第52回帝国議会　貴族院　本会議　第27号　昭和2年3月25日

1. 会議録本文

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• 000・会議録情報

  　　昭和二年三月二十五日（金曜日）
  　　　　午前十時十四分開議
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　　議事日程　第二十七號　昭和二年三月二十五日
  　　　　午前十時開議
  　　第一　請願委員長報告
  　　第二　花柳病豫防法案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第三　昭和二年度歳入歳出總豫算追加案（第一號）　　會議（委員長報告）
  　　第四　昭和二年度歳入歳出總豫算追加案（第二號）　　會議（委員長報告）
  　　第五　昭和二年度各特別會計歳入歳出豫算追加案（特第一號）　會議（委員長報告）
  　　第六　昭和二年度各特別會計歳入歳出豫算追加案（特第二號）　會議（委員長報告）
  　　第七　豫算外國庫の負擔となるへき契約を爲すを要する件（追第二號）　　會議（委員長報告）
  　　第八　大正十三年度第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第九　大正十三年度特別會計第一豫備金支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第十　臨時軍事費特別會計豫備費支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第十一　自大正六年二月二十六日至大正九年六月二十五日臨時軍事費特別會計豫備費外に於て豫算超過支出の件（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第十二　大正九年法律第五十六號中改正法律案（衆議院提出）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第十三　國政の振作に關する決議案（男爵阪谷芳郎君發議）　會議
  　　第十四　株式會社日華協信公司救濟に關する請願　　　　會議
  　　第十五　建築士法制定に關する請願　　　　　　　　　　會議
  　　第十六　産業組合に對する登録税免除に關する請願　　　會議
  　　第十七　青森港修築に關する請願　　　　　　　　　　　會議
  　　第十八　御肖像竝勅語掲載の印刷物取締に關する請願　　會議
  　　第十九　人口竝食糧問題調査の請願　　　　　　　　　　會議
  　　第二十　漁船保險制度確立の請願　　　　　　　　　　　會議
  　　第二十一　水産教育振興に關する請願　　　　　　　　　會議
  　　第二十二　商工會法制定の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第二十三　公有林野官行造林事業に關する請願　　　　　會議
  　　第二十四　林野基本調査に關する請願　　　　　　　　　會議
  　　第二十五　國有林野所在市町村に對し交付金下付の請願　會議
  　　第二十六　森林火災保險に關する請願　　　　　　　　　會議
  　　第二十七　義務教育年限延長に關する請願　　　　　　　會議
  　　第二十八　福島地方裁判所白河支部存置の請願　　　　　會議
  　　第二十九　枝幸漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第三十　御肖像掲載の印刷物取締に關する請願　　　　會議
  　　第三十一　雄物川改修の請願　　　　　　　　　　　　　會議
  　　第三十二　飫肥區裁判所出張所設置の請願　　　　　　　會議
  　　第三十三　青島鹽業補償金交付再審査に關する請願　　　會議
  　　第三十四　鰺ケ澤漁港修築の請願　　　　　　　　　　　會議
  　　第三十五　國有林伐採に關する請願　　　　　　　　　　會議
  　　第三十六　雄武漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第三十七　チプトマリ漁港修築の請願　　　　　　　　　會議
  　　第三十八　古平漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第三十九　余別漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第四十　八雲漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第四十一　美國漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第四十二　辨邊漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第四十三　戸井漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第四十四　根室地方に漁港修築の請願　　　　　　　　　會議
  　　第四十五　釣懸港に船入澗式漁港修築の請願　　　　　　會議
  　　第四十六　福山漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第四十七　芽室、トムラウシ間鐵道敷設の請願　　　　　會議
  　　第四十八　鵡川、金山間鐵道敷設の請願　　　　　　　　會議
  　　第四十九　名寄、羽幌間鐵道敷設の請願　　　　　　　　會議
  　　第五十　小頓別、幌別間鐵道敷設の請願　　　　　　　會議
  　　第五十一　松前鐵道敷設の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第五十二　厚床、標津間鐵道敷設の請願　　　　　　　　會議
  　　第五十三　旭橋改築の請願　　　　　　　　　　　　　　會議
  　　第五十四　石狩川河口改修の請願　　　　　　　　　　　會議
  　　第五十五　根室原野植民軌道敷設の請願　　　　　　　　會議
  　　第五十六　國立種馬所設置の請願　　　　　　　　　　　會議
  　　第五十七　バター輸入關税引上に關する請願　　　　　　會議
  　　第五十八　渡良瀬川水源涵養に關する請願　　　　　　　會議
  　　第五十九　雨龍原野土地改良に關する請願　　　　　　　會議
  　　第六十　厚内漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　　會議
  　　第六十一　石狩川架橋の請願　　　　　　　　　　　　　會議
  　　第六十二　鐵道軌道業者救濟に關する請願　　　　　　　會議
  　　第六十三　琿春事變遭難者救濟に關する請願　　　　　　會議
  　　第六十四　開墾主要工事國營に關する請願　　　　　　　會議
  　　第六十五　猿拂漁港修築の請願　　　　　　　　　　　　會議
  　　第六十六　佐伯營林署復設の請願　　　　　　　　　　　會議
  　　第六十七　實業補習教育振興に關する請願　　　　　　　會議
  　　第六十八　癩自由療養地設置の請願　　　　　　　　　　會議
  　　第六十九　岡山縣下に國立煙草試驗場設置の請願　　　　會議
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• 001・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ諸般ノ報告ヲ致サセマス
  〔山本書記官朗讀
  昨二十四日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可
  決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
  昭和二年度歲入歲出總豫算案
  豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件
  市町村義務〓育費國庫負擔法中改正法律案
  保稅倉庫法中改正法律案
  保稅工場法案
  防火地區內借地權處理法案
  震災被害者ニ對スル租稅ノ免除猶豫等ニ關スル法律案
  同日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案(衆議院囘付)ハ卽日裁可ヲ奏請
  シ又衆議院ノ修正ニ同意シタル旨ヲ同院ニ通知セリ
  商工會議所法案
  同日本院ニ於テ可決シタル左ノ建議ハ文書ヲ以テ卽日之ヲ政府ニ呈出セリ
  海事水產金融制度ニ關スル建議
  불고东方

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• 002・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ會議ヲ開キマス、日程第一、請願委員長報告
  〔伯爵酒井忠克君演壇ニ登ル〕

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• 003・酒井忠克

  ○伯爵酒井忠克君　請願委員會ノ經過竝ニ結果ニ付キマシテ、第三囘ノ御報
  告ヲ致シマス、第二囘ノ御報告ヲ致シマシテヨリ以後ニ於キマシテ、委員會
  ハ一囘開會イタシマシタ、分科會ハ總テデ五囘開會イタシテ居リマス、第
  分科ハ二囘、第二分科、第三分科、第四分科各一囘ヅツ開會イタシテ居リマ
  ス、請願文書表報告ハ二囘、請願委員會特別報告ハ一囘提出イタシマシタ、
  第二囘報告以後ニ於キマシテ、受領イタシマシタル請願書ノ件數ハ四十二件
  六十三通デアリマス、其連署人名數ハ三千六百九十二名デゴザイマス、而シ
  テ第二囘報告ノ際、文書表未揭載件數ガ五十八件、五十八通ゴザイマシタカ
  ラ、之ヲ四十二件ニ合シマスルト、計百件百二十一通ト相成リマス、第二囘
  報告以後提出イタシマシタル文書表、第九囘、第十囘ニ揭載イタシマシタル
  件數ハ八十八件ト八十九通デゴザイマス、其外ニ第二囘報〓ノ際、文書表ニ
  揭載イタシマシタケレドモ審査未了ニ屬シテ居リマス分ガ二百三十六件三百
  九十二通ゴザイマスルカラ、之ヲ合シマスルト計一一百二十四件四百八十一
  通トナリマス、以上ノ諸件ニ付キマシテ審査イタシマシタル結果、院議ニ付
  スベシト議決シタルモノ五十六件五十八通デゴザイマス、審査未了ノモノハ
  二百六十八件四百二十三通デゴザイマス、尙ホ請願文書表ニ未揭載ニナッテ
  居リマスモノハ十二件三十二通デゴザイマス、以上ハ昨二十四日午後四時ニ
  締切リマシタ第三囘分ノ報告デゴザイマス、續キマシテ請願審查總報〓ヲ申
  上ゲマス、委員會ハ今會期中總テデ六囘開會イタシマシタ、分科會ハ總テデ
  二十一囘デゴザイマシテ、其內譯ヲ申上ゲマスレバ第一分科ガ六囘、第二分
  科第三分科第四分科各五囘ヅツ開會イタシテ居リマス、請願文書表報告ハ十
  囘、請願委員會特別報告ガ五囘提出サレテ居リマス、請願書受理件數ハ總テ
  四百五件五百八十六通デゴザイマス、其連署人名數ハ六万七千三百五十八名
  デゴザイマス、其內、請願文書表ニ揭載イタシマシタ件數ハ三百九十三件五
  百五十四通デゴザイマス、以上ニ付キマシテ審査イタシマシタル結果、院議
  ニ付スベシト議決シタルモノ百六件百十通デゴザイマス、院議ニ付スルヲ要
  セズト議決シタルモノ十九件二十一通、審查未了ノモノ二百六十八件四百二
  十三通デゴザイマス、尙ホ請願文書表未揭載ノ件數ガ十二件三十二通デゴザ
  イマス、以上ハ昭和二年三月二十四日午後四時締切ニ於キマスル請願報〓ノ
  總テデゴザイマス
  川市小平小堂

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• 004・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第二、花柳病豫防法案、政府提出、衆議院送
  付第一讀會ノ續、委員長報告、柳澤伯爵
  花柳病豫防法案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
  昭和二年三月二十四日
  右特別委員長
  伯爵柳澤保惠
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔伯爵柳澤保惠君演壇ニ登ル〕

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• 005・柳澤保惠

  ○伯爵柳澤保惠君　花柳病豫防法案ノ特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ簡單ニ御
  報告申上ゲマス、本案提出ノ理由ハ、先般政務次官ヨリ本議場ニ於キマシテ
  御說明ガアリ、又衆議院ノ修正ニ係リマス分ニ付キマシテモ、尙ホ其際說明
  ガゴザイマシタニ依リマシテ、是ハ委員長ヨリ報〓イタスコトヲ略シマス、
  唯本案ノ審議ノ結果ヲ申上ゲマスル前ニ、一言申上ゲテ置キタイコトガゴザ
  イマス、ソレハ本案ハ御承知ノ通リ、花柳病豫防ニ關スル法律デアリマスガ、
  花柳病ノ全國ニ於キマスル所ノ罹病ノ趨勢ハ······是ハ疾病ノ一齊調査ヲヤッ
  テ居リマセヌカラ、果シテ全國民ノ何割ガ此罹病者デアルカハ分リマセヌ
  ガ、併ナガラ他ノ代表的方面ニ於キマスル所ノ斷片的ノ調査ニ依リマシテ、
  此趨勢ノ容易ナラヌコトガ分ルノデアリマス、一例ヲ申上ゲマスレバ、徵兵
  ニ際シマシテ入營以前ノ壯丁ノ檢査ハ、漸次、花柳病ノ徵候ニ付キマシテ觀
  察シマスト、減退シテ居ル情勢デアリマス、併ナガラ入營後ノ壯丁ノ罹病率
  ハ、是ハ漸次增シテ居ルヤウニ、統計ニ於テ現ハレテ居ルノデアリマス、而
  シテ尙ホ花柳病ノ源泉トモ申スベキ所ノ密淫賣婦及娼妓ノ罹病率ニ付キマシ
  テハ、是ハ更ニ減退ノ樣子ガ無イノデアリマス、內務省ノ說明ニ依リマスル
  !、娼妓ノ罹病率ハ百ニ對シテ二位デアル、併ナガラ密淫賣者ノ罹病率ハ、
  或ル特定ノ地ニ於キマシテハ、百分ノ六十乃至六十五位デアリマス、之ヲ全國
  ニ付テ見マスト、百分ノ二十位ニナリマスガ、兎ニ角此率ハナカ〓〓看過シ
  難イ所ノ樣子デアルノデアリマス、此原案ニ付キマシテハ餘リ質問ガゴザイ
  マセヌガ、唯二三ノコトヲ先キニ申上ゲテ置キマス、ソレハ此法律ハ强制的
  ノ檢診ヲスルノカドウカ、之ニ對シマシテハ左樣デハナイ、任意ノ檢診ヲスル
  ノデアル、又男ヲ問ハナイヤウデアルガ、ソレハドウデアルカ、此法ニ依リ
  マスルト、無論男女ヲ問ハズ罹病者ノ賣淫行爲ニ付テハ制裁ガ加ハルノデア
  リマス、併ナガラ主トシテ接客業者······主ニ是ハ婦人デアリマスガ、是ガ矢
  張リ罹病ノ泉源トナルノデアリマスカラ、主ニ之ニ付テノ取締ヲスルコトニ
  ナッテ居ルノデアル、ソレカラ又醫師ニ對スル制裁ガ無イガドウカト云フ御質
  問ガアリマシタ、成程ソレハゴザイマセヌ、併ナガラ醫師ニ對シマシテハ、
  此法ガ行ハレル時ニナリマスレバ、相當ノ注意ヲ加へ種々指示スルコトガア
  ルニ依ッテ、醫師ニ對スル制裁ハナクテモ、效力ハ認メラレルト云フコトデア
  リマシタ、以上ハ主ニ原案ニ付テノ質問デアリマスガ、論議ノ起リマシタノ
  ハ、衆議院ヨリ修正ニナリマシタ最後ノ條項ニ關シテデアリマス、是ハ特ニ委
  員カラハ御質問ガ少カッタノデアリマスガ、委員外ノ方ガ兩名出ラレマシテ、
  該博ナル知識ヲ以テ盛ニ論述セラレマシタ、故ニ委員ノ數ハ九名デアリマス
  ケレドモ、實際ハ十一名ノヤウナ狀況ヲ呈シタノデアリマス、其主ナル質問
  ハ、大體本議場ニ於テ申サレタ分ニ似テ居ルノデアリマスガ、尙ホソレニ關シ
  テ微細ナ點、例ヘバ新藥ニ付テハドウデアルカ、新製劑ニ付テハドウデアルカ
  ト云フ細カイ質問モ出マシタシ、又外國ニ於ケル賣藥ノ取締法ノ御質問モアッ
  タノデアリマス、特ニ有力ト思ハレル御質問ハ、是ハ賣藥法ノ改正ニ俟ッタ
  ラ宜イデハナイカ、木ニ竹ヲ接グヤウナ事ヲ、特別法ニ於テスルノハ不都合
  デハナイカ、法制ノ上カラ見テモ是ハイケナイデハナイカト云フ御質問ガア
  リマシタ、成程ソレハ一理アル御意見デアリマスガ、併ナガラ賣藥法ノ改正
  ハ何時行ハレルノデアルカ、是ハマダハッキリ言明セラレテ居ラレマセヌ、而
  シテ「トラホーム」、癩結核ト云フヤウナ病氣ニ對シマシテハ、特別法規ハ
  ゴザイマスルガ、ソレニ付テ別ニ斯樣ナ醫藥ニ關スル規定ハナイノニ、之ニ
  限ッテ有ルノハ不都合デアルト云フ御質問デゴザイマシタガ、併ナガラ只今
  申上ゲマシタ如ク、賣藥法規ヲ昨今改メルト云フ意思ハナイ、マダ調査中デ
  アリマスガ、是ガ何時改正ニナルカ目途ガ著イテ居ラヌノデアリ、幸ヒ斯樣ナ
  所ノ法案ガ出タ以上ハ、殊ニ此病氣ノ性質ニ鑑ミテ、此際特ニ玆ニ斯樣ナ賣藥
  ニ關スル條項ヲ加フルモ强チ不都合デハナイ、外國ニ於テモ斯樣ナ例モアル
  ノデアル、左樣ナ答辨デアリマシタ、而シテ此事柄ハ、賣藥業者ニ對シテ既
  得ノ權ハ侵シテ居ナイ、卽チ是迄ノ賣藥ニ關シテハ當分ノ中此條ヲ適用セヌ
  ノデアル、ソレニ付キマシテ、當分トハドウ云フモノカ、當分ニハ五日モ六
  日モアレバ、二十年モアッテ、當分ノ意味ハ非常ニ廣イガ、ドウ云フモノデ
  アルト云フコトデアリマシタ、之ニ付テ當分ノ意味ニ付テ、政府ヨリハ確タ
  ル答辯ハゴザイマセヌガ、委員長ノ察スル所デハ、餘リ近キ將來デハナイヤ
  ウニ考ヘラレルノデアリマス、遠イ將來デアラウト云フコトニ推測シタノデ
  アリマス、サスレバ現時ノ賣藥業者ニ對シテ何等ノ苦痛モナク、殊ニ斯樣ナ
  賣藥ニ對シ一層其內容ヲ明カニスルコトハ、病氣ノ防遏ニ於テモ、又種々ノ
  點ニ對シテモ、有效デアルト云フコトガ、委員會ニ於テソレヲ首肯シタノデア
  リマス、併ナガラ本案ノ採決ニ當リマシテ、一委員ヨリ、衆議院ノ追加條項ヲ
  削除スル、卽チ初ノ案ニシタイト云フ御議論ガ出マシタ、又之ニ對シマシテ、
  本案ヲ維持スル論モ出マシテ、就中或ル委員ヨリハ、是ニハ特效藥ガアルノ
  デアル、他ノ病氣ニ付テハ特效藥ト云フモノモ餘リ無イガ、此病氣ニ付テハ
  現ニ有ルノデアルカラ、尙更斯樣ナモノヲ附加へルノハ宜イダラウト云フヤ
  ウナ御論ガアリマシテ、結局衆議院案ニ對シテ其修正追加條項ヲ削ルト云フ
  論ハ消滅イタシマシタ、卽チ衆議院ノ修正通リ、原案ガ大多數ヲ以テ可決ニ
  相成リマシタ、之ヲ以テ簡單ナガラ報告ヲ了リマス
  〔津村重舍君演壇ニ登ル〕

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• 006・津村重舎

  ○津村重舍君　只今委員長ノ御報告ガ誠ニ詳細デアリマシテ、殆ド意味ヲ盡
  シテ居リマスカラシテ、大抵分ッテ居リマスガ、チヨット質問ヲ致シタイト思フ
  ノデアリマス、何分會期モ切迫イタシマシテ、衆議院デ大變ナ混亂ニ陷ッテ
  居リマスルノデ、此案ニ付テ萬一又變動デモアルト云フ場合ニハ、大變ナ
  ル······豫算ガ不成立ニナルト云フヤウナ問題ニマデ行クカモ測ラレヌノデア
  リマスカラ、此際ハ敢テ爭フト云フコトナク、唯政府ニ聊カ伺ッテ置キタイ
  ト思フノデアリマス、今囘ノ衆議院ノ修正案ハ、花柳病豫防法案ト云フコト
  ニ付テ、序デニ此賣藥法ノ改正ヲ行ウテ居ルノデアリマスガ、若シ賣藥法ノ
  改正ヲスルナラバ、中央衞生委員會ニ掛ケテ愼重審議ノ上ニ、內務省ガ賣藥
  法ノ改正ナドハ進行ナサルノデアリマスガ、今囘ニ限ッテ斯ウ云フ賣藥法ノ
  改正ヲ、特別法ヲ以テ改正スルト云フコトハ、法律ノ體系ニ於テモ統一ヲ缺
  ク次第デアルト思フノデアリマス、又我〓同業者ノ業權ニ關スル事デアルカ
  ラシテ、我〓モ能ク之ヲ審議シナケレバナラヌノデアリマスガ、之ヲ忽チニ
  シテ、衆議院ノ小委員ノ內ニ二三ノ委員ガ格鬪ヲシテマデ之ヲ決メタト云フ
  コトデアリマシテ、若シ此案ガ通過シナケレバ我〓ハ脫黨スルト云フヤウナ
  コトニ至ッタサウデアリマスガ、斯ノ如ク衆議院ガ混亂ヲシテ居ル際ニ、又
  相爭フト云フコトハ私ハ餘リ好ミマセヌ、將來內務大臣ガ斯ノ如キ特別法ヲ
  以テ賣藥法ヲ改正スルト云フヤウナ御考ガアルカドウカト云フコトヲ伺ヒタ
  イノデアリマス、ソレガアリマセヌヤウナラバ、敢テ今囘ハ、斯ウ云フ時期
  切迫ノ際ニ貴重ノ時間ヲ費シテ彼是スルト云フコトハ、甚ダ宜クナイト思ヒ
  マスカラ、此際ハ隱忍スル考デゴザイマス
  國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕

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• 007・濱口雄幸

  ○國務大臣(濱口雄幸君)　只今ノ御質問ニ對シマシテ、簡單ニ政府ノ意ノア
  ル所ヲ御答ヘ致シマス、將來特別法ヲ以チマシテ賣藥法ノ原則ヲ變更スルト
  云フ考ハ、政府ト致シマシテハ持ッテ居リマセヌ賣藥法ノ原則ノ變更ハ、賣
  藥法自體ノ改正ニ俟ツノガ至當デアラウト考ヘテ居リマス、是ダケ御答ヲ申
  上ゲマス

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• 008・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　他ニ御發言モナイト認メマスカラ、本案ニ付テ採
  決ヲ致サウト存ジマス、本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌカ
  [「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 009・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

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• 010・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
  ス

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• 011・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=11

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• 012・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=12

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• 013・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  华东市末

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• 014・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　全部ヲ問題ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴザイ
  マセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 015・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=15

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• 016・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　直チニ本案ノ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマ
  ス

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• 017・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　贊成

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• 018・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　西大路子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 019・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  市立小豆

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=19

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• 020・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 021・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  美南市

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• 022・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第三、昭和二年度歲入歲出總豫算追加案第一
  號第四、昭和二年度歲入歲出總豫算追加案第二號、第五、昭和二年度各特
  別會計歲入歲出豫算追加案特第一號、第六、昭和二年度各特別會計歲入歳出
  豫算追加案特第二號、第七、豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要ス
  ル件追第二號、會議、委員長報告、豫算委員長林伯爵
  一昭和二年度歲入歲出總豫算追加案(第一號)
  一昭和二年度歲入歳出總豫算追加案(第二號)
  一昭和二年度各特別會計歲入歲出豫算追加案(特第一號)
  一昭和二年度各特別會計歲入歲出豫算追加案(特第二號)
  一豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件(追第二號)
  右衆議院ヨリ送付シタル各案ヲ審査シ總テ衆議院議決案ノ通可決スヘキモ
  ノナリト議決セリ依テ及報告候也
  昭和二年三月二十四日
  豫算委員長
  伯爵林博太郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔伯爵林博太郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=22

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• 023・林博太郎

  ○伯爵林博太郞君　只今日程ニ上リマシタ昭和二年度歲入歲出總豫算追加案
  第一號、同ジク第二號、昭和二年度各特別會計歲人歲出豫算追加案特第一號、
  同ジク特第二號、豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件、追第
  二號、右各案ノ豫算委員會ノ經過ヲ御報告イタシマス、三月二十二日ニ委員
  付託ト相成リマシテ、三月二十二日、卽チ同日ノ午後一時ニ總會ヲ開イテ質
  問ヲ致シマシタ、三月二十三日午後一時半ニ總會ヲ開キマシテ、尙ホ二三質
  問ヲ爲シ、而シテ後討論採決ニ移リマシタ次第デアリマス、此第一號ハ歲入
  歲出各、二千百七万五千餘圓デアリマス、第二號ニアリマシテハ歲入歲出各〓
  七百九十万圓餘デアリマス、其他ノ三案ニ付キマシテハ之ヲ省略イタシマス
  ガ、何レモ法律案ノ施行ニ伴フ必要已ムヲ得ザルモノ、又官衙建築上緊急必
  要ナルモノ、暴風雨災害ノ爲ニ其復舊費ヲ要スルモノ等デアリマシテ、必要
  缺クベカラザル豫算デアリマス、質問ノ要項ハ、簡單ニ申上ゲマスト、地方
  稅殊ニ家屋稅ト戶數割ノ關係、又最近不幸ノ出來事ガアリマシタ霧島丸、
  若宮丸、是ガ暴風雨ニ際會シマシタルニ際シテ、橫須賀鎭守府ヨリ驅逐艦ノ
  送リ方ガ極メテ緩漫デアッタ、或ハソレガ爲ニ救助ガ遲レテ非常ナ慘澹タル結
  果ヲ來シマシタモノデハナイカト云フヤウナ御質問ガアッタノデアリマス、
  併シ斯ノ如キ非常ニ風波ノ高イ際ニ於テハ、何万噸ノ軍艦ト雖モ其自由ヲ失
  スルノデアッテ、殊ニ海岸ヨリ極ク近イ所デハ、如何ナル軍艦ト雖モ容易ニ
  之ヲ救助スルト云フコトハ出來ナイノデアルガ、併シ之ニ付キマシテハ最善
  ノ努力······非常ナ斯ウ云フ際ノコトデアリマスカラシテ、何等經費ノ上ニ付
  テ吝ンデ之ヲ躊躇シタ譯デハナイ、海軍トシテハ全力ヲ盡シテヤッタノデア
  ルト云フ御答デアリマシタ、尙ホ郵船會社ニ於ケル船員ノ「ストライキ」ニ付
  テ、質問竝ニ御注意ガ出タノデアリマス、又日比谷公園內ノ市政調査會ノ建
  築物ニ付テノ問答、移民助成費百八十万圓ヲ、唯、一囘キリ豫算ニ上セテ居
  ルガ、斯ノ如キ重大デアル我國ノ永遠ノ政策ニ關係アルモノガ、ドウシテ斯
  ノ如ク簡單ニ解決スルヤウナ意味ニ於テ出サレタノデアルカ、ト云フヤウナ
  質問竝ニ御注意ガアッタノデアリマス、尙ホ公債政策ニ付テノ質問モアリ、臺
  灣銀行ニ付テノ質問モ出マシテ、軈テ質問終了シテ討論ニ這入リマシタ、討
  論ノ際ニハ贊成論ガ出マシタダケデアリマス、軈テ採決ヲ致シマシタル所、
  此豫算各案ハ全會一致ヲ以テ可決ニ相成リマシタ次第デアリマス、此段御報
  告イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=23

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• 024・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　チヨット政府ニ御尋ネ致シマスガ、昭和二年度特別會計ノ
  本豫算ハ今衆議院ニ在ルト思ヒマス、今朝ノ新聞ヲ見マスト、衆議院ハ餘程
  混亂デアッテ、或ハ特別會計ノ豫算ガ不成立ニナリハセヌカト云フコトガ見エ
  テ居リマス、今昭和二年度ノ追加豫算ヲ茲ニ二ツ決議セムトシテ居リマスガ、
  本豫算案ノ決定ヲ待ッテカラ追加豫算ヲ可決スルコトガ順序デハアリマスマ
  イカ、若シ本豫算ノ方ガ否決ニナッテ、追加豫算ガ成立チマスト、前年度ノ特
  別會計ノ豫算ニソレヲ繼ギ足サナケレバナラヌ、其場合ニハ、或ハ其款項其
  他ガ其儘事實行ハレナイコトニナリハセヌカト思ヒマス、若シ政府ニ於テ御
  差支ガアレバ、衆議院ノ態度ガ決マルマデ、此特別會計ノ追加豫算ダケハ決
  議ヲ延バシタ方ガ宜クハアリマスマイカ、應御尋ネ致シマス
  〔國務大臣片岡直温君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=24

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• 025・片岡直温

  ○國務大臣(片岡直温君)　阪谷男爵ノ御質問ニ御答ヲ申上ゲマス、追加豫算
  ハ當リ前申シマスト、御尋ノ通ノヤウニモ考ヘラレマスガ、政府ハ是ハ獨立
  シテ御協賛ヲ願ッテ宜シイカト考ヘテ居ルノデアリマス、衆議院ハ未ダ議了ハ
  致シマセヌガ、多分不成立ニ了ルヤウナコトモナイト信ジテ居リマスガ、ソ
  レニ拘ラズ此追加豫算ハ獨立シ得ルモノト信ジテ居ル次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=25

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• 026・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　本員ハ只今、今ノ疑ヲ持チマシタノデ、十分調査イタシ
  テ居リマセヌガ、追加豫算ト云フモノハ、元ト豫算ガアル所ニ繼ギ足スノデ
  アル、若シ衆議院ニ於テ、今アル豫算ガ不成立ニナリマスト、前年度豫算ヲ
  施行スルコトニナル、サウスルト今此處ニ書イテアル款項モ違ヒ、金額モ違ッ
  テ來ナケレバナラヌ、ソコデ政府ノ追加ハ、衆議院ニ送付シテアル新シイ豫
  算ノ款項ト金額ニ依ッテ出來テ居ル、木ト竹ヲ接グヤウニ、ドウモ變ナモノニ
  ナルヤウニ思フ、大藏大臣ハ差支ナイト言ハレルケレドモ、本員ハ差支アル
  ヤウニ思ヒマス
  〔政府委員河田烈君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=26

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• 027・河田烈

  ○政府委員(河田烈君)　再度ノ御質問ニ私カラ御答へ致シタイト思ヒマス、
  管〓シク申上ゲル迄モナク、帝國ノ豫算ノ編成ノ方法ト致シマシテ、阪谷男
  爵モ既ニ御承知アラセラレマスル通リ、總豫算主義ヲ執ッテ居リマス關係上、
  阪谷男爵ノ御說モ、學說ト致シマシテハ極メテ有力ナル御論ト私共考ヘ得ル
  ト思ヒマス、併ナガラ總豫算、之ニ對スル各特別會計豫算、竝ニ之ニ對シ
  マスル所ノ各追加豫算ハ、各〓獨立シタル所ノ一箇ノ豫算ト致シマシテ御協
  贊ヲ經、政府ハ之ヲ施行スルコトヲ得ルコトニ從來解釋セラレテ居リマス、
  別個ニ個々獨立シテ居ルモノト云フ解釋ノ下ニ、先例モナッテ居リマスノデ、
  最モ著シキ例モ數年前ニゴザイマシタガ、其前例ニ依リマシテ、只今大藏大
  臣カラ御答辯申上ゲマシタ通リ、個々獨立ニ成立シ得ルモノト云フ解釋ヲ執ツ
  テ居ル次第デゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=27

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• 028・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　本員ハ此豫算ニ何モ反對ノ意味ヲ申シテ居ルノデモ何デ
  モアリマセヌ、又各豫算ガ獨立シテ居ルト云フ原則モソレデ宜カラウト思ヒ
  マン、唯斯ウ云フ場合ハ初メテデス、款項ノ順モ違ッタリ、ソレカラ追加ト云
  フモノハ、元ノ金高へ追加ヲスルノデ、其金高モ違ッテ來ル、サウスルト實際
  木ニ竹ヲ接イダヤウニナッテ、變ニナリハシナイカ、偶〓我〓ガ決議セムトス
  ル案ガ、其款項ヤ金額モ、丁度前年度ノ豫算ヲ施行スルヤウニナッテモ差支ナ
  イヤウニナッテ居ルノカ、斯ウ云フ問題デアル、前年度ノ豫算ヲ施行スル場合
  ヲ想像シテ、今決議セムトシテ居ルモノヲ繼ギ足シテ、木ト竹ヲ接グヤウニ
  ナリハシナイカト云フ疑問デアリマス、本員ハ手許ニ前年度ノ豫算ヲ持タヌ
  ガ故ニ、此質問ヲ致シマシタ
  〔政府委員河田烈君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=28

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• 029・河田烈

  ○政府委員(河田烈君)　重ネテノ御質問デゴザイマスルガ、多分斯ウ云フ御
  趣旨デアラウト拜承イタシマス、只今ノ追加豫算ハ既ニ提出セラレタル所ノ
  各特別會計本豫算ノ款項ノ整理ノ順ニ依ッテ出來テ居ルニモ拘ラズ、萬一不成
  立ノ如キ不幸ノ狀態ヲ生ジタル場合ニ、其款項ノ順序等ノ變更ヲ來シハシナ
  イカ、其場合ニ如何ニ處理スルカト云フ御趣旨デアラウト拜承イタシマス
  ガ、私ハ款項ノ順序ハ、若シ豫算ガ不成立ニナリマシテ、前年度豫算ヲ施行
  スル必要ヲ生ジマシタトキニハ、適當ニ款項ノ順序ハ整理シテ差支ナイト考
  慮シテ居リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=29

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• 030・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　本員ハ能ク分リマセヌガ、ドウモ斯ウ云フ所デハ物ヲ見
  ナイト分ラヌ、政府ガ差支ナイト云フコトデアレバソレデ宜シイ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=30

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• 031・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　豫算案ニ付テ別段御發言モ無イト認メマスカラ、
  採決ヲ致シマス、只今豫算委員長ノ報告セラレマシタ豫算案全部ヲ一括シテ
  問題トシ、採決イタシマス、全部原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=31

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• 032・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  #

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=32

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• 033・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第八、大正十三年度第一豫備金支出ノ件、第
  九、大正十三年度特別會計第一豫備金支出ノ件、第十臨時軍事費特別會計豫
  備費支出ノ件、第十一、大正六年二月二十六日ヨリ大正九年六月二十五日ニ
  至ル臨時軍事費特別會計豫備費外ニ於テ豫算超過支出ノ件承諾ヲ求ムル件、
  衆議院送付、會議、委員長報告
  大正十三年度第一豫備金支出ノ件
  大正十三年度特別會計第一豫備金支出ノ件
  臨時軍事費特別會計豫備費支出ノ件
  自大正六年二月二十六日臨時軍事費特別會計豫備費外ニ於テ豫算超過支出ノ
  至大正九年六月二十五日
  件
  右承諾スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
  昭和二年三月二十四日
  右特別委員長
  侯爵四條隆愛
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔侯爵四條隆愛君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=33

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• 034・四條隆愛

  ○侯爵四條隆愛君　大正十三年度第一豫備金支出ノ件承諾ヲ求ムル件外十一
  件ノ特別委員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告申上ゲマス、特別委員會ハ一昨二十
  三日正副委員長ノ選擧ヲ行ヒ、昨二十四日會議ヲ開キマシテ、政府委員ノ說
  明ヲ聽取イタシマシタ、審議ニ先ダチマシテ一委員カラ、事後承諾ハ昨年ハ三
  月二十五日ニ本院ニ廻付ニナリ、從テ審議未了ニ終ッテ、又本年モ會期切迫ノ
  今日之ヲ審議スルノハ、甚ダ困難ノコトト思フ、政府ハ何故ニ此ノ如キ複雜
  ナル議案ヲ、審査ノ餘日ナキ會期終末ノ今日ニ本院ニ提出セラレタノデアル
  カ、何故ニモット早ク之ヲ提出シナカッタカト云フコトノ質問ニ對シマシテ、
  政府委員ハ、會計法ノ改正ノ結果、第一豫備金支出ハ其年度經過後其年ノ議
  會ニ提出シ、第二豫備金ハ其年度ノ十二月マデニ締切ヲシテ其年ノ議會ニ提
  出スルコトニナル、從テ第二豫備金支出ノ事後承諾ハ、議會開會直前マデヲ
  限トシテ各省ノ報〓ヲ求メ、提出スルコトデアッテ、其報告ヲ取纒メ、之ニ計算
  書ヲ附シテソレヲ印刷スル、其間ニ時日ヲ要シテ、提出ガ遲レルノデアル、政
  府トシテモ至極遺憾トスル所デアルト云フ答デアリマシタ、之ニ對シマシテ、
  然ラバ本院ハ、事後承諾ヲ求メルコトデアルカラ、必シモ此議會デ之ヲシナ
  ケレバナラナイ性質ノモノデモナイ、來議會ノ初ニ之ヲ提出シテハドウダト
  云フ問ニ對シマシテ、政府委員ハ、衆議院ニ提出シテモ、衆議院ハ豫算案ヲ
  初メ、之ニ關係スル重要ナ法案ノ審議ノ爲ニ、兎角後廻シニナル實情デアル、
  昨年モ三月一日ニ衆議院ニ提出シタケレドモ、審議ガ暇取ッテ、貴族院ニ廻付
  セラレタノハ三月二十五日デアッテ、其爲ニ審査未了トナッタノデアル、本年
  ハ衆議院ヘ提出シタノハ三月三日デアッタケレドモ、緊急質問其他ノ爲ニ、本
  會議ニ上ッタノハ三月十二日デアリマス、ソレヨリ審査ニ移リ、貴族院ニ廻付
  サレタノハ十九日ト云フ狀態デアッタノデアル、ト云フ答辯デアリマシタ、又
  一委員ヨリ、帝國議會ハ豫算審査期間ニ關シ、議院法ノ規定ヲ本年改正イタ
  シテ、貴族院モ衆議院ト同ジ······全ク同一ノ期間トナッタノデアル、然ルニ此
  豫備金ノ支出ノ事後承諾案ハ、豫算ト最モ密接ナル關係ガアルニモ拘ラズ、
  衆議院ニ於テハ其審査ガ兎角長引イテ、從來議會終了ノ間際ニ行ッテ貴族院
  ヘ廻ッテ來ル、十分審査スル時間ガ無イノデアル、此ノ如キハ不當ニ貴族院ノ
  審査期限ヲ制限スルヤウナ結果ニナルノミナラズ、今囘ヨリ認メラレタル貴
  衆兩院ノ審査期間ニ差別ヲ置カナイ精神ニモ反スルノデアル、政府ハ深ク此
  點ニ留意シテ、成ルベク早ク衆議院ニ提出シ、又衆議院ヨリ一日モ早ク貴族
  院へ廻ッテ來ルヤウ考慮イタサレタイト云フ希望ガアリマシタ、政府モ之ニ對
  シマシテ、御尤ナコトデアル、政府トシテモ御希望ニ適フヤウニ努メマスト
  云フコトデアリマシタ、而シテ短時間ノコトデアルカラ、全部ノ審査ハ到底
  不可能トスルケレドモ、出來ルダケ審査ヲ進メヤウト云フコトデ質問ニ掛カ
  リマシタ、質問ノ中ニハ、徵兵費ノ中ノ檢丁及新兵旅費ガ十八万五千圓ト計
  上シテアルガ、是等ハ每年要スルノデアルカラ、豫算ニモ計上シテアリ、且
  ツ之ニ相當ノ餘裕モ計上シテアルト思フノデアルガ、此年ニ限ッテコンナニ澤
  山ノ支出ヲシタノハ、何カ特別ノ理由ガアルカト云フ質問ガアリマシタ、之
  ニ對シテ當局ハ、毎年幾分カ豫算超過ノ事實ガアル、元來相當ノ根據ニ依ッテ
  大體費用ヲ豫定スルノデアルガ、人口ノ增加又ハ旅費ヲ請求スル人員ガ、新
  兵檢丁ノ割合ニ何割ニ當ルカト云フコトガ判明シナイ、尙ホ旅費ヲ請求スル
  率ガ年ニ依ッテ不同デアル、又長距離ノ旅費ヲ請求スルヤウナ場合ニハ、其額
  ガ增シテ來ルノデ、多少增加スルコトガアルト云フヤウナ答辯ガゴザイマシ
  タ、尙ホ二三質問ガゴザイマシタガ、審議ノ結果、大正十三年度第一豫備金
  支出ノ件、大正十三年度特別會計第一豫備金支出ノ件、臨時軍事費特別會計
  豫備費支出ノ件、大正六年二月二十六日ヨリ大正九年六月二十五日ニ至ル臨
  時軍事費特別會計豫備費外ニ於テ豫算超過支出ノ件、右四件ヲ議了イタシマ
  シテ、是ハ承諾ヲ與フベキモノト決議イタシマシタ、右御報告申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=34

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• 035・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　通〓ニ依リマシテ、阪谷男爵ノ質疑ノ發言ヲ許シ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=35

