1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和二年二月二十六日(土曜日)午後一時十一分開議
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議事日程 第十七號
昭和二年二月二十六日
午後一時開議
第一 大正九年法律第五十三號中改正法律案(關税法等の朝鮮に於ける特例に關する件)(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 花柳病豫防法案(政府提出) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第五 兌換銀行劵整理法案(政府提出) 第一讀會
第六 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第七 家畜傳染病豫防法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第九 土地收用法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第十 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十一 商法中改正法律案(三浦數平君提出) 第一讀會
第十二 恩給法中改正法律案(長峰與一君外三名提出) 第一讀會
第十三 恩給法中改正法律案(松實喜代太君外三名提出) 第一讀會
第十四 治安警察法中改正法律案(山枡儀重君外四名提出) 第一讀會
第十五 大正十四年法律第四十七號衆議院議員選擧法中改正法律案(坂東幸太郎君外三名提出) 第一讀會
第十六 架空索道の抵當に關する法律案(清瀬一郎君提出) 第一讀會
第十七 被害水田改良事業助成法案(星廉平君外二名提出) 第一讀會
第十八 金鵄勳章年金に關する法律案(古川清君外二名提出) 第一讀會
第十九 北海道御料拂下地免租年期に關する法律案(東武君外三名提出) 第一讀會
第二十 議院法中改正法律案(小川平吉君外二十六名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十一 義務教育年限延長に關する建議案(増田義一君提出)
第二十二 郡山市に高等工業學校設置に關する建議案(粟山博君外六名提出)
第二十三 郡山市に高等師範學校設置に關する建議案(粟山博君外五名提出)
第二十四 奈良縣に藥學專門學校建設に關する建議案(福井甚三君外二名提出)
第二十五 國立蠶絲大學設置に關する建議案(篠原和市君外五名提出)
第二十六 福井縣小濱に高等水産學校設置に關する建議案(山口嘉七君外二名提出)
第二十七 福島市に高等蠶絲學校設置に關する建議案(大島要三君外六名提出)」
第二十八 岡山市に綜合中國帝國大學設置に關する建議案(清水長郷君提出)
第二十九 金澤市に綜合大學設置に關する建議案(佐藤實君外四名提出)
第三十 盛岡市に高等師範學校設置に關する建議案(柏田忠一君外四名提出)
第三十一 松江市に山陰帝國大學設置に關する建議案(原夫次郎君外二名提出)
第三十二 仙臺市に高等師範學校設置に關する建議案(内ヶ崎作三郎君外三名提出)
第三十三 廣島市に女子專門學校設置に關する建議案(江藤榮吉君提出)
第三十四 廣島市に綜合大學設置に關する建議案(江藤榮吉君提出)
第三十五 西宮市に綜合大學設置に關する建議案(前田房之助君外四名提出)
第三十六 遞信大學設立に關する建議案(作間耕逸君提出)
第三十七 福岡市に高等師範學校設置に關する建議案(大里廣次郎君提出)
第三十八 熊本市に高等師範學校設置に關する建議案(藤井敬愼君提出)
第三十九 北海道綜合大學の完成竝高等教育機關設置に關する建議案(東武君外三名提出)
第四十 文政改革に關する建議案(篠原和市君外三名提出)
第四十一 國定教科書中略字採用及字音假名遣改正に關する建議案(増田義一君提出)
第四十二 書道振興に關する建議案(山宮藤吉君外二名提出)
第四十三 民族博物館設立に關する建議案(山枡儀重君提出)
第四十四 滋賀縣伊吹山高層氣象觀測所國營移管に關する建議案(井上敬之助君外二名提出)
第四十五 體育運動奬勵に關する建議案(牧野良三君外五名提出)
第四十六 私學奬勵に關する建議案(山下谷次君提出)
第四十七 明治六年地租改正條例に依る土地丈量立替費用償還に關する建議案(土屋清三郎君提出)
第四十八 國有雜種財産處分に關する建議案(大島要三君外七名提出)
第四十九 税務官の待遇改善に關する建議案(大島要三君外七名提出)
第五十 國税徴收交付金増額に關する建議案(八田宗吉君提出)
第五十一 葉煙草賠償價格増額に關する建議案(中林友信君外四名提出)
第五十二 不良鹽田整理に關する建議案(山下谷次君提出)
第五十三 飛行事業擴張に關する建議案(長岡外史君提出)
第五十四 國防審議會設置に關する建議案(長岡外史君提出)
第五十五 國防會議設置に關する建議案(蟻川五郎作君提出)
第五十六 陸海軍現役兵及豫後備兵優遇竝在郷軍人會國庫補助に關する建議案(三善清之外七名君提出)
第五十七 海洋調査機關整備に關する建議案(小西和君外一名提出)
第五十八 勞働省設置に關する建議案(清瀬一郎君提出)
第五十九 我か國國號の統一顯正に關する建議案(由谷義治君提出)
第六十 我か帝國國號の稱呼使用に關する建議案(熊谷五右衞門君外一名提出)
第六十一 恩給法改正に關する建議案(湯淺凡平君提出)
第六十二 恩給其の他の恩典に雇員在職年數通算に關する建議案(青木精一君提出)
第六十三 一時賜金癈兵に對する恩給支給法制定に關する建議案(山下谷次君外一名提出)
第六十四 軍人傷痍記章令中改正に關する建議案(山下谷次君外一名提出)
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001・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 諸般ノ報告ヲ致サセ
マス
〔書記官朗讀〕
一昨二十五日貴族院ヨリ受領シタル政府提
出案左ノ如シ
土地收用法中改正法律案
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
電氣事業法中改正法律案
(以上二月二十六日提出)
議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
大正十二年法律第五十一一號中改正法律案
(司法官試補及辯護士ノ資格ニ關スル件)
提出者
橫山勝太郞君熊谷直太君
工藤鐵男君原惣兵衞君
永田新之允君藏園三四郞君
千葉三郞君禱苗代君
靑木精一君
市制中改正法律案
提出者
坂東幸太郞君土屋〓三郞君
千葉三郞君原夫次郞君
比佐昌平君原惣兵衞君
町村制中改正法律案
提出者
坂東幸太郞君土屋〓三郞君
千葉三郞君原夫次郞君
原惣兵衞君比佐昌平君
北海道會法中改正法律案
提出者
坂東幸太郞君土屋清三郞君
千葉三郞君原夫次郞君
原惣兵衞君比佐昌平君
家祿賞典祿給與未濟ニ關スル法律案
提出者
福田五郞君中野實君
加藤十四郞君田口文次君
志波安一郞君八田宗吉君
坂井大輔君關直彥君
田崎信藏君
出版權法案
提出者
山口恒太郞君高木益太郎君
星島二郞君山枡儀重君
加藤知正君增田義一君
上原好雄君河野正義君
永田新之允君寺田市正君
私立中等學校協會國庫補助ニ關スル建議
案
提出者
大津淳一郞君荒川五郞君
內ケ崎作三郞君樋口秀雄君
寒河江富澤間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
齋藤金吾君內ケ崎作三郞君
菅原英伍君齋藤仁太郞君
取引所制度調査會設置ニ關スル建議案
提出者中山貞雄君
鶴見川改修速進ニ關スル建議案
提出者
小野重行君戶井嘉作君
平沼亮三君若尾幾太郞君
(以上二月二十四日提出)
下呂下付知間鐵道敷設速成ニ關スル建議
案
提出者奧村千藏君
(以上二月二十五日提出)
一政府ヨリ、受領シタル答辯書左ノ如シ
衆議院議員建部遜吾君提出政弊ノ根本革
新及政費ノ經濟的仲用ニ關スル質問ニ對
スル答辯書
(以上二月二十五日受領)
昭和二年二月二十五日
內閣總理大臣若槻禮次郞
衆議院議長粕谷義三殿
衆議院議員建部遯吾君提出政弊ノ根本革
新及政費ノ經濟的使用ニ關スル質問ニ對
シ別紙答辯書差進候
衆議院議員建部遯吾君提出政弊ノ根本
革新及政費ノ經濟的使用ニ關スル質問
ニ對スル答辯書
質問ニ係ル各種制度ノ爲完備ヲ期ス
ルハ政府ノ常ニ充分ノ注意ヲ拂ヘル所
ナルガ現在司法機關ハ完全ナル獨立ヲ
保チ議員選擧法ハ既ニ改正セラレテ時
運ニ適合シ代議機關運用ノ整備ハ政治
思想ノ發達ニ待ツベク不法ナル請願運
動ニ關スル監督取締ノ途亦既ニ備ハル
アリト雖モ政府ハ尙將來調査〓究ヲ怠
ルモノニアラズ
二、政費ヲ經濟的ニ使用セントスルコト
モ亦政府ノ常ニ深甚ノ注意ヲ拂ヘル所
ナリ、依テ官吏ノ待遇モ可成政費ノ膨
脹ヲ來サザル見地ニ於テ之カ改善ヲ期
シ國防ニ關シテハ兵力ノ補充器材ノ整
備其ノ他各般ノ施設ニ關シテ常ニ經濟
的考察ヲ加フルニ努メ又會計檢査院ノ
制度ハ行政當局ノ機能ヲ害セザル範圍
ニ於テ極力會計檢査ノ實效ヲ擧ゲシム
ル樣常ニ攻究ヲ怠ラズ〓員俸給支給法
ニ付テハ現行ノ通ニシテ不經濟ナリト
認ムベキ廉ナシ
右及答辯候
昭和二年二月二十五日
內閣總理大臣若槻禮次郞
司法大臣江木翼
大藏大臣片岡直溫
〔質問主意書ハ速記錄第十六號三〇四
頁ニ揭載セリ〕
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
茲ニ揭載ス〕
一去二十四日衆議院規則第十五條但書ニ依
リ議長ニ於テ議席ヲ左ノ通變更セリ
六三松山常次郞君
一一七岡崎邦助君
一二七坂梨哲君
一三三山梨縣第五區
選出議員
-三七福岡縣第七區
選出議員
二一望月圭助君
二-一一井上敬之助君
二一小久保喜七君
二一四大口喜六君
二二五岡田忠彥君
一去二十四日議長ニ於テ選定シタル委員左
ノ如シ
出版物法案委員
富田幸次郞君横山勝太郞君
工藤鐵男君斯波貞吉君
土生彰君山枡儀重君
木村政次郞君今井健彥君
原惣兵衞君加藤知正君
星島二郞君東武君
今里準太郞君寺田市正君
上原好雄君兼田秀雄君
山谷德治郞君永田新之允君
保險業法中改正法律案委員
寺島權藏君菅原英伍君
佐藤富十郞君荒井健三君
松本眞平君高井商二君
大竹謙治君金光庸夫君
八木逸郞君
牧野法案委員
鹽田團平君菅村太事君
手代木隆吉君八田宗吉君
熊谷巖君藤川〓助君
工藤十三雄君志波安一郞君
野原種次郞君
一去二十四日御料地拂下地ノ地租及登錄稅
免除ニ關スル法律案委員野原種次郞君辭
任ニ付其ノ補關トシテ坂東幸太郞君ヲ朝
鮮事業公債法改正法律案外二件委員田
中養達君辭任ニ付其ノ補闕トシテ平井光
三郞君ヲ登錄稅法中改正法律案外三件委
員吉良元夫君、小西和君淺川浩君辭任
ニ付其ノ補闕トシテ三善〓之君飯塚春
太郞君森田茂君ヲ商法中改正法律案外四
件委員吉木陽君辭仕ニ付其ノ補闕トシテ
渡邊伍君ヲ不良住宅地區改良法案委員岩
切重雄君辭任ニ付其ノ補闕トシテ加藤錬
五郞君ヲ孰レモ議長ニ於テ選定セリ
一去二十三日第七部選出決算委員山口政二
君死去セラレタリ
一昨二十五日常任委員補關選擧ノ結果左ノ
如シ
第四部選出
豫算委員木戶豐吉君(藤田胸太郞
君補關)
第七部選出
決算委員田崎信藏君(山口政二君
補闕)
一昨二十五日委員長及理事互選ノ結果左ノ
如シ
出版物法案(政府提出)委員
委員長富田幸次郞君
理事
工藤鐵男君今里準太郞君
寺田市正君
保險業法中改正法律案(政府提出、貴族
院送付)委員
委員長金光庸夫君
理事
寺島權藏君大竹謙治君
牧野法案(八田宗吉君提出)委員
委員長八田宗吉君
理事
鹽田團平君志波安一郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=1
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002・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、諮問事項ガアリマス、第六部選出決算
委員竹原樸一君ヨリ、常任委員辭任ノ申出
ガアリマシタ、許可スルニ御異議アリマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=2
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003・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ許可致シマス、其部ノ諸君ハ速ニ
補闘選擧ヲ行ヒ、報告アランコトヲ望ミマ
ス、尙ホ竹原樸一君病氣ニ付、二月二十六
日ヨリ三月九日マデ、陣軍吉君病氣ニ付、
二月二十六ヨリ三月七日マデ、山本条太郞
君海外旅行ニ付、二月二十四日ヨリ三月九
日マデ、森恪君海外旅行ニ付、二月二十四日
ヨリ三月九日マデ、ソレ〓〓請暇ノ申出ガ
アリマス、許可スルニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=3
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004・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ許可致シマス、日程第一、大正九
年法律第五十三號中改正法律案ノ第一讀會
ヲ開キマス、湯淺政府委員
第大正九年法律第五十三號中改正
法律案(關稅法等ノ朝鮮ニ於ケル特
例ニ關スル件)(政府提出)第一讀會
大正九年法律第五十三號中改正法律
案
大正九年法律第五十三號中左ノ通改正
ス
別表輸入稅表中「木材(關稅定率法別表輸
入稅表第六一二號一ノ己ノ二ノイ及口竝
癸ノイニ該當スルモノ)無稅」ヲ削ル
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員湯淺倉平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=4
