1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四年三月十九日(火曜日)
午前十時二十四分開議
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議事日程 第三十號 昭和四年三月十九日
午前十時開議
第一 酒造組合法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第二 陪審法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第三 船舶職員法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第四 無線電信法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第五 大禮記念 帝室博物館復興翼贊會事業費の補助に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第六 地方鐵道法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第七 軌道法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第八 非訟事件手續法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第九 鐵道營業法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十 關税定率法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十一 大正十三年法律第二十四號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十二 製鹽地整理に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十三 救護法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會
第十四 昭和三年勅令第百二十九號(承諾を求むる件)(衆議院送付) 會議(委員長報告)
第十五 山口縣營軌道及筑後軌道株式會社所屬軌道補償の爲公債發行に關する法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十六 大正十四年法律第二十九號中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十七 蠶絲業法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十八 帝國鐵道會計法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第十九 絲價安定融資補償法案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十 臺灣事業公債法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十一 健康保險特別會計法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十二 健康保險法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十三 工場法中改正法律案(政府提出衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十四 貴族院規則中改正の動議(公爵一條實孝君外六名發議) 會議
第二十五 東亞保民會設立に關する請願 會議
第二十六 日露漁業條約に關する請願 會議
第二十七 三陸沿岸線鐵道速成に關する請願 會議
第二十八 小郡、萩間鐵道敷設及停車場設置の請願 會議
第二十九 金澤、八尾間鐵道敷設の請願 會議
第三十 交通行政統一に關する請願 會議
第三十一 於福、大田間鐵道敷設の請願 會議
第三十二 岩見澤、厚田間鐵道敷設の請願 會議
第三十三 北見瀧の上、上川間鐵道敷設の請願 會議
第三十四 根室臨港線鐵道敷設の請願 會議
第三十五 紋別臨港線鐵道敷設の請願 會議
第三十六 濱頓別、枝幸間鐵道速成の請願 會議
第三十七 自動車法制定の請願 會議
第三十八 靜岡縣下熱海町大字泉を神奈川縣下湯河原町に編入の請願 會議
第三十九 十和田湖を中心とする國立公園設置の請願 會議
第四十 雲仙岳、阿蘇山、別府温泉、久住山を國立公園に指定の請願 會議
第四十一 谷田川改修の請願 會議
第四十二 一時金癈兵恩給法改正即行に關する請願 會議
第四十三 軍人傷痍記章令中改正の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲシテ諸般ノ報〓ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀
昨十八日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
鐵道營業法中改正法律案
關稅定率法中改正法律案
大正十三年法律第二十四號中改正法律案
製鹽地整理ニ關スル法律案
救護法案
同日特別委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
賠償金特別會計法中改正法律案可決報告書
會計檢査院法中改正法律案可決報告書
同盟及聯合國ト獨逸國及其ノ同盟國トノ戰爭ニ因リ損害ヲ被リタル帝國
臣民ノ追加救恤ニ關スル法律案可決報告書
取引所法中改正法律案可決報〓書
信託業法中改正法律案可決報告書
南方市小车発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ會議ヲ開キマス、日程第一、酒造組合法中
改正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
酒造組合法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十五日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
酒造組合法中改正法律案
酒造組合法中左ノ通改正ス
第三條中「協同一致シテ」ノ下ニ「酒類製造業ノ改良發達ヲ圖リ」ヲ加フ
第五條ノ二酒造組合ハ定款ノ定ムル所ニ依リ其ノ組合員ニ對シ經費ヲ分
賦シ及過怠金ヲ徵收スルコトヲ得
前項ノ經費及過怠金ヲ滯納スル者アル場合ニ於テ組合長ノ請求アルトキ
ハ市町村ハ市町村稅ノ例ニ依リ之ヲ處分ス此ノ場合ニ於テ組合ハ其ノ徵
收金額ノ百分ノ四ヲ市町村ニ交付スヘシ
前項ニ規定スル徵收金ノ先取特權ノ順位ハ市町村ノ徵收金ニ次キ其ノ時
效ニ付テハ市町村稅ノ例ニ依ル
經費ノ分賦又ハ過怠金ノ徵收ニ關シテハ勅令ノ定ムル所ニ依リ異議ノ申
立訴願及行政訴訟ヲ爲スコトヲ得
第六條第一項中「酒造組合聯合會」ノ上ニ「道府縣ヲ一區域トスル」ヲ加
ヘ同條第二項ヲ削ル
第六條ノ二酒造組合聯合會ヲ設置セムトスルトキハ其ノ區域內ニ於ケル
酒造組合三分ノ二以上ノ同意ヲ得創立總會ヲ開キ定款ヲ議定シ政府ノ認
可ヲ受クヘシ
第六條ノ三酒造組合聯合會設置ノ認可アリタルトキハ其ノ區域內ニ於ケ
ル酒造組合ハ當然其ノ會員ト爲ル
第六條ノ四酒造組合聯合會ハ聯合會相互ノ氣脈ヲ通シ其ノ目的ヲ達スル
爲本法施行地域ヲ通シテ一箇ノ酒造組合中央會ヲ設置スルコトヲ得此ノ
場合ニ於テ酒造組合聯合會ナキ道府縣ニ付テハ道府縣ヲ一區域トスル酒
造組合ヲ以テ酒造組合聯合會ト看做ス
第六條ノ五酒造組合中央會ヲ設置セムトスルトキハ酒造組合聯合會及前
條ノ酒造組合三分ノ二以上ノ同意ヲ得創立總會ヲ開キ定款ヲ議定シ政府
ノ認可ヲ受クヘシ
第六條ノ六酒造組合中央會設置ノ認可アリタルトキハ酒造組合聯合會及
第六條ノ四ノ酒造組合ハ當然其ノ會員ト爲ル
第六條ノ七第五條ノ二第一項及第四項ノ規定ハ酒造組合聯合會及酒造組
合中央會ニ之ヲ準用ス
第七條中「酒造組合及酒造組合聯合會」ヲ「酒造組合、酒造組合聯合會及
酒造組合中央會」三段六ノ
第八條及第九條中「酒造組合又ハ酒造組合聯合會」ヲ「酒造組合、酒造組
合聯合會又ハ酒造組合中央會」ご飯を
第九條ノ二政府ハ酒造組合、酒造組合聯合會又ハ酒造組合中央會ニ對シ
業務ニ關スル報告ヲ爲サシメ、業務ノ執行又ハ財產ノ狀況ヲ檢査シ、經
費ノ豫算又ハ其ノ徵收方法ノ變更ヲ命シ其ノ他監督上必要ナル命令又ハ
處分ヲ爲スコトヲ得
第十條中酒造組合又ハ酒造組合聯合會」ヲ「酒造組合、酒造組合聯合會
又ハ酒造組合中央會」ニ、組合若ハ聯合會」ヲ「組合、聯合會若ハ中央會」
三郎人
第十一條中「酒造組合及酒造組合聯合會」ヲ「酒造組合、酒造組合聯合會
及酒造組合中央會三段六
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行前酒造組合法ニ依リ設置シタル道府縣ヲ一區域トスル酒造組合聯
合會ニシテ本法施行ノ際現ニ其ノ區域內ニ於ケル酒造組合三分ノ二以上ヨ
リ成ルモノハ本法ニ依リ設置シタルモノト看做シ其ノ區域内ニ於ケル酒造
組合ハ本法施行ノ日ヨリ當然其ノ會員ト爲ル
第五條ノ二第二項乃至第四項及第六條ノ七ノ規定ハ本法施行前ニ分賦シタ
ル經費及本法施行前ニ生シタル原因ニ基ク過怠金ニ之ヲ適用セス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=2
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003・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 酒造組合法中改正法律案ニ付キマシテ御說明ヲ申
上ゲタイト存ジマス、本案ハ制度上全國ニ一箇ノ酒造組合中央會ノ設置ヲ認
メマシテ、酒造組合聯合會ノ區域及加入ニ關シマスル規定ヲ改メ、又酒造組
合ノ經費等ヲ滯納イタシマシタル者ニ對シマシテ强制徵收ノ途ヲ開カムト致
シマスル等、現在各地方ニ分立イタシテ居リマスル酒造組合及酒造組合聯合
會ノ統制ヲ確實ニ致シマシテ、且ツ之ガ基礎ヲ鞏固ナラシメ、以テ酒造業ノ
改良發達ヲ圖ル爲ニ必要ナル事項ニ關シマシテ、改良ヲ行ハムトスルモノデ
アリマス、何卒御審議ノ上御協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=3
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004・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 簡單デゴザイマスカラ······チヨット政府ニ御尋ネ致シマ
スガ、法案ヲ見マスト云フト、納付金ヲ怠タ時ニハ强制徵收ヲスルト云フヤ
ウナ規定ガ見エマスルガ、現在滯納處分ト云フコトハ國稅若クハ地方稅デ
ハ、是ハ止ムヲ得ヌデアリマセウガ、斯ウ云フマア謂ハバ私ノ會ニ會費ヲ納
メルノマデモ滯納處分ヲスルト云フコトハ少シ酷過ギルヤウニ考ヘルノデア
リマス、先年政友會ノ內閣ノ時分ニ、商業會議所ノ中ノ矢張リ會費ヲ納メル
ノニ滯納處分法ニ依ルト云フコトヲ削除セラレタノデアリマシテ、其當時ノ
原君ノ議論ガ矢張リサウ云フ譯デアッタ、然ルニ商業會議所ト云フモノハ餘程
モウ公法人ニ近イカラト云フノデ、又近年其滯納處分ヲ許スコトニナッタヤ
ウデアリマスガ、此酒造組合ノ如キモノニ許スト云フコトニナルト云フト、
私共ガ會長ヲ致シテ居ル會ガ澤山アルノデアリマスガ、サウ云フモノマデ悉
ク御許シヲ願ヘレバ、會費ヲ集メルノニハ大變便利ニナルノデアリマスガ、
政府ハドノ程度デ止メル積リデアリマスカ、甚ダ其分界ガ明カデナイ、ナラ
ウナラバ元ノ政友會ノ議論ノヤウニ現狀ノ方ガ寧ロ宜イト、斯ウ考ヘルノデ
アリマスガ、此度酒造組合ニ此滯納處分ヲ認メルト云フノハ、ドウ云フ全體
御趣意デアリマスカ、政府ノ御方針ノアル所ヲ伺ッテ見タイト存ジマス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=4
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005・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 只今阪谷男爵ノ御質問デアリマスガ、私共政府ノ
者ト致シマシテモ、斯ノ如キモノハ成ルベク此强制徵收ヲ致サナイ方ガ宜イ
ト考ヘテ居ルノデアリマス、併ナガラ段々此世ノ中ノ事情已ムヲ得ザルコト
ニナリマスレバ、致方ナイモノニ對シマシテハ之ヲ許サネバナラヌト考ヘル
ノデアリマス、成程此商業會議所ニ付キマシテハ只今男爵ヨリ御申述ノ如ク
デアリマシテ、一時ハ多分此强制徵收ヲ止シタト考ヘマスルガ、又現在ニ於
キマシテハ已ムヲ得ヌ事情ニナリマシテ、强制徴收ヲ許シテ居ル次第デアル
ト考ヘマス、又御承知ノ如ク農會ノ如キモノモ、矢張リ是モ法律ヲ以チマシ
テ已ムヲ得ズ强制徵收ノコトニ相成ッテ居ルモノト考ヘテ居ルノデアリマス、
ソコデ只今政府ニ於キマシテハ、大體ノ目安ヲ何處ニ置クカト申シマスト、
法律ヲ以テ國ガ組合ヲ許シテ居リマスモノニ對シマシテハ、已ムヲ得ザル事
情デアレバ强制徵收モ許サネバナリマスマイカト考ヘテ居リマス、是モ出來
マス限リハ、サウ致サセタクナイノデアリマスルガ、色〓ノ事情ヲ斟酌イタ
シマシテ、其組合ノ發達ヲ圖リマスコトガ、斯業ノ向上發展ノ上ニ非常ニ利
益ニナルコトデアリマシテ、サウシテ其事柄ガ延イテ、矢張リ此國ノ仕事ノ
上ニ影響ヲシマスル場合、卽チ法律ヲ以チマシテ組合等ヲ許シテアリマスル
モノニ對シマシテハ、事情ノ許ス程度ニ於キマシテ之ヲ認メネバナリマスマ
イカト考ヘマス、大體此趣意ヲ申述ベタイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=5
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006・江木翼
○江木翼君 只今政府委員ノ述ベラルヽ所ヲ聞キマスルト、如何ニモ範圍ガ
廣クナルヤウニ思ハルヽノデアリマス、國稅徵收法ニ依ッテ徵收ヲスルト全
ク同ジク、公法的ノ關係ニ依ッテ、謂ハバ徵收スルト云フヤウナコトニナリ
マシテ、餘程是ハ理由ガナクテハナラヌト思フノデアリマス、其關係ガ全ク
公法的ノ關係デアル場合ニ於テノミ强制徵收ト云フモノガ許サルベキモノデ
アルト思フノデアリマス、見マスル所、酒造組合ニモ强制徵收ガ許サレル、
又後程、議案ガ日程ニ上ボリマスル所ノ保險組合、我〓カラ見マスレバ、全
ク私法的關係トモ思ハレルヤウナ、保險組合ニモ强制徵收ガ許サレル、斯樣
ニナリマスルト殆ドモウ私法關係、公法關係トノ區別モナシニ、ドシ〓〓國
稅徵收法ニ依ッテ滯納處分ガ出來ルト云フコトニナリマシタ場合ニハ、私ハ餘
程濫ニ流レルト思フノデアリマス、只今ノ御話デアリマスル、法律ニ依ッテ
認メタ組合デアルト云フコトニナリマスルト、モウソレハ非常ニ範圍ガ廣ク
ナルヤウニ思ヒマスガ、何カモウ少シ標準ガナクテハナルマイカト思フノデ
アリマスルガ、唯ダ法律デ認メタ組合デアレバ、例ヘバ共濟組合ノ如キモノ
デアラウト、其關係ガ全ク私法的ノモノデアラウトモ、總テ强制徵收ヲ許ス
ト云フ御趣旨デアリマセウカ、其邊ヲモウ一度確メテ見タイト思フノデアリ
マス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=6
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007・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 只今江木君ヨリノ御質問デアリマスガ、先刻申述
ベマシタ通リ、政府ニ於キマシテハ、法律ニ依リマシテ許シマシタル組合ノ
中ニ付キマシテ、色〓事實ヲ〓究イタシマシテ、已ムヲ得ザルト信ズルモノ
ニ付キマシテ强制徵收ヲ許スヨリ外ニ仕方ガナイモノト考ヘテ居ルコトヲ申
述ベタノデアリマスガ、範圍ハ成ルベク之ヲ縮メル考ヘデアリマシテ、殊ニ此
强制加入ヲ國ガ法律ヲ以テ定メテ居リマスルモノヽ範圍ニ限リタイト考ヘテ
居リマス、同ジ法律デ定メマシタル組合デアリマシテモ、會員ニ對シマシテ
强制加入ヲ命ジテ居リマセヌヤウナモノニハ此强制徵收ノ法律ヲ用ヒマス
コトハ、ドウモ宜シクナイト考ヘテ居リマス、出來マス限リハ、成ルベク此
範圍ヲ縮メタイト考ヘテ居リマス、此組合ノ發達ヲ致サセマスルコトガ、世
ノ中ノ爲デアルト考ヘマスルコトニ付キマシテ、ドウシテモ此强制徵收ヲ許
スノデナケレバ圓滿ニ行カナイ事情ガアルト認メマスル、餘儀ナイモノニ對
シテ、之ヲ許シタイト考ヘマス、殊ニ只今モ申シマシタ通リ、强制加入ヲ國
ガ命ジテ居リマスモノヽ範圍ニ限リタイト考ヘテ居リマス、御答イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=7
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008・江木翼
○江木翼君 强制加入ヲ許シテ居ルモノダケニ御限リニナルト云フコトデア
リマスルト、幾ラカ茲ニ限度ガ出來テ參ルト思フノデアリマス、サリナガラ
强制加入ヲ許シテ居リマスル組合ト雖モ、中〓澤山アルト私ハ思フノデアリ
PV.例ヘバ重要物產同業組合ノ如キ、或ハ畜產組合ノ如キハ既ニ許シテ居
ルカ知レマセヌガ畜產組合ノ如キ、斯樣ナ種類ノモノト雖モ、亦非常ニ多
イノデアリマス、成程强制徵收ノ先取特權ハ國稅ナリ、又ハ市町村稅ニ次ギ
マスル先取特權ヲ有スルノデアリマスルガ故ニ、多少ハ緩ヤカナ點ハアルト
ハ雖モ、斯樣ナ强制徵收ヲ許サレルト云フト、國稅ナリ、市町村稅ナリノ稅
源ヲ枯ラスト云フコトニナルノデアリマス、是ハ內務省ニ於テモ、大藏省ニ
於テモ非常ニ御〓究ニナラナケレバナラヌ事柄デアルト思ヒマス、一旦斯樣
ナモノヲ許サルヽ場合ニ於キマシテハ、他ノ組合ガドシ〓〓皆强制徴收權ヲ
得ルト云フコトニナリ、國稅滯納處分法ニ依ッテ處分セラレ、恰モ國稅、市
町村稅ト同樣ナ形ニ於テ、市町村長ガ徵收スルト云フガ如キコトニナルノデ
アリマスカラ、ソレヲ受ケル方ニ於キマシテハ、國稅、市町村稅デアラウ
ト、將又斯樣ナ組合ノ經費、費用、會費デアルトヲ問ハズ、總テ强制的ノ處
分ヲ受ケルノデアリマス、受ケル方カラ見マスルト、國稅、市町村稅ト全ク
同ジニナルノデアリマス、國稅、市町村稅ト同ジニナルト云フコトハ、取リ
モ直サズ國稅、市町村稅ノ稅源トナル所ノ負擔力ト云フモノヲ枯ラシテ行ク
ト云フ結果ニナルノデアリマスカラ、是ハ大藏省ナリ、內務省ナリニ於キマ
シテハ、非常ナル御考ニナルベキコトデアラウト思フ、從來ソレガ爲ニ內務
省ニ於キマシテモ、非常ニ此點ハヤカマシク論ゼラレタノデアル、商業會議
所ニ許シタ時ニモ、之ヲ取上ゲルト云フ議論ガ起リ、農會ニ許ス場合ニ於キ
マシテモ、中〓ヤカマシイ議論ガアッタ、殊ニ貴族院トシマシテハ、此問題ニ
付キマシテハ殆ド半々ノ議論ニ分レル位ニ何時モナッテ居ル傳統ニナッテ居ル
ノデアリマス、只今斯ウ云フモノヲ御開キニナリ、又保險組合ニモ御開キニ
ナリ、續イテ他ノ同業組合ナリ、畜產組合ナリ、其他各種ノ强制加入ヲシテ
居ル所ノ組合ニ御認メニナルト云フコトニナリマスト、私ハ虞ル、段々他ノ
法律デ定メラレタル組合、例ヘバ產業組合、全國町村到ル處ニ一ツ二ツナイ
所ハナイ、此產業組合マデニ及ボスト云フコトニナラウカト思フノデアリマ
ス、隨分此產業組合ナドニモ其要求ガアルラシク聞イテ居ルノデアリマス、
非常ニ私ハ濫ニ流ルル虞ガアラウト思ヒマスガ、政府ハモウ此範圍ヲ御限リ
ニナッテ御置キニナリマセヌト、他日是ガ國稅ナリ、町村稅ナリノ稅源ヲ枯ラ
スト云フ憂ヘニナルト思フノデアリマスガ、何カモウ少シ能イ標準ヲ御定メ
ニナルコトハ出來ナイノデアリマセウカ、更ニ伺ッテ置キタイト思ヒマス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=8
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009・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 只今御述ベニナリマシタ御趣意ハ、全ク私共モ實
ハ御同感ニ存ジテ居ルノデアリマス、出來マスナラバ斯樣ナコトヲ致サズ
二、圓滿ニ參ルコトヲ希望イタシテ居ルノデアリマスガ、已ムヲ得ザル事情
デ先刻カラ御話ガアリマシタ通リ、商業會議所、農會、竝ニ只今御話ニナリ
マシタ此畜產組合モ、旣ニ只今强制徵收ニナッテ居ルノデアリマスガ、サウ云
フコトガ段々出來テ參ルノデアリマス、ソレ故ニ趣意ガサウ云フ考ヘデアリ
マスカラ、只今申述べマシタ程度ニ於キマシテ考ヘテ居リマスケレドモ、御
趣旨ノアリマス所ハ能ク體シマシテ、私共出來マス限リ範圍ヲ狹ク致シタイ
ト考ヘル次第デアリマス、今囘提案イタシマシタノハ、只今ノ理由ニ依リマ
シテ出シマシタモノデアリマシテ、將來ニ對シマシテハ餘程是ハ尙ホ一層注
意スベキモノデアルト、斯ウ考ヘテ居リマスコトヲ申述ベマシテ、御答ニ致
シタイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=9
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010・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 ドウモモウ一應政府ニ御考ヲ願ヒタイガ、一體稅ト云フ
モノハ憲法ニ依ッテ臣民ハ納稅義務ヲ有スルト云フコトガアル、ソレ故ニ滯納
處分ト云フコトガ已ムヲ得ズ出ルノデアリマスガ、隨分滯納處分ト云フコト
ハ政府ヲ不人望ニスルモノデアル、大變ニ滯納處分ヲ受ケル者ハ政府ヲ恨
ム、ソレ故ニ滯納處分ト云フコトハ憲法ガ命ジテ臣民ノ義務ヲ果スト云フコ
トカラ生ジテ居ル、稅ニアラザルモノニ無暗ニ法律ヲ以テ滯納處分ヲ强ヒル
ト云フコトニナルト、其結果ガ益國稅地方稅ヲ不人望ニナラシムル、政府
ニ於テハ若シモ此際、政府委員ハ御同感々々々ト頻リニ仰シヤルノデアリマ
スカラ、先ヅ此法案ヲ初メトシテ總テ一齊ニ國稅地方稅以外ノモノハ、皆止
メテシマフト云フヤウナ御考デモアリマセヌデセウカ、寧ロ其方ガサッパリ
綺麗ナヤウニ考ヘル、今一應政府ニ於テハ非常ニ嫌ダ嫌ダト云フ御說明デア
ッテ見レバ、嫌ナラバ寧ロ此際殖ヤサナイ、而シテ尙ホ旣往ノ分モ止メテシ
テノ、斯ウ云フ御決心ヲ御執リニナッタ方ガ宜クハナイカト思ヒマス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=10
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011・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 再應ノ御質問デアリマスガ、私共實ハ斯ウ考ヘテ
居リマス、市町村ニ致シマシテモ、府縣ニ致シマシテモ、或ハ國稅ニ致シマ
シテモ、滯納ト云フコトガナイコトヲ希望スルノデアリマシテ、國稅ニ致シ
マシテモ全體國民ガ、眞ニ此納稅ノ義務ヲ了解ヲ致シマシテ、總テ制度ノ宜
シキヲ得マスレバ、滯納ト云フモノハナイガ本當デアラウカト考ヘルノデア
リマスガ、誠ニ私共不宵デアリマスガ、嘗テ地方自治體ナドノ仕事ニ當ッテ
居リマシタ頃モ、私ノ當ッテ居リマシタ自治體ナドニハ全ク滯納ハナイト申
シテ宜カッタノデアリマス、小サナ市ノ私ノ市長ヲシテ居リマシタ長イ間ニ
一年ニ三百何十圓カ滯納ガアッタ年ガ一番多カッタノデアリマス、所ガ此頃ヲ
見マスルト誠ニ驚クベキ滯納ヲ生ジテ居ルノデアリマス、サウシテ私共ノヤ
ッテ居リマス時ニハ滯納處分ナント云フコトハ、殆ド致シタコトガアリマセ
ヌデ、偶〓僅カナ者ニ對シテ督促令狀ヲ出シマスレバ之ヲ受ケマシタ者ガ非
常ナ恥ノヤウニ考ヘマシテ、直ニ納メタヤウナ次第デアリマス、所ガ近頃ハ
段々慣レマシテ、滯納ノ督促令狀位デハ一向平氣デ居リマシテ、甚ダ言葉ガ
過ギルカハ存ジマセヌガ、先ヅ督促令狀ヲ發送サレマシタ手數料位出シマシ
テモ、遲レタ方ガ宜イト云フヤウニ考ヘテ居ル者モアルノデハナイカト疑ハ
レルヤウナ狀況デアルノデアリマス、斯ノ如ク段々世ノ中ガナッテ參ッタノハ
其罪ガ何處ニアリマスカハ此處デ能ク申述ベルコトハ出來マセヌガ、誠ニ悲
シムベキコトデアルト私ハ考ヘマス、ソコデ商業會議所ニ致シマシテモ、農
會ニ致シマシテモ、畜產組合ニ致シマシテモ、今囘ノ酒造組合ニ致シマシテ
モ、斯ノ如キ〓體ハ御說ノ如クデス、モウ滯納處分ナドヲ致シマセヌデ納マ
ルベキモノデアル、又納マラネバナラナイト考ヘルノデアリマスガ、如何セ
ン今日ノ一般ノ社會狀態カラ參リマスト、之ヲ放任イタシテ置キマシタノデ
ハ、好イ事ニ致シテ滯納ヲスル者ガ益〓殖エル傾向ガアルノデハナイカト虞
ルヽノデアリマス、又實際上左樣ナ事ヲ目擊イタシマスノデ、已ムヲ得ズ茲
ニ此滯納者ニ對シマシテ滯納處分ヲ致スヤウナ法令ヲ設ケラレルコトト考ヘ
マス、是ハ誠ニ世ノ中ノ上ニ於テ悲ムベキ事デアリマスケレドモガ、現狀ニ
於キマシテ已ムヲ得ズ斯ノ如クナッテ居ルノデアリマスカラ、只今申上ゲマ
ス通リ、私ガ御同感ト申上ゲマシタコトガ甚ダ宜シクナイヤウデアリマス
ガ、私共精神ニ於キマシテハ其通リ考ヘルノデアリマス、實際上之ヲ取扱ッテ
其仕事ヲ物ニシテ行キマス上ニハ、矢張リ金ヲ取ラナケレバナラヌ、ソレガ出
サナイ人ガ多イト云フコトガ現レテ參リマスレバ、仕事ヲ育テテ行ク上ニ何
トカ致サネバナラナイト云フ玆ニ問題ガ起リマスノデ、遂ニ斯ノ如キ例ガ開
カレ、只今行ハレテ居ルモノト考ヘマスカラ、只今行ハレテ居リマスルモノ
ヲ直ニ御趣意ガ宜シイト考ヘマシテモ、實際ノ上カラ〓究ヲ致サネバナリマ
セヌカラ、直ニ之ヲ撤廢イタスト云フコトハ御答ヲ致シ兼ネルノデアリマス
ガ、將來ニ對シマシテハ出來得ル限リ私共ノ方ハ、成ルベク斯ウ云フ事ヲ少
ク致シタイト全ク考ヘテ居リマスカラ、是ダケヲ御答スル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサ
セマス
〔長書記官朗讀〕
酒造組合法中改正法律案特別委員
候爵松平康莊君子爵織田信恒君子爵舟橋〓賢君
土方寧君男爵北河原公平君市來乙彥君
高廣次平君瀨川彌右衞門君八馬兼介君
王子南山寺発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、陪審法中改正法律案、政府提出、衆議
院送付、第一讀會
陪審法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十五日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
陪審法中改正法律案
陪審法中左ノ通改正ス
第四條第四號ヲ第五號トシ第三號ヲ第四號トシ同條第二號ノ次ニ左ノ一號
ヲ加フ
三治安維持法ノ罪
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
本法ハ本法施行前ニ生シタル事件ニ付亦之ヲ適用ス
〔國務大臣原嘉道君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=13
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014・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 陪審法中改正法律案ノ提出ノ理由ヲ御說明申上ゲマ
ス、治安維持法ノ罪ハ陪審法第四條ニ列記シテアリマスル刑法第二編第一
章乃至第四章、第八章ノ罪、卽チ内亂罪、外患罪、騷擾罪、竝ニ法令ニ依ル
公選ニ關シ犯シタル罪等ト齊シク、其本質上及實際上ニ於キマシテ、陪審員
ノ公平的確ナル評決ヲ得ルニ適セナイモノデアルノデアリマス、陪審法ニ於
テ之ヲ陪審手續ヨリ除外イタシマセナカッタノハ陪審法制定當時ニ於キマシ
テ未ダ治安維持法ノ制定ガナカッタ爲デアルコトガ明カデアルト考ヘルノデ
アリマス、是ガ、政府ハ現行陪審法ノ精神ニ鑑ミマシテ、治安維持法ノ罪ヲ
陪審法第四條ニ認メタ除外例ニ加ヘマシテ、陪審制度ノ運用上ノ支障ナカラ
シメムコトヲ期シマシテ本案ヲ提出イタシマシタ所以デアリマス、何卒速ニ
御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ハ昭和三年勅令第百二十九號ノ承諾ヲ求ムル
件ノ同一委員ニ付託イタシマス
陪審法中改正法律案特別委員
侯爵鍋島直映君伯爵堀田正恒君大島健一君
富谷 姓太郞君鈴木喜三郞君志水小一郞君
男爵渡邊修二君石渡敏一君濱平右衞門君
보+호흡発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、船舶職員法中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會
船舶職員法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十五日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
船舶職員法中改正法律案
船舶職員法中左ノ通改正ス
第一條第二項中「二等運轉士、機關長及一等機關士」ヲ「二等運轉士、三
等運轉士、機關長、一等機關士、二等機關士及三等機關士」ニバル
第五條第一項中「試驗ヲ受ケ」ヲ「體格檢査及學術試驗ヲ受ケ」ニ、同條第二
項中「商船學校全科卒業證書ヲ有シ遞信大臣ニ於テ試驗規程ニ合格スト認
ムル者ニハ試驗ヲ用ヰスシテ」ヲ「船舶ノ運航若ハ機關ノ運轉ニ關スル學
術ヲ〓授スル學校ノ所定ノ課程及練習ヲ卒リ遞信大臣ニ於テ學術試驗ニ合
格スト認ムル者ニハ學術試驗ヲ行ハスシテ」ニ改メ同條ニ左ノ一項ヲ加フ
小形船舶ニ乘組ム船舶職員ノ有スヘキ海技免狀ハ遞信大臣ノ定ムル所ニ
依リ學術試驗ヲ行ハスシテ之ヲ授與スルコトヲ得
第六條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ船舶職員タルコトヲ得ス又前條ノ體
格檢査及學術試驗ヲ受クルコトヲ得ス
ー六年ノ懲役又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者
二六年末滿ノ懲役又ハ禁錮ノ刑ニ處セラレ刑ノ執行ヲ終リ又ハ其ノ執
行ヲ受クルコトナキニ至ル迄ノ者
三瘋癲、白痴、身體不具其ノ他精神又ハ身體ニ缺陷ヲ有シ執職ニ不適
當ナル者
四海技免狀ノ行使ヲ禁止セラレタル者
五海技免狀ノ行使停止中ノ者
六破產者ニシテ復權ヲ得サル者
遞信大臣ハ海技免狀受有者ニシテ前項第三號ニ該當スルノ疑アルモノニ
就キ管海官廳ヲシテ體格檢査ヲ執行セシムルコトヲ得
第九條第一項中「刑法ノ數罪倶發」ヲ「刑法併合罪」ご依頼人
第九條ノ三朝鮮總督又ハ臺灣總督ノ授與シタル海技免狀ニシテ遞信大臣
ニ於テ第五條ノ規定ニ依リ授與シタルモノト同等ト認メタルモノハ之ヲ
第五條ノ規定ニ依リ遞信大臣ノ授與シタル海技免狀ト看做ス
第一號表ヲ左ノ如ク改ム
第一號表
(其ノ一)船長及運轉士定員表
航路船舶總噸數船舶職員免狀種類定員
種類
五百噸未滿船長乙種二等運轉士免狀一
水平汽船千五百噸末滿船長乙種一等運轉士免狀一
路航船長乙種船長免狀
千五百噸以上
一等運轉士乙種一等運轉士免狀一
二百噸未滿船長乙種二等運轉士免狀-
沿
船長乙種一等運轉士免狀一
海千噸未滿
汽船一等運轉士乙種二等運轉士免狀一
航船長乙種船長免狀一
千噸以上
一等運轉士乙種一等運轉士免狀一
路
帆船二十噸以上船長丙種運轉士免狀一
船長乙種一等運轉士免狀一
五百噸未滿
一等運轉士乙種二等運轉士免狀一
近船長乙種船長免狀一
千噸未滿
一等運轉士乙種一等運轉士免狀-
海船長乙種船長免狀一
二千噸未滿一等運轉士乙種一等運轉士免狀一
航二等運轉士乙種一等運轉士免狀-
汽船
船長甲種船長免狀
路五千噸未滿一等運轉士乙種船長免狀一
二等運轉士甲種二等運轉士免狀一
第船長甲種船長免狀-
一等運轉士乙種船長免狀一
五千噸以上
一二等運轉士甲種二等運轉士免狀一
三等運轉士乙種一等運轉士免狀一
區二百噸未滿船長丙種運轉士免狀一
帆船船長丙種船長免狀-
二百噸以上
一等運轉士丙種運轉士免狀-
三千噸未滿ノ船長甲種船長免狀一
千旅經濟學院一等運轉士甲種一等運轉士免狀一
旅客船二等運轉士甲種二等運轉士免狀-
汽船船長甲種船長免狀
三千噸以上ノ一等運轉士甲種一等運轉士免狀一
旅客船又ハ
旅客船上ノ森一二等運轉士甲種二等運轉士免狀一
三等運轉士甲種二等運轉士免狀
路航海近ハ又路航洋遠
甲種一等運轉士免狀一
船長近海航路第
丙種船長免狀(二區ニ限ル)
二百噸末滿
甲種二等運轉士免狀
一等運轉士近海航路第一
丙種運轉士免狀(二區ニ限ル)
帆船船長甲種船長免狀一
第五百噸未滿
二一等運轉士甲種一等運轉士免狀→
區船長甲種船長免狀→
五百噸以上一等運轉士甲種一等運轉士免狀一
二等運轉士甲種二等運轉士免狀一
備考石數ヲ以テ積量ヲ表示スル船船ニ付テハ積石數十石ヲ以テ總
噸數一噸ニ換算ス
本表ノ定員ハ船長ヲ除クノ外最少員數ヲ示シタルモノトス
(其ノ二)機關長及機關士定員表
航路機關公稱馬力船舶職員免狀種類定員
四百馬力未滿機關長三等機關士免狀一
平
七百馬力未滿機關長二等機關士免狀一
水機關長二等機關士免狀一
千二百馬力未滿
航一等機關士三等機關士免狀一
機關長一等機關士免狀一
路千二百馬力以上
一等機關士二等機關士免狀一
三百馬力未滿機關長三等機關士免狀一
沿五百馬力未滿機關長二等機關士免狀
機關長二等機關士免狀一
海七百馬力未滿
一等機關士三等機關士免狀一
航機關長一等機關士免狀一
二千馬力未滿
一等機關士二等機關士免狀一
路機關長機關長免狀一
二千馬力以上
-等機關士一等機關士免狀一
二百五十馬力未滿機關長三等機關士免狀一
四百馬力未滿機關長二等機關士免狀一
近機關長二等機關士免狀一
六百馬力未滿
一等機關士三等機關士免狀一
海
機關長一等機關士免狀一
千二百馬力未滿
航一等機關士二等機關士免狀
機關長機關長免狀
二千馬力未滿
路一等機關士一等機關士免狀一
機關長機關長免狀一
第四千馬力未滿一等機關士一等機關士免狀
一
二等機關士二等機關士免狀一
一
機關長機關長免狀一
區一等機關士一等機關士免狀一
四千馬力以上
二等機關士一等機關士免狀一
三等機關士二等機關士免狀一
機關長機關長免狀一
二千馬力未滿
-等機關士一等機關士免狀一
航機關長機關長免狀-
三千馬力未滿-等機關士一等機關士免狀-
二等機關士二等機關士免狀一
機關長機關長免狀-
第路航海近ハ又路五千馬力未滿ノ旅-等機關士一等機關士免狀一
客船又ハ三千馬力
以上ノ非旅客船二等機關士一等機關士免狀
三等機關士二等機關士免狀一
二機關長機關長免狀一
區五千馬力以上ノ旅一等機關士一等機關士免狀一
客船二等機關士一等機關士免狀一
三等機關士一等機關士免狀一
備考本表ノ定員ハ機關長ヲ除クノ外最少員數ヲ示シタルモノトス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ船舶職員トシテ就職中ノ者ハ遞信大臣ノ定ムル所ニ依リ
本法施行後引續キ同一ノ船舶ニ於テ同一ノ職ヲ執ル期間內ニ限リ仍從前ノ
例ニ依リ就職スルコトヲ得
本法ノ適用ニ付テハ舊刑法ノ重罪ノ刑ニ處セラレタル者ハ之ヲ六年ノ懲役
又ハ禁錮以上ノ刑ニ處セラレタル者ト看做ス
國務大臣久原房之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=16
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017・久原房之助
○國務大臣(久原房之助君) 船舶職員法中改正法律案提出ノ理由ヲ申上ゲマ
ス、現行法ハ明治二十九年ニ制定セラレマシテ、其後僅ニ三十八年ニ一部ノ
改正ガ加ヘラレマシタニ過ギナイノデアリマス、然ルニ海運界ハ非常ニ進步
ヲ遂ゲマシテ、御承知ノ如ク全ク隔世ノ感ガアルノデゴザイマス、デ其狀態
ニ適應サセマスルガ爲ニ玆ニ此改正案ヲ提出イタシマシタ次第デアリマス、
是ハ何レモ關係者ヨリノ陳情、建議ノ趣意等モ參酌按排シマシテ、現今ノ海
運狀態ニ適應セシメムトスルニ外ナラヌ次第デアリマス、ドウゾ宜シク御審
議下サルコトヲ御願致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=17
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018・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサ
