1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和五年五月二日(金曜日)午前十時六分開議
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議事日程 第五號
昭和五年五月二日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第四日)
第二 盜犯等の防止及處分に關する法律案(政府提出)
第一讀會の續(委員長報告)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲ
シテ諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
去月二十八日常任委員分科會ニ於チ當選シ
タル正副主査ノ氏名左ノ如シ
請願委員會
第一分科
主査子爵保科正昭君
副主査森田福市君
第三分科
主査子爵土岐章君
副主査男爵肝付兼英君
第四分科
主査男爵上田兵吉君
副主査八田嘉明君
決算委員會
第一分科
主査男爵北河原公平君
副主査木村〓四郞君
號外昭和五年五月三日
貴族院議事速記錄第五號
第二分科
主査公爵鷹司信輔君
副主査子爵三室戶敬光君
第三分科
主査子爵立花種忠君
副主査男爵千田嘉平君
第四分科
主査子爵片桐貞央君
副主査眞野文二君
第五分科
主査子爵吉田〓風君
副主査男爵深尾隆太郞君
同日盜犯等ノ防止及處分ニ關スル法律案特
別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏
名左ノ如シ
委員長伯爵二荒芳德君
副委員長花井卓藏君
去月三十日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委
員仰付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
内務省所管事務政府委員
內務省衞生局長赤木朝治君
遞信省所管事務政府委員
遞信省管船局長宮崎〓則君
拓務省所管事務政府委員
拓務省拓務局長郡山智君
同日請願委員分科會ニ於テ當選シタル正副
主査ノ氏名左ノ如シ
第二分科
主査男爵關義壽君
副主査大谷尊由君
昨一日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
盗犯等ノ防止及處分ニ關スル法律案可決
報告書
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付
ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
外務省所管事務政府委員
外務省歐米局長堀田正昭君
外務省條約局長松永直吉君
大藏省所管事務政府委員
大藏書記官飯田九州雄君
大藏技師矢部規矩治君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、去月二十八日、第五部選出
豫算委員赤池君、病氣ニ依リ委員ノ辭任ノ
申出デガゴザイマシタ、之ヲ許可スルコト
ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス就テハ第五部ニ於テ補闕選擧ヲ行
ハレムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 此際諸君ニ御諮
リ致シマスガ、本日ノ日程第二ヲ第一ト繰
替ヘテ議題ト致シタイト考ヘマス、御異存
ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 盜犯等ノ防止及
處分ニ關スル法律案、政府提出、第一讀會
ノ續、委員長報告
〔左ノ報〓書ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ
タメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
盜犯等ノ防止及處分ニ關スル法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和五年五月一日
委員長伯爵二荒芳德
貴族院議長公爵德川家達殿
〔伯爵二荒芳德君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=6
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007・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 盜犯等ノ防止及處分
ユ關スル法律案ノ特別委員會ノ經過ヲ御
報告イタシマス、本委員會ハ一一日ニ亘リ
マシテ本法律案ノ審議ヲ致シマシタ、本
法律案ノ提出ノ目的ハ從來刑法第三十六
條第一項ノ防衞行爲ニ關スル規定ノ申
デ、特ニ自己又ハ他人ノ生命身體又ハ貞
操ニ對スル現在ノ危險ヲ排除スル爲ニ犯
人ヲ殺傷シタル場合、及ビ此危險ニ對シ
マシテ行爲者ガ恐怖、驚愕、興奮又ハ狼
狽ニ依ッテ現狀ニ於テ犯人ヲ殺傷シタ
場合、及ビ常習トシテ刑法ニ規定イタシマ
ス所メ竊盜、强盗又ハ竊盜ニシテ罪跡ヲ隱
滅シ又ハ逮捕ヲ免レ其他奪還ヲ防グ爲ニ暴
行脅迫ヲシタヤウナ場合ノ强盜ノ罪ヲ、特ニ
加重イタシマシテ罰スル規定、此三ツニ分
レテ居ルノデアリマス、此法律案ハ從來ノ
刑法三十六條ノ一項ノ防衞行爲ノ範圍ヲ擴
大スル意味デハナイノデアリマシテ、先般
來頻頻ト起リマシタ所ノ諸種ノ强盜行爲、
卽チ或ハ說〓强盗デゴザイマストカ、或
講談强盜デアリマストカ、帝都ヲシテ非常
ナ不安ニ一時陷レマシタヤウナ事實ヲ認メ
マシテ、ソレヲ防ガムトスル目的ニ出デマ
シタ所ノ法律案デアルメデアリマス、此故
ニ此法律案ハ暫定的ノモノデアリマシテ、
軈テ一ツノ刑法ノ改正ノ前提トモナルモノ
デアルト思ハレルノデアリマス、又第二條
ノ常習犯ヲ加重シテ罰シマス規定ハ、是亦
過去半年程前ニ於キマシテ、隨分暴力ヲ以
テ人ノ住居ノ安寧若クハ個人ノ自由ヲ侵犯シ
タ犯罪ノ例ガ澤山アリマスノデ、此犯人ノ中
ニハ極ク短期間ニ再ビ同ジ犯罪ヲ繰返ス者
ガ多イト云フヤウナ統計ガ明カニ出デ居リ
マスノデアリマシテ、之ヲ重ク罰スルト云
フコトガ非常ニ必要ニ認メラレルノデ規定
サレテ居ルノデアリマス、此諸種ノ點ニ付キ
マシテ委員會ハ微ニ入リ細ヲ穿チマシテ、
種々質問ヲ致シ又討議ヲ致シタノデアリ
マス、其結果此法律案ハ今日ニ於テ最モ適
當デアルト認メラレルコトヲ、全會一致ヲ
以チマシテ可決イタシマシタノデアリマス、
右御報告申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=7
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008・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會
ヲ開クニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=9
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010・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第二讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=10
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011・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=13
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014・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題
ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=15
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016・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=16
