1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
刑事補償法案
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委員氏名
委員長 侯爵 中御門經恭君
副委員長 鵜澤總明君
子爵 池田政時君
子爵 秋月種英君
富谷しょう太郎君
男爵 北大路實信君
山岡萬之助君
關直彦君
八木春樹君
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昭和六年二月二十八日(土曜日)午前十時十七分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=0
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001・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) ソレデハ是
カラ開會イタシマス、先ヅ政府委員ノ御說
明ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=1
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002・渡邊千冬
○國務大臣(子爵渡邊千冬君) 詳細ノ御質
問ニ付キマシテハ私又ハ政府委員ヨリ出來
ルダケ御說明ヲ申上ゲタイト考ヘテ居リマ
スガ、ソレニ先立チマシテ一應此法案ノ精
神ノアル所ヲ申述ベテ置イタ方ガ御審議ヲ
願ヒマス上ニ於テ好都合ダト存ジマスカ
ラ、大體ノ點ヲ豫メ申上ゲテ置キタイト存
ジマス、刑事補償法案ト云フ名稱ヲ付ケマ
シタ其コトニ付キマシテ豫メ申述べタイト
存ジマス、世間ニハ此法案ヲ國家賠償法ト
云フ名前ノ下ニ話合ヒ言傳ヘテ居ッタノデ
アリマスガ、今度ノ提案ニハ刑事補償法ト
致シタノデアリマス、之ヲ國家ト云フ字ヲ
省キマシタノハ、此刑事補償法案ニハ國家
ノ行政上ノ處分ニ付キマシテハ補償ヲ致サ
ナイト云フ考デ國家ト云フ文字ヲ用ヒマ
スト云フト、行政、司法共ニ含ムヤウニ聞
エルノデソレヲ止メテ、國家ト云フ字ヲ止
メタノデアリマス、次ニハ司法補償法案ト
云フモノニ致サウカト思ッタノデアリマ
スケレドモ、此補償法案ノ適用ハ刑事事件
ニノミ限ラレテ居リマスカラ、民事ヲ含マ
ナイト云フコトヲ示ス爲ニ刑事補償法案ト
致シタノデアリマス、次ニ補償ト云フ文字
デアリマス、是ハ衆議院ニ於キマシテハ大
變ニ論議サレタノデアリマスケレドモ、政
府ノ考ト致シマシテハ何處マデモ民事ノ損
害賠償ト云フ觀念トハ異ッタ觀念ノ下ニ此
法ヲ制定イタシタイト云フ所カラシマシテ
賠償ト云フ文字ヲ避ケタノデアリマス、國
家ガ此法案ニ規定シテアリマスヤウナ場合
ニ損害ヲ賠償イタスト云フ精神ヲ理論的ニ
根本的ニ又ハ絕對的ニ排斥イタスベキ理由
ガ必ズシモ存在シテ居ルトハ思ハナイノデ
アリマス、併ナガラ此法案ハ國家ニ過失ガ
アッテ人ニ損害ヲ與ヘタガ故ニ之ヲ賠償シ
ヤウト云フ、サウ云フ精神カラ出發イタシ
テ居ルノデハナイノデアリマス、過失ト云
フコトヲ前提ト致サナイノデアリマスカ
ラ、普通ノ損害賠償ノ觀念ト違フモノデア
リマスカラ、ソレデ賠償ト云フ文字ハ用ヒ
ナカッタノデアリマス、此補償法案ノ精神ハ
國家ガ或ル人ヲ起訴イタシ而シテ其以前ニ
其人ガ强制處分ニ依ッテ拘留セラレタ場合、
又ハ第一審ニ於テ有罪ノ判決ヲ受ケテ二審
又ハ上〓審ニ於キマシテ其人ガ無罪ニナツ
タ場合ニ、其人ガ初メニ拘留セラレ又ハ罰
金等ヲ科セラレテ居ッタ場合ニ、其起訴又ハ
第一審ノ判決ハ之ヲ違法ナリト認メルト
カ、又ハ國家ノ過失行爲デアルト認メテソ
コカラ出發イタシタノデハナイノデアリマ
スケレドモ、兎ニ角其人ハ無罪デアルト云
フコトガ判決ニ依ッテ確定シタ、其人ガ或ル
時ノ間非常ナル身體ノ苦痛精神上ノ苦痛又
ハ外ノ言葉デ申セバ名譽ノ上ノ苦痛、同ジ
ク精神的ノ苦痛デアリマスケレドモ、ヲ蒙"
テ居ルニ拘ラズ、國家ガ之ニ無關心デ居ル
ト云フコトハ宜シクナイカラ、之ヲ或ル方
法ヲ以テ慰藉シヤウ、是ガ此法ノ立前デア
ルノデアリマス、從ッテ其被告又ハ刑ノ執行
ヲ受ケマシタ人ノ受ケタ損害ニ應ジテ補償
ヲ致スト云フ立前ニハナッテ居リマセヌノ
デ、如何ナル場合デモ一日五圓以下、サウ
シテソレヲ拘留ノ場合ニハ之ヲ日數ニ應ジ
テ計算スルト斯ウ云フコトニ致シテアルノ
デアリマス、若シ是ガ損害賠償ト云フ觀念
ニ基イタモノデアリマシタナラバ、或ル人
ハ一日數百圓ノ損失ヲシテ居ル人ガアリマ
セウ、併ナガラ損害ヲ其儘賠償イタスト云
フ精神デナクシテ、其精神上ノ苦痛ヲ金錢
ヲ以テ或ル程度マデ國家ガ慰藉ヲ致サウ、
斯ウ云フ考デアルノデアリマス、金錢ヲ以
テ精神上ノ苦痛ヲ總テ精算シ盡スト云フコ
トハ是ハムヅカシイコトト申スカ、出來難
イコトト申シテモ宜イカモ知レナイノデア
リマスケレドモ、其人ノ自由ヲ拘束セラレ
ルトカ、名譽ヲ毀損セラレタト云フコトガ
此補償法ノ實行ニ依リマシテ、兎ニ角ソレ
ハ國家トシテモ其人ニ對シテ誠ニ氣ノ毒ニ
思ッテ居ルト云フコトヲ金ノ上ニ於テ、詰リ
具體的ノ形ヲ以テ現ハシマシタナラバ、其
人ノ苦痛モ幾ラカ和ゲルコトガ出來ルデア
ラウト云フヤウナ考カラ致シマシテ、此法
ノ規定スルヤウナ方法ヲ設ケタノデアリマ
ス、其他ノ點ニ付キマシテハ衆議院ノ速記
錄等モ御閱讀ニナッタコトト存ジマスガ、大
體其樣ナ精神カラ出來テ居ルノデアリマシ
テ、又段々御質問ニ應ジマシテ出來ルダケ
御說明ヲ致シタイト考ヘマス、尙ホ衆議院
デ之ヲ修正ヲ致シタノデアリマスケレド
モ、其修正ハ第一ハ「補償ヲ給與ス」ト書イ
テアルノヲ、「補償ヲ爲ス」斯ウ云フコトニ
變ヲタノデアリマス、衆議院デハ或ハ斯ノ如
キコトヲ國家ガ爲スノハ國家當然ノ義務デ
アルカラ、給與ト云フヤウチ恩惠的ノ言葉
ヲ使フト云フコトハ面白クナイト云フヤウ
ナ根本的ノ考ヲ有ッテ居ル人モアリマシタ
シ、又兎ニ角斯ウ云フ法律ヲ定メテ補償ヲ
爲ス以上ハ、此法律ガ出來タ以上ハ其人ノ
權利ト認ムルコトガ出來ルノデアルカラ、
給與ト云フヤウナ文字ハ面白クナイカラト
云フノデ、內容ニ別段變ヲタコトハナイノ
デアリマスケレドモ、體裁上給與ト云フ文
字ハ面白クナイト云フノデ「補償ヲ爲ス」ト
云フコトニ改シタノデアリマスカラ、是モ政
府ハ同意ヲ致シマシタ、ソレカラ本人ノ寃
罪ヲ慰メルノニハ之ヲ廣告スルコトガ宜イ
ト云フ論モ出タノデアリマスケレドモ、新
聞紙等ニ廣〓ヲ致スト云フコトハ財政上ノ
關係モアリマスシ、色ミ考慮スベキ點ガアツ
タノデアリマスカラ、先ヅ之ヲ官報ニ揭ゲ
ルト云フコトニ付キマシテハ政府ニ於テモ
何等異存ノアルベキ筈モナイクデアリマシ
テ、是モ同意ヲ致シタノデアリマス、其二
點ガ衆議院ノ修正デアリマシテ、外ノ點ニ
於テハ全ク原案通リ可決イタシタノデアリ
マス、是モ此機會ニ御報告ヲ申上ゲテ置キ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=2
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003・關直彦
○關直彥君 大體ノ質問ヲ致シマシテ差支
アリマセヌカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=3
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004・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) ドウゾ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=4
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005・關直彦
