1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
刑事補償法案(政府提出)
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會議
昭和六年二月九日(月曜日)午前十時五十五分開議
出席委員左の如し
委員長 横山金太郎君
理事 服部英明君
理事 松井郡治君
理事 篠原陸朗君
理事 牧野賤男君
理事 小野寺章君
小俣政一君 一松定吉君
關口志行君 斯波貞吉君
春島東四郎君 岡田春夫君
飯村五郎君 上田孝吉君
米田規矩馬君
出席國務大臣左の如し
司法大臣 子爵 渡邊千冬君
出席政府委員左の如し
内務參與官 一宮房治郎君
大藏政務次官 小川郷太郎君
大藏書記官 川越丈雄君
陸軍一等主計正 矢部潤二君
海軍主計大佐 佐々木重藏君
司法參與官 井本常作君
司法省刑事局長 泉二新熊君
本日の會議に上りたる議案左の如し
刑事補償法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=0
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001・横山金太郎
○横山委員長 別委員會ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=1
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002・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 刑事補償法案ニ付キ
マシテ提出ノ理由ハ先般本會議デ川崎
次官カラ大體御說明ヲ申上ゲテアルノ
デアリマス、其點ハ御諒承下サッテ居
ルコトヽ存ジマス、尙ホ此法案ノ趣旨
ナリ法律關係其他ニ付キマシテハ、御
質問ニ依リマシテ政府委員カラ詳細申
上ゲルコトニ致シタイト思ヒマス、私
カラ此機會ニ於テ唯一二點此法案ノ精
神ニ付テ豫メ申上ゲテ置キマシテ、又
私ガ御答辯ヲ申上ゲテ宜シイ御質問ニ
ハ私カラ御質問ニ應ジテ申上ゲルコト
ニ致シタイト思ヒマス
此刑事補償法案ト云フヤウナ法律ノ
制定ヲシタイト云フコトハ、從來トモ
折々世間ニ唱ヘラレタコトデアルノデ
アリマス、ソレガ此度幸ニ提案ノ運ニ
至ッタノデアリマシテ、是ハ各黨ヲ通ジ
テ大體ノ精神ニ於テハ御異存ノナイコ
トデアラウト存ジマス、此法案ヲ刑事
補償法ト、斯ウ云フ名前ヲ付ケマシタ
其コトヲ一言申上ゲタイト存ジマス、
世間デハ之ヲ新聞紙等ニ於キマシテモ
往々國家補償法ト云フ名前デ呼ンデ居
ルノデアリマスガ、之ヲ國家補償法ト
是ヨリ刑事補償法ノ特致サズニ刑事補償法ト致シマシタ理由
ヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス、是ハ
國家補償法ト言ハナカッタノハ共一
ツノ理由ハ國家補償法ト致シマスト、
行政上ノ補償モ含ムト云フ解釋ヲセラ
レル虞ガアリマスノデ、國家ト云フト
立派デハアリマスケレドモ、サウ云フ
廣イ文字ハ使ハヌ方ガ宜イト云フノ
デ、國家補償ト云フ字ヲ避ケタ譯デア
リマス、ソレナラバ行政補償ト云フモ
ノヲ除外致シマシタナラバ、司法補償
デモ宜イデハナイカト云フヤウナ議論
ガ起ルノデアリマスケレドモ、司法ニ
付キマシテモ、民事ノ關係ニ於キマシ
テハ此補償法ノ適用ヲ認メナイノデア
リマスカラ、ソレデ之ヲ刑事補償法ト、
斯ウ云フコトニ、致シタノデアリマシ
テ、是ガ此刑事補償法ト云フ名ヲ付ケ
マシタ大體ノ趣旨デアリマス、此法律
ハ唯二十條ヨリ成立ッテ居リマスケレ
ドモ、各位ハ御讀ミニナッテ法ノ精神
ハ總テ御諒解ニナッテ居ルコトヽ思フ
ノデアリマス、此法案ノ一ツノ主ナ建
前ハ是ガ賠償ト云フコトデナクテ補償
ト云フコトデアル、斯ウ云フ觀念ヲ以
テ御讀ミ下サルト云フト此法案ガ總テ
御諒解ニナルコトヽ存ジマス、此補償
法ノ適用ヲ致スヤウナ場合ニ於テ、國
家ガ賠償ヲスルト云フヤウナコトハ絕
對的ニイケナイコトデアル、サウ云フ
觀念ハ玆ニ考ヘラレナイト同時ニ、國
家ガ賠償シナケレバナラナイ、所謂不
法行爲ニ對スル損害ヲ賠償スルト云フ
意味ノ賠償ト云フコト、國家ノ權力行
爲ニサウ云フ觀念ガ是非伴ハナケレバ
ナラヌト云フコトノ、積極的理由モ亦
少シモ存在シナイノデアリマス、國家
ガ賠償スル義務モナシ、補償スル義務
モナイノデアリマスケレドモ、國家ハ
一ツノ仁政ヲ布キ國民ニ對シテ同情慰
藉ノ意ヲ表スルノガ、此ノ法律ノ精神
デアリマシテ、國家ガ何カ不法ノ事ヲ
ヤッタカラ其賠償ヲ致スト云フヤウナ
コトハ此法律ノ精神ノ中ニハ少シモ
含マレテ居ナイノデアリマス、檢事ガ
起訴ヲ致シマシテ、ソレガ豫審免訴ニ
ナリ又ハ第一審ノ判決デ無罪ニナッタ
カラト云ウテ、其起訴ハ決シテ不法行
爲デハナイノデアリマス、又第一審ノ
判決デ有罪ニナッタ者ガ第二審デ無罪
ニナッタカラト云ウテ、一審ノ判決ハ
不法行爲デアル、サウ云フコトハ今日
ノ立法ノ建前カラ申シマシテ少シモ存
在シテ居ラナイノデアリマス、併ナガ
ラサウ云フヤウナ場合ニ氣ノ毒デアリ
マスカラ國家ハ是ニ適當ナル慰藉ノ方
法ヲ講ズル、サウ云フ精神カラ補償ト
云フコトヲ申スト云フノガ此法律ノ建
前デアルト思ヒマス、隨フテ補償ト云フ
コトハ國家ガ或人ニ與ヘマシタ損害ヲ
精算スルト云フヤウナサウ云フ意味デ
ナイノデアリマシテ、國家ガ發意ニ依ツ
テ或ル手段ヲ講ズル、ソレハ此補償法
ノ中ニ規定シタヤウナ方法ニ依ッテ行
フト云フノガ、此補償法ノ精神デアル
ノデアリマス、先刻私ハ賠償ト云フヤ
ウナコトハ絕對的ニ國家ノ爲スベキモ
ノデナイト云フ程ニ强イ理由ガアルノ
デハナイト申シマシタガ、不便ハ大變
伴フト云フコトハ考ヘラレルノデアリ
W 、ソレハドウ云フ譯デアルカト申
シマスト或人ガ起訴セラレテモ遂ニ無
罪ニナッタ、第一審デ無罪ニナッタ、ソレ
ヲドウ云フ損害ヲ-金額ニ見積ッテ、
ドノ位ノ損害ヲ受ケタカト云フヤウナ
コトハ是ハ計算スルコトハ殆ド困難
デアルデアラウト思ヒマス、殊ニ死刑
ニ處セラレタ場合ニ於テハ、如何ニシ
テ其損害ノ高ヲ見積ルカト云フヤウナ
コトハ殆ド不可能デアリマス、又之
ヲ金錢ニ見積ルト云フコトニ致シマス
ト云フト、場合ニ依リマシテハ其程度
ガ豫メ分リマセヌカラ、遂ニ國家ノ財
政上ニモ一種ノ不安ヲ感ズルト云フコ
トモアルノデアリマス、斯樣ナ各方面
カラ考ヘマシテ、是ハドウシテモ補償
ト云フ制度ニシタ方ガ宜イト云フノ
デ、此法律案ト云フモノハ成立ッテ居リ
やり、是ガ大體ノ此法案ノ精神デアリ
やっ、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=2
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003・泉二新熊
○泉二政府委員 此法案ハ極ク新シイ
制度デアリマスカラ、大體ノ精神ハ只
今司法大臣カラー御述ニナッタ通リデア
リマス、尙ホ大體ノ事ヲ豫メ申上ゲテ
置ク方ガ御便宜デハアルマイカト思ヒ
マス、皆樣ノ御都合ニ依リマシテ私カ
ラ豫メ申上ゲヨウト思ヒマス、凡ソ此
法案ニ付テ最モ重要ナ點ハ、第一ニ刑
事補償ノ基本觀念、第二ニハ刑事補償
法ノ實體、第三ニハ刑事補償ヲ得ル受
償主體、第四ニハ補償ノ手續、斯ウ云
フヤウナコトニ是ハ分レテ居ルノデア
リマス、其四編ニ分ケマシテ極ク大體
ヲ申上ゲテ置カウト思ヒマス
第一ノ補償ノ基本觀念ハ只今大臣カ
ラ御述ニナッタ通リデアリマシテ、要シ
マスルニ民法ノ不法行爲ニ對スル損害
賠償ト云フ觀念トハ全ク出發點ガ違ッ
テ居ルト云フコトデアリマス、民法上
ノ損害賠償、卽チ七百九條以下ノ規定
ハ故意過失ニ依ル不法行爲デアルト
云フコトヲ前提トシテ、其不法行爲ニ
依ッテ生ジタル損害ヲ賠償スルト云フ
コトガ、民法ニ依ル損害賠償ノ觀念デ
アルト云フコトハ申上ゲル迄モナイノ
デアリマスルガ、此法案ニ於キマシテ