セマス
瀨古書記官朗讀〕
船舶職員法中改正法律案特別委員
侯爵鍋島直映君子爵大久保立君子爵岩城隆德君
若林賚藏君男爵赤松範一君澤山精八郞君
大城兼義君松本勝太郞君鳴海周次郞君
南京市止発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第四、無線電信法中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會
無線電信法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十五日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
無線電信法中改正法律案
無線電信法中左ノ通改正ス
第三條中「私設ノ無線電信ノ通信」ヲ「私設ノ無線電信又ハ無線電話ノ通信」
ニ改メ「資格」ノ下ニ「及配置定員」ヲ加フ
第七條中「設備ノ變更ヲ命スルコトヲ得」ヲ「設備ノ變更、使用ノ制限若ハ
使用ノ停止ヲ命スルコトヲ得無線電信、無線電話ノ混信防遏ノ爲必要ト認
ムルトキ亦同シ」三八人
第八條ノ二無線電信又ハ無線電話ニ依ル通信公安ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壞
亂スルモノト認ムルトキハ主務大臣ノ指定シタル電信官署又ハ電話官署
ニ於テ之ヲ停止シ又ハ當該無線電信、無線電話ノ施設者若ハ當該通信ヲ
發スル者ニ對シ其ノ通信ノ停止ヲ命スルコトヲ得
第十三條ノ二主務大臣ハ私設ノ無線電信又ハ無線電話ノ機器、其ノ裝置
又ハ運用ニ關シ監督上必要ト認ムルトキハ當該官吏ヲシテ其ノ施設ノ場
所ニ立入リ機器工作物及關係書類ノ檢査ヲ爲サシムルコトヲ得
第十三條ノ三前二條ノ規定ニ依リ當該官吏無線電信又ハ無線電話ノ施設
ノ場所ニ立入ル場合ニ於テハ其ノ身分ヲ證明スヘキ證票ヲ携帶スヘシ
第十五條中、ㄱ船舶遭難」ノ下ニ「、航行ノ安全」ヲ加フ
第二十條ノ二無線電信又ハ無線電話ニ依リ知得タル前條ニ該當セサル無
線電信又ハ無線電話ノ通信ノ祕密ヲ漏泄シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ
二百圓以下ノ罰金ニ處ス
前項ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ス
第二十二條ノ二無線電信又ハ無線電話ニ依リ公安ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壞
亂スル通信ヲ發シタル者ハ二年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス」
無線電信又ハ無線電話ノ事務ニ從事スル者前項ノ行爲ヲ爲シタルトキハ
五年以下ノ懲役又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第二十六條中「前十條」ヲ「第十六條乃至第二十五條」ニ改ム
第二十七條中「第十三條」ノ下ニ「若ハ第十三條ノ二」ヲ加フ
第二十八條中「、第五條」ヲ削ル
第二十八條ノ二無線電信又ハ無線電話ニ非スト雖高周波電流ヲ使用シ通
報信號ヲ爲スモノニ關シテハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法ノ規定ヲ準用ス
第二十八條ノ三主務大臣ハ無線電信又ハ無線電話ニ依ル公衆通信又ハ軍
事上必要ナル通信ニ及ホス障碍ヲ防止スル爲必要ト認ムルトキハ高周波
電流ヲ發生スル設備ニシテ無線電信、無線電話又ハ前條ノ通報信號施設
ニ非サルモノニ關シ其ノ施設者ニ對シ設備ノ變更又ハ特殊ノ設備ヲ命ス
ルコトヲ得此ノ場合ニ於テ設備ノ變更又ハ特殊ノ設備ニ要シタル費用ハ
命令ノ定ムル所ニ依リ政府之ヲ補償ス
前項ノ規定ニ依ル補償ニ關スル決定ニ對シ不服アル者ハ其ノ通知ヲ受ケ
タル日ヨリ三月內ニ民事訴訟ヲ提起スルコトヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣久原房之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=19
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020・久原房之助
○國務大臣(久原房之助君) 無線電信法中改正法律案提出ノ趣意ヲ申上ゲマ
ス、一昨年十月ヨリ十一月ニ亙リマシテ、米國華盛頓ニ開催セラレマシタ、
國際無線電信會議ニ於キマシテ、帝國委員ガ各國委員ト共ニ調印イタシマシ
タル所ノ改正國際無線電信條約ハ、曩ニ御批准ヲ經マシテ昨年ノ末ニ公布セ
ラレヽ本年一月一日ヨリ實施セラレタノデゴザイマス、此條約ノ實施ニ伴ヒ
マシテ、國內ノ法規ニモ改正ヲ必要トスルモノガ生ジテ參ッタノデアリマスル
ガ、尙ホ我國ニ於キマスル無線電信、無線電話ノ普及發達ノ狀況ニ鑑ミマシ
テ、廣ク電波ノ統制竝ニ通信ノ取締ニ付キマシテモ、又新タニ規定スルノ必
要ヲ見ルニ至ッタ次第デゴザイマス、斯樣ナ次第デアリマシテ、玆ニ無線電信
法ノ一部ノ改正ヲ致シマス法律案ヲ提出イタシマシタ次第デアリマス、何卒
御審議ノ上御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=20
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021・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨戶書記官朗讀〕
無線電信法中改正法律案特別委員
候爵中山輔親君伯爵酒井忠正君子爵朽木綱貞君
內田嘉吉君男爵三須精一君鍋島桂次郞君
森廣三郞君若尾璋八君森田福市君
薰業発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=21
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022・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第五、大禮紀念帝室博物館復興翼賛會事業ノ
補助ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
大禮帝室博物館復興翼贊會事業費ノ補助ニ關スル法律案
記念
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十六日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
大禮新大合 市室博物館復興翼贊會事業費ノ補助ニ關スル法律案
昭和四年度ニ於テ大禮帝室博物館復興翼贊會ノ事業費ニ對スル補助金ニ充
記念
用スル爲造幣局資金ノ內三百五十万圓ヲ限リ一般會計ニ繰入ルルコトヲ得
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=22
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023・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 大禮紀念帝室博物館復興翼賛會事業費ノ補助ニ關
スル法律案ニ付キマシテ提案ノ理由ヲ御說明イタシタイト存ジマス、今上陛
下御卽位ノ大禮ヲ記念イタシマスル爲ニ、東京帝室博物館ヲ復興イタシマシ
テ、之ヲ帝室ニ獻上シテ帝室ノ文化的御事業ヲ翼贊シ奉リマスル爲ニ、先般
大禮紀念帝室博物館復興翼賛會ガ組織セラレタノデアリマス、而シテ其復興
ニ要シマスル經費ハ八百五十万圓ノ見込デアリマシテ、內五百万圓ハ之ヲ全
國有志者ノ寄附ニ待チマシテ、三百五十万圓ハ之ヲ政府ノ補助ニ依リマシテ、
該事業ノ達成ヲ期セントスルノ計畫デアリマス、是ハ最モ時宜ニ適セルモノ
ト認メマス、民間ニ於ケル寄附ハ確實ノ見込デアリマスカラ、前記補助金額
ヲ昭和四年度追加豫算トシテ今囘提出イタシマシタ、而シテ其財源ハ之ヲ造
幣局資金ニ屬シテ居リマスル現金ヲ以テ充當スルコトヽ致シ、右資金ヲ一般
會計ニ繰入レルノ途ヲ開クノ必要ガアリマシテ、本法律案ヲ提出イタシマシ
タ次第デアリマス、何卒御協賛アラムコトヲ切望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=23
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024・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
[瀨古書記官朗讀]
大禮帝室博物館復興翼賛會事業ノ補助ニ關スル法律案特別委員
紀念
侯爵德川賴貞君伯爵川村鐵太郞君子爵前田利定君
男爵沖貞男君原保太郞君岡崎邦輔君
大橋新太郞君太田〓藏君八木春樹君
五十八山후보発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第六、第七、第八、第九、第一讀會
地方鐵道法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十六日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
地方鐵道法中改正法律案
地方鐵道法中左ノ通改正ス
第一條中「軌道條例」ヲ「軌道法」ニ改ム
第三條ニ左ノ一項ヲ加フ
前項ノ軌間ノ制限ハ命令ヲ以テ定ムル特殊ノ地方鐵道ニ付テハ之ヲ適用
セス
第六條ノ二地方鐵道會社ハ線路延長ノ費用ニ充ツル爲其ノ資本ヲ增加ス
ル場合ニ限リ監督官廳ノ認可ヲ受ケ利益配當ニ關シ一定ノ期間內普通株
ニ劣ル株式(後配株)ヲ發行スルコトヲ得
第六條ノ三後配株ヲ發行スル場合ニ於テハ其ノ旨ヲ定款ニ記載シ且株式
申込證ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
一後配株ノ種類及其ノ各種ノ株式ノ數
二後配株ノ利益配當ニ關スル事項
三延長線ノ工事ノ大要殊ニ其ノ開業豫定時期
第六條ノ四後配株ノ發行ニ依リテ得タル資金ハ當該線路延長ノ費用以外
ニ之ヲ充ツルコトヲ得ス
會社カ後配株ヲ發行シタル場合ニ於テ定款又ハ株式申込證ニ記載シタル
事項ニ付特ニ後配株主ニ不利益ナル變更ヲ爲サムトスルトキハ後配株主
總會ノ決議ヲ經ルコトヲ要ス但シ已ムコトヲ得サル事由アル場合ニ於テ
裁判所ノ許可アルトキハ此ノ限ニ在ラス
後配株主總會ニハ株主總會ニ關スル規定ヲ準用ス
第六條ノ五商法第百九十七條但書、第二百十二條ノ三第二項、第二百十
七條第一項第四號及第二百十八條第二項ノ規定ハ後配株ニ付之ヲ準用ス
第七條第一項ヲ削リ同條中「社債ハ」ヲ「地方鐵道會社ノ社債ハ」ニ改ム
第八條第二項ヲ削ル
第九條削除
第二十二條第一項中「發著時刻及度數」ヲ「運轉速度及度數」ニ、同條第二項
中「發著時刻及度數」ヲ「運轉速度、度數及發著時刻」ニ改ム
第三十條政府カ公益上ノ必要ニ因リ地方鐵道(工事中ノ線路ヲ含ム)ノ全
部又ハ一部及其ノ附屬物件ヲ買收セムトスルトキハ地方鐵道業者ハ之ヲ
拒ムコトヲ得ス
前項ノ規定ニ依リテ一部買收セラレタル爲殘存線路ノミニ付營業ヲ繼續
スルコト能ハサルニ至リタルトキハ地方鐵道業者ハ殘存開業線路及其ノ
附屬物件ノ買收ヲ申請スルコトヲ得
第三十一條買收價額ハ左ニ揭クルモノトス
最近ノ營業年度末迄ニ運輸開始後三年ヲ經過シタル線路ヲ含ム開業
線路ニ付テハ其ノ營業年度末ヨリ遡リ既往三年間ニ於ケル開業線建設
費ニ對スル益金ノ平均割合ヲ買收ノ日ニ於ケル開業線建設費ニ乘シタ
ル額ヲ二十倍シタル金額
二最近ノ營業年度末迄ニ運輸開始後三年ヲ經過シタル線路ヲ含マサル
開業線路ニ付テハ買收ノ日ニ於ケル開業線建設費ヲ時價ニ依リテ國債
劵面金額ニ換算シタル金額以内ニ於テ協定シタル金額
三工事中ノ線路及買收ノ日迄ニ未タ使用開始ニ至ラサル改良施設ニ付
テハ買收ノ日ニ於ケル建設費ヲ時價ニ依リテ國債劵面金額ニ換算シタ
ル金額以内ニ於テ協定シタル金額
前項第一號ノ規定ニ依ル金額カ買收ノ日ニ於ケル建設費ヲ時價ニ依リテ
國債劵面金額ニ換算シタル金額ニ達セサルトキハ其ノ換算シタル金額以
內ニ於テ協定シタル金額ヲ以テ買收價額トス
第三十二條政府ハ買收鐵道ノ營業ノ狀況ニ基キ前條第一項第一號若ハ第
二號又ハ同條第二項ノ規定ニ依ル買收價額ニ其ノ百分ノ五以內ノ金額ヲ
加算スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ金額ヲ加算スヘキ場合及其ノ割合ハ命令ヲ以テ之ヲ
定ム
第三十三條第三十一條ノ規定ニ於テ益金トハ營業收入ヨリ營業費及賞與
金ヲ控除シタルモノヲ謂ヒ益金ノ平均割合トハ三年間ニ於ケル每營業年
度末ノ開業線建設費ノ合計ヲ以テ同期問ニ於ケル益金ノ合計ヲ除シタル
モノニ一年間ニ於ケル營業年度ノ數ヲ乘シタルモノヲ謂フ
建設費、營業收入及營業費ハ命令ノ定ムル所ニ依リテ算出シタル金額ニ
依ル
第三十三條ノ二政府ノ買收スル鐵道又ハ其ノ附屬物件ニ付買收ノ日ニ於
テ補修ヲ要スルモノアルトキハ之ニ要スル金額ヲ時價ニ依リテ國債劵面
金額ニ換算シ買收價額ヨリ控除ス
最近ノ營業年度末迄ニ爲スヘキ補修ヲ其ノ營業年度末迄ニ爲ササリシト
キハ前項ノ規定ニ依ルノ外之ニ要スル金額ヲ買收價額計算上ノ營業費ニ
加算ス
第三十五條ノ二政府ハ買收ノ日ヨリ買收代價交付ノ日ニ至ル迄買收代價
トシテ交付スヘキ國債ノ利子ニ相當スル金額ヲ〓算ヲ以テ從前ノ決算期
每ニ買收セラレタル者ニ交付スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ交付シタル金額ハ〓算中ト雖主務大臣ノ認可ヲ受ケ
之ヲ株主ニ配當スルコトヲ得
第三十五條ノ三第三十條第一項ノ規定ニ依リテ一部買收セラレタル爲殘
存線路ノミニ付營業ヲ繼續スルコト能ハサルニ至リタルトキハ地方鐵道
業者ハ未タ運輸開始ニ至ラサル殘存線路ニ付其ノ營業廢止ニ因リテ生ス
ル損失ノ補償ヲ申請スルコトヲ得
第三十六條第二項及第三項ヲ削リ同條ニ左ノ一項ヲ加フ
前項ノ規定ハ未タ運輸開始ニ至ラサル線路ニ付之ヲ準用ス
第三十六條ノ二ヲ第三十六條ノ三トシ同條第三項中「第三十一條第三項ノ
規定ハ前二項ノ益金」ヲ「第三十三條ノ規定ハ前二項ノ益金、建設費」ニ
改ム
第三十六條ノ二前二條ノ補償金額ハ第三十一條乃至第三十三條ソ二ノ規
定ニ準シテ算出シタル金額ヨリ殘存物件ノ價額ヲ時價ニ依リテ國債劵面
金額ニ換算シタル金額ヲ控除シタル殘額以内ニ於テ政府之ヲ定ム
未タ工事ニ著手セサル線路ニ對スル補償金額ハ測量其ノ他ノ費用ヨリ殘
存物件ノ價額ヲ控除シタル殘額ヲ時價ニ依リテ國債劵面金額ニ換算シタ
ル金額以内ニ於テ政府之ヲ定ム
第三十五條及第三十五條ノ二ノ規定ハ前二項ノ補償金ノ支拂ニ付之ヲ準
用ス
第三十六條ノ四主務大臣ハ地方鐵道ノ買收又ハ補償ニ關シ必要アリト認
ムルトキハ當該地方鐵道業者ヲシテ建設費ノ增減ヲ來スヘキ事項ニ付認
可ヲ受ケシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ認可ヲ受クヘキ場合ニ於テ之ヲ受ケサルモノニ付テ
ハ政府ハ其ノ額ヲ査定スルコトヲ得
第三十六條ノ五第三十一條、第三十三條ノ二及第三十六條ノ二ノ國債時
價ハ大藏大臣ノ定ムル所ニ依ル
第三十九條第一項ニ左ノ一號ヲ加フ
五第六條ノ四第一項ノ規定ニ違反シタルトキ又ハ同條第二項ノ規定ニ
違反シテ後配株主ニ不利益ヲ及ホシタルトキ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
軌道法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十六日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
軌道法中改正法律案
軌道法中左ノ通改正ス
第十一條第一項中「運轉時刻」ヲ「運轉速度及度數」ニ、同條第二項中「料金
又ハ運轉時刻」ヲ「料金、運轉速度、度數又ハ發著時刻」ニ改ム
第十七條公共團體ニ於テ公益上ノ必要ニ因リ軌道(未タ運輸開始ニ至ラ
サル線路ヲ含ム)ノ全部又ハ一部及其ノ附屬物件ヲ買收セムトスルトキ
ハ軌道經營者ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
前項ノ規定ニ依リテ一部買收セラレタル爲殘存線路ノミニ付事業ヲ繼續
スルコト能ハサルニ至リタルトキハ軌道經營者ハ殘存開業線路ニ付テハ
該線路及其ノ附屬物件ノ買收ヲ求メ未タ運輸開始ニ至ラサル殘存線路ニ
付テハ其ノ事業廢止ニ因リテ生スル損失ノ補償ヲ求ムルコトヲ得
第十八條公共團體ニ於テ前條ノ規定ニ依ル買收ヲ爲サムトスルトキハ主
務大臣ノ認可ヲ受クヘシ
公共團體ニ於テ前條ノ規定ニ依ル買收ヲ爲シタルトキハ特許ニ因リテ生
スル權利義務ヲ承繼ス
第十九條公共團體カ第十七條ノ規定ニ依ル買收又ハ補償ヲ爲ス場合ニ於
テハ買收價額又ハ補償金額ハ協定ニ依ル協議調ハサルトキハ申請ニ因リ
地方鐵道法第三十一條乃至第三十三條ノ二又ハ第三十六條ノ二ノ規定ニ
準シ算出シタル金額ヲ標準トシテ主務大臣之ヲ裁定ス
第二十條中「第十八條第一項」ヲ「第十七條」ニ改ム
第二十六條地方鐵道法第六條ノ二乃至第八條、第十條第二項、第十一條、
第十五條、第十七條、第十九條第二項、第二十三條第二項第三項、第二
十五條、第二十七條、第三十條乃至第三十六條ノ二、第三十六條ノ四及
第三十六條ノ五ノ規定ハ軌道ニ之ヲ準用ス但シ地方鐵道法第七條第二項
及第八條中鐵道抵當法トアルハ明治四十二年法律第二十八號トス
第二十九條第一項ニ左ノ一號ヲ加フ
五第二十六條ニ於テ準用スル地方鐵道法第六條ノ四第一項ノ規定ニ違
反シタルトキ又ハ同條第二項ノ規定ニ違反シテ後配株主ニ不利益ヲ及
ホシタルトキ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
非訟事件手續法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十六日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
非訟事件手續法中改正法律案
非訟事件手續法中左ノ通改正ス
第百二十六條第一項ノ末尾ニ「地方鐵道法第六條ノ四第二項(軌道法第二十
六條ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ニ定メタル事件亦同シ」ヲ加フ
第百三十五條ノ五地方鐵道法第六條ノ四第二項(軌道法第二十六條ニ於
テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル許可ノ申請ハ已ムコトヲ得サル事
由ヲ疏明シテ總取締役之ヲ爲スヘシ
第百三十五條ノ六前條ノ規定ニ依ル申請ニ付テハ裁判所ハ利害關係人ノ
陳述ヲ聽キ理由ヲ附シタル決定ヲ以テ裁判ヲ爲スヘシ
申請ヲ認許スル裁判ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコトヲ得ス
申請ヲ認許セサル裁判ニ對シテハ即時抗告ヲ爲スコトヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
鐵道營業法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十八日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
鐵道營業法中改正法律案
鐵道營業法中左ノ通改正ス
第十一條旅客又ハ荷送人ハ手荷物又ハ運送品託送ノ際鐵道運輸規程ノ定
ムル所ニ依リ表示料ヲ支拂ヒ要償額ヲ表示スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル表示額カ託送手荷物又ハ運送品ノ引渡期間末日ニ於ケ
ル到達地ノ價格及引渡ナキ場合ニ於テ旅客又ハ荷送人カ受クヘキ其ノ他
ノ損害ノ合計額ヲ超ユルトキハ其ノ超過部分ニ付テハ其ノ表示ハ之ヲ無
效トス
第十一條ノ二要償額ノ表示アル託送手荷物又ハ運送品ノ滅失又ハ毀損ニ
因ル損害ニ付賠償ノ責ニ任スル場合ニ於テハ鐵道ハ表示額ヲ限度トシテ
一切ノ損害ヲ賠償スル責ニ任ス此ノ場合ニ於テ鐵道ハ損害額カ左ノ額ニ
達セサルコトヲ證明スルニ非サレハ左ノ額ノ支拂ヲ免ルルコトヲ得ス
全部滅失ノ場合ニ於テハ表示額
二一部滅失又ハ毀損ノ場合ニ於テハ引渡アリタル日(延著シタルトキ
ハ引渡期間末日)ニ於ケル到達地ノ價格ニ依リ計算シタル價格ノ減少
割合ヲ表示額ニ乘シタル額
託送手荷物、高價品又ハ動物ニ付テハ託送ノ際旅客又ハ荷送人カ要償額
ノ表示ヲ爲ササル場合ニ於テハ鐵道ハ鐵道運輸規程ノ定ムル最高金額ヲ
超エ其ノ滅失又ハ毀損ニ因ル損害ヲ賠償スル責ニ任セス
前二項ノ賠償額ノ制限ハ託送手荷物又ハ運送品カ鐵道ノ惡意又ハ重大ナ
ル過失ニ因リテ滅失又ハ毀損シタル場合ニハ之ヲ適用セス
第十二條引渡期間滿了後託送手荷物又ハ運送品ノ引渡ヲ爲シタル場合ニ
於テハ延著トス
引渡期間ハ鐵道運輸規程ノ定ムル所ニ依ル
延著ニ因ル損害ニ付賠償ノ責ニ任スル場合ニ於テハ鐵道ハ左ノ額ヲ限度
トシテ鐵道運輸規程ノ定ムル所ニ依リ一切ノ損害ヲ賠償スル責ニ任ス
-要償額ノ表示アルトキハ其ノ表示額
二要償額ノ表示ナキトキハ其ノ運賃額
前項ノ賠償額ノ制限ハ託送手荷物又ハ運送品カ鐵道ノ惡意又ハ重大ナル
過失ニ因リテ延著シタル場合ニハ之ヲ適用セス
第十三條鐵道カ引渡期間滿了後一月ヲ經過スルモ託送手荷物又ハ運送品
ノ引渡ヲ爲ササル場合ニ於テハ旅客又ハ貨主ハ滅失ニ因ル損害賠償ヲ請
求スルコトヲ得但シ鐵道ノ責ニ歸スヘカラサル事由ニ因リ引渡ヲ爲ササ
ル場合ハ此ノ限ニ在ラス
前項ノ規定ニ依リ賠償ヲ受ケタル者ハ其ノ請求ノ際留保ヲ爲シタルトキ
ハ到達ノ通知ヲ受ケタル後一月內ニ限リ賠償金ヲ返還シテ託送手荷物又
ハ運送品ノ引渡ヲ受クルコトヲ得
第十八條ノ二第三條、第六條乃至第十三條、第十四條、第十五條及第十
八條ノ規定ハ鐵道ト通シ運送ヲ爲ス場合ニ於ケル船舶、軌道、自動車又
ハ索道ニ依ル運送ニ付之ヲ準用ス
第十八條ノ三鐵道ト船舶ト通シ運送ヲ爲ス場合ノ運送ニ付テハ請求ニ因
リ荷送人ハ全運送ニ對シ運送狀ヲ交付スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テハ荷送人ノ請求ニ因リ全運送ニ對シ、貨物引換證ヲ交
付スルコトヲ要ス
前二項ノ運送狀又ハ貨物引換證ニ付テハ鐵道運送ニ於ケル運送狀又ハ貨
物引換證ニ關スル規定ヲ準用ス
第十八條ノ四前二條ノ規定ノ適用ヲ受クヘキ船舶ニ依ル運送ハ其ノ運送
ノ狀態ニ於テ鐵道運送ニ附屬シタルモノニ限リ其ノ航路及之カ運送業者
ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十七條削除
第三十條託送手荷物又ハ運送品ノ種類又ハ性質ヲ詐稱シタル者ハ五十圓
以下ノ罰金又ハ科料ニ處ス記名乘車劵ヲ買求ムル際氏名ヲ詐稱シタル者
亦同シ
第四十三條削除
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣小川平吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=25
-
026・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君) 地方鐵道法中改正法律案竝ニ軌道法中改正法律案
ノ提出ノ理由ヲ說明イタシマス、地方鐵道法ハ大正八年ニ實施セラレマシタ
ガ、其後ノ實績ニ鑑ミマシテ一部改正ヲ爲スノ必要ヲ認メマシタノデゴザイ
やく、其改正ノ要點ハ四ツデゴザイマシテ、第一點ハ特殊ノ地方鐵道ニ對シ
テ軌間ノ制限ヲ緩和イタシマスルコトデゴザイマス、第二點ハ地方鐵道會社
ニ對シテ後配株ノ發行ヲ認メマシタコトデゴザイマス、是ハ優先株ニ反對ノ
後ニ配當ヲ致シマスルノデ、後配株ト名ヲ付ケマシタノデアリマス、第三ハ
事務簡捷ノ趣旨ニ基キマシテ、私設鐵道會社ヨリ認可ノ事項ヲ削減ヲ致シマ
シタ、第四ハ買收補償ニ關スル規定ヲ少シク改廢ヲ致シマシタ、又軌道法中
改正法律案ハ前述ノ地方鐵道法中改正ニ伴ヒマシテ、軌道法ニ於テモ同樣ノ
改正ヲ致シタイト考ヘテ居ルノデゴザイマス、何卒御審議上ノ御協賛ヲ與ヘ
ラレムコトヲ希望イタシマス、次ニ鐵道營業法中改正法律案ニ付テ說明ヲ申
上ゲマス、現行ノ鐵道營業法ハ明治三十三年ノ制定ニ係リマシテ、爾來約三十
年間ヲ經過イタシテ居リマス、其間、一方ニハ鐵道其他ノ交通機關ガ長足ノ進
步ヲ遂ゲマシテ、他方ニ又之ヲ利用スル社會經濟ノ方面ニ付キマシテモ著シ
ク發達イタシテ參リマシタ爲ニ、同法ハ今日ノ狀態ニ適合シナイ嫌ガアリマ
スルノデ、今囘其中ノ一部分ノ改正ヲ施スノ必要ヲ認メマシテ、此法案ヲ提
出イタシマシタ次第デゴザイマス、而シテ其主要ナル點ヲ大略申上ゲマスト、
先ヅ損害ノ要償額ノ表示ノ制度ヲ設ケマシテ商取引ノ實際ニ適合セシメマス
ルト共ニ、損害賠償ヲ迅速簡單ニ處理セシムルノ方法ヲ講ジマシタノガ第一
デアリマス、次ニハ又貨物引渡ノ期間ヲ定メマシテ、鐵道輸送ノ期間ヲ保證
シマスルト同時ニ、延著等ノ場合ニ於ケル損害賠償ノ關係ヲ明確ニ致シマシ
々、更ニ又鐵道ト他ノ運送機關トノ連絡運送ヲ圓滑ナラシメマシテ、殊ニ鐵
道ト船舶ノ間ニ別々ニナッテ居リマシタ所ノ此運送ニ對シ、一ノ貨物引換證ヲ
發行シテ輸送ノ便利ヲ圖リタイト云フコトデゴザイマス、大體右樣ナ點ニ於
テ改正ヲ施シタイト考へテ居ルノデアリマス、何卒御審議ノ上御協賛ヲ與ヘ
ラレムコトヲ希望イタシマス、非訟事件手續法ノコトニ付キマシテハ只今司
法大臣ヨリ御說明申上ゲマス
國務大臣原嘉道君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=26
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027・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 日程第八ノ非訟事件手續法中改正法律案提案ノ理由
ヲ御說明申上ゲマス、只今日程第六、第七トシテ上ボッテ居リマスル地方鐵道
法中改正法律案及軌道法中改正法律案ニ於キマシテ、地方鐵道會社及軌道會
社ガ一定ノ條件ノ下ニ後配株ヲ發行スルコトヲ許スコトニナッテ居リマス、併
シ此後配株ヲ發行イタシマシタ場合ニ於キマシテ、定款又ハ株式申込書ニ記
載サレタ事項ニ付テ、殊ニ後配株主ノ不利益ナル變更ヲ爲サント致シマスル
時ニハ、後配株主ノ總會ノ決議ヲ經ルコトニナッテ居リマスガ、已ムヲ得ザル
理由ガアリマスル場合ニハ、其變更ハ同株主總會ノ決議ヲ經ルコトナク、裁
判所ノ許可アルヲ以テ足ルト云フコトニナシテ居リマス、之ガ爲ニ、裁判所
ニ於ケル是ガ申請手續キニ關シテ規定ヲ設クル必要ガアリマシタ爲ニ、本案
ヲ提出イタシマシタ次第デアリマス、何卒御協賛アラムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=27
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028・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第六ニ靑木君ノ質疑ノ通告ガゴザイマスカ
ラ、同君ニ發言ヲ許シマス
〔靑木周三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=28
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029・青木周三
○靑木周三君 只今上程セラレマシタ地方鐵道法ノ改正法律案ハ、是ハ多年
鐵道業者ガ要望シテ居ッタ點ヲ取入レテ提出セラレタモノデアリマシテ、是ハ
數年前ヨリ屢、鐵道省ニ於テ立案セラレテ、帝國議會ニ提出セントシマシタケ
レドモ、或ハ會期ガ切迫スルトカ、或ハ他ノ省トノ協定ガ出來ナイ爲ニ、遂
ニ其運ビニ至ラナイノデ、今囘初メテ本院マデ出テ來ルト云フヤウナ程度ニ
運ンデ行ッタコトハ、私共頗ル喜ブ所デゴザイマスルガ、此處ニ改正セラレル
所ノ主要ナ點ハ、只今鐵道大臣ガ述ベラレタ通リニ、主トシテ買收及補償ニ
關シテ色〓從來ノ法律ノ缺點ヲ補フテ行ッタモノデアリマシテ、或ハ從來カラ
段々ニ成績ノ良クナリツヽアル所ノ會社ヲ强制買收ヲスル、サウ云フ爲ニ單
純ニ過去三年間ノ利益ヲ標準トシテ、買收價格ヲ決定スルト云フコトニスル
ト云フコトハ、折角利益ノ上ラントシテ居ル所ノ會社ヲ、過去ノ成績ニ依テ買
收價格ヲ決定スルト云フヤウナコトニナレバ、甚シク會社ノ利益ヲ損スルト
云フヤウナ點ヲ救濟スルトカ、或ハ色〓ナ弊ガアリマス、斯ウ云フ風ナ關係カ
ラシテ、是ガ買收價格ヲ決定スル爲ニ非常ニ差異ヲ生ズルノデアリマス、然
ルニ政府ハ今度十四會社ノ鐵道ヲ買收スル所ノ法律案ヲ出サレマシテ、其方
ガ一週間若クハ十日以上モ早ク議會ニ提出セラレテ、サウシテ衆議院ニ於テ
ハソレガ審議ヲシテ居ル途中ニ、突然トシテ此法律案ガ出マシタ爲ニ、衆議
院ニ於テハ頗ル驚愕ヲ感ジタノデアリマス、斯ノ如キ鐵道ヲ買收スルコトヲ
審議シツヽアル時ニ、突然トシテ其買收價格ガ二百万圓トカ三百万圓トカノ
增加ヲ來ス所ノ法律案ガ後カラ出テ來ルト云フコトニ付テ、衆議院ニ於テハ
頗ル驚キト疑惑ヲ感ジタノデアリマス、ソレニ對シテ政府ガ說明セラレル所
ハ頗ル尤モナ點ガアリマシテ、私ハソレヲ了承シテ居リマスル、政府ノ說明
ヲ聞キマスレバ、是ハ司法省ニモ關係シ、大藏省ニモ關係シ、色〓ノ省ニ關係
スル爲ニ、買收ニ關スル公債ノ發行法律案ノヤウナ簡單ナモノデナイ爲ニ、提
出ガ遲レタノデアルト云フコトヲ辯明セラレテ居リマス、ソレハ其通リデア
ラウト思ッテ居ルノデアリマスルケレドモ、併ナガラソレハ了承スルト云フダ
ケデアリマシテ、全體ソレハ政府ノ部內ノ關係デアリマス、大藏省ニ關係シ、
法制局ニ關係シ、司法省ニ關係スルト云フコトハ法律ノ性質上數年前カラ明
カナコトデアリマシテ、尙ホ此法律案ハ前ニモ申シマシタ通リニ、屢、鐵道省
ニ於テ立案セラレタモノデアリマシテ、今度提出セラレタモノヲ拜見イタシ
マシテモ大ナル變化ハナイノデアリマス、然ルニ斯ウ云フモノガ買收ニ關ス
ル法律案ト非常ニ遲レテ提出セラレタト云フコトハ何トシテモ政府ノ責任ヲ
免レナイデアラウト思フノデアリマス、デ私共ハソレニ疑惑モ感ジマセヌガ、
驚キモ感ジマセヌガ、併ナガラ私共ガ一員トナッテ居リマス所ノ敷設法改正
法律案ノ特別委員會ニ於テ、十四鐵道ノ買收ノ案ヲ議スルニ當ッテ、少カラズ
是ガ遲レル爲ニ不便ヲ感ジタコトハ少カラザルモノデアルノデアリマスル、
是ガ爲ニ審議ガ遲レルト云フコトハドウシテモ政府ガ其責任ヲ取ラナクチ
ヤナラヌコトダト私ハ思ッテ居ルノデアリマスル、此點ハ私共ガ疑惑ヤ誤解ハ
致シマセヌケレドモガ、何故モウ少シ早ク此政府部內ノ議ヲ纒メラレテ、殊
ニ有力ナル鐵道大臣ヲ持ッテ居ル所ノ此內閣ニ於キマシテ、何故ニ斯樣ニ遲レ
テ此法律ヲ出サレタカト云フコトヲ、一應鐵道大臣ニ伺ヒタイト思フノデア
リマスル、ソレカラ小サナ事デアリマスルケレドモガ、此法律案ノ中ニ事務
簡㨗ノ爲ト云フテ、鐵道會社ガ兼業ヲスルコトヲ······主務大臣ノ認可ヲ受ケ
ナケレバ他ノ事業ヲ營ムコトガ出來ナイト云フ規定ガ削ッテアリマスルガ、是
ハ說明書ヲ拜見シマスルト云フト、軌道法ニモサウ云フ規定ガ削ラレテ居ル
ノデアッテ、事務ヲ簡便ニスル爲ノ趣旨デアルト云フ說明デアリマスケレドモ
ガ、私ハ是ハ事務ノ簡捷ト云フ性質ノモノデハナイヤウニ考ヘルノデアリマ
ス、此點ハ司法大臣ニ一應伺ヒタイト思フノデアリマスル、小サナ點デアリ
マスルカラシテ、委員會デ伺ッテモ然ルベキデアリマスルケレドモガ、委員會
ニ司法大臣ノ御出席ヲ煩スト云フコトモ億劫デアリマスルカラ、幸ヒ此席ニ
オ出デニナリマスルカラ伺ヒタイノデアリマスルガ、地方鐵道會社ト云フモ
ノハ、色〓ノ特典ヲ受ケテ居ルノデアリマシテハ會社ノ設立ノ爲ニ拂込ハ十
分ノ一ノ拂込ヲスレバ會社ハ設立スルコトガ出來ル、或ハ四分ノ一ノ拂込ガ
アレバ社債ヲ募集スルコトガ出來ルノデアリマス、種々樣〓ノ商法ニ對スル
例外ガアリマシテ、特典ガアルノデアル、其特典ガアルノニ兼業ヲスルト云
フ時ニ何等ノ制限ナシニ、兼業スルト云フコトハ、例ヘバ鐵道ガ「ホテル」ヲ
營ムト云フ場合ニ、鐵道會社ガ「ホテル」ヲ營メバ「ホテル」ノ株式ノ拂込ハ十
分ノ一デ濟ムケレドモ、「ホテル」會社ガスレバ、株式ハ四分ノ一ノ拂込ヲシ
ナケレバナラヌト云フ、斯ウ云フ風ナコトニナルノデアリマスカラシテ、ド
ウシテモ兼業ト云フモノハ單ニ事務簡㨗ノ爲ニ、之ヲ削ルトカ削ラヌトカ云
フ性質ノモノデナクシテ、主務大臣ガ是ハ世間ノ信用上差支ガナイトカアル
トカ、サウ云フコトヲ審査シタ上デ兼業ヲ許可スベキモノデアル、是ハ軌道
法ノ規定ニ無イト云フコトガ理由ニナッテ居リマスルケレドモガ、軌道法ニ無
カッタコトハ私ハ其當時局ニ當ッテ居リマセヌカラ知リマセヌケレドモガ、軌
道法ト云フモノハ、モト軌道條例ト云フテ、極ク簡單ナ法律ガアッタノデア
リマス、其法律ノ中ニハ勿論今申シマシタ通リナ、地方鐵道ニ與ヘタ所ノ特
典ト云フヤウナモノハ、軌道會社ニ與ヘテナカッタノデアル、ソレハ不便デア
ルカラ、鐵道ト同ジヤウナ性質ノモノデアルカラ軌道會社ニ對シテモ、鐵道
ト同ジヤウナ特典ヲ與ヘヤウ、斯ウ云フ趣旨カラ軌道會社ニ對シテモ、株式
ノ拂込ハ十分ノ一デ宜イトカ或ハ社債ノ發行ニ對スル特典トカ云フヤウナモ
ノガ與ヘテアル、ソレヲ與ヘル時ニ此兼業ヲ認可ヲスベキコトヲ落シタノヂ
ヤナイカ知ラヌト思フノデアリマス、此點ハ能ク調ベタ上デ伺ハウト思ヒマ
シタケレドモガ、時間ガ無カッタ爲ニ速記錄ヤ何カヲ調ベル時間ガアリマセ
ヌノデ、甚ダ不調ベナコトヲ伺ッテ相濟ミマセヌケレドモガ、司法省デ御調ベ
ニナッタコトガアルナラバ其點ヲ伺ヒタイノデアリマス、現ニ今囘買收セム
トスル所ノ新潟臨港鐵道株式會社ノ如キハ鐵道ノ哩數ハ二哩半デアリマス、
サウシテ鐵道ノ建設費ハ僅ニ八十万圓バカリデアリマスケレドモガ、會社ノ
資本金ハ二百万圓全額ノ拂込デアリマシテ、其上ニ二百万圓ノ借入金ヲシテ、
サウシテ二百數十万圓ノ兼業ヲ營ンデ居ルノデアリマス、斯樣ナコトハ是ハ
株式ハ全額拂込ンデアリマスルカラシテ仔細ハアリマセヌケレドモガ、斯樣
ナ大キナ兼業ヲ營ム所ノ地方鐵道會社ガアルノデアリマス、然ルニ之ヲ會社
ノ仕事ニ委スト云フコトハ、何トナク商法ノ例外トシテ、餘リニ大キナ例外
デ、又不必要ナ例外ノヤウニ考ヘルノデアリマスルガ、司法大臣ノ御意見ヲ
伺ヒタイト思フノデアリマス、以上ハ地方鐵道法ニ關スル所ノ直接ニ關係ノ
アル所ノコトヲ、鐵道大臣、司法大臣ニ伺ヒマシタノデアリマスルガ、次ニ大
藏大臣ニ少シバカリ伺ヒタイコトガアルノデアリマス、ソレハ交付公債ノ問
題デアリマスル、交付公債ト申シマスルノハ現金ニ代ヘテ公債ヲ發行スルノ
デアリマシテ、鐵道ニ關スルモノト致シマシテハ、或ハ此後ノ日程ニアリマ
スル所ノ山口縣營軌道ニ對スル所ノ辨償金ニ代ヘテ公債ヲ出ストカ、或ハ鐵
道買收ヲスル際ニ、株劵ノ代リニ······鐵道ヲ買收スル代金ノ代リニ、公債ヲ
發行シテ渡スト云フヤウナ公債デアリマスルガ、此公債ガ非常ナ勢デ增加シ
テ來ル所ノ傾向ヲ示シテ居ル、是ハ昨日江木君カラモ伺ハレタコトデアリマ
スルガ、唯單純ニ段々ト殖エテ來ルト云フ意味デナシニ、現內閣ノ執ラレル
所ノ政策ニ依ッテ、政策上此公債ガ非常ニ殖エテ來ル、斯ウ云フコトヲ近頃ニ
ナッテ氣付キマシタカラシテ、此交付公債ニ關スル所ノ大藏大臣ノ政策ヲ伺ヒ
タイノデアリマスル、私ハ先達テ兩稅委讓ノ法律案ガ上程セラレタ際ニ、主
トシテ此公債政策ニ關シテ質問ヲ致シマシタノデアリマスケレドモガ、大藏
大臣ノ答辯ハ稍〓公債政策ニ關シテ抱懷セラレル所ノ意見ガ、現在ヤッテ居ル
所トハ多少矛盾スル所ガアルノデアルガ、ソレハ兩稅委讓ト云フヤウナ大切
ナ大キナ仕事ガアル爲ニ公債政策ノ方ヘハ手ガ〓ラナカッタノデアルト云フ
ヤウナ御說明ヲセラレテ居ル、又減債基金ノ繰入レ······鐵道ノ減債基金ノ繰
入レノ如キハ公債政策ト云フヨリハ、寧ロ鐵道大臣以下ノ鐵道ノ官僚ガ、國
家ノ經濟ヲ度外視シテ、自分ノ技術上ノ功名心ヲ滿足セシメムガ爲ニ、不急
不要ノ仕事ヲスルノヲ防止スル爲ノ制度デアル、ト云フヤウナ答辯ヲセラレ
マシタ、鐵道大臣ト隣合セニ坐ッテ居ッテ、鐵道大臣ヲ目ノアタリ罵ッタト云フ
コトヲ、或ハ痛快ニ感ズル人ガアルカモ知レマセヌガ、鐵道ノ二十万ノ同僚
ガ營々孜々トシテ國家ヲ念トシテ働イテ居ルノニ、其長官ガ目ノアタリ自分
及同僚ニ是程ノ侮辱ヲ加ヘラレテ、一言ノ辯解モセズニ、默過セラルヽト云
フコトハ、私共遂ニ二年前ノ同僚ノ爲ニ痛憤ニ堪ヘナイノデアリマスル、併
シ是ハ現在ノ長官ガ滿足シテ居ラレルコトデアリマスルカラ、私共ハ彼此レ
言フテモ仕方ノナイコトデアリマス、此政黨政治ガ官僚政治ヲ倒シタ餘勢ガ、
官僚ヲ墮落サシテ、官僚ハ喪家ノ狗ノ如ク政黨政治ニ驅使セラレテ居ルト云