○關直彥君 御說明ヲ承リマシテ御趣旨ノ
アル所ハ了承イタシマシタ、固ヨリ此補償
法ハ誠ニ結構ナ法律デアリマシテ、私共ハ
今日迄ニ何故斯ウ云フモノガナカッタカト
云フコトヲ憾ミトシテ居ルヤウナ感ジヲス
ル位デアリマス、所デ司法ノ當局ニ是ハ御
相談的ニ質問ヲ致スヤウナ譯デスガ、或ル
程度過,テ無罪ノ者ニ有罪ノ判決ヲ下シテ
多大ノ損害ヲ、精神的及物質的ノ損害ヲ釀
シタト云フコトハ誠ニ氣ノ毒デアル、ソレ
ヲ慰藉スル爲メ輕少ナガラ此一日五圓ト云
フモノヲ補償シテ慰藉スルト云フ精神ハ誠
ニ結構デスガ、斯ウ云フコトノ絕無ニスル
ト云フコトハ出來マスマイガ、成ルベク少
ナク斯ウ云フ事件ノ起ラナイヤウニ事案ヲ
愼重ニ取扱ッテ貰フト云フコトガ出來マス
マイカ、檢事ナリ判事ナリニ對シテ······ド
ウモ現今動モシマスト云フト多少ノ疑ガア
ルニハ相違ナイケレドモ、確的ナ證據ヲ握
ラズシテ、先ヅ嫌疑ノアル者ハ無闇ニ拘留
シテシマッテ、サウシテ長イ間之ヲ未決監獄
ニ拘留シテ苦痛ニ耐ヘラレナイヤウニシテ
自白ヲセシメ、審問スル所ノ事實ヲ認メサ
セルト云フヤウナ傾ガ往々アルノデアリマ
ス、豫審廷ニ呼出シテ置イテ訊問ヲスル、
其事實ヲ否認スルト云フト-認メレバ保
釋デ以テ直グ出シテヤル、認メナケレバ暫
クハ留置ク、能ク歸ッテ冷靜ニ考ヘテ見ルガ
宜イト云フヤウナコトデ以テ歸サレルノデ
アリマス、ナカ〓〓其期間ガ長イ、訊問ノ
呼出シヲ待ッテ居リマシテモ、一週間經ヲテ
モ二週間經ッテモ呼出シヲ受ケナイ、其間ノ
精神的苦痛、又商業工業ニ從事シテ居リマ
ス者ハ釋放ヲサレテ居ル間ニ於ケル物質的
ノ損害ト云フモノハ非常ナモノデアル、ソ
レ等是等ヲ苦悶ニ堪ヘナイデ、ドウセ公判
ニ〓サレレバ今此處デ認メテ置イテモ其認
メタ事ヲ飜スコトガ出來ルデアラウト云フ
輕卒チ考ノ下ニ、早ク出タイト云フ意思カ
ラシマシテ事實ヲ認メル、自分ノ意思ニナ
イ事實ヲ認メルト云フコトガ往々アルノデ
アリマス、一旦豫審ニ於テ其事實ヲ認メマ
スト公判ニ廻リマシテ之ヲ覆スト云フコト
ハ頗ル困難デアル、到頭ソレガ豫審ニ於ケ
ル拘留ノ苦痛ノ結果認メタコトガ基礎ト
ナッテ一審、二審、三審トモ遂ニ有罪ノ判決
ヲ受ケルト云フヤウナコトガ往々アリマス
ガ、斯ウ云フコトハ何トカ一ツ司法ノ最高
幹部ノ方ミガ御注意下サッテ、サウシテ成ル
ベク斯ウ云フコトノ頻々ニナイヤウニ御願
ヒスルコトガ出來マスマイカ、サウスレバ
斯ウ云フ補償法ヲ適用スルヤウナ必要モ少
ナクナリマスシ、全ク存在モ少ナクナルト
云フ譯デアリマス、甚シキニ至リマシテハ
半年モ一年モ拘留ニシテ置イテ其間ニ僅カ
ニ、三囘シカ取調ヲシナイト云フ事實モ往
往ニアルノデアリマス、私共取扱ヒマシタ
事件ノ中ニモサウ云フモノガアリマシタ、
斯ウ云フコトガ誠ニ假令其補償ヲ頂戴イタ
シマシテモ中ミ其過去ノ精神的ノ苦痛、物
質的ノ損害ト云フモノハ到底無論償フコト
ハ出來マセヌガ、慰安ヲスルト云フ譯ニモ
參ラナイ、折角國家ノ誠ニ親切ナル法律ガ
之ヲ適用シテサウシテ彼等ヲ慰藉スルモ慰
藉スル效力ガ少ナイト云フコトニ歸著スル
ノデアリマス、成ルベク斯ウ云フ補償事件
ヲ少ナクナルヤウニ方針ヲ採ッテ戴クト云
フヤウナコトガ最モ必要デアリハシナイ
カ、勿論當局ノ最高部ハ常ニ細心ノ注意ヲ
拂ッテ居ラレルニハ相違アリマセヌケレド
モ、事實ガ左樣ナコトガ澤山アルノハ誠ニ
遺憾デアルノデアリマス、是ガ一ツ、ソレ
カラ今一ツ伺ヒタイノハ補償法ヲ適用スル
ヤウナ······適用シナケレバナラヌヤウナ事
件ノ取調ヲ爲サル檢事及判事ニ對シマシテ
何等カノ制裁ヲ加ヘルト云フ御趣旨ガアル
ノデアリマスカ、假令補償法ヲ適用スル者
ガ幾ラアッテモ之ヲ取調ベタ檢事ナリ、或ハ
誤ヲタ判決ヲシタ判事ナリト云フモノハ幾
ラソンナコトヲヤッテモ是ハ無責任デアル、
何等問フ所ハナイト云フ考デ濟マス御考デ
アリマセウカ、モウ一ツ伺ヒタイノデアリ
マスガ、此二點ニ付テ先ヅ伺ッテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=5
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006・渡邊千冬
○國務大臣(子爵渡邊千冬君) 只今關君ノ
御質問ハ衆議院ニ於テモサウ云フヤウナ質
問ヲ受ケタコトガアリマスガ、直接法律事
務ニ御從事ニ相成リマシテ、只今關君ノ御
話ニナリマシタヤウナ實例ニ遭遇サレ、御
經驗ノアリマス方ハ非常ニサウ云フ人達ニ
御同情ヲ御持チニナッテ、サウ云フヤウナ御
感想ノ起ルノモ御尤モダト存ジマス、併ナ
ガラ絕對的ニ此補償法ノ適用セラレルガ如
キ場合ヲ無クナスト云フコトハ非常ニ困難
ト思ヒマスケレドモ、斯ウ云フ補償ヲ爲ス
ヤウナ場合ノ出來得ルダケ少ナイト云フコ
トハ固ヨリ司法當局ト致シマシテモ十分希
望ヲ致シテ居ル次第デアリマス、ソレデハ
一般的ニドウ云フ狀況デアルカト申シマス
ト、今日デモ犯罪ガアッタ場合ニ檢事ハ好ン
デ起訴ヲ致シテ居ルカト云フト、實際ノ有
樣ニ於テナカ〓〓サウデナイヤウニ私ハ承
知イタシテ居リマス、檢事ガ起訴ヲ致シマ
シテ豫審又ハ公判ニ於テハ起訴ガ崩レテ犯
罪ニナラヌト云フコトハ檢事ハ非常ニソレ
ヲ恥ト思クテ居ルノデアリマス、決シテ檢事
ト云フモノハ起訴ヲ喜ブト云フヤウナコト
ハナイト思フノデアリマス、唯一旦起訴シ
タ事件ニ付キマシテハ、十分考慮ノ末起訴
イタシタノデアリマスカラ、其證據ヲ擧ゲ
ル爲ニ隨分鄭重ニ、又被〓ノ方カラ言ヘバ
ウルサク調ベラレルト云フヤウナコトハア
ルカモ知レマセヌケレドモ、起訴イタシマ
ス以前ニ於テ、檢事ガ好ンデ起訴ニ決スル
ト云フヤウナコトハマアナイノヂヤナイ
カ知ラヌト私考ヘテ居リマス、現ニ統計上
カラ申シマシテモ昭和四年ニ起訴セラレマ
シタ總件數ハ九万七千七百件、起訴猶豫ニ
ナリマシタノハ、殆ド其倍ノ十八万七千七
百三十四件ト云フコトニナッテ居リマシテ、
起訴猶豫ニナリマシタ件數ノ方ガ、起訴セ
ラレタ件數ノ殆ド倍ニナッテ居ルヤウナ狀
況デアリマス、此點カラ見マシテモ檢事ガ
好ンデ起訴ヲ致スト云フヤウナコトハ、數
ノ上ニ於テハ現ハレテ居ラナイノデアリマ
ス、唯御話ノ中ニ長ク未決勾留ヲ致シテ置
イテ、取調ベガ其間ニ二三度ニ過ギナカッタ
ト云フヤウナ御話ガアリマシタケレドモ、
サウ云フヤウナ例モサウ屢〓アルモノトモ
存ジマセヌガ、私ハ絕無トハ是ハ申セナイ
コトダト思ッテ居リマス、今日裁判所ノ實情
ニ於キマシテハ、一番多忙ナノハ豫審判事
ト檢事デアルノデアリマス、豫審判事ガ、
殊ニ昨今ノヤウニ共產黨事件デアリマスト
カ、或ハ色ミナ臨時ノ事件ガ起リマシテ、
サウ市ケ谷ノ未決監ト云フモノハ這入リ切
レズニ、只今デハ豐多摩ノ刑務所デアルト
カ、小菅ノ刑務所デアリマストカ云フヤ
ウナ所ノ、未決ノ人ヲ入レテ置ク爲ニ設ケ
ラレタノデナイ刑務所ニマデモ被〓ヲ澤山
入レテアルト云フヤウナ狀態デアリマシテ、
豫審判事ガ手廻リ兼ネルト云フ事實ハ是ハ
確カニアリ得ルコトダト私ハ考ヘ得ラレル
ト存ジマス、併シ之ニ付キマシテハ、マア
出來得ルダケ豫審判事ニ於テモ勉强ヲ致シ
テ居リマスシ、又只今堆積イタシテ居リマス
ル所ノ色ミナ事件ガ段々片付イテ參リマス
ト其邊ハ餘程改善セラレテ來ルノヂヤナ
イカト思ッテ居リマス、此點ハ若シサウ云フ
コトガアレバ誠ニ御氣ノ毒ナコトデアリマ
スト考ヘテ居リマス、唯此補償法ノ適用セ
ラレルヤウナ場合ニ、其初メニ、起訴イタ
シ又ハ公判ニ付スベシト云フ決定ヲシタ豫
審判事、又ハ有罪ナリト判決シタ第一審判
事等ニ對シテ、何等カ制裁ノ方法ヲ考ヘル
餘地ハナイカト云フヤウナ御話デアリマシ
タケレドモ、是ハドウ云フモノカト私ハ考
ヘルノデアリマス、今日ノ制度ノ上デ、第
一審ト第二審トハ其判決ガ違フコトガアリ
得ルガ故ニ、此今日ノ三審ノ制度ト云フモ
