1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年二月二十五日(水曜日)午前十時十六分開議
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議事日程 第二十一號
昭和六年二月二十五日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第二十日)
第二 刑事補償法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 瓦斯事業法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第四 伊勢神宮御料田の恢弘に關する請願 會議
第五 澱粉輸入關税引上の請願 會議
第六 三島地方震災地復舊に關し國庫補助の請願 會議
第七 伊豆地方震災地復舊に關し國庫補助の請願 會議
第八 磐越東線鐵道三春、船引兩驛間に停車場設置の請願 會議
第九 出版物に謹載の御尊影取締竝に建國年號と西暦年號併用に關する請願 會議
第十 鳥見靈畤址の保存顯彰の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ書記官ヲ
シテ諸般ノ報〓ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
一昨二十三日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出
セリ
號外昭和六年二月二十六日
貴族院議事速記錄第二十一號
瓦斯事業法中改正法律案可決報告書
昨二十四日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受
領セリ
地方鐵道補助法中改正法律案
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
著作權法中改正法律案修正報告書
同日政府ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタ
ル旨ノ通牒ヲ受領セリ
第五十九囘帝國議會內務省所管事務政府
委員
社會局部長富田愛次郞君
第五十九回帝國議會大藏省所管事務政府
委員
營繕管材局理事太田嘉太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、諸君ニ於テ御異議ガナケレ
バ日程第一ヲ最後ニ廻ハシタイト考ヘマ
ス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、刑事
補償法案、政府提出衆議院送付、第一讀
會司法大臣渡邊子爵
刑事補償法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年二月二十一日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家達殿
(小字及-ハ衆議院修正)
刑事補償法案
刑事補償法
第一條刑事訴訟法ニ依ル通常手續又ハ
再審若ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者又ハ同法第三百十三
條ノ規定ニ依リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者
未決勾留ヲ受ケタル場合ニ於テハ國ハ
爲
其ノ者ニ對シ勾留ニ因ル補償ヲ給與ス
再審又ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者原判決ニ因リ既ニ刑
ノ執行ヲ受ケ又ハ刑法第十一條第二項
ノ規定ニ依ル、梅置ヲ受ケタル場合ニ於
テハ國ハ其ノ者ニ對シ刑ノ執行又ハ拘
爲
置ニ因ル補償ヲ給與ス
第二條前條ノ規定ニ依リ補償ノ給與ヲ
受クベキ者死亡シタル場合ニ於テハ前
對シ前條ノ
條ノ補償ハ之ヲ本人ノ遺族ニ給與ス死
補償ヲ爲
亡シタル者ニ付再審又ハ非常上〓ノ手
續ニ於テ無罪ノ言渡アリタル場合亦同
補償ノ給與ヲ受クベキ遺族死亡シタル
對シ其ノ補償ヲ爲
トキハ次順位ノ遺族ニ之ヲ給與ス
第三條本法ニ於テ遺族ト稱スルハ本人
ノ配偶者、子、孫、父母、祖父及祖
母ニシテ本人死亡ノ當時之ト戶籍ヲ同ジ
ウシ引續キ其ノ戶籍內ニ在ル者ヲ謂フ
補償ノ給與ヲ受クベキ遺族ノ順位ハ前
項ニ記載スル順序ニ依ル父母及祖父母
ニ付テハ養方ヲ先ニシ實方ヲ後ニス
子及孫數人アルトキハ其ノ順位ハ本人
ヲ被相續人トシタル家督相續ノ順位ニ
準ジ之ヲ定ム
第四條無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受ケタル
爲サ
者ニ付左ノ事由アルトキハ補償ヲ給與
セズ
一刑法第三十九條乃至第四十一條ニ
規定スル事由ニ因リ無罪又ハ免訴ノ
言渡アリタルトキ
二起訴セラレタル行爲ガ公ノ秩序又
ハ善良ノ風俗ニ反シ著シク非難スベ
キモノナルトキ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ起訴、勾留、公判ニ付スル處分又
ハ再審請求ノ原由ト爲リタルトキハ第
爲サ
一條第一項ノ補償ヲ給與セズ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ原有罪判決ノ憑據ト爲リタルトキ
爲サ
ハ第一條第二項ノ補償ヲ給興セズ
一個ノ裁判ニ依リ併合罪ノ一部ニ付無
罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受クルモ他ノ部分
ニ付有罪ノ言渡ヲ受クル者ニ對シテハ
爲サ
補償ヲ給與セザルコトヲ得
第五條勾留ニ因ル補償ニ於テハ勾引狀
又ハ勾留狀執行後ノ拘禁日數ニ對シテ
交付
一日五圓以内ノ補償金ヲ齡興ス
懲役、禁錮又ハ拘留ノ執行ニ因ル補償
ニ於テハ其ノ日數ニ對シテ一日五圓以
交付
內ノ補償金ヲ給與ス拘置ニ因ル補償ニ
付亦同ジ
死刑ノ執行ヲ受ケタル者ノ遺族ニ對ス
ル補償ニ於テハ拘置ニ因ル補償ノ外裁
交付
判所ノ相當ト認ムル補償金ヲ齡興ス
罰金又ハ科料ノ執行ニ因ル補償ニ於テ
ハ既ニ徵收シタル罰金又ハ科料ニ等シ
キ金額ヲ還付ス勞殺場留置ノ執行ヲ爲
シタルトキハ第二項ノ規定ニ準ジ補償
交付
金ヲ給與ス
沒收ノ執行ニ因ル補償ニ於テハ破壞若
ハ廢棄ニ係ラザル沒收物又ハ沒收物ノ
處分ニ因リテ得タル代價若ハ徵收シタ
ル追徴金ニ等シキ金額ヲ還付ス
第六條補償ノ給與ヲ受ケントスル者ハ
無罪ノ言渡ヲ爲シタル裁判所又ハ免訴
ノ言渡ヲ爲シタル豫審判事ノ屬スル裁
請求
判所ニ對シ補償給與ノ申立ヲ爲スペシ
請求
前項ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スベシ
請求
申立書ニハ戶籍謄本ヲ添附スベシ
請求
補償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ爲シタ
請求
ル後死亡シタルトキハ其ノ申立ハ順次
次順位ニ於テ補償ノ給與ヲ受クベキ者
ヨリ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第七條補償ノ給與ヲ受クベキ者ハ先順
位者ノ明示シタル意思ニ反シ補償給與
請求
ノ申立ヲ爲スコトヲ得ズ
請求
補償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ取消シ
タルトキハ其ノ取消ヲ爲シタル者及後
請求
順位者ニ於テ更ニ申立ヲ爲スコトヲ得
ズ
請求
第八條補償給與ノ申立ハ代理人ニ依リ
テモ之ヲ爲スコトヲ得
請求
第九條補償給與ノ申立ハ無罪又ハ免訴
ノ裁判確定ノ日ヨリ六十日內ニ之ヲ爲
スコトヲ要ス
請求
第十條補償給與ノ申立アリタルトキハ
請求
裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ申立ニ付決
請求
定ヲ爲スベシ決定ノ謄本ハ檢事及申立
人ニ送達スベシ
請求
申立理由アルトキハ補償給興ノ決定ヲ
請求
爲スベシ申立理由ナキトキ又ハ期間經
過後ニ係ルトキハ之ヲ棄却スベシ
請
刑ノ執行又ハ拘置ニ因ル補償給與ノ申
求請求
立ト同時ニ勾留ニ因ル補償給興ノ申立
アリタルトキハ主文ヲ區別シテ決定ヲ
爲スベシ
第十一條補償給與ノ決定ニ對シテハ不
服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
請求
補償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シ
テハ卽時抗〓ヲ爲スコトヲ得
第十二條補償給興ノ決定アリタル後之
ニ依リテ補償ノ給與ヲ受クベキ者其ノ
拂渡
交付ヲ受ケズシテ死亡シタルトキハ其
ノ決定ハ順次次順位ニ於テ補償ノ給與
ヲ受クベキ者ニ對シ之ヲ爲シタルモノ
ト看做ス補償ノ給與ヲ受クベキ遺族其
拂渡
ノ交付ヲ受ケズシテ其ノ家ヲ去リタル
トキ亦同ジ
拂渡
第十三條補償ノ交付ヲ受ケントスル者
ハ其ノ決定ヲ爲シタル裁判所ニ請求書
ヲ差出スベシ請求書ニハ戶籍謄本ヲ添
附スベシ
補償給與ノ決定ノ送達アリタル後一年
拂渡
內ニ補償交付ノ請求ヲ爲サザルトキハ
權利ヲ失フ
拂渡
第十四條補償交付ノ請求權ハ之ヲ讓渡
スコトヲ得ズ
拂渡
第十五條補償給與ノ申立ニ關スル事件
繫屬中再審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三
百十七條ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリ
タルトキハ其ノ裁判確定ニ至ル迄決定
ノ手續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
請求
ノ判決アリタルトキハ補償給與ノ申立
ハ其ノ效力ヲ失フ
第十六條補償給與ヲ決定アリタル後再
審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三百十七條
ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリタルトキ
拂渡
ハ其ノ裁判確定ニ至ル迄補償交付ノ手
續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
ノ判決アリタルトキハ補償給與ノ決定
ハ其ノ效力ヲ失フ
第十七條前條第二項ノ場合ニ於テ旣ニ
拂渡
補償ノ交付アリタルトキハ有罪ノ判決
ヲ爲シタル裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ
決定ヲ以テ補償ノ返還ヲ命ズベシ此ノ
決定ノ執行ニ付テハ刑事訴訟法第五百
五十三條乃至第五百五十五條ノ規定ヲ
準用ス
第十八條本法ノ決定及之ニ對スル卽時
抗告ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除
クノ外刑事訴訟法ヲ準用ス期間ニ付亦
同ジ
第十九條裁判所補償ノ決定ヲ爲シタルトキ
ハ其ノ決定ヲ受ケタル者ノ申立ニ因リ速ニ
無罪又ハ免訴ノ裁判ノ主文及要旨竝ニ補償
ヲ爲シタル旨ヲ官報ニ掲載スベシ
二十
第十九條本法ハ軍法會議ニ於テ無罪ノ
言渡アリタル場合ニ之ヲ準用ス但シ補
請求
償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シテ
ハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得ズ
軍法會議ニ於テ補償ノ返還ヲ命ズル決
定ノ執行ニ付テハ陸軍軍法會議法第五
百十八條乃至第五百二十條又ハ海軍軍
法會議法第五百二十條乃至第五百二十
二條ノ規定ヲ準用ス
軍法會議ニ於テ補償ニ關スル決定ヲ爲
ス場合ノ判士ノ區別ニ付テハ陸軍軍法
會議法第五十九條第一項又ハ海軍軍法
會議法第五十九條第一項ノ規定ヲ準用
ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣子爵渡邊千冬君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=3
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004・渡邊千冬
○國務大臣(子爵渡邊千冬君) 凡ソ裁判檢
察ノ事務ニ從事スル職員ガ事件ヲ處理スル
ニ當リマシテハ、常ニ深甚ノ注意ヲ拂ヒ
能ク事實ノ眞相ヲ穿チ、處分ノ公正ヲ全ウ
シ、何等ノ過誤ナキコトヲ期スルハ勿論デア
リマス、而シテ當局ノ職員ガ此精神ヲ以テ
職務ニ從事シテ居リマスコトハ國民周知ノ
事實デアリマシテ本邦刑事訴訟手續ノ實
際ニ於テハ、無罪又ハ免訴トナル事案ハ極
メテ少ク其成蹟ハ頗ル良好ナリト云フコ
トガ出來ルノデアリマス、然ルニ當該係官
ニ於テ惡意又ハ過失アルニ非ズシテ、適法
ニ職權ヲ行使シタル場合ニ於テモ、尙ホ偶、
無辜ノ良民ニシテ犯罪ノ嫌疑ニ依リ、公訴
ヲ提起セラレテ未決拘留又ハ遂ニ刑ノ執行
ヲ受ケ、之ガ爲ニ甚シキ不名譽ヲ釀シ、又
著シキ苦痛ヲ被ルモノナキニ非ザルコトハ
頗ル遺憾トスル所デアリマスガ、又實ニ已
ムヲ得ザル事實デアルノデアリマス、併ナ
ガラ被〓人ト致シマシテハ自己ニ何等ノ過
責ナキ場合ニ於テ、斯ノ如キ不測ノ禍害ニ
遭遇スルコトハ忍ビ得ザル所デアリ、又社
會問題トシテモ看過スベカラザル事實デア
リマス、刑事裁判ノ結果ハ斯ク重大デアリ
マスカラ、他ノ國家權力行爲ノ場合ト異リ、
法律ハ最モ精細鄭重ナル手續規定ヲ設ケ、
更ニ再審、非常上〓ノ制度ヲモ認メ絕對
的ノ眞實發見ヲ期シテ居ルノデアリマス、
然ルニ如上ノ禍害ヲ被リタルモノアルコト
ガ確定イタシマシテモ、現在ノ如ク其苦痛
ニ對シテ財產上ノ損害賠償ナリ、又ハ精神
上ノ損害賠償ナリ、其他何等ノ慰藉ノ途モ
具ッテ居リマセヌノデハ、人道ヲ重ンジ、司
法正義ヲ明カニシ、以テ國民ノ司法ニ對ス
ル信賴ヲ厚ウスル所以デナイト存ジマス
從ッテ新タニ是等ノモノニ對スル補償ノ制
度ヲ定メテ、寃枉慰藉ノ途ヲ講ズルコトハ
刻下ノ急務デアルト信ズルノデアリマス
是レ政府ガ本案ヲ提出シ、以テ時代ノ要求
ニ順應セントスル次第デアリマス、衆議院
ニ於テハ政府ノ提出シタル原案中、補償給
與ノ字句竝ニ之ニ伴フ文旬ノ修正ヲ爲シ、
且ツ官報公示ノ規定ヲ加フルコトニナリマ
シタガ、原案ノ趣旨亦固ヨリ是ト異ルモノ
デハナイノデアリマスカラ、政府ハ其修正
ニ贊成ヲ致シタノデアリマス、此新シキ意
義ヲ有スル法案ニ對シ、何卒愼重審議ノ上
協贊ヲ與ヘラレンコトヲ切望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 別ニ質疑モナイ
ト認メマスカラ、本案ノ特別委員ノ氏名ヲ
書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔小林書記官朗讀〕
刑事補償法案特別委員
侯爵中御門經恭君子爵池田政時君
子爵秋月種英君富谷鉎太郞君
男爵北大路賈信君山岡萬之助君
關直彥君八木春樹君
鵜澤總明君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第三、瓦斯
事業法中改正法律案、政府提出、第一讀會
/〓〓。委員長報告
瓦斯事業法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和六年二月二十三日
委員長侯爵大隈信常
貴族院議長公爵德川家達殿
〔候爵大隈信常君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=6
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007・大隈信常
○侯爵大隈信常君 本改正案ノ目的ハ、現
行ノ瓦斯事業法ハ瓦斯事業者ノ財務的監督ニ
關シマシテ不備ノ點ガアリマスガ故ニ、之
ヲ完備シタイト云フコトガ中心デアリマス、
而シテ增資、兼營及一定限度以上ノ投資ニ
付キマシテハ主務大臣ノ認可ヲ必要トス
ルコトニナッテ居リマス、又銷却ヤ利益金ノ
處分ガ不適當ナドノ時ニハ主務大臣ガ將
來ニ向ッテ之ガ改善ヲ命ジ得ルト云フコト
ニナッテ居リマス、其他ハ所謂報償契約ニ基
ク所ノ爭ヒノ裁定ニ關シマスル規定ヲ改正
イタシマシタコトト、供給區域ノ整理竝ニ
事務簡捷ノ見地カラ新タニ規定ヲ設ケタコ
トニナッテ居リマス、又報償契約ノ爭ヒノ裁
定ニ關シマシテハ、現行瓦斯事業法ハ報償
契約ニ基イテ瓦斯事業者ガ市町村ノ承諾ヲ
求メタ場合、協議ガ整ハザル時ハ主務大臣
ガ裁定スルコトニナッテ居リマス、併シ此改
正案ニ於キマシテハ報償契約ニ基イテ市町
村カラ瓦斯事業者ニ對シテ要求ヲシタ場
合、其協議ガ調ハザル時ハ同樣主務大臣ノ
裁定ヲ受ケシメルト云フコトニナッテ居リ
マス、是ハ公正ノ觀念ニ基キ且ツ公共事業タ
ル瓦斯事業ノ遂行ヲ圓滿ニスル所以ナリト
ノ考カラ出テ居ルノデアリマス、又瓦斯事
業法又ハ同法ニ基イテ發スル命令ニ依ッテ、
主務大臣ノ許可又ハ認可ヲ受クベキ事項ニ
關シマシテハ主務大臣ハ之ヲ裁定シナイ
ト云フコトニナッテ居リマス、是ハ同一主務
大臣ガ同一事項ニ對シマシテ認可ト裁定ト
兩樣ノ決定ヲ爲スト云フコトハ不都合デア
ルト云フコトデ避ケタノデアリマス、斯樣
ナ御說明ガ政府ノ當局カラアリマシタ次第
デアリマス、而シテ委員會ニ於キマシテハ
尙ホ本案第十八條ニ於キマシテ主務大臣ハ
利益金ノ處分ニ關シ監督上必要ナル命令ヲ
發スルコトヲ得トアリマスノハ主務大臣
ハ會社ガ······會社ノ配當ニ對シ認可其他ノ
方法ヲ以テ一々干渉ヲスルノデアルカト云
フ質問ニ對シマシテハ此規定ハ公益事業
タル性質ニ反スルヤウナ高率ノ配當ヲシタ
ヤウナ場合ニ於キマシテハ將來ニ向ッテ忠
告ヲスルト云フ程度ノモノデアルト云フコ
トデアリマシタ、又報償契約ニ基ク爭ヒハ
本改正案ニ依ッテ總テ解決スルニ至ルモノ
デアルカト云フ質問ニ對シマシテハ此法
律ハ報償契約其モノノ效力ニハ直接觸レテ
居ナイノデアリマスガ、唯報償契約ノ條項
中直接本法ニ牴觸スル條項ハ無效トナルコ
トハ明カデアリマス、又直接抵觸シナクト
モ本法又ハ本法ニ依リ發スル命令ニ依クテ
主務大臣ノ許可又ハ認可ヲ受クベキ事項ニ
關シマシテハ報償契約ニ拘ラズ、事業者
ハ主務大臣ノ許可ヲ受ケレバ當然有效ニ實
行シ得ルト云フコトニナ〃テ居ル、此點ニ於
キマシテ、報償契約ノ條項ニ影響ヲ及スト
云フコトニナルノデアリマス、其他ノ條項
ニ基イテ當事者ガ協議ヲ爲シテ協議ガ調ハ
ザル時ハ主務大臣ガ裁定ヲ爲スト云フコト
ニナッテ居ルト云フコトデアリマシタ、其外
ニ此改正案ハ曩ニ瓦斯事業委員會ニ諮問サ
レタノデアリマスガ、共委員會ニ於キマシ
テハ此改正案ヲ執行セラルルニ當ッテ一二
ノ希望條項ヲ付シテ此議案ヲ可決サレタト
云フコトデアリマスカラ、今囘是ダケノ改
正ヲ此方面ニ施シマスレバ此以上ノ改正
ハ再ビ必要ガナカラウト云フコトヲ認ムル
ト云フ御說明デアリマシタ、尙ホ其他委員
外ノ二三ノ議員諸君ヨリ種々ノ質問ガアリ
マシテ、之ニ對スル應答モアリマンタガ、
委細ノコトハ總テ速記錄ニ讓リタイト思ヒ
マス、而シテ委員會ニ於キマシテハ愼重審
議イタシマシタ結果本案ヲ可決シタ次第デ
アリマス、右簡略ナガラ御報告申シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=7
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008・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ヲ第二讀會
ニ移スコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=9
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010・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第二讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=10
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011・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=13
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014・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案全部ヲ問題
ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=15
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016・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=16
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017・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=17
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018・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ付キ異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=19
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020・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議
通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=20
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021・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=21
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022・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第四ヨリ第
十請願、會議、〓岡子爵ノ通告ヲ得マシ
タ〓岡子爵
意見書案
伊勢神宮御料田ノ恢弘ニ關スル件
愛知縣名古屋市中區牧野町平民藤井
惣五郞呈出
右ノ請願ハ伊勢神宮御饌料田ハ全國祭祀
田ノ模範ニシテ往昔伊勢、伊賀、大和ノ
諸國ニ亙リ奉耕其ノ他ノ御神事モ極メテ
壯嚴ニ執行セラレタルニ拘ラス近年諸般
ノ變革ニ伴ヒ往々質素ヲ旨トシ其ノ尊嚴
ヲ缺クカ如キハ洵ニ恐懼ニ堪ヘサルニ依
リ御僕料田ヲ擴張シ諸般ノ御儀式ヲ故事
ニ則リ執行セラレタシトノ旨趣ニシテ貴
族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議
決政候因テ議院法第六十五條ニ依リ別册
及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣明爵幣原喜重郞殿
意見書案
澱粉輸入關稅引上ノ件
北海道枝幸郡中頓別村農谷口雅雄外
二百七十三名呈出
右ノ請願ハ國產澱粉ハ近時著シク下落シ
從テ生產者ノ苦痛多大ナルハ一面財界