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• 036・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　本年ハ珍シク新例ガ澤山出來マスガ、只今委員長ノ御報
  告ニナリマシタコトニ付テモ、新例ト思ヒマスノデ、政府ニ御尋ネ致シマス
  ガ、事後承諾ノ付託ヲ受ケタ委員ガ、半分ハ承諾デ、半分ハ未了ニ終ッタト云フ
  コトニナル、是モ會期切迫ノ際已ムヲ得ヌコトト思フノデアリマスガ、昨日高
  橋君カラ質問ガアリマシタヤウニ、決算ガ遲レルト云フヤウナ事情ガアリマ
  シタ、其會計檢査院ハ、議院ガ承諾ヲ與ヘルノヲ俟ッテ檢査確定スルコトニ
  ナッテ居ル、承諾スベキモノハ承諾シ、不承諾ハ不承諾シ、何レニカ定マッテ
  カラ檢査ヲ確定スルト云フコトニナッテ居ルト記憶イタシマスガ、此爲ニ又來
  年決算ノ提出ガ遲レルト云フヤウナコトハ無イノデアリマスルカ、一應御尋
  ネ致シマス
  〔國務大臣片岡直温君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=36

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• 037・片岡直温

  ○國務大臣(片岡直温君)　只今ノ阪谷男爵ノ御尋ニ御答ヲ申上ゲマスガ、是
  ハ昨日高橋君ノ御質疑ニモ御答ヘ申上ゲマシタ通リ、從來ノ慣例ヲ追ウテ來
  テ、ソレガ爲ニ斯樣ニ遲レルノデアリマスガ、明年カラハ部分々々ニ分ケラ
  レルモノハ分ケテ、早ク提出シテ、御審査ノ十分ニ出來マスヤウニシタイト
  思ッテ居リマス、本年一部ヲ御承認ヲ願ッテ、爲ニ又明年遲レルト云フヤウナ
  コトハナイト考ヘテ居リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=37

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• 038・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　只今四條特別委員長ノ報告セラレマシタ各案ニ、
  承諾ヲ與フルコトニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者多數

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=38

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• 039・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　過半數ト認メマス
  而水车小山市

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=39

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• 040・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第十二、大正九年法律第五十六號中改正法律
  案、衆議院提出、第一讀會ノ續、委員長報告、佐佐木侯爵
  大正九年法律第五十六號中改正法律案
  右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
  昭和二年三月二十四日
  右特別委員長
  侯爵佐佐木行忠
  貴族院議長公爵德川家達殿
  〔候爵佐佐木行忠君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=40

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• 041・佐佐木行忠

  ○侯爵佐佐木行忠君　御報告申上ゲマス、本案ハ北海道ノ私設鐵道、軌道鐵道
  ニ對スル補助ガ十年トナッテ居リマスルノヲ、十五年ト改メタイト云フ、衆議
  院ノ提案デアリマス、委員會ニ於キマシテハ、先ヅ政府ノ辯明ヲ求メマシタ、
  政府ハ、北海道ニ於ケル此補助ハ、他ノ拓殖事業トノ均衡上、及ビ內地ノ私
  設鐵道ニ對スル補助トノ關係上、同意スルコトガ出來ナイト云フ御話デアリ
  マシタ、併ナガラ委員ハ之ニ對シテ意見ヲ申述べマシテ、北海道ニ於テハ、
  鐵道ヲ敷クコトハ最モ先トシナケレバナラヌコトデアル、又若モ十年ト限ル
  トキニハ、只今補助ヲ受ケテ居ル會社ガ、困難ガ生ズルコトガアル、或ハ本
  年ヨリ北海道ニ於ケル補助率ハ、七分ヲ八分ト改メル、其故ニ十年ヲ十五年
  トスルコトニハ同意シ兼ネルト云フ政府ノ意見デハアルガ、寧ロ補助率ハ暫
  ク措イテモ、年限ノ延長ガ最モ必要デアルト云フ御意見ガゴザイマシテ、過
  半數ヲ以テ本案ニ贊成スルコトニナリマシタ、御報告ヲ申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=41

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• 042・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
  カ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=42

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• 043・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマズ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=43

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• 044・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　直チニ第二讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=44

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• 045・五條爲功

  ○子爵五條爲功君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=45

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• 046・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　櫛笥子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=46

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• 047・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  草木北京

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• 048・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 049・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=49

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• 050・櫛笥隆督

  ○子爵櫛笥隆督君　直チニ第三讀會ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス

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• 051・五條爲功

  ○子爵五條爲功君　贊成

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• 052・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　櫛笥子爵ノ動議ニ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=52

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• 053・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  High平山

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• 054・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　第二讀會ノ決議通リデ御異存ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 055・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  불南小山

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• 056・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第十三、國政ノ振作ニ關スル決議案、男爵阪
  谷芳郞君發議、會議、決議案ノ朗讀ヲ致サセマス
  [瀨古書記官朗讀
  國政ノ振作ニ關スル決議案
  右提出候也
  昭和二年三月二十三日
  發議者
  男爵阪谷芳郞
  贊成者
  男爵大井成元北條時敬男爵宇佐川一正
  佐藤三吉玉利喜造水野鍊太郞
  男爵西紳六郞男爵山內長人和田彥次郞
  河村讓三郞男爵鍋島直明男爵紀俊秀
  男爵小原駐吉男爵南部光臣男爵伊藤安吉
  男爵千田嘉平男爵船越光之丞男爵千秋季隆
  男爵北河原公平男爵北大路實信男爵中島久萬吉
  男爵黑川幹太郞男爵神山郡昭男爵上田兵吉
  男爵福原俊丸男爵今枝直規男爵今園國貞
  男爵藤村義朗男爵二條正麿男爵有地藤三郞
  男爵上村從義男爵赤松範男爵金子有道
  男爵郷誠之助男爵小畑大太郞男爵野田龜喜
  男爵池田長康男爵足立豊男爵松岡均平
  男爵ノ沖貞男男爵周布兼道男爵寺島敏三
  男爵高崎弓彥男爵北島貴孝男爵高木喜寛
  男爵伊江朝助男爵關義壽男爵稻田昌植
  男爵近藤滋彌男爵大寺純藏男爵佐藤達次郞
  男爵渡邊修二鮫島武之助高橋琢也
  石渡敏阪本彰之助福永吉之助
  橋本圭三郞山之内一次中村純九郞
  南弘鎌田榮吉松本烝治
  竹越與三郞室田義文安樂兼道
  川村竹治永田秀次郞赤池濃
  林平四郞村野常右衞門藤安辰次郞
  坂田貞小塩八郞右衞門花井卓藏
  瀨谷勇次郞工藤八之助吉田羊治郞
  山田惠田中一馬山上岩二
  鳴海周次郞森田福市
  貴族院議長公爵德川家達殿
  國政ノ振作ニ關スル決議
  方今國家ノ綱紀弛緩シ國民ノ道義衰頽シ輕躁過激ノ社會事相ト相俟テ實ニ
  邦家ノ憂ヲ作セリ此ノ秋ニ方リ內外ノ政務ハ動モスレバ其ノ宜シキヲ失シ
  殊ニ議會政治ノ近狀ハ往々ニシテ常軌ヲ逸シ今ヤ普通選擧ノ實施ニ直面
  シテ憲政濟美ノ急務ナルニ鑑ミ更ニ隣邦ノ內爭ニ因リテ誘發セラレントス
  ル極東平和ノ危機ニ想到スルトキハ帝國ノ前途轉タ深憂ニ堪ヘザルモノ
  アリ
  吾人ハ昭和ノ新政ニ際シテ優渥ナル詔勅ヲ拜シ退テ世局ノ實相ニ顧ルト
  キハ實ニ恐懼慙悚ノ念ニ堪ヘズ玆ニ吾人ハ速ニ國政ヲ振作シテ國民心身ノ
  安定ヲ期成シ東洋ノ平和ヲ確保シテ世界人類ノ康寧ニ寄與シ依テ以テ昭和
  維新ノ鴻圖ヲ恢弘シテ宏遠ナル聖慮ニ副ヒ奉ルコトノ重要大事タルヲ痛
  切ニ認ムルモノナリ
  右決議ス
  〔男爵阪谷芳郞君演壇ニ登ル〕

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• 057・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　本員ハ決議案ノ理由ヲ申上ゲマス、本案提出後新聞ヲ見
  マスルト、或ハ本案ハ政府ノ彈効ヲ意味スルモノデハナイカト云フヤウナ疑
  デモアリマシタモノカ、政府ニ於テ本案ノ通過ヲ阻止セムトスル行動ヲ執ッテ
  居ラルヽカノ如ク見エルノデアリマス、是ハ如何ナルコトデアルカ、餘程政
  府ハ見當違ヒノコトヲシテ居ラルヽト本員ハ思フノデアリマス、是ハサウ云
  フ、現政府ヲ彈効スルト云フヤウナ小サイ問題デハナイ、若シ現政府ヲ彈劾
  セムトスルナラバ、會期ノ末期ニ斯ノ如キ決議案ヲ提出スル必要ハ何處ニア
  ル、信用シナイ政府デアレバ、先以テ劈頭第一ニ本案ノ如キ決議ヲ爲スノガ
  相當デアル、旣ニ豫算ヲ通過シ數多ノ重要ナル法案モ通過イタシテ置イテ、
  今更政府ヲ彈効スルノ必要ト云フモノハ無イノデアリマス、是ハモウ明カナ
  コトデアル、唯本員ガ已マント欲シテ已ム能ハザルモノ、赤心一片國家ノ前
  途ニ付テ大ニ憂フル所ガアルガ故ニ、玆ニ政府ト云ハズ、議院ト云ハズ、又
  國民ト云ハズ、擧國一致ノ鞏固ナル精神ヲ茲ニ示シタイト云フ、一片ノ赤心
  ニ外ナラヌノデアリマス、年ヲ取リマスト、兎角心配ガ多過ギタリ、又昔ノ
  コトヲ申スヤウデゴザイマスルガ、是ハ御許シヲ願ヒマスルガ、明治ノ初ニ
  當リマシテ、實ニ國論ト云フモノガ割レテ、國家ハ累卵ノ危キデゴザイマシ
  タト云フコトハ、年ヲ御取リノ方ハ能ク御存ジト存ジマス、安政、文久、實
  ニ日本ノ國內ト云フモノハ、何處ニ國民ハ歸著點ヲ求メルカ、德川政府ト云
  フモノノ綱紀ハ弛ミ、外國ノ脅威ハ日ニ迫リ、而シテ國論ハ統一イタシテ居
  ナイ、此時ニ方リマシテ、當時ノ政府ノ局ニ當リマスル人〓ガ、所謂大政補
  弼ノ考ヨリ、五箇條ノ御誓文ト云フコトガ卽チ世ニ公ケニナッタ譯デアリマ
  ス、デ此五箇條ノ御誓文ト申シマスルモノハ、要スルニ內外政務非常ナ困難ノ
  際デアッテ、爰ニ國論一致、鞏固ナル決心ヲ以テ、內外ノ困難ニ當ルニアラズン
  バ、此國家ヲ濟フコトガ出來ヌト云フ考ヨリ、其事ヲ明治天皇ニ申上ゲ、
  明治天皇ガ此事ヲ御採納遊バサレタ譯デアル、間モナク廢藩置縣ガ行ハレマ
  シタガ、玆ニ藩閥ノ弊ト云フモノガ起リマシタノデアリマス、此藩閥ノ弊ニ
  對シテ如何ナル聲ガ起ッタカト云フト、所謂民選議院論、板垣伯ノ唱導セラレ
  タ民選議院論ト云フモノガ爰ニ起リマシタノデゴザイマス、王政復古ヲシタ
  モノモ藩閥ノ力デアルガ、其藩閥ノ弊ニ對シテ、玆ニ民選議院ト云フ聲ガ起ツ
  タノデアル、續イテ憲法ノ御制定ニ相成ッタ譯デアリマス、其間ニ於テ國會請
  願論ガ中〓ヤカマシウゴザイマシタガ、遂ニ其民論ヲ容レラレテ、卽チ憲法
  御制定ト云フコトニナッテ、二十三年ニ議會ガ開カレマシタ、議會ニ於テ起リ
  マシタ所ノ聲ガ卽チ此行政整理、行政整理ト云フ聲ハ、今日マデ其聲ヲ絕チ
  マセヌ、又行政整理ノ聲ト共ニ、條約ノ厲行、行政整理、條約厲行ノ聲ヲ擧
  ゲラレタ多クノ功勞アル政治家ハ、旣ニ今日ハ故人トナッタ人ガ多イヤウデ
  アリマス、數日前ニ增上寺ニ於テ其追悼會ヲ催サレマシテ、轉タ懷舊ノ情ニ
  堪ヘヌ次第デゴザイマス、憲法政治トナリマシテ、又玆ニ幾多ノ弊害ガ起ッテ
  來タ、國運ハ、日〓日露ノ戰爭ヲ經テ、段々ニ隆昌ニ赴イタノデアリマスル
  ガ、議會政治ノ弊ガ又玆ニ起ッテ、所謂官紀振肅ト云フ議論ニ變ッテ來マシタ、
  官紀振肅ガ又綱紀肅正······官紀振肅若クハ綱紀肅正ト云フ議論ガヤカマシ
  カッタ、原內閣ノ當時ニ於キマシテ、此官紀振肅、綱紀肅正ノ議論ガ盛ニ貴族
  院ノ諸公カラ起ッテ、之ガ爲ニ一部ノ諸君ハ總理ニ面會ヲ求メテ詰問セラレタ
  ト云フヤウナコトモ、尙ホ耳ニ新シイコトデアリマス、要スルニ國家ノ政治
  二·矢張リ多少ノ隆替ハ免レヌ、必シモ國ノ政治ガ始終强力ナル働キヲ以
  テ進ムト云フ譯ニハ行カヌ、或時ニ於テハ衰へ、或時ニ於テハ進ムト云フコ
  トハ免レマセヌ、併シ國民ノ一致團結ガ鞏固デアルナラバ、其隆替ノ間ニ於
  テ、一步モ退カズシテ、一步々々其隆替ト共ニ先ヘ進ンデ行クコトガ出來ル
  ノデアル、デ近來內外ノ政務ガ甚ダ國民ノ滿足ヲ買ハヌト云フコトハ、論ヲ
  俟チマセヌ、必シモ此內閣諸公ヲ責メルノデハゴザイマセヌ、玆ニ於テ國政
  振作々々々々ト云フ聲ガ段々ト高クナッテ參ッタノデアリマス、御承知ノ通リ、
  近來國策ノ研究トカ或ハ國策ノ樹立トカ云フヤウナ聲ヲ屢〓耳ニスルノデア
  リマス、議場ニ於テモ其聲ヲ聞クノデアリマス、又實際ニ於テ國策研究會デ
  アルトカ、或ハ東亞研究會デアルトカ、國策ノ樹立ニ關スル
  〔副議長侯爵蜂須賀正詔君議長席ニ著ク〕
  論文演說等ヲ多數散見スルヤウニナッタ、是ハ何ヲ意味スルカ、是ハ何ヲ意味
  スルカト云ヘバ、國民ガ何等カ此國政ノ上ニ付テ滿足セヌ點ガアルノデアル、
  玆ニ於テ卽チ此國策······國政ノ振作ト云フ聲ヲ大キクスルト云フコトノ、玆
  ニ必要ヲ認メルノデアリマス、維新ノ初ニ於テ五箇條ノ御誓文、廢藩置縣ノ
  後ニ於テ民選議院論、續イテ國會ノ請願、憲法ノ制定、續イテ官紀振肅、條
  約ノ厲行、行政ノ整理······行政ノ整理、條約ノ厲行、官紀ノ振肅、綱紀ノ肅
  正、斯ノ如キ聲ガ旣往ヲ顧ミテ辿ッテ見レバ、各〓其必要ニ應ジテ聲ガ大キク
  ナルノデアリマス、卽チ私ノ見ル所ヲ以テスレバ、今日ハ諸公ト共ニ國政ノ
  振作ト云フコトニ付テ、大ニ御同樣ガ努力シナケレバナラヌ時機ガ到達シタ
  ノデアラウト考ヘルノデアリマス、而モ今日ハ先帝ノ御大葬ノ後ヲ承ケ、昭
  和ノ御新政ノ初デアリマシテ、國民ノ心ハ頗ル緊肅イタシテ居ル際デアリマ
  ス、卽チ此機會ニ於テ、貴族院ガ大ニ由ルベキノ國策ヲ示スベキ決議ヲスル
  ト云フコトハ、最モ必要ナコトト私ハ考ヘマス、我〓ノ先輩ガ、其時ニ應ジ、
  其必要ヲ感ジ、其民心ニ鑑ミテ、種々ナル場合ニ種々ナル意見ヲ固メテ、此
  日本帝國ト云フ大ナル船ヲ次第々々ニ導イテ行ッタノデアル、我〓ハ其後ヲ承
  ケテ、玆ニ貴族院議員トシテ此處ニ列シテ居ルノデアリマス、勿論衆議院モ
  其責任ガアリ、貴族院モ其責任ガアリ、內閣モ其責任ガアリ、ソレ〓〓責任
  ヲ持ッテ居ル者ガ茲ニ在ルノデアリマスガ、今日ノ狀勢ニ於テ······此昭和新政
  ノ初ニ於テ、此唯一ノ機會······今日唯モウ一日ヲ剩ス此機會ニ於テ、此聲ヲ
  發シ得ルモノハ他ニ無イ、衆議院ノ有樣ハ、到底今日今本院ガ決議セントスル
  如キ決議案ヲナサントスルノ狀態デハナイ、今日一日ヲ逸シタナラバ、我〓
  貴族院ガ爲サネバナラヌ重大事ヲ怠ッタト云フ恨ガ
  〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
  千載ノ後ニマデ殘ル次第デアリマス、決議案ニ對シテ反對ハ無イト、本員ハ
  信ジマス、又反對スベキ事デナイト思フ、若シ之ニ反對スルナラバ、乳首度
  族院ノ面目ニモ關シハシナイカト、本員ハ考ヘルノデゴザイマス、如何ナル、
  國民ハ、眼ヲ以テ貴族院ヲ見ルデアラウカト思フノデアリマス、唯斯カル事
  ハ言ハヌデモ宜カラウト云フ位ノ、マア反對ノ理由デアリマセウ、併ナガラ
  今本員ノ申ス如ク、貴族院ノ此一決議ガ如何ナル重大ナル重サヲ將來ノ日本
  ノ民心ノ上ニ持ツカト云フコトヲ、一タビ御考ヘニナッタナラバ、サウ云フ輕
  輕ナル議論ヲ以テ此決議案ニ反對スベキモノデハナイト本員ハ思フ、甚ダ不
  眞面目ナコトト本員ハ遺憾ニ堪ヘヌ、或ル論者ハ、ドウモ貴族院ノ職責ニハ
  不適當デハアルマイカト云フヤウナ考ヲ持タレルト云フコトデアリマスルケ
  レドモ、貴族院ノ職責ハ最モ斯カル場合ニ國民ノ據ルベキ標準ヲ示サネバナ
  ラヌモノデアラウト本員ハ確信イタスノデアリマス、今本員ノ手許ニ··
  是ハ唯本員ガ今日机ノ上ニアル書類ヲ持ッテ來タノガ是ダケデアリマス、是ハ
  非常ナル不平ノ聲ヲ持ッタ投書、中ニハ頭山滿ト云フヤウナ有名ナ御方ノ名前
  モアリマス、本員ハ受取ッタ手紙ヲ一々保存ハ致シテ居リマセヌカラ、本員ノ
  一覽イタシテ棄テテシマッタ分ガ、尙ホ多數アルノデアリマス、今朝出掛ケニ
  机ノ上ニ殘ッテ居ルノヲ搔集メマシテモ、此位多數アル、此中ニハ非常ナル激
  烈ナル不平ノ言葉ガアリマス、又內閣ニ對シテ、松島事件トカ、僞證事件ト
  カ、色〓ナコトノ問題ガ書イテアル、或ハ怪寫眞ノ問題ト云フヤウナコトモ
  書イテ、斯ノ如ク澤山アリマス、デ此ノ是等ノ書類ヲ本員ガ一讀イタシマス
  ノニ、ドウモ中ニハ事實ヲ失ッタコトモ大分アル、又誤解シテ居ラレルコトモ
  アリマスル、ケレドモ一種其中ニ捨ツベカラザルモノハ其精神、安政文久ノ
  頃ノ御話ヲチヨット申上ゲマシタガ、此書面ノ中ニハ、安政文久ノ頃ノ當時ノ
  志士ノ精神ハ幾分カ殘ッテ居ル、所謂支那デ云ヘバ文天祥ノ正氣ノ歌、日本デ
  申セバ藤田東湖ノ正氣ノ歌、神州正氣アリ、其正氣ノ存在ヲ認ムルコトガ出
  來ル、唯惜シイコトニハ、是等ノ文書ヲ書イタ人ガ、多少事實ニ暗イ、事柄
  ヲ誤ッテ居ルト云フ嫌ハ無論アリマス、併ナガラ如何ニモ此衆庶ノ、熱烈ナル、
  國家ヲ憂フルノ精神ト云フモノノ未ダ亡ビヌト云フコトハ、本員ハ多トスル
  者デアリマス、言フ所ニハ與シマセヌ、中ニハ與スベキモノモアリマスガ、
  決シテ言フ所ニハ與シマセヌガ、其國家ヲ憂フルノ熱烈ナル點ト云フモノハ、
  本員ハ頗ル感謝スルノデアリマス、而シテ是等ノ聲ガ何故起ルデアラウカ、
  本員ノ如キ、貴族院議員ノ誠ニ微力ナル者デアル、ソレ等ニ向ッテモ斯ウ云フ
  書類ガ來ルト云フコトハ、私ガ此書類其モノハ別ニ贊成モ致シマセヌガ、併
  ナガラ國民ノ何レカニ不滿足ガアルト云フコトハ認メナケレバナラヌ、而シ
  テ是等ノ所謂神州ノ正氣ニ富ンデ居ル精神ハ、是ハ決シテ滅却スベキモノデ
  ハナイ、將來ノ國民精神ヲ維持スルノニハ、矢張リ此精神、唯其精神ノ嚮フ
  所ヲ誤ッテ居ル、其嚮フ所ヲ善イ方ニ導イテ貰ヒサヘスレバ、一向差支ナイ、
  ソコデ本員ノ思ヒマスニハ、此外ニ於テ本員ノ手許ニ來ヌ所ノ斯カル書類ハ、
  幾万通、幾千通アルカ、又雜誌ニ、論文ニ、演說ニ現ハレテ居ル中ニ付テモ、
  實ニ幾多ノ不平ト云フモノガアル、其不平ヲ悉ク採ルモノデナイ、採ルモノ
  デナイガ、其精神ニ於テハ、一言ノ答ヲシテモ宜イト云フベキモノガアル、
  貴族院ト致シテハ、是等ノ善キ精神ト云フモノハ、國家ノ爲ニ扶ケネバナラ
  ヌ、其惡シキ部分ハ切捨テナケレバナラヌ、善キ精神ト云フモノハ扶ケナケ
  レバナラヌ、貴族院ガ卽チ政治ニ老巧ナル諸君ノ御集リ、又華族ヲ初メ社會
  ノ儀表トナルベキ方〓ノ御集リノ間ニ於テ、是等ノ人〓ノ苦心ノ一部デモ滿
  足セシメ得ルト云フコトヲスルト云フノハ、貴族院ノ一ツノ義務デアルト本
  員ハ考ヘル、マア餘計ナコトダ、斯ウ打捨テヽシマフベキデハナイ、併ナガ
  ラ是等ニ一々御答ヲスベキデモナイ、玆ニ貴族院トシテ當然ナル決議ヲ一ツ
  シテ置クト云フコトガ、是等ノ國家ノ大切ナル努力トナリ、神州ノ所謂正氣
  ヲ保存スル所以デアラウト思フ、當然ナ事ダカラ決議セヌデモ宜イト云フコ
  トハ、意味ヲナサヌ、當然ナ事ダカラ決議ヲシナケレバナラヌ、其文句ハ當
  然デアル、ソレカラ決議スベキ機會、時機ト云フモノハ最モ大切ナモノデア
  ル、民選議院ノ論ニシテモ、國會ノ請願ノ論ニシテモ、行政整理ノ論ニシテ
  モ、行政整理ト云ヘバ、今日デハ古臭イ、ケレドモ其當時ニ於テハ、大ニ日
  本ノ政治ヲ動カシタト申スヤウナ譯デアリマスノデ、當然デアルカラ決議ノ
  必要ノ無イト云フコトハ毫モ論ヲ成サヌ、我〓ノ決議スルコトニ於テ不當然
  ナ事ガアラウ筈ガナイ、最モ當然ニシテ、最モ之ニアラズンバ國家ハ濟フコ
  トノ出來ヌト云フ途ヲ、玆ニ明カニシナケレバナラヌ、デ內外ノ政務ノ上ニ
  付テ考ヘマシテ、國民ハドウ考ヘテ居ルカト云ヘバ、近年······是ハ必ズシモ
  現外務大臣ノミノ責任デモナイト思ヒマス、近年ニ於テ日本ハ次第々々ニ何
  トナク壓迫ヲ蒙ッテ居ルヤウナ感ヲシテ居ル、歐洲大戰以前、又歐洲大戰中、
  若クハ歐洲大戰後ニ於テ、日本ノ花〓シイ國際的活動ハ、次第々々ニ壓迫ヲ
  受ケ、退嬰シツヽアルカノ如キ感ヲ、國民ハ持ッテ居ルノデアリマス、是ハ其
  間ニ處セラレタ外務當局ガ、必ズ其間ニ處スベキ適當ナコトヲセラレタノデ
  アラウト思フ、後カラ考ヘレバ斯ウモシタラト云フ感ガアリマス、併ナガラ
  全局ノ上ニ付テ、日本ノ國家的見地カラ考へ、國際的活動ト云フモノガ、從
  前ニ比シテ壓迫ヲ受ケテ居ルト云フコトハ、獨リ國民ガサウ思フバカリデナ
  〃、之ヲ事實ノ上ニ照シテサウデアル、サウナッテ來ルト、遂ニ滿洲ニ於ケル
  利害マデモ侵害セラレヤシナイカ、今日隣邦ハ大亂ノ巷ニアル、日本ノ支那
  ニ在留スル者ノ生命ハ傷ケラレテ居ル、財產ハ傷ケラレテ居ル、日本ガ巨大
  ナル資本ヲ投ジテ居ル工場ハ荒サレテ居ル、是ハ隣國兵亂ノ結果已ムヲ得ヌ
  トハ云ヒナガラ、日本國民トシテハ決シテ滿足ハシテ居ナイ、何トカ之ニ處
  スル方法ハ無イモノカ、以前ニ於テハ、日ノ丸ノ旗ニ對シテ斯ノ如キ侮辱ヲ
  加ヘラレタコトハ無イ、何處カニ騒動ノ起ッタ場合ニハ、日ノ丸ノ旗ヲ出シテ
  置ケバ、其日ノ丸ノ旗ニ對シテ敬意ヲ表セラレタノデアルガ、今ハ甚ダ日本
  國民ノ支那ニ於ケル待遇ハ、以前ヨリ異ナッテ居ル、何トカ之ヲ適當ナル、又合
  理的ノ位置ニ戾スコトハ出來ヌモノデアラウカ、斯ウ國民ハ考ヘテ居ルト思
  フ、其國民ノ考ガ無理カ、非カ、ドウモ是等ノコトニ付テハ、決シテ今ノ外
  務大臣ノ施設ガ惡イトカ善イトカ云フコトヲ申スノデハアリマセヌケレド
  モ、何トナク國民ト云フモノハ、何トカシテ貰ヒタイト云フ考ヲ持ツ、又去
  ヌル二十一日、上海ハ遂ニ南方軍ノ占領スル所トナッタノデアリマス、是ト同
  時ニ、莫斯科ニ於テ當日ハ雪ガ降ッテ、市中ノ積雪ノ中ヲモ顧ミズ、群衆ハ莫
  斯科ノ中央ニ集マッテ歡呼シタノデアリマス、是ハ何ヲ意味スルノデアル、日
  本ノ我〓ノ同胞、日本ノ國內ノ商工業ガ、旣ニ段々ト人口ノ多イ所ニ寄ッテ、
  場面ガ狹クナッタガ爲ニ、進ンデ海外ニ出テ働イテ居ル、其人達ノ生命ハ傷ケ
  ラレ、財產ハ燒カレ、工場ハ荒サレテ居ル、一方ニ雪ノ中ヲモ厭ハズ群衆ガ集
  マッテ歡呼シテ居ルト云フコトハ、何ヲ意味スルノデアル、國民ガ、將來隣國ノ
  有樣ハドウナルノデアラウカ、之ニ對シテ政府ハ適當ナル所謂國策ヲ持ッテ居
  ルノデアラウカト云フコトニ付テ、杞憂ヲ懷クト云フコトハ、懷ク方ガ善イ
  カ惡イカ、是ハ大ニ考ヘナケレバナラヌ、考ヘナケレバナラヌコトト本員ハ
  思フノデアリマス、又內政ニ付テ申セバ、ドウモ近來現政府ト云ハズ、近來
  國民ノ信望ヲ繫グニ足ラヌ行爲ガ多イ、是ハ議會ニ於テモドウモ、旣ニ昨日
  ノ衆議院ノ騷動ノ如キハ、本員ハ決シテ他ノ院ヲ批評スルノデハアリマセヌ、
  ケレドモ是ハ實ニ遺憾千万ナ、日本ノ憲法史ニ於テ實ニ遺憾千万ノ事實デア
  ルト思フノデアリマス、正副議長ハ辭表ヲ出サレ、書記官長モ辭表ヲ出サレ、
  議會ハ殆ド成立セヌヤウニ陷ルト云フ有樣ハ、實ニ日本ノ憲法史ヲ書ク人ハ、
  此ニ至ッテ筆ガ鈍ルノデアラウト本員ハ思フ、是等ノ事ハ國民ガ滿足スルヤ否
  や、決シテ滿足ハシナイ、其他、マア昨年來喧シカッタ松島事件トカ、僞證事件
  トカ、色〓ナル事柄ニ付テモ、是ハ何トカ此御同樣ニ、政治ヲ正シクスルト
  云フコトヲ考ヘナケレバナラヌト思フノデアリマス、政道正シカラザレバ民
  ハ惑フ、國民ハ惑フト云フコトハ、是ハ已ムヲ得ヌノデアル、殊ニ最近ノ片
  岡藏相ガ、已ムヲ得ヌノデアリマセウ、已ムヲ得ヌノデアリマセウガ、此震
  災手形ニ付テノ說明ヲ一一三ニセラレタト云フ如キハ、ドウモ此政治家ノ道德
  トシテ私ハ如何カト思ヒマス、決シテ今日私ハ、信任スルトカ不信任トカ云フ
  意味ヲ申スノヂヤナイガ、如何カト思フ、サウ云フコトハ決シテ國民ノ望ム
  所以デハナイト思フ、併ナガラ片岡君ノ胸中ニ入リマシタナラバ、實ニ苦衷
  ハ御察シ申サザルヲ得ヌ、デ、ドウモ三黨首ノ會合妥協ト云ヒ、憲本ノ聯盟
  ト云ヒ、其新政ノ初ニ於テ豫算ノ不成立ヲ防グ、結構ナコトデアル、又政局
  ヲ安定スル、結構ナコトデアル、何レモ結構ナコトデアリマシテ、私ハ其終
  局ノ目的ハ結構ト思フ、ケレドモ其道行ト云フモノハ、ドウモ此國民ノ滿足
  セヌ所デアラウト思フ、昨日、永田君ヨリ色〓ノ御說明モアリマシタケレド
  モ、之ヲ政治ノ道德ニ照シテ論ジタナラバ、ドウモモウ少シ同ジ目的ヲ達ス
  ルノニ、他ニモウ少シ國民ノ滿足スルヤウナ、道義ニ照シテ差支ナイヤウナ
  方法手段ガアリサウナヤウニ思ハレルノデアリマス、デ要スルニ、本員ガ玆
  ニ決議セムトシテ提出イタシマシタ事柄ト云フモノハ、本議會ノ初マリ以來、
  有力ナル議員諸公、御名前ヲ申シマシテハ甚ダ失禮デゴザイマスケレドモ、
  御許シヲ願ヒマスルガ、同成會ノ添田君ト云ヒ、又研究會デハ志水君ト云ヒ、
  其他永田君、幾多ノ我〓同僚中ノ最モ有力ナル方〓ガ質問討議セラレタコト
  ヲ、謂ハバ綜合シテ結論ト申シテ宜カラウト思フ、質問ハ結構デアリマス、
  ケレドモ國民ハ、其質問ノ先キガドウナッタノカ、詰リ質問ノ應答ニ付テ國民
  ニ判斷ヲ委セルト云フコトニナルノデアリマス、今日ノ場合ニ於キマシテハ、
  ドウモ私ハ、玆ニ貴族院トシテ大ナル決心ヲ以テ、甚ダ貴族院トシテ斯カル
  決心ヲ持ツノハ烏滸ガマシイト云フ御考モアルカモ知レマセヌガ、今日ノ場
  合、貴族院ガ爲スニアラザレバ、モウ今日一日ナンデス、我〓ガ玆ニ昭和新
  政ノ初ニ當ッテ、心ヲ〓ウシテ一身國家ニ盡スト云フ考ノ下ニ、玆ニ本文記載
  イタシマシタコトヲ決議シ、政府モ、又若シ政府ガ更ルナラ其後ノ政府モ、
  衆議院モ、貴族院モ、擧國一致此精神ヲ以テ此重大ナル時局ニ處スルト云フ
  コトヲ明カニシタイノデアリマス、私ノ是ハ經驗カラ申シマスレバ、今日ノ
  時局ノ重大ナルコトハ、御維新ノ初ト、國ノ力ノ大小ハ大ニ違ッテ居リマスル
  ガ、其困難ナル事情ヲ考ヘマスレバ、或ハ優ルト云ッテモ宜イカモ知レナイ、
  御維新ノ初ニ當リマシテハ、此民心ト云フモノハ純正デアッタ、唯此處ニ書イ
  テアル此書類ノヤウニ純正ナル心デ、唯見ル所ヲ異ニシタモノダカラ、中ニ
  ハ行動ヲ誤ッタ人ガ出テ來タ譯デアリマス、併ナガラ是ハ實ニ純正ナモノデア
  リシテ、幕府ガ大政ヲ返上イタシ、王政復古トナルヤ、私共ノ親爺マデガ、
  明日ハドウシテ食フカト云フコトモ顧慮スルコトナシニ、主人家カラ貰ッテ居
  ル所ノ所謂食祿ト云フモノハ、皆返上シテシマッタ、主人家ハ其藩籍封土ヲ奉
  還セラレ、其主人家ニ仕ヘテ居ル所ノ武士ハ、明日ドウシテ食フト云フ考ハ
  ナイノデス、私共ノ學費ヲドウシヤウト云フ考ハナイガ、此國家重大ノ時ニ
  當ッテハ、宜シク國家ニ有ラユルモノヲ捧ゲテ之ヲ救ハニヤナラヌト云フ決心
  デ、〓祿卽チ自分ノ食フ食祿マデモ、隨意ニ任意ニ奉還シテ、國家ヲ濟ッタノ
  デアリマシタ、ソレ故ニ自分ノ處スル所ヲ誤ッタ人ハアリマスケレドモ、民心
  ト云フモノハ純潔ナモノデアッタノデス、然ルニ今日ノ民心ハ決シテ純潔トハ
  云ヘナイ、或ハ私利ノ爲ニシ、或ハ私黨ノ爲ニシ、或ハ甚シキハ外國ノ或者
  トモ密約シテ國家ノ不利ヲ圖ル、實ニ此國內ノ思想ノ不純ナルコトハ、類例
  ヲ見ナイ、此點ニ於テ見マスルト、御維新ノ初ヨリモ、今日ハ時局重大トモ
  見ラレル、又一方御維新ノ初ニ於テ、外國ノ軍艦ガ、橫濱ナリ神戶ナリ馬關
  ナリ鹿兒島ナリニ、儼然ト構ヘ、或ル場合ニ砲門ヲ開カレ、遂ニ外國ノ兵隊
  ガ居留地ニ上陸スルト云フヤウニ、陸戰隊ガ今日丁度上海ヲ守ッテ居ルヤウナ
  譯ノ時デアリマシテ、實ニ其外國ニ對シテノ國家ノ位置ト云フモノハ、危カッ
  タノデアリマス、併ナガラ今日ノ支那ノ大亂、又露國ノ有樣ヲ考ヘルト、將
  來ニ於テ如何ナル玆ニ不測ノ變ガ生ゼンヤモ圖リ難イ、是亦ドウモ······日本
  ノ國力ガ進ンデ居ルガ、其重大サ加減ト云フモノハ、明治ノ初ノ時局ト、ド
  チラガ重イカト云フコトモ、ドチラガ輕イカト云フコトモ、容易ニ判斷シ難
  イヤウニマデ私ハ心配イタシマス、セメテ玆ニ貴族院ノ全會一致ノ決心ヲ固
  メテ、之ヲ以テ國民ニ標榜シ、此昭和新政ノ人心ノ緊肅シテ居ル時ニ當ッテ、
  之ヲ徹底シテ置クト云フコトハ、本當ニ大切ナルコトニ私ハ考ヘマシタ、唯
  其赤心ヨリ、玆ニ諸公ニ向ッテ、此會期切迫ノ際ニ御訴ヘ申上ゲテ、滿場ノ御
  同意ヲ得タイノデゴザイマス、ドウカ此決議ニ付テ色〓ナル誤解モオ有リニ
  ナルカノ如ク聞キマスルガ、ドウゾサウ云フ誤解ハ全然御除キヲ願ヒタウゴ
  ザイマス、私ノ單純ナル考デ、幾多ノ諸君ノ御賛成ヲ得マシテ、甚ダ光榮ニ
  存ジテ居リマス、ドウゾ此署名セラレタ諸君ノミナラズ、マダ署名セラレザ
  ル幾多ノ諸君モ之ニ御同意ヲ賜ハリマシタナラバ、單リ私ノ仕合セノミデハ
  ナイ、實ニ國家ノ將來ニ對シテ重要ノコトト確信イタシタノデアリマス、ド
  ウゾ此邊ヲ以テ御贊成ヲ願ヒマス
  〔小林嘉平治君發言ノ許可ヲ求ム〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=57

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• 058・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　小林嘉平治君ハドウ云フコトデスカ

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• 059・小林嘉平治

  ○小林嘉平治君　質問デス

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• 060・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　通〓ガゴザイマスカラ、通告順ニ御許シヲ致サウ
  ト思ヒマス、菅原君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=60

