1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
刑事補償法案(政府提出)
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會議
昭和六年二月十六日(月曜日)午後一時二十三分開議
出席委員左の如し
委員長代理理事 服部英明君
理事 篠原陸朗君
理事 牧野賤男君
理事 小野寺章君
小俣政一君 一松定吉君
關口志行君 斯波貞吉君
春島東四郎君 岡田春夫君
飯村五郎君 牧野良三君
上田孝吉君 米田規矩馬君
小林かなえ君 大山郁夫君
同月十四日委員崎山嗣朝君辭任に付其の補闕として小林かなえ君を議長に於て選定せり
出席政府委員左の如し
陸軍一等主計正 矢部潤二君
司法省刑事局長 泉二新熊君
本日の會議に上りたる議案左の如し
刑事補償法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=0
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001・服部英明
○服部委員長代理 是ヨリ刑事補償法
案ノ委員會ヲ開會致シマス、前囘ニ引
續イテ質問ヲ許シマス-小林君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=1
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002・小林かなえ
○小林委員 突然委員ニナリマシテ、
マダ能ク是マデ政府委員ノ御述ニナッ
タコトヲ知ッテ居リマセヌノデ、或ハ多
少重複スルカモ知レマセヌガ、極メテ
簡單ニ質問シタイト思ヒマスカラ、ド
ウカ其御積リデ御意見ヲ御聽カセ下サ
ルコトヲ御願致シマス
時代ノ要求ニ應ジマシテ、斯ウ云フ
法案ノ出タコトニ付テハ、御同樣非常
ニ感謝シテ居ルノデアリマス、併ナガ
ラ法案ノ全部ヲ見、其基本觀念ヲ見マ
スルト云フト、極メテ時代ニ逆轉シタ、
又各國ノ法制ニ照應シテ見マシテモ、
最モ後レタモノガ今日出ルト云フコト
ハ、非常ニ遺憾ニ考ヘルノデアリマス、
斯ウ云フ法案ハ兎ニ角簡單ニ片付ケテ
シマヘト云フ意見モ承ッタノデアリマ
スガ、私ハ本法案ハ如何ニ時間ヲ要シ
テモ根本的ニ立法ノ基ヲ主トシテ討究
スベキデアルト云フコトヲ確信シテ疑
ハヌノデアリマス、是マデ質問モ出タ
ヤウデアリマスルガ、所謂基本觀念ニ
付テ簡單ニ御意見ヲ御伺ヒ致シタイト
思フノデアリマス、ソレハ卽チ無辜ノ
民ガ有罪ノ判決ヲ受ケタト云フコトニ
對シテ、政府當局ノ意見トシテハ所謂
見舞金デアッテ、損害賠償ノ意味デハナ
イト云フヤウニ御述ニナッタヤウデア
リマス、
員カラハ損害賠償ノ意味ガナイデモナ
イト云フ御意見ガアッタサウデアリマス
ガ、兎ニ角賠償其モノヲ根本カラ見テ居
ルノダト云フ觀念ハ本法案カラハ非常ニ
緣ノナイモノニナッテ居ルガ、此點ガ此
法律案ノ非常ニ徹底シナイ、微溫的ナ、
合理的デナイ最大缺點ダト思フ、今ヤ
團體生活、國家生活ト云フモノガ非常
ニ進ムト同時ニ、他方ニ於テハ個人ノ
權利ト云フモノガ非常ニ强ク認メラレ
ル時代ニナッテ來テ、人權ノ侵害ト云フ
コトガ立憲法治國ニ於テハ極メテ重大
ナル觀念ニナッテ來タノデアリマス、之
ガ理由ナクシテ蹂躪サレル時ニ無罪ノ
者ヲ處罰シタト云フヤウナ單純ナルコ
トデハ終ラヌノデアリマス、是ハ全ク
國家ノ基礎ヲ危クスル危險思想ヲ起ス
非常ナル理由ニナッテ來ルノデアリマ
ス、斯ウ云フ點カラ考ヘマシテモ、又
新シキ法律ノ傾向カラ見マシテモ、國
家ガ假ニ無過失デアルトシテモ、之ニ
相當ノ賠償ヲ爲シ相當ノ慰藉ヲ與ヘ
ル、國民ノ一部ニ對シテ出來ルダケノ
補ヒヲスルト云フコトハ當然ノコトデ
アリマス
獨逸ノ如キニ於テハ裁判所ノ誤レル
勿論其後ニ至ッテ泉二政府委|有罪判決ニ對スル賠償ハ素ヨリ、市町
村ノ公吏ガ公法上ノ權力行使ニ依ッテ
國民ニ權利侵害ヲ與ヘタ場合ニ於テモ
有ユル補償ヲシテ居ルノデアリマス、
卽チ有ユル賠償ヲシテ居ルノデアリマ
ス、有ユル國家ノ權力行使ニ對スル官
吏ノ行ッタ斯ウ云フ意味ニ於ケル損害
ト云フモノニ對シテ、村役場ノ人ニ依ツ
テ爲サレタ損害ヲモ賠償スルト云フコ
トニナッテ居ルノデアリマス、斯ウ云フ
時代ニ我國ニ於テ漸ク斯ウ云フ御惠金
ヲ出スト云フヤウナ法案ガ出タト云フ
コトハ、非常ニ時代後レナモノデアル
ト思フノデアリマス、固ヨリ是ハ財政
ガ許サヌトカ、金ノ問題デアルトカ云
フヤウナコトデ一蹴サレルノデアル
ガ、是ハ決シテ單純ナル金ノ問題デハ
ナイト私ハ思フ、如何ニ澤山金ガ掛ッテ
モ此尊ブベキ人權ヲ擁護スルト云フコ
トハ國家ガ最モ深ク考ヘナケレバナラ
ヌト思フノデアリマス、動モスレバ官
途ニ居ル人、殊ニ司法ノ事務ニ携ル人
ハ兎角實業ト云フモノカラ遠ザカッテ
三年ナリ五年ノ刑ヲ言渡シテ、犯罪ア
ルヤ否ヤヲ定メル、丁度關所ヲ人ヲ通
スガ如ク、或ハ盲判ヲ捺スヤウニ、殆
ド馴切ッテ日常茶飯事ノヤウニ是ガ決
定ヲサレテ居ルノデアルケレドモ、斯
ウ云フ被害ヲ受クル所ノ國民カラ見レ
バ、實ニ一生ヲ葬ラルベキ重大ナル問
題デアリマス、私ハ常ニ考ヘル、法律
ト云フモノハ、何處マデモ人ガ作ッタモ
ノデアル、固ヨリ刑法ノ如キ道義ヲ基
本ニシタ法律ハアリマスケレドモ、是
ハ固ヨリ古今東西ヲ通ジテ變ラヌノデ
アリマセウ、併ナガラ取締法規ノ如キ、
之ニ類スル法規ノ如キハ世ノ中ノ時代
ノ必要カラ隨分無理ナ法律ガ出來テ、
之ニ依ッテ處罰ヲサレテ居ルノデアリ
マス、斯ウ云フ意味カラ行クト、私ハ
所謂人間ノ生活問題、道義ノ問題、斯
ウ云フ意味カラ團體生活ヲ離レテ見レ
バ法律ト云フモノハ決シテソンナニ
最上ノ權威ヲ持ッテ居ルモノデハナイ、
後日ニ至ッテ嘗テ罰セラレタ行爲ガ或
ハ賞メラレル行爲ニナルカモ知レナ
イ、ソレ程非常ニ人間ヲ永久ニ左右スル
程ノ權威ヲ持タナイ所ノ法律ニ依ッテ、
而モ現在ノ如ク隨分誤レル裁判ガ行ハ
レテ居ル時ニ於テ、國家ニ金ガナイカ
ラト云フヤウナコトデ、之ニ賠償ヲ與
ヘナイト云フコトハ是ハ人道上カラ見
テモ、國家其モノガ國民ノ上ニ立ッテ
總テ有能デアル、出來得ナイコトナシ
ト云フヤウナ權力ヲ認メマシテ、居ル
國家其モノガ人ヲ處罰スル、國家其モ
ノガ惡ヲ行ッテ、惡ニ對スル損害ヲ賠償
セヌナドト云フヤウナコトハ根本ニ於
テ間違ッテ居ルト思フ、若シ私ノ今言フ
ヤウナ考ヲ以テ司法官ガ總テノコトニ
臨マレルナラバ、恐ラク非常ニ多額ノ
豫算ヲ計上サレテ置イテモ僅カナモノ
デ濟ムヤウニナルカモ知レナイ、ソレ
ガ今デハ殆ド盲ノ判ヲ捺シテ右カラ左
ニ物ヲ通スヤウニ裁判所ト云フモノガ
判決ヲ言渡シテ、右カラ左ニ通シテ居
ル、私モ嘗テ檢事ヲヤッテ居リマシタ
ガ、其時代デモサウ思ッテ居リマシタ
ガ、辭メテ見テ益〓其弊ノ甚シキヲ知
ルノデアリマス、斯ウ云フ點カラ見マ
シテモ第一根本觀念其モノガ、個人ノ
充實シタ今日ニ於テ、國家モ進步シタ
今日ニ於テ、此國家ノ保護シタル個人
ノ利益ヲ、國家ニ必要ナル最小限度ニ
於テ奪フト云フコトハ已ムヲ得ヌノデ
アリマスケレドモ、斯ウ云フ人權ニ關
スルヤウナ人ノ生命ノ問題、生存權ニ
關スル重要ナル問題ニ對シテハ、豫算
ニ計上シテ然ル後ニ法律ヲ作ルナント
云フコトハ、是ハモウ全然撞著シタル
モノデ、基本ニ於テ私ハ觀念ガ誤ッテ
居ルト思フノデアリマス、隨テ斯ウ云
フ慰藉ト云フヤウナ單純ナ法律ヲ作ラ
レルナラバ一度作ッタ法律ハ容易ニ
改メラレヌト云フ今日ニ於テ、寧ロ斯
ウ云フ法律ナドハ私ハコヽ少シ位延ビ
テモ根本的ノ、所謂國家賠償ノ觀念ニ
依ル所ノ、無辜ノ民ヲ出來得ルナラバ
元ニ還スト云フ觀念ヲ以テ作ルコトガ
最モ重大ナル事デハナイカト思フノデ
アリマス、御承知ノ如ク昔賠償ガ唱ヘラ
レタ時ニ、單純ナル文明ノ機械ト云フ
ヤウナモノニ依ッテ受ケタ損害ニ對シ
テモ賠償ヲ認メルト云フ位デアッテ、而
モ生物タル人間ヲ判事、檢事、警察官
ト云フヤウナ者ニ國家ガ使ッテ居ル限
リ、寧ロ其危險ノ多イ誤リノ多イ人間
ノ權力ヲ行使ヲシテ居ルノデアルカ
ラ、誤ッタ場合ニハ、到底誤リノ裁判
ヲ受ケタ以前ニ還スコトハ出來ナイマ
デモ、出來ルダケ國家ガ眞摯ノ觀念ヲ
以テ其損害ヲ賠償スルト云フコトハ當
然ノ義務ダト思ヒマス、又此禍ヲ受ケ
タル所ノ人ニ依ッテ扶養サレテ居ル人
人ニ對シテモ、之ニ對シテ損害ヲ賠償
スルト云フコトハ當然國家ガ負フベキ
道デアルト思フ、卽チ豫算ヲ定メテ法
律案ヲ作ルト云フコトヨリハ、法律案
ヲ基ニシテサウシテ豫算ヲ定メルト云
フコトガ最モ合理的デアリ、又國家財
政ノ上カラ見マシテモサウ云フ風ニシ
テ是等ハ仕事ニ携ハレル官吏ニ警告ヲ
與ヘルト云フコトニ依ッテ餘程私ハ救
ヒ得ルト思フノデアリマス、斯ウ云フ
意味ニ於キマシテ是マデ小野寺君或ハ
上田君ナドカラ再三政府ニ對シテ御質
問ガアッタヤウデアリマスケレドモ、
ドウモ其點ガ私ニハ政府ノ御意見ガ徹
底シナイ、卽チ此補償法ト云フモノガ
國家ガ損害賠償ヲ認メル前提トシテ一
時的ニ行ハレルモノデアルカ、或ハ此
補償法其モノガ損害賠償ノ觀念ニ依ツ
テ進メラレルモノデアルカト云フコト
ヲ第一ニ決定シタイ、サウシテ是ハ吾
吾ガ此法律案ニ對スル審議ヲ進メテ行
ク態度ヲ定メル最モ重要ナルモノデア
リマスルカラ、甚ダ重複スルヤウデア
リマスケレドモ、今一應政府委員ノ御
意見ヲ承リタイト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=2
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003・泉二新熊
○泉二政府委員 只今小林君ノ御述ニ
ナリマシタ御意見ハ御尤モノコトデア
ルト思ウテ居リマス、根本ノ趣旨ニ於
テ反對デハナイノデアリマス、度々今
マデ繰返シテ申シテ居リマスルヤウニ
此法律デハ國家財政等ノ都合ノ上カラ
見マシテ、所謂寃罪者ノ被リマシタル
財產上ノ損害ヲ賠償スルト云フ主義ヲ
今直チニ認メルコトハ出來ナイ、其意
味ニ於テノミ損害賠償デナイト云フノ
デアリマス、併ナガラ精神上ノ損害ヲ
賠償スルト云フコト、通俗ノ言葉デ申
シマスレバ則チ慰藉ヲスルト云フコト
ニナルノデアリマス、慰藉ヲスルコト
卽チ精神上ノ損害ヲ賠償スルト云フ方
針ガ認メラレテ居ルノデアリマス、單
純ナ見舞金デハナイ、ソレハ司法大臣
カラモ度々繰返シテ言ウテ居ラレル、
單純ナ見舞金ダッタナラバ何時デモ
寸シタ包金デモ宜イカモ知レヌケレド
モ之ヲ一日幾ラト云フヤウナ計算ヲ
シテヤラウト云フノデ、損害賠償ノ趣
旨ヲ加味シタ所ノ慰藉デアルト云フコ
トヲ司法大臣ハ度々繰返シテ說明サレ
テ居リマスケレドモ趣意ハ其通リノデ
アル、ソレヲ法理的ニ解釋シタ場合ニ
ハ卽チ精神上ノ損害賠償ヲスル、
種ノ損害補償法デアルト云フ風ニ學者
ガ之ヲ解釋シテ行クノハ、少シモ差支
ナイ、此法律ノ條文ヲ御覽ニナレバ、
只今ノヤウニ解釋ナサルト云フコトニ
付テ、何等ノ障碍ヲ來サナイノデアリ
やっ、追々發達シテ行ク場合、總テノ
各方面ニ於ケル國家ノ救濟ヲ必要トス
ルヤウナ事柄ガ、隨分澤山アラウト思
ヒマス、單リ斯ウ云フ刑事ノ方面ニ、
完全ナル救濟ヲ行フト云フコトモ急務
デアリマスガ、刑事ノ方面ノ救濟ハ先
ヅ此程度ニ止メテ置イテ、寧ロ是ヨリ
モ急ナル救濟ヲ要スル事柄ガ、外ニモ
アルカモ知レヌ、ソレカラ種々ノ事情
ノ緩急ヲ圖リマシテ、財政上ノ都合モ
見マシテ、相當ノ時機ニ到達致シマシ
タナラバ、必ズヤ其時ノ政府ノ黨派別
ノ如何ニ拘ラズ、サウ云フ稍〓理想的
ノ制度ヲ採ルヤウニナルコトデアラウ
ト、私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、御
引證ニナリマシタ獨逸ノ法律ノ如キハ
隨分進ンダ賠償制度ヲ認メテ居リマス
ガ、實ハ是ニ付テ、年々ドノ位賠償ヲヤッ
テ居ルノデアラウカト云フコトデ、今
マデ實際ヲ調ベテ見マスルト、實際ニ
於テハ、殆ド事件ガナイト云フコトデ
アリマス、ソレコソ此間カラ御話ニナ
リマシタヤウニ、
度ミタヤウニ吾々ハ考ヘテ居ルノデア
リマス、又此間カラ申上ゲテ居リマス
ルヤウニ、此案ノ標準ニ依ッテ補償ヲ
致シマスルト、實ハ或ル場合ニ於テハ
財產上ノ損害賠償ト見テ尙ホ餘リアル
場合ガアルノデアリマス、或ル場合ニ
ハ其端ニモ足リナイト云フヤウナコト
ニナリマセウシ、場合ニ依ッテハ財產
上ノ損害ヲ賠償シテ餘リアル場合ガア
リ得ルノデアリマス、サウ云フコトデ
アリマスカラ、是ハ外國ノ例ト、相當
趣ヲ異ニシテ居ルノデアリマス、實效
ノアルヤウニシタイト、斯ウ考ヘテ居
ルノデアリマス、外國ノ例ヲ申シマス
レバ、獨逸ノ如ク、只今申上ゲタヤウ
ニ、法制ハ立派ニ備ッテ居ルガ、實際ハ
殆ド適用ガナイヤウナ模樣デアル、今
度ハ又一面ニ於テハ、ヤハリ御手許ニ
差上ゲマシタ資料ノ中ニモアリマス
ガ、伊太利ヤ佛蘭西ハ、再審デ無罪ノ
言渡ヲ受ケタ者ニ對シテダケノ賠償ノ
途ヲ開イテ居ルノデアリマスケレド
モ、通常ノ手續ニ於テハ、無罪免訴ニ
ナッテ居リマスル者ノ賠償ノ途ヲ認メ
テ居ラヌノデアリマス、サウ云フ法律
ニ較ベマスレバ、此法案ノ方ハ、餘程
實質的ニ進ンデ居ルト私ハ思フノデア
リマス、更ニ又損害賠償ト云フコトヲ、
卽チ財產上ノ損害賠償ト云フコトヲ標
本當ノ羊頭狗肉ノ制準ニシテヤリマシテモ、其見積方ノ如
何ニ依ッテハ、私ハ實ハ此案ヨリモモッ
ト少イコトニナルノデハナイカ知ラヌ
ト思ッテ居ルノデアリマス、御手許ニ差
上ゲテアリマスル各國ノ法律デ、財產
上ノ損害賠償ヲ目的トスルト云フヤウ
ナコトヲ書イテアリマスケレドモ、獨
逸ノ如ク殆ド何十年ニナリマセウカ、
實例ガ殆ドナイト言ウテモ宜イ位ダト
云フコトデアルノデ、愈~ソレヲ實行シ
マシテモ、財產上ノ損害賠償ノ見積方
ガドウ云フ標準デ一體見積ルノカ、
ソコラガハッキリシナイノデアリマス
勾留ヤ刑ノ執行ヲ受ケタト云フコト自
體カラ、直接ニ生ズル損害ダケヲ賠償
スル意味ナラバ、是ハ少クテ濟ムデア
ラウ、併ナガラ間接ノ損害マデ、賠償
スルト云フコトニナリマスト、一部分一
レ程マデニ達スルカ殆ド判ラナイノデ
アリマス、ソレハ民法ノ上デハ間題デ
アリマセウ、此最初ノ試ミト致シマシ
テハサウ云フ曖昧ナ標準ヲ採ラナイ
デサウシテ又唯學者ノ議論ニ囚ハレ
ナイテ、實際ニ都合ノ好イヤウニスレ
バソレデ宜イノデアリマス、學者ノ
理想ニ合フヤウニシヨウトカ申シマス
コトハ、將來ノコトト御考ヘ下サレバ
宜イト思ヒマス、詰リ此法案ガ出來ル
アトニナリマスレバ、少クトモ其理想
的制度ノ途ヲ開ク先驅ニナルト云フコ
トニモナリマセウ、今日全ク何等救濟
ノ途ノナイ此時ニ、斯ウ云フ救濟ヲス
ルコトガ出來レバ、ソレデ私ハ出發點
トシテハ相當ナ出來デアッテ、今マデ何
モ無カッタモノガ、サウ一足飛ビニ理
想的制度ヲ設ケナケレバナラヌト云フ
コトハ、餘リニ學者的デ餘リニ理想的
デ、實際ニ少シ遠イ考デハナイカト云
フコトヲ思ウテ居ルノデアリマス、是
ダケ御答致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=3
