1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年三月二日(月曜日)午前十時二十五分開議
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議事日程 第二十三號
昭和六年三月二日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第二十二日)
第二 船舶積量測度法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 取引所税法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第四 全國孝子祭制定竝に全國孝子追賞の請願 會議
第五 壽都漁港修築の請願 會議
第六 靜岡縣榛原郡地頭方村に避難漁港築設の請願 會議
第七 常磐線鐵道平驛東部鐵道踏切改修の請願 會議
第八 函館本線鐵道瀧川驛より濱益郡濱益村に至る鐵道敷設の請願 會議
第九 軍人傷痍記章令中改正即行の請願 會議
第十 山陽線鐵道平岡信號所を停車場に變更の請願 會議
第十一 帝國大學に皇漢醫學講座新設の請願 會議
第十二 北海道上川郡江丹別村に停車場設置の請願 會議
第十三 北海道大樹、廣尾間鐵道速成の請願 會議
第十四 東京帝國大學農學部附屬農業教員養成所獨立に關する請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲ
シテ報〓ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
去用二十七日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出
セリ
請願委員會特別報告第四號
同日政府ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタ
ル旨ノ通牒ヲ受領セリ
第五十九囘帝國議會商工省所管事務政府
委員
臨時產業合理局事務官竹內可吉君
第五十九囘帝國議會遞信省所管事務政府
委員
簡易保險局長園田榮五郞君
去月二十八日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ
受領セリ
市制中改正法律案
町村制中改正法律案
府縣制中改正法律案
北海道會法中改正法律案
同日政府ヨリ左ノ通政府委員仰付ケラレタ
ル旨ノ通牒ヲ受領セリ
第五十九囘帝國議會通信省所管事務政府
委員
遞信省管船局長候爵廣幡忠隆君
本日地方鐵道補助法中改正法律案特別委員
會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ氏名左ノ
如シ
委員長候爵德川賴貞君
副委員長子爵新庄直知君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ今日ノ會
議ヲ開キマスヽ本日モ議事ノ都合上、日程
變更ニ關シ御意見ヲ伺ヒマス、日程第一ヲ
日程第十四ノ後ニ致シタイト考ヘマス、御
異存ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家違君) 日程第二、船舶
積量測度法中改正法律案、政府提出、第
讀會、遞信大臣
船舶積量測度法中改正法律案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和六年二月二十六日
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞
司法大臣子爵渡邊千冬
大藏大臣井上準之助
商工大臣俵孫
農林大臣町田忠治
遞信太臣小泉又次郞
船舶積量測度法中改正法律案
船舶積量測度法中左ノ通改正ス
第一條船舶ノ積量ハ船舶ノ內法容量ヲ
測度シ之ヲ定メ容積ノ單位ハ立方メー
トルトス
第二條乃至第四條、第六條及第七條中「量
噸甲板」ヲ「測度甲板」ニ、「噸數」ヲ「積量」
ニ、「總噸數」ヲ「總積量」ニ、「登簿噸數」
ヲ「純積量」ニ改ム
第八條總積量又ハ純積量ヲ噸(三百五
十三分ノ千立方メートル)ヲ以テ表シ
タルモノヲ夫夫總噸數又ハ純噸數トス
第九條ノ二主務大臣ハ長二十メートル
未滿ノ船舶ノ積量ノ測度ニ付第二條乃
至第七條ノ規定ニ拘ラス別段ノ規定ヲ
設クルコトヲ得
附則
第一條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之
ヲルメ
第二條從前ノ規定ニ依リ測度シタル船
舶ノ總噸數又ハ登簿噸數ハ各之ヲ本法
ニ依リ測度シタル總噸數又ハ純噸數ト
看做ス
第三條從前ノ規定ニ依リ石數ヲ以テ積
量ヲ表示ツタル船舶ノ積量測度ニ付テ
ハ主務大臣ノ定ムル所ニ依リ其ノ積量
ヲ改測スル迄仍從前ノ規定ニ依ル
第四條他ノ法令中登簿噸數トアルハ之
ヲ純頓數トス
第五條船舶ガ本法施行ノ結果登記登錄
ノ變更又ハ抹消ヲ要スル船舶ト爲リタ
ル爲其ノ登記登錄ヲ爲ス場合ニ於テハ
登錄稅ヲ課セズ本法施行ノ際登記登錄
ヲ要セザル船舶ガ本法施行ノ結果新ニ
登記登錄ヲ要スル船舶ト爲リタル爲其
ノ登記登錄ヲ爲ス場合亦同ジ
第六條所有權及船舶管理人以外ノ事項
ニ付登記アル船舶ガ本法施行ノ結果登
記スベカラザル船船ト爲リタルトキト
雖モ仍其ノ事項ニ付登記ノ存スル間其
ノ事項ニ關スル登記及所有權ニ關スル
登記ヲ爲スベキモノトス
船舶ニ設定セラレタル質權ハ該船舶ガ
本法施行ノ結果登記スベキ船舶ト爲リ
タルトキト雖モ其ノ效力ヲ害セラルル
コトナシ
〔國務大臣小泉又次郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=4
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005・小泉又次郎
○國務大臣(小泉又次郞君) 只今議題ト相
成リマシタル船舶積量測度法中改正法律案
ノ提案理由ヲ說明イタシマス、現在船舶ノ
積量ハ百立方呎ヲ以テ一噸ト致シ、例外ト
致シマシテ日本形石數船ニ限リ十立方尺ヲ
一石ト致シマシテ、卽チ二ツノ單位ニ依ヶテ
測度シテ居ル譯デアリマスルガ、今般改正
度量衡法ノ趣旨ニ從ヒ、「メートル」法ニ依
リ測度スルコトニ改メ、依,テ得タル總積量
ヲ、從來ノ百立方呎ニ相當スル所ノ三百五
十三分ノ千立方「メートル」ヲ一噸トスル噸
數ニ換算シテ、表示スルコトニ改正シヤウ
トスルノデアリマシテ、是ガ本改正案提出
ノ主ナル理由デアリマス、從ヶテ本案ニ依リ
マスレバ石數ニ依ル積量ノ表示方法ハ今
後存立セザルコトトナルノデアリマスルガ、
本來石數船ナルモノハ過渡的ノ存在ニ過ギナ
イモノデアリマシテ、今日ノ現況ト致シマ
シテハ、此表示方法ヲ廢止イタシマシチ
モ、何等差支ナキモノト考ヘテ居ルノデアリ
マスル、尙ホ小型ノ船舶ニ付キマシテハ諸
般ノ關係等ニ於テ、〓ネ大型ノ船舶トハ區
別シテ取扱ッテ居リマスルノデ、積量測度ニ
付テモ亦同樣ニ致スコトガ適當デアルト認
メマシテ、長サ二十「メートル」未滿ノ船舶
ニ限リ、主務大臣ニ於テ別ニ簡易ナル方法
ヲ定メ得ルコトニ致シテ居ルノデアリマス
ル、其他ハ字句ノ整理、若クハ經過的規定
ニ過ギナイノデアリマス、仍テ何卒御審議
ノ上速ニ御可決アラムコトヲ切望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家違君) 別ニ御質疑モナ
イト認メマスカラ、本案ノ特別委員ノ氏名
ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
船舶積量測度法中改正法律案特別委員
侯爵佐竹義春君伯爵酒井忠克君
子爵西大路吉光君子爵秋元春朝君
桑山鐵男君男爵深尾隆太郞君
板谷宮吉君大城兼義君
松本勝太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=6
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007・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第三、取引
所稅法中改正法律案、政府提出、衆議院送
付、第一讀會、小川大藏政務次官
取引所稅法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年二月二十六日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家達殿
取引所稅法中改正法律案
取引所稅法中左ノ通改正ス
第五條第一項中「第三種商品ノ賣買取
引萬分ノ二·五」ヲ
「第三種商品ノ賣買取引
甲銘柄又ハ等級別ニ相對賣買ノ方法
ニ依リテ行ヒ履行期ニ於テノミ差金
ノ授受ニ依リテ決濟ヲ爲シ得ル取引
ニ屬スルモノ萬分ノ一·二五
乙其ノ他ノモノ萬分ノ二·五」
三九六
第二十二條中「北海道府縣、市町村及北
海道沖繩縣ノ區」ヲ「北海道府縣及市町村」
三六六
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員小川〓太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=7
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008・小川郷太郎
○政府委員(小川〓太郞君) 只今議題トナ
リマシタ取引所稅法中改正法律案ニ付テ大
體ノ說明ヲ致シマス、今囘取引所ニ於ケル
商品ノ現物取引ヲ圓滑ニシ、現物業者ノ取
引所利用ヲ便ナラシムルガ爲メ、其商品取
引中ニ、新ニ銘柄又ハ等級別ニ、相對賣買
ノ方法ニ依リテ行ヒ、履行期ニ於テノミ差
金ノ授受ニ依リテ決濟ヲ爲シ得ル取引ガ、
加ヘラルルコトニナルノデアリマスガ、此
取引ハ普通ノ〓算取引ト異リマシテ、賣買
及其決濟上種々ノ制限ヲ附セラレ、比較的
投機性ニ乏シイモノデアリマスカラ、現行
ノ商品取引ノ稅率ヨリ低イ所ノ新稅率ヲ設
クル必要ヲ認メマシタノデ、本案ヲ提出シ
タ次第デアリマス、何卒御審議ノ上、速ニ
御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 此案ニ付テモ別
ニ御質疑ハナカラウト存ジマスカラ、特別委
員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
取引所稅法中改正法律案特別委員
侯爵松平康昌君子爵松平直平君
子爵舟橋〓賢君男爵小畑大太郞君
室田義文君西野元君
山崎龜吉君野村德七君
濱平右衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=9
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010・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第四ヨリ第
八マデ請願會議
意見書案
全國孝子祭制定竝ニ全國孝子追賞ノ件
京都府葛野郡川岡村〓員鈴木岩人外
十八名呈出
右ノ請願ハ忠孝ノ大義ニ則リ孝道ノ實行
ニ努ムヘキハ我國民ノ常道ナルニ拘ラス
近來民俗ノ頽廢甚シキハ寒心ニ堪ヘサル
ニ依リ全國ニ涉リ孝子祭ヲ制定スルト共
ニ著名ノ孝子ヲ追賞シ以テ思想ノ善導ニ
資セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候
也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
壽都漁港修築ノ件
北海道壽都郡壽都町公吏畑金吉外三
百五十六名呈出
右ノ請願ハ北海道壽都外三郡ノ沿岸ハ鰊
漁業地トシテ古キ歷史ヲ有スルモ近時頓