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• 061・菅原通敬

  ○菅原通敬君　簡單デゴザイマスカラ此席カラ申上ゲマス、此決議案ハ重大
  ナル問題デアルト思フノデアリマス、私ハ此問題ニ對シマシテ賛否ノ決議ヲ
  致ス前ニ、發議者タル阪谷男爵ニ一二御尋ネ申上ゲテ見タイト思フノデス、
  私ハ決議案ヲ能ク熟讀イタシタノデアリマス、又只今男爵ノ御述べニナリマ
  シタ所ヲ謹聽イタシタノデゴザイマスルガ、其決議案ノ眞意ノアル所、其目
  的ノ存スル所、何レニアルカト云フコトヲバ十分了解ガ出來ナカッタノデア
  リマス、若シ其了解ノ出來ヌガ爲ニ、私ノ贊否ヲ誤ルヤウナコトガアリマシ
  テハ相濟マヌト思フ故ニ、御尋ネ申上ゲル次第デアルノデアリマス、第一ニ
  阪谷男爵閣下ガ今ノ時ヲ憂ヘ世ヲ嘆カレマシテ、大ニ國政ヲ振作シテ昭和維
  新ノ鴻圖ヲ恢弘セラレテ、宏遠ナル聖慮ニ副ヒ奉ラムトセラルヽ其御誠意
  ノ御志ニ對シマシテハ、誠ニ感ジ入ル次第デアルノデアリマス、然ルニ此決
  議案ヲ見マスト云フト、此決議案ノ內容ニハ、如何ニシテ國政ヲ振作スベキ
  カ、如何ニシテ世ヲ警メ民ヲ濟フベキカト云フ、具體的ノ方案ト云フモノハ
  說カレテ居ラヌノデアリマシテ、總テ皆抽象的文字ニナッテ居ルノデアリマ
  ス、只今御說明ヲ伺ヒマシタ所デモ、或ハ歷史ヲ說キ、或ハ現狀ヲ說カレテ、
  縷々御述べニナラレタノデアリマスケレドモ、何等具體的ノ政策ト云フモノ
  ニ付テハ御說明ニナラヌノデアリマス、是ハ何トカ致サナケレバナラヌモノ
  デアラウト云フコトハ、度〓繰返シテ御話ニナッタノデアリマス、若シ男爵
  ニ何等カ之ヲ匡救スルニ付テノ具體的御方策ニ付テノ御抱負ガアルナラバ、
  此際伺ヒタイト思フノデゴザイマス、或ハ又男爵ノ御意圖ハ、貴族院內ニ於
  テ何等カノ調査會デモ設ケテ、時局匡救ニ對スル調査デモナサッテ見テ、サウ
  シテ其政策デモ研究シヤウト云フヤウナ御考デモアルノデアリマスカ、併セ
  テ伺ヒタイノデアリマス、第二ニハ、此決議案ノ冐頭ニ「方今國家ノ綱紀緩
  シ國民ノ道義衰頽シ輕躁過激ノ社會事相ト相俟テ實ニ邦家ノ憂ヲ作セリ」云
  云ト云フコトガアルノデアリマスガ、是ハ誠ニ御同感デアルノデアリマス、
  何人ニモ御異存ハナイト思フノデアリマスガ、サリナガラ是等ノ感想ヲ此議
  院ニ於テ決議イタシマシテ、何等ノ效果ヲ生ズルモノデアルト御覽ニナル
  ノデアリマセウカ、甚ダ卑近ノ例デアリマスケレドモ、雨ガ降ルカラ困ル、
  風ガ吹クカラ困ル、右決議スデハ、何等ノ意味ハ無イト思フノデアリマス、
  雨ガ降ルカラ屋根ヲ直サナケレバナラヌ、風ガ吹クカラ壁ヲ繕ハナケレバナ
  ラヌト云フニ於テ、初メテ意義ノアルモノデナカラウカト思フノデアリマ
  ス、院議ハ輕々ニ之ヲ取扱フベキモノデナイト思フノデアリマス、男爵閣下
  ハ、此決議ニ依ッテ何ヲ求メ、何ヲ得ラレムトスルノデアリマスカ、先刻ノ
  御說明ニハ、若シ本院ニ於テ之ヲ決議シタナラバ、民心ニ重大ナル重サヲ加
  ヘルト云フヤウナ御話モアッタノデアリマスガ、是ニ國民ニ警告ヲセラレル
  ト云フ御趣意デアルノデアリマスカ、其點ヲ伺ヒタイノデアリマス、次ニ伺
  ヒタイノハ、此決議案ノ中ニ「內外ノ政務ハ動モスレバ其ノ宜シキヲ失シ」
  ト云フコトガアリマス、此文字ハ原文ニハ、「内政ハ苟合彌縫ニ堕シ外交ハ
  姑息偸安ニ流レ」トアッタモノヲ改メラレタト云フコトヲ承知イタシテ居ル
  ノデアリマス、デ男爵ノ御考ハ寧ロ此原文ニ在ッタノデナカラウカト推測ス
  ルコトハ、決シテ無理ヂヤナイト思フノデアリマス、サウ致シマスト云フト、
  現政府ノ秕政ヲ非難セラルヽト云フコトニ當ルノデアリマスカラ、結局スル
  所是ハ內閣ニ對スル不信任案デアルト見ルノガ、至當デハナイカト思フノ
  デアリマス、先刻男爵ハ之ヲ彈効決議デアルト云フヤウナコトニ、世間、殊
  ニ政府筋ニ於テハ誤解シテ居ルノデアル、決シテサウ云フ趣意デハナイト云
  フヤウナコトノ仰セガアッタノデアリマスケレドモ、先刻ノ御說明中ニモ、
  現政府ノ爲シタコトニ付テ色〓御非難モアッタ所カラ推シテ考ヘマスト、男
  爵ノ御意中ハ、事ニ寄セテ政府ニ對スル不信任ノ決議ヲ認メラレヤウト云フ
  コトデハナイカ、ト云フガ如ク想像セラルヽノデアリマスガ、サウデハナイ
  ノデアリマスカドウカ、是等三點ニ付テ御說明ヲ伺ヒタイト思フノデアリマ
  ス

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• 062・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　斯カル決議ハ具體的ノ案ヲ入レマセヌノガ宜カラウト思
  ヒマス、具體的ニ斯ウスルガ宜イ、アヽスルガ宜イト云フコトヲ入レマス
  〓····詰リ目的ト致ス所ハ國政ノ振作、國政振作ト云ヘバ我〓ニハ能ク了解
  ガ出來ルト思フ、國政ヲ振作スルト云フコトハ何カト云ヘバ、物ノダレテ居
  ルコトヲ矯メル、斯ウ云フコトニナル、ソレカラ不信任ノ意味ガ有ルカ無イ
  カ、私ノ演說中ニ多少内政ニ不滿足ノヤウナコトモ見エタト云フヤウナ御言
  葉モアリマシタ、勿論私ハ今ノ內閣ノシテ居ラレルコトヲ一カラ十マデ善イ
  トハ考ヘマセヌ、今ノ例ニ擧ゲマシタ震災手形ノ處置ノ如キハ、ドウモ甚ダ
  政治道德デハドウカト思フノデアリマス、ケレドモソレ等ノ事ハ、今玆デ問
  フノデアリマセヌ、全體近來ノ政治ガ、現內閣ト云ハズ、緊張ヲ缺イテ居ル、
  故ニ政治ヲ振作シ大ニ將來努メナケレバナラヌト云フ、卽チ覺悟ヲ定メヤウ
  ト云フノガ本案ノ目的ナノデアリマス、具體案ヲ色〓示ス必要ハ、ソレ故ニ
  認メテ居リマセヌ
  〔花井卓藏君發言ノ許可ヲ求ム〕

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• 063・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　花井君ハ何デスカ

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• 064・花井卓藏

  ○花井卓藏君　阪谷男爵ニ質問ガアリマス

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• 065・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　マダ通〓ガゴザイマスカラ、通告ノ順序ヲ守リタ
  ウ存ジマス
  〔菅原通敬君發言ノ許可ヲ求ム〕

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• 066・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　菅原君ハ只今ノ續キデスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=66

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• 067・菅原通敬

  ○菅原通敬君　チヨット御挨拶ヲ

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• 068・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御挨拶ハ不必要ト思ヒマス、午後一時三十分マデ
  休憩イタシマス
  午後零時一分休憩
  平山東京
  午後一時四十五分開議

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• 069・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ報〓ヲイタサセマス
  〔小林書記官朗讀〕
  本日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ直ニ裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨
  ヲ衆議院ニ通知セリ
  昭和二年度歳入歳出總豫算追加案(第一號)
  昭和二年度歲入歲出總豫算追加案(第二號)
  昭和二年度各特別會計歲入歲出豫算追加案(特第一號)
  昭和二年度各特別會計歲入歲出豫算追加案(特第二號)
  豫算外國庫ノ負擔トナルヘキ契約ヲ爲スヲ要スル件(追第二號)
  花柳病豫防法案
  本日本院ニ於テ承諾スルコトヲ議決シタル左ノ政府提出案ハ直ニ之ヲ奏上
  シ又承諾スルコトヲ議決シタル旨ヲ衆議院ニ通知セリ
  大正十三年度第一豫備金支出ノ件
  大正十三年度特別會計第一豫備金支出ノ件
  臨時軍事費特別會計豫備費支出ノ件
  頸〓九六〓〓大二朋二卄日時時軍事費特別會計豫備費外ニ於テ豫算超過支出ノ
  件
  本日本院ニ於テ可決シタル左ノ衆議院提出案ハ直ニ裁可ヲ奏請シ又可決ノ
  旨ヲ衆議院ニ通知セリ
  大正九年法律第五十六號中改正法律案
  本日特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
  恩給法中改正法律案外二件特別委員會
  委員長伯爵堀田正恒君
  副委員長嘉納治五郞君
  家祿賞典祿給與未濟ニ關スル法律案特別委員會
  委員長黑岡帶刀君
  副委員長男爵沖貞男君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=69

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• 070・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス、通〓順ニ依リマシ
  テ志水小一郞君ニ質疑ノ發言ヲ許シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=70

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• 071・志水小一郎

  ○志水小一郞君　本案ノ提出者タル阪谷男爵ニ對シテ御尋ヲ致シマス、決議
  案ノ內容ニ付キマシテハ、本員モ亦大ニ御同感ノコトガ少ナクナイノデアリ
  マス、併ナガラ之ニ付テ執ラレムトスル所ノ形式ニ付テハ、問題デアラウト思
  フノデアリマス、本案決議ノ目的ハ、貴族院議員全體ノ意思トシテ之ヲ發表
  シ、政府ヲ鞭撻シテ、此案ノ內容ニ示ス所ノ事項ニ付テ大ニ國政ヲ振作セシ
  メムト欲スルモノデアルト、本員ハ讀ムノデアリマス、文字ハ如何ニ婉曲デ
  アリテモ、辯解ハドウデアリテモ、本員ハ斯ウ解スルヨリ外ハナイト、斯ウ
  信ズルノデアリマス、從テ本決議ハ、半バ政府問責ノ意ヲ含メルモノトスル
  ヨリ外ニハ解シヤウガナイト斯ウスルノデアリマス、其證據トシテハ、案ノ
  內容ニハ種々ノ文字ガアル、「綱紀弛緩」「道義衰頽」云々ノ文字ハ申ス迄モナ
  〃、「輕躁過激ノ社會事相ト相俟テ實ニ邦家ノ憂ヲ作セリ」云云、是等ハ唯、
  社會ノ情勢ヲ示スニ止マッテ、政府トハ滅交渉ノ辭デアルト讀マント欲スル
  モ、サウハ讀メヌノデアリマス、果セル哉「此ノ秋ニ方リ內外ノ政務ハ動モ
  スレバ其ノ宜シキヲ失シ」云々トアルノデアリマス、故ニ提出者ガ如何ニ御
  辯明ナサレテモ、全然彈効ノ意味ハ含マナイ、又問責ノ意味モ含マナイト、
  斯ウ御辯明ニナリマシテモ、案其モノノ內容ヲ拜見スルト、サウハ讀メヌノ
  デアリマス、果シテ然ラバ、政府ハ之ニ對シテ如何ナル措置ニ出ルデアリマ
  セウカ、反省引責スルノデアリマセウカ、又ハ其必要ナシトシテ平然自若タ
  ルデアリマセウカ、此二途デアラウト思ヒマス、依テ御尋ネ致シマスガ、政
  府ガ若シ反省引責スルコトナクシテ平然自若タル場合ニハ、更ニ上奏案ニテ
  モ御提出ナサル御考デアリマセウカ、假ニ此事ヲ衆議院ニ於ケル出來事ト致
  シマシタナラバ、政府ノ考ニ依リテハ、政府ノ取ルベキ措置ハ或ハ三途アル
  カモ知レヌト思フノデアル、曰ク反省引責スルナリ、曰ク衆議院ヲ解散スルナ
  リ、曰ク平然自若タルナリ、此三途アルノデハナイカト思フノデアリマス、以
  上ノ理由デアリマスカラ、貴族院ハ絕對的ニ問責的行動ヲ執ッテハイケナイ、
  執ッテハナラヌト申サヌデス、等シク之ヲ執ル上ニ於テモ、大ニ愼重ノ態度
  ヲ執ラナクテハナルマイ、斯ウ思フノデアリマス、御尋ヲ致シマスルガ、今
  日ノ場合、貴族院ガ此種ノ行動ヲ執ルノハ至當ナリ、已ムヲ得ザルナリ、必
  要ナリト、斯ウナサルデアリマセウカト云フノガ御尋デアリマス、尙ホ附加
  シテ御尋ネ致シタイノハ、是等ノ行動ヲ執ルコトヲ必要ナリトシ、又適當ナ
  リトセラレルナラバ、解釋ハ見ル人ノ解釋、解スル人ノ解釋ニ委セテ宜ササ
  ウナモノデアルト、斯ウ考ヘルノデアリマス、ソレヲ頻ニ彈効ニ非ズ、問責
  ニ非ズ、斯ウ云フ風ニ御辯明ニ努メラレルノハ、抑〓ドウ云フ理由デアリマ
  セウカ、是モ併セテ伺ヒタイ、本員ノ御尋ハ此二ツデアリマス

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• 072・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　先刻詳シク辯明ヲ致シテ置キマシタ、此文章ヲ御覽ニナ
  リマシテモ、政府ヲ責メルト云フ······此政府トカ內閣トカ云フモノヲ目標ニ
  置イテ文章ハ出來テ居リマセヌ、卽チ初ヨリ現內閣トカ、現政府トカ云フモノ
  ニ對シテ攻擊ヲ加ヘルト云フヤウナ考ハ持ッテ居リマセヌ、ソレヨリモ廣イ意
  味ヲ含ンデ居リマス、從テ現政府ノ行動其宜シキヲ得ザルモノガアッタ時分
  ニ、自然ニ此文句ノ中ニ嵌マルモノモアリマセウ、從テ又政府ニ於テハ大
  ニ反省セラレル所モアリマセウ、要スルニ忠告ノ意味ハ十分ニ含マレテ居ル
  ト考ヘマス、ソレ故ニ本員ニ於キマシテハ、初ヨリ政府ニ引責ヲ迫ルトカ何
  トカ云フ意味ハナイノデアリマス、是デ御了解ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=72

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• 073・志水小一郎

  ○志水小一郞君　只今ノ御辯解ハ承リマシタ、併ナガラ初ヨリ提出者ノ御辯
  明ハ斯ク〓〓デアルト云フコトヲ承知ノ上デ、實ハ御尋ヲシタノアリマス、
  ソレデ此決議案其モノヲ再三再四拜見スルト云フト、少シモ問責ノ意味ハ含
  ンデ居ナイ、彈効ノ意味ハ含ンデ居ナイト斯ウ仰セラレテモ、何分サウハ受
  取レヌト云フノガ、本員ノ解釋デアリマスカラ、是ヨリ以上ハ無意義ナ御尋
  デアリマスカラ、御尋ハ致シマセヌ
  〔小林嘉平治君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=73

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• 074・小林嘉平治

  ○小林嘉平治君　私ガ質問ヲ致ス前ニ皆樣ニ御願ヒシテ置キタイコトハ、質
  問ト云フモノハ多少自分ノ考ノアル所ヲ示ス必要ガアリマスノデ、十分心得
  ハ致シマスルガ、豫メ御願ヲ申シテ置キマス、午前ノ會議ニ於キマシテ、阪谷
  男爵ガ我日本ノ將來ヲ深ク御憂慮遊バサレテ、此決議案ヲ御出シニナッタ、其
  御誠意ハ私ハ深ク敬意ヲ表スルモノデアリマス、私ハ勿論、其經驗ニ於テ實力
  ニ於テ、長老阪谷男ニ及バザルコト遠イコトハ能ク承知ヲ致シテ居リマス、
  併ナガラ國家ヲ思フ赤誠ニ至ッテハ、決シテ讓ラナイ自信ヲ持ッテ居ルノデア
  リマス、此意味ニ於テ御尋ヲ致スノデアリマス、先刻阪谷男ノ說明ヲ承リマ
  スト、本案ハ現内閣ヲ彈効スルモノデハナイ、深ク現內閣ヲ信賴シテ居ルモ
  ノデアル、故ニ豫算モ無事ニ通シタノデアル、劈頭ニ於テ斯ク宣言サレタノ
  デアリマスガ、御演說ヲ承ルト云フト、惑ハザルヲ得ヌノデアリマス、ドウ
  モ彈効サルルヤウナ御言葉ガ混ッテ居ルノデアリマス、誤解ハ飽クマデ解イテ
  置カネバナリマセヌ、誤解ホド恐ロシイモノハアリマセヌ、深ク經驗ヲ私ハ
  致シテ居リマス、アノ震災手形ノ如キ簡單明瞭ナル議案ガ、如何ニ社會ニ誤
  解サレテ居リマスカ、反對黨ハ······現政府ニ對スル反對黨ハ、確ニアノ震災
  案デ現內閣ヲ倒スコトガ出來タグラヰニ考ヘテ居ル、斯ノ如クニ誤解サレテ
  居ルノデアリマス、私曾テ東京驛ニ、若槻首相ガ國カラ······田舍カラ御歸リ
  ニナッタ時ニ出會シタコトガアリマス、實ニ私ハ驚キマシタ、汽車カラ降リ
  ラレルナリ丁度蜜蜂ノ親蜂ヲ圍ムガ如クニ、多數ノ私服ノ警官ガ取卷イテ、
  私ハ何事ガ出來タカト驚イタノデアリマス、其當事松島事件デハナカッタノ
  デスカラ、安心ハ致シテ居リマシタガ、一國ノ首相タル亦難イ哉、內閣ヲ背
  負ッテ立ツ人ハ、身命ヲ捧ゲテ仕事ヲシテ居ラレルノデアルト云フコトヲ、痛
  切ニ私ハ感ジタノデアリマス、笑ヒ事デハアリマセヌ、現ニ原大宰相ガ橫濱
  デ······東京驛デ斃レタデハアリマセヌカ、是ハ全ク誤解カラ來テ居ルノデア
  リマス、一靑年ノ誤解カラ來テ居ルノデアリマス、誤解アルガ故ニ、オ恥カ
  シイコトデアルガ首相ハ斯ノ如ク護衞ヲセニヤナラヌコトニナッテ居ル、此處
  ニ居ラレマス德川議長サンモ、先年アノ御屋敷ガ燒ケタコトガアリマス、
  近頃其原因ヲ聞キマスト云フト、全ク誤解カラデス、私共ハ水平社同人ノ運
  動ニハ非常ニ同情シテ居ル者デス、私共アヽ云フ問題ノ起ル以前カラ、私共
  ハ彼ノ人〓ト〓事ヲ共ニシ、自分達ノ臺所ニ來レバ家內ト一〓ニ飯ヲ喰ベテ
  居ル、同情シテ居ル者デアルガ、彼レノ誤解ハ甚ダ畏多イコトデアルガ議長
  サンノ御宅ニ······是ハ事實トハ信ジマセヌガ、サウ云フ噂ガアリマス、彼レ
  誤解ニ基イテ居ル、ドウ云フ誤解デアルカト云フト、水平運動ナルモノハ因
  襲ヲ打破シヤウト云フコトニアル、然ルニ御先代ガ水平社同人ニ對スル取扱
  ガ苛酷デアッタカラト云フ其頭デ居ル、昔石川五右衞門ハ彼レノ犯シタ罪ニ
  依ッテ其子供マデガ煮ラレタコトガアル、要スルニ是ハ昔ノ因襲ニ囚ハレテ、
  其誤解カラ斯カルコトヲ惹キ起スト云フ樣ナ噂モ出ルノデ、是ハ飽クマデ解
  イテ置カネバナラヌト思フノデアリマス、衆議院ナンカデ屢〓決議案ヲ出シ
  テ突付ケテ、不信任案ヲ出スナント云フコトモ、餘程心得ナケレバナラヌコ
  トデアル、併シ衆議院ナドハ、私共、君ハ餘リ酷イコトヲ言フデハナイカ、兎ニ
  角陛下ノ御信任遊バシテ出來テ居ル內閣ニ向ッテ、亂臣賊子ノ如キ言ヲ放ツ
  ト云フコトハ何事デアルカ、私共友人ニ話シマス、サウスルト又衆議院ノ御
  方ハサッパリ致シテ居リマス、マアサウ言ハニヤ反對黨ノ立場ガ無イヂヤナ
  イカ、衆議院ハソレデ宜イカ知ラヌガ、貴族院ハソレデハナラヌノデアリマ
  ス、私共此問題ヲ丁寧ニ取扱ヒタイ、自分ノ分ラヌ所ハ御尋ネシテ誤解ヲ解
  イテ置キタイト云フノガ、卽チソレデアルノデアリマス、先刻阪谷男爵ハ
  現內閣ノ內治外交ニ對シテ色〓失政ノアルコトヲ、具體的ニ御竝ベニナリマ
  シタ、現內閣モ人間デアリマス、勿論誤リハアリマセウ、ケレドモ御互ニ其
  功罪ヲ考ヘテ見ニヤナラヌ、私ハ此意味カラ阪谷男爵ノ御意見如何ト云フコ
  トニ付テ質問ヲシテ見タイ箇條ガ大分ニ有ルノデアリマス、第一世間ニ疑惑
  ノ的トナッテ居ル所ノ、アノ震災手形ノ解決ハ、私ハ現内閣ノ一大成功ナリト
  深ク信ズル者デアリマス、阪谷男ハ最モ經濟ノ事情ニ精通遊バシテ居ラレル
  方デアリマス、如何ニ御考ヘニナッテ居ルカ、併シ私ガ此震災手形ニ付テ斯ノ
  如ク考ヘテ居ルノハ、阪谷男爵ノ仰シヤル震災手形ノ時モ御述べニナッタ贊成
  ノ理由トハ、少シ違フモノガアルノデアリマス、此意味ヲ明カニシテ置キマ
  セヌト云フト、私ノ質問ノ要旨ガ明カニナリマセヌ、暫ク御忍ビヲ願ヒマス、
  阪谷男爵ノ此演壇ニ於ケル所ノ此間ノ演說ニ依リマスルト、私ハ御贊成ノ理
  由ガ何處ニアルカト云フコトヲ怪ム、此震災手形ヲ通スコトハ、我〓トシテ
  ハ沸エ湯ヲ飮ムヤウナモノデアルト云フ御話デアリマシタ、此大問題ヲ斯ノ
  如クニアシラフベキモノデナイト私ハ思ッテ居リマス、阪谷男爵ハ現在ノ經
  濟界ノ事情ニ囚ハレテ、今經濟界ガ斯ノ如クニ動搖シテ居ル、マア理窟ハ後
  ニシテ、外ニ名案モアルケレドモ、兎ニ角之ヲ通サネバナラヌ、是ガ震災手
  形ヲ御通シニナッタ理由デアッタノデアリマス、經濟界ノ事情ニ精通シテ居ラ
  レル阪谷男ノ御議論トシテ、失望セザルヲ得ヌノデアリマス、我〓ハ斯ノ如
  キ經濟事情ハ眼ノ前ニ見セテ貰ハナクトモ、震災手形ガグヅ〓〓ヤッテ居ッタ
  ラアヽ云フ風ニナリハシナイカト、非常ニ憂慮シテ居ッタノデアリマス、實
  際ニ其實狀ヲ見ナクトモ、我〓能ク分ッテ居ル、況シテ經濟界ノ事情ニ精通シ
  テ居ラッシヤル阪谷男爵ハ、モウ既ニ分ッテ居ッタニ相違ナイ、而モ斯カル事
  ヲ理由ニシテ御通シニナルト云フコトハ、甚ダ私ハ其意ヲ得ヌノデアリマ
  ス、要スルニアノ時御述べニナッタノハ斯ノ如クデアッタガ、大體此演壇ニ登ッ
  テ御述べニナッタ方ノ御趣意ヲ申スト、今日ノ經濟界ハ全ク有機的ノ組織ノ
  モノデアル、決シテ無機的ヂヤナイ、此癌ヲ取去ラナカッタナラバ、其部分ダ
  ケヂヤナイ、身體全體ニ及ブノデアル、此經濟界ノ現在ノ組織ニ論據ヲ置
  イテ、サウシテ大體震災手形案ニ贊成ヲ爲スッタノデアリマス、言葉ヲ換
  ヘテ言ヘバ斯ノ如クデアルト私ハ見テ居ル、併シ私ハ是デハデス、政府ハ何
  ガ故ニ震災手形ヲ、一億圓ノ損ヲシテ、之ヲ救濟セネバナラヌカト云フコト
  ノ理窟ニ、私ハナラヌト思フノデアリマス、、〇ガ誤解ヲ世間カラ招カレル
  所デ、サウ云フ論據ニ立ツト云フト、一銀行、一商店ノ大キナモノバカリ助
  ケテ、震災デ餘計災難ヲ受ケテ居ル者ガアルヂヤナイカ、何ガ故ニ現政府ハ
  之ヲ助ケナイカト、或ル一政商、一銀行ノ依賴デモ受ケタヤウナ誤解ヲ受ケ
  ルノデアリマス、現ニ高田商會ノ潰レタ時モ、茂木商店ノ潰レタ時モ、私ハ
  政府ハ救濟ハシナカッタト思フ、必シモアレニ依ッテ被害ヲ蒙ッタ所ノモノハ、
  茂木、高田自身ダケヂヤアリマセヌ、其他ノ取引ヲシテ居ッタ多クノ善良ナ
  ル取引者マデモ被害ヲ蒙ッテ居ル、私ハ其時ニハ政府ハ助ケナカッタト記憶シ
  テ居ル、此演壇ニ述ベラレタ先般來ノ御議論ダケデハ、又衆議院ニ於ケル御
  議論ダケデハ、私ハ日本政府ガ何ガ故ニアノ損失ヲ忍ンデ迄アノ方法ヲ取ラ
  ネバナラヌカト云フコトノ結論ハ出來テ來ヌト思フ、コヽガ誤解ヲ招ク點ナ
  ンデス、私ノ見ル所ニ依ルト······デ世間デハ銀行ヲ救濟スル、臺灣銀行ヲ
  救濟スルト云フコトガ喧マシク言ハレルガ、極端ナモノニ至ッテハ、一某商店
  ヲ救濟ヲスルト云フコトヲ喧マシク言ヒマスガ、現ニ實業同志會カラ我〓ニ
  寄越シタ宣傳ヲ見ルト云フト、此震災手形ナルモノニ依ッテ、某商店ハ何億万
  圓救ハレルコトニナルノデアル、其利子ダケノ計算デモ一千何百万圓デアル、
  畏多イコトデアルガ皇室ノ四百五十万圓ノ例マデ擧ゲテ、サウシテ非難ヲス
  ルノデアリマス、皇室費ノ何倍ノ助ケヲスルノデアル、斯ク言フノデアリマ
  ス、私共ノ見ル所デハ、銀行モ救ハレマセウ、取引關係者モ救ハレマセウガ、
  ソレヨリハデス、政府自體ガデス、自分自カラヲ救フ法案デアルノデアリマ
  ス、此結論ニドウシテ達スルカト云フト、私ハ此間モチヨット話シテ置イタ
  ガ、アノ五億ニ近イ所ノ「スタムプ」ヲ、日本政府ガ日本銀行ニ命令ヲ下シ
  テ、アノ「スタムプ」ヲ捺シタ時ニ運命ハ決シテ居ルノデアリマス、平タイ言
  葉デ言ヒマスト、二億七百万圓ト云フ今滯ッテ居リマスノハ、是ハ政府自體
  ガ保證ノ位置ニ立ッタト同ジコトデス、貸借關係カラ見マスルト、サウ云フ
  關係ガアル、我〓ガ假ニ五万圓ノ保證ニ立ッテ、三万圓マデハ片付ケタ譯ダ
  ガ、二万圓ハコビリ附イテ居ル
  〔子爵前田利定君「議長、議事進行ノコトニ付テ一言イタシタイト思
  ヒマスト述フ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=74

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• 075・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　令、小林君ノ發言中デゴザイマスカラ、暫ク御控
  ヘヲ願ヒマス

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• 076・小林嘉平治

  ○小林嘉平治君　ドウカ暫ク御猶豫ヲ··
  〔子爵前田利定君「如何ニモ今質問セラルヽト仰セニナリマスケレ
  ドモ非常ニ此國政ノ振作ニ關スル決議案ト緣ガ遠イ」ト述へ、「同感」
  ト呼フ者アリ〕

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• 077・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　小林君登壇ノ前ニ、議長ハ其コトヲ小林君ニ注意
  シテ置キマシタカラ、今暫ク小林君ノ發言ヲ伺ヒマシテ適當ナ處分ヲ執ラウ
  !、今考ヘテ居ル所ゴデザイマス

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• 078・小林嘉平治

  ○小林嘉平治君　今ノ我〓ガデス、此儘ニ抛ッテ置キマスト云フト、二万圓
  ト云フモノハ、保證人タル者自身ガ背負ッテ拂ハナケレバナラヌコトニナリ
  やく、其時ハ如何ナル途ヲ取リマスカト云フト、是ハ低利十年賦ニシテ置イ
  テ

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• 079・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　小林君······小林君、更ニ議長ハ小林君ニ御注意ヲ
  致シタイト考ヘマス、阪谷男爵ニ對スル質疑ノ前提モ程度問題デアリマスケ
  レドモ、震災手形法案ノコトヲ御引用ニ相成ルノハ聊カ不穩當ト考ヘマス、
  御注意ヲ致シマス、モウ少シ問題ニ適切ナ前提ニサレルコトヲ望ミマス

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• 080・小林嘉平治

  ○小林嘉平治君　ソレデ··

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• 081・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　然ラザレバ議長ハ、議長ノ職權デ小林君ノ質疑ヲ
  差止メマス

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• 082・小林嘉平治

  ○小林嘉平治君　ソレデハ、只今ノ御一言ニ依リマシテ、私······要スルニ私
  二、此震災手形ノ問題ヲ解決シタト云フコトハ、若シ井上藏相ガアノ震災ノ
  時ニ取ッタ方法ガデス、我日本ノ財政史ヲ飾ルモノデアルナラバデス、此結末
  ヲ付ケタ內閣モデス、確ニ財政史ノ一頁ヲ飾ルモノデアルト私ハ見テ居ル、
  阪谷男ハ此點ニ向ッテ現內閣ノ功績ヲ認ムルヤ否ヤト云フコトノ是ガ質問デ
  アルノデアリマス、少シ論旨ヲ盡サヌ所ガアリマシタコトヲ遺憾ト致シマ
  ス、次ニハ現內閣ガ組閣サレタ······加藤內閣ガ組閣サレタ當時ノ爲替相場ヲ
  見マスト云フト、私ハ日本ノ圓價ハ四十弗內外デアッタト記憶イタシテ居リ
  やく、只今ハ、今日ノ新聞ヲ此處ニ持ッテ居リマスガ、四十九弗十六分ノ三ト
  云フコトニナッテ居リマス、此爲替相場ト云フモノハ、確ニ日本ノ財政ト云フ
  モノガ如何ナル狀態デアルカト云フコトヲ示ス「メートル」デアリマス、斯ク
  爲替相場ガ上騰シテ來テ、又金解禁ヲシテモ宜イト云フ時代ニナッテ居ルト
  云フコトハ、現內閣ノ財政ノ方針ガ宜カッタト云フ結果デアルト私ハ思ッテ居
  ル、阪谷男爵ハ如何ニ之ヲ御考ヘニナッテ居ルカ、ソレカラ現內閣ノ組織サ
  レタ頃ニハ、日本ハ五大强國ノ一ツデアルト云フコトヲ能ク言ウテ居ッタ、簡
  單ニ申上ゲマス、然ルニ亞米利加ガ例ノ軍備縮小ノ提出ヲ致シマシテ、若シ
  現內閣ノ方針ガ彼ノ希望ニ副ハナカッタナラバ、亞米利加ノ面目ハ丸潰レデ
  ス、ガ漸ク帝國ト英國ガ參加イタシタノデ彼ノ面目ガ立ツコトニナリ、又其
  理想モ實現スルコトト思フ、斯ク考へ來ルト云フト、今ヤ日本ハ三大强國ノ
  一ツデアルト現實ニ言ウテ宜イ、是ハ現内閣ヲ
  〔「ソンナコトハ現内閣ノ問題ヂヤナイ」ト述ブル者アリ、「ヒヤヒ
  ヤ」ト呼フ者アリ〕
  非難スル所ノ一ツノ材料デアリ得マセウカ、如何ニ御考ヘニナリマスカ、ソ
  レカラ外交上ノコトニ付テ色〓御憂慮遊バシテノ御話ガアリマシタガ、私ハ
  具體的ニ御尋ネシテ見タイ、阪谷男ハ現内閣ノ執ッテ居ル對支外交ノ其政策
  ヲ非難サレルノデアリマスガ、言ヒ換ヘレバ、我〓ガ衆議院ニ居ッタ時代ト
  心得テ居ルガ、寺內內閣ガ執ッタヤウナ、アノ經濟上ノコトヲ申上ゲマスト、西
  原借款ヲ起シタヤウナ、アヽ云フヤリ方、日本ガドン〓〓這入リ込ンデ行ッテ
  向ウノ有志ニ御金ヲ振リ撤イテ、サウシテ日本ノ力ヲ示シタ、アレデス、ア
  云フ古イヤリ方ヲ今日必要デアルト思召スノカ、又西比利亞ニ六億ノ御金
  ヲ注込ンデ、サウシテ今日如何ナル狀態ニナッテ居ルカ、アヽ云フヤリ方ヲヤ
  レト仰シヤルノデアルカ、西原借款ニ付テ私想ヒ起サザルヲ得ヌ、アノ時ハ
  一億万圓デアリマス、而モソレハ昨年解決シタノデアリマス、皆樣御記憶ニ
  存シテ居ルト思フ、一億万圓支那ニ貸シタ御金ヲ日本政府ガ肩替リヲシテスッ
  カリ背負ヒ込ンデシマッテ、サウシテ興銀ナドヲ救ウテヤッタノデス、一億万
  圓ノ金デアリマス、決シテ今日ノ震災手形ホド問題ニシナカッタ、若シ震災手
  形ニ向ッテ今日ワイ〓〓言フナラバ、西原借款ノ當時喧マシク言ハヌナラヌ、
  ソレカラ其次ニ御尋ネシタイコトハ、三黨首協商ナルモノヲ非難サレタ御言
  葉ガアッタト耳ニ殘ッテ居ルノデアリマスガ、私ハ日本デアレバコソ是ガ出來
  タ、私ハ今ノ内閣ノ一ツノ誇ナリト斯ウ見テ居ル、英國デモ嘗テヤッテ見タ
  コトガアル、丁度現今ノ日本ト同ジヤウニ、「エドワード」陛下ガ御亡クナリ
  ニナッテヽサウシテ其時ハ、何カ貴族院ノ問題カ何カデ非常ニ議會ガ騒イデ
  居る、所ガ民論ハ、斯ウ云フ時ニアヽ云フ騷ギヲスルコトハ······ト云フ麗ハ
  シキ輿論ガ英國ニ起ッタノデアリマス、其時ニ「アスキス」首相ハ、反對黨ノ「バ
  ルフオア」デアッタト思ヒマスガ、彼ト協商イタシマシテ、二十餘囘ノ協商ヲ重
  ネタト云フコトデアリマス、併シ英國デハ出來ナカッタ、國民ガ非常ニ望ンデ
  居タ協商ガ出來ナカッタト云フコトヲ遺憾トシテ居リマス、日本ノ此國體ニ於
  テハ、義ハ君臣デアルガ情ハ父子デアル、此國體デアレバコソ是ガ出來タ、私
  ハ日本ノ議會史ヲ讀ンデ、停會ト云フ文字ガ是グラヰ意義アルコトニ使ハレ
  タコトハナイ、私ハ確ニ現内閣ノ成功、一大成功ト誇ッテ宜イト思フ、此點ヲ
  如何ニ阪谷男ハ御考ヘニナルカ、ソレカラ次ニハ普選ノ問題ニ付テ色〓御書
  キニナッテ居ラレマスガ、私ハ普選ニ直面シテ······此普選ヲ成功サシタ者ハ
  憲政會デアリマス、今ノ内閣ガドウシテモ此第一囘ノ普選ニハ臨マネバナラ
  又、殊ニ私ハ現内閣ニ敬服シテ居ルノハ、今世間ニ無產政黨ト云フモノガア
  ル、私ハ今ノ内閣諸公ハ無產政黨員デハアリマセヌケレドモ、確ニ無產內閣
  ナリト稱シテ宜イ、若槻首相ガアノ若イ時分カラノ生立ヲ御考ヘナサイ、全
  ク無產者ガ今日ヲ致シタ、又ドナタヲ見テモ皆サウデス、今日片岡サンガ御金
  ヲ澤山持ッテ居ラッシヤルケレドモ、若イ時ノ苦心談ヲ聽クト云フト、實ニ氣
  ノ毒ナモノデス、背中ニ何カ負ヒ物ヲシテ賣ラレタ時代モアッタ、皆サウ云フ
  御方〓デアリマス、此處ニ居ラッシヤル岡田サンダケハ多額議員ノ資格ヲ持ッ
  テ居ラッシヤルヤウニ私ハ聞イテ居リマス、而モ親讓リデアルノデアリマス、
  併シ茲ニ皆サン能ク考ヘネバナラヌ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=82

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• 083・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　小林君、如何ニモ小林君ノ言論ヲ議長ガ束縛スル
  ヤウニ御取リニナッテハ誤解ヲ虞レマスガ、左樣デハゴザイマセヌ、今小林君
  ガ質疑ニ名ヲ藉リテ討論ノ如キコトヲ爲サイマスト、將來此議場ノ秩序ヲ保
  ツ爲ニ、先例ト相成ッテ、議長ノ議場ヲ整理スルコトニ付テ甚ダ憂慮イタシマ
  ス、十分御注意ヲ請ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=83

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• 084・小林嘉平治

  ○小林嘉平治君　能ク了承イタマシタ、只今議長サンノ御注意ヲ深ク頭ニ刻
  ンデ居リマス、ケレドモ、チヨット私ハ結論ヲ申上ゲテ御尋ノ趣意ヲ申上ゲヌ
  ト、又是ガ誤解ヲ招キマスカラシテ······岡田文相ノ御家庭ハ所謂報德宗ヲ信
  ジテ居ラレルノデアリマス、御金持デアッテモ決シテ無駄ヲナサイマセヌ、分
  度推讓ヲ守ッテ居ラッシヤイマス、無產者モ同ジヤウナ境遇ニ育テラレタ御方
  デス、ソレガ今日ノ岡田サンナリ一木內相ヲ生ンダ······宮相デアリマス、斯
  ク考ヘ來リマスト云フト、私パ此普選ニ直面シテ、サウシテ現内閣ハ最モ誂
  向ノ普選内閣デアリマス、無產政黨ノ內閣デアルト云ウテ宜シイ、私ハ斯ク
  考ヘテ居ルガ、如何ニ阪谷男ハ御考ヘニナリマスカ、昔カラ擔ギ看板ト云フ
  コトガアリマス、何デアルカト云フト、肩デ看板ヲ擔イデ、片方ハ見エマセ
  ヌ、片一方ダケ見テ、此町ハ立派デアルケレドモ惜シイコトニ片側町デアル
  ト言ッタ話ガアリマス、今日此貴族院トシテハ實ニ重要ニ扱ハナケレバナラ
  ヌ、鄭重ニ扱ハナケレバナラヌ此決議案ヲ出スニ當ッテ、御言葉ハ如何ニモ現
  內閣ヲ彈効スルモノデハナイト仰シヤッテ、之ヲ見マシテモサウ見エマスケ
  レドモ、說明ヲ承ルト決シテサウナッテ居ラヌ、所謂擔ギ看板デアッテハナリ
  マセヌ、今御尋ネシタヤウナ意味ノコトヲ、如何ニ御考ヘニナルカト云フコ
  トヲ私ハ伺ヒマシテ、サウシテ自分ハ是ノ賛否ヲ決シヤウト思ヒマス、是ガ
  私ノ質問ノ要旨デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=84