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017・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=17
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018・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=19
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020・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議
通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=20
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021・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=21
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022・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 濱口內閣總理大
臣
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=22
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023・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 先日花井卓藏君
ヨリ議事ノ進行ニ付テ御發言ガアリマシテ、
陸軍大臣ノ病氣缺席ニ關シ御質問ガアリマ
シタ、成ルベク早キ機會ニ於テ私ヨリ御答
辯ヲスベキ筈デアリマシタガ、本日マデ當
院ノ本會議ガナカッタノデアリマシテ、誠ニ
遺憾デゴザイマス、是ヨリ御答ヲ致シマス、
宇垣陸軍大臣ノ病氣ハ其後ノ經過ガ極メテ
良好デアリマシテ、三日カ四日頃ニハ多分
退院ガ出來ルト信ジマス、併シ何分ニモ疲
勞ヲ致シテ居リマスノデ、直グ其翌日カラ
出席スルト云フ譯ニハ參ラヌカト存ジマス
ガ、不日出席シ得ルト存ジマス、尙ホ花井
君ノ御說ノ通リ內閣官制第九條ニハ國務大
臣ガ故障アル時ニハ臨時攝任又ハ事務管理
ヲ置ク規定ガアリマスケレドモ、陸軍大臣
ノ病氣ハ其所謂故障ニ該當スル程度ノモノ
デハナイト考ヘマス、併ナガラ事急ヲ要ス
ルガ爲ニ陸軍大臣ノ出席マデ待テナイト云
フ事柄デアリマスレバ、是ハ先例モアルコ
トデアリマスルカラ、他ノ國務大臣ヨリ答
辯ヲ致スコトニ致シマス、又陸軍省ノ所管
事項ニ付キマシテハ政府委員ヨリ答辯ヲ致
シテ居ル先例モアリマス、併シ是非陸軍大
臣ノ答辯ヲ望マルルト云フコトデアリマス
レイ、先日モ此席ニ於テ申シマシタ通リ書
面ニ依ル答辯ヲ御認メ願ヒタイト思ヒマ
ス、書面ニ依ル答辯デ御不滿ト云フコトデ
アリマスレバ、陸軍大臣ノ出席マデ御留保
ヲ願ヒタイト云フコトヲ希望イタシマス
〔花井卓藏君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=23
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024・花井卓藏
○花井卓藏君 只今內閣總理大臣ヨリ御說
明ヲ承ハリマシテ、其御說明ニ關シマシテ
本院ノ帝國議會開會以來ノ例ヲ申述ベテ更
ニ御說明ヲ煩ハシタイト思フノデアリマ
ス、明治四十二年卽チ第二次桂內閣ノ際デ
アリマス、私ハ國務大臣ノ資格竝其發
言······發言ノ責任ニ關スル質問ヲ致シタ
コトガアルノデアリマス、當時國務大臣ト
各省大臣卽チ行政大臣トヲ同一ニ見テ、資
格ニ於テモ發言ノ責任ニ於テモ、主管事務
ニ付キマシテハ主管大臣ノミ責任ヲ負フモ
ノデアルト云フヤウナ誤解ヲ致シテ居ッタ
時代デアリマス、卽チ內閣ハ連帶責任制ヲ
認メルコトヲ欲セザリシ時代デアッタノデ
アリマス、現ニ連帶責任ヲ持ツト云フ法規
ハナイナドト云フコトヲ高言セシ時代デ
アッタノデアリマス、玆ニ於テ私ハ第一國務
大臣ノ職務ハ國法上各省所管ノ事務ニ限
局······間違ヒマシタ、第一、國務大臣ト各
省大臣トハ國法上其資格同一ニアラズト信
ズ政府ノ所見如何、第二、國務大臣ノ發言ハ
必シモ其主管事務ニ拘束セラルベキモノニ
アラズト信ズ、政府ノ所見如何、第三、國
務大臣ノ發言ニ付テハ政治上道德上内閣ノ
總員其責任ニ任ズベキモノナリト信ズ、政
府ノ所見如何ト、斯ウ云フ質問ヲ致シタノ
デアリマス、然ル所之ニ對シマシテハ政府
ノ答辯ハ、第一ニ對シマシテハ、國務大臣
ノ職務ハ國法上各省所管ノ事務ニ限局セザ
ルモノト認ム、第二ニ付キマシテハ、國務
大臣ノ發言ハ必シモ其所管事務ニ拘束セラ
ルベキモノニ非ズト認ム、第三ニ對シマシ
テハ、國務大臣ノ發言ニ付テ其總員ガ政治
上及道德上ノ言責ニ任ズベキヤ否ヤハ各事
項ニ付テ決定スベキ問題ニシテ〓括的ニ答
辯スルコトヲ得ズト、斯ウ云フ答辯ヲ得タ
ノデアリマス、卽チ不完全ナ點モゴザリマ
スルガ、大體ニ於テ內閣ハ連帶責任制ヲ執ル
ト云フコトニ答ヘラレテ居ルノデアリマス、
卽チ國務ニ關スル甲國務大臣ノ發言ハ甲國
務大臣以外ノ乙、丙其他ノ國務大臣ト雖モ
連帶シテ責任ヲ執ルト云フコトニ歸著スル
ノデアリマス、例ヘバ外務大臣ノ國務大臣
トシテノ發言卽チ演說、例ヘバ當院ニ於テ
ノ演說、此演說ハ陸軍大臣モ海軍大臣モ其
主管事務デハナイノデアルケレドモ、相共ニ
外務大臣ノ演說セラレタル點ニ於テ責任ヲ
負フベキモノデアルト云フコトニ先ヅ歸著
ヲ致ス筋デアリマス、限局セラレズ、拘束
セラレズ、陸軍大臣モ海軍大臣モ相共ニ外
務大臣ノ發言ニ責任ヲ負フト云フコトニ歸
著スルノデアリマス、是ハ譬ヘデアリマス、
政府デ宣傳セラレタノデアリマスヤ否ヤハ
私之ヲ存ジマセヌノデアリマスガ、新聞紙
上ニ書イテアリマスガ如ク、甲國務大臣ヲ
指名シテ質問ヲ致ス場合ニ於キマシテ甲國
務大臣以外ノ國務大臣、卽チ乙國務大臣若
クハ內閣總理大臣答辯ヲ爲シ得ルコトヲ認
メタルモノデハナイノデアリマス、私ハ言
責ニ付テノ質問ヲシテ居ル、答辯ニ付テノ
質問ヲシタ次第デハナイノデアリマス、之ヲ
誤リ認メラレマシテ院外ニ相當ニ宣傳ヲシ
テ、花井ハ語ルニ落チタナドト附加ヘテ宣
傳ヲセラレルト云フコトハ甚ダ迷惑千萬デ
アリマス、能ク質問ノ要旨、演說ヲ熟讀セ
ラレテ、誤解ノナイヤウニ爲サラムコトヲ
御注意イタシマス、將來ノ爲ニ御注意イタ
シマス而シテ國務大臣ハ必ズ議會ニ列セ
ネバナラナイ、議會ト政府トガ相共ニ國事
ヲ議スルノデゴザイマスルカラ、原則トシ
テ寧ロ例外ナク國務大臣ハ議會ニ列ルベキ
モノデアリマス、勿論一日二日ノ病氣ガゴ
ザイマシタト云フコトヲ以テ其日ニ直ニ事
務管掌ヲ置カナクテハナラヌ、代理ガナク
テハナラヌト云フヤウナ、私ハ極端ナル議
論ヲ致ス者デハゴザイマセヌ、苟モ議會ニ
出ラレナイト云フ豫測ノ付キマシタル以
点内閣官制第八條ニ內閣總理大臣故障ア
ルトキハ他ノ國務大臣臨時命ヲ承ケ其ノ事
務ヲ代理スベシトアルガ如ク、又第九條ニ
於テ「各省大臣故障アルトキハ他ノ大臣臨
時攝任シ又ハ命ヲ承ケ其事務ヲ管理スヘ
シ」トアリマス如ク、第八條第九條ノ規定
ニ則ラズシテ代理ヲスルト云フコトハ出
來ナイノデアリマス、總理大臣ノ只今ノ
辯明ニ代理云々ト云フコトヲ申サレマ
シタケレドモ、ソレハ出來ナイノデア
リマス、殊ニ政府ガ議會ヲ重ンズル趣旨ニ
於テモ、議會ト相共ニ國事ヲ愼重ニ議スル
ト云フ上ニ於テモ、議會ハ一日モ國務大臣
ヲ缺クコトハ出來ナイモノデアルト云フコ
トハ明カニ先例ガ示シテ居ルノデアリマ
ス、私ハ貴族院要覽ヲ御覽ニナリマシタナ
ラバ、寧ロ此先例ト云フモノハ極メテ大切
ナルモノトシテ認メラレテアルト云フコト
ヲ御發見下サルコトガ出來ヤウト思フノデ
アリマス、第四議會、是ハ明治二十五年十
二月二十五日ニ召集セラレタル議會デアリ
やく、伊藤内閣總理大臣故障ニ付キ、第八
條ニ基イテ臨時內閣總理大臣トシテ井上內
務大臣ガ命ヲ受ケテ其事務ヲ代理セラレタ
ノデアリマス、此故障ト申スノハ負傷デア
リマス、傷デゴザリマス······負傷、只今モ
故障ノ御解釋ガゴザイマシタケレドモ、伊
藤內閣總理大臣ノ此際ノ故障ト申スノハ負
傷デアッタノデアリマス、ソレモ議會ニハ直
ニ事務代理トシテ·······總理大臣事務代理ト