ノ不況ニ基クト雖モ他面輸入澱粉ノ脅威
ニ外ナラス斯クテハ前途有望ナル斯業ニ
一大頓挫ヲ來タシ經濟上甚タ遺憾ナルヲ
以テ同關稅ヲ適當ニ引上ケ農村ノ保護振興
ヲ圖ラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付候
也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
三島地方震災地復舊ニ關シ國庫補助ノ
件
靜岡縣田方郡三島町長朝日原作皇出
右ノ請願ハ靜岡縣田方郡三島町附近ハ軍
事上伊豆半島ノ咽喉ヲ扼シ加之風光明媚
ニシテ史蹟名勝ニ富ミ且ツ溫泉境トシテ
內外ニ顯揚セリ然ルニ這般大震ノ爲メニ
慘害ヲ蒙ルコト甚タシク自力復興至難ナ
ルニ依リ關東、奧丹後兩震災ノ例ニ俊ヒ復
舊費トシテ國庫ヨリ財的援助ヲ與ヘラレ
タシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體
ハ採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法
第六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
ア貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
伊豆地方震災地復舊ニ關シ國庫補助ノ
件
靜岡縣田方郡三島町長朝日原作外二
十八名呈出
右ノ請願ハ靜岡縣田方郡ハ客年大震ノ災
害ヲ蒙リ今ヤ復興ニ精進ズルニ拘ラス財
界ノ不況ニ遭遇シ住民ノ困憊一方ナラサ
ルハ甚タ遺憾ナルニ依リ速ニ政府ニ於テ
町村營造物神社寺院土木工事個人住宅荒
地生業衛生施設等ノ復舊竝ニ町村歲入缺
陷補塡ノ爲メ國庫補助、低利資金ノ供
給及ヒ租稅減免ノ途ヲ講セラレタシトノ
旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇ス
ヘキモノト議決致候因テ議院法第六十五
條ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
磐越東線鐵道三春、船引兩驛間ニ停車
場設置ノ件
福島縣田村郡要田村長壁谷龜八呈出
右ノ請願ハ磐越東線鐵道三春、船引兩驛
間七哩ノ中間ニ位スル福島縣田村郡要田
村ニ停車場ヲ設置スルハ附近一帶ノ產業
ヲ開發スルノミナラス物資供給ノ圓滑ヲ
計ル等地方進展ニ資スルコト甚大ナルニ
ヨリ速ニ之レカ實現ヲ圖ラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
キモノト議決致候因テ議院法第六十五條
ニ依リ別冊及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
出版物ニ謹載ノ御尊影取締竝ニ建國年
號ト西曆年號併用ニ關スル件
島根縣簸川郡上津村土木建築請負業
嘉村和市外一名呈出
右ノ請願ハ新聞雜誌其ノ他ノ出版物ニ時
時至尊ノ御影ヲ奉載スルモノアリ其ノ取
扱上不識ノ間ニ敬意ヲ失スルノ虞ナキヲ
保シ難キハ甚タ恐懼ニ堪ヘサルニ依リ之
ニ對シ適當ナル取締方法ヲ講セラレタク
尙ホ近時往々西曆年號ノミヲ記載スルモ
ノ尠カラサルハ國民精神作興上遺憾ナル
ニ依リ我國特有ノ意義ヲ有スル神武天皇
建國年號ヲ俳記セシメラレタシトノ旨趣
ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
依リ別冊及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
鳥見露時址ノ保存顯彰ノ件
奈良縣吉野郡高見村長北村勝治外二
名呈出
右ノ請願ハ鳥見靈時ハ神武天皇ノ大親祭
ヲ行ハセラレタル聖域ニシテ我建國ニ重
大關係ヲ有スル史蹟ナルニ依リ速ニ之ヲ
調査〓究セラレ以テ其ノ確定ト共ニ之カ
保存顯彰ノ方法ヲ講セラレタシトノ旨趣
ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキ
モノト議決致候因テ議院法第六十五條ニ
依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
〔子爵〓岡長言君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=22
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023・清岡長言
○子爵〓岡長言君 只今請願會議ニ上ボフ
テ居リマスル中ノ御尊影ノ取締及ビ我ガ建
國年號ト西暦年號トノ併用ニ關スル請願ニ
付キマシテ、本月二十一日ノ請願委員會總
會ニ於キマシテ、委員一同カラ政府ニ希望
ヲバ申述ベラレタイ、斯樣ナ次第デ簡單ニ
其希望ヲバ述べ、內務文部兩大臣ノ御所見
ヲバ承ハリタイト思フノデアリマス去ル
二月九日當議場ニ於キマシテ、第一囘請願
委員長報告ノ際、委員ガ折角愼重審議イタ
シマシタ請願ニ對シ、政府ニ於キマシテハ
之ガ實施セラルルコトガ案外少イノハ頗ル
遺憾デアル、仍テ政府ハ成ルベク出來得ル
限リ民意、民情ノアル所ヲバ察セラレ、直
ニ實行施設セラレタイ、斯樣ナ委員會ノ希
望ヲバ此席ニ於テ申述べテ置キマシタ、其
當時遺憾ナガラ各大臣初メ政府委員ノ諸君
一人モ御出席ガゴザイマセナカッタ、頗ル物
足リナイ感ジヲ致シタノデアリマス、併ナ
ガラ速記錄ニ依リ定メテ御承知下サッタコ
トト信ズルノデアリマス、而シテ只今希望
ヲバ申述べタイ請願ノ如キハ特ニ御留意
ヲバ願ヒタイト存ズルノデゴザイマス、事
新シク申ス迄モナク、我國ハ皇祖天照太神
ノ神勅ヲ以チマシテ萬世一系ノ國體ヲバ建
テ給ヒシ所デ、遠キ神代ヲ經テ神武天皇ニ
至リ、大和ノ橿原ノ宮ニ御卽位ノ式ヲ擧ゲ
サセ給フタ以來、皇統ハ連綿トシテ萬世易
ルコトナク、皇室ハ幹ニシテ臣民ハ枝ノ如
ク、君ハ民ヲ子トシ民ハ君ヲバ親トシ
而シテ上ハ仕愛ニ、下ハ忠孝ヲ以テ、我ガ
國體ノ精華ヲバ發揚シ來リマシタノデ、是
レ實ニ我國ノ萬國ニ卓越スル所デゴザイマ
ス此特色ハ近頃文明ノ愈、進ミ、科學ノ益こ
開クルニ及ビマシテ、更ニ一層ノ光輝ヲ加
ヘテ來テ居ルノデアリマス、然ルニ動モス
レバ此團體ノ有難サヲ忘レ、語レドモ畫キ
ズ、說ケドモ果シナイ皇室ノ恩寵ニ狎レ、
日本國民タルノ本分ニ悖リ、輕佻詭激ノ思
想ヲ懷ケ輩ノ輩出スルニ相成リマシタコト
ハ誠ニ恐懼ニ堪ヘヌ、頗ル殘念ナ次第デ
ゴザリマス、此議願ハ新聞雜誌其他ノ出
版物ニ至尊ノ御尊影ヲバ揭載イタシマシ
デ皇室ノ御近狀ナリ御盛德ナリヲバ國
民一般ニ之ヲ知ラツメ皇室ニ對スル尊崇
ノ念ヲバ深カラツムルコトハ頗ル喜バシイ
コトデゴザリマス、其議載セラレマシタル
新聞雜誌、〓版物等ノ取扱ノ上ニ於キマシ
ヲ、知ラズ識ティノ中ニ不敬ニ亙ル行爲ア
ルコトハ誠ニ畏多イ限リデゴザリマス其
取締ヲバ今一層嚴重ナル方法ヲバ講ゼラレ
タイト云フ、頗ル適切ナル請願デゴザリマ
ズ、斯ウシタ請願ハ年々提出サレ其都度採
撰ニカッテ居リマスルガ、今尙ホ取扱上不十
分デアルコトハ頗ル遺憾トスル所デゴザ
イマス、常ニ政府ハ是等ノ質問ニ對シマシ
テ、斯ウ云フ風ニ答ヘテ居ラレル誠ニ御
尤ナ御趣旨デアルト考ヘマスニ付キマツ
デ、明治三十一年十二月、內務大臣ハ諭〓
ヲ發シマシテ、御尊影ガ粗相ニ流ルルモ
ノナカラシムルト共ニ取扱上苟モ不敬ニ
亙ルコトナカラシムルヤウナ、サウ云フヤ
ウナ趣旨ヲ公示シマシテ、出版物ノ査察取
締ヲ嚴ニ致シマスルシ地方長官及警察部
長會同ノ際ニ於キマシテモ、屢、此趣意ヲバ
詳細ニ指示イタシマシテ、各管下ニ告諭ヲ
發セシメ、更ニ各種ノ機會ヲバ利用イタシ
マツテ、御尊影ヲバ鄭重ニ取扱フト云フ良
風ヲバ馴致スルニ努メマスルト共ニ、取締
上ニ於キマシテモ遺憾ナカラシムルコトヲ
期シテ居ルノデアリマズ云々、ト申サレル
ノデアリマス、併ナガヲ是ハ甚ダ失禮デゴ
ザリマスルガ、月並的ノ御言葉デ其實ガ擧。ソ
テ居リマセヌ爲ニ、年々斯樣ナ種類ノ請願
ヲタバ見ルコトハ寳ニ遺憾乎萬デゴザリマ
ろ、明治三十一年カラ今日マデハ約三十二
置年ヲバ經過シテヽ尙ホ未ダ其取締ガ十分
デナク、政府當局ノ聲明ガ實效ヲバ奏セズ、
却テテ近來一層御尊影ノ取扱ガ粗末ニ流レ、
不敬ニ亙ルコトノ點アルコトハ誠ニ恐懼
ニ堪ヘヌ次第デゴザリマス、政府ニ於キマ
シテハ明治三十一年十二月二十八日發布ノ
御尊影取扱心得ノ四箇條ヲ出サレマシテ、
徹底的ニ實現セシメル爲ニ、如何ナル方法
ヲ執ッテ居ラルヽノデアリマスカ、若シ地方
長官ヘノ訓令ガ行屆イテ居リマスルナラ
バ地方長官ハ其管轄内ノ市町村長ヲシテ
町內會ヤ或ハ字會等カラ戶每ニ之ヲ傳達イ
ダシマシテ、新聞紙ニ御尊影ガ載ッテアッタ
ナラバ拜見シタ後ハ必ズ切拔イテ鄭重ニ保
存スルヤウニセヨ又粗末ニナラヌ爲ニ燒
棄テルヤウニセヨト云フヤウナ良鳳美俗ヲ
養成セラレヌケレバナラヌト思フノデアリ
マス而シテ御尊影ノ奉揭ノ新聞紙ガ樣と
ノ品物ノ包紙トナッタリ、道路其他ノ地上ニ
棄テラレマシテ、靴ヤ下駄デ踏ムト云フヤ
ウナ不敬ノコトハナイ筈ト思フノデアリマ
ス、又警察部長ヘノ訓令ガ行屆イテ居ルナ
ラバ管轄內ノ各警察署長、警察署、派出所、
駐在所等ノ警官ガ注意監視イタシマシテ粗
末ニスル不敬ノコトハナイ筈デアラウト思
フノデアリマス、而モ尙ホ此事象ガ現存ス
ルノハ每年ノ地方長官會議ノ訓示モ、又
警察部長會議ノ訓示モ、月並的ニ述ベラレ
テ居ルヤウナ感ジガ致スノデアリマス、ソ
レ故聽ク方ニナリマシテモ月並的ニ聽イテ
居ル而シテ御尊影ニ付テ取扱ニ深甚ノ注
意ヲバ致サヌノデアリハスマイカト考ヘル
ノデアリマス、現內閣ガ組閣早々〓化總動
員ヲバ行ハレ、次イデ咋年ハ〓育勅語御煥
發四十年記念ノ國民的運動ヲ行ハレマシテ
國民ノ思想ヲ善處ニ導カレタコトハ多大ノ
效果ガアッタト思フノデアリマス、文部大臣
ハサウシタ抽象的ナ理論ノ宣傳ノミヲシテ
滿足シテ居ラレルノデハアリマスマイカ、
若シ公私ノ各種學校デ御尊影奉揭ノ新聞紙
等ヲバ粗末ニ取扱ハヌヤウナ法規ヲ作リ、
殊ニ小學校デハ兒童ヲシテ新聞紙ニ揭ゲテ
アル御尊影及ビ皇族方ノ御寫眞ハ悉ク之ヲ
切拔イテ系統的ニ順序ヨク貼リ込ミ、大切
ニ保存スルノ習慣ヲバ養成セラレタナラバ、
兒童ガ奉揚ノ新聞紙デ辨當其他ノモノヲ包
ンダリ鼻ヲカングリ、手ヲ拭イタリ、恐レ
ナガラ不淨ノ場所ニ持ッテ行クト云フヤウ
ナ不敬ノコトハ敢テスマイト思フノデアリ
やく、然ルニ學校ノ〓員ガ生徒ガ以上ノヤ
ウナ不敬ニ渉ルコトモ戒メズ、其〓員自身
サヘ古新聞トスレバ御尊影アルノモ考慮セ
ズ、粗末ニ取扱フモノガアルカラ、從シテ生
徒モ無意識ニ知ラズ識ヲズ不敬ニ涉ルコ
トヲスルノデアラウト思フノデアリマス
近時ノ學校〓員中ニハ往々皇室尊崇ノ念ヲ
缺ク者ガアリ、甚シキ輕佻詭激ノ思想ニ迷
ヒ居ル者モ無イデハチイノデアリマス、文
部大臣ハ此際特ニ此點ニ留意セラレマシ
テ、全國ノ師範學校、中等學校竝ニ小學校
等ニ對シテ御尊影取扱上ノ訓令ヲ發シ、良
風美俗ヲバ馴致セラルヽノ御意思ハアリマ
セスカ、是ガ承リタイノデアリマス、次
年號表記ノコトデアリマス、神宮神部署デ
頒布スル本曆及略本曆ニ神武天皇二千五百
九十一年ニ併記イタシマシテ、西歷千九百三
十一年ト書イテゴザイマス、西曆ヲバ必要
トスルナラバ、露國曆モ、中華民國曆モ、
更ニ我ガ國民ノ必要ヲ感ズル所ノ太陰曆
モ、併記セネバナラヌト思フノデアリマス、
西暦ト云フノハ申スマデモナク耶蘇降誕ノ
紀元デアルコトハ言フマデモアリマセヌ、
耶蘇ノ降誕紀元ヲバ日本曆ニ記載スルナラ
バ、「マホメット」ヤ孔子ヤ、釋迦ノ誕生紀元
モ記セヌケレバナラヌト思フノデアリマ
ス、近時千九百三十年ノ我ガ財界トカ、千
九百三十一年ノ新年ヲ迎ヘテトカ、千九百
三十一年ノ紀元節ヲ迎フトカ申シマス、甚
シキハ之ヲ「アラビヤ」數字デ書イテ居ルモ
ノガアリマス、元來我ガ日本人ガ紀元ヲ云
フ場合ハ必ズ神武天皇ノ御卽位紀元デナ
クテハナラヌノデアリマス若シ外國ノ紀
元ヲ用ウルコトヲ必要トスル場合ニハ、其年
號ノ頭ニ耶紀トカ佛紀、露曆、民國曆トカ
記サヌケレバナラヌ、彼ノ露國デスラ、露
國ノコトハ自國ノ曆ニ依テ居ルノデアリ
マス、然ルニ我ガ日本人ガ日本ノコトヲ書
クノニ耶蘇ノ紀元、而モ頭ニ西曆トモ何
トモ書カナイデ、唯千九百三十一年ト書
クノハ實ニ本末〓倒スルモ甚シイト言ハ
ヌケレバナラヌト思フノデアリマス、試
中等學校ノ生徒ニ西曆ヲ問ヒマスレバ正ウ
ク答ヘマスガ、我ガ建國紀元ヲ聞キマスレ
バ答ヘノ出來ルモノガ多クナイト思フノデ
アリマス、中ニモ滑稽ナルコトハ、國產品
奬勵ノ宣傳「ポスター」ナドニ千九百三十一
年ノ尖端ヲ行ク國產ナドト云フ文字ヲ見マ
スガ、是ハドコノ國產品カ、西洋ノ國產カ、
日本ノ國產品デアルカト云フコトノ判斷ニ
苦シムノデアリマス勿論西暦ヲモ知ルコ
トハ必要デアリマスガ之ヲ知ル以前ニ於
キマシテ、先ヅ我ガ建國紀元ヲバ記憶スル
必要ガアルト思フノデアリマス請願委員
會ニ於キマシテハ國民精神ノ作興上、我
國特有ノ意義ヲ有スル神武天皇建國紀元ノ
年號ヲバ、學校生徒ハ無論一般國民ト云フ
モノニ徹底的ニ知ラシメル、之ヲバ使用スル
ヤウニ政府ノ適當ナル施設ヲバ希望スル
此二點ガ請願委員會ノ希望デゴザリマス、
以上二ツノ問題ニ付キマシテ敢テ法規ヲバ
制定シテ取締ッテ戴キタイト云フノデハア
リマセヌ、今一層之ガ厲行ニ努メラレタイ
ト云フ意味デアリマス、文部内務兩大臣ノ
御意見ヲバ承ハリタイノデゴザリマス
〔國務大臣安達謙藏君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=23
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024・安達謙藏
○國務大臣(安達謙藏君) 只今〓岡子爵ノ
請願委員會ノ御報告ヲ謹聽イタシマシタ、
御尊影ノ取締ニ付キマシテノ內務省ノ是迄
執ラテ居リマシタコトモ、只今御話ノ通リデ
ゴザリマス、元來出版物ニ御尊影ヲ揭載イ
タシマスト云フコトハ主トシテ皇室ノ御
近況ヲ普ク一般ニ紹介イタシマシテ尊崇
ノ念ヲ深カラシメントスルニアルモノデゴ
ザリマスガ、之ガ取扱ニ關シマシテハ國
民訓育ノ力ニ俟ツベキモノデゴザリマシテ。
只今御話ノ通リ新ニ法規ヲ制定イタシマシ
テ、是ニ臨ムト云フヤウナコトハ望マシカ
ラザル所デゴザリマス、ソレデ決シテ御粗
末ニナリマセヌヤウニ、又不敬ニナリマセ
ヌヤウニ、取締ヲ新タニシ、御答ヘ致シマ
スコトモ月並的ト御話デアリマシタガ、サ
ウ云フ月並的デナクシテ、眞ニ其コトニ付
キマシテハ十分取締ルコトニ注意イタシマ
シテ、從來ノ方針ヲ一層厲行シ、徹底スル
コトニ努メテ、遺憾ナキヲ期セムト考ヘテ
居リマス、此段御答へ致シマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=24
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025・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 御答へ致シマス
ガ、御尊影ノ奉安ノコトニ付キマシテハ
文部省ト致シマシテ、多分御氣付デ居ラッシ
ヤルデアラウト思ヒマスガ、各學校ニ於テ
ハ特ニ不燃燒物ヲ以テ堅固ナル奉安所ヲ拵
ヘマシテ、注意ノ上ニモ注意ヲ加ヘテ、苟
モ不敬ニ亙ルコトノナイヤウニ實際ニ於
テモ、又訓育ノ上ニ於テモ非常ニ努メテ居
ル積リデアリマス、其結果甚ダ遺憾ナコト
デハゴザイマスルガ、旣ニ過去ニ於テソレ
等ノ設備ノ十分ナラザル場合ニ於テ火災等
ノ起ッタ時ニ、全ク身命ヲ抛ッテ御尊影ヲ保
護シ奉ッタト云フ例ハ、多分皆樣モ新聞紙等
デ御承知ノコトト思ヒマス、此點ニ付キマ
シテハ、學校關係ニ於テ聊カモ粗末ニ亙ル
ヤウノコトハ萬ナイコトト、私ハ確信イタ
シテ居リマスガ、固ヨリ御心配ヲ以テ御尋
ノコトハ、至極御尤ノコトデアリマスルカ
ラシテ、本日斯カル御質問ガ出マシタニ付
キマシテハ尙ホ一層御趣旨ノ一般ニ徹底
スルヤウニ努メタイト思ヒマス、次ニ紀元
ノコトニ付キマシテノ御尋ネデゴザイマシ
タガ、是モ實ニ私今年ノ元日ニ淚ヲ流シテ
悔ンダノデアリマスガ、私ノ宅ニ參ッテ居リ
マスル各新聞紙ヲ繙イテ見マスルト云フト、
タッタ一ツノ新聞、西暦ノ紀元ヲ至ル所ニ
揭ゲテ居ルモノハ澤山アリマスケレドモ
日本ノ皇紀ヲ揭ゲテ居ル元日ノ新聞ハ私
ノ宅ニ參クテ居ル新聞デハ一ツシカアリマ
セヌ、東京日日新聞ノ社說ノ中ト、記事ノ
中ト廣告ノ中ニ三箇所見當リマシタガ、
他ノ新聞、ドレヲ取ッテモ冒頭カラ、廣告ノ
オ終ヒマデ調ベマシテモ、殆ド見當リマセ
ヌ大變ニ混雜シテ居ル新聞紙ノコトデゴ
ザイマスルカラ、見落シガ或ハアッタカモ知
レマセヌガ、私ノ眼ニ留マラナカッタノデア
リマス、ソレデ御用始メニ役所ニ出マシテ、
其事ヲ尙ホソレ〓〓ノ者ニ話ヲシマシテ
文部省ニアリマス十九種ノ新聞ヲ殘ラズ手
分ケヲシテ調べサシテ見マシタ、サウスル
トデス、只今申上ゲマスル通リ、初マリカ
ラ廣〓ノオ終ヒ迄、苟モ年曆ニ關スル文字
ヲ調べ上ゲサシテ見マスルト云フト、皇紀
ニ關スルコトハ九箇所、西暦ニ關スルコト
ハ二百二十七箇所、新聞ノ數ハ五ツデアッタ
ト思ヒマス、其皇曆ヲ書イテ、今ノ九箇所
ノ皇曆ノ起ッタ元ハ、····而モ或一ツノ新聞
ノ如キハ三箇所アルケレドモソレハ總テ
廣〓ダケニアルト云フコトデ、皇曆ニ重キ
ヲ置イテ新聞紙ヲ編纂シテ居ルノガ、マア
殆ド問題ニスルニ足ラヌト云フコトヲ發見
イタシマシテ、實ニ情ナク考ヘマシテ、紀
元節ニ「ラヂオ」デ放送スルヤウニト云フ話
ガアリマシタノデ、其事ヲモ附加ヘテ私ノ
意見ヲ述べテ置キマシタ、極メテ俗ナ喩ヘ
デアリマスケレドモ、人ノ年ハ知ッデ居ルケ
レドモ自分ノ年ハ知ラヌト云フモ同ジデ、
恥シイコトデアル誠ニ順序ノ立タヌ話デ
アル、殊ニ此事ハ見方ニ依ッテハ隨分大キ
ナ問題デ、〓育上ノコトナドニ付キマシテ、
我國ノ紀元ノコトカラ遡ッテ國體觀念ヲ明
微ニスル意味ニ於テ、特ニ力ヲ用ヰテ置カ
ナケレバナラヌコトガ、社會一般ニハ徹底
シテ居ラヌカノ如キ感ガ起ルノデ、如何ニ
モ殘念ト思ヒマシテ、會フ人每ニ私ガ其事
ヲ申傳ヘマシテ、殊ニ〓育ニ關係アル者等
ニ付テハ、深ク注意ヲシナケレバナラヌコ
トト考ヘテ居リマス、折角只今御尋ネノ御
趣旨ニ私ガ全力ヲ傾ケテ居ルト申シマシテ
モオ恥シクナイ積リデ私ハアリマシテ、至
極御趣意ニハ贊成イタシテ居リマス尙ホ
此上私ノ職務ノ關係ニ於テ出來ル限リ其
趣旨ノ徹底ヲ圖ルコトニ努メタイト思ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=25
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026・清岡長言
○子爵〓岡長言君 只今文部大臣ノ御答ガ
少シ私ノ御尋ネシタコトト違ッテ居ルヤウ
デアリマス、學校ニ於テ御尊影ヲバ奉安所
ニ安置イタシマシテ、鄭重ニ取扱フト云フ
コトハ承知イタシテ居リマス只今私····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=26
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027・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) モ少シ大キナ御
聲ノ方ガ文部大臣ノ御耳ニ達シ得ルカト考
ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=27
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028・清岡長言
○子爵濟岡長言君 只今私ガ御尋ネ致シタ
コトハ古新聞ニ御尊影ガ揭載シテアル、
其新聞ヲバ取扱フコトニ付キマシテ遺憾ガ
アルガ、ソレヲドウ云フ風ニ取締ラレルカ
ト云フコトヲ御尋ネシタノデアリマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=28
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029・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 私ノ言葉ガ足リ
マセヌデ、誠ニ申譯アリマセヌデシタ、私
ノ心持ハ只今申上ゲマシタ通リ學校自體
ニ於テ御尊影ニ付テハ只今申上ゲマシタ
通リ非常ナ鄭重ナ取扱ヲシテ居ルシ又其
事情ニ能ク生徒〓師其他一般ニ於テモ、固
ヨリ辨ヘテ居ル次第デゴザイマスノデ、其
趣旨ハ新聞紙其他ニ揭ゲテアリマス御尊影
ニ付キマシテモ、同ジヤウニ及ンデ居ルモ
ノト認メテ居リマス戴イタ御尊影ニ付テ
ハ只今申上ゲマシタ通リノコトニナッテ居
ルガ、新聞紙ニ付テハ粗末ニシテ居ルト云フ
ヤウナコトハ決シテナイコトト確信イタシ
テ居リマス、併ナガラ多數ノ幼ケナキ生徒等
モアリマスコトデゴサイマスノデ、萬一斯
カル失態ガアッテハ相成ラヌコトト存ジマ
スガ故ニ、此趣旨ハ一層行屆クヤウニ努メ
ツツアリ、又今後モ努メマス積リデ居リマ
ス御安心ヲ頼ヒタウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=29
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030・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 私ハ田中文部大臣ノ
只今ノ御說明ニ付キマシテ伺ヒタイノデア
リマス、簡單デアリマスカラ、此席カラ御
許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵徳川家違君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=31
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032・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 只今田中文部大臣ノ
御說明ヲ謹聽イタシテ居リマシタ御尊影
ニ付テハ學校ニ於テ最モ注意ヲ致シテ居ル
其事實ハ私モ確カニ拜承イタシテ居リマ
ス、併ナガラソレデアルカラシテ、其精神
ガ、新聞其他ニ奉載シテアル場合ニ、其通
リニ及ンデ居ル、〓岡子爵ノ述ベラレタヤ
ウナコトハナイ、確カニ御眞影ヲ奉安シ奉ツ
テ居ル所ノ精神ハ他ノ場合ニ於テモ及ン
デ居ルト云フコトヲ、確信ヲ持ッテ居ルト云
フコトヲ仰セラレマシタガ、ソレハ果シテ
サウ云フ御確信ガアルノデアリマスカ、其
點ヲ詳シク伺ヒマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=32
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033・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 只今御答申上ゲ
マシタ通リ殊ニ外ノコトトハ違っテ一段
ノ注意ヲ以テ平素〓育ヲ致シテ居ルノデ
アリマスカラ、萬間違ノナイコトト信ジテ
居リマスガ、只今言葉ニモ附加ヘマシタ通
リ、何シロ多數ノ幼ケナキ生徒モ居ルノデ
アリマスカラ、萬一ノ粗漏ガ曾ッテ無イト云
フコトハ斷言イタシ兼ネマス併ナガラ趣
意トシテ又〓師モ生徒モ其事ハ十分心得
テ粗末ノナイヤウニ努メツツアルト云フコ
トダケハ私責任ヲ以テ御答申上ゲ得ルコ
トト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=33
