1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年三月十一日(水曜日)午前十時三十六分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=0
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001・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) ソレデハ是
カラ前囘ニ引續キマシテ開會ヲ致シマス
〔山岡萬之助君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=1
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002・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) 山岡君ニ申
上マスケレドモ、只今政府委員カラ開會劈頭
ニ何カ御話ガアルサウデアリマスカラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=2
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003・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 本日ハ司法大臣
ガ衆議院ノ豫算總會ニ出席ノ必要上此方ニ
出席ガ出來マセヌノデ、私カラ大體御說明
ナリ、質問ニ對スル答辯ヲスルコトニシマ
スカラ、左樣御了承ヲ願ヒマス、ソレカラ
前囘ニ鵜澤委員、山岡委員、秋月委員、御
三方カラ御要求ニナリマシタ表ハ御手許
ニ廻シテ置キマシタ、就中鵜澤委員ノ御要
求ニ付キマシテハ、或ハ此表ヤ御答ガ御質
問ノ趣旨ニ副ハナイ所ガアッタカモ知レマ
セヌガ、是ハ一寸能ク分ラナイ所モアリマ
シテ、大體マア御趣旨ニ副フダラウト思フ
程度デ、其必要ヲ充ス爲ニ表ヲ拵ヘテ差上
ゲテ置キマシタカラ、惡シカラズ御諒承ヲ
願ヒマス、ソレカラ殊ニ第六ニ御尋ネニナ
リマシタ死刑ガ無罪トナレル場合ノ實例カ
立法令ト云フヤウナ御要求ガアッタト思ヒ
マスケレドモ、其點ガ能ク御趣意ガハッキリ
シマセヌデ、一審デ死刑ニナッタケレドモ、
上訴審デ無罪ニナッタト云フ例ハ此第一表
デ御覽ヲ願フコトニシマシテ、六ノ所ニハ
一ノ表ニ依リテ了知アリタシト書イテアリ
マスガ、或ハ通常手續デ死刑ガ確定シ、或
ハ初審デ死刑ノ執行ヲ受ケタ後再審ニ於テ
無罪ニナッタト云フ實例ト云フコトデモ御
聽キニナル御趣意デアッタカモ知レマセヌ
デスガ、其例ハ此間取調ベタ所デハ一寸見
當ラナイノデアリマスカラ、左樣御承知ヲ
願ヒマス、ソレカラ第七ノ御問デ判事誤判
ノ場合之ニ對シテ責任ヲ負ヒタル實例ト云
フコトノ御質問ガアリマシタガ、其實例モ
書類ノ上デハ見付カリマセヌ、或ハズット古
イ時代ニ何カ〓科書事件トカ云フ事件デ旣
ニ法律ノ命令ノ規定ノ改正ガアッタニ拘ラ
ズ既ニ廢止ニナッタ法ノ規定ヲ適用シタト
カト云フコトカラ責任ヲ負ウテ大審院ノ判
事ガ辭職シタト云フヤウナ例ノアルコトヲ
聞イテ居リマスケレドモ、ソレハ併シ書類
ノ上デ其誤判ノ爲メ自ラ責任ヲ負ヒタルモ
ノデアルト云フコトハ兎ニ角書類デハ分ッ
テ居リマセヌノデ、此處デ御答ヲ申上ゲル
コトガ出來マセヌカラ、其積リデドウゾ答
辯ヲ御覽ヲ願ヒマス、後ハマア一應此表ヲ
御覽下サレバ大體分ルダラウト思ヒマス、
ソレカラ山岡議員ノ御質問ニ係ル調査モ大
抵表デ宜カラウト思ヒマス、唯山岡議員カ
ラノ御質問デハ此誤判ニ至リタル經過〓末
ト云フコトモ御聽キニナッタメデアリマス
ガ、ドウモ是ハ相當ニ日時ガアリマスト調
査モ出來マスノデ後日調査ヲシタイト思フ
テ居リマスケレドモ、今日ノ所ニ間ニ合ハ
セルコトハ書類ノ調査カラ、又其書類モ各
檢事局カラ之ヲ取寄セルト云フコトヤ色ミ
ナコトデ手間取ルコトデアリマシテ、手近
ノ東京ノ裁判所ニハ例ガナイノデアリマ
ス、先ヅ急ノ間ニ合ヒマセヌ、ドウカ惡シ
カラズ、御諒承ヲ願ヒタイ、ソレカラ秋月
委員ノ御質問ノ表ハ大體此表デ御覽下サレ
バ御趣意ハ分ラウト思ヒマス、ソレデ此表
ニ付テ申上ゲテ置クコトハ是ダケデアリマ
スガ、尙ホ此際一應私カラ特ニ說明ヲ申上
ゲテ置ク方ガ便利デアラウト思ハレル點ガ
アリマスノデ、補充シテ置キタイト思ヒマ
ス、前囘ニ御質問ニナリマシタコト多少疑
問トサレルコトハ第四條ノ第二項ト、ソレ
カラ第十九條衆議院デ新タニ加ヘマシタ此
第十九條ノ規定ヲモット擴張スベキニアラ
ズヤト云フ點ニ付テ大體御趣意ガ伺ハレマ
シタ、其點ニ付テ特ニ說明ヲ申上ゲテ置キ
タイノデアリマス、先ヅ第四條ノ第二項ハ
未決勾留ヲ受ケタ者ガ無罪免訴ノ言渡シヲ
受ケタ場合、之ニ對シテ勾留ニ因ル補償ヲ
與ヘザル事由ノ一ツトシテ掲ゲラレテ居ル
ノデアリマスガ、之ニ關係ノアリマスル諸
國ノ立法例ヲチヨット申上ゲテ置キタイノ
デアリマス、大體立法例ノ調査ノ出來テ居
リマスルノハ旣ニ御囘付申上ゲテ置キマシ
タ刑事補償法案參考資料ノ中ニゴザイマ
ス、其外ニハチヨット取調ガ出來テ居リマ
セヌ、此取調濟ノ立法例ニ因テ見マスルト
云フト、本案ト同ジヤウニ故意又ハ重大ナ
ル過失ニ因ル行爲ノアル場合ニ付テ賠償ノ
請求權ヲ認メナイト云フ立法例ハ隨分澤山
アルノデアリマシテ、殊ニ獨逸ノ千九百四
年ノ法律ノ第二條、ソレカラ墺太利ノ千九
百十八年ノ法律ノ第一條第二號、ソレカラ
諾威ノ刑事訴訟法ノ四百七十條、匈牙利ノ
刑事訴訟法ノ五百七十七條等デアリマス、
卽チ未決勾留ニ對シテ賠償ヲ與ヘル立法例
ト致シマシテハ一ツト雖モ本案ノ第二項ト
同ジ條件ヲ定メテ居ナイ立法例ハナイト斯
ウ申上ゲテ宜シイノデアリマス、佛蘭西ト
伊太利デハ再審無罪ノ賠償ヲ致シマスケレ
ドモ、通常手續ニ於ケル賠償ハ認メテ居リ
マセヌノデ、此通常手續ニ於ケル場合ノ勾
留ニ因ル補償ニ付テ斯ウ云フ第四條ノ第二
項ニ當ルヤウナ條件ハアリマセヌ、本條第
三項ハ再審無罪ノ場合ノ刑ノ執行ニ因ル補
償ニ付テノ是ハ制限デアリマスガ、無論伊
太利佛蘭西ニモ再審無罪ノ場合ニ付テハ斯
ウ云フ條件ガ矢張揭ゲテアリマス、ノミナ
ラズ外國ノ立法例デハ此法案デ認メテ居ナ
イヤウナ嚴格ナル條件ヲ定メテ居ルノデア
リマス、例ヘバ其一ツトシテ被告ニ對シテ
根據アル嫌疑ノ最早存セザルコトガ訴訟手
續上確定セラレルコトガ必要デアル、斯ウ
云フコトガ獨逸ノ只今引キマシタ法律ノ第
一節、ソレカラ訴追及勾留ヲ十分根據アリ
トシ其後效ナカリシニ非ザリシ嫌疑ノ存セ
ザルコト、是ガ補償ヲ與ヘルノ條件トシテ
揭ゲテアル、是ハ墺地利ノ只今引キマシタ、
法律ノ第一條第二項デアリマス、ソレカラ
犯罪ニ對シ提出セラレタル證據ヲ被告ガ論
駁スルコトガ補償ヲ與ヘルニ付ノ條件デア
ルト云フコトハ諾威ノ刑事訴訟法四百六十
九條ノ二項ニ揭ゲテアルノデアリマス、本
案ニ於キマシテハ斯ウ云フ苛酷ナル立證責
任ヲ被〓人ニ課セナイノデ、サウ云フ點ガ
是等ノ立法例ヨリモ寛大ニナッテ居ル、ソレ
カラモウ一ツ今度諸國ノ立法例デ隨分嚴重