ハ大臣カラ御述ニナリマシタヤウニ、
官吏ノ不法行爲ヲ以テ補償ノ原因トス
ルノデハナイ、結果ノ上カラ見テ無罪
トカ、免訴ニナッタモノハ氣ノ毒デアル
カラ、一種ノ慰藉ヲ與ヘテヤラウト云
フコトガ根本ノ考デアリマシテ、官吏
ガ不法行爲ヲシタカラ之ニ對シテ賠償
トカ、補償ヲ與ヘルト云フ趣旨デナイ
ト云フコトハ特ニ御注意ヲ願ヒタイノ
デアリマシテ、勿論官吏ガ罪無キ者ニ
對シテ、故意ニ不法ノ處分ヲスルト云
フコトガアリマスレバ、ソレヲ不問ニ
付スル譯ニハ行キマスマイガ、其問題
ハ今日ト雖モ別ニ其解決ノ途ハアルノ
デアリマス、卽チ一面ニ於テハ其事ガ
民法上ノ不法行爲デアルナラバ官吏ハ
自己ノ爲シタル不法行爲ニ付テノ民法
ニ依ル損害賠償ノ責任ヲ免レナイノデ
アル、ソレカラ更ニ他ノ一面ニ於キマ
シテハ國家ニ對シテハ懲戒ノ處分其
他ノ責任ヲ負フコトハ言ヲ俟タヌノデ
アリマシテ、ソレハ此法律ガナクテモ
今日ノ制度ニ於テモ責問スルコトガ出
來ルノデアリマス、隨テ此法律デハサ
ウ云フコトハ全ク別ノ問題トシテ居ル
ノデアリマス
第二ニ刑事補償ノ實體デアリマス、
是ハ法案ノ第一條ニモ、ソレカラ其以
下ニモ補償ヲ給與スルト云フコトガア
リマス、補償ト云フコトヽソレカラ
賠償ト云フコトヽドウ違フカト云フ疑
問ガ能ク出ルコトデアリマスルガ、文
字其モノニ依リマシテハ、或ハ補償ト
云フ言葉ヲ使ッテモ、賠償ト云フ言葉ヲ
使ッテモ、サシタル違ガナイカモ知レマ
セヌケレドモ、兎ニ角民法上ノ損害賠
償デナイト云フコトヲ、「補償」ト云フ
言葉デ、卽チ言葉ノ區別ニ依リマシテ
表ハシタイト云フ趣意デアリマス、實
體ハ法案ヲ御覽ニナリマスレバ兎ニ角
或ル程度ノ金錢ニ依ル補償デアリマス
ガ、併ナガラ何ニ對シテ補償スルノデ
アルカト申シマスルト云フト、ソレハ
財產上ノ損害ヲ補償スルノデハナイ、
卽テ無罪免訴ヲ受ケタル者ガ、財產上
ノ損害ヲ被ッタカラ、其損害ヲ賠償ヲシ
テヤルト云フ趣意デハナイ、寧ロ精神
上ノ苦痛ニ對シテ慰藉ヲスル、此精神
上ノ苦痛ニ對シテ慰藉ヲスルト云フ事
モ、或ル意味ニ於キマシテハ、ヤハリ
損害ノ賠償ト云フ觀念ニ入リ得ルノデ
アリマス、ソレハ民法ノ七百十條ノ規
定ニ依リマシテモ、或ル意味ニ於テハ精
神上ノ慰藉ヲスル事ガヤハリ損害賠償
ノ方法デアルト云フコトニナリマセウ
ガ、此法案ニ於キマシテハ、兎ニ角其
故意、過失ヲ原因トスル賠償、補償デ
ナイト云フコト、ソレカラ其補償ハ財
產上ノ損害ヲ補償スルノデハナクシ
テ、寧ロ精神上ノ苦痛ニ對スル慰藉ヲ
スルト云フ意味ノ補償デアル、斯ウ云
フコトヲ申上ゲテ置キタイト思ヒマス
ソレカラ第三ニハ受償主體ノ問題デ
アリマス、受償主體ヲドレ位マデニ擴
ゲルカ、或ハドレ位ニ制限スルカト云
フコトニ付キマシテハ、其標準ノ立テ
方ニ依リマシテ色々考ヘラレルノデア
リマス、例ヘバ無罪免訴ノ言渡ヲ受ケ
タ者ニ對シテハ總テノ場合ニ補償ヲ與
ヘルト云フコトモ考へ得ラレルノデア
リマス、或ハモット進ミマシテハ、檢事
ガ起訴ヲシナイ、不起訴ニシタト云フ
場合ニモ亦賠償ヲシテ宜カラウト云ッ
タヤウナ風ニ、其範圍ハ幾ラデモ、廣
クモ考ヘルコトガ出來、狹クモ考ヘル
コトガ出來ルノデアリマス、併シ今日
ノ大體ノ諸國ノ立法例ノ方針カラ考ヘ
マシテモ、サウ廣クハ認メテ居ラナイ、
御承知ノヤウニ是ハ一種ノ公法上ノ賠
償デアリマセウガ、此公法上ノ賠償ノ
制度ハ近來ノ發達ニ係ルモノデアリマ
シテ、民法上ノ不法行爲ニ因ル損害賠
償ノヤウニ廣クナッテ居ラナイ、マア漸
次擴張サレテ行クノデアリマセウガ、
今日ハマダ其發達ノ初期ニアルノデア
リマシテ、餘程重要ナ場合、餘程必要
ナル場合ニ限ッテ補償ヲ與ヘルト云フ
コトニナッテ居ルノデアリマス、ソレデ
大體ノ上カラ申シマスト云フト、著シ
イ不名譽ヲ被ッタトカ、ソレカラ身體ニ
對スル著シイ苦痛ヲ受ケタ、斯ウ云フ
風ナ兩方面カラ-無形ノ苦痛、有形
ノ苦痛ヲ併セテ被ッテ居リマシテ、是ハ
先ヅ人道ノ上カラ見テモ捨テ置クコト
ガ出來ナイト云フ程ニ著シイ重大ナ場
合ニ、補償若クハ賠償ガ與ヘラレルト
云フコトニナッテ居ルノデアリマス行
政處分ニ依ッテ苦痛ヲ被ルト云フ事モ
隨分アルノデアルカラ、ソレモ補償ス
ベシナドト云フヤウナ問題モ能ク聞ク
コトデアリマス、併ナガラ國家ノ權力
處分ノ中デ一番不名譽ト云フ事トソ
レカラ身體自由ニ對スル苦痛トヲ著シ
ク科スルモノハ刑事ノ處分デアルト
思フノデアリマス、彼ハ犯罪者トシテ
起訴サレタト云フ、是ホド不名譽ハナ
イト思フノデアリマス、借金ヲシテ民
事ノ訴訟ヲ起サレタト云フコトモ必シ
モ名譽デハアリマスマイケレドモ、彼
ハ犯罪人トシテ起訴サレタト云フ事ニ
比ベレバ何デモナイノデアラウト思ヒ
やっ、ソレカラ他ノ處分デアリマスト
財產ノ制限トカ處分トカ云フヤウナ事
ハ是ハ民事ノ裁判デモ行政ノ處分デ
モアルコトデアリマスガ、刑事ノ處分
ノヤウニ、甚シキハ生命ヲ絕ツトカ、
或ハ終身ニ亙ッテ懲役禁錮ニスルナド
ト云フヤウナ著シイモノハナイノデア
リマス、サウ云フ點カラ致シマシテ、
先ヅ以テ此刑事ノ處分ト云フコトニ付
テ、公法上ノ賠償制度ガ發達ノ出發點
ニナッテ居ル所以デアラウト思ハレル
ノデアリマス、此法案ニ於キマシテモ
サウ云フ趣意デ不名譽ト身體ニ對スル
苦痛ト、此二元的ノ條件ガ具ッタ場合ニ
ノミ補償ヲヤル、其他ノ場合ニハ補償ハ
先ヅ此法案トシテハ見ナイノデアル、
デアリマスカラ例ヘバ民事ノ裁判ニ付
テハ、只今申上ゲマシタヤウナ趣意カ
ラ致シマシテ、刑事補償ト云フモノト
同樣ノ著シイ不利益ヲ釀スモノデハナ
イノデアリマスカラ、是ハ諸國ノ立法
例デモ同ジヤウニ、民事補償ト云フモ
ノハ刑事補償ト竝ベテアリマセヌ、此
案デモヤハリ民事補償ハ見テアリマセ
ヌ、又行政補償ノ方モ同ジヤウナ意味
ニ於キマシテ此案デハ全ク見テ居ナイ
ノデアリマス
ソレカラ補償ヲ受ケル資格ヲ認メラ
レルモノハ、全ク自分ノ犯罪ノ責任
罪責ガナイ、主觀的ニモ客觀的ニ
モ罪責ノナイモノデアルト云フ事ヲ確
定セラレタル者ニ限ル、斯ウ云フ主義
ヲ執ッテ居リマス、便宜ノ爲ニソレヲ寃
罪者ト云フ言葉デ指シテ見タイト思ヒ
マス-寃罪者タル事ガ確定セラレル
コトガ必要デアル、寃罪者ト云フノハ
只今申シマシタヤウニ、主觀的ニモ客
觀的ニモ其者ニ罪責ハ無イノダト云フ
事ノ確定セラレル者タルコトヲ要スル
ノデアリマス、デアリマスカラ例ヘバ
人殺シヲシタト云フ客觀的ノ事實ハア
ルケレドモ狂人デアルカラ無罪ニナッ
タ、斯ウ云フ場合ハ補償ヲ與ヘルノデ
ナイ、其事ハ法案ノ第四條ノ第一號ニ
モ書イテアリマス、卽チ其場合ニハ主
觀的ニハ責任ガナイケレドモ、客觀的
ノ事實ニ付テノ責任ハアルノデアルカ
ラ、サウ云フ者ニ對シテハ補償ヲヤラ
ヌノデアルト云フコトニナリマス、ソ
レカラ又第一條ヲ御覽ニナルト云フ
ト、免訴ノ中デモ刑事訴訟法第三百十
三條ノ規定ニ依ッテ免訴ノ言渡ヲ受ケ
タル者ニ限ッテ補償ヲ與ヘルコトニナツ
テ居リマスガ、此刑事訴訟法三百十三
條ト申シマスルノハ、結局其人間ノ犯
罪事實ガ無イ、或ハ證據ガ無イ、斯ウ云
フ場合ニ付テノ免訴デアリマス、三百
十四條ニ擧ゲテアリマスルヤウナ色々
ノ-既ニ判決ガ確定シタモノデアル
トカ、サウ云フモノガ三百十四條ニハ
擧ゲテアリマス、三百十四條ニハ「犯
罪後ノ法令ニ因リ刑ノ廢止アリタルト
キ」「法令ニ於テ刑ヲ免除スルトキ」ト
云フヤウナコトナドガ列擧サレテアリ
マスガ、是等ノモノモ補償ヲ與ヘヨウ
ト考ヘレバ、ソレハ與ヘテナラナイト
云フ理窟ハナイノデアリマスケレド
モ、兎ニ角是等ノモノハ犯罪責任ノ無
イコトガ確定サレテ居ラヌ、手續ノ上
カラ免訴ニナリマスケレドモ、實體的
ニハ犯罪責任ノ無イト云フコトハ確定
サレテ居ナイモノデアルカラ、サウ云
フモノニハ補償ノ規定ノ適用ヲ爲サナ
イト云フ方針デ本案ハ出來テ居リマス
ソレカラ又例ヘバ斯ウ云フ場合モア
ル、御承知ノヤウニ今日ノ刑事訴訟法
デハ起訴前ニ强制處分ヲシテ勾留ヲス
ルト云フコトモアリマス、ソレカラ現
行犯處分デ勾留ヲスルナドト云フコト