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034・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 再ビ此席カラ御許シ
ヲ願ヒマス、只今御說明ガアリマシタガ、
矢張リ前ノ御說明ト大同小異デアリマシ
テ私ハ甚ダ不滿足ニ考へルノデアリマ
ス、殊ニ內務大臣ハ其點ニ付テハ最モ注意
ヲシテ、從來ノ規則ヲ属行シテ、取締ヲ所
謂月並的デナク、努メテヤルト云フコトヲ
言ハレテ居ルノデアリマス、同一閣僚ノ中
ニ於テ、文部大臣ハ萬一サウ云フコトハ
アルカモ知レナイガ、萬ノ中九千九百九十
九迄ハサウ云フコトハナイト云フコトヲ言
ハレテ居ラレル譯デアリマス、ドウゾ內務
大臣竝ニ文部大臣カラモウ一度其點ニ付キ
マシテ、御說明ヲ願ヒタイノデアリマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=34
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035・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 御答へ申上ゲマ
スガ內務大臣ハ、私ノ解釋ガ間違ノテ居ル
ナラバ、御叱リヲ受ケテモ宜シウゴザイマ
スガ、一般取締ノコトニ付テ御話ノアッタ
コトト思ヒマス、私ノ御答へ申上ゲマシタ
メハ、學校ノ學生生徒ニ付テノコトヲ御答
ヘ申上ゲマシタ、其區別ダケハ御承知ノ上
ニ申上ゲマシタ言葉ヲ十分碎イテ戴キタ
イト思ヒマス、是ダケ御答ヘ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=35
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036・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 私モ簡單デゴザイマス
カラ此席カラ質問ヲ·発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=36
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037・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=37
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038・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 文部大臣ノ先刻ノ御演
說中ニ新聞紙ヲ調ベテ見タ所ガ紀元ヲ書
イタモノガナイト云フコトノ御話ガアリマ
シタノデスガ、此國家ノ獨立ハ東洋ニ於
テハ曆ヲ以テ表象イタシテ居ルデ只今ノ
御說明ハ單ニ紀元ノコトダケデアリマスル
カ昭和ノ何年ト云フコトヲ書カヌ新聞ガ
アルノデゴザイマスカ、多分サウデアルマ
イト思ヒマスルケレドモ、文部大臣ノ只今
ノ御言葉ガ若シ誤リ傳ヘラレルト、餘程是
ハ重大ナコトト思フノデアリマス、昭和ノ
何年、昭和ノ六年一月一日、サウ云フコト
ヲ書カヌ新聞ガ苟モアルナラバ、是ハ甚ダ
ヤカマシク言ハナケレバナラヌ、紀元ハ事
ニ依ルト略スルコトガ或ハナイトモ限ラ
ヌ併シソレハ文部大臣ノ御說ノヤウニ略
サヌ方ガ結構デアラウト思ヒマス、只今ノ
御辯明中少シ不明ナ點ガアリマス、明カニ
致シテ置キタイノデアリマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=38
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039・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 御答へ申上ゲマ
スガ、甚ダ私言葉ガ足リマセヌデ、御手數
ヲカケテ相濟ミマセヌ、御尋ネノ通リ元號
ハ確カニヨク書イテアリマス、併ナガラソ
レニ致シマシテモ只今申上ゲマシタ十九新
聞デ、同ジ方法デ調ベテ見マシタ所ガ、昭
和何年ト云フ年號ダケガ百二十九箇所見付
ケマシタサウシテ西洋紀元ノ方ガ二百二
十七ゴザイマシタ詰リ此西洋ノ紀元ト云
フモノガ、子供ニモ誰ニモ新聞ヲ繙ケバ直
グ目ニ付クヤウニナッテ、サウシテ却ッテ皇
國ニ關スルコトニ付テノ記事ノ足リナイコ
トヲ······又目ニ付クヤウナ所ニ餘計ナイコ
トヲ、私ガ遺憾ニ思ッテ先刻ノコトヲ申上
ゲタノデアリマス、是ダケ御答ヘ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=39
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040・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 只今色ミト御質問ガゴ
ザイマシタヤウデアリマスガ、私ハ建國年
號ト云フコトニ付キマシテ神武天皇ノ御卽
位ガ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=40
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041・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 二荒伯爵ニ伺ヒ
マスガ伯爵ノハ意見ヲ述べラレルノデア
リマスカ質疑ヲナサルノデスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=41
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042・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 單ナル質疑デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 質疑デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=43
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044・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 ハア発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=44
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045・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=45
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046・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 建國年號ト云フノハ
神武御卽位ノ時ガ卽チ建國ト云フ意味ニ御
解シニナッテ、別ニ御質問ハ請願委員會デハ
出マセヌノデアリマシタカ、ソレヲ伺ヒタ
イノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=46
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047・清岡長言
○子爵〓岡長言君 モウ一度御申述ヲ願ヒ
タイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=47
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048・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 請願書ニ建國年號ト云
フ言葉ガアリマスノハソレハ神武御卽位
卽チ建國デアルト云フ意味ニ解シテ御審議
ヲ進メニナリマシノカ、又其他ノ質問ガ委
員會ニ於テ出マシタカヲ伺ヒタイト存ジマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=48
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049・清岡長言
○子爵〓岡長言君 只今御話ノ通リデアリ
マシテ、別段ニソレニ對シテ質問ハゴザイ
マセヌ、我ミハ神武天皇御卽位ヲ紀元ト考
ヘテ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=49
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050・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 然ラバ文部大臣ニ御伺
ヒ致シタイト存ジマス、同ジヤウニ御解釋
ニナリマシテ御答辯ニナタノデアリマス
カ、此言葉ニ付テ疑義ヲ御持チニナラナカッ
タノデゴザイマスカ
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=50
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051・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 私モ只今委員長
ノ御答ノ通リニ二荒伯爵ノ御尋ネノ通
リ神武天皇御卽位ヲ紀元トシテノ年號ト
平素承知イタシテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=51
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052・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 本員ハ全然ソレニ對シ
テ違タタ解ヲ持フテ居リマス重大ナコト
デゴザイマスカラ、一言發言ヲ御許シヲ願
ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=52
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053・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 質疑デナク御意
見ニナリマスカ御意見デゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=53
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054・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 國家的ニ意義ヲ持テ
居ル質問ト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵德川家違君) 文部大臣ニ矢張
リ質疑ヲナサレルコトト、議長ハ認メテ宜
イカト存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=55
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056・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 質問デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=56
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057・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=57
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058・二荒芳徳
○伯爵二荒芳徳君 此方カラ宜シウゴザイ
マスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=58
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059・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 宜シウゴザイマ
ス、長ガケレバ御登壇ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=59
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060・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 簡單ニ申上ゲマス、此
建國ト、强ヒテ申セバ國ヲ創メルト云フコト
トハ全然別問題ト思ヒマス、外國ニ於テハ
國ヲ建テル、卽チ建國ト云フコトガゴザイ
マス併ナガラ我國ノ國體ニ於テハ神武ノ
御卽位ト云フモノハ一ツノ民族的維新ノ
一階段ニ過ギナイノデアリマス、御承知ノ
ヤウニ古事記若クハ日本書紀ニ於テ神世七
代及ビ別天神ノ御時代カラ實ニ悠久測リ知
ルベカラザル經過ヲ經テ、神武天皇ガ初メ
テ日向ノ高千穗カラ橿原ニ御移リニナッタ、
其時ヲ以テ紀元、卽チ元ヲ尋ネルノ基トシ
テ年號ガ始マッタノデアリマス、建國ハ斷ジ
テ紀元ト異ノテ居リマスシ、同時ニ神武天皇
ノ御卽位トハ斷ジテ違フテ居ルノデアリマ
ス、此事ハ若モ文部大臣ガ神武天皇ノ御卽
位卽チ建國デアルト云フ意見デアレバ、非
常ニ御考慮ヲ顯ヒタイ一事デアリマス、何
トナレバ總テノ神ミノ御時代、卽チ日本民
族ノ理想ヲ持〓テ此國ニ降リ立タセラレタ
ト云フロト此事實ト二千五百有餘年ノ前
ノ神武天皇ノ御卽位トハ斷ジテ違フト存ジ
Westモウ一度明カニ建國ト神武天皇御卽
位トガ同ジデアルト云フコトデゴザイマス
レバ更ニ私ハ他日ヲ以テ此問題ニ付テ所
見ヲ述ベタイト思ッテ居ルノデアリマス、其
外御尊影ニ對シマシテ先程不燃燒物ノモノ
ヲ建テテ、サウシテ萬遺算ナキコトヲ期シ
テ居ルト云フ御話ガアリマシタガ、御尊影
ヲ一ツノ物ノ如ク扱フコトニ付テ果シテ宜
シイカ、又サウ云フ事實ガアルコトハ已ム
ヲ得ナイニシテモ、斯ノ如キコトヲ以テ御
尊影ノ御尊嚴ヲ保チ得ルカ斯ウ云フヤウ
ナ物的ノ見方ニ付テモ私ハ多大ノ疑義ヲ
持ッテ居ルモノデアリマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=60
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061・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 御答へ申上ゲマ
スガ、只今御尋ノ如キ建國ト云フコトト
神武天皇御卽位ノ御紀元ト云フコトノ區別
ヲ私ハ申土ケタノデハアリマセヌ、只今議
題トナッテ居リマスル請願書ニ建國年號ト
西洋年號併用ニ關スル件ト云フ、此請願者
ノ意味ハ神武天皇御卽位ノ御紀元ノコトヲ
言ウテ居ルモノト心得テ御答ヲ申上ゲタノ
デアリマス、又殊ニ年號ヲハッキリ何千何百
何十何年ト云フ年號ハ只今二荒伯爵ノ御
質疑ノ如ク、我國ノ何千年ニ及ブカ、何万
年以前デアルカ所謂非常ニ上古ノ昔ノ御
建國ト云フ伯爵ノ御意見モ、色ミ伺シテ見ナ
ケレバ分リマセヌケレドモ、數字ノ上ニ表
ハレタ·····其所謂建國年號ト云フコトハ
隨分御困難ナコトデハナカラウカト餘計
ナコトデハアリマスガ、私ハ考ヘマス、併
シソレハ全ク私ノ先程御答ヘ致シマシタ時
ノ考ニハ何モナイコトデアリマシテ、此請
願ノ趣旨ハ神武天皇卽位ノ御紀元ノコト
ヲ書ケト云フ意味合ノ請願ト思ウテ、其御
答ヲシテ居ッタ譯デアリマス、之ヲ離レテ日
本ノ建國ヲ何時ト見ルカト云フコトニ付テ
ハ色々御意見モアリマセウ、私モ亦多少
ノ考ハ持ッテ居リマスケレドモ、此際申上ゲ
ル機會デチイト思ッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=61
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062・二荒芳徳
○伯爵二荒芳德君 ソレデハ只〓ノ御答辯
ニ依リマシテ建國年號ト云フノハ實ハ俗
ノ用語デアッチ卽チ神武天皇御卽位ノ紀
元·····日本ノ持ッテ居リマス紀元、ソレカラ
西暦ト申シマスノモ是モ實ハ俗語デアル
基曆······耶蘇〓ノ曆ヲ指スノデ、別ニ露西
亞ノ曆トカ、或ハ佛曆ノ如キモノノ意味デ
ハナイ、所謂基督〓ノ曆ト、斯ウ云フ意味
ニ便宜上御解釋ニナッテ御答ニナッタト解
釋イタシマシテ、建國ノ紀元ト云フモノト
ハ全然別デアルト解釋シテ差支アリマセ
ヌカ······ソレナラバ了承イタシマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=62
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063・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 私ハ幣原臨時總理ニ
伺ヒマス先刻文部大臣ハ案外ニモ樂觀的
ナ御考ヲ以テ御答辯ニナリマシタガ、私
其御答辯ニハ非常ニ不滿足デアル他ノ御
答辯ニ付キマシテハ常ニ私ハ文部大臣ハ御
深切デアリ、各方面ニ行屆イタ御方デアル
ト尊敬イタシテ居リマスガ、先刻ノ御尊影
ニ關スル學生ニ付テノ御答辯ニ付キマシテ
ハ甚ダ遺憾ニ感ズルノデアリマス、御聞
及ビノ通リデアリマスカラ臨時總理ノ御
意見ヲ伺ヒタイノデアリマス
〔國務大臣男傅幣原喜重郞君演壇ニ登
ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=63
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064・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 印刷物、
出版物ニ謹載イタシテアル御尊影ノ取締ノ
コトノ請願ノ問題カラ、色ミノ御質問ガ起。ッ
タノデアリマスルガ、先刻文部大臣ガ答ヘ
ラレマシタル趣旨ヲ私ガ拜聽イタシテ居リ
マスト云フト、〓育上ノコトニ付キマシテ、
卽チ學校ニ於キマシテハ十分此御尊影ノコ
トニ付テハ愼重ニ御取扱ヲシナケレバナラ
ヌト云フ趣旨ヲ徹底セシメルヤウニ盡シテ
居ルケレドモ、若シ萬一此學校ノ〓師ナド
ニ於キマシテ此趣旨ヲ十分徹底イタシテ
居ラヌ所ガアリマスナラバ是カラ後モ十
分注意ヲ致ス〓斯ウ云フ趣旨ニ答ヘラレ
タヤウニ考ヘルノデアリマス、內務大臣ノ
答ヘラレマシタノハ一般内務行政ノ範圍
內ニ於ケル取扱ノコトヲ申サレタノデアリ
マシテ文部大臣ハ學校デノ取扱ノコトヲ
申サレタヤウニ私ハ承ハッテ居ッタノデアリ
マス、何レニ致シマシテモ、印刷物ニ謹載
イタシテアル御尊影ノコトニ付キマシテ
ハ是ハ十分愼重ニ御取扱ヲシナケレバナ
ラヌモノデアリマシテ粗忽ノナイヤウニ、
粗末ニ致サナイヤウニ學校當局者ニ於キマ
シテモ、學生ナドニ對シテT十分其趣旨ガ
徹底スルヤウニ努メナケレバナラヌト考ヘ
マス、今日ニ於キマシテモ其方針デゴザイマ
スルケレドモ、今後ニ於キマシテモ十分其
趣旨ヲ以テ徹底イタスヤウニ努力イタシタ
イト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=64
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065・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 只今ノ御說明ニ付キ
マシテハ大體諒承イタシマシタ、御言葉
ノ中ニモ文部大臣ハ何とデアッタナラバ
〓此事柄ハ「デアッタナラバ」ト云フヤ
ウナ生ヌルイ問題デハナカラウト思フノデ
アリマス又斯ノ如キ請願ガ出テ居ルコト
カラ逆ニ考ヘマシテモ、御尊影ノ取扱ニ付
テハ人皆之ヲ大變憂ヘテ居ルノデアリマス、
又學校ニ於テハ云々ト云フ文部大臣ノ御言
葉デアリマスガ、ドウモ文部大臣ノ御說明
ハ御眞影······宮内省カラ御下賜ニナッタ御
眞影ニ重キヲ置イテ居ラレルノデアリマ
ス其コトノミニ御答ガ傾クヤウナ嫌ガア
ルノデアリマス、最後ノ御說明デ、其他ノ
コトモト云フ御言葉モアリマシタケレドモ
元來ノ御趣旨ガソコニアッタガ爲ニ、2稍、私
共ガ不滿ヲ感ズルノデアラウト思ヒマス
尙又學生ニ村テハ十分ニ出來テ居ルト、サ
ウ云フ憂ハナイヤウニ出來テ居ル、萬一ア
ルカモ知レヌト······私ハ萬一デナクシテ萬
千トカ萬々モ或ハアルノデハナイカトサ
ヘ思フノデアリマス、ソコニ距離ガ非常ニ
アルノデアリマス、其距離ハ御互ニ讓ッテモ
宜イノデアリマスガ、尙ホ萬一ト仰セラレ
マスガ私ハ相當小學生ニ致シマシテモ、
中學生ニ致シマシテモ其點ニ付テハ甚ダ
不感心ノ者ガ多イト考へテ居ルノデアリマ
ス、併シ私自身文部當局デアリマセヌカラ、
觀察ガ誤クテ居ルノデアリマシタナラバ、是
ハ取消シマスガ、恐ラク是ハ普通ノ觀念カ
ラ考ヘマシテ文部大臣ノ仰セラルル如キ
左樣ニ簡單ナルモノデハナカラウト思フノ
デアリマスヽ再度御答辯ハ要求イタシマセ
ヌガ、ドウゾ斯カル精神ヲ以テ御扱ヲ願ヒ
タイ、文部大臣ノ當初ノ御答辯デアルト
私ハ非常ニ其處ニ疑ヲ持チ、危ブミヲ持ツ
ノデアリマスカラ、切ニ······他ノ方面ニ於
キマシテ私ガ先キニ申上ゲマシタ通リ、餘
程御行屆キニナッテ居ル文部大臣デアル、大
臣御自身先頃演壇ニ於キマシテ、私ハ伴食
デアルカモ知レヌト仰セラレマシタガ、私
ハ決シテ伴食デハナイ、立派ナ文部大臣デ
アル立派ナ立憲大臣デアルト私ハ尊敬シ
テ居ルノデアリマスカラ、甚ダ面ヲ冒シテ
申上ゲルノハ恐縮デアリマスケレドモ問
題ガ問題デアリマスカラ度〓質問ヲシタノ
デアリマス是デ質問ヲ終リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=65
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066・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是等ノ請願ハ請
願委員長ノ御報告通リデ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=66
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067・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=67
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068・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一ニ戾リ
マス國務大臣ノ演說ニ關スル件、第二十
日金杉英五郞君ニ發言ヲ許シマス
〔副議長公爵近衞文麿君議長席ニ著ク〕
〔金杉英五郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=68
-
069・金杉英五郎
○金杉英五郞君 濱口總理大臣御遭難後、