フコトハ、是ハ誠ニ私共政黨政治ヲ呪フ者デハアリマセヌケレドモガ、嚴格
デ自尊心ノアル所ノ官僚ガ內ニアッテコソ政黨政治ト云フモノハ完全ニ行ハ
レルノデアル、斯ノ如ク閣僚ガ官僚ニ對シテ、此壇上デ以テ罵詈ヲ加ヘルト
云フコトハ、ソレデモマダ默ッテ居ラナクチヤナラヌト云フコトハ、國家ノ將
來ニ對シテ私共憂ヲ抱イテ居ルモノデアル、併ナガラ只今ハ此官僚侮辱問題
ニ對シテ議論ヲスルノデハアリマセヌデ、又減債基金トシテ繰入レタ所ノ千
八百万圓ソコ〓〓ノ金ガ、果シテ年額歲入歲出ヲ合計シテ十二億ト云フ鐵道
ノ會計ニ、ドレ程ノ利キ目ガアルカト云フコトモ甚ダ疑ヒナキヲ得ナイノデ
アリマスガ、併シ今此公募公債ガ八千万圓、交付公債ガ五千万圓、是ガ此年
度ノ昭和四年度ダケデ八千万圓ト五千万圓、合計一億三千万圓ニ對シテ、僅
カニ二千万圓足ラズノ減債基金ヲ入レルト云フノデアリマスカラ、其差引昭
和四年度ニ於テハ一億一千万圓ト云フ所ノ公債ガ增加スルノデアリマスガ、
減債基金ヲ繰入レテ減債ヲスルト稱シナガラ、一億一千万圓ノ公債ガ增加ス
ルノデアリマス、サウ云フ風ニナリマシテ、其爲ニ此兩稅委讓ノ財源ヲ拵ヘ
テ、官僚ハ唯叱ラレ損ニナッタダケデテリマシテ、公債政策トシテハ何等ノ利
キ目モナイ、唯サウ云フコトヲシテ官僚ガ叱ラレ損ニナッタト云フ結果ヲ生ジ
テ居ルノデアリマス、併ナガラ私ハ今日此鐵道大臣ノ不信任論ノ〓算ヲスル
考デハアリマセヌ、ソレハ他日相當ノ機會ガアリマスカラシテ其時ニ伺フノ
デアリマスガ、今日ハ其交付公債ト云フモノニ關スル所ノ大藏大臣ニ何等カ
ノ政策ガナクチヤナラヌト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス、此現內閣ハ出
來テカラシテ、鐵道政策ニ關シテ、二ツノ非常ナル處ノ變化ヲ發見スルノデ
アリマス、是ハ明カニハッキリ從來ノ傳統ヲ破ッタ處ノ二ツノモノガアルノデ
アリマス、其一ツハ私設鐵道ノ買收ノ方針ト、モウ一ツハ私設鐵道ノ免許ノ
方針ト此二ツガ此交付公債ニ非常ニ關係ノアルコトデアリマシテ、サウシテ
ソレガ而モ從來ノ傳統ヲ明カニ破ッタ所ノヤリ方デアリ、政策デアルノデアリ
マス、是ハ實ハ交付公債ニ關シテハ、私設鐵道ノ買收ノ方針ト、私設鐵道免
許ノ方針ト云フモノハ、交付公債ニ關スル限リハ同ジデアリマスケレドモガ、
體樣ヲ異ニシマスルカラシテ二ツニ分ケテ、私ノ交付公債ニ關スル所ノ質問
ノ趣旨ヲ申上ゲタイト思フノデアリマス、私ハ先日ノ本會議ニ鐵道大臣ニ向ッ
テ、私設鐵道買收ノ方針竝ニ標準ヲ示サレムコトヲ求メタノデアリマスケレ
ドモガ、方針ニ關シテハ稍.明瞭ニ說明セラレマシタケレドモガ、標準ト云フ
モノニ對シテハ、ハッキリシタ御答辯ガナイノデアル、方針ガ即チ標準デアル
ト云フヤウナ御說明ニ過ギナカッタノデアリマス、ソレデ委員會等ニ於テ屢、
質疑應答ヲ重ネマシタ結果、私ガ此標準ヲ知ラムト欲シタコトハ、大ナル價
値ノナカッタコトヲ悟ッタノデアリマス、鐵道大臣ノ買收ノ御方針ハ、言葉ヲ
換ヘテ申シマスルト云フト、地方鐵道ノ有ラム限リヲ買收スルト云フノガ御
方針ノヤウデアリマス、從テ此現在ノ地方鐵道ト云フモノハ全部國有ニシ
ナクチヤナラヌモノデアルト云フ所ノ大方針カラ出發シテ、悉ク地方鐵道ヲ
買收スルト云フノガ大體ノ御方針デアルヤウニ伺ッタノデアリマス、サウナリ
マスルト云フト、甲ノ鐵道ト乙ノ鐵道ヲ選ブ所ノ標準ト云フモノハ大ナル價
値ハナイノデアリマス、從テ何デ以テ此地方鐵道ノ買收ト云フモノヲ決メル
カト云フコトニナルト云フト、サウ云フ方針ニナリマスルト、交付公債、サ
ウシテ其鐵道ノ分布、何處ニ······北海道ニ一ツトカ、九州ニ一ツトカ、信州
ニ一ツトカ云フヤウニ、分布ト交付公債、此二ツノモノガ此鐵道大臣ノ買收
ノ方針ヲ制限スル所ノ標準ニナルノデアリマス、デアリマスカラシテ玆ニ交
付公債ノ御方針ヲ大藏大臣ニ伺ッテ置カナクチヤナラヌト云フ必要ヲ生ズル
ノハ其所以デアリマス、鐵道大臣ハソレニ附加ヘテ鐵道省ノ懷ロ合ヒデアル
トカ、或ハ國防ト云フコトヲ附加ヘテ、ソレデ方針トカ、標準ト仰ッシヤリマ
スケレドモ、是ハ鐵道大臣モ大ナル値打ヲ置イテオ出デニナラヌヤウナ樣子
デアリマスケレドモ、是ハ全ク大ナル制限デナイノデアリマス、其事ハ後ニ
申上ゲル機會ガアラウト思フノデアリマス、從來ノ傳統、是ハ西園寺內閣ノ
時ニ鐵道國有法ヲ出サレタ時以來ノ傳統デアリマシテ、地方交通ヲ目的トス
ル所ノ小サナ鐵道ハ、是ハ實ハ小運送ニ類スルモノデアッテ、或ハ荷馬車トカ、
今カラ申シマスレバ自動車デアルトカ云フモノヽ代リヲスル所ノ交通デアル
カラシテ、是ハ私營ニ委シテ置イテモ差支ナイ、國家ノ幹線トナルベキモノ
ハ國家ガ所有經營スルト云フ所ノ主義デアッタノデアリマス、地方交通ノ目的
ノモノガ初メハ地方交通ノ目的デカケタ、例ヘバ水戶鐵道ノ如キモノハ、水
戶カラシテ常陸ノ山ノ方ニ行ク所ノ小サナ鐵道デアッテ、是ハ全ク地方ノ交
通今申シマシタル所ノ荷馬車デアルトカ、自動車、自動車ハ其時分ニハア
リマセヌデシタケレドモ、今デ申シマスレバ自動車ト云フヤウナモノノ代リ
ニナル所ノ小運送ノ發達シタモノトシテ、地方交通トシテ許サレテ居ッタ所ノ
地方鐵道デアリマシテ、ソレガ段々ニ常陸ノ方カラシテ、今申シマスル大子
ノ方ニ行ク所ノ鐵道ガ完成シテ、即チ水戶鐵道ト繋ッテ、兩方ガ國有鐵道ニ挾
マレテ來テ、地方交通ノ目的デナクナッテ、其上ニ鐵道省ノ幹線ガ敷カレルト
云フ狀態ニ至ッタ時ニ、初メテ其鐵道ヲ買收スル、是ハ鐵道ノ性質ガ變ッテ來
タノデアルカラシテソレヲ買收スル、斯ウ云フ趣旨ニナッテ居ッタノデアリマ
ス、ソレデアリマスルカラシテ、從來是ハ例外ノナイ所ノ傳統デアッタノデア
リマス、或ハ時ノ内閣ノ都合デ色〓ナ事情モアリマセウガ、必シモ斯樣ナモ
ノデナイモノヲ買收スルコトガアリマシタ、一二ノ例ハアリマシタ、ケレド
モガ其內閣ハ何時デモ是ハサウ云フ所ノ理窟ニコヂツケナイデハ置カナカッ
タ、何等カノ理由ヲコヂツケテ只今申シマスル通リノ傳統ニ引ッ付ケテ、何等
カノコヂツケノ理由ヲ付ケテ買收ヲシテ居ッタノデアリマス、然ルニ現在ノ內
閣ニ於キマシテハ其コヂツケルコトハ御止メニナッテ、地方鐵道ト云フモノ
ハ、地方ノ開發ヲ目的トスルノデアッテ、運賃ガ高イシ、又運轉ノ方法モ良ク
ナイ、デアリマスカラ是ハ地方デハ是非國有鐵道トシテ買收ヲシテ欲シイ、
サウシナケレバ地方ノ開發ガ出來ヌ、斯ウ云ウ意味デ以テ買收ヲセラレルノ
デアリマシテ、結局サウ致シマスルト地方鐵道デ運賃ノ安イ、設備ノ良イト
云フノハナイノデアリマス、デアリマスカラシテ此地方ノ利己的要求ヲ取入
レテ何等ノ制限モナクシテ買收ヲサレルト云フコトニナリマスト云フト、地
方鐵道ノ存在スル限リ之ヲ買收シナクチヤナラヌト云フ主義デアリマス、デ
サウ云フ主義デアリマスカルラシテ、私共ハ其主義デアリマスルト云フト、中
中今出サレタ所ノ十四位ノ鐵道デハ治マルマイガドウ云フ風ニシテ買收セ
ラレルノカト云フコトヲ伺ヒマシタ所ガ、段々速記ヲ止メタ所ノ懇談會ニ於
テ伺ヒマシタ所ノ鐵道ト致シマシテモ、其哩數ガ······鐵道ノ名前ヲ悉ク伺ヒ
マシタノデアリマスルケレドモガ、是ハ世間ニ發表スルコトヲ憚リマスルカ
ラ申上ゲマセヌケレドモガ、其哩數ガ六百八十哩モアリマス、之ヲザット私ガ
勘定シマシテ見テモ、二億万圓以上ノ交付公債ガ要ルノデアリマス、左樣ニ
ナリマスルト云フト、是ハ何トシテモ、此現內閣ノ方針トシテ斯ウ云フ方針
ヲ執ラレル以上ハ、今年ハ僅ニ五千万圓デアリマスルケレドモガ、明年モ亦
五千万圓トカ或ハ八千万圓トカ、再來年モト云フヤウニナリマシテ、二億數
千万圓餘ノモノト云フモノハ、此內閣ノ續ク限リハ買收セラレルコトデアラ
ウト思フノデアリマス、ソレノミナラズ、玆ニ伺ヒマシタ所ノ鐵道ト云フモ
ノハ、此懇談會ノ席デ伺ヒマシタ所ノ鐵道ハ、中ニハ今囘提出セラレタ所ノ
十四ノ鐵道ヨリハ、我〓ガ見テモ先キニ買收シナクチヤナラヌ所ノ鐵道ガア
ルノデアリマスルカラ、尙更是ハ明年度、或ハ明々年度ニハ、此內閣ニ於テ
ハ必ズヤ買收セラレルデアリマセウ、其上ニ尙ホ今ノ鐵道大臣ノ主義ヲ押
シテ行キマスルト云フト、左樣ナ我〓ガ見テモ明カナルモノデナクッテモ、モッ
ト澤山ノ鐵道ヲ買收シナケレバ、此主義政策ヲ貫クコトガ出來ナイノデス、
デアリマスルカラシテドウシテモ、此現内閣ノ政策·····此鐵道政策ヲ御行ヒ
ニナル爲ニハドウシテモ此交付公債ニ關スル所ノ何等カノ主義政策、或ハ
計畫ト云フモノガナクチヤナラヌノデアリマス、鐵道大臣ハ、先程モ申シマ
シタ通リニ左樣ナ分布トカ、或ハ交付公債ノ額トカ云フヤウナモノノ外ニ、
尙ホ國防デアルトカ、鐵道ノ懷ロ合トカ云フヤウナモノヲモ考ヘテ決スルヤ
ウニ仰シヤリマスルケレドモガ、國防ナント云フヤウナコトヲ仰シヤルノハ
何ノ意味デ言ハレルノカ私共ハ了解ニ苦シムノデアリマス、現在アル所ノ鐵
道ガ私設鐵道デアリマシテ、國防上私設鐵道デアッテハ妨ゲニナルト云フヤウ
ナコトハ、現在ノ時代ニ、現在ノ國内ニ於テハ考ヘラレナイコトデアリマス、
成程明治三十九年頃ニハ、鐵道株ガ外國人ニ買ハレテ、鐵道會社ガ外國人ノ
手ニ依ッテ支配セラレルヤウナコトガアッテハ國防上由々シイ所ノ大事デアル
ト云フヤウナコトヲ杞憂セラレタコトガアリマスル、其當時ニ於テハ尤モデ
アリマスルケレドモガ、現在ニ於テソンナ心配ヲスルヤウナ人ハ恐ラクハ此
世ノ中ニ一人モアリマスマイト思フノデアリマス、鐵道大臣ガ何デ此國防ト
云フコトヲ言ハレルカト云フコトヲ伺ッテ見マスルト云フト、博多灣鐵道會社
ガ海軍ノ國有炭鑛カラ出ル所ノ炭ヲ運ブカラシテ、是ガ國防上私設鐵道會社
デアッテハ困ルト云フヤウナコトヲ仰シヤッタコトガアルノデアリマス、恐ラ
クハ其外ニハ國防ニ關係スルモノハ、今度ノ買收ノ中ニハアルマイト思フノ
デアリマスルガ、博多灣鐵道ガ海軍ノ炭ヲ運ンデ居ルコトハモウ十數年以來
ノ事デアリマシテ、其間ニ戰爭モアリマシタシ、何等ノ差支ガナカッタノデア
リマスル、殊ニ現在ノ軍艦ノ如キハ皆油ヲ焚イテ居ッテ、石炭ハ重要ナル艦船
ニハ使ッテ居ラヌノデアリマス、サウ云フ所ノ石炭ヲ運ブカラシテ是ガ國防上
ニ必要デアルト云フヤウナコトヲ仰シヤルコトハ、誠ニ子供騙シノコトデア
リマス、若シ果シテ國防上何等カ國家ノ一大事ノ時ニ、博多灣鐵道ガ炭ヲ運
ブコトニ付テ愚圖々々スルト云フコトガアッタナラバ、其時コソ腕ヲ捻ヂ上ゲ
テ取上ゲラレタ所ガ一向差支ノナイコトデアリマス、左樣ナコトヲ今頃此買
收ニ附加ヘテ言ハレルト云フコトハ、鬼面人ヲ嚇スト云フヤウナ言葉ガアリ
マスケレドモ、面ヲ被ル程ノコトデナクテ、丸デ竹ノ先ニ下手ナ幽靈ノ繪ヲ懸
ケテ、ソレデオ化ケガ出タト言ッテ嚇ス位ノ利目ニモナラナイト思ッテ居ルノ
デアリマス、又鐵道ノ懷ロ合ト云フヤウナコトヲ言ハレマスルケレドモガ、現
在ノ鐵道ヲ買收スル今度出サレタモノデモ、建設費······株券ガ二十五圓トカ
三十圓ニ下ッタ所ノ鐵道會社ヲ五十圓現金デ拂フ、五十圓劵面額デ公債ヲ渡ス
ノデナクテ、現金デ五十圓拂フ、其三十五圓トカ二十圓ノ株ニ對シ現金デ五
十圓拂フト云フ樣ニ、法律ヲ改正セラレテ、サウシテ買收ヲセラレルノデア
リマスル、サウ云フノガ、何デ鐵道ノ懷ロ合ニナリマセウ、左樣ナコトハ誠
ニ皆大シタ取留メタ理由トナルモノデナクテ、實ハ唯此鐵道大臣ノ買收ノ理
由ト云フモノハ、先程カラ申シマスル通リニ全部ノ運賃ノ高イ、設備ノ惡イ
所ノ私設鐵道ハ全部買收スルト、斯ウ云フ主義デアルコトハ鐵道大臣自カラ
モ言ハレルシ、我〓ガ廔〓伺ッタ所ニ依ッテ見テモ、何等ノ差異ガナイ、ソレデ又
鐵道大臣ハ、之ヲ制限スルモノハ交付公債、本年度ハ五千万圓財政當局ハ奮
發シテ吳レタカラ是ダケノ鐵道ヲ買ッタノデアル、斯ウ言ハレルノデアリマス
ルカラシテ、此交付公債ノ發行金額トソレカラ分布、即チ北海道ニ一ツトカ
長野ニ一ツトカ云フヤウナ分布ノ外ニハ、何等ノ之ヲ制限スルモノハナイノ
デアリマス、其分布ノコトニ付テ私共ガ委員會ニ於テ、北海道鐵道ノヤウナ
全ク地方鐵道デアッテモ而モ利益ノ率モ一分ニモ廻ラヌ所ノ鐵道ヲ何故御買
ヒニナリマスカト云フ理由ヲ質シマスルト云フト是ハ運賃ガ高クテ設備ガ
惡クテ北海道ノ開發ニナラヌ、斯ウ言ハレル、サウ云フモノハ澤山アルヂヤ
ナイカト云フテ質問イタシマスルト五千万圓ノ範圍デ分布ヲ考ヘテ見ルト
云フト北海道ニハ外ニ買フ鐵道ガナイカラ此鐵道ヲ買フノダ、斯ウ云フ風ニ
說明セラレルノデアリマス、サウ致シマスト云フト、全ク此鐵道買收ノ制限
ヲスル所ノモノハ分布ト交付公債デアリマス、其二ツノ外ニハナイノデアリ
やくろ併シ分布ト云フモノハ是ハ全ク地理的ノ關係デアリマスカラシテ、是
ハサウ大シタ問題ニハナラナイ、結局交付公債ト金額ト云フモノガ問題ニナッ
テ、我〓ガ將來此内閣ノ鐵道政策ニ關シテ何等カノ審議ヲシ、何等カノ批評
ヲシ、何等カノ監督······ト申シマスルト口幅ッタイケレドモガ、議員トシテ行
政監督ヲシヤウト云フノニハ、此交付公債ト云フノニハ、此交付公債ト云フ
モノヲ如何ニシテドレ位ノ範圍デ以テ御出シニナル御積リデアリマスカ、今
年度ハ成程五千万圓ト云フコトガハッキリ致シテ居リマスルケレドモガ、明年
度、明々年度、其他此內閣ノ續ク限リノ此鐵道ニ對スル所ノ交付公債ノ金額
ト云フモノニ、ドウシテモ何等カノ政策ガナクチヤナラヌト私ハ考ヘルノデ
アリマス、私共デサヘ此如何ナル鐵道ヲ將來買收爲サル御積リデゴザイマス
カト云フコトヲ伺ッタ時ニモ、名前ヲ擧ゲテ伺ッタノデアリマス、デアリマスカ
ラシテ大藏大臣ハ我〓ヨリモット立入ッテ御相談ヲ御受ケニナッタコトデアラ
ウト思フノデアリマス、ソレノ中カラシテ五千万圓ト云フ金額ヲ御定メニナッ
タコトハ、ドウシテモ何等カノ將來ノ計畫ガナクチヤナラヌト私ハ考ヘルノ
デアリマス、デソレニ付テ私ハ其御政策ヲ伺ヒタイノデアリマスル、ソレデ
交付公債ハ、只今申シマスル通リニ補償ニヤルトカ、買收會社ノ株劵ニ換へテ
交付公債ヲ發行スルト云フヤウナモノデアリマスルカラシテ、事實此金融市
場ニ直接ノ壓迫ヲ加ヘルコトハナイノデアリマス、頗ル容易デアルノデアリ
マスルケレドモガ、其容易ニ發行ガ出來ルト云フ所ニ、非常ナ問題ガ潛ンデ
居ルト思フノデアリマス、近來ハ今申シマスル通リニ、此豫算ニ揭ゲテアル所
ノ鐵道······豫算ニ揭ゲテ新線ニ當ッテ居ル所ノ、旣ニ買收ヲシナクチヤナラヌ
ト云フコトガ明カニナッテ居ル所ノ鐵道ガ、マダ買收ニ······明年度ニ御出シニ
ナッタ中ニモマダ買收ニナッテ居ナイモノガ澤山アルノデアリマスルカラ、何
トシテモ此數年ニ亙ル所ノ公債計畫ガナクチヤナラヌ、其コトハ私共鐵道大
臣ニ伺ヒマシタ、伺ヒマシタ所ガ、鐵道大臣ハ是ハ當局デアリマセヌ故デアリ
マセウケレドモガ、此點ニ付テハ明瞭ナル御答辯ガナイ、明瞭ナル御答辯ガナ
イバカリヂヤナイ、此交付公債ノ金額ト云フモノハ、其時ニ打突ッテ初メテ定
メルモノデアッテ、今年度ハ財政當局ガ非常ニ奮發ヲシテ五千万圓呉レタノデ
アルト、斯ウ云フ御答辯デアルノデアリマスルケレドモガ、是ハ從來ノ傳統、
從來ヤリ來タッタ方法デヤル時ニハソレデ宜カッタ、ト申シマスルモノハ、例
ヘバ水戶鐵道ニ致シマシテモ、或ハ陸奥鐵道ニ致シマシテモ、鐵道ノ國有線ノ
幹線ガ兩方カラクッ付イテ來テ、中ニハ其私設鐵道ノ中ノ運轉······ヲ鐵道ノ列
車ガ通ッテ居ッタリ何カシテ居ル場合ニ於テモ、マダ買收ヲシナカッタノデアリ
やく、愈〓行話ッテ何トモ是ハ國有ニシナクチヤナラヌト云フ場合ニ至ッテ、初
メテ買收シテ居ッタノデアリマスルカラシテ、其時ニ打突ッテ初メテ交付公債
ノ金額ヲ幾ラニスルカト云フコトヲ定メテサヘナカッタ、所ガ今度ノハモウ旣
ニ現在ノ鐵道ノ、私設鐵道ノ存在ガ鐵道大臣ノ鐵道政策ニ反スルノデアリマ
ス、理想ニ反スルノデアリマス、地方ガ高イ運賃ヲ拂ッテ行カナクチヤナラヌ
カラ、地方ノ交通ノ發展ニ阻害ヲ及ボスト云フノデアルカラシテ、ドウシテモ
將來此鐵道ヲ全部買收シナクチヤナラナイ、斯ウ云フコトニナルノデアリマ
スカラ、此交付公債ニ關シテハドウシテモ主義方策ト云フモノヲ大藏當局ニ
於テ立テヽ居ラレナクチヤナラナイ、斯ウ云フコトデソレヲ伺ヒタイノデア
リマス、先程二ツアルト申シマシタ一方ノ私設鐵道ノ免許ニ關スル所ノ傳統
ヲ破ッタコトモ亦同ジコトナンデアリマス、從來私設鐵道ノ免許ヲ致シマスル
場合ニ於テハ、是ハ雙方永久ニ其鐵道會社ガ地方ノ交通ヲ目的トシテ營業ヲ
スルト云フ、營業ヲサセルト云フ所ノ觀念ノ外ニハ、何モノモナカッタノデア
リマス、從來ノ此私設鐵道免許ニハ決シテソレガ將來鐵道ノ幹線ニナルト
云フ考ヘハ薄〓ハアッタケレドモガ、ソレヲ將來鐵道ノ幹線ニスルト云フ考ヘ
デ以テ、私設鐵道ニ免許ヲシタ場合ハナカッタ、唯ソレガ永久ニ私設鐵道會社
ノ營業デアルト云フコトデ免許シテ居ッタ、所ガ近來現内閣ニ至ッテカラハ、此
私設鐵道ノ免許ヲスル場合ニ於テ、國有鐵道ヲ敷設スル爲ニハ或ハ議會ノ障
害ガアリ或ハ公債ノ募集ノ障害ガアリ、色〓ノ障害ガアッテ、今年度ノ如キデ
モ、鐵道大臣ハ、一億万圓以上モ公債ヲ發行シテ、鐵道ヲ架ケタイノデアル
ケレドモガ、金融市場ノ制限ノ爲ニ八千万圓ニ制限セラレタト言ハレル如ク、
ドウシテモ色〓ノ制限ガアル、ソレデハ此現在ノ鐵道ガ、現在ノ日本ノ鐵道
ガ發展ガ急速ニ行カヌカラシテ、國ノ營造物ヲ私設鐵道會社ヲシテ代行セシ
メテ、サウシテ國有鐵道ヲ延バシテ行クト云フ所ノ觀念ガ强烈ニ現レテ來タ
ノデアリマス、例ヘバ靑森縣ノ大間、大畑問ノ鐵道ノ如キ、或ハ伊勢四日市
カラ阿下喜ト云フ所ニ行ク鐵道ノ如キ、是ハ帝國議會ノ協賛ヲ經テ敷設スル
コトニ豫算ガ成立シテ居ッタノデアリマス、然ルニ現在ノ內閣ニ於キマシテ
ハ、此二ツノ豫算ヲ削ッテ、サウシテ之ヲ私設鐵道會社ヘ持ッテ行ッテ免許ヲシ
テ、國有鐵道ノ建設ノ代行ヲセシメル政府ノ方針デアルト思ハレマス、從テ
是ガ出來マスルト云フト、直ニ買收セラレルコトハ明カナルコトナンデアリ
マシテ、是ハ鐵道大臣モ明言シテ居ラレルノデアリマス、サウ云フ風デアリ
マスカラシテ、又其外ニ近來許可セラレル所ノ鐵道ニ於キマシテモ、ドウシ
テモ國有鐵道ニ持ッテ行カナクチヤ營業ガ成立タヌト云フヤウナ鐵道ガアル
ノデアリマス、是モ恐ラクハ會社ニ明示若クハ默示ノ買收約束ハシテ居ラレ
マスマイケレドモガ、營業ヲスル人ハ、必ズヤ政府ガ買收シテ吳レルモンダ
ト考ヘテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ風ナモノガ澤山アルノデアリマスカラ
シテ、其上ニ持ッテ行ッテ是ハ買收セラレル時ニハ、何ボ株ガ下ッテ居ッテモ五十
圓株ハ五十圓デ買收セラレルト云フコトニナリマスカラ、私設鐵道ヲヤル者
モ非常ニウマイ譯デアリマスル、是ハ先達テ私ガ質問ヲ致シマシタ時ニ、建
設費五分以上ニ利益ノ〓ラナイ所ノ鐵道ヲ買收スル時ニハ、協定ニ依ッテ建設
費以下デ買フベキ筈デアル、斯ウ云フコトヲ申上ゲマシタ所ガ、ソレハ法律
ハサウナッテ居ルケレドモガ、實際ニ於テハソレヲ建設費以下デ賣ル人ハナイ
カラ、結局建設費デ買フヤウニナッテ居ルト、斯ウ云フ風ニ仰ッシヤル位デア
リマスカラ、之ヲ經營スル人ハ頗ルウマイモノデアリマスカラ、豫定線ヲ狙ツ
テハ鐵額省ニ出願スル、鐵道省デハサウ云フ風ニ此國有鐵道ノ發展ヲ希望セ
ラレル爲ニ、ドン〓〓御許シニナルト云フヤウナ傾向ガ明カニナッテ來タノデ
アリマス、私ハ此鐵道大臣及ビ此鐵道大臣ヲ支持スル人ガ、セメテ此伊太利、
歐羅巴ニ於テ最モ貧弱ナ鐵道ヲ有スル所ノ伊太利位マデ遮二無二日本ノ
鐵道ヲ同樣ノ比率マデニ建設シヤウト云フ說ニハ贊成スルコトガ出來ナイモ
ノデアリマスル、歐羅巴ハ十九世紀ノ鐵道熱ニ非常ニ毒セラレテ、頗ル今デ
ハ窮シテ居ルノニ、我國ガソコマデ行カナクテ濟ンデ居ッタモノヲ、態〓其
處マデ持ッテ行カウト云フノニ贊成スルコト出來マセヌケレドモガ、左樣ナ
コトヲ今玆デ論ズルノデアリマセヌ、又五十圓拂込ノ株ガ二十圓三十圓ニナ
ッテ居ル所ノ鐵道ヲ、五十圓ノ現金デ現金拂デ買フト云フコトガ宜イト
カ惡イトカ云フコトヲ論ズルノデアリマセヌケレドモガ、一方ニ建設費ヲ一
年間八千万圓ト定メテ置イテ、尙一方ニハ私有資本ヲ以テ私設鐵道ヲ建設サ
シテ、ソレヲ交付公債デ買フ、斯ウ云フ政築ヲ現政府ガ政策トシテ採用シテ
居ル上ハ、ドウシテモ其交付公債ト云フモノニ關スル何等カ政策ヲ設ケテ御
置キニナラナケレバ、將來我〓ガ實ハ何ボカノ不安ニ襲ハレテ居ルノデアリ
マスル、ソレデアリマスルカラシテ、此交付公債ニ付テハ大藏當局ガ抱懷セ
ラレル所ノ政策ノ一端ヲ、此處デ御示シニナッテ置クコトガ、我〓ガ此鐵道ニ
關スル所謂諸法律ニ協賛ヲ與ヘル上ニ於テ非常ニ必要ナコトデアラウト思フ
ノデアリマス、鐵道大臣ノ言ハレル通リニ、私ハ此事ニ付テ、明年度以降大
藏省ノ計畫ヲ聞カナイデ御置キニナッテハ、色〓ナ我慢ガ出來ルモノモアリマ
スケレドモガ、我慢出來ナイデ、明年度カ明後年度ニ買ハナケレバナラヌモ
ノガアルヂヤアリマセヌカ、ソレニ對シテノ政策ハドウナサルノデアルカト
云フコトヲ承ッタ所ガ、ソレハ大藏當局ガサウ云フ時ニ於テハ、決シテ交付公
債ノ發行ヲ拒ムモノデハナイ、唯〓大藏當局ハ急激ニ交付公債ノ:······急激ニ國
債ノ殖エルコトヲ心配シテ、五千万圓トシタノデアルカラシテ、左樣ナコト
ヲ其時ニ至ッテ拒ムコトハナイト云フヤウナ、稍、岡田海軍大臣ト同ジヤウナ
御答辯ヲセラレマシタケレドモガ、私共ガ此議案ニ協賛スル時ニ於テハ、左
樣ナコトデハ誠ニ安心シテ協賛スルコトハ出來ナイノデアリマスカラシテ、
殊ニ此交付公債ノ如キハ、實ハ先程モ申シマス通リニ金融市場ノ狀態ニ依ッ
テ、公債ガ募集ガ出來ルカ出來ヌカト云フヤウナ、ムツカシイ問題デナシニ、
靜止狀態ニ於ケル所ノ財產上ノ觀測デアリマスカラシテ、最モ計算ノシ易イ
モノデア·ル、交付公債ダケカラ勘定スレバ、凡ソドレ位スレバ宜イカト云フ
コトハ直チニ見當ガ付クコトデアリマスカラシテ、是ニハ必ズ大藏當局ノ抱
懷サレテ居ル政策ガアラウト思ヒマスカラシテ、ソレニ關シテ御方針ヲ承リ
タイノデアリマス、時日切迫ノ際ニ甚ダ時間ヲ費シマシテ恐入リマスルガ、
此點ヲ政府ニ一應御說明ヲ伺ヒタイノデアリマス
國務大臣小川平吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=29
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030・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君) 靑木サンノ御質問ニ御答イタシマス、今日ノ此地
方鐵道法中改正法律案ノ議會ニ提出スル日ガ、先般御審議ヲ願ヒマシタ買收
鐵道ノ法律案ヨリモ後レタノハドウ云フ譯カト云フ御尋デゴザイマシタ、之
ニ付テハ靑木君モ既ニ御自身ハ其理由ヲ御了承下サレタト云フコトヲ御述べ
ニナリマシタ、其通リデアリマス、此地方鐵道法中改正法律案ハ大藏省、司法
省等ニ關係シテ居リマス爲ニ、中〓鐵道當局タル我〓ノ希望スル如ク早ク運
ビマセヌノデ、私自身ガ遂ニハ法制局等ニモ嚴重ナ催促ヲ致シマシテ、漸ク
議會ニ提出スルコトガ出來タト云フ次第デアリマシテ、何等此間ニ於テ此
鐵道ノ法律案ノ提出ヲ態、遲ラシタトカ、又ハ怠慢ノ爲ニ遲ラシタト云フコ
トハナイノデアリマス、此法律ハ又靑木君ノ御話ニナリマス通リ多年ノ懸
案デアリマス、併ナガラ確定ヲ致シマシタノハ、近頃ニ至ッテ確定イタシタ
ノデ、私自身ガ部下ノ者ト共ニ〓究シテ、近頃ニ至ッテ決定シタ點ガ、矢張
リ相當ニアルノデアリマス、例ヘバ後配株ト云フヤウナ名前ニシテモ、以前
ハ劣後株ト云フモノヲ使ッテ居ッタ、ソレヲ後配株ト改メルト云フコトデアッ
テ、矢張リ先年カラ確定イタシタモノデハナイノデアリマス、近頃段々〓
究ヲシタ結果、今日ノ案ガ出來マシテ、サウシテ議會ガ近ヅクニ從ッテ、取
急イデ之ガ提案ニ努メマシテ、提出ニナッタノデアリマス、決シテ怠慢ノ爲
ニ後レタノデモ何デモナイ、サウシテ此法ガ買收法ト關係ノアル點ハ只
點デゴザイマス、即チ此地方鐵道法ノ改正ニ依リマスト云フト、先刻靑木君
ノ御述べニナリマシタ通リ、特別ノ事情ノ下ニアル買收鐵道ニ對シテ、命令
ノ定ムル所ニ從ヒマシテ、幾分ノ買收價格ヲ殖ヤスト云フコトノ點デゴザイ
ゆうり。是ハ皆ソレ〓〓法規ノ命ズル所ニ從ッテ計算ヲ立テルノデアリマス、
其計算ノ標準ヲ少シ高メルコトガ出來ルト云フ風ニ、此地方鐵道法ニ依ッテ
改正ヲ致シマシタノデ、ソレガ仰セノ通リ買收鐵道ノ買格ニ幾分カ響ク、其
價格ハ幾ラデアリマスルカト申シマスルト、買收鐵道全部、五十万圓ノ分ニ
對シマシテ、今日御審議ヲ願フ新法ニ依リマスレバ約二百万圓位殖エルデア
ラウト云フ豫想デアリマス、是ダケノ關係デアリマスカラ、態〓之ヲ一週間
ヤ五日議會ニ出スコトヲ遲ラスト云フコトハ、サウ云フコトハ事實ゴザイマ
セヌ、ノミナラズ、道理上ニ於テモ左樣ナコトヲスル氣遣ヒハナイト御承知
ヲ願ヒタイノデアリマス、次ニ今日ノ提案ノ地方鐵道法改正ニ依ッテ私設鐵
道會社ニ於テ色〓ノ事業ヲ兼營スル場合ニ、今日マデハ鐵道省ノ認可ヲ申請
シテ參ッタ其申請ヲ不必要ナリト云フヤウニ改正スルノガ本案ノ目的デアリ
やっち、是等モ今日ノ我ガ日本帝國ノ一般國民ノ進步又私設鐵道會社ヲ經營ス
ル今ノ能力ト云フモノガ、十分ニ發達シテ居リマスカラ、會社自身ガ兼業ヲ
營ム場合ニ於キマシテモ、鐵道ノ役人ガソレ〓〓干涉ヲ致シマシテ、其兼業
ハ宜イトカ惡イトカ、或ハソレハ會社ノ財政ヲ危ウスルトカ、セヌトカ云フ
ヤウナコトヲ、僅カノ役人ノ手デ干渉イタシマスルヨリ、寧ロ民間ノ鐵道會
社ヲ經營スル人ガ全智全能ヲ傾ケテ、會社ノ爲ニ、又經濟一般ノコトヲ考ヘ
テ御ヤリニナルナラバ、却ッテ其方ガ宜シカラウ、寧ロ下手ナ干涉ヲ致シマ
シテハ政府モ迷惑デアルシ會社モ迷惑デアラウト思フ、其結果鐵道省ノ役人
ノ判斷ト云フモノハ、必シモ會社ヲ經營スル人ノ判斷ヨリ優レタ判斷ガ出來
ルト云フコトハ私共想像出來マセヌ、是ハ意見ノ相違カト思ヒマス、今日ノ
時勢ニ於キマシテハ斯樣ナコトハ政府ハ干渉セヌ、會社自身ガ、自分ノ財產
ヲ殖ヤシテ行カウト云フ最モ熱誠ヲ持ッテ判斷シ、〓究ヲシテ居ルノデア
リマスカラ、之ニ委セルノガ相當デアル、斯ウ云フ考ヲ以チマシテ、是ハ削
除イタシマシタノデアリマス、ソレカラ續キマシテ直接關係ノナイコトデア
リマスガ、靑木君ハ鐵道從業員二十万ノ從業員、又鐵道ノ役人ノ爲ニ私ガ何
カ大藏大臣カラ不信任ヲ喰ヒ、罵詈ヲサレタト云フ風ニ仰セニナリマシタ
ガ、鐵道省ノ全體ノ役人ノ爲ニ御同情下サルコトハ誠ニ私ハ感謝ニ堪ヘマセ
ヌ、此點ハドウカ現在竝ニ將來ニ於テモ其御同情ヲ御繼續ヲ願ヒタイノデア
リマス、但シ大藏大臣ノ陳述ハ決シテ此鐵道全體ノ人ヲ罵詈、侮辱シタモノ
デハナイノデアリマス、大藏大臣ノ陳述ハ、技術方面ノ人、仕事ヲスル方面
ノ人ト云フモノハ兔角仕事ヲシタガル、動モスレバ財政ノコトヲ構ハズニヤ
リタガルカラ、多少之ヲ抑ヘナイト放漫ニ流レル、故ニ之ヲ抑ヘル必要ガア
ルト云フ風ニ御述ベニナリマシタノデアリマス、私ハ決シテ此言ヲ以テ鐵道
省ノ役人ガ罵詈サレタトモ、侮辱サレタトモ思ッテ居ラヌ、併シ之ヲ罵詈ナ
リト御感ジニナル程御深切ナ、鐵道ノ役人ニ對スル此御同情ハ、私ハ誠ニ深
ク感謝イタシマス、鐵道ハ他ノ役所ト違ヒマシテ、一種獨特ノ事業ヲ經營イ
タシテ居ル所デアリマス、是等ノ役所ニ付テハ他ノ役所ト違ッテ、私ハ鐵道
ニ長ク御在デニナッタ御方ナドニ對シテハ、ドウカ今日以後モ絕エズ深甚ナ
ル同情ト援助トヲ持ッテ戴クコトガ必要デアルト考ヘルノデアリマス、故ニ
私ハ就任以來部下ノ者ニ對シテモ鐵道出身ノ先輩ニ對シテハ、總テ親愛ト
尊敬ヲ失ハヌヤウニシナケレバナラヌト云フコトヲ訓示イタシマシテ、之
ニ對シテ多少ノ事實ノ上ニ現レタ事柄モアルノデアリマス、唯時〓黨利黨略
ノ問題ナドガ起リマシテ、甚ダ私ト致シマシテハ恐縮デアリマシテ、此點ハ
切ニ戒メナケレバナラヌト考ヘテ居リマシテ、サウ云フコトノ無イヤウニ··
···全ク特殊ノ所デアリマスカラ、鐵道界全體ノ爲ニ、是ガ發達ヲ致シテ、國
家經濟ノ上ニ役ニ立ツヤウニ致スト云フコトニ付テハ、只今御述べニナリマ
シタヤウナ御同情ヲ私ハ幾重ニモ茲ニ願ッテ置ク次第デアリマス、ソレカラ又
御話ノ中ニ、今囘政府ノ提案ニ依ル買收ノ鐵道ガ非常ニ金高ガ多イト云フ御
話デアリマス、今囘ハ五千万圓ダケ大藏當局ノ同意ヲ得マシタカラ、其五千
万圓ノ範圍ニ於テ鐵道省ニ於テ、澤山買收ヲ致シタイ鐵道ガゴザイマス、是
ハ鐵道大臣ノ私ガ考ヘタノデハナイ、鐵道ヲ經營スル上ニ於キマシテハ買ヒ
タイ鐵道ガ澤山アリマスガ今日マデ、財政當局ガナカ〓〓金ヲ出シテ吳レ
マセヌ、公債ヲ發行シテ吳レマセヌカラ買ヘナカッタ、幸ニ今囘ハ五千万圓ダ
ケ交付公債ヲ發行イタシマス、是ハ固ヨリ我〓ノ鐵道ニ對シテ殊ニ力ヲ入レ
ルト云フ方針ニ從ッタノデアルコトハ申ス迄モナイノデアリマス、併ナガ
ラ此五千万圓ガ必シモ多イトハ私ハ考ヘテ居ラヌノデアリマス、此五千万圓
ハ昨年即チ昭和三年度ヨリ、來年度即チ昭和四年度ニ亙ッテ、二箇年間ニ是
ダケノモノヲ買收スル譯ニナルノデアリマス、是ハ御承知ノ通リデアル、過
去ニ於テハ如何デゴザイマスルカ、其前年ノ、前內閣ノ時代ニ於テ何程御買
收ニナッタカ、此公債ノ發行ト云フモノヲ嚴重ニ制限ヲ致シテ、募集公債ハ
億五千万圓ヨリ外ハ募ラヌ、交付公債ト雖モ非常ニ減縮ヲスルト云フコトヲ
御宣言ニナリマシタ所ノ前內閣ニ於テハ、一箇年間ニ二千五百万圓ソコソ
コ、二千四百何十万圓デアリマスカ、〓數ヲ取レバ二千五百万圓、二千五百
万圓ノ私設鐵道ノ買收ヲ提案イタシマシテ、兩院ヲ通過イタシテ居ルコトハ
御承知ノ通リデアリマス、此消極ノ方針トデモ申シマスカ、公債ノ發行ヲ絕
對ニ御嫌ヒニナッタ所ノ前內閣ニ於テモ、鐵道ノ經營上必要ナリト認メラレタ
ルニ付キテ、一箇年ニ二千五百万圓ノ私設鐵道ノ買收ヲシテ公債ノ交付ヲ致
シテ居ルノデアリマス、現內閣ニ於キマシテ、昭和三年四年兩年度ヲ通ジテ
五千万圓、數字ニ依ッテ比較イタシマスレバ前內閣ト同ジ數字ニナルノデア
リマス、私ハ是ハ必シモ前內閣ノ數字ニ做フ譯デハゴザイマセヌ、何カ、政
友會內閣タル私ガ新タニ發明デモシテ飛ビ離レタコトヲ計畫シテ居ルガ如ク
仰セニナルノハ、是ハ間違ヒデ、事實ガ違ッテ居ルノデアリマス、前內閣ト
比較ヲ致シマシテ、二箇年五千万圓ハ權衡ヲ少シモ失シテ居ラヌ、私共ト致
シマシテハ前ニモ申シマスル通リ、マダ〓〓買ヒタイ鐵道ガアル、併ナガラ
サウ澤山ノ公債ヲ出スコトモ困ルト云フ大藏當局ノ御意見ニ對シ、私モ御尤
デアルト考ヘタカラ、此五千万圓ダケノモノヲ買收スルコトニシタ次第デア
リマス、而シテ買收ノ方針ガ何カ無方針デ、勝手次第ニ私ガ何カ自分ノ好キ
ナモノデモ買フヤウニ聞エルガ如キ御陳述デアリマシテ、是ハ度〓申上ゲル
通リデアリマス、標準ト云フコトヲ以テ靑木君ハ御問ヒニナル、私ハ方針ト
云フコトデ御答ヘスル、標準ヲ問ハレル靑木サンハ如何ナル標準ヲ持ッテ居
ラレルカ私ハマダ承ラヌノデアルガ、私ノ標準トスル所ハ即チ鐵道省自身鐵
道「ヲ建設シテ行クニ付テ、工事ノ施行上ドウシテモ買ハナケレバナラヌ鐵道
ガ前囘ニ於テモ申述ベマシタ通リ幾本モアル、是ハドナタガ鐵道省ニ御在
デニナッテモ買ハザルヲ得ナイ鐵道デアリマス、是ハ一部分、例ヘバ花卷ノ鐵
道ノ如キ、ソレカラ又モウ一ツハ鐵道ノ運轉系統ノ聯絡ヲ完全ニ致シ、且
ツ地方ノ產業ヲ開發スルト云フコトノ必要カラシテ、全國ニ亙ッテ、是ハ前內
閣前前內閣、歷代內閣、皆其通リノ方針ヲ以ッテ鐵道ヲ買收シテ居ルコト
ト私ハ考ヘテ居リマス、其同一ノ方針、即チ標準ト申シテモ宜シイデゴザイ
マセウ、鐵道ノ運轉系統ヲ全クシ、交通機關ノ機能ヲ發揮スル、又地方產業
開發ノ爲ニ、私設鐵道ニ委カシテ置クコトノ出來ナイ······私設鐵道ニアッテ
ハ十分ナル產業ノ開發、交通機關ノ目的ヲ發揮スルコトノ出來ナイ分ヲ、之
ヲ買フ、而シテ又國防ノ關係モアリマス、今囘ノ分ニハ國防關係ノモノハ少
ウゴザイマスケレドモ、只今御述べニナリマシタヤウナ譯デ、博多灣鐵道ノ
如キ海軍省ニ於テ非常ナル必要ナ石炭ヲ今掘リマシテ、四十万噸カラ出シテ
居リマス、マダ〓〓是カラ新タニ採掘ヲスルト云フコトデアリマシテ、海軍
當局ト致シマシテハ、此鐵道ガ國有ニナッテ運賃ガ下リ、總テノモノノ設備
ガ整頓ヲスルト云フコトヲ希望イタシテ居ルノデアリマス、之ヲ御話申上ゲ
タ次第ナンデ、今後ト雖モ矢張リ國防ノコトモ一ツノ標準トシテ、國防上必
要ナモノガアレバ、矢張リ出來得ルダケハ之ヲ完全ナル鐵道ニスル爲ニ、政
府ニ買上ゲルト云フコトノ、是モ矢張リ、方針ト申スカ、標準ト申スカノ一
ツニナッテ居ルト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、ソレカラ又地方鐵道ノ
分布狀態モ其通リ、大體ニ於テ同ジ政府ニ必要デアリ、同ジ公益上ノ必要ノ
アルモノデアルナラバ、全國ニ亙ッテ地方ノ狀態ヲ出來得ルダケ平均ニ分布
シタイ、或一地方ダケガ澤山私設鐵道ガ政府ニ買收ヲセラレテ、其地方ノ人
民ハ非常ニ喜ビマスケレドモ、他ノ地方ハ同ジヤウナ私設鐵道ノ爲ニ非常ニ
不便ヲ蒙ッテモ、更ニ之ヲ政府ニ於テ買上ゲ改良スルコトガ出來ヌト云フコ
トデハ、是ハ不公平ニナリマスカラ、略〓似寄ッタモノデアルナラバ、同ジ全
國ニ普ク之ヲ割振ッテ、サウシテ漸次ニ之ヲ買收シテ行ク、買收固ヨリ今日ヲ
以テ終リト致スノデハゴザイマセヌ、今後ト雖モ段々ニ買收ヲ致スノデアリ
PV、今日ニ於テハ是モ矢張リ一ツノ條件トシテ考慮ノ中ニ入レテ決定ヲス
ルト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、サウシテ又鐵道ノ懷ロト云フコトモ
其通リデアリマス、或場合ニハ今年度ニ是非買ハナケレバナラヌ、明年度
デモ或ハ宜シイカモ知レヌト云フヤウナモノモ出テ來ルカモ知レヌ、其場合
ニ於テモ、明年度ニナレバ會社ガ段々利益ガ多クナル爲ニ、大變ナ買收金高
ヲ拂ハナケレバナラヌト云フヤウナ場合ニ於テハ、鐵道省ハミス〓〓今年買
ヘバ百万圓デ買ヘルモノガ來年ニナッタラ百五十万圓ニナルト云フ場合ニハ、
多少緩急ノ順序ガアリマシテモ、莫大ナル損失ヲスルヨリモ自分ノ方ニ餘リ
損ヲセヌヤウニシタイト云フ所カラ、鐵道ノ懷ロ合モ多少考慮ニ入レル、斯
ウ云フコトモ申上ゲタノデアリマス、是等ノコトニ關シテ度〓申上ゲマス通
リ、私共ハ部下ニ調査ヲセシメテ、サウシテ此方針此標準ニ適フモノノ中、
五千万圓ノ程度ニ於テ選定イタシマシタノガ、今囘先般即チ本會議ニ出マシ
タ所ノ買收鐵道デアルノデアリマス、決シテ何等標準ガ無クシテ、一個人ノ
氣紛レニ依ッテ斯樣ナ線路ノ買收ハ出來ルモノデハゴザイマセヌ、皆十分ニ
ソレ等ノコトヲ考慮シテ決定ヲ致シタ次第デアリマス、ドウゾ此點ハ惡シカ
ラズ御了承ヲ願ヒタイト思ヒマス、ソレカラ又鐵道國有法ノコトニ付テ御述
ベニナリマシタ、是ハドウモ靑木サント私共ハ考ガ最初カラ違フノデナイカ
ト思ヒマス、先般モ何カ鐵道國有法ノ第一條ニ、幹線ヲ國有トシテ地方鐵道
ハ私有ニスル精神デアルカノ如キ御說ガアリマシタガ、私ガ聞キ方ガ惡ケレ
バ是ハ取消ヲ致シマス、是ハサウデハナイノデゴザイマス、國有鐵道······鐵
道國有法ノ第一條ニ鐵道ハ總テ國有トスト斯ウ書イテアルノデアリマス、但
シ地方鐵道ハ此限リニ在ラズトゴザイマシテ、地方鐵道ニ於テハ例外ヲ認メ
タト云フノガ此法ノ精神デアリマス、是ハ誠ニ事ノ宜シキニ適シタ所ノ法律
デアルト考ヘマス、大體ニ於テ鐵道ハ國有デアル、併シ何モカモ總テ地方マ
デモ皆國有ニスルト云フコトハ宜シクナイカラ、地方鐵道ダケハ私設鐵道ニ
ヤッテモ宜シイト云フ例外ヲ設ケテアルニ過ギナイノデアリマス、此點ハ私
共其通リニ考ヘテ居ル、委員會ニ於キマシテモ、當時ノ政府ノ當路ニ居ラレ
マシタ所ノ山之内君ノ御話モ矢張リサウ云フ風ナ精神デアルト拜承イタシタ
次第デアリマス、故ニ此法律ノ解釋ト云フモノヲ幹線ダケガ國有デアッテ、
地方ノ線路ハ私有デアルト云フコトハ原則デアルト云フ御趣意デアレバ、ソ
レハ私ハ違ッテ居ル、私共トハ全ク解釋ガ違ッテ居ルト云フ、斯ウ云フコトヲ
申上ゲテ置キタイト思フノデアリマス、ソレカラ此全體ニ付キマシテ、今囘
ノ買收鐵道ハ大體先刻申上ゲマシタヤウナ標準ニ依ッテ買收ノ決定ヲ致シタ
ノデアリマスルガ、其利益ノ點ニ付キマシテ、何カ鐵道ノ經濟ヲ非常ニ脅カ
シ、損失ヲスル虞レガアルカノ如キ懸念ガ一部ノ方ニハアルヤウニ考ヘルノ
デアリマスガ、ソレハサウ云フモノデハナク、調ベモ出來テ居リマス、今囘
ノ鐵道ヲ總計イタシマスルト、買收價格ハ五千万圓ニナリマス、サウシテ今
日其儘デ現在買收セラルヽ所ノ鐵道ノ擧ゲテ居ル利益ヲ計算ヲ致シマスル
ト、此買收ノ元金ニ對シテ四朱ノ利益ガ擧ッテ居リマス、而シテ一方ニ於キ
マシテハ、鐵道省ガ是等ノ私設鐵道ニ對シテ、法律ノ命ズル所ニ從ヒマシ
テ、補助金ヲ澤山出シテ居リマス、買收ヲ致シマスルト此補助金ガ無クナリ
マスカラ、鐵道省ノ懷ロカラ見マスレバ、此五千万圓ノ發行公債ニ對シテ、
今日此儘デ以テ五朱ノ利益ト云フモノガ擧ルコトニナッテ居ルノデアリマス、
而シテ從前ノ例ニ照シテ考ヘテ行キ、又將來ノ經濟ノ發達、鐵道ノ省有線ノ
設備、運賃其他ノ改良等ニ依ッテ、一時ハ懷ロ合ガ損ガ行クカモ知レマセヌ
ガ、一定ノ日月ヲ經過イタシマスレバ、其貨物旅客ノ增加、收入ノ增加ト
