1. 会議録本文
本文のテキストを表示します。発言の目次から移動することもできます。
-
000・会議録情報
付託議案
刑事補償法案(政府提出)
—————————————————————
會議
昭和六年二月二十日(金曜日)午前十一時三十分開議
出席委員左の如し
委員長 横山金太郎君
理事 栗原彦三郎君
理事 松井郡治君
理事 篠原陸朗君
理事 牧野賤男君
理事 小野寺章君
小俣政一君 一松定吉君
關口志行君 斯波貞吉君
春島東四郎君 岡田春夫君
松村光三君 丹下茂十郎君
米田規矩馬君 牧野良三君
上田孝吉君 名川侃市君
小林かなえ君
同日委員服部英明君、飯村五郎君及小野寺章君辭任に付其の補闕として栗原彦三郎君、丹下茂十郎君松村光三君を議長に於て選定せり
同日委員丹下茂十郎君辭任に付其の補闕として米田規矩馬君を議長に於て選定せり
同日理事服部英明君委員辭任に付其の補闕として栗原彦三郎君理事に當選せり
出席政府委員左の如し
司法政務次官 川崎克君
司法參與官 井本常作君
本日の會議に上りたる議案左の如し
刑事補償法案(政府提出)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=0
-
001・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ昨日ニ引續イ
テ會議ヲ開キマス-委員中服部英明
君ガ御辭任ニナリマシテ、其補闕トシ
テ栗原彥三郞君ガ當選ヲセラレマシ
タ、而シテ服部君ハ理事デゴザイマシ
タ、理事一名ノ缺員ガ生ジマシタノデ、
玆ニ其補闕ヲ行ヒタイト思ヒマス、補
闕ノ方法ハ委員長ノ指名ニ御一任下サ
ルコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=1
-
002・横山金太郎
○横山委員長 御異存ノナイモノト認
メマス、サウスレバ其補闕ト致シテ栗
原彥三郞君ヲ煩シマス、一松君ヨリ豫
メ御通告ガゴザイマシタカラ、一松君
ニ發言ヲ許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=2
-
003・一松定吉
○一松委員 私ハ昨日原案ニ對スル修
正意見ヲ述ベテ、修正箇條ヲ指摘致シ
テ置キマシタガ、其新ニ挿入致スコトニ
致シマシタ第十九條ノ末段ニ、尙ホ十
字ダケヲ挿入ヲ致シタイノデアリマス、
其場所ハ「無罪又ハ免訴ノ裁判ノ主文
及要旨」ノ下ニ「竝ニ補償ヲ爲シタル
旨ノ十字ヲ挿入スベキコトノ、追加
修正ヲ致スノデアリマス、ソレダケ御
諒承ヲ願ッテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=3
-
004・横山金太郎
○横山委員長 一松君ノニ御贊成ガア
リマスカ
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=4
-
005・横山金太郎
○横山委員長 御諮リ致シマス、非公
式デゴザイマシタガ、政友會カラ直ニ
今修正案ノ作成中デアルカラ、今少シ
ク待ッテ吳レト云フ要求ガアリマシタ
折角會議ニハハイリマシタガ、モウ討
議ニ入ラントスル場合デアリマスカラ、
十分間バカリ休憩スルコトニ取計ッテ
ハドウカト思ヒマス
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=5
-
006・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ其意味ニ於キ
マシテ一時休憩致シマス
午前十一時三十三分休憩
午前十一時四十八分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=6
-
007・横山金太郎
○横山委員長 休憩前ニ引續イテ會議
ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=7
-
008・牧野良三
○牧野(良)委員 本案ニ對シマシテ、
吾々同志ハ玆ニ修正意見ヲ提出致シタ
イト思ヒマス、修正ノ箇所ヲ列擧致シ
やっ、先ヅ本案ガ「刑事補償法案」トア
ルヲ「刑事賠償法案」ト修正シ、以下各
條ニ「補償ヲ給與シ」トアルヲ、總テ「賠
償ス」、若クハ「賠償ヲ爲ス」、若クハ「賠
償ヲ爲サズ」ニ改ム、此點ニ關シテハ、
各條ニ亙ヲテ申上ゲルノガ本意デアリ
マスガ餘リニ煩雜ニ過ギマスルカラ、
〓括的ニ斯樣ニ申上ゲテ、修正ヲ明カ
ニ致シテ置キタイト思ヒマス-モウ
一度申シマス、「補償ヲ給與ス」トアル
ノヲ「損害ヲ賠償ス」ト修正致シマス、
ソレカラ逐條的ニ修正箇所ヲ申述ベマ
ス、第一條第一項ノ「未決勾留ヲ受ケ
タル場合ニ於テハ國ハ其ノ者ニ對シ勾
留ニ因ル補償ヲ給與ス」ヲ「ニ對シテ
ハ國ハ本法ニ依リ損害ヲ賠償ス」ト修
正シマス、詳細ハ修正ノ印刷物ニ依ッテ
御覽ヲ願ヒマス、第三條「本法ニ於テ
遺族ト稱スルハ本人ノ配偶者、子、孫、
父、母、祖父及祖母ニシテ本人死亡ノ
當時之ト戶籍ヲ同ジウシ引續キ其ノ戶
籍內ニ在ル者ヲ謂フ」ト云フノヲ改メ
テ、「本法ニ於テ遺族ト稱スルハ本人ノ
配偶者、子、孫、父、母、祖父及祖母
若ハ本人死亡ノ當時其ノ收入ニ依リ生
計ヲ維持シタル者ヲ謂フ」ト修正シマ
ス、第三項ニ「本人ヲ被相續人トシタ
ル家督相續ノ順位ニ準ジ之ヲ定ム」ト
アル中ノ、「家督相續」ヲ「遺產相續」
ト修正シマス、第四條ハ條文ヲ全部ニ
亙ッテ修正シテ居リマスカラ、修正條文
ヲ讀上ゲマス、第四條ヲ改メテ、「無罪
又ハ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者刑法第三
十九條乃至第四十一條ニ規定スル事由
ニ因リ、無罪又ハ免訴ノ言渡アリタル
トキハ賠償ヲ爲サズ」第二項ニ移リマ
シテ、「本人ノ故意ニ因ル行爲ガ起訴、
勾留、公判ニ付スル處分又ハ再審請求
ノ原由ト爲リタルトキハ第一條第一項
ノ賠償ヲ爲サズ」卽チ「重大ナル過失」
ヲ削除シ、次ノ項又同ジク「又ハ重大
ナル過失」ヲ削リ「補償ヲ給與セズ」
トアルヲ「賠償ヲ爲サズ」ト改ム、次
ノ項ニ於テモ「補償ヲ給與セザルコト
ヲ得」ヲ「賠償セザルコトヲ得」ニ改
ム.第五條「勾留ニ因ル補償ニ於テハ」
云々トアリマスノヲ改メテ、「留置又ハ
勾留ニ因ル賠償ニ於テハ拘禁日數ニ對
