1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二年三月十四日(月曜日)
午前十時八分開議
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議事日程 第二十一號 昭和二年三月十四日
午前十時開議
第一 請願委員長報告
第二 徴兵令改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第三 關税定率法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第四 大正十四年度法律第五十一號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第五 海外移住組合法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第六 屯田兵の恩給に關する請願 會議
第七 製瓦研究所設置の請願 會議
第八 御料拂下地免租年期に關する請願 會議
第九 部落問題の國策確立に關する請願 會議
第十 貴生川、加茂間鐵道速成の請願 會議
第十一 水産會國庫補助増額の請願 會議
第十二 國立水産試驗場設立の請願 會議
第十三 日露漁業協約に關する請願 會議
第十四 熊本遞信局海事部下關出張所存置の請願 會議
第十五 三重縣一志郡米の庄村大字上の庄に停車場設置の請願 會議
第十六 網走、中湧別間鐵道敷設の請願 會議
第十七 上磯、松前兩鐵道敷設の請願 會議
第十八 白河、廣田間鐵道敷設の請願 會議
第十九 木次、三次間鐵道敷設の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ諸般ノ報〓ヲ致サセマス
〔長書記官朗讀〕
一昨十二日可決シタル議員從五位勳三等永田仁助君ニ對スル弔辭ハ即日之
ヲ贈レリ
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨
ヲ衆議院ニ通知セリ
御料地拂下地ノ地租及登錄稅免除ニ關スル法律案
國債整理基金特別會計法中改正法律案
土地賃貸價格調査委員會法案
同日本院ニ於テ修正議決シタル左ノ政府提出案ハ即日之ヲ衆議院ニ送付セ
リ
商工會議所法案
同日豫算委員長ヨリ福永吉之助君ヲ第二分科擔當委員ニ選定シタル旨ノ報
告書ヲ提出セリ
同日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
登錄稅法中改正法律案外五件特別委員會
委員長添田壽一君
副委員長田村駒治郞君
水戶鐵道株式會社、越後鐵遺株式會社、陸奧鐵道株式會社、苫小牧輕便
鐵道株式會社及日高拓殖鐵道株式會社所屬鐵道買收ノ爲公債發行ニ關ス
ル法律案外一件特別委員會
委員長伯爵酒井忠正君
副委員長男爵辻太郞君
產業組合中央金庫法中改正法律案特別委員會
委員長服部一三君
副委員長五十嵐甚藏君
同日特別委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
海外移住組合法案可決報告書
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
徵兵令改正法律案
關稅定率法中改正法律案
大正十四年法律第五十一號中改正法律案
本日第五部ニ於テ豫算委員永田仁助君ノ補關選擧ヲ行ヒシニ其ノ結果淺田
德則君當選セリ
本日第八部ニ於テ豫算委員神野勝之助君ノ補闕選擧ヲ行ヒシニ其ノ結果宮
田光雄君當選セリ
美〓発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、日程第一、請願委員長報
〓、伯爵酒井忠克君
伯爵酒井忠克君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=2
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003・酒井忠克
○伯爵酒井忠克君 第二囘ノ請願委員長報告ヲ申上ゲマス、去ル二月二十二
日ニ第一囘報〓ヲ致シマシタル以後ニ於キマシテ、請願委員會ハ二月二十五
日ト三月十一日ノ二囘開會イタシマシタ、請願委員會分科會ニ於キマシテ
ハ第一分科ハ二月二十八日ト三月七日ノ二囘、第二分科ハ三月一日ト三月
八日ノ二囘、第三分科ハ三月七日一囘、第四分科ハ三月一日ト三月八日ノ二
囘、分科全體ヲ通ジマシテ總テ七囘開會イタシマシタ、請願文書表報告ハ二
月二十三日、三月二日、三月九日ノ三囘提出イタシマシタ、請願委員會特別
報〓ハ二月二十五日ト三月四日、三月十一日ノ三囘提出イタシマシタ、第
囘報告以後ニ於キマシテ受領イタシマシタル請願書ノ件數ハ二百九件、二百
九十六通デゴザイマス、ソレノ連署人名數ハ三万三千百七十四名ニ達シテ居
リマス、而シテ第一囘報告ノ際ニ、文書表未揭載件數ガ四十一件四十一通
ゴザイマスルカラ、ソレヲ合シマスルト計二百五十件三百三十七通ト相成リ
やく、其中デ第一囘報告後ニ請願文書表ニ揭載イタシマシタル件數ハ、百九
十二件二百七十九通デゴザイマス、其外ニ第一囘報告ノ際文書表ニ揭載イタ
シマシテモ審査未了ニナリマシタルモノガ、九十九件百七十二通ゴザイマス
カラ、合計二百九十一件四百五十一通ト相成リマス、以上ノ諸件ニ付キマシ
テ審查イタシマシタル結果、院議ニ付スベシト議決シタルモノ三十九件四十
一通デゴザイマス、院議ニ付スルヲ要セズト議決シタルモノハ十六件十八
通審査未了ノモノガ二百三十六件三百九十二通ト相成リマス、請願文書表
未揭載件數ガ五十八件五十八通ゴザイマス、以上ハ昭和二年三月十二日午後
四時ヲ以テ締切リマシタモノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=3
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004・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 請願ノ件ニ付テ政府委員ニ伺ヒタイノデゴザイマスガ、
内閣ノ政府委員ガ出テ居ラレマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 出テ居ラレマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=5
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006・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 私ハ先般豫算委員會ニ於テ、政府ニ對シテ、初期以來兩
院ヲ經マシテ政府ニ傳達イタシマシタ請願ノ數、其種類、政府ニ於ケル採擇
ノ件數等ニ付テ、質問イタシマシテ、其後政府ヨリ最近ニ於ケル報〓ヲ得マ
シタ、併ナガラ初期以來ノモノヲ得テ居リマセヌガ、是ハ今議會中ニ材料ノ
頂戴ガ出來マスカドウカ、伺ヒタイノデアリマス
〔政府委員山川端夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=6
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007・山川端夫
○政府委員(山川端夫君) 御答ヲ致シマス、初期以來ノ請願ニ付テノ色〓ノ
調查ヲ柳澤伯爵カラ御賴ミニナリマシタ、只今政府デハ取急イテ調査ヲ致シ
テ居リマス、成ルベク速ニ終リマシテ······調ベマシテ御覽ニ入レヤウト考ヘ
テ居リマス、兎モ角初期以來ノコトデアリマスカラ、少シク時日ヲ要シマス
ケレドモ、出來ルダケ取急イデ調べテ差上ゲタイト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=7
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008・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、徵兵令改正法律案、政府提出、衆議院
送付、第一讀會、宇垣陸軍大臣
徵兵令改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和二年三月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
徵兵令改正法律案
兵役法
第一章總則
第一條帝國臣民タル男子ハ本法ノ定ムル所ニ依リ兵役ニ服ス
第二條兵役ハ之ヲ常備兵役、後備兵役、補充兵役及國民兵役ニ分ツ
常備兵役ハ之ヲ現役及豫備役ニ、補充兵役ハ之ヲ第一補充兵役及第二補
充兵役ニ、國民兵役ハ之ヲ第一國民兵役及第二國民兵役ニ分ツ
第三條志願ニ依リ兵籍ニ編入セラルル者ノ兵役ニ關シテハ勅令ノ定ムル
所ニ依ル
第四條六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者ハ兵役ニ服スルコ
トヲ得ズ
第二章服役
第五條現役ハ陸軍ニ在リテハ二年、海軍ニ在リテハ三年トシ現役兵トシ
テ徵集セラレタル者之ニ服ス
現役兵ハ現役中之ヲ在營セシム
第六條豫備役ハ陸軍ニ在リテハ五年四月、海軍ニ在リテハ四年トシ現役
ヲ終リタル者之ニ服ス
第七條後備兵役ハ陸軍ニ在リテハ十年、海軍ニ在リテハ五年トシ常備兵
役ヲ終リタル者之ニ服ス
第八條第一補充兵役ハ陸軍ニ在リテハ十二年四月、海軍ニ在リテハ一年
トシ現役ニ適スル者ニシテ其ノ年所要ノ現役兵員ニ超過スル者ノ中所要
ノ人員之ニ服ス
第二補充兵役ハ十二年四月トシ現役ニ適スル者ノ中現役又ハ第一補充兵
役ニ徵集セラレザル者及海軍ノ第一補充兵役ヲ終リタル者之ニ服ス但シ
海軍ノ第一補充兵役ヲ終リタル者ニ在リテハ十一年四月トス
第九條第一國民兵役ハ後備兵役ヲ終リタル者及軍隊ニ於テ〓育ヲ受ケタ
ル補充兵ニシテ補充兵役ヲ終リタル者之ニ服ス
第二國民兵役ハ戶籍法ノ適用ヲ受クル者ニシテ常備兵役、後備兵役、補
充兵役及第一國民兵役ニ在ラザル年齡十七年ヨリ四十年迄ノ者之ニ服
ス
第十條年齡二十五年迄ニ師範學校ヲ卒業シタル者(小學校ノ〓職ニ就ク
ノ資格ヲ失ヒタル者ヲ除ク)ノ現役ハ第五條ノ規定ニ拘ラズ五月トス但
シ師範學校ノ〓練ヲ修了セザル者ニ在リテハ七月トス
前項ノ規定ニ依リ現役ニ服スル者ハ現役中之ヲ短期現役兵ト稱ス
短期現役兵其ノ現役ヲ終リタルトキハ直ニ第一國民兵役ニ服ス
第十一條現役兵ニシテ靑年訓練所ノ訓練又ハ之ト同等以上ト認ムル訓練
ヲ修了シタル者ノ在營期間ハ六月以內之ヲ短縮スルコトヲ得
前項ニ規定スル認定及在營期間短縮ニ關スル事項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十二條現役兵ニシテ前條ノ規定ノ適用ヲ受ケザル者ノ在營期間ハ軍事
上妨ゲナキトキニ限リ勅令ノ定ムル所ニ依リ六十日以內之ヲ短縮スルコ
トヲ得
第十三條現役兵ニシテ一年六月以內ニ於テ〓育ヲ修了シ得ル兵種ニ屬ス
ル者ノ在營期間ハ前二條ノ規定ニ拘ラズ勅令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ短縮
スルコトヲ得
第十四條現役兵ニシテ在營中左ノ各號ノ一ニ該當スル者ノ在營期間ハ之
ヲ短縮スルコトヲ得
品行方正學術勤務ノ成績優秀ナル者
二定員ニ對シ過剩ト爲リタル者
第十五條前四條ノ規定ハ短期現役兵ニ之ヲ適用セズ
第十六條第十一條乃至第十四條ノ規定ニ依リ在營期間ヲ短縮スル場合ニ
於テハ現役期間內ニ未入營期間又ハ歸休期間ヲ置ク
第十七條現役又ハ補充兵役ハ現役兵又ハ補充兵トシテ徵集シタル年ノ十
二月一日ヨリ之ヲ起算ス
短期現役兵ノ現役ハ入營ノ月ノ一日ヨリ之ヲ起算ス
戰時又ハ事變ノ際其ノ他必要アル場合ニ於テハ前二項ニ規定スル起算ノ
日ヲ變更スルコトヲ得
第十八條第五條乃至第八條、第九條第一項及第十條ニ規定スル服役ハ其
ノ期間ニ拘ラズ年齡四十年ヲ以テ限トス
第十九條左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ服役ノ期間ヲ延長スルコトヲ得
一戰時又ハ事變ニ際スルトキ
二出師ノ準備又ハ守備若ハ警備ノ爲必要アルトキ
三航海中又ハ外國ニ於テ勤務中ナルトキ
四重要ナル演習又ハ特別ニ觀兵ノ擧アルトキ
五天災其ノ他避クベカラザル事故ニ因リ已ムヲ得ザルトキ
前項ノ規定ニ依リ延長シタル期間ハ次ニ服スベキ兵役ノ期間ニ之ヲ通算
ス
第二十條在營中本人ニ依ルニ非ザレバ家族(戶主ヲ含ミ本人ト世帶ヲ同
ジクスル者ニ限ル)ガ生活ヲ爲スコト能ハザルニ至リタルトキハ現役ヲ
免除ス但シ故意ニ其ノ事故ヲ作爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十一條現役兵、豫備兵、後備兵若ハ補充兵ニシテ疾病其ノ他身體若
ハ精神ノ異常ニ因リ當該兵役ニ服シ難キ者又ハ現役兵ニシテ前條ノ規定
ニ依リ現役ヲ免除セラレタル者ハ之ヲ他ノ兵役ニ轉ゼシム但シ疾病其ノ
他身體又ハ精神ノ異常ニ因リ兵役ニ堪ヘザル者ニ對シテハ兵役ヲ免除
ス
前項ノ規定ニ依リ轉役スル者ノ服スベキ兵役及服役期間ノ計算ニ關シテ
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十二條現役兵ニシテ入營前又ハ入營後六年未滿ノ懲役又ハ禁錮ノ刑
ニ處セラレタル者ノ在營中刑ノ執行ヲ受ケタル日數及在營中逃亡シタル
者ノ逃亡中ノ日數ハ之ヲ現役期間ニ算入セズ
第三章徵集
第二十三條戶籍法ノ適用ヲ受クル者ニシテ前年十二月一日ヨリ其ノ年十
一月三十日迄ノ間ニ於テ年齡二十年ニ達スル者ハ本法中別段ノ規定アル
モノヲ除クノ外徵兵檢查ヲ受クルコトヲ要ス
前項ニ規定スル年齡ハ之ヲ徵兵適齡ト稱ス
第二十四條戶主ハ其ノ家族中每年十二月一日ヨリ同月三十一日迄ノ間ニ
年齡二十年ト爲ル者アルトキハ翌年一月中ニ、一月一日ヨリ十一月三十
日迄ノ間ニ年齡二十年ト爲ル者アルトキハ其ノ年一月中ニ本籍ノ市町村
長ニ屆出ヅベシ戶主年齢二十年ト爲ルトキ亦同ジ但シ命令ヲ以テ定ムル
者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
第二十五條兵員ヲ徵集スル爲徵兵區ヲ設ク
徵兵區ハ之ヲ徵募區ニ分ツ
徵兵區ノ種類及區域竝ニ徵募區ノ區域ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第二十六條現役兵及第一補充兵ノ員數ハ之ヲ徵兵區ニ配賦シ更ニ之ヲ徵
募區ニ配賦ス
前項ニ規定スル配賦ハ徵兵區又ハ徵募區ニ本籍ヲ有シ徵兵檢査ヲ受クベ
キ者ノ見込數ヲ基準トシテ之ヲ行フ
第二十七條前條ノ規定ニ依リ配賦シタル兵員ハ當該徵募區ニ本籍ヲ有ス
ル者ヨリ之ヲ徵集ス
第二十八條徵兵區又ハ徵募區ニ配賦シタル兵員ヲ當該徵兵區又ハ徵募區
ニ於テ充足シ難キトキハ其ノ不足員數ヲ他ノ徵兵區又ハ徵募區ニ配賦シ
徵集スルコトヲ得
第二十九條徵兵檢査ハ徵兵檢査ヲ受クベキ者ノ本籍所在ノ徵募區ニ於テ
之ヲ行フ但シ身體檢査ニ限リ本籍所在ノ徵募區以外ノ地ニ於テ行フコト
ヲ得
第三十條徵兵檢查ヲ受クベキ者徵兵檢査ヲ受クベキ年ニ於テ之ヲ受ケザ
ルトキハ次年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ
第三十一條身體檢查ヲ受ケタル者ニシテ現役兵又ハ第一補充兵トシテ徵
集セラルベキ者ハ他ノ徵募區ニ轉屬スルモ之ヲ轉屬前ノ徵募區ノ配賦人
員ニ充テ徵集ス
第三十二條身體檢査ヲ受ケタル者ハ左ノ如ク之ヲ區分ス
一現役ニ適スル者
二國民兵役ニ適スルモ現役ニ適セザル者
三兵役ニ適セザル者
四兵役ノ適否ヲ判定シ難キ者
前項ニ規定スル區分ノ標準ハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第三十三條現役ニ適スル者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ體格等位ノ優劣ニ從
ヒ各徵募區ノ配賦人員ニ應ジ現役兵、第一補充兵ノ順序ニ之ヲ徵集ス此
ノ場合ニ於テ體格等同一ナル者ハ本法中別段ノ規定アルモノヲ除クノ外
兵種每ニ抽籤ノ法ニ依リ徵集順序ヲ定ム
前項ノ規定ニ依リ徵集スベキ者ノ屬スル兵種ハ各徵募區ノ配賦人員ニ應
ジ其ノ身材、藝能及職業ニ依リ之ヲ定ム
現役ニ適スル者ニシテ現役兵又ハ第一補充兵ニ徵集セザル者ハ之ヲ第二
補充兵ニ徵集ス
現役兵トシテ徵集セラルベキ者ニシテ其ノ屬スル兵種定マリタル者ハ本
人ノ願ニ依リ第一項ニ規定スル抽籤ニ加フルコトナク現役兵ニ之ヲ徵集
スルコトヲ得
第三十四條國民兵役ニ適スルモ現役ニ適セザル者ハ之ヲ徵集セズ
第三十五條兵役ニ適セザル者ハ兵役ヲ免除ス
第三十六條兵役ノ適否ヲ判定シ難キ者ニ付テハ徵集ヲ延期シ爾後適否ヲ
決定シ得ルニ至ル迄每年徵兵檢査ヲ行フ
第三十七條徵兵檢査ヲ受クベキ者勅令ノ定ムル所ニ依リ兵役ニ適セズト
認ムル疾病其ノ他身體又ハ精神ノ異常ノ者ナルトキハ其ノ事實ヲ證明ス
ベキ書類ニ基キ身體檢査ヲ行フコトナク兵役ヲ免除スルコトヲ得
第三十八條短期現役兵タルノ資格ヲ有スル者ニシテ現役ニ適スル者ハ第
三十三條ノ規定ニ拘ラズ之ヲ短期現役兵ニ徵集ス
第二十六條乃至第二十八條ノ規定ハ短期現役兵ノ徵集ニ關シ之ヲ適用セ
ズ
第三十九條徵兵檢査ヲ受クベキ者左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ徵集ヲ
延期スルコトヲ得
一禁錮以上ノ刑ニ該ルベキ犯罪ノ爲豫審又ハ公判中ナルトキ
二犯罪ノ爲拘禁中ナルトキ
三刑ノ執行停止中ナルトキ
四假出獄中ナルトキ
五少年法ノ定ムル所ニ依リ、感化院、矯正院又ハ病院ニ收容中ナルト
キ
六矯正院法ノ定ムル所ニ依リ假退院中ナルトキ
前項ノ規定ハ現役ニ適スル者ニシテ未ダ徵集順序定マラザル者ニ之ヲ準
用ス
前二項ノ規定ニ依リ徵集ヲ延期セラレタル者ハ其ノ事由止ム年又ハ其ノ
翌年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ
第四十條徵兵檢査ヲ受ケタル者現役兵トシテ徵集セラルルニ因リ家族
(戶主ヲ含ミ本人ト世帶ヲ同ジクスル者ニ限ル)ガ生活ヲ爲スコト能ハザ
ルニ至ルベキ確證アル場合ニ於テハ二年間徵集ヲ延期ス但シ故意ニ其ノ
事故ヲ作爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ニ依リ徵集ヲ延期セラレタル者其ノ延期期間內ニ於テ其ノ事
由止ムトキハ事由止ム年又ハ其ノ翌年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ
第一項ノ規定ニ依リ徵集ヲ延期セラレタル者其ノ延期期間ヲ過ギ尙其ノ
事由止マザルトキハ之ヲ過ギタル年ノ翌年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ但シ現
役兵又ハ第一補充兵トシテ徵集スルコトナシ
第一項ノ延期期間ハ徵兵檢查ヲ受ケタル年ノ十二月一日ヨリ之ヲ起算ス
第四十一條中學校又ハ中學校ノ學科程度ト同等以上ト認ムル學校ニ在學
スル者ニ對シテハ本人ノ願ニ依リ學校ノ修業年限ニ應ジ年齡二十七年ニ
至ル迄徵集ヲ延期ス
前項ニ規定スル認定及年齡ノ區分ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第一項ノ規定ニ依リ徵集ヲ延期セラレタル者ハ在學ノ事由止ム年又ハ其
ノ翌年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ但シ一ノ學校卒業ノ日ヨリ六月以内ニ他ノ
學校ニ入學スル者ニ付テハ徵集延期ノ事由尙繼續スルモノト看做ス
第二項ノ年齡ノ區分ニ基ク最高年齡ニ達スルモ在學ノ事由尙止マザル者
ハ最高年齢ニ達シタル年又ハ其ノ翌年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ
第四十二條徵兵適齡及其ノ前ヨリ帝國外ノ地ニ在ル者(勅令ヲ以テ定ム
ル者ヲ除ク)ニ對シテハ本人ノ願ニ依リ徵集ヲ延期ス
前項ノ規定ニ依リ徵集ヲ延期セラレタル者ハ其ノ事由止ム年又ハ其ノ翌
年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ
第四十三條前條第一項ノ規定ニ依リ徵集ヲ延期セラレタル者ニシテ直系
尊屬若ハ妻子ノ死亡若ハ重態ノ爲又ハ官廳ノ命ニ依リ一時帝國內ニ歸還
スル者ハ徵集延期ノ事由尙繼續スルモノト看做ス但シ歸還後ノ滯在期間
九十日ヲ超ユルトキハ此ノ限ニ在ラズ
前項ニ規定スル場合ヲ除クノ外前條第一項ノ規定ニ依リ徵集ヲ延期セラ
レタル者ニシテ一時帝國內ニ歸還スル者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ在留地
ノ遠近ニ應ジ一年間一囘滯在期間九十日ヲ超エザル場合ニ限リ徵集延期
ノ事由尙繼續スルモノト看做ス
前二項ノ規定ニ該當スル者ニシテ歸還後ノ滯在間ニ於テ疾病其ノ他避ク
ベカラザル事故生ジ前二項ニ規定スル期間內ニ出發シ難キ者アルトキハ
其ノ滯在期間ヲ延長スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ其ノ延長シタル期間
徵集延期ノ事由尙繼續スルモノト看做ス
第四十四條前二條ノ規定ハ帝國外ノ地ヲ往復スル帝國船舶ノ船員ニ之ヲ
準用ス
第四十五條家族(戶主ヲ含ミ本人ト世帶ヲ同ジクスル者ニ限ル)一一人以
上現役兵トシテ同時ニ在營スル爲家事上ノ支障ヲ生ズベキトキハ一人ノ
在營間他ノ者ノ入營ヲ延期スルコトヲ得
第十七條第三項ノ規定ハ前項ノ規定ニ依リ入營ヲ延期セラレタル者ニ之
ヲ準用ス
第四十六條現役兵トシテ入營スベキ者疾病其ノ他避クベカラザル事故ニ
因リ入營スベキ期日ニ入營シ難キトキ又ハ第三十九條第一項各號ノ一ニ
該當スルトキハ三十一日以內入營ヲ延期スルコトヲ得
現役兵トシテ入營スベキ者ニシテ前項ニ規定スル入營ヲ延期シ得ベキ期
間內ニ入營シ難キ者ニ對シテハ更ニ徵兵檢査ヲ行フ但シ第十三條ニ規定
スル兵種ニ屬スル者ニ在リテハ更ニ徵兵檢査ヲ行フコトナク次ノ入營ス
ベキ期日ニ入營セシムルコトヲ得
第四十七條現役兵トシテ入營スベキ者入營ノ際行フ身體檢査ニ於テ疾病
其ノ他身體又ハ精神ノ異常ニ因リ三十一日以內ニ治癒ノ見込ナク且勤務
ニ堪ヘズト認ムル者ナルトキハ之ヲ歸〓セシメ第二十一條ノ規定ノ適用
ヲ受クル者ヲ除クノ外更ニ徵兵檢査ヲ行フ
前條第二項但書ノ規定ハ前項ノ規定ニ依リ歸〓セシメラレタル者ニ之ヲ
準用ス
第四十八條現役兵ニ闕員ヲ生ジタル場合ニ於テハ服役第一年次ノ第一補
充兵ヲ以テ其ノ徵集順序ニ從ヒ之ヲ補闕スルコトヲ得
第二十七條及第二十八條ノ規定ハ前項ニ規定スル補闕ニ之ヲ準用ス
第四十九條左ニ揭グル者(第一號、第二號、第五號及第六號ノ者ニ在リ
テハ徵兵適齢ヲ過ギタル者ニ限ル)徵集セラルル場合ニ於テハ第三十三
條第一項ニ規定スル抽籤ニ加ヘザルモノトス但シ二人以上アルトキハ其
ノ者ノミニ付抽籤ヲ行ヒ徵集順序ヲ定ム
一第四十一條第三項又ハ第四項ノ規定ニ該當スル者
二第四十二條第二項又ハ第四十四條ノ規定ニ該當スル者
三第四十六條第二項ノ規定ニ該當スル者
四第四十七條ノ規定ニ該當スル者
五第六十六條第一項ノ規定ニ該當スル者
六第六十七條ノ規定ニ該當スル者
七第七十四條ニ規定スル罪ヲ犯シ刑ニ處セラレタル者
八第七十六條ニ規定スル罪ヲ犯シ刑ニ處セラレタル者
前項ニ揭グル者ノ徵集順序ハ第三十三條第一項ノ規定ニ依リ抽籤ヲ爲シ
タル者ノ上位トシ同條第四項ノ規定ニ依リ徵集セラルベキ者ノ徵集順序
ハ前項ニ揭グル者ノ上位トス
第五十條第七十四條又ハ第七十六條ニ規定スル罪ヲ犯シ刑ニ處セラレタ
ル者ニ對シテハ第四十條乃至第四十二條、第四十四條及第四十五條ノ規
定ニ依ル延期ヲ爲サズ
第五十一條戶籍ノ記載ノ抹消又ハ遺漏其ノ他ノ事由ニ因リ戶籍ニ記載セ
ラレザル爲本籍ヲ有セザル者ニシテ徵兵檢査ヲ受クベキ者ヲ發見シタル
トキハ發見ノ年又ハ其ノ翌年ニ於テ徵兵檢査ヲ行フ
徵兵檢査ヲ受ケタル者戶籍ニ記載セラレアル出生年月日ノ訂正ニ因リ徵
兵適齡又ハ徵兵適齢未滿ト爲リタルトキハ左ノ各號ノ一ニ該當スル者ヲ
除クノ外更ニ徵兵檢査ヲ行フ
現役中ノ者又ハ現役ヲ終リタル者
二補充兵ニシテ〓育ノ爲召集中ノ者又ハ其ノ召集ヲ終リタル者
三第三十七條ノ規定ニ依リ兵役ヲ免除セラレタル者
第五十二條戶籍法ノ適用ヲ受ケザル者ニシテ徵兵適齡ヲ過ギ戶籍法ノ適
用ヲ受クル者ノ家ニ入リタル者ニ對シテハ徵集ヲ免除ス
前項ノ規定ハ徵兵適齡ヲ過ギ帝國ノ國籍ヲ取得シ又ハ囘復シタル者ニ之
ヲ準用ス
第五十三條第三十條、第三十六條、第三十九條第三項、第四十條第二項
若ハ第三項、第四十一條第三項若ハ第四項、第四十二條第二項、第四十
四條、第四十六條第二項、第四十七條、第五十一條第一項、第六十六條
第一項又ハ第六十七條ノ規定ニ依リ徵兵檢査ヲ受クベキ者年齡三十七年
ヲ過ギタルトキハ徵集ヲ免除ス
前項ノ年齡ハ第十七條第一項又ハ第二項ニ規定スル現役又ハ補充兵役ノ
起算ノ日ニ於ケル年齡トス
第四章召集
第五十四條歸休兵、豫備兵、後備兵、補充兵又ハ國民兵ハ戰時又ハ事變
ニ際シ必要ニ應ジ之ヲ召集ス
第五十五條歸休兵ハ在營兵ノ補闕其ノ他必要アル場合ニ之ヲ召集スルコ
トヲ得
服役第一年次ノ豫備兵ハ警備其ノ他ノ必要ニ因リ歸休兵ヲ召集スルモ尙
兵員ヲ要スル場合ニ之ヲ召集スルコトヲ得
