第56回帝国議会　貴族院　本会議　第29号　昭和4年3月18日

1. 会議録本文

本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。

• 000・会議録情報

  　　昭和四年三月十八日（月曜日）
  　　　　午前十時十七分開議
  　　　　━━━━━━━━━━━━━
  　　議事日程　第二十九號　昭和四年三月十八日
  　　　　午前十時開議
  　　第一　關税定率法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第二　大正九年法律第五十三號中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第三　肥料管理法案（政府提出衆議院送付）　　　　　　第一讀會
  　　第四　肥料管理特別會計法案（政府提出衆議院送付）　　第一讀會
  　　第五　米穀需給調節特別會計法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第六　特許法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　　　第一讀會
  　　第七　實用新案法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第八　意匠法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　　　第一讀會
  　　第九　商標法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　　　第一讀會
  　　第十　勞働者災害扶助法案（政府提出衆議院送付）　　　第一讀會
  　　第十一　酒造組合法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第十二　陪審法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　　第一讀會
  　　第十三　船舶職員法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第十四　無線電信法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第十五　大禮記念　帝室博物館復興翼贊會事業費の補助に關する法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第十六　地方鐵道法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第十七　軌道法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　　第一讀會
  　　第十八　非訟事件手續法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會
  　　第十九　昭和三年勅令第百二十九號（承諾を求むる件）（衆議院送付）　會議（委員長報告）
  　　第二十　山口縣營軌道及筑後軌道株式會社所屬軌道補償の爲公債發行に關する法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十一　大正十四年法律第二十九號中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十二　蠶絲業法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十三　帝國鐵道會計法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十四　絲價安定融資補償法案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十五　臺灣事業公債法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十六　健康保險特別會計法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十七　健康保險法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　第二十八　工場法中改正法律案（政府提出衆議院送付）　第一讀會の續（委員長報告）
  　　　　━━━━━━━━━━━━━

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=0

  ---

• 001・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ書記官ヲシテ諸般ノ報告ヲ致サセマス
  〔小林書記官朗讀〕
  去ル十五日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案ハ即日裁可ヲ奏請シ又可
  決ノ旨ヲ衆議院ニ通知セリ
  昭和四年度歲入歳出總豫算案竝昭和四年度各特別會計歲入歲出豫算案
  豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲スヲ要スル件
  同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
  肥料管理法案
  肥料管理特別會計法案
  米穀需給調節特別會計法中改正法律案
  特許法中改正法律案
  實用新案法中改正法律案
  意匠法中改正法律案
  商標法中改正法律案
  勞働者災害扶助法案
  酒造組合法中改正法律案
  陪審法中改正法律案
  船舶職員法中改正法律案
  無線電信法中改正法律案
  同日衆議院ヨリ本院ノ送付ニ係ル左ノ政府提出案ハ同院ニ於テ可決シ奏上
  セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
  資源調査法案
  同日豫算委員長ヨリ豫算委員侯爵德川賴貞君ヲ第二分科擔當委員、第三分
  科兼務委員ニ選定シタル旨ノ報告書ヲ提出セリ
  同日請願委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
  請願委員會特別報告第四號
  一昨十六日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
  大禮帝室博物館復興翼贊會事業費ノ補助ニ關スル法律案
  記念
  地方鐵道法中改正法律案
  軌道法中改正法律案
  非訟事件手續法中改正法律案
  同日衆議院ヨリ本院ノ囘付ニ係ル左ノ政府提出案ハ同院ニ於テ本院ノ修正
  ニ同意シ奏上セル旨ノ通牒ヲ受領セリ
  競馬法中改正法律案
  國寶保存法案
  小童한

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=1

  ---

• 002・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ本日ノ會議ヲ開キマス、日程第一、關稅定
  率法中改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
  關稅定率法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十四日
  衆議院副議長〓瀨-郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  關稅定率法中改正法律案
  關稅定率法別表輸入稅表中左ノ通改正ス
  第二百八號第二項ヲ左ノ如ク改ム
  二ベタナフトール每百斤一八·七〇
  三オキシナフトエ酸及其ノ誘導體每百斤一〇〇·〇〇
  四其ノ他從價三割五分
  第二百四十五號中「每斤」ヲ削リ「一一·四○」ヲ「無稅」三代人
  第二百七十三號ヲ左ノ如ク改ム
  二七三綿絲及長十メートルノ重量三グラムヲ
  超エサル綿線
  一綛造ノモノ(生ノモノ)三九·二〇
  二木製ノ絲卷ニ卷キタルモノ從絲每每卷百百價共斤斤七〇·一〇
  三其ノ他三割
  第五百五十七號第一項ヲ左ノ如ク改ム
  -ピアノ
  甲平形ノモノ每百斤八六·七〇
  乙其ノ他每百斤六〇·九〇
  第六百十二號第一項己ヲ左ノ如ク改ム
  己パイン、ファー、シダー其ノ他
  ノ針葉樹
  己ノ一長二十センチメートル
  幅七センチメートル、
  厚七ミリメートルヲ超
  エサルシダー無稅
  己ノ二ヒノキ屬(ホワイトシ
  ダー及イエローシダー
  等)
  イ厚二百ミリメートルヲ超每立ル方九·八五
  メ1ト
  エサルモノ
  ロ其ノ他(丸太及割材ヲ含每立ル方五·四〇
  メ1ト
  ム)
  己ノ三ネヅコ屬(レッドシダー
  等)及ツガ屬(ヘムロッ
  ク等)
  イ厚六十ミリメートルヲ超
  エサルモノ
  ロ厚二百ミリメートルヲ超
  エサルモノ
  ハ厚二百ミリメートルヲ超
  エタルモノ
  ニ丸太及割材
  己ノ四モミ屬(トドマツ等)、
  タウヒ屬(エゾマツ
  スプルース等)、マツ屬
  (紅松等)及カラマツ屬
  (落葉松等)
  イ厚二百ミリメートルヲ超
  エサルモノ
  ロ其ノ他(丸太及割材ヲ含
  ム)
  己ノ五其ノ他(ドグラスファー
  等等
  イ厚六十ミリメートルヲ超
  エサルモノ
  ロ厚二百ミリメートルヲ超
  エサルモノ
  ハ厚二百ミリメートルヲ超
  エタルモノ
  ニ丸太及割材
  ニノ一長十メートルヲ超
  工、末口ノ直徑三
  十センチメートル
  ヲ超エサルモノ
  ニノ二其ノ他
  每立ル方六·二五
  メート
  每立方五·五〇
  メートル
  每立方三·七〇
  メ1トル
  每立ル方三·三〇
  メ1ト
  每立ル方
  メ1ト一·一〇
  無稅
  每立ル方四·五五
  メート
  每立方三·九〇
  メ1トル
  每立ル方二·一〇
  メ1ト
  無稅
  每立方一·二〇
  メートル
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  〔國務大臣三土忠造君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=2

  ---

• 003・三土忠造

  ○國務大臣(三土忠造君)　只今議題トナリマシタル關稅定率法中改正法律案
  ニ付キマシテ御說明イタシマス、本案ノ内容ハ木材外四品ニ對スル關稅率ヲ
  改正セムトスルモノデアリマシテ、是等ノ品目ニ付キマシテハ、第五十一議
  會ニ於ケル一般關稅改正ノ際、議會ニ於テ種々ノ御議論ガアリマシテ、結局
  更ニ政府ニ於テ之ガ關稅率ニ付キ愼重調査ヲ遂グベキ希望決議ヲ附シテ可決
  セラレタモノデアリマス、政府ニ於キマシテハ、其後十分ニ調査〓究ヲ遂ゲ
  マシテ、尙ホ關稅調査委員會ニ付議イタシマシテ、茲ニ成案ヲ得マシタノデ、
  本改正案ヲ提出イタシタ次第デアリマス、就中木材ニ關シマシテハ、我國林
  業界ノ現狀竝ニ外材輸入ノ狀況ニ鑑ミマシテ、此儘ニ推移イタシマスルト
  國土保安上、水源涵養上、又治水上ニモ惡結果ヲ招來スルノミナラズ、我國
  木材ノ供給力ヲモ減退セシムル虞ガアリマスルノデ、玆ニ林業政策ヲ確立ス
  ルコトハ國家百年ノ長計トシテ最モ必要ナルモノト認メルモノデアリマス、
  故ニ政府ニ於キマシテハ、此際斯業ノ保護助長ニ一段ノ力ヲ致シ、造林ノ奬
  勵竝ニ森林利用ノ增進等ニ關スル諸方策ヲ講ズルト同時ニ、關稅政策上、木
  材ノ關稅率ヲ改正シテ、適當ニ之ヲ保護スルノ必要ヲ認メルノデアリマス、
  併シ木材關稅ノ引上ハ延イテ材價ヲ騰貴セシメ、國民生活ニ影響ヲ及ボスモ
  ノデアリマスカラ、引上ノ率ハ外材ノ輸入ヲ調節シ、材價ヲ適當ニ維持安定
  セシメテ、林業ニ對スル外材ノ壓迫ヲ緩和シ、以テ斯業ノ進展ヲ促ス程度ニ
  止メタノデアリマス、而シテ外材ノ爲ニ脅威ヲ受クルモノハ針葉樹デアリマ
  シテ、而モ其樹種形狀等ニ依リ脅威ノ程度モ自ラ異ル所ガアリマスルカラ、本
  改正案ハ之ヲ針葉樹ノ範圍ニ止メ、且ツ樹種及形狀ニ應ジテ稅率ヲ按配スル
  ト共ニ工業原料、輸出品ノ包裝材料等ニ必要ナルモノニ付キマシテハ、特ニ低
  稅又ハ無稅ヲ配スルコトトシタノデアリマス、尙ホ詳細ナル點ニ付キマシテ
  ハ、委員會ニ於テ御說明ヲ致シタイト考ヘマス、何卒御審議ノ上速ニ御協賛
  アラムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=3

  ---

• 004・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ通告順ニ依リマシテ、質疑ノ發言ヲ許シマ
  ス、阪本彰之助君
  〔阪本釤之助君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=4

  ---

• 005・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　私ハ此柄ニモナキコトヲ質問ヲスルヤウデ甚ダ恐縮デゴザ
  イマスガ、頗ル此案ノ賛否ニ付キマシテ、迷ヒマスル所ガアリマスル、豫メ
  委員會付託ノ前ニ寧ロ私ハ農林大臣ノ御所見ヲ伺ッテ見タイト思ヒマスル爲
  ニ、此演壇ニ立ツコトノ御許シヲ願ッタノデアリマス、只今大藏大臣ノ御說明
  デ一通リ此改正案ノ御趣旨ハ承リマシテゴザイマスルガ、此事ニ付テハ民間
  ニ於キマシテモ中〓議論ガ沸騰イタシテ居ルヤウデアリマシテ、マア普通ノ
  考ヘカラ參リマスレバ、餘リ外國材ガ安クテ濫入シテ來ルカラ、內地ノ森林
  業ガ引立タヌ、故ニ關稅ヲ引上ゲテ之ヲ防止スルト云フコトハ當然ノ政策デ
  アルト申シテ宜カラウト存ジマスノデアリマスガ、只今大藏大臣モ御懸念アッ
  テ御說明ノ一端ニ御述べニナリマシタガ、此外國材ガ我國ノ現狀ニ對シマス
  ルト非常ニ用達ッテ居ルノデアリマシテ、而モ震災後ノ建築等ニ付キ尠カラザ
  ル木材ヲ要スル場合ニ於テ、非常ニ安イ木材ヲ供給サレタ爲ニ、此被害地方
  ノ人〓ハ非常ニ便宜ヲ得テ居ルト云フコトハ何人モ目前ニ見テ居ル所デアリ
  TV.是ガ若シ外材ガ非常ニ高イモノデアリ、輸入ト云フモノガ多クナイモ
  ノデアリマシタナラバ、震災前後ハドウ云フコトデアッタラウカト云フコト
  ヲ想フニ足ルノデアリマスガ、是ハ殆ド過去ニ屬スルコトデアリマスガ、將
  來ニ於テモ此民間ニ兩說アリマスルノハ、若シ外材ノ價ガ高クナッテ、是ガ內
  地材ノ矢張リ價ニ影響スルト云フコトニナルト、非常ニ高イ木材ヲ使ハナケ
  レバナラヌカラ、矢張リ是ハ國民全體ノ不利益デアル、斯ウ云フコトヲ申ス
  者モアルノデアリマスガ、併シマア私共ノ考ヘデハ成ルタケ外國ノモノハ使
  ヒタクナイ、ドウゾ內地ノモノデ用ガ足リルナラバ、少々不利益デアッテモ、
  內地ノモノヲ使フト云フコトハ常識上考ヘテ居ルコトデアリマスガ、只其森
  林業ノ人ハ、ソレデ僅カノ增額デアリマスルカラ、大シテ外材ノ値ガ騰ルト
  モ存ジマセヌケレドモ、說ク者ニ云ハセルト、外材ノ價ガ騰レバ內地ノ方ノ
  樹木ノ需要ガ殖エテ來ル、サウスルト山持ハ時到レリト濫伐ヲスル、折角今
  外材ノ爲ニ支ヘラレテ內地ノ森林ノ保護ガ出來テ居ルノニ一朝森林家ノ利益
  ニナルヤウナ時代ガ來タナラバ、非常ニ伐出スデアラウ、是ハ又森林業ノ利
  害バカリデハナイ、將來國家ノ所謂國土保安ノ上ニ於テ、非常ニ憂フベキコ
  トガ出來シヤセンカ、カルガ故ニ寧ロ現狀ノ儘ニシテ置イテ、外材モ需要ス
  ル、內地ノモノモ使フ、森林ヲ有ッテ資產トシテ居ル人ノ爲ニハ不利益カ知
  レマセヌケレドモ、國家全體ノ上カラ見レバ矢張リ現狀ノヤウニシテ置イタ
  ガ宜クハナイカト云フコトヲ言フ人モアルノデアリマス、甚シキハ此政府ハ
  强ヒテ今此森林行政ノ上カラ、必シモ斯樣ニシナケレバナラヌト云フコトヲ
  感ジテ居ルノヂヤナイケレドモ、所謂兩稅委讓ノ結果、種々ノ方面カラ財源
  ヲ捻出シナケレバナラヌカラ是モ一ツノ財源ノ一少部分トシテ宛ガハレタモ
  ノデアルト云フコトヲ說クモノモゴザイマスルガ、是ハ私ドモ餘リ信ゼザラ
  ント欲スルモノデアリマス、唯農林大臣ハ森林行政ヲ掌ラレル上ニ於テドウ
  云フ風ニ見ラレルデアラウカ、外國材ガ入ッテ來ルカラ、內地ノ森林ノ保護ニ
  ナルト云フコトハ、確カニサウ云フコトハアルダラウト思ヒマスガ、併シ是
  ハ變則デアッテ、卽チ金ガ外國ニ出テ行クノデアル、而シテ又外國ノ物ヲ始終
  使ッテ、ソレヲ足シニシテ居ルナント云フコトハ、一國ノ經營ノ上カラ好マシ
  イコトデハナイノデアリマスカラ、餘リ主張スベキ事柄デハナイト思ヒマス
  ガ、併シ是ハ變則デモ何デモ、今ノ國家ノ現狀ニ於テ矢張リ左樣ナコトノ方
  ガ內地ノ森林ヲ保護スル上ニ於テ宜シイト云フ御考モ多少アルノデアルカド
  ウカ、若シ外材輸入ヲ防止シヤウト云フ考デ、而シテ內地ノ森林ダケデ内國
  ノ用ヲ足サウト云フコトニ目的ガ確立シマスナラバ、モット關稅ナドヲ澤山
  上ゲテ、殆ドモウ外材ハ這入ッテ來ナイト云フヤウナコトニシタ方ガ宜クハ
  ナイカト云フヤウナ疑モ起ル、サウスレバ內地材ハ非常ニ價モ上リマセウ、
  併シ又需要スル者ノ上カラ見ルト、非常ナ難儀ナコトニナッテ來ル、斯ンナコ
  トヲ考ヘマスト、私共素人デハドウ之ヲ見テ宜イカ、頗ル惑フノデアリマス
  カラ、此邊ニ付テ政府當局ハ如何ニ御考ヘニナルカ、大藏大臣ノ財政上ノ問
  題ヲ姑ク度外シテ、先ヅ森林ノ事ヲ掌ラルヽ當局大臣ハ如何ニ御考ヘニナッ
  テ居ルカト云フコトヲ第一番ニ伺ッテ見タイノデアリマス、モウ少シ何デス
  ガ、先ヅ之ヲ一ツ伺ヒマシテ、更ニ或ハ第二ノ御質疑ヲ致スカモ存ジマセヌ
  〔國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=5

  ---

• 006・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　阪本君ノ只今ノ御尋ニ對シテ御答ヲ申上ゲマ
  ス、木材ニ對スル關稅定率ノ引上ニ依ッテ、消費者ハ却ッテ非常ナ難儀ヲシヤシ
  ナイカト云フノガ第一ノ御尋デアリマシタガ、是ハ關稅委員會等ニ於キマシ
  テモ始終問題ニナル點デアリマシテ、餘リ關稅ヲ高ク致セバ內地ノ生產ニハ
  利益ガアリマスケレドモ、消費者ニ取ッテハ非常ナ負擔ニナル、ソレ故ニ其率
  ヲ定ムル場合ニ之ヲ適當ニ按排スルト云フコトガ常ニ論點トナルノデアリマ
  ス、今囘モ此木材關稅ノ引上ノ率ニ付キマシテハ大分委員會等ニ於テモ詮議
  サレマシテ、其結果、消費者、生產者兩方ヲ睨ミ合ッテ、是ナラバ適當デアラ
  ウト云フ點ニ定メマシタノガ卽チ只今提出イタシテアリマス改正定率デアル
  ノデアリマス、マア此分ナラバ消費者ニモ大シタ難儀ヲ掛ケル程度ノモノデ
  モナイノデアラウト私共考ヘテ居ルノデアリマス、チヨット一例トシテ申述べ
  マスレバ、木材ノ高クナル關係カラ致シテ、都市等ニ於ケル家賃ガ騰貴イタ
  シマシテ、ソレガ爲ニ庶民階級ガ難儀ヲ致サナケレバナラヌヤウナコトニナ
  リハセヌカト云フノガ一部ノ心配デアリマスガ、併シ聞ク所ニ依リマスト云
  フト、家屋ヲ建築スル場合ノ之ニ使用スル木材ノ全體ノ家屋建築費ノ中ニ於
  テ何割ニ相當スルモノダカト尋ネテ見マスト云フト、其全體ノ建築費ノ約三
  割ニ該當スルモノダサウデアリマス、卽チ坪五十圓ノ建築費ナラバ三五、十
  五圓ト云フモノガ木材ノ價格ニ相當スルサウデゴザイマス、デ、今囘ノ定率
  ハ平均一割ニ當ッテ居リマスルカラシテ、此十五圓ノ木材ノ一割ダケガ假ニ
  高クナルモノト致セバ、是ガ一圓五十錢、坪五十圓ノモノガ五十一圓五十錢
  ニ建築費ガ該當スルト云フヤウナ割合ニナリマスノデアリマスカラシテ、大
  シタコトニハナルマイト考ヘテ居リマス、殊ニ都市ニ於ケル家賃ノ高低ト云
  フコトハ建築費ガ幾ラ掛ッタト云フコトヨリハ、寧ロ其時ニ於ケル需要供給
  ノ關係ガ餘程重キヲナシテ居ルヤウニ考ヘラレマス、從テ需要ノ非常ニ多イ
  場合ニ家屋ガ無ケレバ、建築費ノ如何ニ拘ラズ家賃ハ騰貴シテ行ク、之ト反
  對ナ場合ニハ、反對ノ結果ヲ生ズル、斯ウ云フ風ニ見エマスルノデアリマス
  カラ、建築費ガ假ニ五十圓ノモノガ五十一圓五十錢ニナリマシテモ、是ガ爲
  ニ家賃ガ非常ナ騰貴ヲ致スト云フヤウナコトハ先ヅ無イデアラウ、心配ナイ
  デアラウト斯樣ニ考ヘテ居リマス、ソレカラ次ニハ木材ノ價格ガ關稅ノ引
  上ゲニ依ッテ騰貴スルト云フコトニナッタナラバ、山林ノ濫伐ヲ促スコトニ相
  成ラヌカト云フコトガ第二ノ御尋デアッタヤウデアリマスガ、チヨット考ヘマ
  スト云フト、値段ガ安ケレバ、木ハ伐ラナイ、値段ガ高クナレバ、木ヲ伐ッテ
  出ス、斯ウ云フ風ニ考ヘラレマスガ、實際統計上ニ現レタ所ヲ見マスト云フ
  ト、必シモサウデハナイノデアル、非常ナ騰貴ノ場合、卽チ大正八九年頃ノ
  好景氣時代ノ統計ヲ見マスト云フト、アノ年ハ非常ニ材木ノ價格ガ騰貴ヲ致
  シテ居リマスカラ、從テ伐出シガ非常ニ多カッタヤウデアリマス、所ガ昨今ハ
  ドウデアルカ、昨今ハ非常ニ下落シテ、其當時ニ比ベマスレバ非常ニ下落シ
  テ居リマシテ、サウシテ矢張リ伐出シノ數量ト云フモノハ相當多イノデアリ
  やく、其原因ハ一體ドウ云フモノデアラウカト段々調ベテ見マスト、矢張リ
  其材木ガ安イ爲ニ、小サナ山林業者、農業兼營ノ山林業者ノ如キハ、算盤ガ
  合ハナイ、一家ノ經濟ヲ、是デ採ッテ行クコトガ出來ナイト云フヤウナ結果
  トシテ、安クトモ高クトモ仕方ガナイ、伐ッテ賣ラニヤナラヌト云フノガ原
  因ニナッテ居ルラシイノデアリマス其爲ニ、安イ爲ニ却ッテ伐リ出シ、濫伐ヲ
  促スト云フヤウナ現在ノ狀態ニナッテ居リマスノデ、ソレ故ニ玆ニ假ニ一割
  程ノモノガ高クナッタトシテモ、是ガ動機トナッテ濫伐ヲ促スト云フヤウナコ
  トハ特別ニ無イダラウカト考ヘテ居リマス、大體カラ申シマスルト、今日ノ
  山林ノ現狀ハ御承知ノ通リ此儘ニシテハドウモ置カレナイ狀態ニ在ルノデア
  リマス、年々歲々一億圓カラ一億二三千万圓ノ外材ヲ輸入シテ來テ、纔ニ我
  國ノ木材ノ需要ニ應ジテ來テ居ルト云フヤウナ狀況デアリマシテ、而シテ內
  地ノ山林ハ植付ヲスルヨリハ、伐採ヲスル方ガ每年每年多イト云フ狀況デア
  ル、山林ハ漸次荒廢ニ歸スル方ガ增加シテ行クト云フ此現狀ハ、此儘ニシテ
  置カレマセヌガ故ニ、當局ニ於キマシテハ、公有林ノ官行造林、私有林ノ植
  付ノ奬勵ト云フヤウナ如キコトニ向ッテハ相當ノ計畫ヲ立テマシテ、此豫算ノ
  上ニ要求ヲ致シタノデアリマスルガ、ソレハ幸ニシテ先般總豫算ノ通過ト共
  ニ兩院ノ御協賛ヲ得タ次第デアリマスガ、所ガ其各種ノ山林政策ノ一ツト
  シテ行ハナケレバナラナイモノハ矢張リ此材木ノ價格ノ引上ゲト云フコト
  デアルト當局ハ考ヘルノデアリマス、幾ラ他ノ方面カラ生產ヲ奬勵イタシマ
  シテモ、或ハ植付ヲ奬勵イタシマシテモ、材木ノ價格ガ安過キルト云フ狀態
  デアルト、各種ノ奬勵助長ノ政策ガ目的ヲ達スルコトガ出來ナイヤウニ思ヒ
  やく、ドウシテモ矢張リ材木ノ價格ヲ、關稅ノ方法ニ依ッテ或程度迄引上ゲ
  ルト云フコトガ必要ノヤウニ考ヘマシタ、其結果ガ即チ此關稅ノ引上ゲト云
  フコトニ依ッテ現レタノデス、是ハデス、兩稅委讓ノ財源ヲ作ル爲ニ云々ト云
  フヤウナ風說モアルヤノ御話モゴザイマシタケレドモ、決シテソレハサウ云
  フ次第ヂヤナイノデゴザイマシテ、御承知ノ通リ木材ノ關稅ヲ上ゲテ貰ヒタ
  イト云フ要求ハ、山林業者若クハ地方農會等カラシテ屢〓議會ニ向ッテモ請願
  若クハ建議等ガ現レテ居ッタ問題デアリマシテ、關稅委員會等ニ於キマシテモ
  數年來調査サレタ所ノ問題デアッタノデ、是ハ謂ハバ宿題デアッタノデス、ソ
  レカラ今マデ解決ヲ見ルコトガ出來ナカッタノデアリマスルガ、今囘山林政
  策ヲ免モ角一步踏出シテ行ハウト云フ此時ニ於テ、是モ解決イタサニヤナラ
  ナイト云フ意味合カラシテ之ヲ提案イタシタ次第デゴザイコス、尤モ眞ニ徹
  底的ニデス、山林業ノ方面ノミカラ見マシテ、關稅ニ依ッテ保護ヲ行ハウト
  シタナラバ、斯ヤウナ率デハ固ヨリイケナイノダラウト思ヒマス、モット其率
  ヲ高クシナケレバナラヌノデアリマセウケレドモ、サウ致シマスレバ則チ其
  消費者ノ側ガ負擔ガ重クナルト云フ結果ニナリマスカラ、ソコデ先ヅ此程度
  ヲ適當ナリト認メタ次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=6

  ---

• 007・阪本さん之助

  ○阪本彰之助君　モウ一囘登壇ヲ御許シヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=7

  ---

• 008・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　簡單デゴサイマスナラ、議席カラデ如何デゴザイ
  マスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=8

  ---

• 009・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　其方ガ樂デスガ、速記ガ何時モ私ノ演說ハ聽取リ難シト云
  フコトデスカラ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=9

  ---

• 010・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　大キナ御聲ヲ出シテ一ツ御試ミニナッテハドウデ
  スカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=10

  ---

• 011・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　餘リ大キナ聲ハ出マセヌガヤッテ見マセウ、甚ダ遺憾デゴザ
  イマスガ······只今ノ農林大臣ノ御深切ナル御說明デゴザイマシタガ、要スル
  ニ今度ノ關稅引上ハ帶ニ短カシ襷ニ長シデ、甚ダ不徹底ナドチラ付カズノモ
  ノデアリマスガ、マア取ラヌヨリモ宜カラウ位ナ程度ノヤウニ承レルノデア
  リマス、故ニ此兩稅委讓ノ財源ダナドト惡口モ出ルノヂヤナイカト思ヒマス、
  四圍ノ事情ヲ御覽ニナリマストマア此邊デナクテハイケマイト云フ御考ラ
  シウゴザイマス、是レ以上ハ意見ニナリマスカラ、質疑ノ御答トシテハソ
  レデ諒解イタシタモノト致シテ置キマス、此機會ニ於テ更ニ伺ッテ見タイノ
  ハ是ハ單リ農林大臣御所管トナルバカリデハナイト存ジマスルガ、木ヲ使
  フコト、木材ヲ使フト云フコトハ、元來建築用材ト云フコトガ最モ主タルモノ
  デゴザイマスガ、此文化ノ進ムニ從ッテ木ト云フモノハ種々ナル方面ニ、我〓
  デハ想像シ能ハザル所マデ木ト云フモノガ使ハレテ居ル、チヨット見マシテモ
  此紙、紙ハ是ハ大キナモノダト思ヒマス、紙ニ木ガ使ハレルコト、是ガ······尤
  モ私統計ヲ試ミマセヌガ其筋デハ御調べニナッテ居リマセウガ、紙ノ爲ニ消費
  スル所ノ木ト云フモノハ非常ナモノデアラウト思フノデアリマス、ソレカラ
  小サイ方カラ申シマスルト、日本デハ折ト云フモノヲ非常ニ使フ、木デ拵ヘル
  所ノ折、其他箱デスナ、物ヲ搬ブ時ノ箱ノ用材、若クハ種々ナコトニ、此木ト
  云フモノガ昔カラ豐ニアッタガ爲ニ何ニデモ使ハレル、西洋デ言ヘバ「ズック」
  カ何カニ包ンデ置イテ鐵ノ箍デモ篏メレバ濟ムモノデモ木ノ箱ヘ入レルト云
  フ慣習ガアル、小サク申シマスレバ汽車ノ辨當ナドモ、アノ薄ッペラナ笹板
  デハゴザイマスガ、是ガ爲ニ日々消費スル木材ト云フモノハ大シタモノデア
  ラウト思フ、單リ汽車バカリデハナイ、アヽ云フ風ナ類ノモノヽ爲ニ消費サ
  レル木材ト云フモノハ、大キイモノデアラウト存ジマスルガ、第一此紙デス、
  紙ハ固ヨリ必要ナモノデアル、印刷ガ進步スルコトハ國ノ文化ヲ進メル上ニ
  於テ最モ必要ナモノデアリマスカラ、之ヲ彼此レ申スベキコトデハゴザイマ
  セヌガ、此印刷ニ使ヒマスル紙、著書トカ何トカ云フナラバ無論有益ナモノ
  デアリマスガ、此著書ノ中ニモ無クモガナト思ハレル著書、若クハ「パンフ
  レット」ノ如キモノガ澤山此節ハ出ルノデアリマス、私共ヘ郵便デ送ラレル所
  ノモノニモ種々ナ印刷物ガアリマスルガ、其中デ眞ニ讀ンデ見テ參考ニナル
  トカ利益ニナルトカ云フモノハ、其中ノ幾部分アルデセウカ、折角送ラレル
  ケレドモ實ハ封モ切ラズニ終ル位ノモノガ多イ位デアル、ソレヲ偶〓開ケテ
  見マスト、非常ナ立派ナ紙ニ印刷シテアル、實ニ我〓ハ名刺ニモ勿體ナクテ
  使ヒキレヌト云フヤウナピカ〓〓光ッタ所ノ紙ナドニ印刷シテアリマス、モ少
  シ薄イ紙ニシテ置ケバ簡單ニ濟ムト思フノヲデス、ドウモ是ハ政治上ニ關係
  シタコトニハ多イヤウデアリマス、アノヤウナ立派ナ紙ヲ使ハヌデモ、ドウ
  モ是ハ有識者ニヤル紙ニシテハ少シ立派過ギル、ドウモ何カ何處カラカ此印
  刷費ト稱シテ金ガ出テ居ッテ、申譯ニ印刷ヲ立派ニシテ其外デ「コムミッショ
  ン」ヲ取ッテ居ルノデハナイカト云フ、惡イ想像ヲ私共ガスル位ノモノデアリ
  マス、是ハ政府ガ御取締ヲ爲サイト言ッテモ爲サレヤウモナイカモ存ジマセヌ
  ガ、宜シク官民一致シテ紙ヲ浪費スル、無益ナ印刷ナドハシナイ、ソンナ印
  刷ニハ成ルタケ粗末ナ紙デ用ヲ足ス、又笹板類ノモノナドモ何トカ工夫ヲ凝
  シテ、厚紙トカ「ボール」紙デモ使フトカ云フヤウニ工夫シテ、板ヲ使ハナイ
  ト云フヤウニ何トカ工夫ノナイモノデアラウカト云フコトヲ常ニ考ヘテ居ル
  ノデアリマスルガ、直接此關稅ト云フコトニ關係ハハナイガ、併シ大ニ關係
  ガアル、故ニ此機會ニ於テ、單リ是ハ農林大臣バカリデハゴザイマセヌガ、適
  當ナル當局大臣ヨリ御考ガアリマスレバ承ッテ置キタイト思フノデアリマス
  〔國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=11

  ---

• 012・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　只今阪本君カラ申述ベラレマシタ我國ニ於ケル
  紙ノ浪費ヲ成ルベク防止スルヤウニ致サナケレバナラヌデハナイカト云フ御
  意見ニ付キマシテハ、私共政府當局トイタシテモ誠ニ同感ニ感ジマス、紙ノ
  原料ハ材木、之ヲ供給スルモノハ我國ニ於テハ主トシテ樺太材デアリマスガ、
  ソレモ大抵限リノアルモノデ、相當計畫ヲ立テヽ進ンデ居ルヤウデハアリマ
  スルケレドモ、消費ノ方ガ非常ナ速力ヲ以テ增加シテ行クト云フコトニナリ
  マスレバ、此樺太材ノ原料ノミヲ以テハ供給ガシ切レナイナドト云フヤウナ
  時代ガ來ヌトモ限ラナイ、ソレ故ニ紙ノ浪費ト云フモノハ國民ガ大ニ愼ンデ
  貰フト云フコトヲ、是ハ致サナケレバナラヌト、左樣ニ考ヘテ居ル次第デゴ
  ザイマス
  〔男爵斯波忠三郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=12

