1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
刑事補償法案(政府提出)
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會議
昭和六年二月十日(火曜日)午前十時五十分開議
出席委員左の如し
委員長 横山金太郎君
理事 篠原陸朗君
理事 牧野賤男君
理事 小野寺章君
小俣政一君 一松定吉君
關口志行君 斯波貞吉君
春島東四郎君 岡田春夫君
飯村五郎君 牧野良三君
上田孝吉君 米田規矩馬君
崎山嗣朝君 大山郁夫君
出席國務大臣左の如し
司法大臣 子爵 渡邊千冬君
出席政府委員左の如し
内務政務次官 齋藤隆夫君
陸軍一等主計正 矢部潤二君
海軍政務次官 男爵 矢吹省三君
司法政務次官 川崎克君
司法參與官 井本常作君
司法省民事局長 長島毅君
司法省刑事局長 泉二新熊君
本日の會議に上りたる議案左の如し
刑事補償法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=0
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001・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ昨日ニ引續イ
テ委員會ヲ開キマス、今日ハ既ニ御通
告ニナッテ居リマスル通告順ニ依ッテ質
問ヲ開始シタイト思ヒマス、第一番ハ
大山郁夫君デアリマス、大山君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=1
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002・牧野良三
○牧野(良)委員 一寸委員長議事進行
ニ付テ-、大變ニ結構ナ案ヲ御出シ
下サッテ、其點ハ喜ンデ居リマスガ、內
容ハ大變マア期待ニ副フ所ガ少ナイノ
デアリマス、其意味ニ於キマシテ、此
種ノ法律ノ制定ニ付キマシテ、一度制
定サレマスト、中々改正ガ面倒ナノデ
アリマス、ソコデ實ハ私共委員及ビ各
方面ノ關係者ガ寄リマシテ、質問ヲ進
メル前ニ懇談ヲ致シタ方ガドウカト云
フ意見ヲ持ッテ居テ、今非公式ニ其話ヲ
シテ置イタ所デアリマス、唯此處デ餘
リニ深刻ナ質問ヲ致スト云フコトニナ
リマスト、政府ガ雅量ヲ御示シ下サル
上ニ惡イ影響ガアッテハナラヌト思ヒ
マシテ、ソレデ質問ノ內容ヲ進メル前
二、寧ロ懇談ヲ致シタ方ガドウカト云
フ意見ヲ出シタノデアリマス、併シ委
員長モ、或ル程度マデハ質問ヲ進メナ
イト、其懇談ノ內容モ自然定マラナイ
ノデアラウカラト云フ御話モアッタノ
デアリマス、ソコデ然ラバ或ル程度マ
デハ質問ヲ進メタ方ガ宜イト云フ意時モ寃罪ヲ受ケテ居ル、
見ニ從ヒマスノデスガ、併シ此點ニ於
キマシテ豫メ政府當局ニ於キマシテ
モ、ドウカ虛心坦懷ニ、重大ナル意義ヲ
齎スベキ法案ト存ジマスノデ、成ベク
其點ニ關シテハ、委員ノ意見ヲ雅量ヲ
持ッテ御容レ下サルヤウニ、ドウゾ根
本的ナ方面ニ對シテ委員ノ意見ヲ容
レラレル積リデ、質問應答ニモ特ニ御
心ヲ注イデ戴キタイト思ヒマス、豫メ
一言議事進行ニ付キマシテ申上ゲマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=2
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003・大山郁夫
○大山委員 私モ懇談的ノ意味デ、自
分ノ意見ヲ述べ、又質問ヲシタイト思
ヒマス、一體私ハ法律ニ關シテハ全然
門外漢デ、此刑事補償法案ニアルコト
ニ付テモ、マダ實ハ十分呑込メテ居ナ
イノデアリマスガ、併シ勞働者農民ノ
立場カラ、此刑事補償法案ガドウ云フ
風ニ解釋サレルカト云フコトヲ先ヅ一
言言ッテ見タイト思フノデアリマス、ソ
レハ寧ロ今牧野君ノ言ハレタ懇談的ノ
意味デ申上ゲタイト思フノデアリマ
ス、是ハ勿論、寃罪ニ對スル補償ト云
フ言葉デ全體ガ性質付ケラレテ居ルト
思フノデアリマス、御存ジノ通リ無產
階級ノ解放運動ニ從事シテ居ル者ハ何
是ハ現實ノ事
實デ、此間ノ政府委員ノ說明ニハ、警
官ガ職權ヲ濫用シタヤウナコトハ全然
ナイト云フヤウナ御話モアッタノデア
リマスガ、併シ政府委員ガ斯ウ云フ言
葉ヲ用ヰラレテモ、實際ノ事實ヲ打消
スコトガ出來ナイノデアリマス、現
私自ラモ受ケテ居リ、又私ノ身邊ノ人
人モ常ニ受ケテ居ル、寃罪ト云フモノ
ハ、無產階級ノ運動ニ從事シテ居ル人
人ハ始終受ケテ居ル事柄ナノデ、無產
階級ノ解放運動ノ方面ニ於テハ、犯罪
ヲ揑チ上ゲルト云フコトヲ言ッテ居ル、
犯罪ヲ揑チ上ゲルト云フコトハ其例ガ
多過ギル、私ハ一々其事實ヲ此處デ擧
ゲヨウトシテ居ルノデハアリマセヌ
ガ、ソレハ證明ヲ要シナイ程ノ事ニナツ
テ居ルノデアリマス、ソレデ我々ガ無
產政黨-勞農政黨ノ綱領ヲ見マス
ト、ドノ綱領デモ正式裁判ニ據ラザル
逮捕、監禁、訊問處罪絕對反對ト云フ
コトモアルシ又寃罪及ビ不當勾留ニ對
スル國家補償ノ要求、斯ウ云フコトガ揭
ゲラレテ居ルノデアリマス、其點カラ
見マスレバ、此刑事補償法ト云フノハ、
其要求ニ非常ニ能ク合致シテ居ルヤウ
ニ見エルガ、實ハサウデナイ、第一此
法文ノカラクリト言ヒマスカ、此モノヲ
見テモ勞働者農民ガ此補償法ノ利益ニ
與カラヌヤウニ出來テ居ルヤウニ思ハ
レル點ガアル、ソレカラモウ一ツハ寃
罪ヲ作ル手段、卽チ例ノ誘導訊問デア
ルトカ、或ハ拷問、斯ウ云フコトニ對ス
ル何ト言ヒマスカ、禁止或ハ豫防手段
ト云フモノガ此中ニ少シモ講ゼラレテ
居ナイ、所ガ勞働者農民ハ既ニ受ケテ
居ル寃罪ニ對スル補償ヲ要求シテ居ル
バカリデナク、寃罪ニ導ク手段、寃罪
ヲ作ル手段ノ撤廢ヲ要求シテ居ル、サ
ウシテ今日勞働者ハ詰リ政治的自由ノ
爲ニ鬪フト言ッテ居ルノハ此點ニ觸レ
テ居ル點ガ非常ニ多イ、此刑事補償法
案ヲ說明サレル時ニ人權蹂躪、人權蹂
躪ト云フ言葉ヲ使ッテ居ラレルガ、勞働
者農民ハ自分達ノ人權ガ尊重サレテ居
ルトハ考ヘテ居ラナイ、寧ロ斯ウ云フ
案ニ對シテモ一ツノ政治的自由獲得鬪
爭ノ題目トシテ之ヲ見テ居ル、此點ヲ
先ヅ第一ニ先キニ言ヲテ置キタイノデ
アリマス
ソレデ其法文ノカラクリト云フモノ
ヲ調ベテ見ルト、相當澤山ニアルト思
フ、殊ニ第四條ニ「無罪又ハ免訴ノ言
渡ヲ受ケタル者ニ付左ノ事由アルトキ
ハ補償ヲ給與セズ」斯ウ云フモノガ書
イテアリマス、サウシテ其事由ト云フ
ノハ「一、刑法第三十九條乃至第四十
一條ニ規定スル事由ニ因リ無罪又ハ免
訴ノ言渡アリタルトキ、二、起訴セラ
レタル行爲ガ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗
ニ反シ著シク非難スベキモノナルト
キ、本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因
ル行爲ガ起訴、勾留、公判ニ付スル處
分又ハ再審請求ノ原由ト爲リタルトキ
ハ第一條第一項ノ補償ヲ給與セズ」斯
ウ云フ文句ガアルノデアリマスガ、第
一號ノ文句ハ專門的ニナッテ居ルノデ
私達ニハ十分分リマセヌカラソレヲ飛
バシマスガ、第二號ニ「起訴セラレタ
ル行爲ガ公ノ秩序」云々トアリマス、
此公ノ秩序ト云フノガ勞働者農民ノ立
場カラ見レバ非常ニ惡辣ナ罠ニナッテ
居ル、今日勞働者農民ガ其解放運動ニ
於テ日常ノ利益ヲ擁護仲張スル、或
政治的自由獲得ノ爲ニ鬪フ、斯ウ云フ
行爲ハ何時モ公ノ秩序デヤッツケラレ
テ居ル、例ヘバ能ク地方長官會議ニ於
テ安達內相ガ色々ナ訓示ヲシテ居ラレ
ルガ、サウ云フ訓示ノ中ニ、勞働運動
ト云フモノハ之ヲ彈壓スベキモノデナ
イ、併ナガラ公安ヲ紊ルヤウナ事ガアツ
タナラバ斷乎トシテ之ヲ取締ルベキデ
アル、斯ウ云フヤウナコトガアル、サ
ウシテ最初ノ中ハサウ云フ訓示ガ與ヘ
ラレテ居ルノデ、勞働者農民ハ自分達
ガ日常利益ヲ擁護伸張シテ居ルノダカ
ラ、別ニ公ノ秩序ガソレニ依ッテ害サレ
ルト云フヤウナコトハ少シモ考ヘナ
イ、所ガ事實勞働爭議或ハ農村爭議ノ
場合ニ、自分ノ利益ヲ擁護スル爲ニ樣
樣ノ運動ヲヤル、サウスルト少シモ彈
壓ヲ受ケナイドコロデハナイ、一番始
カラ彈壓ヲ受ケル、サウ云フ時ニハドウ
云フ口實デ彈壓ヲ受ケルカト言ヘバ、
警官ハ直チニ公ノ秩序ヲ害スル、公安
ヲ害スルト、斯ウ言ッテヤッテ來ルノデ
アリマス、例ヘバ私達モ爭議ニ屢〓
自分デ參加スルノデナイガ、サウ云フ
場面へ行ッテ如何ナル事ガ行ハレテ居
ルカト云フコトヲ視察ニ行クコトモア
ルシ、又爭議團ニ激勵ヲ與ヘニ行ク場
合ガアリマス、爭議ヲ起シテ居ル場合
ニハ勿論勞働者ハ團結ヲ固メナケレ
バナラヌ、團結ヲ固メルニハ會合シテ
激勵ノ演說ヲシ合フ場合モアル、ソレ
カラ又爭議ハ一ツノ戰デアルカラ色々
ナ計畫ヲ定メナケレバナラヌ、資本家
ニ對シテドウ云フ態度ヲ執ルベキカ、
サウ云フ計畫ヲ定メル、ソレガ爲ニ會
合スルコトガアル、サウ云フ會合ガア
ル時ニ直チニ警官ガ踏ミ込ンデ來テ、
サウシテ集會ノ解散ヲ命ズルトカ、又
其中ノ一二ノ人ヲ檢束スルトカ何ト
カ、斯ウ云フヤウナコトヲシテ、サウ
シテ其會ヲ壞シテシマフ、是ガ皆公安
ヲ害スル、サウ云フ名義デ彈壓ヲ受ケ
テ居ルノデアリマス、所ガ勞働者農民