モアリマスガ、併シ取調ノ結果之ヲ起
訴シナイ、不起訴ノ處分ニスルト云フ
場合ガアリマス、サウ云フ場合ニ何故
補償ヲシナイカト云フ問題、多分本會
議ノ松谷君ノ質問ガ其點ニ觸レテ居タ
ノヂヤナイカ、アノ質問ハハッキリ致シ
マセヌデシタケレドモ、或ハサウ云フ
意味デアッタカモ知レヌト思ヒマスル
ガサウ云フ質問モ大分世間デモアル
ノデアリマスケレドモ、是ハ御承知ノ
ヤウニ不起訴ノ處分ハ確定シナイノデ
アル、第一ニ起訴猶豫ヲ受ケル者ガ隨
分澤山アル、今日起訴セラレルモノヨ
リモ起訴猶豫ニナル者ノ方ガ二倍モア
ルノデアリマス、サウ云フ起訴猶豫處
分ハ、犯罪アリト認メラレルケレドモ
刑事訴訟法二百七十九條ノ規定ニ基キ
マシテ、起訴ヲ猶豫シテ置クト云フノ
デアリマスカラ、サウ云フモノニ對シ
テ補償ヲヤラナイト云フコトハ是ハ當
然ノコトデアルト思ヒマス、其他證據
無シト云フ理由デ以テ不起訴ノ處分ヲ
スルト云フ場合デアリマシテモ、是ハ
後日更ニ證據ガ出テ來マスレバ何時デ
モ起訴ヲスルコトガ出來ルノデアリマ
ス、起訴ノ處分ニハ確定力ガナイ、卽
チ被嫌疑者ガ何等ノ罪跡無シト云フコ
トノ確定ヲスル處分デナイノデアリマ
スカラ、今ノヤウナ場合ニモ補償ヲ與
ヘナイト云フ精神デ此法案ハ出來テ居
ルノデアリマス
ソレカラモウ一ツ反對ニ、今度ハ起
訴ハシタケレドモ勾留モサレナイデ、
卽チ不拘束ノ儘デ無罪ニナッタトカ或
ハ免訴ニナッタト云フ場合ガ出テ來ル
ノデアリマスガ、是モ先刻申シマシタ
ヤウニ、二元主義デ兎ニ角名譽ト云フ
コトヽ身體ニ對スル苦痛、兩方併セテ
著シイ苦痛ヲ與ヘタ場合ニ限ッテ、之ヲ
放任シテ置クト云フコトハ如何ニモ人
道上カラ言ウテモ不都合デアルカラ、
補償ヲ與ヘテヤラウト云フ立場カラ是
ハ出タノデアリマスカラ、不拘束ノ儘
ニ無罪免訴ノ言渡ヲ受ケタル者ニ對シ
テハ補償ヲ與ヘナイ、斯ウ云フ方針デ
是ハ出來テ居ルノデアリマス、尤モ起
訴サレタル不名譽ト云フモノハ著シイ
デハナイカト云フコトハ考ヘラレマス
ケレドモ、モウ一方ノ方ノ身體ニ對ス
ル苦痛ト云フモノガ伴ッテ居ナイカラ、
兎ニ角之ヲ省ク、斯ウ云フノデアリマ
スノミナラズ他ノ一面ニ於テハ御承
知ノヤウニ、再審ニ於テ無罪ノ言渡ノ
アル場合ニ、今日ノ刑事訴訟法ニ於テ
ハ總テ無罪ノ公告ヲスルト云フコトニ
ナッテ居ルノデアリマス、更ニ之ヲ附加
ヘル必要ハナカラウ、通常ノ手續ニ於
テ無罪免訴ニナッタ場合ニ付テハ、サウ
云フ公〓方法ガアリマセヌケレドモ、
先刻申シマシタヤウナ大原則ノ上カラ
サウ云フ場合マデ此法律ニハ加ヘナク
テモ宜カラウト云フコトデ省イテアル
ノデアリマス、此法案ヲ御覽ニナリマ
スレバ分リマス通リ、勿論只今申シマ
スヤウニ、通常ノ手續デ起訴サレタガ、
有罪ノ判決ニナラナイデ、無罪又ハ免
訴ニナッタト云フ場合、及ビ一旦通常ノ
手續デ有罪ノ確定判決ヲ受ケテ、刑ノ
執行ヲ受ケテ居ルケレドモ、後日再審
又ハ非常上告ニ於テ無罪ノ判決ヲ受ケ
タト云フ場合、兩方トモ此法案ノ第一
條ニ包括的ニ規定シテアルノデアリマ
スガ、外國ノ立法例ニ依リマスルト、
再審ノ無罪ノ場合ダケ補償ヲヤルガ、
通常手續ニ於ケル無罪免訴ニ付テハ補
償ヲ與ヘナイト云フ立法例モアリマス
ガ、兩方與ヘルト云フ立法例モアリマ
ス、何レ其中ニ參考書ヲ御手許ニ差上
ゲルノデアリマスガ、此外國ノ立法例
ノ參考資料ノ中ニ載セテアリマス、ソ
レニ依リマスルト、檢事ノ手ニ於テ不
起訴ノ處分ヲシタ場合ニ於テモ尙ホ補
償ヲ與ヘルト云フ例モ獨逸邊リニアル
ヤウデハアリマスケレドモ、其點ニ付
テハ先程申シマスヤウニ、本案デハソ
コマデ擴ゲルコトハ不適當デアルト認
メテ入レナイノデアリマス
尙ホ一寸補ッテ置キマスルガ本案ノ
第四條ニ、補償ヲ與ヘル場合ノ除外規
定ガ設ケテアリマス、是ハ色々御疑問
ガアルコトデアラウト思ヒマスカラ、
本條ニ入ッテ御質問ニ依。テ御答シタイ
ト思ヒマス、要スルニ刑法上ノ犯罪ニ
マデナラナクテモ、著シイ不都合ト認
メラルヽ行爲ニ對シテ補償ヲ與ヘナイ
トカ、本人ノ方デ故意過失ニ基イテ此
手續ガ起ッタト云フ場合ニ付テハ補償
ヲ與ヘナイトカト云フヤウナ事ヲ四條
ニ書イテアルノデアリマス、精シイ事
ハ其時申上ゲマス
第四ニハ補償ノ手續ノ問題デアリマ
スガ、補償ノ手續ハ、是ハ各國ノ立法
例ニ依ッテ色々ニナッテ居ルノデアリマ
スガ、本案ニ於キマシテハ無罪免訴ノ
言渡ヲナシタル裁判所又ハ免訴ノ言渡
ヲナシタル豫審判事ノ屬スル裁判所ガ
決定ヲ以テ、刑事補償ヲ與フベキヤ否
ヤト云フコトヲ決定スル、尤モソレニ
付テハ請求ノアルコトヲ必要トシ、申
立ノアルコトヲ必要トスル、申立アル
場合ニハ只今ノ手續ヲ以テ許否ヲ決定
スルコトニナッテ居リマス、本會議デ、
此手續ヲ判決デヤラナイデ決定デヤル
ト云フコトノ理由ハドウ云フモノカト
云フ牧野君カラ御尋ガアリマシテ其時
御答シテ置キマシタガ、要シマスルニ
此補償ノ手續ハ、詰リ刑事ノ事件ガアリ
マシテ、其刑事々件ヲ無罪トカ免訴ト
カ云フ裁判ヲスルニ熟スル程度ノ取調
ガ旣ニ出來テ居ル、其取調ニ基キマシ
テ、大體ハ、其取調ヲ根據ト致シマシ
テ此法律ノ規定スル補償ヲ與ヘル原因
ガアルカドウカト云フコトヲ決定スル
ノデアリマスカラ、ソレ程複雜ナ困難
ナ手續デハナイノデアリマス、ソシテ
若シ必要ガアレバ、何時ニテモ又公判
ヲ開イテ取調ヲスルコトガ出來ルヤウ
ニサヘナッテ居レバ宜シイノデアリマ
シテ、其必要カラ申シマスレバ、決定
ヲ以テ足リルノデアリマス、必ズシモ
常ニ判決ヲ以テスル必要ガナイノデア
リマスカラ、簡便ニスル趣意デ決定ノ
方法ニ依ルト云フコトニシタノデアリ
マス
ソレカラ元來此慰藉ノ趣意ニ基イテ
補償ヲ給與致シマスノハ、國家ガ進ン
デ斯ウ云フ法律ヲ制定シテ居ルノデア
リマスカラ、サウ無暗ニ、補償ヲヤル
ベキ場合ニモヤラナイト云フコトハナ爲ニ對スル賠償ヲ意味スルモノデナイ
イ譯デアリマセウ、サウシテ兎ニ角慰
藉的ニ出來テ居ルノデアリマスカラ、
餘リ手續ヲ複雜ニスルト云フコトハ好
マシクナイ、ソレ故ニ補償ヲ與ヘルト
云フ決定ニ對シテハ上訴ヲ許サナイ、
是ガ若シ財產上ノ損害ヲ賠償スルト云
フ制度デアリマスルナラバ、其財產上
ノ損害ガドノ位デアルカト云フコトヲ
決定スルコトハ隨分ムヅカシイ、殊
民事訴訟アタリデモ非常ニムヅカシイ
手續デアリマセウガ、是デハ僅ニ五圓
以內ト云フコトニ標準ガ定ッテ居ルコ
トデアルサウムヅカシイ問題デハナ
イ譯デアルカラ、補償ヲ與ヘル場合デ
アレバ、ソレニ對シテ少イトカ多イト
カ云フヤウナ不服ヲ申立テル途ヲ開イ
テナイノデアリマス、併ナガラ故ナク
補償給與ヲ拒ムト云フコトガアリマス
レバ、ソレハ又不都合デアリマスカラ
サウ云フ場合ニハ卽時抗告ヲ許スト云
フコトニシヨウト云フノガ本案ノ大體
ノ仕組デアリマス、以上ヲ以チマシテ
極ク要領ダケヲ申上ゲタ次第デアリマ
スカラ、後ノ細カイコトハ又御質問ニ
應ジテ御答スルコトニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=3
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004・小野寺章
○小野寺委員 只今御說明ヲ拜聽致シ
マシテ、大體ノ梗〓ヲ承知スルコトガ
出來マシタ、第一ニ御伺ヲ致シタイノ
ハ若シ本法制定ノ趣旨ガ、國家ノ行
トスルナラバ、補償法ト云フ名モ甚ダ
事實ニ副ハザル羊頭狗肉ノ名稱ニナリ
ハセヌカト云フコトヲ考ヘル者デアリ
マス、補償ト云ヘバ何カ玆ニ缺陷ガアッ
テ、其缺陷ヲ補フト云フノガ、卽チ補
償デアル、然ルニ本法制定ノ趣旨ト云
フモノハ俗間デ申シマス卽チ御見舞
デアル、ドウモ御氣ノ毒ナコトヲシタ
カラ御見舞ヲ申スト云フ意味合デ、
定ノ給付ヲ政府ガスルト云フ意味ダケ
ノコトデアル、ソレデアリマスナラバ、
刑事慰藉法、慰藉ノ意味デアレバ慰藉
法ト云フコトニシタラ宜シイダラウト
考ヘルノデアリマス、大體近代ノ思想
カラ申シマスナラバ、團體生活ノ結果
