1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二年二月十五日(火曜日)午後一時十六分開議
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議事日程 第十二號
昭和二年二月十五日
午後一時開議
質問
一 三黨首妥協の條件に關する質問(清瀬一郎君提出)
二 和議法中改正に關する質問(加藤十四郎君提出)
三 小作爭議に關する質問(福井甚三君提出)
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第一 會計檢査院法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 公益質屋法案(政府提出) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第五 銀行法案(政府提出) 第一讀會
第六 貯蓄銀行法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第七 農工銀行法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 北海道拓殖銀行法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第九 非訟事件手續法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第十一 北海道農地特別處理法案(丸山浪彌君外六名提出) 第一讀會の續(前會の續)
第十二 政治運動の爲金品供與の制限に關する法律案(尾崎行雄君提出) 第一讀會(前會の續)
第十三 政治結社加入勸誘方法の制限に關する法律案(關直彦君提出) 第一讀會(前會の續)
第十四 議員の職務に關する法律案(増田義一君提出) 第一讀會(前會の續)
第十五 大正十四年法律第四十七號衆議院議員選擧法中改正法律案(林田龜太郎君提出) 第一讀會
第十六 大正十四年法律第四十七號衆議院議員選擧法中改正法律案(小池仁郎君外六名提出) 第一讀會
第十七 大正十四年法律第四十七號衆議院議員選擧法中改正法律案(廣瀬徳藏君外二名提出) 第一讀會
第十八 治安警察法中改正法律案(田崎信藏君提出) 第一讀會
第十九 治安警察法中改正法律案(樋口秀雄君外二名提出) 第一讀會
第二十 治安警察法中改正法律案(安藤正純君提出) 第一讀會
第二十一 營業收益税法中改正法律案(湯淺凡平君提出) 第一讀會
第二十二 清涼飮料税法中改正法律案(湯淺凡平君提出) 第一讀會
第二十三 市町村義務教育費國庫負擔法中改正法律案(湯淺凡平君提出) 第一讀會
第二十四 不在地主税法案(清瀬一郎君外一名提出) 第一讀會
第二十五 未成年者飮酒禁止法中改正法律案(竹原樸一君外十六名提出) 第一讀會
第二十六 議院法中改正法律案(鷲野米太郎君外一名提出) 第一讀會
第二十七 議院法中改正法律案(小川平吉君外二十六名提出) 第一讀會
第二十八 特別都市計畫法中改正法律案(關直彦君外四名提出) 第一讀會
第二十九 商法中改正法律案(土屋清三郎君提出) 第一讀會
第三十 移住組合法案(津崎尚武君外九名提出) 第一讀會
第三十一 産業組合中央金庫法中改正法律案(由谷義治君外五名提出) 第一讀會
第三十二 造林助成法案(川崎安之助君外十一名提出) 第一讀會
第三十三 鑛業法中改正法律案(砂田重政君提出) 第一讀會
第三十四 大正九年法律第五十六號中改正法律案(北海道拓殖鐵道補助に關する件)(佐々木平次郎君外十五名提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=0
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001・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
會計檢査院法中改正法律案
大正九年法律第五十三號中改正法律案
(關稅法等ノ朝鮮ニ於ケル特例ニ關スル
件
(以上二月十二日提出)
公益質屋法案
銀行法案
貯蓄銀行法中改正法律案
農工銀行法中改正法律案
北海道拓殖銀行法中改正法律案
非訟事件手續法中改正法律案
(以上二月十三日提出)
一今十五日貴族院ヨリ受領シタル政府提出
案左ノ如シ
外國官廳ノ用地トシテ貸付スル國有財產
ニ關スル法律案
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
牧野法案
提出者八田宗吉君
(以上二月十日提出)
國防會議設置ニ關スル建議案
提出者蟻川五郞作君
大分德山間聯絡航路鐵道省經營ニ關スル
建議案
提出者
横山金太郞君小島七郞君
德山港ヲ第二種港編入ニ關スル建議案
提出者
橫山金太郞君小島七郞君
宮城縣ニ國立米穀倉庫設置ニ關スル建議
案
提出者
內ケ崎作三郞君村松龜一郞君
齋藤仁太郞君菅原英伍君
仙臺市ニ高等師範學校設置ニ關スル建議
案
提出者
內ケ崎作三郞君村松龜一郞君
齋藤仁太郞君菅原英伍君
滋賀縣伊吹山高層氣象觀測所國營移管ニ
關スル建議案
提出者
井上敬之助君高井商二君
兼松寅太郞君
關ケ原木ノ本間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
高井商二君兼松寅太郞君
井上敬之助君
淡水魚族增殖施設ニ關スル建議案
提出者
高井商二君兼松寅太郞君
井上敬之助君
琵琶湖ヲ中心トスル國立公園設定ニ關ス
ル建議案
提出者
兼松寅太郞君高井商二君
井上敬之助君
貴生川加茂間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
高井商二君井上敬之助君
兼松寅太郞君長田桃藏君
岸和田港修築費國庫補助ニ關スル建議案
提出者井坂豐光君
消防組經費國庫補助竝消防組員優遇ニ關
スル建議案
提出者秋田寅之介君
大日本聯合靑年團國庫補助ニ關スル建議
提出者秋田寅之介君
空中窒素工業ニ關スル建議案
提出者
齋藤藤四郞君土井權大君
松本眞平君
兵庫縣警察費國庫下渡金曾額ニ關スル建
議案
提出者
土井權大君廣岡宇一郞君
原惣兵衞君若宮貞夫君
井上虎治君藤井忠兵衞君
砂田重政君
醫師ノ國家試驗制度ニ關スル建議案
提出者
宮島幹之助君山谷德治郞君
加藤鐐五郞君吉津度君
土屋〓三郞君
(以上二月十日提出)
中關德佐間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
兒玉右二君藤田包助君
不良鹽田整理ニ關スル建議案
提出者山下谷次君
石川縣舳倉島ニ燈臺設置ニ關スル建議案
提出者佐藤實君
(以上二月十四日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
人口食糧政策ニ關スル質問主意書
提出者小橋藻三衞君
鐵道運輸ニ關スル質問主意書
提出者伊坂秀五郞君
北海道拓殖ニ關スル質問主意書
提出者松實喜代太君
(以上二月十日提出)
對支顧問及之カ改善ニ關スル質問主意書
提出者兒玉右二君
(以上二月十五日提出)
一政府ヨリ受領シタル答辯書左ノ如シ
議員成田榮信君提出對支外交ニ關スル質
問ニ對スル答辯書
(以上二月十四日受領)
議員〓瀨一郞君提出三當首妥協ノ條件ニ
關スル質問ニ對スル答辯書
議員福井甚三君提出小作爭議ニ關スル質
問ニ對スル答辯書
(以上二月十五日受領)
對支外交ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和二月二月一日
提出者成田榮信
對支外交ニ關スル質問主意書
日支兩國共存共榮ノ目的ハ我カ日本帝國
ノ國是ナリ然ルニ我カ外務當局ノ外交ハ
却テ其ノ根本ヲ誤レルノ疑アリ之レ數箇
條ニ亙リテ政府ノ所見ヲ質ス所以ナリ
一支那ニ於ケル情報機關ヲ統一スルノ必
要ナキヤ
一支那カ英國ニ對スル條約無視ノ行動ハ
軈テ我カ日本帝國ニ向テモ同一ノ行動
ニ出ツルハ明ナリ之ニ對スル對策如何
一支那ノ文化事業ニ多大ノ經費ヲ支出ス
ルニ拘ラス支那至ル所ニ於テ反感アリ
寧口中止シ他ノ方法ヲ採ルノ意思ナキ
ヤ
一外務大臣ハ前議會ニ於テ露國ノ蒙古北
滿地方ニ共產主義ヲ扶殖シアリトノ實
跡ナシト聲明セラレタルカ今尙前言ヲ
主張セルカ
一大正十三年一月「カラハン」ト孫文トノ
祕密條約アリ露國共產主義ヲ認ムトノ
條約ニ對スル政府ノ所見如何
一奉天票暴落ハ我カ滿洲在留民ノ經濟ニ
大影響セリ其ノ對策如何
一南北滿洲ノ商工業對策如何
右及質問候也
昭和二年二月十四日
內閣總理大臣若槻禮次郞
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員成田榮信君提出對支外交ニ關
スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員成田榮信君提出對支外交ニ
關スル質問主意書ニ對スル答辯書
支那ノ事態ニ關シ正確ナル情報ヲ得
ムカ爲ニハ政府ノ諸機關ハ互ニ連絡
ヲ保チ銳意協力シツツアリ其ノ間ニ
不統一ノ弊アルヲ認メス
支那ノ第三國ニ對スル條約無視ノ行
爲ハ當然帝國ニ對シテモ同一轍ニ出
ツルモノト推斷スルコトヲ得ス若シ
帝國ニ對シ條約無視ノ行爲アル場合
ニハ時宜ニ應シ適當ノ措置ヲ執ル用
意アルコト再三政府ノ議會ニ於テ聲
明セル通ナリ
一、對支文化事業ニ關シ支那國內ニ於テ
今猶多少ノ誤解ヲ懷ケルモノアルヘ
シト雖大體ニ於テ漸次一般ノ認識ヲ
得ルニ至リツツアルモノト認ム本事
業ハ日支兩國共通ノ利益竝東方全般
ノ福利ヲ增進スル大目的ヲ有スルニ
顧ミ之ヲ中止若クハ變更スルノ意思
ナシ
一、外務大臣ハ前議會ニ於テ露國ノ蒙古
北滿地方ニ共產主義ヲ扶殖シアリト
ノ實蹟ナシト聲明シタルコトナシ
政府ハ自國竝自國民ノ權利利益ヲ擁
護スルノ外妄リニ支那ニ於ケル第三
國ノ行動ヲ批判スルノ地位ニ在ラス
「カラハン」氏ト故孫文氏トノ間ニ如
何ナル協定アリシヤハ政府ノ關知ス
ル所ニ非ス
奉天票暴落ノ結果滿洲ニ居住スル內
外人ノ經濟上多大ノ影響ヲ受クルモ
ノアルハ明瞭ナル事實ナリ然レトモ
奉天票暴落ニ對スル根本的匡濟策ハ
之ヲ東三省當局ノ財政敕理理俟俟外
ナク日本トシテハ斯ル根本的匡濟策
ノ速ニ講セラレムコトヲ希望スルモ
ノナルモ其ノ實行ハ外部ヨリ之ヲ强
要シ得ヘキ事項ニ非ス
政府ハ滿洲ニ於テ能ク治安秩序ノ維
持セラレ我居留民カ安ンシテ經濟的
活動ニ從事スルニ支障ナカラムコト
ヲ希望スルモノニシテ之カ爲將來ニ
於テモ旣往ニ於ケルカ如ク政府ノ權
能ノ及フ限リ其ノ目的ノ實現ヲ期ス
固ヨリ經濟的活動ハ主トシテ當業者
ノ努力ニ待ツヘク政府自ラ之ヲ企畫
スヘキモノニ非スト雖我當業者ノ正
當ナル企業ニ對シテハ政府ハ必要ナ
ル便宜及保護ヲ與フルニ注意シ門戶
開放及機會均等ノ主義ト兩立スル方
法ニ於テ商工業ノ發達ニ貢獻セムト
ス
右及答辯候也
昭和二年二月十四日
外務太臣男爵幣原喜重郞
三黨首妥協ノ條件ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和二年一月二十七日
提出者〓瀨節
三黨首妥協ノ條件ニ關スル質問主意書
本年一月二十日帝國議會停會ヲ命セラル
ルヤ若槻總理大臣ハ政友會總裁田中義一
君、政友本黨總裁床次竹二郞君ヲ招致シ
テ私的交涉ヲ遂ケラレタル結果右兩黨議
員ヨリ提出セラレタル政府不信任ノ決議
案ハ撤囘セラレタリ右首相及二黨首ノ會
見ハ我カ國政界ノ重大事ナルニ拘ラス其
ノ經緯明ナラス世間ノ疑感ハ此ノ妥協條
件ノ奈何ニ集中セリ此ノ件ニ關シ公ニセ
ラレタルモノハ本月二十五日立憲政友會
本部ノ名ニ於テ發表セラレタル「中間報
告」アルノミ同報告書ニハ先ツ同黨カ不
信任案ヲ提出スルニ至リタルハ朴烈、綱
紀不景氣ノ三問題ニ付現内閣ハ昭和ノ
宏猷ヲ翼賛シ大政ヲ補弼スルノ重任ニ堪
ヘスト認メ諒闇中ナルニ拘ラス已ムヲ得
ス之ヲ提出シタルモノナルヲ說キ之ヲ承
ケ
「若槻首相カ誠意ヲ以テ兩黨提出ノ不信
任案カ止ムナキ事由アルコトヲ諒解シ深
甚ナル考慮ヲ拂ハルル以上最早此上論議
ヲ重ネ表決ヲ爲スノ必要アルマイ」
ト謂ヘリ仍テ玆ニ若槻首相ニ對シ左ノ一
事ヲ質問ス
總理大臣ハ果シテ兩黨提出ノ不信任案
カ已ムナキ事由アルコトヲ諒解セラレ
タルヤ
右及質問候也
昭和二年二月十五日
內閣總理大臣若槻禮次郞
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員〓瀨一郞君提出三黨首妥協ノ
條件ニ關スル質問ニ對シ別紙答辯書差進
候
〔別紙〕
衆議院議員〓瀨一郞君提出三黨首妥協
ノ條件ニ關スル質問ニ對スル答辯書
去ル一月二十日本官ガ政友會總裁及政友
本黨總裁トノ會見席上ニ於テ兩總裁ガ事
ノ玆ニ至リタルニハ已ムヲ得ザル事情ア
リ政府ニ於テモ之ヲ諒トセラレタシト述
ペラレタルハ兩黨ニ於テ不信任案ヲ提
出シタルニハ兩黨ニ於テ夫レ々々理由ノ
存スル所ナルヲ以テ之ヲ諒トセラレタシ
トノ意ナリト解ス不信任案中ニ記載セラ
レタル事項ニ付テハ政府ハ政府ノ所信ア
リ其事項ノ相當ナルコトヲ承認シタルニ
アラズ
右及答辯候
昭和二年二月十五日
內閣總理大臣若槻禮次郞
小作爭議ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和二年一月三十一日
提出者福井甚三
小作爭議ニ關スル質問主意書
小作爭議ニ對スル政府ノ所見如何
右及質問候也
昭和二年二月十五日
內閣總理大臣若槻禮次郞
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員福井甚三君提出小作爭議ニ關
スル質問ニ對シ別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員福井甚三君提出小作爭議ニ
關スル質問ニ對スル答辯書
小作爭議ハ經濟上ノ理由ニ基因スル
モノ多キモ社會運動ノ進展、思想ノ變
遷ニ伴ヒ深刻ノ度ヲ加へ其ノ影響スル
所頗ル廣汎ナルモノアルヲ以テ政府ハ
從來深甚ノ注意ヲ拂ヒ農村生活ノ安定
ノ爲各般ノ農事改良、耕地ノ擴張改良、
共同施設ノ奬勵其ノ他農業經營上ノ改
善奬勵等一般的施設ヲ實施シ以テ小作
農家經濟生活ノ向上ヲ期スルト共ニ小
作制度改善其ノ他小作問題ノ對策ニ付
テハ曩ニ設置シタル小作調査會ノ答申
ニ基キ小作法及永代小作整理ニ關スル
法制ヲ定メ小作關係ヲ公正ニ規律セム
コトヲ期シ之カ準備ヲ急キツツアリ
ニ、小作爭議ノ調停ニ付テハ大正十三年
ニ小作調停法ヲ制定シ爭議當事者ノ協
調和解ヲ促シ又小作官ヲシテ調停法外
ノ調停ニ當ラシメ以テ相當顯著ナル效
果ヲ齋シツツアルモ更ニ其ノ實績ヲ擧
クル爲調停法改正ノ準備ヲ爲シツツア
ルト共ニ關係官吏會員ノ必要ヲ認メ之
ニ要スル經費ヲ來年度豫算ニ計上シタリ
三自作農ヲ保護シ且小作農ヲシテ自作
地ヲ有セシムルハ小作爭議ノ根本的解
決策トシテ緊要ナル施設ナルヲ以テ政
府ハ曩ニ自作農保護ノ爲地租免除ノ制
ヲ立テ且自作農創設維持ノ爲簡易生命
保險積立金ヲ融通シ且其ノ利子補給ヲ
行ヒテ之ヲ助成シツツアリ今後ニ於テ
モ之カ擴張改善ヲ期シ來年度ニ於テハ
之ニ關スル增加經費ヲ豫算ニ計上シ又
國家ノ補助ノ伴フ資金ヲ以テ自作農地
ヲ購入シタル場合ニハ登錄稅ヲ免除ス
ルコトトシ之ニ關スル法律案ヲ本議會
ニ提出セリ
四、其ノ他尙將來ニ於テハ從來ノ施設ヲ
一層努力實行スルト共ニ地主小作人ノ
團體其ノ他各般ノ小作制度ニ付テハ小
作調査會ノ答申等ヲ參的シテ能フ限リ
適切ナル對策ノ實現ニ努メムコトヲ期
ス
右及答辯候也
昭和二年二月十五日
農林大臣町田忠治
司法大臣江木翼
內務大臣臨時代理
遞信大臣安達謙藏
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一去九日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
輸出絹織物取締法案(政府提出)委員
委員長吉村伊助君
理事
谷口宇右衞門君上原好雄君
大正十二年法律第三十五號中改正法律案
(船員最低年齡法)(政府提出、貴族院送
付)委員
委員長橋本喜造君
理事
來栖七郞君宮島幹之助君
不良住宅地區改良法案(政府提出)委員
委員長太田信治郞君
理事
有馬賴寧君兒玉實良君
一去九日朝鮮事業公債法改正法律案外三件
委員神村吉郞君辭任ニ付其ノ補闕トシテ
中山貞雄君ヲ議長ニ於テ選定セリ
一去十日辭任シタル常任委員左ノ如シ
第二部豫算委員牧野良三君
第五部豫算委員中野寅吉君
第六部豫算委員宮本逸三君
一去十日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如
シ
土地賃貸價格調査委員會法案委員
高木正年君金田平兵衞君
山本勝次君山田道兄君
齋藤太兵衞君村上國吉君
藤井敬愼君八田宗吉君
宮崎三之助君植原悅二郞君
山本芳治君古林新治君
高草美代藏君山內範造君
折原巳一郞君東〓實君
池田龜治君岡田溫君
一去十日朝鮮事業公債法改正法律案外二件
委員石塚三郞君高山長幸君辭任ニ付其ノ
補闕トシテ中野寅吉君秋田寅之介君ヲ孰
レモ議長ニ於テ選定セリ
一去十二日若槻内閣總理大臣ヨリ左ノ通發
令アリタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
大藏參與官中野正剛
大藏省所管事務政府委員被仰付
一昨十四日常任委員補闕選擧ノ結果左ノ如
第二部選出
豫算委員伊坂秀五郞君(牧野良三君
補闕)
第五部選出
豫算委員石塚三郞君(中野寅吉君
補闘)
第六部選出
豫算委員磯部保次君(宮本逸三君
補闕)
一昨十四日委員長及理事互選ノ結果左ノ如
土地賃貸價格調査委員會法案(政府提出)
委員
委員長折原巳一郞君
理事
山田道兄君古林新治君
東〓實君
一昨十四日震災手形損失補償公債法案外一
件委員佐々木平次郞君辭任ニ付其ノ補闘
トシテ馬場義興君ヲ議長ニ於テ選定セ
リ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=1
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002・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ聞キマ
ス、御諮リ致スコトガアリマス、朝鮮事業
公債法改正法律案外二件ノ委員長ヨリ、本
日本會議中委員會開會ノ請求ガアリマシ
タ、之ヲ許可スルニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=2
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003・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ許可致スコトニ致シマス、尙ホ齋
藤珪次君病氣ニ付、二月十四日ヨリ二月二
十七日マデ、佐々木平次郞君公務ニ依リ
海外旅行ニ付、二月十四日ヨリ三月二十四
日マデ、右兩君ヨリ請暇ノ申出ガアリマシ
ク、許可スルニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=3
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004・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ許可致シマス、本日ノ日程ニ揭ゲ
マシタ質問ノ中、第一、第三ニ付キマシテ
ハ政府ヨリ答辯書ヲ受領致シマシタ、仍テ
日程ヨリ之ヲ省キマス、尙ホ質問ノ第二ハ
提出者ヨリ延期ノ申出ガアリマシタ、仍テ
之ヲ延期致シマス、是ヨリ議案ノ日程ニ入
リマス、日程第一、會計檢査院法中改正法
律案ノ第一讀會ヲ開キマス、山川政府委員
第會計檢査院法中改正法律案政
府提出)第一讀會
會計檢査院法中改正法律案
會計檢査院法中左ノ通改正ス
第二條中「副檢査官專任十八員」ヲ「副檢
査官專任二十員」ニ改ム
附則
本法ハ昭和二年四月一日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員山川端夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=4
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005・山川端夫
○政府委員(山川端夫君) 只今上程ニナリ
マシタ會計檢査院法中改正法律案ノ提案ノ
理由ヲ申上ゲタイト思ヒマス、本案ハ檢査
院ノ副檢査官ノ定員ガ現在十八名アルノヲ、
二名ヲ曾加シテ二十名ト致シタイノデアリ
さく、會計檢査院ニ於テ施行致シマスル會
計ノ實地檢査ハ、會計檢査ノ手段トシテ極
メテ重要ナモノデアリマス、會計監督ノ實
效ヲ擧ゲントスルニハ、成ベク頻繁ニ此實
地檢査ヲ屬行スルコトガ必要ト認メルノデ
アリマス、殊ニ近頃各廳ノ事務ガ複雜ヲ加
へ來クタ結果、其必要一層切ナルモノアル
コトヲ認ムル次第デアリマス、是等ノ事情
ニ基キマシテ、會計檢査院ニ於テハ從前カ
ラ施行致シテ參リマシタ所ノ實地檢査ヲ、
尙ホ一層前ニ申上ゲマシタ目的ニ副フヤウ
ニ、適切ニ實行致シタイト云フコトヲ計畫
致シテ居ルノデアリマス、其爲ニ玆ニ副檢
査官ヲ二名增員セントスル次第デアリマ
ス、本案ハ極メテ簡單ナル法案デゴザイマ
スカラ、何卒御審議ノ上御協賛アランコト
ヲ希望致ス次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=5
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006・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第二、右議案ノ
審査ヲ付託スベキ委員ノ選舉ヲ議題ト致シ
マス
第一右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=6
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007・砂田重政
○砂田重政君 本案ハ政府提出、計理士法
外一件ノ委員ニ併託セラレンコトヲ望ミマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=7
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008・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=8
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009・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマス、日程第三、
公益質屋法案ノ第一讀會ヲ開キマス、俵政
府委員
第三公益質屋法案(政府提出)
第一讀會
公益質屋法案
公益質屋法
第一條市町村又ハ公益法人ハ本法ニ依
リ公益質屋ヲ經營スルコトヲ得
公益法人公益質屋ヲ經營スル場合ニ於
テハ業務所ヲ定メ地方長官ノ認可ヲ受
クベシ
第二條本法ニ依ル公益質屋ニ非ザレバ
其ノ名稱中ニ公益質屋タルコトヲ示ス
ベキ文字ヲ用フルコトヲ得ズ
第三條國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ豫
算ノ範圍内ニ於テ市町村又ハ公益法人
ニ對シ公益質屋ノ設備ニ要スル經費ノ
二分ノ一以內ヲ補助ス
第四條貸付金額ハ一口ニ付二十圓、
世帶ニ付百圓ヲ超ユルコトヲ得ズ但シ
命令ノ定ムル所ニ依リ生業資金トシテ
貸付ヲ爲ス場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラ
ズ
第五條貸付利率ハ一月ニ付百分ノ一·二
五ヲ超ユルコトヲ得ズ但シ特別ノ事情
アル地方ニ於テ地方長官ノ認可ヲ受ケ
タル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
利子ノ計算ニ關スル期間ニ付テハ月ヲ
以テ計算シ民法第百四十條乃至第百四
十三條ノ規定ヲ適用ス但シ一月ニ滿チ
ザル日數ガ十六日以上ナルトキハ之ヲ
一月トシ其ノ十六日未滿ナルトキハ之
ヲ半月トシテ計算ス
第六條貸付金ニ對スル利子ニシテ一錢
未滿ノ端數ヲ生ジタルトキハ其ノ端數
ハ之ヲ切捨ツ其ノ全額一錢未滿ナルト
キハ之ヲ一錢トス
第七條公益質屋ニ於テハ其ノ質契約ニ
關シ元金及利子ノ外何等ノ名義ヲ以テ
スルモ質置主ヨリ金錢其ノ他ノ利益ヲ
受クルコトヲ得ズ
第八條流質期限ハ質契約成立ノ日ヨリ
四月未滿ノ期間内ニ於テ之ヲ定ムルコ
トヲ得ズ四月未滿ノ期間内ニ於テ之ヲ
定メタルトキハ其ノ期間ヲ四月トス
第九條流質期限到來前ニ於テ質物ノ交
換又ハ質物ノ一部ノ受戾ヲ爲シタルト
キト雖モ利子ノ計算及流質期限ニ付テ
ハ質契約ノ變更ナキモノト看做ス
第十條質置主ハ命令ノ定ムル所ニ依リ
一部辨濟ヲ爲スコトヲ得
第十一條流質物ハ競爭入札ニ依リ之ヲ
賣却スベシ
特別ノ事情アル場合ニ於ケル流質物ノ
處分ニ關シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十二條流質物處分前ニ於テ質置主ガ
元金、利子及流質期限經過後質契約ガ
存續シタリトセバ支拂フコトヲ要スベキ
利子ニ相當スル金額ヲ支拂ヒタルトキ
ハ流質物ハ之ヲ返還スベシ
第十三條流質物ノ賣却代金ヨリ元金及
利子ニ相當スル金額竝ニ命令ヲ以テ定
ムル手數料ヲ控除シタル殘餘金ハ之ヲ
質置主ニ交付スベシ
流質物ヲ一括シテ賣却シタル場合ニ於
ケル各流質物ニ對スル代金ノ計算ニ關
シテハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第十四條前條第一項ノ規定ニ依リ交付
スベキ殘餘金額ハ之ヲ質置主ニ通知ス
ベシ
前項ノ通知ヲ發シタル日ヨリ六月ヲ經
過シタルトキハ殘餘金ノ交付ヲ請求ス
ルコトヲ得ズ
第十五條質屋取締法第二條乃至第八
條第十條乃至第十七條及第二十條ノ
規定ハ公益質屋ニ之ヲ準用ス
質屋取締法第十二條ノ規定ハ第十二條
ノ流質物ノ返還及第十三條第一項ノ殘
餘金ノ交付ニ之ヲ準用ス
第十六條本法ニ違反スル質契約ニシテ
質置主ニ不利ナルモノハ其ノ不利ナル
部分ニ限リ之ヲ爲サザルモノト看做
ス
第十七條公益法人ノ經營スル公益質屋
ノ監督上必要アルトキハ地方長官ハ其
ノ業務ニ關スル諸般ノ報告ヲ爲サシ
ノ、書類帳簿ヲ徴シ及業務又ハ會計ヲ