ノ眼カラ見タ公安ト云フモノハ一體何
デアルカト言ヘバ、現在日本ノ人口ノ
中デ最モ多數ヲ占メテ居ルノガ勞働者
農民デアル、其勞働者農民ノ生活ガ窮
迫ニ陷シ入レラレルト云フコト、是コ
ソ公安ヲ害スルモノデアル、資本家地
主ガ勞働者農民ノ生活ガドン底ニ陷ツ
テ反抗セザルヲ得ナクナルニ至ラシメ
タ、其事コソ公安ヲ害スルト斯ウ考ヘ
テ居ルノデアリマスガ、取締官憲ノ考
ハ全然反對デ、勞働者農民ガ自己ノ生
活ヲ擁護スル爲ニ樣々ノ會合ヲスルト
カ、「ストライキ」ヲヤルトカ云フ場合、
ソレガ公安ヲ害スルト言フ、ソレデ勞
働者農民ノ解スル公安ハ政府ニ依ッテ
ハ公安トハ解サレテ居ナイ、公安ト云
フ言葉ハ政府ニ於テ資本家地主ノ公安
ト云フ意味ニ解サレテ居ルノデアリマ
ス、公ノ秩序ト云フ言葉モ同ジコトデ
アッテ、勞働者農民ノ生活ガ侵害サレル
コトハ公ノ秩序ヲ害スルモノト解サレ
テ居ナイ、資本家地主ノ利益ガ侵害サ
レルコトガ公ノ秩序ヲ害スルト云フコ
トニナッテ居ル、是ハ今日ノ法律ガ私有
財產ヲ保護スルト云フコトヲ根本基調
ニシテ居ルカラト云フコトハ言フマデ
モナイコトデアリマス、私有財產ノ保
護ヲ基調ニシテ居ルト成程勞働者農民
ハ私有財產ニ大體緣ノ無イモノデアル
カラ、サウ云フコトニナルノデアリマ
セウガ、併ナガラ勞働者農民ノ見方ハ
スッカリ違フノデアリマシテ、卽チ自分
達ノ利益ノ害サレルト云フコトガ、是ガ
公ノ秩序或ハ公安ヲ害スルト云フ
風ニ考ヘテ居ルノデアリマス、所ガ勞働
者農民ヲ彈壓スルノハ何時モ勞働者農
民ガ自分ノ生活ヲ擁護スル爲ニ行動ヲ
スル、ソレガ公安ヲ害スル、斯ウ云フ
意味デ有ユル彈壓ヲ蒙ムル、ダカラ此
處ニアル公ノ秩序云々ト云フコトガ、
或ル場合ニハ勞働爭議ヲシテ居ル場合
ニ引掛ッタヤウナ、サウ云フ者ハ忽チ公
ノ秩序ヲ害スルト云フコトニ當嵌マル
コトニナッテシマッテ、補償ヲ受ケル權
利ヲ全然喪失シテシマフノダ、斯ウ云
フ風ニ勞働者農民ハ考ヘテ居ルノデア
リマス、善良ノ風俗ト云フ點ニモ多少
意見ガアルガ、公ノ秩序云々ト云フコ
トガ勞働者農民ニ對シテ勿論民デアル
ト云フコトハ、苟モ解放運動ニ從事シ
テ居ル者ハ勿論、勞働者農民ハ一人殘
ラズ言ッテ居ルト斷言スルコトガ出來
ル又「本人ノ故意又ハ重大ナル過失
ニ因ル」是モヤハリ勞働者農民ニ對シ
テハ同樣ニ大キナ民デアル、ヤハリ農
村爭議、勞働爭議ノ場合ニ之ニ引掛ル
ヤウナ行動ガ屢〓演ゼラレルノデアル
ガ先ニ申シマシタ誘導訊問デアルト
カ、或ハ拷問、斯ウ云フコトニ關係シ
テ、サウシテ勞働者農民ニ對シテ非常
ナ苦痛ヲ與ヘルモノデアルト思フノデ
アリマス、此法文ノ中ニハ拷問ヲ林ホズ
ルトカ、或ハ誘導訊問ヲ禁ズルト云フ
コトハナイ、恐ラクドノ法律ニモ拷問
ニ關係スル條項ヲ有ッテ居ル法律ハナ
イト思フノデアリマスガ、併ナガラ同
時ニ又拷問ヲシロ、或ハ誘導訊問ヲシ
ロト云フコトヲ規定シテ居ル法律モナ
イ、又政府ノ人々ハ現內閣ハ立憲主義
ヲ非常ニ尊重シテ居ルヤウニ言ハレル
ガ、立憲主義ノ立場カラ言ッテモ拷問ト
云フコトハ過去ノモノニナッテ居ラナ
ケレバナラヌ、封建時代ニハ拷問ト云
フコトガアッタ、併シ立憲主義ト云フモ
ノガ採用セラレテカラ拷問ト云フコト
ガナクナッテシマッテ居ル筈デアル、「ブ
ルジヨア」革命ガ-全然封建的遺制
ト云フモノヲ破壞シテシマッテ、サウシテ
拷問ト云フモノヲモ同時ニ一掃シタコ
トニナッテ居ル、所デ日本ノ封建時代ノ
歷史ハ拷問ト云フモノハ澤山アル、又
佛蘭西革命以前ノ勞働者農民-否ナ
其時代ハ農民デアリマシタガ、此農民
ガ屢〓拷問ニ拷問ヲ加ヘラレ、拷問ニ對
シテ苦ンデ居ノタコトモアル、又露西亞
ノ革命前ノ狀態ヲ見マシテモ、農民ガ
地主カラ常ニ多クノ拷問ヲ受ケテ居
ル、併ナガラ今日ノ日本ニ於テハ拷問
ト云フモノハ全然ナクナッテシマッテ居
ルト云フヤウナ風ニ考ヘテ居ル人サヘ
モ決シテ少クナイノデアリマス、併ナ
ガラ勞働者農民ハ決シテ此拷問ト云フ
モノガ無クナッテ居ルトハ考ヘテ居ナ
イ、自己ノ體驗ニ依ッテ拷問ト云フモノ
ガ日常繰返サレテ居ルコトヲ知ッテ居
ルノデアリマス、殊ニアノ治安維持法
ト云フモノガ制定セラレテカラ.少ク
トモ治安維持法ノ違反者竝ニ其治安維
持法ノ違反ノ嫌疑者ニ向ヲテ、拷問ガ常
ニ行ハレテ居ルト云フコトヲ十分ニ
知ッテ居ル、是モ政府ノ方ハ常ニ否定サ
レルノデアリマセウガ、併ナガラ政府
ノ人々ノ否定ノ言葉ハ決シテ實在ノ事
實ヲ如何トモスルコトガ出來ナイ、最
近ハ拷問ガ非常ニ科學的ニナッテ居ル
トサヘスラモ言ハレテ居ルノデアリマ
ス、吾々ハ實際拷問ヲ經テ來タ人カラ
聞クト今日デハ指ノ間ニ鉛筆ヲ挿ン
デ苦痛ヲ與ヘテ長イ時間拷問ヲスル、
或ハ逆サニ吊サレテ竹刀デ擲ラレル、
モット酷クナルト「コルセット」ノヤウナ
モノヲ著セテ肌ニ喰入ルヤウナ殘酷ナ
拷問ガアルト云フコトヲ聞イテ居ル
シ、ソレカラ膝ノ間ニ何カ板ノヤウナ
モノガ置置レ上カラ押付ケラレテ肉體
ニ言フベカラザル苦痛ヲ與ヘラレテ、
心ニモナイ自白ヲ强要セラレルト云フ
コトガアルト云フコトヲ聞イテ居ルノ
デアリマス、此現在ノ立憲主義ト云フ
モノハ昔ノ封建制度ノ下ニ行ハレタ專
制主義、絕對主義ト云フコトニ對シテ
起ッテ居ル、殊ニ各人ノ生命、身體、自
由ト云フモノヲ擁護スルト云フ其趣意
カラ起ッテ居ルト云フコトハ言フマデ
モナイ、此一事、殊ニアノ立憲主義ト
云フモノヲ主張シタ人々ノ間ニハ自
白ト云フコトニ對シテハ非常ナ注意ヲ
拂ッテ、如何ナル人々モ自分ノ不利益ニ
ナルヤウナコトヲ自白スル義務ハナイ
ト云フコトヲ言ッテ居ル、卽チ自分ニ不
利益ナルコトヲ自白シナイト云フコト
ハ其人間ニ付キ纒ヲテ居ル權利デア
ル、人格權ト言フカ、或ハ主體的權利
ト言フカ、兎ニ角サウ云フ名前ヲ以テ
呼バレテ居ル、立憲主義ニ於テ、サウ
云フコトハ許サルベキモノデナイト云
フコトヲハッキリ言ッテ居ル、私ノ專門
外デアルガ、聞ク所ニ依レバ、新刑事
訴訟法ニ於テモ、被〓ハ檢事ト對等ノ
地位ニ置カレテ居ル、サウシテ自白ヲ
强要セラレルモノデナイト云フ趣意ガ
確立セラレテ居ルト云フコトヲ聞イタ
ノデアリマス、自白サヘモ强要セラレ
テ居ラナイノデアリマス、況ヤ自白デ
ハナイ、自分ノシナイコトヲマデ告白
サセル爲ニ拷問ヲ加ヘラレルコトガナ
イ筈ニナッテ居ル、ソレニモ拘ラズ實際
ニ於テハ誘導訊問ヤ拷問ガ行ハレテ事
實無イコトマデヲモ告白スルコトヲ强
要サレルヤウナコトガ行ハレテ居ルト
云フコトデアッテハ、寃罪ガドン〓〓ア
トカラ〓〓ト作ラレテ來ル、勞働者農
民ハソレヲ稱シテ犯罪ヲ捏チ上ゲルト
言ッテ居ル、斯ウ云フコトガ行ハレテ居
ル、ソレヲ何トカシナケレバナラヌ、
寃罪ニ對シテドレダケ補償ガ與ヘラレ
ルや、寧ロ勞働者農民ハ此刑事補償法
ニ依ッテ何等利益ヲ受ケルモノデハナ
イト云フコトハ明カデアルト思フノデ
アリマス、此點ヲ十分考ヘテ戴キタイ
ト思フノデアリマス
ソレデ斯ウ云フ法文ノカラクリハ他
ニモ澤山アルト思ヒマス、例ヘバ第五
條ニ、「勾留ニ因ル補償ニ於テハ勾引狀
又ハ勾留狀執行後ノ拘禁日數ニ對シテ
一日五圓以内ノ補償金ヲ給與ス」トア
ルガ、是ハ最大限ヲ規定シテ居ルノデ
アル、一日五圓以內ト規定シテ居リマ
シテ、最少限ハ規定シテ居ラナイノデ
アルカラ此補償金ハ一錢ニナルカ一厘
ニナルカ知レヌ、卽チ勞働者農民ガ無
罪ノ宣告ヲ受ケタリ、免訴ニナッタ時ニ
貴樣ニハ補償シテヤルト言ハレテモ、
最少限度ヲ規定シテ居ラナイカラ、
日一錢トカ一厘トカノ補償ヲ受ケテモ
泣キ寢入リニナラナケレバナラナイ、
卽チサウ云フ補償額ニ對シテハ文句ガ
言ヘナイト云フコトカ何處カニアッタ
ト考ヘマス、卽チ第十一條ニ「補償給與
ノ決定ニ對シテハ不服ヲ申立ツルコト
ヲ得ス」ト書イテアルガ、是ハ全然一
方的行爲デアル、最低限度ノ一厘ヲ給
サレテモ文句ガ言ヘナイ、斯ウ云フコ
トニナッテ居ルト考ヘマス、私ノ考違ヒ
デアリマシタナラバ、アトデ訂正ヲ願
ヒマス、私ハ法文ヲ解釋スル能力ガ稀
薄デアルカラ或ハ間違ヲテ居ルカモ知
レナイガ、一寸サウ考ヘマス、最大限
度ガ規定サレテ居ッテ、最低限度ガ規
定サレテ居ラナイ、同時ニ補償額ノ決
定ニ對シテハ抗〓ガ出來ナイ、文句ガ
言ヘナイト云フコトニナッテ居リマス
サウシテ勞働者農民ハ大抵ノ場合宛罪
ガ寃罪トナルキリデアルガ偶〓寃罪ト
認メラレルコトガアッテ、補償ニ値スル
ト云フ決定ヲ受ケテモ、最少限度ガ規
定サレテ居ラナイ、サウシテ一度決定
サレルト不服ヲ言フコトガ出來ナイ
コトニナッテ居ル、如何ニモ刑事補償法
ハ、國家ニ不服ヲ言フ者ニ對シテ、却テ
國家ヲ手厚ク保護シテ居ルモノデアル
ト云フコトモハッキリ分ルト思フノデ
アリマス、斯ウ云フ點モ考ヘテ戴キタ
イト思フノデアリマス
ソレカラサッキノ公ノ秩序云々デア
リマスガ、此公ノ秩序ト云フコトハ何
時モ此場合ハ裁判官ノ認定ニ任ゼラレ
テ居ルノデコッチノ勞働者農民ノ方カ
ラ、俺ノ考ヘテ居ル公ノ秩序ハ斯ウデ
アルト云フコトガ言ヘナイヤウニナツ
テ居ル、全然一方的ノ行動デアル、斯
ウ云フ所ヲ見テモ、勞働者農民ニハ何
等ノ利益モ保障ヲモ與へテ居ラナイト
云フコトガ言ヘル、一體勞働者農民ハ
常ニ行政處分ノ場合ヲ非常ニ重大視シ
テ居ル、此補償法ト云フモノハ、行政
處分ノ方ニ適用セラレルモノデナイト
