1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
昭和六年三月十三日(金曜日)午後一時四十七分開會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=0
-
001・柳澤保惠
○委員長(伯爵柳澤保惠君) 委員會ヲ開キ
マス、井上男爵発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=1
-
002・井上清純
○男爵井上〓純君 昨日ニ引續イテ海軍大
臣ニ御尋ヲ致シタイノデアリマスルガ、此
度ノ減稅案ヲ審議スル上ニ於キマシテ、其
財源ノ關係カラ今囘ノ倫敦條約ノ兵力量ニ
於テハ、如何ナル國防上ノ缺陷ヲ招致シタ
カ、又其缺陷ハ今囘御提出ノ所謂第一次補
充計畫ヲ以テ完全ニ滿タシ得ルデアラウカ、
第二次補充計畫ノ必要程度ハ如何、第一次
第二次補充計畫ノ關係如何、是等ノ事柄ヲ
先ヅ以テ明確ニシテ置カナカッタナラバ審
議ハ不可能ダト考ヘマス、先決問題トシマ
シテ、先ヅ倫敦條約ノ事柄ニ付キマシテ十
分ニ御尋ヲシナケレバナラヌカト考ヘルノ
デアリマス、此點ニ付キマシテハ過日海軍
大臣ガ豫算委員會ニ於テ某氏ノ質疑ニ答ヘ
ラレタ一節ガアリマシテ、最モ詳細ニ其關
係ヲ說キ盡サレテ居ルト思ヒマス、ソレヲ
讀上ゲマスコトガ時間節約ノ上ニ於テ最モ
適當ダト考ヘマスカラ、其海軍大臣ノ御言
明ヲ速記錄ニ依リマシテ、サウシテ御尋ヲ
シタイト考ヘルノデアリマス、豫算委員會
議事速記錄第三號ノ五頁デアリマス、「此度
ノ倫敦會議ニ於キマシテ帝國ノ主張イタシ
マシタ所謂三大原則ト云フモノ、是ハ總括
的對米七割、ソレカラ最モ重キヲ置ク八吋
砲巡洋艦ノガ矢張リ七割、ソレカラ潜水艦
ノ現有量ノ七万七千八百噸ト云フモノ、之
ヲ主張イタシマシタノハ矢張リ我ガ帝國海
軍ニ於キマシテ數年來ノ演習其他各種ノ〓
究ノ結果、國防方針ニ基ク作戰計畫ヲ遂行
スル上ニ於テ最モ有效デアリ、經濟的ノ兵
力デアルト云フコトニ到達イタシマシタ、
其信念ヲ以テ臨ミマシタ所ガ、御承知ノ通
リノ倫敦會議ノ結果トナリマシタニ付テ、
兵力量全體トシテハ七割アルノデアリマス
ルカラ不足ハナイノデアリマスルガ、其總
括ノ中ニソレゾレ必要ナ兵種ガアル、其兵
種ノ中デ我ガ帝國ノ要望スルモノニ到達シ
ナイ、ソコニ不足ガアル譯デアリマシテ、
其以外ノ驅逐艦、六吋砲巡洋艦ト云フモノ
ニ、其代リニ噸數ノ餘裕ヲ生ジタノデアリ
マス、ソレヲ以テ他ノ不足モ或程度マデ補
フコトガ出來ルノデアリマスルガ、全部全
ク補フト云フ意味ニハナラヌノデ、ソコニ
若干ノ不足ト云フコトガ生ズルノデアッテ、
併シ其若干ノ不足ナルモノハ各種ノ對策ヲ
講ズルニ於テハ之ヲ補フコトガ出來テ、從ッ
テ當面ノ狀勢ニ於テ國防上不安ナキヲ期シ
得ルト云フコトガ、海軍首腦部ニ於テモ意
見ガ一致イタシマシタノデアリマス、ソレ
ニ基イテ立テマシタノガ此度ノ計畫デアリ
やく、此度ノ計畫ト云フモノハ、每度申シ
マスヤウニ、必要トスルモノノ根幹ヲ具ヘ
マシタモノデ、是デ以テ國防ヲ大體ニ於テ
不安ナイモノト認メテ居ルノデアリマスル
ガ、併ナガラ之ニ此度ハ絕對必要ナモノノ
ミヲ集メマシタノデアリマスルカラシテ、
ドウシテモ相當ノモノモ尙ホ必要トスルコ
トハ是ハ申ス迄モナイノデアリマス、從ッテ
ソレガ第二次計畫トシテ自然現ハレルヤウ
ニナリ、倫敦條約ニ於テノ權利モ相當拵ヘ
テ宜イモノガアルノデアリマス、是ハ外國ノ
海軍ノ製艦ノ現狀ガドウ云フ程度ニ、又ド
ウ云フ種類ノモノニ重キヲ置イテ進ンデ行
クカト云フコトヲ見テ、ソレモ顧ミテ追ッテ
計畫ヲ立テル、從ッテ其時期內容ト云フヤウ
ナコトハ今日確定的ニ申上ゲル譯ニ行カヌ、
斯ウ云フ意味ニナル次第デアリマシテ、所
謂第二次計畫ノ必要デアルト云フコトハ、
ソレガ又十一年度以前ニ於テ著手シナケレ
バナラヌト云フ意味ノコトハ、其通リニ信
ジテ居リマス」云々、是ハ貴衆兩院ヲ通ジ
マシテ海軍大臣ノ御答辯中、最モ詳細ニ此
意味ヲ申述べラレテ居ル要項カト考ヘマス
ル、此御聲明ニ依リマスルト、倫敦條約ノ
兵力量ハ如何ナル缺陷ヲ招致シタカト云フ
コトモ明瞭ニ認メラレルノデアリマス、卽
チ海軍大臣ノ御言葉ヲ借リテ申シタナラバ、
三大原則ト云フモノヲ我國ハ主張シタノデ
アルケレドモ、總括的七割ニ於テ目的ヲ達
スルコトガ出來タガ、八吋砲巡洋艦ハ六割
トナリ、潜水艦ノ現有量ノ七万七千八百噸
ヲ主張シタガ、ソレガ五万二千噸トナリ、
約三分ノ一減ヲ示シタノデアッテ、是ハ總括
的ニハ我ガ要求ニ到達シタケレドモ、配合、
按配サルル所ノ兵種·······、兵器ノ種類ニ於テ
兵力量ニ不足ヲ來タシタカラ我ガ既定國防
方針、是ハ大正十二年ニ制定サレタル所ノ國
防方針デアラウト考ヘマスルガ、其ノ國防