檢閱スルコトヲ得
第十八條第二條ノ規定ニ違反シタル者
ハ百圓以下ノ過料ニ處ス
非訟事件手續法第二百六條乃至第二百
八條ノ規定ハ前項ノ過料ニ之ヲ準用
ス
第十九條公益質屋ヲ經營スル公益法人
ノ理事又ハ從業員左ノ各號ノ一ニ該當
スルトキハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
-第十五條ノ規定ニ依リ準用スル質
屋取締法第二條乃至第四條、第五條
第一項第二項、第六條、第七條第一
項第八條第一項、第十四條又ハ第
十七條ノ規定ニ違反シタルトキ
二第十五條ノ規定ニ依リ準用スル質
屋取締法第十五條ノ場合ニ於テ虛僞
ノ陳述ヲ爲シ又ハ故意ニ物品若ハ帳
簿ヲ毀損亡失シタルトキ
第二十條本法中町村ニ關スル規定ハ町
村制ヲ施行セザル地ニ於テハ町村ニ準
ズベキモノニ之ヲ適用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ市町村又ハ公益法人ノ
經營スル公益質屋ハ本法ニ依ル公益質屋
ト看做ス
市町村又ハ公益法人ノ經營スル公益質屋
ニ於テ本法施行前ニ爲シタル質契約ハ本
法ニ拘ラズ仍其ノ效カヲ有ス
〔政府委員俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=9
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010・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 只今上程ニナリマ
シタ公益質屋法ノ提出ノ理由ヲ簡單ニ說明
申上ゲマス、庶民金融ニ關スル社會的施設
ノ普及發達ヲ圖リ、國民生活ノ安定向上ヲ
期シマスルコトハ、現下ノ社會各般ノ事情
ニ鑑ミマシテ、最モ緊急ナル事柄デアリマ
ス、而シテ我國ニ於テ庶民金融ニ關シマシ
テハ質屋ト云フモノガ古來廣ク利用サレ
テ居ル最モ重要ナル機關ノ一ツトナッテ居
ルノデゴザイマス、現時ノ質屋營業ノ實情
ヲ見マスルト云フト、其金融ノ方法ハ少額
所得者ニ對スル金融ト云フ社會政策的見地
ヨリ見マシテ、遺憾ト爲スベキ點ガ少クナ
イヤウニ思ハレルノデアリマス、是等實情
ニ鑑ミマシテ、近時市町村社會事業團體等
ニ於キマシテハ、公益質屋ヲ經營スル者ガ
段々アルニ至ッタノデアリマス、併シ此公
益質屋ノ現在アリマス所ノモノハ未ダ其
施設ガ比較的少ク、經營ノ方法モ亦區々ニ
岐レマシテ、其社會的施設ノ目的ヲ達成ス
ル上ニ於キマシテ、尙ホ不十分ナル點ガア
ルヤウニ考ヘラレマス、仍テ公益質屋ニ關
スル制度ヲ確立致シマシテ、公益的機能ヲ
十分ニ發揮セシムルト共ニ、其健全ナル發
達ヲ圖ルコトハ、我國庶民金融ノ現狀ト、
少額所得者ノ生活ノ實情ニ照シマシテ、最
モ急務ト申サナケレバナラヌノデアリマ
ス、併ナガラ質制度ニ付キマシテハ、國民
ノ間ニ多年ノ間慣行ノ存スルモノガアリマ
シテ、之ヲ只今急激ニ變更スルコトハ却
テ公益質屋制度ノ圓滿ナル發達ヲ期スル所
以デナイト考ヘルノデアリマス、就キマシ
テハ公益質屋ニ關スル新シキ制度ヲ樹立致
シマスニ付キマシテハ、其形態大綱ヲ從來
ノ質制度ニ採リマシテ、而モ公益的機能ヲ
發揮スル上ニ於テ遺憾ナカラヌヤウニ期シ
マシテ、以テ少額所得者ノ生活ノ安定ト、
福祉ノ曾進トヲ圖ルヤウニ致スコトガ、目
下ノ機宜ニ適シタ策デアルト信ズルノデア
リマス、是ガ本案ヲ提出シマシタ所以デア
リマシテ、尙ホ本法律案ノ立案ニ付キマシ
テハ曩ニ全融制度調査會ニ於テ調査決定
セラレテ居ル、彼ノ公益質庫制度ノ要綱ヲ
參酌致シマシテ、其制度ノ運用ニ關シマシ
テ成ペク必要ナル各般ノ事項ヲ定メタ次第
デアルノデアリマス、願クバ審議ノ上デ御
協賛ヲ與ヘラレンコトヲ切ニ御願申シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=10
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011・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ニ對シテハ質疑
ノ通告ガアリマス、順次之ヲ許シマス、伊
坂秀五郞君
〔伊坂秀五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=11
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012・伊坂秀五郎
○伊坂秀五郎君 私ハ本案ニ對シテ極メテ
簡單ニ御質問ヲ申上ゲタイト存ジマス、本
案提出ノ理由ハ只今提出者ノ御辯明ノ如
"社會政策ニ準據シテ之ヲ御出シニナツ
タト云フコトデアリマスルガ、本案ノ提出
ニ付キマシテハ私モ洵ニ喜ブ者デアリマ
ス、併ナガラ其半面ニハ現在ノ質屋ト云フ
モノハ、此社會組織ノ上ニ於テ甚ダ宜クナ
イモノデアルカラ、之ヲ撲滅スルト云フヤ
ウナル御意思ガアッテ、是カラ出發致サレタ
モノデアルカト云フコトヲ御伺致シタイノ
デアリマス、政府ノ近來盛ニ御提出ニナル
所謂社會政策ト云フ美名ヲ冠シタルモノ
ハ往々ニシテ是ハ社會政策ノ實現ニ資セ
ズシテ、却テ非社會政策タル嫌ノアルコ
トハ、例ヘバ彼ノ住宅ノ補助ノ問題ノ如
キ、或ハ又小農保護ニ關スルモノヽ如キモ、
是ハ社會政策ト云フ美名デアリマスルガ、
例ヘバ住宅ヲ建設セントスルモ相當ノ資力
ヲ持ッテ居ル者デナケレバ、此政府ノ所謂
社會的政策ノ均霑ニ浴スルコトハ出來ナ
イ、若クハ小農保護ノ事デモ矢張多少ノ資
カガナケレバ小農保護タル社會政策ノ均
霑ニ浴スルコトハ出來ナイト云フヤウナ工
合デ、眞ノ細民ヲ保護スルト云フ實ヲ擧グル
コトニ付テハ、甚ダ其效果ノ疑ハシイモノ
デアルコトヲ私遺憾ニ思ウテ居ル者デアリ
マイ、卽チ所謂社會政策ナルモノハ部
ノ俸給生活者デアルトカ、或ハ多少ノ資力
ヲ持ッテ居ル中產階級ノ者ノ保護ニ任ズルモ
ノデアッテ、眞箇細民ノ社會的政策ノ實現
ヲ期スルコトハ、甚ダ以テ今日マデ其實效
ガ舉ッテ居ナイモノデアルト私ハ思フノデ
アリマス、本案ニ付テ之ヲ見マスルモ、本
案ノ第四條デアリマスルガ、之ニハ一口ノ金
ガ二十圓ト云フコトニ制定ヲセラレテ居
ル、元來此公益質屋ナルモノガ、眞ノ社會
的政策カラ、之ニ依シテ現レタモノデアル
ナラバ、モット此金額ヲ安クナサル必要ガ
ナイノデアラウカト云フコトヲ私考ヘル者
デアル、二十圓ト云フ此金ハ、之ヲ質屋ニ
依シテ得ント致シマスナラバ、是ガ擔保物
タル質草ハ恐ラク數十圓ノ價値ノアルモノ
ヲ持ッテ行カナケレバ二十圓ト云フ金ヲ
得ルコトハ困難ダラウト私ハ思フ、現ニ全
國ノ質屋ガ取扱シテ居ル所ノ一口ノ金額ガ、
ドレ位ノモノデアルカト云フコトヲ調査ヲ
致シマスルト、大體七圓程度ノモノニナッ
テ居ルヤウナコトヲ私承知致シテ居リマ
ス、又曾テ金融制度調査會等ニ於テモ、此
公益質屋ニ關スル議論ノ問題ガ、一口ノ金
額ヲ五圓位ニ致シタラドウダト云フヤウナ
コトデ審議ガ大ニ盡サレタ、而シテ此金融
制度調査會ノ決定ハ、一口五圓デアルカノ
如ク吾々モ聞イテ居ル、然ルニ〓囘政府ガ
出サレタノハ一口二十圓ト制定セラレテ、
玆ニ御出シニナッタノデアリマスガ、斯ノ
如キコトハ眞ニ是ハ細民ヲ救濟スルト云フ
コトニアラズシテ、相當ノ質草ヲ持テテ居
ル中產階級ニ寧ロ便益ガ講ゼラレテ、眞ノ
細民ト云フモノハ其便益ヲ受クルコトハ却テ
稀薄デナイカト、斯樣ニ私思フノデアリマ
ス、(拍手)之ヲ一口二十圓ト云フモノヲ政
府ニ於テハ、モウ少シク低下ヲセラレテ、
眞ノ所謂社會政策ノ實ヲ擧ゲラルヽト云ウ
ヤウナ御考ハナイモノデアルカドウカ、又
左様ニ致シマスルナラバ、現今ノ此質屋、
所謂今日マデ社會組織ノ中ニアル庶民金融
機關ニ相當貢獻ヲ致シテ參ッタル質屋ニ、
時ニ多大ノ苦痛ヲ與へズシテ、彼等ノ損害
ノ程度ヲ大ニ緩メルト云フヤウナ-一面
ニ於テ之ヲ緩和スルコトガ出來ルト思フ、
斯樣ナ見地ニ立ッテ政府ハ一口ノ金額ヲ、モ
ウ少シ低下セラルヽト云フ御意思ハナイモ
ノデアルダラウカ、却テ其方ガ社會政策ニ
資スル所以デナイカト信ズルガ故ニ、此事
ヲ一應御伺シマス(拍手)
〔政府委員俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=12
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013・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 只今伊坂君ノ此一
口ノ金額二十圓ト云フモノヲモウ少シ下ゲ
ルト云フ政府ノ意思ハナイカト云フ御尋ネ
デアリマス、之ニ付キマシテ今回提出シタ
法案ガ、或ハ從來ノ質屋營業者ヲ撲滅スル
ガ如キヤウナコトニ當リハセヌカ、斯ウ云
フコトノ意味ノ御尋モアッタノデアリマス、
曩ニモ提案ノ理由デ說明申上ゲマシタ如
ク、從來ノ質屋ノ制度ト申シマスルモノ
ハ是ハ極メテ下層階級ノ人こノ有用ナ機
關デアリマスルカラ、政府ハ此提案ニ依ッ
テ毫モ之ヲ撲滅スルトカ、其營業ニ妨害ス
ルトカ云フコトノ意思ハ無イノデアリマ
ス、唯、曩ニモ申上ゲマシタ通リ、從來ノ私
營質屋ノ制度ノ儘デハ、未ダ極メテ少額ナ
ル下層階級ノ生活者ニ、金融ノ途ヲ付ケル
ト云フ譯ニ至ラナイ、是ガ今囘公益質屋法
ヲ提出致シマシタ譯デアルノデアリマス、
ソコデ此二十圓ニ付テ如何ナル根據アリ
ヤ、乃至又之ヲ低下スル所ノ意思ナキカト
云フ御尋ニ對シテハ實ハ社會局ニ於キマ
シテハ、東京市ノ一部ノ下層階級ノ方面ニ
於ケル所ノ生活ノ狀態ヲ調ベマシタノデア
リマス、此狀態ニ依リマスルト云フト、所
謂細民階級ニ屬スル者ト雖モ、一月ニ六十
三圓位ガ先ヅ平均ノ生活費デアルノデアリ
マス、之ヲ一週間ニ致シマスルト十四圓九
十何錢、約十五圓、尙又軍事救護法ノ給與
額ニ付テ、東京府ガ支給シテ居ル所ノ金額
ヲ見マスルト、是亦一週間ノ給與ガ約十六
圓八十錢ニ當ッテ居ルノデアリマス、現今
物價騰貴デ中ミ細民ト雖モ、サウ安イ生活
費デハ生活出來能ハヌノデアリマス、約ソ
二十圓ト申シマスル金ハ、先ヅ斯ウ云フ細
民階級ノ一週間ノ生活費、二十圓位ハドウ
シテモナクテハナラヌ、斯ウ云フコトガ二
十圓ノ金額ヲ定メマシタ基礎ニナッタノデ
アリマス、又例ヘバ實費診療所ノ疾病ノ場
合-病氣ノ場合ニ於テ、實費診療所ニ、ド
ノ位一體其手術若クハ藥價ノ費用ガ掛ルカ
ト云フト、是レ以テ二十圓位ナケレバ、一寸
シタ手術モ出來ズ、一寸シタ入院料モ支拂
ガ出來ヌト云フ狀態デアルノデアリマス、
色〓此二十圓ニ定メマシ夕根據ガアリマス
ガ、大體申上ゲマスルト只今申上ゲマシタ通
リ、細民階級ニ約ソマア二十圓位ノ融通ガ
ナケレバ、其生活ヲ助ケルト云フ足シニナ
ラヌト云フコトガ、此二十圓ニ決定シタ基
礎デアリマス、而シテ金融調査會ニ於キマ
シテ、五圓デハナカッタカト一ムフコトデア
リマスガ、此金融制度調査會ニ於テハ二十
圓ト云フコトニナッテ居ルノデアリマス、此
金融制度調査會ノ二十圓ニ重キヲ置イテ居
ルコトハ一ツノ理由デアリマス、先ヅ政府
ハ此程度ノモノガ目下ノ細民階級ノ金融ノ
途トシテ最モ適當デアラウ、斯ウ考ヘルノ
デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=13
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014・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 質疑ノ通告ハ取消サ
レマシタ、仍テ質疑ハ終リマシタ、日程第
四、右議案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧
ヲ議題ト致シマス
第四右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=14
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015・砂田重政
○砂田重政君 本案ハ十八名ノ特別委員ヲ
議長ニ於テ指名セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=15
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016・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=16
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017・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、日程第五
ヨリ第九マデハ關聯シタ議案デアリマスカ
ラ、一括議題ト爲スニ御異議ハアリマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=17
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018・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ハナイト認メ
やっ、仍テ日程第五、銀行法案、第六、貯
蓄銀行法中改正法律案、第七、農工銀行法
中改正法律案、第八、北海道拓殖銀行法中
改正法律案、第九、非訟事件手續法中改正法
律案、右各案ヲ一括シテ其第一讀會ヲ開キ
さく、片岡大藏大臣
第五銀行法案(政府提出)第一讀會
銀行法案
銀行法
第一條左ニ揭グル業務ヲ營ム者ハ之ヲ
銀行トス
預金ノ受入ト金錢ノ貸付又ハ手形
ノ割引トヲ併セ爲スコト
二爲替取引ヲ爲スコト
營業トシテ預金ノ受入ヲ爲ス者ハ之ヲ
銀行ト看做ス
第二條銀行業ハ主務大臣ノ免許ヲ受ク
ルニ非ザレバ之ヲ營ムコトヲ得ズ
第三條銀行業ハ資本金百萬圓以上ノ株
式會社ニ非ザレバ之ヲ營ムコトヲ得ズ
但シ勅令ヲ以テ指定スル地域ニ本店又
ハ支店ヲ有スル銀行ノ資本金ハ二百萬
圓ヲ下ルコトヲ得ズ
前項但書ノ規定ニ依リ地域ノ指定アリ
タル場合ニ於テ其ノ地域ニ本店又ハ支
店ヲ有スル銀行ニシテ資本金二百萬圓
未滿ノモノハ指定ノ日ヨリ七年ヲ限サ
前項但書ノ資本金ニ依ラザルコトヲ得
第四條銀行ハ其ノ商號中ニ銀行ナル文
字ヲ用フベシ
銀行ニ非ザルモノハ其ノ商號中ニ銀行
タルコトヲ示スベキ文字ヲ用フルコト
ヲ得ズ
第五條銀行ハ擔保附社債信託法ニ依リ
擔保附社債ニ關スル信託業ヲ營ミ又ハ
保護預リ其ノ他ノ銀行業ニ附隨スル業
務ヲ營ムノ外他ノ業務ヲ營ムコトヲ得
ズ
第六條銀行ハ左ノ場合ニ於テハ主務大
臣ノ認可ヲ受クベシ
一商號ヲ變更セントスルトキ
二資本金ヲ變更セントスルトキ
三支店其ノ他ノ營業所又ハ代理店ヲ
設置セントスルトキ
四本店其ノ他ノ營業所ノ位置ヲ變更
セントスルトキ
五支店以外ノ營業所ヲ支店ニ變更セ
ントスルトキ
第七條銀行ハ代理店主ヲシテ其ノ代理
事務ニ關シ代理店ノ出張所其ノ他ノ從
タル營業所又ハ復代理店ヲ設ケシムル
コトヲ得ズ
銀行ノ代理店主ハ其ノ代理事務ニ關シ
代理店ノ出張所其ノ他ノ從タル營業所
又ハ復代理店ヲ設クルコトヲ得ズ
第八條銀行ハ資本ノ總額ニ達スル迄ハ
利益ヲ配當スル每ニ準備金トシテ其ノ
利益ノ十分ノ一以上ヲ積立ツベシ
第九條銀行ノ營業年度ハ一月ヨリ六月
迄及七月ヨリ十二月迄トス
第十條銀行ハ營業年度每ニ業務報告書
ヲ作成シテ之ヲ主務大臣ニ提出スベシ
第十一條銀行ハ營業年度每ニ主務大臣
ノ定ムル樣式ニ依リ貸借對照表ヲ作成
シテ之ヲ公告スベシ
第十二條銀行ノ監査役ハ銀行ノ業務及
財產ノ狀況ニ關スル調査ノ結果ヲ記載
シタル監査書ヲ每營業年度二囘作成シ
テ之ヲ本店ニ備ヘ置クベシ
第十三條銀行ノ常務ニ從事スル取締役
又ハ支配人ガ他ノ會社ノ常務ニ從事セ
ントスルトキハ主務大臣ノ認可ヲ受ク
ベシ
第十四條銀行ノ合併ハ主務大臣ノ認可
ヲ受クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十五條銀行ガ合併ノ決議ヲ爲シタル
場合ニ於テ商法第七十八條第二項ノ規
定ニ依リテ爲スベキ催告ハ預金者ニ對
シテハ之ヲ爲スコトヲ要セズ
第十六條銀行ガ合併ノ決議ヲ爲シタル
場合ニ於テ商法第七十八條第二項但書
ノ期間ハ一月迄之ヲ下スコトヲ得合併
ニ因ル株式併合ノ場合ニ於テ商法第二
百二十條ノ二但書ノ期間ニ付亦同ジ
第十七條銀行ガ合併ニ因リテ貯蓄銀行
法第一條第一項ノ業務ニ屬スル契約ニ
基ク權利義務ヲ承繼シタル場合ニ於テ
ハ其ノ契約ノ完了スル迄仍其ノ契約ニ
關スル業務ニ限リ之ヲ繼續スルコトヲ
妨ゲズ
貯蓄銀行法第九條、第十條及第十五條
ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス·
第十八條銀行ノ休日ハ祭日、祝日、日
曜日其ノ他銀行ノ營業所所在地ニ行ハ
ルル一般ノ休日ニ限ル
銀行ガ天災其ノ他避クベカラザル事變
ニ因リ臨時ニ休業スルトキハ直ニ其ノ
旨ヲ公告シ地方長官ニ屆出ヅベシ
第十九條銀行ガ預金ノ拂戾ヲ停止スル
トキハ直ニ其ノ旨ヲ公ロシ事由ヲ具シ
テ主務大臣ニ屆出ヅベシ
第二十條主務大臣ハ何時ニテモ銀行ヲ
シテ其ノ業務ニ關スル報告ヲ爲サシメ
又ハ監査書其ノ他ノ書類帳簿ヲ提出セ
シムルコトヲ得
第二十一條主務大臣ハ何時ニテモ部下
ノ官吏ニ命ジテ銀行ノ業務及財產ノ狀
況ヲ檢查セシムルコトヲ得
第二十二條主務大臣ハ銀行ノ業務又ハ
財產ノ狀況ニ依リ必要ト認ムルトキハ業
務ノ停止又ハ財產ノ供託ヲ命ジ其ノ他
必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得
第二十三條銀行ガ法令、定款若ハ主務
大臣ノ命令ニ違反シ又ハ公益ヲ害スベ
キ行爲ヲ爲シタルトキハ主務大臣ハ業
務ノ停止若ハ取締役、監査役ノ改任ヲ
命ジ又ハ營業ノ免許ヲ取消スコトヲ得
第二十四條主務大臣ハ業務ノ停止ヲ命
ゼラレタル銀行ニ對シ其ノ整理ノ狀況
ニ依リ必要ト認ムルトキハ營業ノ免許
ヲ取消スコトヲ得
第二十五條銀行業ノ廢止又ハ銀行ノ解
散ノ決議ハ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ
非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第二十六條銀行ガ其ノ目的ヲ變更シ他
ノ業務ヲ營ム會社トシテ存續スル場合
ニ於テハ銀行ニ關スル事務ヲ管理スル
主務大臣ハ其ノ會社ガ預金債務ヲ完濟
スルニ至ル迄財產ノ供託ヲ命ジ其ノ他
必要ナル命令ヲ爲スコトヲ得合併ニ因
リ銀行ニ非ザル會社ガ銀行ノ預金債務
ヲ承繼シタル場合亦同ジ
第二十條及第二十一條ノ規定ハ前項ノ
場合ニ之ヲ準用ス
第二十七條銀行ガ營業ノ免許ヲ取消サ
レタルーキハ之ニ因リテ解散ス
前項ノ場合ニ於テ〓算人ハ利害關係人
ノ請求ニ因リ又ハ職權ヲ以テ裁判所之
ヲ選任ス其ノ〓算人ノ解任亦同ジ
第二十八條前條ノ場合ヲ除クノ外裁判
所ハ利害關係人ノ請求ニ因リ又ハ職權
ヲ以テ〓算人ヲ解任スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ〓算人ヲ解任シタル
トキハ裁判所ハ〓算人ヲ選任スルコト
ヲ得
第二十九條裁判所ハ銀行ノ〓算事務及
財產ノ狀況ヲ檢查シ、財產ノ供託ヲ命
ジ其ノ他〓算ノ監督ニ必要ナル命令ヲ
爲スコトヲ得
第三十條銀行ノ〓算、破產又ハ强制和
議ノ場合ニ於テ裁判所ハ銀行ノ檢査監
督ニ從事スル官吏ニ對シ意見ヲ求メ又
ハ檢查若ハ調査ヲ囑託スルコトヲ得
第三十一條銀行ノ〓算、破產又ハ强制
和議ノ場合ニ於テ銀行ノ檢査監督ニ從
事スル官吏ハ裁判所ニ對シ意見ヲ述ブ
ルコトヲ得
第三十二條本法施行地外ニ本店ヲ有ス
ル銀行ガ本法施行地内ニ支店、出張所
又ハ代理店ヲ設ケ銀行業ヲ營マントス
ルトキハ各營業所毎ニ代表者ヲ定メ第
二條ノ規定ニ依ル免許ヲ受クベシ
前項ノ規定ニ依リ免許ヲ受ケタルトキ
ハ該營業所ハ本法ノ適用ニ付之ヲ銀行
ト看做ス此ノ場合ニ於テハ第三條乃至
第六條、第八條、第十二條乃至第十七
條第二十五條及第二十七條乃至前條
ノ規定ニ拘ラズ命令ヲ以テ別段ノ規定
ヲ設クルコトヲ得
第一項ノ免許ニ付テハ主務大臣ハ特ニ
必要ナル制限ヲ附スルコトヲ得
第三十三條主務大臣ノ免許ヲ受ケズシ
テ銀行業ヲ營ミタル者ハ五千圓以下ノ
罰金ニ處ス
第三十四條左ノ場合ニ於テハ取締役、
監査役、支配人、〓算人又ハ本法施行
地外ニ本店ヲ有スル銀行ノ本法施行地
ニ於ケル代表者ヲ一年以下ノ懲役若ハ
禁錮又ハ千圓以下ノ一割金ニ處ス
業務報告書又ハ監査書ノ不實ノ
記載、虚僞ノ公告其ノ他ノ方法ニ依
リ官廳又ハ公衆ヲ欺固シタルトキ
本法ニ依ル檢査ニ際シ帳簿書類ノ
隱蔽、不實ノ申立其ノ他ノ方法ニ依
リ檢查ヲ妨ゲタルトキ
第三十五條左ノ場合ニ於テハ取締役、
監査役、支配人、代理店主(代理店主
法人ナルトキハ其ノ業務ヲ執行スル社
員取締役其ノ他法人ノ代表者又ハ
外國會社ノ代表者)、〓算人又ハ本法施
行地外ニ本店ヲ有スル銀行ノ本法施行
地ニ於ケル代表者ヲ十圓以上千圓以下
ノ過料ニ處ス但シ其ノ行爲ニ付刑ヲ科
スベキトキハ此ノ限ニ在ラズ
第五條乃至第八條又ハ第十三條ノ
規定ニ違反シタルトキ
二第十七條ニ於テ準用スル貯蓄銀行
法第九條ノ規定ニ違反シタルトキ
三本法ニ依リ銀行ニ備へ置クベキ書
類ノ備付若ハ主務大臣ニ提出スベキ
書類ノ提出ヲ怠リ、之ニ記載スベキ
事項ヲ記載セズ又ハ之ニ不實ノ記載
ヲ爲シタルトキ
四本法ニ定メタル屆出若ハ公告ヲ爲
スコトヲ怠リ又ハ不實ノ屆出若ハ公
告ヲ爲シタルトキ
五第二十二條、第二十三條、第二十
六條又ハ第二十九條ノ規定ニ依リ主
務大臣又ハ裁判所ノ爲シタル命令ニ
違反シタルトキ
六本法ニ基キテ發スル命令ニ違反シ
タルトキ
第三十六條第四條第二項ノ規定ニ違反
シタル者ハ十圓以上百圓以下ノ過料ニ
處ス
第三十七條銀行ガ本法ニ依リ爲スベキ
公告ハ新聞紙ニ依ルベシ
附則
第三十八條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第三十九條銀行條例ハ之ヲ廢止ス
舊法ニ依リテ營業ノ認可ヲ受ケタル銀
行ニシテ本法施行ノ際現ニ存スルモノ
ハ第四十條及第四十一條ノ定ムル制限
ニ從ヒ本法ニ依リテ免許ヲ受ケタル銀
行ト看做ス
舊法ニ依リテ爲シタル認可、處分其ノ
他ノ行爲ハ本法中之ニ相當スル規定ア
ル場合ニ於テハ本法ニ依リテ之ヲ爲シ
タルモノト看做ス
第四十條前條第二項ノ銀行ニシテ株式
會社又ハ外國銀行以外ノモノハ本法施
行後七年ヲ限リ仍其ノ營業ヲ繼續スル
コトヲ得
商法施行前ニ設立シタル合資會社ニシ
テ舊法ニ依リ營業ノ認可ヲ受ケタル銀
行ガ本法施行後七年內ニ其ノ組織ヲ變
更シ又ハ合併ニ因リ株式會社ト爲リタ
ルトキハ前項ノ規定ニ拘ラズ其ノ營業
ヲ繼續スルコトヲ得
前項ノ組織變更ハ主務大臣ノ認可ヲ受
クルニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第四十一條第三十九條第二項ノ銀行ノ
資本金ニ付テハ本法施行後七年ヲ限リ
第三條第一項本文ノ規定ヲ適用セズ第
三十九條第二項ノ銀行ノ合併ニ因リテ
設立シタル銀行ノ資本金ニ付亦同ジ
命令ヲ以テ定ムル人口一萬未滿ノ地ニ
本法施行ノ際現ニ本店ヲ有スル資本金
二十五萬圓未滿ノ銀行ハ主務大臣ノ認
可ヲ受ケ前項ノ期間經過後更二三年ヲ
限リ第三條第一項本文ノ規定ニ依ラザ
ルコトヲ得
第四十二條本法施行ノ際現ニ第五條ノ
業務以外ノ業務ヲ營ム銀行ハ本法施行
後三年ヲ限リ仍其ノ業務ヲ繼續スルコ
トヲ得
第四十三條第三十九條第二項ノ銀行ノ
本法施行ノ際現ニ有スル本店及支店以
外ノ營業所又ハ代理店ハ本法施行後一
年內ニ主務大臣ノ認可ヲ受クルニ非ザ
レバ之ヲ存續スルコトヲ得ズ
前項ノ認可申請書ハ本法施行後三月內
ニ主務大臣ニ提出スベシ
第四十四條本法施行ノ際現ニ銀行ノ常
務ニ從事スル取締役又ハ支配人ニシテ
他ノ會社ノ常務ニ從事スル者ハ本法施
行後一年ヲ限リ主務大臣ノ認可ヲ受ケ
ズシテ引續キ其ノ會社ノ常務ニ從事ス
ルコトヲ得
第四十五條第三十九條第二項ノ銀行ニ
シテ株式會社又ハ外國銀行以外ノモノ
ノ業務廢止ニ付テハ主務大臣ノ認可ヲ
受クベシ
第四十六條本法中取締役ニ關スル規定
ハ第三十九條第二項ノ銀行ニシテ株式
會社又ハ外國銀行以外ノモノニ付テハ
其ノ營業主(營業主法人ナルトキハ其
ノ業務ヲ執行スル社員)ニ之ヲ準用ス
第六貯蓄銀行法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
貯蓄銀行法中改正法律案
貯蓄銀行法中左ノ通改正ス
第十六條第一項第三號ヲ削ル
第十七條削除
第二十一條第一項中「銀行條例」ヲ「銀行
法ニ改メ同條第二項ヲ左ノ如ク改ム
銀行法第十五條又ハ第二十六條ノ規定
ノ適用ニ付テハ第一條第一項第四號ノ
規定ニ依ル給付金ハ之ヲ預金ト看做ス
第二十二條中「命令ノ定ムル所ニ依リ營
業稅額」ヲ「其ノ納付スヘキ營業收益稅
額」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七農工銀行法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
農工銀行法中改正法律案
農工銀行法中左ノ通改正ス
第五十二條中「明治二十三年法律第七十
二號銀行條例」ヲ「銀行法」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八北海道拓殖銀行法中改正法律案
(政府提出)第一讀會
北海道拓殖銀行法中改正法律案
北海道拓殖銀行法中左ノ通改正ス
第三十四條中「明治二十三年法律第七十
二號銀行條例」ヲ「銀行法」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第九非訟事件手續法中改正法律案
(政府提出)第一讀會
非訟事件手續法中改正法律案
非訟事件手續法中左ノ通改正ス
第三十七條ノ二第百二十九條ノ三及ヒ
第百二十九條ノ四ノ規定ハ裁判所カ法
人ノ〓算人又ハ第三十六條ノ規定ニ依
リ檢査ヲ爲スヘキ者ヲ選任シタル場合
ニ之ヲ準用ス
第七十一條ノ六中「第百二十八條」ヲ第
百二十八條、第百二十九條ノ三及ヒ第百
二十九條ノ四」二五人
第百三十六條ノ末尾ニ「銀行ノ〓算ノ監
督亦同シ」ヲ加フ
第百三十七條ノ末尾ニ「裁判所カ銀行ノ
〓算ノ監督ニ付キ爲シタル命令ニ對シ亦
同シ」ヲ加フ
第百三十八條ノ四ヲ第百三十八條ノ五ト
シ第百三十八條ノ三ヲ第百三十八條ノ四
トシ第百三十八條ノ二ヲ第百三十八條ノ
三トシ同條中「〓算人」ヲ「〓算人又ハ前
條ノ規定ニ依リ檢査ヲ爲スヘキ者」ニ改
ム
第百三十八條ノ二裁判所ハ特ニ選任シ
