1. 会議録本文
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000・会議録情報
付託議案
特別會計に於ける營繕費に關する法律案（政府提出）
特別會計の恩給負擔金を一般會計に繰入るることに關する法律案（政府提出）
賠償金特別會計法廢止法律案（政府提出）
昭和四年法律第二十六號中改正法律案（神戸商業大學移轉改築費に關する件）（政府提出）
京都高等工藝學校移轉改築費に充用したる金額の補填に關する法律案（政府提出）
製鐵所特別會計法中改正法律案（政府提出）
簡易生命保險特別會計法中改正法律案（政府提出）
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會議
昭和六年二月十七日（火曜日）午前十時九分開議
出席委員左の如し
委員長 鈴木寅彦君
理事 服部英明君
理事 枡谷寅吉君
理事 宮澤裕君
眞鍋儀十君 北原阿智之助君
淺川浩君 牛場清次郎君
西村金三郎君 高橋守平君
生方大吉君 船田中君
木村清治君 豐田收君
津崎尚武君 松山常次郎君
堀部久太郎君
出席國務大臣左の如し
大藏大臣 井上準之助君
出席政府委員左の如し
大藏政務次官 小川郷太郎君
大藏省主税局長 青木得三君
大藏省理財局長 冨田勇太郎君
大藏書記官 關原忠三君
本日の會議に上りたる議案左の如し
特別會計に於ける營繕費に關する法律案（政府提出）
特別會計の恩給負擔金を一般會計に繰入るることに關する法律案（政府提出）
賠償金特別會計法廢止法律案（政府提出）
昭和四年法律第二十六號中改正法律案（神戸商業大學移轉改築費に關する件）（政府提出）
京都高等工藝學校移轉改築費に充用したる金額の補填に關する法律案（政府提出）
製鐵所特別會計法中改正法律案（政府提出）
簡易生命保險特別會計法中改正法律案（政府提出）発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=0
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001・鈴木寅彦
○鈴木委員長 ソレデハ是ヨリ會議ヲ
開キマス、質問ガ留保ニナッテ居リマス
松山君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=1
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002・松山常次郎
○松山委員 井上大藏大臣ニ質問ヲ致
シテ御答辯ヲ願ヒタイト思ヒマス、今
日ノ不景氣ハ世界的不況ノ影響ト、金
解禁ノ影響ヲ受ケテ居ルモノデアルト
云フコトハ、一般ニ考ヘテ居ル所デゴザ
イマス、政府ハ大抵ノ所デ世界的ノ不
況ノ影響ダト云フコトノミヲ答ヘテ居
ラレルヤウデアリマスケレドモ、ソレダ
ケデハ國民ハ滿足シナイノデゴザイマ
ス、此問題ハ國民生活ニ非常ニ重大ナ
ル關係ヲ持ッテ居ル事デゴザイマスル
カラ、曖昧ニ此問題ヲ過シテハ私共野
黨トシテ國民ニ相濟マヌ譯デゴザイマ
ス、此問題ヲ出來ルダケハッキリサセタ
イト云フコトガ、私ノ質問ノ目的デゴ
ザイマス、ソレデ此不景氣ト重大ナ關
係ニアリマスル貨幣價値增加ノ問題ニ
付テ、勿論是ハ正確ナルハッキリトシタ
モノヲ答ヘルコトハ非常ニ困難ナ事デ
アリ、又恐ラク出來ナイデアラウト思
ヒマスルガ、〓數デ宜シウゴザイマス
カラ、シッカリシタモノヲ握リタイト云
フコトガ、私ノ御尋ヲスル目的デアリ
マス、先日モ小川政務次官ト此問題ニ
付テ色々論議ヲ致シマシタガ、未ダ私
ノ質問ニ付テ御承認ヲ得ラレマセヌ、
ソレデ私モ民政黨ノ人々ノ言フコトヲ
參酌シ、又サウ細カイ末々ノ數字ニ至ッ
テマデ自分ノ主張ヲ通サウト思フノデ
ハアリマセヌカラ、〓數デモ宜イ、シッ
カリシタモノヲ、握リタイト云フコト
カラ、小川政務次官ノ御意見モ參酌シ
テ、私ノ主張スル所ヲ組立テヽ來タ譯
デアリマス、私ノ申シマス所ヲ御承認
戴ケルカドウカ、大藏大臣ノ御意見ヲ
後デ承リタイト思ヒマス、昭和四年七
月二日濱口內閣成立當時ニ於ケル對米
爲替相場ハ四十四弗八分ノ一デ、昭和
五年一月十一日金解禁ノ日ニ於ケル對
米爲替ハ四十九弗四分ノ一デアリマ
ス、故ニ六箇月ト十一日間ニ日本ノ貨
幣ノ對外價値ハ一割一分六厘增加シテ
居ルコトニナルコトハ、小川政務次官
ガ此間御話ニナッタ通リデ、此計算ヲ御
承認下サルコトト思フノデアリマス、
ソレデ先ヅ對米關係ヲ考ヘテ見タイト
思フノデアリマス、昭和四年六月カラ
昭和五年末マデニ米國ノ物價指數ハ二
十二「パーセント」低下致シテ居リマ
ス、故ニ昭和四年七月ノ二日ニ、米國
デ四十四弗八分ノ一ニ賣レル品物ニ對
シテ、我國ニ於テハ百圓ノ金ガ受取レ
ル是ハ理論上ノ〓究デゴザイマスカ
ラ、事ヲ簡單ニスルガ爲ニ運送賃トカ
金ノ輸送料トカ云フモノハ總テ省略ス
ルコトニ致シマス、米國ニ於テ物價指
數ガ二十二「パーセント」低下シテ居リ
マスルカラ、先ノ品物ハ昭和五年ノ末
ニハ三十四弗四十一仙ニテ買フ時ニ米
國人ニハ同ジ負擔ニ、ソレガ感ズルコ
トニナルト思フノデアリマス、其三十
四弗四十一仙ヲ今日ノ爲替相場ニ換算
致シマスルト、六十九圓八十八錢トナ
リマス、卽チ昭和四年七月ノ二日ニハ
百圓受取レタモノガ今日六十九圓八十
八錢受取ルコトニッナテ、日本人ニ取ッ
