1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年二月九日（月曜日）午前十時三十三分開議
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議事日程 第十三號
昭和六年二月九日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件（第十二日）
第二 請願委員長報告
第三 明治四十年法律第十一號中改正法律案（政府提出） 第一讀會
第四 大正十三年法律第二號中改正法律案（政府提出） 第一讀會
第五 一時金廢兵恩給法中改正の請願 會議
第六 萩線鐵道速成の請願 會議
第七 權利者不明の運送品等の處分に關する法律制定の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲ
シテ報〓ヲ致サセマス
本日著作權法中改正法律案特別委員會ニ於
テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ如シ
委員長伯爵柳原義光君
副委員長水野鍊太郞君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=1
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002・徳川家達
○譲長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス此際御諮リヲ致シタイコト
ガゴザイマス、本日モ都合ニ依リ日程ヲ變
更シテ、第二、第三、第四、第五、第六、
第七ヲ、第一ノ國務大臣ノ演說ニ關スル
件、第十二日ノ前ニ議シタイト存ジマス、
御異議ゴザイマセヌカ
號外昭和六年二月十日
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 請願委員長報
貴〓岡子爵
〔子爵〓岡長言君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=4
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005・清岡長言
○子爵〓岡長言君 請願委員會ノ第一囘報
〓、卽チ昭和五年十二月二十六日ヨリ昭和
六年二月七日マデノ御報告ヲ申上ゲマス、
去ル一月二十二日ニ委員會ヲ開キマシタ、
而シテ正副委員長ノ選擧及ビ分科決定竝ニ
分科擔當委員ヲ選定イタシマシタ、第一分
科ハ大藏省、農林省、商工省、第二分科ハ
外務省、內務省、文部省、第三分科ハ內
闇、司法省、遞信省、拓務省、第四分科ハ
陸軍省、海軍省、鐵道省、各分科ノ主査及ビ
副主査ノ選擧ハ第二、第三、第四ノ各分科
ハ一月二十四日ニ、第一分科ハ一月二十九
日ニ終リマシタ、次イデ請願委員會開會定
日ヲ每週金曜日ト定メマシテ、一月二十二
日ト二月六日ノ二囘開會イタシマシタ、請
願委員分科會開會定日ヲ第一、第三ノ兩分
科ハ每週月曜日ニ、第二、第四ノ兩分科ハ
每週火曜日ニ定メマシテ第一、第三ノ兩
分科ハ二月二日ニ第二、第四ノ兩分科ハ二
月三日ニ各一囘ヅツ開會イタシマシタ請
願文書表報告ハ第一囘ヲ一月二十八日ニ
第二囘ヲ二月四日ニ、又請願委員會特別報
〓ハ二月六日ニ提出イタシマシタ、請願受
領件數ハ百十七件、之ニ連署イタシテ居リ
マスル人名數ハ八万三百五十名デゴザリマ
ス、次ニ審査ノ經過及ビ結果ヲ御報〓イタ
シマス、請願文書表ニ揭載イタシタ件數ハ
第一囘、第二囘ヲ通ジマシテ九十五件デ、
是ガ審議ノ結果、院議ニ付スベシト議決イ
タシタモノハ四件、院議ニ付スルヲ要セズ
ト議決ヲ致シタモノガ四件、卽チ文書表第
十號、第十四號、第二十一號、及第二十八
號デゴザイマス、審査未了ニ屬スルモノ
八十七件、尙ホ請願交書表ニ未ダ揭載ニ至
ラヌモノガ二十二件デゴザイマス、以上ハ
昭和六年二月七日午後四時締切マデノ御報
〓デゴザイマス、此機會ニ於キマシテ請願
委員會ノ希望ヲバ簡單ニ申述ベテ置キタイ
ト思フノデアリマス、議院ニ提出セラレマ
シタ請願ハ深切丁寧ニ調査審議イタシマシ
テ、其民意民情ヲバ政府ニ取次グト云フコ
トガ請願ノ本義ト思ヒマス、採擇セラレマ
シタ請願ヲバ御認容ノ卽チ實行如何ハ、政
府ノ自由デアルコトハ申スマデモナイノデ
アリマス、併ナガラ折角愼重審議イタシマ
シタル請願ニ對シテ、是ガ實蹟ヲ見マスル
コトハ案外少ナイト云フコトハ頗ル遺憾ト
スル所ゴザイマス、希クハ政府ハ議院ノ意
思ヲ尊重シ、且ツ民意民情ノアル所ニ留意
セラレマシテ、本院ニ於テ採擇セラレマシ
タ請願ハ、出來得ル限リ速ニ實行施設セラ
ルルコトニ努力セラレルヤウ切望スル次第
デゴザイマス、是ガ請願委員會ノ希望デゴ
ザイマス、尙詳シイコトハ請願委員會速記
錄ニ就テ御承知ヲ願ヒタイト思フノデゴザ
イマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 明治四十年法律
第十一號中改正法律案、政府提出、第一讀
會
明治四十年法律第十一號中改正法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和六年二月五日
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞
內務大臣安達謙藏
明治四十年法律第十一號中改正法律案
明治四十年法律第十一號中左ノ通改正ス
本法ニ左ノ題名ヲ附ス
癩豫防法
第二條ノ二行政官廳ハ癩豫防上必要ト
認ムルトキハ左ノ事項ヲ行フコトヲ得
一癩患者ニ對シ業態上病毒傳播ノ虞
アル職業ニ從事スルヲ禁止スルコト
二古著、古蒲團、古本、紙屑、襤褸、
飮食物其ノ他ノ物件ニシテ病毒ニ汚
染シ又ハ其ノ疑アルモノノ賣買若ハ
授受ヲ制限シ若ハ禁止シ、其ノ物件
ノ消毒若ハ廢棄ヲ爲サシメ又ハ其ノ
物件ノ消毒若ハ廢棄ヲ爲スコト
第三條行政官廳ハ癩豫防上必要ト認ム
ルトキハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ癩患者
ニシテ病毒傳播ノ虞アルモノヲ國立癩
療養所又ハ第四條ノ規定ニ依リ設置ス
ル療養所ニ入所セシムベシ
必要ノ場合ニ於テハ行政官廳ハ命令ノ
定ムル所ニ從ヒ前項患者ノ同伴者又ハ
同居者ニ對シテモ一時相當ノ救護ヲ爲
スベシ
前二項ノ場合ニ於テ行政官廳ハ必要ト
認ムルトキハ市町村長又ハ之ニ準ズベ
キ者ヲシテ癩患者及其ノ同伴者又ハ同
居者ヲ一時救護セシムルコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ市町村長又ハ之ニ準
ズベキ者ニ於テ一時救護ヲ爲ス場合ニ
要スル費用ノ必要アルトキハ市町村又
ハ之ニ準ズベキモノニ於テ繰替支辨ス
ベシ
第四條第三項ヲ削ル
第四條ノ二中「被救護者」ラ「入所患者」ニ
改ム
第五條私立ノ癩療養所ノ設置及管理ニ
關シ必要ナル事項ハ主務大臣之ヲ定ム
第六條北海道地方費又ハ府縣ハ命令ノ
定ムル所ニ從ヒ第二條ノ二第一號ノ規
定ニ依ル從業禁止又ハ第三條第一項ノ
規定ニ依ル入所ニ因リ生活スルコト能
ハザル者ニ對シ其ノ生活費ヲ補給スベ
第七條第一項ヲ左ノ如ク改メ同條第三項
己印
左ノ諸費ハ北海道地方費又ハ府縣ノ負
擔トス
第二條ノ二第二號ノ規定ニ依リ行
政官廳ニ於テ物件ノ消毒又ハ廢棄ヲ
爲ス場合ニ要スル諸費
二入所患者(國立癩療養所入所患者
ヲ除ク)及一時救護ニ關スル諸費
三檢診ニ關スル諸費
四其ノ他道府縣ニ於テ癩豫防上施設
スル事項ニ關スル諸費
第七條ノ二本法ニ依リ北海道地方費又
ハ府縣ニ於テ負擔スベキ費用ハ東京府
伊豆七島及小笠原島ニ於テハ國庫ノ負
擔トス
第八條中「前條」ヲ「第六條及第七條ノ規
定ニ依ル」ニ改ム
第九條中「扶養義務者」ヲ「親族」ニ改ム
第十條第一條ノ規定ニ違反シ又ハ第二
條ノ二ノ規定ニ依ル行政官廳ノ處分ニ
違反シタル者ハ百圓以下ノ罰金又ハ科
料ニ處ス
第十條ノ二第二條ノ規定ニ違反シタル
者ハ科料ニ處ス
第十一條醫師若ハ醫師タリシ者又ハ癩
豫防事務ニ關係アル公務員若ハ公務員
タリシ者故ナク業務上取扱ヒタル癩患
者又ハ其ノ死者ニ關シ氏名、住所、本
→
籍、血統關係又ハ病名其ノ他癩タルコ
トヲ推知シ得ベキ事項ヲ漏泄シタルト
キハ六月以下ノ懲役又ハ百圓以下ノ罰
金ニ處ス
第十二條中「行政官廳ニ於テ救護中」ヲ
「療養所ニ入所中又ハ第三條第二項及
第三項ノ規定ニ依ル一時救護中」ニ改
ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
參照
明治四十年法律第十一號ハ癩豫防ニ
關スル法律ナリ
〔政府委員齋藤隆夫君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=6
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007・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 明治四十年法律
第十一號中改正法律案、右提案ノ理由ヲ大
要申述ベマス、癩ノ豫防根絕ガ國民保健上
ハ勿論、人道上カラ見マシテモ忽諸ニ付ス
ルコトノ出來ナイコトハ、言フヲ俟タナイ所
デゴザイマシテ、當局ハ從來之ニ向クテ銳意
努力ヲ續ケテ參ッタノデアリマス、其結果近
年療養所モ漸次擴張增設セラレマシテ、患
者ノ數モ逐年減少スルニ至リマシタコトハ
誠ニ喜バシキ次第デアリマス、併ナガラ國
內ニハ尙ホ万位ヲ算スル患者ヲ有シ、收容
設備ハ僅ニ三千ヲ出デナイト云フ狀況デア
リマシテ、今後更ニ一段ノ努力ヲ要スルモ
ノガアルノデゴザイマス、現在施行セラレ
テ居リマスル癩豫防ニ關スル法律ハ明治四
十年ノ制定ニ係リ、其企圖スル目的ハ患
者ノ救護、就中浮浪徘徊ノ徒タル患者ノ
救護ニアリマシテ、一般ノ癩患者ノ處置、
其他本病豫防上必要トスル數多ノ事項ニ
付キマシテハ遺憾ノ點ガ少クナイノデア
リマス昨秋畏クモ皇太后陛下ヨリ癩ニ關
シテ誠ニ有難キ御思召ノアリマシタコト
ハ、各位ノ御存知ノ通リデアリマスルガ、
最近國立癩療養所モ開設セラルルコトニナ
リマシテ、又社會各方面ニモ癩ノ救護豫防
ヲ目的トシタ團體ノ活動ヲ見ルト云フ有樣
デ、國民ノ上下ヲ通ジテ癩豫防ニ關スル輿
論ガ喚起セラルルニ至リマシタ、之ヲ對外
關係ヨリ見マスルモ、國家ノ體面上、本病
豫防ノ徹底ヲ期スベキ必要ガ愈〓緊緊デア
ルト存ジマスルノデ、此機會ニ於キマシテ
本法ヲ改正シテ〓豫防上遺憾ナキヲ期シタ
イ趣旨ヲ以テ、玆ニ癩豫防法中改正案ヲ提
出イタシタ次第デアリマス、本案ニ依ル
改正條項ハ十數項ニ亙ルノデゴザリマス
ルガ、其主要ナル事項ハ大體次ノ諸點ニア
ルノデアリマス、卽チ第一ハ患者ノ療養所
入所資格ヲ擴張シタコトデアリマス、現行
法ニ於キマシテハ患者ノ入所資格ハ癩患者
ニシテ療養ノ途ヲ有セズ且ツ救護者ナキモ
ノト限定サレテ居ルノデゴザイマスルガ、
是デハ其範圍ガ狹少ニ過ギ癩豫防上且ツ癩
患者收容上不適當デアリマスルカラ、之ヲ
改メマシテ、癩病傳播ノ虞アル患者トシマ
シテ、之ニ該當スルモノト認ムベキ患者ニ
對シマシテハ其資力ノ有無、救護者ノ存
否ヲ問ハズ、總テ入所セシメ得ルコトニシ
タノデアリマス、第二ハ患者ノ入所費及ビ
患者竝ニ其同伴者、同居者ニ對スル一時救
護費ハ之ヲ國家又ハ道府縣ノ負擔トスル
コトニ改メタノデアリマス、卽チ從來是等
ノ費用ハ本人又ハ其扶養義務者ノ負擔デア
マシタノデ其結果ハ屢、患者ノ入所ヲ
妨ゲ或ハ思ハザル家庭上ノ悲劇ヲ惹起ス
等、癩豫防上却ッテ所期ノ目的ト背馳スルガ
如キ事例ニ乏シクナカッタノデアリマス、仍
テ是ハ今後國庫又ハ道府縣ニ於キマシテ之
ヲ負擔スルコトニ致シタノデアリマス、第
三ハ癩患者ニ對シ業態上病毒傳播ノ虞アル
職業ニ從事スルヲ行政官廳ニ於キマシテ禁
止シ得ルコトヲ認メ、其從業禁止ニ依リ又
ハ療養所入所ニ依ッテ生活スルコト能ハザ
ルニ至リマシタモノニ對シマシテハ道府
縣カラ其生活費ヲ補給サセルコトニ致シタ
點デアリマス、是ハ結核豫防法等ニハ現ニ
其規定ガアリマスルノデ、癩ノ場合ニ於キ
マシテモ同樣ノ必要ガアルト考ヘラレルカ
ラデアリマス、第四ハ醫師又ハ癩豫防事務
ニ關係アル公務員ニ對シ、業務上取扱ヒマ
シタ癩患者又ハ其死者ニ關スル氏名、血族
ノ關係又ハ癩タルコトヲ推知シ得ルガ如キ
事項ノ漏泄ヲ禁ズルコトニシタノデアリマ
ス、是ハ癩病ニ對スル今日ノ社會事情ヲ考
慮シテ最モ必要ノコトニ存ゼラレルカラデ
アリマス、其他病毒ニ汚染シ、又ハ汚染ノ
疑ヒアル物件ニ對スル處置ニ關スル規定ノ
追加、私立療養所ノ道府縣立療養所代用
規定ノ廢止、私立療養所ノ設置管理ニ關ス
ル監督規定ノ追加、癩ト診斷セラレル場合
ニ於ケル檢診請求權者ノ改正等ヲ致シタノ
デアリマス、以上簡單ナガラ要旨ヲ御說明
申上ゲマシタガ、何卒愼重御審議ノ上御協
贊アラムコトヲバ切ニ御願ヒ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=7
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008・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ハ衞生組合
法案外一件ノ特別委員ニ村託イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 大正十三年法律
第二號中改正法律案、政府提出、第一讀會
大正十三年法律第二號中改正法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和六年二月五日
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞
外務大臣男爵幣原喜重郞
拓務大臣松田源治
遞信大臣小泉又次郞
海軍大臣男爵安保〓種
大正十三年法律第二號中改正法律案
大正十三年法律第二號中左ノ通改正ス
本法ニ左ノ題名ヲ附ス
海軍軍備制限條約實施法
第一條第二項中「大正十一一年條約第二號
海軍軍備制限ニ關スル條約」ノ下ニ「及昭
和六年條約第一號千九百三十年「ロンド
ン」海軍條約」ヲ加フ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員男爵矢吹省三君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=9
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010・矢吹省三
○政府委員(男爵矢吹省三君) 本案提出ノ
理由ヲ御說明申上ゲマス昭和六年條約第
一號、千九百三十年「ロンドン」海軍條約ハ、
御承知ノ通リ日英米三國ニ關スル限リ昨年
十二月三十一日ヨリ效力ヲ生ズルコトト相
成リマシタ、此條約ノ規定ニ依リマスト、
大正十二年條約第二號海軍軍備制限ニ關ス
ル條約ノ場合ト同樣ニ、政府ハ單ニ政府自
身ノ行爲ヲ覊束セラルルニ止マリマセヌ、
其國內一般ニ於ケル一定ノ行爲ヲモ亦之ヲ
禁壓スルノ義務ヲ負ハセラルルノデアリマ
ス、從クテ此義務ヲ履行イタシマス爲ニハ國
內法ノ發布ヲ必要ト致シマスガ、現ニ大正
十二年條約第二號、海軍軍備制限ニ關スル
條約ニ付キ、大正十三年法律第二號、海軍
