1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
刑事補償法案(政府提出)
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會議
昭和六年二月十二日(木曜日)午前十一時開議
出席委員左の如し
委員長 横山金太郎君
理事 服部英明君
理事 松井郡治君
理事 篠原陸朗君
理事 小野寺章君
小俣政一君 一松定吉君
關口志行君 斯波貞吉君
春島東四郎君 岡田春夫君
牧野良三君 米田規矩馬君
出席國務大臣左の如し
司法大臣 子爵 渡邊千冬君
出席政府委員左の如し
内務政務次官 齋藤隆夫君
陸軍一等主計正 矢部潤二君
海軍主計大佐 佐々木重藏君
司法參與官 井本常作君
司法省刑事局長 泉二新熊君
本日の會議に上りたる議案左の如し
刑事補償法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=0
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001・横山金太郎
○横山委員長 開會致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=1
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002・小俣政一
○小俣委員 司法大臣竝ニ其他ノ政府
委員ニ御尋ヲスルノデアリマスガ、刑
事補償法案ノ解釋ニ付キマシテ、遺憾
刑事補償法案委員會議錄(速記)第四囘
ナガラ私ハ、司法大臣其他當局者ト、
根本觀念ヲ少シ異ニシテ居ル者デアリ
マハ嘗テ刑事局長ノ御說明ニ依ルト
是ハ全然無過失賠償デアルト云フコト
ヲ屢〓繰返サレテ居ル無過失賠償ト云
フコトモ言ヒ得ルデアリマセウケレド
モ、吾々ガ正シキ信念カラ考ヘル時ニ
於テハ是ハ斷ジテ無過失賠償デハナ
イト云フ考ヲ持ッテ居ルノデアリマス、
國家機關ノ發動ニ依ッテ、無辜ノ良民ガ
勾留ヲセラレ、若クハ刑ノ執行ヲ受ケ、
甚ダシキニ至ッテハ死刑ノ宣〓ヲ受ケ
テ居ル、其者ガ後日ニ至ッテ免訴トナ
リ、無罪ノ宣告ヲ受ケ、或ハ死刑ノ宣
告ヲ受ケ刑ノ執行ヲ受ケタル者ガ、人
違ヒデアッタト云フヤウナ重大ナル場
合ヲ吾々ハ目擊スルノデアリマス、無
辜ノ良民ガ、左樣ナル精神上、肉體上
ニ忍ブベカラザル苦痛ヲ經驗スルコト
ガ、屢〓アルノデアリマスルガ、其源ヲ
突詰メテ申スナラバ、搜査機關及ビ裁
判ニ於テ、必ズヤ故意若クハ過失ガナ
ケレバナラヌ、若シモ故意或ハ過失ガ
斷ジテナイト云フコトヲ前提トスルナ
ラバ、無辜ノ良民ガ起訴ヲセラレ、勾
留ヲセラレ、或ハ刑ノ執行ヲ受クルト
云フヤウナコトハ、斷ジテアルベキ筈
ノモノデナイ、斯樣ニ吾々ハ考ヘテ居
ルノデアリマス、司法大臣竝ニ刑事局
長ハ、無過失賠償デアル、隨テ賠償ハ
シナイノデアル、慰藉ヲスルノデアル
ト、一應ハ答辯ヲセラレテ居ルノデア
リマスルガ、併シ政府ガ本案ヲ提出シ
タ其理由書ヲ見ルト、「刑事ノ裁判及檢
察ノ事務ヲ處理スルニ當リテハ深甚ノ
注意ヲ拂ヒ過誤ナキコトヲ期スト雖モ
時ニ無辜ノ良民ニシテ起訴又ハ刑ノ執
行ニ因リ不測ノ不名譽ト著シキ苦痛ト
ヲ被ムルモノ無キニ非ザルヲ以テ國家
ハ之ニ對シ相當ナル慰藉ノ途ヲ講ズル
ノ必要アリ是レ本案ヲ提出スル所以ナ
リ」、所謂問フニ落チズシテ語ルニ落チ
ルト云フコトヲ現實ニ現シテ居ル、卽
チ過誤ナキヲ期スルノデアルケレド
モ時ニ或ハ過誤ノナイコトハナイ、
是ガ爲ニ其不名譽ト苦痛トヲ被ッタ者
ニ對シテ、國家ガ之ニ慰藉ヲスルモノ
デアルト云フ意味ハ、當然之ニ含マレ
テ居ル、ソレデアリマスルカラ、私ノ
希望トシテハ、司法大臣竝ニ當局ノ方
ハ、此時代後レノ官僚氣分ニ餘リ囚ハ
レナイデ、體面論トカ或ハ面目論ト云
フモノニ囚ハレナイデ、本法ノ解釋ニ
付キマシテ、モウ少シ進ンダ御解釋ヲ
付託議案
刑事補償法案(政府提出)
願ヒタイ卽チ國家機關ノ發動ニ、依リ、
無辜ノ良民ガ刑務所ニ打込マレ、甚シ
キニ於テハ或ハ死刑ノ宣告ヲ受ケテ、
ソレガ間違デアッタト云フヤウナ大問
題ヲ惹起シタル場合ニハ當然ノ事ト
シテ國家ガ其賠償ノ責ニ任ジナケレバ
ナラヌモノデアラウト思フノデアリマ
ス、ソレデアリマスカラ私ハ一昨日モ
申上ゲタ通リ、斯ウ云フ場合ニハ補
償ト云フ字ヲ御用ヒナラナイデ、ドウ
シテモ賠償ト云フ字ヲ御用ヒナッタ方
ガ、本法ノ意義ガ徹底スルデアラウト
思フノデアリマスガ、之ニ對シテ重ネ
テ御答ヲ願ヒタイト思ヒマス
尙ホ賠償ト云フコトニスルト、物質
上ノ財產上ノ損害ヲ償ハナケレバナラ
ヌト云ウヤウナ狹イ考ヲ以テ、所謂民法
上ノ損害賠償ト云フ觀念ニ囚ハレテ居
ルヤウデアリマスガ、幸ニ本法ガ實施
セラルヽ曉ニ於テハ、第五條ニ賠償額
ノ最高限度ガ規定シテアルノデアリマ
スルカラ、必シモ民法上ノ損害賠償ト
云フ觀念ニ囚ハレ、サウシテ之ヲ賠償
ト云フコトニ改ムルコトニ躊躇セラル
ル所ノ深イ理由ハナイモノデアラウト
思フノデアリマス
尙ホ一昨日大山君カラ質問サレタ所
ノ本法ガ實施セラルヽ曉ニ於テハ
從來寃罪ニ依ッテ苦メラレタル者ガ、此
法ノ實施ト共ニ慰藉セラレ、又一定額
ノ賠償ヲ受クル譯デアリマスルガ、併
ナガラ近代ノ傾向ヲ見マスルト、檢事
ノ起訴シタル事件ニシテ、無罪ノ宣告
ヲ受クル者ガ、段々多クナッテ來テ居ル
ヤウナ傾向ガアルノデアリマス、卽チ
捜査機關タル檢事ガ徒ニ犯罪構成ニノ
ミ沒頭シテ居ルヤウナ傾キガ顯著ニ