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004・小林かなえ
○小林委員 只今御意見ヲ承ッテ居リ
マスト、ドウモ私ノ感ジカラ行クト政
府ノ御考ハ、如何ニモ此憐ムベキ右罪
ノ判決ヲ受ケタ人ニ對スル、同情熱情
ヲ非常ニ缺イテ居ラレルノデハナイカ
ト思フ、今マデニナイノデアルカラ斯
ウ云フモノヲ作ッテヤレバ、チヨットデ
モ斯ウ云フモノガ出來レバ、非常ニ善
イコトデアッテ、尙ホ救濟スベキ問題ハ
此外ニモアルト云フヤウナ御考デアリ
マスルケレドモ、私ノ考カラ云ヘバ兎
ニ角尊ムベキ一個ノ人間ヲ、誤レル裁
判ニ依フテ之ヲ有罪タラシムルト云フ
コト、之ヲ救フコトハ最モ急務デアル
ト思フ、之ヲ非常ニ簡單ニ考ヘラレテ
居ルヤウデアリマスガ決シテ本人カ
ラ云ヘバ、サウ云フ簡單ナモノデハナ
イ、自分ノ一生ヲ葬ラレルカドウカ、
自分ノ名譽ガ如何ニ傷ケ了レルカドウ
カ、最モ其人自身ニ對シテ非常ニ精神
ノ上ニ、又財產ノ上ニ苦痛ヲ感ズル次
第デアリマス、殊ニ先程御話ノ獨逸ニ
於テハ進步シタ有ユル賠償法ガ出來テ
居ルガ是ハ殆ド適用サレテ居ナイ、羊
頭ヲ揭ゲテ狗肉ヲ賣ルノハ寧ロ是デア
ル、斯ウ云フ御話デアリマシタケレド
モ、私ハ恐ラク是ハ斯ウ云フ有ユル國
家ノ權力行使ニ對スル損害賠償ノ請求
權ヲ國家ニ與ヘルト云フコトニ依ッテ、
寧ロ斯ウ云フ國家權力ヲ行使スル人ニ
非常ナル反省ヲ與ヘタル爲ニ、此條文
ガ適用サレヌヤウニナッテ居ルノデア
ラウト思ヒマス、刑罰法規ガ使ハレル
ノヲ望ンデ居ルト云フノハ是ハ學者ノ
言フコトデアリマシテ、私モ泉二先生
ニハ學生時代ニ〓ハッタ生徒デアリマ
スケレドモ、先生ハ唯ソンナコトハ學
者ノ議論デ駄目ダ、僅カノ金デモ出シ
テヤレバ早ク濟ムデハナイカト云フヤ
ウナ簡單ニ御考ヘニナリマスガ、私
學者ノ議論ノミニ耽ルト云フコトヨリ
モ、國家其モノガモット根本的ニ、法律
ヲ作ル上ニ於テハ合理的ニ、モット人間
ノ生活ニ合ヒ而モ理論ニ合ッタ法律ヲ
作ルベキデアルト思フ、而モ先程承ッテ
居レバ此補償法ト云フモノハ決シテ見
舞金デハナイ、一種ノ精神上ノ賠償デ
アル、斯ウ云フヤウナ御述方デアッタ
ノデアリマス、財產上ノ損害ハ賠償ハ
シナイガ、精神上ノ慰藉ヲ與ヘルト云
フコトデアルナラバ、何モ一日五圓以
內ト云フヤウナ確定シタモノニ依ッテ
定メル必要ハナイ、私ハサウ云フ御意
見デアルナラバ、寧ロ之ヲ國家賠償法
ナリ或ハ刑事賠償法ナリ、何處マデモ
賠償法ト云フ名前ヲ使,テ置イテ、サウ
シテ國家ニ金ガ無イナラバ命令カ何カ
ニ依ッテ一日五圓以內、暫クハ一日五圓
以內デ辛棒セヨト云フヤウニ規定サレ
ルノガ極メテ合理的デアルト思フ、唯
理想ヲ追ッテ學者的ノ議論ダケデハ何
ニモナラヌト云フコトデ撥ネラレル
トスレバ結局問題ニハナリマセヌケレ
ドモ、苟モ國家ガ斯ウ云フ時代ノ進運
ニ鑑ミテ、兎ニ角此議會ニ於テハ是等
ノ法律ト云フモノハ劃期的ノ法律デア
ルト思フ、サウ云フ法律ヲ簡單ニ其邊
ノ賴母子講ノ規則デモ作ルヤウニ、
時間ニ合ヘバ宜イノデアルト云フコト
デ作ラレテハ是ハ由々シキ大事ダト思
フ、出來ルナラバ今政府委員ガ云ハレ
タヤウニ、賠償其モノヲ精神上ノ慰藉
ニセヨ、兎ニ角賠償其ノモノヲ此ノ法
律ガ認メルト云フコトデアルナラバ、財
產上ニ於ケル、或ハ精神上ニ於ケル損一スルナラバ、
害ト云フモノヲ國家ガ賠償スルノデア
ルト云フコトヲ堂々ト言ッテ出ラレル
ガ宜イト思フ、若シ財政上之ヲ許サヌ
ナラバ、他ノ特別ノ法規ニ依ッテ目下
ノ財政狀態ニ於テハ此程度ト云フコト
ニ依ッテ定メラレルト云フナラバ、是ハ
理由ヲ爲スト思フノデアリマスケレド
モ、法理上カラ言ッテモ社會進步ノ狀
態カラ見マシテモ、甚ダ徴溫的ト謂ッテ
宜イカ、不合理的ト謂ッテ宜イカ、全ク
二階カラ目藥ノヤウナ、今之ヲヤッテ
置クカラ此恩惠ニ感謝シテ居レ、勝手
ニ間違ッタ裁判ニ依ッテ、人ヲ時ニ依レ
バ死刑ニ處シ、時ニ依レバ懲役ニ處
シ、サウシテ置イテ、オ前ハ國家ノ一
員デアル、間違ッタ裁判ニナッタコトハ
已ムヲ得ヌ、ソレカラ金ガナイカラ之
ダケヤルカラ是デ安心セヨ、精神上ノ
慰藉ヲ受ケタカラト云フヤウナコトデ
解決スルト云フコトハ實際國民ニ對
スル眞面目サヲ私ハ缺イテ居ルト思
フ、又法律案ヲ作ルト云フ意味ニ於テ
ノ本當ノ眞面目サヲ私ハ缺イテ居ルト
思フ、殊ニ最モ法制ノ整ッテ居ル獨逸
ニ於テハ一向是ハ適用サレヌト云フナ
ラバ、寧ロ理論ニ根據ヲ置イテ、堂々
ト國家カラ合理的ノ賠償ヲ認メ、サウ
シテ裁判官ナリ或ハ檢事ナリ警察官ニ
對シテ深刻ナル通告ヲ與ヘテ是等ヲ警
獨逸ノ如ク是等ノ法律
ガ作ラレテモ使ハレザルト云フ所謂法
律ノ目的ニ合スルヤウニナルコトハ決
シテ難クナイト思フ、ソレヲ今ノヤウ
ナ微溫的ナ取締ニ於テ、サウシテ司法
裁判所ト云フモノガ非常ニ隨分非常識
ナ裁判ヲ到ル處デサレテ居ルノデアル
ガ、ソレヲ此儘放ッテ置カレルト云フ
コトニナレバ、益〓是ハ無罪ト云フモ
ノハ殖エテ來ルデアラウト思ス、政府
ハ斯ウ云フ法律ヲ作ッタナラバ是デ恐
ラク勾留或ハ拘置ヲ受ケタ所ノ無罪者
ニ對シテ精神上ノ慰藉ガ與ヘラレタモ
ノト思ハレルカモ知ラヌケレドモ、此
國家ノ裁判ニ依ッテ本當ニ無實ノ罪ニ
依ッテ處罰サレタ者ガ、實際無罪トシテ
裁判ノ判決ヲ受ケルト云フモノハ全ク
是ハ九牛ノ一毛デアル、再審若クハ非
常上告或ハ豫審若クハ裁判ニ於テ無罪
ノ判決ヲ受ケル者ハ無論アリマス、司
法省ノ統計デモ相當アルケレドモ、是
ハ無罪ノ判決ヲ受ケタ一部デアル、私
共ノ知レル範圍ニ於テモ隨分無實ノ者
ガ處罰サレテ居ル、而モ大審院マデ行ッ
テモ之ヲ顧ミナイデ無實ノ者ヲ有罪ニ
シテ了ッテ居ル者ガ實ニ多イノデアリ
やべ、其點モ特ニ一ツ考ヘテ戴キタイ
ト思フ、殊ニ選擧違反ナドニ當ッテハ
非常ニアル、私ノ知ッテ居ル分ダケデ
モ略式命令ナドデ八十八位無實ノ者ガ
ヤラレテ居ルノガアル、ソレハ兎ニ角
田舍ヘ行クト檢事モ豫審判事モ隨分ヒ
ドイノガアル、ソレハ東京ナドデモアル
是ハ言ヒマセヌケレドモ、東京ニハ無
論ナイト政府委員ハ思ッテ居ラレルカ
モ知レマセヌケレドモ、東京デモ選擧
違反ノ檢擧ニ當リマシテ調室デ書記ト
檢事ト二人ダケ居ル所デ被〓人ヲヒッ
パタイテ、鼻カラ血ヲ出シタヤウナ實
例モアル、是ハ決シテ間違ッテ居ラヌ
サウ云フ實例ガ東京デモアル、況ヤ田
舍ノ區裁判所ナドヲ一生涯動キ廻デ
居ルト云フヤウナ人ニナルト、ソレハ
泉二政府委員ガ御考ニナルトハ非常ニ
違テテ隨分ヒトドイモノガアルノデア
リマス、隨テ選擧違反ナドデ金ヲ貰。ラ
タカ貰ハヌカト云フヤナナコトデ調
ベラレル、他ノ者ハドン〓〓勾留ヲ受
ケル、言ハナケレバ放リ込ムゾト言ハ
レルト長ク放リ込マレテ居タリ、或ハ
裁判所ナドニ行クノガ嫌デアル、寧ロ
二十圓位デ濟ムナラバ二十圓ノ罰金ヲ
拂〓タ方ガ宜イト云フコトデ、オメ〓〓
無實デアルニ拘ラズ有罪ニナッテ行ク
人ガアルノデアリマス、又時偶之ニ異
議ヲ唱ヘテ大審院マデ行ク、所ガ大審
院或ハ控訴院ナドニ於テモ兎ニ角下ノ
裁判所ノ判決ハ破ラナイヤウニ破ラナ
イヤウニスル、ソレデ下ノ裁判ノ判事
自身モ立派ナ法律上ノ〓究ヲ判決ノ上
ニ現ハサウト云フヨリモ上ニ行ッテ破
レナケレバ宜イ、
レルト自分ノ上申ニ影響スル、私ハ司
法官時代ニ頻リニソレヲ言ハレタ、破
レナイヤウニ判決シサヘスレバ宜イノ
ダト云フコトヲ頻リニ言ハレタ、又上
ノ裁判所モ成ベク下ノ判決ハ破ラナイ
ヤウニト云フコトデ、如何ニ無實ヲ訴
ヘテモ、殊ニ大審院ノ如キハ殆ド書面
審理デ無罪ノ者ガドン〓〓有罪デヤラ
レテ居ル、斯ウ云フ實例ガ多イ、其中
ノ或ル一部ガ無罪デアルト云フ判決ヲ
受ケテ此法律ノ適用ヲ受ケルコトニナ
ル、サウ云フ點カラ考ヘラレテ何處マ
デモ國家賠償ト云フ觀念デ此法律ハ作
ルノガ當然デアルト思フ、サウシテ若
シ金ガ許サナイナラバ、ソレニ對スル
ヤウナ經過的ノ規定ヲ設ケラレテモ宜
イ恐ラク先刻泉二政府委員ガ擧ゲラ
レタヤウニ、獨逸ノ如キ完備シタサウ
云フ法律ヲ作ルナラバ結局適用サレナ
イヤウニナッテ來ル、ソレダケ警告ヲ與
ヘテ役人ソレ自體ニ過チナカラシメル
ヤウナ、一ツノ助ケニモナルデアラ
ウ、斯ウ思フノデアリマスガ、政府ハ
根本的ニ、私ガ今申シマシタヤウニ基
本觀念ト云フモノヲ國家賠償ト云フ觀
念ニ於テ此法律案ヲ作リ替ヘラレル御
意思ハナイカドウカト云フコトヲ更ニ
モウ一點御伺シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=4
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005・泉二新熊
○泉二政府委員 之ヲ賠償法トシタラ
上ニ行ッテ判決ガ破〓イデハナイカト云フヤウナ御話モ
アッタヤウデアリマスガ、度々申上ゲ
テ居リマスヤウニ、是ハ卽チ精神上ノ
損害ヲ賠償スルト云フ一ツノ方法デア
ルト云フコトハ此法文ソレ自體ニ依ツ
テ分ッテ居ルト言ッテ宜シイガ、ソレヲ
慰藉ト說明スルコトハ一向差支ナイ、
又單純ナル見舞金デモナイ、又一方カ
ラ言フト財產上ノ補償ヲスルト云フノ
デモナイ、ソレヲ賠償法ト云フ言葉ヲ
用フルト、ソレコソ羊頭狗肉ノ御叱リ
ヲ受ケルコトヽ思ヒマス、諸君カラハ
御叱リヲ受ケナクテモ世間一般カラ御
叱リヲ受ケル、ソコデ賠償法ト云フ言
葉ハ態ト避ケテ居リマス、ソコヲ用意
シテ補償法ト云フ言葉ヲ使ッテ居ル、賠
償法ト云フ名稱ニ直サウト云フ考ハ政
府ニハナイノデアリマス、ソレカラ更
ニ進ンデ實質ヲ財產上ノ損害ヲ賠償ス
ルト云フ制度ニ建テ替ヘテ行カウト云
フ意思モ、此法案ニ付テハナイノデア
リマス、ソレハ將來ノ問題デ、是ハモ
ウ最少限度カラ出發スルト云フ政府ノ
意思デアリマス
ソレカラ更ニ御說ノ中ニ無罪ガア
ル、玆ニ書イタバカリデハナクシテ、
實質上ノ無罪ガ澤山アルノダ、ソレヲ
何カ賠償法ヲ拵ヘタナラバ、ソレニ依ツ
テ警告シテ、サウ云フ弊害ガナクナル
ヤウニ出來ルダラウト云フ御話ガアリ
マシタケレドモ、ソレハ一寸理論上見
當違ヒノヤウニ私ハ思フノデアリマ
ス、御話ノヤウニ罪無キ者ガ有罪ノ判
決ヲ受ケルト云フ事實ガ若シアリト致
シマスレバ、洵ニ氣ノ毒ナ事ダ、ソレ
ハ場合ニ依ッテハサウ云フコトガアル
カラ、斯ウ云フ法律モ必要デハアリマ
スルガ、詰リソレガ再審ヲ行ッテ更ニ
無罪ニナル場合ヲ考ヘテ斯ウ云フ法律
ヲ拵ヘテ居ルモノデ、全ク無イトハ申
シマセヌケレドモ、能ク世間デ言フ
ヤウニ、サウ澤山アルカドウカト云フ
コトハ常ニ私達ハ問題ニシテ居ル、常
ニ我田引水、立場ガ違フコトニ依ッテ
被〓人ノ方カラ言ヘバ、檢事ガ無理ヲ
シタヤウニ言ヘバ都合ガ好イ、檢事ノ
方カラ言ヘバ、イヤ被〓ハ嘘ヲ言ッテ
居ルト云フ方ガ都合ガ好イ、ドウモ一
方的ニ私ノ方デハ斯ウ云フ證據ヲ有ツ
テ居ルト云フコトヲ能ク聞キマスガ、
此證據ト云フモノガ果シテ其人ノ主觀
的ニ考ヘテ居ルヤウニ確實ダカドウカ
ト云フコトヲ私共ハ疑ウテ居ルノデア
リマス、ソレハ別問題デアリマスガ、
兎モ角此無罪タルベキ者ガ屢有罪ノ判
決ヲ受ケルカラ、此法律ガ必要ダト云
フコトニナルナラバ、到底此法律ノ適
用ノ餘地ガナイ、其裁判ガ惡イノカモ
知レマセヌケレドモ、其有罪ノ判決ヲ
言渡サレタ者ニ對シテハ、補償ノ道ハ
少シモ此法律ハ考ヘテ居ナイ
ソレカラ又此法律ハ、此法律ニ依ツ
テ判檢事ニ警告ヲ與ヘルト云フコトヲ
眼目ニシテ居ルノデハナイ、是ハモウ
此前カラ度々御話申上ゲテ居ル、判檢
事ニ對シテ警告ヲ與ヘルト云フコトニ
付テハ、懲戒法デアルトカ、懲戒令ニ
依リマシテ、職務上ノ義務ヲ盡スヤウ
ニ勸告ヲシテ居ルノデアリマス、ソレ
カラ個人ノ方面カラ言ヒマスレバ、若
シ判檢事ガ故意、過失ニ依ッテ不法行
爲ヲシテ損害ヲ加ヘタト云フ事實ガア
ルナラバ、ソレハ民法上今日デモ出來
ルコトデアル、出來ルト申シマスノハ
ヤハリ損害ノ賠償ヲ請求スルコトガ出
來ルノデアリマス、サウ云フ警告ノ方
面ハ全ク此法律ハ見テ居ラヌノデアリ
やっ、此法律ノ反對作用トシテ多少ト
モサウ云フ警告ニナルコトハ、ソレハ
アルノカモ知レマセヌケレドモ、向
其事ヲ眼中ニ置イテ居ルノデハナイ、
故意、過失ト云フモノガアルト否トニ
拘ラズ、卽チ取扱官吏ノ故意、過失ガ
ナイ場合ニモ尙ホ且ツ補償ヲ與ヘヤウ
トスルノデアル、人間ノスル事ニハ故
意、過失ヲ以テ其責任ヲ問フコトガ出
來ルコトモアレバ、又故意、過失ト云
フコトノ出來ナイ、全ク不可抗力ト同
ジヤウニ見ルベキ場合モアル、是ハマ
ア小林君、御經驗ノアル方デアリマス
ルカラ申上ゲル必要モナイト思ヒマ
ス、詰リ故意、過失ガ取扱官吏ニアル
ト云フコトヲ全ク之ヲ條件トシナイデ、
結果ノ上カラ見テ間違ヲテ居ッタラ氣ノ
毒デアルカラト云フノデ、精神上ノ損害
ヲ補償スルト云フコトニ依ッテ慰藉ヲ
シヨウト云フノデアリマスカラ、此法
律ニ依ッテ、警告ヲ取扱官吏ニ與ヘヤ
ウト云フ精神デ以テ立法サレナケレバ
ナラヌト云フ考ハ、全ク此立案ノ精神
ニ副ハナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=5
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006・小林かなえ
○小林委員 只今御伺ヒ致シマスル
ト、決シテ警告ノ意味デ立法スルノデ
ハナイト云フ御話デアリマスケレド
モ、ソレハ固ヨリ當然ノ事デアリマス、
當然ノ事デアリマスケレドモ、ソレガ
延テ判檢事ノ仕事ヲスル上ニ於テノ一
ツノ警告ニナルコトハ、是ハ幾ラ言葉
ヲ換ヘテ言ヒマシテモ當然來ルベキ結
果ダト思フノデアリマス、又政府委員
ハ若シ官吏ガ故意又ハ過失ヲ以テ損害
ヲ與ヘタ場合ニハ、無論民法上ニ於ケ
ル不法行爲トシテ損害ヲ賠償スベキ責
任ハ其個人ニ屬スルト云フコトヲ言ハ
レマシタガ、是レ固ヨリ當然デアリマ
ス、併ナガラ實際ノ扱トシテ官吏ガ與
ヘタ所ノ不法行爲ガ認メラレル、裁判
ノ結果民法上ニ於テノ不法行爲ガ認メ
ラレルト云フヤウナコトハ極メテ是ハ
稀有デアル、恐ラク私ハアルマイト思
フ、現ニ私ガ知ッテ居ル範圍デモ檢事
ヲ告訴シテ居ル事件ガアリマス、併ナ
ガラ此檢事ヲ調ベル人ハ何時デモ其官
廳ノ檢事ガ調ベテ居ル、取調ノ實際ニ
當リマシテ事件ヲ崩シテシマフ泉二
政府委員ナドモ御承知ノコトデアリマ
セウケレドモ、殊ニ檢事ガ或ル事件ヲ
之ヲ立テルカ崩サウカト云フコトハ其
人ノ考ニ依ッテ自由自在デアリマス、崩
スヤウニ事件ヲシヨウト思ヘバ幾ラデ
モ崩セル、立テルヤウニヤッテ行ケバ
無論或ル時日ノ間ニハ立ッテ行ク、所ガ
實際檢事ガ檢事ノ惡イ所ヲ調ベルト云
フ場合ニ、之ヲ有罪ニスルヤウニ調べ
ルト云フコトハアリハシマセヌ、大〓
地方裁判所ノ事件ハ控訴院ノ檢事ガ調
ベル、本人ノ不利ノ點點チットモ聽カ
ヌ、私モ其經驗ヲ經テ居ル、私ハ大ニ
理窟ヲ言フタ所ガ漸ク一二點調ヲ變ヘ
タ、斯ウ云フヤウナ調ヲスルナラバ私
ノ考ト云フモノハ此處デハ言ヘマセス
ト私ハ審理ノ際ニ言ッタノデアリマス、
實際檢事或ハ判事ナドノ不法行爲ヲ原
因トシテノ民事ノ訴訟ガ成立ツト云フ
ヤウナコトハ私ハ到底今ノ檢事局ノ現
狀ニ於テハ不可能デアルト思フ、サウ
云フ場合モアルノデアルカラ、無論其