シテ井上伯ガ命ヲ承ケテ列席セラレテ居〃
タノデアリマス、又第六議會、是ハ明治二
十七年五月十二日ノ召集、井上內務大臣故
障ニ付キ、第九條ニ基キマシテ芳川司法大
臣ガ內務大臣臨時代理トナラレタノデアリ
マく、第九議會、明治二十八年十二月二十
五日召集、伊藤內閣總理大臣忌引中デゴザ
イマス、忌引中臨時樞密院議長黑田〓隆伯
ガ臨時代理內閣總理大臣トシテ之ヲ代理セ
ラレテ居リマス、第二十二議會、明治三十
八年十二月二十五日召集、外務大臣小村壽
太郞氏特派全權大使トシテ、〓國ニ差遣中、
桂內閣總理大臣ハ外務大臣ヲ兼ネラレテ居
リマス、第三十一議會大正二年十二月二十四
日召集、松田司法大臣病氣ニ付キ奧田文部
大臣ハ臨時兼任司法大臣トナッテ居ルノデ
アリマス、第四十五議會、大正十年十二月
二十四日召集、海軍大臣加藤友三郞君不在
中、高橋內閣總理大臣ハ臨時海軍大臣事務
管理トナッテ當院ニ列セラレテ居リマス、第
五十議會、大正十三年十一一月二十四日召集、
農商務大臣高橋是〓氏ハ橫田司法大臣薨去
ニ付キ臨時兼任司法大臣ヲ命ゼラレテ居リ
マス、是ハ時ニ注意スベキコトデアリマス、
或大臣薨去セラル、其瞬間ニ直ニ他ノ大臣
ヲ命ゼラルルト云フコトハ、議會會期中ニ
在リテハ一日モ國務大臣ナカルベカラズト
云フコトノ、國法上ノ原則ヲ的確ニ適用セ
ラレタル所ノ例證ト相成ルノデアリマス、
第五十一議會、大正十四年十二月二十五日
召集、加藤內閣總理大臣病氣ニ付キ內務大
臣若槻禮次郞氏ハ内閣總理大臣臨時代理ト
ナラレテ居リマス、斯樣ニ前後幾囘ノ議會
ヲ通ジテ、内閣官制第八條及第九條ノ行ハ
レタルコトヲ證シテ餘リアルノデアリマ
ス、言葉ヲ換ヘテ申シマスレバ、各國務大
臣ハ悉ク議會ニ列席セラレテ居ルト云フコ
トニ慣例ハ示シテ居ルノデアリマス、今囘
ノ如ク陸軍大臣ニ故障ガゴザイマシテ、他
ノ大臣ガ代理ヲ爲サナイ、又命ヲ承ケテ其
事務ヲ管理シナカッタト云フ事例ハゴザリ
マセヌ、卽チ陸軍大臣ナル國務大臣ハ空席
ノ儘デ會議ヲ開カルル、議員ノ諸君ヨリ國防
ニ關シ、軍政ニ關シ、其他ノ問題ニ關シ、
陸軍大臣ヲ指名シテ質問ヲナサル場合ニ於
キマシテ、其陸軍大臣トシテ答辯ヲ內閣總理
大臣、若クハ政府委員ニ於テ代理トシテ答
辯ヲナスコトハ出來得ナイノデアリマス、
只今出來得ルカノ如ク御說明デゴザイマス
ルガ、出來得ナイノデアリマス、尤モ貴族院
ニ於キマシテ、此點ニ關シマシテ二通リノ
例ガアリマス、併ナガラ其例ハ此場合ニ適
用ハ出來ナイノデアリマス、大臣ガ本會ニ
列セラレテ、而シテ其列セラレタル時ニ、
政府委員ガ答辯ヲナシタルコトニ付テ、當
該國務大臣ハ責任ヲ負フモノナリヤ否ヤト
云フ問題ガアッタノデアリマスガ、責ヲ負
フ、代"テ答辯ヲサスノデアル、スルノデア
ルト云フノデアリマシテ、空席ノ儘ニ於テ
ノ例ハナイノデアリマスカラ、當院ノ先例
モ亦私ノ見ル所ト異ナラナイノデアリマ
ス、此點ニ付キマシテモ、明治四十二年第
二次桂內閣ノ時代、只今申上ゲマシタ質問
ト同樣ニ······同時ニ私ハ政府ニ問フタノデ
アリマス、國務大臣ノ發言ニ關シ委託若ク
ハ代理ヲ認メタル法規ナシト信ズ、政府ノ
所見如何、前囘竝本日、總理大臣ノ申サレ
マシタルコトニ是ハ牽連ヲ致スノデアリマ
ス、國務大臣トシテノ總理大臣ニ質問イタ
スノデハナイノデアリマス、陸軍大臣トシ
テ陸軍大臣ニ答ヲ得ムトスル質問ガアッタ
場合ニ於キマシテ、陸軍大臣ヲ措イテ、陸
軍大臣ナキノ故ヲ以テ、空席ノ故ヲ以テ他
ノ大臣ガ代ッテ答辯ヲセラレル權利ガナイ、
議員ハ議員ノ權利トシテ行政監督ノ權利ヲ
行使スル必要上、主管大臣ニ質問ヲスルノ
デアリマシテ、主管大臣ノ答辯ヲ要求スル
ノデアリマス、誰ガ答辯ヲシテモ宜シイト
云フノデハナイノデアリマス、此處ヲ御注
意願ヒタイノデアリマス、私ハ言責ニ付テ
ノ質問ヲ致シテ居ルノデアリマス、發言ノ
責任ニ付テノ連帶責任制ヲ執ラレムコトヲ
欲スルガ爲ニナシタル質問デアリマシテ、
此質問ノ答ガ答辯ハ誰ガシテモ宜イト云フ
事柄デナイト云フコトハ御考ニナラナケレ
バナラナイノデアリマス、玆ニ於テ政府ハ
全然其誤ヲ覺ラレマシテ、國務大臣ノ發言
ニ關シ、他ノ國務大臣ニ於テ其委託ヲ受
ケ······間違ヒマシタ、政府委員ノ說明中、
委任及代理云々ハ穩當ヲ缺クヲ以テ之ヲ取
消ス、委託モ認メナイ、代理モ認メナイト
云フ答辯ヲセラレテ居ルノデアリマス、此
質問ノ由ッテ起リマシタル經過ヲ簡單ニ一
ツ申上ゲテ置キマス、明治四十二年第二次
桂内閣ノ時代ニ於テ起リタル、衆議院ニ於
ケル豫算委員會ニ付テノ是ハコトデアッタ
ノデアリマス、大藏大臣ニ質問ヲ致シタル
所、遞信大臣ガ代"テ答辯ヲセラレタノデア
リマス、ソシガ出來ルカ、代理デ出來ル、
委託デ出來ル、然ラバ誰ガ責任ヲ負フノデ
アル、此責任論ニ關シマシテ政府答辯ニ頗
ル窮シタコトハ速記錄ヲ熟覽セラルレバ
直チニ分ルコトデアリマス、玆デ大問題ガ
起リマシテ、主管事務ニ對シテ其大臣ヲ指
定シテ質問ヲナシタル場合ニ於テ、他ノ大
臣ガ委託ヲ受クル、代理ヲスルナドト云フ
コトノ、アリ得ベカラザルコトデアルト云
フコトヲ感ジマシタガ故ニ、質問ヲ致シマ
シタル所、委託ト言ッタコトモ穩當ヲ缺タ、
代理ト言シタコトモ穩當ヲ缺ク、卽チ委託、
代理ト云フコトハ認メナイト云フコトノ答
ニナッテ居ル次第デアルノデアリマス、質問
趣意書及質問演說、誤解ノナイヤウニ政府
ハ御調査ニ相成リタイト思フノデアリマ
ス、私ハ敢テムヅカシイコトヲ申スノデハ
アリマセヌ、國務ヲ議スルニ當リマシテハ、
大切ナル國務ヲ議スルノデゴザリマスルカ
ラシテ、政府卽チ内閣ト議會トハ互ニ其權
域ヲ守ルベキコトハ當然デゴザリマスルケ
レドモ、之ヲ構成スル上ニ於テ苟モ缺點ノ
ナキヤウニ互ニ相努メヌケレバナラヌト思
フノデアリマス、今日ハ陸軍大臣ガ空席デ
アルト云フノデアリマス、只今御答辯ノ趣
旨ヲ、二以上ノ大臣、或ハ三以上ノ大臣、
極端ニ論ジタナラバ全部ノ大臣空席セラレ
タル場合ニ於テ、只今ノ御說明ノ趣旨ヲ適
用スルト云フコトニナッタナラバ、如何デア
ラウカト云フコトモ慮ラナケレバナラヌノ
デゴザリマス、ガ是ハ勿論杞憂デ、有リ得
ルコトデハゴザリマセヌ、私ハ只今ノ御說
明ニハ甚ダ滿足イタシ兼ヌルノデゴザリマ
スルガ、議事進行ニ關シテ陸軍大臣ノ出席
ヲ要求シ、竝ニ今日マデ出席セラレザリシ
所以ノ說明ノ要求ヲ致シテ居ルノデゴザリ
マスルカラ、議長ヨリハ出席ノ要求ヲナシ下
スッタコトデゴザリマセウシ、又總理大臣ヨ
リハ、私ユハ敬服ハ出來マセヌケレドモ、
要求ニ應ジテ說明ヲ與ヘラレタノデゴザリ
マスカラシテ、是レ以上論議イタシマスル
ト云フコトハ、議事進行ノ範圍ヲ擴大ニスル
ト云フ惡例ヲ貽シマスルカラ、私ハ他ノ機
會ニ於テ質問事項トシテ、政府ノ所見ヲ的
確ニ質シテ見タイト思フノデアリマス、尙
ホ議長竝ニ政府ニ向シテ陸軍大臣ノ出席ヲ
要求イタシマスル、私ハ本日陸軍大臣ニ對
シテ、軍政ノ範圍ニ付テ、又統帥權竝ニ編
制權ノ性質ニ關シテ質問ヲ致シタイト存ジ
マシテ、通〓ヲ致シテ置キマシタカラ、其
際ニ十分論述イタシタイト思ヒマス
〔國務大臣濱口雄幸君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=24
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025・濱口雄幸
○國務大臣(濱口雄幸君) 只今花井君ノ御
演說ニ對シマシテ、私最初ノ答辯ノ趣旨ヲ
今少シク徹底スルヤウニ申上ゲテ見タイト
存ジマス、陸軍大臣ガ病氣ノ爲ニ最初ヨリ
此議會ニ出席ガ出來ナイト云フコトハ、誠ニ
遺憾千萬デアリマス、併ナガラ其目下ノ病
狀ハ先刻モ申上ゲマシタ通リ、至ッテ經過
ハ良好デアリマシテ、現ニ病院ニハ居リマ
スケレドモ、事務ヲ見ルコトニ於テ差支ハ
ナイノデアリマス、而シテ三日或ハ四日頃
ニハ多分退院ガ出來ル、從テ不日議會ニ出
席ノ出來ルト云フ見込デアリマス、サウ云
フ狀況ノ下ニ於テ、今日臨時事務管理ヲ置
クト云フ程度ニ達セヌモノト考ヘテ居ルコ
トハ、先刻申シタ通リデアリマス、而シテ
此問題ニ關シテ只今花井卓藏君ノ御述べニ
ナリマシタ、明治四十二年第二次桂内閣ノ
時ノ先例ヲ按ジマスルニ、質問ノ提出者ハ
花井卓藏君ト小川平吉君、贊成者河野廣中
君外三十八名トナッテ居リマス、ソレハ國務
大臣ノ資格及其發言ノ責任ニ關スル質問趣
意書トナッテ居リマスガ、其質問ノ箇條ト竝
ニ之ニ對スル政府ノ答辯ハ、只今花井博士
ノ御述べノ通リデアリマス、質問ノ事項ハ
四箇條ニ分レテ居リマスガ、私ノ最モ重キ