ナッテ來タ、是ハ新聞紙上ニ於テモ度々
報道セラレテ居リマスルガ、彼等ハ唯
犯罪ノ構成ノ爲ニ沒頭シテ居ルノデア
ルト云フヤウニ考ヘラレルヤウナ傾キ
ガアルノデアリマス、ソレデアリマス
ルカラ此人權擁護ト云フヤウナ立場カ
ラ考ヘマシテモ、亦他面ニ於キマシテ
ハ本法ノ實施セラルヽ曉ニハ寃罪者
ヲ多ク出セバ出スホド國庫ノ負擔ハ益3
多クナルノデアリマスルカラ、一 〓
ニ於テハ人權擁護ノ立場カラ、一 日)
於テハ國庫ノ財政ノ見地カラ考ヘマシ
テ、成ベク寃罪者ヲ出サナイヤウニシ
ナケレバナラヌコトハ、是ハ言フマデ
モナイコトデアラウト思フ、恐ラク司
法大臣其他當局ノ人モ御異存ガナイ所
デアラウト思フ、ソレデ大山君ハ其寃
罪防止ノ爲ニ新ナル法律ヲ設クル意思
ガナイカト云フコトヲ尋ネラレタヤウ
デアリマスガ、之ニ對シテ司法大臣及
ビ泉二刑事局長ハ現行法規ニ依ッテソ
レソレ差支ナイヤウニ出來テ居ルカ
ラ、新ニ寃罪防止ノ爲ニ法律ヲ設クル
意思ハナイト云フコトデアリマス、又
司法大臣ハ御就任以來檢事局ガ誘導訊
問、或ハ强制訊問等ヲ行ッテ寃罪者ヲ多
ク出スト云フヤウナ事實ハ無イト云フ
ヤウナ御答ガアッタヤウニ記憶シテ居
リマスルガ、或ハ私ノ是ハ記憶遣ヒカ
モ知リマセヌガ、寃罪者ヲ出サナイヤ
ウニ之ヲ防止スルト云フコトハ最モ私
ハ大切デアラウト思フ、凡ソ國家ノ治
安ヲ維持スル上ニ於キマシテハ賞罰
ヲ極メテ公正ニスルト云フコトガ重大
ナル問題デアル、若シモ賞罰ガ正シク
ナカッタナラバ、遂ニハ其家ガ滅ビ、其
國ガ亡ビルニ至ルト云フコトハ、古今
歴史ノ示ス所デアリマスルカラ、是ハ
殆ド異議ノナイ所デアリマス、併ナガ
ラ現行法規ノ下ニ於キマシテハ、寃罪
ヲ出サナイヤウニスルト云フコトハ
是ハ言フベクシテ到底行ハレナイ、司
法大臣ハ法ノ運用ハ其人ニアルノデア
ルト言ハレルガ、吾々ハ現在ノ東京地
方裁判所檢事局竝ニ日本全國ニ亙ル裁
判所檢事局ノ陣容ヲ見ル時ニ於テハ、
到底ソレ等ノ人ニ依ッテ捜査機關ガ公
正ニ發動シ、而シテ寃罪者ヲ出サナイ
ヤウニスルト云フコトハ、到底是ハ望
ムコトハ出來ナイ、デアリマスルカラ
現行法規ノ下ニ於テハ此强制訊問、誘
導訊問ト云フコトヲヤッテハナラヌコ
トニナッテ居ルガ、盛ニ强制訊問、誘導
訊問ガ行ハレル、又刑事訴訟法ニハ捜査
ノ祕密ヲ嚴守シテ、被疑者及ビ其他ノ
名譽ヲ傷付ケナイヤウニスルト云フ規
定ニナッテ居ルノデアリマスルガ、此搜
査ノ祕密ガ殆ド外間ニ筒拔ケニナッテ
居ル場合ガ始終吾々ニハ見受ケラレル
ノデアリマス、デアリマスルカラ法律
ハ明カニ制定サレテアッテモ、其運用宜
シキヲ得ナイ、其人宜シキヲ得ナイノ
デアリマシテ、殆ド常ニ强制訊問ガ行
ハレヽ誘導訊問ガ行ハレ、又搜査ノ祕
密ガ外間ニ殆ド筒拔ケニナッテ居ルト
云フ事實ガ屢〓アルノデアリマスガ、
是等ニ對シテ司法大臣ハドウ云フ御考
ヲ以テ御監督ニナルノデアリマスカ、
是マデノ情弊ヲ一掃スル上ニ於テ如何
ナル所見ヲ有セラレテ居ルノデアリマ
スルカ、是モ御伺シタイノデアリマス、
强制訊問、、誘導訊問ト云フコトガ益〓激
シクナッテ來テ居ルノデ、是ガ世間ノ問
題トナッテ居リマスルガ、殊ニ甚ダシイ
ノハ東京地方裁判所ノ檢事局ニ於ケル
所ノ捜査ノ狀態ト云フモノハ言語道斷
ナル有樣デ、强制訊問、誘導訊問ト云
フモノハ殆ド、幕府時代ニ於テハ鉛ノ
熱湯ヲ背中ヘ注ギ込ンダ、石ヲ抱カシ
タト云フヤウナ恐ルベキ拷問ヲヤッタ
ト云フコトデアリマスルガ、左樣ナ拷
問コソナイガ、其拷問ニ等シイ程ノ强
制訊問ヤ誘導訊問ガ行ハレテ居ルト云
フコトハ、是ハ如何ニ司法大臣ヤ當局
ガ辯明ヲサレテモ、天下周知ノ事實デ
アル、幾多ノ實例ガアル、是ハ實ニ此
思想界ガ益〓濁亂セントスルヤウナ此
時代ノ趨勢カラ鑑ミマシテ、公正ナ立
場ニ立ッテ發動シナケレバナラヌ所ノ
此捜査機關ガ、左樣ナ暴逆無道ナルコ
トヲヤルト云フコトハ私ハ國家將來ノ
爲ニ實ニ由々シキ問題ト思フノデアリ
マスガ、之ニ對シテドウ云フヤウナ御
考ヲ持ヲテ居ラレルカ、若シ强制訊問、
誘導訊問ト云フヤウナコトガナイト云
フナラバ、私ハ具體的ニ事實ヲ茲ニ擧
ゲテ御尋スルノデアリマスガ、先以テ
其大體論ニ付テ御尋ヲシタイ
更ニ御尋ネシタイコトハ本案ニ依リ
マスト云フト、勾留或ハ刑ノ執行ヲ受
ケタル者ガ、再審及ビ上告ノ手續ニ依ツ
テ無罪ノ宣告ヲ受ケ、或ハ豫審免訴ト
ナッタ場合ニハ國家ガ一日五圓以內ノ
補償ヲ給與スルト云フコトニナッテ居
リマスガ、五圓以內ニ於テ補償ヲスル
コトニ依ッテ、一方ニ於テハ是ガ或ル程
度ノ物質上ノ損害賠償デモアリ、又精
神上ノ慰藉トナルコトハ明カデアリマ
スガ、唯此僅ノ補償ヲ與ヘルト云フコ
トニ依ッテ其人ノ名譽信用ト云フモノ
ハ囘復スルモノデハナイ、捜査ノ不都
合或ハ裁判ノ誤ニ依ッテ勾留ヲセラレ
或ハ刑ノ執行ヲ受ケタト云フ者ガ、他
日免訴或ハ無罪ノ宣告ヲ受ケマシテ、
サウシテ其上ニ五圓以內ノ補償ヲ貰ヒ
マシタ所ガ、ソレニ依ッテ決シテ償ハレ
ルモノデハナイ、左樣ナ寃罪ノ爲ニ遂
ニハ一身一家ノ破滅ヲ來スト云フ幾多
ノ例ガアルノデアリマス、唯此五圓以
內ノ僅ノ補償ヲスルト云フコトダケデ
ハ餘リニ不親切ナルヤリ方デアルト
思フノデアリマス、免訴トナリ或ハ裁
判ニ依ッテ無罪トナッテ決定シタル場合
ニ於テハ、官報ハ申スニ及バズ、普通
新聞紙上ニ於テ免訴トナリ、無罪トナ
リ、而シテ此補償ヲ得ルニ至ッタコト
ヲ明カニ表示スル方法ヲ御執リニナル
御考ガアルカ、是ハ最モ大切ナル點デ
アリ、又之ニ伴フ經費ト云フモノハサ