ニ不振ニ陷リタル爲メ沖合漁業ヲ開發シ其
ノ成績大ニ見ルヘキモノアリ然ルニ附近ニ安
全ナル漁港ヲ有セサルハ斯業ノ發展上甚
タ遺憾ナルヲ以テ客年天然ノ良港タル壽
都港ニ對シ廳費補助ノ下ニ若干ノ設備ヲ
ナシタルモ到底其ノ完璧ヲ期シ難キニ依
リ速ニ國費ヲ以テ之ヲ修築セラレタシト
ノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇
スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十
五條ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
靜岡縣榛原郡地頭方村ニ避難漁港築設
ノ件
靜岡縣榛原郡地頭方村長增田與四郞
外十六名呈出
右ノ請願ハ靜岡縣榛原郡地頭方村ハ附近
沿岸ノ避難港ナルニ拘ラス何等之カ設備
ナク船舶ノ碇繁不安ナルノミナラス遠洋
漁業ノ發達促進上遺憾ナルニ依リ速ニ國
費ヲ以テ天與ノ暗礁ヲ利用シ防波堤ヲ築
設シ以テ同港ヲ漁港トセラレタシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
キモノ〓議決致候因テ議院法第六十五條
ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郎殿
意見書案
常磐線鐵道平驛東部鐵道踏切改修ノ件
福島縣石城郡平町長伏見彥衞外三名
呈出
右ノ請願ハ福島縣平町ノ常磐線鐵道平驛
東部鐵道踏切ハ同町ノ南北交通ノ要路ニ
衝ルノミナラス遠ク小野新町、郡山市ニ
至ル通路ニシテ交通頻繁ナルニ依リ先ニ
跨線橋ノ架換ヲ以テ多少ノ便利ヲ見タリ
ト雖モ未タ通行上ノ不安著シキハ住民ノ
不利不便甚シク遺憾ナルニ依リ同踏切ハ
之ヲ地下道又ハ跨線道路ニ改修セラレタ
シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郎殿
意見書案
函館本線鐵道瀧川驛ヨリ濱益郡濱益村
ニ至ル鐵道敷設ノ件
北海道濱益郡濱益村商伊藤善八外六
百八十八名呈出
右ノ請願ハ函館本線鐵道瀧川驛ヨリ濱益
郡濱益村ニ達スル鐵道ヲ敷設スルハ沿線
地方住民多年ノ希望ナルノミナラス亦有
望ノ線路ナルニ依リ之ヲ實現セラレタシ
トノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採
擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第六
十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郎殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是等ノ請願ハ、請
願委員長ノ報告通リデ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=12
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013・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第九ヨリ第
十四マデ、請願、會議
意見書案
軍人傷痍記章令中改正卽行ノ件
德島縣美馬郡半田町平民加藤作助外
五名呈出
福島縣雙葉郡新山町平民農相樂昌外
十八名呈出
神奈川縣橫濱市中區麥田町平民石田
定五郎外九名呈出
沖繩縣那覇市垣花町農宮里樽外五名
呈出
福島縣若松市馬場平民商金子孫七外
二十七名呈出
福井縣大飯郡和田村理髪業原田蔦治
郞外十一名呈出
宮城縣宮城郡松島町平民池田準治外
五十二名呈出
右ノ請願ハ軍人ニシテ傷痍ヲ受ケ兵役ヲ
免除セラレタル者ハ假令傷痍ノ輕重アリ
ト雖モ兵役義務ニ服シ國家ニ盡スコト敢
テ軒軽ナキニ拘ラス軍人傷痍記章令ニハ
軍人傷痍記章受領者ヲ增加恩給受給者ニ
限リクルハ甚タ遺憶ナルニ依リ該記章ヲ
一時恩給受給者竝ニ無綸與傷痍者ニモ授
與セラルルヤウ速ニ同令ヲ改正セラレタ
シトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ
採擇スヘキモノト議決致候因テ議院法第
六十五條ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵徳川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
山陽線鐵道平岡信號所ヲ停車場ニ變更
ノ件
兵庫縣加古郡平岡村長上田晃外十三
名呈出
右ノ請願ハ兵庫縣加古郡地方ハ戶口稠密
ナルノミナラス產業又隆盛ニシテ交通頻
繁、物資ノ集散夥多ナルニ拘ラス山陽線
鐵道土山、加古川ノ兩驛ハ距離遠ク之カ
利用上不便甚シク地方發展上遺憾ナルニ
依リ兩驛間ニ在ル平岡信號所ヲ停車場ニ
變更セラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ
願意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候
因テ議院法第六十五條ニ依リ別册及送付
候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
帝國大學ニ皇漢醫學講座新設ノ件
東京市牛込區新小川町士族白井光太
郞外百六十三名呈出
右ノ請願ハ皇漢醫學ハ本邦固有ノ風土生
活ニ適應シ臨床的經驗ヲ基礎トシタルモ
ノニシテ古來民命護持ニ貢獻シタルニ拘
ラス維新以來國法的否塞ノ厄ニ遭ヒ〓ヤ
將ニ其ノ傳統モ絕エムトスルカ如キハ〓
學上甚タ遺憾ナルニ依リ帝國大學ニ皇漢
醫學ノ講座ヲ新設シ斯道ノ國家的〓鑽ヲ
進メラレタシトノ旨趣ニシテ貴族院ハ願
意ノ大體ハ採擇スヘキモノト議決致候因
テ議院法第六十五條ニ依リ別冊及送付候
也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
北海道上川郡江丹別村ニ停車場設置ノ
件
北海道上川郡江丹別村長武田源五郞
星出
右ノ満願ハ北海道上川郡江丹別村附近ハ
林產ノ資源豐富ナルノミナラス農耕及ヒ
〓畜ノ恰適地トシテ有望ナルニ拘ラス未
ク停車場ナキ爲メ運輸交通竝ニ拓殖上甚
タ遺憾ナルニ依リ速ニ同村字下江丹別ニ
停車場ヲ設置セラレタタ尙ホ之カ所要ノ
數地ハ地元村ニテ無償提供スヘシトノ旨
趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘ
キモノト議決ヒ候因テ議院法第六十五條
ニ依リ劉册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣臨時代理
外務太臣男爵醫原喜重郎殿
意見書案
北海道大樹、廣尾間鐵道速成ノ件
北海道廣尾郡廣尾村長橋本条之助外
六百十五名呈出
右ノ請願ハ未成線鐵道廣尾線鐵道ノ大
樹帶廣術驛間ハ既ニ開通スルモ大樹、
廣尾間ハ未タ著手セラレス然ルニ財政緊
縮ノ爲メ昭和六年度ニ起工セラレストセ
ハ從〓廣尾郡一圓ノ農產物ハ廣尾港ヲ經
由シタルモノモ悉ク帶廣ニ集散シ他日海
陸運輸連絡ノ便ヲ有スル廣尾港ノ打擊甚
大ナルニ依リ速ニ之ヲ完成セラレタシト
ノ旨趣ニシテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇
スヘキモノト議決致候因テ議院法第六十
五條ニ依リ別册及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
內閣總理大臣臨時代理
外務大臣男爵幣原喜重郞殿
意見書案
東京帝國大學農學部附屬農業〓員養成
所獨立ニ關スル件
京都府相樂郡木津村府立農學校長大
塚孫市外二百八十五名呈出
右ノ請額ハ東京帝國大學農學部附屬農業
〓員養成所ヲ獨立セシメ其ノ整備充實ヲ
圖ルハ優良ナル農業〓員ヲ養成シ以テ將
來益々增加セムトスル該〓員ノ需要ニ應
セシムルモノナルニ依リ速ニ之ヲ實現シ
農業〓育ノ普及ヲ圖ラレタシトノ旨趣ニ
シテ貴族院ハ願意ノ大體ハ採擇スヘキモ
ノト議決數棘因テ議院法第六十五條ニ依
リ別冊及送付候也
昭和六年月日
貴族院議長公爵德川家達
内閣總理大臣臨時代理
外務大臣男傳幣應喜重郞殿発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=13
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014・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 第十一ノ請願ニ、帝國
大學ニ皇漢醫學講座新設ノ請願ト云フコト
ガアリマスガ、之ニ付テ文部大臣若クハ委
員長ニ御尋ネ致シタイト思ヒマス、文部大
臣ガ居ラレナケレバ、總理大臣デモ宜シウ
ゴザイマス、私ハマグ能ク知ラヌノデアリ
マスガ、皇ノ醫學トカ、漢ノ醫學トカ、學
問トシテ帝國大學ニ於テ、若タハ文部省ニ
於テ認メテ居ルノデアリマスカ、醫學ト云
フモノハ無論認メラレテ居ルデアリマセウ
ガ、其醫學ノ外ニ、皇ノ醫學、漢ノ醫學ト
云フノハドンナモノヲ謂フノデアリマス
カ、又其講座ヲ新設スルト云フコトハ政府
ガ同意シテ居ルノカドウカ、是ハ學界ノ問
題デアリマスガ、貴族院ノ請願採擇ノ中ニ、
餘リ今日ノ學術思想ト反シタヤウナ感ジガ
致スヤウナコトガアッテハ相成ラヌト思ヒ
マス、私ハ詳シク存ジマセヌガ、果シテサ
ウ云フモノヲ、帝國大學ナリ若クハ文部省
ニ於テ認メラレテ居ルノカドウカト云フコ
トヲ伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=14
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015・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 阪谷男爵ニ伺ヒ
マスガ、文部太臣ニ質疑ヲナサレルノデア
リマスカ、若シ文部大臣ガ出席ガナケレバ、
請願委員長ニ答辯ヲ煩ハスト云フノデゴザ
イマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=15
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016・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 請願委員長デモ宜シウ
ゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=16
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017・清岡長言
○子爵〓岡長言君 只今デハ、大學ニ於キ
マシテ藥學ノ〓究ハ致シテ居リマスガ、
唯此臨床ナルモメノ〓究ニハ立至ッテ居リ
マセヌガ、併ナガラ必要ト認メルチラバ
成ルベタ臨床、藥學共ニ〓究ヲ進メタイ、
斯樣ナ政府ノ御答辯デゴザイマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=17
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018・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郎君 ソレデハ總理大臣デモ
宜シウゴザイマスガ、只今ノ委員長ノ御答
デハ本員ノ質問ニ適ハヌヤウデアリマス、
皇醫學、漢醫學ト云フモノヲ、學術トシ
テハ一ツノ學術トシテ、文部省ナリ政府
ニ於テ認メテ居ルノカドウカ、醫學ト云フ
モノハ政府ニ於テ認メテ居ルデアリマセウ
ガ、サウ云フモノガ學術トシテ認メラレテ