  ---

• 013・斯波忠三郎

  ○男爵斯波忠三郞君　只今關稅改正案ガ審議ニ繫ッテ居リマスルニ際シマシ
  テ、此機會ニ於キマシテ我國ノ產業保護ノ大體方針ニ付テ、產業關係ノ大臣ノ
  御意見ヲ伺ッテ見タイノデアリマス、同時ニ只今問題ニナリマシタ所ノ木材關
  稅ノ引上ニ付キマシテ、聊カ疑ノ點ヲ質シテ見タイト思フノデアリマス、產業
  ノ保護ヲ致シマス所ノ趣旨ト致シマシテハ、其保護セントスル產業ソレ自身
  ガ我ガ帝國ニ最モ必要ナモノデアッテ、存立シナケレバナラヌト云フ種類ノモ
  ,或ハ其保護セントスル產業ニ依ッテ他ノ產業ガ開發サレルヤウニナルト
  云ッタヤウナモノ、言葉ヲ換ヘテ申シマスト所謂基礎的產業デアリマス、斯カ
  ル種類ノ產業デアッテコソ保護スル値打ノアルモノデアラウカト思フノデア
  リマス、啻ニ從來我國ニ存在シテ居ッタト云フダケノ意味ヲ以テ、保護シナケ
  レバ是ガ消滅スルカラ惜シイト云ッタヤウナ考ヘノミヲ以テ徒ニ保護スベキ
  モノデハナイト思フノデアリマス、而シテ御承知ノ如ク保護ヲ致シマスノニ
  ハ直接ノ保護ト及ビ間接ノ保護ト致シマシテ關稅ニ依ル保護ト此二ツノアル
  コトハ申スマデモナイコトデアリマス、尙ホソレヲ一部ハ關稅デ以テ保護シ、
  一部ハ直接ノ保護ニ依ルト云フ、此二ツノ保護ノ方法ヲ綜合シテスルコトモ
  無論アルノデアリマス、而シテ何レノ場合ニ致シマシテモ、保護イタシマシテ
  ソレガ十分將來發達スル見込ガアッテ、而シテ獨リ步キノ出來ル程度ニナル見
  込ノアルモノデナケレバ保護スルニハ當ラヌト存ズルノデアリマス、近年政
  府ニ於テ企テラレル所ノ產業ノ保護ノ形跡ヲ見テ見マスルト云フト、動トモ
  致シマスルト何デモカデモ我國ニ成立ッタ所ノ產業ハ保護ヲスルト云フヤウ
  ナ事ニ不知不識ノ間ニ傾キツヽアリハシナイカト憂ヘルノデアリマス、是日
  木材トハ關係ハゴザイマセヌケレドモ、去ル歐洲戰爭ノ間ニ色〓ナ產業ガ日
  本ニ起ッテ來マシタ、而シテ平和ノ克復ト共ニ多クノモノハ成立タナクナッタ
  ト云ッタ場合ニデモ、折角出來タノデアリマスカラ、是ガ成立ツヤウニドウカ
  シテ保護シテヤラウヂヤナイカト云ッタヤウナコトガ、往々ナサレルヤウナ形
  跡ヲ認ムルノデアリマス、斯ノ如キ保護ナルモノハ、其結果ト致シマシテ決シ
  テ健全ナ發達ヲ期スルコトハ出來ナイト私ハ思ヒマス、其結果企業家ノ心理
  ニ緩ミヲ生ジ、決シテ健全ナル保護ニハナラヌノデアリマス、世ニ所謂溫室保
  護デアル、「グリーンハウス·インダストリー」ト惡口ヲ言ハレル位ノモノデア
  ル、餘リニ保護過ギルト云フト、決シテ健全ナル發逹ハ致サナイノデアル、
  ソコデ產業ヲ保護スルニ付キマシテハ保護スベキ種類ノモノト、保護セズシ
  テ自然ノ發逹ニ委スベキモノトノ區別ヲ、十分見屆ケテ御ヤリニナラナケレ
  バナラヌモノト思フノデアリマス、保護ヲ與ヘルニ付キマシテハ、我ガ產業
  政策ノ根本義ニ鑑ミマシテ、是ハ斯ク〓〓ノ保護ヲ與ヘタナラバ將來十分發
  達モ致シ、又其製品ガ一般的ニ安ク大衆ニ供給サレルヤウナコトニナルノデ
  アルカラ、是ハ斯カル譯ヲ以テ現在暫クハ消費者ニ迷惑ヲ掛ケテモ、關稅ヲ以
  テ保護ヲシナケレバナラヌトカ、或ハ保護ハシナケレバナラヌケレドモ一般
  民衆ニ迷惑ヲ與フベキ所以ノモノデナイカラ、特別ノ直接保護ヲ與ヘルト云ツ
  タヤウナ風ニ、ソレ〓〓我國情、及我產業ノ根本ニ照シマシテ、保護ヲ與フベ
  キモノヲ區別シナケレバナラヌコトハ勿論、其保護ノ種類ニ於テモ十分考究
  ヲシナケレバナラヌコトデアルト考ヘテ居ルノデアリマス、殊ニ注意ヲシナ
  ケレバナラヌト云フノハ、產業ノ保護ハ業績不況ノ爲ニ爲ス所ノ救濟ト、此二
  ツノモノガ動トモスレバ混同スル憂ガアルノデアリマス、關稅ノ引上ヲ運動
  スル者ハ、我國ニ於キマシテハ企業家デアリマス、關稅ノコトニ關シマシテ、
  或ハ其外ノ事ニ關シマシテモ、消費者ノ聲ト云フモノハ我國ニハ一向ナイノ
  デアリマス、是ハ恐ラク消費者ガ然ルベキ機關ヲ有シテ居ラヌカラデアラウ
  ト存ジマスガ、民間ニ於キマスル有力ナ團體ハ多クハ企業家ノ〓體デアルノ
  デアリマス、是等カラ意見書デアルト云ッテ、始終我〓貴族院其他ノ方面へ差
  出ス所ノモノヲ見マスルト、多クハ企業家ノ自分ノ利益ノ爲ニ關稅ノ保護ヲ
  受ケントスル陳情ガ多イノデアリマス、極ク稀ニハ消費者ノ聲モゴザイマス
  ルケレドモ、多クノ場合ハ企業家ノ聲ガ多イノデアリマス、ト申シマスルノ
  ハ、我國ニ於キマシテ消費者ノ有力ナル機關ガ備ハッテ居ラヌ爲デアラウカ
  ト考ヘルノデアリマス、デ殊ニ歐羅巴戰爭ノ間ニ於キマシテ、色〓ナ工業ナ
  リ產業ナリ起ッタコトハ御承知ノ通リデアリマスルガ、單リ我國ノミナラズ歐
  羅巴各國ニ於テモ矢張リサウデアッタノデアリマス、其結果戰後ニ於テ歐羅巴
  各國ノ間ニ如何ナルコトガ起ッタカト云フ其跡ヲ辿ッテ見マスルト云フト、各
  國ノ間ニ無暗ニ關稅ノ障壁ヲ築キ、又其築キ方ガ頗ル不均等デアル築キ方ヲ
  致シテ居ルノデアリマシテ、戰後數年ノ間ニ歐羅巴諸國ノ最モ苦痛ヲ感ジタ
  一現象ハ、此關稅障壁ノ不當ニ高イト云フコトニ歸シタノデアリマシテ、是
  ガ各國間ノ通商ノ障碍ノ最モ大ナルモノデアリ、又同時ニ戰後ノ社會政策ノ
  實行ニ對シテ最モ忌ムベキ現象デアルト云フコトヲ、歐羅巴諸國ノ識者ハ唱
  へ出シタノデアリマス、ソコデ御承知デモゴザイマセウガ、歐羅巴諸國ノ戰
  後ノ經濟狀態ヲ改善センガ爲ニ、一昨年五月世界ノ五十餘筒國ヲ國際聯盟ガ
  主催イタシマシテ、「ジュネーヴ」ニ招集イタシマシテ、一大會議ヲ催シタノ
  デアリマス、即チ國際經濟會議ガ催サレタノデアリマス、其國際經濟會議ニ
  於キマスル主ナル問題ハ何デアッタカト申シマスルト、只今申上ゲマシタ如ク
  不必要ナル保護ヲ各國ガ自國ノ產業ニ與ヘタガ爲ニ、·ソレヨリシテ生ズル所
  ノ通商ノ障碍、之ヲ撤廢スルコトノ案ハドウシタラ宜イノデアルカト云フコ
  トガ最モ主ナル問題デアッタノデアリマス、其他工業ニ關シ農業ニ關シ種々ナ
  ル問題ハゴザイマシタケレドモ、國際通商ノ障碍ノ撤廢及關稅障壁ノ改善ト
  云フコトノ問題ハ、國際經濟會議ノ最モ主ナル問題デアッタノデアリマス、而
  シテ我國カラモ政府ガ選定イタシマシタ所ノ代表者ヲ此會議ニ送ッテ居リマ
  ス、併シ其代表者ハ政府ノ代表者デハゴザイマセヌノデアリマスルカラ、政府
  ノ意思ヲ此會議ニ於テ發表シタモノデハゴザイマセヌ、此會議ニ出席イタシ
  マシタ所ノ代表ハ決シテ政府ヲ代表シタ代表デハナカッタノデアリマスガ、任
  命ハ政府ガ致シタノデアリマス、而シテ各國ノ代表ト共ニ此會議ニ於テ、我
  國ヨリ派出サレタ所ノ代表ハ齊シク會議ノ決議ヲ贊成イタシマシテ、而シテ
  其會議ノ決議ヲバ參加シタル各國ノ間ニ勸告トシテ發表イタシタノデアリマ
  ス、其勸〓ノ如何ナルモノデアルカト云フコトハ、御承知デアラウト思ヒマ
  ス、其中色〓ゴザイマスルケレドモ、今日此席ニ於ケル問題ニ關係イタシマ
  シタコトト致シマシテ、關稅障壁ノ撤廢及通商ノ障碍其他尙ホ細目ニ涉ッテ
  言ヘバ、特惠關稅ノ撤廢ト云ッタヤウナ問題ガ主ナルコトデアルノデアリマ
  ス、ソレニ對シマシテ我ガ代表ハ悉ク贊意ヲ······各國代表ト折衝イタシマシ
  タ結果、悉ク贊意ヲ表シテ此決議ガ成立ッテ、勸告トシテ各國ノ間ニ示サレテ
  居ルノデアリマス、デアリマスルカラ政府ハ此決議ニ何モ、只今申上ゲマシタ
  ヤウニ此代表ハ政府ノ代表デナイノデアリマスルカラ、政府ハ此決議ニ拘束
  サレル義務ハナイノデアリマスルケレドモ、併シ十分此世界的ノ會議ニ於テ
  決議サレタ所ノ事項ハ政府ニ於テモ十分敬意ヲ拂ッテ居ラレルコトト考ヘテ
  居ルノデアリマス、其後會議ノ終了後、此經濟會議ノ決議ヲバ實行スル機關ト
  シマシテ、國際聯盟ノ經濟部ガ主催イタシマシテ、其後各國カラノ委員ヲ集メ
  マシテ、此決議ノ實行方法ヲ議シテ居ルノデアリマス、是モ其後報告ガ始終來
  テ居ルカラ御承知デアラウト存ジマスルガ、其委員ノ中デ日本カラモ在外ノ
  使臣其他委員ヲ派出サレテ居ルノデアリマス、而シテ委員會ニ於テ、本邦ヨリ
  派出サレテ居ル所ノ代表委員ハ、日本モ此決議ニハ大體賛成デアッテ、決議ノ
  趣旨ヲ段々實行スベク努力セムトシテ居ルト云ッタヤウナ意味ノコトヲ申述
  ベテ居ラレルヤウデアリマス、デアリマスカラ、此會議ノ決議ニ對シマシテ、
  勸〓ニ對シマシテハ、政府當局ハ御贊成デアルコトト私ハ推測シテ居ルノデ
  アリマス、ソコデ御尋ネ致シタイノハ、此經濟會議ノ趣旨ナルモノハ、成ル
  ベク各國間ニ於テ關稅ノ報復戰ト云ッタヤウナモノヲ成ルベク避ケル、又會議
  ノ席上ニ於キマシテ、是ハ決議トナッテハ居ラナカッタヤウデアリマスケレド
  モ、我國カラ派出サレタ所ノ代表ノ强イ意見トシテ述ベタ一ツノ中ニハ、日
  本ハ原料ニ乏シキ國デアル、日本ノ產業ノ根本政策トシテハ原料ヲバ外國カ
  ラ成ルベク安ク輸入シ、之ニ加工シテ輸出スルコトヲ我國產業ノ方針ト致シ
  テ居ル次第デアルガ故ニ、世界各國ノ間ニ共存共榮ノ實ヲ擧ゲムガ爲ニハ、
  原料ノ獲得ト云ッタヤウナコトニ付テハ、最モ公平ニ考ヘナケレバナラヌト云
  フ意見ヲ發表シテ居リマシテ、諸外國ノ中ニモ之ニ賛意ヲ表シテ居ルノハ澤
  山アルノデアリマス、此狀況ニ付キマシテハ、其當時ノ報告ヲ御覽ニナレバ
  其事情ハ能ク分ッテ居リマス、斯カル次第デアリマスルカラ、我國ノ現在ノ立
  場ト致シマシテ、又國際間ニ信ヲ繋グ所以ノ方策ト致シマシテハ、關稅問題
  ノ如キハ、殊ニ愼重ニ考慮シナケレバナラヌカト存ズルノデアリマス、ノミナ
  ラズ、一方我國ノ產業政策ノ方針ト認ムベキ原料ヲバ成ルベク澤山安ク樂ニ
  輸入シ、之ニ加工シテ輸出ヲ企テルト云ッタヤウナ方針ニ對シテハ、今囘ノ木
  材關稅ノ引上ノ如キガ果シテ其御趣旨ガ、只今申上ゲマシタ經濟會議ニ於テ
  我國ノ代表者ガ述ベタ所ノ意見、ソレニ政府ハ贊成シテ居ラレルノニ拘ラズ、
  矛盾シテ居ルヤウナコトハゴザイマセヌカト云フコトヲ伺ヒタイ、先程阪本
  君カラ色〓御指摘ニナリマシテ、材木ノ關稅ヲ引上ゲル結果ト致シテ、家賃
  ガ高クナリハセヌカ、或ハ森林ノ濫伐ヲ來シハセヌカト云ッタヤウナコトニ
  對シマシテモ、私ハ多大ノ疑問ヲ有シテ居リマス、併シ第一ニ私ハ伺ヒタイ
  ノハ、日本ノ保護政策トシテ、保護政策ノ根本方針トシテ木材關稅ヲ引上ゲ
  ルコトガ宜シイノデアルヤ、又世界國際間ノ通商ノ上カラ見マシテ木材關稅
  ヲ引上ゲルコトガ宜シイノデアルヤ、其處ハ私ハ頗ル疑問ニ考ヘルノデアリ
  やで、詳シイ細カイ細目ニ亙ッタコトニ付キマシテハ尙ホ伺フ機會ガゴザイ
  マスカ存ジマセヌガ、此本會議ノ此席上ニ於キマシテ御尋ネ致シタイト云フ
  ノハ其大イナル點ニ付テ御尋ヲ致シタイノデアリマス、尙ホ御答辯ヲ得マシ
  タ後ニ二三伺ヒタイコトモゴザイマスルガ、先ヅ以テ此點ヲ當局大臣ニ伺ツ
  テ見タイト思ヒマス
  國務大臣中橋德五郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=13

  ---

• 014・中橋徳五郎

  ○國務大臣(中橋德五郞君)　只今ノ保護關稅政策ニ付テノ御尋デアリマス
  ガ、好イ機會デアリマスカラ、此際ニ現政府ガ之ニ對シテ執ッテ居リマスル
  所ノ大體ヲ御參考ノ爲ニ申上ゲタイト思フテ居リマス、大體ハ只今斯波男爵
  ヨリ御話ノ通リ、根本方針ハ基礎工業ト云フヤウナモノニ對シテハ、出來ル
  ダケ之ヲ奬勵シ、保護シ、獨立ノ域ニ達スル迄ハ力ヲ盡シテ補助シ、成立ヲ
  圖ル、斯ウ云フ方針ヲ執ッテ居リマス、併シ一昨年ノ四月現內閣ガ成立シマ
  シテ以來、大體ノ工業ニ對シ、他ノ商業ニ對シマシテモ······出來ルダケ自由
  競爭ノ主義ニ立ツヤウニ國民ノ自奮自勵ヲ促スト云フ風ノ方針ヲ執ッテ今日
  迄來テ居リマス、ソレデ丁度一昨年デアリマシタ、只今御話ノ「ジユネーヴ」
  ノ會議ニ於テ各國ノ財政家、經濟家等ガ集ッテ會議ヲセラレテ、其結果ト致シ
  テ、自由通商協會ナドト云フモノモ、各國ニポツ〓〓出來タヤウデアリマス、
  又ソレニ行カレタ所ノ諸君ガ歸朝セラレマシテ、我國ニ於テモ亦此自由通商
  協會ト云フヤウナモノガ東京ニモ、大阪ニモ、名古屋ニモ出來タト云フヤウ
  ナ狀況ニナッテ居リマスルガ、大體ハ彼等ガ歐洲ニ於テ此經濟會議ヲ開イテ、
  サウシテ關稅ノ障壁ヲ撤退シタイト云フコトノ熱烈ナル希望ヲ以テ協議ヲ致
  シタト云フコトハ當然ナ事情·····當時ノ事情トシテ當然ナコトデアッタラウ
  ト思ヒマス、戰後各國共ニ競爭ヲ致シテ關稅ヲ高クシテ互ニ自給自足ヲヤル
  ト云フ政策ヲ執ッタ國ガ多イノデアルコトハ御承知ノ通リデアリマス、サウシ
  テ見タ所ガ互ニ弱ッタ、互ニ通商ノ妨害ヲ受ケ、雙方デ以テ網ヲ張リ合フモ
  ノデアリマスカラシテ、商賣ハ繁昌シナイ、其商賣ノ繁昌シナイノヲ協議ヲ
  シテ救濟シヤウト云フノガ、卽チ彼ノ「ジユネーヴ」ノ會議ノ結果デアリマ
  ス、所ガ幸ニシテ私共ノ見テ居ル所デ申シマスレバ、彼等ハ戰後非常ニ自給
  自足論ノ爲ニ制セラレテ關稅政策ヲ盛ニ執ッタガ爲ニ、各國共ニ非常ニ關稅率
  ヲ上ゲタ、所ガ我國ハドウカト云フト薩張リ上ッテ居リマセヌ、ソレハ戰前ヨ
  リ較ベマスレバ、段々ニ多少上ッテ居リマスルケレドモ、大體ニ於テハ我國
  ハ關稅ヲソレ程上ゲテ居リマセヌ、全體ノ大體論トシテ比較ヲ申シマスレバ、
  日本ノ關稅ハ歐洲ノ各國ノ多クノモノニ較ベマスルト云フト、廉イノデアル
  コトハ御承知ノ通リデアリマス、ソコデ御戾リニナッタ諸君ガ日本ニ於テ彼
  等ノ如ク自由通商協會等ヲ御唱ヘニナッテ居リマシタケレドモ、今日迄ハソ
  レ程繁昌シテ居ナイヤウニ私ハ見テ居ルノデアリマス、若シ是ガ日本ノ關係
  ガ彼等ノ如ク非常ニ高カッテ商賣ノ妨害ヲシテ居ルト云フモノデアルナラバ、
  此自由通商協會ト云フモノガ餘程繁昌シナクチヤナラヌデアラウト云フ風ニ
  私共ハ考ヘテ居リマス、ソレデ一昨年御戾リニナッタ諸君トモ二三度會ヒマ
  シテ御話ヲ聽キ、又我〓ノ考ヲ申シタ譯デアリマス、餘リ御心配ハ要ルマイ、
  關稅問題ニ付テハ······關稅問題ニ付テハ戰時ノ影響ヲ餘計受ケナカッタ我國
  デアルカラ又餘リニ關稅ヲ上ゲテ居ナイ、彼等ヨリ、較ベルト云フト全體ト
  シテ廉イ、故ニ此點ハ餘リ御心配ハ要ラヌヂヤナイカ、現政府モ······現內閣
  モ成立以來其主義ヲ執ッテ居ルノデ、丁度彼等ガ經濟會議デヤッタ主義ト同樣
  ノ主義ヲ其以前ヨリシテ或ハ執ッテ居ッタ、斯ウ申スコトガ出來ルヂヤナイカ
  ト云フヤウナコトノ意見ノ交換ヲ致シタヤウナコトモアリマス、今囘ノ此木
  材關稅ヲ引上ゲルト云フコトハ、私至極贊成デアリマス、ト申シマスノハ日本
  ノ材木ハ·······材木ニ限リマセヌ、戰時中ハ今日ヨリ較ベマスレバ二倍若クハ
  三倍以上ノ値段ヲ出シタモノガ、鐵ノ如キハ最モ高下ガアッタ譯デアリマス、
  斯ウ云フヤウニ「フラクチュエイション」高低ガ多イ時ニナリマスルト、山林
  業ノ如キモノハ全國ニ關係ヲ及ボシ、遂ニ總體ニ關係スルモノデアリマスカ
  ラ、亞米利加ダトカ、或ハ沿海州等カラ只今ノ如キ材木ガ這入ッテ來ル時ニ
  於テハ、ドウシテモ關稅ヲ上ゲテ或程度以上ノモノデ日本ノ山林業ト云フモ
  ノヲ成立セシメルト云フノ政策ヲ、疾クニ執ッテ居ナケレバナラヌ政策デナ
  イカト私ハ思フノデアリマス、今囘ノ引上ゲノ問題モ果シテ適當デアルカド
  ウカ、私共ヨリシテ工業ノ點カラ見マシテモ或ハモウ少シ上ゲテ置イタ方ガ
  國土保全ノ上ニ宜イノヂヤナイカト云フ感ジモ致スノデアリマス、併ナガラ
  此關稅ニ付キマシテモ工業用ニ直接使フ或ハ「マッチ」ノ材料、原料其他ノモノ
  ニ付テハ無稅ニシテアルモノモアル、又稅ヲ掛ケルニ致シテモ三分トカ四分
  トカ極ク廉イ稅ヲ掛ケテ取リ除ケヲ致シテ居ル譯デアリマスカラ、工業用ノ
  モノニ對シテハ、ソレ〓〓相當ノ注意ヲ拂ッテ居リマス積リデアリマス、ソレ
  デ基礎工業ニ付テハ若シ必要ナラバ是非共相當ナ關稅ヲ置キ、或ハ高率ナ關
  稅デモ宜シイ、之ヲヤッテ五年ナリ十年ナリ保護ヲスルト云フコトハ適當ダ
  ト云フ考ヘヨリ致シマシテ、此木材關稅ヲ一昨年計畫イタシマスル時ニ、鐵
  ノ······製鐵ノ關稅モ十分ニ之ヲ高クシテ以テ保護シヤウト云フ協議ヲ致シマ
  シテ略〓成案ヲ持ッテ居ッタノデアリマス、是デモ一千万圓バカリノ收入ヲ圖
  ルコトニナリマスガ、其收入ノ點ヨリハドウシテモ日本ノ鐵工業ノ獨立ヲ
  圖ラナケレバナラヌト云フコトハ、皆樣ノ御希望ノ通リデアル、ソレデ其計
  畫ヲスッカリ準備ヲ致シマシタ所ガ幸ニシテ昨年ヨリ致シマシテ鐵ノ値段ト
  云フモノガ次第々々ニ騰ッテ來マシタ、鐵ノ値段ガ騰ッテ來タモノデアリマス
  カラ、自然ニ關稅デ保護シタヤウナ結果デアリマシテ、現在ノ關稅率ヲ以テ
  十分ニ今日ノ所デハ引合フヤウニ向ッテ來マシタカラ、若シ此値段デ五年ナ
  リ十年ナリ續クナラバ、日本ノ鐵工業ハ立派ナル獨立ヲ致スコトデアラウト
  今日ハ思ヒマス、此議會前ニ當リマシテ餘程考ヘテ居リマシタガ、鐵關稅ノ
  引上ゲハ必要ナシト云フコトデ是ハ止メマシタ、ケレドモ是ガ若シ値段ガ變
  化シテ下ガリマスレバ、又ヤル計畫デ居ルヤウナ次第デアリマス、大體ノ方
  針ハ只今斯波男爵ガ御述ベニナッタト少シモ差ガナイ、其通リノコトニ我〓
  ハ考ヘテ居ルト御考ヘ下サッテ宜カラウト思フ、卽チ國際經濟會議デヤッタコ
  トハ其前カラシテ、日本ハ既ニ其方針ヲ以テヤッテ居ッタト云フコトヲ申上ゲ
  テ宜シイノデハナイカト云フヤウニ申上ゲルノデアリマス
  〔國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=14

  ---

• 015・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　斯波男爵ノ御尋ノ中ニ特ニ木材ニ關スル點ノミ
  ニ付テ私カラ御答ヲ申上ゲマス、國際經濟會議ニ於テ日本ノ委員ハ日本ハ
  原料ノ乏シイ國デアリマスルガ故ニ、原料ニ對シテハ關稅ヲ大イニ增加スル
  ト云フヤウナ方針ハ執ラナイ意嚮デアルト云フ聲明ヲ致シタ、其聲明ニ反シ
  テ居ルデハナイカ、木材ハ原料デアル、之ニ課稅ヲスルト云フ·····關稅ヲ掛ケ
  ルト云フコトハ矛盾シテ居ナイカト云フ、此御尋デアッタヤウニ存ジマスガ、
  私ハ斯樣ニ考ヘテ戴キタイト思ヒマス、木材及木材ヲ供給スル森林ト云フモ
  ノヲ、單ニ原料ト云フ見方カラノミ御覽下サラズシテ、此木材ト云フモノ
  背後ニ居ル森林ト云フモノガ、國家全體ノ上カラシテ如何ナル位地ニ居ルモ
  ノデアルカト云フ點ヲ御覽願ヒタイト思フノデアリマス、勿論材木ヲ供給ス
  ルト云フコトハ山林ノ主タル目的デアリマスルケレドモ、同時ニ國土保安ノ
  上カラシテ山林ノ助長ト云フコトハ極メテ大切ナ問題デアルト私ハ考ヘテ居
  リマス、同時ニ又農業方面カラ見マシテモ山林ノ經營其宜シキヲ得マセヌケ
  レバ、常ニ灌漑水ニ苦シミ、若クハ洪水ニ禍ヒセラレルト云フガ如キ結果ニ
  ナリマスルノデ、重大ナ關係ヲ農業上ニモ及ボスコトハ申ス迄モナイコトデ
  アリマス、近年洪水時期ニ於キマシテハ段々ト全國的ニ洪水ノ災害ガ多クナ
  リ、又旱魃時期ニ於テハ年々灌漑水ガ減少イタシテ參ッテ居ル、農業經營ハ是
  ガ爲ニ非常ナ困難ニ漸次陷リツヽアルト云フコトハ御承知ノ通リノ狀態デア
  リマシテ、是ガ種々ノ原因モアリマセウケレドモ、山林ガ荒廢ニ段々ニ歸ス
  ル傾向ガアルト云フコトガ主タル原因ト、私共ハ認メテ居ルノデアリマシテ、
  デ、此災害ヲ防止スルガ爲ニ年々歲々御承知ノ通リ內務省所管ニ於テ多大ノ
  河川修築費ト云フモノヲ要求スルノデアリマスルガ、片端カラ修築シテ行ッテ
  參レバ片端カラ又壞レテ行ク、埋ッテ行ク、此國費ト云フモノヽ增加ト云フ
  モノモ、此方面ニ向ッテ年々增加シテ行クト云フ形勢ニナッテ居ル、是モ本ヲ
  糺セバ矢張リ山林ノ經營其宜シキヲ得ナイ數十年來ノ結果ガ玆ニ現レテ來タ
  モノト思ッテ居リマス、是等ハ國土保安、農業經營ノ上カラ見タル山林業ノ立
  場デアリマスルガ、更ニ全國的ニ、人的ニ之ヲ見マスルト云フト、我國ノ山
  林ヲ經營シテ居ル所ノモノハ多クハ農業兼營ノモノガ多ウゴザイマスルガ、
  從テ極メテ小規模ノモノガ多イノデアリマシテ、全體ニ於テ山林ヲ經營シ···
  ···山林ニ關係シテ居ル戶數ハ四百六十万戶バカリアリマスルノデアリマス
  ケレドモ、其中デ三反歩、五反步、八反步、一町步ト云フヤウナ小サナ面積ノ
  モノガ殆ド九割以上ヲ占メテ居ルノデアリマシテ、是ガ今日ニ於テハ材木價
  格ノ低落ノ爲ニ非常ノ難儀ヲ致シテ居ルノデアリマシテ、此狀態ハ地方ノ事
  情ヲ能ク御調べ下サイマスト云フト明カニナリマス、ソレ故ニ今日ニ於テ相
  當材木ノ價格ヲ引上ゲマシテ、之ニ依ッテ此多數ノ小サナ山林經營者、農業
  山林ノ兼營者ヲ救濟スルト云フコトハ、是ハ此頃ノ所謂社會政策トデモ申シ
  マセウカ、斯樣ナ點カラ申シテモ極メテ必要ナコトト感ジマスル、ソレ故ニ
  ドウゾ此材木關稅ノ問題ハ單ニ原料ト云フ立場カラノミ御覽下サラズシテ、
  斯樣ニ申上ゲマシタ全體ノ國ノ政策ノ上カラ御覽下サレルヤウ願ヒタイト思
  ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=15

  ---

• 016・斯波忠三郎

  ○男爵斯波忠三郞君　商工大臣竝ニ農林大臣ヨリ詳シキ御答辯ヲ得マシテ
  滿足ニ存ジマスガ、但シ商工大臣ノ仰セラレマシタノハ、我國ハ從來カラ、
  丁度一昨年「ゼネバ」ニ於ケル經濟會議ニ於テ決議シタト同ジヤウナ趣旨デ
  ヤッテ居ル、其以前カラ我國ニ於テハ關稅ノ率ハ比較的少ナイノデアルカラ、
  少シハ此際增シテモ差支ナイヂヤナイカト云ッタヤウナ御趣意デアッタヤウニ
  存ズルノデアリマス、果シテサウデアリマスルナラバ、是ハ從來少ナカッタ
  カラモウ少シ位增シテモ他ノ國ノ程ニハナラヌノデアルカラ、ヤッテモ宜ク
  ハナイカト云フ御趣意デアルトスルナラバ、是ハ私ハ遺憾ナガラ商工大臣ノ
  御說ニ承服ハ出來マセヌ、併シ大體ニ於テ、我國ノ關稅保護ノ趣旨ハ、私ノ
  申述ベタ趣旨ト略〓一致シテ居ルト云フヤウナ御說明デアリ、而シテ材木ノ關
  稅ハ是非ヤラナケレバナラヌト云ッテ御說明ニナリマシタケレドモ、此點ニ
  付キマシテモ私ハ段々承服ノ出來ヌコトモアリマスガ、是レ以上述ベマスレ
  バ討論ニナリマスカラ、差控ヘマス、農林大臣ノ御言葉ハ單ニ材木ヲ原料ト
  見ズシテ、森林業者ノ矢張リ救濟ト云フコトヲ國策トシテ考ヘテ貰ヒタイモ
  ノデアルト云フ、斯ウ云フ御說明ノヤウニ、一ト口ニ申セバアッタヤウデ
  アリマス、私ハ森林ノ荒廢ト云フコトニ付キマシテハ、是ハドウシテモ救濟
  シナケレバナラヌ、又森林ニ從事シテ居ル者ノ實情ヲ見マシテ、是等ノ窮境
  ヲ救濟シナケレバナラヌコトモ、其必要モ私ハ感ジテ居リマスケレドモ、其
  方法トシテ、ソレヲ關稅ニ據ルベキヤ否ヤト云フコトハ私ハ疑問ニ思ッテ
  居ルガ故ニ御尋ネ致シタノデアリマスケレドモ、明カニソレハ關稅ニ據ッテ
  森林業者ヲ救濟スルノデアルト云フ御說明デアリマスカラ、之ニ對シマシテ
  ハ御答辯ハ要領ヲ得テ居ル、併シ承服ハ出來ナイノデアリマス、此程度ニ於
  テ私ノ質問ハ打切リマス
  〔國務大臣中橋德五郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=16

  ---

• 017・中橋徳五郎

  ○國務大臣(中橋德五郞君)　御尋ヲ打切リデアリマスルカラシテ、御答ヲス
  ル積リデアリマセヌガ、チヨット或ハ今ノ御言葉ノ中ノナンデ誤解ヲ生ジ易イ
  點ガアルト思ヒマスカラチヨット申上ゲマス、ト言ヒマスルノハ、日本ノ關稅
  ハ大體廉イカラ多少上ゲテ宜イデハナイカト云フヤウニモ聞取レタト云フ
  御話デアリマスルガ、サウ云フヤウニ或ハ聞エタカモ知レマセヌ、併シサウ
  云フ趣意デアリマセヌト云フコトヲ玆ニ申上ゲテ置キマスノハ、今囘ノ、何
  レ次ニ出テ來マセウガ關稅ノ改正ノ案ガ、妙ナコトデ段々手數ガ取レテ三箇
  出テ居リマス、今日出マシタ外ニマダ二ッ······一〓ニ出テ居リマセヌガ、三
  ツ法案改正ガ出テ居ルノデアリマス、之ヲ御覽下サイマシテモ、今日ノ如ク
  國土保全等ノ理由ヨリシテ木材ノ關稅ヲ引上ゲルト云フモノモアリマスル
  ガ、贅澤關稅ノ如キハ全部ドウカシデ之ヲ半額以下ニシタイト云フヤウニシ
  テ、今囘其或モノハ五割、或モノハ六割ト云フヤウニ、段々減稅スル改正案
  ガ出テ居ルノデアリマス、其外ノモウ一ツニ於キマシテモ、上ゲルモノモア
  リマスレバ、又無稅ニスルモノモアルヤウナ譯デアリマスルカラ、ソレ等ハ
  多ク貴衆兩院ノ豫テヨリノ御希望、建議等ニ基イテ、關稅調査會ニ於テ調査
  イタシマシテ、今囘提出スルノデアリマス、下ゲルモノモアリマスルシ、上
  ゲルモノモアリマスルシ、是ハ世間ノ狀況及御希望ニ依リ審査ヲシテヤルノ
  デアリマスルカラ、上ゲルノヲ目的トシテ居ルト云フコトハアリマセヌカラ
  シテ、適宜ニ其時機ニ應ジテ關稅方針ヲ變ヘテ行ク······方針ヲ變ヘテ行クノ
  デアリマセス、稅率ヲ變ヘテ行ク、斯ウ云フコトデアリマスルカラ、左樣御
  承知ヲ願ヒタイト思ヒマス
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=17

  ---

• 018・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　斯波男爵ノ只今御述べニナリマシタ中ニ、或ハ
  誤解ヲ將來惹起スコトガアッテハ相成ラヌト存ジマスルカラ、ソレヲチヨット
  申上ゲテ置キマスルガ、今囘ノ木材關稅ノ引上ゲハ森林業者ヲ救濟スルガ爲
  デアルト、斯樣ニ私ガ申上ゲタヤウニ御述べニ相成ラレマシタケレドモ、實ハ
  サウ云フ意味デナイノデアリマスルガ、或ハ私ノ申シ足リナカッタ爲ニ、左樣
  ニ御諒解相成ラレタカト思ヒマスルガ、申ス迄モナク此木材ノ關稅ノ引上ゲ
  ハ山林政策カラ出發イタシテ居リマシテ、是ガ主タル原因デアルト云フコト
  ハ申ス迄モナイノデアリマス、即チ國土保安、材木供給ト云フガ如キ點ガ出發
  點デアリマスルガ、唯併ナガラ其結果ト致シテ此多數ノ今日ノ森林業者ト云
  フモノガ非常ニ困難ニ陷ッテ居ルガ、是ガ同時ニ息ヲ吐クコトガ出來ル狀態ニ
  ナルト云フコトヲ、併セテ申上ゲタニ過ギナイノデアリマシテ、ソレガ主タ
  ル目的ダト云フ風ニ御理解下スッテハ私ノ申述ベタ所ト相違イタス次第デゴ
  ザイマスルカラ、是ダケヲ訂正イタシテ置キマス
  〔高橋琢也君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=18

  ---

• 019・高橋琢也

  ○高橋琢也君　私ノハ小サイ質問デゴザイマスカラ、政府委員カラ答辯シテ
  貰ッテ澤山デアリマス、此ノ中ニ甲ハ丸太割材ト云フモノガ無稅ニシテアル、
  乙ハ有稅ニシテアル、丙ハ無稅ニシテアル、斯ウ云フヤウナ區別ガゴザイマ
  スルガ、是ハドウ云フ理由デ一方ハ無稅ニシテ、一方ハ有稅ニナルト云フ意
  味デゴザイマスルカ、ソレカラ「パイン」トアル、所謂松其他ノ針葉樹ト思ヒ
  マスガ、朝鮮松ノ如キモノ、其他御承知ノ如ク朝鮮カラ滿洲、沿海州ニハ針
  葉樹ガ澤山ゴザイマスルガ、是等ハドウ云フヤウナ御取扱ニナッテ居ルノデ
  ゴザイマスカ、ソレカラ丸太ト割材ト云フコトニナッテ居ル、此中ニ角ハド
  ウ云フヤウナ部類ニ這入ルノデスカ、割材ノ中ニ角ガ這入ルト云フノデスカ、
  ドウ云フ御取扱ニナリマスルカ、角ノ中ニモ引材ノ角ト杣角ト、所謂鈍角ナ
  モノ、此方ガ最モ多イノデスガ、此方ハドウ云フ扱ヒニナッテ居リマスカ、ソ
  レヲ一ツ伺ヒタイ、ソレカラ今滿洲カラ西比利亞方面、沿海州、是ノ木材ハ
  年々ドノ位日本ニ這入ッテ參リマスカ、且ツ是等ニハ製材ガ這入ッテ參リマス
  ルカ、丸太若クハ角ガ這入ッテ居リマスカ、御調ベニナッテ居リマシタラソレ
  ヲ伺ヒタイ、此法案ハ國民一般ガ非常ニ是ハ熱望シテ居ルノデアルト存ジマ
  スル、御承知ノ如ク全國百分ノ七十以上ト云フ林地ヲ持ッテ居ル日本デゴザ
  イマスカラ、ドウシテモ森林ガ十分ナ仕事ガナケネバ一般ノ農家ノ人モ生活
  ハ出來ナイノデ、是ハ民林ニハ限ラヌ、國有林デアラウト御料林デアラウ
  ト、町村林デアラウト、ナゼナレバ山元ノ農民ト云フモノハ冬ハ用事ガナイ、
  木材ヲ伐リ出スコトガ出來テ初メテ是デ以テ一方ニ收入ヲ得ラレル、北海道
  ノ開墾ト雖モ若シ木材ガナカッタナラバ出來ルモノデハナイ、冬中木ノ伐リ
  出シガアッテ、之ニ從事スルカラ初メテ一方ニ多少ノ勞銀ガ得ラレ、ソレニ依ッ
  テ初メテ生活ガ出來ル、開墾ヲシタッテ最初ノ中ハ何モ出來マセヌカラ、殊更
  ニ開墾地ニハ此必要ガアルノデアリマス、デアルカラ此法案ガ通過シマシタ
  ナラバ他カラ這入ッテ來ル木材ト云フモノハ兔ニ角少クナル、就中「パイン」
  ノ屬ト云フモノハ「オレゴンパイン」ナドヲ主ニシタモノデアリマセウガ是
  ハ誠ニ厄介ナ木材デアル、年々這入ッテ來ル百中ノ殆ド九十マデハ「オレゴン
  パイン」デセウ、然ルニ此ノ木ト云フモノハ豆腐見タヤウナ木デアル、ドノ樣
  ニモ出來ル、ソレ故ニ請負師ヤ大工ハ非常ニ之ヲ喜ブカラ殊更ニ輸入ヲ勸メ
  ル、ナゼナレバ日本ノ檜、杉ト云フモノヲ削リマスノニハ少クモ一本ノ角ヲ
  削ルノニ·······柱一本削ルノニ、四寸角カ五寸角ノモノヲ削ルノニモ鉋ヲ二
  度若クハ三度〓グ、「オレゴンパイン」ノヤウナモノダト終日鉋ヲ〓グ必要ガ
  ナイ、豆腐見タヤウナ木デアルカラ······サウシテ此木ハチヨット綺麗デゴザ
  イマスケレドモ、是ハ木材ノ纎維ガ皆切レテ居ル、切レテ居ルカラ木ガ折
  レマス、縮ム、捻レル、此位厄介ナ木ハナイ、併ナガラ仕事ヲスルニハ誠ニ
  宜シウゴザイマス、自由自在ニナル木ダカラ······大震火災ノ時ニ潰レタ家ハ
  大〓此「オレゴンパイン」デ建テタ家デアル、又近頃ノ學校ナドノ二階ガ落チ
  タリ、倒レルト云フヤウナモノハ皆「オレゴンパイン」デアリマス、素人目ニ
  ハ誠ニ綺麗デ宜イ、宜イケレドモ第一木材ハ纎維ガ通ッテ居ナカッタナラバ皆
  折レル、裂ケル、ソレ故ニ此二階建ナドニハ決シテ是ハ梁ニ使ヘル木ヂヤナ
  イガ、請負師ハ幾ラノ金額ト言ッテ請負ッテ居ル以上ハ安ク上ゲサヘスレバ宜
  イカラ皆之ヲ用ヒル、ソレデ日本ノ木材ハ皆之ニ押サレマスカラ、林業ヲヤッ
  タ所デ迚モ今日ノヤウナ勞銀ノ高イ時分ニハ、造林ガ出來ルモノヂヤゴザリ
  マセヌ、昔大和ノ有名ナ民林ノアル所デモ、是ハ山三朱ト言ッタ位デアル、ア
  ノ位造林ニ巧ミナ所デ、最モ熟練家ノミアル所デ、而シテ其木ハ小サナ間伐
  木迄磨キニシテ馬ノ背デ大阪ニ出セバ皆金ニナル、ソレデスラ三朱ニシカ當
  ラナイ、今日ノ人ガ三朱ヤ五朱デ何時火事ガ來ルカ、何時大風デ倒レテシマフ
  カ分ラヌ木材ヲ仕立テルノデスカラ、誰モヤル者ハナイ、斯ウ云フ結果ニナリ
  やく、ソレ故ニ今日ハ殊ニ勞銀ヲ安クシナケレバナラヌノデアルケレドモ、
  一番其勞銀ガ高イ、サウシテ一方ニハ「オレゴンパイン」ノヤウナ木ガ日本ニ
  這入ッテ來ル、ソレデアリマスカラ、之ニ押サレマシテ日本ノ一大森林國ナル
  靑森、秋田ノ方デスラ今ハ「オレゴンパイン」ガ這入ッテ居ル、斯ウ云フヤウナ
  工合デアル、サウシテ此木ハ右申上ゲルヤウナ最モ軟カイ木デゴザイマスカ
  ラ、將來若シ斯ウ云フ物バカリ使フヤウデアッタラ日本ノ建築ハ危險デ仕方ガ
  ナイ、實ハ當局デ枕木ニ迄「オレゴンパイン」ヲ使ハレル、是ハ「クレオソート」
  ヲ注入スル、或ハ「バシリット」ヲ注入スル、此方デゴザイマスカラ多少持チマ
  スル、持チマスルガ、此雜木ノ多イ日本デ、是デ以テ始終外國ノ木ヲ使ハネ
  バナラヌト云フコトニナッタラ、我國ノ森林ト云フモノハ唯荒廢スルノミ、森
  林ガ荒廢スルノモ宜シウゴザイマスガ、荒廢スル爲ニ年々洪水ハ最モ大キク
  ナル、此水害ニ年々犠牲ニスルダケノ地方ノ水害費ト云フモノハ非常ナモノ
  デアル、ソレ故ニドノヤウニシテモ今日モウ旣ニ業ニ非常ニ荒廢ヲシツヽア
  ル、シツヽヂヤナイ、シテ居ル山林デアル、是ハ私ハ是マデモ口ヲ酸クシテ
  此演壇ニモ立ッテヤカマシク申シマシタケレドモ、實ハ歷代ノ政府ガ森林行
  政森林經濟、此點ニ於テ餘程閑却シテ居ル所ガアルノデス、幸ニ今囘ハ此
  法案ガ出マシタナラバ、是ハ造林案デハナイケレドモ、是ガ爲ニ初メテ森林
  業者モ多少此惠ミヲ受ケルト云フ其結果ハ、今申上ゲル國土保安ノ上ニマデ
  特ニ福音ヲ齎ラスモノデアラウト私ハ信ジテ居ル、其故ニ此法案ハ國民ハ皆
  翹望シテ居ル、最モ熱望シテ居ルモノデアラウト存ジマスガ、唯是バカリデ
  必シモ造林ガ盛ニナルトハ私モ申シマセヌガ、一方ニ是ガ出ル以上ハ、尙且
  ツ之ニ森林經營、森林行政ノ上デ、特ニ政府ハ御考究ヲナサル事柄ガアルダ
  ラウト存ジマスル、私ガ伺フノハ、今最初ニ私ガ箇條ヲ出シテ置キマシタ
  ガ、是ダケノコトヲ一ツ政府カラ伺ヒタイノデアリマス
  〔政府委員藤井眞信君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=19

  ---

• 020・藤井眞信

  ○政府委員(藤井眞信君)　只今御尋ネ中ノ丸太割材ニ對スル稅率ニ關スル點
  ダケヲ私ヨリ御答辯申上ゲマシテ、其他ノ點ニ付キマシテハ他ノ政府委員ヨ
  リ御答辯ヲ致シタイト思ヒマス、御尋ノ御趣旨ハ木ノ種類ニ依ッテ丸太割材
  ノ稅率ガ異ッテ居ッテ、或モノハ無稅トナリ、或モノハ有稅トナル、而シテ其
  有稅ノモノノ中ニ於テモ、率ガ違フノハ如何ナル理由カト云フコトガ御尋ノ
  趣旨ノヤウデアリマスガ、即チ今囘ノ提案ニ於キマシテハ、「シダー」及「ヘ
  ムロック」所謂米檜、米杉、米栂ノ丸太割材ニ對シマシテハ一割二分五厘ノ割
  合デ算出シタ稅率ヲ盛ッテ居ルノデアリマス、ソレカラ樅、唐檜、松落葉松
  ノ類ニ對シマシテハ、其丸太割材ハ無稅ト致シテ居リマス、其他「ドクラス
  フアー」所謂米松ノ丸太割材ニ對シマシテハ特ニ長イモノヲ無稅ト致シテ、其
  長カラザルモノヲ五分ノ割合デ算出シタ稅率ヲ盛ッテ居ルノデアリマス、此丸
  太割材ニ對スル稅率ノ盛リ方ガ、木ノ種類ニ依ッテ異ナッテ居リマスノハ、ソ
  レ〓〓愼重ナル調査〓究ヲ遂ゲマシタ結果デアリマシテ、即チ無稅ト致シテ
  居リマス樅、唐檜、松落葉松ノ類ノ丸太割材ハ、主トシテ工業用ノ原料ニ
  ナルモノガ多イノデアリマシテ、先刻大藏大臣ヨリ御說明ノアリマシタ如ク、
  是等ノモノハ或ハ「パルプ」ノ原料トナリ、或ハ輸出品ノ箱材トナリ、其他主
  トシテ工業用、輸出用ノ材料トナルモノデアリマスガ故ニ、特ニ之ヲ無稅ト
  致スコトガ適當ナリト考ヘテ、無稅ト致シタノデアリマス、ソレカラ米松ノ
  丸太割材ノ特ニ長サノ長イ物、所謂長尺物ニ付キマシテハ、是ハ「パイリン
  グ」等ニ用ヒラレル原料デアリマシテ、我國ニ生產スルコトガ少ナク、主ト
  シテ之ヲ外材ノ供給ニ俟タネバナラヌト云フ狀況ニアル種類ノ木デアリマス
  ルガ故ニ、即チソレ等ノ關係ヲ考慮シテ、特ニ無稅ト致シタノデアリマス、
  殘リマスノハ米檜、米杉、米栂ノ類ト、米松ノ比較的長サノ短イ物ガ殘ルノ
  デアリマスガ、是ハ我國森林業ニ對スル外材ノ影響ノ關係カラ致シマシテ、
  御承知ノ如ク我國森林業ノ重要ナル杉、檜ニ對スル對抗材ト其他ノ物トノ關
  係ヲ考慮シマシテ、米檜、米杉、米樹類ハ主トシテ我國ニ於ケル杉、檜ニ對
  スル壓迫ガ非常ニ强イ關係ニ立ッテ居ルノデアリマスノデ、是等ニ對シテハ幾
  分稅率ヲ高クシ、即チ一割二分五厘ニ致シタノデアリマスガ、米松ノ類ニ至
  リマシテハ、其關係ガ餘程事情ガ違ヒマスノデ、全體ヲ通ジテ米檜、米杉等
  ヨリモ稅率ヲ低クメテ居ルノデアリマス、從テ其米松類ノ丸太割材ニ對シ
  マシテハ、此全體ノ稅率ノ按配上低クナッテ居ルノデアリマスノデ、丸太割材
  ニ對シマシテモ米檜、米杉ヨリカ幾ラカ低クシテ、五分ト云フ低イ割合デ稅
  率ヲ算出シタト云フノガ此提案ノ理由デアリマス、是ダケノコトヲ私ヨリ御
  答申上ゲマス
  政府委員入江魁君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=20