ウ莫大ナ費用ヲ要シナイト思ヒマス
ガ斯ウ云フ御考ガアルカドウカ先
以テ之ヲ御伺ヒ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=2
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003・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 小俣君ノ段々ノ御質
問ニ對シマシテ一部分私カラ御答ヲ致
シマス、尙ホ細カイ點ニ付キマシテハ
政府委員カラ申上ゲルコトニ致シマ
ス、小俣君ハ此刑事補償法案ノ精神ガ
無過失賠償ト云フコトノミノ理論ヲ根
本トシテ制定セラレテ居ルト云フヤウ
ニ政府委員ガ申シタト云フヤウニ御話
ニナッタノデアリマスガ、サウ云フコト
ハ申シテハ居ラナイノデス、賠償ト云
フ精神ハ加味シテ居リマスケレドモ、
根本ニ於テハ慰藉ト云フコトヲ此法案
ノ基礎觀念ト致シテ居ルノデアリマ
ス、此法案ニ依リマシテ補償ヲ受ケル
人ハ、其補償ヲ受ケルニ至ッタ理由ノ第
一原因ト云フモノハ過失デアラウト無
過失デアラウト、ソレハ問ハナイノデ
アリマス、實際ニ行ハルヽニ當リマシ
テハ多クノ場合ハ無過失デアラウト思
フノデアリマス、感情的、人情的カラ
申セバ大變氣ノ毒ダト云フヤウナ場合
ガアリ得ルノデアリマス、ケレドモ今
日檢事ガ起訴シテ豫審デ免訴ニナリマ
シテモ、ソレハ檢事ノ過失トハ法律上
認メテ居ラナイノデアリマス、豫審デ
有罪トナリ公判ニ付スベキモノナリト
決定致シマシテ、第一審デ無罪ニナッテ
モ其豫審判事ガ過失ヲ行ッタモノトハ
法律上認メテ居ラナイ、第一審ガ有罪
デアッテ、第二審ニ行ッテ無罪ニナッテ
モ、第一審ノ判事ガ過失ヲ行ッタモノト
ハ認メテ居ラナイノデアリマス、サ
ウ云フヤウニ過失ト云フコトヲ補償ヲ
與ヘル原因トハ考ヘテ居ラナイト云フ
コトヲ申ス時ニ、無過失賠償ト云フヤ
ウナコトモ唱ヘラレテ居ル今日ニ於
テ、斯ノ如キ法案ヲ提出スルノハ至當
ナルコトデアラウト思フト云フコトハ
申シタノデアリマスケレドモ、小俣君
ノ申サレタ通リ、ソレガ總テ過失デア
ルガ故ニ國家ハ賠償シナケレバナラヌ
ト云フ考デハ無論ナシ、又無過失賠償
ト云フ觀念ノミニ依ッテ此法案ガ制定
サレタト云フコトデモナイノデスカ
ラ、其邊ハ誤解ノナイヤウニ願ヒタイ
ト存ジマス
次ニ小俣君ハ、裁判所檢事局ハ寃罪
製造ニ骨ヲ折ッテ居ル、骨ヲ折ッテドウ
カシテ寃罪者ヲ造リタイト云フコト
ヲ考ヘテ居ルノニ、ソレヲ防止スル法
律ヲ作ル考ガナイト云フ司法大臣ノ先
日ノ答辯ハ腑ニ落チナイ、斯ウ云フヤ
ウナ御話デアリマシタガ、私ハ多クノ
裁判所ニ於テ多クノ判檢事ガ職務ヲ執
行スルニ當リマシテ、未來永劫、又過
去ニ遡ッテ一度モ過失ガナイト云フコ
トヲ申スノデハアリマセヌケレドモ、
寃罪製造ニ努メテ居ルト云フヤウナコ
トハ是ハモウ論外ノ話デ、申譯ヲスル
必要モナイコトデアリマスケレドモ、
從來動モスルト檢事ノ取調ガ過酷デ
アッタトカ、又ハ警察官ノヤリ方ガ非
常ニ過酷デアッタトカ云フヤウナ苦情
ヲ聞クコトガアルノデアリマス、ソレ
ニ付テハ司法當局ト致シマシテハ常ニ
最モ詳細ニ其事件ノ眞相ヲ調査致シテ
居ルノデアリマスケレドモ、私ガ就職
以來今日マデマダ檢事ガ故ラニ其被疑
者ヲ憎ンデ寃罪ニ陷レヨウトシテ、或
ル過失ヲ行ッタト云フヤウナ報〓ニ接
シテ居ラナイノデアリマス、刑法ノ第
何條デアリマシタカ、瀆職罪ヲ規定シ
テ居リマス所ニ其様ナコトヲシテハイ
カヌト云フコトガ明カニ規定シテアリ
マス以上、又一方ニ寃罪製造ト云フコ
トガ、事實無イ以上ハ、之、ニ對シテ新
シイ法律ヲ制定スル考ハナイ、サウ云
フコトヲ申シタノデアリマス、尙ホ小
俣君ハ東京地方裁判所ノ如キハ幕府時
代ニモナイヤウナ拷問ヲヤッテ居ルト
云フヤウナ御話ガアリマシタガ、私
其事實ヲ認メナイノデアリマス、ソレ
ダケ御答辯ヲ致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=3
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004・泉二新熊
○泉二政府委員 第三ニ小俣委員カ
ラ、補償ヲヤッタ場合官報及ビ新聞ニ之
ル公表スル考ハナイカト云フ御問デア
リマシタ、其點ニ付キマシテハ此前豫
メ政府委員カラ說明ヲ致シテ置キマシ
タガ、今日デモ御承知ノヤウニ、再審ニ
於テ無罪ノ場合ハ公〓ヲスルコトニ法
律ノ規定ガ出來テ居リマス、ソレ以上
重ネテ此刑事補償ノ場合ニ公〓ヲスル
必要ハナカラウト思フノデアリマス、
ソレカラ普通ノ手續デ無罪免訴ニナル
ヤウナ場合デアリマスト、是ハ事柄ガ
新シイモノデアリマスカラ、直グモウ
新聞デモ無罪免訴ニナッタト云フ事ガ
明白ニ公ニサレルノデアリマスカラ、
之ヲ更ニ世間ニ知ラセル爲ニ公〓ヲス
ルト云フ必要モナカラウ、殊ニ之ヲ新
聞ニデモ公〓ヲスルト云フコトニナリ
マスト、隨分金ガ掛ルノデアリマス、
新聞ノ種類ニ依リマシテハ今ノ豫算ノ
或ハ倍位ニモシナケレバナラヌカモ知
レヌ、ソレ程ノ必要モナカラウト云フ
ノデ、兎ニ角此度ノ法律ノ制定ニ付キマ
シテハ、サウ云フ公告ノ方法マデモ併
セテ用ヒルト云フコトハヤラナイト云
フ積リデアリマス
ソレカラ序ニチヨット申上ゲテ置キ
タイ事ハ、第一ノ御尋ノ判事ノ故意過失
ガ無クテ寃罪者ガ勾留サレタリ、處罰
サレタリスルト云フコトハ想像ガ出來