トシテ、團體ノ一員ガ特ニ財產上或ハ
人格上ノ損害ヲ受ケマシタ場合ニ於
テ、無過失ノ賠償ヲモ認メタ方ガ宜シ
イト云フ思想ガ段々ニ發達ヲシテ來テ
居ルデ吾々ハ此刑事補償法ノ立法ノ
趣旨ヲ其處ニ置キタイト云フ考ヲ持フ
テ居ル、新時代ノ要求ニ基イテ立法ヲ
セラレルナラバ、此基礎觀念ヲ其處ニ
置クベキモノデナカラウカト思フノデ
アリマス、ソレヲ國家ノ行爲ニ依ッテー
-過失ノ有無ハ、國家ガ過失ヲ爲シタ
ルヤ否ヤト云フコトハ更ニ議論ガアリ
マスガ、兎ニ角國權行使ノ結果トシテ、
特定ノ人ガ損害ヲ被フタ場合ニ於テ、之
ヲ補償スルコトハ理論上當然ノ事デア
ル、決シテ舊來ノヤウニ國家ハ不法ヲ
爲シ得ズト云フ觀念ヲ眞理ナリト吾々
ハ承認スルコトハ出來マセヌ、卽チ假
ニ無過失ナリト致シマシテモ、團體生
活ノ必要上刑事處分ト云フモノガ行ハ
レルノデアリマス、而モ其爲シタル處分
ノ結果、是ガ不都合デアッタト云フコト
ガ證明セラレルナラバ、是ハ適當ナ制
度ヲ設ケテ、今迄ハ國家ガ賠償スル制
度ガ無カッタガ、是カラハ卽チ或ル一定
ノ條件ノ下ニ國家ガ賠償シテ行クト云
フコトニ何モ不都合ハナイ、先ヅ此點
ニ於テ私ハ此立法ノ趣旨ガ、慰藉ヲス
ル御見舞ヲスルト云フ意味合ニ本質
ヲ置クト云フコトハ、甚ダ立法ノ傾向
ニ反スル所ノ思想ニ根據ヲシテ居ルノ
デハナイカト云フコトヲ考ヘル者デア
リマス、此點ニ付テモウ一應的確ナル
御辯明ヲ拜聽致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=4
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005・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 大體ノ點ニ付キマシ
テ私カラ申上ゲテ、其外ノコトハ尙ホ
政府委員カラ申上ゲルコトニ致シタイ
ト思ヒマス、補償法ト云フ名ガオカシ
イデハナイカ、慰藉法ト云フ方ガ最モ
適切デ良クハナイカト云フ御話デアリ
マスガ、此補償法ト云フ名前モ隨分苦
心ヲ致シテ、ドウ云フ文字ガ一番此法
ノ精神ヲ現ハシ得ルカト云フコトニ付
テハ、隨分苦心ヲ致シタノデアリマス
ガ、補償法ト云フノガマア良クハナイ
カト云フコトデアリマシテ、慰藉法ト
云フノモドウモドウ云フモノカ、サウ
云フコトモ實ハ考ヘテ見タノデアリマ
スケレドモ、餘リ適切デナイヤウニ思。ツ
タノデ、補償法ト致シタノデアリマス、
ソレカラ國家ガ其行爲ニ依ッテ或ル個
人ニ損害ヲ與ヘタ場合ニハ、ソレガ適
法デアッテモ賠償スルノガ至當デハナ
イカ、無過失賠償ト云フヤウナコトモ
論ゼラレテ居ル今日、其處ニ根據ヲ置
イテ立法ヲシタ方ガ宜イデハナイカト
云フ御意見デアリマスガ、此法案ハ大
體ノ趣旨ハ先刻私ノ申上ゲタ通リデア
リマスケレドモ、無過失補償トカ無過
失賠償ト云フヤウナ精神ガ今日世ノ中
ニ唱ヘラレルニ至ッタ時代ニ於テ、此刑
事補償法ト云フヤウナ法律案ガ茲ニ提
出サレタ、ソコニ時代ノ精神ト云フモ
ノガ確ニ關聯ガアルト云フコトハ御諒
解ヲ願ヒタイト思ヒマス、併ナガラ無
過失補償-賠償ノ精神ニ依ッテ此法
律案ガ出來タノデハアリマセヌケレド
モ、サウ云フヤウナコトハ吾々ハ此法
案ヲ立案致ス時ニハ頭ノ中ニ置イテ考
ヘタノデアリマシテ、國家ハ斯ウ云フ
コトヲスル義務ハナイケレドモ、斯ウ
云フコトヲシタ方ガ宜イヂヤナイカ、
斯ウ云フ考カラ此法案ヲ立案ヲ致シタ
ノデアリマス、又是ガ賠償ヲ致スト云
フコト、損害ヲ賠償スルノニ、金錢ニ
見積ッテ其損害ヲ賠償致スト云フコト
ニナレバ、先刻申シマシタヤウナ非常
ニ計算ノ困難ナコト、其外ノ不便ガア
ルノデアリマスケレドモ、此補償ヲ致
スノハ、拘禁ヲサレタ日數ニ應ジテ、
一日一圓以上ト云フヤウナコトニ依ツ
テ、計算ヲ致スト云フヤウナコトハ
小野寺君ノ御話ニナリマシタヤウニ、
十分トハ行ッテ居ラナイケレドモ、多少
其處ニ賠償ト云フヤウナ精神ヲ加味サ
レテ居ルト云フコトハ、御諒解下サル
コトガ出來ルダラウト思ヒマス、先刻
御話ノヤウニ、本當ノ是ガ御見舞金デ
アリマシタナラバ、日數ニ應ジテ計算
ヲスルト云フヤウナコトハ考ヘナクテ
モ宜イノデアリマス、ケレドモ其邊ヲ
小野寺君ノ御話ニナリマシタヤウナ考
デ、日數ニ應ジテ補償金ヲ計算スル、
サウ云フヤウナコトニ致シタノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=5
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006・小野寺章
○小野寺委員 詰リ時代ノ要求ヲ取入
レテ、立法ヲナサルト云フ考ガ本案ヲ
御提案ニナッタ主ナル理由デアルト云
フコトヲ拜聽致シマシテ、一層-是
ガ若シ本法ノ名稱ノヤウニ、刑事補償
法ト云フモノデ行クナラバ、基礎觀念
ハ從來ノ國家ハ無過失賠償ト云フヤウ
ナコトハシナイ、否國家ニ過失ナシト
云フ建前カラ、總テノ法制ヲ建テヽ居
ルケレドモガ、最早團體生活、國家生
活ト云フモノガ進步シマシテ、團體對
個人ノ關係ガ一層明確ニ意識サレルヤ
ウナ時代ニナッテ來テ居ルノデアリマ
ス、隨テ團體生活ノ必要カラ起ッタ行爲
ニシテ、或ル特殊ノ者ガ損害ヲ受ケタ
ト云フ場合ニ於テ、之ヲ賠償スルト云
フコトハ寧ロ當然デアル、理論トシ
テハ確ニソレハ正シイノデアル、正シ
イ理論ヲ或ル程度ニ取入レテ、今日ノ
岳內容ノ通リノ、詰リ規定ノ下ニ國家
ガ賠償義務ヲ認メル、之ニ何等不都合
ハナイト私ハ思フ、必ズシモ是ガ賠償
主義ヲ本質トシテ居ルカラシテ、此規
定以上ノ賠償ヲシナケレバナラヌト云
フヤウナコトガ、起ッテ來ルト云フコト
ハ考ヘ得ラレナイ、寧ロ斯ウ云フ規定
ガナケレバ請求ガナイト云フノハ今
日我國ノ立法ノ建前デアリマス、隨テ
或ル一定ノ此內容ノ通リノ賠償ヲスル
ノダ、本質論トシテ、是ガ慰藉ニ根據
ヲ置イテ、或ハ賠償ノ思想ニ據ルモノ
デナイト云フナラバ、此法律ハ實際ニ
於テハ佛作ッテ魂ヲ入レナイモノト言
ハナケレバナラヌ、今司法大臣ノ仰セ
ラレルヤウニ、賠償ノ意味モ無論含ン
デ居ル、斯ウ云フノデアリマスナラバ、
慰藉ト賠償トヲ含ンダモノデ、此補償
法ヲ作ッタノデアルト云フナラバ、私共
ハ其名稱ニ對シテ或ル程度マデハ承認
ガ出來ルノデアルケレドモ、然ルニ賠
償ト云フ意味デナク、本質ハ矢張御見
舞デアル、斯ウ云フノデアルナラ、ド
ウシテモ此刑事補償法ト云フ名稱ニ副
ハナイ、此名稱ヲ見マシテ、其內容ヲ
法律家ハ見マセウ、十九條ノ內容ヲ注
意深イ法律家ハ見マセウガ、吾々ノヤ
ウナ粗笨ナヤリ方ヲシテ居ル者ハ內容
ヲ一々點檢シナイノデアル、サウスル
ト此刑事補償法ト云フ名ガ、少クトモ
是ハ所謂國家賠償ノ觀念ヲ取入レタ新
法ダト云フノデ非常ニ歡迎ヲ致シテ居
ル、サウ致シマスト、私ハ此名ヲ刑事
慰藉法トデモナサッタ方ガ宜イト思フ、
本質ヲサウ云フ風ニ採ッテオイデニナ
ルナラバ、國民ヲ迷ハスモノデアル、
刑事ニ間違ッテ引ヲ掛ッタト云フヤウナ
時ニハ、是ハ御見舞ヲ政府カラ戴クノ
ダト云フ思想ヲ國民ニ與ヘルナラバ、
卽チ從來ノ立法從來ノ法律制度ヲ其
儘路襲シタモノニ過ギナイノデアル、
之ハ少クトモ團體生活ノ觀念ニ訴ヘ
テ、或ル特定ノ者ノ被ッタ所ノ損害ヲ補
償シテヤルト云フ意味ナラバ、少クト
モ其本質ヲソコニ置カナケレバナラ
ヌ、ソレガ卽チ國家ノ進運、民族ノ發
達ヲ基調トシタル立法ノ傾向デアルト
謂ハナケレバナラヌ、ソコデ御相談ヲ
申上ゲタノデアリマスガ、若シ本質ヲ
今仰セラレルヤウニ採ッテオイデニナ
ルナラバ、刑事慰藉法ト云フ風ニナサツ
タラ如何デアリマセウカ、ソコヲ御尋
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=6
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007・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 小野寺君ノ御話ノ中
