1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和四年三月二日(土曜日)午後一時十八分開議
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議事日程 第二十三號
昭和四年三月二日
午後一時開議
第一 特許法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 實用新案法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 意匠法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第四 商標法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第五 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第六 地方鐵道法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第七 軌道法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第八 非訟事件手續法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第九 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第十 陪審法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十一 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十二 酒造組合法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十三 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十四 自作農創設維持助成資金特別會計法案(政府提出) 第一讀會
第十五 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十六 船舶職員法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第十七 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第十八 同盟及聯合國と獨逸國及其の同盟國との戰爭に因り損害を被りたる帝國臣民の追加救恤に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十九 臺灣事業公債法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十 製鐵所特別會計に於て大藏省預金部の横濱正金銀行に對する債權の讓渡を受くることに關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十一 府縣制中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十二 市制中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十三 町村制中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十四 北海道會法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十五 北海道地方費法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十六 登録税法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十七 北海道鐵道株式會社所屬鐵道外十三鐵道等買收の爲公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十八 昭和三年勅令第百二十九號(治安維持法中改正の件)(承諾を求むる件) (委員長報告)
第二十九 癈兵優遇に關する法律案(三浦虎雄君提出) 第一讀會
第三十 衞生組合法案(大里廣次郎君外八名提出) 第一讀會
第三十一 衞生組合法案(田崎信藏君外四名提出) 第一讀會
第三十二 傳染病豫防法中改正法律案(田崎信藏君外四名提出) 第一讀會
第三十三 衆議院議員選擧法中改正法律案(二見甚郷君外一名提出) 第一讀會
第三十四 家祿賞典祿給與未濟に關する法律案(石井次郎君外五名提出) 第一讀會
第三十五 質屋取締法中改正法律案(鬼丸義齋君提出) 第一讀會
第三十六 古物商取締法中改正法律案(鬼丸義齋君提出) 第一讀會
第三十七 刑法中改正法律案(牧野賤男君外二名提出) 第一讀會
第三十八 借家法中改正法律案(小久江美代吉君外二名提出) 第一讀會
第三十九 恩給法中改正法律案(山下谷次君外一名提出) 第一讀會
第四十 市制中改正法律案(赤尾藤吉郎君提出) 第一讀會
第四十一 町村制中改正法律案(赤尾藤吉郎君提出) 第一讀會
第四十二 道路法中改正法律案(菅野善右衞門君提出) 第一讀會
第四十三 町村有建物火災保險相互組合法案(岩崎一高君外十六名提出) 第一讀會
第四十四 遠洋漁業奬勵法中改正法律案(原耕君提出) 第一讀會
第四十五 違警罪即決例中改正法律案(一松定吉君外二名提出) 第一讀會
第四十六 工場法中改正法律案(千葉三郎君外五名提出) 第一讀會
第四十七 勞働組合法案(鈴木文治君提出) 第一讀會
第四十八 刑の執行又は勾留に因る補償に關する法律案(宮古啓三郎君外九名提出) 第一讀會
第四十九 陪審法中改正法律案(横山勝太郎君外三名提出) 第一讀會
第五十 衆議院議員選擧法中改正法律案(小久江美代吉君外四名提出) 第一讀會
第五十一 衆議院議員黨籍變更に關する法律案(小久江美代吉君外四名提出) 第一讀會
第五十二 牧野法案(中島鵬六君外一名提出) 第一讀會
第五十三 健康保險法中改正法律案(西尾末廣君提出) 第一讀會
第五十四 國定教科書官給法案(樋口秀雄君外六名提出) 第一讀會
第五十五 未成年者飮酒禁止法中改正法律案(星島二郎君外六名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第五十六 未成年者飮酒禁止法中改正法律案(田中養達君外六名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第五十七 六大都市に關する法律案(鈴木吉之助君外十三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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001・元田肇
○議長(元田肇君) 諸般ノ報告ヲ致サセマ
ス
〔書記官朗讀〕
一今二日貴族院ニ於テ本院ノ送付ニ係ル左
ノ議案ヲ可決シタル旨同院ヨリ通牒ヲ受
領セリ
(第一號)昭和三年度歳入歲出總豫算追加
案
(特第一號)昭和三年度各特別會計歳入歳
出豫算追加案
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
地方鐵道法中改正法律案
軌道法中改正法律案
非訟事件手續法中改正法律案
陪審法中改正法律案
酒造組合法中改正法律案
自作農創設維持助成資金特別會計法案
(以上二月二十八日提出)
船舶職員法中改正法律案
(以上三月一日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
耕地整理法中改正法律案
提出者
三輪市太郞君池田龜治君
石射文五郞君小野寅吉君
石坂養平君高橋熊次郞君
熊谷五右衞門君丹下茂十郞君
加藤知正君高田耘平君
山崎延吉君田子一民君
川崎安之助君
農會法中改正法律案
提出者
三輪市太郞君池田龜治君
石射文五郞君小野寅吉君
石坂養平君高橋熊次郞君
熊谷五右衞門君丹下茂十郞君
加藤知正君高田耘平君
山崎延吉君田子一民君
川崎安之助君
行政執行法中改正法律案
提出者
松定吉君武富濟君
齋藤隆夫君高木益太郞君
橫山勝太郞君
(以上二月二十八日提出)
朝鮮及臺灣施政調査會設置ニ關スル建議
案
提出者
神田正雄君杉浦武雄君
〓水留三郞君
金澤八尾間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
石坂豐一君箸本太吉君
陸海軍記念日ヲ國家ノ祝日ト爲スノ建議
案
提出者三浦虎雄君
古川一ノ關間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
菅原英伍君內ケ崎作三郞君
藤澤幾之輔君小山倉之助君
柵瀨軍之佐君
仙臺古川間鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
內ケ崎作三郞君菅原英伍君
藤澤幾之輔君小山倉之助君
柵瀨軍之佐君
赤川改修工事ニ關スル建議案
提出者〓水德太郞君
雨龍原野土地改良ニ關スル建議案
提出者
神部爲藏君小池仁郞君
山本厚三君淺川浩君
岡本幹輔君坂東幸太郞君
北海道稚内ヨリ利尻禮文兩島ニ定期連絡
航路開始ニ關スル建議案
提出者
淺川浩君小池仁郞君
山本厚三君神部爲藏君
岡本幹輔君坂東幸太郞君
北海道利尻禮文兩島ニ無線電話設置ニ關
スル建議案
提出者
淺川浩君小池仁郞君
山本厚三君神部爲藏君
岡本幹輔君坂東幸太郞君
北海道漁港竝船入澗築設ニ關スル建議
案
提出者
小池仁郞君山本厚三君
淺川浩君神部爲藏君
岡本幹輔君坂東幸太郞君
北海道鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者
小池仁郞君山本厚三君
淺川浩君神部爲藏君
岡本幹輔君坂東幸太郞君
電話事業改善ニ關スル建議案
提出者
平賀周君吉津度君
立川太郞君伊藤仁太郞君
電氣事業ニ關スル建議案
提出者
平賀周君板谷順助君
中谷貞賴君
藤原光親卿外四卿ヲ奉祀スル別格官幣社
創設ニ關スル建議案
提出者
庄司良朗君松浦五兵衞君
倉元要一君郡谷照一郞君
山口忠五郞君大橋亦兵衞君
東海道線原驛附近ニ於ケル路線變更ニ關
スル建議案
提出者庄司良朗君
大淀川支流沖水川改修速成ニ關スル建議
案
提出者水久保甚作君
農民保護法令制定ニ關スル建議案
提出者
水久保甚作君松野鶴平君
(以上二月二十八日提出)
宮崎縣上穗北村杉安ニ郵便局設置ニ關ス
ル建議案
提出者矢野力治君
宮崎縣西〓村小八重ニ郵便局設置ニ關ス
ル建議案
提出者矢野力治君
宮崎縣岩戶村煤市ニ郵便局設置ニ關スル
建議案
提出者矢野力治君
(以上三月一日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
新潟縣下ニ於ケル縣道工事設計變更許可
處分ニ關スル質問主意書
提出者大竹貫一君
不戰條約第一條ノ用語ニ關スル質問主意
書
提出者尾崎行雄君
(以上二月二十八日提出)
〔左ノ報告ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一去二十八日內閣總理大臣ヨリ左ノ通發令
アリタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
大藏書記官飯田九州雄
大藏技師矢部規矩治
大藏省所管事務政府委員被仰付
陸軍中將植田謙吉
陸軍省所管事務政府委員被仰付
鐵道省運輸局長筧正太郞
鐵道省所管事務政府委員被仰付
一去二十八日常任委員補關選擧ノ結果左ノ
如シ
第二部選出
決算委員矢野晋也君(中島鵬六君
補闕)
一去二十八日理事補闕選擧ノ結果左ノ如シ
未成年者飮酒禁止法中改正法律案(星島
二郞君外六名提出)外一件委員
理事田中養達君(理事定塚門次
郞君本月二十六日委員辭任ニ
付其ノ補闕)
一去二十八日議長ニ於テ選定シタル委員左
ノ如シ
關稅定率法中改正法律案外一件委員
岩本武助君木暮武太夫君
匹田銳吉君矢野力治君
柵瀨軍之佐君前田房之助君
勝正憲君太田信治郞君
岸本康通君
肥料管理法案外一件委員
齋藤藤四郞君靑木精一君
武藤七郞君板谷順助君
藤井達也君加藤知正君
松浦五兵衞君丹下茂十郞君
〓水銀藏君土井權大君
星島二郞君有馬秀雄君
永田良吉君二神駿吉君
紫安新九郞君高田耘平君
黑金泰義君松本忠雄君
平川松太郞君藤井啓一君
村上國吉君池田敬八君
瀨川光行君安倍邦太郞君
河崎助太郞君鈴木文治君
志波安一郞君
一去二十八日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ
如シ
昭和三年勅令第百二十九號(治安維持法
中改正ノ件)(承諾ヲ求ムル件)委員
辭任中谷貞賴君補闘赤尾藤吉郞君
辭任小野寺章君補闕鈴木安孝君
辭任鈴木安孝君補闘小野寺章君
辭任橫山勝太郞君補闘松田竹千代君
朝鮮簡易生命保險特別會計法中改正法律
案外三件委員
辭任板谷順助君補闘石坂豐一君
鐵道敷設法中改正法律案委員
辭任吉木陽君補闘岡田忠彥君
辭任前田政八君補關山本愼平君
米穀需給調節特別會計法中改正法律案委
員
辭任小坂順造君補闘一宮房治郞君
辭任土井權大君補闘名川佩市君
辭任齋藤藤四郞君補闕飯村五郞君
辭任加藤知正君補闘石坂豐一君
一昨一日常任委員補關選擧ノ結果左ノ如シ
第三部選出
豫算委員中島彌團次君(三浦虎雄君
補闕)
第八部選出
豫算委員松田竹千代君(戶澤民十郞
君補闕)
第九部選出
豫算委員海老澤爲次郞君(一宮房治
郞君補闕)
一昨一日理事補關選擧ノ結果左ノ如シ
地租條例廢止法律案(政府提出)外十六件
委員
理事石坂豐一君(理事西方利馬君
三月一日委員辭任ニ付其ノ補
闕)
米穀需給調節特別會計法中改正法律案
(三輪市太郞君外六十三名提出)委員
理事飯村五郞君(理事齋藤藤四郞
君二月二十八日委員辭任ニ付
其ノ補闘)
一昨一日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
關稅定率法中改正法律案(政府提出)外一
件委員
委員長岸本康通君
理事
岩本武助君勝正憲君
肥料管理法案(政府提出)外一件委員
委員長松浦五兵衞君
理事
齋藤藤四郞君靑木精一君
平川松太郞君村上國吉君
河崎助太郞君
一昨一日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
地租條例廢止法律案外十六件委員
辭任田邊熊一君補闕庄晋太郞君
辭任西方利馬君補闘石坂豐一君
辭任鳴海文四郞君補闕〓水銀藏君
辭任山口忠五郞君補闘鈴木英雄君
鐵道敷設法中改正法律案委員
辭任橫山金太郞君補闘福田五郞君
肥料管理法案外一件委員
辭任二神駿吉君補闕蔭山良吉君
辭任村上國吉君補闘石塚三郞君
辭任蔭山貞吉君補闕二神駿吉君
府縣制中改正法律案外三件委員
辭任西岡竹次郞君補闘土井權大君
辭任倉元要一君補闕竹內鳳吉君
辭任高橋金治郞君補闕磯部〓吉君
關稅定率法中改正法律案外一件委員
辭任勝正憲君補闘澤本與一君
米穀需給調節特別會計法中改正法律案委
員
辭任中野猛雄君補闕久恆良雄君
明治四十年法律第十一號中改正法律案
(癩豫防ニ關スル件)委員
辭任山本宣治君補闕鈴木文治君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=1
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002・元田肇
○議長(元田肇君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、日程第一乃至第四ハ同種ノ議案ナルニ
依リ、一括シテ議題ト爲スニ御異議アリマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=2
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003・元田肇
○議長(元田肇君) 御異議ナイト認メテ一
括シテ議題ニ供シマス、日程第一、特許法
中改正法律案、日程第二、實用新案法中改
正法律案、日程第三、意匠法中改正法律案、
日程第四、商標法中改正法律案、此四案ヲ
一括シテ第一讀會ヲ開キマス-中橋商工
大臣
第一特許法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
特許法中改正法律案
特許法中左ノ通改正ス
第十七條ノ二特許ニ關スル出願、請求
其ノ他ノ手續ヲ爲ス者ノ委任ニ因ル代
理人ノ代理權ハ本人ノ死亡若ハ能力
ノ喪失、本人タル法人ノ合併ニ因ル消
滅本人タル受託者ノ信託ノ任務終了
又ハ法定代理人ノ死亡、能力ノ喪失若
ハ代理權ノ變更消滅ニ因リテ消滅セス
第十八條中「共同又ハ」ヲ削ル
第二十二條中「民事訴訟法第十七條」ヲ
「民事訴訟法第八條」ニ改ム
第二十三條中「特許局ニ對シ」ヲ「特許局
又ハ裁判所ニ對シ」ニ改ム
第二十五條特許ニ關スル出願、請求其
ノ他ノ手續ヲ爲ス者ノ其責ニ歸スヘカラ
サル事由ニ因リ第百九條、第百十五條、
第百二十二條第一項又ハ本法ニ於テ準
用スル民事訴訟法第四百十五條ニ規定
スル期間ヲ遵守スルコト能ハサル場合
ニ於テハ其ノ事由ノ止ミタル日ヨリ十
四日以内ニシテ且其ノ期間滿了後一年
以内ニ限リ懈怠シタル手續ノ追完ヲ爲
スコトヲ得
第八十七條審判請求書カ法令ニ定メタ
ル方式ニ違背シタル場合ニ於テハ審判
長ハ相當ノ期間ヲ定メ其ノ期間内ニ欠
缺ヲ補正スヘキコトヲ命スヘシ成規ノ
手數料ヲ納付セサル場合亦同シ
請求人カ欠缺ノ補正ヲ爲ササルトキハ
審判長ハ決定ヲ以テ審判請求書ヲ却下
スヘシ
前項ノ決定ニハ理由ヲ附スヘシ
第二項ノ決定ニ不服アル者ハ卽時抗告
ヲ爲スコトヲ得
前項ノ卽時抗告ニ付テハ民事訴訟法中
卽時抗告ニ關スル規定ヲ準用ス
抗告狀ニハ却下セラレタル審判請求書
ヲ添附スヘシ
第八十八條ノ二不適法ナル審判ノ請求
ニシテ其ノ欠缺カ補正スルコト能ハサ
ルモノナル場合ニ於テハ被請求人ニ答
辯書提出ノ機會ヲ與ヘスシテ審決ヲ以
テ之ヲ却下スルコトヲ得
第九十一條審判官ハ左ノ各號ノ一ニ該
當スル場合ニ於テハ審判ノ干與ヨリ除
斥セラル
-審判官又ハ其ノ妻若ハ妻タリシ者
カ事件ノ當事者、參加人若ハ特許異
議申立人ナルトキ又ハナリシトキ
二審判官カ事件ノ當事者、參加人又
ハ特許異議申立人ノ四親等內ノ血族
若ハ三親等內ノ姻族ナルトキ又ハナ
リシトキ
三審判官カ事件ノ當事者、參加人又
ハ特許異議申立人ノ法定代理人、後
見監督人、保佐人又ハ戶主若ハ家族
ナルトキ
四審判官カ事件ニ付證人又ハ鑑定人
ト爲リタルトキ
五審判官カ事件ノ當事者、參加人又
ハ特許異議中立人ノ代理人ナルトキ
又ハナリシトキ
六審判官カ事件ニ付審査官、審判官
又ハ判事トシテ査定、審決又ハ判決
ニ干與シタルトキ
七審判官カ事件ニ付直接ノ利害關係
ヲ有スルトキ
第九十二條除斥ノ原因アルトキ六當事
者又ハ參加人ハ除斤ノ申立ヲ爲スコト
ヲ得
第九十三條審判官ニ付審判ノ公正ヲ妨
クヘキ事情アルトキハ當事者又ハ參加人
ハ之ヲ忌避スルコトヲ得
當事者又ハ參加人ハ事件ニ付申述ヲ爲
シタル後ハ審判官ヲ忌避スルコトヲ得
ス但シ忌避ノ原因アルコトヲ知ラサリ
シトキ又ハ忌避ノ原因カ其ノ後ニ生シ
タルトキハ此ノ限ニ在ラス
第九十四條前二條ニ規定スル申立ハ其
ノ原因ヲ開元シテ書面ヲ以テ之ヲ爲ス
ヘシ但シ口頭審理ニ於テハ口頭ヲ以テ
之ヲ爲スコトヲ得
除斥又ハ忌避ノ原因ハ申立ヲ爲シタル
日ヨリ三日以內ニ之ヲ疏明スヘシ前條
第二項但書ノ事實亦同シ
第九十五條陰斥又ハ忌避ノ申立アリタ
ルトキハ審判ニ依リ決定ヲ爲スヘシ
審判官ハ其ノ除斥又ハ己心避ニ付審判ニ
干與スルコトヲ得ス但シ意見ヲ述フル
コトヲ得
第一項ノ規定ニ依ル決定ニハ理由ヲ附
スヘシ
第一項ノ規定ニ依ル決定ニ對シテハ不
服ヲ申立ツルコトヲ得ス
第九十六條除斥又ハ忌避ノ申立アリタ
ルトキハ其ノ中立ニ付テノ決定アル迄
審判手續ヲ停止スヘシ但シ急速ヲ要ス
ル行爲ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第九十七條ノ二審判ニ於テハ通事ヲ用
キルコトヲ得
民事訴訟法第百三十四條ノ規定ハ通事
ニ付之ヲ準用ス
第九十九條第四項中「第九十五條第二項
及第三項」ヲ「第九十五條第三項及第四
項」ニ改ム
第百條第三項但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ審判官ハ過料ノ決定ヲ爲シ、勾引
ヲ命シ又ハ保證金ヲ供託セシムルコト
ヲ得ス
第百九條但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ第百六條ノ規定ニ依ル補償金額ノ
審決及第百十九條第一項ノ規定ニ依ル
費用ノ審決ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第百十條中「第八十六條乃至第百八條」ヲ
「第八十六條乃至第百一條及第百三條乃
至第百八條」ニ、「第九十二條乃至第九十
四條及第百一條」ヲ「第九十二條、第九十
三條及第百一條」二五六
第百十條ノ二不適法ナル審判ノ請求ニ
シテ其ノ欠缺カ補正スルコト能ハサル
モノナル場合ニ於テハ被請求人ニ答辯
書提出ノ機會ヲ與ヘスシテ抗告審判ノ
審決ヲ以テ之ヲ却下スルコトヲ得
第百十條ノ三抗告審判ノ請求ハ其ノ審
理ノ終結ニ至ル迄之ヲ取下クルコトヲ
得
第百十條ノ四抗告審判ヲ請求スル權利
ハ其ノ審理ノ終結ニ至ル迄之ヲ抛棄ス
ルコトヲ得
抗告審判ヲ請求シタル後抗告審判請求
權ヲ抛棄シタルトキハ抗告審判ノ請求
ニ付テモ之ヲ取下ケタルモノト看做ス
第百十一條ノ二審査又ハ審判ニ於テ爲
シタル手續ハ抗告審判ニ於テモ其ノ效
力ヲ有ス
第百十二條ノ二査定又ハ審判ノ審決ノ
手續カ法令ニ違反シタルトキハ抗告審
判ノ審判官ハ其ノ査定又ハ審決ヲ破毀
スヘシ
第百十四條抗告審判ニ於テ査定又ハ審
判ノ審決ヲ破毀スル場合ニ於テハ査定
ニ對スル抗告審判ニ在リテハ更ニ審査
ニ、審判ノ審決ニ對スル抗告審判ニ在
リテハ更ニ審判ニ付スヘシトノ審決ヲ
爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル審決アリタル場合ニ
於テハ其ノ破毀ノ基本ト爲シタル理由
ハ其ノ事件ニ付テハ審査官又ハ審判官
ヲ覊束ス
第百十五條第二項及第三項ヲ左ノ如ク改
ム
前項ノ規定ニ依ル出訴及其ノ裁判ニ付
テハ別段ノ規定アル場合ヲ除クノ外民
事訴訟ノ上告及其ノ裁判ニ關スル規定
ヲ準用ス
大審院ノ判決ニ於テ審決又ハ査定ノ破
毀ノ基本ト爲シタル理由ハ其ノ事件ニ
付テハ特許局ヲ覊束ス
第百十五條ノ二前條第二項ノ規定ニ依
ル上告狀ハ大審院ニ之ヲ提出スヘシ
抗告審判ノ審判官又ハ審判長ノ決定ニ
對スル抗〓ハ大審院ニ之ヲ爲スヘシ
第百十九條審判、抗告審判及出訴ニ關
スル費用ノ負擔ハ職權ニ依リ別段ノ規
定アル場合ヲ除クノ外其ノ事件ノ審決
ヲ以テ之ヲ定ム此ノ場合ニ於テハ事情ニ
依リ其ノ額モ亦之ヲ定ムルコトヲ得
審決、判決又ハ決定ヲ以テ審判、抗告
審判又ハ出訴ニ關スル費用ノ負擔ノミ
ヲ定メタルトキハ其ノ額ハ請求ニ依リ
特許局長官之ヲ決定ス
費用ノ負擔及額ニ關シテハ勅令ヲ以テ
之ヲ定ム
第百十九條ノ二審判又ハ抗告審判ニ於
テハ費用ヲ要スル行爲ニ付其ノ費用ノ
豫納ヲ命スルコトヲ得
第百二十一條第一項中「確定審決又ハ判
決ヲ以テ終結シタル事件ハ取消ノ請求又
ハ原狀囘復ノ請求ニ依リ之ヲ再審スルコ
トヲ得」ヲ「確定審決又ハ判決ニ對シテハ
再審ノ請求ヲ以テ不服ヲ申立ツルコトヲ
得」ニ改メ同條第二項ヲ左ノ如ク改ム
民事訴訟法第四百二十條ノ規定ハ再審
ノ請求ニ付之ヲ準用ス
第百二十二條ニ左ノ一一項ヲ加フ
不服ノ理由カ審決確定シ又ハ判決アリ
タル後ニ生シタルトキハ前項ニ規定ス
ル期間ハ其ノ理由發生シタル日ノ翌日
ヨリ之ヲ起算ス
第一項及第四項ノ規定ハ不服ノ申立ア
ル審決又ハ判決カ前ニ爲サレタル確定
審決又ハ判決ト牴觸スルコトヲ理由ト
スル再審ノ請求ニ付之ヲ適用セス
第百二十四條中「民事訴訟法第四百六十
七條第二項、第四百七十一條、第四百七
十二條第一項第二項及第四百七十五條乃
至第四百八十二條」ヲ「民事訴訟法第四百
二十一條、第四百二十二條及第四百二十
六條乃至第四百二十八條」三枚入
第百二十八條中「原狀囘復ノ請求ニ依ル」
子則
第百三十二條中「證人若ハ鑑定人又ハ通
事」ヲ「證人、鑑定人又ハ通事」ニックハ
第百三十三條ノ二本法ニ於テ準用スル
民事訴訟法第二百六十七條第二項又ハ
第三百三十六條ノ規定ニ依リ宣誓ヲ爲
シタル者カ特許局ニ對シ虛僞ノ陳述ヲ
爲シタルトキハ五百園以下ノ過料ニ處
ス
第百三十四條第一項中「五十圓」ヲ「五百
圓」ニ改メ同條第二項ヲ削ル
第百三十四條ノ二特許局ヨリ證據調ニ
關シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ提示
ヲ命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ
其ノ命ニ從ハサルトキハ五百圓以下ノ
過料ニ處ス
第百三十四條ノ三非訟事件手續法第二
百六條乃至第二百八條ノ規定ハ前三條
ノ過料ニ付之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之
ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生シタル
效力ヲ妨ケス
第十七條ノ二ノ改正規定ハ本法施行前同
條ニ揭クル事由ヲ生シタル委任代理ニシ
テ本法施行前代理權消滅ノ登錄ヲ受ケサ
リシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲ササリシモノ
ニモ之ヲ適用ス
本法施行前抗告事件ニ付決定ヲ受ケタル
者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗告ヲ爲ス
コトヲ得
本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシ
テ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付テハ其
ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處ス
ヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法施行ノ
際未タ其ノ裁判ヲ受ケサルモノハ本法ニ
於テ過料ニ處スヘキ場合ニ限リ本法ニ依
リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過
料ノ額ヲ超ユルコトヲ得ス
第二實用新案法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
實用新案法中改正法律案
實用新案法中左ノ通改正ス
第二十五條但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ前條ノ規定ニ依ル補償金額ノ審決
及第二十六條ノ規定ニ依リ準用スル特
許法第百十九條第一項ノ規定ニ依ル費
用ノ審議ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第三十條中「證人若ハ鑑定人又ハ通事」ヲ
「證人、鑑定人又ハ通事」ニ改ム
第三十一條ノ二第二十六條ノ規定ニ依リ
準用スル民事訴訟第二百六十七條第二
項又ハ第三百三十六條ノ規定ニ依リ宣
誓ヲ爲シタル者カ特許局ニ對シ虛僞ノ
陳述ヲ爲シタルトキハ五百圓以下ノ過
料ニ處ス
第三十二條第一項中「五十圓」ヲ「五百圓」
ニ改メ同條第二項ヲ削ル
第三十二條ノ二特許局ヨリ證據調ニ關
シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ提示ヲ
命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ其
ノ命ニ從ハサルトキハ五百圓以下ノ過
料ニ處ス
第三十二條ノ三非訟事件手續法第二百
六條乃至第二百八條ノ規定ハ前三條ノ
過料ニ付之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之
ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生シタル
效力ヲ妨ケス
第二十六條ノ規定ニ依リ準用スル特許法
第十七條ノ二ノ改正現定ハ本法施行前同
條ニ掲クル事由ヲ生シタル委任代理ニシ
テ本法施行前代理權消滅ノ登錄ヲ受ケサ
リシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲ササリシモノ
ニモ之ヲ適用ス
本法施行前抗告事件ニ付決定ヲ受ケタル
者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗告ヲ爲ス
コトヲ得
本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシ
テ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付テハ其
ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處ス
ヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法施行ノ
際未タ其ノ栽判ヲ受ケサルモノハ本法ニ
於テ過料ニ處スヘキ場合ニ限リ本法ニ依
リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過
料ノ額ヲ超ユルコトヲ得ス
第三意匠法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
意匠法中改正法律案
意匠法中左ノ通改正ス
第二十四條但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ前條ノ規定ニ依ル補償金額ノ審決
及第二十五條ノ規定ニ依リ準用スル特
許法第百十九條第一項ノ規定ニ依ル費
用ノ審議ニ付テハ此ノ限ニ在ラス
第二十五條中「第百十條乃至第百十二條」
ヲ「第百十條乃至第百十二條ノ二」ニ改ム
第二十九條中「證人若ハ鑑定人又ハ通事」
ヲ「證人、鑑定人又ハ通事」ニ改ム
第三十條ノ二第二十五條ノ規定ニ依リ
準用スル民事訴訟法第一一百六十七條第
二項又ハ第三百三十六條ノ規定ニ依リ
宣誓ヲ爲シタル者カ特許局ニ對シ虛僞
ノ陳述ヲ爲シタルトキハ五百圓以下ノ
過料ニ處ス
第三十一條第一項中「五十圓」ヲ「五百圓」
ニ改メ同條第二項ヲ削ル
第三十一條ノ二特許局ヨリ證據調ニ關
シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ提示ヲ
命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ其
ノ命ニ從ハサルトキハ五百圓以下ノ過
料ニ處ス
第三十一條ノ三非訟事件手續法第二百
六條乃至第二百八條ノ規定ハ前三條ノ
過料ニ付之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之
ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生シタル
效力ヲ妨ケス
第二十五條ノ規定ニ依リ準用スル特許法
第十七條ノ二ノ改正規定ハ本法施行前同
條ニ揭クル事由ヲ生シタル委任代理ニシ
テ本法施行前代理權消滅ノ登錄ヲ受ケサ
リシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲ササリシモノ
ニモ之ヲ適用ス
本法施行前抗告事件ニ付決定ヲ受ケタル
者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗告ヲ爲ス
コトヲ得
本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシ
テ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付テハ其
ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處ス
ヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法施行ノ
際未タ其ノ裁判ヲ受ケサルモノハ本法ニ
於テ過料ニ處スヘキ場合ニ限リ本法ニ依
リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過
料ノ額ヲ超ユルコトヲ得ス
第四商標法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
商標法中改正法律案
商標法中左ノ通改正ス
第二十四條中「第百九條乃至第百十五條」
ヲ「第百九條乃至第百十五條ノ二」ニ改
ム
第三十六條中「證人若ハ〓定人又ハ通事」
ヲ「證人、鑑定人又ハ通事」ニ改ム
第三十六條ノ二第二十四條ノ規定ニ依
リ準用スル民事訴訟法第二百六十七條
第二項又ハ第三百三十六條ノ規定ニ依
リ宣誓ヲ爲シタル者カ特許局ニ對シ虛
僞ノ陳述ヲ爲シタルトキハ五百圓以下
ノ過料ニ處ス
第三十七條第一項中「五十圓」ヲ「五百圓」
ニ改メ同條第二項ヲ削ル
第三十七條ノ二特許局ヨリ證據調ニ關
シ書類其ノ他ノ物件ノ提出又ハ提示ヲ
命セラレタル者正當ノ理由ナクシテ其
ノ命ニ從ハサルトキハ五百圓以下ノ過
料ニ處ス
第三十七條ノ三非訟事件手續法第二百
六條乃至第二百八條ノ規定ハ前三條ノ
過料ニ付之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行前ニ生シタル事項ニモ之
ヲ適用ス但シ從前ノ規定ニ依リ生シタル
效力ヲ妨ケス
第二十四條ノ規定ニ依リ準用スル特許法
第十七條ノ二ノ改正規定ハ本法施行前同
條ニ揭クル事由ヲ生シタル委任代理ニシ
テ本法施行前代理權消滅ノ登錄ヲ受ケサ
リシモノ又ハ其ノ屆出ヲ爲ササリシモノ
ニモ之ヲ適用ス
本法施行前抗告事件ニ付決定ヲ受ケタル
者ハ仍從前ノ規定ニ依リ更ニ抗告ヲ爲ス
コトヲ得
本法ニ依リ新ニ期間ヲ定メタル手續ニシ
テ本法施行ノ際爲スヘキモノニ付テハ其
ノ期間ハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算ス
本法施行前從前ノ規定ニ依リ過料ニ處ス
ヘキ行爲ヲ爲シタル者ニシテ本法施行ノ
際未タ其ノ裁判ヲ受ケサルモノハ本法ニ
於テ過料ニ處スヘキ場合ニ限リ本法ニ依
リ處罰ス但シ過料ノ額ハ從前ノ規定ノ過
料ノ額ヲ超ユルコトヲ得ス
〔國務大臣中橋德五郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=3
-
004・中橋徳五郎
○國務大臣(中橋德五郞君) 只今議長ヨリ
議事ニ掛ケラレマシタ特許法中改正法律案
外三件ハ、御承知ノ通リニ民事訴訟法ヲ準
用シタル所ガ多イノデアリマス、然ルニ民
事訴訟法ハ第五十一議會ニ於キマシテ、議
院ノ決議ヲ經マシテ、來ル四年度ヨリ實行
ニナル運ビニナッテ居リマス、隨テ此特許法
及他ノ三案ハ、ソレニ從ヒマシテ改正シナ
ケレバナラヌコトニナリマシタカラ、之ヲ
提出致シマシタ、ドウカ御協賛ヲ下サルヤ
ウニ御願致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=4
-
005・元田肇
○議長(元田肇君) 別段ニ通告モアリマセ
ヌカラ、日程第五ニ移リマス、右各案ノ審
査ヲ委託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シマ
ス
第五右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=5
-
006・原惣兵衞
○原惣兵衞君 四案ヲ一括シテ議長指名九
名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=6
-
007・元田肇
○議長(元田肇君) 只今ノ動議ニ御異議ア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=7
-
008・元田肇
○議長(元田肇君) 御異議ナイト認メテ可
決致シマシタ、日程第六乃至第八ハ關聯セ
ル議案ナルニ依リ、一括シテ議題ト爲スニ
御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=8
-
009・元田肇
○議長(元田肇君) 御異議ナイト認メテ、
一括シテ議題ニ供シマス、日程第六、地方
鐵道法中改正法律案、日程第七、軌道法中
改正法律案、日程第八、非訟事件手續法中
改正法律案ノ三案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開
キマス-小川鐵道大臣
第六地方鐵道法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
地方鐵道法中改正法律案
地力鐵道法中左ノ通改正ス
第一條中「軌通條例」ヲ「軌道法」ニ改ム
第三條ニ左ノ一項ヲ加フ
前項ノ軌間ノ制限ハ命令ヲ以テ定ムル
特殊ノ地方鐵道ニ付テハ之ヲ適用セス
第六條ノ二地方鐵道會社ノ線、路延長ノ
費用ニ充ツル爲其ノ資本ヲ增加スル場
合ニ限リ監督官廳ノ認可ヲ受ケ利益配
當ニ關シ一定ノ期間内普通株ニ劣ル株
式(後配株)ヲ發行スルコトヲ得
第六條ノ三後配株ヲ發行スル場合ニ於
テハ其ノ旨ヲ定款ニ記載シ日株式申込
證ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス
後配株ノ種類及其ノ各種ノ株式ノ
數
後配株ノ利益配當ニ關スル事項
三延長線ノ工事ノ大要殊ニ其ノ開業
豫定時期
第六條ノ四後配株ノ發行ニ依リテ得タ
ル資金ハ當該線路延長ノ費用以外ニ之
ヲ充ツルコトヲ得ス
會社力後配株ヲ發行シタル場合ニ於テ
定款又ハ株式申込證ニ記載シタル事項
ニ付特ニ後配株主ニ不利益ナル變更ヲ
爲サムトスルトキハ後配株主總會ノ決
議ヲ經ルコトヲ要ス但シ已ムコトヲ得
サル事由アル場合ニ於テ裁判所ノ許可
アルトキハ此ノ限ニ在ラス
後配株主總會ニハ株主總會ニ關スル規
定ヲ準用ス
第六條ノ五商法第百九十七條但書、第
二百十二條ノ三項第二項、第二百十七
條第一項第四號及第二百十八條第二項
ノ規定ハ後配株ニ付之ヲ準用ス
第七條第一項ヲ削リ同條中「社債ハ」ヲ
「地方鐵道會社ノ社債ハ」ニ改ム
第八條第二項ヲ削ル
第九條削除
第二十二條第一項中「發著時刻及度數」ヲ.
「運轉速度及度數」ニ、同條第二項中「發著
時刻及度數」ヲ「運轉速度、度數及發著時
刻」ニ改ム
第三十條政府カ公益上ノ必要ニ因リ地
方鐵道(工事中ノ線路ヲ含ム)ノ全部又
ハ一部及其ノ附屬物件ヲ買收セムトス
ルトキハ地方鐵道業者ハ之ヲ拒ムコト
ヲ得ス
前項ノ規定ニ依リテ一部買收セラレタ
ル爲殘存線路ノミニ付營業ヲ繼續スル
コト能ハサルニ至リタルトキハ地方鐵
道業者ハ殘存開業線路及其ノ附屬物件
ノ買收ヲ申請スルコトヲ得
第三十一條買收價額ハ左ニ揭クルモノ
トス
-最近ノ營業年度末迄ニ運輸開始後
三年ヲ經過シタル線路ヲ含ム開業線
路ニ付テハ其ノ營業年度末ヨリ遡リ
既往三年間ニ於ケル開業線建設費ニ
對スル益金ノ平均ニヲ買收ノ日ニ
於ケル開業線建設費ニ乘シタル額ヲ
二十倍シタル金額
二最近ノ營業年度末迄ニ運輸開始後
三年ヲ經過シタル線路ヲ含マサル開
業線路ニ付テハ買收ノ日ニ於ケル開
業線建設費ヲ時價ニ依リテ國債券面
金額ニ換算シタル金額以內ニ於テ協
定シタル金額
三工事中ノ線路及買收ノ日迄ニ未
タ使用開始ニ至ラサル改良施設ニ付
テハ買收ノ日ニ於ケル建設費ヲ時價
ニ依リテ國債劵面金額ニ換算シタル
金額以内ニ於テ協定シタル金額
前項第一號ノ規定ニ依ル金額カ買收ノ
日ニ於ケル建設費ヲ時價ニ依リテ國債
劵面金額ニ換算シタル金額ニ達セサル
トキハ其ノ換算シタル金額以内ニ於テ
協定シタル金額ヲ以テ買收價額トス
第三十二條政府ハ買收鐵道ノ營業ノ狀
況ニ基キ前條第一項第一號若ハ第二號
又ハ同條第二項ノ規定ニ依ル買收價額
ニ其ノ百分ノ五以內ノ金額ヲ加算スル
コトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ金額ヲ加算スヘキ
場合及其ノ割合ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第三十三條第三十一條ノ規定ニ於テ益
金トハ營業收入ヨリ營業費及賞與金ヲ
控除シタルモノヲ謂ヒ益金ノ平均割合
トハ三年間ニ於ケル每營業年度末ノ開
業線建設費ノ合計ヲ以テ同期間ニ於ケ
ル益金ノ合計ヲ除シタルモノニ一年間
ニ於ケル營業年度ノ數ヲ乘シタルモノ
ヲ謂フ
建設費、營業牧入及營業費ハ命令ノ定ム
ル所ニ依リテ算出シタル金額ニ依ル
第三十三條ノ二政府ノ買收スル鐵道又
ハ其ノ附屬物件ニ付買收ノ日ニ於テ補
修ヲ要スルモノアルトキハ之ニ要スル
金額ヲ時價ニ依リテ國債券面金額ニ換
算シ買收價額ヨリ控除ス
最近ノ營業年度末迄ニ爲スヘキ補修ヲ
其ノ營業年度末迄ニ爲ササリシトキハ前
項ノ規定ニ依ルノ外之ニ要スル金額ヲ
買收價額計算上ノ營業費ニ加算ス
第三十五條ノ二政府ハ買收ノ日ヨリ買
收代價交付ノ日ニ至ル迄買收代價トシ
テ交付スヘキ國債ノ利子ニ相當スル金
額ヲ〓算ヲ以テ從前ノ決算期每ニ買收
セラレタル者ニ交付スルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ交付シタル金額ハ
〓算中ト雖主務大臣ノ認可ヲ受ケ之ヲ
株主ニ配當スルコトヲ得
第三十五條ノ三第三十條第一項ノ規定
ニ依リテ一部買收セラレタル爲殘存線
路ノミニ付營業ヲ繼續スルコト能ハサ
ルニ至リタルトキハ地方鐵道業者ハ未
タ運輸開始ニ至ラサル殘存線路ニ付其
ノ營業廢止ニ因リテ生スル損失ノ補償
ヲ申請スルコトヲ得
第三十六條第二項及第三項ヲ削リ同條ニ
左ノ一項ヲ加フ
前項ノ規定ハ未タ運輸開始ニ至ラサル
線路ニ付之ヲ準用ス
第三十六條ノ二ヲ第三十六條ノ三トシ同
條第三項中「第三十一條第三項ノ規定ハ前
二項ノ益金」ヲ「第三十三條ノ規定ハ前二
項ノ益金、建設費」ニ改ム
第三十六條ノ二前二條ノ補償金額ハ第
三十一條乃至第三十三條ノ二ノ規定ニ
準シテ算出シタル金額ヨリ殘存物件ノ
價額ヲ時價ニ依リテ國債劵面金額ニ換
算シタル金額ヲ控除シタル殘額以内ニ
於テ政府之ヲ定ム
未タ工事ニ著手セサル線路ニ對スル補
償金額ハ測量其ノ他ノ費用ヨリ殘存物
件ノ價額ヲ控除シタル殘額ヲ時價ニ依
リテ國債券面金額ニ換算シタル金額以
內ニ於テ政府之ヲ定ム
第三十五條及第三十五條ノ二ノ規定ハ
前二項ノ補償金ノ支拂ニ付之ヲ準用ス
第三十六條ノ四主務大臣ハ地方鐵道ノ
買收又ハ補償ニ關シ必要アリト認ムル
トキハ當該地方鐵道業者ヲシテ建設費
ノ增減ヲ來スヘキ事項ニ付認可ヲ受ケ
シムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リテ認可ヲ受クヘキ場
合ニ於テ之ヲ受ケサルモノニ付テハ政
府ハ其ノ額ヲ査定スルコトヲ得
第三十六條ノ五第三十一條、第三十三
條ノ二及第三十六條ノ一一ノ國債時價ハ
大藏大臣ノ定ムル所ニ依ル
第三十九條第一項ニ左ノ一號ヲ加フ
五第六條ノ四第一項ノ規定ニ違反シ
タルトキ又ハ同條第二項ノ規定ニ違
反シテ後配株主ニ不利益ヲ及ホシタ
ルトキ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七軌道法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
軌道法中改正法律案
軌道法中左ノ通改正ス
第十一條第一項中「運轉時刻」ヲ「運轉速
度及度數」ニ、同條第二項中「料金又ハ運
轉時刻」ヲ「料金、運轉速度、度數又ハ發
著時刻」ニ改ム
第十七條公共團體ニ於テ公益上ノ必要
ニ因リ軌道(未タ運輸開始ニ至ラサル
線路ヲ含ム)ノ全部又ハ一部及其ノ附
屬物件ヲ買收セムトスルトキハ軌道經
營者ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
前項ノ規定ニ依リテ一部買收セラレタ
ル爲殘存線路ノミニ付事業ヲ繼續スル
コト能ハサルニ至リタルトキハ軌道經
營者ハ殘存開業線路ニ付テハ該線路及
其ノ附屬物件ノ買收ヲ求メ未タ運輸開
始ニ至ラサル殘存線路ニ付テハ其ノ事
業廢止ニ因リテ生スル損失ノ補償ヲ求
ムルコトヲ得
第十八條公共〓體ニ於テ前條ノ規定ニ
依ル買收ヲ爲サムトスルトキハ主務大
臣ノ認可ヲ受クヘシ公共團體ニ於テ前
條ノ規定ニ依ル買收ヲ爲シタルトキハ
特許ニ因リテ生スル權利義務ヲ承繼ス
第十九條公共團體カ第十七條ノ規定ニ
依ル買收又ハ補償ヲ爲ス場合ニ於テハ
買收償額又ハ補償金額ハ協定ニ依ル協
議調ハサルトキハ申請ニ因リ地方鐵道
法第三十一條乃至第三十三條ノ二又ハ
第三十六條ノ二ノ規定ニ準シ算出シタ
ル金額ヲ標準トシテ主務大臣之ヲ裁定
ス
第二十條中「第十八條第一項」ヲ「第十七
條」ニ改ム
第二十六條地方鐵道法第六條ノ二乃至
第八條、第十條第二項、第十一條、第
十五條、第十七條、第十九條第二項、第
二十三條第二項第三項、第二十五條、
第二十七條、第三十條乃至第三十六條
ノ二、第三十六條ノ四及第三十六條ノ
五ノ規定ハ軌道ニ之ヲ準用ス但シ地方
鐵道法第七條第二項及第八條中鐵道抵
當法トアルハ明治四十二年法律第二十
八號トス
第二十九條第一項ニ左ノ一號ヲ加フ
五第二十六條ニ於テ準用スル地方鐵
道法第六條ノ四第一項ノ規定ニ違反
シタルトキ又ハ同條第二項ノ規定ニ
違反シテ後配株主ニ不利益ヲ及ホシ
タルトキ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八非訟事件手續法中改正法律案
(政府提出)第一讀會
非訟事件手續法中改正法律案
非訟事件手續法中左ノ通改正ス
第百二十六條第一項ノ末尾ニ「地方鐵道法
第六條ノ四第二項(軌道法第二十六條ニ
於テ準用スル場合ヲ含ム)ニ定メタル事
件亦同シ」ヲ加フ
第百三十五條ノ五地方鐵道法第六條ノ
四第二項(軌道法第二十六條ニ於テ準
用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依ル許可
ノ申請ハ已ムコトヲ得サル事由ヲ疏明
シテ總取締役之ヲ爲スヘシ
第百三十五條ノ六前條ノ規定ニ依ル申
請ニ付テハ裁判所ハ利害關係人ノ陳述
ヲ聽キ理由ヲ附シタル決定ヲ以テ裁判
ヲ爲スヘシ
申請ヲ認許スル裁判ニ對シテハ不服ヲ
申立ツルコトヲ得ス
申請ヲ認許セサル裁判ニ對シテハ卽時
抗告ヲ爲スコトヲ得
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣小川平吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=9
-
010・小川平吉
○國務大臣(小川平吉尹石) 地方鐵道法竝軌
道法中改正法律案ノ提出ノ理由ヲ說明致シ
やっ、地方鐵道法ハ大正八年ニ實施セラレ
マシタガ、其後實施ノ成績ニ鑑ミマシテ、
一部改正ヲ爲ス必要ヲ認メタノデアリマ
ス、卽チ改正ノ要點ハ大體四點デゴザイマ
シテ、第一點ハ、特殊ノ地方鐵道ニ對シテ
軌間制限ノ緩和ヲシマシタコト、第二點ハ
地方鐵道會社ニ對シテ後配株ノ發行ヲ認メ
マシタコト、第三點ハ事務簡捷ノ趣旨ニ
基キマシテ認可事項ヲ削減致シマシタコ
ト、第四點ハ、買收及補償ニ關スル規定ヲ
改廢致シマシタコトデゴザイマス、次ニ軌
道法中改正法律案ハ、前述ノ地方鐵道法中
ノ改正ニ伴ヒマシテ、軌道法ニモ同樣ノ改
正ヲ施サント欲スルモノデゴザイマス、何
卒御審議ノ上、御協賛アランコトヲ希望致
シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=10
-
011・元田肇
○議長(元田肇君) 原司法大臣
〔國務大臣原嘉道君登摘]発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=11
-
012・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 非訟事件手續法中
改正法律案ノ提出理由ヲ御說明申上ゲマ
ス、此改正ハ只今鐵道大臣ヨリ說明シマシ
タ地方鐵道法中改正法律案及軌道法中改
正法律案ト牽聯致シマスルガ、此兩法律案
ニ於キマシテハ地方鐵道會社及軌道會社
ニ一定ノ條件ノ下ニ、後配株ノ發行ヲ認ム
ルコトニナリマシタ、而シテ會社ガ後配株ヲ
發行致シマシタル場合ニ於キマシテ、定款
又ハ株式申込書ニ記載シタル事項ニ付テ、
殊ニ後配株主ニ不利益ナル變更ヲ來サント
致シマスル時ニハ後配株主總會ノ決議ヲ
經ルコトヲ要スルモノトシテ居リマスル
ガ、已ムコトヲ得ザル事由ガアリマシタ場
合ニ於キマシテハ、其變更ハ同株主總會ノ
決議ヲ經ルコトナク、裁判所ノ許可アルヲ
以テ足ルコトニ相成ッテ居リマス、ンコデ此
裁判所ノ許可ヲ得ル手續ヲ、非訟事件手續
法中ニ規定スルノ必要ガアリマシテ、本案
ヲ提出致シマシタ次第デアリマス、何卒御
協賛ヲ與ヘラレンコトヲ希望致シマス(拍
手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=12
-
013・元田肇
○議長(元田肇君) 質疑ガゴザイマス、工
藤鐵男君-〓水德太郞君-ソレデハ兩
君共御出デゴザイマセヌカラシテ、次ノ日程
ニ移リマス、日程第九、右各案ノ審査ヲ付
託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ニ供シマス
第九右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=13
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014・原惣兵衞
○原惣兵衞君 右三案ヲ一括シテ、政府提
出北海道鐵道株式會社所屬鐵道外十三鐵道
買收ノ爲公債發行ニ關スル法律案ノ委員ニ
併セ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=14
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015・元田肇
○議長(元田肇君) 原君ノ動議ニ御異議ア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=15
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016・元田肇
○議長(元田肇君) 御異議ナシト認メテ可
決致シマタ、日程第十、陪審法中改正法律
案ノ第一讀會ヲ開キマス
第十陪審法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
陪審法中改正法律案
陪審法中左ノ通改正ス
第四條第四號ヲ第五號トシ第三號ヲ第四
號トシ同條第二號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
三治安維持法ノ罪
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
本法ハ本法施行前ニ生シタル事件ニ付亦
之ヲ適用ス
〔國務大臣原嘉道君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=16
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017・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 陪審法中改正法律
案ノ提出理由ヲ御說明申上ゲマス、治安維
持法ノ罪ハ陪審法第四條ニ列記シテアリマ
スル刑法第二編第一章乃至第四章第八章ノ
罪、就中內亂罪及外患罪竝法令ニ依ル公選
ニ關シ犯シタル罪ト等シク、其本質上及實
際ニ於キマシテ、陪審員ノ公正的確ナル表
決ヲ得ルニ適セナイモノガアルノデアリマ
ス、陪審法ニ於キマシテ是等ヲ陪審手續ヨ
リ除外致シマセナカッタノハ、其制定當時
ニ於テ未ダ治安維持法ガ存在シテ居ラナ
カッタ爲デアリマス、政府ハ現行陪審法ノ精
神ニ鑑ミマシテ、治安維持法ノ罪ヲ陪審法
第四條ニ認メタル除外例ニ加ヘマシテ、陪
審制度ノ運用上ニ支障ナカランコトヲ期ス
ルモノデアリマス、是ガ本案ヲ提出致シマ
シタル所以デアリマスカラ、何卒御協賛ヲ
與ヘラレンコトヲ希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=17
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018・元田肇
○議長(元田肇君) 質疑ノ通告ガアリマ
ス-土屋清三郞君
〔土屋溝三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=18
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019・土屋清三郎
○五屋清三郞君 私ハ本案ニ關聯シテ司法
大臣ニ御尋ヲ致シタイノデアリマス、先般
破產ノ爲ニ身分上ノ資格迄モ奪シラ居ルト
云フコトハ破產其モノガ債權者ノ總テノ
利益ノ爲ニ破產者ノ總テノ財產ニ對スル强
制執行デアルト云フ趣旨カヲシテ、破產ノ
爲ニハ其身分ニマデ影響ヲ及ボサナイト云
フノガ今日ノ破產法ノ精神デアル、然ルニ
特別法ノ中ニ於テ今尙ホ破產者ニ對シテ身
分上ノ資格迄モ奪ッテ居ルト云フコトハ、
甚ダ矛盾シテ居ルデハナイカト云フコトニ
付テ尋ネマシタ所ガ、司法大臣カラ其際御
答辯ガアリマシタ、其御答辯ハ、啻ニ要領ヲ
得ザルノミナラズ、現ニ玆ニ上程サレテ居
ル所ノ陪審法ヲ見マシテモ、甚ダ矛盾撞著
シテ居ル事實ガ發見セラルヽノデアリマ
ス、ソコデ私ハ二三ノ點ヲ質問致シタイノ
デアリマス、陪審法ハ御承知ノ通リ國民ノ
意思ヲ裁判ニ反映セシムル所ノ普選ノ精
神ニ基イタ最モ新シイ所ノ制度デアル、然
ルニ此破產者ヲ陪審員ヨリ排斥シテ居ルト
云フコトハ、普選ノ精神ニ反シ、人格政治
ノ意義ニ反スルト考へルガ、ドウデアルカ、
第二ニハ犯罪者デアリマシテモ六年未滿
ノ禁錮ニ處セラレタル者、又ハ舊刑法ノ重
罪犯者ヲ除クノ外ハ、當然陪審員タル所ノ
資格ヲ得テ居ルニモ拘ラズ、破產者ニ對シ
テハ之ヲ剝奪シテ居ルト云フコトハ、犯罪
者ヨリモ尙ホ破產者ヲ虐待スル所ノ制度デ
アッテ、是亦甚ダ矛盾シテ居ル所ノ制度デハ
ナイカ、今一ツハ今日ノ官吏ノ任用ニ關ス
ル制度ヲ見マスルト云フト、行政部並軍部
ノ官吏ト云フモノハ其任官ノ間ニ於テ破
產ノ爲ニ其資格ヲ奪ハルヽコトハナイノデ
アリマス、然ルニ司法部ノ官吏ニ至リマシ
テハ任官ノ間ニ破產ヲ致シマスルト云フ
ト、忽チ其資格ヲ失フト云フコトニ相成ル
ノデアリマス、是ハ同ジク官吏デアリナガ
ラ甚ダ矛盾シテ居ル所ノ制度デアルト思フ
ノデアルガ、司法大臣ハ矢張之ヲ妥當ダト
考ヘルノデアルカ、若シ妥當ナリト考ヘル
ノデアルナラバ、其理由ヲ說明シテ戴キタ
イノデアリマス、ソレカラ第四ニハ、醫師、
藥劑師、齒科醫師、是等ノ者ハ破產ノ爲二