云フモノハ餘程著シクナルダラウト思フノデアリマス、先刻、靑木君ヨリ御
述ベニナリマシタヤウナ譯デ、一昨年前內閣ノ時代ニ買收セラレマシタ越後
鐵道、此越後鐵道ノ如キハ、旅客ト貨物ト云フモノハ非常ニ殖エテ參リマシ
タ、鐵道省ノ所有ニ屬シテ以來旅客モ倍ト申シテ宜シウゴザイマス、貨物モ
倍而シテ御承知ノ通リ、旅客ノ運賃ハ私設鐵道ニ較ベマスト、非常ニ少
イ、非常ニ少イノデアリマスルガ、然ルニモ拘ラズ其數ニ於テ倍加シテ居リ
マスルカラ、總計ニ於テハ、旅客ハ殆ド同ジ位デス少シ少イカモ知レマセヌ
ガ、貨物ニ於テハ增シテ居ルト云フ次第デアリマス、此勢ヲ以テ致シマスレ
バ來年再來年ニナリマスルト、餘程ノ利益ヲ擧ゲルダラウト思フ、是ハ建設
線ニ付テ同ジコトデアリマス、先般豫算ノ際ニモ大分委員會デ御議論ニナリ
マシタ建設線ニ付キマシテハ、建設ヲ致シマシタ當時ニハ少シノ利益ガ擧ラ
ヌノミナラズ、損ヲシテ居ル線路ガ澤山アリマス、今囘豫算ニ計上シテ先般
御協賛ヲ願ッタ線路ニモソレガアリマス、三年五年、八年前カラ其當時政府
ニ於テ建設ヲ致シマシタ線路ニモソレガアル、損失ヲシテ居ルノガ澤山アリ
マス、併ナガラソレガ爲ニ其線路ハ損ヲシテモ、其處カラ出タ貨物ガ旣成ノ
鐵道線路ニ廻ッテ行ッテ、ソレガ爲ニ多少ノ利益ガ擧ッテ居ル、而シテ當初ハ損
失ガアリマシテモ、一年、二年、三年位ニナリマスルト云フト、段々殖エテ參
リマシテ、サウシテ數年ノ後ニハ五朱、六朱、七朱、八朱モ大變ナ利益ヲ擧ゲル
ト云フコトニナッテ居ルノガ、是ガ過去ノ建設線ニ於ケル事實デアリマス、想
像デモ何デモナイ、數字ニ付テ委員會ニ於テ、各地方ノ線路ノ計算ヲ配付イ
タシテ御覽ニ供シタ次第デアリマス、サウ云フ次第ニナッテ居ル、而シテ北
海道ノ如キアノ廣漠無人ノ地ニ年々百哩近イ鐵道ヲ敷キマスト、是ハドウモ
算盤カラ見マスルト云フト、誠ニ不經濟極ッタ話ト思フノデアリマスガ、此
廣漠無人ノ地ニ百哩ヅヽヲ急激ニ鐵道ヲ增シテ行ッテドウ云フ計算ニナッテ居
ルカト申シマスルト、建設費一切、公債其他建設費ト稱スベキモノノ資本ニ
關スルモノヲ、一切ノ資本ヲ資本ト致シテ見マシテ、矢張リ北海道全體デ五
朱ノ利益ハ擧ッテ居ル、決シテ懷ロ合カラ見テ公債ヲ以テ建設シテモ損ニナッ
テ居ラヌ、而シテソレガ爲メ北海道ノ富源ノ開發ハドノ位ノモノデアリマス
カ、非常ナルモノデアリマス、是ガ無カッタナラバ北海道ハ到底今日ノ開拓
ハ出來ナイ、今日以後ト雖モ其通リデ、而シテ今日ノ買收鐵道モ其意味ニ於
テ政府側デハ建設ト同ジコトデアリマス、政府ハ鐵道聯絡ノ必要上、或ハ又
開發ノ必要上、之ヲ買收シテ政府ノ線路ニスルノデアリマス、今日ハ損ガ行
ッテモ來年ハ得ガ行クト云フノガ是ガ原則デアリマス、此原則ハ斷ジテ動キ
マセヌ、況ヤ今日現在五千万圓ノ此鐵道ヲ合併イタシテ五朱ノ利益ヲ擧ゲ
ル、斯ウ云フコトニナリマス、中ニ北海道鐵道ノ如キハ買收價額ガ七百何十万
圓デ、公債ヲ交付シマスト其利息ガ約四十万圓ヅヽ出マスノデ、他面ニ於テ
中央政府ト北海道ト協調ノ上五十一万圓ト云フ補助金ヲ出シテ居ル、此五十
一万圓ハ只呉レテヤッテ居ル、此五十一万圓ガ無クナッテ、サウシテ公債ノ利
息四十万圓ヲ拂ッテ改良ヲ致シテ行キマスルト、ドノ位アノ地方ノ沿道ハ開
ケルカ分ラナイ、サウ云フ譯デ出來テ居ルノデアリマス、決シテ何等計算モ
ナケレバ、唯鐵道ヲウント政府デ買ヒタイカラ買フト云フヤウナコトヲ、役
所デ決定ト云フモノガ出來ルモノデハナイノデアリマス、此點ハドウゾ御間
違ヒナイヤウニ願ヒタイ、ソレカラ又靑木サンハ私設鐵道許可ノコトニ付テ
何カ大變方針ガ變更シタヤウナ御疑ヲ持ッテ御話ニナリマシタ、私設鐵道許
可ト云フモノハ成程私ハ政府ノ豫定線デアリマシテモ、國家ノ全局カラ見マ
シテ私設鐵道會社ニ許ス方ガ宜シイ場合ハ許サウト思フノデアリマス、私
此點ニ付テ餘リ官私ノ別ヲ立テナイ、官ト民トノ區別ヲ餘リ立テマセヌノデ
アリマス、此點ハ或ハ靑木サンノ御考ト私ノ考ヘト違フカモ知レマセヌガ、私
ハ官モ民モ協同イタシテ倶ニ共ニ此國家ニ必要ナル交通機關ノ發達ヲサセタ
イ、斯ウ云フ考ヲ持ッテ居リマス、故ニ只今靑木君ノ述ベラレマシタ靑森縣
大湊鐵道、四日市ノ鐵道ヲ御引キニナリマシタ、例ヘバト仰セニナリマシタ
ガ、政府ノ豫定建設路線デ私立會社ニ許シタノハ、例ヘバト御引キニナッタ
此二ツノ外ハアリマセヌ、此二ツハ前ニモ述ベマシタト覺エテ居リマスガ、
大湊線路ノ如キハ政府デヤリマスト財政ノ都合ガ中〓宜シクアリマセヌカ
ラ、約十年ノ後デナケレバ其竣功ハセヌノデアリマス、必要ナ線路デハアリ
マスガ、政府デヤルト遺憾ナガラ早ク出來ナイ、ソレヲ最モ確實ナリト認ム
ル所ノ人〓ガ會社ヲ組織シテ、サウシテ之ヲ建設イタシタイ······之ヲ許シマ
スレバ數年ニシテ鐵道ハ出來ルノデアリマス、國家ノ全局カラ見テ此位宜イ
コトハナイト思フ、一旦政府デ架ケヤウト思ッテ居ルカラ、オ前達幾ラ願ッテ
モ許サナイ、ドウシテモ政府デ架ケナケレバナラヌト云フヤウナ杓子定規ハ
私ハ宜シクナイト思フ、サウ云フコトハ卽チ官僚主義デアッテ最モ改メナケ
レバナラヌト思フ、又地方民ト致シマシテモ十年後ノ鐵道開通ヲ待ツヨリ數
年ノ後ニ鐵道ガ出來ルノトハドノ位其地方ノ開發ニ於テ損得ガアルカ分ラナ
イト思フ、故ニ私ハ私立會社デアッテモ之ヲ許シタ、四日市ト雖モ其通リデ
アリマス、此二ツダケハ特ニサウ云フ事情カラ之ヲ許シマシタノデ、將來又
必要ナ場合ニ於テハ、申上ゲル迄モナク法律ノ規定ニ依ッテ政府ガ買收スル
コトモ出來ル、又買收シナケレバナラヌ鐵道デアラウト思ヒマスカラ、其建
設ニ付キマシテハ、鐵道ノ規格其他ハ嚴重ナ條件ヲ附ケマシテ、政府ノ鐵道
ト少シモ變リノナイヤウニ建設ハ致サセルト云フコトニ致シテ居リマス、要
スルニ此點ニ付キマシテハ、官デ定メタモノデアルカラ、民ガ幾ラ願ッテモ許
サヌト云フヤウナコトハ、私ハ絕對ニ排斥ヲ致ス、官民協同イタシテ此必要
ナル交通機關ノ一日モ早ク速成普及發達スルコトヲ希望スルト云フ精神ヲ以
テヤッテ居ル次第デアリマス、甚ダ長クナリマシテ恐縮デゴザイマシタガ一應
御答辯ヲ申上ゲタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 休憩イタシマス、午後ハ一時三十分ヨリ開會イタ
シン·ス
午後零時二十一分休憩
山古早山
午後一時四十六分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=31
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032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ報〓ヲ致サセマス
〔長書記官朗讀〕
本日内閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
内務省所管事務政府委員
社會局部長湯澤三千男君
同大野綠一郞君
本日特別委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
電話事業公債法中改正法律案可決報告書
本日勞働者災害扶助法案特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左
/和田
委員長伯爵寺島誠一郞君
副委員長岡喜七郞君
山東京市모호発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=32
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033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ午後ノ會議ヲ開キマス
[國務大臣原嘉道君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=33
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034・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 靑木サンカラ私ニ御尋ニナリマシタ御趣旨ハ、地方
鐵道法デ地方鐵道會社ガ兼業ヲスル場合ニハ鐵道大臣ノ認可ヲ要スト云フ規
定ガアッタノヲ削ッテシマッタトキニハ、商法ノ規定トノ關係上、取締ニ付テ如
何ナル意見ヲ有スルカ、斯ウ云フ御意味ノヤウニ拜聽イタシマシタ、其意味ニ
於テ御答ヘ致シタイト存ジマスルガ、若シ間違ッテ居リマシタラ、更ニ御尋
ヲ願ヒマス、御承知ノ通リ現行商法ハ所謂自由主義ヲ採ッテ居リマスルノデ、
或會社ガ如何ナル事業ヲ營ムカト云フコトハ、定款ノ規定ニ一任イタシテ居
リマス、從テ定款ニ於テ是〓ノ事業ヲ營ムト云フコトヲ定メマスレバ、其以
外ノ事ハ之ヲ爲スコトガ出來マセヌケレドモ、定款デ如何ナル事業ヲ營ムカ
ト云フコトヲ定ムルニ付テハ、商法ハ何等ノ干渉ヲシテ居ラヌノデアリマ
ス、從テ或特殊ノ事業ヲ營ムニ付テ官廳ノ認可ヲ要スルヤ否ヤト云フコト
ハ專ラ特別法ノ規定ニ委セテアリマスルノデ、商法ニハ之ニ關シテ何等ノ
規定ハ無イノデアリマス、從テ地方鐵道會社ガ兼業ヲスルニ付テ、鐵道大臣
ノ認可ヲ要スル方ガ宜イカドウカト云フコトハ、是ハ商法ノ問題デハナクシ
テ、專ラ鐵道監督ノ問題ニ相成ルノデアリマスルカラ、主務大臣ニ於テ是ノ
認可ヲ要スルヤ否ヤト云フコトニ付テ、意見ヲ立ツル方ガ相當デアリマシ
テ、現行商法ノ規定トハ直接ノ關係ハ無イモノト考ヘテ居ルノデアリマス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=34
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035・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 先刻靑木君ヨリ大藏大臣ニ對シマシテ御質問デア
リマシテ午後ニハ大臣ガ出マシテ御答ヲスルヤウニト考ヘマシタガ、何分午
前中カラ大臣ニ對シマシテ他ノ會議ニ於キマシテ質問ガ繼續シテ居リマスノ
デ、御不滿足カ存ジマセヌガ私ヨリ大體ヲ御答辯イタシタイト考ヘルノデア
リマス、鐵道ノ建設ニ付キマシテ公債ヲ以テ之ニ充テマスコトハ御承知ノ如
ク止ムヲ得ザル事情デアルカト考ヘテ居リマス、サウシテ此募集公債ニ付キ
マシテ略計畫ヲ定メテ居リマスルコトハ靑木君御承知ノ通リデアリマス、而
シテ交付公債ニ關シマシテハ、只今御問ヒニナリマシタヤウニ來年度ハドレ
ダケノ金ヲ出ストカ、其翌年ハ如何ナル金額ヲ支出スルトカト云フ如キ計畫
ハ只今立テヽ居ナイノデアリマス、然ラバ此交付公債ト云フモノヲ如何ヤウ
ニシテ大藏當局ハ定メルカト申シマスルト、先ヅ大體ハ申ス迄モナク採算上
ノ問題デアリマス、此鐵道ガ買收イタシマシテドレダケノ利益ガ擧リマシテ
サウシテ公債ノ利拂ヒガドウナルカ、其間ノ計算ガ如何ニナルカト云フコト
ヲ先ヅ考慮イタスベキモノト考ヘマス、次ニハ鐵道其モノノ性質デアリマシ
テ、今ハ割合ニ算盤ガ取レマセヌデモ、其鐵道ト云フモノガ先刻鐵道大臣ヨ
リ申述ベラレマシタ通リ、國家重要ノ線路デアル、或ハ其地方ニ對シマシテ
モ極メテ重要ナルモノデアル、又ハ只今ハ稍、損害デアリマシテモ將來ヲ考
ヘマスルト云フト相當ノ利益ガ擧ルモノデアル、斯ウ云フコトヲモ能ク考慮
イタシマシテ定メネバナラヌト考ヘテ居リマス、次ニ考ヘナクテハナリマセ
ヌノハ是ガ一般ノ經濟界ノ狀態デアリマシテ、其一般ノ經濟界ノ狀態ヲ考
慮イタシマシテ金額ヲ定メマスコトヲ適當ナリト考ヘテ居ル次第デアリマ
ス、ソコデ今囘ノ此五千万圓バカリノ交付公債ハドウデアルカト申シマスレ
バ、先刻矢張リ鐵道大臣ヨリ述ベラレマシタ如ク、補助金ノ關係竝ニ利益ノ
關係等ヨリ現在ノ狀態ニ於キマシテ既ニ五朱ノ利益ガアルノデアリマスカ
ラ、交付公債ヲ發行イタシマシテモ鐵道ノ經濟ト云フモノニ對シマシテ決シ
テ惡影響ヲ及ボスモノデハナイト見タノデアリマス、サウシテ先刻ノ狀態カ
ラ申シマスレバ、勿論今日ノ狀態カラハ、先般來屢、申上ゲテアル通リ、少
ク出來レバ公債ノ少ナイコトハ宜イノデアリマスガ、一面ニ事業トノ關係モ
考慮イタサナケレバナリマセヌカラ、雙方ヲ考慮イタシマシテ、此程度デア
ルナラバ、今日ノ狀況ニ於テ差支ナイト、斯ウ考ヘマシタ次第デアリマスカ
ラ、是ダケヲ御答辯致シタイト存ジマス
〔靑木周三君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=35
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036・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 靑木周三君ハ再ビ質疑ヲ御希望デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=36
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037・青木周三
○靑木周三君 只今ノコトニ關係シマシテ鐵道大臣竝ニ諸大臣ノ、マダ私ノ
質疑ニ對シテ十分ナル御答ヲ得ナイ點ヲ申上ゲタイト思ッテ居ルノデゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=37
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038・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=38
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039・青木周三
○靑木周三君 非常ニ會期ノ切迫ノ際ニ長イ時間ヲ取ルコトハ遠慮シタイト
思ッテ居ルノデアリマスガ、私ノ質問イタシマシタコトハ、主トシテ鐵道大
臣ニ質問シタ所ハ、何ガ故ニ斯樣ニ遲レタカ、遲レタ理由モ相當アルケレド
モガ、政府デ努力セラレタナラバ、此法律案ハ買收法ト同時ニ提出スルコト
ガ必シモ不可能デナイノニ、ソレヲ遲ラシタコトハ鐵道大臣ハ怠慢デハナイ
ト仰ッシヤルケレドモガ、私共結果カラ見テ遺憾ノ點ガアルカラ、其點ハド
ウ云フコトデアルカト云フコトヲ御問シタダケナノデアリマシテ、ソレハモ
ウソレダケ鐵道大臣カラ御答ヲ戴ケバ、私ハソレダケデ滿足スルノデ、他ハ
司法大臣ト大藏大臣ノ御答辯ヲ煩シタノデアリマスケレドモガ、併ナガラ鐵
道大臣ハ國務大臣ノ權限ニ依ッテ議場ニ於テ、政策ニ關スルコトヲ述ベラレル
コトハ我〓ガ阻止スルコトハ出來マセヌ、勝手ニ御述ベニナルコトハ自由デ
アリマスケレドモガ、併ナガラ私ノ申シマシタ所ニ關シテ述ベラレルナラ
バ、私ノ申シタ範圍デ述べラレヽバ、ソレデ議場ノ誤解ヲ釀ス憂ハアリマセ
ヌケレドモガ、私ノ申シタ範圍デナイコトニ付テ頻リニ御述べニナリマシ
テ、私モソレヲ默ッテ居リマスルト、速記錄ハアリマスルケレドモガ、私ノ
申シマシタ所ヲ誤解サレル憂ガアリマスカラシテ、ソレニハナンボカ附加へ
テ置カナケレバナラヌト存ジマスカラ、此事ヲ申上ゲテ、ソレニ御答辯ガア
ルナラバ、ソレニ付テ御答辯ヲ願ヒタイ、鐵道大臣ハ私ガ今回ノ五千万圓ノ
交付公債ガ多イト云フコトヲ或ハ非難シテ居ルトカ、或ハ質問ヲシタトカト
云フヤウニ御取リニナッタノデアリマスケレドモ、私ハ此交付公債ノ金額ノ多
少ヲ論ジタコトハ一言モアリマセヌノデアリマス、併ナガラ鐵道大臣ノ政策
ニ依レバ、今囘ノ五千万圓ノミナラズ將來ニ於テモ、明年度ニ於テモ、明後
年度ニ於テモ、明々後年度ニ於キマシテモ、是ト同類ノ鐵道ヲ買收シナクチ
ヤナラヌカラシテ、將來ニ於テ之ニ對スル計畫ガ大藏省ニハナクテハナラ
ス、サウデナクシテ只行當リバッタリニ今年度ダケ決メルト云フコトハ、從來
ソレデ宜シカッタノデアリマスガ、今囘ハ鐵道大臣ハ尙ホ澤山買收シタイト
云フコトデアリマスガ、今年ダケ大藏省ガ五千万圓ヲ承諾シテ呉レタノデア
ル、斯ウ云フコトデアリマスカラシテ、將來ノ計畫ハドウデアルカト云フコ
トヲ大藏當局ニ伺ッタノデアリマス、デアリマスカラ五千万圓ヲ決シテ多イ
トハ申シマセヌガ、併シモウ少シ經チマスト重要ナル鐵道ヲ買ハナケレバ
ナラヌコトガ起ルト思フ、系絡上買ハナクチヤナラヌコトニナラウト思フ、
其鐵道ヲ買フトスルナラバ私共ガ計算シテ八千五百万カラ九千万圓ハ、一ツ
ノ鐵道ニ對シテソレ位ノ金ハ掛カル、ソレガ多イトカ少イトカヲ私ハ論ジタ
ノヂヤアリマセヌ、併ナガラサウ云フ風ニナッテ行クノデアルカラ、將來ノ交
付公債ノ計畫ガナクチヤナリマセヌヂヤアリマセヌカト云フコトヲ伺ッタノ
デアリマス、鐵道大臣ハ此五千万圓ガ二年間ニ割ルト一年二千五百万圓ニナ
ル、前內閣ニ於テモ二千五百万圓デ鐵道ヲ買收シタデハナイカト云フコトヲ
言ハレマスケレドモ、私ハサウ云フコトヲ議論ヲシテ居ルノヂヤアリマセ
ヌ、此五千万圓ノ買收ト云フモノハ解散議會ノ前ノ議會ニモ凡ソ此位ノ額ヲ
出サレタノデアリマスガ、之ヲ二年ニ割ッテ二千五百万圓ニナルト云フ理窟ハ
御立テニナルナラバ御勝手デアリマスケレドモガ、ソンナコトハ此際我〓何
等ノ必要ガナイコトデアリマス、ソレカラ兼業ノコトヲ、是ハ初メニモ申シ
マシタ通リニ、此機會ニ於テ幸ニ司法大臣ガ御出席デアルカラ、司法大臣ノ
御意見ヲ伺ッタノデアリマスルカラシテ、鐵道大臣トシテノ御所管トシテノ
意見ヲ伺ッタノデハナカッタケレドモ、鐵道大臣ハ之ニ向ッテモ御答辯ヲ爲サ
レマシタ、私ノ伺ッテ居ル所ハ、只今是ハ同時ニ申上ゲタイ、司法大臣ト鐵
道大臣ト同時ニ申上ゲタイト存ジマスガ、此商法デ、地方鐵道法竝ニ軌道法
ハ商法ノ四分ノ一拂込ミ主義ニ對スル所ノ重大ナル例外ヲ設ケテ居ル、ソ
レデアルカラ之ヲ若シ鐵道及軌道ノ爲ニハサウ云フ風ニ十分ノ一ノ拂込デ會
社ノ設立ヲサセルト云フコトガ認メラレテ居ルノデアリマス、從テ其兼業ト
云フモノハ是ガ兼業ノ爲ニモ例外ガソコニ行ハレルノデアリマスカラ、先程
申シマシタ例ヘバ新潟臨港鐵道ノ例ヲ引イテ申シマスルト云フト、鐵道ト云
フモノハ御承知ノ通リ八十万圓デ建設ガ出來テ居ルガ其兼業ハ二百數十万
圓ノ兼業、ソレハ稍、倉庫營業ニ似テ居ル營業ヲヤッテ居ル、倉庫營業ノ會社
ヲ組織スレバ四分ノ一拂込デ會社ガ成立シテ行ク、鐵道會社デアレバ十分ノ
一ノ拂込デアル、サウ云フ例外ヲ地方鐵道及軌道法デ認メテ居ルノデアルカ
ラ、從テ兼業ノ認可ト云フコトガ重要ナル役目ヲナシテ來ルノデアルト私ハ
考ヘルノデアリマス、是ハ商法ニ對スル重大ナル例外ニ對スル一ツノ制限デ
アル所ノ主務大臣ノ認可ト云フコトガアルガ、之ヲ取去ルト云フコトハ、
般法ニ對スル權衡ト申シマスルカ、サウ云フコトハ致シテ宜シクナクハアリ
マセヌカト伺ッタノデアリマス、鐵道大臣ハ官吏ガ營業者ノ營業ノ方策ニ對
シテ、色〓干涉スルコトハ役ニ立タヌト言ハレマスケレドモ、ソレハ私モ同
感デアル、役人ガ色〓營業者ノ營業ノ策略、政策ニ向ッテ干渉ヲ加ヘルト云
フコトハ、甚ダ宜シクナイコトデアラウト思ヒマスケレドモ、是ハ特別ナ例
外ヲ認メテ居ル所ノ法律デアリマスカラシテ、何トシテモ何等カ制限ガ無ケ
レバ他ノサウ云フ風ナ倉庫營業デアルトカ、先程アリマシタ「ホテル」營業
ト云フヤウナモノニ對スル所ノ權衡ガ取レヌカラ、何等カ制限ガ無クチヤナ
ラヌト伺ッタノデアリマス、是ハ相當ナ理由ノアルコトダラウト思ヒマス、事
ノ序デニ伺ッタノデアリマス、今ノ司法大臣ノ御答辯竝ニ鐵道大臣ノ御答辯
ハ、私ノ問ハムト欲スル所デナカッタノデアリマス、此點ハ御答辯ヲ煩スノ
デアリマス、ソレカラ尙ホ鐵道大臣ハ非常ナ色〓ナ鐵道ノ政策ニ關シテ屢く
述ベラレル所ヲ繰返シマシタノデアリマスルガ、是ハ委員會ニ於キマシテモ
屢、鐵道大臣トハ論難······論難ト申シマスルト、オカシイデアリマスガ、鐵
道大臣ノ御說明ハ屢〓伺ッテ居ルノデアリマスカラシテ、此際ニ於テ再ビサウ
云フコトヲ伺フ必要ハ無カッタノデアリマスルガ、結局、今日述ベラレタ所
ヲ取纒メテ見マシテモ、此買收ノ御方針ガ地方鐵道ト云フモノハ運賃ガ高
イ、地方ノ開發上地方鐵道デハ治リガ付カヌ、斯ウ云フコトカラ買收スルト
斯ウ仰シヤルノデアリマスカラ、結局私ガ今日述べマシタ所ト何等ノ違ヒハ
無イノデアリマス、デアリマ·スカラシテ私共ハドウシテモ鐵道大臣ノ此買收
ノ御方針ト云フモノガソコニアッテ、地方鐵道ニ委カシテ置イテハ地方ノ開發
ガ十分ニ行カヌ、ソレデアルカラシテ地方鐵道ヲ國有鐵道ニナシタイ、斯ウ
云フコトハ屢〓仰シヤル所デ、今日仰シヤル所モソレデアルカラ、結局ソレヲ
制限スルモノハ何デアルカ、交付公債デアリマス、ソレヨリ外ナイ、若シ大
藏當局ガ許スナラバ一億万圓デモ二億万圓デモ買收シタイモノガアルト只今
デモ仰シヤル、サウ云フコトガ、鐵道大臣ノ御政策ニ付テ內閣ニ於テ認メテ
居ルナラバ、大藏當局ハ絕對ニ聽カナクチヤナラヌ、斯ウ云フコトハ誰モ起
ル疑ヒデアリマス、何人モ聞カムト欲スル所デアラウト思フ、ソレカラ鐵道
大臣ハ又事ノ序デハアリマシタケレドモ、越後鐵道ハ買收シテカラ非常ニ成
績ガ良イト云フコトヲ言ハレマシタコトハ、私ハ委員會ニ於キマシテハ越後
鐵道ノ成績ガ良イト云フコトノ表ヲ政府委員カラシテ示サレテ居ルノデアル
ガ、是ハ非常ナ間違デアル、計算ノ基礎ニ付テハ私ハ非常ニ疑ヲ持ッテ居ル
ト云フコトヲ委員會ニ於テ、其時ハ鐵道大臣ハオ出デニナラナカッタノデア
リマスガ、左樣ナ間違ッタ所ノ計算デ以テ鐵道大臣ノ御〓育ヲ爲サルト云フ
ト、鐵道大臣ガ屢、〓間違ッタ說明ヲセラレルカラ御注意ヲナサッタ方ガ宜カラ
ウト云フコトヲ申上ゲテ置イタノデアリマス、是ハ尙ホ鐵道大臣ハ鐵道ノ政
府委員ト御相談ニナリマシテ御考ヘ直シヲ爲スッタ方ガ宜シカラウト思フノ
デアリマス、ソレカラ又國有鐵道······是ハ言葉ノ誤カモ知レマセヌガ、チヨッ
ト私ガ殊更ニ鐵道大臣ヲ非難スルカノヤウニ例ダト言フテ、唯二ツアッテ、
二ツシカ無イモノヲ例トシテ擧ゲタト云フヤウニ言ハレマシタケレドモガ、
是ハサウヂヤナイ、是ハ或ハ鐵道大臣ガ言葉カラ誤ラレタノカモ知レマセヌ
ガ、成程政府ノ豫算カラ落シテ其線ヲ私設鐵道ニ御許シニナルノハ二ツシキ
ヤアリマセヌ、二ツデアリマス、併ナガラ私ノ申上ゲル所ハ將來架ケタナラ
バ買收ヲスルト云フ約束ハアリマスマイケレドモガ、ソレニ類シタ、ドウシ
テモ私設鐵道トシテ存在シテ居ルノハ極メテ不利益デアッテ、此鐵道ハドウ
シテモ國有鐵道デ架ケナケレバナラヌト云フヤウナ線路ガアル、是ハ明示若
クハ默示······約束デハアルマイケレドモガ、現在ノ鐵道大臣ノ御方針ト其鐵
道ノ性質カラ考ヘルト、出來上ッタナラバドウシテモ國有鐵道ニ買收セラレ
ルダラウト云フコトヲ株主ガ考ヘルノハ無理チヤナイト云フ鐵道ガ澤山アル
ト云フコトヲ申上ゲタノデアリマス、其適切ナ例トシテ二ツヲ擧ゲタ、其他
ニハ無イト云フコトヲ申サレタノデアリマスガ、ソレハ澤山アリマス、若シ
鐵道大臣ノ言ハレタ言葉ノ通リデアリトスルナラバ、政府ガ此鐵道線路ガ
唯二ツシカナイト仰シヤルナラバソレハ間違ッテ居ル、例ヘバ大宮東京間ノ
鐵道ノ如キハ是ハ政府ノ豫定線デアリマス、ソレカラ大宮、八王子間ノ如キ
ハ是ハ旅客線トシテハ甚ダ價値ノ無イモノデアリマシテ、ドッチカト云フト
貨物ノ線路デアリマス、東北線カラ來ル所ノ貨物ガ東京ヲ〓ラナイデ八王子
ヲ拔ケテ東海道へ行ク所ノ線デアリマス、是ハドウシテモ國有鐵道ガ持ッテ
居ルカ、或ハ國有鐵道カラ通過料ヲ取ラナケレバ立ッテ行ケナイ線デアリマ
ス、是ハ何時必要ニナルカ知レマセヌガ將來ハ國有鐵道トシテ必要ニナル
線デアリマスガ、サウ云フモノヲヤッテ居ル所ノ株主ハ出來上レバ間モナク
國有ニナルデアラウト云フコトヲ豫想シテ居ルコトハ私ハ無理デナイト考ヘ
やく、サウ云フモノハマダ澤山アリマス、是ハ恐ラクハ政府委員ニ御聞キニ
ナリマシタナレバ御分リニナルダラウト思ヒマス、私ハ決シテソレヲ非難ス
ルノヂヤアリマセヌケレドモガ、今後サウ云フ必要ノ變化ガアラウト云フコ
トヲ申上ゲタノデアリマス、ソレカラ只今ノ大藏政務次官ノ御答辯ニ對シマ
シテモウ少シ伺ッテ置キタイノデアリマスガ、私ハ今申上ゲマスル通リニ今
囘發行セラルヽ交付公債ノ五千万圓ト云フモノハドウ云フ風ニシテ決メラレ
タカト云フコトハ、是ハ伺ッテモ要領ヲ得ベキ筈ノモノデモアリマセヌカラシ
テ、是ガ採算上善イトカ惡イトカ云フヤウナコトハ、ソレハ別ニ議論スル所
デアリマシテ、決シテ其事ヲ大藏省ニ伺ハウト云フノデハアリマセヌ、御品
私ハ此方ハ屢、鐵道大臣ガ言ハレル通リニ、大藏當局ガ五千万圓ヲ奮發シテ吳
レタカラシテ、ソレノ範圍內ニ於テ鐵道ヲ選ンダノデアルト言ハレタ方ガ本
當デアル、大藏當局ガ五千万圓ヲ發行スルノニ、此鐵道ハ採算上合フトカ合
ハナイトカ、四分ニ〓ルトカ五分ニ〓ルトカ云フコトデヤラレタノデハナカ
ラウト思フノデス、ソレカラ又五分ニ〓ルトカ四分ニ廻ルトカ云フコトヲ言
ハレルケレドモ、元來營業ヲシテ居ル鐵道ヲ買上ゲル時ニハ五分ニ廻ルト云
フコトガ原則ナンデ、イツドンナ鐵道ヲ買ッテモ五分ニ〓ル計算ニナッテ居ル
ノデアリマス、一割配當ヲシテ居ッテモ、二割ノ配當ヲシテ居ッテモ、ソレノ買ッ
タ金ハ五分ニ〓ルト云フコトニナッテ居ルノデアリマスカラ、五分ニ〓ルト
云フコトハ何等ノ意味ヲ爲サナイノデアリマス、サウ云フコトヲ承ッテ居ル
ノデハアリマセヌ、斯ウ云フ風ナ鐵道大臣ノ御方針デ行ケバ必ヤ每年出來ナ
クチヤナラヌ、私共ガ相談ヲ受ケタ所ノ鐵道デモ二億万圓以上ノマダ買ハナ
クチヤナラヌ所ノ鐵道ガアル、其二億万圓ノ鐵道ノ內容ヲ見マスルト云フ
ト、今囘提出セラレタモノヨリハズット優先ニ買收シナケレバナラヌ所ノ鐵
道ヲ多ク含ンデ居ルノデアル、ソレデアルカラシテ今囘ノ十四鐵道ガ買收セ
ラレル位ナラバ、サウシテソレガ國策上必要トシテアルナラバ、明年度ニ於
テハモット澤山買收シナクチヤナラヌデアラウト思フノデアリマス、斯樣ナ
政策ヲ含ンデ居ルノニ、大藏當局ガ相談ヲ受ケナガラ明年度ノ計畫ガナイト
云フコトハ、嘘ヲ仰シヤルノデナケレバ如何ニモ怠慢ナコトデハナイカト私
ハ考ヘルノデアリマス、モウ少シ其點ニ立入ッテ御答辯ヲ願ヒタイト思フノ
デアリマス、私ハ大藏大臣デナクチヤナラヌトカ何トカ云フコトハ決シテ申
シマセヌ、殊ニ政務次官ハ其點ノコトニハ必ズ御參畫シテ居ラレルコトデア
ラウト思ヒマスカラシテ、政務次官ノ御答辯デ結構デゴザイマス、其點ヲモ
ウ少シ參畫シテ居ッタトカ居ラヌトカ、何故ニ將來ノ計畫ヲ立テヽ居ナイト云
フコトヲ、十分ニ御說明ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
〔國務大臣小川平吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=39
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040・小川平吉
○國務大臣(小川平吉君) 今囘私ノ答辯ヲ御求メニナリマシタ點ハ、鐵道會
社ノ兼營事業ニ付テ許可ノ事項ヲ削除シタト云フコトニ關聯シテノ御尋ト承
知イタシマシタ、只今御述ベニナリマスル通リ成程鐵道ノ會社ハ他ノ事業ト
違ヒマシテ、僅カナ拂込金ヲ致シマスレバ借財ヲスルコトモ出來ルト云フヤ
ウナ規定ニナッテ居リマスル、是ハ其物ノ國家ノ爲メ必要ナル機關デアルト
云フ點カラ、特別ニ斯樣ナ鐵道ノ建設ニ付テ便利ナ規定ヲ設ケタモノデアル
ト存ジマスルガ、即チ鐵道會社ノ事業ト云フモノハ大切ナ事業デアルト私共
認メテ居リマス、併シ其鐵道會社ガ他ノ事業ヲ兼營スルニ付テ、其兼營ノ許
スベキヤ否ヤヲ、政府ガ必シモ干渉シテ之ヲ決定スルカドウカト云フコトハ
別ノ問題ダト思フノデアリマス、大切ナ事業デハアリマスルケレドモ、政府
ガ兼營事業ノ當否ヲ調査決定スルト云フコトハ、今日ノ場合ハ先刻モ申上ゲ
マシタ通リ最早其必要ガナイ斯ウ云フ考ヘデゴザイマシテ、幸ニ靑木君モ此
點ニ付テハ御同感デアルト云フコトデゴザイマス、依テ今囘地方鐵道法ヲ改
正イタシマシテ、斯樣ナ煩雜ニシテ會社モ政府モ面倒デアルヤウナ事柄ハ
削ッタト、斯ウ云フ譯デアリマス、之ガ爲ニ鐵道會社ニ對スル拂込ニ付テノ、
特別ナル法規ニ付テハ別段關係ハナイヤウニ私ハ考ヘマス、其他ノコトニ付
テハ先刻申上ゲマシタカラ最早申上ゲマセヌ
〔國務大臣原嘉道君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=40
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041・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 靑木君ノ御尋ノ地方鐵道會社ガ鐵道法ノ特別ノ規定
ニ依ッテ少額ノ拂込ヲシテ居リナガラ、實際鐵道業ニ使ハズニ他ノ兼營事業ニ
使フ虞ガアリハセヌカ、其點ニ於テ商法ノ趣旨ニ牴觸シハセヌカ、斯ウ云フ
御趣旨ニ承リマシタ、地方鐵道ハ私ヨリモ靑木君ガ御承知ノ通リ建設及營業
等モ法規ノ規定ニ從ッテ之ヲヤッテ行カナケレバナラヌノデアリマスカラシ
テ、拂込資本ノ大部分ヲ兼業ノ方ニ使ッテシマフト云フヤウナ虞ハナイコト
デハナイカト素人ナガラ考ヘテ居ル次第デアリマス、從テ監督官廳タル鐵道
大臣ガ兼營ニ付テ、殊ニ認可ヲ要セナイモノト云フ意見デアリマスル以上ハ、
拂込資本額ノ例外規定トノ關係上、兼業ニ付テ鐵道大臣ノ認可ヲ要セシムル
ト云フコトノ必要ハナイモノデハナカラウカト考ヘマスルノデアリマス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=41
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042・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 靑木君ヨリ再應ノ御質問デアリマスカラ、有體ニ
私共ノ取扱ッテ居リマスコトヲ御答ヘ致シマシタナラバ御了解下サルダラウ
カト存ジマス、一般ノ募集公債デアリマスレバ、私ガ申ス迄モナク財界ノ狀
況ヲ餘程考慮イタサナケレバナリマセヌカラ、現在ノ財界ノ狀況、將來ヲモ
考慮イタシマシテ、相當ノ計畫ヲ立ッテ進ミマスルコトハ適當デアルト考ヘ
テ、只今計畫ヲ立ッテ居ルノデアリマスルガ、交付公債ノ方ニナリマスト、
勿論公債ニナッテ出マスレバ募集公債デアッテモ同ジコトデ、同ジ働キヲ致ス
モノデアリマスルガ、併シ募集ノ際ニハ申シマス迄モアリマセズ、募集ニ別
ニ困難ハ伴ハナイノデアリマスカラ、其時ノ總テノ財界ノ狀況ヲ考ヘマシ
テ、大〓是位ハ此交付公債ヲ發行シテ宜カラウト云フ限度ヲ其年ニ定メマシ
テ、一方ニ於キマシテ國ノ事業ニ於テ鐵道ハドウデアルカ、鐵道以外ノ事業
ハドウデアルカ、色〓是等ノコトヲ集メテ輕重緩急等ノ度ヲ〓究調査イタシ
マシテ、サウシテ鐵道ニ對シマシテハ是ダケノコトヲ致ス、其他ノ事業ニ對シ
テハ是ダケノコトヲ致ス、斯ウ云フ風ニ每年其狀況ニ應ジテ決メマスヤウニ
只今致シテ居ルノデアリマス、サウ云フ次第デアリマス故ニ、只今御問ヒデア
リマシテモ此問題ニ對シテハ、明年ニハ只今申ス通リ決マッテ居リマスガ、明
後年以降每年續イテ何千万圓ヲ必ズ鐵道ニヤルトカ、或ハ是ダケ以上ハヤラ
ナイト云フコトハ決メテ居ナイノデアリマスガ、無論鐵道ヨリ要求ガアリマ
スレバ、他ノ事業ト共ニ相當考慮イタシテ調査モ致シマス、而シテ全體交付公
債ハ本年ハドレ位マデ宜カラウト云フ責任ノ負へマス限度ヲ決メマシテ、其
範圍內ニ於テ事ノ輕重緩急ニ依リマシテ、其時ニ方針ヲ定メル······方針ト申
スト語弊ガアリマスガ、事實ヲ定メル、斯ウ云フコトニ致シテ居ルノデアリマ
スカラ、此實際ハ有體ノ御答ヲ致シマシタナラバ御了解下サルカト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=42
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043・青木周三
○靑木周三君 兼業ノ問題ニ關シマシテハ鐵道大臣ノ御答辯ハ頗ル私ノ質問
ノ點ヲ離レテ居リマシテ、要領ヲ得難カッタノデアリマスガ、司法大臣ノ御
說明ハ稍〓分リマシタケレドモ、此點ハサウ重大ナコトデモアリマセヌシ、
尙ホ委員會ニ於テ論及スルコトニ致シマシテ、是デ質問ヲ打切リマス、ソレ
カラ大藏政務次官ノ御答辯ハ結局將來ニ關スル所ノ交付公債ハ考ヘテ居ナ
イ、斯ウ云フコトニ歸著スルノデアリマス、私ノ心配スル所ハ、今マデハ今
大藏政務次官ノ言ハレル通リデ宜カッタ、併ナガラ斯樣ニ鐵道政策ガ變ッテ來
タナラバ、交付公債ニ對スル所ノ大藏省ノ政策ヲ御變ヘニナラナケレバナラ
ヌノヂヤナイカト云フコトヲ心配シテ伺フノデアリマス、併ナガラ我〓ノ目
ニ映ッルヤウニハ大藏省ニハ鐵道大臣ノ政策ガ映ッテ居ナカッタ爲ニ左樣ナコ
トニナッテ居ルノダラウト思ヒマスガ、是ハドウモ今更彼此レ之ヲ議論シテモ
最早追付カナイコトデアリマスルカラシテ、明年度明後年度以下ニ私ノ申上
ゲタコトガ何分カ御役ニ立ツナラバ仕合セト考ヘマス、此點モ是デ質問ヲ打
切リマス、甚ダ長イ時間ヲ費シテ恐縮ニ存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=43
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044・佐竹三吾
○佐竹三吾君 私ハ極ク簡單ナ事柄ニ付キマシテ御尋ヲ致シタイノデアリマ
ス、此席カラ發言ヲ御許シヲ願ヒマス、地方鐵道法ノ改正案竝ニ鐵道營業法
ノ改正案ニ付キマシテハ、御尋ネ致シタイコトガ多數アルノデアリマスケレ
ドモ、此兩法案ヲ鐵道敷設法ノ特別委員ニ御付託ニナルコトデアリマスレバ、
其際ニ御質問ヲ致シタイト考ヘテ居リマスルノデ、差控ヘルノデアリマスル
ガ、唯幸ヒ遞信大臣ガ只今御出席ニナッテ居リマスカラシテ、遞信大臣ニ態〓
鐵道敷設法ノ委員會ニ御出ヲ願フノモ如何カト考ヘマシテ、此席カラシテ簡
單ニ御尋ヲ致シタイト思フノデアリマス、問題ハ鐵道ト船舶ト通ジテ運送ヲ
致シマスル場合ニ於キマシテ、今囘ノ改正案ニ依リマスルト云フト、通シノ
運送狀ヲ發行スルト云フコトニナッテ居ル、又貨物運送ニ付キマシテモ鐵道ダ
ケニ發行イタシマスル貨物引換證ニ依リマシテ、鐵道竝ニ船舶ニ共通ノ效力
ヲ保タセルコトニナッテ居ル、斯ウ云フコトニナッテ居ルノデアリマシテ、其改
正ハ誠ニ適當ナ又實際ニ都合ノ宜シイ改正案ト考ヘテ居ルノデアリマスガ、
然ルニ此改正案ニ一箇條第十八條ノ四ト云フノガ追加ニナッテ居ルノデアリ
やく、初メ鐵道省カラ此案ニ付テ意見ヲ關係ノ各方面ニ求メラレマシタノデ
アリマス、其時ニハ第十八條ノ四ト云フ制限ハナカッタノデアリマス、然ルニ
今囘ノ提案ニ依リマスルト云フト、其制限ガ殖エマシタ、サウシテ其理由ハ
遞信省ノ御意見デアルト云フヤウナコトヲ承ッタノデアリマスカラシテ、此點
ニ付キマシテ遞信大臣カラ大體ノ理由ヲ御說明ヲ願ヒタイト思フノデアリマ
ス、元來內地カラ朝鮮ニ貨物ヲ送リマス場合ニ、或ハ樺太ニ送ル、又ハ臺灣
ニ送ル、斯ウ云フ場合ニハ內地ノ其鐵道ニ接續イタシマシテ、朝鮮デアリマ
スレバ鐵道省ノ直營サレテ居ル關釜連絡船ニ依ッテ朝鮮ニ送ルト云フコトニ
ナルノデアリマス、併ナガラ樺太デアリマスルト云フト、若シ其貨物ガ小樽ヲ
通ッテ參リマス時ニハ、小樽大泊ノ間ハ鑑道省ノ連絡船ガナイカラ、稚內ニ行
キマスレバ鐵道省ノ連絡船ニ依ルコトニナルノデアリマス、又臺灣ニ付キマ
シテハ、門司長崎ノ何レニ依リマシテモ國有鐵道ノ連絡船ハナイノデアリマ
スカラシテ、是等ノ各方面ニ貨物ヲ送リマスル場合ニ、通シノ運送狀、ソレニ
關シテ通シノ貨物引換證ヲ發行スルコトヲ御認メニナルト云フコトハ其間
ニ甲乙ハナイヤウニ考ヘルノデアリマスガ、然ルニ遞信省ニ於キマシテハ第
十八條ノ四ト云フ制限ヲ設ケラレマシテ、「前二條ノ規定ノ適用ヲ受クヘキ船
舶ニ依ル運送ハ其ノ運送ノ狀態ニ於テ鐵道運送ニ附屬シタルモノニ限リ」云
云、鐵道運送ニ附屬シタ運送、斯ウ云フ制限ガアルノデアリマスカラ、從テ
是ハ或ハ樺太等ニ送ルニ付キマシテハ非常ニ狹クナル、或ハ關釜連絡船或ハ
靑函連絡船ト云フヤウニ之ヲ狹ク限ラレルノデアリマス、元來船ニ關スルコ
トハ遞信省ノ所管デハアリマスルケレドモ、從來往々ニシテ其權限ニ付テハ
排他的ノ考ヘガアッタヤウニ聞イテ居ルノデアリマス、是等ノ點ニ付キマシテ
モ、其船舶ガ鐵道所屬ノ船舶ナラ差支ナイケレドモ、外ノ船舶デアレバ、其
時ノ狀況ニ依ッテ、他ノ船舶ニ依ル場合ガアッテモ、同樣ノ取扱ヲシナイト云フ
コトハ、如何ニモ其間ニ差別的ノ待遇ガアルヤウニ考ヘルノデアリマス、ド
ウ云フ事情デ斯ウ云フ改正ヲ御加ヘニナリマシタカ、大體ノ御說明ヲ戴キタ
イト思フノデアリマス
〔國務大臣久原房之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=44
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045・久原房之助