テハ三割零分一厘ダケ物價ガ下落シタ
ト云フコトニナル、卽チ今日之ヲ濱口
內閣成立當時ニ較ベマシテ、日本ノ品
物ヲ三割零分一厘ダケ下ゲテ之ヲ米國
ニ輸出スルナラバ、對米貿易ハ昭和四
年七月二日頃ノ舊態ヲ持續スルコトガ
出來ルノデアリマス、此三割零分一厘
ト云フモノハ申スマデモナク、吾々ガ
謂フ外國不況ノ影響ト金解禁ノ影響ト
ノ加ハッタモノデアリマス、其中デ金解
禁ノ影響ガ先申シマシタ一割一分六厘
デ、金解禁ノ影響ハ物價下落ノ、卽チ
三割八分ニ當ル、三割零分一厘ニ對シ
テ金解禁ノ影響ガ一割一分六厘デゴザ
イマスカラ、三割八分ニ當ル、斯ウ私
ハ考ヘマスガ、先ヅ此事ヲ御承認下サ
イマスカ御意見ヲ承リタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=2
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003・井上準之助
○井上國務大臣 私ハ松山君ニ御答ス
ル前ニ、私自身ノ考ノ根據ヲ簡單ニキ
メテ申上ゲテ置クコトガ宜シイト思ヒ
マスカラ、御許ヲ願ッテ申上ゲテ置キマ
スガ、爲替相場ガ其國ノ物價ニ響クノ
ハ二通リアリマス、爲替相場ガ一割下
レバ、必ズ一割物價ガ下ルモノハ、外國
カラ來ルモノハサウ變リマス、併ナガ
ラソレガ日本全體ノ物價ニドレダケ響
クカト云フコトハ、數字デハハッキリ致
シマセヌノト同時ニ、是ハ時ニ依リマ
ス、時ガ掛リマス、隨テ私ガ自分ノ道
理ヲ申上ゲマスト、七月二日ノ爲替相
場ガ假ニ一割何分下ッテ居ッタ、斯ウ致
シマシテモ其爲替相場ノ下ッタノハ、前
ノ年ノ昭和三年ノ十二月位カラ六分ハ
下ッテ居ルノデアリマス、隨テ昭和三年
十二月末ニハ一割二分下ッテ居ッタト雖
モ六分シカ下ッテ居ラヌト云フ事情デ
アリマス、隨テ七月二日ノ爲替相場ガ
一割二分下ッテ居ルト云ヘバ、外國カラ
來ルモノハ皆物ノ値段ガ違ッテ參リマ
ス、併ナガラ日本全體ノ物價ニハ、日本
ノ爲替相場ガドレ位ノ割合デ下ッテ居ッ
タカト云フコトニ依ッテキマルノデア
リマス、サウ御承知ヲ願ッテ、今ノ問題|米爲替ノ騰貴シタコトヽ
ニ御答シタイト考ヘマス
日本ノ爲替相場ノ下リマシタノハ
大體申スト十一年カラ下ッタノガ主ニ
下ッテ居リマス、大正九年、十年、十一
年ト日本ニ恐慌ガ來マシテ、サウシテ
外國ニアル金ガ段々ナクナッテ來ル輸
入ガ殖エルカラ、段々手許不如意ニナ
ルカラ、爲替ガ段々下ッテ、十二年ニナ
リマシテ、地震ノ爲ニ極端ニ下ッタノデ
アリマス、隨テ外國カラ來ルモノハ直
接ニ下ルガ、爲替相場ノ下リガ日本內
地ノ全體ノ物價ニドレ位響イテ居ルカ
ト云フコトハ數字デハ中々困難デア
リマス、併ナガラ其年代ヲ通ジテ勘定
致シマスト、吾々ハ大體日本ノ物價全
體ニ六分乃至七分位ハ響イテ居ルダラ
ウ、斯ウ考ヘテ居ルガ、是ハ數字的デ
ハアリマセヌケレドモ、マア大體學者
ナリ、或ハ此事柄ニ付テ深ク趣味ヲ持ツ
テ〓究シテ居ル人ガ斯ウ申シテ居ルノ
デアリマス、隨テソコデ爲替相場ガ一
割二分下ッテ居ッテモ、日本全體ノ物價
ニ付テハ六分シカ響イテ居ナイト云フ
コトヲキメテ掛ッテ置キタイノデアリ
じろ、其數字的ノ根據ハ別ニシテサウ
考ヘテ居ルノデアリマス
ソコデ今ノ如キ問題ガ其處ニ出テ參
リマスガ、亞米利加ノ物價ガ二割二分
下ッテ居ル、ソレナラバ直グニソレヲ對
結付ケテ考ヘ
テ宜イカ惡イカト云フト、私ハ正シク
ナイト思ヒマス、何故カナラバ物價ノ
下リ方ガ、亞米利加ニ於キマシテハ棉
トカ穀物ノヤウナモノハ極端ニ下ッテ
居ル、下ラヌモノモアリマス、ソレヲ平
均シテ二割二分下ルノデアリマス、棉ノ
如キモノハ殆ド五割モ下ッテ居リマス、
其ノ五割下ッタ亞米利加ノ棉ガ日本ニ
何億ト來ル、斯ウ申シマスト云フト亞
米利加ノ物價ガ二割二分下ッタ其割合
ヨリモ、棉ガ日本ニ來ル爲ニ、日本ノ物
價ニ影響スル所ハ非常ニ大キイト斯ウ
考ヘルノガ當然ダラウト思ヒマス、ソレ
デ物價指數ガ二割二分下ッタカラ、世界
ノ影響ガ日本ニモ二割二分及ブ、斯ウ
御考ヘニナルコトハ、ソレハ實際ニ於テ
ハ非常ニ違ヒマスノデ、假ニ反對ニ日
本ニ來ナイモノガ亞米利加デ物價ガウ
ント下ッテ、日本ニ直接輸入スルモノガ
下リ方ガ少イト見マシタナラバ、ソレハ
私ハ世界ノ不景氣ガ多少アッテモ、輸入
品ノ爲ニ日本ノ物價ニ響クコトハ少イ
ト思ヒマス、併ナガラ只今申上ゲル如
ク、日本ニ最モ重要ナル輸入品ノ棉ガ五
割モ下ッテ居ルト見マシタナラバ、亞米
利加ノ二割二分ノ物價指數ノ下ッタコ
トヲ以テ、日本ニ二割二分ホカ世界ノ
物價下落ハ影響シテ居ラヌト御覽ニナ
ルコトハ私ハ非常ナ誤デアラウト思ヒ
マス、隨テ只今御話ノ如ク、世界ノ不景
氣ガ日本ニ及ンダ、亞米利加ハ二割二
分ホカ物價ガ下ッテ居ラヌノニ、ソレヨ
リ以上ニ日本ノ物價ハ下ッテ居ルヂヤ
ナイカ、斯ウ云フ御話ニナリマスト、
私ハ其推論ニハ御賛成出來ナイノデア
リマス
ソレカラ一番前ニ歸リマシテ、日本
ノ今日ノ不景氣ハドウ云フ事デアル
カ、斯ウ申サレマスト、私ハ斯ウ何時
モ申シテ居リマス、七月ノ二日カラ金
ノ解禁ノ準備ヲシタ爲ニ、假ニ爲替相
場ガ一割-是ハ取方デ非常ニ違ヒマ
ス、吾々ガ金解禁ノ準備ヲスルコトヲ
發表シタノハ七月二日デハナイノデア
リマス、其後デアリマスカラ、取方ニ
依ッテ多少違ヒマスガ、例ヘバ一割一