  ---

• 021・入江魁

  ○政府委員(入江魁君)　私カラ其他ノ點ニ付キマシテ御答ヲ申上ゲマス、丸
  太割材ト云フモノ、中ニハ、大中角等ヲ含ムヤ否ヤト云フ御話デアリマシタ、
  詰リ己ノ四ニ、己ノ四ト申シマスルモノヽ中ニ於キマシテ、單ニ「其他(丸太
  及割材ヲ含ム)」トナッテ居リマスガ、其中ニハ大中角ヲ含ンデ居リマス、次ノ
  御尋ハ沿海州等ノ方面カラ製品ガドノ位這入ッテ來ルカト云フ御尋デゴザイ
  マシタガ、沿海州方面カラ致シマシテハ極メテ製品ハ僅カシカ這入ッテ參リ
  マセヌノデ、此己ノ四ニ屬シマスルモノデゴザイマスルガ、大體製品ト致シ
  マシテ全體デ百七十六立方米位ニナッテ居リマス、左樣御承知ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=21

  ---

• 022・高橋琢也

  ○高橋琢也君　農林省政府委員ニ御尋ネシマスガ、印度ノ木材、就中「チー
  ク」ノヤウナモノハ、這入リマセヌカ、如何デスカ
  〔政府委員入江魁君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=22

  ---

• 023・入江魁

  ○政府委員(入江魁君)　チヨット恐入リマスガ、モウ一度

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=23

  ---

• 024・高橋琢也

  ○高橋琢也君　印度ノ樹種、就中「チーク」ノヤウナモノハ、何レノ方デモ澤
  山、殊ニ造船等ニハ需要セラレテ居ル木ダカラ、是ガ日本ニハドレ位這入リ
  マスカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=24

  ---

• 025・入江魁

  ○政府委員(入江魁君)　御答致シマスル、今這入ッテ居リマスルモノガ南洋
  材トシテ、十万石内外ノモノガ、「ラワン」ト云フモノガ這入ッテ參リマスル
  ガ、其他ハ極ク僅カニナッテ居リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=25

  ---

• 026・高橋琢也

  ○高橋琢也君　私ハ色〓尋ネタイコトモゴザイマスルガソレハ細カイコトニ
  亙リマスカラ他日委員會ノ場合デモゴザイマシタラ、ソコヘ出テ伺フコトニ
  致シマシテ質問ハ打切リマス
  〔土方寧君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=26

  ---

• 027・土方寧

  ○土方寧君　輸入木材ニ關稅ヲ課シテ內地ノ森林業ヲ保護スルト云フコトノ
  可否ニ付キマシテハ、私ハ正直ヲ云フト迷ッテ居リマスカラ、自分ノ判斷ヲ定
  メル爲ニ所管ノ農林大臣御一人デアリマセヌ、政府ノ御意見ヲ代表シテ伺ヒ
  タイ、第一ハ輸入ノ木材ニ課稅ヲシテ內地ノ森林業ヲ保護スルト云フコトヲ
  シマシテ、將來我國デ自給自足ノ見込ガ立ツカ、第二ニハ森林經營ト云フコ
  トハ私等素人ニハ能ク分リマセヌガ、木材ニモ依リマセウガ、先ヅ新シク植
  ヱ付ケル、伐ッタ跡ヘ植林スル、其木ガ役立ツヤウニナリマス迄ニハ、大分年
  數ガ經チマスノデ、孫ヤ曾孫ノ時ニナラナケレバ檜ノヤウナモノハ金ニナラ
  ヌ、サウシマスト個人ノ經營トシテハ實ハ餘程難シイモノデハナイカ、奈良
  ヤ和歌山地方ニハ昔カラ個人ノ大キナ森林業者モアリマスケレドモ、如何デ
  アリマセウ、ドウモ私共素人カラ考ヘルト云フトドウモ森林經營ト云フモ
  ノハ、今申上ゲルヤウナ性質ノモノデアリマスカラ、實ハ現在官林モ澤山ア
  リマスガ、今後ハ個人ノ經營者ガ拂下ゲヲ願ッテ來タラ個人ノ經營ニ任ス御
  方針デアルカ、官林ハ官林トシテ、寧ロ將來ハ森林ソノモノハ國家ノ經營ニ
  スル、官林主義ニナサルカ、尤モ町村ノ財源トシテ其町村有林ナドモ宜カラ
  ウト思ヒマス、其他私ノ考デハ總テ森林ハ官營ニスル方ガ宜カラウデハナイ
  カ、鐵道ヨリハ其方ガ性質ガ適ッテ居リハセヌカト思ヒマス、政府ノ御考ハ如
  何デアリマセウ、何カ根本ノ問題ニ付テ伺ッテ置カヌト、目前ノ問題ノ可否ヲ
  決シ兼ネマスカラ此二ツヲ伺ヒマス
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=27

  ---

• 028・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　土方サンノ御尋ニ對シテ御答イタシマス、其第
  一點ハデス、斯樣ナ關稅引上ゲ等ヲ致シマシテモ自給自足ノ域ニ達シ得ル見
  込ガアルカ、ドウカト云フ御尋デアッタラウト思ヒマス、固ヨリ關稅政策ニ依ツ
  テ此目的ヲ達スル譯ニハ參リマセヌケレドモ、各種ノ森林政策ト云フモノヲ
  併セ行フニ於テハ、只今ノ計畫デハ四十箇年後ニ於テ初メテ自給自足ノ域ニ
  達シ得ルト云フ見當ハ付イテ居ルノデアリマス、ソレカラ個人經營ガ多イヤ
  ウデアルガ、斯樣ナ經營ノ仕方デハドウデアラウカ、モット大規模ニ若クハ國
  デ之ヲ經營シタラドウカト云フヤウナ御意味ノ御尋ト承知シタノデスガ、左
  樣デゴザイマスカ······是ハ大體御承知ノ通リニ森林ノ種別ヲ致シマスレバ國
  有林、帝室御料林、公有林、私有林、斯樣ナコトニナッテ居リマスノデアリ
  マスガ、此國有林ニ付テハ御承知ノ通リ國有林ノ經營方法ト云フモノガ定ッ
  テ居リマシテ、ソレハ確實ニ片方カラ伐採シテ行キマスト、同時ニ片方カラ
  植付ヲシテ參リマスル確然タル計畫ガ今日行ハレテ居リマス、帝室御料林ニ
  於キマシテモ、矢張リ同樣ナ經營法ガ既ニ行ハレテ居ルト信ジマス、公有林
  ニ付キマシテハ、是ハ地方〓體ガ經營ヲ致シテ行カナケレバナラヌノデアリ
  マスケレドモ、地方團體ノ資力ガ往々ニシテ之ヲ十分經營シテ行クコトニ不
  十分デアリマスルガ故ニ、從來公有林ノ官行造林ト云フコトヲ行ッテ居ッタノ
  デアリマス、即チ府縣市町村ノ力ノ足リナイ場合ニハ國ガ代ッテ資金ヲ投ジ
  テ植林シテヤル、斯ウ云フ制度ガ所謂公有林ノ官行造林デアリマスルガ、ソ
  レガ近年財政整理ノ結果ト致シマシテ、漸次其金額ガ減少サレマシテ、最近
  ニ於キマシテハ、殆ド法制ノミ立ッテ居ッテ有名無實ニナリマシタ、即チ國ガ
  國費ヲ以テ一時立替ヘマシテ、公有林ノ植付ヲヤルト云フコトハ、近年殆ド
  行ハズシテ居ッタノデアリマス、是ハ斯樣ニシテ置ク譯ニ行キマセヌカラ、今
  囘カラハ矢張リ從前ニ復シテ相當ノ豫算ヲ請求シマシテ、公有林ノ官行造林
  ヲ實行シテ行ク積リデアリマス、旣ニ御協賛ヲ仰ギマシタ豫算ノ中ニモ矢張
  リ其經費ガ計上シテアル次第デゴザリマス、是ハ御說ノ通リ非常ニ小サナ規
  模ノモノデアリマスカラ、此方面ヲ助長奬勵スルガ爲ニ新ニ計畫ヲ立テマシ
  テ經費ヲ要求イタシマシタノデアリマシテ、幸ニ御協贊ヲ得マシテ昭和四年
  度カラ之ヲ實行シテ行クコトノ出來ル積リデアルノデアリマス、規模ノ小サ
  イト云フコトハ如何ニモ致方ノナイコトデゴザイマシテ、或方面カラ見マス
  レバ、森林ノ如キハ却ッテ規模ノ小サイト云フコトガ、是ガ森林ヲ丁寧ニ愛
  護スル意味ニ於テハ宜イカトモ見ラレルノデアリマスルガ、但シ苗木ノ養成
  ヲスルトカ、或ハ林道ヲ開鑿スルトカ、其他運搬設備ヲ整ヘルトカ云フコト
  ニ於キマシテハ、是等ノ小サイ經營者ガ共同ヲ致シマセヌト云フト、一ハン
  力デハ其設備ガ出來ナイ場合ガ多イノデアリマスルカラ、ソレ等ハ森林組合
  等ヲ、大イニ奬勵助長イタシマシテ、共同デナケンケレバ行ハレナイ所ノ各
  種ノ施設ハ、共同シテ、施設サセルコトニ致シタイ考ヲ以テ、ソレガ即チ今
  囘ノ豫算計畫ノ中ニモ皆現レテ居ル次第デゴザイマス、斯樣ナ譯デ總テノ全
  體ノ國有林、公有林、私有林ニ亙ッテ、ソレん〓計畫ヲ立テヽ居リマスノデ、
  是ガ此關稅定率ノ引上ゲト相俟ッテ、目的ヲ達スルヤウニ致シタイト考ヘテ居
  ル次第デゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=28

  ---

• 029・土方寧

  ○土方寧君　大體分リマシタガ、一點少シ念ノ爲ニ伺ヒタイト思ヒマス、現
  在御料林ハ別ニシテ、官有、公有、私有ト三ツアルガ、公有ハ今マデニ減ジ
  テ居ル、私有ノ方モ、今度ハ奬勵シ、補助スルト云フ御話デアリマスルガ、
  私ノ考ヘハ、今後個人ガ官有ノ拂下ゲヲ願フ時ニハ、ソレヲ十分經營シテ行
  ケレバ、拂下ゲヲナサイマスカ、ソレカラ私有林デ、餘程奬勵シテ行ッテモ、
  矢張リ補助センナラヌト云フヤウナモノハ······實際經營出來ナイモノハ、私
  共ハ寧ロ總テ將來ハ國有林ニシタラドウカ、官有林ニシタラドウカト云フ考
  ヘデアリマス、其點ニ付テハ現在デハ政府ハ別ニ方針ヲ御決メニナッテ居リ
  マセヌカ
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=29

  ---

• 030・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　御答イタシマス、只今ノ國有林ノ中カラ大ニ拂
  下ゲヲ致スト云フヤウナ考ハ持ッテ居リマセヌノデ、現在ノ面積ニ於テ、ソレ
  ゾレ經營ノ方針ヲ立テヽアリマスルノデ、是ハ特ニ拂下ゲヲスルト云フ氣持
  ハ持ッテ居リマセヌガ、但シ從前カラソレヲヤッテ居リマスルケレドモ、調査
  ヲ致シテ、所謂不要存置林ト申スヤウナ風ノモノヲ、斯ウ云フ風ナモノハ小
  面積ノモノデアリマスルケレドモ、各地方ニソレ〓〓拂下ゲ若クハ交付ヲ致
  スト云フコトハヤッテ居リマスル、大體ニ於テ國有林ヲ拂下ゲテ私有林ノ經營
  ヲサセルト云フ方針ハ執ラナイ積リデアリマス、ソレカラ全部國有林ニシテ
  シマッタラドウカト云フ御尋デアリマスルガ、是ハ餘程考へ物デアラウト思ヒ
  マスルノデ、只今ノ所デハ左樣ナ考ハ持ッテ居リマセヌ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=30

  ---

• 031・土方寧

  ○土方寧君　宜シウゴザイマス、終リマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=31

  ---

• 032・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本案ノ特別委員ノ指名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
  セマス
  〔瀨古書記官朗讀〕
  關稅定率法中改正法律案特別委員
  侯爵西〓從德君子爵八條隆正君子爵裏松友光君
  男爵斯波忠三郞君高橋琢也君西野元君
  稻畑勝太郞君渡邊千代三郞君上郞〓助君
  千古市立囍业

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=32

  ---

• 033・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第二、大正九年法律第五十三號中改正法律案、
  政府提出、衆議院送付、第一讀會
  大正九年法律第五十三號中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十四日
  衆議院副議長〓瀨郞
  貴族院議長公爵德川家達殿
  大正九年法律第五十三號中改正法律案
  大正九年法律第五十三號中左ノ通改正ス
  第一條削除
  第八條中「關稅法、關稅定率法、保稅倉庫法又ハ假置場法中大藏大臣又ハ
  主務大臣」ヲ「關稅法又ハ關稅定率法中大藏大臣」二段1,
  別表ヲ削ル
  附則
  本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
  朝鮮ニ輸入スル鹽ニハ昭和五年三月三十一日迄仍從前ノ輸入稅ヲ課ス
  朝鮮ニ輸入スル木材ニシテ別表ニ揭グルモノニハ本法施行ノ日ヨリ昭和五
  年三月三十一日迄ハ別表ノ輸入稅表甲號ニ依リ、昭和五年四月一日ヨリ昭
  和七年三月三十一日迄ハ別表ノ輸入稅表乙號ニ依リ輸入稅ヲ課ス
  (別表)
  輸入稅表甲號
  品名單位稅率
  木材(關稅定率法別表輸入稅表第六一二號每立方メートル
  一ノ己ノ四ノイニ該當スルモノ)〇·四〇
  輸入稅表乙號
  品名單位稅率
  木材(關稅定率法別表輸入稅表第六一二號每立方メートル〇·七五
  一ノ己ノ四ノイニ該當スルモノ)
  備考從量稅率ノ單位ハ圓トス
  參照
  大正九年法律第五十三號ハ關稅定率法保稅倉庫法及假置場法等ノ朝鮮ニ於
  ケル特例ニ關スル法律ナリ
  〔政府委員池上四郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=33

  ---

• 034・池上四郎

  ○政府委員(池上四郞君)　只今上程セラレマシタ大正九年法律第五十三號中
  改正法律案ニ付キマシテ、大體ノ御說明ヲ申上ゲタク存ジマス、本法ハ大正
  九年朝鮮ニ内地ノ關稅制度ヲ布キマシタ際、設ケラレマシタル特例デアリマ
  ス、其後著シク事情ノ變化ヲ見ルニ至リマシタル爲ニ、本日ニ於キマシテハ、
  斯カル特例ノ存置スル必要ヲ認メザルニ至ッタノデアリマス、依テ此際之ヲ廢
  止イタシマシテ帝國既定ノ方針タル、内鮮關稅ノ完全ナル統一ヲ實現スルヲ
  適當ト信ズルノデアリマス、唯木材及鹽ニ付キマシテハ急激ナル變動ヲ避ク
  ルガ爲メ、適當ニ之ヲ緩和スルコトト致シタノデアリマス、本案ハ大體以上
  ノ趣旨ニ依リ提出シタ次第デアリマス、何卒御審議ノ上速ニ御協賛ヲ與ヘラ
  レムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=34

  ---

• 035・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本案ハ日程第一ノ法律案ノ特別委員ニ付託イタシ
  やくろ、午後一時三十分マデ休憩イタシマス
  午後零時六分休憩
  吉木小王小事
  午後一時四十二分開議

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=35

  ---

• 036・蜂須賀正韶

  ○副議長(侯爵蜂須賀正韶君)　書記官ヲシテ諸般ノ報告ヲ致サセマス
  瀨古書記官朗讀〕
  本日特別委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
  昭和二年法律第十五號中改正法律案可決報告書
  噸稅法中改正法律案可決報告書
  借入金整理ニ關スル法律案可決報告書
  製鐵所特別會計ニ於テ大藏省預金部ノ橫濱正金銀行ニ對スル債權ノ讓渡
  ヲ受クルコトニ關スル法律案可決報告書
  登錄稅法中改正法律案可決報告書
  本日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
  貴族院規則中改正ノ動議(發議者公爵一條實孝君外六名、贊成者公爵近
  衞文麿君外四十二名)

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=36

  ---

• 037・蜂須賀正韶

  ○副議長(公爵蜂須賀正韶君)　是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス、日程第三、肥
  料管理法案、第四、肥料管理特別會計法案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
  肥料管理法案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  肥料管理法案
  肥料管理法
  第一條本法ニ於テ肥料ト稱スルハ硫酸アムモニア、石灰窒素及勅令ヲ以
  テ指定スル含窒素化學肥料ヲ謂フ
  第二條政府ハ肥料ノ配給ノ圓滑又ハ價格ノ安定ヲ圖ル爲肥料ノ賣渡ヲ爲
  スコトヲ得
  前項ノ賣渡ヲ爲ス爲政府ハ肥料ノ買入、交換、加工又ハ貯藏ヲ爲スコト
  ヲ得
  第三條政府ハ前條ノ規定ニ依リ肥料ノ賣渡ヲ爲サントスルトキハ命令ノ
  定ムル所ニ依リ豫メ其ノ數量及價格ヲ告示スベシ但シ肥料ノ買換、貯藏肥
  料整理ノ爲ニスル賣渡其ノ他必要ト認ムル場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
  前項ノ價格ハ時價ニ準據シテ之ヲ定ムベシ
  第四條政府ハ肥料ノ配給ノ圓滑又ハ價格ノ安定ヲ圖ル爲肥料現在高調査
  ノ必要アリト認ムルトキハ肥料ノ製造業者、取引業者、倉庫業者其ノ他
  占有者ニ對シ必要ナル事項ノ報告ヲ命ジ又ハ官吏若ハ吏員ヲシテ其ノ營
  業所、倉庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ帳簿物件ヲ檢査セシムルコトヲ得
  第五條前條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ又ハ當官該吏若ハ吏員ノ職務ノ執
  行ヲ妨ゲタル者ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  肥料管理特別會計法案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  肥料管理特別會計法案
  肥料管理特別會計法
  第一條肥料ノ配給ノ圓滑又ハ價格ノ安定ヲ圖ル爲ノ肥料ノ賣渡竝ニ其ノ
  賣渡ノ爲ニスル買入、交換、加工及貯藏ニ關スル一切ノ歲入歲出ハ之ヲ
  一般會計ト區分シ特別ノ會計ヲ立テシム
  第二條本會計ニ屬スル經費ヲ支辨スル爲必要アルトキハ政府ハ本會計ノ
  負擔ニ於テ借入ヲ爲スコトヲ得
  第三條本會計ニ於テハ借入金、肥料賣渡代金及附屬雜收入ヲ以テ其ノ歲
  入トシ肥料ノ買入代金、肥料ノ買入賣渡交換加工貯藏及運搬ニ關スル諸
  費、借入金ノ償還金及利子、一時借入金ノ利子、事業取扱費其ノ他ノ諸
  費ヲ以テ其ノ歲出トス
  第四條本會計ニ於テ支拂上現金ニ餘裕アルトキハ之ヲ大藏省預金部ニ預
  入ルルコトヲ得
  第五條本會計ニ於テ支拂上現金ニ不足アルトキハ本會計ノ負擔ニ於テ一
  時借入ヲ爲スコトヲ得
  前項ノ規定ニ依ル一時借入金ハ當該年度內ニ之ヲ返還スベシ
  第六條第二條ノ規定ニ入ル借入金及前條ノ規定ニ依ル一時借入金ノ額ハ
  通ジテ最高二千萬圓トス
  第七條本會計ニ於ケル歲入總額ノ歳出總額ニ超過スル金額ハ之ヲ翌年度
  ノ歲入ニ繰入ルベシ
  本會計ノ每年度歲出豫算ニ於ケル事業費ノ支出殘額ハ之ヲ翌年度ニ繰越
  使用スルコトヲ得
  第八條政府ハ每年本會計ノ歲入歲出豫算ヲ調製シ歲入歲出ノ總豫算ト共
  ニ之ヲ帝國議會ニ提出スベシ
  第九條本會計ノ收入支出及損益計算ニ關スル規程ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  附則
  本法ハ昭和四年度ヨリ之ヲ施行ス
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=37

  ---

• 038・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　肥料管理法案提出ノ理由ヲ說明申上ゲマス、食
  糧ノ充實ヲ圖ルト共ニ、農村經濟ノ作興ヲ期シマスルコトハ、現下我國ノ國
  情ト致シマシテ、最モ緊切ノ事務タルコトハ今更諄〓シク申上ゲルマデモナ
  イコトデアリマス、而シテ此食糧ノ充實、農村經濟ノ作興ト申スコトモ、之
  ヲ達成スルノ方策ハ固ヨリ一ニシテ足ラナイノデアリマスルガ、就中農業生
  產上必須ノ資源タル肥料ノ價格ノ安定ヲ圖リ、是ガ配給ヲ圓滑ナラシメマシ
  テ、農家ノ肥料購入上ニ於ケル障碍ヲ除去イタシマシテ、之ニ一層ノ便益ヲ
  與フルノ政策ヲ確立イタシマスルコトハ、其最モ重要ナルモノト存ズル次第
  デアリマス、御承知ノ如ク我國ノ農業ノ進步ニ伴ヒマシテ、販賣肥料ノ施用
  ハ頓ニ增加イタシマシテ、今ヤ其一箇年ノ消費額ハ三億數千万圓ノ巨額ニ達
  シ、今後益〓遞增ノ勢ヲ呈シテ居ルノデアリマス、而シテ肥料代金ハ農產物
  生產費中ノ最モ重要ナル部分ヲ占メツヽアルノデアリマス、左樣デアリマス
  ルカラ農產物ノ生產費ヲ遞減イタスト共ニ之ヲ安定シ、仍テ以テ農村經濟ノ
  作興ヲ圖ラムト欲スルナラバ、是非トモ此肥料ノ配給ノ圓滑ト其價格ノ安定
  ト云フ點ニ著眼イタサナケレバナラヌト云フコトハ理ノ當然デアルノデアリ
  マス、況ヤ我國ノ人口增加ニ伴ヒマシテ、國民食糧ノ充實上、農產物ノ增收
  ハ一日モ之ヲ忽セニスベカラザル所デアリマスガ、此農產物ノ增收ハ我國ノ
  國情ニ於テハ懸ッテ肥料ノ多量施用ト云フコトニ俟タナケレバナラヌト云フ
  狀況ニ鑑ミマスレバ、肥料問題ハ愈〓其重要性ヲ增シツヽアルモノト言ハナ
  ケレバナリマセヌ、偖各種販賣肥料ノ中ニ於キマシテ、窒素質肥料ハ價格ニ
  於テ全販賣肥料ノ八割餘ヲ占メテ居リマスルガ故ニ、是ガ價格ノ安キカ高キ
  カト云フコトハ、農家經濟上ニ及ボス所ノ影響ハ特ニ重大ナルモノガアルノ
  デアリマスル、而シテ更ニ此窒素質肥料ノ中ニ於キマシテモ、硫酸「アムモ
  ニヤ」、石灰窒素ノ如キ無機質窒素肥料ハ、價格ノ關係ヨリ近時大イニ其需
  要ノ增加ヲ來シマシテ、今ヤ我國ニ於テ消費セラレマスル窒素質販賣肥料中
  ノ···總量ノ四割餘ハ、此無機質窒素肥料ヲ以テ供給セラレツツアルノ狀況
  ニアルノミナラズ、更ニ今後ニ於テハ益其需要ノ增加ヲ來シマスル傾向ガ
  明白デアルノデアリマス、從テ從來窒素質肥料中ノ首位ヲ占メテ居リマシタ
  豆粕、卽チ大豆粕ノ如キモ、漸ク其地位ヲ此種無機質窒素肥料ニ讓ラムトス
  ルノ狀勢ニアリマスカラ、此種無機質ノ肥料ハ、窒素質肥料界ノ謂ハバ中樞
  ヲ成シテ居ルノデアリマシテ、畢竟ズル所、其價格ハ一般窒素肥料ノ價格ヲ
  支配スル如キ地位ニ在ルノデアリマス、デアリマスルカラ此種肥料ノ價格ガ
  安定シ、配給ガ圓滑ナルヲ得マスルコトハ、就中最モ重要ナル點ト認メラレ
  ルノデアリマス、飜ッテ此種肥料ノ價格ガ如何ナル狀況ニアルカ、竝ニ是ガ
  配給ノ狀態ハ如何デアルカヲ見マスルニ、今日マデノ經過ニ徵シマスレバ、
  肥料價格ノ動搖ハ相當激甚デアリマシテ、季節等ニ依ッテ往々暴騰ヲ來シ、
  農家ニ對シマシテ非常ナル苦痛ヲ與フルバカリデナク、又折角肥料ノ購入ヲ
  希望シツヽアル所ノ農家ヲシテ自然之ヲ斷念スルノ餘儀ナキニ至ラシムルノ
  結果トナリツヽアルノデアリマス、又其肥料配給ノ方面ニ於キマシテモ、現
  在ノ組織ノ上整ハザル所ガアリマスルガ爲ニ、中央市場ニ於ケル肥料ノ價格
  ハ左マデ高價デナイ場合ニ於キマシテモ、是ガ農家ニ配給セラレマスル場合
  ノ價格ハ、結局甚シク不廉ノモノトナリ得ルト云フ狀況ニアルノデアリマ
  ス、政府ハ從來肥料ニ關シマシテ、肥料取締法ノ實施ニ依リ、不正粗惡ナル
  肥料ノ防遏ニ努ムルノ外、肥料ノ改良增殖及ビ經濟的施用法ノ普及等ニハ施
  設スル所ガアリマスルケレドモ、時代ノ要求ハ、今ヤ斯ノ如キ程度ノ施設ノ
  ミニテハ到底滿足ヲ致サナイト云フ狀況ニ鑑ミマシテ、肥料ニ關スル國策ヲ
  考究スルノ目的ヲ以テ、一昨年以來農林省內ニ特ニ肥料調査委員會ナルモノ
  ヲ設ケマシテ、銳意調査審議ヲ進メツヽアルノデアリマスガ、右調査會ニ於
  キマシテモ、以上申述ベマシタガ如キ無機質窒素肥料ノ生產及販賣ノ狀況ハ、
  農村現下ノ實情ニ徵シ、一日モ速ニ其對策ヲ講ズルノ要アリトシテ、是ガ方
  策ヲ答申スルニ至ッタノデアリマスル、仍テ政府ハ右答申ノ要項ニ基キマシ
  テ、更ニ種々調査考究ヲ加ヘマシタル結果、此肥料管理ノ方策ヲ定メマシテ、
  玆ニ其法律案ヲ提出イタシタ次第デアリマス、今本案ノ內容ニ付キマシテ大
  體御說明申上ゲマスレバ、第一ニ政府ハ硫酸「アンモニア」等ノ一定數量ヲ買
  入レマシテ、之ヲ產業組合ヤ農會ノ如キ〓體ヲ通ジマシテ、常時計畫的ニ農
  家ニ配給スルコトニ依リマシテ、農家ヲシテ肥料配給ノ中間ニ於ケル餘分ノ
  負擔ヨリ免カレシメルノミナラズ、之ニ依ッテ絕エズ市場ヲ牽制イタシマシ
  テ動モスレバ起ラムトスル肥料價格ノ變動ヲ防止スルコトニ資セムトスルノ
  デアリマス、第二ニハ又別ニ相當ノ豫備品ヲ貯藏イタシテ置キマシテ、肥料
  ノ時價ガ萬一暴騰ヲ來スガ如キ場合ニ於キマシテ、臨時ニ之ヲ市場ニ賣出シ
  マシテ、暴騰ノ勢ヲ抑制イタシマシテ、之ガ安定ヲ圖ラムトスルノデアリマ
  ス、而シテ此管理ノ爲ニ生ジマスル政府ノ歲入歲出ハ之ヲ特別會計ト致シマ
  シテ、借入金ニ依ッテ事業ヲ行フコトト致シテ、其最高限度ヲ二千万圓ト定メ
  タノデアリマス、以上ハ政府ガ今日提案イタシマシタ管理法案ノ大體ノ骨子
  デアリマスルガ、政府ハ之ニ依リマシテ啻ニ前申上述ベマシタル硫酸「アン
  モニア」等ノ無機質窒素肥料ノ價格ノ安定及其配給ノ圓滑ヲ來サシムルバカ
  リデナク、尙ホ之ニ依リマシテ他ノ一般窒素質肥料等ノ價格ニ對シテモ相當
  良好ナル影響ヲ及ボスコトヲ期待イタシテ居リマスノデアリマス、從テ又之
  ヲ起因ト致シマシテ、農村經濟ノ甦生上幾多ノ實績ガ生レ來ルコトヲ期待イ
  タシ且ツ信ジテ居ルノデアリマス、固ヨリ肥料政策ハ之ヲ以テ決シテ盡キテ
  居ル譯デハナイノデアリマシテ、他ニ幾多ノ重要ナ施設ガ殘ッテ居ルノデアリ
  マスルガ、本案ノ如キハ就中最モ緊要ナモノニシテ且ツ最モ重要ナルモノト
  信ジテ居ル次第デアリマス、何卒御審議ノ上速ニ御協贊ヲ與ヘラレムコトヲ
  切望イタシマス、以上提案ノ趣旨デゴザイマスルガ此際一言尙ホ附加ヘテ申
  上ゲテ置キタイト思ヒマス、ソレハ本案ガ衆議院ニ於テ審議中ニ於キマシテ
  肥料商人ノ側ヨリ之ニ對スル所ノ反對ガアッタノデアリマス、外部ニアッタノ
  デアリマスルガ、ソレハ多クハ本案ノ內容ヲ能ク承知シナイ結果ニ基クモ
  ノガ多カッタヤウニ信ゼラレマスルノデ、此本案ノ肥料管理ニ依リ從來ノ肥料
  商人ガ其權益ヲ侵サレ、其職ヲ奪ハレル如キコトハアリハ致サヌカト云フ心
  配ガアッタヤウデアリマス、所ガ此法案ノ立テ方ハ左樣ニナッテ居ラナイノデ
  アリマシテ、現在四十万噸以上ノ消費ガアリマスルガ、此分ハ從來ノ商人ニ
  取扱ハシメル積リニ相成ッテ居ルノデアリマシテ、年々五万噸宛······去リナガ
  ラ消費ガ增加シテ參リマスノデアリマスカラ、此增加シテ行ク將來ノ分ヲ政
  府ノ手ニ依ッテ管理セムトスルニ過ギナイノデアリマス、而モ其將來增加シ
  テ行ク分ノ半分ト申シマシテモ、農家ノ三月、四月、五月、六月、七月、ソ
  レカラ十月、此六箇月間ノ需要最盛期ニ於テ農家ノ需要スル數量ノ半額ヲ目
  標ト致シテ管理スル積リデアルノデアリマスカラ、從來ノ商人ハ從來ノ商賣
  ヲ奪ハレル虞レハ少シモナイノミナラズ、將來ノ分ニ對シマシテモ增加スル
  半分ハ矢張リ取扱フコトガ出來ルノデアリマシテ、決シテ是ガ爲ニ急激ニシ
  テ大ナル打擊ヲ從來ノ商人ガ受ケル筋道ニハナッテ居ラヌノデアリマス
  〔議長公爵德川家達君議長席ニ著ク〕
  是ガマダ能ク徹底シテ居ラヌカノヤウニ考ヘマスカラ之ヲ併セテ此際申上ゲ
  テ置キマス、又此特別會計ガ肥料ヲ賣下ゲルニ付テハ之ヲ買入レナケレバナ
  ラナイ、其賣買ノ間ニ損失ガ起ッテ、是ガ爲ニ此特別會計ガ危險ニ陷ル虞レハ
  ナイカト云フガ如キ心配モ私共ノ耳ニ這入ッテ居リマスルガ、ソレハ多クハ米
  、穀特別會計ガ從來屢、損失ヲ重ネテ居ッタト云フコトニ鑑ミマシテ、左樣ナコ
  トニ此肥料特別會計ガナルノデハナイカト云フ心配デアラウト思ヒマスルケ
  レドモ、實ハ米穀特別會計ト此肥料特別會計トハ其實體ガ全然違ッテ居ルノデ
  アリマシテ、此特別會計ニ於テハ左樣ナ損失ヲ起スト云フヤウナ憂ヘハ殆ド
  絕無デアルト私共ハ只今考ヘテ居ル次第デゴザイマシテ、米穀特別會計ニ於
  キマシテハ安イ時ニ米ヲ買入レマシテ、而シテ之ヲ賣却スル時期ハ何時ノ時
  ニ賣却スルカト申セバ、米ガ高クナッテ最早此以上暴騰サシテハナラナイト
  云フ時ニ調節ノ爲ニ其持米ヲ賣出スノデアリマスルガ、此期間ト云フモノガ
  大抵一年以上、長キハ三年以上ニモ亙ッテ居ルノデアリマス、即チ買上ゲヲシ
  タ時ト此買上ゲヲシタル米ヲ更ニ賣下ゲヲスルト云フ其兩方ノ時期ノ間、期
  間ト云フモノガ短キハ一年、長キハ三年ニ亙ッテ居リマスルカラシテ、此間ニ
  於テ米ノ品質ニ變化ヲ來シマシテ、米ハ格外レノモノトナリマスルガ故ニ、
  此間ニ損失ガ起ラザルヲ得ナイノデアリマスルガ、偖此肥料特別會計ニ於キ
  マシテハ、其仕事ヲスル間ト云フモノハ殆ド半年ノ間デアリマシテ、三月カ
  ラ始マリマシテ八九ノ兩月ヲ拔キマシテ、十月ニハ悉ク完成イタシマス其
  年ノ仕事ハシテシマフノデアリマシテ、而モソレモ一時ニ三月ノ初メニ買入
  レテ、之ヲ徐々ニ賣下ゲルト云フ組織ニナッテ居リマセヌノデアリマス、數囘
  ニ亙ッテ一月置キ若クハ一一月置キニ數囘ニ亙ッテ買上ヲシ、賣却ヲ致スト云フ
  コトニナッテ居リマスノデ、而モ此硫酸「アンモニア」ノ性質ハ米ト違ヒマシ
  テ、半年ヤ一年デ其性質ニ變化ヲ來シ、是ガ爲ニ價格ノ下落ヲ來スト云フ如
  キ憂ヘノナイ品物デアリマスルカラシテ、此ヤウナ理由カラ致シマシテ、全
  然米穀法トハ性質ヲ異ニイタシテ居リマスルノデ損失ヲ來ス憂ヘト云フモノ
  ハ先ヅナイモノト當局ハ見テ居ル次第デゴザイマシテ、是等ノ點モ併セテ此
  際申上ゲテ御諒知ヲ願ッテ置キマス
  〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=38

  ---

• 039・大口喜六

  ○政府委員(大口喜六君)　肥料管理特別會計法案ニ付キマシテ提案ノ理由ヲ
  御說明イタシタイト存ジマス、肥料管理ノ必要デアリマスルコトハ、只今モ
  肥料管理法案ニ付キマシテ農林大臣ヨリ御說明申上ゲタ通リデアリマス、而
  シテ肥料管理ノ事業ハ借入金、肥料賣拂代金等ヲ以チマシテ、肥料ノ買入代
  金、肥料ノ買入賣渡、貯藏、運搬等ニ關シマスル諸費竝ニ借入金償還及利子、
  一時借入金ノ利子、事業取扱費、其他一切ノ經費ニ充當セントスルモノデア
  リマスル故ニ、性質上是ガ收支ハ一團ト致シマシテ獨立ニ計算スルコトヲ適
  當ト考ヘル次第デアリマス、ソレニ依リマシテ本事業ニ關スル歲入歳出ハ之
  ヲ一般會計ト區分イタシマシテ特別會計ヲ設置スルノ必要アリト考ヘル次第
  デアリマス、何卒御協賛アランコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=39

  ---

• 040・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ通〓ニ依リマシテ湯地幸平君ニ質疑ノ發言
  ヲ許シマス
  〔湯地幸平君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=40