ニ賠償法トシテハ、此法案ノ内容通リ
デ宜イガ、精神ヲ賠償ト云フコトニ置
クノガ時代ノ精神ト合致シテ居ルノデ
ハナイカト云フヤウナ御話ガアリマシ
タヤウデスガ、ドウシテモ賠償トナリ
マスト、損害ヲ計算セザル賠償ト云フ
コトハ一寸考ヘラレナイノト、又假ニ
サウ云フ立法ヲ致シマシタナラバソ
レコソ却テ國民ノ多數ハ、自分ガ一萬
圓程ノ損害ヲ受ケタノニ、國家ハ百圓
シカ賠償シテ吳レナイト云フ問題ガ假
ニ起ッタトスレバ、先刻申上ゲマシタヤ
ウニ、折角國家ガ一ノ仁政ヲ布カフ、
國民ノ不幸ニ同情ノ意思ヲ發表シヨウ
ト云フ此法律ノ精神ト云フモノハ失ハ
レテ、沒却サレテ終フト云フヤウナコ
トヲ私共ハ心配致ス者デアリマス、却
テ是ハサウ云フ損害ガアッタカラ
ソレニ對シテ損害ガアッタカラト云フコ
トハ別ニシテ、是ハ洵ニ氣ノ毒ナ人々
デアルカラ、國家ノ財政上ノ關係カラ
先ヅ此位ナ程度ニ於テ無辜ノ良民ニシ
テ勾留ニ附セラレタト云フヤウナ人ニ
ハ、慰藉ヲスルト云フ方ガ、此法律ノ根
本ノ精神、卽チ慰メテヤラウト云フヤ
ウナ根本的ノ精神ヲ却テ貫クコトガ出要ス」ト云フヤウナコトニナッテ居テ、
來ルノヂヤナイカ、サウ云フ考ガ此法
案ノ根本ノ精神デアルノデアリマス
補償法ト云フ名前ヲ改メタラ宜クハ
ナイカト云フコトデアリマスガ、是ハ
物ノ名前ト云フモノハ非常ニムヅカ
シイモノデアリマシテ、自分ノ子供ヤ
犬ニ名前ヲ付ケルノデモ、ドンナ名前
ヲ付ケテ見テモ初ハ名前ハオカシイト
思ッテ居ル間ニ段々呼ビツケルト今度
ハ其名前ガ好クナッテシマフ、是ハ初ハ
慾目デ見マスカラ、大變好イ名前ガ欲
シクナルノデアリマス、精神サヘ御異
存ガナケレバ、名前ノコトハドウゾ是
デ御承認ヲ願ヒタイト云フコトヲ申上
ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=7
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008・泉二新熊
○泉二政府委員 私カラ申上ゲテ置キ
タイノデアリマスガ、小野寺君ノ御質
問ノ御趣意ハ至極御尤ダト思ヒマス、
唯玆ニ一寸行違ヒガアルト思ヒマス、
此法案デハ財產上ノ損害ヲ賠償スルト
云フ精神デハナイ、損害賠償ト云フ言
葉ヲ廣ク使ヒマスト云フト、精神上ノ
慰藉ヲ與ヘルト云フコトモ一ツノ損害
賠償ニ相違ナイノデアリマス、民法七
百十條ニハ御承知ノヤウニ「財產以外
ノ損害ニ對シテモ其賠償ヲ爲スコトヲ
要ス」ト云フコトガアル、七百十一條
ノ如キモ「其財產權ヲ害セラレサリシ
場合ニ於テモ損害ノ賠償ヲ爲スコトヲ
是等ハ御承知ノヤウニ慰藉料ト稱ヘテ
居ル、矢張損害賠償、慰藉料ヲ與ヘル
ト云フコトニ依リ損害賠償、卽チ精神
上ノ損害賠償ト云フコトガ考ヘラレル
コトハ申スマデモナイコトヽ思フノデ
アリマス、コチラデ今マデ申上ゲテ居
リマスルコトハ、財產上ノ損害ヲ賠償
シナイト云フコトデアルノデアリマ
ス、サウ云フ意味ニ於キマシテ是ハ一
種ノ損害賠償、卽チ精神的ノ苦痛ニ對
スル慰藉ヲ與ヘルト云フコトニ依ル所
ノ損害賠償デアルノデアリマス、デア
ルカラシテ、言葉ハ補償ト云フ言葉デ
ナクシテ、賠償ト云フ言葉ヲ使ヘバ
小野寺君ハ御滿足ニナルカモ知レマセ
ヌガ、損害賠償ト云フ言葉ヲ使フト、
民法上ノ故意、過失ヲ必要トスル法行
爲ニ對スル損害賠償ミタヤウニナッテ
ソレト混同セラレルノガ厭ダカラ兎ニ
角賠償ト云フ言葉ハ避ケテアル、ソレ
ト同時ニ財產上ノ損害ヲ賠償スルト云
フ意味デナイ、斯ウ云フコトヲハッキ
リトシテ置ク、卽チ精神上ノ慰藉ヲス
ルト云フコトニ依ル一種ノ損害賠償デ
アルト云フコトガ精神ニハヤハリハソ
キリ入ッテ居ルノデ、慰藉法トスルコト
ハ適當デナイ、此實質ガヤハリ補償法
デアルノデ、先刻御質問ノ趣意ト違ハ
ナイト思フノデアリマス、ソレデ實ハ
外國ノ立法例デハヤハリ損害ヲ賠償ス
ルト云フコトガ大抵書イテアルノデア
リマス、一體損害賠償ト云フコトハ何
處マデヤルノデアルカト云フ標準ハ
寸モ示シテナイ、ソレデ或ル意味ニ於
テハ小野寺君ノ言ハレルヤウニ、此法
律案ニ規定スル標準ニ從ッテモ損害賠
償ト云ウテモ宜イデハナイカ、斯ウ御
尋ニナッタノデアリマスガ、サウ云ウ
テモ實質ニ於テハ違ハナイデアラウ
ト思フノデアリマス、ト申シマスルノ
ハ、是ハ一日ニ付キ五圓以內給與スル
ト云フコトニナッテ居リマスガ、損害
賠償ト云フコトヽ卽チ財產上ノ損害
賠償ト云フコトヽ之ヲ比較シテ考ヘテ
見マスルト、場合ニ依ッテハ財產上ノ
損害以上ニ是ハ慰藉ガ與ヘラレル場合
ガアルカモ知レマセヌ、又場合ニ依ツ
テハ全クソレニハ足リナイト云フ場合
モアルカモ知レナイ、卽チ場合ニ依ツ
テハ財產上ノ損害賠償ト云ウテモ、實
質ニ於テ少シモオカシクナイコトモ出
テ來ルデアラウト思ヒマス、ダカラ單
純ナル慰藉デハナイ、卽チ民法七百十
條ヤ、七百十一條ニアルヤウニ所謂慰
藉料ヲ與ヘルト云フ意味ノ損害賠償ナ
ノデアル、併シ財產上ノ損害賠償ヲス
ルト云フ意味及ビ故意、過失ヲ原因ト
シテ賠償ヲスルト云フ意味、此二ツダ
ケハ絕對ニ入ッテハ居ラヌト、斯ウ云フ
コトデアリマスカラ、アナタノ御質問
ノ趣意ト此案ノ精神トハ違ッテ居ナイ
ト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=8
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009・小野寺章
○小野寺委員 只今ノ御說明デ非常ニ
判明致シテ來タノデアリマス、サウシ
マスルト先刻御話ノ所謂本質論ハ決シ
テ慰藉ト云フ意味ノミデハナイ、所謂
民法上ノ賠償ノ觀念ヲモ或ル程度マデ
取入レテ居ルノデアル、本質ヲ其處ニ
置カレルナラバ私共ハ諒解ヲ致スノデ
アリマス、前ノ御說明ニ依リマスト云
フト、所謂此本質ト云フモノハ全然國
家ニ賠償ノ義務ハナイ、又賠償ノ精神
モ入ッテ居ナイノデアル、唯不幸ニ遭遇
シタ者ニ御見舞ヲヤルト云フ慰藉ノ意
味ノミガ含ンデ居ルノデアル、ダカラ
權利ノ觀念ト云フモノハ全然此處ニ
入ッテ居ナイト云フヤウニ御說明ガアッ
タヤウデアリマス、私共ハ此法律ニ於
テ認メラレタ範圍ニ於テヤハリ權利ヲ
肯定スルト云フヤウナ建前デ行キタイ
ト思フノテアリマス、只今ノ御話ノヤ
ウナレバ則チ財產上ノ損害ハ補償ヲシ
ナイガ、併ナガラ結局見樣デアル、精神
上ノ所謂損害ト云フモノハ賠償ヲセラ
レテ居ル、本質的ニ賠償ヲセラレテ居
ルト云フ意味モ含ンデ居ルカラ刑事補
償法ト云フヤウナ名ヲ御付ケニナッタ
ヤウニ諒解ガ出來ルノデアリマス、サ
ウ承ッテ宜シケレバ其通リデ宜シイト
思フ、如何デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=9
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010・泉二新熊
○泉二政府委員 大體御質問ノ趣意ノ
通リデ宜シイト思ヒマス、要點ハ結局
民法ノ如ク故意過失ヲ要件トスル賠償
デハナイト云フコト、及財產上ノ損害
ヲ賠償スルト云フ趣意デハナイト云フ
事ダケガ根本的ニ民法ノ損害賠償ト
違ッテ居ルト云フコトヲ申上ゲレバ宜
シイノデ、慰藉スルコトガ卽チ一種ノ
損害賠償ノ方法ニナルト云フ解釋ヲス
ルト云フコトハ少シモ差支ナイト申上
ゲテ宜シイト思ヒマス、ソレカラモウ
一ツ申上ゲテ置キマス、現行法規ノ如
クニ斯ウ云フ特別ノ規定ガナケレバ今
日デハ斯ウ云フ補償ヲ得ルト云フ權利
ハ全クナイノデアリマス、ガ斯ウ云フ
風ニ法律ガ出來マシタラ此法律ノ規定
ニ基イテ國家トソレカラ所謂犯罪者ト
ノ間ニ一種ノ法律關係ガ發生スル、卽
チ此標準ニ從ッテ當事者ハ此補償ノ給
與ヲ申立テル權利ガ出テ來ル、國家ハ
其申立ニ基イテ給與ヲ與フベキ理由ノ
アル場合ニハ與ヘルト云フ責任ヲ此法
律ニ依テ負擔スルノデアル、斯ウ云フ
法律關係ノ發生スルコトハ仰シヤル通
リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=10
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011・小俣政一
○小俣委員 小野寺君ノ質問ニ關聯シ
テ大臣ニ御尋致シタイ、此刑事補償法
ト云フ名前ニ對シテ私モ大ニ疑義ヲ有
スル、大體此補償ト云フコトハ國家或
ハ公共團體ガ財產上ノ損害ニ對シテ其
全部或ハ一部ノ補償ヲ與ヘル場合ニ、
此補償ト云フコトヲ用ヰルノガ適當デ
アル、精神上ノ慰安或ハ損害賠償ト云
フコトデアルナラバ此補償ト云フ字ハ
適當デナイ、只今刊事局長ノ御說明ニ
依ルト云フト、財產上ノ損害ニ對シテ
ハ補償ヲシナイ、責任ヲ負ハヌ、併シ
ナガラ廣ク解釋スルト云フト、精神上
ノ損害ニ對シテ賠償ノ意味ヲ含ンデ居
ルノデアル、斯ウ云フ御說明ニ拜承シ
マシタ、果シテ然ラバ益〓此補償ト云
フ字ヲ用フルコトハ不適法デアル、何
處マデモ此刑事補償法ト云フヤウナ胡
麻化シタ名前デヤラウト云フコトハ、
最モ官僚ノ臭氣紛々タルモノト認メル
ヤウニ私ハ考ヘル、モウ少シ明カニ、
五十步百步ヲ讓フテ、刑事局長ノ說明ノ
通リ物質上ノ損害ニ對シテハ國家ガ責
任ヲ負ハナイ、併ナガラ非常ナ災難ヲ
受ケタノデアルカラ、ソレニ對シテ精
神上ノ賠償ヲスルト云フコトデアルナ
ラバ、等シクソレハ廣義ニ解釋シテ賠
償ナノデアル、デアルカラ補償ナント
云フヤウナ曖昧ナ字ヲ使ハズニ、潔ク
賠償ト云フ字ヲ使ッタ方ガ合法デアリ、
適法デアルト私ハ解釋スル、此點ニ對
シテ一應司法大臣ノ御所感ヲ伺ヒタ
イ、私ハ小野寺君ノ質問ニ關聯シテ御
尋ヲスル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=11
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012・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 小俣君ノ御話ハ小野
寺君ノ御意見ト正反對デアリマス、小
野寺君ハ國家慰藉法トシテ、小俣君ハ
國家賠償法トスル、兩方ノ極端ノ御議
論ノヤウデアリマスガ、其樣ナ御議論
ガ出ルノハ當然ダト思フノデアリマス
ガ、今日賠償法トシタラ宜イカ、慰藉
法トシタラ宜イカト考ヘタ結果、其中
間ヲ取ッテ補償法ト致シタノデアリマ
ス、之ヲ賠償法ト致スト云フト、今政
府委員カラ申述ベマシタ通リ其原因ト
シテ不法行爲ノアルト云フコトヲ思ハ
シメルト云フ缺點モアリマス、又其損
害ヲ計數ヲ以テ計算シナケレバナラヌ
ト云フヤウナコトモ人ヲシテ考ヘサセ
ル虞モアリマス、旁々只今刑事局長カ
ラ申シマシタ通リ、精神上ノ苦痛ヲ賠
償スルト云フヤウナコトモアリマスル
シ、又私ノ先刻申上ゲマシタ通リ日數
ヲ以テ計算スルト云フガ如キ一種ノ賠
償的觀念ガソコニ這入ッテ居ルト云フ
コトモアリマスケレドモ、併ナガラ普
通世間ニ用ヰラレテ居ル所ノ損害賠償
ト云フ考トハ全ク違ッテ居リマスカラ、
ソコデ中間ノ文字ヲ採ッテ補償ト云フ
名前ニ致シタノデアリマス、左樣御承
知願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=12
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013・小俣政一
○小俣委員 頗ル說明ガ徹底致シマセ
ヌ、先程大臣ハ色々考ヘタガ、名前ハ
ドウデモ宜シイ、初ハ讀ミ惡イガ、馴
レルト讀ミ宜クナルト云フコトデアリ
ひゞ、大體サウ云フ考デ以テ此大切ナ
法律ノ名稱ヲ附スルト云フコトガ旣ニ
根本カラ間違ッテ居ル、所謂名ハ體ヲ
現スト云フコトガアッテ名前ガ最モ大
切ナコトデアル、司法大臣ハ賠償法ト
スルト云フト、之ヲ施行スル場合ニ於
テ其損害ヲ計算サレル場合ニ於テ困ル
ト云フコトデアルガ、ソレハ御困リニ
ナラヌデアラウ、何故御困リニナラヌ
カト云フト、此法案ノ第五條ニハ賠償
ヲスル額ガ定マッテ居ル、五圓以內ト
云フコトデアルカラシテ、是レ以上請
求シテモ此法律ガ施行サレル場合ニ
ハ假令一日百圓ノ損害ガアッテ計算
ヲシテソレヲ請求シテモ、ソレハ到底
不可能ナコトデアッテ、之ニ額ガ規定
シテアル、損害ヲ計算サレテ請求サレ
テハ困ルト云フ御懸念ハナイト思ヒマ
ス、大體補償ト云フ字ノ御使ヒ方ヲ根
柢カラ間違へテ居ル、見當違ヲサレテ
御使ヒニナッテ居ル、補償ト云フ字ハ
私ノ見聞ニ依ルト、サウ云フ場合ニ使
フモノデナイト考ヘテ居ル、補償ハ國
家公共團體、或ハ個人ガ其財產上ノ損
害ニ對シテ全部或ハ一部ニ對シテ補助
ヲ與ヘル場合ニ、此補償ト云フ字ヲ使
フノデアッテ、精神上ノ慰藉デアルト
カ、或ハ精神上ノ損害賠償ト云フヤウ
ナ意味ヲ限定シテアッテモ、此補償ト云
フヤウナ字ヲ使フノハ、是ハ間違ヒ切ッ
テ居ル、是ハ潔ク御取替ヘニナッタ方
ガ宜カラウト思フノデアリマス、私
自分ノ獨立シタ質問ハ改メテヤリマス
ガ、只今小野寺君ノ質問ニ關聯シテソ
レ等ノコトヲ御尋スル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=13
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014・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 要スルニ小俣君ハ賠
償法ト云フ字ノ方ガ適當デアルト云フ
御意見ノヤウデアリマスガ、私ハ賠償
ト致スト云フト、損害賠償ハ損害ノ多
少ニ依ッテ、其賠償金ヲ或ハ增シ或ハ減
ラサナケレバナラヌ、五圓以下ト定マ
「テ居ルモノヲ損害ノ賠償トスルト云
フコトハ餘リ適切ナ文字デナイ、サウ
云フ考ヲ持ッテ居リマスノデ、是ハ要ス
ルニ御考ガ私ノ考ト違ッテ居ルト云フ
コト以上ニ申上ゲヤウハナイト思ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=14
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015・小野寺章
○小野寺委員 ヤハリ今ノ問題ニ關聯
シテ、小俣君ノ今仰セラレタコトモ私
ト趣旨ハ違ハナイト思フ、要スルニ名
ハ實ノ現レデアルカラ、法案ノ內容ニ
一致シタル名稱ヲ附スルト云フコトハ
一番宜イ、小俣君ハ潔ク賠償法トスル
方ガ宜イト云フヤウナ御意見デアル
ガ、此內容ガ慰藉ニアル、慰藉ト云フ
コトハ民法上カラ言ヒマスト一ノ賠償
方法デアル、今日ノ用語ニ於テヤハリ
慰藉料ト云フモノハ損害賠償デアル、
慰藉料ト云フモノガ損害賠償デアルナ
ラバ、賠償法トシタラ宜カラウト云フ
ノガ小俣君ノ御意見デアリマス、是一
慰藉ノ爲ニ此法律ヲ作ッタト云フコト
デアルナラバ慰藉法トスルノガ一番適
切デアル、詰リ法案ノ實質ニソックリ
合ッタ所ノ名稱デアリマス、此點ニ付テ
ハ小俣君モ私ノ意見ニ御贊同下サルニ
相違ナイ、要スルニ羊頭ヲ揭ゲテ狗肉
ヲ賣ルヤウナコトハ決シテ宜シクナ
イ、キッチリ內容ニ合ッタ所ノ名稱ガ立
派ニアルニ拘ラズ、殊更ニ得體ノ知レ
ナイ補償法トスル-補償ト云フノハ
今日ノ國民ノ通念カラ申シマスルナラ
バ或失ハレタル所ノ缺陷ヲ補フト云
フノガ補償法デアル、其點カラ申シマ
シテモ慰藉ノ趣旨ニ基イテ居ルナラ
バ小俣君ノ言ハレタ通リニ、慰藉ノ
方法ニ依ル賠償ト云フノデアルカラシ
テ、慰藉法ヲ此法案ノ名稱ニサレタ方
ガ非常ニ國民ニ對スル受ケモ宜イノデ
ハナカラウカ、此名稱ニ依ッテハ國民
ガ誤リハシナイカ、又從來ノ法制ノ根
據ヲ變更シタモノト云フ風ニ國民ハ了
解スルノデス、現ニ新聞ノ論調ヲ見マ
シテモ、今度此刑事補償法ト云フモノ
ニ依ッテ、所謂立法ノ新傾向トシテ言論
機關ガ稱讃シテ居ル、所ガ政府ガ御覽
ニナッテ居ル所ノ、殊ニ此本法提案ノ趣
意ト云フモノハソコニナイ、現在ノ民
法上ノ所謂慰藉ニ根據ヲ置イタヤウナ