軍備制限ニ關スル條約ノ實施ニ關スル法律
ガ施行セラレテ居ルノデアリマス、故ニ玆
ニ新タニ法律ヲ制定セズ、玆ニ右法律ニ適
當ナル改正ヲ施サムトスル次第デアリマ
ス、本法律改正ハ、右ノ趣旨ヲ以テ立案セ
ラレタモノデアリマシテ、國際條約ノ義務
ヲ履行スル上ニ於キマシテ、誠ニ必要ナル
モノデゴザイマスカラ、何卒御協贊ヲ給ハ
ラムコトヲ希ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ御質疑モナ
イト認メマスカラ特別委員ノ氏名ヲ書記
官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔山本書記官朗讀〕
大正十三年法律第二號中改正法律案特別
委員
公爵德川圀順君伯爵黑木三次君
子爵松平康春君男爵坂本俊篤君
內田重成君山川端夫君
鍋島桂次郞君田所美治君
八馬兼介君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 一時金癈兵恩給
法中改正ノ請願、萩線鐵道速成ノ請願、權
利者不明ノ運送品等ノ處分ニ關スル法律制
定ノ請願、會議
〔左ノ意見書案ハ朗讀ヲ經サルモ參照
ノタメ玆ニ載錄ス以下之ニ傚フ〕
意見書案
一時金癈兵恩給法中改正ノ件
島根縣邑智郡高原村平民僧侶三浦信
行外一名呈出
廣島縣尾道市十四日町公吏國安末吉
外十三名呈出
右ノ請願ハ世態ノ進運ト經濟界ノ推移ニ
伴ヒ文武官ノ恩給ハ漸次改正セラレタル
ニ拘ラス軍人ノ傷痍者ノ大半ハ單ニ一時
金ヲ受ケタルノミニシテ生活上何等ノ保
障ナク爲ニ今ヤ窮境ニ陷レルモノ尠カラ
サルハ國民士氣振興上甚タ遺憾ナルニ依
リ速ニ恩給法ヲ改正シ以テ此等ノ者ニ對
シテモ優遇安定ノ途ヲ講セシメラレタシ
トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採
擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別冊及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
萩線鐵道速成ノ件
山口縣阿武郡三見村長山中貞七外十
名呈出
右ノ請願ハ萩線鐵道ハ目下工事中ナルモ
之ニ依り山陰線鐵道全線ノ開通ヲ見ルノ
ミナラス日本海方面ニ於ケル產業ノ發達
ニ資スルコト尠カラサルヲ以テ工事未著
手ノ箇所ハ速ニ起工セシメラレタシトノ
旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五
條ニ依リ別冊及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
權利者不明ノ運送品等ノ處分ニ關スル
法律制定ノ件
大阪市北區堂島濱通株式會社浪華倉
庫專務取締役岡戶諭介外十一名呈出
右ノ請願ハ權利者不明ノ運送品、寄託品
等ノ處分ニ關スル法律ハ今尙ホ之レカ制
定ナキ爲メ關係業者ハ其ノ處置ニ迷ヒ或
ハ法ニ觸ルルヲ恐レテ屢々物品ノ自然潰
滅ヲ待チ或ハ放置スルニ至リ國家經濟上
ノ損失尠少ナラサルヲ以テ速ニ請願人等
處案ノ如キ法律ヲ制定セラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
キモノト議決致候因テ議院法第六十五條
ニ依リ別冊及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 何レモ請願委員
長ノ報〓通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=13
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014・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 國務大臣ノ演說
ニ關スル件第十二日、山岡萬之助君ノ登壇
ヲ望ミマス
〔山岡萬之助君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=15
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016・山岡萬之助
○山岡萬之助君 私ハ五十八議會ニ於キマ
シテ不景氣失業問題ニ關シマシテ、政府
ニ質疑ヲ致シタノデアリマス、政府ニ於テ
モ責任ヲ以テ是ニ適當ナル措置ヲ執ル、
斯ウ云フ御答辯デアリマシタ、爾來其爲ス
所ヲ靜觀イタシテ居リマシタノデスガ、次
第ニ不景氣ハ深刻ニナリマシテ、國民ノ不
安ト云フモノガ誠ニ繁クナリマシタノデア
リマス、玆ニ國民ノ生活不安ノ問題ト致シ
マシテ、經濟上、思想上ヨリ致シマシテ
政府ニ質問モ致シ、御答辯ヲ求メタイト思
フノデアリマス、前議會ニ於キマシテ濱口
總理ハ、不景氣ト失業問題ト云フモノハ現
內閣ノ整理緊縮ノ結果デアルコトハ認メル、
併シソレニ付テ世界的ノ不況モアルノデア
ル、之ニ付テハ緊縮ノ結果ニ於ケル責任ハ
負ヒ世界的ノ不況ノ結果ニ付テハ政府ハ
責任ヲ以テ之ニ對策ヲ講ズル、其對策トシ
テハ唯單ニ或措置ヲ執ルト云フニ非ズシ
テ、具體的ノ施設ヲシナケレバナラナイ、
其具體的ノ施設トシテ擧示セラレタル事柄
ハ產業ノ合理化、國產愛用、船舶金融、
輸出補償、肥料ノ配給、是等ノコトヲ、而モ
緊縮ノ方針ノ範圍ヲ出ナイ限リニ於テ產業
振興ノ種ヲ播ク、斯樣ニ仰シヤッタノデアリ
マス、デ此御言葉ノ中ニハ緊縮政策ハ結果
ニ付テハ責任ヲ感ズル而シテ世界不景氣
ノ結果ニ付テハ是ハ現政府ニ於テ對應策
ヲ執ラネバナラナイ、其對應策ハ只今申上
ゲタ事柄デアリマシテ、而シテ對應策ハ緊
縮方針ノ範圍ヲ出ナイ、此事ガ極メテ重要
ナル條件トナッテ居ルノデアリマス、ソコデ
私ハ政府ノ爲サッタコトガ、此御言葉通リニ
出來テ居ルノデアルカ如何、斯ウ云フ意味
ニ於テ今日迄ナサッタコトヲ觀察イタシタ
イノデアリマス、デ政府ハ斯ノ如ク責任ヲ
以テ對應策ヲ御執リニナルト云フノデアリ
マスルカラ、議會終了後ニ於テハ速ニソレ
ゾレ措置ヲ御執リニナラナケレバナラヌコ
トハ申ス迄モナイ話デアリマス、然ル所議
會ガ終了スルト二十日程過ギマシテ、此議
場ニ於テモ屢、皆樣ノ御言葉ニアリマシタ
ヤウニ八千百万圓ノ豫算替ヲ致シタ、豫算
ノ辻褄ガ合ハナクナリマシタカラ、玆ニ其
手續ヲシテ、結果トシテ六千五十万圓ヲ行
政經濟化ノ名ノ下ニ整理ヲシテ、斯ウ云ッタ
風ニ豫算替ニ急ニシテ財界ノ不況ニ對スル
對策ヲ速ニ立テル餘地ガナカッタ、此豫算替
ノコトニ付キマシテハ前議會ニ於キマシ
テ私モ此席ニ於テ申上ゲタノデアリマス
豫算ハ一國ノ政治ニ於キマシテハ頗ル重要
ナモノデアリマシテ、是故ニ外國ニ於テハ
法律トナッテ居リマスルコトハ御承知ノ通
リデアリマス、法律ニナッテ居レバ之ヲ變ヘ
ルコトノ出來ナイコトハ疑ヒノナイ所デア
リマス、我國ノハ法律デアリマセヌガ故ニ、
實行豫算ト云フモノガ屢〓現ハレルノデア
リマス然レドモ豫算ノ性質ハ何ト申シテ
モ單純ナルモノニ非ズシテ、議會ノ協贊ヲ
經マシタル以上ハ國民ハ之ニ依ッテ本年ノ
政府ノ財政施設ハドレダケデアルト云フコ
トヲ了承シ、ソレニ依ッテソレ〓〓ノ事業ヲ
遂行スル意味ニナルノデアルコトハ勿論デ
アル、其上ニ行政官廳ノ事務ノ準則トナッテ
參リマスルノデアリマス、之ヲ現內閣ノ如
ク、一箇年ノ間ニ四囘ノ變更ヲ企テルト云
フコトハ、是ハ極メテ不都合ナコトデアリマ
ス、啻ニ官廳ノ事務ノ紛更ヲ來スダケデハ
ナク、國務ノ堅實性ト云フモノハ、之ニ依ッ
テ破ラレテシマフト思フノデアリマス、而
モ立法府ノ職能トシテ最モ大切ナル所ノモ
ノヲ、政府ノ考ヘ一ツニ依テテヘラレルト
云フコトニナリマシテハ協贊ノ實ト云フ
モノガ何レニアリヤト云フコトニナルト思
フノデアリマス、現內閣ハ豫算ニ付テハ誠
ニ惡例ヲ私ハ殘シタモノト申サナケレバナ
ラヌト思フノデアリマス、斯ノ如キ狀況ニ
於キマシテ、豫算ノ關係ヲ整理シ、變更ス
ルガ爲ニ他ノ重要ナル財界對策ニハ力ヲ十
分ニ盡スコトガ出來マセヌガ爲ニ、國民生
活ハ日ニ日ニ惡化イタシマシテ、精神上ニ
モ、卽チ思想的ニ良クナイ結果ヲ來シテ居
ルノデアリマス、私ハ玆ニ政府ガ財界對策
トシテ爲サックコトヲ指摘シテ見タイト思
フノデアリマス、濱口總理ノ御述ベニナリ
マシタ所ノ產業合理化デアリマス、此產業
合理化ノコトハ一般ニ廣ク唱ヘラレテ居リ
マスルノデ、餘程良キ仕事ガ出來テ居ルト
世間ハ感ジテ居ルト思フノデアリマス、而
モ產業合理局ハ商工大臣ヲ長官ト致シテ居
ル所ノ大キナ局デアリマス、ソレガ昨年ノ
六月ニ設ケラレマシテ爾來何ヲ爲サッタカ、
僅ニ三千万圓ノ生產高ヲ持ッテ居ル、縞三〃
綾及綿縮ノ統制ヲ致シタニ過ギマセヌノデ
アリマス、ソレノ外ニ何モ致シテ居リマセ
ヌ、卽チ效果ノ擧ガッタ仕事ハ此二ツノ外何モ
致シテ居リマセヌ、卽チ效果ノ擧ガッタ仕事
ハ此二ツノ外ニ無イノデアリマス、ソレデ
アリマスカラ、產業合理化ト政府ガ仰セガ
アッテ、爲サッタト云フコトハ、殆ド此不況
對策ニハ效果ガナイト申上ゲテ宜イノデア
リマス、又產業合理化ト云フコトガ、主務大
臣デアラセラレル商工大臣ハ當面ノ此不
景氣ノ問題ニモ效ガアルヤウニ御考ヘニナッ
テ居ルヤウデアリマス、此事ハ濱口總理大
臣ノ御言葉ガアルノデアリマス、卽チ一時
ノ對策問題デハナク、永キニ亙ル國家的重
大問題デアッテ、國民ト產業自體ノモノデア
リ、合理局ト云フモノハ、水先案內ノ役ニ
止マルモノデアルト明言セラレテ居ルノデ
アリマス、其通リデアリマシテ、是ハ恒久
對策デ、產業ノ統一、規格ノ問題及ビ單純
化ヲ圖リ、依ッテ大量生產ヲシ、生產費ヲ減
額スル、是ガ本體デアルト思フノデアリマ
ス、ソレデアルカラシテ、當面ノ急場ニハ
間ニ合ハナイ仕事デアリマス、ソレデ合理
化ノコトニ付キマシテハ、私ハ玆ニ今一ツ
附加ヘテ申シテ見タイノデアル、是ハ政府
與黨ノ民政黨ノ宣言ニ於テ、產業ハ合理化
シ、サウシテ能率ヲ高メル、斯樣ナ言葉ガ
アリマス、是ダケ宣言書ニアリマス以上ハ、
組織早々之ヲ實施スルノガ當然デアラウト
思フノデアリマス、此內閣ノ政策トシテハ
產業合理化ト云フコトハ大ナル政策ニナ.ッ
テ居ル、然ラバ直チニ實施スルノガ當然デ
アリマス、ソレヲ一昨年ノ十二月ニナリマ
シテ商工審議會カラ上申ガアリ玆ニ臨時
產業審議會ガ出來マシテ、ソレカラ漸ク昨
年ニナッテ其事務ガ實際化シテ、昨年ノ六月
ニ合理局ガ出來タ、是ハ誠ニ政治ノ行キ方
トシテハ私ハ適當デナイト想フ、政府ハ金
解禁ヲ目標ニ置イテ御進メニナッタ以上ハ
金解禁ノ爲ニ必要デアル生產費ノ減額ト云
フコト、之ニ付テ合理化ノコトヲ速ニ御圖
リニナルト云フコトハ當然ナコトデアッタ
ト考ヘマス、之ヲ漸クニシテ組閣後約一年
後ニ御作リニナッテ、其效果ハ先キニ申上
ゲタ通リノ效果ホカナイコトハ我とハ誠
ニ遺憾ニ思フ點デアリマス、ソレハ金解禁
ノ準備トシテ、是ハ極メテ必要ナコトデ
アッタト私ハ思ヒマス、生產費ヲ減額シテ行
クト云フコトガ、物價ヲ低落セシメル所以
デアリマス、ドウシテモ爲サラネバナラナ
カッタコトデアルト思ヒマス、ソレカラ
生產費ヲ減額スルコトニ付キマシテ、政府
ハ御承知ノ如クニ減俸問題ヲ考究イタサレ、
之ヲ一昨年ノ十月ニ公表イタサレタノデア
ル、其減俸ノ理由ハ、物價ガ低落シタカラ
シテ、減俸一割ヲスルコトガ適當デアル、デ
政府ハ之ニ依ッテ官吏ノ俸給ヲ減ジ、其比率
ニ於テ地方團體ノ公吏其他ノ職員ノ俸給ヲ
減ジ、更ニ一般ノ會社銀行等ニ其範ヲ示シ
テ、之ニ傚ハセヤウトナサッタコトハ、私ハ
明瞭ダト思フノデアリマス、之ヲ發表セラ
レタノガ卽チ十月十六日デアリマシテ、官
民協力シテ減俸ヲヤレバ、必ズ物價ハ下
落シ、從ッテ其程度ニ於テ國民經濟ノ立直
シガ出來ル、斯ウ云フコトヲ井上藏相ハ御
述ベニナッタ、所ガ輿論ノ反對ヲ受ケマシ
テ非常ニ問題トナリマシタルコトハ御承知
ノ如クデアリマス、ソコデ十九日二十日其
邊ニ於テハ井上藏相ハ此案ハ如何ナル意
味ニ於テモ變更シナイ、斯ウ云フコトヲ公表
イタサレテ居ル然レドモ世ノ中ノヤカマ
シイ結果ト致シマシテ遂ニ之ヲ棄テヽシマッ
ク、面モ閣外ノ仙石氏ノ忠言ヲ容レテ之ヲ
棄テタノデアリマス、而モ其棄テタ結果カ
ラ見ルト云フト、恰モ弊履ノ如ク棄テヽ而
シテ其後ニハ此事ニ付テハサッパリ忘レタヤ
ウナ態度ヲ御執リニナッテ居ルノデアリマ
ス是ハ私ハ頗ル遺憾ト致ス所デアリマ
ス、何故ト申シマスレバ金ハ解禁イタサ
レマスト云フト一割以上ノ價格ガ騰貴シテ
其割合ニ物價ガ下落イタシマス、ドウシテ
モ俸給ヲ一割減スト云フコトハ、是ハモウ是
非爲サネバナラヌコトデアッタノデアリマ
ス、又當然ノコトデアル、故ニ金ヲ解禁シ
テ物價ヲ低落セシメル爲ニ生產費アソレダ
ケ滅シテ、斯ノ如クニシテ金解禁ノ準備行
爲ヲシテ進ムニハ、是ガ卽チ根本政策デ私
ハアッタト思フノデアリマス、卽チ此議席ニ
於キマシテ、井上藏相ハ低物價政策ト云フコ
トハ國際貸借ヲ改善スル上ニ於テハ必要デ
アル、其低物價政策ニ付テハ生產費ヲ減ゼ
シメナケレバナラヌ、是マデハ衆議院ニ於
テモ左樣ニ御述ベニナッテ居ル、先日其上ニ更
ニ生產費ヲ減ジマスルニハ勞銀ヲ下ゲナタ
テハナラナイ、此御言葉ガアッタノデアリマ
ス此勞銀ヲ下ゲルト云フコトガ是ガ何ト
シテモ必要ナコトデアル、故ニ俸給ノ減額
ヨリシテ勞銀ノ低減ヲ致スト云フコトハ
現內閣ノ金解禁ニ對スル政策トシテハ、是
ハ根本的ノモノダト私ハ考ヘマス故ニ之
ヲ抛棄ナサッタト云フコトハ、重大ナル政策
上ノ缺陷ヲ生ジタモノト私ハ認メル、之ニ
付テハ特ニ政府ノ辯明ヲ求メタイノデアリ
いい、次ニ商工方面ニ於ケル對策ト致シマ
シテハ國產ノ愛用デアリマス、國產愛用ノ
政府ノ宣傳ニ依リマシテ、勿論或ル程度ノ
效果ハ有ッタンデアリマセウ、然レドモ商工
大臣ガ御考ヘニナッテ居ル六億圓ノ額ダケ、
外國品ニ內國品ヲ以テ代リ得ルト云フ、其
額ニ付テデアリマス、商工大臣ハ其半額三
億圓ダケデモ、十二万人ノ人ノ救濟ニナ
ル、斯ウ云フ御言葉デアリマス、御言葉ハ
誠ニ結構デアリマスルケレドモ、金解禁ノ
結果トシテ、財界ハ極度ノ疲弊ニ陷,テ居
リマシテ、產業ト云フモノガ、卽チ工場ト
云フモノガ閉鎖シテ、生產事業ト云フモノ
ハ進マナイ以上ハデス、外國品ニ代リ得ル
所ノ生產品ト云フモノガ、玆ニ出來テ參ラ
ナイ、如何ニシテソレダケノ多額ノモノガ
代リ得ルデアリマセウカ、卽チ生產品ト云
フモノガ、ソレダケノ多額ノモノ否極メ
テ少數ノ物ホカ出來ナイ事實デアリマス、
デアリマスルカラシテ、國產愛用ト云フコ
トハデス、之ヲ以テ今日ノ對策トシテ多大
ノ效果アリトハ考ヘラレマセヌ、ソレカラ
更ニ此輸出補償制度デアリマスガ、輸出補
償制度ニ付キマシテハ、前議會ニ於テ、其
豫算ガ成立イタシマシテ、豫定セラルル所
ハ補償手形ノ総額一千万圓ノ豫定デアッタ
ンデアリマス、然ルニ昨年ノ十二月迄、八
十万圓位ノモノホカ手形ガ出來テ居リマセ
ヌノデアリマス、是ダケノ八十万圓ノ補償
ヲ致シテ、ソレデ輸出ノ奬勵ガ出來ルト云
ブコトハ是ハ考ヘラレナイコトデアル、
殊ニ一千万圓ノ豫定ヲ致シタ其何分カニ過
ギヌノデアリマス一月カラ三月迄ニ到
底此豫期ノ結果ニハ到違イタサヌノデアリ
マス、デアリマスルカラ之ニ付テ深ク申上
ゲル必要ヲ認メマセヌ、斯ノ如タニシテ更
ニ政府ノ爲チッタ所ヲ見マスレバ、金融界
ノ改善ヲ致シマスル爲ニ、低利資金ニ目的
ヲ立テテレタノデアリマス、卽チ中小商工
農業者救濟ノ爲ニ、二千万圓ノ低利資金ヲ信