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005・湯淺倉平
○政府委員 (湯淺倉平君)玆ニ提出セラ
レマシタ大正九年法律第五十三號中改正
法律案ニ付テ說明致シマス大正九年法律
第五十三號ハ、朝鮮ニ於ケル特殊ノ事情ニ
基ク關稅定率法ノ特例定率ヲ定ムルモ
ノデアリマス、而シテ製材セラレマシタ
木材ノ中デ、板材及挽材ハ、關稅定率法
ニ於キマシテハ相當課稅セラレテ居ルノ
デアリマスルガ、從來朝鮮ニ於テハ、製材
ノ供給ガ十分デアリマセヌ爲ニ、是ガ調節
ノ爲ニハ、前記法律ノ中ニ特例ヲ設ケテ、無稅
ト致シテ居ルノデアリマス、然ルニ今ヤ朝
鮮ニ於テハ、林政改善ノ實現ニ伴ヒマシテ、
原木ノ供給ガ十分トナリマスルト共ニ、一面
朝鮮內ノ工場ニ於ケル製材能力ノ發達ニ依
リマシテ、製材ノ供給ニ餘裕ヲ生ズルニ至
リマシタノデアリマス、爲ニ最早是ガ調節
ノ必要ノ爲ニ特例ヲ置クヲ要セナイコトニ
相成ッタノデアリマス、ソレ故ニ此法律ノ中
デ、木材ニ關スル部分ヲ廢止致シマシテ、關
稅定率法ニ依ッテ課稅セントスル次第デア
リマス、何卒御審議ノ上、速ニ御協賛ヲ與
ヘラレンコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=5
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006・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ニ對シテハ、質
疑ノ通告ガアリマス、順次之ヲ許シマス、
武藤金吉君
〔武藤金吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=6
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007・武藤金吉
○武藤金吉君 只今上程ニナリマシタ大正
九年法律第五十三號中改正法律案、朝鮮ニ
於ケル木材關稅ニ關スル特例撤廢、此案ニ
付キマシテ、衆議院ノ稅制委員會ニ於ケル
矢吹外務政務次官ノ聲明ト、昨日貴族院ノ
豫算委員會ニ於ケル若槻總理大臣ノ聲明ト
ハ、全然其方針ノ矛盾シ居ルコトヲ發見致
シマシタ、若槻總理大臣ハ朝鮮ノ森林政
策森林行政ハ其方針ガ確立シタト云フコ
トヲ、石塚貴族院議員ノ質問ニ答ヘラレテ
アリマス、果シテ朝鮮ノ森林政策ハ確定致
シタモノデアリマスルカ、我ガ內地ノ森林
政策ハ國土保安ノ上カラ、用材ノ需給ノ點
カラ、水源涵養ノ點カラ、當局ニ於キマシ
テハ愼重ニ調査サレテ、衆議院ニ於テ木材
關稅ノ改正ヲ要求スルニモ拘ラズ、此議會ニ
提出スル運ビニナッテ居ラヌノデアリマス、
本土ノ我ガ內地ニ於テ森林政策ガ定マラナ
イノニ、朝鮮ニ於テ森林政策ガ定ッタト云
フコトハ、一ハ喜ビニ堪ヘナイコトデアリ
マスルガ、此點ハ果シテ朝鮮ノ永久ノ森林
政策ハ確定致シマシテ、之ニ伴フ所ノ此關
稅ニ關スル撤廢案ヲ御出シナサレダノデア
ルカ、之ヲ若槻總理大臣カラ精細ニ懇切ニ
承リタイ、又外務大臣ニ對シマシテハ矢
吹政務次官ノ聲明ハ、滿洲ニ於ケル所ノ製
材業者三千人ハ、若シ此法案ガ通過スルナ
ラバ業ヲ失フノミナラズ、安東縣ニ於テバ
カリデモ一千万圓カラノ營業ヲ棄テナケレ
バナラヌ、僅ニ一衣帶水ノ新義州ト安東縣
ニ於ケル所ノ關係ニ於テ、大陸政策ニ及ボ
ス所ノ影響ハ非常ナルモノデアルト云フコ
トデアッテ、矢吹政務次官ハ政府ヲ代表シ
テ衆議院ノ稅制委員會ニ於テハ此案ハ撤囘
ヲ希望スル意味ニ於テ、若クハ調和スル意
味ニ於テ、此案ノ通過ヲ希望セザルガ如キ
說明ガアッタノデアリマス、果シテ然ラバ、
外務大臣ハ閣議ヲ以テ此案ヲ議會ニ提出
スル時ニ於テハ、大陸政策ニ付テ御攻究ガ
アッタノデアルカ、且又滿洲ノ製材業者等
ニ付テ御調査御考慮ガアッタノデアルカ、此
點ハ確ニ若槻總理大臣ノ貴族院ニ於ケル
聲明ト、衆議院ノ稅制委員會ニ於ケル所ノ
矢吹政務次官ノ聲明トハ衝突ヲ致シテ居ル
ノデアル、此案ハ眞面目ニ通過ヲ圖ル爲ニ
御出シニナッタノデアルカ、若クハ是ハ出
シタ後デ大失敗ヲシタト云フ事ニ御氣ガ附
カレタノデアルカ、此邊ハ卒直ニ御答辯ヲ
承ッタ上デ、吾々ハ審議ノ參考ニ供シタイ
ト思フ、殊ニ斯ノ如キ法案ヲ出シマスノ
ニ、内閣ニ於テ同ジ政府ノ下ニ於テ、朝鮮
總督ト關東長官ト意見ガ合ハナイ、斯ノ如
キ事態ヲ事實ノ上ニ於テ見ルト云フコト
ハ實ニ吾々ハ不思議デ堪ラナイ、奇怪千萬
デアル、此點ニ付キマシテハ總理大臣、外
務大臣ヨリ簡明ニ吾々ニ說明アランコトヲ
望ミマス(拍手)
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=7
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008・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 朝鮮總督府ニ
於キマシテハ、林政ニ付テ重キヲ置キマシ
テ、是迄山林局ノナカッタノヲ新ニ山林局
ト云フ官制ヲ定メマシタ事モ御承知ノ通リ
デアリマス、而シテ大正十五年度カラシテ
林業ノ經營ニ付テ一定ノ方針ヲ立テヽ、朝鮮
總督府ハ是ガ經營ニ當ルコトニ-經營ト
申シマセウカ、是ガ計畫ヲ實行スルコトニ
相成ッテ居ルノデアリマス、其大正十五年
度ノ豫算ニ於テ林政ノ施設ノ計畫ヲ立テマ
ス際カラ、朝鮮總督府ニ於テハ、此木材製
材ノ免稅ト云フコトハ、之ヲ改メンケレバ
林業計畫ヲ遂行スル上ニ於テ不便デアルト
シテ、其當時カラ考ヘテ居ッタ案デアルノ
デアリマス、之ヲ實施致シマスト一云フト、
武藤君ノ仰セニナル如ク、安東縣ノ製材業
者ニハ若干ノ影響ヲ與ヘルノデアリマス、
此點ハ政府ニ於テモ餘程心配ヲ致シタノデ
アリマスガ、若干ノ影響ヲ與ヘルニシテ
モ、朝鮮ノ林業經營ノ爲ニ計畫ヲ立テヽ、是
ガ遂行ヲスル上ニ於テ必要ナリトシテ總督
府カラ上申セラレタ以上、大體朝鮮ノ林業
計畫ヲ認メタ以上ハ、此法案ノ實行ヲ見ル
ニ至ラナケレバナラヌ、斯ウ云フ意味ニ於
テ政府ハ總督府ノ申立ニ同意ヲシテ、玆ニ
此法律案ヲ提出シタヤウナ次第デアリマ
ス朝鮮林業計畫ハ十五年力ラ立テタノデ
アリマスガ、若シ其詳細ナル事デアリマス
レバ、是ハ朝鮮總醫府ノ當局カラ御說明ヲ
申上ゲタ方ガ便利デアラウト思フノデアリ
マス(拍手)
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=8
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009・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 只今御質
問ノ中ニ、矢吹政務次官ガ此問題ヲ以テ日
本ノ大陸政策ニ大ナル影響ガアルモノデア
ルト云フコトヲ認メラレテ、是ガ成立ヲ希望
セザルガ如キ話ヲサレタト云フコトデアリ
マスガ、私ハ左様ニ承ッテ居リマセヌ、私ハ
此問題ガ日本ノ大陸政策ニ何等ノ關係アル
モノトハ考ヘテ居リマセヌ、固ヨリ朝鮮方面
ニ於キマスル當業者ト、安東縣方面ニ於キマ
スル當業者ト、利害ガ幾部分衝突致シテ居
ル事ハ事實デアラウト考へマス、ドッチモ
利害ヲ持シテ居ル者ハ日本人デアリマス、是
ガ外國ニ對スル商権ノ擴張デアルトカ、對
外貿易ノ問題デアルトカ、外國ニ對スル商
工業ノ活動ノ問題ガ含マレテ居ルト云フ風
ニ私ハ思シテ居リマセヌ、雙方共日本人デア
リマスル以上ハ-利害關係ヲ持シテ居ル
者ガ日本人デアリマス以上ハ、性質上ハ一
ツノ國內問題デアリマス、而シテ國內問題
ト雖モ、安東方面ノ當業者ト朝鮮方面ノ當
業者ト利益ガ幾ラカ反スル所ガアル以上
ハ何カ其間ニ利害ヲ調和スル方法ガアル
ナラバ、至極結構デアルト云フ意味ノ事ヲ
矢吹政務次官ハ申サレタト私ハ了解致シテ
居リマス、ツレナラバ私ハ至極尤ナ話デア
ルト思フ、併ナガラ其利害ノ調和ノ方法ガ
講ジ得ラレナイ場合ニ於キマシテハ、固ヨ
リ是ガ朝鮮ノ林業政策ヲ確立スル上ニ於キ
マシテ必要ナル法案デアルナラバ、之ヲ施
行スル上ニ於テ私ハ何等ノ異議ヲ唱フベキ
問題デハナイノデアリマス、私ハ此法案ニ
對シテ矢吹君ガ撤囘ヲ希望サレタト云フヤ
ウナ事實ハ無イト伺ッテ居リマスガ、少クト
モ政府ハ撤囘ヲ希望スルト云フヤウナ意思
ハ毛頭持クテ居リマセヌ、是ダケノコトヲ御
答申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=9
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010・武藤金吉
○武藤金吉君 尙ホ當席カラ御許ヲ願ヒタ
イ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=10
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011・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=11
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012・武藤金吉
○武藤金吉君 只今外務大臣ノ御各辯ハ、
此問題ヲ極メテ輕ク御覽ニナッテ居ル、大陸
政策ニハ何等影響ガナイ、安東縣ハ鴨綠江
ヲ渡ッタ滿洲ノ入口デアルト同時ニ、而モ
此影響ハ滿洲全體ニ及ボスノミナラズ、ー
千万圓ノアノ狹イ所デ大產業ガ、唯〓日本
人同志ノ關係デアルカラト申シマシテ、安
東縣ノ三千ノ製材業者ガ死地ニ陷リ、業ガ
無クナルト云フコトニナリマシタナラバ、
大陸政策ニ何等關係ガ無イト云フヤウナコ
トハ言ハレタモノデハアルマイト思フ、現
ニ吾々ノ手許ニハ、唯、安東縣ノ人ノ聲バ
カリデハナイ、滿洲支那全體ノ聲トシテ陳
情モ參ッテ居ルノデアル、是等ニ付キマシテ
ハ幣原外務大臣ハ、後ニナッテ此事ヲ聞イ
テ狼狽ヲシテ、現ニ兒玉關東長官ハ此案ノ
通過セザルコトニ盡力シテ居ルデハナイ
カ、外務當局ニ於テモ此案ノ通過セザルコ
トヲ慫慂シテ居ルデハナイカ、餘リニ白々
シイ外務大臣ノ御答辯ト私ハ思フ、ノミナ
ラズ矢吹政務次官ノ御答辯ハ登錄稅外十
一件ノ稅制委員會ノ速記錄ニ明々白々ニ記
載サレテ居ルノデアル、斯ノ如キコトハ實
ニ總理大臣トシテハ內閣不統一政府トナ
リマシテハ大失態デアル、果シテ此案ヲ誠
心誠意通過スベク議會ニ出シタノデアルカ
ドウカト云フコトヲ、總理竝ニ外務、兩國
務大臣ニ私ハ伺ッテ居ルノデアル、此上ニ御
尋致シマシテモ本當ノ事ヲ申サヌカモ知レ
マセヌ、併ナガラ議會ニ對シテ斯ノ如キ不
深切ナ案ヲ提出サレルト云フコトハ吾々
ノ審議ノ上ニ洵ニ遺憾デアリマスルカラ、
此質問ヲ已ムヲ得ズ發シタノデゴザイマ
ス、尙ホ外務大臣ガ御答ガアッテモナクテ
モ、吾々ハサウ認メテ居ルノデアル、又外
務大臣モ此事案ノ眞相ニ觸レテ、外務大臣
ノ良心ニ尋ネマシタナラバ、此案ノ今ノ御
答辯ハ良心ノ發動デハナイト私ハ思フ、此
案ヲ恐ラクハ政府ハ撤囘スルコトモ出來ナ
イシ、決議スルコトモ出來ナイカラ、恐ラ
クハ議院ニ出シテツレ〓〓運動デモシテ、
握リ潰シテ貰シテ、體面デモ保タウト云フ
說ヲ聽イテ居ルカラ、此質問ヲ致シタノデアル、
尙ホ外務大臣ニ御辯明ガアリマスレバ承リ
タイ、御辯明ガナタレバ承ラヌデモ宜シイ
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=12
-
013・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 外務省ガ
此法案ノ成立シナイヤウナ運動ヲ致シテ居
ルト云フコトハドウ云フ證據デ左樣ナコ
トヲ仰セラレマスカ、左樣ナ運動ヲ致シテ
居ルコトハ斷ジテアリマセヌ(「ヒヤ〓〓」
拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=13
-
014・砂田重政
○砂田重政君 本案ニ對スル審議ヲ此程度
ニ止メマシテ、午後四時マデ休憩セラレン
コトヲ望ミマス
〔「三時ヂヤナイカ」「三時々々」「三時
半」「三時半」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=14
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015・砂田重政
○砂田重政君 議長午後三時半マデト訂正
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=15
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016・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 只今ノ砂田君ノ動議
ニ御異議ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=16
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017・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、依ッテ三時半マデ休憩致シマス
午後一時三十三分休憩
午後三時四十五分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=17
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018・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 休憩前ニ引續キマシ
テ、是ヨリ會議ヲ開キマス、日程第一ニ付
テ質問ヲ繼續致シマス、柏田忠一君
〔柏田忠一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=18
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019・柏田忠一
