1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年三月二十日(金曜日)午前十時十八分開議
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議事日程 第三十六號
昭和六年三月二十日
午前十時開議
第一 賠償金特別會計法廢止法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續
第二 刑事補償法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第三 入營者職業保障法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第四 軍事救護法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會の續(委員長報告)
第五 中小産業者竝失業者の救濟に關する決議案(公爵一條實孝君外十五名發議) 會議
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲ
シテ諸般ノ報告ヲ致サセマス
〔瀬古書記官朗讀〕
昨十九日本院ニ於テ可決シタル左ノ政府提
出案ハ卽日裁可ヲ秦請シ又可決ノ旨ヲ衆議
院ニ通知セリ
特別會計ニ於ケル營繕費ニ關スル法律案
特別會計ノ恩給負擔金ヲ一般會計ニ繰入
ルルコトニ關スル法律案
昭和四年法律第二十六號中改正法律案
京都高等工藝學校移轉改築費ニ充用シタ
ル金額ノ補塡ニ關スル法律案
號外昭和六年三月二十一日
貴族院議事速記錄第三十六號
製鐵所特別會計法中改正法律案
簡易生命保險特別會計法中改正法律案
製鐵業獎勵法中改正法律案
同日本院ニ於テ可決シタル左ノ衆議院提出
案ハ卽日裁可ヲ奏請シ又可決ノ旨ヲ衆議院
ニ通知セリ
鑛業法中改正法律案
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出索ヲ受領セリ
昭和六年度歲入歲出總豫算追加案- 分
號
昭和六年度各特別會計歲入歲出豫算追加
案(特第一號)
豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ス
ヲ要スル件(追第一號)
昭和五年度各特別會計歲入歲出豫算追加
案(時第一號)
昭和六年度藏入歲出總豫算追加案(第二
號
昭和五年度歲入歲出總豫算追加案第
號
同日本院ニ於テ採擇スルコトヲ議決シタル
一時金廢兵恩給法中改正ノ請願外十一件ノ
請願ハ各、意見書ヲ附シ卽日之ヲ政府ニ送
村セリ
同日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ受領セリ
刑事補償法案可決報告書
昭和四年度歲入歲出總決算、昭和四年度
各特別會計歲入歲出決算審査報告書
昭和四年度國有財產增減總計算書審査報
告書発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵徳川家遠君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=2
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003・東園基光
○子爵東園基光君 本員ハ茲ニ議事日程ノ
變更動議ヲ提出イタシマス、團チ日程第五、
中小產業竝失業者ノ〓濟ニ關スル決議案ヲ、
日程第一ノ前ニ繰上ゲマシテ直ニ提出者
ノ說明ヲ求メラレ其審議ヲ致サレムコト
ヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=3
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004・池田政時
○子爵池田〓時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 東園子爵ノ議事
日程變更ノ動議ニ同意ノ諸君ノ起立ヲ請ヒ
マス
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 過半數ト認メマ
ス政府ノ同意ヲ求メマス政府ノ同意
ヲ得マシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=6
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007・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第五、中小
產業者竝失業者ソ救濟ニ關スル決議案、公
爵一條實孝君外十五名發議、會議、林伯
爵
中小產業者竝失業者ノ救濟ニ關スル決
議案
右提出候也
昭和六年三月十九日
發議者
公爵一條實孝伯爵林博太郞
伯爵溝口直亮男爵大井成元
子爵靑木信光子爵前田利定
子爵東園基光男爵阪谷芳郞
小松謙次郞伊澤多喜男
石渡敏藤田四郞
竹越與三郞南弘
倉知鐵吉小林暢
贊成者
侯爵蜂須賀正詔伯爵松木宗隆
伯爵柳原義光伯爵小笠原長幹
伯爵酒井忠克子爵稻垣太祥
子爵藤谷爲寛子爵梅小路定行
子爵冷泉爲勇子爵伊集院兼知
子爵牧野忠篤子爵大久保立
子爵井上匡四郞子爵柳生俊久
子爵白川資張子爵池田政時
子爵西大路告光子爵〓岡長言
子爵今城旋政子爵立花種忠
子爵藪篤蒼子爵秋用種英
子爵片桐貞央子爵大河内輝耕
子爵米津政賢子爵八條隆正
子爵保科正昭子爵井伊直方
子爵花房子爵三室戶敬光
子爵大浦春兼太朝一郎子爵牧野一威
子爵秋元子爵西尾忠方
子爵裏松友光子爵秋田重季
子爵森俊域子爵戶澤正已
子爵岩城隆德子爵毛利元恒
子爵米倉昌達子爵植村家治
子爵梅園篤彥子爵舟橋〓賢
子爵松平康春子爵土岐章
子爵瀧脇宏光子傳綾小絡護
佐藤三吉木場貞長
眞野文二鈴木暮三郞
水野鍊太郞男爵鍋島直明
男爵小原駐吉志水小一郞
男爵神山郡昭男爵長松篤棐
三井〓一郞内田重成
岡喜七郞男爵北大路實信
男爵今枝直規坂西利八郞
川村竹治男爵中島久萬吉
男爵福原俊丸男爵赤松範
男爵藤村義朗男爵岩倉道倶
男爵東〓安男傳高木喜寛
男爵松岡均平男爵高崎弓彥
男爵伊江朝助男傳佐藤達次郞
男爵大寺純藏高橋琢也
中村純九郎橋本圭三郎
山之內一次山岡萬之助
室田義文安樂兼道
中川小十郞湯地幸平
八田嘉明馬場錢
長岡隆一郞小久保喜七
大橋新太郎太田〓藏
中村圓一郞森平兵衛
尾崎元次郞澤山精八郞
下出民義坂田貞
小塩八郞右衞門名取忠愛
高橋源次郞花井卓藏
藤原銀次郞山崎龜吉
瀨谷勇次郞吉田羊治郞
根本祐太郞津村重舎
鵜澤總明佐藤信古
松本勝太郞風間八左衞門
絲原武太郞鳴海周次郞
森田福市
貴族院議長公爵德川家達殿
中小產業者竝失業者ノ救濟ニ關スル
決議
本院ハ曩ニ政府ニ對シ經濟界ノ不況ニ因
ル中小產業者ノ疲弊竝失業者ノ激增ニ鑑
ミ之カ救濟防止ノ對策ヲ講セラレムコト
ヲ建議シタリ然ルニ爾來政府ノ爲ス所十
分ノ效果ヲ擧クルニ至ラス失業者ハ依然。
トシテ減退セサルノミナラス中小產業者
ノ窮乏不安亦益々甚シキヲ加フ
本院ハ政府ノ措置宜シキヲ得サルモノア
リト認ム依テ政府ハ更ニ時艱ノ匡救ニ努
力スヘシ
右決議ス
〔伯爵林博太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=7
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008・林博太郎
○伯爵林博太郞君 只今日程ニ上ボリマシ
タ中小產業者竝失業者ノ救濟ニ關スル決議
案ニ付キマシテ說明ヲ致シマス、最早會期
切迫ノ際デゴザイマスカラ、二十分間貴重
ナル時間ヲ拜借イタシマシテ、說明ヲ致シ
タイト思フノデアリマス、本決議案ハ昨年
ノ議會ニモ提出ニナリマシテ、私共モ之ニ
對シテ贊成ノ意ヲ表シタノデゴザイマスル
ガ時局申〓ムツカシイ問題デアリマスカ
ラデモアリマセウガ、政府ニ於テモ決シテ
怠慢ト云フコトハ言ヘナイダラウト思ヒマ
スケレドモ、之ガ對策ニ對シテハドウシ
テ〓更ニ强イ所ノ意義アル解決ヲシテ戴カ
ナタレバナラナイト思フ次第ト思ヒマシ
チ今囘又此重要ナル決議案ガ出タコトデ
アリマス
〔副議長公爵近衞文麿君議長席ニ著ク〕
金解禁ニ伴ヒマシテ緊縮ノ影響ガ不景氣ト
シテ現ハレテ、同時ニ其後ト直グニ此米國
ヲ中心トシタ所ノ不景氣風ガ吹イテ參リマ
シテ、震災ノ時ニ數十億ノ富ヲ失ッタ我國
ガ、更ニ又此世界的ノ不景氣ニ風靡サレテ、
而シテ此艱難ナル所ノ時局ヲ切拔ケルト云
フコトヲ、ドウシテモ今日ノ急務トシテ致
サナケレバナラナイ時機ニ遭遇シタノデゴ
ザイマス、政府ハ此金解禁ハ不自然ナル金
融ノ狀態カラ自然ノ狀態ニ復スモノデアル
カラ、ドウシテモ是ハヤラナケレバナラナ
イ若モアノ時ニ緊縮政策ヲ爲シ是ガ準
備ヲ爲シテ解禁ヲシナカッタナラバ、世界的
不景氣ガ來タ時ニハ更ニ一層困ヲタデアラ
ウ幸ヒ緊縮シテ節約ヲシテ居ッタ我國ハ、
寧ロ之ニ對シテハ幸福デアッタモノト考ヘ
ルト云フ大藏大臣ノ說明ハアッタノデゴザ
イマスルガ、其當否ハ兎ニ角、今日トナリ
マシテハ是ガ對策ハ實ニ急務デアルト考
ヘルノデアリマス、尙ホ更ニ印度ノ關稅ノ引·
上ゲヲ初メトシテ、色〓ノ方面カラ貿易ノ
支障ヲ來スコトニナッテ來タノデアリマス、
更ニ最近ニ於キマシテハ銀ノ暴落、十二「ペ
ンス」ト云フヤウナコトノ現象ガ現ハレテ、
尙更ニ印度方面ニハ莫大ナル銀ガ貯蓄サレ
テ居ルト云フヤウナ狀況デ、上海ノ市場ガ
脅カサレルト云フヤウナコトガ起ッテ居リ
マく、斯ノ如クニシテ、貿易ハ昨年度ニ於
キマシテハ輸出ニ於テ三割一分五厘、輸入
ニ於キマシテハ二割七分五厘ト云フモノヲ
減少シテ居ル次第デ、誠ニ萎縮シタ所ノ貿
易ノ狀態ガ現ハレテ居ルノデアリマス、デ
元來緊縮ト云フコト節約ト云フコトハ、是
ハ消極的ノ問題デアリマス、道樂息子ガ金
ヲ使ハナクナッタト云フコトダケデハ一家
ノ經濟ハ立タナイ、積極的ニ是ガ本當ニ精
神的ニ改善サレテ而シテ一家ヲ振興スル
ト云フノト同ジク、國家ニ於キマシテモ緊
縮政策ト云フモノハ是ハ主義デハナカラウ
ト思フノデアリマス、非募債主義モ同ジコ
トデアリマシテ、非募債ト云フコトハ金解
禁ヲ爲スニ當ノテノ臨機ノ處置デアッテ、非
募債主義ナント云フ主義デ以テ若モ內閣ガ
十年モ續カレタナラバ國家ハ成立ツモノデ
ナイ、ソレデアリマスルカラ此際ハ斯ウ云
フ問題ハ是ハ政黨ヲ超越シテ、而シテ個人
モ國民モ內閣モ共ニ官民一致シテ時局ニ當
ラナケレバナラナイコトデアルト考ヘルノ
デアリマス、第一ニハ合理化ト云フコトガ
ドウシテモ必要デアリマス、人或ハ產業合
理化ニ依ッテ人間ノ需用ガ少クナッテ機械工
業ガ發展シテ來レバ一方ニ失業者ガ起ル
カラ合理化ト云フコトハ極端ニ之ヲ使用ス
ルコトガ出來ナイモノデアルト云フコトヲ
申シマスガ、合理化ト云フ言葉ニモ色ミノ
意味ガアリマシテ、合理化ト言フヨリモ
此故ニ不合理化ガ宜イト云フトハドウシ
テモ出テ來ナイト思フノデアリマス、我國
ノ產業狀態ヲ見マスト云フト、如何ニモ
此不統一デアリ無統制ノ情勢ニアルノデアリ
マス、現ニ一昨年ニ私ガ伯林ニアッタ所ノ萬
國議院商事會議ニ於キマシテ色〓問題ヲ討
究シテ居ルノヲ見テ見マスト云フト日本
ノ此產業ノ狀態ニ付キ說明ヲスレバ寧ロ
是ガ我國ノ國辱ニナルト云フヤウナ、誠
此不合理ナ無統制ナヤリ方ヲ今日尙ホシテ
居ルノデアリマス、是ハ我國ガ海外カラ非
常ニ離レテ居ルト云フコトモアリマセウ
ガ、併シ官民一致ノ產業振興策ノ對策ガ怠
ラレテ居ルト云フ結果デハナカラウカト思
フノデアリマス、玆ニ於テ政府デハ臨時產
業合理局ト云フモノヲ設ケテ、サウシテ商
工業者ノ自覺ヲ圖ッテ居ルト云フコトハ、大
變結構ナコトデアリマスケレドモ、私ハモ
ウ少シ積極的ニ產業振興、失業者救濟ヲ圖ッ
テ戴キタイト思フノデアリマス、能ク生活
ノ緊縮ト云フコトヲ申シ、節約ノコトヲ申ふ
シマスケレドモ、先程モ申上ゲマシタ如ク、
緊縮其モノハ產業ヲ振興スルモノデナイ、
寧ロ萎縮サセルモノデアリマス、生活ハ精
神的ニモ亦物質的ニモ向上スルノガ當リ前
ナンデ、贅澤モ解釋ノシヤウデアリマシテ、
社會ガ進步スレバドウシテモ此一方ニ於テ
ハ藝術モ興ルシ、生活ト云フモノモ複雜ニ
ナリマスシ又精神的ノ享樂モ起リ、又物
質的ノ享樂モ起ルノデアリマス、ソレデス
カラ生活ノ向上ト云フコトハ、ドウシテモ
產業ノ振興ト共ニ、購買力ノ增進ノ上カラ
見テモ、是ハ必要ナコトデアラウト思フノ
デアリマス、同時ニ產業合理化ヲシテ、天
下優良ナル物品ヲ得ルト云フコトニシナケ
レバナラナイト思フノデアリマス、而シテ
從來ハ我國ノ產業ノ振興策ト云フモノハ極
メテ自由デアル自由ト云フコトヨリハ寧
ロ自然ニ放任シチアッタノデアリマス、或店
ガ繁昌スレバ其隣リニ直グニ競爭者ガ現ハ
レテ、又同ジ店ヲ出ス、而シテ其結果ハ共
倒レニナル、雜誌ノ刊行ニシテモサウデア
ル、啻ニ產業ノミノ問題デハナイ或賣レ
ルヤウナ種類ノ雜誌ガ起レバ又直グ出版
者ガ現ハレテ、競爭ヲシテ互ニ自滅ヲスル、
「セメント」ノ暴落ニシマシテモ、生絲ノ暴落
ニシマシテモ、皆斯ウ云フ感ガアルノデア
リマス、ソレ等ニ付テノ其統制ト云フコト
ハドウシテモ卽チ合理化ト云フコトガ玆
ニ於テ必要デアラウト思フノデアリマス、
同時ニ其合理化ハ外國ノ事情モ考ヘテ見ナ
ケレバナラナイト思フノデアリマス、長野
縣群馬縣ノ生絲ニ於ケル今囘ノ慘澹タル
狀況ト云フモノヲ見マスルト云フト矢張
リ我ミ國民ノ間ノ無智ガ此禍ヲ招イテ居ル
ト思フ、米國ノ不景氣ハ蓋シ相當ノ理由アフ
テ來タモノデアラウト思フ、卽チ機械工業
ノ發展ノ爲ニ、所謂「フオーデズム」ノ爲ニ、
生產ノ偉大ナル過剩ヲ來シテ、物品ノ洪水
ガ起ッタ爲ニ此不景氣ガ來タノデアリマス、
ソレ等ノコトハ經濟的ニドウシテモ專門ノ
人ニハ分ラナケレバナラナイ、卽チ海外ノ
事情ガ日本ノ中產業者ニ向ッテ、事情ガ一向
ニ徹底シテ居ラナイノデアリマス、而シテ
政府ガ之ニ對シテ何等責任ガナイト云フ譯
ニモ行カナイト思フノデアリマスルガ、政
府ニ於テハ此商務官ト云フモノヲ海外ニ派
遺シテ居ル、併ナガラ極メテ少イノデアリ
マシテ、米國ニ一人、歐羅巴ニ一人、獨逸
ニ一人ト云フヤウナ狀況デス之ヲ以テ諸
君ガ時ミニ官報ニ出テ居ル所ノ報告ヲ御覽
ニナルデアリマセウガ、或ハ「シーメンス」
會社デ、配當一割ガアッタトカ云フヤウナコ
トハ書イテアルケレドモ、此產業ノ實際ノ
潜勢力ノ如何、如何ナル方面ニ歐米ノ產業
ガ向ヲテ居ルカ、經濟ガ向ッテ居ルカト云フ
ヤウナコトヲ皆通信スルノニハ僅カ三人
バカリノ商務官デヤレルモノデハナイノデ
アリマス、是等ハ寧ロモット金ヲ出スシ
モノト數モ殖ヤスシ、而シテ出來テ居ル所ノ
貿易通信員ト云フヤウナ者モ二十六人ハア
リマスケレドモ、斯ノ如キ者モモット澤山囑
託シデ而シテ海外ノ事情ト對應シテ以テ
我國ノ產業ヲ振興シ且ツ我國ノ商工業者ト
云フモノニ對スル對策ヲ講ジナケレバ私ハ
ナラヌコトデアラウト思フ、次ハ失業問題
デアリマス、昨年モ私ハ失業問題ニ付テハ
英國ノヤウナ範ヲ取ッテサウシテ失業者ニ
徒ニ金ヲヤルト云フヤウナコトハイケナ
イ、所謂失業者卽チ怠業者ト云フヤウナコ
トニナッテハイカナイト云フコトヲ申シタ
ノデアリマスガ、今日ハ東京市ニ於キマシ
テモ到ル所道普請モ出來テ、大變ニ失業者
救濟ト云フコトハ努メテ居リマスルケレド
モ、是等ノ救濟ヲスルノニ、ドウ云フ狀況
デアルカト云フトナカ〓〓勤勉努力シテ
仕事ヲシテ居ルトハ言ヘナイノデアリマ
ス、ノミナラズ先程萬國議院商事會議ノ事
ヲ申シマシタガ、我國ニハ如何ナル仕事ニ
モ下請ケ、下請ケ、下請ケト云フモノガ
アル、土地ヲ買ヒマシテモ土地ガ康ケレバ
其上ニ地上權ト云フモノガ何時ノ間ニカ出
來テ來ルト云フ譯デ、其中繼ト云フモノガ
下ニ澤山出來ルト云フヤウナコトハ、誠
是ハ不自然ナコトデアル、是等ノ統制ヲ圖ク
テ行カナケレバ、眞ノ失業救濟ト云フコト
ニハ私ハナルマイト思フノデアリマス、
デ失業公債ト云フコトニ付キマシテモ、今
囘豫算委員會デ問題ニナリマシタ兩國御茶
ノ水トカ、共他二三ノ失業鐵道債劵ガ出テ、
千二百万圓ト云フモノガアリマス、其外ニ
モ二千万圓モアリマスガ、最モ極メテ重大
ナ仕事デアリマスケレドモ、私ノ考ヘルノ
ニハ緊締トカ節約トカ云フコトハ對外問題
デアリマシテ、對內ノ問題デハナイト思フ、
日本ノ中ニアル金ガドウ動イテモ差支ヘナ
イト思フノデアリマス、從テ下關門司ニ於
ケル此岸柳島ノ「トンネル」ノ事業モ、是モ
極メテ重大ナル仕事デアルト思フ、是等モ
早ク手ヲ著ケテ宜イコトデハナイカト思
フ、或ハ明治初年ニ於テ內務省ノ計畫シタ
所ノ琵琶湖ト日本海ノ間ノ比良ノ「トンネ
ル」デアリマスガ、アノ運河モ考ヘテ見タラ
極メテ重大ナルモノデアル、日本海トノ間
ノ舟楫ノ便ヲ圖ルト云フヤウナ仕事モアル、
幾ラモ·····日本ニ取ッテ最モ緊要ナ仕事デ
アッテ、而モ勞銀ガ廉ク、然ルベキ今日ニ於
テヤルコトハ幾ラデモアルノデアリマスカ
ラ、ソレ等ノコトモ大イニ考ヘテ見タラバ
ドウカト思フノデアリマス、第三ハ金融ノ
問題デアリマス、ドウシテモ此失業者ノ救
濟ニセヨ產工業ノ發展ニセヨ、歸スル所
ハ此金融機關ノ圓滑ト云フコトガ問題デア
ラウト思フノデス、此問題ガドウモ日本ノ
ヤリ方ガマダ徹底シテ居ラナイノミナラ
ズ、進步シテ居ラナイノデス、日本ノ銀行
ト云フモノハマルデ昔ノ質屋ノ仕事デア
リマス、質ヲ取ッテ貸シテ居ル質屋ノ仕事ヲ
明治ニナッテモ、今日ニナッテモヤッテ居ルト
云フコトハ是ハ時代ニ適應シナイノデア
ル是等ノ模範モ佛蘭西ニモアリマスシ
獨逸ニモアリマスシ米國エモアリマスシ
幾多ノ立派ナ銀行業者ノ新シイ模範事業ガ
アルノデアリマスカラ、單ニ五十万圓以下
ノ銀行ヲ二百万圓ニスルト云フヤウナ形式
ニ止ラズ、眞ニ我國ノ產工業ヲ發展セシメ
ルダケノ組織ヲ金融業者ニ付ケテ戴キタイ
ト思フ、尙ホ米國ナドニ於キマシテハ、御
承知ノ如ク信用組合ト云フモノガ非常ニ發
展ヲシテ居ルノデアリマス、デ私ノ考ヘル
所ニ依リマスト云フト、此民間ノ事業デハ
不動貯蓄ノ成蹟ガ今日ハ五倍モ預ケテ居〃
テ、非常ナ好成蹟ヲ表シテ居ルト云フコト
デアリマス、郵便貯金ノ金ガ隨分是ハ今日
ハ大キナ金ヲ預クテ居ル、此郵便貯金ノ如キ
モノヲ之ヲ庶民銀行化シテ、產業ノ建設ニ
向ッテ健全ナル發達ヲナシ得ルヤウニヤル
方法ハ私ハアルダラウト思フ、又ヤッテ然ル
ベキ所ノ巨大ナ金額ヲ持クテ死藏シテ居ル
ヤウナ風ニナッテ居ルノデハナイカト思ヒ
V 、尙ホココデ考フベキコトハ銀行業
者竝ニ此金融ヲ融通スルト云フコトニ付キ
マシテハ私ハ結局人間ノ問題デアラウト
思フノデアリマス、今マデ質屋ガヤッテ居ル
ヤウニ擔保品ヲ、有力ナル、有利ナル所ノ
株式ト云フモノヲ取ッテヤッテ居ッタ、私ハ今
囘ノ震災以後ニ於テ五十圓拂込ノ株式ガ二
十圓ニナリ、十八圓ニナッタト云フヤウナコ
トハ、如何ニ斯ノ如キ投資ト云フモノガ不
健全ナモノデアルカト云フコトヲ證明シテ
居ルデアラウト思フ、又土地ト云フヤウナ
モノニ對シマシテモ、今日ハ非常ニ價格ガ
下ッテ居ルシ、下ッテ居ルノミナラズ、之ヲ
動產化シヤウト思ッテモ出來ナイト云フヤ
ウナ狀況ニアル、ドウシテモ是ハ階級的貸
付ニ改メテ、サウシテ人間ノ信用ト云フコ
トニ重キヲ置カナケレバナラナイ、富ノ方
面ハ是ハ動クモノデアリマシテ、今日百万
長者ガ直ニ貧民ニナルト云フヤウナコトハ、
有リガチナコトデアリマスカラ、人間ノ頭
ノ中ノ財產ヲ土豪ニシテ、而シテ此階級貸
付ノ合理化ト云フコトニ向ッテ進ムト云フ
ヤウナコトモ一策デアラウト思フノデアリ
マス、色〓考ヘテ見マスト云フト、此金融
ノ方面ニ付キマシテモ多々佛蘭西乃至亞米
利加ニ模範ヲ採ッテ考ヘテ行ケバ、又日本式
ノ立派ナモノガ出來ルデアラウト私ハ思フ
ノデアリマス、併ナガラ此處ニ云フ金融ト。
云フノハ卽チ產工業者ニ對スル救濟竝ニ失
業者ニ對スル救濟ノ意味デ私ハ申シテ居ル
ノデゴザイマス、若シモ金融其モノガ金融
ソレダケノ頭デ以テ、我國ノ富ヲ殖ヤサウ
ト云フナラバ、是ハ考ヘモノデアラウト思
7、今日ハ獨逸流ノ工業ノヤリ方ガアリマ
ス、佛蘭西流ノ金貨輸入策ト云フモノモア
リマス、米國流ノ又經濟ノヤリ方モアリマ
スケレドモ、佛蘭西ニ今日金ガ非常ニ入ッテ
來ルト言ッテ羨ム人ガアリマスガ、佛蘭西ニ
金ノ入ルノハ、國民全體ガ外國ノ公債ヲ買フ
テ、謂ハバ他ノ國ニ高利貸ヲシテ其利益ヲ
取ッテ居ルト云フヤウナ富ノ入レ方デアリ
マスカラ、是ハ國家ノ發展上產工業ニ關係
ガナイ、斯ノ如キモノハ我ミノ模範トナス
ニ足リナイノデアリマス、昔和蘭ガ德川時
代ニ於テ非常ニ發展ヲシタノデアリマスガ、
終リハ矢張リ此高利貸的ノ事業ヲヤッタ爲
ニ和蘭ハ三流ノ國ニ今日ナッテシマッタノ
デアル、佛蘭西モ此轍ヲ履マザランコトヲ
我〓望ムノデアリマス、金融ガ單ニ金融ノ
コトノミ考ヘテ行クト、產工業ニハ何等關
係ガナイト思フ、第四ハ其意味ニ於キマシ
テ、商工業方面ノ統制ヲ圖ッテ戴キタイト思
フノデアリマス、デ中產業者ナドガ今日非
常ニ困ッテ居ルト云フコトハ「デパートメ
ント」其他ニ對シテノ對策ガ宜シキヲ得ナ
イコトデアラウト思フ、是モ宜シク當局ガ
ラ指導シテ、而シテ之ガ健全ナル對策ヲ圖
ルト云フコトモ必要デアラウト思フ、民間
ニ於テハ御承知ノ如ク今囘大阪ニ共營「デ
パートメント」ガ出來ルサウデアリマスガ、
一ツノ「ビルデイング」ヲ造ッテ中小工業者
ガ集"テ、物品ヲ提供シテ、サウシテ大キナ
「デパート」ニ對抗ヲスル、今日紐育ナドニ
澤山アル『チエーンストーア」、連鎖店ト云
フヤウナモノガ日本ニモ這入ッテ來テ、森永
式ノモノガ段々出來テ來ルサウデアリマス
ガ、中產業者ガ大ナル「デパート」ニ對シテヤ
ル仕事ハ合理的ニヤレバ快シテヤレナイ
コトハナイノデアリマス、或ハ數者相集ヲチ
合資シテ、或ハ株式ニシテヤフテ行クト云フ
コトモ出來ルノデアリマス、ケレドモ私ガ
此金融ノ方面ニ於テチョット考ヘタノデア
リマスガヽ前內閣ニ於テ五千万圓、現内閣
ニ於テ二千五百万圓ト云フモノヲ貸出シニ
融通シテ居ルノデアリマス所ガ個人ニ對
シテ最後ニ渡ル金ニ對シテハ、八分五厘ト
シテ利息ガ掛カッテ居ルノデアリマス、諸
君、考ヘテ御覽ナサイ、八分五厘ト云フ金
ヲ借リタナラバ一割以上ノ利益ヲ得ナケ
レバ立チ行クモノデハナイ、所ガ今日歐羅
巴ノ產業、亞来利加ノ產業ナド御覽ニナル
ト株式會社デ一割ト云フ利益ヲ得ルモノ
ハ極メテ少イノデアリマス、若モ一割ト云
フヤウナ利益ヲ得ルト云フヤウナコトニナ
ルナラバ、今日人口ノドン〓〓殖エテ行ク
所ヲ日本ガ、海外ニ發展スルコトガ出來ナ
イ、伯剌西爾ニ行フタッテ滿洲ニ行フタッテ
一、割以上ノ利益ヲ得ルト云フコトハ到底出
來ナイノデアリマス、內地デ以テ今日銀行
デ一割二分ノ配當ガ只取レルナラバ何ヲ
苦ンデ金ヲ持ヲテ南米ニ行ク者ガアルデア
リマセウ玆ニ於テ內地デハ寧ロ利益ト云
フモノヲ少クシテヽサウシテ海外ニ發展ス
ルト云ア方策ヲ講ズルノガ當然デアラウト
思フノデアリマス、ノミナラズ會社ノ監査
役ノ如キモノハ、一月ニ一遍行ッテ、碁ヲ
打ッテ居ルト云フヤウナコトデ、數千圓ノ金
ヲ年ニ貰フテ居ルト云フヤウナコトハ、是ハ
私ハ甚ダ宜シクナイト思フノデアリマス、
職エノ方ノ頭カラ考ヘタナラバ、ドウ云フ
考ヲ持ヲデアラウト云フコトヲ、我〓ハ考ヘ
ナケレバナテヌ、ソレ故ニ低利資金ト云フ
モノハ、眞ニ低利ニシテ戴キタイト思フノ
デアリマス、尙ホ此國產奬勵ト云フコトニ
付テ、今日聲ガ揚ッテ居ルヽ是ハ眞劍味ヲ以
テヤラナケレバナラヌノデアリマスヽ併ナ
ガラ英國ナドニ於キマシテノ國產獎勵ヲ御
覽ニナルト、英吉利ニハ餘リ國產ハアリヤ
シナイ、國外ノ植民地ノ國產奬勵ヲ「ポスタ
ー」ヲ點シテ頻リニヤッテ居ルガ、日本ノ國產
奬勵ハ內地ニ於テ、臺灣モ朝鮮モ頭ノ中ニ
這入"テ居ナイ國產獎勵デアリマス、是デハ
大國民トシテ甚ダ狭量ナコトデアラウト考
ヘルノデアリマス、デスカラ產業ノ發達ト
云フコト、人口ノ調節、失業者ノ合理化ト
云フヤウナコトハ日本全體ノ方面カラ考。
ヘテ行カナケレバナラヌダラウト思フノデ
アリマスケレドモ、斯カル意味ニ於キマシ
テドウシテモ商工業ノ向上發展ヲ圖ルガ爲
ニハ商工業ノ統制ヲ圖ルト云フコトニ於
テ政府ハ十分ニ今後努力シテ戴キタイト
思フノデアリマス徒ニ調査會ヲ設ケタ所
デ、其結果ハ直接ナル所ノ效果ヲ齋ラシ得
ルモノデハナイノデアリマスカラ、直接ナ
ル效果ハ、直接ニ之ヲ實行シテ行カナケレ
バナラヌト思フノデアリマス、サウ云フ意
味ニ於キマシヲ、產業ノ合理化ト、大工業
者大商業者ニ對シテ、中小商工業者ノ對
策ヲ之ニ於テ考究シテ戴カナケレバナラヌ
ト思フノデアリマス、過去一年間ニ於キマ
シテハ相當ニ政府ハ考慮サレテ居リマスケ
レドモ奈何セン、大問題デアルカラ遲々
タル進步デアルト思ヒマスケレドモ、今日
ハ特ニ之ヲ考慮シテ戴キタイト思フノデア
リマス、斯ノ如キ問題ハ單ニ大藏大臣ニ對
スル問題デハナイ、農村ノ疲弊ハ延テ中小
工農者ノ購買力ヲ失セマスカラ、農林省ニ
モ關係ガアリ、内務省ニモ無論失業ノ關係
デ關係ガアル、內閣全體ノ責任トシテ之ヲ
御引受ケニナッテ、而シテ十分ナル調査ヲシ
テ而シテ此急務ニ對應スル政策ヲ講ゼラ
レムコトヲ望ム次第デアリマス、ドウカ從
來トハ違ヲテ今囘ハ眞劍味ヲ以テ此決議案