分六厘、松山君ノ擧ゲラレタヾケノ爲
替相場ガ假ニ下ッテ居ッタト致シマス、
サウ致シマスト、七月カラ一月十一日
マデ段々爲替相場ガ下ッテ居ッタ、ソレ
ナラバ日本ノ物價ニドウ響イテ行ッタ
カト斯ウ申シマスト、外國カラ輸入ス
ルモノハ一割一分六厘正確ニ響イタト
云フノガ理論デアリマス、併ナガラ日
本ノ物價ノ指數ハドレダケ下ッタカト
申シマスト、其時ハ八分何厘シカ下ッテ
居リマセヌ、卽チ外國カラ直接來ルモ
ノハ一割一分六厘、松山君ノ例ニ依ル
ト下ッテ宜イ譯デアルガ、併ナガラソレ
ガ日本ノ全體ノ物價ニ影響スルノハ、
先刻私ガ申ス通リ、ソレ程ハ影響シテ
居ラヌノデアリマス、ソレデ日本ノ物
價指數ハ八分何厘シカ下ッテ居リマセ
ヌ、ソコデ先刻私ガ理論的ニ申上ゲタ
實例ガ此處ニ出テ來テ居ルト申シテ宜
カラウト思ヒマス、ソレナラバ八分何
厘ト云フモノハ爲替相場ノ上リノ爲ニ
來タ影響デアル、ソレナラバ二割七分
今日ハ物價ガ下ッテ居ルガ、二割七分ノ
中カラ八分ダケ引イタアトノモノガ全
部世界ノ不景氣ノ影響デアルカドウカ
ハ數字的ニハハッキリシナイノデア
ル、併ナガラ大部分ハ世界ノ不景氣ノ
影響ト申シテ宜シイト私ハ何時モ申シ
テ居リマス、又今日モサウ考ヘテ居ル
ノデアリマス、尙ホ脫ケテ居ル所ガア
リマシタラ、重ネテ御質問ニ依ッテ御答
申上ゲマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=3
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004・松山常次郎
○松山委員 今大藏大臣ノ御話ニナッ
タ事ト私ノ考ヘテ居ル所ハ少シモ違ヒ
マセヌ、私ハ今部分ヅツヲ固メテ行カ
ウト思ッテ話ヲシ掛ケタノデアリマス
ガ、ソレデハ私ノ議論ノ全體ガ御諒解
ナイヤウデアリマスカラ、私ノ議論ノ
全體ヲ一度御話ヲ致シマスルカラ、ソ
レデ御判斷ヲ得タイト思ヒマス、ソレ
ヲ言フ前ニ、今申シマシタヤウニ、米
國ノ例ヲ御取リニナリマシタガ、私モ
ソレハ同感デス、ハッキリト其數字ヲ摑
メルモノヂヤナイ、併ナガラ私共ハ成
ベク安全ナ方法ヲ執ッタ所ニ於テ、〓數
デ宜シイカラハッキリシタモノヲ握リ
タイ、卽チ米國カラ來ルモノハ-多
クハイッテ來ル棉花ノ如キモノハ五割
モ下ッテ居ルノデアルガ、ソレヲ一ツ
取ッテハイケナイカラ、物價指數ヲ取ツ
テ、大體二割二分米國デ下ッテ居ルナ
ラバ、此日本ノ對米貿易品ニ於テ大體
ソレダケ下ルモノトシテ理論ヲ進メ
テ行キタイ、斯ウ云フ私ノ考デアリマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=4
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005・井上準之助
○井上國務大臣 其處ガ私ガ只今說明
致シマシタ如ク、亞米利加ニ日本カラ
出ルモノ、亞米利加カラ日本ニ來ルモ
ノソレト亞米利加全體ノ物價ノ指數
ト云フコトハ日本ノ物價或ハ通貨價
値ノ上ルト云フコトヽハ非常ニ違ヒマ
ス、ソレヲ二ツニ分ケテ御考ヘニナツ
テ、亞米利加ノ物價下落ガ日本ニドレ
ダケ及ンデ居ルカト云フコトヲ御考ヘ
下サラヌト非常ニ違ヒマス、或國ガア
リマシテ、其處ノ物價ガドンナニ下ッ
テ居ッテモ、日本カラ物ガ行カズ、其處
カラ日本ニ物ガ來ナカッタナラバ、其物
價下落ハ影響ガアリマセヌ、然ルニ其處
ノ物價ガ同ジ下ッテモ、他ノ物ハ下ラズ
ニ、日本ニ來ル物ガ餘計下ッテ居ッタラ
が其國ノ物價下落ト云フモノハ物價
指數ヨリカウント影響致シマス、其處
ニ非常ニ區別ガアリマスカラ、大體其
國ノ物價下落ノ程度ヲ取ッテ、日本ニ直
接ソレガ影響ガアルトカナイトカ云ツ
テ數字的ニ御議論サレルコトハ、根本
ニ於テ非常ニ違フト思ヒマス、其處ノ
所ハハッキリ致シテ居ルダラウト考ヘ
テ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=5
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006・松山常次郎
○松山委員 兎ニ角私ノ議論ノ全體ヲ
話シテ、其上デ御判斷ヲ願ヒマス、サ
ウシナイト部分ヲ捉へテ言フト、不必
要ナ議論ヲ多クシナケレバナラヌコト
ニナリマスカラ······
次ニ私ノ考ヘタイノハ、對支關係デ
ゴザイマス、是ハ日本ノ貿易ニ一番關
係ノ多イノハ、米國ト支那トデゴザリ
マスルカラ、其意味ニ於テ對支關係
ヲ私ハ次ニ考ヘタイト思ヒマス、昭和
四年ノ六月カラ-是ハ一寸御斷リ致
シテ置キマスルガ、私ノ議論ノ根據ヲ
政變當時ノ爲替相場ノ變動ノマダ起ラ
ナカッタ、卽チ六月ノ二十九日ト云フノ
デ、私ハ六月ト云フ數字ヲ多ク取ッテ
居ルノデアリマスガ、小川政務次官ハ
七月二日ニシロト云フコトデ、ソレデ
七月二日ニ改メタ關係上、統計ヲ一々
改メテ調ベルト云フ暇ガアリマセヌノ
デ、殆ド變化ガアリマセヌカラ其六月
ヲ取ッテ居リマスルカラ、サウ云フヤウ
ナ統計ナンカ取ル上ニ付キマシテ、數
ノ違ガアルコトハドウカ御承知ヲ願ヒ
やっ、六月カラ今日マデノ間ニ我國ニ
於テハ貨幣ノ對外價値ガ一割一分六厘
增加シテ居ル、然ルニ支那ニ於テハ銀
塊相場ガ二十四片カラ十三片ニ下落シ
タ、隨テ貨幣ノ對外價値ハ四割六分低
下シテ居ルト云フコトニナッテ居リマ