場合ヲ考ヘテヤルト云フノデハナイケ
レドモ、サウ云フヤウナ場合ニ於ケル
損害ノ賠償ト云フヤウナコトハ、此今
囘出テ居ル所ノ是等ノ法律ニ依ッテ其
處ヲ補ッテ行カナケレバナラヌ、是ハ理
論ノ理窟デ-ハナイケレドモ、實際
問題デアル、斯ウ云フモノガアレバコ
ソ裁判上ニ於テ不法行爲トシテ認メラ
レルコトガ出來ナイデモ、不法行爲ノ
損害ヲ受ケタ者ハ纔カニ救ハレ得ルノ
ガ分ルノデアル、是ハ道理的ニハ同一
ニハ見ルコトハ出來マセヌケレドモ、
サウ云フヤウナ色々ノ方面カラ見マシ
テモ、唯名ヲ變ヘルダケデ、賠償ト書
ク所ヲ補償トシタ所ガドウデモナイヂ
ヤナイカト云フ御意見デアリマスケレ
ドモ、私ハ斯ウ云フ法律ヲ作ルト云フ
コトハヤハリ精神物質兩方面ニ於テ、
國家ガ國家ノ安寧秩序ヲ維持センガ爲
ニ誤ッタ裁判ヲシタト云フ點ニ於テ、ド
ウシテモ此責任ヲ持ッテ行カナケレバ
ナラヌト云フコトヲ痛切ニ感ジマス、
兎角司法裁判ノ役所ノ方面ニ居ラレル
人ハ、無罪ニナッテモ是ハ證據ノ上デ
無罪ニナルノデ、本當ハ是ガヤッテ居ル
ノダ、ヤッテ居ルノダガ、證據ガドウモ
集ラヌモノダカラ無罪ニナルノダト云
フヤウナ頭ヲ持チ易イ、隨テ本當ニ明
ラサマニ言フナラバ、裁判所方面カラ
見タナラバ此法律ニ依ッテ救濟ヲサレ
ル所ノ者ハ皆有罪デアルケレドモ、證
據ガ集ラヌカラ仕方ガナイ、ヤルノダ
ト云フヤウナ單純ナ頭ガ其精神ノ根本
ヲ成シテ居ルガ爲ニ、斯ウ云フヤウナ
不徹底ナ法律ガ出來ルノダト私ハ思
フ、固ヨリ辯護士方面カラ見レバ、ソ
レハ被告ニ偏ルト云フ人モアリマセ
ウ、併ナガラ決シテサウ云フ人バカリ
デハナイノデアリマス、實際ニ僞ラザ
ル告白ヲ長イ間ニ聽イテ見テ、其裁判
ガ誤リデアルト云フコトヲ頻リニ感ズ
ルコトガアル、併ナガラソレハ取扱。ッタ
官吏ニ聽イテ見レバ、アレハヤッタノダ
ガ證據ガ集マラヌト云フコトヲ言フ、
詰リ自己ノ扱ッタ事件ニ於ケル心證ト
云フモノヲ何時モ考ヘルト云フ考ガ、
何時モ主ニナッテ居ルガ爲ニ、斯ウ云フ
法案ナドモ私ノ今言ッタ意見ニ餘リ贊
成ヲサレナイノデアラウト思フ、是以
上ハ申上ゲテモ水掛論ニナリマスカラ
此邊デ打切リマス
更ニ補償ニ付テ、精神上ノ慰藉ヲス
ルト云フナラバ、必シモ勾留又ハ拘留
ニ因ル場合バカリヲ考フベキデナク、罰
金刑ノ場合ニ於テモ、理論上ハ同一ナ
ル方法ヲ執ルベキデアルト思フガ、何
故罰金刑ニ對シテハ慰藉ノ方法ヲ講ズ
ル途ヲ執ラナカッタカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=6
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007・泉二新熊
○泉二政府委員 其場合ニ付キマシテ
ハ第一條ニ刑ノ執行ヲ受ケタル者ニ對
スル補償ト云フノガアリマシテ、更ニ
第五條ノ四項ニ「罰金又ハ科料ノ執行
ニ因ル補償ニ於テハ既ニ徵收シタル罰
金又ハ科料ニ等シキ金額ヲ還付ス」サ
ウ云フ方法ヲ執ッテアルノデス、併シ此
外ニモット金デモヤルノガ當リ前デハ
ナイカト云フ御質問ノ御趣意カモ知レ
マセヌケレドモ、マア此場合ハ金額ヲ
返スト云フ程度ニ止メテアルノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=7
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008・小林かなえ
○小林委員 ソレデハ甚ダ緩漫デハナ
イカト思フ、民法上ノ觀念カラ言ヘバ
ソレハ國家ガ不當利得ヲ得テ居ルモノ
デアルカラ、返還ノ義務アルコトハ當
然デアル、ソレヲ此中ニ書入レタニ過
ギナイ、罰金刑ニハ更ニ他ノ補償ヲ考
ヘル必要ハナイカ、斯ウ云フ質問デア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=8
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009・泉二新熊
○泉二政府委員 罰金刑ニ處セラレタ
ケレドモ其手續ニ於テハ勾留ヲ受ケ
タト云フ場合モアルデスナ、サウ云フ
場合ダケハ、第一條一項デ、勾留ニ因
ル補償ハ與ヘル積リデアリマス、最初
カラ勾留モ受ケズ罰金ニ處セラレタ、
再審デ無罪ニナッタト云フ場合デアリ
マスト、旣納ノ金額ヲ返シテヤルニ止
マルノデスケレドモ、若シ手續中ニ勾
留ヲ受ケタ事實ガアルナラバ、ソレニ
對シテハヤハリ一日五圓以內ノ計算デ
補償ヲ與ヘル、サウ云フ趣意デ出來テ
居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=9
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010・小林かなえ
○小林委員 サウスルト勾留ヲ受ケナ
イヤウナ場合、サウ云フ場合ニ公〓ヲ
スルトカ、公示ヲスルト云フヤウナコ
トヲスルト、非常ニ金デモ要リマスカ、
サウ云フ點デ之ヲ認メラレナカッタノ
デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=10
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011・泉二新熊
○泉二政府委員 詰リ此案デハ先刻カ
ラ申上ゲテ居ルヤウニ、此出發點ニ於
テハドウシテモ苦痛ガ餘リニ大キイ
ト見ルベキデアッテ、棄置ケナイト云
フヤウナ場合ダケヲ捉ヘテ、最少限度
カラ出發シヨウ、斯ウ云フノデアリマ
スカラ、勾留ヲ受ケタトカ刑ノ執行
ヲ受ケタトカ云フ事實上ノ苦痛ガア
ル、之ニ對スル詰リ精神上ノ苦痛ト云
フモノヲ考ヘテ、ソレニ對スル補償ヲ
ヤル、全ク勾留ノ伴ッテ居ナイト云フ場
合、ソレガ起訴サレタト云フコトソレ
自體ガ、精神上非常ニ苦痛ヲ感ズルノ
デバナイカト云フ御話ハ能ク分リマ
ス、私達ハ其點モ考ヘマシタケレドモ、
先刻カラ申上ゲタ通リ最少限度カラ出
發シヨウト云フ所カラ、サウ云フ場合
ハ此案ニハ入レテ居ナイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=11
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012・小林かなえ
○小林委員 ソレデハ更ニモウ一ツ質
問シタイト思ヒマスガ、第四條ノ第一
號ニハ「刑法第三十九條乃至第四十一
條ニ規定スル事由ニ因リ無罪又ハ免訴
ノ言渡アリタルトキト」云フノデ、此場
合ヲ補償スル中カラ除イテ居リマス、
三十九條ハ固ヨリ心神喪失トカ心神耗
弱ト云フヤウナ問題デ、現在ノ如ク精
神狀態ヲ鑑定スルコトガ極メテ困難デ
アル場合ニ於テハ、是ハ或ハ已ムヲ得
ナイカト思ヒマスケレドモ、四十一條
ノ十四歲ニ滿タザル者ノ行爲、或ハ四
十條ノ瘠啞者ノ行爲、斯ウ云フ者ニ對
シテハ、サウ云フ者デアルカ否カト云
フコトノ取調ヲスルト云フコトハ少
シ愼重ニ綿密ニヤルナラバ、是ハ係官
ガ直グニ發見シ得ルコトデアラウト思
フ、斯ウ云フ場合ヲ特ニ除クト云フ理
由ガ甚ダ私ハ乏シイト思フ、出來ルダ
ケ區裁判所トシテノ補償ノ責任ヲ免レ
ヨウト云フ意味デ、是ハ置カレテ居ル
ト云フ風ニ考ヘルノデアリマスガ是
ハ頗ル實際ニ合ハナイ、又官吏ノ怠慢
ヲ許スト云フ缺點ガアルト思フノモア
リマス、痞啞者ヲ裝フ者モ時ニアルデ
アリマセウ、併ナガラ是ハ少シ綿密ニ調
ベルナラバ決シテ發見ノ出來ナイモノ
デハナイ、又責任年齡ニ達シナイト云
フコトハ、何等カノ方法ニ依ッテ簡單ニ
取調べ得ルト思ヒマス、サウ云フ場合
ヲ特ニ除外例トシテ設ケルト云フ必要
ガ甚ダ乏シイヤウニ思フノデアリマス
ガ、是ハ何カ外ニ理由ガアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=12
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013・泉二新熊
○泉二政府委員 ヤハリ本法案ノ出發
點ノ基礎觀念ガ、自然ニ斯ウ云フ規定
ヲ設ケルコトニ至ラシムルノデアリマ
ス、此案ハ先カラ申上ゲマスヤウニ判
事ヤ檢事ノ取扱振リヲ不都合ダトカ、
取締ルトカ云フコトヲ目的トシテ居ル
ノデハナイ、只今小林君ノ御述ニナリ
マシタヤウナ事柄デ、檢事ヤ判事ノ取
調ガ粗雜デアッテ、起訴シタトカ、有罪
ノ判決ヲシタトカ云フヤウナコトガア
ルナラバ、其點ニ對シテハヤハリ司法
行政監督上、ソレヲ責問スルト云フコ
トガ出來ルノデアリマス、此案デハサ
ウ云フ判檢事側ノ職務上ノ責任ダト言
フノデハナイノデアッテ、結局主觀的ニ
モ客觀的ニモ何等ノ罪責ノナイ人ガ、
誤ッテ勾留サレタトカ、刑ノ執行ヲ受ケ
タトカ云フヤウナコトガアレバ、ソレ
ハ社會ノ上カラ見テ氣ノ毒デアルカラ、
社會トシテ補償ヲ與ヘルノダ、斯ウ云
フ考ニ基イテ居ルノデアリマス、御承
知ノヤウニ此頃デハ從前ノ如クニ主觀
責任論デナクシテ、社會責任論ト云フ
モノガ隨分ヤカマシクナッテ來テ居ル、
今度ノ刑法改正案ニ於キマシテモ、歐
羅巴諸國ノ最近ノ立法ノ趨勢ニ從ヒマ
シテ、此處ニ第一號ニ書イテアリマス
ルモノハ刑法上ノ有罪者トシテ刑ヲ言
渡スコトハシナイケレドモ、斯ウ云フ
ヤウナ者ニ對シテハ、所謂保安處分ヲ
スルコトガ出來ルヤウニシヨウト云フ
ノデアル、卽チ社會上ノ責任ハ是等ノ
者ニ對シテモ問ハントスルノデアリマ
ス、ソレデアリマスカラ唯現行刑法三
十九條乃至四十一條デ無罪ト言ハレル
コトハ、主觀責任ハ無イカラ刑罰ハ科
セナイト云フ宣言ヲ與へルニ止マルノ
デアッテ、其爲ニ社會ハ何等ノ害惡ヲソ
レ等ノ者カラ受ケナカッタモノデアル
ト云フ宣言デハナイノデアリマス、社
會ハソレ等ノ者カラ非常ナ害惡ヲ被ツ
テ居ル、迷惑ヲ受ケテ居ル、ソレ等ノ
者ニ對シテハ相當ノ保安的ノ處分ヲス
ルコトガ出來ルノデアル、サウ云フ者
ニ對シテハ、ソレハ氣ノ氣デアッタト云
フコトデ賠償ヲ與ヘルト云フ必要ハナ
イノデアリマス、サウ云フ趣旨デ是ハ
出來テ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=13
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014・小林かなえ
○小林委員 サウシマスト、第一號ハ
客觀的事實ニ重キヲ置イテ、主觀的方
面ニサウ云フ缺陷ガ有ルノデアルカラ
除外シタノデアル、斯ウ云フコトニナ
ルト承ッテ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=14
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015・泉二新熊
○泉二政府委員 只今ノ御質問ノ表ニ
表ハレタル限度ニ於テハ然リト御答シ
テ宜シイノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=15
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016・小林かなえ
○小林委員 更ニ第四條ノ第二號デア
リマスガ、是ハドウモ頗ル不當ナ規定
デアルト私ハ思フ「起訴セラレタル行
爲ガ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反シ、
著シク非難スベキモノナルトキ」是ハ
先日川崎次官ガ、是ハ不能犯ノ場合ヲ
考ヘタノデアルト云フヤウナコトヲ
言ッテ居ラレタコトヲ速記錄デ見マシ
タガ、是ハ一體ドウ云フ場合ヲ考ヘタ
ノデアリマスカ、恐ラク犯罪ト云フノ
ガ公ノ秩序、善良ノ風俗ニ反スルノハ
當然デアルト思ヒマスシ、第二項、第
三項故意又ハ重大ナル過失ノ場合ガ規
定シテアリマスガ、是ハ特ニドウ云フ
ヤウナ場合ニ當嵌マル問題デアリマス
カ、其點ヲ伺ヒタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=16
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017・泉二新熊
○泉二政府委員 是ハ御質問ノ起ルノ
ハ無理ノナイコトデアルト思ヒマス、
此立案ノ沿革ヲ申上ゲマスト、御手許
ニ差上ゲテアリマスル獨逸法ヤ、墺地
利法ニ於キマシテハ、重大ナル不正直、
不道義ノ行爲デアル場合ニハ賠償ヲ與
ヘナイト云フコトヲ規定シテアリマ
ス、「グローベ·ウンレードリッヒカイ
トレ「グローベ·ウンジットリッヒカイト」
ト云フ原語デアリマス、サウ云フ場合
ハヤハリ本人ニ社會的ノ責任ハ有ルト
云フ風ニ考ヘテ、獨墺ノ法律ガサウ出
來テ居ルト思フノデアリマス、併シ重
大ナル不正直不道義ト云フ言葉デハ餘
リニ法律的觀念ト致シマシテハ曖昧ノ
ヤウニ考ヘタノデ、モウ少シ法律的ニ
判斷ノ出來ル場合、社會的責任アルモ
ノトシテ除外スルト云フコトガ適當デ
ハナイカト考ヘタ結果ガ、御承知ノヤ
ウニ旣ニ數十年來民法ニ於テモ、公ノ
秩序、善良ノ風俗ト云フ言葉ガ使ハレ
テ居ル、サウ云フ觀念ハ法律解釋上大
體適當ニ觀念サレテ居ル、
カラサウ云フ言葉ヲ此方ニ持ッテ來タ
ノデアリマスガ、勿論之ニ依ッテ何カ或
ル階級ノ人々ニ對スル補償ヲ除外シタ
モノデアル、カラクリガアルナドヽ云
フコトハ毛頭ナイ、是ハ先達大山君カ
ラ何カ此法律ニサウ云フカラクリガア
ルヤウニ御意見ガアッタヤウデアリマ
スケレドモ、ソレハ少シ言葉ガ惡イカ
知レマセヌガ、僻ミ根性ノ解釋デアル
ト申上ゲテ置キタイ、決シテサウ云フ
精神デ出來テ居ルノデハナイノデアリ
やっ、ソコデドウ云フ場合ヲ見テ居ル
カト申シマスト、先達川崎政府委員ガ
一部分ヲ述べラレマシタガ、是ハ主ト
シテ法律ノ解釋又ハ事實ニ對スル見解
ガ檢事ト判事トノ間ニ行違ガアル場
合、檢事ハ是ハ法律上罪ニナルモノト
認メル、所ガ判事ノ方デハソレハ法律
上犯罪ニナラナイト云フヤウナ場合ニ
斯ウ云フ問題ガ起リ得ルノデアリマ
ス、例ヘバ詐欺賭博ト云フモノガアル
コトハ御承知デアル、詐欺賭博ノ場合
ニ檢事ノ方デハソレハヤハリ賭博罪ニ
ナル、卽チ詐欺賭博ノ被害者ヲモ賭博
罪トシテ處罰スベキモノデアルト云フ
有力ナ學說ガアルコトハ御承知ノ通リ
デアリマス、檢事ハ其見解ヲ採ッテ其
被害者ニ對シテモ起訴ヲシタガ、裁判
所ノ方ハ、イヤソレハ唯詐欺賭博ノ被
デアリマス害者タルニ止マルノデ、賭博罪ヲ以テ
其人間ヲ處罰スベキモノデナイト云フ
見解ヲ採ッタ、ソレデ無罪ヲ言渡シタ、
結局其裁判所ノ見解通リ裁判ガ確定シ
タ、サウ云フ場合ノ如キハ、是ハヤハ
リ善良ノ風俗ニ反スル罪、賭博罪ト云
フモノハ善良ノ風俗ニ反スル罪ト見マ
スナラバ、法律上今ノ判決ニ依ッテ無罪
ニサレタケレドモ、善良ノ風俗ニ反ス
ル行爲ガアルト云フコトハ言ヒ得ルデ
アリマセウ、ソレカラ又例ヘバ犯罪ノ
著手、豫備トノ見解ニ付テ判事ト檢事
トガ見解ヲ異ニスル、檢事ハ是モ著手
ナリト思ッタ、少ナクトモ未遂罪デアル
ト云フコトデ起訴シタ、判事ノ方デハ、
イヤマダソレハ著手ニ至ラヌ、豫備ニ
止マル、サウシテ其犯罪ニ付テハ豫備