ナ條件トシテ認メテ居リマスノハ公權剝奪
又ハ停止中ノ者又ハ監視中ノ者デアル、ソ
レカラ懲役ノ執行ヲ受ケタ後三年ヲ經過セ
ザル者、斯ウ云フ者ニハ賠償ヲ與ヘナイ、
是ハ獨逸ノ第二條ノ二項ニ揭ゲテアリマ
ス、ソレカラ墺太利ノ一條ノ四號ニモ被勾
留者ガ監視中ノ者デアレバ賠償ヲ與ヘナ
イ、斯ウ云フコトニナッテ居リマス、本法デ
ハ御承知ノヤウニ今日マデハ公權停止中ト
カ監視中トカ云フ附加刑ノ執行ヲ受ケルモ
ノハアリマセヌケレドモ、事實トシテハ種
々所謂公權ヲ停止セラレテ居ル者ノ他ノ法
律ノ關係上ニ於テハ存在シテ居ルノデアリ
マス、ケレドモ本案デハソンナコトヲ眼中
ニ置カナイ、ソレカラ又前科ガアルト云フ
事實ガアリマシテモ其爲ニ今度ノ無罪免訴
ニ付テノ補償ヲ與ヘルノ妨ゲトハシナ
イト云フヤウナ風ノ餘程寛大ノ此案デ
取扱"テ居ル、ソレデ第二項ヲ加ヘテ
アルト云フニ過ギナイノデアリマスカ
ラ、外國ノ立法例ト較ベテ見マシテモ斯
ウ云フ條文ノアルコトハ決シテ無理デ
ナイ、外國ノ如クヨリ以上ニ嚴格ナル條
件ヲ定メテ居ル法律ニ於テスラ尙ホ矢張リ
此第二項ニ該當スル規定ノ必要ガアルノデ
アリマスカラ、外國ノ如クニ嚴格ナル條伴
ヲ認メザル本案ニ付テ此二項ヲ附ケルト云
フコトハ決シテ不都合デハナカラウ、不當
デハナカラウト云フコトヲ考ヘテ居リマス、
是ガ立案ノ趣意デアリマスカラ、是ハ又補
充シテ申上ゲテ置キマスソレカラモウ一
ツ次ニハ第十九條ニ關スルコトデアリマス
ガ、是ハ或ハ斯ウ云フ補償決定ノ場合バカ
リデナク、補償決定ノナイ場合卽チ補償ハ
拘留カ刑ノ執行ノ場合ダケニ限ッテ居ルノ
デアリマスガ、從ッテ不勾留ノ儘デ無罪免訴
ノ言渡ヲ受ケタモノニ付テハ十九條ノ適用
ハナイト云フ規定ニナッテ居リマスノデ、サ
ウ云フ場合ニモ公〓ヲスル方法ヲ執ッタラ
宜イデハナイカト云フ御希望ヲ以テ御質問
ニナッタ方モアルト思フテ居リマスノデ、其
點ニ付テ特ニ申上ゲテ置クノデアリマス、
此立法例ト致シマシテハ特ニ斯ウ云フ無罪
免訴ノ言渡ヲ受ケタモノニ對シテ賠償トカ
補償ヲ與ヘルコトヲ定メテアル、賠償法ノ
中ニ、斯ウ云フ特別法ノ中ニ無罪免訴ノ裁
判ノ公〓ニ關スル一般規定ヲ設ケテ居ル立
法例ハ一ツモナイ、ソレハ若シサウ云フ
般ノ場合ニ關スル公〓ヲ必要トスルナラバ、
寧ロサウ云フ規定ハ刑事訴訟法ノ中ニ置ク
ガ宜カラウ、或ハ此頃ノ立法ノ趨勢ヲ伺ヒ
マスト云フト今ノヤウナ場合ハ寧ロ刑法ノ
中ニ入レルコトニシテ居ルノデアリマス、
ドウモ規定ノ性質ハ刑事訴訟法デアルベキ
ヤウニ思ハレルノデアリマスケレドモ、サ
ウ其形式ニ拘泥シナイデ、實際無罪トカ免
訴トカ云フヤウナ刑罰權ガ成立シテ居ナイ
ト云フ、實體ノ法律關係ヲ明ニスル爲ニハ
寧ロ刑法ト云フ實體法ノ中ニ入レテ置ク方
ガ宜イト云フ考デモアリマセウガ、兎ニ角
最近ノ立法例ハ刑法ノ中ニソレヲ入レヤウ
ト云フコトヲ試ミテ居ルノデアリマシテ、
例ヘバ千九百十八年ノ瑞西ノ刑法草案五十
八件、千九百二十二年ノ墺太利ノ刑法ノ改
正案ノ九十三條、千九百一一十七年ノ獨乙ノ刑
法改正案ノ五十一條ソレカラ我國デ只今著
手中デアリマスル······繼續中デアリマスル
刑法改正委員會ニ於キマシテモ矢張リ刑法
ノ中ニチヨットサウ云フ規定ヲ加ヘヤウト
云フ大體ノ方針ニナッテ居ルノデアリマス、
是ハ其委員會デ出來タ改正案デハアリマセ
ヌケレドモ、刑事局デ出來タ豫備草案ト云
フモノガアリマスガ、其豫備草案デハ第六
十二條第三項ト致シマシテ、被〓人罪トナ
ラサル爲又ハ犯罪ノ證明若ハ嫌疑ナキ爲被
告人ニ對シ無罪又ハ免訴ノ裁判ヲ爲ストキ
ハ裁判公示ノ宣告ヲ爲スコトヲ得」、斯ウ云
フ規定ヲ設ケヤウトシテ居ルノデアリマ
ス、デスカラ假リニ斯ウ云フ一般的ノ規定
ヲスルコトガ適當デアル、必要デアルト云
フナラバ、斯ウ云フ賠償法ノ中ニ之ヲ置カ
ヌデ、刑法トカ刑事訴訟法ノ中ニ將來適宜
ニ入レルト云フコトガ適當デアラウト思フ
ノデアリマス、ソレカラ更ニ第五十六議會
ニ宮古啓三郞氏外九名カラ提出セラレマシ
タ刑ノ執行又ハ勾留ニ因ル補償ニ關スル法
律案、ソレカラ前議會ニ小俣政一氏外二名
ヨリ提出セラレマシタ國家補償法案、是八
案ガ何レモ此參考資料ノ一番終ヒノ方ニ載ッ
テ居リマスガ、是ガモウ皆サウ云フ廣イ規
定ヲシヤウト云フコトデアリマセヌデ「賠
償ノ決定ハ其要旨ヲ官報ニ揭載シテ公〓ス
ベシ」ト云フ條文、卽チ此アトカラ這入リ
マシタ第十九條ト同ジ程度ノモノニシヤウ、
其資料ノ八十三頁ノ一番末行デアリマス、
第十六條トシテ書イテアリマス、サウ云フ
コトニナッテ居リマスルノミナラズ、尙ホ此
十九條ニ書イテアリマスルヤウナコトハ實
ハ規定ガアリマセヌデモ、今日官報ニ官廳
事項ト云フ欄ガアリマシテ、其欄内ニハ司
法トカ裁判トカ警察トカ云フヤウナ事項ガ
載ッテ居リマスルカラ、ソレニ揭載スルト云
フコトハ出來ルノデアリマスカラ、ソンナ
ヤウナコトデ實ハ司法省カラ提出シマシタ
原案ニハ此十九條スラ必要ガナカラウト云
フノデ削ッテ置イタノデアリマス、尙ホ補
充シテ申上ゲマスガ、再審無罪ノ場合ニ付
テハ既ニ現行ノ刑事訴訟法五百十五條ニ明
瞭ニ官報新聞ニ公〓スルト云フコトニナッ
テ居ル譯デアリマス、ソレ等ノ點カラシテ
此十九條スラモ實ハ必要ガナカラウト云フ
コトデ入レナカッタノデアリマスケレドモ、
衆議院デ達ッテノ御希望デアリマシテ、害ハ
ナイコトデアルカラト云フノデ之ニ贊成シ
タノデアリマスケレドモ、兎ニ角是レ以上
更ニ廣クスルト云フコトハ只今申上ゲマシ
タヤウナ外國ノ立法例カラ見マシテモ、又
此性質上カラ考ヘマシテ、卽チサウ云フ
般的ノ規定ヲ此特別ノ賠償法ノ中ニ入レル
ト云フコトハ適當デナイト云フ點カラ考ヘ
マシテモ、實際ノ必要カラ考ヘマシテモ、
此十九條ヲ更ニ擴張スルト云フ必要ハナカ
ラウト思フノデアリマス、此十九條ニ這入ッ
テ居マセヌデモ適宜サウ云フ官報ニ揭載ス
ルコトヲ適當ト認ムル場合ニハ或ハ檢事局
ニ於テ或ハ司法省カラ注意ヲシマシテ官報
ニ揭載セシムルト云フコトハ一向差支ノナ
イコトデアル、又新聞記事等ニ付キマシテ
モ特ニ新聞ニ書カセルコトハ······書クコト
ガ適當デアラウト思フヤウナ場合ニ付テハ
ソレヲコチラカラ促ガシマテ漏レノナイヤ
ウニスルト云フコトモ出來ル譯デアリマ
ス、サウ云フヤウナ事情デアリマスルカラ、
十九條モ是レ以上ニ讀張シナイデ、此原案
ノ通リ御贊成ヲマア政府委員トシテハ希望
ヲスルノデ、玆ニ併セテ其希望モ申上ゲテ
置キマス、マア私カラ補充シテ申上ゲテ置
キマスルコトハ是ダケデ、尙ホ御質問ガア
リマシタラ又申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=3
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004・山岡萬之助
○山岡萬之助君 此前御尋ヲ致シテ御答辯
ヲ得マシタコトニ依リマシテ、刑事補償ノ根
據トスル所ハ國家ニ於テ本案ニ示シタル如
キ無罪又ハ免訴ノアリマシタ場合ニ於テ、
國家ガ之ニ對シ物質上又ハ精神上ノ損害ニ
付テ、無關心デ居ルト云フコトハ出來ナイ、
卽チ之ニ付テ相當ノ考慮ヲシナケレバナラ