用紐合ヲ通ジテ融通イタシマシタ、此成
續ハ一千六百万圓程、今日ニ至ル迄實際ニ
融通イタシテ居ルノデアリマス、是ダケノ
コトガ商工方面ニ於テノ對策デアリマス、
御承知ノ如ケニ商王業ノ範圍ニ於ケル本景
氣ノ事情ト云フモノハ蠣ル深イモノガ有
ルノデアリマシテヽ是ダケノモノヲ以テ、
私ハ到底對策トシテ、救濟策トシテ成立ッタ
モノドハ考ヘマセヌ、是故ニ商工大臣ノ主
管ニ於テ爲サッケコトニ付テハ、私ハ對策ハ
不十分ナリト斷ズルモノデアリマスガ故ニヽ
商工大臣ニ對シテ、之ヲ御尋ネ致ス考ガ無
イノデアリマス、次ニ農林所管ノ範圍ニ於
ケル事柄ヲ申シテ見タイト思フノデアリマ
ス。農村ノ生活ノ困難ト云フコトハ、私ガ
喋々スル迄モアリマセヌデ、商工ノ範圍ハ、
其施設ノ運轉ガ相當ニ早イノデアリマシ
テ、卽チ商人ハ物ヲ買ウテ他ニ販賣シテ行
〃.「ストック」ヲ持クテ居リマツテモ、忽チ
ニ循環シテ參リマスケレドモヽ農村ノコト
ハサウ單純ニハ參リマセヌ米ヲ作リマシ
テモ、一年ニ一度ト云フ關係デアリマスカ
ラ、是ハ一度不景氣ヲ受ケマスト云フト
容易ニ同復シナイ、而モ今日ノ不景氣ハ都
市ヨリ農村ヘ及ビマシテ+農村問題ト云フ
モノガ今日最モ私ハ〓難ナモノニナックト
思ヒマスルソユデ農村ニ對シマシテ只今
申上ゲマシタ此ノ二千万圓ノ低利資金ノ融
通ハ商工農ト云フテ融通シテ居リマスルカ
ラ、其一部ハ確カニ農村ニヤッテ居ルガ、其
後五百万〓、此資金ヲ增加イタシテ居リマ
スルガ、是ハ全ク手ガ付イテ居リマセヌ、
一ツモ此農工商ノ人達ニ渡"テ居リマセヌ、
デ其夭ニ農村ノ問題トツテ繭ノ價ガ非常ニ
下落イタシマシタガ爲ニ、養蠶ノ應急資金
トシテ三千万圓ヲ出シテ居ルノデアリマ
ス、此三千万デアリマスルガ、是ハ締價ガ
低落イタシテ絲價安定補償法ノ出動ニ依ッ
テ生絲ノ救濟ヲ致シマシタ、ゾレト相竝ン
デ之ヲ御出シニナルト云フコトハ、是ハ當
然適當ナコトダト考へマズ、唯併シ最初計
畫サレタノハ四千万圓デアリマスケレド
千、事實ハ三千万圓ニ減額サレテ居ルノデ
アリマス、是ハ農林當局ヨリ減額イタジテ
居ルノデアリマス、然ルニ此事柄ニ付テハ
井上蔵相ハ財政經濟ノ御演說ニ於テ是ハ
御述べニナッテ居ラナイノデアル、而シテ農
林大臣ハ此壇上ヨリ四千万圓ノ應急資金
ヲ出シテ居ル、斯ウ云フ御言葉デアリ
やき、是ハ私ハ何モ言葉ヲ御咎メ致ス
ノデハアリマセヌケレドモ、國務大臣
ノ御言葉ハ一般國民ニ取リマシテハ非
常ニ重イ意味ヲ爲スモノデアルコトハ
申上ゲル迄モナイコトデアリマス、斯ノ如
ク四千万圓三千万圓、一千万圓ノ差ト云
フモノハ、是タケノコトニ付テハ頗ル重大
デアリマス、ソレダケニ、減額ナサッテ居ル
ノニ此議場ニ於テ四千万圓ト仰ウヤルコ
トハ、私ハ甚ダ適當デナイト思ヒマスル、
卽チ國務大臣ノ御言葉ハ極メテ重イモノデ
アリマスルガ故ニ、斯ノ如ク不注意ナル御
言葉ヲ御用ヒニナラヌコトヲ私ハ希望イタ
シマス、次ニ失業救濟ノ名義ニ於キマシテ
七千万圓ヲ御出シニナッテ居ル點デアリマ
〓此七千万圓ハ農林大臣トシテハ最モ重
大ナル政策ノ一ツト御考へニナッテ、玆ニ決
定ヲ見ルニ至リマシタ迄エハ隨分御苦勞ラ
ナツテ居ルヤウデアリマス、デ信用組合其
他適當ナル金融機關ヲ通ジテ七千万圓ノ資
金ヲ融資シタイト考ヘテ居ラレクノデアリ
マスルケレドモ、前ニナサレマシタル所ノ
二千五百万圓ノ問題モナカ〓〓滑カニ行カ
ヌノデアリマス、其結果トシテ地方自治體
ヲ責任者ト致シマシテ、道府縣ノ起債ヲ以
テ之ヲ行フコトニナリマシタノデアリマ
ス此起債ノコトハ後ニ述べタイト思ヒマ
スルガ、目的ト致サレル所ハ耕地、山株、
桑圈ノ開發改良、水產畜產及農事辭業、各
種ノ共同施設ヲセラレル、是ダケノ事事ヲ
爲サレルニ付テ內容ヲ見マスルト、是ハ眞
ニ地方ノ產業施設、失業救濟ノ名前ヲ御付
ケニナッタト云フコトニ付テ、私ハ疑義ヲ
有クテ居ルノデアリマス、而シテ昨年道府縣
ニ對シテ割當額ヲ決定シテ通達サレマシタ
ガ今日ニ至ルマデ起債ノ許可ノ出來マシ
タルモノハ數縣ニ過ギマセヌ、未ダ實際ニ
ハ一モ行ハレテ居リマセヌノデアリマス、
卽チ是モ亦聲ハ大キクアリマスタレドモ
寶ハ未グ事ッテ屆ラヌノデアリマス、デ此コ
トハ地方自治體ノ起債ニ仰グコトニナリマ
シタノデ、地方財政ト云フモノガ其程度ダ
ケ膨脹サレルコトハ勿論デアリマスンデ曩
ニ濱口總理ノ言葉ヲ私ハ特ニ申上ゲマシタ、
緊編政策ノ範圍ヲ超越クナイ隈リニ於テ對
策ヲ講ズルト云フ御言葉デアッタ、然ルニ此
起債ハ昨年暮マデニ地方起債ハ一億二千
八百万圓ニナッテ居リマスコトハ御承知ノ
通リデアリマス、之ニ七千万圓ヲ加ヘテ、
更ニ現ニ申請中ノ起債ノ許可スベキモノ、
及ビ本年一月カラ三月、本年末マデノモノ
ヲ加ヘマスルト云フト二億數千万圓ニ地方
ノ起債ハナルノデアリマス、サウ致シマスル
ト云フト、政府ガ四年度ニ於テ起債ノ許可額
一億六千三百方圓、是ハ先ヅ緊縮政策ニ合ッ
テ居ルモノト私ハ認メマス、此程度デナケ
リヤナラヌト思フノデアリマス、然ルニ其
信額ニモ達スルヤウナ起債ヲ以テ救濟事
業財界對策ヲ爲サルト云フコトハ濱口
總理ノ御述ベニナッタ緊縮方針ヲ確ニ是ハ
破ッテ居リマス、デ郞チ三年度ノ借替ヲ除キ
マシテ三億餘万圓ニ近イモノニナリマス
何處ニ緊繃政策ノ實ガ殘テ居ルノデアリ
マスカ、是ハ全ク濱口總理ノ御述ベニナフ
ダコトト違フテ居ルト云フコトヲ私ハ考ヘ
ル卽チ緩和ト云フ、地方起債ハ緩和スル
ト云フコトガ、段々ノ御言葉デアリマシタ
綬和ノ度ヲ越エテ此コトハ膨脹デアリマ
ズ今一ツ井上藏相ノ言葉ヲ以テスレバ不
當ノ借金デアリマス、不當ノ借金ハ相成ラ
ヌカラシテゝ政府ニ於テハ整理緊縮ヲ一般
國民ニ望ムノデアル、御言葉ハ誠ニ其通リ、
適當デアリマス、然ルニ政府自ラ斯ノ如キ
不當ノ借金ヲ地方自治體ニ强ヒテ、斯ウ云
フコトヲ政府自ラガ爲サッテ、如何ニシテ
財界ノ整理ガ出來ルノデアリマスカ、政府
ノ爲サルコトハ國民一般ノ模範デナケレバ
ナラヌノデアリマス、斯ウ云フ次第デアリ
マスルガ故ニ政府ノ爲サルコトハ、中央
ニ於テハ、十四億何千万ノ豫算ヲ作テテ
縮セラレタノデアリマス、地方ガ斯ノ如タ
財政ノ膨脹イタシマシタコトハ、私ハ全ク
一面ニ於テ緊縮シ一面ニ於テ擴大シ、何
ニモナラヌ仕事デアルト考ヘル、フレカラ
玆ニ特ニ申上ゲタイコトハ米價ノ對策デア
リマス、是ニ付キマシテハ農林大臣ハ確カ
ニ御苦心ヲナサッテ居ルノデアリマス、昨年
ハ非當ニ豐作デアリマシタガ爲ニ、財界ノ
不況ト相伴ヒマシテ一石ニ付テ米價十圓以
上モ下落シタノデアリマス、是ノ對策ヲ御
苦心ニナルコトハ當然ノコトデアル、而シ
テ其對策トシテドウ云フ事ヲ爲サッタカト
申シマスレバ、政府ノ所有米ヲ海外ニ賣却
セラレ、米ノ關稅ノ障壁ヲ高メ、輸入ノ制
限期間ヲ延長セラレタソレカラ朝鮮ヨリ
移入スル所ノ米ニ制限ヲ加ヘテ、內地米ノ
出〓リヲ調節イタシマスル爲ニ道府縣ニ三
千万圓ノ低利資金ヲ融通イタシマジテ、農
業倉庫ニ籾及玄米ヲ貯藏イタス、此事ニ付
テハ其他罹災救助基金等及地方產業組合、
是等ヲ督勵イタシマシテ、農林大臣ハ大ニ
努メラレタノデアリマス、此御努メニナッ
タコトハ誠ニ結構ナコトデアリマスルガ、
遺憾ナガラ結果ガサッパリ擧ッテ居ラヌノデ
アリマス、昨年、當時ニ於キマスル所ノ世
ノ中ニ報道セラレタ所ニ依リマスレバ政
府ハ二百万石ヲ買上ゲテ居リマスガ、政府
買上米ト加ヘマシテ一千万石モ調節出來ル
ト云フ事ガ當時ノ世ノ中ニ報告セラレタ所
デアリマス、勿論政府御自身ガ報告セラレ
タルニアラズシテ、新聞紙等ニ於テ廣ク傳
ヘラレテ居ル、所ガ實際ノ結果ハ本年ニ於
テハ八百万石位ハ調節シナケレバナラヌモ
ノガ、所謂端境期マデニ强制貯藏イタシマ
シタ所ノモノハ籾ガ四百万石、卽チ米ニ致
シマシテ二百万石ナニガシニナッテ居ルニ
過ギマセヌノデアリマス、任意ニ貯藏イタ
シマシタモノハ數百万石アルト云フコトデ
アリマス、是ハ每年ノ事柄デアリマシテ、
本年特ニ出來タ結果ト云フモノハ、右申上
ゲマスル籾ノ四百万石ニ過ギナイ、サウス
ルト云フト御苦勞ハ爲サッタノデアリマス
ケレドモ、結果カラ言ヘバ二百万石位ノ强
制貯藏ニナルノデス、到底米價ヲ調節シテ
行クコトハ難イ事デアリマス、是故ニ政府
ガ二百万石ヲ昨年ノ暮ニ御買上ゲニナリマ
シタケレドモ效果ハ極メテ薄弱デアリマ
シテ、却ッテ其日ヨリ米價ガ漸落シテ行ッタ
ト云フヤウナ皮肉ノ結果ガ現ハレテ居ルノ
デアリマス、一體此米ニ對スル對策ハ數量
ノ調節モ勿論デアリマスケレドモ、ソレハ
米價ヲ調節イタシマスル原因デアリマスル
カラ、是ハ大切デアリマスルガ、矢張リ米
價ヲ調節スルト云フコトガ窮極ノ目的デナ
ケレバナリマセヌ、此事ハ當然ナ事デアリ
マス然ルニ農林大臣ハドウ云フ意味デア
リマスカ、米價ヲ調節スル其コトニ付テハ
御述ベニナラナイノデアリマス、是ハ絲價
安定補償法ヲ出動セシメテ千二百五十圓
ヲ以テ一梱ノ價ト致シマシテ、十五万梱ヲ
貯藏シタ結果ガ生絲ハ非常、ニ下落シテシ
マッタ、到底最早、價ヲ維持スルコトガ出來
ナイ狀況ニアッタ所カラ、價格ノ調節ノ困難
ナ點ニ付テ、ドウ御考ヘニナッテモ、是ハ其
コトニ多少顧ミラレテ、米價ノ調節困難デ
アルト云フ御氣分デアルモノト思フノデア
リマス、地方長官ノ會議ニ於キマシテ數量
ノ調節ヲ主眼トスルト云フ御言葉デアッテ、
米價ノ價格ニハ及ンデ居リマセヌ、更ニ米
穀委員會ノ一委員ガ今日ノ米價ハ何程ヲ以
テ農林大臣ハ適當ニ考ヘラレルカ、ソレニ
付テ國營ノ開墾ニ付テハ一石三十五圓、用
排水開墾助成等ニ付テハ二十八圓、自作農
ニ付テハ二十五圓ト云フ米價ヲ以テ施設サ
レテ居リマスルノデアリマス、ドウシテモ
此農林省ノ米ニ對スル對策ニ付テハ、或價
格ト云フモノヲ腹案ニ置カナイ限リト云フ
モノハ出來ナイ話デアリマス、旣ニ今日米
價ガ二十圓以下ニ下ッテ居リマスト云フコ
トハ是マデ農林省ノナシタ施設ト云フモ
ノハ遂行不可能ト申シテモ宜イヤウナ狀
況ニ陷ヲテ居ル、是ハ誠ニ困ッタコトデ
アルト私ハ考ヘマス是故ニ農林大臣ハ
今日何程ノ價格ヲ適當トスルヤニ付テ
ハ其際ニ御答ヲ致シテ居ラレヌノデ
アリマス、次ニ此繭價對策デアリマス
卽チ繭ノ對策デアル、之ニ付キマシテハ私
ハ何等ノ施設モナサラナイト云フヨリ外ハ
ナイト思フノデアリマス、曩ニ申上ゲマシ
タル如ク絲價法ヲ出動セシメテ一ツノ效ガ
ナイ、當時ノ絲價ハ千百圓臺ヲ割ッテ居ル、
ソレニ拘ラズ政府ハ千二百五十圓ト云フノ
デ、絲價ヲ維持シヤウトシタノデアリマス、
是ハ誠ニ無謀ナ對策デアルト思ヒマス、其
當時ノ絲價ニ於テ維持スベキガ然ルベキデ
アルガ、千二百五十圓ニ之ヲ維持シヤウト
ナサッタコトハ甚ダ不適當ナコトト考ヘマ
ス、ソレガ爲ニ却ッテ生絲ガ急激ニ下落シタ
結果ニナリ、地方農村ニ於キマシテハ却ッテ
繭ヲ安ク賣ラナケレバナラヌ結果ニ陷ヲテ
シマッタ、ソコデ地方農家ノ繭ニ對スル關係
ニ於テドウ云フコトヲナサッタカト言ヘバ
取引ノ改善ト云フコトヲ企テタ、其外一、二
ノコトハアリマセウケレドモ、何等ノ效ガ
ナイノデアリマス、斯ノ如ク觀察シテ參リ
マスルト云フト、政府ノナサッタ商工ニ對ス
ル對策、農村ニ對スル對策、全タ見ルベキ
モノガナイノデアリマス、デ第一ノ低利資
金ニ付テハ千六百万圓、七千万圓ノ農村ノ
資金ハ今日實際ニ國民ノ手ニ渡ノテ居ラナイ、
米價對策ニ付テハ價格ヲ一モ維持スルコト
ガ出來ナイ、全ク當時下落シタ儘デアリマ
ス、繭ノ對策ニ至フテハ只今申シク通リ斯
ノ如クニシテ政府ノ對策ハ有效適切ナルモ
ノガナイノデアリマス、其結果トシテ此處
ニ失業問題ガ益〓是ハ滋クナッテ來テ居ル
ノデアル、政府ニ於テハ失業問題ニ付テハ
國勢調査ヲ昨年十月イタシマシタ結果、國
勢調査ノ失業人員ハ三十二万人ニナッテ居
リマス社會局ノ失業ノ推計ハ三十九万ト
云フ月モアリマシタケレドモ先ヅ三十七
八万ト云フ所デアリマス、ソコデ社會局ガ
今日マデ推定數ヲ出シタルモノヨリモ、國
勢調査ノ數ガ少ナイ、斯樣ナ所カラ內務大
臣ハ非常ニ樂觀セラレタ御言葉ヲ以テ世
間デハ失業問題ハ益、深刻ニ其數ヲ增加ス
ルト言フケレドモ國勢調査ノ結果ハ斯ノ
如クデアッテ、世間ノ言フコトハ非常ニ過大
デアル、此事實ガ雄辯ニ證明シテ居ルデハ
ナイカ、斯ウ云フコトヲ言ハレテ居ルノデ
アリマス、是ハ誠ニ私ハ遺憾トスルノデア
リマス、政府ガ若モ失業對策ヲ眞面目ニナ
サラウト云フナラバ此數ニ付テハモウ少
シ愼重ナ態度ヲ御執リニナラナケレバナラ
ヌト思フノデアリマス、國勢調査ノ數ハ成
程一人一人ニ當フテ作リマシタ數デアリマ
スルカラ、其事ダケハ確カデアリマセウ、
ケレドモ根本ガ違ッテ居ルノデアリマス
抑、此國勢調査ノ失業問題ニ對スル所ノ基
準ハ、大正十四年度ニ於キマシテ調査イタ
シマシタモノガ標準デアリマシテ、ソレニ
依リマスレバ雇傭關係ニ於テ俸給若クハ勞
銀ノ生活ヲシテ居ッダ者ガ職ヲ失ッタ、是ガ
根本ニナッテ調製サレテ居ルノデアリマス、
是故ニ自ラ營業ヲ爲シテ居リマスル所ノ大
エデアルトカ、左官デアルトカ、斯ウ云フ
類ノ所ノモノ、所謂自營業ト稱スルモノハ
職ヲ失ッテモ入ッテ居リマセヌ、其上ニ就職
難ノ澤山ナ人達ト云フモノハ、一ツモ加ヘ
ラレテ居リマセヌ、殊ニ私ハ玆ニ特ニ指摘
シテ置キタイコトハ、工場カラ解傭サレタ
數ガ、四年ノ十月ヨリ五年ノ六月ニ至ル間ニ
於テ、二十三万四千人ニ達シテ居リマス、鑛
山カラ解傭セラレタ者ガ二万三千人、合計
二十六万ニ達スル數ト云フモノハ農村ヘ
阿弥ヶ、所謂歸村者トナッテ居ルノデアリマ
ス、是ハ大體ニ於テ政府ノ統計ニハ加ハッテ
居リマセヌノデアリマス、此三十万ヲ以テ
數ヘル數ガ失業ノ數ニ入ッテ居リマセヌ以
上ハ失業對策ノ統計トシテハ誠ニ其價
値ノ薄イモノデアルノデアリマスソコデ
私ハ此數字ノコトニ付テハ是ダケ申上ゲデ
置クニ止メタイノデアリマス、何故カト申
シマスレバ、政府ノ對策ガ四年度ニ於キマ
スル事ト殆ド變ヲテ居リマセヌノデアリマ
ス、故ニ其數字ヲ深ク詮索スルマデモナク、
政府ノ對策ガ極メテ不完全デアルト云フコ
トガ了知出來ルカラデアリマス、卽チ政府
ノ爲サッタコトハ、第一日傭勞働者ニ對シテ
救濟事業ヲ起シタコトデアリマス、是ガ計
畫ハ昭和五年ヨリ昭和八年ニマデ行シテ居
リマス、ソコデ其計畫シタル事業費ハ九千
三百万ニ及ビ、勞力費ハ二千二百万ニ及
ンデ居リマス、而シテ五年度ニ於テハ事
業費ハ五千一百万圓、其勞力費ハ一千三百
万圓デアリマシテ救濟スル所ノ延人員ハ
七百七十万人ニナッテ居リマス、之ヲ一日
ドレダケノ數ガ救濟セラレタカト云フコト
ニナリマスレバ、勞働者ハ二百日ヲ以テ一
年働ク時トスルカ、二百五十日ヲ以テスル
カト云フニ付テ大變ナ差ガ出來ル、先ヅ二
百日ヲ以テ考ヘテ見マシテモ、是ダケノモ
ノデハ三万前後ノ者ホカ救濟出來マセヌ、
社會局ニ於テ昨年發表シタモノニ於テ、昨
年ノ十一月ヨリ本年ノ三月マデニ救濟サレ
ル所ノモノハ二万三千人、若クハ二万七千
人ト云フタコトガ發表セラレテ居リマス、
ソレカラ尙ホ此東京、横濱ノ事業ト致シマ
シテ昨年ノ十二月カラ本年ノ三月マデニ
成シ遂ゲマスル事業ガ、國費三百万圓ヲ出
シテ救濟事業ガ行ハレテ居リマス、ソレニ
依ッテ救濟スル人ノ數ハ六千人位ニナッテ居
リマス、サウ致シマスルト云フト、三万數
千人ノ者ハ救濟サレテ居ルノデアリマス、
此點ニ付テ安達內相ハ衆議院ニ於テ四万一
千人ガ救ハレテ居ルト、斯ウ云フ御說明ニ
ナッテ居リマス、併シ五年度ノ事業ハ必ズ相
當ナル部分ハ六年度ニ繰越サレルノデアリ
一や、ソレハ四年度ノ事業カラ見テモ明カ
デアル、是故ニ其繰越サレル事業ヲ除ケマ