シテ裁判所ノ相當ト認ムル損害ヲ賠償
ス、但一日二圓ヲ下ルコトヲ得ズ」次
ノ二項ハ「懲役、禁錮又ハ拘留ノ執行
ニ因ル補償ニ於テハ其ノ日數ニ對シテ
裁判所ノ相當ト認ムル損害ヲ賠償ス」
拘置ニ因ル賠償ニ付亦同ジ、但一日二
圓ヲ下ルコトヲ得ズ」ト改ム、第三項
ハ「補償」ヲ「賠償」トシ、「補償金ヲ
給與ス」ヲ「損害ヲ賠償ス」ト改ム、
第四項ハ「補償」トアルヲ「賠償」トシ
「補償金ヲ給與ス」トアルヲ「賠償ス」ト
改ム、新タニ第五項ヲ設ケ「拘禁ヲ受
ケザル者ニ對シテハ裁判所ノ相當ト認
ムル損害ヲ賠償ス」ト挿入ス、次ニ「沒
收ノ執行」云々ノ項ニ於テ「補償」ヲ「賠
償ニ改メ、第六條ニ新タナル條文ヲ
挿入シマス、卽チ第六條「無罪又ハ免
訴ノ判決ハ職權ヲ以テ其ノ主文及要旨
竝賠償ヲ爲シタル旨ヲ官報ニ揭載シ且
本人又ハ遺族ノ申立アルトキハ其ノ選
擇スル一乃至三種ノ新聞ニ之ヲ一囘乃
至三囘揭載スベシ」此條文ヲ新ニ設ケ
やく、以下條文ヲ一條ヅヽ改メマス、
卽チ第七條ノ「補償ノ給與」トアルヲ
「賠償」トシ、本條中「裁判所又ハ免訴
ノ言渡ヲ爲シタル豫審判事ノ屬スル裁
判所ニ對シ補償給與ノ申立ヲ爲スベ
シ」トアルノヲ、改メテ「言渡ヲ爲シ
タル裁判所ノ上級裁判所若ハ大審院ニ
對シ賠償請求ノ申立ヲ爲スベシ」ト改
メマス、第二項「戶籍謄本」トアル次ニ
若ハ「市町村長ノ證明書」ト云フ數文字
ヲ挿入ス、第三項ノ「補償ノ給與」トア
ルヲ「賠償」トス、次ニ改メ八條「補償
ノ給與」トアルヲ「賠償」トス、次ニ「補
償ノ給與」トアルヲ「賠償請求」ト改ム
次ニ「補償ノ給與」トアルヲ「賠償」ト改
ム、改メ第九條ノ「補償給與」トアルヲ
「賠償請求」ト改ム、改メ十條ノ「補償
給與」トアルヲ「賠償請求」ト改メ、改
メ十一條ニ「補償給與」トアルヲ「賠償
請求」ト改メ、第二項ニ「補償給與」ト
アルヲ〔賠償」、第三項ニ「補償給與」ト
アルヲ、「賠償請求」ト改メ、改メタル第
十二條ノ全文ヲ次ノ如ク修正シマス、
卽チ「賠償ノ決定竝ニ賠償請求ノ申立
ヲ棄却スル決定ニ對シテハ一週間以內
ニ抗〓ヲ爲スコトヲ得」改メタル第十
三條「補償給與」トアルヲ「賠償」ト修
正ス、改メタ十四條「補償ノ交付」トア
ルヲ「賠償」ト修正シ、「戶籍謄本」トア
ノーハンハ「若ハ市町村長ノ證明書」ノ數
文字ヲ挿入ス、第二項ニ「補償給與」ト
アルヲ「賠償」ト修正ス、舊十四條ハ全
部之ヲ削除、第十五條ニ「補償給與」
トアルヲ「賠償請求」ト改メ、十六條ニ
「補償給與」トアルヲ「賠償」ト改メ、「補
償交付」トアルヲ「賠償ニ關スル」ト改
ム第二項ノ「補償給與」トアルヲ「賠
償」ト改メ、第十七條「補償ノ交付アリ
タルトキハ」トアルヲ「賠償ヲ爲シタル
トキハ」ト改メ、次ニ「補償」トアルヲ
賠償ト改ム、以上、而シテ理由書中最
後ノ行ノ「相當ナル慰藉ノ途ヲ講ズル
ノ必要アリ」トアリマスノヲ、「相當ナ
ル賠償竝ニ慰藉ノ途ヲ講ズルノ必要ア
リ」ト改ム、以上ガ修正ノ要項及字句
デアリマス
以上ノ修正案提出ニ對シマシテ極メ
テ簡略ニ修正ノ理由ヲ申上ゲタイト思
ヒマス、本案ハ刑事補償案ト稱シテア
リマスノデ、吾々ハ時代精神ニ則ラレ
タル新立法トシテ、頗ル之ニ期待ヲ掛
ケテ居ッタノデアリマスガ、實ハ其內容
ヲ見、前後十囘ニ亙ル委員會ニ於テ、
極メテ詳細ニ政府當局トノ間ニ質問應
答ヲ重ネテ居リマスト、政府當局ハ本
案ニ付テハ實ハ何等賠償ノ實ヲ上ゲン
トスルノ意ガアルノデハナク、寧ロ賠
償ハ極力之ヲ避ケントセラレテ居ルコ
トガ、其言明ニ明カデアリマス、卽チ
本案ハ賠償立法ニ非ズシテ、慰藉立法
デアルト云フコトヲ明言致シテ居ッタ
ノデアリマス、而モ假ニ之ヲ慰藉立法
ナリト見マスル時ニ於キマシテモ、政
府ノ說明ニ依リマスルト、本立法ハ國
家特別ノ仁慈ニ基ク民政ノ恩惠立法デ
アルト說明セラレルニ至リマシテ吾
吾ハ本案ニ洵ニ期待ヲ裏切ルコトノ多
大ナルコトヲ遺憾トセザルヲ得ナイノ
デアリマス、仍テ吾々ハ本法ニ對シテ
ハ全然反對ノ意見ヲ有スル者デアリマ
スケレドモ、少クモ政府ハ此種ノ法律
案ヲ提出セラレマシタル機會ニ於キマ
シテ、多少ナリトモ其誠意ヲ表示セン
ガ爲ニ、姑ク提出法律案ノ修正ヲ爲ス
コトニ努メタイト、努力致シタノデア
リマス、而シテ以上述ベマシタル修正
ヲ爲スニ付キマシテハ、吾々同志議員
ノ間ニアリマシテ、非常ナ苦心ノアッタ
コトヲ諒トセラレタイノデアリマス
先ヅ第一ニ吾々ノ指摘シタイノハ、
本立法ハ其根本思想ニ於テ全ク時代錯
誤ノモノデアリマス、是ガ明治年代ニ
於テ立法サレルモノトスルナラバ、多
少ソコニ私共忍ズベキモノガアラウト
存ジマスガ、既ニ損害賠償ノ理論ガ進
步シ、國家賠償責任ガ世界的ニ確立サレ
テ居ル今日ニ於テ、斯ノ如キ恩惠的仁
慈ニ基ク補償立法、慰藉立法ト云フモ
ノヲサレルト云フコトガ、千九百三十
一年ノ世界ノ立法年報ニ出ルコトハ、
非常ニ我國ノ恥辱デアルト思ヒマス、
我ガ國家ノ文化ト國民ノ思想トガ斯ル
幼稚ナモノデアルカト云フコトヲ、世
界ノ學者、批評家ニ表示スルコトハ、到
底忍プコトガ出來ナイノデアリマス、
此點ニ於キマシテ私ハ政府與黨ノ委員
諸君ニモ、本案ニ對スル修正意見ニ對
シテハ、頗ル愼重ナル御考慮ヲ煩ハシ
タイト存ジマス
ソコデ時代錯誤ノ著シイモノデアル
ト云フ根本ハ、言フマデモナク、其立
法ノ精神ガ賠償、責任ニ立脚スルモノ
ニアラズシテ、政府特別ノ仁慈ニ依ル
恩惠立法ノ點ニアルト云フコトハ申ス
マデモアリマセヌガ、而モ其時代錯誤
ノ甚ダシイト云フコトハ、各條何レノ
條項ニモ之ヲ歷々トシテ指摘スルコト
ガ出來ルコトニ依ッテ、更ニ重大ナル遺
憾ガアルト云フコトヲ、表白スルモノ
デアリマス
先ヅ第一ニ政府與黨ガ本法案ノ「補
償ヲ給與ス」トアル其、「給與」ノ文字ヲ
削除セラレタルコトハ吾々ハ之ヲ多
ト致シタイト思ヒマス、而モ僅ニ「給
與ス」ト云フ字ヲ御削除ニナルニ付テ、
政府トノ間ニ二日間ニ亙ル御交涉ノ勞
ガアッタト云フコトハ、如何ニ政府ニ、
本案ニ對シテ時代錯誤ノ精神ガ膠着シ
テ、剝脫シ難キモノガアルカト云フコ
トヲ知ルコトガ出來ルノデアリマス、
而モ第一條ニ於キマシテハ、警察署ノ
留置ニ關シマシテ何ガ故ニ本法ノ適用
ヲ受ケシメナイカト言ヒマスト費用
ガ掛ルカラ削除シタイト云フ、- 神社
レ位ノ費用ガ掛ルカト云フコトヲ承ル
ト、僅ニ一千數百圓ダト云フ、補償、
賠償、仁慈、恩惠ヲ惜ンデ、尙ホ無辜