  ---

• 041・湯地幸平

  ○湯地幸平君　本員ハ肥料政策ニ付テ總理大臣ニ御尋ネ致シタイ、併シ總理
  大臣ハ御出席ニナッテ居リマセヌカラシテ、農林大臣ガ總理大臣ノ代理トシ
  テ、即チ政府ヲ代表シテ御答ガ出來レバ直ニ農林大臣ノ御答ヲ願ヒタイノデ
  スガ、若シ農林大臣ガソレダケノ責任ヲ以テ御答ガ出來ナカッタナラバ、特別
  委員會ノ席ニ總理大臣ガ御出席ニナッテ御答ヲ願ヒタイ、之ヲ希望シテ置キマ
  ス、今囘肥料管理案ト云フモノヲ御提案ニナリマシタガ、實ハ肥料調査會ト
  云フモノガ農林省ニ於テ設ケラレマシテ、本員モ其席末ヲ汚シテ居ル一人デ
  アリマス、所ガ調査會デ答申ヲシタ事柄ト、今囘御提案ニナッテ居ル管理案ト
  云フモノヲ比較シテ見マスルト云フト、其一部分ダケガ御提案ニナッテ居ル
  ノデアリマス、肥料調査會ニ於テハ無機質窒素肥料ノ製造助成ト云フコトト、
  及ビ肥料管理ト云フコトト此二ツヲ答申シテアルノデ、是ハ不可分ノ關係デ
  本員等ハ答申シタノデアリマスルガ、其中ノ肥料管理法案ダケガ今囘ノ御提
  案ニナッテ居ルノデアリマス、而シテ此御提案ニナッタノハ、別ニ調査委員ニ
  諒解ヲ得テ御提案ニナッタモノトモ思ヒマヌカラシテ、ドウシテモ是ハ質問
  セザルヲ得ナイ場合ニナッタノデアリマス、肥料調査會ノ考ハ、我國ニ於ケル
  肥料製造ト云フモノニ政府ガ出來得ル限リ助成ヲ與ヘ、生產費ヲ少クシテ、
  其生產費ヲ少クシタ程度ニ應ジテ肥料ヲ安ク農家ニ配給スルトサウシテ尙
  ホ不足デアッタラバ外國ノ肥料ヲ仰グト、之ガ肥料調査會ノ大體ノ趣旨デアリ
  マシタ、少クトモ本員ハサウ云フ考ヘデ答申シタノデアリマス、其肥料ノ中
  デ無機質窒素肥料ト云フノハ先ヅ一番先キニ是ハ助長シテヤラナクチヤナラ
  ヌ、ドウ云フ譯デアルカト云フト、是ハデス、海外カラ輸入スル所ノモノデ、
  凡ソ一億前後ノ金ヲ此無機質窒素肥料ノ爲ニ我國ハ取去ラレツヽアル、尤モ
  我國ノ金貨ヲ取去ル所ノ產物ハ外ニモ大分アリマスルガ、例ヘテ見マスルナ
  ラバ〓料品ノ三億、棉花ノ六億、羊毛ノ八千万圓、機械ノ一億、鐵ノ一億、
  肥料ノ一億、斯ウ云フモノガ先ヅ我國ニ於ケル所ノ五千万圓以上ノ輸入ヲシ
  テ居ル物デアリマスガ、其中デ政府ノ努力ニ依ッテモ此輸入ヲ防遏スルト云フ
  コトノ出來ナイモノト、容易ク出來ルモノトアリマス、即チ棉花ノ六億ノ如
  キハ、是ハ我國ガ天惠ニ浴シナイ關係上、政府ガ餘程努力セラレテモ、其效
  果ガ擧ガルカドウカハ疑問デアリマス、是ハ輸入ヲ防遏スル上ニ於テ頗ル困
  難ノ方デアリマス、所ガ無機質窒素肥料ハ輸入ヲ防遏スルニ付テ最モ簡單ナ
  又容易ク出來ル、何故ナラバ是ハ原料ハ空氣ト水デアル、何モ原料ヲ外國カラ
  仰グ必要ガナイ、勿論多少ノ電氣ノ力ハ要リマスケレドモ、空氣ト水ガ原料
  ニナッテ居ッテ、是デ一億前後ノ金貸ヲ取リ去ラレルト云フコトデアルナラバ、
  是ハ政府ノ施設如何ニ依ッテ此輸入ヲ防遏シ、國際貸借ノ關係ヲ或程度マデ
  改善スルト云フ事柄ハ出來ルノデアリマス、ソレデ調査會ノ方ニ於テハ、追
  追トハ肥料全般ニ及ビマセウガ、先以テ此無機質窒素肥料ニ多少ノ便宜助成
  ヲ與ヘル、而シテ無機質窒素肥料ノ現狀ハドウデアルカト云フ、最近三年間
  ノ平均ガ、我國ノ需要高ハ三十七万噸餘リデス、其中デ我ガ日本デ拵ヘテ居ル
  無機質窒素肥料ハ十七万噸、サウスルト二十万噸ト云フモノハ外國ノ輸入ヲ
  仰イデ居ル譯デアリマス、尙ホ今後十箇年ニ於ケル無機質窒素肥料ノ需要高
  ハ、是ハ今日農家ノ狀況ニ照シテ推算ヲスル時ニハ、八十万噸ノ需要ノアル
  ト云フ事柄ハ明瞭デアル、十年後ニ於テモマダ〓〓無機質窒素肥料ハ增加ス
  ル傾向ヲ持ッテ居ル、ソレデアルカラ之ヲ國家ガ成ルベク便宜ヲ與ヘ、助成シ
  テ自給自足ヲ圖ルト云フコトヲ第一ニ考ヘナクチヤイカヌ、殊ニ無機質窒素
  肥料ハ一朝國家ニ事アル時ニハ火藥ノ原料ニナルノデアル、有事ノ際ニハ無
  機質窒素肥料ノ製造工場ハ火藥ノ原料ヲ製造スル工場ト變ルノデアル、國防
  ノ上カラ見テモ無機質窒素肥料ト云フモノノ自給自足ヲ圖ルト云フ事柄ハ、
  是ハ大事ナコトデアル、尙ホ進ンデハ、我國ノ施設如何ニ依ッテハ、之ヲ海外
  ニ輸出スルコトモ出來得ルノデアル、ソレデアルカラシテ此無機質窒素肥料
  ニ政府ハ助成、又ハ便宜ヲ與へ、其與ヘタ程度ニ應ジテ生產費ヲ安クシ、其安
  クシタ程度ニ應ジテ肥料ノ價格ヲ安クセシメテ、之ヲ農家ニ安價ニ供給スル
  ト云フノガ大體ノ方針デアッタノデアル、勿論無機質窒素肥料バカリデナク、
  其他肥料ニ漸次此精神ヲ推及ボシテ行クト云フ事柄ガ肥料調査會ノ大體ノ考
  デアッタノデアリマス、而シテ政府ガ無機質窒素肥料ニ助成ヲ與ヘルト云フ方
  法ハドンナ方法デアリマスカト云フト二三ノ事柄ヲ申上ゲマスト云フト、
  先ヅ低利資金ヲ貸付ケ、又其他ノ事業ノ爲メ發行スル社債ノ償還ニ付キ保證
  ヲ爲シ得ルコト、無機質窒素肥料ノ如キハ本當ハ是ハ國營デセナクチヤナラ
  ヌモノデアル、國防ノ關係ガアリマスカラ······併シ直チニ國營トハ行カナイ
  ノデアルカラ、出來得ル程度ニ於テ之ヲ援助ヲ與ヘル、其外此無機質窒素肥
  料ヲ製造スル株式會社ニ對シテハ政府ノ許可ヲ得テ拂込資金額ノ二倍マデ社
  債ノ發行ヲ許シ得ルヤウニシタラドウカ、其他無機質窒素肥料ノ製造裝置ニ
  使用スル機械類ニ付テハ其輸入稅等ヲ免除スル、斯ウ云フ具體的法案ヲ立テ
  テ、農林省ニ答申ヲシタノデアリマス、所ガ今囘ノ御提案ニハ是等ノ助成ト
  云フ事柄ハ少シモ見當リマセヌ、此答申ノ終ヒニ前各項ノ保護ヲ與フル場合
  ニ於テハト云フ前各項ノ今申上ゲマシタヤウナ保護ヲ政府ガ與フル場合ニ於
  テハ、政府ハ一定ノ期間內ニ生產スベキ數量其他必要ナル條件ヲ附スルコト
  ヲ得ルコト、是ハ保護ヲ與ヘル限リニ於テ會社ニ對シテ又干涉ヲスル、斯ウ
  云フコトニナッテ居リマス、所ガ肥料管理案ニ於テ見マスルト云フト、無機質
  窒素肥料ノ製造ニ對シマシテ、或ハ種々ナル報告ヲ出ス義務ヲ負ハシメ、或
  ハ帳簿ヲ檢査スル權利ヲ政府ガ握リ、或ハ營業所倉庫其他ノ所ニ政府ガ臨檢
  ヲ自由ニシテ宜シイ、個人デ言ヘバ家宅侵入ヲ公許シタヤウナ規定ガ一方ニ
  現ハレテ居リマスルガ、此肥料製造者ニ對シテ助成ヲ與ヘルヤウナ規則ハ不
  幸ニシテ私ハ發見シ得マセヌ、ソコデ私ガ御尋シタイノハ、總理大臣ハ此調
  査會ノ答申ノ通リ、此答申ニ御同意デアルカドウカ、是ハ大藏省ニモ跨ッテ居
  ルシシマスルシ、商工省ニモ關係ガアリ、關稅ノ事ハ外務省ニモ關係ガアリ
  マスカラ、是ハ農林太臣ニ御尋ネシテモ無理デアラウト思フ、農林大臣ニ御
  尋ネスレバ出來得ル限リ努力スルト仰シヤルデセウ、私ハ努力ノ程度ヲ伺ヒ
  タクナイ、努力ヲスルカシナイカ、ドノ程度ニ於テ努力スルカト云フ其努力
  ノ程度ハ伺ヒタクナイ、之ニ直ニ同意サレルカシナイカト云フコトヲ總理
  大臣カラ承リタイト云フ趣意デアリマス、恐ラク農林大臣ハ直ニ此助成案ニ
  同意スルト云フ御答ハ或ハムツカシイモ知レヌト思フ、ソレニ努力スルト云
  フナラバソレナラ聽カナクテモ宜シイ、其努力ノ程度ハ私ハ伺フ必要ハナイ
  ノデス、以上ハ總理大臣ニ御尋ネシタイ事柄デアリマス、次ニ今度ハ農林大
  臣ニ管理案ニ付テ御尋ネシタイト思フノデアリマス、管理案ニ於テ政府ガ肥
  料ヲ買上ゲラレテ、其間ニ適當ナル調節ヲサレテ、成ルベク安價ニ農家ニ配
  給ヲサレルト云フ御精神ハ誠ニ結構ナコトデアリマスルガ、ソレニ付テ少々
  ノ疑ヒガアリマス、外國ノ肥料ガ非常ニ安クシテ、內地製ガ高カッタ時ハド
  ウ云フコトヲサレルカ、外國製ノ肥料ハ農林省モ御承知ノ如ク、何處デ價格
  ヲ決定スルカト云フト、智利ノ硝石ノ國家的大「シンヂケート」、ソレカラ獨
  逸ヲ中心トシテ歐羅巴モ皆加擔シテ居リマシテ、ソレト亞米利加ノ一部ガ加
  擔シテ居ル所ノ石灰窒素肥料、硫酸「アムモニア」ノ販賣聯盟、此二ツニ依ッテ
  價額ハ獨占的ニ決定シテ我國ニ來ルノデアリマスカラ、我國ハ此外國カラ來
  ル肥料ノ價ハ何トモシヤウガナイノデアリマス、外國デ決定シタ肥料ノ價額
  ニ運賃ヲ加ヘタモノガ我國ノ價額トナリマセウ、サウシテ外國ニ於テハ多量
  生產、又機械類等モ安ク手ニ入ルノデアリマスカラ、場合ニ依ッテハ外國製ハ
  非常ニ安イコトガアラウト思ヒマス、其時分ニ若シ外國製ノ安イ肥料ヲ買上
  ゲラレテ、我國內品ハ買上ゲラレヌト云フコトニナッタ場合ニハドウナルカト
  云フト是コソ第一、製造會社ト云フモノハ······國內ニ於ケル肥料ノ製造會社
  ハ非常ニ打擊ヲ蒙リマス、甚シキニ至ッテハ破產モシナケレババナラヌ、ソレ
  ハ已ムヲ得ズトシテモ、折角國際貸借ノ關係ヲ改善セシメ、卽チ輸入ヲ防遏シ
  テ行カウト云フ趣意カラ云フト其處ニ矛盾ガ生ジテ來マス、サウカト云ッ
  テ安イ外國ノ肥料ヲ買ハナイデ、高イ內地製ノ肥料ヲ買ッテ供給スルト云フ
  コトニナルト、今度ハ農民ノ方ハ高イモノヲ買ハナケレバナラヌト云フコト
  ニナル、ドウシテモ外國カラ來ル肥料ノ價ハ我國ニ於テハ如何トモスルコト
  ガ出來ナイトスレバ、其損ヲスルモノハ肥料會社ガ······我國内ニ於ケル肥料
  製造會社ガ損ヲスルカ、ソレデナケレバ農家ガ高イ肥料ヲ買フカ、ソレデナ
  クチヤ肥料管理ノ特別會計ガ損スルカ、ドチラカニ是ハ歸著シナケレバナラ
  ヌト云フ結論ニナリマスガ、其邊ノ調節ハドウ云フ風ナ按排デセラレルノデ
  アルカ、ソレガ此管理案デハ私ハ甚ダ頭ニ這入リニクイノデアリマス、其次ニ
  御尋シタイノハ從來ノ肥料商ガ農家ニ肥料ヲ供給スルニハ、大體現金デヤラ
  ヌ所ガ大部分デアルト思フ、次ノ農產物ノ收穫期マデ其肥料ノ代價ヲ延バシ
  テ上ゲル、御承知ノ通リ農家ニハ現金ガナイノデスカラ、結果ニ於テハ高イ
  モノニナルカモ知レマセヌガ、併ナガラソレハ其當時ニ肥料ヲ買ハフト云フ
  時ニ、現金ガ農家ニナイ場合ニ於テハ、ドウモ結果ニ於テ利息等ヲ拂ッテ高
  クナッテモ借リルヨリ外仕方ガナイ、是ガ從來肥料商ト農家ノ間ニ非常ニ便宜
  デアッテ、又ソコニ妙味ガアッタノデアリマスルガ、今囘ノ管理案ニ依リマス
  ト云フト是ハ農家ニ貸スト云フコトハ出來ナカラウト思ヒマス、サウ致シ
  マスト云フト農家ノ方ニ物價······低利資金デモ御廻シニナルト云フコトガ、
  肥料ヲ買フ時分ニ出來レバ、是ハ非常ニ便利ニナラウト思ヒマスガ、其邊ニ
  付テノ農林大臣ノ御考ヲ承リタイ、ソレカラ肥料調査會ニ於テノ管理ヲスル
  ト云フ事柄ハ、肥料ヲ全部管理ヲスルト云フ考ヘデアッタノデス、然ルニ先
  刻農林大臣ノ御說明ニハ全部デハナイ、マア從來取扱ッテ來テ居ッタ肥料ノ販
  賣ト云フモノハ、從來肥料商ニ委セル、將來ノヲ此管理案ニ依ッテ管理スル
  ト云フ風ニ私ハ聽取リマシタノデスガ、從來取扱ッタ量ヲ之ヲ肥料商肥料商
  ニ付テ調ベル場合ニ於テ、是ハ從來取扱ッタ肥料ノ量デアル、之ハ其後增加
  シタノデアルト云フヤウナ事柄ハ、非常ニ其邊ニ付テ面倒ナコトガアルヤウ
  ニ思ヒマスガ、ソレハドウ云フ標準ニ於テ其邊ノ御取扱ガ出來ルモノデアル
  カ、尙ホ肥料商ト云フモノガ勉强ヲシテ非常ニ働クト云フ事柄ハ、將來段々
  發展シ伸ビテ行ク爲ニ多少ノ損モシ努力モスルト云フノデアリマスケレド
  モ、モウ將來增シタ肥料ハ取扱フコトガ出來ナイト云フト、自分ノ働キノ限
  度ガスッカリ限定セラレマシテ、自分ガ幾ラ努力シテモ是レ以上ハ自分ハ伸ビ
  ナイト云フコトニナリマシテ、其處ニ肥料商ノ働キ振リガ餘程違フヤウナ感
  ジガ致シマス、ソレ等ニ付テ農林大臣ノ御答辯ヲ願ヒタイ、要スルニ政府ニ
  於テ調査委員會デ決メタ事柄ヲ政府ガ執ラレルカ、其御答辯如何ニ依ッテハ
  私等ハ此案ニ付テ多少考慮ヲ拂ハナケレバナラヌト云フコトニナリマスカ
  ラ、先刻申上ゲマシタ通リ、農林大臣ガ總理大臣ノ代理トシテ責任ヲ以テ御
  答辯ニナレバ、ソレヲ御答辯ヲ希望シマスガ、ソレガ出來ナケレバ總理大臣
  カラ又特別委員會ノ時ニデモ御出席下サッテ、第一ノ政策ノ答辯ニ付テ御答ヲ
  願ヒタイト思フ
  〔國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=41

  ---

• 042・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　湯地君ヨリノ只今ノ御尋ニ對シマシテ御答ヲ致
  シマス、總理大臣ニ對スル御尋ニ對シマレテバ私竝ニ商工大臣ヨリ御答ヲ致
  シマスルガ、取敢ヘズ私トシテ申上ゲマスルコトハ、御說ノ通リニ肥料調査
  會ノ答申ハ十六項ニ亙リマシテ、其中ノ六項ハ內地ノ肥料生產助長ニ關スル
  點デアリマスルガ、此點ニ付キマシテ、政府ハ決シテ之ヲ等閑視シタ譯デハ
  アリマセヌケレドモ、未ダ成案ヲ得マセナカッタガ爲ニ、取敢ヘズ成案ヲ得マ
  シタ此肥料ノ管理ノ方ヲ法律案ニ取纏メマシテ玆ニ提出イタシマシタ次第デ
  アルノデアリマス、尙ホ肥料ノ生產助長ニ關スル肥料調査會カラノ答申ニ付
  キマシテハ、之ヲ政策上ニ具體化スルコトガ如何ナル程度迄出來マスルカ、
  ト云フヤウナ點ニ付キマシテハ、商工大臣ヨリ申上ゲルコトニ致シマス、尙
  ホ御尋ノ中ニ、外國品ガ安クッテ內地品ガ高イト云フ場合ニハ、ドウスルノデ
  アルカト云フ御尋デアリマシタガ、大體ニ於テハ斯樣ナ非常ナ開キノアル場
  合ヲ豫想シナクトモ宜イカト思フノデシテ、御說ノ通リニ我國ノ今日ノ硫酸
  安母尼亞ノ消費ノ大部分ハ、其供給ハ外國ニ俟ッテ居ルノデアリマシテ、從テ
  我國ニ於ケル硫酸安母尼亞ノ價格ハ、大體外國品ノ價格ニ依ッテ定マッテ居ル
  ヤウナ狀態デアルノデアリマス、ソレ故ニ外國品ト內地品トノ著シイ開キト
  云フモノハ生ゼナイト云フノガ今迄ノ現況デアリマシテ、將來ト雖モ外國品
  ガ多量ニ輸入サレテ來ル限リハ、內地ノ價格ハ、凡テ內地ニ於ケル硫酸「ア
  ムモニア」ノ價格ハ、內地品デアルト外國品デアルトヲ問ハズ大體ニ於テ外
  國品ノ價格ニ追隨シテ定ッテ行クモノト思フノデアリマス、デアリマスガ茲
  ニ私申上ゲテ置カンケレバナラヌコトハ、政府ノ管理ハ此卸ノ元價マデ遡ッテ
  之ヲドウシヤウ、之ヲ左右シヤウト云フノデハナイノデアリマシテ、今迄ノ
  實際ヲ見マスルト、外國ヨリ輸入サレテ來タモノ、若クハ內地ニ於テ生產サ
  レタモノ、是ガ生產地乃至輸入港カラシテ消費者ノ手ニ渡ル迄ノ間ニ於テ、
  大小ノ商人其他ノ機關ヲ經テ初メテ零細ナ農家ノ手ニ配給サレルノデアリマ
  シテ、此間ニ非常ニ價格ノ激變ガアリマシタリ、價格ノ高低ガアリマシタリ、
  時期ニ依リ地方ニ依テ、農家ハ少カラザル迷惑ヲシテ居ルト云フ狀態デアリ
  マスルガ故ニ、此中間ノ機關ヲ成ルベク取除イテ、元値ニ近イモノニ於テ農
  家ニ配給シタイト云フノガ此管理法ノ精神デアルノデアリマシテ、即チ外國
  品ノ價格ノ如キヲ此管理法ノ力ニ依ッテ左右セントスルガ如キ目的ハ少シモ
  含ンデ居ラナイノデアリマス、ソレカラ從來肥料商人ハ貸賣ヲシテ居タノダ
  ガ、今囘ノ管理ニ依ルト云フト、現金取引ニナルノデアルガ、却テソレハ農
  家ガ迷惑ヲシヤシナイカト云フ御尋ガアリマシタガ、今囘管理ヲ致シマスル
  窒素肥料ハ、趣旨說明ノ際ニモ申上ゲマシタ通リ、產業組合又ハ農會等ヲ通
  ジテ之ヲ行ハシメマスノデ、固ヨリ品物ハ產業組合ト政府トノ間ニハ現金ノ
  取引ヲ致シマスノデアリマスケレドモ、產業組合ノ資金ト云フモノモ相當ニ
  豐富ナルモノデアリマシテ、現在三億八千五百万圓程モアリマスルノデスカ
  ラ、之ヲ運用サセマシタナラバ、相當產業組合ガ此間ニ立ッテ働クコトガ出來
  ヤウト思ヒマスノデ、產業組合ハ又其組合員トノ間ノ取引ニ於テ相當組合員
  ノ苦痛ニナラナイ方法ヲ以テ肥料ヲ買取ラシメルコトモ出來ルト思フノデア
  リマス、此間ニハ從來貸賣ヲシテ居タト云フ時代ト比シテ消費者ニ取ッテ大
  シタ不便ヲ感ズルコトガナイダラウト思フノデアリマシテ、唯從來ノ肥料商
  カラ貸賣ヲ受ケテ肥料ヲ用ヒテ居ッタト云フ時代ニ較ベマスルト、農家ニ取リ
  マシテハ比較的ニ安イ肥料ガ手ニ這入ルト云フコトガ結局ノ結論トナルデア
  ラウト思フノデアリマス、ソレカラ肥料商ガ現在ソレ〓〓商賣ヲシテ居ルノ
  ヲ此管理ニ依ッテ將來增加シテ行クモノヲ管理サレルト云フコトニナルト、將
  來ノ望ミガ······將來ノ希望、期待ト云フモノガナクナッテ、却ッテ肥料界ノ
  進步ヲ阻害スル結果ニナリハセヌカト云フ最後ノ御尋デアッタヤウデアリマ
  スルガ、先刻モ申述ベマシタ通リ固ヨリ現在ノ取扱數量ヲ此管理法ニ組込ム
  積リデハナイノデアッテ、更ニ進ンデ將來增加スル分モ、其全部ヲ政府ノ手ニ
  於テ管理イタサウト云フノデハナイノデアリマシテ、其半分內外ノモノヲ政
  府ノ手ニ於テ管理シテ行クノデアリマスルカラ、將來肥料ノ消費ガ增加シテ
  行ケバ行ク程、其增加シテ行クモノノ半分ハ矢張リ舊來ノ肥料商ガ取扱ッテ行
  クコトガ出來ルノデアリマスルカラ、甚シク前途ノ希望ヲ抹殺シテシマフト
  云フ憂ヘハナイヤウニ思フノデアリマシテ、チヨット..···詳シイコトハ委員
  會等ニ於テ述ベマスルガ、數字ヲ······豫定イタシテ居リマスル數字ヲ申上ゲ
  テ見マスルト云フト、昭和十三年度ニ於テハ總テノ需要見込額ガ約九十五万
  噸ニ達スル積リデアリマシテ、其中ニハ勿論農業ノ肥料トシテ用ヒラレルモ
  ノガ大部分デアリマスケレドモ、工業用ノモノモアリマスルシ、又移出ヲス
  ルモノモアリ、又逆輸出ヲスルモノガアルト云フモノガ皆此處ニ這入ッテ居
  リマスガ、要スルニ九十五万噸位ノ總需要量ニナリハセヌカト思ヒマスルガ、
  其中デ農家ガ需要ノ最盛期ニ於テ直接需要スル所ノ數量ト云フモノハ四十六
  万噸位ト見テ居ルノデアリマス、此四十六万噸ノ中デ政府ニ於テドレダケノ
  管理ヲ致スカト云フト、約二十三万噸管理ヲスルト云フ積リデアルノデアリ
  やく、ソレデゴザイマスカラ、九十五万噸ノ全體ノ數量ノ中二十三万噸、是ダ
  ケヲ政府ガ管理スルト云フコトニナルノデアリマスルカラ甚シクドコロデハ
  ナイ、大體ニ於テ肥料商ノ利益ト云フモノヲ侵害スルコトハナカラウト考ヘ
  テ居リマスル、又私ハ斯樣ニ申シマスルト然ラバ九十五万噸ト云フ大數ニ對
  シテ僅ニ二十三万噸ダケノ管理ヲシテ、管理ノ効果ト云フモノガソレデ有ル
  ト思フカト云フ御尋ガアルカモ知レマセヌ、是ハ私ハアルト思ヒマス、要ス
  ルニ肥料ノ最モ需要スル最盛時期三、四、五、六、七月、八、九ト飛ンデ十
  月、是ダケノ間ニ於テ肥料ガ暴騰スルノデアリマスカラシテ、此期間ニ於テ
  ノ數量ヲ調節イタセバ即チ農家ニ取ッテハ安イ肥料ヲ安定シタ價格ニ於テ
  得ラレルト云フコトニナルノデアリマシテ、即チ此最盛期ニ於ケル需要ト云
  フモノハ我〓ノ方デハ四十六万噸ト見テ居ルノデアリマシテ、四十六万噸其
  半分ダケヲ之ヲ政府ノ手デ管理スルト云フコトニ致スナラバ、其價格ノ上ニ
  於テモ相當ノ效果ヲ及ボシテ、市場ヲ牽制スル力ハアルデアラウト、斯樣ニ
  考ヘテ居ル次第デゴザイマス
  國務大臣中橋德五郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=42

  ---

• 043・中橋徳五郎

  ○國務大臣(中橋德五郞君)　只今湯地君ノ御尋ネニ對シマシテ農林大臣ヨリ
  私ヨリモ御答辯申上ゲルヤウニト云フコトデアリマシタ、今日ハ總理大臣ハ
  マダ差支テ出席イタシマセヌカラ、私ヨリシテ御話ノ一部分、御答辯申上ゲ
  ル方ガ宜カラウト思ッテ居リマス、ト言ヒマスルノハ前ニ委員會ニ於テ、調査
  會ニ於テ御話ノ通リ答申ガアッテ、其答申ノ一分ハ今囘ノ肥料管理法案ニ現レ
  タ譯デアリマス、此計畫ノ大小ハ別ト致シマシテ一分ガ現レタ、其肥料製造
  者ニ對シテ補助奬勵ヲスルト云フ方法ノ決議ニ致シマシテハマダ現レテ居リ
  マセヌ、是ハ當局ニ於テ餘程他ノ事業ニ關係イタシマスルカラ熟考ヲ致シテ
  居ル譯デアリマス、即チ先程御話ニナリマシタ通リニ、或ハ低利資金ヲ貸付
  ケル、或ハ水利權ノ許可ヲ得ル優先權ヲ與ヘル、社債ヲ倍額······資本金ノ倍
  額迄許可スル、若クハ保證ヲ與ヘル、機械ノ輸入ニハ免稅スル、斯ウ云フヤ
  ウニ澤山アリマスルガ、是ハ一種ノ極端ナル保護政策ト申シテ宜カウウト思
  ヒマス、斯ウ云フ希望ノアルモノハ獨リ今日ノ肥料製造業者ダケデハアリマ
  セヌ、製鐵業者ノ如キハ最モ斯ノ如キ特別ノ厚キ保護奬勵法ヲ希望シテ居ル
  コトハ御承知ノ通リデアリマス、ソレガ斯ウ云フヤウナ仕事ニ付キマシテ苟
  モ進ンダルト申シマセウカ、厚キ奬勵保護ヲスルト云フコトヲヤル以上ハ、
  サウ云フヤウナ同種類ノ、同性質ヲ持ッテ居ルモノニ對シマシテハ皆ヤルト云
  フ政府ハ決心ヲ持タナクチヤナラヌト思ヒマス、所ガ只今農林大臣ヨリ御答
  辯ノアリマシタ通リ、肥料ノ價格ト云フモノハ內地品デ、內地製造業者ノ力
  ニ依ッテ今日之ヲ決定シテ居ルノデアリマセヌデ、輸入ノ價格ニ於テ之ヲ決
  定シテ居ル、內地ニ今日十八万噸バカリノ窒素肥料ヲ、硫酸「アンモニア」ヲ
  製造シテ居リマスルガ、此價格ハ其製造業者ノ生產品ニ依ッテハ毛頭決定シ
  テ居ナイノデアリマス、全ク外國ヨリ輸入シテ居ル所ノ硫酸「アムモニア」ノ
  値段ニ依ッテ始終是ハ變動シテ行ク、ソコデ今日ノ製造業者ハドウ云フ地位
  ニ在ルカト云ヒマスルト云フト、ソレハ餘リ儲カラヌモノモアリマスルケレ
  ドモ、幸ニシテ今日ノ硫酸「アムモニア」ノ製造所ハ皆儲ケテ居リマス、中ニ
  ハ非常ナル儲ケヲシテ居ルモノモアルト云フコトハ湯地君モ能ク御承知ナコ
  トデアラウト思ッテ居リマス、但シ是ガ新シイ工業デアリマスルカラ、而シテ
  非常ニ動力ヲ要スル、即チ水力ヲ要スル、此水力モ亦極メテ安イモノヲ要ス
  ル、ソコデ此水力ノ代價ノ高イカ安イカニ依ッテ此會社ガ二割ヲ儲ケル、二割
  ヲ儲ケル或ハ一割シカ儲カラヌト云フヤウナコトガ出テ來ル譯デアリマスカ
  ラ、新シイモノデアリマスカラ折角ヤッテ居リマスルケレドモ、未ダ全體ノ需
  要ヲ自給スル迄ノ域ニ達シテ居リマセヌ、今日ハマア半分程拵ヘテ居ル、ア
  トハドウカト云フト續々工場ヲ起シ、水利權ヲ取ッテ、今日其工事中デアリマ
  スルカラ、或年限ニ於テハ自給自足ノ域ニ達スルコトデアラウト私ハ思ッテ
  居リマスノハ、今日ノ輸入ノ價格ニ依ッテ內地ノ其生產者ガ相當ノ儲ケ、或ハ
  中中相當以上ノ儲ケヲシラ居ルコトデ推測ガ出來ルダラウト思ヒマス、然ラ
  バ此調査會ノ決定ノ方法ハ儲ケルモノニ對シテモヨリ以上ニ早ク仕事ヲシタ
  イ、斯ウ云フ御希望ト見ナケレバナラヌ、此保護ノ方法ハ實ハ熟考ヲ要スル
  コトト思ヒマス、製鐵業ナドモ非常ニ自給自足ヲ熱望シテ居ル譯デアリマス
  ガ、未ダ今日全部自給自足ノ域ニ達シテ居リマセヌ、幸ヒニマア大體ニ三ノ
  二ダケハ內地品デヤルヤウニナリマシタカラ、モウ三ノ一ノ······三分ノ一ノ
  部分ヲ內地デ製造イタシマスレバ、自給自足ガ出來ル、ソレハ先達テモ御話
  イタシマシタ通リニ、餘リ遠キ將來デナカラウト思フテ居リマス、之ニ較ベ
  マスルト肥料ノ方ハ少シ遠キ將來ガ長イカモ知レナイ、併シ兩方トモ大變資
  本ヲ要スル品物デアリマスカラ、ソコデ今日ヤッテ居ル人ハ儲カッテモ、出來
  ルナラバ政府ハ金ヲ澤山持ッテ居ルヤウダカラ、低利資金、低利資金ト云フコ
  トガ流行シマスカラ、イツデモ低利資金ヲ融通シテ吳レト斯ウ云フノデアリ
  マスガ、政府ハ無限ニ之ヲ使用スルダケノ資力ハ持ッテ居リマセヌ、又拂込資
  本ノ倍額ノ社債募集ヲ許スト云フコトハ是ハ餘程特例デアリマスカラ、若シ
  此會社ニ向ッテ此特許ヲスルト云フコトニナリマスレバ、製鐵業其他輸入防遏
  ノ衝ニ當ッテ居ル所ノ基礎工業ニ向ッテハ、成ルベクナラバ皆ヤラウト云フ論
  ニドウシテモナルダラウト思フテ居リマス、ソレカラ機械ノ輸入稅ヲ免除ス
  ル是モ一方法デアリマス、今日此方法ヲ取ッテ居リマスモノハ即チ造船業
  デ、造船モ長イ議論デアリマシタガ、先年來輸入稅ヲ免除スルト云フコトニ
  ナッテ、今日業ヲ營ンデ居ル譯デアリマスガ、是モ餘程考ヘマセヌト云フト、
  他ノ品物ヲヤル時ニハ同一ニヤラナケレバナラヌト云フヤウナコトモ起ッテ
  來ヤウト思ヒマスカラ、政府ニ於テハ餘程苦慮シテ之ヲ熟考イタシテ居ルト
  云フノガ今日ノ狀況デアリマスカラ、左樣御承知ヲ願ヒタイト思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=43

  ---

• 044・湯地幸平

  ○湯地幸平君　兩大臣ノ御答辯ニ依ッテ大體分リマシタガ、モウ少シ分ラヌ
  事項モアリマスシ、又是カラハ意見ニナリマスカラ、私ハ質問ハ是デ打切リ
  マシテ、適當ノ機會ニ於テ又御尋スルコトガアラウト思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=44

  ---

• 045・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ニテ通告ハ終リマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=45

  ---

• 046・堀田正恒

  ○伯爵堀田正恒君　只今日程ニ上ボッテ居リマス兩法案ノ特別委員ノ數ハ十
  五名トセラレ、其委員ノ指名ハ議長ニ於テセラレムコトヲ希望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=46

  ---

• 047・片桐貞央

  ○子爵片桐貞央君　贊成

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=47

  ---

• 048・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　堀田伯爵ノ動議ニ御異存アリマセヌカ
  〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=48

  ---

• 049・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　御異議ナイト認メマス、兩案ノ特別委員ノ氏名ヲ
  書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
  [古古書記官朗讀]
  肥料管理法案外一件特別委員
  侯爵大隈信常君子爵松平直平君子爵大河內正敏君
  子爵渡邊千冬君男爵東鄉安君男爵松岡均平君
  男爵近藤滋彌君石井省一郞君志村源太郞君
  室田義文君湯地幸平君加藤政之助君
  板谷宮吉君根津嘉一部君山田惠一君
  후

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=49

  ---

• 050・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第五、政府提出、衆議院送付、第一讀會
  米穀需給調節特別會計法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  米穀需給調節特別會計法中改正法律案
  米穀需給調節特別會計法中左ノ通改正ス
  第二條中「二億圓」ヲ「二億七千萬圓」ニ改ム
  附則
  本法ハ昭和四年度ヨリ之ヲ施行ス
  〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=50

  ---

• 051・大口喜六

  ○政府委員(大口喜六君)　米穀需給調節特別會計法ノ改正ニ關シマスル法律
  案ニ付キマシテ、提案ノ理由ヲ御說明申上ゲタイト存ジマス、御承知ノ如ク
  米穀法ハ大正十年四月初メテ制定實施イタサレタモノデアリマシテ、大正十
  四年三月改正ヲ加ヘラレタモノデアリマスルガ、政府ハ本法ノ運用ニ依リマ
  シテ米穀ノ需給及米價ノ調節ニ銳意努力イタシマシタガ、其結果我國ノ米價
  ハ其施行前ニ比シマシテ、著シク平準ヲ得ルニ至リマシテ、相當顯著ナル效
  果ヲ擧ゲ得タリト考ヘテ居ルノデアリマス、然ルニ一方ニ於キマシテ米穀法
  ノ運用ニ付キマシテハ、相當多額ノ資金ヲ要シマスルガ爲ニ、現在ニ於キマ
  シテハ米穀需給調節特別會計ノ資金ニ餘裕ガ少ク相成リマシテ、十分ニ米穀
  法ヲ運用シ、其實力ヲ發揮シ能ハザルノ狀況デアリマス、我農村ノ現狀ニ鑑
  ミマシテ、右特別會計ノ資力ヲ此儘ニ致シ置キマスコトハ、甚ダ宜シクナイ
  ト考ヘマスルノデ、此際取敢ヘズ米穀需給調節特別會計法ヲ改正イタシマシ
  テ、借入金ノ限度ヲ七千万圓增額イタシマシテ、米穀法ノ運用ニ支障ナカラ
  シメムトスル次第デアリマス、米穀法ニ付キマシテハ其制定以來、我國ノ米
  穀ニ關シマスル事情ニ幾多ノ變遷ヲ來タシマスル結果、今日ニ於キマシテハ
  米穀政策ノ根本ニ遡リマシテ、更ニ十分ナル調査考究ヲ致ス必要ガアリト考
  ヘル次第デアリマス、尙ホ米穀需給調節事業ノ經理ニ關シマシテモ、現在ノ
  特別會計ノ制度ニ付キマシテ、根本的ニ調査〓究ヲナスコトヲ必要ト考ヘマ
  スノデ、ソレ等ノ點ニ付キマシテハ別ニ調査會ヲ設置イタシマシテ、審議ヲ
  遂グル考ヘデアリマス、其所要經費ハ不日追加豫算トシテ提案スル筈ニナッテ
  居リ。マス、ソレ故ニ今囘提案イタシマシタル七千万圓ノ運用資金增額ハ其根
  本方針ヲ確立イタシマスマデノ應急的ノ方法ナリト御考ヲ願ヒタイノデアリ
  Pv,何卒御審議ノ上本案ニ御協贊アラムコトヲ切望イタシマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=51

  ---

• 052・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ヨリ通〓ニ依リマシテ上山君ニ質疑ヲ許シマス
  〔上山滿之進君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=52