ヲ罰スル規定ガナイ、ダカラ無罪ダ、
斯ウ云フヤウナ場合ニ、是ハヤハリ公
ノ秩序ニ反スル著シキ非難スベキ行爲
デアルト云フコトガ考ヘラレル場合ガ
アル不能犯ノ場合ナドモ其一例デア
リマス、其外サウ云フ風ノ問題ハ幾ラ
デモ出テ來ルノデアリマス、〓唆未遂
ト云フモノヲ檢事ハ處罰ガ出來ルモノ
ダト云フ學說ニ從ッテ起訴シタ、所ガ裁
判所ノ方ハ〓唆未遂ト云フモノハ犯罪
ニナラヌト云フ、ソレカラ又例ヘバ檢
事ノ方デハ公務員ノ候補者、是カラ數
日後ニ公務員ニナレルト云フ內命ガアッ
タト云フ場合、マダ辭令ヲ受取ラナイ
內ニ賄賂ヲ取ッタ、ソレヲ或ル學說ニ
依ルト犯罪ガ成立スルト云フ、檢事ハ
其積リデ起訴シタ、所ガ判事ノ方デハ
ソレハマダ犯罪ニナラヌト云ウテ無罪
ニシタ、サウ云フヤウナ場合モアリマ
セウシ、ソレカラ其外ニモ善良ノ風俗
ニ反スル著シキ非難スベキ行爲ト觀ル
ベキモノハ男女關係ノ場合、强姦罪ト
云フノデ檢事ガ起訴シタ所ガ能ク調べ
タラ合意デアッタト云フコトニナッテ無
罪ニハスル、併シ其男女間ニハ例ヘバ
〓員ト生徒トノ關係ガアル、而モ被害
者ト見ラレタ女ハ數人ニ亙ルト云フ場
合ヲ想像シテ見マスト「善良ノ風俗ニ
反シ著シク」ト云フコトニナル、ソレ
ハ墺地利ノ法律デ行ケバ著シキ不正直
ナル又著シキ不道德ト云フコトニモ當
ルダラウト思ヒマスガ、サウ云フ言葉
デ表ハスヨリハ斯ウ云フ旣ニ法律的ニ
大體解釋ニ訓練ノ行ッテ居ル-マダ
十分デアリマセヌガ御承知ノヤウニ隨
分難解ニサレテ居リマスガ、大體ハ兎
ニ角民法デ既ニ規定セラレテ居ル、サ
ウ云フ觀念ヲ玆ニ持ッテ來ル方ガ宜カ
ラウ、斯ウ云フ全ク善意デ出來テ居ル
ノデアリマス、何等ノカラクリハナイ
ノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=17
-
018・小林かなえ
○小林委員 唯今ノ御說明デ能ク分リ
マシタ、併シ斯ウ云フ條文ハ作ラレル
人カラ見レバ結局惡意ガアルト云フコ
トニナリマセウケレドモ、隨分是ハ實
際問題ニナルト利用サレルノデアリマ
ス、恐ラク無罪ニナルヤウナ事案ニ對
シテ嚴格ニ言フナラバ殆ド之ニ當ッテ
シマフノデナイカト思フ、從ッテ多ク
ノ場合ニ公ノ秩序善良ノ風俗ニ反スル
モノト認定セラレテ必ズ補償ノ責ヲ免
レルト云フコトガ出來ルト思ヒマス、
私ハ此點ニ付テ牧野君カラ更ニ御質問
ガアルト思ヒマスカラ多クハ申シマセ
ヌケレドモ、斯ウ云フモノハ寧ロ是ハ
除クベキデナイカト思ヒマス
モウ一ツ御尋ネ致シマスガ、其條文
ノ最後ニ「一個ノ裁判ニ依リ併合罪」云
云ト云フ規定ガアリマスガ、此場合ハ
「補償ヲ給與セザルコトヲ得」トアリマ
スガ、例ヘバ窃盗罪ト狩獵法違反、卽
チ罰金ニナルト云フヤウナ二ツノ罪ガ
併合サレテ窃盗ノ方ガ無罪ニナッテ一
方ニ於テ罰金二十圓ニ處セラレタ、斯
ウ云フ場合ニハ大體ノ御方針ハ補償ヲ
給與セラレル御意見デアリマスカ、卽
チ處罰ヲ受ケタ方ノ犯罪ガ極メテ輕キ
罰金刑デアッタト云フ場合ニ、或ハサウ
云フヤウナ場合デモ事情ニ依ッテ變ル
ト云フノデスカ、何カ一定ノ其處ノ間
ニ根據ヲ定メテ置ク必要ハナイノデア
リマセウカ、其點ヲ御伺ヒシタイト思
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=18
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019・泉二新熊
○泉二政府委員 只今御質問ノ點デア
リマスガ、是モ御手許ニ差上ゲテアリ
マス外國ノ立法例ヲ見マスト云フト、
何カ其前科ガアル者ニ對シテハ賠償ヲ
與ヘナイトカ、併合犯罪以外ノ犯罪事
實ヲ理由トシテ賠償ヲシナイヤウナ規
定ガアリマスガ、此案ハサウ云フヤウ
ナ所マデ絕對的ノ除外ノ理由トスルト
云フコトハ、餘リドウモ適當デナカラ
ウト云フノデ、サウ云フ前科ナドヲ見
テ居リマセヌ、同時ニ併合罪ニ付テ裁
判ヲヤルトカ-是ハ一個ノ裁判デ併
合罪ノ一部ニ付云々トシテアリマス
ガ、併合罪デモ御承知ノヤウニ或刑ヲ
變化スル場合、此場合ニハ殆ド此末項
ハ適用ハナイ、ソレハ普通ニ解釋サレ
ル、此場合ハ一個ノ裁判例ヘバ橫領罪
ト殺人罪ト云ッタヤウナ場合、此時ニハ
御承知ノヤウニ若シ殺人ニ付テ無期刑
ニスルナラバ、横領罪ニ付テハ刑ヲ科
セナイ、ソレカラ又殺人罪ニ付テ有期
ノ懲役ニスルナラバ、現行刑法ノ四十
七條ニ依ッテ一種ノ綜合刑ヲ科セラレ
ル、一ツノ刑ニナル、斯ウ云フコトニ
ナリマシテ一寸裁判認定ヲ缺ク結果ニ
ナル譯デアリマス、サウ云フヤウニナツ
テ居ル事實デアルノニ、段々裁判デ取
調ヲシタ結果極ク輕イモノダケハ有罪
ニ殘リ、重イ方ノモノガ無罪ニナッテ
シマフ、サウ云フ場合ニモ絕對的ニ補
償ヲ給與シナイト云フコトハ、ドウモ
餘リ氣ノ毒過ギルト云フ場合ガアルダ
ラウト思ヒマス、之ニ反シテ重イ方ハ
有罪ニ殘ッタケレドモ極ク輕微ナ方ダ
ケガ無罪ニナッタト云フ場合デアレバ
補償ヲ與ヘナクテモ宜カラウ、サウ云
フコトデ裁判所ニ是ハ適當ニ任セル方
ガ宜カラウト云フ相對的ノ除外例トシ
テ玆ニ揭ゲタノデアリマシテ、外國ノ
立法例ヨリ餘程緩和シタ積リデ居ルノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=19
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020・服部英明
○服部委員長代理 小林君ノ質問ハソ
レデ打切リマシテ牧野良三君ニ質問ヲ
許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=20
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021・牧野良三
○牧野(良)委員 ソレデハ是カラ數點
ニ亙ッテ御答辯ヲ願ヒタイト思ヒマス、
本案ノ立法ノ御趣旨ニ付キマシテハ財
產上ノ損害ヲ賠償スル意ハナイガ精神
上ノ損害ノ賠償ヲ主トシタモノデア
ル、隨テ賠償法案トセズニ補償法案ト
シタノデアル、斯樣ナ根本ノ方面ニ付
テ詳細ナ御答辯ヲ承ッテ居リマスガ、列
國ノ立法例ノ中デ精神賠償ノミヲ主ニ
シテ作ッタ、卽チ刑事補償法案ト云フガ
如キモノヽ實例ガゴザイマスカ、ソレ
ヲ先ヅ承リタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=21
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022・泉二新熊
○泉二政府委員 ソレハ無イト御答ヲ
申上ゲテ置キマス、一面ニ於テハサウ
云フ立法例ガナイト同時ニ外國ノ立法
例ニ於キマシテハ此法案ヨリモモット
賠償ノ範圍ヲ狭クシテ居ル例モアルト
云フコトヲ申上ゲテ置キマス、例ヘバ
伊太利ヤ佛蘭西ノ如キハ再審ノ無罪ノ
場合ダケ賠償スル、ソレカラ又何處ノ
例デアリマシタカ、三年以上ノ刑ノ執
行ヲ受ケナケレバ賠償シナイ、三年未
滿位ノ刑ノ執行ヲ受ケタ者ニ對シテハ
再審ノ無罪ニナッテモ賠償ヲシナイノ
ダト云フ例ガアリマス、ソレカラ更ニ
外國ノ立法例ノ中ニハ通常ノ手續ニ於
テ免訴ヲ言渡サレル場合ニハ本人ハ何
等責任ガナイト云フコトヲ明カニシナ
ケレバナラヌ、證據不十分デ無罪ニナッ
タト云フ場合ニハ賠償ヲ與ヘナイト云
フ法律モアリマス、併シ本案デハ其處
マデ當該本人ニ責任ヲ持タセルト云フ
コトハ氣ノ毒デアリマスカラ、證據不
十分デモ無罪ニナッタラ補償ヲ與ヘテ
ヤラウカト云フ簡單ナ法文モアルト云
フコトヲ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=22
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023・牧野良三
○牧野(良)委員 只今政府委員ノ御答
辯ニ依リマシテ此刑事補償法案ハ大體
ニ於テ我國獨自ノ特別ナ立法デアルコ
トヲ承知シテ宜イト思ヒマス、然ラバ
政府ハ此特別獨自ノ立法ヲナサルニ付
キマシテ列國立法例ト異ッタ特別獨自
ナ如何ナル注意ヲ本案ニ拂ッテ居ラレ
マスルカ、ソレヲ先ヅ承リタイト存ジ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=23
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024・泉二新熊
○泉二政府委員 御質問ノ趣意ガ私
ニ能ク諒解ガ出來マセヌガ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=24
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025・牧野良三
○牧野(良)委員 一寸此點ハ特ニ明瞭
ニ致シタイト思ヒマスカラ他ノ言葉デ
申シマス、列國ノ立法例ハ國家賠償ノ
責任ヲ認メテノ下ニ於テ國民ニ對スル
賠償ト云フコトヲ主ニ致シテ居ルト承
知致シテ居リマス、然ルニ本案ハ賠償
ノ觀念ヲ以テハ立案致シテ居ナイ、卽
チ財產上ノ方面ハ之ヲ考慮致シテ居ナ
イ、、專ラ精神上ノ損害ヲ賠償スルコト、
ソレニ依ッテ立法致シテ居ル、而シテ斯
樣ナ立法例ハ列國ノ中ニハ其例ヲ見ナ
イ、卽チ其結果トシテ我國ノ此立法ハ
特別獨異ノモノデアルト云フコトガ出
來ル、シテ見レバ列國ノ立法例トハ違ツ
テ特別獨異ノ立法ヲナサルニ付テ、此
法案ノ中ニハドウ云フ事ガ列國ノ立法
例トハ違ッタ中心ヲ成シテ居ル、特別ノ
注意ヲ拂ッテアルト云フヤウニ御說明
ヲ承ルコトノ點ガアルカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=25
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026・泉二新熊
○泉二政府委員 大體分ッタヤウデア
リマスガ、特別ノ點ト申シマスレバ、
今御指摘ニナリマシタ外國ノ立法例ニ
必ズシモ準據シテ居ラナイ、卽チ外國
ノ立法例ノ多クハ財產上ノ損害ヲ賠償
スルト云フコトニナッテ居リマスケレ
ドモ、此案デハマダ一足飛ニ其處マデ
行クト云フコトハ得シナイ、精神上ノ
損害ヲ賠償スル、斯ウ云フコトニ獨異
ノ考ヲ以テ獨異ノ思想ヲ以テ、サウ云
フ觀念ノ上ニ立脚シテ此案ヲ拵ヘテア
ル、サウシテ其結果トシテ財產上ノ損
害賠償ト云フモノト違ッタ、財產上ノ損
害ト云フ趣旨カラ出來テ居ル規定トハ
違ッタ趣旨ニ出來テ居ル規定ガ、此案ノ
中ニチヨイ〓〓アリマス、ソレノ說明
ヲ御求メニナル趣意デアリマスレバ其
點ヲ一二指摘シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=26
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027・牧野良三
○牧野(良)委員 其點ニ付テ更ニ御問
致シタイノデアリマスガ、今泉二政府
委員ハ外國ノ立法例ハ財產上ノ損害ヲ
賠償スルコトガ主トシテ出來テ居ルト
言ハレマスケレドモ、私ハ左樣ニ感ジ
マセヌ、列國ノ立法例ハ左樣ナ偏狹ナ
モノデハナイト思ヒマス、少クトモ政
府ヨリ提出サレタル參考書ニ明カニサ
レテ居リマス立法ヲ見マスルト、財產
上ノ損害竝ニ精神上ノ損害、兩方ヲ補
償スルコトニ相當ナ注意ヲ與ヘテアリ
やっ、隨テ重大ナル責任ヲ國家ガ負フ
カラシテ、其處ニハ幾多ノ制限ガ設ケ
テアリマス、併ナガラ其制限ハ時代ノ
反映ガ多イト云フコトハ政府ハ之ヲ認
メラレナケレバナラナイ、何トナレバ
早キモノハ千八百年代ニ立法例ガアリ
ゞ、其近イモノト雖モ千九百年ノ初
頭ニ於テ爲サレテ居ル立法例ガ多イノ
デアル、隨テ昔ノ損害賠償論ト云フモ
ノヽ發達シタ時代ハ極メテ最近デア
ル
殊ニ團體生活ニ關スル國民ノ名譽ト
云フモノヲ、而シテ生存權ト云フモノ
ヲ確保シナケレバナラヌト云フ思想
ハ又更ニ最近ノコトデアル、而モ政
府ガ千九百三十一年ニ出サレントスル
此立法ニ於テ其處ニ明カナル時代ノ精
神ト云フモノガ反映シテ居ナケレバナ
ラヌ、ニモ拘ラズ本立法例ハ寧ロ千八
百年代、若クハ千九百年ノ初頭ニ於テ
爲サレタル立法例ヨリモ其趣旨精神ト
スル所ニ於テ及バザルモノガ多イ、而
モ名ハ刑事補償法案トシテ國民ノ前ニ
ハ國家ニ賠償權ヲ明瞭ニ認メタモノ
如キ形ヲ現シテ居ラレルノデアリマ
ス、併シ說明ニ依ルト、現在我國ノ狀
況ニ於テハ財產上ノ損害ヲ賠償スル立
法ヲ爲スノ程度ニ至ッテ居ナイ、少クト
モ此點ニ於テ精神上ノ損害ヲ賠償スル
所ノ立法ダケハ之ヲ達成セシメタイト
考ヘテ爲シタト言ハレルナラバ、精神
上ノ損害ヲ賠償スルニ對シテ本案ハ特
ニドンナ親切ナ注意ヲシテアルカ、其
特別ナ精神上ノ痛苦、損害ヲ賠償スル
コトニ向ッテ從來ノ立法例ガ未ダ注意
セザリシ所ニ注意ガ及ンデ居ルカ、又
注意シタコトニ對シテ更ニ注意ヲ重ネ
テアルカ、私ハ不幸ニシテ其點ヲ發見
スルコトガ出來ナイノデアリマスケレ
ドモ、政府ニハ何カ此條文ノ上ニ於テ
御解釋上斯ウ云フ所ニ親切ナ注意ガシ
テアル、財產ダケデハナラヌ、精神ノ
方ニハコンナ所ニ損害賠償ノ實ヲ擧ゲ
ルノダ、サウ云フ點ニ付テ御指摘ヲ仰
グ點ガアリマシタナラバ明カニシテ戴
キタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=27
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028・泉二新熊
○泉二政府委員 外國ノ立法例ヲ餘リ
ムツカシク言フ必要モナイカトモ思ヒ
マスケレドモ、外國ノ立法例デハ財產
上ノ損害ヲ賠償スルノガ主タル目的ト
ナッテ居ルト云フコトヲ申上ゲマシタ
ノハ、御手許ニ差上ゲテアリマスル刑
事補償法案參考資料ノ中ノ第二頁ニ同
一ノ法律ガアリマス、之ニ「未決勾留
ニ因リテ生ジタル財產上ノ損害ナリト
ス」斯ウ書イテアリマス、ソレカラ七
頁ノ第二條ヲ御覽ニナレバ、是ハ再審
無罪ノ場合デアルガ、ヤハリ財產上ノ
損害ヲ賠償スルノデアルト言フコトヲ
書イテアリマス、ソレカラ二十一頁ノ
墺地利ノ第一條ノ中ニモヤハリ財產上
ノ損害ト云フコトヲ書イテアリマス、
是ハ古イ法律デアルカラ、新シイノデ
ハ精神上ノ方マデヤッテ宜イデハナイ
カト云フ或ハ御尋カモ知レマセヌガ
-新シイノデハ兩方ヤッテ宜イデハ
ナイカト云フ御尋デアルカモ知レマセ
ヌガ、ソレハ先刻カラ申上ゲテ居リマ
スル通リニ、追々進ミマシタナラバ、
理想トシテハサウ云フコトニナルデア
リマセウ、又追々理想論ノ通リニヤル
コトニナルデアリマセウ、今日ハ財政
上ノ關係カラ致シマシテ、サウ云フ風
ニ理想的ノモノハ出來ナイノデス、斯
ウ云フコトヲ申上ゲテアルノデアリマ
ス、理想的ニヤリタイト云フ其御希望
ニ對シテハ決シテ反對ハ致シマセヌ、
今此法律デ直チニソレヲヤレト仰シ
ヤッテモ一寸サウ云フ都合ガ付キマセ
ヌト云フコトヲ申上ケテ居ルノデアリ
マス
ソレカラサウ云フ風ニ外國ノ立法例
ニナイヤウナ立脚地ニアルナラバ何
カ特別ニ親切ナ注意ヲシタカト云フ御
質問デアッタヤウデアリマスガ、相當ニ