○柏田忠一君 只今上程サレテ居リマスカ
法案ニ付キマシテ、極メテ簡單ニ外務大臣
竝ニ總理大臣、朝鮮ノ政務總監ニ對シ、質
問シテ見タイノデアリマス、總監ノ該法案
ノ說明ニ曰ク、是ハ嘗テ朝鮮ガ特別ノ情況
ニ在ッタノデアルガ、今ヤ既ニ林政計畫ガ確
立シ、鮮內ノ製材能力モ大分餘裕ガ出來テ
來タノデアルカラ、此場合元ノ關稅ニ復活
シテモ差支ナイ、斯ウ云フ御議論デアリマ
ス、所ガ去ル二十一日ニ於キマシテ、朝鮮
各道林務官會議ガアッタトキ、其席上ニ於キ
マシテ、總監ハ朝鮮ノ林業政策ニ付キマ
シテ、訓市ヲ與ヘテ居リマス、其訓市ノ中
ニ斯ウ云フ事ガアル、是ハ二十一日ノ全
道ノ林務會議ニ於ケル總監ノ訓示演說デア
リマスルガ、次ノ如ク言ッテ居リマス、惟
フニ朝鮮ノ山林經營ハ國民生活ノ安危、經
濟ノ消長ニ密接ノ關係ヲ有シテ居ル、然ル
ニ朝鮮ニ於キマシテハ、林政ノ振ハナイコ
トガ久シク、制度慣習亦適切デナイモノガ
アッタ結果、山林ハ多ク荒廢ニ歸シ、本府卽
チ總督府始政以來、官民ノ努力ガ多大ナリ
シニ拘ラズ、是ガ振興ハ前途尙ホ遼遠デア
ル、千六百万町ノ林野ヲ擁シナガラ、其林
產物ハ朝鮮內ノ需要ヲ充タスコトガ出來ナ
イ、用材、燃料等ノ缺乏ヲ告ゲルノミナラ
ス、洪水、旱魃ノ災害ハ頻ニ臻リ、其結果
トシテ被ル損害ハ年々巨額ニ達シテ居ル、
民衆ノ生活ヲ脅威シ、產業ノ發展ヲ阻害ス
ルコト洵ニ尠シトセズ云々ト云フ、訓示デ
アリマス、ソレハ二十一日ノ御話デアル
ガ、對馬海峽ヲ渡リマシテ東京ニ來マスル
1、今日ノ該法案ノ說明ニハ、最早製材能
力ハ十分デアルガ故ニ、大正九年ノ關稅率
ニ引戾シテ差支ナイ、斯ウ云フ御說明デア
リマス、僅ニ數日ノ間ニ於テ朝鮮ノ林業政
策ニ對シ、斯ノ如キ相違ノアルト云フコト
ハドウシテモ受取レヌノデアリマス、五
六日ノ間ニ左樣ニ變化ヲ來シタノデアル
カ、又朝鮮ノ現在ハ濫伐復タ濫伐ノ結果ノ
洪水デナイカラ、之ニ對シ何等ノ御心配ハ
無イト云フノデアルカドウカ、此點ヲ伺ッテ
置キタイト思ヒマス、更ニ水害ノ問題ニ付
キマシテハ、不逞鮮人ト水害、是ハ朝鮮ニ
於ケル二大厄介者デアリマシテ、殊ニ水害
ハ年々歲々非常ナ費用ヲ、其復舊工事等ニ
要スルノデアリマシテ、殊ニ一昨年ノ如キ
ハ京城竝ニ南鮮ニ於キマシテ多大ナル損
害ヲ被リマシテ、其額約二千万圓ト稱サレ
テ居ル、其後舊モ未ダ十分ニ出來テ居リマ
セヌノデアリマス、其根源ガ何處ニ在ルカ
ト申セバ、卽チ朝鮮鷄林八道滿山〓シテ、
其結果年々歲々洪水ガ襲來スル、是ガ卽チ
其原因ニナッテ居リマス、故ニ總督府ニ於キ
マシテモ、秒防工事ヲ年々ヤッテ居リマス、
殊ニ本年ノ所謂各道ノ林務官會議ニ於キマ
シテハ、從來ヨリモ餘計ニ費用ヲ增シマシ
テ、昭和二年度ニ於キマシテハ七十万圓ノ
砂防工事費ヲ計上致シテ居リマス、更ニ又
森林助成費ト致シマシテモ五十万圓デアツ
タカ、五十四万圓デアッタカ、多額ノ費用
ヲ投ジテ居ルノデアリマス、而シテ一方ニ
於テハ森林助成政策ヲ頻ニ採ッテ居ナガラ、
他方ニ於テハ木ヲ伐レト言フ、該關稅政策
ガ復活ヲ致シマスレバ、材木ノ値段ガ騰ル
ノデアリマスカラ、隨テ朝鮮ニ於ケル木ガ
伐ラレル、是ハ何レノ國デモサウデアリマ
ス、內地ニ於キマシテモ、材木ノ關稅ヲ引
土ゲルト〓伐ノ弊ニ陷ルト云フコトハ、是
ハ明ナコトデアリマス、今日朝鮮デ森林地
帶ト申セバ、北韓地方ノ茂山或ハ豆滿江ノ
沿岸地方デアリマスガ、現ニ輸入シテ居ル
額ハドレ程アルカト申セバ約六十万石ノ
多數ニ上ッテ居ルノデアリマスガ、年々歲々
此總額ヲ伐ッテ行クト云フコトニナレバ、此
北韓地方ニ於ケル森林モ、數年ナラズシテ
非常ナコトニ陷リハセヌカト思フノデアリ
せ っサウスレバ林業政策ト此關稅政策ト
云フモノハ、全然背馳スルコトニナルノデ
アリマス、ソレ等ニ對シテハドウ云フ御對
策ヲ講ズル御積リデアルヤ、更ニ又總督府
ニ於テハ、產米計畫ヲ大上段ニ振廻シテ居
ルノデアリマスガ、年々歲々水害ニ依シテ
荒廢スル所ノ水田ハ如何ト申セバ非常ナ
モノデアリマス、是モ僅カ二十五六万圓ノ
關稅ノ增收ヲ圖"テ、其一面ニ於テハ產米ノ
減收ヲ見ルト云フ結果ニ相成リハセヌカト
思アノデアリマス、是ハドウ云フ御成算ア
リヤ、更ニ第三ニ於テハ、對滿政策ノ破壞
デアル、是ハ外務當局ニ御伺シタイノデア
リマスガ、從來鴨綠江材木公司ノ成立シタ
歷史ヲ考ヘテ見マスト、是ハ單ニ木ヲ伐
テ利益ヲ得ルト云フノガ目的デハナイノデ
アリマス、要スルニ朝鮮內地ニ於ケル森林
濫伐ヲ防イデ、安イモノヲ滿蒙地方カラ入
とノ幾分デモ國民ノ生活費ヲ安クシヤウ
ト云フノガ根本デアリマス、是ハ材木公司
ノ歷史ニ遡テテレバ明瞭デアリマス、而シ
テ朝鮮ニ入ル滿洲粟或ハ豆糟、是ハ內地ニ
モ年ニ一億二千万カラ入リマスガ、サウニム
フモノニ付テ此關稅ガ設ケラレタナラバ、恐
ラク支那ハ報復的ニ輸出稅ヲ引上ゲハセヌカ
ト思フノデアリマス、現ニ支那ニ於キマシテ
ハ、此關稅引上ハ支那ニ對スル報復ナリト云フ
議論モアルノデアリマス、是等ニ對シテハ
僅ニ二十五六万圓ノ收入ヲ得テ、其半面ニ
於テ斯ル大ナル犠牲ヲ拂フ御決心ガアッテ、
此提案ヲサレタノデアルカドウカ、又此提
案ハ閣議決定マデハ、全ク關東廳竝ニ外務
省ト交涉ガナカッタト云フコトハ事實デア
ル、サウシテ突如トシテ提出サレタモノデ
アリマスカラ、關東廳モ變ダ、外務省モオ
カシイト云フノデ、玆ニ意見ノ相違ヲ來シ
タト云フコトハ明ナ事實デアリマス、何故
ニサウ云フ風ニ隱シテ置イテ、閣議間際ニ
突如トシテ出シタカ、ソレ程ノ必要ガアル
カドウカ、是ハ總理大臣ニ御伺シテ置クノ
デアリマス、又此損益計算カラ申セバ大
體是ハ二十六七万カラ三十万圓見當ノ曾收
デアリマス、サウシテ失フ所ハドウカト申
セバ、六十万石カラノ鐵道ノ運賃ガ先ヅ減
ズルノデアリマス、是ハ朝鮮ノ鐵道トシテ
ハ非常ナ損害デアリマス、又治水費ノ增加
スルコトハ明瞭デアリマス、木ヲ伐ラレル
カラ洪水ガ出ル、水力電氣ノ源ヲ涸ラス、
現ニ朝鮮ニ於ケル一大事業ハ、水力電氣
ノ事業デアリマス、此源ヲ涸ラス、是ハド
ウスルカ、水害復舊費ガ增加スルガ、是モ
ドウスルカ、更ニ御伺シテ見タイノハ現
在ハ銀安デアルカラ、新義州邊リデハ安東
ノ方ガ非常ニ步合ガ宜イト云フノデ、羨望
ノ結果運動シテ、斯ウ云フ提案ヲサセタト
云フヤウナ風說モアルノデアリマス、サウ
スレバ銀ガ元へ戾ッテ來レバドウスルカ、
變轉極マリナキ支那ノ銀ノ價ヲ對象トシテ
關稅政策ヲ立テルト云フガ如キコトハ、極
メテ危險ナル政策デアリマス、最近ニ於キ
マシテ又二十一日ニ、園田ト云フ山林部長
ノ演說ガアル、此演說ヲ引用シテ見マシテ
モ、明ニ此關稅引上ト全ク反對ノコトヲ
言ッテ居ル、朝鮮ニ於キマシテハ、今根本
ニ於テ林業政策ヲ確立シナケレバナラナ
イ、又山林ノ荒廢日ニ甚シク、災禍ノ非常
ニ恐ルベキモノガアルノデアルカラ、愛林
思想ヲ養ハナケレバナラヌ、保安林ヲ設置
シナケレバナラヌ、砂防工事ヲ益〓盛ニシ
ナケレバナラヌ、又造林ノ補助ヲシナケレバ
ナラヌト云フ風ニ、幾多ノ事例ヲ擧ゲマシ
テ、以テ朝鮮ニ於キマシテハ、木ヲ伐ルヨ
リハ寧口滿目荒凉タル禿山ヲ綠ニスルト云
フノガ根本デアルト云フコトヲ力說シテ居
ルノデアリマス、是卜今日總監ガ該法案ヲ
說明サレタモノトハ、全ク是ハ打ッテ變シタ
所ノモノデアリマシテ、此林業政策ヲ根柢
カラ覆ス所ノ法案デアルト思フノデアリマ
スガ、サウデナイト云フ理由ハ何處ニアル
カ、先ヅ大體ニ於テ以上ノ三點デアリマス
ガ、今日私ノ實ニ意外ニ感ジタノハ、朝鮮
內地ノ各道ヨリシテ、該法案ニ反對ノ氣勢
ガ擧ッテ居ルコトデアリマス、先ヅ龍山ニ
於ケル朝鮮工業會長田川常二郎氏カラ「總督
府ガ自給自足シ得ルト云フ見解ノ下ニ、木
材輸入關稅特例ヲ廢止セントスルハ時機尙
早ナリト信ズ、朝鮮工業振興ノ爲ニ絕對賛
成出來ザルモノナリ」斯ウ云ム電報ガ這入ツ
テ居ル、ソレカラ京城ノ木材商組合有志、
是ハ御膝下ノ木材商ノ電報デアリマス「木
材關稅特例廢止ニハ絕對反對スルモノナ
リ、安東ノ立場ニモ御同情ニ堪ヘズ、折角
御奮闘御成功ヲ祈ル」ト云フコトヲ安東ノ
委員ニ打電シタ、ソレカラ朝鮮ノ土木協會
長荒井初太郞氏ハ「總督府ガ木材輸入關稅
特例ヲ廢シ、自給自足ニ依ルト言フハ時機
尙早ナリト信ズ、當局ニ一應考慮ヲ願フ考
ナリ」ト云フ電報ヲ打ッテ居ルノデアリマ
ス、相當有力ナル朝鮮内地ニ於キマシテ
ノ之ニ對スル反對ガアルノミナラズ、二
千万ノ朝鮮人ハ之ニ依ッテ引上ゲラレタ高
イ材木ヲ買ハネバナラヌト云フ事ニ相成ル
ノデアリマスノデ、是亦反對ノ氣勢ヲ擧ゲ
テ居ル、朝鮮人ト云フ者ハ非常ニ經濟ノ低
イ者デアルガ、ソレ等ノ朝鮮人ハ材木ノ高
イモノヲ買ハナケレバナラヌノデ、是モ反
對デアル滿洲一帶ガ反對、朝鮮ガ反對、
是デモ該法案ヲドウシテモ遮二無二通サナ
ケレバナラヌト云フ御主張ハ何レニ在リ
ヤ、以上ノ點ニ付キマシテ總理大臣、外務
大臣竝ニ總督府ノ御當局ニ御伺スルノデア
リマス
〔政府委員湯淺倉平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=19
-
020・湯淺倉平
○政府委員(湯淺倉平君) 只今ノ柏田君ヨ
リノ御尋ニ對シテ御答ヲ致シマス、柏田
君ノ御尋ノ第一點ハ、本案提出ノ理由ヲ私
ヨリ過刻說明致シマシタ際ノ說明ト、朝鮮
各道ノ林務主任會議ニ於テ私ノ名ヲ以テシ
タ訓示ト相違シテ居ルデハナイカト云フ御
尋デアリマシタ、私ノ名前デ朝鮮總督府ノ
林務主任會議ニ於ケル訓示ヲ出シテ居ルト
云フコトニ付キマシテハ、私實ハ其内容ヲ
承知シテ居リマセヌ、不在中ノコトデアリ
マシテ、代理者ガ代理決濟ヲ致シタモノト
存ジマスルガ、更ニ其內容ニ付キマシテハ
取調ヲ致シマス、ソレデ此事ニ付キマシテ
ハ如何ニモ此法案ヲ提出致シマシタニ付
テ、何等カ理由ヲ作製シタカノ如キ趣旨ノ
御尋ト存ジマシタガ、之ニ村キマシテハ前
議會ニ於キマシテ議會ノ協賛ヲ仰ギマシタ
豫算ニ、朝鮮ノ林政改革ノ計畫ガ總テ計上
致サレテ居リマシテ、ソレニハ豫算委員ニ
ナラレマシタ方ハ御持ニナッテ居ル事十思
ヒマスルガ、其際豫算ノ說明材料トシテ、
朝鮮ノ林政ニ關スル說明書ト云フモノヲ差
上ゲテ居ルノデアリマス、此朝鮮ノ林政ニ
關スル說明書ニ、朝鮮總督府ガ鴨綠江、
豆滿江流域ニ於ケル官有ノ山林ノ增伐計畫
ヲ立テヽ居リマスコトハ、此昨年差上ゲマ
シタ參考書類ノ中ニ明瞭ニ記載サレテ居ル
通リデアリマス、柏田君ノ御尋ハ一應御尤
ト考ヘマスルノハ、朝鮮ノ各道ニ於ケル山
林ハ洵ニ荒廢ヲ致シテ居リマス、朝鮮ノ各
道ノ山林ガ用材ト云ヒ、薪炭材ト云ヒ、之
ヲ供給スルニハ十分デアリマセヌ、此事ニ
付キマシテハ私ハ之ヲ爭フ者デハアリマセ
又、唯、朝鮮總督府ガ林政ノ改善ノ計畫ト
致シテ立テマシタコトハ鴨綠江、主トシテ
鴨綠江デアリマス、鴨綠江及豆滿江ノ流域
ニ於ケル山林ノ增伐ノ計畫ニ致シテ居ルノ
デアリマス、是ハ朝鮮ノ事情ヲ御承知ノ方
ニハ能ク御分リニナッテ居ル事ト思ヒマス
ルガ、非常ニ木材ノ蓄積ガアリマシテ、是ガ
既ニ老齢ニ達シテ居ルノデアリマス、老齡
過熟デアリマシテ、立枯ヲシツヽアルト云フ
狀態デアリマス、加フルニ松毛蟲ノ被害ガ
非常ニ甚シクテ、之ヲ斫伐ヲ致サナケレバ非
常ニ不利益ニ相成ルノデアリマス、斯樣ナ
次第デゴザイマスカラ、大正十五年度ヨリ
曾伐ノ計畫ヲ立テヽ、是ガ收入其他ニ付テハ
前年度豫算ニ既ニソレ〓〓計上サレテ居ル
次第デアリマス、斯樣ナ次第デアリマスル
カラ、鴨綠江、豆滿江兩江ノ流域ニ於ケル
木材ノ伐採ト云フコトハ特殊ノ理由、特
殊ノ必要ニ基イテ計畫ヲシテ居ル次第デアリ
マシテ、他ノ地方ノ荒廢シテ居ル山林ノ林
相狀態ヲ御覽ニナッテノ御意見ハ、一應御尤ト
考ヘマスルケシドモ、此計畫ハ朝鮮總督府
ト致シマシテハ前年來既ニ實行ニ著手致
シテ居ル次第デゴザイマシテ、本案提出ノ
爲ニ殊更ニ理由ヲ作製致シタノデハゴザイ
マセヌコトヲ、御了承ヲ願ヒタイノデゴザ
イマス、ソレカラ第二點ハ、朝鮮ニハ往々
ニシテ非常ナ水害ガアルデハナイカ、其爲
ニ受ケル所ノ被害ハ極メテ大ナルモノガア
ル、殊ニ一昨年ノ水害ノ如キハ非常ニ甚大
ナル慘害ヲ與ヘタモノデアル、是ガ復舊ス
ラ尙ホ十分デナイデハナイカ、水害ノ原因
ノ一ツハ山林ノ荒廢デアル、斯樣ナ狀態ニ
現在ノ朝鮮ノ山林ガアルノデアリマス、然
ルニ材木ノ伐採ヲスルト云フコトハ山林ヲ
更ニ荒廢セシメルノデハナイカ、尙ホ又一
面產米增殖計畫ヲ立テヽ居リナガラ、山林
ヲ荒廢セシメテ其結果ハ田畑ヲ荒シ、產米
ノ減收ヲ來スヤウナ矛盾シタコトニナルノ
デハナイカ、斯樣ナ御趣旨ノヤウニ心得マ
シタガ、御尋ノ通リ朝鮮ニハ往々ニシテ非
常ナ水害ガアルノデアリマス、此水害ノ原
因ハ御尋ノ通リ、山林ノ荒廢モ或ハ其一因
ヲ成シテ居ルコトハ疑ナイノデアリマス
ガ、又一方カラ申シマスト、山林ノ植栽
樹木ノ植栽ノミニ依シテハ防ギ得ル水害デ
ハナイノデアリマス、朝鮮ノ降雨量ハ短イ
時間ニ非常ニ莫大ナ雨ヲ降ラスノデアリマ
シテ、ソレガ爲ニ山林ニ雨ヲ蓄積スルト云
フカガ何程モナイノデアリマス、是ハ山林
ガ縱シ繁茂致シマシテモ、朝鮮ノ降雨量カ
ラ見マスルト云フト、山ニ依シテ防ギ得ル
量ハ極メテ僅ナモノデアルノデアリマス、
ノミナラズ朝鮮ノ荒廢シテ居ル山林ニ對シ
マシテハ、御尋ノ中ニモアリマシタ通リ、
一面ニ於テハ砂防ヲ實行シ、或ハ奬勵シ、
又木ノ苗ヲ配布シ、山林ノ植栽ヲ頻ニ奬勵
致シテ居リマス、一面ニハ山林ノ伐採ニ付
テモ制限ヲ加ヘ、又火田民ニ對シテモ相當
ノ制限ヲ加ヘ、山林保護ニ付テモ、有ユル
手段ヲ取〃テ、保護ヲ致シテ居ルノデアリ
ママ、斯樣ナ次第デアリマシテ、朝鮮全道
ニ-全鮮ニ亙ル所ノ山林ニ對シテハ、或
ハ濫伐ヲ制限シ、或ハ植栽ヲ奬勵シ、或
砂防ヲ行ヒ、或ハ火災ノ防止ニ努力致シマ
シテ、山林ノ改善ヲ企圖シテ居ルノデアリ
ママ、今回計畫ヲ致シテ居リマスル朝鮮總
督府ノ山林ノ曾伐計畫ハ、全鮮ニ亙ルモノ
デハアリマセヌ、主トシテ鴨綠江竝ニ豆滿江
流域ニ於ケル、其儘立枯トナリツヽアル木
材ノ伐採ヲ計畫致シテ居ルニ過ギナイノデ
アリマスカラ、他ノ地方ノ山林ノ荒廢及之
ヲ改善スル所ノ方策トハ、聊カ趣ヲ異ニ致
シテ居ル次第デアリマスカラ、左樣御諒承
ヲ願ヒタイト思ヒマス、第三ノ御尋ハ是
ハ私ヨリ御答スベキ點デハナイト思ヒマ
ス、第四點ハ伐木ニ因ル水害復舊費ノ增加、