ニ對シテノ了解ヲ求ムルト同時ニ、之ガ對策
ヲ講ゼラレムコトヲ望ム次第デアリマス、而
シチ我ミモ之ニ對シテ大ニ考慮努力スル次
第デアリマス民間モ同時ニ之ニ對シテ考
慮スルコトヲ我ミハ望ム次第デアリマス
誠ニ簡單デゴザイマスルケレドモ、之ヲ以
テ此決議案ノ說明ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=8
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009・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 此際議事進行
ニ付キマシテ、小久保喜七君ヨリ發言ヲ求
メラレマシタカラ、許可イタシマス
〔小久保喜七君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=9
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010・小久保喜七
○小久保喜七君 私ハ本院ノ權威ニ關シマ
シテ重大ト思量イタシマスル事ニ關シ
議事進行ニ付テ一言イタシタイノデアリマ
ス僅カ四五分間御許シヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス、私ハ立憲政體ノ妙用ハ、私
ガ申上ゲルマデモナク、輔弼機關ト協賛機
關ガ、一堂ノ中ニ愼重審議スルト云フコト
ガ、之ガ他ノ政體ニ優レル所ノ所以ト思フ
ノデアリマスサウシテ重大問題ニハ總理
大臣ガ必ズ閣僚ヲ率ヰテ臨席ヲ致シテ其說
明ヲ聽キ、其討議ヲ聽クト云フコトガ慣例
ニナッタト云フコトハ、此愼重審議ヲスルト
云フ立憲政體ノ本義カラ出タ好慣例ト思フ
ノデアリマス、ソコデ只今問題ニナッテ居
リマスル此決議案ト云フモノハ私ハ本院
ニテハ當議會ニ於キマスル稀有ノ重大間
題ト考ヘルノデアリマス、第一去年ノ建議
案ハ政府ガ十分實行シナカッタカラト云フ、
所謂其後始末ト云フ意味モ此中ニハ含ンデ
居ルデアラウト思フ、又其內容ハ經濟問題
カラ進ンデ、今日ハ人道問題迄行ッタ、失業
救濟ニ關スル緊切ノ問題デアリマス、而シ
テ提出ノ經過ヲ見マスレバ、本院ニ於ケル
大團體タル〓究會ノ提唱ニ出デテ、各派ガ
之ニ贊同ヲ致シテ提出ヲ致シマシタ、其經
過カラ申シマスレバ、先ヅ全院一致ト言ッテ
モ宜シイ位ノ經過デ提出ガアッタノデアリ
マく、此三ツノ上カラ云ッテ此案ハ實ニ當
議會ニ於ケル第一重大ナ問題ト思フノデア
リマス、サウシテ總理大臣ハ本月丸日病ハ
全癒シタリトシテ、陛下ニ奏上ヲ致シ自
ラ大政變理ノ任ニ當ッテ、而シテチヨットデ
ハゴザイマスガ本院ニモー一度バカリ登院ヲ
致シタ、又衆議院ニハ委員會ニモ出席ヲ
シ本會議ニモ二度モ出席ヲシ殊ニ十八
日ノ追加豫算ノ際ノ如キハ、二時間ニ亙〓テ
質問ニ對シテ應答ヲ致シタノデアリマス、
若シソレデ御疲レデアルト云フコトナラ
バ、是モ已ムヲ得ナイノデアリマスガ、昨日
カラ今朝ニ掛ケテノ新聞ヲ見マスレバ其後
ノ經過良好デ思ヒノ外元氣ヲ恢復シタ云フ
コトガ主治醫ノ報〓ニ明カニナッテ居ルタ
デアリマス、又新聞ノ報ズル所ニ依レバ今
日ノ下院ノ本會ヘモ出席ナサルデアラウ、又
當院ノ減稅案ノ委員會ニモ出席ヲスルデア
ラウト、新聞ガ記載スル迄ニ御體ノ工合ガ
良イノデアリマスシテ見マスレバ案ハ此
重大ナ案デアル、而シテ總理大臣ノ御體ノ
狀態ガ斯ノ如シト致シマスレバ、此處ニ御
臨席ノナイト云フコトハ私ハ誠ニ遺憾ニ
堪ヘナイノデアリマス、否遺憾ト云フヨリハ
私ハ怪訝ニ堪ヘナイト申シテ宜シイノデア
ラウト思フ、總理大臣ノ此處置ヲ看過イタ
シマスレバ、之ヲ默視イタシマスレバ卽
チ貴族院ガ自ラ議權ヲ重ンゼザル一ツノ不
都合ニ陷リハセヌカト私ハ考ヘルノデアリ
VB、又總理大臣ヲシテ曠職ノ譏ヲ受ケシ
ムルコトニナリハセヌカト私ハ思フノデア
リマス、斯ノ如キ理由カラ致シマシテ、私
ハ此重大問題ニ際シテハ總理大臣御出席ニ
相成ルヤウ、議長ニ於テ御取計ヒアラムコ
トヲ希望イタスモノデアリマス、之ヲ以テ
議事ノ進行ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=10
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011・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 只今小久保君
ヨリ御希望ノコトハ早速議長ヨリ政府ノ方
ヘ御傳へ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=11
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012・近衞文麿
○副議長(公爵近衛文麿君) 總理大臣ハ都
合ニ依リマシテ午前中ハ登院出來兼ネルサ
ウデゴザイマス低ヅ午後ハ一時ヨリ登院
セラレル豫定ダサウデアリマス
〔子爵前田利定君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=12
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013・前田利定
○子譯前田精定者 私ハ只今議題ニナミハ
居リマスル中小產業者竝ニ失業者ニ關スル
授清漢議ニ付キマシテ贊成ヲ表スル者デア
リマス抑ミ本決議ハ本日當議場ニ突如ト
シテ現ハレクモノデハナイメデアリマス
卽チ昨年ノ五月十四日ニ當議場ニ於キマシ
テ提議セラシ過半數以上ノ大多數ヲ以テ
通過可決イタシマシタル中小產業竝失業者
救濟ニ關スル建議案ノ後身トモ申スベキモ
ノデアリマス彼ガ其因トナリマシテ、是
ガ其果トナッタモノデ、所謂因果關係ニ立ツ
モノデアリマス、此問題ガ偶然デモナク又
偶發デモナイノデアリマス故ニ昨年彼ノ
建議案ニ付キマツテ贊成イタシマシタル私
ニ於キマシテモ又諸君ニ於カレマシテ
モ、昨年建議案提出以後ニ於キマシテ政府
ガ本院ノ建議ノ趣皆ヲ尊重イタサレタト致
ウマシテモ其爲サレタル對策施設ガ、不
景氣ノドン底ニ魂ンデ居ル所メ申小產業者
ヲ救ヒ上ゲ殆ド洪水ノ如キ失業者ノ平靜
ニ歸スル底ノ實蹟が擧ガッテ居ルト、皆サン
方ガ御確認ニ相成ルナラバ、格別ノコトデ
アリマス、然ラズシテ政府ニ於テ爲ス所ノ
對策措置ガ未ダ其當ヲ得ズシテ失業群ノ
續出ニ對ツテ中小產業者ノ痩弊ニ對シマシ
テ之ガ不安義濟ノ實ヲ擧ゲナイ點ニ於キ
マツテ御不滿足ヲ感ゼラシルト云フコト
デアリマシタナラバ、私ト同樣ニ此決議ニ
御賛成アルベキモノト確信スルメデアリマ
ス、申上ゲル迄モナク政府ニ於キマシテ
モ、思フニ貴族院ノ昨年ノ建議案ニ對ツマ
シテハ、之ニ對ジテ尊重セラレ、又苦慮セ
テレ、御努力ニモ相成ッテ居ルコトト想察
ハ致スノデアリマス併ナガラ如何ニ御精
神ガ貴族院ノ建議ヲ尊重サレデ居リマシテ
モ如何ニ苦心シ努力ヲナサッテ居リマシ
テモ其結果トシテ中小產業者ノ疲弊、失
業者ノ續畫ニ歸シマスル接濟防止ノ實ガ擧
ガラナイト云フコトデアリマシタナラバ
甚ダ遺憾デハアリマスケルドモ政府ノ措
置對策ガ其當ヲ得チイモノト思ハネバナラ
ヌメデアリマス昨年ノ五月以來政府ノ施
護シテ居ル所ノモノガ、只今申上ゲタヤウ
ニ其效果ヲ擧ゲテ居ラテイト云フコトノ理
由ニ付キマシテ私ハ去月二十五日當議場
ニ於キマシテ各國務大臣トノ間ニ、此問題
ニ付キマシテ質疑應答イタシマシタルコト
ヲ引用イタシマシテ又他面ニ於キマシテ
ハ現實ノ社會現象ニ鑑ミマシテ、如何ニ政
府ノ對策ガ未ダ正鵠ニ當テテララカカト云
フコトヲ立證シテ皆樣ノ御判定ニ俟タウ
ト恩フノデアリマス、過般當議場ニ於キマ
シテ、私ハ幣原首相代理ニ對シマシテ、二ツ
ノ質疑ヲ致ウマシタ、其第一ハ同代理ノ施
政方針ノ濱說申ニ主トシテ失業救濟ニ關シ
マシテ、首相代理ハ斯樣ナコトヲ申サレタ
ノデアリマス、政府ノ種々ノ對策ニ依シテ、
人心ハ漸次安定スルニ至ッタ、斯樣ニ申サレ
タノデアリマス、尙ホ間違ヒマセヌヤウニ
念ノ爲ニ速認錄ヲ讀ミマス斯樣ニ申サレ
マツタ、ソレデ其點ニ付キマシテ私ハ人心
ノ安定スルニ至ッタト云フコトハ如何ナル
根據ニ基キ、如何ナル道理ニ卽シテ左樣ニ
仰モラレルノデアルカ、自分ノ考ヘル所ニ
依ッテハ、現實ノ此社會現象ニ照シ合セテ
人心ハ安定ドコロデハナイ一年々々ト不
景氣ガ深刻ニナルニ付テ、人心モ益〓ノ不
安ノ狀態ニ陷リツツアルト云フコトニ付テ
伺ヒマシタ所ガ、幣原首相代理ハ斯樣ニ申
サレマシタ、「私ガ人心ガ漸タ······漸次安定
スルニ至ッタト申シマシタノハ、御承知ノ如
ク、我ガ財界ノ狀況ニ關スル一節デアリマ
る、我ガ財界ハ御承知ノ如タ、昨年ノ五六
月頃ヨリ所謂悲觀的材料ガ外國カラ〓々ト
シテ我國ニ來リ當時我國ノ朝野ヲ擧ゲテ
非常チ人心不安ニ䧟テクノデアル、是ガ其當
時ノ財界ノ現狀デアッタノデアル、然ルニ近
頃ニ至リマシテ、此人心潮次安定スルニ至ッ
ケ財界ニ關スル狀況ヲ申シタノデアリマス
聞ヨリ安定スルニ至ッタト申ツマシテモヽ
是ハ絕對的デハアリマセヌ、相對的ナコト
ヲ御話ウテ居ルノデアリマス」、斯樣ニ申サ
レテ居ルノデアリマス、私ハ施政方針ノ演
說ト云フモノハ前申上ゲマシタ通ニ重要
ナ國務ノ文章デアリマス、嚴肅デナケレバ
ず五六莊嚴デナケレバナラナイ、一三·
何モ苟モスベカラザルモノデアリマスサ
レバコソ議會デ演說ヲ爲サル爲ニ首相ハ御
上ニモ施政方針ノ演說ヲ上奏サレマシテ
サウシテ後ニ議場ニ立ッテ其方針ヲバ發表
サレルノデアリマス普通ノ文章デアリマ
シタナラバ私ハ彼是申サナイノデアリマ
ス斯樣ナ重要ナ文章ニ付キマシテ安定
スルニ至ッタトハッキリ御斷言セラレル以上
ハと首相代理ニ於テハ現實社會ノ實相ニ
付テ人心ガ安定シタト御認メニナッタカラ
ノゴトデアラウト認メタノデアリマス故
ニ其點ニ付テ伺ヒマシタ所ガ、只今ノヤウ
ナ御答ガアッタノデアリマス、財界ノ安定ハ
卽チ人心ノ安定ニナルコトデアリマスルカ
ラ私ハヅシニ付テ深ク追究ハ致シマセ
ヌ、併ナガラ斯樣ナ一字一句モ筍モスベカ
ラザル文章ニ付キマシテ御演說ニナルト
云フ場合ニ於キマシテハ、十分ナル御戒領
ヲ要スルコトデアラウト私ハ思フノデアリ
マスヾ是ガ明治ノ中世期デアリマシタナラ
がソレハ財界ニ關スル安定デアル、相對
的デアルノダト云フヤウナ巧ミナ言ヒ〓シ
ヲ爲サレマシテモ恐ラクハ世論ハ囂々ト
シテ起ルデアラウト私ハ思フノデアリマ
ス、サテ相對的ト云フコトデアリマス、流
石ニ首相代理モ絕對的ニ安定ダトハ仰セ切
レナカッタト見エマシテ、相對的ニ安定シタ
ト申サレテ居ルノデアリマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ復ス〕
楷對的ト申シマスコトハ、申上ゲル迄モナタ
何カ玆ニ見合フ所ノモノガアリマシテ、ツ
シヲ基礎トツテ測定ヲシマセメト云フト、
其物ト物トノ大小輕重、尊卑、可否ノ差
册ガ分ラナイモノデアリマス甚ダ卑近ナ
例ヲ申上ゲルヤウデアリマスガ、羊頭狗肉
ト云フコトデアリマシテ、羊頭ヲ懸ゲテ狗
内ヲ賣ル、此場合ニ於キマシテ、羊ト云フ
モノガ狗肉ヨリモ非常ニオイシイ、上等ノ
モノノ如クニ思ハレルノデアリマス、併ナ
ガラ又斯樣ナ言葉ガアリマス千羊ノ度ハ
一狐ノ蔽ニ如カズ、千枚ノ羊ノ皮モタッタ一
匹ノ狐ノ腋ノ下ノ毛ニ劣ル、斯ウナルト誠
ニ羊ノ値打ト云フモノハ狐ノ腋ノ皮ニ較ベ
テ見マスルト云フト、ズット下落ヲシテシマ
フノデアリマス、又戰國策ニハ狐虎ノ威ヲ
假ルト云フノガアリマス狐ガ虎ノ貫祿ヲ
バ利用シテ威張リ散ラスノデアリマス、要
シマスルノニ狐ハ虎ノ前ニ出マスレバ文
句ハナイ極ク下ッ端ノ獸ニナッテシマフノ
デアリマス、又十八史略ニハ虎ヲ畫イテ威
ラザレバ犬ニ類スト云フコトガアリマス
虎ヲ畫キマシテ成功シマセヌト云フト犬ミ
タヤウニナッテシマフ、斯ウ云フ次第デアリ
マシテ、物ト物トノ較べ合セニ依リマシテ
ハ、偉イト思ッタモノガ偉クナタ、尊イト
思ッタモノガ尊クナクナル次第デアリマス、
併シ私ハ昨年ノ五月ニ貴族院ガ此建議案ヲ
提出イタシマシタ其當時ノ情景ヲ基礎トシ
テ、サテ今日ハ如何デアルカ、昨年來一年
ニ垂ントスル間政府ハ色とナコトヲ爲サッ
タラウ、爲サッタラウガ、其結果ニ於テ大シ
タコトガ無イデハナイカ、ソシヲ人心ガ安
定ヲシタナドト仰セラレルノハ如何デアル
カト云フコトニ對シテ、相對的ダト仰セラ
レテ居ルノデアリマス、此場合ノ相對的ハ
何ト仰セラレマシテモ判明イタシテ居リマ
〓〓卽チ昨年五月ト云フモノヲ私ハ目安ニ
置イタノデアリマスカラ、ゾレヲ測量點ノ
起點ト致シマシテ、サテ今日ノ狀態ハ如何
デアルカト申上ゲタノデアリマスカテ、格
對的ニ安定ダト仰セラレマシテモ、私ハ之
ヲ御認メ申ス譯ニハ參ラヌノデアリマス、
又斯樣ナコトヲ私ノ質疑ニ對シテ御答ヘニ
ナッテ居リマス、是ハ地方農村ニ於ケル小學
校ノ〓員ノ俸給不拂問題ニ關シテ御尋ネシ
タコトニ付テノ御答デアリマス、「地方官會
議ノ席ニ於テモ之ヲ論究シ、學務部長會議
ニ於テモ之ヲ講究シ、而シテ兩大臣ノ名
前ヲ以テ地方官ニソレ〓ヽ訓令ヲ與ヘマシ
テ、斯樣ナル〓員ノ給料不拂ト云フヤウナ
狀況ヲ生ジナイヤウニ、十分ニ注意ヲ致ス
ヤウニ訓令モ致シテ居ルノデアリマス」、無
論地方官ノ會議モ爲サックデアリマセウ、又
ソレ〓〓各地ニ對シマシテ訓令ヲモ御出シ
ニナッタデアリマセウ、是ハ當リ前ノコトデア
リマス、唯之アルガ故ニ能事終レリト御考
ヘニナッテ居ルト云フコトハ、大變ナ御間違
ヒデアラウト私ハ思フノデアリマス、一度
ヤ二度ノ會議ヤ一片ノ形バカリノ通牒訓令
デ、ソレデ事ガ圓ク納マルト云フヤウナモ
ノデアリマシタナラバ、誠ニ政治ト云フモ
ノハ樂ナモノデアリマス、併シサウハ參ラ
ナイノデアリマス、此地方官ノ會議ヤ、訓
令ヲ御出シニナッタ後ノ有樣ハドウデアリ
マスカ、是ハ東京朝日ノ朝刊昭和六年三月
十九日ノ社說デアリマス此社說ニ書イテ
アリマスノヲ私讀ミマシテ、誠ニ私ハ同感
デアリマス同感デアリマスルカラ之ヲ拜
借シマシテ、皆樣ニ御紹介シヤウト思フノ
デアリマス、標題ハ「〓員生活保障ト〓育
擁護」ト云フコトデアリマス、極ク要點ダケ
ヲ申上ゲマスト云フト、「各府縣〓育會ヲ單
位トスル全國聯合〓育會ガ二日ニ亙ッテ臨
時總會ヲ開キ、尋常小學校〓員俸給全額國
庫支辨ヲ根本對策トシ俸給不拂ト强制寄
附反對ノ決議ヲシタコトハ、政府竝ニ議會
トシテハ其儘ニ看過出來ナイ問題ダト言
ハナケレバナラヌ、(中略)此一年間ニ更ニ
惡化シテ來タノデアル、熟練〓員ヲ整理シ
タ後へ、初任給ヲ引下ゲタ師範ヲ出タテノ
少年〓員ヲ雇フ位デハ濟マナクナリ、現在
デハ俸給ノ不拂、任意寄附名義ニ依ル減俸、
各種手當ノ減額廢止ニ依テ、小學〓員ノ生
活ヲ脅シテ居ルノデアル、(中略)〓員俸給補
助ノ目的デ、國庫カラ貰ッテ居ル金ヲ他ニ流
用シテ〓員ノ俸給ハ不拂デ居ルト云フヤウ
ナコトヤ、平均俸給六七十圓ノ小學校〓員
ノ既得權ヲ侵シ、犧牲ヲ强ヒテ居ル事實ハ
決シテ是認スルコトハ出來ナイノデアル、
ソレヲ唯選擧ニ於ケル公約ダカラト言ッテ
漫然ト一千万圓ヲ增額シタ儘デ、其後町村
財政ノ切詰メヲ命令シ、其結果ハ當然ニ〓
育費ニ影響スルヲ知リナガラ體裁ダケノ訓
令通牒ヲ發シテ、不拂モ寄附强要モナイヤ
ウナ顏ヲシテ居ルノハ無責任モ甚シイト言
ハナケレバナラヌ、市町村義務〓育費國庫
負擔法制定ノ理由ガ〓育ノ振興ト擁護ノ爲
ニ小學〓員ノ生活ヲ安定セシムルニアッタ
コトハ言フ迄モナイ、(中略)少クモ昨年ノ
臨時議會ニ於テ一千万圓增額ノ負擔法改正
ニ對シ、貴族院ノ附シタル希望決議ニ言フ
如ク「同法ノ精神ニ基キ義務〓育ノ改善ヲ
期スルト共ニ地方費ノ輕減ヲ計ル」ノガ目的
デナケレバナラヌ、然ニ此一年ノ間ノ成行
キハ國庫負擔一千万圓ノ增額ガ何ノ好成績
ヲ擧ゲテ居ナイノミカ、却ッテ「義務〓育ノ
改善」ノ代リニ改惡ノ跡ガ著シイノデアル、
義務〓育ノ普及徹底ト其內容ノ改善向上ガ
國民精神ノ上ニ如何ニ大ナル影響ヲ持ツカ
ハ今更言フヲ俟タヌノデアル、而シテ其事
ガ專ラ小學校〓員ノ質ノ問題ニ係ルコトヲ
思フ時、現時ノ俸給不拂、寄附强要ヲ中心
トシテ町村當局トノ間ニ全國的ニ對立關係
ヲ作リツヽアルコトノ結果ガ甚グ喜ブベカ
ラザルモノガアルコトヲ覆ヒ得ナイノデア
ル、肉體的ニ小學〓員ノ結核化ノ危險ガア
ルヤウニ、思想的ニ小學〓員ノ左傾化ノ危
險ハ最モ警戒サレナケレバナラヌ事實デア
ル、面シテ其最モ良キ豫防法ハ小學〓員ノ
生活安定ニ基礎ヲ置カナケレバナラズ生
活ニ對シテ不斷ノ脅威ト過重ノ負擔ヲ與ヘ
ナガラ〓育者ナルガ故ニ飽クマデ忍從スベ
シト、無理ナ壓迫ヲ加ヘテ行クコトハ最モ
危險ナル方法ト言ハナケレバナラヌ、〓員
ノ生活保障ハ卽チ國民〓育ノ擁護デアル、
政ヲ行フ者ハ之ヲ重視シナケレバナラナ
イ」、又中外商業ノ矢張リ昭和六年三月十九
日ノ朝刊ニ矢張リ同樣ナ要旨ノ社說ガ出テ
居リマス、「國民〓育ノ爲ニ、小學〓員ノ俸
給問題」ト云フ題ヲ揭ゲマシテ、是モ斯樣ナ
コトヲ申シテ居リマス、「一般財界ノ不況、
延イテハ地方農村ノ疲弊ハ、日ヲ逐ウテ甚
ダシク自然各方面ニ於テ救濟ヲ求メル悲鳴
ガ擧ゲラレテ居ルガ、其中デモ最モ悲慘デ
アルト考ヘラレルノハ小學〓員ノ生活狀態
デアル、地方農村ノ疲弊ノ爲ニ小學〓員ノ
給料不拂、或ハ其延拂ヒ、更ニ進ンデハ俸
給ヲ殆ド强制的ニ寄附セシムルト云フヤウ
ナ事實ガ所在ニ行ハレテ居ルノデ、其ヤウ
ナ取扱ヲ受ケテ、痛苦ノ裡ニ呻吟スル小學
〓員ハ其數ニ於テ決シテ少クハアルマイト
思フ、勿論〓員俸給ニ對スル是等ノ措置ハ
萬々已ムヲ得ザルニ出ヅルモノデ、何トモ
致方ガナイト云ヘバ、ソレマデデアルガ、併
シ國民〓育ノ上カラ見レバ全ク由々シキ大
事ト云ハナケレバナラヌ(中略)近時政府當
局者ノナス所ヲ見ルニ、徒ニ人心ニ迎合スル
ノ傾キヲ免レナイ、旣ニ人心ニ迎合スル位デ
アルカラ、熾烈ノ要求ガアルカ、或ハ一種ノ
示威的運動デモ烈猛ニ起ッテ來レバ、何トカ
對應ノ措置ヲ講ズルケレドモ、然ラザレバ
大抵ノコトハ故意デハナカラウガ、兎角放
置シテ顧ミナイト云フヤウナ事態モ我等ハ
往々ニシテ之ヲ見受ケルノデアル」是ハ誠
ニ能ク言ッテ居ルノデ、聞ク所ニ依ルト、救
護法ノ實施ニ付テモ何カ御上ニ愈、こ直訴デ
モスルト云フヤウナ氣配ガ見エタノデ、急
ニ救護法ニ關スル豫算ヲ急遽トシテ御出シ
ニナルヤウナコトニ進ンダモノノ如クニ思
ハシメルノデアリマス、「是ハ何トシテモ面
白クナイト思フ、小學〓員ノ如キモ其地位
其身分ノ上カラ若クハ其土地ニ職ヲ奉ズル
ト云フ弱身カラ、自己ノ窮狀ヲ露骨ニハ訴
ヘ得ナイデアラウト思フ、故ニソレダケ
一層同情ノ眼ヲ以テ見ナケレバナラナイ
ノデアル、日常其生活ガ窮乏ノ極ニアリ、
而モ其地位ガ不安定ト云フヤウナコトデハ
遂ニハ其職分ニ忠實ナルヲ得ナイコトニモ
ナルデアラウ、ソレガ自然ニ國民〓育ノ上
ニ幾多ノ大ナル惡影響ヲ及サナケレバ已ム
マイト思フ、我等ハ此問題ニ對シテ政府當
局者ガ一日モ速ニ適當ノ措置ヲ講ジナケレ
バナラヌト思フガ」云々ト書イテアリマス、
是ハ社說デアリマス、其他社說デハアリマ
セヌガ報道ト致シマシテハ澤山ナ新聞ニ出
テ居リマス、東京日日ハ三月十六日ノタ刊
ニ「〓員ノ給料未拂ヒ一千町村ニ上ル、全
國〓育會ガ大評定」ト云フ題デ書イテアリ
さく、又是モ東京日日、同樣ニ三月十七日
ノ朝刊ニ「〓員ノ俸給ハ國庫デ拂へ、全國
聯合〓育會ノ決議」ト云フ題デ書イテアリ
やく、又中外商業ノ三月十七日ノ朝刊「窮
狀ニ陷リツヽアル小學校〓員ヲ救ヘ、昨日是
ガ善處ノ爲メ聯合臨時總會」、東京朝日モ同
樣同日ノ朝刊ニ「〓員ヲ救ヘ俸給寄附强
要ニ反對ヲ決議、全國〓育會代表會議」、三
月九日ノ朝刊都ニハ「十ケ月モ〓員ノ俸給
ヲ拂ハヌ町村、帝國〓育調査ノ驚クベキ實
例部下ヲ取締レヌ校長」、國民ニモ是ハ日
ヲチヨット忘レマシタガ、「〓員ノミガ減俸
ノ憂目へ、一千數百ノ町村デ實行、精神的サ
ボニ陷ル」ト云フヤウナ題目デ書イテアリ
そく、何レモ是ハ本年ノ二月一一十五日私ガ
此演壇デ失業救濟ニ關スル質疑ヲ致シマシ
タ後ノ社會報道デアリマス、幣原首相代理
ハ地方官ノ會議モシタ、訓令モ出シタト言
ウテ晏然トシテ居ラレマスルガ、事態ハ左
樣ニ簡單ナモノデハナイノデアリマス、次
ニ幣原首相代理ハ斯樣ニ答ヘラレテ居リマ
ス是ハ中小商工者ニ對シマスル低別融通
金ノコトデゴザイマス、「二千五百万圓ヲ融
通イクシ得ルコトニ致シテ居ルノデアリマ
スソレカラ又農村農山、漁村ノ失
業救濟ノ爲ニ同ジク預金部ヨリ七千万圓
ヲ融通スルコトヲ決定イタシマシタコトモ
前田子爵ハ述ベテ居ラレルノデアリマス、
是ハ今日何等貸渡シニナッテ居ラヌ、融通ガ
出來テ居ラヌト云フコトヲ御述べニナリマ
シタ、如何ニモ此融通ニ付キマシテ故障ノ
アッタコトモ承知イタシテ居リマスケレド
モ、目下ニ於キマシテハ現ニ其進行ノ爲
ニ··圓滿ナル進行ノ爲ニ極力努力イタシ
テ居ル所デアリマス、今少シク此努力ノ結
果ヲ御覽下サランコトヲ希望イタシマス
斯ウ云フコトヲ申サレテ居リマス、成程御
答ノ通リ預金部カラ信用組合ヲ通シマシテ
二千五百万圓ノ低利ノ金ガ融通サレルト云
フ途ハ開イテアリマスケレドモ、實際貸出
シニナッタ金額ハ二千五百万圓ノ半分ニモ
マダ充タナイノデアリマス、更ニ又農村、
漁村、山村ニ七千万圓ノ貸出ノ途ハ開イタ
ト仰セラレマスケレドモ、驚ク勿レ鐚一文
是ハ貸出シテナイノデアリマス、是ハ大藏
省カラ私ガ御貰ヒシマシタ調査ノ調書ノ中
ニ出テ居ル次第デアリマス、先程他ノコト
デ羊頭ヲ懸ケテ狗肉ヲ賣ルト云フ譬ヲ引キ
マシダガ、此七千万圓ノ問題ノ如キハ全ク
其通リデアリマス見セ金モ實ニ甚シイモ
ノデアリマス、次ニ公益質屋ノ利用ノコト
ニ付テ御答ニナッテ居リマス、是モ貸付金額
竝ニ利用者ノ數ハ漸次增加イタシテ居ルノ
デアリマス」、斯ウ幣原首相代理ハ答ヘラレ
マシタ、是ハ全ク全然噓デアリマス、是ハ
其時ニモ申上ゲマシタケレドモ、今日初メ
テ御聽キニナル諸君モアラウト思ヒマスカ
ラ、念ノ爲ニ申上ゲマスガ、是ハ大藏省カ
ラ私ガ貰ヒマシタ書類デアリマスルガ、公
益質屋ニ於ケル小產業者資金貸付狀況ト云
フ題デ、昭和五年三月末ノ現在ト、ソレカ
ラ昭和五年九月ノ末ノ現在ト昭和六年一月
十五日ノ現在ガアリマスガ、成程、アル方
ニハ貸付現在額ガ書イテアリマス、書イテ
アリマスケレドモ貸付金額ガ不明デアリマ
ス、又貸付金額ヤ貸付現在額ハ分ッテ居リマ
スケレドモ、利用者ノ數ガ不明ト云フコト
ニナッテ居リマス、又中ニハ貸付金額モ利用
者ノ數モ不明ト云フコトニナッテ居ルノデ
アリマス、是デハドウセ公益質屋ガ貸出ガ
段々增シテ中小產業者ガ金融ノ上ニ寛ギガ
付イタト云フヤウナコトハドウモ分リ兼ネ
ルノデアリマス、デ私ハ甚ダ憎マレ口ヲ申
上ゲマスヤウデアリマスケレドモ、當時ノ
幣原首相代理、今日ノ幣原國務大臣ニ對シ
マシテ、御存ジノナイコトハ眞シヤカニ仰
シヤラナイ方ガ宜シイト云フコトヲ申上ゲ
タイノデアリマス、ソレカラ職業紹介所ノ
コトニ付テ、矢張リ當時ノ幣原首相代理ハ
御答ヘニナッテ居リマスガ、是ハ後程ニ安達
內相ノ矢張リ職業紹介所ニ對スル御應答ガ
アリマスカラ、ソレニ對シテ申上ゲル時ニ
一〓ニ中上ゲヤウト思フノデアリマス、是
ハ後ニ廻シマス、尙ホ幣原當時ノ首相代理
ハ動モスルト外國ノコトヲ仰シヤルチヨ
ト讀ンデ見マス、「外國ノ例ヲ引イテ來テ對
照スル譯デハアリマセヌケレドモ」ト御斷
リニナッテ居リマスケレドモ、矢張リ外國ノ
コトヲ引イテ仰シヤッテ居ラレマス、是モ御
參考ノ爲ニ附加ヘマスレバ最近卽チ本年
ノ二月、英吉利ニ於キマシテハ失業者ハ旣
ニ二百六十万人ニ達シテ居ル、之ヲ昨年ノ
同時期ニ比ベマスト云フト、百十一万何千
人ト云フモノヲ增シテ居リマス、勞働黨內
閣ガ組織セラレマシタ時カラ比ベマスト云
フト、百五十万人ヲ增シテ居リマス、是等
ニ比ベマスレバ······私ハ强ヒテ比ベテ、ソ
レナラバ日本ノ狀態ハ是デ安心シテ居ッテ
宜シイト決シテ申ス譯デハアリマセヌケレ
ドモ」ト御斷リニナッテ居リマスケレドモ「御
參考ノ爲ニ申シマスレバ斯ノ如ク日本ノ
失業者ノ數ト云フモノハ、英吉利ナンカト
比べマスレバソレハ遙ニ少ナイ數デアルト、
私ハ考ヘルノデアリマス」斯樣ナコトヲ仰
セラレマス、私ハ甚ダ不人情ナコトヲ申ス
ヤウデアリマスガ、外國ガ如何ヤウニ不景
氣デアラウト、如何ニ失業者ガ多ク出ヤウ
ト、先ヅ我國ガ左程ナ憂ノ無クナッタ後ナレ
バ御同情シテ何トカ御手助ケシテ上ゲタイ
ト思ヒマスケレドモ、サウデナイノニ、自
分ノ國ガ今經濟國難ニ襲ハレテ居ルノニ何
モ外國ノコトマデモ心配スル餘地ハナイノ
デアリマス、外國ノコトハドウデモ宜シイ
ノデ、外國モ不景氣ダカラ、我國ノ不景氣
モ御多分ニ漏レナイカラ辛抱シロトカ、英
吉利ニハ二百万人以上失業者ガゴロ付イテ
居ルカラ日本モソレカラ比ベテ見レバ少イ
カラマア辛抱シタラ宜カラウト云フヤウニ仰
セラレハシマセヌケレドモ、ドウモ仰セラ
レルヤウニモ取レルヤウナ御言葉ガアルト
云フコトハ誠ニ私ハ意外ニ感ジ、遺憾ニ感
ズル次第デアリマス、外國ハ外國、外國ニ
ハソレゾレ知名ノ政治家ガ御揃ヒデアリマ
セウ、ソレニ對シテ其國ミニ最モ適切、切
實ナル政策ガソレゾレ立テ得ラレルダラウ
ト思ヒマス、外國ノコトハ宜シイ、日本ハ
日本ノ特殊ノ立場ニ於キマシテ經國濟民ノ