尙ホ御靜養中ナルニモ拘ラズ、難詰ガマシキ
質問ヲ申上ゲマスルコトハ如何ニモ不本
意千萬ニ存ジマスルガ、申上グル迄モナク
國政ハ一日モ忽セニスルコトノ出來ナイモ
ノデアリマスルノデ、如何ニ御懇親ノ仲デ
〓、〓御病體デモ、之ヲ斟酌スルト云フコト
ハ出來ナイト考ヘマシテ二三ノ御質問ヲ
申上グルコトニ致シタ次第デアリマス、幸
ニ幣原臨時總理大臣ガ、濱口首相ノ肯定セ
ラレタル事柄ニ付テハ全部責任ヲ御負セ
ニナルト云フコトノ御言明ガアリマシタノ
デ、心ヲ安ンジテ御質問申上ゲマスルコト
ノ出來ルコトヲ非常ニ喜ブ者デアリマス、
私ハ第五十八議會ニ於キマシテ不景氣ノ問
題思想變調ノ問題、又不純ナル世相ガ不
景氣ニモ關係イタシ、思想ノ變調ニモ關係
イタスト云フコトニ付キマシテ、〓世悲觀
ノ言葉ヲ交ヘマシテ御質問申上ゲタノデア
リマスル其時ニ濱口總理大臣ノ御答辯ニ
ナリマシタルコトノ大要ヲ申上ゲマスレバ
御互ニ政治家トシテ左樣ニ物ヲ悲觀スベキ
モノデハナイト思ヒマス又御互ニ政治家
トシテ物ヲ悲觀シタクナイ、左樣ニ物ヲ悲
觀シテハ到底世ノ中ノ事ハ納マルモノデハ
ナイ、却ッテ左樣ニ悲觀シテ社會上流ノ人ガ
極端ナル言辭ヲ發スルコトソレ自身ガ、世
道人心ニ宜シクナイト存ジマス、私ハ總テ
ノ點ニ於テ、左樣ニ物ヲ悲觀シタクナイ
我國ノ政界ノ將來ニ付テモ道德ノ將來ニ
付テモ、又總テノ問題ノ將來ニ付テモ、大
體ニ左樣ニ悲觀スルモノデハナイト思ヒマ
ス斯ウ云フ御答デアリマシタ、平素比較
的樂觀者デアリマスル所ノ私ト、平素比較
的悲觀的ノ御方デアルト御見受ケシテ居リ
マスル所ノ濱口首相トノ質問應答ガ是デゴ
ザイマス、ソコデ私ハ苟モ一國ノ總理大臣
タルモノガ、斷然ト言明セラレ、悲觀無用
デアルト云フコトノ御答ニ對シマシテ、何
カ是ハ確乎不拔ノ一大成案ガアッテ、速ニ此
難局ヲ打開サルルモノデアルト云フコトヲ
確信イタシマシテ又一方ニハ濱口首
相ガ此演壇ニ於キマシテ、悲觀無用ト云フ
コトヲ斷然ト國民ニ聲明シタルコトニ對シ
テ、非常ニ人意ヲ强ウ致シ後日ヲ樂ンデ居,
タノデアリマス、然ルニ何ゾ圖ラヌ其御明
答ヲ得タル後、日々月々ト云フヨリハヽ時
時刻々私ガ非常ニ悲觀シタル事柄ハ增加シ
テ參ッタノデアリマス、例ヘバ「ストライキ」
ハ所々ニ續發イタシ、學校ノ騷動ハ所々ニ
頻發イタシ失業者ノ數ハ益〓增加イタシ、
殊ニ驚クベキハ誠ニ善人デアルト云フコト
ヲ、友達ノ中カラモ世間カラモ、唱ヘラレテ
居リマシタル所ノ濱口首相御自身ガ狙擊サ
ルルト云フヤウナ、誠ニイヤナ世相ニナッテ
來タコトデアリマス、一方生活難ノ爲ニ自
殺或ハ他殺イタシマシタル者ノ數ガ著シク
增シテ參リマシテ、昭和三年ノ中頃カラ昨
年ノ暮マデニ一千三十九人ノ生活難ノ爲ニ
自殺シタル者、他殺シタル者ヲ生ジタノデ
アリマス、御承知ノ通リ其大部分ハ心中デ
アリマス、親子心中、夫婦心中、兄弟ノ心
中、全家擧ッテノ心中、誠ニ前代未聞ノ悲慘
事デアリマス、其大部分ガ、卽チ七八百人ガ
濱日首相ヨリ御明答ヲ得タル後ノ出來事デ
アリマス、ソレカラ最モ近クハ最近東京檢
事局ヨリ現ハレタル所ノ統計ニ依リマスル
ト、一月カラ二月ノ中頃マデニ、卽チ一箇
月半ニ六千六百二十件ノ犯罪者ヲ出シマシ
ク、其大部分ハ生活難ニ因ル所ノ竊盜デア
ルト記載シテアリマス、是等モナカ〓〓是
マデハ無イコトデアリマス古今東西未ダ
曾テ聞カザル所ノ數デアラウト私ハ思フノ
デアリマス、更ニ著シキ生活難ノ狀態ハ、
東京市中目貫ノ場所ノミニ十二万ノ空家ガ
出來タコトデアリマス、是ハ昨年暮ノ調査
デアリマスルガ、一昨年暮ニハ八万幾ラト
云フノデアリマシタ丁度一年ノ間ニ四五
割方空家ガ殖エタト云フヤウナ次第デアリ
マス、是モ亦江戶ト云フモノガ開ケマシテカ
ラ以來、未ダ曾テ聞イタコトノナイ狀態デ
アリマスソレカラ政爭ノ弊害ニ付テハ
是ハ別ニ遠ク例ヲ求ムルマデモナク、最近
ニ衆議院ノ豫算委員會ニ於キマシテ、天下
ノ選良ガ亂鬪ヲ致シタト云フヤウナコトガ、
是ガモウ立派ナ標本デアリマス、此點モ民
政黨總裁デアル所ノ濱口首相ニ、其時モ念
ヲ押シ、懇々賴ンデ置イタノデアリマスガ、
命令ガ通ジナカッタモノト見エマシテ、十日
間モ議會ノ審議ヲ休マナケレバナラヌト云
フ醜態ヲ來タシ、全國ノ言論機關ヨリハ非
常ニ嘲笑サレ、罵倒サレ、婦人團體マデガ
此淨化運動ヲ注意シテ來タト云フヤウナ、
誠ニ恥カシイ狀態ニ相成リマシタ次第デア
リマス、是ハ政黨ノ方ミガ惡イ意味デモナ
イ、我ミハ大部分ハ親友デアリマスガ故ニ
ヨク知ッテ居リマスガ、個人トシテハ學識經
驗悉ク立派ナ人デアリマスガ、ドウ云フモ
ノダカ、此源平ノ爭ヒト云フモノハドウシ
テモ絕エナイヤウデアリマス、此事モ一タ
ビ壇上ヲ降レバ、春風怡蕩ノ形デ握手イタ
シテ所謂君子ノ爭ヒニ經過シタイト云フ
コトガ我ミノ希望デアルノデアリマス、先
達ッテ豫算委員會ニ起リマシタ所ノ亂鬪ノ
如キモ、何レガ善イ、何レガ惡イトハ言ハ
レナイ、率直ニ申上ゲマスレバ首相代理
デアル所ノ幣原男爵ニモ過失アルモノト私
ハ思フドウセアトデ取消スナラバ、其場
所デ恬濬ニ取消スト云フヤウナコトデアツ
タナラバ、アンナコトハ起リマセヌ、取消
サヌト云フナラバ、何處マデモ取消ス必要
ハナイ取消スト云フコトデアルナラ、卽
座ニ御取消ニナッタラ、アヽ云フ騒動ハ私ハ
起ラナカッタラウト思フノデアリマス、幣原
男爵ノ性格モ私ヨク存ジ上ゲテ居リマスガ、
サウ云フ橫車ヲ押ス人デハナイ、是ガ皆多數ノ
橫車ニ引摺ラレテ斯ウ云フコトニナルノデ
アリマス、此議會ノ亂鬪ト云フモノハ、國民
全般ノ思想ノ上ニ非常ニ影響スルト云フコ
トヲ前議會ニ私ハ申上ゲタノデアリマス、
殊ニ我〓〓育ニ携ハッテ居ル者ニ取リマシ
テハ、甚ダ迷惑デアリマス、一年中源平ノ
戰ヒヲ繼續シテ居リマシテハ、學生ノ中ニ
モ源平ガ出來ルト云フヤウナ傾ガ往々アル
ノデス、而シテ只今述ベマシタル所ノ總テ
ノ事柄ハ私ガ濱口總理大臣ヨリ悲觀無用
ナリトノ御訓示ヲ受ケタル後ノ出來事デア
リマス、若シ濱口首相ニシテ本心デ斯ノ如
ク私ニ御答ニナッタトスルナラバ、時勢ヲ達
觀スルノ明ナキモノカ、然ラザレバ事實ヲ
粉飾糊塗スルニ努メラルルモノデアルト言
ハレテモ差支ナイト思フノデアリマス、我
我國民トシテ甚ダ迷惑スル、總理大臣ノ御
言葉ナドト云フモノハ一言一句悉ク信賴シ
テ居ル、其信賴スベキ言葉ガ誠ニ前後矛盾
デアリマシテ、取止メモナイ御答辯デアル
ニ至リマシテハ、國民ノ迷惑ハ一方ナラザ
ルモノデアリマス、私ノ推察スル所ニ依リ
マスト、此粉飾糊塗ナサルルコトハ、濱口首
相ノ御本心デハ私ハナイト思フ、同君ノ性格
カラ申シマシテ、決シテ物事ヲ粉飾糊塗ス
ルヤウナコトノアル筈ガナイト私ハ思ッテ
居ルノデアリマス、是モ亦同僚ニ引摺ラレ
テ極ク正直ナ方デアリマスカラ悲觀無用
ヲ決議イタシタ、井上藏相ノ數十囘ニ亙ル
樂觀演說、又昨年七月十五日ノ閣議ニ於ケ
ル樂觀申合セ各閣僚ガ現時ノ世相ハ悲觀
スルニハ及バナイ、巷間傳フルガ如キコト
ハナイ、何等恐ルルコトハナイト云フユト
ニ議論ガ一致シタト云フコトヲ新聞デ見マ
シタ其時ニ私ノ最モ親友デアル所ノ町田
農相、江木鐵相ナドモ大ニ樂觀デアリマス、
鐵道ノ收入漸次增多ノ見込アリト云フ報〓
デアリマス、町田農相ノ報〓ハ蠶絲ガ非常
ナ好景氣ニナリサウダ、確カニ値上リヲ見
ルコトニナッタ、斯ウ云フコトデアリマス
斯ウ云フ事カラ推察イタシマスルト、七月
十五日以前ニモウ既ニ閣議ハ悲觀無用論ト
云フコトニ一決シテ居,テ、サウシテ極ク正
直ナ人デアリマスカラシテ、之ヲ嚴守シナ
ケレバナラヌト云フコトノ一點張リデ彼處
ニ到ッタコトデアル、斯ウ私ハ善意ニ解釋シ
テ、御氣ノ毒千萬ニ思フテ居ルノデアリマ
ス、今日ノ世ノ中ヲ段々景氣ガ好クナッテ
來タ、不景氣ハ恐ルルニ足ラズト云フ如キ
ニ至リマシテハ狂人ニアラザレバ非常ナ
欺瞞者デアリマス、爲政家トシテハ最モ怖
ルベキ、最モ忌ムベキヤリ方デアリマス、
申上ゲルマデモナク爲政家ハ正直、有ノ儘
ヲ發表シテ國民ヲ安心サセ密ニ各種ノ方
法ニ付テ全力ヲ注ガナケレバナラヌ筈ノモ
ノデアルト私ハ思フテ居ル、ソコデ尙ホ申
上ゲタイコトハ澤山アリマスルケレドモ、
一言モウ一ツ申上ゲタイコトハ思フニ
濱口首相竝ニ現政府ノ諸公ハ、悲觀ト破
壞ト同ジヤウニ考ヘテ居ルノデハナイ
カト思フ、ソレハ濱口首相ガ私ニ答ヘラ
レタ時ノ傲然タル態度ヲ以テ、怒氣ヲ帶ビ
テ私ニ申シタ所ヲ以テ見マスルト、悲觀
ト破壞ト同ジヤウニ思フテ居ルノデハナイ
カト思フ是ガ非常ナ間違デアル古人モ
慨世不平ト云フコトハ一ツノ希望デアル
又進步シツツアル未來ヘノ擔保デアルト
言ッテ居ル、慨世不平ト悲觀ト云フモノハ同
ジコトデアル、濱口首相竝ニ現政府諸公ガ
如何ニ仰シヤッテモ、私ハ何處マデモ悲觀イ
タシマス、而シテ希望ヲ其處ニ放タナイヤ
ウニシテ居リマス、而シテ未來ヘノ愉快ナ
ル事柄ニ到達シタイト考ヘテ居リマス、樂
觀ト申シマスルト非常ニ言葉ハ好イケレド
モ、是ハ沈靜不動デアリマス、希望モ斷ッテ
居レバ進步シツツアル未來ヘノ擔保モ消失
シテ居ルモノガ樂觀デアルト私ハ思フノデ
アリマス、是ガ濱口首相ト私トノ意見ノ非
常ニ違フ所デアリマス、モウ一ツ申上ゲマ
スレバ古人ハ、慨世ノ聲ノアリマスル場合ニ
ハ國家ハ榮エテ行ク、慨世ノ聲ガ無クナッタ
ル國家ハ亡ビル、斯ウ言フテ居リマス、慨
世不平、悲觀ナドト云フコトハ誠ニ尊イコ
トデアリマス、現內閣諸公ノ御考ニナルヤ
ウナ破壞デモナケレバサウ心配ナモノデ
モナイノデアリマス、或場合ニハ一ツノ方
便トシテ粉飾糊塗モ亦必要ナコトモアル、
政治上ニハ必要ナコトモアリマス、ソレハ
程度問題デアリマシテ、今日ノ世相ヲ不景
氣ノ關係カラ中シマシテモ、思想ノ惡化シ
タル關係カラ申シマシテモ、今日ノ場合ヲ
粉飾糊塗ニ依フテ治メテ行カウト云フコトハ
非常ナ間違ヒデアルト私ハ思フ、恰モ臭イ
物ニ蓋ヲスル、モット激シク申シマスレバ傳
染病ノ隱蔽デアリマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
其巷間實ニ怖ルベキモノアルヲ知ラナケレ
バナラヌト思フノデアリマス、私ノ希望ス
ル所ハドウカ此際ハ大政策ヲ立テテ、是マ
デノ餘リ樂觀、卽チ表向ダケデアッテモ樂觀
樂觀ヲ以テ過スト云フコトハ、國政ヲ御執
リニナル方ノ間違ヒデハナイカト思ハルル
ノデ、此點ヲ御注意願ヒタイト思フノデア
リマス尙ホ私ハ濫リニ誹謗ヲ以テ人心ヲ
煽動シタリ、或ハ「ストーヴ」ノ前デ新聞ヲ
讀ミナガラ時世ヲ誹謗スル輩デハナイト云
フコトヲ先ヅ御承知ヲ願ヒタイ、若シ此際
政策ヲ變更シテ一大政策ヲ立テテ進マナケ
レバ、現內閣モ危險デアルシ、我ミモ危險
デアリマス、非常ナ迷惑ヲ感ジマスコトハ
今カラ私ハ明カニ中上ゲテ置キマス、此頃
「ウヰン」ノ新聞ヲ見マシクラ、「チエックスロ
バキア」ノ「プレシデント·マサリック」ト云
フ「プロフエッサー」「マサリック」博士ガ斯ウ
云フコトヲ言"テ居リマス、近頃政黨政治ノ
獨創ヲ缺クコトハ怖ロシイ、斯クテ鮮明ナ
ル目的ヲ推究スル獨自ノ政策ヲ行フテ居ル
政黨ハ極メテ少數デアル、大多數ハ實ハ反
對黨ノ缺陷ニ依ッテ生レ、反對黨ノ微力ノ爲
ニ生キテ居ルノデアル、斯ウ云フコトガア
リマス、是ハドウモ我ガ日本ノ政界ヲ諷刺
シタモノデハナイカト云フヤウニビックリ
シタノデス、此一箇條ヲ讀ミマシテ、矢張
リ歐羅巴ニモ斯ウ云フ連中ガ居ルト見エマ
ス、何等獨創的ノ政策モナク、敵ノ缺陷ニ
依ッテ生レテ、敵ノ微力ノ爲ニ息ヲ吐イテ居
ル、斯ウ云フノガ先ヅ世ノ中ニマダ澤山ア
ルト見エマス、私ノ冀フ所ハ現政府ガドウ
カ此「マサリック」ノ言フタル言葉ノ通リニ
ナラナイヤウニシタイト思フ、此仲間カラ
ハ蟬脫シ得ルヤウニ御奮勵ヲ願ヒタイト思
フノデアリマス、而シテ私ノ御伺ヒ致シマ
スル要點ハ、首相代理モ亦同樣ニ今日ノ世
相ヲ悲觀ナサレザル······依然トシテ悲觀ナ
サレナイノデアルカドウカト云フコトデア
リマス、第二問ハ時間ノ都合上別ニ說明ヲ
申上ゲマセヌ、過日首相代理ノ施政方針御
演說ニ依ッテ、豫算、公債、倫敦條約、行
政、財政、陸軍軍制改革及ビ支那滿洲、露西
亞等ノ外交狀況ヲ詳シク拜聽イタシマシタ、
而シテ内政外交共ニ順風ニ帆ヲ揚グル如ク
浩浩洋々タルモノアルヲ承ハリマシテ、誠ニ
御同慶ニ存ジマスル、併ナガラ其說カルル
所ガ如何ニモ依然トシテ樂觀的デアリマシ
テ、且ツ平易デアリマシテ、多事多難ノ今
日ニ拜聽イタスベキ施政方針トシテ誠ニ物
足リナイヤウナ氣ガ致スノデアリマス、加
之私ノ今日特ニ御伺ヒ致シタイコトハ施政
方針ノ中ニ、何故ニ國民保健ニ關スル事柄
ヲ入レナイカ、又先達ドナタカラモ御話モ
アッタヤウデアリマスルガ、〓育ニ關スル事
柄ヲ何故入レナイカ、幣原男爵モ御承知ノ
通リ「ヂスレリー」ニシテモ、「ルーズェヴル
ト」ニシテモ、「タフト」ニシテモ、「カップリ
ヴィ」ニ致シマシテモ、其他歐米ノ主權者若
クハ總理大臣、國務大臣ト云フヤウナモノ
ハ〓育及ビ衞生ヲ國家存立ノ二大要素トシ
テ聲明サルルノガ常トナッテ居リマス、而モ過
日文部大臣ノ他ノ質問者ニ對スル御答ヲ拜聽
イタシマスルト、施政方針ノ中ニ國民〓育ノ
コトモ入レテ貰ハウト思っタ、併シソレハ長
クナルカラ止メテ呉レト云フコトデ已ムヲ
得ズ止メタ、伴食大臣云々ト云フヤウナコ
トモ其時アリマシタ、是ハドウ云フ譯デ此
主務大臣ガ自分ノ關係シテ居ル事柄ニ付
テ施政方針ノ中ニ入レテ吳レロト云フノ
ニ御入レニナラナカッタカ、趣意ガ私ニハド
ウモ了解ガ出來ナイ、「カーライル」ノ言フ
通リニ大臣ヲ選ブノニハ二階カラ密柑ノ
皮ヲ放ッテ、ソレニ中ッタ者ヲ大臣ニスル、
是ハ詩人デアリマスカラ、勝手ニ面白イコ
トヲ言フノデアリマス、私達ハ決シテサウ
輕ンジテ居リマセヌ、國務大臣ト云フモノ
ハ陛下輔弼ノ臣デアリマス、我ミハ深
ク尊敬イタシマス、而シテ現內閣ニ於キマ
シテモドノ人ガ密柑ノ皮ガ頭ニ中ッテ來タ
ノカ、ドレガサウデナイカト云フコトヲ見
識ノ上カラモ、又博學ノ上カラ申シマシテ
モ甲乙丙丁ハナイト私ハ思フ、同樣ノ權利
ヲ有サナケレバナラヌモノデアル、而モ文
政ノ當局者ガ是レ是レノ事ヲ施政方針ノ中
ニ入レテ吳レロト云フコトヲ、拒ンダト云
フ理由ガ私ニハ少シモ分ラナイ是レ卽チ
同僚ノ中デモ餘程馬鹿ニサレテ······俗語デ
申シマスレバ馬鹿ニサレタモノデアルト文
部大臣ハ思ッテ居リマセウ、其返答ノ時モサ
ウ云フ樣子デアッタ、是ハ甚ダ私ハ宜シクナ
イコトデアルト思フノデアリマス、次ニ又
安達內務大臣ハ何故ニ國民保健ニ關スル事
柄ヲ施政方針ノ中ニ書入レヲ請求シナカッ
タノデアルカ、同大臣ハ衞生ニハ非常ニ理
解ノアル人、理解ノアル人デアルガ之ヲ施
政方針ノ中ニ差加ヘテ貰フコトヲ請求シナ
イト云フコトニナリマスルト、ドウモ少シ
此衞生大臣ニ對シテ疑惑ヲ持タナケレバナ
ラヌ、施政方針ホド大切ナモノハナイ、此
中ニ國民保健ノコト衞生ノコトヲ書入レテ、
國民全體ニ知ラセルト云フコトガ、衞生思想
ノ宣傳ノ上カラモ效果ノ上カラモ、大ナ
ルモノデアルト云フコトヲ先ヅ安達內務大
臣ハ考ヘナケレバナラナイノデアル、ソレ
トモ田中文部大臣ノ如ク長クナルカラ拒絕
サレタノデアルカドウカ、此點ニ付キマシ
テ幣原臨時總理大臣閣下ノ明快ナル御答辯
ヲ煩ハシタイト思フノデアリマス、尙ホ伺
ヒタイコトハ數數アリマスケレドモ、時間
ノ都合上是ニテ一タビ降壇イタシマス御
答辯ヲ伺ヒマシタ上ニ更ニ午後若クハ明後
日後ハ引續イテ申上ゲルコトヲ保留イタ
シテ置キマス、尙ホ熊澤蕃山ノ言フタル通
リ、人ガ人ニ物ヲ問フト云フ場合ニハ、其
人ノコトヲ信ズルノデアルカラシテ、明ラ
サマニ間違ヒノナイコトヲ答辯スベキデア
ルト云フコトヲ言ルテ居ル、是ハ獨逸ノ「ケー
ベル」ト云フ哲學者ノ言フタノト同ジヤウ
ナコトデアル、ソレ故ニ私ハ伺ヒマシタ
ナラバ決シテ反問ハ致サナイノデアリマ
ス、是ハ前ニ濱口首相ニ對シテモ同樣デ、
決シテ反問イタシマセヌ、ソレガ噓デナイ、
本當ノ腹カラ出タコトデアルト確信スルノ
デアリマス、又シタイノデアリマス、其意
味ニ於キマシテ、大キナ聲デ御答辯ヲ願ヒ
やく、私ノ場所ハ幸カ不幸カ誠ニ遠クニ居
リマシテ、アナタ方ノ仰シヤルコトガ何時
デモチットモ聞エナイ、ドウカ惡シカラ
ズィ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=69
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070・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 休憩ヲ致シマ
ス、午後ハ一時三十分ヨリ開會イタシマス
午後零時一分体憩
午後一時五十二分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=70
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071・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ報〓ヲ
致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
本日特別會計ニ於ケル營繕費ニ關スル法律
案特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長
ノ氏名左ノ如シ
委員長侯爵西〓從德君
副委員長子爵大河內輝耕君
本日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提出案
ハ直ニ之ヲ衆議院ニ送付セリ
瓦斯事業法中改正法律案
本日本院ニ於テ採擇スルコトヲ議決シタル
伊勢神宮御料田ノ恢弘ニ關スル請願外六件
ノ請願ハ各、意見書ヲ附シ直ニ之ヲ政府ニ
送付セリ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=71
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072・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ午後ノ
會議ヲ開キマス金杉英五郞君
〔金杉英五郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=72
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073・金杉英五郎
○金杉英五郞君 總理大臣ニ伺ヒタキ極ク
簡單ナ事柄ハマダ二ツ程殘ッテ居リマス、時
間ノ都合上長ミシキ說明ハ之ヲ省キマシ
テ、箇條書ニシテ御伺ヒシタイト思ヒマス、
第三、歷代ノ國務大臣ハ名ヲ大權ニ藉リテ
答辯ヲ避クル場合ガ多イノデアルガ、其理
由ハドウ云フ譯デアルカ、我ミガ簡單ニ考
ヘマシタ所デハ國務大臣ハ獻策、輔弼ヲ行
ウテ大權ノ發動ヲ願ヒ奉リ得ル資格モアル
モノデアルト存ジマスル一カラ十マデ事
宮中ニ關スル、或ハ大權ニ關スルトカト云
フヤウナコトニ依ッテ答辯ヲ避ケルコトハ
果シテ當ヲ得タルモノデアルカドウカ、是
ガ年來私ガ疑惑ヲ挾ンデ居ル所デアリマ
ス、此點ニ付キマシテ總理大臣代理ノ御明
答ヲ煩ハシタク存ジマス、第四、日本帝國
ノ政體ハ議會中心政治ト御解釋爲サルル
カ、ト云フノデアリマス、我ミノ考ヘマシ
タル所デハ憲法第四條、同ジク第五條、第
十條ヲ通覽イタシマスルト、ドウシテモ此
內閣ト云フモノハ國家國民ノ內閣デアリマ
シテ、卽チ國家國民ヲ總攬統治遊バサルル
天皇ノ内閣デナケレバナラヌト思フノデ
アリマス、ソレ故ニ我〓日本ノ政體ヲ天皇
中心ス政治ト常ニ了解シテ居ルノデアリ
マス、然ルニ近來前後左右ノ見境ヒモナク
議會中心政治ヲ唱道スル輩ガ時〓相見エマ
スルコトデアリマス、是ハ今後ニ取リマシ
テモ、國體ノ上カラ申シテモ、政體ノ上カ
ラ申シテモ容易ナラザルコトデアルト自分
ハ了解シテ居ルノデアリマス、此點ニ付テ
ドウ云フ御高見ガアリマスルカ、ソレヲ伺
ヒ置キマスルコトガ今後ノ我ミノ爲ト存ジ
マー、右ニ對シテ第一ヨリ第四マデ簡單ニ
御答辯ヲ煩ハシマス
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=73
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074・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 先刻金杉
君ヨリ〓心ナル御演說ガアリマシテ、私ハ逐
一之ヲ拜聽イタシタノデアリマス、御質疑
ノ第一點ハ金杉君ガ前議會ニ於テ現代ノ世
相ニ關スル御觀察ヲ御述ベニナリマシテ、
極メテ悲觀スベキモノデアルト云フコトヲ
御指摘相成リマシタルコトニ對シテ、濱口首
相ハ其當時ソレ程悲觀スベキモノデハナ
イ、却ッテ世ノ先覺者ガ餘リニ悲觀說ヲ述べ
ルコトハ世道人心ニモ宜シクナイヤウニ思
フト云フコトヲ述ベラレタガ、其後ノ情勢ヲ
考ヘテ見ルト云フト、益〓悲觀說ヲ强クスル
材料ガ多イノデアル、ト申サレマシテ、或
ハ「ストライキ」、或ハ學校ノ騷動、或ハ失業
者ノ狀況ナドヲ述ベラレ、是等ノ事態ハ益〓
險惡ニナリツツアル、遂ニ濱口首相自身ノ
狙擊ニマデ相成ッタノデアル、其他自殺、他
殺ノ數ガ增加シ、犯罪者ノ數モ益〓增加イタ
シテ居ル、又世ノ中ノ不景氣ノ爲ニ東京
市中デノ空家ガ十二万戶ニ達シテ居ルト云
フ御話モアリマシタ、尙ホ政爭ノ弊害ガ益〓
激甚ヲ加ヘツツアル、苛烈ニナリツツアル
コトヲ、御述べニナリマシタ、斯ノ如キ世
相ニ對シテ政府ハ尙ホ悲觀ヲ要シナイカト
云フコトヲ御問ニナッタノデアリマス、今日
ノ世相ガ誠ニ憂慮スベキモノデアルト云フ
コトニ付キマシテハ、私ハ金杉君ノ申サレ
タルコトニ同感ヲ表スル者デアリマス、誠
ニ好マシカラザル社會的現象ガ現ハレツツ
アル、其現象モ少ナクナイコトハ私モ認メ
マス、併ナガラ之ニ依ッテ我ガ國家ノ前途ガ
ソレ程悲觀スベキモノデアルカト申シマス
レバ、私ハ左程ニ悲觀······國家ノ前途ヲ悲
觀スルニモ及ブマイト思フノデアリマス、
私ノ見ル所ニ依リマスルト云フト、我ガ國
民ノ中心ハ尙ホ思想甚ダ健全デアルト信ジ
V 、今日ノ社會的現象ノ憂フベキモノア
ルコトハ之ヲ認メマスケレドモ、之ニ付キ
マシテハ我ガ朝野擧ッテ勇氣ト不撓不屈ナ
ル精神ヲ以テ之ヲ除去シ矯正イタスコトニ
努メナケレバナラヌノデアリマシテ、我ガ
國民ガ是等ノ試鍊ニ堪ヘテ、斯ノ如キ社會
的現象ヲ除去シ、矯正シ得ル能力ヲ有ッテ
居ルコトハ、私ハ深ク信ズル所デアリマス、
斯ノ如キ努力ヲ致ス所ニ進步ガアルノデア
リマス、發達ガアルノデアルト思フノデア
リマス、從クテ私ハ今日誠ニ憂慮スベキ社
會的現象ガアルコトヲ認ムルト共ニ、是ハ
固ヨリ政府ダケノ力デモ參リマセヌガ、朝
野心ヲ一ツニシテ、是ガ除去矯正ニ努メタ
イト考ヘルノデアリマス、第二問ハ私ノ過
日ノ施政方針ノ演說中ニ、〓育ニ關スル事
項竝ニ國民保健衞生ニ關スル事項ニ言及シ
テ居ラヌ、是ハ政府ハ是等ノ事項ヲ輕ンジ
テ居ルノデハナイカト云フ御問デアリマ
ス、如何ニモ私ノ施政方針ノ演說中ニ、此
二問題ニ言及イタシテ居リマセヌケレド
モ、之ニ依ッテ政府ガ此二ツノ事項ヲ毛頭輕
ンジテ居ル意思ハナイノデアリマス、申ス
マデモナク、〓育ハ我ガ國運進展ノ根幹ヲ
成スモノデアリマス、我國ガ今日ノ國際的
地位ヲ占ムルニ至ッタノモ、亦全ク我朝野心
ヲ一ツニシテ〓育ノ重大性ナルコトヲ自覺
シ、認識シ、之ガ爲ニ多年全力ヲ擧ゲ來ッタ
賜デアルト考ヘルノデアリマス、又國民保
健ノ問題、衞生ノ問題モ同樣デアリマス、
今日學術界ニ於テモ、亦實業界ニ於テモ、
其他如何ナル事項ニ付キマシテモ、我ガ國
民的努力活動ノ根本ハ何ト申シテモ國民
ノ健康ト云フコトデナケレバナラヌノデア
リマス、國民ノ保健問題ノ爲ニ政府ガ有ラ
ユル努力ヲ致スト云フコトモ、是モ申ス迄