何等資格ヲ奪ハルヽコトハアリマセヌ、然
ルニ辯護士、辨理士其他司法ノ業屬ハ破產
ノ爲ニ忽チ其資格ヲ失フト云フコトニ相成
ルノデアリマス、同ジク自由職業ニ從事シ
テ居ル者デアルニ拘ラズ、單リ司法ニ關ス
ル所ノ業屬ノ者ニ於テ、此資格ヲ奪ハルヽ
所ノ特別法ヲ存置スルト云フコトハ一體
如何ナルモノデアルカ、司法大臣ハ之ヲ妥
當ナリト認ムルカ、若シ妥當ナリト認ムル
ナラバ此理由ヲ說明シテ戴キタイノデア
リマス、今一ツハ政府ハ今日ノ新聞デ見マ
スト云フト、司法制度ニ對シテ根本的ノ改
革ヲ企テヽ案ヲ具シテ樞密院ノ御諮詢ヲ仰
ギツヽアルト云フコトデアリマス、司法大
臣ハ以上ノ私ノ質問ニ付テ、此破產ノ爲ニ
身分上ノ資格ヲ奪ッテ居ルト云フ所ノ制度
ヲ、若シ妥當デナイト考ヘルナラバ、此場
合ニ於テ根本的ニ根コソギニ是等ノ制度ヲ
撤廢スル所ノ意思ガナイカドウカ、此點ニ
付テ御說明ヲ得タイノデアリマス
〔國務大臣原嘉道君登摘但〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=19
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020・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 土屋君ノ第一ノ御
質問ハ、陪審法中ニ破産者ニシテ復權ヲ得
ザル者ハ陪審員タルコトヲ得ズトアルノ
ハ人格主義、普選主義ニ反セザルカト云
フコトデアリマスケレドモ、現行ノ我國ノ
各種ノ公法ニ於キマシテ、破產者ト云フモ
ノハ國民ノ信用薄キモノト認メテ居ルノデ
アリマスカラ、陪審法ニ此規定ガアリマシ
テモ、一向差支ナイノデアリマシテ、普選
ノ趣旨ニ相反スルモノデハナイト信ジマ
ス、ソレカラ第二ニ、破產者ニシテ復權ヲ得
ザル者ガ或ル犯罪者ヨリモ却テ劣ルヤウニ
見ラレルガ、是ハ不都合ハナイカト云フコト
デアリマスルガ、是モ他ノ立法例ニ澤山ア
ルコトデアリマシテ、我國ニ於ケル國民ノ
感情ガ破產者ニ對スル信用ガ薄イ結果デア
リマスルノデ、別ニ是ガ爲ニ陪審法ニ於テ殊
ニ破產者ヲ輕ク扱ッタ譯デハナイノデアリ
マスカラ、別ニ不都合ハナイト信ジマス、
ソレカラ第三以下ノ御問ハ、是ハ旣ニ土屋
君カラ各種ノ法律ノ改正案ガ御提出ニナツ
テ居ルヤウデアリマスカラ、其法律ノ審査
ノ際ニ意見ヲ申述ベルコトニ致シマス
〔土屋〓三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=20
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021・土屋清三郎
○土屋〓三郞君 只今司法大臣ハ私ノ問ニ
對シマシテ、破產者ト云フモノハ世間ノ信
用ガ薄イカラ已ムヲ得ナイト云フコトヲ申
サレタ、私ハ深ク之ヲ司法大臣ノ爲ニ惜ム
ノデアリマス、犯罪者ヨリモ尙ホ破產者ト
云フモノガ社會ノ信用ヲ失フト云フ貴方ノ
御考ハ、若シ是ガ現内閣ノ思想デアルト致
シマスルナラバ、吾々國民ハ大ナル失望ヲ致
サナケレバナラナイノデアリマス、併シ私
ハ此點ハ是レ以上申上ゲマセヌ、唯只今ノ
御答辯ニ對シテ最後ニ一ツ御尋ヲ致シテ置
キタイノハ裁判所構成法ノ第七十三條ニ
依リマシテ、裁判官ハ其意思ニ反シテ其職
ヲ奪ハレルコトハナイ、卽チ自分ノ意思ニ
反シテ免職ヲサレルコトハナイノデアリマ
ス、然ルニ同ジク六十六條ノ三號ニ依リマ
シテ、破產者ニ對シテハ當然其資格ヲ奪ッテ
居ル、卽チ判事檢事ノ職ニ在ル所ノ者ガ、
破產ノ宣告ヲ受ケマシタ場合ニハ、直ニ其
職ヲ失フノデアリマス、、是ハ前申シマシ
タ所ノ行政部軍部ノ官吏ト相比較致シマシテ
非常ニ差別的ノ待遇ヲ受ケテ居ルバカリデ
ナク、破產其モノヽ原因ハ御承知ノ通
リ、必ズシモ親譲リノ借金ガ原因ニナルノ
デハアリマセヌ、或ハ友人ノ爲ニ保證ヲシ
夕爲ニ破產ノ原因トナルコトモアルデアリ
マセウ、或ハ十二年ノ大震火災ノ如キ場合
ニ於キマシテ、自分ノ家ヲ擔保ニシテ金ヲ
借リテ居シテ、保險ヲ掛ケテ居ッタケレドモ、
保險ハ燒ケテシマッテ借財ハ燒ケナイ、是ガ
原因トナッテ破產ヲスルト云フコトモアル
デアリマセウ、今日ノ如キ此破產ノ爲ニ人
ノ公ノ資格ヲ奪フト云フコトガ明ニナリ
旣ニ立法府ニ於キマシテモ債權者ガ、或ハ
債權者以外ニ、或ル惡辣ナル所ノ政治家ガ
アッテ、之ニ手ヲ廻シテ其債權ヲ手ニ入レ
テ、破產ヲ以テ其人ノ資格ヲ奪ハントスル
ガ如キ傾向ガ段段々々現レテ來ル今日ノ狀
態ニ於キマテハ假ニ茲ニ〓骨ナル嚴正ナ
ル所ノ司法官ガアッテ、其司法官ヲ何トカ始
末シタイト云フ時ニ偶、其人ガ他ニ債務ノ
アルコトヲ承知シテ、手ヲ廻シテ之ヲ買收
シテ、之ヲ以テ破產ノ申請ヲ致シ、破產ノ
宣告ヲ受ケシムルト云フコトニナリマスレ
バ取リモ直サズ此六十六條ノ規定アルガ、
爲ニ、七十三條ノ裁判官ノ終身官タル
其意思ニ反シテ其地位ヲ奪ハルヽコトノナ
イト云フ所ノ、此保障ノ箇條ト云フモノハ
全ク空支徒法トナッテ、司法官ノ獨立ト云フ
コトハ遂ニ此點カラ崩レテ行クト考ヘルノ
デアルガ、之ヲ司法大臣ハドウ考ヘルノデ
アルカ、此點ヲ御尋致スノデアリマス(拍
手
〔國務大臣原嘉道君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=21
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022・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 破產者ガ國民的信
用ノ薄イト云フコトハ先程申上ゲタ通リデ
アリマス、而シテ現行裁判所構成法ニ於テ、
判檢事ニナル無資格者ノ中ニ之ヲ加ヘタト
云フコトハ、他ノ法律ノ比較上當然ノコト
デアラウト信ズルノデアリマス、而シテ一
旦判檢事ニナリマシタ後ニ、當然職務ヲ行
フト云フコトハ、別ニ明文ハナイノデアリ
マスルガ、併シ破產者トシテ、國民的信用
ノ薄イ者ガ判檢事ニナッテ居ルコトノ不都
合デアルト云フコトハ、私ハ一般國民ノ認
ムル所デアラウト信ズルノデアリマス、隨
テ將來ニ於キマシテモ、私ハ土屋君ノ御問
ノ如キ趣旨ニ、法律ヲ變更スルノ必要ハナ
イモノト考ヘマス(拍手)
〔森保祐昌君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=22
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023・森保祐昌
○森保祐昌君 陪審法中ノ改正法律案ニ付
テ一言司法大臣ニ質問シマス、一體陪審制
度ヲ設ケラレタル趣旨ト云フモノハ立憲
政體ニ於テ立法ト行政ダケニ國民ノ參與權
ガアルノニ、司法ニ對シテノミ國民ノ參與
權ガナイカラ、此事ハ立憲政體トシテ不具
デアルト云フコトガ第一ノ理由デアッテ、次
ハ司法ノミニ付テ、我國ノ憲法ノ條文ガ、
司法權ハ天皇ノ名ニ於テ栽判所ガ之ヲ行フ
ト單純ニナッテ居ッタノデハ事實上ノ犯罪
行爲ノアリタルヤ否ヤマデヲ、天皇ノ名ニ
於テ裁判所ガ之ヲ行フト云フコトハ思想
上宜シキ結米ヲ得ナイモノデアル、是ガ卽
チ陪審制度ノ起リタル理由ニナッテ居ルノ
デアリマス、本仟ノ治安維持法ナルモノハ
言葉ヲ簡單ニ言ヘバ是ハ思想上ニ重キヲ
置イテ罰スル罪デアル形態ニ現ハレタル
事柄ニ、付テハ、既ニ刑法ニ於テ條文ガアル、
尙ソレ以上進ンデ思想上ニ重キヲ置イテ以
テ形ニ現ハレヌカラトニロッテモ、頗ル我國ノ
國體ニ重大ナル關係ヲ及ボスモノナルガ故
ニト云フ理由ノ下ニ此治安維持法ハ出來タ
モノデハナイ、故ニ此法律ヲ施行スベキヤ
否ヤト云フコトニ付テハ、頗ル疑問ノアル
問題ニナッテ居ルノデアル、之ヲ陪審ノ手續
カラ除クト云フコトハ陪審法ヲ設ケタル
趣旨ニ反スルノデハアリマセヌカ、陪審法
ヲ設ケタル趣旨ト云フモノハ、總テ獨逸ノ
憲法ノ如ク、若シ司法權ハ裁判所ガ天皇
ノ名ニ於テ法律ヲ宣言スルト云フ趣旨ニ
ナッテ居ルノナラ宜イケレドモ、裁判全部
ヲ天皇ノ名ニ於テスルト云フコトニナッ
テハ、人ヲ殺シタトカ殺サヌトカ云フヤウ
十事實マデヲ、栽判所ガ天皇ノ名ニ於テ行
フト云フコトハ思想上當ヲ得ナイト云フ
コトニ根據ヲ持ッタコトヲ、司法大臣ト雖モ
是ハ御忘レニナラナイデアラウ(「一向分ラ
ナイゾ、何ヲ話シテ居ルカ」ト呼フ者アリ)
分ラナイコトハナイ、サウデアルカラ詰リ
陪審法ノ設ケラレタノハ決シテ良イ判決
ガ出來ルカラト云フノデ設ケラレタモノデ
ハナイ、立法行政ガ總テ國民ノ參與ノ下ニ
出來ルノデアルカラ、司法モ國民ヨリ選擧
シタル所ノ陪審員デ、事實重大ナル犯罪ハ
其事實ヲ認メテ來ルナラバ、朕ハ汝等ノ選
擧シタル衆議院議員ノ結合スル議會ニ於
テ、作リタル法律ヲ宣言スベシト云フ精神
ニナッテ居ルノデアル、然ルニ此治安維持法
ト云フモノハ思想ヲ主ニ罰スルコトニナツ
テ居ルノデハアリマセヌカ、之ニ對シテ此
最モ議論ノアル治安維持法ト云フモノヽ罪
ヲ、陪審制度カラ除カレルト云フコトハ
陪審制度ノ趣旨ヲ沒却シタモノデハナイ
カ、之ヲ質問スルノデアリマス、一寸其點
ガ分リマセネバ又申上ゲナケレバナリマセ
ヌカラ、一應谷辯ヲ得マシテカラ申上ゲマ
ス
〔國務大臣原嘉道君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=23
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024・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 我國ノ現行ノ陪審
法ハ總テノ犯罪ニ付テ陪審制度ヲ採用シテ
居ルノデハナイノデアリマス(拍手)故ニ先
程申上ゲマシタ通リ、陪審法第四條ノ立法
ノ精神ニ基イテ、治安維持法ノ罪ヲ矢張陪
審裁判カラ除外セントスルモノデアッテ、卽
ヲ現行陪審法ノ精神ニ副フ改正トナルノデ
アリマス
〔森保祐昌君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=24
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025・森保祐昌
○森保祐昌君 現行法ノ精神ニ基イテ、此
法律案ガ出タト云フ司法大臣ノ答辯デアリ
マスルガ、現行法ハ無論司法大臣ノ言ハレ
ル如ク、全部ノ罪ニ付テ陪審制度ガ設ケラ
レテ居ルノデハナイ、是ハ本來ノ精神カラ
言ヘバ、陪審制度ハ總テノ罪ニ付テ設ケル
ト云フコトガ精神デアルケレドモ、甚ダ手
續ガ煩雜ナルガ爲ニ、最モ重大ナルモノニ
付テノミ此陪審制度ヲ適用スルコトニ
ナッテ居ルノハ、是ハ理想デハナクシテ、便
宜カラ出來タ規定デハアリマセヌカ、陪審
制度ノ趣旨カラ言ヘバ人ヲ殺シタトカ殺
サナイトカ云フ罪ノ事實ノ認定ヲ、裁判所
ガ天皇ノ名ニ於テ行フト云フコトハ、思想
上適當デナイト云フ理由ノ下ニ、陪審制度
ガ設ケラレテ居ルノデハアリマセヌカ、陪
審制度ノ設ケラレテ居ル趣旨ヲ御尋致シマ
ス、若シ其趣旨デアルトスルナラバ本件
ノ治安維持法ノ如ク、思想上ノ事ニ付テ重
キヲ置ク事ニ關シテ罰スル罪ヲ、陪審ノ規
定カラ除クノハ適當デナイノデハナイカト
云フコトヲ質問スルノデアリマス
〔國務大臣原嘉道君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=25
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026・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 陪審法ハ、現行ノ
陪審法ニ於テ、陪審ニ付スベキ事件ニ付
テ陪審ヲサセルコトヲ適當ト認メタノデ
アリマシテ、其外ニ廣ク森保君ノ言ハレル
ヤウナ意味ハ含ンデハ居リマセヌ、隨テ現
行陪審法ノ精神ニ基イテ、現行陪審法ノ規
定ト權衡ヲ得セシムル爲ニ、法律ノ改正ヲ
行フト云フコトハ、當然ノコトデアルト考
ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=26
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027・森保祐昌
○森保祐昌君 司法大臣ハ陪審制度ノ根本
原理ヲ知ラヌノデアリマスカラ、質問ハ是
デ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=27
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028・元田肇
○議長(元田肇君) 水谷長三郞君
〔水谷長三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=28
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029・水谷長三郎
○水谷長三郞君 本案ハ治安維持法違反ノ
被告人ヲシテ、陪審裁判ヲ請求スルノ權ヲ
奪ハントスル所ノ案デアリマスルガ故ニ、
陪審裁判ノ本旨デアル所ノ國民ハ、其同等
者ノ裁判ヲ受ケルト云フ權利ガアルト云フ
立場カラ見マスレバ、可ナリ重要ナル案デ
アラウト思フガ故ニ、次ニ述ブルデアラウ
所ノ數點ニ付テ、司法大臣ノ御答辯ヲ煩シ
タイト思フノデアリマス、治安維持法違反
事件ト陪審法トノ關係ハ、第五十六議會ニ
於テ、初メテ問題ニナッタ所ノモノデハナク
シテ、治安維持法ガ制定サレントシタ所ノ
第五十議會ニ於テモ、旣ニ問題ニナッテ居ッ
タノデアリマス、此時ニ問題トナッタ所ノ
最モ大キナ點ハ何デアルカト言ヘバ、內亂
罪ガ旣ニ陪審裁判カラ除外サレテ居ルニ拘
ラズ、治安維持法違反事件ガ、何故ニ陪審裁
判ヲ求ムルノ權アリヤ否ヤト云フ點ガ問題
ニナッテ居ッタノデアリマス、本案ノ提出理
由ヲ考ヘマスルト治安維持法ノ罪ハ其
性質上陪審手續ニ依ルコトヲ不適當トスル
云々ト云フ意味デアリマセウ、恐ラクハ是
ハ内亂罪、其他ソレト同樣ノ罪ニ關聯シテ
ノ制定理由デアラウト思フノデアリマス
處ガ第五十議會ニ於キマシテ、貴族院ノ治
安維持法委員會ニ於キマシテ、渡邊暢ナル
人ガ、内亂罪ガ陪審カラ除外サレテ居ルニ
拘ラズ、何故治安維持法ノミガ、陪審裁判
ヲ求ムルノ權アリヤ否ヤト云フ問ニ對シ
テ、其當時ノ政府委員ハ、治安維持法違反
ノ罪ト、內亂罪トハ其罪跡上本質的ニ異ッ
テ居リ、又其公益關係ニ於テ、根本的ニ異
テ居ルト云フ理由ヲ御述べニナリマシテ、
英吉利或ハ佛蘭西、墺太利ノ陪審制度ノ例
ヲ引カレマシテ、内亂罪ハ陪審制度ヨリ除
外スベキ所ノモノデアルガ、治安維持法違
反ノ罪ハ陪審法ヨリ除外スベキ所ノ何等ノ
理由ガナイト云フコトヲ其當時ノ政府委
員ハ言明サレテ居ルノデアリマス、然ルニ
第五十六議會ニ於キマシテ、既ニ第五十議
會ニ於テ豫見シ、又論議サレテ居ル所ノ問
題ニ關シマシテ、突如トシテ本案ヲ改正
シ、治安維持法違反ニ關スル所ノ犯罪ヲ
バ陪審制度ヨリ除外サレル所ノ理由ガ何
レニ在リヤト云フ點ヲ、先ヅ法相カラ御答
辯ヲ煩シタイト思フノデアリマス、第二
ニ、是ハサウ大シタ問題デハアリマセヌ
ガ、內亂罪ガ陪審制度カラ除外サレルノ
ハ主トシテ大容院ノ特別權限ニナッテ居
ル理由カラ、陪審裁判カラ除外サレテ居ル
ノデアル、然ルニ治安維持法ハサウ云フ大
審院ノ特別管轄ニ屬シテ居ラナイ所ノ犯罪
デアルガ、サウ云フモノヲバ內亂罪ニ準ジ
テ、今更事新シク陪審制度カラ除外スル所
ノ理由ガ、何レニ在リヤト云フノガ是レ第
二點デアリマス、更ニ第三點ニ於キマシテ
ハ此改正法案ト、此度我國ニ勃發シタ所
ノ日本共產黨事件トノ關係デアリマス、日
本共產黨ニ關スル被告事件ハ、東京ノ事件
ヲ除イテハ各地ニ於テ既ニ豫審モ終結
シ、或ハ一審、又時ニハ二審ノ判決ガ終シタ
所ガアルノデアリマス、處ガ東京以外ノ各
地ノ裁判所ヲ見マスルト、公判ヲ十一月一
日以前ニ開ク所ノ準備モ何等ナイニ拘ラ
ズ、各地ノ裁判所ハ一樣ニ十月一日前ニ公
判ノ指定ヲシテ、折角陪審裁判ヲ請求シ得
ルノ權利ヲバ、日本共產黨事件ノ被告カラ
剝奪シタ事實ヲ吾々ハハッキリ見セ付ケ
ラレテ居ルノデアル、然ラバ吾々ノ尋ネン
トスル點ハ現行法ニ於キマシテサヘモ、
此法ヲ改正セズニ、治安維持法被告事件ヲ
バ陪審裁判カラ除外サレテ居ルニ拘ラ
ズ、何故又更ニ此法案ヲ改メテ、ハッキリト
根本的ニ、治安維持法被告事件ヲ陪審制度
カラ除外スル所ノ理由ガ、果シテ何處ニ在ル
カ、更ニ最後ニ御尋致シタイノハ日本共
產黨事件ノ被告ガ、各地ノ裁判所デ一様ニ
言ノテ居ル點ハ、其理由ノ中ッテ居ルカ、中フ
テ居ナイカハ各人ノ見ル所ニ委セマスガ、
彼等被告ガ一様ニ言ッテ居ルノハ、吾々ハ決
シテ自分ノ利益ノ爲ニ働イタノデハナク、吾々
ハ無產大衆ノ爲ニ働イタノデアル、或ハ無產
大衆ノ爲ニ身命ヲ賭シテ働イタノデアル、
隨テ吾々ガヤッタ所ノ行爲ガ正シイカ、或ハ
間違シテ居ルカト云フコトノ唯一ノ裁判官
ハ我國ノ無產大衆デナクテハナラナイ、
隨テ吾々ノ栽判ハ飽迄モ公開ノ席上デ、又
飽迄モ陪審制度ノ下ニ裁カレナケレバナラ
ヌト云フコトハ日本共產黨事件ニ關係ノ
人ニガ皆一樣ニ法廷ニ於テ絕叫シタ所ノ點
デアル、所ガ此度ノ改正ハ斯ウ云フ民衆
ニ關係ノアル所ノ犯罪ガ、彼等被告ノ言葉
ヲ借リテ言ヘバ裁判官ハ公開ノ席上デ
陪審制度ノ下ニ裁カレナケレバナラヌト叫
ンデ居ル所ノ被告ニ對シテ、陪審制度ヲ求
ムルノ權ヲ剝奪シ、民衆ノ目カラ、民衆ノ
耳カラ、是等ノ事件ヲ蔽フテ、暗黑裁判ノ
下ニ移シテ裁カナケレバナラヌ所ノ理由ガ
果シテ何處ニアラウカ、更ニ吾々ハ形式上
ノ點カラ尋ネルノデハナイガ、政治道德或ハ
道理ノ點カラ尋ネナクテハナラヌ點ハ此
度ノ日本共產黨事件ノ被告ハ、旣ニ一應ハ
陪審制度ノ下ニ審判ヲ受ケル所ノ權利ヲ
持ッテ居ル、所ガサウ云フ事件ノ進行中ニ、
此法案ヲ改正シテ、偶〓彼等ガ獲得シテ居ル
所ノ權利ヲバ剝奪シ、而シテ彼等ヲシテ暗
黑栽判ノ下ニ審理セシムルト云フコトハ
刑事訴訟法或ハ其他ノ形式ノ上カラ申シマ
スレバ、是認スベキ點デアルカモ知レマセ
ヌケレドモ、政治道德ノ上カラ、或ハ道理ノ
上カラ見テ、果シテサウ云フ事ガ出來ルカ
ドウカ、折角獲得シタ權利ヲバ、其事件ノ
進行中ニ奪フト云フヤウナコトハ、道理ノ
上カラ政治道德ノ上カラ果シテ是認スルコ
トガ出來ルカドウカ、サウ云フ點ニ付キマ
シテ原司法大臣ノ御答辯ヲ煩シタイト思フ
ノデアリマス
〔國務大臣原嘉道君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=29
-
030・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 治安維持法制定當
時ノ政府委員ガ、治安維持法ノ罪ハ陪審法
ヨリ除外スベキモノデナイト言ッタト云フ
コトデテリマスガ、治安維持法制定當時ニ
ハマダ此犯罪ガ如何ナル狀態ニ行ハレル
カト云フコトハ、餘リ知ラレテ居ラナカッタ
ノデアリマス、然ルニ御承知ノ通リノ日本
共產黨事件ナルモノガ發覺シテ以來、此治
安維持法ニ規定シテアル犯罪ガ如何ナル狀
態ニ行ハレルカト云フコトガ明確ニナッテ
參ッタノデアリマスカラ、現行陪審法ノ第四
條ガ除外シテ居ル犯罪ト、其性質相類似ス
ルモノト見テ、之ヲ除外例中ニ加ヘルノハ當
然ノコトヽ考ヘマス、第二ニ、大審院ノ特
別權限ニ屬シテ居ル內亂罪ト同ジニ見ルノ
ハ不都合デアル云々ト云フ御話デアリマシ
タト考ヘマスガ、御承知ノ通リ陪審法カラ
除外サレテ居ルノハ單リ內亂罪ノミデハ
ナイノデアリマス、況ヤ治安維持法ニ依ル
國體變革ヲ目的トスル犯罪ハ、既ニ屢、當議
場デモ說明致シマシタ通リ一種ノ内亂罪
ト見テモ宜イ性質ノモノデアリマスカラ、
之ヲ陪審法カラ除外スルノハ是亦當然デア
ルト考ヘマス、第三ニ、東京地方裁判所以
外ノ各栽判所ニ於キマシテ、日本共產黨事
件ノ公判期日ヲ十月一日以前ニ於テ既ニ指
定シタト云フコトハ、是ハ各事件ニ於ケル
裁判長ノ職權デアリマシテ、之ニ對シテハ
何人モ異議ヲ言フベキ性質ノモノデハナイ
ノデアリマス、隨テ他ノ裁判所ニ於ケル被
告人等ガ陪審裁判ニ附セラレナカッタト云
フ理由ニ依テ、陪審法ヲ改正スル理由ガナ
イトハ言ヘナイノデアリマス、次ニハ是マ
デ開ケタ各裁判所ニ於テ、日本共產黨ノ被
告人等ガ悉ク陪審裁判ヲ求メタト云フヤウ
ニ言ハレマスガ、或ル被告人ハ求メタノモ
アリマスガ、或ル被告ハ求メテ居ラヌノデ
アリマシテ、總テノ被告人ガ陪審裁判ヲ請
求シタト云フコトハ誤リデアリマス、's
ナラズ陪審法ト云フモノガ既ニ制定サレ
テ、現行法ノ陪審法デ是レ〓〓ノ性質ノ事
件ハ陪審ニ附セザルモノト定メテアリマス
ル以上ハ、被告人等ガ如何ニ希望シタカラ
ト云ッテ、法律ノ精神通リ或種ノ犯罪事件ヲ
陪審法カラ除外スルト云フコトハ、當然立
法上爲スベキ事柄デアルト存ズルノデアリ
マス、第五ニ、現ニ被告人トナッテ居ル共產
黨ノ人ニガ、陪審裁判ヲ受クルコトヲ期待
シテ居ッタノニ、之ヲ禁止スル力ヲ作ルノ
ハ政治道德上如何デアルカト云フ御問デ
アリマスガ、實體法デナキ手續法ニ於キマ
シテハ、既ニ起ッテ居ッタ事件ニ付キマシテ
モ、必要上手續ヲ變更スルト云フコトハ常
ニアルコトデアリマシテ、是ガ爲ニ政治道
德上如何ト云フヤウナ問題ヲ生ズル餘地ハ
ナイノデアリマス、國家ノ必要上、斯ウ云
フ手續ガ相當デアルト考ヘマスレバ之ヲ
制定スルニ何等道德上ノ不都合ハ生ジテ來
ナイト考ヘルノデアリマス
〔水谷長三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=30
-
031・水谷長三郎
○水谷長三郞君 只今ノ御說明ニ於テ大體
ハ分ッタノデアリマスガ、モウ一點御尋シタ
イ點ハ、此度ノ治案維持法ニ於キマシテハ、
恐ラクソレハ衆議院或ハ貴族院ヲ通ルデア
ラウト思フノデアリマスガ、其治安維持法
違反事件ニ於キマシテハ、國體ニ關スル犯
罪ト、私有財產制度ニ關スル犯罪トガ分レテ
居ルノデアリマス、獨逸ニ於キマシテハ、
政治犯ノ或種ノモノ、特種ノ政治犯ニ於キ
マシテハ、或種ノモノハ陪審ニ掛ケ、或種
ノモノハ陪審ニ掛ケナイト云フ立法例ニ
ナッテ居ルト云フコトヲ、第五十議會ニ政府
委員ハ發表シテ居リマス、若シ法相ノ只今
御說明ニナリマシタ點ヲ全部認ムルニ致シ
マシテモ、今日施行サレテ居ル所ノ陪審制
度ノ良成績カラ言ッタナラバ、國體ニ關スル
犯罪ニ付テハ兎モ角トシテ、私有財產制度
ニ關スル違反事件ハ、今日ノ陪審制度ノ下、
ニ於テ陪審ニ附シテ何等ノ差支ガナイト云
フコトハ今日ノ我國ノ國情、又今日ノ陪
審官ノ常識カラ見テ、毫モ憂フルニ足ラナイ
ト思フノデアリマス、斯ウ云フ點ニ關シマ
シテ、獨逸ニ行ハレテ居ル立法例ノ如ク、
一部ヲ陪審制度カラ除外シ、一部ヲ陪審制
度ニ掛ケ得ルト云フヤウナコトヲ、我國ニ
於テ認ムル意思アリヤ否ヤト云フ點ヲ御尋
シタイノデアリマス
〔國務大臣原嘉道君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=31
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032・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 政府ノ見ル所ニ依
リマスルト國體ノ變革ヲ目的トスル結社
モ、私有財產制度ヲ否認スルコトヲ目的ト
スル結社モ、其行動ノ狀態等ハ同一ナルモ
ノデアッテ、犯罪トシテ現ハレテ來ル場合ニ
於キマシテ、之ヲ審判スル手續ニ差異ヲ設
ケナイ方ガ宜シカラウト存ジテ居ルノデア
リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=32
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033・水谷長三郎
○水谷長三郞君 私ノ質問ハ是デ打切リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=33
-
034・元田肇
○議長(元田肇君) 是デ質問ノ通告ハ濟ミ
マシタカラ、議事日程第十一ニ移リマス、
右議案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議
題ト致シマス
第十一右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委
員ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=34
-
035・原惣兵衞
○原惣兵衞君 本案ハ昭和四年勅令第百二
十九號承諾ヲ求ムル件ノ委員ニ併セ付託セ
ラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=35
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036・元田肇
○議長(元田肇君) 原君ノ動議ニ御異議ア
リマスマイ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=36
-
037・元田肇
○議長(元田肇君) 御異議ナシト認メテ
可決致シマス-日程第十二、酒造組合法
中改正法律案ノ第一讀會ヲ開キマス
第十二酒造組合法中改正法律案政
府提出)第一讀會
酒造組合法中改正法律案
酒造組合法中左ノ通改正ス
第三條中「協同一致シテ」ノ下ニ「酒類製
造業ノ改良發達ヲ圖リ」ヲ加フ
第五條ノ二酒造組合ハ定款ノ定ムル所
ニ依リ其ノ組合員ニ對シ經費ヲ分賦シ
及過怠金ヲ徵收スルコトヲ得
前項ノ經費及過怠金ヲ滯納スル者アル
場合ニ於テ組合長ノ請求アルトキハ市
町村ハ市町村稅ノ例ニ依リ之ヲ處分ス
此ノ場合ニ於テ組合ハ其ノ徴收金額ノ
百分ノ四ヲ市町村ニ交付スヘシ
前項ニ規定スル徵收金ノ先取特權ノ順
位ハ市町村ノ徵收金ニ次キ其ノ時效ニ
付テハ市町村稅ノ例ニ依ル
經費ノ分賦又ハ過怠金ノ徵收ニ關シテ
ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ異議ノ申立、
訴願及行政訴訟ヲ爲スコトヲ得
第六條第一項中「酒造組合聯合會」ノ上ニ
「道府縣ヲ一區域トスル」ヲ加ヘ同條第二
項ヲ削ル
第六條ノ二酒造組合聯合會ヲ設置セム
トスルトキハ其ノ區域內ニ於ケル酒造
組合三分ノ二以上ノ同意ヲ得創立總會
ヲ開キ定款ヲ議定シ政府ノ認可ヲ受ク
ヘシ
第六條ノ三酒造組合聯合會設置ノ認可
アリタルトキハ其ノ區域內ニ於ケル酒
造組合ハ當然其ノ會員ト爲ル
第六條ノ四酒造組合聯合會ハ聯合會相
互ノ氣脈ヲ通シ其ノ目的ヲ達スル爲本
法施行地域ヲ通シテ一箇ノ酒造組合中
央會ヲ設置スルコトヲ得此ノ場合ニ於
テ酒造組合聯合會ナキ道府縣ニ付テハ
道府縣ヲ一區域トスル酒造組合ヲ以テ
酒造組合聯合會ト看做ス
第六條ノ五酒造組合中央會ヲ設置セム
トスルトキハ酒造組合聯合會及前條ノ
酒造組合三分ノ二以上ノ同意ヲ得創立
總會ヲ開キ定款ヲ議定シ政府ノ認可ヲ
受クヘシ
第六條ノ六酒造組合中央會設置ノ認可
アリタルトキハ酒造組合聯合會及第六
條ノ四ノ酒造組合ハ當然其ノ會員ト爲
ル
第六條ノ七第五條ノ二第一項及第四項
ノ規定ハ酒造組合聯合會及酒造組合中
央會ニ之ヲ準用ス
第七條中「酒造組合及酒造組合聯合會」ヲ
「酒造組合、酒造組合聯合會及酒造組合
中央會」ニカ入
第八條及第九條中「酒造組合又ハ酒造組
合聯合會」ヲ「酒造組合、酒造組合聯合
會又ハ酒造組合中央會」ニ改ム
第九條ノ二政府ハ酒造組合、酒造組合聯
合會又ハ酒造組合中央會ニ對シ業務ニ
關スル報告ヲ爲サシメ、業務ノ執行又
ハ財產ノ狀況ヲ檢査シ、經費ノ豫算又
ハ其ノ徴收方法ノ變更ヲ命シ其ノ他監
督上必要ナル命令又ハ處分ヲ爲スコト
ヲ得
第十條中「酒造組合又ハ酒造組合聯合會」
ヲ「酒造組合、酒造組合聯合會又ハ酒造
組合中央會」ニ、「組合若ハ聯合會」ヲ「組
合、聯合會若ハ中央會」ニ改ム
第十一條中「酒造組合及酒造組合聯合會」
ヲ「酒造組合、酒造組合聯合會及酒造組
合中央會」二四、
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
本法施行前酒造組合法ニ依リ設置シタル
道府縣ヲ一區域トスル酒造組合聯合會ニ
シテ本法施行ノ際現ニ其ノ區域内ニ於ケ
ル酒造組合三分ノ二以上ヨリ成ルモノハ
本法ニ依リ設置シタルモノト看做シ其ノ
區域内ニ於ケル酒造組合ハ本法施行ノ日
ヨリ當然其ノ會員ト爲ル
第五條ノ二第二項乃至第四項及第六條ノ
七ノ規定ハ本法施行前ニ分賦シタル經費
及本法施行前ニ生シタル原因ニ基ク過怠
金ニ之ヲ適用セス
〔政府委員大口喜六君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=37
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038・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 只今議題ニ相成
リマシタ酒造組合法中改正法律案ニ付キマ
シテ、御說明ヲ申上ゲタイト存ジマス、本
案ハ制度上全國ニ一箇ノ酒造組合中央會ノ
設置ヲ認メマシテ、酒造組合聯合會ノ區
域及加入ニ關シマスル規定ヲ改メ、又酒
造組合ノ經費等ヲ滯納致シタ者ニ對シマシ
テ、强制徵收ノ途ヲ開カントスルコト、現
在各地方ニ分立致シテ居リマス所ノ酒造組
合及酒造組合聯合會ノ統制ヲ確實ニ致シマ
シテ、且ツ之ガ基礎ヲ鞏固ナラシメ、以テ
酒造業ノ改良發達ヲ圖ル爲メ必要ナル事項
ニ關シマシテ、改正ヲ行ハントスルモノデ
アリマス、何卒御審議ノ上速ニ御協賛アラ
ンコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=38
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039・元田肇
○議長(元田肇君) 本案ニハ別段ニ通告ガ
ゴザイマセヌカラ、日程第十三ニ移リマ
ス、右議案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧
ヲ議題ト致シマス
第十三右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委
員ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=39
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040・原惣兵衞
○原惣兵衞君 本案ハ議長指名九名ノ委員
ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「賛成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=40
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041・元田肇
○議長(元田肇君) 原君ノ動議ニ御異議ハ
ゴザイマスマイ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=41
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042・元田肇
○議長(元田肇君) 動議ノ通リ決シマシ
タ-日程第十四、自作農創設維持助成資
金特別會計法案ノ第一讀會ヲ開キマス
第十四自作農創設維持助成資金特別
會計法案(政府提出)第一讀會
自作農創設維持助成資金特別會計法
案
自作農創設維持助成資金特別會計
法
第一條自作農創設維持助成金ノ會計ハ
之ヲ特別トシ一般ノ歳人歲出ト區分ス
ベシ
第二條自作農創設維持助成ノ資金二充
ツル爲政府ハ本會計ノ負擔ニ於テ借入
ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ借入ヲ爲スコトヲ得
ル金額ハ每年度三千萬圓ヲ限度トス
第三條政府ハ前條ノ規定ニ依ル借入金
ノ額ガ前條ニ規定スル制限額ニ滿チザ
ル場合ニ於テハ借入金ト通ジテ其ノ制
限額ニ達スル迄自作農創設維持助成ニ
要スル交付金トシテ交付スル爲本會計
ノ負擔ニ於テ農地債劵ヲ發行スルコト
ヲ得
第四條本會計ニ於テハ借入金、自作農
創設維持助成交付金ノ償還金及其ノ
利子其ノ他附屬雜收入ヲ以テ其ノ歲入
トシ自作農創設維持助成交付金、借入
金及農地債劵ノ償還金及其ノ利子其ノ
他附屬諸費ヲ以テ其ノ歲出トス
第五條本會計ニ於テ支拂上現金ニ餘裕
アルトキハ之ヲ大藏省預金部ニ預入ル
ルコトヲ得
第六條政府ハ每年本會計ノ歲入歳出豫
算ヲ調製シ歲入歳出ノ總豫算ト共ニ之
ヲ帝國議會ニ提出スベシ
第七條本會計ノ每年度歳出豫算ニ於ケ
ル支出殘額ハ翌年度ニ繰越使用スルコ
トヲ得
第八條本會計ノ收入支出ニ關スル規程
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ昭和四年度ヨリ之ヲ施行ス
國債整理基金特別會計法第二條第三項中
「臨時國庫證劵」ノ下ニ「、農地債券」ヲ加
フ
登錄稅法第十九條第八號中「北海道府縣
市町村」ヲ「國、北海道府縣市町村」ニ改
ム
〔國務大臣山本悌二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=42
-
043・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) 自作農創設維
持助成資金特別會計法案提案ノ理由ヲ說明
致シマス、自作農創設維持助成ハ農業生產
ノ增進ヲ圖リ、國民食糧ノ充實ヲ期スル上
ニ於テ重要ナルノミナラズ、農地問題殊ニ
小作問題ノ解決、農家經濟ノ向上、農村安
定ノ對策トシテ極メテ必要ナル施設デアリ
マシテ、國家政策上最モ重要且ツ緊要ナル
事項ト信ジマス(拍手)從來簡易生命保險積
立金ヲ此方面ニ融通シ、國家ノ補助施設ト
相俟シテ相當ノ效果ヲ收メテ參ッテハ居リマ
スルケレドモ、此方法ハ元來同積立金運用
ノ一體樣ニ過ギマセヌカラ、自作農創設維
持者ノ選擇ニ關シテハ、資金還元ノ趣旨ニ
依ル制限ノ爲ニ、適當ナル資格者ニモ資金
ヲ融通シ能ハザル場合ガアルノデアリマ
ス、又融通資金ノ限度ハ農村一般ノ要望ニ
對シマシテ、到底之ヲ滿足シ能ハザルノ狀
況ニ在ルノデアリマス、卽チ簡易生命保險
積立金ノ運用ノミニテハ、其貸付ノ方法及
限度ニ於テ自作農創設維持ノ目的ヲ十分ニ
達成シ能ハザルノ憾ガアルノデアリマスル、
是ニ於テ政府ハ恆久的ノ制度ヲ確立致シマ
シテ、爾〓每年一定ノ資金ヲ以テ自作農創
設維持ノ助成ニ流用セシメテ、以テ相當ノ
程度ニ於テ資金ノ需要ヲ滿足セシムルト同
時ニ、交付ノ按配ニ關スル從來ノ不便ヲ緩
和セントスルノデアリマスル、而シテ是ガ
資金ニ關シマシテハ每年度三千万圓ヲ限度
トシテ借入金ヲ爲シ、以テ自作農創設維持
助成ニ要スル交付金ノ支出ニ充當シテ、若
シ借入金ノ額ガ三千万圓ニ滿タザル場合ニ
於テハ、之ニ滿ツルマデ農地債劵ヲ發行シ
テ交付致シマシテ、其交付金ノ元利償還金
ヲ以テ右借入金及農地債劵ノ元利償還ニ使
用セントスルモノデアリマス、而シテ是等
ノ收支及之ニ附屬スル收入支出ハ、一四十
シテ獨立ニ計算スルヲ適當ト考ヘマスノ
デ、本資金ニ關スル歳入歳出ハ之ヲ一般ノ
會計ト區別致シマシテ、特別會計ヲ設置ス
ルノ必要ヲ認メルノデアリマス、是レ本案
ヲ提出致シマシタ理由デアリマス、願クバ
速ニ御協賛ヲ與ヘラレンコトヲ請ヒマス
(拍手)
〔小山松壽君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=43
-
044・小山松壽
○小山松壽君 只今農林大臣ヨリ御說明ニ
ナリマシタ自作農創設維持ニ關シマスル本
案ニ付キマシテ數點ノ質疑ヲ致シ、御說明
ヲ煩シタイト存ジマス、只今農林大臣ノ趣
旨御辯明ノ中ニアリマシタ通リ、本問題ハ
農產物ノ增殖、食糧政策ノ解決、就中小作
問題ニ要點ヲ置カナケレバナラナイ國家政
策上ノ、重要案件デアルヤウニ御說明ガゴ
ザイマシタ、此點ハ本案制定ノ趣旨ノ上ニ
全然御同感デゴザイマス、サリナガラ政府
ヨリ御提出ニナリマシタ自作農創設維持特
別會計法案、之ヲ拜見致シマスト、僅二八
箇條、附則ヲ添ヘマシテ極メテ簡單ナル組
立デアリマス、之ヲ施設シテ參リマスル所
ノ內容ニ至リマシテハ、審ニスルコトヲ得
マセヌ、本案ハ農村社會問題解決ノ一ツト
シテ、朝野ノ間ニ久シク〓究ヲ重ネテ參ッ
タ問題デアリマシテ、現內閣成立直後ニ於
テ、此問題ハ地租委讓ノ問題ト相竝ンデ政
友會ノ重要ナル政策トシテ、世間ニ御聲明
ニナッテ參リマシタ案件デゴザイマス、昭
和二年六月二十八日地方長官會議ニ於テ、
田中總理大臣ハ我國内外ノ情勢ニ鑑ミ、主
力ヲ產業政策ニ傾注スルノ必要ヲ痛感シテ
居ル、豫テ產業立國ノ必要ヲ提唱シ來ッタ
ガ、社會問題ノ如キ、經濟問題ノ如キハ多
ク我國ノ產業狀態ニ於テ未ダ十分ナラザル
モノガアラウト思フカラ、是等ノ見地カラ、
是等幾多ノ難關ヲ解決シタイト云フ御趣旨
ヲ以テ、各府縣知事ニ御訓〓ニナリマシタ、
此精神ヲ承ケラレテ山本農林大臣ハ自作
農斛設維持ニ付テ其徹底ヲ期スルト云フ御
趣旨ニ依リマシテ、昭和二年八月十日ノ政
府竝ニ與黨タル政友會ノ幹部懇談會ノ席上
ニ於テ、全國耕地三百万町步、其内二百四
十万町歩ノ小作地、約三分ノ一ニ該當スベ
キ八十万町步ヲ自作農トシ、六十万町步ヲ
加ヘテ約其半分ヲ自作ニスルト云フ目的ヲ
以テ、其政策ノ遂行ニ努力スルト聲明セラ
レマシタ、此施設ハ曩ニ簡易生命保險積立
金ノ融通ヲ以チマシテ、五十一議會ニ於テ
國費ヲ以テ補助シ、之ヲ助成スルノ政策ヲ
執リマシテ、當時ノ憲政會內閣ハ此經費ヲ
提出シテ議會ノ協賛ヲ求メマシタ、近時小
作農ニ轉ズル所ノ中堅自作農ヲ維持スルト
云フコトハ最モ力ヲ用ヒナケレバナラヌ
所デアルト同時ニ、農村社會問題ハ言フマ
デモナク經濟問題デアリマスカラ、此經濟
ヲ基調トシテ自助ニ依リマシテ、小作農ヲ
移シテ自作農ヲ創設スルト云フコトハ、是
ハ出來ルダケ努メナケレバナラヌコトデア
リマスケレドモ、此趣旨ヲ達シマス上ニ付
キマシテハ深ク現在ノ農村ノ狀態ヲ考察
シテ參リマセヌト、非常ナ憂ヲ將來ニ貽シ
ハシマイカト考ヘルノデゴザイマス、只今
山本農相ノ御說明ニ依リマスレバ、從來施
設シテ參リマシタ所ノ趣旨ト、此度新ニ行
ハントスル所ノ御精神ト、其間ニ著シキ相
違ガアルノデアリマス、私ガ窃ニ憂ヘマス
ノハ、若シ本案ノ實行ヲ見ルニ至リマシタ
曉ニ於キマシテハ、年ヲ經テ我國ノ土地制
度ニ一ツノ改革ヲ促シ、由々敷キ事件ヲ
招來スルニ非ズヤト心配ヲ致ス者デゴザイ
マス、從來ノ施設ニ付キマシテハ本日改
メテ政府當局ヨリ御調査ヲ戴キマシタ、卽
チ只今申上ゲマシタ若槻內閣當時ニ於キマ
ス自作農創設維持ニ關シマス所ノ施設ハ
二十五箇年ヲ以テ一期トシ、國費ヲ以テ補
給シ、以テ其目的ヲ達シヤウト致シマシタ
モノデアリマシテ、試ニ其金額ヲ申上ゲマ
スレバ、融通貸付ヲ致シマス總額ハ四億六
千八百五十万圓デアリマシテ、補助金額ハ
一億二百六十万圓ニ上リマス、斯クテ創設
維持致シマス所ノ面積ハ十一万七千百二十
五町步デアリマス、卽チ第一年タル大正十
五年、昭和元年ニ七百万圓、二年タル昭和
二年度ハ千三百五十万圓、三年ハ千五百万
圓四年ハ千五百万圓、五年ハ千八百万圓、
六年ハ二千万圓デアリマシテ、是ガ只今申
上ゲマシタ第一期ノ一區劃トシテ其金額ニ
達スルノデアリマス、而シテ之ニ對シ只今
御說明ニナリマシタ新施設ハドウ云フ風ナ
モノニ當ルカト、書類ノ御提出ヲ願ヒマシ
テ拜見致シマスト、新施設ニ於テハ三十五
年、其貸付總額十億五千万圓、助成町步ハ
二十六万二千五百町歩、斯樣デアリマス
ガ、此新舊卽チ此施設ノ兩方面ヲ合シテ見
マスト、何レモ同一年限、二十五年ト致シ
マスレバ、總金額ニ於テ十二億一千八百五
十万圓、總面積ニ於テ三十万四千六百二十
五町歩、補助金ハ此新施設ニハゴザイマセ
ヌカラ、前ニ申上ゲタ通リデアリマス、私
ハ只〓大臣ノ御說明ニナリマシタヤウニ、
本案ガ農業經營ノ安固ヲ圖リ農村ノ堅實
ナル發達ヲ期シ、小作爭議ヲ緩和シ、農村
社會問題ノ解決ノ一助タラシメントスル、
此社會立法ト致シマシテハ、既ニ一昨年來
種々御調査ニナッテ居ルコトデアリ、且又
昭和二年十二月特ニ御招來ニナリマシタ小
作調査會ノ開會ニ於テ、諮問事項ヲ附議セ
ラレ、其調査會ハ附帶希望決議ヲ二箇條致
シテ居リマス、卽チ第一ハ「自作農地ニ付
テハ年賦支拂ヲ終ル迄ハ、小作ノ場合ニ比
シテ租稅其他ノ公課ノ負擔ヲ重カラシメザ
ルヤウ適當ノ保護ヲ加へラレンコトヲ望
ム」ト云フ附帶決議デアリマス、斯樣ニ附
帶決議ヲシテ、本施設ノ速ニ其計畫ヲ樹立
セラレルヤウニ答申ノアリマシタニ拘ラ
ズ、今日マデ此實現ヲ見ズシテ、會期既ニ
三分ノ二ヲ經過致シマシテ、最早餘ス所幾
何モナイト云フ此際ニ當テ、斯樣ナ重要ナ
ル法案ヲ御提出ニナリマシタ其御精神ヲ私
ハ承リタイト思スノデゴザイマス(拍手)是
ガ第一點デアリマス、若シ地租委讓ノ問題
ト共ニ現內閣ノ二大政策、產業九國ノ上カ
ラシテ眞ニ此問題ヲ熱誠ヲ以テ御解決ニナ
ルト云フコトデアリマスナラバ議會開會
ノ劈頭ニ於テ、地租及營業收益稅ノ御提出
ト共ニ、本案ヲ議會ニ御提出ニナッテ、御
協賛ヲ求メルコトガ當然デアルト考ヘルモ
ノデアリマス(拍手)殊ニ此問題ハ
〔此時發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=44
-
045・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=45
-
046・小山松壽
○小山松壽君(續) 昭和三年度豫算編成ノ
場合ニ當ッフテ、農林大臣ハ其自說ノ貫徹ニ頗
ル努メラレタヤウデアリマス、併ナガラ愈、
昭和三年度ノ豫算閣議ニ於テハ、本問題ハ
又他日ニ讓ルト云フ風ナ取扱ヲ受ケラレタ
ヤウデアリマス、私ハ只今申上ゲマシタコ
トニ付テ、何故斯樣ニ申上ゲルカト申シマ
スレバ、昨年春ノ總選擧ニ當ッテ、產業立國
ヲ基調トスル政策ノ中ニ、新聞ニ一頁大ノ
廣告ヲ屢〓セラレ、田中首相ハ其蓄音機ノ演
說トカ云フ其御演說ノ趣旨ノ中ニ、特ニ自
作農ニ付テハ愼重ナル考慮ヲ拂ヒ、根本的
ノ解決方法ヲ講ジテ居ルト聲明セラレテ
居ッタノデアリマス、又昭和四年度ノ豫算ノ
編成ニ當シテ、矢張此問題ハ相當ニ論議セラ
レ、此度ハ如何ナル事ガアッテモ相讓ラヌト
云フ風ニ農林大臣ハ御主張ニナリマシタ、
而シテ私ハ特ニ大臣ノ御說明ヲ請ヒタイト
思ヒマスルノハ、昭和三年一月自作農地法
案、此農地法案ナルモノヲ殆ド公ニセラレ
タノデアリマス、勿論農林省カラ進ンデ發
表セラレタモノデハゴザイマセヌ、ケレド
モ我ガ民政黨ノ政務調査會ニ於テ其御說明
ヲ請ヒマシタ時ニ當ッテ、各委員へ御配付ニ
ナリマシタモノガ卽チ本案デアリマス、此
本案ハ條文六十八箇條附則ヲ加ヘマシテ、
曩ニ若槻内閣ノ際世間ニ公表シテ其批評ヲ
求メマシタ小作法案ト相竝ンデ、農村社會
問題ノ解決ニ對スル所ノ二大法典デアルト
私共認メラレル程ノ重要ナルモノデアッタノ
デアリマス、然ルニ此昭和三年一月、殆ド
御發表ニナリマスル迄ニ案ヲ立テラレタル
此自作農地法案ナルモノガ闇カラ闇ニ葬ラ
レ其影ヲ沒シタト云フコトニ付テ、私
大臣ノ御精神ノ在ル所ヲ承リタイト考ヘル
ノデゴザイマス(拍手)殊ニ此問題ハ本會竝
豫算總會其他ノ特別委員會ノ場合ニ於
テ、屢、總理大臣初メ關係當局ト質疑應答セ
ラレタ問題デアリマシテ、我國ノ農村ニ於
ケル所ノ各種ノ社會問題ヲ解決スル上ニ付
テハ殊ニ吾々ハ意ヲ用ヒテ此審議ヲ致サ
ナケレバナラヌト一ムフコトハ申ス迄モナ
イ、總理大臣ハ貴族院、衆議院其他ノ場合
ニ於テ、社會政策ノ事ニ質問ガ及ビマスル
ト、其一トシテ近タ自作農創設ニ對シテ、政
府ハ其確然タル方針ヲ樹立致スノデアル
卽チ社會政策ノ一ハ常ニ自作農維持創設デ
アルト、唯一無二ノモノデアルガ如ク御說
明ヲ常ニセラレテ居ルノデアリマスカラ、
私ハ本問題ハ如何ニモ現内閣ノ重要ナル政
策デアリ同時ニ農村ノ問題ヲ解決スル所
ノ重要ナルモノデアルト認メル者デゴザイ
マス、殊ニ此問題ハ私共ハ能ク御尋ヲ申上
ダテ、其趣旨ニ於テ、又其施設スル所ニ於
テ、更ニ疑ガナイト云フコトデ、吾々ノ疑
感ヲ解クコトガ出來マスルナラバ、私共ハ將
來農村社會問題解決ノ爲ニ、進ンデ之ヲ協
賛スルニ決シテ吝カナル者デハアリマセヌ
(始手)
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=46
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047・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニ願ヒマス、御互ノ
私語ハ御傾ミヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=47
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048・小山松壽
○小山松壽君(續) 殊ニ只今申上ゲマシタ
本案ハ僅カ八箇條デアリマスカラ、之ヲド
ウ云フ風ニ施行上ニ付テ運用セラレルノ
カ、其點ハ少シ不明デアリマス、只今農
林大臣ノ御說明ニナリマシタ所ニ依リマシ
テモ、少シモ之ヲ了解スルコトガ出來マセ
又、思アニ本法律ノ運用ニ付キマシテハ
勅令及省令等命令規定ニ依ルモノガ多カラ
ウト思ヒマスカラ、此點ニ付テ私ハ其內容
ヲ確メ、此運用ノ誤リナイコトヲ期シタイ
ト思フノデアリマス、殊ニ此問題ハ少シク
細カク御尋申土ゲマスルニハ委員會ニ於
キマシテハ、其公開セラレタル所ノ法律ノ
精神ガ外間ニ詳カニナリマセヌ本問題ハ
道府縣町村、產業組合、農會、是等ノ多數
ノ人ニノ手ニ依テ取扱ハレルモノデアリマ
シテ、是等ノ取扱ヲ致シマスル者ニ其趣旨
ヲ徹底セシメテ、本案ノ施行ニ當ッテ誤リ
ナカラシムルト云フコトニ致シマスコト
ハ、御互ニ努メナケレバナラヌ事デアラウ
ト考ヘルノデゴザイマス(拍手)私ハ次ニ本
法案ノ其運用ニ付テ御尋中上ゲマス、只今申
上ゲマシタヤウナ趣旨ニ依リマシテ、受け、
非公式ニ御發表ニナリマシタ自作農地法
案、之ニ相對シマシテ今回御提案ニナリマ
シタ此八箇條ノ、極メテ簡單ナル法案ニ相
比シマシテ、私ノ疑ノ起シマス所ハ、自作
農地法案ノ方デハ農地金庫ノ制度ヲ認メ、
而シテ其運用ニ當ノテハ徹底セシムルヤウ
ナ御精神デアッタノデアリマスガ、此度ハ
僅ニ八箇條ノ法律ニ於テ特別會計ニ委ネラ
レマシテ、本施設ノ運用ヲ致サウト云フコ
トニ立歸ラレタヤウデアリマス、固ヨリ事
業施行ノ統一ト其事業整理ノ目的ノ上ニ於
テ、其軌ヲ一ニスルモノデアル、サリナガ
ラ茲ニ最モ解スベカラザルコトハ、本計畫
ハ最初年々八千万圓ノ計畫デアリマシタ
ガ此度ハ三千万圓ニ變シテ參ッタノデアリ
マス、若シ斯樣ナ金額ニ變ヲテ參ッタト云フ
コトデアリマスナラバ、曩ニ大臣ガ政府竝
ニ與黨ノ懇談會ノ席上ニ於テ御聲明ニナリ
マシタ所ノ其自作農ノ維持創設ニ關スル
段別ト、頗ル距離ガ出來ルノデアリマス、
私ハ此場合御尋申上ゲテ置キタイコトハ
預令部資金ト農地価劵ニ關シテノ事デアリ
マス、預金部資金ニ付テ本施設ノ運用ヲ完
ウシタイト云フコトハ只今大臣ノ御說明
ノ通リデアリマス、若シ預金部ノ資金万三
千万圓ニ達セザル場合ニ當ッテハ其不足ハ
農地仁劵ヲ發行スルト云フ御趣旨デアリマ
ス、私ハ此場合ニ大藏當局ニ御尋申上ゲマ
ス、預金部資金運用ニ付キマシテハ嘗テ
幾多ノ世上ノ非難ガアリマシテ、或時ハ伏
魔殿卜云フガ如キ惡名サへ負ハセラレタノ
デアリマス、是ガ故ニ加藤內閣當時ニ於キ
マシテ、濱口大藏大臣ハ預金部資金運用委
員會ヲ設ケマシテ、大正十四年五月五日第
一囘委員會ヲ開キ、其際本委員會ヲ設置ス
ルニ付テノ所信ヲ明ニ致サレマシタ、其要
點ハ濱口大藏大臣ノ演說ニモアリマスル
ガ、此預金部ノ金額ハ今ヤ一般會計ノ歳計
ニ匹敵スベキ巨額ニ上ッテ居ル、財政經濟ニ
及ボス影響ノ大ナルハ勿論デアル、資金ノ
本體ハ郵便貯金デアル、卽チ零細ナル資金
ヨリ成ル所ニ鑑ミテ、運用ハ公正適切ヲ期
サナケレバナラヌ、保管利殖ニ付アハ有利
且ツ確實ノ方法ヲ以テ運用スル機能ヲ有セ
シムル爲、今囘委員會ヲ設ケテ改革ノ骨子
トシタノデアルト云フ演說ノ要點デアリマ
ス、此政策ハ當時輿論ハ如何ニモ預金部ノ
運用ノ過去ニ於ケル所ノ幾多ノ失態ヲ咎メ
テ居リマシタ際デアリマシタカラ、此健實
ナル濱口大藏大臣ノ聲明ニ對シテハ滿天
下悉ク之ヲ容認致シタノデアリマス(拍手)
ソコニ於テ私ハ大藏當局ニ御尋申上ゲタイ
ト思フコトハ、預金部ノ運用委員會ハ、只
今申上ゲタヤウナ趣旨デ之ヲ濫ニシナイコ
トニナッタノデアリマス、私ガ此際承リマス
ノハ只今山本農林大臣ガ預金部ノ資金三
千万圓ヲ、此施設ニ充當スルト云フコトノ
御說明デアリマシタガ、預金部運用委員會
ノ精神ニ鑑ミテ既ニ預金部ニハ之ヲ御諮
問ニナッテ、其決定ヲ經タモノデアルヤ否ヤ
ト云フコトヲ承リタイ、何故之ヲ私ガ特ニ
承ルカト申シマスレバ、今ハ故人ニナリマ
シタ下岡朝鮮政務總監ガ、當時乾鮮產米計
畫ヲ立テマシテ、其運用資金ヲ預金部ニ仰
ガント致シマシタ、卽チ世ノ所謂八百万圓
ノ產米計畫デアリマス、此八百万圓ノ
產米計畫ニ對シ、其資金ヲ仰ギマスニ當ッ
テ、濱口大藏大臣ハ預金部ノ精神ニ鑑ミ
マシテ、豫メ預金部ノ了解フリン·之
ヲ議會ニ言明スルニ至ッタノデアリマス
ガ故ニ、此先例ニ基イテ、此預金部運用資
金ハ山本農林大臣ノ言明セル所ニ依テ、大
藏當局ハ之ヲ御諸問ニナッテ、其了解ヲ得テ
得ルヤ否ヤヲ承ル譯デアリマス、次ニ私ハ
農地債券ノ事ニ付テ大臣ニ伺ヒマス、農地
債券ハ五分ノ交付公債デアリマス、預金部
ノ資金關係ヲ見マスルノニ、現在ノ預金部
ノ資金ハ一億三千万圓デアッテ、昭和四年度
ノ運用ハ既ニ定シテ居ルヤウデアリマス、是
ハ過日ノ豫算總會ニ於テ、議員ト政府委員
ノ間ニ屢〓應答セラレテ、ソレガ確定セラレ
テ居ルト云フコトハ、大藏當局ノ言明セラ
レル所デアリマス、然ラバ之ニ對シテ昭和
四年度運用ノ資金ハ幾許ヲ要スルヤト言ヒ
マスレバ其運用委員會ニ於テ決定致シタ
ル所ノ一億二千四百五十万圓ハ、既ニ確定
致シテ居リマスガ故ニ、後ニ殘ル所ハ僅ニ
五百五十万圓デアリマス、然ラバ只今山本
農林大臣ガ仰セニナリマスルヤウニ、預金
部運用資金ノ三千万圓ヲ持ッテ來テ、昭和四
年度、卽チ四月一日カラ本法ノ實施ヲスル
ト云フコトニナリマスナラバ三千万圓ニ
對シテハ遙ニ距離ガアルノデアリマス、僅
ニ五百五十万圓シカナイ預金部ノ資金ヲ以
テ、此三千万圓ノ施設ヲ行ハウト云フコト
ハ、何處カラ其財源ヲ御求ニナルカト云フ
コトデアリマス、斯樣ニ考ヘテ參リマスレ
バ結局此預金部ノ運用資金ニ俟ツト云フ
コトハ、唯是ハ當面ヲ糊塗スル所ノモノデ
アッテ、謂ハヾ假面ヲ著テ其實ハ公債發行ニ
依ルモノデハナイカト認メラレルモノデゴ
ザイマス(拍手)若シ公債發行ニ依ルト云フ
コトデアリマスナラバ、玆ニ三土大藏太臣
ニ特ニ御導ネ申上ゲナケレバナラヌコトガ
起ッテ參ルノデゴザイマス、三土大藏大臣ハ
昭和四年度ノ豫算ヲ本議場ニ紹介セラレ、
若クハ其他ニ於テ說明セラルヽ場合ニ當ッ
テ、一般豫算編成ニ當ッテハ、公債政策ニ付
キマシテハ二億ヲ上ボサナイト云フコトヲ
屢〓聲明セラレ、以テ財政計畫ニ對スル說
明ノ資料トセラレテ居ルノデアリマス、卽
チ一般募債ハ一億九千八百万圓デアリマス
ガ、只今申上ゲル所ノ五百五十万圓ヲ差引
キマシタルアト二千四百五十万圓ト云フモ
ノハ、公債ヲ募集シナケレバ此事業ハ出來
ナイノデアリマス、サル場合ニハ是ハ一般
募集公債デハナイ、交付公債デアルカラ差
支ナイト云フ御意見デアルナラバ、是ハ別
デアリマスガ、公債政策ハ二億ヲ出デナイ
ト云フコトデアリマスレバ此問題ダケデ
モ二億圓ヲ超過スル、況ヤ肥料管理ノ問題
アルニ於テ尙ホ然リデアリマス、私ハ此事
ニ付テ三土大藏大臣ノ御聲明ヲ裏切ルモノ
デハナイカト云フコトヲ心配致シマス爲
ニ、之ニ對スル御所見如何ト云フコトヲ御
尋申スノデアリマス、更ニ現在ノ施設ハ尙
ホ將來持續スルモノデアルヤ否ヤト云フコ
トヲ御尋申上ゲマス、卽チ只今山本農林大
臣ノ御說明ニアリマシタガ、簡易生命保險
積立金運用ニ依テ本施設ハ致シテ居ルノデ
アリマシテ、其全金額及施設ノ內容ハ最初
ニ申上ゲテ置キマシタ、何故私ガ其事ヲ承
ルカト申シマスレバ現行施設ノ年限ハ二
十五箇年デアリマス、其資金ハ只今申ス通
リデアッテ、自作農者ニ廻シマス所ノ利率ハ
三分五厘デアリマス、簡易生命保險ノ低利
資金ハ四分八厘デアリマスケレドモ、此四
分八厘デ受入レマシテ、之ヲ府縣町村、產
業組合、農會等、是等ノ團體ヲ經テ貸付ケ
マス時ニ、其低利ノ四分八厘デハ事業遂行
ノ上ニ於テ所期ノ目的ヲ達スルコトガ出來
ナイカラト云フ理由ニ依リマシテ、一分三
厘ヲ國庫カラ補給シテ居ルコトハ、申ス迄
モナク御承知ノ通リデアリマス、卽チ小作
ヨリ自作ニナリマス場合ニ當ノテハ、三分五
厘ト云フ低利ニ依テ、其事業ヲ定メラレタ
ル年度內ニ完成致スノデアリマスガ、之ヲ
今度新タニ施設シヤウトスル只今御說明ノ
案ト比較致シマスレバ、玆ニ著シク權衡ノ
取レヌコトガ起ルノデアリマス、先ヅ年限
ニ於テ現在施設ハ二十五年デアリ、只今御
說明ノモノハ三十五年デアル、而シテ利率
ニ於テ現在施設ノモノハ三分五厘デアリ、
只今御說明ノモノハ五分デアリマスカラ、
其間一分五厘ノ差ガアルト云フコトガ、非
常ナ問題ヲ起スデアラウト思ヒマス(拍手)
私ハ農林大臣及其他ノ方面ヨリマダ何等聞
ク所ガアリマセヌカラ、此場合ニ確メテ置
キマスガ、自作農ノ意義、自作農トハ一體
ドウ云フモノデアルカト云フコトヲ、此場
合明ニ其定義ヲ下シテ置イテ戴キタイト思
ヒマス、何故ナラバ唯自作農ト申シマシテモ、
主トシテ自分ノ勞力ニ依リ自己ノ生計ヲ維
持スル爲ニ土地ヲ有スル者モアル、ソレカラ或
ハ作男ヲ使ッテ自作ヲシテ居ル者モアリマ
ス、若シ此解釋ノ相違ガ著シイ場合ニ當リ
マシテハ特ニ本案ニ於テ憂フベキモノガ
アルト思ヒマスカラ、之ヲ御尋シテ置クノ
デアリマス、傳フル所ニ依リマスレバ
世帶四千圓ト云フモノヲ限度トスルト云フ
話デアリマスガ、此一世帶四千圓ノ貸付金
額ニ依テ、若干ノ町步ヲ得ラレルモノデア
リヤ否ヤト云フコトニ付テハ、マダ定ッタ所
ハ御發表ニナラヌヤウデアリマス、何故ナ
ラバ內地ニ於ケル所ノ段當リヨリ考ヘマシ
テ、或ハ一世帶四千圓ト一云フモノハ、是一、
約一町歩ヲ見當ト致スモノデアラウト考ヘ
マスケレドモ、之ヲ移シテ北海道ニ施行致
スト云フコトニ致シマスナラバ、是ハ內地
ト地價ノ價格ニ於テ異ナルト云フコトハ申
ス迄モナイコトデアリマスカラ、此場合私
ハ之ヲ確メテ置ク必要ガアラウト思ヒマ
ス、次ニ自作農ト云フモノハ如何ナルモノ
デアルカト云フ其定義ガ定マリマスレバ
玆ニ私ハ最モ必要ト思ヒマス所ノ次ノ御尋
ニ付テ明確ナル御答辯ヲ戴キタイト思ヒマ
ス、現在ノ小作料ヲ以テ相當小作料ト認ム
ルヤ否ヤト云フコトヲ伺ヒマス、此問題ハ
非常ニ重要ナ事デアッテ、本施設ノ由テ來ル
所ノ基礎ニ動搖ガ來ルト思ヒマスカラ、之
ヲ御尋申上ゲテ置キマス、今日小作爭議ノ
唱フル所ハ、小作條件ノ維持改善ヲ目標ト
致シテ居ルヤウデアリマス、何故私ハ現在
ノ小作料ヲ以テ相當ト認ムルヤ否ヤト云フ
コトヲ御尋スルカト申シマスレバ、此自作
農ニ對シテ低利資金ヲ融通致シマス所ノ根
本觀念ハ現在小作人ガ負擔致シテ居ル所
ノ其程度ヨリモ高カラザル程度ニ於テミナ
ケレバ決シテ小作ガ自作ニ移ルト云フ觀
念ヲ持タナイカラト云フ所ニ、此根本ガ置
イテアルノデアリマヌ(拍手)都會ニ於テ住
宅組合、低利資金ヲ廻シマシテ、生活ノ安
定ヲ期スルト云フコトヽ共ニ、農村ニ於テ.