  ---

• 053・上山滿之進

  ○上山滿之進君　私ハ今日此議場ニ於テ、斯ノ如キ提案ヲ審議スルノ止ムヲ
  得ザルニ至ッタコトヲ頗ル遺憾トスル者デアリマス、米穀法ノ制定サレマシテ
  以來、此特別會計ノ設ケラレテ以來、未ダ八年ニ滿タザル今日、而シテ其法
  律制定ノ當初二億圓ノ巨大ナル額ヲ此調節資金ニ充テヽ出來タ特別會計、未
  ダ八年ニ達セザル今日、殆ド當初ノ半額ニ及バムトスル巨額ノ增加ヲシナケ
  レバナラヌコトニ、今日立至ッタコトヲ、頗ル遺憾トスル者デアリマス、斯ク
  申シマスト、此案ニ反對ノ意見ヲ持ッテデモ質問スルヤウニ御聽キニナルカ
  知レマセヌガ、全クサウデハアリマセヌ、只今質問ノ機會デ意見ヲ述ベル筋
  デナイ故ノミニ非ズシテ實際ドチラニシタラ宜カラウカト深ク私ガ迷ッテ居
  ルノデアリマス、其意味ヲ以テ政府ニ質問ヲ致シタイト思ヒマス、世ノ中ニ
  ハ斯クノ如キ遺憾ナル結果ヲ今日起シタ事實ヲ見テ、米穀法ガ根本ニ於テ宜
  シクナイ、常平制度ヲ行フト云フコトガ本來間違ヒデアル、米穀法速ニ廢止
  スベシト云フ風ノ意見ガ段々聞エテ居リマス、私ハ是トハ全然意見ヲ異ニシ
  テ居ルノデ、私ハ米ニ對シテハ其米穀法案審議ノ當時、尙ホ申セバ其數年以
  前ヨリ今日ニ至ル迄、常平制度ガ米ノ問題ヲ解決スルニ最モ適當ナル方策デ
  アルト云フコトヲ固ク信ジテ居ルモノデアリマス、即チ今日ノ常平制度ヲ今
  後維持シテ行キタイ、勿論之ニ改良ヲ加ヘルノハ申ス迄モアリマセヌガ、改
  良ヲ加ヘテ而シテ常平制度ヲ維持シテ行キタイト云フ熱心ナル私ハ論者デア
  ルコトヲ申上ゲテ置キマス、此常平制度ヲ維持シテ行キタイト思ヒマス故ニ、
  此今日提案ニナッタ問題ニ付テ深キ遺憾ヲ感ズルノデアリマス、何故ニ斯カル
  私ヲシテ深甚ナル遺憾ヲ感ゼシムル案ガ玆ニ提案ニナッタカト其原因ヲ考ヘ
  マスレバ、一言ニシテ從來政府ノ措置其宜シキヲ得ザルニ依ルト云フコトヲ
  斷言スルニ憚ラナイモノデアリマス、私ハ現内閣ガ措置ヲ誤ッタト申スノデ
  ハアリ、マセヌ、ドノ內閣ト區別ハ致シマセヌ、モウ殆ド總テノ内閣ガ常平制
  度ノ運用ニ付テ其措置ヲ誤ッテ居ルト私ハ見ルノデアリマス、此内閣ニモ勿
  論ソレガアルト思フノデアリマス、デドウ云フ措置ヲ誤ッタカト云フコトハ
  是カラ後ニ述ベマス質問ニ關聯ヲシテ陳述イタシマスカラ、此場合ニハ殊ニ
  ソレヲ述ベルコトヲ差控ヘマス、第一ニ伺ヒタイノハ、政府ノ常平制度ニ對
  スル根本觀念デアリマス、本來此常平制度ニ對スル根本觀念即チ米穀法ノ本
  旨、是ハモウ本來疑ノアルベキ筋ノモノデハナイノデアリマス、之ヲ態〓今
  日質問スルノハ寧ロ或意味ニ於テ滑稽ニ聞エルカモ知レマセヌ、ケレドモ事
  實ハ過去ノ數代ノ政府ニ於テ米穀法ヲ運用シタ其措置ハ明ニ米穀法制定ノ本
  旨、常平制度ノ根本趣旨ト違ッテ居ルト思ヒマスカラ、之ヲ免モ角モ一應明瞭
  ニ政府ニ御願ヲシナケレバナラヌ、ドウ云フコトカト申シマスト私共ノ聞ク
  所ニ依リマスレバ、常平制度ナルモノハ國民ノ一部ノ利益ノ爲ニ設ケタモノ
  デナイ
  副議長候爵蜂須賀正韶君議長席ニ著ク〕
  國民全般ノ生活ノ安定ヲ圖ル、是ガ常平制度ノ根本趣旨デナクテハナラヌ、
  斷ジテ消費者ノ利益ヲ圖ルモノニ非ズ、生產者ノ利益ヲ圖ルモノニ非ズ、生
  產者消費者共ニ、即チ國民ノ全般ノ生活ノ安定ヲ圖ルト云フコトガ常平制度
  ノ出來タ所以デナクテハナラヌ、ソレ等ハ疑ヲ容レヌコトデアリマスケレド
  モ、從來政府ノ執リ來ッタ手段ハ往々ニシテ、或ハ其大部分ハ此趣旨ニ反シテ
  居ルヤウナ感ガ私ニ致スノデアリマスカラ、私ノ信ズル只今申述べタ米穀法
  ノ趣旨ハ、政府ニ於テ其通リデアルト云フコトノ明瞭ナ茲ニ御答辯ヲ得タイ、
  從來ノ政府ガ米穀法運用ニ付テ其措置ヲ誤ッタト云フコトヲ先刻申述ベマシ
  タ其事實ニ付テ政府ノ所見ヲ只今伺ヒタイ、米穀法制定以來其年カラデハア
  リマセヌガ、其翌年カ翌々年頃カラ、政府ハ米ノ買換ト云フ名義ノ下ニ米ノ
  買入ヲ行ッタ事實ガ澤山アルノデアリマス、御承知ノ通リニ米穀法ニ於テハ、
  米ノ買入ト賣渡、サウシテ買換ト云フコトハ全ク別ナコトニシテ規定ガシテ
  アル、其手續ダケデ申シマシテモ、米ノ買入賣渡ハ其數量時期價格ヲ明ニシテ
  告示シナケレバナラヌ、又ソレヲ決メル前ニハ米穀委員會ノ審議ヲ經ナケレ
  バナラヌコトニナッテ居リマス、是ハ其買入賣渡ト云フ政府ノ行爲ガ米穀界ニ
  甚シキ影響ヲ及ボスカラ、斯ノ如キ鄭重ナ手續ヲ執ッタモノデアルコトハ言フ
  迄モナイ、所ガ米ノ買換ニ付キマシテハサウ云フコトハ何モシナイ、米穀委
  員會ニモカケマセヌシ、別ニ告示ノ方法モ執ラナイデ行ハスコトニナッテ居
  ル是ハ確カ米穀法案ガ當院ニ當時カヽリマシタ時、委員會デ修正ヲシタ主
  ナル一ツ.ノ點デアルト思フ、私モ當時其委員デ居リマシタノデ、可ナリ其時
  ノ事情ハ尙ホ記憶ニ殘ッテ居ル積リデアリマス、サウ云フ趣旨ヲ以テ、卽チ買
  入賣渡ト買換トハ全然仕事ノ種類ガ違ッテ居ルノデ、之ヲ行フ手續モ違ヘテア
  ル、所ガイツノ時ノ政府カラデアリマシタカ、買換ト云フ名義デ實ハ米ノ買
  入ヲ度〓シテ居ル、ソレハ斯ウ云フ風ニ致ス、百万石ナラ百万石ノ米ヲ買換
  〓、併シ先ヅ以テ買フ方ヲ先ニスル、賣方ヲ後ニスル、サウシテ賣ル方ノ
  ハ時期ハ何モ決メテナイ、是ハ事實ヲ御調ベニナレバ能ク分リマスシ、又御
  承知ノ方モ多カラウト思フ、本年此買換ト云フモノハ是モ申ス迄モナク理
  想カラ云ヘバ、賣ル米ト買フ米ト右カラ左ニ取換ヘナケレバナラヌノガ是ガ
  本來ノ理想デアリマス、ソレハ無論事實ニ於テ行ハレマセヌカラ、米ノ同一
  經濟時期ノ間ニ於テシナケレバナラヌ、例ヘテ申セバ、米ノ限月ノ定期相場、
  此頃ハ〓算相場、〓算市場ノ限月ノ間、一箇月ノ間、例ヘバサウ云フ米ノ
  ツノ經濟期間ト云フモノガアル、其一ツノ經濟期間ノ間ニ賣リ買フト云フコ
  トヲシテ、是ガ雙方相殺ニスルコトニナラナケレバナラヌ筋ノモノデアル、
  處ガ何年カ前ノ政府及ビ之ニ續イタ政府ノヤッタノハサウデアリマセヌ、賣ル
  方ハ是ハ聲ダケデ、其中ニ賣ル、先ヅ以テ其代リ米ヲ買フ、斯ウ云フノガヤリ
  方デアリマス、是ハ明瞭ニ此買入ヲ目的ニシタ行爲デアル、私ハ之ヲ法律違
  反ト斷言スルノデアリマス、當時數囘私ハ愚見ヲ世間ニ公表シタコトガアリ
  やっく、併シ依然トシテ政府ハ引續イテ、其行動ヲ改メナカッタノガ過去ノ事
  實デアリマス、私ハ之ヲ法律違反ト考ヘマスガ、少ナクトモ是ハ甚ダシキ不
  當ノ措置デアッタト信ズル者デアリマス、之ニ對スル現政府ノ所見如何ト云フ
  コトヲ伺ヒタイ、現政府ニナリマシテ、此買換へナルモノガ斯ノ如キ誤ッタ
  ル方法デ行ハレタカ行ハレナイカ、是ハ私遺憾ナガラ最近ニ餘リ此方ノ問題
  ヲ〓究スル機會ヲ有ッテ居リマセヌノデ是ハ存ジマセヌ、過去ニハ明瞭ニア
  リマス、若シ現政府ニ斯ノ如キ事ガナカッタナラバ私ノ只今ノ意見ニ必ズヤ
  同意サルルト思フノデアリマス、其處ノ御所見ヲ伺ヒタイ、ソレカラ其次ニ
  伺ヒタイコトハ矢張リ買換ヘニ付テデアリマスガ、買換ヘナルモノハ古米ヲ
  長ク貯藏スルト蟲喰ヒガ出來、其外變質ヲシ、總テ品質ニ於テ惡クナル、ダカ
  ラシテ新米ト取換ヘテ貯藏ヲスル、詰リ政府所有ノ米ヲ完全ニ貯藏スル方法
  デアルト云フコトハ是ハ申スマデモナイ、所ガ是モ從來此買換ガ適當ニ行ハ
  レテ居ナイノデアリマス、八年前ニ二億圓ノ巨大ナル資金ヲ授ケテ誕生ヲサ
  セタ米穀特別會計ガ今日營養不良ニナリカケテ、又七千万圓貰ハナケレバナ
  ラヌト云フコトニナッタノハ、矢張リ此買換ノ方法ガ依然トシテ宜シクナカッ
  タト云フコトニ其主ナル原因ヲ有ッテ居ルト私ハ信ズルノデアリマス、三年前
  ノ米、四年前ノ米ガアルト云フコトハ、本來ドウ云フ事柄デアリマスカ、何
  故ニ早ク買換ヲ行ハナイノデアリマスカ、蓋シ買換ヲ行フコトヲ何カノ事情
  デ常ニ躊躇シ來ッタト云フコトガ此結果ヲ來タシタノデアラウト思フ、此內
  閣ニナリマシテモ、最近ニ買換ヲシテサウシテ古米ヲ賣出ス、確カ一石當リ
  數十圓ノ損失ヲ重ネテ居ラルル筈デアリマス、何故ニ斯ノ如ク品質ノ惡クナ
  ル前ニ早ク新米ト買換ヲシナカッタノデアリマセウ、之ニ付テモ政府ノ御所見
  ヲ伺ヒタイ、其次ニ伺ヒタイノハ、政府ハ米穀法ノ運用ヲ今後ドウスル積リ
  デ御在リナサルノデアリマスカト云フコトヲ伺ヒタイ、第一、先刻來述ベマ
  シタヤウナコトヲシテ居ッテハ、是ハ到底此米穀法ヲ健全ニ長ク置クコトハ出
  來ナイ、ソレガ長ク置クコトガ出來ナイコトヲ私ハ非常ニ遺憾ト思フノデア
  リマス、サウ云フヤウニ先刻來申述ベタヤウナコトハ、將來政府ハ愼シムモ
  ノトシテモ併シソレダケデハ矢張リ米穀法ノ規定ハ常平制度ヲ完全ニ行フニ
  ハ不十分デアルコトハ勿論デアリマス、如何ナル點ガ不十分デアルト云フヨ
  トハ、此場合申述ベル筋デハアリマセヌカラ止メマスケレドモ不十分デアル、
  何トシテモ此米穀法ヲ完成シテ常平制度ヲ見事ニ行フヤウニシナケレバナラ
  ヌ、是ハ制度ノ方ノ關係、政府ノヤリ方ガ常平制度ヲ忠實ニ、此仕事ヲシテ
  貫ハナケレバナラナイ、此二ツノ點ニ對シテ政府ハドウ云フ根本的ノ御考ヲ
  有ッテオイデニナルカ是ガ伺ヒタイノデアリマス、只今政府ノ御說明ニ依レ
  バ、根本方針ハ調査會ヲ設ケテ審議スル、斯ウ云フコトデアリマシタ、調査
  會ヲ御設ケニナルノモ結構デアラウト思ヒマスガ、併シ皆サンノ御承知ノ通
  リ政府ノ設クル調査會ナルモノハ、政府ガ、何モ政府ハ分リマセヌカラ何ト
  カ宜シク拵ヘテ下サイト云フノヂヤナイノデ、必ズヤ政府ハ相當ノ腹案ガアッ
  テサウシテ調査會ヲシテ之ヲ審議セシメルト云フコトガ普通デアリマス、又
  サウアルベキ筋ノコトデアリマス、調査會ヲ御設ケニナルノハ結構デアリマ
  スケレドモ、調査ヲ設ケテドウ云フ大體方針デ政府ハ調査會ニ臨マレルノカ、
  即チ今後常平制度ヲ完全ニ行フニハドウ云フ方針デ行クト云フコトノ大體ノ
  意見ハ調査會ヲ設ケル前ニ御持チニナラナケレバナラヌ筈デアッテ、調査會ニ
  相談シテ貰ハナケレバ今後ノ方針ハナイト云フコトハ、當局者トシテ斷言ナ
  サルコトハ出來ヌト思フノデアリマス、其御方針ヲ伺ヒタイ、私ハ具體的ノ細
  目ニ付テ伺フノデアリマセヌ、ソレハ無理デアリマス、ソンナコトハ申シマ
  セヌケレドモ、大體ニ付テノ御所見ガナクテハナラヌコトト考ヘマス、是非之
  ヲ伺ヒタイ、只今迄ノ四ツノ質問ハ此制度ノ······現在ノ制度ニ付テノ問題デ
  アリマスガ、是カラ只今提案ニナッテ居リマスル應急策ニ關係シテ一、二質問
  イタシタイト思フ、目下ノ應急策トシテ米價調節資金七千万圓ノ增額ヲ御提
  案ニナリマシタガ、此御提案ノ理由ガ私ニ明カデナイ、サウシテ此御提案ニ
  對シテ政府ノ有セラレル御覺悟ガ私ハ伺ヒタイノデアリマス、先刻大口政務
  次官ハ取敢ヘズ七千万圓增額シテ目下ノ急ニ應ズルノデアルト云フ風ニ御說
  明デアリマシタ、ドウ云フ理由デ七千万圓增額スル必要ガアルカト云フコト
  ハ不幸ニシテ伺フコトガ出來ナカッタ、如何ナル基礎ニ於テ資金增額ノ必要ヲ
  御決定ニナッタノデアルカト云フコトヲ伺ヒマス、私モ今月ノ米價ハ高イト
  ハ存ジマセヌ、勿論存ジマセヌガ、併シ甚シク低イカドウカト云フコトハ私
  ニハ疑問デアル、物價ノ指數デ比較シテ見マスルト、甚シク一般物價ヨリ米
  價ガ低イヤウニモ私ニハ思ハレマセヌ、是モ數字ヲ以テ申スト極ク明カニナ
  リマスルガ、本會議ノ性質上餘リ詳細ノ點ニハ私ハ這入リマセヌガ、必要ガ
  アレバ私數字デ申述べマス、ドウモ千九百年即チ日本銀行ノ物價調べノ始ッ
  タ年、明治三十三年デアリマスカ、其時ト今日ト比較シテ、又戰爭前ノ大正
  七年三月之ヲ基準トシテ、今日ノ物價ト比較シテ、ドノ點カラ比較シテ見テ
  モ、別段甚シク米價ガ安イト云フ風ニハ私ニハ思ハレヌノデアリマス、ソレ
  カラ又米價ガ急激ニ近頃暴落シタカト申シマスト、ソレモ事實デハアリマセ
  ヌ、サウ云フ事實ハナイ、サウスルト何ヲ基準ニシテ買入レヲシナケレバナ
  ラヌカ、買入レヲスルガ爲メニ資金ヲ增加シナケレバナラヌカト云フコトハ
  私ニハ分ラナイ、初メニ御斷リ致シマシタ通リニ全ク分ラヌノデアリマス、
  ドウシテモ理解ガ出來ナイノデアリマスカラ、之ヲ理解サセテ戴キタイ、或
  ハ政府ハ米ノ生產費ヲ償ハナイト云フコトヲ若シ仰セニナルカモ知レマセヌ
  ガ、其御說明ナラ私ハ伺ヒタクナイ、往々ニシテ世間ニハ現在ノ米價ハ生產
  費ヲ償ハナイト申ス人ガアリマスケレドモ、是ハ半分ハ事實デアッテ半分ハ
  事實デナイ、米ノ生產費ナルモノハ全國デ大變ナ差異ガアリマス、一口ニ生
  產費ト云フト兔角此工場生產ノコトガ直グニ頭ニ浮ビマスガ、方々ノ工場ノ
  生產費ハ、大體ニ於テ同ジデアルヤウニ米ノ生產費モ似テ居ルモノノヤウ
  ニ何トナク考ヘルノデアリマス、事實ハ全然之ニ異ッテ居リマス、大正三四
  年ノ頃ニ時ノ農商務省ハ調査員ヲ、十數班デアッタト思ヒマスガ、全國ノ各地
  ニ派遣シテ土地ノ生產費ヲ調べ、土地々々ニ於テ、今私ノ記憶ニ殘ッテ居リ
  マスモノハ一石當リ生產費ノ安カッタモノハ六月カ七月デアッタト思ヒマス、
  其時ノ米價ハ深川ノ中米、標準米ノ相場ハ十二三圓デアッタト思ヒマス、六
  七圓デ出來ルモノガアリ、甚シイモノハ一石百圓デアルコトハ誰モ信ジナイ
  ノデアリマス、併シ調査ノ結果ハサウナッテ居ル、是ハ極端デアリマスカラ
  省キマス、一番多量ノ米ヲ產スル地方ノ生產費ヲ調ベマシテ、其當時ノ相場
  ガ十二三圓デアッタ時ハ大體十三四圓カラ二十五六圓マデノ生產費ノ掛ル地
  方ガ米ヲ最モ多量ニ生產シテ居ル、我〓日本國民ガ日常食糧トシテ居ル米ノ
  大部分ハ一ト二、或ハ甚シキモノハ三、ソレダケ生產費ノ違ヒガアル米ヲ食ッ
  テ居リマス、生產費ヲ現在ノ米價ガ償ハナイト云フコトハ、生產費ノ高イ所
  ニハ眞理デアルガ低イ所ノモノニ對シテハ事實デナイ、生產費ノ償ハナイカ
  ラト云フヤウナ理由ハ私伺ヒタクナイ、中ニハ何トシテモ生產費ノ平均ヲ見
  ルヨリ仕方ガナイト申ス人ガアル、此平均論ハ中〓有力ナルモノデ多クノ場
  合ニ於テ是ハ正シイノデアリマス、而シ米ノヤウナ問題ニ於テハ正シクナ
  イ
  〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
  澤山ノ人ガ方々デ作ッテ居ルノデアリマス、ソレヲ平均シテ此値段ナラバ承知
  スベキ數字デアルト云フコトハ不道理ナンデアル、徵兵檢査ノ際ニ壯丁ノ身
  長ガ五尺三寸ナラ五尺三寸ト致シマシテ、日本ノ壯丁ノ身長ガ五尺三寸デア
  ルカラ日本國民ノ衣服ハ五尺三寸ノ身長ニ當ルダケデ宜イノデアラウト云フ
  ノデ、其布ヲ分ケテヤレバ宜イト云フコトハ不道理デアル、橫綱ト一寸法師是
  ハ極端デアルカラ省キマシテ、通常ノ人間デ同ジ長サノ著物ヲ著ルト云フコ
  トハ出來ナイト同ジコトニ、澤山ナ人ガ關係シテ居ルノデアリマスカラ銘々
  違ッテ居リマスノデ、此米ノ値段ハ或人ニハ誠ニ有難イケレドモ或人ニハ甚ダ
  迷惑デアルト云フ風ニナリマスカラ、平均ト云フコトハ理窟ガ立タナイ、サ
  ウナルトチヨット今日早急ニ買上ゲヲシナケレバナラヌト云フコトノ此基礎
  ガ私ニハ分ラナイ、之ヲ伺ヒタイ、尙ホ續キマシテ何故七千万圓トナサッタカ
  ト云フコトハ數字ノ中ノ基礎ノ理由ガ私ニハ分ラナイ、ソレモ併セテ伺ヒマ
  ス、ソレカラ此七千万圓ノ增額ヲシテ買入レニ著手スルコトニナリマスコト
  ハ、是ハ政府トシテハ重大ナル責任ヲ負ハレル筋合デアリマシテ、之ヲ協贊
  ヲ致シマス我〓モ重大ナ責任ヲ負ハナケレバナラヌノデアリマス、カルガ故
  ニ上ニ述ベマシタヤウナ色〓ノ質問ヲセザルヲ得ヌ筋合ニナッタノデアリマ
  ス、玆ニ此案ガ成立ッテ買上ゲニ著手ニナル、其結果ニ於テ政府ハ十分ニ御
  覺悟ガナケレバナラヌ、政府ガ此案ガ通過シタナラバ所期ノ目的ヲ達シ得ル
  所ノ御確信ガアルカドウカ伺ヒタイ、其結果ニ於テ重大ナル責任ヲ私共モ有
  タナケレバナラヌノデアリマスガ、當ノ政府ガ有タナケレバナラヌデアリマ
  スガ、ソレダケノ御覺悟ヲ有ッテオ出デニナリマスカ如何デアリマセウカ、
  唯是ダケ申上ゲマスト、頗ル皮肉ノ質問ノヤウニ聞エマスガ、實ハサウデナ
  イ、私自分ノ閱歷ヲ中述ベテ恐縮デアリマスガ、私永イ間農商務省ニ居リマ
  シテ米ノ問題ニハ始終苦メラレテ居リマス、ソレデ過去ノ事實ヲ申シマスル
  ト、農家救濟トカ何トカト云フ色〓ナ意味デ買上ヲ度〓行ハレマシタ買上ゲ
  ガ、其效ヲ奏シタト云フコトハ私ノ記憶ニハナイ、何故ニ買上ガ效ヲ奏シナ
  イカト云フコトニ付テハ私意見ガゴザイマス、ゴザイマスガ、ソレハ此場合
  述ベマセヌケレドモ、過去ノ事實デ若シアリマシタラ十ニ一遍シカナイ、大
  體ハ買上ガ效ヲ奏シナイ、今度ノ買上モ私ハ其效ヲ頗ル疑フモノデアリマス、
  ソコデ私ハ之ニ對シテ贊否ヲ決スルノニ甚ダ躊躇シテ居ルノガ私ノ僞ラザル
  心事デアリマス、私ハ此案ガ通リマシテモ或ハ虞ル、過去ト同ジ轍ヲ履ンデ
  買上ガ失敗ニ終リヤセヌカト思フノデアリマス、若モ是ガ失敗ニ終ルヤウナ
  虞ガアリマスルナラバ、我〓ハ折角出來上ッテマダ八年ニモナラナイ此法律ヲ
  改正ヲシテサウシテ直接デハアリマセヌガ、今日直接デハアリマセヌガ、兔
  モ角モ後年ノ國民ニ負擔ヲ殘ス多額ノ金額ノ協賛ヲスルト云フコトハドウデ
  アラウカト云フヤウニモ考ヘマス、今日又一方デハ農村ノ人ガ甚シク窮境ヲ
  叫ンデ困ッテ居ルコトモ、是モ私可ナリ承知シテ居リマスノデ、情カラ申シマ
  スト如何ニモ之ニモ同情セザルヲ得ヌシ、理カラ考ヘルト誠ニドウモ不安心
  デナリマセヌ、ドウカ私ノハ何モ他意アリマセヌ、ドウカシテ常平制度ヲ完
  全ニ將來ニ擧ゲタイト云フコトニ付テノ質問デアリマスカラ、御深切ニ御答
  辯下サルコトヲ御願ヒ致シマス
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=53

  ---

• 054・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　上山君ノ御尋ニ御答ヲ致シマス、第一ハ米穀法
  ノ目的ハ一階級ノ爲デハナクシテ、一般國民ノ生活ノ安定ノ爲メト思フガサ
  ウデアルカト云フ御尋デアッタヤウニ拜承イタシマシタ、其通リニ當局モ解釋
  イタシテ居リマス、、次ニハ從來屢〓買換ト云フコトヲ行ッタガ、ソレハ如何ニ
  モ不當デアル、買換ト云フコトハ古イ米ヲ賣ッテ之ニ代フルニ新シイ米ヲ以テ
  スルト云プノデナケレバ買換デナイニモ換ラズ、從來動、モスレバ買換ノ名ノ
  下ニ買フ方ダケヲ先以テ行ッテ、賣ル方ヲ行ハナカッタト云フ場合ガアルデハ
  ナイカ、是ハ甚ダ不當ナ運用ト認メヤセヌカト云フ御尋デアッタヤウデアリマ
  ス、イカサマサウ云フコトモ過去ニ於テアッタヤウデアリマス、ソレハ併ナガ
  ラ必シモ特ニ買フコトダケヲシテ、サウシテ後ノ賣下ト云フコトヲ特ニ行ハ
  ナカッタト云フコトデハナカッタラウカト思ハレマスノデ、恐ラクハ先以テ買
  フテ、サウシテ古イ方ヲ後カラ賣ル積リデアッタノガ、偖、賣出シテ見ルト思
  フヤウニ賣レナイト云フガ爲ニ、買フ數量ダケハ完全ニ買入レルコトガ出來
  タガ、賣ル數量ノ方ハ完全ニ賣リ盡スコトガ出來ナカッタト云フコトデハナ
  カッタカト思フノデアリマス、デ尤モ御承知ノ通リニ、從前ハ米穀法ノ目的ハ
  唯數量ノ調節ト云フコトノミデアッテ、價格ノ調節ト云フコトハ含マレテ居ラ
  ナカッタノデアリマスカラシテ、從テ價格ノ調節ヲ時ノ當局ガシタト云フ場合
  二、或ハ之ヲ名ヲ買換ニ藉リテ米ヲ買上ゲタト云フヤウナコトガ全然ナイト
  モ申上ゲ兼ネマスケレドモ、大體ニ於テハ恐ラクハ前申上ゲタ通リ買換ヲ實
  際シヤウト思ッタノデアルケレドモ、買フコトダケハ出來タガ、賣ルコトガ出
  來ナカッタ、若クハ非常ニ遲レタ、斯ウ云フコトヂヤナカッタカト思ヒマス、デ
  現內閣ニ至リマシテハタッタ一囘昨年ノ暮ヨリ本年ノ一月ニカケマシテ五十
  万石ノ買換ヲ行ヒマシタガ、此場合ニ於キマシテハ右左ニ米ヲ買上ゲル時ニ
  其即座ニ此方カラ賣ル米ヲ引取ッテ吳レル人カラ買上ゲルト云フ方針ヲ採リ
  マシタノデ、即チチヨット一月バカリカカリマシタガ、其間ニ於テ五十万石ノ
  古イ米ヲ殆ド全部賣盡シテ之ニ相當スルダケノモノヲ此期間ニ於テ同ジク買
  上ヲシタ譯デシタ、此場合ニハ買換ハ完全ニ行ハレテ居ルト云フコトヲ申上
  ゲテ置キマス、何故此買換ヲ一體歷代內閣ト云ハズ、此内閣ト云ハズ、早クヤ
  ラナイノデアルカ、米ガ餘リ古クナリ過ギテ價格ガ非常ニ低クナル時ニ於テ
  初メテ買換ヲ行ヘバ、其處ニ非常ナ損ガ立ツデハナイカ、斯ウ云フ御尋デアッ
  タヤウニ思ヒマスガ、是ハ買換ヲ行フト云フコトハ餘程時期ヲ選ビマセヌト
  云フト、買換ト云フコトノ爲ニ安定セル所ノ市場ヲ、動モスレバ此政府ノ都合
  ノ爲ニ攪亂ヲスルト云フ虞ガアルノデアリマシテ、政府ハ古イ米ヲ長ク持ッテ
  居レバソレダケ益〓米ハ古クナッテ之ヲ賣ル場合ニハ損失ガ多ク立ツト云フ其
  政府ノ立場ノミヲ眼中ニ於テ、時期ニ適セザル時ニ於テ買換ヲ行フト云フコ
  トニナリマスト、此買換ノ爲ニ平地ニ波瀾ヲ生ズルガ如キ虞モ場合ニ依ッテハ
  アリマスカラ、買上ハ無論ノコトデアリマスケレドモ、買上賣下ハ無論ノコ
  トデアリマスガ、買換ト云フコトデモ實ハ餘程時期ヲ選ビマセヌト云フト、
  是ガ爲ニ市場ニ動搖ヲ來サシメルト云フ虞ガアルノデアリマスカラ、多少ノ
  損失ハ、多少ノ痛サハ堪ヘテモ、適當ナ時期マデ待ツト云フノガ從來ノ方針
  デアッタヤウニ思ハレルノデアリマス、ソレカラ根本方針ハ調査會ヲ設ケテ之
  ニ諮問ヲスルト云フコトデアルガ、併ナガラ大體ニ於テ政府ノ腹案ト云フモ
  ノガナクテハナラヌ筈デアルガ、ソレ等ハドウデアルカト云フ御尋デアリマ
  ス、政府ニ於キマシテハ未ダ根本ノ方針ニ付テ成案ヲ得テ居ル次第デアリマ
  セヌノデシテ、實ハ此米穀法ソレ自身ガ既ニ過去ノ經驗ニ徵シマシテ、此儘
  ニシテハ到底目的ヲ十分ニ達スルコトハ出來ナイト云フコトハ明カニナッテ
  居リマスガ併ナガラ之ヲ更ニドウシタラ宜シイカト云フコトハ非常ナ難問
  デアリマス、ノミナラズ米價ノ調節ト云フコトヲスルノニ、單ニ米穀法ノ改
  正ト云フコトノミヲ以テ足レリトスルヤ否ヤト云フコトモ亦疑問デアルノ
  デ、更ニ別ニ外米ニ關スル方法即チ外米ノ管理トカ外米ノ輸入制限トカ云フ
  ヤウナコトモ併セテ考究ヲセナケレバナラヌノデハナイカ、又朝鮮臺灣カラ
  シテ移入シテ來ル所ノ米、是ガ動モスレバ內地ノ市場ヲ壓迫シテ居ルノデア
  リマスカラシテ、之ヲ如何ニシテ統一シテ行クコトガ出來ルカト云フコトナ
  ドガ、是ガ又同ジク米穀法ノ改正ト共ニ考慮シナケレバナラヌ問題ト思ヒマ
  ス、其外ニマダ輸入稅ノ問題ノ如キモ亦同ジク併セテ考ヘナケレバナラヌ點
  デアルノデアリマシテ、是等各方面ニ亙ッテ相當ノ愼重ナル考慮研究ヲ遂ゲマ
  セヌケレバ、容易ニ此重要ナル問題ヲ解決スルコトガ出來マセヌ、デ正直ニ
  申上ゲマスレバ、今日ノ程度ニ於テハマダ政府ニ於テ此次ノ委員會ニ提出ス
  ベキ所ノ正案ヲ得テ居リマセヌガ、政府ト雖モ何等正案ヲ持タズシテ此委員
  會ニ臨ム積リデハアリマセヌノデ、委員會ヲ開催スル時マデニハ相當政府モ
  案ヲ立テマシテ諮問ヲ致シタイト云フ考デ居リマス、ソレカラ次ニハ物價指
  數ト米價ノ問題ニ御論及ニ相成ラレマシタガ、明治三十三年頃トハ違ヒマシ
  テ、最近ノ米價指數ト物價指數ヲ比ベテ見マスルト、矢張リ物價ノ指數ニ比
  ベマスルト米價ノ方ガ安クナッテ居リマス、然レドモ米價ヲ調節ヲスルト云フ
  時ニハ必シモ私共ハ物價ト米價ノ指數ヲ根柢ト致シテ調節ヲ致ス考ヘハナイ
  ノデアリマシテ、又從來米價ヲ調節イタスト云フ場合ニ、歷代ノ內閣ガ常ニ
  米穀委員會ニ諮問ヲ致シテ、之ヲ實行シタノデアリマスルケレドモ、米穀委
  員會ニ於キマシテモ、此調節ヲスベキ時機竝ニ其價格等ニ關シマシテ、物價
  ト米價ノ比率ヲ標準ト致シテ、之ヲ定メテハ御承知ノ通リ居リマセヌノデシ
  テ、是ハ一ツノ參考資料ニハナリマスルケレドモ、之ノミヲ唯一ノ基準ト致
  シテ今ハ調節スベキ時ナリヤ、或ハ幾何ノ調節ヲスベキヤト云フヤウナコト
  ノ問題ハ決定イタシテ居リマセヌノデスカラ、即チ今囘此法案ガ幸ニ通過イ
  タシマシテ、增加シタル資金ヲ以テ調節ニ著手スル必要ノアリマシタトシテ
  モ、ソレハ總テ有ユル米價ニ影響スル所ノ周圍ノ環境、經濟上ノコト等ヲ考
  慮イタシマシテ、相當ノ時機ト相當ノ程度ヲ定メタイト考ヘテ居リマス、而
  シテ最後ニ此米穀法ノ資金ヲ增加イタシテ、之ヲ以テ調節ヲスルト云フコト
  ニ相成ッタナラバ、其效果ニ付テ政府ハ確信ガアルノデアルカドウカト云フ御
  尋デアリマシタガ、御承知ノ通リ米穀法ノ力ヲ以テ經濟上ヨリ來タル所ノ大
  勢ヲ喰止メルトカ、或ハ大勢ニ逆行ヲスルト云フコトハ、是ハ固ヨリ出來ナ
  イ仕事デアル、米穀法ノ目的モ亦當初ヨリ左樣デハナカッタラウト思フノデア
  リマス、卽チ大體ニ於テハ年ノ豐凶及其他ノ經濟上ノ大勢ヨリ生シ來タル所
  ノ米價ニ付テハ、例ヘバソレガ非常ニ高クナル場合ニ於テモ、或ハ下落スル
  場合ニ於テモ、之ヲ米穀法ノ力ヲ以テ自由ニ左右シ、自由ニ支配ヲスルト云
  フコトハ、是ハ到底出來ナイ仕事デアリマス、又望ムベカラザルコトデアリ
  又爲スベカラザルノ仕事デアルト思フ、但シ非常ニ暴騰ヲスル場合、又非常
  ニ暴落ヲスル場合、一方ニ於テハ消費者ニ非常ニ苦痛ヲ與ヘ、一方ニ於テハ
  生產者ニ非常ニ苦痛ヲ與ヘルト云フ場合ニ、其暴騰暴落ヲ喰止メル、或ハ急
  激ニ暴騰シ或ハ急激ニ暴落ヲスルト云フコトヲ、之ヲ成ルベク漸騰的ニ導ク、
  或ハ漸々的ニ導ク、大勢ハ如何トモスルコトハ出來ナイケレドモ、之ヲ急激
  ニ消費者ナリ生產者ナリニ苦痛ヲ與ヘナイ程度ニ導イテ行ク、是ガ卽チ米穀
  法ノ運用デアラウカト私ハ考ヘテ居リマス、若シ此經濟上ノ大勢ノ如何ニ拘
  ラズ、一定ノ標準價格ト云フモノヲ置イテ、此標準價格ヨリ上レバ直ニ之ニ
  向ッテ行クト云フ、斯ノ如キ支配力ヲ持タシムルト云フナラバ、今日ノ米穀法
  ノ如キモノデハ到底足リナイノデアッテ、恐ラクハ米ノ專賣ト云フ所マデニ徹
  底シナケレバソコマデハ行カナイダラウト思フノデアリマス、今日ノ程度ニ
  於キマシテハ經濟上ノ大勢ヨリ來タル此大勢ニ逆行シヤウト云フノデハナイ
  ノデアッテ、此大勢ヲ相當ニ緩和スルト申セバ或ハ適當カモ知レマセヌケレド
  モ、其緩和スル位ノ意味ニ於テ運用セラレタナラバ、卽チ米穀法ノ效果ハアッ
  タモノトシナケレバナラヌダラウト思フノデアリマシテ、從テ今囘此增加シ
  タル資金ニ依ッテ調節ヲ致シマシテモ、今現在ノ米價ヲ俄ニ三圓モ五圓モ騰貴
  セシムルナドト云フヤウナコトハ出來ヤウ筈モアリマセヌシ、又ソレハ期待
  イタシテ居リマセヌ、然レドモ相當今日ノ下落シタル米價ヲ緩和スル效果ハ
  確ニ期待シ得ラレルト思ヒマスノデ、願クバ其方面ニ向ッテ此資金ヲ運用シ
  テ見タイト考ヘテ居リマス次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=54

  ---

• 055・上山滿之進

  ○上山滿之進君　常平制度ガ國民全般ノ生活安定ヲ目的トスルモノナリト云
  フコトノ第一義ヲ無條件デ御贊同ヲ得マシタコトハ國家ノ爲ニ喜ビマス、唯
  憾ムラクハ之ニ此原則ニ副ハナイ行動ガ過去ニ於テ度〓アッタコトヲ遺憾ト
  致シマス、山本農林大臣ハ過去ノ政府ニ於テ買換ニ名ヲ藉ッテ買入ノミヲ行ツ
  タノデハナイダラウト云フ風ニ庇護シテ御說明ニナリマシタ御心持ニ敬服ヲ
  致シマスガ、ト同時ニ山本農林大臣ノ御趣旨ハ甚シク時機ヲ異ニシテ買換ノ
  買入ト賣渡トヲ行フコトハ宜クナイト云フコトノ私ノ意見ニ御贊成ニナッタ
  モノト私ハ認メマス、サウシテ私大イニ滿足ヲ致シマス、ソレカラ其次ノ御尋
  ネノ、買換ガ兔角手遲レニナッテ、變質米ヲ澤山生ズルコトハ宜シクナイヂヤ
  ナイカト云フコトノ私ノ御尋ニ對シテ、是ハ適當ナル時機ヲ選バナイト却テ
  米穀界ヘ意外ノ波瀾ヲ起スカラ、時機ヲ選ブ爲ニ遲レルノダト、斯ウ仰セニ
  ナリマシタガ、誠ニ私ニハ承服ガ出來ナイ、春夏秋冬)ノ間デ時機ヲ選ブト云
  フコトハ普通アリマスガ、年越デ時機ヲ選ブト云フコトハ私ニハ分ラナイ、
  何デ二年モ三年モ古イ米ヲ溜メテ置カナケレバナラヌカ、ソレガ時機ヲ選ン
  ダト云フノハドウ云フノデスカ、現内閣ガ出來テヤット昨年ノ暮カラ此春ニ掛
  ケテ御ヤリニナッタト仰セニナッタ、現內閣ハ何時出來タノデアリマスカ、サ
  ウ云フコトハ私誠ニ了解ニ苦シム、矢張リ是ハ此平地ニ波瀾ヲ起スト仰セニ
  ナルノハ一番初メノ常平制度ノ原則ニ違ッタ意思ガ當局者ノ腹ニアルカラデ
  アル、矢張リヤカマシク米ハ下ッチヤ困ルト云フコトヲヤア〓〓言ハレルト、
  何トカ成ルベク下ラナイヤウナ方ニスルノガ癖ナノデアル、本來申シマスト
  買換ハ同一數量ノモノモ右カラ出シテ左ニ入レルノデアル、市場全體ノ米ノ
  量ニ影響ノアルベキ筋ノモノデハナイ、ソレデ極ク順ニ申セバ、ソレガ平地
  ニ波瀾ヲ起スコトハナイ、併シ利害關係者ハ波瀾ヲ起スト斯ウ云フノデス、
  現ニ昨年ノ暮カラ今年ヘ掛ケテ政府ノ御執リニナッタ行爲ハ、ドウモ變質米ガ
  無暗ニ出タノデ、是ガ今日ノ米價ニ影響シテ米價ノ變動ヲ來スト云フ風ニ
  ···利害關係者ハサウ云フ風ニ言フノデアリマス、其サウ云フ風ニ言フ聲ニ
  政府ハ脅カサレルカ、之ヲ迎ヘルカ、サウシテ此買換ノ本當ノ仕事ヲ延バスト
  云フコトガ、此變質米ノ多クナル所以デアリマス、二年前ノ米、三年前ノ米、
  或ハ四年前ノ米ガアルカ知レマセヌガ、數年前ノ米ヲ握ッテ居ル、サウシテ價
  格ヲ廉クシテ特別會計ヘ損失ヲ掛ケルト云フコトガ過去歷代ノ內閣ノヤリ口
  デアルト私ハ思ヒマヌガ、是ハモウ此以上强イテ御答辯ヲ望ミマセヌ、ソレ
  カラ一ツ御面倒デモ今一應御答ヲ願ヒタイコトガアリマス、ソレハ物價指數
  ノ問題デアリマス、私ハ物價指數ニ依ッテ米ヲ買フトカ、買ハヌトカ云フコト
  ヲ決メヤウト云フ論デハナイ、物ガ高イトカ······米ガ高イトカ廉イトカ云フ
  時ニハ此外ニ物價指數トノ比較ガ出マスカラ、ソレヲ假リニ申上ゲテ、其物
  價指數カラ見テモ甚シク米價ガ一般物價ニ較ベテ低落シテ居ルトハ言ヘナ
  イ、、ソレデハドウ云フ基礎デ此法律ノ改正迄シナクチヤナラヌコトニナッタノ
  デアリマスカ、此事ヲ伺ッタノデ、私ノ申上ゲ方ガ惡カッタト見エマシテ趣意
  ガ誤リ解セラレテ、御答辯ガ私ノ要求スル所ニ當ッテ居ナイノデアリマスカ
  ラ、今一應伺ヒタイノデアリマス、唯何カナシニ一ツ法律ヲ改正シテ七千万
  圓多クシテ行カウト一云フノデハ、遺憾ナガラ協賛ヲスルコトハ出來マセヌ、
  法律改正ハ大事デアリマス、七千万圓モ少額デハアリマセヌ、ドウシテモ此
  場合ニ之ヲ改正シナケレバナラナイ十分ナル基礎的理由ガナケレバナラナ
  イ、ソレヲ伺ッタノデアリマス、其御答辯ノ時ニ農林大臣ハイヤ物價指數モサ
  ウダガ、賃銀、勞銀色〓ナコトヲ參酌シテ決メルノダ、斯ウ云フ風ニ仰セニ
  ナリマシタガ、ソレハ買入價格ヲ決定スル時デス、私ノ伺ッテ居ルノハソレデ
  ハナイ、只今玆ニ御提案ニナッテ居ル此法律改正ノコトニ付テ伺ッテ居ルノデ
  アリマス、兔モ角モ何カナシニ七千万圓法律デ殖シテ、サウシテ色〓マア考
  ヘテ斯ウヤッタト云フノデハ、法律改正ノ理由ニハナラナイノデアリマス、ソ
  レヲ御迷惑デモ伺ヒタイノデアリマス、ソレカラ其外ノ點ハマダアリマスケ
  レドモ、今ノ問題ダケ御答ヲ願ヒマス
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=55