ナイ、斯ウ云フコトヨリ本法案ガ成立シテ
居ルト云フ大要ノ趣旨ヲ承知イタシマシタ、
ソコデ更ニ玆ニ御尋ヲ致シタイコトハ、此
補償ヲ爲シマスル事實上ノ根據ガ、結局補
償ヲ受ケマスル者ガ理由ナクシテ拘禁ヲ受
ケ、之ニ依ッテ肉體ノ上卽チ物質ノ上カラ、
或程度ノ損害ヲ受ケ、又精神上ニハ之ニ依ク
テ苦痛ヲ受ケタ、斯ウ云フ事實ヲ見テ之ニ
對シ法律ヲ制定シテ適當ナル補償ヲ爲ス
モノデアル斯樣ニ考ヘテ適當デアリマス
カ如何デアリマスカ、而シテ尙ホ衆議院ニ
於テ原案ノ補償ヲ給與スルト云フ此給與ト
云フ字ヲ削除イタシマシタル次第ハ、衆議
院ノ委員會ニ於キマシテ段々質問應答ノ結
果其質問應答ノ間ニ、恩惠ヲ以テ補償ヲ
爲スノデアル、斯ウ云フヤウナ事柄ガ大變
ニ論ゼラレテ居リマシタガ、決シテ恩惠ニ
非ズシテ、矢張リ相當ナル補償ヲ爲スベキ
根據ガアル、斯ウ云フ所カラ出デヽ此給與
ト云フ字ハ削除セラレタモノデアラウト考
ヘルノデアリマス、其點ニ付テモ政府ノ御
意見ノアル所ヲ承ッテ置キタイノデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=4
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005・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 御質問ノ前段ハ
全ク御見解ノ通リデアリマス、ソレカラ其
後段ノ方モ大體御趣意ノ通リト見テ宜シイ
ト思ヒマス、唯ダ最初ノ說明ノ中ニ恩惠的
立法ト申シマシタコトハ、此立法ヲスルニ
至ル經路ヲ說明シテ居ルノデアリマシテ、
其立法ノ結果カラ見マスルト云フト、補償
ヲ給與スト云フ文字ヲ使ッテアッテモ、法律
關係ハ全ク此法律ニ依ッテ政府ガ責任ヲ負
擔シ、ソレカラ補償ヲ得ル者ノ側ニハ請求
權ガ成立スルト云フコトニ歸著スルノデア
リマスカラ、法理上カラ言ヘバサウ云フコ
トニナルノデアリマスカラ、强ヒテ何トナ
シニ此立法ノ動機若クハ經過ヲ示ス所ノ恩
惠ト云フヤウナ感ジヲ人ニ持タセルヤウナ
文字ヲ殘シテ置ク必要ガナイ、法律關係ノ
性質ニ從シテ補償ヲ爲スト云フ、アッサリト
シタ規定デ十分デアル、斯ウ云フ趣意デアツ
タノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=5
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006・山岡萬之助
○山岡萬之助君 私ハモウ是デ宜シウゴザ
イマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=6
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007・鵜澤總明
○鵜澤總明君 前囘ニ當局ニ參考資料ノ御
提出ヲ御願ヒ申シテアッタノデスガ、更ニ三
ツ許リ材料ノ御取調ベヲ願ヒタイノデアリ
ママ、デ私ハ此前囘ノ中ニ第九ト致シマシ
テ、刑事事件ニ付テ或方面ニ寬大ニ、或方
面ニ苛酷ナルヤウナ裁判又ハ手續キガアリ
ハシマセヌカ、斯ウ云フコトヲ御調ベノ上
材料ノ提出ヲ願ノタノデアリマス、其趣旨ハ
裁判問題ニ此政黨ノ影響ノ及ブコトハ、甚
グ宜シクナイ、裁判ハ總ベテ此政黨政派ノ
影響カラ離レナケレバイカヌ、斯クノ如ク
シテ司法權ノ信用ヲ固ク維持イタシマスル
コトガ、國家公安ノ爲メニ必要デアル、斯
ウ云フ考ヘカラ御願ヒヲシタ次第デアリマ
ス、ソコデ尙ホ實例ト致シマシテ、是ハ事
件ノ名前ヲ申上ゲルコトハ如何デアリマス
ケレドモ、此場合ニ巳ムヲ得ナイト思ヒマ
スルノデ明カニ致シテ置キタイノデアリマ
スガ、一ツハ此木內重四郞氏ノ事件デアリマ
ス、是ハ其京都ノ豚箱事件トシテ可ナリ天
下ノ非難ノ的ニナッタノデアリマスルガ、發
端ハ多少此政治的ニ取扱ハレタノデハナイ
カト云フ疑ヒヲ持ッテ居ッタ事件デアリマ
ス、ソレカラ今一ツハ岩下〓周氏ノ事件デ
アリマス、是ハ大正十五年ノ十月ノ五日ニ、
發起人井上準之助、大橋新太郞、〓琢磨、
中島久萬吉、〓誠之助、斯ウ云フヤウナ方
方ガ連名ノ案內狀ヲ發シマシテ、岩下氏ノ
慰安ノ宴ヲ開イタト云フコトガゴザイマ
ス、其時分ニ岩下氏ガ私ヲ尋ネテ參リマ
シテ、是ハ有力ナル二三ノ方ニガデス、岩
下〓周ト政友會ハ關係ガアル點カラ、此岩
下ハ政友會ニ財政上ノ援助ヲシタノデアラ
ウト云フコトガ、疑惑ノ的トナッテ、其本件
ガ起シタノデアリマス、ソレデ大阪地方裁判
所ニ於テ、檢事ノ岩下ニ對スル尋問ハ始メ
カラ其政黨關係ニ重キヲ置イテ、君、隱シ
立ヲシナイデ一切ヲ打開ケタラドウダ、我
我ノ手ニ掛クタ以上幾ラ隱シテモ駄目ダト
云フ調子デアッタ、是ニ對シテ岩下ハ何ニモ
隱シ立ハ致サヌ、岩下ハ嘘ヲ言ハナイ男ダ、
若シ間違タタ檢事ハ辭職ナサルカト云フ
ヤウナコトヲ述べタ爲ニ、直チニ勾留サレ
タト云フコトヲ語ラレマシタ、ソコデ私ハ
此岩下事件ノ一審ノ判決ガ大正六年二月十
五日、大阪地方裁判所第一刑事部、裁判長
判事田中右橘、判事山內揆一、判事梶原彌
之助、檢事山本市三ト云フ方ノ立會デ裁判
ニナッテ居リマスガ、此事件ニ於テ起訴ガ幾
ツアル、豫審ノ免訴ガ幾ツアル、一審ノ公
判ノ有罪ガ何件、無罪ガ何件ト云フ御調査
ヲ願ヒタイノデアリマス、ソレカラ二審ハ
大正七年ノ六月二十七日カラ始マッテ、大正
七年ノ十二月十二日ニ判決言渡シニナッテ
居リマス、是ハ大阪控訴院第一刑事部、裁
判長ガ望月源治郞、判事中込宗造、判事安
藤芊、檢事ガ內藤每輔、此判決ニ於ケル無
罪ガ幾ツ、有罪ガ幾ツ、是ハ上告ニナリマ
シテ、大正八年十月二十四日ニ大審院ノ第
一刑事部ニ於キマシテ破棄サレテ名古屋控
訴院ニ參リ、名古屋控訴院ノ判決ガ大正十
年十一月二十五日デアル、是デ一審ノ大阪ノ
裁判所ハ一審デ懲役六年、一一審デ懲役六年、
名古屋デハ一審裁判ヲ取消シテ、懲役三年、
ソレヘ未決勾留百五十日通算デアリマスガ、
無罪ニナッタ事件ガ澤山アル、此件數ノ
中ニ······其調査ヲ司法ノ當局ニ御願シテ、
本件ノ起訴ガ何件、豫審免訴ガ何件、審
無罪ガ何件、有罪ガ何件、結局ノ無罪ガ何
件、有罪ガ何件ト云フ點ガ分レバ宜シイノ
デアリマス、ソレカラ木内重四郞氏ノ事件
ニ付キマシテハ、是ハ大正九年ノ十一月三
十日、京都地方裁判所ノ刑事部ニ於テ大體
ハ無罪ニナッテ居リマス、僅カニ罰金ガ簡單
ナ問題ニ付イテ居ノタノデアリマスガ、併ナ
ガラ大體ハ無罪、是モ起訴、豫審免訴、竝
ニ公判無罪ノ件數ノ御調査ヲ願ヒタイ、是
ハ政黨カラ申シマスルト、互ヒニ相對立ス
ル政黨關係ノ疑ヒヲ持チ、從シテ此事件中ノ
自白デアリマスルトカ、供述ト云フモノニ
付キマシテ問題ガ起ッテ來ルノデアリマス、
斯クノ如キ場合ノ自白等ガ、此補償法ノ第
四條ノ故意又ハ重大ナル過失ト云フヤウナ
モノニ當ルモノデアルカナイカト云フコト
ヲ······、ソレカラ又無罪ニナッテ有罪ノ部分
ノ殘ノテ居ル場合ニハ、補償ハ與ヘナイト云フ
コトガアルガ、斯カ云フ第四條ノ第四項デア
リマス、斯ウ云フヤウナ點ヲ極メル爲ニ必要
ノ資料ト考ヘルノデアリマス、是ハ政治的ノ