方針デアラウト考ヘマスルガ、其ノ國防方
針ニ基ク作戰計畫、其ノ作戰計畫ナルモノ
ハ數年來ノ演習其他ノ各種ノ〓究ノ上ニ於
テ確立サレタ所ノ作戰計畫ヲ維持遂行スル
上ニ於テ一番有效デアリ、經濟的ノモノデ
アッテ、其ノ兵力量ニ不足ヲ生ジテ來タノデ
アル、敢テ國防ノ缺陷ト云フ言葉ハ用ヒラ
レマセヌガ、作戰計畫ヲ遂行スル上ニ於テ
兵力ノ不足ヲ持チ來タシタモノデアルト云
フコトヲ申述ベラレテ居ルノデアリマス、
サウシテ其ノ斯ク編成サレタ所ノ兵種ノ不
足ハ、其ノ以外ノ驅逐艦、六吋砲巡洋艦ト云
フヤウナモノデ補フコトガ出來ルカト云フ
ト或程度マデハ補フコトガ出來ルケレド
干、全部全ク補フト云フ意味ニハナラヌノ
デアル、斯ウ申サレテ居ルノデアリマス、
ソコニ若干ノ不足ト云フコトガ生ジテ來テ
居ルノデアル、併ナガラ其若干ノ不足ト云
フモノハ色ミノ對策ヲ講ジテ之ヲ補フコト
ガ出來テ居ル、其對策ト云フモノハ今度ノ
第一次補充計畫ノ中ニ含マレテ居ルモノデ
アリマシテ、卽チ制限外ノ艦艇ノ建造、航
空兵力ノ造成竝ニ充實其他內容ノ充實ト云
フヤウナモノヲ指シテ言ハレテ居ルモノダ
ト考ヘマスルガ、ソレ等ノ對策ヲ講ズル上
ニ於テハ之ヲ補フコトガ先ヅ出來ル、國防
上不安ナキヲ期シ得ルト云フコトガ海軍首
腦部ニ於テモ意見ガ一致シタノデアル、ソ
レニ基イテ出タノガ此度提出シタ所ノ第一
次補充計畫デアル、卽チ此計畫ナルモノハ
每度申スヤウニ、絕對必要トスル所ノ骨幹
ヲ備ヘタモノデアル、之ヲ以テ國防ハ大體
ニ於テ不安ナイモノト認メテ居ル次第デア
ル、併ナガラ是ハ絕對必要ナモノデアッテ、
ドウシテモ相當ノモノガ尙ホ此以上ニ必要
トナルコトハ申ス迄モナイコトデアリマ
ス、第二次補充計畫ダケデハ足ラナイノデ
アリマス、此上ニ尙ホ必要トスルモノガア
ルコトハ申ス迄モナイト云フコトヲ言ッテ
居ラレルノデアリマス、從テテレガ第二次
計畫トシテ自然現レルヤウニナッテ來テ居
ル、而モ倫敦條約ヲ見ルト第一次計畫ニ說
ケテ居ル權利ガマダ殘サレテアルノデアル、
此權利ヲ全部行使スルナラバ宜シイノデア
ルケレドモ、今直チニ行使シナイ所以ノモ
ノハ、外國ノ海軍ノ製艦ノ現狀アタリヲ見
テ、サウシテ追テ計畫ヲ樹テル、從ッテ其時
期內容ト云フコトハ今日確定的ノモノデハ
ナイカラ······ナイガ併ナガラ此所謂第二次
計畫ト云フモノガ、十一年度以前ニ於テハ
必ズ著手シナケレバナラヌモノデアルト云
フコトヲ委シク述ベラレテ居ルノデアリマ
ス、尙ホ海軍大臣ハ過日、衆議院ノ豫算分
科會ニ於テモ、最モ此意味ヲ簡明ニ次ノ如
ク述べラレテ居リマス、昭和十一年十二月
三十一日マデニ殘餘ノ條約上ノ造艦權利ヲ
行使スルト云フ希望ト必要トヲ認メル、但
シ其希望、其必要ヲ如何ナル形ニ於テ如何
ナル年度ニ於テ現ハスカト云フコトニ付テ
ハ熟シテ居ラヌ、ケレドモ條約ノ期限ハ昭
和十一年十二月三十一日ニ切レルノデアル
カラ、ソレガ切レタナラバ條約ノ效力ガ無
クナル、其以前ニ於テ之ヲ著手シ實行スル
ノ必要ト希望トヲ有,テ居ルト言明セラレ
テ居ルノデアリマス、此言明ヲ幣原總理大
臣代理ハ肯定サレルカト云フ質問ニ對シ
マシテハ色ミ躊躇サレタノデアリマス、約
一時間ノ休憩中ニ臨時閣議ヲ開カレテ遂ニ
是認セラレテ居ルノデアリマス、井上大藏
大臣モ亦之ヲ是認シテ居ルノデアリマス、
以上ノ事柄ニ依リマシテ政府ハ第二次補充
計畫ヲ實現スル所ノ希望ト必要トヲ有ッテ
居ラレルノデアリマス、併ナガラ財源ハ無
イノデアリマス、何故ニシテ財源ヲ保留サ
レテ居ラヌカト云ヘバ、其計畫ノ著手時期ト
計畫ノ內容トガ不明デアルカラ、財源ヲ取ッ
テ置カナイダケデアルト云フ御答デアルヤ
ウデアリマス、時期ガ不明デアルト言ハレ
テ居リマスルガ、十一年度末迄ニ竣エシ得
ルモノニハ大部分屬シテ居ルノデアリマシ
テ、主ナルモノハ十一年度末迄ニ竣エシ得
ルコトニナッテ居ルノデアリマシテ、且又次
ノ會議ハ十年ニ開カレマスコトニナッテ居
リマスルカラ、晩クモ昭和九年ニハ第二次
計畫ハ著手サレナケレバナラヌコトハ明瞭
デアラウト考ヘマスル、又內容不明ト言ハ
レテ居リマスルガ、之ニ付テハ過日本會議
ノ席上ニ於テ、海軍大臣ハ次ノヤウニ言明
サレテ居ルノデアリマス、貴族院速記錄第
十四號ノ百六十八頁ニ書イテアルノデアリ
やく、此度ノ計畫ニ於キマシテ、條約上ノ
權利トシテ、巡洋艦モ潜水艦モ殆ド全部ヲ
行使イタシマシタガ、獨リ驅逐艦ハ六隻分
ダケ殘シテアルコトニナ"テ居リマス、ソレ
カラ航空母艦、ソレハ華盛頓會議ニ依テノ
關係デアリマシテ、一万二千噸程殘ヲテ居リ
マス、ソレカラ倫敦條約ニ於テ、特別ニ我
ガ日本ノ爲ニ權利ヲ得マシタ機械水雷ヲ敷
設スル五千噸ノ船一隻分殘→テ居リマス、以
上合計二万八千噸ニナルノデアリマス、ソ
レカラ十一年度以前ニ於テ竣工スルコトハ
出來ナイガ、著手シテ宜シイ噸數ガ巡洋艦、