自作農ノ維持創設ハ之ニ該當スルモノデア
リマシテ、自分ガ幾年ノ間カ定メラレタル
年限ノ中ニ於テ、現在ノ小作料ヨリモ高カ
ラザル負擔ヲ納メテ居ル中ニハ、時來ッテ自
己ノ所有ニナルト云フ所ニ、自作農ノ運用
ノ妙ガアルノデアリマスカラ、現在小作料
ヲ以テドウ云フ風ニ御考ニナッテ居ルカ、此
御考ヲ根本ニ致シマセヌケレバ、現施設ノ
根本ニ動搖ガ起ルト思フガ爲ニ、之ヲ御尋
致スノデゴザイマス(拍手)更ニ利廻ヲ五分
ニ致シタト云フコトデアリマスルナラバ
三分五厘ト五分トノ間ニ一分五厘ノ差ガア
リマス、現在ノ施設、之ヲ實行シテ參レバ
三分五厘ト云フ低利ノ、殆ド只ノ如キモノ
デ自分ノ所有ニ田畑ガ移ルノデアリマス
ガ、此一分五厘高イ五分ト云フモノニ依テ
參ルト云フコトデアリマスナラバ、玆ニド
ウシテモ遣繰算段ヲ致サナケレバナラヌ
ガ、其遣繰算段ガ卽チ現施設二十五年ガ三
十五年ニ變ッテ參ッタノデハナイカト考ヘル
ノデゴザイマス、私ハ假ニサウデアッタト
致シマシテモ、此處ニ重ネテ申上ゲマスノ
ハ五分ト定メタル根據如何、卽チ此根據
ハ米價ヲ幾何ニ維持セントスルノ農林當局
ノ御考デアルカヲ、此際伺ッテ置キタイト思
ヒマス、本問題ハ衆議院ノ各派ヨリ共同提
案トナリマシテ、既ニ本議場ヲ經テ只今特別
委員會ニ於テ審議中デアリマス、米穀法ノ
委員會ニ於テ、昨日政友會ノ委員諸君ト東
政務次官トノ間ニ質問應答セラレテ居リマ
シタノヲ拜聽致シマシテ、私ハ更ニ東政務
次官へ御尋申上ゲマシタノハ、現在農政方
面ニ於ケル各施設ニ付テ、政府ハ助成方針
ヲ執ルヤウデアルガ、然ラバ現在ノ米價ニ付
テ、米ノ價ニ付テ、何處ノ所ヘ目標ヲ置イ
テ、其施設ヲシテ居ラレルノデアルカト云
フ御尋ヲ申上ゲマシ夕時ニ、其事ハ考慮ノ
中ニハ加ヘテ居ナイト云フ意味ノ御答辯デ
アリマシタ、是ハ政友會ノ委員諸君モ御聽
キノ通リノ次第デアリマス、此產業助成政策
ヲ執リ殊ニ農村問題ヲ論ズル時ニ當ッテ、
農家經濟ノ窮迫ニ陷ノテ居ルト云フコトヲ
論議スル時、要ハ農家經濟ヲ裕カニスルト
云フコトデアリマスガ、此產業助成政策ノ
米價ヲ幾何ニ維持シナケレバナラナイカト
云フコトガ、農林當局ノ胸中ニナイト云フ
コトデアッタナラバ、驚入ッタルコトデアリ
ママ、私ハ大臣ニ改メテ御尋申上ゲマス、
現在ノ米價ヲドウ云フ所ニ維持セラレルカ
ト云フコトヲ明日ニ致シテ置キマスルコト
ハ卽チ本施設ガ三十年、三十五年ノ將來ニ
マデ此五分ニ定メタト云フ、ソコニ基礎觀
念ガ出テ參ルカラデアリマス、私ハ此事ハ
蓋シ政友會ノ諸君ト雖モ、現在ノ米價ヲド
ノ邊ニ維持シナケレバナラナイカト云フ、
此質問ノ當局ノ答辯ヲ促シ、確メテ置クト
云フコトニ付テハ御不同意ハアルマイト
考ヘテ居ルノデアリマス、次ニ本法ガ實施
セラレルトシテ、將來ノ事ニ付テ御尋ヲ申
上ゲマス、本法ガ實施セラレルト云フコト
ニ付テノ根本ノ私ノ知ラウトスル所ハ、只
今申上ゲタ通リデアリマスガ、更ニ此事ヲ
御尋申上ゲルノハ、帝國農會ガ調査致シテ
居リマスル所ノ玄米一石當リ生產費、土地
資本利子五朱ノ場合若干、四分八厘ノ場合
若干、四分、三分五厘、三分ノ場合若干ト
云フコトヲ、特ニ御調査ヲ願ヒマシテ、私
ハ戴イテ居ルノデアリマス、此帝國農會調
査ノ利廻リノ表ニ依テ考ヘマスルト、只今
御說明ニナリマシタ交付公債五朱ノ利廻
リデアリマスト、一石當リノ米價生產費ニ
相比シマシテ、農林大臣ガ過日本議場ニ於
テ米穀需給特別會計法中改正法律案ノ御答
辯ノ中ニ、現在ノ米價ハ安イト思フ、モウ
少シ何トカシナケレバナラヌト云フ御答辯
ガアッタヤウデアリマスガ、其御答辯ニ對シ
テ私ハ想ヒ起シマスルノハ此公債五朱ト
云フモノト、此米價ト云フモノヲ引較ベマ
シテ、而シテ此自作農ノ施設ガドウ運用サ
レテ行クカト云フコトヲ考ヘマスル時ニ
當ッテ、當然私ハ此御質問ヲ申上ゲナケレバ
ナラナイト思フノデアリマス、殊ニ更ニ是
モ帝國農會ノ御調査ヲ戴キマシタガ、大正
元年-明治四十五年ヨリ昭和三年ニ至ル
所ノ田畑賣買價格ニ付テノ御調査ヲ私ハ戴
キマシタガ、此調査ニ依リマスレバ、最モ
田畑賣買價格ノ高騰致シマシタノハ大正八
年デアリマシテ、九年、十年ヲ經テ、今日
デハ段々田畑ノ賣買價格ハ低下致シテ參ッ
テ居リマス、此場合ニ當シテ一世、帶四千圓、
一戶一町步當リト云フコトニ御定メニナリ
マシタト致シマスルナラバ、此田畑ノ賣買
價格ハ將來如何ナルヤウナ變遷ヲ辿ルモノ
デアルカト云フコトニ付テ、過去ノ事實カ
ヲ相當ナ御考ガアルデアラウト思ヒマスカ
ラ、其推斷ヲ私ハ承シテ置キタイト思フ、
何故之ヲ承ルカト云フコトニ付キマツテ
言フ迄モナク率ガ現施設ト將來ノ施設
ト違ヒマスカラ、此率ノ違ヒマスニ當ッテ、
ソコデ田畑ノ價格ガ漸落致スト云フコトデ
アルナラバ、更ニ本施設ニ付テ考ヘナケレ
バナラヌコトガ起シテ參ルノデアリマス、私
ハ此一分五厘ノ幅ガアッテ、而モ自作農維持
創設ノ此御趣旨ガ現施設ト竝ビ行フカ、或
ハ現施設ヲ打切ルカ、ソレデ所期ノ目的ヲ
御達シニナルコトガ出來ルヤ否ヤト云フコ
ドヲ私ハ伺ノテ見タイノデアリマス、私ハ
方ニ於ィ三分五厘ト云フ安イ金デ、國庫カ
ラ一分三厘ノ補給ヲシテ四分八厘デアル、
然ルニ一分三厘ノ補給ヲ止メテ、サウシテ
四分八厘ト云フ其低利資金ヲ、更ニ五朱ノ
公債ニシテ渡スノデアリマスカラ、ソコニ
二分ノ開キガアリマスガ、其二分ノ開キハ
政府ガ之ヲ牧人ニ見テ居ルノデアリマス、
其牧人パドノ位アルカト申シマスト、四分
八厘ト五朱ノ間ノ僅ナ幅デアリマスケレド
モ、二分ノ差ハ只今申上ゲマシタ三十五年
目ニ當シテ五千五百三十七万八千二百六十
圓ニナルト云フコトガ、政府當局ガ私ヘノ
御而シニナッタ表ニアリマス、然ラバ此三分
五厘ニ一分三厘ヲ補給シテ、サウシテ現施
設ヲ行フノニ、五分ニシテ二分ノ鞘ヲ政府
ガ取ッテ、サウシテ現施設ヲ竝ビ行ハレルト
云フコトハ一寸常識上考ヘラレマセヌ
ガ、此點ハ如何ニ御考ニナルカト云フコト
デアリマス、私ハ尙ホ此場合非常ニ大切ナ
事デアリマスカラ、附加ヘテ御尋シタイト
思ヒマスルノハ、事業經營ノ主體デアリマ
ス、事業經營ノ主體ハ現施設ハ卽チ府縣
町村產業組合、農會等ノ手ヲ經テ、國家ハ
間接ニ此自作農ノ維持助成ヲ致シテ居ルノ
デアリマス、然ルニ今囘ノ立案セラレタル
所ノ運用ノ方法ヲ仄間致シマスレバ、個人
ニ貸付ケルト云フコトノ立前デアルヤウデ
アリマス、私ハ先刻我國ノ土地制度ノ改革
ト、將來土地政策ノ上ニ考ヘテ、本問題ハ
極メテ重要ナル事デアルト申上ゲマシタノ
ハ玆ニ觸レテ參ルノデアリマス、卽チ特
別ノ事情アルモノヲバ政府ガ認メテ適當
ト思ハレル者ニ對シテハ國家ガ直接ニ此
資金ヲ貸付ケルト云フコトノ施設ヲ御執リ
ニナルト云フヤウニ承シテ居リマス、非常ナ
危險ナ事デハナイカト思フ、道府縣町村其
他ノ團體ニ於テ、國家ガ間接ニ之ヲ助成ス
ルト云フコトデアルナラバ宜シウゴザイマ〃
スカ、而モ餘リ問題ハ左樣ニ憂ヘルコトモ
ナカラウト考ヘマスルケレドモ、國家自ラ
ガ個人ニ之ヲ貸シテ、サウシテ此施設ヲ致
スト云フコトニナリマスルナラバ玆ニ恐
レルコトハ國家ハ小作爭議ニ直面シテ、
自ラ其渦中ニ投ズルト云フコトニナリハシ
ナイカト思フノデゴザイマス、何故ナラバ
貸付ケマスル時ニ當ッテノ貸付ノ條件內容
等ガ農林當局ノ御說明デアルカノヤウニ
新聞ニ現ハレテ居ル所ヲ見マスルト、自作
農田畑ノ購入維持者ハ、現ニ小作ニ從事シ
維持スル所ノ資格ガナケレバナラヌ、之ニ
對シテハ第一抵當權ヲ設定スルモノデア
ル、他ニ讓渡シ得ザル所ノ契約、資金借入
ノ各條件ニ違背シタル場合ノ違約金ノ徵
收、竝ニ災害ノ場合ニ於ケル所ノ償還ノ減
免、而シテ若シ定メラレタル年限ニ於テ、
其自作ヲ廢シ、若クハ元利償還ヲ怠ッタル場
合ニ當ッテハ、事業經營ノ主體者ハ、之ニ對
シテ先買權ヲ有スル者デアリマス、卽チ政
府ガ個人ニ自作農維持創設ノ爲ニ貸シマシ
タル金額ニシテ、之ヲ受八レルコトノ出來
ナイ支障ガ起キマシタ場合ニハ、政府ハ自
ラ其小作地ヲ、國家ノ所有トシテ處理シナ
ケレバナラヌト云フコトノ問題ガ、今後ニ
湧イデ起シテ參ルノデアリマス(拍手)是一
先買權ヲ認メラレル結果ニ於テ、當然起ル
問題デアリマス、私ハ何故此御尋ヲ重ネテ
置キタイト考ヘルカト云フコトニ付テ申上
ゲマスレバ現行施設ノ成績ガ良好デア
ル過去數年間ニ創設維持致シタ所ノ其自
作農ノ成績及最近自作農維持創設ニ付テ
資金ヲ要望スル所ノ金額、或ハ一億五千万
圓ニモ達スルト云フ、斯ウ云フヤウナ多額
ノ要望ガアルガ故ニ、之ヲ選定シテ其良成
績ヲ擧ゲ得ベシト信ズベキ者ニ致シタナラ
バ決シテ〓云フヤウナ憂ハ將來貽サナイ
デアラウト云フコトノ御答辯ニナルカモ分
リマセヌガ、サリナガラ一方ニ只今申上ゲ
タ四億以上ニ達シヤウト云フ所ノ簡易生命
保險ノ積立金ノ運用ノ現制度ヲ認メ、更ニ
此方ノ方ハ此制度ヲ致スト致シマスレバ
二ツノ途ヲ追ッテ參ル時ニ、三分五厘ノ方
ハ低利デアリマスカラ申込ガ多イガ、
四分八厘、五朱ノ方ハ高率デアリマスカラ
申込ガ少イ、申込ガ少イ場合ニ至テ
當局ハ本法制定ノ趣旨ニ於テ、之ヲ失敗ニ
終ラシメテハ面目ニ關スルト云フヤウナ
コトデ、其貸出ヲ濫ニスルト云フヤウナ陷
リ易キ弊害ヲ伴フト思フガ故ニ、此御尋ヲ
致シテ置ク次第デアリマス(拍手)私ハ次ニ
小作問題ニ關スル現政府ノ方策ニ付テ承リ
タイト思ヒマス、試ニ過去ノ事ヲ調べマス
レバ、大正九年十一月小作制度調査委員
會大正十二年五月小作制度調査會、大正
十三年四月帝國經濟會議、大正十三年十一
月帝國經濟會議農業部、大正十五年五月小
作調査會、卽チ現存スルモノデアリマス
斯ク年月ヲ經マシタ小作問題ノ愼重ナル審
議ニ依リマシテ、小作調停法ハ大正十三年
七月法律第十八號ヲ以テ公布セラレ、自作
農創設維持施設ハ大正十五年度、只今申上
ゲタ通リノ實行トナリ、及自作農助成ノ
各減免ニ關スル所ノ施設ハ曩ニ稅務整理ノ
問題ガ論議セラレマシタ時ニ、地價二百圓
以下ノ自作農ニ對シテ免除スルト云フコト
ノ特典ヲ與ヘ、以テ自作農維持創設ニ關シ
之ヲ解決シテ、農村社會問題解決ノ一端ニ
資セントスル所ノ經過ヲ取ッテ居ルノデア
リマスガ、現內閣ニ至ッテ只今申上ゲマシ
タヤウニ小作調査會、之ニ御諮問ニナリマ
シテ、其答申ヲ得ラレタノデアリマス、然
ルニ其答申ノ精神ノ第一ハ、只今申上ゲル
通リニ、今ヤ空シト云フヤウナ狀態ニ在ル
ノデアリマス、私ハ現政府及山本農林大臣
ガ、果シテ此社會立法ニ誠意ヲ以テ當ッテ
居ラレルヤ否ヤト云フコトヲ伺ヒタイノデ
アル、小作法、小作組合法、永小作權處理
ノ問題、小作調停法ノ改正、是等ノ問題ニ
付テハドウ御考ニナッテ居ルノデアリマ
スカ、先日本議場ニ於テ一月二十六日、鈴
木文治君ヨリ農村問題ニ付テノ御尋ガアリ
マシタ際ニ於テ、小作法及小作調停法ニ付
テ說及バレ、政府ノ所見ヲ質サレマシタ、
其御話ノ一節ニ、山梨縣ニ於ケル所ノ小作
爭議ノ狀態等ヲ實際ニ御述ニナリマシテ、
小作調停法ノ現行法ヲ改正シテ、其運用ヲ
發揮セシムルコトノ必要アルコトヲ力說セ
ラレタヤウデアリマス、私ハ此點ハ全然御
同感デアリマス、曩ニ農村ニ於テ小作爭議
ガ頻發致シマシタ時ニ、小作條件ノ維持改
善ニ付テ、各地ニ於テ之ガ論議セラレ、而
シテ三年或ハ五年ト云フ期限ヲ以テ、小作
爭議ハ解決シタルモノガ多々アリマス、其
小作爭議ノ解決ノ年限ハ、丁度今年カラ明
年、此兩三年ニ於テ、其小作條件維持改善
ノ期限ガ、續々參ラウト思フノデアリマス
カラ、農村ニ於ケル所ノ小作爭議ハ、此場
合ニ於テ善處シテ置クニ非ズンバ更二一
層深刻ナル所ノ問題ヲ招來シハシマイカト
考ヘルガ故ニ、此御尋ヲ致スノデゴザイマ
ス、私ハ更ニ此小作調査會ノ答申ノ第二
ニ-卽チ附帶希望決議ノ第二ニ斯ウ云フ
事ガアリマス「政府ハ速ニ小体法ヲ制定實
施セラレンコトヲ望ム」ト此小作調査會
ノ答申ノ第二ニ揭ゲテアリマス、.卽チ昭和
二年十二月ノ答申デアリマス、此答申ヲ當
局ハ如何ニ御取扱ニナル御考デアルカ、之
ヲ承ッテ置キタイト思フノデゴザイマス、續
イテ遞信當局ニ御尋申上ゲマス、只今迄申
上ゲマスルヤウニ、簡易生命保險積立金ノ
運用ハ、今後每年二千万圓、或ハ其餘裕ア
ルニ至ッテハ三千万圓、四千万圓ニ及ブト思
ヒマス、申ス迄モナク遞信省ノ簡易生命保
險積立金ハ、每年五六千万圓宛ヲ增加致ス
ヤウデアリマス、固ヨリ地方還元ノ趣旨ニ
依リマシテ、其運用委員會ノ精神ヲ尊重致
サナケレバナラヌコトハ言フ迄モアリマ
セヌケレドモ、五六千万圓宛殖エテ參リマ
ス所ノ此低利資金ヲ、將來益〓農村社會問題
ノ解決ニ資スル爲ニ、此自作農維持創設ノ
資金ニ、多々益〓辨ズルト云フ所ノ御考アリ
ヤ否ヤ、更ニ若シ必要アリトスルナラバ、農
林當局ガ此度施設セントスル所ノモノト、
只今ハ合議ヲ致シテ居リマスガ、其合議ヲ
離レテ、遞信省ハ遞信省ノ獨自ノ考ヲ以
テ、之ヲ施設スルト云フモノデアルカ、或
ハ現施設ノ通リ、農林當局ト合議ヲ以テ其
施設宜シキヲ得、其目的ヲ完ウシタイト云
フ御考デアルカ、此點ヲ伺シテ置キタイト
思ヒマス、更ニ附加ヘテ御答辯ヲ得タイト
思ヒマスル事ハ郵便貯金利下ノ問題デア
リマス、此郵便貯金利下ノ問題ハ、政府ノ
金輪出解禁ニ對スル所ノ政策ト相俟シテ、民
間ノ銀行ガ預金利子ヲ引下ゲマシテ、就中
貯蓄銀行ハ〓之ニ迷ッテ居ルヤウデアリマ
スガ、之ニ促サレテ、之ニ相關聯シテ、郵
便貯金利下ノ問題ガ、遞信省内ニ於テハ、旣
ニ利下ト決シテ居ラレルヤウニ私ハ察スル
ノデアリマス、若シ利下ヲセラレルト云フ
コトデアリマスルナラバ、現在低利資金ハ
四分八厘デアル、之ヲ政府ハ五朱ノ公債デ
貸スノデアリマス、若シ郵便貯金利下ヲス
ルト云フコトデアリマスナラバ、或ハ六厘
下ゲノ四分二厘位ニ當リハシマイカト思ヒ
マスガ、左樣ニナッテ參リマスレバ、二歩ノ
差デサヘ五千万圓ヲ生ジマス、此三倍約一
億五千万圓、二億万圓ニ近イ所ノ幅ガ郵便
貯金利下ノ結果其處ニ生ジテ、政府ノ歲入
ニ不足ガ起ルト云フコトデアル、同時ニ三
分五厘ト云フモノニ對スル一分三厘ヲ補給
スルト云フト、益〓其間ニ於テ種々ナル紛議
ヲ起シテ參ルト思フノデアリマスルガ、之ニ
付テ御差支ナケレバ、其利下ノ内容ニ付テ
此際承シテ置キタイト思ヒマス、私ハ以上申
上ゲマシタ所ニ依テ御質問申上ゲタイト云
フコトノ大要ヲ盡シタノデアリマスガ、之
ヲ要スルニ本案ハ田中總理ガ國民ノ前ニ公
約シ、又議員ノ質問ニ對シテ屢〓聲明シタ
ル唯一ノ社會政策的立法ガ、龍頭蛇尾ニ終ク
タト云フコトヲ頗ル遺憾トスル者デゴザイ
やっ、本法ノ制定ニ當ッテ當局ガ三年ニ渉ッ
テ宜傳セラレタル所ニ依リ、國民ノ期待ハ
美化スベク頗ル望ヲ屬シテ居ッタニ拘ラズ、
今日惡化シテ、却テ小作爭議ヲ頻發スルト
云フヤウナ施設ニ化セントスルコトヲ遺憾
トスルノデゴザイマス、更ニ私ハ特ニ諸君
ニ御考慮ヲ煩シタイト思ヒマスコトハ卽
チ本法ニ依テ交付債劵ヲ得ントスルガ爲
ニ、卽チ不動產ノ資金化或ハ此機會ニ於テ
不耕地ノ地主及不在地主、是等ノ洵ニ心掛
ノ善クナイ所ノ地主ガ、本法ノ施行ニ依テ
其持テ餘シテ居ル地所ノ賣退ケヲスルモノ
デハナイカト云フコトヲ恐レル者デゴザイ
やく、若シサウデアリトスルナラバ、全ク
是ハ地主擁護ノ爲ニ提案セラレタモノデ
アッテ、社會政策ノ假面ニ隱レテ以テ本法ノ
運用ノ上ニ、地主ヲ擁護シテ參ルト云フコ
トニ申サレテモ、農林大臣ハ之ニ付テ反駁
セラルヽコトガ出來ナイト云フヤウナ狀態
ニナリハセヌカト考ヘマス、又是ト反對
ニ、一面ニ於テハ低廉ナル自作農地ヲ得ン
ガ爲ニ、各小作人ハ地主ニ對シテ團結シテ
小作爭議ヲ起シテ、以テ地主ヲ窮地ニ陷ラ
シメ、以テ低廉ナル地所ヲ收メンガ爲ニ、
小作爭議ヲ誘發スルト云フコトノ、其誘因
ニナラナイカトモ考へルノデアリマス、其
何レニ御覽ニナリマスカ、且ツ直接個人ニ
貸付ケルト云フコトニナリマスレバ、只今
申シマシタ通リ
〔此時發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=48
-
049・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=49
-
050・小山松壽
○小山松壽君(續) 政府ハ國家ガ小作爭議
ニ直面シテ、其渦中ニ陷ルト云フコトニナツ
テ、由々敷キ問題ヲ招來シヤシマイカト云フ
コトヲ私ハ恐レル者デゴザイマス、要スル
ニ三年間ニ涉ッテ現内閣ガ社會政策立法ノ
一トシテ、地租委讓ト共ニ二大看板トシテ
揭ゲラレタル所ノモノハ、要スルニ產業立
國ノ廉賣政策トナリ、粗製濫造ニ陷ッタモ
ノデハナイカト考ヘルノデゴザイマス、此
點ニ付キマシテ農林大臣ノ御覽ニナリマス
所ヲ御說明ヲ願ヘマスレバ、私ノ滿足トス
ル所デゴザイマス
〔國務大臣山本悌二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=50
-
051・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) 小山君ノ御尋
ニ對シマシテ御答ヲ致シマス、段々小山君
ハ御述ニ相成ラレマシタガ、私ニハ其御質
問ノ要點ヲ捕促致兼ネタノデアリマスケレ
ドモ、私ガ信ズル所ノ、之ガ卽チ御尋ノ點
デアラウト云フ其點ニ付テ御答ヲ申上ゲマ
ス
〔此時發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=51
-
052・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=52
-
053・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) (株)第一ニ、
御尋ノ點ニ對シテ御答申上ゲル前ニ、申上
ゲテ置クコトガアリマスルガ、小山君ハ今
日ノ現行簡易生命保險積立金ニ依ル自作農
創設維持ト云フ制度ハ大正十五年ニ創定
セラレタカノ如クノ仰セガアリマシタケレ
ドモ、サウデハアリマセヌ、是ハ其前ノ大
正十一年原內閣ノ下ニ始メテ其端〓ヲ發シ
テ居ルノデアリマス(拍手)ソレカラ次ニ第
一ノ御尋ハ提出ノ理由ガドウシテ斯ウ遲
レタカト云フ御尋デアリマシタガ、小山君
モ此問題ガ頗ル國家ニ對シテ重大ナル問題
デアルト云フコトハ御同意デアルヤウデ
アリマスルガ、ソレダケニ、重大デアルダ
ケニ各方面ノ實情ヲモ考査シ、財政ノ狀態
ヲモ參酌致シテ決メナケレバナラナイ極メ
テ重大ナル問題デアッテ、其考慮ニ今迄遲
レテ居ッタノデアリマス(拍手)ソレカラ以
前ニ農林省案トシテ世間ニ現レタモノハ大
變ニ浩瀚ナ大キナモノガアタガ、今ハ頗ル小
サナモノニナッタヂヤナイカト云フ御說デ
アリマシタガ、小サナモノデ同一ノ目的ヲ
達スルコトガ出來マスレバ、ソレデ宜イヂ
ヤアリマセヌカ(拍手)當時ノ法案ハ-
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=53
-
054・元田肇
○議長(元田肇君) 靜〓ニ願ヒマス-靜
ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=54
-
055・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) 様當時ノ法
案ハ農地金庫ナルモノヲ設ケテ是ヨリ農地
債劵ヲ發行スルト云フ組織デアリマシタガ
爲ニ、其農地金庫ノ組織ニ關スル法制ヲ要
スルノデ、ソレデ非常ナル澤山ノ箇條ヲ要
シタノデアリマス、併ナガラ今回ノ如ク之
ヲ特別會計ト致スト云フコトニナレバ、左
樣ナ煩瑣ナ條項ハ要ラナイノデアリマス、
隨テ短カイモノニナッタト云フニ過ギナイ
ノデアリマス、而シテ其實質ニ付テハドウ
カト言ヘバ、金庫ヨリ債劵ヲ發行スルモ、
乃至ハ特別會計カラ發行スルモ、其實質ハ
少シモ違ハナイ、寧口金庫ヨリハ特別會計
ガ發行スル債劵ノ方ハ信用多クシテ、寧ロ
之ヲ歡迎シナケレバナラナイノデアル、併
ナガラ當時一案トシテ殆ド國家ノ公債ニ類
スルガ如キ債劵ヲ、特別會計カラ發行サセ
ルト云フコトハ深ク考慮シナケレバナラ
ナイ餘地ガアルカラ、ソレヨリモモウ少シ
手輕ナ法人ヲ拵ヘテ、是ヨリ債劵ヲ發行サ
セルト云フコトニシタラドウカト云フノ
デ、ソレガ農林省案ニ現ハレテ居。シタニ過
ギナイ、併シソレヨリモモット宜シイ、卽チ
國家ノ公債ニ等シイ債劵ヲ特別會計カラ發
行スルト云フコトニナレバ、ソレ程宜シイ
コトハナイノデス(拍手)ソレカラ金額が大
キイ小サイト云フコトヲ申サレマシタ、成
程農林當局ノミノ立場カラスレバ、總テ此點
ノミナラズ總テノ方面ニ向ッテ、多々益々其多
キヲ欲スルト云フコトハ當然デアリマス、
併ナガラ時ノ財政狀態、經濟狀態ト相對照
シテ、其歸結ヲ求メナケレバナラナイノデア
ル、アナタ方ハ始終公債ヲ發行シテハイケ
ナイ、財政ハ緊縮致サナケレバイケナイト
申シテ居ラレマシタ、吾々ト雖モ亦始終其
點ニ注意シテ總テヲ行フト云フ點ニ苦心カ
存シテ居ルノデアリマス(拍手)ソレカラ其
次ニ從來ノ簡易保險ハ三分五厘デ貸付ケル
コトニ相成シテ居ルー一分三厘ヲ國家カ
ラ補償スルカラ、實際ハ三分五厘ノ利子ニ
ナルノデアルガ、今囘ノ分ハ五分ダト云フカ
ラ、其處ニ卽チ一分五厘ノ差ガ生ズルデハ
ナイカト云フ御尋デアリマシタ、如何樣其
通リ、其通リデアリマスルガ、サル代リニ
年限ガ御承知ノ通リ簡易保險ノ分ハ二十五
年デ償還濟ニ相成ルコトニナッテ居ル、然ル
ニ今回ノ分ハ期限ヲ延シテ三十五箇年ニシ
テアリマス、隨テ一箇年ニ支拂フベキ所ノ
年賦金ハ、何モ現在ノ分ト少シモ變ラナイ、
現在ノ分ヨリハ更ニ多ク支拂ハセルト云フ
ヤウナコトデハナイノデス、年限ガ長クナ
ルダケデアッテ、年賦金ノ金額ヲ大ニ膨脹ス
ルト云フ憂ハナイノデアル、ソレカラ自作
農ノ定義如何ト云フヤウナ御話ガアリマシ
タ、自作農ノ定義ハ、是ハ卽チ小山君ノ言
ハレタ大正十五年ノ當時カラ、所調今日ノ
簡易生命保險ハ二十五箇年デアルト云フコ
トデ決メタ其當時ノ自作農ト云フ定義ト、
今日ハ少シモ違ハナイノデアリマス、卽チ
自家勞力ヲ標準トシテ、自家勞力ヲ以テ耕
作シ得ル面積ヲ持ッテ耕作シテ居ルノガ自
作農デアル、ソレハ今囘此定義ヲ定メル必
要ハナイノデアッテ、旣ニ今日定ッテ居ル、
アナタ方ノ當時デアリマシタガ、卽チ大正
十五年カラ決シテ居ルノデアリマス、ソレカ
ラ現在ノ小作料ヲ適當ダト認メルカドウカ
ト云フ御尋ガアリマシタガ、小作料ハ全國
ニ亙リマシテ各種ノ事情ヨリ非常ニ異ッテ
居リマス、小作料ガ高イトカ安イトカ云フ
ヤウナコトハ、中〓容易ニ其斷定ヲスルコ
トハ出來ナイモノデアリマスルガ故ニ、自
作農ノ維持創設ノ場合ニ於ケル所ノ標準
ハ所謂普通小作料ヲ標準ト致シテ居ルノ
デアリマシテ、之ヲ以テ年賦金算出ノ基礎
ニ備ヘテ居ルノデアリマス、是ハ卽チ現在
ノ簡易生命保險ニ依ル所ノ維持創設ト何等
異ル所ハ大體ニ於テナイノデアリマス、ソ
レカラ米價ト利率ノ關係ニ付テ御尋ガアリ
マシタガ、是ハ米價ガ下ッタナラバ五分ノ
利息ヲ拂フコトガ出來ナクナリハセヌカト
云フ、御心配デアラウト思ヒマスケレド
モ、米價ノ傾向ハ大體ニ於テ將來大ニ下落
スルト云フ推測ハ、當局トシテハ致シテ居
リマセヌ、卽チ統計上カラ申シマシテモ、
大正八年ノ暴騰後ヲ受ケテ今日迄ハ、大體
ニ於テヅット平衡ヲ保ッテ居ルノデアリマス
ル、此後ニ於テ大ニ下落スルト云フ-時
ニ依テハ波瀾ハアリマセウ、時ニ依テ波瀾
ハアリマスケレドモ、併ナガラ將來長年ヲ
通ジテ低落スベキ運命ニアルモノトハ當局
ハ考ヘテ居ラナイノデアリマスル、ソレカ
ラ何故ニ現行制ヲ廢セザルヤト云フヤウナ
意味ノ御尋ガアッタヤウデゴザイマスガ、サ
ウデアリマスカ、(「サウダ」ト呼ヒ其他發
言スル者多シ)-ソレナラバソレハ申シ
マセヌ、ソレカラモウ一ツハ、貸付ハ主ト
シテ個人ニ向ッテ貸付ケルト云フコトニ相
成ッテ居ルヤウデアルガ、ソレハ非常ニ危
險ナコトデハナイカト云フヤウナ御尋ガア
リマシタガ、ソレハ小山君ノ御考違ヒデア
リマス、サウデハナイノデアリマス、卽チ
府縣、市町村ト云フモノニ貸付ヲスルト
云フコトガ原則トナッテ居ル、唯例外ニ於テ
個人ニ貸付ケルコトガアルト云フコトニ
ナッテ居ルノニ過ギナイノデアリマス、(「例
外バカリダ」ト呼フ者アリ)ソレカラ其例
外ニ於テモ同ジク危險ガアルヂヤナイカト
云ヘバ、之ニ對シテハ斯樣ニ御答スルヨリ
外ハナイノデアル、大體ニ於テ是ガ國ガ引
受ケタカラト云フテモ、此立方デハ危險ガ
ナイト思フ、ソレハ何トナレバ今日迄ノ簡
易生命保險ノ此成績ニ徵シマシテモ、年賦
ガ滯ッタト云フヤウナコトハアリマセヌカ
ラシテ、將來ニ於テモ此危險ハナイト思フ、
ナイト思フガ、併ナガラ假ニ多少ノ危險ガ
ソコニアッタトシテモ、是ヲ又補塡スル方
法ガ具シテ居ルノデアル、故ニ國家ハ多大ノ
損失ヲ受ケルト云フコトハナイ積リデア
リマス、損失ヲ受ケルト云フコトハナイ積
リデアリマスガ、併シモウ一步進ンデ、多
少ノ危險ガ國家ニ對シテ生ズルト云フコト
ハイカヌデハナイカト言ヘバ、私ハ小山君
ニ向ッテ問ハザルヲ得ナイノデアル、然ラバ
府縣ヲ主體トシテヤラシタ場合ニ、府縣ハ
其危險ヲ負擔シテモ宜シイノデアルカ、國家
ハ左樣ナ危險ヲ負擔シテハナラヌガ、府縣
ハ此危險ヲ負擔シテモ宜シイノデアルカト
云フ、貴方ノ御考ヲ問ハザルヲ得ナイノデ
アル、大體ニ於テ此今日ノ現行簡易生命保
險ノ積立金ニ依ル自作農維持創設ヲ廢止シ
ヤウト云フノデハナイノデアル、廢スルド
コロデハナイ、此積立金ヨリ融通シテ吳レ
レバ多々益、結構ナノデアッテ、是ハ是デ此
儘行"テ居ルノデアル、併シ是デハ足ラナ
イノデアル、到底足ラナイ、足ラナイノミ
ナラズ、小山君モ能ク御承知ノ通リ、簡易
生命保險ノ資金ハ所謂還元主義ニ依ルノデ
アリマスカラシテ、自作農ノ維持創設ヲ必
要トスル其地方ニ向ッテ、必シモ此資金ヲ廻
スト云フ譯ニハ參ラヌノデアル、隨テ自作
農ノ維持創設ト云フ立場カラ言ヘバ今日
ノ簡易生命保險ノ還元主義ト云フノハ甚ダ
不自由ナノデアル、ソレ故ニ新ニ此制度ヲ
立テヽ資金ノ增加ヲ圖ルト同時ニ、此不便
ヨリ免レントスルノデアリマス、現在ノ此
法制ヲ廢シヤウト云フ譯デモ何デモナイノ
デアッテ、是ハ結構ナノデアルカラ、之ト併
セテヤラウト云フノデアル、ソレカラ小作
立法ヲ何故急ガヌカト云フヤウナ御意見ガ
アリマシタガ、是ハ過日鈴木文治君ノ御尋
ニ對シテ詳シク申述べテ置キマシタカラ、
茲ニ重ネテ御答スルコトノ煩ヲ避ケマス、
ソレカラ地主ガ賣拔ケヲスルノニ此法制ガ
唯便宜ヲ與ヘルノミデハナイカ、尙ホ進ン
デハ此法制ハ却テ小作爭議ヲ挑發スルモノ
デハナイカト云フヤウナ意味ノ御尋ガアリ
マシタガ、私ハ左樣ニハ考ヘテ居リマセヌ、
地主デ土地ヲ賣ラウト一云フ者ガアッテ、ソレ
ガ適當ノ値段デ、小作人カラ見レバ今迄拂。ン
テ居シタ小作料ノ範圍內デ、三十五箇年間ニ
其土地ヲ取得スルコトガ出來ルモノデアル
ナラバ、賣ラウト云フ地主ニ賣ラシテ、此
自作農ヲ創設スルコトガ出來レバ、非常ニ
結構ナコトデハナイカト思フ、何モ之ヲ高
ク賣シテ小作人ニ取得セシメヤウト云フノ
デハナイ、年々今迄拂ッテ居ッタ所ノ小作料
ノ範圍内ニ於テ、年賦金ヲ三十五箇年ニ
拂ッテ行ケバ、ソレデ其土地ヲ取得スルコ
トガ出來ル、其價格内デ取引ヲサセルノデ
アリマスカラ、地主ガドウ云フ地主デアラ
ウガ、サウ云フコトハ問題デハナイノデア
ル、決シテ地主ノ賣拔ケニ特ニ便宜ヲ與ヘ
ルノデハナイト云フコトハ明デアリマス、
次ニ此小作爭議ヲ挑發スルト云フコトハ、
餘リ心配過ギルノデハナイカト思フ、小作
人ガ合同シテ土地ノ價格ヲ下落セシメ、サ
ウシテ土地ヲ取得シヤウト云フヤウナコト
ハ、是ハ想像スルコトスラ、私ニハシ得ナ
イシ、又シタクナイノデアル、左樣ナ現象
ハ斷ジテ起ラヌト私ハ思シテ居リマス、然
レドモ斯ウ云フ現象ガ假ニ起ルトシタナラ
バ、ソレハ同ジク今日ノ簡易生命保險ノ制
度デモ、矢張起ルノデアル、今日ノ簡易生
命保險ノ制度ハ大正十五年ニ之ヲ立テタノ
ダト仰セラレテ居ル、若槻內閣ノ下ニドウ
云フヤウナ御話ガアリマシタカ、ソレハ私
ハ能ク記憶致シマセヌ、兎ニ角今日ノ制度
ト云フモノニ付テハ、小山君ハ結構ナモノ
ダト云フ御考ヲ有ノテ居ラレルヤウデアル、
然ラバ若シ之ヲ地主擁護ニナルモノデア
ル、小作爭議挑發ノ具ナリト言ハレルナラ
バ、今日ノ制度ノ下ニ於テモ之ヲ言ハナケ
レバナラヌノデアリマス、其點マデハ小山
君ハ恐ラクハ申スノデハナイト思ヒマスガ、
其弊ガ生ズルト云フコトヲ恐レラレルナラ
バ、今日ノ制度ニ於テモ、又新タナル今回
ノ制度ニ於テモ同ジコトデアルト思ヒマス
ガ、私ハ左樣ナ極端ナ弊ハ生ゼナイモノト
確信シテ居ルノデアリマス(拍手)
〔政府委員大口喜六君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=55
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056・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 大藏當局ニ關シ
マスル事ニ付キマシテ小山君ニ御答ヲ申上
ゲタイト存ジマス、小山君ガ仰セラレマシ
タ如ク、此預金部ノ金ハ最モ愼重ニ取扱ヒ
マシテ、堅實ヲ期セネバナラナイコトハ、其
通リデアルト考ヘマス、私共モ常ニ其考ヲ
以テ此事ニ當ッテ居ル積リデアリマス、而シ
テ今回出サレマシタ所ノ此自作農ノ案ハ
是ガ幸ニ貴衆兩院ヲ通過致シマスレバ兩
院ガ此有利ナルコトヲ認メラルヽノデアリ
マシテ、而シテ政府ノ特別會計ニナルモノ
デアリマスガ故ニ、此位有利確實ナモノハ
ナイト私共ハ信ジテ居ルノデアリマス拍
手)ソレ故ニ此場合ニ當リマシテハ、運用
委員會ニ於テハ必ズヤ之ヲ認メラルヽモノ
ナリト、政府ハ信ジテ疑ッテ居ラナイノデ
アリマス(拍手)併ナガラ御話ノ如ク頗ル重
要ナモノデアリマスルガ故ニ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=56
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057・元田肇
○議長(元田肇君) 静止発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=57
-
058・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) (類)此案ヲ提案
スルニ當リマシテ、會長ヨリ此委員諸君ノ
了解ヲ得ベク、一應案ノ趣旨内容ダケハ申
述テアル次第デアリマス、是ダケヲ御承知
ヲ願ヒタイト思ヒマス、又大臣ヨリ公債ハ
二億ニ止メルト云フコトヲ申シテ居ルガ、
是ト矛盾ハシナイカト云フ御尋デアリマス
ガ、是ハ小山君ガ申サルヽ如ク、此案ニ屬
シマスル債劵ハ所謂交付公債デアリマスカ
ラ、大臣ガ申シマシタ二億ノ範圍ニハ屬セ
ナイモノデアリマス、併ナガラ此債劵ハ萬
一ノ爲ニ用意シテアル債劵デアリマスル故
ニ、幸ニ預金部ノ運用ガ目的通リニ參リマ
スレバ、此債劵ハ發行シマセズトモ、豫期
ノ目的ハ達シ得ルモノナリト吾々ハ信ジテ
居ルモノデアリマス、御答致シマス(拍手)
〔政府委員廣圖宇一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=58
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059・廣岡宇一郎
○政府委員(廣岡宇一郞君) 小山君ノ只今
ノ御質問ニ御答ヲ致シマス、政府ハ現在施
行シテ居ル簡易生命保險ノ積立金ヲ將來自
作農維持創定ノ爲ニ、現在ノ如ク持續シテ
之ヲ運用スルカト云フ御尋デアッタト思ヒ
マス、元來簡易保險ノ積立金ハ、簡易保險
加入者ノ階級ニ屬スル人ノ經濟狀態ノ向上
ヲ圖ルガ爲ニ、維持創定ニ貸付ケテ居ルノ
デアリマスカラ、將來ト雖モ此方針ヲ變ヘ
ルコトハアリマセヌ、唯此積立金ハ私ガ申
ス迄モナク、之ヲ運用スルニ付テハ保險加
入者ノ分布狀態ト、其資金還元ノ二大原則
ニ準據ヲ致サナケレバナラヌノデアリマ
スカラ、此方針ニ依テ將來共之ヲ持續致シ
テ行ク考デアリマス、ソレカラ農林省ト合
議ヲシテ定メテ居ルガ、本法案ニ關係シテ將
來之ヲ持續スルカト云フ御尋デゴザイマス
ガ、此積立金ノ運用ニ付キマシテハ從
來農林省ト合議ヲシタコトハアリマセヌ、
總テ運用ノ申込ヲ受ケルノモ、運用致スノ
モ、遞信省デヤッテ居リマス、運用委員會ノ
議決ヲ經テヤッテ居リマス、唯農事ニ關スル
主管省デアリマスルカラ、農林省ニ何等カ
ノ希望ガアルカト云フヤウナコトヲ參考ノ
爲ニ聞クコトハアリマスケレドモ、合議ハ
致シテ居リマセヌ、隨テ先刻小山君ガ御話
ノ如ク、昭和三年ニ八千五百万圓、昭和四
年ニ八千八百万圓、何十箇年ニ何十億圓ト
云フヤウナ一定ノ計畫ガアルヤウニ御話デ
アリマスガ、ソレハ農林省ノ計畫デアリマ
シテ、遞信省ニハ關係ガアリマセヌ、故ニ
只今御述ニナッタ通リ、昭和三年ニハ千五六
百万圓ト云フコトデアリマシタケレドモ、
農林省デ決メマシタノハ約千二百万圓デア
リマス、左樣御承知ヲ願ッテ置キマス、第三
ニハ、郵便貯金利下ノ事柄デアリマス、近
時市中銀行ガ金利ノ引下ヲ致シマシタニ付
テハ郵便貯金ノ利下ニ付テモ相當考慮ヲ
拂フベキモノト斯樣ニ信ジテ居リマス、併
ナガラ郵便貯金ノ金利ノ引下ハ其影響スル
所ハ頗ル重大デ、其關係モ亦廣汎デアリマ
ス、故ニ政府ハ折角現在ノ狀態ニ於テ愼重
ニ考慮〓究ヲ致シテ居リマシテ、何等決定
シタ所ハアリマセヌ、隨テ御尋ノ次第ニ對
シテハ是レ以上御答スルコトハ、現時ノ
狀態ニ於テ出來マセヌカラ、左樣御承知ヲ
願ヲテ置キマス(拍手)
〔小山松壽君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=59
-
060・小山松壽
○小山松壽君 只今山本農林大臣ノ御答辯
ニ當リマシテ、自作農ノ維持創設ノ施設ハ
原内閣ノ時カラ定シテ實行致シタモノデア
ルト云フヤウナ御話ガゴザイマシタ、是尺、
私カラ改メテ御說明ヲ申上ゲルマデモナク
本施設ハソレヨリモ前カラ遞信省ノ保險積
立金デ致シテ居ッタコトハ、是ハ御說明ヲ要
サヌト思ヒマス、唯私ノ申上ゲタノハ、國
家ガ一分三厘ヲ補給シテ、三分五厘ノ負擔
ヲ以テ自作農ノ維持創設ヲスルト云フコト
此施設ヲシタノハ五十一議會、加藤、
若槻内閣ノ時デアルト云フコトヲ私ハ申上
ゲタノデアル、是ハ何方デモ宜シイコトデ
アリマシテ、規則ノ發布ニナッテ居ルコト
デアリマスカラ、此處デ御說明ヲ中上グル
ヲ要シマセヌ、次ニ三分五厘ト五分ノ差異
ノコトニ付テ大臣ヨリ御說明ガゴザイマシ
タガ、私ハ是ハ了解ガ參リマセヌ何故ナ
ラバ、三分五厘ト五分ノ間二一分五厘ノ差
違ガアル三分五厘ハ二十五年デアリ、五
分ハ三十五年デアル、年限ガ長イカラ每
年々々負擔シテ償還シテ行ク所ノ其負擔關
係ハ、決シテ現施設-只今ヤッテ居ルモ
ノト其間ニ甲乙差違ガナイ、斯ウ云フ御話デ
アリマス、ソレデアリマスカラ私ハ先刻申
上ゲマシタ、二十五年ヲ三十五年ト云フ風
ニ引延シテ參ッタナラバ、負擔割合ニハ甲乙
ハアルマイ、サリナガラドウシテモ御考ニ
ナラナケレバナラヌコトハ、現施設ハ三分
五厘デ一分三厘ノ補給デアリマスカラ、二
十五箇年ニシテ其自作地ハ自分ノ所有ニ移
ルノデアリマスガ、此施設ヲシヤウトスル
ノハ高率デアリマスカラ、モウ十年間年貢
同樣ナモノヲ納メナケレバ自分ノ所ノモノ
ニナラナイ(拍手)斯ウ云フコトデアルカ
ラ、一日モ早ク小作ヨリ自作ニ移ッテ、自分
ノモノトシテ村ノ者ニモ幅ヲ利カセヤウト
云フノニハ、二十五年先デアッテ、マダ十年
向フニ負擔シテ參ラナケレバナラヌト云フ
コトハ思想感情ニ於テ差違ガアリハシナ
イカト考ヘルノデアル、ソレデモ此トモ差
支ナイト云フ御答デアレバ、ソレハ別デア
リマス(拍手)若シ此問題ニ付テ理解ヲ有セ
ラレ、熱誠ヲ有セラレルナラバ、現施設ニ
更ニ國庫ノ負擔ヲシテ、サウシテ此施設ヲ
成ベク現制度ニ近イモノニシ、或ハ其資金
ヲ擴張シテ參ルト云フコトデアリマスナラ
バ、私共ハ强ヒテ此質問等ハ試ミナイ積リ
デアリマス、其次ニ道府縣町村其他ノ團體
ハ現在ノ通リ、又此施設ノ貸付ハ矢張現在
施設ノ通リ團體本位トシテ居ルノダ、唯例
外ニ個人ヲ認メルノデ、小山君ハ此點ニ付
テ誤解ガアリハシナイカト云フ御話デアリ
ママ、私ハ現施設ニ例外ヲ認メテ居リマセ
又、其原則ヲ何デ御變へニナルト云フコト
ニ付テ心配ガアルカラ御尋スルノデアル、
此例外ヲ御認ニナラヌデ現施設ト同様ニオ
ヤリナラバ、私ハ何モ此憂ヲ將來ニ貽スト
ハ申上ゲマセヌ、次ニ危險ガ伴フト云フコ
トデアレバ、府縣デモ町村デモ、產業組合
デモ農會デモ、同ジヂヤナイカ、ソレ等ノ
モノガ危險ヲ負擔シテ、國家ガ負擔ヲシナ
ケレバ宜イト云フコトノ議論ハ立ツマイト
云フ御話デアリマスガ、是ハ大變ニ違フト
思ヒマス、國家ガヤルト云フコトニナレバ
事情ニ通ジマセヌ、府縣、町村、產業組合、
農會等、是等ノ團體ガ致スト一云フコトデア
リマスナラバ直接其事情ニモ通ジ、且ツ
色ミノ評議機關モ持ッテ居リ、評價等モ致シ
テ、サウシテ其償還等モ誤リナイヤウニ隣
保相助ケテ、政府ノ施設ヲ援助シヤウト云
フコトニ依テ、初メテ麗ハシイ結果ヲ擧ゲ
得ルモノト私ハ考ヘルモノデアル、國家ガ
遠クカラ中央ニ於テ之ヲ統一シテ、サウシ
テ地方ヲ統括シテ行クト云フヤウナコトニ
付テ、其間ニ遺憾ハナイカト私ハ心配致
スモノデアル、殊ニ貸付ケマシタ資金ノ回
收若クハ年賦償還等ノ取立テハ、是ハ何
人ガ致スノデアリマス、思フニ、個人貸付
ト云フコトニナリマスナラバ、稅務署ガ
之ヲ取扱フデアリマセウ、國家事務ヲ若
シ府縣知事ニ委任サレルト云フコトニナル
ナラバ府縣知事ガ此衝ニ當ルデアリマ
セウ、私ハ左樣ニナリマスナラバ、小作
人ト國家ノ役人ト、其間ニ思想ノ疎隔ヲ來タ
スト云フヤウナ虞レアルコトヲ私ハ心配ス
ルモノデアリマス(拍手)之ヲ地方ノ團體ガ
致シマスナラバ、能ク事情ニ通ジテ居リ、明
ケ暮レ顏ヲ見合セテ居ル仲デアリマスカラ、
圓滿ニ行クデアラウト私ハ思フノデアリマ
ス、又其次ニ小作爭議ハ現在ノ施設デモ
起ルデハナイカト云フヤウナ御話ガアリ
マシタガ、私ハ小作爭議ガ現在ノ施設デモ
起ルコトヲ甚ダ遺憾ニ存ジマス、故ニ私ハ最
初申上ゲタ、是等ノ施設ハ農村ノ堅實ナル
安固ヲ圖リ、農業經營ヲ安心シテヤッテ行ケ
ルト云フコトガ、社會立法ノ一ツデアルト
云フコトヲ私ハ申上ゲテ居ルノデ、小作爭
議ノ頻發スルコトヲ喜ブモノデアリマセ
又、去リナガラ現在ノ施設ハ三分五厘デ、
國家ハ一分三厘ノ補給ヲシテ居ル、尙ホ負
擔ヲ輕クスル爲ニ二十五年位デ完了スルモ
ノデアル、然ルニ五朱ト云フ高率デ借リル
ナラバ、切メテハ買入レル時ノ地代ト云フ
モノハ安イモノヲ望ムヤウニナリハシナイ
カ、此施設ガ二ツニ行ハレルト云フ所ニ私
ハ心配ガアリマシタカラ、其一例トシテ申
上ゲタノデアリマス、尙ホ大藏當局ガ只今
御答辯ニナリマシタガ、預金部委員會ノ了
解ヲ得タルヤ否ヤヲ御尋申上ゲテ置キマシ
タガ、是ハ御答モナカッタヤウデアリマス
預金部ニハ御諮ニナリマシタカ、ナリマセ
ヌカ、之ヲ私ハ伺ッテ置ク、何故カト言
く、先例ガアリマス下岡元政務總監
ガ朝鮮產米計畫ヲ立テマシタ時分ニ、資金
運用ニ付テ當時ノ濱口大藏大臣ハ、愼重ニ
此問題ヲ御取扱ニナリマシタ先例ヲ以テ、
私ハ御尋申上ゲテ居ルノデアリマス(拍手)
遞信當局ニ重ネテ御尋申上ゲマスガ、只今
ノ御答辯ニ依リマスト、簡易生命保險積立
金運用ニ付テハ農林當局ト何等合議ヲシ
ナイ、又施設モ自分ノ思フヤウニシテ參ル
ノデアル、斯ウ云フ御話デアリマシタガ
是ハ篤ト、モウ少シ御調査御〓究ノ上デ御答
ヲ願ヒタイト思ヒマス、私ハ左様ニハ感ジ
マセヌ、ソレカラ運用資金ノコトニ付テ、
今小山君ハ何年ニ千三百万圓、何年ニ千五
百万圓、千八百万圓、二千万圓ト申シタガ、
サウ云フヤウナコトハ遞信當局ハ認メナイ
ト云フ御話デゴザイマス、勿論斯樣ナ問題
ニ付テハ私ハ敢テ玆ニ言葉ヲ多ク用ヒマ
セヌガ、昨年十二月十八日ト記憶致シマス
ガ、簡易生命保險運用委員會ニ於テ一ツノ
問題ガ起リマシタ、ドウ云フ問題ガ起ッタ
カ當時山本農林大臣ハ自作農維持創設ニ
付テ、昭和四年度ノ豫算ニ提出シタイト云
フコトニ付テ御努力ニナッテ居リマシタ時
分ニ、他ノ閣僚ト意見ノ一致ヲ見ズ、遂ニ
田中總理大臣ガ自分ニ委セロト云フノデ一
任セラレテ居リマシ夕當時、此資金ハ簡易
生命保險積立金ヲ以テ運用スルモノデアル
ト云フコトヲ、當局ノ御話ノヤウニ新聞ガ
傳ヘタト云フコトニ原因致シマシテ、當時
ノ預金部委員會ニ於テハ其委員デアリマ
ス所ノ兩三名ノ人カラ-殊ニ簡易生命保
險ヲ大隈内閣當時制定致シマシタ其時ノ立
法者ノ一人デ、深ク此問題ノ將來ヲ憂ヘラレ
テ居リマス所ノ藤澤、松本南博士ハ、其預
金部委員會ニ於テ此資金ノ運用ニ付テ、山
本農林大臣ガ預金部ノ了解モ得ズシテ、自
儘ニ其資金ノ運用ヲ彼此スルコトハ怪シカ
ラヌコトデアルト云フノデ、甚シク久原遞
信大臣ニ向ッテ其責任ト所信ヲ質シ、遂ニ久
原遞信大臣ハ此預金部ノ運用ノコトニ付キ
マシテハ何等自分ニ一言ノ相談モアリマ
セヌシ、若シ將來相談ガアリマシテモ、預
金部ノ運用ハ致シマセヌト、其時言責ヲ取
ラレタ例ガアリマスカラ、只今ノ御答辯ハ
其時ノ關係等ニヨリシテ、將來ヲ考慮セラ
レテノ御答ト考ヘマスガ、既ニ憲政會內閣
當時ニ主張致シマシタ一一十五箇年ノコトニ
付キマシテハ豫算外國庫ノ負擔トナルベ
キ契約ヲ要スルノ件トシテ、帝國議會ノ協
贊ヲ經テ居ルノデアリマスカラ、今之ヲ覆
ヘサレルト云フコトニナリマスト、非常ニ
國家ノ重大事ガ起ラウト思ヒマスガ、併
シ是ハ御答ニナラナクテモ、私ノ意見ダケ
ハ申上ゲテ置キマス、若シ此場合ニ御答シ
テ差支ガアルナラバ、是ハ御答ハ要シマセ
ヌ
〔國務大臣山本悌二郎君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=60
-
061・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) 目下ノ簡易生
命保險積立金ニ依ル自作農ノ維持創設制度
ト今提案シテアリマスル方法トノ間ノ金
利ノ差ニ付キマシテ、重ネテノ御尋ガアッタ
ヤウデアリマスガ、ソレハ政府ガ現在ノ所
デハ一分三厘ヲ補給致シテ居ルノデアリマ
スカラ、一年ニ此方面ニ放出スル所ノ資金
ガ此以上何千万圓ニナリマシテモ、引續イ
テ一分三厘ノ補給ヲ繼續シテ行クコトガ出