疑ヒヲ持ノタ事件デアリマス、ソレカラモウ
一ツハ選擧法違犯ノ事件デ、衆議院議員ノ
北海道選出議員ニ伊藤廣幾ト云フ人ガア
ル、此人ノ判決ガ大正九年十一月二十六日
札幌地方裁判所ノ刑事部裁判長ガ福間千市
判事佐藤三郞、小室董、斯ウ云フ人ノ立會
デ一審ニ無罪トナッタ、是ノ無罪ニ關スル豫
審調書ヲ信用スベカラザル理由ヲ說明ヲ致
シテ居ル判決デアリマスガ、是ガアリマシ
タラ此判決ヲ出シテ戴キタイ、之ニ對シテ
檢事ガ控訴ヲ致シマシタ、ソレカラ更ニ大
審院ニ繫屬ヲシテ本件ガ宮城控訴院ニ於テ
ハ大正十年「ヲ」ノ百七十七號ト云フ判決ヲ
以テ、同大正十一年六月二十三日ニ宮城控
訴院ノ刑事部判事福田一覺、白井〓左衞門
的場繁次郞、此方ミニ依リマシテ無罪ニナツ
タノデアリマス、是ガ其自白ノ經路等ヲ知ル
ニ極メテ大切ナル事件ト考ヘル、私ハ兼ネ
テ暇ガアリマシタナラバ、刑事問題ニ於ケ
ル人權ノ關係ニ付テノ實例ニ基テ著述イタ
シテ見タイト思ヒマス爲ニ、材料ヲ集メテ
居シタノデアリマス、偶〓此重大ナル補償法
ノ出ヅルニ當リマシテハ、諸外國ノ立法例
ヲ考ヘマスルノト、合シテ我國ニ於ケル刑
事裁判ノ實例ノ上ニ於テ、如何樣ナル刑事
事件ノ取扱振リガ事實上ニ於テ、行ハレテ
居ルカドウカ、從ッテ此第四條ノ如キ、本人ノ
行爲デアルトカ、或ハ重大ナル過失ト云フ
ヤウナ行爲ヲ問題トスル場合ニ於テハ、少
シク此具體的ノ問題ニ付テ、御審議ヲ願ウ
ト云フコトガ必要カト考ヘマシテ、其材料
ヲ御取調ノ上ニ御提出ヲ願ヒタイ、若シソ
レガ手間ガ掛ルヤウデアリ、又急ノ取調べ
ガ付カヌヤウデゴサイマスレバ、ソレハ私
ノ手許ニアル材料デ私ハ意見ヲ述べテモ差
支ヘナイ、決シテ議事ノ進行ヲ私ハ妨ゲル
考ヘハアリマセヌカラ、一應ソレダケノ御
願ヲ致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=7
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008・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 只今鵜澤委員カ
ラノ御質問或ハ御要求デアリマスガ、大變
只今ノ御要求ノ取調ヲシマスルニハ手間取
ルダラウト思ヒマス、何シロ稍、こ古イコト
デアリマスカラ······幸ニ御手許ニ材料ヲ御
持チデアリマシタナラバ、十分鵜澤委員ノ
御人格ニ對シテ信用ヲ置イテ居リマスカラ
シテ、其材料ニ依ッテ御說明ヲ御願ヒシタ
イ、尤モ是ハ何レモ十年以上ヲ經過シテ居
ルノデアリマシテ、其當時ノ裁判官ト今日
ノ裁判官トヲ見ルト、必ズシモ同ジヤウナ
取扱ヲスルモノト云フコトニハ御考下サラ
ヌ方ガ宜イノヂヤナイカト云フコトヲ、マ
アチョット御註文ヲ申上ゲテ置キマスルト、
更ニ此法案ガ法律ニナリマシタ時ノコトヲ
考ヘテ見マスト、此立法ノ目的ハ前カラ申
上ゲマス通リニ、之ニ依ッテ係リ判檢事ノ執
務上ノ取締ヲシヤウナドト云フ目的デ、之
ガ出來テ居ルモノデナイカト云フコトハ、
是ハモウ度々申上ゲテ居ル通リデアリマス
ケレドモ、或ハ反射的ノ作用トデモ申シマ
セウカ、自然ノ結果ト致シマシテ起訴トカ
ソレカラ判決ニ付キマシテモ、從來ヨリハ
一層愼重ナ態度ヲ取ルコトニナルニ至ルデ
アラウト云フコトハ勿論豫想シテ居リマス、
其邊ノコトモ豫メ御考ヲ願ッテ置キマス、ド
ウゾ御手元ノ材料デ御說明ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=8
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009・鵜澤總明
○鵜澤總明君 チヨット少シ長クナリマス
ノデ、モウ一囘位御開キ願ヘマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=9
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010・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) モウ一囘開
ク積リデゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=10
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011・鵜澤總明
○鵜澤總明君 ソレデハ甚ダ失禮デゴザイ
マスガ齒ヲ今療治シテ居リマスノデ、少シ
速記シ惡イト思ヒマスシ、申上ゲ惡イモノ
デアリマスカラ、今日ハ外ノ方ニ御質問ヲ
願フコトニシタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=11
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012・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) ソレデハ此
際御諮リヲ致シマスガ、內田重成君カラ委
員外議員トシテ質問シタイト云フ御申出ガ
アリマシタ、御異議ガゴザイマセヌケレバ
此際御質問ヲ願ヒマスガ、御異議ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=12
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013・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) ソレデハ內
田君··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=13
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014・内田重成
○委員外議員(內田重成君) 私ハ委員外議
員ト致シマシテ政府委員ニ御尋ヲ致シタイ
ト考ヘマシテ御願ヲ致シマシタ、御許ヲ得
マシテ仕合ニ存ジマス、私ノ御尋イタシマ
スル點ハ先ヅ三點ゴザイマスルガ、其第一
點ハ本法案ノ十九條ニ付キマシテ幸ヒ陸軍
ノ政府委員ガ御出席デゴザイマスルカラ、
陸軍ノ政府委員ニ御尋ヲ致シタナラバ宜カ
ラウト考ヘマス、十九條ニ依リマスルト、
軍法會議ニ於テ無罪ノ言渡アリタル場合ニ、
本法ヲ準用スルト云フコトニナッテ居リマ
ス、普通裁判所ニ於キマシテハ刑事訴訟法
三百十三條ノ規定ニ依ッテ、免訴ノ言渡ヲ受
ケタル場合ニ於キマシテモ補償ヲナスト云
フコトニ相成クテ居ル、成程軍法會議ニ於キ
マシテハ豫審ガ起訴前ノ手續トナッテ居ッテ、
豫審ノ免訴ト云フ規定ガナイ、之ニ相當ス
ルモノハ陸軍軍法會議法ノ三百三十一條ニ
依ル不起訴處分ト云フコトニ相成ッデ居ル
ノデアリマス、其差別カラシテ蓋シ刑事訴
訟法ノ免訴ノ言渡ヲ受ケタル場合ノ規定ガ
ナイモノト一應推察ヲ致シマスガ、御承知
ノ如ク軍法會議ニ於キマシテ豫審ヲ起訴前
ノ手續トハ致シマシタガ、其實全然刑事訴
訟法ノ如キ豫審ト軍法會議ニ於キマスル豫