或ハ是ガ山林ヲ荒廢セシメルコトニナルデ
ハナイカ、結局此法案ニ依シテ關稅ノ課稅
ヲスルト云フコトハ、朝鮮ノ林業政策ヲ覆
スモノデハナイカト云フ御尋デアリマスル
ガ、是ハ曩ニ申上ゲマシタヤウニ、水害ノ
復舊ニモ努力ヲ致シテ居リマスルシ、又水
害ノ防止ニモ力ヲ盡シテ居リマスルガ、昨
年來朝鮮總督府ノ計畫致シマシタ山林ノ增
伐計畫、竝ニ今回提案致シマシ夕關稅ニ關
スル朝鮮ノ特例ヲ廢止致スト云フコトハ、
之ニ由ッテ以テ全鮮ノ水害ヲ多カラシメ、或
ハ山林ヲ荒廢セシメルト云フ關係ニハ相成
ラヌコトヽ考ヘテ居リマス、詰リ鴨綠江ノ
上流ニ於キマスル山林ハ既ニ老齢ニ達シテ
居リ、過熟シテ居リマスル結果、自然ニ立枯
トナリマスル上ニ、蟲害ヲ受ケテ伐ラナケ
レバ徒ニ天物ヲ暴殄スルト云フ狀態ニ在ル
ノデアリマスカラ、之ヲ增伐ヲスルト云フコ
トニナリマシタ、其結果ト致シマシテ、朝
鮮内ニ於ケル木林ノ自給自足ガ出來ル、斯
樣ナコトニ考ヘテ居ル次第デアリマス、而
シテ其計畫ハ昨年旣ニ豫算委員トナラレマ
シタ方ニ、詳シキ說明書ヲ差上ゲテ居リマ
スル次第デアリマスカラ、何卒左樣御諒承
ヲ願ヒタイト思ヒマス
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=20
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021・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 柏田君ノ御質
問中ニ、此法律ヲ議會ニ提出スルマデハ
外務省竝ニ關東廳ニ對シテ祕密ニシテ居ッ
タヤウデアルト云フコトデアリマスガ、左
様ナ次第デハナイノデアリマス、尤モ拓殖
事務局ノ方カラ外務省、或ハ關東廳ニ照會
シテ意見ヲ求ムル手續ハ執ラナカッタカモ
知レマセヌ其點ニ付テハ明確ニ致シテ居
リマセヌケレドモ、ソレハ秘密ニスルト云
フ意味デハアリマセヌデ、只今御聽ニナリ
マシタ通リ、此關稅ヲ普通法ニ戾スト云フ
コトハ、昨年朝鮮總督府ニ於テ林業ノ計畫
ヲ立テマシタ時カラ、其考ヲ以テ進ンデ居ン
タノデアリマシテ、拓殖事務局ハ其意見ヲ
聽イテ、之ニ依シテ關東廳管內ノコトモ、
總督府管內ノコトモ、共ニ考ヘテ適切ナリ
ト云フ意味デ法律案ノ起草ヲ致シテ、總督
府ノ起草ニ對シテ拓殖局ガ是ガ進行ヲ圖リ
マシタト云フ順序デ、決シテ其間外務省又
ハ關東廳ニ祕密ニシテ、突然トシテ之ヲ出
シタト云フ次第デハアリマセヌ、是ダケノ
コトハ申上ゲテ置キマス
〔政府委員男爵矢吹省三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=21
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022・矢吹省三
○政府委員(男爵矢吹省三君) 外務大臣差
支ノ爲ニ出席出來マセヌノデ、私カラ御答
申シマス、只今柏田君ノ外務省ニ對スル御
質問ハ一點デアッタト思フノデアリマス、
卽チ此度ノ法律改正ニ依シテ、支那ニ於テ
ハ我國ニ對シテ輸出スル豆糟ノ如キ重要ナ
物ニ輸出稅ヲ課スルヤウナ結果ニ相成シテ、
其爲ニ我國ノ產業ニ打撃ヲ與ヘハセヌカト
云フ御懸念カラノ御質問デアリマス、之ニ
付キマシテハ、吾々ニ於テハ決シテ其憂ナ
シト信ズルノデアリマス、何トナレバ、此
度ノ法律改正ハ何等支那ノ貨物ニ對スル
差別待遇ヲ致スノデナク、一般ニ朝鮮ニ輸
入スル木材ニ付テ、均一ニ課稅ヲ致スノデ
アリマス、而シテ其課稅ノ率ハ內地ノ國定
稅率ト等シキ程度デアリマシテ、而モ支那
ニ對シテ差別的待遇ヲ與ヘントスルモノデナ
イコトハ、誰ガ見テモ明瞭デアリマス、隨
ヒマシテ此際支那政府ニ於テハ、我國ニ對
スル重要ナル輸出物ニ、特ニ報復的課稅ヲ
爲スガ如キコトハ、有リ得ベカラザルコト
ト信ジテ居ルノデアリマス、此點御答辯申
上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=22
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023・柏田忠一
○柏田忠一君 簡單デアリマスカラ此席ヨ
リ御許ヲ願ヒマス-湯淺總監ハ二十一日
全道林務官會議ニ訓示ヲシタコトハ、己ノ
名前デヤッタカ知レヌガ、其內容ハ承知シ
ナイ、斯ウ云フ御話デアリマス、苟モ政務
總監ノ地位ニ在ッテ、確カ林務部長デアル
ト思ヒマスガ、其人ノ爲シタ演說ノ內容ハ
知ラヌト云フヤウナコトデ、朝鮮ノ所謂林
業政策ナルモノヲ立テヽ是カラヤッテ行カ
ウト云フコトハ、極メテ困難デハナイカト
思フ、部下ノ事ニ付テハ一切責任ヲ負フト
云フ肚デオヰデニナラナケレバナラヌノ
ニ、承知セヌ〓〓ト云フノハ如何カト思
フ、併シソレハ答辯ヲ求メマセヌ、又鴨綠
江乃至豆滿江沿岸ニ曾林ヲ致シテ居ル、仍
テ之ヲ伐ッタ所ガ水害其他ノ問題ニハ影響
ガナイ、斯ウ云フ御話デアリマスガ、鴨綠
江ノ下流新義州ハ年々洪水ノ爲ニ苦ンデ居
ル、彼處ニハ堤防ヲ築イテ水ノ侵入ヲ防イ
デ居ルノデアリマスガ、若モ此茂山其他ノ
沿岸地方ノ伐採ヲ致シマシタナラバ、恐ラ
ク曾水ハ更ニ甚シイモノガアラウト思フノ
デアリマス、サウスレバアノ堤防ガ缺潰サ
レテ新義州ガ水ニ浸ルコトハ明瞭デアル、
ソレ等ノ點ニ付テハドウ云フ考ヲ以テ進マ
レルカ、決シテ是ハ水害ト無關係デハナイ
ト思フノデアリマス、更ニ矢吹政務次官ニ
一點御伺シタイノデアリマス、外務省ハ移
住ノ奬勵ヲシテ居ル、奬勵費モ現ニ計上シ
テ居リマス、更ニ滿蒙ニ對シテハ經濟的ノ
發展ヲシナケレバナラヌト云フノハ是ハ國
策デアリマス、安東縣ニハ現在二千九百
人約三千人バカリノ在留者ガアリマス
ガ、其二割ハ製材ニ依シテ衣食シテ居ルノ
デアリマス、若モ此關稅ガ大正九年ノ制度
ニ復シマスナラバ、恐ラク此三千人ノ二割
ト云フモノハ全ク衣食スルコトガ出來ナイ
コトニナリハセヌカ、越エテ新義州ノ方ニ
移ッテ製材ヲスルカ、又之ヲ中心トシテ色
色ナ仕事ヲヤッテ居ル人とモ、隨テ在留ス
ルコトガ困難ニナッテ內地ニ歸ルカ、或ハ
朝鮮ノ方ニ移住シナケレバナラヌ結果ニ立
至ルト思アノデアリマス、日本ガ滿洲ニ植
民政策ヲ執リマシテ、今日マデ二十有餘年、
現在十八万ノ人ガ居ルノデアリマスガ、幾多
ノ事情カラ中ニ困難ヲ感ジ、年々歲々此在
留者ノ數ハ減ジテ居ルノデアリマス、今又
斯ウ云フ問題ヲ玆ニ突如トシテ御出シニナ
ルトスレバ、安東縣ノ製材ト云フモノヽ死
活ニ關スル問題ニナルト思ヒマス、是ハ外
務省ノ長年執シテ居ッタ所ノ大方針、殊ニ對
滿ノ政策ト矛盾シハセヌカ、此點ニ付テ今
一應御伺シテ置クノデアリマス
〔政府委員湯淺倉平君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=23
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024・湯淺倉平
○政府委員(湯淺倉平君) 只今柏田君ヨリ
重ネテノ御尋ノ前段ニ私ガ甚ダ無責任デア
ルカノ如キ御言葉ガアリマシタノハ、前回
私ノ御答致シマシタ言葉ガ足ラナカッタカ
ト考ヘマスノデ、答辯ハ御求メデハゴザイ
マセヌデシタガ、重ネテ其點ヲ辯明致シテ
置キタイト存ジマス、私ハ私ノ名ニ於テ爲
サレタル訓示ニ對シマシテ、責任ヲ囘避ス
ルト云フヤウナ考ハ毛頭ゴザイマセヌ、唯〓
御尋ノ際ニ、其訓而ノ文章ヲ見テ居リマセ
ヌト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、只
今アソコニ其文章ノ載ッタ訓示ガ參ッテ居リ
マスケレドモ、マダ精讀スル暇ガゴザイマ
セヌノデアリマスガ、大體御答致シマシタ
ヤウニ、朝鮮ノ薪材、用材ト云フモノガ、
大體カラ申シマスト、十分デハナイト云フ
コトハ是ハ爭ヒハ致シマセヌ、昨年差上ゲ
マシタ林政ニ關スル說明書ニモ其事ハアル
ノデアリマス、サリナガラ鴨綠江ノ上流地
方ノ狀態ヲ申シマスルト、ドウ云フコトニ
ナッテ居ルカト申シマスト、昨年印刷致シ
マシタモノヽ中ニモ其事ヲ書イテゴザイマ
ス、一般ニ伐期ヲ經過シテ居ル所ノ老齡
過熟林デアッテ、就中鴨綠江流域ニ於ケ
ル針葉樹ハ蟲害ノ爲ニ漸次枯死シツヽア
ル現狀デアル、然ルニ現在ノ一箇年ノ伐
採量ハ、僅ニ二百八九十万尺締デアッテ、
將來此伐採量ヲ持續シテ居ッテハ、徒
ニ山地ニ多數ノ木材ヲ腐朽セシメル結果
トナルノデアルカラ、森林ノ更新、林利
ノ保續及處分ノ關係ヲ考慮シテ、成ベク
速ニ之ヲ有利ニ利用セントスル計畫ノ下
ニ、各年度ニ要スル伐採量ヲ掲載致シテ
居ルヤウナ次第デゴザイマスカラ、其
邊ハ宜シク御覽ヲ願ヒタイト存ジマス、
ソレカラ斯ノ如ク鴨綠江流域ニ於テ木材
ノ曾伐ヲ致シマシタナラバ、其結果ハ下
流ニ於テ水害ヲ激甚ナラシメルノデハナイ
カト云フ御尋デ、是モ一應御尤ニ存ジマ
ス、御承知ノ通リ鴨綠江ニ致シマシテモ、
或ハ豆滿江ニ致シマシテモ、河身ガ或ハ對
岸ニ偏リ、或ハ此方ニ偏リマシテ、流勢ガ
一樣デアリマセヌ、ソレガ爲ニ平素デモ沿
岸ニ於テ相當ノ被害ガアルノデアリマスル
ガ、殊ニ洪水ノアリマスル時ハ、其被害ハ
相當ニアルノデアリマス、現ニ昨年ノ如キ
モ可ナリ激シイ洪水ガアッタノデアリマス、
之ヲ如何ニスルカト云フ御尋デアリマスル
ガ、是ハ御尤ト存ジマス、併ナガラ此洪水
ガ朝鮮總督府ノ木材曾伐計畫ニ依シテ起ル
モノトハ考ヘマセヌ、又木材ノ曾伐計畫ヲ
中止シテ此水害ヲ防ギ得ベシトハ考ヘマセ
又、何故カト申シマスト、鴨綠江ノ流域ニ
於キマシテ木材ノ伐採ヲ致シマスル時ニ
ハ、既ニ相當ノ稚樹ガ發生ヲ致シテ、相當
ナ林叢ヲ後ニ成シテ居ルノデアリマス、卽
チ老齢ノ樹ヲ伐採致シマシテモ、其跡ニハ相
當ノ成木ガアルノデアリマス、天然更新ニ
依シテ其儘跡ハ林叢ヲ成スノデアル、ノミナ
ラズ、對岸ニ於テモ、矢張遠慮ナク木材ノ伐
採ヲ致シテ居ルト云フヤウナ次第デアリマ
スカラ、朝鮮ノ側ニ於キマシテ老齡、過熟、
蟲害等ノ爲ニ枯死セントスル材木ヲ、其儘
ニ致シテ置クト云フコトハ非常ニ不利益
デアリマスカラ、之ヲ伐ルト云フコトハ洵
ニ已ムヲ得ナイコトヽ存ジマス、而シテ鴨
綠江ノ下流ニ於ケル水害ニ付キマシテハ、
十分ナコトハ出來マセヌケレドモ、之ニ對
スル水害復舊等ノ工事ハ、自ラ別ノ問題ニ
ナルト考ヘマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=24
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025・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 矢吹政府委員
〔政府委員男爵矢吹省三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=25
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026・矢吹省三
○政府委員(男爵矢吹省三君) 柏田君ノ重
ネテノ御質問ニ御答ヲ申上ゲマス、柏田君ハ滿
洲ニ於ケル我ガ日本人ノ發展ノ上ニ、此法律
改正ガ重大ナル惡影響ヲ及ボスモノデハナ
イカト云フ御質問デアリマシタ、此點ニ付
テハ吾々ト致シマシテ、相當考慮致シタノ
デアリマス、固ヨリ此特例ガ存續シテ居ル
方ガ、安東縣ニ於ケル木材業者ノ利益デアラ
ウト云フコトハ、是ハ明ナ事デアリマスガ、
朝鮮總督府ニ於テ林業ノ根本政策カラ出發
シテ、此法律改正ヲ致スノデアリマシテ、
ソレニハ洵ニ已ムヲ得ナイ、當然吾々ガ認メ
ナケレバナラヌ理由ガアルノデアリマス、
隨ヒマシテ此法律改正ヲ致シタカラト云ッ
テ、安東縣其他滿洲ニ於ケル我ガ木材業
ガ、致命的ノ打擊ヲ受ケルト云フガ如キコト
ハ吾々ハ考ヘナイノデアリマス、或ル程
度ノ打撃ハアラウカト思ヒマスガ、ソレ等
ハ木材業者ノ努力、又其他ノ方法ニ依リマ
シテ致命的ノ打擊トハナラズ、十分彼等ノ
生業ヲ維持スル餘地ハアルカト信ジテ居ル
ノデアリマス、隨テ只今ノ柏田君ノ御質問
ノアリマシタヤウナ御懸念ハ、吾々ハ持ッテ
居リマセヌ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=26
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027・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 三善〓之君
〔三善〓之君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=27
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028・三善清之
○三善〓之君 諸君、私モ武藤君竝ニ柏田
君ト同樣ニ、只今提案デアリマスル大正九
年法律第五十三號、朝鮮ノ特例法律デアリ
マシテ、輸入木材ニ對シテ關稅ヲ撤廢シタ
其案デアリマス、是ハ最モ朝鮮ノ其統治現狀
ニ於テ、尙且ッ適切ナル法律デアルト吾々
ハ信ジテ居ル、然ルニモ拘ラズ、突然斯樣
ナ改正案ヲ提出サレタコトハ、賢明ナル齋
藤總督ノ爲ニ甚ダ惜ムノデアリマス、私ハ
此質問ニ付テ條件ヲ附ケマスガ、總督府ノ
官吏諸君カラ彼此レ御說明ヲ伺フコトハ、
殆ド必要ガナイト私ハ思フ、而シテ總理大
臣ノ只今柏田君ニ對スル答辯ニ於テ、拓殖
云々ノ御說明ガアリマシタガ、固ヨリ朝鮮
ノ拓殖事業ハ吾々モ必要デアルト感ジテ居
リマスルケレドモ、亞細亞大陸ニ於ケル經
濟的大政策ト云フコトハ、ソレ以上ノ大ナ
ルモノデアルト吾々ハ常ニ考ヘテ居ルノデ
アリマス、サウ云フ意味ニ於テ總理大臣及
外務大臣ニ對シテ御尋ヲ致スノデアリマ
ス、此度ノ朝鮮總督府ノ此案ハ、全ク羊頭
ヲ揭ゲテ狗肉ヲ賣ルノ法律案デアルト私ハ
思フノデアル、大切ナル我ガ亞細亞大陸ノ
經濟政策ヲ根柢ヨリ破壊セラレル法案デア
ル、甚ダ暴擧ヲ敢テスルモノデアルト私ハ
信ズル者デアリマス、由來朝鮮ハ、所謂鷄
林八道ハ御承知ノ通リ殆ド禿山デアル、而
シテ唯〓一部森林ノアルノハ其北部デ、所
講咸鏡北道或ハ南道ノ一部デアル、蓋シ是
ハ李朝時代ノ政治ノ頽廢ガ斯樣ニナッテ、今
日モ尙ホ森林ノアルノハ其一部デアルト云
