1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和五年四月二十六日(土曜日)午前十時八分開議
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議事日程 第三號
昭和五年四月二十六日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第二日)
第二 盜犯等の防止及處分に關する法律案(政府提出) 第一讀會
第三 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ諸般ノ報
告ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
昨二十五日常任委員會ニ於テ當選シタル正
劃委員長ノ氏名左ノ如シ
資格審査委員會
委員長伯爵松平賴壽君
副委員長藤田四郞君
懲罰委員會
委員長伯爵柳原義光君
副委員長伊澤多喜男君
請願委員會
委員長子爵〓岡長言君
副委員長倉知鐵吉君
本日決算委員會ニ於テ當選シタル正副委員
長ノ氏名左ノ如シ
委員長伯爵二荒芳德君
副委員長犬塚勝太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キ、議事日程ニ移リマス、日程第一
號外昭和五年四月二十七日
貴族院議事速記錄第三號
國務大臣ノ演說ニ關スル件、第二日······只
今日程第一ヲ讀ミ上ゲマシタガ御異議ガ
ナケレバ日程第二ノ方ヲ先キニ致シタク考
ヘマス
[「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=2
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003・徳川家達
○ 議長(公爵德川家達君)盜犯ノ防止及處
分ニ關スル法律案、政府提出第一讀會、
御異議ガナケレバ通牒文ノ朗讀ヲ省略イタ
シマス、司法大臣渡邊子爵
〔左ノ通牒文及議案ハ朗讀ヲ經サルモ
參照ノタメ玆ニ記錄ス以下之ニ傚フ〕
盗犯等ノ防止及處分ニ關スル法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和五年四月二十三日
內閣總理大臣濱口雄幸
司法大臣子爵渡邊千冬
盜犯等ノ防止及處分ニ關スル法律案
第一條左ノ各號ノ場合ニ於テ自己又ハ
他人ノ生命、身體又ハ貞操ニ對スル現
在ノ危險ヲ排除スル爲犯人ヲ殺傷シタ
ルトキハ刑法第三十六條第一項ノ防衞
行爲アリタルモノトス
盜犯ヲ防止シ又ハ盜〓ヲ取還セン
トスルトキ
二兇器ヲ携帶シテ又ハ門戶牆壁等ヲ踰
越損壞シ若ハ鎖鑰ヲ開キテ人ノ住居
又ハ人ノ看守スル郡宅、建造物若ハ
船舶ニ侵入スル者ヲ防止セントスル
トキ
三故ナク人ノ住居又ハ人ノ看守スル
邸宅、建造物若ハ船舶ニ侵入シタル
者又ハ要求ヲ受ケテ此等ノ場所ヨリ
退去セザル者ヲ排斥セントスルト
ヰ
前項各號ノ場合ニ於テ自己又ハ絶人
ノ生命、身體又ハ貞操ニ對スル現在ノ
危險アルニ非ズト雖モ行爲者恐怖、
驚愕、興奮又ハ狼狽ニ因リ現場ニ於
テ犯人ヲ殺傷スルニ至リタルトキハ
之ヲ罰セズ
第二條常習トシテ左ノ各號ノ方法ニ依
リ刑法第二百三十五條、第二百三十六
條、第二百三十八條若ハ第二百三十九
條ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ニ對
シ、竊盜ヲ以テ論ズベキトキハ三年以上、
强盜ヲ以テ論ズベキトキハ七年以上ノ
有期懲役ニ處ス
兇器ヲ携帶シテ犯シタルトキ
二二入以上現場ニ於テ共同シテ犯シ
タルトキ
三門戶牆壁等ヲ踰越損壞シ又ハ鎖鑰
ヲ開キ人ノ住居又ハ人ソ看守スル邸
宅、建造物若ハ艦船ニ侵入シテ犯シ
タルトキ
四夜間人ノ住居又ハ人ノ看守スル
邸宅建造物若ハ艦船ニ侵入シテ犯
シタルトキ
第三條常習トシテ前條ニ揭ゲタル刑法
各條ノ罪又ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者
ニシテ其ノ行爲前十年内ニ此等ノ罪又
ハ此等ノ罪ト他ノ罪トノ併合罪ニ付三
囘以上六月ノ懲役以上ノ刑ノ執行ヲ受
ケ又ハ其ノ執行ノ免除ヲ得タルモノニ
對シ刑ヲ科スベキトキハ前條ノ例ニ依
ル
第四條常習トシテ刑法第二百四十條前
段ノ罪若ハ第二百四十一條前段ノ罪又
ハ其ノ未遂罪ヲ犯シタル者ハ無期又ハ
十年以上ノ懲役ニ處ス
〔國務大臣子爵渡邊千冬君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=3
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004・渡邊千冬
○國務大臣(子爵渡邊千冬君) 盜犯等ノ防
止及處分ニ關スル法律案ノ提出ノ理由ヲ說
明ヲ致シタイト存ジマス、近時强竊盜又ハ
家宅侵入者等ニシテ生命身體貞操等ニ對シ
危害ヲ加ヘムトスル者ガ續出イタシマシ
テ、被害者ニ於テ臨機ノ處置ニ依リ自ラ訪
衞ヲ致サナケレバ重大ナル實害ヲ免カル
ルコト能ハザル事例ガ甚ダ少クナイノデア
リマス、然ルニ刑法ノ正當防衞ノ規定ハ其
措辭ガ抽象的デアリマス爲ニ、其適用ノ範
圍ニ付テ解釋上ノ疑義ガアリマシテ被害
者ニ於テ機宜ノ處置ニ依リ自衞ヲ全ウスル
ニ躊躇セザルヲ得ザル場合ノアル憾ガアル
ノデアリマス此ヲ以テ法律上具體的ノ條
件ヲ明示シテ是等ノ場合ニ於ケル防衞權ノ
發動ヲ安固ニスル必要ガアルノデアリマ
ス又良民ガ盜賊又ハ侵入者等ニ遭遇イタ
シマス場合ニ恐怖驚愕、興奮、狼狽等ノ結
果急迫重大ナル危險ノ存否ニ對スル判斷力
ヲ失ヒマシテ、殆ド無意識的ノ擧措ヲ敢テ
スルニ至ルコトノアリマスノハ往々見ル所
デアリマス、斯カル場合ニ現行法上ニ於テ
ハ責任能力ノ上カラ見テ其罪ヲ罰セザルコ
トヲ得マスケレドモ、之ニ臨ムニ刑責ヲ以
テスル必要ノナイト云フコトヲ明カニ致ス
コトガ適當ナリト考ヘタノデアリマス、是
レ卽チ上記ノ諸點ニ關スル新ナル立法ヲ必
要ナリト認メタ所以デアルノデアリマス
次ニ從來ノ經驗ニ依リマスレバ强竊〓犯
人、殊ニ其常習犯人ハ出監後幾何モナク其
犯罪ヲ累行スルノヲ通例トスルノデアリマ
ス、社會ハ是ガ爲ニ重大ナル脅威ヲ受ケテ
居ルノデアリマス、此脅威ニ對シテ社會ヲ
保護スルニハ比較的ニ長期ノ刑ヲ科シテ社
會ヨリ犯人ヲ隔離スルト共ニ、其改善ヲ圖
ルコトヲ必要トスルソデアリマス、然ルニ
現行刑法運用上ノ慣例ニ於キマシテハ是等
ノ者ニ對スル科刑ガ輕キニ失シ、短期間ニ
シテ常習性ノ保持者タルコト明カナル者ヲ
釋放スルノ已ムヲ得ザルニ至リマシテ、社
會防衞ヲ全ウスルコトハ出來ナイヤウナ朕
況デアルノデアリマス、是ガ爲ニハ法律上
其刑ヲ重クスルノ必要ガアルノデアリマス、
以上ハ本案ヲ提出イタス重モナル理由デア
リマス、願クバ愼重ニ御審議ノ上御協贊ヲ
與ヘラレムコトヲ切望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵德川家達著) 別ニ御質疑モナ
イト認メマスカラ、次ノ日程ニ移リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 右議案ノ審査ヲ
付託スベキ特別委員ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=6
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007・林博太郎
○伯爵林博太郞君 只今問題トナリマシタ
特別委員ノ選擧ニ付キマシテハ、今期議會中
ヲ通ジマシテ、特別ノ場合ヲ除ク外、委員
ノ指名ヲ議長ニ一任シタイト存ジマス、ド
ウゾ諸君ノ御賛成ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=7
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008・前田利定
○ 子爵前田利定君贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 林伯爵ノ動議ニ
同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒマス
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=9
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010・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマ
ス、特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ
致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
盜犯等ノ防止及處分ニ關スル法律案特別
委員
侯爵細川護立君伯爵二荒芳德君
子爵曾我祐邦君富谷鉎太郞君
男爵渡邊修二君山岡萬之助君
大津淳一郞君關直彥君
花井卓藏君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一ニ戾リ
PV、湯地幸平君ノ登壇ヲ望ミマス
〔湯地幸平君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=11
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012・湯地幸平
○湯地幸平君 私ハ產業振興ニ關スル施政
方針、主トシテ農村、漁村、山村ニ關スル振
興政策ニ付テ總理大臣ニ御尋ネ致シタイト
思ヒマス、產業ノ振興政策ニ付キマシテハ各
位モ御承知デアリマセウガ、貴族院ニ於テ
二囘程希望決議ヲ致シタノデアリマス、第
一囘ハ若槻內閣ノ時デアリマス、第二囘ハ
田中內閣ノ時デアリマス、第一囘卽チ五十
二議會ノ時ニ貴族院ガ附帶希望トシテ決議
シタ其決議ノ內容ハ斯ウ云フコトデアリマ
ス、是ハ總テ速記錄ニアリマスルガ、「政府
ハ國內ノ需要ト海外貿易ノ事情トヲ參酌シ
我國ニ於ケル基本產業ヲ確立シ以テ一定ノ
方針ト計畫トヲ定メ其施設經營ニ關スル必
要ノ經費ヲ」、必要ノ經費ト云フコトハ特ニ
重キヲ置イテ出シタノデアリマス、「支出ス
ル等適當ノ措置ヲ執ラレムコトヲ望ム」、斯
ウ云フ希望決議デアリマシタ、是ハ昭和二
年ノ三月四日第五分科ニ於テ發案セラレタ
モノデアリマス、總理大臣ハ前申ス通リ若
槻君デアリマシテ、五分科ニ臨席セラレタ
ル國務大臣ハ安達透信大臣、町田農林大臣
藤澤商工大臣デアリマシタ、此希望決議案
ガ同僚ノ一人ヨリ提案セラルルヤ、此案ハ
或ハ政府ヲ攻擊スルヤノ風ニ取ラレテモ遺
憾デアラウト云フ意味カラ、他ノ同僚ノ一
人カラ政府ニ向ツテ質問ガ起リマシタ、同
僚ノ一人ト云ツテモ名ヲ出シテモ宜シウゴ
ザイマスガ、ソレハ柳澤伯爵デアリマス、柳
澤伯爵ハ政府ノ責任者ニ伺ヒタシト云フ特ニ
責任者ト云フ言葉ヲ置イテ、サウ云フ前置
キヲシテ問ハレタノデアリマス、其要旨ハ
速記錄ニ依ッテ申上ゲマスルト、此案ニ依
ル時ニハ政府ハ產業政策モ確立シテ居ラナ
ケレバ、又費用モ出シテ居ラナイト云フコ
トニナル、故ニ此案ニ對シテハ政府ハ反對
デハナイカト云フ質問ガアツタノデアリマ
ス、之ニ對シマシテ安達國務大臣ガ責任者
トシテ答ヘラレタ、其要旨ハ速記錄ニアリ
マスガ、其速記錄ニ依リマスト斯ウ書イ
テアリマス、「斯ウ云フコトハ往々衆議院
ナドデ見出スコトモアリマスカラ、サウ窮
屈ニ考ヘナイデモ宜ササウナモノダト」云々、
「サラバト言ッテ無方針カト云フト、無方針
デハナイ、必ズ產業政策モ立ッテ居ル、尙ホ
一層ヨリ良クシテ吳レト云フ意味ニ過ギナ
イデアラウト考ヘマスカラサウ窮屈ナモ
ノデモナイダラウト今日考ヘテ居リマス」、
結局安達國務大臣ノ御答辯ハソレハ提出シ
テモ少シモ支ヘガナイ、尙ホ產業政策ヲ
層ヨリ良クスルト云フコトニナルノデアル
カラ、政府ハ少シモ支ヘガナイト云フ御答
辯ニナッタノデアリマス、ソコデ其他種々質
疑應答ヲ重ネマシテ、此案ハ決議ニナッタ
ノデアリマス、此希望決議案ハ表面ニ現
レタ所ハ、今日ヨリ見レバ至ッテ抽象的ナ
モノデアリマスルガ、此案ニ贊成ヲシタ我
我同僚ノ間ニハ色ミ抽象的デナイ具體的ノ
考モアッタノデアリマス、當時我國ノ海外貿
易ガ甚ダ不振デアッタコトハ御承知ノ通リ、
又國民生活ノ安定、卽チ國內產業ニ付キマシ
テモ、憂慮スベキ點ガ生活ノ安定上非常ニ多
カッタノデアリマス、二三例ヲ擧ゲテ申シマス
ト、例ヘバ當時統計ハ大正十五年マデ五箇
年ノ統計ガアリマシタガ、其統計ニ依リマ
スルト、大正十一年ヨリ同ジク十五年マデ
五箇年間ニ於テ、一箇年間ノ輸出平均總額
ト云フモノハ輸出十八億四千八百五十万九
千圓デアリーマシタ、輸入ハドウアルカト
云フト平均額二十二億五千五百二十一万四
千圓デアリマシタ、下ノ方ノ數字ハ多少違
フカモ知レマセヌ、然ル時ハ每年平均四億
六百七十万五千圓ノ輸入超過ニナル勘定ニ
ナリマシテ、之ヲ五箇年ニ總計イタシマス
ルト二十億三千三百五十一一万五千圓ノ正貨
ト云フモノヲ此僅カ五箇年ノ間ニ取去ラレ
タ勘定ニナルノデアリマス、御承知ノ通リ
大正八年ノ現在ノ我國ノ正貨ハ二十二億圓
以上ト記憶シテ居リマスガ、單ニ貿易關係
カラ見ルト云フトモウ正貨ハナイ譯デア
リマス、然ルニ昭和二年三月二十九日ノ現在
ニ依ッテ調ベマスト、マダ正貨ハ十三億三千
七百万圓バカリアリマシタ、是ハ無論公私外
債ニ依ッテ補充セラレ、或ハ貿易外ノ收入ニ
依ッテ補充セラレタノデアラウト思ヒマス、
當時ハサウ云フ狀況デアリマシタ、而シテソ
レナラバ其輸出入ノ關係、ドンナモノガ輸入
ノ主ナルモノデアルカト云フト、是ハ皆
樣モ御承知デアリマスガ、當時ハ棉花ノ六
億三千万圓、食料品三億二千万圓、是ハ〓
料一切ノモノヲ合セマシテ······鐵機械、
肥料ガ一億圓內外、羊毛ガ八千六百万圓餘
リデアリマシタ、此中棉花トカ羊毛ノ如キ
天惠ニ浴シナイモノハ其輸入ヲ防グコトハ
是ハ困難デアルデアリマセウケレドモ、其
外ノモノハ政府ガ思切ッタ施設ヲヤラレタ
ナラバ、或程度マデ其輸入ヲ防ギ得ラレル
コトガ出來ルデアラウ、例ヘバ〓料品ノ三
億万圓ノ如キハ先ヅ日本內地ニハ非常ナ
荒蕪地ガアル、荒地ガ幾ラモアリマス、サウ
云フヤウナモノヲ開墾スル、併シ其當時ノ
開墾助成法デハ補助金ガ少イカラ開墾ヲス
ル人ガナイノデアリマス、デ開墾助成法ヲ
改正シテ開墾ヲ奬勵スル、其外農林省所管
ノ施設經營ニ依ッテ、此三億二千万圓ノ食料
品ト云フモノハ或程度マデ防ギ得ル、是人
一方ハ國際貸借ニ關係ガアルシ、一方ハ國
民生活ノ安定ニ關係ヲ有ッテ居ルモノデア
リマス、又輸出品ハ然ラバドンナ物ヲシテ
居ノタカト云フト、其當時ハ是ハ無論輸出ノ
大宗タル生絲ノ七億三千五百万圓ヲ首メト
致シマシテ、綿織物ガ四億千六百万圓、絹
織物ノ一億三千三百万圓、綿織絲ノ七千五
百万圓等ガ先ヅ五千万圓以上ノ輸出ノ主ナ
ルモノデアリマシタ、併シ是等ノ輸出品モ
漸次種々ナ競爭ガ起ッテ來マスカラ其品質
ヲ改善シテ、且又海外貿易ニ關シテ政府ガ
時代ニ適應シタル相當ノ施設ヲシナケレバ、
世界ノ競爭ニ打勝ッテ行クト云フ事柄ハ追
追ト困難ナ狀況ニナルデアラウト云フコト
デアッタノデアリマス、是ハ主トシテ海外貿
易ノ事情ト云フコトダケデスガ、今度ハ國
內ノ需要卽チ國民生活ノ安定ニ關スルコト
ハドウデアッタカ、是亦幾多ノ施設經營スベ
キ事項ガ澤山アッタノデアリマス、特ニ農村
ト山村、漁村ノ生活狀態ハ緊急ニ施設シナ
ケレバナラヌ事項ガ迫ッテ居ッタノデアリマ
ス、是等ノ點ガ此決議案ヲ出ス所ノ希望ノ動
機トナッタノデアリマスガ、當時昭和二年度
ノ豫算案ヲ皆ナ斯ウ云フ考デ調ベテ見ル
ト、產業ノ根本方針ガ何處ニアルヤラ了解
ガ出來ナイ、政府豫算ヲ一ツノ物トシテ之
ヲ統一的ニ〓究シテ行キマスト餘リ必要
デナイヤウナモノガ比較的ニ多クノ豫算ヲ
取ッテ居ル、非常ナ必要デアルト思フモノガ
割合ニ少イ豫算ガ取レテ居ル、是ハドノ內
閣デモ稍、豫算ノ奪ヒ取リ、是ハ與フル方カ
ラ行ケバ總花主義、斯ウ云フコトデ、又
內閣ヲ治メテ行ク上ニ於テモサウ云フ自然
ノ形勢ニナッテ行クノデセウカラ、ソレハ已
ムヲ得ナイコトデハアルケレドモ、併シ其
當時ノ產業ノ狀況ヲ見テ、之ヲ其儘放任シ
テ置クト云フ事柄ハ出來ナイ、ソコデ何ト
カ是ハ基本產業ト認メラルルモノヲ閣議ニ
於テ決定セラレテ、先ヅ以テ事業ノ性質ヲ
決定セラレテ、サウシテソレニ對シテ必要
ノ經費ヲ出來得ルナラバ優先的ニ取シテ貰