來マスレバ、是ハ洵ニ結構至極ナコトデア
ル、然レドモ御承知ノ通リ今囘ノ規模ハ甚
ダ小サイヂヤナイカト云フコトヲ小山君ガ
言ハレテ居ル、其規模デスラ、三十五箇年
ノ間ニ一億五千万圓トー云フ資金ヲ出サナケ
レバナラヌノデアル、之ニ對シテ一分三厘
ヲ補給シテ行クト云フコトニ相成リマシタ
ナラバ、國家ノ負擔ト云フモノハ是ハ非常
ナモノニナルノデアリマスカラ-殊ニ財
政ノ緊縮ヲ高唱サレテ居ル所ノ其小山君
ガ、此以上尙ホ補給ヲスルノガ宜シイヂヤ
ナイカト云フ御議論ヲスルノハ、私ハ寧ロ
其本意ヲ解スルニ甚ダ苦ムノデアリマス
是ハ出來レバ結構デアル、出來レバ結構デ
アルガ、今日ノ財政狀態デハ補給ヲスルト
云フコトハ頗ル困難デアル、ソレ故ニ年々
拂フ所ノ年賦金ノ變更ヲ來サヾル範圍ニ於
テ年限ヲ延長シテ、農民ヲシテ土地ヲ取得
セシメルト云フノガ今囘ノ立前デアルト云
フコトヲ御承知ヲ願ヒタイノデアル(拍手)
ソレカラ貸付ヲスル場合ニ府縣ヲ主體トシ
テ貸付ヲスルナラバ、ソレハソレデ宜シイ
ガ、併シソレニシテモ例外ニ於テ國家ガ直
接貸付ヲスルコトハ非常ニ危險デハナイ
カ、斯ウ云フ御尋デアッタヤウデアリマス
ガ、此例外ト云フ所ニ、卽チ今囘ノ法制ノ
妙味ガ存シテ居ルノデアル、是ハ小山君ハ
恐ラクハ其處マデ御考ニナッテ居ラヌカモ
知レマセヌガ、簡易保險ノ-重ネテ申シ
マス、簡易保險ノ〓日ノ制度ニ於テハ、遞信
次官カラモ申シマシタ通リ還元主義ト云フ
制限ガアルノデアル、卽チ被保險者ノ多イ
所ニ大體ニ於テ此資金ヲ又戾シテヤルト云
フ、此原則ノ下ニ簡易生命保險ノ資金ヲ運
用サレテ居リマス、夫故ニ自作農維持創設
ト云フ立場カラ致シマスレバ、是ハ最モ緊
要ナルモノデ、最モ其方面ニ多額ノ融通ヲ
シナケレバナラヌ場合ニ、必シモソコニ融
通スルコトガ出來ナイ場合ガ生ズル、府縣
ノ場合ニ於テモ同ジデアル府縣ヲ通ジテ
ヤル場合ニ、若クハ市町村ヲ通ジテヤル場
合ニ、其市町村若クハ府縣ノ財政ノ狀態ニ
依テハ是ダケノ起債ヲスルコトガ出來ナ
イ、卽チ自作農維持創設ニ要スルダケノ金
額ヲ自己ノ負擔ニ於テ、自己ガ起債シテ實
行スルト云フコトハ、困ル場合ガ生ゼヌト
モ限ラナイ、又府縣ノ場合ニハ起債ニ付テ
內務省ノ認可ヲ經ナケレバナラヌ、事ニ依
ルト云フト內務省トシテハ其府縣ノ財政狀
態ニ鑑ミテ、是以上ノ起債ハイカヌト云フ
コトニナルカモ知レナイ、サウ云フ場合ニ
於テ、卽チ其地方ニ於テ自作農維持創設ハ
極メテ緊要デアッテ、之ニ多額ノ資金ヲ要ス
ルコトガアリマスニ拘ラズ、府縣若クハ市
町村トシテハ、ソレガ出來ナイ、若クハ十
分ニ出來ナイト云フ場合ガ生ズル、其場合
ニ國家ガ自ラ出動スルト云フコトニ今回ノ
法制ノ妙味ガ存シマス、ソコデ今回ノ方法
ハ從來ノ簡易生命保險ノ制度ト其選ヲ異ニ
スルト云コトヲ御諒知ヲ願ヒタイノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=61
-
062・元田肇
○議長(元田肇君) 大口政府委員
〔政府委員大口喜六君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=62
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063・大口喜六
○政府委員(大口喜六君) 再應ノ御質問デ
アリマシタガ、私ハ實ハ先刻明瞭ニ御答シ
タ積リデアッタノデアリマス、小山君ノ御問
ニナリマス運用委員會ノ了解ヲ得タト云フ
コトハ、ドウ云フコトデアリマセウカ、若
シ私ガ此處デ此演壇ニ於キマシテ此了解ヲ
得タリト言ハウトシマスレバ、ドウシテモ
是ハ委員會ヲ正式ニ開キマシテ、サウシテ
其運用委員會ニ於テ斯ク〓〓ノコトヲヤラ
ウト思ウガ如何デアルカト云フコトヲ諮問
致シマシテ、ソコデサウ云フコトガ出來上
ルナラバ宜シイト云フ決議ヲ經マシタノデ
ナケレバ、明瞭ニ私此處デ了解ヲ得テ居ル
ト云フコトハ言ヘナイノデアリマス、其手
續ハ致シテアリマセヌ、併ナガラ先刻申ス
通リ、事ガ頗ル重大デアリマスカラ、此案
ヲ提出スルニ當リマシテ、會長カラ委員諸
君ノ個人ニ向ヒマシテ、今回斯ノ如キ案ヲ
此趣意デ出スト云フノデ諸君ノ了解ヲ得タ
イ希望ヲ以テ、其事ヲ申述べテアル事實ガ
アルト申スノデアリマス、是ダケヲ申上ゲ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=63
-
064・小山松壽
○小山松壽君 只今農林大臣及大藏當局ヨ
リノ御答辯ニ依リマシテ、私ハ此問題ニ對
スル所ノ質疑-尙ホ私ノ懷イテ居ル所ノ
疑問ヲ了解スルニ至リマセヌ、サリナガラ
本問題ハ頗ル細目ニ亙ッテ質問應答ヲシテ、
徹底ヲ期スル場合ガナケレバナラヌト考ヘ
マシテ、委員會ニ付議サレタ場合ニ讓リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=64
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065・元田肇
○議長(元田肇君) 田中万逸君
〔田中万逸君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=65
-
066・田中萬逸
○田中万逸君 本案ニ對シマシテ同僚小山
君ヨリ廣汎ニ亙ル御質問ガアリ、私ノ問ハ
ントスル大半ハ盡サレマシタガ故ニ、私人
簡單ニ農村問題ヲ中心ト致シマシテ二三質
問ヲ致シタイト存ズル次第デアリマス、本
案ハ現內閣ノ所謂積極政策ノ最モ重要ナル
一ツデアリマスル、產業立國ノ基礎ヲ成セ
ルモノデアリマシテ、彼ノ兩稅委讓案ト共
ニ政友會ノ二枚看板トサヘ稱ヘラレタ所ノ
案デアリマスル、隨テ過グル總選擧竝ニ各
方面ノ選擧ニ方リマシテ、選擧演說ノ最モ
重要ナル一大項目ト致シテ、多數ノ投票ヲ
〓チ得ラレタル所ノ法案デアリ、一方ニ於
キマシテハ、一昨年來山本農林大臣、三土
大藏大臣、此兩大臣ガ三年越シノ確執ノ主
因ト致シマシテ、內閣不統一ノ醜態ヲ暴露
セシコト一再ニ止ラザル所ノ故事來歷ニ富
ム所ノ案デアッテ、現内閣ニ取シテ頗ル持扱
ヒ兼ネタル所ノ案デアリマス、內閣ト致シ
テハ頗ル持扱ヒ兼ネタ案デアルケレドモ、
併シ政友會ト致シテハ有ユル選擧ト云フ選
擧ニ於ケル演說ノ一大題日トシテ、醇朴ナ
ル所ノ農民ノ投票ヲ贏チ得タル所ノ其責任
上、本案ノ實現ニ努カスベキコトハ、政治道
德上當然ナルコトデアルト斷言スルニ躊躇
致サナイノデアリマス(拍手)然ルニ會期三
分ノ二ヲ經過致シタ今日ニ當ッテ、漸ク其
提出ヲ見ルニ至ルト云フコトハ、選擧當時
ノ御言葉ニ對シテ何ト云フ體タラクデアリ
マスルカ(拍手)元來政黨ノ看板ニ揭ゲラレ
ル程ノ重要ナル所ノ法案ガ、會期ノ三分ノ
二ヲ過シタ頃ニ、漸ク閣議ノ決定ヲ見ルト
云フガ如キコトハ、眞ニ不誠實不誠意且又
不用意極マル所ノコトデアッテ、此哀レナ
取扱方ニ依テ案其モノヽ價値、卽チ權威モ
測リ知ルコトガ出來ルノデアリマス、論ヨ
リ證據デアリマスル、試ニ其成案ヲ一覽致
サレタナラバ、曩ニ世上ニ問ハレタ所ノ此
自作農地法案、卽チ農地金庫法案ニ較ベマ
シテ非常ナ徑庭ガアル、當時山本農林大臣
ハ農村救濟ノ國策ヲ樹立スル爲ニ、此自作
農地法案ヲ提出スルモノデアルトサヘ壯語
セラレタコトヲ私ハ記憶致シテ居リマス
ル、然ルニ拘ラズ今囘提出サレマシタル本
案ニハ其抱負經綸ノ片鱗スラモ認ムルコ
トガ出來ナイデハアリマセヌカ、要スルニ
本案ハ羊頭ヲ揭ゲテ拘肉ヲ售ルモノデアツ
テ、山本農林大臣ノ面目ノ爲、〓ニモ角ニ
モ三年越シノ爭論ノ片ヲ付ケタ間ニ合セノ
案ニ過ギナイト云フコトハ一目瞭然ノ事
實デアリマス、而モ此骨拔案ヲバ會期切迫
致シタ今日俄ニ提出ヲセラレテ、果シテ貴
衆兩院ヲ通過スル成算アリヤ否ヤ、先ヅ此
點ヲ御伺致サナケレバナラヌノデアル、斯
ク私ガ質問ヲ致シマスルト、當局大臣ハ勿
論其成算アリト月並的ナ御答辯ガアラウト
思ヒマスルガ、月並的ナ御答辯デアッテモ宜
シイ、山本農林大臣ノ職貴上、其責任上且
ツ政治道德上、將來ノ爲ニ此點ヲ確然ト私
ハ承ッテ置キタイト思フノデアル(拍手)而
シテ更ニ御伺致シテ置カナケレバナラヌ事
ハ農林當局ニ於テハ自作農創設ノ決意ヲ
致サレルヤ、一昨年來ヨリ引續イテ今日ニ
至ルマデ、案其モノヽ內容ガ頗ル杜撰デアツ
タニモ拘ラズ、其目的ノ美ナルコトヲ奇貨
ト致シテ、之ヲ選擧ニ利用シテ遂ニ種々ノ
紛爭ヲ釀サレタ結果トシテ、漸ク今日ニ至ッ
テ此骨拔案ヲ提出サレタコトハ吾々ヨリ
見テ政治道德上許スベカラザル大罪惡デア
ルト確信ヲ致シテ居リマスルガ(拍手)山本
農林大臣ハ率直ニ此點ニ對シテ所見ヲ承リ
タイノデアリマス、次ニ御伺ヲ致シタイコ
トハ、山本農林大臣ガ本案提出ノ際ニ述ベ
ラレタ如ク-卽チ本案提出ノ趣旨ニ述べ
ラレタ如ク、本案ハ小作爭議ノ對策デアル
ト、斯樣ニ言ハレマシタ、卽チ農林大臣ガ
多年御主張ヲナサッテ居ラレル其御主張ニ
依リマスレバ、自作農ノ創設ニ依テ小作爭
議ヲ解決シテ、而シテ農村問題ニ對シテ根
本的ノ政策ヲ確立スル爲ニ、本案ヲ提出サ
レタノデアルト、斯樣ニ申シテ居ラレマス、
然ルニ今囘提出ノ此法案ハ前刻モ申上ゲ
マシタ通リ、洵ニ規模ノ狹小ナ妥協本位ノ鶴
的ノモノデアッテ、而モ當局ノ責任者デアル
所ノ農林大臣ヲ度外視シテ、漸ク勝田文相
ノ考案ニ成ッタト云フ、山本農林大臣ヨリ見
タナラバ、自作農デナクシテ寧ロ他作農デ
アルト云フノガ當然デアルト、吾々ハ考ヘ
ルノデアリマス(拍手)卽チ最初ノ案ト現
在ノ案トヲ對比シテ見マスレバ三十五箇
年ト云フ長星霜ダケハ同ジデアリマスルケ
レドモ、其資金ニ於キマシテハ、前ニ提出
サレタモノハ年額八千万圓デアッタニモ拘
ラズ、僅ニ三千万圓ヲ限度トスルト云フ、
其半バニモ達セザル所ノ僅少ナル所ノモノ
デアリマス、而シテ創定セラルベキ所ノ自
作農ノ段別ト云フモノハ最初ノ六十三万
町步ニ較ベテ、是亦其半バニモ達セザル所
ノ僅ニ二十六万町歩ト云フ僅少ナモノデア
リマス、卽チ小作農地總面積デアル所ノ二
百七十八万餘町步ニ比べマシタナラバ、僅
ニ十分ノ一デアル、其一割ニ足ラザルト云
フガ如キ、所謂九牛ノ一毛ニ比スベキモノ
デアリマスルガ、斯ノ如キ貧弱ナル施設ニ
依テ、如何ニ農村ニ於ケル所ノ階級鬪爭ヲ
調和致シ、其根本問題ニ對シテ解決ヲ下シ
得ルヤ否ヤ、蓋シ百年河〓ヲ待ツト同一デ
アルト言ハザルヲ得ナイノデアリマス、殊
ニ小山君モ質問セラレタ如ク、從來ノ簡易保
險積立金ノ運用ニ依ル自作農ノ創設ハ、農
家ノ負擔スル所ノ利息ハ三分五厘デアルニ
モ拘ラズ、本案ハ更ニ一分五厘高イ所ノ實
ニ五分ノ利息ヲ負擔シナケレバナラヌコト
ニナッテ居リマス、就テハ從來ノ三分五厘ノ
利子ヲ負擔致シマシタ場合ニ於テ、此場合
ニ於テコソ、十數倍ノ希望申請者ガアリマ
シタケレドモ、五分利負擔ノ其上ニ、地代
ト致シテ四分ノ一ノ現實出資ヲシナケレバ
ナリマセヌ關係上、從前通リ其申請者ハ十
數倍ヲ超ユル如キ多數ヲ出サナイト云フコ
トハ、言フ迄モナキ話デアリマス
〔元田議長議長席ヲ退キ〓瀨副議長代
リ著席〕
隨テ斯樣ナ負擔ノ下ニ於テ、果シテ小作農
カラ自作農ニ進出シ得タ所ノ新タナル自作
農者ガ、其現勢力ヲ維持致シマシテ、依然
トシテ自作農ノ資格ヲ保ツト云フコトハ頗
ル困難デアッテ、折角作上ゲタ所ノ自作農
者モ、數年ヲ出デズシテ又々元ノ小作農ニ
還元スルト云フ所ノ憂ヲ懷カザルヲ得ナイ
ノデアリマス、卽チ現在ノ農村ハ地主ト云
ハハ、自作農ト云ハズ、將又小作農ト云ハ
ズ總テ行詰リノ狀態デアッテ、農村困憊
ノ窮極ニ達シテ居ルト云フコトハ天下公
知ノ事實デアリマス、而モ農作ハ必シモ農
村ニ取ッテ福音デナイノデアリマス、農作ニ
伴フ所ノ必然ノ結果ト致シテ襲ヒ來ル所ノ
米價ノ低落ハ、深刻ニ御互農民ノ生活ヲ脅
威致シテ居ルデハアリマセヌカ、吾々ハ平
素農村ノ振興ヲ力說セラルヽ現内閣トシ
テ、此場合其平素ノ御主張ノ如ク、疲弊困
憊ノ窮極ニ達シテ居リマス所ノ農村ヲ救濟
スベク、其根本政策ノ確立ヲ期スルト云フ
コトガ、當然ノ事デアルト考ヘテ居ルノデ
アル、然ルニ此貧弱極マル所ノ自作農外一二
ノ不徹底ナル所ノ提案ヲ爲シタルノミニ
テ、事足レリトセラレルノハ、向後現內閣
ハ農村振興ヲ口ニスルノ資格ナキモノト斷
定セラレテモ、蓋シ返ス言葉ハナカラウト
思フノデアリマス(拍手)山本農林大臣ハ、
農村疲弊ノ結果ト致シテ年々八千町步乃
至一万町歩ノ自作農ノ減少シテ行ク所ノ事
實ヲバヨモヤ御存知デナイ筈ハナカラウ
ト思フノデアリマス、又現在ノ小作農ノ思
想的傾向ト云フモノハ、耕地ヲ購入致シテ
自作農トナルヨリハ、寧ロ小作農トシテ耕
作權ノ確立ヲ期シ、斯クシテ他人ノ土地ヲ
耕スコトヲ以テ得意ト致シテ居ル所ノ傾向
ヲ、是亦御存知ナイ筈ハナカラウト思フノ
デアリマス、果シテ然ラバ自作農ノ一本槍
デハ、到底農村問題ノ根本解決ヲ爲ス能ハ
ザルノミナラズ、一面ヨリ見テ本案ハ時代
ニ逆行セル所ノ地主擁護ノ政策デアルト云
フ誹ハ免レナイノデアリマス、現內閣ハ何
ガ故ニ農村振興ノ根本政策ヲ揭ダテ、所謂
產業立國ノ實ヲ明ニ致サントセラレナカッ
タカ、或ハ又此貧弱ナル自作農外一二ノ提案
ヲ以テ、農村振興ノ根本策トセラレテ居ル
ノデアルカ、此點ヲ明瞭ニ御答ヲ願ヒタイ
ノデアリマス、最後ニ御伺致シタイコトハ、
小山君ヨリ御話ガアリマシタガ、更ニ私ハ
自作農ト小作立法トハ互ニ兩立セナケレバ
ナラヌト考ヘマスル關係上、重ネテ此點ヲ
御伺致シマスガ故ニ、詳細ナル御答ヲ御願
致シテ置キマス、山本農林大臣ハ本案ノ實
施ニ依テ小作爭議ノ對策タラシメント云フ
コトヲ提案ノ趣旨ニ於テ御述ニナリマシ
ク、併シ吾々ヨリ見タナラバ斯ル貧弱ナ
ル所ノ自作農ノ創設維持案ヲ以テ、農村ニ
於ケル重大ナル社會問題デアル所ノ小作爭
議ヲ解決スルガ如キハ、到底出來得ナイコ
トデアッテ、恰モ竿竹ヲ以テ天上ノ星ヲ叩キ
落サントスルノト同樣デアルト私ハ思ハザ
ルヲ得ナイノデアリマス、卽チ假ニ本案ガ
支障ナク實行セラレタト致シマシテモ、三
十五箇年ノ間ニ僅ニ二十六万二千五百町步
ノ自作農ガ出來上ルノミデアッテ、之ヲ七百
二十八万町歩ノ小作農地ノ總段別ニ比較ヲ
致シテ見マスルト、僅ニ一割足ラズデアリ
マス、而シテ他方ニ於テハ先刻モ述ベマシ
タガ如ク、農村衰退ノ結果ト致シテ年々八
千町步乃至一万町步ノ自作農ガ減少致シテ
參リマスルガ故ニ、此點カラ見タナラバ
三十五箇年後ニ於テハ蓋シ「プラス、マイナ
ス」デアッテ、一方ニ於テハ自作農ヲ助成致
シマシテモ、一方ニ於テ時代ノ力ニ依テ自
作農ガ減退致シテ參リマスガ故ニ、絕エズ
二百七八十万町歩ノ小作農地ガ殘存致シテ
居ルト云フコトニナリマス、卽チ耕地ノ總
面積ニ對スル所ノ五割五分內外ノ小作地
ガ、依然トシテ小作爭議ノ對象トシテ農村
ニ殘存サレルト云フ勘定ニナルノデアリマ
ス、故ニ自作農ノ創定維持ヲ行フト同時ニ、
此小作爭議ニ對スル根本政策ヲ確立スルコ
トハ、當然過ギル程當然ナリト申サナケレ
バナリマセヌ、小作爭議ノ內面的事實ト致
シマシテハ、地主ト小作人トガ共ニ困リマ
スルノミナラズ、小作爭議必然ノ結果ト致
シテ農耕地ノ荒廢ト、農產物ノ產額減少ト
ヲ招來致シマスルガ故ニ、國策上ノ見地ヨ
リ致シテ速ニ基準法ヲ制定致シテ、地主ト
小作業者ノ權利義務ヲ明確ニ致シ、爭議終
熄ノ方法ヲ講ジナケレバナラヌノガ當然ノ
コトデアルト考ヘマス、然ルニ政府ハ之ヲ
高閣ニ束ネテ顧ミントハセズ、自作農ノミ
ヲ提出致シマシタコトハ、農村政策ト致シ
テハ全ク前後ヲ誤マタレタル所ノ處置デ
ナッテ、世上ニ於テ本案ハ地主偏重ノ策デア
ルト云フ所ノ批評ニ對シテ、吾々ハ强チ無
理デナイ批評デアルト感ゼザルヲ得ナイノ
デアリマス、殊ニ最近ニ於ケル小作爭議ノ
狀勢ヲ通覽致シマスルニ、一層吾々ハ左樣
ノ感ヲ懷カザルヲ得ナイノデアリマス、コ
コ數年前ノ小作爭議ハ諸君モ御存知ノ如
〃、小作者側ノ團結ノ力ニ依テ絕エズ地主
側ヲ壓伏シテ居ッタトー云フコトハ事實デア
リマス、然ルニ最近ノ趨勢ハ全ク主客〓倒
ノ形ト相成シテ居リマシテ、小作者側ノ勢力
ヨリモ地主側ノ勢力ノ方ガ反撥的ニ强クナッ
タト云フコトハ、動カスベカラザル事實
デアリマス、此事實ヲ最モ能ク證據立テル
モノハ、土地返還ノ訴訟事件ガ小作爭議ノ
發生數ニ比ベマシテ著シク增加シテ居ルコ
トハ生キタル證據デアリマス、現ニ昨年
ノ秋ヨリ本年ニ掛ケテ、小作爭議ハ例年ニ
較ベテ減少ハシテ參リマシタガ、此減少ノ
原因ハ我ガ帝室及國家ノ慶典デアル御大典
ノ關係、又ハ豐作ノ影響等、其原因ハ種々
アリマスガ、其中ニ於テ小作者側ノ勢力ノ
衰へタコトハ、見遁スベカラザル一大事實
デアリマス、卽チ昨年ノ春開カレマシタ所
ノ第五囘小作官會議ニ於キマシテモ、小作
者側ノ勢力ガ衰ヘテ、地主側ノ勢力ガ反撥
的ニ增大シテ來タコトヲ明ニ確認サレタ事
實ト云フモノハ、諸君ノ記憶ニ新ナル所デ
アラウト思ヒマス、吾々ハ農村振興ノ爲、
此憐レナル所ノ小作業者、僅ナ賠償金ヲ與
ヘラレテ永久ニ耕地カラ驅逐サレテ居ル所
ノ小作業者ニ對シテ、黨派觀念ヲ離レテ眞
劍ニ其對策ヲ講ジナケレバナラヌト考ヘテ
居リマス、然ルニ小作業者ノ勢力ガ減退シ
タコトヲ奇貨トシテ、是等同情スベキ多數
農民ノ權利ヲ擁護スベキ小作法ヲ提出シナ
カッタコトハ、農村振興ヲロニスル所ノ現
內閣ノ一大失策デアルト私ハ斷ゼザルヲ得
ナイノデアル、殊ニ山本農相ハ先般小作調
査會ニ於テモ、農地金庫案ノ審議ヲ求メラ
レタ其際ニ、農地金庫案ヲ議會ニ提出スル
ト同時ニ、小作法ヲ提案スベシトノ言明ヲ
與ヘラレタト聞キマスガ、果シテ然リトシ
タナラバ、一體何時小作法ヲ提案セラレル
ノデアルカ、今日尙ホ提案セラレナイ所ヲ
見レバ、小作調査會ニ於ケル言明ト云フモ
ノハ如何ニナッタノデアルカ、農地金庫案ガ
全ク骨拔キニサレタ關係上、小作調査會ニ
於ケル所ノ言明ヲ抛棄セラレル外ナイトシ
テ、小作法ヲ提案セラレナカッタノデアル
カ、此三點ニ對シテ明確ナル御答辯ヲ要求
致シマシテ、私ノ質問ハ是デ打切リヲ致シ
マス
〔國務大臣山本悌二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=66
-
067・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) 田中君ノ御尋
ニ對シテ御答ヲ致シマス、第一ハ御意見デ
アッタヤウナ御尋デアリマシタガ、曾テ農林
省案トシテ世間ニ見エタモノハ八千万圓ノ
金ヲ以テヤルト云フモノデアッタガ、今囘ノ
分ハ金額ハ僅ニ三千万圓ニナッテ、而モ全然
骨拔キニナッタト云フヤウナ御說デアリマ
スガ、少シモ骨拔キニハナッテ居リマセヌ、
田中君ハ前ノ所謂農林省案ナルモノモ、今
日提案サレテ居ル此政府案モ、恐ラクハ深
ク御〓究ニナッテ居ラナイ結果、斯樣ナ御意
見ガ出ルノダラウト思フ、以前農林省案ト
シテ世間ニ傳ヘラレタモノモ、金額ハ八千
万圓デアリマスガ、債劵卽チ農地金庫ヨリ
發行スル債劵ヲ以テ、八千万圓宛三十五箇
年ノ間資金ヲ供給スルト云フ案ニナッテ居ク
タノデアル、今囘ノ分ハ同ジク三十五箇年
間金額ハ三千万圓、而シテ預金部ノ資金
ヲ主體トシテ、若シ預金部ノ金ガ足リナカツ
タ時ニハ、此特別會計ヨリ發行スル債劵ヲ
以テ之ヲ補充シテ、兎ニ角三千万圓宛ハ動
カナイ金額トシテ、之ヲ三十五箇年實行シ
ヤウト云フ案ニナッテ居ル、而モ其主體ニ於
テ金額ガ違フダケデアッテ、而シテ一方ニ於
テハ公債デ、一方ニ於テハ特別會計カラ資
金三千万圓ヲ調達スルト云フコトデアッテ、
一方ニ於テハ金庫ニ於テ調達スル金八千万
圓ト云フダケデアッテ、其骨組ニ於テハ變ッ
テ居ラナイ、金額ガ減少シタ點ハアリマセ
ウ、併ナガラソレハ周圍ノ經濟狀態、內部
ノ財政狀態、之ニ鑑ミテ金額ハ三千万圓ヲ
適當ナリト認メテ之ヲ提案致シテ居リマ
ス、併ナガラ是ガ財政關係カラ若シ此以上
ニ金額ヲ增加スルコトガ出來マスレバ結構
デアリマス、田中君ナドハ成ベク斯樣ナモ
ノハ多ク世間ニ出サナイヤウナ方ガ宜イト
云フヤウナ、不斷カラノ民政黨諸君ノ御主
張デアリマスガ、此三千万圓ニナッタト云フ
コトハ、寧ロ其御主張ニ合致シタモノデハ
ナイカト思フノデアリマス、是ガ小サイカ
ライケナイ、其主義ニ於テハ贊成デアルガ、
金額ガ少クシテ是デハ仕方ガナイダラウト
云フナラバ、アナタ方ノ方デ五千万圓ナリ
一億圓ナリニ修正シテ下サルナラバ、其
時ニ考慮スルコトニ致シマス、ソレカラ斯
樣ナ規模デハ小作爭議ノ解決ニハ何モナラ
ヌデハナイカト云フヤウナ御意見デアッタ
ヤウデアリマスケレドモ、私ハ此規模デモ
相當小作爭議ノ解決ニ資スルコトハ出來得
ルト思フノデアリマス、年々七千五百町
歩、之ヲ從前ノ分ト合セテ一万町歩宛自作
農ヲ設定シテ、卽チ今日ノ小作農ヲ自作農
ニ直スト云フコトガ出來ルト云フコトデ
アッタナラバ、是ガ小作爭議ノ解決ニ少シモ
資スル所ナシト云フコトハ誰カ言ヘルコト
デアリマセウカ、ソレカラ今囘ノ制度ハ現
行法ニ較ベテ利息ガ高イカラ、隨テ、一 一一
小作農ヲ自作農ニ直シテモ、再ビ小作ニ墮
落シテシマウデアラウト云フヤウナ御尋
ガアリマシタガ、是ハ卽チ田中君ガマダ能
ク御〓究ニナッテ居ラナイ結果デアル、小作
人ガ年々負擔スル年賦金ト云フモノハ、從
來拂シテ居ル小作料ノ範圍ニ止メテアルト
云フコトハ、現行法モ亦今囘提案シタル法
制モ同ジコトデアル、但シ現行法ニ於テハ
補給ガアリマスカラ、年限ガ早ク濟ムト云
フノデアル、處ガ此提案ニハ補給ガナイカ
ラ年限ガ長クナルト云フダケデアリマシテ、
小作人ノ年々拂フ年賦金ニハ大差ガナイノ
デアリマスカラ、隨テ是ガ爲ニ再ビ自作農
ニ墮落スルト云フ憂ハ決シテナイノデアリ
マス、又自作ガ年々減少スル場合ニ於テ、
斯樣ナ法制ハ尙更役ニ立タヌデハナイ
カ、斯樣ナ御意見ノヤウデアリマシタケレ
ドモ、自作農ガ漸次減少シテ來タト云フ現
象ハ大正十一年迄デアリマシテ、其後ハ多
少ヅヽ自作農竝ニ自作小作ヲ兼業スル者ノ
數ガ增加致シテ居リマス、是ハ管〓シイカ
ラ統計ヲ擧ゲテハ此處デ申シマセヌガ、委
員會等ニ於テハ數字ヲ示シテ之ヲ御說明申
上ゲルコトガ出來ルト思フノデアル、ソレ
カラ斯ウ云フヤウナ自作農ノ維持創設ト云
フ斯樣ナ制度ハ、結局地主擁護ニナルデハ
ナイカト云フヤウナ御言葉ガアリマシタケ
レドモ、是ハ屢〓。繰返サレル御言葉デアリ
マスケレドモ、是ハ能ク御考ヲ願ハナケレ
バナラナイ、若シサウ云フコトデアッタナ
ラバ、現行ノ簡易生命保險ニ依ル處ノ法制
ヲモ抛ッテシマヘト云フ結論ニナルノデア
リマス、田中君ナドノ如キハ恐ラク其處迄
ノ御考デハアルマイト思フ、サウスレバ決
シテ今日ノ現行法ト違ハナイ、唯補給ガ有
ルカ無イカト云フダケノ違ヒデアル、此提
案シタル處ノ自作維持創設案ト云フモノヲ
非難スル道理ハ其處カラハ生レテ來ナイ
ダラウト思ヒマス、若シ現在ノ此提案シタ
ル所ノ本案ヲ何處迄モ地主擁護デアルカラ
斯樣ナモノハイケナイト云フコトハ言葉
ヲ換ヘテ言ヘバ現行制度卽チアナタ方ノ
時代ニ於テ、若槻内閣ノ時代ニ於テ基礎ヲ
定メラレタリト云フ此簡易保險ノ此制度
ヲ、アナタ方自身トシテ呪フヤウナモノデ
アルト云フ結論ニナラザルヲ得ナイノデア
ル、小作法ヲ何故速ニ制定シナイカト云フ
コトニ付テハ、是ハ重ネテ申シマセヌ、鈴
木文治君ノ御尋ノ時ニ曾テ詳シク御說明申
上ゲテ置キマシタカラ、之ヲ繰返スコトハ
致シマセヌ、終リニ臨ンデ私ハ一言申上ゲ
マス、卽チ政友會ハ之ヲ以テ天下ニ宣傳シ
テ、其責任ヲ果ス上カラシテ巳ムヲ得ズ斯
樣ナモノヲ提出致シタ、而モ小サクナッテ
シマッタケレドモ、己ムヲ得ズ之ヲ提出致シ
タ、是ハ政治道德ニ反シタモノデアルト
斯樣ナ御結論ニナラレタヤウデアリマスガ、
私ノ政治道德ト解シテ居ルノハ、田中君ノ
政治道德トハ餘程違ッテ居ル、苟モ天下ニ宣
言シ、公約シタル問題デアルナラバ、其實
現ヲ期スルト云フコトガ、是ガ政治家ノ政
治道德ナリト信ズルノデアリマス、其規模
ノ大小ノ如キハ其時ノ周圍ノ狀況、經濟ノ
狀況、財政ノ狀況ト照シテ適當ノ所ニ之ヲ
定メナケレバナラヌ、ソレガ自分ノ思フ通
リニナラヌカラト言ッテ、打遣ッテシマウト
云フナラバ、ソレコソ政治家ノ政治道德ハ
其處ニ破壞サレルノデアリマス
〔田中万逸君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=67
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068・田中萬逸
○田中万逸君 只今山本農林大臣ヨリ私ノ
質問ニ對シテ御答辯ガアリマシタガ、其御
答辯ノ中ニ於キマシテ、私ガ本案ト竝ニ農
地金庫法案ト、此兩案ニ對シテ〓究ヲ致シ
テ居ナイガ故ニ、私ノ言フガ如キ質問ヲ致
シタト言ハレタノデアリマスガ、寧口私ヨ
リシテ見タナラバ、山本農林大臣ハ自己ノ
主張通リ政策トシテ爲スコトガ出來ナイ
デ、遂ニ內閣ノ大紛擾ヲ招イタ結果、勝田
文相ノ救濟ニ依テ漸ク本案ガ出來タノデ
アッテ、寧ロ山本農林大臣ノ方ガ案ノ〓究ヲ
セラレザルモノト謂ハザルヲ得ナイノデア
リマス、更ニ又前ノ案ト本案トハ骨組ニ於
テ何等相違ハナイ斯樣ナコトヲ言ハレタ
ト共ニ、小山君ニ對シテハ小ハ大ヲ兼ルト
云フガ如キ御答辯ヲ爲サッタノデアリマス
(笑聲起ル)骨組ニ於テ相違ノナイモノガ、
以前ニ於テハ八千万圓ノ主張ヲ致サレタモ
ノガ、今囘ノ成案ニ於テハ僅ニ三千万圓ト
ナッタ、又自作農地ノ段別ニ於キマシテモ、
六十三万町歩ト二十六万町步ト非常ナ相違
ガアッテ、相違ガアルダケ農林大臣ノ面目ト
云フモノガ潰サレテ居ルト云フコトヲ御存
知ナイノデアリマス、殊ニ年々一万町步以
上ノ自作農ヲ創設スルコトニ依テ小作爭議
ヲ解決スルト言ハレタ、此御答辯ト云フモ
ノハ、洵ニ農村ノ實情ニ御通ジナイ所ノ御
議論デアルト申サナケレバナラヌノデアリ
マス、先刻モ申上ゲマシタ如ク、自作農地
ガ貴方ノ御計畫ノ如ク完全ニ達成セラレテ
モ、僅ニ二十六万町步デアリマシテ、自作
農地總反別ノ十分ノ一足ラズデアリマス、
而モ小作爭議ト云フコトハ、經濟上ノ關係
ヨリシテ、思想上ノ關係ヨリシテ、年々激
甚ヲ呈シテ居リマス現時ニ於キマシテ、果
シテ貴方ノ仰シヤル通リニナリマシタナラ
バ、私ハ農村ノ爲ニ取ッテハ幸デアルトハ
思ヒマスケレドモ、貴方自ラノ人格ニ對シ
テ斯樣ナコトヲ言ハレルト云フコトハ深
ク惜マザルヲ得ナイノデアリマス、政治道
德ニ對シテ、私共ト貴方ノ見解ノ異ニナッ
タト云フコトハ、貴方ノ御議論デアリマス
カラ、之ニ對シテ反駁ハ致シマセヌガ、何
卒貴方ハ大臣トシテノ貫祿ヲ保ッテ、農村振
興ノ爲ニ眞劍ナル御努力ヲセラレンコト
ヲ、御希望ヲ玆ニ申上ゲマシテ質問ヲ打切
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=68
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069・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 鈴木文治君
〔鈴木文治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=69
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070・鈴木文治
○鈴木文治君 自作農ノ創設維持ニ關スル
本法案ハ今期議會ニ提出セラレタル政府
ノ諸法案中ニ於テ、最モ重要ナル所ノ一ツ
デアルト信ズルノデアリマス、隨テ此法案
ノ審議ニ當リマシテハ固ヨリ慎重ニ當ラ
ナケレバナラナイノデアリマシテ、私モ亦
本法案ノ御提出竝ニ其說明ヲ承リマシテ、
御尋ヲ致シタイト思ヒマスコトハ頗ル其
數ガ多イノデアリマス、併ナガラ既ニ私以
前ニ質疑セラレタル所ノ御兩君ノ御質疑、
竝ニソレニ對スル政府當局ノ御答辯等ヲ伺
ヒマシテ、大分私ノ御尋致シタイト思ヒマ
スコトノ質疑應答ハ終へタヤウナ感ジガ致
スノデアリマス、ノミナラズ事柄ガ事柄デ
アリマスカラ、唯斯ノ如キ本會議ノ議場
ニ於テ質疑應答ヲ試ミルト云フコトヨリ
モ、寧ロ微細ナ質問ニ付テハ、詳細ニ亙ッテ
委員會ニ於テ御尋スル方ガ其當ヲ得テ居ル
ト考ヘルノデアリマスカラ、私ハ唯極メ
テ簡單ニ、前質疑者ノ質疑セラレマシタコ
トヽ成ベク重複ヲ避ケマシテ、唯三點ダケ
ニ付テ其要旨ヲ申述ベテ、御答辯ヲ御願致
シタイト思フノデアリマス、私ノ御尋致シ
マスル第一點ハ、本法案ヲ御提出ニナリマ
スル本來ノ趣旨ニ付テ御伺致シタイノデア
リマス、是ハ先刻農林大臣自ラ一應ノ御說
明ガアリマシタケレドモ、尙ホ私ノ滿足シ
得ナイ點ガアルノデアリマスカラ、重ネテ
御尋申上ゲタイノデアリマス、卽チ本法案
ヲ御提出ニナリマシタ趣旨ハ一般的ニ且
ツ〓括的ニ昨今ノ農村ノ疲弊ヲ救濟シヤウ
トスル、所謂農村振興策ニ出デタノデアル
カ、抑〓又小作爭議ノ頻發ノ情勢ニ鑑ミテ、
是ガ對應策トシテ、小作人ノ地位ノ救濟、
其引上ト云フコトヲ目的トセラレタモノデ
アルカト云フコトヲ御伺致シタイノデアリ
マス、勿論是ハ兩者相關聯シテ居ル事デハ
アリマスルケレドモ、本法案ニ於テ重點ヲ
置カレタル所ガ何處ニアルカト云フコト
ヲ、先ヅ明ニ致シテ置キタイト思ヒマス、
若シ小作人ノ地位引上、其窮狀ヲ救濟シ、
小作爭議ノ對策ニ備ヘヤウトスルコトデア
リマスルナラバ、本法案ニ依テ果シテ能ク
其目的ヲ貫徹シ得ルヤ否ヤ、私ハ頗ル疑ニ
堪ヘナイ者デアリマス、ト申シマスル理由
ハ長とシイ說明ハ省略ヲ致スノデアリマ
スルガ、先般私ハ本議場ニ於テ一般質疑ヲ
致シマスル際ニモ、此點ハ申上ゲタノデア
リマスルガ、私ハ本法案ヲ御提出ニナルニ
付キマシテハ、其前提ノ條件トシテ、先行
條件トシテ、若クハ本法案ト同時ニ小作立
法ニ關スル御提案ガナケレバナラナイ筈デ
ハナイカト私ハ考ヘルノデアリマス、私共
ノ見ル所ニ依リマスルナラバ、政府ハ如何
ニ御考ニナルカ分リマセヌガ、今日小作爭
議ガ頻發ヲ致ス、小作爭議ガ激曾ヲ致シテ
參リマスコトノ抑、ノ理由ハ二ツアルト思フ
ノデアル、一ツハ卽チ小作料ガ依然トシテ
尙ホ不當ニ高率デアルト云フコトデアル、
私ハ敢テサウ申上ゲルノデアリマスルガ、
詳シイ引例ハ省略致シマスルケレドモ、是
ハ公正ナル學者ガ色マト〓究致シマシタ結
果、日本全國ノ小作料ニ付テハ、尙ホ二割
乃至三割位引下ゲ得ベキ餘地ガアルト云フ
コトヲ明ニ致シテ居ルノデアリマス、又是
ハ吾々自身始終當面シテ居ル所ノ事柄デア
ルノデアリマシテ、此小作料ガ尙ホ依然ト
シテ不當ニ高率デアルト云フコト、今一ツ
ハ耕作權ト云フモノガ十分ニ確立セラレテ
居ナイ、卽チ小作料ノ高率デアルト云フコ
トヽ、耕作權ガ十分ニ確立ヲシテ居ラナイ
コトヽ、此二ツノ事ガ所謂小作爭議頻發ノ
恐ラクハ最大ニシテ絕對ノ原因デアルト考
ヘザルヲ得ナイノデアリマス(拍手)是ガ故
ニドウシテモ茲ニ小作立法ヲ急ガナケレバ
ナラナイノデアル、小作立法ヲ完成スルコ
トニ依テ、地主對小作ノ關係ヲ公正ニ處理
シ、耕作條件ヲ調整シ之ヲ公正ニスルト云
フコトハ小作爭·議對策ノ根本的條件デア
ルト私ハ確信スルノデアリマス、此問題ヲ
先ヅ解決致シマスルナラバ、或ハ本法案ノ
如キヲ御出シニナル所ノ理由モ、或、
薄ラグカモ知レナイ、或ハ三千万云々ノ問
題モ起ラズニ濟ンダカトモ思フノデア
ル、併シ此根本ノ問題ニ付テハ、過日
モ農林大臣ノ御答辯ニ依リマスレバ、目下
デ尙ホ調査審議ヲ進メテ居ルト云フ
コトデアリマシタケレドモ、如何ニシテ
何時頃此小作立法ノ問題ニ付テ纏ヲタ御考
ヲ御持チニナッテ、立法ノ形ニセラレル御
積リデアルカト云フコトニ付テハ、御伺ス
ルコトガ出來ナカッタノデアリマスガ、私ハ
是ガ卽チ根本ノ問題デアルト思フノデアリ
マス、私ハ少クトモ此小作立法ノ問題ガ先
ニ出テ、或ハ少クトモ一緒ニ出ナケレバナ
ラナイモノト思フノデアリマシテ、此小作
立法ノ問題ト、只今ノ所謂此自作農創設ノ
問題ト相乖離スルモノデハアリマセヌ、
寧口相進ンデ行クベキモノダト思フノデア
リマシテ、サウスルノデナケレバ、私ハ小
作爭議ノ對策ト云フモノハ當ヲ得タル途ヲ
講ズルコトハ出來ナイモノダト信ズルノデ
アリマス、政府ハ小作爭議ノ問題ニ對シテ、
小作立法主義ト云フモノヲ自作農創定
主義ト云フモノヨリモ輕シト云フ御考ヲ御
持ニナッテ居ルノデアルカ、果シテ然リト致
シマスナラバ、小作爭議ノ解決ノ如キハ、前
途益、困難ヲ來スモノト考ヘザルヲ得ナイ
ト思フノデアリマス、此點ニ對スル政府ノ
御所見ヲ御伺致シタイノデアリマス、ソレ
カラ第二點ハ、是ハ先刻來段々質疑應答ガ
繰返サレテ居ルコトデゴザイマスケレドモ
念ノ爲ニ重ネテ唯簡單ニ御伺致シタイノデ
アリマスルガ、本法案ヲ解釋致シテ見マス
ルト、是ハ國家及小作人ノ負擔ニ依テ、結
局ニ於テ地主ヲ保護スル結果ニナリハスマ
イカト云フ疑ヲ、依然トシテ私ハ懷カザル
ヲ得ナイノデアリマス、何故カト申シマス
ルト、耕地ノ價格ト云フモノハ御承知ノ通
リ近年段々下ッテ參ッテ居リマス、大正八年
ノ頃迄ハ騰貴ノ一方デアリマシタガ、大正
八年頃ヨリ以後ハ段々下ッテ參ルノデアリ
やっ、然ルニ玆ニ政府ガ每年三千万圓ト云
フ巨額ノ費用ヲ出シマシテ、自作農ノ維持
創定ニ當ラウト云フコトニナリマスルナラ
バ、所謂耕地ノ下ッテ來ル傾向ト云フモノハ
止マルノデアリマス、止マリマスルノミナ
ラズ、寧口將來ニ於テハ、耕地ノ價格ハ上ッ
テ行クノデハナイカト思フノデアル、是、
私共ノ素人流ノ考デアルカモ知レマセヌケ
レドモ、經濟ノ原則デナカラウカト考ヘル
ノデアリマス、サウ致シマスナラバ將來
ハ段々價格ガ下ッテ來ルニ隨ッテ、小作料ト
云フモノガ漸滅ノ傾向ガアリ、段々小作料
ガ下ッテ參リマシテ、小作人ノ負擔ガ減ッテ
行クニ拘ラズ、玆ニ政府ガ年々三千万圓ノ
金ヲ支出セラレテ、前後三十五箇年ニ亙シテ
御支出ニナルノデアルト致シマスナラバ、
私ハ結局ニ於テ小作人ガ將來ニ於テ得ベキ
所ノ耕地ノ低下ニ依テ、小作人ハ不當ノ損
害ヲ受ケルモノデハナイカト私ハ思フノデ
アリマス、此點ニ付テ疑ヲ質スノデアリマ
ス、間違ガナケレバ結構ナノデアリマス、
隨テ先刻來モ屢、質問應答セラレタノデア
リマスガ、斯ウナッテ參リマスト、結局所謂
地主ノ土地賣逃ゲ云々ノ問題ニ迄及バザル
ヲ得ナイコトニナルノデアリマス、今日御
承知ノ通リ、小作爭議ノ刺戟ノ然ラシムル
所デアルカドウカ知レマセヌケレドモ、地
主ハ所謂土地ヲ持餘シテ居ル者ガ多クナツ
テ來タノデアリマス、又地主ノ土地ノ價値
ニ對スル觀念モ段々變テ參リマシテ、國家
的ノ觀念、歷史的ノ觀念カラ土地ヲ所有シ
テ居ラウト云フノデハナク、土地ヲ所有シ
テ居ルコトヲ一種ノ收益ノ客體トシテ考ヘ
テ居ルヤウナ傾向ガ段々多クナッテ來タト
云フコトハ、明瞭ナル事實デアラウト私ハ
信ズルノデアリマス、斯ウ云フヤウナ傾向
ガアルノデアリマスカラ、斯ノ如キ傾向ガア
ル際ニ、卽チ三千万圓カラノ金ヲ年々出シ
テ、所謂自作農ヲ創定スルコトニナリマス
ナラバ結局所謂小作人ノ將來耕地ノ低下
ニ依テ得ベキ利益ヲ奪フコトニナリハシナ
イカト云フコトヲ思ハザルヲ得ナイノデア
リマス、是レ卽チ此法案ト云フモノニ付テ
政府ハ其點ヲ御考デアルカドウカ知レマセ
ヌケレドモ、結局ニ於テ地主ノ土地賣逃ゲ
ト二→フモノヲ保護スル結果ニナリハシナイ
カト云フ疑ヲ持タザルヲ得ナイノデアリマ
ス、第三ニハ、本法案ニ依リマシテ、小作人
ノ負擔ト云フモノガ却テ益〓殖エテ參リマ
シテ、小作人ヲ窮地ニ陷レル結果ニナリハ
シナイカト云フコトヲ憂フルノデアリマス
本法案ニ依リマス所ノ年賦償還金ノ割出
方法ハ、何ヲ標準トシテ御決メニナッタノカ
知レマセヌケレドモ、世間傳フル所ニ依リ
マスナラバ、現行法ノ大體ノ小作料、是一
先刻農林大臣ノ御答辯ノ中ニモアッタヤウ
デアリマスガ、現行ノ小作料ト云フモノヲ
標準トシテ土地ヲ所有スルコトニナッタナ
ラバ、小作人ガ地租其他ノ公課及地方ノ諸
費用ト云フモノヲ負擔シテモ、現在ノ小作
料ト云フモノヲ納メテ行クナラバ結局三
十五年ノ後ニ確實ニ土地ノ所有權ヲ獲得ス
ルコトガ出來ルヤウニスルノダト云フ御說
明ノヤウニ伺ッタノデアリマスガ、然ラバ是
ハ先刻ノ話ト關聯スルヤウニナルノデアリ
マスガ、而モ今日ニ於テハ低落ノ傾向ニ
向ッテ居ル小作料モ低落ノ傾向ニ向ッテ居
ル又學者ノ說ヲ聽キマシテモ、小作料ニ
於テハ尙ホ遞減ノ餘地ガアルヤウニ聞イテ
居ルノデアリマス、然ルニ本法案ニ依リマ
スト、三十五年ノ將來ニ亙ル所ノ小作料ノ
問題ヲ、今日ノ程度ニ於テ決メテシマウノ
デアル、サウ致シマスト地價ノ低落ニ依ル
所ノ土地ヲ獲得セントスル所ノ小作人ノ利
益〓、小作料ノ低落ニ依ル所ノ小作人ノ將來
ノ利益ト云フモノガ、全然本法案ニ依テ犠
牲ニ供セラレル結果ニナリハシナイカト思
フノデアリマス、斯ウ云フ風ニナル上ニ、
小作人ト云フモノハ從來ハ小作人トシテ田
モ畑モ持タナイモノデアリマスカラ、所謂
水呑百姓ト云フ立場カラ致シマシテ、所謂
色ミノ費用、交際費ト云フモノモ掛ラズニ濟
ンデ居ッタモノガ、土地ヲ所有致シマスレバ
土地ノ所有者トシテノ立場カラ、色ニナ負
擔ヲシナケレバナラヌコトニナル、只今迄
ノ小作料デモ之ヲ納メルコトガ困難デアリ
マスガ故ニ、小作爭議ト云フモノガ頻發致
シマシテ、國家社會全體ノ大問題トナッテ居
ルコトハ申上ゲル迄モナイノデアル、而モ
此上ニ尙ホ小作人ノ負擔ガ-金額ハ大シ
タモノデハナイカモ知レマセヌガ、小作人
階級ノ負擔トシテハ可ナリ重イ負擔ガ將來
土地ヲ所有スル爲ニ殖エテ參リマスナラ
バ、今日スラ窮狀ニ陷ッテ居ル小作人ト云フ
モノハ、將來益〓窮地ニ陷リハシナイカト云
フコトヲ思ハザルヲ得ナイノデアリマス、
斯ウ致シマス上ニ、又所謂定期ニ於テ年賦
償還金ヲ支拂フコトガ出來ナイ、色ニナサ
ウ云フ風ニ故障ガ起リマシタ場合ニ於テバ、
或ハ土地ヲ取上ゲラレルトカ、外ニ賣渡サ
レルト云フヤウナコトニナッテ參リマスト、
折角小作人ガ土地ヲ欲シイ爲ニ色〓ノ算段
ヲ致シマシテ、本法案ニ依テ土地ヲ求メヤ
ウト致シマシテモ、確實ニ土地ノ所有權ヲ
獲得スルコトガ出來ナイヤウニナリマスナ
ラバ、從來地主對小作人ノ間ニ起リツヽア
ル所ノ階級的反感、憎惡ト云フモノガ、軈テ
ハ是ガ國家ニ轉嫁サレル結果ニナリハシナ
イカト云フコトヲ虞レルノデアリマス、斯
ウ云フ風ニナリマスナラバ、是ハ農村ノ實
情ヲ御承知ノ御方ハドナタデモ御考ニナ。ソ
テ居ルコトダト私ハ思ヒマスガ、今日ノ農
村ノ疲弊困憊ノ狀態ト一云フモノハ、サラデダ
ニ農民ノ心理ヲシテ惡化セシメントスル傾
向ガアル、斯ウ云フ實狀ニ在ルノデアリマ
スカラ、若シ將來杞憂デアルナラバ結構デ
アリマスケレドモ、サウ云フ風ニナリマシ
タナラバ、國家ノ爲ニ非常ニ由々敷大事デ
アルト信ズルノデアリマスガ、此點ニ對シ
テ政府ハ如何ナル御考ヲ持ッテ居ルノデア
リマスカ、御伺致シタイノデアリマス、以
上三點ニ付テ政府ノ御答辯ヲ求ムル次第デ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=70
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071・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 山本農林大臣
〔國務大臣山本悌二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=71
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072・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) 鈴木君ノ御尋
ニ對シテ御答ヲ致シマス、本案立案ノ趣意ハ
元來何レニ在ルノデアルカ、農村振興ト云
フコトデアルカ、或ハ小作爭議解決ノ爲デ
アルカト云フヤウナ御尋デゴザイマシタ
ガ大體ニ於キマシテ小作爭議ノ解決ト云
フガ如キコトハ、鈴木君モ再三御詰ノアル
通リ、是ハ小作立法ニ俟タナケレバナラヌ
ト思ッテ居リマス、小作立法ヲ政府ガ今ヤ
銳意〓究中デアルト云フコトハ前回鈴木
君ノ御尋ニ對シテ申上ゲテ置イタヤウナ次
第デアリマスルガ、之ヲ何時提出スルカト
申セバ、今囘ノ議會ニハ間ニ合ヒマセヌケ
レドモ、近キ機會ニ於テ之ヲ提出スルマデ
ノ運ビニ致シタイト云フ誠意ヲ持クテ居リ
マー、而シテ本案ノ目的ハ大體ニ於テ無
論生產狀態ヨリ見タル農村振興ニ在ルコト
ハ申スマデモナイノデアリマスルガ、其
結果ト致シテ、小作爭議ニモ相當良好ナル
結果ヲ齎スト云フコトヲ、當局ハ信ジテ居
ルノデアリマス、ソレカラ地價ハ將來下落
スベキモノデアリ、又下落スベキ傾向ヲ持っ
テ居ルノデアルガ、ソレヲ今日ノ地價ヲ以
テ、之ヲ小作人ニ取得セシムルト云フコト
ニナッタナラバ、是ハ卽チ地主ヲ得シテ小
作人ヲ損セシムルモノデハナイカト云フヤ
ウナ御尋ガゴザイマシタガ、地價ハ大正八
年ノ非常ナル暴騰ノ後ヲ受ケテ、大正九年ニ
非常ニ下落ヲ致シタ、其以降ハズット今日ニ
至ルマデ、大體平衡ヲ保。ツテ居リマスルノ
デ、之ガ胸來大ニ下落シヤウト云フガ如キ
コトハ當局トシテハ未ダ考へテ居ラナイ
ノデアリマス、第三ニハ小作料モ同ジク
將來下落スル、低下スル傾向ヲ持ッテ居ル
ガ、ソレヲ今日ノ小作料ヲ以テ直ニ賣買ノ
契約ヲ結バセルト云フコトデアッタナラバ
是亦小作人ヲ苦メルモノデハナイカト云
フ御尋デアリマシタガ、小作料ガ低下シテ
行クト云フコトニ付テハ當局ニ於テハ未
ダ確タル根據ヲ以テ小作料ガ低下シテ行ク
ノデアルカラト云フ豫定ノ下ニ、玆ニ法制
ノ考ヲ定メルト云フ譯ニハ參ラヌノデアリ
マス、私共ト致シマシテハ、大體小作料ノ
問題ハ、小作爭議ノ解決如何ト云フコトニ
係ル問題ト思ヒマスカラ、小作立法ト相伴
ウテ是ガ適當ノ程度ニ落著クモノト信ジテ
居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=72
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073・鈴木文治
○鈴木文治君 尙ホ不滿ノ點ハゴザイマス
ルケレドモ、巨細ノ點ニ亙リマシテハ、委
員會ニ於テ御尋申上ゲタイト思ヒマス、是
ニテ私ノ質問ハ打切ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=73