フコトハ、滿場ノ諸君、政府モ亦能ク御承
知デアラウト思フ、ンコデ朝鮮ノ木材ガ甚
ダ缺乏デアル、爲ニ需要供給ノ均衡ヲ得セ
シメ、比較的安價ナ木材ヲ朝鮮開發ニ供給
スル上ニ於テ必要ナリト思ウテ、吾々ハ此大
正九年ノ法律ヲ可決致シテ居ルノデアリマ
ス、而シテ朝鮮ノ狀況ハ其當時ト今日
ト-今總督府ノ官吏諸君ガ一旦出サレ
夕案ダカラ、ドウカシテ通過シタイト云
フ者モアリマセウガ、吾々殆ド聽ク價ガ
無イ、當時ノ狀況ト今日ノ狀況トハ大體
ニ於テ變クテ居ラヌ、而シテ現今ニ於テ
朝鮮全道ニ要スル木材ノ原木ノ消費高
ハ一箇年約一千五百万圓デアルト云フコ
トデアル、是ハ確實ナル調ベデアル、政
府ハ如何ニ仰シヤルカ、吾々ハ確實ナ調べ
ヲ持クテ居ルノデアル、然ルニ斯樣ナ大部
分ノ木ヲ出スト云フコトハ迚モ出來ナイ、
現在ニ於テ最大能力ガ一箇年ニ於テ僅ニ百
二十万尺締デアルト云フコトデアル、其
價ハ大體約六百万圓デアル、サウスルト現
在需要額ノ約四割シカ無イ譯デアル、ソレ
以上朝鮮ニ於テ出スコトハ、大體今日ニ於
テ不可能デアルト云フコトデアル、ソレハ
ドウデアルカト云ヘバ、北部ノ山又山ノ森
林ニ於ケル咸鏡道ノ一部ノ木材デアルカラ
デアル、之ニ鐵道ヲ敷設スルコトハ頗ル不
經濟、不可能ノ問題デアリマシテ、不經濟
ヲ構ハズニヤレバソレハ鐡道モ出來マセ
ウ、而モ一方ニ於テ天然ノ運輸ノ賜物ハア
ル、卽チ鴨綠江ト云フ大河ガアル、此大河
ニ依シテ此木材ヲ出スヨリ外ニ途ハナイ、
是ハ絕對的ノ議論デアル、又實際ニサウデ
アル、然ルニ此鴨綠江ノ大河モ御承知ノ如
"、結氷期或ハ霖雨期デ年中故障ガアッテ、
實際十分ニ使用サレルノハ無論四箇月ホカ
ナイ、而モ鴨綠江ヲ使用シテ此本材ヲ伐出
スト云フノハ、其七割八割ハ南滿洲ニ於ケ
ル本材ヲ出シテ居ルノデアル、朝鮮側カラ
出ルノハ僅ニ二三割ニ過ギナイ、左樣ナ狀
況ニ在ルニ拘ラズ、今囘ノ朝鮮總督府ノ案
ハ一箇年ニ三百万尺締ヲ出ス、今後十箇年
ノ間ニ於テハ六百万尺締ヲ出ス、是ハ途方
途轍モナイ空中樓閣デ、一部ノ「ペテン」デ
アリマス、現在安東縣ヨリ朝鮮ヘ輸入シテ
居ル金高ハ約百万圓デアル、之ヲ尺締ニス
ルト製材原材ヲ併セテ百五十万尺締デア
ル、斯樣ナモノガ今供給サレテアル、卽チ
現在ノ需要ノ六割ハ鴨綠江カラ供給ヲシテ
居ル、斯樣ナ大量ノ原木ヲ此山又山ノ困難
ナル咸鏡道方面カラ取ッテ、自給自足スル
ナント云フコトハ固ヨリ事實不可能ノコト
ハ明デアリマス、是ハ朝鮮ノ爲ニ、又朝鮮
ノ國民ノ爲ニ、所謂朝鮮拓殖事業ノ開發ノ爲
ニモ決シテ得策デナイ、甚ゲ不經濟ナル法
案デアルト深ク信ズル者デアリマス、此點
ニ付テハ先刻申シマシタ如ク、總督府ノ御
役人方ノ答辯ハ聽ク必要ガナイ、總理大臣
及外務大臣カラ賢明ナル答辯ヲシテ貰ヒタ
イモノデアリマス、其次ハ此法案ガ若シ通
リマシタナラバ、安東縣方面ヨリ朝鮮ニ輸
入スル木材ニ付テハ今後關稅ヲ掛ケラル
ル、隨テ木材ハ高クナル、斯ウ云フコトデ
アリマスガ、ソレハ總督府ノ營林署ト新舊
義洲邊リニ居ル一部ノ製材商人ニハ多少便
利デアリマセウガ、國策ノ上カラ申シマシ
テハ、朝鮮ノ爲ニモ甚ダ宜シクナイ、斯樣
ニ考ヘル、朝鮮ノ爲ニモ大阻害デアルノミ
ナラズ、此日露ノ大戰役ハ吾々國民全力ノ
財產生命ヲ投ジテ此戰勝ヲ得タ、其戰勝ノ
結果得タル此所調既得權デアル、此安東縣
ノ國民ノ經濟ヲ、根柢カラ覆ヘスコトニナ
ルノデアル、政府ハ安東縣ノモノヲ以テ外
國人ノ經營デアルト見テ居ルノデアルカ否
ヤ、眞逆サウ云フ馬鹿ナ政府ノ方モアルマ
イト思フ、米國ノ木材ヲ日本ニ輸人セラル
ル如クニ見テ居ルノカ否ヤ、左樣ナ考モナ
カラウト思フ、洵ニ奇怪ナ案デアル、此案
ハ畢竟大ナル愚案デアル、我ガ國民ノ滿蒙
ニ於ケル經濟發展ヲ大ニ阻碍妨害スルモノ
デアルト本員ハ認メルノデアリマス、政府自
身ニ於テ此案ヲ撤回スルノ意思ガ有ルカ無
イカ、過日來仄ニ聞ク所ニ依レバ是ハ私ノ
推測デアリマスルケレドモ、蓋シ齋藤總督
ノ盲判、斯樣ニ考ヘルノデアル、外務省アタリ
ニ於テ無論賢明ナル御考ガアルデアラウト
思フ、然ルニ此案ガ玆ニ提出サレタコト
ハ、實ニ吾々國家ノ爲ニ甚ダ憂慮ニ堪ヘナ
ィ、政府ガ撤回セズトモ議會ハ之ヲ否決ス
ルデアラウト思フ、ソレデモ政府ハ御構ヒ
ナイカ、第三ニハ滿蒙竝ニ西伯利地方ニ對
スル所ノ經濟發展ハ、鴨綠江ヲ界トシテ大
連安東縣ハ其門戶デアリマス、此門戶ハ
日露戰役ノ以前ニ於キマシテ、安東縣ナド
ニハ日本人ノ隻影ダモ見受ケナカッタノデ
アリマス、左樣ナ處ガ今日我ガ滿蒙開發ノ
經濟的大機關ノ門戶ニナッテ居ルノデアル、
卽チ日本人ノ大都市ヲ今日形成シテ居ルノ
デアル、今ヤ安東縣ハ大連ト共ニ、我ガ亞
細亞大陸ノ一大策源地デアリマス、斯樣ナ
大切ナル大陸政策ノ大機關デアル安東縣
ハ、鴨綠江ノ上流ヨリ下ル木材ヲ以テ之ヲ
一大生命トシテ居ルノデアリマス、然ルニ
外國人ナラザル日本人ノ經營セル此業ニ對
シテ、大打撃ヲ與ヘ、而シテ安東縣ガ二十
年此方經濟的大發展ヲ致シタモノヲ根柢ヨ
リ破壞セントスルノハ、洵ニ無暴極マル育
目的法案デアルト私ハ斷ズルニ於テ憚ラナ
ィ、故ニ政府ニ對シテ玆ニ警告ヲ致スト同
時ニ、滿場ノ諸君ハドウカ斯樣ナ法案ニ
向ッテハ、卽決否決ヲシテ貰ヒタイ、斯樣
ナ意味ニ於テ質問ヲ致シマス(拍手)
〔國務大臣若槻禮次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=28
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029・若槻禮次郎
○國務大臣(若槻禮次郞君) 三善君ハ本案
ニ付テ政府トハ異シタ意見ヲ御持ニナッテ居
ルヤウデアリマス、卽チ本案ノ如クスルコ
トハ、朝鮮ノ林業ノ爲ニモ宜クナイト云フ
出發點カラ御質問ガ起。タヤウデアリマス、
之ニ付テハ先程カラ朝鮮總督府ノ政府委員
竝ニ私モ之ニ言及致シマシタガ、朝鮮總督
府ニ於テ林業ノ計畫ヲ大正十五年カラ立テ
マシタ時ハ、矢張伐採ハ何處ノ材木ヲ伐採
スル、植林ハ何處ニ植林ヲスル、而シテ外
國カラ入ルモノハドウ云フヤウニ完全ニ取
扱フカト云フコトニ付テ、各〓其計畫ヲ定
メテアリマシタ、其結果ガ玆ニ現ハレタノ
デアリマシテ、政府ノ見ル所ハ三善君ノ御
覽ニナッテ居ル所トハ違。テ居ルノデアリマ
ス、ソレ故ニ、此點ハ、先程朝鮮總督府ノ
政府委員ノ答ヘタ所ヲ以テ、三善君ノ第一
ノ御質問ノ答辯ニ私ハ致シタイト思ヒマ
ス、第二ノ御質問ハ、本案ヲ以テ洵ニ宜シ
クナイト御覽ニナッテ、政府ハ之ヲ撤囘ス
ル意思アリヤ否ヤト云フコトデアリマシタ、
政府ハ相當ノ法律案デアルトシテ提出致シ
タノデアリマスカラ、撤囘スルト云フ意思
ハナイノデアリマス、第三ハ、安東縣ニ於
テ日本人ガ盛ニ事業ヲシテ居ル、是ハ多年
ノ努力ニ依シテ滿洲ノ入口デ是ダケニ發展
シテ居ル、之ニ對スル是ガ打撃ニナル-
是ハ御質問デアルカドウカ存ジマセヌ
ガ-ソレ故ニ反對デアルト云フ御意見ノヤ
ウデアリマス、安東縣ニ於テ日本人ガ事業
ヲ段々進メテ參クテ今日ノ如クナリマシタ
コトハ、私モ三善君ト同様ニ洵ニ喜バシイ
事ト存ジテ居ルノデアリマス、益〓彼等ノ
事業ガ發展センコトヲ切ニ祈ルノデアリマ
ス、隨テ何等カノ法制ノ立テ方ニ依ッテ彼
等ノ事業ニ妨ゲノ起ルコトハ、洵ニ是ハ避
ケナケレバナラヌコトデアリマシテ、其點
ノミカラ見マスト、實ニ是ハ安東縣ノ人ニ
ハ同情スベキコトデアリマスガ、同時ニ又
政府トシテハ、朝鮮總督府ノ施設ニ付テ出
來ルダケ其實行ヲ期セネバナラヌノデアリ
マシテ、兩者ノ間ノ利害ヲ調和スルコトハ
甚ダ是ハ容易デナイノデアリマス、安東縣
ニ於テ事業ヲシテ居ル人ニモ、固ヨリ同情
致シマスケレドモ、朝鮮ニ於ケル施設モ亦
是ガ遂行ヲ爲サシメナケレバナラヌト云フ
點ニ於テ、若干安東縣ノ人ニハ妨ゲニナリ
マセウケレドモ、朝鮮ノ林業經營ノ爲ニハ
已ムヲ得ナイト政府ハ考ヘテ居ルノデアリ
マス(拍手)
〔三善〓之君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=29
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030・三善清之
○三善〓之君 只今總理大臣ノ御意見ヲ伺
ヒマシタガ、滿蒙方面ニ對スル我ガ經濟政
策ニ付テハ、非常ニ熱心ナ御意見ノアリマ
スコトヲ拜聽シテ、私共甚ダ滿足ニ存ジマ
ス、唯、今囘ノ朝鮮ノ此案ハ、失禮ナガラ
總理大臣ガ御分リニナラヌ、朝鮮ノ俗吏ノ
書イタ物ヲ御目ニ懸ケタ位デ、貴方ノ御答
辯デハ吾々議員ハ決シテ滿足致シマセヌ、
斯樣ナ警告的御答ヲシテ此壇ヲ降リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=30
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031・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 日程第二、右議案ノ
審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シ
マス
第二右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=31
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032・砂田重政
○砂田重政君 本案ハ議長指名、九名ノ委
員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=32
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033・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=33
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034・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ砂田君ノ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=34
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035・砂田重政
○砂田重政君 日程變更ノ動議ヲ提出致シ
マス、卽チ政府提出、御料地拂下地ノ地租
及登錄稅免除ニ關スル法律案ノ第一讀會ノ
續ヲ開キ、委員長ノ報告ヲ求メ、審議ヲ進
メラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=35
-
036・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=36
-
037・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、卽チ茲
ニ御料地拂下地ノ地租及登錄稅免除ニ關ス
ル法律案ノ第一讀會ノ續ヲ開キマス、委員
長淺川浩君
御料地拂下地ノ地租及登錄稅免除ニ關ス
ル法律案(政府提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一御料地拂下地ノ地租及登錄稅免除ニ關
スル法律案(政府提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和二年二月二十六日
委員長淺川浩
衆議院議長粕谷義三殿
〔淺川浩君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=37
-
038・淺川浩
○淺川浩君 御付託ニナリマシタ御料地拂
下地ノ地相及登錄稅免除ニ關スル法律案ノ
委員會ノ經過及結果ヲ御報告致シマス、本
法案ハ北海道ニ於ケル御料地ニ屬スル未開
地ノ開拓ヲ爲シ、又ハ未開地ヲ拂下ゲテ開
墾ヲ爲シ、或ハ未開地ヲ拂下ゲテ素地ノ儘
使用致ス、此各土地ニ對シマシテ、民有ニ
歸シタル翌年ヨリ十箇年間ノ免租ヲ爲シ、
且ツ所有權取得ノ登錄稅ヲ免除致スト云フ
單行法デアルノデアリマス、本法ノ成立ニ
依リマシテ、北海道ニ於ケル一般國有未開
地ニ於テ有スル所ノ免相ノ條件ト均衡ヲ得
ルコトニナルノデアリマシテ、委員ノ各位
ヨリ政府當局ニ對シ二三ノ質疑應答ヲ重ネ
タル結果、希望ヲ附シマシテ原案ヲ可決致
シタノデアリマス、其希望ノ內容ハ、北海
道ニ於ケル一般國有未開地ニハ、大正七年法
律第四十三號ヲ以テ卽チ十箇年免租後、尙
ホ開墾ニ等シキ勞費ヲ投ジ、地種ノ變更ヲ
ナシタル場合ハ、更ニ二十年乃至三十五年
ノ免租期間ガ附加セラレテ居ルノデアリマ
ス、卽チ本法ニ依リマスル免租期間經過ノ
後、更ニ前段申上ゲマシタル大正七年法律
第四十三號ニ依リ、二十年乃至三十五年ノ
免租期間ヲ附加セラレタク、及ビ未開地處
分法ニ依リマシテ民有ニ歸シタル後、若
干年地方稅免除ノ特例ガアルノデアリマス
ルカラ、同樣其途ヲ開カレタシト云フ希望
ヲ附シタノデアリマス、政府當局ニ於キマ
シテモ、本希望條件ニ同意ヲセラレタノデ
アリマスルカラ、討論ヲ用ヰズシテ滿場一
致原案ヲ可決致シタ次第デアリマス、何卒
委員會決定ノ通リ御贊成アランコトヲ希望
致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=38
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039・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 質疑ノ通告ガアリマ
ス-靑木精一君
〔靑木精一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=39
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040・青木精一
○靑木精一君 私ハ只今議題トナリマシ
テ、委員長ノ報告ノアッタ本案ニ牽聯ヲ致
シテ、大藏大臣.農林大臣ニ質問ヲ申上ゲ