ヒタイ、斯ウ云フ意味モ加ハッテ居ッタノデ
アリマス、其後若槻内閣ハ瓦解イタシマシ
テ、田中內閣トナッタノデアリマスガ、ソレ
デアリマスルカラ、昭和三年ノ豫算ハ不成
立ニナリマシタ、昭和四年度ノ豫算ガ議會ノ
協賛ヲ經テ出來上ッタノデアリマス、其田中
內閣ニ於テ又貴族院ハ昭和四年度ノ豫算ヲ
第五分科ニ於テ審査スルニ當リマシテ第
五十二議會卽チ若槻内閣ノ時ニ、希望決議
ヲシタ趣意ガ豫算面ニ多少出テ居ルカドウ
ダラウカト云フ意味ヲ以テ、第五分科デ〓
究致シマシタ所ガ、マダ田中內閣ニ於テモ
豫算面ニ又十分ニ現レテ居ラナイ、色々論
議ノ結果、是デハ貴族院ノ希望決議ヲ充タ
スコトガ出來ナイト云フコトデ、第五分科
ニ於キマシテ又と附帶希望ノ決議ヲ致シマ
シタ、其決議ハ斯ウ云フノデアリマス、「第
五十二議會帝國議會ニ於テ昭和二年度豫算
案ヲ本院ニ於テ協賛スルニ當リ附帶シタル
基本產業ヲ確立シ其施設經營ニ關スル希望
ニ對シテ尙ホ一層其所期ノ目的ノ遂行ニ努メ
且ツ農業勞働ノ不足ニ付テハ十分之レガ〓
究ヲ遂ゲ適當ノ措置ヲ執ラレムコトヲ望
ム」、第二囘目ニハ農業勞働ト云フコトガ
加ッタダケデ、アトハ第五十二議會ノ希望ノ
決議ノ催促デアリマス、此附帶希望ハ是ハ
前田子爵ヨリ提案セラレタノデアリマス
其提案セラレタ理由ヲ速記錄ニ依ッテ申上
ゲマスルト云フト、斯ウ言ッテアル、前田子
爵ガ言ハレタ言葉ヲ速記錄ニ依ッテ調ベマ
スルト云フト、「商工省等ノ豫算ヲ見マスト
云フト、「基本產業ニ付キマシテハ若干ノ計
畫ト費用ヲ見積ラレテアリマスケレドモ、
未ダ以テ十分ナリトハ遺憾ナガラ御認メ申
上ゲル譯ニ參ラヌノデアリマス、卽チ第五
十二囘議會ニ於ケル所ノ附帶希望ハ貴族院
ノ望ムガ如ク未ダ實現サレテ居ラヌコトハ、
甚ダ遺憾ニ感ズル次第デアリマスノデ、尙ホ此
點ニ付キマシテハ尙ホ十分ニ所期ノ目的ノ
遂行ニ努メテ御貰ヒ申シタイ」云々ト斯ウ
速記錄ニアリマス、是ニ依リマスルト云フ
ト、昭和四年度ノ確定豫算ハ不十分デハ
アッタケレドモ、第五十二議會ニ於ケル貴
族院ノ希望決議ヲ幾分採用セラレタモノト見
エマシテ、產業振興ノ若干ノ計畫ハ樹テラレ
テアリマス、卽チ幾分カ產業振興ノ萌芽ヲ、
芽ヲ出シカケテアッタノデアリマス、然ルニ
濱口內閣ニ於テハ貴衆兩院ノ議ヲ經テ確定
シタル昭和四年度ノ豫算ヲ、實行豫算ト云フ
名義ヲ以テ之ヲ執行セラレナイ、卽チ或意
味ヲ以テスレバ之ヲ更正セラレタ、產業振
興ノ計畫ハ殆ド全部ニ亙ヲテ減額又ハ削除
セラレタノデアリマス、是ハ豫算ヲ見レバ
直グ分リマスルガ我とノ希望シテ居ッタ
項目ハ大分削ラレテ居リマス、昭和六年度
ノ豫算モ近々編成ニ著手セラレルコトト思
ヒマスルカラ、其主ナルモノヲ總理大臣ノ
御記憶ニ止マルヤウニ一一三申上ゲテ置キマ
ス農林省ノ分ニテ臨時部產業奬勵費中、
貿易農產物改良增殖奬勵ニ關スル經費、之
ヲ減額セラレマシタ、開墾助成ニ關スル經
費、是ハ削除セラレマシタ、開墾地移住奬
勵ニ關スル經費、是ハ減額デアリマス是
ハ荒レタ所ヲ開墾シテ其處ニ餘ッタ人民
ヲ移シテ此人間ノ整理ヲスルト云フ事柄ハ、
國內ニ於テモ必要ナコトト思ヒマスカラ
開墾地移住奬勵ニ關スル經費ノ如キハ最モ
必要ノモノト思ヒマス、用排水幹線改良事
業費補助ニ關スル經費、既定ノ分、繰延べ
ラレマシタ、是ハ併シ或ハ事業ガ繰延ベテ
アルダラウト思ヒマス、事業ガ繰延ベテア
リマスルナラバ、金ヲ繰延ベラレテモ事業ニ
影響セヌノデアリマスカラ、是ハ餘リ追究
イタシマセヌ、暗渠排水事業奬勵ニ關スル
經費ノ增加、暗渠排水ト云フ事柄ハ是ハ農
村ノ多年ノ問題デアリマス、是ハ增加シタ
ノヲ削除サレタ、林野ノ保護奬勵ニ關スル
經資、新規ノ分、是モ削除セラレマシタ、
大型漁船奬勵ニ關スル經費、新規ノ分モ既
定ノ分モ減額サレマシタ、近頃ノ漁船ハド
ウモ船ガ小サイ、是ハ餘程大型ノ漁船ニシ
モウ少シ海洋ニ這入リ込ンデ行ッテ隨分漁
獲物ヲ多クシナケレバナラヌト云フコトハ
漁業界ノ輿論デアリマス、此費用モ減額セ
ラレマシタ、水產增殖奬勵ニ關スル經費ノ增
加新規ノ分、是モ削除サレマシタ、養蠶デ桑
園ノ改良ト云フ事柄ハ非常ニ問題ニナッテ
居リマスガ桑園改良奬勵ニ關スル經費新
規ノ分、是ハ減額サレマシタ、農村振興費
ト云フモノヲ一括シタ······農村振興費、是
ハ新規ノ分ト既定ノ分ト減額サレマシタ
百三十三万四千七百十三圓ト云フモノヲ
減額サレマシタ、主要食糧農產物ノ改良增
殖奬勵ニ關スル經費、是モ新規ノ分減額デ
アリマス、農業倉庫ト云フ事柄ノ是ハ非
常ニ農家デ必要ナコトデアリマスガ、農業
倉庫ノ指導奬勵ニ關スル經費、新規ノ分、減
額デアリマス、農業倉庫建設奬勵金既定ノ
分、是ハ既定ノ分ハ減額サレマシタ、漁村
振興ニ關スル經費、漁村ハ非常ニ困ッテ居ル
ノデ、此振興ニ關スル經費、新規ノ分、減
額デアリマス、ソレカラ近頃ハ桑ノ木ガ色
色霜ノ害ニ罹ル、桑樹凍害豫防奬勵ニ關スル
經費、新規ノ分、減額デアリマス、木炭ノ利
用增進ニ關スル經費、新規ノ分、削除サレ
マシタ、民有林其他造林促進ニ關スル經費、
新規ノ分、減額サレマシタ、貿易農產物改良
增殖奬勵ニ關スル經費、新規ノ分、減額デ
アリマス、其他農林省ノ分ニテ削除又ハ減
額セラレタル件數ハ五十乃至六十件ニ亙ッテ
居リマス、一々申シマセヌ、削除額及ビ
減額ノ總額ハ四百九十一万二千二百五十三
圓デアリマス、是ハ新規ノ分モ既定ノ分モ
合セテ、斯ウナッテ居リマス、繰延額ガ九十
九万九千八百圓デアリマスカラ、總計デ五
百九十一万二千五十三圓ニナッテ居リマス、
又商工省ノ分ハドウサレタカト云フト、商
工省ハ田中內閣ニ於キマシテノ當時ニ、ド
ウモ貴族院ノ希望スルヤウナ豫算ガ出シテ
ナイ、甚ダ貧弱ナル豫算デアリマシタガ、
其貧弱ナ豫算カラ又削ラレタ、產業統計改
善ニ關スル經費、新規ノ分、減額サレマシ
タ、ドウシテモ今日ノ產業上ノ統計ハ是ハ
町村ニ行ッテ見マスト、甚ダ複雜ナルモノデ
アリマス、ドウシテモ統計ノ正確ナルモノ
ヲ拵ヘテ、之ヲ基礎トシテ產業合理化ヲヤ
ラレルノデモ、總テ產業上ノ振興ヲセラレ
ルノニハモウ少シ統計ガ正確ニナラナケ
レバナラヌト思ヒマス、此經費新規ノ分、
減額サレマシタ、輸出絹織物業取締ニ關ス
ル經費、新規ノ分、是ハ削除セラレマシタ、
綿業試驗所設置ニ關スル經費、新規、是モ
削除サレマシタ、是モ海外貿易ニ係ル綿業
ヲ試驗スルト云フコトハ非常ナ議論ガ起ッ
テ居リマス、又臨時部ニ於キマシテハ工業
〓究奬勵ニ關スル經費、新規ノ分、減額サ
レマシタ、海外市場競爭品蒐集ニ關スル經
費、海外市場競爭品ヲ蒐集シテ之ニ關スル
貿易ノ方針ヲ定メルト云フ事柄ハ必要ナ事
デアリマスルガ、是モ削除サレマシタ、主
要工業缺陷調査ニ關スル經費、新規ノ分、
是モ削除サレマシタ、主要工業ノ缺陷ヲ調
査スルト云フ事柄ハ非常ニ大事ナコトデア
リマス、燃料〓究所事業進捗ニ伴ヒ要スル
經費、新規ノ分、削除サレマシタ、染料製造
奬勵ニ關スル經費、是ハ既定ノ分モ減額サ
レマシタ、削除減額件數ハ十四五件ニ互テ
居リマシテ、其中繰延シタ件數ガ一件アリマ
スルガ、此削除額ト減額トノ總數ハ百二十
万百七十圓デアリマス繰延ガ十一万七千
二十圓デ、總計百三十一万七千百九十圓
デアリマス、農林省、商工省合セテ七百二十
二万九千二百四十三圓ト云フモノヲ削ラレ
タノデアリマス、此中ニハ我ミガ熱心ニ主張
シテ居ッタモノガアリマスルガ、實ニ見事ニ皆
削ラレマシタ、一旦貴衆兩院ノ決議ヲ經テ確
定シタル豫算ヲ款ノ中ノ項ニマデ渉ッテ勝手
ニ執行シナイト云フ事柄ハ、法律上ノ議論モ
アリマセウガ尠クモ政治論トシテハ到底
私ハ贊成ハ出來ナイノデアリマス、斯ル慣
例ヲ作ル時ニハ、內閣ノ更ル度每ニ實行豫
算ノ名前デ以テ貴衆兩院デ決議シタモノヲ
執行シナイコトニナル非常ニ又議會ノ議
決權ト云フコトヲ或ル意味カラ云ヘバ無視
スルコトニナルノデアリマス、是ハ私ハ政
治論トシテハドウシテモ穩當デナイト斯ウ
考ヘマスルガ、此形式論ハ私ハ玆ニハ論ジ
マセヌガ、其削減セラレタル內容ニ付テ私
ハ甚ダ遺憾ニ思フ事柄ヲ申上ゲル次第デア
リマス卽チ其削減シタ多數ノモノハ貴族
院ノ希望決議ニ載テ居ル國内ノ需要ト云
フモノト海外貿易ノ事情ヲ參酌シ云々ト
云フコトニ直接ノ關係アル項目デアリマス、
特ニ農林省ニ屬スル分ハ殆ド全部國內ノ
需要ニ關スルコト··此希望決議ノ卽チ