ノガ設ケラレテアル、又起訴ヲ致スト云フ
コトハ犯罪ガアルト云フ判決ヲ下スト云フ
ヤウナ的確ナル證據ヲ握ラナクトモ、犯罪
ノ嫌疑ガアレバ之ヲ起訴イタスコトガ出來
ルノガ、今日ノ法制上ノ立前デアルノデア
リマス、又豫審ガ公判ニ付スベシト云フ決
定モ、犯罪ノ嫌疑ガアレバ之ヲ公判ニ付ス
ベシト云フ決定ヲ爲スコトガ出來ルノデア
リマスカラ、之ヲ一々檢事又ハ豫審判事ノ
過失トシテ認メルト云フコトハ、今日ノ法ノ
精神トモ合致シテ居ルカドウカ、其間ニモ亦
考慮スル餘地ハアリマスマイカト思フノデ
アリマス、併ナガラ若シ關君ノ只今御話ノ
アリマシタヤウナコト、屢〓サウ云フ事ヲ繰
返ス、何ノ某檢事ガ起訴シタ事件ハ常ニ······
常ニト云フ言葉ハ少シ過ギルカモ知レマセ
ヌケレドモ、屢〓豫審免訴ニナルトカ、無罪
トナルトカ、又何と判事ノ第一審ノ判決ハ
有罪デアッテモ、常ニ控訴審ニ於テハ無罪ニ
ナルト云フヤウニ、其判事ガ極メテ不適任
デアルト云フヤウナ場合ニハ、是ハ他ノ方
法ヲ以テ其弊害ヲ矯正スルコトガ出來ルト
思フノデアリマスルケレドモ、其人ガ惡意
又ハ重大ナル過失デナクシテ下シタ判決ニ
對シテ、今日ノ法制ノ立前カラ言ッテ之ニ懲
戒ヲ加ヘルト云フコトハムヅカシイコトデ
アラウト存ジテ居ルノデアリマス、併ナガ
ラ私ハ關サンノ御話ニナリマシタ通リ、決
シテ補償ヲ以テ其人ノ苦痛ヲ總テ洗ヒ去
ル、補償サヘ受ケレバ、モウ其人ハ苦痛ヲ
受ケナカッタ從前ノ狀態ニ還ルト云フコト
ノ意味デナイト云フコトハ、先刻申述ベタ
通リデアリマスカラ、補償ヲ與ヘルヨリハ、
補償ヲ與ヘルヤウナ機會ノ少ナイコトヲ希
望イタスト云フ點ニ於キマシテハ、全ク御
同感デアルノデアリマス、ソレガ此法ヲ提
出イタシマシタ時ノ·······起草イタシマシタ
時ノ私共ノ考デゴザイマスカラ、左樣御承
知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=6
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007・關直彦
○關直彥君 了解イタシマシタ、今一ツ附
加ヘテ伺ッテ置キマスガ、只今申上ゲタ通リ
ニ未決勾留ガ長クテサウシテ其間ニホンノ
二三囘シカ調べラレナカッタト云フヤウナ
事實ハ是ハ實際ゴザイマスガ、成程大臣
ノ仰セノ通リ今日ハ豫審判事ノ非常ナル多
忙デアルト云フコト、檢事ノ非常ナ多忙デ
アルト云フコトハ、是ハ私共常ニ御同情ヲ
致シテ居ル、如何ニモ其實況ヲ見マシテ誠
ニ御同情ニ堪ヘナイ、何トカシテ豫算ヲ增
シテ貰ッテ成ルベク檢事ノ人數ヲ增シ豫審
判事ノ數ヲ增シテ、事件ノ敏速ニ進捗スル
ヤウニシテ貰ヒタイト云フコトヲ、常ニ私
共ハ主張イタシテ居リマスル、希望イタシ
テ居ルノデアリマスルガ、此勾留ガ長引ケ
バ長引ク程、補償法ヲ適用サレルト云フ場
合ニ於テハ國家ガ損害ヲ蒙ムル、一日五圓
デスカガ、十日間デ濟ムモノナラバ五十圓
デ事ガ濟ミマスケレドモ、是ガ一年モ無駄
ニ勾留シテ居クテソレガ無罪ニナッタト云フ
ヤウナコトデアリマスルト云フト、三百六
十日ニ對スル五圓ノ補償デスカラ、中ミ豫
想外ニ國家ノ損失ガ多クナル、デゴザイマ
スルカラシテ成ルベク判事檢事ノ數ヲ增シ
テ、金ヲ使ヒマシテモデス、ソレガ一般的
ノ利益ニナリマスルシ、判事檢事ガ忙ガシ
クテソレガ爲ニ取調ガ長引ク、サウシテ補
償セヌナラヌ日數ガ殖エルト云フコトハ、
非常ニ國家ノ損害ダト思フノデアリマス、
デ私ハ成ルベク早ク事ヲ片附ケテ貰ヒタイ
ト云フコトノ希望デアリマスガ、御參考ノ
爲ニ一ノ具體的ノ事實ヲ御話申上ゲマスレ
バ斯樣ナ事ガアリマス、極ク事件ハ微細ナ
モノデ、或ル薪炭商······薪炭商ノ番頭デア
リマス、是ガ鐵道省或ハ遞信省、或ハ東京市
役所等ノ役所ニ炭ヲ納メマシタ、サウスル
ト其納メル炭ノ中ヘ持ッテ行ッテ量ノ劣ッタ
物ヲ何俵カヅツ挾ンデ納メタト云フコト
ガ他ノ〓發ニ依ッテ勾留サレタノデアリマ
ス、所ガ段々御調ベニナリマスルト云フ
ト、證據ガ誠ニ薄弱デアル、ト申スノハ外
デハアリマセヌ、ドノ役所デモ其買入レタ
中ニハ不良品ガアッタカモ知レマセヌケレ
ドモ、皆之ヲ使用シ了ッタモノデ、灰ニナ
リ、煙ニナッテシマッタ後デアリマスカラ、
證據ト云フモノガナイ、ソレカラ役所ノ當
局者、檢査役トカ、或ハ買入レタ買入ツ當
局者トカ云フ者ヲ呼ンデ之ヲ調ベテ見マス
ルト云フト、サウ云フ不良品ガアッタト云フ
コトヲ證言イタシマスレバ、其人達ノ職務
上ノ過失ニナリマスルカラ、何所マデモ其
役所ノ役人ヲ調ベテ見テモ、サウ云フコト
ハ存ジマセヌ、知リマセヌ、是ハ斯ウ申ス
ノガ當然デアル、サウスルト云フト、證據
ガ無クナッテシマッテ仕方ガナイカラシテ、
數年來ノ帳簿ヲ調ベヤウト云フコトニナッ
テ、全部澤山ノ帳簿ヲ持ッテ來テ調ベルコト
ニナリマシタガ、結局殆ド六箇月バカリ勾
留サレテ居リマシタ、斯ウ云フ御話ヲ斯ウ
云フ席デ申シテハオカシイヤウデアリマス
ガ、其番頭ハ新婚〓々、七日目カ十日目ニ勾
留サレタト云フヤウナコトデ、非常ナ苦痛
ヲ嘗メタノデアリマス、サウシテ其間ニ何
囘調ベラレタカト云フト、三囘調ベラレタ、
サウ云フ無駄ナコトデ勾留シテ置カヌデモ
宜シウゴザイマセウカラ、保釋ヲシテ貰ッタ
ラドウカ、證據ヲ隱ス方法モナシ、又決シ
テ逃亡スルヤウナ虞モナイ、私共保證シマ
スカラ保釋シテ貰ッテハドウカト申シマシ
テモ、ナカ〓〓保釋サレズニ六箇月以上モ
勾留サレテ居ッタノデアリマス、今デハ出テ
來マシタガ、是ハ二年バカリ前ノ事件デア
リマスガ、今以テ豫審ハ終結シナイ、斯ウ
云フヤウナコトガ不起訴ニデモナリ、無罪
ニデモナリマシタ時ニ、其間ノ長イ補償ヲ
請求サレマシタナラバ誠ニ國家トシテ迷惑
スルノデアリマス、サウ云フヤウナコトハ
實例ハ······私ハ唯、一ツヲ申上ゲマシタケ
レドモ、全國ニ亙リマシテハ隨分多數斯ウ
云フ例ガアルデアラウト推測イタシマス、
此法律ヲ適用スル上ニ付テ私ノ將來心配ナ
コトデアルカラ御參考マデニ申上ゲテ置キ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=7
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008・渡邊千冬
○國務大臣(子爵渡邊千冬君) 私ガ就任イ
タシマシタ當座、關サンノ御關係ニナッテ居
リマス東京辯護士會デアルト記憶シマス
ガ、判事、檢事ノ數ヲ是非增員シテ貰ヒタ
イト云フヤウナ御希望モ承ハッテ居リマシ
テ、私モ其必要ナルコトハ十分諒承イタシ
テ居ルノミナラズ、有ラユル機會ニ少ナク
テモ何人宛デモ增員イタシタイト云フコト
ハ終始努メテ居ルノデアリマスケレドモ、
如何セム丁度只今御承知ノ通リノ財政ノ狀
況デアリマシテ、ドウモ思フヤウニ增員等
ガ出來ナイノデアリマス、從ッテ私ハ全體
ノ數カラ申セバ、「パーセンテージ」ノ上カラ
言ヘバ、サホド多クハナイト思ヒマスケレ
ドモ、只今關サンノ御話ノアリマシタヤウ
ナコトハ、私ハ其事實ヲ決シテ否定イタス
モノデハナイノデアリマシテ、直接ニ法律
事務ニ從事シテ居ラレル方ハ折〓サウ云フ
コトヲ御經驗ニナルダラウトハ思ヒマス、
是等ノ點モ承ハッテ置キマシテ、今後ハ出來
ルダケノ努力ヲ致シタイト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=8
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009・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) 外ニ御質問
ハゴザイマセヌデセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=9