タル者ヲシテ銀行ノ〓算事務及ヒ財產
ノ狀況ヲ檢査セシムルコトヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=18
-
019・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 只今上程ニナリ
マシタ法案ニ對シテ、一括シテ說明ヲ致シ
さっ、先ヅ銀行法案ニ付テ申上ゲマスガ、
凡ソ一國產業ノ發達ハ、金融機關ノ整備ト
其機能ノ發揮トニ俟ツベキモノガ頗ル多イ
ノデゴザイマスル、然ルニ我國金融機關ノ
現狀ハ、其組織脈絡必シモ整ヘリト云フ
コトヲ得ザルノミナラズ、時勢ノ進運ニ副
ハナイモノモ亦少クナイノデアリマス、今
ヤ我國財界ノ整備恢復ヲ促シ、產業ノ進步
發展ヲ圖ルノ必要最モ痛切ナルモノガアル
時ニ際シマシテ、金融制度ヲ整備改善スル
コトハ最モ緊要ノ事デアルト信ズルノデゴ
ザイマス、併ナガラ金融制度改善ノ業タル
洵ニ複雜至難ノ事業デアリマシテ、其方策
ノ如何ハ我國財政經濟ニ及ボス影響頗ル大
ナルモノガアリマスルカラ、濫ニ其速成ヲ
求ムベキデハアリマセヌ、宜シク各種金融
ノ制度竝ニ實際ニ付キ周到ナル調査ヲ遂
ゲ、其缺陷及弊害ノ存スル所ヲ明ニシ、以
テ實行上萬遺漏ナキヲ期サナケレバナリマ
セヌ、仍テ政府ハ昨年九月關係各廳ノ官吏
竝ニ學識經驗アル民間ノ人士ヲ以テ組織ス
ルハ金融制度調査會ヲ設置致シマシテ、爾
來周到精密ナル調査攻究ヲ遂ゲシメ、以テ
適切ニシテ且ツ實行的ナル成案ヲ得ルニ努
メテ居ルノデアリマス、而シテ政府ハ別ニ
大藏省内ニ金融制度調査準備委員會ヲ設ケ
マシテ、隨時關係各方面ノ民間人士ヲモ臨
時委員トシテ其意見ヲ徴シ、金融制度調査
會ニ付議スベキ事項ノ準備調査ヲ行ハシメ
マシテ、以テ本事業ノ完全ニ遺漏ナカラシ
メンコトヲ期シテ居ルノデアリマス、此所
ニ提出致シマシタル銀行法案ハ、以上述べ
マシタ手續ニ從ヒマシテ、金融制度調査會
ニ於テ非常ナル熱誠ト努力トヲ以テ、我國
普通銀行制度ノ改善ニ付キ、周到精密ニ調
査決定サレマシタ趣旨ニ基キマシテ、立案
ヲ致シタノデアリマス、と抑、我國普通銀行
ハ開設既ニ久シキニ渉リマシテ、其發達モ
〓シテ顯著ナルモノガアリマス、最近ニ於
ケル全國普通銀行ノ數ハ千四百二十四行、
其公稱資本金ハ二十三億九千万圓、預金ハ
八十八億萬圓ヲ擁シテ居ルノデアリマス、
各種產業ニ涉リテ一般的ニ金融ノ任ニ當ッ
テ居ルノデアリマスガ、其現狀ヲ見マスル
ノニ、我國經濟界ノ進展ニ適應シテ、能ク
主要金融機關タルノ機能ヲ發揮セリト云フ
ヲ得ザルモノガアルノミナラズ、其經營モ
亦屢、愼重ヲ缺キ、爲ニ破綻ヲ惹起シテ、
一般財界竝ニ多數預金者ニ損害ヲ及ボスコ
トモ少カラザルモノガアリマス、仍テ今其
通弊トスル所ヲ矯正スルガ爲ニハ第一ニ
銀行資力ノ充實ヲ圖ルコト、第二ニ堅實ナ
ル經營ヲ助長スルコト、第三ニ預金者ノ利
益ヲ保護スルコト、第四ニ銀行監督ノ周到
ヲ期スルコト、第五ニ不當ノ競爭ヲ防止ス
ルコト、第六ニ銀行整備ノ進捗ヲ圖ルコト、
其他ニ關シマシテ是ガ改善ノ方策ヲ講ゼネ
バナリマセヌ、元來普通銀行ノ業務ノ廣汎
ニシテ多樣ナル性質上、改善ノ方策トシテ
必要已ムヲ得ザルモノヽ外、成ベク法規ヲ
以テ之ヲ律スルコトヲ避クルノ方針ヲ執リ
マシテ、本法案ニ於キマシテモ銀行業ノ經
營主體ヲ株式會社ニ限リ、其資本金ヲ法定
スルコトヽシ、或ハ他業ノ兼營ヲ禁止シ、
法定積立金ノ割合ヲ增加シ、其他銀行ノ監
督ヲ嚴重ニシ、又預金者保護ノ爲ニ必要ナ
ル諸規定ヲ設ケマシタノハ、皆以上ノ趣旨
方針ニ依ッタモノデゴザイマス、隨テ普通
銀行ノ整備改善ニ付キマシテハ、本法案ニ規
定セラレマシタモノヽ外、或ハ群小銀行ノ
合同ヲ奬勵シ、預金支拂準備ノ内容ヲ改善
シ、資金運用ノ偏倚ヲ避ケシメ、貸付金ノ
固定ヲ防止スル等、幾多施設スベキ事項ガ
アリマスルガ、是等ハ法規ヲ以テ律スルコ
トヲ適當トセザルモノ、又ハ法規ヲ以テシ
テハ其目的ヲ達スルコトノ困難ナルモノガ
アリマスノデ、是等ニ付キマシテハ前ニ申
述べマシタ金融制度調査會ニ於テ決定シタ
ル普通銀行制度ノ改善ノ要項ニ基キ、政府
ノ方針トスル所ヲ一般ニ指示シテ、行政ノ
實際ニ當リ、適宜當業者ヲ指導監督スルコ
トヽ致シマシタ次第デゴザイマス、尙ホ本
法案ノ目的ヲ達成シ、我國普通銀行ノ指導
監督ヲ全カラシムル爲ニハ、是ガ檢査監督ノ
機關ヲ充實スルコトノ緊要ナルヲ認メマシ
テ、之ニ要スル經費ヲ豫算ニ計上致シタノ
デゴザイマス、尙ホ現在我國普通銀行ノ準
據スル法規デアリマスル所ノ銀行條例ハ
明治二十三年ノ制定ニ係リマシテ、其後數
次ノ改正ヲ見タノデアリマスルガ、今回ノ
改正條項ハ甚ダ多イノデアリマスルガ爲
ニ、此際寧口銀行條例ナルモノヲ廢シマシ
テ、新ニ銀行法ヲ制定スルヲ便利ナリト認
メマシテ、本法案ヲ提出シタ次第デゴザイ
マイ、終リニ一言申上ゲテ置キタイコト
ハ金融制度ノ整備改善ヲ爲サンガ爲ニ
ハ中央銀行タル日本銀行ヲ始メトシ、金
融機關ノ全般ニ亙ヲテ其改善策ヲ攻究スルコ
トヲ要シマシテ、隨テ普通銀行制度ノ改善
モ亦其他ノ制度ノ整備改善ト相俟ッテ、初
メテ完備セシムルコトヲ得ルノデアリマス
ルガ、是等各種事項ニ關スル成案ノ完了
スルヲ待シテ、初メテ同時ニ總テノ方策ヲ
確立セント致シマスルナラバ、最モ急施ヲ
要スルモノト云ヒマシテモ、長ク其實行ノ
期ヲ得ザルヲ慮リマス、仍テ政府ハ緊急ヲ
要シ、且ツ是ガ分離實行スルモ支障ナキモ
ノハ其成案ヲ得ルニ從ヒマシテ、順次提出
スル心算デアリマス、此法案ヲ提出致シマ
シタノモ、此趣旨ニ係ルニ外ナラナイノデ
アリマス、次ニ現行ノ貯蓄銀行法、農工銀
行法及北海道拓殖銀行法中ニハ、銀行條例
ノ規定ヲ引用シタルモノガゴザリマスルガ
故ニ、此點ニ付テ銀行法ノ制定ニ伴ヒマシ
テ、是等ノ法律中改正ヲ要シマスルヲ以
テ、之ニ關シテ貯蓄銀行法以下三法律案中
改正案ヲ提出シタ次第デゴザリマス、尙ホ
營業收益稅法ノ制定ニ伴ヒマシテ、貯蓄銀
行法ノ規定中、字句ノ改正ヲ要スル廉ニ付テ
モ併セテ提案シタ次第デゴザリマス、何卒
御審議ノ上速ニ御協賛アランコトヲ希望致
シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=19
-
020・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第九ニ付テ-
本田政府委員
〔政府委員本田恆之君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=20
-
021・本田恒之
○政府委員(本田恒之君) 非訟事件手續法
中改正法律案ノ提出理由ヲ御說明申上ゲマ
ス、今回銀行法ノ制定ニ依リマシテ、銀行
ノ〓算事務ハ裁判所ノ監督ニ屬スルコトニ
規定ガナッテ居リマスカラ、右監督ニ任ジ
マスル裁判所ノ管轄、其他之ニ必要ナル所
ノ規定ヲ設クル必要ガアルノデアリマス、
非訟事件手續法中ニ、右銀行法改正ノ結果
トシテ當然ナケレバナラヌ規定ヲ設ケマシ
タ次第デゴザイマス、宜シク御審議御協賛
ヲ願ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=21
-
022・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ質疑ヲ許シマ
ス、神崎勳君
〔神崎動君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=22
-
023・神崎勳
○神崎勳君 只今付議サレテ居リマス所ノ
銀行法ニ付キマシテ、少シク政府ノ御趣意
メアル所ヲ伺ッテ見ヤウト思フノデアリ
やっ、近來ノ金融機關ニ於ケル銀行ナル
モノハ、如何ニカシテ改善シナケレバナラ
ナイト申シマスル所以ノモノハ、是ハ國民
ノ聲デアルノデアリマス、政府ハ玆ニ見ル
所ガアリマシテ、先般來種々御調査ヲ遂ゲ
ラレマシテ、本日是ガ提案ヲ見マシタコト
ハ最モ時宜ニ適シタ所ノモノト考ヘルノ
デアリマス、併シ一般國民ノ如何ニカシテ
銀行ヲ改善シナケレバナラナイト云フ希望
ヲ、此法案ニ於キマシテ達スルコトガ出來
ルデアリマセウカ、本日初メテ拜見致シマ
シタノデアリマスカラシテ、速斷シテ如
何デアルト云フコトハ、或ハ間違タ夕分
カモ知レナイノデアリマスガ、併シザット
讀ンデ見マシタ所、一般國民ノ期待ニ副ウ
テ居ラナイヤウニ考ヘラレルノデアリマス、
一般金融事業ニ從事シテ居リマス所ノ者、
若クハ一般國民ノ、銀行ノ改善ヲ叫ンデ居
ル所ノ者ハ、ドンナモノデアルカト申シマ
シタナラバ、現在ノ銀行ヲシテ眞ニ產業ノ
機關タラシメ、若クハ現在ノ銀行ヲシテ一
層信用アラシムルト云フコトガ希望デアル
ノデアリマス、然ルニ本案ヲ拜讀致シマシ
テモ、只今又大藏大臣ノ御說明ヲ拜聽シマ
シテモ、政府ニ於キマシテハ、唯〓單ニ監督
ヲ嚴重ニサレルト云フ外更ニ見ル所ハナイ
ト思フノデアリマス、政府ノ監督ヲ嚴重ニ
スルト云フコトノミデアリマシテ、銀行ノ
健全ナル發達ヲ求ムルコトハ決シテ出來ナ
イノデアリマス、政府ノ提案サレマシタ所
ノ御趣意ハ、唯〓單ニ彼ノ破綻セントスル
銀行ノミヲ見テ、本案ヲ提出サレタモノデ
ハアリハシマイカト思フノデアリマス、今
回提案サレマシタ法律ト、前ノ銀行條例ト
ヲ比ベテ見マシテ、銀行ヲ育テル所ノモノ
ハ何一ツモ區別ハナイト思フノデアリマス、
一體銀行ノ健全ナル發達ヲ希望スル所ハ如
何ナルモノデアリマセウカ、產業ノ機關ト
ナル所ノモノハ如何ナルモノデアルカト申
シマシタナラバ、申上ゲルマデモナク金利
ノ引下デナケレバナラヌト思フノデアリマ
ス、金利ノ引下ハ近來中央ニ於テ行ハレテ
居ルノデアリマス、地方ニハ只ノ一厘モ影
響シテ居ラナイノデアリマス、金利ノ引下
ガ行ハレナカッタナラバ、確ニ銀行ノ健全
ナル發達ヲ期スルコトガ出來マセヌ、併シ
金利ノ引下ナルモノニ於キマシテハ、銀行
ガ損失ヲ受ケルノデアリマスカラ、容易ニ
實行ガ出來ナイノデアリマス、若モ政府ガ
之ヲ實行サレヤウト致シマシタナラバ、銀
行ヲ優遇スルト云フ途ヲ講ジナカッタナラ
バ其目的ヲ達スルコトハ出來ナイト思フ
ノデアリマス、優遇トハ如何ナルモノデア
リマセウカ、今日地方ノ小銀行ニ於キマシ
テハ、銀行ハ其負擔ニ非常ニ苦ンデ居ルノ
デアリマス、是ハ大藏省ガ疾ニ御承知デナ
ケレバナラナイト思フノデアリマス、地方ニ
ハ到ル處ニ產業組合若クハ信用組合ノ如キ
モノガアリマシテ、是ハ全クノ無稅デアリ
マッ、此間ニ立チマシテ五十万圓若クハ百
万圓ノ銀行ガ、ドウシテ金利ノ引下ガ出來ル
デアリマセウカ、若モ政府ガ銀行ノ健全ナ
ル發達ヲ致サウト思ヒマスナラバ、銀行ノ
優遇ト云フコトニナケレバナラヌド思フノ
デアリマス、又銀行ヲシテ眞ノ產業機關ト
致サウト思ヒマスナラバ、銀行ノ金利ノ引
上ト云フコトデナカッタナーラバ、何モ得ル
所ハナイト思フノデアリマス、私ガ改メテ
政府ニ御尋シタイト申シマスノハ、政府ニ
於キマシテハ最高ノ金利ニ於キマシテ決定
ハ出來ナイデアリマセウ、近來ハ高利貸ト
云フヤウナ方面ヲ見マシテモ、澤山ノ高利
ヲ取ッテ居ル、又田舍ニ於キマシテモ澤山
ノ高利ヲ取ッテ居ルノデアリマスカラ致シ
マシテ、若モ政府ガ之ヲ徹底的ニヤルト致
シマスルニハ、金利ノ公定ト云フコトヲ定
ムルト同時ニ、又幾多ノ優遇ヲ講ジナケレ
バナラナイト思フノデアリマス、斯ノ如キ
ニ出デナカッタナラバ、眞ニ銀行ノ健全ナル發
達ハ出來ヌノデアリマス、ソレカラ又第二
ハ銀行ノ信用ナル所ノモノハ何デアリマセ
ウ、唯、單ニ政府ノ御取締ヲ嚴重ニサレルト
云フダケノコトデ銀行ノ信用ガ增スモノデ
アリマセウカ、ソレデハ地方ノ銀行ニハ預
金ハ集ラズシテ、中央ノ支店銀行ニ悉ク集ッ
テシマフノデアリマス、我ガ福岡縣ノ如キ
ニ於キマシテモ、二三千万圓ト云フ銀行ガ
アルノデアリマスガ、預金ハ悉ク中央ノ支
店銀行ニ集シテ居ルノデアリマス、是ハ如
何ナル譯カト云ヒマスレバ、地方ノ銀行ニ
ハ信用ガナイノデアリマス、信用ガナイノ
デアルカラ、中央カラ出張所若クハ支店ヲ
出シタモノニ悉ク集シテシマフノデアリマ
ス、政府ハ此點ニ考ヘナケレバナラヌト思
フノデアリマス、政府ガ小サナ銀行ノ取付
ノ時分ニ斯ウ云フコトヲスル、此銀行ニハ
斯ウ云フ程度マデハ補助スルト云フヤウナ、
何カ其處ニ補助ヲ講ジナカッタナラバ、地方
ノ小サイ銀行ニハ預金ガ集ラヌノデアリマ
ス、斯ノ如キコトヲセズシテ、唯、三十万圖
五十万圓ノ銀行ヲ百万圓以上ト致シマシ
テ、何ノ得ル所ガアリマセウカ、三十万圓、
五十万圓ノ銀行ガ、百万圓以上ニナッタカ
ラト申シマシテ、ソレガ健全ニナルト云フ
コトハ何處ニモ見ルコトハ出來ナイノデア
リマス、我ガ九州方面ニ於キマシテモ、百
万圓、五百万圓ト云フヤウナ銀行ハ多々滅
亡サレテ居ルノデアリマス、單ニ銀行ガ百
万園以上ノ銀行ニサレタナラバ、銀行ハ安全
デアラウト云フヤウナコトハ、全ク實際ノ
銀行業ニ通ジナイ、私ハ詰ラナイ議論デア
リハシマイカト思フノデアリマス、政府ハ
尙ホ進ンデ地方銀行ノ信用ノ高マルヤウニ、
政府ガ何カノ方法ニ依リマシテ之ヲ保證ス
ルコト及銀行ヲ優遇致シマシテ金利ノ高低
ヲ決メルコト、此二ツニ付テノ御意見ガ伺
ヒタイノデアリマス、ソレカラ又此法案ニ
付テ御尋シテ見タイト思フノデアリマス、
銀行ノ定義ト云フコトガ第一條ニ在ルノデ
アリマスガ、第一條ニ預金ノ受入ト金錢ノ
貸付ヲ銀行業ト看做スト云フコトニナッテ
居ル、是ハ私ハ海ニ困ヲタ問題デアラウト
思フノデアリマス、預金ノ受入ト金ヲ貸ス
ト云フコトハ、普通ノ人ガ常ニヤッテ居ル
ノデアリマス、之ヲ銀行ト看做スト云フコ
トニナリマシタナラバ、如何ナルモノデア
リマセウカ、併シ之ヲ銀行ト看做シマシテ
モ罰金ガナカッタナラバ宜イノデアリマス
ガ、第三十三條ニ於キマシテ、銀行ノ認可
ヲ得ズ致シテ銀行業ヲ行タモノハ、五千圓
以下ノ罰金ニ處スルト云フ規定ガアルノデ
アリマス、此第一條ノ一號カラ見マシタナ
ラバ、人ノ金ヲ預ッタ、若クハ貸シタト云
フコトニナリマシタナラバ如何ナル者ニ
於キマシテモ、五千圓以下ノ罰金ニ處セラ
レルト云フコトニナルノデアリマス、銀行
業ト云フモノハ斯ノ如キ單純ナモノデハナ
カラウト思フノデアリマス、唯〓人カラ金ヲ
預リマシテ、人ニ金ヲ貸シタト云フヤウナ
モノガ銀行デアリマセウカ、モット銀行ニ
於キマシテハ、錯綜セル所ノ仕事ガナケレ
バナラヌト思フノデアリマス、此第一條
ニ依リマシタナラバ、五千圓以下ノ罰金
ヲ受クル所ノモノハ非常ニ澤山ニナルノデ
アリマス、政府ハ如何ナル御考デアリマセ
ウカ、之ニ付テ御尋シテ見タイト思フノデ
アリマス、ソレカラ次ハ又二十三條デアリ
マス、是モ非常ナ問題デアリマス、從來ノ
銀行ニ於キマシテ、定款ナドト云フモノハ
僅ナコトデモ定款ヲ犯スコトガアルノデア
リマス、政府ガ御承知ノヤウニ定款ト云フ
モノハ極ク澤山ノ箇條ガアリマシテ、銀行
家ガ定款ヲ犯スト云フコトハ常ニアルコト
デアルガ、若モ定款ヲ犯シタナラバ、營業
ノ免許ヲ取上ゲルト云フ規定ガアルノデア
リマス、斯ノ如ク致シマシテ銀行業ハ安ン
ジテスルコトガ出來ルノデアリマセウカ、
銀行業ヲ營ムト云フコトハ容易デナイノデ
アリマス、僅ニ定款ノ一部ヲ犯シタト云フ
廉ヲ以チマシテ、營業ヲ停止スルト云フヤ
ウナ權力ヲ政府ガ持シテ居リマシタナラバ、
多少考ノアル者デアルナラバ、銀行ニ寄付
ク者ハナイノデアリマス、政府ハ如何ナル
考カラ、斯ノ如キ過重ナル法ヲ御設ケニナ
ルノデアリマセウカ、之ヲ御尋シテ見タイ
ト思フノデアリマス、ソレカラ又二十五條
ニ於キマシテバ、解散ノ場合ニハ政府ノ認
可ヲ受ケナケレバナラナイ、是モ非常ニ私
ハ困ッタ問題ト思フノデアリマス、銀行ヲ
設立スル場合ニハドンナモノデアリマセウ
カ、營業期間ノナイト云フ銀行ハ天下ニ只
ノ一ツモナイノデアリマス、銀行ヲ設立ス
ル場合ニ於キマシテハ、必ズヤ年限ガ附シ
テアルノデアリマス、十年若クハ二十年-
十年若クハ二十年ニ於キマシテ營業シヤ
ウト云フコトガ、最初ノ出發ノ際ニ定メテ
アルノニ、其場合ニ於キマシテ、政府ガ認
可セナカッタナラバドウナルノデアリマセ
ウカ、政府ハ如何ナル御考デ斯ウ云フヤウ
ナコトヲ御規定ニナッタノデアリマセウ、
如何ナル銀行デモ存續期間ノナイモノハ
ナイノデアリマス、然ルニ今度ノ此法案ニ
於キマシチ、銀行ノ解散ナルモノハ政府ノ
認可ヲ受ケネバナラヌト云フコトニナリマ
スト、全ク銀行ハ行詰ッテシマウノデアリ
マス、斯ノ如キ點ニ付キマシテ、ドウカ政
府ハ御意見ノアル所ヲ御述ヲ願ヒタイノデ
アリマス
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=23
-
024・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 只今ノ御質問ハ
數箇條ニ分レタノデアリマスルガ、銀行ノ
改善ヲ要求シテ居ルガ、地方銀行ノ信用ヲ
高メ且ツ維持スルヤウナ優遇ノ方法ガナケ
レバ、改善ノ目的ヲ達シ難イト云フコトガ
第一ノ御質問デアッタカト存ジマス、是ガ
爲ニハ政府ガ或ル程度ノ保證ヲ爲セバ頗ル
宜イガト云フ御言葉モアッタノデアリマス
ガ、政府ガ何ノ事業デモ保證ヲスルト云フ
仕組ヲ執リマスレバ、一面ハ大變利便デア
リマセウ、又他面ニハ唯依頼心ヲ起シテ確
乎不拔ノ所信ヲ以テ業務ノ發達ヲ圖ルト云
フコトハ、自ラ沮喪スルノデアリマセウ、
銀行ノ如キモノモ或ル程度ノ保證ヲ與ヘル
ト云フコトハ、別種ノ特殊ノ法律ヲ設ケマ
シタ場合ハ兎モ角、今日ニ於テモ非常ニ多
イ銀行ニ向ッテ、左様ナコトノ實際行ハル
ベキモノデモナシ、又スベキモノデモナ
ィ、併ナガラ銀行業務ハ信用ヲ以テ立タナ
ケレバナラヌノデアリマス、ソレ故ニ今度
ノ改正ニ於キマシテモ、餘リニ資本ノ小サ
イモノデハ信用ヲ得且ツ之ヲ維持スルコト
ガ困難デアリマスカラ、資本金ニ對シテ相
當ノ制限ヲ置ク、併ナガラ其制限ヲ直ニ實
行セラレテハ中〓困難ナ場合ガアルノデア
リマスカラ、玆ニ相當ノ猶豫期間ガ置イテ
アリマス、或ハ積立金ヲ曾サセル、是モ法
規ヲ以テ强ユルト云フガ如キコトモ、信用
ヲ厚カラシメント欲スル趣旨ニ外ナラヌノ
デアリマス、或ハ銀行ノ常務ニ從事スル者
ハ成ベク銀行本位ニ一身ヲ處シテ貰ヒタ
ィ、他業ヲ兼テ所謂萬屋式ヲヤルト云フコ
トヲ矯正シタイト云フコトモ此法ノ精神、
卽チ信用ヲ高メヤウト云フノデアリマス、
併ナガラ地方ノ狀況必シモ一樣ナラズ、サ
ウ本業務ニ對シテ適當ナ人ガ餘リアルト云
フ狀態デモナイト存ジマスカラ、處ニ依ッ
テハ取除法ヲ設ケテ置カナケレバ實際上ニ
差支ガ起ルト存ジマシタカラシテ、左様ナ
場合ニ於テ、銀行ノ常務ハ他ノ會社ノ常務
ヲ兼ルト云フ場合ニハ特ニ大藏大臣ノ認可
ヲ要スト、斯ウ云フヤウニ致シタイ、是モ
亦信用ヲ高メル所以デアリマス、又地方ノ預
金ヲ中央ニ吸收セラルヽ、畢竟信用ガナイカ
ラデアル、是ハ仰セノ通リデアリマス、是
ハ成ベク地方ノ預金ハ、其地方ニ融通セラ
レルヤウニナリタイモノト思ッテ居リマス、
甚シキニ至ッテハ、數年來其一府縣ノ預金ノ
半分以上ハ、他地方ニ持出サレテ居ルト云
フヤウナ土地サヘアルノデアリマス、又甚
シキニ至ッテハ、其地方ニハ本店ヲ有スル
銀行ガナクシテ、各地ノ支店バカリデア
ル、斯ウ云フ譯デアルカラ、其地方ノ預金
ナルモノハ支店ニ依シテ吸收セラレテ、其
處デ放資セラレズシテ本店ヘ行キ、他ノ支
店ニ行クト云フヤウナコトニナルノデアリ
さく、是ハ漸次矯正シタイト思フノデアリ
さく、是ハ唯〓理窟デハ行カナイノデアリ
マス、法規デ以テ左樣ナコトヲスルト云フ
コトハ、是ハ出來ナイ、政府モ其積リニナ
リ、其地方ノ人〓モ亦其積リニナッテ、サ
ウシテ本店ヲ有スル銀行ガ無イヤウナ所ニ
ハ本店ヲ-他ノ本店ノ多イ所ノモノヲ
移轉セシムルトカ、或ハ其地方ニ於テ合同
シテ相當ノ資力ヲ有スル銀行ヲ作ルトカト
云フコトニシナケレバナラヌト思ヒマス、
是ガ卽チ信用ヲ得セシムル方策デアッテ、
法規ノ外ニ斯樣ナ手段ヲ以テ地方ノ發達ヲ
期セナケレバナラヌト存ズルコトハ、マダ
外ニモ澤山アリマス、而シテモウ一ツノ御
意見トシテ、金利ヲ引上ゲナケレバ、銀行
ノ立ツ瀨ガナイ、是ハ私ガ聽違ヒデアッタ
カモ知レマセヌ、聽違ヒデアルトスレバ、
御話スルコトガ自ラ間違ヒマスガ、併シ
私ハ左樣ニ承ッタノデアリマス、金利モ矢
張金融ノ極ク緩慢ナル時ニ下リ、梗塞ス
ル時ニ上ルノデアリマシテ、此高低ハ其地
方ノ商取引、產業ノ狀態ニ依シテ變遷ヲス
ルモノデアル、是ハ自然デアリマス、其自
然ノ原則ヲ外シテ、法規デ以テ一定スルト
云フガ如キコトハ。私ハ却テ宜シキヲ得テ
居ラヌト思フノデアリマス、モウ一ツ政府
ハ監督サヘスレバソレデ良クナルモノト思
ウテ居ルヤウデアルト云フ御言葉モアッタ
ヤウデアリマスガ、固ヨリ監督モ今日ノ
所デハ必要デアリマス、監督ノ不行屆ノ所
カラ十分ニ預金者等ヲ保護シ能ハザル憾
ミモアルノデアリマス、ソレ等ノモノハ豫
算ノ御協賛ニ依シテ補フコトガ出來マスガ、
是ダケヲヤリサヘスレバ宜イト云フヤウニ
考ヘテ居ルト仰セラレマスノハ、大キナ間
違デアッテ、是ハ法文ノ全體ヲ御讀ミ下サ
"、私ガ先刻此所デ御說明申上ゲタ所ヲ御
斟酌下サレ、尙且ツ他ノ金融機關モツレ
ゾレ相當ニ充實ヲ圖ラナケレバイカヌ、%
レニ對シテハ既ニ機關ヲ拵ヘテ其順序ヲ履
ミツヽアル、斯ウ云フコトヲ申上ゲタ所ト
對照シテ御考慮下サイマシタナラバ、監督
サヘ嚴ニスレバ宜イト云フ趣旨デナイト云
フコトハ、御諒解ガ出來ルト存ジマス、ソ
レカラ次ニ解散ノ場合ニ於テ認可ヲ受ケナ
ケレバナラヌ、是ハ非常ニ困ルト云フコト
デアリマス、此解散ノ場合ニ於テ認可ヲ要
スルト云フコトハ、銀行ガ例ヘバ少々左前
ニナッテ來テ、面倒デアルト思ッタ時ニ、預
金者其他ノ方ニ對シテ相當ノ義務ヲ果サズ
シテ、解散サヘスレバ總テノ法規ノ制裁ヲ
免レルト云フ手段ニ陷ルヤウナコトニ致シ
マシテハ、ソレコソ非常ニ地方ノ迷惑デア
リマシテ、今日ノ一番困難ヲスル所ノモノ
ハ此預金者ガ銀行ノ取附其他ノ爲ニ營業
停止トナリ、預金者ニ損失ヲ掛ケルト云フ
ガ如キコトハ、屢〓見テ居ルコトデアリマ
ス、此預金者等ヲ澤山持ッテ居ッテモ、ソレ
ハ漸次隨意ニ支拂ヲスレバ宜シイト言ッテ、
監督モ指揮モ受ケナクシテ、自由ニ爲スト
云フガ如キコトヲ許ス譯ニハ決シテ、參ラ
ヌト思フ、是ハ矢張總テノ義務ノ決濟ノ濟
ムマデノ間ハ、相當ノ監督ヲシテ行カナケ
レバナラヌ、其監督ヲスルノ必要アリヤ否
ヤト云フコトヲ認メル爲ニハ、勝手ヲ許サ
ヌヤウニシテ、認可權ヲ持シテ居ルト云フ
コトノ必要ガアルト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=24
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025・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ原夫次郞君
〔原夫次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=25
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026・原夫次郎
○原夫次郞君 只今上程セラレタル法案ハ
幾ツモアッテ、中〓大問題ガ之ニ伏在致シ
テ居ルノデアリマス、就テハ巨細ナ點ハ何
レ委員會デ御尋致シタイト考ヘルノデアリ
マスガ、先ヅ主ナル所ダケヲ一點ダケ御尋
致シタイト思フノデアリマス、此銀行條例
ヲ廢止致シテ、玆ニ銀行法ヲ制定シヤウト
云フ政府ノ提案ハ、大體先程來大藏大臣ノ
提案ノ理由ニ依シテ、又質問應答ニ依シテ.略、
推測ガ出來タノデアリマスガ、從來此銀
行ハ金融機關ニ任ジテ、隨分預金者ニ迷惑
ヲ掛ケテ居ルコトモ公知ノ事實デアル、大
藏省ハ之ニ向ッテ不斷ノ努力ヲ拂ヒ、是ガ
檢査ヲ爲シ、一般預金者ニ迷惑ヲ掛ケナイ
ト云フ心持ハ、誠ニ當然ナ事デアルノデア
リマス、本年度ノ豫算ニ於キマシテモ、吾
吾ハ銀行檢査ニ關スル曾額ニ協賛致シタノ
デアリマスが、從來大藏當局ノ遣方ハ、銀
行ヲ檢査スルト云フコトニ付テ、色〓世間
ニ非難ガアルコトヲ吾々ハ耳ニ『致シテ居
ル、例ヘバ或ル黨派關係ノ激烈ナル地方ニ
在リマシテ、甲ノ銀行ヲ檢査セズシテ、乙
ノ銀行ヲ檢査スル、或ハ時期ヲ擇ンデ、或
ル時期ニ檢查ヲセズシテ、非常ニ切迫致シ
テ居ル年末ニ是ガ檢査ヲ爲ストカ、色と手
加減ヲ加ヘルガ爲ニ、銀行業者ヲシテ非常
ニ迷感ヲ感ゼシムルノミナラズ、又地方預
金者ノ非常ナル騒ギヲ捲起ス、斯ウ云フヤ
ウナ實例モ耳ニ致シテ居ルノデアリマス
ガ、是等ハ人ニ依シテ制度ガ運行セラレル
ノデアリマスカラ、之ヲ彼此レ〓此處デ申
スノデハアリマセヌケレドモ、今般御提案
ニナッテ居ル銀行法ノ刑罰法規ノ所ヲ見ル
ト云フト、三十四條ニハ銀行業務ノ報告書
又ハ監査書ノ不實ノ記載ガアルトカ、或、
虛僞ノ公告トカ、其他ノ方法ニ依ッテ僞ヲ
書イテアルト云フ場合、竝ニ本法ニ依ッテ
檢査ノ際ニ帳簿書類ヲ隱蔽シタトカ、或
不實ノ申立ヲ致シタトカ、サウ云フヤウナ
場合ニ於テハ、玆ニ取締役トカ、監査役、
支配人、其他ノ代表者ヲ一年以下ノ懲役カ、
或ハ千圓以下ノ罰金ニ處スルト云フ、エラ
イ大キナ刑罰法規ガ玆ニ制定セラレテ居ル
ノデアリマス、所ガ其前條ヲ見マスト、主
務大臣ノ免許ヲ受ケナイデ銀行業ヲ營ンダ
者ハ、僅ニ五千圓以下ノ罰金ニ處スル、免
許ヲ受ケナイデ營業ヲ致シタル所ノ者ハ
五千圓ノ罰金ニ處セラレル、然ルニ唯、考課
狀ヲ僞シタトカ、或ハ營業ノ內部ノ事ヲ書
キ損ッタトカ或ハ故意ニ-無論誇張ヲ
致シタ報告ヲシタトカ云フヤウナコトニ
依ッテ、片ッ端カラ支配人デモ取締役デモ一
年以下ノ懲役ニ處セラレルト云フ規定ヲ設
ケルト云フコトハ、現在ノ商法ノ規定ヲ見
マシテモ、又刑法ノ方面ヲ見マシテモ、斯
ル重大ナル罰則制裁ヲ以テ全國ノ銀行ニ臨
ムト云フヤウナ必要ハ、何處ニ存スルノデア
リマスカ、從來ノ檢査ノ遣方ニ依シテ、斯ル
罰則ヲ設ケナケレバナラナイト云フ、何處
ニ必要ガアルノデアルカ、餘リニ是ハ他ノ
法規ト飛離レタ、大キナ刑罰制裁ヲ以テ銀
行業者ニ臨ムト云フ點ハ、他ノ法規ト權衡
ガ取レナイヂヤナイカ、如何ナル必要ガア
ルノデアルカ、此點ニ向ッテ政府當局ノ御
說明ヲ願クテ置キマス、尙ホ細カイ點ハ委
員會デ御尋スルコトニ致シマス(拍手)
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=26
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027・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 只今ノ原君ノ御