云フコトハ政府委員ガ此間說明セラレ
テ居ル、此點ニ於テモ尙ホ言ヒタイノ
デアリマスケレドモ、ソレハ後ニ申シ
やめ、此行政處分ノ場合ニ何時モ公安
ヲ害シタト云ッテ引ッ張フテ行カレル、其
時ニ公安ヲ害スルト云フ認定ハ誰ガス
ルノカト云ヘバ、勿論警官デアル、此
場合ニ對シテハ何等異議ガ申立テラレ
ナイ、ソレヲ救濟スル途ハ全然ナイ、
是コソ本當ニ絕對主義デアル、ソレニ
對シテ間違ヲテ居ルト云フコトガ言ヘ
ナイ、立憲主義ト云フコトデアリマス
カラ民衆ノ權利ガ保障サレテ居ル筈デ
アルガ、此公安云々ノ場合ニ於テハ民
衆ノ權利ト云フモノハ全然保障サレテ
居ラナイ、殊ニ行政處分ニ付テハ警官
ノ言ッタコトガ絕對デアル、斯ウ云フ絕
對主義ト云フモノガ今日ノ制度ノ下ニ
アルト云フコトサヘモ不思議ニ考ヘラ
レルノダガ、而カモソレニ當ル場合ガ
實ニ無限デアルト云フコトヲ考ヘル時
ニ、吾々ハ今日ノ日本ノ立憲主義ト云
フモノガ如何ナル本質ヲ持ッテ居ルカ
ト云フコトヲハッキリ見ルコトガ出來
ルト思フノデアリマス、此點ヲ十分ニ
考ヘテ戴キタイ、殊ニ現內閣ノ人々ハ
田中反動內閣ト違ッテ立憲主義ト云フ
コトヲ看板ニシテ居ラレル、少クトモ
看板ニダケハシテ居ラレル、デアルカ
ラシテ此點モモット十分ニ考ヘテ戴キ
タイト思フノデアリマス、憲法ニハ、
日本臣民ハ法律ニ定メタル裁判官ノ裁
判ヲ受クルノ權利ヲ拒マルヽコトナシ
ト云フコトモ書イテアルシ、又法律ニ
依ルニ非ザレバ逮捕監禁審問處罰ヲ受
クルコトナシト云フコトモ書イテアル
シ、或ハ信書ノ祕密ヲ侵サルルコトナ
シト云フコトモ規定シテアルシ、又法
律ノ範圍內ニ於テ言論集會出版結社ノ
自由ヲ有スト云フコトモ規定シテアル
ノデアリマスガ、斯ウ云フ規定ヲ、全然
蹂躪シテシマッテ居ルモノハ何デアル
カト云ヘバ、治安警察法トカ、治安維
持法ハ勿論ノコトデアルガ、行政執行
法、警察犯處罰令、違警罪卽決例、暴力
取締法其他ノ暴壓法デアル、サウ云フ
モノニ依ッテ、憲法ニ一應保障シテアル
筈ノ有ユル政治的自由ト云フモノガ勞
働者農民カラ根コソギ奪ヒ去ラレテシ
マッテ居ル、吾々ハ此議會ニ於テモ治安
維持法、治安警察法、暴力取締法トカ
或ハ警察犯處罰令、行政執行法ヲ撤廢
スル法律案ヲ出サウトシテ居ル者デア
リマスガ、併シ是ハ別問題トシテ、此
處デハ言ハナイコトニ致シマスガ、
モ角此警察犯處罰令、行政執行法、違
警罪卽決例等々ノ方面ニ此補償法ガ適
用サレテ居ラナイト云フコトハ、此立
法者ノ意思ガ何處ニアルカト云フコト
ヲ吾々ニ明瞭ニ物語ッテ居ルモノデア
ルト思フノデアリマス、ソレカラ先達
ノ本會議ニ於テ政府委員ノ說明ニ依ル
ト云フト、アノ行政處分ヲ受ケテ、正
式裁判ヲ申立テ、サウシテ正式裁判ヲ
受ケテ無罪ニナッタ者ガ澤山アルガ、サ
ウ云フ方面ニハ此補償法ヲ適用シナ
イ、斯ウ云ッテ居ラレル、併ナガラ直グ
ニハシナイノダガ、將來サウ云フコト
ヲスルコトモアルダラウ、斯ウ云フ說
明ガアッタヤウニ思フノデアリマス、所
ガ勞働者農民ノ立場カラ云ヘバ、サウ
シタ方面ニ於ケル補償法コソ眞先キニ
主張シナケレバナラナイノダガ、政府
ハ先ヅ其方ハ後廻シト斯ウ云フ風ニ說
明シテ居ラレル、何故ニ後廻シニセラ
レタノデアルカ、其理由モ私ハ政府カ
ラ聽キタイノデアリマス、今モ申シマ
ス通リニ此補償法案ガ法律ニナッタ所
デ、勞働者農民ガ此補償法ノ利益ヲ受
ケルト云フコトハ全然ナイ、ダカラ此
補償法ハ勞働者農民ハ大シタモノトモ
何トモ思ッテ居ナイ、思ッテ居ナイドコ
ロカ、此補償法ガ實行サレルト云フト、
幾ラカ國庫カラ支出サレルデアラウ、
兎其支出額ガ勞働者農民カラ又取立テラ
レルノダカラ、負擔ガ增スバカリデア
ルシ、負擔ハ受ケルガ、此法律カラ何
等ノ利益ヲ受ケナイト云フコトハ勞働
者、農民ハ十分ニ知ッテ居ル、ソレヨリ
モ勞働者農民ハ行政處分ノ方デ常ニ不
當檢束、不當勾留ト云フモノガ重ネラ
レテ居ル、此方ニ對シテ補償ヲ要求シヨ
ウ、斯ウ云フ風ニ考ヘテ居ルノデアリマ
ス、サウシテアノ行政處分ニ於ケル所
ノ不當檢束、不當勾留ニ對スル補償コ
ソ眞先ニ爲サルベキモノデアルト考ヘ
テ居ルガ政府ハソレヲ後廻シニシテモ
差支ナイモノデアル、斯ウ考ヘテ居ラ
レルヤウニ見エル、玆ニ根本的ノ相違
ガアルヤウニ思ハレマスガ、私ガ聞キ
タイノハ、政府ハ何ガ故ニ行政處分ノ
方ニ對スル補償ト云フモノヲ後廻シニ
サレタカ、此理由ヲハッキリ聞キタイノ
デアリマス、大體私達ニモ見當ハ付ク
ケレドモ、併ナガラ政府委員ノ人々ノ
口カラ其理由ヲハッキリ聽クト云フコ
トハ吾々ノ非常ナ參考ニナルコトデア
リマスカラ、其點ヲ聞キタイ
ソレデ先刻懇談ト云フ御話ガアリマ
シタカラ、懇談ト云フ意味デ色々ナ點
ヲ前後モナク御話シタ譯デアリマス
ガ、其中デ質問シタイ點ヲ一二述ベテ
見タイト思フノデアリマス、質問シタ
イノハ、先刻言ノタ第四條ノ公ノ秩序、
此認定權ハ全然司法官ニアルモノト此
法文デハ認メラレテアリマスガ、併ナ
ガラ補償ヲ受ケル者ノ側カラ色々言フ
コトガアルガ、其言フコトヲ取上ゲラ
レル方法ヲ講ゼラレル言葉ガ法文ノ何
處ニ含マレテ居ルカ、勿論明文ノ中ニ
ハナイガ、何處カニサウ云フコトガ含
マレテ居ルカト云フコトヲ聞キタイ、
全然司法官ノ認定ト云フモノニ委シテ
シマッテアルノデアルカ、其點ヲ第一ニ
聞キタイノデアリマス
ソレカラ又其次ノ第五條ハ補償額ノ
最大限ダケヲキメテ、最低限ヲキメテ
居ラナイト云フノハ一體ドウ云フ譯デ
アルカ、其點ヲ聞イテ置キタイ、最低
限ヲキメテ居ラナカッタラ何ニモナラ
ナイト私ハ考ヘルノデアリマス、ソレ
カラ「補償給與ノ決定ニ對シテハ不服
ヲ申立ツルコトヲ得ズ」、是ハ讀ンデ字
ノ如ク解釋出來ルモノデアリマスガ、
斯ウ云フ規定ガ設ケラレタ其理由ヲ私
ハ聞イテ置キタイト思フ
モウ一ツ私達ガ聞イテ置キタイコト
ハ第十九條ニ「本法ハ軍法會議ニ於テ
無罪ノ言渡アリタル場合ニ之ヲ準用ス
但シ補償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ
對シテハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得ズ」
トアル、是ハ先キノ第十一條ノ方ニハ
그補償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對
シテハ卽時抗〓ヲ爲スコトヲ得」ト云
フコトガアルノデアリマスガ、軍法會
議ノ場合ニハ軍法會議デ無罪又ハ免
訴ノ言渡ヲ受ケタル場合ニハソレガ出
來ナイコトニナッテ居ル、何ガ故ニ斯ウ
云フ規定ガ設ケラレテ居ルノデアル
カ、是ハ軍人軍屬ト云フ者ハ、軍人軍
屬以外ノ者ヨリ政治的自由ト云フモノ
ガ非常ニ澤山奪ハレテ居ル、此場合ニ
於テモ矢張同ジヤウナ筋道ニナッテ居
ルト考ヘテ宜シイノデアリマスカ、ソ
レニ對スル政府ノ說明モ聞イテ置キタ
イト思フノデアリマス、尙ホ政府ノ說
明ニ依ッテ質問スルコトモアラウト思
ヒマスガ、此法律案デハ今言ッタ點ト、
ソレカラ此法律案ニ無イ部分デハ先キ
モ申上ゲマシタガ、政府委員ノ說明デ
ハ行政處分ニ對スル不當勾留、或ハ不
當檢束、サウ云フモノニ對シテハ此補
償法ヲ適用シナイ、ダガ將來適用スル
コトガアルデアラウト言ハレル、卽チ
後廻シニスルト言ハレル、何故ニ後廻
シニサレルノデアルカ、勞働者、農民
ハ其方ヲ先ニ要求シテ居ルガ、政府ハ
ソレヲ後廻シニシテ、緩ックリ考ヘラレ
ルト言フ、何故勞働者農民ガ最モ重大
ナ問題トシテ居ルモノヲ後廻シニサレ
タノデアルカ、斯ウ云フ諸點ヲ一應政
府カラ說明シテ戴キタイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=3
-
004・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 牧野君カラ、此法案
ノ趣旨ニ於テハ自分等モ大賛成デアル
ガ、唯此法案ノ內容ニ付テハ不滿足デ
アル、就テハ懇談的ニ能ク話合ヲシテ
見タイト云フ御申出ガアリマシタガ、
御尤モナ事ダト思ヒマス、大山君モ其
意味ニ於テ質問スルト云フコトデ縷々
御述ベニナリマシタ事ハ承リマシタ、
其御話ノ中ニ、色々警察關係ノ事ニ付
テノ御感想等モアリマシタガ、最後ニ
質疑ノ要點トシテ列擧セラレタ事ニ付
テ私カラ一應御說明ヲ致シマス、尙ホ
足ラナイ所ハ改メテ申上ゲルコトニ致
シタイト思ヒマス
第一ハ第四條ノ第一項第二號ニ、起
訴セラレタル行爲ガ公ノ秩序又ハ善良
ノ風俗ニ反シ著シク非難スベキモノデ
アルトキハ補償ヲ給與シナイト云フコ
トニナッテ居ルガ、其判定ハ判事ノ認定
ニ委シ、此補償ヲ受ケントシテ居ル者
ニハ何等意見ヲ申述ベル機會ガ無イノ
ハ不當デハナイカ、斯ウ云フヤウナ御
質問デアッタト思ヒマスガ、是ハ此申立
ヲ棄却スル決定ニ對シテハ卽時抗〓ヲ
爲スコトヲ得ト云フコトガ十一條ノ二
項ニアルノデアリマシテ、今大山君ハ
第一項ノ點ニ付テノミ御質問ニナッタ
ノデアリマスガ、補償給與ヲシナイト
云フ決定ガアレバ、ソレニ對シテ給與
ヲ受ケント欲スル者ハ抗告ヲスルコト
ガ出來ルコトニナッテ居リマスカラ、全
ク一時ノ決定デ以テ如何トモスベカラ
ザル確定狀態ニナル、サウ云フ事デハ
ナイヤウニナッテ居ルノデアリマス
ソレカラ第五條ノ補償金額ヲ一日五