第五十六條豫備兵及後備兵ハ勤務演習ノ爲豫備役及後備兵役ヲ通ジ五囘
以內之ヲ召集スルコトヲ得
前項ニ規定スル召集ハ一年一囘トシ一囘ノ日數ハ陸軍ニ在リテハ三十五
日以內、海軍ニ在リテハ七十日以內トス
第五十七條第一補充兵ハ〓育ノ爲百二十日以內之ヲ召集スルコトヲ得
第五十八條補充兵ニシテ軍隊ニ於テ〓育ヲ受ケタル者ハ勤務演習ノ爲之
ヲ召集スルコトヲ得
第五十六條ノ規定ハ前項ニ規定スル召集ニ之ヲ準用ス
第五十九條勤務演習ニ召集セラレタル者召集中犯罪ノ爲又ハ正當ノ事由
ナク勤務演習ヲ闕キタルトキハ其ノ闕キタル日數又ハ囘數ヲ勤務演習ノ
日數又ハ囘數ニ算入セズ正當ノ事由ナク召集ノ期日ニ後レタルトキ亦同
ジ
前項ノ規定ハ〓育ノ爲召集セラレタル者ニ之ヲ準用ス
第六十條歸休兵、豫備兵、後備兵及補充兵ニ對シテハ每年一囘簡閱點呼
ヲ行フコトヲ得
第六十一條歸休兵、豫備兵、後備兵又ハ補充兵ニシテ左ノ各號ノ一ニ該
當スル者ニ對シテハ勤務演習召集又ハ簡閱點呼ヲ免除スルコトヲ得
一餘人ヲ以テ代フベカラザル職ニ在ル官吏又ハ官吏待遇者
二市町村長、助役、收入役其ノ他之ニ準ズベキ職ニ在ル者
三帝國議會、府縣會、市町村會其ノ他之ニ準ズベキモノノ議員但シ其
ノ會期中ニ限ル
四帝國外ノ地ニ旅行又ハ在留スル者
五帝國外ノ地ヲ往復スル帝國船舶ノ船員
第六十二條召集セラレタル者疾病其ノ他避クベカラザル事故ニ因リ召集
ニ應ジ難キトキハ十日以內召集ヲ延期スルコトヲ得
召集セラレタル者第三十九條第一項各號ノ一ニ該當シ召集期日ニ召集ニ
應ジ難キトキ又ハ前項ノ規定ニ依リ召集ヲ延期セラレタル者其ノ延期期
間內ニ召集ニ應ジ難キトキハ召集期日又ハ召集年次ヲ變更ス
前二項ノ規定ハ簡閱點呼ニ參會ヲ命ゼラレタル者ニ之ヲ準用ス
召集セラレタル者入營ノ際行フ身體檢査ニ於テ疾病其ノ他身體又ハ精神
ノ異常ニ因リ勤務ニ堪ヘズト認ムル者ナルトキハ召集ヲ免除ス
第六十三條召集セラレタル者召集ニ因リ家族(戶主ヲ含ミ本人ト世帶ヲ
同ジクスル者ニ限ル)ガ生活ヲ爲スコト能ハザルノ確證アル場合ニ於テ
ハ召集ヲ免除ス但シ故意ニ其ノ事故ヲ作爲シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第五章雜則
第六十四條第一補充兵ニシテ第四十八條ノ規定ニ依リ現役兵ノ補闕ニ充
テラレ現役ニ服スルニ至リタル者ノ既ニ服シタル第一補充兵役ノ期間ハ
之ヲ現役ノ期間ニ通算ス
第六十五條第四十六條ノ規定ニ依リ後レテ入營シタル者又ハ第四十八條
第一項ノ規定ニ依リ補闕トシテ後レテ入營シタル者ト雖モ其ノ在營期間
ノ計算ニ關シテハ後レズシテ入營シタルモノト看做ス但シ犯罪ノ爲又ハ
正當ノ事由ナク後レテ入營シタル者ハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ規定ハ第六十二條第一項ノ規定ニ依リ召集ヲ延期セラレタル者ニ
シテ其ノ延期期間內ニ召集ニ應ジタル者ニ之ヲ準用ス
第六十六條志願ニ依リ兵籍ニ編入セラレタル者ニシテ兵籍ヨリ除カルル
ニ至リタル者勅令ノ定ムル期間服役セザル者ナルトキハ更ニ徵兵檢査ヲ
行フ
前項ノ規定ニ依リ徵兵檢査ヲ受ケタル者現役兵トシテ徵集セラレタル場
合ニ於ケル現役期間ノ計算ハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第六十七條短期現役兵トシテ現役ヲ終リタル者年齡二十八年迄ノ間ニ於
テ左ノ各號ノ一ニ該當スルトキハ更ニ徵兵檢査ヲ行フ此ノ場合ニ於テ現
役兵トシテ徵集セラレタルトキハ前ノ現役期間ヲ後ノ現役期間ニ、前
在營シタル期間ヲ後ニ在營スベキ期間ニ通算ス但シ第十三條ノ規定ニ該
當スル現役兵トシテ徵集セラレタルトキハ前ニ在營シタル期間ヲ後ニ在
營スベキ期間ニ通算セズ
一小學校ノ〓職ニ就クノ資格ヲ失ヒタルトキ
二現役ヲ終リタル日ヨリ六月ヲ經過シタル日及其ノ後ニ於テ小學校ノ
〓職ニ在ラザルトキ
前項ノ規定ハ短期現役兵トシテ現役中小學校ノ〓職ニ就クノ資格ヲ失ヒ
タル者ニ之ヲ準用ス
第六十八條本法ニ規定スルモノノ外兵役ニ關シ必要ナル屆出ニ付テハ命
令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ爲サシムルコトヲ得
第六十九條市町村長ハ兵役(第二國民兵役ヲ除ク)ニ在ル者ニ付命令ノ
定ムル所ニ依リ其ノ戶籍ノ欄外ニ兵役ノ略符號ヲ附スベシ
戶籍法第三條ノ規定ハ前項ニ規定スル事務ニ之ヲ準用ス
第七十條本法中本人ヨリ願出ヲ爲スベキ場合ニ於テ本人事故アルトキハ
戶主之ヲ爲スコトヲ得
第七十一條本法中戶主ニ關スル規定ハ戶主未成年者又ハ禁治產者ナルト
キハ戶主ノ法定代理人ニ、戶主若ハ戶主ノ法定代理人未ダ決定セザルト
キ又ハ避クベカラザル事故アルトキハ家族中家事ヲ擔當スル者ニ之ヲ適
用ス
第七十二條本法中市長ニ關スル規定(第六十一條ノ規定ヲ除ク)ハ區長
ヲ以テ戶籍ニ關スル事務ヲ管掌スル者ト爲シタル市ニ在リテハ區長ニ之
ヲ適用ス
本法中町村長ニ關スル規定ハ町村長ニ準ズベキ者ニ之ヲ適用ス
第七十三條本法ニ規定スル學校中ニハ帝國外ノ地ニ在リテ帝國臣民ノ爲
ニ設置シタル學校ニシテ勅令ノ定ムル所ニ依リ指定シタルモノヲ包含ス
第六章罰則
第七十四條兵役ヲ免ルル爲逃亡シ若ハ潜匿シ又ハ身體ヲ毀傷シ若ハ疾病
ヲ作爲シ其ノ他詐僞ノ行爲ヲ爲シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ處ス
第七十五條現役兵トシテ入營スベキ者正當ノ事由ナク入營ノ期日ニ後レ
十日ヲ過ギタルトキハ六月以下ノ禁錮ニ處シ戰時ニ在リテ五日ヲ過ギタ
ルトキハ一年以下ノ禁鋼ニ處ス
前項ノ規定ハ志願ニ依リ兵籍ニ編入セラレ服役スル者ニ之ヲ準用ス
第七十六條正當ノ事由ナクシ徵兵檢査ヲ受ケザル者ハ百圓以下ノ罰金ニ
處ス
第七十七條第二十四條ノ規定ニ依ル屆出ヲ爲サザル者ハ五十圓以下ノ罰
金又ハ科料ニ處ス
第七十八條前四條ノ規定ハ何人ヲ問ハズ帝國外ニ於テ其ノ罪ヲ犯シタル
者ニ之ヲ適用ス
附則
本法ハ昭和二年十二月一日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行ノ際現ニ豫備役ニ在ル者ノ服役期間ハ尙從前ノ規定ニ依ル此ノ場
合ニ於テハ第五十五條第二項ノ規定ヲ適用セズ
本法施行ノ際現ニ補充兵役ニ在ル者ハ第一補充兵役ニ服スルモノトス
本法施行ノ際現ニ徵兵令第二十三條ノ規定ニ依リ入營ヲ延期セラレ居ル者
ニ付テハ尙從前ノ例ニ依ル其ノ徵集セラルル場合ニ於ケル徴集順序ニ關シ
テハ第四十九條ノ例ニ依ル
刑法施行法第二十六條第二號ヲ左ノ如ク改ム
二削除
國務大臣字垣一成君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=8
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009・宇垣一成
○國務大臣(宇垣一成君) 只今上程イタサレマシタ徵兵令改正法律案ニ關シ
テ、若干ノ說明ヲ申上ゲテ御審議ノ資ニ供シタイト存ジマス、御承知ノ如ク
徵兵令ハ、明治五年ニ創始セラレテ國民皆兵ノ制ヲ定メラレシ以來、明治二
十二年ニ全部ノ改正ガ行ハレマシテ、爾後明治二十八年及大正七年ニ相當大
ナル部分的改正ガ行ハレマシテ、今日ニ及ンデ居ル次第デアリマス、爾來內
外ノ情勢ハ更ニ之ガ改正ヲ爲スノ必要ヲ認ムルニ至リマシタ、ノミナラズ、
學校〓練ノ振作施設竝ニ靑年訓練ノ實施ハ、切實ニ之ガ改正ヲ促スニ至リマ
シタノデ、此度本法案ヲ提出イタシマシタ次第デアリマス、徵兵令ハ前ニモ
申シマシタ通リ、制定以來數囘ノ改正ガアリマシタガ、兵役上ノ業務等ハ、從
來相當慣例ニ依ッテ取扱ッテ居ルモノモアリマシタシ、又之ニ關スル手續法ノ
如キモ、若干統一ヲ缺ク點モアリマシテ、兵役義務者モ、其業務ヲ取扱フ者
モ、共ニ不便ヲ感ジテ居ッタノデアリマシタノデ、之ヲ此度訂正イタスコト
ニ致シマシタ、又從來法文ニ記載シテアリマセヌ事項デ、現ニ實行シテ居ル
ヤウナモノモ存シテ居リマシタカラ、是等モ法文上ニ明カニスルヤウニ致シ
タノデアリマス、次ニ國民ノ海外發展トカ、或ハ社會政策ト兵役トノ關係等
ヲ適當ニ考慮イタシテ立案イタシマシタガ、聊カ其內容中ノ主ナルモノニ付
テ申上ゲマスレバ、外國在留者ノ徵兵延期ノ範圍ヲ擴張イタシマシテ、且ツ
從來ニ比べ、一時歸朝ヲ致スモノニ便利ヲ與ヘルヤウニ致シテアリマス、サ
ウシテ國民ノ海外發展ヲ容易ニスルコトニ聊カ貢獻シタイ積リデ、起案ヲ致
シテ居リマス、又貧困者ノ徵集延期ト免除トノ範圍ヲ擴張スルトカ、或ハ同
一家族ノ中デ二人以上ノ現役兵ガ同時ニ在營スルトキニハ、一人ヅツ逐次ニ
入營ガ出來ルヤウニ致シマシテ、是亦多少社會政策ノ方面ニ資スルコトヲ圖ツ
タノデアリマス、此外一年志願兵入營制ヲ改メテ、學校ノ修業年限ニ應ズル
徵集延期制ヲ設クルトカ、從來ノ經驗ニ鑑ミマシテ、色〓ト改正整理ヲ行ナッ
タノデアリマスルガ、詳細ノ點ハ何レ御質問ニ應ジテ御答ヘ申上ゲル積リデ
アリマス、偖此度此法案ヲ提出イタシマスニ付キマシテハ、數年來陸軍部內
ニ於テハ調査考究ヲ遂ゲマシテ、一ノ成案ヲ得テ居リマシタガ、尙ホ此法案
ノ重大性ニ鑑ミ、實質內容ノ萬全ヲ期スルガ爲ニ、殊ニ昨年陸軍省內ニ兵役
法審議會ヲ設ケマシテ、兩院議員其他關係各省ノ若干ノ諸君ヲ煩ハシマシテ、
愼重審議ヲ重ネテ本案ヲ作成イタシタ次第デアリマス、此點ハ特ニ此際申添
ヘテ置キマス、ドウカ十分ニ御審議ノ上協賛ヲ賜ハラムコトヲ切ニ御願ヒ致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=9
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010・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通〓順ニ依リマシテ、本案ニ對スル質疑ノ
發言ヲ許シマス、上田男爵
〔男爵上田兵吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=10
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011・上田兵吉
○男爵上田兵吉君 本法案ハ多年來ノ懸案ヲ解決セラレマシタ法典ト致シマ
シテ、極メテ重要ナル案件ト存ジマシテ、玆ニ若干御伺ヒ致シタイノデアリ
やく、先ヅ第一ニ御伺ヒ致シタイコトハ、靑年訓練トノ關係デアリマス、靑
年訓練ノ、良民ヲ養成スルニ於テ國家ノ施設トシテ必要ナルコトハ、固ヨリ
デアリマスルガ、此靑年訓練ヲ經タ者ト經ナイ者トニ依ッテ、在營期間ニ差
別待遇ヲ爲スト云フコトハ不可デアルト云フコトヲ、吾人ハ往々耳ニスル所
デアリマス、サウシテ靑年訓練ヲ經テ入營スルコトニナリマシタノハ、實ニ
本年一月十日ヲ以テ嚆矢トスルノデアリマス、卽チ去ル一月入營シマシタ者
ガ一番初メデアリマス、其入營當初ノ成績ハ、靑年訓練所ノ訓練ヲ受ケテ居
リマスルカラ、一般ノ徵兵ニ比シテ固ヨリ優良デアリマセウガ、時日ノ經過
ニ伴ッテ果シテ良好ノ成績ヲ持續シ得ルヤ否ヤト云フコトハ、靑年訓練ヲ受ケ
タ者ヲ入隊サレテ日ノナイ今日、遽ニ判定スルト云フコトハ、ムツカシイコ
トデアラウト信ズルノデアリマス、然ルヲ今日ノ豫想ノミヲ以テ、此重大ナ
ル本法案ニ斷定的ニ規定セラレタト云フコトハ、如何ナルモノデアリマセウ
カト考ヘルノデアリマス、本法案第十一條ニハ「六月以內之ヲ短縮スルコト
ヲ得」ト云フコトガ規定サレテアリマス、ソレデアリマスルカラ、實施ノ上
ニ於テ六ケ月ニナラナイヤウニスレバ、敢テ差支ノナイコトデアリマセウケ
レドモ、法律上ノ成文ト致シマシテハ稍〓穩當ヲ缺クノ嫌ノ無イモノデアルカ
ト云フコトモ御尋ネ申上ゲタイノデアリマス、又靑年訓練ニ於テ、四箇年ノ
間ニ四百時間ノ〓練ヲ實施スルト云フコトニナッテ居リマスルガ、實際訓練所
ノ狀況ヲ見マスト、早引スルモノモ出來マス、遲刻スル者モ出來マス、正確
ナル時間ヲ得ルト云フコトハ、ナカ〓〓容易ナコトデナイト思フノデアリマ
ス、況ヤ情實ヲ含ムヤウナ者ガ若シ其中ニ有リト致シマスレバ、尙更此正確
ナル時間ヲ得ルコトハ容易ナコトデナイノデアリマス、其上ニ〓練ヲ受ケマ
シタ時間ノ數ハ假令多キニ上リマシテモ、成績トシテハ却テ時間數ノ少キ者
ヨリ劣ッテ居ル者ノアルト云フコトハ、現在ノ訓練所ノ有樣デアリマス、ソ
レニ是等ノ時間ノ數ノ上ニ重キヲ置カレテ、在營年限ヲ一年半ニ短縮セラレ
ルト云フコトハ······短縮セラレルト云フコトト、二箇年在營スルト云フ所ニ、
ソコニ六箇月ノ開キガ出來ルノデアリマス、其分界點ヲ定ムルト云フハ、以
上申ス如ク困難ナ場合ガ多々アラウト信ズルノデアリマス、又一面ニ於テ現
ニ靑年訓練所修了檢定規程ニ依ッテ見マシテモ、檢定ノ成績ハ之ヲ甲乙ノ二種
類ニ分ケマシテ、其不良ナル者ヲ乙ト爲ス但シ被檢定者ノ特性ヲ參酌シテ將
來發達ノ見込アル場合ニ於テハ甲ト爲スコトヲ得ト云フコトガ、陸軍ニ於ケ
ル靑年訓練所ノ修了者檢定ノ規程デアリマス、サウ致シマスルト、此檢定官
ガ檢定スルニ於テ誠ニ難儀ナコトハ、萬々察セラルル次第デアリマス、其見
方ニ依ッテ又多少手加減モ出來得ルカノヤウニ解釋モ出來ルノデアリマス、サ
ウ致シマスルト、益〓此在營期限ノ査定ト云フコトニ困難ヲ生ジテ來ルノデア
リマス、サウシテ靑年訓練ニ出席スル所ノ者ハ、ドチラカト申シマスレバ有
產階級ノ者ニ多イノデアリマス、無產階級ノ者ニ少クナッテ居ルノデアリマ
ス、在營期限ノ短縮ヲ要スル階級者ガ、却テ長ク在營スルト云フコトニナリ
マス、ソコデ在營期限ノ短縮サレタ者ニ對シテ益、不滿ノ聲ガ出ルト云フコト
ハ、已ムヲ得ナイコトト思ヒマスルガ、是等ノ諸種ノ事情ヲ綜合シテ、本法
案ニ於ケル在營年限ヲ短縮スルト云フニハ、果シテ所期ノ效果ヲ達セラレ得
ルノ御見込ガアリマスルカ、是モ御伺ヒ致シタイノデアリマス、固ヨリ一箇
年半ニ短縮スルニ致シマシテモ、本年ノ一月十日ニ入營イタシマシテ、ソレ
カラ一年半デアリマスルカラ、實施ハ卽チ來年ノ七月以後ニナルノデアリマ
ス、サウ云フ先キノ事マデノ御見込ヲ付ケテ本兵役法ノ御改定ニナルト云フ
コトハ、如何ナモノデアリマセウカト思ヒマス、序デナガラ、靑年訓練所修
了者ノ在營年限短縮ガ步兵ノミニ限ラレテアリマス、是ハ不合理ノ如ク見エ
ルノデアリマス、此事ハ將來特科隊ニモ實施サレル所ノ御意見デアリマスル
カ、サウシテ過去戰役ノ實蹟ニ鑑ミテ見マスニ、全ク軍事訓練ヲ受ケナイ所
ノ壯丁ヲ、僅々三四箇月ノ訓練ヲ施シテ戰場ニ補充シ、相當ノ成績ヲ收メマ
シタ事カラ考ヘテモ、今日特科隊ノ〓育法ノ改善ト相俟ッテ、步兵隊同樣短
縮シ得ベキモノノ如ク考ヘラレマスノデアリマス、其邊ノ御所見モ併セテ御
伺ヒ致シタイノデアリマス、第二ハ徵兵適齡ト云フコトニ付テ伺ヒタイノデ
アリマス、徵兵適齢ノ二十歲デアルト云フコトハ、現行徵兵令モ兵役法案モ
同一デアッテ、此年齡ハ改正サレテナイノデアリマス、ソレデ之ヲ十九歲ニ
低下スル、低下スルト云フコトガ果シテ國軍ノ素質ニ影響スルモノデアルカ
ドウカト云フコトヲ考ヘテ見マスト、二十歲ヲ徵兵適齡トスルノハ、長イ歷
史ガアル、徵兵令ノ規定ヲ、其儘襲踏スルトカ、或ハ靑年時代ハ僅カ一年違ッ
テモ身體ノ發育ガ十分ニナルトカ、思慮ガ定マッテ來ルトカ云ウテ、此一番
二十歲ガ徵兵適齡トシテ適當スルトノ御說明モアリマセウト思ヒマスルガ、
此身體發育ノ程度ハ、十九歲ト二十歲ト比較シテ、果シテ何レガ宜シイカト
云フコトハ、生理上カラ申シテモ、未ダ確タル統計モ研究モ出來テ居ラナイ
カノヤウニ聞及ブノデアリマス、現ニ士官候補生、陸軍ノ工科學校生徒、又
現行徵兵令第十二條卽チ「二十歲ニ至ラスト雖モ滿十七歲以上ノ者ハ志願ニ
由リ現役ニ服スルコトヲ得」ト、斯ウ云フ十二條ノ所謂志願者デアリマス、
此ノ如キ志願者ハ固ヨリ身體檢查ヲ受ケタ上デ採用サレタト云フモノノ、實
際ノ狀況ハ、重イ所ノ武裝ヲシテ山野ヲ驅ケ廻ッテ、能ク困苦缺乏ニ耐ヘテ
居ルノヲ見マシテモ、明瞭ナコトト思フノデアリマス、決シテ十九歲ノ者ノ
身體ガ兵隊ニ採ラレテ、國軍ノ素質ヲ弱クスルト云フヤウナコトハ、恐ラク
無カラウト思フノデアリマス、況ヤ近時體育ガ奬勵サレマシテ、各種運動ノ
隆盛ナルニ伴ッテ、益〓體質ノ强壯ナルヲ得ラルベキ時運ニ際會シテ居ルノデ
アリマス、又精神ノ狀態ニ付キマシテモ、十七歲カラ二十歲ノ者ガ、一番思
想ノ最モ變動シ易イ時代デアリマス、不良性ノ素質ヲ出シ易イモノハ、大抵
此十七歲乃至二十歲ノ間デアリマス、サウ云フヤウナコトヲ考ヘテ見マスト、
寧ロ二十歲ヨリ一年前ノ十九歲ノ時ニ徵集シテ、軍事〓育ヲ施シ、質實穩健
ナル氣風ヲ涵養シテ、堅實ナル國軍ヲ作ルト云フコトガ、寧ロ適當ト考ヘマ
スノデアリマス、其上ニ此學生ノ學業狀況ヲ考ヘテ見マスルノニ、普通十九
歲ニ中學校ヲ卒業シマス、サウシテソレヲ機會トシテ直チニ兵役ノ終了ヲ希
望スル、成ルベク早ク兵役ノ義務ヲ終ッテ置キタイト云フ考ヲ持ツ者ハ少ナク
ナイノデアリマス、其他家庭ノ狀況職業ノ要求等ニ依リマシテモ、成ルベク
早ク兵役ヲ終ヘテ、堵ニ安シジテ實社會ニ活動シテ、大ニシテハ國利民福ヲ
圖ラムトスル抱負ノ者モ少ナクナイノデアリマス、寧口是等ノ者ニ對シテハ、
社會全般ヨリ見テモ、早ク兵役義務ヲ終ラシテ、國利民福ヲ考ヘサス方ガ至
當ナコトト思ヒマス、然ルニ本法案ノ徵兵適齢ヲ依然二十歲ト御規定ニナッ
テアリマスノハ、ドウ云フ理由ニ基カレタノデアリマスルカ、伺ヒタイノデ
アリマス、其次ハ徵兵區ニ付テ、本法案ニ於テハ徵兵區ノ種類及區域ハ勅令
ヲ以テ定メラルヽ規定ニナッテ居リマス、勅令ニ依ッテ定メラルヽト云フ所カ
ラ、自然徵集ノ公平ヲ缺クト云フコトニナッテ、此徵兵區ノ事ガ最モ考慮ヲ
要スベキ事柄ト思ヒマス、現行徵兵事務條例ニ依リマスレバ、「徵兵區ハ師管
及聯隊區ノ區域ニ從ヒ聯隊區ハ之ヲ徵募區ニ分ツ」、是ガ今ノ徵兵事務條例ニ
規定サレタコトデアリマス、是等ノ勅令ニ依ッテ、此徵兵區、徵募區ガ如何
ニ規定サレルカ分リマセヌガ、近時都市ノ狀況ハ著シク人口ガ增加致シマス、
之ニ反シテ農村ノ者ハ、動モスレバ都市ニ赴カントスル所ノ傾向ヲ呈シテ居
リマス、ソレデ人口ノ差ト云フモノガ益〓甚シクナルト云フコトハ、自然ノ
趨勢デアリマス、サウシテ徵兵區域內ノ人口ノ多イ少イト云フコトハ、兵役
義務負擔ノ公平ニ至大ノ關係ヲ持ッテ居リマスルカラ、徵兵區ノ如キハ、容
易ニ勅令ニ依ッテ定メラルベキ性質ノモノデナイト信ズルノデアリマス、必ズ
法律ニ依ルベキガ至當ト思ヒマス、又徵募區ノコトニ付キマシテモ、同一徵
募區內ノ中デ、農村ノ交ッテ居リマスル所ハ、人口ノ稠密ナル市街地ノ者ヨ
リ、體格ガ〓シテ良好ノ關係デアリマス、ソレデ自然ニ此農付ノ方ニ多數ノ
入營者ヲ出シテ、市街地ノ者ニハ此農村ガアルガ爲ニ、少數ノ入營者ヲ出ス、
恰モ農村ノ者ハ市街地ノ部分ヲ引受ケル形ニナルノデアリマス、結局、徵集
人員ニ對シテ公平ヲ保タナイノニ拘ラズ、郡市ヲ以テ徵募區ニ限定シテアリ
やす、サウシテ町村ハ如何ニ人口ガ夥多デアリマシテモ、徵募區トナラナイ
ノデアリマス、而モ徵募區ハ法律ヲ以テ定メラレナイノデアッテ、矢張リ勅
令ニ依ッテ定メラレテ居ルト云フノハ、ドウ云フモノデアリマセウカト思フノ
デアリマス、換言スレバ徵集ノ基礎トナッテ居ル所ノ徵募區ハ、郡市ヲ區域
トシナイデ、人口ヲ基準トシテ、假令市デナクトモ例ヘバ人口三万以上ノ町
村ハ市ニ準ズルト云フ風ニ、法律ヲ以テ徵募區ノ定義ヲ明確ニ規定セラルル
方法ヲ、何故ニ取ラレナイノデアルカ、此點ニ對スル當局ノ御所見ヲ伺ヒマ
ス、次ハ召集期ニ付テ、召集期ノ規定ニ付テハ、歸休兵ノ召集、豫備兵及後
備兵ノ勤務演習召集、第一補充兵ノ〓育召集、是ハ何囘以內或ハ何日以內ト
云フ如ク、最大限ノ囘數又ハ期日ヲ定メラレテアリマスルカラ、御都合次第
デ、一日デモ一囘デモ差支ナイ譯ニナルノデアリマス、現行徵兵令デハ召集
スト云フ如ク確定サレテアルニ拘ラズ、兵役法案デハ何レモ召集スルヲ得ト
云フヤウニ、何レモ「得」ト云フ字ヲ附ケテ規定サレテアルノデアリマス、ソレ
デアルカラ、一囘モ召集セズトモ敢テ差支ナイ如ク解セラルルノデアリマス、
元來召集ニ應ズルト云フコトハ、固ヨリ兵役義務ノ大切ナル事柄デアリマシ
テ、其期日及囘數ハ、一面ニハ戰鬪上必要ナル〓育ヲ施ス爲ノ最小限度ヲ示
シテ居リマス、他面ニハ在〓兵ノ其召集ニ應ジ得ベキ程度ヲ最大限トシテ規
定セラレテアルニ拘ラズ、何故ニ此「以內」ト云フヤウナ漠然トシタコトニ
御規定ニナリマシタモノカ、召集ノ必要ノ價値ヲ疑ハシムルコトニナルト思
ヒマス、固ヨリ軍事費豫算ノ關係上、如何ヤウトモ伸縮ガ出來ルヤウナ規定
トナッテ、從テ召集年次、召集人員ニ屢〓變更增減ヲ來シテ、ソレガ延イテ應
召員ニ不公平ヲ生ジ、甚シキハ五六箇年ニ僅カ一囘モ召集セラレナイ者ガア
ル、又規定通リ頻繁ニ召集セラルヽ者モアル、殊ニ寄留民ノ多キ······大都市
ニアッテハ、召集人員ガ頗ル多數ニ涉リマシテ、夏期ニ於テハ連續、召集兵
ガ多數ニ入營イタシマス、ソレデ或ル步兵聯隊ノ如キハ、召集兵中隊ト云フ
モノヲ編制シテ、其臨時ノ中隊ニ召集兵ヲ入レマシテ、補習〓育ヲ實施シテ
居ルト云フヤウナ狀況ニアル、其召集兵ノ多クハドウ云フ者ガ多ク取ラレテ
居ルカト云ヘバ、本籍地ノ者ガ先ニ召集サレテ居リマス、サウシテ寄留籍ノ者
ハ召集人員ノ餘裕ノアル際ニ埋合セニ召集セラルヽト云フヤウナ觀ヲ呈シテ
居ルノデアリマス、卽チ自然、召集ニ不公平ヲ生ズルニ至ッテ居ルノデアリ
マン、戰鬪ガ在〓兵ニ要求スル〓育ト云フノハ、斯ク不平均ヲ許サナイ所ノ
モノデアリマス、萬遍ニ實質ニ應ズル演習召集ヲ一般ニ實施サレニャナラヌ
モノデアリマス、ソレデ宜シク劃然ト、徵集ナリ日數ヲ規定シテ、假令、其
在〓者ガ大都市ニ住ッテ居ルト、地方ニ居ルトニ拘ラズ、又本籍地デアルカ
ラ多ク召集サレ、寄留地ノ者デアルカラシテ少ク召集サレルト云フヤウナコ
トデナシニ、一樣ニ召集サルルノガ必要デアルト信ズルノデアリマス、是等
ニ付テノ御所見ヲ伺ヒマス、次ハ簡閱點呼ニ付テデゴザイマス、現行徵兵令
ニハ、每年一度簡閱點呼ヲ爲スト規定ニナッテアリマスルガ、本法案第六十
條ニ依リマスルト、「毎年一囘簡閱點呼ヲ行フコトヲ得」ト改メラレテアリマ
ス、ソレハ其實施ノ方法ニ付テハ、從前通リ行ハルヽ御意思デアリマスルカ、
點呼ヲ行ハナイ場合ヲ原則トセラレマシタモノデアルカ、或ハ幾年目ニ一囘
ト云フ風ニ簡閱點呼ヲ實施セラルヽト云フ御意嚮デアリマスルカ、伺ヒタイ
ノデアリマス、元來、簡閱點呼程、實際ニ效果ガ薄クテ、而モ在〓者ニ非常
ナル迷惑ヲ感ゼシムルコトガ多イモノハナイト考ヘルノデアリマス、勿論、
簡閱點呼ハ何處デ受ケテモ宜シイヤウニ、其規定ニ從テ手續サヘシマスレバ、
出來ルノデアリマスケレドモ、人トシテ豫期シナイ所ノ事件ガ突發シマシテ、
知ラズ識ラズノ間ニ手續ノ時期ヲ失シテ、點呼ニ參會シナイガ爲ニ、告發ノ
處分ヲ受ケ、殊ニ商業ニ從事シテ一刻ヲ爭ッテ機宜ノ處置ヲ爲サニャナラヌト
云フヤウナ者ハ、忽チ目ニ見エタ利益ヲ抛棄シテ、點呼ニ參會セニャナラヌ
ト云フ有樣デアリマス、旅行ノ者ハ旅行先ヨリ歸ラニャナラヌト云フコトニ
ナリマス、サウシテ點呼場ハ、旅費ノ關係上、一日中ニ往復ノ出來ル距離ニ
アリマスルカラシテ、隨分遠方カラ星ヲ戴イテ、山坂ヲ跋涉シテ時間マデニ
到著シ、疲レタル身體ヲ以テ參會シ、簡閱點呼執行官ハ、此參會者ニ對シテ
若干ノ動作ヲ行ハセ、又必要ナル諮問ヲ致サレマスルモ、在〓軍人一般ノ狀
態、特ニ軍人精神保持ノ程度、軍事思想普及ノ程度、健康狀態竝ニ服役上ノ
義務ノ履行ノ確否等、斯ウ云フヤウナ査閲ト云フコトハ、到底一日間ノ、而
モ多數ノ參會者ニ對シテ、所期ノ目的ヲ達成スルト云フコトハ、ムヅカシイ
モノデアリマス、執行官ノ〓訓モ容易ニ耳ニ入ルモノデハナイノデアリマス、
實ニ其效果ノ乏シイト云フコトハ察セラレマス、サウシテ此日ノ參會者ハ、
總ジテ平素ノ成績ノ良好ナル者、言換ヘマスレバ其町村ノ在〓軍人會ナドニ
能ク出席スル模範的ノ者ニ多イノデアリマス、從テ僅カ一日間ノ簡閱點呼ニ
出ナクテモ、平素其人間ノ强健ノ程度ハ如何、戰鬪ニ堪へ得ルノ素質ガドウト
カ、能力ノ保持ガ如何デアルカ、家庭ノ狀況ニ至ルマデ、不斷ニ能ク明確ニ
知レ渡ッテ居ルノデアリマス、言ハヽ是等ノ者ニハ、却テ點呼ヲ要シナイデ
宜シイ所ノ者デアラウト思フノデアリマス、之ニ反シテ平素在〓軍人會ニ出
席スルコトノ少イ者、或ハ何カノ事情ニ依ッテ全ク出席シナイ者ナドニハ、
此簡閱點呼ノ必要ト云フモノガ起ルノデアリマス、今日在〓軍人會ハ、些少
ナガラモ補助金ヲ國庫カラ下付セラレルコトトナッタノデアリマス、卽チ國家
ヨリ認メラレタル團體トナッタノデアリマスカラ、此在〓軍人會ニ對シテ、
在〓兵ノ指揮監督ノ責任ヲ持タス等、簡閱點呼ノ方法ニ改善ノ途ヲ御考究ニ
ナラレル御意思ガアリマセヌモノデアルカ、或ハ簡閱點呼ノ效果ヲ依然御認
メニナッテ居ルモノデアリマスルカ、伺ヒタイノデアリマス
國務大臣宇垣一成君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=11
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012・宇垣一成
○國務大臣(宇垣一成君) 只今、上田男爵カラ數箇條ニ亙ル、而モ中ニハ可
ナリ專門的ニ涉ッテノ御質問ガアリマシタ、御質問ノ要點ニ對シテ大要ノ答辯
ヲ申上ゲ、專門等ニ涉ッタ事柄ハ、或ハ後日、他ノ機會ニ於テ御話ヲ申上ゲ