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074・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 栗原彥三郞君
〔栗原彥三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=74
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075・栗原彦三郎
○栗原彥三郞君 只今上程セラレテ居リマ
スル自作農創設維持助成基金特別會計法案
ト云フ非常ニ長イ案ニ付テ、詳細ナル質問ヲ
試ミタイト考ヘテ居ッタノデアリマスルガ、
先輩小山先生、田中先生、其他鈴木君ノ質
問等モアリマシテ、大體私ノ問ハンー欲ス
ル所ヲ御問ニナッテ居リマスルガ故ニ、私ハ
極ク簡單ニ三四點ダケ御質問申上ゲタイト
思フノデアリマス、此機會ニ於テ特ニ諸君
ニ一言申シテ置キタイ事ハ白魚ノヤウナ
手ヲシテ勞働問題、或ハ農村問題ヲ說ク者
ヨリ、私ノヤウニ胼胝ダラケノ手ヲシテ、
長イ間農業勞働ニ從事致シ、粒々辛苦ノ體
驗ヲ持チ、農民ノ利福ノ爲ニ戰ハントスル者
ノ痛切ナル叫ヲ、御聽キ願ヒタイト云フコ
トデアリマス(拍手)自作農ガ年々小作農ニ
ナリ、或ハ農業勞働者トナッテ行ク者ノ數
ガ、非常ニ多イコトハ一面ニ於テ何等ノ
目的モナク、都會ニ集ッテ來ル勞働者ガ多
クナル結果トナリマシテ、或ハ失業問題ノ
上カラ、都市政策ノ上カラ、總テノ點カラ考
ヘマシテ、國家ノ爲ニ憂慮ニ堪へナイ事デ
アリマス、併ナガラ此自作農ガ年々減少シ
テ行クト云フ此事實ニ對シテ、如何ナル方
法ヲ以テ之ヲ保護シテ行クカト云フ事ニ付
テハ、私ハ農業保險ノ制度ヲ實施スルヨリ
外ニ途ガナイト云フコトヲ確信致シテ居ル
者デアリマス(「ソレハ質問デアリマスカ」
ト呼フ者アリ)立派ナ質問デアリマスカラ
御聽キ下サイ、私ハ農村ニ生レ、長イ間農
業勞働ニ從事致シテ居リマシタ關係カラ、
自作農ガ自作農タルノ地位ヲ維持スル爲ニ
拂フ所ノ苦心ト、努力ニ對シテハ、自カラ經
驗ヲ致シテ居ル所ノ一人デアリマス、而シ
テ農村ニ於テ自作農ガ滅ビテ行ク所ノ狀態
ヲ〓究致シマシテ、又歐羅巴ニ於ケル農業
保險發達ノ徑路ニ照シマシテ、我國ニ於テ
モ農業保險ヲ是非實施シナケレバナラナイ
ト云フコトヲ痛感致シテ居ル者デアリマス
(「質問デアリマスカ」ト呼フ者アリ)質問デ
アリマス、農業保險ヲ一度實施セラレマシ
タナラバ、自作農ガ滅ビテ小作農ニナリ、
農業勞働者トナルト云フ憂ガ、全ク除カレ
ルバカリデナク、只今上程セラレテアリマ
ス所ノ、自作農創設案ガ實施セラルヽヤウ
ニナルガ爲カハ分リマセヌガ、假ニ實施セ
ラレタト致シマシテモ、小作農カラ自作農
ニ漸ク引上ゲタモノガ、再ビ田畑ヲ失フテ
小作農ニナルト云フ心配ガナイノデアリマ
スルガ、若シ農業保險ノ制度ガ實施セラル
ルト云フコトデナケレバ、萬ガ一ニモ此法
案ガ通ッテ、此法案ノ實施ニ依テ、自作農ガ
澤山出來マシテモ、農業上ノ不慮ノ災害、
或ハ病氣或ハ火災、或ハ兵役ニ服シテ農業
ヲ爲スコトガ出來ナクナッタト云フヤウナ
コトデ、忽チ田畑ヲ失ヒ、家ヲ失ヒ、小作
人トナル、更ニ零落シテ農業ノ日傭人トナ
ル、已ムヲ得ズ故〓ヲ離レテ勞働生活ヲシ
ナケレバナラナイト云フヤウニナルノデア
リマス、政府ハ既ニ農業保險ノ一部デアリ
マス所ノ家畜保險法ヲ提案シ、又林業保險
ヲ提案スルト云フ御考ヲ以テ、現ニ各府縣
ニ對シテ、林業保險實施ノ考ヲ以テ、林業
保險ニ對スル豫備的知識ヲ命ジテアルノデ
アリマス、自作農維持ノ上ニ唯一無二ノ有
效ナル制度デアル所ノ、又本案ト姉妹關係
ヲ持タナケレバナラヌ所ノ、保險制度ヲ御
提案ニナラナイト云フノハ、"抑、如何ナル
理由デアルカ、是ガ私ガ政府ニ問ハントス
ル所ノ第一ノ質問デアリマス(「早クヤレ早ク
ヤレ」ト呼フ者アリ)·····農業保險ナドニ付
テ御知識ヲ持ッテ居ラナイ所ノ方ミガ、餘リ
大キナコトヲ言ハナイヤウニ御願致シマ
ス-今ヤ世界ヲ通ジテ失業問題ニ惱マサ
レナイ國ハナイノデアリマスルガ、列國ノ
植民政策モ亦甚シク行詰リマシタ結果、
何レモ內地植民ニ府心シツヽアル所ノ
狀態デアリマスガ、我國ニ於テモ、外ニ
適當ナル植民地ヲ得ルコトガ出來ナイ以上
ハ失業問題ニ關シマシテハ、世界ノ現勢
ニ順應致シマシテ、內地植民ニ付テ相當ノ
考慮ヲシナケレバナラナイノデアリマス、
ソレヨリ更ニ大切ナルコトハ、農村ヨリ失
業者ヲ出サナイト云フコトデナケレバナラ
ナイト考ヘルノデアリマスガ、政府ハ開墾
助成法ニ依テ耕作地ノ擴張ヲ圖リ、機械農
業奬勵ニ依テ、農村經濟ノ改善ヲ圖ラント
ヤラレテ居ルノデアリマスガ、食糧問題ヤ
農產物ノ生產費等ノ點カラスレバ是亦無
理ナラヌコトデハアルガ、今日ノ農村ニモ
ツト適切ナル所ノ問題ハ、現在ノ農民ヲシ
テ其生活ヲ安定セシムルト云フコト卽チ
細こナガラモ、現在ノ農民ヲシテ安·心ヲシ
テ、現在ノ農村生活ヲ繼續シテ行クコトノ
出來ルヤウナ、方策ヲ講ズルト云フコトデ
ナケレバナラナイノデアリマス、是ハ我國
現下ノ農村社會問題ニ對スル最モ緊要ナル
施設デアリマスルガ、農家ノ經濟ヲ安定
シ、農民ヲシテ安心シテ農村生活ヲ繼續セ
シメ得ルノハ〓實ニ農業保險制度ノ實施ノ
外ハナイト信ズルノデアリマス、政府ハ農
業保險ヲ實施スルノ御考ハナイカ、是レ私
ノ質問ノ第二點デアル、政府ハ本法ノ施行
ニ依テ三千万圓迄ノ資金ヲ投ジテ、多數ノ
自作農ヲ創設セントスルノデアルガ··
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=75
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076・清瀬一郎
○副議長(清瀨一郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=76
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077・栗原彦三郎
○栗原彥三郞君(續) 本法ノ御陰ニ依テ
(「原稿ヲ讀ムナ」ト呼フ者アリ)-讀マナ
クテモ出來ルノデアルガ、便宜上讀ムノデ
アルカラ、諸君ガ長クヤレト言ヘバ、聊カ
〓究シテ居ル所ガアルカラ、何時間デモヤ
レマスカラ御安心ヲ願ヒマス-政府ハ年
年三千万圓或ハソレ以上ノ金ヲ掛ケテ、多
數ノ自作農ヲ作ラントセラルヽノデアリマ
スルガ、然ラバ如何ナル方法ニ依テ此自作
農ヲ保護シテ行カウト云フノデアリマス
カ、農業ハ皆樣モ御承知ノ通リ、他ノ商業
ヤ工業トハ違フテ、家ノ中デ作業スルコトノ
出來ナイ仕事デアリマス、廣イ野原ニ於テ
作業シナケレバナラナイモノデアリマスカ
ラ。或ハ風ノ害、或ハ水害、或ハ旱害、或
ハ蟲ノ害、或ハ雹ノ害、或ハ霜ノ害、或、
雪ノ害等、色〓ノ害、卽チ氣象上ノ不慮ノ
災害ニ依テ非常ナル禍ヲ被ムルモノデア
ル、又是バカリデナク働イテ居ル所ノ其主
人公ガ病氣ニ罹リ、或ハ入營ヲスルト、斯
樣ナコトニ依テ農業ヲ爲スコトガ出來ナイ
ト云フヤウナ場合ガ澤山ニ生ズルノデアリ
やっ、此場合ニ於テ折角拵ヘマシタ所ノ自
作農ガ其生活ヲ維持シテ居ルコトガ出來ナ
イ爲ニ、再ビ小作農トナリ、或ハ農業勞働
者トナリ、更ニ零落致シマスレバ流浪勞働
者トナラナケレバナラナイノデアリマスル
ガ、折角多クノ小作農ヲ拵ヘマシテモ、之
ヲ保護シ之ヲ維持スル所ノ方法ガ講ゼラレ
ナケレバ、佛造ッテ魂ガ入ラナイト云フ結果
ニナルノデハナイカ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=77
-
078・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郎君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=78
-
079・栗原彦三郎
○栗原彥三郞君(續) 是レ私ガ政府ニ問ハ
ントスル所ノ第三點デアリマス、モウ一點
政府ニ御伺シナケレバナラナイコトハ、彼
ノ足尾銅山ニ於ケル鑛毒ノ爲ニ、其損害ヲ
被リツヽアリ、或ハ又近キ將來ニ於テ非常
ナル禍ヲ被ラナケレバナラナイ所ノ利根
川、渡良瀨川沿岸ニ於ケル栃木、群馬、埼
玉、茨城、千葉、東京、一府五縣十五郡ニ於
ケル七八万町歩ニ涉ルアノ土地ニ對シテモ
政府ハ自作農ヲ拵ヘヤウトスルカ否カト云
フコトヲ御伺シタイノデアリマス
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=79
-
080・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 靜ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=80
-
081・栗原彦三郎
○栗原彥三郞君(續) 諸君、足尾銅山ニ於
ケル鑛毒ノ狀態ガ如何ナル狀態ニアルカト
云フコトヲ簡單ニ申上ゲマシテ、諸君ノ御
參考ニ供シマセウ(「參考トハ何ダ」ト呼フ
者アリ)今足尾銅山ニ於ケル所ノ鑛毒ノ狀
態ハ、煙毒ト鑛毒トノ二ニ因ッテ非常ナル
災ヲ受ケテ居ルノデアリマスルガ(「ソレガ
質問カ」ト呼ヒ此時發言スル者多シ)諸君靜
ニ聽キ給へ-足尾銅山ニ於ケル所ノ鑛毒
ノ現狀ヲ申上ゲマスルナラバ
〔「ソンナ事ヲ申上ゲナクテモ宜イ」ト
呼ヒ其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=81
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082・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=82
-
083・栗原彦三郎
○栗原彥三郞君(續) 足尾ニ於テ每日其鑛
業ニ依テ非常ニ猛烈ナル毒ガ少クトモ一日
ニ七八百坪若クハ千坪內外宛、非常ニ猛烈
ナル毒泥、或ハ毒砂礫ガ出ルノデアリマシ
テ、是ガ明治三十年七月二十五日時ノ鑛山
監督局長南挺三カラ鑛業主古河市兵衞ニ對
シテ指令ヲ發シタ所ノ豫防命令ニ依テ·
(此時發言スルモノ多シ)鑛毒-堆積場ニ
溜シテ居リマスル所ノ毒ノ數量ハ、其當時ニ
於テ三百五十万立方坪ニ達シテ居ルノデア
リマス、其毒ガドノ位猛烈ナ毒デアルカト言
ヘ/明治三十年ニ堆積シテアッタ所ノ毒
ハ既ニ二十年三十年ノ間、雨ニ曝サレタ
リ風ニ曝サレテ居ルニ拘ラズ、今日ノ··
(此時發言スル者多シ)非常ニ猛烈ナル所ノ
毒デアリマス、此毒ガ足尾銅山ノ中段デア
ル所ノ卽チ渡良瀨川ノ水源地デアル所ニ、
少クトモ三百五十万立方坪以上ノモノガ積
重ッテアルノデアルガ、是ガ一朝流レ出シテ
來マスレバ、栃木、群馬、埼玉、茨城、千
葉〓〓東京、一府五縣十五郡ハ悉ク毒砂漠ト
ナッテシマウノデアリマス、如何ニ政府ガ努
カヲ致シマシテ自作農ヲ創設致シマシテ
モ、其方面ニ創設致シマスコトハ此雨雪、
山津浪或ハ大洪水等ニ依テ二年、三年、五
年、十年ノ後ニ當然受ケナケレバナラヌ、
此非常ナル被害ヲ受ケマシタナラバ、何モ
ナラナクナッテシマウデハアリマセヌカ、政
府ハ其目前ニ非常ナル被害ヲ見ツヽアル所
ニ、曾テ發シタル鑛毒被害地トシテ豫定サ
レル其方面ニ對シテ、自作農ヲ創設スル御
考ガアルカドウカト云フコトヲ御聞致シタ
イノデアリマス、尙ホ最後ニモウ一ツ御尋
致シタイコトハ、自作農ト云フモノハ永年ノ
間新聞紙上ヲ賑ハシタ所ノ重大ナル問題デ
アリマスガ故ニ、私ハ政府ノ提案サレル所ハ
少クトモ人ヲ驚カスニ足ル位ノ、非常ニ立派
ナ案デナケレバナラヌト考ヘテ居ッタノデ
アリマス、然ルニ其提案スル所ヲ見マスル
ト、僅ニ八箇條、昔ハ法三章卜云フコトガア
リマシタガ、此僅ニ八箇條ニ於テ農村社會
政策ヲ實行シ、之ニ依テ農村ヲ安定シ、農民
ヲシテ安心セシムルヤウナ大抱負ノ實行ガ
出來ルト農林大臣ハ御考ニ』ナッテ居ルノデ
アリマスカ、年々三千万圓以上ノ〓ヲ使ッテ
行クト云フ大キナ說明ハアルガ、ドウ云フ風
ニ使フノカト云フ細カイコトハ一ツモ御示
ニナッテ居ラナイ、卽チオ前達議員ハ俺ガ
借金ヲスルカラ連帶保證人ニナレ、併シ其
金ハ吾々ガ勝手ニ使フノデアルト、斯ウ云
フ法案デアリマス、斯樣ナ亂暴良藉ナ法
案、卽チ昔ハ由ラシムベシ知ラシムベカラ
ズト云フコトガアッタガ、今日其筆法ヲ應用
シテ言ヘバ、細カイコトハ皆勅令ニ由ルノ
デアル、卽チ議員ハ借金ノ保證人ニナレ、
金ハ此方デ使フノデアルト、斯樣ナ案ヲ御
出シニナルコトハ、御無理デハナイカ如何
カト云フコトヲ御聞キスルノデアル、吾々
ハ地方へ參リマシテ何ガ故ニアノ案ニ贊成
シタカト云フコトヲ問ハレマシテモ、コン
ナモノニ贊成シタト云フコトハ出來ナイノ
デアルカラ、寧口政府ハ斯樣ナ案ハ引込マ
セテ、モット綿密詳細ナル案ヲ出シテ、本當
ニ吾々ガ喜ンデ協賛シ得ルヤウナモノヲ出
ス御考ガ有ルカ無イカト云フコトノ御尋致
スノデアリマス、以上私ノ質問シタ四點ニ
付キマシテ、十分ナル御答辯ヲ下サルヤウ
御願致シマス
〔國務大臣山本悌二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=83
-
084・山本悌二郎
○國務大臣(山本悌二郞君) 只今ノ御尋ニ
御答致シマス、第一ノ御尋ハ、農業保險ノ
方ガモット大切デハナイカ、自作農法案ヲ出
スニ先ッテ、若クハ之ト同時ニ、農業保險法
ヲ制定スル必要ガアルデハナイカト云フ御
尋デアリマスガ、旣ニ畜產保險法ヲ本年提
案致シテ居リマス、森林保險ニ付キマシテ
ハ今殆ド成案ヲ得テ居リマスケレドモ、此
議會ニ提出ヲスル迄ニハナルマイト思ヒマ
ス、一般農業保險ニ對シテハ頗ル困難ノ問
題デアリマスカラ、是ハ今〓究中デアリマ
ス、農業保險ノ必要ナルコトニ於テハ、當
局ハ決シテ否認ヲ致シマセヌ、其次ニハ農
村ノ農民ノ生活ノ安定ヲ期スルコトガ先決
問題デハナイカ、自作農案ヲ出スニ先ッテ、
農村ノ生活安定ニ關スル方法ヲシナケレバ
ナラヌト云フ御質問デアリマシタガ、農村
ノ農民ノ生活ノ安定ヲ圖ルト云フ計畫ニ對
シマシテハ、當局ハ現ニ議會ニ提出致シマ
シタル豫算ノ中ニモ各種ノ計畫ガ現ハレテ
居リマスカラ、ソレヲ御覧下サルヤウニ願
ヒタイ、ソレカラ鑛毒地ニ自作農ヲ設定ス
ルノ意思ガアルカドウカト云フ御尋デアリ
マシタガ、是ハ鑛毒地ノ中デモ、自作農ヲ
設定スルニ適當ナル所ハ之ヲ設定致シマス、
適セザル所ハ設定ヲ致シマセヌ、ソレカ
ラ案ノ綱領ガ確ト能ク分ラナイ、箇條ガ少
イカラ分ラナイト申サレマスガ、此立法ノ
組立ハ此法案ニ悉ク具備シテ居ルノデアリ
マっ、是ガ運用ノ綱領ニ付キマシテハ、詳
シイコトハ委員會ニ於テ申述ベルコトニ致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=84
-
085・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 以上ヲ以テ質疑ヲ
終了致シマシタ-日程第十五、右議案ノ
審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シ
マス
第十五右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委
員ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=85
-
086・原惣兵衞
○原惣兵衞君 本案ハ政府提出肥料管理法
案外一件ノ委員ニ併セ付託セラレムコトヲ
望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=86
-
087・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 御異議アリマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=87
-
088・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郎君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ原君ノ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=88
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089・原惣兵衞
○原惣兵衞君 議事日程變更ノ緊急動議ヲ
提出致シマス、卽チ此際、日程第二十八
昭和三年勅令第百二十九號、治安維持法中
改正ノ件、承諾ヲ求ムル件ヲ繰上ゲ議題ト
爲シ、委員長ノ報告ヲ求メ、其審議ヲ進メラ
レンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=89
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090・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 御異議アリマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=90
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091・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 御異議ナシト認メ
やっと、仍テ原君ノ動議ノ如ク決シマシタ、
日程ハ變更サレマシター-日程第二十八、
昭和三年勅令第百二十九號、卽チ治安維持
法中改正、緊急勅令ニ付キ承諾ヲ求メルノ
件ヲ議題ト致シマヌ、委員長ノ報告ヲ求メ
マズ-委員長井坂豐光君
第二十八昭和三年勅令第百二十九號
(治安維持法中改正ノ件)(承諾ヲ求
ムル件)委員長報告
報告書
一昭和三年勅令第百二十九號(治安維持
法中改正ノ件)(承諾ヲ求ムル件)
右ハ本院ニ於テ承諾ヲ與フヘキモノト議
決致候此段及報告候也
昭和四年二月二十八日
委員長井坂豊光
衆議院議長元田肇殿
〔井坂豊光君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=91
-
092・井阪豐光
○井坂豐光君 昭和三年勅令第百二十九
號治安維持法中改正ノ件、承諾ヲ求ムル
件ノ委員會ノ經過ヲ御報告致シマス、本委
員會ハ先月十九日ヨリ二十八日迄ノ間ニ於
テ六囘、此時間數十七時間ト二十分、速記錄
ノ頁數百五十頁ニ達シテ居ルノデアリマ
ズ委員中ニ於テ、齋藤君、勝田君、横山
勝太郞君、比佐君、內ケ崎君、斯波君、原
夫次郞君、水谷君、宮古君、中谷君等ノ熱心
ナル質疑ガアリマシテ、政府ハ一々之ニ對シ
應答ヲ致サレマシタ、今本案ニ付キマシテ、
各委員諸君ノ質疑ヲ御紹介スルコトハ到底
長時間ヲ要シマスガ故ニ、本問題ニ付テ最
モ緊要ナル所ノ質疑應答ヲ御報告致スコト
ニ致シマス、齊藤委員ヨリ本案ノ審議ヲ進
メマスニ付キマシテ、政府ニ向ッテ參考材
料ノ提出ヲ要求サレマシタ、其一ハ明治二
十三年以來、屢、緊急勅令ガ發布セラレテ
居リマス、此緊急勅令ノ書類ト、ソレカラ
議會ニ於テ承認シタモノモアリ、又不承認
ニ終タモノモアリマス、又審議未了ニ終シ
タモノモアル、ソレヲ區別シテ提出ヲ願ヒ
タイ、其次ハ外國ニ於ケル國體變革ニ關ス
ル犯罪取締法規、是ハ旣ニ政府ヨリ吾々委
員ニ提出サレテ居リマシタ所ノ治安維持法
立法比較ヲ見マシテ、其不足ノ點ハ更ニ提
出ヲ願フト云フコトヽ第三項ハ昨年檢
擧サレマシタ、所謂共產黨事件、此事件ハ
今ヤ全國ノ裁判所ニ於テ審理中デアリマ
ス、既ニ第一審ノ判決ヲ受ケタル者モアリ、
又受ケナイ者モアル、此緊急勅令ハ共產
黨事件ヲ本ドシテ現ハレタモノデアルト信
ジテ居リマスカラシテ、共產黨ノ內容ハ如
何ナモノデアルカト云フコトヲ知ルニ付テ、
是非之ヲ見タイモノデアル、故ニ共產黨
事件ノ一件記錄、ソレカラ此一件記錄ニ含
マレテ居リマス所ノ判決書ノ寫シ、被告人
ノ住所、年齢、職業、判決書ニアリマスガ、
判決書以外ニ、分リ易ク御記載ノ上提出ヲ·
願ヒタイト云フ三ツノ材料ノ提出ノ要求ガ
アリマシタ之ニ對シマシテ、政府ハ共產黨
事件ノ記錄ハ現在大部分ハ控訴中デアル、
事件未濟デアルカラシテ、記錄全部ヲ提出
スルト云フコトハ寔ニ困ル、併シ特ニ必要
ナル判決ノ寫シ、ソレカラ被告人ノ住所、
職業年齡調デアリマスガ、是ハ既ニ公判ニ
附セラレマシタル所ノモノニ付テハ提出致
シマスガ、公判ニ付セナイモノニ付テハ提
出スルコトハ御免ヲ蒙リタイ、ソレカラ豫
審終結決定書ヲ提出サレルコトニ相成マシ
タ、ンコデ齋藤委員ハ政府ニ對シテ本案ニ對
ヌル質疑ヲ開始サレタノデアリマス、同委
員ハ本案ハ政府ハ治安維持法ノ改正ハ、昨
年三月十五日ニ全國ニ亙ッテ一齊ニ檢擧サレ
タル所ノ共產黨事件ニ鑑ミテ改正ヲ思付カ
レタモノデアルカ、又該事件ト何等ノ關係
ナクシテ此改正ヲ思付カレタモノデアルカ
ト云フ質疑ガアリマシタ、之ニ對シテ政府ハ、
共產黨事件ニ付テ現レタル事態ニ鑑ミテ、
改正ノ必要ヲ認メマシタト云フ答ガアリマ
シタ、ソコデ齋藤委員ハ、共產黨事件ニ鑑
ミテ治安維持法ノ改正ヲ發議セラレタト云
フモノナラバ、此共產黨事件ハ治安維持法
中ノ刑罰ガ輕イカラ起。タモノデアルト云
フ實際上ノ根據ガナクテハナラナイ、現
在ノ治安維持法ダケデハ不備デアル、此不
備ニ乘ジテ共產黨ノ如キガ斯ル不逞ノ行爲
ヲ起スモノデアルト云フ、何カ據ルベキ事
實ガナクテハナラヌト云フコトノ質疑ヲ致
サレマシタ、政府ハ刑罰法規ハ適當ニ制
定サレテ居リマシテモ、ソレガ爲ニ總テノ
犯罪ヲ防グコトハ出來ヌト云フコトハ申ス
迄モナイ、又如何ニ刑罰法規ヲ設ケテ居リ
マシテモ、絕對ニソレニ依テ犯罪ノ防止ガ
出來ルト云フマデハ確信スルコトハ出來ナ
イ、少クトモ犯罪ヲ爲ス人ガ少クナルデア
ラウト云フコトハ豫期セラルヽモノデア
ル國體ノ變革ヲ目的トスル結社ニ對シテ
ハ從來ノヤウナ治安維持法ノ如キ輕イ刑
罰ヲ以テ之ニ臨ムト云フコトハ甚ダ面白ク
ナイ、日本共產黨ノ如キ事態ガ發生シタノ
モ、治安維持法ノ科刑ガ其宜シキヲ得ナイ
ノモ、確ニ其一部分ヲ爲シテ居ルト考ヘル
ト云フ答辯デアリマス、其上ニ刑罰法規ヲ
設ケ、ソレニ依ッテ總テノ犯罪ガ絕對ニ無
クナルトハ考ヘテ居ラナイ、隨テ治安維持
法ノ科刑ガ現在政府ガ考ヘテ居ル通リノモ
ノガ初メカラ出來テ居リマシテモ、ソレニ
依テ此法律ノ違反者ガ絕對ニ生ジナカッタ
モノデアラウトハ毛頭考ヘテ居ラヌ、併ナ
ガラ少クトモ日本共產黨ノ事件ノ如キ重大
ナル事態ノ發生ハ、或ル程度迄ハ之ヲ減少シ
得ルデアラウト云フヤウニ考ヘルノデアリ
マス(「簡單々々」ト呼フ者アリ)又將來ニ於
テモ此刑罰法規ヲ以テ臨ンダナラバ此法
律ノ違反ノ者ガ絕對ニ出來ヌト考ヘテ居ル
譯デハ無論ナイノデアリマス(「簡單」ト呼
フ者アリ)少クトモ國民ヲシテ警戒スル所
アラシメテ、其事態ノ重イノヲ輕イ程度ニ
止メルト云フコトダケハ出來ルノデアリマ
スト云フ答辯デアリマス、(「簡單々々」ト呼
フ者アリ)重要法案デアリマスカラドウカ
御靜聽ヲ願ヒマス、シコデ齋藤委員ハ政府
ノ方デ緊急ノ必要ヲ認メマシタ事由トシ
テ、二ツノ事實ヲ擧ゲテ居ラレマス其第
一、共產黨事件ノ檢擧ニ漏レタル所ノ殘
黨ガ、尙ホ活動ヲ續續シテ居ルト云フコト
ガ一ツノ事實デアル第二ノ事實トシテ擧
ゲラレテ居ルノハ露國ノ第三「インター
ナシヨナル」ガ、東洋勤勞者共產大學ノ日
本留學生ヲ續々歸朝セシメ、共產黨組織準
備擴大ニ從ハシメル所ノ情報ガ到達シタト
云フコトデアリマス、是等ノ事實ニ付テ詳
シキ所ノ說明ヲ求メラレマシタ、ソコデ政
府ハ第一ノ質疑ニ對シマシテ、檢擧ニ漏レ
タル所ノ首魁ガ凡ソ十人位デアリマス、是
ハ祕密結社デアリマスカラシテ、政府ニ分ッ
テ居ル事實以外ニ分ラナイコトガ幾ラデモ
アルノデアリマスルガ、其後ノ檢擧ニ依リ
マシテ、其當時ノ分ラナカッタ事實モ澤山
分ッテ居ルノデアリマス、正確ニ申ス譯ニハ
無論行カヌノデアリマスガ、兎ニ角政府ノ
方デ之ガ確ニ關係ガアルト認メタ者デ、尙
ホ檢擧シ得ザル者ガ其當時ニ於テ相當アツ
タノデアリマスガ、隨テ是等ガ果シテ檢擧
ニ依テ全然屏息シテシマフトカ、或ハ活動
ヲ續ケテ居ルト云フ、具體的ノ事實ハ擧ラ
ナカッタノデアリマス、ケレドモ先ヅ活動シ
テ居ルデアラウト推測シテ、サウ云フ者ガ
アル以上ハ、急イデ治安維持法ヲ改正スル
ノ必要ガアルノデアラウト云フノデ、特別
議會ニ改正案ヲ提出致シタノデアル、然ル
ニ議會閉會後ニ至リマシテ、活動シテ居ル
ト云フ事實ガ段々擧シテ參リマシテ、緊急勅
令制定ノ奏詰ヲ致シタ六月十二日ニ突然
分ッタノデハナイ、其後ニ段々分ッテ來マシ
テ、其事實ガ相重ッテ參リマシタカラ、六月
十二日ニ愈、緊急勅令ヲ制定スル外ハアル
マイト云フコトニナッタノデアリマス、日本
共產黨ノ殘黨ガ如何ナルコトヲ致シタカト
云フ〓略ヲ申シマスト、彼等ハ我ガ皇室ノ
帝國議會全部ニ對スル特別ノ御優遇ニ對シ
テ非議致シ、我ガ國民擧シテ感激スル最大
盛儀ノ擧行ニ對シテ絕對ニ反對ヲ唱道致シ
マシタ、尙ホ國體ノ變革ヲ盛ニ主張致シマ
シテ、彼等ハ彼等ノ所謂大衆行動ニ依テ、
帝國議會、府縣會ヲ破壞スベキコトヲ主張
シ、彼等ハ彼等ノ檢擧ニ對シ、虛構ノ事實
ヲ流布シテ、暴力對抗ヲ宣傳シタノデアリ
マス、彼等ハ共產黨檢擧ヲ暴力ニ依テ奪回
センコトヲ煽動シタノデアリマス、彼等ハ
軍隊殊ニ支那派遣軍ノ攪亂ヲ煽動致シタノ
デアリマス、彼等ハ支那ニ於ケル本邦人ノ
虐殺ヲ當然ノ事デアルト致シマシテ、支那
出兵ニ對スル勞働者、農民ノ反抗ヲ煽動致シ
タンデアリマス、彼等ハ有ユル爭議ノ大衆行
動ヲ煽動致シタノデアリマス、彼等ハ暴力
ニ依ル世界革命ヲ煽動シタノデアリマス
彼等ハ第三「インターナシヨナル」ノ指揮ヲ
受ケマシテ、我國ニ於テ勞働者、農民ノ獨
栽ニ依ル民衆的革命ノ政府樹立ヲ唱道シタ
ノデアリマス、サウシテ實行手段トシテ彼
等ノ組織ノ再興ニモ著手致シマシタ、〓括
的ニ申シマスト、斯樣ナ事實ガ現レテ參リマ
シタノデ、彼等ガ愈、活動シテ居ルト云フ事
實ガ確メラレタ次第デアリマス、第二ノ事
實情報ノ到著シタ所ハ內務省、外務省デア
リマス、情報ノ出所ハ國家ノ爲ニ絕對ニ祕
密ニフベキコトデ、共產黨ノ行動ニ對スル
情報ガ何處カラ來ルト云フコトガ分レバ、
將來情報ガ來ナクナリマスカラ、此際申上
ゲナイ方ガ宜カラウト信ジマス、第三「イ
ンターナシヨナル」ガ留學生ヲ前後シテ日
本ニ歸ラシテ、黨ノ組織擴大ニ著手セシメ
ル模樣ガアルト云フ情報ガ參ッタノデアリ
マスト云フ答デアリマス
〔「簡單々々」「ユックリヤリ給ヘ」ト呼ヒ
其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=92
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093・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=93
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094・井阪豐光
○井坂豐光君(續) ソレカラ齋藤委員ハ更
ニ問ヲ發シマシタ、其問ハ昨年三月十五日
ニ一齊ニ檢擧セラレマシテ、特別議會ガ閉
會致シタノハ五月六日デアリマス、此間ニ
於テ五十日餘アルノデ、政府ノ方デ治安維
持法改正ノ必要ヲ認メラレテ特別議會ニ改
正案ヲ提出セラレタ、其當時ノ政府ノ考デ
ハ改正案ハ必要デアルケレドモ、緊急ノ
必要ハナイト云フコトノ見込デアッタヤウ
ニ思ハレマスガ、是ハドウモ吾々常識上カラ
判斷シテ、斯ノ如キ大事件ガ檢擧セラレテ
カラ、五十日餘ノ間ニ於テ政府ガ治安維持
法ノ改正ノ必要ヲ感ゼラレタケレドモ緊急
ニ改正スル必要ハナカッタト云フヤウナコ
トハ、常識上受取レヌノデアリマス、此點ハ
如何デスト云フ質問デアリマス、之ニ對シ
政府ハ、治安維持法案ハ成ベク早ク改正シ
ナケレバナラヌト考ヘテ特別議會ニ提出
致シマシタ、其當時委員會ニ於テ、何故ニ
此短期議會ニ提出シテマデ改正ヲシナケレ
バナラナイカト云フ質問ガ屢〓アリマシタ、
ソレニ對シテ政府ハ共產黨ノ殘黨ガ尙ホ
活動シテ居ルモノト思ハレル、隨テ速ニ之
ヲ改正シテ置クコトガ必要デアルト思フト
申シマシタ、其當時ニ於テハ緊急勅令ヲ
出ス程度マデ緊急デアルトハ考ヘテ居ラナ
カッタノデアリマス、是ハ申ス迄モナク、憲
法第八條ニ依ル緊急ノ場合ト云フ、極メテ
切迫シテ次ノ議會ヲ待タレヌト云フ緊急デ
アルコトハ申ス迄モナイコトデアリマス
ンコデ政府ハ前議會ニ於キマシテハ成ベ
ク急ガナケレバナラヌト云フコトハ、無論
考ヘナカッタノデ、特別議會ニ此案ヲ提出
致サナケレバナラヌ、次ノ議會マデ絕對ニ
待テヌト云フコトマデハ其當時ノ狀態デハ
考へ及バナカッタノデアリマス、然ルニ前列
申上ゲタ事實ガ擧ッテ參ッタノデ、是デハ到
底次ノ議會迄待ツコトハ出來ヌ、一日モ早
ク法律ノ改正ヲ必要トスルト云フコトニ考
ヘマシテ、緊急勅令ノ發布ヲ奏請スルヤウ
ニナリマシタ次第デアリマス、ソコデ齋藤
委員ハ更ニ質疑ヲ續ケマシテ、緊急勅令ノ
根柢トナルベキ事實ガ前議會閉會後デナケ
レバナラヌト云フ理窟ニ囚レテ、斯ノ如キ
說明ヲセラルヽノデハナイカト思フ、故
政府ハ治安維持法改正ノ必要ヲバ認メラレ
タト云フ眞情ヲ、本委員會ニ於テ赤裸々ニ
說明ヲ願ヒタイト云フ質疑デアリマス、此
處デ政府ハ之ニ答ヘテ、齋藤君ノ御意見ハ
洵ニ親切ナコトデアル、自分ハ此處ニ赤裸々
ニ事實ヲ申上ゲテ居リマス、議會ノ開會中
ニ於キマシテハ、成ベク早ク此法律ヲ制定
シナケレバナラヌト云フコトデ、政府ハ短
期議會ニ拘ラズ法律ノ改正案ヲ提出致シマ
シタ、マダンレガドノ位ノ程度デアルト云
フコトハ政府ハ分シテ居ラヌ、共產黨ノ殘黨
ガマダ遺憾デアルガ殘。テ居ル、彼等ハ活動
ヲ停止シナイノデアラウケレドモ、唯ドウ
云フ風ナ事ヲスルノデアルカト云フコト
ハマダ確實ニ事實ヲ握ッテ居ラヌノデアリ
ママ、故ニ政府ニ於テ次ノ議會迄待タスト
云フコトマデノ覺悟ヲ決メルダケノ材料ヲ
持ッテ居ラナカッタノデス、所ガ議會閉會後
ニ到リマシテ、共產黨ノ殘黨ノ活動ガ中こ
熾デアルト云フコトノ證據ガ現レテ參リマ
シタ、ソコデ是ハ事態容易ナラズト考ヘテ
居リマス中ニ、更ニ又露西亞ノ東洋勤勞者
共產大學ノ留學生ヲ續々歸朝セシメルト云
フ情報ニ接シタ次第デアリマス、是デハド
ウシテモ次ノ議會迄待,コトハ出來ヌト云
フコトデ、已ムヲ得ズ此緊急勅令ノ發布ヲ
奏請シタノデアリマス、ソコデ齋藤委員ハ
更ニ質疑ヲ續ケラレマシテ言ハルヽノニ
ハ特別議會閉會後ニ於テ事實ガ漸次具體
的ニ分明ニナリ、此治安維持法ノ改正ヲシ
ナケレバナラヌ必要ヲ生ジ、緊急勅令ヲ發
布セラレタト云フ說明デアリマスガ、議會
閉會後樞密院ニ諮詢セラルヽ間デモ四十日
餘アル、樞密院ニ諮詢セラレテカラ樞密院
ノ議決スル迄十八日間アルノデアリマス、
六月十二日ニ提出サレマシテ、樞密院ノ議
事ハ二十九日ニ終ッタノデアリマスカラ、其
間十八日間アル、隨分長イ間デアリマシテ
議會閉會後樞密院ガ議決シテ、緊急勅令ヲ
以テ發布セラルヽ迄ニ五十餘日間、約六十
日ノ時日ガアルノデアリマス、斯樣ニ緩慢
ナル經路ヲ辿ッテ制定セラレテモ差支ナイ程
度ノモノデアルナラバ、私ハ臨時議會ヲ何
故ニ召集セラレナカッタノデアルカ、國民ノ
權利義務ニ重大ナル關係ヲ持ッテ居リマス
刑罰法デアリマスカラ、臨時議會ヲ召集シ
テ國民代表者ノ承諾ヲ得テ、所謂普通立法
ニ依テ此案件ヲ解決セラルヽト云フコト
ハ政府トシテ執ルベキ立憲ノ常道デアル
ヤウニ思ハルヽ之ニ對スル政府ノ所見如
何ト云フコトデアリマス、ンコデ政府ハ答
ヘテ言ハレルノニ、樞密院ニ緊急勅令ノ御
諮詢ニナリマス迄ノコトハ先刻申上ゲタ
通リ、ソレ迄ニ事實ガ段々明確ニナッテ來
テ、ドウシテモ緊急勅令ノ發布ヲ奏請シナケ
レバナラヌト云フ必要ヲ感ジタノデアリマ
ス、其間事柄ガ分ッテ居ルノニ、何モ延シテ
居ッタト云フヤウナ譯デハナイノデアリ
マス、又樞密院ノ議事ノ經過ハン是ハ樞密
院ノ議事ノ進行如何ニ依ルコトデ、政府ノ
力ニ依テ如何トモスルコトガ出來ナイノデ
アリマス、幾日掛リマシテモ已ムヲ得ナイ
コトヽ思ヒマス、其外ニ緊急勅令ノ發布ノ
途ハナイノデアリマス、其點ハ御了解ヲ願
ヒタイ、而シテ帝國議會ヲ召集スルノ遑ア
ルノニ、何故召集ヲシナカッタカトノ御尋ニ
對シテハ憲法第八條ノ場合ハ憲法第七十
條ノ場合ト異ナリマシテ、臨時議會ヲ召集
スルノ遑ナキトキト云フ場合デナイノデ、
詰リ次ノ議會迄ドウシテモ待テヌ、今早ク
制定シタ方ガ宜イト云フ場合ガ定メテアル
モノト考ヘル、臨時議會ヲ召集シナケレバ
ナラヌ場合デナイト認メテ居リマスト云フ
答辯デアリマス、ソコデ齋藤君ハ憲法第八
條ノ場合ニ於テ帝國議會ヲ召集スルコトガ
出來ナイ場合ニ於テ、始メテ此緊急勅令ヲ
バ制定スベキモノデアッテ、苟モ召集スル餘
裕ノアルトキハ、之ヲ召集セズシテ緊急勅
令ヲ發布スルコトハ違憲デアル、憲法法規
ノ上カラ見テ違憲デアルト云フ强イ議論ガ
アリマシタ、又憲法第七十條、卽チ他ノ一
方ニ於テハ議會ヲ召集スルコト能ハザルト
キト云フ文字ガアル憲法第八條ニハ閉會
ノ場合ト云フ文句ガアル、此文句ニ拘泥シ
一方ニ於テハ召集スルコト能ハザル場合、
一方ニ於テハ召集スルコトガ出來ルノニ召
集スル必要ナシト云フ解釋ヲスルノハ間違
デアルト云フ强イ議論ガアル、我國憲法學
者〓水博士ノ憲法論ノ一節ヲ朗讀サレマシ
テ、左樣ニ結論サレマシテ、政府ハ議會ヲ
召集スル遑ガアッテモ議會ヲ召集スル必要
ガナイ、唯次ノ議會ヲ待ツ遑ガナイ場合ニ
ハ其間ニ於テ緊急勅令ヲバ發布シテ差支
ナイト云フ解釋ノヤウニ思ハレルガ、此解釋
ハ立憲政治ノ大精神ヲ前提トシテ憲法第
八條ヲ解釋致シマスト云フト、憲法ガ立法
權ヲ行フニ付テハ、議會ノ協賛ヲ求ムベシ
ト云フ規定ノ趣旨ト相容レヌヤウニ思フ、
此解釋ニ付キ政府ハ如何ナル所見ヲ有セラ
レルカト云フ質疑デアリマス、之ニ對シ政
府ハ答ヘラレテ曰ク、憲法第八條ノ解釋ニ
付テハ仰セノ通リ色〓學者ノ意見ガアリマス、
而シテ其意見ハ齋藤君ノ意見ト共ニ頗ル有力
ナルモノトシテ、敬意ヲ表スルニ吝カナラヌモ
ノデアリマスガ、御承知ノ通リ憲法第八條ト、
憲法第七十條トハ異ナルノデアッテ、憲法八
條ハ議會開會セザルトキハ臨時議會ノ召集
ヲ要セズシテ、緊急勅令ノ發布ガ出來ルノ
デアルト云フ解釋モ、亦有力ナル解釋トシテ
存在シテ居ルノデアル政府ハ此後ノ方ノ
解釋ヲ採用シテ居ル次第デアリマスト云フ
答辯デアリマス、次ニ勝田委員カラ政府委
員ニ對スル質問ノ一部ヲ紹介致シマス、同
委員ハ日本共產黨ニ屬シテ居ル者、卽チ昨
年ノ三月十五日ノ檢擧ノ當時ト、ソレカラ
特別議會ノ當時ト、緊急勅令制定ノ當時ト、
竝ニ現在ノ此時期ニ分シテ共產黨ノ數ヲ質
間サレマシタ、之ニ對シ政府ハ答ヘラレテ
曰ク、檢擧當時ニ於キマシテハ約ソ四百
乃至五百人位ノ見當デアリマシタ、ソレカ
ラ特別議會ノ當時ハ五百カ六百人位アルデ
アラウト云フ見當ガ付イテ居リマシタ、今
目ノ所デハ起訴サレテ居ル分ガ約五百人位
デ、合セテ七百人程度ノモノデアルト考へ
テ居リマス、ソレカラ緊急勅令制定ノ當時
ニ於キマシテハ、露國カラ大分留學生ガ入ッ
テ來ルト云フ情報ガ續々アッタノデ、相當ニ
其活動ノ爲ニ增加スルノデアラウト云フ見
當ガ付イテ居〃タノデアリマス、更ニ勝田委
員ハ彼等ノ不穩ナル行爲ノ分明セシ時期ニ
付キマシテ質問サレマシタ、ソレニ對シ政
府ハ文書ヲ以テ答ヘラレタノデアリマス、
是ハ本案ニ對シ「緊急勅令必要ノ理由」トシテ
諸君ニ御報告致サナケレバナラヌノデアリ
ママ、是ハ第十項ニ分レテ居リマス「一、彼
等ハ我ガ皇室ノ殊遇ヲ誹議シ、我ガ國民ガ
擧テ感激スル最太ノ盛儀ノ擧行ニ絕對反
對ヲ唱道シ、國體ノ變革ヲ主張セルコト、
右ノ事實アルヲ知リタル月日左ノ如シ、五
月十九日及六月二日人手シタル文書、二、
彼等ハ彼等ノ所謂大衆行動ニ依テ、帝國議會
府縣會ヲ破壞スベキコトヲ主張セルコト、
右ノ事實アルヲ知リタル月日左ノ如シ、五
月十九日及六月五日入手シタル文書、三、
彼等ハ彼等ノ檢擧ニ對シ、虛構ノ事實ヲ流
布シ、暴力對抗ヲ煽動セルコト、右ノ事實
アルヲ知リタル月日左ノ如シ、五月十九日
及六月二日竝同月四日入手シタル文書、四、
彼等ハ共產黨檢擧者ヲ暴力ニ依リ奪還スベ
キコトヲ煽動セルコト、右事實アルヲ知リ
タル月日左ノ如シ、六月二日入手シタル文
書、五、彼等ハ軍隊、特ニ支那派遣軍ノ攪
亂ヲ煽動セルコト、右ノ事實アルヲ知リタ
ル月日左ノ如シ、五月十九日及同月二十五
日竝六月二日入手シタル文書及被疑者ノ逮
捕六彼等ハ支那ニ於ケル本邦人ノ虐殺
ヲ當然ナリトシ、支那出兵ニ對スル勞働者
農民ノ反抗ヲ煽動セルコト、右ノ事實アル
ヲ知リタル月日左ノ如シ、五月二十六日、
同月三十一日、六月一日、同月二日及同月
七日、入手シタル文書、七、彼等ハアラユ
ル爭議ノ大衆行動ヲ煽動セルコト、右ノ事
實アルヲ知リタル月日左ノ如シ、六月二日
同月五日及同月六日、入手シタル文書、八、
彼等ハ暴力ニ依ル世界革命ヲ煽動セルコ
ト、右ノ事實アルヲ知リクル月日左ノ如シ、
五月十九日、六月二日及同月六日入手シタ
ル文書、九、彼等ハ第三「インターナシヨ
ナル」ノ指揮ヲ受ケ、我ガ邦ニ於テ勞働者
農民ノ獨栽ニ依ル民主的革命政府ノ樹立ヲ
唱道セルコト、右ノ事實アルヲ知リタル月
日左ノ如シ、五月十九日、六月二日、同月
五日及同月六日入手シタル文書、十、彼等
ハ細胞組織ノ再興ニ著手シタルコト、右ノ
事實アルヲ知リタル月日左ノ如シ、六月十
一日付某地方長官報告文書」以上デアリマ
ス、其他各委員ヨリ有益ナル質疑ガ多々アッ
タノデアリマス、之ヲ一々御紹介致シタイ
ノデアリマスガ、先刻來簡單々々ノ聲ガ頻
ニ聞エマスガ故ニ、是ハ速記錄ニ依テ御熟
讀ヲ願ヒタイノデアリマス、最後ニ宮古委
員ヨリ質問打切ノ動議ガアリマシテ、質問
ヲ打切リマシテ、而シテ討論ニ移リマシテ、
討論終結ノ結果、本案ニ承諾ヲ與フベシト
云フ方ガ九名、否トスル方ガ八名、一票ノ
差ヲ以テ可決サレタコトヲ玆ニ報〓致シマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=94
-
095・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 質疑ノ通告ガアリ
マス、之ヲ許シマス-原夫次郞君
〔原夫次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=95
-
096・原夫次郎
○原夫次郞君 私ガ玆ニ質問致サナケレバ
ナラナイコトハ、一昨日委員會ノ場合ニ、
ドウシテモ委員會ニ於テ此質疑ヲ爲サナケ
レバナラナイ關係ニ在ッタノデアリマスル
ガ、然ル所政友會側ニ於テ是非共一昨日質
問ノ打切ヲシナケレバナラヌト云フ動議ガ
出マシタ爲ニ、私ハ此質問ヲ本會議ニ留保
シテ、其質問打切ガ一名ノ多數ヲ以テ可決
サレタノデアリマシタ、私ガ玆ニ質問致サ
ントスル所ノモノハ、ドウシテモ是ハ委員
會ノ繼續トシテモ、之ヲ明ニシテ置カナケ
レバナラナイ點ガ二ツアルノデアリマス、
其第一ノ點ト致シマシテハ、委員會デハ極メ
テ此案ノ重大ナルノニ鑑ミテ、愼重審議致
シタノデアリマス然ル所此委員會ニ於テ
唯司法當局ダケガ最モ熱心ニ其答辯ニ當ラ
レ、內閣總理大臣兼外務大臣竝ニ內務大臣
等ハ、此委員會ニハ餘リニ顏出ガ出來ナ
イ、ソコデ審議ガ進マナカッタノデアル、
就中先程來此委員長力御報告ニモナッテ居
ルノデアリマスルガ、委員長初メ吾々委員
ニ於テモ、ドウシテモ了解ガ付カナイ點ガ
アルノデアリマス、ソレデ此浩瀚ナル速記
錄ヲ見マシテモ、ドウシテモ分ラナイ點ガ
アル、此點ハ先ヅ此緊急勅令ガ發セラレル
ニ至リタル根源ノ問題デアル、此根源ノ問
題ニ付テ、原國務大臣竝ニ司法當局ノ答辯
ニ依リマスルト云フト、昨年三月十五日以
來檢擧セラレタル共產黨事件ノ經路ハ日
本共産黨ト云フモノガ第三「インターナシ
ヨナル」ノ日本支部デアルト云フコトニナッ
テ居ルノデアリマス、大正五年三、四月ノ
頃デアリマスガ、第三「インターナシヨナ
ル」ノ幹部カラ致シマシテ、此日本ニ於ケ
ル共產主義ヲ主張シテ居ル連中ニ對シマシ
テ、日本ニ於テモ速ニ黨ヲ結ブベキ旨ノ指
令ヲ受ケマシテ、ソレデ其指令ニ基イテ、
結局五色溫泉ノ會合ガ行ハレテ、結黨ヲス
ルト云フコトニナッタノデアリマス、其後
莫斯科ニ於ケル共產大學ニ行ッテ居ル連中、
是モ矢張第三「インターナシヨナル」トノ關
係ニ於テ、此方カラ派遣ヲシテ居ルノデア
リマス、サウシテ日本ニ於ケル去年ノ三月
十五日ノ檢擧ガアッタト云フコト〓、向フニ
分リマシタカラ、將ニ共產黨ガ消滅スルカ
モ知レヌカラ、オ前達ハ歸シテ速ニ再舉ノ
運動ヲスルヤウニト云フ命ヲ受ケテ、此方
ニ來タト云フコトニナッテ居ルノデアリマ
ス、兎ニ角第三「インターナシヨナル」ハ
本部デアリ、日本ノ共產黨ハ其支部デアル、
斯ウ云フ關係ヲ持〓テ居ルヤウデアリマス、
斯ウ云フ說明ガ、司法當局カラアッテ居ル
ノデアリマス、而シテ是ト同時ニ尙ホ原司
法大臣ハ國務大臣トシテ、日本共產黨トシ
テ〓囘檢擧シタル者ハ、主義ハ前カラ奉ジ
テ居ッタノデアリマセウ、或ハ彼等ノ仲間ノ
中デ第三「インターナシヨナル」ノ日本支部
ト云フ考ハ、無論持シテ居ッタニ相違アリマ
セヌガ、愈、日本共產黨トシテ、第三「イ
ンターナシヨナル」ノ何ト申シマセウカ、公
認ヲ受ケルトカ、何トカ云フノデアリマセ
ウガ、サウ云フ手續ヲ致シマスル前提トシ
テ、此黨ノ組織及綱領等ヲ發表シタノガ一
昨年ノ十二月四日、山形ノ五色溫泉デ祕密
裡ニヤリマシタ、ソレカラ先程警保局長ガ
申シマシタ通リ、彼等ハ翌年露西亞へ參リ
マシテ、サウシテ第三「インターナシヨナ
ル」ノ本部ニ於キマシテ、彼等ノ決メタ綱
領政策等ニ付テ批判ヲ受ケ、サウシテ指令
ヲ受ケテ歸ッテ來マシテ、初メテ活動ニ這
入ッタノデアリマス、其活動ニ這入ッタノハ、
丁度其後ノ調査ノ結果ニ依リマスト、主ト
シテ衆議院議員ノ選擧ノ時ニ、最モ活動ヲ
開始スルト云フ方針デアッタト云フコトガ、
事實ノ眞相ニナッテ居ルノデアリマス、又
共產黨大學ニ留學シテ居ル者ハ、政府ノ今
迄ノ調ベタ所ニ依リマスト、前後ヲ通ジテ
四十四名アリマス、此外ニアルカモ知レマ
セヌガ、政府デ〓迄知ッタノガ四十四名ア