圓以下ト定メテ居ルケレドモ、最低額
ガキメテナイカラ、一日一錢ト計算ヲ
シテモ是ハ異存ヲ言フコトガ出來ナイ
ノハ不當デハナイカ、十一條ノ第一項
ニ「補償給與ノ決定ニ對シテハ不服ヲ
申立ツルコトヲ得ズ」トアル以上ハ
錢デモ、一厘デモ之ニ對シテハ不服ヲ
言フコトガ出來ナイ、是ハ甚ダ不當デ
アル、斯ウ云フヤウナ御質問デアッタ
ヤウニ思ヒマスガ、此一日五圓以下ト
キメタト云フコトハ大山君ノ御言葉ニ
依リマスト「カラクリ」ト云フヤウナ
御言葉ガアッタヤウデアリマスガ、決
シテ是ハサウ云フ「カラクリ」ナドヽ云
フコトデハナイ、此法案ノ建前ト云フ
モノガ假ニ御不滿デアッテモ、是ハ何
處カカラ要求サレテ、餘儀ナク嫌ヤ嫌
ヤ出スト云フヤウナ、「カラクリ」ヲシ
テ、出スコトハ出スケレドモ、成ベク
詰ラヌモノニシヨウ、サウ云フヤウナ
意味デナイト云フコトハ大山君モ御承
知ノ通リデ、是ハ今マデ日本ニ無イ新
シイ制度ヲ玆ニ設ケルノデ、御不滿カ
モ知ラヌガ、政府ノ方デハ是ダケノ事
ヲ致シタ爲ニ、國民ニ對シテハソレダケ
仁政-大山君ノ方デハ仁政トハ御考
ヘニナラヌカモ知ラヌケレドモ、私共
ハ是ダケデモマア一ツノ仁政デアルカ
ラヤルト云フヤウナ事デ此法律案ハ出
來タノデアリマシテ、一錢一厘ト云フ
ヤウナコトヲヤル爲ニ五圓以下ト、最
大限バカリキメテ最低限ハキメナイ、
サウ云フ惡イ精神デハナイノデアリマ
スカラ、其處ハ一ツ十分御諒解ヲ願ヒ
Tv.唯斯ウ云フ豫算ノ伴フ法案ニ付
キマシテハ、最大限ヲ決メテ置キマセ
ヌデ、ドノ位金ガ掛カルカト云フコト
ガ豫メ分ラナイト云フコトハ、財政上
ニ不安ヲ感ズル虞モアリマスノデ、ソ
レデマア五圓以內ト決メタ譯デアリマ
ス、ソレモ一昨日モ繰返シテ申シタノ
デアリマスケレドモ、總テノ失ハレタ
金錢上ノ損害ヲ皆補償スルト云フ意味
デナク、或ル慰藉ヲ行フ、無辜ノ良民
ニ對シテ慰メテヤラウ、サウ云フコト
ガ根本ノ精神デアルノデアリマスカ
ラ、ソレデ五圓以下ト決メタノデアリ
マシテ、決シテ是ハ「カラクリ」トカ何
トカサウ云フ惡イ意味ハ含ンデ居ラナ
イノデアリマスカラ左樣御承知ヲ願ヒ
マス
ソレカラ軍法會議ノコトハ、是ハ陸
軍ノ方カラ御聽キヲ願ヒタイト思ヒマ
スガ、サウ致シマシテ行政關係ノ方ノ
補償スルト云フコトヲ除イタ譯ハドウ
デアルカ、後廻シニシタ譯ハドウ云フ
譯デアルカ、斯ウ云フ御質問ガアッタ
ノデアリマスガ、之ニハ色々ナ理由ガ
アルノデアリマス、一ツハ此法律ヲ本
年出スニ付キマシテハ、非常ニ-是
ハ內部ノ懇談デアリマスカラ内輪話ヲ
申上ゲルヤウデアリマスケレドモ、財
政ガ餘裕ノ少ナイ本年ニ於キマシテ
ハ、隨分困難ヲ致シマシタ、財政ノ當
局者ト折衝スルノニ付テ、一時ハモウ
ムツカシイノヂヤナイカ、新聞ナドデ
モ御承知カモ知レマセヌケレドモ、初
ノ豫算會議ノ時ニハ是ハマダ決ヲテ居
リマセヌデ、ソレカラ豫算會議ノ濟ン
ダ後デ色々ノコトヲシテ、此財源捻出
ト云フコトヲ考ヘマシテ、大藏省ト交
涉ヲシテ、マアヤウ〓〓是ダケノモノ
デモ出シタ方ガ出サスヨリハ宜カラウ
ト云フコトデ、斯ウ云フモノヲ決メマ
シタノデ、マア範圍ハ餘リ擴ゲナイ方
ガ金ガ掛カラナクテ宜カラウト云フコ
トモ其一ツノ理由デアリマシテ、決シ
テ農民勞働者ヲ除外スルガ爲ニ、行政
關係ノ方ヲ後ニシタ、サウ云フコトハ
少シモナイノデアリマス、此法律ト云
フモノハ、勞働者デアリマシテモ、農
民デアリマシテモ、資本家デアリマシ
テモ、何人デモ同ジ見地カラ見テ考ヘ
タ法律デアリマシテ、決シテ勞働者農
民ヲ除外スルト云フ精神デ之ヲ制定
シヨウトスルノデハナイノデアリマ
スカラ、ソレモ左樣御承知ヲ願ヒマス
尙又違警罪卽決例ト云フヤウナ關係之ヲ取押ヘル、
ニ於キマシテ、大山君ハ色々御考ヘニナツ
タコトデアラウト思ヒマスケレドモ、違
警罪卽決例ト云フモノハ明治十八年
アタリニ出來タモノデアラウト思ヒマ
スケレドモ、私共モ理想的ナ法律トハ
思ッテ居リマセヌ、警察官ニ裁判權ヲ
與ヘルト云フヤウナコトハ、是ハ憲法
違反トハ思ッテ居リマセスケレドモ非
常ナ一ツノ特異ナ例デアリマシテ、是
ハ早晩何トカシナケレバナラヌト云フ
ヤウナコトモ考ヘテ居リマス、此際サ
ウ云フ法律ト關係ノアル方ノ補償ト云
フモノハ後廻シニスル、尙又實際ニ付
テ考ヘテ見マシテモ、行政警察ト司法
警察トノ間ノ限界ト云フモノハ、甚ダ
ムツカシイノデアリマシテ、マア極ク
卑近ナ例デ申上ゲテ見マスト、或ル醉ッ
パライガ棒ヲ持ッテ往來デ人ノ頭ヲ毆。ツ
テ步クト云フ時ニ、其人ヲ捕ヘルノハ、
是ハ行政警察ノ作用デアルカ、司法警
察ノ作用デアルカ、是カラ先ニ外ノ人
ヲ撲ルコトヲヤラサナイト云フ秩序ノ
維持ト云フ上カラ謂ヘバ行政警察ノ方
デアリマス、併シ人ヲ撲ヲタト云フコト
ハ是ハ一ツノ犯罪デアルカラ、此搜
査ノ爲ニ其人ヲ捕ヘルト云フコトハ司
法警察デアルカモ知レナイ、併ナガラ
其樣ナ場合ニ其醉ツパラヒガ他ノ人ニ
危害ヲ及ボスコトヲ避ケル爲ニ警官ガ
所謂檢束ヲ致シタト云
フ、之ニ付テ補償ヲ與ヘルト云フヤウナ
コトハ、此法律ノ精神トモ違ッテ居リ
マシテ、本人ニ確カニ斯ウ云フ行爲ガ
アリマシタ以上ハ、之ニ補償ヲ與ヘル
ト云フヤウナコトハ如何ナモノデアル
カ、實際上ノ問題ニナリマシテモ甚ダ
困難ナ問題モアルノデアリマス、ソレ
デアリマスカラ今ノ違警罪卽決例デ、
或ハ三日或ハ五日間ノ勾留ヲセラレ
テ、正式裁判ヲ仰イデ無罪ニナッタト
云フヤウナ場合ニ、是等ノ人ニ補償ヲ
與ヘテナラヌト云フヤウナ絕對ノ理由
ハ私認メラレナイト思ヒマスケレド
モ、之ヲ後廻シニ致シタト云フコトヽ
之ヲ絕對ニ否認シタト云フコトヽハ別
ナ考デアリマスカラ、是ハ追テノ事ニ
致シマシテ、先ヅ此際ハ此位ノ程度デ
止メテ置キタイ、斯ウ云フヤウナ考デ
是ハ出來テ居ルノデアリマス、尙ホ軍
法會議ノ問題ハ陸軍ノ政府委員カラ御
說明申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=4
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005・矢部潤二
○矢部政府委員 法案第十九條ノ第一
項ニ於キマシテ、補償給與ノ申立ヲ棄
却スル決定ニハ、軍法會議デハ何故卽
時抗告ヲ許サナイカト云フ御質問デア
リマス、ソレハ軍法會議法ニ於キマシ
テハ刑事訴訟法ト違ヒマシテ、決定ニ
對シテ抗〓ヲ許スト云フ制度ガ出來テ
居リマセヌ、隨テ今囘補償給與ヲシマ
スルニ付キマシテ、補償給與ニ限ヲテ抗
告ヲ許スト云フコトニシマスト訴訟
手續トノ釣合上、ソレハ適當デナイト
云フノデ除キマシタ次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=5
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006・牧野良三
○牧野(良)委員 重ネテ議事進行ニ關
シテ一言申上ゲタイト思ヒマス、只今
大山君竝ニ大臣ヨリノ御言葉ヨリ見ル
ト.私ノ申上ゲマシタ趣旨ニ付テ少シ
誤解ガアルヤウデアリマス、私ハ質問
竝ニ御答ガ、懇談的デアルコトヲ希望
シタ譯デハナイノデアリマス、實ハ此
委員會ノ進ム前ニ、一應懇談シテハド
ウカト云フ意見ヲ私ハ持ッタノデアリ
やっ、併シ或ル程度マデ進ンダ上ニシ
タ方ガト云フ御意見ガアッタノデ、ソレ
ニ從ッタノデアリマス、質問應答ハ强ヒ
テソレニ御拘泥ナク十分ニ致シテ戴キ
タイ、唯〓此法案ハ御趣旨ハ大變良イヤ
ウデアリマスガ、其內容ガ御趣旨ト全
然副ハナイヤウニ考ヘマスノデ、此機
會ニ此種ノ法案ヲ稍〓吾々ノ期待シテ
居タヤウナモノニ致シマスルニハ質
問應答ノ言葉ニ拘ラナイデ、兩方共虛
心坦懷、此根本ノ目的ニ進ンデ之ヲ達
成スルニ付テハ、共ニ雅量ヲ以テ特ニ
進マナケレバナラヌ、斯ウ考ヘマスノ
デ、ドウカ政府當局ニ於テモ成ベク其
心ヲ以テ御答下サレ、又質問者ノ方面
ノ質問モ言葉ニ拘泥シテ感情的ナ方面
ニ亙ラナイヤウニ豫メ御考ヲ御願シタ
ニ過ギナイノデアリマス、左樣御承知
ヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=6
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007・大山郁夫
○大山委員 ドッチ途立場ガ非常ニ違
フノデ、意見ガ一致スル氣遣ヒハナイ
ト思ヒマスガ、政府カラ說明ヲ聽イテ、
之ヲ勞働者ニ傳ヘタイ爲ニ聽イテ居ル
ノデ、兎モ角西スル者ト東スル者トノ
立場ノ相違デ、恐ラクドレ程懇談ヲ重
ネテモ一致點ハ發見出來ナイト思ヒマ
ス、ソレデ懇談的ト言ッテモ、初メカラ
意見ノ一致點ガ求メラレルト云フヤウ
ナ意味デナクテ、多少言フコトヲ軟カ
ニスルト云フ意味ニ了解シテ私ハ質問
ヲヤッテ行ク次第デアリマス、ソレデ大
體ハ無論私ノ質問シタ公ノ秩序云々、
或ハ故意、又ハ重大ナル過失ハ、司法
官ノ一方的認定ニ依ルノダ、勿論、例
外ト言ッテ宜イカ、別ノ言ヒ方ヲシナケ
レバナラナイカドウカ分ラナイケレド
モ、第十一條ニ「補償給與ノ申立ヲ棄
却スル決定ニ對シテハ卽時抗告ヲ爲ス
コトヲ得」トアルカラ此場合ニ付テハ
文句ガ言ヘルト云フヤウナ、御趣意デ
アッタヤウニ思ヒマス、併シ是ハ卽時抗