タイノデアリマス、本案ハ北海道ニ於ケル
所ノ御料地ノ拂下地ニ對シテ、民有トナッ
タ翌年ヨリ十箇年間地租ノ免除ヲシ、又所
有權取得後ニ於ケル所ノ登錄稅ヲ免除スル
ト云フ案デゴザイマス、洵ニ結構ノ案デアル
ニハ相違ナイ、所謂北海道ニ於ケル國有未
開地ノ民有ニ歸シタルモノニ對スル權衡上、
此案ヲ出シタト云フ政府ノ理由デアリマ
ス、然ルニ私ガ政府ニ伺ッテ置キタイノハ、
唯〓單リ北海道ニノミ此法律ヲ設ケルト云フ
コトハドウ云フ理由デアルカ、府縣ニ於キ
マシテモ御料地ノ拂下ト云フコトハ頻々ト
シテ行ハレテ居ルノデアル、然ルニ府縣ニ
於キマシテハ、御料地ノ拂下地ニ對シテ、
此特典ヲ與ヘラレナイ、北海道ニノミ特典
ヲ與ヘルト云フコトハ、權衡上甚ダ當ヲ得
ザルモノデアルト私ハ思フ、政府ガ本案ヲ
提出シタル所ノ主ナル理由ハ、國有未開地
處分法トノ權衡上ノ見地ヨリシテ提案サレ
タコトデゴザイマスルガ、私ハ更ニ大ナル
權衡上ノ見地ヨリ致シテ、斯ウ云フ特典ヲ
內地ニ於テモ與ヘルヤウナ方針ヲ執ラレ、
又法案ヲ出シテ戴キタイノデアル、政府ニ
於テ之ヲ提案スルノ意思ガアリマスカ、將
來內地ニ於ケル府縣ノ御料地拂下地ニ對シ
テモ、地租ノ一定期間ノ免除、登錄稅ノ免
除ヲナサル御意思ガアルカドウカト云フコ
トヲ伺フ、殊ニ小サナル所ノ區域ノ拂下地
ナラバ、大シタ問題デモアリマセヌガ、大
集團ノ拂下地積ニ對シテハ、內地ノ府縣ニ
於テモ斯ウ云フヤウナ特典ヲ與ヘル必要ニ
迫ラレテ居ルノデアル、卽チ政府ニ於テモ
相當考慮セラレテ居ル所ノ人口食糧問題、
開墾助成ノ促進ノ問題、造林奬勵ノ問題、
斯ウ云フヤウナ國策ヲ遂行スル上カラ申シ
マシテモ、又一般的ノ農村振興ノ上カラ申
シマシテモ、斯ウ云フ特典ヲ府縣ノ拂下地
ニ於テモ認ムルヤウニシナカッタナラバ、甚
ダ公正ヲ缺クモノデアルト私ハ思フ、此ニ
於テ私ハ農林大臣ニ御伺スルノデアリマス
ガ、農林省ニ於テハ種々ナル方面ヨリ造林
ノ奬勵、人口食糧問題ノ解決ノ上ニ於テ施
設計畫ヲ爲シ、又爲サントスル抱負ガアル
ニ相違ナイノデアリマスガ、北海道ニ與ヘ
ントスル所ノ特典ヲ內地ノ拂下地ニモ與へ
タナラバ、相當ナル效力ヲ持來スコトハ言
ハズシテ明デアル、各府縣ニ於テ數千町步
ニ亙ル御料地ノ拂下ハ、近來頻々トシテ行
ハレテ居ルノデゴザイマス、ソレニ對シテ
府縣ニ於テハ、拂下後直ニ地租ヲ課スル、
北海道ダケハ特典ヲ與ヘルト云フコトハ、
左ナキダニ北海道方面ニ對シテハ、拓殖計
畫等ニ依シテ相當ナル特典ガ與ヘラレテ居
ル府縣ハ顧ミラレズシテ、北海道ニハ斯
ノ如キ單行法マデモ出シテ特典ヲ與ヘルト
云フニ至ッテハ、政府ノ處置ガ甚ダ徹底致
サナイ憾ガアルノデアリマス、故ニ農林大
臣ト致シマシテハ、此ノ人口食糧問題、或ハ
造林奬勵ト云フヤウナ見地ヨリ致シマシテ、
今日ノ民力ノ程度ニ鑑ミル所ガアリマシ
テ、內地ノ拂下地ニ對シテ、此法案ノ認ム
ル所ノ特典ヲ將來與ヘルコトヲ可トスルノ
意見ヲ有セラレルカドウカ、此點ニ付テ御
深切ナル御答辯ヲ戴キタイノデアリマス、
卽チ大藏大臣、農林大臣ヨリ、大要今私ノ
申上ゲマシタ所ノ趣旨ニ付テ、政府ノ方針、
政府ノ抱負、計畫ノ在ル所ヲ御示ヲ願ヒタ
イノデゴザイマス(拍手)
〔國務大臣片岡直溫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=40
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041・片岡直温
○國務大臣(片岡直溫君) 靑木君ノ御質問
ニ御答ヲ申上ゲマス、北海道ニ於ケル特別
ノ法律ヲ作リマスコトハ、是ハ未開地ノ開
墾、其他發達ヲ促ス必要上ヨリ、此特例ヲ
布クノデアリマス、內地ニ於キマシテモ、
北海道ノ如ク拓殖開發ノ必要ノ無イコトハ
アリマセヌガ、旣ニ相當ニ發達シテ居ルノ
デアル(ノウ〓〓)北海道ニ於キマシテハ、
拓殖開發ヲ促ス必要ガアルノデアリマスカ
ラ、此特例ヲ布クノデアリマス、內地ニ於
テハ之ヲ適用致サヌ積デアリマス(拍手)
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=41
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042・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 靑木君ノ私ニ對
スル御尋ニハ、大體ニ於キマシテ御同感デ
アリマス、唯、今日議題ニ上ッテ居リマスル
ノハ、北海道拓殖ノ必要カラ、北海道ニ限
ラレタル法律ガ玆ニ提出サレタノデアリマ
ス、而シテ斯樣ナ政策ハ內地ニ向ッテモ行
フ考ガ、農林當局トシテ有ルカ無イカト云
フ御尋デアリマシタガ、靑木君ガ御承知ノ
通リ、地租條例ニ依リマシテ鍬下年限、或
ル一定ノ間ニ免租スルトカ、租稅ヲ高メヌ
トカ云フ特別ナル取扱ガ、地租條例ニ依シテ
出來テ居ル上ニ、御承知ノ如ク三十四年ノ
法律第三十號ニ依リマシテ、地租條例ニ依ッ
テ特別ナル保護ヲ開墾者等ニ與ヘテ居ル以
外ニ、更ニ最長七十年ニマデ達スル間ハ、
事情ニ依シテ免租若クハ租稅ヲ上セヌト云
フ餘程厚イ保護ヲ開墾ノ上ニ行ッテ居ルノ
デアリマス、唯〓〓日ノ法律ニハ、或ハ登
錄稅ヲ課セヌトカ云フヤウナ、其他ノ保
護ヲスル條項モアリマスルノデアリマス、
御意見ノ如ク食糧問題ヲ解決スルニハ、單
リ北海道ノミナラズ內地ニ於テ、集團地其
他現在開墾助成法ニ依ッテ實行シテ居ルモ
ノモアリマシテ、多クハ內地ニ於テ食糧問
題ヲ解決スル事ノ主ナルモノハ內地ニ在リ
マスルガ故ニ、只今御意見ノ事ヲ農林當局
トシテハ〓究モシ考慮モ致シテ、何等カノ
途ガアリマスレバ、御希望ニ副フ機會モア
ラウト思ヒマスルガ、唯〓玆デ申上ゲテ置
キタイノハ、內地ニ於キマシテモ地租條例
ニ於テ保護スル外ニ、只今申ス三十四年ノ
法律ニ依シテ、更ニ進ンダ保護ヲ內地ノ開墾
者ニ向ッテ與ヘテアルト云フコトハ御承知
デアリマセウガ、附加ヘテ御參考マデニ申
上ゲテ置キマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=42
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043・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 質問ノ通告モアリマ
セヌカラ、直ニ採決致シマス、本案ノ第二
讀會ヲ開クニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=43
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044・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=44
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045・砂田重政
○砂田重政君 直ニ第二讀會ヲ開キ、第三
讀會ヲ省略シテ委員長報告通リ、可決確定
セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=45
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046・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニ御異
議ナシト認メマス、仍テ直ニ第二讀會ヲ開
キ、議案全部ヲ議題ト致シマス
御料地拂下地ノ地租及登錄稅免除ニ關
スル法律案第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=46
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047・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ
通リ可決確定致シマシタ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=47
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048・砂田重政
○砂田重政君 更ニ日程變更ノ動議ヲ提出
致シマス、卽チ政府ノ同意ヲ求メテ、日程
第二十、議院法中改正法律案ノ第一讀會ノ
續ヲ開キ、委員長ノ報告ヲ求メ、引續イテ
其審議ヲ進メラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=48
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049・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ日程變更ノ
動議ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=49
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050・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス-政府モ同意デアリマス、仍テ日程ハ
變更セラレマシタ、卽チ日程第二十議院法
中改正法律案ノ第一讀會ノ續ヲ開キ、委員
長ノ報告ヲ求メマスス、委員長黑住成章
君
第二十議院法中改正法律案(小川平
吉君外二十六名提出)
第一讀會ノ續(委員長報告)
報告書
一議院法中改正法律案(小川平吉君外二
十六名提出)
右ハ本院ニ於テ可決スヘキモノト議決致
候此段及報告候也
昭和二年二月二十五日
委員長黑住成章
衆議院議長粕谷義三殿
〔黑住成章君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=50
-
051・黒住成章
○黑住成章君 付託ニナリマシタ法律案ノ
中デ、小川平吉君外二十六名提案ニ係ル議
院法中改正法律案ノ委員會ノ〓末ヲ御報告
致シマス、本案ハ貴族院ニモ衆議院同樣、
豫算ノ審査期間ヲ定メントスル法案デアリ
マツ、而シテ此法案ハ既ニ本院ヲ二回通過
ヲ致シテ居リマスルノミナラズ、此度ノ提
案ハ各派聯合ノ提案ニ係ルノデゴザリマシ
テ、隨テ案自體ニハ質疑應答ハナイノデア
リマス、殆ド審議ハ〓迄ニ盡サレテ居リ
マス、唯、委員中ヨリ政府委員ニ對シテ質
問ガアリマシテ、既ニ二回此法案ガ御提案
ニナリ、而シテ此支持ニ努メラレテ居ルニ
拘ラズ、今期議會ニ於テ此御提案ガ無イノハ
如何ナル理由デアルカ、又此案ガ貴族院ニ
廻ッタ場合ニ、政府ノ意見ヲ求メラレタ時ニ
ハ、如何ナル意見ヲ有シテ居ルカ、是ガ委
員諸君ヨリ出マシタル質問デアルノデアリ
マスルガ、政府委員法制局長官ノ答辯ニ徹
底ヲ缺ク憾ミガアリマシタノデ、更ニ總理
大臣ノ出席ヲ求メタ次第デアリマス、而シ
テ總理大臣ニ對シ、委員靑木精一君ヨリ前
法制局長官ニ對スル同樣ノ質疑ガアリマシ
タ、之ニ對シ總理大臣ハ、今期議會ニ提案
ヲセヌノハ當初ニ於テ審議未了ニ終リ、後
ニ否決ニナッタノデ、今期議會ニハ見合セ
タノデアル、本案ニ對シテノ豫テ提案ヲ致
シテ居ル精神趣旨ト云フモノハ少シモ變ラ
ヌノデアル、斯樣ナ御答辯デアリマシタ、
更ニ委員ヨリ然ラバ貴族院ニ本案ガ廻ッタ
時ニ、政府ハ如何ナル態度ヲ執ルカ、之ニ
對シテ總理大臣ハ固ヨリ反對デナイ、贊成
デアル、同意ヲ致スト明瞭ニ御答辯ガアッ
タノデアリマス、之ヲ以チマシテ質問ハ打
切リ、如上述べマスル通リノ案デゴザリマ
スルカラ、討論ヲ用ヒズ直ニ採決ニ入リマ
シタ、卽チ本案ヲ委員會ハ滿場一致デ可決
致シマシタ、此段御報告致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=51
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052・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ニ付キマシテハ
質問ノ通告ガアリマセヌ、仍テ直ニ採決致
シマス、本案ノ第二讀會ヲ開クニ御異議ア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=52
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053・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ第二讀會ヲ開クニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=53
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054・砂田重政
○砂田重政君 直ニ第二讀會ヲ開キ、第三
讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ通リ、可決確
定セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=54
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055・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニ御異
議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=55
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056・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、依シテ直ニ第二讀會ヲ開キ議案全部ヲ
議題ト致シマス
議院法中改正法律案
第二讀會(確定議)
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者ア