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• 085・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　只今小林君ガ頻リニ現內閣ヲ謳歌セラレルノ意見ヲ御述
  ベニナリマシタ、本員ハ質問トハ認メマセヌ、從テ答辯イタシマセヌ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=85

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• 086・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　花井卓藏君
  〔小林嘉平治君發言ノ許可ヲ求ム〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=86

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• 087・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　花井卓藏君ニ質疑ヲ許シマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=87

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• 088・花井卓藏

  ○花井卓藏君　昨年ノ十二月十二日、貴族院ニ於ケル有力ナル諸君ガ相會シ
  テ、一ノ覺書ヲ作成セラレマシテ、國民ノ前ニ提供セラレマシタ、文ニ曰ク
  「方今綱紀緩ミ道義衰ヘ國家ノ前途眞ニ憂惧ニ堪ヘサルモノアリコノ秋ニ方
  リ道義ノ大本ヲ明カニシ司法ノ威信ヲ確立シ以テ民心ノ向フトコロヲ知ラシ
  メサルニ於テハ、或ハ容易ナラサル事態ヲ惹起センコトヲ恐ル、吾人ハ須ラ
  ク大局ニ鑑ミ愼重ナル考慮ヲ拂フヘキモノト認ム、貴族院議員有志」是ハ當
  時ノ新聞紙ニ揭ケラレテアル通デアリマス、此會ニ列席セラレ、此覺書ヲ作
  成セラレタル人〓トシテ新聞紙ノ揭グル所ニ依レバ、研究會ニ於テハ、靑木
  信光子、小笠原長幹伯、牧野忠篤子、渡邊千冬子、馬場鍈一君、湯地幸平君、公
  正會ニ於テハ、船越光之烝男、阪谷芳郞男、二條正麿男、交友倶樂部ニ於テ
  ハ和田彥次郞君、南弘君、山之内一次君、同成會ニ於テハ、今朝質問セラ
  レタル菅原通敬君、中村是公君、無所屬ニ於テハ、中川小十郞君、純無所屬ニ於
  テハ、松本烝治君、斯ノ如クニ揭ゲラレテ居リマス、或ハ新聞紙ノ傳フル所
  誤ッテ居ルカ存ジマセヌガ、私ハ當時ノ新聞紙ノ全部ヲ今日調査イタシテ見
  マシタラ、總テ斯ノ如クニ揭ゲラレテアリマス、我〓ハ是等先輩諸君ノ言議
  ニ常ニ敬意ヲ拂ッテ居リマス、勿論是ハ院外ノコトデハアリマセウケレドモ、
  政治問題ニ對スル所信ヲ天下ニ披瀝セラルヽ點ニ於キマシテハ、人格ニ二重
  アルコトヲ認メナイ者デアリマス、阪谷男爵ノ提案ノ決議文ヲ朗讀スルニ、
  所謂決議案トシテノ效力、是ハ法律的ニ、或ハ政治的ニ、多少ノ問題ハアル
  カ存ジマセヌ、併ナガラ議員個人ノ意思ヲ表明スルト云フコトハ、文章ノ
  上ニ於テ明瞭デアラウト思フ、阪谷君ノ決議案ハ、此覺書ニ書イテアル所ノ
  モノト、内容ニ於テ大同小異ナリト私ハ信ジテ居ルノデアリマス、文章ニ於
  テ精粗ノ差ガアリ、內容ニ於テ多少制限セラレタル所ガゴザイマスルガ、意
  思ヲ表明セラルヽ點ニ於テ、此覺書ト云フモノハ重大ナル關係ヲ有シ、覺書
  ノ事項ハ少クトモ全部網羅セラレテアルモノト解釋セラレマスガ、左樣デゴ
  ザイマスルカ、之ヲ伺ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=88

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• 089・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　只今御朗讀ニナリマシタモノハ今手許ニゴザイマセヌカ
  ラ、間違ハ無イヤウニ存ジマスガ······今御尋ノ通リデゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=89

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• 090・花井卓藏

  ○花井卓藏君　覺書モ此決議案モ、精神ニ於テ同ジデアルト云フ御答ト見テ
  宜シウゴザイマスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=90

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• 091・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　左樣デゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=91

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• 092・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ニテ質疑ハ終了ヲ〓ゲタト認メマス、是ヨリ通
  告順ニ依リマシテ討論ニ移リ、發言ヲ許シマス、藤澤利喜太郞君
  〔藤澤利喜太郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=92

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• 093・藤澤利喜太郎

  ○藤澤利喜太郞君　私靑年時代ヨリ友人デアリ、今ハ共ニ貴族院內ニアリ
  マスル阪谷男爵ノ御誠意ニ對シテハ深甚ノ感謝ヲ表スル次第デアリマス、不
  幸ニシテ此決議案ニ付テハ反對ヲ表明スル者デアリマス、先刻菅原君カラモ
  御質問ノ中ニモアリマシタ如クデアリ、又只今花井博士ノ應答ノ間ニモ現ハ
  レテ居リマス如クニ、先頃此議會ノ開會ノ前後ニ於キマシテ、所謂申合セトカ、
  覺書トカ云フヤウナモノガ有ッタヤウニ承知ヲ致スノデゴザイマス、ソレ等ニ
  付テハ只今ノ御問答ニ依リマシテ、全然實質ニ於テハ其覺書ニ等シイモノダ
  ト云フ御答ヲ阪谷男ヨリ承知イタシタ次第デアリマスガ、併シ其當時御贊成
  ニナリマシタ方〓ノ中ニハ、多少ノ異動モアッタヤウニ私ハ伺ッテ居リマス、
  又此決議案ハ、文句ガ最後ノ形ヲ取リマス迄ニモ、多少ノ御修正ガアッタヤウ
  ニ承知シテ居リマスガ、私ハソレ等ノ行掛リト云フヤウナコトニハ總テ超越
  シマシテ、此問題ヲ考ヘタイト思フノデアリマス、最初此決議案ノコトヲ耳
  ニ致シマシタ時分ニ、最初ニ私ノ感想ニ浮ンダモノハ、何トナク······斯樣ナ
  言葉ヲ使ヒマシテ、若シ御無禮ニ當リマシタラ御寛恕ヲ願ヒタイト存ジマス
  ガ、年中行事ト云フコトガ世ノ中ニアル、其年中行事的ノヤウナ感覺ヲ私ニ
  與ヘタノデアリマス、此決議案ノ文句ニ書イテアリマスコトニ付テハ、無論
  何等異議ノアルベキ筈ハナイノデ、併シ之ヲ貴族院ノ決議トシテ、此機會ニ此
  決議ヲスルト云フコトハ、ソレニ對シテ私ハ反對ヲスル者デアルノデアリマ
  ス、私ハ貴族院ノ決議ト云フモノハ、非常ニ重大ナル時機ニ於テ、非常ニ重
  大ナル事柄ニ付テ、勿論三百有餘人ノ人ガ一人殘ラズ同意スルト云フコトハ
  是ハ無理ナコトト思ヒマスルガ、其中ノ多數ノ人ガ、恰モ響ノ聲ニ應ズルガ
  如キ態度ニ依リテ、賛成サレルコト程左樣ニ、事柄モ重大デアリ、又時機モ
  適切デアルト云フ時ニ於テ、極メテ稀ニ爲スベキ所ノモノデアルト云フ、私
  ハ平素カラ信念ヲ持ッテ居ルノデアリマス、如何ニモ其案文ニ書イテアリマス
  コトハ事實デモアリマセウシ、又是ハ重大ナコトデアル、併シ其重大デアル
  ト云フ其點ニ付テノ解釋ハ、是ハ人〓異ナッテ居リマセウ、唯私ハ斯ノ如ク重
  大ナ場合ニ於テコソ、貴族院ト云フモノハ決議案ヲ出スベキモノダト云フ、
  其意味ヲ明カニスル爲ニ、チヨット往時ヲ囘顧シタイト思ヒマス、日露戰爭ガ
  開戰ニナリマシテ、我日本國ハ初メテ强大國ト爭フ、其時ノ人心ノ緊張ノ仕
  方、貴衆兩院ニ於ケル空氣モ矢張リサウデアッタラウト思ヒマス、アノ當時位
  ノデス、感覺ヲ與ヘル重大ノ時機ニ於テコソ、初メテ貴族院ト云フモノハ斯
  ノ如キ決議ヲ爲スベキモノデアルト思フノデアリマス、只今玆ニアリマス所
  ノ案文ヲ、此前ノ内閣ノ時、或ハ又ソレ以前ノ內閣ノ時ニ出シマシテモ、同
  樣ノ意義ハアルト思ヒマス、ソレ故ニ成ルベク、御通告モ澤山アルサウデア
  リマスカラ、私ノ述ベムトスル意味ヲ言葉短カニ申上ゲル爲ニ、第一ノ理由
  ヲ申上ゲマス、ドウモ是ハ年中行事的ノ嫌ガアルト云フ意味合ヲ以テ、私ハ
  第一ノ反對ノ理由ト致ス次第デアリマス、ソレヨリモモット重大ナ理由ハ、此
  實質ニ付テデアリマス、尙チヨット先刻申述ベルコトヲ落シマシタノデ、茲デ
  追加ヲ致シマスガ、文句ガ屢〓修正サレルト云フヤウナ、ソコニハ何トナク不
  安ノ念ガ私ハ橫ハッテ居ルト云フ考デ、ソレ故ニ只今ノヤウナコトヲ申上ゲタ
  次第デアリマス、先刻阪谷男ハ藤田東湖ノ正氣ノ歌ノコトヲ御話シニナリマ
  シテアリマス、若シ藤田東湖ノ正氣ノ歌ヲ何人カガ添削スルト云フヤウナ
  コトガアリマシタラ如何デアリマセウ、私ハ人ガ眞劍味ニナッタ場合ニハ、サ
  ウ云フヤウナコトハ有リ得ナイモノダト云フヤウナ、實ハ考ヲソコヘ混ゼテ、
  サウ云フ結論ニ達シタ次第デアリマス、玆ニ「方今國家ノ綱紀弛緩シ國民ノ
  道義衰頽シ輕躁過激ノ社會事相ト相俟テ實ニ邦家ノ憂ヲ作セリ」、是ハ此處ニ
  書イテアリマス通ノ、私ハ次第デアラウト思ヒマス、又先刻議論ノアリマシ
  タ「內外ノ政務ハ動モスレバ其ノ宜シキヲ失シ」云々、此點ハ後ニ讓ルコトニ
  致シマス、「議會政治ノ近狀ハ往々ニシテ常軌ヲ逸シ今ヤ普通選擧ノ實施ニ直
  面シテ」云々トアリマス、此點ハ私ガ是カラ申上ゲヤウト存ジマスル點ノ骨
  子ニ觸レテ居ル次第デアルノデアリマス、「更ニ隣邦ノ內爭ニ因リテ」云々ト
  アルノデアリマス、此點ニ付テ、玆ニ於テ一言ヲ差加ヘタイト存ジマス、隣
  邦支那ノ事ハ、我〓大ニ憂慮シナキヤナラズ、サテ我國ノ國是ト云フモノハ、
  必シモ現外相ノ言葉ヲ俟ツ迄モナク、內政不干渉、我〓ガ正當ニ有スル所ノ
  權利ト云フモノハ、飽ク迄モ之ヲ擁護スル、此點ニ至ッテハ擧國一致ノ次第デ
  アルト考ヘル、唯其趣意ヲ實行スル上ニ於テ、或ハ遺憾ノ點ガアル、或ハマ
  ダ〓〓モウチット然ルベキ施設ヲ施シテ置イタ方ガ宜イト云フ、其點ニ付テ議
  論ノ餘地ガアルコトト私ハ考ヘルノデアリマス、唯現在、我〓ノ目ニ觸レテ
  居ルノハ、此國民軍ノ只今勢ヲ得テ居ルコトデアリマスルガ、是ハ現在我〓
  ハ其事實ニ直面シテ居リマスカラシテ、非常ニ銳敏ニ我〓ノ感覺ガ侵サレテ
  アルノデアリマス、若シ往時ヲ囘顧イタシマシテ、吳佩孚ガ最モ盛デアリマ
  シタ時代、又更ニ一層遡リマスレバ、袁世凱ガ殆ド支那ヲ統一スルカノ如キ
  感覺ヲ與ヘマシタ時代、僅カ數日間ニハ過ギマセヌカッタガ、郭松齡ガ事ニ
  依ッタラ偉イ者ニモナルカモ知レヌト云フヤウナ考ヘヲ與ヘタ數日間ト云フ
  モノモアッタノデアリマス、サウ云フヤウナ譯デアリマシテ、支那ノ事ハ分ラ
  ヌト云フノガ私ハ一番忠實ナル所ノ〓白デアルト存ジマス、華盛頓會議ノ折
  ニ唱ヘラレマシタ、支那トハ何ゾヤト云フ其問題ハ、今日迄モ解ケテ居ラズ、
  又近キ將來ニソレガ解決セラルベキ所ノ見込ハ無イト思フノデアリマス、サ
  ウ云フ不確定ナ事ニ對シテ我〓ガ十分ノ注意ヲスル、如何ナル事ヲシテ宜シ
  イカ、是ハドウモ外ニ仕方ガナイ、恰モ傳染病ガ流行シテ居リマス時分ニハ、
  避クベカラザル傳染病ハ如何トモスルコトガ出來ナイガ、我〓ハ出來ルダケ
  我〓ノ身體ヲ健全ニシ、衞生ニ注意シテ、卽チ我〓ノ身體ヲ良クスルト云フ
  コトヲ考ヘナケレバナラヌト私ハ信ズルノデアリマス、又文字ニハ表ハシテ
  ハゴザイマセヌガ、其アトノ文句ヲ推測ッテ考ヘマスルト、是ハ所謂露國ノ赤
  化主義ニ付テノ憂慮、是亦大ニ吾人ノ憂慮セザルベカラザルコトデアル、其
  事ニ言及シテ居ル次第デアルト讀ンダ次第デアリマス、御承知ノ如ク、露國
  ヨリ致シマスル所ノ色〓ノ誘惑、赤化宣傳、ソレ等ニ付テハ獨リ我國ノミナ
  ラズ、不肖私ノ觀察イタシマスル所ニ依リマスレバ、英國ノ方ハモット苦シン
  デ居ルカト私ハ考ヘマス、ツヒ最近ニ行ハレマシタル英國外相ト露國外相ト
  ノ間ノ交換文書ニ依ッテ見マシテモ、其極端ナルコトハ、我國ガ損害ヲ蒙ッテ
  居ル以上デアルカノヤウニ考ヘルノデアリマス、言ヒマス迄モナク「カラハ
  ン」君ヤ「ロゾフスキー」君ガ始終言フコトハ、此露國政府ト云フモノト、第
  三「インターナシヨナル」ト云フモノハ全ク違ッタモノデアル、第三「インター
  ナシヨナル」ガ外ニ居處モナイモノデアルカラ、露國ノ莫斯科ニ居ルト云フ
  コトハ、是ハ偶然ノコトデアル、此何處へモ行キ處ノナイ窮鳥懷ニ入ッタモ
  ノヲ、露國ハ逐出スコトハ出來ナイ、其第三「インターナシヨナル」ガスルノ
  デアリ、露國政府ガスル譯デハ決シテナイ、現ニ第二「インターナシヨナル」
  ト云フモノハ「アムステルダム」ニ在ルガ、第二「インターナシヨナル」ノコト
  ニ對シテ、和蘭政府ヘ抗議ヲ申込ンダト云フコトハ聞イタコトハナイ、是ガ
  常套的ノ答デアルヤウニ、是ハ皆樣能ク御承知ノ通リノ次第デアルノデアリ
  やく、左樣ナ譯デアリマシテ、實ハ此露國ノ赤化宣傳ニ對シマシテハ、誠ニ
  始末ニ了ヘナイ所ノ是ハ相手デアリマシテ、且又先方ハドコ迄モ攻擊的ノ態
  度ヲ執ッテ來ル、一方ノ方ハ防禦ノ態度、防禦ト云フモノハ、攻擊ニ對シテ非
  常ニ苦シイモノデアル、此際是ハ何カヲ決議イタシマストカ、或ハ調査會ヲ
  設ケルトカ云フコトデ、到底之ニ對スル對抗ト云フコトハ出來ナイノデアリ
  やく、ソレヨリモ我國ニ於ケル所ノ總テノ機關ガ最モ有效ニ働イテ居ッテ、如
  何ナルコトニ接シテモ、ソレニ對シテ十分ニ機敏ニ防禦シ得ルト云フ其狀態
  三、我〓ノ最モ希望スル所デハナクテハナラヌノデアリマス、然ラバ如何
  ニシテ其目的ヲ達スベキカト申シマスレバ、是等ノ事柄ハ申ス迄モナク、獨
  リ政府ニ限ラズ、國民、政府共ニ協力シテ、此國難ニ當ラナケレバナラヌノ
  デアル、併シ第一線ニ於テハ、此政府ガ其衝ニ當ラヌケリヤナラヌノデアル、
  從テ我〓ハ最モ堅固ナル基礎ヲ有スル所ノ政府ノ存在ト云フモノヲ、此決議
  ノ趣意ヲ全ウスル上ニ於テモ、第一ニ切望セザルヲ得ナイノデアリマス、我
  國ノ議會政治、此議會政治ニ付キマシテハ、將ニ行詰ラムトシツツアルト云
  フヤウナ悲觀論者モ有ルノデアリマスガ、私ハ決シテサウハ思ハヌノデアリ
  やく、マダ〓〓我國ノ議會政治ト云フモノハ、其發達ノ道程ノ中ニアルモノ
  ト考ヘル、此上トモ健全ナル發達ヲ遂ゲルコトヲ切ニ希望スルノデアリマス、
  ソレデ鞏固ナル內閣ト云フコトヲ只今申シマシタガ、若シ理想的ニ申シマシ
  タナラバ、衆議院ニ於テ絕對多數ヲ有スル所ノ政黨ニ依ッテ支持サレル所ノ
  內閣ガ、最モ理想的ニ好マシイノデアル、且ツ又其絕對多數ナルモノハ、綱
  紀肅正ヲ要シナイ所ノ絕對多數、能ク世ノ中ニ廣ク行ハレテ居ル言葉ニ、多
  數トナレバ橫暴トナリ、少數トナレバ亂暴トナルト云フコトガ言ハレテ居リ
  マスガ、サウ云フヤウナ絕對多數デハナイノデアリマス、眞ニ國ヲ思フ丹心
  ノ外ニ何モノモ無イヤウナ絕對多數ヲ希望スルノデアリマス、是ハ單ニ理想
  ニ過ギナイ、此現在ノ世ノ中ニ於テハ、左樣ナコトヲ要求スルコトハ是ハ無
  理ナ次第ト思ヒマス、ノミナラズ我國ノ憲法政治ノ初マリニ······議院政治ノ
  初マリニ於キマシテハ、坐ロニ英國ノ二大政黨ノ狀況ヲ標本ニ採ラムトスル
  ヤウナ傾向ガアッタンデアリマス、併ナガラ英國ニ於キマシテモ、「ヂスレリ
  ー」、「グラッドストーン」時代ノ二大政黨對立ト云フコトハ、最早過去ノ夢ト
  ナッタノデアリマス、今日モ尙ホ其當時ノ夢ヲ見テ、將來ハ勞働黨ト守舊黨ト
  ガ相對スルト云フヤウナ夢ヲ見テ居ル人ハ、英吉利ニアルカノヤウニ承知ハ
  致シテ居リマスガ、是ハ全ク夢デアリマス、若シ勞働黨ガ得意ノ時期ニナリ
  マスレバ、アノ勞働黨ニハソレガ分裂スルト云フ可能性ガ十二分ニアルノデ
  アリマス、小黨分裂ト云フコトハ、是ハ各國ヲ通ジテ免レナイコトデアル、
  我國ニ於テモ亦然リデアル、此小黨分裂ノ現況ノ中ニ於テ、成ルベク鞏固ナ
  ル政府ノ樹立ト云フコト、是ヨリ外ニハ私ハ此決議案ノ目的ヲ達スル途ハナ
  イト考ヘルノデアリマス、ソレデ議會政治ノ要訣ハデス、第一ニハ有力ナル
  反對黨ノ存在ト云フコトデアリマス、私申ス迄モナイ次第デアリマス、ソレ
  ニモ劣ラヌコトハ、反對黨ニ對スル雅量ト云フコトデアリマス、此反對黨ニ
  對スル所ノ雅量ト云フコトガ屢〓第二段ニ置カレル爲ニ、種々ノ弊害ヲ生ジ、
  能ク世間ニ歌ハレテ居リマスル所ノ泥仕合トカ云フヤウナコトモ、其遠因ハ
  此反對黨ニ對スル雅量ノ缺乏カラ來テ居ルト私ハ考ヘルノデアリマス、之ニ
  付キマシテハ、ソレ程古イ所ヘ溯ル次第デハゴザイマセヌガ、少シ我國ニ於
  ケル過去ノ歷史ヲ囘顧シテ見タイト考ヘルノデアル、原內閣ガ成立チマシテ
  カラ餘ホド程經マシテ、大正九年ノ春頃デアッタカト考ヘマス、原君ハ、自分
  ノ內閣モモウ可ナリ長ク續イタ、別ニ辭職スベキ特別ノ理由ハナイガ此際辭
  職シテ、後ハ憲政會ニヤラセヨウト、サウ云フ考ヲ懷カレタノデアリマス、
  勿論大權ノ發動ヲ私議スルト云フヤウナ形式ハ避ケラレタト考ヘマスガ、實
  質的ニサウ云フ考ヲ起サレタノデアリマス、所ガ其當時ノ元老デアラレタ山
  縣公ハ、ドウシテモ其原君ノ考ヲ承知セラレナカッタ、ソコデ當年ノ初秋ノ
  頃、原君ハ不幸ニシテ東京驛頭ノ露ト消エラレマシタ時ニ、山縣公ハ、自分
  ハ手コソ下サナイガ、自分ガ殺シタヤウナモノデアルト痛歎ヲセラレタノデ
  アリマス、又ソレヨリ少シ程經マシテ、高橋內閣ノ總辭職ニ接シマシテ··
  是ハ私新聞紙上ニテ承知イタシタ次第デアリマス、又廣ク世ニ傳ハッテ居ル
  コトト思ヒマス、大命ハ加藤友三郞······其當時ノ男爵ニ下ッタノデアリマス、
  併シ加藤友三郞男爵ハ果シテ大命ヲ御受ケニナルヤ否ヤ、頗ル疑問トセラレ
  タノデアリマス、若シ加藤友三郞男爵ガ御受ケニナラナイ場合ニハ、政權ハ
  憲政會ニ移ルト云フコトニナッテ居ッタヤウニ承知イタシテ居ルノデアリマ
  ス、ソコデ憲政會へ移ッテハ大變ダト云フヤウナコトカラシテ、何人カガデ
  ス、加藤男爵ノ意思ヲ或ル方向ニ强メテ、其結果加藤友三郞內閣ガ成ッタト
  云フコトハ、是ハ廣ク世問ニ傳ハッテ居ル所ノ事柄デアル、此二ツノ例ニ依リ
  マシテモ、如何ニ反對黨ニ對スル雅量ト云フコトガ缺乏シテ居ルカト云フ事
  ガ明カデアルカト思ヒマス、斯樣ナコトガ積リ積リマスルト云フト、勢ヒ一
  方ハ嚙リ付ク、噛リ付クガ爲ニ如何ナルカラクリ的ノ事モスル、如何ナル手
  品的ノ事モスル、一方ハ益〓反抗スル、我國ノ憲法政治ト云フモノハ、勢ヒ惡
  空氣ニ蔽ハレザルヲ得ナイノデアリマス、歐洲諸國ニ於キマシテハ、私ガ申
  スマデモナク、憲法政治ガ······議院政治ガ行詰ッテ、サウシテ取ッテ代ッテ獨裁
  政治ガ勃興シタヤウナ國モアルノデアリマス、其前、卽チソレ等ノ國〓ニ於
  テ、此議會政治ガ行詰ッタ跡ヲ尋ネテ見マスト、ソレニ付テハ多少詳シイ材料
  ヲ持ッテ居リマス、總テハ省クコトニ致シマスガ、一言以テ之ヲ蔽ヒマスレバ、
  反對黨ニ讓ル雅量ノ缺乏ト云フノガ其原因デアルノデアリマス、サウ云フ實
  例ニ接シマシテ、今囘此頃ノ現狀ト相對照シテ、誠ニ憂惧ニ堪ヘナイノデア
  リマス、私ハ我國ニ於テ鞏固ナル政府ガ成立ッテ、外ニ如何ナル疫病ガハヤラ
  ウガ、赤化病ガハヤラウガ、ソレニ對シテ十分ノ抵抗力ヲ持チ、又齊シク國
  民ト共ニ働クニシテモ、第一次ニ働カナケレバナラヌ所ノ政府、成ルベク鞏
  固ナル政府······其政府ノアラムコトヲ切ニ希望スルノデアル、併シ一ツノ政
  府ガイツ迄モ續クト云フコトハ、是ハ事實上許サヌノデアリマス、從テソコ
  ニハ其政變ト云フコトモ免レナイ、併シ其政變ト云フモノガ最モ公明正大ナ
  ル見地ニ依ッテ行ハレルト云フコトガ、此決議案ノ趣旨ヲ全ウスル所以デアル
  ト思フノデアリマス、昨日モ永田秀次郞君ガ此演壇ニ於キマシテ、其銳利ナ
  ルコト恰モ肺腑ヲ衝クガ如キ名演說ヲサレタノデアリマス、ソレヲ傍聽イタ
  シマシタ其中ニ、文句ハ或ハ違ッテ居ルカ知レマセヌガ、矢張リ潔ク反對黨ニ
  讓レト云フヤウナ御趣意ト御言葉ガアッタヤウニ記憶イタシマス、唯其事ヲ伺
  ヒナガラ私ガチヨット感ジマシタノハ、若シ永田君ガソレニ但書ヲ附ケテ、最
  早今日ハ超然內閣トカ中間内閣ト云フヤウナモノハ、時代錯誤デ論外デアル
  ト云フ但書ヲ附ケテ下サッタナラバ、私ハ尙ホ一層傾聽シタデアラウト私ハ考
  ヘルノデアリマス、ソレデアリマスカラ、第一次ニハ······決シテ此輕率ナル
  決議ヲ出スト云フコトハナイノデアリマセウガ、何トナク私モ院外ニ居リマ
  シタ其當時ノ感想等ヲ始終集メマシテ、ドウモ少シ年中行事式ノ所ガ、此決
  議案ノ提出ニ、サウ云フ感想ヲ廣ク世間ノ人ニ懷カセルヤウナ懸念ハナイカ、
  貴族院ハヨク〓〓ノ事デナケレバ斯ウ云フ事ハシナイ、併シ一旦貴族院ガ動
  イテ決議シタトキニハ、其決議ト云フモノハ非常ニ重キヲ持ツモノデアルケ
  レドモ、其非常ニト云フコトニ付テハ、色〓見解ハ異ナリマセウ、或ハ提出
  者ノ阪谷男爵ニ於テハ、今日ハ非常ナ時ダト御考ヘニナルカモ知レナイガ、
  決シテ今日ハ尋常一樣ナ時デナイト云フコトハ、私ハソレヲ認メル上ニ於テ
  人後ニ落チナイノデアリマス、併シ私ガ理想トシテ持ッテ居リマス貴族院ハ、
  是程重大ナ時デナケレバ······決議ヲシナケレバナラヌト云フ其程度ニハ、マ
  ダ今日達シテ居ナイト云フヤウナ觀察ノ下ニ於テ、私ハ之ニ第一次ニ反對シ、
  次ニハ愈〓之ヲ具體的ニ此結果ヲ生ズル上ニ於テハ、ドウシテモ我國ニ於ケ
  ル所ノ議會政治ノ健全ナル發達ニ期待スルヨリ外ニハナイト云フ其見地カラ
  致シマシテ、決議トシテ此形ニ於テ是ガ本院ヲ通過スルノニ反對スルノデア
  リマス、若シ私ノ理想ニ持ッテ居リマスヤウナ決議案ガ玆ニ現ハレタトキニ
  ハ、三百有餘人ノ中デアリマスカラ、一人ヤ二人反對論者ガアルコトハ已ム
  ヲ得マセヌガ、殆ド總テガ異口同音、何人モソレニ反對シ得ナイト云フヤ
  ウナ狀況ニ於テ本案ガ通過スル、又サウ云フヤウナ場合モアラウト存ジマ
  ス、左樣ナ場合ニ限ッテ貴族院ガ議決ヲスルト云フ慣例ガ、此我國ノ議會政治
  ノ完全ナル發達ヲ庶幾スル上ニ於テ必要ナルコトヲ深ク信ズル次第デアリマ
  ス
  〔赤池濃君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=93

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• 094・赤池濃

  ○赤池濃君　私ハ簡單ニ外交ヲ論ジマシテ、本案ニ贊成ノ意思ヲ表シタイト
  思ヒマス
  〔副議長候爵蜂須賀正韶君議長席ニ著ク〕
  上海附近ノ風雲ハ益、暗澹トシテ險惡ヲ加ヘマシテ、最近ニ於テ岡田有民氏
  其他ノ方〓ガ非常ナ重傷ヲ負ハレタト云フ報ヲ承リマシテ、我〓ハ誠ニ痛嘆
  ニ堪ヘナイ所デアリマスト同時ニ、如何ニ支那問題ガ重大デアルカト云フコ
  トヲ深ク考ヘル次第デゴザイマス、一昨日ノ議場ニ於キマシテ幣原外務大臣
  ニ對シテ、私ハ一昨年上海紡績罷業ニ於テ殺害サレマシタ所ノ、原田君等ノ
  靈ニ對シテ何カ慰藉ノ方法ヲ御講ジニナッテ居ルカト云フコトヲ御尋ネシマ
  シタ所ガ、外務大臣ハ何等御答ガ無イノデアリマス、實ハ此問題ハ昨年モ御
  尋ネシタノデアリマスケレドモ、支那ニ於ケル帝國臣民保護ノ重大ナル事件
  トシテ、昨年モ御尋ネシタノデアリマスケレドモ、當時御答ハ無ク、今日ニ
  於テモマダ御答ニ接シナイノデアリマス、又對支貿易企業ハ今ヤ未曾有ノ危
  機ニ瀕シテ居ルノデアリマシテ、殊ニ二億五千万ノ巨費ヲ投ジマシタ紡績事
  業ノ如キハ、所謂排外的罷工騷動ノ爲ニ根柢ヨリ將ニ破壞サレムトスル所ノ
  狀況ニアリマスルガ故ニ、外務大臣ニ對シテ、何カ之ニ對シテ救濟ノ方法ガ
  御有リニナルカト御尋ネシタ所ガ、別ニ仕樣ガ無イヂヤナイカト云フ御言葉
  ダケデアリマシテ、明確ナル御答辯ニ接シナイノデアリマシタ、當業者ガ非
  常ニ苦痛ヲ感ジテ哀訴歎願ヲシテ居ルコトニ對シテハ、外務大臣ハ餘リ御同
  情ガ無イヤウナ御態度デアッタコトニ付テ、我〓ハ非常ニ遺憾ニ存ジタノデア
  リマス、斯ノ如クニシテ帝國臣民ノ保護、權利利益ノ擁護ト云フモノハ何處
  ニアルノデアリマセウカ、抑〓支那ノ動亂ノ始マリマシテ以來、外務大臣ハ對
  支不干涉主義ヲ唱ヘテ居ラレルノデアリマス、而シテ觀望政策ヲ執ラレテ居
  ルノデアリマス、觀望政策必シモ惡イトハ申サナイノデアリマスルガ、是ニ
  ハ透徹ナル識見ト確乎タル成算トガ必要デアルコトハ、論ヲ俟チマセヌノデ
  アリマス、不幸ニシテ外務大臣ガ屢議場ニ於テ御述べニナッタ所ノ豫言、豫
  想、御意見ガ住々ニシテ事實ニ合シナイノデアリマシテ、事態ハ益〓惡化シテ
  參ッテ、今日ノ狀勢ニ推移ッテ參ッタノデアリマス、而シテ遂ニ外務大臣ガ當初
  夢想ダモセザリシ出兵ヲスルノ餘儀ナキニ相成リマシタノハ、迷惑千萬デア
  リマス、而シテ初メ出兵ニ反對セラレタ所ノ外務大臣ハ、一昨日ノ此議場ニ
  於カレマシテハ、軍艦ヲ派遣シ、陸戰隊ヲ上陸セシメタカラシテ、我ガ權利
  利益ヲ擁護スルコトニ於テハ十分デアルト云フヤウナ風ノ御言葉ヲ漏ラサレ
  タノデアリマス、支那ノ各地ニ於テ多クノ歲月ヲ費シ、努力ト費用トヲ以テ
  建設サレマシタ所ノ我ガ經濟產業ニ關スル施設ガ、唯軍艦ト兵隊トヲ以テ擁
  護セラルルノデアルト云フヤウナ風ノ御言葉ヲ、外務省ノ當局者ヨリ承リマ
  スコトハ、我〓ハ甚ダ奇怪ニ感ズルノデアリマシテ、外務當局ガ如何ナル御
  經綸ヲ御持チニナルカト云フコトニ付テ、甚ダ感ハザルヲ得ナイ次第デアリ
  やく、同時ニ帝國ノ外交ノ前途ニ付キマシテ、憂慮措ク能ハザルモノガアル
  ノデアリマス、又外務大臣ハ、「ボローヂン」氏ガ支那ハマダ共產政治ヲ布ク時
  代······布クニハ適セナイト言ウタ言葉ヲ、金科玉條ノ如クニ御取扱ヒニ相成
  リマシテ、是ニ依ッテ支那ハ赤化セズト稱シテ、對支外交ノ方針ヲ御極メニナッ
  テ居ルヤウナ風ニ見エルノデアリマス、就テハ之ニ對シテ一言辯駁ヲ加フル
  コトハ對支外交ヲ論ズル點ニ於テ無益ノコトデナイト考ヘルノデアリマス、
  「ボローヂン」氏ガ如何ナル人デアルカ、言ラ迄モナク世界革命ノ有名ナ鬪士デ
  アルノデアリマシテ、世界ノ各國ニ於テ大活動ヲナシ······大活動ヲシタ人デ、
  現ニ國民政府ノ首腦者デアルノデアリマス、彼レ「ボローヂン」氏ハ、昨年北
  伐軍ガ各地ニ轉戰イタシマシテ、武昌漢口ノ土地ヲ占領シタ時ニ於テ、所謂
  其理想トスル政治ヲ布イテ、之ヲ露西亞ノ本國ニ報〓シ、露國モ亦機關新聞
  ニ之ヲ揭ゲテ、世界ニ其成功ヲ誇ッタノデアリマス、彼ガ實施シタル所ノ政治
  ハ如何ナル政治カト申シマスレバ、第一ニハ、工會卽チ勞働組合、工會ヲ無
  數ニ組織セシメマシテ、所謂一切ノ勞働階級ヲ悉ク革命的勞働組合ニ加入セ
  シメテ、之ヲ以テ工業界竝ニ社會ノ革命ヲ爲サムトシタモノデアルノデアリ
  マス、第二ハ小作農及自作農ヲ以テ農民組合ヲ組織セシメマシテ、之ニ武
  器ヲ與ヘテ、所謂武裝ノ農民組合ヲ作リマシテ、以テ地主ニ對抗セシメ、以
  テ農村革命ヲ圖リツヽアルノデアリマス、第三ニハ、工會及農民組合ニ加入
  シタ所ノ人ハ之ヲ革命民衆ト稱シテ居リマス、之ニ入ラザル者ヲ敵又ハ逆黨
  工賊ト云フノデアリマス、逆ト申シマスレバ逆賊ノ逆デアリマシテ、工ト申
  シマスノハ職工ノ工デアリマス、革命民衆ト逆黨工賊トヲ嚴重ニ區別イタシ
  マシテ、革命民衆ハ國家構成ノ分子デアッテ、其自由ハ保護サレ、財產ハ保護
  サルベキデアルケレドモ、逆黨工賊ハソレヲ保護サレル自由ノ無イモノデア
  ルト云フ風ニナッテ居ルノデアリマシテ、而シテ逆黨工賊ノ持ッテ居ル財產ハ
  之ヲ逆產ト稱シマシテ、沒收セラレルノデアリマス、加之、逆黨工賊ガ出資
  シテ居リマシタ所ノ銀行會社或ハ工場ハ、矢張リ之ヲ逆產ト看做サレテ居ル
  ノデアリマス、第四ハ、是等ノ勞働組合ノ中ヨリ最モ信賴シ得ベキ者ヲ選ン
  デ、之ヲ糺察隊ト名ケテ、總政治部ノ指揮ノ下ニ於テ警察權ヲ行ハシメテ、
  反革命者、卽チ逆黨工賊ヲ迫害掃蕩セシメルノデアリマス、糺察隊ハ私刑···
  ···私ノ刑罰ヲ加ヘ、財產ヲ掠奪シマシテ、橫暴ガ甚シイモノデアリマスカラ、
  漢口ノ衞戌司令ノ陳銘樞氏ガ此事ヲ憂ヘテ、之ヲ取締ラウトシマシタ所ガ、
  總工會ハ之ニ向ッテ抗議ヲシテ逆捻ヲ喰ハセマシテ、辯駁ヲ公ニシマシテ、逆
  黨工賊ハ保護サルベキ自由ガ無イト云フコトヲ宣言シタノデアリマス、ノミ
  ナラズ陳司令ハ遂ニ免職セラレルノ已ムナキニ至ッタノデアリマス、又工會勞
  働組合ノ絕對萬能デアル結果ト致シマシテ、工會ハ屢、生活改善ヲ理由ト致シ
  マシテ、賃銀ノ增額ヲ要求イタシマシテ、遂ニ罷業暴動ヲ以テ工場主ヲ脅カ
  シタノデアリマシテ、漸次工場內ノ實權ヲ握リマシテ、遂ニ漢口ニ於ケル英
  米煙草會社ノ如キハ、總工會ノ手ニ依ッテ全ク工場ヲ管理サレルニ至ッタト云
  フ所ノ報ヲ聞クノデアリマス、更ニ文〓ノ方面ヲ見マスレバ、三千年來東洋
  精神ノ權化ト致シマシテ尊敬措カザル孔子ヲ目スルニ、革命民衆ノ敵ナリト
  シテ、其〓ヲ斥ケルノミナラズ、命令ヲ以テ其祭事ヲ爲スコトヲモ禁ジテ居
  ルノデアリマス、蓋シ國民黨ノ〓育綱領ヲ見マスルト云フト、其政綱ニ揭ゲ
  テアル所ノ〓育ノ方針ヲ見マスルト、革命軍ノ〓育ヲ普及スルヲ前提トシテ
  居ルノデアリマスカラ、斯ノ如キハ孔子〓ニ副ハナイノハ勿論當然デアルノ
  デアリマス、之ヲ啻ニ自國民ニ强要スルバカリデナク、規則ヲ發シマシテ、
  外國人ノ經營スル學校ニモ矢張リ之ヲ適用シテ居ルノデアリマス
  〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
  又言論ノ自由ヲ唱ヘテ居リマスルケレドモ、其勢力範圍ニ於テハ、機關新聞
  タル民國日報唯一紙ヲ發刊サセルバカリデアリマシテ、其他ノ新聞ノ發刊ヲ
  許サナイノデアリマス、斯ノ如キガ先ヅ大體「ボローヂン」氏ノ行ヒツヽアル
  政治デアルノデアリマス、幣原外相ハ「ボローヂン」氏ノ言ヲ盾ニシテ、尙ホ
  支那ハ赤化セズト言ハレマスルカドウデアリマスカ、我〓ハ南支一帶ノ地ニ
  於テ、赤キ禍、赤禍ノ蔓延ノ中ニ幾多ノ生民ガ溺レツヽアルコトヲ悲ム者デ
  アリマス、又蔣介石氏ガ昨年武漢ヲ占領シマス際ニ於キマシテ、第一ニ國民
  軍ガ軍民全體ニ警告スルノ書ト云フ公文書ヲ各方面ニ配布シタノデアリマ
  ス、又本年ノ一月蔣介石氏ノ歡迎會ノ席上ニ於テ激烈ナル演說ヲシタノデア
  リマス、其文······公文ナリ其演說ナリガ、如何ニ排外的デアルカト云フコト
  ハ、外務大臣極メテ能ク御承知ノコトデアラウト存ズルノデアリマスカラ、
  私ハ玆ニ諄ク申シマセヌ、唯是等ノ主張空氣ニ動カサレテ起ッタ所ノ事例ノ二
  三ヲ申述ベルノデアリマス、昨年十一月ノ二十日以來、漢口ニ於テ我ガ日本
  人ニ使用サレテ居ル所ノ支那人ハ、總工會ノ者カラシテ罷業ヲ脅迫サレタノ
  デアリマス、之ニ應ジナカッタ者ハ拉去······連レテ行カレテシマッタノデアリ
  やく、又總工會ハ外人ニ對シテ物ヲ賣ルコトヲ妨ゲタノデアリマシテ、日用
  品ノ購入ヲモ妨ゲタノデアリマシテ、之ヲ賣渡シタル所ノ支那人ハ制裁ヲ
  サレタリ、或ハ裏切者トシテ特ニ布ヲ附ケマシテ市中ヲ引廻シタノデアリマ
  ス、又本年ノ孫文氏ノ二週年ノ記念祭ニ於キマシテハ、日本人ニ使用サレテ
  居ル所ノ支那人ガ其御祭ニ參加シナカッタト云ウテ、打倒日本主義、打チ倒セ
  日本主義ノ標語ニ於テ、頗ル不穩ノ擧動ガ漢口ニ於テ行ハレタノデアリマス、
  元來排外熱ハ今囘支那動亂ノ一大原動力デアリマス、國民軍ノ向フ所、國民
  政府ノ存スル所、共產黨ノ動ク所、排外運動ハ必ズ追隨シテ居ルノデアリマ
  ス、國民黨ハ排外熱ヲ以テ愛國心ヲ煽リ、勞農獨裁政治ヲ以テ大衆ヲ刺戟イ
  タシマシテ、巧言美辭ヲ以テ宣傳是レ努ムルノデアリマス、カルガ故ニ今日
  排英ノ聲バカリヲ聞クノデハナイカ、斯ウ言ウテ暗ニ取越シ苦勞ヲ嘲ケルヤ
  ウナ方ガ見エルノデアリマスケレドモ、私ハ、是等ハ思ハザルノ甚シキモノ
  デハナイカト考ヘル者デアリマス、否私ハ漢口地方ヨリハ、上海ニ於テハ此
  動亂ガ大デアルシ、又其慘害ガ甚シイコトヲ恐レル者デアリマス、今後ノ時
  局ニ對シテハ、非常ニ憂慮ノ念ヲ以テ見ル者デアリマス、支那ノ動亂ガ何時
  終熄スルカト云フコトハ、是ハ神ナラデハ知ルニ苦シムモノデアリマセウケ
  レドモデス、排外運動ノ爲ニ我ガ對支企業ノ破壞サルヽ筋道ヤ又其機關ハ、之
  ヲ豫知スルコトニ苦シムモノデハアリマセヌ、假令一時小康ヲ得テ居リマシ
  テモ、第二次第三次ト繰返シ、繰返シツヽ種々ナル暴動罷業ノ爲ニ我ガ對
  支企業ヲ脅カサレルコトハ、是ハ斷言シテ誤ナイト考ヘルノデアリマス、而
  シテ破壞運動ガ一度發生シマスレバ、此勢ノ激スル所ハ底止スル所ヲ知リマ
  セヌ、煽動者ト雖モ遂ニ之ヲ如何トモスルコトガ出來ヌノデス、往々ニシテ
  唯行ク所マデ行クト云フヤウナ危險ヲ見ルノデアリマス、所謂火ガ崑崙ニ燃
  エレバ玉石倶ニ焚ケルト云フ所ノ慘狀ハ、世界大戰以來我〓ハ各國ニ於テ屢〓
  目撃シテ居ル所ノ實例デアルノデゴザイマス、從テ一旦左樣ナル所ノ兆候ヲ
  感ジマシタ時ニ於テハ、國家ノ全力ヲ擧ゲテ是ガ豫防鎭壓ニ努力スベキモノ
  デアリマスルシ、又努力セザルベカラザルモノト考ヘルノデアリマス、從テ
  今日ニ於キマシテハ、最早不干渉主義ノ空題目ヲ唱ヘテ、唯坐視傍觀スル時デ
  ハナイト考ヘルノデアリマス、是ガ我〓ノ外交ノ振作ヲ望ム理由デアリマス、
  最後ニ私ハ、上海ヲ策源地トシテ、我國ニ對シテ各種ノ革命的破壞運動ノ行
  ハルルコトヲ憂慮スルモノデゴザイマス、「ストライキ」、小作爭議ハ固ヨリ、
  政界刷新其他種々ナル美名好題目ノ下ニ於テ、惡辣ナル陰謀ノ企テラレツ
  アルコトヲ恐レル者デゴザイマス、第三「インターナシヨナル」ノ與フル所ノ
  標語ニ惑ハサレマシテ、我ガ善良ニシテ無邪氣ナル民衆ガ、濫ニ國內的又ハ
  國際的ノ革命運動ニ盲動センコトヲ憂慮ニ堪ヘナイ者デゴザイマス、現時我
  國ノ政治界ノ腐敗、經濟界ノ動搖、思想界ノ混亂等ハ、實ニ是等革命運動者
  ニ對シテ絕好ノ口實ヲ與へ、無二ノ好機會ヲ供シテ居ルノデアリマス、之ヲ
  防止セントスルナラバ、我ガ內政外交ヲ刷新シテ、且ツ我ガ國本ヲ固クスル
  コトヨリ外ニハ、別ニ途ガナイト思フノデアリマス、是ガ唯一ノ途ダト考ヘ
  ルノデアリマス、私ハ現內閣諸公ガ飜然悔悟サレテ、有志ト共ニ國政ノ振作
  ニ努力サレムコトヲ熱望シテ已マナイ者デアルノデアリマス
  〔小野塚喜平次君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=94