ヲ置イテ先刻申上ゲマシタ點ハ、第一項ト
第二項トデアリマス、之ガ今囘ノ事件ニ直
接關係ノアル先例ト存ジマス、卽チ其當時
ノ花井君ノ御質問ノ第一項ハ、國務大臣ト
各省大臣トハ國務上其資格同一ニアラズト
信ズ、政府ノ所見如何ト云フコトデアリマ
ス、之ニ對スル政府ノ答辯ハ、國務大臣ノ
職務ハ國法上各省所管ノ事務ニ局限セザル
モノト認ムト云フ答辯ニナッテ居リマス、卽
チ各省大臣トシテハ其職務ハ各省ノ事項ニ
限ッテ居リマスケレドモ、國務大臣トシテ
ハ廣ク政務ノ全部ニ渉ッテ居ル、斯ウ云フ
意味デアリマス、從テ此處ニ列席ヲ致シテ
居リマス私始メ各國務大臣ハ各、自分ノ所管
ノ事務ニ限局サレズシテ、廣ク國務ノ全般
ニ付テ其職務ヲ持ッテ居ル、斯樣ニ解釋スベ
キモノデアラウト存ジマス、是ガ第一項デ
アリマス、御質問ノ第二項ハ國務大臣ノ發
言ハ必シモ其所管事務ニ拘束サルベキモノ
ユ非ズト信ズ、政府ノ所見如何、之ニ對スル
答辯ハ、國務大臣ノ發言ハ必シモ其所管事
務ニ拘束サルベキモノニ非ズト認ム、斯樣デ
アリマス、従テ私始メ他ノ國務大臣ガ國務大
臣トシテ、或ハ陸軍ニ關スルコト、或ハ海軍
ニ關スルコト、其他諸般ノ國務ニ付テ答辯
ヲシ得ベキコトハ明瞭デアラウト思ヒマ
ス、其當時ノ御質問ノ第三項ハ、是ハ連帶
責任ノ趣意ヲ明カニスル爲ニ御質問ニナッ
タモノデアラウト存ジマス、ソレハ只今花
井君ノ御說ノ通リデアリマシテ、ソレニ對
スル答辯ハ、國務大臣ノ發言ニ付キ其總員
ガ政治上及道德上言責ニ任ズベキヤ否ヤハ
各事項ニ付キ決定スベキ問題ニシテ、〓括
的ニ答辯スルコトヲ得ズトナッテ居リマス、
之ヲ要スルニ、國務大臣トシテハ、或ハ進
ンデ發言シ、或ハ議員ノ質問ニ對シテ答辯
スルニ當ッテ廣ク國務全般ニ付テ爲シ得ル
コトト私ハ考ヘテ居リマス、而シテ只今花
井博士ハ是マデノ例ヲ御擧ゲニナリマシ
テ、苟モ國務大臣ガ事故ノ爲ニ議會ニ出席
ヲシナカッタ場合ニ於テハ必ズ臨時兼攝ヲ
置イテ居ル、臨時兼攝ヲ置カズシテ議會ニ
缺席シタ例ハ無イト云フコトヲ仰セラレマ
シタガ、私ノ調査スル所ニ依レバ、サウ云
フ先例ハ有ッタカノヤウニ存ジマス、卽チ
大正十一年ノ春ノ議會ニ於テ二月ノ下旬マ
デ當時ノ司法大臣大木伯爵ハ議會ニ出席ヲ
致サレマセヌ、而モソレガ爲ニ不日出席ヲ
得ル見込ノ下ニ臨時搆任又ハ事務管理ヲ置
カナカッタノデアリマス、其他ニ先例ガ有ル
カ無イカ調査ハ屆イテ居リマセヌガ、少ク
トモ此一ツノ先例ハ有ルノデアリマス、只
今花井君ノ御擧ゲニナリマシタ各種ノ先例
卽チ臨時事務管理ヲ置カレタ場合、或ハ臨
時兼攝ヲ命ゼラレタ場合、是ハ其當時ノ事
情ニモ依ッタデアリマセウガ、中ニハ時ノ大
臣ガ遠ク海外ニ旅行シテ居ッテ、ソレガ爲ニ
一切事務ヲ見ルコトガ出來ナカッタ場合ガ
多ク擧ゲラレタヤウニ存ジマス、例ヘバ華
盛頓會議ノ場合ニ於テ時ノ加藤海軍大臣ハ
帝國ノ全權トシテ米國ニ使サレ、從テ海軍
大臣トシテノ事務ヲ見ルコトガ出來マセヌ
ニ依クテ當時ノ高橋內閣總理大臣ガ臨時事
務管理ヲ命セラレタノデアリマス、其他ニ
モ外國ニ行ッテ居シタガ爲ニ事務管理ヲ置カ
レタ例ヲ御擧ゲニナリマシタ、ソレカラ三
派內閣ノ時ニ內閣總理大臣加藤高明伯ガ是
ハ旅行デアリマセヌ、病氣デアリマシタ、而
モ其病氣ハ極メテ重病デアリマシテ、自宅
ニ居リマシテモ一切事務ヲ見ルコトガ出來
ナカッタ程度デアリマシタ、而モソレハ總理
大臣デアリマス、ソレ故、內閣總理大臣臨時
代理ガ設ケラレタノデアリマス、今日ノ字
垣陸軍大臣ノ場合ハ、ソレハ今申シマシタ
通リ、病氣ノ程度ガ旣ニ病氣ニ於テ事務ヲ
見ルコトノ出來ル程度デアリマス、又不日
出席ノ出來ル程度デアリマス、此場合ニ於
テ陸軍大臣ヲ指定セラレテノ說明ヲ要求サ
ルルコトガ必要デアリマシタナラバ、ソレ
ハ願ハクバ陸軍大臣ノ出席サルルマデ暫ク
御留保ヲ願ヒタイノデアリマス、併ナガラ
事、急ヲ要スル爲ニ陸軍大臣ノ出席マデ待
テナイト云フコトデアリマスルナラバ、初
ニ申シマシタ通リ、書面ヲ以テ答辯スルト
云フコトヲ御認メヲ願ヒタイト存ジマス、
又他ノ大臣デ答辯ノ出來マスルコトハ出來
得ル限リ答辯ヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=25
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026・花井卓藏
○花井卓藏君 只今、總理大臣ノ御說明ニ
相成リマシタル前段桂第二次內閣ノ際ニ於
ケル質問答辯、是ハ一口ニ申シマシタナラ
バ、責任內閣制ニ對スル質問デアッタ、責任
内閣制ヲ認ムルト云フ······完全デハゴザイ
マセヌガ、責任內閣制ヲ認ムルト云フコト
ノ質問應答ニ結論トシテ相成ルノデアリマ
ス、卽チ甲大臣ノ發言シタル、演說シタル
ソレニハ、各國務大臣ハ拘束セラルベキモ
ノデアル、連帶トシテ責任ヲ執ルベキモノ
デアル、例ヘバ外務大臣ノ演說セラレタル
事項中、世論ノ如何ニ拘ラズ······世論デハ
アリマセヌ、主管廳ノ意見ノ如何ニ拘ラズ、
苟モ國務大臣デアル以上ハ相共ニ其發言ヲ
爲シタルモノト看做ス、其演說ヲ爲シタル
モノト看做ス、相共ニ責任ヲ負フト云フコ
トヲ確的ニシタル所ノ質問應答デアル、行
政監督權ヲ行使スル上ニ於テ議員ガ甲主管
大臣ヲ指名シテ質問ヲ爲シタル場合ニ誰ガ
答辯シテモ宜シイト云フコトヲ傳ヘル所ノ
先例デハナイノデアリマス、誤クテ讀マレザ
ランコトヲ私ハ欲スルノデアリマス、併ナ
ガラ後段ニ於テノ御說明ニ依リマシテ、私
ノ意見ト必シモ悖ル所ガナイヤウニ思ハレ
マス、是非當該大臣ノ說明ヲ欲スルナラバ、
答ヲ欲スルナラバ、書面ニ基イタナラバ宜
カラウト言ハレタノデアリマス、是ハ私ハ
〓究問題デハアルマイカト思フ、大ニ〓究
スベキ問題デハアルマイカト思フノデアリ
マン、否、斯樣ナル〓究ガ力ヲ有スルヤウ
ナ事例ノナイヤウニ〓究ヲセナケレバナラ
ヌト思フノデアリマス、議場ニ於テ······議
院內ニ於テ、議員ガ議員タルノ資格ニ於テ
政府ニ向ッテ質問ヲスル、此質問ニ對シテ國
務大臣ガ國務大臣タルノ資格ニ於テ議員ニ
答辯スル、換言スレバ此質疑應答ハ、議會ト
內閣トノ質疑應答ニナルノデアリマス、個
人間ノ質疑應答ノ如ク文書ヲ以テ交換セラ
ルベキ筋合ノモノデハアルマイト思ヒマス、
苟モ問題ト相成リマシタル以上ハ、議會全
體ノ支配ニ屬スベキモノト解釋セヌケレバ
ナラヌ、分ラヌ事ガアッタラバ書面ヲ以テ出
シタラ宜カラウ、取次イデヤラウ、取次ノ
書面ヲ傳達シヤウ、左樣ニ輕々ニ見ルベキ
コトデハアルマイト思フノデアリマス、書
面ニ付キマシテハ、議院法竝ニ貴族院規則
ニ規定ガアリマス、議院法ノ第四十八條貴
族院規則ノ第百二十八條、議員ハ書面ニ依
リテ質問ヲ爲サムトスルトキハ三十人以上
ノ贊成者ヲ得テ質問主意書ヲ提出シ質問ノ
趣旨ヲ說明スルコトヲ得ベシ、斯ウ云フ規定
ガアリマス、併ナガラ之ヲ爲スト否トハ議
員ノ自由デアリマシテ、而モ此書面質問ノ
場合ハ、本院ノ先例ニモゴザイマスル通
リ、又此規定ノ精神トシテ立法ノ理由ニ揭
ゲラレテ居ル文獻ニモ現ハサレテ居ルガ如
ク、議題ニ、卽チ問題ニ關聯セザル或特別
ノ事項ニ付テ、特ニ國務大臣ノ答辯ヲ要求
スル場合ニ行ハルベキ筋合ノモノ、性質ノモ
ノデアリマス、或ハ又書面ニ依ッテ質問ヲ發
シ、書面ニ依ヶテ答辯ヲ得テ、問題ヲ的確ニ
シヤウト云フ鄭重ヨリ出ヅル場合モアリ得
ルデアラウト存ズルノデアリマス、書面質
問ト云フコトガアルガ故ニ、必シモ口頭質
間又書面答辯······書面質問、書面答辯デ足
リルデハナイカト云フコトハ、少シ間違ヲテ
ハ居ナイカ、俗ニ質問ト申シマスルケレド
モ、卽チ今日ハ質疑ナノデアリマス、質疑
ト、議院法ニアル質問トハ、性質ガ全ク違ッ
テ居ル、是等モ少シク御見解ガ誤フテ居リハ
シナイカト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、
貴族院規則竝ニ先例ニモゴザイマスル通
リ、國務ヲ議スル上ニ於テ疑ハシキ點ガアフ
タナラバ、諸君ノ面前ニ於テ十分ニ質疑ヲ
爲シ十分ニ答辯ヲ得ル、斯ノ如クニシテ間
違ノナイ結論ヲ得タイト云フノガ我ミノ議
員ノ方ノ望ミナノデアリマスカラ、質疑ニ
關シマシテハ極メテ自由ナル規定ガ設ケラ
レテ居ルノデアリマス、一ト度書面ヲ發ス
ルモ要領ヲ得ズ、二度書面ヲ發シテ要領ヲ
得ズ、之ヲ三度シ四度セヌケレバナラヌト
云フ義務ヲ議員ニ課セラレテハ、タマルモ
ノデハナイノデアリマス、又左樣ナルコト
ハ制度ガ要求イタシテ居ラヌ、慣例モ要求
イタシテ居ラヌ、恐ラク是ガ先例ニナルト