親切ニ考ヘテ居ル所モアリマス、ソレ
ハ先刻來チヨイ〓〓申シマシタヤウニ
外國ノ立法例ノ中ニハ通常手續デ無罪
ノ言渡ヲ受ケタ場合デアルト云フト、
證據不十分ダケデハ、イカヌノデアツ
テ、何等責任ノ無イト云フコトガ明確ニ
サレナケレバ賠償ヲ與ヘナイト云フヤ
ウナ例モアリマスルガ、此案ニハソコ
マデ要求シマセヌ、ソレカラ又外國ノ
立法例ニハ三箇年間モ刑ノ執行ヲ
少ナクモ三年間モ刑ノ執行ヲ受ケタ者
デナケレバ賠償ヲシナイト云フコトガ
書イテアリマスガ、此案ハ斯樣ナ制限
ヲ加ヘマセヌ、ソレカラ又外國ノ立法
例デハ前科アル者ニ對シテハ賠償ヲ與
ヘヌナドト云フコトヲ書イテアルモノ
モアリマスガ、此案ニハ前科ト云フコ
トマデ補償ヲ除外スル條件トスルノハ
餘リ過酷デアルト云フノデソレモ外國
ノ例ニ從ッテ居リマセヌ、其邊ガ親切ニ
考ヘタ點デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=28
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029・牧野良三
○牧野(良)委員 只今親切ニ考ヘタ點
ニ付テ御答ヲ戴キマシタガ、私ガ申上
ゲマスノハ少シ意味ガ違フノデアリマ
ス、只今ハ主トシテ賠償ノ方面ニ對シ
テ政府ハ寬大ナ態度ヲ以テ行キタイト
云フ方面ノ例ヲ擧ゲラレタト思ヒマ
ス、併シ私ハ精神上ノ痛苦、損害賠償ス
ルト云フ御考デアルナラバ、其精神上
ニ受ケタル痛苦損害ヲ賠償ヲスルニ適
當ナル方法ヲ先ヅ御考下サラナケレバ
ナラヌノデハナイカト思ヒマス、此意
味ニ於キマシテ只今各國ノ立法例ノ事
ガ出マシタガ、與ヘラレマシタ刑事補償
法案參考資料ヲ拜見致シマスルト其中
獨逸ノ例ノ如キ明瞭ニ財產上ニ被リタ
ル損害ヲ賠償ストアリマスガ、御承知
ノ通リニ「シヤーデンス·エヤザッツ」ト
云フ言葉ヲ使用シテ居ル所カラ言ヒマ
スト、財產上ノ損害ヲ賠償スルコトニ
依ッテ被害者ノ被リタル全體ノ損害ヲ
賠償スル趣旨ヲ徹底致シタイト云フ精
神デアルコトハ政府委員モ御承認ニナ
ルコトヽ思ヒマス、大體ニ於テ財產上
ニ見積ルコトノ出來ナイ損害モ、財產
上ニ見積ルコトノ出來ル損害ヲ賠償ス
ルコトニ依ッテ、全體ヲ蔽ハウトスルト
云フノガ「シヤーデンス·エヤザッツ」ノ
基本觀念ダト思ヒマス、隨テ只今政府委
員ノ御述ニナリマシタコトヲ以テ精神
上ノ方面ヲ考慮シテ居ナイト云フコト
ハ出來ナイト思ヒマス、殊ニ吾々ハ佛
蘭西ノ刑事補償法竝ニ匈牙利ノ刑法ノ
如キニ於キ,マシテハ、文書ニ依ル慰藉
ノ方法ヲ講ジテ居リマス、私ガ政府ニ
問ハントスル重點ハ此點デアルト云フ
コトヲ御考慮ヲ願ヒタイノデアリマ
ス、先ヅ質問ノ要領ヲ盡シマスル爲ニ
秩序ヲ逐ウテ申シマスルト、本案ニ於キ
マシテハ如何ニシテ賠償スルカト云ヘ
バソレニ對シテ第五條ノ規定ガアル
ノデアリマス、卽チ一日五圓以内ノ賠
償金ヲ給スルコトヲ以テ原則ト致シテ
居ルノデアリマスガ、此原則ニハ大體
例外ガナイヤウデアリマス、又是レ以
外ノ補償方法ハナイヤウデアリマス、
而シテ此點ニ對シテ大臣ハ人ノ名譽殊
ニ精神上ノ痛苦ハ金ヲ以テ計ルコトハ
出來ナイケレドモ、假ニ此程度ノ金額
ヲ贈ッテ慰藉ノ實ヲ擧ゲタイ、哲
言ッテ居ラレルノデアリマス、其意味ハ
洵ニ能ク分ルノデアリマスガ、唯此處
ニ御考慮ヲ願ヒタイト思ヒマスルコト
ハ旣ニ其事ヲ認メラルヽモノトスレ
バ、サウシテ又此五圓ト云フモノノ標準
ニ付キマシテ、證人ノ日當ノ例ヲ引キ
鑑定人、通事ノ日當ノ例ヲ引イテ、五圓案ニ於キマシテ、
ノ例ハ必シモ現在ノ狀態ニ於テハソレ
程不當ノ額デハナカラウト思ヒマスガ、
事實ニ之ヲ徵シマスト、私ハ五圓ノ日
當デハ非常ニ高キニ失スルコトモ想像
出來ルト思ヒマス、此點ハ先程小林君
ノ質問ニ對シテ答ヘラレタヤウニ、又
五圓デハ何等慰藉ノ目的ヲ逹シナイ場
合モアルコトヲ先ヅ考ヘナケレバナラ
ナイノデアリマス、本案ハ物質土ノ損
害ヲ賠償スルノヂヤナイ、專ラ精神上ノ
損害ヲ賠償スル案ナラバ、以外ノモノ
ヲ考ヘナケレバナラヌノヂヤナイカ、
卽チ例ヘバ議員諸君ヲ標準トスレバ
六十日牢ニ打込マレテ得ル所ノ賠償ハ
三百圓デアリマス、三百圓ノ金ヲ受取
ニ行クト云フコトニ依ッテ慰藉ヲ受ケ
ル所ノ實際ト云フモノハ殆ド想像スル
コトガ出來ナイ、然ラバ此場合ニ何等
カ他ノ方法ヲ當局ハ考慮サレナケレバ
ナラヌノデアリマス、何トナレバ佛蘭
西ノ刑事訴訟法及ビ匈牙利ノ刑法ニハ
官報竝ニ新聞紙ニ依フテ此慰藉ノ方法
ヲ講ズル立法例ガアルノデアリマス、
此點ハ上田君カラ質問サレ、ソレニ對
シテ泉二政府委員ハ結局ハ意見ノ相違
ト云フ所デ御答ニナリマシタノヲ、私
ハ大變遺憾ニ思フ、何トナレバ現ニ只
今泉二政府委員ガ政府當路者トシテ心
血ヲ注イデ居ラレマス所ノ刑法ノ改正
私ハ斯ウ云フ條文ノ
アルコトヲ指摘シタイノデアリマス、
第六十二條第三項デアリマス「被〓事
件罪トナラザル爲メ又ハ犯罪ノ證明若
ハ嫌疑ナキ爲メ被告人ニ對シ無罪又ハ
免訴ノ裁判ヲ爲ストキハ裁判公示ノ宣
告ヲ爲スコトヲ得」トアルノデアリマ
ス、而シテ其第一項ニハ「公益ノ保持
又ハ被害者ノ重要ナル利益ノ保護ノ爲
メ必要アルトキハ刑ノ言渡ヲ受クル者
ノ負擔ニ於テ一種乃至三種ノ新聞ニ一
囘乃至三囘判決ノ全文又ハ一部ヲ公示
スベキ旨ノ宣〓ヲ爲スコトヲ得」ト云
フ規定ガアルノデアリマス、旣ニ外國
ノ立法例ニ其例アリ、旣ニ我國ノ再審
ニ於テ其例アリ、又現ニ改正セラレン
トスル所ノ刑法ノ條文ニ於テ、本人ノ
名譽ノ爲ニ精神上ニ受ケラレタル痛苦
ヲ慰藉スルノ目的ノ爲ニ、官報ニ〓示
ヲ爲シ若クハ一種乃至三種ノ新聞ニ主
文若クハ判決ヲ揭ゲテ、以テ慰藉ノ方
法ヲ講ゼントスル此規定アル今日ニ於
テ、何ガ故ニ慰藉ヲ目的ト爲サレタ此
立法ニ之ヲ揭ゲラレナイカ、此種ノ條
文コソ本立法ノ中心ヲ爲サナケレバナ
ラヌ重大ナモノダト思フ、而モ上田君
ハ此點ニ關シテ政府委員ニ質問ヲ致シ
テ居ラレル、所ガ政府委員ノ答辯ハ何
等核心ニ觸レズシテ意見ノ相違ト言ハ
レタコトヲ、大變私ハ遺憾ニ思フノデ
アリマス、何故ニ此點ニ對シテ御考慮
ヲ御拂ヒニナラナイカヲ伺ヒタイト思
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=29
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030・泉二新熊
○泉二政府委員 只今佛蘭西ノ例ヲ御
引キニナリマシタガ佛蘭西ノ例ハ御承
知ノヤウニ再審無罪ノ場合デス、卽チ
再審無罪ノ場合ニ付テハ現行ノ刑事訴
訟法ニ公告ノ途ガ開ケテ居ルノデアリ
マシテ、既ニ佛蘭西デヤッテ居ル程度ニ
於テハ途ガ付イテ居ルノデアリマス、
ソコデ殘ル所ハ通常ノ手續ニ於テ無罪
免訴ノ言渡ヲ受ケタ、斯ウ云フ場合ニ
ナルノデアリマス、ソレニ付テハ總テ
無罪免訴ニナッタ、其被告ノ爲ニ公〓デ
モヤルト云フヤウナコトニナリマス
ト、ヤハリ財政上ノ關係ニ於テ隨分大
キナ經費ガ要ルノデアリマス、ソレデ
前カラ申上ゲテ居リマス通リ、此案デ
ハ、兎ニ角最少限度カラヤッテ行キタ
イ、何レ將來ニ於テハ段々御希望ノ通
リニナルデアリマセウト云フコトハ
今ノ刑法改正案ガ其通リニ確定サレル
コトニナレバ、自然御希望ノ通リニナ
ル時期ニ到著スルノデアリマス、總テ
ノモノヲヤルノデハナクシテ、此案ト致
シマシテハ、本人ニ責任ノナイ-主觀
的ニモ客觀的ニモ責任ノナイ場合ダケ
ヲヤラウト云フノデアリマス、ソコデサ
ウ云フ制度ガ設ケラレマスト云フト
隨分其爲ニ事件ガ澤山起ルデアリマセ
ウ、事件ガ起ルト申シマスノハ、卽チ
此法律ニ依ッテ、サウ云フ方法ニ依ル補
償ヲ得タイト云フノデ、無罪免訴ノ言
渡ヲ受ケタ者總テガサウ云フコトヲ持
出シテ來ルコトニナラウト思フノデア
リマス、サウ云フコトニナリマスト、
今日ノ裁判所ノ職員デハヤリキレナイ
コトニモナル、詰リ財政上ノ關係カラ
今日ノ所デハ、之ヲ擴ゲルコトガ不可
能デアル、最少限度カラ先ヅ出發スル
ト云フコトハ、此間カラ申上ゲテ居リ
一六、ソレデ政府ト致シマシテハ此
案ガ既ニ完全ニ理想的ニ、出來テ居ル
ノデアルト云フコトヲ申上ゲテ居ルノ
デハアリマセヌ、最少限度カラ先ヅ出
發シテ行クノデスト云フコトヲ申上ゲ
テ居リマス、ソレデ大體御諒解ガ得ラ
レルト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=30
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031・牧野良三
○牧野(良)委員 政府委員ノ御苦衷ハ
察シマスガ、ソコデ私ガ胸襟ヲ披イテ
是非御懇談ヲ申上ゲタイト言ッタノハ
其點デアリマス、ドウシテモ最少限度
ノ豫算シカ取レナイ現在ノ狀態ニ於
テ、金ノ掛ラナイ範圍內ニ於テ目的ヲ
達シタイト云フ御心持ハ御推察致シマ
スガ、ソレハ財產上ノ損害ヲ賠償スル
場合ニコソ御考ニナルベキコトデア
ル、旣ニ精神賠償ヲ完全ニ致シタイト
云フ御考ナラバ、最少限度ヲ此立法ノ
際ニ御考慮ニナルト云フコトハ政府委
員當然ノ職責デハナイカト思フノデア
リマス、今玆デ精神賠償ハホンノ口元
ダケ掛ケテ置クノダト仰セラレルナラ
バ又何ヲカ言ハンヤデアル、ケレドモ
折角三代ノ內閣デ徐々トシテ熟シテ來
タ案デアル、私ハ是ハ文化立法トシテ
特筆大書サルベキ立法デ、第五十九議
會ニ於テ小作法ト相竝ブ二大法案トモ
言フベキ重要ナリシ問題デアルト思
フ、ソコデ最少限度ト仰セラレル御心
持ハ能ク私ニモ分リマスガ、併シ最少
限度ハ精神賠償ノ所デアル、ソコデ精
神補償ダケハ內容ヲ擴充スルコトニド
ウカ御考ヲ廻ラシテ戴キタイ、ソコデ
精神賠償ハ一日五圓デハ名實共ニ出來
ナイト考ヘマス、ソコデ如何ナル狀況
ノ人ニデモ五圓ヲ標準トシタモノヲ與
ヘルトシナイデ、此條文ニモ又適當ナ
考慮ヲ煩ハスト同時ニセメテ刑法改正
案ニ用ヒテ居ルヤウナ趣旨ノ賠償ヲス
ルコトガ洵ニ本案トシテハ適當ナモノ
ヂヤナイカ、私共ヲ標準トシテ見マシ
タ際ニ、何トシテモ政府ノ名前デ是ガ
公〓サレルコトニナッタナラバ非常ナ
精神慰安ガ出來ルト思フノデアリマ
ス、ソレガ一ツ、モウ一ツハサウ云フ
コトニナッタナラバ事件ガ多クナルデ
アラウ、サウシテ現在ノ人員ニ於テハ
困ラウト言ハレルコトモ至極尤モデア
リマス、併シ此處ガ先程小林委員ノ質
問セラレタ大事ナ點ニ入ッテ居ルノヂ
ヤナイカ、此案ヲ金ノ貰ヘル案ダト思
フコトハ極メテ淺薄デアリマス、此案
ヲ作ルニ於テハ起訴權ノ濫用ヲ愼マナ
ケレバナラヌ、而シテ司法行政監督ノ
實ヲ擧ゲルト云フコトガ此案ノ根本精
神デナケレバナラヌ、然ルニ政府委員
ハ小林君ノ質問ニ對シテハ、ソレハ反
射作用トシテハアルカモ知レヌ、ケレ
ドモ此趣旨ノ中ニソレガアルトハ思ハ
レナイト仰シヤイマシタケレドモ、ソ
レハ極メテ形式的答辯デアッテ、小林君
ノ言ハレル所ノ法理カラ言ヒマスト、
ドウシテモ理想的立法ニ行カナケレバ
泉二政府委員ノ御心持ハ解ケナイ、吾
々議員ハ政府委員ノ御心中ヲ推察シテ
完全ナモノニシテ行カナケレバナラ
ヌ、ダカラ私ハ最初カラ懇談的ニヤラ
ウト申シマシタ、私ハ此法律案位此議
會デ特筆大書スベキ立法ハナイト思ヒ
マス、私的ナ事ヲ申シテ申譯ガアリマ
セヌガ、泉二政府委員ガ御盡力サレテ
我國ニ本法ガ發布サレ、吾々モ亦其委
員トシテ之ニ加ハリ、稍〓完全ナルモノ
ニスルコトガ出來タト云フコトニ對シ
テ、相當ナ自負心ヲ感ジタイト思フ、
其意味ニ於テ、私ハドウカ固執セズ、
眞意ヲ御答辯願ヒタイト思ヒマス、サ
ウ云フ規定ハ要ルケレドモ金ガナイ
ヤルトスレバドレ位ノ金デ出來ルカト
云フ所ニ-而シテ私ハ來年カラ實施
シテ七千何百圓ノ豫算ナドデ一時的ノ
コトヲスルヨリ、是ハ是デ通過サシテ
實施ハ勅令デ定メラレルノデアリマス
カラ其上デ豫算ヲ考慮シタイ、旣ニ救
護法ノ例ニ見ルガ如ク、此重大ナ立法
ニ對シテハ國民ハ國民的援助ヲ爲スニ
吝デナイト思ヒマス、ドウカ此點ダケ
ハ御答辯ノ中ニ本當ノ話ヲ御伺シタイ
ノデアリマス、御差支ノナイ限リ御打
明ケヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=31
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032・泉二新熊
○泉二政府委員 牧野委員ノ御勸告ハ
非常ニ御親切ナ御注意デアリマシテ、
衷心ヨリ感謝スルモノデアリマス、唯
唯先刻御話モアリマシタヤウニ、實ハ
此法案ハ今度新ラシク出來タモノデハ
アリマセヌ、所謂三代前カラ案ガアル
ノデアリマス、ソレカラ前議會ニ於テ
モ議員カラ案ノ提出モアッタコトモ御
承知ノ通リデアリマス、併シ何時デモ
政府トシテソレヲ議會ヲ通過ノ出來ル
ヤウニ盡力スルコトノ出來ナカッタノ
ハ此內閣バカリヂヤアリマセヌ、ヤ
ハリ三代前カラ同ジコトデアリマシ
テ、餘リ之ヲ理想的ニ初カラヤッテ行カ
ウトシマスト、ドウシテモ財政上ノ見
地カラ之ヲ直チニ施行スルト云フコト
ガ不可能ニナッテシマフ虞レガアルト
云フノデ、容易ニ內閣トシテ愈〓之ヲ
實施シヨウト云フコトガ出來ナカッタ
ノデアリマス
ソコデ殊ニ第五條ヲ此案ニ加ヘタノ
デアリマスガ、斯ウ云フ風ニシテ標準
ヲ大體法律デ定メテ、サウシテ大體ノ
目安ガ付クヤウニシテ置ケバ宜シイ
ガ、之ヲ財產上ノ損害賠償ト云フヤウ
ナコトニシテ、一體ドノ位ノ費用ガ掛
ルカ、經費ガ分ラヌト云フヤウナコト
デハ困ルシ、ソレカラ又之ヲ擴ゲルト
云フト、ヤハリ直グ外ノ行政處分等ニ
對スル問題モ出テ來ルシ、ソレハ今日
兎ニ角、財政ノ餘裕ヲ生ズルコトガ出
來ナイノデアリマスカラ、最少限度ニ
サヘシテ置ケバ色々ナ心配ガ出テ來ナ
イ、ソレダカラシテ精神上ノ損害賠償
ト云フ點ニ於テモ、刑法改正デモ、待
ツトシテ此場合ニハ兎ニ角擴ゲナイ方
ガ宜シイト云フコトデ、此案ヲ政府ト
シテ法律ニスルニハ、最初ノ試ミデア
リマスカラ、國家財政ノ上カラ見テモ
安心ノ出來ル程度デヤッテ行カナケレ
バナラヌ、斯ウ云フコトデアリマスル
ガ、私ガ個人トシテモット〓〓理想的ニ
ヤリタイト考ヘマシテモ、此案ト致シ
マシテハ、サウ擴張スルコトガ不可能
ナコトダト、私ハ考ヘテ居ルノデアリ
やっ、ソレ程マデニ理想的ノモノヲ拵
ヘテ出ヌデモ、此案ニ贊成シテ下サ、ツ
テ是ハマア外ノ法案ナドヽ較ベマシ
テ黨派ノ如何ヲ問ハズ成ベク完全ニシ
ロト云フ程ノ御注意ヲシテ下サルノデ
アリマスカラ、非常ニ御同情ヲ得テ居
ル案デアルト考ヘテ居ル譯デアリマス
ガ、皆サンノ親切ナル御盡力ニ依ッテ、
理想的ノモノデナクテモ兎ニ角是デ、
堂ニ入ルコトハ後廻ハシニシテ玄關口
ニ上ッタト云フ程度ノ法律デモ出來レ
バ、キット今日ノヤウニ何ノ救濟モナイ
デ、濟マサレテ居ルト云フコトヨリカ、
ドレ程國民トシテハ好イ感ジヲ持ツカ
知ラント私ハ斯ウ考ヘテ居ルノデア
リマシテ、要スルニ理想トシテハ皆
サンノ御勸告ニ對シテハ贊成デアリ、
感謝スル譯デアリマスガ、ソレデハ今
日其通リニ妥協シヨウト言ッテモ一寸
不可能ノ狀態ニアルト思ヒマスカラ、
此案其儘ニ御贊成ヲ願ヒタイト云フ希