リ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=56
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057・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ第三讀會ヲ省略シテ委員長報告ノ
通リ可決確定致シマシタ(拍手)次ハ日程第
三、花柳病豫防法案ノ第一讀會ヲ開キマ
ス
第三花柳病豫防法案(政府提出)
第一讀會
花柳病豫防法案
花柳病豫防法
第一條本法ニ於テ花柳病ト稱スルハ黴
毒淋病及軟性下疳ヲ謂フ
第二條主務大臣ハ業態上花柳病傳播ノ
虞アル者ヲ診療セシムル爲市又ハ特ニ
必要ト認ムル其ノ他ノ公共團體ニ對シ
診療所ノ設置ヲ命ズルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ設置スル診療所ニ於
ケル診療ノ費用ノ負擔及徵收ニ關シテ
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三條國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ從ヒ前
條ノ規定ニ依リ診療所ヲ設置スル市其
ノ他ノ公共團體ニ對シ其ノ診療所ニ關
シ市其ノ他ノ公共團體ノ支出スル經費
ノ六分ノ一乃至二分ノ一ヲ補助ス
第四條主務大臣ハ期間ヲ指定シ適當ト
認ムル公私立ノ診療所ヲ其ノ承諾ヲ得
テ第二條第一項ノ規定ニ依リ設置スル
診療所ニ代用スルコトヲ得此ノ場合ニ
於テハ第二條第二項及前條ノ規定ヲ準
用ス
第五條傳染ノ虞アル花柳病ニ罹レルコ
トヲ知リテ賣淫ヲ爲シタル者ハ三月以
下ノ懲役ニ處ス
傳染ノ虞アル花柳病ニ罹レルコトヲ知
リ又ハ知ルベクシテ賣淫ノ媒合又ハ容
止ヲ爲シタル者ハ六月以下ノ懲役又ハ
五百圓以下ノ罰金ニ處ス
前二項ノ場合ニ於テ傳染防止ニ付相當
ノ方法ヲ講ジタル者ハ其ノ刑ヲ減輕
ス
第六條醫師傳染ノ虞アル花柳病ニ罹レ
ル者ヲ診斷シタルトキハ傳染ノ危險及
傳染防止ノ方法ヲ指示スベシ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ
各條ニ付之ヲ定ム発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=57
-
058・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 俵政府委員
〔政府委員俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=58
-
059・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 只今上程ニナリマ
シタ花柳病豫防法案ノ說明ヲ申上ゲマス、
花柳病ハ結核ヤ又酒精中毒ノ此二ツノモノ
ト共ニ、三大庶民病ト稱セラレテ、何レノ
民族ノ間ニ於キマシテモ、深ク且ツ一般ニ
浸潤シテ居ル所ノ疾患デアリマシテ、更ニ
是ガ其子孫及後裔ニ及ボス所ノ害毒モ甚シ
クテ、洵ニ憂慮スベキモノデアルノデアリ
マツ、ソレ故ニ各國ハ共ニソレ〓〓必要ナ
ル法規ヲ制定致シマシテ、其施設ヲ備ヘ
テ、以テ本病ノ豫防撲滅ニ最善ノ努力ヲ致
シテ居ルノデアリマス、然ルニ從來我國ニ
於キマシテハ、花柳病ニ對シテ豫防法ノ制
定ヲ見ナカッタコトハ、衞生行政上ノ缺陷デ
アリマシテ、識者ト共ニ洵ニ遺憾トスル所
デアリマス、是ニ於キマシテ曩ニ保健衞生
調査會ノ答申ニ基イテ、其答申案ヲ基礎ト
シテ本案ヲ作製致シマシタ譯デアルノデア
リマス、其要旨ノ主ナルモノヲ申上ゲマス
レバ、第一ハ花柳病毒傳染ノ危險最モ大ナ
リト認メル所ノ、特殊業態者ニ對シテ、容
易ク花柳病ノ診療ヲ受クルコトヲ得セシム
ル爲ニ必要ナル設備ヲ完成シ、以テ是等業
態者間ノ花柳病患者ヲ減少致スト云フコト
ノ意味ガ第一デアリマス、第二ハ傳染ノ虞
アル花柳病ニ罹ッテ居ル者ノ賣淫及其媒合
容止、斯ウ云フ行爲ニ對シマシテハ、健全
ナル者ノ淫賣ヨリモ、ヨリ多ク重キ刑ヲ科シ
マシテ、以テ病者ノ淫賣ヲスルコトヲ抑制
シマシテ、以テ本病ノ傳播ヲ防止スルト云
フコトガ第二ノ要點デアルノデアリマス、
此案固ヨリ敢テ絕對完全ナルモノトハ言ヒ
能ハザル迄モ、現狀ニ於テ實行シ得ベキ先
ヅ以テ最良ノ方法トシテ、花柳病傳播ノ其主
要源泉ニ對シテ、是ガ防止方法ヲ講ズルモ
ノデアリマシテ、花柳病豫防上多大ノ貢獻
アルモノト信ジテ疑ヒマセヌ、願クハ愼重
御審議ノ上、御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ希
望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=59
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060・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 本案ニ對スル質疑ヲ
許シマス、吉良元夫君
〔吉良元夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=60
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061・吉良元夫
○吉良元夫君 只今議題ト相成リマシタ此
法案ハ、私共專門ノ知識ノアリマセヌ者
ハ、成ベク發言ヲ避ケタイノデアリマスル
ケレドモガ、是レ私共ノ感ズル所ニ於テ、
少シ異樣ノ感ガアルノデアリマスルカラ、
敢テ質疑ヲ致シタイノデアリマス、勿論明
ニ此案ノ提出理由ニ於テ御〓ニナッテ居リ
マスル通リニ、花柳病豫防ト云フコトハ、
刻下ニ於テ極メテ必要ナ事デアルト云フコ
トヲ吾々モ信ズル者デアリマス、併ナガラ
斯ノ如キ問題ハ、國民ノ文化ガ進步致シマ
シテ、道德品行ガ向上致シマスレバ、斯ノ
如キ法案ハ不用ニ屬スベキ性質ノモノデア
ルト吾々ハ確信シテ居ルノデアリマス、今
日ハ御承知ノ如ク我ガ帝國ノ文化ハ、明治
大帝ノ御治世ニ相成リマシテ、此六十年間
ニ世界列國ノ五百年以上ノ經過ヲ迪ッタ程
ノ進步アリト云フ大家ノ御說デアリマス、
吾々モ左様ニ信ジテ居ル者デアリマス、大
體私ガ異樣ニ感ズル點ヲ〓略申上ゲマスル
ガ、此度五十二議會ニ於キマシテハ、政府
ハ各種ノ法案ヲ續々御出シニナルノデアリ
マス、是レ各〓重要ナルモノデゴザイマセ
ウガ、私共ノ觀察ヲ致ス所ニ依リマスレ
バ彼ノ不良住宅地區改良法案ノ如キ、或
ハ公益質屋法案ノ如キ、皆是レ社會政策ヲ
完全ニ徹底セシムル目的デアリマセウ、而
シテ此人類現在ノ社會ニ於テ、利益幸福ヲ
招來スル御心持デアリマセウ、此花柳病豫
防法案ノ如キモ、畢竟其邊ノ意味モ含マレ
テ居ルモノト信ズルノデアリマスルガ、斯
ノ如キ法案ニ於キマシテハ、逐次累年、是
ヨリ以後豫算ヲ多太ニ伴ヒマスル法案デア
サマス、唯〓單ニ法律ト云フモノヲ出シ置
イテ、サウシテ其法律ノ效果ニ於テ完全ニ
其成績ヲ擧ゲルト云フコトハ、是ハ不可能
ナルモノデアリマシテ、且ツ多大サル豫算
卽チ金ガナタテハ、其目的ト云フモノハ完
成セラレナイト云フコトハ、是ハ明カナル
事實デアル、不良住宅地區改良法案ノ如キ
モ、先ヅ六大都市ニ之ヲ行ウテ、漸次都會
地ニ之ヲ行ウテ、遂ニハ一般國民ノ不健全
+、健康狀態ニ副ハナイ所ノ不良住宅ヲモ
改良ヌルノ目的ヲ遂行シナケシバナラヌヤ
ウサ事デアリマシテ、蓋シ此法案ヲ完全ニ
執行スルト云フコトニ至リマシテハ、將來
夥シク國費ト云フモノガ膨脹スルト云フコ
トハ、是ハ自然ノ事實デアル、公益質屋法
案ノ如キモ矢張同性質ヲ含ンデ居ルノデア
ル、花柳病豫防法ノ如キモ亦私共ハ左樣ニ
見ルノデアル、其見マスル所以ハ、此度規
定サレテ居リマスル所ノ第三條ニ明ニ書イ
テアル所ノ-末尾ニ書イテアリマヌル經
費ノ六分ノ一乃至二分ノ一ヲ補助スルト云フ
コトデアル、此經費ヲ國庫ガ補助致シマセヌ
タレバ、地方ト雖モ中ミ財源ニ苦ミ、負擔
ガ多イノデアリマシテ、之ヲ完成スルコト
ハ出來ナイノデアリマスルカラシテ、要スル
ニ國庫ガ經費ヲ多大ニ支出シテ、此目的ヲ
貫クト云アコトノ手段ニ出デナケレバナラ
ヌト云アコトデアリマスルカラシテ、私ハ
寔ニ法案自體ノ性質ニ於テハ結構デアリマ
スルガ、斯樣ナ事ヲ申スト御氣ニ入ラヌ方
モアリマスカ知ラヌガ、今此內閣ハ最早斷
末魔デアラネバナラヌト思フノデアル(ノ
ウ〓〓)ソレガ斯ノ如キ法案ヲ澤山、澤山
御出シニナッテ、後デ此始末ヲ致ス所ノ政治
家ハ、又ヤレ經費ガ膨脹シタ、經費ガ膨脹
シタト云フヤウナル譏ヲ受クルト云フノ已
ムヲ得ザル、玆ニ濫觴ヲ澤山ニ作ルト云フ
疑ガ吾々ハアルノデアリマス、併シ亞米利
加ノ如ク黃金國デアリマシテ、歲入ガ何時
デモ餘シテ國庫ニ溢レ込ンデカラニ、ソレヲ
使フ按配ニ困ルト云フヤウナ國柄ナラバ、
此樣ナモノヲドシ〓〓オヤリニナルガ宜シ
ウゴザイマスガ、不幸ニシテ我ガ帝國ハ、
他ノ事デハ列國ニ甚シキ遜色ハナイカ知レ
マセヌガ、何ヲ申シテモ金ノコトハ殘念ナ
ガラ今日困ツテ居ル國柄デアルノニ、斯樣
ニ法律ヲ濫發デハアリマスマイガ、澤山御
出シニチッテ、サウシテ之ヲオヤリニナル
ト云フコトハ、如何ナモノデアリマセウカ、
之ニ付テ私ハドウ云フヤウナ御考ヲ持ッテ
居ラルヽノカ、承リタイノデアル(「黒問愚
問」「謹聽々々」ト呼フ者アリ)少シク案ノ主
體ニ入ッテ今度ハ御尋致シマスガ、第三條
ノ規定ニ依リマスレバ、「經費ノ六分ノ一乃
至二分ノ一ヲ補助ス」ト云フコトガ書イテ
アリマス、此經費ナルモノハ「花柳病傳播ノ
虞アル者ヲ診療セシムル爲市又ハ特ニ必要
ト認ムル其ノ他ノ公共團體ニ對シ診療
所ノ設置ヲ命スルコトヲ得」ト云フ其
費用ノコトデアラウト信ズルノデアリ
マス、然ルニ此第三條ノ規定ハ「經費ノ
六分一乃至二分ノ一ヲ補助ス」ト書イ
テアルノデアル、之ヲ普通ノ常識ヲ以
テ解釋ヲ致シマスルト云フト、經費ノ六
分ノ一デアレバ、六百圓ト見レバ百圓デア
ルガ、二分ノ一トスレバ六百圓トスレバ三
百圓デアル、斯ウ云フコトハ明ニ普遍的ニ
之ヲヤルト云フコトニ致シテ置キマセヌト
云フト、後日之ヲ受クル所ノ方面ニ於テ
ハ非常ニ私ハ諸種ナ議論ガ起ッテ來ハセ
ヌデアラウカト心配スルノデアリマス、之
ニ付テ此區別ヲ明細ニ實例ヲ以テ示サレタ
イト思フノデアリマス(「實例ハナイ」ト呼
フ者アリ)實例ハ追〓出來ルノデアル、第
二條ニ規定シテアリマス所ノ「業態上花柳
病傳播ノ虞アル者」云々ト云フコトガアル、
是ハ甚ダ字義明白ヲ缺キマスルケレドモ
ガ、此業態上ト云フ文字ハ例ヘバ藝妓、酌
婦或ハ旅館ノ女中ト云フヤウナ者マデモ包
含スルノデアルヤ否ヤ、業態上ト云フ文字
ハ是ハ如何ニ常識ヲ以テ解釋ヲ致シマシテ
モ、甚ダ不分明ナル文字デアル、此業態上
ト云フ文字ハ、立法トシテ用ユベキ文句ト
致シマシテハ、モウ少シ其區分ヲ明瞭ニ書
イテ置キマセヌト云フト、甚ダ私ハ困リハ
セヌカト思フ、現ニ吾々ノ知リ得ル所ニ依
リマスレバ、今日ニ於テモ警察犯處罰令ト
云フヤウナモノガアリマシテ、府縣ノ警察
ニ於キマシテ旅館ノ女中見タヤウナ人、若
クハ之ニ類スル人達ヲ〓言祭ニ喚出シマシ
テ、之ヲ强制的デハアリマスマイ、其人ノ
承諾ヲ得テ、身體檢査ヲスルト云フコトデ
アル、是ハ大人シタ身體檢査ニ應ズルカラ
宜シイデアリマセウガ、私共ナラバ容易ニ
應ジ難イノデアル(笑聲起ル)アナタ方ハ聽
カザラント欲スレバ彼方ヲ向イテ居ラッシ
ヤイ、今日ニ於テモ人權蹂躪ノ虞ノアル事
情ヲ吾々ハ承ッテ居ル、洵ニ男子ニ致シマ
シテモ婦人ニ致シマシテモ、貴重ナル部分
ト云フモノハ、是ハ親ニモ見セヌ大事ナモ
ノデアル、之ヲ眇タル一警察官若クハ警察
醫ノ如キ者ガ、本人ニ强制的デハナイニシ
テモ、任意承諾ヲ求メタトハ云ヒマシテ
モ、斯樣ナルコトヲ致スト云フコトハ、私
ハ日本ノ如キ文明國トシテ甚ダ悲ムベキ事
デハナイカト思フノデアリマス(拍手)所ガ
此花柳病豫防法ト云フモノノ精神ヲ御屬行
ニナルト云フ時ニハ、必ズ今申上ゲタヤウ
ナ事例ヲ徹底的ニオヤリニナル時代ガアル
デアラウト思フ、是レ甚ダ吾々ハサウ云フ
ヤウナ業態ノ人方ニ向ッテ、非常ニ此立法
ノ上ニ於テ考慮センナラヌコトデアルト信
ズルノデアリマス、此邊ハドウ云フ御取扱
ニナルモノデアリマスカ、又第五條ノ御規
定ニ依リマスレバ、私共法律ト云フコトニ
付テハ暗イ者デアリマスルガ、此法文ヲ大體
ニ於テ考ヘテ見マスルト云フト、法文ノ趣
旨ガ甚ダ妥當ヲ缺クモノガアルト思ハシル
ノデアル、第五條ノ「傳染ノ虞アル花柳病
ニ罹レルコトヲ知リテ賣淫ヲ爲シタル者ハ
三月以下ノ懲役ニ處ス」ト云フコトガアリ
マスガ、賣淫ナドト云フ文字ハ、最早帝國
ノ如キ文化向上ヲ致シタ國ニ於テハ用ヒズ
シテ、之ニ代ル好字面ガアリ、又好字句ガ
アルデハナイカ、然ルニ何故ニ賣淫ト云フ
ヤウナ强烈ナル文字ヲ用ヒラレタノデアル
カ、是レ甚ダ吾々ハ解釋ニ苦ムノデアル、
又之ヲ罰スルノハ歐米先進國ト雖モ體刑ヲ
用ヒズシテ、大抵罰金刑ヲ以テ之ヲ處理シ
テ居ルヤウニ吾々ハ承ッテ居ルノデアル、
然ルニ此度ノ立法ヲ拜見致シマスルト云フ
1、非常ナル重刑ニ處スル、卽チ體刑ニ處
スル、身體ヲ拘束スル、卽チ三箇月以下ノ
懲役ニ處スルノデアリマスルガ、斯樣ナ嚴
罰ニ處スルト云フ理由ハ、今日ノ進歩セル
國情ニ私ハ伴ハヌコトデハナイカト信ズル
ノデアル(拍手)斯樣ナ嚴罰主義ニ今日ニ於
テ、立法セナケレバナラヌト云フ大理由何
レニ在リヤト云フコトヲ、明ニ御示ヲ願ヒ
タイノデアル、殊ニ此第五條ノ第二項ニ於
テ「賣淫ノ媒合又ハ容止ヲ爲シタル者ハ六
月以下ノ徵役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處
ス」ト云フコトガアル、サウスルト云フト
是ハ六月以下ノ懲役ニ處セラルヽノデアッ
テ、勿論六箇月以下デアリマスルケレド
モ、最極刑ハ六月ノ懲役ニ處セラルヽノデ
アリマス、所ガ此賣淫ノ媒合トカ容止ト云
フヤウナコトヲ爲スト云フコトハ甚ダ文明
國人ノ恥ヅルコトデアルガ、左樣ナコトヲ
殘念ナガラ致ス者ガアッタ時ニ、是ハ寧ロ
私共ハ金ヲ取ッテ淫ヲ鬻ガントシタ者デア