審トハ、其性質ヲ同ジクシテ居リマシテ軍
法會議ノ豫審中ノ勾留處分モ無制限デアリ
やく、從ッテ軍法會議ノ豫審處分ニ依ッテ勾
留ヲ受ケマシタ者ガ、不起訴ノ處分ヲ受ケ
テ釋放セラレマシタ場合ハ、刑事訴訟法ニ
依ッテ免訴ノ言渡シヲ受ケテ釋放セラレタ
ル場合ト毫モ違ヒハナイノデアリマス、ソ
レデ軍法會議ニ於キマシテ不起訴處分ヲ致
シマス前ニハ、檢察官ガ豫審官ヨリ送付ヲ
受ケタ書類ニ意見書ヲ附シテ長官ニ提出ス
ル、長官ハ其意見書ニ基イテ命令ヲスルト
云フヤウニ相成ッテ居リマスルノデ、其意見
書ニ依ッテ其事件ノ性質內容ヲ知リ得ルノ
デアリマス、ソレデ此不訴訟處分ノ場合
ヲ······私ハ檢察官ノミノ場合ヲ除キマシテ、
假リニ豫審判事ガ豫審處分ヲ爲シタ後ニ、
不起訴處分ヲ爲シタ時ヲ對照シテ考ヘテ見
マスルノニ、此場合ヲ本法カラ除キマスル
ト云フコトハ、如何ニモ通常裁判所ノ豫審
免訴ノ場合ト比較ヲ致シマシテ、均衡ヲ得
ナイモノデアルト云フコトヲ考ヘマスノデ
アリマス、同ジク此法案ニ便乘ヲ致シテ居
リマシテ、サウシテ全ク場合モ同ジキ豫審
ヲ經タル者ノ不起訴處分ノ場合ヲ取除キマ
シテハ、却ッテ玆ニ軍法會議ノ處分及ビ裁判
ヲ受ケマシタ者ノ感ジノ上ニ於キマシテ
モ、大ナル考慮ヲ要スルノデハナイカト考
ヘマス、是ハ何レ御詮議ノアッタコトトハ考
ヘマスルガ、其點ハドウ云フ御詮議ニ相成ッ
タ結果、斯ノ如ク差別ヲ立テラレマシタカ、
又御詮議ノ結果ドウシテモ是ハ救治ノ出來
ナイ差別デアルカト云フコトヲ御說明ヲ願
ヒタイト考ヘマシテ、委員外ノ質問ヲ御願
ヒシタ次第デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=14
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015・伊東二郎丸
○政府委員(子爵伊藤二郞丸君) 御答イタ
シマス、本法案ハ再審又ハ非常上〓ニ於テ
無罪ノ言渡ヲ受ケタ者、又ハ未決勾留ヲ受ケ
タ者デ、公判ニ於テ無罪ノ言渡若クハ豫審
免訴ノ言渡ヲ受ケタ者ヲ補償スルト云フ趣
意デアリマス、卽チ起訴ガアリ、サウシテ
所謂終局裁判ニ依ッテ、無罪又ハ免訴ヲ言渡
サレタルコトヲ以テ條件ト致シテ居リマ
ス、然ルニ軍法會議ニ於キマシテハ、豫審ハ
御承知ノ通リ起訴前ノ手續デアリマシテ、
其目的トスル所ハ、控訴ヲ提起スルカ否ヤ
ト云フコトニアルノデアリマス、且ツ不起
訴處分ハ豫審免訴ト御承知ノ通リ違ッテ居
リマシテ、檢察官ノ爲ス所ノ一ツノ處分行
爲デアリマス、例ヘバ豫審免訴ノ如キ新ナ
事實又ハ證據ヲ發見シタ時ニアラザレバ、
再ビ豫審ニ附シ又ハ控訴ヲ提スルコトヲ得
ナイ效果ヲ認メラレルコトニナッテ居リマ
スケレドモ、是レ法律ガ不起訴處分ニ附與
シタ效力ニ過キマセズシテ、此故ヲ以テ裁
判ト同視スルコトヲ得ナイト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=15
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016・内田重成
○委員外議員(內田重成君) 私ハ强ヒテ御
意見ヲ反駁スル意志ハゴザイマセヌガ、斯
ノ如キ規定ニ相成ッテ豫審處分ヲ受ケタ者
ノ不起訴ノ場合ヲ本法カラ除クト云フコト
ニ相成リマシテハ、陸海軍ノ軍法會議ニ於
テ、本法ノ適用ヲ受ケマスルヤウナ場合ハ
殆ドナイト云フテ宜シイノヂヤナイカト思
フ、公判ニ於テ無罪トナリマシタル場合ハ
陸軍ニハ多少アルト云フコトデアリマスル
ガ、海軍ニ於キマシテハ極メテ寥々タルモ
ノデアル、多クハ事件ガ罪トナラズ、證據
不十分、又ハ其他ノ事由ニ依シテ公判ニ移ス
ベカラズト云フヤウナ考ハ、豫審處分ノ最
後ニ於キマシテ考ヘラルヽコトデ、豫審ノ
終リマシタ後ニ不起訴處分ト相成リマスル
場合ハ隨分多數アリマスノデ、從ッテ長イ間、
豫審勾留ヲ受ケマスル場合ハ隨分多イノデ
アリマス、其極メテ重要ナ場合、卽チ本法
ヲ適用シテ、本法ノ恩惠ト申シマスルカ、
本法ノ惠與ヲ受クルコトノ出來マスル場合
ヲ除イテ居ルト云フ結果ニナリマス、是ガ
單ニ此現在ノ軍法會議法ノ法制ト刑事訴訟
法ノ法制ノ建理ガ僅カニ違フト云フダケノ
理由ハ、此間ノ差別ハ說明ハ私ハ困難デハ
ナイカト考ヘル、陸軍ニ於キマシテ陸軍軍
法會議ノ全體ニ於キマシテ、最近二三年間
ノ間ニ公判無罪ノ數ガ幾ラアリマスルカ、
其點ニ付キマシテ、御調ベニナッテ居リマ
スル件數ノ御調ベガアリマスルナラバ、
應承リタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=16
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017・伊東二郎丸
○政府委員(子爵伊東二郞丸君) 大正十二
年一月乃至昭和四年十一一月ノ七ケ年間ニ於
キマシテ軍法會議ニ於キマシテ無罪ヲ言渡
サレタル者ノ總人員ハ、百四人デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=17
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018・内田重成
○委員外議員(內田重成君) 陸軍ノ政府委
員ニモウ一應伺ヒマスガ、其間ニ於キマシ
テ、豫審ヲ經タル事件デ不起訴ニナリマシ
タル事件ノ件數ハ幾ラゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=18
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019・伊東二郎丸
○政府委員(子爵伊東二郞丸君) 御答イタ
シマス、大正十二年一月乃至昭和四年十二
月ニ至ル七ケ年ノ間ニ不起訴ニ處セラレタ
ル者ノ總人員ハ三百四十一人発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=19
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020・内田重成
○委員外議員(內田重成君) 私ハ司法省ノ
政府委員ニ御尋イタシタイ、此本法ハ朝鮮、
臺灣重其他植民地ニハ是ハ何レ施行サル
モノト考ヘテ宜シイノデアリマスカ、ドウ
カ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=20
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021・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 何レ只今御質問
ノ趣旨ノ通リニ植民地ニモ施行サレル豫定
·デ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=21
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022・内田重成
○委員外議員(内田重成君) 其施行セラレ