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010・鵜澤總明
○鵜澤總明君 私ハ此法律案ノ關係ニ於キ
マシテ、提案ニナリマシタ此沿革ヲ少シク
承ハッテ置キタイト思ヒマス、此參考書類ト
シテ御出シニナリマシタ書類ノ中ニ、衆議
院ニ昭和四年ニ宮古啓ニ郞君外九名ノ提出
ニ係ッテ居リマス、「刑ノ執行又ハ勾留ニ因
ル補償ニ關スル法律案」ソレカラ次ニ昭和
五年度ニ小俣政一君外二名ノ提出ニ係リマ
スル「國家賠償法」斯ウ云フモノガ出テ居リ
マシテ、更ニ今囘政府カラ衆議院ニ提案サ
レマシタ此只今ノ案、此案ノ關係ヲ承ハリ
タイト思ヒマスルノハ、衆議院ニ出マシタ
案ハ何レモ此國家損害賠償ノ趣旨ニ基イテ
居ルヤウデアリマス、政府ノ提案トイタシ
マシテハ先程司法大臣ノ御說明ニナリマ
シタヤウニ、損害賠償デハナイ一ツノ補償
卽チ此慰藉ニ當ルノデアリマス、斯ウ云フ
ノデアリマスガ、是ハ此損害賠償トスルコ
トト慰藉ノ一ツノ方法トスルコトニ於テ、
法案ノ性質ニ餘程關係ヲ持テ居ルト思フ
ノデアリマス、ソレデ從來ハ國家損害賠償
トシテ提案サレタル案ノアルノニ拘ラズ、之
ヲ此慰藉トセラルル案ヲ御採リニナリマシ
タ經過及其理由、ソレヲ一ツ承ハリタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=10
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011・渡邊千冬
○國務大臣(子爵渡邊千冬君) 私ハ御承知
ノ通リニ、司法省ニ這入リマス前ハ餘リ斯
ウ云フ方面ノコトニ付テ、深イ講究ヲ致シ
テ居ラナカッタノデアリマス、唯司法省ニ這
入リマシテカラ斯ウ云フヤウナ法案ヲ作ル
コトハ是非必要ダト思ヒマシテ、ソレカラ
省內ニ於テ講究ヲイタスコトニナッタノデ
アリマス、併ナガラ無論司法省ニ於キマシ
テハ從來只今御擧ゲニナリマシタヤウナ法
案ニ付テハ、十分ノ考慮ヲ拂クテ居ッタノデ
アリマス、私ハ唯ボンヤリ斯ウ云フヤウナ
補償又ハ賠償ノ制度ヲ採ルコトガ宜イト考
ヘマシテ、實ハ其後ニ此小俣君ノ案ダトカ、
宮古君ノ案ダトカ云フモノヲ見マシタヤウ
ナ譯デアリマス、司法省ニ於テ今度ノ案ヲ
決メマスノニハ、此處ニ居ラレル刑事局長、
其他諸外國ノ例モ參酌シ、又衆議院ニ提
出サレマシタ所ノ案ナドモ十分考慮ノ中ニ
入レテ、ソレカラ今度ノヤウナ案ガ出來テ
來タノデアルト云フコトハ、是ハ申ス迄モ
ナイコトデアルト思フノデアリマス、偖、
衆議院ニ出タ案ハ賠償ト云フコトニナッテ
居ルノニ、今度ハ何故補償ニシタカ、緣ノ
ナイ······ナイト申シマスカ、又ハ緣ノ遠イ
ト申シマスカ、補償ト云フコトニ致シタ其
精神ハドウ云フ所カラ出テ來タカト云フヤ
ウナ御質問デアッタト思ヒマス、是ハ其私ハ
先刻申シマシタ通リ、國家ガ個人ニ與ヘタ
ル損害ハ、過失ノ有無ハ暫ク之ヲ別ト致シ
マシテ、之ニ總テ賠償イタスト云フコトハ、
倫理的ニ絕對的ニ排斥スベキ理由ノアルモ
ノトモ思ハナイト云フコトヲ申上ゲマシタ
ノデス、唯併ナガラ不便ハ澤山アルト思フ
ノデス、拘留又ハ刑ノ執行ニ依テ受ケタ
損害ヲドウシテ計算スルカ、人ニ依ッテ其損
害ト云フモノハ非常ニ違フダラウト思ヒマ
ス、ソレカラ其損害ヲ正確ニ致スノニハ、
今日ノヤウナ簡單ナコトデハイケナイノデ
アリマシテ、假ニ補償ヲナスト云フ、今ノ
賠償ヲ致セバ、賠償ヲナスト云フ決定ニ對
シマシテモ、抗告ヲ許ストカ何トカ云フヤ
ウナ方法ヲ設ケナケレバ、損害ノ正確ナ額
ヲ算出スルト云フコトハ容易ニ出來ナイ、
サウ云フコトヲ致シマシテモ、中ミ容易ナ
コトデハナイ、サウスレバ此補償トカ、賠
償ト云フコトヲ行フ上ニ於テハ時日モ大變
遷延スルデアリマセウシ、各種ノコトニ不
便ガアル、殊ニ死刑ヲ受ケタ者ガ、若シソ
レガ寃罪デアッタト云フコトガ分ッタ場合ノ
如キハ、ドウシテ、其損害ヲ算出スルカ、
是ハ又非常ニ困難ナコトダラウト思ヒマ
ス、斯ウ云フヤウナ非常ナ不便ガアリマス
カラ寧ロ是ハ國家ガ慰藉スルト云フ方法デ
行ッタ方ガ簡單デハナイカ、慰藉スル方法ニ
モ色ミアルダラウト思ヒマス、唯包ミ金ヲ
ヤル、誰ニデモ百圓ナラ百圓、千圓ナラ千
圓ヤルト云フコトモ一ツノ方法デアリマ
セウ、併ナガラ如何ニモソレハドウモ一日
拘留サレテモ百圓半歲拘留サレテモ百圓ト
云フヤウナコトデハドウモ餘リニ釣合ガ取
レナイノデアリマスカラ、其間ニ多少損害
賠償デハナイノデスケレドモ、損害賠償ト
云フヤウナ精神ヲ加味シマシテ、一日ハ五
圓以内トシ、サウシテ拘留セラレタ日數ニ
應ジテ計算スルト云フコトニ致シマシタナ
ラバ損害ノ賠償ニハナラヌカモ知レマセ
ヌケレドモ、長ク拘留セラレテ居ッタ者ハ、
多クノ補償金ヲ受ケル、短イ者ハ僅カノ補
償金ヲ受ケルト云フ、ソコニ差別モ出來マ
シテ、其方ガ多少合理的デハナイカ、マア
大體ノ若シ沿革的ノコトヲ申セバ、私ニ關
スル限リノ沿革ハサウデアリマスガ、又刑
事局アタリノ專門的ノ沿革ハ又別ニアルカ
モ知レマセヌカラ、足リナイ所ハ政府委員
カラ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=11
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012・鵜澤總明
○鵜澤總明君 只今ノ御答ニ依リマシテ大
分ハッキリ致シマシタガ、尙ホ伺ヒタイト思
ヒマスノハ、慰藉ト申シマシテモ損害賠償
ノ趣旨ヲ根柢ニシテ居ル慰藉ト云フコトニ
ナリマスノト、又國家ノ恩惠ト云フ方カラ
見ル慰藉ト云フコトニ於テハ、法ノ考ヘ方
モ遠フト思フノデアリマス、ソレデ大體諸
外國ノ例モ參考書ニ示サレテ居ルノデアリ
マスガ、是ハ損害賠償主義デ御立テニナル
ノガ宜シイカ、或ハ國家ノ恩惠ト云フ方カ
ラ法案ヲ御立テニナル方ガ宜シイカト云フ
コトハ、立法ノ上ニ於テ大イニ考フベキ點
デアルト思ヒマス、ソレデ此案ニ付テモデ
ス、慰藉トハ申サレテ居リマスケレドモ、
或ル所ヲ讀ンデ見マスルト、矢張リ損害賠
償ノ頭デ出來テ居ルヤウナ所モ見エル、單
純ナル慰藉デアレバ、國家ノ恩惠デゴザイ
マセウカラ、必ズシモ本人ノ故意トカ重大
ナル過失デアルトカ云フヤウナ所ニ、重キ
ヲ置カヌデモ宜イヤウナ考モ致シマス、
ツノ裁判ニ於テ無罪或ハ免訴デアルト云フ
結果ヲ得レバ、其家族或ハ遺族ニ對シテハ
デス、慰藉ト云フ方カラ見レバ、國家ハ直
ニ慰藉ヲシテ宜カラウト思フノデアリマス、
ケレドモ損害賠償ト云フコトニナルト矢張
リ元〓過失ガアレバイカヌ、重大ナル過失
ガアレバ損害ノ請求ハ出來ナイ、或ハ故意
ガアレバ損害ノ請求ハ出來ナイト云フヤウ
ナ立前デアリマスカラ、玆ニ此區別ガ起ッテ
來ルト考ヘマス、ドチラガ宜シイカト云フ
コトニ付テハ、私ハ矢張リ國家恩惠ノ立前
カラ進ンデ行ク方ガ私ハ宜イト思ヒマスケ
レドモ、之ニ對シテ特ニ慰藉ノ趣旨ヲ取リ
マシタ、一ツ專門的ノ說明ヲ刑事局長カラ
承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=12
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013・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 鵜澤委員ノ特別
ノ御求メニ依リマシテ、私カラ此立案ノ經
過及趣旨ニ付キマシテ、私ノ見ル所ヲ申上
ゲテ置キタイト思ヒマス、只今鵜澤委員カ
ラ御述べニナリマシタヤウニ、本案ガ政府
カラ提出サレマスル以前、旣ニ議員カラ二
囘程案ガ提出セラレテ居リマス、其中デ宮
古啓三郞氏外九名ノ提出ニ係ル案ハアリン
執行又ハ拘留ニ因ル補償ニ關スル法律案」
ト云フコトニナッテ居ルノデアリマス、此案
ハ實ハ是ヨリ先、司法省刑事局ニ於テ立案
シマシタ草案ト殆ド一致シテ居ルノデアリ