スルト云フト、矢張リ三万何千人ニ止マル
ノデアリマス、サウ致シマスルト、ドノ途
失業數トシタ三十七八万ノ一割程度ホカ救
ハレテ居リマセヌ、殊ニ日傭勞働者ハ今日
十七万位ゴザイマスルノデアリマス、ソレ
ニ對シテ考ヘテ見マスト云フト、四年度ニ
於テ行ハレタル所ノ救濟事業ト、特ニ目立〃
テ進步シテ居ルト云フコトハナイノデアリ
マス、ソレカラ官公營事業ヲ調節セラレタ、
是ハ相當ニ致サレテ居ルヤウデアリマス、
是ハ四年度ト何モ變リマセヌ、同ジコトデ
アリマス、ソレカラ今一ツ職業紹介ノ事業
デアリマス、是ハ五十八議會ニ於テ數万圓
ノ豫算ガ通過イタシマシテ、職業紹介局ガ
東北ニ一ツ出來テ居リマス、是ダケノコト
デ、而シテ地方職業紹介所ハ一一三十殖エテ
居リマス、今日ハ職業紹介所ハ全國デ三百
位アルノデアリマス、併シソレヲ僅ニ三十
位、或ハ事務局ガ一ツ殖エタト云フ位ノコ
トデ、別ニ五年度ニ於テ擧グベキモノハナ
イノデアリマス、私ハ此職業紹介事業ト云
フモノハ、斯ウ云フコトヂヤ到底イカヌト
思フノデアリマス、職業紹介所ノ當路者ノ
考ニ依リマスレバ、是ハ是非共國營ニシナ
クチャナラナイ、更ニ又國營ニシナイマデ
〓、半額ノ補給ハ是ハ受ケナクチャナラナ
イ、斯ウ云フヤウニ言ハレテ居ルノデアリ
マく、然ルニ安達內相ハ此事ヲヤカマシク
言ハレテ居ルニ拘ラズ、少シモ之ニ對シテ
熱心ニ施設ヲナサラヌノデアリマス、本年
ノ豫算ヲ見マシテモ、矢張リ五六万ノモノ
ガ計上サレテ居ルニ過ギマセヌノデアリマ
ス、職業紹介ハ私ガ申上ゲル迄モナク、今
日ハ極ク低イ勞働者、其他ノ者ノ紹介ニ過
ギマセヌケレドモ、今日就職難ノ聲ノ高
マッテ居ル時代ニ於キマシテハモット職業
紹介施設ヲ高尙ナルモノニシテ、何人ト雖
モ職業紹介所ノ手ヲ經テ行カレルヤウニ施
設セラレルサウ致シマスルニハ兎ニ角二
百万前後ノ費用ト云フモノハ要ルモノト考
ヘマス、サウ云フ風ニシテ此施設ヲナサル
ト云フコトガ、今日ノ如ク就職難、失業ノ
時代ニ於テハ是非共必要ナルコトト考ヘラ
レマスルニ拘ラズ誠ニ此點ニ付テモ熱心
ニオヤリニナラヌノデアリマス、而シテ此失
業問題ニ付キマシテハ、私ハ前議會ニ於テ、
斯ウ云フコトハ元來社會局ノ一部ノ問題デ
アッタモノガ、今日政府ニ於テ之ヲ論ジ、國
家ノ政治上ノ重大問題トナッタコトハ誠ニ
遺憾ノコトデアルト云フコトヲ申上ゲタノ
デアリマスルガ、今日ハ此失業問題ヲ益〓
高唱セラレマシテ、總理大臣ノ施政方針ノ
御言葉ノ中ニモアリマスルシ又更ニ井上
藏相ニ於テモ、失業問題ハ重大ニナッテ居
ル、斯ウ云フ御言葉デアリマス、而モ總理
大臣代理及井上藏相ニ於テハ、失業者ハ增
加シテ今日ハ非常特別ノ際デアル仍テ國
家ハ公債ヲ以テ之ガ對策ヲ講ジナケレバナ
ラナイト云フ御言葉デアリマス是ハ安達
內相ノ減少ハシナイガ激增モシナイト云フ
御言葉トハ餘程趣ガ違テテ居リマス、政府ノ
考フル所ヲ公債政策ト云フ方面カラ行ケバ
非常特別ノ場合ト云フ言葉ヲ以テシテ、之
ニ反シテ失業救濟ノ方面ノ言葉ヲ用ヰマス
ル時ニハ失業者ハ減少モシナイ殖エモシ
ナイト云フ御言葉ヲ用ヰル全クココハ使
ヒ方ガ右左ニナッテ居リマス、殊ニ私ハ玆デ
申シテ見タイコトハ失業ト云フコトハ決
シテ是ハ良イ問題デハナイノデアリマス
罪人ト云フ問題ガ國家ノ一番暗黑面デアリ
マセウ、之ニ次グ所ノモノガ、私ハ失業問
題ダト思ヒマス、罪人モ十分活動能力ガアッ
テ其活動能力ヲ惡イ方へ使フ、失業者ハ
活動能力ガアッテ······仕事ヲスル所ノ卽チ
勞働能力ガアッテサウシテ仕事ガナイト
云フモノガ失業者デアリマス、是ハ卽チ社
會ノ暗黑面カラ申シマスレバ、罪人ニ續イ
タ所ノモノダト私ハ思フノデアリマス、ダ
カラ斯ウ云フ問題ハ、餘リ各方面ニ之ヲ使。ツ
テ行クト云フコトハ私ハ宜クナイト思ヒマ
ス、然ルニ現內閣ニ於テハ總テノ重要ナ
政策ニハ皆失業ト云フコトヲ言ハレルコト
ガ、私ノ最モ遺憾トスル所デアリマス、何ガ
故ニ失業ト言ハナケレバナラヌノデアリマ
セウカ、失業ト言ハヌデモ···公債ヲ募
集セラレテ國道縣道ヲ改修スルト云フコト
ニ付テ、何ガ故ニ失業ト言ハナケレバナラ
ヌノデアリマスカ、又七千万圓ノ低資ヲ農
村ニ融通セラレルコトニ付テ、失業救濟ダ
ト云フ言葉ハ要ラヌ言葉ダト私ハ思フノデ
アリマス、ソレヨリモ失業防止ト云フ方ヘ
立ッテ、失業救濟ニ非ズシテ、失業ノ防止デ
アルト云フ立前ニ、立ツコトガ當然デアラウ
ト思フノデアリマス、ソレハ濱口總理ガ前
議會ニ於テ繰返サレテ居ル所デアリマス、
其意味カラシテ内務省ニ於テ、最初ノ失業
救濟委員會ハ失業防止委員會ト變ヲテ居リ
マス、ソコハ私ハ誠ニ結構ダト思ヒマスガ、
然ルニ爲サッテ居ル所ノ事ハ、各種ノ重要政
策ニ失業救濟ト云フ御言葉ヲ御用ヰニナ
ル、是ハ後ノ政治史ニ於テ、現內閣ハ失業
内閣デアルト云フガ如キコトニナリマシ
テ、私ハ最モ之ヲ遺憾トスル一人デアリマ
ス、況ヤ失業ノ救濟ト云フコトハ救濟サ
レル者ノ依賴心ヲ助長イタシマシテ今
日デハ世ノ中ニ自分ノ親ハ失業者デアリマ
スルカラ、救濟ヲ願フト云フコトヲ言ウテ
步ク者ガ出來テ來ルヤウナ狀況デアリマ
ス世道人心ニ甚ダ宜クナイ影響ヲ與ヘル
モノデアルノデアリマス、之ヲ政府ノ重大
政策ニ常ニ御用ヰニナルト云フコトハ、誠
ニ適當デナイト考ヘマスル斯樣ナ次第デ
アリマシテ、政府ノ財界ニ對シマスル對策、
失業ニ對シマスル施設、總テ適當ヲ缺ク結
果トシテ、今日ノ國民生活ハ極度ニ不安ニ
陷ッテ居ルト私ハ考ヘマス、デ政府ニ於テモ
勿論此事ニ氣ガ付カレテ居リマシタ結果、
何トカシテ適當ナ策ヲ講ズルコトナクン
バ昨年ノ暮ヲ越シテ行クト云フコトト云
フモノハ中ミ難儀デアルト、斯ウ御考ヘ
ニナッタ結果トシテ、玆ニ井上藏相ハ金融
ノ方面ニ種々ナル施設ヲセラレテ居ルノデ
アリマスソレハ昨年ノ特別議會ノ際ニ於
キマシテハ預金ガ增加イタシマシテ貸出
ハ減少シテ居ッタノデアリマス、然ルニ昨年
ノ暮カラ今日ニ至ル事情ハ、預金ガ激減イ
タシテ居リマス、而シテ貸出ハ可ナリ增加
イタシテ居リマス、殊ニ郵便貯金ノ利下ヲ
致シマシテ、貯蓄銀行ニ資金ヲ吸收イタサ
セテソレデ貸出ノ策ヲ御取リニナリマシ
タ結果、昨年ノ十一月ニ於テ貯蓄銀行ノ貸
出ハ前年同期ト比較イタシマスルト七八
千万圓ノ增加ヲ來シテ居リマス、所ガ普通
銀行ノ貸出ハ是ハ當議場ニ於テモ旣ニ述
ベラレタル所ノ、普通銀行ノ休業銀行ガ現
內閣成立以來二十數行出來テ居リマス、普
通銀行ノ金融狀態ト云フモノハ、誠ニムツ
カシイ問題ニ今日ハナッテ居ルノデアリマ
ス、ソレデアリマスルカラ普通銀行ハ自
ラ警戒ヲシテ貸出ヲ致サヌノデアリマス
是故ニ昨年十一月ノ狀況ニ於キマシテハ、
前年同期ト比較イタシマスレバ、二億六千
万圓位貸出ガ減少シテ居リマス、此事ガ重
大ナ關係デアリマス、普通銀行カラ二億何
千万圓ト云フ貸出ガ一年ノ中ニ減少シテ居
リマスレバ、財界ハ金融難ニ陷ルコトハ當
然デアリマス此儘放置スルト云フト、昨
年ノ暮ハ容易ナラヌ狀態ヲ惹起スル、而モ
普通銀行ニ向シテ貸出ヲ慫慂スルコトハ困
難ナ譯ニナリマシタカラ、玆ニ於テ井上藏
相ハ特殊銀行ヲ活動セシメテ、若クハ中央
ニ於ケル有力ナ銀行關係ニ手ヲ伸バシテ、
サウシテ其補塡ヲ致シテ居ルノデアリマ
ス、特殊銀行ノ貸出ハ二億七八千万圓、前年
同期ニ比較シテ昨年十一月增加イタシテ居
ルノデアリマス卽チ普通銀行ノ方ハ所謂
政府ノ緊縮政策當然ノ結果ヲ承ケテ「ノルマ
ル」ニ行ッテ居リマス、其通リニ行ッテ居ル
是ハ當リ前デアル、ソコデ特殊銀行ヲ活躍
セシメテ丁度同ジ位ノ額ヲ貸出シテ居ル、
ソレ故ニ興業銀行ノ問題ト云フモノガ喧シ
クナルノハ當然デアリマス、是ハ如何ニ井
上藏相ガ御辯明ニナッタ所デ、其事實ハ雄辯
ニソレヲ說明シテ居ルノデアリマス、ソレ
デアルカラ其點ハ確カニ此濱口首相ノ緊縮
方針ノ意味トハ逆行ヲシテ居ル、何トシタ
所デ藏相ハ常ニ言ハレマス事業ガ
有望デアッテ資金ニ困ッテ居ルソニ貸スノ
ハ當リ前デハナイカト、ソレハ當然デアリ
マジ、緊縮方針ト云フ原則ヲ御取リニナッ
タカラ、ソレガイケナイト云フノデアリマ
シテ、其原則、其主義ヲ御取リニナラヌナ
ラバ、當然ノコトデアリマス、貸付ケテ事
業ヲ盛ニシテ行クト云フコトハ當然デアリ
マス、ダカラ其言葉ダケヲ聽キマスト云フ
ト、ソレハイカヌ、ソンナ事ヲシテハイカ
ヌト云フコトハ言ヘナイヤウニ感ジマス、
併シ其根本的ニ主義ト對比シテ來マスト云
フト、是ハ甚ダ不都合デアリマス、卽チ普
通銀行ノ金融ノ動キガ最モ政府ノ主義方針
ト一致シテ居ル、故ニ特殊銀行ヲ活躍セシ
メテ、其變ッタコトヲ致サレタノデアリマ
ス、斯ノ如クシテ預金ハ一面ニ激減シテ居
ルニ拘ラズ、政府ハ貸出ヲ增加セシメ、其
外ニ昨年ノ暮カラ今年ニ掛ケマシテ、兌換
劵ハ最高度ノ時ニハ十五億圓ニナッタ、昨年
ノ後半期ヲ見マスト云フト十億臺デアッタ、
ソレガ十二月ニナリマスト云フト、平均十
二億圓ニモナッタ、サウシマスト云フト、玆デ
モ矢張リ二億近イ金ガ金融界ニ持出サレタ
コトニナル、其他政府ガ低利資金ト云フモノ
融通サレク額モ一億デアル、其一億、銀行
ノ貸出及ビ兌換劵ト云フモノヲ加ヘマスト
云フト、是ハ何ト申シマシテモ、數億圓ト
云フモノガ經濟界ニ置カレテ居ル、流通ニ
置カレテ居ル、數億圓ノ金ガ經濟界ニ流通
ニ置カレルト云フコトハ是ハ最早緊縮時
代デモ何デモナイノデス、ソレヲ井上藏相
ハ言葉ヲ巧ミニ良キ事業ガ出來タナラバ
見込ノ立ツ所ノ事業ニ金融ヲシテヤルト云
フコトハ當然ダト言フノデアル、若クハ之
ニ類スル言葉ヲ以テ此貸金ノ目的ヲ達成ス
レバ宜シイト······平時デアリマスレバ勿論
デアリマス、然ルニ緊縮ト云フ政策ヲ御取
リニナッタ以上ハ······四年度ノ年度末ニ於
テハ「ノルマル」デアル、四年度ノ歲末ニ於
ケル、若クハ其近イ時ニ於ケル狀況カラ、
只今申上ゲマシタヤウナ非常ナ差ヲ生ジテ
居リマス、勿論兌換劵ハ一月ニ入ッテ收縮
イタシテ居リマスケレドモ、其他ノモノハ
依然トシテ其通リ、是ガドウシテ膨脹デナ
イト言ヘルノデアリマセウ、「インフレーシ
ヨン」ヲ來シテ居ルコトハ確カデアルト私
ハ申上ゲテ置キマス、藏相ハ專門家デアリ
マスガ故ニ、言葉ハ重イノデアリマス藏
相ノ言葉ヲ世間ガ聞ケバ、成程サウデアル
ト感ジマセウ、感ジマセウケレドモ、此事
實ハ雄辯ニ緊縮政策ト云フモノトハ相反對シ
テ居ルト云フコトヲ私ハ申上ゲルノデアリ
さく、而モ不渡手形ノ增加ト云フコトガ
是ガ財界ノ惡化シテ居ルト云フコトノ極メ
テ明瞭ナ證左デアル東京手形交換所開設
以來ナイ所ノ不渡手形ノ數トナッテ居リマ
ス是ガ確ニ財界ノ不況ヲ物語ルモノデア
ル、其上ニ更ニ財界ノ消長ヲ見ル所ノ鐵道
ノ運輸狀態デアリマス、一昨年ニ比シマシ
テ旅客ノ數ニ於テ二千百万人ヲ減ジマス
シ貨物ニ於テ七百五十万噸ヲ減ジテ居ル
ノデアリマス、之ニ加フルニ會社ノ解散數
ハ增加シ、株式會社ニ於テモ七百以上ニナツ
テ居リマス工場ノ閉鎖數······廢休業ニナ
リマシタル數ハ、昨年後半期ニ於テハ順次
ニ增加イタシテ居リマス、其上ニ破產ノ事
件ガ餘程殖エテ居リマス、殊ニ之ヲ總括シ
テ見ベキ所ノ有價證劵ノ値下リハ現內
閣組閣以來五十九億圓、昨年ノ十月、卽チ
最モ株劵ノ低カッタ···:最近ニ於テ低カツ
タ時ニ於テ、五十九億圓ヲ減ジテ居ルノデ
アリマス、之ニ加フルニ國民一般ノ生活ト
最モ關係ノアリマスル所ノ小賣相場ト云フモ
ノハ·····卸賣相場ニ於テハ昨年一年ダケデ
モ二割ヲ低落シテ居リマスケレドモ、小賣相
場ハ其割合ニ安クナッテ居ラヌノデアリマ
ス、ソレカラ又國内ニ於テ用ヰマス所ノ國
内商品ハ國際商品カラ見マスルト値下リガ矢
張リ少イノデアリマス斯樣ナ次第デ中小
產業者ノ生活ト云フモノハ豫想外ニ今日ハ
困難ニナッテ居リマス、此點ニ付テ一家心中
ヲスル數ガ頻々トシテアルシ、ソレカラ又
家屋ノ明渡ト云フモノガ、其數ガ非常ニ增
加イタシテ居リマス、又最モ忌ムベキ犯罪
ニ益"增加イタシテ居リマス、斯カル場合
ニ於テ救護法ヲ實施シテ、適當ノ策ヲ講ズ
ベキデアルニ拘ラズ、失業ト云フコトニ付
テハ非常ニ熱心ニ唱ヘラレ、其實ハ私ノ申
上ゲル通リニ實蹟ハナイノデアリマス、然
ルニ救護法ニ付テハ今日ニ至ル迄ハッキリ
トシタ政府ハ態度ヲ御執リニナラヌノデア
ル之ガ爲ニ今ヤ國民ノ生活ト云フモノハ
極度ニ惡クナリマシテ、眞ニ現世ノ地獄デ
アリマス、何故私ガ斯ウ云フ言葉ヲ申スカト
言ヘバ母親ガ其子ヲ殺ス、此ノ刹那ノ感
情ト云フモノガ、是ガ淚ナクシテ考ヘルコ
トガ出來マスカ、而シテ更ニ產兒ノ制限デ
アル、產兒制限ト云フモノハ我國ニ於テハ
明治以來今日ニ至ルマデ表向ノ問題ニハナッ
テ居リマセヌデシタ、然ルニ今日ハ芝ノ產
兒制限相談所ニ來ル所ノ婦人ガ四十八「パ
ーセント」マデハヽ卽チ家計不如意ノ爲ニ
來ル所ノ者デアルト云フコトヲ見マスル時
ニ、私ノ申上ゲタ此世ノ地獄デアルト云フ
コトハ決シテ當ラナイトハ申セナイト思フ
ノデアリマス、其上ニ斯ウ云フコトノ結果
トシテハ、此不景氣ノ問題ハ今ヤ一變シテ
社會問題デアル社會問題カラ國民ノ淳風
美俗ヲ害シ、道德ヲ破壞スル所ノ程度マデ
達シテ居ルト、私ハ考ヘル一人デアリマス、
而シテ農村ノ生活ヲ見マスルト云フト先
ニ述べマシタル如ク、施設其宜シキヲ得マセ
ヌ結果、養蠶ニ於テ春繭ハ前年ノ半額デア
リマス、一貫目三圓何ガシトナッテ居リマ
ス、夏秋蠶ハ三分ノ一ニ止マルノデアリマ
ス、其結果トシテ、農村ノ收入ハ此點ニ於
テ三億九千七百万圓、卽チ四億バカリ減少
イタシテ居ル又米價ヲ見マスト云フト
十圓以上ノ下落デアリマスガ故ニ、自家用
ノ三千万石ヲ差引キマシテ三千數百万石
ガ市場へ持出サレル譯デアリマス、其値下
リガ矢張リ三億數千万圓ニナッテ居ルノデ
アリマスヽ之ニ副業等ノ農產物ヲ加ヘマス
ルト云フト、ドウシテモ農村ノ收入ト云フ
モノハ十億圓ハ減少イタシテ居ルノデアリ
マス、農村ノ收入ガ三四十億デアル所ノモ
ヲガ、十億圓減ジタナラバ農村ノ生活ガ
立行カナイノハ是ハ當然デアルト思フ、果
セルカナ農村ノ負債ト云フモノハ一年ノ間
ニ八億圓程增加イタシテ居ル、今日農村ノ
負債ハ四十八億ト云フ、或ハ五十億ト云フ、
一家ノ負擔ハ先ヅ八九百個デアルト言ハレ
テ居ルノデアリマス、ソレガ一年ノ間ニ八
憶圓ノ負債ヲ增加スルニ至ッタト云フコト
ハ最モ是ハ注目スベキ私ハ一事デアルト
考ヘルノデアリマス此點ニ於テモ私ハ井
上酸相ノ御言葉ニ付テ中上ゲタイ、斯ノ如
ヲ莫入ナル借金ガ出來マシタルコトニ村
〓、是ハ政府ノ御〓リニナッタ緊縮數策、國
兵ハ消費節約ヲシテドコ迄モ勤儉力行シテ
居ル間ニ、斯ノ如ク情務ガ增加スルノデア
リマス、即チ放浸ノ惜年ニ非ズシテ、贅澤
ナ借金ニ非ズシテ、緊縮シテ居ル間ノ借金
デアル、此點ハ井上藏相ノ所謂不當ノ借金
デアルト云フコトハ到底言ヘマイト思フノ
デアル、藏相ハロヲ御開キニナレバ、過去
タ財界ト云フモノハ不當ノ借金ヲシテ居ル
カラ、之ヲ整理シナケレバナラヌノデアル
ト強調セラレルノデアリマスガ、此借金ハ
何ト申シテモ不當ノ借金デアルト云フコト
ハ申セナイト思フ、斯ノ如キ事情デアリマ
スルカラシテ、農村ノ借金ハ巳ムニ巳マレ
ヌ是ハ借金デアリマス、此上ニ都市カラ歸
リマスル即チ歸村歸農イタシマスル所ノ、
其者ガ先ニ申シマスル通リニ三十万人ニモ
及ンデ居ルト云フニ至ッテハ、農村ノ困窮ト
云フモノハヽ是ハ想察スルニ私ハ餘リアル
ト考ヘマスル是故ニ今日農村ヲ救ヘ
ト云フ聲ハ全國ノ町村長會議、道府縣農會
長ノ會議ニ於テモ高ク唱ヘラレテ居ル所デ
アリマス誠ニ豐年滿作デアルト云フト