國策ヲ御立テナサルト云フノデアッテコソ
始メテ、私ハ畏敬スル所ノ政治家ダト私ハ
思フノデアリマス、是ハ獨リ幣原首相代理
ノミナラズ大藏大臣モ時〓外國ノ不景氣、
外國ノ失業者ヲ御引用ニナリマシテ御辯疏
ラシイコトヲ仰シヤルヤウデ、私ハ甚ダ大
政治家ニ似合ハシカラヌコトデアルト思フ
ノデアリマス、次ニ商工大臣俵君ハ當時私
ノ質疑ニ答ヘラレマシテ、斯樣ニ仰セラレ
マシタ、其要點ダケヲ申上ゲマス、現今ノ
中小商工業ノ窮迫、誠ニ困ッタモノデアリマ
シテ、其狀態ガ殆ド極度ニ達シテ居ハセヌ
カト思フ位デアルノデアリマス」、是ト幣原
首相代理ノ相對的デアルトカ、大變安定シ
タト云フノトハ大變ドウモ同ジ閣僚デ御
出ナガラ社會現象ニ對スル御觀察ガ大變違,
テ居ルト思ヒマス、商工大臣俵君ノ御觀察
ノ方ガ私ノ肯綮ヲ得テ居ルト思フノデアリ
マス「前田子爵ト共ニ我〓共モ誠ニ心配イ
タシテ居リマスノデアリマス」誠ニ神妙ナ
抑セデアリマス、次ニ「產業合理化ト國產
愛用ハ刻下ノ商工業ヲ救フダケデハアリマ
セヌ我國ノ刻下ノ經濟ヲ建直スニ付テ最
モ必要ナル所ノ二大政策デアルトマデ考ヘ
テ居ル始末デアルノデアリマス、併ナガラ
此產業ノ合理化國產愛用ノ成績ハ餘リ現レ
ヌデハナイカ、如何ニモ御尤千萬ナ御疑デ
アリマス、(中略)國民自身ノ運動ヲ此呼聲ニ
依ッテ惹起ス、國民諸君ト共ニ此所謂產業合
理化國產愛用ノ實現ヲ期スルト云フ立前デ
アリマスルカラ中ミ半年ヤ一年位デハサ
ウ成績ガ實現ハ出來ナイノデアリマス(中
略)昨年ノ夏時分カラ此運動ヲ致シテ居ル
ノデアリマス、如何ニモ成績ガ擧ラヌ、併
ナガラ國民運動ト申シマスルモノハ中ミサ
ウ手取リ早ク成績ハ擧リマセヌ」云々ト申
サレテ居リマス誠ニ苦心ノ程御察シシマ
ス、併ナガラ正直ナル〓白ヲサレテ居ラレ
ルノデアリマス、私ハ決シテ此產業合理化
ヤ、國產愛用奬勵運動ニ付キマシテ決シテ
不服デハナイノデアリマス、誠ニ御趣旨ニ
於テハ結構ナコトダト私ハ贊成ヲ致シテ居
ルノデアリマス、唯私ガ質疑ノ際ニ申上ゲ
マシタノハ、理想ト致シマシテハ產業合理
化ト云フモノハ誠ニ結構ナコトデアリマ
スルケレドモ、餘程其施設ニ付キマシテ用
意周到ニナサラヌト云フト徒ニ失業者ヲ
バ多ク出シマシテ、サウシテ品物ガ高クナ
リ、消費者ガ却ッテ之ガ爲ニ困ルト云フヤ
ウナ、今日獨逸ノ國情ノ如キモノガ現ハレ
出ヤシナイカト云フコトヲ杞憂イタシマシ
テ、ドウカ其邊ニ付キマシテハ十分ナル御
考慮ヲ願ヒタイト云フコトヲ申述ベテ居,
タノデアリマス、固ヨリ綿縮、縞三綾ノ統
制ノ出來マシタコトニ付キマシテハ私ハ
率直ニ御褒メ申上ゲテ居ヲタノデアリマ
スソレハ結構ナコトデアナマシタ、誠ニ
御成功デアリマシタト云フコトハ申上ゲテ
居リマシタ、唯ソレダケデハアリマセヌガ
ト云フコトヲ附加ヘタノデアリマス、其
外ニハ何ニモ出來テ居ラスド云フコト
ハ誠ニ遺憾ノコトデアル、其點ニ付キマ
タデ商五太臣ニ私ハ希望ヲ申述ベテ置イ
タノデアリマス、次ニ商工大臣ハ斯樣
ナ御答ガアリマシタ、「先ニ商工省ガ國產品
ヲ以テ輸入品ニ代用ツ得ルト云フモノガ六
億アルト云フコトヲ申上ゲマシタガ、其ノ
所謂代用晶ノ中ノ、無論工藝品デアリマ
ス·····工業品デアリマス工業品ノ中ノ主
モナル王業品ノ百十五種類、百十五種類ヲ
選ビマシテ、百十五種類ノ中、昨年ノ輸及、
一昨年、一昨々年ノ輸入ト幾許、輸太價額
ニ輸入狀況ニ相違カアッタカト思ヒマシ
テ、調ベテ見マスルト云フト、其代用シ得ル
〓セラレマシタ所ノ百十五種類ノ輸入物ニ
附キマシテ昭和三年度ニ氏ベマスト四割
三分、昭和四年度ニ比ベマスト四割二分ノ
輸入減退ヲ見テ居ルノデアリマス、全體ノ
輸入額デハアリマセヌ、百七五種類ノ品目
ニ臨ッテ輸入金額ヲ調ベテ見マスルド、斯ウ
云フ成績ニアリマス、是ガ全部女國產愛用ノ
結果トハ决ツテ申シマセヌソレハ日本ノ
不景氣ノ爲ニ購買力ガ減退ヲ致ジマツテ
其中ニ西洋ノ物ヲ買ヒタイト思ッテモ購買
力ノ滅退ノ結果買ヘヌモノモ此統計數字
ノ上ニハ無論現ハレテ參リマス、併ナガラ
兎モ角モ、昭和三年、昭和四年度カ輸入品ニ
氏ベテ見テ昭和五年度ノ輸入價額ガ百
十五種類ニ限リ。四割三分、四割二分ノ滅
退ヲツテ居ヲマス是ハ金額ハ約二億圓內
外テアリマス、斯ウ云ス成績デアリマスル
カラ〃是ガ然ラバ其中ノ何割、金額ニシテ
何千万聞ガ、國產愛腫ノ結果デアルカト云
フ計數ハ是ハ中ミムヅカシウゴザイマス
ルケレドモガ、云々ト中サレテ居リマス
私ハ之ニ對シマシテ當時期樣ニ巾上ゲマシ
タ静工大臣が御自分カテ危ブンデ仰セラ
レニナリマシタ通リニ、此貿易輸入額ガ五
謹モ減退シタト云フユドハ國產愛用奬勵
運動ノ全部結果デハナイヽ斯樣ニ告白シテ
居テレマスカラ、私ハ追究イタケマセヌ々
デアリマシタ、ケレドモ、私ハ斯樣ニ中上
ゲマシタ、政府ノ執ラレタ政策ニ依ノテ日本
ノ商工界ガ萎縮萎靡シタカラ從テ輸入ガ
減退ヲシタノデアラウE思フ、本年一月ノ
貿易界ヲ調ベテ見マスルト云フト確ニ五
割ハ滅シテ居ルノデアリマス、其減ッテ居ル
ト云フコトガ、直チニ圖產愛用獎勵運動ノ
結果デアルトハ申シ切レナイノデアリマ
ス此點ニ付テモ明晰ニ御答辯ニ與リマセ
ヌト云フト此五割輸入ノ減ジタト云フコ
トガ、國產愛用ノ御手柄デアルトハ直チニ
私ハ首肯スルコトハ出來ナイノデアリマ
ス越エマシテ二月ノ二十七日ニ當議場ニ
於キマシテ、安達內相カラ二十五日ニ於ケ
ル私ノ質疑ニ對シマシテ、常時御缺席デアッ
タガ故ニ、遲レ馳セナガラ御答辯ニ接シタ
ノデアリマス、其第一ハ失業狀況ニ付カノ
御答辯デアリマシタ、「第一ハ失業ノ狀況ニ
關スル點デアリマスガ、其御質問ノ要旨ハ、
失業者ハ政府ノ對霞如何ニ拘ラズ益、、增加
シテ居ル時年ノ初メ三十五万人カリツモ
ノガ三十八万人ニ增加シダ、尙ホ社會局ノ
調査ハ歸農者及ビ學校卒業ノ未就職者ヲ含
マザルモノナルヲ以テ是等ヲ加フル時ハ百
万ヲ下ラヌデアラウ、是デ政府ノ經濟政策
及ビ失業對策ノ無力ナルコトガ知ラルルト
云フ意味ノ御質問デアリマス、私ハ此御間
ヒニ御答へ致シマスガ、社會局ノ推定失業
者ノ數ハ昨年二月、三十五万人デアリマシ
デ其後漸次ニ增加イタシマシテ、最高ケ
時ハ九月デアリマシテ三十九万五千人デ
アリマスガ、十月ニハ三十七万四千人、十
一月ハ三十五万人ニ減ジマシタ、ゾレカテ
十月一日ニ施行セラレマリタ國勢講査ノ失
業者調ハ略ボ社會局ノ推定ト失業ノ定義ヲ
同ジクスカモノデアリマスガヽ全國三十二
万二千人ノ數ニ上ュテ居リマス之ニ依ステ
見マスルド失業者ノ漸增ノは向ガアリマシ
タコドハ認メナレマスガ其增加ノ勢ヒガ
世間デ傅ヘラルルガ如キ著シキモノデナイ
コトハ明カデアリマス」斯樣ニ·····中略
アトヲ略シマス·······申サレテ居ルノデアリ
マス、私ハ其當時更ニ申上ゲテ置キマシタ、
誠ニ此失業統計ト社會局ノ調査、國勢調査
ニ基礎ヲ置カレテ間違ナイモノダト御思ヒ
ヲナサレテ社會政策ヲ御立テニナルト云
フコトガ根本カラシテソレハ御間違デア
ル社會局ノ調査ヤ國勢調査ノ調ベト云フ
モノハ甚ダ杜撰ナモノデアルト云フコトニ
付キマシテハ當時詳細ニ申上デテアルノ
デアリマス、ドウカ內務大臣ハ單ニ社會局
ヤ國勢調査ノ統計數字ノミデナク、實際社
會ノ有リヤウヲバ、モット精査觀察サレマシ
テ、サウジテ中小產業者ノ如何ニモ疲弊シ
テ居ル狀態、失業者ノ續出シテ居ル實情ヲ
能ク御理解下サルヤウニ希望イタシタイト
思ッテ居ルノデアリマス、次ニ失業救濟ノコさ
トニ付キマシテ御辯解ガアリマシタ速記
錄ヲ長ミシイモノモ御倦怠ト思ヒマス
カラ要領ヲ摘ンデ申上ゲマスト云フト
今囘、國道ノ改修ニ付テ內務大臣卽チ主務
大臣ガ直接ニ管理スルト云フコトハ却テ其
方ガ有效適切デアルト思フカラヤッタノデ
アッテ、道路法ノ正文ニ依ラズ例外規定ニ
則ッタト云フノハ、却テ其方ガ有效適切デア
ルト思ッタカラデアルト云フ御釋明ガアリ
マウタ、尙又知識階級ニ付テノ、何トカシ
ナケレバナラヌト云フ、·····憂フベキ問題ト
云フコトニ付テモ、多少御理解ニナッタヤウ
ナ御答デアリマシタ、其當時ニ於テモ私ハ申
上ゲマシタガ、道路法ノ例外規定ヲ此際特
ニ御用ヒニナッタト云フコトニ仲キマシデ
ハシ内務大臣ハ却テ其方ガ有建適切デアル
ト思タカラダト傳シセル分レドモ、私ノ伺
ハムトスル所ハドウ云フ譯デ有效適切デ
アルカト云フユトガ倚ヒタカッタムデアリマ
スガ、有效適切デアルド思タノグト云フ〓
鵡返ウノ御答ニ接シマジタコトハ甚ダ遺憾
デアルノデアリマス、併カガラ決シテ是ハ
黨略ニ用ヒルノデハナイ、道路色ミ噂ガア
ルケレドモ決シテ府縣會議員ノ選擧等ニ
此道路問題ヲ利用シヤウト云フヤウナ考ハ
無イ斯ウ云フコトノ意味ヲ仰セラレマシ
タカラ、私ハ內務大臣ノ御言葉ヲ諒ト致シ
マシテ、此問題ニ付テハ彼レ此レ申シマセ
又、唯今後ドウ云プ風ナ處置ヲ御執リニ
ナルカト云フコトノ推移ヲ見ヤウト···靜
ニ觀ヤウト思フノデアリマス、唯此知識階
級ノコトニ付キマシテハ、クレ〓〓モ御願
ヒ致シタイコトハ▼今囘土木工事ノ費用竝
ニ鐵道ノ工事兩樣合セマスト云フト約七
千万圓程ノ救濟費用ガ投ゼラレルノデアリ
マス而シテ其七千万圓ノ中僅ニ六十三万
圓ト云フモノガ知識階級ノ救濟ノ方ニ向ケ
ラレテアルノデアリマシテ、アトノ六千何
百万圓ト云フモノガ全部筋肉勞働者ノ救濟
ニ振當テラレルト云フコトハ如何ニモ一
方ニ偏重スル嫌ヒガアリハツナイカト云フ
コトニ付キマシテ其當時モ中上ゲテ置キ
マシタガ、此點ニ付キマシテハ尙ホ御高配
ヲ得タイト思フノデアリマス次ニ此職業
紹介所ノコトニ付テ殷々御答ガアリマシ
ク、併ナガラ此社會現象ニ照シ合セテ見マ
スルト云フト此職業紹介所ノ效果モ現實
ニ餘リ擧ッテハ居ラヌノデアリマス、是ハ中
外商業ノ三月十四日ノ朝刊デアリマスガ
「專門紹介所モ持テ餘シタ知識階級學校出
ノ殺到スル今日此頃就職者百人中僅ニ二
人」ト云フ題目デ書イテアリマス、是ハ三月
十八日ノ朝刊讀賣デアリマスガ、「アブレ
勞働者群江東橋紹介所デ暴行、過般ノ大島
町ノト一脈ノ連絡首謀者六各檢束サル」、大
變ナ騷キマデ超ツテアブレ勞働者ノ群ガ
騷イデ居リマス、是ハ郡ノ三月十七日ノ轉
刊テアリマス、ガ「地方カヲ=煎希望ノ少年
求職者激增ス、府ノ紹介所ヲ驚カシタ紹介
依頼、深刻ナル農村不況ノ反映」斯ウ云フ所
ニモ如何ニ農村ガ今日疲弊シテ居ルカト
云フコトガ反映サレテ居リマス、斯樣ナ次
第デアリマシテ、政府ニ於カレマシテハ職
業紹介所ヲバ增加サレマシテ、成ベタ多ク
ノ人ニ職ヲ與ヘルヤウニ御骨折ニナッテ居
ルニハ違ヒナイト思ヒマスケレドモ、實蹟
ニ於キマシテハ新聞報道ノ如クニナカナ
カソレガ潤澤ニハ參ノテ居ラヌノデアリマ
ス、尙ホ先程申落シマシタケレドモ、此公
穀質屋ノコトニ付キマシテ更ニ一言申添ヘ
テ置キタイト思ヒマスルガ、是モ誠ニ如何
ユモ此悲慘ナ世ノ中ノ狀況ヲバ映シ出シテア
ルト私ハ思ヒマスガ、都ノ三月十四日ノ朝
刊ニ「質草モ盡キタカ市設質屋閑散、質草ハ
商賣道具バカリ」店ヲ開イテ居リマシテモ、
質草ガ無クナッタト見エテ質屋ガ閑散ナ狀
態ニナッテ居ル、質ヲ置キタクテモ質草モ無
クナッテ居ル、誠ニドウモ悲慘ナ狀態デアリ
マス、斯樣ナ次第デアリマシテ、此政府ノ
施設サレマシタ諸點ニ付キマシテハ今日
マダ見ルベキ效果ガ擧シテハ居ラヌノデア
リマス、尙又一面、只今マデニハ私ガ過
般質疑ヲ致シマシタ時ニ、國務大臣ノ御答
ヲ得マシテソレニ對シマシテ更ニ應答イ
タシマシタ〓末ヲ皆樣ノ前ニ展開ヲシテ、
皆樣ノ御批判ヲ待ツ次第デアリマスガ、當
時私ノ質疑ノ中ニ、農林大臣、文部大臣、
大藏大臣ノ御所管ニ觸レタ部分モアッタノ
デアリマスガ、未ダソレ等ノ各大臣ノ御答辯ニ
今日マデ接シテ居ラナイノデアリマス、尤モ私
ハ去月二十五日ニ質疑ヲ致シマシタ時ニ、當
時、大臣席ニ御不參ニナッテ居リマシタ諸大臣
モ多イコトデアリマシタカラ、私ハ質疑演
說ノ初メノ方ト終リノ方ト二度、斯樣ニ申
シテ置キマシタ、今日ノ質疑イタシマシタ
ヨトニ付キマシテ、ソレ〓〓所管大臣ヨリ
ノ御答ハ近キ機會ニ於テ得タイト思フ、併
シ若シ御答ガ無カッタナラバ、ソレハ私ノ申
上ゲタコトヲ御肯定下サッタモノト御認メ
申上ゲマスト云フコトヲ念ヲ入レテ演說ノ
初メノ方ト終リノ方ニ二度、申上ゲテ置イ
タノデアリマスカラ、今日マデ農林大臣、
文部大臣、大藏大臣ノ御答ニ接シマセヌト
云フコトハ私ノ申上ゲタコトヲ御肯定下
サッタモノト、私ハ御認メ申上ゲルヨリ外、
途ガナイノデアリマス、以上ハ私ト各國務
大臣トノ間ニ質疑應答イタシマシタル〓末
デアリマスヽ之ニ付キマシテ公正ナル皆樣
ノ御批判ヲ仰ギマシテ、如何ニ今日ノ時代
ガ、昨年五月建議案ヲ提出イタシマシタ時
ニ比ベテ見マシテ、世ノ中ノ不景氣ガ其度
ヲ高メ、中小產業者ノ疲弊ガ甚シキヲ加ヘ、
失業者ノ數ガ少シモ減退ヲシテ居ラナイト
云フ事實ヲ、如何ニ御判定ニナルカ、是尺
皆樣ノ御考ニ待タウト思フノデアリマス
尙ホ他ノ方面ヨリ所謂社會ノ耳目タル各
新聞紙ノ報道ニ依ッテ社會ノ狀勢ヲ察知シ
マスル一ツノ參考トシテ申述ベタイ思ヒマ
ス是ハ三月七日ノ東京朝日ノ朝刊デアリ
マスガ、題目ハ「悲慘ナ大工ノ失業狀態、賃
銀ハ雪カキニモ劣ル、建築學會ノ調査」誠ニ
ドウモ世ガ世デアリマシタナラバ大工ノ
棟梁トモ其方面ノ者ニ仰ガレテ居ル親方モ、
雪搔ニモ劣ルヤウナ賃銀デ滿足シナケレバ
ナラナイ、斯樣ナ狀態デアリマスカラ、單
リ大工ニ限リマセヌ、熟練職工ハ段々地ヲ
拂ッテ行クデアラウト私ハ思フノデアリマ
ス、是モ都ノ三月九日ノタ刊デアリマス「最
近失業ノ都ニ地方家出人ノ洪水、農村不況
ノ深刻ナ反映、内三分ノ一ハ女」、是モ農村
ノ不況ノ反映ガ寫シ出サレテ居ルノデアリ
マス、東京朝日ノ三月十七日朝刊「一万二千
人ノ哀レナ缺食兒童ニ市〓育局ノ惱ミ、本
社カラ鞄ト帽子ヲ給與」トアッテ大變ナ殊勝
ナ御心掛デアリマス、兎ニ角、斯ウ云フ缺
食兒童ガ一万二千人モ居ルト云フ哀レナ
狀態デアリマス、サウカト思フト誠ニイヤ
ナ事ヲ御耳ニ達シマスルケレドモ、是ハ東
京日日ノ夕刊、三月十七日ノタ刊デアリマ
スガ、皆サン御覽ニナリマシテ暗然トシテ淚
ヲ催サレタラウト思ヒマスルガ、斯ウ云フ
題目デアリマス、「オモチヤノ刀サシテ母ニ
負ハレ弟ト死ヌ、十姉妹カラ二兒ヲ道連レ
ニ吾妻橋カラ身ヲ投グ」ト云ッテ親子心中ノ
報道ガ出テ居リマス、是ハ各新聞ニ皆出テ
居リマス斯ウ云フヤウナコトモ社會ノ現
實ナル社會世相ニ鑑ミマシテ、私ハ斯樣ニ
斷言シテモ差支ヘナイト思ヒマス、卽チ貴
族院ガ昨年五月十四日ノ中小產業者竝ニ失
業者ノ救濟ニ關シマスル建議案ヲ上程イタ
シマシタル時ヨリモ、世ノ中ハ益〓不景氣ガ
深刻ニナリマシテ、中小產業者ノ疲弊ハ益こ
其度ヲ高メ、失業者ハ益〓現出シテ底止
スル所ヲ知ラナイト云フ有樣ニナッテ居ル
ト云フコトヲ申シマシテモ間違ヒハナイデ
アラウト私ハ思フノデアリマス扨又此ノ
内閣ノ政策ノ一枚看板トモ申スベキ減稅
法案、地租改正法案、只今貴族院ノ特別委
員會ニ掛ッテ居リマスルガ、是モ私ハ國民ノ
負擔ノ輕減ヲ圖ラレル御政策デアリマスル
カラ、移シテ以テ中小產業者ノ矢張リ負擔
輕減ニナル次第デアリマスカラ中小產業
者ノ疲弊セル狀態ニ鑑ミマシテ誠ニ結構ナ
御政策デアルト私ハ讚美イタスノデアリマ
ス、併ナガラドウヤラ最近貴族院特別委員
會ノ模様ヲ仄聞イタシマスト云フトヽ委員
ヨリノ質問ニ依リマシテ、海軍ノ補充計畫
ノ財源ガ近キ將來不安デアルト云フヤウナ
事實デ、又宅地租ニ付キマシテハ今日ヨリ
モヨリ高イ增稅ニナルト云フヤウナ節モア
ル、又一般ノ商工業者ナドニ對シマシテ、
福音トモ稱スベキ營業收益稅ノ負擔輕減モ
洵ニ雀ノ淚位ナモノシカ贏チ得ナイト云フ
ヤウナ狀態デ、一體此減稅法案ハ減稅法案
デアルノカ、增稅法案デアルノカ、ドウモ
正體ガ分ラナイト云フヤウナコトデ、特別
委員會ハ質問百出渾沌狀態ヲ呈シテ居ルト
云フコトデアリマス、私ハ直接ニ特別委員
デハゴザイマセヌカラ、ソレハ確信ハ致シ
マセヌケレドモ左樣ニ聞及ンデ居リマス、
所ガ貴族院ノ特別委員會デ此減稅法案ニ對
シマシテ、何ヤラ不評判ノ聲ガ喧スシキ折
柄、世間ハドウデアルカ、斯ウ申シマスト
云フト世間ニ於テモ大分反對ノ聲ガアリ
Ⅳ、 、是ハ三月十九日ノ夕刊中外商業デモ
斯樣ナ題目デアリマス、「警察連帶支辨金減
額反對」是ハ其「救護法實施財源ノ一部トシ
テ東京府警察費連帶支辨金百万圓減額案ハ
目下衆議院ニ於テ紛糾ノ昭和六年度追加豫
算ニ含マレテヰルガコレガ兩院通過ノ曉
ハ、東京府市民ニトッテハ負擔ノ過重ヲ來ス
コトニナリ、連帶支辨金ノ國庫負擔增額ハ
府會數年來ノ懸案デ通常府會開會每ニ決議
ヲシテ政府當局ニ陳情ヲ續ケテヰルニ拘ラ
ズ、今囘斯ル處置ニ出タノデ、コレガ反對
運動ヲ起ス爲メ二十日午後一時ヨリ府會全
員協議會ヲ開イテ本案ニ反對ノ決議ヲ爲
シ政府當局竝ニ貴衆兩院ニ陳情極力阻止ニ
努メルコトニナッタ」是ハ直接減稅案ニハ關
係ハアリマセヌケレドモデス、國民負擔ノ
輕減ヲ叫ンデ居ル今日ニデス、救護法ノ實
施ハ洵ニ肝要、必要ナコトデアリマスルケ
レドモ、ソレガ爲ニ治安警察ノ上ニ於テ大
切ナル費用ヲ削減サレルト云フコトハ
面ニ於キマシテ、洵ニ市民ト致シマシテハ
不安ノ情ヲ起サザルヲ得ヌ次第デアリマス、
而シテ警察ノ手薄ヲ其儘ニ致シテ置ク譯ニ
ハ參リマセヌカラ、愈〓サウナッタ曉ニハ矢
張リ順繰リ〓ッテ國民ノ負擔ノ增加ト云フ
コトニ結局相成ル次第デアリマス、同樣ニ
是ハ一昨日デアリマシタカ、東京府會議員
有志、東京市會議員有志ト云フ連名デ、我
我貴族院議員ノ控室ニ配付セラレタノデア
リマス、何人ガ之ヲ頒布シタノデアルカ、
何人ガ筆ヲ執ッテ此文章ヲ書イタノデアル
カ一向不明デアリマス、併ナガラ私ハ斯樣
ニ思ヒマス人ヲ以テ言ヲ捨テズト云フコ
トハ昔ノ賢者ノ言デアリマス、アノ人ガ言
フコトダカラト云テ、其人ノ如何ニ依ッテ、
其人ノ言フ言葉ヲ一切耳ニ入レヌト云フコ
トハ甚ダ不量見ダト思ヒマス、負フタ子ニ
淺瀬ヲ〓ハルト云フコトガアリマス、頑是
ナイ子供ニ川ノ淺瀬ヲ〓ハルト云フコトガ
アリマス、人ヲ以テ言ヲ捨テズ、私ハ其意
味ニ於キマシテ、何人ノ綴ッタモノデアルカ
分リマセヌケレドモ、配付サレタル紙片ヲ
見マスト云フトデス、矢張リ此減稅法案ニ
關係ヲ持ツ所ノモノデアリマス、チヨット要
點ヲ讀ンデ見マス、「東京市民ニ急〓」「減稅
トハ欺瞞宣傳」、ドウモ言葉ハ少シ荒ッポウ
ゴザイマスケレドモ、是ハ私ガ書イタノデゴ
ザイマセヌカラ致シ方ゴザイマセヌ、有リヤ
ウニ御紹介イタシマス、「減稅トハ欺瞞宣
傳」「政府ハ今議會ニ地租改正案ヲ提出シ
タ政府デハコレヲ減稅案ト言。ッテヰルガ、
成ルホド田畑ノ地租ハ多少減ズルガ、宅地
租ハ驚クベキ增徵デ、コレガ爲ニ都會ノ住
民ハ非常ニ苦シム結果トナル、減稅ナドト
ハ全クノ欺瞞デ東京府市ナドデハ非常ノ增
稅デアル」次ハ「東京市民ノ大增稅」ト云フ
題目デ、「今迄地租ト其ノ附加稅トヲ合セテ、
東京市民ハ三百六十九万八千二百四十六圓
ヲ納メテヰタノガ今度一千〇十三万八千
四百二十圓ヲ納メネバナラヌコトニナルノ
デ今度ノ改正ニ依テ、實ニ六百四十四万
圓以上ノ增徵トナリ、之ヲ一戶當リニスレ
バ一戶十六圓餘ノ增稅トナルノデアル、又
東京府ノ宅地租及其ノ附加稅ノ增稅ハ、實
ニ九百七十八万圓ニ達シ、一戶當リ九圓ニ
近イ增稅トナルノデアル」熟、思ヒマスニ、ミ
昭和六年度ニ於キマシテ、アノ減稅法案ガ
貴族院ヲ通過イタシマスレバ、昭和六年度ニ
於キマシテハ九百何万圓バカリ減稅ニナ
ルト云フコトデアリマスルガ、是デ見マス
ト云フト差引零ニナレバ宜イ位ナモノデア
サマス、一面ニ於テハ減稅デアリマセウケ
レドモ一面ニ於テハ多大ノ增稅ニナルノデ
アリマス、次ニ「警察費ノ削減ハ不安」ト是モ同
樣ナコトヲ申シテ居リマス、「マタ今度政府ハ
救護法ヲ實施スルコトトナッタガ、昭和七年
度カラ先キノ財源ノ一部トシテ、是レマデ國
カラ東京府ヘ下ゲ渡シテヰタ警察費ノ中カ
ラ、百十七万圓ダケ減スルコトニナル、全國
ノ窮民ヲ救フ救護法ノ實施ハ我ミガ熱心
ニ叫ンダガ、政府ハ財源ガナイトテ今日マデ
引キ延バシ、漸ク今ニナッテ不完全ナ少額ナ
實施ヲスルコトニナッタ、然カモソノ財源ハ
當然他ニ求メル筈ノモノヲ、其ノ金ノ大部
分ヲ東京ガ負擔スル譯デアル、救護法ノ實
施ハ我ミノ主張ダガ、ソノ重荷ヲ東京ニ嫁
セラレルノハ不當デハナイカ、ソノ結果東
京府ノ警察費ガ削減デモサレルコトニナツ.
タラ頗ル不安デアル」次ニハ「生キル爲メニ
稅ヲ納メルノカ、稅ヲ納メル爲メ生キテ
ヰルノカ」ト云フ〓目デアリマス、「ノ問題
ニ縫著セシメタ、コノ改惡ノ地租改正案ハ
衆議院デハ民政黨多數橫暴ノ力デ無理押
シニ通過セシメタガ、貴族院ハ今ヤ自熱的
論戰ノ最中デアル」次ハ「府市民諸君ノ奮起
ヲ望ム」「東京府、東京市ノ諸君ハ、コノ際
生活ノ爲メニ奮起スベキ秋デアル、一刻遲
クレテハ取リ返ヘシノツカヌコトトナル
直ニ起テ自己生活ノ擁護ヲ計ルベキデアル」、
「東京府會議目有志、東京市會議員有志」、
果シテ東京府會議員有志ガ出シタノカ東
京市會議員有志ガ出シタノカ、ソレハ直ラ
私ハ信ズル譯ニハ行キマセヌガ、兎ニ角私
ハ國民ノ聲デアルト思フノデアリマス、否、
天ノ聲デアルト思フノデアリマス、天ハ口
ガアリマセヌカラ民ヲシテ叫バシメルノデ
アルト私ハ思フノデアリマス、私ハ是等ノ
國民ノ聲ヲ參考トシテ、減稅法案ニ付キマ
シテモ、精査ヲシナケレバナラヌト思フノ
デアリマスガ、兎モ角モデス、減稅ト云フ
コトハ中小產業者ニ取リマシテハ前申シマ
シタ通リ福音デアリマス、ドノ位中小產業
者ノ頭ニ負擔ガ輕減サレルカト、斯ウ申シ
マストデス、一番影響ノゴザイマスルノハ
申上ガルマデモナク營業收益稅デアリマ
ス併ナガラ其金額ハ〓科六年度ニ於キマ
シテ僅ニ百二十一万餘圓デアリマス平年
度ニ於キマシテ四百六十一万圓デアリマ
ス、之ヲ昭和六年度ノ營業收益稅ノ豫定收
入額四千五百万圓ニ對比シマスレバ一
減トナルノデアリマス、併ナガラ一千圓ニ
滿タナイ所ノ納稅者ニ於キマシテハ大〓
ハ帳簿等ガ不揃ヒデアリマスルガ爲ニ、見立
徵稅ヲサレルノデアリマスデアリマスカ
ラ實際ニソレ等ノ稅率ダケノモノガ、低減
セラレルカドウカ甚ダ疑ハシクナルノデア
リマス、尙ホ又府縣ニ於テハ御承知ノ通リ、
府縣ノ財源ニ不足ヲ來シク時ニハ所謂制
限外ニ徴收サレル規定ガアリマスノデ、今
日ハ府縣ノ財政窮乏ノ折柄デアリマスカ
ラ、或ハ戶數割ニ依リ或ハ家屋稅ニ依リ、
ソレ等ノモノニ依ッテ徵收ヲサレタナラバ
一面ニ於テ減稅サレテモ寧ロソレヨリモ多
イモノガ賦課サレルト云フヤウナコトガ出
テ來ヤシマイカト私ハ思ハレルノデアリ
マス尙ホ地租ノ方ニ於テハ前申上ゲマシ
タ通リニ宅地租ガ異常ナル增稅ニ相成ルヤ
ウナ次第デアリマシテソレ等カラ見マス
ト、此稅法案ト云フモノガ減稅案デアルカ
增稅案デアルカ、增減稅法案ト言フタ方ガ
事ノ正鵠ヲ得タモノノヤウニ考ヘラレルノ
デアリマス、元來現政府ハ其根本政策ニ
於テ、中小產業者ノ疲弊、失業者ヲ續出ス
ルコトヲ招來スルヤウナ······招來スルノニ
ハ誠ニ都合ノ好イヤウナ政策ヲ實行セラレ
テ居ルト思フノデアリマス、決シテ政府當
局ニ於テハ、好ンデ失業者ヲ造リ好ンデ
中小產業者ヲ疲弊ニ陷ラシメルト云フヤウ
ナ、サウ云フ御心ハ萬ナイコトハ申上ゲ
ル迄モナイコトデアリマスケレドモ、其結
果カラ見マスルト、失業者ヲ製造シ、中小
產業者ヲ疲弊ニ陷ラシムルヤウナ政策ヲナ
スッテ居ラレルノデアリマス、而シテ初メノ
中ハ、マダ消極政策ト云ッタ時分ハマダ〓〓
私ハ忍ベルト思フノデアリマス、消極政策
デアレバ、工夫ヲスルバ現狀ノ維持ガ出來
ルノデアリマス、併ナガラ今ヤ消極政策カ
ラ深入リサレテ緊縮政策ニナリ、緊縮政策
ヲ去ッテ、今ハ萎縮政策ニ移ッテ居ラレルノ
デアリマス、緊縮政策デアレバ、一方ニ縮マ
リマシテモ亦一方ニ伸ビルノ餘裕ガアリマ
ス、ガ萎縮政策ニナリマシテハ龜ノ子ガ
頭ヤ手足ヲ甲ノ中ニ入レルガ如クニ、四方
八面カラ縮ム一方デアリマスカラ、四方八
面ニ行詰リヲ生ズルト云フコトハ是ハ明
カナコトデアリマス、能ク昔ノ言葉ニ、伸
ビムト欲スレバ先ヅ屈セヨ誠ニ左樣デア
リマセウ、併ナガラ屈スルノモ程ガアリマ
ス、今日ハ屈シテ屈シテ居フテ、何時マデ屈
シタラバ宜イノデアラウカ、縮ミ切ッテ居
ルガ、尙ホ此上ニ縮マナケレバナラナイノ
カ、我ミ國民ハ最早此以上屈スルコトモ縮
ムコトモ出來ナイト思フノデアリマス何
トカ此政策ノ打開ヲ望マザルヲ得ヌノデア
リマス、ドウシテモ此經濟國難ヲ打開スル
所ノ······更新サレタル所ノ政策ヲ立ッテ御
貰ヒ申サンケレバナラヌノデアリマス、左
樣ナ次第デアリマシテ、我〓ハ四方八面ヨ
リモ考察イタシマシタケレドモ、昨年本院
ヲ通過イタシマシタ中小產業者竝失業救濟
ニ關スル建議案提出ノ當時ト今日ト比べ
テ見マスルト、世ノ中ノ不景氣ハ益、深刻ヒ
ニナリ、中小產業者ノ疲弊ハ誠ニ正視スル
ニ忍ビナイ狀態ニナッテ居ルノデアリマス、
而シテ相變ラズ失業者ノ洪水ハ底止スル所
ヲ知ラヌト云フ有樣デアリマス、此現實ナ
ル所ノ社會ノ實相ヲ捉へマシテ、而シテ政府
ハ御苦心ハニナッテ居リマセウケレドモ、現實
的ニ玆ニ何等ノ效果ヲ擧ゲ得ナイ以上ニ
ハ、甚ダ申上ゲニクイコトデアルケレドモ、
昨年以來政府ノ執ラレタ所ノ政策措置ト云
フモノガ其宜シキヲ得ナイモノデアルト云
フコトハ是ハドウモ御認メ申サナケレバ.