ノ民ニ苦ミヲ與ヘ、此理由書ニ依
リマスルト所謂無辜ノ良民ニ對シテ苦
シミヲ與ヘテ、補償ヲ惜マレルト云フ
コトノ謂ハレヲ解スルコトガ出來ナイ
ノデアリマス、隨テ私共ハ苟モ刑事訴
訟法ニ依ル通常手續、又ハ再審、若ク
ハ非常上〓ノ手續ニ依フテ、無罪ノ言渡
ヲ受ケ、又ハ同法第三百十三條ノ規定
ニ依リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者ニ對シ
テハ、全部本法ニ依ッテ損害ノ賠償ヲ爲
スト云フコトニ改メルノハ、當然デア
ラウト信ズルノデアリマス、是レ第一
條ニ對シテ修正意見ヲ提出スル所以デ
アリマス
又最モ時代錯誤ノ甚シキコトヲ看取
スルノハ第三條デアリマス、本法ニ於
テ被害者タル、本人ガ死亡シタル場合
ニ於テハ、賠償請求權ガ遺族ニ移ル、
其遺族ニ對シテ、第三條ハ戶籍法ニ認
ムル遺族ニ限ラレテ居ルノデアリマ
ス、而シテ與黨ノ修正案ガ、此點ニ對
スル政府ノ頑冥ナル立法ニ對シテ一筆
モ加ヘラルヽ所ナキヲ、私等ハ怪訝ノ
念ニ堪ヘナイノデアル、現在ノ我ガ國
情、吾々國民生活ノ實際ニ於キマシテ、
戶籍ニ在ル者ニアラザレバ家族ト見ナ
イト云フヤウナ主義ハ、事實ニ於テ認
メラレテ居ナイ、而モ此事ハ單純ナル
理論ノ問題ニアラズシテ、委員會ニ於
テモ指摘致シタ通リニ、我國ノ工場法
ノ第五條、鑛業法ノ第八十條ニハ、立
派ニ內緣ノ妻、夫及ビ私生子モ認メ得
ルノ餘地ヲ與ヘテ居ルノデアリマス、
而シテ民法ノ改正案ハ之ヲ實現センコ
トニ學者ハ苦心ヲシ、而シテ大審院ノ
判例旣ニ之ヲ認メテ居ルノニ、千九百三
十一年ノ文化立法タル性質ヲ有スル本
立法ノ中ニ、依然タル戶籍法ニ依ル家族
ヲ維持サレルト云フコトハ、洵ニ時代錯
誤ノ「シンボル」デアルト私ハ存ジマス、
更ニ本條ノ第三項ニ於キマシテハ、子
及ビ孫ガ數人アルトキハ、其順位ハ本
人ヲ被相續人トシタル家督相續ノ順位
ニ準ジテ之ヲ定ムトアリマスガ、是等
モ洵ニ不用意ナ立法デアリマシテ、家
督相續ニ依ル長子ニノミ此種ノ慰安、
慰藉、損害ノ賠償等ヲ限ルト云フコト
ハ洵ニ時代錯誤ノ甚シキモノデアリ
マシテ、ヤハリ是ハ遺產相續ノ程度ニ
少クトモ改メルト云フコトハ、蓋シ何
人モ注意サルベキ點デアルト思ヒマス
更ニ第四條ニ於キマシテハ、重大ナ
ル修正ヲ加ヘマシタ、詳細ナルコトハ
質問應答ノ內容ニ依ッテ、委員會ハ御承
認下サルト思ヒマスカラ、玆ニ多クハ
述ベマセヌガ、此第四條ノ第一項第二
號ニ、起訴セラレタル行爲ガ公ノ秩序
又ハ善良ノ風俗ニ反シテ著シク非難ス
ベキモノデアルトキハ、裁判所ハ補償
ヲ爲サナイト規定シテアル、是ハ私ハ、
我國ガ嚴格ニ奉ジテ居ル罪刑法定主義
ノ本旨ヲ破壞スルモノデアルト信ズル
ノデアリマス、蓋シ私共ハ、斯ル行爲
ハ罪トナルコトナシト確信シテ行ッタ
ル行爲ナリト雖モ、苟モ法律ノ成條ア
ル場合ニ於テハ、其罪ヲ免ルヽコトヲ
得ザルコトハ明カナル事實デアリマシ
テ、選擧法違反ニ於テ屢〓其事例ニ遭
遇スルノデアリマス、ト同時ニ司法當
局ガ罰セント欲スルト雖モ、苟モ法律
ニ成條ナキ行爲ハ、如何ニシテモ之ヲ
罰シテハナラス、ソレヲ他ノ理由ニ依ツ
テ罰セントスルコトハ、軈テ司法權濫
用、司法行政權濫用ノ端トナッテ、吾
吾ガ特ニ人權蹂躪ヲ叫バザルヲ得ナイ
理由ノ根本ガ茲ニアルノデアリマス、
然ルニ今ヤ政府提出ノ此新立法ノ中
ニ、政府ノ見ル公序良俗ニ反スルト云
フ見解ノ下ニ於テ、補償ヲ拒絕スルノ
力ヲ當局ニ附與セントスルガ如キハ、
罪刑法定主義ノ原則ノ上カラシテ、時
代錯誤ノ甚シキモノダト思ヒマス
次ニ又本人ノ故意又ハ重大ナル過失
ガ起訴勾留其他ノ原因トナッタトキニ
ハ同ジク補償シナイトアリマスガ、
是モ甚ダ奇怪ナル條文デアリマス、旣
ニ被害者本人ニ重大ナル過失ガアッテ、
ソレガ原因トナッテ訴追ヲ受ケルト云
フ場合ニ於テ、其重大ナル過失ヲ發見
スルコトハ正ニ檢察當局、裁判當局ノ
重大ナル責任デアルト思フ、自ラ其責
任ヲ輕ンジテ其重大ナル過失ヲ見逃シ
テ置キナガラ、後カラ其重大ナル過失
ヲ發見スルヤ、之ヲ被害者本人ノ責ニ
歸セントスルガ如キハ、洵ニ厚顏無耻
ノ立法ト言ハナケレバナリマセヌ、甚
ダ過激ナル言辭ヲ弄シテ本修正案ノ理
由トスルコトヲ本員ハ自ラ遺憾ト致シ
マスケレドモ、如何ニシテモ政府ノ意
思ガ解セラレマセヌ、理由書ニアルガ
如ク、無辜ノ良民ガ旣ニ起訴トカ刑ノ
執行ニ依ッテ不測ノ不名譽ヲ受ケルコ
トハ判ッテ居ル、然ルニコンナ理由ニ
依ッテ補償權、賠償權、慰藉權ヲ剝奪セ
ントスルコトハ、餘リニ無情ナ餘リニ
時代錯誤ノ甚シイモノデアルト言ハナ
ケレバナラヌ、私ハ之ヲ速記ニ留メテ、
以テ更ニ貴族院ノ諸君及ビ社會ノ一般
國民ノ參考ニ資シタイト存ジマス
更ニ第五條ニ於キマシテハ「一日五
圓以內ノ補償金ヲ給與ス」ト規定致シ
テアリマス、私ハ五圓ト云フ金高ヲ多
イ、寡イト云フコトニ依ッテ論ジタクハ
ゴザイマセヌ、併ナガラ五圓ノ金高ハ
何ニ依ッテ定メタカト云フコトヲ、委員
ヨリ質問致スト、政府當局ノ答ニ曰ク、
證人ノ日當ハ貳圓デアル、通事鑑定人
ノ日當ト雖モ五圓乃至拾圓デアル、故
ニ五圓ト定ムルコトハ少イコトハナイ
ト言ハレル、證人ト云ヒ、通事ト云ヒ、
鑑定人ト云ヒ、何等ノ拘束ヲ受ケズ、
何等ノ不名譽ヲ感ゼズシテ堂々トシテ
訟廷ニ立テル人デアル、ソレヲ無辜ノ
良民ガ拘禁拘束ヲ受ケ起訴ヲセラレ、
刑務所ニ打込マレタ場合ニ於ケル標準
ニサレルト云フニ至ッテハ無理解モ甚
シイモノト謂ハナケレバナリマセヌ、
斯樣ナ心デ斯樣ナ立法ヲサレルト云フ
コトハ、洵ニ吾々ニ對スル重大ナル侮
辱デアルト思ヒマス、仍テ吾々ノ間ニ
於テハ、第一條ニ所謂賠償ノ原則ヲ名
實共ニ嚴守致シタイノデアリマスケレ
ドモ、政府案ヲシテドウカシテ通過シ
得ル所ノ程度ニ修正致シタイト云フ誠
意ヨリ致シマシテ、此點「裁判所ノ相
當ト認ムル損害ヲ賠償ス」ト云フコト
ニ改メタノデアリマス、而シテ吾々
ハ依然トシテ裁判所ハ天皇ノ名ニ依。ツ
テ裁判ヲ行ハレルモノトシテ、飽マデ
モ之ヲ尊敬尊重スルノ實ヲ此處デモ明
ニシタイ、但シ斯樣ナ立法ヲセラレル
人々ノ下ニ於テ、最低額ガドノヤウニ
ナルカ、五圓トアッテモ如何ナルコトニ
相成ルカヲ抑止スルコトガ出來ヌト云
フ危惧ノ念ヲ現ニ無產黨選出ノ委員ヨ
リモ指摘サレテ居リマスカラ、此點ニ
對シテ此方面ノ人々ヲシテ、左樣ナル