望ヲ述ベル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=32
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033・牧野良三
○牧野(良)委員 最少限度デアルカ
ラ、多少ノ缺點アリ、不滿足ナ所ガアツ
テモ、其處ハ忍ンデ吳レナイカト云フ
政府委員ノ御話ニ對シテハ敬意ヲ表シ
タイト思ヒマス、唯茲デ內容ノ最少限
度ハ、私ハ御同情シタイト思フ、卽チ
財產上ノ損害ヲ賠償スルト云フコトノ
方面ニ對スル十分ナル意見ヲ此案ニ盛
ルコトガ出來ナカッタノハ、斯ウ云フ譯
デアルト云フコトノ點ハ御同情申上ゲ
マスガ、精神上ノ損害慰藉方法ニ對シ
テハ此案ハ考慮シテ居ナイ、私ハ是ハ
ドウモ政府當局トシテハ恥ヂナケレバ
ナラナイト思フノデアリマス、モウ旣
ニ再審ノ場合デアリマシテ、日本ノ立
法例ニモ例ハアルノデアリマスケレド
モ再審トハ云ヘ官報ヤ新聞ヲ利用スル
コトハ、千八百八年十月二十七日ノ佛
蘭西ノ法律デアリマスカラ、今カラ百三
十年モ前ニヤッテ居ルノデアリマス、少
クトモ立法例ノ形ダケハ-只今ハ兎
ニ角千九百三十一年、根本的ニ此種ノ
モノニ付テハ改メル、佛蘭西モ「ソシ
アルアイデア」デ變ッテ居ル、今日出サ
ルベキ立法トシテハ恥ヅベキデアルト
思フ今日ハ私ハ全然理想論ハ言ハナ
イ、理想上ニ於テ政府ハ何故ニ考慮シ
ナイカト云フコトハ決シテ申シマセヌ
ケレドモ、精神慰藉方面ノ方法ヲ講ジ
テ居ナイ、唯五圓以内ノ補償ヲスルト
云フダケデアル、五圓以內ノ補償ト云
フコトハ、一寸見テハソレデ一通リノ
補償ニナルヤウデアルケレドモ、其場
合ヲ盡シテ居ナイ、ソレヨリモ、金ヲ
尊重シナイ、ソレハ幾分カ御見舞金ト
シテモヤリマスガ、ドウカシテ私ハ精
神痛苦ヲ慰安シタイ、ゾレニハ何ガア
ルカ新聞ガアル、一體ソンナ立法例ガ
アルカ、日本ニハドウカ、再審ニ用ヒ
テアルノミナラズ、改正刑法-辯護
士會ニ內示サレマシタ改正刑法ニチヤ
ントアル、是ハ泉二政府委員ナドハ力
ヲ極メテ居ラレル、然ルニ恥ヅベキ舊
式立法、而モ此案ノ思想ハ非常ニ舊式
デアル、非常ニ時代錯誤デアル、其處
マデ言ヒタクナイガ、私ハ之ヲ指定シ
テ政府當路者ノ反省ヲ促スト同時ニ、
委員諸君ノ御參考ニ供シテ見タイト思
フ、例ヘバ先ヅ第一番ニ目ニ付キマス
ノハ第三條デアリマス、何ト規定シテ
アルカ、「本法ニ於テ遺族ト稱スルハ本
人ノ配偶者、子、孫、父、母、祖父及
祖母ニシテ本人死亡ノ當時之ト戶籍ヲ
同ジウシ引續キ其ノ戶籍內ニ在ル者ヲ
謂フ」、斯ンナ立法ハモウ日本デモ時代
錯誤ノ立法デアリマス、遺族ニ金ヲ贈
ルト云フ時ニ、戶籍上ノ家族デナケレ
バ與ヘラレナイト云フヤウナ、斯ンナ
規定ヲ吾々ニ示サレルト云フコトハ
種ノ侮辱デアルト思フ、是モ私ハ泉二
政府委員ナドハ大臣ノ意見ニ御反對デ
アラウト思フ、樞密院ニ持ッテ行ッテ昔
叱ラレタト云フコトガアリマスガ、
體商工省ト內務省デ出シマシタ彼ノ工
場法ニハ何ト規定シテアル、鑛業法ニ
ハ何ト規定シテアル、工場法ニモ鑛業
法ニモ-私ハ先刻政府委員室ニ行ツ
テ書拔キヲシテ來タノデスガ、工場法
ノ十五條及ビ鑛業法ノ八十條ニハ共
ニ內緣ノ妻、夫ヲ認メテ居ル、然ルニ
戶籍ヲ中心トシタ家族デナケレバヤラ
ナイ、斯ンナ立法ハ-名譽ニ對スル
モノ、サウシテ精神上ノ痛苦ニ對スル
補償ハ餘儀ナイカラ金デ見積ルナント
云フ、斯ンナ不容易ノ事ハアルモノテ
ナイ、是等ハ第一ニ私ハ非常ニ遺憾ヲ
感ズル、ソレカラ更ニ第四條ニ公ノ秩
序又ハ善良ノ風俗ニ關スル規定ガア
ル先程小林君ノ質問ニ對シテ政府委
員ハ獨逸ノ立法例ヲ引イテ懇切ナル御
說明ヲ下サイマシタ、又大山委員ハ稍〓
奇矯ノ言ヲ以テ政府委員ニ問ハレタ、
爲ニ此點ニ對シテハ殊ニ注意深イ御答
辯ガアッタケレドモ是ナドモ御考ヲ願
ヒタイ、我國ハ罪刑法定主義ヲ守ッテ居
ル、刑法ニ於テ罪トナルベキ條文ガナ
イ、ソレガ無罪ト言ハレルガ、此起訴セ
ラレタル行爲ガ公ノ秩序善良ノ風俗ニ
反シタル時ニハ補償ヲ與ヘナイト云フ
條項ヲ挿入スルニ付テハ、モウ少シ私
ハ深甚ノ注意ヲ拂ハナケレバナラヌト
思フ、是レ無產黨ノ諸君ガ立法上ノ「ト
リック」デアルト言ッテ反對ヲスル所以
デアル、斯ンナ立法ヲ委員會ニ出サレ
ルト云フ事ニ對シテ私ハ非常ニ遺憾ヲ
感ジマス、旣ニ罪刑法定主義ヲ取ッテ居
ル自分ハ罪ヲ犯スノ意ナシト雖モ、
法律制度ニアル以上ハ責任ヲ免レル譯
ニ行カヌ、此罪刑法定主義ト云フモノ
ハ嚴格ニ行ハレテ居ル、殊ニ最近屢〓ア
ル事例ハ選擧法違反デアル、コンナ事
ハ罪ニナラヌ、選擧法違反ニナラナイ
ト思ッテモ、チヤント選擧法百十二條以
下ニ該當スレバ選擧法違反ニナルノデ
アル、サウシテ五箇年間選擧權被選擧
權ヲ停止セラレル、コンナ質問ヲ私ハ
泉二政府委員ニシタクハナイ、大臣ニ
致シタイ、ソレデ大臣ノ出席ヲ仰イダ
ガ大臣ガ出ラレナイカラ已ムヲ得マセ
ヌガ、ドウゾ大臣ニ傳ヘテ貰ヒタイ、
私ハコンナ立法ハ時代錯誤ノ、誤レル
モ甚ダシイモノト思フ、更ニ其次ハ同
ジ第四條ノ第三項デアリマスガ、「本人
ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行爲ガ
原有罪判決ノ憑據ト爲リタルトキハ第
一條第二項ノ補償ヲ給與セズ」又第二
項ニモ「本人ノ故意又ハ重大ナル過失
ニ因ル行爲ガ起訴、勾留、公判ニ付スル
處分又ハ再審請求ノ原因ト爲リタルト
キハ第一條第一項ノ補償ヲ給與セズ」
トアル、故意ノ場合ハ宜シイガ、重大
ナル過失ニ對シテ裁判所ガ責任ヲ免レ
ルト云フコトハ奇怪至極デアル、重大
ナル過失ガアレバ、重大ナル過失アリ
トシテ、責ムベキ事實ガアルナラバ、何
故之ヲ檢事ヤ裁判所ガ責任ヲ負ヒマセ
ヌカ、ソンナ事ハ自分ガ氣付カナイデ、
ソレハオ前ノ重大ナル過失デアッタト云
フヤウナ口實ノ下ニコンナ條文ヲ出サ
レルト云フコトハ、泉二政府委員ノ意
デハナイト思ヒマス、是ハ無理解ナル
政務官竝ニ大臣、ソレ等ノ人ガ斯ウ云
フ條文ニ對シテ、
ヲ抑壓シテコンナモノヲ出シタト云フ
コトハ明カデアル、泉二政府委員ガコ
ンナ議論ヲナサル筈ハナイ、ソレニモ
拘ラズコンナ條文ガ出テ居ル、時代錯
誤、杜撰極マルモノデアル、之ガ千九
百年代デモセメテ十年、セメテ二十年
位ナラバ宜イガ、千九百三十一年ノ立
法トシテハ、是ハイカヌト思フ、ソレ
ヲ千八百年代ノ外國立法例ニ藉口シテ
答辯ヲサレルト云フヤウナコトガアツ
テハナラヌ、ソコデドウカ此種ノ事ハ
缺陷ガアルト云フコトハ、泉二政府委
員ハ此處デ認メテ下サイ、サウシテ與
黨ノ委員諸君ト吾々トガ懇談會ヲ開イ
テ是ハ本當ニ嬉シイ立法デスカラ、此
嬉シイ千九百三十一年ヲ記念スベキ此
立法ヲ完全ナ立法ニシテ通サウデハア
リマセヌカ、豫算ナドハドウニデモ出
セマス、何故ナラバ此內閣ニ今ハ豫算
ハアリマセヌガ、來年一年經ッタラ豫算
ハ出來ルデセウ、サウシテ大體此內閣
ニ直グニ金ガナイト言フ、自ラ國家ノ
收入ヲ增ス所ノ政策ヲ執ラナイデ、國
家ノ收入ヲ極度ニ少クスル方策ヲ執ツ
テ置イテ、一方ニ於テ金無キヲ以テ此
種ノ立法ヲモ汚サウトスルヤウナコト
ハ、私ハ重大ナル責任ヲ負ハナケレバ
ナラヌモノト思フ、過失デハナイ、過
失ドコロデハナイ、是ハ故意デス、故
泉二政府委員ノ眞意一意モ重大ナル責任ヲ負ハナケレバナラ
ヌコンナ點ガアル、ダカラ泉二政府
委員、ドウカ餘リ政府委員トシテ固ク
オナリ下サラヌデ、ドウカ大臣ヲ御說
キ下サイ、此立法ハ古イ立法ダト云フ
コトヲ全ク委員ハ氣ガ附イテ居リマ
ス、護憲三派ノ時ナラ宜イ、是ハ護憲
三派ノ時ニ初メテ策ヲ執ラレタノダサ
ウデアリマスガ、アノ時ノ立法ナラバ
是位ノ頭デセウ、ケレドモ最近數年間
ノ發達ト云フモノハ大變デアル、ダカ
ラシテ吾々ノ同僚デモ根本的ノ問題ヲ
ドンドン質問ヲサレル、決シテ私ハ理
想案ヲ政府ニ作レナドト云フコトヲ此
際ニ於テハ言ヒマセヌ、最少限、ソレ
ハ承認シマズケレドモ、其最少限度ニ
於テモウ少シ泉二政府委員ノ御〓究、
サウシテ學說、御所見、ソレ等ガ編込
マレタ正シイ意見ヲ此立法ノ中ニ現シ
テ戴キタイ、〃デアリマスカラ私ハドウ
モ是ハ矛盾、杜撰、時代錯誤ト云フヤ
ウナ點ヲ明瞭ニ指摘スルコトガ出來ル
カラ、モウ少シ其點ニ於テ御考慮ヲ願
フコトガ出來ナイカ、斯樣ニ考ヘル次
第デアリマスガ、御所見ヲ伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=33
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034・泉二新熊
○泉二政府委員 牧野委員ハ大分巧妙
ニ私ヲ煽テテ、下サッタヤウニ思ヒマ
スガ、此法律ノ立案ニ付テハ私モ總テ
責任ヲ持ッテ居ルノデアリマス、寧ロ
其立案ノ發案者ノ責任ヲ負フノデア
リマス、併シ一面ニ於テハ唯私達ノ私
意ヲ以テ是ガ立案サレタモノデハナ
クシテ、サウ古ク外國ノ立法例ヲ引合
ニ出サナイデモ宜シイ、昭和四年ノ二
月二十六日、第五十六囘ノ帝國議會ニ
宮古啓三郞氏外九名カラ提出サレマシ
タ刑ノ執行又ハ勾留ニ因ル補償ニ關ス
ル法律案ト云フノガアリマスガ、其法
律案ニ於テモ第一條ノ但書ニ於テ「但
シ被告人ノ責ニ歸スヘキ事由ニ因リ刑
ノ執行ヲ受クルニ至リタル場合ハ此ノ
限ニ在ラス」ト云フヤウナ規定ガアル、
更ニ此法律案ガ恰モ羊頭狗肉デアルガ
如ク非難サレル、是ハ與黨デアリマス
ガ、小俣政一君カラ第五十八議會ニ提
出サレタ國家賠償法案ヲ見マシテモ、
其第十二條ニハ「犯罪ニ對スル刑罪ヲ
受ケタル事情故意又ハ重大ナル過失ニ
基因スル場合ハ國庫ハ賠償ヲ爲ス義務
ヲ負擔セサルモノトス」トアリ、進步
シタル諸君ガ斯ウ云フ案ヲ拵ヘテオイ
デニナルノデアリマスカラ、私達ガ進
步シナイ頭ダケデ、斯ウ云フ案ヲ拵ヘ
タト云フノハ間違ッテ居ルト思フノデ
アリマス、要スルニ最少限度ガドレダ
ケデアルカト云フコトニ付テノ只今ノ
御質問ハ遺憾ナガラ意見ノ相違デアル
ト申上ゲルヨリー外ニナイノデアリマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=34
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035・牧野良三
○牧野(良)委員 大變議論ヲスルヤウ
デ恐縮ニ存ジマスガ、御許ヲ願ヒマス、
只今ノ議員提出法律案ノ二ツカ頗ル杜
撰ナルモノデアルコトハ、旣ニ社會デ
餘リ良クナイト云フ定評ノアルコトニ
於テ、恐縮ナコトデアリマスガ、ドウ
カ斯樣ナモノニ依ッテ御答辯ノ材料ヲ
御集メ下サラヌコトヲ御願致シマス、
唯此處デドウシテモ御互ノ質問應答ヲ
ハッキリ致シテ置キタイコトハ、政府ハ
此立法立案ニ對シテハ極メテ不用意デ
アッタト思ヒマス、此點ヲドウカ認メテ
戴キタイ、何トナレバ總テ材料ニセラ
レタ立法例ハ「シヤーデンス·エヤザツ
ツ」ヲ基本トシタ賠償法案デアル、ソ
レデ之ヲ拵ヘラレタ御自分ハ何ゾ知ラ
ン、豫算ニ制限セラレテ、財產上ノ損
害ノ方面ハ切離シテ、精神上ノ損害ニ
對スル補償制度ニシヨウトシタ、全然
財產上ノ損害ヲ中心トシテ、其損害ニ
依ッテ精神上ノ損害ヲ「カバー」セント
シタ案ヲ參考トシテ以テ案ヲ拵ヘテ置
イテ、自分ノ目的ハ精神上ノ損害ノミ
ヲ補償セントサレル、ソコデ精神上ノ
損害ヲ補償スル方面ニ對スル用意ガ缺
ケテ居ッタト思フ、是ハドウモ五條デハ
其目的ヲ達シナイカラ、何トカ例ヲ破ッ
テ、參ッタト言ッテ欲シイノデス、其點
ダケハ少クトモ與ヘナケレバナラヌ、
サウシテ是ハ全ク財產上ノ損害ノ方面
ノ立法形式カラ出來テ居ル、所ガ全ク
違ッタ方面ノ、精神上ノ損害ヲ補償スル
ト云フ方而デ行カウト云フ案ニナッタ
所ガ其精神上ノ方面ハ全然「ネグレク
ト」サレテ、隨テ第三條ノ今ノ內緣ノ
妻ヤ夫ト云フ者ヲ考ヘテナイト云フヤ
ウナコトハ極メテ私ハ不用意ナル立法
デアルト云フコトノ重要ナル例ダト思
ヒマスガ、其點ニ於テ是ハ全ク政府ガ
當初立法ヲサレタ時ノ考ト、今提案ヲ
サレタ時ノ御考トノ間ニハ重大ナル齟
齬ガアル、其齟齬ニ氣付カナイデ理由
書ダケヲ變ヘテ御出シニナッタ嫌ヒガ
アル、隨分是ハ皮肉ナ言葉ヲ言フヤウ
デ恐縮デアリマスガ、サウヂヤナイカ
ト思フ、デアリマスカラ本當ニ政府ガ
精神上ニ受ケタ損害ヲ賠償スル、其補
償法案デアルト言フナラバ、是ハドウ
シテモ御建直シニナラナケレバナラヌ
モノダト思ヒマスガ、其點ニ關スル御
所見ハ如何デアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=35
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036・泉二新熊
○泉二政府委員 政府ト致シマシテハ
精神上ノ損害ノ賠償ト云フヤウナコト
ニ付テ相當ニ最少限度ノ用意ハ是デシ
タト云フ考デアリ、サウシテ公〓ナド
ノ點ニ付キマシテハ、先刻申上ゲタヤ
ウニ、佛蘭西ノ刑事訴訟法アタリデヤッ
テ居ル程度ノコトハ旣ニ今日行ハレテ
居ルノダカラ、ソレヲ又此處デ重ネテ
ヤル必要ハナイヂヤナイカ、アトノ部
分ハ刑法ノ改正ヲ待ノテソレデ宜シイ、
ト斯ウ云フ考慮ヲシタ結果此案ガ出來
タノデアリマス、ソレデ不滿足デアル、
時代錯誤デアルト云フ風ニ御批評ヲナ
サルコトハ是ハ御自由デアッテ、之ヲ私
ハ遮ル譯ニハ行キマセヌガ、併ナガラ
政府ハ其點ニ付テ考慮ヲシナカッタノ
ヂヤナイ、政府トシテハ是ハ最少限度
トシテ是デ宜シイノダト斯ウ云フ考デ
アリマス、其點ニナレバ結局ヤハリ先
刻カラ言フ通リ意見ノ相違デ喧嘩ヲシ
テ居ルヤウナモノダラウト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=36
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037・牧野良三
○牧野(良)委員 此點ハ然ラバ此程度
デ止メテ置キタイト存ジマス、然ラバ
具體的ニ個々ノ問題ニ入リマシテ、第
三條ニ依然トシテ戶籍ヲ固持ナサルノ
ハ何ガ爲メデアリマスルカ、既ニ此種
ノ立法ノ我國ニ於ケル先例トシテ、工
場法竝ニ鑛業法ニ於キマシテハ樞密院
トノ間ニ重大ナル交涉ヲ重ネ、相當ノ
犧牲ヲ拂ッテ內緣ノ妻及ビ夫ニ及ボス
コトガ出來ルヤウニシ、判例旣ニ之ヲ
認メ、又改正サレントスル民法ニ於テ
モ此種ノモノニ付テハ擴張サレントシ
テ居ル、此際ニ於テ、此新シイ立法ニ
依然タル戶籍ヲ固持セラレルカ、御意
見ヲ伺ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=37
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038・泉二新熊
○泉二政府委員 總テ民法デモ改正ヲ
シヨウトシテ居ルノデアリマスガ、マ
ダ改正ニナッテ居ラヌノデアリマス、此
法案ト致シマシテハモウ直グ法律ニナ
ラウト云フノデアリマスカラ、先ヅ民
法デ認メタ配偶者ト云フ者ニ限ッテ行
カウ、他ノ例ハ、御引用ニナリマシタ
例ガアリマスケレドモ、此案ニ付テハ