居ル、其學術トシテ認メラレテ居ルニモ拘
ラズ、其講座ガナイカラ、其講座ヲ新設シ
テ吳レト、斯ウ云フ請願ラシイノデス、私
ハ請願書ノ茲ニ內容ハ持ッテ居リマセヌガ、
其事ニ付テ皇醫學、漢醫學ト云フモノヲ
政府ニ於テ認メテ居ルカドウカト云フコト
ヲ伺ヒタイフデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 阪谷男爵ニ申上
ゲタイト存ジマスガ、今文部大臣ガ出席セ
ラレマシタカラ、阪谷男爵ノ御質疑ヲモウ
一度御繰返シニナッタラ如何デアリマセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=19
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020・阪谷芳郎
○男爵版谷芳郞君 本日ノ請癲第十一
ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=20
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021・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) モウ少シ大キナ
御聲デ願ヒマシタラ、文部大臣ハ喜ブト考
ヘマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=21
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022・阪谷芳郎
○男爵阪谷芳郞君 帝國大學ニ皇漢醫學講
座新設ノ請願ト云フノガアリマス、其皇漢
醫學ト云フノハドウ云フモノデ、サウ云フ
學問ヲ政府ハ認メテ居ラレルノカドウカ、
醫學ト云フモノハ無論認メテ居ラレルノデ
アルガ、其醫學ノ外ニ、獨立シテ斯ウ云フ
皇漢醫學ト云フモノガ學問ヲ成シテ居ルト
云フコトヲ認メテ居ラレルカドウカト云フ
コトヲ質問イタシマス
〔國務大臣田中隆三君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=22
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023・田中隆三
○國務大臣(田中隆三君) 御答イタシマス
ガ、實ハマダ其請願ノコトニ付キマシテ〓
究イタシテ居リマセヌノデ、只今御答ヲ致
シカネマスノデゴザイマスガ、私醫學ノ
コトニ付テハ甚ダ不案内デゴザイマスルカ
ラ、一己ノ輕卒ナ考ヲ御答シテ相濟マヌコ
トト思ヒマスルカラ、只今ハ御答ヘ致シカ
ネルコトヲ御詫ビヲ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=23
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024・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 只今議長ガ宣告
イタシマシタ第九カラ第十四マデノ請願
ハ請願委員長ノ報告通リデ御異存ゴザイ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイモノ
ト認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=25
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026・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第一、國務
大臣ノ演說ニ關スル件、通〓〓ニ依リマシ
テ發言ヲ許シマス、奧平伯爵ノ登壇ヲ求メ
マス
〔伯爵奥平昌恭君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=26
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027・奧平昌恭
○伯爵奧平昌恭君 私ハ本議場ニ於キマシ
テ屢〓論議ヲ繰返サレマシタル此農村問題
ニ付キマシテ、其農村問題ノ質問應答ノ經
過ヲ聽キマシテ、私ハマダ了解イタサナイ
點ガゴザイマス、目又ソレニ伴ヒマシテ、
農村ニ關スル金融機關ノ整備ノ點、且又先
日前田子爵ノ御質問ニ對シマシテ總理大臣
ガ御答辯ニナッテ居リマスル此人心安定ト
經濟ノ關係ニ於キマシテ、相對的ノモノデ
アルト云フコトニ付キマシテ、大體ニ於キ
マシテハ此三點ニ付キマシテ御質問ヲ致サ
ウト思フノデアリマス、段〓會期モ經チマ
ツテ皆樣御迷惑デモゴザイマセウガ、ドウ
ゾ暫ク御聽キヲ願ヒタウゴザイマス、先頃
同僚ノ一人タル三井君ヨリ此農村ノ景氣不
景氣、之ニ對シマシテ質問ガ重ネラレタル
際ニ於キマシテハ、先月十九日午前十時半
ヨリ農林大臣ガ、陛下ノ御召ニ依リマシ
テ參內ヲ致シテ居ノタ時ニ、總理大臣ノ御答
ハ世界ノ不景氣ハドウシタノダト云フ、殆
ド逆襲的ノ御答辯ガゴザイマシテ、益〓私
ハ爲ニ疑惑ノ念ヲ深ク致シタノデゴザイマ
ス、固ヨリ我國ニ於キマスル所ノ此不景氣
ハ其原因ヲ論ジマスレバ、是ハ大變長ク
ナリマスルガ、私ガ申上ゲル迄モナク消費
節約、財政緊縮、銀ノ暴落、從シテ世界的不
景氣、有ラユル點ヲ數ヘ上ゲマスレバ、屢〓此
席ニ於テ當局ヨリ御答辯モアリマスル通
サ、ドレガ如何ナル程度ニ於テ此不景氣ヲ
助成シタト云フコトニ付キマシテハ、數字
的ノ答辯ハ出來ナイト云フコトヲ申サレテ
居ルノデハアリマスルガ、私モ冷靜ニ考ヘ
レバ左樣デゴザイマス·····左樣ニ思フノデ
ゴザイマス、故ニ此場合ニ於キマシテ先ヅ
金解禁ガドウデアルトカ云フコトヲ、避ケ
マシテ質疑ヲ致シタイノデゴザイマス、綜
合的ニ只今申上ゲマシタル所ノ是等ノ原因
ガ、農村バカサデハナイ、一般財界ニモ非
常ニ影響イタシタノデアリマスルガ、殊ニ
農村ニ對シマシテハ非常ナ打擊ヲ加ヘテ居
ル、殆ド死滅的ノ打撃ヲ加へテ居ルノデア
リマス、ソコデ伺ヒタイノハ我國ノ農村
ハ申上ゲル迄モナタ米麥ヲ主トシテ耕作ヲ
致シテ居ルノデアリマスルガ、サテ私ガ考
ヘマスルト云フト、此農村ノ實情ニ對シマ
ツノ、政府當局ハ如何ナル政策ヲ以テ、現
時極端ナル此逼迫、困難、困憊、有ラユル
點ニ呻吟シテ居ル所ノ農民ヲ緩和セラレン
トスルノデアリマスルカ、卽チ直接ニハ
現ニ總テノ農產物ノ生產原價ヲ割ッテ居ル
損失ヨリ致シマシテ、生產費ノ不足ニ依ル
非常ナル此困憊ヲドウジテ緩和爲サレル御
考デアルカ、之ヲ伺ヒマシテ、更ニ一時ノ
窮乏以外ニ於テ、農村ヲシテ農業經營ヨリ
相當ナル此利潤ヲ得セシメントスルニ付テ
ノ根本策ガオアリニナルノデアルカ、顧ミ
マシテ現內閣ガ組閣イタサレマシタル以
來、經濟政策ハ、此農村問題ニ付テ我ミガ
首肯シテ、是ナラバ農村モ安定ヲシ生活ノ
安全モ期セラレルト云フヤウナ、斯ノ如キ
政策ヲ見ナカッタノデアリマス、此點カラ推
シマシテ私ガ考ヘマスルト云フト、或ハ現
下ノ此窮迫シテ居ル所ノ農村ノ實情ニ付テ
ハ、餘リ眞相ヲ御存ジニナッテ居ナイノヂヤ
ナイカ、成程湯地君ノ質問ニ對スル御答辯
ノ中ニモ、農村ノ事情ハ能タ承知ヲシテ居
ルト云フコトヲ臨時代理ガ申サレルノデア
リマスルケレドモ、ドウモ其施設ノ跡ヲ見
マスルト云フト、根本ノ方針ガ立ッテ居ナ
1、斯樣ノ點カラ考ヘマスルト云フト、私
ハ如何ニモ此農村ノ眞相ニ付テ御觸レニ
ナッタ所ノ御感想ガ、有ルノカドウカ、此點
ニ付テ私ハ疑フノデアリマス、デ私モ昨年
諸所ヲ旅行モ致シ、陳情モ聽キ、其陳情ニ
依リマシテ、私モ自分デ調査ヲ致シタノデ
ゴザイマス、之ヲ數字的ニ擧ゲマシテ例ヲ
引キマシテ地名ヲ述ベマスト云フコトニナ
ルト云フト、私ノ質問ガ非常ニ複雜ニナッテ
來テ、サウシテ倦怠ヲ惹起シマスルカラ、
兎モ角モ此地名ダケハ、若シ現內閣デ左樣
ナ所ガアルカト云フ御反問ガアルナラバ私
ハ申スコトニ致シマシテ、質問ヲ致シマス、
先程モ申シマシタル通リニ、此米麥ヲ作ッテ
居ル所ノ農村、之ニ養蠶、畜產、蔬菜、叉
ハ林產、水產ヲ以テ其經營ヲ立テテ居ルノ
デゴザイマス、此點ニ付テハ私ガ申上ゲル
迄モナタ、旣ニ本議場ニ於テ此點ニ付テハ
屢〓繰返サレテ居ルノデアリマス、而シテ昨
昭和五年ニ於ケル農村ノ經濟ハ、米麥ニセ
ヨ、、ニニセヨ、林產物ニ致シマシテモ、皆悉
ク破壞的ナル打擊ヲ受ケテ居ルノデアリマ
ス、卽チ農作物物價ニ對シマシテ調査ヲ致
シテ見マスルニ、米ハ四割弱デアリマス、
而シテ一石三十四圓イタシマシタル時ト、
昨年ノ平均相場デアル十七圓ヲ標準ト致シ
マシタル時ニ於キマシテハ半額デアリマ
ス、故ニ一石十七圓ト云フコトニ相成リマ
スレバ、此三十四圓ノ時ト十七圓ノ時トノ
差ガ約九億圓農家ノ懷ロ勘定ガ違フ、ソレモ
直ニ全部ガ違フ譯デモアリマスマイ、或ハ
農家ガ其半額ヲ、或ハ食糧トシテ自家ニ保
存ヲシテ置タコトモゴザイマセウカラ、先
ヅ差引半分ト見マスレバ、之ニ於キマシテ
モ四億五千万圓ノ減少デアリマス、然ルニ
湯地君ノ御尋ネニナリマシタ御質問ノ中ニ
例ガ引イテゴザイマス、農家ノ一段步ノ收
入ニ付キマシテ、純牧入ニ付テ例ガ引イテ
ゴザイマス、ソレヲ讀上ゲマスルト云フト
非常ニ諄クナリマスルカラシテ、ソレハ讀
上ゲマセズニ申シマスルガ、一段步ノ此農
家ノ純益ト云フモノハ驚ク勿レ一圓三十六
錢デゴザイマス、夏ハ沸エル田圃ノ中ニ入ツ
テ草ヲ取ッテヤッテ、其稻ノ保護ヲシ、所謂
九夏三伏ノ候ニ汗水ヲ垂ラシテ働イテ取
上ゲマシタル所ノ純益ト云フモノハ一圓三
十六錢デアリマス、斯ノ如キ僅少ナル所ノ
收入ト云フモノハ、昨日私ハ交詢社ト申シ
マスル一ツノ倶樂部ガゴザイマシテ、ソレニ
參リマシテ、チヨット外ニ散步イタシマシタ
際ニ、鶴嘴ヲ持ッテ働イテ居ル勞働者ニ、其
人ニアナタノ收入ハ幾ラデアル、今日ノ賃
錢ハ幾ラデアルト斯ウ云。タ所、其勞働者曰
タ、十三貫、卽チ一圓三十錢デアル、斯樣
ナコトヲ承リマシテ、私ハ其點ヨリ致シマ
シテ農家ハ粒々辛苦、、春ハ雪解ケノ水、足
凍ル時ニ稻ノ株ヲ起シテ、而シテ收穫ヲ取ッ
テ純益ト云フモノハ一年一囘、ソレガ一圓
三十六錢、自由勞働者トノ此收入ニ於テ、
一日ノ比較ニ於テ僅ニ六錢シカ多タナイノデ
アル、斯ノ如キ狀態デアルカラシテ農村ノ
疲弊ト云フモノハ當然起ッテ來テ居ル、其原
因ニ付テハ何ダト云フコトヲ申上ゲマスル
下、是亦現內閣ノ關係大臣ト大論戰ヲ致サ
ナケレバナリマセヌガ、左樣ニ致シマスレ
バ、今日左樣ナコトヲ申シテ居ルコトハ旣
ニ日暮レテ道遠イノ感ガアリマス、斯ノ如
タデアリマスルカラ、所謂米ニ依ル所ノ農
家ノ收入ト云フモノハ、先ヅ「ゼロ」ト云ッテモ
宜イノデアリマス、而シテ養蠶卽チ繭ノ關
係ニ於キマシテハドウナッテ居ル、繭ノ關
係ニ於テハドウナテ居ルカト云フト四
分三厘ノ增デアッテ、價格ニ於キマシテ五割
四分ノ減デアリマス、此爲ニ農村ノ副業ト
シテ三億五千万圓ヲ減ジテ居ルノデアリマ
ス、此點ハ或ハ私ハ玆ニ論評ヲシナクテモ、
皆樣ノ御頭ノ中ニ旣ニ浮ムコトハ、卽チ金
解禁ノ結果ニ依クテ起ッタ所ノ打撃デアリマ
セウ、併ナガラ種々ナ原因カラ斯ノ如キ打
擊ヲ來シテ居ルノデアリマス、若シ假リニ
春繭生產費ト其賣上ゲマシタル所ノ繭ノ價
格トヲ比較イタシマスルト、私ハ此生產費
ガ必シモ適當デアルヤ否ヤハ分リマセヌケ
レドモ、兎モ角モ蠶絲中央會ノ調ベデアリ
マスカラ、先ヅ間違ヒハゴザイマセヌト思
ヒマスケレドモ、一貫目ニ付キマシテハ約
五圓六十錢デアリマス而シテ實際ノ取引
デゴザイマスルト云フト此白繭ニ致シマ
シテモ三圓九十錢、元ヲ切ッテ居ル、生產費
ヲ切ッテ居ル、生產費ヲ切ッテ居ルコトガ卽
チ一圓七十三錢バカリ切ッテ居ルト云フコ
トデアリマス、米ニ致シマシテモ生產費ヲ
切ヲテ居ル、繭ニ致シマシテモ生產費ヲ切ッ