タラ宜カラウカト思ッテ居リマス、第一ノ御問ニハ靑年訓練、是ト兵役法ノ
關係、靑年訓練ヲ實施シタ者ハ此ノ兵役法上ニ於テ六箇月ノ在營短縮ノ特典
ヲ與ヘテ居ル、是ハ差別的待遇ヲ兵役義務者ニ與へルト云フヤウナ關係カラ、
面白クナイ事柄ヲ惹起シハセヌカト云フ意味ノ御問ノヤウニ存ジマシタガ、
靑年訓練ハ男爵ノ縷々御述べニナリマシタヤウナ、色〓ト狀況ノ面白カラザ
ル、悲觀スベキ點モ、今日多少ハ私共モ存在スルコトヲ耳ニ致シテ居リマス、
居リマスルガ、全體ノ成績ハ餘程宜シイ、〓算イタシマシテ、今日十六歲カラ
滿二十歲マデノ靑年訓練所ニ這入ルベキ人員ガ二百万餘リ有リマス、其中デ
五六十万ハ既ニ中等學校以上若クハソレト同等程度ノ學校ニ居リマシテ、差
引シマスルト百五十万內外ノ者ガ先ヅ靑年訓練所ニ這入ッテ來ベキ筋合ノ者
デアリマス、ソレガ昨年ノ七月ニ開所ニナリ、地方ニ依ッテハ尙ホ遲レテ秋
ニナリ、漸ク暮ノ前ニ開所シタト云フ所モアリマスルガ、昨年末ノ調査ニ依ツ
テ見マスルト、其〓算百五六十万ノ中カラ、百十万バカリハ入所ヲ致シテ居
リマス、僅ニ創設數箇月ノ後ニ、既ニ······我〓ノ方デハ十分ニ設立ノ趣旨ガ徹
底イタシテ居ラヌカト憂慮イタシテ居ル際ニ拘ラズ、旣ニモウ七割バカリノ
者ト云フモノハ入所イタシテ居ル、ト云フヤウナ狀況デアリマス、サウシテ
其入所イタシテ居ル者ガ、本年ノ一月十日ニ壯丁トシテ入營ヲ致シマシタ、
其入營ヲ致シマシタ結果ニ徵シテ見マシテモ、壯丁全部ノ步合カラ申シマス
ルト、約六割バカリガ訓練所ノ課程ヲ修メテ、修了證書ヲ持ッテ居ッテ、サウ
シテ入營後ニ更ニ檢定ヲシテ、其檢定ニ合格、卽チ只今男爵ノ御述べニナッタ
甲ト認メラレテ居ルヤウナ者ガ、約六割アル、サウシテ其這入ッテ來タ者ノ
景況ハ、非常ニ入營當初カラテキパキト動作ヲ致シ、餘程、規律節制或ハ團
結ト云フヤウナ點ニ於ケル點ガ、僅ニ數箇月ノ〓育デアルケレドモ、著シイ
モノガアル、ソレガ入隊後ノ動作モ、今日マデ私ノ耳ニ致シテ居ル所ハ宜シ
イ、其訓練ヲ受ケテ居ル者ガ宜シイノミナラズ、他ノ訓練ヲ受ケザル者モ、
ソレラノ刺戟ヲ受ケテ非常ニ奮發ヲ致シテ居ッテ、訓練所ニ這入ラヌ者ノ成績
干、ソレニ伴ヒマシテ宜シイト云フヤウナ事態ヲ、事實認メテ居ルノデアリ
やす、是ガ開所以來、僅カ數箇月ノ結果デアリマス、決シテ此結果ニ當局ト
シテハ滿足シテ居ルモノデハナク、十分ノ十マデ入所サセテ、其結果モ十分
ノ十ヲ收メヤウト云フ、文部當局モ其意氣込ヲ以テ努力ヲサレテ居リ、我〓
モ其意氣込ニ共鳴ヲシテ盡力イタシテ居ルト云フヤウナ次第デアリマス、卽
チ此靑年訓練所ト云フモノハ、國家ノ施設トシテ可ナリ重大ナルモノデアリ
やく、此重大ナル施設ニ伴ッテ現ハレテ來タ所ノ結果ヲ、國家ノ法ノ上ニ於
テ相當ニ認メテ行クト云フコトハ、私ハ當然ダト思ッテ居リマス、何等男爵
ノ御心配ニナッテ居ルヤウナ憂慮ハ致シテ居ラズシテ、矢張リ國防ノ上デ其ノ
大ナル······施設デ、サウシテ立派ナ效果ヲ擧ゲツヽアルモノヲ認メテ、ソレ
ニ特殊ノ特典ヲ與ヘルト云フコトハ、當然ノコトト考ヘテ居ルノデアリマス、
尙ホ御話ノ中ニ、靑年訓練所ニ入ッテ來テ居ル者ハ、多クハ有產者ノ部類ニ
屬スル者ガ多クテ、無產者ノ部類ニ屬スル者ハ入リ得ナイ、從テ其特典モ有
產階級ニ厚クシテ、無產階級ニ薄イ、從テソレ等ノ邊カラ怨嗟ノ聲ガ起リ、
面白カラザル思想ヲ挑發シハセヌカト云フヤウナ意味ノ御說モアリマシタ
ガ、事實今日マデ統計ニ依ッテ調ベタ所ニ依リマスルト、男爵ノ仰シャルコト
トハ相違イタシテ居リマス、寧ロ中產邊ノ步合ガ少イト云フヤウナ現象デ、
無產者ノ方ガ決シテ少クハナイト云フ······是ハ全國的デハアリマセヌガ、數
個師團ニ付テ調査ヲ致シタ所ニ依リマスルト、決シテ無產者ノ方ガ少イト云
フ譯デハアリマセヌ、事實ハ······ガ併シ當局ノ考ト致シマシテハ、其步合ノ
多イ少イト云フコトハ論ズルノデナイ、先ニモ申述ベマシタヤウニ、十分ノ
十マデ皆此訓練所ニ入所イタサセタイト云フ方法ヲ以テ進ンデ居ルヤウナ次
第デゴザイマス、左樣御承知ヲ願ッテ置キマス、尙ホ訓練所ノ段々面白カラ
ザル一面ヲ擧ゲテ、斯ウ云フ有樣デアルカラ、當局ガ考ヘテ居ルヤウナ所期
ノ效果ガ收メ得ラレルカドウカ、ト云フ點ニ付テノ御問モアッタヤウニ思ヒマ
スガ、當局ハ先刻來申述べマシタヤウニ、現ニ短時日ノ經驗デモ結果ガ宜シ
イ、將來ハ益、良クナル傾向ガアル、又ソレハ良クシヤウト考ヘテ居リマス
カラ、無論所期ノ效果ハ十分ニ收メ得ルト云フ確信ヲ以テ進ンデ居ル次第デ
アリマス、ソレカラ次ハ在營年限ノ短縮ヲ特科兵ニ及ボスカドウカ、步兵ダ
ケト云フコトデ何故特科兵ニ及ボサヌカ、又特科兵ニ近ク及ボス意思ガアル
カドウカ、ト云フ御問デアリマスガ、當局ノ考ト致シマシテハ、國防上必要
ナル〓育ハ、軍ヲ建設イタシタ以上ハ、軍ノ分子ニハ施サナケレバナラヌ、
併シ必要ノ〓育ガ出來タナラバ、一日モ早ク歸シタイ、斯ウ云フノガ根本ノ
頭デアリマス、卽チ無駄ニ長ク······無駄ト云フノハ語弊ガアリマスガ、必要
以上ニ長ク軍隊內ニ壯丁ヲ留メテ置カナイ、一日モ早ク外ニ出シテ、所謂產
業ノ發展、或ハ個人ノ便益ヲ圖ルヤウニ努メタイ、斯ウ云フ頭デアリマスカ
ラ、無論將來ニ於テハ、此特科兵ニモ是非サウ云フ特典ハ及ボシタイト考ヘ
テ居リマス、考ヘテ居リマスルガ、併シ御承知ノ通リ、我國ノ國情カラ考ヘ
テ見マシテモ、機械トカ或ハ馬ニ對スル所ノ知識ト云フモノガ、マダ普遍的
ニ十分ニ行ハレテ居ルトハ考ヘ難イノデアリマスルガ、丁度此特科兵ハ機
械若クハ馬ト云フモノニ密接ナル關係ヲ持ッテ居リマスルカラ、一般ノ國民的
ノ資質ガソレニ近ヅイテ來ラザル限ハ、步兵ト······單純ナル步兵ト同樣ナ取
扱ヲ致スト云フコトハ、所謂國防ニ必要ナル〓育ノ缺陷ヲ我慢シナケレバナ
ラヌト云フコトニナリマスルカラ、ソレハ軍部トシテ······軍部トシテヂャナ
イ、卽チ國家トシテモ堪ヘ得ベキコトデナイト存ジマスルカラ、今直チニ特
科兵ニ、又近キ將來ニ特科兵ニ其特典ヲ與ヘ得ルカト云フ御問ニ對シテハ、
ソレハ困難デアリマス、困難デアリマスルガ、事實ノ······實際ノ許ス限リニ
於テハ、必シモ今日ノ一年ト十箇月二十日ト云フモノヲ固守スル譯デハアリ
マセヌ、其範圍ニ於テモ出來ルダケハ縮小ヲスル、短縮ヲスルト云フ考ハ持ッ
テ居ルノデアリマス、次ハ徵兵適齡ノ二十歲ニ致シテ居ルノヲ、十九歲位ニ
下ゲル意思ハナイカト云フ御問ノ樣ニ拜承シマシタガ、此徵兵ノ適齡ニ關シ
マシテハ、諸外國ノ樣子モ能ク調べテ見マスシ、又我國內ニ於キマシテモ、
各種ノ學者カラ意見ヲ徵シマシタガ、十九歲ガ宜シイト云フ說モ、御說ノ通
リニアリマシタガ、又十九歲デハ兵役ノ業務ニ堪ヘ得ザルコトハナイケレド
モ、矢張リ完全ヲ云ヘバ二十歲ガ宜シイト云フヤウナ說モアリマシテ、調查
ノ結果、未ダ何レガ宜イカト云フ統計上等ノ確タル數ハ十分ニ擧ゲ得ナイノ
デアリマスルガ、兎ニ角二十歲ト云フ方ガ、外國ノ例ニ徵シマシテモ、又今
日マデ日本ニ於テヤリ來ッテ居ル實驗カラ考ヘマシテモ、先ヅ精銳ノ軍隊ヲ造
リ上ゲルノニハ適當デアル、當局ト致シマシテハ、十九歲デモ我慢ノ出來ヌ
コトハアリマセヌガ、同ジコトナラバ二十歲ガ宜シイト云フ、今日デハ先ヅ
大體見當ヲ付ケテ居リマス、其考ノ下ニ、從來ノ通ニ二十歲ヲ維持スルト云
フコトニ致シテ居ルノデアリマス、卽チ軍ノ精銳ヲ害シテマデ······只今男爵
ノ御述べニナリマシタ各個人ノ色〓ノ便益カラ考ヘレバ、下ゲタノガ宜イコ
トモアラウト考ヘマス、併シ軍ノ精銳ヲ害シテマデモ個人ノ便益ヲ圖ルト云
フコトハ、堪へ得ザルコトニ考ヘマシテ、從來ノ通ニ二十歲ニ致シテ居ルヤ
ウナ次第デアリマス、ソレカラ次ハ徵兵區、徵募區等ノ御話ガアリマシタガ、
是ハ事柄ガ餘程專門的ニ這入ッテ居リマスノデ、詳細ノコトハ委員會デ申上
グマスガ、男爵ノ御意見ハ、徵募區或ハ徵兵區ト云フモノハ法律デ規定シテ
居ラヌカラ、ドウモ負擔ノ均衡ト云フコトガ取レナイ、ト云フヤウナ御意見
ノヤウニモ拜承イタシマシタガ、是ハ勅令デ規定イタシマシテモ、法律デ規
定イタシマシテモ、負擔ノ均衡ト云フコトハ、勅令デアルカライカヌ、法律
デアレバ均衡ガ取レルト云フ御議論ハ、私ハ成立タヌト思フノデアリマス、
徵兵區或ハ徵募區ト云ノモノヲ、假ニ法律ニ規定イタシテ置キマシテモ、男
爵ガ御承知ノ通リ、其管區ノ壯丁ガ其師團ニ必ズ收容サルベキ立前ニハ、運
用上行カナイノデアリマス、卽チ近衞ト云フ如キハ全國カラ採ッテ······近衞
ノ內ノ特科兵ハ第一師團ノ直グ近傍カラ取入レル、又朝鮮ノ師團トカ或ハ臺
灣ノ軍隊ト云フヤウナモノハ、全國各所カラ持ッテ行カナキャナリマセヌ、斯
ウ云フ有樣ニナッテ、一ツノ徵兵區或ハ徵募區ヲ拵ヘテ······其師團ハ無論
其土地カラ取入レテ成立ヲサスト云フノガ根本デアリマスルガ、其徵兵區、
徵募區カラハ尙ホ只今申述べマシタヤウナ師團以外ノ兵員ヲ出サナケレバナ
ラヌト云フコトニナッテ、ソコデ徴兵區、徵募區ハ、大體原則トシテハ、第
一師管ハ第一師團ノ要員ヲ供給スルト、斯ウ決マリマスルガ、其以外ニ臺灣
ニ出シ近衞ニ出シ、或ハ朝鮮ニモ派遣スルト云フヤウナ形ニナルノデアリマ
シテ、是ハドウシテモ年〓作ル所ノ徵兵配賦表ニ依ッテ、初メテ均衡ハ得ラ
ルルヤウニナッテ、唯其師團ノ平時ノ人員ト、ソレカラ其師管內ニアル人口
ノ數ダケヲ對照シテ御覽ニナルト、男爵ノヤウナ御議論ガ起ルカモ知レマセ
又カ、徵兵ノ配賦表ヲモウ一ツ御覽ニナッテ見レバ、如何ニ當局ガ負擔ノ均
衡ト云フコトニ配慮ヲ致シテ居ルカ、又其結果ガ如何ニモ公平ニ均衡ガ得ラ
レテ居ルト云フヤウナコトハ、御了解ガ付クト思ヒマス、サウ云フコトハ何
レ委員會ノ席デ詳シク御說明申上ゲタラ宜カラウト思ヒマス、召集期日ノコ
トニ付キマシテ、是モ聊カ專門ニ渉リマスガ、極ク大要ヲ申上ゲテ置キマス、
召集期日ガ、豫後備兵等ニ付テノ囘數ト日ニチガ、ハッキリト決マラズシテ、
凡ソ何囘何日以內召集スルコトヲ得ト云フヤウナ漠然タル、根本法ガ規定ニ
ナッテ居ル、ソレヲハッキリト何囘何日ト決メタラ宜カラウト云フヤウナ御考
カラ御議論ガ起ッタヤウデアリマスガ、是ハ御承知ノ通リ、戰時ニ使フベキ
必要ニ應ジテ、例ヘバ豫備兵ノ如キハ、現役兵ト一緒ニ第一線部隊ニ使フ、
或ハ後備兵ノ如キ年期ノ古イモノハ後方部隊ニ使フ、サウスルト其數等モ多
少ノ差ガアッテ宜シイト云フヤウナ關係カラ、役種モ其日ニチモ囘數モ變ッテ
來ル、又歩兵トカ砲兵、輜重トカ云フ兵科、或ハ部ノ關係ニ依ッテモ、囘數
モ時日モ變化ヲ生ズルヤウナ譯デアリマス、頗ル複雜ナモノニナッテ居リマ
ス、ダカラ大體ノ大括リノ所ハ法律デ決メテ置ク、其以外ノ細部ノコトハ勅
令デ決メテ何等差支ナイ、又ソレガ政務ノ運用ノ上ニ極メテ必要ヂャナイカ
ト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、次ハ簡閱點呼ノ御問デアリマスガ、簡閱點
呼ニ軍部ガ要求シテ居ルコトハ頗ル大デアル、其大デアル要求ニ對シテ、極
ク一人カ二人ノ少數ノ人員デ、多數ノ在〓者ヲ集メテ、短イ時日ノ間ニ點呼
ヲシテ、其要求ダケノ效果ヲ收メ得ルカドウカ、疑問デアルト云フ意味ノ御
話デアリマシタガ、是ハ如何ニモ御說ノ通リ難カシクアリマス、難カシクア
リマスルカラ、當局ト致シマシテハ成ルベクソレヲ容易ニシ、サウシテ效果
ノ十分ニ舉ゲ得ラレルコトニ努メテ居ルヤウナ次第デアリマス、難カシイカ
ラ效果ガ十分擧ガラヌ、擧ガラヌカラ、ソンナコトハイカヌト云フ御議論ハ
立タヌ話デ、難カシイナラバ之ヲ容易ナラシムルニ努メ、容易ナラシメテ、サ
ウシテ能ク效果ヲ擧ゲルベク努メナケレバナラヌ、簡閱點呼其モノハ、在〓
者ノ大體ノ趨勢ヲ觀察シテ、國軍ノ編制ノ大部分ヲ占メテ居ル、此在〓者ノ
趨向ガ、今ドウ云フ有樣デアルカ、又其趨向ニ依ッテハ、今後是ハドウシテ
行カナケレバナラヌカト云フヤウナ、大體觀察ヲ致スト云フコトハ、ドウシ
テモ國防上必要ナルコトデアル、デアルカラ簡閲點呼其モノハ不必要デハナ
〃、必要デハアルガ、要求ガ大デ、其要求ニ伴フダケノ施設ガナイ、施設ガ
ナイカラ效果ガドウモ擧ガラナイト云フヤウナ御議論ノヤウデアリマス、當
局ト致シマシテハ、其施設ヲ將來ハ十分ニシ、又其效果ガ今日以上ニ擧ガル
ヤウニ努メタイト云フ考ヲ持ッテ居ルノデアリマス、尙ホ其點ニ付テハ、簡
閱點呼ハ矢張リ從來通リヤルノデアルガ、法文ノ上デハヤルコトヲ得ト云フ
ヤウニ極ク漠ト書イテ、ユトリガ取ッテアルガ、將來ハヤル積リデアルカド
ウデアルカト云フ御問ノヤウデアリマシタガ、從來通リヤル積リデアリマス、
唯漠然ト規定イタシマシタノハ、此度新兵役法ノ中ニ這入リマシタ······新兵
役法ニ依ッテ出來マシタ第二補充兵、是ハ今度初メテデアリマス、是等ハ今
直チニ簡閱點呼ヲ實施イタシテ宜イカ惡イカハ、マダ疑問ト致シテ居リマス、
ダカラシテ將來是等ヲ入ルベキコトモアルカモ知レマセヌガ、目下ノ所デハ
先ヅ當分ノ中ハ、第二補充兵役ハ致サヌ考ヲ持ッテ居リマス、サウ云フ關係
デハッキリト必ズヤルト云フ文句デナクシテ、ヤルコトガ出來ルト云フコトニ
致シテ置イテ、サウシテ第二補充兵役以外ノモノハ、從來通リ實行イタス考
デ居ルノデアリマス、ソレカラ簡閱點呼ノ仕事ヲ在〓軍人會ニヤラシタラド
ウカ、軍人會ニハ今度國庫ノ補助モ出來テ、國家トシテ其施設ヲ認メテ來タ
ノデアルカラ、此方ニヤラシタラドウカト云フ御議論······御話モアリマシタ
ガ、在〓軍人會ニハ、今日マデ可ナリ多クノコトヲ要求イタシテ居リマス、
多クノコトヲ要求イタシテ、サウシテソレニドウカト云フト、酬ユル方面ハ
マダ十分ニハ參ッテ居リマセヌ、デアルカラ在〓軍人會トシテハ、マダ/
今日ハ荷ガ重過ギルヤウデ、苦ンデ居ルヤウナ有樣デアリマスカラ、今直チ
ニ簡閱點呼ノヤウナ仕事ヲ、軍人會ニ更ニ附加シテヤラセルト云フヤウナ考
ハ持ッテ居リマセヌガ、將來ハ、軍人會ノ實力ガ尙今日ヨリ以上ニ充實イタ
シテ來タ曉ニハ、或ハ御說ノヤウナ處置ヲ採ルカモ知レマセヌガ、目下ノ所
デハ御考ノヤウナコトハ、當局トシテハマダ念頭ニ置イテ居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=12
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013・上田兵吉
○男爵上田兵吉君 尙ホ重ネテ御伺ヒ致シタイト思ヒマスルケレドモ、會期
切迫、議案輻湊ト云フヤウナ趣デアリマスカラ、是デ質問ヲ打切リマス
〔志水小一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=13
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014・志水小一郎
○志水小一郞君 本員ノ疑問ハ、徵兵令改正案中ノ頗ル重要ナモノデアルト
認メマスル若干ノ事項ニ存スルノデアリマス、主トシテ陸軍大臣及文部大臣
ニ對シテノ御尋デアリマスルガ、最初ニ御尋ヲ致シマスル一二ノ問題ハ、專
ラ法律問題デアリマス、就テハ政府ニ對スル御尋ト致シマスカラ、御出席ニ
ナッテ居リマスル法制局長官ナリドナタナリカラ御答ヲ下サッテモ苦シクアリ
マセヌ、第一ノ御尋ハ、本案第一條ノ法文ト憲法第二十條ノ法文トノ關係ニ
付テデアリマス、先ヅ憲法第二十條ノ解釋ニ付テ御尋ヲシタイノデアリマス、
本員ハ決シテ好ンデムヅカシイコトヲ言フ趣旨デハナイノデアリマス、本員
ノ疑問ナリトスル所ノモノガ如何ニ解決サルルヤト云フコトガ、非常ニ本案
···本案ノミナラズ、他ノ方面ニモ關係ヲ有スルト信ズルカラデアリマス、
先ヅ憲法第二十條ノ解釋ニ付テノ御尋ヲ致シマスガ、此憲法第二十條ノ意味
ハ政府ハドウ云フ風ニ御解釋ニナッテ居リマスカ、斯ウモ讀メルダラウト思
フ、日本臣民ハ兵役ノ義務ヲ有ス、ト絕對的規定ニ讀ンデシマフノデアル、
其服役ノ方法ト申シマスカ、範圍ト申シマスカ、要スルニ此服役ニ關スル規
定ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム、ト斯ウモ讀メルダラウト思フ、本員ノ存ジテ居リ
マス限ハ、普魯西ノ憲法デアッタカト思ヒマス、本員ハ普魯西ノ憲法ガ蓋シ
參考サレテ是ガ出來テ居ルノヂャナイカト思ッテ居ルノデアリマス、普魯西ノ
憲法ニドウ云フ風ニアッタカト申シマスト、普魯西國民ハ兵役ニ服スルノ義務
ヲ有ス、其服役ノ方法ハ法律之ヲ定ム、斯ウ云フ風ニアッタカト記憶シテ居
ルノデアリマス、ソレカラ讀ミヤウニ依ッテハ、我憲法ハ斯ウモ讀メルダラ
ウト思フ、帝國臣民ハ法律ノ定ムル所ニ依ッテ兵役ノ義務ニ服スル、從テ法
律ノ定メ方デアル、法律ノ定メ方如何ニ依ッテハ、帝國臣民ノ一部ノ者ハ兵
役ノ義務ガナイト云フコトニナッテモ苦シカラヌト、斯ウモ讀メルダラウト
思フ、政府ハ是ヲドウ讀ンデオイデニナリマスカ、先ヅ本案ノ第一條ノ法文
ニ付テ色〓〓究ヲシテ見タノデス、本員ハ······所ガ本案第一條ニハ、「帝國
臣民タル男子ハ本法ノ定ムル所ニ依リ兵役ニ服ス」ト斯ウアル、是モ最初讀
ミマシタ折ニハ、憲法曰ク、法律ノ定ムル所ニ依ッテ兵役ニ服スル、其憲法
ノ所謂法律ト云フノハ、卽チ此コトデアルゾヨト云フコトヲ御示シニナルダ
ケノ法文カト思ッテ讀ンダノデスケレドモ、懇ロニ讀ンデ見ルト云フト、「男
子ハ」ト云フ言葉ガアル、ソコデ是ハドウ云フコトニナリマセウカ、憲法第
二十條ノ日本臣民ト云フノハ、男女ヲ包含シテ居ルト、斯ウ御讀ミニナリマ
シタカドウカ、男女ヲ包含シテ居ルニ依ッテ、此法律ヲ以テ女子ヲ除外スル、
斯ウ云フ御趣意デアリマスカ、之ニ付テ本員ハ疑ヲ起シタ、若シ其意義デア
リマシタナラバ、法律ヲ以テサヘ定メレバ、帝國臣民ノ一部ガ兵役ノ義務ヲ
有セヌデモ苦シカラヌト、斯ウ云フ風ニモ讀メル、是ハ決シテ本員ガ好ンデ
ムヅカシイ法理論ヲスルノヂャナイ、本員ノ記憶シテ居リマスル限ニハ、斯
ウ云フ問題ガ貴族院ニ曾テ起ッタト本員ハ承知シテ居ル、チャント其事ハ記憶
シテ居ル、ソレハ何處カラ出マシタ案デアリマシタカ、僧侶ヲシテ憲法上ノ
兵役義務ヲ免レシメルト云フ案ガ起ッタト、本員ハ聞イテ居ルノデアリマス、
其事ニ付キマシテハ非常ニ議論ガ起ッタ、消極、積極、種々樣々ノ議論ガ起ッ
テ、如何ニ解決シタカ、蓋シ未解決ニ了ッタラウト本員ハ思ッテ居ル、ソコデ
只今本員ノ疑問ナリトシテ申上ゲマシタ事ハ、憲法第二十條ヲ政府ハドウ讀
ンデオイデナサイマスカ、矢張リ本員ノ普魯西憲法ノ規定ナリト申上ゲマシ
タヤウニ讀ンデオイデニナリマスカ、日本臣民ガ兵役ニ服スルノハ絕對無限
ノ規定デアル、併ナガラ其原則ダケデハ動カナイ、從テ法律ヲ以テ服役ノ方
法ヲ定メル、斯ウ云フ意味ニ讀ンデオイデナサイマスカ、但シハ法律ノ規定
ヲ以テスルナラバ、女子ノミヲ除外スルコトヲ得ルノミナラズ、一部ノ帝國
臣民ヲ兵役義務カラ除外シテモ苦シカラヌト云フコトニ讀ンデオイデナサイ
マスカ、但シ又憲法第二十條ノ日本臣民ト云フモノハ、是ハ男子ノコトデアッ
テ、女子ハ含ンデ居ナイ、其事ヲ注意的ニ御示シナサル御趣意デアリマシタ
カドウカ、是デ御分リニナラウト思ヒマスガ、其事ヲ確メテ置カヌケレバナ
ラヌ、確メテ置カヌケレバナラヌケレドモ、本案ノ第一條デハ分ラヌト本員
ハ斷言スル、ソレダカラ先ヅ之ヲ第一ニ伺ヒタイ、ソレカラ次ハ任意的服役
ノ所ニ付テノ御尋デアリマス、本案ニ於テハ、第三條ヲ以テ一年志願兵ノ事
ガ規定シテアッタカト存ジマス、デ此任意的服役者ノ如キモノモ、矢張リ憲
法第二十條カラ來ル所ノ兵役ノ義務者ト御覽ニナッテ居リマスカドウカ、御覽
ニナッテ居ルヤウニ窺ハレルノデアリマス、ソコデチヨット衆議院ノ速記錄ナ
ンドモ窺ッテ見タガ、大分ヤカマシイ問題ニナリ掛ケタヤウデアリマスケレド
モ、トント極點マデニハ達セズシテ了ッテ居ルヤウニ本員ハ見テ居ル、任意
的服役者モ亦憲法第二十條カラ來ル所ノ其兵役義務者デアル、從テ其服役ノ
方法ハ法律事項デアル、法律ヲ以テ定メヌケレバナラヌト、斯ウ先ヅ假定シ
テ居ラルルヤウニ思フ、併ナガラ法律ノ條文ヲ以テスレバ、學說ノ所謂委任
命令ト云フコトモ出來ル、因テ委任命令ノ形式ニ依ッテ······任意的服役者ノ
服役方法ノ如キハ、命令ヲ以テ定ムル、斯ウ云フヤウニ窺ハレルノデアリマ
ス、果シテサウ云フ御趣意デアリマスカ、ソレニ付テ伺ッテ置キタイノハ、
ソレハドウ云フ理由ガアッテ然ルカ、法律ノ根據ハ何處ニアルカ、又併セテ
伺ヒタイノハ、任意的ニ軍務ニ服スル者ガ憲法上ノ兵役服役者デアッタナラ
バ、一般將校ノ如キモノハドウ云フ風ニ讀ンデ居ラシャイマスカ、之ニ付テ
モ亦憲法上ノ兵役義務者ナラバ、憲法ノ明文ニ依レバ、服役方法ハ法律ヲ以
テセヌケレバナラヌ、ソレヲ我國デ申セバ、例ヘバ服役令トカ何トカ云ハン
ガ如キ勅令ニ讓ルナラバ、法律ノ委任ガナクテハナラヌ、委任勅令ノ形式ニ
依ラナケレバナラヌト斯ウ讀マレルノダラウト思フ、ソレデ一般將校ノ服役
ニ關スル如キハ、ドウ讀ンデ御イデナサルカ、本員ハ長ク陸軍ノ中央部ニ居
リマシテ、記憶シテ居ルコトモアル、耳ニ挾ンダコトモアルノデスガ、本員
ノ記憶シテ居ル限リ、此問題ハ模糊トシテ居ッタ、以前ハ外國ニ於ケルガ如
キ、將校ト雖モ何等カノ原因ヲ以テ身分ヲ喪失スレバ、忽チ一般國民ト等シ
ク一般的兵役ニ服スルトカ何トカ云フヤウナコトハ、議論ガ詰ンデ居ナイト
本員ハ記憶スルノデアル、況ヤ外國ニ於ケルガ如キ明文モ何モナイ、ソレヲ
此際一種ノ憲法論ヲナサッテ、任意服役者ト雖モ、憲法ノ第二十條ハ絕對的
規定デアルカラニハ、是亦憲法カラ來タ所ノ服役者デアル、斯ウ云フ風ニ解
決サレテアルヂャナイカ、サウスルトソレニ付テ服役方法ヲ勅令デ定ムル、
ソレデ苦シカラヌト云フコトニハ御議論ガ詰ンデ居リマスカ、又其筆法ヲ以
テ立法ガ出來テ居リマスカ、其事ヲ伺ヒタイ、是デ法律ニ對スル御尋ハ仕舞
デアリマス、是カラ陸軍大臣及文部大臣ニ向ッテノ御尋デアリマスガ、先刻
上田男爵カラ大分詳シク御尋ネニナリマシタコトガアリマスルニ依ッテ、本員
ノ御尋ハ或ハソレト重複スルカモ知レヌ、本員ハ重複シナイ積リデ居ルガ、
若シ重複イタシマシタナラバ、先程ノ大臣ノ御答デ明瞭ニ歸スルヤウナコト
ハ御答ヲ省カレテ苦シカラヌノデアル、而シテ、本員ノ御尋ハ、約言スレバ
次ノ三項トナルノデアリマス、第一ハ、徵兵令ハ極メテ重要ナ法律デアル、
是ハ本員ノ所見デアリマス、而シテ在營年限ニ關スル規定ノ如キハ、徵兵令
中ノ極メテ重要ナル規定デアル、是モ本員ハサウ信ズルノデアル、又或ル程
度ノ在營年限短縮ト云フコトハ、必シモ重要ナル法律ノ改正ヲナサズ、現行
規定デアル所ノ歸休兵制度ノ應用ヲ以テ之ヲ執行スルコトガ出來ル、是モ本
員ノ所見デアリマス、然ルニ比較的容易ニ此重要ナル徵兵令ヲ改メラレルノ
ハ、ドウ云フ理由デアリマスカ、是ガ第一ノ御尋デアリマス、ソレカラ第二
ノ御尋ハ、在營年限ノ短縮ト申スコトノ主ナル理由ハ、何デアルノデアリマ
セウカ、殖產問題デアリマセウ、卽チ經濟問題デアリマセウ、故ニ其必要ハ
比較的富裕ナル人ノ子弟ヨリハ、寧ロ貧者ノ子弟ニ存スル······其必要ハ存ス
ル、斯ウ本員ハ思フノデアリマス、サスレバ在營年限短縮ノ依ッテ得ラレル
所ノ、卽チ短縮ト密著分離スベカラザル所ノ、所謂靑少年訓練又ハ靑年訓練
ノ施設ノ如キハ、比較的富裕ナル子弟ニ對スルヨリハ、貧者ノ子弟ニ對スル
モノニ一層遺憾ナキヲ要スル、本員ハサウ信ズルノデ、少クモ彼此レ偏重偏
輕アルヲ許サナイ、然ルニ事實ハ全然之ニ反スルノデアリマス、是ハ衆議院
ノ委員會ノ速記錄ヲ讀ミマシテモ、盛ニ其問題ガ起ッテ居ルノデ、當然ノ事
ダト思フ、是ハドウトカ救濟ヲナサルベキモノデアリマスマイカ是ガ第二問
デアリマス、第三問ハ、在營年限短縮ニ依リテ生ズル所ノ缺陷デアリマス、
此缺陷ハ、其關係アル壯丁ノ素質ニモ及ビマス、從テ國防力ノ缺陷ト云フコ
トニ、大キイ所ハ、歸著スルダラウト思フ、故ニ在營年限ノ短縮ト云フコト
カラ當然起ル所ノ此缺陷ト云フモノハ、安全確實ニ之ヲ補ハヌケレバナラヌ
ト思フノデアリマス、本員ハソンナニ詳シク外國ノ事例モ調ベテ居リマセヌ
ケレドモ、陸軍省カラ參考ノ爲ニ御配付ニナリマシタ外國ノ事例ナドヲ書イ
テアルモノハ、隨分懇ロニ讀ンデ居ルノデス、サウ云フ次第デアルノニ、此
缺陷ヲ安全確實ニ補フ方法ガ、誠ニ遺憾ニ堪ヘヌト思フノデアリマス、此第
一在營年限短縮ト密接不可分ナル、靑少年訓練及靑年訓練ヲ行フノ方法デア
リマス、是ハ每度似寄ッタコトヲ陸相ニモ文相ニモ申上ゲ、甚ダ失禮デアリ
マスケレドモ、私ノ所信ハ依然トシテ變ラナイ、斯ウ云フ事柄ハ直截簡明デ
ナクチャイケナイ、何ガ爲ニ極メテ複雜不徹底、モウ一步進ンデ申スコトヲ
許サルルナラバ、微温トデモ云フ言葉ヲ使ヒタイ、故ニ兎角其效果ヲ確保ス
ルコトガ出來ヌノデアリマス、ソレハ陸相モ頻ニ御述べニナッテ居ルヤウデ
ス、陸相ノ御苦衷ハ察セラレル、兎ニ角昨年ノ七月カラ始メタノデハナイカ、
ドウシテサウ云フ風ニ俄ニ好成績ガ得ラレルモノデアルカト云フ、斯ウ云フ
ヤウナ御話デアリマシタ、成程サウ云フ事實モアリマセウ、併シ本員ヲシテ
言ハシムレバ、是マデ御定メニナッタヤウナコトデハ、是迄ノヤリ口デハ、
何時マデ經ッテモ其效果ヲ確保スルト云フコトハ出來マイト本員ハ信ズルノ
デアリマス、如何デアリマセウカ、是ガ第三問、第四ハ斯ウ云フ事ニナル、
從來ノ一年志願兵制ノ如キハ、兵役義務ノ均衡ヲ得ザル顯著ナ一例デアルト、
斯ウ本員ハ思フノデアリマス、今ヤ之ヲ維持セザルモ、戰時ノ要員タル將校
ヲ得ルノ途ハ幾ラモアルダラウト思フ、之ガ爲ニ餘計ノ人ヲ徵集セヌケレバ