やく、其儘デアッタカドウカ知リマセヌガ、
御出席ノ山岡委員ノ刑事局長時代ニ於テ始ッ
タカ、或ハ其以前カ知レマセヌガ、少クト
モ山岡氏ノ御在任中ニモ此案ハ刑事局ニハ
アッタト思ヒマス、ソレデ此宮古氏ノ提出ニ
ナリマシタル案ト、此度ノ政府案トヲ比べ
テ見マスルト云フト、幾分修正シテ進步サ
セタ積リデアリマス、ソレカラ五十八議會
ニ提出イタサレマシタ、小俣政一氏外二名
カラ指出サレマシタ「國家賠償法」ト云フノ
ガアリマス、是ハ全ク財產上ノ損害賠償ト云
フ主義ヲ執ッテ居ル、歐羅巴諸國ノ法律ト、
大體同ジ趣旨ノヤウデアリマスル、今囘ノ
政府案ハ財產上ノ損害ヲ賠償スルト云フコ
トヲ主タル目的トシテ居ラナイト云フ點ニ
於テ、此國家賠償法案ト違ッテ居ル所ノモノ
デアリマス、併シ其他ノ點ニ於キマシテハ
大シタ違ヒハナイヤワニ考ヘテ居リマス、
歐羅巴諸國デ今日實施シテ居リマスル法律
ヲ見マスト、獨逸ヤ墺地利デハ矢張リ刑ノ
執行、又ハ拘留ニ依ル賠償法ト云フヤウナ
モノガ一ツ、ソレカラ再審ニ於テ無罪ノ言
渡ヲ受ケタル者ニ對スル賠償法ト云フモノ
ガ一ツ、斯ウ云フ風ニ別々ニ二ツノ法律デ
以テ此補償ヲスルト云フ制度ヲ採ッテ居ル
ノガ獨逸墺地利二國デアリマス、ソレカラ
伊太利ト佛蘭西ハ刑事訴訟法中ニ再審無罪
ノ者ニ對シテ賠償ヲスルト云フ規定ダケヲ
設ケテ居リマシテ、通常手續ニ於ケル未決
勾留ヲ受ケテ無罪ノ言渡ヲ受ケタト云フ者
ニ對スル賠償ノ途ハ、此刑事訴訟法デ認メ
テ居リマセヌ、ソレカラ那威ト洪牙利ハ同
ジク刑事訴訟法ニ規定シテアリマスケレド
モ、是ハ矢張リ再審無罪モ、ソレカラ通常
手續ニ於ケル無罪ノ者ニ對シマシテモ賠償
ヲヤル、斯ウ云フコトニナッテ居ルノデアリ
やく、本案ハ伊太利カ佛蘭西ノ如クニ、再
審無罪ノ者ニ限ッテ賠償ヲスルト云フ制度
ヨリハ、本案ノ方ガマア寛大デアルト申シ
マスカ、進ンデ居ルト申シマセウカ、之二
反シテ兩方ニ對スル損害賠償ヲ與ヘルト云
フ獨墺、ソレカラ洪牙利、那威等ノ規定ニ
比ベマスルト云フト、幾分狹クナッテ居ルノ
デアリマス、大體カラ見テサウ云フ風ニ考
ヘルコトガ出來ルノデアリマス、マアソレ
等ノ差違ハアル譯デアリマスガ、偖其歐
羅巴諸國ニ於ケル法律ハ財產上ノ損害ヲ賠
償スルト云フ主義ハ執ッテ居リマスケレド
モ、然ラバ是ハ民法上ノ損害賠償ト同ジ主
義ニ出來テ居ルノカト申シマスレバ、其點
ハ決シテサウデハナイ、其點ハ違ッテ居ルノ
デアリマス、向フノ說明ヲ見マシテモ、成
程財產上ノ損害ヲ賠償スルト云フ實質ハ民
法ノ損害賠償ト同樣デアリマス、ケレドモ
民法デハ故意又ハ過失ニ依ッテ他人ニ損害
ヲ加ヘタル者ガ賠償責任ヲ有スルト云フコ
トニナルノデアリマス、サウ云フ不法行爲
ヲ前提トシテ居ルノデアリマス、之ニ反シ
テ此刑事賠償トカ、或ハ補償法ニ於キマシ
テハ、係官吏ノ故意又ハ過失ト云フコトヲ
要件トシテハ居ラナイ、獨逸アタリデハ大
分規定ガ進ンデ居リマシテ、故意過失ノ場
合ニ付テノ特別ノ規定ハアリマスケレドモ、
一般ノ規定ト致シマシテハ決シテ係官吏ノ
故意過失ト云フコトヲ前提トシテハ居ラナ
イ、此意味ニ於テ或ハ無過失賠償ノ一種デ
アルト云フコトモ考ヘラレテ居ルノデアリ
マス、其點ニ於キマシテハ本案モ同ジ趣意
デ出來テ居ルノデアリマス、卽チ係官吏ノ
故意過失ヲ要件トスルモノデハナイト云フ
點ニ於テ、同ジ趣意カラ成立ッテ居リマス、
唯歐羅巴諸國ノト違ヒマスル所ハ何處デア
ルカト申シマスルト、彼ハ財產上ノ損害賠
償ヲスルト云フコトデアリマス、コチラノ
方ハ財產上ノ損害賠償ヲ主タルモノトハ見
ナイ、斯ウ云フ點ガ違ッテ居リマス、ソ
コデ其實質カラ申シマシテ、財產上ノ
損害ガ、損害賠償制度ト云フモノガ常ニ
進步シタルモノデアルト云フコトモ
必ズシモ言ヘナイモノカモ知レヌト
思フテ居リマス、例ヘバ伊太利ノ刑事
訴訟法、是ハ千九百十三年ニ出來タ刑事訴
訟法デアリマスガ、此法律デハ第五百五
十一條、丁度御手許ニ差上ゲテアリマスル
參考資料ノ二十七頁ノ一番初メニアリマ
ス、之ヲ御覽ニナリマスト云フト、「再審
手續ニ於テ無罪ヲ言渡サレタル被〓人三年
間又ハ三年以上ノ自由刑ヲ受ケタルトキハ
其ノ經濟上ノ狀態ガ救助ヲ要スル場合ニ於
テ金錢上ノ賠償ヲ國ノ負擔ニ於テ要求スル
コトヲ得」ト、斯ウ云フ風ニエライ制限ガア
ル、三年未滿ダッタラバ賠償ヲシナイ、更ニ
三年以上デアルニシテモ、特ニ其者ノ經濟
狀態ガ救助ヲ要スルモノニ限ッテ賠償ヲシ
テヤルノダト斯ウ云フノデ、ノミナラズ更
ニ二項ニ列擧シテアリマスル制限ガ四ツア
リマス、殊ニ四號ノ「再審手續ニ於テ證據ノ
欠缺ニ因リ無罪ノ言渡ヲ受ケタルトキ」ハ
賠償シナイ斯ウ云フ、本案ニ於テハ斯ンナ
ニ嚴格ナコトヲ考ヘテ居リマセヌ、伊太利
刑事訴訟法モ財產上ノ補償ヲスルト云フノ
デアリマスケレドモ、實ハ是ハ殆ド形ダケ
デアッテ、實質ハ普通ノ場合ニハマア考ヘラ
レナイヤウナ規定ガアル、コンナ形式的ナ
規定ニ比ベテ見マスト云フト、此度ノ政
府案ト云フモノハ財產上ノ損害ノ見地カラ
見マシテモ、サウケチナモノデナイト云フ
コトガ考ヘラレルト思フノデアリマス、ソ
レカラ殊ニ本案ニ依リマスト云フト、一日
五圓以內ニ於テ日數ニ應ジテ賠償ヲスル、
補償ヲ與ヘルト云フコトニナッテ居リマス
ルガ、是ハ被〓人ノ地位境遇等ニ依リマシ
テハ、實ハ財產上ノ損害ヲ補償シテ尙ホ餘
リアル救濟方法デアルト考ヘラル、デス
カラ財產上ノ損害賠償ト云フ制度ヲ認メテ
居ル法制ニ比シテ、此法制ガサウ幼稚ナモ
ノデナイ、餘リ實質ノナイモノデアルト云
フ風ニ非難スルト云フコトハ當ラナイダラ
ウト私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、ソレカ
ラ此恩惠主義デアルカ、慰藉主義デアルカ
ト云フコトニ關スル點デアリマスルガ、先
刻申シマシタヤウニ斯ウ云フ刑事處分ニ關
聯シテ賠償トカ補償ヲナスト云フコトハ、
民法上ノ不法行爲ト致シマシテ民法ノ規定
ニ依ッテ當然ニ賠償義務ガアルノデハナイ、
ソレハ國家道德上サウ云フ義務ハ當然ニ認
ムベキデハナイカト云フコトヲ能ク言フ人
ガアリマス、國家道德上カラ考ヘタナラバ
或ハ然リト答ヘルコトガ出來ルデアリマセ
ウ、ケレドモサウ云フ議論ヲスル人デモ、今
日直ニ斯ウ云フ場合ニ民法ノ不法行爲ノ規定
ヲ適用シテ民法上ノ損害賠償ヲ要求スルコト
ガ出來ルト解釋ヲ下スコトガ出來ルカト反
問イタシマスト、イヤソレハ別問題ダ、法
律上ノ責任ハ此度ノ特別ノ法律ガ出來テ初
メテ生ズルノデアルガ、併ナガラサウ云フ
法律上ノ責任ヲ取ルト云フコトヲ、道德上
ノ責任トシテ國家ハ考ヘラレナケレバナラ
ナイノデハナイカト云フコトヲ能ク聽カサ
レタノデアリマスガ、道德上ハサウ云フ責
任ヲ感ズルデアラウ、總テノ場合ニ於テ
同一ニ論ズルコトハ出來マスマイケレドモ、
餘リ其個人ニ對スル苦痛ヲ與ヘルコトガ著
シイ、例ヘバ本案ニ認メタヤウナ場合ナド
ハソレヲ放任シテ知ラヌ顏ヲシテ居ルト云
フコトハ、國家道德上カラ言ウテ適當デナ
1、ソレデアルカラ此度サウ云フ場合ニ於
テ、或ル救濟ノ途ヲ開カウト云フ法律上ノ
責任ヲ取ルコトヲ此度提案シテ居ルノデア
ル、卽チ斯ノ如キ場合ニ付テハ國家道德上
ノ責任ヲ法律ニ現ハシテ、責任ヲ法律上取
ルト云フコトガ此度ノ法律案デアルノデア
ル、斯ウ云フ風ニ考ヘテ宜カラウト思フノ
デアリマス、サウ云フ見方ハ財產上ノ損害
賠償ト云フコトニ致シマシテモ、ソレカラ
所謂慰藉ト云フ制度ニ致シマシテモ同ジコ
トデアルト私ハ考ヘテ居リマス、歐羅巴諸
國ガ旣ニ早クカラ刑事損害賠償ノ制度ヲ法
律デ認メタガ、ソレハ矢張リ從來ハ國家道
德上ノ義務ガアッタニ過ギナイモノヲ、法律
ニ依ッテ新ニ責任ヲ負擔シタト云フニ過ギ
ナイノデアル、財產上ノ損害賠償ト云フ責
任ヲ負擔シタト云フニ過ギナイノデアル、
ソコデ從前ニ於テサウ云フ法律上ノ責任ガ
ナカッタモノヲ玆ニ新ニ法律ヲ拵ヘテ法律