國內ノ需要ニ關スルコト卽チ國民ノ日常
生活ノ基礎トモナルベキモノデアリマス
濱口總理大臣ハ昨年內閣ノ成立後間モナク、
八月五日地方長官會議ニ於テ熱心ナル抱
負ヲ以テ訓示セラレタ是ハ官報ニ載ッテ
居リマス、其一節ニ曰ク、「產業ノ振興、特
ニ」トアリマス、「特ニ農村、漁村、山村ノ振
興ハ一國經濟ノ基根ニ培ヒ其充實ヲ期スル
所以ノモノナリ、從ッテ政府ハ深ク此點ニ
留意シ」云々ト云フコトヲ訓示サレテ居ル、
其後間モナク實行豫算ノ名義ノ下ニ、農村、
漁村、山村振興ノ基礎トナルベキ施設經營ニ
關スル費目ヲ隅ミマデ、細カイ費目マデ、
能クモ斯クモ削ラレタト云フ程削ラレタノ
デアリマス、私ハ甚ダ是ハ了解ニ苦シム
特ニ留意スルト云フ事柄ハ特ニ留意シテ
削減シタト云フ結論ニナリマス普通ノ常
識デハ到底判斷ガ出來ナイノデアリマス
現今農村ノ困難ナ狀態ヲ總理大臣ハ御承知
デアリマセウカドウ非常ナ風雞デ焼糖デブ
方ニ參リマシタガ、
リマシタ米ハ安シ、副業ノ產物モ亦思ハ
シカラズ、稅金ハ景氣ノ好イ時ト同樣ノ額
ヲ納メナケレバナラヌ、是ハ政府ノ方ヲ苦ハ〓カメカカカイカ
樣デアリマス、
ヲ實地ニ派シテ御調査ニナッタナラバ直チ
ニ分ルコトト思ヒマスガ、所ニ依クテハ〓
フヤ食ハズノ狀態デアルト言ッテモ、是ハ過
言デナイト思ヒマス、農林省ノ分デ減額サ
レタ五百九十万圓、商工省ノ分ガ百三十一
万圓此二ツヲ合セマシテモ七百万圓位デア
リマス、我國十六億ノ豫算カラ見ルトキハ
僅ナ金額デアリマスガ、此金額ノ大部分ハ
補助費デアリマスルカラ之ヲ支出スレバ
大ナル働ヲ爲ス金デアリマス、此金額ノ支
出ニ依リマシテ、地方ノ產業、地方產業振
興ノ事業ヲ喚起シマシテ······此補助費ト云
フモノハ事業費ノ利息ニ當ルモノデアリマ
ス、當ル金デアリマス依テ是ダケノ
補助費ヲ置キマスナラバ數千万圓若クハ
一億圓内外ノ產業振興ノ其事業ガ地方ニ起
ルノデアリマス、之ニ依リマシテ農村ハ非
常ニ助カルノデアリマス、又今日ノ如ク農
村ノ精神ヲ萎縮セシメナイノデアリマス
所ニ依リマシテハ是ハ政府デモ御聞及ビニ
ナッテ居リマセウガ、稅ガ納メラレナイデ不
納同盟ヲ作ル、東京府ニモ或ル二三ノ郡ニ
出來テ居ルト云フコトヲ聞イテ居リマスガ、
是ハ或ル一種ノ主義者等ガ之ヲ煽動シテ不
納同盟ヲ作ッテ居ル斯ウ云フコトニナッタ
ナラバ私ハ非常ナ事ニナルト思ヒマス
一方ニ於テ政府ハ非常ナル英斷ノ力ヲ有ツ
テ居リマス、堂々タル閣議ニ於テ決定セラレ、
サウシテ公表セラレタ官吏ノ減俸案ト云フ
モノモ、苦モナク撤囘セラレタ是ハ一種
ノ英斷デアル、人ニ依ッテハ妄斷ト申スカ
モ知レマセヌガ、私ハ善意ニ解シテ英斷ト
申シテ置キマス、官吏ノ一部ガ之ニ反對ス
ルカラト云ッテ、世論ニ鑑ミ······ドウシテ
官吏ノ一部ガ反對スレバドウシテ世論ト
ナリマスカ此案位、私ハ地方ニ居リマシ
タガ、農家モ商家モ喜ンダ案ハ殆ド無カツ
タノデアリマス之ヲ惡イト悟ッテ撤囘サ
レルト云フコトハ、一種ノ英斷デアリマス
又緊縮ノ方針、緊縮ヲ徹底セシムルニ於テ
ハチパワンタイル圓ノ國庫負擔ト云フ
是ハ今日ヤラナケレバナラヌコト
デハナイ、緊縮ヲ徹底スルニ付テハ緊縮ノ
邪魔ニナルト云フ議論ガ囂々タルニ拘ラズ
英斷ヲ以テ之ヲ提案セラレタノデアリマス、
或ハ一時鐵道ノ新線ハ緊縮政策デヤラナイ
ト云ッテ打切ッタ新線ヲ復活セラレテ是一
非常ナ英斷デ、又勇氣ガアル仕方ト思ヒマ
スガ、此勇氣ト英斷ヲ以テ貴族院ノ希望決
議ニ臨マレタナラバ今少シハ貴族院ノ希
望決議ノ面目モ立チ、濱口總理大臣ガ自身
ニ於テ、農村漁村山村ノ振興ニハ特ニ注意
スルト云フ言責ヲ守ラレル程度ニ於テ、實
行豫算ガ出來タコトデアラウト私ハ思フ
ノデアリマス、世間デハ現政府ハ農村ニ對
シテ冷淡デアル、農村ニ對シテハ無策無能
ナリトノ世評ガアリマスルガ、現政府ノ精
神ハ決シテサウデナイト云フコトヲ私モ
知ッテ居リマスルケレドモ、此外形ニ現レ
タ豫算ノ方ヨリ之ヲ見ル時ニハ、サウ言ハ
レテモ仕方ガナイト云フ結論ニナルノデア
リマス、以上述ベタル所ヲ私ハ綜合イタシ
マシテ、結論トシテ總理大臣ニ伺ヒタイノ
ハ、貴族院ノ希望決議、卽チ國內ノ需用云
云ト云フコトガアッタニモ拘ラズ又總理
大臣自身ガ農村漁村山村ノ振興ニハ特
注意スルト云フコトヲ言ハレタニモ拘ラズ
昭和四年度ノ實行豫算ニ於テ比較的多ク是
等ノ經費ヲ削滅セラレタト云フ事柄ハ
實行セラレヌト云フ事柄ハ其理由ハ何處
ニアリマスカ、之ヲ一ツ承リタイ或ハ貴
族院ノ希望決議ナルモノヲ、輕ク見ラレタ
カ、重ク見ラレタカ、或ハ輕クモ見ナケレ
バ重クモ見ナイ、全ク眼中ニ置カレナカッ
タノデアルカ、眼中ニ置カレナイトシテモ
總理大臣自身ガ農村漁村山村ノ振興ニハ特
ニ留意スルト云フコトハ、是ハ決シテ御忘
レハナカラウト思ヒマスソレニモ拘ラズ
特ニ農林省ノ費用ヲ五十件六十件ニ亙ヲテ、
一ツノ費目ハ僅カ二万圓足ラズノ金デアリ
マシテ、其金ヲ置ケバ非常ニ農村ガ生キル
ノデアリマスガ、サウ云フモノモ悉ク削ラ
レタト云フコトハ實ニ私ハ不愉快ナ感ジ
ガスルノデアリマス、第ニ特ニ此農村漁
村山村ノ經費ヲ削ラレタノハドウ云フ譯デ
アルカ、或ハ是ハ私ハ大政ヲ變理セラレル
總理大臣デアリマスルカラ、斯ウ云フ小サ
イ事柄ハドウモ御氣ガ付カレナカッタノデ
ハナイカ知ラヌト思ヒマスルケレドモ、併ナ
ガラ是ハ將來ノ豫算編成ニ關係ノアルコト
デアリマスカラ、結局總理大臣ニ向ッテ御
專ネスルヨリ外仕方ガナイノデアリマス
ソレカラ昭和四年度ノ實行豫算デ削ラレタ
事柄ハ己ムヲ得ナイトシテモ、何レ〓後ニ
於ケル昭和六年度ノ豫算ノ編成ト云フコト
ガ起リマスルガソレデ貴族院ノ希望決議
ノ國内ノ需用、卽チ國內ノ基礎產業トモ云
フベキ農村漁村山村ト云フモノニ付テノ
此振興ニ關スル具體的政策ガアルナラバ
ソレヲ承リタイ勿論一二ハ現ハレテ居リ
マスルガ此特別豫算デモ現ハレテ居リマ
スルガ、其外ニ何カアリマスカモウアレ
デ無イ積リデアリマスカ、承リタイ海外
貿易ニ關シテ······決議案ニ海外貿易ノ事情
ヲ參酌シト云フコトガアリマスルガ海外
貿易ノ事情ヲ參酌シテ何力又將來ニ於テ
計畫サレテ居ルカドウカ是モ二ハ現ハ
レテ居ルモノモアリマスガY其外ニマダ有
リマスカドウカ、其次ニハ貴族院ノ希望決
議ハ基本產業ト云フモノヲ定メヨト云フ
希望決議デアリマスガ、基本產業ト云フモ
ノハ未ダ定メテ居ラレナイノカ、定メラレ
テ居ルノカ、ソレヲ承リタイソレカラ若
シ以上ノ三點ニ付テ相當ノ御考ガアルナラ
バソレニ對スル經費ハドノ位見積ッテ居
ラレマスカ、是ハ私ハ段々此國ノ收入ガ減ッ
テ行ク、其上ニ一千万圓ノ國庫負擔金ヲ出
スト云フト此產業資金ト云フモノハ無ク
ナリハセヌカ知ラヌ斯ウ云フ心配ガアリ
マスカラソレデ大體ノ計畫ガ將來ニ御有
リニナリマスルナラバ、ソレニ要スル經費ハ
今日カラドノ位見積ッテ居ラレマスカ、之ヲ
御尋ネ申上ゲタイト思ヒマス、是ハ尤モ非
常ニ細カイコトガアリマスカラ、直チニ御
卽答ヲ願ヘレバ仕合セデスガ······私等ハ決
シテ攻擊スル意味デモ何デモアリマセヌ
謂ハバ農林商工ノ豫算ヲ、之ヲ取リ易イヤ
ウニ、所謂產業振興ニ關スル豫算ヲ取リ易
イヤウニ之ニ向。ッテ援助ヲスル意味デア
リマスルカラ、ドウカ左樣御承知ヲ願ヒタ
イト思ヒマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=12
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013・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 只今ノ湯地君ノ
御質問ニ對シテ私ヨリ御答ヲ申上ゲマス
極メテ御〓心ナル御質問ヲ拜聽イタシテ
殊ニ農村漁村山村ノ振興ニ付テノ極メテ緻
密ナル御意見ヲ拜聽イタシマシテ、ソレニ
對シテ私ヨリ大要ヲ御答ヘ申サウト思ヒマ
ス御質問ノ要點ハヽ昭和四年度ノ實行豫
算ヲ政府ガ作ルニ當ッテ、農村漁村山村ノ振
興ニ關スル既定ノ豫算、卽チ既ニ兩院ノ協
贊ヲ經テ豫算トシテ公布サレテ居ル、其金
額カラ數百万圓ノモノヲ削除シタ、其理由
ハドウ云フ理由デアルカト云フコトガ御質
問ノ第一點デアリマス、是ハ根本問題トシ
テ先ヅ申上ゲテ置カナケレバナラヌコトガ
アリマスガ、獨リ農村漁村山村ノ經費ヲ削ッ