ナラヌ、金モ掛カル、如何ニモサウデアリマセウ、軍事當局トシテソレ等ノ
事ハ本員ハ御考慮ヲ要セヌダラウト思フ、却テ肝腎ナル兵役義務ノ平等均一
ト云フ方ニ御注意相成ルベキデアラウ、是ガ急務デアルト思フ、本員ハサウ
思フノデアリマスガ、是ハ如何デアリマセウ、詰リ四問題ニナルノデスガ、
唯是ダケヲ申上ゲタノデハ少シ慊リマセヌカラシテ、此四問題ノ起ル所以ヲ
モウ少シ述ベタイノデス、徵兵令ノ極メテ重要ナル理由ハドウデアリマセウ
カ、少シ難カシイ事ヲ言フヤウデアリマステレドモ、人類ノ一番惡ム所ハ死
デアリマス、死スルト云フコトデアリマス、又人類ノ最モ欲スル所ノモノハ
生クルト云フコトデアリマス、然ルニ徵兵令ハ此人類ニ向ッテ、何ト申シマ
スカ、漢學者ニデモ言ハシメタナラバ、死ヲ觀ルコト歸スルガ如クナレ、斯
ウ云フヤウナ要求ヲシテ居ルノデアリマス、畢竟血稅ノ名アル所以ダラウト
思フ、サウシテ此徵兵令ノ沿革ヲ調ベテ見マスルト云フト、徵兵令ノ制定ハ
實ニ我軍制ノ大成功デアリマス、其苦キ經驗ハ悉ク我軍制ノ成功史デアリマ
ス、此事ヲ詳シク本員ガ調べタ事ヲ申上ゲマスレバ、數時間ヲ要スルノデス
ケレドモ、サウ云フコトハ申シマセヌ、サウシテ徵兵令ハドウ云フモノデアル
カト言ッテ來ルト、所謂頻ニ繰返サレル所ノ國民皆兵ト云フモノノ基礎ハ是デ
定マッタノデアリマス、國軍ノ建設竝ニ其建設シタル國軍ヲ保持シテ······保持
シツヽアルノハ何デアリマセウカ、卽チ徵兵令デアリマス、故ニ徵兵令、殊
ニ其重要ナル規定デアル所ノ兵役年限ノ如キ規定ノ如キモノハ、容易ク國民
ノ希望ナリ時勢ノ要求ナリ抔トシテ、之ヲ變改スルコトハ出來ナイ、變改ス
ルコトヲ許ナイモノト本員ハ考ヘテ居ル、勿論國民ノ希望ナドト申スコトハ、
疑ヘバ甚ダ疑ノ餘地ガアルノデアリマス、殊ニ時勢ノ要求ナリト云フコトニ
ナリマスト云フト、少クトモ徵兵令ニ事ノ關スル限ハ、或ハ無意義デハナイ
カト思フ、歐羅巴ノ形勢ハサウカモ知レヌ、歐羅巴ノ形勢ノ如クナイノハ、
我〓ノ誠ニ喜ブベキコトデアリマス、固ヨリ此徵兵令ノ改正ヲ以テ、サウ云フ
コトガアッタトハ申サヌデスケレドモ、心配ノ點ヲ申スノデス、徵兵令ノ變
改ヲ以テ政策ニ供スルト云フヤウナコトハ、斷ジテ許サヌノデアリマス、否、
許ス餘地ハナイノデアル、若シ萬一ニモ容易ニ之ヲ變改スルト云フヤウナ端
ヲ開キマシタナラバ、ドウ云フコトニナリマセウカ、其害ノ及ブ所實ニ測ル
ベカラズデアリマス、本員ハ此事ニ付テハ、澤山意見ヲ持ッテ居ル、又調べ
テ居ルコトモアリマス、併ナガラ本員ガ此心配ノ事實ヲ明カニ申スノハ、此
席デ申スノハ好マシカラヌカラ、此事ハ此位ニシテ置キマス、本員ハ斯ク述
ベマスケレドモ、徵兵令ハ絕對的ニ變改シテハイカヌトハ申サヌノデアル、
本案ニ見エマス如ク、或ハ困窮者ノ救濟規定ヲ設クル、或ハ先刻大臣モ述べ
ラレマシタ如ク、國民ノ海外發展ヲ助ケル、其他多年ノ實驗ニ依ッテ得タ所
ノ其不備ヲ補フ、斯ウ云フヤウナコトハ固ヨリ差支ハ無イ······サウハ申サス
唯本令中殊ニ重要ナル規定デアル所ノ、在營年限ニ關スル規定ノ如キハ、
容易ニ之ヲ變改シテハイカヌノデハアリマセヌカ、ト云フコトヲ申スノデア
リマス、又傍側ノコトニナリマスケレドモ、重要ナル法律ハ、英吉利デハ申
スマデモナク、佛蘭西ノ如キデモ、サウ容易ニハ變ヘナイト云フ事實ヲ、本
員ハ幾ツモ知ッテ居ル、例ヘバ軍事刑法ノ如キモノハ、千八百五十四年ノ法
律ガ今尙ホ保存セラレテ居ルト本員ハ信ジテ居ル、法律ノ尊イ所ノモノハ、
近頃流行語デ謂フ所ノ立法技術デハアリマセヌ、其精神デアリマス、其規
定ガ國土民情ニスッカリ喰合ッテ適合スルコトデアリマス、サウ云フ次第デ
アリマスカラシテ、重要ナ法律ハ容易ニ變改スベキモノデハナイ、先進國
ノ事例ハ蓋シ皆然ラムト本員ハ斷言スルノデアル、外國デハ古イ法律ハ陳
腐ナリトシテ、皆片端カラ變改シテ之ヲ整理スルノデアル······サウ云フコ
トハ本員ハ無イト思フ、サウシテ在營年限短縮ト云フコトハ、必シモ重要ナ
法律ヲ變改セズシテモ出來ルノデアラウト、本員ハサウ思フ、ソレハ兵役其
モノノ年限ヲ短縮スルノト、歸休兵制度ニ依ッテ歸休セシメルトハ、多少ノ
相違ガアリマセウ、關係者ノ利害ニハ多少ノ關係ガアリマセウケレドモ、ソ
レハ構ハナイト思ヒマス、何故歸休兵制度ヲ利用シテ、在營年限短縮ト云フ
實ヲ擧ゲラレヌノデアリマスカ、是非此重要ナ法律ヲ改正セナクチャナラヌ
ノデアリマスカ、ト云フ御尋デアリマスガ、是ハ大問題ノ起ッタ理由デアリ
マン·次ハ在營年限短縮ノ利益ハ、兵役義務者ニ爲シ得ル限リ平等均一デナ
クチャナラヌト主張スルノデアリマス、兵役義務ノ重要ニシテ且ツ至難ナモノ
デアルト云フコトハ、旣ニ申上ゲマシタ、デ之ヲ稱シテ崇高ノ義務ナドト云
フ言葉ガアリマスガ、如何ニモ適當ナ文字デアラウト思フ、ソレデ兵役義務
ニ付テノ要ハ何デアルカト云ッタラ、國民擧リテ之ニ服シ、平等均一、少シ
ノ例外モナイ、是ガ必要ダラウト思フ、尤モ步兵科ニ在ル者ト特科兵トノ間
ニ差ガアル、是ハ必要カラ來ルカラ、ソレヂャ平等均一ニナラヌカラシテ、
平等均一デハナイ、ト云フヤウナコトハ申サヌノデアリマス、故ニ明治五年
ノ徵兵令ヲ發セラレマシタ其告諭ニ、實ニ忘レラレヌコトガアリマスケレド
モ、全文ハ申サヌ、唯其一部ヲ申スト、斯ウ云フコトガアル、「是ニ於テ士ハ從
前ノ士ニ非ズ、民ハ從前ノ民ニアラズ均シク皇國一般ノ民ニシテ國ニ報ス
ルノ道モ固ヨリ其別ナカルヘシ」ト是ガ國民皆兵ノ原則ヲ盡シテ居ルノデア
ル、尙ホ陸軍省ノ······内閣、內閣デアリマセヌ、太政官デアリマス、太政官ニ
徵兵令案ヲ提出シマシタ理由書ニ、四民論ト云フモノガアルノデアリマス、
殆ド血ヲ以テ書イヤタウナ書キ物デアリマス、當時ハ、御承知デアリマセウ
ガ、非常ニ階級制度ガヤカマシカッタ、上ニハ公卿、諸侯、士、農、工、商、其下ニ
ハ穢多非人ト云フモノガアッタ、是ガ階級デアリマス、斯ウ云フ階級ヲスッカ
リ打破シテ、國防ノ意味ニ於テハ四民平等ト云フノガ、陸軍省ノ徵兵令制定
ノ理由デアリマス、而シテ此四民平等論ヲ讀ンデ見マスト云フト、陸軍省ノ
詮議ハ、畏多クモ皇族論ガ多イ、徵兵令ノ適用ニ於テハ除外スルニ遑ナイ、
除外セヌト云フ詮議ガアッタ、大分ソレガ具體的ニ進ミマシテ、併シ直グニ
實行ハ大分何デアラウカラ、假スニ十年ノ施行猶豫ヲ定メル、華族ニ付テハ
五年トナッタ、所ガ皇族ニ對シテマデモ除外セヌト云フ規定ハ、幾度カノ討
議ニ依ッテ止ンダノデアリマス、是等モ内閣ノ記錄ヲ御調ベニナレバ、歷々ト
シテ見事ニ殘ッテ居ルノデアリマス、以上述ベマシタ所ヲ以テ、兵役義務ノ平
等均一デナクチャナラヌト云フコトハ、極メテ明白ダト思フノデアリマス、所
ガ年月ノ推移ト徵兵令ノ沿革トニ依ッテ、兵役義務ハ平等均一デナクッチャナ
ラヌト云フ理想ガ、漸ク遺忘サレツヽアルノデアリマス、是ハ事實デアリマ
ス、例ヘバ只今述ベマシタ所ノ一年志願兵ノ制度デアリマス、之ヲ能ク分析シ
テ詮議イタシマスト云フト、是ハ一部ノ階級ノ子弟ニ與ヘタ所ノ特權デアリ
やマ、僅ニ中學校或ハ同等以上ノ學校ヲ卒業シタト云フ故ヲ以テ、年額二百
四十圓ト云フ金ヲ納メレバ、外ノ人〓ハ少クモ二年ノ服役ヲ終ラナケレバ憲
法上ノ兵役ニ服シ終ッタトハ言ヘヌノニ拘ラズ、或ル一部ノ人ノ子弟ハ、
僅ニ一年ノ服役ヲ以テ憲法上ノ兵役服務ノ義務ヲ免レルノデアリマス、是ガ
特權ニアラズシテ何デアリマセウカ、兵役義務ノ平等均一ト云フ理由ニ背イ
テ居ルモノニ非ズシテ何デアリマセウ、我〓初メ、チットモ疑ハヌノハ、卽
チ我〓モ、卽チ我〓ノ子弟モ、斯ウ云フ特權ヲ附興セラレテ居ルト云フコト
ガ一ノ理由デアラウト思フ、要スルニ一年志願兵制ノ如キハ早晩······早晩デ
ハアリマセヌ、最早現存セシムベキモノデハナイノデハアリマセヌカ、是日
徵兵令ノ基礎ガ段々危クナッテ來ツヽアルト云フ事實ヲ、本員ハ認メテ居ルカ
ラ申スノデアル、ソレカラ靑少年訓練又ハ靑年訓練ノ施設ノ偏重偏輕ヲ免レ
ヌト云フコトハ、蔽フベカラザル事實デアリマスガ、斯ウ云フコトニナッタ
原因如何ト考ヘマスト、少シモ變ッタコトガナイ、一年志願兵制度ガ兵役義務
ノ履行ニ著シク不均衡デアルト云フニ拘ラズ、何人モソレヲ怪マヌ、ソレト同
ジヤウナ意味デ是ハ出來テ居ル、本員ハ軍人ノ主張トシテ、往々次ノヤウナ
コトヲ承リマス、是ハ軍人ノ主張トシテ尤ノコトデアルト思フ、ソレハドウ
云フコトデアルカト云フノニ、比較的〓育アリ身分アル者ノ子弟、身分アル
者、ソレニ比較的多ク軍事的訓練ヲ施シテ、以テ之ヲ社會ニ散布スルト云フ
コトガ、漸ク國軍ノ組成分子ヲ優良ナラシムル所以、延イテ國軍ノ基礎ヲ固
カラシムル所以、斯ウ云フコトヲ承ルノデアリマス、本員ハ決シテサウ云フ
議論ヲ否定スルノヂャナイ、目的ハ······本員ノ主張スル議論ノ目的ハソコニ
アル、唯本員ノ主張ハ何ト申シマスカ、目的ヲ同ジウシテ手段ヲ異ニスルト
デモ云ッタラ當ルカモ知レヌ、何故ナレバ、本員ハ兵役義務ノ負擔ヲ平等均
一ニシテ、遺憾ナク徵兵令ヲ厲行スルコトヲ得、然ル後ニ國軍ノ組成分子ノ
優良不良ト云フコトガ言ヘルダラウト思フ、本員ハ、英吉利ヤ亞米利加ノ如
ク强制的兵役法ガ無クシテ、見事安全ニ國軍ノ建設セラレルデアラウカドウ
カト云フコトニハ、非常ナ疑ヲ懷イテ居ル一人デ、寧ロムツカシクハナイカ
ト日頃思ッテ居ル、ソレデ徵兵令ノ基礎ヲ危ウスルト云フヤウナコトニ付テ
ハ、眞實心配ヲシテ居ルノデアリマス、又何故、靑少年訓練、靑年訓諫等ヲ複
雜不徹底ナドト云フコトヲ敢テ言フカト云フ御尋デアリマシタナラバ、斯ウ
云フ風ニ御答ヲシタイ、抑〓此訓練ナルモノハ、名稱ヲ何ト付シヤウト、何
ト辯明シヤウト、性質ニ於テ軍事〓育デアリマス、文相ハ何ト仰シャイマシ
タ、凡ソ人ノ仕事ヲスルノニ、相倚ッテ共同動作ヲスルト云フコトガ最モ必
要デアル、ソレカラ規律ヲ遵守スルコトガ最モ必要デアル、我ガ國民ノ子弟
ハソコニ缺クル所ガアル、是ガ卽チ靑少年訓練ヲ行フ所以デアルト云フコト
'御言葉ハ違ッタカ知ラヌケレドモ、本員ハ其事ヲ決シテ忘レヌ、ソレデ
所謂軍事的訓練、靑少年訓練、是ハズット歷史ヲ申シマスルト、國民的軍事
〓育ト云フ言葉ガ頻ニ用ヰラレテ居ル、ソレカラ佛蘭西ヤ伊太利ノ例ニ倣ツ
テ、軍事的豫備〓育、豫備〓育ノ名アル所以ハ、佛蘭西ヤ伊太利デハ英米ト違
ヒマシテ、入營後ニ專門家カラ受クル所ノ軍事〓育ヲ、比較的容易ナラシム
ル爲ニ、入營前ニ〓育ヲスルコトニナッテ居リマス、是モ本員ノ見ル所デハ、決
シテ軍事ノ素養ナキ文官ナドニ任シテハ置カヌノデアリマス、必ズ軍事官憲
ガヤル、モウ一步具體的ニ申シマスレバ、軍團デヤル、軍團長ガ監督シテヤ
ル、當然ナコトデアル、右ノ通リ靑年訓練、靑年訓練ナルモノガ軍事〓育デ
アッタ以上、其指揮監督ハ是非之ヲ軍事官憲ニ於テ握ラナクテハナラヌト本員
ハ深ク信ズル、然ルニ之ヲ軍事官憲ニ握ラシメズシテ、軍事ニ疎キ文政當局
又ハ學校長ニ委スルト云フコトガ、如何ニモ、不適當、卽チ不徹底或ハ微温
ト申シタイ、宜ナルカナ、近頃其方面ノ文部省ノ文官ト、陸軍省カラ派遣シ
テアル將校トノ間ニ、是モ大分進ンデ承知シテ居リマスケレドモ、ソレハ申
シマセヌガ、厭ハシキ衝突軋轢ガアルト云フコトハ、事實ト信ズル、是ハ當
然ノ結果ダト思フ、ソレヲムヅカシク申シマシタナラバ、凡ソ行政法ノ原則
トデモ申シマスカ、行政ト云フ意義ニ於テ、特定ノ官府官廳ノ指揮監督シテ
居ル所ノ事項ヲ、其系統ニアラザル傍側ノ官憲ガ來テ視察スル、或ル意味ニ
於テ監督スル、斯ウ云フコトガ有ルベキモノデハナイト思フ、ソレガ本來、
是ガ不徹底的ニ出來テ居リマスカラシテ、サウ云フ結果ニナル、又學校長
ヤ軍事ニ疎キ文政當局ニ一任シテ置イタデハ、果シテ是ガ軍事上ノ見地カラ
役ニ立ツカドウカ、徵兵令ノ定ムル所ノ兵役年限ヲ短縮スルノ基礎トナルヤ
否ヤ疑ハシイ、當然ナ疑問デアル、任セテ置ケヌ、任セテ置ケヌカラシテ專
門家ガ行ッテ視察スル、サウ云フヤウナコトデ、ドウシテ此靑少年訓練ヤ靑年
訓練ノ目的ヲ達スルノデアリマセウ、ソレカラ始終承ルノニ、歐羅巴各國、
此ノ大戰後ノ狀態ハ非常ナモノデアル、軍事〓育ナルモノガ非常ニ發展シテ
居ル、殆ド例外ナイ、到ル所サウデアルト云フ風ニ始終承ッタノデアリマス、所
ガ本員ハ段々調べ、又本員ノ淺學ナガラ多年研究シテ居ル方面カラ考ヘルト
云フト、サウハ見エヌ、非常ニ國民的軍事訓練ノ發展シテ居ル所ガアルナラ
バ、何處デアルカト云フト、英國第一、是ハ當然ノ結果ト思ヒマス、是ハ
朝一夕ニ發達シタノデハナイ、戰後大キニ發展シタニハ違ヒナイケレドモ、
本員ハ恐ラク十三世紀アタリカラ、モット古クカラ來テ居ルト思フ、貴族ガ平
民ト合致シテ、國王ヲ威壓シテ大法典ヲ取ッタ、其折ニハ兵力ヲ以テ威嚇シ
テ居ル、其兵力ハ誰ニ在ルカト云ッタラ、平民ニ在ル、國民ニ在ル、ソレダ
カラシテ論ヨリ證據、英吉利ニハ本員ノ知ッテ居ル限リ常備軍ナルモノハ無
イノガ原則デ、今デモアレヲ置クニ付テハ、形式ヲ以テ議會ノ承認ヲ經ルト
云フコトニナッテ居ル筈デアル、第、强制兵役法タル徵兵令ノ如キモノハ、
絕對的ニ行ハレナイ、行ハレヌノハ、汚ナイ未練ナ考ヲ以テ之ヲ避クルノデハ
アリマセヌ、我等ハ英國民デアル、一朝事アル場合ニハ兵器ヲ執ッテ起ツ、
國防ノ重キニ我等ガ任ズルト云フノハ、虚喝デハナイ、事實デアル、サウ云
フ國民デアルカラ、國民的軍事〓育ガ發展スルナドト云フコトハ、決シテ怪
ムニ足ラヌ、當然ナコトデアル、然ルニ我國民ハ、ソレ程マダ醒覺シテ居ラ
ヌ、ソレデ政府ヤ軍事當局ヤ文部當局ガ御心配ニナッテモ、矢張リ眠ヲ醒マサ
ヌ、之ヲ法令ニ訴ヘテ强制的ニヤッテコソ然ルベシト思フノニ、敢テ爲サラ
ヌト云フノハ、事情ガ許サヌカラデアリマセウ、事情ガ許サヌト云フコトハ
ドウ云フコトニナリマセウカ、ナンボ御奬勵ニナッテモ、サウ巧クハ行ハレヌ
ノデアリマス、況ヤ利害ヲ以テ誘ッテ居ル、利害ハ何モノゾ、此方ニ勉强スレ
バ、二年掛ッテ退營スルノガ、一年半或ハ一年デ退營ガ出來ルカモ知レヌ、斯
ウ云フ意味デ奬勵シテ居ルカラ、利害ヲ以テ誘ッテ居ル、英國ノ如キモノハ、
自己ノ自覺ニ依ッテ、他ノ勸誘ヲ受ケズ、法規ノ强制モ受ケズ、自ラヤッテ居
ル、我ガ同胞ノ子弟ハ、利害ノ念ニ驅ラレテヤッテ居ルト云フコトニナリマシ
タナラバ、形ハ同ジウシテ精神ハ根本カラ違ッテ居ル、サウ云フヤウナヤリ口
デ一時效果ヲ見マシテモ、永續ハ出來ナイデハナイカ、何カ其邊ニ付テハ根
本的ノ御考ハ無イカ、我ガ徵兵令ノ如キモノハ、如何ニモ先輩ノ卓見熱血ヲ
以テ出來テ居リマス、兵役年限ノ短縮ト云フヤウナモノハ自由自在デアリマ
ス、時勢ガ、兵役年限ノ狀態ガ今ノヤウナコトデハイカヌ、斯ウ云フコトニ
ナリマスレバ、必要ニ應ジテ延ベルコトモ出來ル、之ヲソレ程大切ナモノデ
ナイト云フヤウナコトニ致シマシテ、區々タル理由ヲ以テ容易ニ改正スルト
云フヤウナコトニナリマシテ、從テ意外ノ影響ヲ意外ノ方面ニ及ボスト云フ
コトニナリマシタナラバ、先輩ハ地下ニ泣クデアラウト思フ、モウ大〓本員
ガ四問題トシテ御尋ネシマス事柄ハ言ヒ盡シタ積リデアリマスカラ是デ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 午後一時三十分マデ休憩イタシマス
午後零時十二分休憩
小
午後一時四十七分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス
國務大臣宇垣一成君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=16
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017・宇垣一成
○國務大臣(宇垣一成君) 午前ニ於ケル志水君ノ御質問ニ御答ヲ致シマス、
志水君ハ長ク陸軍ノ中央部ニ御イデニナリマシテ、法制關係ノコトニ御從事
ニナッテ居リ、從テ此兵役法規等ノ歷史沿革ニ付キマシテハ、私共ヨリハ寧ロ
能ク御承知ニナッテ居ル次第デアリマス、今朝ノ御話ノ中ニ依リマシテモ、
色〓ト初メテ私共ガ承知ヲ致スト云フヤウナ事柄モ存在シマシテ、是等ハ今
後ノ研究ノ資料、參考トシテ拜承イタシテ置クコトニ致シマシテ、玆ニハ御質
問ニナリマシタ四箇ノ點ニ付テ御答ヲ致サウト思ヒマス、其第一ハ、徵兵令
ノ改正ヲ此度ヤル、其理由ハ何處ニアルカト、斯ウ云フ御問デアリマスルガ、
改正ノ理由ニ付キマシテハ、今朝冐頭ニ於キマシテ大要私ハ述ベテ置イタ積
リデアリマス、卽チ內外ノ情勢ノ變化ニ伴ヒマシテ、殊ニ學校〓練或ハ靑年
訓練ノ施設ガ步ヲ進メテ來タリ、又現時ノ狀勢カラ考ヘマシテ、社會政策ト
カ、或ハ國民ノ海外發展トカ、是等ノ點ニ對シテ考慮ヲ拂フ必要ガ益〓切實
ニナッテ來タ、サウ云フ點カラ改正ヲ加ヘマシテ、是モ急速咄嗟ニヤッタト云
フ譯デモナク、數年前カラ考究ヲ進メテ居リマシタモノガ、今日漸ク成案ト
シテ、此議會ニ提出シ得ルヤウニナッタノデアリマス、此改正ニ付キマシテ
ハ、徵兵令ノ創始ノ當時ノ精神、卽チ國民皆兵トカ、或ハ義務ノ均等、是等
ノ點ニ於キマシテハ、此度ノ改正ニ於テハ、毛頭ソレヲ害スルト云フヤウナ
コトハ無ク、寧ロ益國民皆兵又ハ義務均等ト云フ點ニ注意ヲ拂ヒ、其眞價
ヲ發揮スルコトニ努メテ居ル次第デアリマス、一例トシテ御話ヲ申上ゲレバ、
此一年志願兵ノコトニ付テ、段々攻撃的ノ御意見モアッタヤウニ思ヒマスル
ガ、卽チ義務ノ均等ト云フ點ニ於テ、資產ガアリ若クハ學問ヲシテ居ル者
二、特殊ノ待遇ヲ與ヘテ居ル、如何ニモ、從來普通ノ者ガ三年在營イタシテ
居ッタ際ニ、ソレ等ノ特殊ノ者ニ一年ト云フ特典ヲ與ヘタト云フコトハ、或
當時ニ於テハ非常ナ均等ヲ害シテ居タカモ知レマセヌガ、今日ニ至リマシテ
二、ソレガ一般兵卒ノ者ガ三年ガ二年ニナリ、二年ガ一年十箇月ニナリ、今後
又一年六箇月ニ近ヅケヤウト云フヤウナ計畫デ進ミツヽアル所デアリマスカ
ラ、寧口義務ノ均等ト云フコトカラ申シマスレバ、從來ノモノヨリハ漸次ニ
其均等ノ方面ニ步ヲ進メツヽアルト云フヤウナ形勢デ、志水君ガ彼此レ御論
議ニナル、此度ノ一年在營制ヲ採ルト云フコトハ、非常ニ義務ノ均等ヲ害シハ
セヌカト云フコトノ御心配ハ、私ハソレハ當ヲ得テ居ラヌト考ヘルノデアリ
やゞ、卽チ此度ノ改正ト云フモノハ、義務ノ均等ニ從來ノモノヨリハ一步ヲ
進メテ居ルト御了解ヲ願ッテ宜カラウト考ヘマス、要スルニ此徵兵令ハ國防上
ノ重大法典デアリマシテ、志水君ノ御述べニナリマシタ通リ、先輩ノ苦心ノ
結晶デアルト云フコトハ、我〓モ疾クニ承知イタシ、其點ニ對シテハ十分ナ
ル敬意ヲ拂ッテ居リマス、決シテ敬意ヲ拂フト云フ點ニ於テハ、人後ニ落チ
ナイ考デアリマス、併ナガラ內外ノ情勢ハ、今朝來申上ゲテ居リマシタ通リ、
假令先輩ガ定メテ居ッタモノト雖モ、國防上ニ支障ヲ生ゼザル限ハ、是ハ成
ルベク國民的要求ヲ容レテ行クト云フコトガ、當然ナコトデ、又ソレガ先輩
ノ方デ制定イタシマシタ精神ニ合スル所以ダト思ッテ居ルノデアリマス、先
輩ガ苦心シテ定メタ所ノ結晶物デアル、ソレヲ一ツモ變ヘテハナラヌト云フ
コトハ、却テ私ハ如何カト思フノデ、卽チ國防上ニ缺陷ガ生ジテハイケマセヌ
ガ、國防上ニ缺陷ヲ生ゼザル範圍ニ於テハ、國民ノ希望シ、四圍ノ情勢ガ必要
トスルナラバ、ソレニ適應シテ行クト云フコトガ當然ナコトデ、斯クスルコト
ガ、寧ロ先輩ノ懷イテ居ッタ所ノ精神ヲ發揮スル所以デアラウト思フノデア
リマス、此度ノ改正ニ付テ、先輩共ハ地下ニ泣イテ居ルダラウト云フヤウナ
御話モアリマシタガ、寧ロ先輩ハ大ニ喜ンデ居ルダラウト、斯ウ信ジテ居ル
一人デアリマス、次ハ在營年限ノ短縮ノ關係デアリマス、此在營年限ノ短縮
ト靑年訓練トノ關係ニ付キマシテハ、今朝詳細ニ上田男爵ノ御質問ニ對シテ
御答ヲ致シテ置キマシタカラ、是ハ省略イタシマス、志水君ノ御話ニ依リマ
スルト、改正案ノ第十四條ノ歸休制度ヲ適用シテ、別ニ第十一條ノ靑年訓練
ニ對スル規定ハ設ケナクトモ、從來ノ歸休制度ノ適用デ在營年限ノ短縮ヲ實
行イタシテモ、差支ナイヂヤナイカト云フ御話モアリマシタガ、當局ト致シ
マシテハ、十四條ノ適用ト云フコトデ、今日マデ其適用ニ依ッテ三年ヲ二年
三ヽ、又二年ヲ一年十箇月ニ致シテ居ルト云フヤウナコトハ、餘リ其適用ノ
範圍ガ廣キニ失スルト云ウテ、先年來、各方面ニ於テ色〓異議ノアル問題デ
アリマス、ソレデアリマスルカラ、此改正ノ際ニ當リマシテハ、當局ト致シ
マシテハ、サウ云フ異議ノアルモノヲ長ク持續シテ居ルダケノ必要モナイ、
寧ロ此際法律ノ明文ノ上ニ其事ヲ示シテ、サウシテ其運用ヲ圖ッテ行クト云
フコトガ當然ダト考ヘマシテ、歸休制度ニ依ルト云フコトハ、稍〓其制度ノ
運用範圍ガ廣キニ失スル、サウ云フ考ノ下ニ第十一條ハ制定致サント致シテ
居ル次第デアリマス、尙ホソレニ關聯イタシマシテ、靑年訓練ノ實施ガ頗ル
不徹底デ、其效果モ云々ト云フヤウナ御說モアリマシタガ、是亦今朝上田男
爵ニ對シテ、當局ノ此訓練ニ對シテ見テ居ル所ノ實情及ビ此訓練ニ對スル將
來ノ期待ニ付テハ、御話ヲ致シテ置キマシタカラ、此席デハ省略ヲ致シマス、
尙ホ此訓練ノ事柄ニ付テ、文部陸軍等ノ間ニ、色〓衡突ガアリ軋轢ガアルト
云フヤウナ事モ、御演說ノ中ニ漏レテ居リマシタガ、或ハ志水君ノ御耳ニハ
サウ云フコトガ達シテ居ルカ知リマセヌガ、當局自ラノ耳ニハ、サウ云フ軋
轢若クハ衝突ト云フヤウナコトガ有ッタト云フコトハ、一向承知ヲシテ居リ
マセヌ、當局ト致シテハ、サウ云フ事態ハ存在イタシテ居ラヌト、斯ウ確信
イタシテ居ルノデアリマス、靑年訓練ノ指導監督ヲ文部省ガヤッテ居ル、是
ハ陸軍ノ方デ引取ッテヤッタ方ガ徹底的デハナイカト云フヤウナ御話モ出テ居
リマシタガ、是ハ志水君ノ御考ハ、多分此靑年訓練ナルモノヲ以テ軍事豫備
〓育デアルト云フ前提ノ下ノ御立論デアラウト考ヘルノデアリマス、度〓
各種ノ機會ニ當局カラ申述ベテ居リマス通ニ、靑年訓練ハ所謂國民ノ資質ヲ
向上スル爲ノ施設デアリマシテ、軍事ノ豫備〓育ト云フコトガ主眼デナイ、
併シ資質ガ向上シテ來レバ、ソレガ自然ニ軍事上ノ方面ニモ影響ヲ及ボスト
云フ性質ノモノデアリマスカラ、此訓練施設ノ精神ガ、只今申述ベタヤウナ
點ニアリマス次第デアリマスカラ、當然文部ノ御所管ガ適當デアラウト、私
共今日矢張リ信ジテ居ルノデアリマス、ソレカラ尙ホ年限短縮ノコトニ關係
シテ、年限短縮ヲ致シタイト云フコトハ、何カ其政策上ノ意味合カラ致シタ
ノデハナイカ、ハッキリトハ御述べニナリマセヌガ、サウ云フ意味ノ御演說
モアリマシタガ、此國防上大事ナ年限ニ關スルコトヲ、當局ト致シマシテハ、
毛頭政策上ノ爲ニ左右サレルト云フ考ハ持ッテ居リマセヌ、國防上ノ必要ヲ
充タシ得ル限ニ於テ、國民ガ要求スル年限ノ短縮ト云フヤウナコトハ、是ハ
當然ヤルガ至當デアラウト考ヘルノデアリマスルガ、決シテ國防上ノ必要ヲ
犧牲ニ迄シテ、國民ガ假令年限短縮ヲ要求シタカラト云ッテ、ソレニ應ズル
筋合ノモノデナイト考ヘテ居ルノデアリマス、此事ハ矢張リ今朝上田男爵ノ
御問ニ對シテ、一端ハ申述べテ置イタヤウナ次第デアリマス、第三ハ、年限
短縮ニ付テハ色〓缺陷ガ生ズル、其缺陷ハ其儘ニシテ置ケバ國防上ニ大ナル
影響ヲ及ボスヤウナ御心配カラノ御質問ノヤウニ考ヘマシタガ、年限短縮ニ
付キマシテハ、一面ニ於テハ靑年訓練ノ實施、此訓練モ今朝來申述べテ居リ
マス通リ、マダ十全トハ申シ兼ネルガ、之ヲ十全ヲ期スルガ如ク督勵モシ、
指導モ將來致シテ行クト云フ考デ、此方面ニ對シテモ、今後益〓善善向上ヲ
圖ッテ行ク考デアリマス、尙ホ他ノ方面ニ於キマシテハ、豫算ニ於テ要求イ
タシテ置キマシタ通リ、今日軍隊デ〓育上色〓妨害ヲ受ケテ居ル所ノ勤務、
雜役、是等ノモノノ手ヲ省キ、若クハ其手數ヲ減少スルト云フ方法モ、
減少スル所ノ施設モ行ヒ、又直接兵卒ヲ〓育スル所ノ下級ノ幹部、是等ノ技
倆ガ十分デナイ、其技倆ヲ向上スル爲ニ、下士ノ學校ヲ新設スルトカ、或ハ
短時日ノ間ニ從來ヨリモ劣ラナイ〓育ヲシナケレバナラヌト云フ必要カラシ
テ、ソレノ〓育ノ任ニ當ルベキ所ノ幹部ノ人員ハ多ク要スルト云フ關係カ
ラ、其人員ノ增加トカ云フガ如キ、豫算ノ上ニ於テハ其年限短縮ニ伴フ爲ニ、
色〓新タナ要求ヲ致シテ居ルヤウナ次第デアリマス、此豫算ニ基ク施設ト、
サウシテ靑年訓練ト兩々相俟ッテ行クナラバ、何等、年限短縮ヲ致シタガ爲
ニ、國防上ノ缺陷ヲ生ズルトハ、當局ハ毛頭認メテ居リマセヌ、ソレカラ最
後ニ私ニ對スル御問ハ、一年志願兵制度ノコトデアリマシタ、御承知ノ通リ
此制度ハ、寧ロ普通ノ兵役ト申スヨリハ、幹部補充ト云フコトガ主體ニナッ
テ出來テ居ルノデアリマス、幹部補充制度ト致シマシテハ、歐米各國デモ色
色ノ施設ヲ致シテ居リマスルガ、ソレ等ト對照シ研究ヲ致シテ見マスルガ、
今日我軍デ執リツツアル所ノ此制度ハ、決シテ劣ッテ居ルトハ考ヘテ居リマ
セヌ、ソレハ單ニ從來ノヤリ口ダケヲ以テ御觀察ニナレバ、或ハ十分ナラズ
ト云フ御考モ起ルカモ知レマセヌガ、一昨年學校ニ現役將校ヲ配屬ヲ致シマ
シテ、サウシテ在學三年、四年或ハ五年、七年ノ間ニ、相當ニ時間ヲ掛ケ、
人手ヲ煩ハシ、經費ヲ投ジテ、此資質ノ向上ニ對スル訓練ハ致シテ居ルノデ
アリマス、從テ此者ガ一年志願トシテ軍隊ニ這入ッテ來テ、軍隊デ一年若ク
ハ十箇月ノ〓育ヲ施シマシテ、下級幹部ノ業務ヲ執ル上ニ於テ一通リ支障ノ
ナイモノガ出來ル、歐米諸國ガ執ッテ居ル所ノ制度ト、決シテ劣ラナイト當
局ハ信ジテ、實行イタシツヽアル次第デアリマス、尙ホ志水君ハ、此一年志
願兵ナルモノハ非常ニ、他ノ一般兵ニ比ベレバ特典ヲ受ケテ、如何ニモ兵役
義務ノ均衡ヲ害シテ居ルヤウニ御認メデアルヤウデアリマス、成程從來ハ、