ス、故ニ此期間我國ニ比較シテ總體的
ニ支那ノ貨幣價値ハ四割八分四厘低下
シテ居ルコトニナリマス、而シテ其內
日本ノ舊平價ニ依ル金解禁ノ影響ハ一
割一分六厘デアリマスルカラ、此全體
ノ影響ニ對シテ金解禁ノ影響ハ二割四
分ニ當ル斯ウ私ハ見テ居ルノデアリ
マス、之ニ依ッテ昭和四年七月ノ貿易狀
態ヲ持續スル爲ニ、我國ヨリ支那ニ對
シテ送ルモノハ四割八分四厘ダケ物價
ヲ下ゲテ支那へ輸出ヲスレバ、丁度濱
口內閣成立當時ノ貿易狀態ヲ持續スル
コトガ出來ルト云フコトハ、理論上サ
ウナルト思フノデアリマス、或ハ支那
ノ商品ハソレダケ安ク我國ニハイッテ
來ル筈デアリマス、而シテ其內二割四
分ダケハ、日本ノ金解禁ノ影響ヲ受ケ
テ居ルモノデアルト云フコトガ出來ル
ト思フノデアリマス、是ダケノコトヲ述
ベテ置キマシテ、我國ノ貨幣ノ金解禁
ニ依ル對外價値ノ變化ガ、物價低落ニ
及ボス影響ヲ算定シタモノガ今申シマ
スルヤウニ、米國ニ對シテハ三割八分、
支那ニ對シテハ二割四分ノ影響ヲ持ツ
テ居ルモノデアルト思フ、斯ウ云フコ
トヲ今計算シタノデアリマスガ、之ヲ
元ト致シマシテ、次ニ私ノ話ヲ進メテ
參リタイト思フノデアリマス
私ノ玆ニ算定ヲ致シタイト思ヒマス
ルコトハ、是カラ貨幣ノ對外價値ニ移ツ
テ來ルノデアリマス、今申シマスルノ
ハ、私ノ話ヲスル目的ヂヤナカッタ、此
對外價値ニ於テ-日本ノ貨幣ノ對內
價値ニ於テ、我國ノ物價指數ハ昭和四
年七月ニ二割七分五厘低落シテ居ル、
而シテ此中對米貿易品ノ物價ハ、三割
零分一厘ダケ低下シテ居ル筈デアリマ
ス、對支貿易品ハ四割四分八厘低下シ
テ居ル道理デアル、是等ノ外、對外貿
易品ハ物價低落ヲ見マスルケレドモ、純
國內的ノ商品-下駄トカ、漬物トカ
云ッタヤウナ純國內的ノ商品ハ爲替相
場ガ變化シタカラト云ウテ、直チニ低
下スルモノデハアリマセヌ、或ル期間
ノ中ニ漸次低落ヲ見ル筈デアリマス、
ケレドモ、外國貿易品ノ如ク顯著ニ其
低落ヲ示スモノデハアリマセス、ソレ
ガ爲ニ今申シマスルヤウニ外國貿易ノ
物ニ於テハ、其低下ガ或ハ對米貿易ニ
於テハ三割零分一厘、對支貿易ニ於テ
ハ四割四分八厘ト云フヤウナ數字ガア
ルニモ拘ラズ、日本ノ全平均ノ低落シ
タル物價指數ガ、先ニ申シマシタヤウ
ニ、二割七分五厘ト云フコトニナッテ居
ルノデアリマス、此日本ノ物價指數ノ
低落ガ二割七分五厘ニ日本ノ通貨ノ價
値ヲ引上ゲタ、卽チ舊平價ニ依ル金解
禁ヲヤッタ結果ガ、ドレダケ影響ヲシテ
居ルカト云フコトヲ見ルノガ、私ノ今
カラ御話ヲスル目的デアリマス、前ニ
申シマシタヤウニ、此對米貿易品ノ低
落ハ三割零分一厘デアリマシテ、其三
割八分ハ金解禁ノ影響デアル、對支貿
易ノ低落ハ四割四分八厘デアッテ、其中
ノ二割四分ト云フモノハ金解禁ノ影響
デアル、ソコデ此日本ノ貿易ニ一番關
係ノ深イ、對米對支ノ平均ニ、此貿易
ノ量ト云フモノヲ乘ジテ出タ平均ヲ
取ッテ見タイト思フノデアリマス、此貿
易ノ-私ノ數字ハ少シ古イノデアリ
マスガ-私ノ手許ニ於テ調べ得タ數
字ヲ此處ニ持ッテ來テ居ル、對支貿易
ー昭和三年度デス-輸出ガ四一·
八九「パーセント」、輸入ガ二八·八「パ
ーセント」デアリマス、對支貿易ハ輸
出ガ一八·九二一「パーセント」、輸入ガ
一九·六八「パーセント」デス、ソコデ
兩方ヲ合セマシテ、平均ヲ取リマスル
ト.對米貿易ハ平均三〇·一八「パーセ
ント」對支貿易ガ一八·八「パーセント」
ニナリマス、此三〇·一八「パーセン
トレニ先ノ三割八分ヲ掛ケ、對支貿易
ノ一四·八「パーセント」ト云フモノニ
二割四分ヲ掛ケテ、ソレヲ加ヘタモノ
ヲ此兩方ノ三〇·一八「パーセント」一
四·八「パーセント」ヲ加ヘタモノデ割
ルト、三割四分ト云フモノガ出テ來マ
ス、之ヲ大體ニ日本ノ外國貿易品ニ對
スル金解禁ノ影響ト見タイト思フノデ
アリマス、勿論ハッキリシタ外國貿易品
總テノモノニ對スル金解禁ノ影響ト云
フモノハ國々ニ依。ッテ違フ、品物ニ依ツ
テ違フノデアリマスカラハッキリシタ
數字ハ得ラレマセヌケレドモ、〓念的
ニ私共ハ其數字ヲ摑ミタイト思フノデ
アリマス、相當ニ根據ノアル數字ヲ摑
ミタイト云フ意味ニ於テ、對支貿易ト
對米貿易ニ對スル影響ノ平均ヲ以テ對
外貿易品ニ對スル金解禁ノ影響ト見タ
イノデアリマス
私ノ御話シ致シタイト思ヒマスルコ
トハ、前ニ申シタ二割七分五厘ト云フ
此日本ノ物價指數ノ低落、其モノヽ中
デ其モノニ對スル金解禁ノ影響、對外
貿易品ニ對スル金解禁ノ影響ハ三割四
分デアリマスカラ、此日本ノ物價ノ低
落二割七分五厘ニ對シテ、ソレダケノ
金解禁ノ影響ガ三割四分ダケ來ルモノ
ト計算致シマスト、九分四厘ト云フモ
ノガ出テ參リマス、卽チ二割七分五厘
ノ中デ九分四厘ダケハ金解禁ノ影響デ
アル、先程大藏大臣ハ大體六分カ七分
ト見テ居ル、世間ノ一般ノ人ハ金解禁
ノ影響ガ六分カ七分ト見テ居ルト云フ
御話デスガ、私ノ計算ニ依リマスト九
分四厘ト云フモノガ其計算ノ結果出テ
來ルノデアリマス、卽チ二割七分五厘
ノ中デ其中ノ九分四厘ト云フモノガ金
解禁ノ影響デアル、斯ウ云フヤウニ見
タイト思フノデアリマスガ、此私ノ計
算ノ立テ方ニ付テ大藏大臣ノ御意見ガ
アリマシタラバ伺ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=6