ナラヌト思フノデアリマス、ドウカ皆樣ニ
於カレマシテモ、昨年五月貴族院建議案ニ
御贊成ニナッタ所ノ諸君ハ、終始一貫、其因
果關係ニアル所ノ此決議ニ對シマシテモ
滿場一致ヲ以テ御贊成アラムコトヲ希望シ
テ已マヌ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=13
-
014・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 休憩ヲ致シマ
ス、午後一時三十分ヨリ開會イタシマス
午後零時六分休憩
午後一時五十一分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=14
-
015・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ報〓ヲ
致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
牧野法案
競馬法中改正法律案
關稅定率法中改正法律案
勞働者集害扶助法案
勞働者災害扶助責任保險法案
勞働者災害扶助責任保險特別會計法案
本日議員ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
農村ニ對スル國策樹立ニ關スル建議案(公
爵一條實孝君外十六名發議)
本日衆議院ヨリ本院ノ送付ニ係ル左ノ政府
提出案ハ同院ニ於テ之ヲ可決シ奏上セル旨
ノ通牒ヲ受領セリ
著作權法中改正法律案
船舶積量測度法中改正法律案
本日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ
氏名左ノ如シ
勞働組合法案特別委員會
委員長子爵前田利定君
副委員長男爵中島久萬吉君
明治四十二年法律第二十一一號中改正法律
案特別委員會
委員長公爵鷹司信輔君
副委員長安立綱之君
昭和四年度第一豫備金支出ノ件(承諾ヲ
求ムル件)特別委員會
委員長子爵立花種忠君
副委員長森賢吾君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=15
-
016・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 是ヨリ午後ノ
會議ヲ開キマス、土方寧君
〔土方寧君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=16
-
017・土方寧
○土方寧君 私ハ昨年ノ議會ニ今囘ト同樣
ノ決議案ガ上程セラレマシタ時ニ、自席カ
ラ簡單ニ反對ノ意ヲ表シテ置キマシタ、其
時ニハ十分ニ理由ヲ御話シ申上ゲマセナ
カッタ、此度ノ決議案ハ我ガ同僚ノ信任スベ
キ十五名モノ御發議デ百十何名ノ御質成デ
總計百二三十人ノ御主張ガ現ハレテ居ルモ
ノデアリマシテ、最モ尊重スベキモノダト
考ヘマスガ、併シ此決議案ノ內容ニ付テ伺
ヒマス所デハ何分ニモ今囘モ此儘デハ贊
成ヲ表シ兼ネマス、現在我國ノ經濟界ガ疲
弊困憊、、不況ニ陷ノテ產業ハ振ハズ、從クテ
失業者ハ出來、單リ中小商工業者ノミナラ
ズ農民モ生活ヲ脅カサレテ居ルノデアリマ
ス、是ハ天下周知ノ事實デアリマシテ、何
人ト雖モ之ヲ此儘ニ放任シテ置イテ宜イト
云フコトデアリマスマイ、能ウベクンバ何
カノ救濟ヲ施シテ此不況ヲ好轉セシメ、出
來ルダケ產業モ振興シ、從→テ失業ヲ防止
シ農業者モ商工業者モ生活ノ安定ヲ得ル
ヤウニ努メナキヤナラヌ譯デアリマス、是
ハ何人モ異存ノナイコトダラウト思ヒマ
ス、併ナガラ今日ノ此不況ヲ來シマシタコ
トハ決シテ一朝一夕ノコトデハナイト考ヘ
Vく、我國ニ於キマシテハ世界的戰爭中ニ
異常ノ好況ヲ呈シマシテ、之ガ爲ニ基礎薄
弱ナル諸種ノ生產組織ト云フモノガ濫設セ
ラレマシタ、ソレデモ戰爭中ハ大イニ利益
ヲ得ルコトガ出來マシタガ是ハ一時限リ
ノコトデアッテ、戰爭ガ終熄シマシタナラバ、
サウ云フ好況ヲ持續スルコトハ出來ナイト
云フコトハ誰モ承知シテ居ルベキ筈デア
リマスケレドモ、全ク無頓著デ其儘デ推移
シテ、戰後反動ガ來タ時ニハ隨分甚シイ
打擊ヲ受ケマシタケレドモ、ソレデモマダ
實業界ノ當業者ハ產業ノ組織ノ建直シト云
フコトニハ手ヲ著ケナカッタノデアリマス、
サウ斯ウスル中ニ十二年ノ關東地方ノ震火
災ガアリマシテ、是ハ被害地ノ附近ノミナ
ラズ、全國ノ經濟界、財界ニ大打擊ヲ與ヘ
タノデアリマス、最モ物質的ニ損害ヲ被ッタ
所ノ東京市、横濱市ノ如キハ漸ク復舊出來
マシテ、物質的ニ有形的ニ復舊シマシタ
ガ併ナガラ經濟上ノ打擊ハ尙ホ免レルコ
トガ出來ナクテ、其創痍ヲ被ッテ居ル譯デア
リマス、サウ云フヤウナ譯デ昭和元年デア
リマシタカ、財界ニ波瀾ヲ生ジテ可ナリ規
模ノ大キナ私立ノ銀行ガ皆倒レテジマッテ、
十五銀行、臺灣銀行ノ如キ特殊銀行デアリ
マシテモ自然ニ委シテ置ケバ破產スル譯デ
アリマス、僅ニ彌縫策ヲ施シテ存續セシメ
テ居ルト云フダケデアリマスソンナ譯デ
ズット前カラ今日ニ至ル所ノ不況ヲ招クヤ
ウナコトヲシテ來タノデアリマス、其中ニ
昨年カラ世界的不況ノ影響ヲ被リマシタ
世界的影響ノ發源地ハ御承知ノ通リ亞米利
加デアリマス、亞米利加合衆國ハ御承知ノ
通リ世界的戰爭ノ大部分ハ中立ノ態度ニ
アッテ、我國ニ比シテ比較ニナラヌ程暴利
ヲ貪ッテ、戰爭ニ參加シテ後モ產業ガ盛大ヲ
極メ、尙ホ戰後歐羅巴ノ諸國ハ非常ナル不
況ニ陷フテ居ルニ拘ラズ、亞米利加合衆國ダ
ケハ盛況ヲ持續シテ居ル富ト申シマシテ
モ、金デ申シマスレバ大部分ハ自國ニ吸收
シ本來天然ノ物資ニ富ンデ居リマス國デ
アリマスカラ鬼ニ金棒デアル、彼等ハ我國
ノ好況ハ永遠ニ持續スルト信ジテ居ノタラ
シイノデアリマス、ソンナコトハ出來ルコト
デアリマセヌ、今日ノ產業貿易ト云フモノ
ハ二國ダケ繁榮シテ他國ハ皆疲弊スルヤウ
ナコトデハ立チマセヌ、國際的デアル遂
ニ昨年不況ニ陷ヲテ其影響ガ外ノ國ニモ、日
本ニモ及ンダ、是モ政府ノ言フ通リ世界的
不況ガ日本ノ大不景氣ヲ招イタル大ナル原
因ト思ヒマスガ、無論皆サンガ仰ジヤル通
リ金解禁モ一原因トナッテ居リマセウ、併ナ
ガラ金解禁ヲシタコトガ良カック惡カッタ、
色〓意見ガアリマスガ、若シシナカッタナラ
バ、或ハ銀行ノ、支那ニ對スル貿易上ハ有
利デアッタカモ知レマセヌガ、歐米諸國ノ銀
行ニ對シテハ寧ロ不利益デアッタラウト思
ヒマス、私ノ考ハ利益、不利益差引クト云
フト金解禁ヲシタノガ適當ダト思ッテ居
リマス、ソンナ譯デ前カラノ色ミナ沿革
上、自然ニ行詰ッテ今日ニ來タノデアリマ
スカラ、是デ此儘ニシテ置イテ宜イト云フ
譯デアリマセヌ、何トカ出來ルナラバシナ
クチヤナリマセヌ、中ミ人爲ヲ以テ此不況
ヲ轉ジテ好況タラシメルコトハ殆ド不可
能デアラウト思ヒマス、十九世紀ノ長イ間
ニ於テ英吉利ハ產業政策トシテハ自由放任
主義ヲ執リ、國際貿易トシテハ自由貿易主
義ヲ執ッテ、當時ハ殆ド世界ノ市場ヲ獨占
シテ居ッタ、其時代ハ過去ノ昔デアリマシ
テ今日デハドウシテモ產業ハ當事者ニ任
セルヨリ仕方ガアリマセヌケレドモ或程
度マデハ統制等ノ助成策モ必要デアリマセ
ウ、併ナガラ何トシマシテモ人爲ヲ以テ
此不況ヲ好轉セシムルコトハ一朝一夕ニ出
來ルコトデナイト私ハ思ヒマス、此決議案
ヲ見マスト云フト、ドウモ此決議案ダケデ
ハ分リマセヌ、林伯爵カラ決議案ノ趣意ヲ
御說明ノ中ニハ種々積極的ノ御意見モ伺
ヒマシタ、又前田子爵カラ贊成ノ長イ御演
說ノ中ニハ、色ミナ事例ヲ引イテ政府ノ施政
ガ誤クテ居ルト云フコトガ非難攻擊セラレ
タヤウナコトモ拜聽イタシマシタ、其或部
分ハ誠ニ御尤モト感ズル部分モアリマス
併ナガラ然ラバ、林伯爵ナリ前田子爵ナリ、
其他百何十名ノ此建議案ニ贊成ノ方ノ中ノ
十二人バカリ政府ノ當局ニ立クテ、アナタニ
御任セ致スカラ此財界ノ不況ヲ打破シテ、
產業ヲ振興シ、失業者ヲ無カラシメ、農村
モ商工業者モ總テ生活ノ安定ヲ得セシメル
コトガ出來マスカト云,タラ、ソレハ私ナラ
シマスト云フ主張ト云フモノヲ伺フコトハ
出來マセヌ、結局人ノスルコトラ非難スル
ダケデ、自分ガ代ッテヤルト云フ積極的ノ
主張ガアリマセヌカラ、ソレダカラ私ノ
考デハ、此決議案ガ無意味ト思ヒマスカラ
贊誠イタシマセヌ、序デナガラチヨット申シ
タイコトガアリマス會期切迫ノ今日長ク
時ヲ費スコトハ出來マセヌノデ結論ダケ申
シマスガ、私ノ考ヘマス所デハ、現代ノ物
質的利己的資本主義產業組織ト云フモノ
ハ產業革命以來、百年餘ノ經驗ニ微シマ
シテ、決シテ今後此儘デ持續スルコトガ出來
ルモノデナイ、是非健直サナケレバナラヌ
ト思ヒマス、此儘デハ國內ニ於キマシテ
ハ、何レノ國デモ勞資ノ軋轢ハ免レマセヌ、
勞働法案ノ時ナラ巾上ゲマスガ、今ノ所デ
ハ勞働者ト云フモノハ始ド機械ノ一部分ノ
ヤウニ使ハレテ居リマス、ドウシテモ勞資
ガ相反スル限リハ好景氣ニハナレマセ
ヌ是ハ畢竟資本階級ノ利己主義カラ起ッ
タモノデアリマス是ハ英吉利ノ產業革命
ノ歷史ヲ御覽ニナレバ分リマス、ドウシテ
モ利益分配主義ニ依ラナケレバナリマセ
ヌ、「プロフヰット·シエヤーリング·システ
ム」「プロフヰット·シエヤーリング·システ
ム」、國際貿易ニ於キマシテモ、何處ノ國デ
モ自國ノ生產ヲ多量ニ世界到ル所ニ分配
シテ······何レノ國モサウ思フ、自分ノ國デ
ハ自分ノ自國品ヲ使ヒ、サウシテ澤山作ッテ
澤山賣ラウ、ドノ國デモサウ考ヘテ居ル
ガ他國ノ品物ヲ買ハナイ爲ニ城壁ヲ高ク
スルサウ云フ經濟戰ヲヤッテ居ッテモ、何
レノ國モ滿足ニ通商ハ出來ルモノデハアリ
マセヌ、歐洲大戰爭ノ結果反動ガ起ッテ、平
和運動ガアリマスケレドモ、是ハホンノ形
式ダケノコトデアッテ製艦競爭ヲ避ケル爲
ニ海軍ノ制限ヲスルトカ、或ハ不戰條約ヲ
スル不戰條約ヲシテモ戰ヲセヌト云フ譯
デハナタ、妄リニ侵害ヲセヌト云フコトデ
アル戰ヲ廢棄スル譯デハナイ、必要ノ場
合ニナルト動クノハ尤モデアリマス、歐羅
巴ノ世界戰爭ト云フモノヲ今一囘繰返シマ
シタナラバ歐羅巴ノ文明ハ潰レテシマウ、
現ニ一囘ノ戰爭デ殆ド潰レテシマッタ、ソレ
ニ驚イテ起ッタノガ平和運動デアリマスカ
ラ、併ナガラ戰爭ノ原因ハ現代デハ經濟戰
デアリマス、ソレダカラ私ノ考デハ各國ノ
獨自ノ事〓ヲ考慮シマシタ上ニ、生產原料ト
云フモノヽ配給ト、生產分配ト云フコトニ
付キマシテ世界ノ重モナ產業國ノ間ニ協
定ガ出來ナケレバ、各國ノ通商貿易ヲ圓滿
ニ行フコトハ出來ナイト思ヒマスガ、共譯
ハ詳シク申シマスト非常ニ長クナリマスカ
ラ今日ハ申上ゲマセヌガソレガ根本ノ間
題デアリマス、目前ノ我國ノ不況ヲ打破ス
ルト云フコトニ付キマシテハ是非トモ出
來ルダケシタイト思ヒマスガ、何トシテモ
何人ガ局ニ當シテモ思フヤウニ、人爲的ニ
不況ヲ轉ジテ好況タラシムルト云フコト
ハ決シテ出來ヌト思フ、具體的ニ案ヲ示
シテドウシタラ出來ルト云フコトソレヲ
伺フコトガ出來マセヌカラ反對デアリマス
〔男爵藤村義朗君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=17
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018・藤村義朗
○男爵森村義朗君 私ハ本決議案ニハ贊成
ヲ表シマスル一人デアリマス貴族院ガ前
議會ニ於テ本決議案ト同一ノ趣旨ノ建議案
ヲ可決サレマシテ而シテ今又玆ニ重ネテ
此本案ヲ提出サレマシタコトニ付テ、如何
ニ此決議案ノ内容ガ重大ナル意義ヲ有ノテ
居ルカト云フコトヲ物語ッテ居ルノデアリ
やく、而シテ本決議案ハ中小產業竝失業問
題ニ關シマシテ、昨年ノ建議案通過後ニ於
ケル政府ノ措置ガ尙ホ宜シキヲ得テ居ラヌ
ト云フコトヲ明カニ決議案ノ文言中ニ揭
ゲテアリマスル點ニ於キマシテ政府ノ爲
シタル所ニ遺憾アリ不滿アリト云フ、明確
ナル意思表示ヲ致シテ居ルノデアリマス、
貴族院ノ提出ノ決議案ト致シトシテ、從來
ニナイ頗ル必硬ナル態度ヲ表明シテ居ルノ
デアサマス、更ニ此決議案ノ末段ニ於キマ
シテ「時艱ノ匡救ニ努力スベシ」ト云フコト
ガアリマス、努力スベシデアリマス、昨年
ノ建議案ノ文言ノ對策ヲ講ゼラレムコトヲ
望ムト云フ文句ニ比ベテ見マスレバ同ジ
意味ノ事柄デモ決議案デアルダケニ、其輕
重寛嚴ニ大ナル差ガアルヤウニ看取セラレ
ルノデアリマス、私ハ今日我國ノ情勢ニ於キ
マシテ、本案ノ提出サレマシタコトガ實ニ
偶然ニアラズト信ジマスルガ故ニ、午前中
提出者ノ林伯爵及ビ贊成者ノ前田子爵カラ
詳細ナル御說明ガアリマシタガ、出來ルダ
ケ簡單ニ私ノ趣旨ヲ述べマシテ此處ニ贊意
ヲ表シタイト思フノデアリマス私ハ昨年
決議案ガ提出サレマシタ際、政府ノ對策ニ
ハ殆ド何等、當時ニ於テモ見ルベキモノナ
ク、故ニ一層適切ナル施設ノ必要ヲ感ジマ
シテ深ク將來ヲ憂慮シテ贊意ヲ申述ベタ
ノデアリマス、然ルニ爾後ニ於ケル推移發
展ニ見テ見マスルノニ、財界ノ惡化ヽ深刻
化ハ益、適當ナル對策ノ必要ノ度ヲ增シ來。ツ
テ居リマスルニモ拘ラズ、政府ハ依然トシ
テ殆ド無爲無策ノ狀態ヲ續ケテオ出デニナ
ルノデアリマス、昨年ノ私ノ憂ヘガ杞人ノ
憂ヘニ終ハラズシテ、今日此處ニ再ビ貴族
院ノ憂ヘトナッテ現ハレマシタコトハ、如何
ニモ心外ニ存ジ遺憾ニ感ズル次第デアリマ
ス、我ガ中小產業者ガ今日ノ如ク踵ヲ接イ
デ殆ド沒落ノ悲境ニ陷リ、失業者ノ數ガ益〓
增大ノ傾向ニアリマスコトハ經濟界不
況ノ爲トハ申シナガラ甚グ困ッタコトデア
リマス、此不景氣ノ依ッテ來リマシタ原因
ハ決シテ只今モ土方博士モ仰セラレマシ
ト存ジマスルガ、如何トモスルコトガ出來
ナイ不可抗力ノ原因ノミデハナイノデアリ
マス、ソレハ世界的ノ不況ノ影響モアリマ
セウ、或ハ又土方博士ガ詳細ニ御述べニナ
リマシタ通リ、我ガ經濟組織及經營ノ元來
ノ缺陷モアリマセウ、或ハ又我國ノ自然的
還境ニ依フテ生ジマシタ國民經濟ノ特殊ノ
事情モゴザイマセウ、ナレドモ現内閣ノ成
立以來執ラレ來リマシタ所ノ財政及經濟政
策ガ、直接不況ノ原因ノ大ナル分前ヲ有ッテ
居ルト云フコトハ、今日ニ於テハ旣ニ否定
スルコトノ出來ナイ事實デアルト私ハ考ヘ
ルノデアリマス、卽チ其主ナルモノヲ申上
ゲマスレバ、金解禁ニ依ッテ貨幣價値ノ騰貴
ガ物價財產或ハ債權債務、其他此價値ノ存
スル所ノ全部ニ及ボシマシタ動搖影響ニ對
シマシテ、政府ノ對策準備ガ其當ヲ得テ居
ラナカッタト云フコトガ其一ツデアリマス、
又政府ノ財政政策ガ今日マデ極メテ不徹底
不合理デアッタト云フコトガ其二ツデアリ
マス、消費節約ノ根本觀念ガ誤クテ居リマシ
テ、其宣傳ニ依クテ國民ノ消費ヲ不當ニ抑壓
シマシテ正常ナル消費力ヲ激滅セシメタト
云フコトガ其三デアリマス、政府ガ一昨年
以來經濟界ノ觀測豫察ヲ誤ッタト云フコト
モ其一ツデアリマス、又財界匡救ノ對策ガ
事每ニ一時的ノ糊塗彌縫ヲ專ラニシテ、又
局部的ノ救濟ノミニ終始シテ居ラレルト云
フコトガ是亦其一ツデアリマス、是等ハ皆
既ニ民間ニ於キマシテモ、亦當議場ニ於キ
マシテモ、十分ニ論議ヲ盡サレタコトデア
リマスノデ、今更之ヲ繰返ス必要モナイト
思ヒマスガ、唯一點匡救ノ對策ニ付キマシ
テ、其一端ヲ擧ゲテ申セバ、金融ニ關スル
對策ニ付キマシテハ、預金部ノ資金融通以
外ニ、政府及日本銀行ノ斡旋ニ依ッテ融資聯
盟ヲ組織サセルトカ、或ハ行詰リノ事業會
社救濟ノ爲ニ、特殊銀行ヲシテ、資金ヲ融
通セシメルトカ、或ハ又株式暴落ノ喰止策、
公債市價ノ維持策、單名手形ノ緩和貸村ト
云フガ如キ、何レモ一時表面ノ彌縫、破綻
暴露ノ防止ニ過ギナイ、却ッテ禍根ヲ將來ニ
貽スモノヽミガ多ク、而モ大部分ハ政府ノ
位置及權力ヲ利用シタ、實ニ私カラ考ヘレ
バ餘計ナ御世話デアッタノデアリマス、又企
業ニ對スル對策ト致シマシテハ、生產及生
產力ノ調節、組織經營ノ改善、企業ノ統制
等ヲ唱ヘテハ居ラレマスケレドモヽ其結果
或ハ生產ノ制限、販賣協定、價格協定、或
ハ又共同管理ト云フ如キモノトナッテ現ハ
レテ参リマシテ其爲ニ生產原價ハ高メラ
レ販路ハ縮小イクシマシテ、物價政策ヲ
裏切ルト云フ結果ヲ見ルニ至ッテ居ルノデ
アリマス、而モ其開政府ノ行政國内ニアリマ
スル所ノ租稅公租ノ期限デアルトカ、或ハ
專賣品又ハ運賃ノ引下、是等ニ付キマシテ
ハ政府ハ何事モナサレ得ズシテ、全ク沒交
渉デ居ラレルヤウニ感ズルノデアリマス
要スルニ政府ノ經濟對策ト云フモノハ、唯
單ニ目先ノ小策ノミニ囚ハレ、根本的ニ經
濟界ノ安定ヲ圖リ、社會ノ不安ヲ取除ケル
ト云フガ如キ、遠大ナル政策ハ一ツモ之ヲ
見ルコトガ出來ナイノミナラズ政府ノ言
動行爲ニ於テ、匡救ノ〓心誠意ハ少シモ認
メルコトガ出來ナイ、是ガ私ハ特ニ遺憾ト
スル所デアリマス、現ニ今朝來此重要ナル
決議案ガ提出サレテ居ルニモ拘ハラズ大
藏大臣ハ初メカラ御出席ガナク、又午後ニ
至リマシテハ僅ニ此處ニ商工大臣及農林大
臣ノ御出席ヲ見テ居ルバカリデアリマス
午前中小久保君ガ總理大臣ノ出席ナキヲ遺
憾トサレマシテ、警告ヲ加ヘラレマシタノ
モ實ニ其所以アリト私ハ存ズルノデアリマ
ス殊ニ此當面ノ問題デアリマスル所ノ中
小產業ニ關シマシテモ、政府ハ或ハ經濟界
ノ上ノ方ノ事情ニ付テハ或ル程度ノ御理解
ハアラセラレマセウ、又或ル程度ノ關心モ
持ッテ居ラレルカモ知レマセヌケレドモ、中
層以下ニ付テハ實際如何デアリマセウカ、
又被等ノ匡救ノ方法ニ付キマシテ、假令政
府ノ方ハ分ラヌナガラモ眞劒ニ心カラノ考
慮ヲ拂ハシツツアルヤ否ヤ、私ハ深ク之ヲ
疑問ト致シテ居ルノデアリマス、唯世間ノ
ロガヤカマシイ、成ハ時代ノ要求ノ爲ニ已
ムヲ得ナイ、或ハ又民衆迎合ノ政略的見地
等ノ理由ニ依フテ出マシタ御座也ノ救濟デ
ハ、殆下何等ノ效果モ無イノハ、當然デア
ルト思フノデアリマス、預金部ノ資金ヲ醱
通シマシタリ或ハ公債ヲ發行スルト云フ
位ノコトダケナラバ、是ハ比較的極メテ容
易ナコトデ、決シテ政府ノ頭ヲ痛メズトモ
出來ル仕事デアルノデアリマス、中小產業
者ガ眞ニ求ムル所、本當ニ欲スル所ハ何處
ニアルカト云フコトヲ究メテ、融通ノ手續、
適用ノ方途ヲ實際的ニ適切ニ考慮スルコト
ガナクテハ救濟ノ最大ノ效果ヲ擧ダルコ
トハ出來ナイノデアリマス、資金ノ融通ナ
ドガ今日〓シテ極メテ不成績、不滿足デア
ルト云フコトハ斯カル點ノ用意ガ〓ケテ
居ルノデハナイカト考ヘラレルノデアリマ
ス、併シ斯樣ナ資金ノ融通ト云フガ如キ救
濟ハ、實ハ一時ノ鋼縫ニ過ギナイノデアル、
而シテ其半面ニ於キマシテハ所謂他力本
願ノ依賴心ヲ增長サセルト云フヤウナ虞モ
多々アルノデアリマス、政府トシテハ中小
產業ノ現在ヲ鑑ミラレ、將來ヲ察セラレテ
企業ノ組織トカ經營ノ方法トカ、配給ノ問
題等ニ付テ、其根本ヲ考慮サレテ、當業者
自身ノ覺醒、反省ヲ促シテ、努力精進ヲ奬
メラレマシテ、指導誘掖ニ努メラレテ、其
範圍ニ於ケル行政權ノ適正ナル行使ニ依ツ
テ斯業ノ維持發達ノ實ヲ擧ゲシムルト云
フコトガ、國家國民ニ對スル、又國民經濟
ノ中堅デアル此中小產業ニ對スル政府ノ當
然ノ責務デハナイカト云フコトヲ私ハ感ジ
テ居ルノデアリマス、政府ガ果シテ斯樣ナ
所ニ著眼想到サレテ、考慮スルノ腹ガ御有
リニナルカドウカト云フコトニ村テハ、私
ハ疑問ヲ持ッテ居ルノデアリマス、又失業救
濟ニ付キマシテモ、政府ハ唯一部經費ノ補
助ヲ與ヘテ、地方ノ公共〓體ニ殆ド一任ノ
有樣デアル、デ國家トシテハ本當ニ唯枝葉
末節ノ對策ノミニ走ッテ、何等眞創ニ施設考
慮サレル所ハナイヤウデアリマス、今囘ノ
失業救濟ヲ目的トスル公債ノ發行ノ如キ
モ、實ハ鐵道或ハ土本事業ノ經費ガ非募債
主義ノ崇リデ、其出所ガ無イ爲ニ、名ヲ失
業救濟ニ藉フテ募債スルノデアルト云フヤ
ウナ非難モ聞エテ居リマス、果シテ然ラバ
是ハ例ノ政府ノ小細工ニ過ギナイノデアリ
マス、斯ノ如キコトガ有效ニ救濟ノ目的ヲ
達シ得ラレルヤ否ヤ、旣ニ失業救濟ヲ目的
トスル土木事業ナドユモモウ幾多ノ惡事
醜聞ガアルコトガ聞エテ居ルノデアリマス
政府ハドウ云フ組織、機關ノ運用ニ依クテ、
遺憾ナク此救濟事業ノ遂行ヲ實務的ニヤッ
テ居ラレルノデアリマスルカ、又ドウシテ
救濟ノ最高能率ヲ擧ゲツヽアルノデアリマ
スカ是等ニ關シテハ唯漠然タル御說明ノ
ミデ、何等私共聞ク所ガナイノデアリマス、
又一方ニ於キマシテハ失業救濟ハ非常特別
ノ事件デアルカラナドト申サレマシテ自
己ノ政策ノ破綻マデ敢テシテ居ラレマス
ガ他方ニ於キマシテハ緊縮政策ノ爲ニ必
要デアル所ノ繼續事業ノ中止、繰延ベナド
ニ依クテ、多數ノ失業者ヲ社會ニドン〓〓放
出シテ御出ニナル斯ノ如キコトハ政府ノ
意圖ガ何處ニ在ルカ奈邊ニ存スルカト云
フコトヲ、私ハ實ニ知ルニ苦シムノデアリ
マリ、更ニ進ンデ此失業ト申スコトハ決
シテ今日ノ不景氣ノ一時的現象デハナイノ
デアリマス今後ハ永久ニ存續シマシテ、
且ツ少タトモ、近キ將來ニ於キマシテハ
失業者ノ數ハ增ストモ減ラナイト考ヘテ居
ルコトガ至當デハナイカト思フノデアリマ
スサスシバ〓ニ出來ル限リ之ヲ訪止ス
ルノ根本對策ト云フモノガ考ヘラレネバナ
ラヌ之ニ關スル政府ノ態度ハ全ク無關
心無頓著ナ有樣デ、具體的實行案ニ至ッテ
ハ何等承ル所ガナイノハ實ニ今日ノ場合
困ッタコトト私ハ思ッテ居ルノデアリマ
ス、要スルニ本決議案ノ問題ハ、多クノ經
濟案件ノ中デモ、最モ重要デ、且ツ旣ニ經
濟ノ範圍ヲ越エテ重大ナル······先程モ小久
保君ノ仰セラレマシタ人道問題ト申シマス
カ、或ハ社會問題ト云フカ、サウ云フコト
ニ旣ニナッテ居ルノデアリマス、而カモ中小
產業者及ビ失業者共ニ、直チニ今日デハ死
活問題ニ觸レテ居ル、極ク現代的ノ言葉ヲ
藉リテ申セバ、彼等ハ死線ノ内外ニ出入シ
テ居ルノデアリマス、故ニ此解決ノ一步ヲ
誤リマスル時ニハ甚ダ不祥ノ言デハアヲ
マスルガ、或ハ社會的危機ヲ發生スルト云
フヤウナ虞ガ無イデモナイノデアリマス
貴族院ガ昨年モ、亦今年モ、之ニ關シテ意
思表示ヲスル所以ハ實ニ此處ニ在ルノデ
ハナイカト私ハ存ジテ居ルノデアリマス
私ハ政府ガ此貴族院ノ深憂ニ向フテ、ヨク思
ヒヲ致サレマシテ、應急、恆久共ニ有效適
切ナル匡救ノ方法ヲ熱心ニ、誠意ヲ以テ考
慮セラレテ、サウシテ速カニ之ヲ實行セラ
レマシテ國家國民ノ要望ニ添ハレムコト
ヲ切ニ希望イタシマシテ、本案ヲ贊成スル
次第デアリマス
〔小久保喜七君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=18
-
019・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 小久保君
ハ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=19
-
020・小久保喜七
○小久保喜七君 チヨット議長ニ伺ヒマス
ガ、先刻ノ御言葉デハ總理大臣ハ午後一時
ニハ登院スルト云フコトデゴザイマシタ
ガ、其後如何ナル御都合ニナッテ居リマスカ
御伺ヒ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=20
-
021・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 先程小久保君
ノ御希望モゴザイマシタカラ午後ニナリ
マシテ一應政府ノ都合ヲ聞キ合シマシタノ
デアリマス、然ルニ只今衆議院ノ方ニ出席
中デアルト云フノデコチラニハ出兼ネル
ト云フコトデゴザイマス、ドウモ致シ方ゴ
ザイマセヌ
〔竹越與三郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=21
-
022・竹越與三郎
○竹越與三郞君 本員ハ此決議案ニ贊意ヲ
表スル者デアリマス而シテ此決議案ノ趣
意ハ提出者、贊成者各〓博辯宏辭ヲ振ハレ
テ最早私ハ蛇足ヲ加ヘル餘地ハナイト思ヒ
マイ、併ナガラ議員各自各。立脚ノ地ガア
ルノデ、一應卑見ヲ申上ゲテ〓聽ヲ煩ハシ
タイト思ヒマス、併ナガラ此決議案ハ甚タ
效力ガ薄イモノデハナイカト云フコトヲ本
員ハ感ズルノデアリマス、ナゼナレバ之ヲ
受取ルトコロノ内閣ガ頗ル不思議ナル位置
ニ立"テ居ルカラデアリマス、臨時總理大臣
ノ幣原君ハ衆議院ニ於テ失言問題ヲ惹キ起
シテ、而シテ之ヲ取消シテ居ル、失言問題
ハナンデアルカト云フト政府ノ政策ノ辯
護ニ當ッテ至尊ノ名ヲ用ヰタト云フコトデ
アリマシテ、是ハ失言デハナイ、思フトコ
ロヲ言ッテ共言葉ガ惡イト云フコトデアル
カラ決シテ失言デハナイ、斯ノ如キ事例ハ
英吉利ノ議會ニ於テハ二百年前ニアッテ、屢〓
問題トナッテ、不敬罪トナッテ其職ヲ失シ
タ大臣ガ屢〓アル、幣原君ノ如キハ英語ノ
堪能ナ人デアル、「カンタベリー」ノ「ロー
ド·バッキンガム」大公爵ノ傳ナドハ讀ンデ
居ラレルデアラウガ、斯ノ如キコトハ失言
デハナイ、間違ヲタコトデハナイ、政治上ノ
罪惡トシテ居ラレヌノデアル、其君ニ仕フ
ルコトハ東洋流カラ言ヘバ、善ハ之ヲ君
ニ歸シ過チハ之ヲ己レニ歸スト云フノハ
之ハ大臣ガ君ニ仕フル途デアル、西洋流カ
ラ言ヘバ一切ノ政策ノ責任ハ大臣ニアッテ
陛下ノ名ヲ用ユベカラザルモノデアル、
東西兩洋、臣ガ其君ニ仕へルコトハ決マッテ
居ル、斯ノ如キコトハ英國ナドハ數百年ノ
議員生活デ屢〓經驗シテ確立シタ原則デア
ル然ニ幣原君ハ君主ノ名ヲ用ヰテ其政策
ヲ辯護セムトシテ議會ノ一擊ニ會ウテ其失
言ヲ取消シタ、失言ト云フコトハ思ハヌコ
トヲ言ッタト云フコトデ、思フコトヲ言ッタ
ノハ失言デハナイ、宜シク其言葉ニ殉ジテ
職ヲ退クベキデアル然ルニ幣原君ハ恬然
トシテ其職ニ居ラレル、是ハ旣ニ政治上ノ
負傷者デアル幣原君ハ尙ホ內閣ニ於テ重
要ナル位置ヲ有ッテ居ラレル、而シテ此民政
黨ノ內閣ガ一體トナッテ居ル所ノ民政黨ハ
衆議院ニ於テ政府ノ豫算ヲ修正シテ之ヲ可
決シテ、貴族院ニ送ッテ來タ、幸ヒニ貴族院
ノ補綴ニ依ッテ政府ノ政策ハ通過シマシタ
ガ、其內閣ガ率ユルトコロノ政黨ガ、其內
閣ノ政策ヲ破壞スルト云フニ至ッテハ、是ハチ
最早有機體デハナイ、唯雜然トシタモノヲ
集メタダケデアッテ、内閣ノ最モ大切ナル所
ノ一個ノ結合アル有機體デアルト云フ生命
ヲ失ッテ居ルノデアル、而シテ濱口君ガ病ン
デ寢テ居ルト、病人ノ枕許デモウ各大臣相
集ヲテ遺產ノ相續ヲ議シテ居ラレルト云フ
ニ至ッテハ、實ニ驚クベキコトデアル此內
閣ハ海軍削減問題ニ依ッテ減稅ヲ圖ルト言ッツ
テ居ラレルガ、衆議院、貴族院ノ連日連夜
ノ討論ニ依ッテ之ヲ見レバ、是ハ減稅案デナ
クテ增稅案デアルト云フ正體ガ段々分。テ
來タ、此內閣ハ非募債主義デアルト言ハレ
ルガ、只今藤村君ノ言ハレタ如ク、一千二
百万圓ノ鐵道公債ナドヲ名付ケテ失業救濟
ト言ッタリ、如何ナル譯デ失業救濟デアルカ
ト言ヘバ、鐵道ハ工夫ヲ使フカラ失業救濟
ニナルト言フ、斯ノ如キコトナラ總テノ
豫算案ハ皆失業救濟ナラザルモノハナイノ
デアル、盍ゾ言葉ヲ明白ニシテ、實ハ緊縮ト
カ非募債トカト云フコトハ間違ヒデアルカ
ラ之ヲ取消スト云フコトヲ言ハザルヤデア
ル、之ヲ取消セバ、又是一ツノ政策デアル、
斯クノ如ク考ヘテ見マスルト、此內閣ハ立
場ガ最早動搖シテ居ル中ニ有機體タル所ノ
生命ハナイ、皆中心ヨリ分離シテ居ル、例
ヘテ見レバ生ケル屍デアル斯ノ如キ內閣
ニ向シテ此決議ヲ押付ケタトコロガ、如何ナ
ル效果ガアルカト云フコトハ頗ル疑ハザ
ルヲ得ナイノデアル、併シ政治ハ一日萬幾、
僅カ一日在職シテモ如何ナル大事カ起ルカ
モ知レヌノデアルカラ、此一日萬幾ノ政府
ニ向ッテハ、我〓ノ信ズル所ヲ十分述べテ置
カネバナラヌ必要ガアルノデアリマス、此
決議ハ昨年ノ建議ニ基イテ、政府ガ我ミノ
希望スル所ヲ十分ニ行ハヌカラ、之ヲ非難
シテ之ヲ決議シヤウト云フコトデアリマ
ス、我ミガ昨年失業者ヲ救濟セヨ、小中產
業者ヲ救濟セヨト言ッタ後、政府ハ如何ナル
コトヲシタカト言フニ、誠ニ其政策當ヲ得
ナイ、ノミナラズ其僅カナ行ッタ政策ガ效
果ヲ奏シテ居ラヌノデアル、政府ガ失業及
ビ小中工產業者ヲ助ケル爲ニ行ヲタコトハ
略〓四ツアリマス、第一ハ七千万圓ノ金ヲ
出シテ農村ニ貸付ケルト云フコトデアル、
第二ハ小工商業者ニ二千五百万圓ヲ貸付ケ
ルト云フコト、第三ハ大都會ノ附近ニ道路
ヲ造ルト云フコト、第四ハ地方公債ニ五千
万圓ヲ使"テ失業者ヲ救フ事業ヲ起スト云
フコト、第一ノ七千万圓ハ昨年ノ十一月四
日、議會召集ノ期ガ略〓近ヅイタ時ニ決定
セラレタ取策デアリマスガ、此七千万圓ハ
先ヅ縣會ガ之ヲ借リルコトヲ議決シ、町村
會ハ之ヲ貸付ケル規定ヲ作リ、ソレカラ貸
付ケルノデアリマスカラ、手數頗ル煩雜デ
アル、而シテ其金ハ何ニ使フカト云フト
農民ガ耕地ヲ改良スル及ビ其農地ヲ擴張
スルト云フコトニ使フノデアル、今日農民
ノ苦シム所ハ桝地ノ善惡、耕地ノ大小デハ
ナイ、眼前生活ニ困ッテ居ル此時ニ當ノテ
擴張トカ改良トカニ金ヲ貸シタ所ガ、是一
目的ガ全ク違フテ居ルノデアル、加之農民ハ
既ニ五十億ノ借金ヲシテ居ル、此五十億ノ
借金ガ金解禁ノ爲ニ貨幣價値ガ上ッテ居ル
カラ六十億以上ニナッテ居ル、六十億以上ノ
借金ヲ負フタ所ノ農民ニ政府ハ此金ヲ貸付
ケテ、土地ヲ改良セヨ、耕地ヲ擴張セヨト言ツ
テ見テモ、是ハ全ク目的ガ間違ッテ居ルノデ
アリマス、此金ハ政府ガ農民自體ニ貸付ケ
ナイデ、地方ノ自治體ニ貸付ケルノデアル
カラ、自治體ハ之ヲ借リルコトヲ好マナイ、
是モ無理ハナイ、自治體ハ既ニ十分ナ負
擔ガアル、然ルニ金ヲ自治體ニ貸付ケテ責
任ヲ自治體ニ有タセルト云フノデ、自治體
ハ相推諉シテ之ヲ避ケテ居ルノデアル、故
ニ其結果ハドウデアルカト云フト、一月ノ
中旬ニ至ッテ大部分ハ大藏省ノ金庫ニマダ
殘ッテ居ルノデアル、此七千万圓ハ名バカリ
七千万圓デ、其實ハ農民ノ手ニハ何ニモ屆
イテ居ラヌト言ッテ宜イ位デアル、第二ハ小
中工商業者ニ金ヲ貸付ケルト云フコトデア
ルガ、是モ惡イコトデハナイガ、昨年ノ末
ニ至ッテ僅ニ七百万圓ガ出タノデアル、而シ