ルノデアリマス、サウシテ此人ガ何ト云フ
氏名ノ人カト云フコトハ、今日マダ公ノ席
ニ於テ申上グベキ時期ニ達シマセヌ、ソレ
カラ費用ハ何處カラ出テ居ルカト云フコト
是ハ今迄調ベタ所ニ依リマスト、第三
「インターナシヨナル」カラ出テ居ル、又初
カラ何名ト云フコトハ無論申シテ參リマセ
ヌ、一度ニ皆歸ッテ來ル譯デハナイノデアリ
マッ、秘密行動デ所謂潜入スルノデアリマ
スカラ、初カラ何名ト云フコトハ申シテ居
リマセヌ、第三「インターナシヨナル」ガ留
學生ヲ前後シテ日本ニ歸ラシテ、黨ノ組織
擴大ニ著手セシメタモノガアルト云フ情報
ガ參ッテ居ルノデアリマス、此情報ノ到著シ
タル所ハ內務省、外務省デアリマス、情報
ノ出所ハ御承知ノ通リ、是ハ國家ノ爲ニ祕
密ニシテ居リマスガ、留學生ヲ日本ニ歸ラ
シテ、黨ノ組織擴大ニ著手セシメタル模樣
ガアルト云フ情報ガ參ッテ居ルノデアリマ
スト云フ、司法當局ノ答辯デアルノデアリ
やっ、此點ニ付テ吾々ハ同僚ト共ニ內務省
ニ對シテ是ガ質疑ヲ致シ、タノデアル、然ル
所內務大臣ハ出席ヲセナイデ、横山警保局
長ノ答辯ニ依リマスト、サウ云フヤウナ風
ナハッキリシタル情報ハ得テ居ナイノデア
ル、斯ウ云フヤウナ答辯ヲ好イ加減ニ致シ
テアルノデアリマス、又外務當局ニ此點ヲ
尋ネマスルト云フト、外務大臣ハ出席ナク
シテ、森政府委員ノ答辯ニ依リマスト云フ
ト、外務省デハサウ云フヤウナ情報ガアル
ヤウデアルケレドモ、確タルコトハ分ラナ
イ、斯ウ云フ答辯ニナッテ居ルノデアリマ
ス、是ニ於テカ司法當局ノ答ヘル所ト、內
務省竝ニ外務省ノ答ヘル所トハ、其間ニ大ナ
ル相違ガアルノデアリマス、一體吾々ハ此
重大ナル法案ヲ控ヘテ、若シ露西亞ノ莫斯
科ノ共產大學ニ於テ日本人ガ養成セラレ
テ、其養成セラレタル人間ガ隙間ヲ見テ我
ガ國ニ歸ッテ來ルト云ウテ、歸ッテ來テカラ
我國デ共產黨ノ旗揚ヲ致スト云フコトデア
リマスナラバ其根本ハ何處ニアルカト云
フト、露西亞ノ國デ是等ノ仕事ガ爲サレル
ノデアリマス、ドウシテモ是ハ根本義ニ相
成ルノデアリマスカラシテ、昨年ノ臨時議
會當時ニ於キマシテハ、田中總理大臣ガ
聲明サレタル如ク、又司法省、內務省等
ガ當時ニ於テ如何ナル事ヲ聲明シマシタ
カト申シマスレバ、少クモ田中總理大臣ハ、
此共產黨事件ガ起ッタガ爲ニハ自分ハ、拔本
寒源ノ途ヲ講ズルコトヲ考ヘテ居ルノデア
ル、又上御一人ニ對シテ奏上ヲ致ス場合ニ
於テハ、九腸寸斷ノ思ガアルナゾト云フコ
トヲ申サレテ居ルノデアリマス、何ガ拔本
寒源デアルカ、露西亞ノ莫斯科大學-共
產黨大學デ日本留學生ヲ、ソレヲ其儘ニ養
成セシメテ置イテ、ドウシテ我ガ日本ノ共
產黨ヲ撲滅スルコトガ出來ルノデアリマセ
ウカ、私共ハサウ云フヤウナ根本問題ガ現
内閣ニ必ズ存在致シテー店ルコトヽ確信ヲ致
シテ居ッタノデアリマス、然ル所委員會ニ於
テ一昨日田中總理大臣ハ午前中僅ニ三十
分ノ時間ヲ以テ委員會ニ臨マレテ、而シテ
其答辯セラレタノガ、僅ニ十五分バカリ答
辯ヲセラレテ、其答辯ニハ矢張對露國關係
ニ於テハ多少思ヲ及ボシテ居ルノデアルケ
レドモ、併ナガラ司法省ガ聲明ヲ致シテ居
ルガ如キ事實ハ、未ダ自分ハシツカリ之ヲ
是認スルニ至ラナイト云フヤウナ風ナ答辯
ガアッタノデアリマス、何タル事デアリマセ
ウカ、此緊急勅令ヲ發布スル田時ニ於テノ
現內閣ノ勢ト云フモノハ實ニ凄マシイ勢
デアッタノデアル、殆ド我ガ國家ガ引繰返ル
ヤウニ大袈裟ニ宣傳セラレタノデアリマ
ス、而シテ其後今日迄約一年ノ間、隣リノ露
西亞デ此共產黨ノ分子ヲ製造ヲ致シテ居ル
其根本ニ向ッテ、斧鉞ヲ加ヘナイト云フ現内
閣ノ遣方デアル、ソコデ考ヘルト云フト
私共ハドウモ現内閣ノ此緊急勅令ト云フモ
ノハ所謂世間デ噂致スガ如ク、是ハ一種
ノ宣傳デアッテ、或ル政略ノ下ニ斯ウ云フ緊
急勅令ヲ出シタモノヂヤナイカト云フコト
ヲ非常ニ疑フノミナラズ、委員會ニ於テノ
結論ト致シテハ、此露國ノ問題ガ最モ必要ナ
ル問題デアルノニ拘ラズ、一度此點ニ向ッテ
吾々ガ追究ヲ致スト云フト、忽チ政友會ノ
委員諸君カラ質問打切リノ動議ヲ提出致サ
レマシテ、餘儀ナク此處デ質問シナケレバ
ナラヌト云フ破目ニ立至ッタノデアリマス、
一體我國ト露西亞トノ間ニ於テハ、既ニ大
正十四年ニ修交條約ガ結バレテ居ルノデア
リマス、斯ウ云フ日本ノ國家ニ關スル破壞
行動ヲ目論ムガ如キ事柄ハ、露西亞トシテ
ハ必ズ爲シテハナラヌト云フコトハ言フ迄
モナイ、又政府當局ニ於テハ、人こニ依テ
第三「インターナシヨナル」ト露國政府トノ關
係ガ、如何ナル關係ニ結バレテ居ルカト云
フコトニ付テモ、洵ニ內務省ト司法省ト外
務省トノ間ニ答ガ區々ニ相成ッテ居ルノデ
アリマス、ソコデ私ハ先ヅ田中外務大臣兼
總理大臣ニ伺フノハ此點デアリマス、全體
是ダケノ大キナ重要ナル非常立法ヲ敢テ爲
シテ置イテ、而シテ露西亞ト日本トノ此言
語道斷ナル關係ヲ、何故ニ今日迄此儘ニ打
棄ッテ置クノデアル、未來永劫恐ラクハ今日
ノ儘ニヤッテ居ッタナラバ日本人ダケハ非
常ニ重イ刑罰ヲ以テ虐メラレテ、而シテ御
隣リノ露西亞へ行ケバ莫斯科デ以テ日本
國家ヲ倒スヤウナ者ヲ養成ヲ致ス、何タル
不都合ナ事デアリマセウカ、是デ我ガ國家
ノ進運ヲ期スルコトガ出來マセウカ、又是
デ以テ此緊急勅令ヲ維持シテ、ドウシテ我
ガ國家ガ保チ行ケマセウカ、之ニ關スル田
中外務大臣兼總理大臣ノ御意見ヲ伺フノデ
アリマス、第二ト致シマシテハ、內務大臣
ニ對シテデアル、是ハ極メテ簡單デアリマ
ス、內務大臣ハ委員會ニ顏ヲ出サレルコト
ガ少カッタノデ、吾々ハ能ク御尋スルコトガ
出來ナカッタノデアルガ、一體昨年此事件ガ
起シタ場合ニ於テ、先程申上ゲル如ク、現內
閣ハ擧シテ當時ノ鈴木内務大臣ノ指圖ノ下
ニ、非常ナル世間ニ宣傳ヲ致シ、非常ナル
大事件ガ勃發シテ、ドウシテモ之ヲ何トカ
シナケレバナラヌト云フ所デ、此治安維持
法ノ改正案ヲ提出致シタノデアル、又當時
ニ於テ我國ニ於ケル勞農黨ノ解散ヲ斷行シ
タコトモ事實デアルノデアリマス、然ル所
昨年ノ十二月二十二日、彼ノ本所公會堂ニ
於テ開カレタル所ノ勞農新黨ノ結黨式ニ際
シテ、十二月二十二日、三日共ニ準備會ヲ
開キ、其處デ綱領、宣言等ヲ總テ委員ニ付
託ヲ致シテ、色ミ世間ニ宣傳ヲ致シタノデ
アル、然ル所現內閣ガ昨年此共產黨ノ事件ガ
起シタ場合ニ於テハ、忽チニシテアノ勞農黨
ナルモノヲ解散ヲ命ジタノデアル^而シテ
現內閣ノ方針ト致シテハ、今後如何ナル準
備行爲ノ名儀デアラウガ、何シヤウガ、少
シデモ此共産黨ノ臭ヒノスル新黨ノ組織ニ
對シテハ、斷然解散ヲ命ズルモノデアルト
云フコトヲ天下ニ聲明ヲ致シテ置キナガラ、
昨年ノ十二月ノ二十二日、三日ノアノ本所
公會堂ニ於ケル所ノ結黨準備式ニ當ッテハ、
極メテ此新黨準備會ノ爲ニ飜弄ヲセラレテ、
而シテ二日ノ間モ天下ニ色ミノ宣傳ヲ致シ
テ置キナガラ、遂ニ三日目ニ漸ク逡巡躊躇
シテ是ガ解散ヲ命ズルニ至ッタト云フ、非常
ナル手溫イ遣方ヲ爲シテ居ル、ソレ等ヲ以
テ見マスルト云フト、ドウモ此只今議題ニ
ナッテ居ル緊急勅令ナルモノハ、現内閣ガ政
略ノ爲ニ斯ノ如キ勅令ヲ發セラレタモノデ
アルト云フコトハ、〓今日稍〓明ニナッテ居ル
コトヽ思フノデアリマス(拍手)以上ノ二點
ニ對シテ田中總理大臣兼外務大臣竝望月內
務大臣ノ詳細ナル御答辯ヲ願ッテ降壇スル
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097・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郎君) 田中總理大臣
〔國務大臣男爵田中義一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=97
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098・田中義一
○國務大臣(男爵田中義一君) 只今ノ原君
ノ御尋ニ對シマシテハ委員會ニ於テ齋藤
君ヨリモ同樣ナ御尋ガアリマシタ、私ハ此
處デ繰返シテ申スノデアリマス、此露國ノ
宣傳ニ付キマシテハ、甚大ナル注意ヲ拂ッテ
居ルノデアリマス、殊ニ共產黨事件ノ發生
後ハ一層其點ニハ注意ヲ拂ヒ、地方的ニ
モ、又直接私ガ露國ノ代表者ニモ、亦日本
ノ代表者ニモ注意ヲ與へ、或ハ抗議ヲシ、
種々ナ手段ヲ執ッテ居ルノデアリマス、此事
ハ此處デ申シテ置クノデアリマス、將又將
來ノ事付ニキマシテハ、今後ノ事ニ屬スル
コトデアリマスルカラ、此處デ諸君ニ申上
ゲル譯ニハ參ラヌノデアリマス、殊ニ只今
御尋ノ中ニ、私ガ司法大臣ノ說明サレタコ
トヲ否認シタカノ如キ御言葉モアッタヤウ
デアリマスルガ、サウ云フコトハ決シテ無
イノデアリマス、私ハ絕對ニ否認ハ致シマ
セヌ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=98
-
099・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 望月內務大臣
〔國務大臣望月圭介君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=99
-
100・望月圭介
○國務大臣(望月圭介君) 昨年十二月ニ新
黨準備會ノ解散ヲ致シマシタノハ、是ハ治
安ヲ害スルト認メマシタカラ、此解散ヲ命
ジタノデアリマス、之ニ付キマシテハ本會
議ニ於テモ、亦委員會ニ於テモ、政府當局
ヨリ詳細ヲ申上ゲテ居ル筈デアリマス、ソ
レト少シモ其理由ハ變ラヌノデアリマス、
左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=100
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101・原夫次郎
○原夫次郞君 簡單デアリマスカラ此席カ
ラ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=101
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102・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=102
-
103・原夫次郎
○原夫次郞君 只今田中外務大臣兼總理大
臣カラノ最後ノ御言葉ニ依リマスト、自分
ハ司法當局殊ニ原司法大臣ノ言ハレタ事柄
ヲ自分ハ是認ハシナイ-是認ハシナイト
云フコトヲ承ッタノデアリマス、サウ云フコ
トデアリマスト云フト、一體原司法大臣ガ
委員會ニ於テ國務大臣トシマシテ答辯ヲ致
シマシタルコトハ、總理大臣ノ是認シナイ
ト云フコトハ、ドウ云フコトデアリマスカ
(「否認ダ〓〓」ト呼フ者アリ)若シ彼ノ邊ノ
人達ガ聞イテ居ル如ク、否認ハシナイト云
フ言葉ハ何ノコトデアリマスカ、ソレヲ原司
法大臣ガ言ウタ事柄ト同樣ニ考ヘテ居ラル
ルト云フコトヲ、明ニ認メラレルカドウカ、
是ハ我國ニ取ッテノ一大重大問題デアリマ
ス、此點ヲ伺ヒタイノデアリマス、尙ホ私
ノ先程申上ゲタノハ、昨年ノ事件ガ勃發致
シタノハ三月十五日デアッテ、ソレカラ今日
迄露西亞ニドウ云フ抗議ノ申込ヲセラレ、
若クハ今日迄ドウ云フ解決ニナッテ居ルノ
デアルカ、若シ露西亞ガ何時迄モアノ修交
條約ヲ破壞スルヤウナ行爲ガアリ、我ガ國家
ニ取ッテ、又重大ナル問題ガ時々刻々露西亞
ノ爲ニ脅カサレルト一云フコトデアリマスル
ナラバ、遂ニ吾々ハ我國ノ立場トシテ此日
露修交條約マデモ破毀セネバナラヌト云フ
立場ニ至ルベキ、重大ナル問題デアルト思
フノデアリマス、其點ニ向"テ更ニ田中總
理大臣ノ御答辯ヲ明確ニ拜聽致シテ置キタ
イノデアリマス、恐ラク再ビ出ラレルカド
ウカ、甚ダ疑問デアリマスガ、若シ立タレ
ナケレバ私ノ言フコトヲ御承認相成ッタコ
トヽ認メマス
〔國務大臣男爵田中義一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=103
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104・田中義一
○國務大臣(男爵田中義一君) 原君ハ只今
私ガ司法大臣ノ言ハレタコトヲ是認シナイ
ト仰セニナッタノデアリマスガ、私ハサウ申
シタノデハナイ、否認ヲシタコトハナイト
斯ウ申シタ、卽チ大體ニ於テ原君ノ言ハレ
ルコトヲ認メルノデアル、ソレカラ尙ホ如
何ナル抗議ヲシ、又如何ナル手續ヲシ、而
シテ其結果ガドウナッタカト云フコトニ付
キマシテハ、此處デ諸君ニ御話ヲスルコト
ヲ遠慮スベキダト心得テ居リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=104
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105・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 小俣政一君
〔小俣政一君登壇〕
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=105
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106・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=106
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107・小俣政一
○小俣政一君 只今委員長ノ報告ヲ詳細ニ
承リマシテ、其委員長ノ報告ニ關聯ヲ致シ
マシテ政府ニ質問ヲ致シタイノデアリマス
ルガ、私ノ御尋スルコトハ、主トシテ司法
大臣ノ所管ニ付テ御尋申シ、又內務大臣カ
ラ御答ヲ願ハナケレバナラヌコトモアルノ
デアリマス、政府ハ陛下ノ臣民ヲ死刑ニ
處スル嚴罰ヲ制定ヲシテ、共產主義者ヲ絕
滅セントセラレルノデアリマスルガ、苟モ
世界ニ比類無キ國體ヲ擁護シ、皇國ノ基礎
ヲ微動ダモセシメザルト云フ其根本的精神
ニ於テハ、異存ハナイノデアリマス、但シ
其峻嚴ナル勅令ノ制定ニ依テ、共產主義者
ニ彈壓ヲ加ヘ、仍テ以テ國家ノ治安ヲ維持
セントスルハ、之ノミニ依テ治安ガ維持セ
ラルヽト思へバ、ソレハ大ナル誤リト謂ハ
ナケレバナラヌノデアリマス、思フニ共產
主義者ト云ハズ、總テ過激ナル思想ノ蔓延
ヲ防ガントスルノニハ其由テ來ル根本ニ
遡ッテソレヲ極メ、而シテソレニ對シテ對策
ヲ講ズルト云フコトガ、眞ニ國家ニ忠ナル
所以デアラウト思フノデアリマス(拍手)徒
ニ枝葉末節ニ囚ハレ、其源ヲ極メザルニ至ン
テハ天下ノ迂愚洵ニ極レリト謂ハナケレ
バナラヌノデアリマス、要スルニ施政其宜
シキヲ得ザル爲、見渡ス處我國ノ現狀ニ於
キマシテハ中產階級以下ノ國民ノ生活ト
云フモノガ著シク脅威サレテ居ル、隨テ思
想界ハ益〓濁亂ヲシツヽアル時ニ當リ、本案
ノ制定唯其モノニ依テ危險思想ヲ取締ラン
トスル如キハ、痴人夢ヲ語ルモノデアルト
謂ハナケレバナラヌノデアル(拍手)今ヤ帝
都ノ治安ハ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=107
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108・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=108
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109・小俣政一
○小俣政一君(續) 亂レテ居リ、輦轂ノ下
帝國ノ首都タル治安ノ維持サヘ保タレナイ
有樣デアル、金力ト權力ト暴力ハ跋扈跳梁
ヲシテ、議員ハ誘拐サレ、或ハ其身邊ヲ脅
カサレテ居ルノデアル、大體帝都治安ノ衝
ニ當ル所ノ警視總監ハ言フ迄モナク親任待
遇ヲ辱フシテ居ル、隨テ其人選ハ特ニ細心
ノ注意ヲ拂シテ任命ヲシナケレバナラヌト
云フコトハ言フヲ俟タザル所デアル、然
ルニ現總監宮田光雄君ノ福島縣知事タリシ
當時ノ行動ハドウデアッタカ、彼ガ福島縣知
事デアッタ時、卽チ大正八年ニ行ハレタル全
國府縣會議員選擧ノ行ハレタル時ニ當ッテ、
彼ハ只見川水利權ノ問題ニ付テ二十万圓ノ
賄賂ヲ收受シタノデアル、而シテ其收受シ
タル賄賂ヲ以テ候補者ヲ買收:
〔「賄賂トハ何ダ」ト呼ヒ其他發言スル
者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=109
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110・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=110
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111・小俣政一
○小俣政一君(續) 其牧受シタル二十万圓
ノ金ヲ以テ候補者及議員ヲ買收ヲシタ事實
歴然トシテ居ルノデアル、御承知ノ通リ福
島縣ハ河野磐州翁ノ開拓ニ依テ、縣會ノ分
野ハ常ニ舊憲政系ガ絕對多數ヲ占メテ居ッ
タノデアル、然ルニ宮田光雄君ガ久保田金
四郞ヲ警察部長トシテ、此宮田知事ト久保
田警察部長ガ共謀ヲシテ、議員ノ買收切崩
シヲ爲シテ、一舉ニシテ福島縣會ハ政友會
絕對多數黨タラシメタル事實ガアルノデア
ル、斯ル人物ヲシテ帝都治安ノ衝ニ當ラシ
ムルト云フノハ、帝都ノ治安ガ維持サレナ
イ所以デアルト思フノデアル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=111
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112・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 小俣君-小俣
君-議長ハ質疑者ノ質疑ヲ制限スル意思
ハアリマセヌケレドモ、此議題ニ卽シテ質
問アランコトヲ望ミマス、今暫ク聽イテ居
リマスガ、併ナガラ餘リ議題ト離レマスト
制限スルコトアルベキコトヲ豫告シテ置キ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=112
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113・小俣政一
○小俣政一君(續) 惟フニ國家ノ治安ヲ維
持シ、皇國ノ基礎ヲ危フカラシメザル最モ
重大ナ問題ハ、捜査機關ノ公正ナル發動ニ
俟タナケレバナラヌト思フノデアル(拍手)
然ルニ捜査機關ノ第一線ニ立ツ所ノ警察機
關ハ警視廳ヲ初トシテ、全國ノ警察機關
悉ク賴ムニ足ラズトセバ、國家ノ治安ハ何
レニ依テカ求メラレルデアリマセウカ拍
手)搜査機關ノ中デ憲兵ト云フ機關ハ、姑ク
玆ニ措クトスルモ、此場合ニ於キマシテハ、
國民ハ單リ司法權ヲ賴ミトスルノデアル、
然ルニ其司法權ノ威信ガ疑ハレ、檢事局ノ
政黨化ガ叫バレルニ至ッテハ、國民ノ自由
ト權利ハ何レニ依テ保障サレルデアラウカ
(拍手)斯ノ如キ狀勢ニモ拘ラズ、政府ハ唯
本法ノ制定ニ依テ治安ヲ維持シ得ルト思ハ
レルデアラウカ、原法相ハ司法權ノ獨立、
檢察制度ノ改善ニ御熱心デアルト承知シテ
居ルガ、檢事局ノ政黨化ト云フ非難ニ對シ
如何ナル考ヲ有セラレルノデアルカ、本員
ハ檢事局ノ政黨化ヲ疑フモノデアル、原法
相ハ本員竝ニ世ノ疑惑ヲ一掃スル爲ニ、誠
意アル御答辯ヲ願ヒタイ、然ラバ何故ニ檢
事局ノ政黨化ヲ疑フニ至レルカ、本員ハ具
體的事實ニ付テ法相ニ御尋ヲスルノデア
ル、唯議論バカリデハ原法相ハ御納得ニナ
ラヌデアラウト思ヒマスカラ、我輩ハ具體
的ノ事實ヲ指摘致シマシテ、檢事局ガ政黨
化シテ居ルカ居ラヌカト云フコトヲ御尋ス
ルノデアル、昨年ノ二月行ハレタル衆議院
議員ノ選舉ニ方ッテ、此選擧取締、選舉違反
ニ對スル司法權ノ發動ガ公正デアッタカド
ウカヲ御尋スルノデアル、先ヅ其事實ヲ一
二例ヲ引イテ申上ゲマスナラバ、世間デハ
斯ウ云フコトヲ言フテ居ル、鈴木喜三郞君
ト關係ノアル鳩山一郞君ノ系統ニ屬スル者
ニ對シテハ、司法權ノ發動ガ及バナイト世
間ハ言フテ居ルノデアル(拍手)卽チ其例ヲ
申スナラバ、東京府第一區カラ立候補シタ
所ノ鳩山君ノ直系デアル所ノ本田義成ト云
フ候補者ガアッタノデアルガ、是ガ選擧違反
ノ事實ガ歷然タルノデアル、東京地方裁判
所ニ於テハ宮里ト云フ檢事ガ主任トナッテ
違反事實ニ付テ、的確ナル調査ヲ進メタル
所、鳩山君ノ系統デアルガ爲ニ、本田君ノ
選擧違反ノ衝ニ當ノタ宮里檢事ハ、突如トシ
テ濱松區裁判所へ逐ハレタノハドウデアル
カ、又山梨縣ヨリ立候補シタル大崎〓作君
ノ買收事實ニ付キマシテ、甲府地方裁判所
ノ檢事正ハ、的確ナル事實ヲ握シテ居ル、而
シテ之ヲ起訴スベキ意見ヲ持ッテ居ッタニモ
拘ラズ、此甲府地方裁判所ノ檢事正ハ、突
如トシテ轉所ヲ命ゼラレタノハ如何ナル理
由デアルカ
〔「治安維持法ト何ノ關係ガアルカ」ト
呼ヒ其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=113
-
114・清瀬一郎
○副議長(〓瀨一郞君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=114
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115・小俣政一
○小俣政一君(續) 本員ノ質問スル所ハ、
治安維持ト最モ重大ナル關係ヲ有スル所ノ
具體的問題ニ付テ、御尋ヲスルノデアル-
先日政府不信任案問題ガ提出セラレタル場
合、鳩山一郞君ハ政府委員席ニ居ラレテ、
本員ニ對シ暴言ヲ吐イタノデアル-又目
下展開シテ居ル所ノ東京市ノ疑獄事件ニ對
スル所ノ檢事局ノ行動ハ政略的ニ行ハレ
テ居ハシナイカ、本員ハ〓罪ニ依テ過般奇
怪千萬ニモ、刑務所ニ八十一日間收容ヲセ
ラレタノデアルガ、〓罪ニ依テ斯樣ナル取
扱ヲ受ケタコトガアル-其際東京地方裁
判所ノ渡邊檢事ナルモノガアルガ、此渡邊
檢事ハ鈴木喜三郞君ノ御聲掛リデ、田舎カ
ラ東京地方裁判所へ昇格ヲシタ人デアル
ガ、此渡邊檢事ガ言明シタ洵ニ奇怪千萬ナ
言ガアル
〔「何モ關係ガ無イヂヤナイカ」ト呼ヒ
其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=115
-
116・小俣政一
○小俣政一君(續) 大關係ガアル-此渡
邊檢事ト云フモノガ、本員ニ向ッテ言明シ
タコトガアルガ、其言葉ガ頗ル奇怪千萬デ
アリマスカラ、原法相ノ御答ヲ願フノデア
ルガ、ドウ云フコトヲ言ハレタカト云フト
其渡邊檢事ノ言フノニハ
〔〓瀨副議長議長席ヲ退キ元田議長復
席
近藤達兒君、國枝捨次郞、伊藤仁太郞等ハ、
金錢收受ノ關係ヲ明白ニ自白シテ居ルノデ
アルガ、何故オ前ダケハ强情ヲ張ルノデア
ル、オ前モ必ズ近藤ヤ國枝、或ハ伊藤ト同ジ
ヤウニ、金ヲ取ッタノデアラウト云フコト
ヲ、獨斷デ責メタノデアル-
〔「治安維持ト關係ガ無イ」ト呼ヒ其他
發言者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=116
-
117・小俣政一
○小俣政一君(續) 治安維持ト大關係ガア
ル-又江東靑物市場ノ疑獄ノ中心人物ハ
曾田由太郞ト云フ者デアルガ、此增田由太郞
ガ召喚ヲセラレル前日、司法省參與官磯部
尙君ガ噌田由太郞ヲ訪問ヲシテ、長時間ノ
打合ヲシタル事實ガアルノデアル、而モ磯
部君ハ檢事局ヲ屢〓訪問ヲシテ、自分ハ取
調ヲ受ケタコトハナイ、火ヲ放ケニ來ルノ
デアルト、或人ニ言明ヲシタノデハナイカ
(拍手)果シテ然ラバ此市ノ疑獄ノ裏面ニ
ハ政府竝ニ與黨ガ策動シタコトハ爭フベ
カラザル事實デアル-尙ホ原法相ニ御尋
スルコトガアルガ、所謂刑事訴訟法ノ手續
ニ付テ御尋ヲスルノデアル、江東靑物市場
疑獄ノ中心人物デアル所ノ增田由太郞ガ、
保釋中自殺ヲ企テタルコトガ新聞紙上ニ報
道セラレテ居ル、斯ノ如キ場合ニハ刑事
訴訟法ノ手續トシテ、罪證堙滅ノ虞アルモ
ノトシテ、當然保釋ヲ取消サナケレバナラ
ヌノデアルガ、是ハ如何樣ナル手續ニナッテ
居ルノデアルカ、其當時ノ新聞ヲ私ハ此處
ニ朗讀ヲ致シマス「曾田由太郞氏自殺ヲ企
ツ、小俣代議士豐浦理事ニ申譯ナイト書置
シテ」卽チ曾田由太郞ハ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=117
-
118・元田肇
○議長(元田肇君) 小俣君-小俣君-
小俣君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=118
-
119・小俣政一
○小俣政一君(續) 「市疑獄事件ノ發
展カラ、遂ニ江東靑物市場問題ニマデ及ビ、
前頭取增田由太郞氏ノ牧容カラ、代議士小
俣政一、豐浦市電理事ノ收容ヲ見ルニ至リ、
增田氏ハ先キニ保釋出獄シタガ、二氏ハ引
續キ收容中デ、曾田氏ハ事件發生以來、自己
ノ不德カラ二氏ニ迷惑ヲ掛ケタノガ良心ノ
苛責ニ耐ヘ兼ネ、出獄後ハ只管本所區橫網
町二ノ七ノ自宅ニ引籠ッテ謹愼シテ居タガ、
二三日前家人ノ隙ニ日本刀デ割腹自殺ヲ
圖ッタガ、家人ニ發見サレテ果サナカッタ」
ト云フ事件ガアル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=119
-
120・元田肇
○議長(元田肇君) 議長ヨリ一言致シマ
ス、只今小俣君ハ緊急勅令ニ關係アリトシ
テ質問サレテ居ルサウデアリマス、議長ハ
只今出マシタモノデスカラ-然ルニ緊急
勅令ニ關係ノ遠イ選擧違反ト云フヤウナ事
ニ付テノ御話ガ多イヤウデアリマスノデ、
諸君モ靜肅ニ御聽キヲ願ヒマスト同時ニ、
小俣君モ十分ニ用語ヲ御愼ミニナリ、且ツ
緊急勅令ニ關係ノ無イコトデアレバ、議長
ハ許ス譯ニ行キマセヌ(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=120
-
121・小俣政一
○小俣政一君(續) 其增田由太郞ノ書置ト
云フモノハ小俣竝豐浦ヲ究罪ニ陷レテ申
譯ガナイト書イテアッタ、斯ノ如キ次第デア
ルカラ、本員ハ治安維持法ト一云フモノヲ制
定スル根本精神ナルモノハ、共產主義者ヲ
絕滅ヲシヤウ、國體ノ基礎ヲ安固ナラシメ
ヤウトスルノデアルト信ズルガ爲ニ、唯此
治安維持法ノ制定、ソレノミニ依テ治安ガ
維持セラレルカドウデアルカト云フコトヲ
御尋スルノデアル(拍手)此治安維持法ノ精
神ヲ徹底ヲセシムルノニハ、少クトモ搜査
機關ト云フモノガ、政黨政派ヲ超越シテ活
動ヲシナケレバナラヌト思フノデアル(拍
き然ルニ此捜査機關デアル所ノ··
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=121
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122・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=122
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123・小俣政一
○小俣政一君(續) 檢事局ガ今ヤ政黨化シ
テ居ルト云フコトガ、天下非難ノ的トナッ
テ居ルノデアリマス、何故檢事局ガ政黨化
ヲシテ居ルカト云フ事實ニ付テ御尋ヲスル
ナラバ、先達モ遠藤正次ト云フ者カラシ
テ、要路ノ五大官ヲ告訴シタノニ拘ラズ、
要路ノ五大官ニ向ッテハ何故ニ搜査ノ手ヲ
染メナイノデアルカ(拍手)之ヲシモ尙ホ檢
事局ノ政黨化デナイト言ヒ得ルノ勇氣ガ原
法相ハアルノデアルカドウカ、此點ヲ伺ヒ
タイノデアル(拍手)而モ與黨ノ者ハ、大泥
棒ガアッテモ、如何ナル犯罪者ガアッテモ、
之ヲ檢擧シナイ、、野黨ノ者デアルナラバ、究
罪ニ陷レテモ苦マセヤウト云フヤウナ態度
ヲ執ルニ至ッテハ、甚ダ奇怪千萬デアルト謂
ハナケレバナラヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=123
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124・元田肇
○議長(元田肇君) 小俣君、緊急勅令ニ關
係ガアルダケヲ御述べ下サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=124
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125・小俣政一
○小俣政一君(續) 關係ガアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=125
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126・元田肇
○議長(元田肇君) 緊急勅令ニ關係ノナイ
質問ハ許シマセヌ、一寸議長ヨリ注意致シ
さっ、小俣君ノ發言中ニ或ハ不穩當ノ言葉
ガアリハセヌカト云フコトニ付キマシテ
ハ速記錄ヲ調べナケレバ議長ハ分リマセ
ヌカラ、速記錄ヲ調ベテ相當ノ處置ヲ取リ
マス、而シテ小俣君ハ關係アリト申シマス
ケレドモ、治安維持法ニ直接ノ關係ガナ
〃、又間接ニシテモ甚ダ乏シイヤウニ思七
マスカラシテ、小俣君ニ更ニ御注意申上ゲ
マス、治安維持法ニ關係ノアル點ニ付テ御
質問ヲ進メラレンコトヲ注意シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=126
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127・小俣政一
○小俣政一君(績) 先ヅ以上ノ諸點ニ亙リ
マシテ、原司法大臣ノ御答辯ヲ煩ハシ、其
御答辯ヲ俟クテ更ニ私ハ質問ヲ繼續致スノ
デアリマス
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=127
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128・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス、原司
法大臣
〔國務大臣原嘉道君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=128
-
129・原嘉道
○國務大臣(原嘉道君) 只今ノ小俣君ノ質
問ハ、總テ緊急勅令ニ關係ナイコトヽ思ヒ
マスカラ、本日ハ答辯致シマセヌ(拍手)
〔小俣政一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=129
-
130・小俣政一
○小俣政一君 原司法大臣ハ只今本員ノ質
問ニ對シテ、治安維持法ニ關係ガナイカラ
ト云フ御言葉デアルガ、治安維持法ト直接
密接ノ關係ノアル問題ニ付テ、本員ハ而モ
具體的ノ事實ヲ基礎トシテ御尋ヲシタノデ
アルガ、以上ノ質問ニ對シテ御答辯ガナイ
時ニ於テハ、本員ハ天下民衆ト共ニ、檢事
局ノ政黨化ト云フコトヲ大臣ガ肯定ヲシタ
ト云フコトヲ思フノデアル(拍手)若シ答辯
ヲスレバ宜シ、答辯ガ出來ナケレバ、本員
ノ所謂檢事局ハ政黨化セリト云フコトニ對
シテ、司法大臣答フル所ヲ知ラズト云フコ
トニナルノデアル(拍手)若シ司法大臣答フ
ル所ヲ知ラズトスレバ、卽チ檢事局ノ政黨
化ヲ司法大臣自ラ認メテ居ルノデアル、斯
ノ如クニシテ暗黑政治ガ布カレ、此暗黑政
治ノ下ニ於テ、此勅令ガ幸ニ議會ヲ通過シ
タ所ガ、共產主義者ヲ絕滅スルナドハ愚カ
ノ事、過激思想ノ取締ナドハ、現內閣ノ下
ニ於テハ斷ジテ不可能デアルト云フコトヲ
斷言スル者デアル(拍手)原法相ハ日頃司法
權ノ獨立、檢察制度ノ改善ト云フコトヲ口
ニ叫バレテ居ルノデアルガ、所謂羊頭ヲ掲ゲ
テ徇肉ヲ售ルモノデアル、斯樣ナ者ガ私ハ
大臣ノ椅子ニ居ラレルト云フコトハ、天下
民衆ト共ニ大ニ悲シム者デアルト云フコト
ヲ玆ニ聲明シテ壇ヲ降リマス(拍手)
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=130
-
131・元田肇
○議長(元田肇君) 討論ニ入リマス、齋藤
隆夫君
〔齋藤隆夫君登壇〕
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=131
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132・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニ願ヒマス-各方
面トそ靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=132
-
133・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君 諸君、政府ハ昨年ノ六月二
十九日緊急勅令ヲ發布シテ治安維持法ヲ改
正シ、憲法第八條ニ基イテ議會ノ承諾ヲ求
メテ來タノデアリマス、議會ハ之ニ承諾ヲ
與フベキヤ否ヤ、之ガ只今吾々ノ前ニ提供
セラレテ居ル所ノ問題デアリマス、先程委
員長ガ報告セラレマシタ如ク、委員會二於
キマシテハ一票ノ多數ヲ以テ承諾ヲ與フベ
シト決定致シマシタケレドモ、本員ハ委員
會ノ決議ニ反對シ、承諾ヲ與フベカラズト
主張スル者デアリマス(拍手)吾々ガ本案ノ
審議ヲ爲スニ方リマシテ、主トシテ攻究ス
ベキ問題ハ憲法上ノ觀察デアリマス、勅令
ノ丙容ニ付キマシテモ意見ハゴザイマスケ
レドモ、是ハ今日論ズルノ必要ハ認メマセ
又、ソレ故ニ本員ハ是ヨリ專ラ此見地ニ
立チマシテ、大要卑見ノアル所ヲ述ベテ吾
吾ノ主張ヲ明ニシタイ、固ヨリ本案ハ政黨
政派ニ關係ヲ有スルモノデハアリマセヌ、
憲法ヲ中心トシテ帝國議會ノ權能ニ及ビ、
國民ノ自由權利ニ大關係ヲ有スルモノデア
リマスルニ依テ、吾々ハ此考ヲ以テ本案ノ
討議ニ向ヒタイノデアリマス、尙又本案ハ
我ガ図體ノ變革ヲ目的トスル犯罪者處罰ニ
關スルモノデアリマス、今日何人ト雖モ此
種類ノ犯罪者ヲ處罰スルコトニ付テ反對ヲ
スル者ハアリマセヌ、既ニ吾々ハ三年以前
ニ治安維持法ニ協賛ヲ與ヘマシテ、斯ノ如
キ犯罪者ニ對シテハ相當嚴刑ヲ以テ之ニ臨
ンデ居ルノデアリマス、故ニ問題ハ此種類
ノ犯罪者ヲ罰スルカ罰セナイカト云フコト
デハナイ、如何ナル立法手續ニ依ッテ、又如
何ナル程度ニ於テ之ヲ罰スルノガ、國家社
會ノ大局ヨリ見テ適當デアルカ、之ガ意見
ノ岐ルヽ所デアリマス(拍手)然ルニ世ノ中
ニハ此道理ヲ辨ヘズシテ、唯無條件ニテ緊
急勅令ヲ鵜呑ニスル者ヲ以テ愛國者ノ如ク
ニ思ヒ之ヲ難責スル者ヲ以テ非愛國者ノ
如クニ思フガ如キ、無智無識ノ輩ハ此議場
ニ於テハ一人モ居ラレナイデゴザイマセウ
ガ、廣キ世ノ中ニ於テハ、斯ウ云フ沒分曉
漢モ居ルノデアリマスカラシテ(拍手)本員
ハ此機會ニ於テ彼等ニ向フテ强キ意味ノ警
告ヲ發シテ置キタイノデアリマス、憲法上
ヨリ見レバ、此緊急勅令ハ確ニ憲法違反デ
アリマス(拍手「ノウ〓〓」)緊急勅令ノ性質
ニ付キマシテハ、本員ガ申ス迄モナク諸君
ハ十分ニ御承知デアル、又本員ハ一月二十
二日國務大臣ノ演說ニ對スル質疑ノ際ニ
當ッテ、此問題ニハ論及致シテ置キマシタ
ニ依テ、本日ハ一切繰返ヘスコトハ致シマ
セヌ、(「簡單」「簡單」ト呼フ者アリ)政府ガ
緊急勅令ヲ發布スルニ付テ、第一ニ考ヘネ
バナラヌコトハ所謂緊急ノ必要ト云フコ
トデアリマス、卽チ公共ノ安全ヲ保持スル
ガ爲ニ、緊急ノ必要ガ目前ニ迫ッテ居ルヤ
否ヤ之ヲ第一ニ考ヘネバナラヌコトハ申ス
迄モナイコトデアル、此要件ヲ充シテ居レ
バ宜シ、若シ是ニ反シテ此要件ニ缺クル所
アリマシタナラバ、其勅令ハ違憲ノ勅令ト
言ハザルヲ得ナイノデアル、是ニ於テ吾々
ハ委員會ニ於テ、先ヅ此點ニ付テ政府ノ說
明ヲ求メタ所ガ、之ニ對スル原司法六臣ノ
答辯ハ知名ノ法律家ニ似合シカラザル、
極メテ漠然タルモノデアリマシテ、吾々ヲ
承服セシムルニ足ルベキ何等ノ根據ハナイ
ノデアル、先ヅ第一ニ政府ハ何時頃緊急ノ
必要ヲ認メタノデアルカ、卽チ昨年開レタ
ル所ノ特別議會ノ開會前デアルカ、又開會
中デアルカ、或ハ閉會後デアルカト尋ネ
マシタ所ガ、之ニ答ヘテ曰ク、特別議會關
會後、六月十二日卽チ緊急勅令案ヲバ樞密
院ニ提出シタル其日ニ於テ、初メテ緊急ノ
必要ヲ認メタノデアルト答ヘラレタ、然ラ
バ其日ニ於テ突如トシテ緊急ノ必要ト認ム
ベキ事實が起ッタノデアルカト云フト、サウ
デハナイ、特別議會閉會後ニ於テ、色ニノ
事實ガ起ッタニ依テ、ソレ等ノ事實ヲ綜合シ
テ最後ノ六月十二日ニ於テ、初メテ緊急ノ
必要ヲ認メタノデアルト答ヘラレル、然ラ
バ其事實トハ何デアルカト云ヘバ、大體二
ツアルノデアリマス、第一ハ昨年檢舉セラ
レタ所ノ共產黨ノ殘類等ガ、マダ捕縛ニ就
カナイ者ガアリマシテ、ンレ等ノ者ガ依然
トシテ活動ヲ繼續シテ居ルト云フ事實ガ
分ッテ來タト云フノデアル、是ガ何デ緊
急勅令發布ノ理由ニナリマスカ、政府ノ說
明ニ依レバ、大正十五年十二月四日、彼ノ
共產黨ノ一類ハ山形縣五色溫泉ニ會合シ
テ、初メテ共產黨ノ組織ヲシタノデアル、
ソレカラシテ一年ト三箇月ノ後、卽チ昨年
ノ三月十五日ニ全國ニ亙シテ一齊ニ檢擧ヲ
致シタノデアル、併シ其當時ニ於テ一人モ
殘ラズ檢擧セラレタノデハナイ、其中ノ或
者等ハ檢擧ニ漏レテ逃亡シテ活動ヲ繼續シ
テ居ッタト云フコトハ、其當時カラシテ政
府ニハ分ッテ居タノデアル、現ニ昨年ノ特
別議會中ニ開カレタル治安維持法改正ノ委
員會ニ於テ、原司法大臣ハドウ云フコトヲ
言ウテ居ルカト云フト、共產黨ノ首腦者等
ガ全部收監セラレテ居ルカト云フニ、決シ
テサウデハナイ、是等ノ者ハ益、其目的ノ
遂行ニ進ミツヽアルト云ブノガ現在ノ有樣
デアル、昨年ノ特別議會関會中ニ於テ、既
ニ原司法大臣ハ斯ノ如キ言明ヲ爲シテ居
ル、之ヲ以テ見テモ其當時カラシテ、其首
腦者ノ或者等ガ檢擧ニ漏レテ、其目的ノ達
成ニ向シテ進行シテ居ル、卽チ活動ヲ續ケテ
居ッタト云フコトハ政府ニ於テハ分クテ居
タノデアリマス、又是ガ分ッタ以上ハ、之ヲ
檢擧スルニ於テ、決シテ政府ハ怠クテハ居ラ
ナイ、旣ニ是等ノモノハ檢擧セラレテ今ハ
收監サレテ居ルノデアリマス、然ルニ斯ノ
如キ事實ガ因ニナッテ、公共ノ安全ガ危殆ニ
迫リ、緊急勅令ヲ發布セネバナラヌ所ノ事
態ガ起ァテ來タトハ、天下何人ト雖モ想像
スルコトハ出來ナイノデアル、第二ハ何デ
アルカト云フト、露西亞ニ在ル所ノ共產黨
大學、此共產黨大學ニ居ル所ノ日本ノ留學
生ヲ第三「インターナシヨナル」ガ續々日本
ニ歸朝セシメテ、我國ニ於ケル共產黨組織
擴大ニ從ハシムルト云フ、此情報ガ政府ニ
達シタト云フノデアル、一體サウ云フ情報
ハ何時何處カラ來テ政府ニ達シタノデアル
カ、又其內容ハ如何ナルモノデアルカト
問ヘバ政府ハソレハ答ヘルコトガ出來ナ
イト云フノデアル、ソコデ其共產大學ニハ
日本ノ留學生ガ幾名位居ルノデアルカト云
ヘバ確カニハ分ラヌガ約四十名バカリ居
ル、其中ノ二十名バカリガ昨年ノ五月ヨリ
七月ニ亙ッテ日本ニ歸ッテ來タト云フ、唯是
ダケノコトデアリマス、諸君ハ之ヲ聞イテ
如何ニ考ヘラレルノデアリマスカ、僅カ二
十名バカリノ共產主義ニカブレテ居ル所ノ
書生等ガ、日本ニ歸ッテ來ルト云フ、是ガド
レダケノ大事件デアルカ、又斯ノ如キコト
ガ分ッタ以上ハ、日本ノ警察機關ハ之ニ對シ
テ相當ノ準備ヲ爲シタニ相違ナイ、國境ニ
於テ彼等ヲ捕縛スルコトニ付テ手落ノアル
譯ハナイ、又現ニ彼等ノ多數ハ既ニ捕縛セ
ラレテ今ハ收監サレテ居ルノデアリマス、
此位ナ事情ガ因ニナッテ公共ノ安全ガ危殆
ニ陷リ、緊急勅令ヲ發布シテ十年ノ體刑ヲ
一躍シテ死刑ト改ムルニアラザレバ之ヲ
豫防スルコトガ出來ナイト云フコトハ、是
亦何人ト雖モ想像スルコトノ出來ルコトデ
ハナイノデアリマス(拍手)更ニ政府ハ委員
會ノ最後ノ日ニ於テ「緊急勅令必要ノ理由」
ト題スル文書ヲ吾々ニ元シタ、是ハ最前委
員長ガ御朗讀ニナリマシタニ依テ、本員ハ
之ヲ省キマス、此文書ヲ見マスト、昨年ノ
五月十九日ヨリ六月ノ十一日ニ至ル此間ニ
於テ、地方長官ヨリノ報告、一派ノ共產主
義者等ガ我國ニ於テ爲シタル行動ガ列記シ
テアルノデアリマス、併シ是ハ何モ昨年ノ
五月カラシテ六月ニ掛ケテ初メテ現レタ所
ノ事實デハナイ、現ニソレヨリ先ニ吾々ノ
手許ニ配付セラレマシダ所ノ政府ノ參考書
類第一ハ露西亞ノ第三「インターナシヨ
ナル」ノ日本ニ對シテ活動スル〓況ト題ス
ル文書及共產黨事件ノ第一審判決ノ〓要デ
アリマス、此二ツノ文書ヲ見マスルト云フ
↑、玆ニ記載セラレテ居ルガ如キ事實ハ
是等ノ文書ノ中ニ現レテ居ルノデアル、別
ニ是等ノ事實ガ五月カラ六月ニ掛ケテ初メ
テ現ハレタモノト思料スルコトハ出來ナイ
ノデアリマス、又最後ニ於テ原司法大臣ハ
昨年ノ御大典ヲ引用シテ緊急効令發布ノ理
由ニ供サレテ居ルノデアリマスルガ、是ハ
政府トシテモ非常ナ考違ヒデアルノミナラ
ズ、何方カト言ヘバ不謹愼ノ甚シキモノデ
アル、昨年ノ御大典ニ當リマシテハ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=133
-
134・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=134
-
135・齋藤隆夫
○齊藤隆夫君(續) 昨年ノ御大典ニ當リマ
シテハ、我ガ國民ハ最モ忠誠ノ意ヲ表シ、極
メテ嚴肅ニ御大典ヲ迎ヘタコトハ諸君御承
知ノ通リデアル、現ニ田中首相モ一月二十
二日此ノ所ニ於テ施政ノ方針ヲ述ベラレタ
ル劈頭ニ於テ此事ニ言及セラレテ居ル、卽
チ「我皇室及國家ノ盛儀ニ際シテ遺憾ナク我
全國民ヲシテ尊皇愛國ノ精神ヲ發揮セシメ、
國體ノ精華ヲ顯揚シマシタコトハ諸君ト共
ニ慶賀措ク能ハザル所デアル」ト、斯ノ如
ク我ガ國民ハ擧ッテ此御大典ニ對シテハ最
モ誠意ヲ披瀝シテ之ヲ迎ヘテ居ッタノデア
ル、然ルニ緊急勅令ヲ發布シテ、所謂武裝
ヲシテ此御大典ヲ擧行シタト云フニ至ンチ
ハ、實ニ國民ヲ侮辱スルモ亦甚シイモノデ
アリマス
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=135