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007・井上準之助
○井上國務大臣 少シ私ニ理解シ兼ネ
ル所ガアリマスガ、松山君ハ亞米利加
ノ方ハ物價低落ノ指數ヲ御取リニナツ
テ、恐ラクハ支那ノ方ハ物價低落ノ狀
況ハ調査ガナイカラ御分リニナラヌデ
アリマセウガ、銀ノ下落ヲ御取リニナ
ル、其處ニ兩者ヲ對照サレル所ニ私ハ
大ナル差ガアルト思ヒマス
假ニ申シマスルト、亞米利加ト日本
ノ間ハ金ノ純金ノ價値ヲ一〓ニシテ置
イテ、ソレカラ物價低落ノ割合ヲ計ツ
テ、日本ハ二割七分トカ、亞米利加ハ
何割ト斯ウ見テ居ルノデアリマス、卽
チ貨幣價値ハ純金同量ノモノガ同價格
ト見テ爲替ガ上ッタトカ下ッタトカ申シ
テ居リマス、支那ノ方ハ今御說ノ如ク
支那ノ銀貨ハ變動ノ常ナイモノデアリ
マシテ、一種ノ物品デアリマス、隨テ
日本ノ爲替相場ト支那ノ爲替相場トノ
比較對照ハ直チニ物價ニハ關係致シマ
セヌ、支那ノ銀貨ノ下落ガ支那ノ如何
ナル物價ニ變動ヲ來シテ居ルカト云フ
コトヲ御調ニナラズニ置イテ、サウシ
テ兩者ノ何割ヲ對照サレルコトハ、私
ハソレハ亞米利加ト日本トヲ對照サレ
ル割合トハ大變其處ニ違ッテ來ルト考
ヘテ居リマス
對支貿易ノ如キモノガ、日本ノ金解
禁ガ何割、支那ノ銀ノ下リガ何割ト斯
ウ云フヤウナコトハ議論トシテモ適要
ガ仕憎イノデアリマスガ、現在ノ事情
ト致シマシテモ、御承知ノ如ク支那ノ
內亂ガドウトカ、或ハ何ガドウトカ、此
關稅ノ協定ガドウトカト云フ、種々樣
樣ノ事ガ其處ニハイッテ居リマシテ、餘
程其對照ハ困難ダト私ハ考ヘテ居リマ
ス、隨テ支那ト日本トノ間ノ貿易ノ結
果ヲ、銀ガ幾ラ下ッタ、爲替相場ガ幾
ラドウナッタカラ、ドウナルベキモノ
ダ、斯ノ如キ實數ガ出テ來タラ、是ガ
ドウト斯ウ云フコトハ私ハソレガ正シ
イカドウカ餘程疑問ヲ持ッテ居リマス
併シ亞米利加ノ方ニ於テ議論サレタ
コトハ私ト多少ノ根柢ノ數字ハ違ヒマ
スケレドモ、今御說ノヤウナコトデ宜
シカラウト思ッテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=7
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008・松山常次郎
○松山委員 委員長ニ此事ヲ私ハ御願
致シテ置キマス、只今私ノ方ノ理事ノ
喜多君カラ成ベク質問ハ今日デ終ルヤ
ウニ、斯ウ云フコトデ私モ成ベクサウ
云フ風ニ致シタイト思ヒマス、併ナガ
ラ今私共ノ論ジテ居ル事ハ極メテ大切
ナ事デ、日本ノ國民生活上極メテ大切
ナ事デ、六千萬國民ガ等シク望ンデ居
ル所デアリマス、故ニ是ハ知識ノ限リ
ヲ盡シテモ、ドウシテモ此問題ハ攻究
シナケレバナラヌ問題デアリマス、故
ニ私ハ此問題ガ明カニセラレナイ以上
ハ私ハ假令委員長ノ御求メデアリマ
シテモ、私ノ方ノ理事ノ何デアッテモ
私ノ質問ハ打切ルコトハ出來ナイノデ
アリマス、此事ヲ委員長ニ御斷リヲ致
シテ置キマス
ソコデ井上大藏大臣ニ申上ゲマス、
井上大藏大臣ノ御意見ニ對シテハ私ハ
其考ニ少シモ矛盾シテ居ル所ハアリマ
セヌ、デ亞米利加ノ物價指數ヲ直チニ
對外的ノ卽チ對日的ノ物價ノ變動デア
ルト云フコトハ、ソレハ正當デナイト
云フコトハ大藏大臣ノ御話ノ通リデア
リマス、詳細ニ申シマスルナラバ、日
本ニ來ル棉花トカ、機械トカ、鐵トカ、
總ベテノ物ニ對シテ其低落ト其量トヲ
掛ケタモノデ、決定スベキモノデアリ
マスケレドモ、ソレハ政府デ以テ其委
員ヲ拵ヘテ計算スレバ出來ヌコトハア
リマスマイケレドモ、私トシテハソレ
ハ容易ニ出來ナイ、故ニ私共ノ初メカ
ラ申シマスヤウニ〓數ヲ握ル意味ニ於
テ、大體亞米利加ノ物價指數ノ變化ト
云フモノヲ對日貿易ノ其價格ノ變動、
對外的ノ價格ノ變動ト見テ議論ヲ進メ
タイト私ハ言フノデアリマス、ソレデ
亞米利加ノ場合ニ於テハ其物價指數ノ
變化ヲ對日貿易ノ物價ノ變動ト看做シ
テ、サウシテ物價低落ノ量ヲ定メテ、
ソレニ對スル日本ノ舊平價解禁ノ影響
ヲ調ベヤウ、ソレカラ支那ノ方ハ大藏
大臣ガ言ハレル通リニ物價指數ヲ知ル
ト云フコトハ困難デアリマスルカラ、
其銀塊相場ノ變動ニ依ッテ、卽チ支那ノ
貨幣價値ノ低落ノ狀況ヲ調ベテ、ソレ
ニ對スル日本ノ金解禁ノ影響ヲ加ヘテ
行クナラバ、一方ハ物價デアリ、一方
ハ貨幣價値デアリマスケレドモ、其影
響ト云フコトハ同ジコトデアリマス
私ノ知ラントスル目的ハ、此米國ノ
物價、對米貿易ニ於ケル物價下落ニ、
日本ノ金解禁ガドレダケノ影響ヲシテ
居ルカ、支那ニ對スル此貨幣ノ-支
那ト日本トノ間ノ相對的ノ貨幣價値ノ
變動ニ、日本ノ金解禁ノ影響ガドレダ
ケ及ンデ居ルカト云フコトヲ見マスレ
が、一方ハ物價デアリ、一方ハ貨幣價
値デアリマスルケレドモ、此對外的ノ
意味ニ於テハ、ソレハ私ハ日本ノ對外
的ノ物價ノ變動ニドウ影響シテ居ルト
言フノヂヤナイノデス、對外的ノ物價、
或ハ價値ニ對スル日本ノ金解禁ノ影響
ヲ調ベルナラバ、別ニ私共ノ〓究ノ目
的ニハ、性質ハ違ヒマスケレドモ、其
影響ト云フモノニ於テハ差支ハナイト
私ハ考ヘテ居ルノデアリマス、サウシ
テ其對外的ノ日本ノ金解禁ノ影響ヲ算
定シテ、ソレヲ移シテ日本ノ此對外的
ノ物價ノ變動、卽チ二割七分ノ低落ト
云フモノニ金解禁ノ影響ガドレダケ及
ンデ居ルカト云フコトヲ算定シタイ、
是ガ私ノ議論ヲ進メル路デアリマスル