告シテモ、假リニ此抗告ガ通ッテ、サウ
シテ補償ヲ受ケル段ニナルト、矢張補
償ノ決定ガヤッテ來ルノデ、最後ニハ全
然棄却サレルカ、又抗告シテモウ一遍
ヤリ直シテ、サウシテ或ル程度ノ補償-
-一番宜イ場合ニハ或ル程度ノ補償ヲ
受ケルト云フコトニナルノデアリマ
ス,卽チ最モ宜イ場合ニ於テ最後ニハ
結局補償ノ決定ノ言渡シヲ受ケルコト
ニナッテ來ル、又サウナッテ來レバ宜イ、
サウナッテ來ナイト一層惡イノデアル、
デアルカラ、ヤハリ此法律モ非常ニ專
制的ノモノデアルト云フヤウニ考ヘラ
レル、政府ノ方デハ、ソレハ專制的デ
モ何デモナイ、餘程考慮シテヤッテ來タ
ノデアルト云フヤウニ御考ニナルカモ
知レヌガ、私達ノ考デハ餘程考慮シテ
專制的ナモノニサレタト云フヤウニ考
ヘラレルノデアリマス、是ハ私質問デ
ナクテ申上ゲテ置クト云フコトニシマ
ス
ソレカラ此補償ト云フノハ、政府ノ
說明ニ依ルト云フト損害賠償ト云フモ
ノデハナクテ慰藉ダ、若シ損害賠償ト
云フノナラ、精神的ノ損害ヲ受ケタノ
ダカラ、其精神的ノ損害ヲ賠償スルノ
ダト言ヘルガ、普通ノ言葉デハソレ
ハ慰藉ニナル、サウスルト云フト體
此慰藉ト云フノハ、到底金デ計算スル
コトガ出來ナイト思フノデアリマス
ガ一日五圓以內ト言,テ一定ノ額ヲ
決メラレテ居ルガ、或ハ五圓以內デ、
或ハ一圓、或ハ五十錢、或ハ一錢ト云
フヤウニ格付ガ出來ルヤウニナッテ居
リマス、慰藉ニ斯ウ云フヤウニ格付ヲ
スルノハドウ云フ趣意カラ來テ居ルノ
カ、又ドウ云フ標準ニ依ッテ格付ヲス
ルコトニナッテ居ルノカ、勞働者ヤ農
民ナラ五錢モ出セバ滿足スルカモ知レ
マセヌガ、少シ財產家デアルトスレバ
僅カバカリノ金デハ、滿足シナイカラ、
五圓ノ範圍內デ、一番宜イ所ヲヤラウ
ト云フヤウナコトモ出來ナイコトハナ
イト云フヤウナ趣旨カラ來テ居ルノデ
アリマスカ、慰藉ト云フモノハ到底金
デ評價出來ルモノデハナイ、併シ此處
デハ一定額ヲ決メナイデ、五圓以內デ
格付ガ出來ルト云フヤウニナッテ居ル
ガ、其格付ニ對スル標準ガナケレバナ
ラナイ、其標準ハ何デアルカ、此點ヲ
質問シテ見タイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=7
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008・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 ソレハ一應御尤ナ御
質問トモ考ヘラレルノデアリマス、人
ノ苦痛ヲ金デ計算スルト云フコトハ是
ハ不可能ト言ッタ方ガ宜イノカモ知レ
マセヌ、併ナガラ國家ガ慰藉スルト言
ヒマシテモ、外ニ方法ハナイノデス、
ソレデ何カ是ハ形ニ現ハサナケレバナ
ラヌ、形ニ現ハスノニハ先ヅ金錢ヲ以
テ或ル一定ノ程度ヲ定メテ、其範圍內
ニ於テ之ヲ交付スルト云フ事ノ如キ
ハ、最モ簡易ニシテ便宜ナ方法デアル
ト云フ其大體ノ見當カラ來テ居リマス
以外ニハ、外ニ何ガ故ニ五圓トシタカ、
人ノ苦痛ハ一日五圓以上ノ苦痛ハナイ
カト云フ御質問デアッタトスレバ、ソレ
ハ洵ニ御尤ナ御質問デアルガ、サウハ
申サナイノデアリマス、昨日モ申シマ
シタ通リ、慰藉ト云フノデアリマスカ
ラ、成ハ包金デモ差支ナイヤウナモノ
デアリマスケレドモ、ソレデハソレコ
ソ先刻大山君ノ御質問ニナリマシタヤ
ウニ、何ダ慰藉ヲスルト云,テ、開ケテ
見ルト三圓シカ入ッテ居ナカッタ、五圓
シカ入ッテ居ナカッタト云フヤウナコト
ニナッテモイケマセスカラ、大體ノ標準
ヲ定メル爲ニ、先ヅ五圓以上ニナラナ
イ、サウシテ後ハ日數ニ應ズル、斯ウ
云フヤウナ事ニスルノガ先ヅ穩當ダト
考ヘタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=8
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009・大山郁夫
○大山委員 其點デハナイノデス、補
償額ガ一定シテ居ラヌカラ、斟酌ガ出
來ルヤウニナッテ居ルノデ、格付ト申
シマスカ、之ニハ一圓、之ニハ五十錢
之ニハ十錢デモ宜イト云フコトニナル
ト思フノデアリマスガ···発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=9
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010・泉二新熊
○泉二政府委員 只今ノ御質問デゴザ
イマスガ、法文ニハ五圓以內ニスト云
フコトニナッテ居リマスカラ、御想像ノ
通リニ文字ト致シマシテハ一錢デモ二
錢デモ宜イヂヤナイカト云フヤウナ事
モ考ヘラレ得ルノデアリマス、サウ云
フヤウナ廣ク格付ヲスルト云フト、ド
ウ云フヤウナ標準ニ依ルカト云フ御質
問ダト思ヒマスルガ、實ハ裁判所ガ五
圓以內トスト書イテアルカラト云ッテ
一錢トカ二錢トカ三錢トカ云フモノヲ
遣ル、ソレデ宜イト云フヤウナ決定ヲ
スルト云フコトハ想像ガ出來ナイ、實
際ノ裁判所ノ仕事カラ考ヘテ、サウ云
フ事ハナイト斷言スルコトガ出來ルノ
デアリマス、實ハ此五圓以內ト云フ額
ヲ決メマシタ標準ハ、刑事訴訟費用法
ト云フノガアリマス、前カラ此法律ハ
アリマシタケレドモ、現行法トシテハ
大正十年法律第六十八號刑事訴訟費用
法ト云フノガアリマスガ、ソレノ第二
條ニ、證人ノ日當ハ出頭一度ニ付二圓
以內ニ於テ定メルト云フコトニナッテ
居ル、ソレカラ又第三條ニハ、鑑定人
及ビ通事ノ日當ハ出頭一度ニ付二圓以
上十圓以內ニ於テ裁判所之ヲ定ムト云
フヤウナ規定モアリマス、更ニ第五條
デハ證人、鑑定人及通事ノ止宿料ハ
一日五圓以內ニ於テ定メル、斯ウ云フ
事ニナッテ居リマス、詰リ此額ヲ無制限
ニシテ置キマスト云フト、財產上ノ損
害ヲ賠償スルト云フ趣旨デナク、慰藉
ト云フ方カラ行キマスト、ドノ位遣ツ
テ宜イカト云フ事ガ分リマセヌノデ、
最大或ハ最高額ヲ五圓ト定メテ其範圍
內ニ於テ適當ニ定メルト云フコトニナ
ル譯デアリマスガ、刑事訴訟費用法ノ
運用カラ見マシテモ、サウ一錢トカ二
錢トカ遣ヲテ、ソレデ抛リ放シニスルト
云フヤウナ例ハナイノデアリマス、大
體ト致シマシテハ豫算ノ關係モアリマ
スルカラシテ、ドノ位豫算ガ取レテ居
ルト云フヤウナ事ハ裁判所ノ方ニモ分
リマス、ソレデ人ノ地位トカ身分ニ依ツ
テ.之ヲ五圓ト決メルトカ、或ハ三圓
ニスルトカ、二圓ニスルトカ云フコト
ハ大體ニ於テヤラナイ方針デアリマ
ス大體同ジヤウナ標準デヤラウ、併
ナガラ特別ノ事情ノアル場合モ考ヘラ
レル、例ヘバ本人ノ故意過失ト云フ譯
ニハ行カヌケレドモ、病氣デ長ク刑務
所ニ止ッテ居ル、場合ニ依ッテハ保釋ヲ
スルト云フコトモアリマスルガ、又場
合ニ依ッテハ保釋ノ出來ナイト云フコ
トモアル、サウシテ殊ニ女デアリマス
ト云フト、出產ノ爲ニ長イ間取調ベガ
出來ナイヤウナコトモアリマス、サウ
云フ場合ナドニ付テハ普通ノ場合トハ
特別ノ事情デアルカラ、幾分カ減額シ
テヤッテモ宜カラウ、斯ウ云フヤウナ
特別ノ事情ノアルコトヲ考ヘテ五圓以
內トシテアリマスガ、御質問ノヤウナ
趣意デ一錢トカ、二錢トカ云フ「ノミ
ナル」ノモノデ濟マセル場合ガアルト
云フコトハ想像シテ居ナイノデアリマ
ス、又刑事訴訟費用法ノ運用等カラ見
マシテモ、サウ云フ心配ハ全クナイト
申上ゲテ宜シイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=10
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011・大山郁夫
○大山委員 ソレニシテモ能ク分ラナ
イガ、先刻ノ證人ノ日當トカ、通事ノ
日當ト云フ中ニハ、多少損害賠償ノ意
味ヲ帶ビテ居ルト思ヒマスガ、收入ト
カ云フヤウナモノヲ考ヘテ、何圓以內
トキメテ、此位ガ相當デアラウト云フ
判定ハ付クト思フガ、精神上ノ慰藉ハ
ドウモ物的評價ガ出來ナイト考ヘラレ
ル、ソレカラモウ一ツハ先刻ノ御話ノ、
病氣ニナッタトカ、或ハ女ガ產ヲスル、
サウ云フヤウナ場合ニ色々手當ガ要ツ
テ、費用ガ要ルダラウ、サウ云フ風ニ
ナッテ來ルト一層損害賠償ト云フ意味
ヲ帶ビテ居ルヤウニ考ヘラレテ、其邊
ガハッキリシナイト思ヒマス、ハッキリ
シナクテモ仕方ガナイト思ヒマスガ、
其邊ハ成ルベクハッキリシタ方ガ宜イ
ト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=11
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012・泉二新熊
○泉二政府委員 只今御話ノ證人ノ日
當ガ二圓以內トカ云フコトニナッテ居
リマスガ、是モ損害賠償ト言ヒマシテ
モ、實ハ日々ノ給金トデモ申シマスカ
收入ノ非常ニ多イ人ガ、二圓以内デ證
人ニ呼バレルト云フノハ非常ニ損害デ
アラウト思ヒマス、又何モ仕事ガナク
モ遊ンデ居ル人ガ、一日二圓位ノ日當
デ呼出サレヽバ損害ドコロヂヤナイ、
非常ナ利益ヲスルコトニナリマスダラ
ウト思ヒマス、ケレドモ是ハ國民ノ證
人義務ノ負擔デアルカラ、其地位身分
等ノ如何ニ拘ラズ、又收入ガ非常ニ多
イ場合ト否トニ拘ラズ、二圓以內トキ