ヤハリ民法ノ範圍デ行ク方ガ宜カラウ
ト云フコトデ、斯ウ云フコトニナッタ次
第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=38
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039・牧野良三
○牧野(良)委員 重ネテ申上ゲマス、
工場法鑛業法ハ旣ニ之ヲ實施サレテカ
ラ年所ヲ經テ居リマス、サウシテ是ハ
何等ノ弊害モナイ、弊害ガナイ所カ社
會カラ非常ニ歡迎サレテ居ル、サウシ
テ之ヲ制定シマスマデニハ、思想的ニ
吾々トハ隔リノアル樞密院當局ヲ動カ
スニハ相當ナ努力ヲ要シタ、ソレダケ
ノ立法ガ旣ニ我國ニアルノデアリマ
スサウシテ工場法第十五條、鑛業法
第八十條、共ニ是ハ全然補償ニ關スル
場合デアル、樞密院トノ關係上扶助ト
云フ言葉ヲ用ヒテ居リマスルケレドモ
隨テ私ハ當ニ此立法ノ如キニ付テ
ハ之ヲ御用ヒ下サルコトガ極メテ適切
ダト存ジマスガ、政府ハ委員ノ指摘ニ
依ッテ之ヲ改ムルノ御意思ガアリマセ
ヌカ、ナケレバ無キ根據ヲモウ一度明
カニシテ戴キタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=39
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040・泉二新熊
○泉二政府委員 政府ト致シマシテハ
將來民法ノ改正デモ出來タラ更ニソレ
ハ改正ヲシテ民法ト同ジヤウニスルカ
モ知レマセヌガ、今ノ此案ト致シマシ
テハ此程度ガ適當デアルト云フ考ヲ定シテ、
メテ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=40
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041・牧野良三
○牧野(良)委員 政府委員モモウ少シ
原案ヲ固持サレナイデ御意見ヲ承ルコ
トハ出來マセヌデセウカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=41
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042・泉二新熊
○泉二政府委員 個人トシテナラバ、
理想的ニ考ヘレバ幾ラモ考ヘ樣ガアリ
マスケレドモ、政府案ト致シマシテハ
最少限度ヲ是デ認メテ居ルノデアッテ、
之ヲ擴張スル意味デハドウニモ動キガ
付カナイコトニナッテ居リマスカラ左
樣ニ御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=42
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043・牧野良三
○牧野(良)委員 然ラバ此點ノ御考慮
ニナッタト云フコトダケハ事實デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=43
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044・泉二新熊
○泉二政府委員 ソレハ相當ニ考慮ヲ
シタ結果、先ヅ此案トシテハ此程度ガ
宜カラウト云フコトニナッタノデアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=44
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045・牧野良三
○牧野(良)委員 次ニ第四條ニ於テ先
程申述ベマシタ「起訴セラレタル行爲
ガ公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反シ著シ
ク非難スベキモノナルトキ」ト云フ點
デアリマス、此點ニ關シマシテハ既ニ
本委員會ニ於テ前後二囘詳細ナ御說明
ヲ承リマシタケレドモ、政府當局ハ極
メテ稀ニ起ルコトアルベキ事犯ヲ豫想
シテ斯ル重大ナル規定ヲ爲サッテ居ル
ノデアリマス、御說明ニ依リマシテ左
様ナ極メテ稀ニ起ルコトアルベキコト
ヲ豫想シタコトニ過ギナイ事犯ヲ豫想
斯ル重大ナ規定ヲ置カレルト云
フコトハ失當デナイカト思ハレマス、
殊ニ罪刑法定主義ヲ嚴格ニ維持シテ居
リマス我ガ立法ノ現狀ニ於キマシテ、
此種ノ制限ヲ置カレルト云フコトハ極
メテ不穩當デナイカ、殊ニ斯ル條文ヲ
必要トセラレル所以ハ、第五條ニ於テ
補償ヲセラレル場合ニ、立法トシテハ
極メテ拙イ立法技術ニ陷ッテ居ルガ爲
メデハナイカ、此場合ハ相當裁判官ニ
餘裕ノアル立法ヲシテ居ラレルナラ
バソレヲ考慮ノ中ニ入レヽバ宜イノ
デアリマシテ、强ヒテ條文ニ規定セズ
トモ、其處ニ裁判官ヲシテ補償額ヲ決
定セシムル上ニ於テ考慮ヲ加ヘレバ宜
イノデアリマシテ、斯樣ナ規定ヲ置キ
マスルコトハ罪刑法定主義ヲ維持ス
ル上ニ於ケル極メテ不愉快ナ例外トナ
ルノミナラズ、事實ニ於テ之ヲ强ヒテ
惡用サレル虞ヲ吾々ヲシテ抱カシメル
結果ニ陷ルト思ヒマス、此點ニ關スル
政府當局ノ御意見ヲ承リタイト思ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=45
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046・泉二新熊
○泉二政府委員 此第四條ノ第一項第
二號ニ第一號ト較ベテ御考ヘ下サッタ
ナラバ宜カラウカト思ヒマス、罪刑法
定主義論デ行キマスナラバ、第一號モ
實ハ此處へ擧グベキモノデハナイノ
カモ知レマセヌガ、處罰シナイト云フ
コトト、此補償ヲ與ヘルトカ、與ヘナ
イト云フコトトノ間ニハ連絡關係ハ無
イノデアリマス、刑ハ科セナイケレド
モ、補償ヲ與ヘナイト云フ場合ヲ考ヘ
テ宜シイ、實ハ第一號ハ第二號ノ極メ
テ明瞭ナル一例ニ外ナラヌト云フテモ
宜イ位ノモノデアラウト思ヒマスケレ
ドモ、ハッキリトサセル、ソレカラ第二
號ニ付キマシテ極メテ稀ナル例デアル
ト仰シヤイマシタガ、稀ナル例ニハ違
ヒアリマセヌケレドモ、是ハ無罪ノ言
渡ヲ受ケルニシテモ、斯ウ云フ風ニ公
ノ秩序、善良ノ風俗ニ反スル行爲、其行
爲實質其モノガ著シク惡イト云フ場
合ニハ、社會ハソレヲ看過シナイノデ
アル、補償ハシナイノデアル、刑ハ科
セナイカモ知レマセヌ、又ソレト同時
ニ補償モシナイト斯ウ云フコトヲハツ
キリトサセテ置クノガ適當デアラウト
思フノデアリマス、ドナタカ此間仰シ
ヤッタノデアリマスケレドモ是ハ其補
償ヲ受ケル人ヲ標準ニシテ考ヘレバ
何デモ彼デモヤル方ガ宜イノカモ知レ
マセヌ、成ベク多クヤル成ルベク廣ク
ヤル方ガ宜イノカモ知レマセヌ、併シ
一方カラ考ヘマスレバ、社會風〓ノ上
カラ見タリ或ハ此補償ヲヤルニ付テハ
國民全體ノ負擔ヲ增スノデアルカラ、
何デモ彼デモヤッテ宜シイトマデ言フ
ト、少シ語弊ガアルカモ知レマセヌガ
成ベク廣クヤル方ガ宜イ、成ベク寬大
ニヤル方ガ宜イト云フコト、必ズシモ
正論デハナイカモ知レマセヌ、其處ニ
餘程兩方カラ見テ適當ニ考ヘルト云フ
必要ガアルノダラウト思フノデアリマ
シテ、サウ云フ趣意デ本案デハ第二號
ヲ明カニ入レテアルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=46
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047・牧野良三
○牧野(良)委員 御趣旨ニハ贊成スル
コトハ出來マセヌケレドモ、御所見ハ
明瞭ニ承ルコトガ出來マシタ、唯此處
デ一點明カニ致シテ置カナケレバナラ
ヌノハ二號ハ一號ト同ジヤウナ場合
デハナイカト言ハレルコトニ對シテ
ハ大變私ハ惑ハザルヲ得ナイノデア
リマス、一號ノ場合ハ先程小林君ノ質
問ニ對シテ御答下サイマシタヤウニ、
本人ノ行爲ハ罪トナル、ナルケレドモ
刑法ノ正條ガ、其モノノ行爲ヲ以テ罪
トシナイト云フ特別ノ規定ガアッテ、刑
セラレナイノデアルカラ、補償ヲシナ
イノダ、斯ウ云フコトガ明カデアリマ
ス、二號ノ場合ハ刑法ノ正條ニ於テ罪
トナラザル行爲ナノデアリマス、刑法
ノ正條ニ於テ罪トナラザル行爲ナルニ
拘ラズ、尙且何カノ理由ヲ付ケテ補償
ヲシナイト云フコトヲ此處ニ規定シテ
置カレルコトハ如何デアルカ、若シモ
何等カ斟酌スベキ事情ガアルナラバ、
補償額決定其他ニ於テ考慮スベキモノ
デハナイカ、玆ニ全ク補償セザル場合
トシテ、規定スルコトハ甚ダシク刑法
ノ本則ニ反シハセヌカ、「プリンシプ
ル」ニ反シハセヌカ、サウシテ而モ三十
九條乃至四十一條ノ場合ハ、全然刑法
理論ノ上ニ於テハアベコベノ場合デハ
ナイカト斯樣ニ私ハ解シマスガ、政府
委員ハ此點ニ對シテ如何樣ニ御解シニ
ナルノデアリマスカ、重ネテ御伺致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=47
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048・泉二新熊
○泉二政府委員 若シ此四條ノ一項ニ
此一號ガ假ニナカッタトシテ、第二號ダ
ケアルトシタナラバ、自カラ第一號ノ
ヤウナコトガヤハリ第二號ニ入ルベキ
筋合ノモノダラウト思ヒマス、併ナガ
ラ其廣イ意味ノ二號ノ中カラ一號ニ當
ルヤウナ、更ニ特別ノ條件ノ具ッテ居
ルト云フ點ニ於テ、其條件ノ具ハラナ
イ他ノ部分トハ違フ點ガアリマスカ
ラ、ソレデ殊更ニ一號ト二號ト分ケテ
ハアリマスルガ、要スルニ刑法デ無罪
ノ言渡ヲスルノデモ、補償ヲ與ヘナイ
ト云フ場合ノ一例ガ第一號デ分ッテ居
ル、サウスレバ第二號デ無罪ヲ言渡ス
場合デアッテモ一號ト程度ハ違フカモ
知レマセヌガ、公ノ秩序、善良ノ風俗
ニ反スルト云フ大キナ意味ニ於テハ、
一號ト別ニ違ヒハナイ、ソコデ斯ウ云
フ場合ニハ補償ヲ與ヘルケレドモ、額
ヲ少クスルト云フ建前デハイケナイノ
デアッテ、斯ウ云フ場合ニハモウ補償ヲ
ヤラヌノダト云フコトヲハッキリシテ
置ク方ガ私ハ宜イ、斯ウ云フコトニアル
ノデアリマシテ、本案ノ趣旨ガサウ云
フ風ニ出來テ居ルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=48
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049・牧野良三
○牧野(良)委員 私ハ一號ノ如キ場合
二號ノ如キ場合、二ツヲ比較シテ見ル
ト、今政府委員カラ二號ノ場合ハ廣イ
其中ヘ一號ガ入ルノダ、隨ッテ一號ノ
場合ハ其二號ノ場合ノ一部分ト見ルコ
トガ出來ルト云フ御話デアリマス、ソ
レハ或ル程度マデ御承認致シマセウ、
一號ノ場合ハ其大キイ部分ノ一部分デ
アリマスカラ、其一號ノ場合ヲ認メル
コトハ必ズシモ私ハ不合理デナイデ
ス、一號ヲ認メラレルノ故ヲ以テ、ソ
レヨリモ廣イ場合デアル二號ヲ認メル
ベシト爲ス結論ニハ、到底達シナイト
思ヒマス、ノミナラズ獨逸ノ此立法、
此處ニ揭ゲテアリマス立法ニ、ソレニ
似タ事例ガアリマスルガ、最近此種ノ
立法ガ刑法ノ方ニハ採ラレテ居リマス
モノガ、私ハ「ソヴイエット」露西亞ノ新
シイ刑法ノ中ニ之ニ似タヤウナモノガ
アッタカト思ヒマス、能ク記憶致シマセ
ヌガ、最近ノ立法ニ斯樣ナ一種特殊ナ
傾向ヲ現シテ居リマス、其外ニ私ハ餘
リナイト思ヒマスガ、斯ウ云フコトデ
以テ其責任ヲ負ハナイト云フコトハ
私ハ此點ニ於テ大變此條文ハ非難ニ値
スベキ條文デハナイカト思フノデアリ
マス、サウシテ何處カト伺ヒマスルト、
只今御所見ハ分リマシタ、弊害ノアル
言葉デ、餘リ繰返シテ言ッテハナラヌコ
トデアリマスガ、政府トシテハ成ベク
金ハ出シタクナイ、國民ノ方カラハ成
ベク取リタイト云フ感情ガアルノダラ
ウト云フコトニナッテ議論ニナッチヤ政
府委員モ御迷惑デアリマセウガ、斯ウ
云フ規定ノアルコトガ國民ヲシテ政府
ハ正シイコトモ成ベクハ金ヲ出サナイ
デ濟マシタイト云フ根性ヲ有ッテ居ル
ト云フ風ニ解スルノデアリマス、現
無產黨ノ一委員ガサウ云フヤウニ明瞭
ニ解サレタ、而シテ吾々モ亦此條文ヲ
シテ爾ク解シタイ積リヲ爲シタ、而シ
テ政府委員ガ今不用意ニ現ハサレタル
言葉ノ中ニモソレヲ忖度スルコトガ出
來ルノデアリマス、デアリマスルカラ
私ハヤハリ此種ノ條文ト云フモノモ洵
ニ御愼ミニナラナケレバナラヌ規定ガ
現レテ居ルモノト思ヒマシテ、之ニ對
スル御答辯ハ受ケマセヌ、御迷惑ト存
ジマスカラ、唯非難スベキモノトシテ
指摘シテ御考慮ヲ煩ハシタイト存ジマ
ス
次ハ重大ナル過失デアリマス、重大
ナル過失ト云フヤウナモノハ、判事、
檢事旣ニ自ラ之ヲ指摘シテ自己ノ責任
ニ於テ明カニシナケレバナラヌモノ
ヲ、重大ナル過失ニ於テ人ヲ有罪ニシ
タト云フ者ヲ、後カラ以テ行ッテオ前
ニ重大ナル過失ガアッタンダカラ、國家
ハ補償シナイノダゾデハ、是ハ少々蟲
ノ好過ギル立法ト思ヒマス、其犯人ガ
重大ナル過失ニ因ッテ刑罰ヲ受ケタナ
ラバ、刑罰ヲ受クル以前ニ於テ爾ク重
大ナル過失デアルナラバ、裁判所當局
ハ之ヲ指摘シテ之ヲ明カニシナケレバ
ナラヌノデアリマスガ、其重大ナル過失
スラ旣ニ明カニスルコトガ出來ナカツ
タトスルナラバ、其檢事ヤ其判事ハ其
責任更ニ重大ナルモノアリト思フノニ
モ拘ラズ、之ヲ政府免責ノ一助トモセ
ラレル理由如何、ソレヲ御尋致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=49
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050・泉二新熊
○泉二政府委員 度々申上ゲルヤウニ
本案ハ係ノ職員ノ故意過失ヲ正スト云
フ趣旨デ出來テ居ラナイ、故意過失ガ
アッテモナクテモ其ノ方ハ同ジダ、ソコ
デ斯ウ云フ重大ナル過失ノナイ、本統
ニ無辜デ、無責任ノ者ニ對シテ氣ノ毒
デアルカラ補償ヲスル、斯ウ云フ趣意
デ出來テ居ル、其立脚點カラ申シマシ
テ此規定ハ當然ニ出テ來ルコトデアル、
唯何デモ過失ガアレバイカヌト云フコ
トニスルノハ、全クヒドイカラ特ニ重
大ナナル過失ト云フコトニシタノデア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=50
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051・牧野良三
○牧野(良)委員 尙ホ委員長ニ御尋ネ
致シマスガ、是ガ逐條的ニ更ニ御審議
ニナリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=51
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052・服部英明
○服部委員長代理 左樣ナ方針デハ
ヤッテ居リマセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=52
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053・牧野良三