一般兵ハ三年、一年志願兵ハ一年デ濟ムト云フノガ、今日デハ一年十箇月
ト一年トニナリ、又將來ハ此者ニ對シテハ、一年六箇月ト一年ト云フ關係
ニナッテ均衡ガ次第ニ取レツヽアルノミナラズ、此志願兵カラ將校ニナリ、
或ハ下士ニナリ、卽チ軍隊ノ幹部ニナリマス者ハ、尙ホ現役ヲ退イタ後ニモ、
色〓ト此召集、復習ト、其他ニ於テ彼等ニ負擔ガ掛カルト云フ關係ニナッテ
居リマスルカラ、決シテ一年志願兵ガ他ノ者ヨリモ負擔ガ著シク輕イトハ、
當局トシテハ認メテ居ラナイノデアリマス、又一年志願兵ト致シマシテハ、
普通ノ兵ナラバ體格ガ甲種、稀ニ乙種ノ者ガ現役勤務ニ服シナケレバナリ
マセヌガ、一年志願兵ニ於キマシテハ、モウ體格ガ甲種、乙種、共ニ總テガ
現役勤務ニ服シテ、此軍部ノ補充ヲ全ウスルト云フコトニ努メナケレバナ
ラヌノデアリマスルカラ、斯ウ考ヘテ見マスルト、志願兵其者ノ負擔ト云フ
モノモ、可ナリ多クアリマス、殊ニ今日ノ如ク一般兵ノ在營年限ガ短少イタ
シテ來マスルト、殆ド今日デハ何等等差ハナイヤウニ當局デハ考ヘテ居ル
ヤウナ次第デアリマス、尙ホ私ノ答辯デ御不滿足デアルカモ知レマセヌガ、
ソレハ又後日御話ヲ申上ゲル機會モアラウト存ジマスルカラ今日ハ此程度
ニ
國務大臣岡田良平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=17
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018・岡田良平
○國務大臣(岡田良平君) 先刻ノ志水君ノ御尋ニ對シマシテハ、陸軍大臣カ
ラ大體御答ガアリマシテ、最早私カラ餘リ蛇足ヲ添ヘルノ必要ハナイカト考
ヘマスルガ、少シク補ッテ御答ト致シタイト思フノデアリマス、此志水君ノ
私ニ對スル御尋ハ、主トシテ靑年訓練所ノコトニ關係シテ居ルノデアリマ
ス、靑年訓練所ノ成績ニ付キマシテハ、先刻陸軍大臣ノ述ベラレタ通デゴザ
イマス、勿論今日ノ所ヲ以テ十分ナリトハ申スコトハ出來マセヌ、全キヲ望
ミマシタナラバ、尙ホ望ムベキ所ハ多々アルコトハ申ス迄モナイコトデゴザ
イマスルケレドモ、併シ短日月ノ間ニ於キマシテ、百十万人近クノ靑年ヲ集
メマシテ、十万ニ近イ所ノ指導員ヲ任命イタシマシテ、之ニ依ッテ全國ニ亙ッ
テ靑年訓練ヲ實行イタシマシタノデアリマス、此大事業ヲ僅ノ年月ノ間ニ實
行イタシマシタ成績ト致シテハ、現狀ハ確ニ豫期以上デアッタト私ハ確信イ
タシテ居ルノデアリマス、併シ勿論之ヲ以テ滿足スルコトノ出來ヌト云フコ
トハ、先刻申上ゲタ通デアリマス、將來ニ於キマシテハ、益此指導員ノ講習
ト云フコトヲ頻繁ニ致シマシテ、昨年ハ各府縣ニ實行イタシマシタケレド
モ、年月ガ少イノデアリマスルカラ、十分ニ行屆キマセヌデアリマシタ、將
來ニ於キマシテハ、尙ホ十分ニ指導員ノ講習ト云フコトヲ實行イタシ、叉
方ニ於キマシテハ、現役將校ノ配屬ニ依リマシテ、中等以上ノ諸學校、殊
師範學校ニ於ケル兵式訓練等ガ完備イタシマスル其結果ト致シテ、此指導員
ノ位置ニ當ル者、又適任者ヲ得ルト云フコトガ期待サレルノデアリマス、斯
樣ナコトガ相俟チマシテ、暫ク假スニ時日ヲ以テセラレマシタナラバ、必ヤ
完全ナル結果ヲ見ルコトニ相成ラウト確信イタシテ居ルノデアリマス、或ハ
之ヲモット徹底的ニヤラナクテハナラヌ、モット複雜デナク單純ニヤラナケレ
バナラヌト云フヤウナ御說ガアリマシタ、卽チ其方法トシテハ、是ハ全ク軍
事官憲ノ下ニ置イテ實行スルガ宜イト云フヤウナ御說ガアリマシタガ、是一
先刻陸軍大臣ノ述べラレマシタ通リ、文部側ト致シテモ矢張リ同樣ナ考ヲ
持ッテ居ルノデアリマス、又徹底的ニヤル爲ニ、之ヲ强制的ニヤッタナラバ、
志水君ノ御期待ニ適フヤウデアリマスガ、併シ是ハ他ノ方面カラ見テ、大一
考慮ヲ要スルコトト思フノデアリマス、ト申シマスルノハ、今日ニ於キマシ
テハ、義務〓育スラマダ六年デアリマシテ、八年ニ延長スベシト云フ論ハ世
間ニモアリマスルシ、當局者ト致シテモ、成ルベク之ヲ速ニ實行イタシタイ
ト考ヘテ居ルニ拘ラズ、尙ホ之ヲ强制的ニ實行スルコトガ出來ナイト云フ、
今日ノ狀態デアリマスルカラ、其段階ヲ飛越エマシテ、靑年訓練ヲ强制的ニ
致スト云フガ如キコトハ、是ハ大ニ考慮ヲ要スベキコトト思フノデアリマ
ス、併シ是ハ强制的ニ致シマセヌデモ、今日ノ實況ヲ見マスルト云フト、殆
ド適齡ノ靑年ノ大部分ハ、此訓練ヲ受ケルト云フコトニナッテ居リマス、將
來此訓練ノ改善ヲ見、實行ヲ益顯著ニ致スト云フコトニナリマシタナラバ、
强制ヲ俟タズシテ、殆ド全部ノ訓練ヲ受ケルヤウニ相成ラウカト考ヘルノデ
アリマス、又全部ガ强制ヲ俟タズシテ訓練ヲ受ケルヤウニ致シタイト、當局
者ハ努ムル考デアリマス、ソレダケ御答ヘ致シテ置キマス
政府委員山川端夫君演壇ニ登ル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=18
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019・山川端夫
○政府委員(山川端夫君) 法律關係ノ問題ニ付キマシテ、志水君カラノ御質
問ニ御答ヘ致シタイト考ヘテ居リマス、午前中チヨット衆議院ノ委員會ノ方
ニ至急出席ヲ求メラレマシテ、御質問ノ時ニハ此處ニ居リマセヌデ、同僚カ
ラ御質問ノ趣意ヲ伺ヒマシテ御返事ヲ致スノデゴザイマス、或ハ御質問ノ趣
意ニ副ハナイヤウナコトガアルカトモ思ヒマス、其點ハドウゾ御了承ヲ願ヒ
タイト思ヒマス、第一ノ御質問ハ、憲法第二十條ノ規定ニ關聯シテノ御質問
ト伺ヒマシタノデアリマス、憲法第二十條ニハ、「日本臣民ハ法律ノ定ムル所
ニ從ヒ兵役ノ義務ヲ有ス」ト云フ規定ニナッテ居リマシテ、其趣旨ハ從前
ノ如ク此兵役ヲ以テ或ル特殊ノ人ノ職業トスルト云フコトデナク、一般臣民
ノ義務トスルト云フ大原則ヲ定メラレタモノト考ヘテ居ルノデアリマス、明
治十五年ノ軍人ニ對スル御勅諭ヲ拜シマシテモ、其御趣意ガ明カニ出テ居ル
ヤウニ拜見イタシマス、ソレデ憲法ノ規定ハ極メテ大キナ原則ヲ定メタモノ
デアリマス、之ヲ實行スルニ當リマシテハ、色〓ナ細カナ點ヲ實際ニ合セル
ヤウニ規定スル必要ガアル、ソレデ法律ノ定ムル所ニ依ルト云フコトデ、法
律デ細カナ點ヲ決メルト云フコトニナッテ居ルモノト考ヘルノデアリマス、
ソレデ法律ニ於キマシテ、或ハ服役スル人、或ハ其年齡ナリ、時期ナリ、細
カナ實行的ノ規定ヲ設ケルノデアリマス、其爲ニ或ル特殊ノ人ハ兵役ヲ免ズ
ル、例ヘバ身體ノ故障等ニ依ッテ兵役ニ服スルコトガ出來ナイ者ハ、兵役ヲ
免ズルト云フヤウナ規定モアリマス、其他サウ云フ例外的ノ規定ガアリマス
ルガ、其爲ニ國民全體ガ兵役ニ服スルト云フ此大原則ヲ壞ハシタモノトハ見
テ居リマセヌ、ソレカラ更ニ女子ガ憲法第二十條ノ日本臣民ト云フ中ニ這入
ルカ、ト云フヤウナ意味ノ御質問ガアッタサウデゴザイマス、此點モ前カラ
法律ノ方ニ於キマシテハ、男子ニ限ッテ兵役ニ服スルト云フ規定ニナッテ居リ
やって憲法制定當時ノコトハ如何ニナッテ居リマスカ、其點ハハッキリト今玆
デ申上ゲルコトハ出來マセヌ、從來ノ徵兵令ノ規定、其他ノ趣意カラ、又憲
法ノ文字ガ極メテ廣イ文字ヲ使ッテ居ルノヲ見マスト、此日本臣民ト云フノ
ハ極ク廣イ意味ニ解釋スベキガ適當デナイカ、詰リ男女性ヲ問ハナイト云
フ風ニ解釋スルノガ適當デナイカ、唯實際ノ兵役ノ關係ヲ見マシテ、又軍務
ニ適スルカドウカト云フヤウナ關係カラ見マシテ、從來ノ法律、徵兵令ニ於
キマシテモ、男子ト限リマス、又今囘モ其趣意ヲ追ウテ男子ト限ッテ、今日
ノ所デハ兵役ニ服セシムルト云フコトガ適當デアルト認メテ、斯ウ云フ提案
ヲ致シタ次第デアリマス、ソレカラ第二ノ御質問デアリマスガ、是ハ第三條
ニ關聯シマシテ、志願ニ依リ兵籍ニ編入セラレル者ノ兵役ト云フコトニ付
テ、勅令ニ委任シテアル、其委任ハ、兵籍ニ編入セラルヽコト、其他此服役
ノ實質ニ付テ、勅令ニ委任シタモノデアルカドウカト云フ御質問ト承リマシ
タ、或ハ意味ガ違ッテ居リマスレバ、後デ訂正イタシマスガ、サウ云フ風ニ
私ハ伺ッテ居リマスカラ、其趣意デ一應御答辯ヲ致シタイト思ヒマス、ソレ
デ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=19
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020・志水小一郎
○志水小一郞君 違ヒマス、本員ノ御尋ハ違ヒマス、サウ云フ意味デアリマ
セヌ、斯ウ云フ御尋デス、志願ニ依ッテ服役シタ者モ尙ホ憲法上ノ兵役義務
ニ服シタモノダト云フ御解釋ノヤウニ考ヘラレマス、果シテサウデアリマス
カ、サウスルト是ハ憲法ノ上カラ、此服役方法ハ法律事項デアルカラ、法律
ヲ以テ定メヌケレバナラヌト云フコトニナリマセウ、併シ(聽取シ難シ)法律
ヲ通ジテ······直接法律ノ規定ニ依ッテ斯ウスルト云フコトハ差支ナイ、サウ
云フ御趣意デアリマセウ、サウ云フ風ニ伺ハレマス、尙ホ伺ヒタイノハ、詰
リ志願ニ依ッテ軍務ニ服スルト云フ者ハ澤山アリマス、將校ノ如キ者ハ皆サ
ウデアリマス、併シ將校ト雖モ帝國臣民デアルカラシテ、徵兵令ノ憲法上ノ
兵役義務ニ服セヌケレバナラヌ、服シツヽアル者デアル、斯ウ云フコトニナ
リハ致シマセヌカ、サウスルト、憲法上カラ來ル所ノ兵役義務、其服役ノ方
法ハ法律デ定メヌケレバナラヌ、其事ハ一般ノ將校アタリニ付テハドウ云フ
御詮議ニナリマスカ、斯ウ云フコトヲ伺ッタノデス
政府委員山川端夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=20
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021・山川端夫
○政府委員(山川端夫君) 御答ヘ致シマス、此第三條ノ規定モ、現行ノ徵兵
令第七條ノ二ノ趣旨ヲソックリ受ケテ······少シ範圍ガ違ヒマスガ、ソックリ受
ケテ規定ヲ致シタ次第デゴザイマス、ソレデ志願ニ依ッテ兵籍ニ編人セラレ
ルコトト云フノハ、是ハ必シモ法律ヲ要シナイノデアリマス、此志願ニ依ツ
テ兵籍ニ編人セラレルノハ、今志水君ノ御話ノヤウニ、種々ナモノガアリマ
ス、或ハ任命大權ニ依ルモノモアリマス、其他色〓ノ場合ガアリマスガ、ソ
レ等ノ志願ニ依リ兵籍ニ編入セラレルノハ、其方ノ勅令等ニ依ッテ當然規定
ガ出來ル譯デアリマス、併ナガラ本法ニ於キマシテ、第一條ニ於テ日本臣民
タル男子ハ總テ本法ニ依ッテ兵役ニ服スルト云フ、國民皆兵ノ主義ヲ明カニ
致シテ居ルノデゴザイマス、ソレデ志願ニ依ッテ兵籍ニ編入セラレテ服務ス
ルト云フコトガ、同時ニ本法ノ兵役ニ服スルト云フコトニ合致スルモノデア
リマス、ソレデ其間ノ關係ヲ規定スル爲ニハ、矢張リ法律ニ根據ヲ設ケルト
云フ必要ガアルノデアリマス、是ガ從來徵兵令ノ第七條ノ二ニ於テ、同ジヤ
ウナ規定ヲ設ケマシラ、志願ニ依ッテ兵籍ニ服スル關係トノ聯絡ヲ取ル規定
ヲ設ケタ趣意デアルト考ヘテ居リマス、ソレデ本法ニ謂フ所ノ兵役ニ服スル
關係カラ見マシテ、志願ニ依ル兵籍ニ當ル者ニ付キマシテモ、今ノヤウニ法
律的ノ根據ヲ與ヘマシテ、サウシテ其內容ハ先程申シマスヤウニ、志願ニ依。ツ
テ兵籍ニ這入ルノデアリマスカラ、必シモ法律ヲ要シ······强制兵役デアリマ
セヌノデアリマス、ソレデサウ云フ關係モアリマスカラ、法律デナクテ之ヲ
勅令ニ委任シテ、細目ハ勅令ニ委スルト云フコトガ適當デアル、サウ云フ關
係カラ致シマシテ、第三條ノ規定ヲ設ケタ次第デゴザイマス、ソレデ將校等
ニ付キマシテモ、矢張リ今申上ゲタヤウナ關係デアリマス、將校ノ任免ト云
フモノハ、是ハ任命大權ニ依ッテスベキモノデアリマス、將校トシテ服務ス
ルコトガ、同時ニ本法ノ兵役ニ服スルト云フコトニ當ルノデアリマス、ソレ
デ本法ノ關係カラ見マスレバ、矢張リ本法ニ於テ其根據ヲ設ケルト云フコト
ガ適當デアラウ、從來ノ······今マデノ主義ニ何等變更ヲ加ヘマセヌ、其主義
ヲ玆ニ採用イタシマシテ、第三條ノ規定ヲ設ケタ次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=21
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022・志水小一郎
○志水小一郞君 本員ハ陸軍大臣及ビ文部大臣ノ御答辯ニ對シマシテ、僅一
申上グルコトガアリマスケレドモ、今山川長官ノ御述べニナリマシタコトニ
付テ、少シ疑ガ存シテ居ル、其方カラ仕舞ッテ行キタイト思フノデアリマス、
山川長官ニ御尋ネイタシマスノハ、斯ウ云フコトデアリマス、憲法第二十條
ニ「日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ從ヒ兵役ノ義務ヲ有ス」ト云フ、此解釋ヲ先
ヅ伺ヒタイノデアリマス、是ハ本員ノ心得テ居リマス所デハ、大別スルト二
樣ノ解釋ガアルヤウニ思ハレル、一ハ先刻申シマシタ如ク、普魯西ノ憲法ト
同ジ見ヤウ、ソレハドウ云フコトデヤッテ居ルカト云フト、普魯西ノ臣民ハ
兵役ノ義務ニ服ス、絕對的規定デアリマス、次ニ規定シテ曰ク、其服役ノ方
法ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム、極メテ明晰デアリマス、我ガ憲法第二十條ノ規定
モ卽チ是ナリト云フ說モアルノデアリマス、政府ノ御解釋ハ或ハサウヂヤナ
イカト考ヘタノデアリマス、ソレカラ又一說ニハ斯ウ云フコトガアル、日
本臣民ハ兵役ニ服スルノ義務ガアル、併ナガラソレハ法ノ規定ニ依ッテ服ス
ルノデアル、普魯西ノ憲法トハ自ラ意味ガ違フ、斯ウ云フ意味ガ、伊藤公ノ
憲法義解ハ、本員ナドハ、其解釋ハドチラデアルカ分ラナイヤウナ感ジガア
ルノデアリマス、ソコデ其點ヲ伺ッタ、本員ガ今申シタ普魯西ノ憲法ノヤウナ
意味ニ、政府ハ御讀ミニナッテ居リマスカ、サウスルト日本臣民ハ兵役ノ義
務ニ服スルト云フノハ、絕對的規定デアリマス、其重要ナ兵役義務ニ服スル、
其服役ノ方法ハ命令デハイカヌ、法律デナクチヤイカヌ、卽チ法律事項デア
ル、斯ウ解釋セラレルヤウニモ讀メル、蓋シ其說ガ今日ハ多數デハナイカト
思フ、政府ハサウ御讀ミニナリマスカト云フノガ御尋ノ第一段デアリマス、
ソレナラバ、此兵役法案ノ第一條ノ意味ハ、ドウ云フコトニナリマスカ、斯
ウ御尋ネシタノデアリマス、男子ト云フ文字ヲ使ッテ、女子ガ除外シテアル、
ソレデ斯ウ云フ風ニ御尋ネシタ、アレハ女子ヲ除外スルノ意味デアリマス
カ、普魯西ノ憲法ノヤウナ意味ニ讀ミマシタナラバ、女子ヲ除外スルコトハ出
來マスマイ、女子モ亦日本臣民デアル、日本臣民ハ絕對的ニ兵役ノ義務ヲ負ツ
テ居ルカラ、法律ヲ以テシテモ除外スル譯ニハイカヌノヂヤアリマセヌカ、
サアソコデ是ハドウ云フ意味デアリマスカト云フ御尋デアリマス、ソレカラ
又本員モ假想シテ居ッタノデスガ、憲法ニハ日本臣民トアル、此日本臣民ト
云フモノニ、女子ヲ含ンデ居ルカ否カ、本員ノ意見ハ含ンデ居ナイト思ッテ
居ル、ソコデサウ云フ風ニ御讀ミニナッテ、法文ノ第一條ハ、其意義ヲ明カ
ニスル定義的ノ規定ヲナサッタノデアリマスカドウカ、女子ハ無論含ンデ居
ナイ、居ナイカラ、男子ト書イタト云ッテ女子ヲ排斥ハシナイノデアル、斯
ウ云フ御積リデアリマスカドウカ、但シハ此法律ノ規定ヲ以テスルナラバ、
帝國臣民ノ一部ヲシテ兵役ノ義務ナカラシメテモ宜シイノデアリマスカ、ソ
レガ爲ニ、御參考ノ爲ニ本員ガ記憶シテ居ルコトヲ申シタ、憲法發布數年後
ト覺エテ居リマス、而モ貴族院ニ斯ウ云フ議論ガ起ッタト心得テ居ル、僧侶
ヲシテ兵役ノ義務ナカラシムルト云フ案ガ起ッタト聞イテ居ル、所ガ非常ニ
喧マシイ議論ガ起リマシテ、積極消極ノ論ガナカ/〓盡キナイ、僧侶ト雖モ
帝國臣民デアル、之ヲ法ノ明文ヲ以テ兵役ノ義務ナカラシムルトナレバ、憲
法違反、憲法二十條ノ趣旨ニ背クノダ、斯ウ云フ說ト、イヤ憲法二十條ハ法
律ニ依ッテ兵役ノ義務ニ服ストアルノデアルカラ、法律ヲ以テスレバ、僧侶
デモ神官デモ、誰デモ、一部帝國臣民ガ兵役義務ヲ除外スルコトヲ得ルヂャ
ナイカト云フ、大變喧マシイ議論ガ起リマシテ、本員ガ薄〓承リマシテ記憶
シテ居ル所デハ、到頭其議論ハ解決シナカッタト云フヤウニ心得テ居ル、或
ハ貴族院ノ舊記ヲ御調べニナッタラ分ルカモ知レヌ、其事ヲ御尋ネスル、ソ
レガハッキリ致シマセヌ、ソレカラモウ一ツハ志願兵デモ宜シイ······本員ハ
斯ウ云フ風ニ記憶シテ居リマス、陸軍ノ沿革ハ、將校ト志願ニ依ッテ服役ス
ル者ハ、憲法上カラ來ル兵役義務トハ自ラ違フ、違フ以上ハ、其服役ノ方法
ト云フモノヲ勅令ヲ以テ定ムルノガ、寧ロ當然デアル、法律ヲ以テ定メナケ
レバナラヌト云フコトハナイ、斯ウ云フ論デアル、夙ニサウ云フ議論ガ行ハ
レテ、長イ間推移ッテ居ルカト思フ、ソレガ沿革ニ沿革ヲ經テ、憲法論ガ起リマ
シテ、志願ニ依ッテ軍務ニ服スル者ト雖モ、矢張リ帝國臣民、日本臣民ヂヤナ
イカ、ソレガドウシテ憲法上兵役ノ義務ヲ免ルルカト云フ議論ガ段々喧マシ
クナリマシテ、サウシテ今長官ガ御述ベニナッタヤウナコトニナッタノデハナ
イカ、ナッタヤウニ心得ル、ナッタト云フノハドウカト云ッテ來ルト、憲法上
ノ兵役義務デアリマス、ソレニ服スルニハ命令デハイケナイ、法律デ行カネ
バナラヌ、所謂法律事項デアル、サアサウ解シマスト、ナカ〓〓面倒ナコトニ
ナル、併シ學說ニ所謂委任命令ニスレバ宜イヂヤナイカト、斯ウ云フ議論ガ
アル、サアソコデ、今長官モ御述べニナリマシタケレドモ、其論ハ非常ナ複
雜ナコトニナルダラウト思フ、任命トカ何トカ云フコトニナッテ來ルト、是
ハ文武官ノ任命卽チ大權事項デアル、旁〓ト云フヤウナコトヲ仰セラレテ居
ル、併ナガラ大權事項ナラバ、大權事項ヲ法律デ定メルコトハ、憲法ガ認メ
テ居リマセヌ、法律デモ宜シ、大權事項トシテ命令デモ宜シト云フ問題ニナ
リマスト、此解釋ハナカ〓〓面倒ダラウト思フ、今長官ガ仰セラレルノニハ、
一面カラ觀察スルト、憲法上ノ義務ヲ負ッテ居ル、他ノ一面カラ觀察スルト
云フト、任意ノ服役デアル、之ニ向ッテハ大權ノ行動デ行カナケレバナラヌ、
隨分面倒ナ議論ニナリハシナイカ、チヨット本員ガ衆議院ノ委員會ノ議事錄
ヲ覗イテ見マシタ所ガ、其問題ガ衆議院デモ起リ掛カッタ、所ガ只今ノヤウナ
コトヲ長官ガ御答ヘニナッテ居ル、所ガ又質問ヲシタ人ハ、此事ハ先ヅサウ
伺ッテ置キマセウト言ッテ、止メテシマッタヤウニ思ハレル、ソレダカラシテ
玆ニ今伺ッタノデアリマス、任意的卽チ其自由意思ヲ以テ服役スル者モ、同
時ニ憲法ノ兵役義務ニ服シテ居ルモノデアルト斯ウ御讀ミニナリマスト云フ
ト、大分面倒ナコトニナルト思フ、本員ガ陸軍ノズット沿革ナリトシテ記憶
シテ居リマスノニハ、サウ云フ難カシイコトハ言ハナカッタヤウニ思フ、任
意的服役ノ如キモノハ、憲法上ノ兵役義務トハ違フ、斯ウ讀ンデシマヒマス
ト云フト、法律事項モ委員任命令モ何モ要ラナイ、直グニ勅令デ行ク、サウ
云フコトヲ伺ッタノデアリマス、蓋シ是ハ餘程ムヅカシイ問題デアッテ、内閣
ニ於キマシテモ、直グ之ヲ右トカ左トカニ御卽決ガ出來ルカドウカト、本員
ハ心配スルノデアリマス、デスカラ此席デ强ヒテ急イデ御尋ネハ致サヌ、第
一段ノ憲法二十條ノ法文ノ解釋ハ、普魯西ノ憲法ナリト申シマシタヤウナ意
味ニ、政府ハ讀ンデ御イデニナリマスカサウデハナイ、兵役義務ハ兵役義務
デアルケレドモ、法律ヲ以テスレバ絕對無限デナイトモ宜シイ、帝國臣民ヲ
擧ゲテ兵役ニ服セシメナイデモ宜シイ、僧侶ハ除外スル、神官ハ除外スルト
云フ規定ガアッテモ宜シイト云フ、斯ウ云フ御解釋デアリマスカ、ソレダケ
ハ伺ッテ置カヌト云フト、非常ナ重大ナ關係ガ各方面ニアル
〔政府委員山川端夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=22
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023・山川端夫
○政府委員(山川端夫君) 御答ヲ致シマス、第一點ニ付キマシテ、憲法二十
條ノ解釋ガ普魯西ノ憲法ト同ジヤウニ解釋シテ宜イカト云フヤウナ御趣意デ
アリマス、普魯西ノ憲法ノ解釋ヲ如何ニスベキカト云フコトハ、チヨット申上
ゲ兼ネマスルガ、二十條ノ方ノ關係ニ付キマシテハ、從來徵兵令等ニ於テ明
カニ解決ヲシテ居ルヤウニ、私ハ考ヘテ居リマス、徵兵令ノ規定ニ於キマシ
テ見マシテモ、例ヘバ六年以上ノ懲役ニ當ッタ者ハ兵役ニ服セシメナイ、或
ハ身體ガ弱イモノハ兵役ニ服セシメナイト云フヤウナ規定モ設ケテ居リマス
ルノデ、法律ニ於テドウ云フ者ヲ服役セシムルカ、ドウ云フ場合ニ服役セシ
ムルカト云フヤウナコトヲ定メ得ルモノト考ヘテ居ルノデアリマス、尤モ憲
法ノ二十條ハ、先程申シマス通リニ、一般ノ國民兵役······國民兵役ト云フト
語弊ガアリマセウガ、皆兵主義ヲ明カニシタノデアリマス、其主義ニ反スル
ヤウナコトハ、無論法律ニ於テモ定メ得ナイモノト考ヘテ居リマス、併ナガ
ラ法律ニ依ッテ細カナ規定ヲ設ケ得ルヤウニ······時勢ノ進運ニモ依リマセウ
シ、或ハ又必要ニモ應ジマシテ、勢ヒ規定ヲ設ケ得ルヤウニ、餘地ノアル規
定ダト考ヘテ居リマス、併シ今申上ゲマス通ニ、國民皆兵主義ノ原則ハ是ハ
無論飽ク迄モ尊重シ、憲法ノ趣意ニ反シナイヤウニスルノガ、無論デアラウト
考ヘテ居リマス、ソレカラ第二ノ點ニ付キマシテ、志水君ハ長イ間ノ陸軍デ
ノ御經驗ニ付キマシテ、色〓御話ガアリマシタ、其點ニ付キマシテハ、私達
ヨリカモ無論能ク御承知ノ事柄、細カナ沿革等ニ付テ我〓ガ申上グル必要ハ
ナイト思ヒマス、只今ノ問題ニナリマシタ點ニ付キマシテハ、從來ハ解釋デ
進ンデ居ッタヤウニ考ヘテ居リマス、其解釋ガ私ノ先程申上ゲタヤウナ解釋
デアリマスガ、其解釋ガ決定スル迄ニ付テハ、色〓議論ガ是ハアッタコトニ
違ヒナイト思ヒマス、ソレガ多年解釋デ濟ンデ來マシタノガ、大正七年デア
リマシタカ、徵兵令ノ改正、先程讀上ゲマシタ徵兵令ノ第七條ノ二ニ依リマ
シテ、今ノ問題ハ法文デ明カニ解釋イタシタモノト承知イタシテ居ルノデア
リマス、其解釋ハ先程申上ゲマシタ、ソレハ志水君ハ旣ニ私ノ申上ゲルコト
ハ御了承ニナッテ居ルコトト思ヒマスカラ、別ニ繰返シハ致シマセヌ、サウ
云フコトニナッテ居リマシテ、今度ノ提案モ其趣旨ヲソックリ茲ニ明カニシタ
ノデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=23
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024・志水小一郎
○志水小一郞君 甚ダ遺憾デアリマスケレドモ、山川長官ノ御答ハ、私ニハ
了解ヲ得マセヌノデアリマス、ソレカラ是ハ甚ダ失禮ナ申條デハアリマスケ
レドモ、驚入ッタ御答ガアッタ、惡イ事ヲシタ奴ハ兵籍ヲ削除スルト云フコト
モアルノデアル、徵兵令ハ其事ヲ認メテ居ル、ソレダカラシテ、其意味ニ於
テハ絕對的國民皆兵主義ハ貫カレテ居ナイノデアル、ソレハ既ニ問題ガ解決
シテ居ルヂヤナイカ、斯ウ云フ御說明デアリマス、是ハ驚カザルヲ得ヌ、何
ゼト申スニ、兵役ハ義務デアル、一面義務デアリマスガ他ノ一面ハ權利デア
ル、名譽デアル、ドコノ國デモ兵籍ニ入ルノ權ト云フ言葉ヲ使ッテ居ル所モ
アレバ、武器ヲ執ルノ權ト云フ言葉ヲ使ッテ居ル所モアリマス、ソレダカラ
面ニハ義務、一面カラ云ヘバ國民ノ特權、名譽デアリマス、其國民ノ特權
ナリ名譽ナル其方面ヲ、惡イ事ヲシテ名譽アル軍人トシテ置ケナイ、名譽ア
ル兵器ヲ執ラシメラレヌト云フ觀念ハ、ドコノ國ニモアル、是ハ制裁トシテ
軍籍ヲ剝ギマス、兵權剝奪ト云フ刑名モ到ル所ニアルノデアリマス、佛蘭西
ニモアル、我國ハ佛蘭西カラ受ケタ所ノ公權剝奪ノ中ニハ兵權剝奪ガ一ツア
ル、其兵權剝奪ノ規定アルガ爲ニ、國民皆兵ト云フ規定ハ絕對的デナイト云
フノハ、實ニ驚キ入ッタ御解釋デアル、サウ云フコトハナイダラウト思フ、
ソレカラ又第二段ニ、志願スルモノ、ソレニ付テハ、服役ハ法律事項デア
ルカラ、命令デ定メマスガ、委任命令ト云フノガ必要デアリマスカ、ソレカ
ラ大權事項ト法律事項ト云ハムガ如キコトノ矛盾ハアリマセヌカドウカト云
フ、是等ノ御尋ハ、本員ハ永ク陸軍ニ居ッタカラ、一層能ク知ッテ居ルトカ何
トカ云フ御說明デアリマシタガ、本員ハ遺憾ナガラ其御說明ニハ承服イタシ
兼ネマスガ、是ハ是デ止メマス、ソレカラ陸軍大臣ニ御尋ネ致シマス、陸軍
大臣ノ御說明ハ、アレヨリ以上伺ハムトスレバ、唯意見ノ衝突デ、此點ヲ相
爭フト云フコトニナリマスルカラ、伺ヒマセヌ、併ナガラ如何セム、總テノ
事項ニ付テ本員ハ悉ク承服イタシ兼ネルノデアリマス、唯二廉申ス、徵兵令ナ
ドト云フモノハ、如何ニモ必要ナ法律デアル、卓見アリ熱誠アル先輩ノ賜物
デアルト云フコトハ、御同感ノ旨ヲ御答ヘニナリマシタ、併シ徵兵令ガサウ
云フ關係ノモノデアルガ爲ニ、國防上必要ナル改正マデモシナイト云フ譯ニ
ハ行カヌノデアル、斯ウ仰シヤッタノデアリマス、是ハ御辯明ヲ伺フ迄モナイ、
本員ハ未ダ曾テサウ云フコトハ言ハヌノデアル、唯兵役年限ノ短縮、短縮ス
ルニ付テハ、複雜ナル條件ヲ揭ゲテ、今度ノヤウナコトヲナサルノハ、ソレ
ハ國防上ノ必要カラ來タノデアルカドウカト云フコトニ、本員ハ疑ヲ懷イテ
居ルノデアル、ソレカラシテアヽ云フコトヲ申シタノデ、先輩ノ作ッタ法律
ト雖モ、國防上必要ノコトナラバ、改正ヲシタナラバ、地下ニ泣クノヂヤナ
イ、地下デ喜ブノデアル、斯ウ云フ話デ、隨分酷イ御答デアル、サウ云フコ
トハ申サヌ、ソレカラモウ一ツ、是ハ由來當局者ト本員ノ意見ヲ異ニシテ居