御話デアル、益〓以テ是ハ國民ヲ迷ハ
セルモノデアル、マサカ言論機關ニ於
テモ、斯ウ云フ御考ノ下ニ此提案ヲサ
レタモノデアルト云フコトニハ言論
機關ノ諸君モ御受取ニナラナイ、ドウ
モ大イニ此名稱ニ付テモ御考ニナルベ
キ必要ガアルト思フノデアリマス賠
償主義ニ根據ヲ置イタト云フナラバ
ヤハリ潔ク小俣君ノ言ハルヽ通リ賠償
法トシ、又賠償主義ニ根據ヲ置カナイ
デ、慰藉ノ主義ニ根據ヲ置イタト云フ
ナラバ、慰藉法ト、斯ウ內容ニ餘程一
致シタ所ノ、本質ニ一致シタ所ノ名稱
ヲ御付ケニナルノガ、當然デハナカラ
ウカ、是ハ名稱ハドウデモ宜イ、讀ミ
慣レサヘスレバ宜シイト云フヤウナ問
題デハナイト思ヒマス、是ハ非常ニ重
大ナ問題デアリマス、詰リ將來ノ時
代立法ノ傾向ハ必ズ無過失賠償ニ進展
シテ行ク、此進展ヲシテ行ク所ノ先鞭
ヲ著ケテ居ル所ノ法律デアル以上ハ
是ハ餘程考ヘナケレバナラヌ
重ネテ御相談ヲ申上ゲマスルガ是
ハドチラカニ御定メニナッタ方ガ宜シ
イデハナカラウカト思フノデアリマス
ガ御意見ハ如何デゴザイマセウ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=15
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016・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 段々ノ御意見デアリ
マスガ此法律ハ無辜ノ良民ヲ慰藉ス
ルト云フコトヲ根本ノ精神ト致シテ居
リマス、ソレニ賠償ノ主義ヲ加味シテ
アル、若シ是ガ本當ノ慰藉ダケノ考デ
アリマシタナラバ、國家ハ包金ヲヤッテ
モ宜イノデアリマスガ、先刻來申シマ
ス通リ、一日五圓以下、又拘禁サレタ
ル所ノ日數ニ依ッテ計算致スト云フコ
トハ賠償ノ精神モ加味致シテ居ルノデ
アリマス
卽チ純粹ノ慰藉ト云フテモ餘リ適切
ニナラナイ、又純粹ノ賠償ト云ッテモ、餘
リ適切デナイト云フ所カラ、此補償法
ト云フ文字ヲ考ヘ出シタノデアリマス
カラ、ドウゾ此內容ノ精神ニ大體ニ於
テ御同感デアリマスルナラバ、名稱ノ
コトハ此邊デ御忍耐ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=16
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017・上田孝吉
○上田委員 大體ハ小野寺君ナリ小俣
君ノ質問ト大臣ノ應答ニ依ッテ、分タン
ノデアリマスガ、併ナガラ最初大臣ノ
御說明ニ依ルト、是ハ何處マデモ國家
賠償法デハナイ、又泉二サンノ御說明
デモサウデアル、要スルニ是ハ同情慰
藉ノ爲ノ法律デアルト云フコトヲ明カ
ニサレテ居ッタノデアリマスガ、只今ノ
御說明ニ依ルト是ハ國家賠償法ヲ加味
シタ法案デアルト云フ風ナコトヲ仰シ
ヤッテ居ラレマスガ、其提案サレタ根本
ノ趣旨ハ、何處ニアルノデアリマスカ
國家賠償法ト云フ時代ノ進步ニ應ズ
ル、無過失賠償ト云フ所ニマデ行ク趣
旨ニ於テ、此法案ガ出サレテ居ルノデ
アリマスカ、或ハ單ニ慰藉ト云フ趣旨
ノミニ依ッテ、之ヲ御出シニナッタノデ
アリマスカ之ヲ明確ニ承リタイト思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=17
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018・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 先刻カラ申上ゲマシ
タ通リ此法案ヲ起草致シマシタ時ノ精
神ハ、無辜ノ良民ヲ慰藉スルト云フ所
ニアルコトハ前申ス通リデアリマス
ドウシテ慰藉スルカト云フ問題ニナリ
マスト、玆ニ或ル標準ヲ置カナケレバ
法律ヲ制定スル譯ニハ行カナイ、唯國
家ハ無辜ノ良民ヲ慰藉スベシデハドウ
シテモイカナイ、其慰藉ノ方法ヲ考慮
スルニ方リマシテ、前ニ賠償ト云フ精
神ヲ或點マデ加味シタト云フコトヲ申
シタノデアリマス、此法案ノ本當ノ精
神ハ普通賠償ト云フ文字デ、吾々ノ頭
ニ浮ンデ來ルヤウナ、國家ニ何カ不法
行爲ガアッタカラ責任ガ其處ニ生ジテ、
國家ガ慰藉スルモノデモナケレバ又或
ル金錢上ノ損害ヲ與ヘタカラ、其損害
ヲ計算シテ國家ガ賠償スルト云フヤウ
ナ、サウ云フ事カラ出發シテ居ルノデ
ハナイノデアリマスカラ、是ハ賠償法
トスルト云フコトハ不適當デアルト信
ジテ居リマス、唯慰藉ヲ致スト云フ所
ニ根柢ヲ置イテ居リマスガ、如何ニ慰
藉スルカト云フコトニ付テハ、或ル
定ノ金額ヲ定メ、又一定ノ日數ニ應ジ
テ補償金ヲ與ヘルト云フコトニ依ッテ
慰藉ガ行ハレルト云フ趣意デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=18
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019・上田孝吉
○上田委員 同ジ事ヲ繰返スヤウデア
リマスケレドモ、只今ノ御說明ニ依リ
マスト、國家ノ賠償ノ精神ヲ加味シタ
ト云フコトハ、慰藉ノ方法ヲ考慮スル
一ツノ手段トシテサウ云フコトヲ言ッタ
ノデアッテ、根本ハヤハリ慰藉ダト云フ
ヤウナ御說明デアリマスガ、然ラバ此
法案ト云フモノハ、國家賠償所謂今日
ノ社會共同生活ノ上カラ言ッテ、又ハ吾
吾團體生活ノ上カラ言ッテ、先程小野寺
君ガ言ッテ居リマシタヤウニ、一般ノ共
同生活ノ觀念上出テ來タ國家補償法デ
ハ全然ナクシテ、慰藉ノ觀念カラ來タ
一法律ニ過ギナイト、斯ウ解釋シテ宜
シイカ明確ニ御答ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=19
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020・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 私ガ一番初ニ申シマ
シタ通リ、國家ハ適法ニ或ル裁判ヲ受
ケテ、初メ有罪ダッタモノガ、後カラ無
罪ニナッタ者ニ對シテ、補償ヲ與ヘル
ト云フ義務ハナイノデアリマスケレド
モ、是ハ餘リ氣ノ毒デアリマスカラ、
斯ウ云フ法律ヲ作ッテ、一定ノ補償金ト
云フモノヲ給與シテ、サウシテ之ヲ慰
藉スルト云フコトガ所謂國家ノ仁政デ
アルト云フ所カラ、此法案ト云フモノ
ヲ提出致スコトニナッタノデアリマス
ケレドモ、今初ニ申シマシタ通リ、賠
償ト云フ精神ハ絕對ニ否定シナケレバ
ナラヌト云フコトハナイ、是ハ、私ガ
一番初メ、御質問ノアリマス以前ニ、
申上ゲテ居ルノデアリマス、併ナガラ
賠償ト云フコトニナリマスト、其損害
額ヲ計算スルコトガ、非常ニ困難デア
ルコトモアリマスシ、又死刑ノ場合ノ
如キハ、ドノ位ノ損害ヲ受ケタカト云
フヤウナコトヲ計算スルコトガ非常ニ
困難デアリマスカラ、サウ云フ事ヲ致
サナクテモ此法案ニ書イテアルダケノ
事ヲ致シマスレバ無辜ノ良民ニシテ、
サウ云フ不幸ニ遭ッタ者ヲ慰藉スルニ
ハ十分デアラウト云フコトカラ此法案
ヲ起草シタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=20
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021・上田孝吉
○上田委員 只今ノ大臣ノ御說明ニ依
リマスト、國家賠償ト云フコトヲ考ヘ
ヌデモナイケレドモ、損害額ヲ算定ス
ル上ニ於テ困難デアルカラ、ソレデ矢
張リ慰藉ト云フ意味ナンダ、斯ウ云フ
ヤウナ御說明デアリマスケレドモ、吾
吾ハ損害額所謂金錢ノ髙ト云フコトヲ
言フノデハナイ、金錢ノ高ハ別ニ第五
條ニモアリマスガ、是ハ第二段ノ問題
デアル、個々ノ法文ニ對スル解釋ハ、
又後ニ細微ニ亙ッテ質問シタイト思ヒ
マスガ、先ヅ之ヲ提案サレタ趣旨、又
此法案立法ノ御趣旨ハ、サウ云フ金錢
ノ高ノ問題ヲ御聽キスルノデナクシ