杞憂ナカラシムルガ爲ニ、「但一日貳圓
ヲ下ルコトヲ得ズ」ノ數文字ヲ挿入致
シタイト同時ニ、本條ハ留置サレタル
者ニモ適用スル餘地ヲ與ヘタイト思ヒ
マス
次ニ第五項ヲ新ニ設ケマシテ、「拘禁
ヲ受ケザル者ニ對シテハ裁判所ノ相當
ト認ムル損害ヲ賠償ス」トシマシタル
所以ハ、拘禁セラレズト雖モ起訴ノ不
名譽ヲ受ケタル者ニ對シテハ、必ズヤ
相當ノ賠償ヲ爲スト云フコトガ、諸君
モ亦希望セラレル所デアラウト存ジマ
シテ、特ニ注意ヲ加ヘテ此一項ヲ挿入
スル次第デアリマス
次ニ新ニ第六條ヲ加ヘタ、卽チ「無罪
又ハ免訴ノ判決ハ職權ヲ以テ其ノ主文
及要旨竝賠償ヲ爲シタル旨ヲ官報ニ揭
載シ且本人又ハ遺族ノ申立アルトキハ
其ノ選擇スル一乃至三種ノ新聞ニ之ヲ
一囘乃至三囘揭載スベシ」此條項ハ本
案ニ於ケル最モ重大ナル中心ヲ爲スモ
ノト信ジマス、旣ニ與黨ノ委員ヨリ提
出サレタ修正案ノ中ニモ、此意ヲ含マ
レタ修正アルコトハ吾々ノ洵ニ本懷ト
スル所デアリマスルガ、與黨ノ修正案
ハ單ニ官報ニ止メテ居ラレル、單ニ官
報ニ止メルト云フコトガ既ニ時代錯誤
ノ甚ダシイ實例ダト存ジマス、何トナ
レバ官報ナルモノハ國民ニ常ニ讀マレ
テ居ルモノカドウカト云フコトヲ考ヘ
テ戴キタイ、一般民衆ニ讀マレザル官
報ニ揭載スルコトニ依ッテ、政府ノ重大
ナル責任ヲ免除セントスルガ如キハ洵
ニ官僚的ナ舊式ノ思想デアルト言ハナ
ケレバナラヌ、官報ニ揭載スベキコト
ハ政府發行ノ公示方法トシテ當然ノコ
トデアル、唯茲ニ私共ノ特ニ必要トス
ルコトハ社會機關デアリ輿論機關デア
ル民衆ノ極メテ親ミヲ感ジテ居ル新聞
二、其旨ヲ揭載スルト云フコトガ中心
デナケレバナラヌト存ジマス、無論是
ハ費用ノ要ルコトヽ言ハレルデセウガ
政府當局新聞當局ト協議シテ、此種重
大ナル社會事業ニ對シテハ相當費用ノ
掛ラナイ方法ヲ協議サレレバ、新聞當
局ハ喜ンデ之ニ應ゼラレルニ相違ナイ
ト思フ、殊ニ況ヤ起訴ヲ受ケテ未決勾
留サレタル無辜ノ良民ノ悲ムベキ痛苦
ヲ受ケル狀況ニ於テハ、旣ニ裁判ハ社
會的ニ與ヘラレ、拘禁ヲ受ケ、起訴ヲ
受ケタ時ニ與ヘラレテシマフ、其無念
ト痛苦ト悲慘トハ實ニ言フベカラザ
ルモノガアルノデアリマス、故ニ其レ
ニ對シテ無罪ノ言渡ヲ爲ストカ、又ハ
免訴ノ言渡ヲ爲ス時ハ、社會的ニ之ヲ
保護シテ其人ヲ慰藉スルノハ當然デア
ル、故ニ此法文ニハ慰藉立法デアレバ
慰藉立法ノ中心ヲナサナケレバナラヌ
ノニ、本案ハ慰藉立法ト言ヒナガラ慰
藉スベキ此場合ヲ全然缺如シテアルノ
デアリマス、本立法ニ於キマシテ、而
モ外國ノ立法例ニナイト云フナラバ則
チ已ム、抑〓今ハ千九百三十一年ノ年初
デアル此補償法案ノ內容ハ賠償ニアラ
ズシテ慰藉デアル、然ラバ慰藉立法ノ
如キハ世界ノ各國ニアルカト云フト左
樣ナモノハ曾ツテナイ、抑〓賠償立法
ノ初ハ千八百八年ノ佛蘭西ノ刑事訴訟
法ニ於テ特ニ顯著ナルモノガアル今
ヨリ百三十年以前ノモノデアル、其賠
償ノ基礎ニ依ッテ立案サレテ百三十年
位ノ今日出サレタル此賠償法案ガ單ナ
ル慰藉法デアリ、恩惠立法デアル而
モ其中ニハ慰藉恩惠ヲスルナラバ特ニ
注意ヲ加ヘナケレバナラヌノニ、注意
ヲ加ヘタ條文ガナイ、而モ是ハ日本ニ
於テ曾テ顧ミラレナカッタト云フナラ
バ政府ノ怠慢モ幾分ハ免除スルコトガ
アルト致シテモ、日本ノ刑事訴訟法ノ
第五百十五條ニ無罪ノ場合ノコトヲ明
ニ規定シテアル、ノミナラズ今ヤ朝野
ノ大問題トナッテ居リマス、改正刑法ノ
六十二條ニハ明瞭ニ此點ニ關スル規定
ガアルノデアリマス、ニモ拘ラズ政府
ハ是等ニ關スル重大ナル注意ヲ怠リ、
又注意シタルニモ拘ラズ此種ノ規定ヲ
ナサナカッタトスルナラバ、此處ニモ亦
時代錯誤ノ甚シキモノ、不親切ノ甚ダ
シキモノガアルコトヲ認メザルヲ得ナ
イノデアリマス、ドウカ此點ニ對シテ
ハ政府及ビ與黨ニ於カセラレマシテモ
費用ガ掛ルト云フ點ノミノ御懸念デア
リマスルナラバ、ソレハ多クノ懸念ハ
ナイト思フ、殊ニ考ヘテ戴キタイノハ
政府提出ノ此法案ヲ實行シテ幾ラ費用
ガ掛ルカト言ヘバ一年僅ニ七萬二千
圓デアルト云フコトデアル、而シテ政
府ハ此提出理由ニモ明ニ無辜ノ良民ニ
シテ起訴又ハ刑ノ執行ニ因リ不測ノ不
名譽ト著シキ苦痛ヲ被ムルモノナキニ
非ズト云フコトヲ認メテ居ラレル、其
自己ノ爲シタル重大ナル責任ガ一年僅
ニ七萬二千圓デ免責解除セラレルコト
ヲ企テラレルガ如キハ、實ニ私ハ大膽
厚顏ノ至リデアルト思ヒマス、宜シク
政府ハ此點ニ對シテモ反省シナケレバ
ナラヌ、又與黨ノ諸君ハ此點ハ與黨ノ
力ヲ以テ政府ヲ戒メテ戴イテ、此新ナ
ル立法ニ新ナル光輝ト內容トヲ與ヘテ
下サル熱意ガアッテ欲シイ、此點ニ關シ
テモ御考慮ヲ請ヒタイト存ジマス
次ニ戶籍謄本ノ下ニ「若ハ市町村長
ノ證明書」ヲ挿入シタノハ、內緣關係
ヲ認メマシタル當然ノ結果トシテ挿入
シタニ過ギマセヌ
更ニ本法ニ於ケル賠償ニ付キマシテ
ハ其賠償ノ決定ニ不服ノ申立ヲ許シ
テナイノデアリマスガ、之ヲ許シタノ
デアリマス、何トナレバ私共ハ第五條
ニ於キマシテ與黨及ビ政府ニ敬意ヲ表
シテ、裁判所ノ相當ト認ムル損害ヲ賠
償スベシト規定シテ居リマス、卽チ相
當ト認ムルト言ウテ、相當ノ程度ヲ裁
判所ニ委シタ以上ハ、當然決定ニ對ス
ル不服ノ申立ハ認メテ戴キタイト思ヒ
やす、ノミナラズ玆ニ相當ト規定致シ
テ居リマスカラ、第四條ニ於キマシテ
公序良俗ニ反スルモノト認ムル重大ナ
ル過失アルモノヲ削除致シマシタトシ
マシテモ、事情ニ於テ旣ニ責任ノ一部
ガ被害者ニ歸シ得ベキモノト認ムルコ
トノ出來ル重大ナル場合ニ於テハ、此
相當中ニ考慮スルコトガ出來ルト思ヒ
ゞ·ろ、私ハ第五條ノ修正ノ如キヲ御認
メニナルナラバ、本法ノ全部ニ對シテ、
殊ニ極メテ良好ナル結果ヲ及ボスコト
ガ出來ルト思ヒマス
次ニ卽時抗告ハ刑事訴訟法ニ於テハ
僅ニ三日ノ期間デアリマスガ、此種ノ
モノニ對シマシテハ、寧ロ內容ガ民事
訴訟ニ實質上相成ッテ居リマスルノデ、
民訴第四百六十五條其他ノ規定ニ從ヒ
マシテ、一週間ノ期間ヲ與ヘルコトガ
相當ト信ジマス、卽チ「一週間以內ニ
抗〓ヲ爲スコトヲ得」ト改メタイト存
ジマス
尙ホ第十四條ニ「補償交付ノ請求權
ハ之ヲ讓渡スルコトヲ得ズ」ト規定シ
テアリマスルガ、是ハ貧シイ人々ニ於
キマシテハ拘禁ヲ受ケテ居リマス間ニ
於テ物質上ニ非常ナル痛苦ヲ受ケテ居
ル場合ガ少クナイノデアリマス、此場