驅逐艦、潜水艦ヲ合セテ三万二千九百噸ア
ルノデアリマス、ソレ等ノモノニ對スルノ
ヲ所謂第二次補充計畫ト申シテモ宜シイノ
デアリマス、斯ウ仰セラレテ居ルノデアリ
やく、政府ハ既ニ第二次計畫ノ希望ト必要
トヲ有シ、其著手時期ト其內容ハ最早明瞭
ニナッテ居ルト考ヘルノデアリマス、而モ其
費用一億數千万圓ニ上ルベキ國防計畫ヲ二
三年先キニ見ナガラ、同額ニ略、等シイ所
ノ減稅ヲ財源涸渴セル時ニ斷行セラレムト
スル勇氣ニハ、私ハ驚カザルヲ得ナイノデ
アリマス、第二次計畫ヲ實施シナイト言明
セラレルナラバ兎モ⻆デアリマス、既ニ其
希望ト必要トヲ認メ、其上ニ仄聞スル所ニ
依リマスレバ、右第二次計畫ニ付テハ責任
ヲ以テ必ズ實現スルト云フ濱口首相ノ捺印
アル覺書ヲ差出サレテ居ル點カラモ、必ズ
實現セラレルモノデアラウカト思ヒマス、
第二次計畫ヲ實施スルヤ否ヤハ減稅案審議
ニ當リ直接重大ナル關係ヲ持ツト考ヘマス
カラ、之ニ對シ海軍大臣ヨリ御明答ヲ得タ
イ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=2
-
003・安保清種
○國務大臣(男爵安保〓種君) 井上男爵ニ
御答ヲ申上ゲマス、井上男爵ハ箇條ヲ先ヅ
四箇條擧ゲラレマシテ、兵力量ノ缺陷···
倫敦條約カラ來ル所ノ兵力量ノ缺陷ト云フ
モノハドウ云フモノデアル、或種ノ兵力ニ
缺陷ガアルト云フノハドウ云フモノデア
ル、第二ニ如何ニシテ此缺陷ヲ補ヒ得ル
ノデアルカ、第三ハ其處ニ第二次計畫ト云
フモノハ必要デアルカ、其必要ノ程度ハド
ウ云フモノデアルカ、第四ガ第一次計畫ト
第二次計畫ト云フモノノ、關係ハドウ云フ風
ニナルノデアラウカト云フ、斯ウ云フ四ツ
ノ事ニ付キマシテ、之ヲ今日マデ私ガ貴族
院竝衆議院ニ於キマシテ、アチコチデ申述
ベマシタコトヲ綜合イタサレマシテ、只今
要點要點ヲ御讀上ゲニナッテ、之ヲ御取纏メ
ニナッテ結局、減稅案ト關係ヲシテ、晩クモ
昭和九年マデニハ第二次計畫ニ著手シナケ
レバナラヌモノデアラウ、而シテ其內容ハ
不明デアルト言フケレドモ、倫敦條約ノ權
利カラ言ッテモ、是レ〓〓ノモノガマダ著手
セズニ殘シテアル、又千九百三十六年ノ末
ニ於テ建造中デアッテ差支ナイ分量ガ三万
二千九百噸殘"テ居ルカラ、內容ト云フモ
ノモ略〓明カデ、之ニ著手スレバ少カラヌ
經費ノ要ルコトガ明カデアルノニ、何故ニ
一億三四千万圓ノ此減稅ト云フモノニ贊成
ヲシタラウカ、斯ウ云フ結局ノ御問ト了解
ヲ致シマス、今マデ色〓ノ機會ニモ申上ゲ
テ置キマシタヤウニ、倫敦條約ニ於テ著手
シ得ベキ權利ノアルモノハ只今井上男爵ノ
仰セニナリマシタ通リデアリマシテ、昨日
モ水野サンノ御尋ニ對シテ御答へ致シマシ
タ、卽チ骨幹トナルモノニ付キマシテハ網
羅シテアル、必要ナモノハ網羅シテアルト
云フノハ、卽チ今モ御讀上ゲニナリマシタ
通リ、巡洋艦ト云フモノハ殆ド全部ヲ行使
シテ、潜水艦ハ殆ド全部行使ヲ致シテ、ソ
コニ驅逐艦ノ六隻ト云フモノガ餘シテア
ル、斯ウ云フノデアリマス、卽チ其驅逐艦
ト航空母艦ガ華盛頓關係デ一万二千噸程
殘ッテ居リマスノト、ソレカラ五千噸ノ機械
水雷、斯ウ云フノデアリマスガ、之ヲ如何
ニ此權利ヲ行使スルカト云フコトハ、每度
申上ゲマスヤウニ、外國ノ海軍ガ自分デ有"
テ居ル其權利ヲ行使スル度合、又行使スル
ニ付キマシテモ、ドウ云フ點ニ重キヲ置イ
テ其行使ヲ實現シテ行クダラウカト云フヤ
ウナコトヲ見極メルコトガ一方ニ於テ必要
デアリ、他ノ方面ニ於キマシテハ、每度繰
返シマスヤウデアリマスケレドモ、技術ノ
進步變遷等ヲ能ク見極メテ、サウシテ勿論
財政等モ之ヲ調節シテ決定ヲ致スト云フノ
デアリマス、ソレデ權利ヲ全部行使スルモ
ノト云フ意味ニハ必シモ考ヘテ居ラナイノ
デアリマス、是ハ申上ゲマス迄モナク、相
對的ノ軍備ト云フ意味カラ、英吉利ノ有フテ
居ル權利全部、亞米利加ノ有ッテ居ル權利全
部ヲ、ソレゾレノ國ニ於テ行使イタストス
レバ其處ニ自ラコチラノ方ニ或種類ノ缺陷
ガ起ッテ來ルト云フコトハ言ヒ得ラレマス
ルガ、之ヲ全部行使シナケレバ、ソレニ應
ジテコチラノ方モソレニ應ジ得ルト云フコ
トニモナリ得ルノデアリマスカラ、ソコデ
外國ノ狀況ヲ見ルト申シマスノハ、卽チサ
ウ云フ意味ナノデアル、ソレヲ一ツ〓〓申
上ゲマスト云フト、相當色ミ其處ニ箇條ガ
起ルト考ヘマスガ、是等ノ點ニ付キマシテ
ハ豫算分科會ニ於テノ懇談會ニ於テモ一通
リ速記ヲ廢シテ申上ゲテ置キマシタヤウナ
意味モアリマスル、卽チ有ッテ居ル權利ハ是
非トモヤラナケレバナラヌヤウニナリマス
ルカ、或ハ其中幾分ヤッテ、ソレデ國防上差
支ナイト云フコトニナリマスルカ、或ハ有ッ
テ居ル權利ノ中デ融通ヲシテ宜イト云フコ
トヲ倫敦條約ニ認メラレテ居ル、所謂六吋
巡洋艦ト驅逐艦ノ間ニハ一割ノ融通ハ認メ