ル、本員ハ始終陸軍アタリデ伺ヒマス、國民的軍事〓育、國民的軍事豫備〓
育、或ハ靑年訓練、是ハ戰後ハモウ歐羅巴各國ニ於テ盛ナモノデ、非常ニ發展
シテ居ル、例外ナシト云フ風ニ伺ッテ居リマスガ、本員ハサウハ思ッテ居ナイ、
寧口當然然ルベキ英米ニ於テハ······其他之ニ反シテ徵兵令ヲ金科玉條トシテ
周り、是ナクテハ國軍ノ建設ハ出來ヌト云フ所ノ佛蘭西、伊太利ノ如キノ
所謂國民的軍事〓育ハ、本員ヲシテ言ハシタナラバ、見ルベキモノハナイ、
其證據ニハ、マダ之ニ關スル法律モ懸案デ、議會ヲ通過シテ居ナイ、伊太利
ノ如キハ命令ナシ、法律ナシ、何モソンナモノハ無イ、ソレト本員ハ英米ニ
於ケル事實モ斯ウ讀ンデ居ル、英米ノ如キモ、モウ常備軍ヲ置カザル原則ト
スル、職業的軍人ト云フヤウナ者ハ甚ダ喜バヌト云フ主義ヲ執ッテ居ル、執ツ
テ居リナガラ、覺醒シテ居ルカラ、徵兵令ナクテモ軍ハ出來ル、ソコデ各國小
サイ國〓マデモ、始終國民的軍事〓育ト云フヤウナコトヲ、本員ノ眼ニ映ズル
所デハヤッテ居ル、ヤッテ居リマスケレドモ、是モ皆眼鏡ノ掛ケヤウデ違フ、例
ヘバ瑞西ナラ瑞西ト云フ所ハ、ズット前カラヤッテ居ル、本員ハ是ハ軍事上ノ
見地、國防上ノ考カラヤッテ居ルト、本員ハ見テ居ル、併ナガラ之ヲ國際的辭令
ヲ用ヰルナラバ、決シテソンナコトハ申サヌ、精神〓育、身體〓育、本員ヲ
シテ言ハシメルナラバ、事實ハ國防上ノ見地カラ出テ居ルノデアル、是ガ言
譯トシテ國際的辭令ヲ用ヰテ居ル、容赦ナク申シマスレバ、陸軍大臣ノ如キ
ハ、其反面ノ國際的辭令ノコトヲ卽チ事實ト爲シテ御イデノヤウデアル、ソレ
ダカラシテ、是ハ寧口〓育當局者ノ當然ノ仕事デアルト斯ウ仰シヤル、併シ是
モドウカ御調査ヲ願ヒタイ、本員ガ心得テ居リマス限ハ、軍事技術〓育、今
コチラニ行ハレテ居ルヤウナ〓育ハ、軍事訓練、軍事〓育、其軍事訓練軍事
〓育ト云フ方面カラ云ヘバ、軍事ト云フ見地、軍事ト云フ必要ハ少シモ怠ラ
ヌ、ソレカラシテ軍事官憲デ監督スル、先刻申上ゲタ如ク、伊太利、佛蘭西
ノ如キハ、現ニ軍團長ノ監督ノ下ニ軍團ガヤッテ居ル、我國ノヤウナ、文部大
臣ノ監督ノ下ニ行ナッテ、サウシテ陸軍將校ガ傍側カラ視察ヲスルナント云
フヤウナコトハ、本員外國ニハ一箇所モ無イト思フ、是ガ本員ガ、甚ダ失禮
ナ申條デハアリマスガ、微温的不徹底的ト、斯ウ申シタノデアリマス、此點
ハ是ハ眼鏡ノカケ樣ガ違フカ知レマセヌケレドモ、本員ノ眼ニ映ズル所ト、
當局者ノ眼ニ映ズル所ト、違フノデアラウト斯ウ思フノデアリマス、ソレダ
ケ申シテ置キマス、モウ是以上ハ申上ゲマセヌ
國務大臣宇垣一成君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=24
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025・宇垣一成
○國務大臣(宇垣一成君) 志水君ノ最後ニ御述べニナッタ中デ、私ノ申上ゲ
タ事ヲ多少御取違ヒニナッテ居ル點モアルヤウダト思ヒマスカラシテ、重ネ
テ茲デモウ一度申上ゲマス、在營年限ノ短縮ト云フコトハ、當局トシテハ、
是ハ國民一般ノ要求シテ居ル所ノ聲デアルト考ヘテ居ルノデアリマス、併シ
志水君ハサウデナイト御認メニナルカ知レマセヌガ、當局ハ是ガ國民的一ツ
ノ要求デアルト考ヘテ居リマス、ソコデ國防上ノ必要ヲ害セザル範圍ニ於キ
マシテハ、此要求ヲ容レルト云フコトハ當然善イ事デアル、ソレニ依ッテ軍
民ノ一致融和モ成立ツト云フコトニナレバ、大キイ意味ニ於テ國防上益〓完
備スル所以デアル、斯ウ云フヤウナ見地カラ出發イタシテ居ルノデアリマ
ス、其點ニ多少先キニ私ガ申上ゲマシタノガ、言葉ガ足ラナンダカ、誤解ガ
アッタヤウニ存ジテ居リマス、ソレカラ靑年訓練ノ不徹底デアル云々ト云フ
ヤウナ御話モゴザイマシタガ、別ニ我〓當局ト致シマシテハ、他國ノ國際的
辭令ニ囚ハレテモ居リマセヌ、又他國ガトウ云フ制度ヲ採リ、如何ナル事ヲ
ヤラウトモ、是ハ研究トシテ調査モシ考究ヲ致シテ見マスルガ、日本ノ法制
ヲ決メル上ニ於キマシテハ、日本獨特ノ考デヤッテ居ルノデアリマス、從テ
此度ノ靑年訓練ガ他國ト比較シテ云々ト云フヤウナコトハ、サウ······研究上
ニ於テハ頭ニハ置イテ居リマスガ、別ニ之ヲ決定スル上ニ付テハ、何等考ヘ
テモ居ラナイノデアリマス、其點ヲ御承知ヲ願ッテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=25
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026・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 モウ質問ノ通〓ハゴザイマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=26
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027・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 質問ノ通〓ハゴザイマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=27
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028・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本案ノ特別委員ノ數ヲ十五名トシ、議長ヨリ御指名アラ
ムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=28
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029・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=29
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030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 阪谷男爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、特別委員ノ氏名ヲ、書記
官ヲシテ朗讀致サセマス
〔山本書記官朗讀
徵兵令改正法律案特別委員
伯爵小笠原長幹君男爵大井成元君子爵大久保立君
子爵大河內正敏君子爵五辻治仲君子爵立花種忠君
石原健三君富谷 姓太郞君男爵鍋島直明君
男爵井上〓純君石渡敏一君松本烝治君
安立綱之君山上岩二君高廣次平君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=31
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032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此際諸君ニ御諮リヲ致シタイコトガ起リマシタ、
田中館君ヨリ、北丹後地方震災ニ關スル緊急質疑ヲナサレタイト云フ申出ガ
ゴザイマシタ、之ヲ許スコトニ御異存ゴザイマセスカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=32
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033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
田中館愛橘君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=33
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034・田中館愛橘
○田中館愛橘君 先達テ前田子爵ヨリ御質疑ノアリマシタノニ引續キマシ
テ、本員ヨリ質疑ヲ致シマシタ、其節ハ極メテ大體ナル事ニ付テ伺ヒマシタ、
尙ホ震災地ニ參リマシテ、土曜日日曜日自ラ踏查イタシマシテ、今朝歸リマ
シテ、其爲メ遲刻ヲ致シタノデゴザイマス、震災地ヲ見マスルト、如何ニモ
新聞デ見マスガ如ク慘澹タル有樣デハゴザイマスル、サリナガラ地震其モノ
ト致シマシテ公平ニ見マシタナラバ、此前ノ濃尾地震ナドヨリハ餘程小サナ
モノデアラウト、是ハ誰シモ考ヘルコトダラウト思ヒマス、地球ノ病ト致シ
マシテノ地震ノ大小ト云フコトト、是ガ人間社會ニ及ボシマス所ノ大小ト
ハ、自ラ違ヒマスル、如何ナル大地震ガアリマシテモ、人口稀薄ノ地ニ於キマ
シテハ、人間社會ニ左程ノ影響ヲ及ボサナイノデアリマス、此度ノ地震ハ相
應ニ人口ノ稠密ナル所ニ起リマシタ故ニ、害ガ大キカッタ、比較的大キカッタ
ノデアリマス、第一ニ家屋ノ構造デアリマスル、是ハ京都竝ニ東京ノ大學
等ヨリ調査委員ノ參ッテ居リマスルニモ逢ヒマシテ話シマスレバ、何レモ同
感ノ問題デゴザイマスルガ、此家屋ノ構造ニ聊カナリトモ、モウ少シ地震ト
云フコトヲ考ニ入レタナラバ、先ヅ半分以上ハ輕減スルコトガ出來タコトト
思フノデアリマス、倒レ家ガ澤山ニ在リマスル間ニ、依然トシテ立ッテ居ル
家モアルノデアリマス、此殘ッテ居リマスルモノハ、安政ノ大地震デモ、五重
ノ塔ハ殘ッテ居ル、イツノ地震デモ五重ノ塔ハ今迄殘ッテ居リマス、ソレカラ
面白イ事、ト申シテハ······問題トシテ面白イノハ、網野神社ノ本社ノ方ハ痛
マナイデ、チヤントシテ居リマスガ、拜殿ノ方ハ、スッカリ倒レテ居リマス、
斯ウ云フモノハ、詰リ地震ノ波ノ大キサニ對シマシテ、建物ノ大キサノ、丁
度毀ハレル位ノ大キサノモノガ倒レテ居ルノデアリマス、デ緊急ノ問題トシ
マシテハ、此家屋ノ構造法、東京ノ地震ニ對シマシテモ注意ガ出テ居リマス
ルガ、此前ノ岐阜酒田等ノ地震ノ後ニモ出シマシタガ、此家屋ノ構造ニ對シ
テ、現代ノ構造法ハ、如何ニモ地震ニ毀ハレル如ク出來テ居ル、搖レバ直グ
二階ガ落チルヤウニ出來テ居リマス、之ヲモウ少シ、簡單ナル補强工事ニ
依ッテ、地震ニ堪ヘルヤウニスルコトハ、今此家屋ノ恢復ヲスル際ニ當ッテ、
內務當局ヨリ適當ナル方法ヲ以テ、實行ノ出來ルヤウナコトニ出來マスマイ
カ、餘リ費用ノ掛カルヤウナコトデアリマスト云フト、實行出來マセヌガ、
左程費用モ掛カラズ、當リ前ニ今建テルノト略同ジニシテ、唯構造ヲ變更
スル、舊來ノ舊式ヲ改メルト云フダケデ、隨分考究ノ出來ル問題ガアルト
見受ケマス、次ニ道路デアリマスルガ、道路ノ欠ケ方ニ致シマシテモ、地
震ガ起キタナラバ必ズ崩レサウナ所ニ、道ノ付イテ居ル所ハ澤出アリマス、
是ハ私ノ見ルダケデハアリマセヌ、尙又地震ガ起キテカラ壞ハレタ、其壞ハ
レタ所ヲ見マスト云フト、謂ハユル餘震、地震ノ大キナモノガ來タ後ニ小サ
ナモノガ續イテ來マス所ノ餘震ニ依ッテ必ズ崩レサウナ所ハ脇ヘ通ストカ、
或ハイッソ崩レテシマッテ、サウシテ補强······修理ヲ加ヘルト云フコトヲ致シ
マスレバ、今度ノ被害ナドモ餘程助カルコトガ出來タラウト思ハレマス、土
曜日ニ參リマス時ニ、朝參リマス時ニ、謂ユル峰山ト申ス所ニ崖崩レガシマ
シテ、下ヘモット崩レサウナ所ガ、日曜日ニ歸リマス時ニハ、果シテソレガ
崩レマシテ、其爲ニ自動車ガ通レナクナリマシテ、兵ガ出テ之ヲ修理シテ、途
ヲ造ッテ居リマシタ、其後ロニ自動車ガ續イテ居リマシテ、或ル者ガ······汽車
ニ乘ッテ居リマスル者ガ數ヘタラ、百二十臺ト云フコトデアリマシタ、私
數ヘマセヌカラ確實ニハ分リマセヌガ、兎ニ角其數デアリマス、百臺以上ノ
自動車ガ、是ハ昨日デアリマス、藥品、食糧、ソレカラ「バラック」ノ材料、
天幕等ノ如キモノヲ積ミマシテ、待ッテ居ル、斯ウ云フコトヲ見マスト、般
ノ言葉デ申シマスレバ、モウ少シ智能ヲ利用シテ欲シイ、此修理ノ仕方ハ斯
ウスレバ宜イト云フヤウナ指揮ヲスル、頭ノ善イモノガ震災地ニ行キマシ
テ、或ハ既ニ行ッテ居ル人デモ、此智力ヲ利用シマシテ、斯ウヤレバ自動車
ガ通レル、途ガ橫ニ切レマシタ所デモ、僅ニ之ヲ補强ヲ致シマスレバ、荷物
車ハ通ッテ、救助ヲスルコトガ餘程機敏ニ行ッタラウト思ヒマスガ、何分ニモ
此道ノ造リ方ガマヅイ、急所々々ヲ修理シナイト云フ遺憾ナル有樣デアリマ
ス、實地ニ働イテ居リマスル人ヲ見マスレバ、何レモ同情ニ堪ヘナイモノデ、
誠心誠意働イテ居ルヤウニ見受ケマシタ、此點ニ付キマシテハ、前田子爵カ
ラモ御述べニナリマシタガ、陸海軍ノ兵隊ノ活動セラレタコトハ、重ネテ私
ヨリモ感謝ノ意ヲ表シタイト思ヒマス、斯ク申ス私モ、實ハ震災地ノ終點ノ
方ニ參リマシテ、所謂震源地ト稱ヘル所ニ參リマシテ、九聯隊ノ一分隊ノ天
幕ノ中ニ、雪ノ夜ヲ明シテ參ッタ者デアリマス、ソレカラ道路ノ問題ハソレニ
致シマシテ、今一ツ救助ノ遲カッタコトデ、斯ウアッタラト思ヒマスコトヲ申
上ゲテ見マスルト、此頃ノ交通機關ハ、郵便、鐵道、電信等デアリマスガ、
是ガ皆破壞サレタノデアリマス、飛行機ガ、大阪ノ每日新聞ト思ヒマシタガ、
訪問飛行ト云フヤウナコトヲ致シマシテ、寫眞ヲ撮ッテ參リマシタ、是ハ震
災直グ後デアリマシタガ、若モ此飛行機ガ啻ニ新聞ノ報道ノミナラズ、之ニ
依ッテ道路ノ破壞ノ程度、鐵道ノ破壞ノ程度ヲ寫眞ニ撮リマシテ、中央ニ之
ヲ屆ケマシテ、中央部ノ指揮官ガ······鐵道ハドレダケノ破壞ヲシテ居ル、ドレ
ダケヲ修理スレバ此鐵道ハ通セルカト云フコトヲ中央部ニ知ラシテ居リマス
ト云フト、中央部ハ必ヤ之ニ相當ナル機敏ナル處置ヲ取ラレタラウト思フノ
デアリマス、此頃ノ飛行機ハ千「メートル」位上カラ可ナリ精密ニ下ヲ撮ルノ
デアリマス、少〓位ノ靄ガアッテモ「フイルター」ヲ入レマシテ寫眞ヲ撮リマ
スト、鮮明ニ撮レマスルカラ、之ヲ以テ大體ノ調査ヲスル、此戰地······戰地
デハアリマセヌ、地震地ニ居リマスル鐵道ノ省員等モ、全身ノ力ヲ擧ゲテ働
イテ居リマスルヤウデアリマス、サリナガラ如何ニモ輸送ガ足ラナイ、足ラ
ヌト云フノハ、需要ニ對シテ足ラヌノデアリマス、二等モ三等モナイ、皆押
詰メル、サウシテ乘手ノ一部分ハ······滿員デ過ギル、次ノ汽車マデ待テ、次
ノ汽車ト云フノハ容易ニ參リマセヌ、何トカ此客車ノ數ヲ他ノ所カラ流用シ
テ增ストカ、或ハ牽引力ガ足ラナイナラバ、往復囘數ヲ增ストカ云フコトハ
出來サウニ、私ハ思ハレマス、當局ニハ相當ノ辯解モアリマセウガ、素人ノ
見マス所デハ、モウ少シ中央部デ命令ヲヤレバ、外カラモウ少シ流用ノ付ク
所ガアルカノ如ク見受ケラレマス、次ニ此無線電信デアリマシテ、內務大臣
ニ伺ヒタイト申上ゲマシタノガ、遞信大臣ト兩方デアリマシタガ、是ハ政府
ノドナタニデモ伺ッテ置イテ宜シイノデアリマスガ、無線電信ノ制限ハ、或
ル規定ニ依ッテ容易ニ使フコトハ出來ナイヤウニナッテ居リマス、之ヲ······我
ガ日本ノ如キ地震國ニ於テハ、殊ニ無線電信ノ必要ノアルコトヲ感ジマス、
今度ノ地震デモ、確カ宮津ノ無線電信カラ報告ヲシタノガ初メテ來タト云フ
ヤウニ伺ッテ居リマス、此無線電信ヲモウ少シ自由ニ使ヘルヤウナ制度ヲ設ケ
ルコトハ出來ナイカ、此效用ハ啻ニ地震ノ報告ニ止マラズ、研究用トシマシ
テ非常ニ必要ナルコトガアリマス、ソレハ「クロノメートル」ヲ比ベルコト、
震源ノ調査トカ云フコトニナリマスト云フト、時間ヲ確實ニ知ルト云フコト
ガ必要デ、此時間ヲ確實ニシマシテ、終點ニアル所ノ地震計ニ波ノ來タ時間
ヲ比ベマス、デ只今是ガアリマセヌノデ、「クロノメートル」ヲ比較ヲシテ
ヤッテ居リマスガ、甚ダ不完全デアリマス、モウ少シ中央カラノ無線電信デモ
宜イカラ、ヤッタラ宜カラウト云フコトヲ向ウノ出張員ニ申シテ參リマシタ
ガ、時間ヲ確實ニ知ルト云フコトハ、地震調査上非常ニ有益ナコトニナリマ
ス、ソコデ差當リモウ三ツバカリ伺ヒタイノデアリマスガ、今度ノ地震ハ可
ナリ大イナル犧牲デアリマス、大ナル犧牲デアル、而シテ此犠牲ヲ調査スル
機會ハサウ度〓ハ無イ、又サウ度〓有ッテハ困ル、之ヲ唯、今日或ル機關ダケ
デ調查ヲシテ、ソレデ宜シイカ、此際進ンデ十分ニ、現代ノ學術設備ノ許ス
範圍ニ於テ研究ヲ進メテ、將來ノ豫防豫知ヲスル貴重ナル材料ニ利用スル計
畫ハ出來ナイカ、サウ云フ意思ハ無イカ、追加豫算ナント云フモノモ、色〓
ナ方デ出テ居ルヤウデアリマスガ、サリナガラ實地ヲ見マシテ、此機會ニ於
テ不十分ナル研究ヲ以テ失フト云フコトハ、如何ニモ殘念ナ譯ニ思ヒマシ
テ、今日此席ヲ汚ス次第デアリマス、同樣ナルコトハ航空機ニ於キマシテ
モ、飛行機ガ壞ハレル、數人ノ人ガ死ヌ、必ズ其原因調査ト云フコトヲシマ
シテ、飛行機ノ構造等ヲ研究イタシマス、而シテ此犠牲者ニ對シテモ有意義
ナル犠牲ニナルノデ、是ノ少シ額ノ大キナモノデアリマス、今度ノ地震ノ研
究ナドト申シマスコトハ······具體的ノ問題ト致シマシテハ、只今專ラ文部關
係ノ方ノモノハ、傾斜ノ研究、極ク小サイ地面ノ傾イテ行クコト、又ソレノ
變化ヲ致シマスコト、此地面ノ傾斜、ソレト微動、斯ウ云フコトヲヤッテ居リ
マスガ、之ニシテモ極メテ貧弱デ、ソンナコトデハ足ラヌト申シマシタガ、
併シ出來ルダケノコトデヤッテ居リマス、此地面ノ傾斜ナドモ、隨分田ガ沈
ミマシテ、水ノ中ニナッテ能ク見エマス、一方デハ又上リマシテ、五「メート
ル」位モ山ニナッタ所ガアリマス、是等ノ如キモノハ、又、遍變動ヲ起シ
マシタモノハ、幾部分囘復スル、是ハ今東京デモヤッテ居ル、幾部分囘復スル
ノデス、其囘復スル時間、ソレカラ其範圍等ノ調査ヲモウ少シヤリタイ、微
動ニシテモ是ト同ジヤウナコトデアリマス、其次ニ專ラ陸軍デ御取扱ヒニ
ナッテ居リマス、水準測量ニ三角測量、斯ウ云フコトヲ申上ゲマス前ニ、チ
ヨット組織ニ付テ申上ゲマセヌト、質問ガハッキリ致シマセヌガ、地震研究ナ
ドト申シマシテモ、地震ニ關係ノアル總テノコトヲ調査スル機關ヲ設ケヤウ
トシマスト云フト、恐ロシイ金高ニナリマス、ソレデドウシテモ是ハ、國民
全般、殊ニ政府ノ扱ッテ居リマスル機關ガ、我國ハ地震國ナリト云フコトヲ
頭ニ置イテ、總テノ施設ヲ實行シナケレバナラヌト思フノデアリマス、例
バ此三角測量ニ水準測量デアリマス、是ハ陸軍ノ測量部デ御取扱ヒデアリマ
スガ、如何ニモ豫算ガ薄弱デ、〓究的ノ仕事ハ容易ニ運バヌノデアリマス、
此地震ニ對シテ最モ大切ナルコトハ、地ガドウ云フ風ニ動イタカト云フ三角
測量、亞米利加邊リハ立派ニヤッテ居リマス、ソレカラ水準測量······此三角
測量、水準測量ハ、地震ノ前ニハ斯ウデアッタ地震ガシタ後ハ斯ウデアル、ト
云フコトヲ簡單ニヤッタダケデハ足ラヌノデ、之ヲ一年ニ、出來得ベクンバ
三囘モ四囘モ、最モ此必要ナル點ヲ繰返シテ見テ、サウシテドウ云フ變動ヲ
シテ居ルカト云フコトヲ見ナケレバナラヌ、是ダケデモ······若シコンナ事ヲ
地震研究ノ一部分ニシマスナラバ、非常ニ大キナモノニナリマス、ガ幸ニシ
テ測地部ト云フモノガアリマスルカラ、此測地部ニ於テ、是ニ此震災ニ關係
シタ所ノ費用ヲ加ヘ、サウシテ此研究ヲ御進メニナル御計畫ハナイモノデア
リマセウカ、ソレカラ次ニ此ノ、人デアリマス、方法ヲ立テ、機械ガアリト致
シマシテモ、人間ガ、是ニ相當シタ人間ガヤリマセヌト云フト、成績ハ擧ガ
リマセヌ、却テ間違ッタ成績ナドヲ出シマス、デ勿論現今ニ於テモ、相當ニ
技能ノアル者ヲ御用ヰニナリマスルケレドモ、如何セム、是等ノ首腦部ハ、
多クハ武官デアリマシテ、年限ノ爲ニ、折角此技術ノ仕事ニ慣レマスト、官
等ガ上ッテ、脇ヘ行クト云フヤウナコトデ、此技術的ノ仕事ニ住込ンデヤル···
···趣味ヲ以テヤルト云フヤウナ方ガ少イヤウニ見受ケマスル、斯ウ云フコト
モ何トカ此技術家ヲ······若シ斯ウ云フコトヲ研究スルコトモ入用ト云フナラ
バ、矢張リ機械モ人モ同樣ニ、設備ヲ良クシテヤラヌケレバナラヌ、同ジ事
ヲ海軍ノ······今度ハ水深、海ノ深サデアリマス、今度ノ地震デモ此ノ海ニ···
···海ノ底ニ高マッタ所ガ出來タト云フコトヲ、漁師ガ言フノデアリマスカラ、
是ハ餘リ當テニナリマセス、地震ガ起ッテカラ出來タノカ、或ハ其前ニアル
ノカ、是モ私ハ詳シク調ベル時間モアリマセヌデ、調べマセヌガ、兎ニ角海
水ノ······水面下ニ變動ガアル、此水面下ノ變動ニ付キマシテハ、東京ノ地震
ノ時ニ、海軍ガ非常ニ骨ヲ折ラレマシテ、軍艦ノ四艦モ使ッテ、東京灣カラ
相模灣マデ調査ヲセラレマシタ、其報〓ハ、萬國測地學會地球物理學會ニ本
員ガ提出スルコトヲ得マシテ、一同會員カラ稱讃ヲ博シタノデアリマスル
ガ、其頃デモ、或ハソレ以後、此海ヲ測ル機械ハ非常ニ進步ヲ致シマシテ、
是ハモウ海軍ノ諸君ハ御承知デアリマスルガ、船ガ一遍通リマスレバ、其通ツ
タ道ノ下ノ高低ガ、紙ノ面ニ書カサッテ出テ來ルト云フヤウナコトモ出來テ
居リマスカラ、サウ云フモノデヤリマスルト云フト、此日本近海ノ測量ヲ···
···主要ナル點ヲ始終調ベルコトハ、左程面倒ナ問題デハナイ、唯要スル所ハ
金ナノデス、船ヲ動カス、人ガ要ル、斯ウ云フモノモ特別ニヤラヌデモ、外
ノ機會ニ於テ、海圖ヲ作リ、或ハ演習ヲスルトカト云フ機會ニ於テモ出來ル
ノデスカラ、此海底ノ變化ヲ成ルベク頻繁ニ、殊ニ地震地方ニ於ケル所ノ海
底變化ヲ書カセルコト、サウ云フ事ヲ御ヤリニナルマイカ、私ハ實行ノ出來
ル問題ニ付テ伺フノデアリマス、此間餘リ漠然ト此一般ノ事ヲ申上ゲマシタ
ガ、斯ウ云フ實行ノ出來ル事ヲ集メテ、サウシテ一ツノ地震豫報ト云フヤウ
ナコトニ進ンデ行カウ、大體是ダケデアリマス、尙ホ細カナル點ニ於キマシ
テハ、震災豫防評議會ガアリマシテ、此前文部大臣ガ調査會ノ仕事ト云フヤ
ウナコトヲ仰シヤイマシタガ、實ハ調査會ト云フモノハ無クナッテ居マス、今
評議會ト云フモノガ其代リニ出來テ居リマスガ、サウ云フ所カラデモ調ベニ
行って、其他ノ調査モ進メルヤウニ致サレタナラバ、將來ニ對スル所ノ、
我〓ノ希望ガ逹セラレルダラウト思フノデアリマス、當局ハドウ御考ヘニ
ナリマスルカ、此大體ノ問題竝ニ一ツ一ツノ事ニ付キマシテ、御答ヲ願ヒマ
ス
國務大臣宇垣一成君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=34
-
035・宇垣一成
○國務大臣(宇垣一成君) 只今田中館博士ノ陸地測量ニ關スル御質問ニ付キ
マシテ、御答ヲ致シマス、陸軍ガ持ッテ居リマスル所ノ陸地測量部ハ、是ハ
國用地圖ノ調整ト云フコトガ、彼等ノ主ナル任務デアリマス、從テ國民ノ實
用ニ必要デアルト云フ、土地ニ變化ノ起ッタ際ニハ、其測量ニハ常ニ從事イ
タシテ居ルノデアリマス、先年關東大震災ノ際モ、震災直後ニ於テ、土地ニ
ドウ云フ變化ガ及ボシテ來タカト云フコトニ付テノ調査モ致シマシタガ、此
度モ若シ國民ノ實用上必要デアルト云フ程度ノ變化ガアルト認メマシタナラ
バ、是ハ更ニ調査ニ從事サス積リデアリマスガ、併シ御話ノ中ニ、一度デハ
イカヌ、數回ソレヲ繰返シテ、當分ノ內繼續シテヤッテ見ル云々ト云フヤウ
ナ御話モアリマシタガ、ソレハ地震ト土地トノ變化ニ付テノ、學術的ノ調査
ト云フコトニ渉ルダラウト思ヒマス、其方面ナレバ、陸軍ノ持ッテ居リマス
陸地測量部ノ仕事デナクシテ、寧ロ震災ノ調査會ト申シマスルカ、震災ニ關
スル評議會ト申シマスルカ、サウ云フ機關モ出來テ居ルノデアリマスカラ、
其方デサウ云フ仕事ヲ研究ヲスルト云フコトナラバ、陸軍モ亦相當ノ知識ノ
有ル者ヲソレニ參加サスト云フコトハ、敢テ辭セナイノデアリマス、陸軍ノ
仕事ト致シマシテハ、實用的ノ變化ガ及ボシテ來タト云フ際ニ、常ニ測量ヲ
反復イタシテ居ルヤウナ次第デアリマス、左樣御承知ヲ願ヒマス
國務大臣財部彪君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=35
-
036・財部彪
○國務大臣(財部彪君) 御答ヘ申上ゲマス、震災地方ノ海岸線ノ變化、海底
ノ水深ノ變更等ニ付キマシテハ、既ニ若干ノ測量班ヲ出シマシテ、大學カラ
出張シテ居ラルル所ノ人〓ト協同イタシマシテ、差當リ其調査ニ從事イタシ
テ居リマス、尙ホ此後ニ於テモ、事情ノ許ス限リ測量班ヲ出シマシテ、可ナ
リ詳細ナル測量ヲ致サスル積リデ居リマス、ソレカラ平常屢、海洋ノ水深ノ
變更スル有樣ヲ測量イタシテ、之ヲ隨時報〓スルト云フヤウナコトニスル意
思ハ無イカ、ト云フヤウナ御話モアッタヤウデアリマスガ、ソレハ航路ノ安
全又ハ防備上ノ關係等ニ於キマシテモ、必要ナルコトモゴザイマス、又一般
ノ漁業アタリノ關係モ少カラヌコトデアリマスルカラ、只今ノ所デハ、極メ
テ簡易ニ水深ヲ計ル所ノ機械モ、新シイ機械モ、一二ノ測量艦ニシカゴザイ
マセヌケレドモ、將來經費ノ許シマスル限ニ於キマシテハ、追〓是等ノ新機
械モ、他ノ艦ニモ備ヘマシテ、追〓ニハ博士ノ御希望ノ如キ域ニ達スルコト
モアラウト考ヘテ居リマス、但シ多少ノ時日ヲ要スルコトハ免レヌト考ヘマ
ス、右御答ヲ致シマス
國務大臣岡田良平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=36
-
037・岡田良平
○國務大臣(岡田良平君) 只今田中館君カラ、此震災ノコトニ付キマシテ種
種御意見ヲ拜聽イタシタノデアリマス、御話ノ中ニ、此設備ノ不完全、調査
ノ不完全ト云フヤウナコトニ付テ御述べガアッタヤウデアリマス、丁度過日
田中館君ノ御缺席ノ際ニ、今日ノ震災ニ際シマシテ、地震研究所竝ニ中央氣
象臺等ニ於キマシテ如何ナル調査ニ從事イタシテ居ルカト云フコトヲ、略