ナイト云フ趣意ノ御尋ガアリマシタ
ガ、其點ニ付テハ成程ソレハサウ云フ
御考ノ出ルノモ無理ハナイコトヽ思ヒ
VV、ケレドモ失禮デスガ小俣サンハ
御醫者サンノ方ノ御經驗ノ在ラレル方
デアリマスカラ、其醫術ノ方ノ實際ト
チヨット較ベテ申シタラ能ク御分リニ
ナルダラウト思フ、詳シイ事ヲ申上ゲ
ル必要ハナイト思ヒマスガ、實際ノ事
件ト致シマシテ、外科醫者ガ手術ヲス
ル場合、能ク故意トカ或ハ過失ニ因ル
損害賠償ノ訴ヲ起サレマス、裁判所デ
判定ヲサセマスト云フト、ソレハ故意
ガアル場合ハ勿論無イノデアリマス
ガ、過失モ無イト云フ判斷ヲ大抵シテ
居ル、故意モ過失モ無クテ其患者ニハ非
常ナ損害ヲ加ヘル場合ガアリ、命ニモ
關ハル場合ガアル、例ヘバ產科ノ醫者
ガ-產科ノ醫者デアリマスカ、外科
醫者ガナニカ手術ヲスル際ニ「ガーゼ」
ヲ中ニ殘シテ置イタ、或ハ甚シキハ手
術ノ鋏ヲ取リ忘レテ中ニ殘シテ置イ
タ、後カラソレガ分ッテ漸ク取出シテ命
ガ助ッタ人モアルガ、中ニハ死ンダ人モ
アル、ケレドモソレハドウモ不可抗力
デ過失ト認メラレヌ、斯ウ云フ判定デ
損害賠償ヲシナイデ濟ムト云フ場合ガ
アルノデアリマス、裁判ニ關スル事デ
アリマシテモ、故意トモ言ハレズ、過
失トモ言ハレヌ、不可抗力ト見ルベキ
ヤウナ原因ニ基イテ、不幸ニシテ或者
ガ損害ヲ被ルト云フコトモアリ得ルノ
デアリマス、此法案ハ其樣ナ場合デアッ
テモ之ニ賠償ヲシテヤル、斯ウ云フ趣
旨デアッテ、要スルニ故意トカ過失ヲ要
件トシテ居ナイノデアリマスカラ、左
樣ニ御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=4
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005・小俣政一
○小俣委員 大分私ノ質問ニ對シテ見
當違ノ御答辯ヲ願ッタ譯デスガ、本案ハ
大體ニ於テ無過失賠償ノ建前カラ立案
シタモノデアルト云フコトハ、曾テ民
政黨本部ニ泉二刑事局長ノ御出マシヲ
戴イテ御說明ヲ願ッタ場合ニ之ヲ高唱
サレタノデアリマス、其記憶ガアリマ
スカラ私ハ御尋シタイノデアリマス
ガ、司法大臣ノ御答ハソレト少シ違ッテ
居ルノデアリマス、尙ホ司法大臣及ビ
泉二局長ハ私ノ故意及ビ過失ト云フコ
トニ對シテ法律上ノ所謂法理論ノ見
地カラノミ御解釋ニナッテ居リマスル
ガ、私ノハ法理論カラ言ッテ居ルノデ
ハナイ、常識、又實際問題トシテ故意
過失ガナカッタナラバ、ソンナ馬鹿々々
シイ事ガアルモノデハナイ、牢屋へ打
込ム、或ハ絞首臺ニ上セテ死刑ニ處ス
而モソレガ人違デアッタ、間違デアッタ
ト云フコトハ、何レカニ故意或ハ過失
ガナケレバサウ云フ馬鹿々々シイ事ハ
ナイト云フノハ、私ハ是ハ法理論カラ
言フノデハナイ、ソレデスカラ唯法理
論一點張デ御考ヘニナッテ總テノ問題
ヲ解決ナサラウトスルコトハ、非常ニ
誤デアリマス、又醫者ノ例ヲ引イテ泉
二局長ハ御答辯ニナリマシタガ、外科
醫師ガ、開腹術ヲヤッタ、「ガーゼ」ヲ殘
シタ、鋏ヲ殘シタ、ソレハ重大ナル過
失デアルコトハ明カデアル、是ハ三歲
ノ童子ガ考ヘテモ、手術ヲシテ「ガー
ゼ」ヲ殘シタ、鋏ヲ忘レタト云フコト
ハ是ハ重大ナル過失デアル、過失デア
ルケレドモ、其裁判ハドウ云フコトニ
ナッタカ詰リ不可抗力ト云フヤウナコ
トデ無罪ニナル場合ガアルデアリマセ
ウガ常識上、實際上ソレハ過失デアリ
マス、醫者カラ言ッテモ重大ナル過失
デアリマス、開腹術ヲヤッテ「ガーゼ」一
片デモ殘シタリ、鋏ヲ殘スト云フコト
ハ重大ナル過失デアリマス、外科學上
左樣ナ事ハアリ得ベカラザルコトデア
リマスカラ、是ハ重大ナル過失デアリ
マス、唯法律上ノ法理一點張デ以テ御
考ヘニナリマスカラ、サウ云フ事ヲ仰
セラレルノデアルガ、私ノ考ハ其法理
論ヨリ寧ロ常識論實際論ニ立脚シテ御
尋ネスルノデアリマスカラ、其御積リ
デソレヲ加味シテ御答ヲ願ヒタイ
尙ホ司法大臣ハ東京地方裁判所ノ檢
事局ガ犯罪者ヲ拵ヘルコトニ沒頭シテ
居ルト云フ私ガ御尋ヲシタト言フガ、
ソレハアナタノ聽キ違ヒデ、犯罪者ヲ拵
ヘルコトニ沒頭シテ居ルト申シタノデ
ハナイ、犯罪構成ニ沒頭シテ居ル感ガ
アル詰リ一旦檢擧ヲシタ、起訴ヲシタ
ト云フ者ニ對シテハ、其證據ガ薄弱ナ
ル場合デアッテモ、犯罪ノ事實ガ極メテ
不明白ノ場合デアッテモソレヲ起訴ス
ル、所謂見込起訴デ刑務所ニ放リ込ム、
サウシテ其中ニ有ラユル誘導訊間、强
制訊問ヲ行ヒ、サウシテ罪ニ陷レルト
云フヤウナ遣方ヲヤッテ居ルト云フヤ
ウナ風ガ見エル、是ハ天下周知ノ事實
デアッテ、私一人言フノデハナイ、斯樣
ナ事ヲ申上ゲタノデアリマス、ソレデ
東京地方裁判所檢事局ニ於テハ幕府時
代ニ行ッタ拷問ニ等シイヤウナ誘導訊
問强制訊問ヲ行ッテ居ルト云フ事ヲ申
上ゲタノデアッテ、幕府時代ト同樣ナル
拷問ヲヤルト云フヤウナ事ハ私御尋ネ
シタノデハナイ、能ク私ノ御尋ネスル
所ノ眞意ヲ冷靜ニ御聽取下スッテ、冷靜
ニ御答辯願ヒタイノデアリマス、尙ホ
司法大臣ハ東京地方裁判所檢事局其他
ニ於テ强制訊問誘導訊問ナル事實ガナ
イト云フ御答辯デアリマスルガ、單リ
東京地方裁判所ノ檢事局ノミナラズ、
我國全體ノ裁判所ノ檢事局ニ於キマシ
テ左樣ナ事ガナイト云フ事ヲ御聲明ニ
ナリマスカ、ソレカラ又捜査ノ秘密ハ
嚴守スベキモノデアルガ、果シテ今ノ
裁判所ノ檢事局ニ於テ搜査ノ祕密ヲ嚴
守シテ居ラレルカドウカ、此二點ヲハフ
キリ御答願ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=5