質疑ニ御答申上ゲマスガ、實ハ法律論ハ私
ヨリモ原サンノ方ガズト上手デアル、私
ハ餘リ法律ニハ精シクハアリマセヌガ、併
シ銀行業其モノハ他ノ一般ノ經營事業ト
同一ニ視ルベキモノデナイト云フコトダケ
ハ、是ハ原君モ御異論ハアルマイト思フ、
ソレカラ隨分檢査ヲ行ヒマス場合ニ於テ、
或ハ帳面ヲ別ニ拵ヘテ置イテソレデ檢査
ヲ濟シテ、他ノ犯罪事項カラ家宅搜査ノ
結果、本當ノ帳面ガ出テ來ルナドト云フ程
ニ、謀ッテ以テ惡イ事ヲスル者スラアルノ
デアリマス、今此處デ御述ニナリマシタヤウ
ニ、一寸シタ過チヲシタ、或ハ間違デアッタ
ト云フガ如キモノヲ、片ヲ端カラ取押ヘテ以
テ罰スルナドト云フコトハ、他ノ法律ノ規
定ノ場合デモ恐ラクアリマスマイ、此銀行
法ニ於キマシテモ、サウ實際ヲ離レタ事ハ
致サヌ積リデアリマス、併ナガラ是ハ仰セ
ノ通リ、委員會ニ於テ篤ト御意見モ拜聽致
シマセウシ、立案ノ趣旨モ篤ト申上ゲタイ
ト思ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=27
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028・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ森田金藏君
〔森田金藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=28
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029・森田金藏
○森田金藏君 只今上程ニナッテ居リマス
銀行法案ニ付キマシテ、極ク簡單ニ大藏大
臣ニ御尋シテ置キタイト思フノデアリマ
え、今大臣ガ提案ノ說明中ニモ是ハ準備調
査ヲ餘程シタモノデアル、各調査委員ニ諮
問シテ之ヲ出シタモノデアル、又銀行ノ
數或ハ從來ノ通弊ヲ改善スル方法トシ
テ、以前ノ銀行條例ヲ廢メテ此銀行法案ヲ
提出シタト云フ御說明デアリマシタガ、私
共ノ見ル所ニ依リマスト、是ハ主客〓倒シ
テ居ル所ノ法案デハナカラウカト思フノデ
アリマス、其理由ハ第三條ニ「銀行業ハ資
本金百万圓以上ノ株式會社ニ非ザレバ之ヲ
營ムコトヲ得ズ」斯ウ定メテアルノデアリ
マス、銀行ハ株式會社ガ百万圓以上デナケ
レバナラヌ、金ニ制限シテサウシテ信用ガ
保テルト御考ニナッテ居ルノデアリマセウ
カ、私共ノ見ル所ハ資本ガ多イカラト云ッテ
決シテ信用ヲ增ズベキモノデハナイ、五十
一議會ニモ御承知ノ如ク、朝鮮銀行或ハ臺
灣銀行ト云フヤウナ、大資本ヲ擁シテ居ル
銀行ハ、國民ニ一億二千万圓モ尻拭ヒヲサ
セルヤウナ結果ヲ來シタノデアリマス、(拍
手)故ニ資本金ノ大ナルヲ以テ信用ノ基本
トスルト云フコトハ非常ナ間違デハナカラ
ウカ、私共ノ見ル所デハ是ハ人物ニ基本ヲ
置カナケレバナラヌト思フ、殊ニ百万圓ト
云フ銀行ハ、都會デハモウ小銀行デアルケ
レドモ、地方デハ是ハ大銀行ニナル、地方
デ產業ヲ實際助ケテ居ルモノハ小銀行デハ
ナカラウカ、其小銀行ハ地方ニ於ケル其人
ノ人格及資產、又在來ノ爲シ來ッタ所ノ其
行ヒニ依シテ多クノ人ガ之ヲ信用シテ、サウ
シテ又貸スノモ對人信用デアル、小資本ヲ
小サナ營業者或ハ工業者、或ハ農業者ニ融
通スルコトガ產業ヲシテ最モ多クノ人ノ力
ニ依ッテ發達セシムル所ノ大ナル原因ヲ成
シテ居ルモノデハナカラウカト思フ、故ニ
私ハ此百万圓以上ト制限サレタコトハ、金
ノ多キヲ以テシテ居ルノデアッテ、人物其
者ヲ見ナイ、卽チ人格ヲ認メナイ所ノ法律
案デアルカラ、主客〓倒シテ居ルト私ハ考
ヘルノデアリマス、大臣ハ其邊ニ付テ如何
ニ御考ヘニナッテ居リマスカ、私共ノ多少
知ッテ居ル所ニ依レバ、地方ニ於テハ十万、
二十万、三十万ト云フヤウナ小資本ヲ擁シ
テ堅實ニ營業ヲ爲シテ居ル銀行ハ、餘リ破
綻ヲシタ例ガ少イ、所ガ地方デ百万圓以上
ニナッタヤウナ銀行ガ多ク破綻シテ居ル例
ガ多々アルノデアリマス、私ハ資本ト云フ
モノハ大キクナクテモ、健實ナ遣方デ、健實
ナ人格者ガ營業ヲスルナラバ、之ヲ許サヌ
ト云フヤウナ事ヲ法律デ定メルト云フコト
ハ、今日ノ人心ヲ善導シテ行ク上カラ云ッテ
モ、是ハ主客〓倒シテ居ル所ノ法案デハナイ
カト思フノデアリマス、丁度私ガ考ヘテ見マ
スノニ、御承知ノ如ク加奈陀ノ「サン」生命ノ
如キモノハ、永イ履歷ヲ持ッテハ居リマスケ
レドモ、元ト六十万圓ノ資本金デアル、今
日ハ幾億ノ資產ヲ持クテ、信用ヲ唯、加奈陀
ダケデハナイ、全世界ニ及ボシテ居ルノデ
アル、ソレハドウ云フ事デアルカ、加奈陀
政府ガ之ヲ宜シキニ適フ保護ヲ加ヘ、歷代
ノ保險會社ノ社長其人ガ人格者ガ之ニ居ル
爲ニ、卽チ斯ノ如キ結果ヲ成シテ居ル、法
律ヲ以テ資本ヲ定メテシマフト云フヤウナ
事ハ、非常ナ間違ッタ考デハナカラウカト
私ハ思フノデアリマス、地方ノ產業ヲ考ヘ
ル時ニハ斯ノ如キ事ヲ以テ制限ヲシテ法
律ニ定メルト云フコトハイケナイ、寧口人
格ヲ認メテ、相當ナル人ガ相當ナル事ヲ爲
スト云フコトニ御監督ナサルコトガ、本當
ノ銀行ヲシテ發達セシムル方法デハアリマ
スマイカ、大臣ハ此邊ニ付テ如何ニ御考へ
ニナッテ居リマスカ、私ノ見ル所デハドウ
シテモ是ハ却テ地方銀行ニ大キナ資本ヲ無
理ニ持タセヤウトシマスト、或ハ地方ニハ
株ヲ多ク持ヲタ人ガ矢張何處デモ同ジコト
デ、重役ニナリタガリマスカラ、其弊ヲ起
シテ要ラザル澤山ナ人ヲ使シテ、或ハ調査、
或ハ色ニナ名ヲ附ケテ、ソレガ爲ニ弊害ヲ
醸シテ、遂ニハ破綻ヲ多クナラシメルヤウ
ナ虞ガアルト思フノデアリマス、ドウカ之
ニ付テ御明答ヲ願ヒタイ、人間ヲ無視シテ
資本ヲ重ンズルト云フコトハ非常ナ間違デ
アル
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=29
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030・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 只今ノ森〓君ノ
御質疑ニ御答ヲ申上ゲマス、此銀行法案ナ
ルモノハ主客〓倒致シテ居ル、其理由ハ資
本金ニ制限ヲ致シテ人格ヲ無視シテ居ル、
寧口人格ノ方ガ先デナクチヤナラヌ、資本
ハ決シテ大ナルヲ要セヌ、此御趣旨ノ下ニ
御質疑ヲ蒙ッタノデアリマスガ、大體ノ精
神ハ私モ森田君ト違ヒマセヌ、人格ノ重ン
ズベク、人間ヲ選バナケレバ何事ヲシテモ
宜シキヲ得ナイト云フコトハ、單リ銀行バ
カリデナイ、何ノ事業デモ皆然リデアリマ
ス、單リ事業バカリデハアリマスマイ、役
人ニシテモ亦然リデアリマセウ、併ナガラ
法規ノ上デ如何ナル人間ガ人格ヲ有スルカ
ト云フガ如キ定メ方ハ、私ハ作ラウトモ考
ヘテ見マセヌガ、中〓作リ惡イモノデアル
ト思フ、現ニ人間ヲ專業ニ從事セシメナケ
レバイカヌトシテ、銀行ノ常務ニ從事スル
者ハ他ノ事業ヲ兼ルコトヲ得ズ、他ノ事業
ノ常務ヲ兼ネナケレバナラヌ場合ニ於テ
ハ、大藏大臣ノ認可ヲ要スル、卽チ人間ニ
重キヲ置イテ居ルコトハ此處ニ現レテ居ル
筈デアリマス、決シテ主客〓倒デアリマセ
又、ソレカラ資本ハ勘定ノ外ニ置イテ宜シ
ィ、少クテモ宜シイト云フ御話デアリマス
ガ、銀行ハ固ヨリ信用ヲ以テ立ツモノデア
リマシテ-人間モ信用ノ一ツデハアリマ
スガ-業務ハ貸付金ヲ爲シ、手形ノ割引
ヲ爲スト云フガ如キ、金ノ運用ヲシナケレ
バナラヌ、ソレガ餘リニ小サクテハ宜シキ
ヲ得ナイノデアリマス、ソレダト云フテ今
日ノ大阪、東京等ニ於テ百万、二百万圓ノ
資本ガ決シテ多イトハ思ヒマセヌ、併ナガ
ラ各地方ニ於テハ極ク少キハ五十万圓、或
ハ百万圓ヲ以テ適當トスルト思フノデアリ
マス、今日ハ五万、十五万圓ガ相當デア
ラウト云フ時代デハ最早私ハナイト思フ、
其土地相當ノ程度ヲ決メルコトハ、矢張私
ハ必要ナリト思シテ居ル、ソレカラ又加奈陀
生命デアリマシタカ、其他ノ生命保險ノ例
ヲ御引キニナリマシタガ、生命保險ト銀行
トハ少シ違ヒマス、生命保險ハ保險料其モ
ノニ既ニ豫定利率ト一ムフモノガ定メテア
ル、其豫定利率ヲ包含シタモノガ保險料ト
ナッテ居ル、ソレ故ニ營業費ノ範圍ヲ超サ
ヌヤウニ、眞ニ愼重ニ一寸刻ミニ行キマス
レバ、大キクナルト云フコトハ自然デアリ
マス、唯、皆遣リ損フノハ、一足飛ニ早ク
成功シヤウト云フ所ニ過チヲ生ジテ居ルノ
デアリマス、銀行業ノ如キモ御說ノヤウ
ニ、大資本ヲ拵ヘテ俄ニ勸誘シタモノハ失
敗ガ比較的多イ、是モ事實デアリマス、ソ
レハ成功ヲ焦セルカラデアリマス、凡ソ物
事ハ順序ノアルモノデアリマシテ、一足飛
ニ成功シタモノハソコニ無理ガ起ル、其無
理ガ必ラズ破綻ノ因ニナルト云フコトハ、
是ハ何ノ業デモ同ジコトデアリマス、故ニ
別ニ主客〓倒モ致シテ居ラズ、森田君ノ御
趣旨ハ之ニ含マッテ居ルモノト御承知下サッ
テ宜シイノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=30
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031・森田金藏
○森田金藏君 簡單デアリマスカラ此席カ
ラ一言申シテ置キタイト思ヒマス-今大
藏大臣ハ主客〓倒ト云フコトヲ非常ニ重ク
仰シヤイマシタガ、此所ニ第三條ニ百万圓
以上トハッキリ定メテアリマスカラ、地方
ノ狀況ニ依リテハ、或ハ之ヲ少クスルト云
フ御考ハナイカト云フコトヲ敷衍スル爲ニ
申上ゲタノデアリマス、デアリマスカラ、此
問題ニ付テハ必ラズ百万圓以上デナケレバ
許サヌト云フ御考デアルカ、ナイカト云フ
コトヲ伺ッテ置ケバ、又委員會ニ於テ質問
ノ仕樣ガアラウト思ヒマス
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=31
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032・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 現在小資本ヲ以
テ營業致シテ居リマスルモノニ向ッテモ、
此法規ノ命ズル所ニ依ッテ整理セシムル必
要ガアリマス、併ナガラ之ヲ急激ニ履行致
サウト云フコトハ、又ソコニ無理ガ起リマ
スカラ、相當ノ猶豫期間ガ與ヘテアリマ
ス、新ニ許可ヲ得ントスルモノニ向ッテハ、
此法規ノ命ズル以外ニハ許サヌ積リデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=32
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033・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 田崎信藏君
〔田崎信藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=33
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034・田崎信藏
○田崎信藏君 私ハ此銀行法ノ改正法律案
ニ付テ、此中ノ代理店ノ制度ニ付テ大藏當
局ニ御尋シタイト思フノデアリマス、代理
店ハ其都度主務大臣ノ認可ヲ受クベシト云
フコトデ、代理店ハ大藏當局ニ依ッテ制限
ガ出來ルヤウニナッテ居ルヤウニアリマス
ルガ、之ニ依シテ制限ハサレマセウガ、現在
全國ニ代理店ヲ澤山持ッテ居ル貯蓄銀行ノ
如キハ、網ヲ張ッテサウシテ隨分地方ノ無
智ナル者ヲ代理店ト云フ大キナ銀行ノヤウ
ナ名ノ下ニ、代理店ガ多イ爲ニ大變國民ハ
損害ヲシテ居ルト云フコトハ、大藏當局ハ
御認メニナッテ居ルカ、ソレデ一例ヲ申シ
マスルト-私共極ク最近ノ例ヲ申シマス
ルト、帝國實業貯蓄銀行ト云フ銀行ガ、如
何ニモ名ハ帝國貯蓄銀行ト云フ立派ナ名
デ、サウシテ代理店ハ全國ニ幾十、サウシ
テ預金ノ吸收ヲシテ居ル、到頭此銀行ハ預
金總額ノ半分以上ハ隱蔽シテ主務大臣ニ屆
出ヲシナイ、尙ホ屆出シナイ爲ニ貯蓄銀行
條例ニ依ル供託金ト云フモノハ全然供託シ
ナイ、又此銀行ノ代理店主ト云フモノハ皆
軍人ノ古手、或ハ警察部長ノ古手、郡長ノ
古手、ソレカラ小學校長ノ退職ニナッタ人
人等デアリマシテ、如何ニモ地方人ヲ信用
セシムルニハ便宜好ク出來テ居ル、軍人ノ
如キハ休職ノ中將、少將ト云フヤウナ高官
ノ人ガ代理店主ニナリ、又其縣ノ警察部長
ト云フヤウナ人ガ代理店主ニナリ、郡長或
ハ小學校長ト云フヤウナ、多年其郡下或ハ
縣下ニ於テ主ナル〓育者ガ代理店主ニナ
ル、所ガ此代理店ノ許可ヲ得ル爲ニ種々ナ
ル醜運動ヲ致シマシテ、甚シキニ至ッテハ大
政黨ガ此銀行ニ何カ關係アルガ如クニ、常
ニ言觸ラシマシテ、何帝國實業貯蓄銀行ノ
如キハ立派ナル前大藏次官ト云フヤウナ人
達ガ、先ヅ顧問トカ相談役ト一ムフヤウナ美
名ノ下ニ、法律上何等責任ノ無イ地位ニ立ッ
テ、サウシテ代理店主ノサウ云フ地方ニ於
ケル信用ノアル人ニ依シテ預金ヲ吸收スル
爲ニ、帝國實業貯蓄銀行ハ大藏大臣ヨリ取
消ヲ命ゼラレテ、今日ハ實際全國ニ於テ、
三十幾万ト云フ、零細ナル中產階級ノ人〓
ヲ苦シメ、未ダ整理モ付カナイ、又此爲ニ
大藏省ノ監督スベキ人間ガ、賄賂ヲ取ッテ
收監サレテ居ル、ソレデアリマスルカラ、
此法案ノ中ニ代理店ト云フモノハ主務省ノ
認可ヲ得レバ幾ラデモ出來ルヤウデアル、
之ヲ政府ハ制限シナケレバ眞ノ目的ハ達セ
ラレマイト私ハ思フ、政府當局ハ如何ニ考
ヘルカ、彼ノ帝國實業貯蓄銀行ノ狀態ナド
ヲ見マスト、此何處カニ今ノ顧問トカ相談
役トカ云フモノヲ置クコトハ出來ヌヤウニ
スル考ハ政府ハナイカ、大藏前次官、或ハ
政黨ノ總裁ト云フヤウナ者ヲ相談役、或ハ
顧問、法律上何等責任ガナイガ故ニ、斯ウ
云フ人ノ名前ガアッテ、代理店ノ店主ハ軍
人警察官、或ハ地方ノ〓育者、或ハ行政
官ノ古手、斯ウ云フヤウナ名ノ下ニ東京ナ
ンカニハ澤山此銀行屋ト云フ商賣ヲシテ、
サウシテ地方民ヲ集メルダケ集メテ、サウ
シテ倒シテシマッテ、銀行ガ潰レルヤウニ
スレバ大藏當局ハ何等責任ハナイカラ、權
限ニ依シテ取消シテシマヘバ、三十五万人
ノ人ガドウナラウガ斯ウナラウガ、救濟ハ
出來ヌト云フヤウナ點ガアルノデアリマス
ガ、斯ウ云フ點ニ付テハ大藏當局ハ如何ナ
ル御考ヲ持クテ居ラレルカ、伺ッテ置キタ
イ、是ガ私ノ御尋スル趣旨デアリマス、ト
云フノハ今申ス如ク、此貯蓄銀行ガ今日
迄全國ノ國民ヲ騙カシテ、非常ナ損害ヲ與
ヘノ、是ガ爲ニ十年二十年トニ云フ間苦心シ
テ貯蓄ヲシテ、サウシテ子孫ノ爲ニマダ現
在生活シテ居ル非常ナ場合ノ貯蓄ハ全然倒
サレテシマッタト云フヤウナ事柄ハ、實ニ
此社會問題ノ大ナルモノデアリマスルカ
ラ、是等ノ點ニ付テ大藏當局ハドウ御考ヘ
ニナッテ居ルカ、此機會ニ承シテ置キタイノ
デアリマス、仍ッテ本員ハ右様ノ趣旨ニ於テ
此法律ヲ如何ニ作リマシテモ、其精神ガ惡
イ結果ヲ齋スヤウデハ、折角法律ノ改正ヲ
致シテモ、其效果ハ何モナイト信ジマスガ
故ニ、敢テ御尋スル次第デアリマス
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=34
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035・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 只今ノ田崎君ノ
御尋ニ御答ヲ致シマス、從來出張所トカ、
代理店トカ云フモノヲ其銀行ノ自由ニ任セ
過ギテ、今日ハ種々ノ弊害ヲ見テ居リマ
ス、ソレ故ニ是等ノ弊害ヲ矯正センガ爲
ニ、現在ノ代理店ノ如キモノヲ尙ホ繼續シ
テ行カウト云フ積リデアレバ、一年以内ニ
認可ヲ得ナケレバナリマセヌ、新ニ設ケマ
スル場合ニ於テモ認可ヲ得ナケレバナラヌ
ノデアリマス、是ハ御尋ノ趣旨ト同ジ精神
ヲ以テ從來ノ弊害ヲ矯正シヤウト云フ精神
ニ外ナリマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=35
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036・田崎信藏
○田崎信藏君 簡單デアリマスカラ此處カ
ラ-只今大藏大臣ノ御答辯ヲ承ルト、本
員ノ質問致シマシタ趣旨ト、政府當局ノ御
提案ノ法律ノ趣旨卜合致シテ居ルト云フコ
トデアリマス、私ノ御尋シマシタ次ノ問題
ハ當局ノ御答辯ガナイノデアリマス、此
法律上ノ何等責任ガナイト云ッテ、此銀行
ニ限ッテ顧問トカ相談役ト云フヤウナモノ
ヲ爲シ得ナイ、サウ云フコトヲ此處ニ現ハ
スコトハ出來ルカ出來ナイカ御尋シタノデ
アル、其爲ニ隨分地方民ガ-今日迄ノ金額
ノ總計ハ詳シク知リマセヌガ、今日十年ノ
間ニ我ガ日本現在ニ先ヅ二億圓近ク國民ガ
損害ヲ致シマシタ、其損害ノ爲ニ死者ヲ出
シマスルコトハ、一銀行ガ破產致シマスル
度ニ、四五十人ノ人ガソレガ爲ニ死ンデ居
ル、斯ウ云フ狀態デアリマス、ソレハ顧問
トカ相談役ト云フヤウナ、前官ノ待遇ヲ受
ケルヤウナ立派ナ人ガ斯ウ云フ事ニ關係シ
テ居ル如クニ知ルノデアリマス、サウシテ
代理店主ニ對シテ何カ法ノ制裁ヲ加ヘルコ
トガ出來得ナイカ、ソレヲ序ニ御答辯ヲ願
ヒタイ
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=36
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037・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 先刻ノ御尋ニ對
シテ落シマシタコトハ甚ダ失禮デアリマ
ス、顧問トカ相談役トカ申シマスル者ハ、
或ハ信用ヲ土臺ニスベキモノヽ事業ニ往々
見ルノデアリマスガ、是ハ御承知ノ通リ商
法ノ上ニ於テ何等ノ責任モ何モ認メタモノ
デハナイ、斯ウ云フ者ガアルガ爲ニ、世ノ
中ノ人ガ信用スルト云フガ如キコトハ、實
ニ遺憾千萬デアリマス、成程軍人ノ古イ肩
書ヲ有スル人、官歷ノ多少ノ肩書ノアル者
ガ休職罷職ノ後ニ信用ガアルカ否ヤハ知リ
マセヌガ、サウ云フ者ヲ矢張利用シテ居ル
ト云フガ如キ通例ハアルノデアリマシテ、
斯ウ云フ事ハ實ハ絕無ニナランコトヲ私ハ
祈ルノデアリマス、商法ハ明ニ相當責任者
ヲ定メテ居ル、其商法ノ認メナイ者ヲ法ガ
禁ジテ居ラヌカラ、斯ンナ者ヲ持ッテ來ル
ナドヽ云フヤウナ遣方ヲ何時迄モ其跡ヲ斷
タヌヤウナコトハ、甚ダ私ハ遺憾ニ思フノ
デアリマス、併ナガラ之ヲ現ニ商法ニ於テ
モ認メテ居ラヌモノヲ、今度ノ銀行法ニ
限ヶテ顧問、相談役ハ一切イケヌ、斯ウ云フ
事ヲ定メルコトモ甚ダ不穏當ダラウト思ヒ
マく、ソレ故ニ是ハ行政上ノ處分トシテ、
此方ノ弊害ハ相當ノ矯正ヲシテ見ル考デア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=37
-
038・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ニテ質疑ヲ終リマ
シタ、日程第十、右各案ノ審査ヲ付託スベ
キ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマス
第十右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=38
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039・砂田重政
○砂田重政君 委員ノ數ヲ二十七名トシ、
議長ニ於テ指名アランコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=39
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040・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニハ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=40
-
041・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-只今僧
田義一君及加藤知正君ノ兩君ヨリ、何レモ
成規ノ賛成ヲ得テ、北陸地方雪害救助ニ關
スル緊急質問ガ提出サレマシタ、此際日程
ヲ變更致スニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=41
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042・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更サレマシタ、順次其提
出者ノ趣旨辯明ヲ許シマス、曾田義一君
北陸地方ノ雪害救助ニ關スル緊急質問
(增田義一君外一名提出)
北陸地方ノ雪害救助ニ關スル緊急質問
(加藤知正君提出)
〔曾田義一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=42
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043・増田義一
○曾田義一君 北陸地方、殊ニ新潟縣下デ
高田市ヲ中心トスル上越地方ノ大雪ニ至シ
テハ、殆ド有史以來未會有ノ事ト思フノデ
アリマス、大要新聞紙上デ御承知デアリマ
セウガ、未ダ其眞相ヲ盡シテ居ラヌト思フ
位デアリマス、昔シ此下ニ高田アリト云フ
立札ガアッタト云フ話ガ殘ッテ居リマスガ、
事實ハ今ヤソレ以上ニ悲慘ナ狀態ヲ而シテ
居ルノデアリマス、現ニ一月十八日カラ降
リ續キマシテ、甚シキハ一時間ニ五寸ヅツ
積ッテ居ルノデアル、終日働イテ屋根ノ雪ヲ
落シテ夜休ンデ、朝起キレバ五六尺積ッテ居
ルト云フヤウナ狀態デアリマシテ、甚シキ
ハ二丈ヲ突破シテ居ルト云フヤウナ狀態デ
アリマス、是ガ爲ニ鐵道ハ諸方ニ機關車、
客車、貨物車ヲ出シ、ソレガ立往生シ一時
ハ數十臺ヲ算スルニ至ッタト云フヤウナ狀
態デアリマス、又旅客ハ三日三晩以上汽車
ノ中デ立往生シテ、寒サト〓ヲ凌イデ居ッ
タト云フヤウナコトデアル、ソレハ鐵道從
事員デ相當ナ手當ハサレタト思ヒマスケレ
ドモ、傳フル所ニ依ルト病人サヘモ出シテ
居ルト云フ有樣デアル、又一面ニハ學校ガ
潰レタ、人家ガ倒レタ、死傷者ハ數少カラ
ヌ、人畜ノ被害多ク、實ニ稀ナル悲慘ノ狀態
ト云フコトヲ傳ヘテ居ルノデアリマス、斯
ル雪ノ害ニ至ッテハ高田ニ生マレタ私トシ
テ古老ヨリ聞イタコトモナケレバ、又書イ
夕記錄ノ上ニモ見タコトハナイノデアリマ
ス、之ニ對シテ如何ナル救濟ノ方法ヲ執ッ
テ居ルダラウカト憂慮ニ堪ヘマセヌ、第
交通ハ杜絕シテ居リマスカラ、去ル八日以
來郵便物ハ一ツモ來ナイノデアリマス、又
一時ハ電信電話サヘモ通ジナカッタノデア
リマス、電燈モ消エテ居ルト云フヤウナ狀
態デ、蠟燭モナケレバ石油ノ產地デアルニ
拘ラズ、平生ノ用意ハ致シテ居ラヌカラ、
夜ハ眞暗ノ中ニ暮シテ居ル、處ニ依ッテハ
食糧ガ不足デ、去ル十二日ノ調ベデハ、
週間位ノ食糧シカナイト云フ地方モアリマ
シタ、ソレカラ既ニ數時ヲ經テ居ルノデア
リマス、人命ガ危險ナ處ガアリ、食糧ガ不
足デアリ、物資缺乏シテ居ルト云フ此悲慘
ノ狀態ニ對シテ、政府ハ如何ナル救濟ノ方
法ヲ執ッテ居ラレルノデアラウカ(拍手)高
田ニハ旅團ガアリマス、此旅團ノ中デ何デ
モ兵隊四百名位ハ除雪工事ニ援助シテ居ル
ト云フヤウニモ傳ヘテ居リマスケレドモ、
ソレモハッキリ致シマセヌ、事實ニ於テハ
人夫ガ拂底ナノデアル、隨分鐵道工事ノ爲
ニ長野縣其他カラ澤山ノ人夫ヲ送ッテ居ル
ヤウニモ傳ヘラレテ居リマスケレドモ、其
雪ノ降ッテ居ル地方デハ人夫ガ足リナイ、ト
云フモノハ、各自ノ家ノ屋根ノ雪ヲ下スコ
トニ每日疲レテ居ルノデアル、又甚シキニ
至ッテハ老幼婦女子ガ雪下シヲ遣ッテ居ル、
ソレハ新聞ニ寫眞ガ出テ居ルノデモ論ヨリ
證據デアリマス、如何ニ人夫ガ不足ダト云
フコトハ、此事實ガ雄辯ニ物語。テ居ルノ
デアリマス、此處ニ旅團アリ、軍隊ガ擧ッ
テカヲ添ヘタナラバ、モソット早ク鐵道開
通ノ途モアリハシナイカ、內務省或ハ鐵道
省トシテ陸軍省へ交涉セラレタコトハナイ
カ、軍隊ハドレ程出動シテ居ルカ、尤モ軍隊
出動ノ際ハ非常ナ場合デアリマセウガ、高田
地方ニハ今ヤ實際非常十場合ニ遭遇ジテ居ル
ノデアリマスカラ、斯ル場合ニ旅團ノ兵卒
ヲ出シテ除雪工事等ノ救助ヲサレタナラ
バ餘程助カルト思フガ、其邊ハドウナッ
テ居ルノデアラウカ、畏レ多クモ聖上陛下
ニハ宸襟ヲ惱マサレテ、雪害ニ關シ御下問
ガアッタト云フコトヲ聞イテ居リマス、之ニ
對シテ内務大臣ハ詳シク實況ヲ申上ゲラレ
タト云フコトモ承ッテ居リマスガ、現場悲慘
ナル程度ハ政府ニハドノ位マデ分ッテ居ルカ、
其被害ノ程度、又如何ナル方法ニ依シテ如
何ナル程度ニ救助シツヽアリヤ、之ヲ明確
ニ御答辯アランコトヲ內務大臣、鐵道大臣
ニ向ッテ要求イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=43
-
044・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 次ハ相藤知正君-
加藤君
〔加藤知正君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=44
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045・加藤知正
○加藤知正君 北陸地方ニ於ケル雪害ニ付
キマシテノ慘狀ハ、只今同僚增田君カラ詳
細御述べニナリ、且又滿場ノ諸君ハ日々ノ
新聞紙ニ依リテ、如何ニ其慘害ノ甚シキカ
ト云フコトハ、御承知ノ事デアリマスルカ
ラ私ガ此上其慘狀ヲ述ブルヤウナ贄言ハ
省キマシテ、玆ニ數項ニ亙ッテ政府當局ノ
之ニ對スル御意見ヲ御伺ヒ致シタイノデア
リマス、其一ツハ此北陸地方ガ斯ノ如キ未
曾有ノ大慘狀、古老ノ傳フル所ニ依リマス
レバ此大慘狀ハ、二百六十年來嘗テナカッ
タ所ノ大慘狀デアルト云フコトデアルノデ
アルガ、此大慘狀ニ對シテ政府當局ハ、之
ヲ普通ノ雪害ト御覽ニナルカ、或ハ震災又
ハ火山ノ爆發同樣ニ特異ノ災害ト御認メ
ニナルノデアルカ、之ヲ御伺シタイノデ
アリマス、私ガ特ニ此質問ヲ致ス所以ノ
モノハ、諸君御承知ノ通リ昨年七月ノ二十
八日ニ於テ、我ガ新潟縣ニ於キマシテハ未
曾有ノ大水害ガアッタノデアリマス、此當
時吾々共ハ總理大臣ヲ初メ關係ノ當局大
臣、大臣ノオキデニナラヌ所ハ次官ニ御目
ニ懸リマシテ具サニ此水害ノ慘狀ヲ御話ヲ
申上ゲ、是ハ普通ノ水害トハ違ヒマス、僅