○牧野(良)委員 最後ニ普通ノ立法ヲ
審議スルヤウニ逐條的ニ審議スル委員
會ヲモウ一度御開キニナル御積リデゴ
ザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=53
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054・服部英明
○服部委員長代理 サウ云フコトハ理
事ノ間デ相談シテ居リマセヌ、御希望
ナラ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=54
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055・牧野良三
○牧野(良)委員 餘リ細イ事ニ亙ッテ
質問スルコトハ控ヘタ方ガ宜イト思ヒ
マスカラ、成ベク····発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=55
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056・服部英明
○服部委員長代理 逐條的ニ長ク澤山
アリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=56
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057・牧野良三
○牧野(良)委員 少シ出テ來ルト思ヒ
やっ、ダカラサウ云フコトハ立法ノ精
神ニ關係シナイモノハ此際控ヘタイト
思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=57
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058・服部英明
○服部委員長代理 其意味デヤッテ下
サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=58
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059・牧野良三
○牧野(良)委員 次ハ陸軍ノ政府委員
ニ御尋シタイト思ヒマス、第十九條デ
アリマスガ、例ニ依ッテ又軍法會議ヲ特
別扱ニシテアリマスガ、是ハ一ツ徐々
トシテ-斯ウ云フモノガ發布セラレ
ル機會ニソロ〓〓陸海軍刑法適用者
ニ軟カイ風ヲ與ヘルヤウナ機會ヲ御捕
マヘ下サル方ガ結構ト思ヒマスガ、此
意味ニ於テ私ハヤハリ補償ノ申立ヲ棄
却スル決定ニ對シテ卽時抗告ト同ジモ
ノヲ認メタト思ヒマスガ、政府ニ於テ
ハ此點ニ關シテドウ云フヤウナ御意見
ヲ持ッテ居リマスカ、前囘ノ質問ニ對ス
ル御答辯ニハ卽時抗告ニ關スル準用
ガ出來テ居ラナイノデ、斯ウシテ居ル
ノダト云フ單純ナ御意見ノヤウニ拜承
ヲ致シマシタガ、改メテ御所見ヲ伺ヒ
タイマ思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=59
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060・矢部潤二
○矢部政府委員 此點ハ前囘ニ御答致
シマシタ如ク、軍法會議ノ方ニ於テハ
決定ニ對スル卽時抗〓ノ制度ガ一ツモ
ナイノデアリマス、訴訟手續ニ於テ旣
ニ抗告ヲ認メテ居ラナイノニ、補償給
與ニ付テノミ新ニ新例ヲ開クコトガ如
何カ釣合上マヅカラウト云フノデ認メ
ナカッタノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=60
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061・牧野良三
○牧野(良)委員 然ラバ法規ノ形式ニ
拘束サレテ認メナイノデ、政府當局ト
シテハ何等カノ方法ガアレバ御認メニ
ナッテモ差支ナイノカ、又ハ認メルコト
ガ出來レバ結構ダイ云フ御意見ナノデ
アリマスカ、大變進ンダコトヲ御伺ヒ
スルヤウデ恐縮デアリマスガ、若シ伺
フコトカ出來レバ結構ト思ヒマス、重
ネテ斯樣ナ進ンダ御問ヲ致シマスノ
ハ、實ハ此點ハ陸海軍當局者ノ御心持
ヲ忖度シテ改正ノ意見ヲ出シテ見タイ
ト思フノデアリマス、サウシテ斯ウ云
フ新シイ立法ノ恩典ヲ折角拵ヘナガ
ラ、陸軍ノ人々ニハ何時モ冷イ風シカ
當テナイト云フコトハ吾々忍ビナイ、
殊ニ此立法ノ如キハ本當ニ陸軍トシテ
是位良イコトハナイノデアリマスカ
ラ、ドウカシテ均霑セシメタイト云フ
吾々ノ衷心ニ外ナラヌノデアリマシ
テ、決シテ外ノ意味ハナイノデアリマ
スカラ、御迷惑トナラザル限リ御腹藏
ナイ御意見ヲ承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=61
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062・矢部潤二
○矢部政府委員 軍事裁判ニ於キマシ
テハ成ベク迅速ニ裁判決定ヲシタイ、
シマヒタイト云フ趣旨ヲ採ッテ居リマ
スノデ、サウ云ウ例ヲ開クコトハ如何
カト考ヘテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=62
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063・牧野良三
○牧野(良)委員 大變長イ間質問ニ時
間ヲ費シマシテ恐縮ニ存ジマス、泉二
政府委員ニモウ一點御伺スルコトヲ御
許ヲ願ヒタイ、第十條ニ「補償給與ノ
申立アリタルトキハ裁判所ハ檢事ノ意
見ヲ聽キ申立ニ付決定ヲ爲スベシ」檢
事ノ意見ヲ聽クコトハ先達以來二囘反
對意見的ノ質問ガ出テ居リマシタヤ
ウデアリマスガ、是ハヤハリ司法ノ構
成上ノ形式カラ主トシテ御主張ニナル
ノデアリマスカ、ソレトモ實際上ノ必
要ヲ御感ジニナッテ居リマセウカ、是モ
全體ノ立法ヲ考慮スル上ニ於テノ參考
トシテ承リタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=63
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064・泉二新熊
○泉二政府委員 只今御質問ノ中ニア
リマシタ、刑事裁判手續ノ構成ノ一般、
及ビ其實際上ノ必要、兩方カラ檢事ノ
意見ハ聽ク方ガ適當デアル、斯ウ云フ
積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=64
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065・牧野良三
○牧野(良)委員 實際上ノ必要ニ關シ
テドウ云フヤウナコトヲ御考ニナッテ
居リマセウカ、承ルコトガ出來マスレ
バ結構ニ存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=65
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066・泉二新熊
○泉二政府委員 總テ裁判所ハ檢事ノ
意見ガアッテモ、之ニ拘束サレルモノデ
ナイコトハ旣ニ御承知ノ通リデアリマ
ス、隨テ拘束サレナイカラ其意見ヲ聽
カヌデモ宜イト云フコトニナレバ、總
テ刑事手續等ニ於テ意見ヲ聽カヌデモ
宜イコトニナルノデアリマスケレドモ、
是ハ兎ニ角裁判所ガ參考ノ爲ニ檢事ノ
意見ヲ聽クト云フコトハ、裁判ヲスル
上ニ於テ適當デアッテ、此事實ニ、此事
件ニ、或ハ此手續ニ於キマシテモ、參考
ノ爲ニ總テノ場合ト同ジヤウニ檢事ノ
意見ヲ聽クト云フコトハ適當デアル、
斯ウ云フ考ナノデアリマス、極ク抽象
的ノ考ヘ方デスケレドモ一體今日ノ制
度ガサウ云フ一般的ノ考カラ、檢事ノ
意見ヲ聽クノ云フコトニナッテ居ルノ
デアリマシテ、此場合ニ於テモ例外ヲ
認メル必要ガナイト云フ積リデ居リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=66
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067・牧野良三
○牧野(良)委員 諄イヤウデスガ尙ホ
一囘其點ニ付テ御意見ヲ承リタイ、此
間カラ此點ガ委員ノ間ニ大分問題ニ
ナッテ居リマス、所ガ只今泉二政府委員
ノ言ハレルノトハ根本ニ於テ違ッタ意
見ヲ私ハ始終耳ニシテ居リマス、ソレ
ハドウ云フコトデアルカト云フト、檢
事ノ意見ヲ聽イテモ檢事ノ意見ニ拘束
サレルコトハナイト云フコトハ旣ニ御
承知ノ通リデアルトアリマスガ、ソレ
ハ御承知ノ通リデナイ、常ニ檢事ノ意
見ニ拘束サレントスルノ弊害アリ、傾
向アリ、其事實アリト云フノガ吾々ノ
耳ニシテ居ル所ナノデアリマス、聞ク
所ニ依リマスト檢事ノ攻擊ヲ始終受ケ
テ居ル刑事ノ裁判長ハ、又刑事ノ判事
ハ其位置ヲ保ツコトガ困難デアル、ソ
レガ實際ニ事實ダト云フコトヲ在野法
曹ハ申スノデアリマス、若シ左樣ナ事
實ガ肯定サレルナラバ、此種ノ新立法
ニ對シマシテハ、殊ニ原告官タル檢事
ハ起訴ヲシテ一旦ハ有罪ノ判決ヲ受ケ
タ、ソレニ無罪ノ判決ヲ言渡シテ、更
ニ加フルニ補償ヲ與ヘルト云フヤウナ
場合ニ於キマシテハ、寧ロ檢事ノ意見
ヲ聽クト云フコトハ、司法ノ形式ガ重
キヲ爲シテ居ルナラバ、此場合ニハ取ツ
タ方ガ宜イノヂヤナイカ、又取ッテ弊害
ガ無イヂヤナイカ、否取ッタ方ガ弊害ヨ
リ避ケルコトガ出來ルノデハナイカ、
斯樣ナ考ガアルノデアリマス、此點ニ
對シテハドウ云フ御意見ヲ持タレマス
カ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=67
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068・泉二新熊
○泉二政府委員 少クトモ公判判事ガ
檢事ノ意見ニ事實上拘束サレルト云フ
コトヲ世間デ言ヒマスルコトハ、寧ロ
臆測ニ過ギナイト私ハ考ヘテ居ルノデ
ゴザイマス、兎ニ角檢事モ公平ニ意見
ヲ述ベテ居ル、事實其モノニ付テ、其
人格其モノニ對シテ適當ナルモノト考
ヘル所ニ依ッテ意見ヲ述べル、斯ウ云フ
コトニッナテ居ル、度々申スコトデアリ
マスガ、檢事ノ取扱フ事件ハ大分多イ
ノデアリマスケレドモ、起訴猶豫ニナ
ル事件ハ、起訴サレル事件ノ倍ニモ及
ビ、殊ニ財產關係ノ犯罪事件ニ付テ見
マスト四倍ヲ超エテ居ルヤウナ狀況
ニナッテ居ル、檢事ガ內部ニ於テサウ云
フ風ニ適當ニ處置ヲシテ居ルノデアッ
テ、何デモ彼デモ檢事ハ人ヲ起訴シサ
ヘスレバ宜イ、處罰シサヘスレバ宜イ
ト云フ考デ働イテ居ル者デハナイ、其
處ノ內部ノ關係ヲ知ラナイ人、就中起
訴サレタ人ハ色々ナコトヲ申シマス、
是ハ立場ガ違ッテ居リマスカラ見樣ガ
違フ、隨テ起訴サレタ人ガ非常ニ檢事
ノ橫暴ヲ唱ヘル、或ハ信ズルト云フコ
トモ無理カラヌコトデハアリマセウケ
レドモ、ソレヲ一方ダケノ考ニ依ラナ
イデ兩方ノ考ヲ集メテ公平ニ第三者ガ
判斷スレバ、今日檢事ノ橫暴ヲ多クノ
人ガ非難スルガ如キ事實ノアルモノデ
ナイト云フコトヲ發見スルモノデアル
ト私ハ思フノデアリマス、ソコデ公平
ニ事件ノ處理ト云フコトヲ考ヘマスレ
バ實ハ檢事ノ考ヘルコトモ裁判官ノ
考ヘルコトモ、著シク差違ハ無イ方ガ
寧ロ當リ前ヂヤナイカト私ハ思フノデ
ス、ソレハ絕對ニ無イトハ言ヘマセヌ、
時々アルカラ斯ウ云フ法律モ必要ニ
ナッテ來ルノデアリマスガ、兩方ノ意見
ガ一致スルト云フコトハ、私カラ考ヘ
レバ寧ロサウアラネバナラヌモノデ
アッテ、偶〓違フコトガ出テ來ルト云フコ
トガ却テ偶然ト見ナケレバナラヌ、斯
ウ云フ位デアリマス、斯ノ如クニシテ
兩方ノ意見ガ一致致シマスト、外間ノ
人殊ニ當該利害關係者カラ申シマスト、
裁判所ガ總テ檢事ニ左右サレテ居ルト
云フ風ニ批判ヲスルヤウデアリマスケ
レドモ、此批判ハ私ハ多クノ場合ニ於
テ當ラナイモノデアルト考ヘテ居ルノ
デアリマス、是ハ裁判所ノヤルコトデ
アリマスカラ、私ガ申シマスコトモ一
ツノ臆測ニ過ギナイノデアル、果シテ
裁判所ガ私ガ今申上ゲルヤウナ心理狀
態ヲ以テ、サウ云フ處分ヲスルノデア
ルト斷言スルコトハ私モ出來マセヌ
ガ、唯寧ロサウデハナカラウカト思ハ
レルヤウナコトヲ、御參考ニ申上ゲテ
見レバ、檢事ガ四年ナラバ四年ト云フ
請求ヲスル、サウスルト裁判所ハ大抵
三年トカ三年半トカ云フ風ニ、何カ少
シ其處ニ違ヘル、時ニハ求刑通リノ言
渡ヲスルコトモアリマスケレドモ動
モスルト大シタ違ハ無ササウナモノダ
ガト思ハレル場合ニ於テモ、或ハ一部
分ハ高クスル、一部分ハ低クスルト云
フヤウナコトガアル、少クトモ公判判
事ト云フモノニ付テ見マスト、裁判權
ノ獨立ト云フコトニ付テハ非常ニ苦心
ヲ拂ッテ居ルノデアル、今日ノ法制ノ上
カラ見マシテモ、裁判權ハ獨立デアツ
テ、司法行政官トシテ、之ヲ左右スベ
キモノデアラザルコトハ私ガ申スマデ
モナイ、サウシテサウ云フ意味ニ於キマ
シテハ、文字通リニ今日司法行政上ニ
於テ裁判ニ付テ實際何等ノ干涉ヲ致シ
マセヌ、是ハ本當ニ一度判事ノ職務ヲ
御執リニナッタ經驗ノアル方ナラバ、成
程泉二ガ言ッタ以上ダト云フコトヲ發
見ナサルダラウト思フ、吾々ノ方デモ
少シモ裁判所ノ職權裁量ニ關スル事
ニ付テハ觸レヌ、サウ云フ事ニ觸レル
コトハ却テ反感ヲ買ッテ結果ハ宜シク
ナイト申上ゲテモ宜イ位デアル、是ハ或
ハ先刻申シマシタヤウニ、サウ云フ考
へ方ヲスルノガ私ノ臆測デアッタカモ
知レヌ、然リト言ッテ斷定的ニサウ云フ
コトヲ申上ゲルコトモ出來ナイノデア
リマス、ソンナ風ニ見ラレテモ仕方ガ
ナイヂヤナイカト思ハレルヤウナ狀況
ガ實際ニアルノデアリマシテ、裁判所
ガ檢事ノ意見ニ依ッテ拘束サレルト云
フ見方ハ私ハ多クノ場合ハ唯臆測ニ過
ギナイノデアラウ、斯ウ考ヘテ居ルノ
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=68
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069・牧野良三
○牧野(良)委員 其點ニ關シマシテ强
ヒテ是以上御所見ヲ承ルコトモナイト
存ジマス、大變長ク時間ヲ戴キマシテ
有難ウゴザイマス、此程度デ私ノ質問
ハ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=69
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070・服部英明
○服部委員長代理 明日ハ午前十時カ
ラ御勉强シテ戴クコトニシテ今日ハ是
デ散會致シマス
午後四時十三分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X00719310216&spkNum=70
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