上ノ責任ヲ取ルト云フコトハ、其責任ガ財
產上ノ損害賠償ヲ爲ス場合デアルト、或ハ
所謂慰藉ヲ爲ス場合デアルトヲ問ハズ、其
國家ノ行動タルヤ恩惠的行動デアルト云フ
コトハ少シモ私ハ妨ゲナイト思フノデアリ
マス、卽チ歐羅巴諸國ガアア云フ法律ヲ拵
ヘテ居ルコトハ、國家ガ恩惠的ニアノ政策
ヲ執ッタモノデアルト云フコトヲ考ヘマシ
テモ一向差支ナイ、ソレハ唯言葉ノ形容ダ
ラウト思フノデアリマス、言葉ノ形容カラ
ハ違フダラウト思ヒマス、道德上ノ責任ヲ
ソレハ果シタノデアッテ恩惠デハナイト斯
ウ云フ風ニ言フ人モ居リマセウ、サウ考ヘ
ルコトモ是モ間違ヒデハナイデアリマセ
ウ、併ナガラサウ云フ道德上ノ責任ヲ果ス
ト云フコト、是卽チ國家ノ恩惠行爲ナンダ
ト云フヤウニ考ヘルコトモ是ハ考ヘ方ハ自
由デアリマシテ、何モ差支ナイコトダト思
フノデアリマス、單リ此法案ニ付テノ問題
デナクシテ、財產上ノ損害ヲ賠償スルト云
フ、例ヘバ五十八議會ニ出タ小俣案ノヤウ
ナモノニシマシタ所デ、矢張リソレハ立法
ノ經路ヲ如何ニ批判シテ見ルカト云ヘバ、
人ニ依ッテ或ハソレハ恩惠的行動ヲ執ッタノ
ダト云フコトヲ言ウテモ宜イノダラウト思
フ、イヤ是ハ道德上ノ責任ヲ果シタノダト
言ッテモ宜シイデアリマセウ、其事ハ別ニ
私ハ此法律ノ規定ニ何等ノ影響ガ出テ來ナ
イモノダト思フノデアリマス、ソレカラ更
ニ慰藉デアルカドウカト云フ問題デアリマ
スガ、此案ニ付キマシテ衆議院ノ委員會以
來度ミ此損害賠償ト云フ言葉ト慰藉ト云フ
言葉トガ對照的ニ出テ來テ居リマス、實ハ
其單純ニ損害賠償トコチラデ申シテ居リマ
スルコトハ財產上ノ損害賠償ト云フ言葉ノ
マア略デアルト御考ヘヲ願ヒタイ、ソレカ
ラ慰藉ト申シテ居リマスルコトハ、是ハ通
俗ノ言葉デ說明シテ居ルノデアリマシテ、
何モ此法律案ニハ御承知ノ如ク慰藉ト云フ
言葉ハ一言モ出シテ居リマセヌ、補償ト云
フ言葉ガ出テ居ルダケデアリマス、ソレデ
其通俗ノ言葉デ慰藉ト申シテ居リマスル實
體ハ何カト申シマスレバ、詰リ起訴ニ依ッテ
不名譽ヲ與ヘタ、ソレカラ拘留又ハ刑ノ執
行ニ依ッテ生命身體財產等ニ損害ヲ加ヘル
ト云フコトガ有形ノ苦痛ヲ與ヘタ、此有形
無形ノ苦痛ニ對スル卽チ損害賠償ヲ與ヘ
ル、簡單ニ云ヘバ精神上ノ損害ヲ賠償スル、
斯ウ云フ實體ヲ指シテ慰藉ト名付ケテ說明
ヲシテ居ルノデアリマス、其事ハ私カラ申
上ゲルマデモナク、民法七百十條、七百十
一條ニ於キマシテハ、財產以外ノ損害ノ賠
償ト云フコトガ認メラレテ居ッテ、サウ云フ
損害ハ普通ノ言葉デ之ヲ慰藉ト稱ヘテ居
ル、サウシテサウ云フ損害賠償金ハ之ヲ慰
藉料ト稱ヘテ居ル、現ニ民事裁判所ノ事件
ナドニモ其慰藉ト云フ言葉ヲ事件記錄ニチ
ヤント書イテアリマス、サウ云フ意味デ慰
藉ト云フノデアリマス、デアリマスカラシ
テ、此法案デハ結局財產上ノ損害ヲ賠償ス
ルト云フコトヲ主眼トシテ居ナイデ、精神
上ノ損害ヲ賠償スルト云フコトガ主タル目
的デアル、併ナガラソレガ同時ニ先刻申シ
マシタヤウナ意味ニ於テ、場合ニ依ッテハ實
ハ財產上ノ損害ヲ償ッテ餘リアルト云フコ
トモアルノデアリマスカラシテ、卽チ同時
ニ財產上ノ損害賠償ト云フコトヲ加味シテ
居ル所ノ精神上ノ損害賠償卽チ慰藉デアル
ンダ、斯ウ云フ風ニ說明ヲシテ居ルノデア
リマス、其趣意カラ申シマシテ卽チ一種ノ
損害賠償デアルンダト云フコトハ差支ヘナ
イ、普通ノ言葉デ現ハセバ慰藉デアルガ、
之ヲ法理的ニ云ヘバ一種ノ損害賠償デア
ル、但シ民法上ノ損害賠償ト云フモノト同
一ノモノデハナイ、卽チ不法行爲ヲ原因ト
スルモノデナイト云フコト、財產上ノ損害
ヲ賠償スルト云フコトヲ以テ主タル目的ト
スルモノデナイト云フコト、此二點ハ精神
ハ違フケレドモ、矢張リ一種ノ損害賠償ト
云フ性質ヲ有ッテ居ルト云フコトダケハ差
支ヘナイ、サウシテサウ云フ賠償卽チ本案
ニ云フ所ノ補償、補償ト申シマシテモ、賠
償ト申シマシテモ、言葉ノ意味ニハ左程
違ッタコトハナイデアラウト思ヒマスケレ
ドモ、財產上ノ損害ヲ賠償スルコトヲ目的
トシ、主眼トシテ居ル所ノ民法上ノ損害賠
償、又不法行爲ヲ原因トスル所ノ民法上ノ
損害賠償ト云フ制度ト言葉ノ上デモ間違ヘ
ラレルノハイヤデアルカラ、ソレト大分違ッ
タ所モアルカラ、賠償ト云フ言葉ヲ使ハナ
イデ、補償ト云フ言葉ヲ使ハウ、斯ウ云フ
建前デアリマス、兎ニ角其補償ヲ國家ガナ
スト云フコトニ法律ガ決メマシタ以上ハ、
ソコニ國家ノ補償責任、一種ノ賠償責任ガ
成立スル、ソレカラ之ヲ受ケル方デハ此法
律ニ基イテ自ラ請求ノ權利ヲ發生スル、サ
ウ云フ法律關係ハ此法案ガ法律トナリマス
レイ、新ニ發生スベキハ當然デアル、其關
係ハ最初衆議院ニ提出サレマシタ政府案卽
チ第一條ニ「補償ヲ給與ス」ト云フ言葉ガ使
ハレテ居リマシテモ、ソレカラ衆議院デ修
正ニナリマシテ、政府デ贊成イタシマシタ
ヤウナ言葉遣ヒデ、「補償ヲ爲ス」、給與ト
云フ言葉ヲ除イテ「補償ヲ爲ス」ト云フ言葉
ヲ使ヒマシテモ、法律上ノ性質ニ於テハ、
何等異ナル所ハナイ、サウ云フ意味デ其言
葉ノ修正ニハ政府ハ贊成ヲシタ、斯ウ云フ
コトデアリマシテ、大體以上ノ說明ニ依ッテ
此立案經過ト趣旨ヲ御了解下サッタデアラ
ウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=13
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014・鵜澤總明
○鵜澤總明君 只今ノ御說明ニ依リマスル
ト、完全ナ民事法上ノ財產損害賠償ト云フ
コトデハナイ、併ナガラ民法ノ財產上ノ損
害賠償ハ、民法ニ於テ慰藉ノ途ガアルノデ
アルカラ、損害賠償ト云フ趣旨ガ含マレテ
居ルト云フヤウニ見テモ差支ナイト云フヤ
ウナ御考ノヤウデアリマス、ソコデ私ハ更
ニ御尋ヲ致シタイト思ヒマスルノハ、民法
規定ノ損害賠償ヲ求メラレルモノノ行爲デ
アルトカ、或ハ重大ナル過失デアルトカ云
フヤウナ狀況ヲ基本トセズシテ、其原因ヲ
基本トセズシテ、別ニ國家ガ此補償ヲ給ス
ル、補償ヲ給スルト云フコトニ付テハ、詰
リ國家ガ、或ル國家ノ個人ニ對シマシテ刑
事上ノ手續ヲ執ルベキ理由ガアッタ爲ニ、刑
事上ノ手續ヲ執シタ、所ガ段々審問ヲ進メテ
行ク結果ト致シマシテ、或ハ無罪ダトカ、
或ハ又再審、非常上告等ノ手續等ニ於テ無
罪デアル、或ハ豫審ニ於テ免訴ニナッタ、卽
チ其結果カラ見マスルト、初メ國家ガ刑事
手續ヲ執ル事柄ガ適正デナカッタト云フコ
トガ證明サレルコトニナル、適正デナカッタ
ト云フコトガ證明サレルコトニナレバ、其
個人ト云フモノハ國家ノ他ノ臣民ニ比較
シテ、別ニ國家ノ爲ニ或ル程度ノ苦痛ナリ、
或ハ或ル程度ノ損害ヲ受ケタト云フコトニ
ナルカラシテ、其意味ニ於テ賠償スル、或
ハ補償スルト云フ新ナ途ヲ開クト云フコト
ガ、此立法ノ上ニ於テ必要ニナッテ來ル、丁
度民事ノ損害賠償ト、ソレカラ國家ノ行政
行爲等ニ依リマシテ、例ヘバ、土地收用ト
云フヤウナ行爲ニ依リマシテ、國家ノ或個
人ニ對スル特別ナル負擔ヲ命ズル爲メ、之
ニ對スル補償ヲナシ、或ハ賠償ヲナスト云
フヤウナ行政上ノ手續ガ一方ニアルノデア
リマスガ、ソレト同ジヤウナ、或ハマルデ
同ジデゴザイマセヌケレドモ、司法上ニ依
ル損害賠償ト行政法上ニ依ル損害賠償ト
云ッタヤウナ間ノ關係ヲ見マシテ、刑事上ニ
於テモ、其中間ヲ行クヤウナ一ツノ賠償制
度ヲ設ケテ行クト云フ事柄ガ國家ニ取ッテ
當然ノコトデアル、又正シイコトデアルト
云フヤウナ趣旨ノヤウニモ解セラレルノデ
アリマス、只今刑事局長ノ說明セラレマス
ル中ニ、政府ノ提案ノ條文ノ中ニハ、慰藉
ト云フ言葉ガナイコトハ御說ノ通リデアリ
マス、併ナガラ此法案ノ理由書ノ所ニ「時ニ
無辜ノ良民ニシテ起訴又ハ刑ノ執行ニ因リ
不測ノ不名譽ト著シキ苦痛トヲ被ムルモノ
無キニ非ザルヲ以テ國家ハ之ニ對シ相當ナ
ル慰藉ノ途ヲ講ズルノ必要アリ」、斯ウ云フ