云フコトヲ私ハ憂フルノデアリマス、併ナ
ガラ壇上ニ於テモ申上ゲマシタル通リ、說
明ノ要求ヲ致シマシテ說明セラレタノデア
リマス、意見ヲ鬪ハスト云フ趣旨デハゴザ
イマセヌカラ、御說明ダケヲ承ハッテ置クノ
デアリマス、唯私ハ總理大臣ニ特ニ一言イ
タシテ置キマス、私ノ此質問ニハ魂膽モ伏
線モ何モアルノヂヤアリマセヌ、唯鄭重ニ
議事ハセナケレバナラヌ、政府ガ議會ニ臨
マルルニ當シテハ、議會ニ對シテ最モ鄭重ニ
事ニ當ラレナケレバナラヌノデアル、國防
ヲ議スル上ニ於テ、一國務大臣缺クルノ故
ヲ以テ、其國務大臣ニ對シテ質疑ヲ爲スト
云フ機會ガゴザイマセヌト云フコトハ、決
シテ議會ニ深切ナルモノデアルトハ、私ハ
言ヘヌト思フノデアリマス、況ヤ發言ノ責
任ガ總テニアルガ故ニ、答ヘル點ニ於テモ
差支ハナイト云フ解釋ハ、御採リニナッテハ
居ラヌヤウデゴザイマスケレドモ、幾部分
カサウ云フ方面ヨリ〓究ガ逸シタノデハ
アルマイカト思フノデアリマス是ハ或ハ
屬僚諸君ノ御考ガ誤クテ居ルノデハナイカ
ト私ハ考ヘルノデアリマス、私ハ內閣總理
大臣ガ衆議院ニ於テ或重大ナル發言ヲセラ
レテ重大ナル意見ヲ述ベラレテ、此意見ヲ
理論化シ、時代化シ······實際化シ、政治的
ニ解決セラルルニ當リマシテ、寧ロ其前提
トシテ困難ナルコトデハナイノデアリマス
ルカラ、事務管掌ヲ置カレタ所デ、病癒ユレ
バ直チニ原職ニ復シ得ラルルノデアリマ
ス、何ガ故ニ此途ヲ執ラレナカッタノデアル
カ或重大ナル······內内ハ申シマセヌ、或
重大ナル發言ヲセラレタコトニ付テ、秋
決シテ不同意ヲ有シテハ居ナイ、之ヲ理論化
スル、實際化スルト云フ事柄ノ前提トシテ
モ、何ヲ苦シンデ總理大臣ガ官制第九條ノ
途ヲ履マレナカッタノデアルカ、私ハ宇垣陸
軍大臣ノ御病氣ニ對シテ一日モ速ニ全快セノ
ラレムコトヲ衷心ヨリ望ンデ居ルノデアリ
マヽ、併ナガラ眼前ニ議會ガアッテ、病癒ユ
レバ直チニ國務ノ衝ニ當ラレナケレバナラ
ヌト云フヤウナ事デハ豫後ノ靜養ト云フ
コトガ十分デナイノデアリマス、十分ニ心
置キナク養生セラルルヤウニ、安心シテ養
生ヲセラルルヤウニト云フ意味ニ於テモ、
此途ヲ誤マラヌノガ、當然デハアルマイカト
考ヘルノデアリマス、此點ニ關スル內容ナ
ドハ一向私ハ論ジマセヌ、新聞紙上ニ色ミ
書イテゴザイマスガ、ソレハ信ジマセヌガ、
唯魂膽モナク伏線モナク、何ニモナイ、魂
膽アリトスレバ、伏線アリトスレバ······寧
ロ總理大臣ニ頗ル好意ヲ表シタル或一種ノ
何者カガアルト云フ事柄ヲ御諒解ニナッテ、
ドウゾ速ニ此途ヲ御執リニナラムコトヲ要
求ヲ致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=26
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027・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一ニ戾リ
マン、國務大臣ノ演說ニ關スル件、第四日、
勝田主計君
〔勝田主計君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=27
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028・勝田主計
○勝田主計君 諸君、私ハ現内閣ノ内政竝
ニ外政ニ關シマシテ、多大ノ疑問ヲ持ッテ居
ル所ノ一人デアルノデアリマス、而シテ是
等ノ疑問ノ範圍ハ極メテ廣大デアリマスル
ノデ、私ノ質問ヲ致サムトスル範圍ハ最モ
國民ノ生活ニ關係ヲ有ッテ居リマスル所ノ
財政、經濟、斯樣ナ範圍ニ於テ質問ヲ致シ
タイト思フノデアリマス
〔副議長侯爵蜂須賀正韶君議長席ニ著
也
而シテ此質問ヲ致スニ付キマシテ、私ノ順
序ト致シマシテハ先ヅ私ノ質問ノ起ル所
以ヲ演述ヲ致シ、而シテ最後ニ質問ヲ列擧
シテ總理大臣ノ御答辯ヲ煩ハス、斯樣ニ致
シタイト思フノデアリマス、又玆ニ皆樣ニ
御諒解ヲ得テ置カナケレバナラヌ事柄ハ、
旣ニ先囘竹越君又ハ山岡博士ノ失業問題、
斯樣ナコトガアリマシタ、是皆要スルニ財
政經濟ノ問題ニ關聯ヲ致シタ事柄デアリマ
ス、故ニ私ノ申述べマスルコトガ、或ハ重
複ヲ免レヌヤウナコトモ有ルカモ知レマセ
ヌガ、左樣ナルコトガ有リマシタナラバ、
何卒惡シカラズ御諒承下サルコトヲ御願ヲ
致シテ置キマス、濱口內閣ノ財政々策ノ根
柢ヲ爲スモノハ、私ハ申上ゲマスル迄モナ
ク、目的ハ金解禁ト云フコトデアルノデア
リマス、私ハ旣往ニ溯ッテ種々ナル言辭ヲ實
ハ弄シタクナイ、ナイノデアリマスルガ、
財政計畫ト云ヒ或ハ經濟施設ト云ヒ、悉ク
金解禁ヲ根基トシテ進捗ヲサレテ居ル所ノ
此濱口內閣ノ政策デアリマスルカラシテ、
ドウシテモ此事ニ言及ヲ致サナケレバナラ
ヌノデアリマスル、濱口君ハ御承知ノ如ク
ニ十年一日ノ如クニ解禁ノコトニハ御熱心
ナ方デアリ、卽行論者デアル、此方ガ解禁
ヲ斷行サレタト云フコトニ付キマシテハ、私
共ハ多大ノ希望ヲ以テ之ヲ見テ居ッタノデ
アリマス、定メシ多年ノ御主張、御〓究ノ
結果トシテ、解禁ヲ致シテモ其事後ニ於テ
種々ナル經濟上ノ變動或ハ財政上ノ困難、
斯樣ナル事ガ起ッテ來ルヤウナコトハ必ズ
爲サルマイ、斯樣ニ私ハ濱口君ヲ尊敬スル
ノ餘リニ考ヘテ居シタンデアリマス、然ル
ニ事實ハ私ノ想像ヲ裏切ッタノデアリマス
ル、濱口內閣ノ解禁ヲ爲サレルニ付テ、
何ヲ準備トシテオヤリニナッタノデアルカ、
斯ウ申シマスルト財政ノ根本的立直シト稱
セラレテ居ル所ノモノガ一其二ハ正金銀
行ニ命ジテ在外ノ正貨ヲ御積ミニナリ、或
ハ亞米利加ト約束シテ「クレジット」ヲ御設
定ニナッタ、是ダケデアリマス、是ハ爭フベ
カラザル事實デアルノデアリマス、財政ノ
立直シ、而モ根本的立直シ、斯ウ仰セラレ
ル所ノモノヲ其內容ニ付テ〓觀イタシテ見
マスルナラバ、極メテ簡單ナコトデアル、
將來ニ於テ發行スベキ所ノ公債、之ヲ御減
ジニナッタ、地方ノ財政ニ於テモ亦然リ、二
億五千万ノ地方債ヲ募集スル、之ヲ御延べ
ニナッタ、之ニ過ギナイ、ノミナラズ此財政
計畫卽チ現ニ實行ヲナサレテ居ル所ノ實行
豫算、此實行豫算ハ濱口首相ノ言明ノ如ク
ニ、其主義方針、金額ニ於テ此一月ニ御提
出ニナッタ所謂不成立豫算、此不成立豫算ト
同體ノモノト大體見テ宜シイノデアル、此
不成立豫算、卽チ實行豫算ト、斯ウ申シテ
モ宜イ位ノモノデアル、此實行豫算ト云フ
モノヲ拜見イタシマスルト、誤ッタル······私
ハサウ考ヘル······缺點ガ非常ニ多イヤウニ
私ハ感ズルノデアリマス、之ヲ重モナルモノ
ヲ列擧イタシテ見マスルト、第一ハ消費ノ觀
念、是デアリマス、濱口內閣ノ整理ハ、國民ニ
消費節約ノ强調ヲ致サレタ、中央及ビ地方財
政ノ緊縮ト云フコトハ、卽チ之ハ政府ノ消費
節約デアル、一言ニシテ之ヲ言ヘバ消費節
約ト云フコトデアル、消費節約ト云フコトハ
世間ニ於テ既ニ廣ク論ゼラレテ居ルノデア
リマスルガ、經濟ノ理窟ニ於テ、生產、消
費、分配、此三者ガ甘ク鼎立シテ調節ヲ得
テコソ、初メテ正當ノ玆ニ效果ガ生レテ來
ルノデアリマス、消費ヲ重ンジ分配ヲ重
·ハニ、生產ヲ輕ンズル、斯ウナッテ來マスル
ト云フト、是ハ所謂共產主義國ノ財政經濟
見タヤウナコトニ、極端ニ言ヘバ、ナッテ來
ル譯デアリマス、斯樣ナ理窟ヲ私ガ濱口首
相ノ如キ財政經濟ニ御通曉ニナッテ居ル方
二、强ヒテ私ハ申上ゲルノデハナイ、過日
竹越君ノ御演說ノ中ニモ、水野越前守ドカ、
或ハ白河樂翁公ノ御話モ出タヤウデアリマ
スルガ、私共ハ白河樂翁公ノ如キハ決シテ
今日ノ濱口首相ガ御執リニナッテ居ル如キ
左樣ナ偏見ナ方デハナカッタヤウニ思フノ
デアリマス、樂翁公ガ所謂節約ヲナサレル、
之ニ付テ話ヲ承ッテ居ル所ニ依リマスルト、
山下幸內ナル者ガ居シテ、是ガ樂翁公ニ上書
ヲ致シタ、其上書ハ儉約ハ民ヲ殺スモノナ
リト云フ結論デアル、儉約ハ民ヲ殺スモノナ、
リト云フ結論デアル、此上書ニ樂翁公ハ非
常ニ鑑ミラレテ、唯儉約一點張デハイケナ
1、儉素、勤勉、貯蓄、今日ノ言葉デ申セ
バ卽チ生產、之ヲ加味シタル所ノ儉約ヲヤ
ラレタノデアル、今日ノ經濟學者ノ說ヲ俟
タナイ、古クヨリ我國ニ於テモチヤント樂
翁公ノ如キ者ガアルノデアリマス、國民ニ
向ッテ奢侈ヲ戒メ、國民ニ向ッテ浪費ヲ戒メ
ル、是ハ結構ナコトデアルノデアリマス、
又國民ニ向ッテ成ルベク國產ヲ奬勵セヨ、國
產ノ消費ヲ奬勵セヨ、斯ウ云フヤウナコト、
是ハ結構ナコトデアル、唯無暗ニ消費節約
ヲ强調スル、之ヲ能事トシテ財政ノ整理ト
云フモノガ出來ルカドウカ、經濟ノ調節ト
云フモノガ出來ルカドウカ、斯樣ナコトガ