テ居ル斯樣ナ次第デアリマシテ、一例ヲ
申上ゲマスレバ繭ノ値ト云フモノハ非常ニ
暴落ヲシテ、山梨縣ノ或村ニ於キマシテハ
此繭ノ最下等ノモノガ、甲府ニ賣出シニ參
リマシタ時分ニ八十錢デアリマシテ、到頭
其人ハヤケヲ起シテ酒ヲ飮ンデ歸ッテシマッ
タト云フ實例ガアル、ソレバカリデハナイ、
此繭ノ賣捌キニ付キマシテモ農村ハ非常ニ
迷惑シテ居ルコトガアルト中シマスルノ
ハ農村ノ人〓ハ、殊ニ此養蠶家ノ人ミト云
フモノハ、製絲家トノ間ニ於キマシテ特殊
ノ關係ガアルノデアリマスルカラシテ、例
一貫目ノ繭ヲ五圓デ買フト云フ約束ヲ
致シマシテ、而シテ製絲家ハソレニ對シテ
八掛、卽チ四圓ノ前渡金ヲ渡シテアルノデ
アリマスルケレドモ、併ンソレニ對シマシ
テハ試驗ノ結果或ハ四圓ヲ切ッテシマヒ、十
錢或ハ二十錢ノ割戾シヲ受ケテ居ルノガ昨
年ノ現狀デゴザイマス、此農民共ハ試驗ト
云フコトニ付テハ知識ガ乏シク、而シテ縣
廳モ地方廳モ相當ニ了解ガアルノデ泣寝入
ニナッテ居ル、斯樣ナ狀態デゴザイマス、林
產物ニ致シマシテモ、木材ハ昨年ニ比シマ
シテ三割ノ低減、低落、木炭ハ四割ノ暴落
ヲ告ゲテ居ルヤウナ狀態デゴザイマス、農
家ニ於キマスル所ノ此經濟ハ先ヅ夏秋蠶デ
公課ヲ納メ、子女ノ〓育ノ經費ニ充テテ居
ルノデゴザイマスルガ、昨年ノ夏秋蠶ノ繭
ノ値ト云フモノハ極端ナル低落ヲ致シ、低
落步合ガ幾割ト云フ程度ヲ超エテ、殆ド生
產費ヲ切ノタドコロヂヤナイ、其生產費ニ對
シテハ非常ナル割戾シヲシナケレバナラナ
イヤウナ狀態ニ相成ッテ居ルノデゴザイマ
ス、又都會ニ於ケル所ノ、隣接シテ居ル所
ノ村落ニ於キマシテハ野菜ヲ作リマシテ
モソレガ九割モ暴落ヲ致シタ結果、所ニ依
リマシテハ此成リ物一切御勝手ニ御持チ歸
リ下サイマシト云フ所ノ、憐レナル立札ガ
立ッテ居ッタ所モアル、斯ノ如キ所ニ於キマ
シテハ、肥料代ハ勿論ソコト、買手ヲ見付
ケルコトモ困難デアルノデアリマス、故
今日ノ農家ト云フモノハ是ハ總理大臣臨
時代理モ御承知ノ通リ、非常ニ窮迫シテ居
ルノデゴザイマスルガ、偖私ハ斯ノ如キ狀
態ニ相成リマシタト云フコトニ付キマシテ、
只今之ヲ御尋ヲ致シマシタ所ガ、ドウモソ
レハ仕方ガナイ、今後ヲドウスルカト云フ
コトニ付テノ御尋ヲシナケレバナラヌノデ
ゴザイマス、デ只今申上ゲマシタルヤウナ
各種ノモノヲ合セマスルト云フト、農村ノ
減收ハ約十二億圓乃至十三億圓デアラウト
思フノデゴザイマス、何レノ調査機關ニ依
リマシテモ、昨年度ニ於ケル所ノ農村ノ減
收ト云フモノハ一致シテ居ルノデゴザイマ
ス、假リニ之ヲ十二億圓ト致シマスト云フ
ト、間ノ數字ハ諄ミシク相成リマスルカラ除
ケマシテ、之ヲ五百五十万戶ノ農家ニ振當テ
マシテ考ヘテ見マスルト云フト、農家一戶
百八十圓ノ現金ヲ得タニ過ギナイノデゴザ
イマス、此調査モ矢張リ農林省カラ御發表
ニナリマシタ其材料ヲ基礎ト致シマシタノ
デゴザイマス、デアリマスカラ私ハ恐ラク
正確デアラウト思フノデアリマス、斯ノ如
キ狀態デゴザイマスカラシテ、果セル哉農
村附近ノ小都會ニ於テハ缺食兒ヲ出シテ居
ル、大都會ノ東京ニ於キマシテモ、私ガ承
知シテ居ル所ノ小學校ニモ、卽チ有產階級
ノ兒童ノ通フテ居ル所ノ小學校ノ兒童ニ
モ、旣ニ缺〓兒ヲ出シテ居ル、其小學校ノ
校長ガ他ノ兒童ニ之ヲ知ラシメザル爲ニ、
門前ノ麵麴屋ト特約ヲシテ、是等ヲ保護シ
テ居ルヤウナ狀態デゴザイマス又或地方
ノ小學校ニ於キマシテハ、校長ガ或級ヲ標
準ト致シテ、辨當ヲ持ッテ來タカ持ッテ來ナ
イカト云フコトノ調査ヲ致シマシタル際
ニ、其學級ノ兒童ノ過半數ハ辨當ヲ持クテ
來ナカッタト云フ悲慘事ヲ惹起シテ居ルノ
デゴザイマス、ソコデ斯ノ如キ狀態デゴザ
イマスカラシテ、昨年ノ初冬ノ頃ニハ此缺
食兒ト云フモノハ段々殖エテ來テ居ル、併
シ政府ヲシテ言ハシムレバ、二千五百万圓
ノ低利資金ヲ出シテヤッタ、或ハ七千万圓ノ
低利資金ヲ出シテヤッタカラ、是ハ緩和サレ
タノデアルト、斯樣ニ御答辯ニナルカモ知
レマセヌケレドモ、此七千万圓ノ低利資金
ト云フモノハ僅々數縣ニ亙ッテ僅ニ三百万
圓ソコ〓〓ノ金ガ今日ハ出テ居ル、デアリ
マスカラ私ガ考ヘマスト云フト、此缺〓兒
童ノ如キモノハ、未ダ私ハ完全ニ救濟サレ
テ居ナイト云フコトヲ玆ニ申上ゲテ憚ラナ
イノデゴザイマス、就キマシテ遂ニハ斯ノ如
ク農村ガ疲弊シテ參リマシタ結果、全國ニ亙
リマシテ不就學兒童ガ八十万以上ニ昨年ハ相
成ッタノデゴザイマス、此問題ニ付テハ私ハ
文部大臣ニ御尋スルノデハゴザイマセヌ、
文部省ヨリ各地方長官ニ對シテ昨年十月ヲ
以テ應急對策ノ簡條ヲ示サレテ通牒ヲ發シ
タノデアリマスルガ、ソレハ新聞ニモゴザ
イマス、新聞ニモゴザイマスカラシテ私ハ
略シマスケレドモ、兎モ角モ斯ノ如ク不就
學兒童ヲ多數ニ拵ヘタト云フコトニ付テハ、
私ハ非常ニ遺憾ニ感ズル、固ヨリ全國ノ國
民ガ必シモ皆富裕デハアリマスマイ、皆富
裕デハアリマスマイケレドモ、併ナガラ何
時ノ時代ニ於キマシテモ、何時ノ時ニ於キ
マシテモ、不就學兒童ハゴサイマセウケレ
ドモ、昨年ノ如ク極端ナル此不景氣ニ際シ
テ、斯ノ如ク多數ノ不就學兒童ヲ出シタト
云フコトハ、私ハ生ヲ享ケマシテ今日マ
デ、初メテ斯樣ナ所ノ事實ヲ承ハルノデゴ
ザイマス、是レ施政······卽チ輔弼ノ責任サ
ヘ宜ケレバ、斯ノ如ク多數ノ缺食兒童ヲ出
ス譯デハナイ、古今未曾有ノ狀態デアルト
申シテ宜シイ、デアリマスカラシテ、若シ
形容詞ヲ以テ申シマシタナラバ餓莩野ニ充
ツ、斯樣ニ申シテ宜イヤウナ狀態ト私ハ思フ
ノデアリマス、斯ノ如クデアリマスカラシテ、
農村ノ農產物ノ價格ト云フモノハ生產費
ヲ割リ、従ヲテ不就學兒童、缺食兒童ヲ澤山
ニ出シタ位デゴザイマスカラ、公租ノ負擔
ト云フモノハ完全ニ行ク理ハナイ、先程モ
申上ゲマシタ通リ夏秋蠶ニ依ッテ、子弟ノ〓
育トカ課稅ヲ拂シテ居ッタノデゴザイマスケ
レドモ、是ガイケナカッタノデアリマス、其
外ニ主作物モ皆イケナイノデゴザイマスカ
ラシテ、公課ノ如キ滯納ヲ生ズルト云フコ
トハ當然デアル而モ其稅率ハ今日マデ、
市町村ノ稅率ト云ヒ、府縣ノ稅率ト云ヒ、
餘リ手ガ著イテ居ナイ、私ガ承知シテ居ル
所ニ依リマスト云フト是ナラバ負擔ノ輕
減ニナルト云フ程ノ手ガ著イテ居ル所ヲ見
出サナイノデゴザイマス、公租公課ノ如キ
ハ到底納メムトシテモ、今日ノ農村ノ現狀
デハ納メラレナイ、昔ハ農村デハ國稅徵收
法ニ依ッテ徵收ヲサレ差押ヲ受ケルトカ、或
ハ府縣稅、市町村稅ト云フヤウナモノニ付
キマシテ差押ヲ受ケルトカ、催促ヲサレタ
場合ニハ、其農民ハ非常ニ恥ヂタ、ドウカ
マア晝間私ノ所ニ來テ稅ノ問題、其外借金
ノ問題ヲ言ッテ吳レルナ、此方カラ必ズ持ッ
ヲ參リマスカラト云フコトヲ申シテ居ッタ
ノデゴザイマスケレドモ、今日ハ此農民諸
君大部分ノ者ハ、拂ヘナイモノナラ仕方ガ
ナイヂヤナイカ、肥料代ニ致シマシテモ一
種ノ「モラトリアム」ヲ布イテ居ル所ガア
ル斯ノ如クデアリマスカラシテ、國稅ニ
致シマシテモ、府縣稅ニ致シマシテモ、市
町村稅ニ致シマシテモ、滯納者ガ澤山出來
テ參ッタノデゴザイマス、出來テ來ナイト云
フコトヲ若シ仰シヤルナラバ、ソレハ私ハ
農村ノ實情ニ御通ジニナラナイカラ仰シヤ
ルノダラウト思フノデゴザイマス、ソコデ
滯納處分ニ依ッテ競賣ヲ致サウト思ヒマシ
テモ、或村ノ如キハ七十二戶全部此滯納ノ
爲ニ差押ヲ受ケテ居ル所ガアル、又ソレデ
ナクッテモ各府縣ノ各村落ニ於テハ相當ニ
差押ヲ受ケ、非常ニ困窮シテ居ルノデゴザ
イマスカラシテ、同ジ村落ノ村民ハ之ニ同
情モスルノデアリマセウガ、實際又農村ノ
經濟ノ實力カラ致シマシテ、其差押ヲ受ケ
マシタ物件ヲ競落イタシテ見マシテモ、他
ニ融通ノ方法ガナイノデゴザイマスカラシ
テ、實際ニ於キマシテハ競落スル者ガ無ク
ナッテ來タ、若シドシ〓〓之ヲヤルナラバ、
各町村ニ於キマシテハ公私ノ救濟ヲ要スル
コトガ續々起キテ居ルノデゴザイマス、競
賣處分ヲ差止メマシタ實例モゴザイマスケ
レドモ、是モ御必要ナラバ後デ申上ゲテモ
宜シウゴザイマス、從ッテ斯ノ如クデアリマ
スカラシテ銀行モ戶ヲ閉メタ、銀行ノ戶ヲ
閉メルノハ構ハヌケレドモ、府縣ノ財政モ
當然窮迫ヲ〓ゲテ來タノデゴザイマス、成
程國ノ財政デモ今年度ノ如キハ大藏證劵ヲ
「マキシマム」ニ出シテ居ル、若シ現內閣ノ
御答辯ガ、ソレハ縣廳モ財政ノ都合デ一時
借入金ヲスル、斯樣ニ御答辯ニナルカモ知
レマセヌガ、私ハ斯樣ナ問題ニ對シマンテ
ハ、寡聞未ダ聽カナカッタノデゴザイマスケ
レドモ、例ヲ引イテ申上ゲマスレバ、神奈
川縣ノ縣費ノ如キニ至リマシテハ、昨年十
月支出ヲ要スル縣費、人件費ノ支拂不能ニ
陷リマシテ、縣ノ農工銀行カラ二十万圓ヲ
借入レタト云フコトヲ聞イテ居ル、又斯樣
ナル例ハ、栃木縣ニ於キマシテモ福島縣ニ
於キマシテモ借入金ト云フヤウナコトガ行
ハレテ居ルノデゴザイマス、福島縣ニ於キ
マシテハ、昭和四年度ノ縣稅ノ歲入ガ八百
万圓ニ對シマシテ縣稅收入不足額ガ六十万
圓ニ達シタノデゴザイマスルガ、五年度ハ
ドウダ、五年度ハドウダト申シマスルト云
フト此豫算額ニ對シテ今日ハ二百万圓ダ
ケ歲入ガ不足ヲスルダラウト云ッテ悲觀サ
レタデゴザイマスルガ、其爲ニ福島縣ノ縣
費ノ徵稅ニ付キマシテハ七箇所ニ出張所ヲ
設ケ、國稅、市町村稅、是ト競爭シテ保險
會社ガ····保險會社ノ出張員ガ契約ノ募集
ヲスルト云フノト少シ違ヒマスルケレド
モ、マア〓〓似タヤウナモノデ、兎角俺ノ
所へ先キニ寄越セ、縣ノ方ガ大事ヂヤナイ
カ縣ノ方へ先キニ寄越シテ吳レ、國ノ方ハ
構ハヌ、マア後ニ廻ハシテ吳レト云フヤウ
ナコトデ、頻ニ徴稅ニ焦慮、焦ッテ居ルノデ
ゴザイマスルガ、サテ今日ノ實情ニ於キマ
シテハ、是モ農村疲弊困憊ノ爲ニ或ハ二百
万圓ノ不足ヲ見ントシテ居ルノデアリマ
ス、一面カラ見マスルト云フト福島縣ノ
縣會議員ノ諸君カラ承リマシタ所ニ依リマ
スルト云フト、此縣ノ歲入ノ見積リモ過大
デアッタ、國ノ豫算ノ見積リモ過大デアリマ
→スルカラシテ、下之ニ傚テ矢張リ是モ見積
リ過大デアル、誠ニ苦シンデ居ルノデアル、
斯樣ニ申シタノデアリマス、其爲ニ縣役人
ノ俸給、其他ノ支拂ニ付キマシテ矢張リ此
處モ困マッテシマッタ、縣參事會ノ代決ニ依
リマシテ、同縣縣廳ハ同縣ノ農工銀行ヨリ
昨年十月四十万圓ノ借入ヲシヤウト思フタ
ノデゴザイマスルケレドモ、其同縣農工銀
行ニハ金ガナカッタ、現金ガナカッタ、詰リ
縣內ノ農民ノ疲弊ノ爲ニ預金モナシ或ハ預
金ノ激減ヲ來シ、預金スル者モナクナッタ爲
デモアリマセウガ、兎モ角モ此四十万圓ト
云フ金ハナクナッテシマッテ、藤本「ビルブロ
カー」銀行カラ三十万圓ヲ借入レマシテ
サウシテソレヲ縣ニ納メタノデゴザイマ
ス、十月······十一月ノ末ニハ福島縣ハ漸ク
此縣稅ノ收入ヲ以テ其三十万圓ヲ拂ヒマシ
タガ、直チニ又十二月ノ末ニナッテ困ッテシ
マッタ、困ッテシマッテドウシタト云ヘバ、今
度ハ同縣ノ農工銀行ハ貸シテ吳レヌ、貸シ
テ吳レヌカラ仕方ガナイノデ、妙ナコトデ
山形縣ヲ飛ビ越シテ秋田市ノ秋田銀行カラ
四十万圓ヲ借入レタノデゴザイマス、此點
ニ付キマシテハ、私ハ深ク申上ゲルコトモ
避ケマスルケレドモ、或ハ福島デ以テ戶ヲ
閉メタ銀行ガ此秋田市ノ秋田銀行ニ對シマ
シテ債務ヲ帶ビテ居ッタ關係デモゴザイマ
セウガ、兎モ角モ先月ノ初旬ニ大藏大臣ノ
御許シヲ得マシテ、郡山、福島ノ兩市ニ支
店ヲ設ケタノデゴザイマス、就キマシテ此
點ニ付キマシテハ其同縣ノ縣下ニ於テ色ミ
ノ取沙汰ヲサレテ居ルノデゴザイマスケレ
ドモ、私ハ公明ナル大藏大臣ガ斯樣ナコト
ヲ爲サルモノデハナイ、政黨的ニ解釋サレ
ル人デナイト言"テ·····私ハ此人ミニ對シ
テ流言蜚語、人ヲ惑ハスヤウナコトハ御止
シニナッタガ宜カラウト云ウテ實ハ申シテ
居ッタノデゴザイマス、若夫レ町村ノ財政ニ
至リマシテハ、此議政壇モ〓ニ於キマシテ屢〓
問題ニナリマシタル小學校〓員ノ俸給ノ
不拂ハ固ヨリ、吏員ノ俸給費、用品費ノ不拂