モナイノデアリマシテ、先刻金杉君モ申サ
レタ如ク、安達內務大臣ハ之ガ爲ニ特ニ意
ヲ用ヰテ居ラレルノデアリマス、國民保健
ノ問題ニ付テ深キ諒解ヲ有シ、之ノ爲ニ努
力スル決心ト又事實モアルノデアリマス
デ是等ノ問題、卽チ〓育ニ關スル事項、國
民ノ保健ニ關スル事項ニ、政府ガ重キヲ置
カナケレバナラヌト云フコトハ是ハ恐ラ
クハ何レノ內閣ヲモ通ズル一定不變ノ方針
デアリマシテ、我ミハ······私ハ過日施政方
針ノ演說ヲ致シマスル時ニ、此問題ニ付テ
ハ最早何人モ疑ヲ答レザル極メテ明白ナル
事理デアリマシテ、殊更ニ之ヲ施政方針ノ
中ニ揭グルニモ及ブマイ、其必要、其望マ
シキコトハ何人モ認メル所デアリ、何レノ
內閣モ承認シ來レル所デアリマスルカラ、
特ニ之ヲ揭グル程ノ必要モアルマイト考ヘ
タダケノ話デアリマシテ、之ニ依ッテ我〓ガ
此二問題ヲ輕ク見テ居ルト云フ風ニハ御了
解下サラヌヤウニ希望イタシマス、第三ニ
歷代ノ內閣ハ名ヲ大權ニ藉ノテ答辯ヲ避ケ
テ居ルト云フコトヲ申サレタノデアリマ
ス、私等ハ名ヲ大權ニ藉リテ答辯ヲ避ケル
ト云フ意思ハ有ノテ居リマセヌ、併ナガラ宮
中ニ關スル事項ヲ、此議場ニ於テ論議イタ
シマスルコトハ穩當デナイコトダト私ハ考
ヘテ居リマス、大權事項デアルカラ論議シ
ナイト云フ意味デハアリマセヌ、ソレカラ
第四ニ日本ノ國體ノコトヲ御述べニナリマ
シテ、是ガ議會中心主義デアルカドウカト
云フ御質問デアリマス、帝國ハ天皇之ヲ統
治アラセラレルト云フコトハ憲法ノ條章ニ
明カナ所デアリマシテ、之ニ付キマシテ恐
ラクハ日本國民ニ一人モ之ニ對シテ誤解ヲ
持ッテ居ル者ハナカラウト信ズルノデアリ
マス、天皇ガ統治遊バサレルト云フコトニ付
キマシテハ明瞭デ、一點ノ疑ヲ容レナイノ
デアリマスルガ、併ナガラ民意ハドウ云フ
風ニシテ現ハサレルカト云フ問題ニナリマ
スレバ是ハ議會ヲ通ジテ民意ガ現ハレル
モノデアル、政治ノ實際ヲ行ウテ行キマス
上ニ於キマシテ、民意ノ尊重スベキコトハ
申ス迄モアリマセヌ、其民意ハドウ云フ風
ニシテ現ハレルカト云ヘバ、議會ヲ通ジテ
現ハレル、私ハ斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリ
マス、從フテ議會中心主義ト申シマヌルコ
トハ、其言葉ノ當否ハ別間題ニ致シマシテ、
私ハ政治ノ實際ヲ行ッテ行ク上ニ於テハ、民
意ヲ尊重シナケレバナラヌ、民意ヲ尊重ス
ルノニハ議會ヲ經テ現ハルル國民ノ意思
ト云フモノヲ尊重スルト云フノガ當然デア
ル私ハ斯樣ニ考ヘテ居ルノデアリマス、
是デ大體ノ御問ニ對スル御答ハ御了承下サ
ルコトト考ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=74
-
075・金杉英五郎
○金杉英五郞君 只今首相代理ノ御懇切ナ
ル答辯ニ對シテ深ク敬意ヲ表シマス、特ニ私
ヲ感ジマシタルコトハ總理大臣代理ハ能
ク本員ノ要求ヲ容レラレタト云フ點デアリ
マス卽チ過日來御答辯ニナルコトハ一囘
モ此處ヘ聞エタコトガアリマセヌガ、只今
私ガ御願申シタ爲ニ、非常ニ明哲ニ聞エマ
シタ誠ニ愉快ニ感ジマス、是ニテ總理代
理ニ對スル質問ハヽ前ニ約束ノ通リ反問イ
タサズニ引下リマスル、左樣御承知願ヒタ
イ
〔子爵前田利定君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=75
-
076・前田利定
○子爵前田利定君 濱口雄幸君ガ不慮ヲ遭
難ノゴザイマシタコトハ、誠ニ立憲治下ノ
恨事デアリマス我人共ニ長嘆御同情ニ堪
ヘナイ次第デアリマス、私ハ同君ガ完全ニ
御健康ヲ御囘復ニナリマシテ此壇上ニ其
離姿ヲ抑グ日ノ一日モ早カレト衷心ヨリ祈
ル者デアリマス、多分今日私ガ此質疑ヲ致
シマス頃ホヒニハ既ニ御全快ニナリマシ
テ昨年同樣私ノ質疑ニ對シマシテ、御深
切ナル御答辯ニ接スルデアラウト心待チニ
致シテ居リマシタガ、不幸ニシテ未ダ參院
サレマセヌコトハ、誠ニ遺憾ニ存ズル次第
デアリマス、殊ニ今日私ハ質疑ヲ致サウト
存ジマスル事柄ハ、昨年ノ特訓議會ニ於キ
マシテ、同氏ニ對シマシテ質疑ヲ致シマシ
タ其事ニ引續キマシテ更ニ質疑ヲ數シマ
ス私ニ取リマシテハ一層ニ左樣ノ感ヲ深
メルノデアリマス、過日幣原首相代理ノ御
聲明ニ依レバ濱口首相ハ遲クモ三月十日
マデニハ御出院ガ可能トカ云フ由ニ承ハッ
テ居リマス、併ナガラソレマデ私ノ質疑ヲ
御遠慮申上ゲルコトガ出來マセヌノデアリ
マスルカラ、誠ニ御迷惑ナガラ濱日首相ニ
代ラレテ内閣ヲ統裁サレル所ノ幣原首相代
理ヨリ御答ヲ得タイト思フノデアリマス
但シ御不勝手ノ點ハ便宜上他ノ國務大臣ヨ
リ御答ヲ煩ハシテモ宜シイノデアリマス
尙ホ私ノ質疑申ニハ他ノ大臣方ニ對シマシ
テ、御引合ニ御出シ申スコトガアルト考ヘ
マスルガ、今日大臣腐甚ダ寂寥デアリマス"
域ルベタ近キ機會ニ於キマシテソレ等ニ對
シマシテハ連記錄ヲ御覽ニナリマシテ御
答辯下サルヤウニ御傳ヘヲ願ヒタイト想フ
クデアリマス、若モ御答カゴザイマセヌケ
レバ、私ノ質疑ニ付テ申述ベマシタコトヲ、
御肯定下サッタモノト私ハ認メザルヲ得ナ
イ女第デアリマス、第ニ私ガ質疑ヲ致シ
マスルコトハ先月休會明ケノ議會劈頭ニ
於キマシテ首相代理ガ施政方針ノ演說ヲサ
ルマシタ其中ニ付キマシテ主トシテ中小
產業者竝ニ失業者ニ對シマスル救濟ニ付テ
ノ御演說タ一節ニ付キマシテ先ヅ御尋ヲ
致サウト思フノデアリマス事ヲ入念ニ致
シマスル爲ニ、幣原首相代理ガ何ト御セラ
レマシタカヲ速記錄ニ付テ之ヲ引證イタシ
やっ、貴族院議事速記錄第二號、六頁、前
ヲ略シマス「金解禁決行以後ノ經濟狀況ヲ
〓觀イタシマスルノニ我ガ財界ハ建直シノ
中途ニ於テ世界的ノ不景氣ニ遭遇シタル
爲朝野ヲ擧ゲテ一時ハ不安メ氣分ニ襲ハ
レクノデアリマヌガ其間ニ於テ產業ノ合
理化、國產愛用ノ奬勸、金融ノ調節失業
ノ救濟等、種々ノ對策ヲ講ジマシク爲、入
心ハ漸次安定スルニ至ッタノデアリマス」下
略ス政府ガ種々ノ對策ニ依テ次第次第ニ
人心ガ安定ヲスルニ至ッタト申サレルノデ
アリマス、至ックトハ申土ゲルマデモナク到
達スルノ意味デアリマス、即チ安定ヲシタ
ト云フコトデアリマス、私ハ決シテ言葉咎
メヲ致スノデハナイノデアリマス瑣末ナ
ル言葉ヲ捉ヘマシテ之ヲ難詰スルヤウナコ
トハ致サナイメデアリマス、御承知ノ通リ
ニ此施政ノ方針ノ演說ノ原稿ト申シマスモ
ノハ、閣議ニ於カレマシテ各閣僚ニ諮ラレ
テ、各〓僚〓ニ十分ニ練ラレマシテ之ヲ
議會ニ發表セラレマス前ニ、先以テ御上ニ
奏鬪シ奉リマシテ、而シテ後ニ議會ニ之ヲ
發表イタサレルノデアリマス、誠ニ重要ナ
ル國務ノ文章デアリマス、一字一句モ苟ニ
スベカラザルモノ、又スベキモノデハナイ
ノデアリマス、誠ニ莊嚴ナル文章、嚴正ナ
ル文章デアリマス、サレバ幣原首相代理ガ
此演壇ニ於キマシテ、施政ノ方針ノ演說ヲ
致サレマシタ時ニ如何ガデアリマシタラウ
其演說ノ原稿ヲ此卓上ニ御置キニナリマシ
テ一字一句モ取違ヘナイヤウニ演說ノ原
稿ヲ見比ベテ、サウシテ過チナイヤウニ御
蓮ベニナリマシタノデモ分ル次第デアリマ
ス、故ニ之ヲ論ジマスルノハ決シテ小事デ
ハナイ、些事デハナイト私ハ信ズルノデア
リマス、私ハ幣原首相代理カ······幣原首相
代理ト申上ゲマシテモ過般豫算委員會デ
幣原首相代理ノ豫算委員ノ質問ニ答ヘラレ
テ自分ノ政治的言動ハ濱口總理ニ矢張リ
責任ガ及ブ、又濱口總理ノ政治上執ッタ言動
ニ村テノ責任ハ自分ニモ及ブモノダト云フ
コトヲ明カニ申サレテ居ルノデアリマス、ソ
レデ伺ヒマスノハ、幣原首相代理ハ眞劍ニ
政府ノ種々ノ對策ニ依ッテ人心ガ安定ヲシ
クト斯ウ云フ風ニ考込ンデ居ラルルノデ
アリマセウカ、眞面目ニ左樣ニ御認メニナツ
テ居ルノデアリマセウカ、若シモ政府ノ對
策デ人心ガ安定ヲシテ居ル、斯ウ云フ風ニ
御考ニナッテ居ルト致シマスレバ、誠ニ私ハ
驚入ッタ次第デアルト申サナケレバナラヌ
ノデアリマス、ソレ故ニ念ノ爲ニ伺フメデ
アリマスガ、抑〓爲政家ト申シマスモノハ
社會ノ實相ヲ觀察イタシマスルノニ淨殼璃
ノ鏡ニ物ノ映ルガ如クニ明カニ知リ、明カ
ニ察サネバナラチイト思フノデアリマス、
若シ幣原首相代理ガ、政府ノ對策ニ依ッテ人
心ガ既ニ安定ヲシタト斯ウ云フ風ニ本當
ニサウ御考ニナッテ居ルト致シマシタナラ
バ私ハ幣原首相代理竝ニ臺閣ノ諸公ハ大
錯覺者デアルト申サナケレバナラヌト思フ
ノデアリマス、大色盲者デアルト申サナケ
レバナラヌト思フノデアリマス、若シ然ラ
ズシテ、本當ニサウハ思ッテ居ルノヂヤナ
イ、都合土、威ヲ莊ニシ言ヲ美ニスル爲
ニ安定スルニ至ッタト云フ語句ヲ用ヰタト
云フ、斯ウ云フコトデアリマスナラバ、私
ハ幣原首相代理竝ニ臺閣諸公ニ對シマシテ、
其政治的良心、良知ニ付テ疑ヲ挾マナケレ
バナラヌノデアリマス、幣原首相代理ハ果
シテ何ノ根據ニ基イテ、如何ナル事實ニ卽
シテ人心ガ安定ヲシタト仰セラレルノデアリ
マセウカ、之ヲ伺ヒタイト思フノデアリマ
ス私ハ社會ノ世相ヲ觀察イタシマシテ
種々雜多ナル社會的現象ニ基キマシテ國
民ハ目下安定ヲシテ居ラナイ、政府ノ御考
ニナッテ居ルヤウニ國民ハ安定スルドコロ
カ、年一年不安ノ度ヲ進メ、困憊ノ深キ淵
ニ陷リツツアルト云フコトヲ具體的事實
ヲ捉ヘマシテ、逆ニ立證シテ見ヤウト思フ
ノデアリマス之ニ付キマシテ想ヒ起シマ
スコトハ昨年五月十四日當議場ニ於キマ
シテ、中小產業者竝失業者ニ關スル救濟ノ建
議案ガ上程サレマシタ、是モ皆樣方ノ御記
憶ヲ新タニ喚起スル爲ニ、一應速記錄ニ村
テ申上ゲヤウト思ヒマス、貴族院議事速記
錄第十四號、昭和五年五月十四日、百八
十九頁、此題目ハ只今申上ゲマシタ通リニ、
中小產業者竝ニ失業者ノ救濟ニ關スル建議
デアリマスガ、其建議ノ本文ハ「近時經濟界
ノ不況深刻ヲ加へ中小產業者ノ疲弊甚シク
失業者亦激增シ誠ニ深憂ニ堪ヘサルモノア
リ依テ政府ハ之ガ救濟防止ニ關シ速ニ一層
適切有效ナル對策ヲ講セラレムコトヲ望
ム右建議ス」而シテ此發議者ト致サレマシ
テ林伯爵、靑木子爵、內田嘉吉君、伊澤多
喜男君、南弘君、倉知鐵吉君、菅原通敬君、
田所美治君、大津淳一郞君、外數名ガ發議
者トナラレマシテ何レモ各派ノ交涉委員
ノ方ミデアリマス、而シテ贊成者ト致サレ
マシテハ松本伯爵、松平賴壽伯爵、北里男
爵、西男爵、上山滿之進君、塚本〓治君、室
田義文君、湯地幸平君、金杉英五郞君、花井
卓藏君等百十數名ノ名士ノ方ミガ、此建議
案ノ贊成者トシテ上程セラレタノデアリマ
ス、而シテ此建議案ハ議場ニ於キマシテ、
過半數以上ノ大多數ヲ以テ當院ヲ通過イク
シタノデアリマス、其時ニ林伯爵ノ說明ノ一
節ニ前略「近時、中小工業者竝ニ產業者ガ日
ニ幾十ト門戶ヲ閉シ或ハ其職業ヲ失フト云
フヤウナ狀況ニナッテ居ルコトハ、皆サンノ
旣ニ御承知ノコトト存ジマス次第デアリマ
ス、此二月中ニ於ケル全國ノ各職業紹介機
關ヲ通ジテノ統計ニ依リマスルト云フト、
三十五万三百七十二人ニナッテ居ルサウデ
アリマス、此當時ノ失業者ノ數ガ三十五万
餘人ニナッテ居ッタノデアリマス、然ルニ昨
年十月ノ社會局ノ調査ニ依リマスト云フ
ト、失業人員ガ三十八万人ニナッテ居ルノデ
アリマス、勿論社會局ノ調査ハ過日モ山岡
君其他ヨリモ甚ダ杜撰ナモノデアル學校
ヲ卒業シテ未ダ職業ニ就カザル者、傭ヲ解
カレタル所ノ被傭人、或ハ農村ニ歸ッタ者等
ガ社會局ノ調査カラ漏レテ居ル、私モ左樣
ニ信ジマス失業者ト云フノハドウ云フコ
トカト申シマスレバ、職業ヲ得ムトシテ居
ル者ガ未ダ職業ニアリ付カナイ者ヲ云フ意
味デアラウト私ハ思フノデアリマス、デア
リマスルカラ今申上ゲタヤウナ者達ハ、アッ
サリト社會局ノ調査カラハ外サレテ居リマ
スルケレドモ、是等ノ數ヲバ數ヘマシタナ
ラバ、是ダケデ私ハ五六十万ノ失業者ハア
ラウト思ヒマス、殊ニ昨年ノ下半カラ今年
ニ掛ケマシテハ不景氣ハ世ノ中ニ深刻ニ
泌ミ込ミツツアリマス、是ハ會社銀行等ノ、
立派ナル會社銀行等デモ、或ハ配當ガ無配
トナリ、或ハ減配トナッテ居ルト云フ狀況カ
ラモ察知セラレマスルケレドモ、手ッ取り早
ク昭和五年度ノ豫算ノ租稅收入ノ實際ノ收
入見込ノ上カラ、政府デハ五年度ノ歲入不
足ハ八千餘万圓ニ上ボルダラウト云フコト
ヲ、政府者自ラガ語ッテ居ラレルノデアリマ
ス、私ハ五年度ノ歲入缺陷ハ八千万圓ドコ
ロデハナイ、ドウシテモ一億二三千万圓ア
ラウト思ヒマスケレドモ、假ニ政府者ノ言
ハレル通リニ八千万圓ト致シマシテモ、如
何ニ昭和五年度ノ國庫ノ歲入ノ減ト云フモ
ノガ、著シクアルト云フコトハ明カナコト
デアリマス、是ハ何ノ爲デアリマセウカ、
卽チ商工業ガ萎靡ヲ致シテ居ル爲ニ、自然
租稅ノ缺陷ニナッテ、其現象ガ此處ニ反映シ
テ居ルノデアリマス左樣ナ次第デアリマ
スカラ、今年ハ昨年ヨリモ不景氣ガ一層深
刻デアルト云フコトハ、多言ヲ要スル要ハ
ナイト思フノデアリマス、シテ見マスルト
云フト、本年ニ於キマスル此失業戰線ヲ展望
イタシテ見マスルト云フト少クトモ百万
近イ失業者ガアラネバナラヌト思フノデア
リマス、若シソレニ失業者ノ家族ヲバ加ヘ
マシタナラバ恐ラクハ數百万人ニモ上ボ
ルダラウト思フノデアリマス、又都會ニ於
キマシテ勤勞イタシテ居リマス者ノ多クノ
者ハ失業ハ致シマセヌケレドモ失業ノマ
ア一步ノ所ニ、踏止ッテ居ル者モ少クナイダ
ラウト思ヒマス、ソレ等ノモノハ明日ノ米
櫃ニ付テ、安ジテ其夜ヲ眠リ得ナイト云フ
者モ決シテ少クハナイダラウト私ハ思フノ
デアリマス、デアリマスルカラ假ニ社會局
ノ調査ガ杜撰デアリマシテ、斯樣ナル社會
政策ノ資料トスルノニハ不完全、不十分デ
アルト致シマシテモ、假ニ社會局ノ調查ダ
ケニ致シマシテモ、我ミガ建議案ヲ議シマ
シタ當時ヨリモ、失業者ノ數ガ激增シテ居
ルト云フ事實ハ爭ヘナイ事實デアリマス
尙ホ世ノ中ガ如何ニ不景氣ニナッテ居ルカ
ト云フコトニ付キマシテハ過般來同僚ノ
諸君ガ彼此レ申サレマシタ通リニ、エヨソ
閉鎖、商店ノ廢休、失業者ノ續出、爭議ノ
濫發、犯罪ノ激增、是等ノ諸現象ニ付キマ
シテモ、明カニ世ノ中ガ如何ニ不景氣ニナッ
テ居ルカト云フコトヲ、十分ニ說明シテ居
ルト思フノデアリマス、幣原首相代理ハ過
日モ本議場ニ於キマシテ、或議員ノ質問ニ
對シマシテ、假定的ノコトハイケナイ抽
象的ノコトハイケナイ、假定的ヤ抽象的ノ
コトヲ御嫌ヒノヤウデアリマスカラ、私ハ
社會ノ事實トナッテ現ハレマシタ現象ニ付
キマシテ、ソレヲ引用シテ御聽キニ達サウ
ト思フノデアリマス、澤山アリマスケレド
も、澤山モナンデアリマスカラ其中ノ三四
ヲ申上ゲマスルガ、是ハ都新聞二月十六日
ノ朝刊デアリマスガ「目貫キノ大通リニ貸
家貸店讓店、斜ニ貼ラレタ紙ヲ吹ク風寒シ、
正ニ空家氾濫時代」ト云フ標題デ、如何ニ空
家ガ多クナッタリ、貸家ガ多クナッタリ店
ヲ仕舞フモノノ多イトカト云フ記事ガ出テ
居リマス、又其次ノ方ニ「郊外山手ニモ多ク
ナッタ空家」ト云ッテ、空家ノ數ナドガ出テ居
リマス、是ハ東京朝日新聞ノ二月二十二日
ノ朝刊デアリマスガ「空金庫ヲ抱ヘテ銀座
商人ハ惱ム、家賃ヤ地代ノ滯納ガ如實ニ物
語ルコノ不景氣」ト云フ題デアリマシテ、是
ニモ色〓其滯納カラ起ル調停ヤ何カノ記事
ガ出テ居リマス、其次ノ所ニ「稅金ノ滯納モ
四百三十件、京橋稅務署管内デ」ト云フコト
デ、稅金滯納ガ京橋稅務署管內デモ四百三
十件アルト云フヤウナ記事ガ出テ居リマス、
又國民新聞二月二十三日ノ朝刊ニ「不況ヲ
喞ツビルデイング街、丸ビルデサヘ三百室
ノ空間、何處ノビルモ伽藍洞」ト云フヤウ
ナ記事ガ出テ居リマス、ソレカラ是ハ都新
聞ノ二月八日ノ夕刊デアリマスガ「メリヤ
ス業者ハ殆ド全滅、次イデハ蒲團綿ノ販賣
業者廢轉業者續出ス」ト云フヤウナ記事ガ
出テ居リマス、又讀賣新聞ノ二月二十四日
ノ朝刊ニハ「支那、南洋ノ我貿易商倒產、廢
業者續出」斯ウ云フヤウナ記事ガアリマス
ソレカラ同ジヤウナコトハ除キマシテ、今
度ハ人ノ方ニ移リマスガ、是ハ讀賣新聞ノ
二月十六日ノ朝刊デアリマスガ、「不景氣ナ
レバコソ、多イ女中サン志願、五万人犇ク
都下ノ少年就職戰線、中等校出ヨリ小學校
出へ」女中ノ志願ガ殖エ、又學校ノ未ダ可愛
イ小學ノ子供ナドガ、就職戰線ニ爭ッテ飛出
シテ居ルト云フ狀況ヲ物語ッテ居リマス、東
京朝日新聞ノ二月二十四日ノタ刊ニハ「美
シイ人々四百名、松屋ノ店員採用ニ押カク」
ト云ッテ、是モイタイゲナ、ウラ若イ女ガ四
百名モ松屋ノ店ニ採用シテ貰ヒタイト云ッ
テ、押カケテ居ル狀況ヲ書イテアリマス、サ
ウカト思フト報知ノ二月二十三日ノ朝刊ニ
ハ斯ウ云フ標題デアリマス、「就職戰線ヲ彩
ル博士ノ身賣リ、就職難時代ニ脅ヤカサレル
新醫學士ノ昨今」博士ヤ學士ノ方ミモ生活
ニ脅カサレテ、如何ニ就職スベキカヲ焦セ
ラレテ居ルヤウナ狀況ガ現ハレテ居リマス
最モ憫ムベキハ「學業ヲ犧牲ニ、職ニ就ク
小學兒童、コヽニモ世相ノ姿ハ色濃ク、人
ハ多ク職足ラズ」是モ東京日日ノ二月二十
四日ノ朝刊デアリマス、是ハマア就職ノ方
ノ現象デアリマスルガ、偖テ哀ッポイ方ノ狀
況ヲ申上ゲマスト云フト、是ハ日本新聞ノ
二月二日ノ朝刊、標題ハ「家族連レデ養育院
入リ、陰慘ナ世相ヲ如實ニ映シ出ス數字」養
育院ニ入ルト云フモノハ、大〓一人送ラレ
ルノガ多イノデアリマスガ、一家擧ッテ養育
院ニ入リ込ムト云フヤウナ、誠ニ陰慘ナ世
相ニナッテ居ルノデアリマス、其數モ二千四
百名ト云フ多數ニ上ボッテ居ルサウデアリ
マス、斯ウ云フ情勢デアリマスカラ、斯樣
ナコトモ出テ來ルノデアリマス、卽チ東京
朝日ノ二月二十二日ノ朝刊ニ「捨子ノ悲劇、
夫ノ生活苦デ思ヒ餘ッテ、檢事モ同情不起
訴」ト云フ題デ以テ、夫ノ生活苦ヲ苦ニ惱ミ
マシテ、斯樣ナ悲劇ガアッタト云フ記事デア
リマス其他申上ゲレバ幾ラモアリマスケレ
ドモ、餘リ諄ミシイカラ申上ゲルノヲ略シ
マスケレドモ、要シマスルノニ國民ノ多數
ノモノガ其日其日ノ生活ニ脅カサレマシ
テ、心弱イ者ハ天ヲ怨ミ世ヲ呪ヒ、心荒ミ
マシテ自分ノ身ヲ害フト云フヤウナ、誠ニ
憫レナ事實ガ每日ノヤウニ新聞ノ紙上ニ湧
イテ來ルノデアリマス、先般モ山岡君、三
井君、又先程ハ金杉君カラモ御紹介ニナリ
マシタケレドモ、自分ノ可愛イ子供ヲ殺シ
テ共ニ三途ノ道連レニスルト云フ親子心中
ノ記事モ近頃ハ眞ニ目ニ立ッテ新聞紙上ニ
現ハレテ居ルノデアリマス、昔デモ心中ト
云フモノハ無イコトハナイ、親子心中モ有
リマスレバ、夫婦心中モ有ッタデアリマセ
ウ、併シナガラ昨今ホド斯樣ナ忌ハシイ悲
慘ナ事實ガ每日ノヤウニ新聞紙上ニ報道サ
レル······報道サレタダケデモ、中ミ數ガ多
クナリマシテ、我ミハ又カト言ウテ之ヲ無
關心デハ居ラレナイノデアリマス、デアリ
マスカラ新聞ニ現ハレナイ隱レタル事實マ
デモ集メマシタナラバ餘程多數ニ上ルダラ
ウト思フノデアリマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ著ク〕
社會事業協會ノ原泰一ト云フ人カラ、此間
斯樣ナ小冊子ヲ貰ヒマシタ、「愛兒ヲ殺シテ
死ヌルマデ」ト云フ小册子デアリマス、原君
ハ最近三ヶ年間ノ新聞ニ現ハレタル事實ダ
ケヲ調ベラレタノデアリマスガ、事件ノ總
數ハ三百八十九件デ、自殺ヲシタ親ノ數ガ四
百七十人、道連レニナッタ子供ノ數ガ五百六
十九人、失ハレタ人ノ命ガ總計千三十九人
ニ上ッテ居ルト云フコトガ書キ記サレテア
ルノデアリマス、之ニ付テ想ヒ起シマスコ
トハ幕末ノ勤王ノ志士デアッタ雲濱梅田先
生ガ斬ニ處セラレマスル日ニ、故山ノ母ニ歌
ヲ送ッタ、其歌ニ「親ヲ思フ心ニマサル親心、
今日ノ音ヅレ何ト聞クラム」、子供ガ親ヲ思
フヨリモ、親ガ子供ヲ思フ心ハ尙更情深イ
モノデアル、自分ガ若シ斬ニ處セラレル此
音ヅレヲ聞イタナラバ、老イタル母ハ如何
ナル御心地ニナルデアラウト云フコトヲ
歌ッタ歌デアリマス、燒野ノ雉子夜ノ鶴、古
今中西ヲ問ハズ子ヲ思ハナイ親ハアリマセ
又、子ヲ思フ親心ト云フモノハ私ハ變リノ
ナイモノデアラウト思フノデアリマス、其
可愛イ子供ヲドウ云フ譯デ自分ノ手ニ掛ケ
ルノデアリマセウカ詰リ此暗イ世ノ中、
幸薄イ此世間ニ此子一人殘シテ自分ガ黃泉
ニ行クト云フノハ自分ノ黃泉ノ障リニナ
ル、殘サレタ子供ハ必ズ幸福デアルマイ、
今デモ幸福デナイガ、親ガ無カッタナラバ親
ノナイ子ト云ッテ、ドンナニ暗イ情ノ薄イ世
ノ中カラ、此子供ガ如何ナル薄遇、如何ナ
ル虐遇ヲ受ケルデアラウ、イッソ自分ガ連レ
テ行ッタ方ガ寧ロ子供ノ幸福デアル、仕合セ
デアル、サウ云フ親ノ心理カラ自分ノ可愛
イ子供ヲ手ニ掛ケテ親子心中ヲスルモノデ
アラウト思フノデアリマス、眞ニ何タル哀
話デハアリマセヌカ、而シテ原泰一君ノ小
册子ヲ見マスルト云フト、是等親子心中
ヲシタ人ノ其死ヌル原因ガ何處ニアルカト
見マスト云フト、是ハ申上ゲル迄モナイコ
トデアリマスケレドモ、生存競爭カラ受ケ
マシタ傷ガ社會生活ノ不安ニ脅カサレテノ
結果デアルノデアリマス、私ハ思ヒマス、
人生ノ戰ニ疲レテ刀折レ矢盡キタル所ノ所
謂生存競爭線カラ失脚落伍シタル所ノ敗殘
者、勞働能力ナキ所ノ老齡者カ、或ハ又十
數年モ經テバ立派ニ國民ノ一人トシテ國ノ
御役ニ立ツベキ所ノ小サナル子供ガ、其家
庭ノ不幸不遇ナルガ爲ニ、其子供ガ何等國
家社會ノ生活ノ上ニ付テノ保障ヲ受ケルコ
トナク、今日ハ未ダ救護法モ實行サレテ居
リマセヌ、失業保險ノ制度モ行ハレテ居リ
マセヌ、是等不幸ナル窮民ニ對スル何等ノ
考慮ヲスル施設ガ無イト云フコトハ、何タ
ルコトデアリマセウカ、救護法ニ付キマシ
テハ、過日大谷尊由君カラ詳カニ急ニ施設
シナケレバナラヌコトノ論陣ヲ張ラレマシ
タカラシテ、私ハ其點ニ觸ルルコトヲ愼ミ
や っ愼ミマスガ、救護法ノ實施ヲ望ンデ
居ルト云フコトハ、是ハ天下ヲ擧ゲテノ聲
デアリマス、天下ノ聲デアルト云フコトハ
社會ノ耳目タル所ノ時事新報ノ二月三日ノ
朝刊、「救護法ヲ待兼ネル八万九千人、社會
局調査ノドン底生活者」ト云フ標題デ八万
九千人ノ者ガ救護法ヲ待兼ネテ居ルト云フ
コトヲ書イテアリマス、又是モ二月二十三
日ノ時事ノ朝刊デアリマスガ、「救護法デ救
ハレル餓死線上ノ九万人」ト云フ標題デ書
イテアリマス、中外商業ノ二月二十三日ノ
朝刊、「救護法ノ實施デ救ハレル窮民九万、
飢餓線上ニ在ルドン底ノ人人ニ最小限度ノ
生活保障、一日三十錢前後ノ割合デ支給」ト
云フコトガ書イテアリマス、ソレカラ報知
ノ朝刊ニモ二月二十三日ニ斯ウ云フヤウナ
標題デ書イテアリマス、「實施デ救ハレル窮
民全國ニ九万」、是ハ中外商業ノ二月十四日
ノ朝刊「愈ヨ上奏ト決シ實行委員ハ總辭職、
救護法實施ノ捗ラヌニ憤激シタ今日全國方
面委員大會」、方面委員ガ業ヲ煮ヤシテ遂ニ
辭職ニ決シタ次第ガ書イテアリマス、ソレ
カラ報知ノ二月十四日ノ朝刊、「方面委員遂
ニ上奏決行、期成同盟會解散」、時事新報ノ
二月十五日ノ夕刊、「救護法實施見込ナク遂
ニ上奏ト決定ス、今日內相ノ囘答ニ失望シ
テ期成同盟會ヲ解體」、斯樣ニ救護法ノ實施
ヲ望ンデ居ルト云フコトハ各新聞ヲ通ジテ
記事ガ現ハレテ居リマス、是ハ實ニ國民ノ
聲ダト私ハ思ヒマス、政府ニ於キマシテモ
聞ク所ニ依レバ遲蒔ナガラ救護法ヲ實施ス
ルノニ臍ヲ固メラレマシテ、ドウヤラ追加
豫算ニ御計上ニナッテ御提出ニナルト云フ
コトデアリマス、私ハ救護法ヲ實施スルト
云フ政府ノ御決意ニ付キマシテ至極結構ナ
コトダト私ハ思フノデアリマス、遲蒔ナガ
ラ結構ナコトダト思フノデアリマス、併ナ
ガラ其救護法案ノ內容ヲ拜見イタシマセヌ
ト、今直ニ贊否ノ意見ヲ決メル譯ニハ參リ
マセヌガ、併シ政府ニ於カレマシテ救護法
ノ實施ヲナサラウト云フ玆ニ御考ガ立ッタ
ナラバ。一日モ早ク一刻モ早ク御實施ニナ
ルコトガ肝腎ダト思フノデアリマス、死ヌ
カ生キルカノ岐路ニ立ッテ居ル所ノ不幸ナ
ル窮乏ノ國民ノ多數ハ政府ノ所謂來年ノ一
月カ二月頃ニ實施シヤウト云フヤウナ、ソ
ンナ優長ナル考デアリマシテハ、眞ニ十日ノ
菊ノ憾ガアルノデアリマス、昭和ノ聖代ニ如
上中上ゲマシタヤウナ各方面ニ亙リマジテ
ノ、誠ニ疲弊困憊悲慘ナ情景ガ隨所ニ湧キ生
ジツツアルノデアリマス、是ハ一體誰ノ罪デ
アリマスガ、ソレ等ノ人ノ罪デアリマス