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• 095・小野塚喜平次

  ○小野塚喜平次君　私ハ此演壇ニ立チマシテ、此案ニ付テ反對ノ意思ヲ表明
  スルト云フコトハ、私ニ取ッテ苦痛デアリマス、頗ル苦痛デアリマス、併ナ
  ガラ私ハ貴族院議員トシテ相當ノ義務感覺ヲ持チ、責任ノ觀念ヲ持ッテ居ル者
  デアリマス、此感覺、此觀念ハ、私ヲシテ此演壇ニ立タシメタノデアリマス、
  併ナガラマダ贊成反對ノ通告者モ大分アルサウデアリマスカラシテ、私ハ出
  來ルコトナレバ、先輩ノ藤澤博士ノ御述べニナッタコトデ大抵網羅シ得ルナ
  ラバ、私ノ通〓ヲ取消サウト思ヒ、又赤池君ノ御述べニナッタ所ノ賛成御演
  說ト云フコトガ、若シ私ノ疑ヲ解クト云フヤウナ場合ニ於テモ、同ジク通〓
  ヲ取消シテ、諸君ノ御迷惑ニナラナイヤウニ致シタイト思ッテ居リマシタ、併
  ナガラ其二ツノ條件ハ充タサレナカッタノデアリマスカラシテ、已ムヲ得ズ此
  演壇ニ立チマシタノデアリマス、私ハ反對ノ意思ヲ表明スルト申シマスケレ
  ドモ、ソレハ阪谷男爵初メ御賛成ノ御方ガ、甚ダ不理窟デアルト云フヤウナ
  コトヲ考ヘテ居ル者デハアリマセヌ、固ヨリ其動機ニ付テモ誠意ヲ認メマス、
  又見樣ニ依ッテハサウ云フ風ニモ考ヘラルルト云フコトモ認メマス、併ナガ
  ラ私ハ見樣ヲ異ニシテ別ノ結論ニ達シタノデアル、遺憾ナガラ先輩諸君トハ、
  此場合ニ於テハ結論ハ違フト云フコトヲ申サナケレバナラナイノデアリマ
  ス、卽チ私ハ私ノ立ッテ居ル所ノ立場、私ノ結論ハ正シイト思ヒナガラモ、併
  シ反對論者モ亦同時ニ正シイト云フコトハ有リ得ルト云フコトヲ認メテ居ル
  ノデアリマス、サウ云フ風ナ二ツノ正シイコトヲ認メルト云フコトハ、ソレ
  自身矛盾ノヤウデアリマス、併ナガラ社會ハ言フ迄モナク益、複雜ニナッテ居
  ル、從テソレニ對スル見解ト云フモノハ自ラ異ナルト云フコトハ己ムヲ得ナ
  イノデアリマス、ソレ等ノ見解ヲ統一スルニハ、社會ノ事柄ニ關スル色〓ナ
  學問ノ進步ハ、殘念ナガラ、十分ニ伴ッテ發達シテハ居ラナイノデアリマス、
  從テ觀察點ヲ異ニシテ結論ガ異ナルト云フコトハ、少シモ不思議デハナイノ
  デアリマス、此案ニ對シマシテ觀察點ヲ異ニスルト云フ場合ハ、色〓擧ゲ得
  ルデアリマセウ、併ナガラ一ツノ主ナル點ハ、此案ヲ割合ニ局限的ニ見ルカ、
  言葉ヲ換ヘテ言ヘバ、狹イ範圍ニ於テ見ルカ······狭イト云フコトハ直チニ宜ク
  ナイト云フコトヲ意味スルノデハアリマセヌ、具體的ニ或ル部分、時、所ヲ限ツ
  テ此問題ヲ如何ニ考ヘルカト云フコトト、之ニ反シテ稍〓廣イ立場ニ立ッテ此
  問題ヲ考ヘル、卽チ將來ト云フコトヲ考へ、又國民ニ如何ナル影響ヲ與ヘル
  カ、此案ノ取扱方ニ依ッテハ外國ハ如何ニ考ヘルカト云フ風ニ、時ト所トヲ
  稍〓延長シテ考ヘルト云フコトハ出來ルト思ヒマス、サウ云フ風ニ割合ニ狹
  イ範圍カラ考ヘルコトト、廣イ範圍カラ考ヘルコトト、其二ツノ結論ガ偶〓符
  合スルト云フコトモアリマセウ、ケレドモ多クノ場合ニ於テハ其結論ヲ異ニ
  シテモ少シモ不思議デナク、兩方共ニ相當ノ理由ガアルト云フコトヲ言ヒ得
  ルト思フノデアリマス、私ハ此問題ニ對シマシテハ、今ノ割合ニ狹イ範圍ト
  云フコトヲ考ヘナイノデハアリマセヌ、併ナガラ寧ロ私ハ今申シマシタ稍〓
  廣イ大局上カラシテ見テ、此問題ヲ取扱ヒタイト思フノデアリマス、此決議案
  ハ頗ル巧妙ナル、善キ意味ニ於テデアリマスガ、巧妙ナル字句ヲ以テ言ヒ現ハ
  サレテ居リマスガ、其中ニドウ云フモノガアルカト云フコトヲ、反復熟讀シテ
  考ヘテ見マスト云フト、ハッキリシテ居リマセヌ、簡單ニ申シマスト云フト、此
  案ハ二重性ヲ具ヘテ居ル、二ツノ性質ヲ具ヘテ居ルモノヲ一ツノ案ニ纒メタ
  モノデアルト思フノデアリマス、從テ昨日モ確カ三黨首妥協ノコトニ付テ、
  永田君ガ雄辯ヲ振ッテ申サレマシタ、彈力性ノアルト云フコトヲ申サレマシ
  タ、其彈力性ノアル、卽チ此案ハ一體何ヲ意味スルカト云フコトハ、見ヤウ
  ニ依ッテ、考ヘヤウニ依ッテ、人ニ依ッテ色〓違ヒ得ル案ダト思フノデアリマ
  ス、ソレヲ甚ダ失禮ノヤウナ言葉デアリマスガ、是ハ惡イ意味ニ於テ言フノ
  デハアリマセヌガ、怪文書ト云フヤウナモノガ昨年來屢、出タノデアリマス、
  之ヲ怪文書ト云フノハ、例ノ色〓ノ怪文書ト同一ニ取扱フト云フ意味ニ於テ
  申上ゲルノデハアリマセヌガ、ドウモ能ク分ラナイ不思議ナモノダ、ドウモ
  理解出來ヌト云フ意味ニ於テハ、是ハ一種ノ怪文書ナリト言フコトモ出來ル
  ト思ヒマス、更ニチヨット例ヲ取ッテ申シマスト云フト、水ガ水素ノ二ト、酸素
  ノ一デアリマスカ、カラ成立シテ居ルト云フノデアリマスガ、此決議案ナル
  モノモサウ云フ風ニ、少クトモ二ツ位ノ要素カラ成ッテ居ル、ソレガシッカリ
  結付イテ居ルト、斯ウ思フノデアリマス、別ノ言葉ヲ以テ申シマスト云フト、
  此案ノ提出者、賛成者ハ憂國ノ餘リ、目下ノ事情ガ一種ノ病氣ニ日本ハ罹ッテ
  居ル、其患者ニ對シテソレニ適當ナル藥ヲ與ヘヤウト云フ、又サウ考ヘ得ル
  モノデアルト云フ自信ヲ以テ出サレタヤウデアリマス、其藥ト云フモノハ、
  是モ少クトモ二ツノ物カラ成立ッテ居ル、其一ツハ稍〓劇藥、私ハ毒藥トハ申
  シマセヌガ、或ル劇藥デアル、ソレハ少量ト、其他ノモノハ普通ノ藥デアル、
  ソレガ大部分マデ這入ッテ居ル、サウ云フモノカラ調合サレタル一種ノ藥デア
  ル、此藥ヲ以テ此現今ノ日本ノ病氣的狀態ヲ直サウ、斯ウ云フ御考ノヤウニ
  見エルノデアリマス、サウ云フ風ニ此案ト云フモノハ不可思議ノ案デアル
  ガ、是ガ彈効案ナリト言ヒ、或ハ彈効案ニアラズト云フコトヲ言ハルヽガ、
  是ハ兩方トモ理窟ハアルコトト思フノデアリマス、然ラバ此案ガドウ云フモ
  ノデアルカト云フコトヲ決定スベキ標準ガ何處ニアルカト申シマスト云フ
  ト、先ヅ此案ノ形式デアリマス、形式ハ敢テ彈効不信任ヲ表示シテ居ル、政
  府ニ引責ヲ迫ルト云フコトデハアリマセヌガ、內容ハ如何ト云フト、今マデ
  申シマシタヤウニ、內容ハ二ツノ物カラ成立ッテ居ル、動機ハ如何、政府ニ辭
  職ヲ迫ルト云フガ如キ動機デアルカ、又ハサウデナイカト申シマスト云フ
  ト、政府ニ敢テ辭職ヲ迫ルト云フ迄デハナイガ、相當安心シテ居ルコトハ出
  來ナイ、現在ノ政府デハ安心シテ居ルコトガ出來ナイ、現在ノ政府ノミナラ
  ズ、他ノ政府ニモト云フコトデアリマスガ、他ノ政府、過去ノ政府ニ對シテ
  此案ヲ示ス譯デハナイ、將來出來ルベキ政府ニ對シテ此案ガ直グ間ニ合フト
  云フ譯デハナイ、詰リ此案ガ直接ニハ、現在ノ政府ニ對シテ如何ナル態度ヲ
  取ルカト云フコトデアリマシテ、動機ト申シマシテモ、敢テ是ガ政治的野心
  トカ云々ト云フコトデハナイ、ソレガ純白ナル動機カラ出テ居ルノデアリマ
  セウガ、政府ニ對シテ、此案ニ依ッテ滿足ノ意ヲ表スルノデアルカ、不滿足ノ
  意ヲ表スルノデアルカト云フ其動機、サウ云フ意味ノ動機、或ハ此案ノ目的
  トスル所、ソレハドウデアルカト云フコトガ、此案ノ性質ヲ決定スル他ノ要
  素デアルト思フノデアリマス、其點ヲ見マスト云フト、矢張リ曖昧デアリマ
  ス、相當ニ不信任ノ意味ハ、字句ニモ現ハレテ居リ、全體ヲ通ジテモ有リ、
  且ツ說明者及贊成者ノ語氣ノ上ニ於テモ現ハレテ居ルト思フノデアリマス、
  又此案ノドウ云フ性質デアルカヲ決定スベキ一ツノ標準ハ、此案ガ通過シタ
  ト假定イタシマシテ、如何ナル反響ヲ及ボスカト云フコトデアリマス、又如
  何ナル結果ヲ來スカト云フコトデアリマス、サウ云フコトノ一々ヲ說明スル
  コトハ、時間ヲ短縮スル上カラ見テ略サウト思ヒマス、兎ニ角私ハサウ云フ
  色〓ノ標準カラ見テ、此案ノ謂ハバ本領、如何ナル所ニ其重心ガアルカト云
  フコトヲ考ヘテ見マシタガ、其考ノ結果ト云フモノハ先程申上ゲタヤウナ譯
  デ、複雜性デアル、單一性デナイト云フコトニ歸著シタノデアリマス、從テ
  其複雜性デアル所ノ二ツノ點ヲ取リマシテ、其二ツノ點ニ付テ、此案ニ私ハ
  何故ニ賛成シナイカト云フコトヲ、簡單ニ述ベテ見タイト思フノデアリマス、
  其第一項ハ······第一ノ點ハ、先程譬ヘヲ申シマシタ所ノ事ヲ更ニ引用イタシ
  マスレバ、水ノ大部分ヲ占ムル所ノ水素ト云フモノ、此水素ト云フモノト比較
  スルノハ、敢テソレガ値打ノ無イ部分デアルト云フ意味デハナイノデアッテ、
  或ル意味ニ於テハ、總テ是ハ重要問題デアル、値打ガ有ル、其響キハ大キイ、
  大キイカラシテ其提案者及贊成者ニ對シテ敬意ヲ表スルト同時ニ、此決議案
  ニ對シテ單ニ反對ノ所ニ一票ヲ投ジルト云フダケデハ、私ノ職責ヲ盡ス所以
  デハナイト考ヘタカラシテ、此處ニ立ッタ譯デアリマス、其意味ニ於ケル、分
  量ハ大キイガ普通ノ藥デアルト言ッタ所ノモノ、ソレヲ先ヅ申シテ見ヤウト思
  ヒマス、ソレハ具體的ニ申シマスト云フト、其第一ノ、今申シタ部分ニ付
  テ、此案ハドウ云フコトヲ言ッテ居ルノデアルカト云フコトヲ〓括シテ申上ゲ
  マスト云フト、此案ハ今日ノ日本ノ政治社會、或ハ廣ク一般ノ社會ガドウ云
  フ有樣ニアルカ、ソレニ對シテ如何ナル判斷ヲ下シテ居ルカ、如何ナル感想
  ヲ懷イテ居ルカ、斯ウ云フコトガ、一種ノ感想ト云フモノガ、立派ナ文字デ
  以テ、誠意ヲ以テ悲歌慷慨ノ口調ヲ以テ、稍〓越ニ私ハ失シテ居ルカトモ思
  ハルルヤウナ熱心ヲ以テ、此案ニ現ハレテ居ルノデアリマス、其點ニ付テ私
  ハドウ思フカト申シマスト、五ツノ點デアリマスガ、極ク簡單ニ申上ゲマス、
  第一ハ、此今ノ政治トカ、一般社會ノ現狀ニ對スル批判ト云フモノハ、此案
  ニ現レテ居ル所デハ、非常ニ悲觀ニ失シテ居ル、世ノ中ガ澆季ニ流レテ、今
  ニモ、ウカウカスルト日本ハ段〓衰亡ノ淵ニ臨ムト云フガ如キ感覺ヲ、是ハ與
  ヘルト思フノデアリマス、併ナガラ私ハソレハ全ク理窟ガナイト云フノデハ
  ナイ、此案ニ現ハレテ居ル所ノモノ及ビ說明者阪谷男爵······提議者阪谷男爵
  ノ御說明ニ於キマシテモ一應同感ノ點ハアリマス、アリマスガ、ソレハ謂ハ
  バ盾ノ一面デアル、現代ニ於ケル我〓ガ悲ムベキヲ認ムル所ノ或ル方面ヲ指
  摘シテ言ッテ居ルノデアッテ、私ハ現狀、現代ノ日本ト云フモノヲ現ハスナレ
  バ、サウ云フ方面ガ相當ニアル、ソレハ極力私モ諸君ノ驥尾ニ付シテ何トカ
  シタイト思フノデアル、併シ更ニ樂觀的ノ方面モ同時ニ具ヘテ居ルト思フノ
  デアリマス、ソレハ失禮デアリマスガ、此見方ト云フモノハ極ク良イ方デア
  ルガ、相當ニ過去ノ方デアッテ、過去ノコトヲ追憶スルニ急デアル、其過去ノ
  眼カラ現狀ヲ見テ、非常ニ歎息シテ居ル、斯ウ云フ方面ガ主ニナッテ居ルト思
  フ、ソレハ何モ今日ヲ以テ始マッタコトデハナイ、古今東西ヲ問ハズ、屢〓稍〓
  老人、或ハ保守的ノ傾向ノアル人ガ現代ヲ非常ニ悲觀スルト云フコトハ、敢
  テ珍シクハナイ、又ソレガ不都合ダトハ思ハズ、又サウ云フ方ガアッテ、サウ
  云フ立場カラシテ見テ、世ノ中ヲ警戒スル、靑年ニ對シテ警告ヲスルト云フ
  値打モ、私ハ認メルノデアリマス、併ナガラ是ダケデハ······更ニ樂觀的ノ部
  分、日本ハ決シテ滅亡シツヽアルモノデハナイ、今ノ靑年ニハ、ソレハ責ム
  ベキ所ハアリマセウ、併ナガラ時代ガ變ッテ居ル、ソレニ對シテ能ク我〓ガ
  深切ニ考ヘタナラバ、決シテ先代或ハ先々代ノ我〓ノ祖先ヨリモ、今日ノ靑
  年ガ凡テノ點ニ於テイケナイト云フコトハ言ヘナイノデアル、隨分活氣モア
  ル、或ル意味カラ言ヘバ活氣ガ有リ過ギルト云フ心配モ出ルカモ知レマセヌ
  ガ、決シテ亡國ノ兆ト云フヤウナコトハ私ハ認メナイノデアリマス、唯、其思
  想ガ大分變ッテ居ル、同ジク眞面目ノ靑年、ソレハ部分的ニハ老人ノ間ニモ
  若イ者ノ間ニモ不都合ハアリマセウ、併ナガラ大體ニ於テ靑年ヲ見マスト云
  フト、眞面目デアル、サウシテ其大部分ノ者ハ、古イ御方カラ見ルト云フト、
  或ハ遺憾デアル、危險デアルト云フ御心配ハアルカモ知レマセヌガ、決シテ
  ソンナ極端ナモノデナイ、愛國心ガ無イトカ、過激思想ガ隣ヘ來レバ直グニ
  傳播シテシマフト云フヤウナ、ソレ程浮動的ノ狀態ニ現代ノ靑年ノ大部分ガ
  在ルトハ私ハ思ヒマセヌ、故ニ私ハ第一ノ點ニ付キマシテハ、此案ト云フモ
  ノハ悲觀的ノ材料、ソレハ尤デアルケレドモ、ソレヲ擧ゲルニ急ニシテ、他
  ノ方面ヲ忘レテ居ル、此儘デ出スト云フト、貴族院ト云フ所ハ現代ヲ理解セ
  ズ、如何ニモ反動的態度ヲ取ッテ······贊成ハ贊成デアルケレドモ、心配バカ
  リヲシテ居ルノダ、斯ウ云フコトニナルト思フノデアリマス、第二ノ點ハ、
  此案ニ憂ヘラルヽ所ノ或ル部分ハ其通デアリデアリマス、併ナガラ此案ニ
  依ルト云フト、其責ハ政府ニアリトハ書イテナイガ、政府ニ鋒先ガ行ッテ居ル
  ト思フノデアリマス、私ハ現代ノ政府、現今ノ政府ト云フモノヲ、此席ニ於
  テ謳歌シヤウト云フ考ハ無イノデアリマス、色〓ノ失策モ重ネテ居ラレ、又
  屢〓此席ニ於テ出マシタ所ノ三黨首妥協トカ、此頃ノ憲本聯盟トカ云フヤウ
  ナコトニ付テモ、私ハ實際ノ事柄ニ迂遠デアル、又迂遠ヲ以テ得意トスルノ
  デハアリマセヌケレドモ、急イデ色〓ノ政界ノ裏面ニ通ジヤウトハ致シテ居
  リマセヌ、ソレデアルカラ、諸君カラハ甚ダ空論デアル、實際ヲ知ラナイト
  云フ御非難ヲ受ケルカモ知レマセヌ、ガ私ハ憲政ノ常道トシテノ理論カラ見
  ルト云フト、現代ノ政府ノ行動ト云フモノニ、甚ダ不可解ノ點ガ多イノデアリ
  やく、併ナガラ、ソレヲ、ナゼソレナレバ責メナイカト仰シヤルナラバ、ソ
  レハ現今ノ狀態ノ下ニ於テハ、日々起ッテ來ル所ノ内外ノ重大ナル事件ヲ處
  理シテ行クト云フ立場カラ見テ、私ハ所見ヲ異ニシテ居ル、モウ少シ立憲的
  行動ヲ執ッテ貰ヒタイト思フノデアリマス、現內閣ハ、サウデハナクシテ、ソ
  レハ執リタイガ、ソレヨリモモット日常ノ政務ガ急デアル、ソレニハ先ヅ斯
  ウ云フコトヲヤルコトガ適當ナリト判斷シテヤッテ居ルト私ハ思フノデアリ
  やく、色〓ソレヲ惡ク取レバ、政權維持ノ爲トカ、色〓ナコトヲ言ヒ得ルデ
  セウ、又サウ云フコトガ有ルカモ知レマセヌガ、私ハサウ云フ裏面ノコトヲ
  一々穿鑿セズシテ、表面上ノ理由、表ニ現ハレタ所ヲ以テ考ヘル、ソレハ政
  府ニ對スルノミナラズ、衆議院ニ對シテモ、在野黨ニ對シテモ考ヘタイト思
  フノデアリマス、餘程明カニ不都合ナ事ガアルト云フコトデナイ以上ハ、其
  缺點弱點ト云フコトニ先ヅ眼ヲ著ケルト云フコトハ、餘リニ有リ過ギタコト
  デアッテ、我〓モ人情ノ弱點、サウ云フコトニ行キ易イ、ソレハ抑制シテ、好
  意ヲ以テ御互ニ對スベキモノデアルト思フノデアリマス、サウ云フ風ノ考ヲ
  以テ今日ノ政府ニ對シマスト云フト、政府ニモ責任ガ色〓アルト思ヒマス、
  失策モアルト思ヒマス、併ナガラ現今ノ狀態、此案ニアルヤウナ憂フベキモノ
  ガ相當ニアルト云フコトハ認メルノデアリマスルガ、其責任ハ現今ノ政府ニ
  在リヤト云フコトナレバ、其責任ノ幾部分ハ無論現今ノ政府ニモアルト思ヒ
  やく、同時ニ過去ノ政府ニモアッタ、將來、イツカ知レマセヌガ、近キ將來ノ
  政府ニモ矢張アリ得ルト思ヒマス、私共ノヤウナ學究的ノ眼カラ見ルト云フ
  !、憲政ノ常道ヲ履ンデ立派ニ行クデアラウカト云フコトニ付テ、私ハ大ニ
  疑フノデアリマス、要スルニ斯カル悲シムベキ狀態ヲ來シタト云フ其責任ハ、
  現政府ニモアルケレドモ、他ニモアル、我〓ニモアル、貴族院ニモアル、或ハ
  廣ク一般國民ニモアルト云フコトヲ言ヒ得ルト思フノデアリマス、而シテ其
  政府ニアル所ノモノヲ責ムルト云フコトハ、無論宜シイノデアリマス、併ナ
  ガラ此案ニ依ルト云フト、全責任ハ政府ノミニアル、貴族院ハ何等責任ハ無
  1、國民ハ何等ノ責任ガ無イト云フ風ニ見得ルノデアリマス、ソレデハ政府
  ニ對シテ酷デアルト私ハ思フノデアリマス
  〔「ノー〓〓」ト呼フ者アリ〕
  第三ノ點ハ
  〔「ヒヤ〓〓」或ハ「ノー〓〓」ト呼フ者アリ〕
  「ノー〓〓、ヒヤ〓〓」位ハ貴族院デモ言ッテ宜イト私ハ思ヒマス、ドウゾ遠
  慮ナシニ「ノー〓〓」ヲ······第三ノ點ハ、此案ト云フモノハ餘リニ抽象的ニ失
  シテ居ル、非常ニ悲シムベキモノデアルト云フガ、ドウシタラソレガ直ルカト
  云フコトノ、細カイコトハ擧ゲルコトハ出來マスマイガ、大體ノコトハ擧ゲ
  テ欲シイガ、是ハ擧ゲテナイ、餘リ抽象的ニ、悲歌慷慨ノ句調ヲ連ネテ居ル
  ト云フノデアリマスカラシテ、斯ウ云フ抽象的ノ事ハ成ルベク過去ノ事トシ
  テ、今日昭和ノ新政ニ於テハ、モウ少シ具體的ニ、單ニ破壞スルノミナラズ、
  破壞スル者ハ建設ノ責任アルモノトシテ、建設的ノ大方針ヲ擧ゲナケレバ、
  責任ヲ問フト云フコトハ、スベカラザルモノト思フ、其私ノ觀念カラ見ルト
  云フト、此案ト云フモノハ餘リニ抽象的ニ失スルト思フノデアリマス、第四
  ニ··此案ニ外交ガ這入ッテ居ル、外交ガ這入ッテ居ルカライケナイト云フ簡
  單ナル、私モ、頭デハアリマセヌガ、ケレドモ私ガ申上ゲル迄モナク、外交
  ハ極メテ〓妙ナ、機微ノ關係ヲ種々ノ點ニ於テ有シテ居ルト思フノデアリマ
  ス、内政ニ付テ政府ヲ彈効スルト云フコトハ、或ハ稍〓極端ニ走ル、或ハ稍〓
  失策ガアルト云フコトデモ、先ヅ我慢シ得ルガ、外交上ニ付テノ問題ヲ、謂
  ハヾ政治上ノ問題トシテ、政府ヲ彈効スルト云フヤウナコトニナリマシテハ
  政府ト貴族院ノ關係ト云フモノヨリモ、外國ニ如何ニ影響スベキカト云フコ
  トヲ、我〓ハ考フベキコトデアルト思フノデアリマス、其點カラ見マスト云
  フト、私ハ現今ノ外交家或ハ外交擔當者ト云フモノハ、總テ非常ノ御方〓デ
  アッテ、國民ハ全ク枕ヲ高ウシテ可ナリ、貴族院ハ外交ノ事ハ忘レテ可ナリ
  ト云フガ如キ考ヲ持ッテ居ルノデハ毛頭アリマセヌ、此院ノ先輩ノ御方〓ガ、
  閉會中ナルニモ拘ラズ、時々御會合遊バサレ、御研究遊バサレ、外務當局ト
  談笑ノ間ニ種々ノ警告ヲサレルト云フコトハ、窃ニ敬服シテ居ルノデアリマ
  ス、ガ併シ私ハ、現今ノ外交ノ大方針ガ間違ッテ居ル、若クハ事實具體的ニ
  於テ此點ハ非常ニ間違ッテ居ルト云フガ如キ、特ニ此案ニ於キマシテ指摘シ
  テ、是非是ハ匡サナケレバナラナイト云フ程度ニ迄、現今ノ政府ガ失策ヲシ
  テ居ルカ······將來ノ事ハ知リマセヌガ、現今ノ政府ガ失策シテ居ルカト云フ
  問題ニナリマスルト云フト、私ハソレ程ノ失策迄モシテ居ルトハ私思ヘナイ
  ノデアリマス、ソレ程ノ失策ヲシテ居ルト假ニ致シマシテモ、外交ノ點デ日
  本ノ政府ハ貴族院ニ彈効ヲサレタト云フコトニナリマスルト云フト、如何ナ
  ル影響ヲ世界ニ及ボスカト云フコトハ、我〓ハ斟酌ヲシテ後ニヤルベキモノ
  デアルガ、況ヤ私ノ如キ立場······卽チ隨分失策モシテ居ルヤウデアルガ、大
  體ハ我〓ガ忍ビ得ザルヤウナモノデナク、又大方針ト云フモノハ私ハ贊成シ
  テ居ルノデアリマス、サウ云フ態度カラ見マスルト云フト、赤池君ノ熱誠ニ
  ハ感服イタシマス、支那ノ事情ナドニ付テハ大ニ啓發サレル所ガアルノデア
  リマスルガ、外交問題ヲ以テ此案ノ重要ナル部分ニ加ヘテ居ルト云フコト
  ハ、私ハ十分ニ贊成スルコトガ出來ナイノデアリマス、第五ノ點ト致シマシ
  テハ、卽チ是ガ最後ノ點デアリマスガ、國政ノ振作、之ニ付テハ何人モ異存
  ナイデアラウト思フノデアリマス、私モ異存アリマセヌ、稍〓悲觀的ト申シマ
  スカ、悲觀スベキ事實ト云フモノモ現在アルノデアリマス、ソレヲドウカシ
  テ振作スルコトガ出來ルト云フコトナラバ、誠ニ結構ナコトデアリマス、併
  ナガラ之ヲ假ニ玆デ決議シタ、國政ノ振作ニ關スル決議ガ貴族院ニ於テ決議
  ヲサレタト云フコトデ、直チニ其效果ガ現ハレテ、振作サレルノデアリマセ
  ウカ、結果ト云フコトヲ我〓ハ考ヘナケレバナラナイト思フノデアリマス、
  唯我〓ノ至誠ノ現ハレガ玆ニ凝リ固マッテ一ツノ決議トナッタ、アトデドウ云
  フ結果ガ現ハルヽカト云フコトハ別問題ダト云フヤウナ考ニ於テノ決議ハ、
  貴族院ニ於テスベキモノデハナイト思フノデアリマス、サウ致シマスルト云
  フト、此案ハ可決サレテ······萬一可決サレタ、サテ可決サレタガ國政ノ振作
  ハドウデアルカ、ドウ成行クカト云フコトヲ見マスルト云フト、或ハ此案ノ提
  出者贊成者ハ、ソレハ十分ニ行カナイカ知レナイガ、餘程效能ガアルト云フ
  確信ガオ有リデアリマセウカ、私ハ併シ此案ヲ決議シ、ソレニ付テノ大綱ヲ
  定メ、ソレヲ著々政府モ、貴衆兩院モ、國民モ、非常ニ熱心ニ眞面目ニ、長
  イ間續ケテヤッテ行クト云フコトナラバ、國運ハ一層振興スルデアリマセウ、
  併ナガラ此案ヲ決議シタト云フコトノ效果ト云フモノハ、大シタモノデアル
  マイト失禮ナガラ思フノデアリマス、併シソレハ意見ノ相違デアルカモ知レ
  マセヌガ、私ハ斯ノ如ク考ヘルノデアリマスカラシテ、此一般現狀ニ對スル
  批判トシテ、又此多少ノ病氣デアルノデアルガ、其病氣ヲ直ス所ノ藥ト云フ
  コトニ考ヘマシタ、其方面ニ於テ、以上申上ゲタヤウナ理由ニ於テ、此決議
  ニ直チニ贊成ノ意ヲ表スルコトハ、遺憾ナガラ躊躇ヲシナケレバナラナイノ
  デアリマス、併ナガラ私ハ此演壇ニ登リマシテ特ニ諸君ノ御〓聽ヲ煩ハシマ
  ス所以ハ、今迄申上ゲマシタコトヨリモ、寧ロ是カラ申上ゲマス點ニアリマ
  ス、卽チ第二ノ點、先程申シマシタ水ノ中ノ酸素ノ點、劇藥ノ點、ソレデア
  リマス、ソレハ何カト具體的ノ言葉ヲ以テ申シマスルト云フト、政府不信任
  彈効ノ意味ト云フモノガ、幾ラカ分量ハ少ナイヤウデアルケレドモ、確カニア
  ルト思フノデアリマス、其點カラシテ見テ、私ハ是ハ重大問題デアル、我〓
  ハ及バズナガラ貴族院ニ席ヲ置イテ居ル以上ハ、之ヲ默過スル譯ニ行カナイ
  ト云フ考ヲ起シタノデアリマス、ドウシテサウ云フコトヲ言フノデアルカト
  云フ御反問ガアルナレバ、ソレニ簡單ニ御答ヲシタイト思フノデアリマス、
  第一ニ、法律上サウ云フ權限ガナイト云フノカト云フコトヲ反問サレルナラ
  バ、別ニ不信任ノ決議ト云フモノヲシテモ宜イトカ、スルニハ斯ウ云フ形式ヲ
  以テヤレト云フコトハ、御存ジノ通リ憲法ニ於テモ、議院法ニ於テモ、其他
  ノ法律ニ於テモ、アリマセヌ、併ナガラ決議ヲスルト云フ權能ハ、憲法ノ趣
  旨ニ於テ與ヘラレ、ソレハ又屢、使用サレテ居ルノデアリマス、其決議ノ一
  ツノ形式トシテ、不信任決議ト云フモノモ、無論スル權能ハ、法律上カラ言ヘ
  ハ、貴族院ガ持ッテ居ルコトハ疑ナイト思ヒマス、併ナガラ法律上ニ許サレ
  テ居ル、爲シ得ルト云フコトハ、政治上ソレヲ如何ニ活用スベキカト云フ問
  題トハ別デアッテ、法律上許サレテ居ルコトヲ我〓ガドン〓〓ヤルト云フ譯
  ニハ行カナイ、寧ロ法律ノ許サレタル範圍ニ於テ、如何ニシテ我〓ハ政治ノ德
  義ニ悖ラナイヤウニシテ、如何ニシテ其權能ヲ活用スベキカト云フコトガ、
  一層重大ナル問題デアルト思フノデアリマス、其政治上ノ見地ヨリ不信任ヲ
  ···此不信任ト云ハズ、一般ニ不信任案ナルモノヲ、如何ニ貴族院ガ取扱フ
  ベキカト云フ問題ヲ考ヘタイト思フノデアリマスガ、ソレニ對シマシテ簡單
  ニ御答ヲ先ヅ申シマスト云フト、政治上ニ於テハ原則トシテ、卽チ時ニハ例
  外ノアルコトヲ認メマスガ、原則トシテ、此不信任決議ト云フ、法律上我〓
  ノ持ッテ居ル所ノ武器ト云フモノヲ使フコトハ、遠慮スベキモノデアルト考
  ヘマス、何故ニ遠慮スベキモノデアルカ、相當誠意ヲ以テ、純白ナル動機ヲ
  以テ、國利民福ヲ思ウテヤルコトナラバ、ソンナニ遠慮セヌデモ宜イデハナ
  イカト云フ反對論ガ起ルカモ知レマセヌガ、私ハソレニ對シテハ、重大ナル
  理由ヲ以テ反對シタイト思フノデアリマス、其重要ナル理由トハ何ゾヤト云
  フコトニ付キマシテハ、三ツアリマス、第一ハ、言フ迄モナク貴族院ニハ解
  散ト云フコトガアリマセヌ、今サウ云フ外國ノ事ナドヲ言ッテ、此處ハ〓室デ
  ハナイナント云フ御叱リヲ受ケル虞ガアリマスカラ、色〓ナコトハ申シマセ
  天カ、各國ノ憲政史上ニ於テハ、上院ノ解散サレルト云フコトハ、例ハ無イ
  コトハアリマセヌ、併ナガラ日本ニ於テハ解散ハ無論アリマセヌ、且又代表ノ
  基礎ガ、非常ニ貴族院ハ衆議院ニ比ベマスルト云フト狹小デアリマス、狹イ
  ノデアリマス、無論貴族院モ法律上又ハ政治上ノ意味ニ於テ、國民代表ナリ
  ト云フ一ツノ見解ハ立派ニ成立イタシマス、併ナガラ實質ニ於テモ、又諸君
  ノ御考ニ於テモ、一般民衆ノ考ニ於テモ、代表ト云ヘバ云ヘルガ、代表ノ基
  礎ハ非常ニ狹イト云フコトハ、何人モ異議ノナイ所デアルト思フノデアリマ
  ス、況ヤ衆議院ノ方ハ、近キ將來······イツカ知リマセヌガ、近キ將來ト云フ
  ノハ稍〓廣イ意味デアリマスガ、所謂普通選擧ニ直面シテ居ル······普通選擧
  法ニ依ル所ノ總選擧ガ行ハレルノデアリマス、其後ノ衆議院議員ト云フモ
  ノニ比ベルト云ト、貴族院議員ト云フモノノ代表ト云フ點······代表資格ト云
  フ點、或ハ代表價値······個人トシテ立派ナ御方〓ハ澤山居リマスケレドモ、
  代表價値ト云フコトガ、善イカ惡イカハ別問題トシマシテ、私ハソレハ必シ
  モ惡イトハ思ハヌノデアリマス、寧ロ大體ニ於テハ善イト思ヒマスガ、兎L
  角善イカ、惡イカハ別トシテ、代表價値ト云フモノガ非常ニ上ボリツヽアル
  現代デアリマス、各國ニ於キマシテ······其時ニ於テ、幸カ不幸カ貴族院ハ、
  代表價値ニ於テハ兎ニ角衆議院ニハ讓ラナケレバナラナイ、斯ウ云フ譯デア
  リマス、サウ云フヤウニ代表ノ基礎ト云フモノガ非常ニ狹少デアル貴族院ガ、
  彈効ト云フ、政府不信任ト云フ武器ハ、法律上與ヘラレテ居ッテモ、其武器ト
  云フモノヲ輕々ニ濫用スルト云フコトハ、政治德義上非常ニ愼ムベキコトデ
  アルト私ハ思フノデアリマス、或國ニ於テハ、此彈効權ト云フモノヲ、貴族
  院ニ於テハ與ヘテハアリマセヌガ、外國ノ事ハ兎モ角トシテ、我〓ハソレヲ貴
  族院議員ガ有シテ居ル、有シテ居ルト致シマシテモ、ソレヲ使用スルト云フ
  コトニ付テハ、ヨク〓〓ノ場合デナケレバイカナイ、原則トシテ卽チ此權ヲ
  使用シテハ、法律上ハ宜シイガ、政治上ハイケナイト云フコトハ、私ハ確信
  ヲ以テ言ヒ得ルト云フノデアリマス、第三ノ點ト致シマシテハ、貴族院ノ信
  用ヲ維持スル、貴族院ノ職能ヲ全ウスル、使命ヲ遂行スル、斯ウ云フ上ニ於
  キマシテ、サウ云フ謂ハヾ政爭、政治上ノ爭ノ問題、別ノ言葉ヲ用ヰマスト
  內閣ノ更迭、現今ノ内閣ハイケナイカラ、ソレヲ倒シテシマヘ、如何ナル內閣
  ヲ拵ヘロト云フガ如キ、局限サレタル政爭問題ニ、貴族院ガ餘リ沒頭スルコト
  ハイケナイト思フノデアリマス、ソレハ貴族院ノ使命タルコトハ······使命ハ
  多々益〓有ル、決シテ私ハ或ル意味ニ於テ衆議院ニ重キヲ置キ、貴族院ハド
  ウデモ宜イモノニシテ、ソレデ宜シイト云フ意味ニ於テ言ッテ居ルノデハア
  リマセヌ、或ル場合ニ於テ、衆議院、政府ヲ先キニ廻シテ、貴族院ノ權能ノ
  許ス範圍內、普通政治道德ノ詐ス範圍內ニ於テ、一般ノ輿論モ支持シ、識者
  ノ議論モ主張スルト云フヤウナ蓋然性ノ多イ場合ニ於テハ、貴族院ハ奮闘シ
  ナケレバナラヌ、ト云フ場合ガ起ラナイトモ限リマセヌ、マダサウ云フ場合デ
  ナイ、殊ニ貴族院ガ爲スベキ所ノ仕事ハ、現在ニ於テモ將來ニ於テモ多々ア
  ルト思フノデアリマス、ソレ等ノ仕事ヲ眞面目ニヤッテ行クト云フ上ニ於テ、
  一方ニ不信任ト云フヤウナコトヲ時〓ヤル、ソレハ或ル一人ノ人ガ政府ノ不
  信任ノ意味ヲ漏ラサルル、政府ノ痛イ所ヲドン〓〓攻擊サレルコトハ宜シイ
  ト思フノデアリマス、貴族院議員タルガ故ニ仙人タルベシ、政治上ノ野心ヲ斷
  ツベシト云フガ如キコトヲ言フノデハナイ、私ハ寧ロ此處ニ政友會總裁ハ居
  ラレナイヤウデスガ、總理大臣級ノ御方ガ大分オ有リナサウデアリマス、又
  況ヤ大臣級ノ御方ガ續々オ有リニナルサウデアリマスガ、サウ云フ御方ハ、
  反對黨ハ言フ迄モナク、反對ノ立場ニ立ツ方ハ、質問ニ演說ニ、反對論ヲ爲
  スコトハ宜イト思フノデアリマス、ソレ迄イケナイト云フノデハアリマセヌ
  ケレドモ、ソレハ個人ノコトデアリマス、貴族院トシテ院議ヲ以テ、此政府ハ
  イカメ、斯ウ云フ政府ガ宜イト云フコトヲヤルコトハ、是ハ決シテ貴族院ノ
  信用ヲ維持スル所以デハナイ、貴族院ノ使命ニ忠實ナル所以デハナイト思フ
  ノデアリマス、ソレハ原則トシテ、此武器ハ容易ニ使用スベカラズト云フ大
  體ノ理由デアリマス、併ナガラ此原則ト云フモノハ、如何ナル原則ニモ例外
  ガアルガ如クニ、例外ガ無イト云フノデハアリマセヌ、絕對ニ不信任案ノ決
  議ナルモノガ、日本ノ將來ノ貴族院ノ「ページ」ノ上ニ於テ、其跡ヲ斷ツベシ
  ト云フガ如キコトヲ言フノデハアリマセヌ、私ハ先程藤澤博士ノ觸レラレタ
  ヤウナ、大體ニ於テハ、意味デアリマス、卽チ其例外トシテ不信任ト云フガ
  如キコトヲ可決シテモ宜イト云フ場合ハ、非常ニ稀ニ起ル場合デアッテ、サウ
  シテ輿論ガ貴族院ノ不信任案ヲ支持スルト云フコトガ明確デアル、明確デア
  ルト云フコトハ、卽チ殆ド全國ノ新聞ガ貴族院ノ主張ヲ承認シ、奬勵シ、鼓
  吹シテ居リ、不信任案ノ決議ヲ催促シテ居ルト云フガ如キコトデ、サウ云フ
  場合ハ、普通ノ場合ニ於テハ先ヅ輿論ハ支持シテ居ルト見テ宜シイデアリマ
  セウ、又其不信任案ガ可決サレル、其結果トシテ政府ハ色〓ノコトヲ爲シ得
  ルデアリマセウガ、今日ニ於テハ衆議院ヲ解散ヲスルト云フコトモ、政府ノ
  取ル一ツノ途デアルト思フノデアリマス、サウ云フ場合ニ於テ、總選擧ヲ經
  テ來タ後ノ衆議院ト云フモノハ、貴族院ノ執ッタ所ノ決議ノ態度ニ贊成スル
  意思ヲ表スル、ト云フガ如キ結果ガ現ハレルコトガ略〓豫想シ得ルト云フ場
  合、ソレナラバ輿論ガ支持シテ居ルト考ヘテ宜イト思フノデアリマス、又サ
  ウ云フ風ナ稀ノ場合デ、輿論ガ支持スル、識者モ大部分ハ不信任案ト云フモ
  ノヲ支持スルト云フガ如キ確信ヲ以テ、貴族院ガ不信任案ヲ通過シタ、併ナ
  ガラ後ニナッテ見ルト云フト案外、總選擧ガ行ハルヽコトト假定イタシマシ
  テ、其總選擧ノ結果ガ豫想ヲ裏切ッタト云フ場合ニ於テハ、其不信任案ヲ通
  過セシメタ所ノ提出者及賛成者ノ主ナル有力ナル政治家ト云フモノハ、自分
  ノ不明ヲ天下ニ謝シ、貴族院議員ヲ辭シ、政治生活ヲ斷念スルト云フガ如キ
  覺悟ヲ以テ、初メテ不信任案ナル所ノ重大ナル武器ヲ使用スベキモノデアル
  ト思フノデアリマス、然ラバ今日ノ場合ニ於テ、私ノ言ッタ例外ノ場合ニ適當
  ナル時機デアルカ、其條件ガ備ハッテ居ルカト申シマスト云フト、是ハ其條件
  ガ備ハッテ居ラナイ、旣ニ例外ノ場合ニ必要ナル條件ガ備ハッテ居ラナイトス
  レバ、原則ニ依ッテ此武器ト云フモノノ使用ハイカヌデアリマセウ、貴族院ハ
  先程申シマシタヤウナ、或ル意味ニ於テ特權ヲ非常ニ持ッテ居ルガ、其特權
  ノ手前遠慮スベキモノデアルト思フノデアリマス、ソコデ二項ニ分ケマシテ
  私ハ此案ニ贊成シ得ナイト云フ要點ヲ擧ゲマシタノデアリマスガ、今ハ簡單
  ニ終リニ臨ンデ一言ヲ附加シテ置キタイト思フノデアリマス、卽チ私ノ申シ
  マシタコトハ色〓ニ亙ッテ居リマスガ、何ガ一番眼目デアルカト申シマスナ
  ラバ、貴族院ハ政爭ニ超越スベシト云フコトデアリマス、此案ニハ「今ヤ普
  通選擧ノ實施ニ直面シテ憲政濟美ノ急務ナルニ鑑ミ」云々ト云フ言葉ガアリ
  やって至極結構ト思ヒマス、併シ私ニ言ハセマスト云フト、此文句ヲ貴族院
  ガドウ云フ風ニシテ取扱ッテ、先ヅ自ラ其態度ヲ示ス、如何ニスベキカト云フ
  コトニ付キマシテハ、是ハ此憲政濟美ノ急務ト云フ普通選擧ハ、直チニ行ハ
  レルト云フ事實デアリマスカラ、其時ニ於テ貴族院ハ政爭ニ超越シテ、輕々
  ニ······實質ハ色〓餘リ感服シナイヤウデアリマスガ、兎モ角先程申シマシタ
  代表價値ト云フモノガ非常ニ上ッテ居ル、サウシテソレガ將ニ一層上ラムト
  スル普通選擧ヲ前ニシテ居ルト云フ時ニ、色〓ノ尤ナ點モ、此提案者ノ御說
  明ノ中ニモアリマスガ、併ナガラ此憲政濟美ノ急務ト云フ點カラ見マスト云
  フト、不信任案ト云フガ如キコトヲ、特權アル所ノ解散ナキ所ノ貴族院ニ立
  テ籠ッテ、輕々ニ之ヲ弄ブガ如キ感ヲ與ヘルト云フ······實際ハシテナイニシ
  テモ、サウ云フ感ヲ與ヘルコトハ、差控ヘベキモノデアルト思フノデアリマ
  ス、私ハ反對論者ニ衷心ヨリ敬意ヲ表シツツ、併シ私ハドウ考ヘテモ此案ニ
  贊成ハ出來ナイト云フ意味ヲ申シタノデアリマシタガ、ソレハ其敬意ニ伴フ
  ベキヤウナ、モウ少シ適當ナル言葉ヲ用ウベキコトガ至當デアッタト思ヒマ
  ス、其點ニ付テハ諸君、殊ニ此案ノ提出者及贊成者ニ對シテ、蕪雜ノ言ヲ用
  ヰ、或ハ野人禮ニ嫻ハザルヤウナ點ガアッタコトデアラウト云フコトハ御容
  赦ヲ願ヒマシテ、諸君ノ誠意ニ敬服シツヽ、私モ矢張リ誠意ヲ以テ反對ノ意
  思ヲ表明イタシマス[拍手起ル]
  〔高橋琢也君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=95