ラレテ居リマスカラ、此融通ト云フヤウナ
コトヲ用ヰタ方ガ實際ノ國防ノ上ニ有利デ
アルヤ否ヤト云フヤウナコトモ、矢張リ考
慮ヲ致シマスル必要ガアル、斯ウ云フヤウ
ナコトニナリマスル結果ト致シマシテ、其
內容ハ分ッテ居ルヂヤナイカト云フ井上男
爵ノ御話デアリマスケレドモ、權利全部ト
云フモノハ是レ〓〓ノモノデアル、其中ドウ
云フ點ヲ我國ハドウ云フ時期ニ斯ウシタラ
最モ少イ經費ヲ以テ最モ有力ナル軍備ヲ用
意シテ國防ニ支障ナイヤウニ、ソレヲ按配
シ得ベキカト云フコトガ最モ大切ナ所デア
リマス、卽チソコニ考慮ヲ置キマシテ進ミ
ツヽアリマスル次第デアリマスカラ、此第
二次計畫、所謂第二次計畫ト云フモノノ內
容ト云フモノモ其最上限ハ決マッテ居リマ
スルケレドモ、實行ノ上ニ於キマシテ、ソ
レヲ行使スル量ト云フモノハ今日具體的計
畫ノ無イ場合ニ申上ゲ兼ネル、斯ウ云フ意
味ニナッテ居リマスル次第デアリマスカラ、
サウ云フ意味ニ於キマシテ此度、是非必要
トスルモノノ計畫ヲ立テ、サウシテ國防上
必要ナル兵力ノ骨幹ト云フモノハ先ヅ漏レ
ナクソコニ備ヘテ、之ヲ以テ當面ノ情勢ニ
於テ國防支障ナシト認メマシタカラシテ保
留財源ノ中カラソレヲ取リマシタ其餘剩ノ
金ト云フモノハ、矢張リ一方ニ於テ我ガ帝
國トシテ必要ト認メテ居リマス減稅ノ方ニ
振リ向ケルコトヲ適當ト信ジマシタ次第デ
アルノデ、而シテ早晩必要デアル所ノ、其
次ニ來ル計畫モ、ソレデハ財源ガ無クテド
ウスルノカト云フ御尋ニ自然ナリマス譯デ
アリマスガ、是モ幾度モ申上ゲ、昨日モ此
席デ申上ゲマシタヤウニ、此度ノ計畫ハ十
一年度デ終ルコトニナッテ居リマスガ、十二
年度カラハソコニ艦ヲ造ルト云フコトダケ
ノ爲ニ六千万圓ト云フ財源ガ每年用意ヲシ
テアルト云フコトニナッテ居リマスルカラ、
ソレヲ昭和十一年度以前ニ於テ新シイ計畫
ヲ立テマス、其若干ソコニ重複ヲスル其財
源ト云フモノガ見積ッテナイ、併ナガラソレ
ハ每度申上ゲマスヤウニ、首相代理モ大藏
大臣モ言明イタシマシタヤウニ、一ツノ計
畫ヲ立"テ國防上ソレヲ是非トモ遂行シナ
ケレバナラヌト云フ場合ニハ、何トデモシ
テ有ラユル手段ヲ以テ財源ヲ······經費ヲ調
節シテ其求メニ應ズル決心デアル、斯ウ云
フノデアル、私ハソレヲ十分確信シテ居リ
マスル次第デアリマス、大體其關係ニ付テ
井上男爵ノ御答ニナリマスト存ジマスル
ガ、御尋ノ點ハ至極御尤ト思ヒマスガ、大
體今迄ト同ジヤウデアリマスルケレドモ、
以上ヲ以テ御答ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=3
-
004・井上清純
○男爵井上〓純君 此事ニ付キマシテハ豫
算委員會竝ニ分科會ヲ通ジマシテ海軍大臣
カラ只今ノ御意思相應ノ御答辯ハ得テ居リ
マシテ、其結論ダケヲ今日申上ゲテ、其材
料ニ依シテ質問ヲ······先ノ御答ヲ求メル爲
ニ御尋ネシタノデアリマスルケレドモ、矢
張リ此御答辯ノ範圍ガ、豫算委員會ノ時ノ
御答辯ノ範圍ニ出ナイノデアリマス、私ハ
普通ノ場合ニ於キマシテハ、サウ云フ先ノ
財源マデモ政府ニ色〓追究スル考ハ持タナ
イノデアリマス、併ナガラ今囘ノ補充計畫
ハソレトハ大變趣ヲ異ニシテ居ルノデアリ
さく、卽チ倫敦條約ヲ結バレテ、ソレカラ
來タ所ノ國防ノ缺陷ト云フモノ、其缺陷ハ
總括的ニハ先ヅ要求ヲ滿シテ居ルケレド
モ、其編制セラルヽ所ノ兵種ノ不足カラ、
豫定ノ國防方針ニ基ク作戰計畫ヲ遂行スル
上ニ於テ兵力量ノ不足ヲ感ズル、斯ウ云フ
ヤウナ、素人ニハチヨット何處ニ缺陷ガアル
ノカ分カラヌヤウナ御言葉ヲ御用ヒニナッ
テ居ルノデアリマスルガ、領収、是ハ何ヲ
意味スルノカト言ヘバ、日本ノ國防方針ハ
變ラナイノデアル、ソレニ基ク所ノ作戰計
畫モ長イ間演習等ニ於テ實驗シタモノデ
アッテ、是亦變ヘテハナラヌノデアリマス、
今ハ條約上非常ニソレヲ遂行スルコトニ不
便ニナッタケレドモ、矢張リ既定ノ作戰計畫
ハ其儘保持シテ行カナケレバナラヌ、ソレ
カラ見ルト······其方針ニ依ッテ考ヘテ見ル
ト、ドウモ配合スル所ノ八吋巡洋艦ト潛水
艦ノ量ガ少イ、之ヲドウカシテ補ハナケレ
バドウモ既定ノ計畫ヲ其儘遂行シテ行クコ
トハ困難ニナッテ來テ居ル、是ハ素人ニハ分
ラヌケレドモ、海軍ノ用兵上非常ナ困難ナ
ル位地ニ陷ッテシマッタノデアルト云フコト
ヲ、海軍大臣ハ十分ニ御承知ニナッテ居ラル
ル筈デアリマス、而モ冐頭ニ私ガ申上ゲタ
ヤウニ、總括的ニハ變ラナイノデアリマス
カラ、理由ハ何等豫算面ニハ變クテ來ナイノ
デアリマス、卽チ編制サレタ兵種ニ不足ガ
生ジテ居ルノデアリマス、素人騙シニハ大
變ニ都合ガ宜イ條約デアルノデアリマス、
私ハ此間モ豫算委員會ニ於テ申シタノデア
リマスガ、今日ノ軍備ノ狀態ト云フモノハ
最小ナルモノヲ以テ最大ナル效力ヲ發揮ス