  ---

• 056・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　只今ノ御尋ハ一口ニ申シマスレバ、ドウ云7譯
  デ七千万圓增額ノ案ヲ出シタノデアルカト云フ御尋ノヤウニ拜承シマス、之
  ヲ半面ヨリ申セバ、現在ノ儘ニシテ置イテハ惡イト云フ理由ガ何處ニアルノ
  デアルカ、斯ウ云フ御尋ニナルト思フ、所ガ現在ハ御承知ノ通リ特別會計ノ
  餘力ト云フモノハ極メテ微弱ナモノニナッテ居リマシテ、是ガ世間市場ノ周知
  スル所トナッテ居ルノデ、此儘ニシテ置キマシテハ、此以上米價ガ下落スルト
  云フコトガ、只今ドン〓〓最早出〓リ時期ニナッテ參ッテ居リマスガ、此出〓
  リ時期ニ於テ此以上米價ガ下落シテ來ルト云フ場合ニ於テモ、出動スルコト
  モ米穀特別會計ハ出來ナイノデアル、更ニ其先ヘ行キマシテ秋口ヘデモ參リ
  マシテ收穫ノ豫想ガ尙ホ豐作デアルト云フガ如キコトニデモナリマスレバ、
  一段ト下落ノ形勢ヲ馴致スルト云フヤウナコトガアリマシテモ、今日ノ米穀
  會計ハ今日ノ現狀ヲ以テシテハドウモ手ノ著ケヤウガナイノデアルカラ、茲
  ニ增額ヲ要求シタ次第デアリマス、從テ是ガ增額ヲ致サレマスレバ、此以上ノ
  下落ヲスル所ノ形勢ガ見エマシタ時ニ、無論直ニ出動イタサナケレバナラヌ
  ト思フテ居リマスガ、是ト同時ニ現在ノ米價ト云フモノガ必シモ適當ナリト
  モ私共ハ考ヘテ居リマセヌノデ、ソレハ一口ニ申シマスレバ、正直ニ申シマス
  レバ廉イト思ッテ居リマス、之ヲ數字的ニ生產費カラドウノ斯ウノト云フ問題
  デハアリマセヌケレドモ、現ニ最近ニ於テ全國ノ農會ノ代表者ガ千數百人、北
  ハ北海道ヨリ南ハ九州ノ端マデモ集合イタシテ、サウシテ旬日ニ亙リマシテ
  非常ナ米價ノ苦痛ヲ訴ヘテ居ッタト云フコトハ御承知デアリマセウガ、又地方
  ヘソレ〓〓手ヲ〓ハシテ調査ヲ致シテ見マシテモ、地方ハ實ニ米價ノ廉イト
  云フコトニ困ッテ居ルト云フコトハ僞ハラザル事實デアルノデアリマス、之ヲ
  此儘ニ放置シテ置クト云フコトハ、米穀特別會計ト云フモノガアル以上ハ此
  儘ニシテ置クト云フコトハ宜シクナイノデハナイカ、然レドモ現在ノ儘デハ
  何トモ仕方ガアリマセヌカラ、玆ニ力ヲ添ヘテ戴イテ、サウシテ此急場ニ備
  フルノ途ヲ講ジテ見タイト云フノガ即チ提案ノ理由デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=56

  ---

• 057・上山滿之進

  ○上山滿之進君　誠ニ殘念ナガラ私ニハ能ク理解ガ出來マセヌ、先刻農林大
  臣ハ米穀法ガ出動ヲシテモ經濟的ニ變動スル米價ハ如何トモスルコトガ出來
  ナイ、唯暴騰暴落ノ起ッタヤウナ場合ニ其勢ヲ制止スル位ナ程度ニシテ我慢
  ヲシナケレゲナラヌト云フヤウナ意味ノコトヲ仰セニナッテ、ソレガ此提案ノ
  理由ノ一部分ノヤウニ承リマシタ、所ガ私先刻モ豫メ申上ゲマシタ通リニ、
  現在ノ米價ガ何時一體暴騰暴落シタノデアリマセウカ、大藏省ノ政務次官ノ
  說明ノ中ニモ近年餘リ變動ガナクナッタト云フ風ニ仰セニナッタ、是ハ事實デ
  アリマス、最近ノ米價ノ狀況ハ暴騰デハアリマセヌガ、暴落デモナイ、矢張
  リ上ッタリ下ッタリシテ居ルノデ、是ハ事實デアリマス、サウスルト農林大臣
  ノ御意見ニ從ヘバ只今ハ米穀法ノ出動ヲスルノ必要ハナイ、ト斯ウ云フコト
  ニナラザルヲ得ヌ、是ハ農林大臣ハ、今後ヲ憂ヒラレテ此案ヲ出シタノダト
  斯ウ仰セニナル、今後ヲ御憂ヒニナル、此處ハ或ハ意見ノ相違カモ知レマセ
  ヌカ、農林大臣ハ是カラガ米ノ出盛リ期デアル、段々下ル傾向ガアルト斯ウ
  仰セニナリマスケレドモ、私共ノ信ズル所ニ依レバ、一番多ク出ルノハ此舊
  曆ノ節季、ソレカラ今度年ヲ越シタ所デ段々是カラ減ッテ來ル、サウシテ七八
  月、九月ト云フ時ニナルト非常ニ米ガ出ナクナッテ來ル、從ッテ米ノ値ガ上ル
  ノハ普通ノ趨勢デアリマス、併シ私ハ今上ルトハ申シマセヌ、ソレハドウナ
  ルカ分リマセヌガ、ソレハ先キノ問題デ分ラナイノデアリマス、議會ノ開會
  中ナラバ議會ノ協贊ヲ經テ相當爲サラナケレバナリマセヌケレドモ議會閉會
  後ニ暴騰スルコトガ起ルカモ知ラヌト云フコトノ爲ニ、斯ノ如キ案ヲ御提出
  ニナルト云フコトハ、私ニハ理解ガ出來ナイ、若シ後ニ至ッテサウ云フコトガ
  起ッタラ其時コソ緊急勅令ト云フコトモアレバ、財政上ノ緊急處分ト云フモノ
  モアリマス、サウ云フコトヲ望ム筋デハアリマセヌケレドモ、已ムヲ得ヌ、
  今日カラ豫見ガ出來レバソレハ議會ヲ開クノガ當リ前デアリマス、豫見ハ出
  來ナイ、無論私共モ年ノ豐凶ハ分リマセヌ、其外ノコトハ農林大臣ト今後ノ
  米價ノ趨勢ハ意見ヲ異ニシテ居ル、少クトモ兩方五分々々デ臨ムトシテモ分
  ラナイ、分ラナケレバ分ッタ時ヤレバ宜イ、今日ノ情勢ハドウダト云フト、今
  日ノ情勢ハ農林大臣ノ仰セニナッタ程豐作デハナイ、ソコデ何カ此處ニドウシ
  テモ此法案ヲ提出シナケレバナラヌ理由ガナケレバナラヌガ、此上伺ッテモ御
  答辯ガナイト思ヒマスカラモウ止メマス
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=57

  ---

• 058・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　モウ一言申上ゲテ置キマス、最近ノ米價ハデス、
  此二年此方ノ豐年ノ後ヲ受ケテ決シテ相當ノ米價トハ私ハ思ヒマセヌ、寧口
  安イ方ノ米價ト思フ、是ハ恐ラクハ大多數ノ人ガ大體常識的ニ私ト其感ヲ同
  ジウスルダラウト思フノデアリマス、而シテデス、若シ此以上下落シタ場合ニ
  ハ、又下落スベキ趨勢ガアルトスレバデス、此イトド廉イ米價デアリマスル
  以上ハ、是ガ先キニ行ッテ此以上下落ヲスルト云フ形勢ガ見エマシタナラバ、
  之ヲ未然ニ防グ方法ヲ執ルト云フコトガ、此米穀特別會計ノ使命デアラネバ
  ナラヌト思フノデアリマス、先キニ下落スルカドウカト云フコトハ人ノ見方
  ニ依ッテ色〓違ヒマスル、私モ必ズ下落スルト申シマセヌ、又必ズ騰貴スルト
  云フコトモ上山君モ申シ難イダラウト思フ、然レドモ下落スルニシテモ、騰
  貴スルニシテモ、兔ニ角之ヲ調節スル必要ガ生ジタ時ニ必ズ調節スルコトノ
  出來ル力ヲ常ニ米穀法ト云フモノガ有シテ居ル限リハ、此力ヲ米穀特別會計
  ハ持ッテ居ナケレバナラヌノデス、所ガ現在ノ特別會計ト云フモノハ其力ガナ
  クナッテシマッテ居ルノデス、ソレ故ニ此力ヲ有タシテ貰ハンナラヌト云フノ
  ガ、是ガ即チ法案提出ノ理由デアルト御承知ヲ願ヒタイ
  〔阪本釤之助君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=58

  ---

• 059・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　本案ノ事柄ニ付キマシテハ最モ玄人デアル上山君ガ縷々御
  述ベニナリマシテ、御質疑ニナリマシタ後ヲ受ケマシテ私ガ蛇足ヲ添ヘル必
  要モナイカデゴザイマスルガ上山君ハ米穀法ナルモノハ運用宜シキヲ得レ
  バ有效ナモノデアル、米穀法其ノモノハ反對デナイ、寧ロ贊成デアルト云フ
  御趣意ノ御質問デアッタノデゴザイマスルガ、本員ハ米穀法ト云フモノハ餘計
  ナモノデアルト云フコトヲ常ニ信ジテ居ル、之ヲ前提トシテ聊カ質問ヲ致シ
  テ見タイト思フノデス、政府ガ二億ノ金ト申シマスルト隨分巨額ナ金デハア
  リマスルガ、全國ノ米ノ生產高及價ニ對シテ見マスルト誠ニ一少部分デアル
  ノデス、此金ヲ以テ買入レル、若クハ賣捌クト云フコトヲシテ、ソレデ米價
  ヲ調節ヲ圖ルナンゾト云フコトヲ考ヘテ居ルコトハ所謂士族ノ商法デハナイ
  カト思フノデス、私ハ米穀法ノ出マシタ當時カラ時ノ内閣ハ四圍ノ事情ニ驅
  ラレテ一時ノ政策トシテヤラレタコトデアル、遠カラズシテ次ノ內閣ニナリ
  何カノ時ニ廢止サレルモノデアラウト思ッテ居リマシタ所ガ、免角此全國的メ
  農民ノ人氣ヲ取留メマスルモノハ、米商人ノ機嫌ヲ取留メマスルモノハ、斯ウ
  云フモノハ中〓廢スルコトガ出來ヌト見エマシテ、今日ニ至ッテ居ルノデアリ
  マスガ、此度此案ガ出マシタノハ二億圓ノ上ニ更ニ七千万圓ヲ增スト云フ、此
  七千万圓ト云フ額ガ又不思議ナ額デアリマシテ、增スナラ三億ト言ッテモ宜カ
  リサウナモノデアル、聞ク所ニ依リマスト既ニ七千万圓ハ政府ガ損ヲシテ居
  ラレルト云フコトデアル、一億圓ハ今米ニシテアルノデアリマスルガ、運用ス
  ベキ金ハ三千万圓外ナイ、故ニ七千万圓ヲ接足シテ元ノ二億圓ニスルノダト
  云フノガドウモ內容ラシク想像サレルノデアリマス、屢〓政府當局ヨリノ御說
  明ニ依リマシテモ、實ハ本員ハ豫算委員會ニ於キマシテモ此事ニ付テハ聊カ
  質問ヲ致シマシテ大藏大臣ノ答辯ヲ得テ居リマスガ、只今此席ニ於テ農林大
  臣ノ御答辯等ニ依リマシテモドウモ三千万圓デハ心細イカラ七千万圓ヲ出シ
  テ置キタイト云フコトガ一番ノ御趣意ノ骨子デアルヤウニ思ハレマスガ、サ
  ウスルト恰モ銀行ガ破綻シ掛ケタ時ニ、日本銀行カラ金ヲ借リテ來テ店先ニ
  札束ヲ積ンデ置イテ預金者ノ安心ヲ買フト云フコトト稍〓近イ御政策ノヤウ·
  ニ思ハレマスルノデアル、此七千万ガ幸ニ帝國議會ノ協質ヲ得マスレバ、初メ
  テ是ガ二億ニナッテ詰リ七千万圓ハ旣ニ損失ヲ補塡スルヤウナ意味ニナッテ···
  ···ソレハ如何ヤウデモ宜シイ、免ニ角其金ヲ振〓シテ見タ所デ私ノ所見ニ依
  レバ大シテ效能ハナイト思フ、故ニ此場合ニ御尋ネ致シテ見タイノハ、抑〓米
  穀法實施以來殆ド八年餘リデアリマスガドレ程ノ買入ヲシテ、又ドレ程ノ
  賣捌キヲシタ、其度ニ米ガドノ位下ッタ、ドノ位上ッタト云フコトノ御調ヲ承
  知シテ見タイ、幾ラカソレガ動イテ居ルカモ知レマセヌガ、私ニ言ハセマス
  ルト其時ノ勢ハモウ既ニサウ云フコトニナリ掛ケテ居ル所ヘ幾ラカ是ダケノ
  金ヲ市場へ出スノデアリマスカラ多少ノ響キハアルカモ知レマセヌガ、大シ
  タコトハナイト私ハ信ジマスガ、是ハ當局ノ疊ノ上ノ水練デアリマスカラ、
  政府ガ實際、歷代ノ政府ガ執ラレタ所ノヤリ方ニ依ッテドノ位ノ作用ガ現ハレ
  テ居ルカ、是ハ併シ數字上ノ甚ダ煩贅ナ事柄デアリマスカラ、若シ此席デ御
  述べニナルコトガ御迷惑デアリマスレバ、又議員諸君モ御迷惑デアルカモ存
  ジマセヌ、若シ左樣デアルナラバ之ヲ一ツ表ニデモ拵ヘテドウセ此特別委員
  會ニ於デハ問題ニナルニ相違アリマセヌカラ、特別委員會ヘ御提出ニナリマ
  セウカラ我〓モドウカソレヲ一ツ拜見シテ、次ノ第二讀會ニ移ストカ、移サ
  ヌトカ云フコトノ材料ニシタイト存ジマス故ニ、此場合ニ御請求シテ置キタ
  イト思フノデアリマス、ソレデ曩ニ豫算委員會ニ於キマシテ大藏大臣ノ答ヘ
  ラレル所モ矢張リ米穀法ハ決シテ完全ナモノトハ思ッテ居ナイ、ドウカセネ
  バナラヌモノト思ッテ居ルト云フコトヲ言ハレタ、今又農林大臣モ同樣ナコト
  ヲ言ッテ居ラレル、サウシテ見ルト政府モ餘リ此米穀法ト云フモノハ結構ナモ
  ノトハ思ッテ居ラレナイヤウデアリマス、尙ホ大藏次官ノ說明セラレル所ニ付
  テモ、カルガ故ニ此調査會ヲ設ケテ根本的ニ調査ヲシテ見ル積リデアル、兔
  ニ角七千万圓ダケハ增シテ置イテ貰ヒタイ、斯ウ云フ要求デアルノデアリマ
  スガ、不完全ト旣ニ考ヘラレル所ノ法律ヲ實施シテ、サウシテ其根本的改正
  ハ遠カラズ調査委員會ヲ設ケテ根本的ニ調査サセル積リダト云ッテ居ル下ニ、
  ソレガ七千万圓ト云フ······此節ハドウモ勘定モ大キクナリマシテ、七千万圓
  ト云フ金ヲ何デモナイヤウニ考ヘマスガ、日〓戰爭前ノ日本ノ政府ノ歲計金
  額デアルノデアリマス、斯樣ナ金ヲ增ストカ增サヌトカ云フコトハ餘程能ク
  考ヘナクチヤナラヌ、ソレガ果シテ效果ガアルモノナラソレハ一千万ガ七千
  万デモ宜シウゴザイマスガ、私ノ見ル所ニ依リマスト誠ニ效果ノ薄イモノデ
  アル、政府ノ力デ以テ人爲ノ力デ以テ米ノ相場ノ上ゲ下ゲヲスルト云フコト
  ハ甚ダ效果ノ薄イモノデアルト云フコトヲ前提トシテ斯ノ如キコトヲ申上ゲ
  ルノデアリマスガ、之ニ付テデス、政府ハ只今私ノ述ベマシタコトニ御反對
  ヲナサル意味ノ何レ御答ガアリマセウカラ、ソレヲ承リマシテ若シ私ガ非常
  ニ取違ヘテ居リマスルナラ、惑ヒヲ解キタイト存ジマスルガ恐ラク此惑ヒ
  ハ容易ニ解ケヌモノト考ヘテ居リマスル、モウ少シ述ベタイコトガゴザイマ
  スガ、上山君ガ縷々盡シテ居リマスルガ故ニ、私ハ是ダケノコトヲ簡單ニ御
  尋ネ致シテ、又御要求ヲ致シテ置キタイト存ジマス
  國務大臣山本悌二郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=59

  ---

• 060・山本悌二郎

  ○國務大臣(山本悌二郞君)　阪本君カラノ御尋ニ御答イタシマス、第一ハ米
  穀法ナルモノハ過去ニ於テモ殆ド效果ガ無カッタデハナイカ、ソレヲ數字的ニ
  示ス材料ガアッタナラバ提示シテ貰ヒタイ云フ御要求且ツ御尋デアッタヤウニ
  思ヒマス、一口ニ申シマスレバデス、此過去ニ於ケル米穀法ハ決シテ效果ガ
  無カッタモノトハ信ジマセヌ、相當ノ效果ヲ現シテ居リマス、ソレハドウ云フ
  點ニ於テカト申シマスレバデス、少クトモ米價ノ高低ノ値幅ト云フモノガデ
  ス、非常ニ縮マッテ參リマシタノデス、ソレハ一年ノ間ニ於テノ月〓ノ高低ノ
  値幅モ非常ニ縮マッテ參ッテ居リマスルシ、又年ト年トノ間ノデスナ、比較ヲ
  致シマシテモ、同ジク矢張リ最高最低ノ値幅ガ非常ニ縮マッテ參ッテ居リマス、
  ソレハ明カニ統計ノ上ニ現レテ居リマスルカラシテ、ソレ等ノ書類ハ御手許
  へ差〓スコトニ致シマス、要スルニ米穀法施行前ニ於テハ騰落ノ値幅ト云フ
  モノガ非常ニ廣イモノデアッタニ拘ラズ、施行以後ニ於テハ此値幅ガ縮マッテ
  來タト云フコトダケハ少クトモ米穀法ノ效果ナリト私ハ信ジテ居リマス、ソ
  レカラ次ノ御尋ハ今日ノ米穀法ト云フモノハ頗ル不完全ナモノデアルト云フ
  コトハ政府ハ皆認メテ居ルガ、其不完全ナル法律ハ其儘ニシテ置イテ、サウシ
  テ金額ヲ增加シロト云フコトハドウ云フ譯デアルカト云フヤウナ御尋デアッ
  タヤウニ思ヒマスルガ、米穀法ガ效果ガ無イト云フ、效果ガ無イ法律デアル
  ト云フヤウナ風ニ政府ハ考ヘテ居ル次第デハナイノデアリマシテ、效果ハ相
  當アルノデアル、然レドモ、何處カニ缺陷ガアルカト云フコトニナリマスレ
  バ缺陷ハアルノデアリマス、其缺陷ハドウ云フ意味ニ於テト申シマスレバ、
  總テノ一年ノ間ノ經常費カラシテ、米ノ保管料カラ、或ハ甚シキニ至ッテハ倉
  庫ヲ建築スル固定資本、更ニ進ンデハ米ノ買換、若クハ賣下ゲノ場合ニ於ケ
  ル所ノ損失金、更ニ進ンデハ是等ノモノヲ運轉スル爲ニ借入レタ所ノ數千万
  圓ノ金ニ對スル所ノ利息、是等ガ總テ此特別會計自ラ處理シナケレバナラナ
  イト云フ狀態ニナッテ居リマスルガ、特別會計ハ何ニモ之ヲ補塡スベキ所ノ財
  源ハ持ッテ居ナイ仕掛ケニナッテ居ルノデス、ソレ故ニ此八箇年ノ間ニ五千數
  百万圓ト云フ損失ニ疊マッテ來タ譯ナンデス、是ハデス、何トカ致サナケレバ
  先ノ見込ガ立タナイノデス、從來ノ損失金ヲ一般會計カラ受ケルト云フガ如
  キコトモ一ツノ方法デアリマセウケレドモ、サウ致シマシテモ現在ノ立前ニ
  シテ置キマスレバ、又年々利息ガ殖エ損失金ガ殖エマシテ、又此資金ニ缺乏
  ヲ來スト云フコトハ明カデアルノデス、ソレ故ニデス、此資金ヲ運轉シテ米
  價ヲ調節スルト云フ點ニ於テハ相當ノ效果ハ現レテ居リマスカラ、此點ニ
  於テ決シテ政府ハ此法律ヲ否認ハ致シテ居ラヌノデアル、唯之ヲ運用スルノ
  ニ、只今マデノ組織ヲ其儘ニシテ行ッテハ到底先キニ行ッテ又行詰マル虞レガ
  アリマスルノデアリマスカラ、之ヲ即チ不完全ダト稱シテ居リマスルノデス、
  此不完全ヲ如何ニ矯正スベキヤ、如何ニ改正スベキヤト云フコトハ只今直
  グ決定ハ出來マセヌカラシテ、取敢ヘズ先ヅ資金ノ增加ダケ願ッテ置キマシ
  テ、サウシテ根本ニ此法律ノ改正ヲ行フコトハ、委員會ニ於テ審議ヲ盡シテ、
  次ノ議會アタリマデニ成案ヲ得タイト、斯樣ニ考ヘテ居ル次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=60

  ---

• 061・阪本さん之助

  ○阪本釤之助君　此上申述ベマスルコトハ意見ニ亙ル嫌ガアリマスルカラ、
  他日ニ讓リマシテ、質問ハ此邊ニ止メテ置キマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=61

  ---

• 062・江木翼

  ○江木翼君　通〓ハ濟ミマシタカ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=62

  ---

• 063・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　通〓ハ皆終リマシタ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=63

  ---

• 064・江木翼

  ○江木翼君　簡單ニ御尋ネ致シタイト思ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=64

  ---

• 065・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　宜シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=65

  ---

• 066・江木翼

  ○江木翼君　政府ハ公債計畫ヲ立テヽ居ラレマスル數字ハ我〓ノ承知イタシ
  テ居リマスル如ク、一般會計特別會計ヲ通ジマシテ、確カ一億九千八百万圓
  デアッタカト思フノデアリマス、此一億九千八百万圓ノ新規募集ノ公債モ相當
  大ナル額デアルト言ハナケレバナラヌト思フノデアリマス、今日減債基金ノ
  法律ニ依リマシテ年々償却イタシマスル所ノ額ハ、所謂万分ノ百十六ナルモ
  ノハ、僅カ六千七八万圓位ニシカ足リナイカト思フノデアリマス、剰餘金ノ
  四分ノ一ト言ハレマシテモ漸ク八千万圓カ九千万圓ニ止マルノデアリマスル
  ガ、新シク公債ヲ募集スル方ハ一億九千八百万圓、二億近クニナルノデアリ
  Tv.即チ年々ノ公債額ト云フモノハ每年々々償却イタシマスルヨリカ殖エ
  ル方ガ非常ニ多イト、斯ウ云フ結果ニナッテ來テ居ルノデアリマスルガ茲ニ
  御尋ネ致シタイト思ヒマスルノハ、此一般會計特別會計ニ關聯ヲ致シテ居リ
  マスル新規募債ノ外ニ、今議題トナッテ居リマスル所ノ米穀法ノ特別會計ニ關
  シマスル所ノ借入金ノ增額或ハ交付公債ト云フヤウナモノガ、今期議會ニ御
  提出ニナッテ居リマスル法律案ニ伴フテ起リマスモノガ多々アルヤウニ思フ
  ノデアリマス、例ヘバ鐵道買收ニ付キマシテハ五千万圓近クノ交付公債ト云
  フモノガアル、鹽田整理ニ關シテハ千三百万圓デアリマスルカ五百万圓ノ公
  債ガ交付セラレル、或ハ國際汽船ノ整理ニ付テモ矢張リ三千万內外ノ交付公
  債ト云フモノガ發行セラレル、或ハ自作農或ハ肥料管理ニ付テノ借入金ハ二
  千万、更ニ此米穀ニ付テハ七千万ト云フヤウニナッテ居ルト思ヒマスルガ、是
  等ノ數字ヲバ正確ニ一括イタシマシテ御示シヲ大藏省ノ當局ヨリ願ヒタイト
  思フノデアリマス、又此數字ヲ御示シ下サイマスル機會ニ、必ズヤ此借換ヲ
  ナサル際ニハ、矢張リ借換ノ差額ト云フモノノ公債ノ發行ト云フモノガ當然
  伴フコトデアラウト思フノデアリマス、其額ハ幾ラニナルカ、私ノザット勘定
  イタシテ見マシタ所デハ、此交付公債及ビ借入金ダケデ、今豫定サレテ居リ
  マス一億九千八百万圓ト略〓同額ノ交付公債竝ニ借入金ト云フモノヲシナケ
  レバナラヌト云フヤウナ數字ニナルト思フノデアリマス、是等ノ數字ヲバ明
  確ニ御示シニナッテ、我〓ハ是等ノ案ヲ審議シマスル參考案ニイタスト云フコ
  トガ甚ダ必要ナコトデアルト思フノデアリマス、固ヨリ是等ノ法律案ガ全部
  通ルノデハアルマイト思ヒマスガ、我〓ガ法律案ヲ審議シマス上ニ於キマシ
  テハ、如何ニモ財政ノ上ニ重キ負擔ヲ殘スモノデアルト云フコトヲ考ヘナガ
  ラ審議スルノ必要ガアルト、斯樣ニ思フノデアリマス、御示シヲ願ヒタイト
  思フノデアリマス
  〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=66

  ---

• 067・大口喜六

  ○政府委員(大口喜六君)　只今ノ御質問ニ對シマシテ大體ヲ此席ヨリ御答ヘ
  致シタイト存ジマス、公債ノ募集額ニ付キマシテハ、只今江木君ヨリ御質問ノ
  通リデアルト考ヘマス、交付公債ニ付キマシテハ、今囘ノ新規ノ計畫ニナリ
  マスモノガ、約九千一百餘万圓ニナルト考ヘマス、尙ホ此借入金全部ヲ計算
  イタシマスレバ、矢張リ只今江木君ガ仰セラレマシタ通リノ數字ニ大體ナル
  ト考ヘマス、併ナガラ自作農ニ關シマスルコトハ規定ニ定メテハ置キマスル
  ガ先ヅ是ハ出ナクテ濟ム計畫ニ私ノ方デハナッテ居リマスノデアリマス、ソレ
  カラ肥料管理ニ關シマシテモ二千万圓ヲ限度トハ致シテ居リマスガ、直チニ
  ソレダケヲ出スト云フノデハアリマセヌ、是ダケハ申述ベテ置キマスガ、併
  シ總額ヲ集メマスレバ、大體ニ於キマシテ只今御話ノ如クデアルト思ヒマス、
  只一ツ御答シ兼ネマスノハ、此公債ノ借換差額デアリマスガ、是ハドウモヤッ
  テ見マセヌトハッキリシタコトガ分リマセヌカラ明瞭ニ御答ガ出來マスマイ
  カト存ジマス、只今ノコトハ數字ニ書取リマシテ御手許ニ出スヤウニ致シタ
  イト思ヒマス、大體ダケヲ此處デ御答ヘ致シマス、勿論出來マス限リ明瞭ニ
  致シマスコトハ決シテ憚リマセヌカラ、御手許ニ出シタイト存ジマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=67

  ---

• 068・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　本員モ簡單デゴザイマスカラ··

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=68

  ---

• 069・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　宜シウゴザイマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=69

  ---

• 070・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　大藏大臣ノ財政ノ御方針又ハ質問ニ對スル御答辯ニ依ッ
  テ見ルト云フト、金ノ解禁ト云フモノハ斷行スル、併シ時期ハ言ハヌト云フ
  コトデアリマスガ、今日ノ如ク七千万圓モ借入金ヲ日本銀行カラナサルト云
  フコトガアレバ、札ハ殖エル、輸入ハ益〓殖エル、輸出ハ減ルト、斯ウ云フコ
  トニナッテ、金解禁ノ時期ガ益〓遠クナルヤウニ思ヒマス、甚ダ方針ガ矛盾シ
  テ居ルヤウニ思ハレルノデアリマスガ如何、ソレカラ朝鮮ノ產米ノ計畫トカ、
  內地ノ開墾助成トカ、色〓米ヲ殖ヤス、米ノ產額ヲ殖ヤシ食糧ヲ安クシナケ
  レバナラヌ、所謂人口食糧問題ト云フコトニ政府ハ非常ニ沒頭シテ居ラレル、
  然ルニ今日ノ御答辯デアルト、米ノ値ヲ上ゲネバナラヌカラト云フヤウナ趣
  意ニ見エルノデアリマス、是亦甚ダ方針ガ牴觸イタシテ居ルヤウニ考ヘラレ
  ル、元來米價調節ト云フコトハ其制度ハ仲小路農商大臣ノ時分ニ、所謂米
  ノ暴騰、米騷動ガ起ッタ結果、一時ノ權宜トシテ出來テ居ルト記憶シテ居ル、
  其後米ノ暴騰ヲ防グ法案ガ米ノ暴騰ヲ促スヤウナ法案ニ變リツヽアル弊ガ今
  日ノ如キ大缺陷ヲ生ジタノデアラウト思ヒマス、只今政府ノ御答辯ガ總テノ
  計畫ニ矛盾シテ居ル、是レ如何、產米計畫ナドヲ御止メニナラナケレバ米ノ
  騰貴ハ出來ヌト云フコトニナル、甚ダ經濟ノ道理ニ反シ、財政ノ道理ニ反シ
  テ居ルコトガ玆ニ現レテ居ル、大藏當局ノ御答辯ヲ願ヒタイノデアリマス
  〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=70

  ---

• 071・大口喜六

  ○政府委員(大口喜六君)　只今阪谷男爵ヨリノ御質間デアリマシテ、大分事
  ガ大キイ問題デアリマスルノデ、私カラノ御答デハ御不滿足カト思ヒマスル
  ガ、私ガ心得テ居リマスコトヲ有體ニ御答ヲ致シタイト考ヘマス、全體私ノ
  考ヘマスノニ、金ノ解禁問題ヲ確實ニ致サウト思ヒマスレバ、少シ遠イヤウ
  ナ話ニハナリマスガ、申ス迄モナク國家ノ產業ガ發達シテ參リマシテ、貿易
  ノ「バランス」ガ合ッテ參ルコトガ一等私共根本デアルト考ヘテ居リマス、ソ
  レ故ニ此產業ノ發展ト申スコトニ關シマシテ、出來得マスル限リ力ヲ盡シマ
  スコトガ、是ガ矢張リ根本ヲ解決スル所以ナリト深ク信ジテ居ルノデアリマ
  ス、併ナガラ當面ノ問題ト致シマシテハ、只今御話ノ如ク金利ノ問題モ關係
  イタシマスガ、爲替相場ノ問題モ關係イタシマス、通貨ノ問題モ關係イタシ
  マスコトハ、是ハ當然デアルト考ヘマス、ソレ故ニ或ハ玆ニ公債ガ殖エマス
  トカ、或ハ玆ニ通貨ガ膨脹イタストカ云フコトハ、成程御說ノ如ク金解禁ヲ
  急グ上ニ於キマシテハ、或ハ相當ノ支障ニナラナイトモ限ラナイト思フノデ
  アリマス、併ナガラ一面ニ之ヲ考ヘマシテ、我國ノ農民ガ如何ナル狀態ニア
  ルカト云フコトヲ考ヘ、而シテ此農民ノ生產ト云フモノニ對シマシテ相當ノ
  力ヲ用ヒマスコトヲ全國的ニ必要ト考ヘマスル場合ハ、雙方ノ權衡ヲ考ヘマ
  シテ、此程度マデナラバ宜シカラウト我〓ハ考ヘル點ヨリ、之ニ同意イタス
  次第デアル、ソレ故ニ一面ニ於テ產業ノ發展ガドウナリマスカ、一面ニ於キ
  マシテ通貨ノ膨脹ガ如何ニナルカト云フコトヲ、色〓ニ是ハ斟酌ヲ致シテ、
  其宜シキヲ得ネバナラヌト考ヘマス、成程通貨ノ點ハ、一時ニ金ヲ出シマス
  レバ、米穀證劵ノ如キモノヲ一時ニ多ク出シマシテ、日本銀行ガ之ヲ支拂フ
  コトニナレバ、御承知ノ通リ一時ハ不足シマス、ケレドモ是ガ又〓リ〓リマ
  シテ、一方ニ於テ預入金ニナレバ通貨ハ矢張リ又一時縮小サレルノデアリマ
  スカラ、此點ニ關シマシテハ私共ハ少シ調節宜シキヲ得レバ、ソレ程大キイ
  變動ハナイカト私ハ考ヘテ居ルノデアリマスガ、私ノ考ヘル點ヲ申述べルノ
  デ御不滿足デゴザイマスレバ、更ニ考究イタシテ御答ヲ致スコトニ致シタイ
  ト存ジマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=71

  ---

• 072・阪谷芳郎

  ○男爵阪谷芳郞君　モウ追究イタシマセヌ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=72

  ---

• 073・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本案ハ肥料管理法案外一件ノ特別委員ニ付託イタ
  シマス
  山平安幸utn