不能ヲ生ジマシテ、各縣ニ亙ッテ一ミ例ヲ申
上ゲマシタナラバ澤山ゴザイマスガ、甚シ
キニ至リマシテハ村ヲ廢止シテ居ル、村ノ
廢止ヲ決議シタ所ガアル、斯ウ迄農村ガ行
詰ッテ居ルノデゴザイマス、ソコデ先程申上
ゲマシタル通リニ、農村デハ平均僅ニ昨年
度ノ收入ハ百八十圓デゴザイマシタカラシ
テ、直ニ金錢ト云フモノ、所謂物貨ヲ交換
スベキ「メジュ「ア」ガナクナッテ、物ヲ測ル
「メジュア」ガナクナッテ參リマシテ、物々交
換ガ起ッテ居ル其村モ、一一一ノ例ヲ申上ゲタ
イノデゴザイマス、ケレドモ餘リ長クナリ
マスカラ止メマスルガ、偖處ニ依リマス
ルト云フト、農民ハ炭ヲ拵ヘテ問屋ニ持出
シテ行ッテ之ヲ賣ラウトシタケレドモ、問屋
ハ此不景氣デ買ウテ吳レナイ、山ノ中ノ人
ハ米鹽ノ資ニシタイノデアリマスケレドモ
金ヲ得ラレナイ、已ムヲ得ズ米屋ニ參リマ
シテ米ト取換ヘテ居ッタヤウナ狀態モアリ
マ又呉服商ニ致ジマシデモ、田舍ハ農
村ハ疲弊困憊ノ極、到底金錢取引ガ困難ナ
リト云フコトヲ見拔キマシテ、或ル地方ニ
於キマシテハ米ト取換へテ上ゲマセウト云
フコトノ札ヲ出シテ居ル所モゴザイマス、
イトモ極端ナ滑稽ナコトハ伊藤痴遊、此人
ガ講演ヲ致シマシテ、サウシテ木戶錢ヲ取
リマスノニ金デハイケナクナッテ來タ、米デ
以テ一升トカ或ハ五合トカ、斯樣ナコト迄、
農村ニ依リマシテハ極度ニ物々交換ガ行ハ
レテ參フタノデゴザイマスガ、偖、斯ノ如キ
狀態ニ引戾サレタト云フコトハ、私ハ其責
任ヲ今問ウテ見テモ仕方ガナイガ、餘リニ
此昭和ノ聖代ニ於キマシテアリ得ベカラザ
ル所ノ社會現象ヲ惹キ起シタ、卽チ奈良朝
ノ時代ニ和鋼錢ヲ造リマシタ以前ノ經濟狀
態ニ國民、殊ニ農村ノ僻陬ノ所ハ農村ノ大
部分ト云フモノハ引戾サレタト云フコト
ハ卽チ文化ヲ逆轉シタモノト云ッテ私ハ
差支ナイノデゴザイマス、又村稅モ只今申
ツマシタル通リニ金ガナクナッテツマッテ、
今度ハ御米デ納メテ居ル所モ澤山アル、卽
チ或ル町村、村落ニ於キマシテハ四斗俵二
俵ヲ一駄ト計算イタシマジテ、之ヲ十六圓
トシテ納稅セシメタ、ソレヲ貰ック所ノ吏員
又小學校〓員ハ之ヲ賣却シヤウトシタ時分
ニ十一圓ニナッタノデゴザイマス、卽チ三割
四分ノ減俸ヲ喰シタノデゴザイマス、ソコデ
申上ゲタイノハ、總理大臣ハ此席ニ於キマ
シテ、農村ノ小學校〓員ノ減俸ト云フモノ
ハ强要スベキデハナイ、ガ併ナガラ其强要
シテ居ルト云フ所ハ噂程デモナイト申ザレ
ルノデアリマスケレドモ、農村ニ金ガナク
ナッテツマッテ、只今ノヤウナ計算ヲ以チマ
シテ納稅セシメルト云フコトデアリマスル
ナラバ、是レ强ヒルニアラズシテ自然ノ結
果强ヒラレタト同ジ形ヲ玆ニ現出シテ居ル
ノデアリマス、斯ノ如キ狀態デアリマスルカ
ラシテ、小學校〓員ノ之ニ對スル運動ト云
フモノガ非常ニナッテ來タ、二月十五日ノ都
新聞ヲ見マシテモ、悲痛ナル叫ビヲ擧ゲテ
二十餘万ノ〓員ガ蹶起ヲシテ居ル、此コト
ヲ書イテ居ル、文部省、内務省兩省ノ傍觀
的態度、卽チ之ニ對シテ內務省デハドウス
ル、文部省デハドウスルト云フコトニ付
テ、各〓兩省ノ意見ノ發表ガゴサイマスル
ケレドモ、殆ド決マッタコトハナイ、斯ノ如
ク不拂、寄附强要ハ全國デー一千餘町村ニ亙,
テ居ル、甚シキニ至ッテハ六箇月モ不拂シ
テ居ル所ガアル、農村疲弊ノ結果斯ノ如キ
狀態ヲ惹キ起シテ此儘ニサレタナラバドウ
云フコトニナルカ、私ガ耳ニシテ居ル所ニ
依ルト云フト、東京附近ノ或ル小學校ノ〓
員共ハ赤クナッテ居ル、其父兄カラ聞ク所ニ
依ルト云フト、小學校〓員ガロニスベカラ
ザルコトヲ言ッテ居ルト云フコトヲ聞イテ
居ル、斯ノ如キ狀態デアリマスルト云フト、
此二十万ノ小學校ノ〓員ハ天ヲ怨ミ、人ヲ
呪咀スルト云フコトガ起ッテ來タナラバ、大
變ダ、此爲ニ我國ノ小學〓育ノ根本······根
元ト云フモノハ破壞サレルノデアル、然ル
ニ今又農村デハ只今申上ゲマツタル通リ收
入ハ減リ、從ッテ〓員ヲ養フコトガ出來ナク
ナッテ來テ、〓員ガ汽車ノ無賃乘車ヲシテ
居ル所モアル、誠ニ同情スベキコトデアッ
テ、〓員其人ガ故意、惡意ニ無賃乘車ヲジ
デ居ルノデハナイ、、村デ······村落デ手當
ヲ·····小學校〓員ノ俸給ヲ完全ニ渡サナ
イ、其爲ニ學校ニハ通ヒタイガ、自分ノ居
ル村落カラ汽車ニ乘ッテ或所マデ參リマス
ルケレドモ、其切符ガ買ヘナイ、何レ俸給
ガ渡ッタナラバ定期劵ノ金ヲ拂フカラ、ドウ
ゾ今日ハ見逃シテ吳レ、關員モ同情ヲシテ、
サウシテ之ニ對シテ無賃乘車ヲ許シテ居ル
ト云フヤウナ狀態デアリマス、ソコデ私ハ
申上ゲタイノハ、斯ノ如ク疲弊ヲ致シマシ
ク、結果、こ各、村民ガ住ンデ居ル所ノ此村
ト云フモノヲ破壞シ、又他ニ移ルト云フコ
トニ付テハ、是ハ愛〓心、愛土心ノ爲ニヤ
リ難イモノデゴザイマス、併ナガラ之ニ付
キマシテモ餘リニ農村ノ經濟狀態ガ急激ニ
變化ヲ致シテ參リマシタル爲ニ、玆ニゴザ
イマスル村デハ遂ニ收支相償ハズ、其不足
額ニ至リマシテモ六万何千圓ト云フモノヲ
出ダシテ、今後今日ノ如キ經濟狀態ヲ續ケ
テ居リマシタナラバ、村稅ノ收入ヲ圖リマ
シテモ、此上彼等ノ手ニ依ッテハ景氣ノ同復
モ出來ズ、又所得ノ增加モ出來ナイ、將來
ヲ悲觀イタシマシテ、昨年十二月五日ヲ以
チマシテ遂ニ悲痛ニモ村會ノ決議ヲ以テ村
ヲ廢止シ、學校ヲ廢メタノデゴザイマス、
由來村ノ廢止ニ付キマシテハ、我〓ハ合同
デアルトカ云フヤウナコトノ爲ニ村ノ廢止
ト云フコトハ聞イテ居リマスルケレドモ、
今日ノ如ク極端ナル疲弊ノ結果村ヲ廢止ウ
ナケレバナラナイト云フニ至リマシテハ、
私ハ市町村ニ對スル御詔勅ガゴザイマスル
ガ其御詔勅ニ對シマシテモ現內閣トシテ
ハ誠ニ相濟マヌ仕儀ダト、斯樣ニ考ヘテ居
ル者デゴザイマス、是モ全ク原因ハ色〓
ゴザイマセウ、不景氣ニナッタ原因ハ色ミゴ
ザイマセウガ、其原因ヲ分割ヲセズニ兎モ
角モ綜合的ニ考ヘマスレバ、大不景氣、之
ニ對スル所ノ處置ガ······措置ガ完全デハナ
カッタ爲ニ、斯ノ如キ村ハ廢止ヲシナケレ
バ相成ラヌヤウニナッタノデゴザイマス、ソ
コデ豫算ニ付キマシテモ昭和四年度ニモ實
行豫算ト云フモノヲ御拵ヘニナリ、又五年度
ニ於キマシテモ削減、繰延、有ラユル事ガ
行ハレテ居ル、是ガ善イトカ惡イトカ云フ
コトヲ申シマスルト云フト、餘リ又長クナ
リマスカラ、複雜ヲ致シマスカラソレヲ止
メマシテ、兎モ角モ此兩年度ニ於キマシテ
國······中央及府縣市町村、之ヲ合シマシテ
約九億圓ノ節約、繰延ガ爲サレテ居ル、其
結果ドウ云フコトガ農村ニ起ッテ居ルカト
申シマスルト云フト、其繰延節約ノ爲ニ、
勞力ハ申上ゲル迄モナク激減イタシタモノ
デゴザイマス、失業者ヲ大量的ニ造ルニ
至ッタノデゴザイマスルガ、其勞力減退ノ結
果農村ニ影響ヲ致シテ居ルト云フコト
ハ、極メテ大ナルモノデアルノデゴザイマ
ス、例ヘバ或ル地方ニ於キマシテ、長
野縣ニ現ニ女エヲ出シテ居ル、女工ノ出
稼ギガアッタノデゴザイマスルケレド
モ、是亦金解禁ノ結果一時生絲ノ市價ガ激
落ノ爲ニ製絲家ノ手許ガ困難ニナリ、從シテ
工賃モ不拂トナリ、貰ヒマシタモノニ付キ
マシテモ三分ノ一貫〓タノデゴザイマスル
ガ·······貰ッタノデゴザイマスルガ、ソコデ此
點ニ付キマシテモ此村ノ女工達ハ、餘リ長
野縣群馬縣ノ此製絲家ノ工賃ノ不拂ノ爲ニ
彼等ガ再ビ女工トシテ出テ行カナクナッタ
ノデゴザイマス、爲ニ其村デハ六百何十人
ノ人ガ居食ヒヲスル、職業ナクシテ坐食ヲ
シテ居ル、サラヌダニ困憊シテ居ル所ノ村
ヲシテ一層悲慘ノ度ヲ加ヘシメタノデゴザ
イマス、恐ラク私ガ例ニ引イテ居リマスル
所ノ村バカリデハナイ、長野縣群馬縣ヲ取
卷イテ居ル所ノ此各縣ニ當リマシテハ、私
ハ斯ノ如キ例ガ澤山アルダラウト思ヒマス
又ナケレバナラヌ狀態デアリマス、又或ル
縣ニ於キマシテハ實ニ滑稽ナコトガアル、
北洋ノ方ニ出稼漁夫トシテ使ハレテ居ッタ
者ガ、不景氣ノ爲ニ此水產會社モ儲ケナカッ
タ、儲ケナイ爲ニ現物ヲ貰フテ來タ、鹽鮭ヲ
何石、鹽鱒ヲ何石ト貰フテ來タノデゴザイマ
スケレドモ、之ヲ彼等ノ頭デ以テ換算ヲ致
シマスルト一石何十圓、イヤ持ヲテ歸レバ直
ニ金ニナルト思ッテ持ノテ歸ッテ見タノデゴ
ザイマスケレドモ、其村ニ持ッテ來タ所ガ誰
モ買手ガナイ、卽チ只今申シマシタル通リニ
勞力ノ減退ノ爲ニ、農產物ハ生產費ヲ切ッテ
シマヒ、勞力ハ減退ヲシテ需要ガナクナッテ
村ニ金ガナイ爲ニ、遂ニ彼等ガ是等ヲ賣却
スルドコロデハナイ、米ト換へタノハマダ
シモ、遂ニハ之ヲ農民ニ吳レテシマッタト云
フヤウナ悲慘事ガ起ヲテ居ルノデゴザイマ
ス、先程申シマシタル通リ農村ノ生產物三
十二億圓ハ二十億圓トナリマシテ、十二億
圓ノ減收ヲ見タノデゴザイマスルガ、今又
此勞力ノ激減ニ因リマシテ、生產物代價以
外ノ收入ト云フモノノ途モ續イテ塞ガレテ
參タタデデザイマス、卽チ働クニ仕事ナ
ク、彼等ハ唯妻子ノ顏ヲ眺メ、寒空ニ向ッテ
モ子供ニ一枚ノ著物ヲ著セテヤルコトモ出
來ナイ、舊正月ニナッテモ春著ノ一枚モ買フ
テヤルコトガ出來ナイト云フノデ、私ガ調
査イタシマシタル所ノ縣ニ於キマシテハ、
此勞働者共ハ唯妻子ノ顏ヲ眺メテ朝夕落チ
ルモノハ······出ヅルモノハ歎息ノ淚バカリ
デアル、斯樣ナ實情ヲ調査イタシマスルト
云フト、緊縮節約ノ犠牲斯ノ如クデアリマ
シテ、極端ナル所ノ此緊縮節約、而モ極端
ナル所ノ消費節約、斯樣ナコトノ爲ニ、尤
モ是ハ世界的不景氣モゴザイマセウガ、國
內ニ於キマシテハ、只今申上ゲマシタル此
二ツノ政策ノ爲ニ、彼等ヲシテ途方ニ暮レシ
メテ居ルノデゴザイマシテ、私ガ中シマス
レバ······現內閣ハ之ヲシモ尙且ツ失政ニア
ラズ、失政ニアラズト抗辯ヲ爲サルノデゴ
ザイマスカ、伺ヒタイノデゴザイマス、ソ
コデ農村問題ニ致シマシテモ、私ハ色ミナ
質問應答ニ付キマシテ承ハリタイノデゴザ
イマス、斯ノ如ク農村ノ疲弊狀態ト云フモ
ノハ、容易ナラヌ狀態ヲ持フテ、居ルノデゴザ
イマスルガ、議會ニ於ケル質問應答ヲ見マ
スルト云フト、サッパリ要領ヲ得テ居ナイ、
例ヘバ彼處ニ居ラレル湯地君ガ斯樣ニ質問
サレテ居ルノデゴザイマス、五十八議會ニ
於キマシテハ農村ノ根本問題ニ付テ、總
理大臣ハ消極方針デ行ク、場合ニ依ッテハ積
極方針デ行クコトモアルカモ知レヌガ、先
ヅ消極方針デ行クノデアルト云フ答辯ニ對
シマシテ、湯地君ハ然ラバ其消極方針ト云
フモノハ減稅一方カ、消極方針ト云フモノ
ハ何ヲ指スカ、減稅一方カ、減稅デアリマ
スルト云フト、此軍縮條約ノ結果得ル所ノ、
平年度ニ於キマシテハ、千八十万圓、來年
度ニ於キマシテハ、六百七十万圓ノ此滅稅
デアルカ、斯樣ナコトヲ質問サレテ居ルノ
デゴザイマス、又積極方針モ場合ニ依ッテハ
ヤルガ、其積極方針ト云フモノハ何デアル
カ、二千五百万圓ノ中小商工業者ノ救濟資
金、農村救濟資金七千万圓ト其他總テ合セ
テ確カ二億二千万圓デアリマスルガ、ソレ
等ノモノヲ指スノデアルカト云フコトヲ御
聽キニナッテ居ルノデゴザイマスルケレド
モ、之ニ對シマシテ、此質問ニ對シマシテ
ハ總理大臣臨時代理ハ、斯樣ニ申サレテ
居ルノデゴザイマス、政府モ······農村ノ疲
弊困憊シテル所ノ狀況ヲ、政府モ能ク承知
シテ居ルノデアリマス、サウシテ米價ノ調
節ノ點、養蠶、繭絲、統價ノ調節ノ方法、
農村金融ノ方法モ講ジテ居リマス、卽チ七
千万圓ノ低利資金ノ融通、自作農ノ維持創
定、斯樣ナ如キモ一ツノ方法デアルト云フ
コトヲ言ハレテ居ルノデゴザイマスルガ、
偖テ是ガ積極方針デアルノカナイノカト云
フコトニ付テ、湯地君ハ御尋ネニナッテ居リ
マスルケレドモ、ソレニ付テハ一向御答ガ
ナイ、次ニ減稅ノ點ニ付キマシテハ御答ヘ
ニナッテ居リマスルガ、是ハ矢張リ田畑ノ地
租ハ餘程減額サレテ、宅地租ノ方ハ增額ニ
ナッタ..···増額ニナル、斯樣ニ申サレルノデ
アリマシテ、此軍縮會議ニ依ル所ノ此財源
ハ是デ十分デアルカ不十分デアルカト云
フコトノ御尋ネニ對シテハ御答辯ガナイノ
デゴザイマス、私ハ實ハ此點ニ付テ、重大
ナルコトデアリマスルカラシテ重ネテ御尋