ルト云フコトガ軍備ノ要諦デナケレバナラ
ヌノデアリマス、最モ經濟的ナル軍備デナ
ケレバナラヌノデアリマス、殊ニ亞米利加
ト云フヤウナ大富國ヲ向フニ〓シテ日本ノ
海軍ガ如何ナル軍備ヲ整備シナケレバナラ
ヌカト云フコトハ大キナ問題デナケレバナ
ラヌノデアリマス、幸ニ日本ニ於テハ軍令
機關ト云フモノガアリマシテ、誠心誠意全
ク國家本位ニ立ッテ、サウシテ案畫サレテ始
メテ現ハレタモノガ、彼ノ名高イ所ノ帝國
ノ釣合ヒノ取レタ所ノ艦隊ニナッテ居ルト
思フノデアリマス、此現ハレタ所ノ帝國艦
隊ハ最モ經濟的ナル國防デアルト云フコト
ニ於テハ日本ノ人ヨリモ世界ノ人ガ知ッテ
居ルノデアリマス、ソレハ何デサウ云フモ
ノガ出來タカト言ヘバ、三大原則ヲ基礎ト
シテ組立テラレタモノデアルコトハ申ス迄
モナイコトデアリマス、此度倫敦會議ニ五
國ガ御集リニナッタケレドモ、何レノ國ト雖
モ、日本ノ如クニ斯ンナ三大原則ノヤウナ
モノヲ持ッテ行ッタ國ハ一國モ無カッタノヲ
見マシテモ、如何ニ我ガ海軍ノ軍令機關ガ
有效ニ活動シテ居フタカト云フコトヲ、國
民トシテ知ラナケレバナラヌ大事ナ要點
デアッタノデアリマス、其大事ナ要點ヲ破
ラレテシマッタノデアリマス、何ノ爲ニ破
ラレタカ、誠ニ私ハ政治家ノ不明ノ爲ニ破
ラレタト言ハナケレバナラヌノデアリマ
ス、斯ウ云フ一國ノ軍備ヲ、總括的ニハ一
ツモ手ヲ觸レズシテ、內容ノ編制ヲ變ヘル
コトニ於テ、其勢力ヲ低下スルコトガ出來
ルト云フ新戰術ガ、アノ倫敦ノ平和會議
ニ於テ、無血流戰爭ニ於テ、世界平和、人
類協調ノ名目ノ下ニ於テ行ハレタト云フコ
トハ恐ルベキコトデアルト私共ハ考ヘナイ
譯ニハ參ラヌノデアリマス、而モ國民ハ其
事ヲ知ラナイ、サウシテ遂ニ此條約カラ招
致サレタ所ノ此國防ノ缺陷ヲ何デ補フノカ
ト、其途スラモ考ヘルコトノ出來ナイヤウ
ナ工合ニ海軍ハ陷ッテシマッタノデアリマ
ス、私ハ一大危機ガ海軍ニ到來シタモノト
叫バナイ譯ニハ參ラナイノデアリマス、此
點ハ十分ニ海軍大臣ハ痛切ニ御存ジデナケ
レバナラヌト思フ、ソコニ於テ軍事參議官
ノ會議ガ起ッタ、或ハ軍令部長、海軍大臣ト
次ギ〓〓ニ御辭職ニナッテシマッタノデアリ
マス、皆全海軍ノ將士ノ精神ト云フモノハ
全ク覆サレテシマッタト云ッテモ過言デハナ
イヤウナ、大キナ波紋ヲココニ投ジタノデ
ハナカッタノデアリマセウカ、普通ノ補充計
畫デハアリマセヌ、今日ノ補充計畫ト云フ
モノハ、斯ウ云フ一大原因カラ發シタ所ノ
計畫デアリマシテ、此第一次、第二次ト、
斯ウ御分ケニナッテ居ルノガ不思議デアル、
別ニ政府モ第一次、第二次トハ初メハ仰セ
ニナラナイケレドモ、是ハ不可分ナモノデ
アリマシテ唯財政上、或ハ內閣ノ都合上、
二ツニ御分ケニナッタ、サウシテ片方ノ方ハ
蔭ニ隱サレテ居ッテ、サウシテ第一次計畫ヲ
以テ、先ヅ骨幹ガ宜シイノデアルト云ッテ中
外ヲ誤魔化サレテ居ルコトハ分ルノデアリ
マー、若シモ三億七千万圓ダケデ以テ、此
國防ノ缺陷ガ救フコトガ出來ルナラバ、何
ヲ苦シンデ、アンナ大騷動ヲ始メマセウカ、
始メタ人ハ誠ニ天下ニ向テテビナケレバ
ナルマイト思フノデアリマス、サウシテ私
ハ詫ビル必要ハナイ、ソレダケ大騒動スベ
キモノデアッタラウト思フノデアリマス、其
大騷動シタ所ノ國防ノ大缺陷ヲ、僅カ巡洋
艦四隻、驅逐艦四隻、機械水雷敷設艦一隻
ダケデ以テ補ヒ得ルト云フコトデアルナラ
バ餘程海軍ノ首腦ノ御方ト云フモノハ、
事理ヲ辨ヘナイ人ト言ハナケレバナラナイ
ノデアリマス、天下ノ物笑ヒトナラナケレ
バナラナイ、アレダケノ騒動ヲ起シテ、內
閣モ此爲ニドノ位惱ンダカ分ラナイ、國民
モ亦非常ニ玆ニ疑惑ヲ注イダノデアリマ
ス、第一次バカリデハ足リナイノデアリマ
ス、一體海軍ノ初メノ計畫ハ、仄聞スル所
ニ依ルト、十億万圓カカルト云フデアリマ
ス、私ハ十億万圓ノ補充計畫ヲ御立テニナッ
タナラバ、ドウヤラ斯ウヤラ、初メテ此缺
陷ハ免レルモノダト私モ考ヘタノデアリマ
ス、非常ニ飛行機ヲ多數ニ造ラヌ限リニ於
テハ、到底此國防ノ缺陷ヲ救フコトハ不可
能デアリマス、又潜水艦ノ缺陷ヲ、飛行機
ノ如キモノヲ以テ完全ニ補ヒ得ルコトガ出
來ナイコトハ、其性質ガ違フカラデアリマ
ス、サウ云フコトハ素人ニ於テモ此頃ハ初
メテ知ルコトガ出來タノデアリマス、我帝
國ハ誠ニ世界ニ類例ノナイ所ノ戰略的好位
地ヲ占メテ居ル所デアリマス、其好位地ヲ
利用シテ行ッタナラバ、軍費ノ經濟化ト云フ
コトハ出來タノデアリマス、玆ニ政治家ガ
著眼シテ、サウシテ大局ヲ誤ラヌヤウニセ
ラレタナラバ、是ハ斯樣ナ不利益ナ條約ヲ
結バナンデ濟ンダノデアリマスガ、此條約
ノ結果、其天與ノ戰略的好位地モ利用スル
コトガ不可能ニナッテ來テ、卽チ近海作戰ヲ
餘儀ナクサセラレタ結果、ドウモ敵ノ空襲
ヲ恐レナイ譯ニハ參ラナクナッタノデアリ
マス、敵ヲ近ク受ケテハ危險デアリマス、