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• 096・高橋琢也

  ○高橋琢也君　私ハ此決議案ニ贊成ヲシテ署名モシテ居リマスル、其賛成者
  ノ一人トシテ此レニ立チマシタノデゴザイマス、先刻カラ之ニ反對ヲ爲サル
  御方ノ御說モ御二人程承リマシタ、エライ難カシイコトニ色〓御解釋ニナッテ
  居ルヤウデゴザイマス、私ハ其ヤウナ難カシイコトヂヤナイト思ッテ居ル、國
  政ノ振作ト云フコトハ、サウ難カシク言ハヌデモ大體解釋ガ出來ヤウト思フ、
  普通ノ頭デ······小野塚君ノヤウナ政治學者ヲ俟タナケレバ此解釋ガ出來ナイ
  ト云フヤウナモノヂヤナイト私ハ信ジテ居ル、讀ンデ字ノ如シト言ッテモ宜
  イ、方今ノ政治部面ガ如何ニモ溷濁シテ居ルト云フコトハ、天下萬衆ノ認ム
  ル所デアル、ドナタモ批點ヲ御打チニナラヌダラウ、今反對ナサル方〓モ旣
  ニ是ハ認メテ御イデニナル、後ニ私ハ此點ニ付テハ申上ゲル積リデアル、溷
  濁シテ居ルト云フノハ、政治部面······現政府ガヤル仕事ガ悉ク濁ッテ居ルト云
  フノデハナイ、勿論ソコニモゴザリマセウ、ケレドモ世ノ中ガ總テ濁ッテ居ル
  ト、斯ウ云フ所ニ出發シテ居ルト私ハ見テ居ル、是ハ捨テ置キ難イコトデアル、
  ソレ故ニ一服ノ〓淨劑ヲ用ヰテ之ヲ〓メヤウト云フニ過ギナイコトト思フ、
  是ガ具體化シタラドウナルカ斯ウナルカ、ドノヤウニシテ具體化スルノデア
  ル、其點ニ至レバ護謨見タヤウナモノデ、縮マッテモ行キマセウシ、擴ゲレバ
  何ボデモ大キクナル、ソレハ之ヲ實行シヤウト云フヤウナ機會ガ來テ其時ニ
  ヤル仕事デアルノデ、我〓デモ此案位ノコトハ立チマスル、誰ニデモ立ツ、
  大キクシヤウト思ヘバ直グニ大キクナル、小サクシヤウト思ヘバ直グニ小サ
  クナル、何レニシテモ此濁ッタ世ノ中ヲ〓淨ニシタイト、斯ウ云フコトハドナ
  タモ御同意ダラウト私ハ考ヘテ居ル、古人ガ、農夫草ヲ去レバ禾穀必ズ茂ル
  忠臣奸ヲ除ケバ王道以テ〓シト云フコトガアル、國ニ忠臣ガアレバ必ズ〓メ
  ラレルノデス、政治局面ノ溷濁ハ、支那デハ君側ノ奸ト云フ積リデゴザイマ
  セウ、君側ノ奸ト云フコトハ廣ク意味ヲ持テバ宜イ、役人ノ惡イ役人ガ多イ
  トシタナラバ、其惡イ惡人ハ斬ッテ棄テナケレバナラヌコトハ論ノナイ話デ、
  曩ニモ總理大臣ハ、復興局ノ疑獄ニ付テ、誠ニ濟マヌコトデアッタ、中ニモ是
  是ノ人ハドウモ十分ニ機能ノ働キガ出來得ナイ、ソレ故ニ事業モ遲レタ、豫
  算モ使ヒ過シタ、善クナカッタ、ソレ故ニ氣ノ毒デアッタケレドモ其人ニハ職
  ヲ退イテ貰ッタト云フコトヲ、總理大臣ハ仰シヤッタ、其位デアルカラ、惡イト
  見レバ役人デモ·······大キイ役人デモ小サイ役人デモ、イツデモ斬ッテ棄テナケ
  レバナラヌノハ論ノナイ話、併シ斬ッテ棄テル役人ガ、若シ惡イ役人デアッタ
  ラドウシマス、誰ガ之ヲ斬ッテ棄テル、此太刀取リハチヨット無イデアラウ、
  此太刀取リハ他カラハ求メラレヌカラ、自分デ腹ヲ切ルヨリ仕方ガナイ、是
  ハ當然ノ話デアル、是ハ極度ニ行ッタ時、濁ッタ時ノ問題デアッテ、私ハ今ソレ
  程ニ極度ニ濁ッテ居ルトモ何トモ申シハシナイ、濁ッテ居ルモノハ之ヲ〓メナ
  ケリヤナラヌ、之ヲ〓メルノハドウスル、マサカ一握リノ燒明礬ヲ以テ濁リ
  水ニ打チ込ンデ水ヲ〓メルヤウナコトデハ濟マナイ、是ハ誰モ知ッテ居ル、政
  府ニ立ツ人〓ガ愛ト誠ト此二ツヲ以テ政治局面ニ立ッテ、國民ノ生業ニ安ンズ
  ルヤウニ、國家ガ安泰デアルヤウニ、此仕事ヲシテ吳レルノハ政府ノ仕事デ
  アルハ申ス迄モナイ、然ルニ現在ハドウデゴザイマスカ、只今小野塚君ハ、
  此案ハ不信任案デアルト斷定シテ、樣〓ニ貴族院議員ノ資格ヤ仕事ニマデ及
  バレタヤウデ、是ハ後ニ私ハ申上ゲルガ、流石ニ學者ト云フモノハエライモ
  ノデ、上ニ書イテナイ所ノ······眼光紙背ニ徹ルト云フケレドモ、幾ラ私ハサッ
  キカラ裏ヲ返シテ見テモ何モナイ、不信任ト云フコトハドコニモ見エナイ、
  ソレヲ學者ト云フモノハ、講義ヲスル時ニハ此ヤウナ假說ヲ設ケテ講義スル
  カモ知レナイ、或ハ化學ノ講義ヲ爲サル、度〓酸素ガ云々ト云フコトヲ申ス、
  一體政治ト云フモノハ、學者ハ樣〓ナコトヲ御承知デアラウガ、私ハ政治學
  者デナイカラ學問ノコトハ知リマセヌ、併シ政治ハ活キテ居ルモノデアッテ、
  學問ハ死ンデ居ルモノデアル、死ンダ學問ヲ以テ時々刻々ニ變ッテ行ク政治ノ
  機能ヲ運用シヤウト云フコトハ、抑〓註文ガ無理デアル、ソレ故ニ此點ニ向ッ
  テハ、後程私ハ更ニ申上ゲル、併シ現在ノ政府當局ノ方〓ガ、果シテ此仁愛
  ト云フコトト誠實ト云フコトヲ以テ、之ヲ政治ノ要訣トシテ政治ヲ執ッテ居ラ
  レルヤ否ヤト云フ點ニ於テハ、疑ナキ能ハヌノデ、ナゼト云フニ、前ニ言ッタ
  コトヲ繰返スノハ私ハ嫌デスケレドモ、併シ時ニ依ッテハ引例ヲシナケレバナ
  ラヌ、嚮ニ私ガ此演臺デ十大不祥事ト云フコトヲ申上ゲタ、其十大不祥事ヲ
  以テ尙且豫算委員會デ總理大臣ニ終日伺ッタ、誠ニ懇切ナ御答辯ヲ總理大臣ハ
  シテ下サッタノダガ、其中デ惡カッタ、不都合千萬デアッタ、慚愧ニ堪ヘナイ···
  ···此頃モ申上ゲタ、責任ヲ取ルト仰シヤッタ、サスレバ政治ノ上ニ是ダケ缺陷
  =溷濁
  ガ出來テ居ルト云フコトハ明カデアル、是ガ一ツノ政治ノ濁リナンダ、
  シテ居ル、之ヲ〓メヤウト云フノニハ一握ノ明礬デハ〓メラレマイト私ハ思
  フ、元來政治ナルモノハ、國家ガ泰平デアッテ、國民ノ生活ガ安定デアル、生
  命財產ハ政治ガ保護シテクレルカラ、誠ニ安心、枕ヲ高ウシテ寢ラレル、各、
  生業ニ安ンジテ居ルト云フナラ、之ニ過ギタルコトハ無イ、サスレバ、必ズ
  政府ニ立ツ人ハ政黨出身ノ大臣デナクチヤナラヌト云フコトハ無イ、現內閣
  ハドウデゴザイマセウ、頻ニ政黨内閣ノヤウナ事ヲ仰シヤルケレドモ、事實
  ハ政黨内閣ヂヤナイ、外務大臣、文部大臣、鐵道大臣、陸軍大臣、海軍大臣
  ト斯ウ五人ガ少クトモ政黨以外ノ方デ是ハ出來テ居ル、而モ其中、外務大臣
  モ文部大臣モ貴族院ニ籍ヲ置イテ居ル、曩ニ現內閣ヲ組織セラレマシタ最初
  ノ加藤高明君ガ、若槻禮次郞君等ト共ニ憲政內閣、否最初ニハ護憲內閣ト稱
  シテ、而モ〓浦內閣ノ當時、憲法擁護トシテ是等ヲ大ニ排斥セラレタ各黨派
  ガ一〓ニナッテ、內閣ヲ拵ヘタ、皆サン御承知ノ通デアル、併ナガラ私ハ必
  シモ政黨出身ノ人ノミヲ以テ內閣ヲ造ラニヤナラヌト云フ道理ハナイト思ッ
  テ居ル、今小野塚君ハ、頻ニ貴族院ナルモノハ斯ク〓〓ノコトヲ言ウテハナ
  ラナイ、斯ウ云フコトヲシテハナラヌ······私ハ一々之ヲ反駁スル譯ヂヤゴザ
  リマセヌ、政治學者タル小野塚君ガ日本ノ憲法ヲ御覽ニナラヌ道理ハナイ筈
  ダ、日本ノ憲法ニ何ガ異ナッテ居ルカ、貴族院ト衆議院トノ間ニ何ニモ異ナッ
  テ居ラナイ、或ハ外國ノ例ヲ御引キニナル、外國ハ外國デス、日本ノヤウナ
  國體ガ外國ニアラウ道理ガナイ、故ニ日本ノ今日ノ憲法ナルモノハ、是程結
  構ナ憲法ハナイ、唯豫算ダケ先ニ衆議院ニ出スト云フコトノ外ニ、何ニモ異
  ナッタコトハナイ、サスレバ〓浦君ガ內閣ヲ組織シ、貴族院ノ研究會、公正
  會斯ウ云フ所カラ、或ハ交友倶樂部カラ大臣ガ出タ、何デモナイ、當リ前
  ノ話ダ、少シモ違憲ノコトハナイ、私ハ動モスレバ憲法擁護ト云フ論ガ出ル
  ガ、此憲法ヲ眞直ニ讀ンデ眞直ニ擁護スルナラバ、何モ政黨デ以テ必ズ政治
  ヲシナケレバナラヌト云フコトハ見テ居ラナイ、又居ル筈ガナイ、憲法其モ
  ノガ悉ク正條ガアル、併ナガラ政治ヲスル上、其上ニ國民ガ政治ニ携ハル權
  能ヲ憲法デ貰ッタ以上、國民ガ出シタ代議士ナルモノニ十分ニ參政ノ權ヲ與ヘ
  テ、之ニ十分ナ活動ヲサセタイ、是ハ國民ノ願デアルニ違ヒナイ、國民ノ願
  デアル所ハ是ハ採ラナケレバナラナイ、故ニ憲法ノ上カラト國民ノ願トハ、
  私ハ兩樣ハ一〓ニハシマセヌ、ソコニ至ルト云フト、國民ノ希望ヲ容レルト
  云フ點ニ於テ、貴族院ハ、或ハ特權內閣ト云フ非難ヲ蒙ルヤウナコトハセヌ
  方ガ宜イデハナイカ知ラヌトハ思フ、サウ云フ點ガアルカラ、決シテ此護憲
  運動ト云フヤウナコトガ最モ熾烈ニ行ハレマシタケレドモ、或ル點迄ハ私ハ
  同意ヲシマスルガ、或ル點ハ同意ガ出來得ナイノデアル、サウ云フ點カラ見
  テ行クト、小野塚君ノ御心配ヲナサルノハ、少シ御心配過ギハセヌカト私ハ
  思フ、唯政治ナルモノハ、今モ申上ゲル通リ憲法政治トナッタ以上ハ、憲法ニ
  依ッテ國民タル所ノ自由、權利、コヽニ出發シテ、政治迄モ成ルベク國民ノ滿
  足シ得ベキ政治ガ致シタイ、サリナガラ政治ガ今日ハ大變惡イト迄ハ私ハ申
  サナイ、併シ此樣ニ後トカラ後トカラ不都合ナコトガ起ッテ來テ、國務大臣ハ
  唯西ニ向イテモ東ニ向イテモ、不都合デアッタ、濟マナカッタ、慚愧ニ堪ヘ
  ナイト云ッテ、斷リバカリ言ウテ居ナケレバナラヌヤウナコトガ始終出來テ居
  ルトスレバ、アレデ誠意ハ何處ニアルノデアラウ、果シテ適當ナ國務大臣デ
  アルヤ、政機ヲ運用スベキ十分ナ力ヲ備ヘテ居ラレルヤ否ヤ、之ニハ疑ナキ
  能ハヌ、併シ私ハ今更、昔ノ封建時代ノ政治ヲ彼此レ言フノデモナケレデ、慕
  フノデモナイ、併ナガラ國民ハ憲法政治ニナッタラ非常ナ福利ヲ得ルコトデア
  ラウト期待シテ居ッタノニ、却テ往時ノ德川時代ノ政治ノ方ガ誠ニ宜シカッタ
  ト云フ者ガ有リハセヌカト思フガ、有ルト言ハレテモ私ソレハ違ッテ居ルト此
  手ヲ振ル勇氣ガナイ、寛文時代ノ四君子十善人ト云フ者ガ、御老中ト稱スル
  者、若年寄ト稱スル者、斯ウ云フ者ノ組ニアッタ、備前ノ新太郞少將モ其四君
  子ノ一人デアル、板倉重矩モ其一人デアル、阿部忠秋モ其一人デアル、板倉
  ガ備前ノ新太郞少將ニ政治ノ事ヲ一口言ハレタコトガアル、政治ト云フモノ
  ハ重箱ノ味噌ヲ杓文字デ抄ヒ上ゲルヤウナモノデゴザル、新太郞少將、ヘエ
  !ソレヂヤ隅ニ味噌ガ殘ルヂヤゴザイマセヌカト反問シタラ、確ニ殘リマ
  ス、其通リダ、政治ハ味噌ヲ殘サナケレバ出來得ナイモノデゴザイマスト、是
  ハ流石ニ四君子ノ一人タル板倉ノ言尤モ千萬、然ルニ今ノ政治ハドウデゴザ
  イマス、重箱ノ中ニ味噌ハ一杯アルガ、細イ白箸デ味噌ヲ抄ヒ上ゲテ居ル、
  幾ラ箸ハ度々入レテモ、重箱ノ中ノ味噌ハ一ツモ減ラナイ、寧ロ殖エル位ダ、
  ソレヂヤ政治ハ皆味噌ニナッテシマフ、是ヂヤ堪リマセヌ、國民ハ······ソレ故
  二、私ハ今ノ重箱ノ隅ノ味噌マデ洗ハウトハ言ハヌケレドモ、隅ニ味噌ヲ殘
  ス位ノコトハ、是ハ見逃シテ置カナケレバナラヌ、政治ヲスル以上ハ······兎
  ニモ角ニモ、圓イ杓文字デ味噌ヲ抄ヒ上ゲル位ノ政治ハシテ貰ヒタイト思フ、
  サウスレバ、是程ノ異論ハ起ッテ來ナイト私ハ信ジテ居ル、然ルニ今小野塚
  君、此法案ハ贊成デアル、國政ノ振作ト云フコトハ贊成デアルガ、併シ之ヲ
  實行スル上ニ於テハ、具體化スルト云フコトハナカ〓〓ムヅカシイ、デ政府
  ハドウ云フコトヲシテ居ル、是ハ不信任案ヲ出シタモノト我〓ハ解釋スルノ
  デアルト、斯ウ仰シヤルヤウナ意味デ、不信任案ト斷定シテノ御議論ガズット
  アル、又此案ハ二重性ヲ帶ビテ居ル、斯ウ仰シヤル、近頃ハ、ナアニ日本人
  ハ九尺二間ノ長屋ニ行ッテモ二重生活ヲシテ居ル、學校ヘ出ル小僧ハ洋服ヲ著
  テ居ル、ソンナラト云ッテ、家ニハ椅子モナケレバ「テーブル」モナイ、ソレ故
  ニ學校ヘ行ッチヤ洋服ヲ著テ、少クトモ體操靴トカ履カ無クチヤナラナイガ、
  家ヘ歸レバ矢張リ昔ノ日本服ヲ著ナクチヤナラヌ、昔ヂヤナイ、今モ矢張リ日
  本服ハ著テ居ル、是ハ時勢ガ然ラシメテ居ル、日本ノ位置ガ然ラシメテ居ル、
  ソレ故ニ此建議案ガ二重ノ性ヲ帶ビテ居ル位ノコトハ何デモナイ話デ、或ハ
  三重或ハ四重位ニナッテ居ルカモ知レナイ、別ケテ云ヘバサウナルカモ知レナ
  イ、併ナガラ此案其モノヲ、之ヲ實行スルト云フコトニナレバ容易ナコトデ
  ナイ、自分達ハ政府ノ責任ト云フコトモ考ヘテ居ル、仰シヤル所デハ、政府
  モ惡イガ貴族院ガコンナコトヲ言フ筈ノモノデナイ、決議案ヲ出スベキモノ
  デナイト、先刻申上ゲタ憲法ノ正面カラ見テ、貴族院モ衆議院モ同ジヤウニ、
  決議案ナリ、上奏案ナリ、同ジヤウニ出セルノデアルト私ハ信ジテ居ル、何
  カ他ノ法令デ是ガ禁止シテアレバ知ラヌコト、恐ラクハ憲法ヲ他ノ法令デ妄
  ニ禁止スルコトモ出來ヌデセウ、又二重性ヲ帶ビテ居ルカラ劇藥デアル、無
  論ノ話デアル、是ガ藥ニモ何ニモナラヌモノナラバ、時間ヲ費シテ此處へ上ツ
  テ喋ル必要モナシ、研究會ニハ多數ナ反對者、否全部反對デゴザイマセウト
  私ハ思フ、全部反對ノ研究會カラ何人御出ニナルカ、兎ニ角此法案ハ、政府
  擁護ノ立場ニ御イデナサル方ハ非常ニ神經ヲ惱マシテ居ル
  〔「ノー〓〓」ト呼フ者アリ〕
  既ニ今日ハ六人マデモ反對通告ガアルト云フコトニ聞イテ居ル、ドナタカ知
  ラヌ、今「ノー〓〓」ト言ウタノハ、ドナタカ知ラヌ、大方御承知ガナイノダ
  ラウ、能ク調ベテ御覽ナサイ、一體、此若槻内閣ガ溷濁スルヤウナ政治ヲ執ッタ
  ノハ何ガ爲デアル、「ノー〓〓」ト言フ人ガ之ヲ助ケルノヂヤアルマイカ、兎
  二角、政治ハ力デアルト云フヤウナ考ヲ以テ、多數デサヘアレバ打勝テルノ
  デアル、古人モ言ッテ居ル、人多キ時ハ天ニ勝ツト、サウダラウ、勝テルダラ
  ウ、天定マッタ後ハ誰ガ勝ツノデアル··
  〔「政友會內閣ハ如何」ト呼フ者アリ〕
  誰ガ政友會內閣ノコトヲ玆デ言ッタ、餘計ナコトヲ言フナ······私ハ先刻言ッタ、
  愛ト誠ノ二ツヲ以テ出發點トシタ政治デナクチヤイカヌト言ッタガ、其愛ハ十
  二分ニ之ヲ持ッテ助ケル一派ガアルカラ、此內閣ガ漸ク支持サレテ居ルト私ハ
  信ズル、併シ流石ニ其一派モ、誠意、誠、誠實ト云フコトハ、内閣ニ向ッテハ
  シテ居ルガ、國民ヲ愛スルノ愛ト思ッタラ、何ゾ圖ラン此內閣ヲ愛スル愛デア
  ル、國民ハ丁度其反對ニ立ッテ居ルト云フ結果ニナル、誠ニ忍耐强イ國民デア
  ルカラ數年ノ間、泣キニ泣イテ辛抱ハシテ居ルモノノ、之ヲ泣カス人ハ誰デ
  アルカ、諸君ノ御頭リノ中ニハ大〓御考ガ付クダラウト思フ、私ガ八千万ノ
  國民ガ泣クト言ッタコトニ對シテ、サウヂヤナイ、八千万ノ國民ハ喜ンデ居ル
  ダラウト仰シヤッタ方モ、此頃アルヤウニ記憶スル、尤モ私ノ耳ガ惡クテ聽キ
  損ナッタラ御免下サレ、若シサウデナク、私ガ聽イタノガ本當デアッタラ、國
  民ハ更ニ號泣シテ居ルダラウト思フ、斯ウ云フ點カラ見マスト、ドコマデモ
  此建議案ノ通過ガ必要デアルノミナラズ、是ガ具體化セムコトヲ切望シナケ
  レバナラヌノデアル、先ニ小野塚君ハ、外交ノコトヲ赤池君ガ言ッタガ、是ハ
  イケナイ······ドウ云フ譯ダ、外交ハ政治ヂヤナイカ、是ニハ國政トアル、國ノ
  政治ノ中ニハ外交ハ這入ッテ居ラヌノカ、政治學者ダカラ成程斯ウ云フ事ハ能
  ク御承知デアラウガ、私ハ無學ノ者デアルカラ知ラナイ、唯生キテ働ク上ニ
  ハ外交ナルモノハ矢張リ政治デナクチヤナラヌト私ハ信ジテ居ル、誰カ小
  野塚君ノ演說ノ時ニ、「ヒヤ〓〓」「ノー〓〓」ト言ッタ人ガアッタヤウニ思フ、ソ
  レハ「ヒヤ〓〓」ト「ノー〓〓」ト一〓ニ言ッチヤ困ルト、小野塚君ハ煩問シタヤ
  ウナコトガアッタト思フ、私ハサウヂヤナイ、是ハ當リ前ノ話ダ、政府ノ仕事
  ノ上ニ非常ニ缺陷ノアル責任ヲ政府ハ持ッテ居ルヂヤナイカ、責任ヲ知ラナケ
  レバナラナイヂヤナイカト云フコトヲ、小野塚君ガ仰シヤッタノニ對シテハ
  「ヒヤ〓〓」、小野塚君ガ貴族院議員ハ餘計ナコトヲ言ッチヤナラヌゾヨト言ッ
  タ時ニ、「ノー〓〓」ト言ッタ、ソレダカラ其人ハ「ヒヤ〓〓」「ノー〓〓」ト言ッ
  タ、先キニ藤澤君ハ此案ニ付テ御贊成デアルヤウデモアリ、反對ノヤウデモ
  アルカラ、藤澤君ノコトニ付テハ、私ハ强ヒテ申上ゲナイガ、大キナ黨派ハ
  溷濁シテ居ル、小サイ黨派ハ亂暴スル、斯ウ云フヤウナコトヲ仰シヤッタカト
  モ思フ、是ハ事實ニ於テ今モ有ルコトデアラウト思ヒマスカラ、御尤千萬ノ
  コト·····併シソレガ卽チ私ノ申上ゲル政界ガ溷濁シテ居ルト云フコトニ歸著
  スルノデアル、聽キ損ナッタラ御免ヲ蒙ル、斯ウ云フ點デアルカラ、私ハ玆ニ
  此案ヲドコマデモ通過ヲ切望シ、又切望シナケレバナラナイノデアル、小野
  塚君ハ貴族院ノ性質ニ付テ色〓御述べニナッタガ、是ハ時間ノ澤山アル時ニ、
  私ガ御講義ヲ承ッタコトニ對シテ、又質問ヲスル機會ガアルカモ知レマセヌ
  ガ、今日ハ政治ノ學問ニ來タノデナイカラ、是等ノ質問ヲ致シテ質シテ居ル
  暇ガアリマセヌカラ、是ハ他日ニ讓ッテ置キタイト思ヒマス、私ハ長イコトハ
  申上ゲヌ、唯此案ヲ賛成スル趣意ヲ述ベテ、是デ降壇シマス
  〔伯爵林博太郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=96