メテ、ソレデ適當ニ裁判所ガキメル、
斯ウ云フノデス、此刑事補償ノ場合ニ
付キマシテモ、兎ニ角國家ノ秩序ノ維
持ト云フ公益ノ必要カラシテ行ハレタ
所ノ刑事訴訟手續、ソレデ兎ニ角結果
ノ上カラ見マスト云フト犠牲ニナッタ
ノデアリマスルガ、證人トシテ犧牲ヲ
拂フト云フノト全ク同ジトハ申上ゲマ
セヌケレドモ、考ヘヤウニ依ッテ、矢張
似寄ッタ所ガアル、、其人ノ收入ガ非常ニ
多イトカ、少イトカ云フコトヲ見ナイ
デ、五圓以內ナラバ五圓以內ト云フ標
準ヲ定メテ置クト云フコトハ無理デハ
ナイト考ヘテ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=12
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013・大山郁夫
○大山委員 ドウモ此問題ハ長ク聞イ
テモ、多分滿足ナル答辯ハ得ラレナイ
ト思ヒマスカラ打切リマスガ、先刻ノ
御話ノ中デハ、此補償額ガ五圓以內ト
キマッテ居ルガ、併シ一錢トカ或ハ五厘
トカ、サウ云フ非常識ノ決定ハ裁判官
ハシナイデアラウト云フヤウナ御話ガ
アッタノデアリマスガ、併シ私達ハ、行
政官トカ、裁判官ノ認定ト云フモノガ、
大抵ノ場合ニ於テハ私達ニハ非常識ニ
考ヘラレルノデアル、私自身ノ經驗カ
ラ言ッテモ、屢〓演說會ニ行ッテ檢束サレ
タリ、或ハ留置場ニ打込マレタリスル
ヤウナ場合モアリマスガ、或ル場合ニ
ハ保護トカナントカ言ッテ持ッテ行カレ
ル、吾々ノ常識カラハ、ドウ考ヘテモ
ソレハ保護トハ言ヘナイ、結局吾々カ
ラ見レバ非常識ナノダガ、併シサウ云
フ場合ニ警官カラ見レバ非常ニ常識的
ナノダラウト思フカラ、吾々ト警官ト
ハ考ガ違ッテ居ルヤウニ考ヘル、彼等ノ
常識ガ吾々ノ非常識デアリ吾々ノ常識
ガ彼等ノ非常識デアルト云フヤウニ、
何時モ吾々ハ考ヘテ居ル、ソレカラ公
安ヲ害スルト言ッテモ、一番ヒドイ例ハ
一昨年可ナリ新聞ニモ書カレタコトデ
スガ、米子ニ行ッテ演說會ヲ開イタ、其
演說會デ私ガ「親愛ナル米子ノ市民諸
君」ト言ッタラポカント中止ヲ食ッタ、
警官カラ申セバ常識デアラウガ、吾々
カラ見レバコンナ非常識ハナイノデア
ル、「親愛ナル米子ノ市民諸君」ト云フ
ノガ何ガ公安ヲ害スルト考ヘラレルノ
カ、是ナドハ極端ナ例ノヤウデアル
ガ、事實ハ極端ナ例デハナイ、斯ンナ
コトハ澤山アル、アナタ方ハドウ云フ
ヤウニ御考ニナッテ居ルカ知ラヌケレ
ドモ實ハ非常ニ澤山アッテ、多分サウ云
フ演說會ニ餘リ行カレタコトガナイカ
ラ知ラレナイダラウト思フノデアリマ
スガ、併シ實際ニ於テハ、ソンナ事ハ
尋常茶飯事デ、吾々カラ見レバ非常ナ
非常識デ、サウシテ警官カラ見レバ非
常ナ常識ナノデアル、又公安ヲ害スル
ト云フヤウナコトデモ、先刻言ッタヤ
ウナコトガ勞働者農民ノ牛活ヲ脅カス
ト云フヤウナコトハナイノデアリマ
ス、資本家ガサウ云フヤウナコトヲシ
テモ、何等ノ制裁ヲ受ケナイガ、勞働
者ハソレニ對シテ自分達ノ生活ヲ擁護
スル計畫ヲシタリ、或ハ激勵シテモ公
安ヲ害スルト言ハレル、是ナドハ吾々
カラ見レバ非常ナ非常識デ、政府ノ方
ハ行政官ハソンナ非常識ナコトハシナ
イ、同時ニ司法官モソンナ非常識ナコ
トハシナイト考ヘラレルデアリマセウ
ガ吾々カラ見レバ非常ナ非常識ナコ
トヲスル、併シ以前誰カガ司法大臣ニ
ナラレテ居タ時ニ、司法官ハ化石シテ
居ルト言ハレタ方ガアッタト思フノデ
アリマス、アヽ云フ所ヲ見ルト、政府
ノ諸君デモ時々ハ警官ガ非常識ナ事ヲ
スルコトガアルト認メテ居ラレルト思
フソンナ事ハドウデモ宜イガ、決シ
テ吾々ハ行政官或ハ司法官ノ常識ニ信
賴スルコトハ出來ナイ、ソレデ此點ハ
御答辯ヲ貰ッタ處デ仕方ガナイ話デア
リマスカラ答辯ハ要求シマセヌ、ガ併
シモウ一ツ聞キタイコトハ、寃罪ニ對
スル補償ト云フコトヲ規定シテアリマ
スガ吾々カラ見テ一番重大ナ問題ハ
寃罪ヲ作ル手段ニ關スル問題デアル、
是ガ本當ニ現在行ハレテ居ル、勿論警
官トカ或ハ裁判官ガ自白ヲ强要スル爲
ニ拷問シタリナドスルヤウナ場合ニ
ハ刑法第何條カニ制裁ガアルヤウニ
考ヘテ居ラレルガ、併シサウ云フコト
ハ事實行ハレテ居ラナイデ、私達ハ行
政處分ノ場合ヲ實地知ッテ居リマス、警
察デ拷問ヲ行ッテ、大抵傷ノ付カナイ
ヤウニ拷問シテ、又傷デモアッタ場合
ニハ其傷ノ治ルマデハ警察ニ置イテ置
ク長ク置イテ置ク爲ニハ延ス方法ガ
澤山アル、盥廻シトカ檢束勾留ノ蒸返
シトカシテ何時マデモオイテ置クト云
フヤウニナッテ居ッテ、勿論勾留サレタ
者ガ正式裁判ヲ申立テルコトガ出來ル
ヤウニ法律デハキマッテ居ルケレドモ、
本當ニ正式裁判ハ申立テルコトガ出來
ナイ、私達モ檢束ヲ食ッテ能ク知ッテ居
リマスガ、先ヅ第一ニアノ豚箱ノ中ニ入
ル前ニハ、身體檢査ガ行ハレテ鉛筆ヤ
紙片マデモ取上ゲラレテシマフ、中デ
正式裁判ヲ申立テル書類ヲ拵ヘヤウト
シテモ、ソンナモノハ出來ル筈ハナイ、
ダカラシテ吾々ノ仲間ノ者ハ豫メ正式
裁判申立ノ書式ヲ靴ノ下ヘ隱ストカシ
テ、ドウニカ持ッテ行クコトガ出來テ、
サウシテ正式裁判ノ申立テヲスル書類
ヲ拵ヘテ看守巡査ニ渡スコトガアル、
併シ決シテソレガ屆ケラレタコトガナ
イ、又辯護士ガ正式裁判ノ交涉ヲスル
ト、大抵看守巡査或ハ警察署長ハ本
人ニ其意思ガナイト言ッテ、正式裁判
ノ實行ノ處マデ事件ヲ運バナイ、斯ウ
云フコトニナッテ居ル、サウ云フ場合
ニハ本人ガ正式裁判ノ申立ヲスレバ必
ズ取上ゲルト云フヤウナ規定ガ設ケラ
レナケレバナラナイ、尤モ此規定ハ形
式的ニハ設ケラレテアルガ、大抵ノ場
合實行サレテ居ナイ、正式裁判ノ申立
ヲ必ズ取上ゲルト云フコトヲ保證ス
ルコトガ出來ル規定、例ヘバ辯護士
ガ外部カラ行ヲテ正式裁判ヲ要求ス
レバ必ズソレヲシナケレバナラナイ
トカ、或ハ本人ノ親族或ハ一定ノ關
係ニ於ケル知己友人ト云フ者ガ正式
裁判ヲ申出レバ必ズ之ヲ取上ゲナケ
レバナラヌト云フ規定ガ設ケラレテ
三)、初メテ補償法ト云フモノガ多少
ノ效果ヲ生ズルモノデアルト吾々ハ考
ヘルノデアリマス、其外ニ刑事訴訟法
ニ依ル訴訟手續ト云フモノハ私達ハ實
ハ能ク知ラナイノデアリマスガ、併ナ
ガラ此方面ニモソレニ類似ノ方法ガ設
ケラレナケレバナラナイト考ヘル、殊
ニ拷問ナドヲ禁ズルコトヲ有效ニスル
ト云フコトノ規定ノ拵ヘ方ガアルト思
フノデアリマスガ、サウ云フコトニ對
シテ政府ハ何等考ヘラレテ居ラルルコ
トガナイカト云フコトヲ聽キタイノデ
アリマス、卽チ拷問ヲ有效ニ禁ズル、サ
ウ云フ條項ヲ此補償法ニ挿入スルナリ
別ニ新ニサウ云フ條項ヲ持フタ法律ヲ
作ルナリシテ、寃罪ニ導ク方法ヲ一切
嚴禁スル、ソレヲ有效ニスル、サウ云フ
意思ガアルカナイカヲ聽キタイ、ソレ
ガナイ以上ハ此刑事補償法ガアッテモ
ナクテモ勞働者農民ニハ關係ガナイ、
刑事補償法ガ勞働者、農民ニ利益ガア
ルト考ヘテ居ル者ハ一人モナイノデア
リマス、サウ云フ拷問ヤ、誘導訊問ヲ
有效ニ禁ズル條項ガ設ケラレルナラ
バ、幾ラカ役ニ立ツカモ知レナイガ、サ
ウ云フ誘導訊問ヤ拷問ヲ有效ニ嚴禁ス
ルト云フコトノ意思ガ政府ニ有ルカ無
イカ、此事ヲ聽イテ見タイト思フノデ
アリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=13
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014・泉二新熊
○泉二政府委員 只今ノ御質問ノ中
デ、此法律ノ中ニ特ニ正式裁判ノ申立
ヲ有效ニスルトカ、拷問等ヲ實際ニ有
效ニ禁ズルコトノ出來ル規定ヲ設ケル
考ガナイカト云フ部分ニ付キマシテ
ハ其問題ハ全ク此法律トハ別デアリ
やっ、此法律ノ中ニサウ云フ規定ヲ設
ケルト云フコトハ、政府ニ於テハ考ヘ
テ居ナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=14
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015・大山郁夫
○大山委員 別ニサウ云フ規定ヲ設ケ
ルト云フ考ハナイノデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=15
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016・泉二新熊
○泉二政府委員 尙ホ現在拷問デモシ
タナラバ處罰スルト云フ規定ノ刑法ニ
アルコトハ御承知ノ通リデアリマス、
ソレカラ又叮嚀親切ニ訊問シテ總テ刑
事手續ヲシナケレバナラヌト云フコト
ハ刑事訴訟法ニ明文ガアリマス、後、
運用ノ問題デアリマス、法律ノ規定デ
今御話ノヤウナコトヲ特別ニ新ニ作ル
ト云フ必要ハナイヤウニ思ヒマス、唯
正式裁判ノ申立ヲ容易ニスル途ヲ開ク
考ガナイカト云フ點ニ付キマシテハ
是ハ詰リ違警罪卽決例改正ニ關スル問
題デアリマシテ、從來其點ニ付テハ考
慮中デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=16
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017・大山郁夫
○大山委員 拷問トカ誘導訊問トカ、
總テ斯ウ云フコトヲシテハナラヌト現