一ツデアル、ソレカラ生產ニ關スル所ノ施
設ト云フモノハ全クオ忘レニナッテ居ル、濱
口君ハ國際貸借ノ改善ニ付テ强調ヲサレテ
居ル、御尤ナ次第デアルガ、何等左樣ナモ
ノト云フモノハ豫算ノ上ナドニ付テハ現レ
テ居ラヌ、ノミナラズ財政ノ整理ノ方法ガ
デス、生產ヲ奬勵スル新規事業ノ經費ノ如
キハ大體ニ於テ悉ク削シテ居ラレル、斯樣ナ
性質ノ豫算デアルノデアリマス、私ハ濱口
內閣ガ金解禁ヲサルルニ臨ンデ、外國ノ解
禁ヲ致シタ其事例ヲヨク御〓究ニ相成ッタ
カドウカト云フコトスラモ、甚ダ失禮デア
リマスルガ、疑ハザルヲ得ナイノデアリマ
ス、御承知ノ通リニドノ國ヲ見マシテモ、
是ハ主ニ强國ニ付テ申シマス、數年掛カッ
テ······數年掛カッテ、サウシテ一面ニ於テ
ハ公債ヲ償却スルトカ、或ハ租稅ヲ減
ズルトカ、之ヲ年々ヤリ、一面ニハ濱
口君ノ御唱道ニ相成ッテ居ル產業合理
化デス、是ハ日本デハ此頃合理化ナド
ト申シマスルケレドモ、アチラデハ諸君ノ
御承知ノ通リニ、歐洲大戰直後ニ於テ之ヲ
ヤリ出シタ、此產業合理化ニ依"テ生產ノ
奬勵發達ヲスル、斯ウシテ始メテ解禁ヲ致
シタ、所ガ我國ノハデス、僅ニ一囘所謂財
政緊縮ヲナサッテ、ソレガ國民ノ負擔デモ減
ジテ居ルカ、斯ウ申シマスレバ、成程公債
ニ於テハ將來ニ發行スベキモノヲ、之ヲ多
少止メラレタト云フコトデ、其將來ノ負擔
ト云フコトハアリマセウケレドモガ、現
是ダケノコトヲ斷行スルノニ、國民ノ租稅
ヲ御減ジニナッタコトモナイ、又既往ノ公債
ヲ御償還ニナッタコトモナイ、人民ニハ何ニ
モ與ヘナイ、サウシテ斯樣ナルコトヲ急遽
トシテ御斷行ニ相成ッテ居リマス、斯樣ナコ
トガアル、ソレカラ公債ノ整理、之ニ依ッテ
兎ニ角中央ノ經費ニ於テハ一億五千万ヲ節
減シタト仰セラレテ居ル、其通リデアル、
地方ノ經費ニ於テ是亦地方債、大體地方債、
地方債ニ於テ二億五千万、合セテ四億万、
是ダケノモノヲ御節減ニナッタト稱セラレ
テ居ル、諸君、中央ノ財政ニ於テ今日十六
七億、地方ノ財政ニ於テ同ジク十六七億、
此中ヨリ四億万圓ト云フモノヲ、政府ガ消
費ヲセナクナッタ、此事ヲ斷行スルニ當リ
マシテハ、必ズヤ多大ナル玆ニ產業上、或
ハ勞役上等ニ影響ノ來ルベキト云フコトヲ、
之ヲ苟モ濱口君ノ如キ賢明ナル所ノ政治家
ハ洞察ヲサレナケレバナラヌノデアル、之
ニ對スル準備アリシヤ否ヤ、私ハ見出スコ
トガ出來ヌノデアリマス、唯解禁後失業問
題ノ聲ガ喧マシク、又經濟ガ常調ヲ缺ク、
斯樣ナルコトヨリ、甚ダ是モ失禮ナ言葉デ
アリマスルガ、周章狼狽若干ノ手段ヲ御講
ジニナッタト云フコトデアルノデアリマス、
能ク政府ハ此政府ノ御蔭デ物價ガ下落シ
ク、斯ウ云フコトヲ仰セラレル、成程、物
價ハ下落ヲ致シテ居リマスル、下落ヲ致シ
テ居リマスルガ、其下落ヲ致シテ居リマス
ル所ノ程度ハ、歐米諸國ノ率カラ見マスルト
云フト、マダ〓〓ナカ〓〓高イ、ノミナラ
ズ此下落ノ原因ガ非常ニ違フノデス、今我
我ガ物價ガ下落ヲ致シタト云ッテ左樣ニ樂
觀スベキ時デハナイ、歐米ノ事情ヲ見、能
ク御分リニナッテ居ル方〓ニ對シテ、斯樣ナ
コトヲ申スノハ如何ガト思ヒマスルガ、外
國ノ物價下落ナルモノハ、所謂產業合理化
ニ依テ、天然ノ物產、農產物又ハ諸工藝品、
斯樣ナル物ノ生產過剩ニ依ッテ來ル所ノ物
價下落デアルノデアリマス、我國ノ物價下
落ト云フノハ何デアリマス、無暗ニ物ヲ買
フナ、使フナヨ、斯ウ云フコトニ依ル所ノ
物價下落デアル、其證據ハ何處ニ現レテ來
テ居ルカト申スト、我ミノ生活ニ於テ最モ
注意イタスベキ所謂生活費、此生活必需品
ナル物ノ、他ノ物價ト比シテハ物價ガ高イ、
マダ今日高イ、此點ナドハ歐米諸國ハ非常
ニ注意シテ居ル、生活費······生活費ト云フ
モノハ、ドノ國ノ經濟ニ於テモ之ヲ重要視
シテ、終始其統計ヲ取リ、其物價ノ安定ト
云フモノヲ企圖シテ居ルノデアル、所ガ我
國デハ無理ナ物價ノ下リ方デアルカラシ
テ、此生活費ト云フヤウナモノニ付テハ他
ノ物價ガ下ッタヨウト申スカ、或ハ下ル程度
ニ於テ下ッテ居ルカト云フト、サウハイカヌ
ノデアル、是等モ單ニ物價ガ下ッタカラ大變
ニ結構ナコトヂヤト言ウテ、斯ウ我ミガ樂
觀スルコトヲ許サナイモノデアルト思フ、
而シテ財政ノ根本ノ整理ダト仰セラレルケ
レドモガ、斯樣ナル先ヅ天引ニ類似スル所
心
ノ節約、而シテ總テガ公債一點張リ、斯樣
ナル節約ヲ爲サレタノデアルガ、斯樣ナル
モノハ其程度ノ多少コソアレ、從來歷代ノ
政府ニ依ッテ屢〓爲サレタ所ノモノデアル、
¥
ガ是ハ必ズ直グ元ニ還フテ來ル、元ニ還〓テ
來ルモノデアル、現ニモウ此政府デモ元ヘ
還フテ居ル、何ガ左樣ナ不確實ナル整理ノ因
ヲ成スカト言ヘバ、根本ニ立入ッテ整理ヲ爲
サレテ居ラヌノデアル、私ハ濱口首相ガ豐
富ナル財政經濟ノ資質ヲ以テ財政ノ根本的
整理ヲ爲サレル、斯ウ云フコトデアレバ、
必ズヤ是ハ一度整理スル、其モノハ容易ニ
動カスコトノ出來ナイモノデアル、例ヲ申
シマスレバ、行政ノ根本的ノ改革ヲスル、
或ハ官業ノ整理ヲスル、國防ノ整理ヲスル、
斯ウ云フヤウナ所デチヤント押ヘテ置ケバ、
是ハ戾サウト思ッテモ中ミ戾スコトハ出來
又、併シ今ノヤリ方デハモウ裁量次第デ幾
ラデモズル〓〓ベッタリニヤリ得ル、是ハ私
ハ賢明ナル首相ノ財政整理ノ御ヤリ方トシ
テハ甚ダ遺憾ニ感ズル、而モ之ヲ以テ根本
的ノ整理ナリナド、是ハ首相ハ仰セラレヌ
カモ知ラヌガ、世間ニ宣傳スルニ至ッテハ
私ハ國民ヲ誣フルモ甚シキモノナリト考ヘ
ルノデアリマス、國防ノ問題殊ニ此陸軍ノ
整理ノ問題、是ナドハ濱口君ナドハ確カ餘
程意氣込ンデ居ラレタ、國防ヲ整理シテ宜
イカ、惡イカ、是ハ別問題デアルノデアリ
ほく、併シ財政或ハ經濟、此方面ヨリシテ
我國ノ豫算ヲ見渡スナレバ、兎ニ角歲出ノ
三分ノ一ヲ擁シテ居ル所ノ此國防費、是ガ
減ルト云フコトハ必ズ希望サレルコトヂヤ
ラウト思フ、私共ハ濱口首相ガ是等ノ點ニ
付テモ相當ノ御考ガアッタヤウニ承ッテ居ル、
陸軍大臣亦然リ、而シテ其蹟ヲ尋ネルト云
フト殆ド何等是等ニ付テハ話ガナイ、査
トシテ聲ナシ、斯樣ナコトナドガ私ハ非常
ニ遺憾デアルト思フ、斯樣ナ次第デアリマ
スルノデ所謂失業、經濟界ノ不調節、是ガ
起ルト政府ハ何ト言ハレルカ、是ハ巳ムヲ
得ナイ、外國ノ事情、世界ノ是ハ事情デア
ル、私ハ······是ハ私ハ驚カザルヲ得ナイ、
苟モ外國ノ事情ヲ御承知ニナッテ居ルヤウ
ナ方、私ノ如キ所謂閑雲野鶴ニ伴フ者デモ、
此世界ノ不景氣ナルモノガ今日決シテ發生
シクト云フコトヂヤナイ、發生スベキ原因
ハ紙ニ亞米利加ニ於ケル所ノ產業合理化ノ
太運動、此處ニ發シテ居ル、英吉利邊リノ
新聞或ハ雜誌等ヲ見マスルト云フト、二三
年前カラ此事ヲ言"テ居ル、而シテ是ガ特
ニ顯著ニナリ、特ニ人目ヲ惹クト云フコト
ハ、昨年ノ十月ニ於テ、亞米利加ニ於テ證
劵界ノ大反動ガアッタ、大破瀾ガアリマシ
ク、此警鐘ニ依ッテ稍、世間ガ眼ガ醒メタ
樣デアリマス、ソレハモウ當リ前ノコトデ
アルノデ、故ニ今日此大不景氣ガ來ルト云
フコトハ、私ハ政府當局者ガ御承知ニナラ
ナイト云フヤウナ左樣ナコトハ私ハナイト
思フ、左樣ニ私ハ政府當局ヲ輕ミシク見テ
居ラヌ、少クトモ我ミヨリモ一步進ンデ、
モノヲ御承知ニナッテ居ルト私ハ考ヘル、此
不景氣ヲ御承知ニナッテ、而シテ解禁ヲ急速
ニ御斷行ヲ爲サレタ、サウスレバ是ハ何デ
アリマスルカ、私ハ政府ノ不見識ト決シテ
認メナイガ、政府ノ是ハ妄斷ト言ハナケレ
バナラヌ、妄斷ト言ハナケレバナラヌ、
斯樣ナ財政計畫ヲ以テ、是デ金解禁ヲ急ニ
ヤルト云フコトヲ御斷行ニ相成リ、一面政
府ノ御聲明ニ依リマスルト云フト、亞米利
加ニ二億何千万ノ正貨ヲ積ンダ、又亞米利
加ニ一億ノ「クレヂツト」ヲヤッタ、斯ウ云フ
コトヲ言フ、是ナドハ大變ムヅカシイコト
ノ樣ニ御話ニ相成リマスケレドモガ、是ハ
苟モ財政經濟ノ一端ヲ窺,テ居ル者カラ見
マスレバ、所謂一擧手一投足ノ是ハ勞デア
リマス、正金銀行ニ電命スレバ直グ出來ル
事デアリマス、コンナ事ハ是ハ何時デモ出
來ルコトナンデス、私ハ玆ニ如何ナル資金
ヲ以テ左樣ナ事ヲ爲サレタ、或ハソレガ損
失ニナッタトカ何トカ云フ、左樣ナ細カイ事
ノ論議ヲシヤウトハ思ハヌノデアリマス、
私ハ左樣ナ事、左樣ナ事デ、要スルニ解禁
ノ卽行ヲ······斷行サレタ、斯ウ云フ事情デ
アルノデアル、是ハ私ハ大體ニ於テ其事情
ヲ決シテ僞ラナイ積リデ申上ゲテ居ルノデ
アリマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
偖之ヲ御ヤリニナッテ、而シテ玆ニ現在ドウ
云フ結果ガ來タカ、之ヲ次ニ私ハ〓序トシ