何シテモ島國デアリマシテ、而モ東海ノ方
面ニ於テ重要ナル都市、工業地ガ散在シテ
居ルノデアリマスカラ、敵ヲ近ク受ケテハ
非常ニ危險デアリマス、或ハ二千浬位ノ距
離デ之ヲ守ラヌ限リハ、帝國ハ非常ニ危險
デアルト我〓ハ考ヘナイ譯ニハ參ラヌノデ
アリマス、ドウ云フ譯デ近海作戰ヲ餘儀ナ
クサレタカト云ヘバ、潜水艦ノ缺乏デアリマ
ス、八吋砲巡洋艦ノ缺乏デアリマス、此不
足ヲ何物ヲ以テモ補フコトガ出來ナイ、只
今海軍大臣ハ六吋砲巡洋艦デ以テ補フト云
フコトヲ言ッテ居ラレマシタガ、此六吋ト云
フモノニ對シテモ、分科會デ詳シク申上ゲ
マシタガ、六吋ヲ今マデ持クテ居ラナカッタ
ノデアリマス、日本ノ海軍ハ五吋半ノ砲ヲ
持ッテ居ッタノデアリマスカラ、今新タニ六
吋砲ヲ御造リニナッテ、亞米利加ノ八吋砲ニ
拮抗スルヤウナコトガ出來ルトハ、サスガ
日本人トシテモ信ジ得ラレナイノデアリマ
ス、六吋砲ノ數ヲ增セバ、八吋砲ノ數モ亦
增スト考ヘナケレバナラヌノデアリマス、
而モ現在ノ所ニ於テハ、其射程ニ於テ五千
「メートル」ノ開キガアリマス、到底八吋砲
ニ對シテハ、六吋ト云フモノハ拮抗ガ出來
ナイノデアリマス、此點ニ於テハ財部大臣
モ非常ニ間違タ考ヲ持ッテ居ラレタヤウデ
アリマスガ、故意ニサウ云フコトヲ仰シヤ
ルダラウト思ヒマスケレドモ斯ウ云フコト
ニ付テハ、戰術ノ專門家ノ言ニ從ハナケレ
バナラヌノデアリマジテ、私ハ暫ク沈默シ
ナケレバナラヌノデアリマスガ、素人考ニ
於キマシテモ、二吋ノ差デアリマスルケレ
ドモ、其砲口勢力ニ於テ三倍アル所ノ八吋
砲ニハ、到底拮抗ガ出來ナイト考ヘルノデ
アリマス、而モ將來ノ射距離ハ三万「メート
ル」內外位デアラウト思ヒマスル、恰モ「ラ
イオン」ノ前ニ鼠ガ出タヤウナモノデアリ
マシテ、何等戰局ヲ左右スベキモノデハナ
カラウト思ヒマス、幾ラ六吋砲巡洋艦ニ改
造ヲ御加ヘナサイマシテモ、到底主力艦ヲ
補フ所ノ目的ニハ副ハヌモノデアル、單上
八吋砲巡洋艦ニ向フコトニ付テハ、幾ラカ
其目的ヲ達スルコトガ出來マセウケレド
モ、我〓ノ目的ハサウデナイノデアリマス、
六割比率ノ戰艦ノ戰爭ヲ補フ爲ニハソレハ
不可能デアラウト思フノデアリマス、是等
ノ點ニ付テハ海軍大臣ハ詳シク御存ジデア
リマシテ、定メテ私共以上ニ之ヲ憂ヘテ居
ラレルカト思フノデアリマスガ······ニモ拘
ハラズ御答辯ハ少シモ其域ヲ出ナイデ、恃
ムベカラザル所ノモノヲ恃ンデ居ラレルヤ
ウデアリマス、一體倫敦條約ニ於テ權利ヲ
結バレテ、其權利ヲ行使サレテ初メテ條約
上ノ兵力量ト云フコトニナラナケレバナラ
ヌノデアリマス、全部ヲ行使サレテモ未ダ
足リナイト自分デ自ラ仰セニナッテ居ルノ
ニモ拘ラズ、其權利ヲ行使スルコトガ殘ッテ
居ルモノヲ、ソレハ他ヲ見テカラ計畫シヤ
ウヂヤナイカト、斯ウ仰セニナルコトノ不
合理ナルコトハ言ハズトモ知レタコトダラ
ウト思フノデアリマス、普通ノ補充計畫ト
ハ趣ヲ異ニシテ居ル、其全部ノ條約ノ權利
ヲ行使シマシテモ、未ダ國防ニハ缺陷ヲ生
ジテ居ルノダ、斯ウ云フコトヲ仰セニナッテ
居ル、其行使サルベキ所ノ權利ノ幾分殘ヲテ
居ル、具體的ニ申シタナラバ、ソレハ何ガ
殘ッテ居ルカト云ヘバ、驅逐艦ノ六艘、斯ウ
云フモノハ或ハ戰時急造ガ出來マスカラ後
デ宜カラウト思フノデアリマス、併シ航空
母艦、是ハ華盛頓條約ノ權利デアリマスル
ガ、一万二千噸バカリガ殘ッテ居リマス、之
ヲ何故ニ先ニ御造リニナラヌカ、恐ラク是
ハ維持費ガ非常ニカヽリマスカラ、其點ニ
於テ後〓シニサレタモノダト思フノデアリ
マス、ソコデ世界ノ海軍カラ影ヲ沒シタヤ
ウナ水雷艇ノヤウナモノマデ引ッ張リ出サ
V、或ハ動力ナイ潜水艦ノヤウナ、或ハ機
械水雷ノヤウナモノデ、國防ヲ完ウセラレ
ヤウトセラレル所ヲ見ルト、全ク窮セル所
以デアリマス、斯ウ云フ工合ニ平時ノ戰ニ
於テ、手ヲ捥ガレ、足ヲ掟ガレテシマッタナ
ラバ、日本ノ海軍ニドンナニ智謀ノ將士ガ
居リマシテモ、或ハ勇敢ナル將校下士卒ガ
居ッテモデス、國防ヲ完ウスルコトガ出來ナ
クナルダラウト思フノデアリマス、此海軍
ノ戰爭ハ申ス迄モナク機械ノ戰爭デアリマ
スカラ、サウ精神力ヲ以テ其缺陷ヲ補フコ
トハ出來ナイノデアリマス、或ル程度ハ機
械力ニ依ッテ左右サレテシマフノデアリマ
ス、一度太平洋ノ洋心ニ於テ決戰ガ行ハレ
タ場合ニ於テ、不幸ニシテ大敗シタナラバ、
帝國ハ其時ニ敗滅スルノデアリマス、斯ウ
云フ恐ルベキ所ノ缺陷ヲ其儘ニサレテ、航
空母艦ヲ御造リニナラナイ、機械水雷ノ敷
設艦モ一艘殘ッテ居ルノモ御造リニナラナ
イ、サウ云フモノガチヤント條約面ニ於テ
モ第二次補充計畫トシテ現ハレナケレバナ
ラヌモノデアルコトハ、條約ヲ見タモノニ
ハ直グソレガ映ルノデアリマス、ソレヲ未
ダ不明デアルカラ、財源ハ取ラヌデモ宜イ、
斯ウ仰セニナルヤウナコトデアルナラバ、