タノミデハアリマセヌノデ、四年度ノ豫算
ニ對シテ實行豫算ヲ作成スルニ當リマシテ
ハ各省ノ經費ヲ通ジテ非常ナル節約繰延
ヲ行ツテタノデアリマス、其理由ハ今更改メ
テ申ス迄モナイコトト存ジマスルガ、卽チ我
ガ經濟界ノ大ナル癌ヲナシテ居シタ所ノ、十
數年來ノ懸案タル金ノ解禁問題ヲ解決ヲス
ルガ爲ニ、已ムヲ得ザル準備行爲トシテ豫
算ノ節約ヲ行ッタノデアリマス總テノ產
業ノ振興、總テノ貿易ノ發展、之ヲ策スル
ニハ金解禁問題ノ解決ト云フコトガ先決
問題デアルト政府ハ確信ヲシタノデアリマ
ス此問題ノ解決ニ至ラヌ限リハ、通貨ノ
自然ノ調節ハ行ハレマセヌ物價ノ自然ノ
調節モ亦行ハレマセヌ、其結果トシテ國內
ノ通貨ハ恰モ日本ガ鎖國ノ狀態ニ於テア
ルカノ如キ狀態ノ下ニ膨脹イタシマシテ
其結果物價ハ不自然ニ騰貴シ國際的ノ平
準ニ下ガルコトガ出來マセヌ、而シテ爲替
ノ相場ハ變動常ナク、物價騰貴ノ結果トシ
テ輸入ハ增進ヲ致シ、輸出ハ減退ヲシマス、
玆ニ於テ輸入超過ノ勢ハ連年遞增ヲ致シテ
參リマス、其結果トシテ先刻湯地君ガ御擧
ゲニナリマシタ數年間ノ輸入超過ノ累計ガ
現レテ來タト云フコトニナッテ居リマス、
而シテ其輸入超過ヲ決濟スルガ爲ニハ申ス
迄モナク正貨ヲ要スル而モ日本ハ金ノ輸
出ヲ禁止ヲシテアリマスカラ、輸入超過ノ
決濟ヲスル爲ノ金貨ハ在外正貨ヲ以テスル
外ハアリマセヌ其在外正貨ハ戰時中蓄積
シテ居リマシタモノガ段々ト滅少シテ參リ
マスカラ、玆ニ於テカ爲替ガ下ガル其結
果ガ國際的ニハ勿論、國內的ニモ我ガ日本ノ
廣イ意味ニ於ケル財界ニ誠ニ容易ナラザル
影響ヲ與ヘル斯ノ如キ狀態ノ下ニ於テハ
到底產業貿易ノ堅實ナル發展ハ出來マセ
ヌ大正六年ニ金ノ輸出ヲ禁止イタシマシ
テ以來、歷代ノ內閣ハ有ユル努力ヲ拂ッテ
成ルベク速ニ金ノ解禁ヲ斷行シ、產業貿易
ノ堅實ナル發展ヲ圖ル其基礎ヲ作リタイ
ト云フコトニ盡力ヲサレ、心配ヲ致サレタ
ト云フコトハ私ハ能ク承知ヲ致シテ居リマ
ス不幸ニシテ其機運ガ至ラナカッタガ爲
ニ金解禁ノ時期ガ頗ル遲レマシタ、私共カ
ラ見マスレバ本年一月ノ十一日ヲ以テ金ノ
解禁ヲ斷行シタノハ其時期ガ既ニ遲カッタ
ノデアリマス、併ナガラ遲レタリト雖モ成
ルベク速ニヤラナケレバ日本ノ財界、延イ
テ產業貿易ノ狀態ハドウナルカ分ラヌト云
フ誠ニ憂慮スベキ狀態ニ在ッタノデアリ
さく、玆ニ於テ私共、內閣ヲ組織イタシマ
シテ第一ニ著眼ヲシタノハ此金解禁問題
ノ解決デアリマス其解禁ヲ行ヒマスルニ
ハヽ絕對的ニ必要ナル準備行爲トシテ財政
ノ整理緊縮ヲヤラナケレバナラヌ、サウシ
チ公債ノ發行額ヲ出來得ル限リ減少ヲセヌ
ケレバナラヌ、外國ヘ拂フ金ヲ出來得ル限
リ少クセヌケレバナラヌ其爲ニハ先ヅ以
テ政府自ラノ財政ヲ整理緊縮スルノガ第一
義デアリマス、左樣ニ信ジマシタ爲ニ旣
ニ兩院ノ協賛ヲ經テ公布ニナッテ居リマス
ル豫算デアリマスルニモ拘ラズ、金解禁ノ
必要ナル準備行爲トシテ既定豫算ノ範圍內
ニ於テ、政府部內ニ於テ節約ノ申合セヲ致
シマシタ、是ガ卽チ世間デ實行豫算ト稱ス
ルモノデアリマス、其實行豫算ノ法律上ノ
問題、政治道德上ノ問題ニ付テハ別ニ御論
及ガ無カッタカラ私ハ申シマセヌガ、其實行
豫算ヲ作ルニ付テ單リ農林省ニ限リマセ
ヌ商工省ニモ限リマセヌ、政府ノ各省一
般會計ノ全部ノミナラズ特別會計ニマデ
亙ッテ出來得ル限リノ整理節約ヲ行ッタノデ
アリマスソレガ爲ニハ私共非常ナル犠牲
ヲ忍ンデ、國民ニモ非常ナル犧牲ヲ忍ンデ貰
ハヌケレバナラヌ、丁度只今アナタガ御述べ
ニナリマシタ農林省ノ所管、商工省ノ所管ニ
於ケル所ノ數十項目ニ亙レル數百万圓ノ金
額ノ節減ト云フコトハ卽チ金解禁問題ノ
或ル意味ニ於ケル犠牲ニナッタノデアリマ
ス誠ニ已ムヲ得ナイ事柄デアルト私ハ
考ヘテ居リマス、其整理節約ガ行ハレマシ
テ、御承知ノ通リ物價ハ段々ト低落ヲ致シマ
シタ爲替相場ハ次第ニ騰貴ヲ致シテ參リ
マシタ、ソレガ國民ノ消費節約ト相俟ッテ輸
入ガ減少イタシ、輸入超過モ從ッテ減少ヲ致
シ國際貸借ノ改善ハ漸次行ハレマシタノ
デ、六箇月ノ準備ヲ經テ本年一月、金ノ解
禁ヲ行ッタノデアリマス、申ス迄モナイコト
デアリマスケレドモ、今御擧ゲニナリマシ
タ農林、商工兩省ニ亙ル所ノ經費ノ節減ハ決
シテ其兩省ノミノ節減ニ止マッタノデハアリ
マセヌ、卽チ豫算全體、財政全體ニ亙ッテノ
整理節約ノ部デアリマス、而シテ全般ニ
亘ツタ整理節約ハ卽チ金解禁斷行ノ準備デ
アリマス誠ニ已ムヲ得ナイコトト私ハ存
ジマス是ガアナタノ第問ニ對スル御答
デアリマス然ラバ第二問ニ移リマシテ
此度ノ追加豫算ニモ多少ノモノハ出テ居ル
ヤウデアルケレドモ尙ホ六年度ノ豫算ノ
編成ノ時期モ追ミト迫,テ來ルデアラウカ
ラ、昭和六年度ノ豫算ニ於テハ、農村漁村山
村ノ振興、其他ノ產業ノ振興ニ關スル經費
ヲ要求スル積リデアルカト、斯ウ云フノガ
御質問ノ要點デアリマス、此度ノ追加豫算
ニハ御說ノ通リ多少ノモノヲ見テアリマス、
大體ニ於テ金解禁後ノ善後策トシテモヽ政
府ノ財政緊縮ノ方針ヲ變ヘル譯ニハ參リマ
セヌ旣ニ相當ノ準備モ整ウテ金ノ解禁ヲ
斷行シタル以上ハ最早緊縮ノ方針ヲ維持
スル必要ガ無イデハナイカト云フ議論ガ
世間デハ或ハ有ルカモ知レマセヌガ私共
ノ考デハ、是ハ金解禁ノ前後ニ拘ラズ財政
ノ整理緊縮ト云フコトハ必要デアルト信ジ
やっく、若シ旣ニ解禁ヲヤッタニ依ッテ、產業ノ
振興ノ爲メ、或ハ其他ノ理由ノ爲ニ再ビ
財政ノ膨脹ヲ來タスト云フコトガアリマシ
タナラバ其結果ハ直チニ通貨ノ膨脹トナ
リマス、物價ノ騰貴トナリマス、卽チ貿易
上ノ均衡ガ失ハレマシテ、再ビ輸入超過ヲ
繰返シ、解禁ニ依フテ自由ニナリマシタ所ノ
金ノ流出ハ盛ンニ行ハレ、我ガ財界ハ拾收
スルコトノ出來ナイ狀態ニ陷ルデアラウト
云フコトヲ深ク惧ルルモノデアリマス、玆
ニ於テカ大體ノ方針トシテハ、六年度ノ豫算
ヲ編成スルニ當リマシテモ大體緊縮ノ方
針ヲ以テ進ムノ外ニハナイト信ジマス、併
ナガラ物ニハ自ラ緩急ガアリマス緊縮ノ
方針ヲ行フ上ニ於テモ、將來ノ爲メ或ル事
柄ニ向ッテハ相當ノ經費ヲ要求スルコトガ
必要デアラウト存ジマスソレハ主トシテ
將來ノ國際貸借ノ關係ヲ改善スル爲ニ必要
ナルモノ言換ヘテ見マスレバ輸出ヲ增
進シ輸入ヲ減少スル結果ニナルベキ經費、
卽チ兌換制度ヲ安全ニ擁護スルコトノ出來
ルヤウニ其助ケニナルベキ費用、其事業ト
云フモノニ向ッテハ相當ノ計畫ヲ立テナケ
レバナラヌデアラウト存ジテ居リマス、併
ナガラ豫算ノ編成期マデニハ尙ホ相當ノ時
間ガアリマス從テ如何ナル經費ヲ六年度
ニ於テ要求スベキヤト云フ其輪廓スラモ
御答ノ出來ナイト云フコトハ誠ニ遺憾デア
リマス、然ラバ政府ハ農村ノ問題ニ付テ冷
淡デアルカ貴族院ノ委員會ニ於ケル決議
ヲ如何ニ見テ居ルカト云フ御質問、ソレニ
對シマシテハ農村ノ問題ニ對シテ政府ハ
決シテ冷淡デハナイト云フコトハ只今湯
地君ガ御述べニナリマシタ私ノ訓示ノ要旨
ニ依ッテモ御諒解ニナッタコトト存ジマス
又貴族院ノ委員會ノ決議ヲ輕ク見ルト云フ
如キ考ハ毛頭持ッテ居リマセヌ、十分重キヲ
置キテ之ヲ見テ居ル積リデアリマス茲ニ
附加ヘテ私ノ所見ヲ申シテ見タイコトガア
リマスガ、農村問題ノ改善、殊ニ農民ノ生
活ヲ安定セシムルコト其爲ニハ積極消極
兩樣ノ方途ガアラウト考ヘマス積極ノ方
途ハ卽チ農村ノ振興ニ充テルベキ所謂產業
振興策デアリマセウ、消極ノ方策トハ卽チ
農村ノ負擔ノ輕減デアリマス、二ツナガラ
行ヘレバ誠ニ結構デアリマスケレドモ、今
日政府ノ大體ノ方針ト兩立シ得ベキ方策
ハ寧ロ其消極的ノ方策ニアルヤウニ存ジ
マス勿論積極的ノ方策ヲ全然ヤラヌト云
フ意味デハアリマセヌ現ニ此度ノ追加豫
算ニモ昨日此壇上ニ於テ申述ベマシタ通
リ肥料ノ配給ノコトニ付テ豫算ヲ要求シ
テアル位デアリマス、負擔ノ輕減ニ付キマ
シテハ御議論モアリマセウケレドモ是
ハ農村ニハ限リマセヌガ義務〓育費ノ增
額、是ハ其時ニ及ンデ意見モ申シマセウシ
又御意見モ拜承イタシマセウガ此〓育費
ノ增額ノ目的ハ卽チ市町村ノ負擔ノ輕減
ヲ主トシテ居リマス而シテ此負擔ノ輕減
ハ無論全國ノ市町村ニ均霑ヲシマスケレ
ドモ、其及ブ程度、其恩澤ヲ最モ適切ニ受
クル所ハ主トシテ農村デアラウト存ジマ
ス其外ニ政府ハ財政整理ノ方法トシテ
獨リ中央政府ノ財政ノミナラズ更ニ進ン
デ地方公共團體ノ財政ニモ整理緊縮ヲ加ヘ
マシタ、其金額ハ私ハ此席デハ記憶ヲ致シ