言ハ〓土ノ者ハ非常ニ喜ンデ芝居デモ致ス
ノニ今日ハ〓土祭サヘ出來ナイ狀況ニ置
カレテアルノデアリマス、是故ニ全國ニ於
テ〓員ノ俸給ヲ減棒スル、或ハ租稅ヲ延納
スル、若クハ粗稅ノ引下ゲヲ求メル、電燈
ヲ村ケルコトヲ制限スル、斯ウ云フ風ナコ
トガ全國到ル所ニ於テ行ハレテ居リマス
殊ニ此〓員ノ減俸問題ニ付キマシテハ長
野縣ニ於テハ非常ニ惡化イタシマツテ、兒
童ノ盟休サヘ起キテ居リマス、文部大臣ハ
此點ニ付テ三囘程注意ヲ喚起シテ居リマス
ケレドモ、全ク其效ガナイノデアリマス
斯ノ如クニシテ農村ハ今ヤ支拂猶豫ガ自然
ニ起キツヽアルノデアリマス、此關係ハ義
務不履行ノ觀念ヲ增加シテ、權利ニ對スル
一ツノ對抗狀態デアリマス、和稅ヲ不納シ
テ參リマスルコトハ權利關係ニ對拉スル
事サヘ生ジマシテ今ヤ國民ノ義務觀念、
責任觀念ト云フモノハコヽノ所カラ破壞
ニ導カレツヽアルコトハ私ノ最モ是ハ遺
憾トシ、國家ノ爲ニ實ニ重大ナル問題ナリ
ト考ヘル次第デアリマスガ斯ウ云フ風ニ
今日ノ國民ノ經濟的生活ノ問題ハ、今ヤ生
活自體ガ間題ニナッテ居リマシテ、餘裕ノ問
題デハナイノデアリマス、是故ニ全ク深刻
ナル勞働爭議、小作爭議ガ今日行ハレテ居
リマス、小作爭議モ激增イタシマシテ誠
ニ弱肉强食ノ今日デアリマス、ソコデ勞働
爭議ヲ一瞥イタシマスルト云フト、昨年ノ
一月ヨリ十二月迄ニ千八百三十三件ゴザイ
マシテ其參加人員ハ十六万人ニ達シテ居
リマス、一昨年ニ比較イタシマスルト云フト
五百六十件以上增加イタシテ居リマス、之
ヲ過去ニ戾ッテ見マスルト云フト、昭和三年
ガ一番低クナリ行ク傾向ヲ持チマシテ、四
年ノ所ハマダ低クナッテ居ル五年ニナッテ
增加シテ居ル、ダカラシテ過去ガ增加シテ、
ソコヘ來テ一ツ斯ウ突キマシテ、ソレカラ
今度ハ增加イタシテ居ルト云フ傾向ニアリ
マス而シテ其理由トスル所ガ全タ此生活
問題ノ爭デアリマシテ、賃銀ノ低減ニ反對
スルト力、退職手當ヲ確立スルトカ、載ハ
休業ノ反對、退職者ヲ複職セシメヨト云フ
コトデ、積極的ニ福利增進ノ方面ノ爭ハ今
日ハ跡ヲ絕ッテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ
風ナ形デ爭議ノ日モ非常ニ永引イテ居リ
マスルシ、殊ニ大企業ニ其爭ガ增加イタシ
テ居ルト云フコトハ注目スベキ一事デアリ
マス、玆ニ特ニ私ハ申上ゲタイノハ、爭議ノ
手段ガ甚ダ宜シクナクナリマシテ不當不
法ノ手段ヲ弄シ、左賴戰術ヲ行ナッテ柱々ニ
シテ其直接行動ニ入"テ行ク點デアリマス、
殊ニ工場管理ノ數ハ前議會ノ時ヨリモ增加
イタシテ三十ケ所ニ及ンデ居リマス八時
間勞働ノ如キモ生產制限、操業短縮ニ依。デ
自然ニ是ガ行ハレルヤウニナックト云フコ
トハ誠ニ一ツノ特謝ナル現象デアリマス、
最モ注意スベキコトハ所謂「ロック·アウト」
万昨年ハ四年度ニ比較シテ六啓モ增加イタ
シテ居ルト云フ、斯ノ如キ事象カラ見マシ
テ、勞働爭議ハ全ク惡北イタシタト申上ゲ
テ宜シイノデアリマス、ソレカラ小作爭議
デアリマスルガ此方モ同樣ナ關係デアリ
マシテ、三年度ノ所ガ低クナリツヽアル、
其前ガ增加シ今日ハ團體ノ數ガ小作人ノ
團體モ地主ノ團體モ益*增加イタシテ居リ
マスル、デ地主ノ組合ヲ見マスルト云フト、
昭和三年ニ於テ六百九十六デアリマシテ、
四年ハ低クナリマシテ六百五十五、昨年ハ
九月迄ニ六百四十一ト云フ數ニナッテ居ル
ノデアリマス、小作人ノ組合モ同樣ノ傾向
ヲ持ッテ居リマス、デ斯樣ニシテデス、小作
入組合ガ增加シ、地主組合モ同樣ニ增加シ
テ、爭議ハ遂ニ團體的ニナッテ、非常ニ危檢
性ヲ帶ビテ居リマスデ先日府下ノ東淵江
村ニ小作爭議ガゴザイマシタ、小作人ノ方
面ニ於テハ百人程デ、警官ガ五十名、地主
ノ擁護團ガ出テ、入亂レテ爭ック狀況ハ、新
聞紙ニモ出テ居リマシタガ、誠ニ危險ナ狀
況デアリマス、斯ウ云フ制度、斯ウ云フ結
果ト致シマシテ國民ノ生活ガ誠ニ不安ニ
チッテ、恒產ナケレバ恒心サシト云フヤウサ
コトカラシテ、思想ニモ惡影響ヲ來シ、所
謂此自暴自棄的ノ行動ニナッテ居リマスルノ
デ、社會ハ非常ニ危險ニナリマシテ、若シ
國民ガ、斯様ヲ極端ナル生活狀態ニナッテ來
タト云フコトハ現制度ガ適當デナイト云
フコトヲ考ヘルヤウニ若シナリマシタナラ
バ、此結果ト云フモノハ誠ニ由々シキ大事
デアルト考ヘルノデアリマス殊ニ近時赤
化思想ニ禍サレテ居リマヌル所ノ我國ハ
最モ注意シテ、今日ハ之ニ臨マナケレバナ
ラヌト私ハ考ヘマスデ不景氣ノ爲ニ益、
惡化シテ、而シテ此赤化ノ禍ト云フモノガ
到ル所ニ現ハレテ居リマシテ、極左ノ團體
ト云フモノガ、最初ニ於テハ義ハ合法ニシ
內面ニ不法團體ヲ含ンデ居クノデアリマ
スガ、今日ハ表カラ之ヲ不法ノ團體トシテ
構成サレ、而シテ所謂方向ヲ轉換ツテ直接
行動ヲ爲スニ至リ、今目露西亞ニ於キマシ
テハ地方農民ニ至ル迄「レニン」主義ヲ貫徹
シテ、而シテ富農ヲ驅逐シチ居ルト云フ狀
況ニ、今日ハ產業五年計畫ノ結果トシテナッ
テ居リマス支那全土ニ於テモ赤化思想ト
云フモノガ蔓ッテ居ル今日、全ク是ハ注意ヲ
シナケレバナラヌニ拘ラズ、誠ニ遺憾ナガ
ラ今日ハ我國ニモ茲ニ指摘シナケレバナラ
ヌヤウナ事件ガアルノデアリマス、川崎ノ
「メーデー」ノ騷擾事件、アレハ全ク此極端
ナル······竹槍ヲ八十本モ持テ行クトカ云
フヤウナコトデ非常ニ過激ナ事件デアリマ
ス、ソレカラ大津ニ於ケル電軍ノ〓覆事件、
京都ノ看護婦ガ騷擾シタ事件、關西ノ看護
婦ノ聯合事件、京都ノ刑務所ニ於ケル事件、
其他ノ「ストライキ」ニ依っテ、裏面ニ於テハ
此左傾氣分ガ策動イタシテ居ルノデアリマ
ス、殊ニ最近新聞紙ニ於テ出テ居リマス所
ノ「給社ノ陰謀、外務省ノ赤イ手、細胞ノ植
付ト共ニ外交ノ機密ヲ搜ル」、給仕ガ其中ニ
活躍シ、雇員トモ關係ガアッタト云フコトガ
其中ニ書イテアリマス、外交ノ機密ニ迄斯
クノ如キコトガ入ッテ現ハレクト云フコト
ハ是コソ深甚ノ注意ヲ拂ハヌケルバナラ
ヌ事態ト考ヘマス、其上ニ〓育ノ範圍ニ
斯カル思想ガ及ビマシテ、從前ニ於テハ社
會科學〓究ト云フ程度ニ止マッテ居リマシ
タ、思想ヲ毒セラレタニ止マッタノデアリマ
スガ、今日ハ一步ヲ進メテ其實行ニ入ッテ居
リマス、少クトモ彼等ノ行動ハ斯カル結果
ニ對スル豫行演習トシテ企テテ居ルコトハ
明カデアリマス、玆ニ於キマシテ文部大臣
ハ學務部長會議ニ於テ斯樣ニ述ベテ居リ
マス、「學生生徒ノ思想問題ハ近來其關係ス
こル範圍益、廣汎トナッテ、其運動方法ノ如キ
極メテ實際的トナリ、一般ニ惡化シ來ッタヤ
ウナ傾向ガアル、且ツ從來ハ大學ノ學生、
高等學校專門學校ノ生徒ニ限ラレテ居ル
狀況ニアッタガ、近時ハ中等學校ノ生徒ノ
中ニモ往々事件ノ發生ヲ見ルニ至ッタコト
ハ誠ニ寒心ニ堪ヘザル所デアル」、文相ノ
御言葉通リデアリマス、今日學校ノ思想
運動ハ最早單純デハナイノデアリマシテ
外部ノ勞働運動ト聯絡ガアリマス、勞働運
動ニ似タト文相ハ仰シヤッテ居リマス、勞働
運動ト聯絡ガアル迄ニ進ンデ、學校內ニ於
テ露西亞革命ヲ記念スルト云フガ如キ行動
ガアリマス彼等ハ讀書〓究會ヲ造,テ校
内ニ細胞ヲ植付ケテ居ルノデアリマス、斯
ウ云フヤウナ事態デ全ク今日ノ學校ノ騒動
ト云フモノハ單純ナモノデハナイノデアリ
やく、果セル哉皆サン御承知ノ如クニ新聞
紙ニ見エル所ニ依レバ、ドノ學校ノモノデ
モ、騒動ガ始マルヤ直ニ器物、硝子窓其他
ヲ破壞スルノデアリマス、斯ウ云フコトハ
曾シテ無イ狀態デアルノデアリマス、デ私ハ
此不景氣ハ國民ノ生活ヲ脅威シテ社會不安
ヲ生ジ、其結果トシテ國民ノ氣分ガ不安ニ
置カレテ居ルガ故ニ、斯カル行動ヲ企テル
者ガアリマシテモ、ソレニ對スル注意、思
慮ト云フモノガ國民ノ間ニ非常ニ虛弱ニ
ナッテ來テ居ルト思ヒマスカラ、今日ハ速ニ此
生活問題ニ對シテ對策ヲ講ジマシテ、國民生
活ヲ安定シテ、國民カ斯カル社會ノ忌ムベ
キ事象ニ向ッテ正視スル、正シク之ヲ見テ行
ク所ノ力ヲ與ヘルヤウニシナケレバ私ハナ
ラヌト思フノデアリマス、若シ此樣ナ狀況
ニ置カレテ不安デアルナラバ、斯ノ如キ社
會事象ニ對シテモ全ク神經ガハッキリ働カ
ヌヤウニ陷ルノデアリマス、故ニ今日ニ於
テハ速ニ此對策ヲ講ジナケレバナラヌノデ
アリマスルニ拘ラズ、政府ノ明年度ノ豫算
ヲ見マスト、失業公債ノ三千五百五十万
圓其外九百万圓ノ減稅、其他二三細カナ
モノハ竝ベテアリマスルケレドモ、殆ド見
ルベキモノガナイ、而モ十四億万ト云フ豫
算ノ中ニ、此深刻ナル不況ノ對策其モノガ
含ンデ居ルト云フコトハ到底考ヘラレナイ
ノデアリマス、然ラバ政府ハ如何ニ之ニ臨
ムカト言ヘバ、地方ノ團體ヲ活躍セシメテ
中央デ爲スベキ何億ノ事業ヲナサシメルト
カ、或ハ銀行ヲ督勵シテ政府ノ爲スベキ處
ヲ爲スト云フヨリ外ニハナイ、而シテ私ハ
玆ニ申上ゲタイ、前述ノ如クシテ財界ニ通
貨ヲ膨脹セシメテ行クト云フコトハ、曾ッテ
ノ十七億ノ豫算ノ時ト何モ結果ニ於テ變リ
ハナイ、ソレガ地方國體ノ義務ニ屬スルモ
ノデアラウガ、或ハ個人ノ金デアリマセウ
ガ、ソレハ同ジコトデアルト言ハナケレバ
ナラヌ、國民經濟カラ申シマシテ其差別ヲ
見出スコトガ出來マスカ、國家ノ財政ハ十
四億デアリマスカラ、ソレハ非募債主義ノ
政策ニ合シテ居リマセウガ、所謂緊縮政策
ト云フモノハ全ク破レテ居ルト言ハナケレ
バナラヌノデアリマス、緊縮政策ト云フモ
ノガ卽チ現內閣ノ使命デアリマス、是ガ事
實ニ於テ斯ノ加ク裏切ラレテ行ク、而モソ
レ等ノ方法ハ井上藏相ノ所謂臨機應變ノ處
置ニ過ギマセヌノデ、眞ノ對策デハアリマ
セヌ、之ヲ以テハ國民ノ生活ノ改善ハ矢張
リ出來マセヌノデアリマス、ソレデ政府ノ
明年度ノ豫算ハ、到底財界ノ對策トシテ不
十分ナリト私ハ考ヘマス、而シテ尙ホ此失
業公債ノ政策ニ付キマシテハ井上藏相ハ咋
年關西ノ實業大會ニ臨ミマシテ、公債政策
ヲ執ル伏線ヲ張シテ居リマス、其關西ノ實業
大會ニ於キマシテ失業ト云フ言葉ヲ用ヰテ
居リマス、失業ハ增加スル地方ダケニ委
セテ置ク譯ニハ行カナイカラシテ、政府ハ
適當ナ方針ヲ執ラナケレバナラヌ斯ウ云
フコトヲ政府ハ御述べニナッテ居ル、到ル所
デ失業ヲ御述ベニナルノデアリマス、誠
此點ハ適當ナラズト考ヘマス、斯ノ如クニ
シテ明年度ノ豫算ニ付テハ施設ノ見ルベキ
モノナク、地方ノ救濟事業ト云フモノデ今
日迄ハ進ンデ來タ、濱口總理ハ失業ト云フ
モノハ地方的ノモノデアルカラト云フコト
デ首尾一貫シテ居ル、然ルニ今日中央ノ事
業トセラレタト云フコトハ、其御言葉ニ反
シテ居ル、無責任ナ御言葉デアルト云フコ
トニナルノデアル、ノミナラズ全國ニ向ッテ
失業救濟ヲナサレル道路公債、是ハ全國
デハアリマセヌケレドモ、農林省デヤッテオ
出デニナル七千万圓ノ事業ト云フモノハ
全國津ミ浦ミニ及ブ事業デアリマス、サウ
云フ風ニ津ミ浦〓ニ失業ト云フモノハ及
バナイモノデアルト、濱口總理ガ明言セラ
レタ所ト、ハッキリト反對シタ事實ニナルノ
デアリマスガ故ニ、政府ノ政策ハ破綻シテ
居ルト私ハ思ヒマス、殊ニ行政財政稅政ノ
整理ヲナサルト云フノデアルガ、是ハ藤村
男爵ノ仰セニナルヤウニ、七年度ニナラナ
ケレバ實現出來ナイコトデアリマスカラシ
テ今日ノ間ニハ合ヒマセヌ私ハ玆ニ於テ
最後ニ一言ヲ申上ゲタイ、實ニ今日ハ國民
生活ハ不安デアリマシテ、速ニ此財的ノ對
策ヲ講ジテ安定セシメテ、國民ノ心持ヲ正
シク動クヤウニスルト云フコトガ大切デア
ル、若シ之ヲ怠ッテ居リマシタナラバ、國
家ノ前途ト云フモノハ誠ニ憂慮ニ堪ヘナイ
モノガアルト考ヘマス、今ヤ我ガ社會ハ革
新ノ機運ト云フモノガ充チテ居リマス、何
處迄モ此社會ヲ革新スルト云フコトハ今日
必要ニナッテ居リマス、社會ヲ革新シテ卽チ
先覺者トシテ進ムナクンバ是ハ容易ナラヌ
コトデアルト思ヒマス、然ルニ現内閣ノ如
ク因循姑息、消極退嬰政策ヲ御執リニナフ
テ、進取ノ氣象ヲ缺イタ者ハ私ノ申上ゲ
ル是ハ時勢ニ逆行シタルモノナリト考ヘル
次第デアリマス、私ハ今日ハ國運ヲ害サナ
イ範圍ニ於テハ、ドウシテモ大イニ根本的
ノ改革ヲシナケレバ、我社會ト云フモノハ
改善出來ナイト考ヘテ居ル一人デアリマ
ス、大イニ改革ヲシナケレバナラヌ、而シ
テ今日其左傾思想ニ禍ヒサレテ居リマスル
者ハ誰デアルカト申シマスレバ、二十歲カ
ラ三十歲位ノ者ガ大體ト申上ゲテ宜シイノ
デアリマス、此前途有爲ナ靑年ノ方向ヲ誤
ラシメルト云フコトハ、誠ニ私ハ何ト申シ
テ宜シイカ、言葉ヲ用ヰルコトノ出來ナイ
ダケ、其人達ニ對シテ同情ノ念ヲ禁ズル能
ハザルモノガアリマス、若イ人ガ斯ノ如ク
誤ルト云フコトハ是ハ誠ニ重大事デアリマ
シテ、其者ノ爲ニモ思想問題ニ付テハ十分
ニ考ヘナケレバナラヌニ拘ラズ、安達內相
ハ思想問題ニ付テハ全ク無理解デオ出デニ
ナル、卽チ警保局ノ特高豫算ト云フモノニ
大削減ヲ加ヘテ居ラレルコトニ依ッテ見テ
モ是ハ分ルノデアリマス、斯ウ云フ次第デ
私ハ政府ニ御尋ヲ致シタイト思フノデアリ
マス、時間ガ何デゴザイマスルカラ、午後
ニ亙リマシテ御尋ネ致シタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=16
-
017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 休憩ヲ致シマシ
テ、午後ハ一時三十分ヨリ開會イタシマス
午後零時三十二分休憩
午後二時九分開議発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=17
-
018・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ報告ヲ
致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
本日本院ニ於テ採擇スルコトヲ議決シタル
一時金癈兵恩給法中改正ノ請願外二件ノ請
願ハ各、意見書ヲ附シ直ニ之ヲ政府ニ送付
セリ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=18
-
019・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ午後ノ
會議ヲ開キマス、山岡萬之助君
〔山岡萬之助君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=19
-
020・山岡萬之助
○山岡萬之助君 私ハ午前ニ述ベマシク所
ノ中ノ質疑ノ要點ヲ玆ニ指摘イタシマシテ
御答辯ヲ求メタイト思ヒマス、先ヅ井上藏
相ニ御尋ヲ致シマス、現內閣組織以來、財
界ノ不況ト云フコトガ整理緊縮ノ結果デア
ルト云フコトハ、五十八議會ニ於テハッキリ
ト濱口總理ハ御認メニナッテ居リマス、卽チ
速記錄ニ明瞭ニ書イテアリマス、不景氣ノ
一部ヲナシテ居ル······緊縮政策ガ不景氣ノ
一部ヲナシテ居ル、ソレハ確カニ認ムル
其責任ハ負ヒマス、而シテ其原因ノ中ニ世
界的不況ノアルコトハ、是ハ斷シテ置クト云
フ意味デアリマス而シテソレニ對シテ相
當ノ措置ヲ講ズルモノデ、其點ニ於テ冒頭
ニ申上ゲマシタ具體的施設ヲ必要トスルト
云フ御言葉デアリマスガ、此事ハ井上大藏
大臣ニハハッキリト御念頭ニ御置キ下サッタ
上ニ御答辯ヲ求メマス、今日マデ上下兩院
ニ於テ井上大藏大臣ノ仰セニナッテ居ル所
ハ、今日ノ不況ハ世界的不況デアル、日本
獨リ其不況ノ中カラ景氣ノ立前ニ居ル譯ニ
ハイカナイ、其事ニ於テ勿論世界的不況ト
云フコトハドナタモ認ムル所デアリマシテ、