カ三十分ヤ一時間ノ間ニ襲ヒ來ッタ所ノ此
水害-言ハヾ山海嘯ノ爲ニ、人家ハ倒壞
シ、人畜ノ死傷算ナク、實ニ慘狀ノ極ヲ盡
シテ居ルノデアルカラ、之ニ對シマシテハ
十分ナル所ノ御救濟ヲ願ヒタイト云フコト
ヲ御話申上ゲタノデアル、其當時町田農林
大臣ノ如キハ非常ニ御同情ヲ寄セラレ、實
ニ氣ノ毒千萬デアル、自分モ其慘狀ヲ親シ
ク視察シタイトマデ仰シヤッタ、小山次官
ノ如キハ私ニ對シテ此爲ニハ特ニ閣議ヲ開
イテ貰シテモ宜シイトマデニ、御同情ノ言葉
ヲ寄セラレタノデアリマス、然ルニ我ガ新
潟縣知事ガ此水害救濟ノ爲ニ、若干ノ低利
資金ヲ要求致シマシタ所ガ、政府當局ハ之
ニ對シマシテ如何ナル所ノ審議ヲセラレタ
カハ、私ハ之ヲ聽キマセヌカラ知リマセヌ
ケレドモ、聞ク所ニ依レバ是ハ普通ノ水害
デアル、水害ハ年々アルコトデアルカラシ
テ、敢テ之ヲ特別ニ取扱フニハ及バヌト
云フヤウナ意見ガアッタト云フコトヲ承ッ
テ居ルノデアリマス、私ハ此事ヲ承リマ
シテ實ニ意外ノ感ニ打タレタノデアリマ
ス、アノ水害當時ニ於ケル所ノ慘狀ヲ、
各大臣中一人デモ實際ヲ御視察ニナリマ
シタナラバ、ヨモヤ斯ノ如キ意見ヲ御吐
キニナル方ハ一人モナカッタデアラウト
思フノデアリマス(拍手)然ルニ左樣ナ御
議論ガアッタ爲カドウカハ知リマセヌケレ
ドモ、低利資金ハ段々遲レテ、遂ニ半歲後
ノ今日ニ至ッテ、漸ク我ガ縣知事ガ要求セ
ラレタ幾分ヲバ、與ヘラルヽト云フヤウナ
狀態ニナッテ居リマスルカラ、私ノ聞ク所
モ或ハ是ハ事實デハナカッタカト云フコト
ヲ考へ、深ク之ヲ遺憾トスル者デアリマス、
斯樣ナ次第デアリマスルカラ今囘ノ此雪害、
是ハ私ハ尋常ノ害トハ思ヒマセヌ、所謂天
災二百六十年來未ダ會テ無イ所ノ一大天
災是ハ震災モ同樣、或ハ火山ノ爆發モ同
様、決シテ輕々ニ看過スコトノ出來ナイ大
災厄ト私ハ考ヘルノデアリマスルガ、果シ
テ政府當局ハ之ニ對シテ如何樣ノ御考ヲ御
持チデアリマセウカ、私ハ之ヲ安達内務大
臣代理ニ御伺致シタウ存ジマス、更ニ伺ヒ
タイノハ鐵道沿線ハ無論ノ事、雪害地方ニ
於キマシテハ食糧ガ不足ヲ告ゲテ、此間ノ
新聞紙ニモ名立ガ十日間サヘナイトカ、或
ハ糸魚川モ十日間シカナイトカ、或ハドコ
ソコハ二日間サヘナイト云フ悲慘ナ記事ガ
揭載セラレテ居ッタノデアリマス、此慘狀
ハ親シク此雪害ニ遭遇致シタ者デナケレバ
其眞相ハ分リマセヌ、吾々共ハ雪國ニ生レ
テ居リマスカラ、此記事ヲ見テ洵ニ同情ノ
念ニ堪ヘナイ者デアリマス、是ハ恐ラク事
實デアリマセウ、然ラバ今日此悲慘事ヲ除
クニハ如何樣ニ致シタナラバ宜シイカ、之
ヲ救濟スルノニハドウシタラ宜イカト申シ
マスナラバ、言フマデモナク食糧供給ノ途
ヲ開カナケレバナラヌノデアル、食糧供給
ノ途ヲ開クニハ交通ノ便ヲ開クヨリ外ナイ
ノデアリマス、交通ノ便ヲ開クニ當リマシ
テハ言フマデモナク、鐵道線路ノ除雪ガ最
善最良ノ方法タルコトハ言フマデモナイノ
デアリマス、然ラバ此際除雪ト云フコトハ
如何樣ニシタラ宜カラウカ、雪ハドンし〓
降ッテ居ル、掘ル後カラ降ル、之ヲ除雪ス
ルト云フコトハ固ヨリ容易デアリマセヌ、
併ナガラ此除雪ト云フコトニ對シテハ、要
スルニ人的努力ノ數ト量トニ依ッテ、〓
解決ガ出來ルモノト思フノデアリマス、然
ルニ聞ク所ニ依ルト鐵道省ノ之ニ對スル所
ノ人夫ノ出シ方ガ足リナイ、高田地方ニ於
キマシテハ軍隊モ出動シテ居ル、靑年團モ
出テ居ル、或ハ消防組モ出テ働イテ居ル、
ケレドモ尙且ツ及バナイト云フヤウナ次第
デアリマシテ、鐵道省カラ出シタル所ノ人
夫パ其數ガ啻ニ不足デアルノミナラズ、甚
シキハ其人夫ハ焚火ヲ焚イテ、唯〓アタッ
テ居ルト云フ非難サヘアルト云フコトヲ聞
イテ居ルノデアル、マサカトハ思ヒマスル
ケレドモ、火ノ無イ所ニ煙ノ生ジヤウ道理
ガナイ、若シ果シテ是ガ事實デアルトスレ
バ、是ハ怪シカラヌコトデアルト私共ハ考
ヘルノデアリマス、今朝吾々ノ同僚ガ富山
カラ歸ッテ來マシタガ、其談ノ一節ニ曰ク、
鐵道省カラ行カレタ視察ノ役人デアルカ、
或ハ名古屋ノ鐵道局カラ行カレタ役人デア
ルカハ知ラナイガ、其役人ガ此鐵道線路ノ
視察ニ行キナガラ、或ル溫泉場ノ料理屋ニ
上リ込ンデ、各驛ノ驛長ヲ集メテ、悠々ト
シテ酒ヲ呑ンデ居タト云フコトヲ聞イテ來
テ、非常ニ憤慨シテ私ニ話ヲシタノデアル、
吾々ハ鐵道省ハ一種ノ伏魔殿デアルトサヘ
聞イテ居ル、若シ此樣ナ事ガ事實デアルト
シマスルナラバ、幾多ノ地方民ガ此雪害ノ
爲ニ苦ンデ居ルニモ拘ラズ、驛長ナドヲ相
手ニシテ料理屋ニ上リ込ンデ居ルトハ何事
デアリマセウカ、要スルニ是等ハ鐵道大臣
ノ監督其宜シキヲ得ザル結果デアルト非難
サレテモ、是ニ對シ大臣ハ陳辯ノ餘地ガナ
カラウト思フノデアリマス(拍手)私ハ敢テ
是等ノ事實ヲ以テ、鐵道大臣ノ全責任ナリ
トハ申シマセヌケレドモ、併ナガラ此場合
斯樣ナ事ガアルト云フコトハ、吾々國民ト
シテ看過スベカラザルコトデアルト思ヒマ
スルカラ、之ニ對スル所ノ鐵道大臣ノ責任
アル御答辯ヲ戴キタウゴザイマス、第三ニ
於キマシテハ、今囘ノ此雪害ノ爲ニ糸魚川
ト市振ノ間ニアル所ノ並木隧道ノ北口ニ、
二百間ノ斷崖カラ雪崩ガ落チタ、是ガ爲ニ
高サ二十五尺幅七尺ノ石崖ハ崩レ、尙且ツ六
十間餘ノ鐵筋混凝土ノ雪圍ヒハ崩壞致シテ
二十間モ海中ニ吹飛バサレタト云フコトデ
アリマス、是ガ爲ニ北陸線ハ當分開通ノ見
込ガナイ、新聞紙ノ記事デアリマスカラ、
眞僞ハ判リマセヌケレドモ、信越線ハ本日
若クハ明日中ニ開通スルト云ヲコトデアル
ガ、北陸線ハ一箇月間モ經タナケレバ開通ス
ル見込ガナイト云フコトデアル、是ハ果シ
テ事實デアルカドウカ、若シ是ガ事實デア
ルト致シマスナラバ、由々シキ問題デアル、
地方民ノ脅威、旅客ニ對スル所ノ脅威ハ
是ヨリ大ナルモノハナカラウト思フノデア
リマス、又吾々ガ鐵道敷設ヲ希望スルモノ
ハ何ノ爲デアルカ、一ハ交通ノ便利ノ爲メ、
一ハ生產業發達助成ノ爲メ、-ハ國防上
ノ關係カラ此鐵道敷設ヲ翹望シテ已マザル
モノデアル、然ルニ今日ハ平和ノ時代デア
ルカラ、此雪害ノ爲ニ斯樣ナ不通ノコトガ
アリマシテモ、旅客若クハ地方民ノ脅威ニ
過ギナイトハ申シマスモノヽ、若シ一朝有事ノ
際ニ斯樣ナコトガアリマシタナラバ、鐵道
大臣ハ如何ニシテ其責任ヲ全ウスル御考デ
アリマスカ、之ヲ御伺申上ゲタイノデアリ
マス、第四ニ於キマシテハ越後鐵道買收ニ
付キマシテ、其理由ノ一ツニ鐵道大臣ハ何
ト仰シヤッタ、越後鐵道ヲ買收シナケレバ
幹線ノ完璧ヲ期スルコトガ出來ナイト仰シ
ヤッタノデアル、然ルニ此越後鐵道其モノ
ガ柏崎カラ出雲崎ノ間ガ今回ノ雪害ノ爲ニ
遂ニ機關車ハ動カナカッタト云フコトデア
ルガ斯ウ云フヤウナ雪害ニ遭遇スルト、幹
線ノ完璧ヲ期スルト仰シヤツタ海岸線ノ越
後鐵道ナルモノガ何ノ役ニモ立タヌコトニ
ナルガ、是デモ此鐵道ヲ買收シナケレバナ
ラヌト云フ理由ニナルノデアリマセウカ、
鐵道大臣ノ筆法ヲ以テ致シマスナラバ、柏
崎カラ長岡ヲ經テ新潟ニ至リマスマデノ幹
線ノ完璧ヲ期スル爲ニ、越後鐵道ヲ買收シ
ナケレバナラヌト云フナラバ、柏崎カラ直
江津ヲ經テ、富山カラ金澤ニ至ル所ノ幹線
ノ完璧ヲ期スルニハ、更ニ一本他ニ線路ヲ
設ケナケレバナラヌコトニナルノデアル
ガ、是ハ如何ナサル御考デアルカ、此補助
線ヲ設ケルニハ現在ノ線路以外ニ餘地ガナ
イカラ、海底ニデモ線路ヲ拵ヘナケレバナ
ラヌコトニナルノデアルガ、井上鐵道大臣
ハ、此幹線ノ完璧ヲ期スル爲ニ海底線ヲ御設
ケナサル所ノ御勇氣ガアルカドウカ、恐クハ
其御勇氣ハアリマスマイ、然ラバ斯樣ナ雪害
ニ對シマシテ交通全ク杜絕致シタ、斯ウ云
フ場合ニ於キマシテハ、如何ニシテ完璧ヲ
期スルト云フ御考デアリマスカ、之ヲ一ツ
御伺申上ゲタイノデアリマス、第五ニ於キ
マシテハ、日々ノ新聞紙ノ傳フル所ニ依リ
マスト、雪崩ガ非常ニ多イ、本日ノ新聞ニ
モ記載シテゴザイマシタガ、西頸城郡ノ磯
部村大字大洞ニ於テハ廣大ナル地滑リガア
リマシテ、是ガ爲ニ人家六十四戶ノ中ノ二
十何戶ガ倒壊シタト云フ記事ガアル、私
地滑リ問題ニ付テ實ニ非常ナル所ノ恐怖ヲ
感ジテ居ル者デアリマス、ソレハ外デハア
リマセヌ、私ノ〓里ニ於テハ來傳村ト云フ
處ニ有名ナル地滑リガアリマスノデ、此記
事ヲ見テ戰慄ヲ禁ジ得ナカッタノデアル、今
囘ノヤウナ雪害ニ遭ヒマスレバ今後雪崩或
ハ地滑リガ、續々アルモノト見ナケレバナ
ラヌ、然ラバ是ガ爲ニ鐵道線路ガ何日何時
ドウ云フ風ニ故障ヲ生ジ、之ガ爲ニ其地方
ノ交通ガ杜絕シ、人命ヲ損ズルヤウナコト
ガナイトモ限ラヌ、之ニ對シマシテ鐵道大
臣ハ如何ナル所ノ防備ヲ施シ、設備ヲ施シテ
以テ交通ノ安全ヲ圖リ、旅客ノ生命ヲ保障
セラレムトスルノデアルカ、此點ニ於テ私
ハ鐵道大臣ノ責任アル御答辯ヲ戴キタイト
思フノデアリマス(拍手)
〔國務大臣安達謙藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=45
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046・安達謙藏
○國務大臣(安達謙藏君) 只今北陸地方ノ
雪害ニ付キマシテ、其御地方ニ關係ノアル
御兩君カラ最モ痛切ナル御質問ガアリマシ
タガ、此事ニ付キマシテハ昨日マデ內務省
ニ分リマシタ、各方面カラノ報告ヲ基礎ニ
致シマシテ御答ヲ致シテ置キマス、ドウゾ
御關係ノ方面ノ御方ハ、此報告ヲ冷靜ニ御
聽キ願ヒタイト云フコトヲ前以テ申上ゲテ
置キマス、先ツ中央氣象臺ニ就キマシテ此
度ノ雪害ノ模樣ヲ調べマシタ所ガ、只今增
田君ハ有史以來未曾有、又加藤君ハ二百六
十年來云々ト云フ言葉ガアリマシタガ、氣
象臺ノ報告ニ依リマスト、サウデモナイヤ
ウデゴザイマス、玆ニ其報〓ニ基キマシテ
先ヅ〓況カラ御話ヲ致シマス、此度ノ雪ハ
一月ノ十八日ノ午後ニ降リ始メマシテ、而
シテ二月ノ十一日ト十一一日ヲ除キマシテ、
殆ト連日降雪ヲ見タモノデアリマス、特ニ二
月ノ六日、八日、九日等ハ其量最モ多ウゴ
ザイマシテ、多イ時ニハドノ位雪ガ降ッタ
カト申シマスト降水量百「ミリメートル」
約四尺ノ雪デアリマス、是ガ一日ノ一番多ク
降ッタ雪ノ量デアリマス、其他ノ日ニ於キ
マシテハ少ナキ時モ二十「ミリメートル」ト
云フ位降リマシテ、其積雪ノ量ノ最モ多イ
所ハ新潟縣ノ東頸城郡ノ安塚村ハ二十尺ニ
達シテ居ルト云フコトデゴザイマス、又十
三日ニ高田市ノ積雪モ一丈一尺ニ達シタ、
ソレデ明治二十六年ニハ新潟ノ降雪量ガ、
新潟縣下ニ於キマシテ二丈六尺ニ達シタ事
ガアルサウデゴザイマス、此明治二十六年
ノ二丈六尺ニ達シタモノヲ除イテハ、近年
稀有ノ雪量デアル、斯ウ云フ報告デアリマ
ス、ソレデ此降雪ノ範圍ハ主トシテ新潟縣
ノ西部ト、富山、石川、福井ノ四縣ニ亙ッ
テ居リマスガ、第一ガ新潟縣デアリマシテ、
第二ガ富山、福井トナリマシテ、比較的積
雪ノ量ノ少ナイ所ガ石川縣ノヤウニ見受ケ
さく、ソレデ此四縣ニ付キマシテノ被害ノ
大要ヲ御話シテ置キマスト、新潟縣デハ東
北部ノ岩越線方面ハ格別ナ事ガ無イモノト
思ハレマシテ、今日デモ汽車ハ通ジテ居リ
マく、被害ノ最モ大ナル方面ハ其西部デア
リマス、卽チ高田、直江津ヲ中心ト致シマ
シテ西頸城、中頸城、東頸城、刈羽ノ四郡
デアリマス、而シテ其中デモ被害ノ多イ所
ハ山間ニ點在シテ居ル所ノ部落、其山間ノ
部落ハ山上ヨリ來リマシタ所ノ雪崩ノ爲ニ
家屋ノ被害ヲ惹起シテ居リマス、十二日迄
ニ分リマシタ死者ガ六十二名、生死不明ノ
者ガ二十九名、家屋ノ倒潰シタモノガ百十
三戶デアリマス、中、被害ノ最モ甚シキ所
ハ西頸城郡ノ上早川村、此處デ死傷者四人
ヲ出シテ居リマス、又同郡ノ磯部村ガ死傷
者十一人、刈羽郡ノ野田村ガ死傷者二十一
人同郡ノ刈羽村ガ死傷者六人、斯ウ云フ
工合ニナッテ居リマス、ソレカラ地方住民
ノ生活ノ狀態ハドウデアルカ、此事ニ付キ
マシテハ該地方ハ例年降雪ガ多クアリマス
爲ニ、所謂冬籠リト云ウテ、相當ノ準備ヲ
致シテ居リマスカラ、目下ノ所食糧ノ缺乏
ヲ感ズルガ如キ危險ハ無イノデアリマス、
唯〓積雪量ノ多クシテ、其降雪ガ長ク續キ
マスル爲ニ、其雪崩ノ爲ニ家屋ノ倒潰ヲ見
タル場合ニ於キマシテ、救助ニ困難ヲ感ジ
テ居ルノデアリマス、ソレカラ救護ノ方法
ハドウシテ居ルカト申シマスルト、積雪量
ノ最モ大ナル地方ニ對シマシテハ、縣ヨリ
警察官及醫師ノ應援隊ヲ派遣致シテ居リマ
ス、且ツ其地方ノ警察官、市町村當局者、
靑年團、消防組合等ヲ督勵致シマシテ、罹
災者ノ救護、危險地帶ノ住民等ノ避難等ニ
當ラシメテ居リマス、又物資ノ供給ニ付キ
マシテハ地方ニ貯藏スル所ノ米ヲ解放セシ
メマシテ、又赤十字社ノ新潟支部ヲシテ救
護材料ヲ送付セシムル等ノ處置ヲ講ジテ居
リマス、其他現在デ直江津、富山間ノ電話
ガ不通ニナッテ居リマス、尙ホ附近ニ於キ
マシテ電信モ局部的ニ不通ノ箇所ガアリマ
ス、汽車モ亦直江津ヲ中心ト致シマシテ不
通デアリマスカラ不安ヲ感ジテ居リマス
ガ、是ハ鐵道ニ關シマスル事ハ鐵道大臣カラ
詳シク御報告致スダラウト考ヘマスガ、既ニ
今日頃ハ信越線ハ全通シタト云フ通知ニ接
シテ居ル次第デアリマス、要シマスルニ各地共
極力排雪ニ應援シテ居ル、最近ノ新聞紙ニ
糸魚川ノ地方ノ住民ガ飢餓ニ瀕シテ居ル、
又蜷立礦山ノ坑夫ノ千三百名モ飢餓ニ瀕シ
テ居ル、新潟縣ノ保安課長ハ行先不明デア
ルトカ、高田區裁判所ノ活動寫眞ノ家ガ倒
レタトカ、斯ウ云フコトガ新聞記事ニゴザ
イマスケレドモガ、是ハ全然事實無根デア
リマス、ソレカラ富山縣ハ積雪ノ量ガ平坦
地ガ約七尺、山間地方ガ十尺以上デゴザイ
マスケレドモガ、其被害ハ新潟縣ノ如ク大
キクハナイノデアリマス、昨朝迄ニ達シマ
シタ所ノ報告ニ依リマスルト、家屋ノ倒潰
致シタモノガ七十八、死者ガ四十デアリマ
ス、尤モ此死者四十ト云フ中ノ三十二名ト
云フモノハ、一月ノ二十九日ニ彼ノ黑部川
ノ水力電氣ノ工場ニ飯場ガアリマス、其處
ガ旋風ノ爲ニ吹倒サレマシテ、其三十二名
ヲ加ヘテ四十名ニナッテ居リマスカラ、雪
害ノ爲ニ死シタ者ハ八名デアリマス、負傷
者ガ十八名、山間部デハ積雪ノ量頗ル大ナ
ル爲ニ、豫テ矢張冬籠リノ用意ガアリマス
カラ、食糧ノ缺乏ヲ只今訴へルコトガナイ
ノデアリマス、唯〓黑部川ノ水力電氣ガ發
達致シマシテ、宇奈月ト云フ所ニ溫泉場ガ
アリマス、此處ガ八日間ノ食糧ヨリ外ナイト
云フコトハ事實デアリマシタガ、既ニ是モ
補給ノ計畫ガ成立ッテ居ルト云フ報告デア
リマス、救護ニ關シマシテハ各地方ノ各種
團體-矢張新潟縣同樣各種團體ヲシテ雪
除或ハ雪卸シ等ヲ爲サシムル外、目下別ニ
必要ハナイト云フ事デアリマス、唯ン縣ニ
於キマシテハ萬一ノ場合ヲ顧慮シテ救援、或
ハ醫療等ノ準備ヲ整頓シテ居ルト云フ報告
デアリマス、石川縣ハ金澤市ニ於キマシテ
ハ師範學校ノ建物ノ一部ガ傾キ、或ハ劇場
ガ倒壊シタト云フヤウナ事ガアリマスガ、
金澤市ノ積雪ハ約五尺四寸デアリマス、其
他郡部モ大體同樣デアリマスガ、山間地方
デハ一丈二尺ニ達シタ所モアリマス、最モ
積雪ノ少イ海岸地方ニ在リマシテモ、約三
尺八寸位ハ積ッタト云フコトデアリマス、
被害ノ判明シテ居リマスルモノハ、死者ガ
十三名、負傷者ガ三十五名、住家ノ全潰シ
タモノガ五十三戶、半潰シタモノガ三十四
戶デアリマス、食料ハ山間部落及農村ニ於
キマシテハ自給自足シテ居ルト云フコトデ
ス、市街地ニ於キマシテハ多少物價ノ騰貴
ハアリマシタケレドモ、蔬菜類ヲ除イテハ
供給上何等ノ支障ガナイ、一般住民ノ生活
狀態ハ平素ト變リガナイ、此分ニテハ生活
上特ニ救護ノ要ヲ認メズ、斯ウ云フ報告デ
アリマス、此報告以外ニ石川地方ノ新聞紙
ニ依ッテ見マスト、物價ノコトニ付テハ米
ガ一升ニ付テ一錢程騰貴ヲシタ、炭ガ一俵
二圓四五十錢ノモノガ十錢乃至二十錢騰貴
シタ、野菜類ハ出廻リガ出來テ最早格別不
自由ヲ感ジナイヤウニナッタ、斯ウ云フ記
事ヲ私ガ見マシタカラ之ニ附加ヘテ申シテ
置キマス、福井縣ニ於キマシテハ福井市附
近ノ積雪ハ六尺五六寸、尤モ大野郡ノ山間
部ニ於テハ一丈六七尺ニ達シテ居リマス、
昨日迄ノ被害ハ倒壞家屋ガ百十四戶、死者
ガ五十三名、其大部分ハ山間僻地ニ於ケル
所ノ雪崩ノ爲デアリマス、十一日以後ハ福
井方面モ降雪ガ殆ド止ミマシテ、人心モ安
定シテ居ルト、是ガ新潟ヲ初メ北陸方面ニ
於ケル雪害ノ狀況デアリマス、就キマシテ
各懸廳ハ此死者又負傷者、倒壞家屋、此邊
ノ事ニ付テ目下最善ノ努力ヲ致シテ居ルノ
デアリマス、今後此死者ニ對シテ、或ハ負
傷者ニ對シテドウスルカト云フヤウナコト
ハ當局者ハソレ〓〓案ヲ具シテ申出ル事
ト考ヘマス、其善後策ニ付キマシテハ今後
適當ノ處置ヲ執リタイ、斯ウ云フ希望ヲ持ラ
テ居リマス、此段御報告致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=46
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047・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 井上鐵道大臣
〔國務大臣子爵井上匡四郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=47
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048・井上匡四郎
○國務大臣(子爵井上匡四郞君) 增田君及
加藤君カラ御質問ノ中、鐵道ニ關スル部分
ヲ私カラ御答辯申上ゲマス、御話ノ如ク國
有鐵道ガ信越、北越、北陸ノ一部ニ於キマ
シテ、去ル九日以來部分的ニ國有鐵道ガ不
通ニナッテ居リマスルコトハ、私ト致シマ
シテ甚ダ遺憾ニ考ヘマス次第デアリマス
ル質問者ノ御話ノ如ク、今囘ノ降雪ハ實
ニ稀有ナ降雪デアルノデアリマシテ、之ニ
對シマシテ國有鐵道ノ降雪ニ對スル設備ガ
完全デナカッタコトハ甚ダ遺憾ナ次第デア
リマスル、又併シ是ハ已ムヲ得ザル次第デ
アッタラウト考ヘルノデアリマス、鐵道ト
致シマシテハ雪ニ對シマシテハ寧ロ積雪ノ
量ヨリモ、或ル一定ノ時間ノ中ニ降リマス
雪ノ量、降雪ノ密度ト申シマスルカ、其降
雪ノ「インテンステイー」ニ關係ヲスルノデ
アリマスル、徐々ト降リマス雪デアリマス
レバ、相當除雪ノ設備ヲ持ッテ居ルノデア
リマス、併ナガラ今回ノ降雪ハ本月ノ八日、
九日ニ亙リマシテ、一時間ニ五寸モ降リマシ
タサウデアリマスル、降雪ニ對シテ豫防ヲ
致シマスル方法ハ、線路ニ對シテ雪除、「ス
ノーセツト」ヲ造ノテ置キマスルカ、又「ス
ノーセツト」ガアリマセヌ所ハ、之ヲ機械
的ノ除雪車、卽チ「ラツセル」若クハ「ロー
タリー」ト二種持ッテ居ルノデアリマスガ、
此何レカヲ以テ線路ノ上ニ積ミマシタ雪ヲ
除ケルノデアリマス、此機械的除雪ノ方法
ハ前ニ申シマシタヤウナ一時間ニ五寸モ積
リマスルヤウナ雪ニ對シテハ、非常ニ效力ガ
少イノデゴザイマス、稍〓時刻ヲ遲レマス
ト云フト、モウ既ニ斯ノ如キ機械的方法デ
ハ除雪ガ困難ニナルノデアリマス、其爲ニ
折角除雪ニ出マシタ所ノ「ラツセル」若クハ
「ロータリー」ガ、今回ノ如ク雪中ニ埋沒サ
レルト云フ狀態ニナルノデアリマス、現在
九日ニ不通ニナリマシタ全體ノ區間ハ約八
十哩デアリマス、此區間ニ六輛ノ「ラツセ
ル」ト一輛ノ「ロータリー」ヲ以テ除雪シタ
ノデアリマスルガ、是ハ不幸ニシテ其效力
ヲ發揮スルコトガ出來ナカッタノデアリマ
ス、殘ル方法ハ人工ヲ以テ除雪スルノデア
リマス、增田君カラ御話ノ如ク人夫ヲ得ル
ト云フコトガ、各自地方ノ人夫ハ自分ノ危
險ニ迫ラレテ居ルノデアリマスルカラ、一地
方ニ於テ人夫ヲ得ルト云フコトガ非常ニ困
難デアリマスコトハ、增田君ノ御話ノ通リ
デアリマス、ソレデ相當遠距離カラ人夫ヲ
運ンデ、而モ雪ニ對シテ相當經驗ノアル人
夫デナケレバ用ヲ爲サナイノデアリマス、
現在此區間、今不通ノ區間ニ働イテ居リマ
スル人夫ハ、潟町直江津間ニ二百四十八人、
直江津市振間ニ千八十一人、直江津二本木
間ニ千九百六十三人ト云フ、約五千人ノ
人夫ガ此間ニ働イテ居ルノデアリマスッ玆ニ
私ガ御報告申上ゲ得ルノヲ非常ニ欣幸ニ考
ヘマスノデアリマスガ、信越線ハ只今マデ
ノ報告ニ依リマスルト云フト、殆ド全部開通
致シマシテ、現在ニ於テ今殘ッテ居リマス
ル所ガ直江津ト高田間ノミデアリマスル、
此間ガ七哩一分デアリマス、是モ本日中ニ
必ズ開通致シマスル積リデアリマス、併ナ
ガラ茲ニ申上ゲナケレバナラナイノハ、是
ハ人工ガ天然ニ打勝チ得タ結果デハナイノ
デアリマシテ、幸ニ天然ガ吾々ヲ幸シタ結
果デアルノデアリマス、昨日カラ此地方ハ
天氣ガ好クアリマシテ、本日ハ雨天ダサウ
デアリマス、其爲ニ雪ガ溶ケマスルノデ、
ソレニ依シテ開通ガ豫想以上早ク出來タト
云フ狀態デアルノデアリマス、北陸方面ノ
今不通ノ區間ハ、直江津カラ市振迄ノ間デ
アリマス、此中ニ於キマシテハ、親不知、
靑海間ニ於テ、先程加藤君ノ御話ノ如ク、並
木隧道ガ非常ニ丈夫ナ鐵筋混凝土ノ雪覆デ
アッタノデアリマスガ、ソレガ百尺餘ノ非常
ナ雪崩ノ爲ニ壞サレマシテ、海中ニ押出サ
レタト云フヤウナ狀態デアリマス、其爲メ
此區間ハ線路ノ排雪ガ終リマシアモ、相當
マダ雪崩ガアリマス危險ガアルノデアリマ
スルカラ、線路ノ排雪ガ出來マシタカラト
云ッテ、直グ旅客列車ヲ運轉致シマスノハ、
稍、危險ガアルト考ヘテ居リマス、相當雪崩
ニ就テノ見込ガ付キマシテ、然ル後ニ旅客
列車ヲ運轉シタイト云フ鐵道省ノ考デアリ
さく、附加ヘテ申上ゲマスルガ、今囘旅客
ニ對シテハ、非常ナ迷惑ヲ掛ケマシタノデ
アリマスルガ、幸ニシテ現在マデ一名ノ負
傷者モ出サナカッタコトハ、甚ダ不幸中ノ
幸ニ考ヘテ居ル次第デアリマスルカラ、將
來ニ於キマシテ、此直江津泊間、殊ニ直江
津糸魚川間ニ於テ、雪崩ノ爲ニ旅客列車ニ
損害ヲ與ヘタト云フヤウナコトガアリマシ
テハ、甚ダ遺憾ニ考ヘマスルカラ、此點ハ
十分考慮致シマシテ、萬安全ヲ期シタイ考
デアリマス、此直江津、市振間デ旅客列車
ニ閉籠メラレタ旅客ガアッタノデアリマシ
タガ、糸魚川ニ一昨日マデ百四十人居ラレ
タノデアリマスガ、ソレガ昨日天候ガ快晴
デアリマシタ爲ニ、石油發動機ノ汽船ヲ泊
カラ糸魚川ノ方ニ廻シマシテ、此百四十名
ヲ泊ノ方ニ運ンダノデアリマス、今日ニ於
テ糸魚川ニ滯在シテ居ルノハ只ノ一人デア
リマシテ、是ハ僧侶ダサウデアリマス、總
テノ雪害ガ除カレルマデ、此僧侶ハ此地點
ニ留ルト云フコトデ、故意ニ此所ニ殘ッテ
居ルノダサウデアリマス、現在名立二二十
名ノ旅客ガ居ルノデアリマス、是ハ本日石
油發動機ノ汽船ヲ以チマシテ、泊ノ方ニ運
ビマス考デアッタノデアリマスルガ、雨天デ
アリマスル爲ニ、今日ハ其作業ヲ中止シ
テ-危險ノ爲ニ中止シテ居リマス、天候
ノ囘復スルノヲ待チマシテ、此所ニ滯在ノ
旅客ハ安全ノ地帶ニ運ビマス筈ニナッテ居
リマス、此不通期間ニ於ケル食糧供給ノ問
題デアリマスルガ、是ハ鐵道ノ方デ運ビマ
シタ量ガ此所ニ出テ居リマスルガ、一々之
ヲ御話スルノモ餘リ煩雜カト考ヘマス、鐵
道ト致シマシテハ、十分穀類ハ勿論野菜等
ノ運輸ニ力ヲ盡シマシテ、此間ニ缺乏ヲ來
シマセヌコトヲ十分努メテ居ル次第デアリ
マス、加藤君ノ御質問中ニ、鐵道ノ職員デ
此地方ヲ檢分ニ參ッタ者ガ、料理屋デ驛長
ヲ呼デ酒ヲ飮ンデ居シタト云フヤウナ御話
デアリマシタガ、實ハ其報告ハ私ハ受ケテ
居リマセヌノデアリマスガ、斯ノ如キ不心
得ノ者ガ一人デモアリマスコトハ、甚ダ私
トシテ責任ヲ感ジマス次第デアリマス、十
分部下ヲ戒飭致シマシテ、斯ウ云フコトノ
無イヤウニ努メタイト考ヘテ居リマス、色
色御注意ニ與リマシテ、私ト致シマシテハ
寧ロ感謝スルノデアリマスルガ、本日午前
中モ高鳥君カラ、關山デ列車中ニ閉籠メラ
レタノデアルガ、驛長ノ待遇ガ非常ニ良ク
ナカッタト云フヤウナ御話モ承リマシテ、早
速是等ノ事ハ部下ニ傳ヘマシタ次第デアリ
やっ、第四ノ加藤君ノ御質問ニ、北陸ノ此
線路ガ斯ノ如キ雪害ヲ受ケルニ拘ラズ、裏
日本ノ幹線ノ完璧ヲ期スル爲ニ越後鐵道ヲ
買收スルト云フコトヲ私ガ言フガ、然ラバ
此北陸親不知ノ附近ニ於テハ、海底ノ鐵道
ヲ造ル積リデアルカト云フ御話デアリマス
ルガ、只今玆ニ海底ノ鐵道ヲ造ル考ハ持ッ
テ居リマセヌノデアリマス、御話ノ如ク今
囘ノ雪害ハ實ニ稀有ノ雪害デアルノデアリ
マシテ、去ル大正十一年ニ親不知市振間デ
アリマスルカ、此除雪人夫ヲ乘セマシタ列
車ヲ雪崩ノ爲ニ埋メマシテ、百餘名ノ死傷
者ヲ作ッタノデアリマスルガ、此邊ハ相當
ニ設備ヲ致シマシテ、今囘ハ害ヲ受ケテ居ラ
ナイノデアリマス、今囘ノ並木隧道ガ-並
木隧道ト申シマスルカ、此雪除ケヲ非常ニ
丈夫ナモノヲ造リマシタニ拘ラズ、雪害ヲ
受ケマシタ事ハ甚ダ遺憾ニ思フノデアリマ
スルガ、將來ニ於テ此邊ニ於テ相當ノ設備
ヲ致シマシタナラバ-是レ以上ノ雪ニ對
シテハドウカ知リマセヌガ、今囘經驗致シ
マシタ雪ニ對シテ耐ヘル位ノ設備ハ、將來
ニ於テ致シマス考デアリマス、大體御質
問ノ事項ヲ御答致シタト考ヘマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=48
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049・増田義一
○增田義一君 簡單デアリマスカラ、自席
カラ申上ゲマス、只今內務大臣、鐵道大臣
ヨリ懇切ナル御說明ガアッテ、被害ノ程度、
實況等ハ大體分リマシタ、何分消息ガ十分
ナイノデアリマス、新聞モ切レ々々ノ報道
デアッテ、東京ニ居ル吾々ハ非常ニ心配シ
テ居ルノデアリマス、所デ兩大臣ノ御報告
中ニハ、軍隊ガ何等應援シテ居ラヌヤウニ
モ聞エマスガ、新聞デ·ハ高田旅團カラ四百
名位ノ兵士ハ除雪ノ手傳ニ出タト云フヤウ
ナコトモアルノデアリマス、アノ非常ナ危
險ノ場合ニ、軍隊ガ坐視シテ居シテ傍觀ノ態
度デ居ッタノダラウカ、殊ニ高田ト脇野田
ノ間ハ一番鐵道ガ雪ノ爲ニ困シテ居ル、脇野
田ト云フノハ高田市ノ接壤地デ、高田旅團ノ
練習地デ、軍隊ノアル所ニ最モ近イ所デア
ル、軍隊ガ非常ナ好意ヲ以テ出動スレバ、
アノ場合ニ汽車ノ埋沒ヲモット早ク救フコト
ガ出來タヤウニ思ヒマス、果シテ軍隊ハ何
等應援シナカッタフデアルカ、或ハ非常ナ
好意ヲ以テ努力シタノデアルカ、其事實ガ
アリサウナモノヂアルガ、承リタイモノデ
アリマス
〔國務大臣子爵井上匡四郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=49
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050・井上匡四郎
○國務大臣(子爵井上匡四郞君) 鐵道ニ關
係致シマシタ部分ニ於テ、鐵道カラ特ニ軍
隊ノ出動ヲ申出デタコトハナイノデアリマ
スルガ、高田聯隊ガ自發的ニ本月十日午前
一時三十分ヨリ同八時一一十分マデ、兵士百