○國務大臣(久原房之助君) 大體此船舶ノ輸送ガ鐵道ノ法規ノ適用ヲ受ケル
ト云フコトガ、元〓常態デアリマセヌカラ、是ハ所謂便宜ノ爲ノ處置デアリ
マスルガ爲ニ、其便宜ノ時ニ限ル、即チ其必要ノ場合ニ限ッタ方ガ宜カラウ
ト云フ風ナ考ヘカラ起ッテ居ル譯デアリマス、尤モ「其ノ航路及之カ運送業者
ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」トシテ居リマスルノデ、其範團ノ適用ハ其際改メテ
命令デ定ムル譯デアリマスルガ、大體ノ趣旨ハ廣キニ失スルヨリモ狹キ範圍
ニ限ル方ガ、此法トシテハ適當デハナイカト思フ趣意ニ出テ居ル譯デアリマ
ス、即チ船ノ輸送ハ商法ニ依ルヲ固ヨリ定法トシテ居リマスルガ、此鐵道輸
送ノ一部トモ見ルベキモノハ特ニ鐵道ノ爲ニ定メラレテ居リマスル法規ニ依
ルヲ便利トスル場合ガアリマスノデ、ソレデ其場合ハ鐵道ノ規則ニ從フト云
フ趣旨ガ起リデアリマスカラシテ、餘リ廣ク亙ルヨリカモ、其場合ニ適當ト
スル範圍ニ限ッタ方ガ法ノ精神トシテ宜カラウ、斯ウ云フ意味カラ出テ居ルコ
トデ、其適用ハ今申シマシタ通リ別ニ命令ヲ以テ定メマスカラシテ、其際ニ
能ク考慮ヲスレバ宜カラウカト考ヘテ居ル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=45
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046・佐竹三吾
○佐竹三吾君 只今ノ御說明ニ依リマスルト、適用ノ範圍ハ命令ヲ以テ定メ
ルト云フコトデアリマスケレドモ、其命令ノ働ク範圍ハ其上ノ但書ト申シマ
スカ、制限サレテ居ルノデアリマス、即チ鐵道運送ニ附屬シタモノニ限リ、
其附屬セザルモノニ付キマシテハ全然適用ガナイノデアリマスカラ、命令デ
加減サレヤウト御考ヘニナッテモ、ソレハ命令ノ働ク餘地ハナイト思フノデア
リマス、大臣ノ如キ御考デアリマスレバ、寧ロ船舶ニ依ル運送ハ運送業者ニ
付テハ命令ヲ以テ之ヲ定メルト云フ風ニ條文ガ定マッテ居リマスルト云フト、
大臣ノ御考ヘ通リニ命令ヲ以テ加減ガ出來ルノデアリマス、併ナガラ運送ノ
狀態ニ於テハ鐵道運送ニ附屬シタモノニ限ラレテ居リマスカラ、此狹イ制限
サレタ範圍內ニ於テノミ命令ガ働クノデアリマスカラ、大臣ノ御考ノヤウナ
風ニハ此文章ハナッテ居ラヌノデアリマス、初メ鐵道省ノ提案ハ相當廣イモノ
デアッタノデアリマス、元來此規定ハ外國トノ關係ニ付キマシテハ、即チ西比
利亞鐵道ヲ經由シテ外國ニ貨物ヲ送リマスル場合ニハ浦潮敦賀間ノ航路ニ於
テ矢張リ通シ運送狀ノ發行、貨物引替證ノ發行モ出來ルノデアリマス、是ハ國
際關係デアリマスカラ、國際條約ノ「ベルン」ノ協定ニ依ッテ取扱ヲ定メテ、サ
ウシテ別ニ商法ノ適用ヲ除外スル條件ガ必要トナルノデアリマス、然ルニソ
レヨリモ尙ホ之ヲ非常ニ狹クセラレルト云フコトハ、只今大臣ノ御說明ノ通
リデアリマスト云フト此條文ト違フノデアリマス、併シ若シサウ云フ御考デ
アリマスレバ、此條文ヲサウ云フヤウニ修正スレバ、ソレデ宜シイノデアリ
マスカラ、果シテサウ云フ御考ノ通リデアルナラバ是レ以上御尋ネ致シマセ
ヌデスガ、此法案ヲ審査サレマス場合ニハ遞信大臣ナリ遞信省ノ政府委員カ
ラ尙ホ御說明ヲ得タイト思フノデアリマス、私ハ是ダケデ宜シウゴザイマス
國務大臣久原房之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=46
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047・久原房之助
○國務大臣(久原房之助君) 殊更ニ申上ゲル程デモナイカト思ヒマシタガ、
私ノ前ノ答辯ガ不十分デアッタコトト思ヒマシテ、改メテチヨット申上ゲテ置
キマス、私ノ申シマス趣意ハ此鐵道輸送ノ一部トモ見ルベキモノニ此法律ノ
適用ヲ適當トスルト思ヒマス趣意カラシテ、斯ウ云フ矢張リ附屬シタモノニ
限リト云フコトガ適當スルト思ヒマス譯デゴザイマス、ソレデナケレバ一般
ニ廣ク商法ノ規定ノ下デ働クベキ船ノコトガ鐵道規則ニ依ッテ支配サレルト
云フコトハ餘リニ廣ク亙ルト云フコトハ望マシクナイコトデ、即チ此特別ノ
場合ニ於ケル狀態ニ對シテノ此法律ノ適用ヲ至當トスルト云フ意味カラシ
テ、斯樣ナ限度ヲ置クベキデアラウト思フタ趣意デアリマス、徹底シマセヌ
カト思ヒマシテチヨット追加シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=47
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048・佐竹三吾
○佐竹三吾君 只今遞信大臣ノ御說明ニ依リマスルト云フト、先程御述ニナッ
タノト少シ違ッテ居ルヤウニ了解イタシタノデアリマス、ソレハ臺灣ノ例ヲ
取ッテ見マスルト、若シ鐵道省ニ於キマシテ臺灣航路ヲ直營スル時ニハ其鐵道
省ノ船ニ依ッテ輸送スル聯絡貨物ニ付テハ通シ運送狀トカ或ハ鐵道ノ發行ス
ル貨物引替證ニ依ッテ、或ハ船ノ上ノ······所謂船荷證劵ニ代ル有價證劵ト云
フコトニナリマス、ソレガ若シ便利デアルト御認メニナル以上ハ、偶〓鐵道
省ガ直營シテ居リマシテモ、船積其他ノ關係カラ商船會社ノ船デアルトカ、
或ハ其他ノ船ニ依ッテ其貨物ヲ運ビマシタ時ト同樣ナ取扱ヲスルト云フコト
ガ、實際ノ便宜ニ適フノデアリマシテ、鐵道ノ所屬ノ船デアル場合ニハ鐵道
ト同ジニスル、或ハ鐵道所屬以外ノ船デアル場合ニハ取扱ヲ變ヘルト云フコ
トデアリマスト云フト、是ハ實際ノ便利カラ申シマスト利益ノナイコトト思
フノデアリマス、私ノ御尋ハ鐵道所屬ノ船船ニ限ルト云フ必要ハナイヂヤナ
イカ、ソレニ附屬シテ居ナクテモ同樣ノ目的ヲ以テ運搬スル其航路ニ付テハ
其船舶ニ付キマシテハ、同等ノ取扱ヲスルト云フコトガ適當ト思フノデ
アリマス、併シ是レ以上ハ議論ニナリマスカラ、若シ鐵道大臣ガ何處迄モ此
通リデ宜シイト云フノデアリマスレバ、又委員會等ニ於キマシテ更ニ御意見
ヲ承リタイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=48
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049・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第六、第七、第八ノ三法案ハ鐵道敷設法中改
正法律案外四件ノ特別委員ニ付託イタシマス、日程第九ノ特別委員ノ氏名ヲ
書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
鐵道營業法中改正法律案特別委員
侯爵西〓從德君伯爵酒井忠正君子爵秋元春朝君
男爵伊江朝助君湯淺倉平君安樂兼道君
安立綱之君佐竹三吾君風間八左衞門君
具発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=49
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050・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十、關稅定率法中改正法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會、日程第十一、大正十三年法律第二十四號中改正法律
案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
關稅定率法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十八日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
關稅定率法中改正法律案
關稅定率法別表輸入稅表中左ノ通改正ス
第三十二號ヲ左ノ如ク改ム
三二茶
紅茶每百斤八八·一〇
二紅茶粉每百斤二九·五〇
三包種茶每百斤六·〇〇
四其ノ他每百斤一〇·六〇
第三十六號第二項中「四一一·〇〇」ヲ「二六·〇〇」ニ改ム
第四十四號中「七·二〇」ヲ「二一·六〇」ニ改ム
第四十六號中「一七·五〇」ヲ「二六·三〇」ニ改ム
第四十七號中「一三·三〇」ヲ「二〇·四〇」ニ改ム
第五十四號中「二〇·五〇」ヲ「三九·三〇」ニ改ム
第七十二號第一項甲ヲ左ノ如ク改ム
甲塗リタルモノ
イタンニン鞣ノモノニシテ黑
色無地ノモノ從四
價價割割
ロ其ノ他從二
第八十四號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
八四ノ二ガット(テニスラケット用ノモノ)從價二割五分
第三百九十二號第一項ヲ左ノ如ク改ム
印刷シタルモノ
甲轉寫用ノモノ每百斤三九·三〇
乙其ノ他從價五割
第三百九十三號中「三割」ヲ「五割」ニ改ム
第四百三十九號第二項甲中「碍子」ヲ「電氣用ノモノ」ニ改ム
第四百五十七號第二項乙ヲ左ノ如ク改ム
乙其ノ他
イ電氣用ノモノ從價二割五分
ロ其ノ他從價四割
第五百六十號第一項中「毎箇」ヲ「從價」ニ、「七·四〇」ヲ「四割」ニ改ム
第六百十二號第一項甲ヲ左ノ如ク改ム
甲ノ一花梨木及黃楊木從價三割
甲ノ二鐵刀木、紅木、紫檀及黑
檀(縞黑檀ヲ除ク)每百斤〇·五〇
同號第二項丁ヲ左ノ如ク改ム
丁花梨木及黃楊木從價四割
戊其ノ他從價二割五分
第六百四十號第一項中「及同附屬品」ヲ「其ノ他ノ戶外運動具及同附屬品」ニ
改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
大正十三年法律第二十四號中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十八日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
大正十三年法律第二十四號中改正法律案
大正十三年法律第二十四號中左ノ通改正ス
別表輸入稅表番號第三十二號、第三十三號、第三十六號、第四十四號、第
四十六號、第四十七號及第五十四號ノ項ヲ削ル
同第六十九號ノ項中「(兎毛皮竝鞣ササル綿羊皮及山羊皮ヲ除ク)」ヲ「(犬
毛皮、猫毛皮、兎毛皮竝鞣ササル緬羊皮及山羊皮ヲ除ク)」ニ改ム
同第七十二號ノ項一甲中「塗リタルモノ」ヲ「塗リタルモノ(一甲イヲ除
ク)」ニ改ム
同第百三十八號、第百三十九號、第三百九十一號、第三百九十二號、第三
百九十三號、第四百十四號及第四百二十四號ノ項ヲ削ル
同第四百三十九號ノ項中「(碍子ヲ除ク)」ヲ「(電氣用ノモノ及二乙ノ內素
燒ノモノヲ除ク)」ニ改ム
同第四百五十七號ノ項中「(二甲ヲ餘ク)」ヲ「(二甲及二乙イヲ除
ク)」ニ改ム
同第五百六十號ノ項ヲ削ル
同第六百十二號ノ項ヲ左ノ如ク改ム
六一二木材
-單ニ切リ、挽キ又ハ割リタルモノ(甲ノ一ヲ除ク)
二其ノ他
戊ノ內鐵刀木、紅木、紫檀及黑檀(縞黑檀ヲ除ク)
同第六百四十號ノ內ノ項ヲ左ノ如ク改ム
六四〇ビリヤード、テニス、クリッケット、象棋其ノ他ノ遊〓具及同附
屬品(一ヲ除ク)
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
參照
大正十三年法律第二十四號ハ贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル法律ナリ
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=50
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051・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 關稅定率法中改正法律案及大正十三年法律第二十
四號中改正法律案ヲ一括イタシマシテ御說明ヲ申上ゲタイト存ジマス、大正
十三年法律第二十四號、即チ贅澤品等ノ輸入稅ニ關スル法律ハ國民奢侈ノ弊
風ヲ抑制スルト同時ニ、我國際貸借ノ改善ニ資スル目的ノ下ニ制定セラレタ
モノデアリマシテ、立法當時ニ於キマシテハ課稅品ノ範圍モ相當廣汎ニ亙ッ
テ居ッタノデアリマスルガ、法律實施ノ結果ニ徵シマシテ、大正十四年ニ十數
種ノ品目ヲ除外シタノデアリマス、尙ホ現在ノ狀況ニ於キマシテ指定品目中
ニハ其用途等ヨリ觀察イタシマシテ、之ヲ除外イタシマスルノヲ適當ト認ム
ルモノガアルノデアリマス、即チ玆ニ提案イタシテ居リマスル茶、其他二十
有餘ノ物品ハ〓料品ト致シテ一般ニ需要セラレルモノ、體育又ハ文化〓育用
ノ物、又工業的用途ニ供セラレル物、或ハ又輸出品原料ニ供セラレル物等デ
アリマスルノデ、是等ヲ本法指定品目中ヨリ削除スルノヲ適當ト認メタ次第
デアリマス、右削除イタシマスル所ノ結果ハ、是等ノ物品ニ對シマシテハ一
般關稅率ヲ適用サレルコトニナルノデアリマスガ、大正十五年ノ一般關稅率
改正ノ際ニ於テハ、十割關稅ノ課稅品ニ對シマスル稅率ハ停止ノ狀態ニアリ
マスノデ、何等改正モ加ヘナカッタ關係上、前述ノ物品ノ中其生產輸入竝ニ需
給ノ狀況等ヨリ考ヘマシテ、一般稅率ニ適當ナル改正ヲ加ヘル必要ガアルノ
デアリマス、ソレ故玆ニ兩改正法律案ヲ提出イタシタ次第デアリマス、何卒
御審讓ノ上御協賛アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=51
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052・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十ニハ通〓ガゴザイマスカラ小畑男爵ニ發
言ヲ許シマス
〔男爵小畑大太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=52
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053・小畑大太郎
○男爵小畑大太郞君 昨日モ此關稅法中改正法律案ガ出マシテ、多數議員諸
君カラ御熱心ナ御質問ガゴザイマシタノデゴザイマスガ、要シマスニ此國民
生活上、國民ノ生活上安定ヲ得ルコトニ歸スルノデゴザイマス、私ノ只今御尋
ネ申上ゲヤウト存ジマスルノモ其點デアルノデゴザイマス、或ハ今日伺フヨ
リ昨日伺ッタ方ガ適當デアッタカトモ存ゼラレマスガ、昨日ハ時間ノ都合上本
日ニ致シマシタ次第デアリマス、ソレハ我〓ガ日常生活上非常ニ使用イタシ
マス所ノ銅デゴザイマス、詰リ建築用或ハ電氣製作品、ソレカラ之ヲ工作イタ
シテ······加工イタシテ眞鍮ニ致シ、或ハ赤銅ニ致シ、外國ニモ輸出イタシマス
品デアリマスガ、是ガ今ヲ去リマス數年前、大正十一年四十五議會ノ折デアリ
マス、歐羅巴大戰ノ後銅ノ値段ガ下落イタシマシテ、其當時日本ノ產銅業者···
···產銅業者ト申シマシテモ日本ハ誠ニ僅カデアリマシテ、此片手ノ指ヲ屈ス
ル位ノモノデアリマス、先ヅ三四ト申上ゲテ宜シイト存ジマスガ、其者共ガ
非常ニ運動イタシマシテ其結果輸入ハ······殆ド禁止的ノ高率稅ヲ課シテ居ル
ノデアリマス、ソレガ丁度四十五議會當時、當院ニ於テモ大變ニヤカマシイ
コトデアリマシタケレドモ、遂ニ其當時實施サレマシテ今日ニ及ンダ次第デ
アリマス、然ルニ最近ノ新聞ニ依リマスルト、昨日ノ相場ハ是ガ戰後殆ド新
ラシイ高値ニ達シテ居ルノデアリマス、少シ諄ウゴザイマスルガ其當時カラ
ノ模樣ヲ述ベサテセテ戴キマス、歐洲大戰後ニ及ビマシテ此銅ノ値段ガ段々
下リマシテ亞米利加カラ······主ニ亞米利加カラ參ッタノデアリマスガ、是ガ關
税其他······其當時一圓二十錢ノ稅ヲ加ヘマシテ又運賃モ加ヘマシテ百斤三
十七八圓デ輸入サレタノデアリマスガ、其當時ハ勞銀モ大變內地ニ於テ高ウ
ゴザイマシテ、產銅業者ノ生產費ト申スモノガ四十五圓ホドカヽツタノデ
アリマス、三十七八圓カラ四十五圓ノ差、七圓位ノモノガ稅トナッテ只今申上
ゲマシタ輸入、殆ト防遏禁止的ノ高イ稅トナリマシテ、今日ソレヲ課セラレ
テ居ル次第デアリマス、然ルニ昨年一月以來段々ト此銅ノ値段モ上リマシテ
昨日ノ電報ニ依リマスルト、亞米利加デ一「ポンド」ガ二十一仙ト云フコトニ
ナッテ居リマス、日本ノ立前ハ百「キロ」建ノ勘定ヲシテ居リマス、此大正十
一年頃ハ斤建ニナッテ居リマシテ百斤ト云フコトニナッテ居リマスカラ、便宜
上百「キロ」ヲ百斤ニ直シテ申上ゲマスデゴザイマスガ、是ガ七十圓ホドニ
ナッテ居リマス、サウ致シマスルト、生產費ト······其當時ノ高イ勞銀ノ生產費
四十五圓ト今ノ七十圓ホドノ相場ト比ベマスルト、今日ハ二十五圓ホドノ暴
利ヲ產銅業者ハ貧ッテ居ルト申シテ宜カラウト思ヒマス、之ヲ引繰返シテ申上
ゲマスレバ我〓ハ二十五圓ホド餘分ノ金ヲ拂ッテ居ルト申シテ宜カラウト思
フノデアリマス、或ハ是ガ一時的ノ銅ノ値段ノ暴騰デアルダラウト云フ考ヘ
モ浮ブノデアリマスガ、決シテサウデハナイノデアリマス、是ハ昨年南米智
利ソレカラ秘露ニ於テ大キナ銅山ニ災害ガアッテ、殆ド其過半ト云フモノハ
產額ヲ減少イタシテ居リマス、ソレニ付キマシテ亞米利加ガ·····是迄ハ英吉
利カノ銅ノ値段ガ其市場ノ支配ヲ致シテ居ッタノデアリマスガ、今度ハ亞米利
加ガソレヲ全然握ッテ仕舞ハウト云フ考ヲ以チマシテ、大ナル「トラスト」ヲ起
シテ、モウ確實ニ亞米利加ガ銅ノ相場ヲ世界ノ銅ノ相場ヲ左右スルコト
ニナッタノデアリマスガ、ドウシテモモウ値段ト云フモノハ動カヌト申シテ宜
カラウト存ジマス、然ルニ此關稅調査委員會ト云フモノガ、昨年以來屢〓アリ
マシタ、現ニ今年二月十八日續キマシテ三月二日ニ關稅委員會ヲ開イテ居ラ
レルノデアリマスガ、何等御考慮ガナカッタヤウデアリマス、私ハ如何ナル理
由デアリマスカ、甚ダ訝カシク思フ次第デアリマス、二月十八日頃ノ相場ヲ
申上ゲマスルト、米國カラ日本ヘ持ッテ參リマスル運賃、ソレカラ只今申上
ゲマシタ輸入禁止的ノ高稅七圓ヲ加ヘマシテモ六十二圓ホドニナッテ居ルノ
デアリマス、ソレデアリマスカラ政府當局ニ何カ御考ガアラレルナラバ、二
月十八日越エテ三月二日ノ關稅調査會ニソレヲ持出サレナケレバナラヌ筈ト
思フノデアリマス、是ハ甚ダ穿チマシタコトデ誠ニ失禮ナ話デアリマスガ、
政府ノ要路ニ產銅業ノ御方モアラレルカラ或ハソンナヤウナコトデ憚ッテ居
ラレルノデハナイカト存ジマス、又世間ニ於テサウ云フコトヲ言ハレテモ、
是ハ辯解スルノ辭ハ恐ラクアルマイト思フノデアリマス、就テハ私ハ商工大
臣ニ伺ヒタイノデアリマスガ、何ガ故ニ此調査會ニ此御提案ガナカッタノデ
アリマセウカ、ソレカラ最早議會開會ノ餘日モアリマセヌケレドモ、進ンデ
此銅ノ課稅ヲ改正サレルト云フコトニ付テ御提案ナサルノデアリマスカドウ
カ、ソレカラ若シ爲サレル餘日ガナクテ、爲サレル時日ガナイト致シマスル
ナラバ、我〓當院ニ於テ之ヲ修正イタシタ場合ニ於テ、御同意ガアルカドウ
カト云フコトヲドウゾハッキリ御答ヲ願ヒタイト存ジマス、私ハ再質問ヲ致サ
ヌ積リデアリマスカラ、ドウゾハッサリ御答ヲ願ヒタウゴザイマス、ソレカラ
若シ其必要ガナイト云フ御話ガアルナラバ、必要ノナイダケノ我〓ニ理解ガ
出來ルダケノドウゾ御說明ヲ願ヒタイノデアリマス、ソレダケ申上ゲマス
〔國務大臣中橋德五郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=53
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054・中橋徳五郎
○國務大臣(中橋德五郞君) 只今關稅改正ニ付キマシテ小畑男爵ヨリ銅ノ關
稅ヲ何故引上ゲヌカト云フ御尋デアリマシタ、一應御尤ナ御質疑ト存ジマス、
銅ハ御話ノ通リニ非常ニ代價ニ高下ガアリマシテ、近頃ニナッテ大變ニ値段
ガ上ッテ來タコトハ生產者ノ爲ニ非常ナ結構ナ話デアルト思ッテ居リマス、此
關稅ヲ今囘手ヲ著ケマセヌカッタノハ、此代價ヲ今ノ御話ニ依リマスト云フ
ト、亞米利加ノ「トラスト」ノ爲ニ今後動クト云フ御斷定デアリマスガ、是一
如何デアリマスカ、或ハ動カヌカモ知レマセヌガ、或ハ動クカモ知レナイ、
當局ニ於テハマダ其點ニ付テ確定ノ見込ヲ持チマセヌ、ソレデ今囘ノ改正ハ
相當ノ多數ノ品目ニ亙ッテ稅ヲ上ゲ、若クハ引下ゲルモノハ引下ゲテ、就中此
贅澤關稅ノ如キハ今囘二十二品目モ殆ド半額位ニ從來ノ十割稅ヲ引下ゲルヤ
ウナ計畫モシテ居リマスガ、銅ニ付テハ今暫ク見テ居ル方ガドウデアルカト
云フヤウニ考ヘテ、今囘ハ手ヲ著ケナカッタ譯デアリマス、又最後ニ御質疑ニ
若シ當院ニ於テ之ヲ修正ナサッタナラバ當局ハ之ニ同意スルカドウカ、斯ウ云
フ御話デアリマスルガ、若シ兩院ニ於テ御決議ニナリマスルナラバ、無論兩
院ノ御意思ヲ尊重イタス積リデアリマス、只今ノ所ハ當局ハモウ少シ見テ居ツ
タラドウカ、斯ウ云フ考ヲ持ッテ居ルト云フヤウナ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十、第十一ノ兩案ハ關稅定率法中改正法律
案外一件ノ特別委員ニ付託イシマス
真山本小発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=55
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056・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十二、製鹽地整理ニ關スル法律案、政府提
出衆議院送付、第一讀會
製鹽地整理ニ關スル法律案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付
候也
昭和四年三月十八日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
(小字ハ衆議院ノ修正文、ーハ
同削除ノ符號ナリ
製鹽地整理ニ關スル法律案
第一條鹽專賣法第六條ノ規定ニ依リ製鹽地ノ區域ヲ制限スル場合ニ於テ
ハ政府ハ鹽ノ種類、製造方法ヲ區別シテ之ヲ制限スルコトヲ得
製鹽地ノ區域ノ制限ニ依リ鹽ノ製造ヲ禁止シタルトキハ政府ハ禁止ノ際
ニ於ケル鹽製造者、製鹽地ノ所有者、現ニ鹽ノ製造ニ專用スル建物設備
器具器械ノ所有者ニ對シ其ノ請求ニ依リ命令ノ定ムル所ニ從ヒ交付金ヲ
交付ス
前項ノ鹽製造者ハ昭和四年三月以前ニ於テ鹽製造ノ許可ヲ受ケ製造禁止
ノ際現ニ其ノ製造ヲ爲ス者ニ限ル但シ昭和四年四月以後相續ニ因リ鹽ノ
製造ヲ承繼シタル場合ニ於テハ被相續人ノ受ケタル製造ノ許可ハ相續人
ニ於テ之ヲ受ケタルモノト看做ス
昭和四年三月ニ於ケル實況ニ依リ鹽ノ製造ヲ廢止シタルモノト認ムベキ
製鹽地ニ付テハ鹽製造者、製鹽地及之ニ附屬スル建物設備器具器械ノ所
有者ニ對シ第二項ノ交付金ヲ交付セズ
交付金ヲ交付スベキ建物設備器具器械ノ種類數量ハ政府之ヲ決定ス
第二條交付金ハ左ノ各號ニ依リ之ヲ定ム
鹽製造者ニ對シテハ製鹽地一年間納付鹽賠償金額(鹹水ヲ買受ケ鹽
三割五分
ノ製造ヲ爲ス者ニ付テハ其ノ買受代金ヲ控除シタル金額)ノ三割ニ相
當スル金額
鹹水ヲ賣渡シタルモノアルトキハ其ノ賣渡代金ハ之ヲ納付鹽賠償金ト
看做ス
二製鹽地所有者ニ對シテハ製鹽地ノ價額ヨリ鹽製造禁止後ニ於ケル其
ノ見込價額ヲ控除シタル金額
三鹽製造專用ノ建物設備器具器械ノ所有者ニ對シテハ建物設備器具器
械ノ價額ヨリ鹽製造禁止後ニ於ケル其ノ見込價額ヲ控除シタル金額
第三條前條ノ納付鹽賠償金額ハ大正十四年ヨリ昭和二年ニ至ル三年ノ納
付鹽賠償金額ノ平均ニ依リ之ヲ定ム但シ三年中鹽ノ製造ヲ繼續セザル年
製鹽地ノ納付鹽若ハ鹹水ノ數量ヲ區分シ難キ年又ハ納付鹽及賣渡鹹水ナ
キ年アルトキハ之ヲ除キタル年ノ納付鹽賠償金額ノ平均ニ依リ平均ナキ
トキハ其ノ除クベキ事故ナキ年ノ納付鹽賠償金額ニ依ル
大正十四年ヨリ昭和二年ニ至ル三年共ニ前項但書ニ規定スル事故アル製
鹽地ノ納付鹽賠償金額ハ政府之ヲ決定ス
第四條製鹽地ノ價額及鹽製造禁止後ニ於ケル製鹽地ノ見込價額ハ鑑定人
ノ意見ヲ徵シ政府之ヲ決定ス
鹽製造專用ノ建物設備器具器械ノ價額ヨリ鹽製造禁止後ニ於ケル其ノ見
込價額ヲ控除シタル金額ハ協議ニ依リ之ヲ定ム協議調ハザルトキハ鑑定
人ノ意見ヲ徵シ政府之ヲ決定ス
第五條前條ノ決定ニ對シ不服アル者ハ十日內ニ其ノ申立ヲ爲スコトヲ得
此ノ場合ニ於テハ政府ハ更ニ鑑定人ヲ選定シ其ノ意見ヲ徵シ之ヲ裁定ス
其ノ裁定ニ不服アルトキハ行政裁判所ニ出訴スルコトヲ得
第六條交付金ノ總額ハ千三百萬圓以內トス
交付金ハ額面金額ニ依リ五分利附國債證劵ヲ以テ之ヲ交付ス但シ鹽製造
○ノ一部
者ニ到スル交付金ニ及國債證分ノ最小額面金額ニ滿タザル端數ハ現
以テ之ヲ交付ス
第七條政府ハ前條ノ交付金額中同條但書ノ規定ニ依リ現金ヲ以テ交付ス
ル額ヲ除キタル金額ノ限度ニ於テ公債ヲ發行スルコトヲ得
第八條鹽ノ製造ヲ禁止シタル區域内ニ於ケル鹽製造專用ノ建物設備器具
器械ニ對シテハ政府ハ監督上必要ナル處分ヲ爲スコトヲ得
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=56
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057・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 製鹽地整理法案ニ付キマシテ提出ノ理由ヲ御說明
イタシタイト存ジマス、內地ニ於ケル鹽ノ平均生產費ヲ引下ゲマシテ、價格
低廉ナル植民地鹽ノ輸移入數量ヲ增加イタシマシテ、國民ニ供給スル食鹽ノ
價格低減ヲ期シマスルト共ニ、內地鹽ノ需要供給ヲ調節イタシマスル爲ニハ、
内地ニ於ケル比較的不良ナル製鹽地ヲ整理イタシマスルコトハ最モ必要ナル
コトデアルト存ジマス、政府ハ昭和二年度及昭和三年度ノ二箇年ニ亙リマシ
テ、是ガ準備調査ヲ行ッタノデアリマスルガ、今同成案ヲ得マシタノデ、製鹽
地整理ヲ實行セムト致シマスルモノデアリマス、整理セムト致シマスル製鹽
地ハ反別ニ於キマシテ約一千町步、鹽生產高ニ於キマシテ約一億五千万斤ノ
見込デアリマシテ、此整理ヲ實行スル爲ニハ大體明治四十三年、四十四年ニ
於ケル製鹽地整理ノ例ニ傚ヒマシテ、製鹽業者、製鹽地所有者、製鹽設備器
具機械ノ所有者ニ對シマシテ交付金ヲ交付スルコトト致シマシテ、其金額ハ
約千三百万圓トナルノデアリマス、尙ホ本製鹽地整理ハ昭和四年度、昭和五
年度ノ二箇年間ニ、於テ完了セムトスル豫定デアリマス、而シテ何レノ製鹽地
ヲ整理スルカニ付キマシテハ、生產費、生產力ノ關係、製鹽地整理ノ地方經
濟ニ及ボシマスル所ノ影響竝ニ製鹽從業者ノ轉業關係等ヲ愼重ニ考慮イタシ
マシテ、整理製鹽地ノ取捨選擇ヲ誤ラナイヤウ最善ノ處置ヲ執リタイト考ヘ
テ居リマス、何卒御審議ノ上御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス
〔子爵大河內正敏君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=57
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058・大河内正敏
○子爵大河內正敏君 私ハ只今提案セラレマシタ製鹽地整理ニ關スル法律案
ニハ贊成ヲスルノデアリマス、贊成ヲスルノミナラズ、何故ニ今日マデ斯ノ
如キ法律案ヲ提案シナカッタカ怪シムノデアリマス、併ナガラ此賛成ノ意味ハ
即チ鹽專賣法ノ問題デアリマス、私ハ豫〓鹽專賣法ナルモノハドウシテモ是
ハ廢止サレナケレバナラナイモノデアル、鹽專賣法ノ爲ニ日本ノ製鹽業ガド
ノ位廢頽シタカ、即チ生產ニ於テ進步改良ト云フコトガ頗ル等閑ニ付セラレ
テ居ルノデアリマス、日本ノ鹽ノ生產費ハ勿論地理ノ關係上カラモ高イト云
フコトガアリマスケレドモ、其製鹽方法ニ至ッテハ頗ル幼稚デアッテ、到底外國
ノ鹽ト競爭スルコトガ出來ナイノデアリマス、ソレノミナラズ今日ノ化學工
業ト云フモノハ鹽ノ加工ニ依ッテ種々ノ工業ガ成立ッテ居ルノデアリマシテ、
大事ナ、是ハ工業ノ原料デアル、工業ノ原料デアリ、又國民生活ノ必要點デ
アル、成ルベク廉ク供給シナケレバナラナイモノヲ專賣法ニ依ッテ高ク供給
スルト云フコトハ宜シクナイ、勿論今日ハ之ヲ高ク供給シテ居ラナイト云フ
ノデアリマセウガ、元〓鹽專賣法ト云フモノハ收入ヲ目的トシテ起ッタノデ
アリマス、一體專賣法ト云フモノハ如何ナル國ノ專賣法デモ收入ノ目的デア
ル、煙草ノ專賣ニシテモ、或ハ其他ノ國ノ專賣ニシマシテモ、悉ク是ハ收入
ヲ目的トシテ居リ、而シテ專賣ニナッタ品物ハ必ズ惡クナルト云フノガ是ガ
モウ法則デアリマス、日本ノ煙草ニシマシテモ決シテ旨イ煙草ハ出來テ居ラ
ナイ、佛蘭西ノ「マッチ」ヲ御覽ニナレバ如何ニ粗製ナ「マッチ」デアルカト云フ
コトガ一見シテ分ルノデアリマス、是ハ即チ專賣法ノ弊デアリマス、何時モ
收入ノモウ途ノ絕エタモノヲ何時迄モ之ヲ保存セラルヽノハ何ノ爲メデアル
カト云フコトヲ政府ニ伺フト云フト、其主ナル理由トシテ擧ゲラレタノハ先
ヅ三ツノ理由ガアッタノデテリマス、第一ハ國防上必要デアル、一旦有事ノ日
ニ鹽田ヲ廢止シテシマッタナラバ國民生活必需品ノ鹽ヲ得ルコトガ出來ナイ、
是ハ由々敷大事デアルカラ國防上必要デアルト云フヤウナ答辯デアリマス、
併ナガラ是ハ昔ノ答辯デ今日ノ時代ニ於キマシテハ全ク耳ヲ傾ケルニ足ラナ
イ理由デアリマス、即チ工業動員、國家總動員ト云フヤウナモノヲ少シク調
ベマシタ者ニハ何人モ鹽ノ製造ト云フモノガ有時ノ日ニ忽チニシテ行ハレル
モノデアル、日本ハ幸ニシテ海ヲ圍シテ居リマスカラ、如何ナル所カラデモ
鹽ヲ得ルコトガ出來ル、而モ其製造裝置ノ如キハ數箇月ナラズシテ完成スル
ノデアリマスカラ、工業動員ヲ布ク上ニ於テ最モ容易イノデアル、之ニ反對
ナノハ鐵デアッテ、最モ製造ガ困難デアル、製造ノ準備ダケニ一年モ二年モ掛
ルト云フノデ何時モ問題ニナッテ居ルノデアリマス、鹽ノ如キハ一番容易イノ
デアリマス、即チ國防上之ヲ顧慮スルナドトハ全ク是ハ昔ノ問題デアリマシ
テ、今日ハ顧慮スル必要ガ無イノデアリマス、第二ハ製鹽地ノ整理ニ對シテ
國家ガ一時ニ多額ノ金ヲ要スルト云フノデアリマス、是ハ尤モナル理由ト思
ヒマスガ、今日旣ニ製鹽地整理ニ關スル法律案ガ出テ來テ、段々ニ國家ノ鹽
田ト云フモノガ整理サレナケレバナラナイ機運ニナッテ來テ居ルノデアリマ
ス、ノミナラズ整理ヲシマシテ國家ハ收入ヲ增スノデアリマス、少クモ專賣
法ヲ布イテ居ル間ニ早ク整理ヲシテシマッテ、而シテ整理ガ出來マシタ時ニ初
メテ此專賣法ヲ廢止スルト云フノモ一案デアルト思ヒマス、第三ノ理由ハ鹽
ノ價格ガ高クナルト云フノデアリマスガ、是モ殆ド言フニ足ラナイ理由デア
ルト思ヒマス、生產費ガ高クナルヤウナ法律ヲ布イテ置イテ、サウシテ鹽ノ
價格ガ安クナル理由ハナイノデアリマス、若シ專賣ヲ廢シテ自由ニ鹽ノ製造
ヲヤラセルナリ、或ハ自由ニ鹽ノ輸入ヲサセルナリ致シマシタナラバ、必ズ
鹽ノ價格ト云フモノハ低下スルノデアリマス、又需要關係、需給ノ問題ガ圓
滑ニ行カナイト云フノナラバ、是ハ社會政策トシテ必要ナ事柄デアリマスル
カラ、專賣法ニ依ラズシテ管理法ニ依ルベキモノデアル、專賣法ハ利益ヲ···
···收入ヲ目的トシテ居ルノデアッテ、管理法ハ收入ヲ目的トセズニ需給ヲ計ラ
ウトスルノデアリマス、今政府ハ肥料ノ管理法案ヲ提出サレテ居ルノデアリ
やく、肥料ノ管理ニ依ッテ肥料ヲ成ルベク安ク公平ニ配付シヤウト云フ案デ
アリマス、若シ鹽ノ價格ガ高クナリ、又鹽ノ需給關係ガ惡クナルト云フノデ
アリマスナラバ專賣法ニ代フルニ管理法ヲ以テシナケレバナラヌト思フノ
デアリマス、何レノ方面カラ考ヘマシテモ此專賣法ト云フモノハ一日モ早ク
廢メナケレバナラナイ、例ヘバ行政上ノ統制ノ上カラ言ヒマシテモ頗ル是ハ
オカシナ問題デアル、社會政策上鹽ノ配給ガ必要デアルト云フナラバ、是一
大藏省ノ所管デヤルベキモノデナイト思フノデアリマス、內務省ノ所管ニ移
スベキモノデアル、工業鹽ヲ政府ハ損ヲシテ賣ッテ居ル、工業發展ノ爲ニ損ヲ
シテ政府ハ工業家ニ供給シテ居ルト云フノナラバ之ヲ商工省ノ所管ニ移サナ
ケレバナラナイ問題デアル、現ニ肥料管理法案ハ農林省ノ所管トシテ提案サ
レテ居ルノデアリマス、又漁業鹽モ安ク供給スルト云フノナラバ此需給關係
ヲ管理スル所ハ是ハ當然農林省デナケレバナラナイ、行政上ノ上カラ申シマ
シテモ、大藏省ガ此專賣法ヲ持ッテ居ル、サウシテ專賣法ヲ施行シテ居ルト云
フノハ收入ノ上ニ於テモ無意味デアルシ、行政上ノ點ニ於テモ無意味デアル
ト思ヒマス、又今日ノ工業鹽ノ如キ或ハ漁業鹽ノ如キハ殊更ニ混ゼ物ヲシテ
鹽ニ殊更ニ混ゼ物ヲシテ態〓ソレヲ工業鹽ニ代ヘテ使ッテ居ルノデアリマ
ス、非常ニ不經濟ナコトヲシテ居リマス、不經濟ナコトハ尙ホ忍ブベシトシ
マシテモ、所謂工業ノ合理化······今日最モヤカマシク言ハレテ居ル所ノ工業
ノ合理化ト云フモノハ副產物トシテ此鹽ガ出テ來ル場合ガ澤山出テ來ル、是
ガ專賣法ノ爲ニ製造家ガドノ位不便ヲスルカ製造裝置マデモ變ヘテ掛カラナ
ケレバナラヌ、折角外ノモノハ生產費ガ安クナルノヲ鹽ガ副產物トシテ出テ
來ルト云フコトノ爲ニ高クナル場合モアルノデアリマス、又ソレヲ避ケナケ
レバナラヌト云フ場合モ起ッテ來ルノデアリマス、ドノ方面カラ考ヘマシテモ
此鹽專賣法ト云フモノハ一日モ早ク廢止シナケレバナラヌ、其前提トシテ此
製鹽地整理ニ關スル法律案ヲ提出セラレタモノト私ハ考ヘテ大イニ喜ンデ居
ルノデアリマスガ、衆議院ニ於ケル政府當局ノ御答辯ヲ見マスルト、鹽專賣
法トハ關係ノナイ、飽クマデ政府ハ鹽專賣法ヲ固執セラレルヤウニ考ヘルノ
デアリマスガ、此點ニ於テ能ク此際明確ニ政府ノ御所見ヲ伺ッテ置キタイト
云フノガ是ガ私ノ質問ノ要旨デアリマス
〔政府委員大口喜六君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=58
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059・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 只今ノ御質問ニ對シマシテ御答辯ヲ致シタイト存
ジマス、此鹽ノコトニ付キマシテハ、只今大河內子爵ノ御述べニナリマシタ
ヤウナ事情ガ十分ニアリマスコトヲ私共モ認メテ居リマス、工業ノ上カラ申
シマスレバ、御承知ノ通リ只今工業原料ト致シマシテハ、個人ノ自由輸入ヲ
許シテ居リマスケレドモガ、御說ノ如ク化學工業ノ上ヨリ鹽ノ副產物トシテ
出マシタ場合、或ハ商工業者ナドガ鹽ヲ原料トシテ得タ場合等ニモ隨分不便
ガアリマス、ソレ故ニ此工業ノ立前カラ申シマスレバ、鹽ノ專賣ト云フコト
ハ餘程是ハ支障ニナルモノデアルコトハ私モ誠ニ御同論デアリマス、ソレカ
ラ世界ノ鹽ヲ考ヘマスレバ、誠ニ安イモノデアリマスカラ、專賣法ヲ撤廢イ
タシマスレバ世界的ニ安イ鹽ガ內地ニ這入ッテ參ッテ我〓御互モ安イ鹽ヲ〓糧
トシテ使ヘマスルト申シマスコトモ誠ニ御同感デアリマシテ、其通リデアラ
ウト考ヘルノデアリマス、唯玆ニ考ヘネバナリマセヌコトハ、只今子爵ヨリ
モ御話ガアリマシタヤウニ、鹽ハ申ス迄モナイ生活上缺クベカラザル必需品
デアリマス、成程今日ノ化學工業ノ進步カラ申シマスレバ、一朝事ガアリマ
シタ時ニ、我國ハ四面海ノ國デアリマスカラ、鹽ヲ得ルノハ容易イモノデア
ルト論ジマスレバ、或ハ左樣デアラウカトモ存ジマスケレドモガ、免ニ角我
我國民ハ生活ニ必要ナダケノ鹽ヲ握ッテ居ラナクテハ、甚ダ不安心デアルト云
フ一ツノ觀念モアリマスノデ、免ニ角我國ニハ今日マデ內地ニ於キマシテ、
是ダケノ鹽田ヲ有ッテ居ッテ之ニ依ッテ確ニ食糧ニ必要ナ鹽ダケハ得ラレルト
云フコトニナッテ居リマスルガ故ニ、平素生活ニ必要ナダケノ鹽ハ少シハ高ク
テモ之ヲ忍ンデ國民ガ有ッテ居ラナクテハナラナイト云フ一ツノ考デ今日マ
デ參ッテ居ルモノト思ヒマス、此考ト云フモノガ、或ハ是ハ遲レタ考ヘデアッ
テ、今日以後益〓進步イタシテ何等之ニ心配ガナイト云フ玆ニ確證ガ次第
ニ得ラレテ參リマスレバ、是ハ誠ニ御說ノ通リ一ツノ改革ノ出來ル時機デア
ラウカト考ヘマス、私衆議院デモ是ハ答辯イタシマシタガ、有體ニ申シマス
ト此點ニ付キマシテハ我國ハ鹽ノ政策ノ上カラ、確ニ一ツノ矛盾ガアルト私
共思ッテ居リマス、幸ヒ此政府ガヤッテ居リマス所ノ鹽ノ製造ノ試驗等ガ成功
イタシテ都合好ク參ッテ居リマスレバ、或ハモウ少シ進ンダル考ヘモ出來タデ
アリマセウガ、今日我〓當局ニナリマシテ、今日マデ試驗ヲ致シテ居ル成
績ヲ見マスト云フト、或部分ニ於キマシテハ、成功モ致シテ居リマスガ又
根本カラ考ヘマシテ、我國ノ海水カラ鹽ヲ採リマシテ相當ニ引合フモノトハ
見ラレナイノデアリマス、今日ノ狀態カラ考ヘマスルト、或程度ノ矛盾ハア
リマスガ、先ヅ生活ニ必要ナダケノ今日マデ有ッテ居ル鹽ダケハ、押サヘテ
居リタイト云フコトノ觀念ガマダ取レナイノデアリマス、之ヲ一方ニ維持シ
ツ一方ニ於テハ成ルベク安イ原料モ入レ、一面ニハ改善モ行ッテ彼岸ニ到
達シヤウト云フノデアリマスカラ、此處ニハ鹽ノ政策上頗ル苦シイ立場ニア
ルモノト考ヘマス、ソレ故ニ私共ハデス、出來マス限リ改善改革ヲ行ッテ參リ