ネシナケレバナラヌノデゴザイマス、ソレ
バカリデハナイ、尙ホ進ンデハ、モウ一度、
湯地君ガ同樣ノコトヲ御尋ネニナリマシタ
ル際ニ、農村振興ト云フコトハ單一ノ政策
ヲ以テ、其目的ヲ達シ得ルモノデハアリマ
セヌ、色〓綜合シタモノガ結果ニ現ハレル
ダラウ、尙ホ此外ニモアルカモ知レナイ、
斯樣ニ仰セラレタノデゴザイマス、ソコデ
承ハリタイノハ私ハ只今迄申シマシタル
通リニ、農村ノ疲弊困憊狀態ト云フモノハ
一方ナラヌ、一方ナラヌ狀態デアリマシテ、
畏多クモ曩ニ明治天皇陛下ヨリ御製モ國
民ニ賜ハッテ居ルヤウナ次第デアリマシテ、
是等ノ點カラ綜合イタシマスルト云フト、
我ガ農民ノ民草ニ對シテハ、內閣ヲ組織セ
ラレルト同時ニ其根本對策、現狀ノ疲弊困
憊ヲ緩和スル所ノ根本對策ヲ御立テニナラ
ナケレバナラヌノデアリマスルケレドモ、
一向ソレモ見エナイ、質問應答ノ答辯ヲ見
マシテモ見エナイ、尙ホ外ニモアルカト云
フヤウナ非常ナ冷淡ナ次第デアリマスルカ
ラシテ、私ハ農村ノ購買力十二億ガ回復シ
ナケレハ、私共ノ考ヘマスル所ニ依ルト、農
村附近ノ小都會ハ維持ガ困難デアリマスカ
ラシテ、私ハ一日モ早ク此農村ノ根本問題
ヲ新タニ御立テニナッタラバドウダラウ、斯
樣ニ考ヘテ居ルノデゴザイマス、農村ノ負
擔ノコトニ付キマシテハ略シマスルガ、何
シロ五十億ノ負債ガアル、是ハ當局デモ御、
認メニナッテ居ルノデゴザイマスルガ、之ニ
付キマシテハ速記錄ヲ讀ミマスルト云フ
ト大藏大臣ハ預金部カラ是レ是レダケ
ノ金ガ出テ居ル、是モ一ツノ救濟方法デア
ラウト云フコトヲ申サレテ居ルノデゴザイ
マスルケレドモ、何シロ五十億ト云フ此金
額ハ米ガ三十四圓シタ時ノ十七圓ノ時ノハ
其債務ガ倍加サレテ居ルノデゴザイマス故
ニ、預金部ノ金ダケデ以テ、果シテ私ハ此
債務ノ輕減、利子拂ヒノ緩和ト云フヤウナ
コトガ出來ルノデアルカドウカ、恐ラク米
價ガ非常ナ激落デアリマスルカラシテ、私
ハ到底現內閣ガ只今御執リニナッテ居ル方
針デハ是ハ困難デハナイカト云フコトヲ
思テ居ルノデゴザイマス、就キマシテ斯樣
ナ事情デゴザイマスルカラシテ、農村ノ疲
弊困態ハ極度ニ達シテ、地方ノ銀行ハ非常
ナ厄介ナコトニ相成ッテ居ル、然ルニ森田
君ノ質問ニ對シマシテ、大藏大臣ハ斯樣ニ
言ハレテ居ル「昭和二年ニ銀行ノ恐慌ガアリ
マシテ、其後ニハ整理ガ出來マシタコト
ハ森田君夙ニ御承知ノコトト考ヘマス、
日本ノ金融界ニ對シマシテハ、何等心配ヲ
致シテ居ラヌコトハ昨年中ニ申上ゲマシタ
通リデアリマス」斯樣ニ申サレテ居リマス
ガ、偖テ地方銀行ガ相續イテ機能ヲ失フニ
至ッタコトハ誠ニ餘儀ナイコトデアリマ
ス、現內閣トシテ、地方銀行ノ金融機關タ
ル機能ヲ失ッテ行ク其樣ヲ眺メテ、如何
ナル方途ヲ講ゼラレタノデアルカ、現內閣
ハ地方銀行ノ休業スルヨリモ他ニ方策ノナ
イ、萬策盡キタモノニ對シテハ、私ノ聞
及ンデ居ル所ニ依リマスルト云フト、休
業ノ札ダケハ何トカ貼出サヌヤウニ致セヨ
ト地方長官ニ內訓ヲナサレテ、努メテ左
樣ニナサッテ居ルト云フコトヲ承ハッテ居ル
ノデアリマス、又銀行重役ヲシテ、支拂資
〓卽チ預金ノ引出ニ依リ、又擔保物ノ流
通不可能ニ依リ、手許資金ノ窮乏ニ依ッテ、
地方銀行ノ此支拂資金トシテ、重役ヲシテ
私財ノ提供ヲセシメタノデアリマスルケレ
ドモ、ソレニ付キマシテハ、今日ハ地方ノ
銀行ト雖モ不動產ヲ取ラナイ、殊ニ小作爭
議ノ如キ面倒ナコトガアル土地ニ對シテ
ハ勸業銀行ト雖モ金ヲ御貸シニナラヌ、
斯樣ナ狀態デアリマスルカラシテ、例ヘバ
勸銀ガ三百圓ノ土地ニ對シマシテハ、其六
分ノ一乃至七分ノ一、法定地價ダケシカ貸
出セナイト云フヤウナ狀態デアリマスルカ
ラシテ、到底地方銀行ノ重役ヲシテ私財ヲ
提供セシメテ見タ所ガ、其責任ヲ補塡スル
コトガ出來ナイヤウナ狀態ニナッテ居ルヤ
ウデアリマス、併ナガラ窮迫シテ居ル所ノ
地方ノ實情ハ只今申上ゲマシタル通リデア
リマシテ、一ノ銀行ノ不安ト云フモノハ他
ノ銀行ノ不安ヲ招イテ來タ、政府ガ新聞記
事ヲ差止メニナリマシテモ、財界攪亂トシ
テ處罰セラレマシテモ、ソレハ遂ニ何等ノ
效ヲ奏シナカッタ、斯樣ナ次第デアリマシ
テ、私ハ之ニ對シマシテ餘リ言フコトヲ避
ケマスケレドモ、中央金融界ニ付キマシテ、
昨年ノ金解禁以來種々御苦心ニ相成〓テ居,
タノデゴザイマスケレドモ、或ハ單名手形
ノ囘收ノ問題ニ致シマシテモ、之ヲ緩和ニ
ナリマシタリ、一度ハ······一昨年ハ嚴格
ニ囘收シロ、斯樣ニ仰セラレマシテ、其當
時ニ於キマシテハ、銀行ハソレニ付キマシ
テ餘リ痛感ヲ致シテ居ラナカッタ、金解禁ノ
結果、三億圓ノ正貨ノ流出ノ結果、各銀行
ハ手許ガ逼迫シテ參ツタノデアリマスカラ
シテヽ遂ニハ政府ノ御勸メガナクトモ、ド
シドシ單名手形ノ囘收ヲ始メマシタ、遂ニ
危險狀態ニ迄立至ッタノデゴザイマスカラ
シテ、是等中央ノ金融機關ニ付キマシテハ、
十分ニ御心配ニ相成ッタノデゴマザイマスケ
レドモ、地方ノ方デハ一向ソレニ付キマシ
テ、如何ナルコトヲナサレタノデアルカ、
總理大臣臨時代理ノ御答辯ニ依ルト、農村
ノ金融モシタト言ハレルケレドモ、其金融
ヲシタト云フコトハ如何ナルコトヲ指シテ
言ハレルノデアルカ、私ニハ分ラヌ、ソコ
デアリマシテ、非常ニ此地方ノ銀行ガバタ
バタ參リマシタ爲ニ、金融ノ途モ付カナイ
コトニナッテ、農村ハ非常ニ困難ヲシテ來タ
ノデアリマス、資本金ニ於キマシテハ四千
万圓近クノモノ、預金ニ於キマシテハ一億
三千万圓近クノモノト云フモノハ、皆ス〓飛
ンデ行ッテシマッタ、左樣ナ狀態デアリマシ
テ、是等ノ休業ノ銀行ノ中ニハ數千万圓
ノ公金預金ヲ持ッテ居ル銀行モアッタノデア
リマス、是等ノ銀行ニ預金ヲ持ッテ居リマシ
タル所ノ、此人ミト云フモノハ日稼ギ、又
ハ中小商工業者以下ノ者、又農民ノ非常ニ
低イ所ノ階級ノモノ等デアリマシテ、其爲
ニ銀行ノ預金ガ取レナクナッタト云フノデ
氣ガ狂ッテ、何時デモアルコトデゴザイマセ
ウケレドモ、自殺スル者モ段々多クナッテ
參リマシタ>現ニ私ノ聞及ンデ居ル所ニ於
キマシテモ、實ニ氣ノ毒ナ、哀レナ話ヲ聞
イテ居ル、治國濟民ノ上カラ申シマシテモ、
一國政治ノ上カラ申シマシテモ、此地方
銀行ガバタ〓〓參リマシタト云フコトハ
私ハ此點ニ於キマシテモ、思想問題カラ言ッ
テモ、亦救濟ノ點カラ行キマシテモ遺憾ニ
思フノデゴザイマス、然ルニ政府ハ餘リニ
之ヲ閑却シテ、世間ニ金融界ハ、此速記ニ
モゴザイマスル通リニ、一向心配ハナイ、
昭和二年ニ整理ヲシタカラ心配ハナイ、斯
樣ニ申シテ居ルノデアリマス、昭和二年ノ
整理ニ致シマシテモ、先ヅ危イ所ヲ蓋ヲシ
タダケデアッテ、其後ノ本當ノ整理ガ出來テ
居ルカト云フコトニ付キマシテハ、識者ハ
之ヲ疑ッデ居ル、中央ニ於キマシテモ斯樣ナ
狀態デアリマスルカラ致シマシテ、地方ノ
此金融機關ノ問題ニ付キマシテモ、十分ニ
御整理ガ出來テ居ル筈ガナイ、·私ハ左樣ニ
考ヘルノデゴザイマス、若シ又私ノ考ヘガ
間違ッテ居ルナラバ、ソレハオ前ガサウ言フ
ケレドモ實ハ斯ウデアル、斯ウ仰シヤッテ戴
キタイノデゴザイマス、又農業倉庫ノ點ニ
致シマシテモ、信用組合ノ點ニ致シマシテ
モ、段々皆銀行ガ倒レテ、其處ニ預ケテアッ
タ所ノ頂金ト云フモノガ取レナクナッテ來
テ、產業組合ノ重役ニ致シマシテモ、信用
組合ノ重役ニ致シマシテモ、皆責任ヲ負ッテ
將棊倒レニナリツツアルノデアリマス、農
村金融ノ不圓滑ノ一例ト致シマシテハ、只
今申シマシタル通リニ信用組合ハ優良ナ
ル信用組合ハ却ッテ是ガ不良ナル、不信用ナ
ル信用組合ニナッタト云フ所ノ例モ澤山ゴ
ザイマス、ソコデ私共ハ此信用組合ニ致シ
マシテモ、信用組合又其他ノ中央會ニ致シ
マシテモ、此兩方ノ預ケテアル金ガ昨年非
常ニ引出サレテ居ル僅カ四箇月ノ間ニ非
常ニ引出サレテ居ル一昨日前田君ノ質問
ニ對シテ······先日前田君ノ質問ニ對シテ、
財界ガ安定スレバ人心ガ安定スル、斯樣ニ
相對的デアルガ斯ウデアル、而シテ昨年ノ
五六月頃ニハ外國カラドン〓〓悲觀材料ガ
來タガ、日本ニハ十月以後ニハ餘リ來ナク
ナッタト、斯樣ニ仰セラレテ居ルノデゴザイ
マスケレドモ、何ゾ知ラン八、九、+、+一
月ノ此間ニ、此兩者ノ間デ約四ヶ月間ニ三
千万圓ノ預金ト云フモノハ引出サレテシマッ
タ、斯樣ニ考ヘマスレバ私ハ此一事ヲ以テ
致シマシテモ、是亦國內ニ於テ起ッタル所
ノ悲觀材料デアル、外國カラ來ナイデモ、
國內ニハ此通リ悲觀材料ガ隱レタルモノ
ガ未ダ澤山アラウ、四箇月間デ約三千万圓
ト致シマスレバ一年間ニ、昨年ノ一月カラ
此年ニ參リマス迄ニ一億近ク、或ハ少クト
モ六七千万圓ノ此信用組合ノ金ト云フモノ
ハ引出サレデシマッタ、斯樣ニ考ヘマスレバ
農村ノ金融機關ト云フモノハ非常ニ乏シク
ナル、金融機關ノ力ト云フモノガ農村ヲ潤
シ、農村ノ改良進步、振興等ニ資スルダケ
ノ力ガ無クナッテ來タト云フコトヲ私ハ思
フノデゴザイマス、デ斯ウ考ヘマスレバ私
ハ大藏大臣ガ言ハレマシタル通リニ、果シ
テ我國ノ金融機關ハ心配ハナイカ、又勝田
君ノ質問ニ對シテ斯ウ申サレテ居ル、日本
ノ經濟界ハ相當ニ之ニ對シテ對策ヲ講ジタ
爲ニ、十月カラ只今ノ狀態ハ稍、安定シテ
居ルノデアル、成程中央ダケヲ御覽ニナレ
バサウデアリマセウ、地方ト云フモノヲ御
除ケニナレバサウデモアリマセウゲレドモ、
併ナガラ此十月カラ安定シタドコロデハナ
イ、十月、十一月、十二月、延イテ今年ニ
入ッテ地方ノ銀行ト云フモノハ參ッテシマッ
テ居ル、勝田君ノ言ハレル通リ死ンダ蛤、
ロガ開イテ居ルノガ澤山アル、私ガ存ジテ
居ルバカリデハナイ、其外ニモ或數ノ支拂
停止ヲ受ケテ居ル所モアル、又全國ニ亙ッテ
ハ非常ナ數ノ銀行ガ殆ド力ガ弱クナッテ來
テ居ッテ、ロヲ開ケテパク〓〓息ヲシテ居
ル、鹽水ノ中へ鯉ヲ入レタヤウニパク〓〓
息ヲシテ居ルヤウニ實際ノ活動力ガ無クナッ
タモノガ澤山アル此數ヲ申上ゲマスト甚
ダ不穩當ニナリマスカラ申シマセヌガ、兎
ニ角斯ノ如キ狀態デアルノデアリマス、ソ
レニ伴ヒマシテ政府ノ施設ト致シマシテ
ハ、金融ノ偏在ト云フモノヲ緩和シテ
ヤラナケレバ、農村ノ金融ト云フモノ
ハ成立ッテ行カナイ、其金融モ益〓大銀行
ニ偏在シテ參ルト云フヤウナ形ガゴザイマ
ス、其數字ヲ申上ゲマスト云フト非常ニ面
倒ニナリマスカラ申シマセヌガ、兎モ角モ
昭和五年ハ三十一億圓以上ニ相成シテ居リ
マシテ、是ハ五大銀行ノ預金ノ總額デアリ
&
マスガ、其外ニ全國ノ銀行ニ至リマシテハ、
段々此大銀行カラ預金ノ吸收ノ爲ニ地盤ノ
侵略ヲ受ケマシテ段々減ッテ參ッタ、大銀行
ガ此預金ヲ吸收イタシマスレバ、成程是ハ
地方ニ投資ヲ致シテ吳レレバ宜シウゴザイ
マスケレドモ、先以テ中央ニ來ル虞レガア
ル、又保險會社ニシマシテモ、政府ノ簡易
保險ニ致シマシテモ、郵便貯金ニ致シマシ
テモ、是ハ皆中央ニヤッテ來ル性質ノモノデ
アル、之ヲ緩和シナケレバナリマセヌガ、
政府ハ一體ドウ云フ方策ヲ執ッテオ出デニ
ナルカ、地方ノ金融ガ枯渴シテ參ルノニ、
獨リ中央ニ金融ガ偏在ヲシテ參ルト云フコ
トハ、是ハ中央ノ金融ノ偏在ガ是亦國內ノ
不景氣ヲ增進スル、世界ノ不景氣ノ增進ガ
卽チ米國ト佛國ニアル所ノ金ノ偏在ノ爲メ
デアルト云フコトモ一ツノ原因ニナッテ居ル
ノデアリマスガ、偖テ斯ノ如ク農村ノ金融
ニ付キマシテハドウナサル御積リデアリマ
スカ、以上述ベマシタ農村困憊ノ此狀態ニ
於キマシテハ、自治體ノ破壞、地方銀行ノ
磯綻、有ラユルコトガ起ッテ來テ居ルノデゴ
ザイマスガ、農村ノ振興ト云フコトニ付キ
マツテハ、先程モ申上ゲマシク通リニ一向
ドウモ根本的ノ方針ガナイ、障子ガ一張リ磯
レレバ二千五百万圓ノ金ヲ出シテ其處ヲ防
グ此方ガ破レレバ七千五百万圓ノ金ヲ出
シテ此方ヲ防グ、此方ガ破レレバ米ノ二百
万石ノ實上グヲスル、此方ガ破レレバ絲價
衞償法ヲ發動シテ之ヲ救フ、此方ガ破レレ
バ今度ハ養蠶家ヲ助ケチヤル、一向根本ノ
方針ガ定ッテ居ナイ、アチタ方ノナサレル所