マセヌガ四年度ニ於テハ何千万圓トカ
或ハ五年度ニ於テハ何千万圓、相當巨額ノ
整理緊縮ヲ致シマス、市町村ノ財政ノ整理
緊縮ハ延イテ市町村民ノ負擔ノ輕減ニナ
リマス、直接間接ニ具體的ノ數字ヲ
ハッキリ申スコトハ出來マセヌケレドモ、昭
和四年度ニ於テモ、又恐ラクハ五年度ニ於
キマシテモ、此公共團體ノ財政整理緊縮ノ
爲ニ、殊ニ農村ノ住民ガ相當負擔ノ輕減ヲ
受ケタデアラウト存ジマス斯ノ如クニ政
府ハ農村生活ノ安定、農民ノ負擔ノ輕減
全體トシテ產業貿易ノ堅實ナル發展ト云フ
コトニ向ッテ、相當ノ注意ヲ致シ、相當ノ努力
ヲ致シテ居ル積リデアリマス今日モ其通
リデアリマスガ、將來ニ向ッテモ此方針ハ變
ヘナイ積リデアリマス、尙ホ詳細ノコトニ
付キマシハ必要ニ應ジマシテ主務大臣カ
ラ御答ヲ致シマス、又此機會デナクトモ
豫算委員會ニ於テナリトモ、農林大臣、商
工大臣カラ御答スルデアラウト存ジマス、
私ハ大體ノ事ヲ以テ御答ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=13
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014・湯地幸平
○湯地幸平君 只今總理大臣ノ御答ハ私
ノ質問ヲシタコトデナク、根本ノ御答デア
リマス、根本ノ御答ヲ細カク御答へ下サイ
マシタ、其點ニ於テハ滿足イタシテ置キマ
ス、私ガ質問ヲシタ點ハ尙ホ外ニ細カイ
點ガアルノデアリマスガ、他日適當ノ機會
ニ質問スルコトニ致シタイト思ヒマス本
日ハ是デ打切ッテ置ク次第デアリマス
〔山岡萬之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=14
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015・山岡萬之助
○ 山岡萬之助君私ハ皆樣ノ暫時御〓聽ヲ
煩ハシマス政府ノ緊縮方針ヲ以テ今日マ
デ政治ヲナサレタ其經路ニ付キマスル問題
ヲ質問イタシマシテ御答辯ヲ煩ハシタイト
思ヒマス、デ手續若クハ形ノ上カラ申シマ
シテ議會ノ審議權ヲ無視シタル點、實質ノ
問題デ政府ノ緊縮政策カラ不景氣トナリ
失業問題ヲ生ジマシタノデアリマス、此問
題ニ付テ御尋ヲシ、ソレニ伴ウテ所謂就職
難ノ問題ヲ御尋ネ致シタイト考ヘマス、先
ヅ總理大臣ニ大綱ヲ御尋ネ致シタイ譯デア
リマス、現內閣ノ諸公ハ財政ニ付テハ常ニ
緊縮方針、在野時代カラ左樣ナ御主張デア
リマシタ、組閣以來ハ整理ト緊縮、而シテ
消費節約ヲ以テ政治ニ臨マレタノデアリマ
ス、金解禁ノ目的ヲ達成イタシマスル手段
トシテ非常ニ事功ヲ急ガレタ爲ニ手段ヲ
選バナカッタ點ガアルコトヲ私ハ考ヘルノ
デアリマス、而シテソレニ依ッテ今日斯ノ
如キ不景氣ニナリ、昨日モ議場ニ於テモ其
事ハ皆サンノ御聽取リニナッタヤウナ次第
デ甚シク不景氣ニナッテ居リマス、因テソ
レカラ失業問題ヲ生ジタト云フコトハ私
共ハ甚ダ遺憾ニ存ズル次第デアリマス、此
樣ニナリマシタル點ニ付テ政府ノ財政ヲ緊
縮スルト云フコトニ付テ、昭和四年度ノ公
布豫算ニ於テ一億四千七百万圓ト云フ大斧
鉞ヲ加ヘタノデアリマス只今湯地君カラ
御述ベニナリマシタヤウニ、農林商工ノ範
圍ニ於テモ、アノヤウナ澤山ノ項目ニ亙ッ
テ手ヲ加ヘテ居ルノデアリマス、斯ノ如キ
大斧鉞ヲ加ヘタト云フコトハ是ガ議會審
議權ヲ無視シタト云フ問題ニナッテ今日ニ
至ッテ居ル、是等ハ手段ヲ選バナカッタ一例
ダト私ハ考ヘマスル、確定豫算ヲ政府一存
デ變更スルコトガ出來ルカ否カ、今日立憲
政治ニ於テハムヅカシイ問題デアリマス
諸外國ノ如ク、我國ノ豫算制度ガ法律デア
リマスルナラバ是ハ變更出來ナイコトハ
論ヲ俟タヌ點デアリマス、然ルニ我國ノ豫
算制度ハ法律デアリマセヌ爲ニ、學者實際
家ノ議論ト云フモノガ一致イタサヌノデア
リマス、此點ニ付テハ後ノ憲政運用ノ爲ニ
永キ問題トナルノデアリマスルガ故ニ、私
ハ特ニ之ヲ論究イタシタイノデアリマス
小久保君ノ第五十七議會ニ於テ質問ヲ致サ
レタソレニ對シマシテ總理大臣ノ御答辯ニ
ハ斯ノ如クナッテ居ルノデアリマス、「世間
デハ兩院ノ協贊ヲ經テ陛下ノ御裁可ヲ受
ケテ度ビ公布シタル豫算ニ對シテ政府
ガ恣ニ實行豫算ト云フモノヲ編成ヲ致シ」云
云「實行豫算ト世間デ申スモノハ決シテ左樣
ナモノデハアリマセヌ、豫算ハ一ニシテ二
ナシ是ハ固ヨリ兩院ノ協贊ヲ經テ公布サ
レタモノガ唯一ノ豫算デアリマス」「公布
サレタル正式ノ豫算ノ範圍內ニ於テ政府
部內ニ於テ此金額ハ斯ク〓〓ノ事情カラ
使ハヌデ節約シタラ宜シイト云フ申合セヲ
シタノデアル憲法上何等ノ問題ハ起ラナ
イ殊ニ先例ガアルノデアル」ト云フ趣旨
ノ御說明ニナッテ居ルノデアリマス、斯ノ如
ク總理大臣ハ實行豫算ト云フ名ヲ避ケラレ
テ居ル御答辯デアリマスケレドモ其申合
セト云フコトニ依ッテ示サレタル事實ノ關
係ハ是ハ否定スベクモナイコトデ、外部ニ
旣ニ表示セラレテ居ル事柄デアリマス殊
ニ私ガ申上ゲル迄モナク豫算ハ議會ヨリ
政府ニ對シテノ關係デアリマシテ國民
ニ對スル拘束力若クハ法規ノ關係ト云フモ
ノハ全然無イノデアリマス故ニ政府ニ於
テ公布豫算ヲ變更シテ之ヲ各官廳ニ通達シ
タ是以上ハ豫算ハ變更サレタ形ニ於テ
實施スベキ狀態ニナッタト云フコトハ疑
ヒナイ所デアルノデアリマス、此各官廳
ヲシテ實施セシメルト云フコトガ卽チ豫算
ト云フモノガ事實變ヲテ居ル、是ハ認メナ
ケレバナラヌト思フノデアリマス是故ニ
豫算ガ變ヲタ形ニ於テ實行サレタト云フコ
トニナリマスレバ、公布豫算ハ是ハ一ノ形骸
ヲ殘シテ居ル斯ウ言フヨリ外ハナイト思
フノデアリマス、是故ニ我ミハ實行豫算ト
云フモノハ政府ノナサッタヤウナモノガ
實行豫算デ過去ニ於ケル例モ亦是以外ニ
ハ出テ居ラヌノデアリマス、併シ其形式用
語ノ爭ヒト云フコトハ私ハ何レデモ宜イ
ト思フ總理大臣ノ仰シヤルヤウニ申合セ
デアリマシテモ、或ハ實行豫算ト申シマシ
テモ是ハ一ノ用語ニ過ギナイノデアリマ
ス我〓ハ此事實ヲ土臺ニ致シマシテ昭
レ大正貳年北京市公安局西城分局年前半端末端的
テ
デアリマス斯ノ如キ關係卽チ豫算變更ノ
重大ナル事實ト云フモノハ是ハ憲法政治
ニ於テハ實ニ容易ナラザル問題ト謂ハナケ
レバナラヌ、私ガ申上ゲル迄モナク議會
政治ニ於キマシテハ議會ノ意思ヲ尊重スル
ト云フコトガ何ヨリモ大切デアルト思ヒマ
ス、議會ノ意思デアル豫算ヲ變更イタシマ
スルニハ是故ニ相當ノ事由ガナケレバナラ
ヌノデアリマス、私ガ申ス迄モナク、凡ソ
法律ノ根據ニハ正當、卽チ民法ニ於テモ刑
法ニ於キマシテモ、法規ノ無イ場合ニ於テ
ハ條理ヲ以テ基礎トシ、又正當デアル限リ
ト云フモノハ個々ノ法文ニ牴觸シテ居リマ
シテモソレガ正シイ行爲デアルト云フコ
トニナッテ居リマス、法律ノ基礎ハ何處迄
モ正義ニ依ッテ解釋サレル譯デアリマス
是故ニ斯ノ如ク重大ナル豫算ノ變更ヲナ
サッタコトニ付テ相當ナル理由ノアル限リ
ニ於テハ是ハ是認出來ルデアリマセウ、
此點ヲ私ハ、ハッキリ致シタイノデアリマス、
我ミノ見ル所ニ依リマスレバ、公布豫算ヲ
變更スル迄ノ間ニ僅カノ年月ヨリホカナイ
ノデアリマス其僅カナ月日ノ間デ見マス
ルト云フト、經濟上ニ於キマシテモ財政上
ニ於キマシテモ、自然ノ推移ト云フモノハ
アッタノデアリマスルケレドモ、何モ變シタ
事柄ハナイノデアリマス、何モ事實ニ變リ
ハナイ、總理大臣ハ此點ニ於テ斯ウ斯ウノ
事由アル場合ニ於テハ節約スルト云フコト
ヲ申合ハセシタト云フダケデアッテ、何等
ソノ事由ハ御說明ハナイノデアル、今日ノ
湯地君ノ問ニ對シ其御說明ノ中ニ、金解禁
ト云フ重大ナル問題ヲ控エテ居ル其準備ノ
爲ニ豫算ヲ節減スルコトハ已ムヲ得ナカツ
タノデアル、斯ウ云フヤウニ御答ヘニナッテ
居ルデアリマス、然レドモ、金解禁ノコト及
ビ緊縮ノ政策ト云フコトハ濱口總理大臣
ガ年來御主張ニナッテ居ッタ事柄デアリマ
ス、而シテ此コトハ五十六議會ニ於テ四年
度ノ豫算案ヲ討議スル際ニ於テハ、既ニ討
論濟ミデアリマス、反對セラレ······豫算ニ
反對セラレタノデアリマス、然レドモ議會ハ
其反對ヲ容レナイデ、此豫算ヲ通過イタサシ
タト云フ以上ハデス、在野時代ノ御主張ヲ
以テ此理由ヲ否定サレタル所ノ豫算ヲ改造
スルト云フコトハ御無理デハナイカト思
フノデアリマス故ニ、煎ジ詰メレバ結局
コノ政治上ノ見解ノ違ヒカラシテ此豫算案