マシタ曉ハ、軍法會議デ裁判ヲ受ケマシタ
者ト、ソレカラ通常裁判所ニ於テ裁判ヲ受
ケマシタ者トノ間ニ差別ハアリマセヌガ、
御承知ノ通リ軍法會議法ハ植民地ニモ適用
サレテ居リマス、從ッテ此軍法會議ニ於テ裁
判ヲ受ケマシタ者ハ、本法ノ施行ト同時ニ、
此本法ノ適用ヲ受ケル譯ニ相成ルヤウデア
リマスガ、其間ノ喰違ヒニ付キマシテハ、
ドウ云フ風ニ御考慮ニ相成クテ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=22
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023・泉二新熊
○〓府委員(泉二新熊君) 只今ノ豫定ハ豫
算ニモアリマスル通リニ、本法ハ來年ノ一月一
日カラ實施シタイ積リデアリマス、植民地ノ
關係ハ多分四月一日カラ施行セラレルヤウ
ナコトニナルデアラウカト、コヽハ私カラ
確定的ニ申上ゲル譯ニ行キマセヌガ、拓務
省ト相談イタシマシタ經路ヲ申上ゲマスル
ト云フト、大體サウ云フ考デ居ルノデアリ
そく、其間僅ニ數箇月······三箇月ノ隔タリ
ガアリマスケレドモ、實際ハ問題ニナリマ
スルノハ、內地ニ於テモ一箇月位ノモノデ
アラウト思フノデアリマス、七年ノ一月カ
ラ三月マデノ間ハ······ト申シマスルノハ、
申立期間ガ三十日アルトカ、ソレカラソレ
ニ對シテ決定スルマデニ、相當ナル期間ヲ
要スルトカ云フヤウナコトニナリマスカ
ラ、其間ハ實際上一箇月位ノ期間シカナイ
ダラウト思ッテ居リマス、喰違ヒガソレ程
生ジナカラウ、又軍法會議デアルトカ、植
民地ニ於テノハ、數モ大分少ナイ、殊ニ軍
法會議ニ於テハ、非常ニ少イノデアリマス
カラ、其間ニ實際上、サウタイシタ不便ハ
起ルマイカト、斯ウ考ヘテ居ルノデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=23
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024・内田重成
○委員外議員(內田重成君) 衆議院ニ於キ
マシテ修正ニナリマシタ第十九條ハ、政府
ニ於テ御同意ニ相成ッテ居ルヤウデアリマ
スガ、ソレニ付テ先囘ニモ質疑ガアリマシ
テ、本日聊カ其點ニ對シテノ御說明モ承リ
マシタ、本法ニ於キマシテ金錢補償ニ限ッ
テ居ラレ、名譽囘復ノ方法ニ付テハ原案ニ
於テ何等ノ現レノナイト云フコトニ付テ豫
テ疑ッテ居ッタノデアリマス、此刑事ノ裁判
ノ結果、裁判ト申シテハ言葉ガ不穩當デア
リマスガ、刑事手續ニ依ッテ被〓人タリシ者
ノ受ケマシタ苦痛ト云フモノハ、身體財產
ノ苦痛ノ外ニ名譽上ノ損害、名譽上ノ苦痛
ト云フモノガ、一番大デアルト考ヘルノデ
アリマス、殊ニ社會的ニ地位ヲ有シテ居リ
マスル者ノ受ケマスル苦痛ハ此名譽損害デ
アラウト思フ、ソレニ對シテ原案ハ何等ノ
規定ガナイ、無罪又ハ免訴ノ言渡シヲ受ケ
タル者ガ一日五圓以內ノ金錢補償ヲ受クル
ト云フコトダケ止マッテ居ルノデアリマス
ルガ、此點ニ付キマシテ私ハ法案ニ付テ今
少シク被疑者タリシ者ノ損害ノ囘復方法ヲ
廣メラレタ方ガ宜カッタデアラウト考ヘテ
居リマシタノデアリマス、此十九條ノ新設
ニ依リマシテ其點尙ホ一層ノ疑ヒヲ有スル
ノデアリマス、十九條ハ補償決定ヲ爲シタ
ル場合ニ、本人ノ申立ニ依ッテ無罪、免訴ノ
裁判ノ主文要旨等ヲ官報ニ揭載スルト云フ
コトニナッテ居リマスノハ、之ニ依ッテ本人
ノ名譽上ノ損害ヲ少シ囘復シテヤル方法ヲ
執ラウト云フ趣意カラ是ハ出タモノダラウ
ト考ヘルノデアリマス、サウ致シマスルト、
別ニ金錢補償ハ欲シナイ、金ハ要ラヌ、自
己ノ名譽ヲ何等カノ方法ニ依ッテ囘復シテ
貰ヒタイト云フ希望ノ者ニ對シマシテハ、
此十九條ノ恩惠ヲ受ケルコトハ出來ナイコ
トニナリマス、總テ金ト云フコトバカリニ
頭ヲ入レテ立法スルト云フコトハ、斯ウ云
フ問題ニ付キマシテハ私ハ考ヘベキコトヂ
ヤナイカト云フコトヲ思ッテ居ルノデアリ
マス、デ政府ニ於キマシテ、此原案ニ付テ
サウ云フ名譽囘復ノ方法ニ付キマシテ御考
究ニナッタコトト考ヘマスカラ其點ノ御考
ヲ一應承リタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=24
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025・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 只今內田議員ノ
御質問ハ御尤モノ御考デアルト思ヒマス、御
趣旨ハ至極御尤モニ考ヘルノデアリマスル
ガ、此法案ノ立案ノ趣意、殊ニ第十九條ヲ
原案ニ加ヘテ居ナカッタト云フ趣意ニ付テ
一應申上ゲテ置キマス、此金錢上ノ補償ヲ
スルト云フコトハ成ルホド金錢ヲ以テ補償
ヲスルノデハアリマスルケレドモ、國家ノ
機關ガ總テノ手續ヲ盡シマシテ、サウシテ
斯ウ云フ補償ヲヤルコトノ是ハ事件デアフ
タト云フコトガ決定セラレマスレバ金錢ハ
假令名義上ノモノデアリマシテモ、ソレホ
ド國家ガ大事ヲ取ッテ財力上ノ關係ニ於テ
マデモ補償ト云フ方法ヲ以テシテマデモ其
名譽ヲ雪イデヤラウト云フコトガ、之ニ依〃
テ決マル一ツノ方法デアルト言ヘルト思フ
ノデアリマス、損害賠償、民法ナドデ言フ
損害賠償ニ付キマシテモ金バカリガ目的デ
ナイカモ知レマセヌ、所謂「ノミナル、ダメ
ージ」ト云フモノノ賠償ヲ得レバソレデモ
滿足ヲスルト云フ場合ガアル、ソレハ卽チ
名譽ノ毀損ニ付テ其囘復ヲスル一ツソ方法
トシテ一般ニ認メラレテ居ルノデアル、斯
ウ云フ風ニ考ヘテ宜シイノデアラウト思フ
ノデアリマス、サウシテ此十九條ノヤウナ
規定ハ先刻稍、詳細ニ說明シタノデアリマ
スガ、實ハ性質ハ此補償法ニ入レルヨリモ、
刑事訴訟法的ノモノデアル、現今ノ趨勢ハ
刑事補償法ニ入レルト云フコトヨリハ刑法
ニ入レヤウト云フ一般的ノ規定ヲ置カウト
云フ大體ノ趨勢ニナッテ居ル、現ニ此我國ノ
刑法改正委員會デモ其方針ヲ採ルニ至ルデ
アラウト豫期スルコトガ適當デアル、又外
國ノ立法例デモ總テ此刑法ノ中ニ之ヲ入レ
ルト云フコトニナッテ居ル、サウシテ此特別
ノ補償法ト云フモノノ中ニ斯ウ云フ規定ヲ
入レテ居ルコトハマア殆ドナイト言ウテモ
宜シイコトデアラウト思ヒマス、サウ云フ
關係カラシテ原案ニ全ク入レテ居ナカッタ
ノデアリマス、併ナガラ補償ノ決定ヲ爲シ
タ場合ニ付テノ公〓ト云フコトダケデアレ
バ、此法案ノ中ニ入レルト云フコトモ差支
ナカラウト云フマア理窟トシテハサウ云フ
風ニ考ヘラレルノデ贊成シタノデアリマ
ス、ソレデ之ニ足リナイ分ハ矢張リ刑法改
正若クハ場合ニ依レバ刑事訴訟法ノ決定ト
云フコトヲ待ッテ入レテ宜カラウシ、又實際
ニ於テハ先刻申上ゲマシタヤウニ今日ノ官
報ノ官廳事項ノ欄內デハ裁判、警察トカト
云フ事項ガアリマシテ、其中ニ之ヲ加ヘル
ト云フコトハ何時デモ出來ルノデアリマ
ス、更ニ又實際上ノ關係カラ申シマスルト、
現在斯ウ云フ補償ニ付テノ何等ノ立法モナ
イト云フコトガ甚グ遺憾デアルカラ、此際
豫算等ノ狀況モ考ヘマシテ許サルル範圍內
ニ於テ兎ニ角最小限度デモ宜シイガ、先ヅ