カラ、今大藏大臣ノ申サレタコトニ付
テハ、私ハ能ク其事ハ分。ッテ居リマス
ルケレドモ、私ノ此〓究ノ仕方ハ敢テ
差支ハナイ、理論上差支ハナイモノト
私ハ考ヘルノデアリマス
若シ大藏大臣ガ其程度ニ於テハ色々
御意見モゴザイマセウ、又其數字ノ紬
カイ所ニ於テハ、ソレガ正確デアルト
カ何トカ云フ點ハゴザイマセウケレド
モ大體ノ〓數ヲ握ッテ、此私共ノ〓念
ヲ造ル上ニ於テ九分四厘-日本ノ金
解禁ガ、物價ノ低落二割七分五厘ト云
フモノニ及ボス影響ガ、サウ云フ其九
分四厘、卽チ三割四分ニ當ルモノダト
云フコトヲ御承認下サリマスナラバ、
此議論ハ是デ打切ッテ、次ノ質問ニ移リ
タイト思フノデアリマス、勿論是ハ〓
數デ宜シイノデアリマス、〓念デアリ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=8
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009・井上準之助
○井上國務大臣 御承知ノ如ク二割七
分五厘ノ物價ガドウシテ出來テ居ルカ
ト申シマスト、輸出品ノ價格ガ下ッタ、
其下ッタコトハ爲替相場デナシニ、向フ
ニ今マデ十ノモノガ行キ居ッタガ、五ホ
カ行カナクナッタ、所謂向フノ輸出先
ガ不景氣ノ爲ニ物ヲ半分ホカ買ハナク
ナッタ時ハ、其買フ半分ハ同價格デア
リマシテモ、日本デ半分ホカ物ガ賣レ
ナクナルト、日本內地デハ其物價ハ下
リマス、ソレカラ二割七分五厘下ッテ
居ルト云フ今日ノ事情ハ、成程爲替ガ
元ニ囘復シタ爲ニ、昨年ノ一月十一日
ニハ八分何厘爲替相場ガ戾ッタ、隨テ輸
出品ニモ輸入品ニモソレダケノモノガ
影響シタ、併ナガラ段々其經過ヲ考ヘ
テ見マスト、爲替相場ハ動カナイガ、
亞米利加ニ出ス生絲ハ一遍五百圓ニ
下ッタモノガ、今ハ二百圓モ上ッテ居ル
ノハドウ云フ譯デアルカ、爲替相場ト
ハ何モ關係ナシニ日本ノ生絲ハソレ程
上ッテ居ル、サウ云フコトハ此二割七分
ノ物價ノ中ニハ歷然ト響イテ居ルノデ
アリマス、隨テ私不明ニシテ松山君ノ
ヤウナ採算ヲヤラレルコトガ果シテ道
理ノ上デ正シイヤラ正シクナイヤラ、
玆ニ御贊成申上ゲテ宜シウゴザイマセ
ウト云フコトヲ申上ゲルコトハ出來ヌ
ノデアリマスガ、併シ是ハ常ニ金解禁
ノ爲ニ一月十一日マデニ物價ガ八分何
厘下ッテ居ル、其上ニドレ位影響ガアル
カ分ラヌト、斯ウ申シテ居リマスガ、
今松山君ノ出サレタ所ヲ見ルト金解禁
ノ爲ニ九分四厘影響シテ居ル、アト
割六分ハ世界不景氣カ何カ外ノ影響ダ
ト言ハレルガ、其數字其モノハ私ガ今
マデ申シテ置イタノニ對シテ違ヒマセ
ヌケレドモ、之ヲ出サレタ方法ガ善イ
カ惡イカハ私判斷ニ苦ンデ居ルノデア
リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=9
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010・松山常次郎
○松山委員 私ハ井上大藏大臣トハ今
日反對黨ノ立場ニアリマスカラ論難攻
擊ト云フコトニ自然私ノ言フコトガ行
クノデアリマスケレドモ、併シ私自身
ト致シマシテハ、此問題ニ付テ本當ノ
事ヲ知リタイノデス、〓究者デス、ダ
カラ假令反對黨ノ人ト雖モ其人ノ言フ
コトガ正シケレバ私ハソレヲ信ジタイ
ノデス、此問題ハ政黨ノ論難攻擊ノ具
ニ供スルニハ餘リニ嚴肅ナ問題デアル
ト思ヒマス、又胡麻化スコトヲ許サヌ
問題デアリマス、私ハ其態度デ此問題
ニ付テ今日マデ〓究ヲ致シテ來テ居ル
ノデアリマスガ、其意味ニ於テ井上大
藏大臣ノ御話ヲ承ッテ、別ニ私ノ考ヲ改
メル必要ハ認メナイノデアリマスケレ
ドモ、此問題ヲ此處デ論議シテヤカマ
シク言ッテ居ッテモ、私共今日ノ問題ハ
賠償特別會計ノ廢止ヲ適當トスルカシ
ナイカト云フコトヲ問題ト致シテ居リ
マスノデ、私ノ議論ヲ進メテ行カナケ
レバナリマセヌ故ニ、私ハ假令井上大
藏大臣ガ六七分ナラバ認メル、併シ君
ノ九分四厘影響シテ居ルト云フコトハ、
十分認メ兼ルト云フ御意見デアリマス
ルナラバ、ソレハサウト致シマシテ、
併シ私ハ玆ニ適當ナ複雜ナ數字ノ計算
ヲ九分四厘ノ勘定ニ致シテ居リマスカ
ラ、ソレヲ六七分ナラバ認メルケレド
モ九分四厘ナラバ認メラレヌト云フナ
ラバ、サウ云フ風ニ修正シテ戴イテモ
宜シウゴザイマスガ、今私ハ此處デ計
算ヲ改メル時間ガアリマセヌカラ、九
分四厘影響スルモノトシテ私ノ議論ヲ
進メテ見タイト思ヒマス、ドウカ其意
味ニ於テ御聽ヲ願ヒタイト思ヒマス
ソコデサウナルト次ニ私ノ御尋致シ
タイ事ハ是ハ貸借關係ニ及ボス影響
デゴザイマス、デ物價指數ハ二割七分
五厘下ッタンダ、其中九分四厘ハ金解禁
ノ影響ダト斯ウ云フコトニナリマスル
ナラバ、日本ノ貨幣ノ購買力ガ卽チ二
割七分五厘ダケ上ル、九分四厘ダケ上
ル譯デアリマス、卽チ日本ノ貨幣價値
ガ-對外的ノ價値ガ全體トシテハ二
割七分五厘、金解禁ノ影響トシテハ九
分四厘ダケ上ルコトニナル譯デアリマ
ス、サウ致シマスルト玆ニ貸借關係ニ
對シテ同ジ金額ヲ借リテ居ッテモ、借手
ハ全體トシテハ二割七分五厘ダケ損失
ヲ被リマス、金解禁ノ影響トシテハ九
分四厘ダケノ影響ヲ被ル、借手ハ損失
ヲスル、貸手ハ全體トシテ二割七分五
厘ノ利得ヲ受ケル、金解禁ノ影響トシ
テ九分四厘ダケノ利得ヲ受ケルト云フ
コト、是ハ勿論御認ニナルト思フノデ