テ、是ハ單ニ無辜ノ民ニ對スル慰藉ノ
方法ト云フダケデ御提案ニナッタモノ
デアルカ又然ラズシテ今日マデ一般ニ
强調サレテ居リ國民ガ求メテ居ル團體
生活、共同生活ノ上ノ國家賠償主義ト
云フ事ニ、立脚サレテ、ソレカラ此法
案ハ御立テニナッタノデアルカドウカ
ト云フ其根本精神ヲ承ッテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=21
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022・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 根本精神ハ先刻カラ
申シマス通リ、慰藉ヲ致スト云フコト
ガ、根本ノ精神デアリマス、併ナガラ
此無過失賠償ト云フヤウナコトモ唱ヘ
ラレテ居ルヤウナ今日ノ時代精神ニ鑑
ミマシテ、斯ノ如ク賠償ノ精神ト云フ
モノヲ加味シタ所ノ慰藉ヲスルト云フ
法律ヲ提出スルコトハ至當デアラウト
思ッテ之ヲ提案シタ譯デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=22
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023・春島東四郎
○春島委員 私モ此根本ノ基礎觀念ニ
付テ御伺シタイト思ヒマスガ、先ヅソ
レニ先ッテ、一日五圓以內ト云フ其標準
ヲ承ッテ見タイ、人ニ依ッテドウトカス
ルト云フコトニナルノデアリマセウ
カ、或ハ何カ勾留ノ方法、境遇等ニ依。ツ
テ之ニ區別ノ標準ヲ御立テニナル御積
リデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=23
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024・泉二新熊
○泉二政府委員 只今ノ御質問デアリ
マスガ、大體此精神上ノ苦痛ニ對スル
慰藉ト云フ點カラ考ヘテ見マスト云フ
ト、身分デアルトカ階級デアルトカ云
フコトニ依ッテサウ違フモノトハ考ヘ
ナイ、ソレニ又金ガ餘程大キナ金額デ
デモアレバ尙ホサウ云フ餘地ガアルカ
モ知レマセヌケレドモ、僅ニ五圓以內
ト云フノデアリマスカラ、ソレ程切盛
スル餘地モ實ハナイ、所デ大體カラ言
ヘバ稍〓平等ノ標準ヲ以テ計算ヲスル
ト云フ積リデ居リマス、唯特別ノ事情
ノアル場合ガ出テ來マス、例ヘバ病氣
デ長イ間ハイッテ居ッタ、サレバト云ッテ
出スコトモ出來ナイト云フヤウナ場合
ガアリマシテ、サウ云フヤウナ期間ダ
ケハ同ジ標準デ行クト云フコトハ困ル
ト云フコトモアルシ、色々特別ナ事情
ガ考ヘラレルノデ、以內トシテアリマ
スガ、大體ノ標準トシテハサウ差別ハ
餘リナイヤウニ、實ハ豫算ノ請求モシ、
ソンナヤウナ方針デヤッテ居ルノデア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=24
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025・春島東四郎
○春島委員 サウ致シマスルト、民法
上ノ慰藉料ト云フモノト全然性質ヲ同
ジクスル御考デハナイカト思ヒマス
ガ、先ヅ實質ニ於テハ慰藉料ノヤウナ
モノデアルト云フヤウニ承リマシタ
ガ、サウ致シマスルト御承知ノ通リ、
民法上ノ損害賠償ノ一方法トシテノ此
慰藉料ナルモノハ、其人ノ社會的地位
ト云フヤウナ關係カラ致シマシテ慰藉
ノ額ニ大ニ相違ガアルト云フコトニナ
リマス、シテ見ルト社會上重要ナ地位
ヲ有シテ居ル者ト左程デナイ者トハ其
精神上ノ苦痛ガ違ヒマスルト同時ニ、
同ジ五圓以下ニ致シマシテモ、一圓デ
宜イ者モアリ或ハ五圓デドウ斯ウト云
フ者モアリハセヌカト思ヒマスガ、其
點ハ全然御考慮ノ中ニナイ譯デアリマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=25
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026・泉二新熊
○泉二政府委員 只今ノ社會上ノ地位
ト云フコトハ兎ニ角此立案ノ際ニハ
餘リ重ク考ヘテ居ラナイ、刑罰ト云フ
モノハ御承知ノヤウニ何カ社會上ノ地
位ニ依ッテ重クシタリ輕クシタリスル
ト云フヤウナコトモ餘リ考ヘテ居ナ
イ、大〓刑罰ノ裁量ト同ジヤウナ方針
デ極ク特別ナ事情ノアル場合ハ考ヘマ
スケレドモ、社會的地位ニ依ッテドウシ
ヨウト云フコトハ此所デハ考ヘテ居リ
マセヌノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=26
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027・春島東四郎
○春島委員 基礎觀念ニ關シテ居リマ
スルコトデスガ、大臣竝ニ政府委員ニ
於テハ不法行爲トカ損害賠償トカ云フ
言葉ヲ御嫌ヒニナッテイラッシヤルヤウ
ニ思フ、成程不法行爲ト云フ-民法上
ノ不法行爲ト云フ觀念ハ權利侵害ト云
フコトヲ前提ト致シマスル爲ニ、國家
ノ機關ガ職權ノ發動ニ依ッテ個人ニ迷
惑ヲ掛ケタト云フヤウナ場合ニハ、不
法行爲ト稱スルコトハ觀念上當ラナイ
ト思フ、併ナガラ今日公法上ノ不法行
爲ト云フコトハ言ヘルト思フ、卽チ國
家ノ機關ガ、-國家其モノガ不法行
爲デアルノヂヤナイ、併ナガラ事實上
國家ノ機關ガ其職權ノ發動ニ依ッテ國
民ノ生活權ヲ侵シタ場合ニハ之ヲ公
法上ノ不法行爲ト云フコトニ於テ差支
ナイ、隨テ此意味ニ於テ之ヲ不法行爲
ト觀念スルコトガ出來ルナラバ、之二
對スル賠償ト云フコトヲ用ヒルコトモ
敢テ差支ナイト思フ、唯財產上ノ損害
ヲ云々サレマシテ賠償ト云フコトヲ非
常ニ排斥サレルヤウデアリマスケレド
モ、公法上ノ不法行爲ト云フ觀念カラ
致シマシテ、之ヲ賠償スルト云フコト
ハ決シテ差支ノナイコトデアル、財產
上ノ損害其モノヲ敢テ標準トシナクテ
モ、賠償ナル觀念其モノヲ入レナイト
云フコトハドウダラウト思フ、斯ウ云
フコトニ付テノ御意見ハドンナモノデ
アリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=27
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028・泉二新熊
○泉二政府委員 其御質問ニ對シテ趣
旨ニ於テ反對ハナイノデアリマス、唯
先刻カラ申シマスヤウニ是ハ民法上ノ
不法行爲ト出發點ガ違ッテ居ル、アレト
混同サレルノガ厭ナノデス、若シ民法上
ノ不法行爲ノ損害賠償ト同ジモノデア
ルカノ如ク是ガ考ヘラレルナラバ、ソ
レナラバ第五條ノヤウナ制限デ以テ賠
償スルト云フコトハ、兎ニ角其名實相
伴ハナイ、卽チ之ヲ賠償法ト云フコト
ニシテ、恰モ民法上ノ損害賠償ヲ國家
ガヤルガ如クニ法律ノ名稱ニ此文字ヲ
用ヒテ置クト云フコトハ、所謂羊頭狗
肉ニ陷ル、ダカラサウ云フ弊ヲ避ケル
爲ニ賠償トハ全ク違ッテ居ル、民法上ノ
賠償ト云フモノトハ違ッテ居ルト云フ
コトヲ明カニスルト云フ爲ニ、違ッタ言
葉ヲ使ッタノダト、斯ウ云フコトニナル
ノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=28
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029・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ今日ハ此程度
デ散會致シマシテ、明日ハ午前十時カ
ラ開會致シマス
午後零時三十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00219310209&spkNum=29
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