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=73

  ---

• 074・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第六ヨリ第九マデ
  特許法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  特許法中改正法律案
  特許法中左ノ通改正ス
  第十七條ノ二特許ニ關スル出願、請求其ノ他ノ手續ヲ爲ス者ノ委任ニ因
  ル代理人ノ代理權ハ本人ノ死亡若ハ能力ノ喪失、本人タル法人ノ合併ニ
  因ル消滅、本人タル受託者ノ信託ノ任務終了又ハ法定代理人ノ死亡、能
  力ノ喪失若ハ代理權ノ變更消滅ニ因リテ消滅セス
  第十八條中「共同又ハ」ヲ削ル
  第二十二條中「民事訴訟法第十七條」ヲ「民事訴訟法第八條」二段六ノ
  第二十三條中「特許局ニ對シ」ヲ「特許局又ハ裁判所ニ對シ」三成人
  第二十五條特許ニ關スル出願、請求其ノ他ノ手續ヲ爲ス者其ノ責ニ歸ス
  ヘカラサル事由ニ因リ第百九條、第百十五條、第百二十二條第一項又ハ本
  法ニ於テ準用スル民事訴訟法第四百十五條ニ規定スル期間ヲ遵守スルコ
  ト能ハサル場合ニ於テハ其ノ事由ノ止ミタル日ヨリ十四日以內ニシテ且
  其ノ期間滿了後一年以內ニ限リ懈怠シタル手續ノ追完ヲ爲スコトヲ得
  第八十七條審判請求書カ法令ニ定メタル方式ニ違背シタル場合ニ於テハ
  審判長ハ相當ノ期間ヲ定メ其ノ期間內ニ欠缺ヲ補正スヘキコトヲ命スヘ
  シ成規ノ手數料ヲ納付セサル場合亦同シ
  請求人カ欠缺ノ補正ヲ爲ササルトキハ審判長ハ決定ヲ以テ審判請求書ヲ
  却下スヘシ
  前項ノ決定ニハ理由ヲ附スヘシ
  第二項ノ決定ニ不服アル者ハ即時抗告ヲ爲スコトヲ得
  前項ノ即時抗〓ニ付テハ民事訴訟法中即時抗告ニ關スル規定ヲ準用ス
  抗告狀ニハ却下セラレタル審判請求書ヲ添附スヘシ
  第八十八條ノ二不適法ナル審判ノ請求ニシテ其ノ欠缺カ補正スルコト能
  ハサルモノナル場合ニ於テハ被請求人ニ答辯書提出ノ機會ヲ與ヘスシテ
  審決ヲ以テ之ヲ却下スルコトヲ得
  第九十一條審判官ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル場合ニ於テハ審判ノ干與ヨ
  リ除斥セラル
  一審判官又ハ其ノ妻若ハ妻タリシ者カ事件ノ當事者、參加人若ハ特許
  異議申立人ナルトキ又ハナリシトキ
  二審判官カ事件ノ當事者、參加人又ハ特許異議申立人ノ四親等內ノ血
  族若ハ三親等內ノ姻族ナルトキ又ハナリシトキ
  三審判官カ事件ノ當事者、參加人又ハ特許異議申立人ノ法定代理人、
  後見監督人、保佐人又ハ戶主若ハ家族ナルトキ
  四審判官カ事件ニ付證人又ハ鑑定大ト爲リタルトキ
  五審判官カ事件ノ當事者、參加人又ハ特許異議申立人ノ代理人ナルト
  キ又ハナリシトキ
  六審判官カ事件ニ付審査官、審判官又ハ判事トシテ査定、審決又ハ判
  決ニ干與シタルトキ
  七審判官カ事件ニ付直接ノ利害關係ヲ有スルトキ
  第九十二條除斥ノ原因アルトキハ當事者又ハ參加人ハ除斥ノ申立ヲ爲ス
  コトヲ得
  第九十三條審判官ニ付審判ノ公正ヲ妨クヘキ事情アルトキハ當事者又ハ
  參加人ハ之ヲ忌避スルコトヲ得
  當事者又ハ參加人ハ事件ニ付申述ヲ爲シタル後ハ審判官ヲ忌避スルコト
  ヲ得ス但シ忌避ノ原因アルコトヲ知ラサリシトキ又ハ忌避ノ原因カ其ノ
  後ニ生シタルトキハ此ノ限ニ在ラス
  第九十四條前二條ニ規定スル申立ハ其ノ原因ヲ開示シテ書面ヲ以テ之ヲ
  爲スヘシ但シ口頭審理ニ於テハ口頭ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
  除斥又ハ忌避ノ原因ハ申立ヲ爲シタル日ヨリ三日以內ニ之ヲ疏明スヘシ
  前條第二項但書ノ事實亦同シ
  第九十五條除斥又ハ忌避ノ申立アリタルトキハ審判ニ依リ決定ヲ爲スヘ
  シ
  審判官ハ其ノ除斥又ハ忌避ニ付審判ニ干與スルコトヲ得ス但シ意見ヲ述
  フルコトヲ得
  第一項ノ規定ニ依ル決定ニハ理由ヲ附スヘシ
  第一項ノ規定ニ依ル決定ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ス
  第九十六條除斥又ハ忌避ノ申立アリタルトキハ其ノ申立ニ付テノ決定ア
  ル迄審判手續ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要スル行爲ニ付テハ此ノ限ニ在ラ
  ス
  第九十七條ノ二審判ニ於テハ通事ヲ用ヰルコトヲ得
  民事訴訟法第百三十四條ノ規定ハ通事ニ付之ヲ準用ス
  第九十九條第四項中「第九十五條第二項及第三項」ヲ「第九十五條第三項
  及第四項三段人
  第百條第三項但書ヲ左ノ如ク改ム
  但シ審判官ハ過料ノ決定ヲ爲シ、勾引ヲ命シ又ハ保證金ヲ供託セシムル
  コトヲ得ス
  第百九條但書ヲ左ノ如ク改ム
  但シ第百六條ノ規定ニ依リ補償金額ノ審決及第百十九條第一項ノ規定ニ
  依ル費用ノ審決ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
  第百十條中「第八十六條乃至第百八條」ヲ「第八十六條乃至第百一條及第百
  三條乃至第百八條」ニ、「第九十二條乃至第九十四條及第百一條」ヲ「第九十
  二條、第九十三條及第百一條」三尺人
  第百十條ノ二不適法ナル審判ノ請求ニシテ其ノ欠缺カ補正スルコト能ハ
  サルモノナル場合ニ於テハ被請求人ニ答辯書提出ノ機會ヲ與ヘスシテ抗
  告審判ノ審決ヲ以テ之ヲ却下スルコトヲ得
  第百十條ノ三抗告審判ノ請求ハ其ノ審理ノ終結ニ至ル迄之ヲ取下クルコ
  トヲ得
  第百十條ノ四抗告審判ヲ請求スル權利ハ其ノ審理ノ終結ニ至ル迄之ヲ抛
  棄スルコトヲ得
  抗告審判ヲ請求シタル後抗告審判請求權ヲ抛棄シタルトキハ抗告審判ノ
  請求ニ付テモ之ヲ取下ケタルモノト看做ス
  第百十一條ノ二審査又ハ審判ニ於テ爲シタル手續ハ抗告審判ニ於テモ其
  ノ效力ヲ有ス
  第百十二條ノ二査定又ハ審判ノ審決ノ手續カ法令ニ違反シタルトキハ抗
  告審判ノ審判官ハ其ノ査定又ハ審決ヲ破毀スヘシ
  第百十四條抗告審判ニ於テ査定又ハ審判ノ審決ヲ破毀スル場合ニ於テハ
  査定ニ對スル抗告審判ニ在リテハ更ニ審査ニ、審判ノ審決ニ對スル抗〓
  審判ニ在リテハ更ニ審判ニ付スヘシトノ審決ヲ爲スコトヲ得
  前項ノ規定ニ依ル審決アリタル場合ニ於テハ其ノ破毀ノ基本ト爲シタル
  理由ハ其ノ事件ニ付テハ審査官又ハ審判官ヲ覊束ス
  第百十五條第二項及第三項ヲ左ノ如ク改ム
  前項ノ規定ニ依ル出訴及其ノ裁判ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ
  外民事訴訟ノ上告及其ノ裁判ニ關スル規定ヲ準用ス
  大審院ノ判決ニ於テ審決又ハ査定ノ破毀ノ基本ト爲シタル理由ハ其ノ事
  件ニ付テハ特許局ヲ覊束ス
  第百十五條ノ二前條第二項ノ規定ニ依ル上告狀ハ大審院ニ之ヲ提出スヘ
  抗〓審判ノ審判官又ハ審判長ノ決定ニ對スル抗〓ハ大審院ニ之ヲ爲スヘ
  第百十九條審判、抗〓審判及出訴ニ關スル費用ノ負擔ハ職權ニ依リ別段
  ノ規定アル場合ヲ除クノ外其ノ事件ノ審決ヲ以テ之ヲ定ム此ノ場合ニ於
  テハ事情ニ依リ其ノ額モ亦之ヲ定ムルコトヲ得
  審決、判決又ハ決定ヲ以テ審判、抗告審判又ハ出訴ニ關スル費用ノ負擔
  ノミヲ定メタルトキハ其ノ額ハ請求ニ依リ特許局長官之ヲ決定ス
  費用ノ負擔及額ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  第百十九條ノ二審判又ハ抗告審判ニ於テハ費用ヲ要スル行爲ニ付其ノ費
  用ノ豫納ヲ命スルコトヲ得
  第百二十一條第一項中「確定審決又ハ判決ヲ以テ終結シタル事件ハ取消ノ
  請求又ハ原狀囘復ノ請求ニ依リ之ヲ再審スルコトヲ得」ヲ確定審決又ハ判
  決ニ對シテハ再審ノ請求ヲ以テ不服ヲ申立ツルコトヲ得」ニ改メ同條第二
  項ヲ左ノ如ク改ム
  民事訴訟法第四百二十條ノ規定ハ再審ノ請求ニ付之ヲ準用ス
  第百二十二條ニ左ノ二項ヲ加フ
  不服ノ理由カ審決確定シ又ハ判決アリタル後ニ生シタルトキハ前項ニ規
  定スル期間ハ其ノ理由發生シタル日ノ翌日ヨリ之ヲ起算ス
  第一項及第四項ノ規定ハ不服ノ申立アル審決又ハ判決カ前ニ爲サレタル
  確定審決又バ判決ト牴觸スルコトヲ理由トスル再審ノ請求ニ付之ヲ適用
  セス
  第百二十四條中「民事訴訟法第四百六十七條第二項、第四百七十一條、第
  四百七十二條第一項第二項及第四百七十五條乃至第四百八十二條」ヲ「民事
  訴訟法第四百二十一條、第四百二十二條及第四百二十六條乃至第四百二十
  八條」二五六
  第百二十八條中「原狀囘復ノ請求ニ依ル」ヲ削ル
  第百三十二條中「證人若ハ鑑定人又ハ通事」ヲ「證人、鑑定人又ハ通事」ニ
  改ム
  第百三十三條ノ二本法ニ於テ準用スル民事訴訟法第二百六十七條第二項
  又ハ第三百三十六條ノ規定ニ依リ宣誓ヲ爲シタル者カ特許局ニ對シ虛僞
  ノ陳述ヲ爲シタルトキハ五百圓以下ノ過料ニ處ス
  第百三十四條第一項中「五十圓」ヲ「五百圓ニ改メ同條第二項ヲ削ル
  第百三十四條ノ二特許局ヨリ證據調ニ關シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ
  提示ヲ命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ其ノ命ニ從ハサルトキハ五百
  圓以下ノ過料ニ處ス
  第百三十四條ノ三非訟事件手續法第二百六條乃至二百八條ノ規定ハ前三
  條ノ過料ニ付之ヲ準用ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生
  シタル效力ヲ妨ケス
  第十七條ノ二ノ改正規定ハ本法施行前同條ニ揭クル事由ヲ生シタル委任代
  理ニシテ本法施行前代理權消滅ノ登錄ヲ受ケサリシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲
  ササリシモノニモ之ヲ適用ス
  本法施行前抗〓事件ニ付決定ヲ受ケタル者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗〓
  ヲ爲スコトヲ得
  本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシテ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付
  テハ其ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
  本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處スヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法
  施行ノ際未タ其ノ裁判ヲ受ケサルモノハ本法ニ於テ過料ニ處スヘキ場合ニ
  限リ本法ニ依リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過料ノ額ヲ超ユルコト
  ヲ得ス
  實用新案法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  實用新案法中改正法律案
  實用新案法中左ノ通改正ス
  第二十五條但書ヲ左ノ如ク改ム
  但シ前條ノ規定ニ依ル補償金額ノ審決及第二十六條ノ規定ニ依リ準用ス
  ル特許法第百十九條第一項ノ規定ニ依ル費用ノ審決ニ付テハ此ノ限ニ在
  ラス
  第三十條中「證人若ハ鑑定人又ハ通事」ヲ「證人、鑑定人又ハ通事」ニ改ム
  第三十一條ノ二第二十六條ノ規定ニ依リ準用スル民事訴訟法第一一百六十
  七條第二項又ハ第三百三十六條ノ規定ニ依リ宣誓ヲ爲シタル者カ特許局
  ニ對シ虛僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ五百圓以下ノ過料ニ處ス
  第三十二條第一項中「五十圓」ヲ「五百圓」ニ改メ同條第二項ヲ削ル
  第三十二條ノ二特許局ヨリ證據調ニ關シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ提
  示ヲ命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ其ノ命ニ從ハサルトキハ五百圓
  以下ノ過料ニ處ス
  第三十二條ノ三非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前三
  條ノ過料ニ付之ヲ準用ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生
  シタル效力ヲ妨ケス
  第二十六條ノ規定ニ依リ準用スル特許法第十七條ノ二ノ改正規定ハ本法施
  行前同條ニ揭クル事由ヲ生シタル委任代理ニシテ本法施行前代理權消滅ノ
  登錄ヲ受ケサリシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲ササリシモノニモ之ヲ適用ス
  本法施行前抗〓事件ニ付決定ヲ受ケタル者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗〓
  ヲ爲スコトヲ得
  本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシテ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付
  テハ其ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
  本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處スヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法
  施行ノ際未ダ其ノ裁判ヲ受ケサルモノハ本法ニ於テ過料ニ處スヘキ場合ニ
  限リ本法ニ依リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過料ノ額ヲ超ユルコト
  ヲ得ス
  意匠法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  意匠法中改正法律案
  意匠法中左ノ通改正ス
  第二十四條但書ヲ左ノ如ク改ム
  但シ前條ノ規定ニ依ル補償金額ノ審決及第二十五條ノ規定ニ依リ準用ス
  ル特許法第百十九條第一項ノ規定ニ依ル費用ノ審決ニ付テハ此ノ限ニ在
  ラス
  第二十五條中「第百十條乃至第百十二條」ヲ「第百十條乃至第百十二條ノ二」
  三人人
  第二十九條中「證人若ハ鑑定人又ハ通事」ヲ「證人、鑑定人又ハ通事」ニ改ム
  第三十條ノ二第二十五條ノ規定ニ依リ準用スル民事訴訟法第一一百六十七
  條第二項又ハ第三百三十六條ノ規定ニ依リ宣誓ヲ爲シタル者カ特許局ニ
  對シ虛僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ五百圓以下ノ過料ニ處ス
  第三十一條第一項中「五十圓」ヲ「五百圓」ニ改メ同條第二項ヲ削ル
  第三十一條ノ二特許局ヨリ證據調ニ關シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ提
  示ヲ命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ其ノ命ニ從ハサルトキハ五百圓
  以下ノ過料ニ處ス
  第三十一條ノ三非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前三
  條ノ過料ニ付之ヲ準用ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生
  シタル效力ヲ妨ケス
  第二十五條ノ規定ニ依リ準用スル特許法第十七條ノ二ノ改正規定ハ本法施
  行前同條ニ揭クル事由ヲ生シタル委任代理ニシテ本法施行前代理權消滅ノ
  登錄ヲ受ケサリシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲ササリシモノニモ之ヲ適用ス
  本法施行前抗告事件ニ付決定ヲ受ケタル者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗〓
  ヲ爲スコトヲ得
  本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシテ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付
  テハ其ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
  本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處スヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法
  施行ノ際未タ其ノ裁判ヲ受ケサルモノハ本法ニ於テ過料ニ處スヘキ場合ニ
  限リ本法ニ依リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過料ノ額ヲ超ユルコト
  ヲ得ス
  商標法中改正法律案
  右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  商標法中改正法律案
  商標法中左ノ通改正ス
  第二十四條中「第百九條乃至第百十五條」ヲ「第百九條乃至第百十五條ノ二」
  ご飯人
  第三十六條中「證人若ハ鑑定人又ハ通事」ヲ「證人、鑑定人又ハ通事」ニ改ム
  第三十六條ノ二第二十四條ノ規定ニ依リ準用スル民事訴訟法第二百六十
  七條第二項又ハ第三百三十六條ノ規定ニ依リ宣誓ヲ爲シタル者カ特許局
  ニ對シ虛僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ五百圓以下ノ過料ニ處ス
  第三十七條第一項中「五十圓」ヲ「五百圓」ニ改メ同條第二項ヲ削ル
  第三十七條ノ二特許局ヨリ證據調ニ關シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ提
  示ヲ命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ其ノ命ニ從ハサルトキハ五百圓
  以下ノ過料ニ處ス
  第三十七條ノ三非訟事件手續法第二百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前三
  條ノ過料ニ付之ヲ準用ス
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生
  シタル效力ヲ妨ケス
  第二十四條ノ規定ニ依リ準用スル特許法第十七條ノ二ノ改正規定ハ本法施
  行前同條ニ揭クル事由ヲ生シタル委任代理ニシテ本法施行前代理權消滅ノ
  登錄ヲ受ケサリシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲ササリシモノニモ之ヲ適用ス
  本法施行前抗〓事件ニ付決定ヲ受ケタル者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗〓
  ヲ爲スコトヲ得
  本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシテ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付
  テハ其ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
  本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處スヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法
  施行ノ際未タ其ノ裁判ヲ受ケサルモノハ本法ニ於テ過料ニ處スヘキ場合ニ
  限リ本法ニ依リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過料ノ額ヲ超ユルコト
  ヲ得ス
  〔國務大臣中橋德五郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=74

  ---

• 075・中橋徳五郎

  ○國務大臣(中橋德五郞君)　只今議題ニナリマシタ第六、特許法中改正法律
  案、第七、實用新案法中改正法律案、第八、意匠法中改正法律案、第九、商
  標法中改正法律案、此法律ヲ改廢イタシタイト思フノデ衆議院ヘ先日提出イ
  タシマシテ廻付ニナリマシタ、其要旨ハ確カ五十一議會ト思ヒマスルガ、民
  事訴訟法ノ改正ガ出來マシテ、是ガ昭和四年度ヨリ實施ニナルト云フコトニ
  ナッテ居リマス、此特許法外三件ノ法律ハ其手續ニ於テ多ク民事訴訟法ヲ準用
  シテ制定ニナッテ居ルコトハ御承知ノ通リデアリマス、元ノ民事訴訟法ノ改正
  ガ出來タノデアリマスカラ、從テ是等ノ法律ノ改正ヲ要スル、斯ウ云フノガ
  大體デアリマス、尙ホ其他ニ於テモ多少ノ改正ヲ致シタ點ガアリマスケレド
  モ、主要ナ點ハサウ云フ譯デアリマスノデ、ドウゾ御審議ノ上ニ御協賛ヲ御
  與ヘニナルヤウニ御願ヒ致シマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=75

  ---

• 076・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
  「瀬古書記官朗讀〕
  特許法中改正法律案外三件特別委員
  侯爵四條隆愛君子爵東園基光君子爵西尾忠方君
  富谷 姓太郞君內田重成君男爵有地藤三郞君
  尾崎元次郞君藤原銀次郞君長尾元太郞君
  南小寺木한

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=76

  ---

• 077・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　日程第十
  勞働者災害扶助法案
  右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
  候也
  昭和四年三月十五日
  衆議院議長川原茂輔
  貴族院議長公爵德川家達殿
  (小字及-ハ衆議院修正)
  勞働者災害扶助法案
  勞働者災害扶助法
  第一條本法ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル事業ニ之ヲ適用ス但シ工場法ノ適
  用ヲ受クル工場ニ於ケル事業及鑛業法ノ適用ヲ受クル事業ヲ除ク
  -常時十人以上ノ勞働者ヲ使用スル砂鑛業、石切業其ノ他土石ノ採掘
  又ハ採取ノ事業
  二土木工事又ハ工作物ノ建設、保存、修理、變更若ハ破壞ノ工事ニシ
  テ左ノ一ニ該當スルモノ
  (4)土木工事又ハ工作物ノ建設、保存、修理、變更若ハ破壞ノ工事
  ヲ爲スヲ業トスル者ノ爲ス工事ニシテ其ノ費用勅令ヲ以テ定ムル金
  額以上ノモノ
  ( )鐵道若ハ軌道ノ事業又ハ水道、電氣若ハ瓦斯ノ事業ヲ行フ者ガ
  其ノ事業ノ爲ニ爲ス直營工事
  (··)國、北海道府縣、市町村其ノ他勅令ヲ以テ指定スル公共團體ノ
  爲ス直營工事
  三鐵道又ハ軌道ノ事業、乘合自動車ニ依ル運送ノ事業其ノ他勅令ヲ以
  テ指定スル運送ノ事業ニシテ常時十人以上ノ勞働者ヲ使用スルモノ
  四船舶ヨリ又ハ船舶ヘノ貨物ノ積卸ノ事業、停車場、倉庫業者ノ倉庫
  又ハ保稅地域ニ於ケル貨物ノ取扱ノ事業其ノ他勅令ヲ以テ指定ス·ル貨
  物ノ取扱ノ事業ニシテ常時十人以上ノ勞働者ヲ使用スルモノ
  第二條事業者ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ勞働者ガ業務上負傷シ、疾病ニ罹
  リ又ハ死亡シタル場合ニ於テ本人又ハ其ノ遺族若ハ本人ノ死亡當時其ノ
  收入ニ依リ生計ヲ維持シタル者ヲ扶助スベシ
  前項ノ事業者トハ勞働者ヲ使用シテ事業ヲ爲ス者ヲ謂フ但シ事業ノ全部
  又ハ一部ガ數次ノ請負ニ依リ爲サルル場合ニ於テハ各請負人ハ其ノ請負
  ヒタル事業ニ付之ヲ事業者トス
  前項但書ノ場合ニ於テハ各事業者ハ其ノ請負ヒタル事業ノ勞働者ニ付連
  帶シテ扶助ノ義務ヲ負擔スベシ
  第三條前二條ノ勞働者ノ範圍ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  第四條勅令ノ定ル所ニ依リ事業者ハ第二條ノ規定ニ依ル扶助義務ニ付保險契約ヲ締結スヘシ
  事業者保險業法ノ定ムル所ニ依リ傷害保險ヲ目的トスル相互會社ヲ設立シ又ハ之ニ加入シタル
  トキハ前項ノ義務ヲ履行シタルモノトス
  事業者第二條ノ規定ニ依ル扶助ニ相當スル給付ヲ爲スコトヲ目的トスル共濟組合ヲ設立シタル
  トキハ行政官廳ノ許可ヲ受ケ第一項ノ規定ニ依ラザルコトヲ得
  五
  電壓線行政官廳必要アリト認ムルトキハ當該官吏ヲシテ事業ノ行ハルル
  場所ニ臨檢セシムルコトヲ得
  六ズ又ハ第四條第一項ノ規定ニ違反シタル
  (鬼頭)事業者故ナク扶助ノ義務ヲ履行セザルトキハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
  七
  營 縦正當ノ理由ナクシテ當該官吏ノ臨檢ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ又ハ
  其ノ尋問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ虛僞ノ陳述ヲ爲シタル者ハ五百圓以下
  ノ罰金ニ處ス
  八
  (原作)事業者營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有セザル未成年者若ハ禁
  治產者ナル場合又ハ法人ナル場合ニ於テハ事業者ニ適用スベキ罰則ハ其
  ノ法定代理人又ハ法令ノ規定ニ依リ法人ヲ代表スル者ニ之ヲ適用ス
  九
  医療事業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者
  ニシテ本法ニ違反スル所爲ヲ爲シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザルノ故
  ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
  十
  節 淼本法中事業者ニ關スル罰則ハ國、北海道府縣、市町村其ノ他勅令
  ヲ以テ指定スル公共團體ニ之ヲ適用セズ
  附則
  本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
  〔國務大臣望月圭介君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=77

  ---

• 078・望月圭介

  ○國務大臣(望月圭介君)　勞働者災害扶助法案提出理由ヲ申述ベマス、現在
  我國ニ於キマシテハ勞働者ニシテ業務上負傷ヲシ、疾病ニ罹リ、又ハ死亡シ
  タル場合ニ於テ法規ニ依ッテ扶助ヲ受ケ得ルモノハ工場法ノ適用ヲ受クル工
  場ノ職工及鑛山ノ工夫ニ限ラレテ居リマシテ、其他ノ事業ニ於ケル勞働者ニ
  付テハ未ダ何等ノ保護ノ規定モゴザイマセヌ、然ルニ工場鑛山以外ニ於キマ
  シテモ、土石採取、土木建築、交通運輸、貨物積卸シ等ノ事業ハ其業務ノ性質
  ガ甚ダ危險デアリマシテ、殊ニ近時機械力ヲ使用スルコトノ多キニ從ヒマシ
  テ、業務上ノ危險ハ益增增スルノ實況デアリマス、就キマシテハ此際是等事
  業ニ於ケル勞働者ノ業務上ノ負傷疾病ニ對スル扶助ノ規定ヲ定メ、以テ勞働
  者ノ生活ノ不安ヲ除クト共ニ、速ニ其傷痍ヲ治療シテ生產力ノ保全ヲ圖ルコ
  トガ是等事業ノ堅實ナル發達ヲ期スル上ニ於テ最モ緊要ナルコトデアルノデ
  アリマス、是ガ本法案ヲ提出シタ所以デアリマス、尙ホ本案ニ對シテハ衆議
  院ニ於テ修正ヲ見タノデアリマスガ、其修正ノ趣旨トスル所ハ、扶助ノ履行
  ヲ確保スル爲ニ、事業者ニ對シマシテ扶助義務ヲ保險ニ付スベキコトヲ命ズ
  ルニアルノデアリマス、本修正案ノ趣旨ハ適當デアルト信ジマシテ政府ハ之
  ニ同意ヲ與ヘマシタ次第デアリマス、何卒御審議ヲ御願ヒ申上ゲマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=78

  ---

• 079・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　本法案ニハ兩君ノ御質疑ノ通〓ガゴザイマスカ
  ラ、通告順ニ依リマシテ順次發言ヲ許シマス
  松本勝太郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=79

  ---

• 080・松本勝太郎

  ○松本勝太郞君　本案ニ付キマシテ二三ノ質疑ヲ試ミタイト思フノデアリマ
  スガ、本案ヲ審議シマスル上ニ於キマシテ重大ナル關係ヲ有スル事柄ニ付キ
  マシテ、一應御尋申シテ置キタイト思フノデアリマス、本案ノ如キハ固ヨリ
  必要デアルコトハ勿論ノ事デアリマスルガ、政府ハ更ニ重大ナル問題トシテ、
  防貧乃至救貧政策トシテ、現社會ニ最モ必要デアリ且ツ急務デアル所ノ國家
  ガ管理スル失業保險ノ如キ、保險案ヲ御立テニナル御意思ハナイカドウカト
  云フコトヲ先ヅ一應確メテ置キタイノデアリマス、尙ホ本案ニ付キマシテモ
  眞ニ勞働者ヲ扶助救濟セントスルニハ、國家ガ管理スル所ノ國營保險ニ依ラ
  ズンバ到底其目的ヲ達スルコトハ出來ナイト思フノデアリマス、衆議院ニ於
  キマシテモ政府當局ノ御答辯中ニ、將來國營ト爲サザレバナルマイト云フ御
  意見ガアッタカノヤウニ承ルノデアリマス、果シテ其御考ガ政府ニ於テアルノ
  デアルカドウカト云フコトヲ、併セテ此機會ニ伺ッテ置キタイノデアリマス、
  次ニ本案ハ全國百五十万ト稱ヘラレマスル所ノ所謂自由勞働者ノ災害ニ際シ
  マシテ、之ヲ扶助救濟セムトスル極メテ有意義ナ而モ重要ナル法案デアリマ
  ス、然ルニモ拘ラズ其案ノ內容ヲ見マスルニ、實施ニ臨ンデ實行ノ伴ハナイ
  點ノ多イコトヲ甚ダ遺憾トスルノデアリマス、現ニ本案ハ衆議院ニ於テハ野
  黨ハ勿論與黨タル政友會ノ諸君スラモ、本案ハ實行不可能ナリトテ之ニ修正
  ヲ加ヘラレテ居ルノヲ見マシテモ、本案ガ如何ニ杜撰ナモノデアッタカト云
  フコトヲ證據立テラレテ居ルノデアリマス、尙又修正セラレタル所ノ案其モ
  ノニ付テ見マシテモ實施ニ臨ンデ幾多ノ缺陷ガアリ、從テ實行不能デアルト
  云フコトヲ思ハザルヲ得ナイノデアリマス、衆議院ニ於ケル修正ヲ見マスル
  ニ原案ノ第二條ハ實施ニ臨ンデ實行不能ナリトシ第四條ノ一筒條ヲ加ヘラレ
  テ居ルノデアリマス、政府ハ此修正案ハ實施ニ臨ンデ果シテ支障ナキモノト
  御認メニナッテ居リマスカ、此邊ヲ承ッテ置キタイト思フノデアリマス、更ニ
  又玆ニ併セテ御尋ネ致シタイト思ヒマスノハ、曩ニ此法案ガ立案サレマスル
  頃カラ直接關係ノアル事業者ハ、其趣旨ニ付キマシテハ雙手ヲ擧ゲテ贊同イ
  タシテ居ルノデアリマス、唯事業者ノ方デハ之ヲ國營業務災害保險法ナルモ
  ノヲ提唱シテ居ッタト聞クノデアリマス、而モ其保險料ハ全額ヲ事業者ガ負
  擔ヲシテ、毫末モ國家ヤ勞働者ニ負擔セシメザルヤウニ陳情シタト云フコト
  ヲ聞イテ居ルノデアリマス、之ヲ以テ見マシテモ事業者ガ何等其負擔ヲ忌避
  シテ居ナイト云フコトハ明カデアリマス、然ルニモ拘ラズ當局ハ之ニ一顧モ
  與ヘズシテ、實際ニ疎イ斯ノ如キ法案ヲ提出サレタト云フコトヲ聞イテ居
  ルノデアリマス、ソンナ事實ガ果シテ有ッタノデアルカドウカト云フコトヲ
  承ッテ置キタイト思フノデアリマス
  〔副議長候爵蜂須賀正韶君議長席ニ著ク〕
  又此法案ノ實行細則ニ至リマシテハ何レモ勅令ニ讓ッテアルヤウデアリマス、
  勞働者ガ災害ヲ被ッタ場合ノ保障程度ハ如何ナルモノデアリマスルカ、此保障
  程度ハ本案ヲ審議シマスル上ニ於テ、重大ナル關係ヲ有シテ居リマスルガ故
  ニ玆ニ具體的ニ承ッテ置キタイノデアリマス、尙ホ本案ガ假ニ可決セラレタト
  シマシテ、政府ハ之ヲ何時頃カラ實施サレル御考デアリマスルカ、是モ併セ
  テ御尋シテ置キタイノデアリマス、以上ノ點ニ付テ内務當局ノ御答辯ヲ得タ
  イト思ヒマス
  〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=80

  ---

• 081・長岡隆一郎

  ○政府委員(長岡隆一郞君)　只今ノ御質問ノ第一點ハ政府ニ於キマシテハ近
  ク失業保險ヲ實施スルノ意思アルヤ否ヤト云フ御質問デゴザイマスガ、失業
  保險ノ實施ニ付キマシテハ幾多考慮スベキ問題ガ殘ッテ居ルト考ヘテ居リマ
  ス、此失業保險實施ニ付キマシテハ、外國ニ於テモ可ナリ苦イ經驗ヲ嘗メテ居
  ルノデアリマシテ、所謂勞働者ガ自己ノ勤勞ニ依ッテ自己ノ位置ヲ向上發展サ
  セタイト云フヤウナ慣習ノアル所デハ十分ノ成績ヲ擧ゲテ居ルノデアリマス
  ケレドモ、施行ノ方法其宜シキヲ得ザル場合ハ動モスレバ惰民ヲ養成スル嫌
  ヒガアリマスルガ故ニ、失業保險實施ニ付テハ此勞働者ノ素質等ニ付テ、餘
  程考慮ヲ致サナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、殊ニ我國ニ於テハ特殊ノ事
  情カラ工場勞働者ノ如キハ其六割ハ女子ガ占メテ居ルノデアリマス、男子ハ
  四割内外ニ過ギマセヌ、此女子ハ大部分ハ其結婚前ニ數年、短キモノハ二三
  年、長キモ五六年、結婚前ニ此工場ニ行ッテ働キマスノデ、其期間ヲ過ギマス
  レバ農村ニ歸リマシテ多クハ農家ノ嫁ニナルト云フ狀況デゴザイマスルカ
  ラ、此狀況バ失業ト申スコトハ出來ナイト云フコトハ申ス迄モナイノデアリ
  PV,若シ男女一律ニ失業保險料ヲ取リマスレバ、動モスレバ女子ノ掛ケマ
  シタ失業保險ノ料金ガ男子ニ流レ行クト云フ結果ニナリマシテ全部ニ對シテ
  一齊ニ失業保險ヲ行フト云フコトハ考慮ヲ要スルコトト考ヘテ居リマス、又
  第三ニハ我國ニ於テハ職業紹介所ト云フモノガ外國ノ如ク普及イタシテ居リ
  マセヌカラ、現時ノ狀況ニ於テ失業保險ヲ實施スルト云フコトハ事實上甚ダ
  困難ナコトト考ヘテ居リマス、尙又我國ニ於テハ失業ニ關スル統計ガ未ダ出
  來テ居リマセヌノデ、近キ將來ニ於テ失業保險ヲ實施スルト云フコトハ困難
  デアルカト考ヘテ居リマス、第二ノ御質問ハ勞働者災害扶助ニ關シテ國營保
  險ヲ實施スルノ意思アルヤ否ヤ、之ニ關シテ當業者ガ屢、當局ニ陳情イタシ
  タケレドモ、ソレニ對シテ餘リ耳ヲ傾ケズシテ、斯ノ如キ法律ヲ提出シタト
  云フヤウナコトガアルカドウカト云フコトデゴザイマスガ、成程、之ニ對シ
  マシテハ、御示シノ通リ再々當業者ヨリ國營保險ト云フヤウナ陳情ヲ承ッテ
  居リマス、併ナガラ現在ノ土木建築等ノ事業ニ於テハ大體請負制度ニ依ッテ
  居ルノデアリマシテ此請負契約ハ競爭入札ノ結果、大體最低價額ニ入札イタ
  シタ者ニ落札スルト云フコトガ現時ノ日本ノ狀況デアリマス、此勞働者ノ災
  害ヲ豫防イタスト云フコトノ施設ノ望マシイコトハ是ハ申ス迄モゴザイマセ
  又カ、直ニ國營保險ヲ實施イタシタナラバ、勞働者ノ災害豫防ニ對スル施設
  ニ十分ニ金ヲ掛ケレバ請負業者ハ其結果請負金額ガ多額ニ上ボリマシテ、
  工事ノ入札ガ取レマセヌノデ、結局此災害豫防ト云フコトニ付キマシテハ金
  ヲ餘リカケズ、勞働者ヲ虐待ト申シマシテハ語弊ガゴザイマスルガ餘リ災害
  豫防ニ金ヲ使ハナイ所ノ請負業者ガ仕事ヲ澤山取ル、而シテ之ニ依ッテ勞働
  者ニ災害ガ起リマスレバ、國家カラ其金ヲ支拂フ、結局善良ト申シマスルカ、
  災害豫防ニ付テ最モ心ヲ用ヒ、金ヲ使フ所ノ請負業者ガ仕事ガ取レズシテ、
  之ニ對シテ意ヲ用ヒザル者ガ安イ請負金額デ以テ工事ヲ請負ヒ、其出來タ災
  害ニ付テハ國家ガ金ヲ支拂フト云フコトデゴザイマスルト、現在ノ狀況デハ
  勞働者ノ災害ニ付テ之ヲ豫防イタシ、又之ヲ未然ニ防止スルト云フ施設ニ付
  テ間〓缺ケル所ガアルト云フコトヲ憂ヒマシテ、現在ニ於テ國營保險ヲ實施
  イタスト云フ意思ハゴザイマセヌ、併ナガラ工場法ニ於キマシテモ、又鑛業
  法ニ於キマシテモ、大體此災害ニ付キマシテ事業主ニ相當ノ責任ヲ負ハシマ
  シテ、ソレニ付テ災害防止ニ付テ相當ノ習慣モ出來、施行ニ慣レタ後ニ至リ
  マシテ、御承知ノ通リ相當ノ年月ヲ經テ、工場法及鑛業法ニ於ケル事業主ノ
  責任ノ一部ヲ健康保險法ニ移シタト云フヤウナ經驗モ有ッテ居ルノデゴザイ
  マスカラ、此勞働者災害扶助ニ關スル法制ヲ施行イタシマシテ、相當ノ年月
  ヲ經テ稍〓經驗ヲ得マシタナラバ、政府ハ之ヲ國營保險ニ移スト云フ意思ハ
  有ッテ居リマス、意思ハ有ッテ居リマスガ、現在ノ狀況ニ於テハ國營保險ニ移
  スト云フ意思ハ有ッテ居リマセヌ、第三ノ御質問ハ、之ニ付テ實施上ノ色〓ナ
  困難ヲ伴フノデナイカ、殊ニ衆議院ニ於テ之ニ付テ修正ヲ加ヘラレタ結果、
  尙更實施上ノ困難ヲ增シタノデナイカト云フ御懸念デゴザイマシタガ、足.
  實施上ノ困難ニ付テハ色〓ゴザイマセウガ、併ナガラ之ニ付キマシテハ此困
  難ヲ相當除去イタシマシテ、之ヲ圓滿ニ施行スルト云ウ政府ハ確信ヲ有ッテ
  居リマス、第四ノ御質問ハ扶助ノ金額ニ付テ勅令ニ讓ッテアルガ、是ハドウ云
  フヤウナ內容ヲ有ッテ居ルカト云フ御質問デアリマシタガ、是ハ大體現行ノ
  工場法及鑛業法ニ基キマスル鑛夫勞役扶助規則ニアリマスル扶助ノ金額ヲ標
  準ト致シマシテ、大體之ニ依ル積リデゴザイマス、最後ノ御質問ノ本法ノ施
  行期日ハ何時頃デアルカト云フ御質問デアリマスガ、是ハ此際確ニ言明申上
  ゲルコトハ困難デゴザイマスガ、幸ニシテ本案ガ貴衆兩院ノ御協賛ヲ得マス
  ルナラバ、本年末頃マデニハ施行イタスコトニナル運ビニ至ルト考ヘテ居リ
  マス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=81

  ---

• 082・松本勝太郎

  ○松本勝太郞君　自席カラ御許シヲ願ヒマス······只今ノ政府委員ノ御答辯ニ
  依リマスト、原案ハ勿論、衆議院ノ修正案モ實行上何等支障ガナイト云フ御
  意見ノヤウニ拜聽スルノデアリマス、併シ此場合トシテ勿論意見ヲ鬪ハス譯
  ニモ參リマセヌガ、併シ原案第二條ハ實際ニ於テ實行ニ臨ンデ不可能ナモノ
  デアルト云フコトハ、既ニ衆議院デモ言ヒ盡サレテ居ルヤウデアリマス、玆
  ニ於テ我〓カラ見マスレバ、已ムナク玆ニ至ラシタモノデアラウト思ヒマス
  ルガ、一議員カラ修正案ガ提出サレマシテ、第四條ナルモノガ一號加ヘラレ
  テ居ルノデアリマス、其四條ナルモノガ、保險制度ト云フコトニナッテ居リ
  マシテ、名前ハ宜イヤウデアリマスケレドモ、是ガ中〓實施ニ臨ンデ不可能
  ナコトガ數〓アルノデアリマス、先ヅ一ツノ例ヲ擧ゲテ見マスルト、相互保
  險ニ依ルコトニナッテ居ルヤウデアリマス、又相互保險ノ都合ノ惡イ場合ニハ
  四條ノ三項ニ於テ共濟組合ヲ設立スルト云フヤウナ便法モ設ケラレテ居ルノ
  デアリマス
  〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
  併ナガラ屋内ノ勞働者トハ違ヒマシテ、屋外勞働者ヲ使役イタシマスルノハ、
  津〓浦〓山間僻地ニ到ル所デ使役サレマス、而モ其使役サレル所ノ自由勞働
  者ガ多數ノ集團ヲ成シテ居ルト云フヤウナ場合ニハ、或ハ保險會社モ利用シ、
  或ハ共濟組合ノ如キモ設置スルト云フヤウナ便法モ出來ル譯デアリマスケレ
  ドモ、臨時的ニ、而モ少數ナモノヲ全國ニ亙ッテサウ云フ少數ナ所謂〓體、臨
  時的ノ仕事ヲシマスルモノハ、屋外ノ勞働ダケニ山間僻地津〓浦〓マデモ行
  亙ッテ居ルノデアリマス、使用場所モ多イノデアリマス、斯カル場合ニ保險ニ
  依ルコトモ出來ナイ、又共濟組合ヲ臨時ニ設ケルト云フダケノ職業デモナイ
  ト云フ程度ノモノガ只今申シマスル通リ澤山アルノデアリマス、其場合ニハ
  ドウシテ是等ノ不便ヲ補ッテ行ケルカト云フコトニ付テ、我〓共ハ甚ダソレ
  ガ實行ニ困難、殆ド不可能デハナイカト思フノデアリマス、此點ヲ尙ホ押シ
  テ當局カラ御答ヲ得タイト思ヒマス、ドウ云フ御考ヲ御有チニナッテ居リマ
  スカ、重ネテ御伺ヒ致シマス
  〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=82

  ---

• 083・長岡隆一郎

  ○政府委員(長岡隆一郞君)　重ネテ御答ヲ申上ゲマスルガ、衆議院ノ修正ノ
  結果實施ニ相當ノ困難ヲ生ズルト云フコトハ先程申上ゲマシタケレドモ、此
  困難ト云フモノハ相當之ヲ解決イタシマシテ、圓滿ニ施行シ得ルト云フ確信
  ヲ有ッテ居ル次第デゴザイマスルガ、御質問ノ中ニアリマシタ修正案ノ中ニ勅
  令ノ定ムル處ニ依テ保險ニ附スベシト云フコトニ付キマシテハ、只今御質問
  ノ中ニ相互保險ニ依ルコトニナッテ居ルト云フ御趣旨ノヤウニ承リマシタガ、
  是ハ法案ニゴザイマスルヤウニ、團體保險ニ付シテ、民間ノ營利會社ニ保險
  契約ヲ結ンデモ宜ケレバ、又當業者間ノ相互保險ニ依ッテモ宜ケレバ、又共濟
  組合ニ依ッテモ宜イト云フヤウナ、色〓ナ途ヲ開ケテアルノデゴザイマス、只
  今御示シノ地方々々ニ種々ノ工事ガ行ハレテ居ル、之ヲ全部保險契約ヲ結ブ
  コトハ困難デハナイカト云フヤウナ御趣旨デゴザイマシタガ、此修正案ニハ
  勅令ノ定ムル處ニ依リト云フ、斯ウ云フ文字ガ書加ヘテアルノデアリマシテ、
  全部悉ク〓體保險ニ付スベシ、相互保險ニ付スベシトカ、若クハ共濟組合ニ
  依ルベシト云フ趣旨デハゴザイマセヌ、是ハ御承知ノ通リ地方的ノ小サイ請
  負工事ニ付キマシテハ本法ニ豫想シテ居ルヤウナ死者トカ、重大ナ負傷者ト
  云フヤウナ者ハ殆ド起ラヌノデアリマス、是ハ過去ノ經驗ニ依リマシテモ、
  地方ノ災害復舊ノ小サイ土木工事ニ從事スルト云フヤウナ者ハ死者ヲ生ズル
  トカ、不具者ヲ生ズルトカ云フヤウナコトハ殆ドナイノデアリマシテ、是等
  ハ何レモ大キナ「ビルデイング」ヲ造ルトカ、「トンネル」工事ヲ致ストカ、大
  キナ工事ニ對シテ死者若クハ不具者ガ出來ルノデアリマシテ、斯カル地方的
  ノ堤防ノ小破修繕ヲ致ストカ、下水ノ修繕ヲイタシマストカ云フヤウナ地方
  的ノ小工事ニ、斯カル死者不具者等ヲ生ズルコトハ殆ド無イノデゴザイマス
  ルカラ、是等ノコトニ付キマシテ、勅令ニハ全部保險ニ付スルト云フ意思デ
  ハゴザイマセヌ、要スルニ支拂ノ點ニ於テ此勞働者ノ權利ヲ確保イタシマス
  ル爲ニ、此場合ニ於テ勅令ノ定ムル所ニ依リマシテ、保險ニ付スルコトヲ命
  ジタイ、併ナガラ是ニハ先程申上ゲマシタヤウニ例外ガアッテ共濟組合ニ依ツ
  テモ宜イ、又相互保險ニ依ッテモ宜イト色〓ノ例外ヲ開イテ居ルノデゴザイ
  マスカラ、只今御示ノヤウニ總テノ土木工事總テノ建築工事ニ於テ、悉ク〓
  體保險ヲ結ブベシト云フヤウナ規定ヲ勅令ニ設ケル意思デハゴザイマセヌ、
  之ニ依ッテ御了解ヲ願ヒマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=83

  ---

• 084・松本勝太郎

  ○松本勝太郞君　只今ノ御答辯ニ依リマスルト、修正案ハ所謂衆議院ニ於ケ
  ル修正案ナルモノハ、政府ニ於テハ十分御賛成ニナッテ居ナカッタノデアリマ
  セウカ、其點ヲ尙ホ確メテ置キタイト思ヒマス
  〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=84

  ---

• 085・長岡隆一郎

  ○政府委員(長岡隆一郞君)　衆議院ノ修正案ニ對シマシテ先程提案ノ趣旨ヲ
  申上ゲマス際ニ、内務大臣ヨリ御說明イタシタル如ク政府ハ贊成ヲ致シテ居
  リマス、唯先程私ノ申上ゲマシタノハ政府原案ニ比シテ實施上稍〓困難ガ伴
  フト云フコトヲ覺悟シナケレバナラヌ、此困難ハ實施ヲ全然不可能ニナラシ
  メルノデナク、非常ニ困難ヲ伴フモノデナクシテ、十分解決シ得ル自信ヲ有ッ
  テ、寧ロ贊成シ得ル所ノ修正案デゴザイマスルカラ、政府ハ之ヲ贊成シタ、
  斯ウ云フ趣旨デアリマス、無論政府原案ヲ提出イタシマシタ以上、政府原案
  其モノガ最善ノモノト信ジテ居リマスケレドモ、政府ハ本案ノ成立ヲ熱心ニ
  希望イタシマス結果、周圍ノ事情ニ鑑ミマシテ、衆議院ノ修正案ニ對シ實施
  上實際困難ガ伴フケレドモ、是ニ依ッテ遂行シ得ル確信ヲ有ッテ居リマスルガ
  故ニ、贊成イタシタ次第デアリマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=85

  ---

• 086・松本勝太郎

  ○松本勝太郞君　御許シガアリマセヌカ······是レ以上ハ追究スルコトヲ要シ
  マセヌ、勞働者ノ事情ニ於テハ國庫モ負擔セズ、勞働者モ負擔セズ、事業者
  ノミニ負擔セシメル、國庫保險ノ如キ、完全ナル方法ガ幾ラモアルニ拘リマ
  セズ、其途ヲ執ラレズシテ、斯ノ如キ法案ヲ提出セラレルト云フコトハ甚ダ
  遺憾トスルノデアリマスガ、併シ此以上ハ意見ニ亙リマスカラ、此點ハ本員
  ハ力說イタシマシテ質問ヲ打切リト致シマス
  〔佐竹三吾君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=86