合ニ於テハ何時デモ請求權ハ之ヲ讓渡
シテ、相當ナル物質上ノ融通ヲ付カシ
ムルコトヽシマス方ガ、却テ便宜ト思
ヒマス、從來ノ立法ガ兎角此種ノ請求
權ヲ禁止スルコトガ、却テ被害者ノ利
益ノヤウニ考ヘテ居リマシタガ、恩給
ノ讓渡禁止ノ爲ニ思給受給者ガ、却テ
融通者カラ多大ノ手數料ヲ奪ハレテ、
目ニ見エナイ損害ヲ受ケテ居ルガ如キ
事實ニ徵シテモ、第十四條ハ全部削除
シテ讓渡スルコトヲ得ルヤウニ致シタ
方ガ宜シカラウト思ヒマス
以上大體私ハ修正ノ理由ヲ申述ベマ
シタ、要スルニ私共同志ノ修正意見ノ
根本ヲ成シマスルモノハ、時代錯誤ノ
思想ニ基イタ本法ニ對シテハ、根本ニ
對シテ修正ヲ加ヘナケレバナラヌ、寧
ロ改正ヲシナケレバナラヌノデアリマ
スガ、政府提出ノ法案ヲ基礎トシテ、
之ヲ審議スル場合ニ於テ、暫ク之ヲ忍
ンデ修正ノ程度ニ止メル、而シテ司法
行政權ガ國民ニ對シテ非ヲ非トシテ之
ヲ糺彈シ、糺明シ、之ヲ處刑スルナラ
バ、其非ヲ非トシテ糺彈シ、糺明シ、
處刑スル、國家ハ宜シク亦是ハ是トシ
テ自ラ謙讓ナル立法ヲサレルト云フコ
トガ、當然ノ責任デアラウト存ジマス
ルノデ、是ヲ是トスベキ最小限度ヲ本
法ニ於テ規定シタイ、斯樣ナコトガ吾
吾修正意見ノ根本デアリマス、以上ヲ
以テ私ノ修正ノ意見ト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=8
-
009・横山金太郎
○横山委員長 御賛成ガアリマスカ
〔「贊成々々」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=9
-
010・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ此場合一寸政
府ニ伺ッテ置キマス、先刻一松君ヨリ
十九條ニ「竝ニ補償ヲ爲ス旨」ヲ加ヘル
ト云フ趣旨ノ修正ガアリマシタ、ソレ
カラ只今政友會ヨリ牧野君ガ寔ニ詳細
ナル理由ヲ御附シニナリマシテ、各字
句ニ對シテノ修正案ガ提出サレマシ
タ無論是ハ採決ノ結果デナケレバ分
リマセヌケレドモ、孰レカ多數デ可決
致シマシタ際ニ、尤モ一松君ノ分ハ「竝
ニ補償ヲ爲ス旨」ト云フ分ニ付テハ、御
意見ヲ承ッテ居リマス、ソレカラ政友會
ノ分ニ付キマシテハ、只今御聽取ニナ
リマシタ箇條ニ對シテ、若シ多數ヲ以
テ可決致シマシタト云フ際ニ於テハ、
政府ハ之ニ對シテハドウ云フ御所見ヲ
御有シニナルノデアリマスカ、念ノ爲
ニ承リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=10
-
011・川崎克
○川崎政府委員 御答ヲ申上ゲマス、
只今牧野君カラ詳細ニ亙ッテ修正案ノ
內容ヲ承リマシタガ、賠償ト補償ノ見
解ニ付テハ政府ハ、屢〓說明致シタ所デ
アリマシテ、此點ハ御同意出來兼ルノ
デアリマス、尙此修正案デ參リマスト、
現在ノ豫算デ行ヒ切レヌノデアリマシ
テ、御承知デアリマセウガ、本年度提出
ノ豫算ハ單ニ一ケ月分ノミヨリ計上シ
テ、居ナイノデアリマスガ一ヶ年七萬
二千圓ト云フ豫定デアッテ、一ケ月六千
圓ト云フコトニナッテ居ルノデアリマ
スガ、其基礎ハ五圓以内ノ補償ト云フ
コトガ基礎ニ出テ來テ居ルノデアリマ
ス、隨テ只今ノ御說ヲ承リマスト、警
察留置ノ場合モ這入ルヤウデアリマス
ルシ、ソレカラ補償金額ハ二圓ヲ下ル
コトヲ得ズト云フノデ、ソレ以上ハ裁
判所ノ決定スル所ニ依ルコトニナリマ
シテモ、賠償ト云フコトニナレバ、ヤ
ハリ其金額ハ餘程殖エテ參ルコトハ明
デアリマス、隨テ左樣ナ意味ニ於キマ
シテ、甚ダ遺憾デアリマスケレドモ、
政府トシテハ御同意申上兼ネルノデア
リマス、ソレカラ政府ノ側カラ答辯ヲ
致シマシタ中ニ、警察ノ留置處分ノコ
トヲ申上ゲマシタ數字ガ、現在デ勘定
致シマスト、先ヅ千幾百圓餘デ納マリハ
セヌカト云フノデアリマスガ、正式裁
判ヲ仰グコトノ途ヲ開キマスト、餘程
數字ハ殖エテ來ルダラウト思ヒマス、
隨テ計算ノ基礎ガ大分變ッテ參リマス
カラ、此方ハ大分ノ數字ニナリハセヌ
カト思ヒマス、一寸豫測ガ付カヌノデ
アリマス、今ノ所デハ千幾百圓ト云フ計
算デアリマスケレドモ、愈〓賠償カ補償
ヲ與ヘルト云フコトニナレバ、其途ヲ
開イテ行カナケレバナラヌガ、サウス
ルト正式裁判ノ途ヲ開クコトニナリマ
スレバ、大分ニ金額ガ延ビテ來マシテ、
一寸今デハ計算ノ付カナイ數字ニナッ
テ居ルノデアリマス、其事モ併セテ申
上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=11
-
012・名川侃市
○名川委員 吾々ノ提出致シマシタ修
正案ニ對シテ、只今政府委員ヨリ國ノ
豫算ガドウシテモ許サナイ、財政ガ許
サヌカラ已ムヲ得ズ之ニ反對スルト斯
ウ言ハレルノデアリマスガ、是ハ甚ダ謂
レナキ議論デアルト思フノデアリマ
ス、前ニモ申上ゲマシタ通リニ、是ハ
檢事ガ起訴ヲ愼ミサヘスレバ斯ウ云フ
事件ハ一件モ起ルノデハナイ、卽チ檢
事ガ起訴ヲ愼マズシテ、無辜ノ者ニ對
シテ起訴ヲ致ス、卽チ檢事ノ過失ト言
ハナケレバナラヌ、故意デハアリマス
テ 、サウ云フコトカラシテ、卽チ無
罪免訴ト云フヤウナモノハ起ッテ來ル
ノデアリマスカラ、本法ヲ出シタノハ、
本法ニ依ッテ賠償スルニアラズ、本法ヲ
出スコトニ依ッテ益〓檢事自身ガ起訴ヲ
愼ミ、又司法監督ノ任ニアラセラレル
人々ニ於カレテ、十分ニ監督ヲセラレ
テ、人權ノ蹂躪ヲセナイヤウニ、何處
マデモ十分ニ搜査ヲ致シテ、起訴ト云
フコトニ付テ愼重ノ態度ヲ執ラレルニ
於テハ、決シテソレ程澤山ノ金ガ要ル
モノデハナイ、國家ニ金ダ積ンデアル
カラ、幾ラデモ勾留ヲシテモ、起訴ヲ
シテモ國家ガ賠償シテヤルト云フヤウ
ナ態度ニ出ルベキモノデハナイ、是ハ
當然出テ來ルモノデナク、官吏卽チ起
訴權ヲ持フテ居ル者ガ起訴ヲ愼ミサヘ
スレバ、一件モ出テ來ズニ濟ムモノデ
アリマスルガ故ニ、何モ國ノ財政ガ許
サヌトカ、彼此レ言フノハ理由ニナラ
ヌト思ヒマス、世界各國ノ統計ニ依ツ
テモ、之ニ付テソンナニ澤山金ハ要ッテ
居ナイ、而モ賠償法ト云フモノハ大變
ニ廣イ範圍ニ於テ行ハレテ居リマスケ
レドモ、國家ノ賠償ト云フコトハサ
ウ行ハレテ居ナイ、現ニ泉二政府委員
カラモ、過般獨逸等ニ於テ大變ニ廣イ
所ノ賠償規定ガアルケレドモ、實際ニ
於テ賠償ヲ請求シ、賠償シタト云フヤ