カ、社會ノ罪デアリマスカ、將又政治ノ罪
デアリマスカ、爲政者ハ深ク思ヒヲ玆ニ致
サナケレバナラヌト思フノデアリマス又
眼ヲ轉ジマシテ農村方面ヲ見マスト云フ
ト、農村ノ疲弊ハ誠ニ正視スルニ忍ビナイ
狀態ニナッテ居リマス、其側面觀ト致シマシ
テ最モ早解リスルノハ、田舎ノ小學校〓員
ノ俸給不拂ノ問題デアリマス、小學〓員ノ
俸給不拂ノ問題ハ何ノ爲ニ起ッタト申シマ
スレバ、是亦農村疲弊ノ一面ノ現ハレデア
リマス、農村振興ノ實ノ擧リマセヌ限リ
ハ到底是ハ防止スルコトハ私ハ出來ナイ
ト思フノデアリマス、誠ニ〓育ノ根源タル
所ノモノガ廢頽ニ赴イテ參リマスト云フコ
トハ、國家ノ重大問題デアルト思ヒマス、
惟フニ長年過重ナル所ノ公租公課ニ追ハレ
マシテ、而モ今日ニ於キマシテハ、生產品
ガ生產費ヨリモ激落低下シタ今日ニ於キマ
シテハ所謂背ニ腹ハ代ヘラレナイ、町村
費ノ隅ミ迄モ漁リ盡シマシテ、僅ニ見出シ
マシタノハ比較的生活ノ安固ナル俸給生活
者ニ壓力ヲ加ヘルヨリ外ニ仕方ガナイ、誠
ニ自然ノ勢ヒトハ申シナガラ誠ニ遺憾ナコ
トデアリマス、農村ノ匡救ノ實ヲ擧ゲテ、
而シテ斯樣ナル所ノ問題ガ惡化シマセヌヤ
ウニ、文部當局ハ殊ニ御留意下サラナケレ
バナラヌノデアリマスルガ、過般來文部大
臣ハ此點ニ付キマシテ極メテ樂觀ナル御答
辯ヲナサッテ居ラレルノデアリマス、農村ノ
如何ニ疲弊シテ居ルカト云フコトハ、尙ホ
帝國農會ノ調査ノ材料モアリマスルケレド
¥、是ハ最早多クヲ語ルヲ要サヌデアラウ
ト思ヒマスカラ此程度ニ止メテ置キマスル
シ、又社會ノ現象ニ付キマシテモ、申上ゲ
レバ數限リモアリマセヌケレドモ、此程度
ニ止メテ置ク次第デアリマスルガ、兎ニモ
角ニモ建議案ノ當時ヨリモ世ノ中ガ不景氣
ニ深クナリツツ來タト云フコトハ是ハ抂
グベカラザル事實デアリマス、又國民ノ多
數ノモノガ生活ニ脅カサレテ、人心ガ不安
ノ度ヲ高メテ居ルト云フコトモ、建議案當
時ニ比ベテ見マシテ、今日ハ更ニ倍加シテ
居ルト云フコトモ、事實ガ雄辯ニ物語ッテ居
ルノデアリマス、ソコデ私ハ幣原首相代理
ニ伺ヒタイコトハ、幣原首相代理ハ如何ナ
ル根據ニ基イテ如何ナル社會事實ヲ捉ヘテ
人心ハ安定ヲシタト斯樣ニ斷言ヲセラレル
ノデアリマスカ、是ハ他ノ人ガ申サレタノ
ヂヤナイ、幣原首相代理ガ此演壇デ左樣ニ
施政方針ノ演說中ニ言明セラレテ居ルノデ
アリマス、尙ホソレニ付テ皆サン方ノ御注
意ヲ、御記憶ヲ喚起イタシタイコトハ昨
年五月ノ十四日ニ諸君ハ擧ッテ此建議案ニ
ハ御贊成下サッタノデアリマス、其當時ト今
日ト比ベテ見テ今日ノ情勢ガ更ニ不景氣ガ
深刻味ヲ高メ、人心不安ノ度ヲ進メタト致
シマシタナラバ、皆サン方ハ此建議案ノ手
前ニ對サレマシテモ、如何ノ感ジヲ御起シ
ニナルデアリマセウカ、幣原首相代理竝ニ
閣僚諸公ハ平然トシテ大臣席ニ御著席ニナッ
テ居ラレマスルガ、御胸ノ中ガ御キマリガ
惡クハアリマセヌカト云フコトヲ伺ヒタイ
ト思フノデアリマス、要シマスルノニ私ガ
第一ニ何ヒタイコトハ、政府ガ種々ノ對策
ニ依ッテ、人心ガ安定スルニ至ヲタト、斯樣
ニ此議政壇上デ御言明ニナリマシタ、其根
據如何ト云フコトヲ伺フノデアリマス、囘
顧イタシマスレバ昭和五年五月十一日ニ、
私ガ濱口首相ニ對シマシテ質疑應答ヲ致シ
マシタ其當時ニ於キマシテ、中小產業者竝
ニ失業者ニ對スル救濟ニ付キマシテノ濱口
總理ノ御答辯ハドウ云フコトデアリマシタ
カ、斯ウ申シマスト云フト、斯樣ニ答ヘラ
レテ居ルノデアリマス、政府ノ方ニ於テハ
誠ニ心配ヲ致シテ居ル、苦心ヲ致シテ居ル、
努力スル積リデアル、併ナガラ只今對策ノ
持合セハナイ、斯樣ニ申サレテ居ッタノデア
リマス、是ハ決シテ私ガ獨斷デ申上ゲルノ
デハナイノデアリマス、貴族院議事速記錄、
第十二號、百三十一頁、是ハ山岡萬之助君
ガ······是ハ私ガ總理ト質疑應答ヲ致シテ居
リマシタ時ニ、引用イタシマシタ速記錄ノ
有ノ儘ヲ朗讀イタシマシタノガ出テ居ルノ
デアリマス、是ハ山岡萬之助君ガ總理大臣
ニ對シマシテ、質問サレタル演說ニ對スル
御答辯デアリマス、前略シテ「現內閣ノ財政
ノ整理緊縮、國民ニ向ッテ奬勵宣傳シタル
所ノ消費節約、是亦無論不景氣ノ一部ヲ成
シテ居リマス、ソレハ確カニ認ムル、其
點ニ於テ責任アリト仰ッシヤレバ責任ヲ負
ヒマス」、又「現在ノ不景氣ノ深刻竝ニ是カラ
生ジテ居ル所ノ失業問題ノ發生、私ハ全部
ガ政府ノ責任ト云フコトニハ承認ヲ致シマ
セヌ、併ナガラ一部ハ政府ノ行ッタル政策ノ
結果デアルト云フコトハ承認シマス」、斯樣
ニ先以テ濱口總理ハ此不景氣ガ深刻ニナリ
マシタコトニ付キマシテ、一部ダカ大部ダ
カ分リマセヌガ、ソレハ見ル人ニ依ッテ違ヒ
マスガ、兎モ角モ濱口總理ハ一部ハ政府ノ
責任デアルト云フコトヲ御認メニナッテ居
ルノデアリマス、又失業問題ノ發生ト云フ
コトニ付テモ御認メニナッテ居ルノデアリ
マス、而シテ濱口總理ハ尙ホ私ノ質疑ニ答
ヘラレマシテ、斯樣ニ申サレテ居ルノデア
リマス、是ハ矢張リ貴族院議事速記錄第十
二號ノ百三十八頁デアリマスガ、「前田子爵
ハ御演說中ニ、現今ノ社會ニ日々夜々現ハ
レテ來ル所ノ諸現象ヲ列擧サレマシテ國
民生活ノ安定ヲ得テ居ナイト云フコトヲ說
明ニナリマシタ、世ノ中ニハ仰セノ通リ隨
分悲慘ナル現象ガ起リマス、誠ニ慘澹タル
狀態モ發生イタシマス、政府ト致シマシテ
ハ誠ニ心配ヲシテ居ルノデアリマス、從ッ
テ之ニ對シ是マデノ對策デ足リマセヌ所ハ
更ニ十分考究イタシマシテ、其對策ヲ實行
イタシ、以テ出來得ルダケ、此問題ノ解決
ニ資シタイト考ヘテ居リマス、唯遺憾ナガ
ラ、此席ニ於テ、具體的ニ然ラバ如何ナル
對策アリヤト云フコトヲ此席デ申上グルダ
ケノ順序ニナッテ居リマセヌ」、ソレカラ中略
イタシマシテ、其ノ後ニ「此悲慘ナル現象
ト此忌ムベキ事柄、ソレニ對シテ深ク心痛
ヲ致シテ居ルト云フコトヲ申上ゲテ置キマ
ス、出來ルダケ方法ヲ講ジマシテ失業問題
ノ解決ニ資シ、國民生活ノ安定ヲ圖リ、其
中ニ產業振興ノ根本方策ガ效ヲ奏シ、金解
禁ノ影響ガ此處ニ現レ、產業貿易ノ振興ガ
出來マシテ、ソレニ依テ永ク此問題ノ解決
ヲ期スルト云フ時期ニ速カニ到ラムコトヲ
希望スルノデアリマス、此處ニ到リマス迄
ノ間ハ應急ノ對策ヲ以テ、其問題ノ緩和救
濟ニ努ムルト云フコトニ、政府ハ折角苦心
ヲ致シ努力ヲスル積リデアリマス」、要スル
ニ總理ノ御答辯ノ「エキス」ハ何デアルカト
云フト、心配、苦心、努力スル積リ、具體
的對策ナシ、斯ウ云フコトニ歸著シテ居ノタ
ノデアリマス、而シテ建議案提出後政府ガ
執ラレマシタ所ノ是等ノ對策ノ實施、竝
實施セラレムトスル所ノ政策ニ付キマシ
テ、私ハ一々之ヲ檢討イタシマシテ、
ソレ等ノ政策ガ何レモ此難場ヲ救濟ス
ルニ付キマシテハ有效適切デナイト云フ
コトヲ申述ベマシテ、而シテ幣原首相代理
竝ニ內閣諸公ガ、貴族院ガ提出イタシマシ
タル建議案ニ對スル御心持ヲ伺ヒタイト思
フノデアリマス、政府ニ於テハ建議案提出
後ニドンナコトヲ爲サレタカト申シマスト、
是キ施政ノ方針ノ演說ニ現ハレテ居リマ
ス、第一ガ產業ノ合理化、第二ガ國產愛用
奬勵ノ運動、第三ガ金融ノ調節、第四ガ失
業ノ救濟、是ガ現ニ此間幣原首相代理ガ此
演壇デ述べラレタ所謂實施事項デアリマ
ス、先ヅ第一ニ產業合理化ニ付テ申上ゲマ
ス、產業合理化ニ付キマシテハ政府ガ大變
ニ效能ヲ申述ベラレテ居ラレマスルケレド
〓、實際ニ之ヲ吟味イタシテ見マスト云フ
ト綿縮ト縞三綾ノ二ツガ統制ガ出來タバカ
リデアリマシテ、其他ノ重要產業ハ何ニモ
解決ハ付イテ居ラヌノデアリマス、ノミナ
ラズ此產業合理化ニ付キマシテハ前途ニ
私ハ疑ノ雲ガ横ハッテ居ルト私ハ思フノデ
アリマス、現ニ製鐵合同法案ガ闇カラ闇ニ
流產ヲシ掛カッテ居ルデハアリマセヌカ、申
上ゲル迄モナク產業合理化ト申シマスモノ
ハ賢明ナル諸君ヲ前ニ置イテ講釋スルノ
ハ甚ダ申譯アリマセヌガ所謂大量生產ヲ
致シマシテ、價格ガ廉價デ優良ナル物ヲ拵
ヘテ、從ッテ商賣モ繁昌スレバ勞働者モ其福
利ニ浴スルト云フコトガ私ハ一體產業合理
化ノ理想トスルモノデハナイカト思フノデ
アリマス、然ルニ之ヲ外國ノ實例ニ徵シテ
見マシテモ、必シモ其通リニハ行シテ居リマ
セヌ、而シテ往々產業合理化ノ結果ガ、徒
ラニ物價ヲ吊上ゲマシテ、失業者ヲ續出サ
セルト云フ結果ニ陷ルコトガ多イノデアリ
R. .元々產業合理化ト云フモノハ前申
上ゲル通リニ、大量生產ニ依ッテ安クテ良
イ物ヲ澤山拵ヘテ、商賣モ繁昌スレバ、資
本家モ勞働者モ共ニ其福利ニ浴スルト云フ
建前デアルノデアリマスルガ、所謂社會的
積極的ノモノデアルノデアリマスルケレド
モ、產業合理化ノ遂行ノ結果ガ消極的ナ、
非社會的ナ、資本家ニ偈重スルヤウナ弊ヲ
生ズルノデアリマス、理想ト實際トハ中〓
旨ク行カナイ、デアリマスカラ產業合理
化ノ眞目的ヲ達シヤウトスルニ付キマシテ
ハ先ヅ事業ノ繁昌スルヤウニ勞働條件ノ
改善ヲスルヤウニ、又品物モ安ク賣レルヤ
ウニ是等ニ付テハ十分ナル用意周到ナル
考慮ヲ以テ致サレマセヌト云フト、肝腎ナ
目的トスル所ノモノハ得ラレマセヌデ、誠
ニ却クテ惡シキ結果ヲ生ミ出スト云フコト
ニナルノデアリマス、商工省ニ於カレマシ
テハ、此產業合理化ニ付キマシテハ、一層深
ク十分ナル御考慮ヲ以テ、產業合理化ノ理想
タル本ノ實ヲ得ラレルヤウニ御努力ヲ願ヒ
タイト思フノデアリマス、今日產業合理化
ノ效能ヲ伺テテ直チニ私ハ承服スルコトハ
出來ナイノデアリマス、第二ニハ國產愛用
奬勵運動ノコトデアリマスガ、是モ亦景氣
立直シノ一方策トシテ、最初ノ間ハ大分樂隊
デ囃シ立テタモノデアッタノデアリマスガ、
果シテ此國產愛用奬勵運動ニ依ッテ、ドレ程
ダケノ我國ガ利益ヲ得マシタカ、ドレダケ
ノ輸入ノ防遏ガ出來マシタカ、ソレガ多ク
ノ金ヲ使。ッタコトデアリマスカラ、多少ノコ
トハアッタデアリマセウガ、大シタコトハナ
イト私ハ斷ジテ左樣ニ信ジマス、ト申シマ
スモノハ商工省ノ執ラレマシタル所ノ措
置ガ甚ダマヴカッタコトデアリマス、何處
ガマヅイカト申シマスルト云フト、優良國
產品ノ選定ガソレデアリマス、最初ハ堂々
ト優良國產品ノ選定ヲスルカノヤウナ氣分
デアラレマシタケレドモ、イツノ間ニヤラ
ソレハ抹殺サレマシテ對比見本ト云フヤウ
ナ名前ニ取替ヲタノデアリマス、國民ハ政
府ノ御眼鏡ニ依ッテ舶來品ヨリモ安クテ良
イ品物ヲ買フニ付テ、其購買ノ目標トナル
モノヲ御示シ下サルデアラウト心待チニ待ッ
テ居ックノデアリマスケレドモ、今日ニナフ
テ見マスト云フト、誠ニ龍頭蛇尾ノ感ガス
ルノデアリマス、ソレハドウ云フ譯デ龍頭
蛇尾ノ感ニナッタカト申シマスルト云フト、
商工省ノ優柔ナル態度ニ歸セナキヤナラヌ
ノデアリマス、其優柔ナル態度ト云フノハ
何デアルカ、國產優良品ノ選定ヲヤリ掛ッテ
見タ所ガ、內地ノ他ノ生產業者カラ苦情ガ
出テ來ル、外國商人カラモ對抗運動ガ起〃
テ來ル、是ハ起ルノガ當リ前ノ話、今日私
有財產ヲ認メテ、事業ノ自由ヲ法律ガ保護
シテ居ル今日、政府ガ勝手ニ或ル事業ヲバ
保護シタリ、或ル產業ヲバ抑制シタリスレ
バ、苦情ノ起ッテ來ルト云フコトハ、是ハ當
然ノコトデアリマス、又現代文明、產業經
濟ノ上ニ於キマシテ、總テ商賣ト云フモノ
ハ國際的ニナッテ居ル、其國際的ニナッテ居
ル商賣ヲ、國產品ヲ買ヘト云ウテ、之ヲ鎖
國的ニ引戾サウトスルヤウナコトヲスレ
バ外國商人ガ立腹スルノハ是亦當リ前ノ
話デアリマス、斯樣ナコトハ國產優良口選
定ヲシヤウト云フ當初カラ、モウ分リ過ギ
ル程分ヲテ居ル事柄デアリマス、其分リ過ギ
ル位ニ分ッテ居ル事柄ヲ商工省ガ氣付カ
ズシテ著手サレテ、慌テテ對比見本ト云
フヤウナコトニ化サレタト云フコトデ
アリマシタナラバ、誠ニ其手落デアッタ
ト私ハ思フノデアリマス、ソンナコトデハ
眞ノ國產愛用奬勵ト云フモノニナラヌト思
ヒマス、產業經濟ノ大道ノ上ニ於テ堂々ト
自信アリ眞價ノアル所ノ國產愛用獎勵ノ運
動ヲ根本カラ建直シヲ爲サレナケレバナラ
ヌト云フコトヲ勸〓スルノデアリマス、第
三、金融ノ調節、是ハ預金部カラシテ二千
五百万圓ノ金ヲ出シマシテ、信用組合ヲ通
シテ中小產業者ニ金融ヲ圖ッタコトデアリ
マリ、併シ是モ同樣デ、ドウモ思フヤウニ
行ラテ居ラヌノデアリマス、成ル程、資金供
給決定額ハ二千五百万圓トナッテ居リマス
ケレドモ、實際ニ貸付濟ニナリマシタノハ
其半分ニモ達シテ居ラヌノデアリマスサ
ウデアリマセウ、今日疲弊シテ居ル中小產
業者ガ如何ニ金ヲ借リタイト思ヒマシテ
も、今日ハ對物信用本位ノ世ノ中デアリマ
ス、其擔保物ガ世ノ中ノ不氣景ノ爲ニ押サ
レマシテ非常ニ價値ガ激落シテ居リマス、
其擔保物ヲ持クテ來マシタンヂヤ中ミ金ヲ
借リルト云フ譯ニハ參ラヌ、況ヤ又瘦セタ
リト雖モ擔保物ヲ持ッテ居ル者ハ宜ウゴザ
ンスケレドモ、持チ合セナイ者ニナリマシ
タナラバ借リル途ガナイノデアリマス、ソ
レデアリマスルカラ中ミ是ハ金融ノ途ハ開
イタト申シナガラ實際ニ金融ガツイテ居ラ
ナイノデアリマス、困難ハ依然トシテ困難
デアルノデアリマス、又農村、山村、漁村、
失業救濟ノ資金トシテ七千万圓ヲ貸付ケル
コトノ計畫ガ出來テ居ルノデアリマスケレ
ドモ、是モ唯掛ケ聲バカリデアリマシテ、
未ダ一文モ金ガ出テ居ラヌノデアリマス
是ハ大藏省カラ戴キマシタ調べ書デスカラ
間違ヒガナイノデアリマス一文モ金ガ出
テ居ラナイノデアリマス、謂ハバ見セ金ミ
タヤウナモノデアリマス、ソレカラ簡易生
命保險積立金ニ依ル小額生業資金及小口勤
業資金貸付決定額調、是ハ昭和六年ノ一月
二十三日ノ現在ノ調デアリマスガ、是亦一
文モ金ガ出テ居ラヌノデアリマス、日本興
業銀行ノ中小工業者ニ對シマスル貸出ノ調
モアリマスケレドモ、是ハ日本興業銀行ト
シテ、救濟デナイ、當リ前ノ貸付金モアリ
マスノデ是ハ明瞭ニナッテ居リマセヌ、ソレ
カラ公益質屋ニ於ケル中小產業者ニ資金貸
付ノ狀況デアリマス、大藏大臣ナドハ公益質
屋ノ一口ノ貸付金ノ額ヲ高メタカラ大變ソ
レデ緩和シタナドト言ッテ居ラレマスケレド
モ、何處ヲ緩和シタノデアリマセウ、大藏
省ノ御手許ノ此御調ヲ拜見イタシマシテモ
貸付金額ガ書イテナイ、謂ハバ不明デアリ
マイ、ソレカラ昭和五年三月末ノ現在ガ只
今申上ゲタ通リ貸付金額ガ無イノデアリマ
ス、昭和五年九月ノ末ノ現在ヲ取ッテ見マ
スト此公益質屋ヲ利用シタ數ガ不明トシ
テ書イテアル、是デハドウモ調ベヤウガナ
!、昭和六年一月十五日現在、是モ貸付額
ガ不明、利用者ノ數ガ不明、貸付現在額ガ
不明デアルト云フ風ニ活字デチヤント印刷
シテアル是デハドウモ公益質屋ガ一口ノ
金額ヲ、承ハル所ニ依ルト五十圓ノ一口ヲ
百圓ニシテ居ルト云フヤウナ話デアリマス
ガソレニシタ所ガサッパサドウモ利用サ
レテ居ルノヤラ居ラヌノヤラ御上ノ御調
ノ······御調査物ニ不明トシテアルノデスカ
テ分リヤウガナイノデアリマス是デ緩和
シタト云フノハドウ云フモノダラウカト私
ハ思ヒマス左樣ナ次第デアリマシテ、中
小產業者ニ對シマスル金融竝ニ山村、農村、
漁村ニ對シテ七千万圓ノ金ヲ融通スルト云
フ御計畫ハアリマスケレドモ、ソレハ一文
モ今日ニ於テハ出テ居ラナイ、謂ハバ畫ケ
ル餅ノ如キモノデアリマス、其次ハ救濟ノ
事業デアリマス、昨年アタリハ各府縣知事
ニ通謀サレマシテ其府縣ニ於テ土木工事
ヲバ起サセテ、サウシテ失業救濟ヲヤラセ
ルト云フヤウナ御趣向デアッタノデアリマ
スガ、是亦思フヤウニハ今日疲弊セル府縣
ノ財政デハ中ミ能ウ出來ナイコトデアリマ
スルシ、又府縣知事カラ禀申ヲシテ參リマ
シタ所デ、オイソレト內務省デポン〓〓ト
盲判ヲ捺シテ許スト云フ譯ニモ參ラヌノデ
アリマシテ、矢張リ嚴重ニ調査スルト云フ
コトニナルト結局貸付ケラレナイト云フ
コトニナルノデ、大シタ需ヒニハナッテ居
ラナカッタノデアリマス、所ガ益、失業者ガ續
出スルモノデアリマスカラ、謂ハバ失業救
濟ノ委員會カラ上申モアリ、政府モ漸ク御
目ガ醒メタト見エマシテ、今度ハ七千万圓
許リノ······土木事業ト鐵道事業ト併セマシ
テ七千万圓許リノ土木事業ヲ、府縣ノ負擔
ニ於テ公債デ支辨シテ施行スルト云フコト
ニナッタノデアリマス、管ミシウゴザイマス
ケレドモ、後ニ私ノ論ヲ進メマス上ニ於テ
出テ來マスコトデアリマスカラ、前以テ申
上ゲテ置キマスルノデアリマスガ、主ニ土
本事業ヲジマスルコトハ所謂國道、府縣道
ノ改修デアリマスガ其行ハレル所ハ主ニ
東京、太阪、京都、名古屋、八幡、神戶、
小橋、戶燐、橫濱、佐世保、八王子、川崎、
岩淵、夕張下石等ノ十二市三箇町デアル
ノデアリマス、之ニ付キマシテハ私ガ先以
テ三ツ程御同意ガ出來ナイ點ガアルノデア
リマス、第一メ點ハ鐵道ノ工事ノ費用ト此
道路ノ改修ノ方ノ土本事業トノ兩方併セマ
シーハ、七千万圓ト云フコトニナルノデアリ
マスガ、其中六十三万圓程ガ知識階級者ノ
先業救濟ニ振向ケラレルノデ、後ノ金ハ全
部筋肉勞働者ノ卽チ土木工事ノ事業費ニ振
向ケラレルノデアリマス、私ハ知識階級者
ノ救濟ト云フコトヲ深ク念頭ニ御入レニナ
ラナイデ、筋肉勞働者ノ土木工事ノミニ偏
重スル嫌ガアル所ノ方法ヲ取ラレタト云フ
ユトニ付キマシテハ私ハ御同意ヲ致シ兼
ネルノデアリマス、是モ助ケテヤラナケレ
バナリマセヌケレドモ、餘リニモ分配ガ偏
頗デハアリマセヌカ、殊ニ知識階級者ト申
シマスレバロモ達者、筆モ達者デアル者ガ
ゴロ〓〓致シテ居リマスコトハ誠ニ國家
社會ニ危險ヲ胎ム私ハ原因ニナルンヂヤナ
カラウカト思フノデアリマス、爲政家ハ思
ヲ茲ニ深タ致サナケレバナラナカッタコト
デアルノデハナイカト私ハ思ヒマス、第二
ノ點ハ都市ニ偏シタコトデアリマス、道路
ノ工事ニ致シマシテモ、鐵道ノ工事ニ致シ
マシテモ、前申上ゲマシタ通リニヽ東京ト
カ大阪トカ名古屋トカト云フヤウナ有數ナ
知名ノ大都市メミニ偏シテ居ルノデアリ
日まで所謂都市ニ偏シテ居ルノデアリマ
ス、斯ウ申シマシタナラバ政府者ハ必ズ
斯樣申サレルデアリマセウ、失業者ノ群ハ
農村ヨリモ都市ノ方ニ集中シテ居ルンヂ
ヤナイカ、若シサウ云フ御答ヲ得ルナラ
べ、私ハ直ニ反問イタシタイド思フノデ
アリマス、是ハ原因ト結果トヲ取違
ベテ暦ラレルノデアリマス、東京ニ
ドウモ就職ロガナイカラ國ベ歸ッテ見タ所、
農村ノ方ニ何モドウモ仕事モナケレバ、又
ノコ〓〓東京ヘ歸ノテ來ルコトニナル、詰リ
農村ノ方ニ······地方ノ方ニ何モ仕事ヲ宛ガ
ハナイカラ、空想ヲ描イテ皆ナ大都市ノ方
ヘ人ガ流レ込ンデ來ルノデアリマスデア
リマスカラ、今同政府ノ採ラレマシタヤウ
ナ方法デ、都市ニ偏シタ土木工事ノ救濟事
業ヲ爲サレバ、水ノ低キニ就タガ如ク地方
カラドン〓〓人ガ都會へ集中スル弊ハ益、と
高マッテ來ルト私ハ思フノデアリマス、ツレ
カラ第三ニハ私ガ不同意ヲ唱ヘテ居リマス
ル點ハ、抑、此國道ノ改修ト云フ工事ト云フ
モノハ、府縣知事ノ管理ノ下ニ致サナケレ
バナラヌモノデアルト私ハ思フノデアリマ
ス、ソレヲ今囘ニ限リマシテ主務大臣ガ之
ヲ直轄シ、全國ニ亙ッテ土木工事ノ釆配ヲ振
ラレルノデアリマス、道路法ノ規定ニ依リ
マスルト、明カニ是等ノモノハ府縣知事管
理ノ下ニ置カレナケレバナラヌコトニナツ
テ居ルノデアリマス、道路法ノ第十七條「國
道ハ府縣知事其ノ他ノ道路ハ其路線ノ認定
者ヲ以テ管理者トス但シ勅令ヲ以テ指定ス
ル市ニ於テハ其ノ市內ノ國道及府縣道ハ市
長ヲ以テ管理者トス」ト云フ規定デ、國道ハ
原則トシテ府縣知事ガ管理者ト云フコトニ
規定シテ居ルノデアリマス、次ニ道路法ノ
第二十條ニ「道路ノ新設、改築、修繕及維持
ハ管理者之ヲ爲スヘシ主務大臣必要アリ
ト認ムルトキハ國道ノ新設又ハ改築ヲ爲ス
コトヲ得此ノ場合ニ於テ道路管理者ノ權限
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ主務大臣之ヲ行
フ」成程是ハ玆ニ但書ガアリマスケレドモ、
原則トシテ府縣知事ガ管理者デアルト云フ
コトニ規定サレテ居リマス而シテ例外ト
致シマシテ必要ト認ムルトキハ、主務大臣
ガ其權限ヲ行ヶテ宜シイト云フコトニチッテ
居リマスガ、此但書ノヤウナ場合ハ、頭
バ特殊ノ技術ヲ要スル場合ニ限ラレテ居ル
コトヂヤアルマイカト私ハ思フ、今囘ノ如
ク全國ニ亙ッテ土木工事ヲ管理スルノニハ、
各府縣知事ガ道路法ノ命ズル所ニ依ッテ···
成文ノ命ズル所ニ依クテ、此管理ノ任ニ當ル
ト云フノガ、結果ガ良イノヂヤナイカト私
ハ思フノデアリマス、ソコデ甚ダ申上ゲニ
タイコトデアリマスタレドモ、道路、傳フ
ル所ニ依ルト、今度メ國道改修ニ付テ主
務大臣ガ釆配ヲ振ラシルト云フコトハ是
ハ黨略的ノ考ガアッテヤラレルノヂヤナイ
カト云フヤウナ噂ガ傳シテ居ルノデアリマ
ス、モウ少シ詳シク申シマスルト府縣會
議員ノ選擧ニ之ヲ利用スルンヂヤナイカト
云フ噂ガ傳ノテ居ルノデアリマス、私ハ斯樣
ナル道路ノ說ニハ强チ耳ヲ傾ケル者デハア
リマセヌケレドモ何ガ故ニ道路法ノ此但
書ニ依ッテ、主務大臣ガ全國ニ亙リ土木工事
ノ釆配ヲ振ラレルノデアリマセウカ主務
大臣ガ管理サレル方ガ、國家社會ニ取ッテ、ド
レダケノ利益ガアルノデアリマセウカ、是
ダケノ利益ガアルト云フ御話デアリマスナ
ラバ、此噂モ春ノ雪ノ如クニ消エ去ルト私
ハ思フノデアリマス、以上申上ゲマシタ通
リニ建議案提出後、政府ガ實施シ或ハ實施
セントスル所ノ諸對策ニ付テ略評ヲ致シタ
ノデアリマスケレドモ何レモ有效適切ナ
施設ト見ルベキモノハナイト私ハ思フノデ
アリマス、去ル二月ノ二十幾日デアリマシ
タカ、山岡萬之助君ガ私ト申方ハ違ヒマス
ケレドモ、矢張リ此失業救濟ノ對策ニ付テ
論陣ヲ進メラレマシタ時ニ、農林大臣ハ其
所管タル所ノ農村對策ノ質問ニ對シマシ
テ、山岡君ノ質問ニ對サレマシテ、恆久的
ノ對策ト應急的ノ對策ヲ申述ベラレマシタ、
併ナガラ其正味ハ先程申上ゲマシタ農村、
山村、漁村ノ七千万圓ノ融資ノ效能ヲ喋
蝶ト申サレタノデアリマス、之ヲ速記錄ニ
付テ申シマスレバ······是ハ農林大臣ノ御答
デアリマス、貴族院議事速記錄第十三號、
百六十三頁、國務大臣タル農林大臣トシテ
ノ町田忠治君ノ答辯、前略、「唯農林省ガ農
村困憊ノ今日、何等カノ對策ガアルカト云
フ御尋ネデアリマス、申上ゲル迄モナク此
對策ハ分ッテ二ツトナルノデアリマス、今後
數年ニ互ル對策ガ其一ツデアリマス、今後
數年ニ亙ル對策ハ分ッテ共同施設、共同販賣
ト農產物ノ公正ナル價格ヲ維持スル施設ガ
一方面ニアリマス、一方面ニハ農產物ノ生
產費ヲ出來ルダケ低廉ニスルト云フ、合理
的ナル經營法ヲサセルト云フ施設ガアルノ
デアリマス、此二ツハ要スルニ今後數年ニ
亙リ、先ヅ永遠ト申シテ宜シイカ根本的對
策デアリマス、今日ノ困憊ニ對スル應急策
ト致シマシテハ、山岡君ノ御話ノ如ク昨年
春預金部ノ協議ニ依ッテ得マシタル養蠶應
急資金、主トシテ是ハ春蠶、春ノ養蠶ノ應急
資金デアッタノデアリマス、或ハ中小農工低
利資金二千五百万圓、或ハ籾貯藏ニ對スル
三千万圓ノ低利資金、山岡君ノ御批評下スッ
タ七千万圓ノ低利資金ノ如キハ其主ナルモ
ノデアリマス、此七千万圓ノ低利資金ノコ
トニ付キマシテハ」、中略イタシマシテ、此
七千万圓ノ低利資金ハ「大體ニ於テ應急施設
ト致シマシテハ此七千万圓ヲ以テ相當ナ
效果ガ擧ゲラレルト思ヒマス」ト云フコト
ヲ申サレテ居ルノデアリマス、恆久的ノ對
策トカ、根本的ノ對策トカ、或ハ應急的ノ
對策トカ仰セラレマスケレドモ、是ハ幣原
首相代理ノ御嫌ヒノ抽象的ノ話デアリマシ
テ具體的ノ御答トシテハ七千万圓ノ低
利資金ガ效果ヲ擧ゲルデアラウト思ヒマ
スト、斯ウ仰シヤッテ居ル其七千万圓ハ、今
日一文モ出テ居ラヌト云フコトデアリマ
ス、又政府ハ豫算ニ五万九千万圓程計上サ
レマシテ、職業紹介所ノ增設ヲ圖クテ居ラレ
マス、無イヨリモ有ッタ方ガ是ハ結構デアラ
ウト思ヒマス職業紹介所ト申シマスモノ
ハ申上ゲル迄モナク、昔デ言ヘバ桂庵デ
アリマス、桂庵ガ進化シタノデアリマス
此桂庵ト申シマスモノハ謂ハバ事務所デア
リマシテ、職ヲ求ムルモノガ職ヲ求メムト
シテ來ル事務所デアリマス、事務所デ以テ
職業ヲ拵ヘルコトハ出來ナイノデアリマス、
デ實際ノ狀況ヲドウカト申シマスルト云フ