-
136・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=136
-
137・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) 故ニ〓後政府ガ此緊急
勅令ヲ說明スルニ當リマシテモ、斯ノ如キ
理由ハ斷ジテ述ベテハナラヌ、又今後此壇
上ニ立タルヽ所ノ賛成論者モ斯ノ如キ理由
ヲ以テ緊急勅令ヲ維持セラルヽコトハ控へ
ラレルガ宜カラウト思ヒマス、要スルニ斯
ノ如キ次第デゴザイマシテ、政府ガ緊急勅
令ヲ發布シタル理由トシテ述ブル所ノ根據
ハ極メテ薄弱デアリマシテ、吾々ヲ承服セ
シムルニ足ルモノハ一ツモ無イノデアリマ
ス、殊ニ昨年ノ特別議會以前ニ於テハ其必
要ガ無カッタ、特別議會閉會後ニ於テ初メテ
其必要ヲ感ジタト云フニ至ッテハ、益〓以テ怪
シカラヌ所ノ言草デアルト思フ、先程申シ
マシタル如ク、昨年ノ三月十五日ニ彼ノ共
產黨ヲ檢擧シ、之ガ本トナッテ治安維持法ノ
改正ヲ特別議會ニ提出シ、其委員會ニ於テ
原司法大臣ハ何ト申シテ居ルカト云フト、治
安維持法ノ改正ハ日本國家ノ爲ニ一日モ捨
置キ難キ緊急事デアルト云フコトヲ言ウテ居
ル然ルニ今日ニナルト全然其言ヲ飜シテ、
昨年ノ特別議會開會中ニ於テハ治安維持法
改正ノ必要ハ認メテ居タタレドモ、緊急ノ
必要ハ認メナカッタノデアル、緊急ノ必要ヲ
認メタノハ特別議會閉會後約四十日ヲ過ギ
タル六月ノ十二日ニ於テ初メテ之ヲ認メタ
ト云フニ至ッテハ、其虚妄ナルコト三歲ノ童
子ト雖モ欺クコトハ出來ナイノデアル、
體政府ハ何故ニ斯ノ如キ無理ナル理窟ヲ附
ケテ居ルカ、何故ニ斯ノ如キ處妄ノ理由ヲ
述ブルノデアルカト云フト、其心底ハ明ニ
讀メテ居ルノデアリマス、ソレハ何デア
ルカト云フト、御承知ノ如ク緊急勅令ノ根
本トナルベキ事實ハ、少クトモ前議會閉會
後ニハ現レタノデナクテハナラヌ、前議會
開會前若クハ開會中ニ現レタモノナラバ
其議會ニ於テ通常ノ立法手續ニ依テ此目的
ヲ達セネバナラヌ、又會期ガ足ラナカッタナ
ラバ之ヲ延長シテ以テ其議案ノ運命ヲ決セ
ネバナラヌノデアル、然ルニ政府ハ其手續
ヲ誤ッタモノデアリマスルカラ、今日ニ至ッ
テ緊急勅令ノ根本トナルベキ事實ハ前議
會ノ閉會前ニ起シタト云フコトハ言ヘナイ
ヤウニナッテ來タ、次ニ閉會後ニ直ニ起ッタノ
デアルカト言ヘバ、然ラバ何故ニ閉會後四
十日間モ之ヲ放任シテ置イタノデアルカト
責メラレルモノデアルカラ、是モ言ヘナイ
ヤウニナッタ、此處デ最後ノ窮策トシテ、特別
議會閉會前デハナク、又閉會直後デモナク、
閉會後四十日ヲ過ギタ六月十二日ニ於テ初
メテ緊急ノ必要ヲ認メタト云フガ、實ニ荒
唐無稽ノ妄說ヲ作ッテ此衆議院ヲ欺カント
スルノデアル、斯ノ如キコトニ欺カルヽモ
ノガ一人デモアッタナラバ、衆議院ノ一大恥
辱デアリマス(拍手)更ニ此點ニ付キマシテ
樞密院ニ現レタル意見ニ付テ一言述べテ置
キタイコトガマリマス、御承知ノ如ク樞密
院ノ議事ハ是迄祕密ニ附セラレテ吾々ハ之
ヲ知ルコトガ出來ナカッタノデアリマス、然
ル所カ此緊急勅令ノ審議ニ當リマシテハ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=137
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138・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニナサイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=138
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139・齋藤隆夫
○齊藤隆夫君(續) 如何ナル方法ニ依リタ
ルモノカハ知リマセヌガ、樞密院ニ於ケル
緊急勅令案審議ノ模樣ハ、新聞紙ヲ通シテ
大體吾々ノ前ニ現レテ來タノデアル、之ニ
依テ吾々ハ樞密院諸公ガ緊急勅令案審議ニ
當ッテ抱カレテ居ル所ノ憲法及政治上竝ニ
其態度ヲ知ルコトガ出來タノハ非常ニ愉快
ニ思フノデアリマス、御承知ノ如ク緊急勅
令案ハ樞密院ニ於キマシテハ賛否兩論者
ガ寶ニ十八日間審議ヲ凝シテ、最後ニ於テ
國務大臣ガ總動員ヲ爲シテ、採決ニ加ハリ、
以テ之ヲ通過セシメタコトハ請君御承知ノ
通リデアリマス、而シテ樞密院ニ於キマシ
テ議論ノ焦點トナリマシタモノハ矢張緊
急ノ必要ト云フコトデアッタノデアル、然ル
ニ此點ニ關スル政府ノ說明ハ、反對論者ヲ
承服セシムルコトガ出來ナカッタノミナラ
ズ、賛成論者ト雖モ、一人トシテ之ニ滿足
スルモノガナカッタト云フコトハ、實ニ奇怪
千萬ノ至リデアリマス(拍手)賛成論者トシ
テ最モ有力ナル顧問官ノ意見ヲ見マスト
斯ウ云フコトガアル、今日斯ノ如キ勅令ヲ
發布スベキ緊急ノ必要ハ絕對ニ認メルコト
ガ出來ナイ、出來ナイノミナラズ、之ヲ次
ノ通常議會ヲ待ッテモ決シテ遲クバナイノ
デアル、併ナガラ政府ガ旣ニ高等政策トシ
テ提出ヲシタ以上ハ、若シ之ニ反對ヲスル
ト云フコトニナルト、外部ニ對シテ責任ヲ
負ハナイ所ノ樞密院ガ、政府ノ施設ニ關與
スルコトヽナルカラ、已ムヲ得ズ之ニ賛成
スルモノデアルト云フコトヲ言ッテ居ル(拍
手)是ハ何タル不合理千萬ナルコトデアル
カ、本員ハ斯ノ如キ意見ヲ有セラレル樞密
顧問官ニ對シテ、緊急勅令案審議ニ先ノテ先
以テ樞密院ノ權能ヲバ〓究セラレタイト言
ヒタイノデアリマス、樞密院ハ善クモ惡クモ
憲法上ノ機關デアリマス、憲法上獨立ノ機
關デアリマス、而シテ此權能ハ憲法及官制
ニ於テ認メラレテ居ル、政府ノ左右シ得ベ
キモノデハナイ、又此權能ヲ發揮スルコト
ガ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=139
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140・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=140
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141・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) 樞密院本來ノ使命デ
アッテ、此權能ヲ抛棄シタナラバ、樞密院存
在ノ理由ハナクナッテシマフノデアル、而シ
テ此權能ノ上ニ立ッテ眺メマシタナラバ、樞
密院ガ緊急勅令案ヲ審議スルニ當ステ、何ヨ
リ先ニ考ヘネバナラヌコトハ憲法上ノ要件
デアル、是ガ最モ大切デアル、其外ノ何モ
ノヨリモ大切デアリマス、之ヲ外ニシテ其
事ガ政府ノ高等政策ニ屬スルヤ否ヤ、或ハ
之ニ反對ヲシタナラバ、政府ノ政策ヲ阻止ス
ルコトニナルヤ否ヤ、斯ノ如キコトハ、第
二、第三ニ考フベキコトデアッテ、決シテ第
一ニ考フベキコトデハナイノデアル(拍手)
若シ之ニ囚ハレテ、政府ノ政策ヲ妨ゲルコ
トヲ恐レテ、憲法上ノ要件ヲ捨テヽ顧ミナ
イト云フコトデアッタナラバ樞密院ハ政府
ノ從屬機關トナッテ、憲法上ノ獨立機關タル
權能ヲ失ッテシマフノデアル、又樞密院ハ外
部ニ對シテ責任ヲ負ハナイト云フ、是ハ當
然ノ事デアリマス、併ナガラ是ハ樞密院自
體ノ責デハナイ、制度其モノヽ罪デアッテ、
樞密院ノ罪デハナイ、故ニ是ガ惡イト云フ
ナラバ、樞密院ノ制度ヲ改革スル理由ニハ
ナルガ、樞密院自體ノ權能ヲ制限スル理由
ニハナラナイノデアリマス、或ハ緊急勅令
案ニ反對スルノハ施政ニ關與スルコトヽナ
ルト云フガ、緊急勅令案ノ反對ハ決シテ政
府ノ施設ニ關與スルノデハナイ、若シ反對
ヲスレバ政府ノ施政ニ關與スルコトヽナル
ト云ッテ、反對ヲスルコトガ出來ナイトスル
ナラバ、樞密院ハ緊急勅令ノ審議ニ當ッテ、
抑、何ヲ爲サントスルノデアルカ、樞密院ノ
スル事ハナクナッテシマアノデアリマス、更
ニ憲法ノ起草ニ深キ關係ヲ有シテ居ラレル
所ノ或ル顧問官ノ意見ヲ見マスト斯ウ云
フ事ガ書イテアル、緊急ノ必要ガアルカ、
ナイカト云フコトハ是ハ政府ノ所見ニ一
任スベキモノデアッテ、樞密院ガ自ラ進ンデ
審査スベキモノデハナイ、旣ニ政府ガ高等
政策ノ必要カラシテ、緊急ノ必要アリト認
メテ之ヲ提案シタ以上ハ樞密院ハ之ニ向シ
テ進ンデ贊成ヲシナケレバナラヌ、是ガ憲
法第八條ノ精神デアルト共ニ、憲法ヲ起草
セラレタル處ノ伊藤公ノ見解デアルト、斯
樣ニ述ベテ居ラレルノデアリマス、是ハ非
常ナル間違デアリマス、伊藤公ハ彼ノ權威
アル所ノ憲法義解ニ於テ左樣ナ見解ハ少
シモ述ベテ居ラレナイノミナラズ切々ト
シテ緊急勅令ノ濫用ヲ戒メラレテ居ラルヽ
ノデアル、若シ緊急ノ必要ハ政府ノ所見ニ
一任シテ、樞密院ハ之ニ容喙スベキモノデ
ナイトスルナラバ緊急勅令案ノ審議ニ方ッ
テ、樞密院ハ抑、何ヲ爲サントスルノデア
ルカ、緊急必要ノ有無ヲ外ニシテ、樞密院
ノ爲スベキ仕事ハナクナッテシマフノデア
リマス、又斯ノ如ク緊急ノ必要ノ有無ヲバ
政府ノ所見ニ一任シテ樞密院ガ容喙スベ
キ
〔此時發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=141
-
142・元田肇
○議長(元田肇君) 並発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=142
-
143・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) モノデナイトスルナラ
樞密院ハ何ガ故ニ一昨年前內閣ガ提出
シタル彼ノ財界救濟ノ緊急勅令案ニ反對
ヲシタノデアルカ曩ニハ財界ノ救濟ハ緊
急ノ必要ナシトシテ反對ヲシテ置キナガ
ラ後ニハ緊急必要ノ有無ハ政府ノ所見ニ
一任スルト言ウテ之ニ贊成ヲスル斯ノ如
ク最モ重要ナル論點ニ付テ、前後矛盾ノ意
見ヲ立ツルニ至シテハ、樞密院ガ國民疑惑ノ
焦點トナルノモ亦已ムヲ得ヌノデアリマス
(拍手)斯ノ如キ次第デアリマシテ、憲法上
ノ要件デアリマスル所ノ緊急ノ必要ト云フ
事ニ付テハ、政府ノ說明ハ樞密院全體ヲ滿
足セシムルコトノ出來ナカッタト同ジク、衆
議院ニ於ケル吾々ヲモ承服セシムルコトハ
出來ナイノデアル斯ノ如キ次第デアリマ
シテ、此勅令案ハ憲法上ノ最大要件ヲ缺イ
テ居ルモノデアッテ、全然違憲ノ勅令デアル
ト云フコトヲ、先以テ玆ニ言明致シテ置キ
マス(拍手)次ニ論ゼネバナラヌ事ハ政府
ガ此問題ノ爲ニ臨時議會ヲ召集シナカッタ
コトデアリマス、先程申シマシタ通リニ、
政府ハ昨年ノ特別議會ニ治安維持法ノ改正
案ヲ提出シマシタケレドモ、議會ハ之ヲ審
議スルノ時日ガナクシテ終了致シタノデア
リマス、斯ノ如キ場合ニ於キマシテハ政
府ハ議會ノ延長ヲ奏請シナクテハナラヌニ
拘ラズ、政府ハ此手續ヲ誤ッタト云フコト
ハ何ト言フテモ政府ノ過チデアリマス
(拍手)旣ニ第一ノ過チヲ爲シタル以上ハ、
第二ノ過チヲ爲サナイコトニ注意シナクテ
ハナラナイ、然ルニ政府ハ第一ノ過チニ懲
リズシテ、更ニ第二ノ過チヲ爲シテ居ル、
ソレハ何デアルカト言ヘバ、卽チ此問題ノ
爲
〔此時發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=143
-
144・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=144
-
145・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) 臨時議會ヲ召集シナ
カッタ事デアリマス、先程申シマシタル如
ク昨年ノ特別議會ニ治安維持法ノ改正案
ヲ提出シテ、特別議會閉會後樞密院ニ提出
スル迄ノ間ニ於テ約四十日アル又樞密院
ニ於テ十八日ノ時日ヲ費シテ居ル、前後合
シテ五十有餘日、斯ノ如キ緩漫ナル態度ヲ
執ッテモ差支ナイ性質ノモノデアルナラバ、
何ガ故ニ臨時議會ヲ開イテ立法ノ常道ヲ踏
マナイノデアルカ斯ノ如キ場合ニ處スル
ガ爲ニ、憲法ハ臨時議會召集ノ途ヲ開イテ
居ルノデアリマス、卽チ憲法第四十三條ニ
於キマシテハ「臨時緊急ノ必要アル場合ニ
於テ常會ノ外臨時會ヲ召集スヘシ」斯ノ如
ク規定致シテゴザイマシテ、臨時議會ヲ開
クコトハ政府ノ義務デアル憲法ハ政府ニ
向ッテ臨時議會ヲ開クベシト命令シテ居ル、
臨時緊急ノ必要アル場合ニ於テ臨時議會ヲ
開クコトハ憲法ニ對スル政府ノ義務デア
ルニ拘ラズ、政府ハ臨時議會ヲ開カナカツ
タト云フコトハ何トシテモ政府ノ手落デ
アル、之ニ關シテ政府ヲ代表シタル原司法
大臣ハ非常ニ誤ッタ意見ヲ持テ居ラルヽ
ノデアル、ソレハ何デアルカト云フト、詰
リ憲法第七十條ト第八條ノ關係デアリマ
ス憲法第七十條ニ於テ所謂財政上ノ必要
處分ヲ爲ス場合ニ於キマシテ「議會ヲ召集
スルコト能ハサルトキ」ト云フ文字ガアル
故ニ財政上ノ必要處分ヲ爲ス場合ニ於テ
ハ議會ヲ召集スルコトガ出來ナイ場合ハ
勿論、假令召集スルコトガ出來ル場合ニ於
テモ、之ヲ召集スルノ時日ナキ場合ニ限ラ
レルケレドモ、憲法第八條ニ於テハ斯ウ云
フ規定ハナイ、卽チ「議會ヲ召集スルコト
能ハサルトキ」ト云フ文字ハナクシテ、之
ニ代ユルニ「議會閉會ノ場合」トアル、故ニ
議會閉會ノ場合デアルナラバ臨時緊急ノ
必要ガ起ッテモ、別ニ臨時會ヲ召集スル必要
ガナイト云フノガ原司法大臣ノ見解デアル
ノデアリマス、併ナガラ是ハ非常ニ誤シテ
居ル所ノ解釋デアリマス、原司法大臣ハ民
法學者デアルカラ、民法ヤ商法ナラバ斯ノ
如キ解釋ヲ許スカハ知ラナイガ、憲法ハ斯
ノ如キ機械的ナ、斯ノ如キ皮相ノ見解ハ許
サナイノデアル、憲法ノ裏ニハ立憲政治ノ
大精神ガ流レテ居ルノデアリマス、故ニ此
ノ大精神ヲ看破セズシテ、唯條文ノ字句ニ
拘泥シテ、憲法ノ正解ヲ求メントスルガ如
キハ誤リノ大ナルモノデアル立憲政治
ノ精神トハ何デアルカ、國民代表者ノ承諾
ヲ得ズシテ國民ノ自由權利ヲ拘束スベカラ
ズ、是ガ立憲政治ノ精神デゴザリマシテ、
此精神ハ憲法第五條ニ明記セラレテ居ルノ
デアル、卽チ「天皇ハ帝國議會ノ協贊ヲ以
テ立法權ヲ行フ」
〔此時發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=145
-
146・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=146
-
147・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) 故ニ苟モ國民ノ自由權
利ヲ拘束スル所ノ立法事項ヲ果スニ付キマ
シテハ帝國議會ノ協賛ヲ經ネバナラヌノ
デアル、唯已ムヲ得ナイ場合ノミニ限シテ
緊急勅令ヲ發スルコトガ出來ルノデアル
絕對ニ議會ヲ召集スルコトガ出來ナイ、若
クハ議會ヲ召集スルコトハ出來テモ、若シ
ソレヲ待ッテ居ッタナラバ公共ノ安全ヲ
保ツコトガ出來ナイト云フ、此場合ニ限ッテ
緊急勅令ガ許サレルモノデアッテ、苟モ議
會召集ノ餘裕アル場合ニ於テハ、議會ヲ召
集シテ通常ノ立法手續ヲ踏ムベク、デ緊急勅
令ノ權道ヲ踏ムベキモノデナイト云フノガ
憲法第八條ノ精神デアッテ、又最モ正當ナ
ル解釋デアルト本員ハ確信シテ居ルノデア
リマス、假ニ原司法大臣ノ解釋ガ正當デア
ルトシテモ、臨時議會ヲ開イテ惡イト云フ
コトハナイノデアル憲法ハ臨時議會ノ召
集ヲ禁止シテ居ルノデハナイ、故ニ憲法ヲ
運用スルニ當リマシテハ時日ノ許ス限リ
之ヲ召集シテ以テ、國民代表者ノ協賛ヲ求
メテ以テ立法事項ヲ行フベキデアル、然ル
ニ之ヲ爲サズシテ臨時議會ヲ召集スル餘裕
アルニ拘ラズ之ヲ召集セズ、而モ日本ニ立
憲政治始ッテ以來未ダ會テナイ所ノ、緊急勅
令ヲ發布シテ日本臣民ヲ死刑ニ處スル法律
ヲ作ルニ至ッテハ、何ト言ッテモ誠意ヲ以テ
憲法政治ヲ運用シ、國民ノ自由權利ヲ尊重
スルモノトハ思ヘナイノデアリマス(拍手)
斯ノ如キ次第デアリマスニ依テ、此勅令ハ
何レノ點ヨリ見テモ、憲法違反デアリマス、
卽チ第一ハ公共ノ安全ヲ保持スルト云フ要
件ヲ缺イテ居ル、第二ニハ緊急ノ必要ト云
フ要件ヲ缺イテ居ル第三ニハ臨時緊急ノ
必要アル場合ニ於テハ臨時會ヲ召集スベシ
ト云フ憲法第四十三條ノ規定ヲ蹂躪シテ」居
ル、斯ノ如ク此勅令ハ徹頭徹尾憲法違反ノ
モノデアリマスニ依テ、吾々ハ之ニ向デ
承諾ヲ與フベキモノデナイト思フノデアリ
マス、次ニ吾々ハ斯ノ如キ緊急勅令ガ國家
社會ノ上ニ、又一般國民ノ上ニ如何ナル影
響ヲ及ボスモノデアルカ、之ヲ考ヘテ見ナ
クテハナラナイノデアリマス、御承知ノ如
ク十年以前ニ終リヲ告ゲマシタル歐羅巴戰
爭、是ハ世界國民ノ思想界ニ大ナル變動ヲ
與ヘタノデアリマス、而シテ此等ノ思想ノ
中ニハ善イ思想モアレバ又惡イ思想モア
リマス、今日露四亞ニ行ハレテ居ル所ノ過
激思想卽チ共產主義ノ如キモノハ彼ノ國
ニ於テハ善イ思想デアルカハ知レマセヌガ、
露西亞ヲ取除イタ其他ノ諸國ニ於テハ極
メテ危險ナル所ノ思想デアルコトハ申ス迄
モナイ、然ルニ御承知ノ如ク露西亞內ニハ
所謂第三「インターナシヨナル」ナルモノガ
アリマシテ、之ガ世界ニ向ッテ共產主義ヲ
宣傳シ、世界革命ヲ目的トシテ、或ル種類
ノ活動ヲシテ居ルコトハ事實デアリマス、
併ナガラ彼等ノ目的ハ大體ニ於テ失敗シテ
居リマス彼等ハ初メニハ之ヲ西洋諸國ニ
試ミマシタケレドモ、全然失敗ニ終シタモノ
デアリマスカラシテ、次ニハ東洋諸國ニ向ク
テ魔ノ手ヲ延バサントシテ居ル、他國ノ事
ハ申ス必要モアリマセヌガ、之ガ我ガ日本
ニ如何ナル關係ヲ持シテ居ルカト云フコト
一應檢討スル必要ガアルノデアリマス、
玆ニ政府ヨリ參考書類トシテ吾々ニ配布セ
ラレタ所ノモノガアリマスガ、之ヲ見マシ
テモ第三「インターナシヨナル」ハ我ガ日本
ニ向シテ或ル種類ノ活動ヲ爲シテ居ル、卽チ
我國ノ共產黨ハ第三「インターナシヨナル」
ノ一ツノ支部デアル、而シテ其綱領ヤ宣傳
方法ハ一ニ本部ノ指揮命令ヲ仰イデ居ルノ
デアリマス、又先程申シマシタ如ク露西
亞ノ莫斯科ニハ共產黨大學ガゴザイマシ
テ、此大學中ニモ日本ノ留學生ヲ收容シテ
居ルコトモ事貰デアル此事實ヲ根據ト致
シマシテ、本員ハ露西亞ニ對スル日本ノ外
交關係ニ付テ言及セザルヲ得ナイノデアリ
マス、御承知ノ如ク日露ノ間ニハ大正十
四年ニ國交回復ノ條約ガ締結セラレタノデ
アル、此條約ニハ如何ナルコトガ規定シテ
アルカト云フト、其第五條デアリマス、是
ハ朗讀スルコトハ省キマスガ、極メテ簡明
ニ申スナラバ兩締盟國ハ相手國ノ安寧秩
序ヲ妨害スルガ如キ一切ノ行動ヲ爲スベカ
ラズ、分リ易ク申セバ是ダケノコトデアリ
マス、是ハ當然ノコトデアリマス、今日世
界列國何レノ國ニ於キマシテモ、國家ソレ
自體ノ政治組織ヲバ決定スルコトハ自國ノ
權利デアル、故ニ他國ノ之ニ干涉スベキモ
ノデハナイノデアリマス、故ニ何レノ國家
モ國家トシテ、他國ノ政治組織ヲ變革スルガ
如キ一切ノ行動ヲ爲スベカラズ又自國ノ
人民ニシテ斯ノ如キ行動ヲ爲ス者ガアレ
バ之ヲ嚴禁セザルベカラズ是ハ國際法
上ニ於テモ認メラレテ居ル原則デゴザイマ
スガ此原則ガ、日露條約ノ第五條トナッテ
現ハレテ來タノデアリマス、故ニ我國ハ露
國ノ政治組織ニ干渉シ、露國ノ安寧秩序ヲ
害スルガ如キ、所謂白化宣傳ヲ爲スコトガ
出來ナイト共ニ、露西亞モ亦日本ノ國體ヲ
變革スルガ如キ一切ノ行動ヲ爲スベカラズ、
國家トシテ爲スコトガ出來ナイコトハ勿
論若シ露國人民ニシテ、斯ノ如キ行動ヲ
爲ス者ガアルナラバ露國ノ國内法規ヲ以
テ嚴ニ之ヲ取締ラネバナラヌ、是ハ露西亞
ガ國際公法上ニ於テ、又條約上ニ於テ
〔此時發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=147
-
148・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=148
-
149・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) 我ガ日本ニ對シテ負ウ
テ居ル所ノ重大ナル義務デアリマス、然ル
ニ今日ノ露西亞ハ果シテ完全ニ此義務ヲ履
行シテ居ルノデアルヤ否ヤ、是ハ吾々ニ於
テ考ヘネバナラヌ所ノ一ツノ問題デアリマ
ス、先程申シマシタ如ク、露西亞ノ第三イ
ンターナシヨナル」ハ日本ニ向シテ赤化宣傳
ヲ爲シテ居ル、又是ガ基トナッテ我國ニ於
テハ緊急勅令マデモ發布セネバナラヌコト
ニ相成ッタノデアル、而シテ原司法大臣ノ意
見ニ依レバ彼ノ日本共產黨ノ行動ト云フ
モノハ、所謂思想的内亂罪デアル思想的
外患罪デアル、卽チ思想的ニ我ガ國體ヲ變
革シ、思想的ニ我ガ國家ヲ亡サントスルモ
ノデアッテ、其罪ノ程度ハ刑法上ノ內亂罪、
外患罪ト少シモ異ナル所ハナイ、軍器彈藥
ヲ用ヒ、暴力ヲ振ヒ戰鬪行爲ヲ開始シテ、
以テ日本ノ國體ヲ變革シ、日本ノ國家ヲ亡
サントスルモノト其罪ノ程度ハ全然同一デ
アルトマデ極論サレテ居ルノデアル、本員
ハ此見解ガ正當デアルカ否ヤニ付テハ別ニ
意見ハアリマスガ、是ハ今日述ブベキ限リ
デハナイ、兎ニ角政府ハ斯ノ如キ考ヲ以テ
緊急勅令マデモ發布スルニ至ッタノデアリ
やで、然ルニ第三「インターナシヨナル」ナ
ルモノハ原司法大臣ノ論法ヲ以テ言フナラ
バ思想的ニ我ガ國體ヲ變革シ、思想的ニ
我ガ國家ヲ亡ス所ノ目的ヲ以テ、我國ニ向ッ
テ砲門ヲ向ケテ戰闘行爲ヲ開始シテ居ルノ
デハナイカ此點ニ於テ今日ノ露西亞政府ハ
確ニ
〔「政府ヂヤナイヨ」ト呼ヒ其他發言ス
ル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=149
-
150・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=150
-
151・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) 國際法上ノ義務ヲ蹂躪
シ、條約上ノ義務ヲ破棄シテ居ルノデアル、
或ハ彼等ハ露西亞政府ト第三「インターナ
シヨナル」トハ全ク別ノモノデアル第三
「インターナシヨナル」ナルモノハ個人ノ國體
デアッテ、露西亞政府ノ關係スルモノデハナイ
ト云フカハ知ラナイガ是ハ全然許サルベ
キモノデハナイノデアリマス露西亞政府
ト第三「インターナシヨナル」トノ關係ニ付
キマシテハ世界ニ於テ色ミノ觀察ハゴザ
イマスケレドモ吾々ノ見ル所ニ依リマス
ト、其實際ハ全ク共通シテ居ルノデアリマ
ス、卽チ今日ノ露西亞政府ハ露西亞共產黨
ニ依テ組織セラレ露西亞共產黨ニ依テ支
持セラレテ居ルノデアル然ルニ其露西亞
共產黨ナルモノハ第三「インターナシヨナ
ル」ノ一ツノ支部デアルノミナラズ本部
ガ露西亞ニ在ルモノデアリマスカラ、此本
部ノ實權ハ支部デアル所ノ露西亞共產黨ガ
握ッテ居ルノデアリマス、故ニ此關係ニ於テ
露西亞ノ政府ト第三「インターナショナル」
トハ形ハ違フガ、事實ニ於テハ同ジモノデ
アル恰モ政府ト其與黨トノ關係ト少シモ
變ル所ガナイノデアリマス、縱シ一步ヲ讓ツ
テ假ニ此雨者ノ間ニ於テ何等ノ關係ガナイ
ト致シマシテモ、露西亞國內ニ於テ斯ノ如
キ團體ガアッテ、締盟國ノ國體ヲ變革スルガ
如キ行動ヲ爲ス場合ニ於テハ露西亞政府
ハ嚴ニ之ヲ禁止スベキ義務ヲ擔ウテ居ルニ
拘ラズ、今日ノ露西亞政府ハ此義務ヲ棄テヽ
顧ミナイト云フコトハ爭フコトノ出來ナ
イ公然ノ事實デアルノデアリマス、然ルニ
之ニ對シテ我國ノ政府ハ何ヲ爲シテ居ルカ
ト云フニ、何モ爲シテ居ラナイノデアリマ
ス、委員會ニ於キマシテ外務省ノ政府委員
ヲ呼出シテ之ヲ尋ネマシタ所ガ、政府委員ハ
答ヘテ曰ク、サウ云フヤウナ事實ガアルカ
ナイカト云フコトハ確ニ判ラヌト言フ
何タル不都合千萬ナコトデアル、露西亞ノ
赤化宣傳ガ基トナッテ緊急勅令ヲ發布シ、而
モ此緊急勅令ハ總理大臣ヲ首メトシテ各大
臣ガ連署シテ以テ、政府ハ全責任ヲ以テ之
ニ當ッテ居ルノデアル、然ルニ其政府ノ中ノ
外務省ダケハ、此勅令ノ根本トナルベキ事
實ヲ知ラナイ、締盟國ガ公然條約ヲバ破棄
シテ我ガ國體ノ變革ヲ企テヽ居ルニ拘ラ
ズ是モ知ラナイ一言半句ノ抗議ヲモ申
スコトガ出來ナイニ至ッテハ、我國ノ外務省
コソ實ニ日本國家ノ存立ヲ危クスルモノデ
アル(拍手)元來日露ノ條約ニ依テ、我國ガ
ドレダケノ利益ヲ受ケテ居ルノデアルカ、
是ハ本員ノ知ラナイ所デアリマスガ、併シ
假令ドンナ利益ヲ受ケテ居ルニシタ所ガ、
我ガ國體ノ破壞ヲ默認セネバナラヌ程、ソ
レダケ大ナル利益ガアルトハ吾々日本國
民トシテ絕對ニ想像スルコトガ出來ナイノ
デアル(拍手)諸君モ御承知ノ如ク、數年以
前英吉利ノ政府ハ露西亞政府ノ或ル大官ガ
赤化宣傳ノ文書ヲ英國ニ送ッタト云フ、其一
ツノ事實ヲ以テ英露國交ヲ斷絕シテ居ルノ
デアリマス、又支那ノ政府デスラ、北京駐
在ノ露國大使館内ニ於テ赤化宣傳ノ證據ヲ
發見シタト云フ此事實ヲ以テ露西亞大使
ヲ放逐シタノデアリマス、英國ニ於テ然
リ、支那ニ於テ然リ、單リ我國ハ露西亞政
府若クハ露西亞人民ガ、我ガ國體變革ノ行
動ヲ爲シテ居ルコトヲ知リツヽ、今日ニ至
ル迄之ヲ默認スルトハ何事デアルカ、原司
法大臣ガ曩ニハ治安維持法ヲ改正スルニ當
リ又今囘ハ此緊急勅令ヲ維持スルニ當ッ
テ、屢〓。繰返サレル所謂三千年ノ歴史、金甌
無缺ノ國體ヲ變革スル目的ヲ以テ、露西亞
ノ政府又ハ露西亞ノ人民ガ襲撃ヲ加ヘテ居
ルニ拘ラズ、之ニ向。ッテ抗議ヲ申込ムコトモ
出來ナイ、問フベキ權利ガアルニ拘ラズ之
ヲ問ハズ單リ我ガ國民ノミニ對シテ極刑
ヲ課セントスルガ如キハ、全ク本末ヲ〓倒
シテ居ル遣方デアル、斯ノ如キコトヲヤツ
テ、日本ノ國民ガ承服スルト思フノハ大ナ
ル誤リデアル、故ニ政府ハ此點ニ付テハ退
イテ大ニ考ヘルガ宜シイト思ヒマス、原司
法大臣ハ此處ニ居ラレマセヌガ、此處ニ「公
民ト題スル新聞紙ノ如キモノガアリマス
「人ヲ愛スルノ政治」ト題シ、司法大臣原嘉
道氏ノ名ヲ以テ、昨年ノ九月十三日東京
中央放送局ニ於テ講演セラレタル所ノ刑
罰ニ關スル原司法大臣ノ意見ガ載セラレテ
居リマス、是ハ長イモノデアルカラ朗讀ハ
致シマセヌガ、其論旨ヲ簡單ニ申シマスト
云フト、斯ウ云フコトデアル詰リ凡ン此
社會ニ於テ犯罪ガ起ルノハ如何ナル原因
ニ依ルカト云フト大體二ツアル、一ツハ
先天的ノ素質、卽チ生レッキガ惡イカラデア
ル又一ツハ社會ノ境遇ガ惡イカラ起ルモ
ノデアル、此二ツノ原因ニ依テ犯罪ハ世ノ
中ニ現ハレテ來ルノデアルガ、此犯罪者ニ
向シテ國家ハ如何ナル處置ヲ爲スベキモノ
デアルカト云フニ、昔ハ犯罪人ヲ苦メル目
的ヲ以テ刑罰ヲ科シタノデアリマスガ、今
日ノ刑罰ハ決シテ犯罪者ヲ苦メル目的デハ
ナイ刑罰ノ目的ハ犯罪者ヲ苦メルニアラ
ズシテ、犯罪者ノ身體ヲ保護シ、犯罪者ノ
精神ヲ〓養シ、犯罪者ノ人格ヲ向上セシメ
テ、以テ一般ノ國民ト共同ノ生活ガ出來ル
ヤウニスル是ガ刑罰ノ目的デアルト、斯
樣ニ原司法大臣ハ說カレテ居ルノデアリマ
ス、是ハ決シテ原司法大臣獨特ノ說デハナ
イガ、本員ハ固ヨリ之ニ賛成スルノデアリ、
マス、然ルニ犯罪者ニ向、シテ死刑ヲ科スル、
一度人ヲ殺シタナラバ刑罰ノ目的ト云フ
モノハ全然達スルコトガ出來ナイノデア
ル人ヲ死刑ニ處シタ後ニ於テ、其人ノ身
體ヲ保護スルコトハ出來ナイ、其人ノ精神
ヲ〓養スルコトハ出來ナイ、其人ノ人格ヲ
向上セシムルコトハ出來ナイ、其人ヲシテ
一般ノ民衆ト共同生活ヲ爲サシムルコトハ
出來ナイノデアル故ニ立法ハ濫ニ人ヲ殺
ス所ノ法律ヲ作ルベカラズ、況ヤ立憲政治
ノ下ニ於キマシテ、國民ノ代表者ノ承諾ヲ
得ズシテ殺人法ヲ制定スルガ如キハ政府
トシテハ大ニ警メナケレバナラヌノデアリ
マス、原司法大臣ハ此紙上ニ於テ(此時發
言スル者多シ)能ク御聽キナサイ、此紙上
ニ於テ明治大帝ノ御詔勅ヲ引用シテ居リマ
ス、又明治大帝ノ御製ヲ引用シテ居ラレマ
ス、本員モ之ヲ引用致シテ置キマセウ、明
治大帝ノ御詔勅ノ中ニ斯ノ如キモノガアル
「天下億兆一人トシテ其ノ處ヲ得サル者ア
レハ是卽チ朕カ罪ナリ」又明治大帝ノ御製
ノ中ニ於テ斯ノ如キモノガアル「罪アラバ
我ヲ咎メヨ天津神民ハ我身ノ生ミシ子ナレ
バ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=151
-
152・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=152
-
153・齋藤隆夫
○齋藤隆夫君(續) 今日ノ政府當局者ハ、
此御聖旨ニ對シテ何ノ面目ガアルカ、明治
大帝ガ下シ給ウタ所ノ憲法ヲ蹂躪シテ緊急
勅令ヲ發布シ、明治大帝ノ御聖旨ニ反イテ
日本臣民ヲ殺ス所ノ法律ヲ作ル、政府ノ爲
ス所實ニ言フニ堪ヘナイノデアリマス、若
シ政府ニシテ何處迄モ治安維持法改正ノ必
要ヲ認ムルナラバ斯ノ如キ緊急勅令ハ速
ニ廢シテ、以テ普通立法ノ手續ニ依テ此議
會ノ協賛ヲ求メルガ宜シイノデアル(拍手)
然ルニ此手續ヲ取ラズシテ、斯ノ如キ違憲
ノ勅令ヲ何處迄モ維持セントスルノハ甚ダ
不都合デアル、吾々ハ斯ノ如キ違憲ノ勅令
ハ一日モ速ニ之ヲ廢止スルコトガ憲法ヲ
擁護シ、明治大帝ノ御遺訓ニ副ヒ奉リ、延
テハ、日本國民ノ思想ノ惡化ヲ防ギ國家ノ安
寧ヲ維持スル所以ナリト思料シ、玆ニ本案
ニ對シテハ最モ明白ニ不承諾ノ意思ヲ表示
スルモノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=153
-
154・元田肇
○議長(元田肇君) 宮古啓三郞君
〔宮古啓三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=154
-
155・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君 私ハ委員長ノ報告ニ贊成
ヲ致ス者デアリマス、只今ノ齋藤君ノ御議
論ハ謹ンデ拜聽ヲ致シマシタ然ル所驚ク
ベシ憲法違反ナリト言フモ、唯自分ノ邪
推臆測ヨリシテ割出シタ所ノ議論デアルノ
デアリマス、先ヅ第一ニ憲法違反デアルト
云フコトハ、如何ナル事ヲ申スノデアルカ
ト云フコトヲ聽イテ居リマシタ所ガ、同君
ノ議論ニ於テハ去ル特別議會ノ後ニ於テ
緊急ノ必要ナキニ拘ラズ緊急勅令ヲ發シ
タト云フコトガ、卽チ憲法違反デアルト云
フノデアリマス、諸君、御承知ノ通リ、去
ル特別議會ニ於キマシテ、治安維持法ナル
モノガ提出ニ相成リマシタ、其治安維持法
ハ遂ニ議了ニ至ラナカッタト云フコトハ諸
君ノ御承知ノ通リデアリマス、サリナガラ
其當時ニ於テ政府ニ於テハ、此必要ガアル
ガ爲ニ提出ハ致シタノデアリマスルケレド
モ、議會ヲ延長シテマデ之ヲ成立サセナケ
レバナラヌト云フ必要ハ感ジナカッタノデ
アリマス、然ル所其後ニ於テ色ミナル事情
ガ生ジタノデアリマス、其色こナル事情ハ
如何ナルモノデアルカト云フコトニ付キマ
シテハ、先刻委員長ニ於テ政府ガ必要トシ
タト云フ箇條書ヲ讀上ゲラレテ居ルノデア
リマス其箇條書ハ委員長ガ讀上ゲタノデ
アリマスルカラシテ、私カラ再ビ是ガ朗讀
ハ致シマセヌケレドモ、其中ニ於テ第三、
第四、第五ノ如キモノハ極メテ明白ニ其
特別議會ノ後ニ於テ發シタル所ノ事柄デア
ルト云フコトガ明瞭デアルノデアリマス、
其第三ハ何デアルカト言フト、「彼等日本共
產黨員ハ彼等ノ檢擧ニ對シ虚構ノ事實ヲ
流布シ、暴力對抗ヲ煽動セルコト」、其第四
ハ「彼等日本共產黨員ハ共產黨檢擧者ヲ暴
力ニ依リ奪還スベキコトヲ煽動セルコト」
其第五ニハ「彼等日本共產黨員ハ軍隊、
殊ニ支那派遣軍ノ攪亂ヲ煽動セルコト」、其
又第八ニハ「彼等日本共產黨員ハ暴力ニ
依ル世界革命ヲ煽動セルコト」、其第十ニハ
「彼等日本共產黨員ハ細胞組織ノ再興ニ著
手セルコト」斯樣ナモノガアルノデアリマ
ス卽チ三月十五日ノ大檢擧ガアッタノデ
アリマスルガ、其檢擧ニ漏レタル所ノ殘
賞此殘黨ガ何時迄モ自分等ノ目的ヲ達セ
ントシテ活動ヲ致シテ居シタ事柄ト、又ソ
レニ加フルニ只今讀上ゲマシタヤウナ事柄
ヲ盛ニヤリツヽアルト云フコトガ十分ニ明
ニ分ッタノデアリマス、其分リマシタ日ノ
事ニ付キマシテハ今齋藤君カラモ申サレ
タノデアリマスルガ、五月ノ十九日ヨリ六
月ノ十一日迄ノ間ノ事柄デアルノデアリマ
ス、御承知ノ通リ特別議會ハ五月ノ六日ヲ
以テ閉會ニ相成リマシタ、五月六日ニ閉會
ニ相成リマシタ以後ニ於テ、五月十九日ヨ
リ六月十一日ノ間ニ於テ斯ノ如キ事柄ガ
アッタト云フコトガ「赤旗」ト云フ雜誌、其
他報告書及ビ逮捕サレタ所ノ者ノ口述、是
等ノ事柄ニ依リマシテ極メテ明白ニ相成ッ
タノデアリマス、而シテ又一方ニ於キマシ
テハ露國ノ第三「インターナシヨナル」ガ
此三月十五日ノ日本ノ大檢擧ヲ知リマシタ
爲ニ、是デハイカヌカラシテ、是ガ再興ヲ
圖ラナケレバナラヌト云フコトデ、所謂東
洋勤勞者共產黨大學ニ入學ヲシテ居リマシ
タ所ノ日本人此日本人ヲ續々ト日本ニ歸
シマシテ、サウシテ日本共產黨ノ今迄爲シ
タ事柄ヲ再興シ、更ニ又擴大シ、而シテ其
目的ヲ達セントシテ居シタト云フ情報ガ傳ツ
テ參ッタノデアリマス、時恰モ御承知ノ通
リ、昨年ノ御大典ノ將ニアラントスル所ノ
時ニ際シテ居リマスル、斯ノ如キ場合ニ於
キマシテ、政府當局トシテ之ヲ其儘ニ打捨
テ置クト云フコトガ果シテ政府ノ適當ナ
ル遣方ト申スコトガ出來ルノデアリマセウ
カ(拍手)萬ガ一ニモ此嚴肅ナル御大典ニ何
等カノ騷ギデモアリマシタナラバ諸君何
ト致スノデアリマセウ(拍手)其當時ノ政府
當局ノ苦心ト云フモノハ如何バカリデアツ
タカト云フコトハ、實ニ察スルニ餘リアル
ノデアリマス(拍手)幸ニシテ何事モ無ク過
去ッテ參ッタノデアリマスガ、是ガ爲ニハ此
緊急勅令ガ餘程ノ效力ガアッタモノト私共
ハ信ジテ疑ハヌノデアリマス(拍手)斯ノ如
キ次第デアリマシテ、此事柄タルヤ全ク特
別議會ノ後ニ於テ起リマシタ所ノ事實ニ對
シテ棄テ置クコトノ出來ナイト云フ關係ヨ
リシテ、此緊急勅令ヲ發布シナケレバナラ
ヌト云フ決意ヲ致シタノガ六月十二日デア
ルノデアリマス(拍手)是ニ於テ樞密院ニ御
諮詢ニ相成リ、而シテ六月二十九日ヲ以テ
此緊急勅令ガ發布セラレルコトニ相成ッタ
ノデアリマス、諸君、斯ク申上ゲマシタナラ
バ、齋藤君ハ卽チ唯單ニ邪推ヲサレ、臆斷
ヲサレルノデアリマシテ、事實ハ只今申シ
マシタ通リノ關係デアリマスカラ、此關係
ニ依テ此緊急勅令ヲ發布スルト云フコトハ
何處ニ惡イコトガアルノデアリマセウ拍
手)是ニ於テ尙ホ樞密院ノ關係ニ付テ一言
ヲ致シマス、齋藤君ハ頻ニ樞密院ガ云々ト
云フコトヲ申サレマシタ、恐ラク新聞紙ニ
依テ申サレルノデアリマセウガ、樞密院ノ議
事ナルモノハ極メテ祕密デアルノデアリマ
シテ、新聞紙上ニ記載シテ居ル事必シモ是
ガ眞ノ事實ナリトハ申スコトガ出來マセヌ
(拍手)成程新聞ノ上ニ於キマシテハ齋藤
君ノ言ハレタヤウニ、一二ノ樞密顧問官ガ
色ニナ議論ヲサレタト云フコトガ書イテア
リマシタ、併ナガラ是ハ民政黨側ノ樞密顧
問官デアッタト云フコトハ極メテ明瞭デア
リマス(拍手)而シテ··
〔此時發言スル者多シ〕.発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=155
-
156・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニナサイ-靜ニナ
サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=156
-
157・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君(續) 其樞密院ニ對シマシ
テ齋藤君ハ色ミナ攻撃ヲサレタヤウニ存ジ
マス、樞密院ヲ攻撃致シマスニ付テハ齋
藤君ハ何カ之ニ私怨デモアルカノ如キ感ヲ
懐クノデアリマス、併ナガラ樞密院ガ若シ
齋藤君ノ申サレル通リデアルトシタナラバ
樞密院ガ憲法違反ヲ爲シタト云フコトニ歸
著スルノデアリマス(拍手)齋藤君ハ樞密院
ハ憲法違反ノ決議ヲ爲シタリト迄斷言スル
コトガ出來ルノデアリマスカ(拍手)旣
ニ樞密院ニ於テ大多數ヲ以テ可決ニナリマ
シテ、而シテ之ガ緊急勅令トシテ發布ニ相
成リマシタノデアリマスカラ、其一二ノ樞
密顧問官ガ述ベラレタ所ノ事柄ハ、樞密院ノ
大多數ニハ容レラレナカッタモノデアルト
云フコトハ極メテ明瞭デアリマス(拍手)故
ニ樞密院ノ決議ニ對シ攻擊ヲ加ヘルガ如
キハ以テノ外ナリト論斷セザルヲ得ヌノ
デアリマス(拍手)諸君、次ニ齋藤君ハ憲法
違反ナリトシテ一ツノ議論ヲサレマシタ、
其一ツノ議論ハ何デアルカト云フト、臨時
議會ヲ召集シ得ルニ拘ラズ、臨時議會ヲ召
集シナカッタノガ憲法違反デアル、斯樣ナ議
論デアリマス、諸君、今日マデ日本ノ政府
ニ於テ執リ來ッタ實例ヲ御覽ナサイ、今日マ
デ緊急勅令ヲ發スル場合ニ於テハ臨時議會
ヲ召集スル餘裕ガアッタト云フノデ、臨時議
會ヲ召集シタト云フコトガゴザイマスカ
憲法第八條ト第七十條トヲ較ベタナラバ、
斯ノ如キコトハ極メテ明白デハアリマセヌ
カ、成程憲法第七十條ノ方ニ於キマシテハ
財政上ノ處分ヲ致シマスルニ付テ議會ガ開
カレルナラバ議會ヲ開クベキモノトシテ居
リマス、併ナガラ内外ノ情形ガ到底議會ヲ
開クコトガ出來ナイ場合デアリマスルナラ
議會ノ開カズシテ臨時緊急ノ處分ヲ爲
スコトガ出來ルコトニナッテ居リマス、然ル
ニ憲法第八條ニハドウ書イテアルノデアル
カ第八條ニハ「天皇ハ公共ノ安全ヲ保持
シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル爲緊急ノ必要ニ由
リ帝國議會閉會ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘ
キ勅令ヲ發ス」トアリマス、何處ニ臨時議
會ヲ開カナケレバナラヌト云フコトガ書イ
テアリマスカ、此二ツノ條文ヲ較ベテ見タ
ナラバ第八條ノ場合ニ於テ緊急勅令ヲ發
スル際ニ當ッテハ、議會ヲ開ク必要ガナイト
云フコトハ此明文ノ上ニ於テ明々白々、
一點モ疑ヲ容レナイノデアリマス、是ハ決
シテ臨時議會ヲ召集スル餘裕ガアリト否ト
ニ關係ガナイノデアリマス、如何ニ臨時議
會ヲ召集スル餘裕ガアリト致シマシテモ、
決シテ其場合ニ於テ臨時議會ヲ召集スル必
要ガナイノデアリマス、是ハ學者ノ說ト致
シマシタ所ガ、大多數ノ學說ハ斯ノ通リデ
アルノデアリマス、斯樣ナ次第デアリマス
カラ、齋藤君ノ所謂憲法違反ナルモノハ三
文ノ値打モナイト一云フコトハ極メテ明白
デアルト存ジマス、次ニ齋藤君ハ頻ニ露國
トノ外交問題ニ付テ彼此レ述ベラレテ居リ
マシタ、成程露國ノ第三「インターナシヨ
ナル」ト露國政府ト云フモノガ密切ナ關係
ガアルト云フコトハ私共モ其通リニ考ヘ
テ居リマス、又日露條約ノ第五條ニ於テ、
齋藤君ノ述べラレタ所ト大體變ラナイ所ノ
條約ガ結バレテ居ルト云フコトモ承知致シ
テ居リマス、ソレ故露國ノ政府ト致シマシ
テハ、何處迄モ此條約ハ守ラナケレバナラ
ヌト云フコトハ是ハ洵ニ當然ノ筋合デア
リマス、ソレ故ニ明ニ先刻總理大臣兼外務
大臣ヨリ此處デ述ベラレタデハアリマセヌ
カ、卽チ此事實アルガ爲ニ、露國ノ政府ニ
對シテ日本政府ハ直接又ハ日本ノ駐露大使
ヲ通ジテ、露國ニ對シテ抗議ヲ爲シ、注意
ヲ喚起シテ居ルト云フ事柄ニ付テハ、是八
一再ナラズヤッテ居ルノデアルト云フコト
ガ、明ニ此處デ述ベラレタデハアリマセヌ
カ齋藤君ハ此事實ヲ全然否定シテ居ル、
何モシナイトハ何事デアルカト言フ斯ノ
如タ露國ガ條約ニ違反シテ居ルニ拘ラズ、
日本ノ政府ハ何モシナイノハ怪シカラヌト
云フ齋藤君ノ議論デアリマス、然ルニ何モ
シナイノデハナイト云フコトハ、先刻明ニ
總理大臣兼外務大臣ニ於テ此處ニ申シテ居
ルデハアリマセヌカ、斯ノ如ク實際ノ事實
ヲ曲ゲテ、而シテ何等ノ事モシテ居ラヌト
云フノハ何事デアリマセウ(「曲ゲテトハ何
事ダ」ト呼フ者アリ)曲ゲテト云フノガ氣ニ
入ラヌト云フノデアリマスカ、明ニ此處ニ
於テ交涉ヲシタ事柄ヲ申シテ居ルノニ、其
事ガ無イト云フノハ曲ゲテヾハゴザイマセ
ヌカソレ故ニ實際ノ事實ニ基カズシテ、
自分ガ臆測斷定致シテ、而シテ攻擊スルガ
如キハ實ニ當ラザルノ甚シキモノナリト
斷ゼザルヲ得ナイノデアリマス、且又斯ノ
如キ外交關係ハ、是ハ最モ愼重ニシナケレ
バナラヌト云フコトハ申ス迄モアリマセ
又、將來ノコトニ付テハ答ヘルコトガ出來
ナイト云フ先刻總理大臣ノ御言葉デアリマ
シタ、是ハ外交ノコトノデアリマスルカラ、
申スコトガ出來ナイ筈デアリマス、之ヲ徹
底的ニ致スコトニ相成リマスレバ、英露ノ
關係ノ如ク國交斷絕ニナッテシマウコトモ
ナイトハ限ラヌノデアリマス、諸君、此國
交斷絕ト云フガ如キコトハ言易イ言葉デハ
アリマスルケレドモ、之ヲ實行スルト云フ
際ニナレバ是ハ愼重ニ考ヘナケレバナラ
ヌト云フコトハ當然ノ筋合デハゴザイマ
セヌカ、斯ノ如キユトデアリマスカラ、此
事柄ニ付テ齋藤君ノ述べラレタコトハ全ク
間違シテ居ルノミナラズ、此事柄ガ如何ニシ
テ此緊急勅令ヲ否認スルノ理由ト相成リマ
スカ齋藤君ハ露西亞ノ第三「インターナ
シヨナル」ガ日本ニ人ヲ送ルト云フヤウナ
コトデアルカラ、寧ロ國交ヲ斷絕スルガ宜
カラウト云フ樣ナ意見ノヤウニ考ヘラレマ
シタガ、若シモ左様ナコトガアリトスルナ
ラバ、益〓〓此緊急勅令ハ必要デハアリマセヌ
カ如何ニモ其前後矛盾ニハ驚カザルヲ得
ヌノデアリマス、諸君、尙ホ齋藤君ノ御意
見ナルモノハ餘リニ明白デハアリマセヌデ
シタガ、此緊急勅令ニ死刑ト云フ極刑ヲ科
シテ居ルト云フコトハ嚴罰ニ過グルト云
フコトヲ申サレタヤウニ考ヘマス、若シ齋
藤君ガ述ベラレタ所ハ其處マデ行カヌト云
フナラバ委員會ニ於テ民政黨ヲ代表サレ
テ原夫次郞君ノ述べラレタ所ハ殆ド其通
リノヤウニ考ヘマシタ、又殊ニ無產黨側ノ
水谷君ノ御意見ト致シマシテハ、斯ノ如キ
極刑ハ甚ダ不都合ト云フ議論デアリマシタ
カラ、恐ラク此後ニ於テ立タレル所ノ諸君
ニ於キマシテ、齋藤君ヨリモ一層此點ニ於
テ明ニ述ベラレルコトヽ存ジマスカラ、玆
ニ私ハ一言致シマス、諸君此緊急勅令ト云
フモノハ如何ナルモノデアルカト云フコ
トヲ先ヅ考ヘテ戴カナケレバナラヌノデア
リマス、此緊急勅令ナルモノハ、主トシテ
万世一系ノ天皇之ヲ統治スト云フ我カ國體
ヲ破壞セントシテ、結社ヲ爲ス者ヲ罰セン
トスル所ノモノデアリマス、三千年來金甌
無缺ノ我ガ國體ヲ變革セントシテ、結社ヲ
爲ス者ヲ罰セントスルモノデアリマス、我
ガ帝國ヲ露國ノ第三「インターナシヨナル」
ノ支配ノ下ニ置カントシテ、結社スル所ノ賣
國奴ヲ罰セントスル所ノモノデアリマス