言葉ヲ使ハレテ居ルノデアリマス、コンナ
ヤウナ意味ニモ考ヘラレマスルガ、卽チ司
法上ノ損害賠償デモナク、又行政法上ノ土
地收用ト云ッタヤウナ場合ノ、或ル特別ノ臣
民ニ對シテ特別ノ損害ヲ被ムラシムル爲メ
ノ賠償ト云フヤウナモノノ間ヲ行ッテ居ル
此刑事ノ一ツノ手續ヲ開ク爲ニ、其或ル特
別ノ個人ニ對シテ、他ノ一般國民ヨリモ餘
計ナ不名譽、餘計ナ苦痛ヲ被ムラシメタト
云フヤウナコトガアル時ニハ、國家トシテ
ハ相當ナリト云フ意味ニハ行カヌノデアル
カラ、之ニ對シテ慰藉ノ途ヲ開ク、是ガ卽
チ本法ノ補償ト云フコトニナリ得ルノデア
ル、斯樣ナ意味ニ見テ間違ヒデセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=14
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015・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 只今ノ御觀察、
大體ニ於テ御同感デアリマス、唯本案提出
ノ理由書ノ中ニ慰藉ノ途ヲ講ズルト云フ言
葉ガアリマスルガ、ソレハ立案ノ詰リ動機、
經過ヲ示シタノデアル、或ハ目的ヲ示シタ
ノデアルト云フテモ宜シイカモ知レマセヌ
ガ、併ナガラ其點ニ付キマシテハ、先刻モ申
上ゲマシタヤウニ、縱令本案ガ財產上ノ損
害ヲ賠償スルト云フ實質ヲ現ハシテ居リマ
シテモ、尙ホ其理由書ハ其儘ニ使シテ差支ナ
イ、財產上ノ損害賠償ヲスルニシテモ、ソ
レハ卽チ一ツノ慰藉ノ途ヲ講ズル所以デア
ル、サウ云フ意味ニ於テ理由書ハ出來テ居ル
ノデアリマスカラ、其點ハ左樣御承知ヲ願
ヒマス、ソレカラ尙ホソレニ關聯イタシマ
スルガ、此案デ認メテ居リマスルノハ、先
刻カラ申上ゲマスル通リ、民法上ノ損害賠
償デハナイ、民法上ノ損害賠償デアルナラ
バ民法ノ規定デ、特別ノ規定ヲ設ケナクテ
モ宜イ譯デアリマスケレドモ、當然アレニ
當ルモノデナイ、ソコデ是ハ所謂公法上ノ
賠償ノ一種トシテ特別ノ規定ヲ俟シテ初メ
テ賠償ガ出來ルモノデアルト斯ウ云フコト
ニナルノデアリマスガ、然ラバ賠償トカ補
償ト云フモノ、實質ヲドウスルカト云フト、
一ツハ財產上ノ損害ヲ賠償スルト云フ方法
ガアリ、一ツハ此案ミタイナヤウニ精神上
ノ損害ヲ賠償スルト云フ途モアルト斯ウ云
フ二通リニ考ヘルコトガ出來ル譯デアリマ
スケレドモ、今日ノ所デハ財產上ノ損害賠
償ト云フコトハ少シ財政上ノ關係カラ見
テモ何處マデソレガ行クモノデアルカ、結
果ガハッキリ致シマセヌカラ、不安デアル、
斯ウ云フ大體見當ノツクヤウナ規定ヲ設
ケテ、ソレニ依ッテ賠償スルト云ヒマスカ
補償ヲスルト云ヒマスカ、卽チ場合ニ依クテ
ハ財產上ノ損害ノ全部ヲ補償スルト云フ程
度ニハ至ラヌカラ、サウ法律ノ名稱ダケ賠
償法ナンゾト云ウテ大キナモノニ見セカケ
テ置イテ、實ハソンナ賠償全體ハ出來ナイ
ンダト云フ實質デハ面白クナイカラ、言葉
モ愼ンデ補償ト云フコトニシ、費用モハッキ
リトサセテ置クト斯ウ云フコトヲ是ハ考ヘ
テ居ルノデアリマシテ、唯其賠償若クハ補償
ノ實質ガ斯ノ如クニ限ラレテ居ルト云フ點
ガ民法上ノ損害賠償ト實質ガ違フダケデア
リマシテ、卽チ性質カラ云ヘバ民法ノ七百
十條アタリノ損害賠償ト云フモノトハ別ニ
性質ハ違ハナイノデアリマス、ダカラ中間
ト云フ言葉ハドウカ知レマセヌガ、兎ニ角
實質ハ民法上ノ損害賠償トハ違フ、所ガ此
公法上ノ損害賠償デアルガ、併ナガラ財產
上ノ損害ヲ全體補償シテ賠償シテヤルト云
フ程度マデニハ至ラヌ、其意味ニ於テハ中
間ト仰シヤレバ中間ト云フコトデ宜カラウ
ト思ヒマスガ、唯其一例ト致シマシテハ實
ハ公法上ノ賠償ノ一ツトシテ考フベキモノ
ハ、御手許ニ差上ゲテアリマス參考資料ノ
五十一頁ノ中ニ郵便法ノ規定ガアリマス、
此郵便法ノ規定ニ依リマシテ、郵便法三十
三條ニ損害ヲ賠償スルト云フ規定ガアル、
三十五條ニモソレニ關聯スル規定ガアリマ
ス、其外更ニ其參考資料ノ五十四頁ニ郵便
規則ト云フノガアリマシテ、其五十六頁ニ
第八十九條「郵便法第三十三條ニ依ル郵便
物損害賠償ノ金額ハ左ノ割合ニ依ル」「書留
通常郵便物亡失ノトキハ一箇ニ付金十圓」
ト斯ウ云フコトニ限ッテシマウテ、ソレカラ
其以下ニモ此規則デ以テキチント決メテア
ル、是モ矢張リ損害賠償ト云フ言葉ヲ使フ
コトハ差支ナイモノダト思フノデアリマ
ス、此例ニ依リマシテモ是ハ中間ト仰シヤ
レバ賠償額ガ全部ヲ塡補スルニ足ラヌト云
フ意味ニ於テ中間ノモノダト云フコトニナ
リマセウケレドモ、何カエタイノ分ラヌ鵺
ミタイナモノデ、性質上サウ云フモノデア
ルト云フコトハ考ヘル必要ハナカラウカト
思テ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=15
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016・鵜澤總明
○鵜澤總明君 私ガ中間ト申シマスノハ唯
一方ニ於テ此行政法上ノ賠償ガアリ、一方
ニ於テ民事法上ノ賠償ガアリ、其間ニ又新
タナル刑事補償法ガ起ルト云フダケノ趣旨
デ、ソレデ尙ホ此大體ノコトトシテ承ッテ置
キタイト思ヒマスノハ、本法ノ四條ノ第二
項ヲ削ルノト、此ナリニ存シテ置クトニ依
リマシテ、本案ヲ實行スル場合ニ於キマシ
テ、國家ノ支出スル金額ノ上ニ餘程ノ相違
ガ起ルヤウナ御見込デアリマセウカ、或
ソレニ對スル御見込ハドンナモノデスカ、
先ヅドノ位ノ金額ヲ一年ニ豫算ニ見積ラレ
テ居ッテ、サウシテ置カレル御考デアリマセ
ウ、大體トシテチヨット承ッテ置キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=16
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017・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 此法律ノ施行ニ
付テノ大體ノ豫算ヲ立テマスルノニ、過去
十年バカリノ實際ノ統計ヲ標準トシタノデ
アリマス、本案デハ、詰リ公判デ無罪ノ言
渡ヲシタ場合、及ビ豫審ニ於テ恰モ公判無
罪ト同ジ理由ニ依テ免訴ヲ言渡ス場合、此
二ツダケニ限ッテアリマス、先刻モ申上ゲマ
シタ通リ、外國ノ立法例デハ、御手許ニ差
上ゲテアリマスル通リ、無罪ニナッテモ證據
不十分ノ無罪ハ賠償ヲヤラヌト云フ規定モ
アリマスガ、本案デハソンナニマデ嚴格ニ
シテ居リマセヌ、證據不十分デモ無罪ニナッ
タラ是ハマア賠償シテ宜カラウト云フコト
ニシテアルノデスガ、サウ云フ意味デ此法
案ノ適用ノアルベキ場合ヲ大體調ベマシ
テ、何デモ十年間デ六千何百件ト云フ、何
百人ト云フモノガ出マシテ、ソレヲマア一
年ニ平均イタシマスルト、六百四十一人ト
カ云フモノガ出タヤウデアリマシタ、ソレ
ガ此通常手續ニ於テ起訴ハサレタガ無罪免
訴ニナッタト云フモノデアリマス、ソレカラ
再審無罪ハ極メテ少イノデアリマシテ、十
年平均デ一年間一人九分位シカナイノデア
リマス、四人足ラズデアリマス、サウ云フ
モノモ見マシタ、ソレカラ矢張リ同ジク斯
ウ云フ無罪免訴ニナッタ事件ヲ標準トシテ
計算シタノデアリマス、總テノモノヲ標準
ニシタナラバ又違ヒマセウガ、此法案ニ當
ルヤウナ標準ニ依ッテ無罪免訴ニナッタモノ
ヲズット調ベテ見マシタラ、平均未決勾留ガ
三十七日アルノデアリマス、ソレハ先刻カ
ラ色ミ大變長イ未決勾留ガアルト云フ御話
ガアリマシタガ、サウ云フ例モアルニハア
リマスケレドモ、此十年間ニ於ケル事件デ
此法律ノ適用ノアルモノト考ヘラレルモノ
ハ先ヅソンナコトニナリマス、其外ニ强制
處分、御本知ノ强制處分デアリマス、强制
處分ヲシテモ、起訴ガナケレバ此法律ノ適
用ハナイノデアリマスガ、起訴ガアッテサウ
シテ無罪ニナッタトカ免訴ニナッタ場合デア