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006・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 今日檢事局ニ於テ犯
罪ヲ-犯罪ト云フ言葉ガイケナケレ
バ、犯罪者ヲ製造スル爲ニ骨ヲ折ルト
云フヤウナ事實ハナイノデアリマス
萬一サウ云フヤウナ事實ガアレバ直
ニ之ニ對シテ適當ナル處置ヲ講ズル考
デアリマス
ソレカラ搜査ノ祕密、又ハ豫審ノ祕
密ヲ保ツト云フコトハ、本人ノ名譽ヲ毀
損セザル場合又ハ捜査ノ害ニナラヌ、
豫審ノ妨ゲニナラヌ範圍ニ於テハ、是
ハ歷代ノ內閣ニ於テ發表シタコトモア
リマス、併ナガラ法ノ精神ニ悖ルヤウ
ナコトハシマセヌ、ソレ等ノ事ヲ御答
辯致シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=6
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007・小俣政一
○小俣委員 今司法部內ニハ平沼閥、
鈴木閥ト云フ兩閥ニ屬スル司法官ガ多
數居ラレテ、此平沼閥、鈴木閥ノ系統
ニ屬スル司法官ハ動トモスルト反對勢
力ニ向ッテハ不公平ナル取扱ヲスルト
云フコトガ、世間ニ擴ッテ居リマシテ、
左樣ナ噂ガ頗ル濃厚デアリマスガ司
法大臣及ビ刑事局長ニ於カレマシテ
ハ、左樣ナ事ニ對シテ、ドウ云フ御考
ヲ有ッテ居リマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=7
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008・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 サウ云フ噂ノアルコ
トハ甚ダ殘念ニ思ッテ居リマス、又事實
ニ於テ今日ノ司法部ニ於テ平沼閥、鈴
木閥ト云フヤウナモノハ、斷ジテアリ
マセヌ、其樣ナ事ガアッテ司法部ノ公正
ト云フモノハ一日モ保テルモノデハア
リマセヌ、閥ト云フノハ、ドウ云フ意
味デアルカ知リマセヌガ、交際ヲシテ
居ル人ハ、ソレハアルカモ知レマセヌ
ガ、平沼氏、鈴木氏ノ旨ヲ受ケテ公正
ノ觀念ニ外レタヤウナコトヲスル、所
謂兩氏ノ爲ナラバ、正義ノ念ヲ第二ニ
於テモ事ヲ行フト云フヤウナ人間ハ、
一人モ居ラヌト云フコトヲ私ハ明白ニ
申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=8
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009・小俣政一
○小俣委員 只今司法大臣ノ御答辯ヲ
拜聽致シマシタガ、全部御否定ニナリ
マスルニ付キマシテハ、他ノ委員諸君
ニ對シテハ甚ダ御迷惑デアリマスガ、
私ハ具體的問題ヲ提ゲテ御尋ヲシタ
イ、是ハ所謂司法ノ刷新ノ爲メ人權擁
護ノ爲メ已ムヲ得ナイコトヽ思ヒマ
ス、詰リ東京地方裁判所ノ檢事局ヲ初
トシテ、全國ノ檢事局ガ鈴木閥、平沼
閥ノ者ガ多數ヲ占メテ居ッテ、是等ガ不
公正ナル取扱ヲスル、詰リ反對勢力ニ
向ッテハ非常ナル彈壓ヲ加へ、尙ホ又捜
査ノ祕密ヲ外間ニ漏ラシ、强制訊問、
誘導訊間ヲヤッテ居ルト云フヤウナ具
體的事實ヲ二三擧ゲマシテ、司法大臣
及ビ刑事局長ノ御答ヲ願ヒマス
曩ニアノ越鐵疑獄ト云フモノヽ搜査
中ト私ハ記憶シテ居リマス、其捜査ノ
機密ガ刻々山岡萬之助君ノ所、鈴木喜
三郞君ノ所ニハ筒拔ケニナッテ居リマ
ス、而モ新聞ニハベタノ〓ニ流布宣傳
セラレタコトハ、是ハ御承知デアリ
マセウ、而モ其山岡萬之助君及ビ鈴木
喜三郞君ノ所ヘ、今越鐵疑獄事件ニ於
テ久須美東馬ガ斯ウ云フコトヲ言ッテ
居ル、誰ガ斯ウ云フコトヲ言ッテ居ル
ト云フコトヲ一々刻々ニ傳ヘラレテ
居ッタト云フ事實ガアリマス、卽チ倫
敦軍縮會議ノ首席全權デアル若槻禮次
郞閣下ノ門出ニ際シテ、閣下ニ對スル
荒唐無稽ノ惡宣傳ヲシテ、倒閣運動ヲ
ヤッタト云フコトモ、是ハ御承知デア
リマセウガ、其倒閣運動ノ中心人物ハ
其時ハ誰ガ中心人物デアッタカト云フ
ト平沼騏一郞、鈴木喜三郞、山岡萬之
助、此三人ガ倒閣運動ノ中心人物デア
ルソレガ爲ニ越鐵事件ノ捜査ノ祕密
ガ山岡ニ刻々知ラレテ居ッタト云フコ
トハ一般ニ唱ヘラレテ居ル、一般、
唱ヘラレテ居ルバカリデナク、新聞紙
ニヤハリ同一ノ事ガ記載サレテ居ッタ
コトモ御記憶ニアルデアラウト思フ、
大體若槻首席全權ニ對スル荒唐無稽ナ
惡宣傳ヲ爲スニ至ッタ其根本ハ若槻
閣下ガ曾テ民政黨ノ總裁タリシ時、久
須美某ニ向ッテ書面ヲ出シテ居ッタコト
ガアル、其書面ヲ久須美東馬ノ寓居ヲ
家宅捜索シテ押收ヲシタ、其押收書類
ノ中ニソレガアッタト云フコトデアリ
マスガ、檢事局ガ家宅捜索ヲシテ、重
要書類ヲ押收シタト云フ其重要書類ノ
一部分ガ、外ニ筒拔ニナルト云フコト
ハ是ハ實ニ裁判所ノ綱紀紊亂デ、ソ
レヲ行ッタ司法官ハ瀆職デアルコトハ
明カデアリマス、斯樣ナ事實ガアッタ
ト云フコトニ對シマシテモ、詰リ檢事
局ガ政黨化ヲシテ居ル、政黨化ヲシテ
居ルガ爲ニ、反對派ノ反對勢力ノ彈壓、
或ハ反對內閣ノ倒壞ト云フコトニ付テ
ハ-公正ナル立場ニ終始シナケレバ
ナラナイ其檢事ガ、或ル場合ニハ一方
ノ政黨ノ走狗トナルヤウナ行動ヲ執ル
コトガアルコトヲ、私ハ甚ダ遺憾トス
ルノデアリマス、是ハ詰リ檢事局ニ私
ガ今申上ゲタヤウナ平沼閥、鈴木閥ト