アリマスルケレドモ、其根本ガグラツ
キマスト、今後ノ議論ヲ進メテ行キマ
ス上ニ混亂致シマスカラ、ソレヲ御承
認エナルカドウカ大藏大臣ノ御意見ヲ
伺ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=10
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011・井上準之助
○井上國務大臣 割合ハ別ト致シマシ
テ、貨幣價値ガ對外的ニ上ルト、斯ウ
云フコトハ確デアリマス、隨テ其結論
トシテ只今ノヤウナ結果ヲ生ズルコト
モ確デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=11
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012・松山常次郎
○松山委員 先日政府カラ頂戴致シマ
シタ調査ノ中デ、昭和四年六月末ノ調
ノ銀行預金ガ百二十億六千七百萬圓、
銀行ノ社債ガ二十億一千四百萬圓、會
社ノ社債二十二億九千六百萬圓、公債
ノ中金解禁ニ影響ナイ外債ヲ引キマシ
タ國內債ダケガ四十四億一千百萬圓、
地方公債二十億五千萬圓、以上ヲ合計
致シマシテ二百二十八億三千八百萬圓
トナリマシテ、卽チ銀行ノ預金、銀行
會社ノ社債、公債、地方債ノ債權ノ所
有者ヲ含ム所ノモノヲ、私ハ之ヲ總稱
シテ貨幣資本家ト云フ言葉ヲ使ヒタ
イ、金持、貨幣資本家ハ二百二十八億
三千八百萬圓ト云フ債權ヲ持ッテ居ル
譯デアリマス、私ハ此外ニ個人關係ノ
貸借ノ金額ヲ知リタイノデアリマス
ガ是ハ此間書イテ差上ゲタト思ヒマ
スガ、ソレハ頂戴シタ中ニアリマセヌ
デシタカラ、今申シマスルダケノ所デ
質問致シマセウ、貨幣資本家ハ今申シ
マスル通リ二百二十八億三千八百萬圓
ト云フ債權ヲ持ッテ居ル、ソレデ貨幣價
値ガ總體トシテ二割七分五厘對外的ニ
上ッタ結果、債權者タル貨幣資本家ハ六
十二億八千萬圓ダケ利得ヲ受ケタコト
ニナリマス、ソレカラ金解禁ノ影響ト
シテ九分四厘ダケ債權者ハ利得ヲ得タ
譯デアリマスカラ、其利得ダゲデ計算
致シマスルト、二十一億四千六百萬圓
ノ利得ヲ受ケタコトニナル譯デゴザイ
マス、借リタ側ノ方ヲ申上ゲマスルト、
銀行ノ貸出金ガ百十三億四千萬圓デア
リマス、會社ノ社債ガ二十二億九千六
百萬圓、計百三十六億三千六百萬圓ト
ナル、之ヲ私ハ大體今日ノ日本ノ產業
界ノ總借金デアルト見タノデアリマ
ス、之ニ付テ細カク色々御意見ガ出マ
スレバ私ノ意見モ申上ゲマス、併シ大
體ノ大摑ミデ宜シイノデス、私共ノ〓
究ハ······ソコデ百三十六億三千六百萬
圓ノ借金ガアル、ソレニ對シテ今申シ
マスル率ヲ掛ケマスルト、全體トシテ
ハ三十七億四千九百萬圓ダケ損失ヲ受
ケタ譯デアリマス、產業界ガソレダケ
ノ損失ヲ受ケタ譯デアリマス、金解禁
ノ影響トシテ十二億八千百萬圓ノ損失
ヲ受ケタコトニナリマス
ソコデ申上ゲタイノデアリマスル
ガ、產業界ノ受ケタル損失ト云フモノ
ハ勿論ソレニハ小サイモノモアル大
キイモノモアリマスガ、大小ノ事業家
ノ受ケタル損失ト大體之ヲ見ル、事業
資本家ト貨幣資本家ト云フモノガ玆ニ
勢力ノ均衡ヲ保ッテ居ルト致シマシテ、
濱口內閣成立以來、全體トシテ事業資
本家側ハ三十七億四千九百萬圓ダケ今
申シタ通リ損失ヲ受ケタ、貨幣資本家
側ハ六十二億八千萬圓ダケノ利得ヲ占
メタ、卽チ兩者ノ間ニハ之ヲ合セマシ
タ百億二千九百萬圓ダケノ勢力ノ差ガ
生ジテ來タノデアリマス、又金解禁ノ
影響カラ申シマスト、事業資本家側ハ
十二億八千百萬圓ノ損失ヲ受ケタノデ
アリマス、貨幣資本家側ハ二十一億四
千六百萬圓ノ利得ヲ占メタコトニナリ
マスカラ、結局之ヲ合セタ三十四億二
千七百萬圓ノ勢力ノ差ヲ生ジテ來タノ
デアリマス、卽チ全體ト致シマシテ事
業資本家ト貨幣資本家トノ間ニ百億二
千九百萬圓ノ勢力ノ差ヲ生ジ、金解禁
ノ影響ト致シマシテ三十四億二千七百
萬圓ノ勢力ノ差ヲ生ジテ來タノデアリ
やっ、貨幣資本家ノ方ハ得ヲシテ事業
資本家ノ方ハ損ヲシタノデアリマスカ
ラ、事業資本家側ガ貨幣資本家側カラ
壓迫サレルト云フコトハ當然デアリマ
ス、卽チ今日政府ガ申シテ居リマス事
業整理ト云フコトハ、此濱口內閣成立
以來ノ貨幣價値騰貴ノ爲ニ、其中ノ三
割四分ト云フモノハ金解禁政策ノ結
果、舊平價ニ依ル金解禁ヲ爲シタ結果、
貨幣資本家ト事業資本家ノ間ニ勢力ノ
差ヲ生ジ、其ノ均衡ヲ失ッテ、事業資本
家ガ貨幣資本家ノ爲ニ產業界カラ追出
サレル、壓迫サレテ押出サレル、所謂
事業整理ナルモノハ、此事業資本家ヲ
追出シテ產業界ノ經營權ノ大部分ヲ擧
ゲテ、之ヲ貨幣資本家ニ取ラセルト云
フ所ノ現象デアルト思フノデアリマス
政府ハ事業界ノ整理ト云フコトヲ能
ク言ハレマスガ、ソレハ此金解禁ノ結
果玆ニ三十四億二千七百萬圓ノ勢力ノ
差ヲ事業資本家ト貨幣資本家トノ間ニ
起サセテ、事業資本家ヲ此產業界カラ
驅逐スル、サウシテ此事業ノ經營權ヲ
擧ゲテ貨幣資本家ノ手ニ歸セシムルト
云フコトガ、卽チ事業整理ノ內容デア
ル私共ハ斯ノ如ク見テ居ルノデアリ
マスガ、之ニ對シテ大藏大臣ノ御意見
ヲ伺ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=12