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• 097・林博太郎

  ○伯爵林博太郞君　會期切迫ノ際デアリ、且ツ御多用ノ時デモアリマスカラ、
  此際ハ成ルベク簡潔ニ、出來得ベクンバ二十五分掛カラナイヤウニシテ、意
  見ヲ述ベテ見タイト思ヒマス、暫クノ間御辛抱ヲ願ヒタイト思フ、尙又既ニ
  私ノ前ニ四人ノ御方ガ意見ヲ述ベラレタ後デアリマスカラシテ、重複ハ避ケ
  やく、併シ皆サンノ多分仰シヤラナカッタト云フ所ノ立場カラ、此決議案ニ對
  シテ反對ノ意見ヲ述ベテ見タイト思ヒマス、弓ヲ引ク者ハ、是ハ能ク御承知
  ノコトデアリマセウ、諸君ニ於テ大弓ヲ少シクオヤリニナッタ人ハ、確ニ御自
  覺ガアルト思フ、金的ニ向ッテ矢ヲ放ッテモ、其周圍ノ一寸以內ニ矢ガ集マル、
  射割ニ向ッテ矢ヲ放ッテモ、矢張リ一寸以內ニ集マル、五寸ノ的ヲ懸ケテ矢ヲ
  射ッテモ、矢張リ此周圍ノ一寸以內ニ矢ガ集マル、一尺ノ的ヲ懸ケテヤッタラ中
  ニ行クカト云フト、矢ッ張リ周圍ノ一寸以內ニ集マルト云フノガ、是ハ純理論
  カラ言ッタラバ、サウデアルベキ筈ガナイ、小サナ金的ノ周圍ニ一寸餘ヲ隔テ
  テ矢ガ集マルヤウナ人ナラバ、五寸ノ的ナラ皆這入ル譯デアル、ソコガ此政
  治ト云フモノハ純理論的ニ行カナイト云フコトヲ裏書シテ居ル事實デアルト
  思フ、過日來、深甚ナル考慮、深甚ナル考慮ト、幾ラモ御說モアッタノデアリ
  マスガ、是ハ政界ニ投ゲラレタル所ノ五十二議會ニ於ケル所ノ一ツノ石デア
  リマス、是ガ波瀾ヲ······波ヲ起シテ色〓ニ解釋ヲサレテ居ルノデアル、卽チ
  謎デアリマス、人生ハ夢カ現カト云フガ、一ツノ夢ノ如キモノデアル、先程
  カラ私ノ前ノ方〓ノ御論ヲ聽キマスト云フト、此決議案ノ文案ニ付テ頻ニ彼
  レ此レト仰シヤッテ居ルガ、其文案ノ由ッテ來ッタ所ノ動機ニ付テハ、何等言及
  サレテ居ラナイノデアル、「深甚ノ考慮」ト云フコトハ僅ニ五字デアリマス、
  言葉ハ何デアルカト云フト、思想ヲ代表スル〓念デ、御承知ノ通ノモノデア
  リマス、一ツノ「シンボル」デアル、言葉ト云フモノハ一ツノ象徵デアリマス、
  ソレダカラ此頃亞米利加初メ獨逸邊リデヤッテ居ル所ノ「シンバンジー」黑猩
  猩ト云フ物ノ心理狀態ヲ調ベテ居ルガ、〓念ヲ代表スル言葉ガナイト云フコ
  トハ、是ハ明カナコトニナッテ居ルノデアリマス、考慮ト云フ字モ矢張リ一ツ
  ノ象徵デアリマス、思想ノ一端ヲ現ハシテ居ル所ノ象徵デアル、是ハ形骸デ
  アル、卽チ骨デアリマス、之ニ肉ト血ヲ與フル所ノモノハ、此政治界ニ於テ
  研究ヲシテ居ル所ノ我〓個人ガ附ケナケレバナラナイモノデアリマス、抑、言
  葉ノ變遷推移ト云フコトヲ申シマシタガ、單ニ此今囘現ハレタ「深甚ノ考慮」
  ノミデハナイノデアリマス、例ヘバ此過去十年來ノ會議ノ速記ノ上ニ現ハレ
  テ居ル所ノ言葉ニ、色〓內容ヲ持ッタモノガアル、言葉ハ原始時代カラ漸次變
  遷シテ出來テ來タノデアリマス、言葉ハ成長ヲシマス、其生ルル時ガアッテ、
  死ヌ時ガアル、又復活スル時ガアル、言葉ト云フモノハ、單ニ論理的ニ其內
  容ヲ康熈字典ニ依ッテ調ベテ、ソレダケノモノデアルト言フナラバ、ソレハモ
  ウ既ニ非常ニ古イ、今日ノ心理的情況ヲ知ラナイ人ノ仰シヤルコトデアル、
  例ヘバ「遺憾デアル」ト云フコトヲ能ク言ハレル、殊ニ政府ニ立タレル當路者
  ハ、斯ノ如キコトノアリマシタノハ遺憾デゴザイマス、其「遺憾」ト云フ言葉
  ハ、我〓ガ日常手紙ニ書クトカ「テーブル·スピーチ」ヲスル遺憾トハ、マルデ
  違フデハアリマセヌカ、政治ニハ政治ノ記錄ヲ以テ遺憾ト云フ、內容ガ其言葉
  ノ中ニ附イテ居ル、「官紀振肅」ト云ヒ、其言葉ガ死ネバ「綱紀肅正」ト云フ、「忠
  臣藏」ト云フガ、「藏」ト云フコトハ何ダ、四十七士ト云フ珍品ガ中ニ這入ッテ
  居ルノデアルカラ、多分「藏」ト云フノダラウ、所ガ決シテサウヂヤナイデス、
  「珍品」ト云フノハ加藤伯以來シカ出來テ居ナイ、是ハ大阪陣ニ、德川氏ニ對
  シテ兵糧卽チ米ヲ非常ニ供給シタ大阪ノ堂島ノ商人ニ、淀屋辰五郞ト云フ者
  ガアッテ、ソレガ時勢ガ變リマシテ、其恩顧ニ依ッテ德川政府ノ補助ヲ受ケマ
  シテ、而シテ「イロハ藏」ト云フモノヲ大阪ニ建テテ、澤山ノ藏ヲ造ッテ繁
  昌シタト云フコトデアリマス、其「イロハ藏」ト云フ所カラ、或ハ爲永春水ハ
  「イロハ文庫」ト云ヒ、四十七士ハ「イロハ」ト云フモノヲ「シンポル」トシテ討
  入リヲシタ、斯ウ云フコトニナリマス、卽チ言葉其モノニハ色〓ノ生命ヲ持
  チ、色〓ノ屬性ヲ持ッテ成長發展シツヽ來タノデアリマス、或ハ「笑止」ト云フ
  言葉ハ、元ハオカシクナイコト、笑フノガ止ルカラ笑止デアル、所ガ今日ハ
  笑止ト云フト、オカシイト云フヤウナコトニ之ヲ使フト云フヤウナコト、又
  「緩急」ト言フ、緩ト急トハマルデ反對デアルガ、急ト云フ字ノ方ニ重キヲ置
  イテ今日發展シテ來テ居ルデハアリマセヌ、斯ノ如ク「深甚ノ考慮」其モ
  ノモ五字デハアリマスルケレドモ、私ハ此「考慮」ト云フコトニ付テ、ドウ
  云フ帝國議會ノ記錄ニソレガ說明セラレテ居ルカト云フコトヲ申シタイト
  思フ、嘗テ「恐縮」、「恐縮」ト云フコトデハオカシイカラ「恐悚」ト云フ字
  ニ改メタコトガアルハ、親シク御記憶ニナッテ居リマセウ、世間ノ學者ハ曰
  〃、世間ノ常識者ハ曰ク、「恐縮」ト「恐悚」トハ、文字ニ於テチヨットモ違
  ハナイ、貴族院デハ何故アンナコトヲ固執スルカト云フコトヲ、到ル處デ私
  ハ聞イタ、諸君モ恐ラク聞イテ居ッタラウト思フ、併シ政治上ニ使フ恐縮ト云
  <、アヤマッテシマフ、ソコデ恐悚、斯ウ云フコトニナル、「恐縮」ト言ッチ
  ヤイカヌカラ、政府ハ「遺憾ナコトデアリマス」ト斯ウ言フ、ソコガ卽チ私
  ハ矢張リ政治ダト思フ、是ハ論理ニアラズシテ心理デアル、心理的ノ作用デ
  アリマス、言葉ニ現ハレテ居ルモノハ單ニ象徵デアッテ、其下ニハ深イ震源地
  ガアル、例ヘバ大正十三年一月十五日ノ地震ハ、其震源地ハ丹澤山デアル、
  皆ワアット行ッテ見ルト、成程石ガ落チテ居ル、所ガ地震學者曰ク、表面ヲ距
  ルコト三十哩ノ底ニアルト斯ウ言フ、行ッテ尋ネタモノハ啞然トシテ歸ッテ來
  ナケレバナラヌ譯デアル、サウ云フ工合ニシテ、又太西洋ヲ流レテ居ル所ノ
  氷山ハ、水面ニ現ハレテ居ル所ガ僅ニ五分ノ一シカ現ハレテ居ラヌ、其五分
  ノ一シカ現ハレテ居ラヌト云フモノハ、言葉ヲ換ヘテ言ヘバ、此決議案ノ文
  章モ斯ノ如キモノデアリマス、然ラバ氷山ノ流レテ來ルノニ、單ニ水面ニ現
  ハレタ部分ノ外、幅ハ何ボデアルカ、奧行ハ何ボデアルカ、高サハ何ボデア
  ルカト云フコト、是ダケ調べナケレバ氷山其物ヲ知ッタト云ヘナイノデセウ、
  是ト同ジク震源地ヘ行ッテモ、眞ノ此震源ヲ探究シナケレバ地震ト云フモノ
  ハ分ラナイ、所デ「考慮」ト云フコトヲ如何ニ我〓ハ用ヰテ居ッタカト云フト、
  是ハ一貫シテ使ッテ居ル、今朝四條侯爵ガ委員長トシテ報告サレタ中ニモ、政
  府ニ於テ考慮サレタイ、卽チ大正十三年豫備金支出ノ件、此事ニ付キマシテ
  明年ハ考慮シテ貰ヒタイ、政府曰ク、御希望ニ副フヤウニ致シマス、考慮ト
  云フ字ハ積極ノ字デアル、單統ニ考ヘテ置クト云フ言葉ニナッテ居リマセヌ、
  歷史的ニ、又五十一議會ニ、衆議院ノ關稅ノ委員會ニ於テ幾多修正案ノ意見
  ガアッタ後ニ、澱粉類ノ關稅引上ハ來ル五十二議會ニ於テ考慮スルト云フコト
  ヲ、本黨ト政府トノ間ニ妥協ガ出來タノデアリマス、是ガ五十二議會ニ於テ、
  只今ノ藏相片岡君ガ、關稅定率法中改正法律案ノ說明ニ、五十一議會ニ於ケ
  ル衆議院ノ御希望ニ依リ、約束ニ依ッテ此提案ヲシタ、斯ウ言ッテ居リマス、
  是ハ讀上ゲマスケレドモ、衆議院ノ五十一囘帝國議會、關稅定率法中改正法
  律案第三項ニ現ハレテ居ルノデアリマス、濱口藏相ガ之ニ對シテハ篤ト考慮
  イタス積リデアリマス、斯ウ云フ風ニ玆ニ述ベテ居ルノデアリマシテ、ソレ
  ハ只今言ッタ如ク、考慮ト云フ字ハ、政府ニ於テモ又我〓ニ於テモ、先方ノ意
  思ヲ酌ムト云フコトガ、此考慮ト云フ字ニ付テ、コヽマデ來テ居ルノガ、卽
  チ貴族院ノ「レコード」、記錄デアルノデアリマス、是ハ政治ニ關與スル所ノ
  者ハ當然知ラナケレバナラナイ、活キタ事實デアル、又其他諸君ニ於テモ色
  色御記憶ヲ浮ベテ見レバ、色〓ナ事ガアルノデアリマセウ、アノ義務〓育費
  一千万圓ヲ、昨年本黨ハ二千万圓ニスルト言ッタ、ソレヲ其時若槻首相ダト思
  ヒマスガ、其殘リノ一千万圓ハ明年ニ於テ考慮シヤウト言ッタ、所ガ今年シナ
  イモノダカラ揉メテ居ル、「考慮」ト云フ字ハ今言ッタ通ニ、議會ニ於テ沿革ヲ
  有ッテ居ルカラ、是ガ揉メルノデアラウト思フ、ソコデ昨日ハ永田君カラ、
  「考慮」ノ問題ニ付テ深刻ナル質問ガ出タノデアリマスガ、併シ永田君ノハ矢
  張リ水面ノ氷山ノ範圍內ニ於テノ問答デアリマスカラ、更ニ要領ヲ得ナカッタ
  ノデアラウト思フノデアリマス、デ嘗テ三黨首會合ノ時ニ、豫算ノ不成立ヲ
  望ムコトハイカヌコトト思フ、併ナガラ今囘不信任案ヲ出スノニハ相當已ム
  ヲ得ザル理由ガアルノデアッテ、之ニ對シテ深甚ナル考慮アリタシト云フ「考
  慮」ハ、斯ウ云フ意味ニ解釋シナケレバ分ラナイ、而シテ相當已ムヲ得ザル理
  由アルト云フコトハ、其不信任案ニ對シテ、之ヲ出スノニ付テハ積極的ノ理
  由ノアル所ヲ、我〓ノ意思ヲ入レテ考慮セヨト云フコトガ、ドウシテモ出テ
  來ナケレバナラナイ、對支云々ノ御話モアッタノデアリマス、又色〓ノ御話ガ
  出タノデアッテ、此政黨ト云フモノハドウシテモ數ガ多イトイケナイカラ、政
  策ノ一致云々ト云フヤウナコトデ、此憲本政務調査會ト云フヤウナモノガ出
  來タト云フコトヲ仰シヤッテ居ル、而シテ又話ハ少々戾リマスガ、ソレハ文字
  通リデアルカ、深甚ナル考慮ヲセヨ、相當已ムヲ得ザル理由ガアルト認メテ
  深甚ナル考慮ヲセヨト言ッタコトハ、文字通リデアルカ、ソレダケノ意味デア
  ルカ、ソレダケノ意味デアル、斯ウ答ヘタト云フコトヲ更ニ研究シテ見レバ、
  是ハ「コップ」デアル、是ハ硝子デ出來タ事實上其儘ノ「コップ」デアルカ、曰ク
  其通リデアル、併シ「コップ」ノ下ニハ大キナ机ガアルガ、ソレト同ジク、決議
  案ニセヨ、考慮ト云フ文字ニセヨ、是ハ一ツノ象徵ニ過ギナイ、其下ニハ大
  キナ机ガアッテ、ソレガ各〓異ナッタ震源地デアッテ爆發シテ居ル、底ニ觸レテ
  研究シテ見ナケレバ分ラヌ、此頃幸ニ此哲學竝ニ心理學ノ方面ニ於テ、「フロ
  イド」ト云フ墺太利ノ學者ガ精神分析ト云フコトヲ言ヒ出シタ、ソレハ今日
  ハ申シマセヌガ、極メテ適切ナル人間ノ心理ノ、心カラ現ハレテ來ル〓念ニ
  對スル震源地ヲ〓究シナケレバ、人生ト云フモノハ分ラヌ、眞ノ心理ト云
  フモノハ分ラヌト云フコトヲ言ヒ出シテ來タノデアリマス、先程藤澤君ハ、
  支那ノ政界ハ分ラヌト云フノガ本當ダト言フケレドモ、「フロイド」式ノ分析
  デ行ケバ、支那ノ政界グラヰ分ルモノハナイト云フコトニナル、深甚ナル考
  慮ニ對シテモ、矢張リ同ジ意味ノ解釋ヲ下サナケレバナラヌト思フノデアリ
  やく、昨年末ニ各派ガ有志ノ覺書ヲ作リマシタ、先程花井君カラノ質問ニ對
  シテ、阪谷男爵ハ是ト內容形式共ニ少シモ違ハナイト云フコトヲ仰セラレタ
  ノデアリマスガ、私ハ是ハ違フト思フ、第一ニアレハ有志ノ決議······覺書デア
  リマス、今日ノ決議ハ院議トシテ決セントスルノデアリマス、又私ノ先程カ
  ラ申上ゲマシタ如ク、決議案其モノノ裏ニ潛ンデ居ル所ノ大キナ机ト云フ背
  景、卽チ此周圍ニアル所ノ······何ガ爲ニソレガ起ッテ來タカト云フ震源地、卽
  チ動機ト云フモノガ違ッテ居ル、ソレデアリマスカラ、表面ノ文章ガ似テ居ッテ
  モ、ソレハ何ニモナラヌ、昨年ノハ、「方今綱紀弛ミ道義衰ヘ國家ノ前途深憂
  ニ堪ヘサルモノアリ、須ラク道義ノ大本ヲ明カニシ司法ノ威信ヲ確立シ」云
  云トアリマス、是ハ內容ニ於テモ此樣ニ違ッテ居ルノデアルシ、且又氷山ノ水
  ノ上ニ現ハレタ部分ダケデ見レバ、或ハ是ハ捏ネ付ケルコトガ出來ルカモ知
  レヌケレドモ、其下ニアル所ノ五分ノ四ト云フ深味ノアル氷山ノ底根ハ、到
  底之ニ依ッテ、違ッテ居ルカラ分ラヌ、斯ウ云フコトニ解釋ヲシナケレバナラ
  ヌト思フノデアリマス、所デソレガ文字通リデアルカ、文字通リデアルト云
  フコトニ付テハ、旣ニ御推察ニナッタト思フ、之ニ適切ナ例ヲ擧グレバ直グ分
  ルノデアリマス、賴朝ガ宗盛ニ對シテ、爼上ニ鯉ヲ置イテ見セタ、是ハドウ
  デアリマセウ、論理的ニ言ッタナラバ、此鯉ハ何ヲ意味スル、是ハ滑川デ取ッ
  タカ、馬入川デ取ッタカ、鯉ハ鯉ダ、爼ハ爼、爼上ノ鯉デアル、併ナガラソレ
  デハ終ル譯ガナイ、文字通リデ、其裏面ニ何ガアルカト云フコトハ諸君ノ御
  承知ノ通リ、武士道ト鯉、爼、ソレダカラ賴朝ガ自殺ヲ强制シタト私ハ言ヘ
  ルト思フ、表面ノ理由デハ言ヘマセヌガ、之ニ潜ンデ居ル大キナ机ヲ土臺ニ
  シテ、震源地カラ言ッタナラバ、サウ云フ動議デ言ッタト云フコトハ、ドウシテ
  モ分ラザルヲ得ナイ、宗盛ガ之ヲ知ラザレバ馬鹿デアリマス、ソレデアリマ
  スカラ、頻リト阪谷君ハ仰シヤイマスガ、此決議案ハ彈効案デハナイ、辭職
  ヲ勸〓シテ居ルモノデハナイ、斯ウ言ハレル、形式ノ上デハ或ハサウデアリ
  マセウ、不信任ト云フ言葉ハ一ツモナイ、罷メロト云フコトモ書イテナイ、
  併シ是ハ爼上ノ鯉デアルト思フ、之ヲ解釋スル所ノ者ハ、今日ノ日本ノ歷史
  ヲ知ッテ居リ、日本ノ政治史ヲ知ッテ居ル所ノ者ハ、如何ナル机ガ此決議案ノ
  下ニ置イテアルカト云フコトハ御分リダラウト思フ、餘リ多言ハ申シマセヌ、
  デ若槻首相ハ、政黨ガ澤山アッテハイカヌ、政策ノ一致ト云フコトヲ以テ政務
  ヲ遂行シナケレバナラヌ、玆ニ於テ憲本提携ト云フコトガ必要デアル、サウ
  シテ此憲本政務調査會ヲ起シテ、新聞ノ報ズル所ニ依レバ、地方稅デアルト
  カ、義務〓育費ノ根本解決、人口食糧問題、東亞政策、外交政策、其他澤山
  竝ベテ居リマス、斯ウ云フコトヲ以テ憲本提携ガ出來ルト思フナラバ、氷山
  ノ水ノ上ニ現ハレタ部分ヲ以テ氷山ヲ解決シテ、氷山ナリト解決スル意味ニ
  於ケル妥協ハ出來ルデアリマセウ、併ナガラ二人ノ人間ガ同ジ中折帽子ヲ被ツ
  タカラトテ、下ノ人間ハ同一デアルトハイカヌト思フ、私ハ例ヘテ見レバ政
  友會ハ朱デアル、硯箱ノ中ニアル朱ダ、而シテ本黨ハ墨デ、憲政會ハチヨット
  是ト違ッテ居ル、繪具ノ中ニアル洋紅デアリマス、紅デアリマス、是ハ日本畫
  ヲオヤリニナリ、文人畫ヲヤッタ人ハ梅ヲ畫イテモ鳶色ノ點ヲ著ケル時ニ、我
  我自分デ、昔、シクヂッテ知ッテ居リマスガ、西洋繪具······洋紅ト墨ト混ゼマ
  シテ梅ノ花ノ點ヲ打ッテ御覽ナサイ、見テ居ルト乾ク間ニピッタリト二ツニ分
  レテシマフ、然ルニ是ハ支那人ハ昔カラ實ニ經驗ノ上カラ能ク考ヘタモノデ
  アリマス、朱ト墨トハ、文人畫ニ於テモ何ニ於テモ、昔カラ一貫シテ使ッテ居
  ル、繪ヲ書ク場合ニハ墨ト朱ヲ混ゼテ、水ヲ混ゼテ、サウシテ書イテ御覽ナ
  サイ、實ニ相提携シタ良イ所ノ政本提携ガ出來ル、ソレト同ジモノデアリマ
  ス、若シ朱ト墨、政友ト本黨ガ一緒ニナレバ、一ツノ箱ノ中ニ這入ッテ居ルダ
  ラウト思フノデスガ、此墨ガ洋紅ト一〓ニナッタ爲ニ、方針バカリ同ジモノヲ
  ヤラウトシテモ、卽チ憲本政務調査會デ色〓ノ問題ダケヲ、例ヘバ丹澤山或
  ハ氷山ノ水面ニ現ハレタ部分ニ於テ、幾多是ガ集マッテ見タ所デ、其提携タル
  ヤ頗ル基礎不健全ナルモノト云フコトハ言ヲ俟タヌ、玆ニ於テ最後ノ所ニ移
  リマス、モウ五分バカリ御待チヲ願ヒマス、矢張リドウモ一番後トデヤル者
  ハドウモ損デアリマスガ、併シ出來ルダケ簡單ニヤリマス、先程藤澤博士ハ、
  此反對黨ニ常ニ渡サナクチヤナラヌ、二ツニ政權ガ始終往ッタリ來タリシテ
  原ノ·仲善ク分擔スルノガ國政ノ推移上一番宜イノデアルト色〓例ヲ引イ
  テ仰シヤイマシタガ、私ハ是ハ同感デアリマス、私ハ若槻首相ガ罷メルトカ、
  罷メナイトカ云フコトハ、ソレハチヨット言ヘマセヌガ、罷メルニシテモ、罷
  メナイニシテモ、濱口內閣ガ出來ルニシテモ、田中內閣ガ出來ルニシテモ、
  ソレハ貴族院議員ノ立場トシテハ問題外デアリマス、併ナガラ私ハ斯ウ云フ
  決議文ヲ突付ケテ、之ヲ以テ政府ニ處決セヨト云フコトハ、是ハ甚ダ不穩當
  デアルト思フ、其不穩當ノ點ハ、小野塚博士ガ先程述べラレタ、卽チ解散ト
  云フコトガナイト云フコトハ、法律的ニ決議案ヲ出シテモ宜イトカ惡イトカ
  云フコトハナイニシテモ、是ハ德義上ソレハ遠慮スベキデ、ヨク〓〓ノ時デナ
  ケレバ、サウシナイト云フコトハ、是ハ政治上ノ道德デアルト思ヒマス、斯
  ウ云フコトヲ考ヘテ見マスト云フト、現內閣ハ、我〓ハ決シテ今日此內閣ニ
  向ッテ辭職シロトカ何トカ云フコトハ勸〓シナイ、サウ云フ意味ニ於テ此決議
  案ニハ反對デアリマスガ、併ナガラ自然ニ死ヌ者ハ、是ハ貴族院議員トシテ
  ドウモ致シ方ガナイ、而シテ死屍ニ撻タズト云フコトハ、武士道ノ德義デアリ
  やく、而シテ兎角近頃ノ政爭ハ最後ノ止ドメヲ刺ス所マデ行カナケレバ止メ
  ナイ、昨日ノ衆議院ノ如キモサウデアリマス、血ヲ以テ血ヲ洗フト云フコト
  ハ、誠ニ今日政界ノ溷濁シタル惡現象デアルト思フノデアリマス、人生ニハ
  詩ガナクテハイカヌ、單ニ文章ノ綾ニ釣ラレ、決議案ノ單ニ形式上ノ綾ニ釣
  ラレテ、更ニ人間味ノ無イ、內容ノ無イモノヲ提出シタナラバ、何ノ意味ガ
  アルデアリマセウ、而シテ是ト同樣ニグット突詰メルコトハイカヌト云フノ
  ハ、私ハサウ云フ意味ニ於テ、此決議案ハ自殺ヲ强制スルモノデアルト考ヘ
  ルノデアリマス、少クトモ爼上ニ鯉ヲ置イテ政府ニ之ヲ見ロト云ッタヤウナ
  モノト見ナケレバナラヌ、ソレハ輕重ノ區別ハアリマセウガ、其意義ハ須ラ
  クサウ考ヘナケレバナラヌト思フノデアリマス、デ貴族院ノ立場トシテハ政
  治ニ餘裕アラシメル、人生ニハ詩ガナクテハイケマセヌ、金バカリ溜メテ居
  ルト云フ實業家デハ、一生涯浮ブ瀨ガナイ、金バカリ貰ヒタイト云フ坊サン
  デハ、一生涯悟リハ開カレナイ、人生ニハ詩ガナクテハナラヌト思フノデア
  リマス、政治ニモ武士道ガナクテハナラヌト思フ、武士道ハ卽チ我國ノ精華、
  花デアリ、詩デアル、ソレデ私ハ斯ウ云フ意味ニ於キマシテ、將ニ死ナント
  スル所ノモノニ對シテ、貴族院ガ之ニ自殺ヲ强ヒルト云フヤウナコトハ、甚
  ダ不穩當ナコトデアリ、政治道德ニ於テ愼ムベキコトデアルト思フ、卽チ小
  野塚博士ノ所謂愼ムベキコトデアルト思ヒマス、玆ニ於テ武士道ノ必要ガア
  ル、今ハ昔、衣川ノ合戰ニ、義家ハ貞任ニ矢ヲ番ヘツヽ之ヲ追ヒ、「衣ノタテ
  ハ綻ビニケリ」······貞任聲高ラカニ、「年ヲ經シ糸ノ亂レノ苦シサニ」······此刹
  那ニ於テ矢ヲ番ヘテ居ッタ所ノ義家ノ所謂震源地、卽チ心ノ奧底ニ於テハ一片
  ノ涙ガ浮ンデ、アヽ貞任ト云フ男ニハ詩ガアル、是ハ討ツベカラズト云フ精
  神デ、矢ヲ番ヘタノヲ外シテ歸ッタト云フコトデ、御承知ノ通デアリマス、菊五
  郞ガヤリマス素袍落ト云フ芝居ガアリマスガ所謂那須與一扇ノ的デ壽永四年
  二月二十日ノ事ナルニ、柳ノ五ツ重ネニ紅ヰノ袴著テ袖笠カヅケル女房アリ、
  皆紅ノ扇ニ日出ダシタルヲ枕ニ挾ミテ、船ノ舳頭ニ立ッテ之ヲ射ヨトテ源氏
  ノ方ヲゾ招キケル、建禮門院后立ノ御時千人ノ內ヨリ選ビ出セル雜司ニ、玉
  虫前ト申ス今年十九ニゾナリケル、雲ノ鬢ヅラ霞ノ眉、繪ニカクトモ筆モ及
  ビ難シ······與一ハコヽニ心身統一ノ業ニ入ル、歸命頂禮八幡大菩薩ト唱ヘ、
  狙ヒ定メテ兵ト放ツ、蚊目ハ船ニ留リテ扇ハ空ニ上リツヽ、暫シタメラヒ、
  ヒラメキテ海ヘサットゾ入リニケル、源氏モ平家モ舷ヲ叩イテ射タリ〓〓ト
  感ジケリ······日ノ丸ノ扇ガ水ノ上ニ浮ブノヲ見テ、玉虫ハ「時ナラヌ花ヤ紅
  葉ヲ見ツル哉芳野初瀨ノ麓ナラネト」··如何ニ命ノ取リヤリヲスル源平ノ
  白兵戰ノ中ニモ、詩ガアルト云フコトヲ御承知ヲ願ヒタイ、人間味ガアルト
  云フコトヲ御承知ヲ願ヒタイ、立ツ鳥ハ跡ヲ濁サズ、若槻首相ハ定メシ立派
  ニ退却ヲ爲サルコトト我〓ハ思フノデアリマス、此時ニ於テ義家タル者ハ貴
  族院デナケレバナラヌト思フノデアリマス、併シ我〓ハ斯ノ如キモノヲ其意
  味ニ於テ突付ケナイ、孔子ノ所謂至善ヲ得ヨト云フコトハ、忠告ハ個人トシ
  テハ致シマスケレドモ、院議トシテサウ云フコトヲスル譯ニ行カナイト思ヒ
  RT·B斯ノ如ク人間味ト云フコトハ、是ハ非常ニ必要ナコトデアラウト思フ
  ノデアリマス、安宅ノ能ニ於キマシテ、富樫ノ心情ヲ分析シテ御覽ナサイ、
  辨慶ガ義經ヲ打ッタ、卽チ賴朝ト義經ガ不和トナリ給ヒテ、斯ノ如キ結果ニナッ
  テ居ル、氣ノ毒デアル、何トカシテ之ヲ助ケタイト思フケレドモ、山伏ハ昨
  日マデ皆殺シテシマッタ、此刹那ニ於テ辨慶ガ義經ノ頭ヲ叩イタト云フコト
  ハ、卽チ富樫ノ人情ノ琴線ニ觸レテ、イヤ是ハ救ハナケレバナラヌト云フ、
  ソコニ震源地ガ起ッテ來タ、其人間味ガアリ、詩ガアリ、餘裕ガアルト云フ
  コトガ、是ガ政治ノ上ニ於テハ其妙用ノ上ニ必要ナモノデアルト思ヒマス、
  是ガ私ハ今日ノ政界ニ於テ最モ缺ケテ居ル缺點デアルト思フノデゴザイマ
  ス、先程「ヱイチ·ツー·オー」ノ話ガ出テ、水ノ話ガ出マシタガ、此意味ニ於
  キマシテハ、三津五郞ノ藝ハ蒸溜水ノ如キモノデアルト思フ、菊五郞ノ藝ハ
  山ヲ步イテ疲レタ時ニ滾々トシテ湧キ出ヅル山ノ水ヲ一滴飮ンダ氣持ガアル
  ノデアリマス、何レガ人間味ガアルカ、御批判ヲ願ヒタイ、終リニ臨ミマシ
  テ、我ガ帝國ハ、皇室ヲ中心ニ仰ギ奉ッテ、此二千五百年來立派ナル所ノ歷史
  ヲ有ッテ居ルノデアリマス、星移リ物換リ、源平藤橘以來德川氏ヲ經テ今日
  ノ政黨內閣ニ至ル迄ニハ、世ノ中ノ變遷ハ色〓アッタケレドモ、其中心タルヤ
  儼トシテ動カナイノデアリマス、我〓ハ次ニ憲政會內閣デ再ビアルニセヨ、
  本黨內閣デアルニセヨ、政友內閣デアルニセヨ、ソレハ世ノ中ノ變遷デアル、
  此間ニ處シテ卽チ下院ト政府ノ間ニ處シテ、嚴正嚴肅ナル批判ヲ爲シ、其前
  途ヲ誤ラシメザルコトガ、卽チ我〓ノ任務デアルト思ヒマシテ、此決議案ニ
  ハ反對ノ意思ヲ表スルノデアリマス、數百年前有名ナル歌人ガ次ノ如キ歌ヲ
  詠ンダノデアリマスガ、其歌人ガ何人ナリヤ、其歌人ハ此私ノ述べタ所ノ精
  神ト一致シテ居ルヤ否ヤノ解決、卽チ此謎ハ、之ヲ解クコトハ諸君ノ御判定
  ニ委セテ壇ヲ下リマス、「何事モ變リノミ行ク世ノ中ニ同ジ影ニテスメル月
  哉」數百年前ノ月モ今ノ月モ同ジデアリマス、併シ其間ニ於テ、政界ノ中心
  ハ常ニ變ッテ居ルト思フ、ソレ等ハ我〓ガ超越シテ之ヲ批判スベキモノデアル
  ト云フコトノ意味ニ於テ、此決議案ニ反對ヲ致シマス〔拍手起ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=97

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• 098・西大路吉光

  ○子爵西大路吉光君　討論終結ノ動議ヲ提出イタシマス、滿場ノ諸君、御贊
  成ヲ請ヒマス
  〔「賛成」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=98

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• 099・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　討論終結ノ動議ニハ二十人ノ贊成者ヲ要シマス
  〔「贊成」ト呼フ者多シ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=99

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• 100・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　西大路子爵ノ討論終局ノ動議ハ定規ノ賛成ヲ得タ
  ト認メマス、討論終局ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者多數

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=100

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• 101・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　過半數ト認メマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=101

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• 102・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本決議案ノ採決ニ付キ、四條侯爵ヨリ定規ノ員數
  ヲ具ヘテ、記名投票ヲ以テ表決ヲ爲スノ要請ニ接シマシタ、故ニ本院規則百
  十八條ニ依リマシテ、記名投票ヲ以テ採決イタシマス、念ノ爲メ申述ベテ置
  キマスガ、本決議案ニ同意ノ諸君ハ白色票、反對ノ諸君ハ靑色票ヲ投票函ニ
  御投入ヲ請ヒマス、本日モ氏名點呼ヲ省略イタシマシテ、近衞公爵ヨリ順次
  此演壇ニ御登リヲ請ヒマス
  〔投票執行〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=102

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• 103・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御投票漏レハゴザイマセヌカ······投票漏レナシト
  認メマス、書記官ヲシテ投票ヲ計算イタサセマス
  〔書記官投票ヲ計算ス〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005203242X02719270325&spkNum=103

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• 104・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　記名投票ノ結果ヲ御報告ニ及ビマス、投票總數
  二百三十九、本案ヲ可トスル者、卽チ白色票ヲ投ジタル者五十六、本案ヲ否
  トスル者、卽チ靑色票ヲ投ジタル者百八十三、故ニ決議案ハ否決セラレマシ
  タ
  〔參照〕
  贊成者氏名(五十六名)
  男爵大井成元君田中館愛橘君男爵宇佐川正君
  佐藤三吉君玉利喜造君男爵坂本俊篤君
  男爵阪谷芳郞君男爵山内長人君和田彥次郞君
  河村讓三郞君男爵紀俊秀君男爵小原駐吉君
  男爵南部光臣君男爵伊藤安吉君男爵千田嘉平君
  男爵船越光之丞君男爵千秋季隆君男爵北河原公平君
  男爵北大路實信君男爵黑川幹太郞君男爵神山郡昭君
  男爵上田兵吉君男爵福原俊丸君男爵今枝直規君
  男爵藤村義朗君男爵二條正麿君男爵有地藤三郞君
  男爵郷誠之助君男爵小畑大太郞君男爵足立豐君
  男爵松岡均平君男爵周布兼道君男爵關義壽君
  男爵大寺純藏君男爵佐藤達次郞君石渡敏君
  阪本釤之助君福永吉之助君中村純九郞君
  南弘君鎌田榮吉君松本烝治君
  竹越與三郞君室田義文君永田秀次郞君
  赤池濃君林平四郞君村野常右衞門君
  小塩八郞右衞門君花井卓藏君瀨谷勇次郞君
  工藤八之助君吉田羊治郞君山田惠一君
  山上岩二君森田福市君
  反對者氏名(百八十三名)
  公爵近衞文麿君公爵二條厚基君侯爵蜂須賀正韶君
  侯爵四條隆愛君侯爵中御門經恭君侯爵佐佐木行忠君
  侯爵大隈信常君伯爵松木宗隆君伯爵松浦厚君
  伯爵寺島誠一郞君伯爵川村鐵太郞君伯爵林博太郞君
  伯爵松平賴壽君伯爵溝口直亮君伯爵樺山愛輔君
  伯爵小笠原長幹君伯爵二荒芳德君伯爵堀田正恒君
  伯爵酒井忠克君伯爵黑木三次君伯爵酒井忠正君
  男爵木越安綱君服部三君子爵京極高德君
  子爵藤谷爲寬君子爵樋口誠康君子爵稻垣太祥君
  子爵毛利高範君子爵大久保立君子爵松平直平君
  子爵靑木信光君子爵牧野忠篤君子爵酒井忠亮君
  子爵大河內正敏君子爵伊集院兼知君子爵五辻治仲君
  子爵井上匡四郞君子爵前田利定君子爵櫛笥隆督君
  子爵西大路吉光君子爵五條爲功君子爵柳生俊久君
  子爵水野直君子爵吉田〓風君子爵本多忠鋒君
  子爵藪篤麿君子爵秋月種英君子爵伊東祐弘君
  子爵片桐貞央君子爵大河內輝耕君子爵白川資長君
  子爵野村益三君子爵池田政時君子爵米津政賢君
  子爵〓岡長言君子爵八條隆正君子爵立花種忠君
  子爵伊東二郞丸君子爵花房太郞君子爵新庄直知君
  子爵石川成秀君子爵曾我祐邦君子爵森俊成君
  子爵秋田重季君子爵渡邊千冬君子爵東園基光君
  子爵牧野一成君子爵戶澤正己君子爵渡邊七郞君
  子爵秋元春朝君子爵西尾忠方君子爵裏松友光君
  子爵岩城隆德君子爵大浦兼一君子爵鍋島直繩君
  子爵稅所篤秀君子爵板倉勝憲君子爵米倉昌達君
  子爵舟橋〓賢君子爵松平康春君子爵綾小路護君
  子爵瀧脇宏光君淺田德則君大久保利武君
  大島健一君嘉納治五郞君水上長次郞君
  富谷 姓太郞君藤澤利喜太郞君木場貞長君
  渡邊暢君男爵幣原喜重郞君新渡戶稻造君
  荒川義太郞君石塜英藏君小松謙次郞君
  岡喜七郞君內田嘉吉君武富時敏君
  志水小一郞君若林賚藏君小野塚喜平次君
  男爵安場末喜君伊澤多喜男君男爵黑田長和君
  男爵岩倉道倶君男爵辻太郞君男爵矢吹省三君
  男爵長基連君男爵井上〓純君石井省一郞君
  原保太郞君藤田四郞君澤柳政太郞君
  添田壽一君倉知鐵吉君鍋島桂次郞君
  川崎卓吉君太田政弘君二上兵治君
  山川端夫君湯淺倉平君塚本〓治君
  川上親晴君菅原通敬君田所美治君
  馬場鍈一君靑木周三君湯地幸平君
  西野元君佐竹三吾君樺山資英君
  大橋新太郞君內藤久寬君末延道成君
  佐々木志賀二君尾崎元次郞君吉野周太郞君
  津久居彥七君森本善七君澤山精八郞君
  菊池恭三君今井五介君宇田友四郞君
  根津嘉一郞君伊澤平左衞門君田村新吉君
  奧田榮之進君齋藤喜十郞君磯貝浩君
  金杉英五郞君齋藤善八君橋本萬右衞門君
  田村駒治郞君西本健次郞君高橋源次郞君
  土田萬助君金子元三郞君山崎龜吉君
  菅澤重雄君北村宗四郞君森廣三郞君
  大城兼義君津村重舍君奥田亀造君
  五十嵐甚藏君澤田喜彥君橫山章君
  松本勝太郞君濱口儀兵衞君長尾元太郞君
  三木與吉郞君小林嘉平治君風間八左衞門君
  小林暢君絲原武太郞君濱平右衞門君
  若尾謹之助君板谷宮吉君高廣次平君
  鳴海周次郞君本間千代吉君瀨川彌右衞門君

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• 105・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ニテ衆議院トノ關係上休憩ヲ致シマス、併シイ
  ツ何時本議場へ御集マリヲ願フカモ存ジマセヌカラ、其御含ミニ願ヒタウゴ
  ザイマス
  午後五時三十七分休憩
  千平山市
  午後七時五十二分開議

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• 106・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ報〓ヲ致サセマス
  〔瀨古書記官朗讀〕
  本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ノ囘付ヲ受ケタリ
  保險業法中改正法律案
  U+M

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• 107・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ會議ヲ開キマス、諸君ニ御諮リヲ致シタイ
  コトガゴザイマス、只今書記官ヲシテ報告ヲ致サセマシタ通リ、本日衆議院
  ヨリ保險業法中改正法律案ノ囘付ニ接シマシタ、是ヨリ議事日程ヲ追加イタ
  シマシテ、該法案ノ會議ヲ開キタイト考ヘマス、御異議ゴザイマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

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• 108・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス
  불새桌

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• 109・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　保險業法中改正法律案、政府提出、衆議院囘付、
  會議、修正案ハ······衆議院ヨリ囘付セラレマシタ修正案ハ、諸君ノ御手許ヘ
  配付イタス暇ガゴザイマセヌカラ、書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
  〔瀨古書記官朗讀〕
  衆議院囘付案ノ修正箇條左ノ如シ
  第十一條ヲ削ル
  第十二條中「第五條ニ揭ケタル書類ニ定メタル事項」ヲ「第五條ニ揭ケタ
  ル書類ニ定メタル特ニ重要ナル事項」ニ改メ、「取締役」ノ下「監査役」ヲ
  削ル
  第百五條第一項中「第五條ニ揭ケタル書類ニ定メタル事項」ヲ「第五條ニ
  揭ケタル書類ニ定メタル特ニ重要ナル事項」三段人