テ其七百万圓モ借手ガナイカラ再ビ中央金
庫ヘ戾"テ居ルト云フ狀態デアル、何故ナル
バ是ハ工場、店、農舍等ヲ新築スルコトニ
金ヲ貸シテヤル原料ヲ買入レルノニ金ヲ
貸シテヤルト云フコトデアル、今日工場ヲ
擴張スルトカ店ヲ擴張スルトカ、農舍ヲ
造ルナント云フ力ハナイノデアル、其必要
ハナイ、眼前ノ苦痛ヲドウシテ免レルカト
云フコトガ國民ノ問題デアル、然ルニ仕事
ヲ擴張セヨ、然ラバ金ヲ貸シテヤル原料
ヲ買入レテ物ヲ造レバ金ヲ貸シテヤル原
料ヲ買入レテ物ヲ造ッタ所ガ買手ノ無イ時
ハ之ヲ如何トモスルコトハ出來ナイノデア
ルソレノミナラズ擔保ヲ入レナケレバ借
サヌト云フノデアルガ、農民ハ總テノモノヲ
擔保ニ入レテ新ニ擔保ニスベキモノハ無
イノデアル擔保ノ無イモノハ二人ノ保證
ヲ要スルト云フノデアルガ、此保證ト云フ
ヤウナルモノハ誰ガ好ンデ保證ニナル者ガ
アルカ、其結果ハ此二千五百万圓ト云フモ
ノハ何等ノ效ヲ奏シテ居ラヌノデアル、第
三ハ大都市ノ道路ヲ造ルト云フノデアル
東京、大阪其他大都會ヲ五ツ六ツ、ソレヲ
中心トシテ大道路ヲ造フテ、失業者ヲ使フト
云フノデアル、是亦惡イコトハナイ、併ナ
ガラ此金ハ何處カラ出ルカト云フト國庫カ
ラ出ルノデアル、國庫ノ金ハ何處カラ來ル
カト云フト、全國ノ大部分ノ農村カラ集。タ
金デアル農村カラ集ッタ所ノ金ヲ使ッテ、
而シテ比較的都合ノ好イ所ノ大都會ヲ中心
トシテ、仕事ヲ起スト云フコトニ至ッテハ
果シテ政府ガ農村ニ向,テ眼底淚アリ、皮下
血アリヤ否ヤヲ疑ハザルヲ得ヌノデアリマ
ス、若シ政府ガ眞ニ此道路ヲ救濟ノ爲ニ造
ルト云フコトデアルナラバ、何故ニ鐵道ヲ
中止セラレルノデアルカ、何故ニ從來執ッテ
居ッタ所ノ積極ノ仕事ヲ止メラレルノデア
ルカ、新ニ斯ノ如キコトヲ企テ、失業公債
ノ名ヲ藉リテ、鐵道ヲ擴張スルト云フコト
デアルナラバ、今マデノ一切ノ非募債主義
ヲ棄テヽ積極的ニ仕事ヲヤッテ行キサヘス
レイ·斯ノ如キ無理ナコトヲセズトモ濟ム
ノデアリマス、斯ノ如キコトハ最モ劣惡ナ
ル形ニ於テ積極主義ニ降伏シタモノデア
ル、而シテ是等ノコトヲ合セテ政府ハ何百
万人ノ今救濟セラレルト云フコトヲ頻ニ宣
傳セラレルガ、ソレハ一箇年ヲ通ジタ延人
數デアッテ、此金ニ依ッテ、一日使用セラレ
ル失業者ハ僅カ數万人デアル、只今モ失業
者ガ幾何アルト云フコトガ前議員ノ口頭ニ
上ボリマシタ、我國デハ失業者ト云フト
既ニ有シタ業務カラ失ッタ者ヲ失業者ト云フ
コトニ拘泥シテ居ラレルガ、是ハ「アンエン
プロイメント」云フ言葉デ、仕事ノ無イト云
フ言葉デアル、仕事ノ無イ中ニハ學校ヲ出
ル失業者モアレバ政府ニ屆出テ職業ヲ求
メラレザル中ニ於テ職業ノ無イ者、皆「アン
エンプロイメント」デアル、是等ヲ勘定スレ
バ社會局ノ計算猶ホ足レリトセズ、ソレ
ソレ其專門ノ人ニ依ヶテ略ボ百万人ノ失業
者ガアルト云フコトハ推定セラレテ居リマ
ス、我國ハ家ニ子供アリ、妻モ亦夫ニ依ッテ
養ハレルト云フ習慣デアルカラ、百万人ノ
失業者ハ卽チ四百万人ノ衣〓ノ缺乏ヲ來シ
テ居ルノデアリマス、然ルニ政府ハ僅ニ今
揭ゲタ所ノ一、二、三、四ノ仕事ヲ以テ之
ヲ救ヒ得ルト云フニ至ッテハ、太平洋ノ水ヲ
柄杓ヲ以テ汲ミ干サントスルガ如キモノデ
アル、私ハ議會ノ開會セラレタ時、幣原臨
時總理ノ演說ヲ拜聽イタシマシタガ、其中
ニ農村ノ窮乏ニ付テハ一言モ論ジ及バレ
ザルヲ怪ンデ居ッタ、併ナガラ或ハ本員ノ聽
キ違ヒデハナイカト思ウテ、翌日ノ速記錄ヲ
讀ンデ見マシタ所ガ、二千七百字ノ施政方
針ノ演說中、一言モ農村ニ說キ及ボシテ居
ラヌノヲ發見シテ驚イタノデアル、今日農
村ノ窮乏ハ天下公知ノ事實デアルガ、之ニ
對シテ一言モ施政ノ方針ガ及バズト云フニ
至ッテハ、其政策モ亦ココニ及バザルコトハ
當然デアル、要スルニ政府是マデノヤリ方
ハ政府ノ政策ニ由ッテ來タ所ノ農村ノ缺
乏く、失業者ヲ救フニ、總テ其負擔ヲ農民ニ
轉嫁スルト云フノガ政府ノ方針デアルヤウ
ニ思フ、農林大臣デアッタカ、斯ウ云フコト
ヲ地方ノ農會ノ代表者ニ向ッテ言ハレテ居
ル此事ガ有效デアルヤ否ヤト云フコトハ
別ナ議論デアルガ、是ハ治安維持ノ爲メダ
ト言ハレタサウデアル、治安維持ト云フコ
トハ何デアルカ、農民ガ中央ノ都會ヘ來テ、
騷イデハ困ルカラ、此金ヲヤッテ騷ガセナ
イ、治安維持ガ目的ダト云フニ至ッテハ驚力
ザルヲ得ナイ、政府ハ輦糓其他ノ大都會ニ
於テハ此失業及ビ不景氣ノ洪水ヲ防グ爲
ニ、堤防ヲ築イテ、都會ノ周圍ニハ堤防ヲ
築イテ、サウシテ都會ニハ洪水ヲ寄セナイ、
其洪水ハ自カラ農村へ流レテ行クヤウニト
云フノガ、政府ノ失業對策デアル、是ハ甚ダ
殘酷ナ策ト言ハネバナラヌノデアル、今年
ノ地方貯政ハ四億千六百八十一万圓デアソ
テ支出ハ昨年ニ比シテ千四百万圓ヲ增シ
テ、收入ハ九百三十五万圓減ジテ居ル、此減
額ハ何カラ來タカト云ヘバ、地方ノ自治體
ガ貧民及ビ細民救助ノ爲ニ救濟ヲシナケレ
バナラヌト云フコトデ、支出ガ殖エテ居ル
ノデアル、此上ニ大都市道路ノ負擔ヲセシ
メ、效能ノ無イコトニ總テ農村ガ負擔ヲ課
サレネバナラヌト云フコトハ甚ダ慘忍ト
言ハネバナラヌ、其結果、各地ニハ暴動性
ヲ帶ビタ所ノ騷動ガ多イ、此事ハ新聞ノ自
制心ト政府ノ干涉ニ依ッテ新聞ニハ載ラヌ
コトガ多イデスガ、頗ル數ガ多イ、ソレカ
ラ町村ノ「モラトリアム」トナッテ、町村ガ最
早支拂ヲシナイト云フコトニナッテ居ル、其
次ニハ屢〓コヽデ論ゼラレタ如ク、村ヲ廢
スヤウナコトニモナッテ居ル、銀行ノ破綻ト
ナッテ居ル、ソレカラ物々交換トナッテ居ル、
租稅ノ滯納トナッテ居ル、是ハ屢、閣僚ガ上
下兩院ニ於テ耳ニシテ、モウ聽クコトヲ厭
ハレルコトデアルガ、本員ハ更ニ之ヲ高調
セザルヲ得ナイノデアリマス、東京府下ノ
空家ハ既ニ二万二千軒ニ達シテ居ル···
空間ハ旣ニ二万二千ニ達シテ居ル、是等ハ
皆何處ヘ行ッタカト云フト、東海東山ノ兩道
ヘ向ッテ日夜、水ノ流レルガ如ク農村ヘ這
入〓テ居ル、農村ハサナキダニ缺乏シテ居ル
所ニ向フテ更ニ大都會カラノ逃亡者ヲ受容
レネバナラヌト云フコトニナッテ、此上ニ政
府ガ政策ニ依ッテ農民ノ負擔ヲ增スト云フ
コトハ慘酷ヲ極メテ是ハ罪惡ト言ハネバ
ナラヌト思フノデアル、是等ノ政策ニ付テ
議論ヲスルト自然金解禁ノ時機宜シキヲ得
ナカッタコト、及ビ其準備方法ニ付テ當ヲ得
ナカッタト云フコトニ論及ヲセネバナラヌ
ノデアリマスガ、是ハ昨年以來ノ宿題デア
ルカラ本員之ヲ蒸シ返サウトハ思ハナイ、
併ナガラ動トモスレバ政府ハ不景氣ハ世
界ノ不景氣ノ影響デアルカラ政府ハ如何ト
·モスベカラズト言フノデアリマスガ、今ヲ
去ルコト二十四年前、千九百七年ニ紐育ノ
「ウエスチング·ハウス」ノ仲間ソ「ハイン
ヅ」ガ破產ヲシタ時ニ僅カ一日ノ間ニ此破
產ハ全歐ヘ響イテ倫敦、巴里、伯林邊リデ
何十万人ト云フ失業者ヲ出シタト云フコト
ハ經濟史ノ最モ大キナ字ヲ以テ書イテ居ル
所デアルガ、我ガ財政當局ノ井上君ハ其頃、
倫敦ニ居フタト思フノデアル、其時ハ、紐育
ハマダ世界ノ財界ノ中心ト言ハレナイ、倫
敦ガ中心デアッタノデアル、ソレデスラモ紐
育ノ一ツノ店ノ破綻ハ直チニ全歐ニ響イタ
ノデアリマスガ、歐洲大戰以來、世界金融
ノ中心ハ紐育ニ移ッテ、此世界ノ金融ノ中心
タル紐育ノ破綻ハ、全世界ニ更ニ傳播スベ
キコトハ財政ニ於テ常識アル者ノ豫メ知
リ得ベキ所デアル、我ガ井上君ハ世界ノ金
融ニ付テハ十分精通セラレテ居ルノデアル
カラ、紐育ノ不景氣ガ日本ニ襲來スルト云
フコトハ、非常ナル力ヲ持ッテ來ルト云フコ
トハ豫測セラレテ居ッタコトデアラウト思
フ、然ルニ此不景氣ガ來ル直グ直前ニ於テ、
金解禁ヲセラレタト云フコトハ、誰モ是ハ
時機、當ヲ得タト言フコトハ出來マイト思フ
ノデアリマス、私ハ此時機當ヲ得ナカックコ
トニ付テ今政府ヲ責メルノデハナイ、甚ダ
遺憾ダト思フノデアル、唯之ニ言葉ヲ藉リ
テ己レノ政策ノ當ヲ得ナカッタコトヲ辯護
セラレルノヲ、聊カ笑フベキコトトスルノ
デアル、一人ノ愚人ハ水門ヲ開クコトガ出
來ルノデアル、旣ニ水門ヲ開イタ後ハ百人
ノ智者アリト雖モ防グコトハ出來ナイノデ
アル、井上君ハ此財界ヲ樂觀シテ、景氣ハ
恢復スルト言ッテ居ラレルノデアル、他ノ閣
僚モ之ヲ樂觀シテ居ルノデアル、何ニ依クテ
樂觀セラレルカト云ヘバ、株式取引所ニ於
テ株ノ値段ガ聊カ恢復シタト云フコトヲ言
ハレルノデアラウト思フガ是ハ眞正ノ景
氣恢復デハナイ、井上君ノ如キハ昨年ノ春
以來、銀行事業會社ニ於テ單名手形ヲ發行
スルコトハ宜シクナイカラ之ヲ取締
ラネバナラヌト云フコトヲ言ハレタノデア
ルガ、暫ク經ッテ此單名手形ノ取扱ハ極メテ
寛大ニシナケレバナラヌト云フコトニナソ
タ、而シテ保險會社ヲ集メテ株ヲ賣ラヌデ
吳レト賴マレタノデアル、更ニ一轉シテ大
阪ノ商人十數名ヲ集メテ、興業銀行カラ金
ヲ貸スカラ株ヲ買フ團體ヲ組織シテハドウ
ダト云フコトヲ勸告セラレタサウデアル
ガ、其時ノ興業銀行ノ頭取ハ、自分ハ銀行
ノ利害ニ於テ之ヲ買フ場合ニハ買フカモ知
レヌガ、左樣ナル目的ヲ持ッタ買ヒ方ハ出來
ナイト云フノデ辭職シタノデアル、世間デ
ハ之ヲ他ノ原因ニ歸著シテ居ルガ、興業銀
行ノ頭取ハ卽チ政治的ニ金ヲ運轉スルコ
トハ出來ナイト言ッテ斷ハッタ、近頃、株ガ
少シク景氣ガ好イト云フコトハ、井上君ナ
ドガ斯ノ如ク〓心ニ株式市場ヲ賑ハスコト
ニ努力セラレルカラデアリマス、其事ノ當
否ヲ私ハ言フノデハナイ、井上君ガ斯ノ如
ク株式ニ熱心デアルガ如ク、中小產業者ヲ
救ヒ、農民ヲ救フト云フ心ガ此十分ノ一モ
アタタナテバ、失業者救フベウ、農民救フ
尺、 、小中工業者救フベシ小中工產業者
ト云フモノハ、財產ニ於テハ大實業家ニ比
シテ極メテ微々タルモノデアル、併ナガラ
基位置ト心持ハ卽チ申產階級デアル、中產
精級ハ一國ノ最モ健全ナル〓級トシテ保
護セネバナラヌ階級デアル中產階級ハ努
力シ能タ己レヲ制シ、精神的ニモ肉體的ニ
モ道德的ニモ努メレバ以テ上流ニ上ガルコ
トガ出來ル、過テバ下流ニ陷ルト云フ階級
デアルカラ、十九世紀以來、多數ノ最モ健
全ナル國家ハ中產階級ノ最モ健全ナル國
家デアル然ルニ今目ノ財界ノ狀態ハ此中
產階級ヲ皆篩セ落シテ下層階級ニ落サウト
スルノガ其領向デアル政府ハ出來ルダケ
ノコトヲシテ之ヲ努力セネバナラヌト思フ
が政府ノ明ソコニ及バズ、唯徒ラニ金融
太實業者ノ一角ノミヲ見ルト云フコトハ
本員ノ甚ダ遺憾トスル所デアル、又農民ハ
國家ノ基デアルト云フコトハ、是ハ何人モ
異論ノ無イ所デアッテ、最モ〓新ナル肉體、
最モ健全ナル精神、ヽ事アル時ハ最モ有力ナ
ル男子ヲ戰場ニ送リ得ル此農村ハ、總テ人
モノノ基礎デアルカラ、之ヲ保護シテ助長
シ其利益ヲ增進シテヤラネバナラヌ、然ル
ニ井上君ハ農村ニ對シテ何ト言フカト云ヘ
バ農村ハ自覺シテ貰ハネバ困ル、景氣ノ
好イ時ノコトダケ考ヘテ今日ヲ致シタノデ
アルト非難シテ居ラレル、農村ガ何ヲシテ
斯ノ如キ非難ヲ受ケル、農村ガ今日幕府時
代ト異ルコトハ何デアルカト云ヘバ鍍金
ノ指環ヲ嵌メルコトダケデアル、「メリン
ス」ノ腰卷ヲ卷クコトダケガ幕府時代ト違ッ
テ居ル、「メリンス」ノ著物ヲ著、鍍金ノ指
環ヲ嵌メルコトガ自覺ヲ要ルト云フニ至ッ
テハ、マダ井上君ハ德掛家康時代ノ農民
ヲ見テ居ラレルノデハナイカ、又德川家康
時代ハ農民ハ死ナシテハイカヌガ、活カ
シテハイカヌト云フ言葉ガアル、卽チ租稅
納入機關トシテ働カセルダケデアル、其生
活ヲ助長シテベナラヌト云フノガ家康ノ政
策デアッタガ、今日總テノ負擔ヲ農民ニ掛ケ
テ稍、都會ノ音樂ヲ聽キ「メリンス」ノ著物
ヲ著、鍍金ノ指環ヲ嵌メレバ之ヲ自覺ヲ要
スルト言ッテ棄テラレルニ至ッテハ、實ニ是
ハ殘皓ノ話ト云ハネバナラヌノデアル、近
頃政府ノ議會ニ於テノ辯論ヲ見ルニ誠ニ辯
論ニ巧妙デアッテ、殊ニ井上君ノ如キハ辯ハ
以テ非ヲ飾ルニ足リ、智ハ以テ諫ヲ拒グニ
足ルト云フ實ニ雄辯デアル併ナガラ雄辯
ハ國家ヲ濟フコトハ出來ヌノデアル、斯ノ
如ク唯口舌ノ間ニ其日其日ヲ了シテ居ル間
ニ國政萎微シ、千古ノ危機此間ニ熟シツツ
アルノデアル、席ヲ同ジウシテ居ル閣僚等
モ此緊縮、萎縮政策ノ維持スベカラザルコ
トヲ知ッテ居ル、又非募債主義ノ維持スベカ
ラザルコトヲ知ッテ居ル、而シテ唯內閣ヲ維
持シテ九月ノ縣會議員ノ總選擧マデニ此內
閣ヲ持ヲテ行キタイト云フ一念デ唯其手ヲ
握クテ居ラレルノデアル、誠ニ悲シムベキコ
トデアル、或ル識者ノ言葉ニ無責任ナル政
黨內閣ハ「オーガナイズド·ヒポクリシイ」
卽チ組織セラレタル虚僞デアルト云フコト
ヲ言ッテ居リマシタガ、誠ニ此內閣ハ此言葉
ニ適當スルコトヲ本員ハ深タ悲シム者デア
リマス、兎ニ角此內閣ハ失業救濟小中工業
者ノ救濟ニ依ッテ其政策等ヲ過クテ居リマ
ス、昨年以來ノ成行ニ依フテ本員ハ其成蹟ヲ
非難スルノ決議ヲ此處ニ留メタイト思フノ
デアリマス(拍手起ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=22
-
023・阪本さん之助
○阪本彰之助君 御採決前ニ緊急ニチヨッ
ト議長へ申上ゲタイコトガアリマス、御許
シニナリマスカ、議事進行上·····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=23
-
024・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 議事進行ニ關
スル御發言デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=24
-
025・阪本さん之助
○阪本彰之助君 大発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=25
-
026・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=26
-
027・阪本さん之助
○阪本彰之助君 先刻來此邊ニ於キマシテ
喊聲ヲ擧ゲル聲ガ聞エマスノデ聽キマスル
ト、多數ノ人ミガ中小產業救濟請願團ト云
フ襷ヲ掛ケマシテ數十人ト申シマスカ、數
百名ト申シマスカ、御聞キノ通リ頻ニ喊聲
ヲ擧ゲテ居ル、ドウ云フコトヲシテ居ルカ
ト云フコトハ私モ調ベル必要ハアリマセヌ
ガ、此神聖ナル貴族院ガ、丁度此中小產業
救濟ノコトノ決議案ノ上程ニナッテ居ル際
ニ他ノ方面カラ如何ニモ貴族院ヲ脅威スル
ガ如キ行動ヲ見マスルト云フコトハ甚ダ遺
憾ニ存ジマスルノデ而モ其請願團ナル人
ノ樣子ヲ見マスルト、地方ニ於テ·······中ニ
ハ群馬縣ナドト云フコトノ書イテアルノモ
アリマス、地方ニ於テ如何ニモ業ヲ失ッテ、
誠ニ困憊ニ陷シテ居ルトハ見ラレナイ、多ク
ハ矢張リ此院外團トモ稱シマスルカ、其方
面ノ人デハナイカト疑ハルルヤウナ人ガ多
イヤウデアリマスガソンナコトハ彼是レ
申ス譯デアリマセヌガ、兎ニ角外部ノ人ガ
致スコトハ我ミノ與リ知ル所デハアリマセ
ヌ兎ニ角此問題ガ丁度此處ヘ上程セラレ
テ居ル際ニ、斯ノ如キ脅威ヲ受ケルガ如キ
形ヲ以テ此決議案ヲ議スルト云フコトハ
甚ダ遺憾ニ存ジマスルガ故ニ、議長ハ宜シ
ク書記官長ニ御命ジニナリマシテドウ云
フモノガドウ云フコトヲシテ居ルノデアル
カト云フコトヲ、其成行ヲ御確メニナリマ
シー·議場へ御報告アランコトヲ求メマス
〔「必要ナシ」又ハ「必要アリ」ト呼フ者
アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=27
-
028・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 只今書記官ノ
報告ニ依リマスト外部ノモノガ議員ニ面會
ヲ求メニ、參ノテ居ルサウデアリマス、左樣
御承知ヲ願ヒマス、是ヨリ採決ヲ致シマス
〔小林嘉平治君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=28
-
029・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 採決ノ宣告ヲ
致シマシタ、本案ニ贊成ノ諸君ノ起立ヲ求
メマス
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=29
-
030・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 過半數ト認メ
四人発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=30
-
031・東園基光
○子爵東園基光君 本員ハ貴族院規則第六
十五條ニ依リマシテ議事日程ノ追加ヲ要求
イタシマス、卽チ本日衆議院ヨリ送付セラ
レマシタ政府提出案、牧野法案、競馬法中
改正法律案、關稅定率法中改正法律案、勞
働者災害扶助法案、勞働者災害扶助責任保
險法案、勞働者災害扶助責任保險特別會計
法案、以上ノ各法案ヲ直チニ第一讀會ニ付
セラレマシテ、其審議ヲ進メラレムコトヲ
希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=31
-
032・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=32
-
033・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 東園子傳ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=33
-
034・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 御異議ナイト
認メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=34
-
035・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 牧野法案、政
府提出衆議院送付、第一讀會、競馬法中改
正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀
會農林太臣
牧野法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年三月二十日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家達殿
牧野法案
牧野法
第一條本法ニ於テ牧野ト稱スルハ牛馬
ノ生產飼育ノ爲放牧又ハ採草ヲ爲スヲ
目的トスル土地ヲ謂フ
第二條地方公共團體ハ其ノ所有スル牧
野ニ付命令ノ定ムル所ニ依リ管理方法
ヲ定メ行政官廳ノ認可ヲ受クベシ認可
ヲ受ケタル管理方法ヲ廢止又ハ變更セ
ントスルトキ亦同ジ
行政官廳必要アリト認ムルトキハ前項
ノ管理方法ノ變更ヲ命ズルコトヲ得
第三條牧野ノ荒廢防止、害蟲ノ驅除豫
防其ノ他牧野ノ保護ニ關シ必要ナル事
項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第四條命令ヲ以テ規定シタル者ヲ除ク
ノ外牧野ニ於テ放牧又ハ採草ヲ爲ス者
ハ協同シテ牧野ノ維持又ハ改良ヲ圖ル
目的ヲ以テ牧野組合ヲ設立スルコトヲ
得
第五條牧野組合ハ法人トス
第六條牧野組合ハ其ノ名稱中ニ牧野組
合ナル文字ヲ用フベシ
牧野組合ニ非ザルモノハ其ノ名稱中ニ
牧野組合タルコトヲ示スベキ文字ヲ用
フルコトヲ得ズ
第七條牧野組合ハ一定ノ牧野ヲ以テ其
ノ地區トス
第八條牧野組合ハ其ノ目的ヲ達スル爲
左ノ事業ヲ行フコトヲ得
牧野ノ維持又ハ改良ニ必要ナル共
同設備ノ設置
二草生ノ改良
三荊棘、土石其ノ他障害物ノ除去
四害蟲ノ驅除豫防
五牧野ニ關スル利用統制
六前各號ニ揭グルモノノ外牧野ノ維
持又ハ改良ヲ圖ルニ必要ナル施設
第九條政府ハ教野組合ニ對シ豫算ノ範
圍內ニ於テ奬勵金ヲ交付スルコトヲ得
牧野ノ改良ニ關スル施設ヲ爲ス地方公
共團體、畜產組合、畜產組合聯合會又ハ
主務大臣ノ指定スル團體ニ付亦同ジ
第十條牧野組合ヲ設立セントスルトキ
ハ組合ノ地區タルベキ牧野ニ付組合員
タル資格ヲ有スル者三分ノ二以上ノ同
意ヲ得テ定款ヲ作成シ行政官廳ノ認可
ヲ受タベシ
牧野組合ハ前項ノ認可ヲ受ケタル時成
立ス
第十一條牧野組合成立シタルトキハ其
ノ地區タル牧野ニ付組合員タル資格ヲ
有スル者ハ總テ之ヲ組合員トス但シ特
別ノ事由ニ依リ行政官廳ノ認可ヲ受ケ
タル者ハ此ノ限ニ在ラズ
第十二條牧野組合ノ定款ニハ左ノ事項
ヲ記載スベシ
一目的
二名稱
三地區
四事務所ノ所在地
五組合員タル資格ニ關スル規定
六事業及其ノ執行ニ關スル規定
七牧野ノ利用統制ノ定ヲ爲ス組合ニ
在リテハ之ニ關スル規定
八役員ニ關スル規定
九經費ノ分擔方法
十組合ガ公〓ヲ爲ス方法
十一存立時期又ハ解散ノ事由ヲ定メ
タルトキハ其ノ時期又ハ事由
前項ニ規定スルモノノ外定款ニ定ムル
コトヲ要スベキ事項ハ命令ヲ以テ之ヲ
定ム
第十三條牧野組合ハ第十條ノ認可ヲ受
ケタルトキハ設立ノ登記ヲ爲スベシ
登記スベキ事項左ノ如シ
一前條第一項第一號乃至第三號、第
十號及第十一號ニ揭グル事項
二事務所
三設立認可ノ年月日
四理事ノ氏名、住所
第十四條牧野組合ノ理事ハ總會ニ於テ
組合員中ヨリ之ヲ選任ス但シ特別ノ事
由アルトキハ組合員ニ非ザル者ヨリ之
ヲ選任スルコトヲ得
組合設立當時ノ理事ハ定款ヲ以テ之ヲ
定ムベシ
理事ハ何時ニテモ總會ノ決議ヲ以テ之
ヲ解任スルコトヲ得
第十六條第一項及第二項ノ規定ハ理事
ノ選任又ハ解任ニ之ヲ準用ス
第十五條牧野組合ハ牧野ノ改良事業ヲ
行ハントスルトキハ其ノ改良計畫ヲ定
メ行政官廳ノ認可ヲ受クベシ認可ヲ受
ケタル改良計畫ヲ廢止又ハ變更セント
スルトキ亦同ジ
第十六條牧野組合ノ定款ノ變更ハ總會
ニ於テ總組合員半數以上出席シ出席者
ノ議決權ノ三分ノ二以上ヲ以テ之ヲ決
ス
定款ノ變更ハ行政官廳ノ認可ヲ受クル
ニ非ザレバ其ノ效力ヲ生ゼズ
定款ノ變更ガ地區ノ增減ニ關スルトキ
ハ第一項ノ規定ニ依ル決議ノ外新ニ編
入セラレ又ハ削除セラルベキ地區タル
牧野ニ付組合員タル資格ヲ有スル者又
ハ組合員ノ三分ノ二以上ノ同意アル
コトヲ要ス
第十七條牧野組合ノ組合員ハ定款ノ定
ムル所ニ依リ總會ニ於テ書面又ハ代理
人ヲ以テ議決權ヲ行フコトヲ得此ノ場
合ニ於テハ之ヲ出席者ト看做ス但シ組
合員ニ非ザレバ代理人タルコトヲ得
ズ
第十八條牧野組合ノ總會ノ決議ニ依ル
解散ハ行政官廳ノ認可ヲ受タルニ非ザ
レバ其ノ效力ヲ生ゼズ
第十九條行政官廳ハ牧野組合ニ對シ業
務ニ關スル報〓ヲ爲サシメ、書類帳薄、
業務ノ執行又ハ財產ノ狀況ヲ檢査シ
定款又ハ經費ノ分擔方法ノ變更ヲ命ジ
其ノ他監督上必要ナル命令又ハ處分ヲ
爲スコトヲ得
第二十條牧野組合ノ總會ノ招集ノ手續
又ハ決議ノ方法ガ法令又ハ定款ノ規定
ニ違反スルトキハ組合員ハ決議ノ日ヨ
リ一月以內ニ其ノ決議ノ無效ノ宣〓ヲ
裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニハ商法第百六十三條第二
項第三項及第百六十三條ノ四ノ規定ヲ
準用ス
第二十一條牧野組合ノ行爲又ハ總會ノ
決議ガ法令又ハ定款ニ違反シ其ノ他公
益ヲ害スルノ虞アルトキハ行政官廳ハ
其ノ決議ヲ取消シ理事、監事若ハ〓
算人ヲ解任シ、組合ノ業務ヲ停止シ又
ハ組合ノ解散ヲ命ズルコトヲ得
第二十二條民法第四十四條、第四十五
條、第四十六條第二項、第四十七條、第
四十八條、第五十條乃至第六十四條、
第六十五條第一項第三項、第六十六條、
第六十八條乃至第七十條、第七十二條
乃至第七十五條、第七十七條乃至第八
十一條及第八十三條竝ニ非訟事件手續
法第三十五條第一項、第百十七條、第
百十九條乃至第百二十一一條、第百三十
六條乃至第百三十八條、第百四十二條
乃至第百五十七條、第百七十五條、第
百七十六條及第百九十五條ノ二ノ規定
ハ牧野組合ニ之ヲ準用ス但シ民法第四
十五條、第四十六條第二項、第四十八
條及第七十七條中一週間トアルハ之ヲ
二週間トス
第二十三條牧野組合ガ本法ニ基キテ爲
ス登記ニ付テハ登錄稅ヲ課セズ
第二十四條牧野組合ハ定款ノ定ムル所
ニ依リ定款違反者ニ對シ過怠金ヲ課ス
ルコトヲ得
第二十五條第十五條ノ規定ハ牧野ヲ設
置スル畜產組合、畜產組合聯合會及主
務大臣ノ指定スル團體ニ之ヲ準用ス
第二十六條左ノ場合ニ於テハ牧野組合
ノ理事、監事又ハ〓算人ヲ五圓以上二
百圓以下ノ過料ニ處ス
一本法ニ依リ行政官廳ノ認可ヲ受ケ
テ爲スベキ事項ヲ之ヲ受ケズシテ爲
シタルトキ
二本法ニ依ル登記ヲ爲スコトヲ怠リ
タルトキ
三行政官廳又ハ總會ニ對シ不實ノ申
立ヲ爲シ又ハ事實ヲ隱蔽シタルトキ
四本法ニ依リ行政官廳ノ徵スル報〓
ヲ差出サズ又ハ其ノ檢査ヲ拒ミ其ノ
他行政官廳ノ命令若ハ處分ニ從ハザ
ルトキ
五本法ニ依ル總會ノ招集ヲ怠リタル
トキ
六組合ノ目的ニ非ザル事業ヲ爲シタ
ルトキ
七本法ニ依リ事務所ニ備ヘ置クベキ
書類ヲ備ヘズ、其ノ書類ニ記載スベ
キ事項ヲ記載セズ若ハ不正ノ記載ヲ
爲シ又ハ正當ノ理由ナクシテ其ノ關
覽ヲ拒ミタルトキ
八本法ニ違反シテ破產ノ宣告ヲ請求
セザルトキ
九本法ニ依ル公〓ヲ爲スコトヲ怠リ
又ハ不正ノ公告ヲ爲シタルトキ
十〓算ノ場合ニ於テ本法ニ違反シテ
辨濟ヲ爲シ又ハ組合財產ノ分配ヲ爲
シタルトキ
第二十七條牧野ヲ設置スル畜產組合若
ハ畜產組合聯合會ノ役員又ハ牧野ヲ設
置スル主務大臣ノ指定スル團體ノ代表
者第二十五條ノ規定ニ依リ準用スル第
十五條ノ規定ニ依ル認可ヲ受ケザルト
キハ五圓以上二百圓以下ノ過料ニ處ス
第二十八條非訟事件手續法第二百六條
乃至第二百八條ノ規定ハ前二條ノ過料
ニ之ヲ準用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令以テ之ヲ定ム
本法施行ノ日ヨリ六月以內ニ於テ第二十
五條ニ揭グル者ノ行フ改良事業ニ付テハ
同條ノ規定ニ依リ準用スル第十五條ノ規
定ヲ適用セズ
競馬法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年三月二十日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家達殿
競馬法中改正法律案
競馬法中左ノ通改正ス
第二條第二項中「六日內」ヲ「八日內」ニ改
ム
第四條第二項ヲ左ノ如ク改ム
勝馬投票劵ノ發賣ハ競馬一競走ニ付一
人一枚ヲ限リ單勝式勝馬投票劵及複勝
式勝馬投票劵ヲ發賣スル場合ニ於テハ
競馬一競走ニ付一人各一枚ヲ限ル
第六條ニ左ノ二項ヲ加フ
勝馬投票的中者無キ場合ニ於ケル賣得、
金又ハ前項但書ノ規定ニ依リ生ジタル
超過金ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ勝
馬投票劵ヲ購買シタル者ニ拂戾スベ
シ
前二項ノ拂戾金ノ債權ハ一年間之ヲ行
ハザルトキハ時效ニ依リテ消滅ス
第八條第一項中「百分ノ四以內」ヲ「百分
ノ六以内」ニ改メ同條ニ左ノ三項ヲ加
フ
第一項ノ規定ニ依ル納付金ノ額ニ相當
スル金額ハ馬ノ改良增殖及馬事思想ノ
普及ノ爲必要ナル經費竝ニ社會事業ノ
爲必要ナル經費ニ充ツルコトヲ要ス馬
ノ改良增殖及馬事思想ノ普及ノ爲必要
ナル經費ニ充ツル金額ハ納付金ノ額ニ
相當スル金額ノ三分ノ二ヲ下ルコトヲ
得ズ
前項規定ノ適用ニ付テハ金額ノ算出ハ
各年度ニ於テ其ノ年度ノ豫算金額ニ依
ル
競馬場ノ開設又ハ維持、競走馬ノ出馬
登錄又ハ出場、競馬ノ觀覽、勝馬投票
劵ノ發賣又ハ購買、拂戾金又ハ競馬賞
金ノ交付又ハ受領其ノ他競馬ノ施行又
ハ開催ニ關シテハ地方稅ヲ課スルコト
司徒大
第十四條中「又ハ五千圓以下ノ罰金ニ處
ス」ヲ「若ハ五千圓以下ノ罰金ニ處シ又ハ
其ノ刑ヲ併科ス」ニ改メ同條第二號ノ次
ニ左ノ一號ヲ加フ
三第一條ノ法人ノ開催スル競馬ノ競
走ニ關シ業トシテ多數ノ者ニ對シ財
物ヲ以テ賭事ヲ爲シタル者
第十五條第五號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
六前條各號ノ一ニ規定スル行爲ノ相
手方ト爲リタル者
第十六條第一號ヲ削リ第二號ヲ第一號ト
シ以下順次繰上グ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣町田忠治君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=35
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036・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 只今上程セラレ
マシタ牧野法案提出ノ理由ヲ簡單ニ申述べ
マス牧野ハ牛馬ノ質ヲ改善スル爲ニ必要
缺クベカラザルト共ニ、牛馬ノ飼養費ヲ低
減シ、農家ノ勞力ヲ節約シ、其生產飼育ヲ合
理的ナラシメ、其改良增殖ヲ圖リ、延イテ農
山村ノ振興ニ資スル所甚ダ大ナルモノアリ
ト存ジマス、我ガ國牧野ノ現狀ヲ見マスル
ニ、其多クハ多年ノ慣行ニ從ヲテ之ヲ飼養シ
居ルノデアリマシテ、而モ之ヲ飼養スルモ
ノハ多クハ小農テアリマス、從ッテ其手入モ
不十分ナルガ爲ニ、牧野ガ次第ニ荒廢ヲ見
ルコトニ至ッタノハ、誠ニ遺憾デアリマス
是ガ維持改善ニ關スル對策ヲ講ズルコトノ
目下必要ナルコトニ鑑ミマシテ、此本案ニ
於キマシテハ地方公共團體ノ所有スル牧
野ニ對シテ其管理方法ヲ定メシメ、牧野ノ
維持改良ノ基礎ヲ確立スルト共ニ、牧野ニ
於テ放牧又ハ採草ヲナスモノヲシテ、國家
助成ノ下ニ組合ヲ作ルコトヲ得セシメ、從
來ノ濫牧、濫獲ノ弊ヲ矯正スルト共ニ、牧
野維持改良ニ關スル各種ノ施設ヲ致サシメ、
荒廢防止、蟲害驅除豫防等ニ關シソレゾレ