云フヤウナ系統ニ屬スル者ガ居ッテ、ソ
レ等ノ者ガ相呼應シテ、常ニ不純ナル
策動ヲ致スコトニ原因シテ居ルモノデ
ハナイカト考ヘルノデアリマス
尙ホ强制訊問及誘導訊問ト云フコト
ニ關シテ、事實問題ヲ提ゲテ私ハ御尋
スルノデアリマスガ、先日大山君ハ御
自身ノ體驗セラレタルコトニ依ッテ、長
ク御質問ヲサレマシタガ、私ハヤハリ
自分ノ體驗シタル問題ヲ赤裸々ニ申上
ゲテ御尋シタ方ガ、是ハ間違ナイト思
ヒマスカラ、自ラ體驗ヲシタ問題ヲ御
話シテ、サウシテ是デモ强制訊問デナ
イカ、是デモ誘導訊問デナイカト云フ
コトヲ御尋スルノデアリマス、彼ノ東
京市疑獄事件ト云フ此事件、或ハ京成
電車ノ東京市內乘入、日本橋魚河岸ニ
於ケル板船權補償ニ關スル事件、竝ニ
中央卸賣市場、江東靑物市場ノ使用料
ニ絡マル問題ガ其內容トナッテ居ルノ
デアリマスガ、此東京市疑獄事件ノ搜
査ノ道程ヲ見マシテモ、東京地方裁判
所ノ檢事局ガ如何ニ職權ヲ濫用シテ、
人權蹂躙ノ暴擧ヲ行ッテ居ッタカト云フ
コトハ、私ハ立證セラレルト思フノデ
アル、現ニ其經過ヲ簡單ニ申上ゲマス
ト云フト、私ハ不幸ニシテ此東京市疑
獄事件ニ連坐ヲ致シテ居リマスガ、是
ハ詰リ其根本ハ何處カラ來テ居ルカト
云フト、田中內閣ノ當時警視總監タリ
シ宮田光雄、刑事部長タリシ久保田金
四郞ト云フ者ガアッタガ、是ハ政友會
内閣當時ニ於ケル所ノ、所謂大都市乘
取運動ノ一部ノ現ハレトシテ、東京市
乘取運動ノ爲ニ西久保市長追出問題ト
云フモノガ起ッタノデアリマスガ、當
時田中內閣ノ下ニ於ケル所ノ警視總監
及ビ刑事部長ハ、東京市乘取運動ノ策
動ヲヤラレタコトハ、明カデアリマシ
テ、政友系ノ市會議員或ハ民政系ノ市
會議員ニ向ッテ、市長追出運動ニ參加
ヲ勸誘シ、ソレカラ又板船或ハ京成疑
獄ニ關係アルヤウナ弱點ヲ有スル者
ハ、脅迫ヲシテ西久保市長追出問題ニ
參加セシメタ事實ガアルノデアリマ
ス、當時久保田金四郞君カラシテ私ハ
西久保市長追出ノ勸誘ヲ受ケタコトガ
再三アルノデアリマスガ、之ヲ拒絕シ
テ、最後ノ一人トナルマデ、東京市政
擁護ノ爲ニ西久保市長追出問題ニ私ハ
反對ヲ致シ、東京市會議場ニ於テハ政
友系ノ暴行議員ノ爲ニ亂打ヲセラレ
テ、治療一箇月ニ亙ル重傷ヲ負ウタ事
サヘアルノデアリマスガ、此市長追出
問題ニ付キ、時ノ警視總監或ハ刑事部
長ニ反抗ヲシテ、飽マデモ西久保市長
擁護ノ立場ニ居ッテ、而モ東京市會議場
ニ於テ警察權ノ干涉、自治體ニマデ警
察權ガ干涉ヲシテ居ルト云フコトヲ摘
發シテ、一時間ニ亙ル演說ヲ致シ、ソ
レガ翌日ノ日刊新聞ニ出タ、其恨ヲ以
テ、警視總監宮田光雄及ビ刑事部長久
保田金四郞ガドウシテモ小俣政一ヲ葬
去ラナケレバナラヌト云フ考ノ下ニ、
此市疑獄事件ニ對シ靑物市場ニ關係ア
リトシテ、虛僞ノ事實ヲ揑造シ、サウ
シテ檢事局ト策應シテ、往年御大典ガ
京都ニ行ハレ、私モ御召ヲ頂戴シテ、
參列ヲシテ東京驛ヘ歸ルト、歸宅ヲ許
サズシテ、其儘勾引ヲシテ裁判所ニ連
レテ行ク、而モ强制執行ヲ行ヒ、續イ
テ起訴ヲ致シタノデアリマスガ、如何
ニモ此渺タル一人ヲ葬去ランガ爲ニ、
警視廳ト檢事局ト聯絡ヲ取ッテヤッタト
云フ事實ハ餘リニ卑怯千萬デアッテ、江
東市場ノ前ノ頭取デアル增田由太郞ト
云フ人ニ、江東市場ノ使用料ノ問題ニ
付キ骨ヲ折ッテ貰ッタカラ小俣ニ金ヲ提
供シタト云フコトヲ强ヒテ言ハセー
强ヒテ脅迫ヲシテ言ハシテ、其警視廳
ノ調書ヲ檢事局ニ送リ、檢事局ニ於テ
ハ此增田由太郞ヲ取調べタ警視廳ノ調
書ヲ以テ起訴シ勾引ヲシ、サウシテ强
制收容ヲシタノデアリマスガ、此增田
由太郞ヲシテ、强ヒテ言ハシムルニ至
ルニハ、警視廳ニ於テ非常ナ彈壓ヲ加
へ若シモオ前ガ此事ヲ言ハナケレパ、
江東靑物市場ノ重役ヲ片ッ端カラ引張ツ
テ來テ、江東靑物市場ヲ打潰シテヤラ
ナケレバナラヌ、江東靑物市場ヲ潰シ
テモ宜シ、若シモ潰レルガ嫌ナラ小俣
ニ金ヲヤッタト言ヘ、斯樣ナル脅迫ヲ
シテ、增田ヲシテ餘儀ナク虛僞ノ供述
ヲ爲サシムルニ至ラシメタト云フコト
ハ是ハ本人ガタシカ豫審廷デ言ッテ
居ル筈デアル、斯樣ナル拷問ニ等シキ
强制訊問ヲ行ッテ、增田由太郞ヲシテ虛
僞ノ供述ヲ爲サシメ、而シテ之ニ依ツ
テ小俣政一ヲ葬ムラウト企テタガ、警
視廳ガ斯樣ニ企テヽモ檢事局ガ公正
ナル立場ニ於テ取調ベレバ斯樣ナ明白
ナ事件ハ直グニ分ル譯デアリマス、檢
事局ニ於テハ鈴木、平沼系統ニ屬スル
者ガ警視廳以上ニ小俣政一ヲ葬去レト
云フ御考ガ强カッタト見エテ、警視廳ト
策應致シテ、飽マデモ此增田由太郞ノ
虛僞ノ供述ダケヲ根據トシテ、其他ニ
何等ノ證據モ無イノニ拘ラズ、所謂見
込起訴ヲシタ、而モ檢事局ニ於テハ調
書一頁ダモ取ルコトガ出來ナイ程、此
小俣政一ニ對シテハ何等ノ證據ノナイ
ノニモ拘ラズ、調書一頁モ取ラズシテ
見込起訴ヲシテ、サウシテ八十一日モ
放リ込ンダ、而モ其後增田由太郞ハ良
心ノ呵責ニ堪エ兼ネテ殆ド發狂狀態ニ
ナリ、屢〓自殺ヲ企テタノデアルガ、
遂ニ良心ノ呵責ニ堪エ兼ネテ、タシカ
昨年ノ八月自ラ裁判所ニ出頭シ-豫
審判事ノ大塚今比古ト云フ者ガ東京市
疑獄事件ノ調査ヲヤッタノデアリマスカ
ラ、大塚豫審判事ノ下ニ出頭ヲ致シテ、
曩ニ申立テタコトハ已ムヲ得ザルコト
ニ依リ强要ヲセラレテ心ニモナイ虛僞
ノ供述ヲシテ何トモ申譯ガナイ、小俣
ナドニヤッタト云フ金ハ、實ハ靑森縣
カラ果物ヲ仕入レタ其代金ニ支拂ッテ、
銀行カラ送ッタ、其電報用紙マデアル、
又電報爲替デ送ッタ其受取モアルト言
ウテ、證據書類ヲ提供シテ自ラ反證ヲ