  ---

• 087・佐竹三吾

  ○佐竹三吾君　私ノ質問セムト致シマシタル事柄ノ大部分ハ松本君ノ御尋ニ
  依ッテ稍〓明瞭ニナリマシタノデアリマスルカラ、其點ヲ除キマシテ二三御尋
  ヲ致シタイト思フノデリアリマス、本法律案ハ現内閣ノ社會的立法、社會政策
  的立法トシテ是ガ唯一ノモノデアルノデアリマス、政府ノ提案ハ極メテ內容
  ノ充實シテ居ル立派ナル法案ト考ヘマシテ色〓〓究ヲ致シタノデアリマスケ
  レドモ、〓究ヲスレバスル程不明ノ點ガ多イノデアリマス、殊ニ此法律案ハ第
  五十四議會ニ一度提案ニナリマシテ議會解散ノ爲ニ其儘ニ今日マデ參ッタノ
  デアリマスルガ、一昨年ノ秋、此法律案ガ出來マシタ時ニ各方面ノ意見ヲ照會
  サレタノデアリマス、私共モ或團體ノ一員ト致シマシテ照會ヲ受ケマシタ結
  果、會議ヲ開キマシテ社會局カラ當局者ノオ出デヲ願ッテ色〓御說明ヲ承ッタ
  ノデアリマスルガ、其當時私共ノ調査シタ所ニ依リマスト云フト、此法律案
  ノ內容ハ調査不十分デアル、此儘デハ到底法律トシテ御定メニナリマシテモ
  實行ハ困難デアッテ、之ヲ實行セムトスレバ更ニ幾多ノ事項ヲ法律ノ中ニ規定
  シナケレバナラヌト云フ返事ヲ致シテ置イタノデアリマス、然ルニ今囘提案
  ニ依ッテ見マシテモ其當時ノ提案ト、内容ニ於テ大シタ變リハナイノデアリマ
  ス、其內容ヲ極メテ簡單ニ申上ゲテ見マスト云フト、條文ノ數ハ衆議院ノ修正
  ニ依ッテ一箇條殖エマシタ爲ニ十箇條ニナッテ居リマス、ケレドモ此十箇條ノ
  中デ一番大切デアルト思ヒマスル點二ツ、即チ此法律ヲ誰ニ適用スルカト申
  シマスルト、或一定ノ事業ニ從事シテ居ル勞働者、其勞働者ノ災害ニ適用スル
  コトニナッテ居リマス、然ルニ其勞働者ノ範圍ハドウシテ定メルカト云フト、
  第三條ニ於テ「前二條ノ勞働者ノ範圍ニ關シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム」ルトア
  ル、勅令ヲ見ナケレバ本法ノ適用ノ範圍ハ明カデナイノデアリマス、適用ヲ
  受クル勞働者ノ範圍ガ勅令ニ讓ッテアル、第二ノ重要ナル點ハ扶助ノ程度ガ
  ドウ云フ扶助ヲ與ヘルノデアルカト云フコトヲ聞イテ見マスト、社會局ニ於
  テハ大體健康保險法ノ程度ノモノデアラウト云フヤウナ御話モアリマシタケ
  レドモ、是モ亦第二條ノ規定ニ依リマスト云フト、勅令ノ定ムル所ニ依ッテ
  扶助スベシトアル、勅令ヲ見マセヌト此法律ニ依ル扶助ノ内容ガ全ク不明デ
  アル、最モ大切ナル適用ノ範圍竝ニ扶助ノ內容ガ勅令ニ讓ッテアリマス、折角
  此法律ガ出マシテモ勅令ヲ合セテ〓究ヲシテ見マセヌト、內容、價値ガ不明
  デアル、其他ノ點ニ付テ見マシテモ、第五條ノ官吏ガ臨檢スルトカ、第六條
  ノ義務ヲ履行ヲシナイ時ニハ罰金ニ處セラルトカ、第七條、第八條、第九條、
  第十條ハ總ベテ罰則ニ關スル規定デアリマス、要スルニ罰則ダケハ詳シク書
  イテアリマスガ、最モ肝心ノ點ニ付キマシテハ此法律ハ全然白紙デアルカラ
  斯ノ如キ法律ハ實行サレマシタ時ニハ頗ル迷惑スル、即チ立法事項ニ當然ナ
  ルベキ事柄ヲ勅令ニ讓ッタト云フコトハ、此法律案ノ最モ大ナル缺點デアッテ、
  此法案ヲ御出シニナルナラバ矢張リ勅令案ヲ一所ニ御出シニナラナケレバ此
  法案ノ審査ガ田來ナイノデアリマス、斯ウ云フ缺點ガアルノデアリマス、ソ
  レカラ又此法律ヲ適用スル勞働者ノ數ハ百五十八万人ト云フコトデアリマ
  ス、即チ屋外勞働者ハ約百八十五万人アルノデアリマス、此法律ニ依ッテ扶
  助ノ義務ヲ負擔スル義務者、所謂事業義務者ガドレダケアルカ、ソレカラ義務
  者ガ果シテ此法律上ノ義務ヲ履行スル能力アリヤ否ヤ、此二ツノ點ニ付キマ
  シテ御調ヲ求メマシタ所ガ、何レモ調査ハ十分出來テ居ラヌノデアリマス、
  從テ折角法律ガ出來マシテモ、果シテ此法律ノ義務ヲ履行スル事業家ガドレ
  位アルカト云フコトハ分ラヌノデアリマス、此法律案ガ衆議院ニ出マシテカ
  ラシテ各方面ノ事業家ガ非常ニ反對ヲシタノデアリマスルガ、其反對ヲ主ト
  シテシマシタ土木業者、此土木業者ノ數ガドレ位アルカト申シマスト、全國ニ
  大凡四五万ノ多數ニ上ボルト云フコトデアリマス、其四五万ノ多數ノ土木業
  者ノ中ニ於キマシテ、此法律ニ依ッテ義務ヲ履行スル資格ノアル者ハドレ位ア
  ルカト云フコトヲ調べテ見マスルト、其五分ニ止マルノデアリマス、割
  モナラナイノデアリマス、僅ニ五分位ノ人シカ此法律上ノ義務ヲ履行スル資
  力ノアル人ガ無イノデアリマス、土木業者旣ニ然リデアリマスカラ、其他ノ
  方面ノ小サナ仕事ヲシテ居リマスル人ガ斯ウ云フ法律ニ依ッテ果シテ完全
  ニ、或ハ有效ニ法律上ノ義務ガ履行サレルカドウカト云フコトハ、是等ノ點ニ
  關スル基礎的ノ調査、其調査ノ材料ガナイ限リハ十分調ベルコトハ出來ナイ
  ト云ッテ、實ハ一昨年ノ秋ニハ我〓ハサウ云フ返事ヲ社會局ニ致シタノデア
  リマス、斯ノ如ク此法案ハ體裁ハ立派デアリマスケレドモ、中味ハ極メテ貧
  弱ナルモノデアッテ、大部分ハ勅令ニ讓ッテアリマスカラ、勅令ヲ見ナケレ
  バ審査ガ出來ナイノデアリマス、然ルニ是ガ衆議院ニ出マシテカラシテドウ
  云フ風ニ審査ヲサレタカト申シマスト、衆議院ノ委員會ハ二月ノ十五日ニ
  質問ヲ打切リマシタノデアリマス、質問ヲ打切リマシタ所ガ、各方面ノ反對
  ガ非常ニ猛烈デアリマシタ爲ニ、遂ニ政友會ノ所謂與黨ノ中ニモ此法案ニ
  反對ヲスル者ガ大分出テ來タ、デ結局是ハ此儘デハ議會ヲ··衆議院ヲ通
  過スルコトモ困難ニナッタ、ソレデ遂ニ質問ヲ打切リマシテカラシテ、三月
  ノ七日マデ委員會ヲ開カヌノデアリマス、即チ三週間委員會ヲ全ク開キマセ
  天ノ、サウシテ三月ノ七日ニナッテ委員會ヲ開キマシテ、ソコデ或委員カラ
  今囘我〓ノ手許ニ〓ッテ來マシタヤウナ修正案ガ出マシテ、サウシテ其修正案
  ニ付テハ僅カ二時間程ノ間質問應答ヲシテ、サウシテ其質問ヲ打切ッテ、遂ニ
  委員會ハソコデ決議シタ、其決議ノ時ニ斯ウ云フ重大ナル内容ノ變更ニ付テ
  此儘直グ決議ヲサレテハ困ルト云フノデ、反對黨ノ委員ハ極力尙ホ質問ヲ繼
  續セムトシマシタケレドモ、矢張リ其質問ヲ許シマセヌデ、遂ニ質問ヲ打切ツ
  テ、サウシテ決定ヲ致シタ、ソレデアリマスカラシテ、詰リ反對黨ノ中ノ
  何人カノ委員ハ退席ヲシマシテ、殘ッテ居ルノハ政友會ノ人ガ大多數デアッ
  タ、サウシテ所謂委員會一致デ是ガ決マッタ、斯ウ云フ詰リ經過ニナッテ居ル
  ノデアリマス、ソレデアリマスカラ如何ニ此法案ガ衆議院ノ修正ニ於キマシ
  テモ十分審議ヲ盡サレテ居ナカッタカト云フコトハ疑ヲ容レヌノデアリマス、
  デ此點ニ付テハ松本君カラシテ色〓御質問ガアッタノデアリマスガ、私ハ更ニ
  其修正意見モ實行上困難デアラウト思ハレル點ヲ一二ヲ擧ゲマシテ、政府委
  員ノ御答辯ヲ煩シタイノデアリマスガ、其第一ノ點ハ「扶助義務ニ付保險契
  約ヲ締結スベシ」ト云フコトガ第一項ニアリマス、契約ヲ締結スルノハ此事
  業者ノ義務トサレテ居ルノデアリマス、然ルニ此義務ハ唯、事業者ダケノ義
  務デアリマシテ、此事業者ト契約ヲスル所ノ保險會社ニ對シマシテハ、契約
  ヲスル義務ハナイノデアリマス、ソレデアリマスカラ若シ保險會社ガ、此契
  約ヲ受付ケマセヌトキニハ果シテ如何ニ此規定ヲ實行サレルノデアルカ、若
  シ扶養義務者ニ對シテ契約締結ヲ義務トシテ强制サレル以上ハ、同樣ノ義務
  ヲ保險會社ニ對シテモ規定ヲ設ケラレヌ限リハ、是ハ全ク一方的ノ義務デアッ
  テ、實行ガ出來ナイノデアリマス、此點ガ恐ラク松本君ノ御不審ノ一點デア
  ラウト思フノデアリマス、ソレカラ第二項ハ「事業者保險業法ノ定ムル所
  ニ依リ傷害保險ヲ目的トスル相互會社ヲ設立シ又ハ之ニ加入シタルトキハ前
  項ノ義務ヲ履行シタルモノトス」、斯ウ云フコトガアリマスカラ、此規定ヲ其
  儘讀ミマスト云フト事業者ハ傷害保險ノ相互會社ト云フモノヲ設立スルコト
  ガ出來ル、斯ウ云フコトガ書イテアルノデアリマス、併ナガラ相互會社ノ設
  立ハ商工大臣ノ免許ヲ得ナケレバ出來ナイノデアリマスカラシテ、此規定ハ
  商工大臣ハ此申請ガアッタトキニハ免許ヲスベシ、一定ノ條件ヲ備ヘタルトキ
  ニハ相互會社ノ設立ヲ免許スベシト云フコトヲ意味シタルモノデアルカ、或
  ハ其免許ハ商工大臣ノ自由裁量ニ依ッテ定マルノデアルカラシテ、免許ヲ得ラ
  レナイ場合モアルデアラウ、斯ウ云フコトニナリマスト云フト、「相互會社ヲ
  設立シ」云々ト云フコトヲ御書キニナッタ所ガ、是モ亦實行不能ニ終ルノデア
  リマス、殊ニ今日ノ我ガ保險業界ノ狀態カラ考ヘマスルト云フト、新ニ保險
  會社ヲ作ルト云フコトハ殆ド禁止ヲサレテ居ル、先ヅ禁止ヲサレテ居ルト見
  テ宜シイト思フノデアリマス、此法律ガ出マシタ結果其禁止ガ寬大ニナルト
  云フコトトモ考ヘラレヌノデアリマスカラ、サウ致シマスルト云フト「相互
  會社ヲ設立シ」云々ト云フコトヲ規定ニ入レラレルト云フコトハ、如何ニモ
  其間ニ矛盾ガアルヤウニ思フノデアリマスデ是ハ社會局長官デハ御分リニ
  ナラヌト思ヒマスカラ、商工大臣ハ果シテ此相互會社ノ設立ノ免許ノ申請ガ
  アッタトキニハ、大體ニ於テ之ヲ免許スルモノデアルト云フ、斯ウ云フ御考ノ
  下ニ政府トシテ御同意ニナッタカドウカ、若シ其考ヘガ無カッタトキニハ是亦
  實行不能ニ終ルノデアリマス、ソレカラ第三項ニ於キマシテ「共濟組合ヲ設
  立シタルトキハ行政官廳ノ許可ヲ受ケ第一項ノ規定ニ依ラザルコトヲ得」、即
  チ此法律上ノ義務ヲ履行スル爲ニ共濟組合ヲ設ケマシテ、其共濟組合ノ扶助
  ニ依ッテ此法律上ノ義務ニ代ルコトガ出來ル、斯ウ云フコトガ矢張リ衆議院ノ
  修正ノ一ツニナッテ居ルノデアリマス、併ナガラ共濟組合ニ付キマシテハ、是
  ハ官業ノ共濟組合ハ相當ニ發達ヲ致シテ居リマス、併ナガラ民間ノ共濟組合
  ニ於キマシテハ非常ニ大キナ、資本ノ强大ナル會社ナラ免モ角モ、普通ノ程
  度ノ事業家ニ於キマシテハ共濟組合ハソレ程達發イタシテ居ラヌノデアリマ
  ス、併シ是ハ共濟組合ガ出來マシタナラバ、ソレデモ宜イカモ知レヌト思ヒ
  やく、ソレデ兔モ角衆議院ノ修正ハ寧ロ私ハ改惡デアッテ、斯ウ云フ修正ニ政
  府ガ御同意ニナルト云フコトハ甚ダ不都合ナコトト考ヘルノデアリマスガ、
  併シ是レ位ノコトヲ若シ御容レニナラヌトキニハ此案ハ衆議院ヲ通過シナ
  カッタノデスカラ、ソレデ已ムヲ得ズ政府ハ御同意ニナッタコトト思フノデア
  リマスケレドモ、修正ノ結果ハ支離滅裂デアッテ、殆ド色〓ナ點ニ於キマシテ
  故障ガ多クナッテ、寧ロ是ハ改惡デアルト思フノデアリマスガ、併シ政府ハ是
  デモ尙ホ宜イト云フヤウナ御說明デアリマシタケレドモ、ソレダケノ御答辯
  デハ未ダ私ハ十分了解ハ出來ナイノデアリマス、ソレデ政府ニ御伺ヒ致シタ
  イノハ、是モ松本君ガ少シバカリ御聽キニナッタヤウニ思ヒマスガ、今日ノ工
  場勞働者ガ、所謂健康保險組合法ニ依リマシテ災害扶助ヲ受ケマスルニ付テ
  ハ、其費用ノ負擔者ハ國ノ事業者ト勞働者ト、此三ツノ者ガ各〓一部分ヅツ負
  擔スルコトニナッテ居ルノデアリマス、然ルニ今囘ノ自由勞働者、屋外勞働者
  ノ扶助法ニ依リマスルト云フト、全部事業家ノ負擔ニナッテ居ル、此點ガ健康
  保險組合法ノ精神ト非常ニ不權衡ヂヤナイカ、權衡ヲ失シテ居ル點ガアルノ
  デハナイカト考フルノデアリマスガ、即チ健康保險組合法ノ如ク國家ガ矢張
  リ此災害ノ一部分ヲ負擔ヲスルト云フコトニセラレルノガ、權衡ヲ得テ居ル
  カト思フノデアリマスガ、其點ニ於キマシテ政府ノ御考ヲ承リタイ、ソレカ
  ラ官業共濟組合ニ於キマシテモ政府ハ三分ノ一程度ノ費用ヲ負擔シテ居ルノ
  デアリマス、是ハ製鐵所ニ於キマシテモ或ハ國有鐵道ニ於キマシテモ、其他
  海軍ニ於キマシテモ、總テ官業ノ共濟組合ニ於キマシテハ國ガ出資額ノ三分
  ノ一位ハ負擔ヲ致シテ居ルノデアリマスガ、此屋外勞働者ニ付キマシテハ
  政府ニ於テサウ云フコトヲシナクテモ差支ナイト云フコトデアリマスレバ其
  理由ヲ承リタイノデアリマス、ソレカラ尙ホ最モ此案ヲ適用スル上ニ於キマ
  シテ實行上困難ニ考ヘラレマスルノハ扶助義務者ノ範圍デアリマスガ、是
  ガ一昨年ノ案ニハ第一次ノ事業家ガ義務者ト云フコトニナッテ居ッタノデアリ
  やく、然ルニ今囘ノ案ニ依リマスルト云フト、一ツノ仕事ニ付キマシテ契約
  ノ事業家ハ甲デアル、其事業家カラシテ下請シタモノガ乙デアル、其下請カ
  ラ又丙ト云フモノガ下請ヲシテ、詰リ今日ノ土木事業ハ大抵皆サウデアリマ
  スガ大キナ仕事ニナリマスルト二段、三段ノ下請業者ガ出來テ參ルノデアリ
  マスガ、其時ニ勞働者ノ災害ニ對シテ誰ガ扶助ヲスル義務ヲ持ッテ居ルカト云
  ヒマスト一昨年ノ案ニハ第一次ノ即チ契約ヲ締結シマシタ、所謂落札人ト申
  シマスカ、其者ガ義務者ニナッテ居ッタノデアリマス、然ルニ今囘ハ各事業家
  ガ連帶シテ扶助ノ義務ヲ負擔スル、斯ウ云フ新例ヲ認メラレタノデアリマス、
  連帶債務デアリマスカラシテ民法ノ規定ニ依ッテ實際ハ此事業家ガ責任ノ分
  配ヲ致スコトニナルノデアリマセウ、併シ連帶ト云フコトニナリマスルト云
  フト、第一次、第二次、第三次ト云フ事業家ノ間ニドウ云フ風ニ請求ヲスベ
  キモノデアルカ、或ハ誰ガドレ位ノ義務ヲ負擔スベキモノデアルカト云フコ
  トハ非常ニ困難ナル問題ヲ惹起スコトト思フノデアリマスガ、政府當局ニ於
  カセラレマシテハ、連帶デ一向差支ナイ、是デ實行上困難ガナイト斯ウ云フ
  コトヲ御主張ニナリマスナラバ、其理由ヲ成ルベク分リ易ク御說明ヲ願ヒタ
  イト思フノデアリマス、ソレカラ最後ニ御尋ヲ致シタイノハ國營保險ハ今日
  當局ニ於テ實行ノ意思ガナイカ、其理由トシテ若シ國營保險ヲヤレバ良イ企
  業家ハ仕事ガ出來ナクテ、惡イ企業家ガ仕事ヲ取ルヤウニナル結果、設備ヲ
  シナイ惡イ事業家ノ勞働者ハ多クノ災害ヲ受ケテ國家ガ其災害ノ尻拭ヒヲシ
  ナケレバナラヌカラト、斯ウ云フヤウナ御趣意ノヤウニ取ッタノデアリマス
  ガ、併シ國營保險ト云フモノガ······ソレカラ衆議院ノ修正ノ結果之ニ代リ得
  ル保險契約ト云フモノモ其結果ニ於キマシテハ全ク變リハナイト思フノデ
  ス、デ保險契約ヲ結ブ場合ニハ矢張リ良イ事業家ガ保險契約ヲ結ンデ保險料
  ヲ多ク拂フト云フコトニナルノデアリマシテ、國營保險ト民營保險トハ保險
  ノ結果ニ於キマシテハ變リハナイト思フノデアリマス、之ニ付テ變リガアル
  ト云フコトデアリマスレバ、其點ノ御說明ヲ煩シタイト思フノデアリマス、
  ソレカラ尙ホ附加ヘテ伺ッテ置キタイノハ元來此傷害保險ノ統計ト云フモノ
  ハ非常ニ不十分デアリマシテ、從テ我國ニ於キマシテモ傷害保險ヲヤッテ居リ
  マス會社ハ僅ニ二ツ位シカナイ、而モ其保險ハ他ノ保險事業ノ損害保險ノ兼
  業トシテヤッテ居ルヤウナ譯デアリマスカラシテ、傷害保險ハ尙ホマダ發達シ
  テ居ラヌ、サウ云フ風ニ統計ガ不十分デアル、發達シテ居リマセヌカラシテ
  其保險料ハ非常ニ高イ、保險料ガ高イカラシテ保險契約ヲ結ベト云フコトヲ
  此處ニ命ゼラレマシテモ、非常ニ高イ保險料ヲ拂ハナケレバナヌコトニナル
  ノデス、是ガ即チ國營保險ヲ必要トスルコトニナルノデアリマス、保險料ノ
  高イト云フコトハ日本バカリデハアリマセヌ、亞米利加ニ於キマシテモ、英
  吉利ニ於キマシテモ、傷害保險ノ保險料ト云フモノハ非常ニ高イノデスカラ、
  サウ云フ高イ保險料ヲ拂ッテ保險契約ヲ結バセル、其方法ニ依ッテ此法律上ノ
  義務ヲ履行サセタイト云フ御考ナラバ、モウ一步進ンデ國ニ於テ傷害保險ヲ、
  國營トシテサレルガ私ハ至當ト思フノデアリマスガ、以上述ベマシタ色〓ナ
  點ガアリマスガ、要スルニ此法律案ト一云フモノハ、極メテ內容ノ不備ナ、調
  査不十分ナ、不完全ナ法律案ト思ヒマスルシ、殊ニ衆議院ノ修正ニ依ッテ尙ホ
  是ガ惡クナッタノデアリマスカラ、寧ロ政府ハ之ヲ撒囘サレテ、モウ一應能ク
  御調ベニナッテ、材料ガ全部揃ッテカラ更ニ適當ナル災害保險法ト申シマスカ、
  或ハ災害扶助法ト申シマスカ、其法律案ヲ御提案ニナルト云フ御考ハナイデ
  セウカ、其方ガ私ハ寧ロ此目的ヲ達スル上ニ於テ適切有效ト考ヘルノデアリ
  マスカラ、其點ニ付テ内務大臣ノ御答辯ヲ煩シタイ、併ナガラ其御答辯ハ、
  別ニサウ云フ考ハナイト云フ御答辯デハ、私一向承ル値打ノナイモノデアッ
  テ、是ハ非常ニ完全デアル、從テ幾ラ調査シテモ是レ以上調査ノ方法ハナイ、
  完全無缺ナモノデアルト云フ事ノ理由トシテ御說明ガ出來マスナラバ、サウ
  云フ御說明ヲ煩シタイト思フノデアリマス
  〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=87

  ---

• 088・長岡隆一郎

  ○政府委員(長岡隆一郞君)　只今佐竹博士ハ內務大臣ノ答辯ヲ御要求ニナッ
  タヤウデゴザイマシテ、私カラ申上ゲル事ハ如何ト考ヘマスガ、御質問ハ法
  案ノ內容ニ涉ッテ事務的ニ巨細ノ點ニ渉ッテ居ル箇所ガゴザイマスルノデ、ソ
  レ等ノ問題ニ付キマシテ、一應答辯申上ゲマシテ、尙ホ御不滿足デゴザリマ
  スレバ內務大臣カラ御答ヘ申上ゲルコトヽシテ御了承ヲ願ヒタイノデゴザイ
  やく、御質問ハ多岐ニ亙ッテ居リマスルカラ、或ハ私ノ御伺ヒ漏シタ點ガゴザ
  リマシタナラバ、更ニ御注意ヲ受ケマシテ再ビ御答ヲ申上ゲタイト考ヘマ
  ス、最初ニ第三條ノ勞働者ノ範圍ヲ勅令ニ讓ッテ居ルガ、其勅令ノ內容ガ明カ
  デナイト云フヤウナ御質問デゴザリマシタガ、是ハ是等ノ事業主ガ使ッテ居リ
  マスル勞働者ノ中ニハ、所謂常傭ト稱シマシテ、一定ノ期間雇傭契約ノ下ニ
  使ッテ居リマスル勞働者モゴザイマスレバ、又其日〓〓ニ所謂日傭ヒノ勞働者
  ヲ連レテ來マシテ臨時ノ仕事ヲヤラセル事モゴザイマス、災害ノ起リマシタ
  場合ニ、災害ヲ受ケタ勞働者カラ云ヘバ、何レモ氣ノ毒ノ狀況デゴザイマス
  ガ、事業主ノ側トシマシテハ、長イ期間雇傭契約ニ依ッテ傭ッテ居ル者ト、偶然
  其日ニ連レテ來タ日傭勞働者トノ間ニハ自カラ其間差別ノ觀念ガアルト云フ
  事ハ已ムヲ得ナイノデアリマシテ、此勅令ノ規定ニ依リマシテ、日傭勞働者
  ガ災害ヲ受ケタ場合ニハ、相當扶助ノ金額ヲ減額イタシタイト云フ考ヘカラ
  第二條ニ勞働者ノ制限ヲ勅令ニ讓ッタ次第デゴザイマス、其次ニ扶助ノ程度ニ
  付テ勅令ニ讓ッテアルガ、社會局員ニ聞合シタ所デハ、健康保險法ノ程度ニ依
  ルト云フヤウナ答ヲシタト云フヤウナ御尋デアリマシタガ、是ハ社會局ノ何
  人ガサウ云フコトヲ申上ゲマシタカ私存ジマセヌガ、是ハ健康保險ノ程度ニ
  ハ依ラズシテ、先程松本サンノ御質問ニ對シテ、御答申上ゲマシタヤウニ大
  體工場法及ビ鑛業法ニ依ッテ、鑛夫勞役扶助規則ノ規定ニ基ク扶助ノ程度ニ依
  ル積リデゴザイマス、ソレガ勅令ノ内容ト御了承ヲ願ヒタイノデアリマス、尙
  ホ事業主ノ數ガ不明デアル、之ニ對シテ社會局ニ問合セタガ、社會局員モ數
  ガ分ラナイト云フコトデゴザイマシタガ、是ハ何人ガ是モ御答ヲ申上ゲタカ
  存ジマセヌガ、事業主ノ數ハ統計ハ取ッテゴザイマス、是ハ委員會等ニ於キマ
  シテ數字ニ認メマシテ差上ゲタイト思ッテ居リマス、ソレカラ本案ニ付キマシ
  テ此衆議院ノ修正案ニ於テ「保險契約ヲ締結スベシ」ト云フコトガアルガ、
  是ハ保險會社ニ對シテ契約引受義務ヲ强制シ得ルカ得ナイカ、···是ハ御尋
  ノ中ニゴザイマシタヤウニ保險會社ニ對シマシテ契約引受義務ヲ法律上强制
  スルコトハ出來マセヌ、併ナガラ此保險會社ハ採算ノ見込ノアリマス限リ事
  實上契約ノ締結ヲ拒絕スルコトハナカラウト考へテ居リマスノミナラズ、之
  ニ對シマシテハ監督上保險料金其他ニ付テハ相當是正シ得ル途モアルノデア
  リマスカラ、是等ノ保險會社ニ對シテ法律上契約引受義務ヲ强制シマセヌデ
  モ會社ハ採算ノ見込アル限リ事實上契約ヲ締結シ得ルカト考ヘテ居リマス、
  其次ニ相互會社ト云フトニ付テ認可スル見込デアルカドウカ······是ハ商工省
  ノ所管デアルカラ商工大臣カラ答辯ヲ要求スルト云フヤウナ御質問デゴザイ
  マシタガ、生憎商工大臣ガ居リマセヌノデ、私カラ商工省ノ當局者ト打合セ
  マシタ結果ヲ御答申上ゲマシテ、ソレニ依ッテ御了承ヲ願ヒタイト考ヘルノデ
  ゴザイマスガ、保險會社ノ設立ハ其事業目論見ガ合理的基礎ヲ有シ、經營確
  實ナリト認メラレル場合ニ於テノミ之ヲ免許セラレルモノデゴザイマシテ、
  傷害保險ヲ目的トスル相互保險會社ノ設立ニ付キマシテモ具體的計畫ニ基キ
  其內容利害得失其他保險行政上諸般ノ事情ヲ考慮イタシテ其可否ヲ決定スル
  コトニナッテ居ルノデアリマシテ、只今直ニ其會社ノ設立ノ書類モナイ場合ニ
  如何ナル會社ニ對シテ設立スルカ······如何ナル會社ニ對シテ設立ヲ許可スル
  カト云フコトニ付テ抽象的ニ申上ゲルコトハ出來ナイ、斯ウ云フヤウナコト
  デゴザイマス、尙又共濟組合ハ相當有力ナ請負業者ノ中ニハ力强イモノモア
  ルガ、餘リ力强イモノハ少イト云フヤウナ御見込デゴザイマシタガ、之ニ付
  キマシテハ行政官廳ノ許可アル場合ニ限ッテ共濟組合ノ給付ヲ以テ保險給付
  ニ代ヘルト云フコトニナッテ居リマシテ、如何ハシイモノニ付キマシテハ許可
  ヲ與ヘナイ積リデゴザイマス、現在行ハレテ居リマス共濟組合ノ中ニモ相當
  有力ナ基礎ノ確實ナモノモゴザイマス、此現狀ニ付キマシテモ是ハ委員會等
  ニ於キマシテ詳細書類ニ印刷イタシマシテ御手許ニ差上ゲタイト考ヘテ居リ
  〒v、其次ニ此健康保險法ニ於テハ國ト事業主ト勞働者ト三者ガ金ヲ出シ
  合ッテ保險給付ヲ致シテ居ルノデアルガ、本法ニ於テハ事業主ノミニ費用ノ
  負擔ヲ課シテ居ルノハ不合理デハナイカト云フ御質問デゴザイマシタ、御
  承知ノ通リ健康保險法ハ業務外ノ疾病負傷、業務上ノ疾病負傷、共ニ手當金
  ヲ與ヘテ居ルノデアリマシテ、本法ノ豫想シテ居ルノハ業務上ノ疾病負傷
  ダケデゴザイマス、御承知ノ通リ健康保險ノ出來マス前ハ業務上ノ疾病負
  傷ニ付キマシテハ事業主單獨ノ責任トシテ工場法及鑛業法デ其支出ヲ强制イ
  タシテ居ッタノデアリマシタ、本法ノ精神ト同ジデゴザイマス、健康保險法
  ヲ實施イタシマシテカラ後デアリマシテモ、其採算ノ基礎ハ業務上ノ疾病負
  傷ニ付テハ即チ職業病、職業ニ依ッテ起ッタ病氣、負傷ニ付テハ、事業主ガ
  單獨デ負擔スルノデアッテ、ソレ以外ニハ平生ノ病氣ニ付テハ勞働者、事業
  主何レモ保險料ヲ出ス、斯ウ云フヤウナ狀況ニナッテ居リマスカラ、從ヒマシ
  テ何等不公平ナコトハナイト考ヘテ居リマス、官業共濟組合ニ付テ國ガ三分
  ノ一負擔ヲシテ居ルト云フ御質問デゴザイマシタガ、官業共濟組合ハ本法即
  チ勞働者災害扶助法ノ規定以外ニ色〓ノ仕事ヲ致シテ居リマス、此法律デ强
  制ヲ致シテ居リマス仕事以外ニ色〓ナ給付ヲ勞働者ニ與ヘテ居リマスカラ、
  是ハ本法ト自ラ立場ガ異ラザルヲ得ナイト考ヘマス、前期議會、通常議會ニ提
  出イタシマシタ法律案ニハ第一次ノ請負人ニ責任ヲ負ハシテ居ルガ、今囘ハ
  連帶ニナッテ居ル、之ニ付テノ御質問デゴザイマシタガ、成程佐竹博士ノ御質
  問ノ通リ前囘ノ通常議會ニ提出イタシマシタ此法案ニハ總テノ責任ヲ第一次
  ノ請負人ニ負ハシテ居リマシタガ、色〓〓究ノ結果、第一次ノ請負人ノミニ
  之ヲ負ハセルト云フコトハ宜シキヲ得ナイ、即チ實際現場ノ仕事ヲ監督シテ
  居リマスモノハ、第二次、第三次ノ下受ノモノデアッテ、是等ガ災害ノ起ッタ
  場合ノ直接責任者デアルカラシ、是等ニ責任ヲ負ハセナイト云フコトニナリ
  マスト、現場ノ監督ハ矢張リ疎漏ニ流レテ矢張リ勞働者ヲ虐待スル、廉ク下受
  ヲスルト云フヤウナ傾向ヲ生ズル憂ガアリマスカラ總テノモノヲ連帶責任ニ
  シタ方ガ適當ト考ヘマシタノミナラズ、第一次ノ請負人ノ大キイモノハ大體
  東京、大阪等ニ本據ヲ構ヘテ居リマシテ或ハ長崎縣デゴザイマストカ、靑森
  縣デゴザイマストカ、遠隔ノ地ニ於キマス所ノ事業ヲ下請ケニ請負ハセテ居
  リマスカラ、斯カル遠隔ノ地ニ於キマシテ、災害ノ起リマシタ場合ニ、其災
  害ヲ受ケタ勞働者若クハ其家族ガ、東京、大阪等ニ其災害ノ扶助ヲ要求イタ
  シテモ、中〓實行ガ困難デアルカラシテ先ヅ下請ケノ者ニモ連帶ノ責任ヲ負
  ハテ相互連帶ノ考ヲ以テヤラセルト云フコトガ勞働者扶助ノ周到ヲ期スル上
  ニ於テ適當デアラウト云フ考ヘカラシマシテ、之ヲ改メマシタ次第デアリマ
  ス、從ヒマシテ此責任ノ分擔ノ工合ハ、下請契約ノ際ニ自ラ定マルコトト考
  ヘマスケレドモ、併ナガラ若シ特殊ノ契約ガナケレバ、大體ニ於テ次ノ請負ニ
  付スル場合ニハ各請負人ガ均等ニ負擔ヲスルト云フヤウナコトニナラウト思
  ヒマス、尙又衆議院ノ修正案ニ於テハ民間ノ團體保險ニ付スルト云フコトヲ
  强制シテアルガ、是デアルナラバ先程答辯ニアッタ國營保險ニスルコトト同ジ
  コトニナリハシナイカト云フ御尋デアリマシタガ、國營保險ニ致シマスレバ
  保險料ト致シマシテハ如何致シマシテモ、各請負人ニ付テ同一ノ金額ヲ徵收
  スル外ハゴザイマセヌ、甲ノ請負人ニ高イ保險料ヲ課シ、乙ノ請負人ニ低イ
  保險料ヲ課スルト云フコトハ、事實國家ハ致シ兼ネルノデゴザイマスガ、此
  保險會社ト請負人ト自由契約ニ依ッテ相互ノ契約ヲ致シマス場合ニハ、丁度火
  災保險ニ於テ人家櫛比ノ地ニ於ケル所ノ火災保險料ハ高ク、郊外ノ人家ノ少
  イ所デハ火災保險料ハ安イ、又鐵筋混凝土ノ家ハ保險料ガ安ク、木造ノ家デ
  ハ高イト云フヤウナ工合ニ災害率ノ多イ請負者ニ對シテハ民間保險會社ハ高
  イ保險料ヲ課シ、災害ノ率ノ少イ請負人ニ對シテハ低イ保險料ヲ以テ之ト結
  ブト云フヤウナ色〓ナコトガ行ハレマスガ、先程申上ゲタマシタ國營保險ニ
  伴フ弊害ト云フモノハ民間ノ保險會社ニ對シテ請負人ガ〓體契約ヲ結ブ際ニ
  ハ當嵌ラナイ、寧ロソレニ依ッテ適當ニ行ハレルコトト考ヘテ居リマス、尙ホ
  最後ニ本案ハ撤囘シテ更ニ調査ヲ重ネタ上デ提案スル意思ガナイカト云フコ
  トニ對シマシテハ、本案ハ政府ト致シマシテモ相當ナ調査ヲ經マシテ、熟慮
  ニ熟慮ヲ重ネマシタ結果確信ヲ得テ提案イタシマシタ次第デアリマスカラ、
  之ヲ今日撤囘スル意思ハ毛頭持ッテ居リマセヌ

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=88

  ---

• 089・佐竹三吾

  ○佐竹三吾君　極メテ簡單ニ此席カラ申上ゲマス、連帶ノ點ニ付キマシテハ
  只今御說明ニ依リマスト云フト、此方ガ理窟ニ合ッテ居ルヤウナ御話デアリマ
  スケレドモ、實際ノ問題トシテ考ヘテ見マスト寧ロ或ハ一昨年ノ案ノ方ガ宜
  カッタカモ知レヌト思フ、私ハ意見ヲ申上ゲル譯デハナイケレドモ、此數年來
  不景氣ノ爲ニ中〓其競爭ガ激シイノデアリマス、殆ド失費ガ償ハナイヤウナヽ
  程度ノ競爭ヲシテ居ルモノデアリマス、然ルニ拘ラズ實際ノ契約ヲシマシタ
  モノハ其一割トカ二割トカノ頭ヲ撥ネテ、下請ケニヤッテ居リマスカラ、下
  請ケハドウカト申シマスト、其下ノ勞働者ニ對シテ碌々給料モ拂ハナイデ···
  ···拂ッテモ一部分シカヤラナイ、ソレノミナラズ、其附近ノ米屋トカ或ハ醬油
  屋トカ云フモノヲ踏倒シテ夜逃ゲヲスルモノモ隨分アル、ソレデスカラサウ
  云フ第二次、第三次ノ資力ノ乏シイ下ノ者ニ責任ヲ負ハセマシタ所ガ、殆ド
  實行上私ハ不能ノコトニナリハシナイカト思フ、寧ロ法律上ノ責任ハ其中
  ノ最モ大ナル者ニ致シテ置キマシタガ實行ガ可能デアル、サウシテソレガ
  負擔ヲスル時ニハ、先程御話モアリマシタ如ク、下請契約ニ依ッテ順次下ノ者
  ガ實際ノモノヲ負擔スルト云フコトニナリマスレバ······サウ云フコトニナリ
  マスレバ、法律ヲ適用スル上ニ於テ、實行上容易デアルノミナラズ爭ガ起ラ
  ナイ、連帶デアレバ、法律上誰ニモ行ケル譯デスカラ、餘程此規定ノ實行ハ
  困難ニ陷リハシナイカト思フノデアリマス、此點ハ併シ御說明ヲ願ッテモ恐ラ
  ク其程度デアラウト思ヒマスカラ別ニ答辯ハ求メマセヌ、ソレカラ保險料ノ
  話デアリマシタガ、國營デアレバ保險料ガ均一ニナル、民營デアレバ各事業
  家ノ危險ノ程度ニ應ジテ契約ヲスルカラ、其方ガ適當デアラウト云フヤウナ
  御話モアリマスケレドモ、是ハ私共ノ考デハ國營デアッテモ民營デアッテモ、
  保險料ハ危險ノ程度ニ依ッテ決メルノガ至當デアル、從テ保險ノ點カラ國營
  ガイケナイト云フコトノ御說明ハドウモ理窟ニ合ハナイト思ヒマス、併シ其
  以上ニ質問ヲ重ネマシテモ同ジヤウナコトデアリマスカラ、私ハ之ヲ以テ質
  問ヲ打切リマス

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=89

  ---

• 090・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是デ通〓ハ終リマシタ、本案ノ特別委員ノ氏名ヲ、
  書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
  〓瀨古書記官朗讀〕
  勞働者災害扶助法案特別委員
  侯爵中御門經恭君伯爵寺島誠一郞君伯爵黑木三次君
  岡喜七郞君塚本〓治君男爵關義壽君
  赤池濃君磯貝浩君津村重舍君

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=90

  ---

• 091・徳川家達

  ○議長(公爵德川家達君)　是ニテ本院規則第五十八條ニ依リマシテ本日ハ延
  會イタシマス、明十九日ノ議事日程ハ決定次第本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビ
  マント。本日ハ是ニテ散會イタシマス
  午後五時三十四分散會

  発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X02919290318&spkNum=91

4. 会議録のPDFを表示

この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。