在ノ法律ニ在ルト云フコトハ勞働者ニ
ハ何等ノ慰メニナラヌ、サウ云フコト
ヲ有效ニ禁ズル方法、例ヘバサウ云フ
場合親戚知己友人等、本人ト一定ノ關
係ニ於ケル者ガ直グニ取調ヲ要求スル
コトガ出來ルトカ、又訴訟ヲ起スコト
ガ出來ルト云フ方法ヲ、現在ノ條文ノ
外ニ、新ニ設ケル意思ハナイカト云フ
コトヲ質問シタイノデス、有ルトカ無
イトカ云フ一言デ澤山デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=17
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018・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 私ノ關係シテ居リマ
ス限ニ於テ一應申述ベテ御參考ニ致シ
タイト思ヒマス、大山君ノ言ハレルヤ
ウナ事實ガアリトスレバ、ソレハ法律
ノ缺點デハナクシテ、事實ノ問題デア
ルト思フノデアリマス、人ノ問題デア
ル、サウ云フコトヲスルコトガ若シ有
リトセバ、其事ニ與ッタ者ノヤリ方ガ
惡イト云フコトダラウト思フ、私ハ就
任以來警察部長ヲ招集致シマシタ時ニ
モ、特高課長ヲ招集致シマシタ時ニモ、
事實ノ有無ハ存ジマセヌケレドモ、サ
ウ云フヤウナ聲ヲ動モスレバ聞クノデ
アリマスカラ、警察官トシテ凌虐ヲ加
ヘルト云フヤウナコトハ絕對ニ致シテ
ナラヌト云フコトヲ屢〓訓示致シテ居
ル、其點ダケハ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=18
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019・川崎克
○川崎政府委員 チヨット大山君ニ申
上ゲテ御參考ニ供シタイト思ヒマス
今御話ノ中ニ此補償法ガ出來テモ何等
勞働者農民ガ利益ヲ受ケナイ、斯ウ云
フ御話デアリマシタガ、是ハ御考直シ
ヲ願ヒタイト思ヒマス、私共ハ之ヲ制
定スルニ當ッテ、今マデ豫審デ免訴ニ
ナリ、公判デモ無罪ニナッタ者ガ一體
ドノ位アルダラウト云フコトヲ調ベテ
見マシタ所ガ、十年間ノ統計デ六千四
百人餘アル、サウスルト一年ニ六百四
十一人デアッタ譯デアリマス、此六百
四十一人ト云フ數字ガドノ階級ニ屬ス
ル人ガ多イカト言ヘバ、是ハ明カニ有
產階級者ニ多イト云フコトハ言ヘナ
イ、寧ロ無產階級者ニ多イト云フコト
ノ數字ヲハッキリ出スコトガ出來ルト
思フノデアリマス、ソレダケノ人ト云
フモノハ無辜ノ良民デアッテ、有罪ノ宣
告ヲ受ケテモ二審デ無罪ニナッタトカ、
或ハ起訴ヲセラレテ豫審デ免訴ニナツ
タトカ云フ人デ、是ハ實ニ氣ノ毒ナ人
デアル、無辜ノ人ヲ慰藉スルト云フ意
味ノ精神ノ現ハレデ出タノガ此法案デ
アリマシテ、ソレダケノ分量ハ明カニ
アナタ方ノ味方デアル勞働者、農民ノ
方々ノ中ニ多イ部分ヲ占メテ居ルト云
フコトダケハ御了承ヲ願ッテ置キタイ
ト思ヒマス
ソレカラ序デアリマスカラ御質問ノ
中ニ第四條ノ第二ノコトヲ强ク何遍デ
モ御繰返シニナリマシタガ、是ハアナ
タ方ガ勞働運動カ何カスル場合ニ引
掛ッタ者デ罪ニナラズニ免訴ニナリ無
罪ニナッタ者、是ハ殆ド其中ニ這入ラナ
イ、ソレヲ狙ッタモノデアルカノヤウ
ニ御話ニナリマシタガ、併シサウ云フ
コトヲ狙ッテ作ッタ法文デハナイ、此事
ハ丁度刑事局長ガ居ナイ時ニ御質問ニ
ナッテ居ッタヤウデス、刑事局長ガ居レ
バ說明シタコトヽ思ヒマスガ、專門的
ノ事デアリマスカラ私ノ說明デハ不滿
足トハ思ヒマスケレドモ聞イテ居リマ
シタカラ申上ゲマス、此規定ハ未遂罪
ニナルカナラヌカノ場合或ハ不能犯ト
云フヤウナ場合ヲ想像シテ設ケラレタ
規定デアリマシテ、偶〓ソレガ勞働運
動ニ掛ル場合モアルカモ知レナイ、併
ナガラ勞働運動ヲ狙ッテ居ルノデハナ
イノデアリマシテ、之ヲ譬ヘテ言ヘバ
人ヲ殺ス爲ニ毒ヲ盛ル、所ガ其盛ツタ毒
ガ全ク人ヲ殺スダケノ力ヲ持タナイモ
ノデアッタト云フヤウナ不能犯ノ場合
ニドウナルカト言ヘバ、罪ハナイケレ
ドモ善良ナ風俗公ノ秩序ヲ害シテ居ル
モノデアルト云フノデ、斯ウ云フ者ニ
補償スルノハ良クナイデハナイカト云
フノガ此法案ノ趣旨デアッタ、建前ハソ
コカラ來テ居ルノデアリマスカラ御諒
承ヲ願ッテ置キタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=19
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020・齋藤隆夫
○齋藤政府委員 大山君ノ先程カラノ
御質問中ニ於キマシテ、內務省ニ關係
ノアルト思フ部分ガ少シアルヤウデア
リマス、御質問ト云フ風ニナッテ居ッタ
カ、御意見ト云フ風ニナッテ居ッタカ少
シ判明シナイノデアリマスガ、兎ニ角
一應辯解致シテ置キタイト思フ點ガア
リマス
第一ハ勞働爭議ニ對シテ警察官ガ極
度ニ彈壓スルト云フ御話デアリマシタ
ガ、是ハ屢〓聽ク所デアリマス、御承
知ノ如ク此頃勞働爭議ガ段々惡クナッ
テ參リマシテ、所謂惡化シテ參ッタノデ
アリマス、是ガ唯純然タル經濟爭議デ
アリマスナラバ、警察官ハ斯ウ云フコ
トニ付テハ全然干涉ハシナイノデアリ
マス、又勞働爭議其モノハ元來經濟爭
議デナクテハナラヌノデアリマス、勞
働爭議ハ其爭議ノ本質ヲ超エテ或ハ階
級鬪爭ノ如キモノトナリ、或ハ思想的
若クハ政治的ノ意味ヲ持ツヤウニナリ
マスト、是ハ眞ノ意味ニ於ケル勞働爭
議デハナクシテ、勞働爭議ヲ確カニ超
越シタモノデアルト思ヒマス、所ガ近
頃ノ勞働爭議ノ有樣ヲ見マスト、漸次
其方面ニ向ヒツヽアルコトハ事實デア
リマシテ、是ハ何人ト雖モ否ムコトガ
出來ナイト思フノデアリマス、併シド
ウ云フ爭議ニ致シマシテモ其爭議ノヤ
リ方ガ法律ノ上カラ見マシテ、所謂公
安秩序ニ害ガナイト云フ場合ニ於キマ
シテハ警察官ハ干涉致シマセヌ、所ガ今
日ノ勞働爭議ノー有樣ヲ見マスト或ハ暴
行トナリ脅迫トナリ或ハ面會ノ强要ト
ナル、斯ウ云フコトハドノ爭議ニモアル
コトデアリマシテ暴行脅迫面會ノ强要ナ
ドハ確カニ法律ニ觸レルノデアリマス
カラ、此點ニ付テハ警察官ハ警察官ノ本
職ヲ完ウスルガ爲ニ、直接若クハ間接ニ
此勞働爭議ニ向ッテ相當ノ監督取締ヲシ
ナケレバナラヌト云フコトニナッテ居ル
ノデアリマス、所ガ勞働者ノ方ニ於キマ
シテハ段々法律ノ〓究ガ行屆キマシテ、
何處カラ何處マデハ暴行ニナリ脅迫ニ
ナリ、何處カラ何處マデハ暴行脅迫ニナ
ラヌト云フ限界マデモ綿密ニ調ベテ居
ルノデアリマス、例ヘバ資本家側ノ家
ノ廻リヲ示威運動ヲヤル、是ハ暴行ニ
モナラズ脅迫ニモナラナイト云フノ
デ、頻リニ資本家側ノ住宅ノ周圍ヲバ
喊聲ヲ擧ゲテ練リ廻ル、是モ脅迫ト認
ムルコトガ出來ル場合モアリマセウ
シ、或ハ出來ヌ場合モアリマセウ、或
ハ娘ヤ男ノ子ガ學校ニ行クノヲ途中ニ
擁シテ、色々嫌味ヲ並ベテ脅迫ガマシ
イコトヲ致シマス、之ニ類スルコトハ
イツモ無數ニ出テ來ルコトデアリマシ
テ、資本家側ニ於キマシテハ勞働爭議
ノ場合ニ、サウ云フ勞働者ノ仕打ニ困
リ切ッテ居ルノデアリマス、故ニ資本家
側ニ言ハセルト、勞働爭議ニ對シ警察
官ハ少シモ取締ヲシテ吳レナイ、故
今囘ノ勞働組合法ニ付テモ、勞働組合
法ヲ制定セントスルナラバ、先ヅ以テ
勞働爭議取締法ヲ作ッテ吳レト云フ强
烈ナル要求ガアルヤウナ次第デアリマ
シテ、此間ニ於テ警察官ハ資本家側ノ
攻擊モ受ケズ勞働者側ノ攻擊モ受ケズ
シテ職務ヲ完フスルニ付テハ警察
官モ井常ナ苦心ヲシテ居ルノデアリマ
ス、勞働者側ニ言ハセルト、警察ハ彈壓
スルト言フ、資本家側ニ言ハセルト
警察官ハ少シモ公安秩序ヲ維持スル職
責ヲ完フシナイト云フ非難ヲ起シテ居
ルノデアリマスカラ、此點ニ付テハ大
山君ノ側ニ於キマシテモ、冷靜ニ御考
ヘ願ヒタイト思フノデアリマス
第二ニ行政處分ニ依ル檢束ニ付テ補
償ヲシナイノハ宜シクナイト言ハレル
ガ、是ハ一ツ區別ヲシテ御考ヲ願ヒタ
イノデアリマス、大體行政處分ニ依ル
人身ノ自由ヲ拘束スル場合ハ二ツアリ
マス、一ハ純然タル行政處分、所謂行政
執行法カラ來ル檢束デアリマス、モウ
一ツハ御話ノアリマシタ違警罪卽決例
ニ依ル警察ノ處置、是ハ行政處分ト云
フガ、實質ニ於テハ司法處分デアリマ
セウ、此二ツガアルコトヲ御承知願。ツ
テ置キマス、行政執行法カラ來ル純然
タル行政處分ニ付テハ、是ハ國家トシ
テ補償スベキ程度ノモノデハナイ、公
安秩序ヲ維持スル爲ニ已ムヲ得ズ檢束
スルノデアリマスカラ、是ハ檢束セラ
ルヽ方ニ過失ガアル、此點ニ付テハ無
論補償スベキ性質ノモノデナイ、唯問
題トナッテ居リマスノハ、先日本會議
ニ於キマシテモ、一寸簡單ニ申シテ置
キマシタヤウニ、違警罪卽決例ニ依リ
マシテ警察署長ガ處分ヲスル、ソレニ
對シテ正式裁判ヲ仰イデ、無罪ノ判決
ヲ受ケル者ガアルノデアリマス、數ニ於
キマシテハ餘リ多イ數デハアリマセヌ
ガ相當アルノデアリマス、是ハ實質ニ
於キマシテハヤハリ裁判デアリマス、
普通ノ刑事訴訟法ニ依フテ無罪ノ判決
ヲ受ケタ者ト、違警罪卽決例ニ依ッテ、
正式裁判ニ依ッテ無罪ノ判決ヲ受ケタ
者ト同ジ性質ノモノデアリマスカラ、
此點カラ行ケバ補償シナクテハナラヌ
ノデアリマス、刑事訴訟法ノ手續ニ依ツ
テ無罪ノ判決ヲ受ケタ者ガ補償ヲ受ケ