ウナ事實ハナイト云フ、是ハ卽チ人權
ノ尊重ト云フコトガ非常ニ獨逸官吏ノ
頭ニシミ込ンデ居リマスルガ故ニ、サ
ウ云フコトガナイノデアリマス、我國
ニ於キマシテモ、今マデノ如ク亂暴ナ
起訴ヲスル檢事其モノニ付テハ、相當
ノ懲戒デモ致スコトニシ、又譴責スル、
廢メサセルト云フヤウナコトニ至シマ
シタナラバ、總テノ檢事ガサウ云フ風
ナ不都合ナコトヲスルノデハナイ、
部ノサウ云フ風ナル非常ニ亂暴ナル起
訴ヲスル檢事ガアルカラ、サウ云フコ
トニナルノデアリマスカラ、財政云々
ト云フコトハ、ドウモ根據ニナラヌ、
吾々ガ自働車ニ乘ルノデモ、人ヲ殺ス
カモ知レナイカラ、先ヅ賠償金ヲ銀行
ニ預金ヲシテ置カナケレバ、自働車ニ
ハ乘レヌト云フモノデハナイ、愼ミサ
ヘスレバ、サウ云フ事故ハ起キテ來ナ
イ、卽チ國家ガ起訴ヲ愼ミサヘスレバ
賠償ト云フ事件ハ起ッテ來ナイノデア
リマスカラ、政府委員ノ今ノ說明ト云
フモノハ、毫モ根據ヲ爲サヌ、又違警
罪卽決令ニ依ル所ノ勾留ニ對スル國家
ノ賠償ニ付テ、今度違警罪卽決令ガ改
正ニナルト云フト、非常ニ殖エルト仰
シヤルガ、是ガ私ハ分ラヌ、ソンナニ
殖エハ致シマセヌ、現在ニ於キマシテ
モ一松君ノ今度提出セラレテ居ル改正
ノ趣旨ニ付テハ贊成致シマスルガ、併
ナガラ現在ニ於テモ違警罪卽決令ニ
依ッテ勾留ニ處シタ者デ、正式裁判ヲ仰
グダケノ資力知識ノ無イ者ハ、必ズ警
察ニ於テ赦シテ居ルノデアリマスカ
ラ、是ハ非常ニ殖エテ來ルト宣傳サレ
テ居ルノハ間違ッテ居ル、又財政上ノ理
由ヲ以テ吾々ノ修正案ニ反對セラレル
ケレドモ、無罪免訴ノ判決ヲ受ケタコ
トヲ、之ヲ新聞ニ公告スル、是等ノ國
家ノ費用ト云フモノハ至ッテ輕少ナモ
ノデアル、私ハ一ケ年ニ一千圓モ掛リ
ハセヌト思フ、是ナドハ裁判所ノ公〓
デ致シマスルナラバ、卽チ登記事項ヲ
公〓スル新聞紙、ソレ等ノ新聞紙ト連
絡ヲ取リマスルト云フト公告費ナド
ハ極メテ少ナイモノデアル、國家財政
カラシテ、僅カノ金額デ濟ム、而モ之
ニ依ッテ無辜ノ民ガ起訴セラレテ非常
ナ損害ヲ受ケテ社會的ノ不名譽ヲ受ケ
タ、其人ニ幾分デモ囘復ガ出來ル、雪
寃ノ方法ヲ講ズルト云フコトハ、國家
トシテ當然ニ爲スベキコトデアリマ
ス、僅カノ新聞公〓費ヲ惜ンデ之ニ反
對セラルヽト云フコトハ、現司法當
局、卽チ提案者ニ於テ此補償法案ト云
フモノハ出シテオイデニナルケレド
モ實際ニ於テ斯ウ云フ所ノ無辜ノ者
ガ不當ノ起訴ニ依ッテ受ケタル不名
譽、損害、ソレヲ賠償スルト云フ親切
ハナイノデアル、唯〓社會ノ議論、輿論
ガ喧シイカラ御茶濁シニ僅ナホンノ少
シノ此規定ヲ設ケテ、サウシテ社會ヲ
欺瞞スルモノト言ハレテモ仕方ガナイ
ト私ハ思フノデアル、ソレデアリマス
カラ此點ニ付テハ、政府ニ於カレテ再
考セラレンゴトヲ希望スル次第デアリ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=12
-
013・川崎克
○川崎政府委員 一松君ニ言落シマシ
タガ、本日御修正ニナッタ分ニ付テノ政
府ノ意見ヲ求メラレタ、是ハ昨日此修
正案ガ多數デ通過致シタ場合ハ、第十
九條ノ御修正ハ補償ノ決定ヲ爲シタル
意見ヲ表明スル方法トシテ、官報ニ揭
示スルト云フコトデアリマスカラ、政
府ニ於テ異存ノナイト云フコトヲ申上
ゲタノデアリマスガ、更ニソコニ「竝
補償ヲ爲シタル旨」ト云フコトヲ附加
ヘラレルト云フコトデアリマスガ、是
ハ無論異議ノナイコトデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=13
-
014・小俣政一
○小俣委員 只今牧野サンカラ本案ニ
對スル贊成意見ヲ御提出ニナラレ、諄
諄トシテ御說明ニナラレマシテ、御要
旨ハ大體ニ於テ拜承ヲ致シマシタ、議
論トシテハ洵ニ御尤ノヤウニ感ズルノ
デアリマス、但シ世ノ中ノコトハ必ズ
シモ議論ト實際トガ一致スルモノデハ
ナイヤウデアリマス、又理想ト實現ト
ハ常ニ竝行センコトヲ望ムモノデアリ
マスルガ、是亦必ズシモ理想ト實現ト
云フコトガ竝行スルモノデハナイコト
ハ、私ハ申上グルマデモナイノデアリ
やく、例ヘバ獨逸ノ例ヲ見マシテモ、
獨逸ニ於テハ失業問題解決ノ爲ニ、失
業者ニ對シテハ失業手當ヲ支給スルト
云フ法律ガ制定ヲセラレテ居リマシ
テ、失業者ニ手當ヲ支給スルノデアリ
マスルガ、此自ラ制定シタル法律ニ縛
ラレテ、今獨逸國ハ非常ナル窮乏ニ陷ツ
テ、最早國庫ニハ失業者ニ對スル手當
ヲ支給スルダケノ金ガナイト云フ程ニ
タツ、窮乏ニ陷フテ居ル、其對策ヲ講ゼ
ントシテ居ルカニ傳ヘ聞イテ居リマ
ス、又英吉利ノ例ヲ見マシテモ、英吉
利ハ勞働運動ノ最モ盛ナ所デアリマス
ルガ、勞働黨內閣ガ成立ヲシタ曉ニ於
テハ、定メシ勞働者ノ主張デアル所ノ
總テノ抱負ガ、勞働黨內閣ニ依テ實現
ヲセナケレバナラヌ、又實現ヲスベキ
コトガ當然ノ歸結デアルト考ヘナケレ
バナリマセヌガ、其英吉利ノ勞働黨内
閣ノ下ニ於ケル失業者ガ、二百萬人ヲ
突破シテ居ル、多數ノ數字ヲ計上シテ
其失業者ガ群ヲ爲シテ居ルガ、勞働黨
內閣ガ如何ナル對策ヲ講ジテ居ルカト
檢討シテ見マスト、相變ラズ土木事業
ヲ起シテ其失業者ノ一部分ヲ救濟シテ
居ルノ外、何等ノ名案對策ガナイト云フ
コトデ、手ヲ束ネテ居ルト云フ有樣ヲ
見マシテモ、理想ト實行、議論ト實際
トハ必ズ一致スベキモノデナイト云フ
コトヲ、吾々ハ甚ダ痛感スルノデアリ
ずつ、此國家賠償法ノ精神ハ牧野君ノ
御示シニナラレタ通リ、確ニ時代精神
デアリマセウ、國民ノ翹望スル所デア
リマス、國民ノ翹望スル所デアリマス
ルガ故ニ、總テ政治モ宗〓モ〓育モ其
源泉ヲ財政經濟ニ置カナケレバナラヌ
ト云フコトハ是ハ殆ド議論ノ餘地ガ
ナイ、若シモ財政經濟ヲ離レテ論ズル
ナラバ、吾々ハ大ナル高キ理想ニ立ヲテ
幾多ノ抱負ガアルノデアリマスルカ、
如何ニ高遠ナル理想ヲ立脚點ト致シテ
思索ヲ致シマシテモ、其事ガ實行ノ可
能性ナキトキニ於テハ、三文ノ價値モ
ナイデアラウト思フノデアリマス、隨
テ此時代精神デアル國家賠償主義ノ實
現ニ當リマシテモ、吾々ハヨリ以上ノ
期待ト抱負トヲ持フテ居ルノデアリマ
スルガ、國家財政ノ狀況ニ鑑ミ、又四
圍ノ情勢ヲ參酌致シマシテ、實行ノ出
來得ルヤウナ法案ヲ認メテ行クト云フ
コトガ、最モ賢明ナ策デアラウト思フ
ノデアリマス
帝國議會ニ於ケル此種ノ問題ニ關ス