敢テ大藏大臣ノ辯明ヲ俟チマセヌ、唯私ノ
問ハムトスル所ハ今日ノ不況ノ一因ト云フ
モノハ確カニ現內閣ノ對策ガ惡イ、此ニ在
ルト云フコトヲハッキリ大藏大臣ハ御認メ
ニナラナケレバナラヌト思フノデアリマ
ス、其點ニ付テ明瞭ニ御答ヘヲ願ヒタイノ
デアリマス、次ニ之ニ牽聯イタシマシテ、
世界不況ハ昨年五月承知シタト云フ仰セデ
アリマス、然レドモ前議會ニ於テ濱口總理
ハ世界不況ガ可ナリ大キイ原因デアルト
云フコトヲハッキリト御述ベニナッテ居リマ
ス、總理大臣ガハッキリト御認メニナッテ居
ルノニ、議會ガ濟ンデ五月ニナッテカラ自分
ハ原因ヲ認メタト云フノハ如何ナル事柄デア
リマスカ、濱口總理ノ統率セラレタル閣員デア
リマスル以上ハ、如何ニ井上大藏大臣ガ個人
トシテ御考ヘニナリマシテモ、閣員トシテ
ハ是ハドウシテモ御認メニナラニヤナラヌ
コトト、私ハ思ヒマス、サウスルト五月ニナッテ
初メテ世界不況ヲ知ッタト云フ御言葉ハ玆
ニ用ヰル譯ニハ私ハ參ラヌト思フノデアリ
やく、個人ノ御考デナク閣員トシテノ御考
ハドウシテモサウデナケレバナラヌト考ヘ
マン、ソレニ付キマシテデス、玆ニ私ハ金
解禁ノ聲明書ヲ一部申上ゲテ見タイノデア
リマス前文ガゴザイマシテ······濱口總理
ノ聲明書デゴザイマス、「斯クテ外國財界ノ
變遷ト相俟ッテ內外諸般ノ準備全ク成リ今
ヤ解禁ヲ行フモ經濟上何等憂フベキ事態ヲ
發生セザルベキ確信ヲ得タルヲ以テ茲ニ金
ノ輸出取締ヲ撤廢スル大藏省令ヲ發布シ明
年一月十一日以後ノ金ノ輸出禁止ヲ解除ス
ルコトトセリ」云々、同時ニ井上大藏大臣ハ、
云々「今ヤ內外ノ準備全ク成レルヲ以テ玆
ニ解禁ヲ行フモ金銀市場其他財界一般ニ對
シ急激ナル影響ナカルベキヲ確信ス」云々、
「政府ノ財政ハ依然緊縮ヲ持續スルノ要ア
リ」云々、斯ウ云フ御聲明ヲナスッテ居ルノ
デアリマス、果シテ然ラバ一昨年ノ十一月
二十一日、十月末ヨリ米國ノ不況ノ現ハレ
テ居ルコトハドナタモ御承知ナコトデアリ
マく、其次第デアルノニ、斯ノ如ク現內閣
ハ御聲明ニナッテ、國民ハ之ニ依ッテ解禁サ
レルト云フコトハ決シテ惡イ結果ニハナラ
ヌト云フコトヲ勿論信ジテ居ッタノデアリ
ママ、前議會ノ時ニ、世界不況ト云フコト
ハ現内閣ハ内閣トシテ承知シテ居ルモノト
言ハナケレバナリマセヌ、而シテ金解禁ノ
聲明ニ於テ斯ノ如ク「確信ス」ト斯ウ仰セニ
ナッタ以上ハ、之ニ對シテ世界不況ハ我國ニ
於テ已ムヲ得ナイコトデアル、デ私ハ一步
ヲ讓ッテ、井上大藏大臣ガ知ラナカッタ、斯ウ
云フコトデアリマシテ見タ所デ、輔弼ノ責
任ハ、閣臣ノ行動デアルト否ト、又知ルト
否トヲ問ハズ、之ニ任ズベキモノデアルコ
トハ申シ上ゲル迄モナイコトデアリマス、
故ニ單ニ、已ムヲ得ナイト云フ御言葉ダケ
デハ我ミハ承服スルコトハ出來ヌノデアリ
や 、ドウ云フ責任上ノ御感ジガアリマス
ルカ、明答ヲ求メル次第デアリマス、次ニ
金解禁ハ爲替相場一割以上、井上藏相ハ平
均シテ先ヅ七分ト云フコトヲ發表セラレテ
居リマスルガ、組閣以來金解禁ノ聲ニ依ツ
テ爲替相場ハ次第ニ上ッテ來テ居リマス、四
十三弗四分ノ三デゴザイマシタカ、段々
ニソレカラ良クナッテ今日ノ狀況ニナッテ居
リマスルガ、解禁前カラ上ッテ居ルコトハ申
上ゲル迄モナイコトデアリマス是故ニ一
割以上上ガッテ居ルコトハ、是ハ公知ノ事實
トシテ證明ヲ俟タヌト思ヒマスカルガ故
ニ物價ハ當然低落イタシマスノデコザイマ
スデ物價ガ低落イタシマスルト云フト、
生產費ノ重要部分ヲ占メテ居リマスル勞銀
ヲ下ゲテ、速ニ······先日藏相ノ御言葉ニハ
物價カラ生產費、生產費カラ勞銀、其間ニ
變化ガアルカラシテ玆デ非常ニ困難ヲス
ル······是ハ御尤デアリマス是ハ逆ニ來
テ居ルカラサウデアル、初メカラ勞銀ヲ下
ゲテシマヘバ卽チ順調ニ進ンデ行クノデア
リマス、現內閣ノ政策ハ其點ニ於テ逆ニ來
テ居ルノデアリマスルカラ、ソコニ非常ナ
無理ガアリマス、非常ナ困難ガアリマス
是故ニ勞銀ヲ低下スルコトガ最モ第一ニ必
要デアリマス、之レ故ニ組閣間モナク減俸案
ヲ出シ、之ヲ世間ニ發表イタサレテ、斷ジテ
之ヲ行フト云フコトガ濱口總理ノ御言葉デ
アッタノデアリマス、然ルニ先刻申上ゲマシ
タヤウニ、世間ガ之ニ對シテ反對ノ聲ヲ揚
ゲマシタカラシテ撤廢イタシテシマッタ、是
ハ現内閣ノ根本政策ヲ破壞シタモノデアリ
マく、是ガ爲ニ今日ノ如ク經濟界ハ總テ逆
行イタシテ居ルノデアリマス勞銀ヲドウ
シテモ下ゲヌケレバ經濟界ハ順調ニハ進ン
デ行カナイト私ハ考ヘマス、是故ニ此政策
ヲ撤廢ナサッタト云フコトハ、是ハ政策トシ
テハ現内閣ノ重大ナル責任ガ玆ニアルト思
フ、之ニ付テ責任上ドウ御考ヘニナルカヲ
伺ヒタイノデアリマス、デ其コトニ牽聯イ
タシマシテ、緊縮政策ノ遂行ガ不可能ニナ
リマシテ、段々申上ゲマシタヤウニ、地方
ノ財政ハ膨脹ニ次グニ膨脹ヲ以テスル低
利資金ハ地方ヘ融通スル、又中央ニ於テ
モ公債政策ヲ假令······一時ト仰セラレタ,
私ハ是ハ一時ヂヤナイト思フ、何故ナラバ
失業救濟ト云フモノハ五年度カラ八年度マ
デ計畫シテ居ラレルト云フコトハ先刻申上
ゲタ通リデアリマス、今年ダケデ是ガ濟ム
ト云フコトハ斷ジテアリマセヌ、果シテ然
ラバ、一年限リト云フ御言葉ハ、是ハ全ク氣
休メノ言葉デアッテ、事實是ハ不可能ナコト
デアリマス、是ガ中央デ三千万ノ公債ヲ來年
續イテ御ヤリニナラヌコトニナレバ、今度
ハ地方ノ公債ヲ膨脹スルカ、何處カヘ必ズ
オヤリニナルト思フ、ドウ云フ政策ヲ執ル
カ、ソレハ別ノコトデアリマス、兎モ角一年
限ト云フ意味デ、財政ノ計畫ト云フモノハ出
來ナイコトハ當然ナ事實デアリマスサウ
云フ次第デアリマスカラ、緊縮政策ト云フ
モノハ七千万ノ低利、地方起債、其他右申
上ゲマシタヤウナ事柄ハ是ハ破レテ居リマ
ス、緊縮政策ガ破レテ居ルト云フコトハ
ドウ云フ風ニ御考ヘニナルカ、次第々々ニ
必要ナ程度ハ延バシテ宜イト云フ段々ノ御
說明デアリマスガ、ソコデ私共ニハ分ラヌ
ノデアリマス、緊縮政策ト云フノナラバ
四年度ノ結末ノツイタ、アヽ云フ程度ニ於
テ、ドコマデモ御遂行ニナルト云フコトガ、
國民ハ之ニ依ッテ初メテ自己ノ經濟策ヲ立
テルト云フコトガ出來ルノデアリマス、政
府ハ何ヲナサルカサッパリ分ラヌデハ、國民
ノ經濟ノ行動ハ如何ニシテ宜イカ迷ハザル
ヲ得ナイノデアリマス、ソレデアリマスル
カラ、政府ガ緊縮政策ヲ立テマシタナラバ、
表ダケ左樣ノ仰セガアルダケデハイカヌノ
デアリマス事實ガ、數字上ニ於テ、其他
ノ意味ニ於テ、ハッキリトナラナケレバ、是
ハ國民ノ經濟ガ今日ノ如ク政治ト直接關係
ガゴザリマシテ、政府ノ緊縮政策カラ國民
ハ塗炭ニ苦シム今日ニ於テ是ハドウシテ
モナサルベキ義務ガアルト私ハ考ヘマス
然ルニ表ニハ緊縮政策ヲ捨テナイト云フ仰
セガアリマスガ事實ハ斯ノ如シデアリ
ず、、斯ノ如キ事實、此主義ト對比上ニ於
チ如何ニ御說明ニナルカ、段々其點ハ一向
緊縮政策ハ破ッテ居ラナイト云フ御言葉デ
アリマスケレドモ、サウヂヤナイ、私ハ此
ナサッテ居ルコトハドウシテモ膨脹シテ居
ルノデアリマス、ソレデ少シモ差支ナイト
云フコトデアルカラ能ク御說明願ヒタイ、
ヲレカラ次ニ御尋ネ致シタイノハ、昨年殊
ニ後半期ニ於キマシテ、政府ノ低利資金、
銀行卽チ金融機關ノ働キ方其他ニ······卽チ
兌換劵其他ニ依リマシテ數億圓、此數億圓
ト申上ゲルコトハ玆ニ一々ノ數字ヲ申上ゲ
ルコトガ必要ト私ハ思ヒマスガ、數億圓ノ
金圓ガ財界各方面ニ融通ニ置カレタノデア
リマス、是ガ財政上ニ於テ中央ノ施設デア
ラウト、地方ノ施設デアラウト、或ハ金融
機關ガ普通銀行デアラウト特殊銀行デアラ
ウト若クハ政府ノ命令ニ依ッタモノデアッ
テモ、或ハ政府ノ意嚮ヲ金融機關ノ人達ガ
參酌シテヤッタノデアリマシテモ、サウ云フ
コトハ私ハ一ツモ伺ハウト思ハヌノデアリ
ずっと、唯結果トシテ斯ノ如キ事情カラ多額
ノ金錢ト云フモノガ融通ニ置カレタト云フ
事實ハ、是ハ事實デアリマシテ、無論御認
メニナルコトデアリマスルガ、是ガ卽チ此
緊縮政業ニ反シテ居ル、一時應急ノ、臨機
應變ノ處置ト云フ御言葉ヲ常ニ用ヒラレマ
スガ、斯ウ御辯明ニナルカト思ヒマス、兌
換劵モ今年ニナレバ收縮シタト仰セニナル
ケレドモ、緊縮政策ト云フモノハサウ云
フ便宜主義ノ行ハレルモノデハ、私ハ斷ジ
テナイト思フ、苟モ緊縮政策ヲ執リマシタ
以上ト云フモノハ、何處々々マデモ「インフ
レーシヨン」ヲ來スヤウナコトハナサッテハ
ナラヌト思フ、然ルニ今日ハ昨年度ノ後半
期ニ於テ普通銀行ガ二十七位デアリマスカ、
休業イタシテ、預金ハ二億モ減ルト云フヤ
ウナコトデアッタガ、其儘捨置キマスルト云
フト、財界ハ必ズ容易ナラヌ事態ヲ惹起ス
ルノデアリマス、玆ニ於テサウ云フ策ヲ御
教リニナッタノデアルカラ、是ガ根本ニ於テ
緊縮政策ト云フモノガナカリセバ吾ミハ
問フ必要ハナイ、寧ロ大藏大臣ノナサッタコ
トガ賢明デアリ、過去ノ御經驗、卽チ金融
界ニ貢獻ナサッタ其經驗カラ最モ能ク處理
セラレタト申上ゲテ宜イノデアル然ルニ
濱口總理ハ前ノ議會ニ於テモ、其後ニ於テ
モ、政府ハ決シテ此緊縮政策ハ放棄シナイ、
國民ノ消費節約ヲモ遂行スル、斯ウ云フノ
デアリマスルカラ、大藏大臣ガ貴業兩院ニ
於テソレハ宜イ事ダト仰シヤル、宜イ事ニ
違ヒナイノデス、此根本ノ主義ナカリセバ、
我ミハ雙手ヲ擧ゲテ、財界ノ大問題ヲ起サ
ズシテ昨年ノ暮ヲ經過シタコトニ付テハ
之ヲ賞揚ヲ致シテ宜イノデアル、之レ故ニ
此點ニ於テ通貨ノ膨脹ヲ來シ、過去ニ於ケ
ルソレト同ジニナッタト云フコトヲ私ハ······
殊ニ濱口總理ハ前ノ內閣、前前ノ内閣ノ閣
員ト致シテ、大藏大臣トシテ、先ヅ三度ノ
豫算ヲ御組ミニナッタト申シテ宜シイノデ
アリマス片岡大藏大臣ガ最後ニ代リマシ
タケレドモ、大體アレハ濱口大藏大臣ノ財
政計畫デアリマス、最初緊縮政策ヲ執ッテ十
五億ニ緊縮イタサレタノデアリマス、ソレ
ナラ十五億ト云フ程度ニ於テ大體ヤッテオ
イデニナル是ガ緊縮政策ヲ標榜スル內閣
トシテハ當然ノコトデアルト私ハ考ヘマ
ス、此點ニ於テ井上大藏大臣ハ、昨年、五
年度ノ豫算ニ於テハ先ヅ十五億ト云フ所デ
アリマスカ、ソレカラ本年ハ十四億臺ニ
減額サレタノデアリマスルカラ、此點ハ結
構ナコトデアリマス、是ハ咎ムルト云フコ
トハナイ、是ハ當然ノ筋デアル、故ニ濱口
總理ガ大藏大臣トシテナサッタコトハ間
違ヲテ居ル、十五億カラ十六億ニナリ、最後
ノ豫算ハ十七億何千万ト云フ多額ニナッテ
居ルノデアリマス、其處マデ緊縮內閣ガ膨
脹サセテ、何ガ緊縮内閣デアリマスカ之
レ故ニ中央ノ財政トシテハ井上大藏大臣ノ
ナサッタコトハ主義上ニ於テ結構デアリマ
ス、ガ併シ、私ハ之レ故ニ申スノデアリマ
ス、地方ノ經濟ト云ハズ、中央ノ經濟ト云
ハズ、金融ノ機關ノ其何レタルトヲ問ハズ、
今日數億ノ金ガ財界ニ融通セラレテ居ルト
云フコトハ、國家財政ヲ十四億ニナサッテ
モ、之ニ加ヘルコト二億トナレバ、直チニ
十六億、三億加ヘマスト十七億ニナルノデ
アリマス、其程度ニ地方財政及ビ其他ノ關
係ニ於テ確カニ膨脹イタシテ居ルノデアリ
マス是デ何處ニ緊縮政策ノ徹底ト云フコ
トガ申サレルノデアリマスルカ、此點ヲ伺
ヒタイノデアリマス、斯ノ如クニシテ私ハ大
藏大臣ニ伺ヒタイノデアリマス過去ヲ顧
ミテ財界ノ不況對策ト云フモノハ十分デア
リマセヌガ故ニ其十五億ノ豫算、十四億
ノ豫算デ經濟界ハ持行クコトガ出來ナク
ナッタノデアリマスカラ、此對策ハ十分ナラ
ズ左樣ニ考ヘマス而シテ將來此難局ニ
處シテ行キマスル上ニ付テハドウシテモ
何カ考ヘナケレバナラナイ所ガ緊縮政策
ノ結果財源ト云フモノヲ有ッテ御出ニナラ
ヌノデアリマス、是故ニ此議會ニ於テ審議
スベキ所ノ豫算ノ施設ト云フモノハ、見ル
ベキモノハ何モナイノデアリマス、斯ウ云
フコトデアリマスレバ、政府ノ政策ト云
フモノハ私ハ全ク行詰ッタモノト······意見
デハアリマセヌ、是ハ事實トシテ申上ゲテ
宜イノデアリマス、行詰ッタモノト申シテ宜
シト思フノデアリマス、デ言葉ヲ換ヘレバ
今日ノ難局ニ處シテ國民生活ノ不安ヲ除去
スルト云フコトニ付テ策ヲ御有チニナッテ
居ラヌト申シテ宜イト思フノデアリマス、
之ニ對シテ大藏大臣ノ所見ヲ承リクイノデ
アリマス
〔國務大臣井上準之助君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=20
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021・井上準之助
○國務大臣(井上準之助君) 只今ノ山岡君
ノ御質問ニ對シテ答辯ヲ致スノデアリマス
ガ日本ノ現代ノ不景氣ト云フモノハ動ト
モスルト世界ノ不景氣ノ結果ト見ルガドウ
カ、斯ウ云フヤウナ御質問ノ趣意デアリマ
スガ私ハ常ニ申シテ居ルノデアリマス
不景氣ガドウ云フ程度デアルカト云フコト
ハ數字的ニハ甚ダ說明シ兼ネルノデアリマ
スガ、之ヲ其一部ヲ說明シ得ル物價指數デ
申シマシタナラバ、昨年ノ六月カラ詐年ノ
暮マデニ日本ノ物價指數ハ二割七分以上下
ガッテ居リマス、其原因ヲ糺シテ見マシタナ
ラバ、金解禁ヲスレバ爲替相場ガ上ガル、日
本ノ通貨ガ對外的ニ價値ガ上ガルノデアリ
マスカラ、ソレダケ外國カラ直接輸入スル
モノハ上ガル次第デアリマス、內地全體ノ
物價ハ間接ノ結果デアリマスカラ是モ相當
ニ上ガリマセウガ、爲替相場ノ上ガッタ程ハ
上ガラヌト考ヘテ居リマスガ、サウ云フコ
トデアリマス、從ッテ私ハ一一割七分ノ中デ金
解禁ノ結果ガ一部アル、併ナガラ昨年ノ一
月十一日ニ金解禁ヲ決行イタシマシタ時ノ
日本ノ物價指數ハ八分バカリ下ガッテ居リ
マス、サウシテ昨年中ニ、從ッテ二割近イ
物價ガ下ガッタノデアリマスガ、數字的ニハ
說明ガ出來ヌノデアリマスガ、昨年ノ左程
極端ニ物價ノ下ガッタノハ、私ハ大體申シマ
スト世界ノ不景氣ガ大部分デアル、斯ウ
考ヘテ居ルノデアリマス、繰返シテ申シマ
スレバ、金解禁ノ結果、財界ノ建直シ、財政
ノ緊縮ト云フモノガ、日本ノ不景氣ニ或ル
部分ハ關係シテ居ル、併ナガラ昨年ノ左程
物價ノ下ガッタノハ世界ノ不景氣ガ餘程大
部分手傳ノテ居ルト、斯ウ云フ風ニ我ミハ見
テ居ルノデアリマス、決シテ我ミノ政策ガ
何等關係ナイトハ考ヘテ居ラヌノデアリマ
ス、又全部ガ我ミノ政策ノ結果トモ考ヘテ
居ラヌノデアリマス、次ニハ昨年ノ特別議
會ノ濟ンダ五月ト云フ時迄ハ世界ノ不景氣
ヲ認メテ居ラナカッタカ、濱口首相ハ相當ニ
世界ノ不景氣ヲ認メテ居ッタガ、ソレヲ大藏
大臣ハドウ考ヘルカ、斯ウ申シマスト、昨
年ノ一月ノ末カラ世界ノ物價ガ段々低落シ
テ來ルト云フコトハ數字ノ上デハッキリシ
タ事情デアリマシテ、當然何人モ認メテ居
ルノデアリマス、併ナガラ昨年ノ五月ト云
フ月ヲ私ガ申上ゲマシタノハ、日本ノ最モ
重要ナル物產デアル所ノ生絲ガ急激ニ下落
イタシマシタノハ五月カラデアル、亞米利
加ノ消費量ガ、非常ナ、五月カラ九月位迄
減リマシテ、下ガッタノデアリマシテ、極ク
淡泊ニ申シマスト、世界ノ不景氣ハ來ルデ
アラウ、此物價ノ下ガリ工合ナラバ相當ニ
世界ノ不景氣ハ來ルデアラウト云フコト
ハ、誰モ認メテ居ノタノデアリマスガ、五月
カラ九月位迄ニ外國ノ不景氣ガアレ程迄ニ
深刻ニナリ、其結果ガ日本ニ是程及ンデ來
タト云フコトハ不明ト申シマスカ、昨日
モ藤村男爵ヨリ御責メニナリマシタガ、ア
レ程ノ程度迄來ヤウト數字的ニ、我ミノ
頭ノ中ニハハッキリハシテ居ラナカッタノデ
アリマス、又金解禁ノ準備ヲ十一月ノ二十
一日ニ、一昨年ノ十一月二十一日ニ發表シ
タ時ニ準備ガ成フタ、金解禁ヲシテモ差支ヘ