(拍手)皇室、寺院、其他ノ所有ノ土地ヲ沒
牧セントシテ結社ヲセントスル者ヲ罰セン
トスルモノデアリマス、我國ヲ以テ無產階
級獨裁ノ國體ト爲サントシテ結社スル者ヲ
罰セントスル所ノモノデアリマス、斯ノ如
キ次第デアリマス、試ミニ此日本共產黨ガ
第三「インターナシヨナル」ノ指圖ノ下ニ綱
領トスル所ノモノヲ見タイト思ヒマス、彼
等ハ勞働者農民政府ヲ樹立致シマシテ、無
產階級獨裁ノ國體ヲ打立テントスル所ノ方
針ノ下ニ於テ十三ノ項目ヲ擧ゲテ居リマ
ス、其中ノ三、四ヲ申上ゲテ見マセウナラ
一ニハ我ガ立憲君主制ノ撤廢、二ニハ
「ソヴエット」露西亞ノ防衞、三ニハ宮廷、寺
院ノ土地ノ沒收、四ニハ支那革命ノ不干涉、
五ニハ植民地ノ完全ナル獨立、六ニハ議會
ノ解散、七ニハ帝國主義戰爭ノ反對、是等
合セテ十三項目ヲ舉ゲテ居ルノデアリマ
ス諸君、彼等ハ工場細胞ト云フモノヲ基
礎單位ト致シマシテ、地方委員會ナルモノ
ヲ置キ、又中央委員會ト云フモノヲ設ケマ
シテ、中央地方ノ機關紙ヲ發行致シマシテ、
サウシテ其綱領ヲ天下ニ宣傳ヲ致シ、黨勢ノ
擴張ヲ圖リマシテ、サウシテ其綱領ヲ帝國
ノ國民ノ腦中ニ浸潤サセテシマハウト云フ
ノデアリマス、恰モ毒瓦斯ヲ國中ニ撒布スル
ガ如キコトヲヤルノデアリマシテ、而シテ
一舉ニ我ガ帝國ヲ亡ボサントスルノデアリ
マー、諸君、斯樣ナ人間ニ對シマシテ嚴罰
ヲ以テ科スルト云フコトガ、何デ惡イノデ
アリマセウ、是ガ刑法ニアリマスル所ノ內
亂罪、外患罪、是等ニ劣ル所ハ少シモ無イ
デハアリマセヌカ、又皇室ニ對スル所ノ罪
トモ比ベキモノデハゴザイマセヌカ、斯ノ
如キモノデアリマスカラシテ、此者ニ死刑
ヲ以テ極刑トシテ科スルト云フコトガ何
デ惡イコトデアリマセウカ、是ハ寔ニ當然
ナル筋合デアル、斯ノ如キ賣國奴ニ對シテ
ハ斯ノ如キ制裁ヲ當嵌メナケレバナラヌ
ト云フコトハ、何人ト雖モ之ヲ否認スルコ
トハ出來ナイモノデアウト存ジマス、而シ
テ尙ホ此死刑ヲ科シマスルノハ一番極惡
ナル者ニ對シテ致スノデアリマシテ、其情
狀ニ依リマシテハ死刑ニハ處セナイ、輕キ
刑ニモ處シ得ルト云フコトハ條文ノ上ニ
極メテ明デアリマス、我ニハ其元兇ニ對シテ
死刑ヲ科スルト云フコトハ最モ當然ナル
筋合デアルト存ズルノデアリマスカラ、是ガ
極刑ヲ科シテ惡イト云フヤウナ考ヲ起シテ
居リマスルノハ思フニ吾々ト-モノデ
アラウト思ヒマス、以上ノ次第デアリマス
ルカラシテ、此嚴罰ニ處スルト云フコトハ
少シモ惡イコトデナイト云フコトハ、極メ
テ明々白々デアルト思フノデアリマス
〔此時發言スル者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=157
-
158・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=158
-
159・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君(續) 諸君終リニ一言申上
ゲタイコトガアリマス、ソレハ先刻ノ齋藤
君ノ演說ニ於テハゴザイマセヌデアッタガ、
過般委員會ニ於キマシテ、原夫次郞君ノ述
ベラレル所ニ依リマスト云フト
〔此時發言スル者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=159
-
160・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニ願ヒマス只今
宮古君ノ演說中ニ不穩ノ言葉ガゴザイマス
レバ議長ハ總テ速記錄ヲ調ベマシテ、不
都合ノコトガアレバ相當ノ處置ヲ執リマス
〔此時離席者、發言者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=160
-
161・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニナサイ-靜ニナ
サイー靜ニナサイー靜ニナサイ-静
ニナサイー降壇ナサイ-降壇ナサ
イー降壇ナサイ-靜ニナサイ-只今
宮古啓三郞君ヨリ、改メテ釋明ヲスルト云
フコトデアリマスカラ、御著席ヲ願ヒマ
ス-御著席ヲ願ヒマス
〔此時離席者、發言者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=161
-
162・元田肇
○議長(元田肇君) 休憩ヲ致シマス
午後八時五十五分休憩
午後十時九分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=162
-
163・元田肇
○議長(元田肇君) 休憩前ニ引續イテ會議
ヲ開キマス、申スコトガゴザイマス、休憩
前傍聽席ヨリ紙片ヲ撤布シタ者ガアリマシ
タガ、犯人ハ直ニ取押ヘ、只今警務課ニ於
テ取調中デアリマス-宮古啓三郞君
〔宮古啓三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=163
-
164・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君 諸君、先刻本議場ニ於キ
マシテハ、私ハ死刑ニ處スルノガ當然デア
ルト考ヘルノニ、最モ輕キ刑デナケレバイ
カヌト云フコトヲ申サルヽノハ-デハナ
イカト思ハレル、斯樣ニ申シタノデアリマ
スルガ(拍手起リ「違フ々々」ト呼フ者アリ)
ソレニ對シマシテ··
〔「違フ々々」ト呼ヒ其他發言スル者多
シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=164
-
165・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニ御聽キナサイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=165
-
166・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君(續) 靜ニ御聽キナサイ、
ソレニ對シマシテソレハ不穩當デアルト
云フコトヲ申サルヽ諸君ガ多イトノコトデ
アリマスルカラシテ、左様ナ譯デアリマス
ルナラバ、ソレヲ取消スコトニ私ハ少シモ
躊躇致ス者デハアリマセヌ、ソレ故ニ是ガ
不穩當ナリト云フコトデアリマスナラバ
玆ニ取消シマシテ、些トモ差支ハナイノデ
アリマス(「取消セ〓〓」「明瞭ニ取消セ」ト
呼フ者アリ)只今取消シタノデアリマス
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=166
-
167・元田肇
○議長(元田肇君) 只今取消シマシター
取消シマシタ、御靜カニ願ヒマス、モウ一
應宮古啓三郞君ハ申サレルサウデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=167
-
168・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君(續) 若シ明瞭デナイト云
フコトデアルナラバ、モウ一度申上ゲマス、
取消シタノデアリマス、更ニ議論ヲ進メテ
申上ゲマスガ、時ガ深更ニ相成リマシタカ
ラシテ、極メテ簡單ニ一言ヲスルニ止メル
コトニ致シマス、ソレハ
〔「明瞭ニ取消セ」ト呼ヒ其他發言スル
者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=168
-
169・元田肇
○議長(元田肇君) 取消シマシタ、靜ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=169
-
170・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君(續) 委員會ニ於キマシテ
民政黨ノ原君ヤ、又無產黨側ノ水谷君ノ御
意見ニ依リマスレバ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=170
-
171・元田肇
○議長(元田肇君) 宮古君ハ旣ニ取消シマ
シタ明白ニ取消シマシタ-議長ヨリ一
言致シマス、只今宮古君ハ重ネテ明白ニ取
消シマシタ、此段報告致シマス-靜ニ願
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=171
-
172・宮古啓三郎
○宮古啓三郞君(續) 只今申シマシタ通リ、
色〓ノ御議論ガゴザイマシタ中ノ一、箇條ダ
ケヲ玆ニ申述ベマシテ、降壇ヲ致サウト思
ヒマス、ソレハ何デアルカト申シマスト
斯ノ如キ嚴罰ヲ科シテ置キナガラ、社會ノ
施設、〓育制度等ニ於テ十分デナイト云フ
コトハイケナイカラシテ、其理由ニ依ッテ
モ本緊急勅令ハ承諾スベキモノデナイト
云フ御議論ヲナサレタノデアリマス、惟フ
ニ是カラ後ニ演說ヲナサル方ハ左樣ナコト
ヲ矢張申サレルノデアラウト存ジマス、餘
リ多クハ申シマセヌガ、此點ニ付キマシテ
ハ旣ニ政府ニ於キマシテ色〓社會施設ハ
ヤッテ居ルノデアリマス、其事柄ハ豫算ノ上
ニ於テモ現ハレテ居リマスシ、又提出シタ
ル所ノ法律案ニ於テモ現ハレテ居ルノデア
リマス、ソレカラ又〓育卽チ思想ノ善導ト
云フコトニ付キマシテハ文部當局ニ於テ
色ミト努メテ居ルノデアリマシテ是モ豫
算ノ上ニ色ミト現ハレテ居ルノデアリマス、
卽チ〓育制度調査ノ計畫其他色〓アリマシ
テ、尙又昭和四年度ノ豫算案ニ於キマシテ
モ、色〓ノ課目ニ於テ八十一万八千圓ト云
フモノヲ計上致シテ居ルノデアリマス、斯ノ
如ク社會施設ノ點ニ於キマシテモ、思想善
導ノ點ニ於キマシテモ、政府ニ於テハ出來
ルダケ努メテ居ルノデアリマス、唯〓財政ノ
關係ガゴザイマスカラシテ、今日爲シテ居
ルコトガ滿足シ得ル程度デアルカト云フコ
トハ申スコトハ出來マセヌ、滿足シ得ル所
デハゴザイマセヌケレドモ、併ナガラ斯ノ
如キ施設ハヤレルダケヤッテ居ルト云フコ
トハ之ヲ認メナケレバナラヌノデアリマ
ス、尙ホ又斯ノ如キ社會施設及思想ノ善導
ニ對スル事柄ガ、十分デナイト致シマシテ
モ、ソレガ爲ニ此緊急勅令ヲ發スルコトハ
イケナイト云フコトノ理由ニハ相成ラヌノ
デアリマス、又今日ニ於テ、之ニ承諾ヲ與
ヘナイト云フ理由ニハ相成ラヌノデアリマ
ス、以上申シマシタ所ニ依テ見マシテ、此
緊急勅令ヲ發シマスル當時ノ事情ニ於テモ
相當デアリ、今日ニ於テ之ヲ繼續スルコト
モ亦極メテ必要ナルコトデアルノデアリ
マスカラ、之ニ對シテ承諾ヲ與ヘルト云フ
ノガ洵ニ相當デアルト一云フコトヲ申上ゲル
ノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=172
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173・元田肇
○議長(元田肇君) 內ケ崎作三郞君
〔內ケ崎作三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=173
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174・内ヶ崎作三郎
○内ヶ崎作三郞君 私ハ本案ニ對スル委員
會ノ決議ニ反對ノ理由ヲ述ベント致シテ居
ルノデアリマス、一體本案ハ我ガ國民ニ、取
リマシテ、甚ダ重要ナル問題デゴザイマス、
殊ニ國體變革ヲ志ス所ノ犯罪ヲ罰スル所ノ
法規デゴザイマスルカラ、吾々ハ此法案ハ
愼重ニ審議ヲ致シタノデアリマス委員會
ノ經過ニ付キマシテハ、先程委員長ヨリ詳
シク御說明ニナッタノデゴザイマシテ、私共
モ可ナリ詳シク司法大臣及內務當局、文部
當局ト質問應答ヲ致シタノデアリマス、不
幸ニシテ田中總理大臣兼外務大臣ハ僅ニ二
十五分間位ダケ委員室ニ御見エニナリマシ
タルガ爲ニ、吾々外務大臣ニ對シテ御伺シ
タカッタ所ノ多クノ問題ヲ殘シタコトヲ、甚
ダ遺憾トスルノデアリマス
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=174
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175・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=175
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176・内ヶ崎作三郎
○內ケ崎作三郞君(續) 私ハ時間モ進ンデ
居リマスカラ、相成ベク簡單明瞭ニヤリタ
イト思ウテ居リマシタケレドモ、先程宮古
君ヨリ、此本案ニ反對スル者ハ-意見ヲ
持ッテ居ルノデハアルマイカト云フヤウナ
御話ガアリマシタ、無論此事ニ付テハ御
取消ニナリマシタカラ別ニ追究スル必要ハ
アリマセヌ、併ナガラソレト關聯致シマス
カラ、私ハ私ノ意見ヲ進ムルニ從ヒマシ
テ、私一個人トシテ國體ニ關スル信念ヲ披
瀝シテ、諸君ノ御批判ニ訴ヘタイト思フノ
デアリマス(拍手)國體ニ對シテハ民政黨モ
政友會モ違フ筈ハゴザイマセヌ、日本國民
ハ誰モ等シク萬世一系ノ皇室ヲ奉戴致シテ
居ルノデアリマスカラシテ(拍手)私ハ個人
トシテノ信念ヲ披瀝スルト云フ場合ニハ、
取リモ直サズ、國民トシテノ信念ヲ披瀝ス
ルト云フコトデアリマス(拍手)苟モ國體ヲ
論議スルニ政黨政派ノ區別ハ無イ筈デアル
ト私ハ思フノデアル
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=176
-
177・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=177
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178・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) 宮古君ハ憲法第八
條ノ解釋ニ關スル御意見ヲ述ベラレマシタ
カラシテ、私ハソレニ對スル意見ヲ述ベテ
見ヤウト思フノデアリマス、憲法第八條ニ
ハ公共ノ安全ヲ維持シ、又ハ其災厄ヲ避ク
ル爲ニ緊急ノ必要ガアル場合ニハ此緊急
勅令ヲ發シテモ宜イト云フコトヲ規定シテ
アリマス、一體憲法ノ條文ハ單ニ文字ノ上
カラ解釋スルニ止マラズシテ、其精神ヲ讀
マナケレバナラナイカト思フノデアリマス
(拍手)殊ニ現内閣ハ政黨内閣デアル、昨年
二月普通選擧ニ依テ選バレタル所ノ最初ノ
衆議院ニ於ケル多數ヲ基礎トスル所ノ政黨
內閣デアリマスルガ故ニ憲法第八條ノ解
釋モ、之ヲ政治的ニ最モ意義ノアルヤウニ、
精神的ニ充實スルコトノ出來ルヤウニ解
釋シナケレバナラナイト思フノデアリマス
(拍手)一體憲法ヲ解釋致シマスニ付テ、殊
ニ臣民ノ權利及生命ニ關係アル法規ハ宜
シク衆議院ノ協贊ヲ得ナケレバナラヌト云
フヤウニ解釋スルノガ至當デアルト思フ
ノデアリマス(拍手)憲法第八條ニハ、其規定
ハ無イト解釋セラル冫其精神ヲ見ナ
イデ、文字ヲ解釋スル所ノ意見デアルト思
フノデアリマス、勿論私ハ憲法第八條ト
憲法第七十條トノ相違ノアルコトハ承知
致シテ居ルノデアリマス、然ルニ玆ニ憲法
第四十三條ノ規定ガゴザイマシテ、「臨時緊
急ノ必要アル場合ニ於テ常會ノ外臨時會ヲ
召集スヘシ」トアリマス、ンコデ憲法第八
條ヲ解釋スルニハ、第四十三條ヲ參考トシ
テ、參照トシテ之ヲ考察スルコトガ必要デ
アルト思フノデアリマス(拍手)ソコデ憲法
第八條ト憲法四十三條ヲ竝ベテ考ヘマスル
時ニハ是ハ臨時議會ヲ召集シテ、帝國議
會ノ協賛ヲ經ルト云フコトガ憲法ノ精神ニ
適フモノデアルト見ナケレバナラナイノデ
アリマス(拍手)私ハ專門ノ法律家デハゴザ
イマセヌケレドモ、私ノ常識ニ基イテ、憲
法第八條ヲ解釋スレバ斯ウナルノデアリ
マっ、又憲法第八條ヲ實際上ノ運用ヨリ考
察致シマスルナラバ斯ウ云フ理窟ガ立ツ
カト思フノデアリマス、例ヘバ犯罪者ガ此
緊急勅令ニ觸レマシテ、死刑ノ宣告ヲ受ケ
タト假定致シマス、而シテ此緊急勅令ハ
若シ次ノ議會ニ於テ承諾ヲ得ルコトガ出來
ナケレバ、其效力ヲ失スルト云フノデアリ
マス、ソコデ法律ノ運用カラ申シマスルナ
ラバ一旦死刑ノ宣告口受ケタル者ハ、次
ノ通常議會ニ於テ承諾ヲ得ルカ得ナイカ分
ラナイ所ノ法律ノ爲ニ、或ハ場合ニ依テハ
其生命ヲ失フト云フヤウナコトニナルカモ
知レナイノデアリマス(拍手)ソコデ死刑ヲ
含ミマスル所ノ法規ハ緊急勅令ニ依ラズ
シテ、矢張臨時議會ヲ召集致シマシテ帝
國議會ノ協賛ヲ得ルコトニ致ス方ガ萬善ノ
策ナリト考フルノデアリマス
〔此時發言者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=178
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179・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=179
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180・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) 宮古君ハ昨年ノ五
月、六月頃ノ色〓ノ事件ノ經緯ヲ御述ベニ
ナリマシテ緊急勅令ヲ以テ本法ヲ發布ス
ルコトガ、絕對的ニ必要デアルト云フコト
ヲ御說明ニナッタノデアリマス、一應御尤デ
アルト傾聽致シタノデゴザイマスケレド
モ、昨年三月十五日、現內閣ガ日本共產黨
ヲ檢擧致シマシテカラ六月ノ末ニナリマ
シテ、緊急勅令ヲ公布スルニ至リマシタル
マデノ間ノ政府當局ノ執リマシタル態度
ヲ、一應取調ベル必要ガアルダラウト思フ
ノデアリマス(拍手)人ノ噂モ七十五日ト云
フコトガゴザイマシテ、現代ハ誠ニ多事多
忙ノ時デアリマスカラシテ、吾々ハ動モス
ルト半年モ前ニ起リマシタルコト、或ハ一
年足ラズ前ニ起リマシタル事ハ忘レ易イ
ノデアリマス、ソコデ諸君ノ記憶ヲ喚起ス
ル爲ニ、五六ノ事實ヲ述べマシテ諸君ノ御
參考ニ供シテ見タイト思フノデアリマス、
(拍手)三月十五日ニ現内閣ハ日本共產黨ヲ
檢擧致シタノデアリマス、其後或ハ左傾派
ノ勞働團體ノ組織ヲ禁ジタリ、或ハ官立學校
ノ社會科學〓究會ヲ解散シタリ、或ハ又官立
大學ノ左傾派ノ〓授ヲ免職致シマシタリ、色
色ナコトヲヤッタノデゴザリマス、而シテ第
五十五議會トナリマシテ、四月二十七日ニ
治安維持法ノ改正案ヲ衆議院ニ上程致シタ
ノデアリマス二十八日ハ山東出兵ト、思
想警察費五百餘万圓ノ追加豫算案ヲ提出致
シタノデアリマス、五月四日ニハ總理大臣
ガ內務大臣ヲ兼任セラレマシテ、五月五日
ニハ追加豫算案ガ通過致シタノデアリマス、
而シテ五月六日、衆議院ノ議事ガ終リマシ
タルガ爲ニ治安維持法改正案ト一云フモノ
ガ握潰シニナリマシテ、其儘五月七日閉院
式ヲ行フニ至ッタノデアリマス、越エテ十五
日ニナリマシテ
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=180
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181・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=181
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182・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) 政府ハ緊急勅令ヲ
以テ治安維持法改正ヲ行フ根本方針ヲ決定
致シマシテ十八日ニ閣議ニ於テ之ヲ承諾
致シタノデアリマス、ンコデ緊急勅令ヲ以
テ此法律改正案ヲ行ハナケレバナラナイト
云フ決心ヲ致シマシタナラバ、早速之ヲ樞
密院ノ議ニ掛ケルノガ當リ前デアルト思フ
ノデゴザイマス(拍手)若シ政府當局ガ申シ
マスヤウニ、事態ガ斯ノ如クニ急迫致シテ
居リマスルナラバ何故ニ直ニ之ヲ樞密院
ニ付議シナカッタノデゴザイマスカ、然ルニ
其後色ミナ事ガ起ッテ參リマシタ、卽チ久原
遞信大臣ガ入閣スルト云フコトヽナリマシ
テ、甚ダ御氣ノ毒デアリマスガ、政府ノ中
ニ御家騒動ガ起ッタノデアリマス
〔「オ氣ノ毒デアリマシタカ」ト呼ヒ其
他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=182
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183・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=183
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184・内ヶ崎作三郎
○內ケ崎作三郞君(續) サウシテ暫クノ間
ゴタ〓〓ヲ致シマシテ、サウシテ遂ニ二十
四日ニナッテ、所謂優諚問題ナルモノガ重大
化シマシテ、水野文部大臣ハ自決ヲシテ、
辭職ヲシタノデアリマス、二十八日ニ前田
法制局長官ハ原司法大臣ヲ訪問致シマシ
テ、此緊急勅令ニ反對ヲ表明シタト云フコ
トハ、其當時ノ新聞ニ載ッタノデアル、若シ
事態ガ非常ニ迫ッテ居リマシテ、ドウシテモ
之ヲ緊急勅令トシテ公布シナケレバナラナ
イト云フナラバ、此政府ノ最モ重要ナル位
地ヲ占メテ居ル所ノ法制局長官ガ、之ニ反
對スル理由ハナイト思フノデアリマス(拍手)六
月一日ニ革新黨ヲ初メ民政黨ガ之ニ反對ノ
意見ヲ公ニ致シマシタ、六月三日ニナリマシ
テ東京府ノ府會議員ノ候補者ガ漸ク出揃フ
ヤウニナッタノデアリマス、ソレガ大ニ關係
ノアル點デアルト思フノデアル、四日ニナ
リマスト、政友會ハ幹部會ヲ開キマシテ、
治安維持法改正法律案ヲ緊急勅令ニシテ公
布スルト云フコトニ承諾ヲスルコトニ決定
ヲシタノデアリマスガ、中ミ政友會ノ諸君
ノ中ニハ之ニ反對ノ人ガアル、中ニ强硬ノ
人ガゴザリマシテ、越エテ六日政友會有志
代議士會ヲ政友會本部デ開キマシテ、此問
題ニ對スル態度ヲ決メヤウト致シタノデア
リマスガ、一部ノ諸君ハ泣寢入リニナッテ、
幹部一任ト云フコトニナリマシタ、又一部
ノ諸君ハマア仕方ガナイカラシテ、是ハ六
月十日ノ後ニ延バシテ貰ヒタイト云フコト
ヲ主張シタト新聞紙ニ報道サレタノデア
ル(拍手)シテ見ルト六月十日ガ過ギレバ之
ヲ緊急勅令ニ出シテモ宜シイケレドモ、六
月十日マデハ出サナイデ吳レロト言ヒ、而
シテ政府ハ之ニ同意シタモノデアルト思フ
ノデアル、卽チ斯ノ如クニシテ半月程モ延
バス餘地ガアリマスルナラバ、吾々ハ左程
是ハ緊急ナル所ノ日本國家ノ存在ヲ非常ニ
危ウスルヤウナ風ニ、差迫ッテ居ッタモノト
ハ考ヘルコトハ出來ナイノデアリマス(拍
手)丁度其頃東京府下及神奈川縣ニ於テ府
縣會議員ノ選舉ガ行ハレツヽアッタノデゴ
ザリマシテ、到ル處ニ非常ニ盛ナル言論戰
ガ行ハレタノデアリマス、政友會ハ我黨內
閣ヲ光ラカセマシテ、隨分猛烈ナル運動ヲ
オヤリニナッタコトハ、私カラ申上ゲルマデ
モナイノデアリマス民政黨及野黨ハ大分
壓迫干涉ノ下ニ苦シメラレタノデアリマ
ス、而シテ此選擧ノ言論戰ノ題目トナリマ
シタル所ハ優詔問題モアレバ或ハ鈴木前
內務大臣ノ態度ニ對スル批判モアリマシタ
ラウシ、色ニナコトガアッタノデアリマス
或ハ支那問題モアリマシタラウ、多クノ問
題ノ中ニ此緊急勅令ノ問題ガ當然取扱ハレ
タノデアリマス、ソレデアルカラ六月十日
ノ東京府及神奈川縣ニ於ケル所ノ府縣會議
員選擧ノ結果ト云フモノハ、國民ノ或ル部
分ガ緊急勅令ニ對シテ如何ナル考ヲ持ッテ
居ルカト云フコトヲ窺知ル所ノ一ツノ標準
デアルト思フノデアリマス(拍手)而シテ其
結果ハ如何デアルカ、東京府ノ府會議員八
十五名ノ中、民政黨ハ四十六名、絕對過半
數デアリマス、政友會ハ三十四名、革新黨
ハ一名、無產黨ハ一名、中立三名デゴザイ
マシテ、革新黨、無產黨ノ二名ヲ加ヘマシ
テ、民政黨側ハ合セテ四十八名トナルノデ
ゴザイマシテ、東京府民ハ兎ニ角其府會議
員ノ選擧ヲ通シテ緊急勅令ヲ發布シテマデ
ヤッテ退ケナケレバナラヌト云フ所ノ、國民
ノ意思ヲ反映シタルモノデアルト思フノデ
アリマス、神奈川縣下ノ結果ハ如何デアルカ
ト言ヘバ四十一名ノ中、民政黨十八名、
政友會十八名、無產黨四名、中立一名デゴ
ザイマシテ、詰リ政府反對ノ縣會議員ノ頭
數ハ二十二名トナリマシテ、是亦絕對過半
數ヲ有スルコトニナッタノデアリマスルガ
故ニ、是ガ衆議院議員デハナイケレドモ
我國ニ於テ最モ政治知識ノ進步シタル東京
府及神奈川縣ニ於テ、其縣ノ多數ノ有權者
ガ緊急勅令ニ對シテ其樣ナ態度ヲ示シタト
云フコトハ認メテモ差支ナイト思フノデ
アリマス、(拍手)六月十日ノ選擧ヲ終リマ
シタカラシテ、十一日ハ開票、ソコデ政府
ガ安心シテ六月十二日ニ治安維持法改正勅
令案ヲ閣議デ決定致シタノデアリマス、此時
貴族院ノ有志ノ中デハ之ニ反對ノ意見ヲ
發表シタ人々モアッタノデアリマスガ、愈ニ
本案ハ六月十三日樞密院ニ提出セラレマシ
テ、樞密院ハ樞府精査委員會ヲ十四日ヨリ
開キマシテ、サウシテ本案ヲ精査シタノデ
アリマス
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=184
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185・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=185
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186・内ヶ崎作三郎
○內ケ崎作三郞君(續) 而シテ樞密院ハ本
案ニ對シテ如何ナル態度ヲ執。ッタカト言ヘ
バ是亦既ニ新聞ニ報道セラレタ通リデア
リマス、政府當局ハ樞密院ノ議事ガ世間ニ
漏レル筈ハナイト仰セラレテ居ルノデアリ
マスケレドモ、天下ニ信用アル所ノ新聞
ガ殆ド悉ク之ヲ揭載シテ居ルノヲ以テ見
ルナラバ是亦信用スルニ足ル所ノ材料ト
認メナケレバナラヌノデアリマス、一體樞
密院ニハ我國ノ國體ニ付テ考慮セラレテ居
ル所ノ人〓ガ多イノデゴザイマスカラ、若
シ此緊急勅令ガ必要ナモノト致スナラバ
樞密院ハ直ニ之ニ同意ヲ表スルニ違ヒナイ
ト思フノデアリマス然ルニ樞密院ハ中
中容易ニ之ニ同意ヲ表サナイノデアリマシ
テ、色ミナ質問ガ提出サレタノデアル
〔此時發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=186
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187・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニ願ヒマス-靜ニ
願ヒマス-靜ニナサラナケレバ議事ノ進
行ガ遲レルノミデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=187
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188・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) 其主ナル質問ヲ玆
ニ御紹介致シマスガ、第一ノ質問ハ新シイ
事實ニ就テ政府ノ說明ガ足ラナイト云フノ
デアリマス第二ノ質問ハ憲法八條ノ精神
カラスレバ、斯ル法令ノ制定ハ臨時議會ヲ
開イテ帝國議會ノ協賛ヲ要スルト云フノデ
アリマス、第三ノ質問ハ根本對策ノ方ガ
却テ緊要デアル法律ヲ改正スルヨリモ根
本對策ノ方ガ却テ必要デアルト云フノデア
リマス、第四ノ質問ハ緊急ノ意味ガ徹底シ
ナイト云フノデアリマス卽チ緊急ト云フ
コトノ意味ガ不徹底デアルト云フノデアリ
マス、第五ノ質問ハ政府ハ特ニ人權ニ關ス
ル法律命令ノ制定ニ當ノテハ、憲法ノ精神ヲ
紊ルコトガアッテハナラヌト云フノデアリ
マス、第六ノ質問ハ〓育問題竝ニ社會施設
ノ完備ヲ期シ、思想界ノ急激ナル變化ヲ惹
起サナイヤウニ注意ヲシナケレバナラナイ
デハナイカト云フノデアリマス、斯ウ云フ
ヤウナ質疑ガアリマシテ、政府當局モ之ニ
對シテハ相當ノ答辯ヲセラレタコトヽ思フ
ノデアリマヌ兎ニ角精査委員會ニ於テモ
十分ニ精査ヲ進メラレマシテ、又本會議ヲ
開キマシテ長時間ニ亙ッテ質問應答、討論
ヲ經マシテ、到頭是ハ樞密院ガ政府ニ贊成
ヲ致シタノデアルケレドモ、ソレハ御承知
ノ通リ樞密院ハ條件附デ承諾ヲ與ヘタノデ
アリマス、條件附デ承諾ヲ與ヘタト云フコ
トハ、政府ニ對スル體ノ好イ不信任案デハ
チカッタカト思フノヂアリマス(拍手)ソコ
デ是等ノ事情ヲ取集メヤシテ考察致シマス
ナラバ若シ日本共產黨ノ運勤ガ非常ニ急
激ナル所ノ進展ヲ致シマシチ、我國家國體
ヲ危クスルヤウチコトガアッタト致シマス
ナラバ、何故ニ政府ハ五月十五日ニ決メタ
所ノ此法律改正案ヲ、六月十二日迄延バサ
レタカサウ云フ筈ハナイト思フノデアリ
マス
〔此時發言者、離席者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=188
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189・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニナサイ、議席ニ御
著キナザイ-議席ニ御著キナサイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=189
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190・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) ソコデ若シ樞密院
ノ諸公ガ政府常局ガ主張セラルヽヤウニ、時
局ノ急激ナル進展ヲシテ、一瞬一刻モ之ヲ
忽セニシテハナラヌト云フ考デアリマスナ
ラバ、精査委員會ニ於テモサウ長ク延バス
コトモナイ、或ハ本會議ニ於テモサウ長ク
審議ヲ費スコトナクシテ、直ニ之ニ贊成ノ
意ヲ表セラレタニ違ヒナイト思フノデアリ
マスソコデ斯ル事情ヲ綜合シテ考ヘテ見
マスト云フト、政府當局ハ事態ガ非常ニ急
迫致シテ居ルト主張シテ居ルケレドモ、實
際ハ餘リ事態ハ急迫シテ居ラナイノデアッ
テ、或ハ鬼面人ヲ嚇カスヤウナコトヲヤッ
テ居ルニ過ギナイト思フノデアリマス、私
ハ是等ノ三ツノ點カラシテ、卽チ憲法ノ
解釋及運用、第三ノ理由ト致シマシテハ此緊
急勅合案ガ公布セラルヽニ至ルマデノ間
ニ政府當局ガ執リマシタル緩慢ナル怠慢
ナル態度ニ徵シテ是ハ必シモ緊急勅令ニ
依ルノ必要ハナクシテ、臨時議會ヲ召集シ
テ、帝國議會ノ協賛ヲ仰グ餘裕ハ十分ニアッ
タノデアリマスト考ヘザルヲ得ナイノデエ
ザイマス、然ルニ政府ガ、酸テ之ヲナサナ
カッタト云フノハ過般武富濟君ガ、此壇上
ヨリ政府ニ質問ヲセラレタルガ如ク政府
當局者ハ衆議院ヲ恐ルヽコト虎ノ子ノ如シ
デゴザイマシテ、威ダケ恐ロシイ虎ニハ出
會シタクナイト云フノデソコデ政府ハ正
正堂々トシテ臨時議會ヲ召集スルコトヲセ
ズシテ、卑怯未練ニモ緊急勅令ヲ以テ之ヲ
公布シタノデハナイカト思フノデアリマ
ス、尙ホ本案ハ關係スル所極メテ廣汎デゴ
ザリマシテ、或ハ外交ノ問題ト關係シ、或
ハ社會政策、思想問題、〓育問題ト關係致
シ、最後ニ國體ト關係致シマスルガ故ニ、私
ハ是等ノ諸點ヲ述べマシテ、本案ノ反對ノ
理由ヲ述べタイト思フノデアリマス、千九
百十七年ノ十月ニ露西亞ニ革命ガ突發致シ
マシテカラ、勞農政府ガ成立致シタト云フ
コトハ言アマデモゴザリマセヌガ、勞農政
府ハ歐羅巴各國ヲ資本主義ノ國デアルカラ
シテ吹ケバ一咲キデアルト云フヤウナ考
ヲ以テ、赤化宣傳ヲヤリ始メタナデゴザイ
せい、其當時費用ハ相當ニ持テテックテシ
イノデゴザリマシテ、露西亞ノ王室、貴族、
富豪ヨリ分取リタル所ノ寶物、或ハ金銀寶
玉ト云ヲヤウナモノヲ紐育邊ニ賣リマシ
テ、其豐富ナ金ヲ以テ宣傳ヲ致シタイノデ
アリマス、最初ハ獨逸ニ於テモ、佛蘭西ニ
於テモ、伊太利ニ於テモ英國ニ於テモ、
幾分カ成功シタヤウデゴザイマシタガ、間
モナク極端ナル右傾政策ガ歡迎セラレルヤ
ウニナリマシテ、伊太利ニ於テハ「フアシ
スト」黨ノ國粹政體ガ現出スルヤウニナッタ
ノデアリマシテ、サウシテ却テ歐羅巴各國
ガ露西亞ニ對シテ共同戰線ヲ張ッテ反抗ス
ルヤウニナッタノデアリマス、併シ勞農政
府ノ歐羅巴諸國ニ對スル所ノ第一段ノ運動
ガ略〓失敗ニ終リマシタガ爲ニ、ソコデ
今度ハ第二段ノ運動ニ入リマシテ、或ハ運
動遊戯ヲ通ジ、或ハ藝術、文學、音樂ナド
ヲ中心ト致シマシテ歐羅巴各國ト國際關
係ヲ付ケヤウト致シタノデゴザイマスト
ニ角歐羅巴ニ對スル赤化運動ハ、美事ニ失
敗ヲ致シタノデアリマスカラシテソコデ其
鋒先ヲ亞細亞ノ方ニ向ケテ參クタノデアリ
マス、亞細亞ニ對シテハ如何ナル態度ヲ執ン
タカト申セバ民族ノ自由解放ヲ標榜致シ
タノデゴザイマシテ、最初ノ中ハ、其鋒先
中ニ侮ルコトノ出來ナイヤウニ思ハレタノ
デゴザイマス、其結果トシテ、土耳古、波
斯、阿富汗斯坦ナドヨリ英吉利ノ勢力ヲ驅
逐シタノデアリマス(拍手)併ナガラ肝心要
メノ印度ノ赤化運動ニハ成功ヲシナイノデ
ゴザリマス、又勞農政府ハ支那ノ赤化運動
ニ著手致シタノデアリマスケレドモ(「止メ
給へ」ト呼ヒ其他發言スル者多ク議場騒然)
要スルニ南方政府ガ北伐ニ成功スルマデノ
間、應援シタニ過ギナイヤウナ結果ニナッタ
ノデアリマス
〔「止メロ〓〓」其他發言者多ク議場騷
然発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=190
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191・元田肇
○議長(元田肇君) 靜ニナサイ-静ニナ
サイ
〔「止メロし〓」「明日一時カラヤルゾ」
其他發言者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=191
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192・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) ソコデ··(發言
者多ク議場騒然)ンコデ亞細亞ノ赤化運動
モ要スルニ莫大ナル宣傳費ヲ民族獨立ノ
運動ニ利用サレタ形トナッテシマッタノデア
リマス
〔拍手起リ發言者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=192
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193・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニナサイ
〔「議長々々」「ドウシタンダ」「議長議
長」其他發言者多ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=193
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194・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニナサイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=194
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195・内ヶ崎作三郎
○內ケ崎作三郞君(續) 而シテ露西亞ノ國
內ニ於テハ共產主義ハ三年目カラ段々ニ變
說スルヤウニナッタノデゴザイマシテ·
〔發言者多ノ議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=195
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196・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニナサイ
〔「議場ノ靜肅ニナルマデ待ッテ居給ヘ」
「止メロ〓〓」「騒イダラ默シテ立ッテ居
口」「内ケ崎〓授ハ····」其他發言者多
タ議場騷然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=196
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197・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニナサイ-諸君
ニ改メテ申上ゲマスガ····(「散會ヲ命ジマ
ス」ト呼フ者アリ)今日ハ洵ニ大事ナ議事デ
ゴザイマスルカラシテ靜〓ニ且ツ深更マ
デ續ケテ(議場騒然聽取スル能ハス)ヲ
致シマス(發言者多ク議場騒然)御靜ニナサ
ラナケレバ演說者ガ何ヲ言ヒ居ルガ議長
ニモ分リマセヌ-皆樣ニ申上ゲマス···
(議場騒然聽取スル能ハス)····バカリデア
リマセヌ御靜ニナサラナケレバ已ムヲ得
ズ散會スルヨリ仕方ガナイノデアリマ
ス-靜ニナサイ
〔「散會々々」「妨害ヲ恐レルナ」其他發
言者多ク議場騷然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=197
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198・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) 卽チ千九百二十一
年以來新經濟主義ヲ行フヤウニナッタノデ
アリマス
〔此時發言者。多ク議場騷然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=198
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199・元田肇
○議長(元田肇君) 靜肅ニ願ヒマス-靜
肅ニ願ヒマスー靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=199
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200・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) 卽チ國家資本主義
ヲ行フヤウニナッタノデアリマス
〔議場騒然「靜ニナルマデ默シテ居給へ」
ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=200
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201・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニ願ヒマス
〔議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=201
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202・内ヶ崎作三郎
○内ケ崎作三郞君(續) ソコデ····
〔議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=202
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203・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニ願ヒマス-御
靜ニ願ヒマス-御靜ニ願ヒマス
〔「十二時マデ立ッテ居口」ト呼ヒ其他發
言者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=203
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204・内ヶ崎作三郎
○内ヶ崎作三郞君(續) ンコデ··
〔議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=204
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205・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニ願ヒマス
〔「退場シロ」「靜ニシロ」其他發言者多
ク議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=205
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206・内ヶ崎作三郎
○內ケ崎作三郞君(續) ソコデ露西亞
ハ
〔議場騒然〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=206
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207・元田肇
○議長(元田肇君) 御靜ニナサイ····議
場騒然)議場騒擾シテ議長ハ一度、二度、
三度立ッテカラニ、議場ノ靜肅ヲ望ミマシ
タケレドモ····(議場騒然聽取スル能ハス)
已ムヲ得ズ散會致シマス
午後十一時七分散會
衆議院議事速記錄第二十號中正誤
頁段行誤正
四九四三八呼稱誇稱
0四昭和六年昭和六年度
四同四三六稱シ稱スル
ニ四同四刻下國家
一発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005613242X02419290302&spkNum=207
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