ヲ見ルトマルデ嘗藥張ノ農村政策デアリマ
六膏藥張ノ農村政策デ以テドウシテ農村
ノ振興ト云フコトガ出來マスカ、今ニシテ
機本ノ方針ヲ御立チニナラナケレバ、私ハ
先程モ申上ゲマシタ通リニ······申シニタイ
話デゴザイマスルケレドモ、私モ私ノ家ニ
ジテモ注意シナケレバ······昔ハ簑笠ヲ著テ
出ヲ來クノデアリマス、天ヲ怨ミ人ヲ呪咀
スルト云フコトニナリマスレバ彼等ト雖
も生活ノ安定ヲ得ナケレバ、不安デアレ
バ實ニ同情ノ限リニ堪ヘマセヌ、窮
スレバ亂スルト云フコトガ人生デゴザイマ
ス、シテ見レバ今日ニ於テ對策ヲ御決メニ
ナッテ、是レ是レクコトヲシテヤル、斯樣ニ
御發表ニ相成ラナケレバ、私ハ農村ノ人と
ト云フモノハ安心シナイダラウト思フノデ
ゴザイマス、又農村ノ金融機關ニ付キマシ
テ、抵當證劵法ト云フモノヲ御出シニナル
サウデゴザイマスガ、是モ惡イコトヂヤゴ
ザイマスマイガ、楮テ都市ニ限ッテ居ルラシ
イヤウダ、農村ノ方ニハ一向關係ガナイ、
都市ニバカリ限ラシテ居ルヤウデゴザイマ
入、金融ノ問題ニ致シマシテモ、矢張リ都
市ニ限ラレテ居ルヤウデゴザイマス、何ヲ
見マシテモ都市ニ限フテ居ルト云フコト
ガ······私ガ先程申上ゲマシタ通リ、濱口内
閣ガ出來マシテ、一向農村ノ政策ニ付キマ
ウテハ根本ニ定マッタコトガナイト云フコ
トソ是モ私ハ一ツノ實例ヲ申シテ居ルノ
デゴザイマス、又人心ノ安定ハ經濟界ノ安
定ト關係ガアル、相對的ノモノデアルト云
フコトヲ臨時代理ガ申サレテ居ルクデゴザ
イマスガ、ソレハ昨年十月頃ヲ以テ五月頃
ニ比較ヲスル斯ウ云ヲコトデゴザイマス
ガ、五月頃ハ輸入期デアル、ツコデ十月頃
ハ輸出期デアル、不景氣ノ深刻サハ月ヲ逐
ヒ日ヲ遂ウテ激シク、財界ハ正比例シテ不
安デアリマス、貿易關係ニ於キマシテハ只
今申上ゲタ通リデアリマシテ、其時ノ「レボ
ート」ヲ以テ人心ガ相對的ニ安定ヲシテ居
ルト云フコトヲ仰セラレタノハ私ハ分ラ
又、ソレバカリデハナイ、前田君ノ質間ニ
對シチノ御答辯ノ中ニ、英吉利ノ失業者ノ
數ガ一昨年ト昨年トハ是レ是レノ數字ガ增
シテ居ルト云フコトヲ仰セラレテ居ルノデ
ゴザイマスルカラシテ、是モ矢張リ餘リ悲
觀材料ガ來ナクナッタト仰セラレマスケレ
ドモ、私共カラ見レバ矢張リ悲觀材料デハ
ナイカ知ラヌト思フノデゴザイマス、ソコ
ヂ餘リ長クナリマスルカラモウ止メニスル
ガ、私ハ現内閣ガ第一ニ如何ナル考ヲ以テ
農民ヲ救濟スル、救濟スルト云ヘバ失禮デ
アリマスガ、偖テ如何ナル機本方針デ、御
考ベデ、現狀カラ緩和ヲスルカ、第二ニハ
地方ノ金融機關ト云フモノニ對シテ之ヲド
ウシテヤルクダ、現狀ノ儘デ大丈夫カ大丈
夫デナイカ、又第三ニハ銀行ノ問題ニ付キ
マシテ、ドウモ大藏大臣ガ御述ベニナッテ居
ル所ト、私ハ內情ガ少シ違ヲテ居リハシナイ
カ、若シ此內情ノ點ニ付チ、詳シク申シマ
スレバ長クナリマスカラ是ハ止メマスルケ
レドモ、其原因カラ見マスト、ドウシテモマ
ダ警戒ヲスベキ時デアル、金解禁ヲナサッタ
後ヲ手術ノ結果ガ、政府ヲ御覽ニナヲテ居ル
所ト國民ノ多數ノ見テ居ル所ト違フテ居ル
ヤウニ思フ、故ニ私ハドウシテモ是ハ樂觀
スベキコトデハチイ、マダ警戒ヲ御解キニ
ナルクハ早イノデハナイカ、大體斯樣ナ點
ニ付キマシテ、大變長タオ喋ベリヲ致シマ
シタヤウナ次第デゴザイマス、マダ質問ヲ
敷衍シテ致シタイノデゴザイマスルケレド
そ、モウ時計ヲ見マスト十二時デゴザイマ
スカラ、先ヅ是位デ私ノ一應ノ質問ヲ終リ
マス、長ク御迷惑ヲ掛ケマシタ段ヲ御詑ヲ
申上ゲマス次第デアリマス
〔國務大臣町田忠治君演壇ニ登ル〕
〓國務大臣(町田忠治君)奧平伯爵ハ現下
ノ農村ニ於ケル極メテ困態ノ事情ニ付キマ
シート、各方面カラ實例ヲ擧ゲテ詳細ニ御意
見ヲ御述ベニナッタノデアリマス、農村今日
ノ現狀ニ付キマシテハ、當局者タル私ニ於
キマシテモ日夜憂慮シテ、如何ニ之ヲ緩和
スルカ、如何ニ之ヲ救濟スルカニ付キマシ
テ種々考慮イタシ、昨年來相當施設モ致
シタコトモアルノデアリマス、第一ノ御尋
ネノ農村今日ノ狀態·······產物ガ昨年ノ經
濟界ニ於テ激落ヲ致シテ、之ガ爲ニ日本ノ
過半ノ人口ヲ占メテ居ル所ノ農家一般ノ經
濟狀態ガ甚シク困難ヲ致シテ居ルコトニ付
キマシテハ.御同感デアリマス、唯大體
論トシテ御立論ノ下ニ於キマシテ、昨年ノ
農產物······農産、水產、畜產、或ハ山林、
養蠶、各方面ヲ併セテ農家ノ總高ニ對スル
貨幣價格ニ換算シケ所謂代價ガ十二三億、
收入ガ減ジテ居ルト云フコトガ、御話ノ御
意見ノ大體ノ根據ヲナシテ居ルノデアリマ
ス此十二三億ノ昨年ニ於テ激落ヲ致シタ
ト云フコトハ、此統計ハ正確ナル基礎ニ依ッ
テ出テ居ルマデニハ從來ノ設備ガ參ヲテ居
リマセヌガ、農林省ノ推算ニ依リマスト、
先ヅ昨年ニ於テ、一昨年ニ比ベレバ十二三
億、總農產物ノ價格ノ減少シタコトト存ゼ
ラレルクデアリマス、但シ、但シ此十二三
億ガ直ニ農家ノ收入ヲ減ジタト云フ御計
算ニ對シテハ、相當御斟酌ヲ願ヒタイコ
トガ第一ニアルノデアリマス、私共ノ計
算ニ依リマスト、農產物ハ成程十二三
億之ヲ貨幣價値ニ換算スレバ減ジテ
居ルト兒マスルガ、此中ニ生活上農家自
身ガ消費スル分量ヲ先ヅ差引イテ見タイト
思ヒマス、同時ニ諸物價下落ノ爲ニ農家ノ
生活費ガ、其意味ニ於テ幾ラノ緩和ヲサレ
テ居ルカト云フコトモ差引イテ見タイノデ
アリマス、更ニ農產物ノ總高ニ對スル生產
費ガ、物價下落、勞銀ノ低落ノ爲ニ、農家
ノ生產費ガ幾ラ減ジテ居ルカト云フ意味合
ニ於テノ大體ノ斟酌ヲ致シテ見タイノデア
リマス卽チ農產物總高ノ價格ニ換算シマ
スルト、十二三億減シテ居リマスルガ、此中
ノ農家自體ガ消費スル分量、昨年ニ於テ生
產費ノ減ジタ分量、或ハ諸物價下落ノ爲ニ
生活費ノ減ジタ分量ヲ差引イテ、農家ガ賣
出シテ、得ベキ所ノ價格ノ減少シタ部分ガ、
最モ農家ノ困難ヲ來シテ居ル理由ニ相成ッ
テ居リマス、此計算ハ私トシテハ相當腹積
リヲ致スダケノ大體ノ材料ヲ得テ居リマス
ガ、此席カラソレヲ詳シク斯樣ナ數字デア
ルト云フコトハ責任ヲ以テ申上ゲルコトハ
如何カト思ヒマスガ、十二三億ト御計算爲
サッタ中カラ少クトモ數億ガ減ジ得ラレテ、
其殘リノ中大部分ト申シテ宜シウゴザイマ
セウ、殘リノ大部分ガ農家ノ收入ノ滅ジタ
ノデアリマス、此減ジタ部分ノ頗ル多額ニ
達スルガ爲ニ一般農家生活ヲ脅カシ、農家
ノ購買力ガ減少シタガ爲ニ、一般商工業ノ
不振ヲ來シタル相當大ナル原因ト相成リ、
卽チ我國經濟界全般ノ不振ヲ來シタ主モナ
ル一ツノ原因ト、農產物ノ下落ガ相成ッテ居
ル事實ハ、私モ奧平伯爵ト同樣ノ考ヲ持フ
テ、頗ル農家ノ困難ニ對シテハ同情ヲ以テ
之ガ對策ヲ講ジテ居ル次第デアリマス、何
故ニ農產物ハ斯ク下落イタシタカト云フ專
門的ノ方ノ見地カラノ御答辯ハ、定メシ後刻
大藏大臣カラゴザリマセウト思ヒマス、併シ
私ノ見ル所ヲ以テ簡單ニ中上ゲマスレバ
氣候ノ順當ナリシガ爲ニ、各方面ニ於ケル
農產物、各種類ニ對スル農產物ノ作合ノ豐
穰ナリシ、所謂供給ノ增加ガ其一ツデアリ
マス金解禁ノ爲ニ貨幣價値ガ上ッタガ爲
ニ生スル物價下落モ、農產物價格ヲ下落セ
シメタ一原因ト相成リマス、公私經濟ノ緊
縮ニ依ッテ購賞力ガ減シタト云フコトモ一原
因ニ數ヘラルルコトハ當然デアリマス、併
シ此對策ヲ立ツル······我ガ經濟界ノ根本的
刷新ヲスルト云フ見地カラ出マシタ此下落
ハ、其意味ニ於テハ巳ムヲ得ナイモノト考
ヘイ、之ニ對スル應急ノ對策ヲ講ズルノデ
アリマス、現內閣ニ於キマシテ、斯カル困
憊ノ農村ニ對シテ、何等根本的ナ對策ガナ
イヤウナ御批評ガゴザイマシタ、私共モ左
樣ナ御批評ガアリ得ラルルト思セマス、根
本的對策ハ遺憾ナガラ一兩年ノ間ニ其效果
ヲ明ニ示スコトハ困難デアリマス、簡單ニ
申シマスルト、私ノ立場トシテ、又現內閣
ト致シマシテハ、農村今日ノ實情ニ依シテ
ノミナラズ、昨年ノ如キ變態的ナル大不況
ガアルナシニ拘ラズ、根本對策トシテハ、
農家ノ出來ルダケ負擔ヲ減ズルコトヲ、根
本策ノ一ツト致シテ居リマス、第二ニハ農
產物ノ生產費ヲ出來ルダケ減少スルコトヲ
以テ根本對策ノ一ツト致シテ居リマス、農
產物ノ生產費ヲ安クスル根本對策ヲ分ッテ、
農業ノ經營ノ改善ガ其一ツデアリマス、科
學ノ應用其他ニ依ッテ農產物ノ生產費ノ減
少ヲ圖ルコトハ其一ツデアリマス、更ニ生
產物ノ生產者ト消費者ノ間ノ中間ニ於テ生
產者ノ得ル所ノ代價ヲ幾分ガ中間ニ於テ取
ラレテ居ル此現狀ニ對シテ永久ノ改善ヲス
ル、根本的施設ヲ致スルコトモ其一ツデア
リマス、海外ニ向シテ出來ルダケ販路ヲ廣メ
テ行クト云フ爲ニ今年僅カバカリノ豫算ヲ
願シテ置キマスナドモ、根本施設ノ一ツデア
リマス、農產物ノ······農家ノ負擔ヲ減少ス
ル意味ハ、出來ルナラバ國稅地方稅ノ負擔
ヲ減ズル方ノ意味カラモ考ヘテ見マシタ、
御話ノ如ク農家ガ四十德乃至五十億ト云ヘ
ル容易ニ返還シ得ラレヌ狀態ニアル此負債、
竝ニ其年々拂フ所ノ利息ノ步合モ高ク且ツ
其金額モ多イ、之ヲ如何ニ整理スルカト云
フコトニ對スル施設ハ私ノ申ス迄モナク
根本的政策ノ一ツト見テ居ルノデアリマ
ス、昨年ノ世界經濟界ノ不景氣竝ニ日本ニ
於ケル特有ノ原因ニ依ッテ、我國ニ於ケル
特有ナル原因ガ加ハッテ、農家ノ收入ノ著シ
ク減少イタシ、之ガ爲ニ農村ノ困態ヲ來シ、
延イテ農村生活ヲ脅カスノ結果思想問題ニ
モ及ビハシナイカト、日夜私共憂慮イタシ
マスル點カラ、御話ノ如ク根本策ノ外ニ應
急對策ヲ講ジタノデアリマス、預金部ノ資
金豐カナラザル場合ニ於キマシテモ、昨年
ノ春以來一年間ニ普通低利資金二千五百万
圓、養蠶應急資金四千万圓、籾貯藏ニ對ス
ル應急資金三千万圓、中小工農低利資金二
千五百万圓、其中七割ハヤハリ農村ニ行シテ
居ル、此資金竝ニ先刻御批評ニ相成ッタ七
千万圓ノ低利資金ハ、主トシテ應急的施設
トシテ、昨年以來今日マデ採"テ居ル方針
デアリマス、更ニ米價ノ下落、農產物ノ價
格ノ下落シタ爲ニ、農家ガ現在耕地整理、
其他低利資金トシテ預金部カラ借入レテ居
ル金ガ一億五千万圓ニ達シテ居リマス、屢〓
地方カラ陳情ガ參リマス、斯樣ナ農產物ノ
下落シテ居ル際ニ、耕地整理等ニ年賦デ實
出シテ居ル低利資金ヲ此際取ルコトハ、農
村ノ打撃ガ一層甚シク相成ルト云フ陳情ガ
アリマシタ故ニ、大藏大臣ガ過日貴族院ノ
豫算總會デ大體意見ヲ述ベラレタ如ク、目
下大藏農林當局ノ間ニ大體ノ案ガ出來マシ
テ、此一億五千万圓ノ、農家ガ年賦トシテ
支拂ヒツツアリマス低利資金ヲバ、或ハ長
期ニ代ヘルトカ、或ハココ兩三年延期スル
カト云フコトノ對策ヲ得マシテ、恐ラクハ
大藏大臣カラ御答ニ相成リマセウガ、不日
預金部委員會ニ掛ケテ此方面ニ於テモ緩和
イタス積リデアリマス、更ニ御承知ノ通リ
自作農創定維持ノ爲ニ、簡易保險ノ積金ノ
中ヲ以テ年々相當ノ融通ヲシテ居リマス此
年賦金ニ向ッテモ、前申ス同樣ノ方法デ出來
ルダケ緩和イタシタイ、斯樣ニ考ヘテ居リ
マス、ソレハ、農家負債ノ中デ政府ノ低利
資金ガ與ヘラレテアル方面ニ對シテハ、斯
樣ナ應急策ヲ考ヘツツアルノデアリマス、
更ニ政府以外カラ全國農家ニ於テ借入レテ
居ル總高ハ約四十億乃至五十億ト計算サレ
テ居リマス、此基礎ハ正確デアリマセヌ、
貴族院豫算委員會ニ於キマシテモ大體申シ
マシタガ、唯農林當局トシテ對策ヲ講ズル
大體ノ目安トシテ種々ナル材料ヲ集メマシ
テ約四十億乃至五十億ト計算サレテアルノ
デアリマス、之ヲ何トカ整理スルコトハ農
家ノ今後ノ農業ノ改善、農家ノ生活ヲ安定
スル上ニ於テハ、最モ必要ナル問題デアル、
之ガ對策ヲ講ジナケレバナリマセヌ、而
シテ大體各位ノ御參考ニ一言申添ヘテ置
キタイノハ、是ハ農家將來ニ亙ル大キナ
病根デアリマスガ故ニ、當局者トシ
テ、努力シテ、此問題ヲ緩和スル施設
ヲ致スコトハ勿論デアリマスガ、大體
ノ計數ニ於テハ此四五十億ノ負債ハ如何ナ
ル原因ニ依ッテ生ジテ來タル負債デアラウ
ト云フ原因調査モ今致シテ居リマス、更ノ
何人カラ借リテ居フテ如何ナル步合ノ利子