マシテ、整理スベキモノハ出來ルダケ整理ヲ致シマシテ、次第ニ目的ニ達シ
タイト考ヘテ居リマスガ、今日直ニ專賣法ヲ廢スト云フコトガ申上ゲ兼ネマ
スノハ此理由ニナッテ居ルノデアリマス、又需給調節ノ上カラナラバ、管理デ
致シテ宜イデハナイカト云フ御說ハ、一應御尤デアリマシテ、屢、承ル議論デ
アリマスルシ、私共モ亦新ニ此法ヲ設ケマスルナラバ、或ハソレガ宜イカト存
ジマスルガ今日マデ長イ間專賣法ヲ行ッテ參リマシテ、先ヅ是デ行ケテ居ルモ
ノデアリマスガ故ニ、今日之ヲ急ニ更メテ管理法ニスルノハ如何デアラウカ
ト考ヘマシテ、今日マデノ此專賣法ヲ改良シ得ラレルダケノ時勢ニ應ジテ改
良シテ、次第ニ彼岸ニ達シタナラバ如何デアラウカト、斯ウ私共ハ衷心カラ
考ヘテ居リマス、只今御述べノ如ク最初ハ此鹽ノ專賣法ハ收益ガ目的デアリ
マシタガ、大正七八年頃物價ノ非常ニ下落ノ場合ニ當リマシテ、鹽モ御承知デ
アラセラレマスル如ク、全ク此收益主義ヲ打捨テマシテ、需給關係ニ於キマシ
テ只今ハ鹽ヲ致シテ居ルノデアリマス、而シテ工業ノ原料等ニ付キマシテハ
大分不便モアリマスガ、先ヅ大體ニ於テ改良サレテ居ルコトヽ考ヘマスルカ
ラシテ、只今ノ所ハ此鹽ノ專賣法ヲ維持イタシマシテ、之ニ依テ需給ノ調節
竝ニ我國民ガ確カニ此處ニ食料品ヲ握ッテ居ル、此事ダケハ續ケテ參ッテ、併
シ是ハ出來ルダケ縮小ヲ致シマシテ、出來ルダケ整理ヲシテ、最低限度ノモノ
ニシテ、之ヲ維持シテ暫ク參リタイト云フノガ、只今ノ政府ノ方針デアリマ
スカラ、或ハ此學術上カラ御考ヘ下サイマシタナラバ、此方針ニハ御不滿足
ノ點モアラウカトモ思ヒマスガ、私共實務ニ當リマスル關係上、此遣リ方ヲ
只今適當ナリト信ジテ、今囘ハ此程度ノ整理ヲシマシタ次第デアリマスルカ
ラ、ドウカ政府ノ意ノ在ル所ヲ御了解ヲ願ヒタイト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=59
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060・大河内正敏
○子爵大河內正敏君 私モ今日直グ此專賣法ヲ廢止シロト云フノデハナイノ
デアリマス、是ハ漸ヲ逐フテ廢止ノ目的ヲ達シ得ナケレバナラヌ、ユックリ適
當ナ時機ニ於テ是ハ廢止サレナケレバナラヌト云フコトヲ信ズルノデアリマ
スカラ、只今問題ノ生活必需品、生活ニ必要ナダケノ鹽ハ握ッテ置キタト云
フ、是ハ御尤ナ話デアリマスガ、是ガ行政上統一ガ取レテ居ラナイ一ツノ結
果ト思ヒマス、斯ノ如キ問題ヲ調査スルニ資源局ガアリ、陸軍省ニハ整備局
ガアリ、海軍省ニハ軍需局デアリマスカ、左樣ナモノガアッテ、一旦有事ノ日
ニ於ケル軍需品、國民ノ生活必需品ノ需要供給ヲ如何ニスルカト云フ問題ヲ
常ニ〓究シテ居ルノデアリマス、大藏省ハ是等ノコトハ殆ド關係シテ居ラレ
ナイ、今日ノ何カラ言ヒマスナラバ、日本ニ於テ、日本ノ海水カラ鹽ヲ採ル
コトハ到底經濟上引合ハナイ、ソレハ引合ハナイノガ當リ前デアリマス、之
ヲ引合ハセヤウトスルノガ間違ヒデアル、併ナガラ有事ノ日ニ必要ニ迫ラレ
タ場合ニハ經濟上ノ問題デナイカラ、直グニ是ハ器械製鹽ナリ何ナリヲヤ
ルコトガ出來ル、生產費ヲ考慮シナケレバ直グニ鹽ハ出來テ來ルノデアリマ
ス、出來ナイノデハナイ、出來テモ引合ハナイノデアリマスカラ今日ハ造ラ
ナイノデアリマス、所謂工業動員ノ上カラ言ヒマスレバ全ク是ハ顧慮スル必
要ハナイ、國民ノ生活ニ必要ナル食糧タル米ハドウデアルカ、此供給ガ足ラ
ナイト云フノデ、〓糧調査會ノヤウナモノマデ出來テ研究シナケレバナラヌ
位、食糧問題ハ大問題ニナッテ居ル、此米ノ問題ニハマルデ手ヲ付ケズニ、一朝
有事ノ日ニ何處カラ供給ヲ受ケルカト云フ見込モ立ッテ居ナイノニ、容易ク供
給ノ出來ル鹽ハ損ト知リナガラ握ッテ居ルト云フノガ今日ノ狀態デアル、此點
ハ政府ノ今ノ御答辯デ、何時マデモ鹽ノ專賣ハ固執シテ居ラレナイト云フコ
トハ分リマシタガ、尙ホ一層進ミマシテ一日モ速カニ鹽專賣ヲ廢止セラレル
ト云フコトヲ希望イタシテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=60
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061・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ハ昭和二年法律第十五號中改正法律案外十件
ノ特別委員ニ付託イタシマス
古市小山小香山点発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十三、救護法案、政府提出、衆議院送付、
第一讀會
救護法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和四年三月十八日
衆議院議長川原茂輔
貴族院議長公爵德川家達殿
救護法案
救護法
第一章被救護者
第一條左ニ揭グル者貧困ノ爲生活スルコト能ハザルトキハ本法ニ依リ之
ヲ救護ス
一六十五歲以上ノ老衰者
二十三歲以下ノ幼者
三姙產婦
四不具癈疾、疾病、傷痍其ノ他精神又ハ身體ノ障碍ニ因リ勞務ヲ行フ
ニ故障アル者
前項第三號ノ姙產婦ヲ救護スベキ期間竝ニ同項第四號ニ揭グル事由ノ範
圍及程度ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第二條前條ノ規定ニ依リ救護ヲ受クベキ者ノ扶養義務者扶養ヲ爲スコト
ヲ得ルトキハ之ヲ救護セズ但シ急迫ノ事情アル場合ニ於テハ此ノ限ニ在
ラズ
第二章救護機關
第三條救護ハ救護ヲ受クベキ者ノ居住地ノ市町村長、其ノ居住地ナキト
キ又ハ居住地分明ナラザルトキハ其ノ現在地ノ市町村長之ヲ行フ
第四條市町村ニ救護事務ノ爲委員ヲ設置スルコトヲ得
委員ハ名譽職トシ救護事務ニ關シ市町村長ヲ補助ス
第五條委員ノ選任、解任、職務執行其ノ他委員ニ關シ必要ナル事項ハ命
令ヲ以テ之ヲ定ム
第三章救護施設
第六條本法ニ於テ救護施設ト稱スルハ養老院、孤兒院、病院其ノ他ノ本
法ニ依ル救護ヲ目的トスル施設ヲ謂フ
第七條市町村救護施設ヲ設置セントスルトキハ其ノ設備ニ付地方長官ノ
認可ヲ受クベシ
私人救護施設ヲ設置セントスルトキハ地方長官ノ認可ヲ受クベシ
第八條前條第二項ノ規定ニ依リ設置シタル救護施設ハ市町村長ガ救護ノ
爲行フ委託ヲ拒ムコトヲ得ズ
第九條本法ニ定ムルモノノ外救護施設ノ設置、管理、廢止其ノ他救護施
設ニ關シ必要ナル事項ハ命合ヲ以テ之ヲ定ム
第四章救護ノ種類及方法
第十條救護ノ種類左ノ如シ
-生活扶助
二醫療
三助產
四生業扶助
前項各號ノ救護ノ範圍、程度及方法ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一條救護ハ救護ヲ受クル者ノ居宅ニ於テ之ヲ行フ
第十二條幼者居宅救護ヲ受クベキ場合ニ於テ市町村長其ノ哺育上必要ア
リト認ムルトキハ勅合ノ定ムル所ニ依リ幼者ト併セ其母ノ救護ヲ爲スコ
トヲ得
第十三條市町村長居宅救護ヲ爲スコト能ハズ又ハ之ヲ適當ナラズト認ム
ルトキハ救護ヲ受クル者ヲ救護施設ニ收容シ若ハ收容ヲ委託シ又ハ私人
ノ家庭若ハ適當ナル施設ニ收容ヲ委託スルコトヲ得
第十四條市町村長ハ救護ヲ受クル者ノ親權者又ハ後見人ガ適當ニ其ノ權
利ヲ行ハザル場合ニ於テハ其異議アルトキト雖モ前條ノ處分ヲ爲スコト
ヲ得
第十五條救護施設ノ長ハ命令ノ定ムル所ニ依リ其ノ施設ニ收容セラレタ
ル者ニ對シ適當ナル作業ヲ課スルコトヲ得
第十六條第十三條ノ規定ニ依リ收容セラレ又ハ收容ヲ委託セラレタル未
成年者ニ付親權者及後見人ノ職務ヲ行フ者ナキトキハ市町村長又ハ其ノ
指定シタル者勅令ノ定ムル所ニ依リ後見人ノ職務ヲ行フ
第十七條救護ヲ受クル者死亡シタル場合ニ於テハ勅令ノ定ムル所ニ依リ
埋葬ヲ行フ者ニ對シ埋葬費ヲ給スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ埋葬ヲ行フ者ナキトキハ救護ヲ爲シタル市町村長ニ於
テ埋葬ヲ行フベシ
第五章救護費
第十八條救護ヲ受クル者同一市町村ニ一年以上引續キ居住スル者ナルト
キハ救護ニ要スル費用ハ其ノ居住地ノ市町村ノ負擔トス
第十九條救護ヲ受クル者左ノ各號ノ一ニ該當スル者ナルトキハ其ノ居住
期間一年ニ滿チザル場合ニ於テモ救護ニ要スル費用ハ其ノ居住地ノ市町
村ノ負擔トス
夫婦ノ一方居住一年以上ナルトキ同居ノ他ノ一方
二父母其ノ他ノ直系尊屬居住一年以上ナルトキ同居ノ子其ノ他ノ直系
卑屬
三子其ノ他ノ直系卑屬居住一年以上ナルトキ同居ノ父母其ノ他ノ直系
尊屬
第二十條前二條ニ規定スル期間ノ計算ニ付テハ勅令ノ定ムル所ニ依ル
第二十一條救護ニ要スル費用ガ前三條ノ規定ニ依リ市町村ノ負擔ニ屬セ
ザル場合ニ於テハ其ノ費用ハ救護ヲ受クル者ノ居住地ノ道府縣、其ノ居
住地ナキトキ又ハ居住地分明ナラザルトキハ其ノ現在地ノ道府縣ノ負擔
トス
第二十二條第十七條ノ規定ニ依ル埋葬ニ要スル費用ノ負擔ニ關シテハ前
四條ノ規定ヲ準用ス
第二十三條委員ニ關スル費用ハ市町村ノ負擔トス
第二十四條第二十一條及第二十二條ノ規定ニ依リ道府縣ノ負擔スル費用
ハ救護ヲ爲シタル地ノ市町村ニ於テ一時之ヲ繰替支辨スベシ
第二十五條國庫ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ左ノ諸費ニ對シ其ノ二分ノ一以
內ヲ補助ス
第十八條乃至第二十三條ノ規定ニ依リ市町村又ハ道府縣ノ負擔シタ
ル費用
二道府縣ノ設置シタル救護施設及第七條第一項ノ規定ニ依リ市町村ノ
設置シタル救護施設ノ費用
三第七條第二項ノ規定ニ依リ私人ノ設置シタル救護施設ノ設備ニ要ス
ル費用
道府縣ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ左ノ諸費ニ對シ其ノ四分ノ一ヲ補助スベ
シ
第十八條乃至第二十條、第二十二條及第二十三條ノ規定ニ依リ市町
村ノ負擔シタル費用
二第七條第一項ノ規定ニ依リ市町村ノ設置シタル救護施設ノ費用
三第七條第二項ノ規定ニ依リ私人ノ設置シタル救護施設ノ設備ニ要ス
ル費用
第二十六條救護ヲ受クル者資力アルニ拘ラズ救護ヲ爲シタルトキハ救護
ニ要スル費用ヲ負擔シタル市町村又ハ道府縣ハ其ノ者ヨリ其ノ費用ノ全
部又ハ一部ヲ徵收スルコトヲ得
第二十七條救護ヲ受ケタル者救護ニ要シタル費用ノ辨償ヲ爲スノ資力ア
ルニ至リタルトキハ救護ノ費用ヲ負擔シシタル市町村又ハ道府縣ハ救護
ヲ廢止シタル日ヨリ五年以內ニ其ノ費用ノ全部又ハ一部ノ償還ヲ命ズル
コトヲ得
第二十八條救護ヲ受クル者死亡シタルトキハ市町村長ハ命令ノ定ムル所
ニ依リ遺留ノ金錢ヲ以テ救護及埋葬ニ要スル費用ニ充當シ仍足ラザルト
キハ遺留ノ物品ヲ賣却シテ之ニ充當スルコトヲ得
第六章雜則
第二十九條救護ヲ受クル者左ニ揭グル事由ノ一ニ該當スルトキハ市町村
長ハ救護ヲ爲サザルコトヲ得
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ依リ市町村長又ハ救護施設ノ長
ノ爲シタル處分ニ從ハザルトキ
二故ナク救護ニ關スル檢診又ハ調査ヲ拒ミタルトキ
三性行著シク不良ナルトキ又ハ著シク怠惰ナルトキ
第三十條第七條第二項ノ規定ニ依リ設置シタル救護施設ガ本法若ハ本法
ニ基キテ發スル命令又ハ之ニ基キテ爲ス處分ニ違反シタルトキハ地方長
官ハ同項ノ認可ヲ取消スコトヲ得ス
第三十一條道府縣、市町村其ノ他ノ公共團體ハ左ニ揭グル土地建物ニ對
シテハ租稅其ノ他ノ公課ヲ課スルコトヲ得ズ但シ有料ニテ之ヲ使用セシ
ムル者ニ對シテハ此ノ限ニ在ラズ
-主トシテ救護施設ノ用ニ供スル建物
二前號ニ揭グル建物ノ敷地其ノ他主トシテ救護施設ノ用ニ供スル土地
第三十二條詐僞其ノ他ノ不正ノ手段ニ依リ救護ヲ受ケ又ハ受ケシメタル
者ハ三月以下ノ懲役又ハ百圓以下ノ罰金ニ處ス
第三十三條本法中町村ニ關スル規定ハ町村制ヲ施行セザル地ニ於テハ町
村ニ準ズベキモノニ、町村長ニ關スル規定ハ町村長ニ準ズベキ者ニ之ヲ
適用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
左ノ法令ハ之ヲ廢止ス
明治四年太政官達第三百號
明治六年太政官布告第七十九號
明治六年太政官布告第百三十八號
明治七年太政官達第百六十二號恤救規則
〔政府委員秋田〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=62
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063・秋田清
○政府委員(秋田〓君) 只今議題ニ供セラレマシタル救護法案ノ提案理由ヲ
陳述イタシタイト存ジマス、國民生活ノ安定ヲ圖リ、是ガ保護向上ヲ期スル
爲、各種ノ社會政策ヲ實行イタシマスコトハ、現下ノ我ガ社會狀態ニ鑑ミマ
シテ、誠ニ必要ナコトト存ジマス、就中貧困ニシテ生活能力ナク、而モ扶養
者ナキ老者、幼者、病者等ニ對シテ保護ノ方法ヲ講ズルガ如キコトハ、最モ
緊要適切ナ事柄デアルト信ズルノデアリマス、然ルニ我國ニ於ケル現行救貧
制度トシテハ、明治四年太政官達棄兒養育米救與方、及明治七年太政官達恤
救規則等ガアルニ過ギマセヌ、而シテ其規定ノ內容ハ極メテ不備デアリマシ
テ、今日ノ實情ニ適セズ、到底救護ノ目的ヲ達スルコト能ハザル狀況ニアル
ノデアリマス、依テ是ガ根本的改善ノ趣旨ニ基キマシテ、玆ニ提案イタシマシ
タルガ如ク救護法ヲ制定イタサウトスルノデアリマス、本法案ニ關スル主要
ナル事柄ヲ略說イタシマスレバ、第一本法ニ依テ救護ヲ受クル者ハ六十五歲
以上ノ老衰者、十三歲以下ノ幼者、姙產婦、不具癈疾、疾病傷痍等ニシテ勞
働ヲ爲スニ著ルシキ故障アル者ニ限リ、且又是等ノ者ガ貧困ノ爲メ生活スル
コト能ハザル場合ニ止メ、眞ニ救護ノ必要ノ已ムヲ得ザル者ニ對シテノミ救
護ヲ行フノデアリマス、第二、救護ハ救護ヲ受クベキ者ノ居住地ノ市町村長
ヲシテ行ハシムルヲ原則ト致シ、居住地ナキカ又ハ分明ナラザルガ如キ特殊
ノ場合ニ於テハ、現在地ノ市町村長ヲシテ行ハシムルコトニ致シマシタ、尙
ホ濫救漏救ノ弊害ヲ除去シ、救助ノ適正ヲ期スル爲、救護ニ關スル委員ヲ置
き、救護事務ヲ補助セシムルコトトシタノデアリマス、第三、救護ノ方法ハ
本救護者ノ居宅ニ於テ行フヲ原則ト致シマシテ、例外ノ場合ニハ道府縣市町
村又ハ私人ノ設置スル養老院、施療病院、育兒院等ノ救護施設ニ收容又ハ委
託シテ救護ヲ行フノデアリマス、而シテ是等ノ救護施設ニ對シマシテハ一面
國庫補助、租稅免除等ノ特典ヲ與ヘテ之ヲ助成スルト共ニ、他面委託ヲ拒否
スルコトヲ得ザル等、相當ノ制限ヲ設ケタノデアリマス、又救護ノ種類ト致シ
マシテハ生活扶助、醫療助產、生業扶助ノ四種ト致シマシタガ、就中重要ナ
ルモノハ生活扶助ト醫療トデアリマス、第四、救護ニ要スル費用ハ市町村ノ
負擔トシ、特別ノ場合ニ限リ道府縣ノ負擔トシ、之ニ對シテ國庫ヨリハ、道
府縣及市町村ノ負擔シタル費用ニ對シ其二分ノ一以內ヲ補助シ、道府縣ハ市
町村ノ負擔シタル費用ニ對シテ其四分ノ一ヲ補助スル、道府縣又ハ市町村又
ハ私人ノ設置シタル救護施設ニ對シテハ國庫及道府縣ヨリソレ〓〓補助ヲ爲
スコトニ致シタノデアリマス、以上ハ法案ノ大要デアリマス、尙ホ今更申上
ゲルマデモゴザイマセヌガ、我國ニ於キマシテハ古來ノ美風タル家族制度及
隣保相扶ノ情誼ガ存シテ居ルノデゴザイマス、本法案ハ實ニ是等ノ醇風美俗
ヲ尊重イタシマスルト共ニ、更ニ進ンデ現在社會ノ實情ニ適應セル制度ヲ確
立シ、其及バザルヲ補フテ、以テ國民生活ノ不安ト思想ノ動搖ヲ防止スルニ
努メムトスル趣旨ニ外ナラナイノデゴザイマス、何卒御審議ノ上速ニ御協賛
ヲ與ヘラレムコトヲ切望イタシマス
〔伯爵柳澤保惠君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=63
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064・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 柳澤伯爵ハドウ云フコトデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=64
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065・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 質問ガゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=65
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066・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 通〓ガゴザイマスカラ、ソレガ濟ミマシテカラ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=66
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067・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 畏マリマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=67
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068・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 通告順ニ依リマシテ高橋琢也君ニ發言ヲ許シマス
〔高橋琢也君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=68
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069・高橋琢也
○高橋琢也君 只今日程ニ上ボッテ居リマスル救護法案、是ガ今囘提出ニナリ
マシタノヲ承リマシテ、誠ニ日本晴レヲシタヤウナ氣持ガ致シマス、恐ラク
此位氣持ノ好イ法案ハナカラウト思ヒマス、殊ニ今日ノヤウナ樣〓ナ不幸ナ
事柄ノ多イ世ノ中ニ、此樣ナ法案ヲ出シテ、政府ガ大英斷ヲ以テ、此財政ノ
困難ナ時ニ之ヲ出シタト云フコトハ、私ハ誠ニ國民ノ福音ヲ······殊ニ國民中
ノ最モ慘メナ弱者ヲ救フ上ニ於テ、非常ニ愉快ナ感ジガ致シマスル、私ガ伺
ハムトスルノハ、此法律ノ正面カラ行キマスレバ、今申上ゲルヤウナ最大福
音ヲ慘メナ國民中ノ弱者ニ與ヘルノデゴザイマスカラ、是ホド良イコトハナ
イ、併シ裏面カラ之ヲ見マスルト、實際ニ於テ或ハ弊害ガ、意外ニモ大キナ
弊害ガ起リハシマイカト云フ杞憂モゴザイマスカラ、ソレデ政府ニ私ハ質問
ヲ致シタイト思フノデス、此法案ノ第三十二條ニハ詐欺其他不正ノ行爲ノコ
トガ一箇條ゴザリマスルガ、極メテ簡單デゴザリマスル、樣〓ナ惡弊ノ起ッテ
來ル事柄デアラウト存ジマスカラ、何ダカ是ダケデハ此不正、詐欺ト云フヤ
ウナコトヲ防止スルノニ不足シハセヌカト云フ懸念ガ一ツゴザリマス、政府
ノ御見込ハ如何、之ヲ一ツ伺ヒタイ、凡ソ何事ニ依ラズ、利ノアル所必ズ弊
ガ伴フノハ當然ノ話デゴザリマスルガ、日本ノ今日ノ思想ノ變化シテ居リマ
スル······隨分思想ノ惡化ト云フコトハ何人モ政治家バカリデハナイ、國民皆
憂ヘテ居ル次第デゴザリマスル、從テ此法律ヲ惡用スルヤウナ者ガ起ラヌト
ハ申サレマセヌ、此法案ヲ見マスルト僅ニ三十三箇條·····外國ノコトニ比較
スルノハ如何カト言ハレルカモ知レマセヌガ、英國ノ一昨年、一千九百二十七
年確カ七月二十九日附デ發布セラレタ貧民法、之ニハ二百四十六箇條アル、
是ハ無理モナイコトデス、英國ハ旣ニ今ヨリ三百二十九年程以前、千六百一
年ニ「エリザベス」ノ朝デ初メテ救民法ヲ發布シタノデアリマス、ソレ以來
一昨年ニ至ルマデ九十四囘改正ヲシテ居ル、何故コンナ大層ナ改正ヲシタカ、
是ハ實施シタ上デ樣〓ノ弊ヲ認メタカラデゴザイマセウ、改正ヲシ又補給ヲ
スル、斯ウ云フ點カラ是ダケノ法律ヲ改正スル手數ヲ經タノデアル、サウシ
テ今デハ只今申上ゲルヤウニ日本ノ殆ド十倍カラノ箇條ガアルノデス、是ハ
英國デモ隨分此弊害ニ苦ンダヤウデゴザイマス、況ヤ英國ニシテモ、他ノ各
國ニシテモ救貧法以外ニ又
〔副議長候爵蜂須賀正韶君議長席ニ著ク〕
社會施設、就中保險政策所謂社會保險ナルモノ、勞働保險、ソレ等ハ一方ニ
ハ防貧法ガアル、少年保護、少年福利法ト云フヤウナモノ迄モ整ッテ居リマス
ルカラ、是ハ至レリ盡セリト云フテモ宜シイ、ソレニモ拘ラズ勞働者ノ如キ
ハ先般モ此演壇デ申上ゲマシタ如ク、英吉利ハ昨今殊ニ多數ノ失業者ガアッテ
困難ヲ致シテ居ル、斯ウ云フ場合デゴザリマス、昨年ノ春八十万人アッタノガ
百三十万人ニモ殖エテ來タト云フ位デゴザリマシテ、非常ニ英國デハ今勞働
者ノ生活ノ出來ナイ者ニ對スル措置ハ困難ヲシテ居ルヤウデゴザリマス、ソ
レ故ニ是等ハ此法案デハ勞働ノ出來得ナイ者ヲ政府ハ救護シテヤルノデゴザ
リマスルガ、矢張リ社會政策ガ完全ニ行ハレテ居リマセネバ、自然此方ヘ大
影響ヲ及ボスト云フコトハ申ス迄モナイコトデアル、ソレ故ニ是ダケノタッタ
一箇條······尤モ前ニ何カゴザリマスルケレドモ、詐欺不正ト云フヤウナコト、
又罰金モ僅ニ限ッテ居ル、百圓ト云フヤウナコトニナッテ居リマスルガ、ナカ
ナカ斯樣ナ事柄デ是カラ此救護機關ガ出來マスル上ニハ、種々ナル弊害ガ起ツ
テ來ヤウト思ヒマスル、是等ハ此法案ダケデ足リマスルカ、又段々勅令ヤ命
令ニ讓ッテアル箇條ガゴザイマスカラ、是等デ政府ハ補ハレルノデゴザイマセ
ウカ、ソレカラ此救護費ハ國家トサウシテ就中其中ニハ中央政府ト、ソレカ
ラ各地方廳······地方官、ソレカラ一面ハ市町村所謂自治團體ガ之ヲ分擔スル
ヤウデゴザリマスル、今日デノ御見込ハドノ位ニ各方面ノ費用ノ分擔ガゴザ
イマスルデセウカ、又無論是ハ年々殖エテ參リマセウト思ヒマスルガ、是等
ニ對スル御見込ハ如何デゴザイマセウカ、此點ヲ伺ハレヽバ承リタイト存ジ
やく、何分時間モゴザイマセヌ時デゴザイマス、餘リ細カイコトハ今日ハ伺
ヒマセヌ
〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=69
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070・長岡隆一郎
○政府委員(長岡隆一郞君) 只今ノ御質問ノ第一點ハ本法ノ施行ニ伴ッテ、之
ヲ惡用イタシ、濫救ノ結果、惰民ヲ養成スルヤウナ危險ハナイカ、ソレニ對
シテ詐欺其他ノ不正手段ヲ以テ救護ヲ受ケタ者ヲ處罰スル規定ヲ置イテ居ル
ダケデハ足ラナイデハナイカト云フ御趣旨ニ拜聽イタシマシタガ、此處罰規
定ハ現行法即チ恤救規則ノ中ニハゴザイマセヌガ只今御示シノ濫救ノ結果
惰民ヲ養成スル危險ガアルヤウニナリマシテハ一大事デゴザイマスルカラ、
新タニ處罰ノ規定ヲ設ケタ次第デゴザイマス、英國ノ例ヲ御引キニナリマシ
テ、此運用ヲ誤ルニ於テハ、由々シキ大事ヲ起スト云フヤウナ御心配デ、誠
ニ御尤ノ御意見ト拜聽イタシマシタケレドモ、御承知ノ通リ英吉利ニ於キマ
シテ、此救貧法ノ爲ニ色〓ノ弊害ヲ生ジマシタコトハ、國情ト致シマシテ大
體個人主義ヲ以テ立ッテ居ル國デゴザイマスルガ、我國ノ國情ト致シマシテ、
先程提案ノ理由ヲ說明中ニ申上ゲマシタヤウニ、大體家族制度若クハ隣保相
助ト云フ美風ガゴザリマスルノデ、本法ノ救助ヲ與ヘマスルモノハ、家族制
度ニ依ッテモ救助出來ズ、隣保相助ニ依ッテモ救助出來ズ、即チ不具癈疾者等ガ
家族モナク、又近隣ノ救助モ受ケラレナイ、萬已ムヲ得ザル者ニ限ッテ救助ヲ
與ヘルト云フ趣旨デゴザイマスルガ故ニ、英國ノ如キ弊ヲ生ズル憂ハ萬々ナ
イ積リデゴザイマス、殊ニ我國ニ於キマシテハ、方面委員制度ガ次第ニ發達
シテ參ッテ居リマスルノデ、大都市ニ於キマシテモ、貧民ノ狀況ハ方面委員ノ
力ニ依リマシテ、其狀況ガ鏡ニ映ルガ如クニ明カニナッテ居ル所モアルノデゴ
ザイマスカラ、運用上誤リノナイヤウニ致スコトガ出來ルト考ヘテ居リマス、
將來此方面委員制度ガ發達イタシマスレバ、益運用上心配ガ少クナルコトト
考ヘマスルノデ、英國ノ救貧法ノ如ク將來財政上ニ癌ヲ殘スト云フヤウナ危
險ハナイト考ヘテ居リマス、又固ク信ジテ居ル次第デゴザイマス、第二ニ救
護法ニ付テノ御質問デゴザイマシタガ、只今豫想イタシテ居リマスルノハ
一年間ニ大體八百万圓ヲ要スル見込デゴザイマシテ、之ニ對シマシテ、國費
ヲ以テ四百万圓ヲ支出イタシ府縣ニ於テ二百万圓ヲ支出イタシ、市町村ニ於
テ二百万圓ヲ支出イタス、斯ウ云フ大體ノ見込デ居リマス、即チ府縣、市町
村ヲ合セマシテ、四百万圓支出ヲ增加スルヤウナ形ニ見エマスケレドモ、現
行法即チ明治七年ノ太政官達ノ恤救規則ニ依リマシテ、現在地方費ニ於キマ
シテ、旣ニ二百万圓負擔イタシテ居リマスルカラ、府縣市町村ヲ合シマシテ、
將來負擔ノ增加ハ二百万圓ニ過ギナイノデアリマス、之ヲ分ケマスルト云フ
ト、府縣ノ負擔ガ百万圓、市町村ノ負擔ガ百万圓、是ダケヲ增加スルニ過ギ
マセヌノデ、之ヲ全國ニ分チマスルト云フト、府縣市町村、即チ地方費ノ受
ケタル負擔ノ增加ト云フモノハホンノ僅カデ、言フニ足ラナイコトデ濟ムダ
ラウト思ッテ居リマス
議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
又斯カル法律ノ施行ノ結果、動モ致シマスルト、將來支出ノ增加ヲ見マシテ、
此爲ニ國家ノ財政ヲ危クスルト云フヤウナ危險ヲ伴フ憂ヘハゴザリマスル
ガ、本法ノ運用上ニ當リマシテハ、第一ノ御質問ニ對シテ御答ヘ申上ゲマシ
タ趣旨ニ依リマシテ、將來支出ノ增加ノ見ザルヤウナ十分施行ニ注意ニ注意
ヲ加ヘタイト考ヘテ居ル次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=70
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071・高橋琢也
○高橋琢也君 會期モ段々切迫シテ來テ居リマスルカラ、是レ以上······伺ヒ
タイトハ思ヒマセヌガ、是ハ他日ノ機會ニ讓リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=71
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072・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 短カウゴザイマスカラ自席デ宜シウゴザイマスカ、簡單
デゴザイマスカラ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=72
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073・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス、質疑デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=73
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074・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 質疑デス、只今高橋君ヨリ私ガ問ハムトスル趣旨ヲ申サ
レタノデアリマスガ、私ハ他ノ點ニ付テ伺ヒタイノデアリマス、此法案ハ所
謂社會政策ノ實行ニ當ッテ、救貧政策ニ關スルコトガ主ナルモノデアルト存ジ
マスガ併ナガラ防貧ノコトニ付テハ餘リ此法案ニ及ンデ居リマセヌ、私ハ
此際長岡長官ニ向ッテ政府ノ防貧政策ナルモノニ付テ御所見ヲ伺ヒタイノデ
アリマス、內務大臣ニ伺ヒタイノデアリマスルケレドモ、御出席モナシ、又
伺ッタ所デ、恐ラクハ私ニ向ッテ滿足ナル答辯ヲ與ヘラレヌト思ヒマス、是一
是非長岡長官ニ願ヒマス
〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=74
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075・長岡隆一郎
○政府委員、 長岡隆一郞君)只今柳澤伯爵ヨリ此防貧的ノ施設ニ付テ御尋ガ
ゴザイマシタガ、御質問ノ御趣旨ニモ伺ハレマス通リ、救貧ハ末デアッテ防貧
ガ其本デナケレバナラヌト考ヘテ居ルノデゴザイマス、貧民ガ出來マシテモ、
之カ救助イタスト云フヨリモ、寧ロ貧民ガ出來ナイヤウニ只今御示シノ防貧
的施設ヲ致スト云フコトガ必要デアルト云フコトハ、是ハ申スマデモゴザイ
マセヌノデアリマス、現在單リ內務省ト謂ハズ、各省ニ於テ施設ヲ致シテ居リ
マスル所ノ社會政策的施設ハ全部此防貧ト云フコトヲ目標ニ致シテ施行イタ
シテ居ルコトト心得テ居リマスルガ、勿論見方ニ依リマシテハ、是ガ十分ト
ハ申上ゲルコトハ出來マイト考ヘマス、從ヒマシテ、將來財政ノ許ス限リ政
府ト致シマシテハ、益此防貧的施設ニ對シテ力ヲ注ガナケレバナラヌト考ヘ
テ居リマスルケレドモ、併ナガラ如何ニ此防貧的施設ヲ完備イタシマシテモ、
此網ニ洩レテ、所謂社會ノ落伍者ヲ生ズルト云フコトハ是ハ已ムヲ得ザルコ
トデアリマシテ、此防貧的施設ノ網ニ洩レテ、社會ノ落伍者トシテ悲境ニ沈淪
イタシタ者ハ所謂救貧的施設ニ依ッテ救濟イタスト云フコトモ相伴ッテ行カナ
ケレバナラヌト考ヘテ居リマス、尙ホ此防貧的施設ノ巨細ノ點ニ亙リマシテ
ハ、是ハ豫算ナリ、各立法ノ內容ニ亙ッテ一々申上ゲナケレバナラヌコトデゴ
ザリマシテ、是ハ御許シヲ得マシテ、委員會其他ノ席上ニ於テ詳シク又伯爵
ニ申上ゲルコトヲ御許シヲ願ヒタイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=75
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076・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 只今ノ御答辯ハ少シク不滿足ニ思ヒマス、委員會デト云
フコトデゴザリマスルガ、無論私ハ委員ニナルカドウカ分リマセヌガ、委員
會デト云フコトデハ困ル、私ハ財政ノ都合等ノコトヲ伺ッテ居ルノデハナイ、
政府ノ執ラレル所ノ防貧政策ハ何デアルカ、之ヲ伺ッヲ居ルノデアリマス、マ
ダナンニモ具體的ノ御腹案ガナケレバ、案ガナイト仰セラレルノデアリマス
カ、若シアリトシマスレバ、斯樣ナ點ニ向ッテ考ヘテ居ルト云フコトヲ伺ヒタ
イ、申スマデモナク防貧政策ハ都市ノ社會政策ニ重大ナ關係ヲ有ツノデアリ
マヨ、故ニ私ハ伺ヒタイ、序デニモウ一ツ伺ヒタイノハ、細民調査デアリマ
ス、細民調査ハ嘗テ國ニ於テ又地方團體ニ於テ又或會ニ於テ部分的ニ施行シ
タノデアリマス、是ハ近頃更ニ施行セラレマセヌガ、細民調査ノコトハ矢張
リ此法案ノ御實行ニ付テモ關係ガアリ又防貧政策ヲ御考ヘニナル上ニ於テモ
相當ノ資料ヲ供スルノデアリマスガ、此細民調査ニ付テハ當分ノ中オヤリニ
ナラヌト云フ御考デアリマスカ、ソレヲ伺ヒマス
〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=76
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077・長岡隆一郎
○政府委員(長岡隆一郞君) 私ノ御答ガ簡單ニ過ギマシタ爲ニ再度ノ御質問
ヲ煩シマシテ誠ニ恐縮ニ存ジマス、防貧的施設ニ付テ現ニ行ッテ居リマスルモ
ノハ此總豫算中ニ現レテ居リマスル健康保險デゴザイマストカ或ハ住宅政
策ト致シマシテハ不良住宅ノ整理、住宅組合ノ普及其他各般ノ事項ニ亙ッテ居
リマシテ、社會局關係ノ豫算ハ殆ド全部此防貧的施設ニ使ハレテ居ルト云ッテ
モ宜シカラウト考ヘマス、唯將來ノ施設ト致シマシテハ願ハクバ國庫財政ノ
許ス限リ社會保險ノ制度ヲ今少シク擴充イタシマシテ獨リ健康保險ノミナラ
ズ、漸次他ノ方面ニ及ボシタイト云フ考ヲ持ッテ居リマスケレドモ、是ハ遺憾
ナガラ本年ノ豫算ニ計上スル譯ニハ參リマセナカッタ次第デアリマス、本年ノ
新シイ立法ト致シマシテハ唯僅ニ工場法ノ改正デアリマスルトカ、健康保險
法ノ改正デアリマスルトカ、若クハ勞働者災害扶助法ト云フヤウナモノニ止
マッテ居ルノデゴザイマスルガ、是等ハ漸次財政ノ許ス限リ擴充ヲ致シテ社會
保險ノ完備ヲ期スルト云フ方面ニ向ッテ全力ヲ注ギタイ、左樣ニ心得テ居リマ
ス、尙ホ細民調査ニ付キマシテハ只今御示シノアリマシタ通リ大正十二年ニ
於キマシテ東京市ノ細民部落ニ於テ此調査ヲ行ッタコトガゴザイマス、又神戶
市ニ於キマシテモ相當ノ經費ヲ使ヒマシテ行ッタコトモゴザイマスルシ、又財
團法人勞資協調會ニ於キマシテモ多少此調査ヲ行ッタヤウデゴザイマスガ、是
等ハ何レモ局部的ノ拔キ調査デゴザイマシテ、全國一齊ニ調査スルト云フヤ
ウナコトハマダ無イノデゴサイマス、本法ノ立案ニ當リマシテモ實ハ赤裸々
ニ申上ゲマスルト方面委員制度ノアル所ニハ「カード」ヲ〓シマシテ本法ニ
該當スル被救護者ノ狀況ヲ調査ヲ致シマシタ、併シソレハ方面委員制度ノア
リマスル六大都市其他ノ市町村ニ過ギナイノデゴザイマシテ、只今御話ノア
リマシタヤウナ全國的ニ亙ッタ「センサス」ト申スヤウナ程度ノモノハゴザイ
マセヌノデ、是等ニ付キマシテハ今少シク念ヲ入レマシテ調査ヲ致シタイト
云フコトヲ考ヘテ居リマスルガ、現在行ヒマシタノハ只今申上ゲマシタヤウ
ナ方面委員制度ノアリマスル所ニ「カード」ヲ配リマシテ相當被救護者ノ狀
況ヲ調査サセタト云フダケニ過ギナイノデアリマシテ、是ハ餘リ完全デハナ
イト云フコトヲ赤裸々ニ申上ゲテ御許シヲ得タイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=77
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078・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 聰明ナル長岡長官ハ誠ニ私ノ質問ニ對シテ的確ナル御答
辯ヲ與ヘラレマセヌ、私ハ先程申上ゲタ通リニ國、地方團體、或ハ或會等ガ
細民調査ヲ部分的ニシタコトガアルガ斯ウ云フコトヲ將來ナス思召シデア
ルカドウカ、只今ノ御答辯デハ「センサス」的ノモノハ出來ナイトカ、全國
一齊ニハ出來ナイトカ、甚ダドウモ恐入ッタル御答辯デアリマス、斯樣ナ調査
ガ全國的ニ出來ルモノデナイ、少クトモ、歐羅巴ニ勞働代表トシテ行カレタ
長岡君ニ依ッテ左樣ナ御返事ヲ承ルト云フコトハ恐入ッタルコトデアリマス、
ドウセ代表的調査デアリマス、或部分ニ付テ細民ヲ調ベル、是ハ國勢調査的
ノモノデナイコトハ分リ切ッタコトデアル、左樣ナコトハ少シ御言葉ヲ御愼ミ
ニナッテ、モウ少シ的確ニ私ニ對スル御答辯ヲ伺ヒタイ
〔政府委員長岡隆一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=78
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079・長岡隆一郎
○政府委員(長岡隆一郞君) 私ノ申上ゲ方ガ足リナカッタ爲ニ御叱リヲ受ケ
マシテ甚ダ恐縮ニ存ジマス、只今マデ此法案ノ準備トシテ調査イタシマシタ
ノガ、六大都市其他方面委員ノ存在シテ居ル市町村ニ「カード」ヲ廻シマシテ
調査イタシマシタノデゴザイマスルガ、ソレダケデハ十分ト思ッテ居リマセ
又、將來此法案ヲ實施スル場合ニ細民ノ調査ニ付テ今少シ詳細ニ調査シタイ
云トフ考ヲ持ッテ居リマス、併シ本案ニ對スル的確ナ御答ヲ申上ゲナイデ再々
御叱リヲ蒙リマスルノハ如何ナル方法ニ依ッテドレダケノ金ヲ使ッテ、ドレダ
ケノ區域ニ互ッテ調査ヲスルカト云フ、實ハ的確ナ具體的ノ案ヲ持ッテ居リマ
セヌノデ、其コトヲ申上ゲ得ナカッタ爲ニ、或ハ色〓ノ御疑念ヲ招イタカト思
ヒマスルガ、出來得ル限リ本案ノ實施マデニハ、現在ノ狀態ヨリモ信憑スル
ニ足ルベキ調査ヲ致シタイト云フ考ヲ持ッテ居リマス、併ナガラ其具體的ノ要
項ニ付キマシテハマダ熟シタル御答ヲ申上ゲルダケノ案ヲ持ッテ居リマセヌ
コトヲ甚ダ殘念ニ存ジテ居ル次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=79
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080・柳澤保惠
○伯爵柳澤保惠君 私ハ棄テ台詞ヲ殘シテ止メルノデハアリマセヌ、長岡君
ノ御健康ガ少イ惡イヤウデ、ドウモ御答ガ出來ヌヤウデアリマスカラ又別ノ
時ニ御質問申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=80
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081・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔瀨古書記官朗讀