ナシ、曩ノ申立ガ誤ッテ居ルト云フコ
トヲ申シテ居ル、詰リ良心ノ呵責ニ堪
エ兼ネテ自首シテ出タ、凡ソ人間ガ反
省ヲシテ悔改メタ場合ニハ其處ニ何等
ノ不純モナイノデアリマス、斯樣ナ良
心ノ發動ニ依ッテ大塚豫審判事ニ向ッテ
告白ヲシタ、所ガ證據湮滅トカ云フコ
トニ引掛ケテ、又增田由太郞ノ保釋ヲ
取消シテ收容シテ、遂ニ二囘目ノ收容
ハ七箇月乃至八箇月ニ亙ル間刑務所ニ
打込ンダ、其間ニ於テ曩ニ警視廳ニ於
テ申立テタコトヲ飜サセナイデ、支持
セシムルヤウニ檢事ガ代ル〓〓增田由
太郞ニ向ッテ有ユル强制訊間ヲ行ッタト
云フコトデアリマス、ドウシテモ虛僞
ノ供述ヲ其儘支持セシメナケレバナラ
ヌト云フコトニ東京地方裁判所ノ檢事
局ガ努力シタケレドモ、人間ノ良心ト
云フモノハ一旦決シタル以上ハサウ飜
ルモノデハナイ、七八箇月間刑務所ニ
打込マレテ、檢事カラ非常ナル迫害ヲ
受ケタノデアリマスガ、遂ニ再審ニ於
テハ曩ニ申立ッタコトハ全然虛僞ノ申
立デアル、他ノ者カラ强要セラレテ已
ムヲ得ズ斯樣ナ心ニモナイコトヲ言ウ
タト云フ上申書ヲ出シ、豫審判事ノ取
調ニ對シテモ堂々供述シテ保釋ヲ許
サレテ出テ居ル、ソレハ豫審ガ決定シ
テ居リマスカラ、ソレヲ調査スレバ明
カデアル、斯樣ナ具合ニ東京地方裁判
所ノ檢事局ハ鈴木閥、平沼閥ノ者ガ、
或ル政黨或ハ或ル有力者ノ使嗾ヲ受ケ
テ、某政黨或ハ其方面ノ邪魔ニナル人
間ハ片ッ端カラ始末ヲシテヤラウト云
フヤウナ實ニ恐ルベキ惡辣ナル手段ヲ
講ズルコトガアルノデアリマス、是一
唯私ガ體驗シタ事デアリマスガ、單リ
私ノミデハナク、之ニ等シイヤウナ事
實ハ澤山アルデアラウト云フコトハ想
像ニ難クナイノデアリマス
尙ホ總テノ〓訴告發ニ對シテ其取扱
ヲ果シテ正シクヤッテ居ルカヤッテ居ラ
ナイカト云フコトニ付キマシテモ、一
一其內容ヲ點檢シマスト實ニ恐ルベキ
事實ガアルノデアリマス、私ガ曾テ東
京市會ニ於テ、田中內閣當時ニ於ケル
東京市ノ西久保市長追出シノ問題ニ反
抗シテ演說シタ時ニ、政友系ノ市會議
員デアル矢野鉉吉、其他數名カラ亂打
ヲサレテ腦震盪ヲ起シテ、非常ナ裂傷
デ、全治一箇月ニ亙ル傷害ヲ負ッタ、而
シテ其時ニ掛ケテ居ッタ眼鏡ハ滅茶滅
茶ニセラレ、長イ間入院シテ漸ク全治
スルニ至ッタノデアリマスガ、其時ニ自
分ガ掛ケテ居ッテ、毆ラレタ場合ニ滅
茶滅茶ニナッタ眼鏡竝ニ負傷刹那ノ寫
眞及ビ醫者ノ診斷書、斯樣ナ有力ナル
證據書類ヲ添ヘテ東京地方裁判所檢事
局ニ傷害罪ノ起訴ヲシタノデアリマ
ス、其時ノ主任檢事ハ猪原ト云フ檢事
デアッタ、當時ノ檢事正ハ鹽野季彥ト云
フ者デアッタ猪原檢事ハ何故ニカ檢
事正モ非常ニ希望シテ居ルカラ示談ニ
シタラ宜カラウト云フノデ、東京市會
議長或ハ副議長ヲ通ジテ示談ヲ懇請シ
タノデアリマスガ、私ハ斷ジテ之ニ應
ジナカッタ爲ニ、主任檢事デアル猪原
檢事ハ已ムヲ得マセヌカラ、此事件ハ
上司ハ何ト申スカ知レマセヌガ私ハ起
訴シマスカラ、檢事局ニオイデニナル
ノモ今日限リデ宜シウゴザイマスト云
フコトデアッタ、其後成行キヲ見テ居リ
マシタガ、入院治療一箇月ニ亙ッテ漸
ク全治シタ負傷デアリ、而モ負傷シタ
時ノ寫眞及ビ毀サレタ眼鏡モ添ヘテア
ルニ拘ラズ、此問題ガ一向進捗シナイ、
斯樣ニ傷害罪トシテハ何人ガ見テモ成
立スベキ事犯ナルコト明カデアルニ拘
ラズ、之ガ成立シナイト云フニ至ッテ
ハ、法治國ニ斯樣ナ不公正ナル取扱ヲ
スルコトガアルデアラウカト云フコト
ヲ疑ハシムルノ外ハナイ、是ダケ明カ
ナル事實ヲ不起訴ノ取扱ヲシテ、而モ
私ガ只今申シマシタヤウニ、東京市疑獄
事件ニ於テハ寃罪ニ依ッテ平沼閥、鈴木
閥ノ爲ニ惱マサレ、而シテ刑務所ニ放
リ込マレテ居ッテ、接見禁止デアッタ其
時ニ、不起訴ノ通知ト、證據ニ出シタ眼
鏡トヲ刑務所ニ送ッテ來タ、卽チ當時ハ
接見禁止デドウスルコトモ出來ナイ、
斯樣ナ卑怯千萬ニシテ不公正ナル取扱
ヲスルノガ東京地方裁判所ノ檢事局デ
アルト云フコトヲ司法大臣ハ御記憶ヲ
願ヒタイ、是デモ尙ホ東京地方裁判所
檢事局、其他ノ檢事局ガ捜査ノ祕密ヲ
保ッテ居ルカ、捜査以後ノ事件ヲ流布宣
傳スルコトガ果シテナイノデアルカト
云フコトヲ私ハ疑フノデアル、又檢事
局ガ斯樣ナ取扱ヲスル、是デモ、平沼
問、鈴木閥ト云フモノガアッテ、檢事局
ト云フモノガ殆ド政黨化シテ居ルモノ
デナイト云フコトガ果シテ言ヘルカ
ドウカ、檢事局ガ搜査ニ當ッテ公正ナ
ル取扱ヲスルカドウカト云フコトヲ甚
ダ疑フ、尙ホ御參考ノ爲ニ申上ゲルガ
當時西久保市長追出問題ノ時、市會議
場ニ於テ私ガ演說ヲシタ、其時ニ政友
會議員ノ爲ニ亂打サレ、打壞ハサレテ
檢事局ニ證據物件トシテ出シタ眼鏡ハ
此通リ、又其負傷當時ノ寫眞モ醫者ノ
診斷書モ私ハ持フテ居ル斯樣ナ事件ガ
不起訴ニナリ、而モ寃罪ニ依ッテ刑務所
ニ打込マレテ何事モ爲スコトヲ得ナイ
機會ヲ待ヲテ不起訴トナスニ至ッテハ
卑怯千萬、沙汰ノ限リト言ハナケレバ
ナラヌ、是デモ司法部ガ公正ニ事ヲ行ッ
テ居ルト言ヒ得ルカドウカ、强制訊問
誘導訊問ガ果シテナイト司法大臣ハ言
切ルダケノ勇氣ガアルカドウカ、私ノ
調査ニ依リマシテモ、强制訊問、誘導
訊問ヲサレテ萬腔ノ怨ヲ抱イテ居ル者
ハ幾人アルカ知レナイ、竹內某ト云フ
者ガ本所ニ居ルノデスガ、或ル事件ニ
依ッテ檢事局ヘ召喚セラレテ取調ヲサ
レタ、所ガ其者ハ往年關東震災ニ依ッテ
家ヲ燒カレタノデ、其後區劃整理ガ完
成シテ立派ナ家ヲ建テテ居ルノデアリ
やく、其主人公デアルガ、裁判所ノタ
シカ枇杷田ト云フ檢事デアッタカ、石〓