ト、最近二月號ノ「事業之日本」ニ「職業紹介
所カラ見タ就職世相」ト云フ題目デ書イテ
ゴザイマス、大キナ活字デ「年每ニ深刻ニ向
フ智識階級ノ就職率ハ低下」トシテ、是ハ東
京市ノ社會局ノ職業課ノ杉原某ト云フ人ガ
書イテ居ルノデアリマス、拔萃シテ申シマ
スト云フト東京市設ノ職業紹介所ニハ一
日平均千二三百人ヲ下ルコトガナイサウデ
アリマス、人ノ來ルコトガ······而シテ此
求職者ノ數ニ對シマシテ人ヲ求メル方ハ約
四分ノ一ト云フ見當デアリマスノデ、一日
平均二百カラ三百位アルノデアリマス又
其中カラシテ傭ヒ主ト傭ハレ主ノ又色ミ談
シ合ガアリマスカラ、傭ハムトスル所ニ行ッ
タ者ガ全部傭ハレ濟ミニナルト云フ譯デハ
ナイノデアリマス、結局斯ウ云フ風ナ多勢
ノ人ガ押掛ケテ參リマスケレドモ、、漸クニ
二百人カ三百人位ガ職ニアリ付ケルト云フ
ヤウナ狀態ニナッテ居リマシテ、今日ニ於キ
マシテハ此職業紹介所ガ大ナル效果ヲマダ
擧ゲテ居ルヤウナ次第ヂヤナイノデアリマ
ス是ハ施政ノ方針ノ御演說中ニハゴザイ
マセヌケレドモ、豫算ニ五万九千圓ト云フ
雀ノ淚ミタイナ豫算ノ金ガ出テ居リマシタ
ノデ調ベテ見マシタラ、サウ云フコトデゴ
ザイマスガ何レニ致シマシテモ建議案當
時カラ今日マデ爲サッタ所ノ政府ノ救濟施
設ニ付キマシテハ、御苦心ハ相當ニナサッテ
居ラレルダラウト私ハ信ジマス、信ジマス
ルケレドモ、何等有效適切ナル玆ニ實蹟ガ
擧ッテ居ラナイノデアリマス、昔ノ聖人ハ斯
樣ナ言葉ヲ言ッテ政治家ヲ戒メラレテ居ラ
レマシタ、「君子言ニ訥ニシテ行ニ敏ナラム
ト欲ス」是ハ論語ニ出テ居リマス、政治家ト
云フモノハ宣傳バカリシタァテ駄目ダ、宣傳
ヲシリ口上手ニ旨ク人前ヲ話シテモ行ガ出
來ナカッタナラバ、決シテソレハ國民ノ上ニ
何等ノ利福ヲバ齎シ來ルモノデハナイ、宣
傳ヲスル前ニ先ヅ行ヘ、喋ベル前ニ先ヅ實
行セヨ斯ウ云フコトヲ孔子ハ三千年ノ前
ニ政治家ニ對シテ戒メラレテ居ルノデアリ
マイ、惟フニ孔子時代ニモ隨分空宣傳、宜
傳不實行者ガ澤山ニアッタモノト見エルノデ
アリマス、今日ニ於キマシテモ、御多分ニ
ハ漏レナイダラウト私ハ思フノデアリマ
ス、由來我ガ日本ノ國民ト申シマスモノハ、
誠ニ忍從可憐ナ國民デアリマス、政府ノ執、フ
タル所ノ政策ノトバッチリヲ受ケマシテ、大
ナル犧牲ヲ拂ヒナガラモ政府ノ仰シヤル其
御言葉ニ信賴シテ、所謂ヨモヤ〓〓テカ
サレテ、今ニ好イコトガアルダラウト云フ
ヤウナ多少ノ希望ヲ繼イデ、其日ヲ苦シガッ
テ送クテ居リマス中ニ、知ラズ識ラズノ間
ニ深イ谷ニ落チマシテ、足搔モ取レナイヤ
ウニナッテ行クヤウナ今日ノ狀勢ヲ見マシ
テハ私ハ國民ノ大衆、農ト云ハズ、商ト
云ハズ、工ト云ハズ、此可憐ナル忍從ナル
同胞ニ對シマシテ默ヲテ居ル譯ニハ參ラヌ
ノデアリマス、ソコデソレデハ內閣ノ諸公
ハ此貴族院ノ昨年ノ建議案ヲドウ云フ風ニ
御考ヘニナッテ居ルノカ無視ハ無論ナスッ
テ居ッタ譯デハナイダラウト思フノデアリ
やく、而シテ此内閣ガ貴族院ガ斯ク要望シ
タ建議案ガアルニ拘ラズ、爾來半年有餘經〃
タ今日ニ見ルベキ施設ガナイ、益、世ノ中
ハ不景氣ガ深刻ニナル、失業者ハ殖エ、疲
弊困憊ノ度ガ進ンデ來ル、何等實蹟ガ擧ラ
スト云フノハ一體何處ニ原因ガアルノカ
私ハ其原因デアラウト云フモノヲ先ヅ考ヘ
テ見マスト云フト、內閣ノ力弱キカ、無策
ナルカ、無能ナルカ將タ無誠意デアルカ、
此四ツノ外デハナイダラウト私ハ思フノデ
アリマス、先ヅ此内閣ガカガ弱イカ强イカ、
私ハ此內閣ホド强イモノハナイト思フノデ
アリマス衆議院ニアレ程ノ多數ヲ擁シテ
絕對過半數ヲ占メテ居ル所ノ民政黨内閣
ハ近來ナイ强イ内閣ダト私ハ思フノデア
リマス、外カラ見テ左樣ニ思フバカリデナ
ク内閣當路者ガ左樣ニ御自信ニナリ、御
自負ニナリ、豪語サレテ居ルノデアリマス、
ソレハ斯ウ云フ事實ガアリマス、是ハ昭和
六年一月二十日上野精養軒デ開カレマシタ
民政黨大會ニ於テ、濱口總裁ノ委囑ニ依ヶテ
連絡係安達內相ハ次ノ如キ演說ヲ試ミラレ
テ居リマス、是ハ東京日日新聞ノ朝刊デア
リマス、標題ハ「濱口總裁ニ代ッテ安達內
相ガ黨員激勵、結束一致國民ノ信望ニ副ヘ、
與黨大會席上ノ演說」ト云ヲ題デ、冒頭ニ今
申上ゲタ連絡係安達內相ハ次ノ如キ演說ヲ
試ミタト云フ記事ガズット載ッテ居リマス
ガ、全部讀ミマシテハ大變長クナリマスカ
ラ要點ヲ申上ゲマスト云フト「我黨內閣ハ
堅實ナル常道ヲ進ムニ眞面目ナル努力ヲ以
デシタコトハ天下ノ齊シク認ムル所、之ヲ
基礎トシテ諸般ノ經綸ヲ行フハ今日以後デ
アリマシテ、第五十九議會ハ寧ロ其序幕デ
アリマス」、ソレカラ中略シマシテ「其他ノ
諸政策」ト題シテアリマス所ニ「其合理化ヨ
リ生ズル一切ノ犠牲ヲ勤勞階級ニノミ轉嫁
シ社會變革ノ必然ヨリ生ズル不幸ナル同胞
ノ艱難ヲ顧ミザルガ如キハ斷ジテ公明ノ政
治デハアリマセヌ」ソレカラ又略シマス、「我
黨ノ使命」ト云フ題目ノ所ニ「諸君我黨ハ內
外幾多重要ノ問題ヲ控ヘテ國家ノ難局ニ
當ヲテ居リマス、此時ニ當リテ我黨ハ一一百
七十名ノ絕對多數ヲ通ジテ、天下大衆ニ聯
ル所ノ大政黨デアリマス、我黨内閣ガ天下
ノ大事ヲ擔任スルニ非ザレバ全國民ノ輿
望ヲ負ヒテ、輔弼ノ責ヲ全ウスルモノハ無
イノデアリマス」、斯ウ云フ風ニ豪語サレテ
居ルノデアリマス、マダ此後ニ甚ダ不穩當
ナ言葉ガアリマスケレドモ、今日又問題ガ
反レルトイケマセヌカラ略シマスガ、兎2
角政府御自身ニ於テ我黨內閣ホド强力ナル
內閣ハナイ、我黨內閣ニ於テ初メテ輔弼ノ
責ヲ全フスルコトガ出來ル全國民ノ興望
ヲ負フコトガ出來ル、天下ノ大事ヲ擔任ス
ルコトガ出來ル、斯樣ニ言ッテ居ラレル、シ
テ見レバ私ガ貴族院ノ建議案ニ鑑ミラレマ
シテ何等カノ措置ガ、適切有效ナル措置
ノナカッタト云フコトハ、內閣ノ力ノ弱イノ
ヂヤナイト云フコトノ私ハ證明ガ出來ルト
思ヒマス、偖テ力ガ弱イノデナイ策無キ
カ、能無キカ私ハ今日ノ臺閣ノ諸公ヲ見
上ゲマスト云フト、孰レモ賢明練達ノ士バ
カリデアリマス策謀雲ノ如キ方ミガ居ラ
レルノデアリマス、策ガ無イトカ能ガ無
イトカ云フヤウナ方ミハ一人モ居ラレナイ
ノデアリマス、シテ見ルト內閣ノ力ガ弱イ
ノデナイ無能無策デハナイ、然ラバ何デ
アリマセウ、肝腎ナ眞心ガ缺ケテ居ルノヂ
ヤナイカト私ハ思フノデアリマスデアリ
マスカラ私ガ第二ノ質疑ト致シテ伺ヒタイ
コトハ昨年提出サレマシタ貴族院ノ建議
案ニ對シテ政府ハドウ之ヲ御取扱ニナッタ
カ私ハ遺憾ナガラ政府ニ誠意ノ御持合セ
ガナカッタシデハナカラウカト云フヤウナ
疑ヲ挾マザルヲ得ヌノデアリマス、何卒幣
原首相代理ニ於カセラレマシテハ政府ガ
此貴族院ノ建議案、熱ト淚ヲ以テ籠メタル
建議案ニ對シテ、如何ナル御考慮ヲ拂ハレ
マシタカ、之ニ付テノ明快ナル御答辯ニ接
シタイト思フノデアリマス、私ノ質疑ハ一
應茲ニ止メテ置キマシテ、御答辯ニ依リマ
シテハ更ニ登壇スル御許シヲ得ダイト思ヒ
マン、尙ホ私ノ質疑中先刻モ申上ゲタ通リ
ニ商工大臣、農林大臣、文部大臣等ニ觸
レマシタ諸點ニ付キマシテハ近キ機會ニ
於テ御答辯ニ接シタイト思ヒマス、併シ私
ノ申上ゲタコトヲ肯定ナサルナラバ敢テ
御答辯ハ煩ハシマセヌ、之ヲ申添ヘテ降壇
イタシマス
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登
ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=76
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077・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 只今ノ前
田子爵ノ御質疑ニ對シマシテ大體私カラ答
辯申上ゲマス、先ヅ第一ニ前田子爵ハ、私
ガ過日施政方針ニ關スル演說ノ中ニ、人心
ハ漸次安定スルニ至ッタト云フコトヲ述べ
マシタコトヲ御指摘ニ相成リマシテ、今日
ニ於テ何等人心ハ安定シテ居ナイヂヤナイ
カト申サレマシテ、色ミノ例ヲ擧ゲラレタ
ノデアリマス、私ガ人心ガ漸ク······漸次安
定スルニ至ッタト申シマシタノハ、御承知ノ
如ク我ガ財界ノ狀況ニ關スル一節デアリマ
ス我ガ財界ハ御承知ノ如ク、昨年五六月
頃ヨリ所謂悲觀的材料ガ外國カラ頻々トシ
テ我國ニ來リ
〔副議長公爵近衞文麿君議長席ニ著ク〕
當時我國ノ朝野ヲ擧ゲテ非常ナ人心不安ニ
陥タノデアル、是ガ其當時ノ財界ノ現狀デ
アッタノデアル、然ルニ近頃ニ至リマシテ、
此人心ハ漸次安定スルニ至ッタ、財界ニ關ス
ル狀況ヲ申シタノデアリマス、固ヨリ安定
スルニ至ッタト申シマシテモ、是ハ絕對的デ
ハアリマセヌ、相對的ノコトヲ話シテ居ル
ノデアリマス、昨年ノ五六月頃ニ外國カラ
悲觀的材料ノ頻々トシテ來タタ頃頃財
ト今日トヲ比ベテ見マスレバ、確カニ人心
ハ漸ク安定スルニ至ッタト言ヒ得ルト考ヘ
マス、是ハ相對的ノ問題デアリマシテ、絕
對的ニ安定イタシタト云フコトハ私ハ申セ
ナイト云フコトヲ認メマス、相對的ニ言ヘ
バ言ヒ得ルト考ヘマス、ソレカラ今日ノ世
相社會的現象ノ悲慘ナル狀況ニ付テ幾多
ノ例ヲ御述ベニナッタノデアリマス、或ハ空
家ガ多クナッタ例デアルトカ、稅金ノ滯納者
ノ多イコトデアルトカ、或ハ就職難ノコト
デアルトカ、養育院ニ送ラレル者ノ多イコ
ト、親子心中デアルトカ、夫婦心中デアル
トカ云フヤウナ狀況ヲ御述ベニナッタノデ
アリマス、世界的ノ大不景氣、我國ヲ襲ヒ
來ヲタ所ノ大不景氣ト云フモノハ、今日マダ
全ク去,タモノデハ勿論アリマセヌ、之ニ伴
ヒマシテ今日ノ社會的現象ノ中ニ大ニ憂慮
スベキモノガアルト云フコトハ前刻モ金
杉君ノ御質疑ニ對シテ御答へ致シタ通リデ
アリマス、今日何等ノ社會的現象ノ不安ナ
ルモノハ無イ、憂慮スベキモノハ無イト申
シテ居ルノデハアリマセヌ、御述ベニナッタ
如キ事實ハ或ハ······新聞ニ載ッテ居ッタト
言ハレマスルガ、或ハ一部分左樣ナ事實モ
アルデアリマセウ、私ハ決シテ其事實ガナ
イト云フコトヲ申シテ居ルノデハアリマセ
ス、併ナガラ今日ノ不景氣ト云フモノハ
是ハ決シテ日本ダケノ問題デハナイ、全世
界ヲ通ズル不景氣デアリマス、此事態ニ於
キマシテ此不景氣ヲ急ニ景氣ニ展開スルコ
トガ出來ルカト云ヘバ是ハ何人ト雖左樣
ナコトハ出來ナイコトハ御認メ下サルコト
デアラウト考ヘマス、農村ノ疲弊ノ狀況モ
御述ベニナリマシタ、是モ私ガイツカ此席
ニ於テ御答ヘ致シタコトガアリマス、農村ノ
疲弊、私ハ其事實ヲ認メマス、認メマスカラ、
之ニ對シテ政府ハ斯ク斯クノ對策ヲ執ッテ
居ルト云フコトヲ其當時申述ベタコトガア
リマス、小學〓員ノ俸給ノ不拂ノコトモ御
述べニナリマシタ、是モ既ニ私ハ此席ニ於
テ御答へ致シタコトガアリマス、要スルニ
此問題ニ付キマシテハ文部內務兩省ガ協議
ヲ致シマシテ、地方官會議ノ席ニ於テモ之
ヲ論究シ學務部長ノ會議ニ於テモ之ヲ講
究シ、而シテ兩大臣ノ名前ヲ以テ地方官ニ
ソレ〓〓訓令ヲ與ヘマシテ、斯樣ナル〓員
ノ給料不拂ト云フヤウナ狀況ヲ生ジナイヤ
ウニ、十分ニ注意ヲ致スヤウニ訓令モ致シ
テ居ルノデアリマス、救護法ノ實施ノコト
ヲ御述べニナリマシタガ、是ハ强ヒテ私ニ
今日答辯ヲ御求メニナッタノデナイト思ヒ
やく、一兩日前デアルト思ヒマス、內務大
臣ヨリ旣ニ御答ヲ致シテ置イタ筈デアリマ
スソレカラ去ル議會ニ於ケル當院ニ於
ケル決議案ニ言及ニ相成リマシテ、中小產
業者ノ救濟ノ問題、失業者ノ救濟ノ問題、
是等ノ點ニ付テ建議案ガ出シテ居ルノデア
ルガ、之ニ對シテ政府ハ如何ナル措置ヲ取ッ
タノカ、有效適切ナル處置ヲ取レルヤ否ヤ
ト云フコトノ御質疑デアリマス、中小產業
者ニ對スル對策ニ付キマシテハ既ニ前田
子爵御自身デ御述ベニナリマシタル通リ、
預金部資金ヨリ先ヅ二千万圓ヲ融通イタシ
マシテ、既ニ昨年ノ十二月ニ於ケル此貸付
)···貸付濟ノモノ、竝ニ決定セラレタル
モノノ金額ハ確カ千二百何十万圓ト云フモ
ノニナッテ居ッタト記憶イタシマス、更ニ最
近五百万圓ヲ追加イタシマシテ、二千五百
万圓ヲ融通イタシ得ルコトニ致シテ居ルノ
デアリマス、ソレカラ又農村······農、山、
漁村ノ失業救濟ノ爲ニ、同ジク預金部ヨリ
七千万圓ヲ融通スルコトヲ決定イタシマシ
タコトモ前田子爵ハ述べテ居ラレルノデア
リマス、是ハ今日何等貸渡シニナッテ居ラ
又、融通ガ出來テ居ラヌト云フコトヲ御述
ベニナリマシタ、如何ニモ此融通ニ付キマ
シテ故障ノアックコトモ承知イタシテ居リ
マスケレドモ、目下ニ於キマシテハ現ニ其
進行ノ爲ニ······圓滿ナル進行ノ爲ニ極力努
力イタシテ居ル所デアリマス、今少シク此
努力ノ結果ヲ御覽下サランコトヲ希望イタ
シマス、其他公益質屋ノ利用ノコトニ付キ
マシテ是モ御述ベニナッタノデアリマスガ、
之ニ對シテハ幾ラモ貸付ケテ居ラヌヤウニ
見エルト云フコトデアリマシタケレドモ
是モ貸付金額竝ニ利用者ノ數ガ漸次增加イ
タシテ居ルノデアリマス、益〓增加ノ形勢
モ現ハレテ居ルノデアリマシテ、其計數ニ
至リマシテハ私ハ只今此方ニ持ッテ居リ
マセヌケレドモ、是ハ主務大臣ヨリ御說明
ヲ致シ得ルコトデアリマス、興業銀行ヨリ
中小商工業者ニ對スル貸付ヲ行ッタ、是モ前
田子爵ガ御話ニナッタヤウデアリマス、其外
普通銀行ニ於キマシテモ所謂小口ノ貸付ヲ
行フ斯ウ云フ風ナコトモ著々行ハレテ居
ルノデアリマス、ソレカラ次ニ失業對策ノ
コトヲ御述べニナリマシテ、之ニ對シテ如
何ナル事ヲヤッテ居ルカト云フコトデアリ
やっ、根本的ニ申シマスルナラバ、財界ノ
安定、產業ノ發達、貿易ノ振興ト云フコト
ガ失業防止ノ根本方策デアリマス、併ナガ
ラ之ヲ當面ノ施設ニ付テ見マスレバ、失業
者ニ對スル職業ヲ與ヘル事業ノ勸奬、ソレ
カラ職業紹介機關ノ增設ト云フヤウナコトガ
當面ノ施設デアリマス更ニ來年度ニ於キ
マシテハ、前田子爵モ申サレタル如ク國家自
カラ事業ヲ興シマシテ、地方公共國體ノ施設
ト相俟ヶテ、失業ノ緩和ニ努メルコトニ致シ
テ居ルノデアリマス、今日失業者ガ三十八
万人ニ達シテ居ノテ、昨年ニ比ベルト云フト
昨年ハ三十五万人デアッタ、是モ增加イタシ
テ居ルト云フコトヲ御述ベニナリマシタ、
確ニ增加ヲ致シテ居リマス、私ハ斯樣ナ問
題ニ付テ徒ニ外國ノ例ヲ引イテ來テ對照ス
ル譯デハアリマセヌケレドモ、是モ御參考
ノ爲ニ附加ヘマスレバ、最近卽チ本年ノ二
月、英吉利ニ於キマシテハ失業者ハ旣ニ二
百六十万人ニ達シテ居ル、之ヲ昨年ノ同時
期ニ比ベマスト云フト百十一万何千人ト
云フモノヲ增シテ居リマス、勞働黨內閣ガ
組織セラレマシタ時カラ比ベマスト云フ
ト百五十万人ヲ增シテ居リマス、是等ニ
比ベマスレバ······私ハ强ヒテ比ベテ、ソレ
ナラバ日本ノ狀態ハ是デ安心シテ居ヲテ宜
シイト決シテ申ス譯デハアリマセヌケレド
モ、御參考ノ爲ニ申シマスレバ斯ノ如ク
日本ノ失業者ノ數ト云フモノハ英吉利ナ
ンカト比ベマスレバソレハ遙ニ少ナイ數デ
アルト、私ハ考ヘルノデアリマス、我ミノ
執ッテ居ル手段ガ有效適切デハナイ、中小商
工業者ノ救濟ニ付テモ、又失業救濟ニ付テ
モ、有效適切デハナイト申サレタノデアリ
マス、果シテ他ニ如何ナル方策ガ有效適切
デアッテ、又實際實行ノ可能ナモノデアルカ
ト云フコトニ付キマシテノ御意見ハ承ハラ
ナカッタノデアリマスルガ、我ミハ今日ノ財
政ノ狀況ニ於キマシテ、眞面目ニ誠實ニ出
來ルダケノコトハ致シテ居ル積リデアリマ
ス、尙ホ產業ノ合理化、國產ノ愛用竝ニ失
業救濟ノ問題ニ付キマシテ、詳細ニ亙ッタ
ル。今日現在行ッテ居ル施設ノ狀況ニ付テ
御質疑ガアリマシタガ、是ハ追ァテ各、主務
大臣ヨリ御答ヲ致スコトニ致シテ置キマシ
テ一應私ノ考ヘダケヲ玆ニ答辯申上ゲテ
置キマス
〔國務大臣俵孫一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=77
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078・俵孫一
○國務大臣(俵孫一君) 前田子爵ノ御質問
ニ對シマシテハ總理大臣代理ヨリ一應ノ
御答ガゴザイマシタノデアリマスルガ前
田子爵ノ御尋ネノ主モナルモノハ、此前ノ
本院ニ於キマシテ、中小商工業ノ救濟、失
業救濟ニ付テ政府ニ建議ヲ出シタノデアル
ガ、其後一向此實效ガ現ハレテ居ナイ之
ニ對シテ誠意ヲ疑フト云ッタヤウナ御意味
ノ御話ガアッタノデアリマス、既ニ總理大臣
代理ヨリ御答ハアッタノデアリマスルガ、事
私ノ主管イタシマスル商工業ニ關スル事モ
亦ゴザイマスノデアリマスルカラ、私ヨリ
簡單モ此點ニ付キマシテ御答ヲ申上ゲテ置
キタイト思フノデアリマス、現今ノ中小商
工業ノ窮迫、誠ニ困ッタモノデアリマシテ、
其狀態ガ殆ド極度ニ達シテ居ハセヌカト思
フ位デアルノデアリマス、前田子爵ト共ニ
我〓共モ誠ニ心配イタシテ居リマスノデア
リマスヽデ之ニ付キマシテ現內閣ハ貴族
院ノ之ニ對スル建議案モ無論尊重ヲ致シテ
居リマスルシ、又當然ノ政府ノ責任ト致シ
マシテ、之ニ付テハ頗ル苦慮イタシー又方
法ヲ講ジテ居リマスノデアリマス、總理大
臣代理ノ施政ノ方針ノ中ニモ、前田子爵ガ
御引用ニナック如ク、專ラ此問題ニ付キマシ
テハ色ミ苦慮イタシ、心配ヲ致シテ居ルノ
デゴザイマス、之ニ付キマシテ前田子爵ハ、
施政方針ノ演說ノ中ニモアルガ如ク此商工
業ノ振興ニ付テ、或ハ產業合理化、國產愛
用ト云フコトヲヤッテ居ルガ、單リ成蹟ガ
擧ッテナイノミナラズ、却ッテ反對ナ結果ヲ
見テ居ルデハナイカト云タタウナ、意味ノ
御尋ネガアッタノデアリマス、之ニ付キマシ
テハ私ヨリ十分ナル御答ヲ申上ゲテ御
理解ヲ願ヲヲ置キタイノデアリマスルガ、凡
ソ今日ノ中小商工業ノ窮迫ナ狀態ノ原因ハ
何デアルカ、一〓ニ申シマスレバ世ノ中ノ
不景氣、併ナガラ之ヲ尙ホ進ンデ其原因ヲ
求メマスルナラバ、不景氣ノ結果ト致シマ
シテ生產ガ需要ニ超過イタシテ居ルノデア
リマス遣リマシタ品物ガ十分ニ賣レヌノ
デアリマス、賣レヌ原因ハ何ニアルカト云
フコトハ、ソレハ後日ノ間題〓致シマシテ、
兎ニモ角ニモ造タタ、仕入レタ物ガ賣レナ
イ是ガ詰リ中小商工業ガ困難ナ狀態ニ相
成ヶテ居ルノデアリマス、之ヲドウスルカ、
此所謂需要供給ノ調節ヲ缺キマシテ、生產
超過ノ現象ヲ見テ居リマスルコトハ、獨リ
國內ノ產業ダケデハアリマセヌ世界ノ不
景氣ノ結果ト致シマシテ世界的ニ何レモ
生產過剩デアリマス、此生產過剩ノ生產物
ヲ各、其國內ニ於テ無論ノコト世界ノ各
市場ニ如何ニシテ之ヲ消化セシムルカハ玆
ニ各國ガ非常ナル所謂經濟政策ノ惱デア
リマス、此結果ト致シマシテ、世界的ニ此市
場ヲ······捌ケ場ヲ爭奪センガ爲ニ各國ガ
經濟政策ノ上ニ非當ナル競爭ヲ來シテ居ル
コトハ無論言フマデモナイコトデアリマ
ス暫ク國際的ノ此生產超適ノ始末ヲドウ
スルカト云フ各國ノ經濟政策ハ朋ト致シマ
シテ、我國ニ於キマシテハデス、此目下ノ中
小商工業ノ行詰ヲ何トスルカ、ドウ致シマ
シテモ是ハ需給ノ調節、需要供給ノ調節
ヲ圖ルト云フ外ニナイノデアリマス、此處
ガ卽チ現內閣ガ所謂產業合理化ト云フコト
ヲ强ク叫ブ所以デアルノデアリマス、產業
合理化ト國產愛用ハ刻下ノ商工業ヲ救フダ
ケデハアリマセヌ、我國ノ刻下ノ經濟ヲ建
直スニ付テ最モ必要ナル所ノ二大政策デア
ルトマデ考ヘテ居ル始末デアルノデアリマ
ス、併シナガラ此產業ノ合理化國產愛用ノ
成績ハ餘リ現レヌデハナイカ、如何ニモ御
尤千萬ナ御疑デアリマス、此問題ハ何レモ
國民運動デアルノデアリマスヽ政府ガ自ラ
金ヲ使"テ自ラ仕事ヲスル自テ品物ヲ作ッ
テソレヲ捌カスト云ヶタ如キヤウナ政府事
業トハ事ガ違フノデアリマス、國民自身ノ運
動ヲ此呼聲ニ依クテ惹起ス、國民諸君ト共ニ
此所謂產業合理化國產愛用ノ實現ヲ期スル
ト云フ立前デアリマスルカラ、中ミ半年ヤ一
年位デハサウ成績ガ實現ハ出來ナイノデア
リマス、前田子爵ハ澤山ナル金ヲ使ッテ居〃
テ一向成績ハ擧ラヌデハナイカト云フ御尋
ノ中ニモアリマシタガ、實ハ澤山ナ金ハナイ
ノデアリマス僅ニ產業合理化ノ爲ニ九万
圓、國產愛用ノ爲ユ八万圓バカリノ金シカ
ナイノデアリマスガ、併シナガラ是ハ決シ
テ金ノ高ヲ以テ成績ノ擧ル擧ラヌト云フコ
トヲ斷定スル材料ニハナラヌノデアリマ
ス、政府ハ昨年ノ議會ニ依ッテ此豫算ヲ要求
シマシテ僅カバカリノ金デハアリマスル
ガ、此成立ヲ致シマシタ以來、產業合理局
ニ於テ合理局ヲ開設イタシテ、昨年ノ夏
時分カラ此運動ヲ致シテ居ルノデアリマ
ス、如何ニモ成績ガ擧ラヌ、併ナガラ國民
運動ト申シマスルモノハ中ミサウ手取リ早
ク成績ハ擧リマセヌ、現內閣ニ於キマシテ、
國民運動ノ一ツノ問題トシテ成績ノ擧ック
コトハ世間カラモ成績ハ擧ッタ、寧ロ擧リ
過ギタト言ハレテ居ルモノハ彼ノ勤儉力
行デアッタデアリマセウ、世間デハ頻リニ勤
儉力行ノ爲ニ政府ガ餘リヤリ過ギテ是デ貯
蓄ヲシタ、儉約ヲシタカラ購買力ヲ失ッテ、
ソレガ爲ニ不景氣デアルト云フ位マデニ、
政府ノ國民運動ノ成績ハ擧ッタト稱セラレ
テ居ルノデアリマス、是ハ見方デアリマス、
是ハ政府ガ動儉力行ト云フコトヲ唱ヘタガ
爲ニ、國民ハ聲ノ響ニ應ズルガ如ク、サウ
聞イタモノトハ實ハ思ッテ居ラヌノデアリ
マント。此勤儉力行ノ成績ノ擧クタノハ、一面
ニハ政府ノ唱導モアリマセウ、他ノ一面ニ
於テハ國民自身ノ懷合ガ此際勤儉力行シナ
ケレバナラヌト云フ實感ガアッテ、斯ノ如キ
成績ガ擧ッタモノト思フノデアリマスルガ、
ソレハ先ヅ別ト致シマシテ、兎ニ角ニモ今
申上ゲマス如ク、國民運動ト云フモノハ
ナカ〓〓サウ半年ヤソコラデ成績ガ擧ガル
譯ニ行キマセヌ、併ナガラ是亦必要ヲ感ジ
テ居ル當業者ガゴザイマスルガ爲ニ、前田
子爵ガ御指摘ニ相成リマシタ所謂關西ヲ中
心······大阪ヲ中心ニ致シマスル綿布ノ輸出
ヲシタ縞三綾、是ガ需要ト供給ノ調節ヲ失,
テ生產家ハ無暴ノ競爭ヲ致シマシテ、而
シテ輸出品ニ對シテ非常ナル競爭ノ結果、
賣崩シヲシテ、海外ノ信用ヲ失ヒ、國內ニ於
テ其生產業者ハ引合ハザル狀態ニナッタモ
ノカ、先ヅ第一著手ノ合理局ノ仕事ト致
シマシテ、是ガ複雜ナル中小商工業者
ノ間ニ全ク統制ヲ得マシテ、玆ニ其生
產ノ制限ヲ致シマシタ、生產ノ制限ニ依
テ其價格ガ上シテ參リマシテ、而カモ海外ノ
賣崩ノ亂暴ナル競爭ガ停止イタシマシタガ
爲ニ海外ノ信用ヲ保チマシテ、却ッテ生產
ノ制限ヲシタモノガ、其以上ニ今日ハ生產
ヲシテモ續々海外カラ注文ガ這入ッテ來ル
ト云ウタ如キ狀態デアルノデアリマス、之
ニ依テ、紡績ガ短操ヲ致シマシタガ、紡績
絲ノ供給ガ縞三綾ニ對シテハ寧ロ不足シ
テ是デハドウモ少シ紡績業者ハ生產緩和
ヲシテ貰ハナケレバナラヌト言ッタ如キヤ
ウナ紡績系ノ需用ガ急ニ增加イタシタ狀態
デアルノデアリマス、縞三綾ノ成績ハ今申
上ゲタヤウナ成績デアリマスガ、此善良ナ
ル成績ニ依リマシテ、更ニ綿縮ガ同ジク統
制ヲスルコトニシタイト云フコトデ、其コ
トモ實行イタシマシテ、其成績ハ未ダ一月
中······十二月カラ一月頃ニ成立ッタノデア
リマスルカラ、マダ此所デ申上ゲルダケノ
成績ハゴザイマセヌケレドモ、是亦縞三綾
ト同樣ノ立派ナル成績ヲ擧ゲルコトニ間違
ヒナイト考ヘテ居ルノデアリマス、其他ニ
於キマシテモデス、私ハ敢テ合理局ノ功勞
デアルトハ申上ゲマセヌケレドモガ、政府
ガ機業ノ合理化、產業ノ合理化ト云フコト
ノ必要ヲ唱ヘマシタガ爲ニ、世間ニ於キマ
シテハ此聲ニ應ジマシテ、段々操業ノ短縮
ヲ致シマスルシ、且又オ互ニ無暴ノ競爭ヲ
シテハ共潰レデアルト云フコトニ氣付キマ
シテ、自カラガ產業合理化ヲ營ムト云フコ
トニ致シテ居ル者ハ澤山アルノデアリマ
ス、此例モゴザイマスルガ、是ハ長クナリ
マスルカラ申述ベマセヌ、併ナガラ先刻申
シマスガ如ク、ナカ〓〓國民運動ヽ殊ニ
企業ノ統制、チヨット御斷リ申シマスガ、產
業合理化ノ······一工場、一企業ノ合理化ヲ
シテ能率ヲ增進シ、無駄ヲ省クト云フコ
トハ、相當ニ企業主ノ注意ニ依テ出來テ參〃
テ居リマスルケレドモ、同業者間ノ御互ノ
競爭ハ是ハナカ〓〓行ハレ惡イノデアリ
ママ、玆ニ於キマシテ政府ハデス、此儘デ