ナイ、斯ウ云フコトヲ言ッタガ、其時ニ分ラ
ナカッタカ、其後ノ事情カラ見レバ非常ナ日
本ノ狀態ハ變"タガ、其十一月ノ二十一日ニ
其事ガ分ラナカッタ其不明ノ責任ヲドウス
ルカ、斯ウ云フ御質問デアリマシタガ、金
解禁ヲ發表イタシマシタ時ニハ山岡君ノ
指摘サレルヤウニ、亞米利加ノ有價證劵市
場ハ可ナリ暴落イタシマシタノデアリマス、
併ナガラ一億圓ノ「クレヂット」ヲソレデモ
拵ヘ得ルコトガ、十月カラ十一月ニ交涉ヲ
シテ出來マシタノデ、昨年中ノ亞米利加ノ
市場デアリマシタナラバ恐ラクハ「クレ
ヂット」ノ一億圓ヲ、アノ時ニ紐育デ出來マ
シタガ、昨年中ナラバ到底出來ナカッタラ
ウト實ハ考ヘテ居ルノデアリマス、從ッテ
我とハ昨年ニ亞米利加ノ事〓、世界ノ事情
ガ變化シタ如ク、一昨年ノ金解禁ヲ發表ス
衣服、世界ノ事情ハ左程ナッテ居ラナカッ
タ昨年ノヤウニ極端ニナルヤウナ萠シハ
ナカッタト、確カニ我ミハ考ヘテ居リマス、
其次ノ御問ハ一部答辯ヲ致シマシタコトニ
ナリマスガ尙ホ繰返シテ申シマスト
昨年ノ七月ニハ爲替相場ハ一割チヨット上、
下ッテ居フタノデアリマス、從ヒマシテ金ノ
解禁ヲ致シマスレバ、外國カラ直接參リマ
スモノハ一割以上物價ガ下ガルト云フコト
ハ、是ハ當然ノ儀デアリマス、併ナガラ爲
替相場ノ低落ガ內地ノ物價全體ニ及ンデ居
シノハ一割以上及ンデ居ラヌト見ルノガ
適當ト考ヘテ居リマス、何故カナラバ一割
以上下ッタノハ、僅カ六箇月ノ間下ッテ居フタ
ノデアリマスカラ、爲替相場ガ六箇月下ッタ
ト云フテ、日本全體ノ物價ニ直チニ六箇月
位ノ短期間ニ及バウトハ考ヘテ居リマセヌ、
從ッテ私ハ何時デモ大正十一年十二年位カ
ラノ平均ヲ採ッテ先ヅ平均六七分位ノ下ガ
ク、斯ウ申上ゲタノハソコニ根據ガアルノ
デアリマス、サウ云フ風ニ致シマスカラ、
何レニシテモ爲替相場ガ騰レバ、內地全體
ニ影響スルモノハ、少クトモ六七分以上影
響スルト云フコトハ、我ミハ認メテ居ルノ
デアリマス、ソレナラバサウ物價ガ下ガル
ト、勞銀ヲ先ニ下ゲテ置カナケレバ物價ハ
本當ニ下ガラナイ、官吏ノ減俸ヲシテ置カ
ヌケレバ緊縮政策ハ不可能ニナル、物價
ヲ下ゲルノニハ、ソレガ第一ニ採ルベキ處
置ダト、斯ウ云フ御話デアリマスガ、是一
考ヘ樣ニ依リマシテハ私ハ相關聯シテ居ル
ト思ヒマス、勞銀ヲ下ゲレバ物價ガ下ガル
ト云フノハ理窟ノ結果デアリマス、併ナガ
ラ勞銀ヲ下ゲ得ル場合ニハ生活費ガ下ッテ
居ラヌケレバ、ソコニ非常ナ無理ガ行クノ
デアリマスカラ勞銀ハ下ゲ得ナイノデアリ
Vぐ、ソコニ前申上ゲマシタガ、我ミハ物
價ガ下ガル生活費ガソレニ應ジテ下ガル
ベキモノデアルガ、ソレニハ相當ナ時ヲ要
スル、物價ガ下ガレバ生產費ガ下ガル筈デ
アルガ、ソレニモ相當ノ時ヲ要スルト申シ
タノハ、ソコニ意味ガアルノデアリマス、
卽チ勞銀ガ下ガッテモ、生活費ガ下ッテ居レ
バ無理ガイカヌ、俸給ヲ下ゲテモ、物價
ガ下ッテ、生活費ガ下ガレバ、無理ガイカヌ、
併ナガラ物價ヲ下ゲ勞銀ヲ下ゲ得ルナラ
バ、之ヲ下ゲレバ物價ヲ下ゲルト云フコト
ニ對シテハ大ナル效果ガアリマセウ、併
ナガラ社會ニ對スルヤリ方トシテハ、左樣
ナ無理ナコトモ極端ニモ出來ヌノデアリマ
シテ相互ヒニ是ハ關聯シテ居ルコトト私
ハ考ヘテ居リマス其次ハ緊縮政策政府
ノ緊縮政策ガ各種ノ場合ニ矛盾シテ居ル、
斯ウ云フ例ヲ擧ゲラレテ居リマスガ、第
ハ政府ガ緊縮ヲシナガラ地方ノ地方債ガ殖
エタヂヤナイカ、ソレハ一種ノ緊縮政策ノ
破綻デアルト、斯ウ言ハレマスガ、度ミ說
明申上ゲマス如ク、成程昨年度ニ於キ
マシテ、マダ三箇月分アリマスガ其
中デ一億二千万圓ノ地方債ヲ許可シテ
居リマス、一月カラ三月マデニ多少殖エ
やく、從テ絕對數モ昭和四年度ヨリモ殖
エマセウト云フコトハ見込ンデ居リマス
併ナガラソレハ私ガ申シマシタ如ク失
業救濟ノ爲ニ三千五百五十万圓ノ公債ヲ出
スト同ジコトニ、地方ニ於キマシテモ增加
イタシマシタ數字ハ殆ド地方ノ失業救濟
ノ爲ニ起シタ事業ニ對スル地方債デアリマ
ス、是ハ我ミハ特別ノ場合ノ處置トシテ失
業救濟ノ爲ニ公債ヲ出シ、地方ニモ地方債
ヲ殖ヤスト云フコトハ巳ムヲ得ヌト考ヘテ
居ル次第デアリマス、ソレカラ尙ホ其次ノ
例ハ預金部カラ地方ニ七千万圓、或ハ三千
万圓、或ハ中小商工業者ノ爲ニ二千五百万
圓ト云フヤウニ金ヲ貸スコトハ緊縮政策ト
矛盾シテ居ル、斯ウ言ハレマスガ、是ハ左
樣ニモ考ヘヌノデアリマス、何故カナラバ
預金部ノ金ハ地方カラ集テ來マシタモノ
ヲ地方ニ還元スルノデアリマシテ、大體年
年集ッテ來ルモノヲ、年々地方ニ還元スルノ
デアリマスカラ、此爲ニ地方ガエライ膨脹
政策ノ爲ニ禍サレルト云フコトハ斷ジテ
無イト考ヘテ居リマスソレカラ其次ハ特
別銀行デアラウト普通銀行デアラウト
銀行ガ金ヲ貸スト云フコトハ通貨膨脹ニ
ナッテ、ソレガ現政府ノ緊縮政策ト相反スル、
斯ウ云フコトデアリマスガ是モ山岡氏ノ
言ハルヽヤウニ、我〓ハ考ヘテ居ラヌノデ
アリマシテ、銀行ガ預金ヲ取出サレル爲ニ
支拂ヲスル、自分ノ得意先ノ要求ニ應ジテ
堅固ナ貸金ヲスルト云フコトハ當リ前ノコ
トデアリマシテ、是ガ緊縮ヲシテハ私
經濟界ハ立行カヌト考ヘテ居リマス、自分
ノ資金デ自分ガ確實ナモノニ金ヲ貸スト云
フモノガ緊縮政策ニ反シヤウトハ考ヘヌノ
デアリマス、此關係ニ於テ山岡氏ハ日本銀
行ノ昨年ノ暮ニ通貨ガ非常ニ出タ、ソシハ
一種ノ通貨膨脹デアッテ、緊縮政策ト反スル、
斯ウ言ハレマスケレドモ昨年ノ暮ニ出マ
シタモノト昭和四年ニ出マシタモノト比
較イタシマスト、寧ロ昭和四年ヨリモ昨年
ノ年末ニ出マシタ數字ハ少イノデアリマ
ス、昭和三年ニ之ヲ比較イタシマシテモ
尙ホ一億以上一昨年以前卽チ昭和三年ヨリ
カ少ナイノデアリマス、左樣ニ致シマシテ
銀行ガ預金ノ支拂準備ニ要ル、斯ウ云フコ
トノ爲ニ日本銀行カラ預ケ金ヲ引出シテ
モ或ハ貸付ヲ要求イタシマシテモソレ
ハ一種ノ消極的ノ意味ノ所謂金融制度ノ結
果デアリマシテ、何モ進ンデ新シイ事業ヲ
起シテ大ニ此時代ニ無理ニ通貨膨脹ヲセシ
メテ、新シイ事業ヲスルト云フコトトハ非
常ニ違ヒマス、從ッテ通貨ガ世ノ中ニ出テ、
ソレノ結果ガ生ジマスノハ大ニ積極的ニ
進ンデ仕事ヲシヤウト云フカ、或ハ通貨ガ
出マシテ永ク一年トカ二年トカ其儘通貨ガ
世ノ中ニ流通イタシマシタ時ニ、最モ著シ
イ弊害ヲ生ズルノデアリマシテ、一時的ニ
消極的ニ通貨ガ出マシテモ、是迄ノ經驗ニ
依リマシテモ、其モノガ通貨膨脹ト云フ惡
イ結果ヲ生ジタコトハ是マデ餘リ認メマセ
ヌノデアリマス、尙ホ昭和六年度ノ豫算ニ
付テノ最後ニ御批評ガアリマシテ、昭和六
年度ハ今日ノ此機會ニ對スル對策トシテノ
見ルベキモノガ無イ、斯ウ云フ御話デアリ
マシタガ、此點ニ付キマシテハ勝田君、藤
村男爵ヨリモ殆ド同樣ノ御質問ガアッタノ
デアリマスガ、我ミハ經濟界ニ對スル對策
ト致シマシテハ、今日ノ如キ時代ニハ大
體言ヒマスト整理時代デアッテ金融 疏通ヲ
圖ル經濟界ノ大體破綻、或ハ破壞ヲ來サ
ヌヤウニ金融問題デ此時代ヲ整理シテ行ッ
テ、サウシテ居リマシタナラバ物價ガ落著
イテ、ソレニ依ッテ生產費モ下リ生活費モ
段々下ッテ來マシタラバ·····サウシテ世界
ト共ニ此經濟ガ復活スル時代ガ來マシタナ
ラバ、日本ノ經濟ハ非常ニ安固ナ然ルベキ
所ニ立ツコトガ出來ルト、斯ウ考ヘテ居リマ
スノデ、昭和六年度ノ豫算ノ御批評ニ對シ
マシテハ、非常ナ急激ニ歲入ガ減リマス爲
ニソレニ應ジテ歲出ヲ減ス、斯ウ云フコト
ノ處置ヲ取ッタ爲ニ大體見ルベキモノガ無
イトノ御批評ハ左樣ナ所カラ參リマシテ居
リマスナラバサウ云フ意味ニ出來テ居ル
次第デアリマス、一應御答辯申上ゲマス
〔山岡萬之助君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=21
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022・山岡萬之助
○山岡萬之助君 井上藏相ノ御答辯ハ是デ
滿足シタトハ考ヘマセヌガ、再質問ヲ致ス
ト云フコトハ差控ヘマス、唯一言イタシテ
置キタイコトハ現內閣ノ緊縮政策ガ今日ノ
財界ニ對シ關係ガアルト云フコトハ······御
言葉ヲ用ヰラレマシタガ、關係ガアルト云
フ位ノコトデハナイ、卽チ一方ニ原因ヲ置
イタモノハ、他方ニ如何ナル原因ガアラウ
ト、當然其關係ニ對シテ責任ノ地位ニ立タ
ネバナラヌノデアリマス、次ニ世界ノ不況
ヲ知ラナカッタト云フコトハ不明デアルト
云フ御言葉デ今日モ結ンデ居リマス、私ハ
サウ云フコトヲ伺ッタノデハナイ、知ルト知
ラザルトヲ問ハズ、輔弼ノ責任ト云フモノハ
總テヲ感ジナクチャナラヌ、ドウ御考ヘニ
ナルカト云フコトヲ伺ッタノデアリマス、ソレ
ニモ適當ナ御言葉ガ無イ、ソレカラ次ニ減
俸問題ニ付キマシテハ私ノ問ハントスル所
ヨリモ餘所ノ御話ガアッタノデアリマス、勞銀
ヲ下ゲルニハ生活費ガ下ッテ居ラナケレバ
イケナイ、若シ果シテ然ラバ生活費ガソレ
程急ニ金解禁ヲ聲明サレテ直グ下ルモノデ
ハアリマセヌ、然ラバ何ガ故ニアノ重大ナ
ル聲明ヲ爲サッタノデアルカ、ソレガ私ノ問
ハントスル所デアリマス、ソコヲ御說明ニ
ナラヌデ顧ミテ他ヲ仰シヤルト云フコトハ
サッパリ御答ニナリマセヌ、ソレカラ其他ノ
點ニ於テ總括シテ私ハ申上ゲマス、事業ガ
進ンデ行クニハ金ガ要ル、銀行ハ貸スノガ
商賣デアル、貸スノガ當リ前デアル、是ガ
今マデ常ニ仰シヤッタ御言葉デアルカラ、其
御言葉ヲ指摘シテ私ハ適當デナイ、緊縮政
策ヲ執ッテ行ク以上ハ不當ナ借金ハイケナ
イト云フコトヲ常ニ仰シヤッタ、ソレデアル
カラ財界ガ金融難ニ陷ッタ時ニ數億ノ金ヲ
出スト云フコトハ不當ナ借金ヲ各方面ニ增
加スル、ノミナラズ地方ノ財政ニ付テハ
中央デ、緊縮シタ公債政策ヲ取ランガ爲ニ、
地方公債ヲ增發シテ、而モ其中デ失業公債
ト云フモノハ一部デアリマス、只今御辯明
ニナッタヤウニ、地方ノ起債ト云フモノハ大
部分ガ失業ダト仰シヤル決シテサウデハ
アリマセヌ、此故ニサウ云フコトハ當然ノ
コトダト云フ仰セハ、私ハ承服イタシマセ
又、サリナガラ之ヲ再問イタスコトハ避ケ
やく、次ニ農林大臣ニ御尋ヲシタイノデア
リマス極ク簡單デアリマス、農林大臣ハ
農村ノ疲弊因憊ト云フコトハ此議場ニ於テ
モ御話シニナッテ居リマス、是ハモウ既ニ御
認メニナッテ居ル、而シテ其原因ニ付テ、金
解禁ニ依ル爲替價格ノ囘復、公私經濟ノ節
約ト云フコトガ一小原因デアルト云フ御言
葉ヲ使"テ居ル、私ハ閣僚ノ諸君ガ、常ニ今
日ノ不景氣ト云フコトニ付キマシテ、ソレ
ハ僅カナホカノ原因ニシカナラヌ、今、井
上藏相ノ御言葉ヲ聞ケバ、關係ガ僅カニ
アルノダト云フヤウニ閣僚ノ諸君ガ總テサ
ウ云フヤウナ御言葉ヲ御用ヰニナッテ、
ハッキリト、何ガ故ニ緊縮政策ト云フモノ
ハ影響シテ居ルカト云フコトヲ、濱口總理
大臣ト同等ニ御答ヘニナラヌノデアルカ、
コヽガヤハリ政治家トシテ、モウ少シハッキ
リト爲サルコトガ、私ハ適當ダト思フ、是
ガ故ニ一小原因ナリト云フ御言葉ハ決シ
テ私ハ否定モ致シマセヌ、併シ一小原因デ
アリマシテモ、今日ノ如キ重大ナル關係ニ
ナリマシタ以上ハ、是ハ實ニ容易ナラヌコ
トデアル、而シテ然ラバ之ニ對シテ對策ヲ
講ジナケレバナラヌコトハ論ヲ俟チマセ
ヌ、然ルニ絲價ノ安定補償法ノ出動デアリ
マシテモ或ハ米穀法ノ出動デアリマシテ
モ、何等效ヲ奏シナカッタ、是モ大體御認メ
ニナッテ居ルヤウデアリマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ著ク〕
然ラバ如何ニ之ヲスベキヤト云フコトニ付
テ農林大臣ハ先日、米穀法ヲ提出スル、ソレ
カラ小作法モ提出スル、之ニ依ッテ對策ヲ講
ズル其場合ニ詳シク述ベルト云フヤウナ
御言葉デゴザイマシタケレドモ、私ハ先刻
來縷々述ベマシタヤウニ今日ノ不況ト云フ
モノハ、國民生活ガ旣ニ生活線ノ上ニ來テ
居リマシテ、餘裕ノ無イモノデアリマス、
否、生活線以下ノ困難ナ狀況デアリマス、
斯樣ナ優長ナコトヲ待ッテ居ル餘地ハ無イ、
卽チ行政整理財政整理ヲスルト云フコトハ
常ニ此法律ヲ改正シテ實施スルト云フコト
ハ容易ニ······相當ナル時ヲ要シマス、故
是ハソレマデ持ッテ居ルベキ今日ノ農村ノ
狀況デハナイト云フコトヲ私ハ先刻來縷々
述ベタノデアリマス、故ニソレニ依ッテ相當
ナ處置ヲ講ゼラレヌケレバナラヌカト思ヒ
マスガ、何カ御持合セガアレバ伺ヒマス
ガ、私ガ穿鑿シタ所デハドウモ御持合セガ
無イヤウデアリマス、サウナリマスト云フ
ト此過半數ヲ持クテ居ル所ノ農村ト云フモ
ノガ、先刻來申シマスヤウニ小作爭議ガ起
キマシテ、此中層ノ階級ニ思想ガ浸潤イタ
シマシテ行キマシタナラバ、遂ニ取返シノ
付カヌ容易ナラザルコトガ起キル、ソレニ
對スル農林大臣ノ御所見ヲ伺ヒタイ、冬ヘ
ハ文部大臣ニ承ハリタイノデアリマス、文
部大臣ハ前議會以後學制ノ改革ニ付テハ多
大ノ努力ヲ御拂ヒニナッテ居リマス、此點ニ
ハ敬意ヲ表スルモノデアリマス、去リナガ
ラ爲スッテ居リマスルコトハ、中等學校ノ制
度、〓育制度ヲ實際化シテ、今一ツ申セバ
實業化シタノデアリマシテ、是モ時運ニ伴
ヒ進ミマシタ所デ、文政審議會ニ於テモ承
認サレタコトデアリマスカラ、是ハ結構ナ
コトト思フノデアリマス、私ハ昨年モ文相
ニ質問イタシタコトハ、今日ノ就職難ヲ救
ヒマスルニハドウシテモ此修學年限ヲ、犬
學及ビ專門學校ニ於テモウ一ト息整理シナ
ケレバナラヌ、殊ニ大學〓育ヲ整理シテ、
モウ一ト息年限ヲ短縮シテ、若クシテ社會
ニ出シテ、サウシテ十分ナル活躍ヲ爲シテ
行ケルヤウニスル、卽チ社會ニ立ツ場合ニ
於テハ中等學校其他ノモノト同等ノ所ニ
立ッテ而シテ進ンデ行キマスナラバ、其學問
ノ素養ガ日ナラズシテ十分ニ發揮スルモノ
デアル、斯ウ云フコトヲ申上ゲタノデアリ
W 、是故ニ其場合ニ於テ今日ノ如ク二十
六七歲ニ迄モナリマスト云フト、遂ニ活動
能力ヲ失ッテ居リマスルカラ、甚ダ容易ナラ
ヌ思想上ニモ影響ヲ及ボシテ玆ニ問題ヲ起
スノデアリマス、ソレ故ニ文部大臣ハ此點
ニ付テ非常ニ御懸念ニナッテ先刻申上ゲタ
ヤウニ學務部長會議ニ於テ御演說ニナッテ
居ルノデアリマス、ガ併シ之ニ付テ、思想
ノ問題ニ付テ對策ヲドノ程度ニ御持チニナ
ルカ伺ヒタイノデアリマス、尙ホ大學〓育
ニ付テハ速ニ適當ナル措置ヲ御講ジニナル
ノデアルカドウカ、此點ヲ伺ヒタイドウ
ソ斯樣ナ簡單ナ問ヒデアリマスルカラ、農
林大臣及ビ文部大臣ニ於カセラレテモ、問
題ニ對シテ適切ニ一言ヲ承ハレバソレデ澤
山デアリマス、ドウゾ左樣ニ御承知ヲ願ヒ
マス
〔國務大臣町田忠治君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=22
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023・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 山岡君ノ午前ニ
於テ述べラレマシタル農村今日ノ狀態、竝
ニ現内閣ガ農村救濟ノ爲ニ昨年來執ッテ居
リ。マスル對策ニ付キマシテ、種々ナル御非
難御批評ガアリマシタ例ヘバ低利資金
七千万圓ハマダ一切、實際ニ各府縣ニ配付
サレテ居ラヌト云フ御非難ノ如キ、或ハ咋
年春發動イタシマシタル生絲融資補償法ノ
結果ガ、豫期セラレタ效果ガ擧ラヌノミナ
ラズ、却テ多數養蠶家ニ不利益ヲ來シテ居ル
ト云フ極論サレタ御意見モ承リマシタ、
又米穀法運用ノ結果何等效果ガ今日ハ現ハ