將來第二次計畫ハ御造リニナラヌト云フコ
トヲ玆ニ明言サレタラ宜カラウト思フノデ
アリマス、ソレナラバマダソレデ宜イノデ
アリマス、第二次計畫トシテ造ルカ造ラヌ
カ、誠ニ疑問デアル、又濱口總理大臣御自
身ハ、此事ハ實現スルノデアルト云フ御捺
印迄モ押サレテ居ラレル所ヲ見マスルト、
他日軍部ト內閣ノ間デ以テ御評議ガ決マッ
テ國民モ議會モ何ニモ知ラヌ中ニ、チヤン
トサウ云フ計畫ガ成立ッテ、急ニ我ミニ
向ッテ協賛ヲ御求メニナリマシテモ、其時ハ
モウ財源ガナイノデアリマスカラ、我ニト
テモ、ソレハ大變ト思ヒマシテモ、モウソ
レハ遲イノデアリマシテ、或ハ協贊モシ惡
クナルカモ分ラヌト考へマスカラ、海軍當
局者ガモウ第二次計畫ハ打ッチヤッタモノデ
アルト云フコトデアリマスシバ、我〓ハ
是以上何ヲカ心配スルコトハナイノデアリ
そく、必要ガアッテ、唯政府ノ關係上ソレハ
今言ッテハ工合ガ惡イカラ言ハナイダケデ
アルト云フコトデアリマスレバ、私ハ飽ク
マデモ國防ヲ双肩ニ擔ハレタ所ノ海軍大臣
ガ仰セニナラナケレバナラヌ、斯ウ云フ第
二次計畫ハアルノダガ、其財源ハ唯大藏大
臣ノ言明ダケデハ足リナイ、ソコデ一札モ
這入ッテ居ル、尙ホソレデモ足ラナイカラ或
種ノ財源ヲ今カラ求メテ居ルノダ、斯ウ言
ハレレバ、ソレデモ宜シイノデアリマス、
其點ニ付テ更ニ海軍大臣カラ御答辯ヲ願ヒ
タイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=4
-
005・安保清種
○國務大臣(男爵安保〓種君) 重ネテノ井
上男爵ノ御間ニ御答ヲ申上ゲマスガ、段〓
此海軍トシマシテ一ツノ信念ヲ持ッテ倫敦
會議ニ於テ主張イクシマシタ所謂三大主張
ト云フモノニ付テ、日本ホド能ク均衡ノ取
レタ艦隊ハナイ、〓究ニ〓究ヲ重ネテ、斯
ウ云フ所ニ到達シテ居ッタノデアル、ソレヲ
其倫敦會議ニ於テ一朝ニシテ、能ク釣合ノ
取レタノヲ破ラレタ、國防上ソコニ非常ナ
缺陷ヲ起シタモノデアラウト思フ、斯ウ云フ
段〓ノ御話デアリマス、屢〓申上ゲマイル
ヤウニ、三大主張ヲ致シマシタ其起リノコ
トハ、申上ゲマシタヤウニ、之ヲ以テ我ガ
海軍トシテハ最モ適當ナモノトシタコト
ハ、井上男爵ノ御說ノ通リデアリマス、サ
ウシテ我ニト致シマシテモ、是ガ最モ能ク
均衡ノ取レタ所ノ海軍勢力デアルト云フコ
トノ信念ヲ持ッテ居ッタコトハ、御言葉ノ通
リデアリマスルガ、今日茲デ段ミ御詮議ヲ
御進メニナルト云フコトニ付キマシテハ、
倫敦條約ノ善シ惡シト云フコトハ、モウ既
ニ是ハ私カラ申上ゲル必要モ少シモナイ、
今日ニ於キマシテハ、其條約ノ結果トシテ、
我ガ國防ノ上ニ、ドウ云フコトヲスレバ、
或ル兵種ニ不足ノアル所ハ補ヒヲ付ケ得ル
カ、卽チ現狀ニ卽シテ、ドウ云フ方法ヲ執。ツ
タナラバ、我ガ國防上最モソレガ適切デア
ルカト云フコトヲ考究シテ、ソレニ善處ス
ルヨリ外ナイ今日ハ立場ニアリマスルコ
トハ申上ゲマスルマデモナイノデアリマ
ス、從ッテ玆ニ計畫ヲ立テマシタ所ノモノ
ハ、卽チ幾度カ繰返シテ申上ゲマスヤウニ、
サウ云フ趣意ヲ以テ計畫ヲ立テマシタ所ノ
モノデアルノデアリマス、ソレデ第一次計
畫ト第二次計畫ト云フモノハ不可分ノモノ
デアルノニ、或ル政策上、或ハ或ル約束ノ
下ニ、是ハ便宜上分ケタノデアラウト思フ、
ソレハ甚ダ國防上カラ見テ適當デナイト云
フ、段ミ御言葉ヲアリマシタガ、是ハ第二
次計畫ト云フモノト、第一次計畫トガ、兩
方一緒ニナラナケレバ、此國防ガ不安デア
ルト云フ意味ハ無イコトハ、幾度モ申上ゲ
マシタノデアリマス、申スマデモナク玆ニ
一ツノ計畫ヲ立テテ、サウシテソレヲ何年
カノ間ニ其兵力ヲ整ヘルデノアリマスルカラ、
ソレヲ整ヘマスルニ付キマシテ、其間ニ國
防上缺陷ナイト云フ見込ヲ付ケナケレバ、
ソレヲ以テ當局ト致シマシテモ、責任ヲ以
テソレヲ甘ンズル譯ニハ參ラナイノデアリ
マシテ、卽チ此度ノ計畫ヲ以テ當面ノ情勢
ニ於テ國防上不安ナイト云フコトハ、ドウ
シテモソコニ一ツノ信念ヲ以テ立テマシタ
次第デアルト云フコトヲ申上ゲマスル次第
デアリマス、計畫ヲ變更シタト云フ意味ノ
コトニ付テノ御話モアリマシタガ、國防方
針ニ基ク作戰計畫ト云フモノハ變更ヲ致シ
マセヌ、之ヲ其儘維持遂行スル上ニ、ドウ
云フ風ニ之ヲ按配シタラ宜カラウト云フコ
トニ〓究ヲ進メマシテ、サウシテ此度ノ計
畫ニ於キマシテモ十分軍令當局ト······所謂
軍令機關ト愼重審議ヲ重ネタ上、玆ニ一ツ
ノ計畫ヲ立テテ此議會ニモ御協贊ヲ經ルト
云フヤウナ手順マデ進メマシタ次第デアリ
マシテ、玆ニ細カク八吋砲ト六吋砲ノ比較ト
云フヤウナ段ミノコトニナリマスルト云フト、
ナカナカ事ガ込入ッテ參リマスルガ、是ハ分
科會ニ於キマシテ大體ノコトヲ懇談會トシ
テ申上ゲマシタ以上ニハ、玆ニ其事ヲ再論
スルコトハ避ケタイト存ズルノデアリマ