此種類ノ立法ヲシテ置カウ、トコロガ例ヘ
バ新聞公〓ナドト云フコトニナリマスルト
云フト、隨分金モカカルコトデアルカラト
云フヤウナマア關係カラ新聞公〓ト云フモ
ノハ此中ニ入レル譯ニ贊成ガ出來ナイ、官
報ニシマシテモ是以上ノモノヲヤルト云フ
コトハ先刻申シマシタヤウニ他日ノ機會ヲ
待ツ外ナカラウ、斯ウ云フ考デアリマス、
尙只今御質問ノ中ニハ金ハ要ラヌガ公〓ヲ
シテ吳レト云フヤウナモノモアラウト云フ
ヤウナ御話デゴザイマシタケレドモ、公〓
ヲ致シマスルニモ果シテ公〓ヲスベキカド
ウカト云フコトハ矢張リ補償ヲ與ヘルヤ
ウナ必要ナ事件デアルカドウカト云フ取調
ヲシタ上デナケレバ唯ナンデモカデモ公〓
シテ吳レト言ッタナラバ直グ公〓ヲスルト
云フ趣意デハナイノデアリマスカラ、一旦
之ニ基イテサウシテ補償ヲスベキモノデア
ルカドウカト云フ決定ヲ受ケマシテ、サ
ウシテソレガ金ガ要ラヌケレバ斷ハルコト
ハ出來マセウ、其場合ニ其時ニ十九條ニ基
イテ公〓ヲシテ吳レト云フコトニナッテサ
ウシテ初メテ公〓ガ出來ル、斯ウ云フコト
ニナル積リデアリマス、補償ノ決定ノナイ
場合ノ公〓ト云フノハ先刻申シマシタヤウ
ニ、此法案デハ兎ニ角出來ナイ、斯ウ云フ
積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=25
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026・内田重成
○委員外議員(內田重成君) 極ク簡單デゴ
ザイマスカラマダ申上ゲテ宜シウゴザイマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=26
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027・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) 宜シウゴザ
イマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=27
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028・内田重成
○委員外議員(內田重成君) 私ガ只今ノ點
ヲ御尋イタシマシタノハ矢張リ軍隊ニ關係
ヲスル點ノ意味ヲ以チマシテ私ハ御尋イタ
シタノデアリマス、軍人ハ餘リ金ノコトヲ
申スノハ喜バヌ、從ッテ軍法會議ニ於キマシ
テモ豫審公判中勾留處分ヲ受ケテ、ソレデ
無罪ニナッタト云フヤウナ場合ニ於キマシ
テ假令一兵卒ト雖モ私ハ勾留ヲ受ケマシテ、
ソレニ付テ補償ヲシテ下サイ、金ヲ幾ラ下
ナイト云フヤウナコトハ餘リ希望ヲシナイ
ノデハナカラウカト思フ、此時ニ於キマシ
テ軍人ノ希望イタシマスルノハ、多ク名譽
上ノ囘復ヲ希望スルノデ、殊ニ此第四條ノ
規定ガアリマスルト、全ク本人ガ勾留ヲサ
レテ、起訴サレタト云フノハ本人ニ別段被
疑スベキ點ガナカッタト云フコトノ裁判上
ノ證明ヲ得ルナラ之ニ於キマシテ軍隊內ニ
於テノ自己ノ名譽ノ囘復ニナリマスノミナ
ラズ、自分ノ將來ニ對シマシテモ大ナル影
響ヲ受ケルノデアリマス、是ガ其儘ニナッテ
居リマスルト、是ハ軍法會議ニ於テ裁判ヲ受
ケテ斯ウ云フ缺點ガアル、斯ウ云フ非難ス
ベキ點ガアルト云フコトヲ裁判外ニ於キマ
シテ唯普通ノ認定ノ下ニ考ヘラレマスルコ
トハサウ云フ被疑者タリシ軍人ノ非常ニ迷
惑トシ苦痛トスル所デアリマス、サウ云フ
モノハ此第四條ノ如キ規定ガアリマスナラ
バ、尙更此ノ名譽囘復ノ方法ヲ此法案ノ御
蔭ニ依シテ、法律ノ御蔭ニ依ッテ公正ニ採ッテ
貰フト云フコトガ最モ望マシイ所デアルノ
デアリマス、ソレデ私ハ此法案ニ軍法會議
ニ於テ無罪ノ言渡ヲ受ケタル場合ガ便乘ス
ルモノト致シマスルナラバ、何等カ其間ニ
於キマシテモウ少シ軍人ニ爲メニナルヤウ
ナ規定ガ欲シイモノト考ヘマシテ此御尋ネ
ヲ致シタ譯デアリマス、ソレダケヲ私ハ申
上ゲマシテ別ニ質問デハゴザイマセヌ、別
段御答ヲ要求スル譯ヂヤゴザイマセヌ、終
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=28
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029・中御門經恭
○委員長(侯爵中御門經恭君) 只今花井君
カラ委員外ノ議員トシテ質問ノ御申出ガゴ
ザイマシタガ、此際御願ヒシタイト思ヒマ
スガ、御異議ガナケレバ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=29
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030・花井卓藏
○委員外議員(花井卓藏君) 私ハ質問ヲ致
シタイ點ガ少シアルノデスガ、時ガアリマ
セヌカラ只今ハ內田君ノ問ハレタ點デ俄カ
ニ御伺シテ置カナケレバナラヌ必要ヲ感ジ
マシタカラ一應御尋イタシマス、內田君ノ
質問ノ中ニ植民地ニモ之ヲ行フ意思デアル
カト云フ問ニ對シテ、孰レサウナルデアラ
ウト云フ御答ガアッタ、此法律ハ、此法案
ハ······此法律ハ只今御答ノ如ク植民地ニハ
及ブ趣旨デ御立案ニナッタンデスカ、如何デ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=30
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031・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 此法律ハ司法省
トシマシテハ此內地ソレカラ裁判所構成法
ノ適用ヲ受ケテ居ル樺太、是ダケヲ考ヘテ
居ルノデアリマシテ、後、植民地ニ之ヲ適
用スルヤウニ勅令デ此法律ノ施行ヲ指定セ
ラレルカドウカト云フコトハ、實ハ拓務省
ノ主管事項デアリマスルカラ御任セスル積
リデ司法省トシテハ立案シタ次第デアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=31
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032・花井卓藏
○委員外議員(花井卓藏君) 植民地ニ在ル
者ニシテ本法ノ第一條ニ該當スルモノニ對
シテハ適用シナイ趣旨ニ於テ立案セラレタ
モノト承知シテ宜シイノデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=32
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033・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) チヨット御質問
ヲモウ一度伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=33