救護法案特別委員
侯爵大久保利武君侯爵佐佐木行忠君男爵木越安綱君
子爵野村益三君阪本彭之助君田村新吉君
鵜澤總明君若尾謹之助君大谷尊由君
古都市十発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=81
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082・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十四、昭和三年勅令第百二十九號承諾ヲ求
ムル件、衆議院送付、會議、委員長報告
昭和三年勅令第百二十九號
右承諾スヘキモノナリト議決セリ依テ及報告候也
昭和四年三月十二日
右特別委員長
大島健
貴族院議長公爵德川家達殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=82
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083・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 大島健一君ノ登壇ヲ御望ミマス
〔大島健一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=83
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084・大島健一
○大島健一君 私ハ只今議題ニ上ボリマシタ昭和三年勅令第百二十九號治安
維持法ノ特別審査委員ニ於キマシテ審査イタシマシタル狀況ヲ御報告申上ゲ
Tv.本件ハ申ス迄モナク極刑ノ伴フ法律デアリマスノデ、委員會ハ去ル八
日、十一、十三日ノ三日間ニ亙リマシテ愼重周密ニ審査ヲ致シマシタ、政
府ノ說明ヲ聽キ、幾多ノ質問應答ヲ重ネマシテ周到ニ審査イタシマシタ、從テ
質問應答モ多種多樣ニ亙リマシテ、一々申上ゲマスコトハ多大ノ時間ヲ要ス
ルコトト思ヒマスルカラ、此間ニ現ハレマシタル委員諸君ノ意見ヲ綜合イタ
シマシテ御報告申上ゲルコトニ致シマス、細カイ事柄ハ速記錄ニ讓リマス、
唯審議ニ法律ノ性質トシマシテ祕密會ヲ開キ、若クハ速記ヲ止メタト云フヤ
ウナコトガ數度アリマシテ、御覽ニクウゴザイマセウガ、祕密書類ノ如キモノ
ハ政府ニモアリマスノデゴザイマスカラ、御覽ノ御便宜ハアラウト思ヒマス、
審議ノ要點ハ第一ハ改正法律案ノ內容、即チ主トシテ刑罰規定ノ改正デアリ
やく、第二ハ之ヲ緊急勅令ヲ以テ致シマシタル當否、此二ツデゴザイマス、
御承知ノ通リ大正十四年制定ノ治安維持法ニハ國體ヲ變革スルコトヲ目的ト
シタモノ、竝ニ私有財產制度ヲ否認スルモノヲ併セテ十年以下ノ懲役若クハ
禁錮ニ處スルコトニナッテ居リマスルノヲ、改正法ニ於キマシテハ國體ノ變革
ヲ目的ト致シマスル者ヲ分チマシテ、死刑又ハ無期、若クハ五年以上ノ有期懲
役若クハ禁錮ニ處スルコトニ改メマシタ、尙ホ此結社ニ加入イタシマセヌデ
モ結社ノ目的遂行ノ爲ニ有力ナル行爲ヲ爲シタル者ノアルノヲ認メマシテ之
ヲ法文ノ中ニ補足イタシマシテ、二年以上ノ有期刑ニ處スルコトニ致シタノ
デアリマス、委員會ハ先ヅ法ノ對象タル共產黨ノ主義主張、其實行計畫、行
動ノ跡、即チ時、狀況ト云フ行動ノ程度等ヲ詳カニスル必要ヲ認メマシテ、
政府ノ之ニ對スル所見ヲ聽キ、尙ホ其有スル所ノ報〓、牒報、調書、其他參
考トナルベキモノヲ開示セムコトヲ求メマシタ、尙ホ其中祕密ニ屬シマス分
モ或程度マデハ之ヲ閱覽イタシマシタ、是等ニ依リマシテ彼等國際共產黨、
或ハ第三「インターナシヨナル」乃至ハ「コムミユニスト·インターナシヨナ
ルト云フヤウナ字ヲ使ッテ居リマス、普通我〓ハ第三「インターナシヨナル」
ト云フコトヲヨク聞イテ居リマス、露西亞ニアリマス所ノ國際共產黨、其
國際共產黨ノ一社ト致シマシテ祕密結社ヲ作リ細胞ヲ設ケテ、我ガ下層ニ於
ケル大衆ノ共鳴ヲ得マシテ、日本帝國ニ於キマシテモ國體ヲ變革シ、結局ハ
勞農獨裁ノ政治組織ヲ樹立シヤウト云フ全國ニ亙ッテ祕密且ツ巧妙ニ不軌不
逞ノ行動ヲ致シテ居ッタ跡ガ能ク明カニナリマシタ、君民同祖世界無比ヲ誇ッ
テ居ル我〓同胞ノ間ニ斯カル不逞ノ徒ヲ多數出シマシタコトハ誠ニ痛嘆長大
息ノ至デアリマス、我國ニ於ケル共產黨ノ今日ニ至ル行動等ハ既ニ皆樣御承
知ノコトヽ存ジマス、唯一言イタシマスレバ大正十年頃ニ其頭角ヲ現ハシ、
十一年ニハ既ニ日本共產黨ト名ヅケタヤウナ組織ガ出來マシタガ、十二年ノ
六月ノ檢擧ニ依リマシテ一時屏息ハ致シマシタケレドモ、其殘黨ガ各所ニ各
種ノ行動、諸所ニ會合等ヲ致シマシテ、去ル大正十五年ノ十二月四日ニハ中心
人物ノ内十七名、幹部トモ云フベキ十七名ガ山形縣ノ五色溫泉ニ集リマシテ、
或會社ノ懇親會ト稱シテ、其所ニ日本共產黨ノ立黨式ヲ擧ゲマシテ、立黨ノ
宣言、組織、綱領、運動方法等ヲ議決イタシマシタ、尙ホ役員ノ選擧等ヲ終
リマシタ、越エテ昭和二年ノ四月、是等幹部ノ中七名ガ莫斯科ニ參リマシテ、
莫斯科ニ於ケル第三「インターナシヨナル」本部ニ前申ス宣言其他決定シマ
シタモノ、或ハ是迄ノ日本ノ共產黨ノ行動等ヲ報告イタシマシテ、批評ヲ乞
ヒ、意見ヲ求メタノデアリマス、此第三「インターナシヨナル」ノ本部ニ於
キマシテハ七月大會議ヲ開イテ、是等ノ書類、是迄ノ行動等ニ誤ノアルコト
ヲ指摘シテ、之ヲ是正シタル〓書ヲ與ヘテ、尙ホ將來是等ノ行動ノ方針トナ
ルベキモノヲ決メマシテ、之ヲ授ケタノデアリマス、是等ノ人〓ハ只今ノ綱
領方針ト云フヤウナモノヲ受取リマシテ、相前後シテ戾ッテ參リマシテ、茲ニ
更ニ日本共產黨、只今申ス第三「インターナシヨナル」ノ支社トナルベキ共
產黨ノ本部ヲ組織イタシマシテ、前申ス大會議ニ於テ是正サレタ新シイ方針、
授ケラレタル行動方針等ニ依リマシテ、中〓積極的ニ今度ハ活動ヲ始メマシ
テ、其結果トシテ昨年三月十五日ノ大檢擧ヲ見ルヤウニナリマシタ、此檢擧
ニ依ッテ縛ニ就キマシタ者ガ七百名有餘、其中五百名程モ起訴サレテ、大部分
旣ニ豫審ヲ終ッタ者ガアリマス、此檢擧ノ狀況ハ中一日ヲ隔テヽ莫斯科ニ聞エ
マシテ、莫斯科ニハ東洋勞働者共產大學ト云フヤウナモノガアリマシテ、其
處ニ日本カラ參ッテ居ル多數ノ留學生ガ居リマス、其中旣ニ三年程ノ科程ヲ終
リマシタ二十餘名ヲ日本ニ歸シマシテ、殘黨ト相携ヘテ結社ノ整理、行動ノ
復活ト云フヤウナコトヲ講ジマシテ、是等ノ者ガ前後シテ歸朝イタシマシテ、
昨年ノ大檢擧後モ續イテ各種ノ行動ヲ致シテ居ルノデアリマス、其中、今日
マデ縛ニ就キマシタ者ガ、七十八名モ居ルト云フコトデアリマスガ、尙ホ政
府ノ得タ情報ニ依リマスト云フト、數多殘ッテ居リマシテ、只今申ス學生ノ如
キモ十四名モマダ檢擧サレナイ狀況デアルト云フコトデアリマス、以上ガ〓
要デハアリマスガ、前申ス政府ノ所見ヲ叩キ、書類ニ依ッテ委員ニ於テ見マシ
タ所ノ〓要デアリマス、是ヨリ改正懲罰規定ニ付キマシテ委員會ノ意嚮ヲ申
上ゲマス、本會議ニ於キマシテ爲サレタ所ノ政府ノ說明、竝ニ特別委員會ニ
於テノ問題ニ現レマシタル當局ノ意見等ヲ〓括イタシマシテ、短簡ニ申上ゲ
タイト思ヒマス、我ガ國體ヲ變更スルト云フガ如キ行動ハ帝國ニ對シテ最モ
重大ナル犯罪デアルコトハ申ス迄モナイノデアリマス、是ハ決シテ我ガ刑法
所定ノ内亂罪ニ讓ルモノデハナイ、然ルニ治安維持法ニハ十年以下ノ有期刑
ヲ以テ之ニ臨ムコトニナッテ居リマス、是ハ如何ニモ權衡ヲ得ヌ規定デアリマ
シテ、一般國民ヲシテ事態ノ重大ナルヲ覺ッテ、自ラ戒メテ不逞ノ煽動誘惑等
ニ陷ラナイヤウニサセヤウトスルノニモ、又是等ノ不逞ノ徒ヲシテ反省セシ
ムルノニモ、又之ヲ懲罰イタシマスルノニモ、如何ニモ不十分ニシテ、法ノ
目的ヲ達スルコトガ出來ナイ、實際國體ノ變更ト申スガ如キ重大ナル犯行モ、
刑罰規定ガ輕クアリマス爲ニ一般ニ餘程輕キ事柄ノヤウニ心得マシテ、多數
ノ無識ノ徒ハウカ〓〓此不逞ノ煽動ニ乘ゼラレル、又煽動者ハ之ヲ利用イタ
シマシテ、所在ニ細胞組織ヲ擴ゲテ廣ク此不軌不逞ノ地盤ヲ開イタノデアリ
マス、之ニ依ッテ是ヲ見レバ治安維持法ノ刑罰規定ハ少クモ内亂罪ト等シイ嚴
刑ヲ以テスルコトガ必要デアル、之ガ約メマシタル所ノ政府ノ意見デアリマ
ス、尙ホ委員會ニ於キマシテハ、或ハ刑法七十七條內亂罪ヲ以テ之ヲ律ス
ルコトハ出來ヌカト云フヤウナ考慮モアリマシタ、併シ共產黨ノ主義、組
織行動ハ刑法ノ見テ居リマス所ノ直接行動、即チ暴力ヲ以テ······暴動ヲ以
テ其目的ヲ强行イタサウト云フモノトハ大イニ目的ヲ異ニシテ居リマシテ、
暴力ハ寧ロ最後ノ手段トシテ、祕密結社トカ、祕密行動、細胞組織等ニ依リ
マシテ、全國ニ幾多ノ機關ヲ置イテ、勞農階級ノ心ヲ動カシ、耳ニ入リ易イ
煽動ヲ······宣言ヲ以テ大衆ヲ獲得シ、遂ニ革命ノ素地ヲ造リ、目的ヲ達シヤウ
ト云フノデアッテ、アワヨク行ケバ刄ニ衂ラズシテ其目的ヲ達シヤウト思フテ
居ルノデアリマスカラ、之ヲ內亂罪ニ比シマスルト、餘程其性質ヲ異ニシテ居
ルノミナラズ、寧ロ甚ダ危險デアル、刑法ノ見タル内亂以上ニ危險デアルト
云フ議論ガ委員會ニモ亦多ウゴザイマシタ、元來暴動ハ一時的ニシテ、陽性
ニシテ、持久性ヲ缺イテ居リマス、之ニ反シテ共產黨ノ行動ハ、國民精神ノ
破壞ヲ主トシマシテ、陰性的ニシテ、永續性ヲ持ッテ居リマス、ソレ故ニ前兩
囘ノ大檢擧ヲ見マシテモガ、其後ニ直グ再興ヲ謀ル、是ハ破壞サレタル精神
ガ、所在ニ遺傳ヲシ、殘存ヲシテ居ルカラデアアリマセウ、是等ノ力ニ依ッテ、
是マデモ執拗ニ再興ノ行動ヲ續ケテ來タノデアリマス、是等ハ能ク前ノ書類
等ニ依リマシテ見得ルコトガ出來マシタ、是等ノ危險性ハ大正十四年ニ、最
初ノ治安維持法ヲ制定サレル頃ニ考ヘタ所ノ程度トハ、餘程其程度ヲ異ニシ
テ居リマスケレドモ、是ハ其當時ニハ十分分ラナカッタノデアリマセウガ、今
日ハ、殊ニ昨年ノ大檢擧ニ依リマシテ、各種ノ書類ノ押收、或ハ被害ノ供述
等ニ依リマシテ、餘程其眞相ガ明カニナリ、危險ナ程度モ確實ニ之ヲ認メ得
ルヤウニナリマシタ、故ニ政府ハ國體ヲ目的トスル行動ニ對シマシテハ、特
ニ刑罰ヲ重ウシテ、内亂罪ニ讓ラザル程度ノモノトスルト云フコトノ必要ヲ
認メマシタコトハ、委員會ニ於キマシテモ愼重ニ推敲吟味ヲシタ上ニ、是ハ
至當ノ意見デアルト云フコトニ何レモ決定ヲ致シマシタ、次ニ緊急勅令ヲ以
テ本法ヲ改正イタシマシタ點ニ付テ、委員會ノ意見ヲ申上ゲマス、前ニモ申
上ゲマシタヤウニ此大檢擧後政府ハ各種ノ證據書類或ハ調書其他ニ依ッテ、尙
ホ殘黨ノ各所ニ跳梁跋扈スル狀況ヲモ知ルコトヲ得、警戒、捜査、追捕等、之ニ
備フルハ勿論デアリマスガ、一方刑罰ヲ重ウシテ、一般ニ刺戟ヲ與ヘル必要
ヲ認メマシテ、御承知ノ通リ昨年ノ特別議會ニ改正案ヲ提出イタシマシタガ、
會期ガ短ウゴザイマシテ、審議未了ニ終リマシタ、然ルニ其後各方面ヨリ政
府ノ得タル所ノ情報、竝ニ益〓明カニナッテ參リマスル被〓ノ陳述等ニ依リマ
スルト、不軌ノ計畫、不逞ノ言動、勞働爭議ノ挑發、在外邦人ノ煽動、軍隊
內ニ向ッテスル軍人精神ノ攪亂ト云フヤウナコトガ、是等ハ一々委員ハ書類ニ
就テ能ク實見ヲ致シマシタガ、甚ダ惡辣ヲ極メマシテ、危險ナ狀態ノ益進ム
ノヲ認メ得ルヤウデアリマス、殊ニ昨年ノ秋ハ御承知ノ通リ專ラ靜肅ヲ旨ト
スベキ重大ナ時節ニ當ッテ居リマシタ、然ルニ彼等ハ之ニ對シテサヘモ各種ノ
宣傳ヲ致シテ居ル、不逞ノ言動ヲ執ッテ居ルト云フ有樣デアリマシタノデ、是
等ノ狀況ガ明瞭ニ分リマシタノデ、尋常ノ手段ヲ以テ時局ヲ保持スルコトノ
困難ナルヲ感ジテ、警戒ヲ嚴ニスルコトハ勿論、一方ニ於テハ緊急勅令ヲ以
テ、之ヲ改正スルト云フ決心ヲ致シタノデアリマス、此前後ノ狀態ヲ委員ニ
於テハ能ク吟味ヲ致シマシテ、政府ガ此時期ヲ事態切迫セリト見タト云フコ
トハ、無理カラヌコトデアルト云フノデ、委員會ニ於テハ之ヲ至當ノ處置ト
認メルコトニ一致イタシマシタ、緊急勅令ガ發布ニナリマシテ以來今日ニ至
ルマデ、共產黨員ノ縛ニ就キマシタ者ガ、前ニモ申シマシタヤウニ七十八名、
是ハ主ニ幹部デアリマス、其中二十九名ハ先ニ申シマシタ結社ニ加入イタシ
マセヌケレドモ、結社ノ目的遂行ノ爲ニ有力ナル行爲ヲ爲シタル者デアリマ
シテ、法文改正ノ爲ニ洩サズ之ヲ懲戒スルコトガ出來ルヤウニナッタノデゴザ
イマス、又懲罰規定ハ幾分彼等ニ衝動ヲ與ヘマシタ樣子デアリマシテ、彼等
仲間ノ相當名ヲ知ラレテ居ル者ガ由來共產黨ニ遠ザカラムトシテ、却ッテ黨員
ノ指彈ヲ招キ嫉、視ヲ受ケルト云ウヤウナ者モ若干アルヤウデアリマス、又彼
等ノ同盟ノ中ニモ······「スローガン」ト申シテ居リマスガ、ソンナヤウナモ
ノノ中ニモ治安維持法ノ廢止ヲ强調イタシテ居ルノモ瞥見イタシマシタ、デ
前述ノ改正ハ相當改化遷善ノ效果ヲモ收メ得テ居ルヤウニモ認メラレマス、
併ナガラ尙ホ縲紲ヲ免レテ盛ニ活動ヲ致シテ居ル者モ少クハアリマセヌノ
デ、今後益〓警戒ヲ嚴重ニシ、改正法律ト相俟ッテ是ガ防遏ニ努メムケレバナ
ラヌコトハ無論ノコトデアラウト思ハレマス、尙ホ委員會ハ獨リ刑罰規定ノ
改正ノミナラズ此種ノ犯行ノ防遏ニハ〓育ニ、訓戒ニ、綱紀、風紀ノ肅正、
社會政策ノ普及等ニ依リマシテ、國民精神ノ作興、危險思想ノ排除ト云フコ
トニ努ムルコトガ最モ切要デアラウト感ジマシテ、首相以下各省大臣其他ニ
向ヒマシテ、其抱負施設ヲ問ヒ、委員ノ希望ヲ述べ、終ニハ國際ノ事項ニ迄
仔細ニ論及ヲ致シマシタ、終ッテ討論ニ移リマシテ委員會ハ全會一致之ニ承諾
ヲ與フベキモノト決議ヲ致シマシタ、之ヲ以テ報告ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=84
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085・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ニ對シテ··
〔花井卓藏君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=85
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086・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 花井君ハドウ云フコトデス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=86
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087・花井卓藏
○花井卓藏君 質問デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=87
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088・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 通〓ガゴザイマスカラ、通告ガ濟ミマシテカラ願
ヒタウゴザイマス、本案ニ對シマシテハ通〓ガゴザイマスカラ、其順序ニ依
リマシテ質疑ノ發言ヲ許シマス、子爵大河內輝耕君
〔子爵大河內輝耕君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=88
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089・大河内輝耕
○子爵大河內輝耕君 私ノ質問イタシタイ點ハ三點ゴザイマス、第一點ハ司
法大臣ニ御尋ヲ致シマス、此問題ハ實ハ昨年モ鈴木內務大臣ニ御尋ヲ致シマ
シテ、能ク愼重ニ考慮ヲスルト云フ御話デアリマシタガ、此法案ニ現レテ參
リマセヌノデ、重ネテ此點ヲ御尋ヲ致スノデアリマス、ソレハ外デモゴザ
イマセヌ、此治安維持法ハ實行ト云フ程度ニ至リマセヌケレバ、治安維持法
ニ掛カッテ來ルコトガ出來ナイ、實行ノ程度ニ至リマセヌ、マダ程度ノ低イ
モノニ付キマシテハドウ云フ風ニ法律上御取締リガアルノカ、何カ之ニ付キ
マシテハ相當ナ立法ガ必要ト存ジマスルガ、此點ハ如何デゴザイマスカ、昨
年鈴木內務大臣モ此點ハ認メラレテ、愼重ニ考慮ヲシヤウト云フ御話デゴザ
イマシタ、私ノ考デハ今度緊急勅令ヲ出サレタニ付キマシテ、此緊急勅令竝
ニ只今私ノ申上ゲテ居ル點ナドハ併セテ治安維持法ノ改正案トナッテ、此議場
ニ現レテ來ルコトト存ジマシタ所ガ、單ニ緊急勅令ノ承諾案ニ止マリマシテ、
サウシテ此點ニ付テ何等御考慮ニナッタ形跡ガ見エナイノハドウ云フモノデ
ゴザイマスカ、政府ハ此點ニ付テ如何ニ御考ヘニナッテ居リマスカト云フコト
ヲ司法大臣ニ伺ヒタイ、第二ノ點ハ只今委員長カラノ御報〓ニ依リマスト云
フト、共產思想ノ傳播ガ中〓エライ勢ガアル、、内亂罪ヨリモモット重大ニ取扱
ハナケレバナラナイト云フヤウナ狀況デゴザイマス、是ハ內務大臣ニ御尋ヲ
致シタイ、斯ウ云フ共產主義トカ、或ハ又モット進ンデ國體ノ變革ナドト云フ
コトヲ企ラル者ハ、一種ノ是ハ精神病者ト見テ差支ナイ、斯ウ云フ一種ノ精神
病者ヲ良民ノ中ニ放ッテ置イテ、オマケニ是ハ傳染性ノ性質ヲ有ッテ居ルモノ
デ、放シテ置ケバ放シテ置クダケ社會ニ對スル害ハ愈、增シテ來テ、善良ナ分
子ガ是ガ爲ニ感化ヲ受ケルト云フコトハ免レナイコトデハアリマスマイカ、
斯ウ云フモノニ對シテ何カ相當豫防ノ方法デモゴザイマスマイカ、私ハ何モ
斯ウ云フ人〓ニ對シテ彈壓ヲ加ヘヤウトカ、迫害ヲ加ヘヤウトカ云フヤウナ
コトヲ申スノデハナイ、其思想ハ誠ニ憎ムベキモノデアリマスルガ、其人ヲ
何モ迫害スルバカリデ宜イト云フモノデハナイ、唯社會ニ對スル危險性ヲ除
キ得レバソレデ差支ナイコトト存ジマスルガ、之ニ對シテ內務大臣ハ何カ御
考デモゴザイマスマイカ、御意見ガゴザイマスナラバ御洩シヲ願ヒタイ、第
三點ハ、此共產運動ト···少シ甚ダ申シニクイ言葉ヲ使ヒマスガ、已ムヲ得
マセヌ、現在此貴衆兩院ニ現レテ居リマス政黨政派トノ關係如何ト言ヘバ、
斯ウ云フコトハ旣成······現在現レテ居ル所ノ政黨政派ト此共產思想トハ何等
ノ關係ハナイト私ハ確信イタシテ居ル、確信ヲ致シテ居リマスガ世間往々誤
解ヲ傳ヘルモノガアリマシテ、先日ノヤウニ山本代議士ニ對スル兒行ナント
云フモノハ其誤解ノ結果行ハレル、此點ハ十分ニ明カニシテ置カナケレバナ
ラヌ、我〓將來勞働運動或ハ庶民運動ニ對スル所ノ態度カラ言ッテモ、是非共
此點ハ明カニシテ置ク必要ガアルト存ジジマス、此共產主義ハ、穩健ナ社會
政策、或ハ勞働運動、斯ウ云フモノト混同セラレルコトハ、誠ニ健全ナ勞働
運動者ニ取ッテ、是程迷惑ナコトハナイ、少シク庶民階級ノ爲メヲ圖レバ、直
ニ是ハ共產主義ト云フヤウナ誤解ヲ蒙ル虞ガアル、此點ハ甚ダ申シニクイコ
トデゴザイマスルガ、當局者カラ明確ナ御辯明ヲ得テ置キタイ、併シ是ハ事
實ニ關スルコトデアリマスカラ、政府ヲ代表シテノ御答デアリマスレバ警
保局長カラ御答ヲ得テ差支ナイコトデアリマス、以上三點ニ付キマシテ政府
ノ御答ヲ煩シマス
〔國務大臣原嘉道君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=89
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090・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 大河內子爵ノマダ實行ノ域ニ至ラナイモノモ、ドウ
トカ云フ方法デ、刑事法デ取締ル必要ナキカト云フ御話ハ、只今仰セノ通リ、
昨年モ御質問ガアリマシタノデ、治安維持法ノ改正案ヲ拵ヘマスルニ當リマ
シテ、更ニ話合ヲシテ見タノデアリマスガ、刑事法ト致シマシテハ、矢張リ
實行ト云フ所マデ參リマセヌト云フト之ヲ取締ルト云フコトハ餘程困難デア
ラウ、學說トシテ單ニ發表スルト云フヤウナモノハ出版法デ取締ルト云フコ
トハ致シマスルガ、又他人ニ意見ヲ言フト云フヤウナ程度ノモノハドウモ之
ヲ取締ルコトハ刑事法ヲ以テスルノハ如何デゴザイマセウカ、此目的ヲ實行
スル爲ニ、二人以上協議ヲ致シマスルトカ、或ハ其目的ノ實行ノ爲ニ他人ヲ
煽動スルトカ致シマスレバ、治安維持法ノ第二條以下デ處罰スルコトニナッテ
居リマスコトハ、大河內子爵ノ仰セノ通リデアリマス、旣ニ實行ト云フコト
ニ付テ二人以上ノ間ニ協議ヲスルトカ、或ハ一人ガ他人ヲ煽動スルトカ云フ
コトデアリマスルト、刑事法ニ依ッテ取締ルノ必要アルト云フコトハ是ハ何
人モ疑ヲ容レナイノデアリマスガ、單ニサウ云フ意見ヲ述ベタトカ、或ハ何
カニサウ云フコトヲ書イタト云フダケデハ、刑事法デ以テ取締ルコトハ如何
ナモノデアラウカト云フコトデ、遂ニ之ヲ設ケマセナカッタ次第デアリマス、
尤モ文書ニ書キマシタ中ニハ不敬ニ亙ル程度ニ達シタモノハ、御承知ノ通リ
不敬罪デ處罰サレルコトハ勿論デアリマス、文書ニ書イタモノデ不敬罪ニモ
當ラヌト云フヤウナ程度ノモノデアリマスルト云フト、之ヲ刑事法デ取締ル
ト云フコトハ如何ナモノデアラウカト云フコトデ、遂ニ法案中ニ之ヲ揭ゲナ
カッタ次第デアリマス、ソレダケ申上ゲテ置キマス
國務大臣望月圭介君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=90
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091・望月圭介
○國務大臣(望月圭介君) 大河內子爵ノ御尋ニ御答ヘ申上ゲマスガ、共產主
義或ハ無政府主義、是等ノ、彼ノ間違ッタ思想ニ驅ラレテ居ル人〓へ對シテ、或
ハ之ヲ豫防シ、防止スルニ付テハ、政府ハドウ云フ考ヲ有ッテ居ルカ、斯ウ云
フ御尋ト心得ルノデアリマスガ、斯ノ如キ心得ノ違ッタ者ノ我〓同胞ノ中ニア
ルト云フコトハ、御同樣誠ニ慨歎ノ至ニ堪ヘヌノデアリマス、併シ等シク帝
國ノ臣民トシテ我〓ノ同胞トシテアル以上ハ、之ニ付テ出來得ル限リノ力ヲ
盡シテ、斯樣ナ惡思想ニ驅ラレテ居ル者ヲ防止又ハ剪除シナケレバナラヌコ
トハ、是ハ申上ゲル迄モアリマセヌ、併シ之ニ付キマシテハ第一ニ力ヲ盡サ
ネバナラヌト云フコトハ、〓育ト云フコトノ方面ニ最モ力ヲ注ガネバナラヌ
カト思フノデアリマス、又社會政策ノ方面ヨリモ力ヲ致サナケレバナリマセ
ヌ、是等ニ對シテハ反省ヲセシメ、改心ヲセシメ子爵ノ仰セニナッタガ如ク
ニ、世間ノ言フ言葉デ申シマスレバ、彈壓ト云フコトヲ以テ臨ンデカラ是ガ
行クモノデハナイト思ヒマス、上下心ヲ一ツニシテ。斯樣ナ心得違ヒノ者ノナ
カラシムベク、〓育ノ方面ヨリ、社會政策ノ方面ヨリ、又斯ノ如キ者ニ對シ
テハ世間ノ力アリ信用ノアル先覺者ガ反省ヲセシメ、改心ヲセシムルト云フ
コトニ努メレバ、私ハ此防止、此剪除ト云フモノハ是ハ出來ルモノナリト
私ハ信ジテ居ルノデアリマス、今日マデモ其方面ニ付キマシテハ出來得ルダ
ケノ注意ヲシ力ヲ致シテ居ル積リデアリマケレドモ、是ハ上下一致ノ心ヲ以
テ、先程申シマス通リニ、〓育ノ方面ヨリ、社會政策ノ方面ヨリ、其他有ユ
ル力ヲ以テ臨ミタイト云フコトノ考ヲ持ッテ居ル次第デアリマス
〔政府委員橫山助成君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=91
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092・横山助成
○政府委員(橫山助成君) 日本共產黨ト政黨ノ關係ニ付キマシテ私カラ御答
へ申上ゲタイト思ヒマス、祕密結社日本共產黨ト所謂旣成政黨トノ間ニ於キ
マシテハ、勿論何等ノ關係モ、聯絡ノ關係ノアルコトハ信ジラレナイシ、又
サウ云フ疑ヲ持ツベキ事實モ、政府トシテハ、認メテ居リマセヌノデアリマ
ス、唯昨年五月ニ公安秩序ヲ害スル虞アリトシテ解散セラレマシタ勞働農民
黨ニ於テハ、或特殊ノ關係ヲ有シタル事實ガ發見サレテ居リマス、ソレデ祕
密結社日本共產黨ガ自分ノ黨員ヲ勞働農民黨ノ中ニ派出ヲ致シマシテ、彼等
ノ用語ニ從ヒマスルト「フラクシヨン」トカ分派トカ申シテ居リマスガ其
分派ノ力ヲ以テ分派ヲ通ジテ、勞働農民黨ノ間ニ一ツノ影響ヲ與ヘ、日本共產
黨ノ目的トスルコトヲ勞働農民黨ヲシテ行ハシムルコトヲ努力イタシタ其結
果、各種ノ方面ニ於キマシテ、共產黨ノ目的トスル所、主張トスル所ガ、勞
働農民黨ヲ通ジテ行ハレタル事實ガ相當顯著ナ事實ガアリマシテ、其結果昨
年五月ニ解散ヲ命ジマシタノデアリマス、此關係カラ致シマスルト、日本共
產黨ト勞働農民黨ハ大キナ關係ヲ有ッテ居ルコトト見ルベキモノト考ヘテ居
リマスルガ、併ナガラ勞働農民黨其自體、政黨ソレ自體ガ、勞働農民黨ノ主
領幹部ノ者ガ意識ヲ致シマシテ共產黨ト聯絡行動ヲ行ッタト云フ證跡ハ有チ
マセヌノデアリマス、從テ共產黨ノ方ガ勞働農民黨ヲ有力ニ利用イタシタコ
トハ認メマスルガ、勞働農民黨ノ幹部竝ニ黨ト致シマシテ共產黨ト意識イタ
シマシテ行動シタト云フ實際ノ證據ハ有チマセヌノデアリマス、大體其關係
ヲ御答ヘ致シマス
〔男爵井上〓純君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=92
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093・井上清純
○男爵井上〓純君 私ノ質問ハ內閣總理大臣ニ對スルモノデアリマス、僅一
一點デアリマスルガ、内閣ノ全般ノ御方針ヲ示ス問題デアラウカト考ヘマシ
テ、總理大臣ノ御辯明ヲ煩ス次第デアリマス、此事後承諾案ハ極刑ヲ科スル
點ニ於キマシテモ、又政府ヲシテ此勅令ヲ發布セシメルニ至ッタ道程ニ見マシ
テモ、近來ノ最モ重大ナル法案デアリ、最モ深刻ノモノデアルト考ヘマス次
第デアリマス、實ニ三千年來我ガ祖先ガ肝血ヲ地ニ投ジテ養ヒ來ッタ所ノ我ガ
美シイ所ノ大和魂ヲ腐蝕セシメ、丁度白蟻ガ大殿堂ノ基礎ヲ腐蝕セシムル如
ク腐蝕セシメ、延イテハ我ガ民族ノ中心生命デアリ道ノ起原デアリ眞善美ノ
權化トモ云フベキ國體、殊ニ世界文化ノ華デアルトマデニ私共ハ信ジテ居ル
所ノ我ガ國體ヲ破壞セムトスル所ノ今古未曾有ノ組織的大規模ノ思想運動ヲ
阻止シ處斷セムトスル法律ノ改正デアルカラデアリマス、而シテ我ガ國情ヲ
大觀シマシタナラバ、內ニハ幾多ノ社會的缺陷ガアルト云フコトハ之ヲ見遁
ス譯ニ參リマセヌ、外ニハ恐ルベキ外魔ガ跳躍ヲ擅ニシテ居リマス、而モ我ガ
靑年學徒ノ間ニハ誤レル世界的經濟思想ガ感染シマシテ、軈テ哲學的、宗〓
的信念ニ恐ルベキ內魔ガ隨所ニ發生シテ居ル現狀デアリマス、固ヨリ我ガ國
體ハ、此一大試鍊ニ際會シマシテ、新シイ所ノ光輝ヲ發揮スルコトハ信ジテ
疑ハナイノデアリマス、併ナガラ其內閣ト云フモノガ基デアリマスカラ、其內
閣ノ現狀如何ト云フコトハ考ヘマセヌ譯ニ參リマセヌ、言フテ見マスルト
潛航式塹壕戰トモ申シマスカ、或ハ毒瓦斯ノ戰ト申スヤウナ、目ニ見エナイ
所ノ戰ガ始マッテ居ルト見ナケレバナラナイ、即チ內治ニ於テモ外交ニ於テモ
公明ナル內閣デナケレバナラヌノデアリマス、又〓養アリ進步的思想ヲ有ス
ル內閣デナケレバナラナイノデアリマス、又金權ト權力トニ超越シテ道德的
良心ノ最モ旺盛ナル内閣デナケレバナラナイノデアリマス、威望ト信用ト殊
ニ責任觀念ノ旺盛ナル內閣デナケレバナラナイノデアリマス、更ニ日本國家
ノ理想信念ニ透徹セル所ノ信念ヲ有スル內閣デナケレバ、大キナ問題ヲ處置
スルコトハ不可能デアルト私ハ考ヘルノデアリマス、併ナガラ斯カルコトヲ
考ヘマスト質疑ハ多岐多樣ニ湧イテ參リマス、併ナガラ只今ハ其時機デナイ
ト考ヘマスルカラ、只形式手續ダケニ關シマシテ、總理ノ御辯明ヲ得タイト思
フノデアリマス、凡ソ人ノ親トシテ不肖不逞ノ子ヲ持ツ程不仕合ノコトハナ
イノデアリマス、其慈シムベキ子供ニ嚴刑ヲ加ヘル所ノ法律ノ制定ヲシナケ
レバナラヌト云フコトハ更ニ人生ノ痛恨事デアルト申サナケレバナリマセ
ヌ、承ル所ニ依リマスレバ死刑ヲ科スル所ノ緊急勅令ハ明治三十七年十月二
十二日發布露國ノ俘虜ニ對スル先例アルノミト申スコトデアリマス、政府ハ
憲法第八條ニ則ッテ此形式ヲ取ラレタト云フコトデアリマスガ、此ヤウナ深刻
ナ意味ヲ含ンダ法案、忌ムベキ法案ハ立法ノ常道ニ依ッテ其目的ヲ達シタカッ
タノデアリマス、法理的解釋ハ同ジモノダト云フ御說明ニナルカモ知レマセ
ヌガ、國民ガ受ケル感ジト云フモノハ非常ニ違フノデアリマス、君臣水魚ノ
關係ニアル所ノ我國ニ於テハ、斯カル人心ノ機微ニ觸レル事柄ハ最モ愼重ニ
考慮シテ取扱ッテ戴キタイノデアリマス、私仄ニ承ル所ニ依リマスレバ、當
時容易ニ御裁可ガ下ラナカッタト云フコトデアリマス、三度內閣カラ御下ゲヲ
御願ヒ申上ゲタト云フコトヲ承ッテ居リマス、此一事ハ日本國民トシテ感激ノ
涙ナクシテハ拜承ハ出來ナイ事柄デアルト考ヘマス、內閣總理大臣ニ於カレ
テモ固ヨリ深思熟考遊バサレタ結果ト信ジテ居リマスルガ、何故ニ當時四月
五月ニ亙ッタ所ノ議會ヲモ少シ延長遊バサレナカッタノデアラウカ、確カ衆議
院ニ上程サレタノガ四月二十八日ト承ッテ居リマス、爾來停會二度モ續キマシ
テ、眞ニ審議ヲスル時期ト云フモノハ僅ニ二三日ヲ剩スノミデアッタ、斯ノ如
キ短時日ニ於テ、此重要法案ヲ論議シ盡サレルコトノ出來ナイコトハ明カナ
コトデアリマシタ、政府ハ何故ニ其時ニ會期ヲ延長遊バサレナカッタノデアリ
マセウカ、尙ホ延長サレルコトノ出來ナイ理由ガアッタナラバ、六月······此間
ノ前文相ノ水野氏ノ言明サレル所ニ依リマスト、六月二日カ三日ニ其事ガ〓
議ニ上ボッタト云フコトデアリマス、サウシテ之ヲ緊急勅令トシテ發布サレタ
ノガ六月ノ二十九日ト云フコトデアリマスカラ、此間ニ長イ······十分ニ議會
ヲ開クベキダケノ餘裕ガアッタコトト考ヘマス、サウシテ何故ニ私共ニ此重大
ナ法案ヲ愼重審議スル所ノ機會ヲ御與ヘ下サラナカッタノデアリマセウカ、此
事ニ付テハ今委員長カラ御報告モアリマシタシ、原司法大臣ハ十箇條ノ條件
ヲ擧ゲテ說明シテ居ラレマス、私ハ一モ此事ニ付テハ滿足ヲ感ジマセヌケレ
ドモ、暫ク今日ハ是ハ時間ノ關係上、同ジ事ヲ伺フヤウナコトニナリマスル
カラ此事ハ止メマシテ、此一事ダケヲ總理大臣ニ伺ヒタイ、ソレハ斯カル國
民ノ生命ニモ關スル所ノ重大法案ノ改正ハ、勅令ニ依ル方ガ御宜シイノデア
リマセウカ、或ハ法律ニ依ラレタ方ガ可ナリト感ゼラレルカ、勅令ガ可ナリ
ヤ法律ガ可ナリヤト云フコトダケニ對シテ、總理大臣ノ御明答ヲ煩サントス
ルモノデアリマス
國務大臣男爵田中義一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=93
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094・田中義一
○國務大臣(男爵田中義一君) 只今井上男爵ノ御尋ニ對シテ御答ヲ致スノデ
アリマス、議會ガ開會中デアリマスレバ無論法律ニ依ラナクテハナラヌコト
デアリマス、議會閉會中デアリマスルガ故ニ、法律ニ代ルニ緊急勅令ヲ以テ
セラレタ所以デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=94
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095・井上清純
○男爵井上〓純君 此緊急勅令ニ承認ヲ與ヘルコトニナリマシタナラバ、同
ジ內容デ以テ、形式ハ法律デヤル御考ハナイノデアリマセウカ、モウ一言御
辯明ヲ待ツノデアリマス
〔國務大臣男爵田中義一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=95
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096・田中義一
○國務大臣(男爵田中義一君) 此御承諾ヲ得レバ、則チソレガ法律トナルノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=96
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097・井上清純
○男爵井上〓純君 斯カル國民ノ精神ニ關係スル重大問題ヲ、法律一點ヅク
デ以テ御考ヘニナルコトハ、我〓ノ尊敬スル內閣總理大臣トシテ、私ノ取ラ
ナイ所デアリマス、今ヤ思想ノ戰ハ、先程申上ゲルヤウニ非常ニ深刻ニ進ン
デ居リマス、此際ニ於テ上司ノ執ラレル所ノ態度ト云フモノハ、國民全般ニ
及ボス所ノ影響甚大ナルモノガアルト考ヘマス、ドウカ此事ハ今御卽答ナサ
ラヌデモ宜シウゴザイマスカラ、モウ少シ御考ヲ爲サレテ、御相談ヲ爲サレ
テ、承諾後ニ此形式ヲ法律ニ御直シニナル方ガ宜カラウト思フ、何故カト云
フト、永遠ニ此法律ノ上ニ勅令ナニガシト云フモノガ遺ルカラデアリマス、
嫌ナ問題ガ殘ルカラデアリマス、斯ウ云フ一投足ノ勞ト云フモノハ何モ避ケ
ル必要ハナカラウト考ヘマス、更ニ總理大臣ノ御勘考ヲ煩シ私ノ質問ヲ打切
ラントスルモノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=97
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098・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 花井卓藏君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=98
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099・花井卓藏
○花井卓藏君 簡單デゴザイマスカラ此席デ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=99
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100・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=100
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101・花井卓藏
○花井卓藏君 委員長ノ報告ヲ承リマシテ、若シ私ノ質問セントスル事項ガ
委員會デ現レテ居ッタコトデゴザリマスルナラバ、ソレニ依ッテ了解ヲセント
考ヘテ居ッタノデゴザイマスルガ、御報告中ニゴザイマセヌカラ三點伺ヒタイ
ノデアリマス、第一緊急勅令ヲ以テ法律ヲ改正シタル事例アリヤ、第二緊急
勅令ニ對スル私ノ最モ喜ブベキ一ノ實例ガアル、即チ明治三十八年、或ハ三
十九年デアタッカ存ジマセヌガ何レカデアリマス、只今井上男爵ノ御引用ニ
ナッタノモ其一ツノ例デアリマス、二ツノ緊急勅令ガ出マシテ、其一ハ俘虜刑
罰ニ關スル件、是ガ所謂死刑ノ附イテ居ル方ノ緊急勅令デス、今一ツハ外國ニ
於テ流通スル貨幣云々ニ關スル件、是ハ法律ノ名デアリマス、是ガ衆議院ニ現
レマシタ際議會ハ、承諾ハ與ヘマシタ、併ナガラ現ニ議會ガ開カレテ居ルノデ
アルカラ、直ニ法律ヲ制定スベキ權能ハアルノデゴザリマスルカラ、衆議院ハ
同樣ナル法律案ヲ出シマシタ、而シテ我〓ハ一方ニ於テ緊急勅令ニ承諾ヲ與
ヘテ政府ノ責任ヲ解除シ、一方ニ於テ立法府ノ權能ヲ發揮シテ法律ヲ提出イ
タシマシタ、而シテ緊急勅令ヲ此法律ヲ以テ廢止シタト云フ實例ガアルノデ
アリマス、此道ガ步ミタイノデアリマス、併ナガラ治安維持法ニ關シテハ、尙
ホ別段ニ調査考量ヲ要スル事項モアルデアリマセウ、又刑法關係ニ於テ之ヲ
刑法中ニ併セテ編ムベキヤ否ヤト云フコトニ付キマシテモ調査考量ヲ要スル
事項ガアルデアリマセウ、ソレ故ニ政府ハ同時ニ此案ヲ提出セラレナイコト
デアラウト思フノデアリマス、私モ亦此道ヲ步ミタイノデゴザイマスルガ、
玆ニ尙ホ〓究ヲ要スベキ點ガ殘ッテ居リマスカラ、此道ヲ步ムコトヲ避ケタノ
デアリマス、併ナガラ歸スベキ所ニハ歸セネバナラヌ、立法ノ常道ニ基イテ
完全ニ法律トシテ力ノアルモノヲ作ルベキガ當然デアルノデアリマス、政府
ハ此案ノ承諾ヲ得タル後ニ於テ、之ヲ或機會ニ、併ナガラ出來ル限リ速ニ、
立法ノ常道タル法律トシテ議會ニ提出スル意思ノアルモノデアラウト私ハ信
ズルノデアリマスルガ、現ニ刑法改正ノ議ナドモアルノデアリマスルカラシ
テ、將來ノ爲ニ將來ノ爲デハナイ參考ノ爲ニ之ヲ承ッテ置キタイノデア
リマス、私ハ此案ニハ勿論承諾ヲ與ヘルノデアリマス、唯只今ノ二ツノ點ニ
付キマシテ深ク我〓ガ緊急勅令ノ取扱ノ上ニ於テ考ヘヌケレバナラヌ點ト心
得マスカラ、此點ヲ御尋ネスル次第デアリマス、第三點ハ此緊急勅令ノ事後
承諾ヲ求メラレル理由書デアリマス、此理由書ガ甚ダ我ガ意ヲ得テ居ルノデ
ス、私ハ當院ニ於キマシテモ衆議院ニ於キマシテモ、緊急勅令ニ關スル責任
觀念ト云フモノガ如何ニモ曖昧デアルト云フコトヲ痛感シタコトガアルノデ
アリマス、責任解除ノ主義デアルカ、或ハ法律力ヲ將來ニ持續スル主義デア
ルカ、或ハ此二ツノモノヲ兼ネタルモノデアルカ、從來內閣ノ取リ來リタル
所ノモノハ、法律效力持續主義ニ決メテ居ッタノデアリマスルガ、殆ド例ノ如