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• 110・樺山愛輔

  ○伯爵樺山愛輔君　此修正案ニ對シマシテ政府ノ御意嚮ヲ伺ヒタイノデアリ
  マス
  〔國務大臣藤澤幾之輔君演壇ニ登ル〕

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• 111・藤澤幾之輔

  ○國務大臣(藤澤幾之輔君)　衆議院デ修正イタシマシタノハ、前囘當席デ重
  要ナ點トシテ御紹介申上ゲマシタ其廉ニハ一切觸レテ居ラナイモノデゴザイ
  PV、十一條削除ト申シマシテモ、是ハ現行法ノ通リト云フコトデアリマス、
  ソレカラ十二條ニ「特ニ重要ナル」ノ文字ヲ加ヘマシタケレドモ、是ハ加ヘテ
  モ加ヘナクテモ殆ド同ジヤウニ解釋シ得ラルル文字デアリマスガ、幾ラカ鄭
  重ニ扱フト云フコトニナッタダケデアリマス、「監査役」ヲ削ルト云フコトハ
  現行法通リト云フコトデアリマスカラ、何等異議ハゴザリマセヌ、御同意ヲ
  御願ヒ致スノデアリマス

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• 112・樺山愛輔

  ○伯爵樺山愛輔君　此修正案ハ保險業法ノ改正案ノ骨子ニ影響セズト思ヒマ
  スカラ、贊成イタシマス

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• 113・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　他ニ御發言モ無イト認メマスカラ採決イタシマ
  ス、衆議院ノ囘付案ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者多數

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• 114・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　過半數ト認メマス
  山市小山훌륭

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• 115・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第十四ヨリ第六十九マデ請願、會議
  意見書案
  株式會社日華協信公司救濟ニ關スル件
  東京市麴町區永樂町株式會社日華協信公司取締役水梨岩太郞呈出
  右ノ請願ハ株式會社日華協信公司ハ靑島守備軍司令官ノ慫慂勸告ニ基キ設
  立シ爾來當局トノ契約ヲ遵守シテ銳意事業ヲ繼續シ來リタルニ拘ラス突如
  山東懸案解決ニ關スル條約實施ノ結果該契約上ノ權利利益ヲ喪失シ營業不
  能ニ陷リタルノミナラス汽船倉庫等ノ設備ニ多大ノ損害ヲ被リタルハ甚遺
  憾ナルニ依リ第五十一囘帝國議會ニ於テ救濟セラレタル海軍關係諸會社ト
  等シク適當ノ救濟策ヲ講セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
  採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  建築士法制定ニ關スル件
  東京市牛込區二十騎町平民長野宇平治呈出
  右ノ請願ハ近時時勢ノ進展ニ伴ヒ建築的施設竝經營ニ關スル諸般ノ事業ハ
  益複雜幾微ト爲レルニ拘ラス之カ計劃、設計竝監督ヲ職務トスル技術者ニ
  關スル法規ノ未制定セラレサルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ建築士法ヲ制定シ
  テ其ノ資格、職責ヲ明カニシ且其ノ登錄ノ途ヲ啓キ又其ノ義務トシテ操守
  スヘキトコロヲ明示スル等適當ノ措置ヲ講セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族
  院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
  別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  產業組合ニ對スル登錄稅免除ニ關スル件
  東京市麴町區有樂町東京府建築組合協會長西垣恒矩外七名呈出
  右ノ請願ハ利用組合カ其ノ組合員ニ低廉ナル利用料ヲ以テ住宅或ハ住宅用
  地ノ利用ヲ爲サシムル場合又ハ購買組合ニ於ヲ住宅ヲ建設若ハ購入シ之ヲ
  組合員ニ供給セムトスル場合等ノ如ク產業組合自ラ住宅及其ノ用地ヲ取得
  スル場合ニハ登錄稅ヲ免稅セラルヘキニ拘ラス本期議會ニ提出セラレタル
  登錄稅法中改正法律案ニ於テ之ヲ除外セラレタルハ社會政策上甚遺憾ナル
  ニ依リ速ニ組合ニ對スル該稅ヲ免除スルヤウ相當ノ措置ヲ講セラレタシト
  ノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法
  第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  靑森港修築ニ關スル件
  靑森縣中津輕郡高杉村農高杉平治外七十九名呈出
  右ノ請願ハ靑森縣靑森港ハ本州ノ北端ニ位シテ北海道、樺太、露領薩哈嗹
  州竝勘察加方面ニ對スル運輸交通ノ要衝ニ當リ貨物ノ集散スルモノ年額二
  億有餘万圓ノ巨額ヲ算スル重要ノ貿易港ナルニ拘ラス港内狹隘ニシテ且設
  備モ不完全ナル爲船舶ハ主トシテ堤外ニ投錨スルノ止ムナキニ至リ從テ沖
  荷役ヲ要スル等其ノ不利不便尠カラサルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ國費ヲ以
  テ同港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
  モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  御肖像竝勅語揭載ノ印刷物取締ニ關スル件
  鳥取縣鳥取市西町商井口千代藏呈出
  右ノ請願ハ新聞雜誌ニ奉揭スル御肖像竝勅語ニ對シテハ不知不識ノ間ニ不
  敬ノ取扱ヲ爲ス恐アルニ依リ斯カル不敬ナキヤウ其ノ奉揭ニ關シ取締方法
  ヲ講シ且三大節ノ式後學校長ヲシテ生徒ニ對シ其ノ奉拜方法ヲ訓示セシメ
  尙校則トシテ之ヲ勵行セシメラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體
  ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  人口竝〓糧問題調査ノ件
  東京市麴町區內山下町帝國水產會會長男爵村上隆吉呈出
  右ノ請願ハ近時人口ノ增殖ニ伴ヒ水產〓糧ノ充實ヲ圖ルハ當面ノ急務ナル
  ニ拘ラス〓糧問題ニ關スル論議又ハ施設ノ專ラ米麥ノ需給ニ局限セラレ本
  邦〓糧上ノ重要要素タル水產〓糧及之ト米麥トノ關係竝是等ノ需給調節ニ
  及ハサルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ水產〓糧ノ充實ニ關シテモ併セテ充分ノ
  調査ヲ行ヒ以テ〓糧政策ノ確立ニ遺算ナカラシメラレタシトノ旨趣ニシテ
  貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
  依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  漁船保險制度確立ノ件
  東京市麴町區內山下町帝國水產會會長男爵村上隆吉呈出
  右ノ請願ハ漁船ハ漁業者ノ重要財產タルト共ニ漁業生產上有力ナル資本ニ
  屬シ之カ安全ヲ保障スル方法トシテ保險制度ノ緊要ナルコト明カナルニ拘
  ラス現行保險制度ハ漁船ノ保險ニ便ナラス從テ之ヲ利用スルモノ極メテ僅
  少ナルハ甚遺憾ナルヲ以テ此ノ際適當ノ方法ニ依リ漁船保險制度ノ確立ヲ
  期セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
  致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  水產〓育振興ニ關スル件
  東京市麴町區內山下町帝國水產會會長男爵村上隆吉呈出
  右ノ請願ハ水產業發展ノ要ハ主トシテ水產〓育ノ振興ニ在ルニ拘ラス未該
  〓育制度及機關ノ完備セサルハ甚遺憾ナルヲ以テ水產大學及高等水產學校
  ノ設置竝地方水產學校及水產補習學校ノ增設等其ノ他請願人所案ノ如キ方
  策ヲ速ニ實施セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
  モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  商工會法制定ノ件
  三重縣飯南郡松阪町商東谷泰外四名呈出
  右ノ請願ハ國運ノ隆替ハ商工業ノ盛衰ニ歸シ而シテ商工業ノ振興ハ斯業者
  ノ活動機關トシテ秩序アリ統一アル民衆的團體ヲ組織シ相互協力一致セシ
  ムルヲ以テ其ノ要トスヘキニ拘ラス全國ニ於ケル現在ノ各團體ハ悉私設任
  意ノモノニシテ十分ノ功ヲ擧ケ得サルハ甚遺憾ナルニ依リ農會法ニ準據シ
  商工會法ヲ制定セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
  キモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  公有林野官行造林事業ニ關スル件
  東京市赤坂區溜池町大日本山林會會長川瀨善太郞呈出
  右ノ請願ハ公有林野官行造林事業ハ荒廢セル公有林野ノ造林ヲ助成促進シ
  テ治水上國土ノ保安ヲ圖リ加之公共團體ニ鞏固ナル財產ヲ造成セシムルヲ
  以テ趣旨トシ從テ地方發展上緊要ノコトナルニ拘ラス財政緊縮ノ故ヲ以テ
  造林事業ノ遂行豫定ノ如クナラサルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ本造林ノ促進
  ヲ圖ラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
  致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  林野基本調査ニ關スル件
  東京市赤坂區溜池町大日本山林會會長川瀨善太郞呈出
  右ノ請願ハ林野統計ハ林業振興ノ基礎ナルニ拘ラス未信ヲ措クニ足ルヘキ
  正確ナルモノナク爲ニ林野ノ利用開發ヲ劃策シ又ハ木材其ノ他林產物ノ需
  給ヲ調節スルコトヲ至難ナラシメ延イテ森林政策ノ根本ヲ誤ラシムルハ林
  業發展上甚遺憾ナルニ依リ速ニ全國林野ニ對シ基本的調查ヲ行ヒ以テ相當
  ノ措置ヲ講セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモ
  ノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  國有林野所在市町村ニ對シ交付金下付ノ件
  東京市赤坂區溜池町大日本山林會會長川瀨善太郞呈出
  右ノ請願ハ國家ハ國有林ノ經營上其ノ所在市町村ノ公共的施設ニ賴リ多大
  ノ利益ヲ受ケツツアルニ拘ラス該市町村ニ對シ何等ノ公課ヲ納メサル爲住
  民ハ負擔ノ過重ニ苦シムコト尠カラス斯クノ如キハ御料林ニ於テ其ノ所在
  町村ニ對シ一定ノ交付金ヲ下賜セラルルニ比シ權衡上甚遺憾ナルニ依リ速
  ニ國有林ニ地租額ヲ定メ其ノ附加稅ニ相當スル金額ヲ所在市町村ニ對シ交
  付セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
  致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  森林火災保險ニ關スル件
  東京市赤坂區溜池町大日本山林會會長川瀨善太郞呈出
  右ノ請願ハ林業ハ投資囘收ニ數十年ヲ要シ其ノ間林木財產ノ保全又ハ擔保
  設定ノ爲森林火災保險ノ緊要ナルニ拘ラス之ヲ兼營スル營利保險會社僅少
  ニシテ而モ其ノ保險料頗ル高率ヲ示シ殊ニ主要ナル幼齡林保險ヲ嫌忌スル
  ノ弊アルハ甚遺憾ナルヲ以テ之カ對策トシテ國營森林火災保險ヲ施設セラ
  レタク然ラザレバ森林火災保險相互會社ノ設立ヲ助成補助セラレタシトノ
  旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
  六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  義務〓育年限延長ニ關スル件
  東京市小石川區竹早町帝都〓育會會長伯爵松平賴壽呈出
  右ノ請願ハ義務〓育ノ年限ヲ延長スルハ文化ノ進展上緊要ノ措置ナルノミ
  ナラス而モ這般市町村義務〓育費國庫負擔金ノ增額セラルヘキニ際シ尙且
  其ノ實現ヲ見サルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ該年限ヲ八箇年トシテ義務〓育
  ノ內容ヲ充實セラレタク但特別ノ事情アル市町村ニ對シテハ一定ノ期間其
  ノ實施ヲ猶豫セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
  モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  福島地方裁判所白河支部存置ノ件
  福島縣西白河郡白河町長丸野實行呈出
  右ノ請願ハ福島縣東西白河、岩瀨及石川ノ四郡ハ從來風俗慣習ヲ等シクス
  ルヲ以テ行政區劃上竝司法事務執行上共ニ白河區裁判所ノ管轄區域ニ屬ス
  ルコト至當ナルニ拘ラス近時郡山地方民ハ岩瀨郡及石川郡ノ一部ヲ郡山區
  裁判所ノ管轄區域トナシ且福島地方裁判所支部ヲモ設置セムトスルノ陳情
  請願アリト聞ク斯クテ若白河區裁判所ノ管轄區域ヲ減少シ又福島地方裁判
  所白河支部廢止セラレムカ管轄區域ニ於ケル住民ノ不利不便尠カラサルハ
  甚遺憾ナルニ依リ現制ヲ維持セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
  體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候
  也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  枝幸漁港修築ノ件
  北海道枝幸郡枝幸村長瀧本瑞龍呈出
  右ノ請願ハ北海道枝幸郡枝幸港ノ沖合ハ「オコツク」海ニ屬スル大漁場ナル
  ニ拘ラス該港ニ漁船避難ノ設備ナキハ漁業ノ發展上甚遺憾ナルニ依リ速ニ
  國費ヲ以テ同港ヲ漁港トシテ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意
  ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送
  付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  御肖像揭載ノ印刷物取締ニ關スル件
  山梨縣甲府市柳町平民鍼術業長田保春呈出
  右ノ請願ハ近時新聞雜誌等ノ刊行物ニ御尊影ヲ奉揭スル爲不知不識ノ內
  ニ之ヲ汚瀆シ不敬ニ渉ル虞アリ斯クテハ國民風〓上甚遺憾ナルニ依リ是等
  ノ刊行物ニ奉揭セシメサルカ若奉揭セハ附錄トナスカ又ハ永久保存シ得ル
  方法トナスカ相當ナル取締方法ヲ設ケラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
  意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送
  付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  雄物川改修ノ件
  秋田縣南秋田郡土崎港町長越後谷惣左衞門外五十七名呈出
  右ノ請願ハ雄物川ハ秋田縣ニ於ケル重要河川ナルモ其ノ水害甚大ナルニ依
  リ既ニ之カ改修工事ニ著手セラレタルニ拘ラス財政ノ關係ニ禍セラレ其ノ
  竣工年次ヲ延期セラレタルハ啻ニ地方產業ノ發展ヲ阻礙スルノミナラス其
  ノ河口ニ在ル土崎港ノ築港計劃上支障尠カラサルヲ以テ同河川改修工事竣
  工年度ヲ特ニ繰上ケラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
  ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  飫肥區裁判所出張所設置ノ件
  宮崎縣南那珂郡北〓村平民農〓乙吉外八百十四名呈出
  右ノ請願ハ宮崎縣南那珂郡北〓村ハ郡ノ最北端ニ位シ近時登記事務激增セ
  ルニ拘ラス管轄飫肥區裁判所ヲ距ルコト遠ク村民ノ不便不利尠カラサルハ
  甚遺憾ナルヲ以テ地理上恰適ナル同村大字〓之原ニ同區裁判所出張所ヲ設
  置セラレタク之カ建設費ハ全部地元ニ於テ負擔スヘシトノ旨趣ニシテ貴族
  院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
  別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  靑島鹽業補償金交付再審査ニ關スル件
  兵庫縣神戶市飛松町平民牛尾亀松外一名呈出
  右ノ請願ハ曩ニ日支協商ニ依リ所謂華府條約ニ基ク鹽業補償金ヲ決定セラ
  レ其ノ後若干ノ增額ト共ニ之ヲ各當業者ニ割當テラレタルニ際シ一部ノモ
  ノハ投資額以上ノ補償金ヲ受ケ多大ノ利益ヲ得タルモノアルニ拘ラス請願
  人等ハ投資額ノ半ニモ達セサル少額ノ割當ヲ强要セラレ今ヤ破產ノ悲境ニ
  沈淪スルニ至リタルハ彼此權衡ヲ失シ甚遺憾ナルニ依リ相當ノ不足補償金
  ヲ交付セラルルヤウ再審査セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體
  ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  鰺ヶ澤漁港修築ノ件
  靑森縣西津輕郡鰺ケ澤町長北村誠一呈出
  右ノ請願ハ靑森縣西津輕郡鰺ケ澤港ハ其ノ沖合魚族豐富ニシテ近時機械船
  著シク增加シ漁港設備ヲ要スルコト切ナルニ拘ラス未之カ施設ナキ爲連年
  破船ノ厄ニ遭ヒ漁業家ヲシテ躊躇セシムル狀態ナルハ水產振興上甚遺憾ナ
  ルヲ以テ速ニ同港ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
  大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
  候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  國有林伐採ニ關スル件
  和歌山縣西牟婁郡二川村長石橋恒三呈出
  右ノ請願ハ和歌山縣西牟婁郡二川村地方ハ其ノ唯一ノ生產物タル木材、木
  炭等ニ對シ近時財界不振ノ打擊ヲ蒙リ生產者ハ事業ヲ休止シ從テ勞働者ノ
  失業スルモノ日ヲ逐フテ增加シ今ヤ山村ノ疲弊其ノ極ニ達セルハ社會政策
  上深憂ニ堪ヘサルニ依リ此際同村大字兵生字坂泰及宮代ニ在ル國有林ノ伐
  採事業ヲ敢行シ以テ一面失業者ヲ救濟スルト共ニ他面地方財界ノ緩和ヲ圖
  ラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候
  因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  雄武漁港修築ノ件
  北海道紋別郡雄武村平民公吏早乙女〓外二百九十一名呈出
  右ノ請願ハ北海道紋別郡雄武港ハ有名ナル漁場「オコツク」海ニ面スルモ沖
  合漁業ニ最必要ナル漁船避難ノ設備ナキハ本道拓殖上甚遺憾ナルヲ以テ僅
  少ナル工費ニテ修築シ得ヘキ要素ヲ具備スル同港ニ對シ國費ヲ以テ適當ナ
  ル施設ヲ實行セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
  モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  チプトマリ漁港修築ノ件
  北海道斜里郡斜里村平民農佐藤伊七郞外七十九名呈出
  右ノ請願ハ北海道斜里郡斜里村ハ海產豐富ナル「オコツク」海ニ面スルモ附
  近海岸ニ屈曲少ク從テ港灣乏シキニ依リ漁業ヲ企圖スル者モナク且定期航
  海船避難ノ不便亦甚シキニ依リ速ニ斜里村「チプトマリ」港ヲ漁港トシテ修
  築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
  致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  古平漁港修築ノ件
  北海道古平郡古平町士族公吏朝岡精一外二十九名呈出
  右ノ請願ハ北海道古平郡古平港附近ノ海洋ハ有名ナル漁場ナルニ拘ラス同
  港ニ漁港タルノ施設ナキ爲沖合漁業ノ振ハサルハ水產業發展上甚遺憾ナル
  ニ依リ國費ヲ以テ天與ノ良港ナル該港ヲ漁港トシテ修築セラレタシトノ旨
  趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
  十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  余別漁港修築ノ件
  北海道積丹郡余別村平民漁業田中保治郞外五十二名呈出
  右ノ請願ハ北海道積丹郡余別港ハ由來著名ノ鰊漁場ニシテ其ノ沖合亦魚族
  豐富ナルニ拘ラス同港ニハ未漁船避難ノ設備ナキヲ以テ漁民ハ危難ヲ慮リ
  テ沖合出漁ヲ逡巡シ爲ニ漁業不振ヲ來タセルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ同道
  拓殖費ヲ以テ同港ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
  大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
  候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  八雲漁港修築ノ件
  北海道檜山郡江差町平民漁業北林屹郞外八十九名呈出
  右ノ請願ハ北海道膽振國山越郡八雲町ハ噴火灣ニ面スル樞要地ニシテ其ノ
  海洋ハ鰛、鮭鰊等ノ魚族豐富ナルニ拘ラス今尙何等漁船避難ノ施設ナク
  爲ニ一朝風浪ニ遭遇セムカ破船死傷ノ尠カラサルハ本道拓殖上甚遺憾ナル
  ヲ以テ速ニ同港ヲ北海道拓殖計畫ニ編入シ漁港トシテ修築セラレタシトノ
  旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
  六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  美國漁港修築ノ件
  北海道美國郡美國町平民商板倉總松外百三十三名呈出
  右ノ請願ハ北海道美國郡美國港ハ積丹半島ノ中樞ニ位シ有望ナル沖合漁業
  ノ策源地トシテ本道屈指ノ好漁業地ナルニ拘ラス既設ノ防波堤ハ規模狹少
  ニシテ未漁船ノ收容避難ニ便ナラス爲ニ遭難スルモノ尠カラサルハ斯業ノ
  進展上甚遺憾ナルニ依リ速ニ國費ヲ以テ工事容易ナル同港ヲ修築セラレタ
  シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議
  院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  辨邊漁港修築ノ件
  北海道虻田郡辨邊村長北條瀧三郞外二百十五名呈出
  右ノ請願ハ北海道虻田郡辨邊村辨邊港ハ內浦灣ノ西北ニ位シ其ノ沿岸ニ於
  ケル魚族豐富ニシテ有望ノ漁場ナルニ拘ラス漁船避難ノ施設ナキ爲暴風等
  ノ襲來ニ際シ往往不測ノ災害ヲ蒙ルコトアルハ沖合漁業振興上甚遺憾ナル
  ヲ以テ同港ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
  採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  戶井漁港修築ノ件
  北海道龜田郡戶井村長菊地庫太呈出
  右ノ請願ハ北海道渡島國龜田郡戶井村ハ津輕海峽ニ濱スル漁村ニシテ沖合
  漁業ノ有望ナルコト明カナルニ拘ラス同沿岸ニハ未何等船舶碇繫ノ施設ナ
  キ爲漁民ハ徒ニ氣象ノ激變ヲ危惧シ出漁ヲ逡巡シ空シク天與ノ資源ヲ逸ス
  ルノ現狀ナルハ本道拓殖上甚遺憾ナルニ依リ速ニ國費ヲ以テ同村ニ漁港ヲ
  修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
  決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  根室地方ニ漁港修築ノ件
  北海道根室郡根室町長本橋貞七呈出
  右ノ請願ハ北海道根室、千島ノ兩國ハ太平洋及オコツク海ニ面シ其沿海ニ
  ハ諸種ノ魚族、海藻等無盡藏ナルニ拘ラス同地方ニハ遠洋漁業ニ必須ナル
  漁船避難港少ク爲ニ水產業ノ發達所期ノ如クナラサルハ國家經濟上甚遺憾
  ナルニ依リ速ニ根室國落石、羅臼、花咲、齒舞、國後島古釜布及擇捉島單
  冠ノ諸港ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採
  擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  釣懸港ニ船入澗式漁港修築ノ件
  北海道奧尻郡奧尻村長澁谷甚太郞外二百十四名呈出
  右ノ請願ハ北海道奧尻郡釣懸港ハ國館、小樽間航路ニ於ケル唯一ノ避難港
  ニシテ且其ノ沖合ハ有數ノ大漁場ナルニ拘ラス何等避難ノ設備ナキヲ以テ
  漁民竝航海業者ノ不利不便尠カラス爲ニ徒ラニ天與ノ巨利ヲ逸スルハ本道
  拓殖上甚遺憾ナルニ依リ速ニ同港ニ船入澗式漁港ヲ修築セラレタシトノ旨
  趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
  十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  福山漁港修築ノ件
  北海道松前郡福山町士族公吏麓三重生外九十九名呈出
  右ノ請願ハ北海道松前郡福山町ハ近時其ノ沖合ニ於テ柔魚ノ棲息地ヲ發見
  セシ以來沖合漁業頓ニ勃興セルニ拘ラス由來當町沿岸ハ天然ノ錨地ニ乏シ
  ク岩礁出沒爲ニ一朝風浪ニ際會セムカ其ノ被害甚大ナルハ地方產業振興上
  甚遺憾ナルヲ以テ速ニ同村ニ漁港ヲ修築シ避難ノ設備ヲ施サレタシトノ旨
  趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
  十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  芽室、トムラウシ間鐵道敷設ノ件
  北海道河西郡芽室村長大村壬作呈出
  右ノ請願ハ豫定線鐵道芽室、トムラウシ間鐵道ハ沿線地方ニ於ケル日常物
  資ノ需給及生產物ノ搬出等ニ至大ノ便益ヲ與フルノミナラズ豐富ナル農
  產、林產、畜產等ノ資源ヲ開發スル等本道拓殖上竝國富增進上緊要ノ線
  路ナルヲ以テ速ニ之ヲ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
  體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候
  也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  鵡川、金山間鐵道敷設ノ件
  北海道勇拂郡占冠村平民公吏長淵九助外二百三十一名呈出
  右ノ請願ハ根室本線鐵道金山驛ヨリ勇拂郡鵡川村ニ到ル鐵道ハ沿線地方ニ
  於ケル農產、林產竝鑛產等豐富ナル資源ヲ開發スルノミナラス近ク長輪線
  鐵道ノ開通ト相俟テ本道東南部ノ交通上捷徑タル重要ノ線路ナルニ依リ速
  ニ之ヲ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモ
  ノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  名寄、羽幌間鐵道敷設ノ件
  北海道上川郡名寄町長代理助役宮内啓三郞呈出
  右ノ請願ハ豫定線鐵道名寄、羽幌間鐵道ハ沿線地方ニ於ケル豐富ナル林產、
  鑛產等ノ資源ヲ開發スルノミナラス本道西岸地方ニ通スヘキ各線鐵道トノ
  交通連絡上重要ノ線路ナルヲ以テ速ニ之ヲ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ
  貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
  依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  小頓別、幌別間鐵道敷設ノ件
  北海道枝幸郡中頓別村平民商谷口雅雄外二十二名呈出
  右ノ請願ハ豫定線鐵道小頓別、幌別間鐵道ハ沿線地方ニ於ケル豐富ナル農
  產、林產、鑛產及海產等ノ資源ヲ開發スルノミナラス本道拓殖上重要ノ線
  路ナルヲ以テ速ニ之ヲ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體
  ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  松前鐵道敷設ノ件
  北海道松前郡福山町士族公吏麓三重生外九十七名呈出
  右ノ請願ハ北海道函館、福山間ノ鐵道所謂松前鐵道ニ於テ函館上磯間ハ旣
  ニ開通シ上磯、木古內間亦本年度起工ニ決定セラレタルモ本鐵道ハ渡島半
  島ヲ貫通スルニ於テ初メテ其ノ目的ヲ達スルモノナルニ依リ速ニ敷設工事
  ヲ終點ナル福山町マテ延長セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大
  體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候
  也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  厚床、標津間鐵道敷設ノ件
  北海道根室郡根室町長本橋貞七呈出
  右ノ請願ハ根室本線鐵道厚床驛附近ヨリ北海道根室國標津ニ達スル鐵道ハ
  運輸交通上ニ資スルコト多大ナルノミナラス其ノ沿線地方ニ於ケル農產、
  畜產、林產及鑛產ノ大寶庫ヲ開發シ本道拓殖上必須ナルヲ以テ速ニ之ヲ敷
  設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
  致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  旭橋改築ノ件
  北海道旭川市長岩田恒呈出
  右ノ請願ハ北海道旭川市ハ石狩川ノ貫流ニ依リ自ラ北部近文卽師團所在地
  ト南部市街トニ分レ而シテ相互ノ交通激甚ナルニ拘ラス單ニ旭橋アルノミ
  ナルヲ以テ一般交通ノ混雜甚シク加之同橋ハ明治三十七年ノ架設ニ係リ今
  ヤ旣ニ朽廢ニ近ツキ幅員狹ク勾配急ニシテ交通上不利不便尠カラサルハ遺
  憾ナルニ依リ幅員六十尺以上トシ之ヲ車步道ニ區別シ其ノ勾配四十五分ノ
  一以下ノ設計ヲ以テ同橋ヲ改築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ
  大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
  候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  石狩川河口改修ノ件
  北海道石狩郡石狩町平民僧侶飯尾圓藏外五十名呈出
  右ノ請願ハ石狩川河口ハ北海道西海岸ニ於ケル船舶繫留地トシテ將又物資
  集散地トシテ重要ナルニ拘ラス近時土砂堆積シテ船舶ノ出入至難ト爲リ加
  之遂年來札沿岸崩壞シテ濁水ヲ放流スル爲鮭、鱒ノ溯上竝鰊ノ來游ヲ妨ケ
  延イテ同町ノ發展ヲ阻礙スルハ甚遺憾ナルニ依リ速ニ該河口ノ改修工事ヲ
  實施セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
  決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  根室原野植民軌道敷設ノ件
  北海道根室郡根室町長本橋貞七呈出
  右ノ請願ハ北海道根室原野ハ農產、畜產及林產ノ豐ナル資源ヲ有スル有數
  ノ大寶庫ナルニ拘ラス交通機關不備ノ爲其ノ開拓遲遲トシテ振ハサルハ本
  道拓殖上竝國家經濟上甚遺憾ナルヲ以テ同原野ヲ貫流スル西別、春別等諸
  川ノ沿岸ニ竝行シテ豫定線鐵道厚床、標津間鐵道ニ連絡スヘキ幾多ノ植民
  軌道ヲ速ニ敷設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
  キモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  國立種馬所設置ノ件
  北海道根室郡根室町長本橋貞七呈出
  右ノ請願ハ北海道根室原野ハ地味、氣候共ニ馬匹ノ生產育成ニ恰適ナルヲ
  以テ曩ニ開拓使此處ニ牧場ヲ設ケ種馬蕃殖、改良ヲ圖リ斯業大イニ發達シ
  タルニ拘ラス其ノ後民營ニ移サレテヨリ資力薄弱、鑑識幼稚ナル爲反テ後
  進日高、十勝地方ニ於ケル馬匹ノ改良顯著ナルニ及ハサル狀態ニ在ルハ馬
  匹政策上甚遺憾ナルニ依リ速ニ根室郡ニ國立種馬所ヲ設置セラレタシトノ
  旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
  六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  バター輸入關稅引上ニ關スル件
  北海道夕張郡角田村平民農新井與志衞外二千六百三十一名呈出(二
  通)
  右ノ請願ハ逐年發達ノ趨勢ニ在ル本邦酪農業ハ近時輸入バターノ壓迫ヲ蒙
  ルコト甚シク爲ニ其ノ前途大イニ憂フヘキモノアルニ拘ラス曩ニ關稅定率
  法ノ改正ニ際シバターノ關稅率ヲ引上ケラレサリシハ國產品保護奬勵上遺
  憾ナルニ依リ速ニ該關稅率ヲ從價五割ニ改正セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
  族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依
  リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  渡良瀨川水源涌養ニ關スル件
  群馬縣桐生市長關口義慶二外一名呈出(二通)
  右ノ請願ハ渡良瀨川ハ往古水量豐富ニシテ農工業ニ多大ノ利便ヲ與ヘタル
  ニ拘ラス近來足尾銅山ノ煙毒ニ因リ其ノ上流地方ニ於ケル森林荒廢ニ歸シ
  爲ニ同川ノ水量著シク減シ次テ旱魃又ハ洪水ヲ誘致シ流域地方ノ被害甚大
  ナルハ遺憾ナルニ依リ速ニ其ノ水源涵養ニ關シ適切ナル施設ヲ講セラレタ
  シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議
  院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  雨龍原野土地改良ニ關スル件
  北海道雨龍郡深川町長西村直一外三名呈出
  右ノ請願ハ北海道雨龍郡深川町竝一巳、秩父別及妹脊牛ノ三村ニ亙ル雨龍
  原野ヲ開拓シ土地ノ改良ヲ圖ルハ農業經營上緊要ナルニ拘ラス同原野ヲ通
  スル大鳳川ハ滯水甚シク爲ニ土地ノ荒廢ニ陷レルハ遺憾ナルヲ以テ速ニ同
  川ヲ改修シ排水幹線ヲ掘鑿セラレ以テ其ノ開發ニ資セラレタシトノ旨趣ニ
  シテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五
  條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  厚內漁港修築ノ件
  北海道十勝郡大津村平民漁業齋藤兵太郞外三百七名呈出
  右ノ請願ハ北海道十勝國十勝郡大津村ハ其ノ位置太平洋ニ面シ住民ハ從來
  漁業ヲ以テ主要產業トナシタルニ拘ラス沿岸ノ地形屈曲ニ乏シク未一個ノ
  漁港ヲモ有セサル爲漁撈從業ヲ波浪ニ阻メラルルコト多ク加之一朝天變ニ
  際會セムカ被害甚大ニシテ斯業ノ益萎靡スルハ同道拓殖上遺憾ナルニ依リ
  速ニ同村內厚內若ハ昆布刈石ニ漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族
  院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ
  別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  石狩川架橋ノ件
  北海道空知郡音江村平民公吏續木惠一外九百六十五名呈出
  右ノ請願ハ北海道空知郡音江村ハ中間ニ石狩川ヲ隔テテ對岸雨龍郡深川町
  ト從來萬般ノ事物皆密接ノ關係ヲ有シ相互ノ交通繁キニ拘ラス同川ニハ橋
  梁ナク年來不安不便ナル渡船氷橋等ニ賴リ來往スルノ外ナキハ同地方振興
  上重大ナル障害ヲ與フルニ依リ速ニ兩地ヲ連絡スル準地方費道ニ橋梁ヲ架
  設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決
  致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  鐵道軌道業者救濟ニ關スル件
  靜岡縣志太郡靑島町藤相鐵道株式會社社長笹野甚四郞外四名呈出
  右ノ請願ハ鐵道軌道業ノ經營ハ地方開發ノ要素ニシテ夙ニ當局ハ之カ敷設
  ヲ奬勵セラルルニ拘ラス近時其ノ竝行線路ニ於ケル乘合自動車業者續出シ
  斯業者ヲ脅威スルコト甚大ナルハ畢竟兩者各其ノ監督官廳ノ異ナルニ基因
  スルヲ以テ之カ救濟策トシテ交通行政ハ總テ鐵道省ノ所管ト爲スカ若ハ交
  通省ヲ新設シテ之カ統一ヲ圖ラレタク尙乘合自動車業ニ對スル免許方針ヲ
  假令縣當局ノ方針一路線一營業者トスルモ但鐵道軌道業者ニ於テ自衞上竝
  行スル線路ニ該免詐ヲ申請セシ場合ハ特ニ速ニ之ヲ許サレタシトノ旨趣ニ
  シテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五
  條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  琿春事變遭難者救濟ニ關スル件
  東京市芝區南濱町平民林業鍛島康吉外一名呈出
  右ノ請願ハ尼港事件ノ被害者ニ對シ巨額ノ救恤金ヲ下賜セラレタルニ拘ラ
  ス大正九年ノ琿春事變ニ際シテ多大ノ慘害ヲ被リ窮境ニ沈淪セル請願人等
  ニ對シ未適當ノ救濟策ヲ講セラレサルハ權衡上甚遺憾ナルニ依リ速ニ琿春
  事變ノ遭難者及其ノ遺族ニ對シ救恤金ヲ下賜セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
  族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依
  リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  開墾主要工事國營ニ關スル件
  福島縣西白河郡矢吹町士族農武藤一策外二百七名呈出
  右ノ請願ハ福島縣西白河郡矢吹町、鏡石村ヲ中心トシ東北本線鐵道ニ沿ヒ
  十一箇町村、四停車場ヲ包容スル平原ハ土地膏腴ニシテ實ニ天惠理想ノ開
  墾地ナルニ拘ラス〓糧問題ノ急務ナル今日何等此ニ施設セサルハ甚遺憾ナ
  ルニ依リ速ニ國營ニ依リ同平原ヲシテ全國模範的開墾地タラシメラレタシ
  トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院
  法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  猿拂漁港修築ノ件
  北海道宗谷郡猿拂村長宮崎喜一郞呈出
  右ノ請願ハ北海道宗谷郡猿拂村ハオホツク海ニ面シ其ノ沖合ハ夙ニ海扇ヲ
  以テ著名ナル天惠ノ大漁場ナルニ拘ラス同村ニハ何等避難ノ防備ナキ爲メ
  漁船ノ遭難スルモノ多ク爲メニ漁民ハ沖合ノ出漁ヲ危惧シ依然微々タル沿
  岸漁業ニ安ムスルハ沖合漁業奬勵上甚遺憾ナルヲ以テ同村字鬼志別ヱサン
  ベニ動力附漁船ヲ收容シ得ル船入澗式簡易漁港ヲ修築セラレタシトノ旨趣
  ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十
  五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  佐伯營林署復設ノ件
  大分縣南海部郡八幡村長廣瀨貞吉外二十三名呈出
  右ノ請願ハ大分縣南海部郡ハ豐富ナル國有林ノ所在地ニシテ曩ニ小林區署
  設置以來銳意林業ノ改良發逹ニ努力セラレタルニ拘ラス先年行政整理ニ際
  シ却テ管轄區域狹少ナル臼杵小林區署ニ合併セラレタル爲爾來當業者ノ蒙
  ル不利不便尠カラサルハ甚遺憾ナルヲ以テ速ニ調査研究ノ上佐伯營林署ヲ
  復設セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
  決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  實業補習〓育振興ニ關スル件
  東京府西多摩郡靑梅町東京府立農業補習學校〓員養成所長鈴木武太郞
  外二名呈出
  右ノ請願ハ實業補習〓育ノ振興ヲ圖ルハ國民〓育ノ完成ヲ期スル所以ナル
  ニ依リ該〓育ヲ義務〓育制トシ其ノ專任〓員ノ俸給ハ之ヲ國庫支辨トシ同
  〓員養成所ニハ國庫ヨリ補助金ヲ交付シ及靑年訓練ヲ同校ノ課程トスル等
  相當ノ振興策ヲ講セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
  ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  內閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  癩自由療養地設置ノ件
  千葉縣海上郡銚子町平民無職業鈴木茂七郞外三百四十一名呈出
  右ノ請願ハ我邦ニ於ケル癩患者ハ社會ノ指彈ヲ受ケ終生ヲ蟄居虐遇ニ甘ム
  スルモノ多キニ拘ラス癩療養所ノ既設セラルルモノ官立私立ヲ通シテ實ニ
  寡ク爲ニ其レ等收容力ニ乏シキハ人道上遺憾ナルヲ以テ政府ノ指定ニ依リ
  全國ニ約五箇所ノ自由療養地ヲ設立シ何等公私ノ補助ヲ受クルナクシテ患
  者ヲ收容シ一面ニハ彼等不治ノ患者ニ療養ノ樂土ヲ提供スルト共ニ他面ニ
  ハ完全ナル隔離ヲ行ヒ病毒ノ傳播ヲ防止シ以テ其ノ絕滅ヲ圖ラレタシトノ
  旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
  六十五條ニ依リ別册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿
  意見書案
  岡山縣下ニ國立煙草試驗場設置ノ件
  岡山縣上房郡岡山縣上房郡農會長中島直治郞呈出
  右ノ請願ハ葉煙草ハ備中北部ニ於ケル重要農產物ノ一ナルヲ以テ其ノ奬勵
  發達ノ爲該地方ノ氣候、地質、品種等ニ對シ實地試驗及指導改善ニ資スヘ
  キ機關ヲ要スルニ拘ラス未同地方ニ何等之レナキハ甚タ遺憾ナルニ依リ速
  ニ國立煙草試驗場ヲ備中北部ノ地ニ設置セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院
  ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ依リ別
  册及送付候也
  昭和二年月日
  貴族院議長公爵德川家達
  内閣總理大臣若槻禮次郞殿

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• 116・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　何等御發言モ無イト認メマスカラ採決イタシマ
  ス、請願委員長ノ報告ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
  起立者多數

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• 117・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　過半數ト認メマス

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• 118・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　諸君ノ御承知ノ通リ會期ハ本日マダ盡キマセヌ
  ガ、一應散會ヲ致シマシテ、何カ必要ガ生ジマシタナラバ再ビ御集マリヲ願
  フコトニ御含ミヲ願ヒマス〔拍手起ル〕
  午後七時五十七分散會

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