適當ナル方策ヲ講ジテ牧野ノ改善維持ヲ圖
ラムト致スノデアリマス、何卒御審議ノ上、
御協賛アラムコトヲ願ヒマス·····更ニ同
ジク上程ニナッテ居リマスル競馬法改正ノ
趣意ノ大要ヲ御說明申上ゲマス、競馬法ガ
實施セラレマシテ玆ニ八年ノ星霜ヲ經マシ
テ、昭和四年ニ於キマシテハ、其改正ヲ見マ
シタガ、競馬ノ實況ニ鑑ミマスルニ法律
制定ノ精神ヲ達スル爲ニハ更ニ改正ヲ要ス
ル點ガ少クナイノミナラズ、目下產馬界ノ
狀況ヲ見マスルニ、馬ノ改善增殖ヲ圖ル爲
ニハ牧野法ヲ制定シテ種牡馬ノ充實ヲ圖ル
等急施ヲ要スル施設ガ頗ル多イノデアリ
やく、又一面ニ於キマシテハ救護法實施
ノ必要ガ玆ニ生ジタノデアリマス、仍テ政
府ニ於テハ種々考究ノ結果ニ基キ、大體次
ノヤウナル要項ニ依フテ競馬法ヲ改正イタ
スコトヲ企テタノデアリマス、卽チ第一ハ
從來ノ單勝式ニ併セテ複勝式ヲ併用イタス
コトト致シテ、一競馬ニ付テ一人各、一枚ト
致シタノデアリマス、又開催ノ日數ヲ從來
六日以內トアリマシタノヲ、此度ハ八日以
內ト致シタコトデアリマス、第三、政府納
付金ハ從來百分ノ四以內デアリマシタノヲ
百分ノ六以內ト致シタノデアリマス、政府
納付金ハ馬ノ改良增殖及馬事思想ノ普及竝
社會事業ノ爲ニ必要ナル經費、此經費以外
ニハ之ヲ支出スルコトノ出來ナイコトト致
シ、就中、馬ノ改良增殖及馬事思想ノ普及
ノ爲ニ必要ナル經費トシテ、之ニ充ツル金
額ハ納付金總額ノ三分ノ一一ヲ下ラザルモノ
ヲ以テ馬事ノ振興ニ用ユルト云フコトヲ
法律ニ依ッテ決メタノデアリマス、第五ハ競
馬倶樂部ノ入場者ニ對シテ地方稅ヲ賦課ス
ルコトヲ禁ジタノデアリマス第六ハ拂戾
金制限超過額アリタル場合ニハ投票劵ノ購
買者ニ之ヲ拂戾シ得ルコトト致シ、尙ホ的
中者ナキ場合ニ於テハ投票劵ノ購買者ニ對
シテ全部之ヲ拂戾スコトト致シタノデアリ
マス、第七ハ勝馬投票類似行爲ニ對スル刑
罰規定ヲ設ケタノデアリマス、何卒愼重御
審議ノ上、御協贊アラムコトヲ御願ヒ致シ
マス
〔高橋琢也君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=36
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037・高橋琢也
○高橋政也君 只今上程ニナリマシタ競馬
法中改正法律案ニ對シマシテ、私ハ政府ニ
質問ヲ致シタイト思ヒマス、此競馬法ノ改
正ニ付キマシテハ改正ノ必要ガ述ベテゴザ
イマスガ、競馬施行ノ狀況ニ徵シ競馬法中
改正ヲ爲スノ要アリト、只今農林大臣ノ御
說明ニナリマシタノモ此意味デゴザイマシ
タヤウデゴザイマス、施行ノ狀況ニ徵シト
云フコトハ餘リ漠然トシテ居リマスガ、是
ハドウ云フ意味デゴザイマスカ、之ヲ改正
ナサラナケレバナラヌ程ノ事柄ガアルノカ
既ニ只今御述べニナッタ競馬法ヲ是マデ施
行シテ來タケレドモ、是デハ十分ノ效果ヲ
收メラレヌ、斯ウ仰シヤルヤウナ御說明デ
アッタ、今囘ハ此改正ニ依クテ馬匹ノ改良ガ
出來、又一方ニハ馬事思想ノ普及ガ出來ル
ト、斯ウ仰シヤルヤウデアル、誠ニ結構ナ
政府ノ御趣意デアルノデゴザイマスガ、併
シ實際ハドウゴザリマセウカ、今日マデ競
馬ヲ施行サレタ結果ハ甚ダ芳シカラヌコト
ニ承シテ居リマスガ、私モ其中ノ一二ノ眞相
ハ承知ヲ致シテ居リマスル、甚シキハ是ハ
賭博ヲ奬勵スルモノデアル、斯ウ云フヤウ
ヲ言フ、若シサウデゴザイマスナラバ、寧
ロ今日ハ斯樣ナモノハ廢シテ御仕舞ヒニナ
ルベキモノデハナイカト存ジマス、ソレヲ
改正ナサル、改正ナサッタラバ果シテドウ云
フ良イ效果ガ收メラレルノデアリマセウ
カ、其點ニ付テ政府ノ御所見ヲ伺ヒタイノ
デゴザイマス、只今御說明ニナリマシタ此
競馬法ノ收入ヲ割イテ救護法ノ實施ノ經費
ニ充テル、斯ウ仰シヤルヤウデゴザイマス
ガ、救護法ヲ實施ナサルト云フコトハ誠ニ
結構ノコトデアル、實ニ今日ハ一日一時モ
早ク之ヲ實施セラレムコトヲ私ナドハ望ム
ノデアリマス、併シ其財源ヲ求メルニハ自
ラ途ガアラウト思フ此樣ニ弊害ノ多イ······
實際、是迄ノ競馬デゴザイマシタナラバ、
弊害ガ之ニ伴フノハ極メテ大キナコトデア
ルサウデゴザイマス、ソレヲ改良ナサルト
云フ點ガ此法案ノ上デハ能ク見エマセヌ、
ドウ云フヤウナ趣向デ御改良ナサルノデア
ルカ、果シテ其改良ガ出來ルト云フコトナ
ラ、誠ニ結構デゴザイマスガ、其點ハ一ツ
伺ヒタイモノデゴザイマス、若シ是迄ノヤウ
ナ賭博類似ノヤウナ結果ヲ見ルト云フコト
ニナルト··是ハ既ニ天下周知ノコトデゴ
ザイマス、今囘收入ヲ殖ヤスト云フコトガ
目的デアルトスレバ改良ドコロデハナイ、
寧ロ一層改惡スルコトニナリハセヌカト存
ジマス、誠ニサウ云フ結果ニナリマスルト
歎ハシイ次第デアリマス、目的ガ既ニ金ヲ
得ルニアル、救護法ヲ實施シナケレバ今日
ノ場合如何トモ仕樣ガナイ、旣ニ餓死セン
トスル者ガ幾十万アルヂヤナイカ、其幾十
万ノ餓死ニ瀬シテ居ル者ヲ救フ爲ニハ競馬
法ヲ改正ヲシテ、收入ヲ殖ヤシテ、其收入
カラ之ヲ取ッテヤルヨリ仕方ナイ、今日ハ財
源ガ無イノデアル、斯ウ云フ意味デアラウ
ト思ヒマス、サウスレバ事實ノ上デハ一層
ノ無理ガ出來ハセヌカト思ヒマス、若シソ
レデ一層ノ無理ガ出來マスルトスレバ、之
ガ爲ニ弊害ハ······一方ニ救濟ノ行ハレマス
ノハ結構デアリマスガ、一方ニエライ弊害
ヲ殘スコトニナル、サウスルト前門ニ虎ヲ
追ウテ後門ニ狼ヲ迎ヘルヤウナコトニナリ
ハ致シマセヌカ、此點甚ダ憂慮ニ堪ヘマセ
文、此競馬法ノ改正ニ依リマシテ國庫ニ收
納スル所ノ收入······收益ト申シマスカ、收
入ト申シマスカ、何レニ致シマシテモ、國
庫ニ納マル所ノ金額ハドノ位ノ御見込デゴ
ザイマスルカ、之ヲ伺ヒタイ、ソレカラ之
ニ對シテ救護法ヲ何時カラ是ハ實施ニナル
御積リデゴザイマスカ、本法案ノ中ニハ見
エマセヌ、何カ他ノ法案ノ中ニアルノデゴ
ザイマセウカ、此コニハ見エマセヌカラ、
何時カラ之ヲ御實施ニナル積リデゴザイマ
スカ新聞紙ノ傳フル所ニ依ルト昭和七年
一月カラ實施スルト云フコトノヤウデアリ
マス、果シテソレガ事實デゴザイマスカ、
若シ七年一月カラト云フト、今日カラ十箇
月程ゴザイマスガ、今既ニ餓死セントシテ
居ル者ガ十箇月待タレマセウカ、是ハ餘リ
無理ト申シテ宜シイカ、無情ト云ウテ宜シ
イデゴザイマセウカ、常識ヲ以テ判斷イタ
シマシテハ、十箇月食ハズニ辛抱ハ出來マ
セヌ、私ハ極ク壯健ナ身體デゴザイマスガ、
二十歲ノ時、山ニ籠ッテ斷食ヲシマシタガ、
一週間シカ出來マセナンダ、迚モ十箇月食
ハズニ人間ハ居ルト云フコトハ是ハ出來得
マセヌ、申ス迄モアリマセヌ、サスレバ是
ハ新聞紙ノ誤デゴザイマスカ存ジマセヌ
ガ、之ヲ承ハリタイ、ソレ程ニ窮迫シテハ
居ラヌト仰シヤルナラ、何故ニ······曩ニハ
全國ノ方面委員ガ集ヲテ上奏マデシヤウト
云ッタコトガ新聞ニゴザイマスシ、政府モ之
ニ驚イテ遂ニ救護法ヲ實施セラレルコトニ
セラレタノデアルト斯ウ聞イテ居リマス、
果シテサウデゴザイマスナラバ、是ハ來年
ノ一月ニ實施ナサルト云フコトハ事實デナ
カラウト思ヒマスガ、一ツノ新聞デハナイ、
多數ノ新聞ガ申シテ居リマスカラ、ドチラ
ガ本當デアルカ分リマセヌカラ、一ツ伺ヒ
タイノデアリマス、一體救護法ヲ實施ナサ
ル費用、是ハ救護法ニ今囘流用ナサラウト
云フ費用ハドノ位ノ金高デゴザイ、マスル
カ、之ヲ一ツ伺ヒタイ、曩ニ救護法ガ
議會デ決セラレテ可決セラレマシタ場
合、當時ノ政府ガ之ヲ實行スルニハタシカ
八百万圓ヲ要スル、其內、折半シテ四百万
圓ハ國庫ヨリ、他ノ四百万圓ハ地方ノ公共
團體、斯ウ云フヤウニ聞イテ居リマシタガ、
今日ハ其救護法ヲ待ッテ居ル瀕死ノ飢渴者
ガドノ位居リマスカ、當時ヨリ遙ニ增シテ
居ルト云フコトハ、今日ノ社會ノ狀態ヨリ
之ヲ見マシテモ推測ガ出來得ヤウト思ヒマ
ス、ソレ故ニ今囘ハ或ハ一千方圓トカ、二
千万圓トカ之ニ御充テニナルコトガアラ
ウト存ジテ居リマスルガ、此金高ハドノ位
ニナリマスカ、ソレカラ只今御說明ニナリ
マシタ本法案ニモアルヤウニ、地方稅ハ是
カラ取ラナイ、サウスルト地方ハソレダケ
又負擔ガ重クナルト云フ結果ニナリマセ
ウ、一體競馬ナルモノハ土地ガ無クテハ出
來ナイノデ、土地ガ一番大事ナモノデアル
ト私ハ見テ居ル、其土地ヲ使用シテ而モ相
當ナ好イ場所デナケレバ客ガ集リマセヌ、
觀衆ガ集シテ來ナイ、是ハ單リ日本ダケデハ
ナイ、各國モサウナッテ居ルヤウデゴザイ
マス、丁度弊害モ各國ノモ同ジヤウデアル
ガ、各國ノ〓博類似ノ事ヲ弊害トシテ居ル
ノト我國トハ又事情ガ異っテ居リマス、我國
デハ殊ニ之ヲ恐レルノデゴザイマス、然ル
ニ其地方ノ最モ適當ナ好イ土地ヲ使フニモ
拘ラズ、是カラ擧ガッタ金ハ地方ヘハ一切ヤ
ラナイゾヨ、是ハ隨分殘酷ナ話ノヤウニ伺
ハレルノデアリマス、是ハドウ云フ御趣意
カラ來テ居ルノデゴザイマセウカ、伺ヒタ
イノデアリマス、私ハ救護法ノ費用ガドウ
シテモ出テ來ナイカト云フニ、或ハ何處カ
ニ有リハセヌカト思フ、一例ヲ擧ゲテ言ヘ
バ、廣島ノ城址、御承知ノ如ク廣島市トシ
テハ非常ナ有望ナ位置デゴザイマシテ、此
附近ト云フモノハ非常ナ高價ニ賣買ヲシテ
居リマスガ、疾クヨリ廣島市デハ旣ニ此場
所ハ練兵場ガ他ニ出來テ廢止ニナッテアル、
ソレ故ニ是ハ廣島市ニ拂下ゲテ貰ヒタイト
云フコトハ是マデ度〓出願ヲシテ居ルヤウ
デゴザイマス、之ヲ拂下ゲマシタラバ一一百
万ヤ三百万ノ金ハ容易ク出來ルデアラウト
存ジマス、斯ウ云フモノハ丁度廢藩置縣ノ
際各藩ノ城址ナドヲ皆政府ニ奉還シタノデ
スカラ澤山アラウト思フ、斯ウ云フモノヲ
取ッテ、サウシテソレヲ賣却ヲナサッタラバ、
ドウセヌデモ宜イ金ガ出ルノデハナイカト
私ハ思フ、是ハ政府ノ御考ガ其處マデ及ン
デ居ルカ及ンデ居ナカッタノカソレハ存ジ
マセヌガ、私ヲシテ言ハシムレバ獨リ是ダ
ケデハゴザイマセヌ、軍用ノ地所ガ各地方
相當ニ遊ンデ居ルヤウニ思ヒマスル、ソレ
故ニサウ云フモノヲ賣却ヲシテサウシテ是
カラ出ル金ヲ以テ救護法實施ノ費用ニ充テ
ルト云フコトガ得策デハナイカ、サウスレバ
ドチラニモ弊害モナケレバ又豫算ノ上ニモ
ヒドイ困難モナイノヂヤナイカ、斯ウ思ヒ
やく、併シナガラ廣島市ナドモ今日マデ御
拂下ニナラヌコトヲ以テ見レバ何カ矢張リ
政府若クハ軍事當局デ他ニ御充テニナル用
途ガアルカモ知レナイ、ソレハゴザイマセ
ウ、ケレドモ斯樣ナモノハ各地方ニアル筈
デアル、既ニ軍馬ノ飼育所、之ガ爲ニハ國
有林、國有原野ヲ隨分澤山陸軍省ヘ御渡シ
申シテアル、或ハ讓リ渡シクモノモアルデ
ゴザイマセウ、私ガ山林局長時代カラ陸軍
省ニ移リマシタモノモ隨分澤山ゴザイマ
ス、之ガ爲ニ馬匹ノ改良ハ陸軍デハ十分ニ
御ヤリニナッテ居ルヤウニ考ヘル、ソレデア
ルカラ軍馬ト云フ方ニハソレ程今更改良ヲ
要スルコトハナイデアラウト私ハ思ッテ居
リマス、斯ウ云フ點デゴザイマスカラ、私
ハ大藏大臣ガ出テ居ラレタラ其財源ニ村テ
モ伺ヒタイト思ヒマシタガ、是ハ御見エニ
ナッテ居リマセヌカラ農林大臣カラ御伺ヒ
モシ、又或ハ救護法ノ費用ト云フモノニ付テ
ハ、大藏大臣ガ何レ後刻賠償金ノコトデ御
出デニナル場合ガゴザイマスカラ、ソレハ
救護法ニ付テノ金ハ斯ク斯クニスルノダト
言ウテ詳シク御話ヲ下サレバ尙ホ結構ダト
思ッテ居リマス、私ノ伺ハントスルノハ先ヅ
此位ニ致シテ置キマス
〔國務大臣町田忠治君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=37
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038・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 高橋サンノ御尋
ハ或ハ大藏當局ガ御答ヲシテ便宜ナコトガ
アリマス、又內務當局ヨリ御答シタ方ガ宜
シイコトモアリマス、大體此法案ヲ提出イ
ダシマシタ理由ヲ御尋ニ依リマシテ申上ゲ
やく、大體競馬法ハ寧ロ廢スル方ノ考ガド
ウカト云フヤウナ意味ニ大體受取リマシタ
ガ、御承知ノ通リ先年競馬ヲ嚴禁イタシマ
シタ當時ノ全國ノ馬事ノ模樣ヲ見マスト、
餘程衰へマシタ、卽チ軍馬ノ方カラ申シマ
スト、十數年前ヨリ立テテ居リマスル軍馬
充實ノ計畫ガ第二期ニ置カレテ居リマス
ガ、其進行ガ遲々トシテ進マナカッタノデ
アリマス、先年競馬法ヲ或ル改正ノ下ニ復
舊イタシマシタト共ニ、馬事思想ノ普及、
或ハ之ヲ依ッテ得マシタ歲入ニ依リマシテ
馬事充實ノ計畫ヲ立テマシテ、稍、今日ハ進
ンデ居リマスルガ、マダ御承知ノ百五十万
頭計畫ガ完備イタシマセヌ、之ガ爲ニ國防
上ニモ多少ノ支障ハ無イトハ申サレヌノデア
リマス、此度ノ改正ハ實ハ農林省トシテハ
從來カラ考ヘテ居ッタノデアリマシテ、種馬
ノ充實等ヲ主ト致シマシテ之ガ改正ヲ得ル
ト云フコトニ考ヲ常ニ費サレテ居ッタノデ
アリマス、又高橋君ノ御承知ノ牧野ノ荒廢シ
テ居ル現狀ニ付キマシテハ、何トカ國家ガ
之ヲ奬勵補助スルコトノ必要モ感ジテ居ッ
タノデ、相當ノ調査ガ進ンデ居リマシタニ際
シテ、社會事業ノ最モ急ナルモノノ一ツトシ
テ、救護法ノ實施ヲ急グコトガ生ジタノデア
リマス、申ス迄モナク歐米各國ニ於キマシ
テハ、競馬ノ收入ノ或ル一部分ヲ慈善事業、
社會事業等ニ投ズルコトハ、殆ド世界ノ通
念ト相成ッテ居リマシテ、先年此改正ヲ致シ
マス時モ、當時ノ當局者ハ將來出來ルナラ
バ此一部ヲ割イテ社會事業、慈善事業ニ用
ヒルト云フ大體ノ考ヲ持フテ居リマシタコ
トハ私共御同感デアリマシテ、恐ラクハ
斯樣ナ種類ノ收入ノ一部ヲ社會事業ニ投ズ
ルト云フコトハ、恐ラクハ異論ノナイコト
ト思ヒマス、唯現在ガ馬事振興ニ對シデ相
當ナ經費ヲ要スル故ニ、衆議院等ニ於キマ
シテハ此改正ニ依ッテ得タ收入ノ全部ヲ馬
事振興ノ方ニ投ジ、社會事業ノ方ハ他日ニ
シタラ宜カラウト云フ議論モアリマシタ、
左樣ナ點モ考ヘマシタカラ恐ラクハ立法例
トシテハ珍シクアリマスガ、將來競馬法改
正ニ依ッテ年々增スベキモノト我ミノ期待
イタシテ居リマスル此收入ノ三分ノ二ヲ下
ラザル大部分ヲバ馬事振興ノ爲ニ使ヒ、社
會事業ニ投ズル部分ハ、其三分ノ一ヲ越サ
ヌコトト致シタノデアリマス、又先刻凡ソ
之ニ依ッテ幾ラノ收入ヲ得ルカト云フ御尋
デアリマシタ、御承知ノ通リ先年ノ競馬法
ノ改正ニ依ッテ、只今ハ年々百四十万圓カラ
百六十万圓ノ收入ガアリマス、而シテ馬事
振興ノ爲ニハ他ノ一般財源ト共ニ二百六七
十万圓ヲ馬事振興ノ爲ニ費シテ居ル、其中
百五六十万圓ハ競馬ノ收入ニ依ッテハ足リ
マセヌ故ニ一般財源デヤッテ居ルト云フノ
ガ現狀デアリマス、更ニ此度ノ改正ニ依リ
マスレバ、二百万圓グラヰ新ニ收入ガアル
ノデアリマス、ソレハ「百分ノ四以內」ヲ「百分
ノ六以內」ト致スト云フ箇條ト、其他觀覽者
ノ增スベキ理由ハ、嚴罰ヲ附シテ俗ニ云フ
呑屋トシテ、盛ニ行ハレテ風〓ヲ害スルコ
ト最モ甚シイ賭博類似ノ呑屋ガ其公認競馬
場ヲ荒シテ居ル、此呑屋ヲ征伐シマスル結
果、收入ノ大イニ增スコトモアリマス、或
ハ複勝式ニ依フテモ增スコトガアル、斯樣ナ
コトニ依ッテ二百万圓新ニ財源ガ得ラレマ
ス、ソレハ會計年度一年ヲ通ジテノコトト
御承知ヲ願ヒタイ、六年度ハ半端デアリマ
スカラ、七年度以降ノ大體ノ計畫ハ凡ソ競
馬ニ依フテ得ラレル收入ハ三百五六十万圓
ヲ下ラヌモノト御承知下サレ、其中ノ百万
圓位ハ慈善事業ニ投ジテ、後ノ三分ノ二以
上ハ矢張リ馬事振興、或ハ牧野法等ニ之ヲ
使フ·····
〔公爵徳川家達君議長席ニ著ク〕
斯ウ云フコトニ相成ルト御承知ヲ下サレタ
1、ソレカラ今年ノ何時カラ行フカト云フ
コトハ內務省當局カラモ申上ゲマセウガ、
豫算關係ノ私ノ方ノ關係モアリマスカラ申
上ゲマスガ、七年ノ一月カラ行フコトトシ
テ、此救護法ノ實施ニ對シテ競馬ノ收入デ
參リマスル部分ハ、六年度ニ於テハ五十万
圓ト思ヒマス、要スルニ私ノ承知シテ居ル
所ハ今後救護法ノ爲ニハ中央ニ於テ約三百
万圓ヲ計上スル筈ニ相成ッテ居リマス、而シ
テ其中ノ競馬法ニ依ッテ得マスル收入總額
三百六十万圓ノ中、三分ノ一以內タル所ノ
百万圓ヲ社會事業ニ投ズル、斯樣ニ相成リ
やっく此度ノ改正ヲ致シマスル競馬ノ實況
ニ依リマシテ、風〓ヲ害セザル範圍內ニ於
キマシテ複勝式ヲ玆ニ併用イタスコトニシ
ク、其他五六箇條ノ要項ニ付キマシテハ改
メテ委員會等ニ於テ詳シク申上ゲルコトニ
御諒解ヲ得マシテ、此席デハ略シテ置キマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=38
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039・高橋琢也
○高橋琢也君 簡單ニ此席カラ御伺イタシ
タイト思ヒマス、御許シヲ願ヒマス、只今
農林大臣ノ御答辯エ依リマスト大藏大臣カ
ラ御答辯ガアルト云フヤウナコトデゴザイ
マスル、ソレナラバ後ニ賠償金ノコトデ大
藏大臣ガ昨日ノ御答辯ヲナサルコトニナッ
テ居リマスノデ、ソレ迄大藏大臣ノ御答辯
ハ待ツコトニ致シマシテ、唯私ハ今農林大臣
ノ仰シヤッタ中ニ一ツ伺ヒタイコトガアル
ノデス、呑屋征伐ヲシテ其金ガ入ッテ來ル、
斯ウ仰シヤッタノデスガ、其呑屋征伐ト云フ
コトハ餘リ感服セヌコトノヤウデゴザイマ
シテ、チヨット私ノ曩ニ申上ゲタ弊害ノアル
ト云フコトヲ政府ハ知リツツ、詰リ極ク惡
イ譬デゴザイマスガ、賭博ヲ開張シテ居ル
場合ニ警官ガ飛込ンデ、サウシテ其賭博場
ノ金ヲ皆集メテ持クテ來ルト云フヤウナコ
トニ當リハシマセヌカト思ヒマスルガ、若
シサウデアルトスルト、政府ガ呑屋征伐ヲ
シテ其金ヲ一方ニ利用スルト云フコトハ、
如何ニモ心外ニ私ハ存ジマスルノデアリマ
スガ、政府トシテハモウ少シ良イナサレ方
ガ無イカ、此點ハ一ツ御考ヲ戴キタイト思
ファ、恐ラクハ別段ニサウ云フ方法モ考ヘ
テ見タガ、ドウモ良イコトガ無イカラ、マ
ア此金ヲ取ッテヤレバ、二百万圓カラノモノ
ガ出ルノダト、斯ウ仰シヤル、サウシテ其
香屋征伐ノ金ト云フモノハ不淨ノ金デア
リ、又定マッテ居ナイ金デモアル、ドノ位ア
ルカソレハ分ラナイ、斯ウ云フコトニナリ
マー、ソレカラ今一ツハ地方ノ財源ニナル
ベキモノガ、是デ此法律デ止メラレルト云
フ其金高ハ、是マデノ競馬場ニ付テ略、分ッ
テ居リマセウト思ヒマスガ、ドレ位ノ金高
ニナリマシテ、地方ガドレダケノ收入ガ減
ズルト云フコトニナリマセウカ、ソレヲ一
ツ伺ヒタイ
〔國務大臣町田忠治君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=39
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040・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 極メテ簡單デア
リマスガ、高橋君ノ第一ノ御尋ノ呑屋ノ話
デアリマス、ソレハアノ呑屋ガ風〓ヲ害ス
ルコトノ甚ダシキモノデアルガ故ニ、此度
ハ刑罰ヲ重クシタ、其結果此度行ヒマスル
複勝式、單勝式併用ニ依ッテ、觀覽者モ殖
工、相當ノ收入ガ之ニ依ッテ增スノデアリ
マスガ、御話ノ嚴罰ヲ厲行スルガ爲ニ二百
万圓出ルト云フ意味デハアリマセヌ、何故
ニ二百万圓出ルカト云フ內容ハ委員會デ詳
シク申述ベタ方ガ便宜ト思ヒマス、ソレカ
ラ御尋ノ從來競馬場所在地ノ地方ニ於キマ
シテ地方稅若クハ納付金ノ名前ニ依ッテ、相
當ナル金額ヲ取入レテアルノデアリマス、
御話ノ通リ是ガ地方稅ト相成シテ地方財源
ノ一ツトナッテ居ルニハ相違アリマセヌ、併
シ大體カラ申シマスレバ、十一ノ公認競馬ハ
全國ニ對スル馬事振興及ビ馬事思想ノ普及
ニ屬スルノデアリマシテ、偶、其地方ニアルガ
故ヲ以テ、其地方ノ地方稅ト致スコトハ、公
認競馬トシテ全國ヲ均シク考ヘタル趣意ニ
ハ違ヒマス、故ニ此度ハ之ヲ國家ノ收入ト
シテ、地方ハ之ニ代ル財源ハ、或ハ地方競
馬其他ノ方法ニ依ッテヤリマセウガ、全國ニ
振當テテ十一箇所ノ公認競馬ヲ作リマシタ
ノハ、全國ニ對スル馬事振興ノ趣意ニ依ッテ
出來テ居リマスガ故ニ、偶、或ル地方ニ在ル
ガ爲ニ其納付金、若クハ地方稅ニ依ッテ其府
縣限リノ馬事ニ用フルト云フ考ハ、此際改
メタイノデアリマス
〔政府委員小川〓太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=40
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041・小川郷太郎
○政府委員(小川郷太郞君) 高橋サンノ御
質問ノ中ニ救護法ノ實施ニ要スル財源ハ何
デアルカト云フコトノ御尋ガアリマシタカ
ラ其コトダケヲ簡單ニ御答イクシマス、其
財源ハ一ツハ普通財源デアリマス、一·久·
競馬會ノ納付金デアリマス、競馬會ノ納付
金ニ付キマシテハ只今町田農林大臣カラ御
話ニナッタ通リデアリマス、高橋サンノ御質
問ノ中ニ土地其他國有財產ヲ賣拂ッテ、ソレ
ヲ以テ財源トシタラバ宜クハナイカト云フ
ヤウナ趣旨ノ御話ガアリマシタ、サウ云フ
國有財產ノ賣却代ハ一時的ノ收入デアリマ
ス、其收入ハ國有財產整理基金ノ中ニ這入
リマスカラシテ、之ヲ救護法實施ノ方面ニ
使フコトハ出來マセヌ、又救護法實施ノ費
用ハ恆久的ノ費用デアリマスカラシテ、恆
久的財源ヲ以テ支辨セナケレバナリマセ
ヌ、従ッテ土地其他國有財產ノ賣却代ノ如キ
臨時收入ヲ以テ之ヲ賄フト云フコトハ當ヲ
得ナイト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=41
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042・高橋琢也
○高橋琢也君 簡單デゴザイマスカラ此處
カラ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=43
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044・高橋琢也
○高橋琢也君 只今大藏省ノ政務次官ノ御
答辯デ救護法ヲ實施シマスルニ付テノ金高
ガ何程ト云フコトガ洩レテ居リマス、ソレ
カラ農林大臣ハ此競馬法ヲ實施シテ、改良
シテ實施セラレタ曉ニ、救護法ニ行ク金ハ
五十万圓ホドデアル、斯ウ仰シヤッタヤウニ
聞キマシタ、果シテ然ラバ救護法ニ若シ國
庫カラ四百万圓出ルトスレバ三百五十万圓
ハ足リナイ、況ヤ地方ハコンナ財源ハアル
譯デハゴザイマセヌカラシテ·····ソレダケ
ガ分リマセヌカラ、ソレダケ伺ヒマス
〔政府委員小川〓太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=44
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045・小川郷太郎
○〓府委員(小川郷太郞君) 高橋サンニ御
答シマス、昭和六年度ニ於キマシテハ只今
町田農林大臣カラ御話ノゴザイマシタヤウ
ニ、昭和七年一月カラ實施イタツマス、ソ
レニ七十五万圓ホドヲ計上シテ居リマス、
其中デ競馬會納付金ノ方カラ這入ルモノガ
五十万圓デアリマス、ソレカラ平年ニ於キ
マシテハ、三百万圓ホドヲ要スルコトニナッ
テ居リマス、其中デ百万圓ホドガ競馬會
納付金ガ賄フコトニナッテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=45
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046・土方寧
○土方寧君 質問デゴザイマスガ、簡單デ
ゴザイマスカラ此處デ御許シヲ願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=46
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047・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=47
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048・土方寧
○土方寧君 私ハ政府當局ニ對シマシテ此
競馬法ニ付テ御尋シタイコトガゴザイマ
ス意見ハ他日述ベルコトニシテ簡單ナ
質問ダケデアリマス、ドウカ政府委員ノ方
デモ宜シウゴザイマス、御控へ置キヲ願ヒ
マス第一ハ現行ノ競馬法ニ依リマシテ十
一倶樂部ノ開催スル大キナ競馬ト、其外地
方ニ小規模ニ行ハレテ居ル競馬ト、每年其
競馬ノ數ガ如何ホドアリマスカ、其數、是
等ノ競馬ニ於キマシテハ隨分多クノ反則者
ガアルヤウニ聞及ンデ居リマス、其反則者
ノ最近一兩年ノ反則ノ種別ト其數、*第三ニ
普通一般ノ賭博犯ノ最近一兩年ノ數、〓博
犯ノ檢擧ヲ受ケタル者ノ數、第四ハチヨット
緣ガナイヤウデアリマスケレドモ財源關係
ニナルカラ伺ヒマスガ、總理大臣其他ノ國
務大臣ノ官邸費ト云フモノノ年額ハ幾ラデ
アリマスカ、第五ニハ中ニハ貰"テ居ナイ大
臣モアルカニ聞キマスガ、總理大臣其他ノ
機密費ハ全額幾ラデアリマスカ、此五ツヲ
伺ヒタイ、是ハ突然伺ヲタノデ卽答ヲ求ムル
譯ヂヤアリマセヌ、後デ御知ラセヲ願ヘレ
バ宜イ、御都合ニ依ッテハ書面デモ宜シイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=48
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049・東園基光
○子爵東園基光君 只今議題ニナッテ居リ
マスル競馬法中改正法律案ハ重要ナル案ト
認メマシテ、サウシテ此特別委員ノ數ヲ十
八名ト致シ、其選擧ヲ議長ニ一任イタシタ
イト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=49
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050・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=50
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051・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 東園子爵ノ動議
ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=51
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052・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイ認メ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=52
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053・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 前ニ議題ト致シ
マシタ牧野法案ノ特別委員ハ競馬法中改正
法律案ノ特別委員ニ付託イタシマス、特別
委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセ
マス
〔小林書記官朗讀〕
競馬法中改正法律案外一件特別委員
侯爵德川賴貞君伯爵黑木三次君
子爵池田政時君子爵立花種忠君
子爵藪篤麿君子爵西尾忠方君
大島健一君男爵鍋島直明君
男爵小原駐吉君坂西利八郞君
男爵千田嘉平君男爵關義壽君
中村純九郞君岡田文次君
馬場鍈一君加藤政之助君
山崎龜吉君鳴海周次郞君
己ノ四モミ屬(トドマツ等)、
ツ、スプルース等)
ラマツ屬(落葉松等)
イ厚二百ミリメートルヲ超エサルモノ
ロ其ノ他(丸太及割材ヲ含ム)
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔政府委員小川〓太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=53
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054・徳川家達
○政府委員(小川〓太郞君) 只今議題トナ
リマシタ關稅定率法中改正法律案ヲ說明イ
タシマス、本案ノ內容ハ人造絹及ビ木材ノ關
稅率ヲ改正セムトスルモノデアリマスガ、
政府ハ是等二ツノ品目ニ付テ關稅率改正ノ
要否ヲ關稅調査委員會ニ付議シテ成案ヲ得
マシタノデ、玆ニ本改正案ヲ提出イタシマ
シタ次第デアリマス、先ヅ人造絹ニ關シマ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=54
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055・小川郷太郎
○議長(公爵徳川家達君) 關稅定率法中改
正法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
大藏政務次官小川君
關稅定率法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年三月二十日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家達殿
關稅定率法中改正法律案
關稅定率法別表輸入稅表中左ノ通改正ス
第二百九十號中「一二五·〇〇」ヲ「七五·