申上ゲタノデアリマスガ、其際ニモ此傾斜計ノコトヲ一應申上ゲマシタ、振
子式トデモ申スノデアリマスカ、之ニ依ッテ地殻ノ傾斜ヲ觀測イタス機械ヲ
携帶イタシテ、震災ノ現場ニ出張イタシタ者ガアリマス、併シ恐ラク斯樣ナ
モノハ完全ナ機械デナイデアラウト思ヒマス、尙ホ傾斜ヲ測定イタスコトニ
付キマシテハ、完全ナ方法ガアルト承知イタシテ居リマス、又其他ノコトニ
付キマシテモ、今日ノ施設ハ決シテ之ヲ完全ト申ス譯ニ參ラヌノデアリマ
ス、是ハ財政ノ關係モアリマスルシ、ナカ〓〓理想通リニハ參リマセヌガ、
事情ノ許ス限リ、成ルベク速ニ此完備ヲ圖ルコトニ致シタイト思フノデアリ
やく、又田中館君ノ御述べニナリマシタ、此技術家ヲ養成スルト云フヤウナ
コトモ、是モ機械ノ設備ト伴ッテ、誠ニ必要ナコトデアリマス、是等ニ付キ
マシテモ、尙ホ十分ノ考慮ヲ致シタイト考ヘルノデアリマス
國務大臣子爵井上匡四郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=37
-
038・井上匡四郎
○國務大臣(子爵井上匡四郞君) 田中館博士ノ鐵道ニ關シテノ御質問ハ、鐵
道線路選定ニ關シテハ、今少シ地震學ノ知識ヲ應用シタナラバ、今囘ノ如キ
災害ヲ受ケルコトモ從テ少イデアラウト云フ如キ、御希望的ノ御質問デアッ
タヤウニ拜聽イタシマスル、鐵道省ト致シマシテハ、特ニ未ダ地質學者ヲ鐵
道線路ノ選定ノ場合ニ煩ハスコトハ致シテ居ラナイノデアリマス、併ナガラ
從來ハ、鐵道線路ノ選定ト云フモノハ、全然大學ノ學科デ申スナラバ、土木
工學ノ者ノ、土木工學ヲ專攻イタシマシタ者ノ仕事ノ如ク、長イ間サレテ
居ッタノデアリマス、併ナガラ段々其後ノ經驗ニ依リマシテ、ソレノミノ知
識ヲ以テハ不完全デアルト云フコトヲ十分了知イタシマシテ、最近ニ於キマ
シテハ、線路ノ選定ニハ、地質學者ノ知識ヲ十分應用スル程度ニハ發達シテ
居ルノデアリマス、併ナガラ未ダ地震學者ノ知識ヲ、線路選定ノ場合ニ應用
スルト云フ程度ニハ達シテ居リマセヌノデアリマス、將來ニ於テドウデアル
カト考ヘマスルノニ、私ノ愚考ト致シマシテハ、益〓地質學者ノ知識ヲ借ルコ
トハ、將來ニ於テ必要デアルト考ヘテ居ルノデアリマスカラ、地質學者トシ
テノ地震學ノ知識ヲ、將來ニ於テ、ヨリ發達セシムルコトガ必要デアルト考
ヘルノデアリマス、此點ニ付テハ、却テ私カラ田中館博士ニ御要望イタシタ
イ考ヲ持ッテ居ルノデアリマス、此序デニ御報〓ガテラ申上ゲテ置キタイト
存ジマスルガ、災害ヲ受ケマシタ線絡ノ中デ、口大野迄ハ······宮津方面カラ
口大野迄ハ、八日ニ既ニ開通シテ居ッタノデアリマスルガ······九日ニ開通シテ
居ッタノデアリマスルガ、口大野ト山田間ニ城山「トンネル」ト云フ「トンネル」
ガアリマシテ、是ガ約百四十尺許リノ「トンネル」デアッタノデアリマス、是
ガ地震ノ爲ニ壓迫ヲ受ケテ、歪ンデシマヒマシタノデアリマス、話ハ前後イ
タシマスルガ、鐵道省ハ、七日ニ地震ガアリマスルト云フト、八日ニハ峰山マ
デ强行イタシマシテ、峰山迄ノ通信機關ヲ、八日中ニ完備シタノデアリマス、
震災地トノ總テノ通信ハ、此鐵道ノ一條ノ線ヲ以テ、通信ガ······其後ノ總テ
ノ通信ガ行ハレタノデアリマス、其當時ノ豫想ニ依リマスルト、此城山ノ「ト
ンネル」ハ、二十五日デナケレバ開通ハ出來ヌト云フ報〓デアッタノデアリマ
ス、併ナガラ幸ニ其後ノ努力ニ依リマシテ、今朝ノ報告ニ依リマスルト云フ
ト二十日ニハ······遲クモ二十日迄ニハ開通スルト云フ報告ヲ得テ居ルノデア
リマス、此城山ノ「トンネル」ヲ出マシテ先ヘ、細野マデ行ク十哩餘デアリマ
スルガ、是ハ今朝カラ旣ニ列車ヲ運轉シテ居リマスル運ビニ至ッテ居リマス
ル、幸ニシテ此區間ニハ、震災前ニ一列車丁度這入ッテ居ッタノデアリマシテ、
是ガ震災ノ爲ニ全部橫倒シニナッタノデアリマスルガ、其機關車ハ幸ニシテ
使用ニ堪ヘマシタ爲ニ、此區間ダケ區間運轉ヲ今朝カラ開始スルコトニナッ
テ居リマス、此城山「トンネル」ノ所ヲ約一哩バカリ、附近ノ自動車ト汽車ト
連絡ヲ取リマシテ、決マッタ賃銀及ビ手荷物ノ決マッタ賃銀ノ輸送ヲ、今朝カ
ラ開始シテ居ル次第デアリマス、大體序デニ現今ノ狀況ヲ報告イタシテ置キ
マス
〔政府委員俵孫一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=38
-
039・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 田中館博士ノ御質問ニ對シテ、內務大臣代理ガ病氣
ノ爲ニ、私ガ代ッテ御答ヘ致シマス、博士ハ特ニ實地ニ御臨ミニナッテ、其御
視察ヨリ色〓ノ御注意ノ御質問デアリマシタノデスガ、誠ニ敬承イタシマシ
タ、第一ニ家屋ノ構造ニ付テ、今少シ耐震的補强工事ヲ施シタナラバ、災害ヲ
免レ得タデアラウト云フコトノ御注意デアリマシタガ、御尤モ千萬デアリマ
ス、之ニ付キマシテハ、過グル關東大震災ノ經驗ニ依リマシテ、多クノ家屋
ノ大部分ニ、彼ノ壁ノ間ニ筋カヒノ線ヲ入レルト云フ僅カナ注意デモ、耐震
的ニ可ナリナ效果ガアルト云フコトヲ以チマシテ、彼ノ公營住宅又ハ住宅組
合ノ家屋ニ付キマシテハ、特ニ注意ヲ致シマシテ、斯ウ云フ風ナ所ノ工事ヲ
施サシテ居リマス、又其他ニ於キマシテモ、出來ルダケ斯ノ如キ補强工事ヲ
施スコトニ注意ヲサシテ居リマス、今囘ニ於キマシテモ、復舊家屋ニ付キマ
シテハ、先ヅ斯ノ如キコトハ致シタイト思ヒマス、其他簡單ナル仕事ニ依ッ
テ、補强工事ヲ施シマシテ、御說ノ如ク耐震的ニ效果ノアルト云フ事柄ハ、
出來ルダケ能ク注意サシタイト思フノデゴザイマス、第二ノ道路ニ對スル所
ノ御質問デアリマシタガ、丁度川崎內務次官モ數日間ノ實地視察ノ結果今朝
歸廳イタシマシテ、是ヨリ色〓ノ報告ヲ聞キマスルト云フト、御承知ノ通ニ、
今囘ノ震災區域ハ甚ダ交通不便ノ爲ニ、罹災者モ非常ニ困難ヲ感ジテ居リマ
スノデアリマスガ、段々府縣ノ當局及ビ地方ノ靑年團、在〓軍人、殊ニ軍隊
ノ非常ナル努力ニ依リマシテ、幸ニモ交通ガ段々復舊サレツヽアリマス、丁
度十二日、卽チ一昨日中ニ、峰山、網野間、綱野、島津間、間人、深田間、
斯ウ云フ所ノ道路ノ交通ガ出來マシテ、救護上非常ナ便益ヲ得テ居ル、其他
段々道路ノ交通ノ恢復ガ付キマシテ、總テノ物資ノ供給又ハ救護上ノ手當ニ
付テモ、非常ナル便益ヲ得マスシ、又別ノ報告カラ······兵庫縣ノ方面カラ此震
災區域ノ交通ノ便ヲ開クコトニ付テ、兵庫縣ヨリモ尙ホ努力シテ居ルト云ツ
タヤウナ、幾多ノ報告ヲ得テ居リマスノデアリマス、而シテ博士ノ、自動車
ノ交通ニ付テモ、今少シ注意シタナラバ、餘程交通ノ便ガアルデアラウト云
フコトノ御注意ハ敬承イタシマシタ、尙ホ今後ニ於テモ十分此點ニハ注意イ
タサセル積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=39
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040・田中館愛橘
○田中館愛橘君 重ネテ議場ヲ煩ハシマシテ感謝イタシマス、陸海軍大臣ハ
御歸リニナリマシタケレドモ、陸海軍ノ御仕事ニシマシテモ、內務省ノ仕事
ニシマシテモ、多クハ現在ノ必要ヲ充タスト云フコトガ眼目ニナッテ居リマ
ス故ニ、將來ノ爲ノ研究ト云フヤウナコトハ勿論アリマセス、本員ノ如キ
ハ、此震災豫防評議會ノ末席ヲ汚シテ居リマス、色〓ナ〓究ニ付テ御相談イ
タシマシテモ、兎角現在ノ仕事ノ爲ニ豫算ガ制限ヲセラレテ居リマスル故
二、ソレヲ進メルコトハ出來マセヌ、是ハ雙方トモ遺憾ト致シテ居リマスル
ガ、ドウカ是カラ政府ニ於カレテモ、其邊ヲ考慮セラレマシテ、研究機關ノ爲
ニ、幾分ノ費用ヲ見積ラレテ、次ノ豫算アタリカラハサウ云フコトヲ是非
見積ッテ置カレルコトヲ希望イタシマス、研究機關ガ其豫算ヲ自分デ握ッテモ、
矢張リ實行スルニハ各自ノ方面ニ參リマス、是ハ鐵道ト雖モ同ジコトデアリ
やく、各課デ分ケテ研究シナクチヤナリマセヌカラ、斯ウ云フコトハ各省ニ
於カレテモ、將來ノ爲ニ研究ノ費用ヲ、十分トハ言ヒマセヌケレドモ、必要
ナル費用ヲ見積ッテ置カレルヤウニ希望致シマス、是ダケヲ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=40
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041・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、關稅定率法中改正法律案、日程第四、
大正十四年法律第五十一號中改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀
會、黑田主稅局長
關稅定率法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
昭和二年三月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
(小字ハ衆議院修正)
關稅定率法中改正法律案
關稅定率法別表輸入稅表中左ノ通改正ス
第二十二號中「一·〇〇」ヲ「一·八〇」ニ、「四·五五」ヲ「二·三〇」ニ改ム
第五十三號中「二九·六〇」ヲ「三六·九〇」ニ改ム
第百十一號中「五·〇〇」ヲ「七·六〇」ニ改ム
第六百七號ノ次ニ左ノ如ク加フ
六〇七ノ二カッサヴアルート每百斤〇·六〇
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
大正十四年法律第五十一號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和二年三月十二日
衆議院議長粕谷義三
貴族院議長公爵德川家達殿
大正十四年法律第五十一號中改正法律案
大正十四年法律第五十一號中左ノ通改正ス
第一項中「本法別表ニ揭クルモノノ輸入稅ハ之ヲ免除ス」ヲ「本法別表甲號
ニ揭クルモノノ輸入稅ハ之ヲ免除シ本法別表乙號ニ揭クルモノノ輸入稅ハ
關稅定率法別表輸入稅表ニ依ラス本法別表乙號ニ依ル」ニ改ム
第二項中「前項ノ規定ニ依リテ輸入稅ノ免除ヲ受クル物品」ヲ「前項ノ規定
ノ適用ヲ受クル物品」三八人
「(別表)」ヲ「(別表)三段人
甲號」
別表輸入稅表番號第七十二號ノ內ノ項中「綿羊革」ヲ「緬羊革」ニ改ム
同第百五十一號ノ二ノ項中「一五一ノ二」ヲ「一五一」ニ改ム
同第百六十九號ノ項中「一六九」ヲ「一六九ノ內」ニ改メ「硫酸曹達」ノ下ニ
「(精製ノモノ)」ヲ加フ
同第二百四號ノ項ヲ削ル
同第二百二十九號ノ內ノ項中「及コールタール分餾物」ヲ削ル
同第二百七十八號ノ內ノ項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
二八〇黃麻織絲
同第二百八十六號ノ內ノ項、第二百八十八號ノ內ノ項及第三百十四號ノ內
ノ項ヲ削ル
同第三百二十六號ノ內ノ項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
三四三別號ニ揭ケサル布帛製品
二ノ內內地、朝鮮、臺灣、樺太又ハ關東州ノ生產ニ係ル綿布及
關東州ノ生產ニ係ル油ヲ原料トシタルモノ
同第四百三十二號ノ內ノ項ノ次ニ左ノ一項ヲ加フ
四三五別號ニ揭ケサル礦物及礦物製品
二其ノ他
乙ノ內マグネサイト又ハドロマイトヲ主要原料トシタル建築材料
(粉狀ノモノ)
同第四百四十四號ノ項ノ次ニ左ノ二項ヲ加フ
四六二ノ二特殊鋼
一ノ內全重量百分中クローム、タングステン又ハモリブデンノ重
量〇·五以上ヲ含有スルモノ(關東州ニ於テ製鍊シタル塊及錠竝
之ヲ原料トシタル條、竿及板)
四七六ノ內ニッケル及クロームヲ含ム電氣抵抗材料(關東州ニ於テ製鍊シ
タル塊及錠竝ニ之ヲ原料トシタル線)
別表ニ左ノ如ク加フ
乙號
輸入稅品名單位稅率
表番號
一二〇ノ內大豆硬化油(關東州ノ生產ニ係ル大
豆油ヲ原料トシタルモノ)每百斤一·二〇
三四三別號ニ揭ケサル布帛製品
二ノ內內地、朝鮮、臺灣又ハ樺太ノ
生產ニ係ル亞麻布(他ノ植物繊
維ヲ交ヘタルモノヲ含ム)及關
東州ノ生產ニ係ル油ヲ原料トシ
タルモノ每百斤二·八五
備考從量稅率ノ單位ハ圓トス
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ施行ス
參照
大正十四年法律第五十一號ハ關東州ノ生產ニ係ル物品ノ輸入稅免除ニ關ス
ル法律ナリ
〔政府委員黑田英雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=41
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042・黒田英雄
○政府委員(黑田英雄君) 關稅定率法中改正法律案ノ御說明ヲ申上ゲマス、
政府ハ過日本會議ニ關稅定率法中改正法律案ヲ提出イタシマシタノデアリマ
スルガ、其後關稅調査委員會ハ審議ノ結果、昨年衆議院ニ於キマシテ附帶希
望ヲ附セラレマシタ「タピオカ」等ノ澱粉類及「バター」等ノ關稅率ヲ改正
スルコトノ必要ナリトノ答申ヲ致シテ參リマシタ、政府ニ於キマシテモ其ノ
趣意ヲ適當ト認メマシタノデ、是等ノ物品ノ關稅率ヲ特ニ改正イタシマス爲
ニ、茲ニ重ネテ關稅定率法中改正法律案ヲ提案イタシタノデアリマス、然ルニ
衆議院ニ於キマシテハ、政府ノ提案イタシマシタル物品ノ外ニ「オレイン」及
「カッサヴアルート」ノ現行稅率ニ修正ヲ加ヘタノデアリマス、政府ハ是等ノ
物品ノ生產竝ニ輸入ノ現狀カラ鑑ミマシテ、其修正ニ同意ヲ表シタ次第デア
リマス、次ニ日程第四、大正十四年法律第五十一號中改正法律案ノ御說明ヲ
申上ゲマス、政府ハ曩ニ第五十議會ノ協贊ヲ經マシテ、大正十四年法律第五
十一號ヲ制定イタシマシテ、一面關東州ノ產業開發ニ資シマスルト共ニ、他
面本邦物資ノ補給ヲ潤澤ナラシメル趣旨ニ於キマシテ、同年六月以降關東州
ノ生產ニ係リマスル物品ノ輸入稅ヲ免除スルコトト致シタノデアリマスル
ガ、爾來一年八箇月ノ間ニ於キマスル其實蹟ニ徵シマスレバ、漸次其目的ヲ
達シツヽアルモノト認メテ居ルノデアリマス、然ルニ特殊ノ物品ニ對シマス
ル本邦及關東州ノ生產竝ニ需給狀況等ニ鑑ミマシテ、更ニ右法律揭記ノ物品
ニ對シマシテ、黃麻織絲外三種ノ物品ヲ追加イタシマシタ、尙ホ大豆硬化油
及布帛製品ノ一部ニ對シマシテ、其輸入稅ヲ輕減スル趣意ヲ以チマシテ、特
別ノ關稅ヲ課シ、以テ同法制定ノ趣旨ヲ達成スル上ニ於キマシテ遺憾ナカラ
シメルコトノ必要ヲ認メタ譯デアリマス、ソレト同時ニ昨年關稅定率法改正
ノ結果條文ヲ整理シマスル爲ニ、玆ニ本改正法律案ヲ提出イタシマシタ次第
デアリマス、兩案トモ何卒御審議ノ上速ニ御協賛アラムコトヲ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 兩案ハ登錄稅法中改正法律案外五件ノ特別委員會
ニ付託イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=43
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044・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第五、海外移住組合法案、政府提出、衆議院
送付、第一讀會ノ續、委員長報告
海外移住組合法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和二年三月十二日
右特別委員長
大島健
貴族院議長公爵德川家達殿
「大島健一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=44
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045・大島健一
○大島健一君 海外移住法案ノ特別委員會ニ於ケル審查ノ經過竝ニ結果ヲ報
告イタシマス、本案ハ小資本ヲ有シ、〓育アリ、海外ニ移住シマシテ、獨立
企業、殊ニ農業ヲ營マウト云フ者、又ハ多年海外ニ在リマシテ、海外ニ勞働
シマシテ、多少ノ資力ヲ得テ、獨立シテ農工ニ從事シヤウト云フヤウナ者ノ
爲ニ、特別ノ組合ヲ組織イタシマシテ、共同ノ力ニ依ッテ、是等企業者ノ志望
事業ノ達成ヲ助ケルト云フコトヲ以テ目的トシテ居ルノデアリマス、此海外
移住組合ハ、產業組合ト餘程共通シタル性質ヲ多量ニ持ッテ居リマス、故ニ
此海外移住組合法案ハ、此本組合ノ本質ニ付キマシテ、特ニ必要ナル條項ヲ
規定イタシマシテ、他ハ產業組合法ノ規定ヲ準用スルコトトナッテ居リマス、
此移住組合ハ〓ネ各府縣ヲ一區ト致シマシテ、其地方ニ組織シ、尙ホ中央ニ
一種ノ組合聯合會ヲ置キマシテ、此各地方ニ於ケル組合ヲ糾合支持シテ行ク
ヤウナ立場トナッテ居リマス、此組合員ハ海外ニ移住スル希望者竝ニ出資、
學術若クハ經驗等ニ依リマシテ、此事業ヲ補助シヤウト云フ篤志家ヲ以テ組
合員トシテ、此組合ガ組織サレルノデアリマス、組合ノ事業ノ〓要ヲ申上ゲ
マスト、組合員タル移住希望者ニ、其移住ニ要スル資金ノ貸與ヲ致シ、尙ホ
組合ニ於テ海外ニ大口ニ所要ノ土地ヲ取得イタシマシテ、之ヲ移住者ニ讓渡
シ、若クハ利用セシムル、尙ホ其外ニ移住地ニ於キマスル〓育トカ、衞生ト
カ、其他移住地ニ要スル公共ノ設備ノ施行ニ任ズルノデアリマス、此各地方
ニ於キマスル組合ハ、地方長官ノ監督ヲ受ケ、中央ノ聯合會······組合聯合會
ハ主務大臣ノ監督ヲ受ケマシテ、内外ノ事業ノ經營ニ當ルノデアリマス、尙
ホ政府ハ是等ノ組合ニ低利資金ヲ融通シマシテ、其事業ヲ助ケルヤウニナッテ
居リマス、委員會ハ三日ニ亙リマシテ巨細ニ質疑應答ヲ重ネマシテ、愼重ニ審
議ヲ遂ゲマシタ、今其一二ヲ御報告イタシマス、移住企業ノ發展ニ依リマシ
テ、我國ノ工業原料ヲ得ルコトガ容易、有利トナリ、又本邦竝ニ此移住國間
ノ有無交換ガ頻繁トナリ、延イテ國際ノ接觸ガ親密トナルト云フコトハ、誠
ニ結構ナ事柄デアルガ、內地ニモ尙ホ移住開拓スベキ土地ガ無イトハ云ハレ
ナイノデアルガ、政府ハ此法案ヲ內地ニモ適用スルヤウニ立案ヲスル意思ハ
無カッタノカト云フ質問ニ對シマシテ、政府委員ハ、海外ニ於ケル移住企業
ハ內地ニ於ケルソレト大ニ趣ヲ異ニシテ居リマスルガ故ニ、此法案ハ專ラ海
外ニ移住企業ヲスル者ノ爲ニスルノデアル、併シ內地ニ於ケル移住開拓ト云
フガ如キ最モ大切ナル事業ハ、御承知ノ通リ、北海道ノ拓殖計畫トカ、或ハ
開墾助成法トカ、朝鮮ノ東洋拓殖會社、其他各種ノ方法ニ依ッテ十分是ハ進
メテ行ク積リデアル、斯ウ云フヤウナ答辯デアリマシタ、次ニ此理論ヲ以テ
シマスレバ、善良ニシテ有爲ナル同胞ヲ遠ク海外ニ移住セシメルト云フコト
ハ、惜クモアリ傷マシイヤウナ感ジモスル、我〓同胞ノ人情トシテモ、又ハ
國家ノ利益カラ考ヘテモ、先以テ同ジ海外デモ近イ所ノ國土ニ移住セシメタ
イト云フ考ガ起ル、此法案ハ滿洲トカ南洋トカ云フヤウナ方面ニモ、矢張リ
之ヲ適用スル積リデアルカト云フヤウナ問ガアリマシタ、之ニ對シテ政府ノ
答辯ハ、目下ノ所デハ南亞米利加ヲ主トシテ考ヘテ居ルノデアルガ、法文ノ
中、無論特定ノ國家ヲ指定シテ居ル譯デハナイノデアルカラ、機運ガ之ヲ許
ス場合ニ、時期ガ之ニ適スル場合ニハ、無論其方面ニ應用シ得ルノデアルト
云フ答辯デゴザイマシタ、又法ノ精神ハ公益ヲ主トシテ、此出資者ノ利殖ヲ
圖ルト云フガ如キコトハ、公益法人普通ノ範圍以內ニ止マルコトデアルトハ
思フケレドモ、世間ニハ時ニ本來ノ趣旨ニ反シテ、遂ニハ事業ノ不振ヲ來ス
ヤウナコトモ無イデモナイ、政府ハ是等ノ取締監督ニ關シテ十分ノ用意ガ有
ルデアラウカト云フ希望ヲ以テノ問ガアリマシタ、政府ハ既ニ低利資金モ融
通シ、尙ホ地方中央共ニ監督シテ居ルノデ、尙ホ此法案ガ施行サレルニ付テ
ハ:所要ノ規定モ出來テ、十分監督シ、尙ホ其成功ヲ得ルヤウニ指導シテ行
ク積リデアルト云フコトデアリマシタ、其外、宗〓ニ關スル困難、乃至ハ排
日ヲ挑發シハセヌカト云フ心配、又從來ノ勞働移民ノ狀況、ソレ等ノ將來、
尙ホ豫備〓育等ニ付テ、各種ノ精密ナル應答ガゴザイマシタガ、何レモ皆政
府委員ノ答辯ヲ諒ト致シマシテ、最後ニ討論ニ移リマシタガ、一人ノ異論者
モナク、全會一致ヲ以テ可決イタシマシタ、右御報〓申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=45
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046・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通告順ニ依リマシテ質疑ノ發言ヲ許シマ
ス、澤山精八郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=46
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047・澤山精八郎
○澤山精八郞君 簡單デゴザイマスカラ此席カラ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=47
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048・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=48
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049・澤山精八郎
○澤山精八郞君 移住組合法案ガ上程サレマシテ、可決サレマシタコトニ付
キマシテハ、移民ノ無上ノ幸福ト存ジマス、然ルニ此移民ノ乘船地ヲ神戶ニ
限ラレテ居ルヤウニ存ジマス、九州方面ヨリ遙〓移民ガ神戶ニ參リマシテ乘
船イタシマスルノハ、多大ノ不便利ヲ感ズルノデアリマス、故ニ九州方面ノ
或地點ヲ選定サレマシテ、ソコノ場所ヨリ乘船ヲシ移民ヲ渡航セシムルヤウ
ナ、政府ニ於テ御考ガゴザイマスルカ、伺ヒマス
國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=49
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050・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 只今ノ澤山君ノ御質問ハ、何カ移民ノ出發
地ト致シテ、長崎ノ指定ヲ取消シタト云フヤウニ、御話ニナッタヤウニチヨッ
ト伺ヒマシタガ、ドウ云フ意味デアリマシタカ、今日ニ於キマシテ實際移民
ノ出發イタシマスル場所ハ、神戶ガ一番多イノデアリマシテ、神戶ニ色〓施
設ヲ致シテ居リマスコトハ事實デアリマスケレドモ、長崎ヲ移民ノ出發地ト
シテノ指定ヲ取消シタト云フコトハ、私ハ存ジテ居ラヌノデアリマス、尙
ホ內務省ノ政府委員ハ、左樣ナコトハ存ジテ居ラヌト云フコトデアリマス、
如何ナコトデアリマスカ、能ク取調べマシテ御答ヲ申シテモ宜シウゴザイ
マス
〔男爵阪谷芳郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=50
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051・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本案ニ付キマシテ、別段異論ト云フ意味デハゴザイマセ
ヌケレドモ、一昨十二日「リオ·ド·ジャネーロ」發ノ新聞電報ガ今朝ノ新聞ニ
載ッテ居リマス、其電報ニ依リマスト、伯剌西爾ノ「パラナ」地方ニ於テ、日
本人ガ大計畫ノ植民地ヲ開クト云フコトニ付テ、伯刺西爾ノ新聞ガ餘程注意
シタ論說ノヤウデ、決シテ日本人ヲ嫌フノデハナイガ、其固マッタ植民地ガ
出來ルト、今既ニ獨逸ガ固マッタ植民地ヲ造ッテ、伯刺西爾ノ言葉モ用ヰナイ
··ト云フヤウナモノガ國內ニ出來ルノハ、甚ダ危險デアル、デ將來ノ事ヲ
豫防シナケレバナラヌト云フヤウナ意味ノ電報デアリマス、伯剌西爾政府竝
ニ伯剌西爾ノ國民ハ、日本國ニ對シテハ非常ニ親切ナル考ヲ以テ、旣ニ日本
ノ移民ガ六万人モ這入ッテ居ルト云フヤウナ譯デアリマス、將來ニ於テモ成
ルベク不必要ナル心配ヲ、伯剌西爾ノ政府竝ニ伯刺西爾ノ國民ニ掛ケナイ
ヤウニ注意ヲシナケレバナラヌコトト思フノデアリマス、我〓ハ北米、布哇
等ニ於テ、此移民ノ事デ既ニ苦シイ經驗ヲ有ッテ居ルノデ、成ルベク將來ニ於
ケル日本ノ移民ガ、其移民地ノ政府國民等ノ間ニ阻隔シタル感情ヲ生ジナイ
ヤウニ、何等誤解ノナイヤウニ、圓滿ニ進行スルコトヲ希望ニ堪ヘヌノデア
リマスガ、只今ノ法案ノヤウナ法案ガ出來マシテ、全國各地ニ移民組合ガ澤
山出來ル、其聯合會ガ出來ル、政府ガ其背面ニアッテ低利ノ金モ貸ス、渡航費
モ貸スト云フヤウニ、何トナク政府ガ非常ナル援助デモシテ、何十万ト云フ
國民デモ出スト云フヤウナコトガアリマシテ、サウ云フ間違ッタ事ガ傳ハル
ト云フヤウナコトデアルト、伯剌西爾デ移民ノ排斥ト云フヤウナコトガ起ラ
ヌトモ限ラヌノデアリマス、其點ヲ私ハ甚ダ心配スルノデアリマスガ、此法
案ノ施行ノ上ニ付テハ、其邊ニ付テ、外務當局者ノ御考ハドウナンデゴザイ
マセウカ、我〓ト致シマシテハ、成ルベク多數ノ移民ガ出ルト云フコトヲ望
ムト云フコトハ最モ切ナノデアリマスガ、サレバト云ッテ、好意ヲ以テ迎ヘ
テクレル土地ノ人〓ニ對シテ、誤解ヲ與ヘタリ或ハ迷惑ヲ與ヘルヤウナコト