ル歷史ヲ調ベテ見マスルト云フト、昭
和四年三月二十三日、卽チ第五十六帝
國議會ニ於テ·····
[發言スル者アリ]
委員長整理シテ下サイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=14
-
015・横山金太郎
○横山委員長 靜ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=15
-
016・小俣政一
○小俣委員 宮古啓三郞君外九名ノ提
出ニ依ル刑ノ執行又ハ勾留ニ因ル補償
ニ關スル法律案ガ提出セラレマシタ、
之ニ依ッテ見ルト云フト、刑ノ執行及勾
留ニ關スル補償デアリマスルガ、其補
償ハ如何ナル方法ニ於テ與ヘルカト云
フト國家ハ命令ノ定ムル金額ヲ補償
スルト云フコトデ、甚ダ漠然タルモノ
デアリマス、又五十八帝國議會ニ於テ
私ガ提案者トナリマシテ、國家賠償法
ヲ提案ヲ致シマシタガ、同議會ハ期間
ガ甚ダ短ク、委員會ニ於テ審議スル期
間ガナカッタノデアリマスルガ、今囘政
府カラ刑事補償法案ト云フモノヲ漸ク
ニシテ提案サレマシタ、此歷史ヲ調べ
テ見マスルト云フト、宮古啓三郞君外
九名ノ提出セラレタル刑ノ執行又ハ勾
留ニ關スル法律案ト、私ノ提出シタ國
家賠償法トハ殆ド格段ノ相違ガアリマ
スルガ、政府ノ提案セラレマシタル刑
事補償案ハ、宮古君ナドノ提案セラレ
タル法律案ト、最モ高遠ナル理想ニ立
脚シテ私ガ提案シタル國家賠償法トノ
丁度中間ニ位シ、卽チ今囘ノ刑事補償
法案ハ宮古君ノ提出シタル法律案ヨリ
ハ一段ト進步シタルモノデアル、併
ナガラ私ノ提案シタル國家賠償法カラ
見ルト、甚ダ幼稚ナルモノデアリマス
ガ併シ吾々ハ主義トシテハ、議論トシ
テハ牧野君ナドノ議論ニ御贊成申上ゲ
タイノデアリマスガ、以上申上ゲマシ
タヤウナ理由ニ於キマシテ、詰リ吾々
ハ高遠ナル理想ヲ取入レテ、サウシテ
實行ノ出來ル方法ニ於テ著々進ンデ行
カウト云フノガ、吾々ノ信念デアリマ
スカラ、此信念ニ立脚シテ今囘ノ刑事
補償法案ハ甚ダ不滿足デアリ、甚ダ徹
底シナイ法案デアルコトヲ私ハ斷言致
シマス、併ナガラ是マデハ寃罪者ニ對
シテ、斯樣ナル救濟ヲスルヤウナ意味
ノ、所謂國家賠償ノ精神ヲ加味シタル
法律ト云フモノハナカッタ、無イ所ヘ先
ヅ不徹底ナガラ不完全ナガラモ、是ダ
ケノ文化的立法ガ制定サルヽト云フコ
トニ付テハ、吾々ハ甚ダ不滿足ナガラ
忍ンデ之ニ贊成ヲシテ置ク、斯ウ云フ
程度デアリマス、滿腔ノ誠意ヲ以テ贊
成スルト云フノデハアリマセヌ、已ム
ヲ得マセヌカラ、一松君ノ提出シタル
修正案ノ程度ニ於テ贊成ヲ致シ、- 日
モ速ニ是ガ法律トナッテ實施セラレン
コトヲ希望スル意味ニ於テ、一松君ノ
提出セラレタル修正案ニ同意ヲスル者
デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=16
-
017・横山金太郎
○横山委員長 一寸申上ゲマス、春島
委員カラ少シ時機ガ遲レタ感ガアリマ
スガ、政友會ノ牧野君ノ提出セラレタ
ル修正案ノ一部ニ付テ、何カ疑ガ起ッタ
カラ、御尋ヲシタイト云フコトデアリ
やす、此際之ヲ許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=17
-
018・春島東四郎
○春島委員 一寸修正ノ御意見ニ付テ
伺ッテ置キタイノデアリマス、第一ハ理
由書ノ修正ノ御意見トシテ、「賠償竝ニ
慰藉」云々ト云フ御言葉ガアッタノデア
リマス、是ハ或ハ言葉ノ爭ニナルカ知
レマセヌガ、私共ノ平生ノ見解ト致シ
マシテモ、本法案提出ノ趣旨カラ見マ
シテモ、慰藉料トシテ金錢ヲ給與スル
ト云フコトハ、賠償ノ一方法ト考ヘテ
居ル、シテ見ルト慰藉ト云フコトモ、詰
リ賠償ト云フ觀念ノ中ニ包含サレルモ
ノデハアルマイカト考ヘルノデアリマ
ス、然ルニ殊更ニ賠償竝ニ慰藉ト云フ
言葉ヲ使ハレルノハ、ドウ云フ御考デ
アルカ
ソレカラ第二ニ私共ノ方デハ給與ト
云フ言葉ヲ避ケテ、補償ト云フ言葉ダ
ケヲ殘シタノデアリマス、其賠償ト云
フ言葉ト補償ト云フ言葉トニ、ドウ云
フ差異ガアルカ、ソレヲ伺ヒタイ、私
共ハ補償ト云フコトハ結局賠償ノ一種
デアルト解シテ居ルノデアリマス、私
ハ補償ト云フ言葉ノ語源ハ分リマセヌ
ガ、我國ノ用語例ヲ色々考ヘテ見マス
ト、是モ不徹底デハアリマスガ、大體
ニ於テ法律上ノ權利ヲ侵害スルコトニ
依ッテ生ジタル損害ヲ償フ場合ニ於テ
ハ、多ク之ヲ賠償ト云フ、例ヘバ民法上
ノ不法行爲ニ依ル損害賠償、或ハ郵便
法ニ於テ物ヲ滅失シ毀損シタルコトニ
因テ生ジタル損害ヲ償フ場合、是ハ無
論權利ヲ侵害シテ居ル、デアルカラ之
ヲ稱シテ、此場合ニハ賠償ト謂フ、ソ
レカラ又敢テ法律上ノ權利ヲ侵害スル
ノデハナイ、否寧ロ法律上ノ權能ニ依ツ
テナシタル行爲デハアルガ、而モ其行
爲ノ結果トシテ、損害ヲ生ジタル場合
ニ之ヲ償フ、斯ウ云フ場合ニハ多ク此
補償ト云フ言葉ヲ使ッテ居リマス、併シ
是モ決定シテハ居リマセス、例ヘバ徵
發令ニ依ヲテ徵發ヲ致シテ、之ニ依ッテ
生ズル損失ヲ補償スル場合ニハ之ヲ
賠償ト云フ言葉ヲ使フ、併ナガラ例へ
バ公用徵收法ニ依ッテ公用徵收ヲス
ル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=18
-
019・横山金太郎
○横山委員長 春島君ドウカ簡單ニ願
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=19
-
020・春島東四郎
○春島委員 サウ云フ場合デアリマス
カラ、私共ガ給與ト云フコトヲ削ッタ
意味ハ旣ニ御諒解ニナッテ居ルト思ヒ
やっ、殊更ニ賠償ト云フ事ニ改メルト
云フ御意見ハドンナモノデアリマス
カ、此機會ニ於テ私共ノ提案ノ趣旨ハ、
賠償ト云フ意味デアルト云フ事ヲ釋明
シテ置キマス
ソレカラ第五條ノ「裁判所ノ相當ト
認ムル」ト云フ此相當ト認メルコトニ
付テ、御意見ヲ伺ッテ見タイ、是ハ此案
ノ適用ニ付テ重大ナル關係ガアルト思
ヒマス、成程今迄ノ政府當局ノ御說明
ニナッタ本案ノ大體ノ趣旨、損害賠償ノ
範圍ヲ局限シテ慰藉ト云フコトニ止メ
ルト云フ趣旨ヲ考ヘルト、裁判所モ多
少其點ヲ考慮スルコトヽ思ヒマスガ、
之ヲ「相當ト認ムル」ト云フ言葉ヲ用
ヒマス時ニハ敢テ精神上ノ損害ニ限ラ
ズ、財產上ノ損害マデモ當然考慮ノ中