四名ヲ出動サシテ吳レテ居リマス、又午前
八時二十分カラ午後一時マデ百名ヲ出シ、
又午後一時カラ同十時マデ五十名、又其後
午後十時ヨリ午前二時三十分マデ五十一名
ヲ自發的ニ出動サシテ、鐵道線路ノ除雪ヲ
援助シテ吳レタ事實ハアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=50
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051・増田義一
○曾田義一君 尙ホ內務大臣ニ御伺シマス
ガ、公設建物、則チ學校或ハ學校ノ寄宿舍
或ハ市街地デアッテ、老幼婦女子ノミデ除
雪ノ出來ナイ者ニ對シテ、軍隊ヨリ除雪ノ
應援ニ從事シタ事實アリヤ否ヤ一寸伺ッテ
置キマス
〔國務大臣安達謙藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=51
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052・安達謙藏
○國務大臣(安達謙藏君) 此軍隊ノ應援ノ
コトニ付キマシテハ、縣廳ノ方ノ報告ニハ
何モ申シテ參クチ居リマセヌ、但シ新聞ノ
上ニ於キマシテハ、只今御質問ノヤウナコ
トヲ承知致シテ居リマス、第九師團ノ方ハ
縣廳カラ軍隊トモ連絡ヲ取ッテ、サウシテ
相當ナコトヲスル積リデアル、斯ウ云フコ
トハ申シテ來テ居リマス、其具體的ノコト
ハ申シテ來テ居リマセヌ、左樣御承知ヲ願
ヒマス
〔加藤知正君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=52
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053・加藤知正
○加藤知正君 只今私ノ聞違ヒカモ知レマ
セヌガ、安達內務大臣代理ハ冷靜ニ聽イテ
吳レト云フヤウナ御言葉ガアッタヤウニ考
ヘテ居リマス、如何ニ雪ノ事トハ申シナガ
ラ、餘リニ大臣ハ冷ヤカ過ルト考ヘマス、
只今數字ヲ御列擧ニナリマシタケレドモ、
ソレハエライ舊イ統計ノヤウニ思ハレマ
ス、昨日ノ新聞紙ノ記載ニ依リマスト、十
三日ニ鐵道省ヘノ報告ナリトシテ、積雪ニ
關スル數字ガ載セラレテ居リマスガ、今安
達内務大臣ノ仰シヤッタ積雪量ノ數字トハ
大變ナ違ヒデアル、私ハ時間ヲ省略スル爲
ニ一々之ヲ朗讀シマセヌガ、此數字カラ見
ルト大變ナ相違デアル、之ニ依ルト中々容
易ナラヌ所ノ積雪量デアルノデアル、又只今
安達内務大臣ハ中央氣象臺ノ片々タル一技
師ノ言葉ヲ洵ニ有難ク御信ジニナッテ居ラ
ルヽヤウデアルガ、併シ其技師ハ矢張吾々ト
同樣ナ人間デアル、決シテ三面六臂ノ技師
デハアルマイ、吾々ト同樣ナ人ガ交通不便
ノ際ニ、ドウシテ新潟縣下全體-北陸
地方全體ノ雪ノ深サガ測量シ得ラレタデア
ラウカ、或ハ電話ナリ電信ナリデ、其報告
ヲ取ッテ報告シタモノデアルト仰シヤルカ
モ知レマセヌガ、併ナガラ交通全ク杜絕シ、
電線モ切レ、電話モ利カナイ、左樣ナ狀態
ノ場合ニ於テ、ドウシテ左樣ナ詳細ナル所
ノ報告ガ得ラレタデアラウカ、吾々ノ所ニ
齎ス報告ニ依ルト、米山山麓ノ或ル村落ノ
如キハ三丈八尺モアルト云フコトデアッテ、
實ニ未曾有ノ大雪デアルト云ハネバナラヌ、
又慘死者ノ數或ハ崩壊家屋ノ數モ是レ々々
デアルト仰シヤッタケレドモ、昨日ノ新聞
紙ノ記載ニ依ルト、死者ハ九十一名、倒壞
家屋百二十ト書イテアッテ、大分其數字ガ
違ッテ居ル、高田一市ノミノ倒壞家屋、或
ハ是ガ爲ニ被害ヲ受ケタ所ノ家屋ノ數カラ
想像シテモ、決シテ斯ノ如キ少數ニハ止マ
ラヌト吾々ハ考ヘルノデアリマス、要スル
ニ是ハ雪國ニ住ンダ人デナケレバ其眞相ハ
分ラヌノデアリマス、恐ラク安達內務大臣
代理ハ雪國ニ御生レニナラナカッタデアラ
ウト思フ、デアルカラ左樣ナ一技師ノ報告
ヲ御信ジニナッテ、冷カニ之ヲ御取扱ヒニ
ナルノカモ知レマセヌケレドモ、是ハ罹災
地方ノ人〓ノ爲ニハ迷感千萬ノ話デアリマ
ス、併シソレハツレトシテ私ノ貴方ニ質問
致シマシタノハ、之ヲ特異ノ災害ト御認メ
ニナルカ、普通ノ災害ニ御認ニナルノデア
ルカ、若シ普通ノ災害ト御認ニナルナラバ
已ムヲ得ナイ、是ハ各自ノ見解デアルカラ
已ムヲ得マセヌ、併シ特異ノ災害ト御認ニ
ナリマスナラバ、此度ノ災害ノ爲ニ、例へ
バ地辷リノ如キ斯ウ云フヤウナモノニ對シ
テハ、地方ノ力デハ到底之ヲ防ギ得ヌト思
フノデアリマスルガ故ニ、否ガ應デモ內務
省ノ御力ヲ借ラナケレバナラヌ事ニナルノ
デアリマス、是ガ特異ノ災害ト御認ニナル
ノト、普通ノ災害ト御認ニナルノトデハ罹
災地ノ者ノ受クル取扱ヒニ大變ナ相違ガア
ルノデアリマスカラ、其點ヲ伺ヒタイノデ
アリマス、又鐵道大臣ハ私ノ質問ニ對シマ
シテ、顧ミテ他ヲ仰シヤッテ居ル、一々私
ガ申上グルト時間ガ長クナリマスカラ申シ
マセヌガ、併シ其中只一ツ私ガ申上ゲテ置
カネバナラヌコトハ、過日私設鐵道買收法
案ヲ御提出ニナッタ際ニ、越後鐵道ヲ買收
スル理由ノ一ツトシテ、貴方ハ雪害ヲ御擧
ゲニナッタ、卽チ此鐵道幹線ノ完壁ヲ期ス
ル爲ニハ、ドウシテモ柏崎カラ新潟ニ到ル
所ノ此私設鐵道-越後鐵道ヲバ買收シナ
ケレバ幹線ノ完璧ヲ期スルコトハ出來ナイ
ト仰シヤッタノデアル、然ルニ此鐵道ガ今
囘此大雪ノ爲ニ柏崎、出雲崎間ガ不通ニ
ナッタノデアル、斯樣ナ鐵道ヲ買收シテ、ド
ウシテ幹線ノ完璧ヲ期スルコトガ出來マス
カ(「脫線」ト呼フ者アリ)脫線デハナイ、
若シ鐵道大臣ノ言葉ヲ以テスルナラバ、貴
方ノ言葉ヲ以テスルナラバ、矢張柏崎カ
ラ直江津ヲ經テ、サウシテ富山ニ到ル所ノ
海岸線、之ニモ補助線ヲ設ケナケレバ、所
謂鐵道幹線、ノ完璧ヲ期スルコトハ出來ナイ
デハアリマセヌカ、私ハ貴方ニ海底鐵道ヲ
御設ケニナルダケノ御抱負ガアラウトハ思
ヒマセヌガ、併シ貴方ノ言葉ヲ以テスレ
バ、論理ハ其處ニ行クト思フ、ンコデ若シ
海底鐵道ヲ設ケルダケノ御勇氣ガ無イトス
ルナラバ、斯樣ナ雪害ニ對シテ、今後如何
ニシテ此海岸線ノ完全ヲ期サウトナサルノ
デアルカ、之ヲ御伺致シタイノデアリマ
ス、尙ホ此外ニモ色ミ御尋ネ申上ゲマシタ
ガ、敢テ他ヲ顧ミテ御答ガアリマセヌカラ、
茲ニ追窮ハ致シマセヌガ、此點ニ付テ御明
答アランコトヲ希望致シマス
〔國務大臣安達謙藏君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=53
-
054・安達謙藏
○國務大臣(安達謙藏君) 只今加藤君ハ此
度ノ災害ガ普通ノ災害カ非常ナ災害カト云
フコトデアリマス、近年稀ナル降雪デアリ
マスカラ、普通ノ降雪トハ違ヒマスカラ、
其災害モ普通ノ災害デハナカラウト考ヘマ
ス、併ナガラ其災害ノ程度ハ今現ニ災害ヲ
受ケツヽアル所デアリマシテ、玆デ慌テマ
シテ、此善後策ヲドウスル斯ウスルト云フ
コトヲ申シマスコトハ早計ト考ヘマス、能
ク愼重ニ致シマシテ、其處ガ私ガ先刻冷靜
ニト御願ヒシタ次第デアリマス、今後此善
後策ガ唯地方ノ縣廳ニ留メテ處理シテ宜シ
イモノカ、又ハ內務省ガ更ニ々々ソレニ參
加シテ善後策ヲ講ズルカ、其邊ノ事ハ今後
ノ狀況ヲ審ニ致シタ上ニ考慮ズル積リデア
リマス、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=54
-
055・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ニテ緊急質問、
ヲ-井上鐵道大臣
〔國務大臣子爵井上匡四郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=55
-
056・井上匡四郎
○國務大臣(子爵井上匡四郞君) 柏崎以西
ノ今囘不通ニナッテ居リマス分ニ付キマシ
テ、海底鐵道ヲ造リマス意思ハ持ッテ居リ
マセヌ、唯、雪害ノ最モ著シイ部分ニ付キ
マシテハ、相當ノ設備ヲ致シマスレバ、今
囘ノ雪害ノ程度ニ對シマシテハ、不通トナ
ラザルヲ得ルヤウナ設備ハ出來得ルト考へ
テ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=56
-
057・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ニテ緊急質問ヲ終
リマシタ、日程第十一、北海道農地特別處
理法案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=57
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058・砂田重政
○砂田重政君 本案ノ審議ハ延期セラレ
テ、日程第十二ヲ上セラレンコトヲ望ミマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=58
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059・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ緊急動議ニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=59
-
060・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ延期致シマス、次ハ日程第十二、
政治運動ノ爲金品供與ノ制限ニ關スル法律
案、日程第十三、政治結社加入勸誘方法ノ
制限ニ關スル法律案、日程第十四、議員ノ
職務ニ關スル法律案ヲ一括シテ第一讀會ノ
前會ノ續ヲ開キマス
第十二政治運動ノ爲金品供與ノ制限
ニ關スル法律案(尾崎行雄君提出)
第一讀會(前會ノ續)
第十三政治結社加入勸誘方法ノ制限
ニ關スル法律案(關直彥君提出)
第一讀會(前會ノ續)
第十四議員ノ職務ニ關スル法律案
(增田義一君提出)
第一讀會(前會ノ續)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=60
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061・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第十二ニ對シマ
シテハ、曩ニ原惣兵衛君カラ質疑ガアリマ
シタガ、提出者ニ於テ此際御答辯ガアリマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=61
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062・尾崎行雄
○尾崎行雄君 簡單デアリマスカラ此席カ
ラ····(「登壇」「登壇」ト呼フ者アリ)原君ノ
御質問ハ速記錄デ拜見ヲ致シテ居リマス、第
第二、第三ノ三ツニ分ケテアルヤウデ
アリマスガ、一ツハ刑ノ範圍、總テ此案ハ
先日說明ヲ致シマシタ、大體ノ趣旨ニ依,
テ、林田君其他ニ立案ヲ御賴ミ致シタノデ
アリマスカラ、第二次會ニ起ルベキ質問ニ
對シテハ、實ハ私ヨリカ起案者ノ方ガ明瞭
ニ御答ガ出來ルガ私ヨリ御答スレバ、第一ノ
御質問ニ對シテハ立案者ノ目的ハ(「登
壇」「登壇」ノ聲起リ聽取シ難シ)網羅シテ罰
スル積リデアリマス、若シ其書キ方ガ惡イ
ト仰シヤルナラバ、ソレハ委員會若クハ二
次會デ御修正ヲ希望致シマス、ソレカラ第
二ノ刑法第二十五章ノ例ニ從シテ處斷スル
ト云フ其理由デアリマス、是ハ矢張公務員
ニ準ジテ處斷スルト云フ起案者ノ(「登
壇」「登壇」ノ聲起リ聽取シ難シ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=62
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063・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御靜ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=63
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064・尾崎行雄
○尾崎行雄君(續) 入レタモノデアリマ
ス、法律ニ暗イ私ニ於テハ果シテソレデ正
シク適用ガ出來ルヤ否ヤ、私ニハ呑込マレ
マセヌケレドモ、私ノ希望カラ言ヘバ、矢
張公務員ニ準ジテ處斷スル、ソレガイケナ
イモノナラバ刑法ニ傚フト言ハナイデ、
別ニ明文ヲ揭ゲマシテモ差支ナイト存ジマ
ス、第三ノ官報ニ載セルト云フコトガ無效
ニナリハセヌカ、是ハ無效ニナラヌノデア
リマス、載セヨト規定シテ載セナケレバ罰
スル積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=64
-
065・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 原惣兵衞君
〔原惣兵衛君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=65
-
066・原惣兵衞
○原惣兵衞君 只今尾崎君ノ御答辯ハ小聲
デアリマシテ、ハッキリ聽ヘナカッタノデア
リマスガ、殊ニ御耳ガ御遠イヤウデアリマ
スカラ、何ナラ前ニ寄ッテ聽イテ戴キタイ
ト思フノデアリマス、今私ハ小サイコトハ
申シマセヌガ、起草者ノ林田龜太郞君ガ起
草シタノデアッテ、十分ニ呑込メナイト云
フヤウナ御話ガアッタガ、過日林田君ハ唯。ヱ
簡單ニ私モ賛成者ノ一人ニナッテ居ルカラ、
答辯ヲ致シテモ宜シイノデスト云フ御話デ
アッタノデアリマスガ假令起草者デアルニ
致シマシテモ、大凡立法ヲ爲スト云フ提案
者ハ、大ナル確信ト自信ガナケレバイケナ
イト私ハ思フノデアリマス、先ヅ私ハ細カ
イコトハ申シマセヌ、併ナガラ過日尾崎君
ノ御提案ノ理由ニ依リ速記錄カラ見出シマ
シタナラバ、私ハ先ヅ三ツアルト思ヒマス、
其三ツノ點ニ付キ伺ヒマス、私ハ此政黨自
體ノ問題ニ對スル法律案ハ、眞面目ナル吾
吾立法府ニ於ケル議員ト致シマシテ、果シ
テ法規ノ制定ヲ爲ス所ノ理由アリヤ否ヤ、此
根本問題、私ハドウシテモ法律ノ制定ガ困
難デアルト云フコトヲ感ジタノデアリマ
ス隨テ私ハ此三ツノ尾崎君自身ノ御演說
中ノ理由ヲ拜借シテ、私ハ法規ノ體裁ヲ爲
スコトガ、尾崎君ノ御說明通リデアッタナ
ラバ、出來ナイト思フコトヲ根本問題トシ
テ、御尋致シテ見タイト思フノデアリマス、
凡ソ法律ハ吾々眞面目ニ考ヘテ見マスナラ
バ、如何ニシテ此法律ヲ制定スルカ、殊ニ
罰則規定ニ至リマシテハ、必ズ母法ガナケ
レバナラナイト思フノデアリマス、例ヘバ
暴力取締法案ヲ上程スル以上ハ、其根本ノ
暴行罪デハイケナイ、多衆聚合シテ此多衆ノ
結團ノ力デ暴行ヲ爲スト云フコトヲ、特ニ
之ヲ取締ルノダト云フヤウナ場合、所謂刑
法ニチヤント暴行罪ノ規定ガアッテ、ソレ
ニ根據ヲシテ、尙ホ多衆集團ノ暴行ハ、モ
ウ一層强ク取締ルノデアルト云フ法律、他
ノ罰則規定ノ根本法ト離ルベカラザル所ノ
關係ヲ持ヲテ居ナケレバナラナイト思フノ
デアリマス、殊ニ普通政治的犯罪ニ付テハ今
言ウタ選擧法ト云フモノガアル、ソレ以外
ノモノハ過日モ申シマシタ公務員ノ規定デ
罰スル規定ガアルノデアリマスカラ、選擧
法ノ罰則規定ト云フモノニ離レテ、オヤリ
ニナルト云フノハ如何ナル憲法、竝ニ附
屬ノ刑法ノ如何ナル範圍ニ根據ヲ爲シテ、
此法律ヲ制定セラルヽ意思デアルカ、如何
ナル關係ヲ持シテ居ルカ、若モ尾崎君カラ
言ハレタナラバ、從來ノ刑法罰則規定、凡
ソ國アレバ必ズ法アリ、必ズ罰スルト云フ
刑法ノ所謂根本ノ母法ト離レテ、單獨的規
定ヲ爲スモノデアルト云フ仰セナラバ、然
ラバ先ヅ之ヲ是認致スト云フ假定ノ下ニ、
次ニ進ンデ見タイノデアリマス、刑法ニ關
係無シニ一ツノ政黨、之ヲ基礎ニ金ヲ與ヘ
ル者ヲ罰スルト云フ單行法規ガ出來上ルモ
ノデアルト假定シテ、私ハ自ラ御述べニナ
ラレタ所ノ提案ノ趣旨ニ付テ御說明ヲ聽キ
タイノデアリマスガ、此第一點ニ斯ウ云コフ
トヲ御述ニナッテ居ラレル、凡ソ政黨ハ最
モ公ノ團體デアル、公明正大デナケレバナ
ラヌ所ノ政黨、立法行政ノ根本ヲ爲ス所ノ
政黨ガ何故其收支計算ヲ祕密ニ致シテ置ク
カ、公ノ團體タルモノハ收支計算ヲ公ニシ
ナケレバナラヌ、例ヘバ下ッテ府縣ノ如キ、
或ハ市町村ノ如キ、何レノ團體デモ公ノ性
質ヲ持シテ居ルモノハ、必ズ收支計算ヲ祕
密ニシテハ居ナイノデアル、又銀行會社ノ
如キ營利會社ニ於テモ、必ズ收支計算ハ明
ニシテ居ルノデアル、斯樣ナ仰セデアルノ
デアリマス、尙ホ進ンデ斯ウ言ッテ居ラレ
ル、内閣ハ政黨ニ依シテ組織スル立法行政
諸般ノ源デアル、斯樣ニ政黨ハ立派ニ公ノ
モノデアルニ拘ラズ、收支計算ヲ爲サナイ
ト仰セニナッテ居ル、成程立憲政治ニ政黨
ト云フモノハ事實上存在ヲ致シマス、併シ
ナガラ是ハ法律上公ノモノデハナイノデア
リマス、吾々現實ニ政黨ヲ組織シテ此所ニ
アリマスノハ事實デアリマスガ、一箇ノ法
律問題トシテ此政黨ガ公ノモノデアルト云
フコトハ如何ナル根據ニ依ッテ仰セニナル
カ、此單純ナ事實ヲ捉ヘテ-營利會社
ニシテモト仰セニナルガ、營利會社ハ一ツ
ノ株式組織、我ガ法律ニ於テー商法ノ規
定ニ於テ公ノ法律ニ基ク團體デアルノデア
リマス、市町村ニシテモ府縣會ニシテモ、
我ガ行政法規上チヤント存在スル所ノ一ツ
ノ公ノ機關デアル、吾々政黨ハ公ノ事實ナ
リト云フコトハ實際ニハ認メルケレドモ、
法律上何等根據ナク、左樣ナ公ノ團體ハ私
ハ法律上認メタモノデハナイノデアリマス
カラ、此事實ヲ捉マヘテ公ノ團體ナルガ故
ニ此基礎ニ向ッテ法律的制栽ヲ加ヘルノデ
アルト仰セニナッテモ、私ハ法律上ノ問題
ノ公ト仰セニナルノカ、或ハ事實上ノ公デ
アルガ故ニ、事實上存在スル政黨ト云フモ
ノニ科スルノデアルト云フコトハ、凡ソ法
規ヲ制定スル時ニハ、法律的根據ガナケレ
バ、公ノ團體ト云フモノハ、吾々認メルコ
トハ出來ヌト思フノデアリマス、卽チ尾崎
君ハ恐ラク單純ナル法律ヲ一般ノ現在ノ日
本國家ノ行政カラ、政黨アリ、此事實アリ、
隨テ之ヲ公ノモノナリト仰セニナルカモ知
ラヌケレドモ、法律的見地カラ言ッテ、私
ハ是ハ公ノモノデハナイ、個人々々ノ關係
デアッテ、何等法規ニ根據スルコトノ出來
得ナイ斯樣ナ團體ヲ捉ヘテ、之ヲ公ノモノ
ナリト云フ斷定ハ、此假定ニ基イテ政黨ニ
金日ヲ供與スルモノニ付テハ、之ヲ罰スル
ノダト仰セニナルコトハ、恐ラクハ尾崎君ハ
法律ニハ御慣レニナッテ居ナイモノト見へ
テ、法律ト實際問題ヲ混同セラレテ居ルノ
デアリマスカラ、此罰スベキ根據ノ主體ノ
無イ所ノモノニ向ッテ、如何ニ犯罰主體ト
シテ之ヲ認メヤウトシテモ、私ハ法律ノ根
本法制ヲ缺クモノデハナイカト思ッテ居ル
者デアリマス、次ニ私ハ、現在ハ人ガ惡イ
ノデハナイ、其組織ガ惡イノデアル、政黨
ガ惡イノデハナイ、政黨ヲシテ祕密ニ金錢
ヲ受ケル、秘密ニ之ヲ使ハシメルト云フ現
在ノ制度ト云フモノガ惡イノデアル、斯樣
ニ御述ニナッテ居リマスガ、吾々ハ從來日
本語デ制度デアルトカ、社會組織ガ惡イノ
デアルト云フコトハ、私ハ現在ノ日本ノ國
家ノ組織ノ上カラ云フナラバ、少クトモ資
本制度ニ對スル所ノ此私有財產制度ヲ撤廢
シテノ社會制度ニ改善ヲシナケレバナラナ
イ、卽チ社會主義若クハ「コンミユニズム」
ニ變へナケレバナラナイト云フ意味カラ、
吾々ハ社會組織ガ惡イト云フコトヲ聞イテ
居リマシタガ、社會組織ガ惡イト云フ立法
理由ハ、此社會組織ト云フ御言葉ハ如何ナ
ル意味ニ於テ仰セニナッテ居ルノカ、是ガ
此提案ノ、此根本ノ一ツノ御理由ニナッテ
居ルヤウデアリマスカラ、其點ヲ第二ニ御
伺シタイノデアリマス、最後ニ政黨ノ性質
卽チ國家人民ノ爲ニ働クト云フ本來ノ性質
カラ照シテ、此金ハ世間全體一般ノ公衆ノ
零細ノ小財ヲ寄附シテ維持スルト云フノ
ガ本來ノ性質デアリマス、一般公衆ノ爲
ニ働クモノハ一般公衆力ラ小財ヲ集メテ、
ソレデ維持シテ居ルノデアリマス、歐米
諸國ニ於テソレデ維持シテ居ル政黨ハア
ル、又歐米諸國バカリデハナイ、斯ウ云
フコトヲ御述ニナッテ其次ニ「是ハ一般公
衆カラ小財ヲ集メル、五十錢一圓ノ零細
ノ金ヲ集メテ黨費ヲ支辨スルヨリ外ニ立
場ハアリマセヌ」ト斯樣ニ仰セニナッテ
居リマス、私ハ大體此政黨ノ金ヲ政黨ト云
フモノガ受ケルノガイケヌト云フ貴方ノ御
趣旨デアッタナラバ、絕對ニ政黨ノ金ハ左
樣ナル一般國民公衆カラ受ケルモノデナイ
ト云フ前提ニ御立チニナルナラバ、理論ハ
明カデアリマスケレドモ、尾崎君自身ハ澤
山ノ金ハイケナイガ、少數一般國民公衆カ
ラ集メル金ハ差支ナイノダト云ッテ、政黨
ガ金ヲ集メルコトハ御認ニナッテ居リマス、
果シテ然ラバ、吾々此少數小財ノ金ハ、可
ナリ、一圓ハ小財デアリマセウ、或ハ十圓
モ小財デアリマセウ、百圓ニ比例シテ見タ
ナラバ、若クハ政黨ガ何十万圓ノ大資本家
カラ何十万圓ノ金ヲ取ッタナラバ、百圓二
百圓モ亦小財デアルト謂ハナケレバナラナ
ィ、果シテ小財ヲ集メルコトハ御認ニナッ
テ居ルガ、其小財ノ程度ト云フモノハ如何
ナル範圍デアルカト云フコトハ私ハ明カデ
ナイ、尙ホ進ンデ言フナラバ、公衆ト仰セ
ニナルガ、今ノ財閥ノ存在スルト云フコト
ハ、貴方ノ仰セノ如クニ、吾々現在ノ資本
制度カラ見テ、私有財產制度カラ見テ、金
ヲ持クテ居ル其連中カラ取ルト云フコトハ
イケナイト仰セニナルケレドモ、左様ナル
財閥ト云フモノハ、一ツノ裏面ニ於ケル所
ノ背景デアッテ、矢張是カラ受ケル金モ
般公衆デアラネバナラヌト私ハ思フノデア
リマス、果シテ一圓十圓ノ金可ナリ、百圓ハ
イケヌト云フ其程度ガ明ニナラヌノミナラ
1、是亦現在少數ノ財閥モ國民一般公衆ナ
レバ、勞働者ノ五十錢ノ金モ如何ニモ一般
公衆デアルトシタ時ニ於テ、左樣ナ背景ニ
在ル財閥關係デアルト云フ程度ガ如何ニシ
テ區別ガ立ツカ、所謂一般公衆カラ政黨ハ
金ヲ受ケルト云フコトヲ御認ニナッテ其公
衆ノ範圍ト云フコトガ明確デナイ、私ハ此
意味カラ見テ、全ク人間生活ノ内面的ノ方
面ヲ御探リニナッテ、之ヲ公ノ法律ニ依ッテ
制定シヤウト云フコトハ-今言ウタ政黨
ト云フモノハ單ナル事實デアル、私ハ何等
法規ニ基ク所ノ公ノ團體ニアラズ、隨テ斯
樣ナルモノヲ捉ヘテ公ノモノナリト御假定
ニナッテ、之ヲ犯罪ノ主體トシテ罰シヤウ
ト云フコトガ相分ラナイト云フ事ト、今言
ウタ少數小財ノ金ハ、御集メニナッテ可ナ
リト云フガ、此少數小財ノ金ト云ヒ、反面
ニ於ケル財閥關係ト云フモノヲ云々シテ、
同ジク寄附ヲ受ケナガラ、オ前ハ財閥ナル
ガ故ニ此金ハイケナイノダト云フ程度ハ、
何處デ法律的ニ決メラレルカ、十圓ノ金ヲ
貰シタノト財閥カラ百圓ノ金ヲ取ッタノト、
サウ云フヤウナコトハ取タ金ハ法律上ノ
見地カラ云ウタラ同等デアラネバナラヌ、
此時ニ於テ是ハ一般公衆デアリ、是カラ取ッ
タ金ハ一般公衆デナクテ少數財閥ナリト云
フヤウナ區別ハ、斷ジテ私ハ付ケルコトハ
困難デアルト思フノデアリマス、隨テ尾崎
君ハ恐ラク社會問題或ハ現實ノ事實問題、
之ニ伴フ法律問題、有ユルモノガ滅茶苦茶
ニ混ガラガッテ、斯樣ナル御提案ヲナサッタ
モノト考ヘルノデアリマス、之ニ付テ此二
ツノ點ヲ明確ニ御答辯ニナラナケレバ、所
謂本案制定ノ根本趣旨ハ分ラナイノデアリ
マスカラ、此二ツノ點ニ付テ御各辯ヲ願ヒ
タイト思フノデアリマス(拍手)
〔「登壇」「登壇」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=66
-
067・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 登壇ヲ望ミマス
〔尾崎行雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=67
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068・尾崎行雄
○尾崎行雄君 御答ヲ致シマスガ、議長ガ
御許ニナルカナラヌカヲ疑フノデアリマ
ス、私ハ大體ニ御質問ト云フヨリカ、私ノ
演說ニ對スル御議論ト承ッタ、若シ御質問
ト云フ言葉ニ對シテ十分御議論ヲスルコト
ヲ御許ニナルナラバ、私ハ結構ノ至リデア
リマスカラ、三十分カ一時間御許ヲ得テ、
玆ニ御質問ニ對シテ御答ヲ致シマス、御質問
デハナイ御議論ニ對シテ-併ナガラソレ
ハ議事規則ニ牴觸シタルコトデアリマスル
カラ、御議論ノ中無理ニ質問ト爲シ得ベキ
ダケヲ御答致シマス、議論ハ致シマスマイ
私ハスルコトハ便利デアリマス、原君ヲ相
手トシテスルコトハ甚ダ名譽トスル所デア
リマス、第一ニ法律上政黨ハ
〔發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=68
-
069・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=69
-
070・尾崎行雄
○尾崎行雄君(續) 法律上ノ團體デナイカ
ラ法律ヲ以テ制裁ヲ與ヘルコトガドウト
カ、斯ウトカ云フコトデアリマシタガ、私
ハ政黨ハ法律上公ノ〓體ト見テ居ルノデア
リマス、ソレヲ御覽ニナラヌト云フナラバ
是ハ御議論デアル、治安警察法ニ依ヶテ屆
出ヲシナケレバナラヌ所ノ法律上ノ團體デ
アル、他ノ會社ト其他ト少シモ違ヒガアリ
マセヌカラ、是ハ私ノモノデナイガ故ニ、法
律上ノ制裁ガ當然及ブベキモノト考ヘテ居
ルノデアリマス、ソレカラ上ハ議論デアリ
マス、ソレカラ第二ニ組織ガ惡イト言ッタ
ノハ、是ハ私ノ演說ヲ御聽違ヒニナッタコ
トヽ思ヒマス、初メ確カ政黨ト云フ言葉ヲ
用ヒタノデアッテ、政黨其モノガ惡イノデ
ハナイ、政黨ニ關スル制度、卽チ法律關係
ガ惡イカラ、其結果トシテ資金ヲ祕密ニ受
取ッテ、祕密ニ使フコトヲ許シテ居ル、是
ガ惡イノデアルト斯ウ申シタノデアリマ
ス、政黨ハ惡イ所デハナイ、出來ルダケ善
クスルガ爲ニ私ハ一生ヲ抛ッテ居ル者デア
リマスカラ、社會主義ガドウトカ何トカ云
フモノト竝ベテ御話ニナルト云フコトハ、
全ク私ノ演說ヲ御聽違ヒカ、御讀違ヒニナッ
タコトヽ思ヒマス、公ニスルト云フコトノ
組織ニサヘスレバ、今日ノ制度ニ伴ッテ起
ル所ノ弊害ノ大部分ハ、ソレデ直ルト、私
ハ見テ居ルノデアリマス、若シ直ラヌト御
覽ニナルナラバ、是ハ議論デアッテ質問デ
ハナイ、第三ニ公衆カラ受ケル金、或ハ
私ノ金ヲドウトカ云フコト、是モ大體ハ御
議論ト承リマシタガ、私ノ意味ハ貴方ノ御
話ニナル意味デハナイノデアリマス、零細
ト云フ言葉ハ使ヒマシタケレドモ、廣ク百
万千万人ノ人カラ募ル時ニハドウシテモ零
細ニナルノデアル、國民ノ大部分ハ何百万
圓何億万圓ト云フ金ヲ持テ居ラヌ人デア
リマスカラ、廣ク世間カラ募ル時ニハドウ