ヲ變更シタモノデアル豫算ヲ變更シタモ
ノデアル、考ヘ方ノ違ヒデアルト云フヨリ
外ニ私ハ見出セナイノデアリマス、デ先例
ハ山本內閣ニ於ケル大正二年ニ於テ、此場
合ニ於テハ桂內閣ノ後ヲ承ケテ其豫算ハ
議會ニ於テ前年度ノ豫算ヲ踏襲シタモノデ
不完全デアルカラシテ是ハ實行豫算ヲ以テ
整理スルト云フコトヲ、言明イタサレテ居
ル又大正十二年ノ山本内閣ニ於ケル實行
豫算ハ關東ノ大震災ニ依。ッテ非常ナル變化
ヲ起シテ居リマスルノデ、是ガ爲ニ歲入ヲ
減少シ、歲出ノ點ニ於テモ變更ヲ加フルト
云フコトハ當然ナコトデアッタノデアリマ
ス更ニ又大正十三年ノ三派內閣ノ時ニ於
キマシテハ前年度ノ豫算ヲ施行イタシマ
シタノデアリマスルカラ是ハ我國ニ於テ
ハ憲法ニ於テ不成立ノ場合ニ於テハ前年度
ノ豫算ヲ施行スルト云フノハ法律ノ擬制デ
アリマス、前年度ノ豫算ガ今年度ノ豫算ニ
適當デナイト云フコトハ論ヲ俟タナイ、色ミ
ノ事情ニ於テ變更ガアルノデアル、是故ニ
此場合ニ於テ適當ナル變更ヲ加ヘテ執行ヲ
スルト云フコトハ是亦相當ノ理由アリ正
シイコトヽ言ハナケレバナラヌノデアル
現ニ現內閣ニ於テ五年度ノ實行豫算ヲ御作
リニナッタ所カラ見テモ此事ハ理解出來ル
譯デアル、ダカラ先例ト總理大臣ノ仰シヤ
ルコトハ是ハ總テ相當ノ理由ガアルノデア
ル單ニ政府ノ考ヘノ違ッタト云フダケデ
ハナイノデアル然ルニ大正四年度ノ豫算
ノ變更ト云フモノハ政府ノ考ヘガ違ッテ居
ルト云フ事カラノミ出テ居ルト私ハ考ヘル
ノデアル、デ前內閣卽チ田中內閣ノ豫算ガ
成立イタシマシタル以上ハデス、其提案ノ
理由デアリマスル所ノ政策ノ何レデアリマ
シテ見タ所デ、是ハ一國ノ豫算デアル故ニ、
一國ノ豫算デアル以上ハ議會ノ意思トシテ
之ヲ認メ、之ヲ尊重スルコトガ立憲政治ノ
當然デアルト考ヘルノデアリマス、若シ政
府ノ御考ヘノ如クニ何等客觀的ニ事情ガナ
イ政府ノ考ヘト云フコトヲ外ニシテ客觀
的ニ何等ノ事情ガナイト云フ場合ニ於テ
モ、尙ホ豫算ハ變更出來ルト云フコトニナ
リマスレバ議會ニ於ケル審議ト云フコト
ハ全ク意味ヲ爲サナクナルノデアリマス
三箇月間愼重審議シテ成立セシメタ豫算ト
云フモノハ意味ヲ爲サナクナルノデア
リマス、卽チ議會ニ關係ノナイ所ノ政治
ガ出來ルコトニナルノデアリマス政府
專制ノ弊ニ陷ルノデアリマス、是故ニ、
政府ニ於テハ四年度ノ豫算變更ハ金解禁
準備ナリト御考ヘニナッテ居ルノデアリマ
セウカ、私ニハソレガ理解出來ナイノデア
ル卽チ其政策ハ既ニ討論濟ミデアル、是
故ニ其討論濟ミニ依ッテ成立シタル豫算
ヲ變ヘルニ付テハ豫算ガ成立シタ以後ニ
於テ變更ヲ爲サルマデニ何カ特殊ノ事由ガ
起キタト云フコトヲ御說明ナサラヌケレバ
ナラヌノデアル、私ハ其事山ガ御有リニナ
ルノデアルカ、又サウ云フ事由ナシニ變更
シテ宜シイノデアルカ此點ヲ第一ニ承リ
タイノデアリマス、次ニ款項ノ十數箇所ニ
亙ッテ全部ノ金額ヲ削除イタシテ居リマス、
此コトガ總理大臣ノ所謂公布豫算ノ範圍內
ニ於テ整理ヲシタ、斯ウ云フコトガ申セル
ノデアリマセウカ、ドウデアリマスカ卽
チ議會デ定メマシタル所ノ事業ヲ遂行シナ
イ點ガ十數箇所アルノデアリマス豫算ハ
議會ノ審議ニ依ッテ斯ク斯クノ事項ヲ決定
スル、而シテ其事業ヲ遂行スベキ狀況ニナッ
テ居ルノデ、是卽チ議會ノ意思デアル、其
意思ヲ無視シテ事業ヲ遂行シナイデ宜シイ
カドウカ是ハ私リマ
ス、金額ニ關スル限リ炒心情報!大阪府有力發行者は何ですか?
云フコトハデス
スヘルームのノ共其的方達成出リマ
ス
來ル限リハ寧口金額ハ使ハナイ方ガ宜シイ
ノデアル、例ヘバ寄附ヲ受ケテ其豫算ノ目
的ヲ達成スルト云フコトモ幾ラモアル例デ
アリマス、ソレダカラシテ豫算ニ定メマシ
タル金額ハ之ヲ支出スル義務ガアルト云フコ
トハ今日ノ豫算制度ニ於テハ認メテ居ラヌ
ノデアリマスソレト同時ニ豫算ノ目的ヲ
達成スルニ必要デアル場合ニ於テハ、款項
ノ金額ヲ超過シテモ事後ニ於テ議會ノ承諾
ヲ受クル條件ヲ以テ支出シテ宜シイト云フ
コトニナッテ居リマスルノデ、卽チ金額ニ關
スル限リハ下ヘモ上ヘモ向ケルト云フコト
ニナッテ居リマス、此コトハ卽チ豫算ニ定メ
タル目的ノ達成ニ重キヲ置イテ居ル結果デ
アルト考ヘラレルノデアリマス款項ニ關
シマスル所ノ憲法ノ條規デアル第六十四條
ニ於テ其重要性ヲ示シテ居リマス又會計
法ノ八條ニ於テハ款項ニ區分シテ豫算ト云
フモノハ編成スベキコトヲ說明シ又會計
規則八條ニ於テハ經費ノ目的ヲ示スベキ
コトヲ命ジテ居リマス、更ニ同四十四條ニ
於マキシテハ支拂ノ目的ニ違フコトナキヤ
否ヤト云フコト支拂ニ付テハ特ニ目的ヲ
調査シナケレバナラヌト云フコトガ命ゼラ
レテ居ルノデアリマス、斯ノ如クシテ豫算
法規ヲ通覽イタシマスレバ豫算ノ目的ヲ
達成スルト云フコトニ最モ重キヲ置カレテ
居ルノデアリマス、カルガ故ニ款項ノ一ツ
ガ議會ニ於テ議決セラレナカッタナラバ、豫
算ノ全部ハ不成立ニナルト云フコトニナフ
テ居ルノデアリマス此理由ヲ推シテ參リ
マスルト云フト、款項ノ金額全部ヲ削除
シ、其事項ヲ遂行シナイト云フコトニナリ
マスレバ是レ卽チ豫算ガ破壞サレタモノ
デアルト申スベキデアルト考ヘマスル、デ款項
ノ全金額ヲ削除シタ場合ニ於テ是ハ私
ハ、程度ノ問題ト云フコトハ私ハ言ヘヌト
思フノデアリマス、豫算ノ範圍內ニ······公
布豫算ノ範圍內ニ於テ節約セラレタト云フ
御話デアリマスルケレドモ是ガ全部ヲ削
除シテ尙ホ範圍內ニ於テ節約シタト云フコ
ト、我ミニハ認メルコトガ出來ヌノデア
모든何故カト申シマスレバ其處ニ金
額ガ全部ナカッタ場合ニ於テハ、其款項ト云
フモノハ旣ニ存在、不存在ノ問題ニ係デ
參リマスル故ニ、款項ノ金額ヲ零ニシテシ
マッタト云フコトハ決シテ是ハ最早程度
ノ問題デアル範圍內ノ問題デアルト云
フ譯ニハ參ラヌト私ハ考ヘルノデアリマ
ス斯ノ如クニシテ款項ト云フモノハ豫算
ニ於テハ極メテ重要ナモノデアリマシ
彼我流用ヲ許サナイノデアリマス、從
額ノ全部ヲ削除イタシマシテ事業ヲ施行シ
ナカッタ、斯樣ナコトハ憲法ニ背反シタル
行動デアルト私ハ確信ヲ致スノデアリマ
ス、此點ニ付テ政府ノ御所見ヲ承リタイノ
デアリマス次ニ現政府ハ民政黨ヲ基礎ト
シタル所ノ政黨內閣デアリマス、民政黨ノ
宣言綱領ニ於テ、議會中心政治ヲ徹底セシ
ムベシト云フコトガ示サレテ居ルノデアリ
やく、デ我ミハ此問題ニ付キマシテ、我國
ノ政治ハ議會、政府、裁判所、此上ニ君臨
シ給フ所ノ陛下ガ統治權ヲ總攬遊バシテ、
陛下ガ政治ノ中心デアル皇室中心ノ政治
ト云フコトガ我ガ國ノ政治ノ根本デアルト
云フコトヲ考ヘテ居ル者デアリマス之に
對シマシテ當時我〓ノ說ハ議會否認論デア
ル斯ウ云フコトヲ以テ應酬セラレテ居ル
ノデアリマス、我〓ハ議會政治ヲ認メルコ
トニ於テ、議會政治ヲヨリ能ク進メテ行ク
ト云フコトニ於テ決シテ人後ニ落チル者
デハアリマセヌ、現內閣ハ民政黨ヲ基礎ト
シタ內閣デアリマシテ濱口總理大臣ハ民
政黨ノ總裁デアリマス是故ニ其平素ノ主
張ニ顧ミテ議會ノ意思ト云フモノハ最モ
能ク尊重シナケレバナラヌト私ハ考ヘマ
ス然ルニモ拘ラズ豫算ガ成立シテ公布セ
ラレ、二三箇月ノ後ニ其豫算ニ大斧鉞ヲ加
ヘテ殆ド形骸ヲ止メヌ迄ニ變更シタト云
フコトガ是ガ議會中心政治デアルト云フ
コトガ申セルデアリマセウカ若シ議會中
心政治ト云フノデアリマスルナラバ政府
ガ政策ヲ遂行セムガ爲ニハ宜シク臨時議
會ヲ召集シテ議會ノ意思ニ諮ルト云フコト
ガ當然デアラウト思フノデアリマス而シ
テ當時議會ヲ召集スルニ付テ些ノ障害ハナ
カッタノデアリマス殊ニ議員ノ數ハ百七
十人、ソレデアリマスルカラシテ更ニ其臨
時議會ニ於テハ全體ノ意思ヲ諮ッテ、其意
思如何ニ依ッテ政府ノ態度ヲ決スルト云フ
コーナストマトケットノクタウントウトウストークルーム
ニ拘ラズ、
ノ一存デ之ヲ變改シタト云フコトハ平素
ノ御主張ト甚ダ遠ザカッタ所ノ行動デアツ
タト確信イタスノデアリマス、此點ニ付テ
ハ、總理大臣ノ眞ニ平素ノ所信カラシテモ、
明確ナル御答辯ヲ希望イタス次第デアリマ
ス、私ハ尙ホ總理大臣ニ對シテ御尋ヲ致シ
タイ節ガゴザイマスルガ、一先ヅ此程度ニ
於テ私ノ演說ヲ打切リマシテ御答辯ヲ求メ
マス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=15