ルカラシテ、金刑ニ處シタ方ガ本人ニ於テ
モ是ハ引合ハナイノミナラズ(笑聲)非常ニ
困ルノデアルカラシテ、之ヲ是非共體刑ニ
處セネバナラヌト云フ法理ノ原則ハ何處カ
テ御考ニナッタモノデアルカ、之ヲ承リタ
イノデアリマス、ソレカラ第六條ノ御規定
デアリマス、之ニ於テモ文理甚ダ面白クナ
イ「醫師傳染ノ虞アル」ト云フヤウナ文字ニ
ナッテ居ル、醫師ノ下ニ「コンマ」ガアッテ醫
師ガトカ、醫師ニシチトカ書クベキ所ト思
ヒマス、併シ是ハ分リマスガ「醫師傅染ノ
虞アル花柳病ニ罹レル者ヲ診斷シタルトキ
ハ傳染ノ危險及傳染防止ノ方法ヲ指定スベ
シ」ト云フ御規定デアル、是ハ寧ロ醫師法
ニ於テ御制定ニ相成ルベキ筋合ノモノデア
ラネバナラヌト私共信ズルノデアル、又今
日ト雖モ賢明ナル醫師、善良ナル醫師ハ、
此恐ルベキコトデアルト云フヤウナコトハ
患者ニ向ッテ丁寧深切ニ指示、說示、訓市
致シテ居ルト云フ事實ヲ吾々ハ承ッテ居ル、
後刻何レ此邊ハ專門家タル宮島幹之助博士
ガ詳細ニ御說明ニ相成ルト思ヒマスガ、私
ハ斯ノ如キ法ヲ花柳病豫防法ニ持ノテ來テ、
醫師ニ對スル規定ヲ御出シニナルト云フヤ
ウナコトハ、是ガ私ハ僅カ六條カソコラノ
單簡ナル法デアルケレドモ、立法ト云フ上
ニ於テ專門家ガオヤリニナッタトスレバ、
私ハ餘程不手際ナル立法ト云ハザルヲ得ヌ
ノデアリマス、是レ如何ニ御考デアリマス
カ、ソレカラ又附則ト御規定ニナッテアリ
マスル所ニ「本法施行ノ期日ハ勅令ノ定ム
ル所ニ依リ各條ニ付之ヲ定ム」トアル、是
ガ又普通ノ立法例ニ於テ、吾々寡間ニシテ知
リ得ナイコトデアル、僅カ六條シカナイ所
ノ法律ヲ條項每ニ勅令ヲ以テ之ヲ定メテ、
御執行ニナルト云フヤウナコトハ、海ニ私
ハ法ヲ立ツル上ニ於テハ更ニ構ヒマスマイ
ガ、此法ノ執行ヲ受ケテ、其完全ナル花柳
病豫防ト云フコトヲ爲ス上ニ付テハ甚ダ
マドロシイ感ガアルノデアリマシテ、是ハド
ウ云フ譯デ斯ノ如ク各條ニ付テ-條項每
ニ勅令ノ發動ヲ一々別ニ爲サルト云フ御規
定ハ、何ノ必要ガアッテ斯樣ナル附則ヲ御作
リニナッタノデアルカ、私ノ解スルニ苦ム
所デアリマスカラ、之ヲ御示ヲ願ヒイタト
思ヒマス、要スルニ私トシテハ斯樣ニ感ジ
テ居ルノデアル、今日ハ一般ノ人ガ非常ニ
文化ハ向上シ、文明モ昔ノ人ニ比シテハ餘
程進步致シテ居ルノデアル、又道德ノ點ニ
於テモ、道德廢頽ト云フ話ガアリマスケレ
ドモ、一般ニ於テハ道德ガ廢頽シタトハ吾
吾ハ認メヌノデアル、矢張順次々々進步發
展向上ノ域ニ赴キツヽアルト私ハ信ズル者
デアリマス、斯樣ナコトハ法ニ依ッテ之ヲ
非常ニ嚴罰主義ヲ採ッテ取締ルト云フヨリ
モ、寧口〓育衞生、殊ニ性ノ〓育ト云フコ
トヲ近來女學校等デモヤカマシク言ウテ居
ル、是レ一步過テバ甚ダ惡イ性ノ〓育モ出
來マセウガ、此花柳病ノ恐ルベキコトノ如
キハ、先天的黴毒ト云フヤウモノヽ爲ニ盲
目ニナルトカ、或ハ啞ニナルトカ、或ハ〓
ニナルトカ云フコトモ、大抵先天的黴毒ト
云フモノガ過半デアリ、發狂ト云フヤウナ
コトモ殆ド先天的黴毒カラ來ルモノダサウ
デアリマシテ、今日多少トモ文字、素養ノ
アル者ハ非常ニ斯ウ云フコトヲ愼ンデ居
ル、然ルニ近時ニ至ッテ突如トシテ政府ハ
斯ウ云フ提案ヲ爲サネバナラヌト云フコト
ニナッタノハ、私ノ考デハ斯ウデハナイカ
ト思フ、歐羅巴ノ物質〓育ト云フコトガ、
餘リニ我國ニ盛ニナッタ爲ニ、東洋ニ從來
傳ッテ來テ居リマシテ、西洋ノ及バナイ所
ノ東洋的道德卽チ佛〓トカ、儒〓トカ、神
〓ニ於テ洵ニスガ〓〓シク〓潔ニ、男女室
ニ居ルハ人ノ大倫ナリ、男女七歲ニシテ席
ヲ同ジウセズト云フヤウナコトヲ原則トシ
テ、道德トシテ最モ良イ事デアルニモ拘ラ
ス、之ヲ歐羅巴人ノ如ク男女交際ヲ激甚ニ
ヤリ、或ハ先日ノ如キ諒闇中ナルニモ拘ラ
ズ、或ル華族樣ハ舞踏會ヲ爲サッタト云フ
ヤウナ極端ナル事ガアルガ、斯樣ナコトヲ
致シ居リマシテ、男子ト女子ガ接觸ノ場合
ヲ頻繁ニ致シ居ルト云フ爲ニ、斯樣ナ
不品行ナコトガ出來テ來ルノデアッテ、
今日ト致シマシテハ寧ロ東洋ノ道德
主義ヲ高調シ、更ニ之ヲ一般ノ國民習
慣ノ上ニ徹底的ニ〓育ヲ致シタナラバ
斯ノ如キ豫防法ト云フヤウナモノヲ御出シニ
ナルヨリカ、其方ガ根本的ノ效果ヲ擧グル
モノデハナイカト、私共ハ深クサウ云フヤ
ウニ考ヘテ居ル者デアリマス、何樣今日迄
モ當局ニ於テハ、御取締ノ方法ハ色ミナコ
トヲ御考ニナッタデアリマセウガ、此際斯
ノ如キ法案ヲ何所迄モ御出シニナッテ、六
箇月以下ノ懲役ニ處スルトカ、或ハ賣淫ヲ
爲シタル者ハ三箇月以下ノ懲役ニ處スルト
云フヤウナコトニ致シマシテモ、是レ其人
ヲ罰スルノデアリマセウガ、又一方ニ淫行
ヲ爲シタル男子ヲモ罰セナケレバ、社會ニ
此病毒ヲ流ス虞ガアルノデアル、女子ニモ
不品行ナ人ガアルケレドモ、男子ノ方ノ不
品行ノ人ガ私ハ日本ノ社會ニ於テハ多イト
信ズルノデアル、男子ノ不品行ヲ取締ラズ
シテ、女子ノミヲ斯ノ如ク取締ヲスルト云
フコトハ、私ハ是ハ甚ダドウモ女子ニ對シ
テハ酷デハナイカト信ズルノデアル、是ハ
オカシイヤウニ考ヘマスルケレドモ、吾々
ノ知ル所ニ依リマスレバ、品行ヲ嚴正ニ愼
マヌ男子カラ、花柳病毒ヲ奧サンヤ、何カヾ
受ケマシテ、實ニ修澹タル、慘目ナルコ
トニ陷ッテ居ル人ヲ吾々ハ指摘シ得ルノデ
アリマス、斯ノ如キ法案ヲ御出シニナル以
上ハ、此邊ニモ留意シテ相當ナル方法ヲ御
〓究ニ相成クテ規定セザレバ、決シテ是ハ
單ニ接客業者トカト云フヤウナ人ノミニ嚴
重ナル法律ヲ施行致シマシテモ、マダ其原
因ヲ爲ス一方ノ方ニ弊害ガアル以上ニ於テ
ハ容易ニ此法案ノ目的ヲ貫徹スルコトヲ
得ナイト思フ、此議場ニ於テハ遠カラズシ
テ公娼廢止ニ關スル所ノ法案モ、各派ヨリ
御提案ニ相成ルト思ヒマス、誠ニ理想トシ
テハ吾々ハ隨喜渴望スルノデアル、苟モ日
本帝國位ナ進步セル國ニアッテ、公娼制度ガ
アルナドト云フコトハ、言語道斷ナ恥ヅベ
キコトデハアルケレドモ、又實社會ヲ通觀
致シマスト已ムヲ得ナイ事情ガアルノデ
アッテ、吾々ハ決シテ左樣ナモノヲ要求致
シマセヌ、併シ左様ナモノヲ實社會ニ於テ
要求スルノ已ムヲ得ザル程度ヲ國民ガ通リ
ツヽアルト云フコトヲ知ラネバナラヌ、ソ
レデアリマスカラ、苟モ法ヲ立テル者ハ斯
ノ如キコトニハ極メテ鄭重ニ考慮致シテ行
ヒマセヌケレバ、其目的ト云フモノヲ達シ
ナイト信ズルノデアリマス、故ニ以上ノ質
問ヲ爲ス所以デアリマス
〔政府委員俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=61
-
062・俵孫一
○政府委員(俵孫一君) 吉良君ノ各事項ニ
渉ッタ御質問デアリマシタガ、御答辯ヲシ
マスニ付キマシテハ、便宜上一般ニ關スル
御質問ニ對スル御答ト、各條ニ涉ル所ノ御
質問ニ對スル御答ト、二ツニ分ケテ御答ヲ
シタ方ガ適當デアラウト存ジマス、一般問
題ト致シマシテハ斯ウ云フ法案ガ何故必要
デアルカ、斯ウ云フ立法ヲシナクテ他ニ何
等カ適當ナ方法ハナイカドウカト言ハル
コトガ、大體ノ御趣意デアッタヤウデアリ
マイ、此法案ハ決シテ新シク今日出マシタ
問題デハナイノデアリマス、多年ノ間花柳
病ノ傳播ニ付キマシテハ、何トカ之ニ對ス
ル取締法ヲ設ケンケレバイカヌト云フコト
ハ、識者ノ間ニ長ク廣ク論ゼラレテ居ッタ
問題デアルノデアリマス、卽チ昨年ノ議會
ニ於キマシテハ、花柳病豫防法ニ對スル所
ノ制定ノ建議スラ當院ヨリ提出サレ、可決
確定セラレタヤウナ次第デアルノデアリマ
ス花柳病ニ付キマシテハ法案ノ說明ノ時
ニ申上ゲマシタ如ク、單リ現在ニ於テ其病
者ガ困難ヲ訴ヘルノミナラズ、遺傳性ヲ持シ
夕所謂子孫後裔ニマデ害毒ヲ流スト云フ洵
ニ怖ルベキ病毒デアリマスルノミナラズ、
現今ノ趨勢ヲ申上ゲマスルト云フト、或ハ
體格檢查ノ實蹟ニ依,テ見マシテモ、或
其他ノ公ニ現ハレテ居ル數字ニ依ッテ見マ
シテモ、花柳病ノ統計ハ約千中ノ十九·四
乃至五ニ涉ッテ居ルガ如キ、中ハ全般ニ廣
ガッテ居ル怖ルベキ病毒デアルコトハ御承
知ノ通リデアリマス、ソレ故ニ之ニ對シテハ
何等カ玆ニ立法ヲシテ、之ガ病毒ノ傳播ヲ
防ギ、以テ吾人ノ幸福ヲ進メルト云フコト
ニ致シタイト云フコトハ、今申上ゲマスガ
如ク決シテ今日ニ出夕問題デハナイノデア
リマス、是ガ一般的、丁度吉良君モ御話ノ
如ク、社會政策ニ對スル色ミ立法ガアリマ
スト同様ニ、此問題モ目下ノ現狀ニ於
キマシテ、極メテ重要ナル法案デアル
コトノ點ヲ十分ニ御承知置キ相成ルコトヲ
希望致シタイノデアリマス、ソレデ或ハ此
各條ニ涉リマシテ、第三條ノ經費ノ六分ノ
乃至二分ノ一ト云フノハ、ドウ云フ譯
デアルカト云フ御尋デアリマシタガ、
是ハ目下ノ所デハ設備費ニ對シテハ二分ノ
經常費ニ對シテハ六分ノ一ノ補助ヲ與
ヘル豫定デアリマス、此率ハ從來既ニアリ
マス所ノ結核病豫防及「トラホーム」豫防法
ト同ジ率ニ依シテ居ルノデアリマス、ツレカ
ラ此法案中ニ特殊ノ業態者トアル、ソレハ
如何ナル者ヲ指スノデアルカト云フ御尋デ
アリマシタガ、是ハ此文字-其他此法案
中ニ書イテアル文字ハ、御承知ノ通リ誠ニ
困難デアル、併シ此業態上花柳病傳播ノ虞
アル者ト申シマスノハ現在ノ社會通念、
社會通有ノ觀念ニ基キマシテ、所謂淫賣ヲ
爲ス虞ガ多キモノト認ムベキモノ、具體的ニ
申シマスレバ、或ハ藝妓酌婦、斯ノ如キモ
ノヲ意味スルモノデアル、斯ウ云フモノハ
卽チ其業態上花柳病ヲ傳播スル虞ガ甚ダ多
キモノデアル、斯ウ云フコトデアルノデア
リマス、ソレカラ是等業態ニ對シテ或ハ檢
査ヲ爲ス、是ハ甚ダ人權蹂躙デハナイカト
云フ御心配ノ點モアッタヤウデアリマスガ、
併ナガラ是ハ吉良君モ仰セノ通リニ强請ハ
シナイ、任意ニ檢査ヲスルノデアリマスカ
ラ、其檢査スル者ガ直ニ人權蹂躙ヲ惹起サ
ザルノミナラズ、或ル點カラ申シマスル
ト是等ノ人ハ寧ロ自分自ラモ其病毒ガ癒
ル斯ウ云フコトニ付テハ自分自身ノ幸福
モ亦其病毒ガ癒ルト云フ點ニ於テアリマス
カラ、一〓ニ檢查ヲスル、卽チ任意治療ト
ト云フコトハ其人々ノ人權蹂躪ヲ惹起スト
云フコトノ考ハ政府ニ於テハ考ヘテ居リマ
セヌ、之ニ對シテ如何ナル規定ヲ以テ此檢
査ヲスルカト云フコトニ付テハ、別ニ命令
ヲ以テ定メル積リデアリマス、ソレカラ此
法案中ニ淫ヲ鬻グ、賣淫ト云フ文字ガアル、
是ハ立法上甚ダ面白クナイ、何等カ適當ナ
文字ハナイカト云フ御說、是ハ御尤千萬デ
アリマス、併ナガラ之ニ代ルベキ文字ハ中
中困難デアリマス、ソレ故ニ今日先ヅ甚ダ
感服ハ致シマセヌケレドモガ、此文字ヲ用
フル外ハナイト認メテ居ルノデアリマス、
ソレカラ此規定ノ中ニ體刑ガアル、是ガ甚ダ
面白クナイ、外國ノ立法ニ於テハサウ云フ
コトハ無イヤウニ思フト云フコトデアリマシタ
ガ、是ハ吉良君ノ御調ガ如何デアリマセウ
カ、現ニ獨逸ニ於テハ緊急勅令ヲ以テ、此
花柳病豫防法ノ制定ヲシテ居リマシテ、此
緊急勅令ノ中ニハ、三年以內ノ體刑ヲ加ヘ
テ立法サレテ居ルノデアリマス、斯クノ如
ク今日現在ノ人ノミナラズ、子孫ニマデモ害
毒ヲ流シ、子孫ノ繁榮ヲ妨ゲルト云フガ如
キ怖ルベキ病毒ニ對シマシテハ、國家ハ重
キ體刑ヲ以テ之ヲ抑止スルト云フコトハ、
已ムヲ得ナイモノデアラウト思フノデアリ
マス、ソレカラ第六條ニ斯ウ云フコトハ宜
シク醫師法ニ於テ規定スベシ、斯ウ云フモ
ノヲ規定スルコトハ甚ダ體裁ヲ得ナイト云
フコトノ御說ガアリマシタガ、政府ハサウ
ハ考ヘマセヌ、所謂特殊ノ義務ヲ負ハシム
ルニ付テハ、特殊ノ立法中ニ規定スルコト
ガ最モ便宜デアル、斯ウ云フ考デアルノデアリ
マス、次ニ附則、此ノ附則ニ他ノ立法例ニ無
イ、其各條ニ付テ施行期日ヲ決メルト云フガ
如キコトハ、如何ナモノデアルカト云フ御尋デ
アリマシタガ、是ハ例ヘバ第二條ノ如キ、
其特殊診療ノ設備ヲ府縣ノ公共團體ニ命ズ
ルト云フガ如キハ、是ハ直ニ實行シ能ハヌ
ノデアリマス、其他ノ條文ノ如キハ此政
府ノ豫算ノ成立ヲ俟シテ、其成立ト共ニ
之ヲ施行スルコトガ出來ル、其條文ニ
依リマシテ此法案ノ施行ノ時期ヲ異ニ
シナケレバナラヌ必要ガアル、是ハ何
レモ財政ノ點カラ來マシタノデアリマ
ス、ソレ故ニ此附則ニ於テハ、他ノ一般
立法例ニ依ラズシテ、其條文ニ依ッテ施行
期日ヲ決メルト云フコトニ致シタ次第デア
リマス、最後ニ此法案ノ目的ハ女子デア
ル、何故ニ男ニ付テハ何等カ規定ヲ設ケヌ
カ、片手落デハナイカト云フ御尋デアリマ
シタガ、此法律案ハ決シテ女子ニ限ッテハ
居リマセヌ、卽チ淫ヲ賣ル者、是ガ男子デ
アレバ矢張此法律ニ該當スルノデアリマス、
唯、問題ハ淫ヲ賣ル者ニアラズシテ、淫ヲ買
フ者ハドウカト云フコトノ多分御尋デアル
カ知リマセヌデアリマスガ、是ハ先ヅ現狀
ニ於テハ、淫ヲ買ハントスル者ニ對スル所
ノ制裁ヲ作ルト云フヨリハ、先ヅ淫ヲ賣ル
者ニ對シテ十分花柳病豫防ノ方法ヲ講ズル
コトガ、最モ目下ノ現狀ニ於テ必要デアミ
1、斯ウ政府ハ見テ居ル譯デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=62
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063・砂田重政
○砂田重政君 本案ニ對シチハ、尙ホ多數
ノ質議通告者ガアリマスルガ、既ニ定刻ニ
近付キマシタカラ、本日ハ此程度ニ止メ、
次回ニ繼續スルコトヽシテ、殘餘ノ日程ト
共ニ延期セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=63
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064・粕谷義三
○議長(粕谷義三君) 砂田君ノ動議ニ異議
ナシト認メマス、仍テ動議ノ如ク決シマシ
ク、次囘ノ日程ハ公報ヲ以テ御通知申上ゲ
やっ、本日ハ是ニテ散會致シマス
午後五時五十一分散會
衆議院議事速記錄第十一號中正誤
頁段行誤正
一七八一一現ニ地區內現ニ其ノ地
區內
衆議院議事速記錄第十七號中正誤
頁段行誤正
三三四一三發議發言
三四七三六二十一日十二日
三四九二五ナイト考へデアント考
へ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005213242X01819270226&spkNum=64
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