テ列擧シテ見ナケレバナリマセヌ、第一ハ
歲入ノ減少デアリマス、御承知ノ如クニ政
府ハ此一月ニ御提出ニナッタ所ノ歲入豫算
ヲ、實行豫算ニ於テ御改訂ニ相成シタ、卽チ
關稅ニ於テ五百何十万圓減、或ハ酒ノ稅ニ
於テ百八十万圓減、官業收入ニ於テ三百万圓
減其他······兎ニ角千万圓內外ト云フモノ
ヲ御削リニナッタ、是ハ私ハ誠ニ政府ノ正直
ナ御ヤリ方デ結構デアルト思フノデアル
ガ、尙ホ是等ノ御削減ニ付テ、私ハモウ少
シヨリ以上ノモノガ有ルデアラウト思フノ
ミナラズ、將來······眞體的ニ申セバ來ルベ
キ豫算ヲ編成サルル其時期ニ於テハ所得
税營業收益稅其他消費稅、官業收入等、
是等ノ減收ト云フモノガ數千万圓ニ私ハ上
ボルデアラウト思フノデアリマス、是ハ今
日私ハ確定ノ數字ヲ申上ゲル譯ニ行キマセ
ヌガ、私ノ兎ニ角ニ經驗ニ依リ直覺的ニ斯
ウ考ヘテ見マスルト云フト、我國ノ歳入ハ
數千万······私ハ尙ホ以上ニ是カラ減ル、斯
樣ニ私ハ考ヘテ居ル、兎ニ角斯ウ云フコト
ガ一ツ起ッテ居ル、尤モ此不成立豫算ト實行
豫算ト、其歲入ノ差ト云フモノハ、必シモ此
金解禁ト云フコトダケニ依ッテ來テ居ルカ
ドウカト云フヤウナ問題ニナリマスト、是
ハナカ〓〓〓細ナ問題、多少他ノ關係モア
リマセウガ、大體ソコニ來テ居ルト云フコ
トハ、〓括論トシテ申シテ私ハ差支ナイト
思フノデアリマス、ソレカラ次ハ內外正貨
ノ激減デス、是ハ第二ノ結果、濱口首相ハ
過日山岡博士ノ御質問ニ對シ、質問セラレ
ザル以外ニ於テ、特ニ此場合我ミ議員ニ闡明
ヲ致シテ置ク必要ガアル、斯樣オ冒頭デ以
テ、金解禁ノコトニ付テ御一言ニ相成ッタ、諸
君モ御記憶ノ通リデアル、卽チ自分ガ內閣
ヲ組織スルト、正貨ノ關係ガ誠ニ杞憂ニ堪
へヌ狀況ニ居ル、モウ遲レテ居ル、金解禁
ヲヤルノハ遲レテ居ル、直グデモヤラナケ
レバナラヌ、斯ウ思ウタト云フコトヲ述懷
ヲナサレテ居ルノデアリマス、其折ニハ日
本銀行ノ正貨ハ十億五千万位ハアッタノデ
アリマス、又政府ノ在外正貨ト稱スルモノ
モ、私ハ詳シクハ知リマセヌケレドモガ、
少ナクトモ六七千万圓位ハアッタノデ、此狀
況ヲ見テ頻ニ御心配ニ相成ッタ、私ハ政府ガ
貸借ノ狀況ニ付テ御心配ニナルト云フ其コ
ト自身ハ、流石ニ首相タル濱口君ガ財政經
濟ノ蘊蓄ヲ有シテ居ラレル、之ニ依ルト私ハ
感心ヲ致スノデアリマスガ、兎ニ角之ヲ非
常ニ御心配ニナッタ、而シテ今日ノ結果ハ如
何、日本銀行ノ正貨ハ殆ド今日デハ二億以
上デセウ······、二億以上モ現送サレテ居ル、
ソレカラ外國ニ在ル所ノ所謂······何デ御拵
ヘニナッタカ知レマセヌガ、二億何千万ト云
フ金ガ有ルサウデアリマス、是モ政府ガ數
字ヲ御發表ニ相成リマセヌカラ分リマセヌ
ガ、私共ノ見ル所ヲ以テ見マスルト云フト
モウ半分ドコロヂヤナイ、餘程是ハ私ハ減"
テ居ルト斯ウ思フ、左樣ナ澤山ナ正貨ト云
フモノガ流出シ、或ハ減ジ、而シテ一面此
貿易以外ノ正貨、貿易以外ノ受取勘定、是
ハ昨年アタリハ二億位モアリマシタ、是ハ
例年ハサウハ無イノデス、是ナドモ此經濟
ノヤリ方、財政ノ建方デハ、ウント私ハ滅
ルト思フノデアル、貿易以外ノ收支、是ノ
一番數字ニ影響ヲスルモノハ、外國人ガ日
本ニ來テ、日本ニ對シテ投資スルノ金額デ
アル、左樣ナコトハ私ハモウ無カラウト思
フ、是モ減ル、正貨ト云フモノハウント激
減ヲシタ、今日ト致シテハ濱口首相ハ此結
果ヲ見テ·······曩ニ組閣ノ當初ニ方ッテ、國際
賃借ノ上ニ非常ニ心配ヲサレテ解禁ヲ斷行
サレ、而シテ此結果ヲ御覽ニナッタ折ニハ、
事志ト違フト云フ感ジヲ私ハ御持チニナリ
ハセヌカト思フノデアリマス、次ニハ商工
業貿易ノ不振デアリマス、是ハ詳シイコト
ハ說明ヲスル必要ハナカラウト思フノデア
リマス、今日ノ事業會社ニシテ儲ケヲ致シ
テ居ル事業會社ト云フモノハ殆ド無イ、或
ハ中小商工業者ニシテ業ヲ休ムカ、或ハ之
ヲ疊ムカ、又小サイモノナレバ田舎ニ歸ッテ
行クト云フヤウナ慘澹タル狀況デアル、貿
易ノ不振勿論デアリマス、是ハ種々ナルコ
トヲ申上ゲナクテモ、濱口首相ナドノ餘リ
衷心御好ミニナラナカッタ所謂絲價補償法
ト云フモノノ御發動ヲナサレタコトダケデ
モ分リマス、是ハ此問題一ツトシテモ、必
ズ議會ノ矢張リ質問ノ問題ニナルベキ領分
ノアル問題デ私ハアラウト思フノデアリマ
ス、兎ニ角非常ナル價格ヲ御補償ニナリ、
而シテ一面ニ於テハ先キノ物、卽チ新絲ニ
對シテハ何等ノ御成算ガナイ、言葉ヲ換ヘ
レバ、現內閣ハ農民ト云フモノヲドウ一體
考ヘラレテ居ルト云フコトスラモ疑ハレル
如キヤウナ狀況ニ於テアル、是ハ併シ私ハ
此問題ヲ玆デハ再論ハ致サヌノデアリマ
ス、綿絲綿布ハドウデアリマス、綿絲綿布、
外國ニ輸出スル四億五千万圓、而シテ其
價格カラ申シマシテモ、生絲ガ一割五分下
ガァテ居レバ、三割モ下ガッテ居ル、非常エ
困厄、是ニハ或ハ印度ノ關係モアル、銀ノ關
係モアル、種々ナル關係モアリマセウガ、
是亦救濟ヲ迫ッテ居ルノデアル、立行カナ
イ、其他各種ノ業態ニ付テ之ヲ觀察ヲ致シ
チ見マスルナレバ、ドレモ是モイカヌ、斯ウ云
フ狀況ヲ呈シテ居ル、是ハ勿論唯濱口君ガ
皆其責任ヲ背負ハレルト云フノデハアルマ
イト思フ、ソレハ從來カラ色ミナ關係モア
リマセウガ、併シ此影響ヲ絕大ナラシメタ
ト云フコトハ、所謂準備ナキ所ノ金解禁ヲ
速ニ斷行サレタト云フコトニ私ハ在ルト信
ズルノデアリマス、次ニハ有價證劵ノ暴落
デス、是ハ私ハ單ニ、玆ニ有價證劵ト云フ
ノハ決シテ有價證劵ダケデハナイ、ソレハ
日本ノ國富ガ減ッテ居ル、動產モ不動產モ
減クテ居ルガ、有價證劵ノ暴落ト云フモノ
ハ、是ハ非常ナ事デ、殆ド極度ニ達シテ居
ル、之ヲ私ガ特ニ其惡イ現象トシテ申スコ
トハ、我國ノ信用經濟ノ破壞ス是ハナリハ
セナイカト云フコトヲ非常ニ憂慮スルノデ
アル、御承知ノ通リニ我國ノ全體ノ金融機
關.是ハ二十四億ノ公債ヲ持ッテ居ル、是ハ
政府ノ公債政策デ、其分ハ大變ニ宜シイ、
併シ一面ニ債券、株劵、斯樣ナルモノ、之ヲ
保持シテ居ルノガ二十億位アルデセウ、又
婚保ニシテ貸シテ居ルモノガ二十何億ア
ル、四十億以上アル、一面ニハ公債ハ辛ウ
ジテ價格ヲ保"テ居ルカラ宜シイガ、兎ニ角
今日ノ如キ此暴落ヲ致スト云フコトニナレ
バ、貸金ノ頭金ヲ拂フ奴ト云フモノハ無ク
ナル、利子ヲ拂フ者モ段々無タナッテ來ル、
私ハ斯ウ云フ事情ニ付テ實例ヲ色ミ知ッテ
居リマスルケレドモガ、却ッテ私ハ言ハザル
ニ若カズト考ヘマスルカラ申シマセヌガ
兎ニ角斯樣ナル現象ガアルト云フコトハ、
疑フベカラザルノ事實デアリマス、次ニ失
業〓、是ハ過日此議場ニ於テ山岡博士ノ仰セ
ラレタルガ如クニ、八万餘ノ學生ガ兎ニ角
就職難ニ陷ノテ居ル、或ハ三十五万ト稱シ、
或ハ七八十万ト稱スル此失業者ト云フモノ
ガ一面ニ起ッテ居ル、是等必シモ全部濱口內
閣ノ金解禁政策ノ結果デナイカモ知レマセ
ヌ、ソレハ過日濱口君ガ仰セラレタコトハ、
私ハ是認シテモ宜シイ、宜シイノデアリマス
ルガ、流石ハ濱口君、過日山岡君ノ質問ニ對
シテ、政府ト雖モ全然責任無キニアラズ全
部、幾分ト云フコトハ出來ヌガ、責任ハア
ルンダト云フコトヲ此處デ御明言ニ相成"
テ居ル、私ハ是ハ濱口君ヲ責メルドコロデ
ハナイ、同君ガ如何ニモ虚心怛懷ニ其非ナ
ル所ハ非トシテ、責任ハ若干アルンダ、斯
ウ仰セラレタコトハ、寧ロ濱口君ノ私ハ德ヲ
高ウスルト思フノデアリマスガ、兎ニ角左
樣ニ濱口君ガ言ハレル位デアルンダカラ、此
狀況ト云フモノハ實ニ偉イモノデアルト、私ハ
思フノデアリマス、次ハ國民ノ思想デス、之ニ生
活難ガ非常ニ影響ヲ及シテ居ル、私ハ詳シイ
コトナドヲ玆デ申スノデハナイ、御承知ノ
通リ從來共產黨事件ニ鑑ミマシテモ、アノ
當時ハ彼等ノ主張スル所ハ極メテ露骨大
膽而シテ其行動スルヤ極メテ祕密、斯樣
ナ狀況デアッタ、今日デハ是ガ非常ニ合理的
ニナッテ居ル、其主張ハボカシ、其行動ハ殆
ド公然ヤルト云フヤウナコトニ相成ッテ來
テ居ル、或ハ「ストライキ」ノ裏面其他ノ狀
況ヲ見テ見マスト云フト、ドウモサウ云フ
コトニ相成シテ來テ居ル、文學、音樂、左樣
ナモノニ合理的ニ這入ッテ來ツツアル、是ハ
私ハ非常ニ恐ルベキコトデ、其主張ノ赤裸
裸猛烈ニシテ、其行動ノ隱密ナル、尙ホ之
ヲ救濟シ得ベシトスルモ、斯樣ニ合理的ニ
主張ヲボカシテ、サウシテ國民ノ思想ト云
フモノガ段々段々ト惡化スルト云フ、是ハ
餘程重大デアル、殊ニ私ハ貴族院ナドト致
シテハ、漫然ト之ヲ看過スルコトノ出來ナ
イモノデアラウカト考へルノデアリマス、
先ヅ······マダアリマセウガ、詰リ主ナル結
果トシテ現ハレテ來タノガ左樣ナ事デア