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016・國務大臣(濱口雄幸君)
○國務大臣(濱口雄幸君) 只今ノ山岡君ノ
御質問ニ御答ヲ致サウト思ヒマス、第ニ
政府ガ所謂實行豫算ナルモノヲ、既定豫算
ノ範圍內ニ於テ節約ノ趣意ヲ以テ作成ヲ
シタト云フコトニ付テ御非難ガアリマシタ
ガ御質問ノ要旨ヲ案ズルニ純然タル憲法
論法理論ヲ以テノ御非難デハナカッタヤ
ウデアリマス、卽チ政治論トシテノ御非難
デアッタヤウデアリマス、若シ純理論ヲ以テ
ノ御非難デアルナラバ是ハ幾多ノ先例ガ
アルト云フコトニ依ッテ私答辯ガ出來マス、
大正二年、大正十二年、同ジク十三年、三
囘ニ亙ッテ旣定豫算ノ範圍內ニ於テ歲出ヲ
節約ヲシタト云フ先例ガアリマス、若シ其
三囘ノ先例ハ各事〓ガアル、或ハ大正二年
ノ場合ニ於テハ議會ガ之ニ協賛ヲ與ヘタ時
ニハ不完全ナルモノデアルケレドモ、當時
ノ内閣總理大臣ガ豫算公布後ニ於テ、行政
整理ヲ行ッテ實行豫算ヲ作ルト云フコトヲ
聲明シタカラ、アトノ實行豫算ヲ作ッテモ憲
法ニ違反セヌ或ハ又十二年ノ場合ニ於テ
ハ大震災ガアック、其震災ニ應ジテ實行豫算
ヲ作ッタカラ是ハ差支ナイト云フ御議論ガ
アルカモ知レマセヌケレドモソレハ事情
デアリマスハ事情ハ決シテ憲法ヲ動カスモ
ノデハナイ法理論ヲ動搖セシムル力ハナ
イト思フ、既ニ先例ヲ認メラレル以上ハ只
今ノ御質問ハ純理論デハナイ卽チ政府論
トシテ此內閣ガ昭和四年度ノ既定豫算ノ範
圍內ニ於テ、ソレヲ全部實行セズシテ一部
ヲ節約シタト云フコトガ不都合デアルト云
フ御非難デアッタト私ハ解釋イタシマス、果
シテ政治論ヲ以テノ御非難デアルトスルナ
ラバ、私ハ實行豫算ヲ作ッタコトニ付テ立派
ナル政治上ノ理由ガ備ハッテ居ルト確信ヲ
シテ居ルソレハ卽チ金解禁シ實行セムガ
爲デアリマス、金解禁ヲ實行スルト云フコ
トガ豫算節減ノ正當ナル政治上ノ理由ニナ
ラヌト云フ御議論ナラバ是ハ見解ノ相違
デアリマス私ハ立派ニ其理由ニナルト確
信ヲシテ居ル、前議會ニ於テ既ニサウ云フ
ヤウナ事情モ總テ綜合的ニ論議サレテ、然
ル上ニ決定シタ豫算デアルニ依ッテ、豫算決
定後ニ新ナ事情ガ起ラヌケレバ實行豫算ヲ
作ル理由ニハナラヌト云フ意味ノ今御話ガ
アリマシタ、金解禁問題ノ解決ハ是ハ多年
ノ問題私共在野ノ時カラ〓心ニ主張シテ
居タ是ハ議會閉會後ニ起ヲタ問題デハア
リマセヌ、併ナガラ其問題ヲ解決スルト云
フコトハ議會閉會後ニ起。シタ事情デアリマ
ス、前內閣ガ豫算ヲ編成サレタ時ニ於テハ
金解禁問題ヲ解決スルト云フ考ヲ有タズシ
テ豫算ヲ編成サレタ此內閣ハ金解禁ヲ斷
行スルト云フ考ヲ有ッテ衝ニ立ッタノデア
リマス、ソレハ豫算通過後デアリマス、
卽チ金解禁問題ト云フ重大ナル經濟問題ニ
對シテ根本カラ意見ヲ異ニシテ居ル政變
ガアッタノデアリマス內閣ノ更迭ガアッタ
ノデアリマス、新內閣ハ新ナル政策ニ依フテ
金解禁問題ヲ解決セントシタソレヲ實行
スルガ爲ニハ何トシテモ財政ノ緊縮ヲ實行
センケレバナラヌト云フ以上ハ玆ニ立派
ナル政治論ガ生ジテ來ル、サウ云フ金解禁
問題ヲ解決スルト云フコトガイケナイ、是
ハ解禁スベキモノデハナカッタト云フ議論
デアルナラバソレハ別デアリマス、是ハ意
見ノ相違ニナリマス、私共ハ左樣ニハ考ヘナ
イ此問題ヲ解決シナケレバ前ノ答
辯ノ時ニモ申シマシタ通リ、我國ノ産業貿
易ノ發達ハ到底出來ナイト云フコトヲ確
信ヲシタノデアリマス、其確信ノ下ニ
萬難ヲ排シ有ユル犠牲ヲ拂ッテ金解禁ノ
斷行ニ努力シタノデアリマス、其努力ガ
必要上既定豫算ノ範圍內ニ於テ所謂實行豫
算ナルモノヲ作リヲ、私ハ之ヲ以テ正當ナ
ル立派ナル政治上ノ理由アリト確信ヲシ
テ居リマス、第二ノ御質問ハ、現内閣ガ四年
度ノ豫算ニ對シテ行ッタル節約ハ單リ金額
ノミデハナカッタ、款項全部ヲ擧ゲテ之ヲ
節約シタ例ヘバ或科目ガ······或既定豫算
ニ依レバ其科目ノ金額ハ五十万圓デアル
其五十万圓ノ中二十五万ハ使ック、二十五万
殘スナラバ宜シイガ、五十万ノ全部ヲ殘ス
ト云フコトハイケヌト云フ議論デアルナラ
バソレハ私ノ考デハ法律問題ニナラヌト
思ヒマス科目ノ節減ニ依ッテ、全部ノ削除
ニ依ッテ貴衆兩院ノ意思ガ一致シナイ場合
ニ於テハ豫算不成立ニナルノデアリマス
是ハ御說ノ通リデアリマス、同樣ニ或科目
ノ金額ノ削減問題ニ付テ兩院ノ意見ノ致
ヲ見ナイ時ニ於テモ亦同樣ナ結果ニナル
其法律上ノ豫算ニ對スル法律上ノ價値
ハ少シモ變ラヌト思フノミナラズ是亦幾
多ノ先例ガアリマス、昭和二年實行豫算ノ
時ニ於テモ十二年度ニ於テモ十三年度
ニ於テモ何レモ款項ノ金額全部ノ節約ヲ致
シテ居ル而シテソレハ其當時ニ於テ何等
問題ヲ起サナカッタノデアリマス、單リ今囘
ニ限ッテ問題ガ起ルト云フコトヲ私ハ寧ロ
怪シムノデアリマス、或ハ先例ノ場合ニ於
テハ款項全部ノ金額ヲ使ハナカッタ場合ガ
少ナカッタ、今度ハ事項ガ多カッタト云フ議
論ガアルカモ知レマセヌガソレハ問題ニ
ナリマセヌ程度論デアリマス、前ノ場合
ニ於テハ其必要ガナカッタカラ餘リ澤山ノ
例ガナカッタカモ知ラヌ、今度ノ場合ニ於テ
ハ······屢、申シマスケレドモ、非常ナル整理
節約ヲ要スル其必要ノ爲ニ節約ノ金額ガ多
カッタノデアリマス、從シテ款項金額ノ全部ヲ使
ハナカッタ、其場合モ多カッタノデアリマヌ、單
ニソレダケノコトデアリマシテ、別ニ款項ノ
金額全部ヲ殘シタカライケヌト云フ議論ハ
起ラナイ筈ト私ハ確信ヲシテ居ル最後ニ
御話ノアリマシタ議會政治ノ尊重、無論我
我ハ之ニ對シテ全幅ノ尊重ヲシテ居ルモノ
デアリマス、併ナガラ其事柄ト實行豫算ヲ
作ルト云フ事柄トハ何等ノ關係ガナイト思
ヒマス、私ノ解スル所ニ依レバ議會ガ豫算
ニ協賛ヲ與ヘタト云フ其意義ハ或目的ノ爲
ニ·····或定ノ目的ノ爲ニ或一定ノ金額ヲ
使ッテ宜シイト云フ其權限ヲ與ヘタ、其一定
ノ目的ノ全部、又其金額ノ全部ヲ使ハナケ
ルバクラスト云フ業務ヲ政府ニ付ケタノデ
斯樣ニ解釋シテ居リマス、其解釋
ニシテ誤リガナカッタトスルナラバ、議會ノ
協賛ヲ得タル其範圍內ニ於テ、別ニ作ルノ
ヂヤゴザイマセヌ節約ノ申合セヲシタト
云フコトガ、何故ニ議會ノ權能ノ蹂躪ニナ
ルカ、議會ノ權能ヲ輕ンズルト云フコトニ
ナルカ少シモサウハナラヌト私ハ考ヘル、
·又何故ニ議會ヲ開カナカッタカ、臨時議會ヲ
開クト云フ餘裕ガアッタデハナイカト云フ
意味ノ御質問ガアリマシタ、ソレハ其必要
ヲ認メナカッタ、若シ議會ニ於テ協贊ヲ得テ
居リマス所ノ豫算ノ款項以外ノ事項、或ハ
同一款項デアリマシテモ、議會ノ協賛ヲ得
テ居ル以上ノ金額、卽チ豫算ヲ超過シ若ク
ハ豫算外ノ金額、ソレヲ使フ場合ノ起ッタ
時ニ於テハ是ハ當然ノ理論トシテ臨時議
會ヲ召集スベキモノデアリマセウ、近來ハ
場合ニ依ッテハ責任支出ヲヤルコトガアリ
マスソレハ憲法上ノ問題ハ別トシテ慣例
ニ依クテ認メラレテ居リマスケレドモ、理論
上ハサウ云フ場合ニ於テハ臨時議會ヲ開ク
ベキモノデアラウト考ヘマス併ナガラ豫
算ノ款項ノ以內ニ於テ、其範圍內ニ於テ或
節約ヲスルト云フコトハ議會ヲ開イテ協賛
ノ求メヤウガナイト思ヒマス是ハ次ノ豫
算デモナイ、豫算外ノ支出デモナイ豫算
內ニ於テ節約ヲスルト云フ申合セデアリマ
スカラ、ソレニ對シテ議會ノ協贊ヲ求ムル
マデモナイコトト考へル、ソレ故ニ臨時議
會ノ召集ト云フ手段ニ出デナカッタノデア
リマス大要御答へ、致シマス
議長(公爵德川家達君)諸君ニ御諮リヲ
致シマス本日ハ都合上是ニテ延會イタシ
タイト考ヘマス御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=16
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017・議長(公爵德川家達君)
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス次ノ日程ハ本院彙報ヲ以テ御通知
ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後零時三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00319300426&spkNum=17
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