ルコトガ出來ルナラバ違警罪卽決例
ニ依ッテ、正式裁判ニ依ッテ無罪ノ判決
ヲ受ケタル者モ亦補償ヲシナケレバナ
ラヌ、理窟ハ其通リデアリマスガ、司
法大臣カラモ御話ガアリマシタヤウ
二、此補償法ヲ制定セラルヽニ當リマ
シテハ、財政上ノ關係ニ依ッテ色々面
倒ナコトガ起リマシテモ、ソレモ漸ク
司法省ノ努力ニ依ッテ切拔ケテ、是ダケ
ノ法律案ヲ出サレルヤウニナッタノデ
アリマスカラ、此際ニ於テ此法律ノ中
ニ正式裁判ニ依ル點マデモ補償スルト
云フコトニナリマスト財政上ノ關係
カラ出來ナイコトニナッテ居リマスノ
デ、是ハ暫ク將來ニ殘シテ置イテ、今
囘ハ此程度ノモノニスルト云フコトニ
話ガ纏ッタノデアリマス、其點ダケハ
御諒承願ヲテ置キマス、ソレデ違警罪
卽決例ニ依ル正式裁判ノ結果無罪ニ
ナッタ者ハ、永久ニ補償シナイト云フ
趣旨デハナイ、何レ將來ノ議會ニ於テ、
此點ヲ補足スル議案ガ出ルダラウト思
ヒマスケレドモ、今囘ダケハ今申シタ
ヤウナ次第デアリマスカラ、御諒承願ツ
テ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=20
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021・大山郁夫
○大山委員 大分澤山答辯ヲ戴キマシ
タガ御答辯ニ對スル再質問ヲシヨウト
スレバ到底限リガナイト思ヒマスカ
ラ、大體打切ルコトニシマスケレドモ、
唯一ツ先刻ノ勞働爭義ノ場合ニ對シテ
ノ御答辯ニ對シテハ一言ダケ申シテ置
キタイ、勞働爭議ガ純粹ノ經濟闘爭デ
アル間ハ之ヲ収締ラナイ、彈壓シナイ
ト云フ御話デアッタ、併シ今日政治ト經
濟ト云フモノハソンナニハッキリ區別
ガ出來ルモノデハナイト云フコトハ
是ハ言フマデモナイコトデアリマス、
例ヘバ議會デ色々政治的ノ政策ガ講ゼ
ラレテ、ソレガ直ニ經濟問題ニ關係ス
ル又經濟的ノ問題ガ基礎トナッテソ
レガ直ニ政府ノ政策トナッテ現ハレル、
政治ト經濟トハ引離スベキモノデハナ
イ、吾々ノ方デハ政治ハ經濟ノ集中的
表現ダト云フコトヲ始終言ッテ居リマ
スガ、是ハ政治ト經濟ノ場合ノミナラ
ズ總テノ社會現象ハ互ニ內部的ニ聯關
シテ居ルノデ、此事ハ言フマデモナイ
コトデアルト思ヒマスカラ、其議論ハ
シマセヌケレドモ、勞働爭議ノ場合ニ
於テ、例ヘバ個々ノ資本家ニ對シテ鬪
爭シテ居ルノガ是ガ經濟鬪爭デアッテ、
又八時間勞働制ノ要求トカ、最低賃銀
制ノ要求トカ、產業合理化政策反對ト
カ云ッタヤウナ、斯ウ云フ問題ニ對シ
テ鬪爭シテ居ルノハ政治闘爭デアルト
大體分ケテ居ル、勿論兩者ノ間ニハ非
常ニ緊密ナ相互的聯關ガアルコトハ言
フマデモナイガ、大體ニ於テ個々ノ資
本家ニ對スル鬪爭ハ經濟鬪爭デアリ、
政府ノ政策ニ對スル闘爭ハ政治闘爭デ
アルト云フ目安ハ付ケテ居ルノデアリ
マスガ、ソレガ實際ニ於テ中々見分ケ
ラレルモノデハナイ、殊ニ今日政府ノ
行フ政策ト云フモノハ資本家地主擁護
ノ爲メノ政策デアル、勞働者農民ハソ
レニ對シテモ鬪爭シテ居ル、例ヘバ工場
勞働者ハ日常利益ノ爲ニ闘爭シテ居ル
ガ、其闘爭ハ同時ニ產業合理化政策ニ
對スル鬪爭ニナッテ居ルノデアッテ、今
日デハ經濟鬪爭ハ直チニ政治闘爭ニ聯
關スルヤウニナッテ居ルノデアリマス、
ダガ今日警察官ガ彈壓ヲ加ヘテ居ルノ
ハ國家權力ニ對スル政治鬪爭バカリデ
ナク、先刻モ申シマシタ通リ勞働者ガ
爭議團員ガ互ニ會合シテ爭議ノ計
畫ヲシテ居ル場合トカ、或ハ激勵シ合ッ
テ居ル場合デモ、公安ヲ害スルモノト
云フ口實デ辯士ヲ中止檢束、勾留スル、
又集會ヲ解散スルト云フ場合ガ無限ニ
アルノデアリマスルガ、是ハ經濟鬪爭
ニ對スル所謂彈壓ト言フコトガ出來ル
ノデアリマス、又齋藤政府委員ガ言ハ
レタ通リ、ソレ以上踏込ンデ勞働者ガ
更ニ積極的ニ行動スル場合ガアル、勞
働者ハ一々何處マデガ暴行デアリ、何
處マデガ脅迫デアリ、何處マデガ合法
デアルト云フコトヲサウ十分ニ知ッテ居
ラナイト思ヒマスガ、今日ノ勞働爭議ト
云フモノハ非常ニ深刻ニナッテ來テ居ル、
勞働者ガ解雇サレルト云フコトハ單ニ
或ル期間賃銀ガ得ラレナイト云フダケ
デハナイ、而モ產業合理化ノ行ハレテ
居ル下ニ於キマシテハ一遍職業ヲ失ッ
タラ終生又職業ヲ得ル見込ガナイト云
フヤウニナッテ居ル、斯ウシテ今日ノ勞
働爭議ハ非常ニ深刻ナモノニナッテ來
テ居ル、ソコデ勞働者ガ、何處マデモ
日常利益ヲ擁護スル爲ニハ其行動ガ今
日ノ法律ノ下デハ明カニ不法行爲デ、
暴行ニナリ、脅迫ニナリ、法律ニ問ハ
レルコトニナルカモ知レナイト云フ豫
感ヲ懷イテモ、已ムニ已マレナイデヤ
ル場合ガ屢〓アル、ソレハ勞働者ノ言
葉デ言ヘバ正當防衞デアルガ、今日ノ
法律デハ罰スルヤウニナッテ居ルカモ
知レナイケレドモ、モウドン底ニ追詰
メラレテシマッテ、所謂窮鼠却テ猫ヲ
嚙ムト云フ、サウ云フ場合ニ於テ、法
律ニ觸レル行動ニ及ブコトガアルノデ
アリマス、其時ハ勞働者ハ、今日ノ法
律ハサウ出來テ居ルカラ已ムヲ得ナイ
トソレヲ承知デヤッテ居ル、併シ私ノ
言ッテ居ル場合ハサウ云フ場合ノコト
デナクテ、所謂經濟鬪爭-純粹ノ經
濟鬪爭ト云フモノハアリ得ナイケレド
モ、所謂經濟鬪爭、卽チ個々ノ資本家ニ
對スル爭議ヲ有效ニ遂行スル爲ニ會合
シテ其計畫ヲ定メルトカ、或ハ激勵シ
合フ、演說シ合フト云フ場合デモ警
官ガ其處ニ踏込ンデ來テ、中止解散ヲ
ヤル、或ハ會合シテ居ル者ヲ檢束シテ
シマフ、或ハ留置スル、或ハ勾留ニ處
スル、サウ云フ場合ヲ私ハ言ッテ居ル
ノデアリマス、其點ヲ誤解ノナイヤウ
ニ願ヒマス、勿論今日ノ勞働者ハソ
レダケデハ無效デアルト思フカラ、ソ
レ以上踏込ンデヤルコトガアルノデア
リマス、ソレハ法律ニ觸レルノヲ覺悟
デヤッテ居ルノデ、悲壯ナコトデ、吾々
ニハ實ニ冷靜ニハ見テ居ラレナイト考
ヘラレルコトデアリマスガ、其場合ヲ
私ハ言ッテ居ルノデナクテ、所謂經濟鬪
爭ニ對スル彈壓ノ場合ヲ言ッテ居ルノ
デアル、經濟鬪爭ニ對シテ彈壓ガナイ
トハ斷ジテ言ヒ得ラレナイ、私ハ政府
委員ノ說明ヨリモ自分ノ眼デ見テ來タ
コトヲ信賴スルヨリ仕方ガナイノデア
リマス
ソレカラモウ一ツ司法大臣ニ一言シ
タイ、司法大臣ハ今日ノ刑事訴訟法ノ
中ニモ拷問ヲスルヤウナコトヲ禁ジテ
居ル條項ガアル、要ハ人デアル、人ガ惡
イ時ニハサウ云フ禁制ノ文句ノアルニ
モ拘ラズ拷問ヲヤルコトガアルト言ハ
レタヤウデアリマシタガ、私ハ今日ノ
法律ノ條項ヲ言ッテ居ルノデナク、ソレ
以外ニ新シイ條項ヲ設ケラレル意思ハ
ナイカ、人ガ惡イ、人ガ惡イト、有ユ
ル責任ヲ人ニ覆ツ被サレルノデナク、人
ガ惡クテモ所謂拷問、誘導訊問ヲサレ
ルヤウナコトノナイ法ヲ設ケル意思ハ
ナイカ、如何ニ人ガ惡クテ拷問シヨウ
トシテモソレガ出來ナイヤウナ有效ナ
法ヲ設ケル意思ハナイカ、此事ヲ私ハ
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022・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 今日ノ所デハ是以上
ニ誘導訊問ヲ禁止スル法律ヲ作ル考ヲ
持ッテ居リマセヌ、唯〓私ノ考デハ、誘
導訊問ト云フモノハ大山君ノ言ハレル
程行ハレテ居ルモノデハナイト思ッテ
居リマス、私ハ就任以來サウ云フヤウ
ナ陳情ノヤウナコトヲ度々聽クノデア
リマス、其度每ニ非常ニ注意シテ調べ
サシテ見マスト云フト、何時デモ被拘
禁者ト云フモノハ多少誇大ニ物ヲ言フ
傾ガアル、併シ其事實ヲ其儘肯定シナ
ケレバナラヌト云フヤウナコトハ、今
日マデ先ヅナカッタノデアリマス、唯
私ハ今後モ出來ルダケ注意ヲ致シマシ
テ、サウ云フコトノナイヤウニ部下ヲ
戒メルコトハ一層從來ニモ增シテヤル
考ヲ持ッテ居リマスケレドモ、此上サウ
云フヤウナコトヲ禁止スル法律ヲ作ル
考ハ持ッテ居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=22
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023・大山郁夫
○大山委員 私ハ是デ質問ヲ打切リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=23
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024・横山金太郎
○横山委員長 今日ハ本會議モアルコ
トデアリマスカラ、是デ散會シタイト
思ヒマスガ如何デス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=24
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025・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ是デ散會致シ
やっ、次囘ハ公報ヲ以テ御通知致シマ
ス
午後零時三十分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00319310210&spkNum=25
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