ニ入レル形ニナリマス、此點ハドウ云
フ御考デアリマスカ、若シサウ云フ形
ニナルト致シマスト、今提案ニナッテ居
リマス所ノ政府ノ法案デハ足リナイト
云フ結果ニナル、此點ノ御意見ハドウ
デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=20
-
021・牧野良三
○牧野(良)委員 簡單ニ御答スルコト
ヲ御許シ願ヒマス、只今第一ノ理由書
ノ訂正ハ「賠償竝ニ慰藉ノ途ヲ講ズル」
トシテアリマス、賠償ト慰藉トノ關係
ハドウデアルカト云フコトデアリマス
ガ、是ハ左樣ナ疑問ガ生ズル虞アリト
私モ解シマシタノデ、改メテ玆デ委員
長ノ御許ヲ得テ賠償トノミ致シマシ
テ、賠償竝ニ慰藉ト竝ベルコトヲ改メ
タイト思ヒマス、私ハ出來ルダケ政府
ノ用ヒテ居ル言葉ヲ弊害ナキ限リ入レ
タイト云フ微意ニ過ギナイノデアリマ
ス、サウ云フ御疑問ガ、委員ノ而モ眞
面目ナル御質問ノ中カラ出ルコトハ御
尤モト思ヒマス、是ハ先程私ガ修正意
見ノ中ニ述ベマシタ一部修正デアリマ
ス
第二ハ補償ト賠償ノ差如何、是ハ私
差ヲ認メタクナイノデアリマス、本委
員會ニ於テ政府當局ハ賠償責任ノ原理
ニ立ツモノニアラザルガ故ニ、特ニ補
償ノ言葉ヲ明カニシテ、ソレヲ明示致
サント欲スル、斯樣ナ御答辯デアリマ
シテ、政府ハ補償ト云フ言葉ニ特別ノ
意義ヲ存シテ居ラレルコトハ明カナル
ノミナラズ、一松委員ノ修正意見ニ於
テ、本案ハ修正スルモ政府ノ意思ヲ尊
重シテ斯樣ニ修正スルノデアル、政府
ノ立法ノ精神ヲ變更スルモノニアラ
ズ、改メルニアラズト云フ御意見デアリ
マシテ、此點ニ於テ春島委員ノ意見ト
全然相違シテ居リマス、此事ハ速記錄
ニ明確ニ致シテ置キタイ、春島委員ト
一松委員トノ御意見ハ、精神ニ於テ根
本的ニ相違ノアルコトヲ殊ニ明カニシ
テ置キタイト思ヒマス
更ニ第五條ノ「相當ト認ムル」ト云
フ點ニ付キマシテ御疑念御尤モデアル
ト思ヒマス、豫算ニ關係スル場合ハ餘
程愼重ニ考慮シナケレバナラヌノデ、
私共更ニ此點ハ御協議申上ゲタイト思
ヒマスガ、若シ此法案ガ、私共ノ修正
ガ、無事ニ通過スルコトヲ得マシタナ
ラバ、施行期ガ勅令ニ委ネテアリマス
ノデ、其點ハ適當ニ考慮シテ行キタイ、
而シテ「相當」ト云フコトガ本立法ノ
適用ノ上ニ於テ重大ナル利益ノアルコ
トヲ認メマスカラ斯樣ニシタイト思ヒ
やす、而モ根本ハ私共ノ修正案デ行キ
タイガ、修正ノ程度ニ止メルト云フ所
カラ幾分讓歩シタ點ニ意思ノ不明瞭ナ
點ガアルカモ知リマセヌガ、其點ハ御
指摘ヲ蒙リマシテ、更ニ修正ヲ加ヘル
コトヲ十分雅量ヲ示シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=21
-
022・横山金太郎
○横山委員長 討論終結ニ御異議アリ
マセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=22
-
023・横山金太郎
○横山委員長 御異議ナシト認メマ
ス、討論ハ終結致シタモノト宣言ヲ致
シマス、ソレデハ是ヨリ採決ニ入リマ
ス、採決ハ成ベク原案ニ遠キモノヨリ
採ルコトニ致シマス、第一ニ牧野良三
君ノ修正案、第二ニ一松君ノ修正案、
之ニ依ッテ採決致シマスレバ、自然······発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=23
-
024・牧野良三
○牧野(良)委員 採決ノ前ニ發言ヲ致
シマス、先程私ノ修正意見ノ中ニ理由
書中「慰藉ノ途ヲ講ズルノ必要アリ」
トアルヲ「賠償竝慰藉ノ途ヲ講ズルノ
必要アリ」ト改メマシタガ、更ニ之ヲ
改メマシテ單ニ「相當ナル賠償ノ途ヲ
講ズルノ必要アリ」ト致シタイノデア
リマス-尙ホ委員ガ小野寺君ト松村
光三君ト交代ガアリマシタ、御認ヲ願
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=24
-
025・一松定吉
○一松委員 言フマイト思ヒマシタガ
今牧野君カラサウ云フヤウナコトヲ申
サレマスト言明シテ申上ゲテ置カナ
ケレバナラヌ、春島君ト私ノ意見ハ相
違シテ居リマセヌ、同ジコトデアリマ
ス速記錄ヲ御覽ニナレバ分リマスト
云フコトダケ申上ゲテ置キマス
〔「採決」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=25
-
026・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ採決致シマス
總括シテ採決致シマスカラ御許ヲ願ヒ
やす、牧野君ノ修正案ニ御同意ノ方ノ
擧手ヲ願ヒマス
〔賛成者擧手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=26
-
027・横山金太郎
○横山委員長 少數-一松君ノ修正
案ニ御同意ノ方ノ擧手ヲ願ヒマス
〔賛成者擧手〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=27
-
028・横山金太郎
○横山委員長 多數デゴザイマスー
一松君ノ修正案ハ多數ニ依ッテ可決致
シマシタ、此修正ヲ除キマシタ其他ノ
部分ハ原案通リ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=28
-
029・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ其通リ決定致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=29
-
030・牧野良三
○牧野(良)委員 私ノ提出ノ修正案ハ
之ヲ少數意見トシテ提出致シタイト存
ジマヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=30
-
031・横山金太郎
○横山委員長 ソレデハ是デ散會致シ
マス
午後一時四分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005910655X01119310220&spkNum=31
4. 会議録のPDFを表示
この会議録のPDFを表示します。このリンクからご利用ください。