リマスト、先キノ强制處分マデ補償ヲ與ヘ
ルト云フコトノ本案ハ建前ニナッテ居リマ
ス、其勾留日數等ヲ加ヘテ總テノ拘束······勾
引狀執行後ノ拘東日數ト云フモノヲ勘定シ
マシテ、一年ニ七万二千圓餘ニナル、サウ
云フ豫算ノ大體ノ見當デアリマス、無論御
承知ノ通リ是ハ補充費途デアリマスカラ、
增シタ場合ニハ矢張リ豫算ガ增サレルコトハ
無論デアリマスケレドモ、大體ノ見當ハサ
ウ云フコトニナッテ居リマス、サウ云フ風ニ
見積リマスルニ付キマシテ、此第四條ガ大
體矢張リ今ノ計算ヲスルニ付テ參酌サレテ
居リマス、卽チ只今ノ七万二千圓餘ト云フ
モノハ三十五「パーセント」位ハ此四條ノ
適用ヲ受ケルモノガアルダラウ、斯ウ云フ
積リデアリマス、卽チ補償ヲ與ヘザルモノ
ハ三十五「パーセント」位アルダラウ、第
項ノ第一號、第二號、ソレカラ第一項、第三
項等モ合セマシテデスネ、其位ハアルダ
ラウ、併シソレハ甚ダ的確ナ標準ノナイ大
體ノマア想像デ行ッテ居ルノデアリマシテ、
其處ハマア補充費途デアリマスカラ、其想
像ニ當ッテ居ナイト云フ時ニハ、豫算ノ方ニ
狂ヒガ生ジテ來ナケレバナラヌノデアリマ
スケレドモ、實ハサウ云フ位ノモノガ之ニ
當ルダラウト云フ考デ、ソンナコトデ其三
十五「パーセント」ダケ引クト云フノハオカ
シイヤウデアリマスケレドモ、實ハ獨逸ヤ
墺地利ノ法律ヲ御覽ニナリマスレバ、財產
上ノ損害ヲ賠償スルト云フ立派ナ規定ニ
ナッテ居リマスケレドモ、實際ドレ位此運用
ガアルカト云フコトヲ調ベテ見マスト、的
確ナコトハ申上ゲル譯ニハ行キマセヌケレ
ドモ、司法省カラ參リマス遺外法官等ガ向
フニ行シテ、大體ノ模樣ヲ聞イテ來テ居ル其
報告狀況ニ依リマスト、殆ド實例ガマアナ
イト云ウテモ宜イ位デ、ドノ位補償、賠償
ヲヤッテ居ルカト言フト、御話スルヤウナコ
トハナイノダト言フノダサウデアリマス、
サウ云フ狀況モアルノデアリマス、此案ハ
ソレヂヤ法律ハ拵ヘルケレドモ全ク補償ト
云フモノハナイノダト云フ考ハ持ノテ居リ
マセヌ、ソレハ必ズアルモノダト思ッテ居
リマスガ、サウ云フ實例等ニ徵シマシテモ
法律ガアルカラト云ノテ無罪ノ言渡、免訴ノ
言渡ノアル者ハ全部補償サレルト云フコト
モ考ヘラレナイ、兎ニ角第四條ト申シマス
ノハ本案ノ精神ガ係官ノ不法行爲ヲ原因ト
シテ補償ヲ與ヘルモノデハナクシテ、全ク
自己ノ過責ナクシテ不幸ナル寃罪ヲ蒙ッタ
ト云フ者ヲ、言葉ヲ形容シマスレバ慰藉ス
ル或ハ救濟スルト言ッテ宜シイカ、或ハサウ
云フ者ニ對シテ精神上ノ損害ヲ賠償シテヤ
ル、斯ウ云フノガ趣意デアッテ、本人ノ責任
ガアル場合ニサウ云フ賠償ヲヤラウト云フ
コトハ一體此立案ノ趣旨ニモ反スル、單リ
本案ノミナラズ御手許ニ差上ゲテアリマス
歐羅巴諸國ノ立法例ノ總テガ同ジ考デ出發
シテ居ル、ノミナラズ本案ハ故意カ重大ナ
ル過失ト云フコトヲ二項、三項デ言ウテ居
リマスガ、外國ノ例デアリマスト重大ナル
過失ト云フモノデナクトモ宜イ例ガ隨分ア
ル、ソレカラ更ニ五十八議會ニ提出サレマ
シタ小俣案ニ依リマシテモ本人ノ······小俣
案デハ第十二條デ矢張リ重大ナル過失ト云
フコトガアリマスガ、五十六議會ニ提出サ
レマシタ宮古案ノ第一條ヲ見マスト、被〓
人ノ責任ニ歸スベキ事由ニ因ルト云フコト
デ大變廣クナッテ居リマス、サウ云フ事由ニ
依ッテ刑ノ執行ヲ受ケルニ至ッタ者ハ此限ニ
在ラズ、賠償シナイト書イテアル、ソレニ
比ベマスト本案ノ重大ナ過失ト云フコトハ
大分制限シテアリマスカラ、餘程是ハ相當
ナ考ヲ以テ斯ウ云フ規定ヲシタノデ、無闇
ニ補償ヲヤルト云フベキモノデハナカラ
ウ、本人ノ責任ガアル場合ニ迄補償スルト
云フコトデハナイ、サレバト云ッテチヨット
シタ過失ガアルカラト云ッテ直ニ補償ノ途
ヲ遮ッテシマフト云フコトハ又酷ナ話デア
ルト云フコトデ、玆ニ重大ナルト云フ條件
ヲ附シタヤウナ次第デアリマスガ、先刻申
上ゲマシクヤウニ第一項カラ第四項迄三十
五「パーセント」位ハ之ニ當ルダラウト云フ
コトデ第二項、第三項ダケデドレダケソレ
ニ當ルダラウト云フ風ニ計算シテアリマセ
ヌガ、觀念ト致シマシテハ重大ナル過失ト
云フ制限ガ附イテ居ルノト、サウデナイ場
合、及ビ此二項三項ヲ全ク削ッテシマフノ
ト、是ガ此儘ニ存在シテ居ルト云フコトニ
依リマシテ相當ニソコニ三十五「パーセン
ト」ト云フモノノ動キハ出テ來ルダラウト
思ッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=17
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018・渡邊千冬
○國務大臣(子爵渡邊千冬君) チヨット今
ノ刑事局長ノ說明ヲ補足致シテ置キタイト
思ヒマス、今刑事局長ノ話ノ中ニ外國ニ於
テハ殆ド此賠償法ノ適用ガ少ナイト云フヤ
ウナ話ガアリマシタガ、ソレガ本人ノ故意、
又ハ重大ナル過失ニ因ル場合ガ賠償カラ除
カレルガ故ニ外國ニ於テ適用ガ少ナイト云
フ風ニ御取リ下サルト、サウデハナイヤウ
ニ私ハ聞イテ居リマス、ソレハ其本當ニ確
信ヲ有ッテ······自分ハ無罪ナリト云フ確信
ヲ有ッテ賠償ノ請求ヲスル勇氣ノアル者ガ
少ナイ、皆何カ惡イ······良心······ソレヲ請
求シテ再ビ調ベラレルト云フト折角無罪ニ
ナッタノニ、又犯罪ガ顯レハシナイカト云フ
ヤウナ虞ガアリマスカラ、此賠償ノ途ハ開
カレテ居ノテモ請求ヲシナイト云フ例ガ多
イト云フコトヲ聞イテ居ルノデアリマスカ
ラ、此故意又ハ重大ナル過失ト云フ斯ウ云
フ規定ガアル爲ニ賠償ガ行ハレナイ、サウ
云フコトバカリデモナイノデアリマスカ
ラ、ソコハ誤解ノナイヤウニ願ヒタイト思
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=18
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019・鵜澤總明
○鵜澤總明君 マダアリマスケレドモ丁度
十二時ニナルヤウデアリマスカラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=19
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020・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) 關君何
カ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=20
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021・鵜澤總明
○鵜澤總明君 休憩後今日御開キニナリマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=21
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022・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) 今日ハ是迄
デ、次囘ニ御願ヒ致シタイ、ソレデハ今日
ハ是デ散會致シマス
午前十一時五十五分散會
出席者左ノ如シ
委員長侯爵中御門經恭君
副委員長鵜澤總明君
委員
子爵池田政時君
子爵秋月種英君
富谷鉎太郞君
男爵北大路實信君
山岡萬之助君
關直彥君
八木春樹君
國務大臣
司法大臣子爵渡邊千冬君
政府委員
司法政務次官川崎克君
司法參與官井本常作君
司法省刑事局長泉二新熊君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00119310228&spkNum=22
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