シテモ貧乏人ヲ相手ニシナケレバナラヌ、
隨テ入ル所ノ金ハ自然零細ニナルノデアリ
マッ、併ナガラソレガ零細ニナラヌデ一億
圓ノ小財、何ノ求ムル所ナク一億圓ノ小財
ヲ投ズル者ガアルナラバ、是ハ受ケテ一向
差支ナイノデアリマス、唯、御用商人、爲
ニスル所アッテ之ヲドウスレバドレダケノ
請負ヲ取ルコトガ出來ル、之ヲ出セバソレ
ダケノ特許ヲ得ラレルト云フヤウナ、法案
ニ於テ數ヘ舉ゲラレタル特別ノ利益ヲ、政
府ニ對シ若クハ立法府ニ對シテ求ムル所ノ
人カラ取ルノガ惡イト一云フコトデアッテ、金
額ノ多少デハゴザリマセヌ(拍手)若シ三菱
ガ何ノ求ムル所ナタシテ一億圓ノ金ヲ出ス
ナラバ、是ハ默シテ御取ニナッテ天下ニ公表
シテ、三菱某ガ一億圓ノ金ヲ出シタ、此通
リ使フト御公表ニナッテ一向差支ナイノデ
アリマス、ソレト同時ニ三井ガ僅カ百圓ノ
金ヲ出シテ、之ヲヤルカラ此請負ヲサセテ
呉レト云フ風ニ言ッタナラバ、此百圓ガ矢
張リ有罪ニ扱ヒタイト云フノデアリマスカ
ラ、其點ハ先日ノ演說ニ於キマシテ明瞭ニ
申シタ積リデアリマスケレドモ、不幸ニシ
テ御聽違ヒニナッタコトハ私ノ責デアリマ
ス、ドウゾ尙ホ一度速記錄ヲ御讀ミヲ願ヒ
タイ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=70
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071・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 原惣兵衞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=71
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072・原惣兵衞
○原惣兵衞君 此處デ御許ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=72
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073・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=73
-
074・原惣兵衞
○原惣兵衞君 只今尾崎君ノ御答辯ニ依リ
マスト「政黨ハ公ノモノナリト私ハ考ヘマ
ス」斯樣ニ仰セニナリマスルガ、法律ニ依ッ
テ居ルモノダト云フ所ノ仰セニ依ッテ、何等
ソレ以外ノコトヲ御而ニナッテ居ナイノデ
アリマス、併ナガラ細イコトハ申シマセヌ
ガ、法律上ノ問題デアリマスカラ、小財ガ
ドウデアルト云フ區別ノ見地ヨリ御尋シタ
ノデアリマス、或ハ政黨自身ガ公ノモノデ
アルヤ否ヤ、法律上ノ見地カラノ根據トハ申シ
マセヌガ、此御答辯ガナイノデアリマスカ
ラ、私ハ到底滿足ノ答辯ヲ得ラレナイモノ
トシテ、委員會ニ於テ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=74
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075・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田重政君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=75
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076・砂田重政
○砂田重政君 日程第十二、十三、十四、
ノ三案ハ一括シテ、林田龜太郞君外一名提
出、衆議院議員選擧法中改正法律案外一件
ノ委員ニ併セ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=76
-
077・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ委員付託ニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=77
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078・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=78
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079・砂田重政
○砂田重政君 此際議事日程變更ノ動議ヲ
提出シマス、卽チ黑住成章君提出ノ恩赦令
ニ關スル緊急質問、及三善〓之君提出ノ米
國提議ノ第二軍端縮小ニ關スル緊急質問ノ
二件ヲ逐次議題ト爲シ、其審議ヲ進メラレ
ンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=79
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080・粕谷義三
○議長(粕各義三君) 砂田君ノ動議ニハ成
規ノ賛成ガアルト認メマス、此動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=80
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081・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラシマシタ、順次提
出者ノ趣旨辯明ヲ許シマス-恩赦令ニ關
スル緊急質問、黑住成章君
恩赦令ニ關スル緊急質問(黑住成章君
提出)
〔黑住成章君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=81
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082・黒住成章
○黑住成章君 私ハ恩赦ノ奏請ニ關シマシ
テ、總理大臣及以下論ジマスル關係所管ノ
國務大臣ニ對シ、一二ノ質疑ヲ試ミタイト
存ジマス、勿論大權私議ヲ致ス者デハゴザ
イマセヌ、責任內閣制ノ下ニ於ケル國務大臣
ニ對シマシテ、其輔弼ノ責任ニ關シ御尋ヲ
致スノデアリマスカラ、以下言葉ノ不足ガ
ゴザイマシテモ、此趣意ニ御聽取リヲ願ヒ
タイノデゴザイマス、諸君、先帝遽ニ御登
遐遊バシマシテ、萬民擧ゲテ痛哭措ク能ハ
ザル所デゴザイマス、去ル二月七日大正天
皇大喪ノ御儀ヲ行ハセラルニ當リ、廣ク
有辜ヲ矜ミ給ヒ、畏レ多クモ恩赦ノ大詔ヲ
渙發セラレマシテ、新帝ノ御聖意遠近ニ洽
クセラレマシタルコトハ洵ニ恐懼感激ノ至
リニ堪ヘマセヌ、而シテ此度ノ恩赦ノ範圍
ハ大赦、減刑、復權ニ及ビ、其範圍極メテ
廣ク、殊ニ衆議院議員選擧法違反ノ罪及選
擧ニ關シ、其罰則ヲ準用スル各般ノ法令違
反ノ罪、是等ヲモ赦免セラレタノデゴザイ
ママ、又其資格ヲ回復セシメ給ヒマシタル
コトハ、普選ニ直面シタル今日、大御心ヲ拜
察シ奉リマシテ、聖恩ノ優渥ナル唯、感泣
ニ堪ヘザル次第デゴザイマス、又恩赦中官
吏及官吏待遇者竝ニ陸海軍懲罰令、其適用
ヲ受クル者ニ對シテハ、懲戒又ハ懲罰處分
ヲ免除セラレタルノミナラズ、未ダ處分ヲ
受ケザル繋屬中ノ
〔粕谷議長議長席ヲ退キ小泉副議長代
リ著席〕
者ニ對シマシテモ懲罰又ハ懲戒ヲ行ハザル
旨ノ有難キ恩救ニ相成っテ居リマス、尙ホ宮
內職員ノ懲罰免除ト云ヒ、又出納官吏ノ辨
償責任ノ免除上云ヒ、苟モ漏サズ、如何ニ
聖恩ノ無窮、御仁德ノ洽キカヲ拜察致スニ
難カラヌノデアリ。マス、而シテ今囘ノ此恩
赦ニ浴シタル者其數無數、復權者ダケデモ
優ニ二十万人ヲ超ユル下云フコトデゴザイ
マス、然ルニ甚ダ私ノ了解致シ兼ネマスモ
ノハ等シク公務ニ從事シ、其任務ニ於テ
官吏ニ比シ輕重ノ無イ公吏、此公吏ガ宏大
ナル聖恩ノ惠澤ニ浴シテ居ラヌノハ、如何
ナル理由デ御奏請ニナラヌノデゴザイマス
ルカ、又司法ノ三機關ノ一ト致シテ常ニ法
務ニ貢獻シ、司法ノ運用ト向上發展ニ竭シ
テ居リマスル所フ辯護士ハ如何、又任免ニ
依シテ進退ヲ致シマスル公證人、言フマデ
モナク公職デゴザイマシテ、契約ノ成立、
效力ヲ確證スル公ノ機關デゴザイマス、是
ハ如何ナル理由デ漏レテ居ルノデゴザイマ
スカ、等シク司法系統デアッテ執行機關デ
アル所ノ執達吏、卽チ是ハ官吏待遇トシテ
恩赦ガ及ンデ居ルメデゴザイマスルガ、公
證人ニ對シ是ト其選ヲ異ニセラレタル理由
如何、尙又產業、貿易ニ極メテ重要ナル海
運ノ任務ニ從事致シテ居リマス所ノ高等海
員、此高等海員ニ對シテハ之ヲ遇スル法令
常ニ峻嚴デゴザイマス、之ニ對シテモ尙ホ
及ンデ居リマセヌノハ如何ナル理由デアル
カ、是等ハ〓ネ職務上ノ懈怠、過失ヨリ招
キタル所ノ懲戒、懲罰デゴザイマシテ、是
等ニ對シ恩赦奏請ヲ爲サラヌノハ、恩赦令
ノ御詔勅ニ鑑ミ、御聖旨ニ背キ奉ル虞ハナ
イカト、先ヅ此點ニ付キマシテ、總理大臣
及各關係國務大臣ヨリ、各、是等ニ關シテ
奏請ヲセラレザリシ理由ヲ伺ヒタイト存ジ
マス
〔國務大臣若槻禮大郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=82
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083・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郎君) 此度恩赦ノ御
沙汰ガアリマシタニ付テ、是ガ奏請ヲ致シ
タ其中ニ、只今御舉ゲニナッタ公吏、辯護
士公證人或ハ航海ニ從事スル人等ノ事柄
ガ、奏請ヲ致シテ居ラナイヤウデアルガ、
ソレハドウ云フモノデアルカト云フ御質問
デアリマス、恩赦及懲戒ノ免除ハ、國家ノ大
事ニ際シマシテ是迄モ數回行ハセラレタル
モノデアリマシテ、之ヲ奏請スルニ付テ其
範圍ヲ何處マデニ及ポシテ行クノガ然ルベ
キカト云フコトハ、頗ル愼重ニ考慮スベキ
問題デアリマス、而シテ他ニ重大ナル事態
ノ變動ガアリマセヌ限リハ成ベク先例ニ
傚ヒマスコトガ最モ妥當デアルト認メタノ
デアリマス、只今黑住君ノ御舉ゲニナリマ
シタ資格ノ上カラ申上ゲルト、私モ其資格
上ニ付テハ、サウ權衡ヲ失ッテ居ルモノデ
アルトモ認メマセヌケレドモ、是迄ノ先
例ニ於テハ、ソコマデニ至ラナカッテ居ル
ノガ常ニ行ハセラレテ居ル所デアリマス、
今囘モ成ベク他ニ事情ガナイ限リハ、先例
ニ從フノガ相當デアラウト存ジマシテ、今
囘御發令ニナリマシタヤウナ、範圍ニ於テ、
奏請ヲ致シタ次第デゴザイマス、此段御答
辯ヲ申上ゲマス(拍手)
〔黑住成章君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=83
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084・黒住成章
○黑住成章君 只今總理大臣ヨリ簡單ナル
御答辯ガゴザイマシタガ、私ノ伺ヒマスル
問旨ニハ一向ニ副ハナイノデアリマス、尤
モ御答辯ノ中ニ、如何ニモ私ノ數ヘタ公吏
等ガ、只今恩赦ニ浴シテ居リマスル官吏又
ハ官吏待遇者ト稍〓似テ居ルモノデアルカ
ラ、之ニ吾々ハ區別ヲ認メル程ニモ考ヘヌ
ト云フヤウナ御趣意ノ御話ガゴザイマシタ
ガ、御賛成ノヤウナ、又サウデナイヤウナ、
甚ダ其意ヲ解スルニ苦ムノデゴザイマス、
又曰ク、以前ニ行ハレマシタル恩赦ノ例ニ
傚ヒ、而シテ更ニ擴張ヲ致サヌ方針デ奏請
シタ、斯ウ云フ趣旨ノ御答辯デゴザイマス
ガ、此度ハ未ダ會テ恩赦ニ浴シタコトノナ
イ選擧違反ノ罪、卽チ衆議院議員選舉法違
反ヲ初メ、此罰則ヲ準用スル所ノ各選擧法
違反ノ犯罪ニモ及ンデ居ルノデゴザイマス、
蓋シ是等ノ犯罪ヲ奏請ナサレタノハ、時代
民心ノ推移ト、又御踐祚直後ニ御渙發ニナ
リマシタル御詔勅ノ趣旨ヲ、總理大臣ハ能
ク拜察セラレテ此處ニ出デラレタモノト考
ヘルノデアリマス、何モ舊例ニ則リ更ニ擴
張スルト云フコトヲ欲セヌト云フ御答辯ハ、
理由ニハナラヌト考ヘルノデアリマス、左
樣ナコトヨリ私ハ先ヴ總理大臣竝ニ各大臣
ノ官公吏ノ取扱ヲ異ニスル思想ヲ伺ヒタイ
ノデアル、言スマデモナク政治ニ、經濟ニ、
眞ニ國礎ヲ鞏固ニ致シマスルノニハ、地方
自治ヲシテ隣佑團結ノ實ヲ擧ゲシメ、サウ
シテ社會上、經濟上ノ協同力ヲ完全ニスル
ト云フコトガ第一義デアルコトハ言フマデ
モナイノデアリマス、地方ヲ離レテ國家ハ
ナイ、地方自治ヲ無視シテ國運ノ興隆ハ私
ハ望マレヌト思フ、政府モ亦諸多ノ施設ニ
於テ、卽チ自治ヲ尊重ナサルト云フコトハ、
常ニ兩院ニ於テ總理大臣以下內務大臣ノ
御求ニナッテ居ル所デアル、地方自治ノ中
心デアッテ、サウシテ之ヲ指導シ、執行スベ
ク其行政機能ヲ掌ッテ居リマスル公吏ノ任
重キコト、私ハ官吏又ハ官吏待遇者ニ比シ
優ルトモ決シテ劣ルモノデハナイト考ヘル
ノデアリマス、殊ニ近年中央集權ノ宿弊ヲ
救フガ爲ニ、政治ニ、財政ニ、又產業ニ、
漸ク官治ヨリ自治ニ、中央ヨリ地方へ、所
謂分權推移ノ跡ガ歷々トシテ見ヱルノミナ
ラズ、又是ハ朝野擧ゲテ熱望致スル所デア
リマス、故ニ今日ニ於キマシテハ公吏ノ任
重ク、且ツ公吏ニ期待スル所ハ益〓大ナリ
ト言ハザルヲ得ナイ、然ルニ恩赦ニ際シテ
公吏ノ懲戒、懲罰、赦免ノ奏請ヲ爲サラヌ
ト云フコトハ獨リ此等罪ニ泣ク公吏ニ於
テ心平カナラザル者アルコトハ言フマデモ
ナク、自治體ノ大動脈タル全國數十万ノ公
吏ノ思想上ニ及ボス重大問題デアルト考へ
ルノデアリマス(拍手)此意味ニ於テ如上公
吏以下ノ恩赦不奏請ノ問題ハ極メテ重大デ
アリマス、卽チ聖旨ニ背キ奉ラヌカト質ス
ノデゴザイマス、今一度公吏等ニ對スル總
理大臣ノ不奏請ノ責任感ヲ伺ヒタイト思ヒ
マス、併セテ内務大臣ノ御答辯ヲ伺ヒマス
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=84
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085・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郎君) 只今黑住君ヨ
リ地方自治團體ノ事務ニ從事シテ居ル者ノ、
其職務ノ重要ナコトニ付テ御述ニナリマシ
タ是ハ私全然御同感デアリマス、自治行
政ガ大ニ擧ルト云フコトハ國家ノ爲ニ大切
デアルコトハ固ヨリデアリマス、又是ガ事
務ニ從事シテ居リマス公吏ノ公共的努力
ト云フモノニ向ッテハ、私ハ黑住君ト御同様
ニ深ク謝意ト敬意ヲ持,テ居ル者デアリマ
シテ、其點ニ付テハ決シテ異シテ居ナイノ
デアリマス、ソレナラバ今囘ノ恩赦ヲソコニ
及ボスノガ當然デアラウト云フ御意見ノヤ
ウデアリマス、或ハサウ云フノモ相當ナ御
意見デアラウト思ヒマスガ、前申上ゲタ通
リ今囘ハ-今囘ニ限リマセズ、是迄ノ恩
赦ニ於テハ大體先例ヲ追ウテ居ラセラレル
ノデアリマス、此度モ矢張大體先例ニ依ル
ト云フノデ、奏請ハ前ニ申上ゲタ範圍ニ止
メタノデアリマス、是故ニ公吏其他御指摘
ニナリマシタ職務ニ當,テ居ル人達ニ對シ
テ、決シテ同情又ハ敬意ヲ缺クト云フ所以
デアリマセヌ、政府ノ趣旨ハ唯ト大體ニ於テ
大ナル變化ガナイ限リハ、先例ニ從シテ奏
請シタラ宜シカラウトー云フダケノ意味ニ止ッ
テ居ルノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=85
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086・黒住成章
○黑住成章君 簡單デアリマスカラ此席ヨ
リ-私ガ再度質問致シマシタ趣旨ニ御答
ガナイ、卽チ前例ニ依シテ新ニ擴張致サヌ
ト云フ御答辯デアリマスガ、選擧違犯ノ罪
ヲ擴張サレ、而シテ此聖恩ニ浴スベキ者ガ
非常ナ數デアルガ、是ハドウカト云フコト
ヲ伺ッタノデアリマス、是ノ御答辯ヲ今一應
伺ヒマス、尙ホ司法大臣ノ辯護士ニ對スル
御意見ヲ伺ヒタイノデアリマス
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=86
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087・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 如何ニモ此度
ハ選擧法違反ノ者ニ大赦令ヲ及ボサルヽコ
トニナリマシタ、左様ニ奏請ヲ致シマシタ、
是ハ私只今申上ゲル事柄ニ大ナル變動ノナ
イ限リハ先例ニ依ルト申シマシタガ、今回
ノ選擧法ノ改正ハ大體選擧權、被選擧權ニ
於テモ從來トハ大變ヲ變化デアリマス故
ニ、取締ノ規定ノ上ニ於テ餘程變ッタノデ
アリマス、此大ナル變化ノアッタ場合ニ、選
擧違反ノ者ダケハ恩赦ノ特典ヲ蒙ラシメテ、
新シイ選擧ニ於テハ總テ法律ニ規定セラレ
タル資格ノアル者ニハ、成ベク選擧權ヲ行
ハセタイト云フ趣旨ヲ含ンデ奏請ヲ致シマ
シタ、是ハ如何サマ先例ニハ依シテ居リマ
セヌガ、是ハ事柄ガ大變-此際ハ大ナル
變動ヲ來スヤウニ相成ッテ居ルト考ヘマシ
タ故ニ、左樣ナ奏請ヲ致シタノデアリマス、
左樣御承知ヲ願ヒマス(拍手)
〔國務大臣江木翼君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=87
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088・江木翼
○國務大臣(江木翼君) 御答ヲ致シマス、
公證人竝ニ辯護士等ニ付キマシテハ、總理
大臣ガ總括的ニ御答辯ニ相成リマシタ通リ
デ、私モ一向意見ガ違ハナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=88
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089・黒住成章
○黑住成章君 モウ質問ハ致シマセヌガ少
シモ滿足シタル御答辯ヲ得マセヌノヲ甚ダ
遺憾ニ存ジマズ、若槻總理ハ如何ニモ官吏
ノ御出身デ在ラセラレルノデ、官吏ニ對シ
テハ中〓能ク御屆キニナリマスガ、只今申
上ゲマスルヤウナ、非常ナ數ノ罪ニ泣イテ
居リマス公吏ニ對シテハ甚ダ冷淡デアリマ
ス、併ナガラ總理ハ一方ニ於テ政黨ノ總裁
デ在ラセラルヽノデアリマスカラ、今後ニ
於テ特ニ御留意ヲ願ヒタイ、而シテ私ノ註
文ハ今後再ビ恩赦ノ行ハレマスル際ニ於キ
マシテハ、只今私ガ質問致シマシタル諸多
ノ問題ニ付キマシテ、篤ト御考慮ヲ得タ
イト云フコトヲ註文致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=89
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090・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 次ハ米國提議第
二軍備縮小ニ關スル緊急質問-辯明者三
善〓之君
米國提議第二軍備縮小ニ關スル緊急質
問(三善〓之君提出)
〔三善〓之君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=90
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091・三善清之
○三善〓之君 諸君私ハ總理大臣、外務大
臣、海軍大臣ニ對シテ緊急質問ヲ致スノデ
アリマス、事外交ニ關スル問題デアリマス
ル故ニ、或ハ私共ノ誤解モアルカモ知レマ
セヌカラ、ドウカ政府ノ懇切ナル御答辯ヲ
煩シタイモノデアリマス、質問ノ要旨ハ、
今回米國大統領ノ提案ニ係ル、第二海軍軍
備縮小ニ關シテ茲ニ質問ヲ致スノデアリマ
ス、質問ノ要項ヲ單簡ニ四ツニ分チマシ
テ、米國提案ノ眞意如何、又米國提案ノ內
容如何、次ハ軍縮會議ノ性質如何、次ハ我
ガ補助艦艇ノ最小限度如何、斯樣ナ四ツノ
事項ニ分ッテ御尋ヲ致スノデアリマス、而
シテ私ガ五大强國ノ昨年度ニ於キマスル軍
事費ヲ調査シテ見マスト、之ヲ日本ノ圓ニ
換算致シマシテ、米國ハ十四億圓デアリマ
ス、英國ハ十二億圓デアリマス、佛國ハ六
億圓デアリマス、伊國ハ五億三千万デア
ル、日本ハ四億四千万デアル、五大强國ノ
中デ日本ハ一番尠ナイ、併ナガラ歐洲大戰
以後ニ於キマシテ、列國ハ殆ド斯ノ如キ比
例ニ於テ、每年多大ナル軍事費ヲ支出シテ
居ルノデアル、斯ノ如キ莫大ナル軍事費ヲ
御亙ニ投ジマシテ、軍備ノ競爭ヲ致スコト
ドウカ避ケタイモノデアルト考ヘルノ
デアリマス、吾々ハ最モ平和愛好ノ主義ノ
者デアリマシテ、世界列强ノ軍備ヲ更ニ大
ニ縮小スルコトニ賛成致スニ於テ吝ナラザ
ル者デアリマス、冀クハ世界ノ列强ガ全然
純眞ナル平和主義ヲ以テ海軍、陸軍及空軍
ノ此三軍ヲ全廢シテ貰ヒタイ、而シテ其軍
事費ヲ以テ產業經濟ノ方而ニ轉換セラレン
コトヲ切望シテ已マザル者デアリマス、而
シテ今囘米國大統領ノ提案ノ眞意ガ、果シ
テ純眞ナル軍備縮小主義デアリマスナラ
先ヅ以テ米國自身ガ華盛頓會議ニ於ケ
ル彼等英、米ノ格位ガ主力艦十割ト云フ、
此比率卽チ噸數ニ於キマシテハ英米ハ各。
五十二万五千噸ト云フ、此大軍國主義ヲ先
ヅ以テ自ラ之ヲ改メテ、之ヲ半減ニスル
カ、若クハ三分ノ一位ニ減少ヲシテ、而シ
テ比較的弱小國ナル日、佛、伊太利等ニ向ッ
テ、軍備ノ縮小ヲ交涉サルヽコトヲ吾々ハ
希望シテ已マナイ、果シテ左樣ニ米國ガ致
スナラバ、吾々ハ米國ヲ平和ノ神トシテ、
此上眞ニ崇拜致スコトニ於テ更ニ躊躇シナ
イ者デアリマス、左樣ナル軍縮ガ出來マス
コトヲ賛成スルコトニ於テ、更ニ吝ナラザ
ル者デアル、而シテ米國ノ上院ニ於キマス
ル近來歐洲大戰以後ノ狀況ヲ見マスルノ
ニ、海軍、陸軍、空軍、此三軍ノ擴張主義
ヲ以テ、每年軍國ノ氣勢ヲ揚ゲテ居ルノデ
アル、是ハ確ニ其實行ガ出來テ居リマスノ
デアリマス、而モ吾々聞ク所ニ依レバ、米
國ノ愛國婦人會ハ盛ニ此軍備ノ擴張ヲ絕叫
シテ居ルノデアル、實ニ吾々ハ驚愕ニ堪ヘ
ナイ、日本ニ於テハ-日本ノ愛國婦人會
ニ於テハ、左樣ナ婦人ハ藥ニシタクトモ一
人モナイコトハ、世界列强ノ普ク知ル所ノ
事實デアルト信ズルノデアリマス、斯樣ナ
次第デアリマシテ、而シテ今回ノ米國大統
領「クーリツヂ」氏ノ提案ノ內容ヲ見マシテ
モ、其軍國主義ガ洵ニ明瞭ニ現レテ居ルノ
デアル、卽チ米國自身ハ尠クトモ軍縮ハシ
ナイノデアル、主力艦十割ト云フコトハ、
既ニ曩ノ華盛頓會議ニ於テ決メラレテ、而
シテ今回ハ又彼等英米ハ巡洋艦モ十割、驅
逐艦モ十割、戰鬪艦モ十割ヨリ減ゼラレナ
イト云フ提案デアル、日本ハ曩ニ既ニ主力
艦ヲ六割ニ制限セラレテ居ルノデアリマス
ガ、更ニ又々今回此提案ニ依ッテ日本ノ巡洋
艦ヲ六割ニ、驅逐艦モ六割ニ潜水艦モ六割
ニシヤウト云フ、斯樣ナ縮小ノ提案ヲ以テ
吾々ニ相談ニナッタノデアリマスガ、頗ル
蟲ノ好イコトデアルト吾々ハ感ズルノデア
リマス、諸君、軍備ナルモノハ單リ海軍ノ
縮小ノミデ通用ハ致シマセヌ、今日ハ實ニ
空軍ノ世界ニナリツヽアルノデアリマス、
而シテ日本ノ空軍ハ殆ド零デアル、殆ド價
値ガナイノデアル、而シテ英米其他ノ各國
ニ於ケル航空術ノ進歩、發達及ビ其擴張ハ
洵ニ偉大ノモノデアリマス、故ニ軍備縮小
ト申シマスナラバ、單リ海軍ノミナラズ、
陸軍及空軍ノ此三軍ヲ通ジテ各國ガ縮小ヲ
實行シナケレバ、眞ノ軍縮デハナイト私ハ
信ズルノデアリマス、然ルニ單リ日本ノ海
軍ノミノ軍縮案ヲ提出サレタコトハ、決シ
テ軍縮案デハナイト私ハ斷言スル、而シテ
日、佛、伊ノ如キハ比較的弱小ノ國デアル、
是等ノ國ニ向ヲテ彼等英米ノ强大國ガ軍縮
ヲ强ユルト云フコトガ、抑、非條理千萬デア
ルト私共ハ考ヘル、ドウカ此點ニ付キマシ
テ米國案ノ眞意ガ如何デアルカ、斯樣ナコ
トヲ政府當局ニ向シテ御尋ヲ致スノデアリ
マスカラ、腹藏ナク十分ノ御示ヲ戴キタイ
モノデアリマス、次ハ米國ノ提案ノ內容如
何是ハ抑、今回ノ大統領ノ提案ノ內容ヲ
見マスレバ、是ハ一千九百二十一年十一月
十二日ニ、米國ノ國務長官「ヒユーズ」氏
ガ、華盛頓會議ニ提出致シマシタ提案ト少
シモ變クテ居ラヌ、卽チ其當時「ヒユーズ」
氏ノ提案ハ斯樣デアル、第一ニ水上補助艦
卽チ巡洋艦、驅逐艦ニ付テハ米國ハ四十五
万噸、英國モ四十五万噸、日本ハ二十七万
噸、而シテ水中ノ補助艦卽チ潜水艦ハ米國九
万噸、英國九万噸、日本五万四千噸ト云フ提
案デアッタサウデアリマス、左樣致シマスレバ
今囘ノ英、米、五、五二對シテ日本三ト云フ提
案ト全ク同樣デ、少シモ讓歩シテ居ラヌ案デ
アリマス、右「ヒユーズ」氏ノ案ニ對シマシ
テハ、華盛頓會議ニ於テ日、佛、伊ガ猛烈ニ
反對致シマシテ、更ニ協定ガ成立タナカッタ
モノデアル、然ルニ又と今回重ネテ其儘ニ
之ヲ提出致スト云フコトハ實ニ驚クニ堪
ヘタル次第デアリマス、其意那邊ニアルカ、
吾々ハ窺知ル能ハザルノデアリマス、「ヒユー
ズ」氏ノ曩ノ案ハ丁度華盛頓會議ノ始ッタ
其翌月ノ十二月二十二日ニ、聯合委員會デ
一案ヲ試シタコトガアル、卽チ潜水艇ニ付
テハ米國ハ六万噸、英國ハ六万噸、佛國ハ
四万二千噸、日本ハ三万二千噸、伊太利ハ
二万二千噸、斯樣ナ立案ヲ試ミタコトガア
ルサウデアリマス、然ルニ日、佛伊三國
ハ絕對ニ之ニハ同意シナカッタノデアリマ
ス、日本ハ七万五千噸、佛蘭西ハ九万噸
ヲ固執シテ、遂ニ華盛頓會議ニ於テハ、補
助艦艇ノ協定ト云フモノハ、成立ヲ致サナ
カッタノデアリマス、由來國防ナルモノハ隣
國ノ狀況ト、又ハ自國ノ國境ニ-地理ニ依
ルモノデアリマシテ、一律ヲ以テ他國ノ指
圖ニ盲從ヲスベキモノデナイコトハ、申ス
迄モナイコトデアリマス、此故ニ今回米國
ノ提案ノ英、米ノ五、五ニ對シテ日本ノ三
ト云フ、此補助艦比率ハ、洵ニ無理ナル協
定案デアルト私ハ思フ者デアリマス、眞ニ
世界列强ノ軍縮案ナラバ、先刻申上ゲマシ
タ如ク、先ヅ米國自身ガ其主力艦ヲ制限
シ、而シテ吾々ニ對シテ米國ガ制限ヲシタ補
助艦ノ比率ヲ以テ公平無私ナル提案デナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、然ルニ第
一次軍縮會議ノ提案ニ何等改善讓步ヲシナ
イト云フコトハ實ニ奇怪デアル、斯樣ナ案
デアルト私共ハ思フノデアリマスガ、果シ
テ前囘ノ案ニ幾分ノ讓歩ヲシ、又内容ヲ改
メタカ、斯樣ナコトニ付テ政府當局ハ詳細
ノ說明ヲシテ戴キタイト思フ、果シテ吾々
ノ感ズル如クデアリマシタナラバ、洵ニ横
暴ナル提案デアルト思フ、左樣ナ提案ニハ
吾々國民ハ決シテ盲從ハ出來ヌ、政府ニ於
テハ如何ナル意見ヲ有シテ居ルカ伺ヒタイ
ノデアリマス、第三問ハ軍縮會議ノ性質如
何歐洲大戰ノ以後ニ於キマシテ、吾々ハ
世界平和ノ主義ニ依リマシテ、國際聯盟ノ
規約ニ基キマシテ爾來聯盟國ト致シマシ