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034・花井卓藏
○委員外議員(花井卓藏君) 植民地ニ在ル
日本臣民ニシテ第一條ニ該當セルモノニ對
シテハ適用セザル趣旨ニテ立案シタルモノ
ナリヤト云フ問デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=34
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035・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 矢張リ此勅令ニ
依ッテ此法律ノ施行ヲスルコトヲ指定イタ
シマスレバ適用ガ出來ル積リデ居リマス、
併シ若シ此條文ノ文句ニ依ッテ適用ノ出來
ナイヤウナモノガアリマシタナラバ、何レ
何カソレニ關シテ勅令ニ此法律ヲ適用スル
ニ妨ゲノナイヤウナコトヲ規定スレバ宜イ
ダラウト斯ウ云フ積リデアッタノデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=35
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036・花井卓藏
○委員外議員(花井卓藏君) 植民地ト云フ
中ニ租借地ヲ含ンデ居ルト云フ御解釋デア
ルンデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=36
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037・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) マア私ノ積リハ
ソレデアルノデアリマス、尤モ······ソレダ
ケヲ御答ヲ致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=37
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038・花井卓藏
○委員外議員(花井卓藏君) 租借地ガ含マ
レテ居ルト云フ解釋デアルト、此法案ハ少
シ書キ方ヲ變ヘナイト適用ガ出來マイト私
ハ思ヒマス、其所以ハ本案ニ揭ゲラレテア
ル刑法、刑事訴訟法ト云フモノガナイカラ、
此處ニ書イテアル刑法ト云フノハ明治四十
年法律四十五號刑法ヲ指サスモノデアリ、
刑事訴訟法ト云ヘバ大正十一年法律七十五
號刑事訴訟法ヲ指サスモノト思ヒマス、併
ナガラ租借地ニハ法律ニ基イテ刑法······法
律ニ基ケル刑法モナシ、法律ニ基ケル刑事
訴訟法モナシ勅令ヲ以テ此刑法、刑事訴訟
法ヲ施行スルト云フコトニナッテ居ルノデ
アルカラ、ソレデアリマスカラ事實ハ刑法
デアラウ、內容モ亦刑法ノ規定デアラウケ
レドモ、此法文ニ書イテアル刑法トシテ、
刑事訴訟法トシテハ意味ヲ爲サナイ事柄ニ
ナルノデス、ソレデ若シ植民地ノ中ニ租借
地ガ含ンデ居ルト、而シテ租借地ニ居ル所
ノ臣民ニシテ第一條ニ該當スルモノニ本法
ヲ適用シヤウト云フコトニナッタナラバド
ウ云フ一體立法ヲシテ宜シイノカ、餘程厄
介ナコトデハアルマイカト思フノデス、但
シ一ツノ血路ハ勅令ヲ以テ刑法ヲ施行シタ
ル如ク、勅令ヲ以テ刑事訴訟法ヲ施行シタ
ル如クニ、勅令ヲ以テ此刑事補償法ヲ施行
スルト云フ形ニデモシタラ宜イカト云フ感
ガ私ハ有ノテ居ルノデアル、是トテモ斯ウソ
ノ平々淡々ニ行キ兼ネヤシナイカト云フコ
トヲ考ヘテ居ルノデアル、質問ト云フ形ニ
於テ卑見ヲ申上ゲタ譯デモナンデモアリマ
セヌガ、此儘デ行ナヘナイト云フコトハ明
カデアラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=38
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039・泉二新熊
○〓府委員(泉二新熊君) 只今ノ御質問ニ
對シマシテ租借地モ含ム積リデアリマスト
申上ゲマシタノハ實質ニ付テ申上ゲタノデ
アリマス、形式ノ方カラ申上ゲマスト云フ
ト實ハ申上ゲル迄モナイコトデアリマスガ、
租借地ハ領土デハナイト云フコトニナッテ
居リマスルノデ、朝鮮トカ臺灣トカ樺太ノ
方ト此法律關係ガ違ッテ居ルノデ、朝鮮、臺
灣樺太ノ方ニ關シマシテハ內地ニ於ケル
ガ如ク法律ヲソレ等ノ地域ニ施行スルニハ
勅令ヲ以テ之ヲ指定スル、斯ウ云フコトニ
ナッテ居リマスケレドモ、關東州ニ付キマシ
テハ何等サウ云フ法律ガナイノデアリマシ
テ、是ハマア御承知ノヤウニ刑事ノ手續モ
勅令ニ依ッテヤッテ居ルノデアリマス、ソレ
故ニ此實質ヲ關東州ニ適用シヤウトスル場
合ニハ朝鮮ヤ、臺灣等ニ之ヲ適用シヤウト
スル場合ノ如クニ勅令ヲ以テ此法律ヲ關東
州ニ施行スト云フ形式ハ執ラナイノデアリ
マス、丁度此實質ニ應當スルヤウナ勅令ヲ
矢張リ關東州ニ付テハ出スト云フコトガ必
要デアラウト思フノデアリマス、尤モ條文
ハ此法律ノ或ル部分ダケヲ準用スルトカ、
準用ガ出來ナイ部分ハ簡單ニ書クトカ云フ
ヤウナコトデ、形ハ色ミ便宜ニ從ッテ出來ル
ダラウト思ヒマスルガ、兎ニ角之ヲ適用ヲ
スルト云フ言葉ガ惡イカモ知レマセヌ、此
法律ヲ適用スルト云フノデハナクシテ實質
トンテハ兎ニ角關東州ノ裁判ニ付テモ是ガ
行ハレルヤウニ是ハ勅令ヲ以テ主務省ニ於
テ其處置ヲ執ルデアラウト云フコトヲ申上
ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=39
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040・花井卓藏
○委員外議員(花井卓藏君) 大體ソンナコ
トニ落著クダラウト思ヒマスガ、ソレニシ
テモ餘程厄介ナ問題ガ發生スルト云フコト
ヲ私ハ考ヘテ居ル、現在ノ刑法、刑事訴訟
法ガ勅令的ニ行ハレテ居ルノニ付テモ同樣
ナ感ヲ懷イテ居ル、ドウゾ御考究ノ資料ト
シテ更ニ御考ヘニナッタラ宜シカラウト思
ヒマス、私ハ唯今日私ノ言ッタコトヲ調査シ
テ他日ノ機會ニ於テハドウゾ時間ノ御割愛
ヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=40
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041・中御門經恭
○委員長(候爵中御門經恭君) ソレデハ今
日ハ是デ散會ヲ致シマス、何レ次囘ハ彙報
ヲ以テ申上ゲマス
午後零時十三分散會
出席者左ノ如シ
委員長侯爵中御門經恭君
副委員長鵜澤總明君
委員
子爵秋月種英君
男爵北大路實信君
山岡萬之助君
關直彥君
八木春樹君
委員外議員
內田重成君
花井卓藏君
政府委員
陸軍政務次官子爵伊東二郞丸君
司法省刑事局長泉二新熊君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005900656X00319310311&spkNum=41
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