〇〇」ニ改ム
第六百十二號第一項己ノ四ヲ左ノ如ク改
ム
タウヒ屬(エゾマ
マツ屬(紅松等)及カ
每立方メ!
トル四·四五
每立方メー二·七〇
トル
シテハ、近年我國ニ於キマシテ此製造業ガ
非常ニ進步シマシテ、今日デハ世界有數ノ
人造絹ノ生產國タル地位ヲ占ムルニ至ッタ
ノデアリマス、然ルニ一方輸出人造絹織物
ノ製造業モ大イニ發達シマシテ內地人造絹
生產高ノ大半ハ輸出品原料トシテ使用セラ
レテ居ルト云フ狀態デアリマス、其他保稅
工場ニ於テ外國產人造絹ヲ使用シテ居ル製
造業者モアルノデアリマス、此輸出人造絹
織物製造業ハ又誠ニ有望ナ產業デアリマス
カラ、政府トシテハ其立場ヲ有利ナラシム
ル必要カアルト認メルノデアリマス、然ル
ニ人造絹ニ對スル現行關稅率ハ大正十五年
ノ改正後絲價ガ低落シマシタノデ、現在ニ
於テハ相當高率ニ當ノテ居リマスル關係モ
アリマス、又保稅工場ヲ利用スルモノト然
ラザルモノトノ間ノ權衡ヲ考フル必要モア
リマスノデ差當リ現行稅率ノ四割ヲ引下ゲ
ルコトト致シタノデアリマス、次ニ木材ニ
關シマシテハ昭和四年ノ關稅引上ガアリマ
シテ相當輸入ノ調節ヲ見タノデアリマスガ、
其際所謂沿海州材等ハ各種ノ事情カラ其引
上ヲ差控ヘマシタ爲ニ年々輸入ノ增加ヲ見
テ居ルノデアリマスソコデ樺太材等ニ對
スル影響ヲモ考慮シマシタ上前囘ノ改正ノ
後ヲ受ケテ稅率ノ釣合ヲ取ル爲ニ此沿海州
材等ニ對シマシテ新規課稅及稅率引上ヲ行
フコトニ致シタノデアリマス、尙ホ詳細ナ
ル點ニ付キマシテハ委員會ニ於キマシテ御
說明ヲ致ス考デアリマス、何卒御審議ノ上
運カニ御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタ
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=55
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056・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ニ對シマシ
テ質疑ノ通告ガゴザイマス、東〓男爵ニ發
言ヲ許シマス
〔男爵東〓安君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=56
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057・東郷安
○男爵東郷安君 人絹及木材ニ關スル改正
案ニ付キマシテ、私ハ人絹ノ問題ニ付キマ
シテ唯一件此機會ニ於キマシテ政府ニ質問
ヲ致シタイト思ヒマス、衆議院ガ本案ヲ通
過スルニ當リマシテ希望決議ヲ附ケテ居リ
マス、是ハ或ハ諸君ノ中ニハ旣ニ御承知カ
ト存ジマスルケレドモ、其要點ハ政府ハ人
絹織物ニ對シ將來此織物業ニ對スル保稅工
場ノ新設又ハ擴張ノ特許ヲ與ヘザルハ勿論
之ガ取締ヲ嚴重ニスベシト云フ意味ノ希望
決議デゴザイマス、此點ハ本院ニ於キマシ
テ是ヨリ我國ニ於ケル最近發達シマシタ最
モ重要ナル化學工業ノ運命ヲ決スル上ニ於
テ重大ナル關係ガアルト思ヒマス、私ハ此
機會ニ於キマシテ此一點ヲ特ニ揭ゲテ政府
ニ御尋ネ致シタイノデアリマス、嘗テ「ジユ
ネーヴ」ニ於キマシテ國際經濟會議ガ催サ
レマシテ、共際ニ種々國際通商自由主義ニ
基キ、各般ノ條約ガ締結サレタノデアリマ
ス、我國ニ於キマシテハ此協定ニ基キマシ
テ、昨昭和五年ノ七月十一日ニ輸入及輸出
ノ禁止制限ノ撤廢ノ爲ノ國際條約ガ發布サ
レタノデアリマス、而シテ其第四條ニ於キ
マシテ「左ノ種類ノ禁止及制限ハ該禁止及制
限カ同一條件ノ下ニ在ル外國間ニ於ケル專
斷ナル差別ノ手段又ハ國際貿易上ノ變裝セ
ル制限ト成ルカ如キ方法ニ於テ適用セラレ
サル限リ本條約ニ依リ禁止セラルルコトナ
シ」ト原則ヲ揭ゲ、而シテ其一項ニ、卽チ第
七項ニ於キマシテ「外國產物ニ之ト同種ノ
內國產物ノ製產、取引、運送及消費ニ付國
內ニ於テ設定セラレタル禁止及制限ヲ及ホ
スコトヲ目的トスル禁止又ハ制限」ト云フ條
項ガ揭ゲラレ、更ニ各條ヲ通ジマシテ先程
申上ゲク通リ自由通商主義ニ基イテ出來ル
ダケ國際貿易ノ助長發達相互ノ障壁ノ撤廢
ヲ規定イタシタノデアリマス、然ルニ只今
我國ニ於ケル人絹工業發達ニ付キマシテ最
モ重要デアリ、又現ニ朝野ノ重大ナル問題
トナッテ居リマスル保稅工場ノ制限及ビ之
ニ對スル取締ニ關シマシテ、衆議院ハ殆ド
是等ノ貿易助長制度ニ重大ナル壓迫著クハ
制限ヲ加ヘル希望決議ヲ出シテ居ルノデア
リマス、一面國際信義ニ基キマシテ、旣ニ
我國ガ多數ノ世界各國ト協定ヲ結ンデ居リ
マス此條約ノ精神トハ頗ル相反スルコト
ニ相成ルノデアリマス、殊ニ昭和五年ノ七
月十一日ノ是等ノ前刻申上ゲマシタ條約ノ
補足條約、其中ニ第四條ノ第七、卽チ只今
申上ゲマシタ規定ヲ補足シテ斯ウ云フ條項
ガゴザイマス、「締約國ハ或國ノ憲法及該國
ガ實施スル國內ニ於ケル各種ノ取締方法ニ
依リ內國產物ト輸入產物トノ間ニ於ケル完
全ナル同等待遇ヲ確保スルコト能ハザルコ
ト判明シタル場合ニ於テハ右待遇ノ相違ハ
輸入產物ニ對シ不公正ナル差別ヲ設クルノ
目的又ハ結果ヲ有セシムルコトナカルベキ
コトヲ宜言ス」我國ハ勿論此宜言ニ參加シ
テ居ルノデアリマス、果シテ然リトシマス
ルナラバ、殆下條約ノ解釋上私ハ一點疑ナ
ク是等ノ保稅倉庫其他ニ對スル自山通商メ
精神ヲ沒却スルヤウナコトヲ今後施設サレ
ルコトハ甚シク條約ノ精神ヲ蹂躙スルモノ
ト思フノデアリマス、此點ニ付キマシテ政
府ハ如何ニ御所見アラセラレルノデアリマ
スカ、其一點ヲ茲ニ先以テ伺ヒタイト思ヒ
マス
〔政府委員小川〓太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=57
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058・小川郷太郎
○政府委員(小川郷太郞君) 御質問キ御答
ヘ致シマス、衆議院ノ關稅定率法中改正法
律案ノ特別委員會ニ於キマシテ、附帶決議
ガアリマシタノハ、只今御話ノ通リデアリ
さい、ソレハ人造絹織物輸出ニ關聯イタシ
マシテ保稅工場ヲ許サナイヤウニト云フヤ
ウナ趣旨ノ決議デアリマス、御承知ノ通リ
ニ保稅工場ニハ一ツノ法律ガアリマスカラ
シテ、其法律ヲ適用セナケレバナラナイノ
デアリマス、只今條約ニ付テノ御話ガアリ
マシタガ、條約ノ解釋、御說御尤モト思ヒ
マく、又保稅工場ハ法律ノアル以上ハ無視
スル譯ニハ行キマセヌ、然ルニ保稅工場制
度ノ目的ハ輸出品ノ原料タル輸入品ニ對シ
テ關稅ヲ徴セナイデ輸出貿易ノ振興ヲ圖ル
ト云フニアルノデアリマス、其趣旨ニ基キ
其法律ノ適用ト致シマシテ、政府ハ昭和十
二年以來人絹ノ保稅工場ヲ認メテ來タノデ
アリマスガ、最近ニ至リマシテ之ヲ出願ス
ル者ガ續出イタシマシタ無制限ニ之ヲ特許
シテ居リマスト云フト直ニ只今御話ノ條約
ノ精神ニモ悖ッテ來マセウガ、輸出人絹織物
ノ原料トシテ使用セラレテ居ル內國人絹ガ
外國人絹ニ依クテ置キ換へラレルト云フコ
トニナリマシテ、人絹製造業ヲ壓迫シ又
內國人絹ヲ使用スル輸出織物製造業者ニモ
多大ノ影響ヲ與ヘルモノト考ヘラレマスノ
デ、此際一面高率ナル關稅ヲ引上ゲマスト
同時ニ、人絹ノ保稅工場ヲ或ハ新設シ、或
ハ擴張スルト云フコトニ付キマシテモ愼重
ナル態度ヲ以テ之ニ善處セント考ヘテ居ル
次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=58
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059・東郷安
○東郷安君 簡單デゴザイマスカラ此席カ
ラ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=59
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060・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=60
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061・東郷安
○東郷安君 只今ノ政府ノ御說明ハ甚ダ徹
底ヲ缺クコトト思ヒマス、就キマシテハ
本件審議ノ前提トシテ最モ重要ナル點ト考
ヘマス、委員會ニ掛ケラレマスマデニ於キ
マシテ、政府ハ篤ト是等ノ諸點ヲ御講究ア
ラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 他ニ質疑モナイ
ヤウデゴザイマスカラ特別委員ノ指名ヲ書
記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
關稅定率法中改正法律案特別委員
侯爵西〓從德君子爵綾小路護君
淺田德則君男爵東〓安君
室田義文君西野元君
根津嘉一郞君橫山章君
高廣次平君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 勞働者災害扶助
法案、勞働者災害扶助責任保險法案、勞働
者災害扶助責任保險特別會計法案、政府提
田、衆議院送付、第一讀會、齋藤政府委員
勞働者災害扶助法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年三月二十日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家達殿
勞働者災害扶助法案
勞働者災害扶助法
第一條本法ハ左ノ各號ノ一ニ該當スル
事業ニ之ヲ適用ス
一土石砂鑛ヲ採取スル事業ニシテ動
力若ハ火藥類ヲ用ヒ若ハ地下ニ於テ
作業ヲ爲スモノ又ハ當時十人以上ノ
勞働者ヲ使用スルモノ
ニ土木工事又ハ工作用ノ建設、保存、
修理、變更若ハ破壞ノ工事ニシテ左
ノ一ニ該當スルモノ
(金)國、道府縣、市町村又ハ勅令
ヲ以テ指定スル公共團體ノ直營工
事
(e)鐵道、軌道若ハ索道ノ運輸事
業又ハ水道、電氣若ハ瓦斯ノ事業
ヲ營ム者ガ其ノ事業ノ爲ニスル直
營工事
6其ノ他ノ工事ニシテ勅令ノ定
ムル規模ノモノ
三鐵道、軌道若ハ索造ノ運輸事業又
ハ一定ノ路線ニ依ル自動車ノ運輸事
業
四船舶ヨリ若ハ船舶ヘノ貨物ノ積卸
ノ事業、岸壁、波止場、停車場若ハ
倉庫ニ於ケル貨物取扱ノ事業又ハ工
場、鑛由若ハ土石砂鑛ヲ採取スル場
所ニ於ケル貨物積卸ノ事業ニシテ動
力ニ依ル起重機、昇降機其ノ他ノ揚
重機ヲ用フルモノ又ハ常時十人以上
ノ勞働者ヲ使用スルモノ
五前各號ニ揭グルモノノ外危險ナル
事業又ハ衞生上有害ノ虞アル事業ニ
シテ勅令ヲ以テ指定スルモノ
主務大臣ハ前項ノ規定ニ該當セザル土
石砂鑛ヲ採取スル事業及岸壁、波止場、
停車場又ハ倉庫ニ於ケル貨物取扱ノ事
業ニ付地域ヲ限リ本法ヲ適用スルコト
ヲ得
第二條事業主ハ勅令ノ定ムル所ニ依リ
勞働者ガ業務上負傷シ、疾病ニ罹リ又
ハ死亡シタル場合ニ於テ本人又ハ其ノ
遺族若ハ本人ノ死亡當時其ノ收入ニ依
リ生計ヲ維持シタル者ヲ扶助スベシ
第三條前條ノ事業主トハ勞働者ヲ使用
シテ事業ヲ爲ス者ヲ謂フ但シ第一條第
一項第二號(ハ)ノ工事ノ全部又ハ一部
ガ數次ノ請負ニ依リ爲サルル場合ニ於
テハ元請負人ヲ其ノ請負ヒタル工事ニ
付事業主トス
前項但書ノ場合ニ於テ元請負人ガ書面
ニ依ル契約ヲ以テ下請負人ヲシテ扶助
ヲ引受ケシメタルトキハ其ノ下請負人
モ亦其ノ請負ヒタル工事ニ付事業主ト
ス此ノ場合ニ於テハ二以上ノ下請負人
ヲシテ同一ノ工事ニ付重複シテ扶助ヲ
引受ケシムルコトヲ得ズ
前項ノ場合ニ於テ元請負人ガ扶助ノ請
求ヲ受ケタルトキハ扶助ヲ引受ケタル
下請負人ニ對シ先ヅ催告スベキ旨ヲ請
求スルコトヲ得但シ其ノ下請負人ガ破
產ノ宣告ヲ受ケ又ハ其ノ行方ガ知レザ
ルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第四條第一條第一項第一號又ハ第四號
ノ事業ガ專ラ同一ノ注文者ノ注文ニ依
リ爲サルルモノナルトキハ其ノ注文者
モ亦其ノ事業ニ付事業主トス
前條第三項ノ規定ハ前項ノ注文者ガ扶
助ノ請求ヲ受ケタル場合ニ之ヲ準用ス
第五條行政官廳ハ命令ノ定ムル所ニ依
リ事業ノ行ハルル場所ニ於ケル危害ノ
防止又ハ衞生ニ關シ必要ナル事項ヲ事
業主又ハ勞働者ニ命ズルコトヲ得
第六條行政官廳ハ必要アリト認ムルト
キハ當該官吏又ハ吏員ヲシテ事業ノ行
ハルル場所ニ臨檢セシムルコトヲ得
第七條事業主扶助ヲ爲スベキ場合ニ於
テ其ノ資力アルニ拘ラズ扶助ヲ爲サザ
ルトキハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第八條正當ノ事由ナクシテ當該官吏叉
ハ吏員ノ臨檢ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避シ
又ハ其ノ尋問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若ハ
虛僞ノ陳述ヲ爲シタル者ハ三百圓以下
ノ罰金ニ處ス
第九條事業主未成年者若ハ禁治產者ヲ
ルトキ又ハ法人ナルトキハ之ニ適用ス
ベキ罰則ハ其ノ法定代理人又ハ法令ノ
規定ニ依リ法人ヲ代表スル者ニ之ヲ適
用ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能
力ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ
在ラズ
第十條事業主ハ其ノ代理人、戶主、家
族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ其
ノ業務ニ關シ本法ニ違反シタルトキハ
1自己ノ指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ
處罰ヲ免ルルコトヲ得ズ
第十一條本法中事業主ニ關スル罸則ハ
國、道府縣、市町村及勅令ヲ以テ指定
スル公共團體ニ之ヲ適用セズ
附則
本法ハ昭和七年一月一日ヨリ之ヲ施行ス
勞働者災害扶助責任保險法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年三月二十日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家遠殿
勞働者災害扶助責任保險法案
勞働者災害扶助責任保險法
第一條政府ハ本法ニ依リ勞働者災害扶
助責任保險ヲ管掌ス
第二條勞働者災害扶助責任保險ニ於テ
ハ勞働者災害扶助法、工場法又ハ鑛業法
ニ基ク扶助責任ヲ保險スルモノトス
扶助責任ノ保險ヲ付スペキ事業ノ種類、
保險スベキ扶助責任ノ範圍及保險料率、
保險料納付期日其ノ他保險料ニ關スル
事項ニ付テハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第三條勞働者災害扶助法第一條第一項
第二號(ハ)ノ工事ノ事業主及勅令ノ定
ムル事業主ハ政府ト保險契約ヲ締結ス
ベシ但シ同法第三條第二項ノ場合ニ於
テハ元請負人ニ於テ保險契約ヲ締結ス
ベシミ
第四條保險契約者ヲ以テ保險金受取人
トス但シ前條但書ノ規定ニ依リ元請負
人ガ保險契約ヲ締結シタル場合ニ於テ
ハ扶助ヲ引受ケタル下請負人ヲ以テ保1:
險金受取人トス
政府ハ前項ノ規定ニ拘ラズ勅令ノ定ム
ル所ニ依リ扶助ヲ受クベキ者ニ保險金
ヲ支拂フコトヲ得
第五條保險契約者ガ惡意又ハ重大ナル
過失ニ依リ保險料算定ノ基礎タル重要
ナル事實ヲ〓知セズ又ハ其ノ事實ニ付
不實ノ告知ヲ爲シタルトキハ政府ハ勅
令ノ定ムル所ニ依リ保險金ノ全部又ハ
一部ヲ支拂ハザルコトヲ得
第六條保險契約者保險料ノ拂送ニ付遲
滯シタルトキハ其ノ遲滯期間ニ於テ生
ジタル事故ニ對スル保險金ニ付テハ勅
令ノ定ムル所ニ依リ其ノ全部又ハ一部
ヲ支拂ハザルコトヲ得
第七條保險契約者又ハ保險金受取人ガ
故意若ハ重大ナル過失ニ依リ又ハ勞働
者災害扶助法、工場法若ハ鑛業法ニ基
ク危害豫防若ハ衞生ニ關スル命令ニ違
反シタルニ依リ扶助責任ノ原因タル事
故ヲ生ゼシメタルトキハ命令ノ定ムル
所ニ依リ保險金ノ全部又ハ一部ヲ支拂
ハザルコトヲ得
第八條保險金支拂ノ義務及保險料返還
ノ義務ハ二年、保險料支拂ノ義務ハ一
年ヲ經過シタルトキハ時效ニ依リテ消
滅ス
第九條保險契約者又ハ保險金受取人ガ
勞働者災害扶助責任保險ニ關スル事項
ニ付政府ニ對シ民事課訟ヲ提起スルニ
ハ勞働者災害扶助責任保險審查會ノ審
査ヲ經ルコトヲ要ス
前項ノ審査ノ講求ハ時效ノ中斷ニ關シ
テハ裁判上ノ請求ト看做ス
第十條勞働者災害扶助責任保險審查會
ニ關スル規定ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第十一條本法ニ依ル保險ニ關スル書類
ニハ印紙稅ヲ課セズ
第十二條行政官廳ハ必要アリト認ムル
トキハ當該官吏又ハ吏員ヲシテ本法ニ
依リ扶助責任ノ保險ヲ付シ又ハ付スベ
キ事業ノ行ハルル場所ニ臨檢セシムル
コトヲ得
第十三條第三條ノ事業主保險契約ヲ締
結セザルトキハ千圓以下ノ過料ニ處ス
前項ノ過料ニ付テハ非訟事件手續法第
二百六條乃至第二百八條ノ規定ヲ準用
ス
第十四條正當ノ事由ナクシテ當該官吏
又ハ吏員ノ臨檢ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌避
シ又ハ其ノ尋問ニ對シ答辯ヲ爲サズ若
ハ虛僞ノ陳述ヲ爲シタル者ハ三百圓以
下ノ罰金ニ處ス
附則
本法ハ昭和七年一月一日ヨリ之ヲ施行ス
勞働者災害扶助法第一條第一項第二號
(ハ)ノ工事ニシテ本法施行前ニ著手(請負
ニ依ルモノニ付テハ請負契約ノ締結)セ
ラレタルモノニ付テハ第三條ノ規定ハ之
ヲ適用セズ
勞働者災害扶助責任保險特別會計法
案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和六年三月二十日
衆議院議長藤澤幾之輔
貴族院議長公爵德川家達殿
勞働者災害扶助責任保險特別會計法
案
勞働者災害扶助責任保險特別會計
法
第一條勞働者災害扶助責任保險法ニ依
ル勞働者災害扶助責任保險事業ヲ經營
スル爲特別會計ヲ設置シ其ノ歲入ヲ以
テ其ノ歲出ニ充ツ
第二條本會計ニ於テハ保險料、積立金
ヨリ生ズル收入、借入金及附屬雜收入
ヲ以テ其ノ歲入トシ保險金、保險料ノ
返還金、保險施設費、借入金ノ償還金
及其ノ和子、一時借入金ノ利子、事業取
扱費其ノ他ノ諸費ヲ以テ其ノ歲出トス
第三條本會計ニ於テ決算上剰餘金ヲ生
ズルトキハ之ヲ積立ツベシ
本會計ノ歲計ニ不足アルトキハ積立金
ヨリ之ヲ補足スベシ
第四條本會計ニ屬スル經費ヲ支辨スル
爲必要アルトキハ政府ハ本會計ノ負擔
ニ於テ借入ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依リ借入ヲ爲スコトヲ得
ル金額ハ純保險料ヲ以テ保險金及保險
料ノ返還金ヲ支辨スルニ不足スル金額
ヲ限度トス
第五條本會計ニ於テ支拂上現金ニ餘裕
アルトキハ之ヲ大藏省預金部ニ預入ル
ルコトヲ得
第六條本會計ニ於テ支拂上現金ニ不足
アルトキハ本會計ノ負擔ニ於テ一時借
入ヲ爲スコトヲ得
前項ノ規定ニ依ル一時借入金ハ當該年
度內ニ之ヲ返還スベシ
第七條本會計ノ積立金ハ國債ヲ以テ保
有シ又ハ大藏省預金部ニ預入レ之ヲ運
用スルコトヲ得
第八條政府ハ每年本會計ノ歲入歲出豫
算ヲ調製シ歲入歲出ノ總豫算ト共ニ之
ヲ帝國議會ニ提出スベシ
第九條本會計ノ每年度歲出豫算ニ於ケ
ル事業費ノ支出殘額ハ之ヲ翌年度ニ繰
越使用スルコトヲ得
第十條本會計ノ收入支出ニ關スル規定
ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
附則
本法ハ昭和六年九月一日ヨリ之ヲ施行ス
一般會計ハ昭和六年度ニ限リ其ノ豫算ノ
定ムル金額ヲ本會計ニ繰入ルルコトヲ
得
〔政府委員齋藤隆夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=63
-
064・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤 夫君) 勞働者災害扶助
法及ビ勞働者災害扶助責任保險法、此兩案
ハ密接ノ關係ガゴザイマスルカラ一括シテ
提案ノ理由ヲ說明イタシマス、勞働者災害扶
助法ハ土木建築工事、土石採取業、仲化請
負業竝ニ鐵道、軌道、乘合自動車ノ運輸業
等ニ從事イタシマスル勞働者ノ業務上ノ傷
病ニ對シ、事業主ヲシテ扶助セシメムトス
ルモノデアリマス、斯ノ如キ扶助ノ制度ハ
工場、鑛山ニ於キマシテハ工場法及ビ鑛業
法ニ依リ現ニ行ハルル所デアリマシテ、今
囘ノ法案ハ要スルニ現ニ工場、鑛山ニ行ハ
レテ居リマスル扶助ノ制度ヲ爾餘ノ諸工業
ニモ擴張セントスルニ外ナラナイノデアリ
さく、勞働者ノ業務上ノ傷病ニ對シテ、事
業主ガ扶助スルト云フコトハ今日ノ社會
通念上認メラレテ居ル所デゴザリマシテ、
本法ノ如キ法律ガナクトモ或ル程度マデハ
扶助イタシテ居ルノデアリマスルガ、扶助ノ
程度ガ事業主ニ依ッテ區々デアリマシテ、或
ル場合ニハホンノ少額ノ支給ヲスルニ過ギ
ズ、又土木建築業ノ如キ請負關係ノ複雜ナ
ルモノニ於キマシテハ、何人モ扶助ノ責任
ヲ負ハナイ場合モ少クナイノデアリマス、
ソレ故ニ本法ニ於キマシテハ、扶助ノ制度
ヲ確立シ、勞働者保護ノ趣旨ヲ實現セント
スルモノデアリマス、本法ハ扶助ノ程度方
法ハ總テ勅令ニ委任シテアリマスルガ、旣
存ノ扶助法規タル工場法及ビ鑛業法ト大體
步調ヲ合セル豫定デアリマス、本法ノ適用
ヲ受ケマスル事業ノ數ハ一万九千餘デアリ
やっ、其從業勞働者ノ數ハ五十一万七千餘
ニ上ル見込ミデアリマス、勞働者災害扶助
責任保險法ハ前述イタシマシタ事業主ノ扶
助責任ニ關シ國營保險ヲ創設セントスルモ
ノデアリマス、從來扶助法規ノアリマシタ
工場、鑛山ニ於キマシテハ事業主ハ大體ニ
於テ資力ノ裕カナル人〓デアリマスルカ
ラ、特ニ保險ニ依ラナクトモ、略、圓滑ニ施
行ガ出來タノデアリマスルガ、本法ノ適用
ヲ受ケマスル事業中、石切業、土木建築請
負業、布仕請負業等ニ於キマシテハ、事業
主ガ資力裕カデナイ場合モアリマス、時
ニ多數ノ死傷者ヲ生ジマシタル場合、扶助
ノ支給ニモ困ル人ミガ少クナイノデアリマ
スカラ、扶助ノ支給ヲ確保シ、勞働者ノ保
護ヲ圖ル點カラ申シマシテモ、又事業主ノ
負擔ヲ容易ナラシムル上カラ申シマシテ
モ、保險制度ヲ設ケルコトガ極メテ必要デ
アリマス、斯ル保險ハ事業主ノ責任保險デ
ゴザイマスルガ、勞働者ノ扶助ト密接不可
分ノ關係ガゴザイマシテ、事實上社會保險
ノ作用ヲナスモノデアリマスルカラ、國營
トスルコトヲ適當ト考ヘマシテ國營保險ト
致シタノデアリマス、保險ニ加入スル範圍
ニ付キマシテハ、土木建築工事ニ付テハ勞
働者ノ保護及ビ事業主ノ便宜ノ兩方面ヨ
リ畫一的ニ强制スルコトト致シ、其他ノ
事業ニ付キマシテハ任意加入スルコトニ致
シマシタ、從來カラ扶助ノ行ハレテ居リマ
スル工場、鑛山ニ付キマシテモ國營保險ヲ
設ケル以上、保險ノ道ヲ開クヲ適當ト考ヘ、
任意加入ヲ認ムル豫定デアリマス、法案ハ
本來事業主ノ負擔タル扶助ノ責任ヲ保險ス
ルノデアリマスルカラ、保險料ハ全部事業
主ノ負擔トシ、國庫ハ初年度ニ於キマシテ
準備費ヲ醵出スルノ外何等負擔ヲナサナイ
方針デゴザイマス、何卒御審議ノ上御協贊
ヲ與ヘラレムコトヲバ切望イタシマス
〔政府委員小川〓太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=64
-
065・小川郷太郎
○政府委員(小川〓太郞君) 只今議題トナ
リマシタ勞働者災害扶助責任保險特別會計
法案ニ付キマシテ其提案ノ理山ヲ說明イタ
シマス、只今內務當局ヨリ說明アリマシタ
如ク、勞働者災害扶助法、工場法及鑛業法
ニ基ク扶助ニ關シマシテ、勞働者ニ對スル
扶助料支給ノ確保ト事業主ノ負擔ノ便宜ト
ヲ計リマスル爲、其扶助責任ヲ國營保險
トナスノ必要ガアリマシテ、勞働者災害扶
助責任保險法案ガ提出セラレタノデアリマ
スガ、該保險事業ハ事業主ノ負擔イタシマ
スル保險料等ノ收入ヲ以テ保險金、保險施
設費、事業取扱費等一切ノ經費ニ充用セム
トスルモノデアリマスカラ、性質上之ガ收
支ハ一團トシテ計算スベキモノト存ジマ
ス、隨ッテ本事業ニ關スル歲入歲出ハ之ヲ一
般ノ會計ト區分シ特別會計ヲ設置スル必要
ガアルノデアリマス、是レ本案ヲ提出イタ
シマシタ理由デアリマス、何卒御審議ノ上
協贊ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=65
-
066・徳川家達
○議長(公爵德川家違君) 特別委員ノ氏名
ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
勞働者災害扶助法案外二件特別委員
公爵德川圀順君伯爵松木宗隆君
子爵豐岡圭資君男爵佐藤達次郞君
中村純九郞君宮田光雄君
齋藤善八君磯村豐太郞君
瀨川彌右衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=66
-
067・徳川家達
○議長(公爵徳川家違君) 議事日程第一、
賠償金特別會計法廢止法律案、政府提出、
衆議院送付、第一讀會ノ續
〔國務大臣井上準之助君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=67
-
068・井上準之助
○國務大臣(井上準之助君) 先日ノ高橋琢
也氏ノ御質間ニ對シテ答辯イタシマス、第
一ノ御質問ハ、昨年一月當議院ニ於テ濱口
首相ハ非募債政策ヲ高調シ、又獨逸賠償金
ヲ減債基金ニ繰入レルコトヲ力說シナガ
ラ、忽チ之ヲ翻シテ失業公債ヲ募集シ、又
賠償金ノ減債充當ヲ中止シタ、前後矛盾ノ
コトデアッテ、果シテ政府ニ誠意アリヤ、斯
ウ云フ御質問デゴザイマシタ、昨年ノ······
一昨年デゴザイマス、一昨年ノ七月ニ濱口
內閣ノ出來マシタ頃ニ、政策ト致シマシテ
一般會計ニハ公債ヲ計上シナイ、獨逸賠償
金ハ性質上減債基金ニ繰入レル、斯ウ云フ
コトヲ發表イタシマシテ居ッタノデアリマ
ス、高橋氏ノ述べラレル通リノ事情デアリ
やく、然ルニ今般ハ失業公債ヲ三千五百五
十万圓程募集イタスコトニナッテ居リマス、
是ハ度〓申シマシタ如ク、今日經濟界ノ特
別ノ場合ニ處スル特別ノ處置ト致シマシ
テ、斯樣ナ公債ヲ募集シ、其資金ヲ以チマ
シテ失業者ヲ救濟スルト云フ特別ノ處置ト
シテ已ムヲ得ズ取計ラッタ次第デアリマス、
賠償金ヲ減債基金ニ繰入レマスコトモ昭和
五年ニ一度實行イタシマシテ、之ヲ直ニ一般
會計ニ繰入レマスコトハ誠ニ我〓ト致シマ
シテハ遺憾此上モナイコトデゴザリマス、
旦決メマシタコトヲ一箇年間實行シテ直
チニ之ヲ止メマスコトハ遺憾此上モナイ
コトデアリマスガ、昭和六年度ノ豫算ヲ拵
ヘマス場合ニ、如何ニモ豫期ニ反シマシテ
歲入ガ巨額ニ減リマス、其減ルニ對シテ歲
出ヲ減シテ見テ極力努力イタシマシタケレ
ドモ、行政組織ノ根本ニ立戾クテ整理ヲセヌ
ケレバ此上唯歲出ヲ減スト云フコトハ行政
ノ運用ノ上ニ非常ナ無理ガ行クト云フコト
ヲ認メマシタノデ當分ノ間此獨逸賠償金ヲ
減債基金ニ繰入レルコトヲ止メマシテ、
般ノ歲費ニ繰入レルコトニ致シタノデアリ
マス、誠ニ一旦之ヲ決メテ、僅カ一箇年間
實行シテ直チニ止メナケレバナラヌコトハ
誠ニ遺憾デアリマスガ、如何ニモ歲入ガ急
激ニ巨額ニ減リマス狀態ニ於テハ巳ムヲ
得ズ左樣ナ處置ニ出デタノデゴザイマスカ
ラ、ドウゾ御承知ヲ願ヲテ置キタイト思ヒマ
ス、第二ノ質問ハ賠償金特別會計ヲ今般止
メヤウ、然ルニ獨逸賠償金ヲ一般會計ニ繰
入レルコトハ當分ト云フデハナイカ、ソレ
ナラバ特別會計ヲ止メル必要ハナイデハナ
イカ、斯ウ云フ御質問ノヤウデアリマス、
ソレハ事情ヲ申述ベマスト能ク御了解下サ
ルデアラウト思ヒマスガ、獨逸ノ賠償金特
別會計ト申シマスモノハ、大分以前カラ設
置サレマシテ、獨逸ノ賠償金ハ之ヲ蓄積イ
タシマシテ、サウシテ其使途ヲ求メテ、之
ヲ使フコトニナッテ居ッタノデアリマス、卽
チ特別會計トシテノ必要ガアッタノデアリ
マス、然ルニ其金モ是マデ目的ト致シテ居
リマシタモノニハ大〓支出ヲシ盡シテ仕舞
ヒマシタカラ、根本カラ特別會計ノ必要ガ
ナクナッタノデアリマス、從ヒマシテ今度ノ
賠償金ヲ一般會計ニ繰入レマスコトト、特
別會計ヲ廢止イタシマスコトハ別デゴザリ
やっ、從ヒマシテ今般當分ノ中、獨逸賠償
金ヲ一般會計ニ繰入レテ居ルコトヲ、假リ
ニ他日再ビ減債基金ニ繰入レルト致シマシ
テモ、其ノ際ハ特別會計ヲ設ケル必要ガナ
イノデゴザイマス、サウ云フ事情デアリマ
スカラ特別會計ヲ止メルコトハ特別會計タ
ル必要ガナクナッタカラ止メテシマウノデ
アリマシテ、今般ノ減債基金ノ繰入トカ、或
ハ繰入ヲ一時中止シタコトトハ直接ノ關係
ゴザイマセヌカラ、ドウゾ其點ハ御承知ヲ
顳シテ置キタウゴザイマス、第三ノ質問ハ獨
逸賠償金ノ如キハ國運ヲ賭シテ巨額ナ金ヲ
使クテ獨逸ト戰爭ノ結果得タ金デアル、此金
ヲ唯、有意義ニ使ハズ一般ノ歲入ニ繰入レ
ルト云フコトハ面白クナイ、何カ之ヲ有意
義ナ意味ニ使ウノガ適當ナ處置デハナイ
カ、斯ウ云フ御尋ネデアリマシテ、寧ロ一
般ノ經費ニ使用スルコトハ不當ダ、斯ウ云
フ意味ノ御質問デアリマシタノデアリマス
ガ、誠ニ御尤モナ御質問デアリマス、世界
戰爭ニ依リマシテ其爲ニ巨額ナ經費モ使ヒ
マシテ、國債モ增加シテ居リマス、從ッテ一
般的ノ之ヲ財源ニ充當セズニ公債ヲ之ニ
依ッテ返ス、卽チ減債基金ニ充當スルト云フ
コトハ、我ミモ適當ト考ヘマシテ、其意味
ニ於テ減債基金ニ之ヲ充當スルコトノ計畫
ヲ立テタノデアリマス、然ルニ只今ノヤウ