テ、各國共ニ熱心ニ此軍備縮小主義ヲ以
テ、常ニ〓究協議ヲ進メツヽアル、而シテ
會議ハ公平ニ協調的ニ進ミツヽアルノデア
リマス、然ルニ彼ノ米國ガ國際聯盟ノ埓外
ニ居ル、米國ハ國際聯盟ノ一人デナイ、其
埒外ニ在ル米國ガ國際聯盟ノ軍縮委員會ニ
對シテ斯ノ如キ提案ヲ持出シタコトハ寔
ニ不思議千萬デアルト私ハ感ズルモノデア
リマス、故ニ米國自身ガ先ヅ一般ノ軍縮ヲ
自己ニ行ウテ、而シテ後聯盟各國ニ向ッテ
米國ノ軍縮ハ斯ノ如クシタノデアル、ドウ
カ之ニ準據シテ各國共ニ軍縮ヲシヤウヂヤ
ナイカ、斯樣ナ御相談ナラバ吾々モ敬服ヲ
シ、最モ之ヲ諒トスルモノデアル、然ルニ
今回ノ如キ、相變ラズ强制的提案デアッテ
見レバ、寔ニ聯盟國ノ會議ニ對シテマデ干
涉的デハナイカ、寔ニ穩當ナラザルモノデ
アルト信ズルモノデアリマス、デ、聯盟國
ハ非常ナ是ハ迷感デアル、斯樣ニ感ズルノ
デアリマス、之ニ對シテ政府當局ノ詳細ノ
御說明ヲ戴キマス、次ハ海軍大臣ノ職掌デ
アリマセウガ、我ガ補助艦最小限度、私思
ヒマスルノニ、我國ハ四面環海ノ國境デア
リマス、而モ今日ノ米國ノ有樣ヲ見レバ大
海軍國ニシテ、而シテ大軍國主義デアル、
此事ハ米國ノ上院ニ於テ、每々論議サルヽ
所ニ於テ、明ニ左樣ニ吾々ハ感ズルノデア
リマス、我ガ補助艦ノ如キハ、今日ノ現有
勢力以下ニ制限ヲサレマシタナラバ、國防
ハ益"危殆ニ陷ルモノデアルト、甚ダ憂慮
ニ堪ヘナイノデアリマス、而モ御承知ノ如
〃曩ノ華府會議ニ於キマシテハ、米國ハ
布哇ノ眞珠灣ノ設備ヲ致スコトヲ、協約ニ依
リテ許サレマシテ、英國ハ新嘉坡ニ大海軍
根據地ヲ築設スルコトヲ、此會議ニ於テ許
サレタ、然ルニ日本ハ、日本ノ領土ニ屬ス
ル千島諸島竝ニ小笠原諸島及奄美大島、琉
球諸島、臺灣及澎湖島諸島竝ニ將來日本
ガ取得スベキ大平洋上ノ諸島ニ對シテハ、
一切防備ラ爲スコトナラヌト云フ、是ハ華
府會議ノ第十九條ニ於テ明文ガアリマス、
寔ニ是ハ吾々不公平ナモノデアルト常ニ感
ジテ居ルノデアリマス、斯樣ニ手モ足モ挨
ガレテ居ル我國デアル、此上更ニ補助艦艇
ノ現有勢力ニマデ制限ヲサレマシタナラバ、
實ニ我ガ國防ハ成立タヌト感ズル、此點ニ
付テ政府當局ノ詳細ナル御答辯ヲ煩シマス
(拍手)
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=91
-
092・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 只今三善君ノ
御質問ガアッタノデアリマスガ、三善君モ
軍備ノ競争ヲ避クルコトハ、洵ニ望マシイ
コトデアルト御述ニナリマシタ、私モ亦之
ニハ御同感デアルノデアリマス、軍備ノ競
爭ヲ避ケルガ爲ニ、公正ニシテ且ツ實際行
ハレ得ル、適切ナル軍備制限ノ方法ガアリ
マスナラバ、會議ヲ開イテ其方法ノアリヤ
否ヤト云フコトヲ發見スルガ爲ニ、意見ノ
交換ヲスルト云フコトハ、政府ハ固ヨリ不
同意ノナイ所デアリマス、其意味ニ於テ今
囘ノ亞米利加ノ提議ヲ受取ッテ、只今考究
ヲシテ居ル所デアリマス、唯〓事柄ハ極メテ
重大デアリマシテ、又之ニ意見ヲ決メマス
ニ付テハ、專門的ナ〓究ヲ要スルコトデア
リマス故ニ、目下政府ハ其〓究ヲ致シツ
アルノデアリマス、其上デ帝國政府ノ考
ヲ決メル考デ只今居ルノデアリマス、大體
ハ左様デアリマス、而シテ三善君ガ問題ヲ
四ツニ分ケテ御尋ニナッタ事柄ニ付テハ、只
今申上ゲテ居リマス通リ、〓究中デアリマ
ス故ニ、悉ク之ニ御滿足ノ答辯ヲ與フル
コトハ出來ナイカモ知レマセヌケレドモ、
之ニ關シテハ外務大臣竝ニ海軍大臣カラ答
辯ヲ申上ダタナラバ三善君ノ御質問ノ中
ノ若干ノ所ニ說明ヲ與ヘルコトガ出來ルデ
アラウト存ジマスカラ、左樣ニ致スコトニ
致シマス(拍手)
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=92
-
093・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵警原喜重郞君) 只今三善
君ノ御質問ニ對シマシテ、私ガ答ヘ得ルダ
ケノ範圍内ニ付テ御答ヲ申上ゲヤウト存ジ
マス、第一ニ米國提案ノ眞意如何ト云フコ
トヲ御問ニナリマシテ、先ヅ米國ガ華盛頓
條約ニ於テ主力艦ニ付テ決定シテアル比率、
之ヲ半減カ、著シキ削減ヲ自ラ行ハナケレ
バ、米國ノ誠意ト云フモノハ分ラヌデハナ
イカ、其定ッタ比率ヲ自分デ削減スルコト
ナシニ、今囘ノ提案ヲ爲シタ眞意ハ何處ニ
アルカト云フコトデアリマス、今囘ノ米國
ノ提案ノ眞意ハ私ガ諒解ヲ致シマス所デ
造艦ノ競爭、軍備ノ競争ヲ避ケタイト
云フコトデアリマス、主力艦ニ付キマシテ
ハ「華盛頓」條約ニ於テ、既ニ比率噸數ト云
フモノガ定ッテ居リマスルカラ、之ニ付キ
マシテハ最早競爭ト云フコトハ起リ得ナイ
ノデアリマス、補助艦艇ニ付テハ「華盛頓」
會議ニ於テ總噸數ノ制限、斯樣ナコトヲ規
定致スコトガ出來ナカッタノデアリマスカ
ラ、或ハ此補助艦艇ニ付テ、他日造艦ノ競
爭ト云フコトガ起リハシナイカト云フ虞ヲ
懷イタ、此虞ヲ除去センガ爲ニ今回ノ提案
ガアッタモノデアリマス、隨テ主力艦ニ付
テ米國ガ〓日ノ比率ヲ讓歩スルニ非ザレバ、
今回ノ提議ハ甚ダ不眞面目デアルト言ッテ、
應ズルコトガ出來ヌト云フヤウナ理屈ガア
ラウトハ私ハ考ヘマセヌ、ソレカラ今回ノ
米國ノ提議ハ、海軍ノ問題ダケニ言及致シ
テ居シテ、陸軍、空軍ニ付テハ何等ノ提議
ガナイ、是ハ甚ダ不公平デアル、空軍、陸
軍、海軍モ同ジク議シナケレバナラヌト云
フ御議論ノヤウデアリマシタ、是ハ確ニ御
議論トシテハ一ノ御議論デアラウト思フ、
併ナガラ海軍ノ問題ハ絕對的ニ分ツコトガ
出來ナイカト云ヘバ、私ハ必シモサウハ考
ヘナイ、陸軍、空軍ト云フモノハ御承知ノ
如ク、性質ニ於テハ移動シ得ル範圍ガ比較
的ニ少ナイモノデアリマス、海軍ハ性質ニ
於テ移動シ得ル範圍ガ比較的廣イモノデア
リマス、例ヘバ歐羅巴ノ或ル一國ニ於テ、
非常ナ大ナル陸軍ヲ持,タト假定致シマス、
此陸軍ハ數千哩ノ海外ニ中々容易ニ移動シ
得ルモノデハナイノデアリマスカラ、歐羅
巴ノ一國ガ大ナル陸軍ヲ持ッタカラト云ノテ
モ、其他ノ大陸ニ於テ之ニ對抗シテ陸軍ヲ
增大シナケレバナラヌト云フヤウナ結果
ハ必然ニハ起ッテ來ナイノデアリマス、
之ニ反シテ海軍ト云フモノハ-軍艦ト云
フモノハ到ル處容易ニ移動シ得ル性質ノモ
ノデアリマスガ故ニ、一國ガ大ナル海軍ヲ
持ツト云フコトニ相成レバ、世界ノ反對ノ
側ニ居ル遠イ所ニアリマス國ニ於テモ、之
ニ對シテ若干ノ影響ト云フモノハ持チ得ル
ノデアリマス、海軍ト云フモノト、陸軍、
空軍ト云フモノトハ、移動性ニ付テ自ラ異
ル所ガアルガ爲ニ、兩方必シモ一緒デナケ
レバナラヌト云フ理窟モアルマイト思フ、
一緒ニ議シタ方ガ宜カラウト云フノハ、是
ハ一ノ御議論デアラウト思ヒマスガ、必シ
モ分ツコトヲ得ナイト云フ理窟モアルマイ
ト思フノデアリマス、ソレカラ米國提案ノ
内容如何ト云フコトニ付テ御話ガアリマシ
テ、今回米國ノ提案ナルモノハ「華盛頓」會
議デ決定致シタ比率問題ヲ、其儘補助艦艇
ニ付テ適用セントスルモノデアル、斯ウ云
フ風ナ御話ガアリマシタ、是ハ若干誤解ガ
オアリニナルヤウデアリマス、今囘ノ米國
提案ハ新聞ニ既ニ公表サレテ居リマスガ、
之ヲ御讀ミニナレバ明ニナリマスガ、
今囘ハ比率問題ニ付テ米國ハ一ノ確定
セル不變的ナ提案ヲ致ス精神ハナイ、斯
樣ニ言ッテ居ルノデアリマス、一定ノ五、五、
三ナラバ五、五、三デ、一ノ確定セル不變ノ
提案ヲスル趣意デハナイ、米國ノ關スル限
リハ、日、英、米ノ三國ノ間ニ於テハ五、
五、三ノ比率ヲ承諾スルノ自分デハ用意ヲ
致シテ居ル、斯樣ニ書イテ居ルノデアリマ
ス、佛蘭西、伊太利ノ主力艦ニ付テハ、英
米ノ五ニ對スル一割七五ト云フモノデアッ
タノデアリマスガ、今回ハ米國提案ノ中ニ主
張致シテ居ル佛、伊兩國ニ付テハ特殊ノ事
情、必要ト云フモノガアルコトモ考慮ニ加
ヘテ、別ニ此比率ヲ協定致シタイ、斯ウ云
フ風ニ言ッテ居ルノデアリマス、卽チ華盛
頓條約ニ於テ規定サレタル比率ヲ、補助艦艇
ニ付テ其儘五國ノ間ニ割當テヽ協定シヤ
ウト云フコトヲ主張致シテ居ル次第デハア
リマセヌ、ソレカラ軍縮會議ノ性質如何、
之ガ聯盟ニ對スル何カ干涉ニナリハシナイ
カト云フ御話デアリマシタ、今囘ノ米國ノ
提案ハ今日軍備縮小準備委員會ト云フモノ
ガアリマシテ、是ハ昨年ノ五月以來事業ニ
著手致シテ居ルノデアリマス、今日ハマダ
事業ハ終了致シテ居リマセヌ、是ハ二ツノ
小委員會ナルモノニ分レテ居リマシテ、マ
ダ小委員會ノ報告ガ纏ノテ居ラナイノデア
リマス、來月卽チ三月二十一日ニ此委員會
ノ總會ヲ開クコトニ相成テ居ル、此委員會
ヲ開キマスル-此委員會ニハ固ヨリ亞米
利加モ九入致シテ居ルノデアリマシテ、此
三月二十一日ノ軍縮準備委員會ノ開會ヲ機
ト致シテ、其時機ニ於テ會議ニ參集致シテ
居ル五箇國ノ委員ガ其會議ト分レテ、或
會議ノ直グ後ニ、別ニ海軍ノ問題ニ付テ協
議ヲ致シテハドウカト云フ提議デアリマ
ス、固ヨリ此聯盟ノ主催ノ下ニ開イテ居リ
マスル所ノ軍備縮小準備委員會、及ビ追テ
開カントスル軍備縮小會議、此二ツノモノ
ニ對シテハ亞米利加ハ決シテ協力ヲ否ムト
云フ譯デハナイ、此事業ノ成功ハ如何ニモ
亞米利加ノ希望スル所デアッテ、此爲ニ引
續イテ協力ヲスル積リデアルト云フコトヲ
此提案ノ中ニ揭ゲテ居リマス、隨テ此米國
ノ提案ガ國際聯盟ノ行動ニ對スル、別ニ干
涉ト云フヤウニナルモノトハ私ハ諒解致シ
テ居リセマヌ
〔國務大臣財部彪君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=93
-
094・財部彪
○國務大臣(財部彪君) 三好君ノ四箇條ノ
御尋ニ對シマシテハ總理大臣、次ニ外務大
臣カラ既ニ政府ノ今日ノ立場ニ於キマシ
テ、申上ゲ得ル範圍ノコトハ、可ナリ精シ
ク申上ゲタヤウニ考ヘマス、故ニ此上ニ私
カラ申上ゲルコトモゴザイマセヌガ、唯こ
今日ノ我海軍ノ此補助艦艇ノ兵力ナルモノ
ハ、如何ナル程度ノモノデアルカ、之ヲ縮
減シ得ルモノデアルカ、得ラレナイモノデ
アルカト云フ意味ノ事ガアッタト考ヘマス、
是ハ豫ネテ此昭和二年度ノ豫算ニ計上致シ
テアリマスル所ノ、艦艇製造費ノ追加豫算
ノ提出ノ趣意ヲ申上ゲマシタ時分ニモ、再
三申上ゲタト考ヘテ居リマスルガ、我國ノ
目下保有シテ居リマスル所ノ、所謂現有勢
カハ、是ハ國防上ノ見地カラ最小限度ノモ
ノデアル事ハ、是ハ〓更繰返スマデモナイ
次第デアリマス、サウシテ昭和二年度ノ豫
算ニ更ニ要求致シテ居リマスル所ノモノ
此最小限度ノ兵力ヲ維持スル爲ニ必要
ナモノデアリマスルカラ、之ヲ今日如何ニ
シ得ルト云フ餘裕ノアルモノデハナイト
云フコトハ、御分リ下サルデアラウト考へ
さく、然ラバ斯ク申セバ、我海軍ハ今回ノ
米國ノ提案ニ付テハ、既ニ之ニ應ズルノ餘
地ガナイデナイカト云フ御議論ガ起リハセ
ヌカト思ヒマスガ、ゾレハ一應左樣デモア
リマスルケレドモ、果シテ米國邊リノ考ガ
五、五、三ト云フコトニナッテモ、米國ノ關ス
ル限リニ於テハ、是ハ異存ハナイト云フコ
トハ分ッテ居リマスガ、其五ト云フモノハ
何ヲ示シテ言ウテ居ルノデアルカ、物指ニ
當テル基礎ガ何處ニアルカト云フ事モ分ラ
ヌノデアリマス、故ニ若シ其五ナルモノヲ
非常ニ大キナ數ノ百万噸ナリ-百万噸ト
云フト少シ大キ過ギルカモ知レマセヌガ、
七十万噸トカ云フ玆ニ數字ヲ以テ來マシ
テ、サウシテ之ヲ基トシテ、五、五、三デハド
ウカトカ何トカ云フコトガ起リマスレバ、
またin
ソレハ日本ノ意見ノ立テヤウノナイコトハ
ナカラウト考ヘマス、併シソコラ邊ノコト
ハ分ラヌノデアリマス、故ニ絕對ニ日本ハ
今囘ノ此提議ニ應ズルノ餘地ガアリヤ否ヤ
ハ、ソレハ實際彼我ノ代表者ガ出會シテ見マ
セヌケレバ、今日ノ所ハ分ラヌダラウト考
ヘマス、ソレカラ尙ホ此機會ニ於テ然ラバ
ドンナ事ヲ考ヘテ居ルカ、海軍當局者ハド
ンナ事ヲ此提案ニ付テ考ヘテ居ルカト云
フ、御疑問ガアルダラウト考ヘマスガ、補
助艦ノ制限、比率ノ協定ト云フガ如キハ、頗
ル困難デアルト考へテ居リマス、困難デア
ルガ、困難デアルカラ協議ニ應ゼヌカト云へ
バ喜ンデ應ズルノ覺悟ハ持ッテ居リマス
ルケレドモ、頗ル困難ト考ヘマス、短ク詰
メテ申シマスレバ之ヲ五、五、四デ宜イ
トカ、五、五、三デ宜イト云フヤウナ工合ニ、
サウ簡單ニイカヌト思ヒマス、其理由ヲ簡
單ニ申上ゲテ見レバ、主力艦ハ海軍ノ兵力
ノ主幹トナルモノデ、最モ重要ナモノヂハ
アリマスルケレドモ、其任務タルヤ簡單デ
アリマス、是ハ海上ノ戰鬪ニ於キマシテ格
鬪ニ任ズルノガ主デアリマス、然ルニ巡洋
艦其他ノ補助艦ニナリマスルト云フト、單
ニ洋上ノ彼我ノ格闘ニ參加スルダケガ目的
デアリマセヌノデアリマス、戰時ニ於キマ
シテハ商船ノ保護、敵ノ交通路ノ破壞、我
ガ交通路ノ保護ト云フヤウナ事モゴザイマ
ス、又平時ニ於キマシテハ外國在留民ノ保
護警備ト云フガ如キ任務モゴザイマス、
其他海軍ノ〓育、調練上ノ任務モアルノデ
ゴザイマス、サウシテ其戰時ノ交通路ノ保
護トカ、商船ノ保護ト云フガ如キ、又平時
ノ警備任務ノ如キハ各〓其國ノ事情ヲ異
ニスルノデアリマス、地理上ノ位置ノ關係、
或ハ貿易關係其他色〓ナ事ガゴザイマスカ
ラ、唯〓主力艦ノ如キ戰鬪ノミノ目的カ
ラ、之ヲ決メル譯ニハイカヌト思フノデア
リマス、是等ノ關係ハ昨年來國際聯盟ノ軍
備制限-軍備縮小準備委員會ニ於テ既ニ
根本的ノ〓究ガ進メラレテ居リマス、而シ
テ其結論ハ得ラレテ居ナイヤウデアリマス
ケレドモ、其〓究セラレテ居ル所ノモノハ、
頗ル傾聽ニ價スルモノモアルヤウニ考ヘマ
ス、是等ノ事ハ今囘ノ會議ニハ必ズ參考ト
シテ大ニ考ヘナクテハナラヌ事デアラ
ウト考ヘマス、米國政府ガ國際聯盟ノ
軍縮準備委員會ヲ開カレル、其會合ト
駢行シテ今回ノ補助艦ノ縮減ノ會議ヲ
開カントスルノ提案ハ、或ハ其邊ノ考
モアルモノデハナカラウカト考ヘマス、
以上申上ゲマシタヤウナ次第デゴザイマ
スカラ、今日彼我ノ比率トカ何トカ云フヤ
ウナ點ニ付テハ、具體的ノモノハ勿論、又
具體的ニ近イモノモ申上ゲルコトハ出來ヌ
位地ニアル次第デゴザイマスカラ、其邊ハ
ドウゾ御諒承下サルコトヲ御願致シマス
(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=94
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095・三善清之
○三善〓之君 只今各大臣ノ詳細ナル御意
見ニ付キマシテハ、尙ホ私トシテハ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=95
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096・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 三善君-三善
君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=96
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097・三善清之
○三善〓之君(續) 尙ホ申上ゲルコトモア
リマスルガ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=97
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098・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 三善君-三善
君-登壇ヲ願ヒマス-登壇ヲ願ヒマス
〔三善〓之君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=98
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099・三善清之
○三善〓之君 只今各大臣ノ詳細ナル御意
見ヲ拜聽致シマシテ、之ニ對シマシテ私ノ
意見モアリマス、更ニ御尋申上ゲタイ事モ
アリマスルケレドモ、本件ハ國際上ノ重大
問題デアリマスカラ、私ノ質疑ハ是デ打切
リマスガ、ドウカ政府ハ十分ノ御研究ヲ以
テ、國防ノ爲ニ不安ノナイ事ニ御盡力ヲ願
ヒタイモノデアリマス、此一言ヲ以テ質問
ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=99
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100・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 三善君ノ緊急質
問ニ對シ、國務大臣ノ谷辯ニ關聯致シテ畔
田明君、田淵豐吉君ノ兩君カラ質問ノ通告
ガアリマス、是ハ先例ニ依ッテ許可スルコ
トニ致シマス、順次其發言ヲ許シマス、畔
田明君
〔畔田明君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=100
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101・畔田明
○畔田明君 只今若槻首相ハ三善君ノ質問
ニ對スル御答辯中ニ、若シ公正且ツ實際行
ハレル軍備制限ノ方法ガアルナラバ、之い
同意スルト云フ御言葉ガアッタノデアリマ
ス其前段ニ於キマシテハ大ニ贊成ヲ表セ
ラレテ居ル、所ガ只今ノ御話ニ行キマシテ、
首相ノ御意思ガ曇ヲテ、私ノ心ニ映ジタノ
デアリマス、私ハ首相ヨリ此公正且ツ實際行
ハレル軍備制限ノ標準ト云フモノハ何デア
ルカヲ、ハッキリ伺ヒタイノデアリマス、
第二ハ幣原外相ヨリ米國ノ提案ハ五、五、
三デアル、其標準トスル所ハ分ラヌ、私ノ
聽違ヒカ分ラヌガ、サウ云フ風ニ私ニハ聽
エタノデアリマス、是ハ常識カラ考ヘマス
ト云フト、第一ニ華盛頓會議ノ制限ノ如ク
ニ、噸數ノ比率ノヤウニ思ハレルノデアリ
マス、若シ噸數デ五、五、三ノ比率ヲ提言
シタナラバ、日本ハ之ニ應ジテ宜シイノデ
アルカ、如何デアリマス、ソレカラ第三ニ
伺ヒタイコトハ、一昨日財部海相ハ飽迄現
在ノ海軍勢力ヲ維持シナケレバナラヌト云
フコトヲ、新聞記者ニ向ッテ言明セラレタ
サウデアル、ソレハ其通リデアリマスカ、
如何デアリマスカ、ソレカラ只今財部海相
ハ現在ノ日本ノ海軍ハ最小限度デアルト云
フヤウニ御話ニナッタノデアリマス、所ガ
私ノ漏聞イテ居ル所ニ依リマスト、十三日
海相官邸ニ於キマシテ、海軍ノ首腦者ノ會
議ガアッタ、其會議ニ於テ此用兵運用上ニ
支障ノナイ最低限ノ標準ハ、後日ノ考慮ニ
讓ルト云フコトニ申合セタ、斯ウ私承シテ
居ルノデアリマス、サウ致シマスト其私ノ
漏聞イタコトガ事實ト致シマスレバ、只今
財部海相ガ日本ノ現在ノ海軍ハ最小限度デ
アルト云フコトハ、海軍首腦部ノ會議ニ於
テ之ヲ否定シテ居ルコトニナリマス、以上
ノ四ツノ點ニ付キマシテ、當局ノ御說明ヲ
御願ヒ致シマス
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=101
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102・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 三善君ニ先程
答ヘマシタノハ斯ウ申シタノデアリマス、
公正ニシテ且ツ實際的ナル軍備制限ノ方法
ガアルナラバ、之ヲ發見スルガ爲ニ、會議
ヲ開イテ意見ノ交換ヲスルト云フコトハ、
私ハ固ヨリ不同意ノアルベキコトデナイ、
而シテ之ニ付テハ重要ナルコトデアル故ニ、
政府デハ目下考究中デアリマス、專門的
其他ノ事ニ付テ考究中デアル、斯ウ申上ゲ
タノデアリマス、適當ナル方法アリヤ否ヤ、
意見ヲ交換シテ、其處デ公正ニシテ且ツ實
際的ナル軍備制限ノ方法ガアリトシテ、此
處ニ到達スレバ洵ニ結構デアリマスル故
ニ、ソレガ爲ニ會議ヲ開クト云フコトハ、
固ヨリ不同意ヲ申スベキコトデナイ、併シ
其方法ハ何デアルカト云フコトハ、是ハ考
究中デアル、而已ナラズ尙ホ意見ヲ交換シマ
セヌケレバ、此處デ是ガ卽チ公正的ニシ
テ、且ツ實際的デアルト云フコトヲ申スコ
トハ出來ヌノデアリマス、左様ニ御承知ヲ
願ヒタイノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=102
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103・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 田淵君ニ發言ヲ
許ス前ニ一寸御注意致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=103
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104・中野寅吉
○中野寅吉君 議長、私ハ議員ノ體面ニ關
スルコトデ申上ゲマス、田淵豐吉氏ハ縞ノ
羽織ヲ以テ議場ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=104
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105・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 只今注意スル所
デアリマスカラ、暫時御控へ下サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=105
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106・中野寅吉
○中野寅吉君 ソレナラ宜シイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=106
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107・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 發言ニ先立ッテ
御注意致シマス、貴方ハ自ラ省ミラレテ、服
裝ヲ御取替へ下サルナラバ注意ハ致シマセ
ヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=107
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108・田渕豊吉
○田淵豊吉君 ソレデハ後デ替ヘマセウ
(「後デハイカヌ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=108
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109・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 重ネテ御注意致
シマス、貴方ガ發言ノ順序デアリマスカ
ラ、議長ガ麾イテ直ニ之ニ應ジナイト致シ
マスレバ、先例ニ依ッテ發言ヲ取消シタモ
ノト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=109
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110・田渕豊吉
○田淵豊吉君 ソレデハドウシマセウ、分
ラヌデス、私ハ取消サナイノデスガ、議長
議長発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=110
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111・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 田淵君、田淵
君、田淵君、-田淵君、先例ガアリマスカ
ラ御退席ヲ願ヒマス、-苟且ニモ羽織ナ
クシテ議場ニ居ルコトハ許シマセヌ、御退
席ヲ願ヒマス(田淵豐士口君「議長々々ドウ云
フ譯デス」ト呼ヒ「退場々々」ト呼フ者ア
リ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=111
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112・砂田重政
○砂田重政君 殘餘ノ日程ニ對シ延期ノ動
議ヲ提出致シマス
〔「賛成々々」ノ聲起ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=112
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113・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 砂田君ノ動議ニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ノ聲起リ「議長
答辯ガアリマセヌ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=113
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114・小泉又次郎
○副議長(小泉又次郞君) 御異議ナシト認
メマス、仍テ延期ニ決シマシタ、次回ノ日
程ハ公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是
ニテ散會致シマス
午後五時三十分散會
衆議院議事速記錄第十二號中正誤
頁段行誤正
一九八二四〇從來僅カ
「此事業ヲ
「日子ヲ以完成スルコ
同同四ノ下トガ出來ル
テ」カ、從來」ヲ
加フ
同三六デアッテトアッテ
同同七當ッテ夏のテ
同同七、八修正補修
一八定マラナイ定マラナイ
一九九二ノニ
同同二三敢テ敢テ爲
同同二六行カヌ行カヌ卽チ
居ラナイノ
同同二八居ラナイデ急ノ間ニ
合ハナイ
二〇〇三四一云フコト云ヲコトロ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01319270215&spkNum=114
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