ス、玆ニ井上男爵カラ段ミ御話ノアリマシ
タ、權利ヲ全部行使シテモ足ラヌ、全部行
使シテモ兵力ノ足ラヌト云フノニ以テ來テ、
其中ノ幾分ヲ殘スト云フコトガ卽チ甚ダ適
當デナイヂヤナイカト云フ御言葉ニ對シ
テ、此權利ヲ行使イタシマスルト云フ事柄
ハ、其權利ノ中ニ色ミノ兵種ガアルノデア
リマス、最モ必要ナモノハ申ス迄モナク全
部ヲ行使スルノデアリマスケレドモ、其中ニ
比較的是ハ延バシテ宜イト云フ兵種ト云フ
モノヲ、ソレヲ何モ全部行使シナケレバ國
防ニ傷ガ付クトカ、或ハソコニ或ル時期ニ
不便ヲ感ズルト云フヤウニハ認メテ居ラナ
イノデアリマシテ、サウ云フ意味デ全部權
利ヲ行使シテモ尙ホ足ラヌト仰シヤイマス
ガ、全部行使スルト云フコトハ、是非トモ
必要トスル其中ノ兵力ハ是ハ行使スルト云
フコトガモウ當然デアリマスルケレドモ、
ソコニ矢張リ相當區別ヲ置キマスル必要ガ
アリマスルト存ジマス、ソレカラ航空母艦
ノ噸數ガ有ルノニ尙ホ造ラヌカト云フコト
ハ、是ハ豫算委員會ニ於テ井上男爵ニ御答
イタシマシタガ、玆ニ一万二千噸殘ッテ居
リマスノデ、今直グ造ッテシマヘバ、モウ
後ト十年以上ニモ亙ッテ、日本デハ造ルコ
トガ出來マセヌ、華盛頓會議デ殘シタ大切
ナ噸數デアリマシテ、之ヲ今直グ造ルト云
フコトハ、餘程考慮ヲ必要トスルト同時
ニ、一方ニ於テハ龍驤ト云フモノヲ今拵ヘ
ツツアリマシテ、今マダ進水シマセヌ、來
月進水スルト云フ立場ニアルノデアリマス
カラ、斯ウ云フモノハ今暫ク殘シテモ宜カ
ラウ、斯ウ云フヤウナ意味モ含ンデ居リマ
スシ、機械水雷ヲ敷設スル五千噸ノ船ニ付
キマシテモ幾度カ申上ゲマシタヤウニ、今
八重山ト云フ船ノ建造中デアリマシテ、今
度ノ計畫ニ於テ一艘拵ヘルノデアリマスカ
ラ、他ノ一隻ハ今暫ク後ニヤル方ガ却ッテ
適當デアルダラウト云フ意味ニ於テ殘ッタ
ト云フ次第デアリマシテ、第二次計畫ト云
フモノノ內容ハ、先程モ申上ゲマシタヤウ
ニ、權利トシテハ決マッテ居リマスル······
大體決マッテ居リマスルケレドモ、其內容ハ
ドウ云フモノヲヤラウト云フコトニ付キマ
シテハ、マダ具體的ノ計畫ヲ決メテ居ラヌ
ト申上ゲルヨリ外ハナイノデアリマスカ
ラ、是ハ政策上······第一次第二次ト一緒ニ
ヤラナケレバナラヌノヲ、所謂內閣ノ政策
ノ上カラ之ヲ二ツニ分ケテ、サウシテ第二
次ハヤッテモ宜イ、ヤラヌデモ宜イト云フヤ
ウナ風ニ見セテ居ルト云フヤウナ事柄ハ毛
頭ナイノデアリマス、幾度カ繰返シマスヤ
ウニ、第二次ト云フヤウナ意味ノ次ノ計畫
ト云フモノモ、是ハ昭和十一年度以前ニ之
ヲ開始イタシマスル必要ハ、十分當局トシ
テモ認メテ居リマスル次第デアリマス、財源
ノコトニ付キマシテハ、先程申上ゲマシタ
ヤウナ意味デ、今度ノ計畫トソレカラ其後
ノ年度ノト、若干重ナルト云フコトニ付テ
ノコトハ、何トデモ方法ヲ立テテ、次ノ計
畫ヲ起シ得ラレルモノト確信ヲ致シテ居リ
マス次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=5
-
006・柳澤保惠
○委員長(伯爵柳澤保惠君) 皆樣ニ申上ゲ
やく、只今本會議デハ豫算案ニ對スル質疑
ノ通告ガ終リマシテ、藤村男爵ガ御演說中
ダト云フコトデアリマス、豫算案ハ特別會
計ト本豫算トヲ別々ニ採決ヲ致サレマス、
ソレデモウ直キ豫算案ガ採決ニナルサウデ
アリマスカラ、是デ休憩ヲ致シマスカ、或
ハ散會ヲ致シマスカ、御諮リ致シマス
〔「休憩」又「散會」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=6
-
007・柳澤保惠
○委員長(伯爵柳澤保惠君) 如何デゴザイ
マスカ
〔「散會々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=7
-
008・柳澤保惠
○委員長(伯爵柳澤保惠君) ソレデハ本日
ハ是デ散會イタシマス、明日ハ午前十時ニ
始メマス
午後三時五十二分散會
出席者左ノ如シ
委員長伯爵柳澤保惠君
委員
子爵梅小路定行君
子爵大久保立君
子爵大河內輝耕君
子爵裏松友光君
水野鍊太郞君
伊澤多喜男君
男爵小畑大太郞君
男爵黑田長和君
男爵井上〓純君
片岡直溫君
藤田四郞君
湯地幸平君
後藤文夫君
大橋新太郞君
尾崎元次郞君
田中一馬君
小林暢君
森田福市君
國務大臣
海軍大臣男爵安保〓種君
政府委員
大藏省主稅局長靑木得三君
專賣局長官平野亮平君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005902374X00319310313&spkNum=8
-
本文はPDFでご覧ください。
3. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。