ル、然レバ之ニ對シ假令事前デナイニシテ
モ事後ニ致シテモ政府ハ一體ドウ云フコト
ヲ爲サレ、又爲サムトシツヽアルカ、之ヲ
檢討シテ見ナケレバナラヌ、國際貸借ノ改
善卽チ貿易ノ伸張、其他此事ニ付テ政府ノ
爲サレテ居ル所ヲ列擧シテ見マスト、調査
委員會ヲ御作リニナル、二万圓カ、二万五
千圓御出シニナッテ調査會ヲ御作リニナル、
ソレカラ鐵道省ニ觀光局ト云フヤウナモノ
ヲ御作リニナル、農林省ニ貿易局ト云フモ
ノヲ御作リニナル、先ヅ斯ウ云フモノ、ソ
レカラ國產奬勵ト云フコトニ付テ、從來カ
ラ國產奬勵ノ經費ガ出テ居ルノデアリマス
ガ、之ヲ確カ豫算デ十万圓位御增シニナッ
テ居ル、其輸出奬勵ト云フコトニ付テハ、
所謂輸出補償制度ト云フモノヲ······此輸出
補償制度ト云フモノハ、名ハ非常ニ美ニシ
テ而シテ極メテ規模ノ限局シタモノデア
ル、二十四万圓之ニ御計上ニ相成ッテ居ル、
其他十五品ニ限ッテ、生絲外重要輸出品十五
品ニ限ッテ運賃ヲ二割ヲ減ジテヤル、正金銀
行ノ利付手形五分五厘ヲ、輸出品ノ特別ナ
モノニ限ッテ五厘減ジテヤル、斯樣ナコトデ
ス、是レ以外ニハ產業合理化ト云フ外ハナ
イノデアリマス、產業合理化ニ付キマシテ
ハ、私共ハ能クハ分ラヌ、言葉トシテハ大
變結構ナ言葉デ、產業合理化ト云ヘバ··
併シ產業合理化ト申シテ、何ガ產業合理化
デアルカト申セバ、私ノ寡聞ヲ以テシテモ、
外國デモ色〓是ニハ定義ガ違フ、安イモノヲ
澤山拵ヘ、サウシテ國民ノ福利、民福ヲ增進
スルノダトカ、何ダトカ、學者、〓科書ガ
定義スレバ色ミナコトガアルカモ知レマセ
ヌ、併シ是ハ色ミ違フ、現ニ私共ガ、外國デ
ハ一體ドウ云フコトヲ、亞米利加ヤ英吉利
ナドデハ產業合理化ト言ッテ居ルカト云フト、
是ハ今ノ定義デハナイ、今ノ定義トカ理論
トカ、サウ云フモノヨリハ、成ベク實際ニ
考ヘタイノデアリマスガ、見ルト、英吉利ノ
「エコノミスト」ナドニ產業合理化ハ「ラシヨ
ナリゼーション」ト云フ字ヲ使"テ居ル、
是ハ亞米利加ノ合同「アマルガメーシヨン」
ヨリハ、少シ意味ノ廣イモノデアルト云フ
ヤウナコトヲ言ッテ居ル、其大體ノ事實トシ
テハドウカト云ヘバ、英米ノ如キ、アノ從
來ノ先進國デ產業ノ旣ニ數段發達シテ居ル
所ニ於テハ、大〓會社ノ合同、縱ト橫ノ合
同、ソレカラ品物ノ何ト申シマスルカ、「ス
タンダヂゼーシヨン」是デス、是ガ實際ニ
ナッテ居ル、日本デ、一體色ミ御說明モアッ
タヤウデアリマスガドウ云フコトヲ一體ナ
サレルノカ、具體的ニ、是ハ政府ノ仰セラル
ル所ヲ聞クト、從來產業ノ振興ダトカ何ト
カ云フコトヲ何ニモ使ハナイノデアルガ、
特ニ產業合理化ナドト言ッテモ、何ヲ一體具
體的ニナサレタカ、何ヲナサレタノデアル
カ、具體的ニ、是ガ產業合理化、斯ウ云フ
モノヲ私ハ知リタイ、斯樣ニ申スト、是ハ
甚ダ失禮デアリマスガ、不可解ナ、唯言葉
(新シイ言葉ヲ、新シイ外國ノ翻譯
ヲ······西洋ヂヤ古イ、歐洲大戰ガ濟ムト直
グ皆之ヲヤッテ居ル、之ヲ今日持テテ來テ頻
ニ最後ノ、詰リ眞打ニシテ居ラレル、ドウ
モ是ダケノヤウニ私ハ思フ、ソレモ何ニモ
働イテ居ラヌ、是ダケシカナイノデス、是
ガ濱口內ノノ國際貸借ノ卽チ正貨間題ノ
解決策、斯ウ云フコトデアリマス、次ニ失
業ニ對シテハドウ云フ見解ヲ持ッテ居ラレ
ルカ、對策ヲ持ッテ居ラレルカ、是ハ山岡君
ノ御質問ニ依ッテ色ミ內務大臣ヨリモ總理
大臣ヨリモ御話ガアリマシタ、所ガ多少內
務大臣ノ御考ト總理大臣ノ御考ト違フヤウ
デアリマシタガ、是ハ兎ニ角、彼此私ハ申
サヌ、申サヌノデアリマスルガ、結局、職
業紹介局ト云フモノヲ內務省ニ置ク、是ガ
一ツノ對策、ソレカラ地方デ仕事ヲサシテ、
其勞働費ヲ若干補助スル、六十一万圓ト云
フ豫算ヲ計上シテ居ラレル、是ト、ソレカ
ラ濱口首相ノ言明サルル地方債ト云フモノ
ヲヤカマシク取締"テ居ッタガ、是ハイカヌ
カラ、此方面ニ於テ手心ヲシテ緩和スルノ
ダ、此大方二千万圓カ、ソコラ私ハ緩和サ
レテ居ルダラウ思フノデアリマスガ、其他
色〓內務大臣ノ御話ヲ聞イテ見マシテモ、
大體對策ト云フモノハ是ダケシカナイ、失
業ニ對シテノ對策ト云フモノハ是ダケシカ
ナイ、其他、或ハ强ヒテ申セバ、質屋ノ公
營、是ハ從來カラアル、之ニ對シテ若干ノ
建設費······是モ十万圓カ八万圓、之ヲ計上
シテ居ラレルヤウナコトデ、何モ取留メテ、
政府ガ國際貸借ノ關係ヲ非常ニ重大視セラ
V、又失業關係ノ問題ヲ非常ニ重要視セラ
V、此重要視サレテ居ル割合ニハ其施設ト
シテ見ルベキモノト云フノハ、只今列擧イ
タシタモノノミデアル、或ハ小サイモノガモ
ウ一ツ二ツアルカモ知レマセヌガ、サウ云
フモノデアル、是ガ現實デアルノデアリマ
ス、諸君只今私ノ申述ベマシタコトハ、決
シテ事ヲ過大ニハ致シテ居マス、事實ノ實
際ニ卽シテ、多少細カイモノニ至ッテハ、ソ
レハ違フコトガアルカモ知レマセヌガ、荒
削リヲ致シテ大體ノ上ガラ觀察スルト、政
府ノ爲シタルコトガドウデアル、玆ニ缺點
ガアル、其結果ト云フモノハドウ現レテ來
タカ、之ニ對スル所ハ寬恕シテ、前以テ準
備ガ無シトシテモ、兎ニ角、事後ノ處置ト
シテモ、爲サレタコトガドレ程アルカト云
<ハ,アレ程ナモノデアル、斯樣ナコトデ
我國ノ國際貸借ノ關係ガ改善サレルモノデ
アリマスルカ、斯樣ナコトデ此滔々タル所
ノ失業者ヲ救フコトガ出來ルノデアリマス
ルカ、是ハ私ハ後ニ至ッテ政府ニ聽キマスル
ガ、諸君ニ能ク私ハ御考ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス、······私ノ質問ヲ列擧スル迄ニ
ハマダ申上ゲタイコトガ大分アリマス、ソ
レデ只今議長サンニモ御相談イタシマシタ
ガ、好イ加減ナ所デ今日ハ切ッテ置イタラド
ウカト云フコトデアリマスカラ、丁度切リ
デアリマスカラ、是デ私ハ失禮シテ又次囘
ニ申上ゲルコトニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 此際、御諮リヲ
致シマス、都合ニ依リマシテ本日ハ是デ延
會イタシタイト考ヘマス、御異議ゴザイマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=29
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030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 散會前ニ御諮リ
ヲ致シタイコトガゴザイマス、田村駒治郞
君病氣ニ付キ會期中請暇ノ申出ガゴザイマ
シタ、之ヲ許可スルコトニ御異議アリマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=31
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032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=32
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033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 報〓スル件ガゴ
ザイマス、書記官ヲシテ報告ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
本日豫算委員會ニ於テ當選シタル正副委員
長ノ氏名左ノ如シ
委員長伯爵林博太郞君
副委員長男爵中島久萬吉君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=33
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034・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ノ議事日程ハ
決定次第、本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマ
ス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後零時十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005803242X00519300502&spkNum=34
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