ、其價額ハ國ニ依ッテ色〓遠ッテ居ルノデ
アリマス、デアリマスカラ、ドノ點ガ果シテ相當ナル標準デアルカト云フコ
トハ、諸外國ニ於キマシテモ一定シタル標準ハ無イノデアリマス、サウ云フ
次第デアリマスルカラ、必シモ外國ニ於テ此例ガアルカラ、日本ニ於テモ相當
ト申ス譯ニハ參ラヌト思フノデアリマス、要スルニ以上述ベマシタ此三ツノ
點ハ稍〓本質ニ關スル修正意見デアルノデアリマスルケレドモ、之ヲ全體ト
シテ考ヘテ見マスルト、今囘ノ改正案ハ種々ナル點ニ於テ現行法ノ不備ヲ
補ッテ居ルノデアリマスカラ、此三ツノ衆議院ノ修正意見ニ付テモ各〓相當
ノ理由ガアリマシテ、今直チニ原案ガ總テ宜シイト云フコトニハ參ラヌト思
フノデアリマス、デアリマスカラ、私ハ此修正案ヲ此際貴族院ニ於テ認メル
コトガ出來マシタナラバ、民事訴訟法改正案全部ガ此議會ニ依ッテ成立スル
コトニナリマシテ、多年ノ懸案ガ之ニ依ッテ解決シ、訴訟手續ノ上ニ於キマシ
テ莫大ナル效果ヲ持來スコトト信ズルノデアリマスカラ、此意味カラ考ヘマ
シテモ、此衆議院ノ修正意見ヲ尊重シテ、此儘本院ニ於テ承認スルト云フコ
トガ最モ適當ト信ズルノデアリマス
〔國務大臣江木翼君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=118
-
119・江木翼
○國務大臣(江木翼君) 唯今佐竹君ヨリ御登壇ノ初メニ、衆議院ヨリ參リマ
シタル所ノ修正ニ對スル意見ヲ御尋ネデゴザリマシタ、佐竹君ノ御述ベニナ
リマシタル如ク、衆議院ノ修正ノ重モナル箇條ハ、之ヲ要約イタシマスレバ
結局二點ニ歸スルト思フノデアリマス、此二點ニ於キマシテモ、大體ニ於テ、
改正ノ目的デアリマスル所ノ訴訟ノ促進、裁判ノ適正ト云フコトニ大ナル支
障ヲ生ズルモノデモナカラウト思フノデアリマス、而シテ他ノ改正ノ要點デ
アリマスル所ノモノハ、悉ク認メラレテ居ル次第デアリマス、尤モ衆議院ニ
對シテハ、政府ニ於キマシテハ、今日マデ何等賛否ノ意見ヲ表シテ居リマセ
ヌデゴザイマスルガ、政府ニ於キマシテハ、本案ノ成立ヲ最モ熱心ニ希望ス
ル者デゴザリマスルガ故ニ、幸ニ致シマシテ本院ノ御同意ニ依リマシテ成立
ニ至ラムコトハ、政府ノ最モ熱望スル所デアルト、御承知ヲ願ヒタイノデア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=119
-
120・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 衆議院ヨリ囘付ニ係ル衆議院ノ修正ニ、同意スル
ヤ否ヤノ決ヲ採ラウト存ジマス、衆議院ノ修正ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマ
ス
起立者多數発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=120
-
121・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス
〓吉発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=121
-
122・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 報〓ヲ致サセマス
〔成瀨書記官朗讀〕
本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ノ囘付ヲ受ケタリ
獸醫師法案
〓山东京発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=122
-
123・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ニテ本院規則第五十八條ニ依リマシテ議事ノ延
會ヲ宣〓イタシマス、明日ノ議事日程ハ決定次第本院彙報ヲ以テ御通知ニ及
ビマス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後十時十五分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005103242X03019260324&spkNum=123
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