岡ト云フ檢事デアッタカ、取調ベテ、オ
前ハ區劃整理ニ依ッテ立派ナ家ヲ建テ
タガ、オ前モ年ヲ取ッテ居ルカラ何レ
葬式ハ自分デ造ッタ立派ナ家カラ出シ
テ貰ハウト云フヤウナ考デ居ルカモ知
レナイケレドモ、言フ事ヲ言ハナケレ
バ自分ノ家ノ疊ノ上デ死ヌヤウナコト
ハ出來ナイゾ、牢ノ中デ殺シテ見セル
ガ宜シイカト云フ事ヲ言ッタ、是ハ石〓
岡檢事カ枇杷田檢事カ何レカノ中デア
ル、尙ホ又私ノ取調ニ對シテモ渡邊ト
云フ檢事ガ、近藤達兒、國枝捨次郞、伊
藤仁太郞ハ此市ノ疑獄事件ニ關シテ金
錢收受ノ關係ヲ明白ニ自白シテ居ルガ、
オ前一人ハドウシテ强情ヲ張ルノカ、
斯樣ナ事ヲ小山ト云フ檢事ガ立會ノ席
デ言ッタ、其後豫審決定書ヲ見マスト云
フト近藤達兒ハ起訴セラレテ居ルガ、
金錢收受ノ關係ヲ明白ニ自白シタト渡
邊檢事ガ言ッテ居ル所ノ伊藤仁太郞、國
枝捨次郞ト云フモノハ起訴セラレテ居
ラナイ、又石〓岡檢事ハ、是ハ鈴木閥
ノ最モ濃厚ナ檢事ト稱セラレル者デア
ルガ、石〓岡岩男ト云フ檢事ガ私ニ向
ッテ曰ク、此東京市ノ疑獄事件ニ關シ
テ、君ハ靑物市場ノ使用料ノ問題ノミ
デハナイ、東京市ガ自動車ヲ買入レタ、
其他ノ問題ニ付テ君ニ關スル所ノ犯罪
事實ト云フモノハ山ト積マレテ居ル、
ソレデアルカラ此靑物市場ノ方ガ、增
田由太郞ガ虛僞ノ供述ヲシタ爲ニ引
掛ッテ居ルト云フダケデハナイ、最早
ドウシテモ君ハ逃レルコトガ出來ナイ
カラ白狀シタラ宜カラウ、ト云フヤウ
ナ實ニ許スベカラザル言葉ヲ吐イテ居
ル、又昭和三年ノ歲末ニ當ッテ、愈〓年ノ
暮ニモナルノデアルガ、增田由太郞ハ
君ニヤッタト言フ、君ハ斷ジテ受ケタコ
トガナイト言ッテ一致ヲシテ居ラヌガ
斯ウ云フ場合ニ於テハ、正月ガ來ルケ
レドモ兩方共歸スコトガ出來ナイカラ
承知ヲシテ吳レ、ト云フコトデアッタ
ガ、豈圖ランヤ、增田由太郞ダケハ保
釋ヲ許サレテ、一方ダケハ許サナイ、
斯樣ナ虛僞ノ言動ヲ彼等ハ爲シテ恥ヅ
ル所ヲ知ラヌ
尙ホ私ハ是ハ將來斯樣ナコトモアラ
ウト思ヒマスカラ此機會ニ一言申上ゲ
テ置クノデアリマスガ、枇杷田檢事ガ
或時私ニ向ッテ、昭和三年ノ歲末ト心得
テ居ル、時恰モ帝國議會開會中デアリ
マス「ドウデスカ、モウ政治季節ニモ
ナッテ居ル、オ正月モ來ルノデアルカ
ラ、何時マデモ押問答ヲシテ居ナイデ、
御歸リニナルヤウニシヨウヂヤアリマ
セヌカ、ト云フコトデアリマシタカラ、
私ハ、結構デアリマスト言フト、ドウ
デス、小俣サン、檢事局ノ調書ト云フ
モノハ法律上證憑力ト云フモノハナイ
ノデアル、增田ノ言フコトハ何トカ其
處ガ色ガ付イテ居ラヌト云フト保釋デ
歸ル譯ニ行キマセヌ、增田ハヤッタト
言フ、アナタハ受ケヌト言フ、其處ニ
何トカ色ガ付カヌトイカヌカラ、檢事
局ノ調書ト云フモノハ法律上證憑力ガ
ナイノデアルカラ、折角政治季節ニモ
ナッテ居リ、正月モ近イノダカラ、其處
ハ何トカ符節ガ合フヤウニシテ御歸リ
ニナッタラドウカ、公判廷ニ行ッタ場合
ニハ、保釋デ歸リタイカラ一時サウ云
フコトヲ言ッタト言ッテ引繰返シテモ宜
イ、斯樣ナ誘導訊問ヲスル、東京市會
議員、市參事會員、衆議院議員ト云フ
職ヲ辱メテ居ル者ニ向ッテスラ、斯樣ナ
淺ハカナ誘導訊問ヲスル、抗辯力ヲ有
セザル者ニ向ッテハ如何ナル誘導訊問、
强制訊問ヲ行フデアラウカト云フコト
ヲ考ヘル時ニハ實ニ私ハ戰慄ヲ催ス
位デアル、此一事ヲ以テシテモ如何ニ
彼等ガ誘導訊問、强制訊問ヲ行ッテ居
ルカト云フコトニ對シテハ察シ得ラレ
ルコトデアラウト思ヒマスガ、之ニ對
シテハ政府當局者トシテハ左樣ナコト
ガアルト云フ御答辯ハ今更御出來ニナ
ラヌデセウ、衷心ハ御想像申上ゲマス、
併ナガラ左樣ナ今申上ゲタヤウナ實ニ
奇怪千萬ナル事實ハ澤山橫フテ居ルノ
デアリマスカラ、國家治安ノ爲ニ、司
法權ノ威信保持ノ爲ニ、人權擁護ノ爲
ニ、今後其方面ニ向ッテハ一段ト深甚
ナル御注意ヲ拂ハレテ、司法部ノ威信
ヲ失墜セザルヤウニ私ハ希望致シテ置
キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=9
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010・渡邊千冬
○渡邊國務大臣 御希望デアリマスカ
ラ、長ク御答辯ヲ致ス必要ハナイノデ
アリマスケレドモ、一言唯司法部ノ爲
ニ申上ゲテ置カナケレバナラヌコト
ハ小俣君ノ御話ヲ伺ッテ居リマスト、
何事モ皆平沼、鈴木閥ノ結果ト御想像
ニナッテ居リマスケレドモ積極的ニ、是
ハサウ云フ人達ノ指揮命令ニ依ッテ司
法部內ガ動イテ居ルト云フヤウナ、證
據ノアル御話ハナイヤウデアリマス、
私ハ重ネテ今日ノ司法部ト云フモノ
ハ部外ノ人ニ依ッテ左右サレルコトガ
ナイト云フコトダケハ、此際ハッキリ申
上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=10
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011・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ今日ハ是ニテ
散會致シマス
午後零時十一分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00419310212&spkNum=11
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