クニ揭ゲラレテ居ッタノデアリマスルガ、此度ノハ文章ノ上ニハッキリ現レテ
ハアリマセヌガ、部分的ニ責任解除ヲ求ムル趣旨デアルカノ如クニモ感ゼラ
レルノデアリマス、此點ノ趣意ヲ承リタイノデアリマス、私ハ憲法第八條ノ
要求スル要件ハ備ヘテ居ル緊急勅令ト信ジマスカラ、勿論承諾ヲ與フル一人
デアリマス、唯此三ツノ問題ハ此場合ニ於テ解決シテ置キタイト思ヒマスル
カラシテ、願クハ内閣總理大臣ナリ小川鐵道大臣、又司法大臣何レモ國務大
臣デアリマスカラ、互ニ責任ヲ負ハレテ居ルノデアリマスカラ、ドナタデモ
宜シイノデアリマス、尙ホ添ヘテ申シテ置キマスガ、曾テ衆議院ニ於テ法律
トシテ俘虜刑罰ニ關スル件、外國ニ於テ流通スル貨幣云々ニ關スル件ハ、私
ガ提案シタノデアリマスガ、小川鐵道大臣ハ最モ熱心ナル賛成者デ、明カニ
署名セラレテアルト思ヒマス、或ハ私ト同時ニ提出者ニナッテ居ラレタカト
云フコトヲ朧氣ナガラ覺エテ居リマス、同君ノ御意見ナドハ私ハ大イニ參考
ニナルコトデアルト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=101
-
102・大島健一
○大島健一君 只今ノ花井君ノ御質問ニ對シテ委員長トシテ一言申シテ置キ
タイ、ソレカラ後トハ御希望デ御述ヲ願ヒタイト思ヒマスガ·発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=102
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103・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 大島君ハ御立チニナッテ御發言ヲ願ヒマス、御著席
ノ儘デハ困リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=103
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104・大島健一
○大島健一君 宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=104
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105・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) サウ致シマスト大島君ハドウ云フコトデスカ、委
員長トシテ、委員長ノ報〓··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=105
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106・大島健一
○大島健一君 委員長ノ報〓ノコトニ付テ言ヒ及バレマシタカラ一言委員長
ハ申シテ置ク義務ガアルト思ッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=106
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107・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御登壇ヲ願ヒマス
國務大臣原嘉道君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=107
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108・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 只今大島君ニ發言ヲ許シマシタカラ其後トデ願ヒ
マセウ
〔大島健一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=108
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109・大島健一
○大島健一君 只今花井君ノ御質問ノ中ニ含マレマシタル件ハ委員會ニ於テ
モ反復サレタルコトデアリマス、サリナガラ前申シマシタ如ク、此法律ハ懲
罰規定、ソレニ添フ僅カナ文句ガ改正ノ意味ニナリマスノト、緊急勅令ヲ以テ
シタト云フコトノ、時、狀況ニ對スル適否如何、此問題デアリマシタカラ、主
モニソレニ觸レタルコトヲ以テ御答ヲ致シテ置キマシタガ、委員會ニ於テハ
今御質問ニナリマシタ第一、第二ノ點ハ委員諸君カラ質問ガアリマシタカラ
其質問ノ〓略ヲ私カラ申上ゲテ置キマス、例ノ此緊急勅令ヲ以テ極刑ヲ伴フ
法律ヲ出ス、若クハ改正シタコトアリヤ否ヤ、私ハ此問題ハ、改正デアリマ
セヌ、出シタコトアリヤ否ヤデアリマス、其例ガアッタカドウカト云フコト
ハ、是ハ質問ガアリマシタガ、例ノ有無ガ必シモ此問題ノ可否ヲ定ムベキモ
ノデナイト見マシタカラ、私ハ玆デ御報告ハシナカッタノデゴザイマス、折角
委員諸君カラハ其質問ガアッタノデゴザイマスカラ、ソレヲ私ハ申述べテ置ク
迄デアリマス、ソレカラ次ニ此法律ハ刑法ニ這入ルモノナリヤ否ヤ、其中ニ
ハ多分此花井君ノ御質問ニナッタ緊急勅令トシテハ玆ニ承諾ヲ與ヘルケレド
モ、其後ノ政府ノ處置ヲ望マレタル質問モアッタカモ知ラヌト私ハ思フノデア
リマス、併シ此刑法ノ他日改正ノアル際ニハ此法律ハ刑法ノ中ニ入レラレル
モノデアラウ、斯ウ云フ見込ト云フコトデ宜シウゴザイマセウ、司法大臣カ
ラハ話ガアリマシタ、デ私ハ之ヲ大正十一年頃作ル時分カラサウ云フ考ヲ有ッ
テ居リマシタカラ、ソレハ何レ他日ナサルベキコトデアラウ、然ルベキコト
デアラウト考ヘテ、其以上私モ質問ヲ致サズ、委員カラモ質問ガゴザイマセ
ヌケレドモ、私略シマシタノハ此問題ヲ決メルニ直接ニ影響ガナイト云フノ
デ私ハ略シタノデゴザイマスカラ、委員諸君カラ折角御質問ノアッタノガ省カ
レテ居ッタノデアリマスカラシテ、ソレダケヲ申シテ置キマス、ソレ以上ハ然
ルベク當局へ御問ヒヲ願ヒマス
〔花井卓藏君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=109
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110・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 今原國務大臣ガ特ニ答辯ヲサレル所デゴザイマス
カラ、其後トデ願ヒタイ、原國務大臣
〔國務大臣原嘉道君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=110
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111・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 花井君ノ御質問ノ第一緊急勅令ヲ以テ法律ヲ改正シ
タル事例アリヤト云フ御問ニ對シマシテハ、明治三十一年勅令百七十號、同
ク三十二年勅令第三百七十七號、同ク三十七年勅令第二百十二號、是ガ何レモ
緊急勅令ヲ以テ法律ヲ改正シタル事例デアルサウデアリマス、第二ノ御質問
ノ緊急勅令ノ內容ヲ速ニ法律ニ變更スル意アリヤト云フ問ニ對シマシテハ、
只今委員長カラ御答モアリマシタ通リ花井君ガ現ニ御關係ニナッテ居ル刑法
ノ改正ガ旣ニ著手セラレテ居ルノデアリマシテ、近キ將來ニ必ズ此成案ヲ得
ルコトト信ジテ居リマス、此機會ニハ必ズ治安維持法ノ內容モ刑法ノ內容ト
ナッテ現レルデアラウト云フコトヲ考ヘテ居リマス、若シ刑法改正ガ非常ニ遲
レマスルヤウデアリマシタナラバ、花井君ノ只今ノ御主張ニ基キマシテ更ニ
考慮スルコトニ致シタイト考ヘマス、第三ノ緊急勅令ニ對シテ議會ノ承諾ヲ
求ムルノハ、單ニ將來ニ效力ヲ存續セシムル爲ノミデアルカ、或ハ政府ガ緊
急勅令ヲ發布シタ責任解除ノ意味ヲモ含ムヤト云フ御尋デアリマシタガ、之
ニ對シマシテハ責任解除ト云フ言葉ガ當ルカ否カハ知リマセヌガ、政府ニ於
キマシテハ緊急勅令發布ノ必要ガアッタト云フ事由ガ、矢張リ帝國議會ノ承諾
ヲ求ムル理由ト相成ルモノト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=111
-
112・花井卓藏
○花井卓藏君 此處デ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=112
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113・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=113
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114・花井卓藏
○花井卓藏君 司法大臣ノ答辯ノ前ニ私ガ立チマシタ所以ハ大島委員長ノ報
告ノ補充ニ對シテ、尙ホ質問ヲシタイカラデアッタノデアリマス、併ナガラ是
ハ省キマス、只今原司法大臣ノ答辯ニ依リマシテ、實ハ初メテ承知ヲ致シタ
ノデアリマスガ、成程明治三十八年ノ際ニハ大ナル緊急勅令モ出テ居リマス
ルカラ、小サイモノデ或ハアッタカモ知レマセヌガ、ソレハ一體ドンナモノデ
アリマセウカ、ソレヲ一ツ伺ヒタイ、如何ナル······如何ナル名稱ノモノデアッ
テ、其ノ處罰スベキ行爲ハ如何ナル性質ノモノデアッテ、而モ其刑罰ハ如何ナ
ル程度ノモノデアルカト云フコトヲ承知シタイ、私ノ御尋ネシタノハ
御尋ヲスル趣旨ハ緊急勅令ヲ以テ、此度提案セラレタルガ如キ法律ヲ改正シ
タル實例アリヤ、斯ウ云フ問デアリマス、故ニ其點ニ對スル御答ハ、三ツ勅
令ヲ御示シニナリマシタモノノ名稱、內容等ヲ詳細ニ御說明ヲ願ヒタイノデ
アリマス
〔國務大臣原嘉道君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=114
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115・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 先刻ノ花井君ノ御問ハ緊急勅令ヲ以テ法律ヲ改正シ
タル事例アリヤト云フコトデアッタト考ヘマシタノデ、緊急勅令ヲ以テ法律ヲ
改正シタ事例ヲ申上ゲタノデアリマスルガ、只今ノ御質問ハ更ニ刑罰法規ガ
法律デ定メテアル場合ニ、緊急勅令ヲ以テ改正シタ事例ガドンナモノデアル
カ、斯ウ云フ御問デアルノデアリマス、ソレハ明治三十一年ノ勅令第百七十
號モ、同ク三十二年ノ勅令第三百七十七號モ共ニ選舉ノ罰則ニ關スルモノデ
アリマシテ、何レモ從前ヨリ刑ヲ重クシテ居ルノデアリマス、併シ是ハ中〓
內容ガ長イノデアリマスカラ、今直ニ玆ニ申上ゲルノハ少シ時間ヲ費スヤウ
ニ存ジマスノデ御必要ナラバ御手許ニ差出シテモ宜シイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=115
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116・花井卓藏
○花井卓藏君 ソレデ安心イタシマシタ、只今御引例ニナリマシタ勅令ナラ
バ、私ガ實際其案ニ關係シタコトヲ覺エテ居リマス、併シ是ハ例ニハナラナ
イ、是ハ例ニハナラナイ、是ハ衆議院ニ於テ滿場一致ヲ以テ承諾ヲ與ヘザル
コトニ決定セラレタル所ノモノデアリマスカラ、例アリヤ否ヤト云フ問ノ答
トシテハ、例ハアル、併ナガラ帝國議會ニ於テ滿場一致否決セラレタルモノ
デアルト云フコトガ附加セラレヌケレバナラヌモノデアル、ソレヲ參考ニ申
上ゲテ置キマス、然ラバ即チ結局例ハ無イノデアリマス、先ヅ有效ニハ無イ
ト言ッテモ宜イノデアリマスカラ、即チ第二ノ問ニ對スル司法大臣ノ答辯ガ成
ルベク速ニ實現セラレヌケレバナラヌト云フ結論ニナル、此點ヲ何卒政府當
局トシテハ能ク御考ヲ願ヒマシテ治安維持法中ノ修正トシテモ無論出來ルダ
ラウト思ヒマスガ、併ナガラ治安維持法ヲ刑法ニ取ルト云フコトニナレバ、
矢張リ複雜ノ問題ガ出テ來ルカモ知レマセヌ、何ニ致シマシテモ變則立法ニ
承諾ヲ與ヘラレタカラト云ッテ、ソレヲ常道立法ノ如ク心得テ法律トシテ力ヲ
永久ニ持續セシムルト云フコトハ、一種ノ立法權ノ侵害ト云フコトニナルノ
デアリマスカラ、折角理由書ヲ讀ンデ見マシテモ、歷代ノ内閣ニ比シテハ稍〓
進境ヲ示シテ責任解除主義ノヤウニ書イテアル點ニ私ハ滿足シテ居ルノデア
リマスカラ、ドウゾ第二ノ答辯ニ對スルコトヲ責任的ニ今ノ內閣トシテハ頭
ノ中ニ强ク入レラレムコトヲ願ヒマス、是ダケデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=116
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117・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 此席カラ申上ゲテ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=117
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118・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 簡單ナラ宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=118
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119・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 相當簡單デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=119
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120・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=120
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121・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 私ハ此勅令ノ本議場ニ上ボリマシタコトニ付キマシテ、
實ニ沈痛ナ感ジヲ以テ伺ッタノデアリマス、此議會ノ劈頭ニ、私ハ總理大臣ニ
善ノ標準如何ト云フコトヲ御伺ヒシタノデアリマス、是ニ對シマシテ、總理
大臣ハ正シク善ク導クト云フ仰セデアリマシタ、私ノ伺ヒタイト思ヒマシタ
ノハ、現代ノ靑年ガ何ガ善デアルカ、何ガ惡デアルカト云フコトノ判斷ニ迷
ヒツヽアルト云フコトヲ强ク御反省ニナリタイト存ジテ申上ゲタノデアリマ
ス、固ヨリ此中外無比ノ國體ニ對シテ、誤レル考ヲ持ツ者ハ國法ニ依ッテ處斷
スルコトハ適當デアルノデアリマスケレドモ、斯ノ如キ道行ヲ彼等ガ取リツ
ツアルト云フコトニ付テハ、私ハ有ラユル方面ニ現代ノ日本ガ缺陷ヲ持ッテ居
ルト云フコトヲ信ジテ疑ハナイノデアリマス、又〓育ノ方針ト雖モ、今マデ明
治時代カラ執ッテ來マシタ所ノ〓育方針ト云フモノハ、謂ハバ最モ物質的ニ偏
シテ居ル所ノ〓育デアッテ、其種子ガ益〓近頃其實ヲ結ビツヽアルノデハナイ
カト迄思ハレル、實ニ憂慮ニ堪ヘヌノデアリマス、承リマスレバ共產大學ガ
露西亞ニ出來テ居ル、日本ハ此日本ノ國柄ヲ十分ニ闡明スル所ノ一ツノ學問、
或ハ之ヲ道德科學トモ申シテ宜シイカトモ存ジマスガ、サウ云フヤウナ日本
ノ國ノ本質ヲ哲學的ニモ科學的ニモ見極メルヤウナ御施設ヲ、斯カル法律ヲ
要スル日本ニ於テ御考慮ニナッテ居ラヌデアリマセウカ、又此危險ナル思想ト
云フモノハ法律デ之ヲ禁止スルト云フコトハ甚ダ難イコトデアッテ、其根本ヲ
正ス、即チ「大義ヲ明カニシテ人心ヲ正サバ皇道奚ゾ興起セザルヲ患ヘム」
ト云フコトヲ申シタ、藤田東湖ノ言葉ヲ思ヒ出スノデアリマス、日本ノ國柄
ヲ〓究スル例ヘバ皇學、或ハ道德科學ト云フヤウナモノヲ〓究スル一科學カ
若クハ一課目ヲ大學等ニ御置キニナルト云フヤウナ御考ハナイノデアリマセ
ウカ、ソレヲ伺ヒタイノデアリマス
國務大臣勝田主計君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=121
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122・勝田主計
○國務大臣(勝田主計君) 只今二荒伯爵ノ御尋ニ對シマシテ便宜上私ヨリ簡
單ニ御答ヲ致シタイト思フノデアリマス、二荒伯爵ノ我國ノ國體、或ハ此國
民精神ノ眞髓ニ關スル〓究ノ最モ重大ニシテ且ツ必要デアルト云フ御考ハ
政府ト致シマシテモ全ク御同感デアリマス、而シテ之ニ對シマシテ然ラバ如
何ナル設備ヲシテ居ルカ、或ハ爲サムトシツヽアルカト云フコトニ付キマシ
テハ、今日ノ程度ニ於キマシテハ甚ダマダ貧弱デハアリマスルガ、御承知ノ
如クニ今囘當院ノ御協賛ヲ經マシタ豫算ノ中ニモ精神科學ニ對シマシテ補助
費ヲ七万五千圓バカリ要求イタシテ居リマス、是等ガ即チ左樣ナコトノ〓究
ニ補助シ之ヲ奬勵スルト云フ一ノ手段デアリマス、又其外大學ニ道德學、或ハ
東洋ノ哲學等ノ講座モ置クコトニ付テ四年度豫算ニハ要求ヲ致シテ居リマシ
タノデアリマス、是等ニ依リマシテ先ヅ御心配ニナッテ居ル如キ我國固有ノ
國體精神、道德、斯樣ナモノヲ徹底的ニ〓究ヲ致シタイ、尙ホ將來ニ於キマ
シテハ是等ノ方針ハ益〓擴大シ、益〓深ク〓究ヲ怠ラヌ、斯樣ナ精神ヲ持ッテ
居リマスカラ、是ダケヲ御答ヘ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=122
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123・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 只今ノ文部大臣ノ御答辯ハ能ク分リマシタ、唯所謂此思
想ニ疑ヲ懷ク者ハ今ノ靑年ノ中ノ最モ眞面目ナ者ニ私ハ多イト云フコトヲ實
見ヲ致シテ居ルノデアリマス、卽チ私ハ多少靑年ニ接スル幾多ノ機會ヲ持ッ
テ居ルノデアリマスガ、彼等ガ今日ノ時勢ヲ見テ、其煩悶ノ結果、我〓ノ想
ヒ及バザル考ヘニ向ヒツヽアルト云フコトハ、是ハ此議場ニ於テ私ハ公言シ
得ルト思フノデアリマス、斯ノ如キ因ヲ蒔イタモノ、又斯ノ如キ結果ヲ持チ
來シツヽアルト云フモノハ、我〓ハ能ク之ヲ見テ、而シテ其對策ト云フヨリ
ハ寧ロ根本ヲ匡正シナケレバナラヌト信ズルノデアリマス、私ハ此一言ヲ以
チマシテ質問ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=123
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124・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ニテ質疑ノ通〓者ハ終リマシタ、是ヨリ討論ニ
移リマス、通告ニ依リマシテ志水小一郞君ニ發言ヲ許シマス、同君ノ登壇ヲ
望ミマス
〔志水小一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=124
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125・志水小一郎
○志水小一郞君 本員ハ此法律案ニ贊成ヲ致ス者デアリマス、即チ緊急勅令
ニ事後承諾ヲ與フベシトスル者デアリマス、本件ニ付キ贊否ヲ決スルニハ先
ヅ共產黨ナルモノノ性質ノ如何ヲ究メ、次ニ我國ニ在ル所ノ共產黨ノ現狀及
其將來ニ於テ豫想セラルヽ所ノモノ如何ヲ究メナクテハナラヌト思フノデア
リマス、何故ナレバ、緊急勅令ノ必要不必要ハ一ニ共產黨ナルモノノ害惡ノ
程度、其現狀及將來ニ於テ豫想シ得ラルヽ所ノ危險ノ程度如何ニ依ルト思フ
カラデアリマス、而シテ治安維持法ノ改正ハ議會ノ······前議會ノ會期中ニ行
フベキデハナカッタカトカ、會期中ニ行フヲ得ナカッタナラバ、會期ヲ延期シ
テマデモ行フベキモノデハナカッタカトカ、又ハ緊急勅令ヲ以テ治安維持法ノ
如キ法律ヲ改正スベキモノデハナイトカ云ハムガ如キ議論ガ盛ンニアルノデ
アリマスガ、之ニ付テハ政府ノ答辯ガ一々アルノデアリマスガ、悉ク理由ガ
アッテ之ヲ否認スル譯ニモ參ルマイト本員ハ思フノデアリマス、ソレカラ緊
急勅令ヲ以テ是等ノ重大ナル事件ヲ定ムベキモノデハナイトカ、法律ヲ變改
スベキモノデハナイトカ云フ議論ガアリマスケレドモ、此議論ニ對シテハ本
員ハ甚ダ迷フノデアリマス、ソレハ憲法第八條ノ解釋ニ依ルノデアリマス、憲
法第八條ニハ「公共ノ安全ヲ保持」スル爲ノ必要ト云フコトガアリマス、此
「公共ノ安全ヲ保持」スル爲ノ必要ト云フコトハ、法律ノ物差シヲ以テ之ヲ測
ラムトスルノハ中〓難儀デアリマス、本員ハ要スルニ時ノ内閣ガ責任ヲ以テ
決メルヨリ外ハナカラウト思フノデアリマス、ソレカラ今申上ゲマシタ種々
ノ反對論ニ對シテハ、或ハ現内閣ニ若干ノ粗念トカ、不注意トカハ有ッタカモ
知レマセヌノデアリマス、共產黨ト云フモノノ恐ルベキモノタルコトハ今始
マッタコトデハナイ、何モ此度ノ檢擧ニ依ッテ此事ヲ發明シタ譯ヂヤナイト云
フヤウナ議論モアリマシタガ、假ニ一步ヲ讓ッテ政府ニ若干ノ粗念等ガアッタ
ト致シマシテモ、最早其事ハ過去ノ事實デアリマス、其過去ノ事實ヲ非難シ、
ソレヲ利用シテ緊急勅令ノ承諾ヲ拒ムト云フ譯ニハ參ルマイト本員ハ思フノ
デアリマス、サスレバ共產黨ナルモノノ性質如何ト云フコトヲ司法當局ニ依ッ
テ得タル所ノ材料ニ依ッテ懇ロニ調ベテ見マスト、共產黨ナルモノハ頗ル危險
ナルモノデアルノデアリマス、卽チ民衆ノ革命的手段ニ依ッテ、我ガ國體ヲ變
更シ、君主制ヲ撤廢シ、無產階級ノ獨裁政府ヲ樹立シテ之ニ換ヘル、且ツ私
有財產制ヲ否認シテ、總テノ生產機關ト云フモノハ社會ノ共有物トスル、所
謂共產主義ノ實現ヲ期待シテ居ルノデアリマス、此目的ノ下ニ彼等ノ所謂
」スローガン」ナルモノハドウ云フコトデアルカト云フト、君主制ノ撤廢、宮
延、寺院、地主等ノ土地ノ無償沒收、ソレカラ「ソヴィエット」政府ノ防衞、植
民地ノ完全ナル獨立、議會ノ解敗······解散デハナイデス、議會ノ打破デアリ
マス彼等ノ目的ハ·····ソレ等ヲ綱領トシテ確定シテ居ルノデアリマス、其
他所謂帝國主義ノ戰爭ヲ彼等ハ否認シテ居ルノデアル、從テ軍隊ニ惡宣傳ヲ
致シマシテ、軍隊ノ攪亂、軍隊ノ崩壞ヲ期シテ居ルノデアリマス、是等ノ行
動ハ我ガ帝國ノ存立ト相容レナイノデアリマス、故ニ之ヲ犯罪ト致シマシタ
ナラバ、是ヨリ重大、重劇ノ犯罪ガアル譯ハナイノデアリマス、サウシテ共
產黨ノ企畫タルヤ、一部ノ主義者ガ自己ノ理想ヲ敢テ決行セムトスルガ如キ
モノトハ大分趣ヲ異ニシテ居ルノデアリマス、即チ其黨員ガ擧ッテ集〓的ニ
自己ノ信條ヲ行ハムト欲スルノデアリマス、故ニ氣脈ハ日本全國ニ通ジテ居
ルノミナラズ、廣ク海外ニ通ジテ居ルノデアリマス、而シテ黨ニハソレゾレ
機關ガアルノデアリマス、總會、即チ大會ト云フモノガアリマス、中央委員
會ガアリマス、關東地方委員會モアレバ、關西地方委員會モアリマス、其他
大阪トカ、名古屋トカ云フ各地委員會ナルモノモアリマス、ソレカラモット小
サイ各地區委員會ナルモノモアリマス、ソレカラ公私ノ工場、造船所等ニハ
所謂細胞組織ガアルノデアリマス、黨勢擴張、黨員ノ獲得等ニ任ズル彼等ノ
所謂「オルガナイザー」ナルモノモアルノデアリマス、其他黨員ノ養成機關モ
アレバ、宣傳機關モアル、宣傳機關新聞紙モアルノデアリマス、其組織ハ整
然トシテ系統一貫、脈絡疏通シテ居ルノデアリマス、又黨ニハ所謂「フラク
ション」ナルモノガアリマス、即チ分派デアリマシテ、其分派ニハ左翼勞働組
合、農民組合、水平社、無產靑年同盟、靑年社會學聯盟等ニ於ケル共產黨員
ヲ以テ之ヲ組織シテ居ルノデアリマス、サウシテ是等ヲ以テ社會黨ノ黨勢ヲ
擴大シツヽアルノデアリマス、而シテ露國莫斯科ニハ第三「インターナショナ
ル」、本部ナルモノガアリマシテ、我國ノ共產黨ハ即チ其支部デアリマシテ、
指揮命令、悉ク此第三「インターナショナル」本部ニ受ケテ居ルノデアリマス、
而シテ此第三「インターナショナル」本部ハ世界革命ヲ目的トシテ居リマスル
カラシテ、我國ノ共產黨ハ即チ世界革命ノ一部ヲ分擔シテ居ル譯デアリマス、
所謂共產黨タルモノヽ險惡ナル狀態ハ〓要申上ゲタ通リデアリマスガ、其我
國ニ在ルモノヽ現狀モ亦其危險斯ノ如クデアリマスガ故ニ、其犯者ヲ待ツニ
極刑、即チ死刑ヲ以テスルノハ固ヨリ當然ノコトデアリマス、而シテ玆ニ一言
ヲ要シマスルノハ、斯クシテ國體變更ヲ目的トスル所ノ此共產黨ニ極刑、即
チ死刑ヲ科シマスル所以ノモノハ、凡ソ人間トシテ極刑ヲ免レテ此種ノ犯罪
ヲ敢テスルコトガ出來ナイト云フ觀念ヲ懷カシムルノガ目的デアリマス、凡
ソ此罪ヲ犯シマス者ハ犯情ノ如何ヲ問ハズ、犯人ノ個情ヲモ問ハズ、所謂秋
霜烈日ノ如ク毫モ假借セズシテ、擧ゲテ之ヲ屠リ盡サムトスルガ目的デハナ
イノデアリマス、故ニ其刑罰モ死刑ノ一點張リデハナクシテ、死刑又ハ無期
若クハ五年以上ノ懲役、若クハ禁錮トナッテ居ルノデアリマス、要スルニ死刑
ガ重イトカ何トカ云フ說ガ盛ンニアリマスケレトモ、死刑ノ效用ハ寧ロ死刑
其モノヲ執行スルヨリハ、所謂威嚇堤防ノ效ガアルノデアリマス、死刑ノ效
用ハ威赫堤防ニアルト云フコトハ我國ノ軍法ノ立法例デ能ク分ルノデアリマ
ス、我ガ陸軍刑法ハ十一箇ノ罪名ヲ定メテ居ルノデアリマス、其十一箇ノ罪名
ハ八十ノ法條ニ分載シテ、之ニ四十三箇ノ死刑ヲ擬シテ居ルノデアリマス、
ベタ死刑デアリマス、軍法ノ罪ハベタ死刑デアリマス、所ガ數年ニ亙ッテ實
際死刑ニ處セラルヽト云フ者ハ一人或ハ二人ト言ハムガ如ク、極メテ稀ナモ
ノデアルノデス、依テ以テ死刑ノ目的ハ分ル譯デアリマス、各國ノ軍事刑法
皆然リデアリマス、然ルニ嚴刑酷罰ハ犯罪ヲ撲滅スル所以デナイト云フコト
ハ能ク學者ノ申スコトデアリマスガ、此議論ヲ以テ本案ノ罪、即チ帝國ノ國
體ヲ變更セムト欲スルガ如キ重劇ナル犯罪ニ死刑ヲ採用シタコトヲ以テ、失
當トスル議論ガ往々ニシテアルノデアリマス、是ハ要スルニ刑罰ト政策、刑
罰ト〓育ト言ハムガ如キモノヲ混同、ゴッチヤニシテ居ル議論デアリマス、固
ヨリ刑罰ノミヲ以テ犯罪ノ撲滅ヲ期スル譯ニハ參ラヌノデアリマス、矢張リ
刑罰ノ外ニ社會政策トカ、〓育トカ云フモノヲ併用スベキハ固ヨリノ話デア
リマス、併ナガラソレ等ノ政策ヲ實行スルガ爲ニハ、矢張リ罪ト刑罰ト相當
ル所ノ立法ハ是非必要デアルノデアリマス、刑事政策ヲ行ハムガ爲ニモ是非
必要デアリマス、但シ此犯罪ノ性質即チ犯人ノ信條ヨリ來ル如キ犯罪ハ、如
何ニ嚴刑酷罰ヲ以テスルモ、之ヲ撲滅スルニ足ラザルノミナラズ、却ッテ犯者
ヲシテ激昂セシメ、益〓其決心ヲ堅クセシムルト云フコトニナルカモ知レマ
セヌ、サウ云フ例ガ幾ツモアルノデアリマス、併シ之ガ爲ニ刑罰ヲ躊躇シタ
リ、犯人ニ科スベキ刑罰ヲ減輕シタリスルヤウナコトハ、司法處分ノ性質ト
シテ斷ジテ許サヌノデアリマス、サウスレバドウスルカト云フノニ、此種ノ
犯人ニハ犯人ノ決心ニ倍蓰スル所ノ決心ヲ以テ之ニ當ル、詰リ犯人ト鬪フノ
デアリマス、何方ガ勝ツカ闘フノデアリマス、サウ云フ決心ヨリ外ニハナイ
ノデアリマス、甚ダ簡單デアリマスケレドモ、本員ノ本法ニ贊成スル理由ハ
是デ盡キテ居ル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=125
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126・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ニテ通〓ハ終リマシタカラ、最早他ニ發言モナ
イト認メマスカラ採決ヲ致シマス、本案ニ承諾ヲ與フベシトスル諸君ノ起立
ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=126
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127・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマス
南北市発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=127
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128・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第十五、山口縣營軌道及筑後軌道株式會社所
屬軌道補償ノ爲公債發行ニ關スル法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
ノ續、委員長報告
山口縣營軌道及筑後軌道株式會社所屬軌道補償ノ爲公債發行ニ關スル法
律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及報〓候也
昭和四年三月十二日
右特別委員長
公爵一條實孝
貴族院議長公爵德川家達殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=128
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129・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員長一條公爵ノ登壇ヲ望ミマス
〔公爵一條實孝君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=129
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130・一條實孝
○公爵一條實孝君 山口縣營軌道及筑後軌道株式會社所屬軌道補償ノ爲公債
發行ニ關スル法律案ノ特別委員會ノ經過竝結果ヲ御報告イタシマス、本件ハ
岩國德山間ノ省線建設中、山口縣營軌道ト竝行スル麻里布岩國ノ間ノ省線ガ
近ク開通ヲサレル豫定ノ爲ニ縣營軌道ガ到底經營シテ行クコトガ出來ナイ、
之ニ對シ補償セムトスルコトガ其一ツデアリマス、今一ツハ筑後ノ久留米カ
ラ大分間ノ省線建設線中、久留米吉井間ノ省線ガ昨年十二月ニ開通イタシマ
シテ、之ニ竝行セル筑後軌道株式會社經營ノ、軌道ノ營業ノ繼續ガ出來ナイ
ト、斯樣ナ狀態ニナリマシタノデ、之ニ對シ補償ヲセムトスルモノデアリ
ママト。而シテ前者ニ對シテハ交付公債六十六万三千餘圓、後者ニ對シマシテ
ハ四百三十七万圓ヲ發行セムトスルモノデアリマス、特別委員會ハ四囘ニ亙
リ愼重ニ審議イタシマシタノデアリマスルガ、質疑ノ重モナルモノハ地方鐵
道法第三十六條ノ解釋ニ付テ、二三ノ委員ノ質問ガアリマシタ、之ニ對シテ
ハ政府ハ地方鐵道法ノ三十六條ノ營業ヲ繼續スルコト能ハザルニ至リタルト
キト、此文句ノ解釋ハ、之ヲ繼續スルコト能ハザルコトヽ推定シタル場合ヲモ
含ムト、斯樣ナ明答ヲ與ヘラレタノデアリマス、又一二ノ委員カラ山口縣營
軌道ノ補償見積價額ニ付テノ質疑ガゴザリマシタガ、政府ノ答ヘラレル所ニ
依レバ、此軌道ハ大正十三年四月ニ山口縣ガ中外電氣株式會社カラ買收シタ
モノデアル、而シテ大正十二年ノ會社ノ營業費ハ、七万四千九百餘圓ナルニ
對シ、縣營ニ移リマシテカラ、其翌年大正十三年ニナリマスルト、忽チ三万
九千五百餘圓、斯ウ云フ營業費ニナッテ居ル、斯樣ニ非常ナ差ガアル、從ヲン
益金トシテハ十二年ノ會社時代ハ、僅ニ二千七百八十七圓デアリマシタモノ
ガ、縣營ニ移ルヤ三万六千六百餘圓ト云フ數字ヲ示シテ居ルノデアリマス、
デ之ニ付テ政府デ十分ニ御調ベニナッタノデアリマスルガ、實ハ會社ハ〓算ガ
濟ンデ居リマシテ、今日ハ詳細ナ書類ガナイノデアリマス、餘リ無イノデア
リマス、縣廳カラノ報〓ヲ基礎トシテ、各委員ニ數字ヲ御示シニナッタヤウナ
次第デアリマス、政府ノ斯樣ナ營業費ノ差ノアルコトニ付テノ細〓ノ御說明
モアリマシタ、其他一委員ヨリハ地方鐵道法ノ改正法案ガ直キニ出ル、ソレ
ニ依ッテ計算ヲスルト云フト、補償ノ額ガ幾ラカ變ッテ來ル、同ジ時期ノ議會
ニ提出サレテ、而モソレガ可決セラレタ曉ニ於テ、不權衡ナル補償、其他買
收ノ取扱ガアルコトハ穩カデナイト、斯樣ナ御話ガアリマシタノデアリマス
ルガ、政府ニ於テモ御同感ノ意味ヲ現サレタノデアリマス、討議ニ移リマシ
テカラ、一委員ヨリ山口縣營軌道ノ收支計算ニ付テハ、縣營時代ト會社時代
ノ計算トヲ比較スルニ、會社時代ハ利益金ガ非常ニ少ナカッタガ、縣營ニナツ
テ一躍十倍以上ノ利益金ヲ擧ゲタ勘定ニナッテ居ル、會社時代ノ計算ニ付テ
モ嚴格ニ調ベタナラバ、營業費トシテ、他ノ經費ヲ包含スルモノモアラウ、
又縣營ニ移ッテカラノ營業費トシテモ、殊更ニ利益ヲ殖ヤス爲ニシタノデハナ
イカト云フ疑ヲ以テ見レバ見ラレルヤウナ點モアル、例ヘバ電力ノ料金ヲ一
「キロ」二錢何厘トシテ計算シテ居ル、而モ民間ニハソレ以上ノ高價デ賣ッテ
居ル、斯樣ナ點モアル、又軌道部ノ計算トシテモ、殆ド實費ニ當ルカ當ラヌ
カト云フヤウナ勘定ヲ立テヽ居ル、是等ノ點ニ關シテハ十分······勿論鐵道省
ニ於テ從來ノ例ニ依ッテ嚴重ニ御取調ニナルコトト思フガ、委員會ニ於テモ其
意思ヲ附帶決議トシテ表シテ置キタイト、斯樣ナ意見ガ出マシテ遂ニ委員會
ニ於キマシテハ、次ニ申上ゲマスルヤウナ附帶決議附デ、全會一致本案ヲ可
決イタシマシタル次第デアリマス
附帶決議
山口縣營軌道ノ補償見積價格算出ノ基礎タル計數ニ疑義ノ存スルモノアリ
依テ政府ハ此補償ヲ爲スニ當リテ特ニ嚴正ナル調査ヲ遂ゲ其ノ價格ノ公正
ヲ期スベシ
之ヲ以テ報〓ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=130
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131・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕
〔松村義一君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=131
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132・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 松村君ハドウ云フコトデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=132
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133・松村義一
○松村義一君 議事ノ進行ニ付テ一言申述ベタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=133
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134・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=134
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135・松村義一
○松村義一君 少クトモ表決ヲ致ス場合ニ於キマシテハ、法律上ノ要件ガ總
テ完備スルコトガ必要デアラウト思ヒマス、只今實際ドウデアルカ存ジマセ
ヌガ、或ハ定足數ヲ缺イテハ居ラヌカト云フヤウナ虞ヲ持ッテ居リマス、念ノ
爲ニ人員ヲ御調査ノ上ニ、然ル後ニ議事ニ掛カラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=135
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136・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 只今ノ松村君ノ御注意モゴザイマスカラ、本日ハ
是デ延會ヲ致シマセウ、明日ノ議事日程ハ彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本
日ハ是ニテ散會
午後五時五十二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005603242X03019290319&spkNum=136
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