ヲ拂,テ居ルカト云フ現狀モ大體目安ヲ付
ケテ居リマス、大體申上ゲマスルト此莫大
ナル負債ノ約半バ二十二三億カラ二十四五
億ト云フ金高ハ個人、主トシテ個人及ビ無
盡、賴母子講ニ依クテ借リテ居ル金額ハ約半
額ト相成ッテ、其借入ノ利息ノ步合ガ相當高
イモノデアル、ト御承知ヲ願ヒマス、後ノ
凡ソ二十四五億ノ約半分ニ近イモノハ、產
業組合系ニ屬スル所ノモノ、信用組合ヲ通
シテ、借入レタモノ、其又殘リハ勸業、農
工銀行等ノ手ニ依ッテ得タモノト、斯樣ナ、
貸シ出シタモノ、形ハ左樣ニ分レテ居ルト
同時ニ、種類ニ付テハ、不動產抵當デ借入
レタモノハ大凡四五十億ノ半バニシテア
ト半額ハ所謂信用ニ依ッテ出來タモノト、
斯樣ニ相成ッテ居リマスガ故ニ、之ヲ整理ス
ル方法ニ付キマシテハ、個人等ニ依ッテ高イ
利息デ得タモノヲバ如何ニ之ヲ整理スルカ
ト云フコト、其他ノ方法等ニ付キマシテ、
此議會ガ終ヘマシタナラバ、根本的ニ農村金
融機關ノ改善ト共ニ、是非トモ農家ノ負擔
ヲ輕減スル意味ニ於テ何等カノ方法ヲ立テ
テ、農家全體ノ負債ヲ幾分タリトモ之ニ依。フ
テ緩和輕減イタシテ、農村振興ノ爲ニ圖リ
タイト斯樣ニ考ヘテ居リマス、屢〓御非
難ヲ蒙リマスル七千万圓ノ低利資金ノ問題
ハ衆議院竝ニ豫算總會ニ於テモ大體ノ事
情ヲ申シマシテ、應急策トシテ私トシテハ
取急イデヤッテ居リマス、併シ從來ノ低利資
金ヲ貸出シタ實例ニ依リマスルト、此度ノ
七千万圓ハ相當早ク進行イタシテ居リマ
ス、今日ハ旣ニ三十三府縣ニ對スル起債認
可ガ濟ンデ居リマス、申ス迄モナク此借入
主ハ府縣デアリマシテ、府縣ガ借入レルニ
ハ縣會府會ノ決議ヲ經テ始メテ大藏內務ニ
申請イタス、此決議ヲ致シタノハ多ク十二
月ノ末デアリマス、遺憾ナガラ其事務的手
續ニ相當ナ調査ヲ要スル爲ニ、私ノ豫期ス
ル程進捗イタシマセヌデアリマシタガ、大
藏内務兩當局ニ於テモ此失業救濟ノ資金ハ
一日モ早ク行渡ルヤウニト努力ヲ致シテ居
リマス、申ス迄モナク此失業救濟資金七千
万圓ハ延人員ニ致シマスルト三千百万人
ニ向ッテ勞銀ヲ與ヘ、自分ノ爲ニ、將來ノ自
家ノ財產ヲ增加スル意味ニ於テ、其者自身
ニ勞銀ヲ與ヘテヤルト云フコトガ、根柢ト
相成リマシテ、三千百万人ノ延人員トナリ、
此事業ハ半ケ年ト致シマスト、日々十九万
ノ失業防止トナリ、失業救濟トナル施設デ
アリマシテ、七千万圓ノ中八割ハ勞銀···
賃銀トシテ拂ハルヽノデアリマス、中央ニ
於キマシテ失業問題ガ起リマシタ······自由
失業者ガアルト屢〓從來ノ當局者ハ、農村
ニ歸レ、歸農イタセ、歸農イタセト言ッテ、
中央ノ失業者ヲ救フガ爲ニ、屢、農業ニ歸
v、地方ニ歸ルヤウニト云フ勸告ヲ致シテ
居ッタノガ、從來歷代內閣ノ大體ノ仕方ガ
左樣デアッタノデアリマス、此度ノ現内閣ニ
於キマシテハ歸農サセルコトモ相當考慮シ
テ居リマシタガ、失業公債ニ依フテ救濟スル
所ハ六大都市ニ限ラズ、各府縣ニ均等ニ參
ルヤウナ意味合ニナッテ居リマス、此政策ト
相竝ンデ、私ノ方ハ主トシテ農村ヲ中心ト
シタル應急救濟施設ト致シマシテ、七千万
圓ノ低利資金ヲ出シテ居ルノデアリマス、
遠カラズ全部行渡ルコトト思ヒマス、之二
依ッテドノ程度ニ救濟サルヽカハマダハッキ
リト申上ゲル譯ニ參リマセヌガ、此施設ハ
農業、畜產、山林各方面ニ亙ッテ······行渡"
テ、各府縣カラノ要望ガ、二億千万圓、三
億ノ多キニ達シテ居ル實情カラ見マスレ
バ、此七千万圓ガ相當效果ガアルモノト考
ヘテ居リマス、私ノ申上ゲルコトハマダ盡
サヌヤウデアリマスガ、根本對策ト臨時對
策ノ二ツヲ申上ゲ、奧平伯爵ガ全國主モナ
ル農村マデモ御視察ナサレテ實情ニ照シテ
ノ詳細ナル農家ノ今日ノ困憊ノ實情ヲ御述
べ下サッタコトニ對シテハ、大體私モ御同感
イタシ、又私ノ立場トシテ今ノヤウナ慘狀
ヲ出來ルダケ早ク幾分タリトモ緩和イタシ
タイト日夜努力イタシテ居ル次第デアリマ
ス
〔國務大臣井上準之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=27
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028・井上準之助
○國務大臣(井上準之助君) 只今ノ奧平伯
爵ノ私ニ對スル質問ハ地方銀行ノ狀態及都
會ト地方ノ金融狀態ニ付テノ御問デアリマ
シタカラ、極ク簡單ニ申述ベテ見タイト思
ヒマス、信用機關ノコトデアリマスカラ餘
リ內部ニ立入ッテ彼此レ批評ガマシイコト
ヲ差控ヘタイト思フノデアリマスガ、地方
銀行ノ狀態ハ、昨年ニ二十數行地方ニ於キ
マシテ休業銀行ノ出來マシタコトハ、誠
遺憾ノ至デアリマス、之ニ付キマシテハ大
藏當局ト致シマシテ有ラユル限リノ援助努
力ヲ致シテ見タノデアリマスガ、如何トモ
スルコトガ出來ズニ、左樣ナコトニナッタコ
トハ誠ニ遺憾ノ至デアリマス、然ラバ現
在ドウカト申シマスト、私ハ先度森田君及
勝田君ノ質問ニ對シテ答ヘタト同ジコトデ
アリマシテ、今日ノ銀行狀態ニ對シテ何等
私ハ悲觀ヲ致シテ居ラヌノデアリマス、ソ
レナラバ地方銀行ノ將來ノ狀態ハト申シマ
スト、只今農林大臣ガ農村ノ狀態ヲ申上ゲ
マシタヤウニ、地方農民ニ巨額ナル借入金
ガアリマス、容易ニ整理ガナカ〓〓出來ヌ
ノデアリマスガ、ソレガ直ニ地方金融ニ影
響シテ居ルト申上ゲテ宜イノデアリマス、
ソレデアリマスカラ、根本ニナリマシタナ
ラバ、地方民ノ借入金ガ幾ラアリマスカ、
正確ナ數字ハ分リマセヌガ、可ナリ巨額ノ
借入金ガアリマス、而シテ過去ノ医史ヲ尋
ネテ見マスト、其農村ノ借入金ガ、過去ノ
經濟界ノ好景氣時代ノ生活向上ト、一方カ
ラ申シマスレバ申サレマスノデアリマス
ガ、一方カラ申シマスレバ、農村ノ多少質
實ノ風ノ無クナッタ關係上出來タ今日借金
モアルノデアリマス、從,テソレ等ノ農村ノ
借入金ガ地方銀行ニ反映シテ居ル所ニ、我
我ハ一ツ改善策ヲ施シテ見タイ、言葉ヲ短
ク申シマスレバ、地方銀行ガ不動產ニ固定
セシメテ居ルト云フコトハ最モ禍ノ根本ト
考ヘテ、其點ニ付キマシテハ抵當證劵法ヲ
設ケ、或ハ勸業銀行、農工銀行、北海道拓
殖銀行法ノ改正ヲ致シマシテ、サウシテ地
方ノ銀行ガ地方ノ不動產ニ固定シテ居リマ
スモノヲ債權ノ儘、或ハ抵當權ニ變形ヲ致
シマシテ、都會ニ金融ヲ求メルコトノ出來
ルヤウニ致シマシタ次第デアリマス、是ハ
只今衆議院ニ於キマシテ審査中デアリマス
カラ、遠カラズ貴族院ノ御審査ヲ願フ覺悟
デ居ルノデアリマス、ソレナラバ金融ノ偏
在ヲドウシテ救フカ、地方銀行ノ預金ガ減〃
テ、ソレガ都會ニ偏在シテ居ル斯ウ云フコ
トニ付キマシテハ、是ハ歷代ノ內閣ガ、地
方カラ銀行預金ニアラズシテ、郵便貯金ガ
殖エマスモノハ、大體之ヲ見計ラヒマシテ、
地方ニ還元スル、只今農林大臣ガ申シマシ
タヤウニ、預金部ノ金ガ殖エマスレバ一方
ニハ地方ノ金融ガ涸渇スルノデアリマスル
カラ、ソレヲ見計ラッテ地方ニ預金部ノ低利
資金ヲ〓スト、斯ウ云フコトニシテ居ル次
第デアリマス、尙ホ先刻抵當證劵ハ實施シ
テモ、地方ニ實施シナイト、斯ウ言ハレル
御言葉デアリマシタガ、成程左樣デアリマ
ス、抵當證劵ト云フモノハ可ナリ法律上困
難ナ問題デアリマス爲ニ、抵當證劵ヲ登記
役場デ出シマスノニハ相當ナ法律上ノ頭ガ
要ルノデアリマス、先ヅ第一、一番必要ヲ
感ジテ居ルト思ハレマス市制ヲ布イテ居ル
所ニ實施イタシマシテ、勅令ニ依リマシテ
何時デモ是ハ日本全國ニ擴ゲルコトガ出來
ルヤウニナッテ居リマスノデ、只今申シマス
登記役場ノ修練ガ附キマシタラバサーナ
ト地方ニソレヲ擴ゲテ行ク覺悟デ居リマ
ス、ソレカラ現政府ノ金融政策ガ都會ニ偏重
デアッテ農村ニ輕イヤウニ仰セラレテノ話デ
アリマシタガ、決シテ左様ナ考ヘヲ有ッ
テヤッテ居リマセヌノデアリマシテ、日本ノ
此狹イ金融ニ於キマシテハ、左樣ニ地方ト
都會ト別ニシテ考ヘマスコトモ必要ガナイ
ト考ヘテ居リマス、先刻例ニ出サレマシタ
單名手形ガ行詰シタ場合ニ、都會ニ於テハ
非常ナ融通ヲ與ヘテ、何等農村ニハ顧ミナ
カッタト言ハレマスガ、單名手形ノ實質ハ
殆ンド日本全國ニ及ンデ居ルノデアリマ
ス、地方ノ銀行ガ放資物······確カナ放資物
ガアリマセヌト、都會及大工業ノ單名手形
ヲ割引スルノデアリマシテ、共割引ヲシテ
居リマスル銀行ハ、殆ンド日本全國ニ擴ガフ
テ居ルト云ッテ宜シイノデアリマシテ、其始
末ガ附キマスコトハ農村、都會ヲ問ハズ、
總テ金融ノ融和ヲ受ケル次第ト考ヘテ居リ
マス、ソレカラ御問ヒデモアリマセヌヤウ
デアリマシタガ、先日カラ度〓御議論デア
リマスカラ、私簡單ニ申上ゲテ置キタイコ
トガアリマスガ、首相代理カラ、只今ノ財
界ハ昨年ノ十月頃マデニ比較イタシマシテ
ハ多少安定シテ居ル、斯ウ申シマシタ意味
ハ私モ申スノデアリマスガ、理窟ニ依リ
マセズニ現狀ヲ述べマシテ見マシテモ、昨
年ノ九月ヨリカ生絲ハ二百圓近クモ騰貴シ
テ居リマス、ソレカラ全體ノ日本ノ有價證
劵ガ相當ニ値上リヲシテ居ルト云フコトモ
是ハ御認メニナッテ居ラレルダラウト思フ、
其以外ニ重要商品ハ値段ガ上ッタト中シマ
スルヨリカ、不安時代ニ不當ニ下ッテ居リマ
シタ値段ガ正當ナ値段マデ元ニ戾シタ、斯
ウ御考ヘニナラレマスト、我ミハ九月、十
月マデハ非常ニ不當ニ不安デアッタガ、其意
味ニ於キマシテハ相當ニ安定シタノデア
ル、斯ウ申上ゲテ宜カラウト思ヒマス、然
ラバ農村ニハ何等ノ影響ガナイヂヤナイカ
ト仰セラレマスト、商品ノ値段ガ上リ有價
證劵ノ全體ノ値上リハ、日本全國何レノ階
級ニモ何レノ部分ニモ相當ニ安定シタ考ヲ
與ヘテ居ルト、我ミハ見テ居ル次第デアリ
マス、御答ヘ致シマス
〔伯爵奥平昌恭君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 奧平伯爵ハ只今
ノ答辯ニ對シテ更ニ質疑ヲ爲サル御希望デ
ゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=29
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030・奧平昌恭
○伯爵奥平昌恭君 左樣デゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 大分長時間ヲ要
スルト議長ハ推察イタシマスガ、如何デゴ
ザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=31
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032・奧平昌恭
○伯爵奥平昌恭君 チト長クナリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=32
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033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 然ルニ定足數ガ
ゴザイマセヌカラ、一時休憩イタシマシテ
午後ニ開キタク存ジマシタガ、本日ハ各國
務大臣モ衆議院ニ重要ナル法案ノ議事ガア
ル趣デ出席セネバナラナイ趣デゴザイマス
ルカラ、殘念サガラ午後ノ會議ハ開クコト
ガ出來マセヌ、是デ本日ノ議事ハ延會イタ
シタイト考ヘマス、明三日午前十時ヨリ開
會イタシマス、議事日程ハ決定次第本院彙
報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、本日ハ是ニテ
散會イタシマス
午後零時三十六分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X02319310302&spkNum=33
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