ハ成ルベク避ケタイ、サウ致シマスト云フト、政府ハドウ云フヤウナ御方
針デ之ヲナサルカ、其伯剌西爾政府或ハ此法案ノ適用セラレル其他ノ場所ニ
付テ、能ク事情ノ疏通ト云フコトヲ御圖リニナッテ居ルノデアラウカ、又將
來ニ於テ、餘リ大袈裟ニ澤山ノ組合ヲ御作リニナラヌ方ガ宜イノヂヤナイ
カ、少クモ一ツノ府縣デ一箇所トカ、或ハ府縣ヲ合併シテ數府縣デ一箇所ト
カ云フヤウニ、初ハ先ヅ徐々トヤッタ方ガ宜イノヂヤアリマセヌカ、其邊ノ
御考ハドウデアルカ、隨分此法案ガ通レバ、ソレヲ待構ヘテ又何カ仕事ヲシ
ヤウト云フ考ノ人モ多イヤウデアル、ソレハマア何レモ移民ヲ帝國カラ出ス
ノハ帝國ノ爲ニモナルト考ヘルカラデモアリマセウシ、ソレヲ又一ツノ儲ケ
ニシヤウト云フ人モアルカモ存ジマセヌガ、萬一サウ云フ風ニ競爭シテ起ス
ト云フヤウナコトガ出來テ來ルト、往年ノ矢張リ移民會社ノ覆轍ヲ踏ムヤウ
ナコトハ出來ヤシナイカ、ツコラノ事ガ私ハ甚ダ、杞憂カモ知レマセヌケレ
ドモ、非常ニ憂フルノデアリマス、ソレニ今何ト云フノデシタカ、海外興
業デスカ、今一ツノ移民會社ガアッテ······隨分移民會社ノ失敗シタノヲ纒メ
テ、ソレニハ國庫モ隨分負擔ヲシタト記憶シテ居リマスガ、サウ云フモノガ
今旣ニ有ルノデアリマスルガ、ソレ等ガ扱フ移民ト、此組合ニ依ッテ出ル移
民トノ間ニ、又何等カノ差別待遇ト云フコトデモアルト、又日本人同士ノ間
ニ軋轢ノ起ルト云フヤウナコトガ無イトモ限ラヌヤウニ思フノデス、日本ノ
人ハ兎角內輪喧嘩ヲ始メテ、到頭其結果ハ海外デハ嫌ハレルト云フヤウナコ
トニナル、本員ノ希望イタシマスルノハ、伯剌西爾デハ成ルベク此勞働者ガ要
ルノダラウト思フ、今朝著イテ居ル電報ヲ見テモ、勞働ガ不足シテ居ル、是ハ
歡迎シテモ宜イト云フヤウナコトガ見エテ居ルノデスガ、ソレガ成ルベク一
ツニ固マラヌヤウニデスネ、段々ト斯ウ方々ニ散亂スル方ガ、亞米利加ニ起ツ
タヤウナ問題ヲ惹起サヌデ宜イノヂヤアリマセヌカ、亞米利加ニ起リマシタ
問題ハ、外務ノ當局者モ御存ジデアリマセウガ、日本人ハ兎角固マル、ドウ
モ日本人閥ヲ作ル、「クランニシ」デアル、卽チ日本人ハ日本人バカリ固マッ
テ、ドウシテモ亞米利加人ノ中ヘ混ッテ同化セナイ、自分ノ學校ヲ作リ、自分
ノ風俗ヲ維持シ、ドウモ日本人ガ來ルト云フト、亞米利加人ニナッテクレナ
イト云フノガ、大ナル故障ノ一ツニナッテ居ルヤウデアリマス、ソレ等ノ事
ガ矢張リ伯剌西爾デモ起リハシナイカ、餘リ一ツニ固マッテシマフト云フト、
ドウモ日本人ハ伯刺西爾人ト同化シナイト云フノデ、又此議論カラ排斥ヲ受
ケルト云フヤウナコトガアリハセナイカ、サウシテ見ルト、斯ウ云フ法律デ
出ス移民モ、何トカソコヘ方法ヲ設ケテ、タント出ルノハ結構デアルガ、ソ
レヲ伯刺西爾ノ餘リ心配セヌヤウニ斯ウ散布シテ、サウシテ他日、兩國ノ人
民ガスッカリ能ク同化融和スルト云フコトニナッタナラバ、ソレカラ先キハ又
澤山ノ日本ノ移民ガ出テ、アノ廣イ伯剌西爾ノ面積ト云フモノヲ、世界ノ文
明ノ爲ニ、世界ノ經濟ノ爲ニ開發スルコトモ出來ルカト思フノデスガ、其邊
ニ付キマシテ外務大臣ヨリ、ドウ云フ御方針デアルカ、將來此法案通過ノ後
ノ日本ノ移民全體ニ付テノ取扱振リヲ御話ヲ願ヒタイ、特ニ伯刺西爾ニ付テ
詳細ニ御說明ヲ願ヒタイノデアリマス
國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=51
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052・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 只今阪谷男爵ノ御質問中、御指摘ニナリマ
シタ新聞ノ記事ハ、私モ一讀イタシマシテ、之ニ注意ヲ致シテ居ルノデアリ
やく、此新聞記事ハ、日本ヨリノ新聞ノ通信ガ甚ダ正確デナカッタ爲ニ、色〓
誤解ヲ伯刺西爾方面ノ人ニ與ヘテ居ルヤウデアリマス、此移住組合法案ノ趣
旨ハ、先刻委員長ヨリモ御說明ガアッタ通デアリマシテ、卽チ海外ニ於テ企業
ヲ目的ノ一ツトスル所ノ移民ガ、實ハ資力ノ基礎モ甚ダ鞏固デハナイ、又知
識ニ於テモ經驗ニ於テモ、自ラ乏シイ所ガアルト云フヤウナ所ノ人達ガ海外
ヘ參リマシテ、企業ニ掛リマスルト云フト、多クハ失敗ヲ招クモノデアル、
斯ノ如ク企業移民ガ、海外ニ參リマシテ、其目的ヲ達セズ、失敗ヲ致スト云フ
コトハ、本人ノ爲ハ勿論、又日本ノ爲ノミナラズ、移住國ノ爲ニモ甚ダ望マ
シカラヌコトデアリマス、是等ノ移民ハ其仕事ノヤリ方ニ依リマシテハ、
單ニ本人又ハ日本ノ爲ノミナラズ、其移住國ノ經濟上ノ發展ニ向ッテ大ナル
貢獻ヲ爲シ得ル人達デアルノデアリマス、是等ノ目的ヲ十分ニ達成セシムル
ト云フコトハ、何レノ方面ニ向ッテモ利益デアルト云フコトヲ、私ハ考ヘテ居
ルノデアリマス、所謂、是等ノ人達ハ、移住國ト其本國トノ間ニ於ケル、共
存共榮ノ楔トナルベキ人〓デアル、斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、此共存
共榮ノ大ナル目的ヲ達セムガ爲ニ、先刻申シマシタ如ク、企業移民ガ其目的
ヲ達セズシテ失敗スルコトヲ豫防スルノ策ヲ講ゼムガ爲ニ、斯ノ如キ法律案
ガ提出セラレルコトニ相成ッタノデアリマス、而シテ此新聞ニ現ハレテ居リ
マスルコトハ、間違ッテ居ルト云フコトヲ申シマスルノハ、第一ハ、何カ日本
國家ト云フモノガ海外殊ニ伯剌西爾方面ニ於テ植民地ヲ創設スルノデハナカ
ラウカ、ト云フ風ナ誤解ガアルヤウデアリマスルガ、左樣ナ意味デハナイノ
デアリマス、日本ノ國家ガ何等移民ノ移住地ト云フモノヲ創設スルノデハナ
イノデアリマス、又其移民ノ移住地ト致シマシテモ、日本ノ政府ガ之ヲ指定
イタス譯デナイノデアリマス、卽チ移民組合ガ自分ノ所屬ノ組合員ト相談
ヲ致シテ定メルノデアリマス、從テ此法律案ガ通過イタシマシタト致シマ
シテモ、直チニ伯刺西爾ニ向ッテ悉クノ日本ノ移住組合ガ全力ヲ集注スルト
云フコトニハ必シモナラヌノデアリマス、況ヤ此新聞ノ報道ニアリマスヤウ
十、此「バラナ」州ニ向ッテ大ナル移植民ヲ拵ヘルト云フヤウナコトハ、全然
左樣ナ事ハ無イノデアリマス「パラナ」州ニ於キマシテ日本人ガ若干ノ土地ヲ
買取ッタト云フ事實ハ、私ハ聞イテ居リマスルケレドモ、其計畫ナルモノハ、
此移住組合法ノ豫想シテ居ル問題トハ全ク關係ノナイコトナノデアリマス、
關係ノナイ二ツノ問題ヲ、新聞ノ方デハ混同イタシテ傳ヘテ、之ニ對シテ色
色ナ批評ヲ致シテ居ルト云フヤウナ狀況デアルノデアリマス、サラバト申シ
マシテモ、只今阪谷男爵ノ御話ノ通リ、之ヲ全然移住組合ノ自由ニ放任イタ
シテ置イテ、政府ガ何等之ニ干渉シナイト云フコトニ相成リマスルト云フト、
或ハ一ツノ地方ニ澤山ナ移民ガ集注イタスト云フヤウナ弊害ハ生ジ得ルデア
リマセウ、其結果ト致シマシテ、或ハ其地方ノ民情ト云フモノニ同化シナイ
ト云ッテ、排日ノ原因ヲ作ルト云フヤウナコトモ有リ得ル話デアリマスカラ、
此移住組合法ノ實際ノ適用ニ於キマシテハ、政府ハ是等ノ移住地ノ指定ニ對
シマシテハ、十分ノ注意ヲ與へ、例ヘバ伯刺西爾國內ニ於テモ、其一ツノ場所
ニ移民ガ集團ヲ致ス、集注ヲ致スト云フヤウナコトガ無イヤウニ、十分ニ注
意ヲ致サセル積リデアリマス、ソレカラ此法律ニ依リマシテ、日本ノ各地方
ニ多數ノ組合ガ出來ル、多數ノ組合ガ出來テ、是デ數十万ノ人間ガ伯刺西爾
方面ニ集注イタスト云フヤウナコトニ相成ッテハ、是亦非常ナ弊害ヲ來ス本
デアルト思フカラ、餘リ澤山ナ組合ヲ拵ヘナイ方ガ宜イノデハナイカト云フ
御意見デアリマス、是モ御尤デアリマシテ、此コニ書イテテリマス所ノ、
區域ガ一ツノ組合設立ノミヲ許スト書イテアリマス、一區域ト申シマスノハ
大體ニ於キマシテハ一ツノ府縣ヲ指シタモノデアリマスルケレドモ、必シモ
ツノ府縣ニ一ツノ組合ト云フコトニ限ッタ譯デハナイノデアリマシテ、寧
ロ都合ニ依リマシテハ二ツノ府縣ニ或ハ三ツノ府縣ニ、一ツノ組合ヲ許スト
云フヤウナ場合モ生ジ得ルノデアリマス、餘リ數バカリヲ拵ヘマシテ、鞏固
ノ基礎ヲ有セザルモノノノ如キモノガ濫出イタシマスコトハ、皆ノ爲ニ不利
益デアルト考ヘマスルガ故ニ、是等ノ點ニ於キマシテハ十分ノ注意ヲ加ヘ
テ、間違ノナイヤウニ致ス積リデアリマス、ソレカラ從來海外興業ト云フ會
社ガアッテ、移民ノ取扱ヲ統一イタシテ居タノデアルガ、今囘ノ移住組合法ニ
依ッテ、矢張リ移民ガ外ニ出テ行クト云フコトニ相成ッテハ、移民ノ間ニ取扱
ノ不統一ヲ來ス、差別待遇ト云フモノガ生ジテ參ッテ、移民ノ間ニ內輪揉メヲ
致スト云フヤウナコトハ無イカト云フ御質問デアリマス、斯ノ如キ事ノナイ
ヤウニ十分ノ注意ヲ致ス積リデアリマス、主トシテハ此海外興業ノ方ハ、勞
働移民ノ取扱ヲ致ス積リデアリマス、又此移民組合法ニ依リマシテモ、此移
民ノ日本カラ出テ行クコトニ付テノ便宜ト云フモノハ、海外興業會社ニ其盡
カヲ······周旋ヲ依賴スルト云フ場合モ往々生ズルデアリマセウ、兩者ノ間ニ
聯絡ヲ缺キ、差別待遇ガ生ジテ、其爲ニ紛爭ヲ生ズルト云フヤウナコトハ無
イヤウニ、是ハ十分注意ヲ加ヘマシテ、萬間違ノナイヤウニ致ス積リデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=52
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053・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 先刻澤山君カラ外務大臣ニ對シテ御質問ガアリマシタ、
外務大臣ハ質問者ノ趣旨ヲ誤解サレテ居ルノデアリマセヌカト思ヒマスノ
デ、質問者ニ代リマシテ之ヲ申上ゲルノデアリマス、質問者ノ趣旨ハ斯樣デ
アリマス、現今神戶ガ唯一ノ移民ノ港デアルガ、是ハ隨分不便モアル、九州
方面ニ何カサウ云フヤウナ港ガ特定サレマイカドウカ、其意見ハ如何ト云フ
ノデアリマス、ソレダケ申上ゲテ置キマス
國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=53
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054・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 能ク分リマシタ、サウ云フコトデアリマス
1/十分其問題ハ考究イタシマシテ、適當ナル處置ヲ取ル積リデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=54
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055・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 本員ハ外務大臣ノ御答辯ニ信賴イタシマシテ、十分ナル
注意ヲ將來願ッテ置キマス、而シテ本案ニハ贊成イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=55
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056・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開イテ御異存ゴザイマセヌカ
「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=56
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057・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=57
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058・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=58
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059・五條爲功
○子爵五條爲功君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=59
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060・藪篤麿
○子爵藪篤麿君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=60
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061・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴ
ザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=63
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064・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=64
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065・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=65
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066・五條爲功
○子爵五條爲功君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=66
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067・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=67
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068・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=68
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069・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=69
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070・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス
win発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=70
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071・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第六ヨリ第十九マデ、請願會議
意見書案
屯田兵ノ恩給ニ關スル件
北海道空知郡沼貝町平民農常盤房次外八十一名呈出(二通)
北海道上川郡永山村農松野萬壽外五十四名呈出
右ノ請願ハ屯田兵ハ北疆ノ警備及開拓ニ任シ豫備役編入後ト雖尙現役ト等
シキ役務ニ服シタルニ拘ラス恩給法ノ改正ニ伴ヒ現役期間ハ恩給年數ニ加
算セラルルニ反シ豫備役期間ノ此レニ加算セラレサルハ甚遺憾ナルニ依リ
速ニ豫備役期間ヲモ公務員在職年ニ通算スルヤウ相當ノ措置ヲ講セラレタ
シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議
院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
製瓦研究所設置ノ件
福井縣丹生郡吉野村平民商靑木嘉七呈出
右ノ請願ハ本邦建築物ノ屋上葺覆材料ハ主トシテ在來ノ瓦ナルカ爲製造業
者亦多數ニシテ生產高莫大ナル·ニ拘ラス製瓦術ハ逐年退步シ粗製濫造ニ流
レ啻ニ耐久力ナキノミナテス吸水量極メテ多ク從テ棟梁、垂木、裏板等ヲ
腐朽セシメ建築物ノ保存期限ヲ短縮セシムルノ損害尠カラサルハ國民生活
上甚遺憾ナルニ依リ國費ヲ以テ製瓦研究所ヲ設ケ全國的製瓦ノ改良ヲ促ス
ト共ニ其ノ規格ヲ統一セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採
擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
御料拂下地免租年期ニ關スル件
北海道上川郡神樂村長安達利三郞呈出
右ノ請願ハ北海道ニ於ケル拂下御料地ノ開墾ハ同道國有未開地ノ開墾ト何
等擇フトコロナキニ拘ラス國有未開地ノ地種變更免租年期ヲ與ヘラルルニ
比シ未適當ノ恩典ヲ與ヘラレサルハ權衡上甚遺憾ナルニ依リ拂下御料地ニ
モ國有未開地ニ於ケルト等シク地租及地方稅免租年期ノ特典ヲ與ヘラレタ
シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議
院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
部落問題ノ國策確立ニ關スル件
東京市赤坂區靑山南町華族全國融和聯盟常任委員同愛會會長有馬賴寧·外
八名呈出
右ノ請願ハ部落問題ノ解決ハ我國當面ノ緊要事ナルニ拘ラス當局ノ之ニ對
スル何等積極的方策ヲ見ス爲ニ益其ノ紛糾ヲ擴大セムトスルハ甚遺憾ナル
ニ依リ速ニ一定ノ國策ヲ確立シ以テ國民融和運動ノ助長、因襲的差別親念
ノ根絕及年額三百萬圓以上ノ豫算ヲ計上シ少クトモ十箇年間ノ繼續支出ト
シテ〓育竝經濟施設ニ對スル奬勵助成等其ノ他請願人等所案ノ如キ各項ノ
施設ヲ講シ國民諧和ノ實ヲ擧ケラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
貴生川、加茂間鐵道速成ノ件
京都府相樂郡中和束村長西井行次郞外十一名呈出(二通)
右ノ請願ハ未成線鐵道信樂線鐵道ハ產業開發上竝運輸交通上貢獻スルトコ
ロ多大ナルニ拘ラス先ニ財政緊縮ノ影響ヲ蒙リ其ノ起工ヲ延期セラレタル
ハ甚遺憾ナルヲ以テ昭和二年度ヨリ之ヲ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依
リ別冊及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
水產會國庫補助增額ノ件
東京市麴町區內山下町帝國水產會會長男爵村上隆吉呈出
右ノ請願ハ水產業ノ隆盛ハ全國斯業者ノ系統的自治機關タル水產會ノ活躍
ニ俟ツモノ多キニ拘ラス政府ノ同會ニ對スル國庫補助金ハ其ノ額僅少ニシ
テ十分ナル效果ヲ擧ケ得サルハ甚遺憾ナルニ依リ同補助金ヲ少クトモ年額
十万圓ニ增額セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
國立水產試驗場設立ノ件
東京市麴町區内山下町帝國水產會會長男爵村上隆吉呈出
右ノ請願ハ水產ニ關スル試驗調査機關トシテ水產講習所及地方水產試驗場
ノ設置アルモ前者ハ〓育機關タル任務ヲ兼子後者ハ財政上ノ關係ニ制肘セ
ラルル爲共ニ業績不振ヲ免レサルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ有力ナル國立水
產試驗場ヲ設置シ以テ試驗調査機關ノ組織竝運用ニ就キ根本的改革ヲ行ハ
レタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
日露漁業協約ニ關スル件
東京市麴町區內山下町帝國水產會會長男爵村上隆吉呈出
右ノ請願ハ日露漁業協約ハ本邦北洋漁業ノ樞軸ニシテ啻ニ關係漁業者及將
來之ニ參加セムトスル一般漁業者ノ利害得失ニ甚大ノ影響ヲ及ホスニ止ラ
ス明治三十七八年戰役ノ結果タル關係ニ於テ國威ノ消長ニ關スルトコロア
ルニ鑑ミ速ニ之ヲ改訂シ以テ利權ノ確保ニ遺算ナキヲ期セラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
熊本遞信局海事部下關出張所存置ノ件
山口縣下關市水產會會長三由仁作外九名呈出
右ノ請願ハ近時熊本遞信局長崎海事部ヲ門司市ニ移轉セシメ下關市ニ在ル
同海事部下關出張所ヲ廢止スルヤニ仄聞スルモ斯クテハ本邦海運界ノ不振
ヲ招來スル虞アルノミナラス延イテ斯業關係者ニ甚大ナル損害ヲ與フルニ
至ルヲ以テ同出張所ヲ存置セラレタク若シ存置シ能ハサル場合ハ現在ノ海
事事務處理上支障ナキ程度ノ事務所ヲ設置セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族
院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
三重縣一志郡米ノ庄村大字上ノ庄ニ停車場設置ノ件
三重縣一志郡米ノ庄村長米本平左衞門外四名呈出
右ノ請願ハ三重縣一志郡米ノ庄村大字上ノ庄ハ所謂一志米ノ生產地ニシテ
附近ニハ名所舊蹟散在シ將來貨客ノ集散繁多ナルヘキコト明カナルニ拘ラ
ス近時名松線鐵道線路實測ノ結果其ノ起點タル松阪驛ヨリ第一停車場トシ
テ同地ヨリ約五哩ヲ距ル同郡豐田村大字權現前ニ之ヲ設置セラルルヤニ聞
クモ斯クテハ交通上村民ノ不便不利尠カラサルハ甚遺憾ナルヲ以テ同地ニ
停車場ヲ設置セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
網走、中湧別間鐵道敷設ノ件
北海道網走郡網走町公吏山内鐵藏外三百二十八名呈出
右ノ請願ハ豫定線鐵道網走、中湧別間鐵道ハ沿線地方ニ於ケル利源ヲ開發
シ拓殖上重要ノ線路ナルニ拘ラス未其ノ開通ヲ見サルハ甚遺憾ナルニ依リ
速ニ之ヲ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
上磯、松前兩鐵道敷設ノ件
靑森縣東津輕郡瀧内村長手塚宗太郞外十五名呈出
右ノ請願ハ豫定線タル所謂上磯鐵道竝松前鐵道ハ沿線地方ニ於ケル豐富ナ
ル林產、水產等幾多ノ利源ヲ開發スルノミナラス兩者相俟テ本州、北海道
間ノ交通連絡上ニ多大ノ貢獻ヲ爲シ產業發展上竝運輸交通上重要ノ線路ナ
ルヲ以テ速ニ之ヲ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採
擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
白河、廣田間鐵道敷設ノ件
福島縣西白河郡白河町長丸野實行呈出
右ノ請願ハ東北本線鐵道白河驛ヨリ福島縣岩瀨郡長沼地方及安積郡福良村
ヲ經テ磐越西線鐵道廣田驛ニ達スル鐵道ハ沿線地方ニ於ケル林產及鑛產等
ノ利源ヲ開發スルノミナラス風光明媚ナル磐山猪水ヲ探勝スル旅客ニ利便
ヲ與フル等運輸交通上ニ貢獻スルコト多大ナルヲ以テ速ニ之ヲ敷設セラレ
タシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ
議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿
意見書案
木次、三次間鐵道敷設ノ件
島根縣飯石郡吉田村平民農田部長右衞門外百三十五名呈出
右ノ請願ハ簸上鐵道木次驛ヨリ島根縣飯石郡三刀屋村頓原村及赤名村等ヲ
經テ藝備鐵道三次驛ニ達スル鐵道ハ山陰山陽ヲ連絡シテ物貨集散ノ系統ヲ
完フスルノミナラス國防上竝地方開發上亦重要ノ線路ナルヲ以テ速ニ之ヲ
敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
昭和二年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣若槻禮次郞殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=71
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072・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是等ノ請願モ請願委員長ノ報告通リデ御異存ゴザ
イマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=72
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073・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認メマス、次ノ議事日程ハ、決定次
第御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後四時三十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02119270314&spkNum=73
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