レテ居ラヌト云フ御意見モ承ハリマシタ、左
樣ナ點ニ付キマシテハ私ハ衆議院ニ於テモ
大體辯明ヲ致シ說明ヲ致シテ置キマシタ
ガ實ハ大切ナル問題トシテ皆サンノ御諒
解ヲ得テ、大體ノ事情ヲ御參考ノ爲ニ申上
ゲテ見タイト思ヒマシタガ、只今山岡君ハ
午前ノ御意見ハ暫クトシテ、玆ニ簡單ナル
質問ヲ致スカラ簡單ニソレニ對シテ答辯ヲ
セヨト云フダケニ止リマスルガ故ニ、遺憾
ナガラ午前ノ御意見ニ對シテ十分私ガ御說
明ヲ申ス機會ハ只今得マセヌ、唯農林省ガ
農村困憊ノ今日何等カノ對策ガアルカト云フ
御尋ネデアリマス、申上ゲル迄モナク此對
策ハ分ッテ二ツトナルノデアリマス、今後數
年ニ亙ル對策ガ其一ツデアリマス、今後數
年ニ亙ル對策ハ分ッテ共同施設、共同販賣
ト農產物ノ公正ナル價格ヲ維持スル施設ガ
一方面ニアリマス、一方面ニハ農產物ノ生
產費ヲ出來ルダケ低廉ニスルト云フ、合理
的ナル經營法ヲサセルト云フ施設ガアルノ
デアリマス、此二ツハ要スルニ今後數年ニ
亙リ、先ヅ永遠ト申シテ宜シイカ根本的對
策デアリマス、今日ノ困憊ニ對スル應急策
ト致シマシテハ、山岡君ノ御話ノ如ク昨年春
預金部ノ協議ニ依シテ得マシタル養蠶應急
資金、主トシテ是ハ春蠶、春ノ養蠶ノ應急
資金デアッタノデアリマス、或ハ中小農工低
利資金二千五百万圓、或ハ籾貯藏ニ對スル
三千万圓ノ低利資金、山岡君ノ御批評下スッ
タ七千万圓ノ低利資金ノ如キハ共主ナルモ
ノデアリマス、此七千万圓ノ低利資金ノコ
トニ付キマシテハ簡單ニ申述ベテ置キタイ
ノハ山岡サンハ是ハ失業防止ノ施設デア
ルカ、失業救濟ノ施設デアルカ、寧ロ失業防
止若クハ農村振興ノ意味デアルグラウト云
フヤウナ御意見ニ」承リマシタガ、私ノ之ヲ
考ヘマシテ是非施設イタサネバナラナイト
云フ考ハ、農村振興ノ考モアリマス農業
勞力ノ使用ガ薄ライデ、是ガ爲ニ農村ノ勞
力者ガ剩餘ヲ著シク生ズル、之ヲ防止スル
ト云フ意味モアリマス、併シ當時一般世ノ
中ニハ失業問題ガヤカマシクナリマシテ、
單リ經濟問題タルノミナラズ、或ハ社會問
題、思想ノ動搖ヲ來ス虞アルト見ルベキ程
ノ失業問題ト相成ッタノデアリマス、山岡君
モ御承知ノ通リ從來歷代ノ內閣ガ失業問
題ヲ解決スルニハ多ク六大都市ノ自由勞
働者ヲ如何ニシテ就業セシムルカト云フコ
トガ常ニ講ゼラレテアッタノデアリマス、
併シ農村全國ニ亙ル經濟不況玆ニ都會ニ於
ケル失業勞働者ノ數ガ殖エルコトハ、歐米
各國ト趣ヲ異ニシマシテ、日本ノ失業問題
ハ都會ノ失業者ヲ就職セシムルダケデハ解
決出來ヌ、特殊ナル事情ノ下ニ日本ガアル
ト云フコトハ御承知ノ通リデアリマス、景
氣ノ好シイ時ハ農村ノ小作人ガ缺乏シテ、
耕作ガ出來ナイト云フ迄ニ都會ニ勞働者ガ
參リマス、稍、不景氣ニナッテ都會ノ工業其
他事業上ノ勞働者ガ餘フタト云フ時ニハ
當局者モ從來ハ歸農イタセ、農村ニ歸レト
云フコトヲ常ニ奬勵シテ居リマス、私共農
村行政ヲ預ッテ居ル立場カラ見マスレバ、甚
ダ迷惑ナヤリ方デアリマス、故ニ此度ノ內
務省ヲ中心トシマシタル失業公債ニ於キマ
シテモ、農林省ガ計畫イタシマシタ失業救
濟ニ於キマシテモ、都會ノ自由勞働者ヲ救
濟スルニ止マラズ、全國ニ亙リ卽チ山岡君
ガ今日午前御話ニナッタ如ク津〓浦ミマデ
モ失業救濟、失業防止ヲスルト云フ立テ方
ニ致シタノデアリマス、此內容ハ詳シク申
サズトモ、大體ニ於テ應急施設ト致シマシ
テハ此七千万圓ヲ以テ相當ナ效果ガ擧ゲ
ラレルト思ヒマス、山岡君ガ午前ノ御話ニ
ハ自由勞働者、都會ノ勞働者ノ歸農致シタ
モノハ三十万位アルダラウト云フ御意見ノ
ヤウニ承リマシタ私共ハ統計ノ上ニ於テ
斯樣ナ數ガ出ルト的確ニハ申サレマセヌ
ガ、都會ノ自由勞働者ガ農村ニ歸ッテ居ル
數ノ少クナイト云フコトダケハ御同感デア
リマス、而シテ此七千万圓ノ低利資金ハ半
箇年ノ間三千百万人、延人員トシテ三千
百万人ニ職ヲ與ヘル、半箇年ニ之ヲ縮メマ
シテモ每日十九万人ノ餘レル勞働者ニ職業
ヲ與ヘ、之ニ依ッテ農村ノ施設ヲセシメ、農
家ノ經濟ニ相當ナ餘裕ヲ生ゼシメルト云
フ、或ハ開墾、養蠶、水產、畜產、山林各
方面ニ亙ッテ此七千万圓ヲ多クハ三分五厘
ト云フ從來ニ無イ極ク廉イ利息ヲ以テ、長
キハ二十九箇年、三十箇年ノ間之ヲ貸付ケ
テ施設ヲ致スト云フ計畫デアリマスルガ故
ニ、失業防止ノ點カラ見マシテモ、失業救
濟ノ點カラ見マシテモ、將來農家ノ富ヲ增
サシメテ、長イ間農村經營ノ上ニ相當進ン
ダ施設ト相成ルト云フコトニ對シテハ、尠
カラヌ效果ガアルコトト存ジテ居リマス
而シテ屢、御非難爲サルマダ實際出テ居
ラヌヂヤナイカト云フ事情ハ是ハ府縣ガ
起債ヲ致スノデアリマス、府縣ガ起債ヲ致
スガ爲ニ多クハ十二月ノ末ニ縣會ニ於テ決
議サレテ、其決議ノ結果ニ依ッテ現ニ內務
省、大藏省ニ認可ヲ申請セラレテ、既ニ三
十二府縣ハ最早審査結了シテ、近ク現金ヲ
渡ス所ガ數縣アリマスルシ、御心配ノヤウ
ニ長ク、名ハ美ニシテ實之ニ副ハナイト云
フ御非難ハ、右ノヤウナ事情デ縣會ノ決議ガ
十二月ニ濟ンデ、事務的調査ノ上カラ大藏
省、內務省ニ於テモ相當ノ時日ヲ要スル
其事情ハ山岡君ノ最モ能ク御承知ノ筈デア
リマス併シ一日モ急イデ一日モ早ク此
七千万圓ヲ各地方ニ供給スルコトニ努力ス
ル筈デアリマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=23
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024・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 山岡君ノ御尋ニ
御答へ致シマス、山岡君ハ學校ノ卒業生ノ
就職難ノコトニ付テ非常ニ御憂慮ニナラレ
マシテ、此所謂知識階級ナル者ノ失業者ガ
動モスレバ思想問題ノ方ニ引付ケラレテ、
憂フベキ事態ヲ惹起シハシナカラウカ、其
對策トシテ學校卒業年限ヲ短縮スルコトノ
學制······制度ニ付テ何カ考ヘテ居リハシナ
イカト云フヤウナ御趣意デアッタヤウニ同
ヒマシタ、學制年限ヲ短縮シテ早ク世ノ
中ニ立ッテ實際ノ仕事ニ携ハルコトヲ得ル
人間ヲ造ルコトガ出來マスナラバ、何人ト
雖モソレハ歡迎スベキコトデアッテ、殆ド問
題ニナラヌコトト思ヒマスルガ、今日ノ實
際ニ於テ此學制年限ヲ短縮スルコトハ屢、
〓育者ノ一部ノ方面カラモ唱ヘラレテ居リ
マスケレドモ、偖テ如何ニシテソレヂヤ此
年限ヲ短縮スルカト云フコトニ付キマシテ
ハナカ〓〓ムツカシイ問題デアリマス
〓育社會ノ人ヲ集メテ相談イタシマスル
ト寧ロ年限ガ短キニ失シテ居ルヤウナ說
ガ出テ、斯ウ云フコトモ〓ヘナケレバナラ
又、斯ウ云フ學科モ設ケナケレバナラヌト
云フコトデ、ナカ〓〓單ニ經濟ト云フコト
ノ目的ニ副フヤウナ案ガ出マセヌ、ケレド
モドウニカシテ制度全般ニ瓦ツテ只今御問
ノ如キ趣旨ニ副フヤウナ根本改正ガアレ
シタイト云フ心持ヲ以テ其調査〓究ニ
ハ怠ラヌデ居リマスガ、唯山岡君ノ憂ヘラ
ルルガ如ク、學校卒業者ガ其就職スルコト
ヲ得ザル事情ハ、今日ノ如ク不景氣ト云フ
ヤウナ特殊ノ問題カラ生ジテ來ルコトハヽ
是ハ別問題デアリマスガ實際ニ付テ見マ
スルト此學校ノ〓育ハ小學校ニシテモ、
中學校ニシテモ、高等學校ニシテモ、所謂
普通〓育ヲ授ケテ其學校ヲ終レバ、直ニ世ノ
中ニ立ッテ、ソレ〓〓ノ實際ノ職務ヲ執ル
ノニ都合ノ好イヤウナ〓育ヲシテ居ルコト
ニナッテ居ルノデアリマス、小學校ハ小學校
ダケデ所謂普通〓育ヲ完成スル、又中學校
ハ矢張リ普通ト云フ文字ハ附テ居リマスケ
レドモ、稍〓小學校ヨリモ高等ノ程度ニ於
テ普通〓育ヲ完成スル、高等學校モ矢張サ
ウナンデアリマス、然ルニドウモ遺憾ナコ
トハ誰モ彼モ、〓育者迄モデス、又父兄ハ
勿論デス、小學校ヲ卒ヘサシテ世ノ中ノ實
業ニ就カシムルト云フ考ハ持ッテ居リマセ
又、小學校ヲ出レバ中學校ニ入ルモノ中
學校ヲ卒業スレバ高等學校ニ行クモノ高
等學校ヲ出レバ大學マデ進マネバナラヌト
云フ風ニ、皆其空氣ガ充チ滿チテ居ルノデ
アリマス、自分ノ力モ、境遇モ健康モ少シ
モ頓著シマセヌデ、皆誰モ彼モ一樣ニ、高
等ノ學校ノ方ニ進ミタイト云フヤウナ氣風
ガ世ノ中ニ漲ッテ居ルノデアリマス、事實ハ
ソレデハ其希望ノ通リ達成セラレルカト云
フト、ナカ〓〓サウ云フ譯ノモノデハナイ、
三分ノ二位ノ人ハドウシテモ、或ハ少クト
モ三分ノ一位ノ人ハ其外ノ學校ヘ進ムコト
ガ出來ナイ、ニモ拘ラズ唯〓サウ云フ風ノ流
行リノヤウニ一方ニ進ミタイト云フコトガ
一ツノ間違ト、ソレカラ其專門ヲ選ムコト
ニ於テ世ノ中ノ需要供給ノ關係ナド頓著シ
ナイデ唯大學へ這入レバ宜イ、唯高等學校
ヲ卒業スレバ宜イト云フヤウナ心持デ、盲
減法ニ大切ナ〓育ノ事ヲ本人ハ固ヨリ、若
イ者ダカラ責メル譯ニモ行キマセヌガ、父
兄デモ世間デモ只今申上ゲタヤウナ事情ノ
下ニ結局其人ノ將來ヲ損フヤウナ事ガ多
イ、只今ノ如キ不況デアルトカ、就職難デ
アルトカ云フ叫ビノヤカマシイ時デモ、例
ヘバ此昭和五年ニ卒業シタ實業專門學校ノ
者ハ皆就職シテ居リマス、サウシテ他ノ方
面ニ法律ダ、經濟ダ何ダト云フヤウナ文科
ノ方ニ關係シタ者ニ付キマシテハ、漸クニ
シテ五割位ノ人ハ就職シタケレドモ、後ノ
五割ガ殘ッテ居ルト云フヤウナ、是モ極
ク粗ッポイ統計デアリマシテ、段々段々其
中ニ就職スル月日ガ經テバソレ〓〓納マル
譯デアリマセウガ、實際問題ト致シマシテ
ハ只今申上ゲマスルヤウナ風ニ專門ヲ選ム
事ガ惡イ、デサウ云フヤウナ事ノ實際ニ基
キマシテ、私就職後先ヅ以テ、小學校其モ
ノニ付キマシテモ小學校ヲ終ッタダケデ世
ノ中ニ出テ、ソレ〓〓商賣人ノ家ニ參リマ
シテモ大工ノ家ニ參リマシテモ役ニ立ツヤ
ウナ、無論十分ノ役ニ立ツ氣遣ヒモアリマ
セヌケレドモ、兎モ角モサウ云フ事ニ趣味
ヲ有ッテ其心持ニナッテ此學校ヲ終レバ、ソ
レダケヲ土臺トシテ世ノ中ニ立ッテ一人前
ノ仕事ガ出來ルヤウナ者ニナルト云フ事
ヲ〓ヘル人モ心懸ケネバナラズ、又生徒
自身ハ固ヨリ其考ヲ以テ其現在ノ職務ニ勉
强スルヤウニセナケレバ、所謂直接ニハ卒
業後ノ就職ニ困リ又本人ノ將來ヲ誤ル事ガ
アラウト思ヒマシテ、其コトニ專念只今努
メテ居ルノデアリマス、同ジ意味ニ於テ只
今御質問中ノ御言葉ニモゴザイマシタ通
リ、中學校ニ對シマシテモ、中學校ダケデ
普通〓育ヲ完成スル制度ナンデ、中學校ヲ
出タ者デアレバ社會ノ中堅ニ立ッテ各方面
ノ實業ニ從事シナケレバナラヌ筈ノモノデ
アル、然ルニ其中學校ノ生徒ガ皆大學ヘ進
ンデ行クヤウナ心持ニナル、制度モサウ云
フ風ニナッテ居ル、ツレ故ニ此中學校ノ制度
ヲモ改メマシテ、實業方面ニ向フ人、ソレ
カラ更ニ進ンデ大學ノ方ニ行ク人、本人ガ
行キタイト言ッテモ、先生ガ能ク其生徒ヲ仕
立テル間ニ、御前ノ性質ハ斯ウデアル、御
前ノ家ノ家庭ハ斯ウデアル健康ハドウデア
ルト云フヤウナコトヲ斟酌シテ、能ク先生
ガ勸メテ說イテ其人ノ將來ヲ過タシメナイ
ヤウニ極力努メテ居ル譯デアリマス、年限
短縮ノコトハ繰返シテ申シマスガ、大問題
ト致シマシテ非常ニ考慮イタシテ居リマ
ス現在ノ制度ハ御承知ノ通リ非常ナ〓育
上ノ權威アル方ミガ御集リニナッテ根本的
ニ定メラレテ居ル制度デアリマス、之ヲ改
廢イタシマスルコトニ付テハ矢張リ同ジ程
度或ハヨリ以上ノ權威アル方ミノ御意見ヲ
纒メテ相當方法ヲ立テナケレバナラヌコト
ト思ヒマスルノデ、旁、愼重ニ調查ヲ致シ
テ居リマスル譯デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=24
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025・山岡萬之助
○山岡萬之助君 簡單デゴザイマスカラ此
席デ······只今兩大臣ヨリ御答辯デアリマシ
タガ、私ハ簡單ニ伺ヘバ宜カッタノデアリ
マス、然ルニ農林大臣ハ細カク御說明ガア
リマシタガ私ノ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=25
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026・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 山岡君ニ申上ゲ
マスガモウ少シ大キナ聲デ願ヒタイト思
ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=26
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027・山岡萬之助
○山岡萬之助君 承知イタシマシタ、私ノ
問フ點ニ農林大臣ノ御言葉ハ觸レテ居リマ
セヌ然レドモ兩大臣ニ對シテ再質問ヲ致
スコトハ避ケマス、又首相代理及內相ニ對
シマシテ問フベキ點ガゴザイマスガ、他日
ノ機會ニ讓リマシテ此場合一先ヅ質問ヲ打
切リマス、御〓聽ヲ煩ハシマシテ恐縮ニ存
ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=27
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028・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此次ハ井上男爵
ニ發言ヲ許ス順デアリマスガ、井上男爵ニ
伺ッテ見タウゴザイマスガ、井上男爵ノ質疑
ハ大分長ク時間ヲ要シマスカ、先ヅソレヲ
伺ッテ見タイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=28
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029・井上清純
○男爵井上〓純君 質問イタシテ見ナケレ
バ時間ノ點ハ申上ゲルコトハ出來ナイト思
ヒマスケレドモ、大臣方ノ御答辯ハ四十分
モ一時間モ掛カルヤウデアリマスレバ、ド
ノ位掛カルカ分ラヌノデアリマスガ、私ダ
ケノ御質疑ニハ約一時間位アレバ宜カラウ
ト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=29
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030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ御諮リヲ
致シマス只今井上男爵ノ仰セラレタコト
ハ諸君ハ御聽キニナッタラウト考ヘマス、本
日ハ是デ延會ヲ致シタラ如何カト考ヘマ
ス、延會シテ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス次ノ議事日程ハ只今書記官ヲシテ
報〓致サセルコトガ出來マセヌカラ決定
次第本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本
日ハ是ニテ散會イタシマス
午後三時二十八分散會
貴族院議事速記錄第九號正誤
頁段行誤正
一-綿絲棉花
八八八八九九九九二「ペンス」「セント」
二-三「ペンス」「セント」
三「ペンス」「セント」発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X01319310209&spkNum=31
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