ハ到底無暴ノ競爭ニ依リマシテ、產業ノ引
合、產業ノ樹直シガ出來能ハザルコトヲ痛
感イタシマシテ、今議會ニ於キマシテ產業
統制法竝ニ同業組合法ノ改正案ヲ提案イタ
シマシテ、兩院ノ協贊ヲ求メタイト思フノ
デアリマス、私ハ敢テ產業合理化ニ付テ、
法律ノ力ニ依テ之ヲ統制スルト云フコトヲ
專ニハ致シマセヌ、勿論民間ノ事業ノ合理
化デアリマスルカラ、當業者ノ自覺、當業
者ノ自省ニ依テ產業合理化ヲ致シ、共存共
榮ヲ講ジテ貰ヒタイト云フコトヲ萬々祈〃
テハ居リマスルガ、或ル當業者ニ依リマス
ルト云フト、當業者ノ自覺、自醒ヲ求ムル
コト難ク、相モ變ラズ統制ヲ保チ能ハズシ
テ無謀ノ競爭ヲ致シ、生產品ノ價格ノ非常
ナル不安定ヲ來タシテ、輸出品ニ付テハ
外、海外ノ信用ヲ失ヒ、內市場ノ信用ヲ失
ヒ而シテ生產家自身ノ共倒レ、共潰レノ
狀態ニ相成ル、之ヲ此儘ニ抛ッテ置キマスナ
ラバ、經濟立直シハ到底望ミ能ハヌト云フ
コトヲ考ヘマスルカラ、玆ニ法ノ力、國家
ノ統制ノ力ニ依リマシテ企業ノ統制ヲ圖
ル、企業ノ立直シヲ圖ルコトニ致シタイト
考ヘテ居ルノデアリマス、國產愛用ニ付キ
マシテ前田子爵ハ優良品選定ニ付テ手續
ヲ過ッタ、ヤリ方ガ間違"テ居ルト云フコト
ノ御話ガアッタノデアリマス、私ハ前田子爵
ハ質問ヲセラルルニ付テ非常ナル調査〓究
ヲ致シテ居ラレタコトヲ考ヘマスル時ニ於
テ前田子爵ハ斯ウ云フ誤解ヲサルルコト
ハ、實ハ私ハ前田子爵ニ十分ナル材料ノ
提供ヲ怠ッテ居ッタト自ラヲ責メルノ外ハナ
イノデアリマス、是ハ大變ナ、實ハ前田子
爵ハ誤解ヲシテ居ラルル私共ハデス、國
產愛用ト云フコトニ力ヲ十分ニ費シテ居ル
ノデアリマス、是ハ前囘ニモ申上ゲマシタ
ツ、今囘ニ於テモ或機會ニ於テ申上ゲタノ
デアリマスガ、我〓共ハ外國ノ品物······我
我共ノ今日ノ工業能力、今日ノ技術ノ程度
ニ於テ、外國品ヲ買ハヌデモ、國內品デ十
分間ニ合フモノガ昭和三年、四年ノ輸入統
計ノ中ニ於テ凡ソ六億アルノデアリマス、
此六億ヲ國民諸君ガ目醒メテ、我國ノ品物
ヲ消費シテ吳レルナラバ、玆ニ六億ノ輸入
ヲ防遏スルコトガ出來ル、玆ニ六億ノ生產
業ヲ我國ニ起スコトガ出來ルノデアリマス
ルカラ、之ヲ狙ッテ我〓共ハ國產愛用ノ運動
ヲ起シテ居ルコトハ申上ゲルマデモナイノ
デアリマス、ソレ故ニ是ニ付キマシテハ先
ヅ第一ニ何ガ優良カ、何ヲ使ッタラバ、外國
ヨリハコッチノ方ガ宜イカト云フ、之ヲ國民
ニ知ラサナケレバナラヌ、知ラスニハ「パン
フレット」モ必要デアルシ「ポスター」モ必要
デアルガ目カラ現實ニ品物ヲ入レル、所
謂外國品ト國產品ノ對比博覽會ヲ開ク、展
覽會ヲ開イテ之ヲ各地ニ開催ヲ致シテ、各
國民諸君ニ之ヲ見セルト云フコトガ一番手
取早イト云フコトヲ以テ、此所謂對比展覽
會ヲ致シタノデアリマス、此對比展覽會ヲ
致スニ付テ國內品デハ、然ラバ何ガ優良デ
アルカト云フ選定ヲ致サナケレバナラヌコ
トニ相成リマスルカラ、產業合理局ニ於キ
マシテ特別ニ委員ヲ選ビマシテ、專門家ノ
委員ノ主催ノ下ニ、其ノ優良品展覽會ニ提
出ヲスル國產品ノ內ノ選別、選リ別ケヲ致
シタノデアリマス、此時ニ、或第一囘ノ對
比展覽會ニ、之ヲ出品ヲ致シマスルニ付テ、
選別ヲスルノニ委員會ノ決定ニ基イテ品物
ヲ局限シマシテ、大キナ品物ハマサカ各地
ニ運搬ヲ致シテ展覽スルニハ不便デアル
又同ジ品物ヲ澤山出シテモ是モ不便デア
ル、卽チ一ツノ種類ニ對シテ凡ソ三點カ五
點カヲ選拔シテ、此內ヲ選ンダノデアリマ
ス、此選定ノ結果ガ世間ニ漏レタ時ニ、同
ジ品物デモ、アノ品物ヨリ決シテ劣ラヌ品
物ガ私ノ方ニアルノデアル、何故之ヲ選拔
シテ呉レヌカト云フ苦情ガ起ッタノデアリ
マス是ハ優良品デアリマス、同ジク優良
品デアリマス、唯第一囘ノ選定ニ付テ、同
ジ例ヘバ品物デ、假ニ化粧品ニ致シマシテ
モ化粧品ハ優良ナルモノハ十數種アル、十
數種ヲ悉ク選ブ譯ニハイカヌカラ、其中ノ三
點カ五點カヲ選定イタシタノデアリマス、所
ガ其選定ニ漏レタモノハ商工省ハ同ジク
優良デアルト見テモ、別ナ品物ヲ優良品ト
シテ商工省ガ裏書ヲシタヤウニナルト選
別ニ漏レタ物ハ優良品ニアラザルト云フコ
トニ相成ルカラ、是デハ我〓ノ商賣ニ困ル、
ソレ故ニ我ミノ品物モ亦商工省ハ優良品ト
シテ選定シテ貰ヒタイ、斯ウ云フ苦情ガ
起ッタノデアリマス、尤モ千萬デアリマス、
若シモ粗惡品ナラバ商工省ハコンナコトハ
顧ミマセヌ、併ナガラ、是モ同ジ優良品デ
アリマス、偶、今申シマス第一囘ノ展覽*
會ノ時ニ出シタ品物ノ中ノ數多クハ出
來マセヌカラ、其中ノ一部分ヲ選拔シ
タト云フ所ニ、大變ニ他ノ同業者間ニ
商賣上困ルト云フコトガ起ッテ參リマシ
タカラ、商賣上困ルノハ尤モ千萬デア
ルカラ、ソレハ一ツ御出シナサイ、選定
シマセウト云フノデ數多ク出シタ物ノ
中カラ選ンダノデアリマシテ、前ニ劣ラ
ヌ品物ヲ優良品ト選定シタノデアリマス、
決シテ前ノ品物ノ標準ヲ低クシタノデモナ
ケレバ、決シテサウ云フ苦情ガアッタカラ
粗惡品ヲ選ンダ譯デハナイ、此點ガ今申シ
マスル通リニ、前田子爵ノ御調ベガ失禮ナ
ガラ御粗漏ガアッタ、又我ミノ御說明申上ゲ
ルノガ十分デナカッタコトヲ深ク感ズルノ
デアリマス、斯ウ云フ譯デアリマシテ、我
我ハ現ニ國民諸君ニ斯ウ云フ品物ガアル
リ、舶來品ト對比シテ劣ラヌゾト云フコト
ヲ各地ニ展覽會ヲ開催致シマシテ、之ヲ廣
ク觀セテ居ルノデアリマス、今囘ノ第一回
ノ大凡ノ全國的ニ各地ニ於テ此展覽會ノ開
催ヲ終リ第二囘ニハ更ニ品物ヲ選ビ、更
ニ展覽會ヲ開催シテ、出來ルダケ國民諸君
ニ國產品ト云フモノハ決シテ以前ノヤウ
=·····舶來品ヲ偏重愛用スルコトニシテハ
イカヌゾト云フコトヲ、國民諸君ノ觀念ニ
於テ隋性的ニ間違ッタ所ヲ是正スル爲ニ努
力イタシテ居ルノデアリマス、而シテ成績
ハドウカ、是モドウモ先キ申上ゲマシタ通
リニ、國民運動ノ成績ト云フモノガナカ
ナカ短時間デハ成績ガ上ガリマセヌケレド
モガ併シ此處ニ調査イタシマシタモノガ
アルノデアリマス、ソレハ昨年ノ夏時分カ
ラ國產愛用ノ運動ヲ起シマシテ、各地ニ今
申シマスガ如ク展覽會ヲ開キ「パンフレツ
ト」ヲ發行シテ、況ヤ又是ハ朝日新聞、日々
新聞ハ非常ニ此運動ニ共鳴ヲシテ吳レマシ
テ、日々新聞ノ如キモノハ是ガ爲ニ特ニ
飛行機ヲ飛バシテ各地ニ宣傳ヲスルト云フ
ガ如キヤウナコトヲヤッテ居ッタノデアリマ
ス又標語ヲ募集ヲ致シテ各地ニ宣傳ヲス
ルト云ッタ如キコトヲヤッテ居ッタノデアリ
マス、日本商工會議所、東京商工會議所モ
同ジク商工省ノ運動ニ共鳴ヲ致シマシテ、
自己ノ費用ヲ支出シテ迄、此點ニ付テハ非
常ニ運動ヲ致シテ居シタ、又現在、致シテ居
ルノデアリマス、斯ウ云フ爲デアリマスル
カ、先ニ商工省ガ國產品ヲ以テ輸入品ニ代
用シ得ルト云フモノガ六億アルト云フコト
ヲ申上ゲマシタガ、其ノ所謂代用品ノ中ノ
無論工藝品デアリマス······工業品デアリマ
ス、工業品ノ中ノ主モナル工業品ノ百十五
種類、百十五種類ヲ選ビマシテ百十五種
類ノ中昨年ノ輸入、一昨年、一昨々年ノ輸
入ト幾許、輸入價額ニ、輸入狀況ニ相違ガ
アッタカト思ヒマシテ、調ベテ見マスルト
云フト、其代用シ得ルトセラレマシタ所ノ
百十五種類ノ輸入物ニ付キマシテ昭和三年
度ニ比ベマスルト四割三分、昭和四年ニ比
ベマスト四割二分ノ輸入減退ヲ見テ居ルノ
デアリマス、全體ノ輸入額デハアリマセ
又、百十五種類ノ品目ニ限ッテ輸入金額ヲ
調ベテ見マスルト斯ウ云フ成績ニアリマ
ス、是ガ全部ガ國產愛用ノ結果トハ決シテ
申シマセヌ、ソレハ日本ノ不景氣ノ爲ニ購
買力ガ減退ヲ致シマシテ、其中ニ西洋ノ物
ヲ買ヒタイト思ッテモ購買力ノ減退ノ結果
買ヘヌモノモ、此統計數字ノ上ニハ無論現
ハレテ參リマス、併ナガラ兎モ角モ昭和三
年、昭和四年度ノ輸入品ニ比ベテ見テ、昭
和五年度ノ輸入價格ガ、百十五種類ニ限リ、
四割三分、四割二分ノ減退ヲシテ居リマ
ス、是ハ金額ハ約二億圓內外デアリマス、
斯ウ云フ成績デアリマスルカラ、是ガ然ラ
バ其中ノ何割、金額ニシテ何千万圓ガ國產
愛用ノ結果デアルカト云フ計數ハ、是ハ中
中ムヅカシウゴザイマスルケレドモガ、以
テ國產愛用ト云フモノガ單リ商工省ノ合理
局ノ力ダケデバアリマセヌ、全體ノ人ノ共
鳴全體ノ人ノ協力ノ結果トシテ、斯ウ云
フ結果ニナッテ居ルト云フコトヲ中上ゲタ
次第デアルノデアリマス、是ハ同時ニ私ハ
商工省ノ此仕事ニ共鳴協力サレタ所ノ各個
人若クハ團體ノ諸君ニ大イニ敬意ヲ拂ハナ
ケレバナラヌノデアリマス、而シテ前田子
爵ハ國產愛用ヲスルニ付テ外國カラ苦情ガ
アル是ハ當然ダ、ダカラシテ少シ考ヘタ
ラドウダト仰セラレタコトガアッタヤウデ
ゴザイマスガ、是ハ前田子爵少シ御考ヲ願
ヒタイ、今日世界的ニ生產超過ニ苦シンデ
居ル各國ガ、如何ニ各國ニ於テ國產愛用ノ
猛運動ヲ起シテ居リマセウ、我ガ國ガ僅カ
六万ヤ七万圓ノ金ヲ以テ運動ヲ起シテ居ル
ノハ我ガ國ガ實際恥カシイ英吉利ノ如キ
ハ何百万圓ノ金ヲ使シテ國產愛用ノ猛運動
ヲ起シテ居リマス、或ハソレハ前田子爵モ
御承知デアラウト思ヒマスガ、是ハ當然デ、
自己ノ生產過剩ニ苦ンデ居ル此際ニ、外國
カラ品物ヲ入レテ、自國ノ品物ノ消化ヲ國
内ニ於テスルコトヲセズシテ、自國ノ品物
ノ消化ヲ妨ゲルト云フコトヲスルト云フコ
トハ、自國ノ經濟カラ論ジマスルト、是一
捨テ置ケヌ、ドウシテモ是ハ輸入ヲ防遏シ
輸出ヲ奬勵ヲシテ、國內ノ工產品ノ十分ナ
ル消化ヲ圖ルノ外ハアリマセヌノデアリマ
ス、ソレ故ニ各國共自國產ヲ奬勵シテ他國
產ヲ排除スル働ヲ是ハミンナヤッテ居ル、
私ハ此爲ニ、各國ガ何レモ、我ガ國ガ斯
ウ云フ運動ヲスルコトノ爲ニ、國際的感情
ヲ害シテ日本ガ迷惑ヲスルヤウナ惡影響
ガ來タルモノトハ、決シテ存ジマセヌ、卽
チ何トナレバ、各國共ヤッテ居ルノデアル、
又各國共自己ノ經濟政策ヲ樹テル上ニ於テ、
自己ノ工業ノ存立ヲ立テル上ニ於テ、是
ハ當然ノ仕事デアルト思フノデアリマス
外國ノ品物ヲ買ヲテ外國ノ勞働者ヲ救濟ヲ
スルヤウナコトヲシマスルヨリハ、我ガ國
ハ今日失業ニ困ヲテ居ル、國民諸君ハ宜シク
玆ニ目覺メラレテ、我ガ國ノ工產品ヲ愛用
サレテ、我ガ國ノ失業者ヲ救濟スルト云フ
コトニ十分御共鳴ヲ願ヒタイト切ニ希望イ
タス次第デアリマス、或ハ前田子爵ノ御質
問ニ對シテハ御不滿カ知レマセヌガ、一應
ノ御答ヲ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=78
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079・前田利定
○子爵前田利定君 簡單デスカラ、此席カ
ラ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=79
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080・近衞文麿
○副議長(公爵近衛文麿君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=80
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081・前田利定
○子爵前田利定君 先ヅ幣原首相代理ニ對
シマシテ申述ベマス、幣原首相代理ノ御答
辯ニ依リマスト、人心ガ安定シタト云フコ
トハ、財界ガ略、安定ヲシタト云フ意味デア
ルンダ、世相ノ洵ニ凄慘ヲ極メテ居ル點ニ
付テハ同ジク憂ヒテ居ル、斯ウ云フ御話
デアリマス、併シ私ハ率直ニ又眞摯ニ演
說······施政方針ノ演說ノ字句ヲ拜聽イタシ
マスト是ハ速記錄ヲ御覽ニナリマスレバ
オ分リニナルコトデアリマス、人心ノ安
定······人心ガ安定スルニ至ッタト云フコト
ガ明カニ述ベラレテ居ルノデアリマス、ソ
レハドチラデモ宜シウゴザイマス、財界ガ
安定スレバ、從ッテ人心ハ安定スルノデアリ
マスカラ、今ノ人間生活ハ經濟ガ本デアリ
マスカラ、財界ガ安定シマスレバ從"テ人心
モ安定スル結果ニナルノデアリマスカラ、
ドチラデモ宜シウゴザイマスガ安定スル
ニ至ッタト云フコトハ、斷乎タル言葉ノ句切
リニナッテ居ルノデアリマス、人心ガ安定ス
ルニ至ラムトスト云フコトデアリマスナラ
バ、前ニ漸次ト云フ御言葉ガアリマスカラ、
漸次安定スルニ至ラムト云フ御言葉デゴザ
イマスレバソコニ餘裕ガアリマスケレド
モ安定スルニ至ッタト、斯ウ云フコトヲ斷
言サレテアルノデアリマス、ソレ故ニ普通
ノ文書デアリマスレバ、私ハ彼レ此レ申ス
ノデハアリマセヌ、先程モ申上ゲマシタ通
リニ、莊嚴ナル嚴肅ナル重要ナル國務ノ文
書デアリマス而シテ廣ク政府ノ施政方針
ノ演說トシテ中外ニ發表サレルモノデアリ
マスカラ、一字一何モ苟クモスベカラザル
モノデアルコトハ御承知ノ通リデアリマ
ス、而シテ安定スルニ至ッタト仰セラレマス
ト、人心ガ安定シタト云フコトヲ御認メニ
ナッタト云フコトニ歸著スル次第デアリマ
シタノデ、私ガソレニ付テ申述べタ次第デ
アリマスケレドモ、併シ先刻ノ御答辯ノ內
三·日、金杉博士ノ質疑ニ對スル御話ノ內ニ
モ、世相ノ險惡ナコトニ付キマシテハ憂
ヲ同ジウセラルヽノ御言葉ガアリマシタ、
此點ハ私ハ追究イタシマセヌ、ソレカラ兎
角ニ大藏大臣ト云ハズ、首相代理ト云ハズ、
外國ノ不景氣ヲ非常ニ御引用ニナル、外國
ガ不景氣ダカラトカ、外國ニ非常ニ失業者
ガ多イカラトカ、ソレニ比ベルト日本ハソ
レ程デナイトカ、外國ガ斯ウデアルカラ、
日本ガ辛抱シロトカ一々外國ノコトヲ御
引張リニナリマスガ、如何ニ世界ガ不景氣
デアラウト、何デアラウト、日本ハ日本ト
シテノ國策ヲ樹ッテ、所謂經國濟民ノ國策ヲ
ナサレヌケレバナラヌト私ハ思フノデアリ
マス、徒ニ外國ノイヤ、世界ノ不景氣ヲ御
引用ニナッテ、辯疏サレルヤウナ御答辯ニ接
スルコトハ甚ダ遺憾ト存ズル次第デアリ
マス、且ツ又私ノ質問、質疑ノ要點トシテ
御尋ネ致シマシタル貴族院ノ建議案ニ付テ
ノ御取扱ニ付テ伺タタデデアリマスガ、之ニ
對スル明確ナ御答ガナイ、サウシテ見マス
レバ、政府ガ建議案提出以來今日マデ實施
サレツツオ出ニナリマシタ諸施設ハ有效
適切ナルモノデアル、斯ウ御認メニナリマ
スカ、唯一言ノ御答ニ接シタイト思ヒマス、
商工大臣ニ對ウテ更ニ申述ベマスガ、商工
大臣ハ私ガ演壇デ申述ベマシタ演說ニ付
テ、間違シテ御聽取リニナッテ居ルノデアラ
ウト私ハ思フノデアリマス、私ハ產業合理
化ニ付テモ、國產愛用ノ奬勵ノ運動ニ付テ
モ、之ヲ否認スルモノデハアリマセヌ、其趣
旨ニ付テハ決シテ異存ハナイノデアリマ
ス、ソレ故ニ明カニ私ハ演說中ニ申シテ居
ルノデアリマス唯如何ニモ政府ノ效能ヲ
御述べニナルコトガ實行ニ非常ニ過ギテ
居ルト云フ點ニ付キマシテ御尋ネ致シタノ
デアリマス、仰セノ通リニ綿縮、縞三綾ノ
統制ノ出來上ッタト云フコトハ成功ダト云
フコトヲ、私モ認メテ居リマス、私ノ演說
中ニモ申上ゲテ居リマス、其他ノモノハ何
ニモ出來テ居ヤシナイト云フコトヲ申上ゲ
タノデアリマス、又合理化ト云フコトニ付
キマシテハ、理想トシテ洵ニ結構ナコトデ
アルト云フコトハ申述べテ居ルノデアリマ
ス、唯此遂行ニ付テハ、餘程用意周到ニナ
サラヌト徒ニ失業者ガ續出シ、資本家偏
重ノ嫌ヒニ陷ル、所謂勞資ガ共存共榮スル
ト云フコトニ付テ、ドウモ理想ノヤウニウ
マク行カナイ、行カナイカラ行クヤウニナ
サラナケレバイカナイ、是ニ付テノ御努力
ト、御用意ノアラムコトヲ私ハ希望シテ居ッ
タノデアリマス合理化其モノヲ私ハ頭カ
ラ否認シテ居ルノヂヤアリマセヌ、又國產
品ノ愛用奬勵ト云フコトニ付キマシテモ
決シテ私ハ趣旨トシテハ、私ハ不贊成ヲ申
シテ居ルノヂヤアリマセヌ、唯如何ニモ商
工省ノ執ラレタ態度ガ、國產優良品ト云フ
初メ銘デモ打チサウナ有樣デアッタノガ、對
比見本ト云フヤウナモノニナッテ、積極的ニ
奬勵ヲサレナイ、其優柔ナル態度ニ付テ、
私ハ御非難申上ゲタ、其優柔ナル態度ニナッ
タト云フノハ、御心ノ中ニハ外國品ヲ成べ
ク買ハヌヤウニ、國產品ノ良イモノヲ買ウ
ヤウニト云フコトヲ、腹ノ中ニハ御持チニ
ナッテ居ルケレドモ、併ナガラ兎ニ角商賣ト
云フモノハ國際的ノモノデアリマスカラ、
ソレニ御氣兼ネニナッテ居ルノヂヤナイカ、
又今日ノ法規ニ於テハ私有財產ヲ認メテ居
ルノデアルカラ、法律ノ力ニ依ラズシテ、
或ル品物ヲ保護シ、或ル生產品ヲ特ニ擁護
スルト云フヤウナ態度ニ出ルト云フコトハ、
著シイ問題モ生ズルコトデアルカラ、ソン
ナコトニ御氣兼ネニナッテ、サウシテ勇往邁
進サレナイノヂヤナイカ、併シサウ云フコ
トハ初メカラ分リ切ッタコトデアルカラ、最
初出發サレル時ニサウ云フ風ナコトニ付テ
モ十分ニ御考慮ニナッテ、眞ニ此產業經濟ノ
大道ノ上ヲ濶步ナサッテ、國產愛用ノ奬勵ヲ
立直シニナッタラ宜イト云フコトヲ申上ゲ
タノデアリマス、國產愛用ノ奬勵ガイカヌ
ト云フコトハ寸毫モ申シテ居ルノデハアリ
マセヌ、尙又商工大臣ハ長ミシク御演說ニ
ナリマシタケレドモ、多クハ合理化ヤ國產
奬勵運動ノ矢張リ是モ亦御吹聽ガ多イノデ
アリマス、私ハ其實蹟ガドウデアルカト云
フコトヲ伺ヘバ足リルノデアリマス、又輸
入ガ大分減ッタト仰セラレマスガ、是ハ商工
大臣自分デ御告白ガアル通リ、此一月ノ
本年一月ノ貿易ハ平年ニ比ベテ見マシテ、
輸入貿易ハ五割減ニナッテ居ルノデアリマ
ス、國產愛用奬勵運動ノ效果デアッタカドウ
カハ存ジマセヌガ、日本ノ商工業ガ萎靡シ
タ結果、貿易ガ不斷ヨリモ五割モ下ッテ居
ルノデアリマス、ソレデアリマスカラ、今
何十種カ御數ヘ立ニナッタガ、果シテ國產
愛用奬勵ノ結果デアルカ、商工業萎靡不振
ノ結果デアルカ分シタモノデハナイノデア
リマス、モット明カナ御說明ガナケレバ私
ハ諒解ガ出來マセヌ、要シマスルノニ商工
大臣ノ御答辯ニ對シマシテ、先程私ガ孔
子ノ言ヲ申上ゲマシクガ、ドウカ行ヒ
ニ敏ナラムコトヲ願ヒタイト思フノデ
アリマス、御吹聽ハ大分モウ、宣傳ヤ
御吹聽ハ聞厭イテ居ルノデアリマス、私等
ガ昨年會議ニ贊成イタシマシタ建議案ガ、
如何ニ政府ノ御頭リニソレガ映ッテ居ルカ、
其點ヲ明確ニ伺ヒタイト思ッタノデアリマ
スガ、其點ニ付キマシテハ伺ヘナカッタ、私
ハ試ミニ政府ニ御力ガナイカ、策ガナイノ
カ、或ハ能力ガナイノカ、或ハ誠意ガナイ
ノカ、私ハ思フニ外ノコトハ具足サレテ居
ラレルケレドモ、誠意ガナイノヂヤナイカ
ト云フコトヲ、私ノ質問ノ道行トシテ伺ッテ
居ルノデアリマスガ、是ニ對シテ明確ナ御
答ヘガナイ、申上ゲル迄モナク、貴族院ハ
衆議院ト違ヒマシテ、建議案ト云フモノハ、
サウ御土產的ニ出スモノヂヤアリマセヌ、
其議會ヲ通ジマシテ重要ナルモノデ、且ツ
國家社會ノ爲ニ一日モ忽セニスルコトガ出
來ナイト云フモノニ付キマシテ、各派ガ相
一致シマシテ、貴族院ノ意思トシテ、全意
思トシテ提出スルノデアリマス、デ政府ニ
置カレマシテハ、此建議案ニ付テ、無視サ
レルナラバソレデ宜シウゴザイマス、無視
サレルト云フコトナラソレデ宜シウゴザイ
VV、デアルガ無視サレルノデハナイ、-
體ソレハドウ取扱ヲテ居ラレルノデアルカ、
其取扱ノ御考ヘガ少シモ分ラナイ、ソレ故
二、此點ニ付テ、若シヤ誠意ガアラレナイ
ノヂヤナイカト云フコトマデ、甚ダ御推量
申上ゲテ失禮デアリマスケレドモ、ドウモ
外ニ原因ガナイノデアリマスカラ、其邊ヂ
ヤナイカ、斯ウ同ッタノデアリマスガ、ソレ
ニ對スルドウカ一點ノ御答ヘヲ幣原首相代
理ニ伺ヘバコト足リルノデアリマス
〔國務大臣男爵幣原喜重郞君演壇ニ登
ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=81
-
082・幣原喜重郎
○國務大臣(男爵幣原喜重郞君) 御答ヲ致
シマス、御間ヒニナリマシタコトニ付キマ
シテ當院ノ御建議ニナリマシタコトニ付
テ、政府ハ決シテ之ヲ等閑ニ付スルト云フ
意思ハ持ヲテ居ナイノデアリマス、又サウ云
フ事實モナイノデアリマス、我〓ハ先刻モ
申述ベマシタ通リ、此建議案中ノ二ツノ問
題ニ付キマシテ、斯ク斯クノ施設ヲヤッテ來
テ居ルト、ソレヲ竝ベマシテ御答辯申上ゲ
タノデアリマス、其述ベマシタル所ノ施設
ガ有效適切デナイト云フ御批評デアッタノ
デアリマスガ、有效······然ラバ有效適切ナ
ル施設方策ト申サレルノハドウ云フコトデ
アリマスルカ、私ハ伺ハナカッタノデアリ
マスケレドモ、併ナガラ有效適切ト中シマ
シテモ、先刻ノ人心ノ安定ト云フノト同ジ
ヤウニ絕對的デハアリマセヌ、相對的デア
リマス、私等ハ今日ノ財政其他ノ事情ノ許
ス範圍內ニ於テ、出來得ルダケノ施設ヲ、
誠意ヲ以テ、眞面目ニ之ヲ行ウテ居ル、其
證據ト致シテ、我とノ採ッテ居ル施設ヲ先刻
モ申上ゲタノデアリマス、絕對的ニハ有效
適切トハ申サレヌカモ知レマセヌケレド
モ、今日ノ事情ノ許ス範圍内ニ於テハ先
ヅ有效適切ナル施設ヲ致シテ居ル積リデア
リマス、是ダケデ御諒解ヲ願ヒタイト思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=82
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083・前田利定
○子爵前田利定君 幣原首相代理ハ貴族
院ガ建議案ヲ提出後今日ニ至ルマデノ間ニ
於キマシテ、政府者トシマシテハ有效適
切ナル措置ヲ兎ニ角採ッテ居ラレルモノト、
自分ハ御認メニナッテ居ラレルヤウデアリ
マス併シ此點ニ付キマシテハ私ノ質疑
ニ對スル政府當局ノ御答へ、是ニ付テ滿場
ノ議員諸君ハ、如何ニ本建議案提出ノ實際
ノ世相、社會相ニ照シテ、政府ノ施設ニ依ク
テドレダケノ不案ガ除去サレタカ、ドレダ
ケノ人ガ救濟サレタカト云フコトニ付テノ
公正ナル御批判ハ諸君ニ御委セスルコトニ
致シマシテ、此以上幣原首相代理ニハ追究
イタシマセヌ、唯一言幣原首相代理ニ申上
ゲテ置キマスルコトハオ前ノ方デハ何ニ
モ考ヘテ言ハヌヂヤナイカト云フヤウナ御
話ガアリマシタガ、是ハ、是ト丁度同ジコ
トガ昨年ノ貴族院ノ會議ニ現レマシテ、國
務大臣ノ御名前ハ忘レマシタケレドモ、竹
越與三郞君ニ對シテ、オ前ノ案ヲ示サナイ
ヂヤナイカ、オ前ノ方ニ案ヲ持合セガナイ
ヂヤナイカト云フコトヲ以テ逆襲セラレ
ク、其時ニ竹越與三郞君ノ更ニ答ヘラレタ
言葉ハ誠ニ私ハ涼シク、痛快ニ感ジタコ
トデアリマス、ソレヲ今更ラ繰返スモノデ
ハアリマセヌガ、爲政者トシテハ當然爲ス
ベキコトデハアリマセヌカ、策ガナイカラ
策ヲ御聽キニナルト云フコトデアリマスル
ナラバ我〓議員ト致シマシテハ、御相談
ニ與ルコトモアリ與カラナイコトモアルト
云フコトヲ竹越與三郞君ガ答ヘラレマシタ
ガ其通リ、我〓議員ハ、議員自ラガ立法
スル場合モアリマスケレドモ、必ズシモ立
法シナクテモ宜シイモノデアリマス、立案
スル場合モアリマスケレドモ、必ズシモ立
案スルノ義務ハナイモノデアリマス、政府
ガ議員ニ向ッテ策ヲ授ケテ吳レロト云フコ
トヲ要望サレルト云フコトハ是ハ策ノ御
持合セガナイト云フコトヲ暴露スルノデア
リマス、左樣ナル御言葉ハ御愼ミニナッタ
方ガ私ハ宜カラウト思ヒマスカラ、此ノコ
トヲ申添へマシテ質問ヲ打チ切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=83
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084・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 本日ハ大分時
間モ經チマシタカラ、是ニテ延會ヲ致シタ
イト存ジマス次ノ議事日程ハ決定次第彙
報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ
散會イタシマス
午後四時四十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02119310225&spkNum=84
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