ニ一般歲入ノ激減ノ爲ニ、是デハ行政ノ運
用ヲ妨ゲルカラ、一時已ムヲ得ズ、之ヲ一
般經費ニ充當スルコトニ致シタノデアリマ
シテ、之ヲ當分トシテ成ルベク早ク高橋氏
ノ御質問ノヤウニ有意義ナ使用ノ方法、卽
チ我ミガ減債基金ニ繰入レヤウト云フコト
ニ、又舊ニ戾シタイト考へテ居リマスカラ、
左樣御承知ヲ願シテ置キタウゴザイマス、私
ハ御質問ノ當時、席ニ居リマセヌノデアリ
マシテ、答辯ガ不十分デゴザイマシタラ又
重ネテ御答ヘ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=68
-
069・高橋琢也
○高橋琢也君 簡單デゴザイマスカラ、此
處デ御許シヲ願ヒマス、只今井上準之助氏
ノ御答辯ハ一面釋明ヲナサッタノト、一面
ハ私ガ昨日質問ヲ致シタ點ニ合致シテ居ラ
ヌノデゴザイマスガ、今日ノヤウナ忙シイ
場合ニ、再ビ演壇ニ立"テ質問ヲ致スト云フ
コトハ如何ニモ皆サンニ對シテモ相濟マヌ
次第デアリマスカラソレハ差控ヘマスガ、
只今有意義ニ使ウノハ尤モダ、ソレマデ御
分リニナッテ下サレバ、私ノ質問ヲ致シタ精
神ノ幾分ハ御了解ニナッタノデアル、併シ公
債政策ニ於テハ曩ニモ一新紀元ヲ作ルトマ
デ仰シヤッタノヲ、私ハドウシテ此ヤウナ經
理ヲスルヤウニナッタカト云フコトニ付テ
ハ、幣原代理首相モ御答辯ヲ御避ケニナッ
ク、井上準之助氏モ大藏大臣トシテ答辯ヲ
セラレナカッタノデアル、ソレハ再ビ私ハ詮
議ハ致シマセヌ、併シアレ程ニヤカマシイ、
謂ハバ大言壯語シテ公債政策ヲ御述べニ
ナッタ、私ハ當時實ニ此政策ナレバ公債ハ日
ニ月ニ寧ロ減ジテ行クト云フコトデアルカ
ラ、是ハ結構ナ御話ヲ承テタト思フテ內心喜
ンデ居リマシタ、然ルニ其例ヘバ是ハ大キ
ナ花崗石ノ山ヲ築イテ、ソレヲ大磐石ト思ッ
クモノヲ、コッチノ方ヲ二千万圓、コッチノ
方ヲ一千二百万圓、今日ハ又倫敦條約ニ依。ツ
テ海軍ノ職工ノ整理ヲスル、此失業者ヲ救
濟スル爲ニ又五百八十万圓程公債ヲ募ル、
サウスルト此立派ナ磐石ト思ッテ尾ッタ花崗
石ノ由ヲ、コッチカラ削ラレ、コッチカラ削
ラレ、其上ニ賠償金マデモ當分減債基金ニ
入レルコトヲ見合シタ、見合シタガ將來モ
入レナイノデアルト今仰シヤッタ、斯ウ云フ
ヤウナコトデハ折角立派ナコトヲ仰シヤッ
テモ、今後現內閣ノ聲明スルコトハ何人モ
信用セヌト云フヤウナ結果ニナリマセウト
思ヒマス、ソレハ甚ダ私ハ遺憾ニ思フ、ソ
レ故ニ此點ニハ甚ダ遺憾デゴザイマスルケ
レドモ、最早ヤ時日モゴザイマセヌカラ、
私ハ重ネテ質問ハ致シマセヌ、他ニ機會ノ
アッタ場合ニ井上氏ニ十分ニ御話ヲ致シタ
イト思ヒマス、是デ質問ヲ打切ルコトニ致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=69
-
070・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會
ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=70
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071・徳川家達
○議長(公爵徳川家雄君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=71
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072・西大路吉光
○子爵西大路吉光雲 直ニ本案ノ第二讀會
ヲ開カレムコーヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=72
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073・池田政時
○子勝池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=73
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074・徳川家達
○議長(公爵德川家違君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=74
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075・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=75
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076・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題
ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=76
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077・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=77
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078・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=78
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079・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=79
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080・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=80
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081・徳川家達
○議長(公爵徳川家蓮君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=81
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082・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議
通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=82
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083・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=83
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084・徳川家達
○譲長(公爵徳川家違君) 日程第二、刑事
補償法案、政府提出、衆議院送付、第一讀
會ノ續、委員長報告、特別副委員長鵜澤總
明君
刑事補償法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和六年三月十九日
副委員長鵜澤總明
貴族院議長公爵德川家達殿
〔鵜澤總明君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=84
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085・鵜澤總明
○鵜澤總明君 本案ニ付キマシテハ委員長
中御門侯爵ニ於カレマシテ御差支ノ爲ニ、
私ガ代リマシテ委員會ノ經過及結果ノ御報
〓ヲ申上ゲル次第デアリマス、本案ニ付キ
シマテハ先月ノ二十八日カラ本月ノ十九日
ニ至ルマデ、五囘ニ亙ッテ開會ヲ致シマシ
ク、此間ニ於キマシテ委員竝ニ委員外ニ於
ケル議員等ヨリ政府ニ對シマシテ詳細ノ質
問ノアッタ次第デゴザイマス、先ヅ委員會ニ
於ケル審査ノ主ナル問題ハ、第一ニ刑事補
償法案ノ基本タル精神、ソレカラ第二ニ刑
事補償法案第四條第二項、第三項ニ於テ
被〓人ノ故意又ハ重大ナル過失ヲ以テ補償
除外ノ原因ト爲スコトノ可否、第三、不拘束
ノ儘モテ無罪免訴ノ言渡ヲ受ケタル者ニ補
元ヲ爲サザル理由、第四ニ本案第十九條ノ
規定ニ依ル無罪免訴ノ公〓ヲ不拘束ノ被〓
人ニ及ボサザル理由、第五、軍法會議ニ於
テ豫審ヲ經テ不起訴ノ處分アリタル被疑者
ニ補償ヲ與ヘザルノ理由、第六、殖民地ニ
對スル本法施行ノ有無、第七ニ最近十年間
ノ豫審免訴、公判無罪、再審無罪ノ被告人
員ノ統計、斯ウ云フヤウナ點ガ主ナル質疑
デアリマス、之ニ對シマスル政府說明ノ大
要ハ、第一ニ對シマシテハ、此法案ハ自己
ノ責任ナタシテ未決勾留又ハ刑ノ執行ヲ受
ケタル後、無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受ケタル
者ニ對シ相當ノ補償ヲ得シムルコトヲ以テ
主旨トスルノデアル、併シ此補償ハ無罪ノ
被〓人ガ勾留又ハ刑ノ執行ニ由ッテ被ッタ一
切ノ財產上ノ損害ヲ賠償スルト云フノデハ
ナクシテ、被〓人ノ被リマシタ精神上、身
體上ノ苦痛ヲ慰藉スルコト、卽チ精神上ノ
損害ヲ賠償スルト云フコトガ主眼デアル、
或程度ニ於テ之ニ財產上ノ損害賠償ヲ加ヘ
ルト云フノガ實質デアルト云フノデアリマ
ス、ソレデ本法案ノ賠償ト國家機關タル裁
判官又ハ檢事、司法警察官ノ責任ト云フコ
トヲ當然連繫セシメタ趣旨デハナイ、唯本
法案ニ規定スルヤウナ場合ニ於キマシテ、
何等慰藉ノ方法ガ無イト云フ事柄ハ、國家
道德上ニ於テ默過スベカラザルコトデアル
ト云フ、道義上ノ觀念ニ基キマシテ、本法
ヲ制定シテ法律上ノ補償責任ヲ執ラウトス
ル事柄ガ立法ノ精神デアル、從ッテ本法制定
ノ上ハ、補償ニ關シマシテ、當該本人ト國
トノ間ニ法律上ノ權利義務ノ關係ト云フコ
トガ成立シ得ルコトトナルノデアルト云フ
ノガ、第一ニ對スル政府ノ說明デアリマス、
ソレカラ第二ハ本法案ハ被〓人ノ責ニ歸ス
ベキ事由ナクシテ、之ニ不測ノ禍害ヲ被ラ
シメタ場合ニ限ッテ、補償ヲ與フルト云フコ
トヲ以テ本領ト致スモノデゴザイマスルカ
ラ、第四條第二項第三項ノ如キ規定ヲ設ケ
タコトニナル、外國ノ立法例ニモ亦同一ノ
趣旨ニ出タモノガ多イ、而シテ被告人ガ當
譲官吏ノ誘導訊閱又ハ感迫的訊問ニ因リ虛
僞ノ自白ヲ爲シマシタ場合ノ如キハ、第四
條ノ第二項、第三項ニ規定セラレテ居ル重
大ナル過失ニ因ル行爲デアルト解釋セザル
趣意デアル、斯ウ云フヤウナ點ガ、是ガ第
二ニ對スル政府ノ說明デアリマス、ソレカ
ラ第三ニ對シマシテハ此法案ハ全ク無罪
ノ者ガ起訴ニ因リ名譽ノ毀損ヲ被リタル
者、及ビ勾留又ハ刑ノ執行ニ因ッテ有形ノ損
害ヲ被クタル者其者ヲ以テ、國家ノ慮ルベキ
重大ナ損害ヲ受ケタ者ト認メテ、斯カル場
合ニ對シテ賠償ヲ與ヘルト云フコトヲ、今
日ノ急務デアルト認メテ提案イタシタ次第
デアル、ソレ故ニ勾留又ハ刑ノ執行ノ伴ハ
ナイ場合ニ迄擴張スルト云フコトニ致シマ
スレバ、民事裁判ノ場合ヤ行政處分ノ際ニ
モ及ボサヌケレバナラナイト云フコトニナ
ルノデアッテ、今日ノ財政狀態ニ於キマシテ
ハ國庫ノ負擔ガ到底許サナイト云フヤウ
ナ所迄行クコトニナルデアラウ、此種ノ立
法ト云フモノガ元來我國ニ於キマシテハ最
朝ノ試ミデアリマスルカラ、先ヅ此法案ニ
於ケル最少限カラ出發イタシタイト云フ考
デアルト云フノデゴザリマス、ソレカラ第
四ハ、此法案ハ補償ノ制度ヲ定ムルモノデ
アルカラ、補償ノ裁判ノアック場合ニ付テ、
第十九條ノ規定ヲ設クルコトハ差支ハナ
ィ、併シ不拘束ニテ起訴セラレテ、無罪免
霧ノ言渡ヲ受ケマシタ場合ハ、此法案ニ依リ
シテ補償ヲ與ヘナイ場合デゴザイマスル
カラ、其場合ノ公〓ヲ此法律ノ中ニ規定ス
ルト云フコトハ適當デハナイ、再審無罪ノ
言渡ニ付キマシテノ公〓ハ既ニ刑事訴訟
法第五百十五條ニ規定セラレテ居ルノデア
リマスルガ、通常手續ニ於テ無罪免訴ノ言
渡ガアリマシタ場合ユ付キマシテハ、刑法
改正委員會ニ於キマシテ、或ハ刑法中ニ相
當ノ規定ヲ置カルルコトデアラウト信ズ
ル、又司法省ハ特別ノ規定ガナクトモ、適
當ナ場合ニハ官報ノ彙報欄ニ無罪免訴ノ言
渡ニ關スル記事ヲ掲載スル處置ヲ執ル見込
デアルト云フノガ、第四ニ對スル說明デア
リマス、ソレカラ第五ニ對スル說明ハ、軍
法會議ニ於テ豫審ヲ經テ不起訴ノ處分ヲ受
クル者ノ中ニハ、通常裁判所ニ於テ刑事訴
訟法第三百十三條ニ依ル豫審免訴ノ言渡ヲ
受ケタル者ニ該當スル者モアリ、又其他ノ
理由ニ依リマシテ、不起訴トナル者ヲモ包
含シテ居ル場合ガアルノデアル、而シテ此
起訴處分ヲ命ズル長官ノ命令ト云フモノ
ハ、何等ノ理由ヲモ示スベキモノデナイカ
ラシテ、軍法會議ノ判士ニ於テ、何レノ不
起訴ガ刑事訴訟法第三百十三條ノ免訴ニ該
當スルモノデアルカト云フコトヲ判斷ヲ致
シマシテ、補償ノ決定ヲ爲スコトハ出來ナ
1、ソレ故ニ刑事訴訟法ニ依ル免訴ト同一
ニ見ルコトハ出來ナイ、斯ウ云フノデアリ
マス、是ハ詰リ軍法會議ノ立前ニ於キマシ
テハ、普通ノ刑事訴訟法ノ立前ト違クテ居リ
マシテ、豫審ガ起訴前ノ手續ニナッテ居ルノ
デゴザイマスルカラ、此間ニ普通刑事訴訟
法ト軍法會議トノ聞ノ區別ガアルノデアリ
マス、其點ノ說明デゴザリマス、ソレカラ
第六ニハ本法ヲ植民地ニ施行スル手續上
ノ形式ハ一樣デハナイ、朝鮮、臺灣、關東
州南洋廳等、ソレゾレ異ナルモノデアラ
ウト思ヒマスルケレドモ、本法ノ實質ト云
フモノニ付キマシテハ、各植民地ニ採用セ
ラレルコトニナル見込デアル、斯ウ云フノ
ガ政府ノ御答辯デゴザリマス、ソレカラ第
七ノ統計ニ付キマシテハ、當局ノ提出ノ參
考資料、第一表、第二表、第三表ニ詳シク
アルノデゴザリマシテ、之ヲ一々讀ミマス
ルコトハ煩ニ亙リマスルカラ省キマスケレ
ドモ、大正八年カラ昭和三年ニ至ル十年間
ニ、豫審免訴トナリマシタ者ニシテ、勾留
セラレタル人員ハ、罪トナラザルモノガ二百
三十九人、犯罪ノ嫌疑ナシト云フ者ガ千五
百八十五人、合計一千八百二十四人、一箇
年平均百八十二人ト四分ニナル、ソレカラ
同ジク無罪ノ判決、之ヲ受ケマシタ被〓人
ノ中ニ勾留セラレマシタ人員ハ、罪トナラ
ズト云フ裁判ニ依ッタ者ガ一一百四十六人、犯
罪ノ證據ナシト言ハレタ者ガ四千三百四十
六人、合計四千五百九十二人デアリマス、
一箇年ノ平均ガ四百五十九人ト二分、ソレ
カラ再審ニ依フテ無罪トナリマシタ被〓人
員、是ハ合計三十四人、一箇年平均三人ト
四分、非常上告ニ依リマシテ無罪トナリマ
シタ被〓人員ガ合計五人、一箇年平均ガ五
分ト斯ウ云フヤウチ數ニ相成フテ居ルノデ
アリマス、此外ニ本案ノ適用ニ當リマシテ
第四條二項三項ノ故意、又ハ重過失ヲ穿鑿
スルト云フヤウナコトニ沒頭イタシマシ
テ、本法ノ精神ヲ滅却シ去ルヤウナコトガ
アッテハナラナイト云フコトニ付キマシテ、
實例ヲ擧ゲテ委員ニ於テ政府ニ質問ヲ致シ、
政府モ此點ニ付キマシテハ特ニ考慮ヲ拂フ
ト云フヤウナ答辯デゴザイマシタ、詳細ハ
委員會ノ速記錄ニ依ッテ御覽ヲ願ヒタイノ
デアリマス、委員會ハ大體ニ於キマシテ結
局此衆議院ノ修正ニ係ル原案ヲ可決スルコ
トニナッタノデゴザイマスルガ、併シ此可決
ニ際シマシテハ、次ノ如キ希望ヲ附帶條件
トシテ決議ヲ致シタ次第デゴザイマス、其
希望條項ヲ朗讀イタシタイト思ヒマス「本
法案ハ頗ル時宜ニ適シタルモノナリト雖モ
其規定スル所不備ノ點多シ政府ハ宜シク將
來是レガ補正ノ途ヲ講ゼラレンコトヲ望
ム」、是ガ卽チ附帶條項デアリマス、卽チ今
日ノ場合ニ於テ斯ノ如キ法案ノ出ルコトハ
時宜ニハ適シテ居リマスルケレドモ、能ク
考ヘマスルト不備ノ點ガ甚ダ多イ、多イカ
ラ、先ヅ本案ノ成立ノ後ニ於テ政府ハ宜シク
將來ニ補正ノ途ヲ講ゼラレテ、此法案ヲ完
璧ノモノニシテ貰ヒタイト云フコトガ希望
ノ趣旨デゴザイマス、以上ノ次第デゴザリ
マシテ、此段御報〓ヲ申上ゲル次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=85
-
086・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ノ第二讀會
ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=86
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087・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=87
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088・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第二讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=88
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089・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=89
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090・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=90
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091・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=91
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092・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案全部ヲ問題
ニ供シマス、全部原案ニ御異存ゴザイマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=92
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093・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=93
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094・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=94
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095・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=95
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096・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=96
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097・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=97
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098・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 第二讀會ノ決議
通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=98
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099・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=99
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100・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 日程第三、入營
者職業保障法案、第四、軍事救護法中改正
法律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會
ノ續、委員長報告、子爵渡邊七郞君
入營者職業保障法案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和六年三月十八日
委員長子爵渡邊七郎
貴族院議長公爵徳川家達殿
軍事救護法中改正法律案
右可決スヘキモノナリト議決セリ依テ及
報告候也
昭和六年三月十九日
委員長子爵渡邊七郞
貴族院議長公爵德川家達殿
〔子爵渡邊七郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=100
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101・渡邊七郎
○子爵渡邊七郞君 只今ノ議題ニ相成ッテ
居リマス入營者職業保障法案ノ特別委員會
ハ、一昨日開會イタシマシテ、委員長副委
員長ノ五選ガゴザイマシテ、不肖私ガ委員
長ヲ僣越ナガラ勤メマシクノデ、玆ニ委員
會ノ經過及ビ其結果ニ付テ御報告ヲ申上ゲ
そく、尙ホ本案提出ノ理由及ビ其大綱ハ本
議場ニ於キマシテ政府委員カラ御說明ガゴ
ザイマシタカラ、玆ニ之ヲ省略イタシマシ
テ、入營者職業保障案ニ付キマシテハ外國
ノ立法例、退營者ノ就職、復職及ビ職業紹
介現況、本法ノ施行ノ所管關係等、一般的
ノ條項ニ付キマシテノ質疑ノ外、各條項ニ
互リマシテ、陸軍大臣及ビ內務陸軍兩省ノ
政府當局ヨリ說明ヲ聽取イタシマシタ、審
議ノ結果、本案ノ制定ハ現下ノ時勢ニ鑑ミ
マシテ、極メテ緊要、意義アルモノト認メ
マシタ、尙ホ木案ノ第七條ニ對スル衆議院
ノ修正モ亦適當ト認メマシテ、全會一致ヲ
以テ可決イタシマシタ次第デゴザイマス、
次ニ軍事救護法中改正法律案特別委員會ノ
經過ヲ御報告ヲ申上ゲマス、前ノ入營者職
業保障法案特別委員會ニ付託ニ相成リマシ
タ軍事救護法中改正法律案ニ付キマシテ
ハ、一昨日及ビ昨日ノ二囘ニ亙リ特別委員
會ヲ開キマシテ、政府ト質疑應答ヲ重ネタ
ノデアリマス、要スルニ本改正案ハ現行法
ノ被保護者ノ範圍ヲ廣メ、救護ノ種類ヲ增
シ、且ツ新ニ埋葬ニ關スル規定ヲ設ケ、仍テ
軍人及ビ其遺家族ノ救護ノ徴底ヲ圖ラムト
スルモノデアリマシテ、極メテ適切ナル案
デアリマス、全會一致、是亦可決イタシマ
シタ次第ゴザイマス、何卒兩法案ノ御協贊
アラムコトヲ切望イタシマス、右御報告申
上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=101
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102・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 只今渡邊特別委
員長ノ報告セラレマシタ兩案ノ、第二讀會
ヲ開クコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=102
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103・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=103
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104・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ兩案ノ第二讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=104
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105・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=105
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106・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=106
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107・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=107
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108・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 兩案全部ヲ問題
ニ供シマス、原案ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=108
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109・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=109
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110・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ兩案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=110
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111・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=111
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112・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=112
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113・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=113
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114・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 第二讀會ノ決議
通リデ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=114
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115・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=115
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116・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 書記官ヲシテ報
告ヲ致サセマス
〔瀨古書記官期讀〕
本日衆議院ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
關稅定率法中改正法律案
關稅定率法中改正法律案
本日委員長ヨリ左ノ報告書ヲ提出セリ
寄生蟲豫防法案修正報告書発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=116
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117・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ノ議事日程ハ
決定次第本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマ
ス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後五時一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005903242X03619310320&spkNum=117
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