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013・井上準之助
○井上國務大臣 松山君ノ今言ハレタ
事實ハ其通リデアリマセウガ、松山サ
ント私ガ根本ノ一ツノ御話ヲシテ見マ
スト、簡單ニ歷史ヲ申シマスト、大正
九年ニハ爲替相場ガ少シモ下ッテ居リ
マセズ、ノミナラズ大正七年ニハ爲替
相場ハ五十二弗八分ノ一マデ行ッタコ
トガアリマシテ、日本ノ爲替相場ハ亞
米利加ノ金ニ對シテ五分以上ノ騰貴ヲ
シテ居リマス、其時ニハドウカト云ヘ
バ只今アナタノ言ハレタト反對ノ現
象ヲ生ジテ居リマス、今日債務者ガソ
レダケノ不利益ヲ蒙ッテ居ルナラバ、丁
度大正四年カラ大正七八年九年マデハ
同ジク利益ヲ得テ居ルノデアリマス、
一方ニ利益ヲ得タコトガ、今度アナタ
ノ言フガ如ク債務者ト債權者ノ間ニ不
利益ニナル、ソレナラ日本ノ根本ノ建
方ハドウカト云ヘバ金二匁ガ十圓ト斯
ウ定メテ居リマシテ、所謂十圓ノ金ハ
二匁デアル、ソレハ世界何處ニ行フテモ
二匁十圓デアル、斯ウ云フ立テ方デア
ルノデアリマス、ソレガ下ッテモ上ッテ
モ常ニ債權債務ニハソレト同ジク影響
ヲ與ヘルノデアリマス、ソレナラ爲替
相場ガ下ッテ居ルト云フノハドウ云フ
コトデアルカト云ヘバ、紙幣デ云ヘバ
例ヘバ二匁ノ金ヲ十一圓何十錢出サナ
ケレバ買へナクナッテ居ルト斯ウ云フ
コトヽ同ジ事デアリマス、其處ヲ考ヘ
マスト、日本ノ貨幣法デハ二匁十圓デ
上リモ下リモセヌ、斯ウ云フコトヲ豫
期シテ居ルカラニハ債權債務ト云フモ
ノハ永久ニ損得ハナイノデアリマス、
然ルニソレガ時ニ依ッテ爲替相場ガ上ツ
タリ下ッタリスレバ、ソレガ債權債務者
ニ常ニ影響致シマス
モウ一ツノ例ヲ申シマスト、丁度五
十二弗八分ノ一ニ上ッタ時代ノコトヲ
考ヘマスト、大正三年ノ暮カ四年位カ
ラ日本ノ通貨トト云フモノハドウカト
云ヘバ三倍以上ニナッテ居リマス、百圓
ノモノガ二百七十何圓ト云フ所マデ物
價指數カラ行クト上ッテ居リマス、其時
ノアナタガ今示サレタ債權者債務者ノ
關係デ御覽ニナリマストドウカト云フ
ト、百圓デ買ヘタ物ガ二百七十餘圓出
サナケレバ買へナクナッタ、日本ノ內地
ニ於テ日本ノ貨幣價値ト云フモノハソ
レ程下ッタ、其時ノ債權債務者ヲ考ヘ
テ、サウシテ今日ノ債權債務者ノコト
ヲ考ヘテ見タラバ、所謂元ニ復ッタト云
フコトデアリマス、二匁十圓ト云フ日
本ノ貨幣價値ノ要求スル、卽チ靜止シ
タ狀態ニ變フタノデアッテ、大正三年カ
ラ今日マデハ或ル場合ハ債權者ニ非常
ニ利益デアッタ、或ル場合ニハ債務者
ニ非常ナ利益デアッタノダ、斯ウ云フ事
態ガアッタカラコソ日本ノ經濟界ト云
フモノハ變動常ナク、是デハイカヌカ
ラシテ、二匁十圓ノ動カヌ所マデ持ツ
テ來ヨウト云フノガ金解禁ノ主タル目
的デアリマス、アナタノ言ハレルノハ
金解禁前バカリ取ッテ、債務者ガドウト
カ債權者ガドウトカ言フガ、其モウ一
ツ前ノ所マデ持ッテ行ッタラ丁度反對ノ
現象ガ出テ居リマス、サウ云フコトヲ
御考ヘニナリマスト、只今擧ゲタ事ハ
サウ云フ影響ガ來ルカモ知レヌガ、其
影響ハ反對ニ、元ニハチヤント反對ノ
現象ガ以前ニ出テ居ルノデアリマス、
所謂元ニ復ッタト云フコトニナリマス
アナタガ假ニ大正三年ニ千圓ノ金ヲ
持ッテ居ラレル、サウシテ物價指數ガ二
百七十幾ツマデ行ッタ時ハ、其時ニアナ
タガ持ッテ居ラレル千圓ノ金ノ價値ト
云フモノハ殆ド三分ノ一ニ下ッテ居リ
〒v,8併ナガラ段々今度ハ物價ノ方ガ
下ッテ來ルト、アナタノ持ッテ居ラレル
千圓ノ價値ガ段々出テ來テ、今日ハ本
當ニ千圓ト云フモノヽ値打ニナル譯デ
ス、サウ云フコトノ經過ハ中途ニアリマ
スガ、ソレハ宜シクナイ、千圓ガ三百
圓ノ價値ホカナクナッタ、或ハ千圓ノ價
値ニナッタト云フヤウナコトガ、日本ノ
經濟界ニ惡イカラ、金ノ解禁ヲシテ行
カウ、卽チ千圓ノ價値ガ千圓ニナルヤ
ウニシテ行カウ、サウシテ動カナイヤウ
ニシテ行カウト云フノガ、日本ノ貨幣
法ノ要求シテ居ル所、金解禁ノ主タル
目的デアリマス、隨テ今擧ゲラレタヤ
ウナ或ル何年何月ノ數字ヲ取ッテ、ソレ
ダケヲ出シテ茲ニ御議論サレテモ、ソ
レハ一向私ハ何モ參考ニナラヌト斯ウ
考ヘテ居リマス、卽チ今日債權者ガ非
常ナ得ヲシタト云フナラバ、債權者ノ
損ヲシタ時代ガ丁度同ジ數字デアルノ
デアリマス、サウ云フコトヲ御答致シ
テ置キタウゴザイマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=13
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014・松山常次郎
○松山委員 サウナッテ來ルト金解禁
ノ根本理論ノ論爭ニナルノデゴザイマ
スカラ已ムヲ得マセヌ、サウスルト大
正六年九月ノ金輸出禁止ヲヤッタ當時
ノコトニ遡ッテ來ナケレバナラヌト思
フノデアリマス、此時ニ金輸出禁止ヲ
ヤルト云フコトハ、卽チ貨幣法ノ一時
ノ適用停止デアル、是ハ非常ニ重大ナ
ル問題デアリマスケレドモ、世界戰爭
ノ影響デ先ヅ已ムヲ得ナイ事デアルト
思ヒマス、其時ニ於テ旣ニ一時金本位
ノ停止ヲヤッタ以上ハ、其結果物價ガ
上ッタリ下ッタリスルコトガアリ、又爲
替相場ノ變動スルコトガアルトシテモ
ソレハ已ムヲ得ナイ事デアルガ、玆
爲替相場ヲ安定サセル、卽チ金解禁ヲ
ヤルト云フ時ニ當ッテ、政府ニ責任ガ生
ジテ來ル、ソレマデノ間ニ誰ガ內閣ヲ
取ッテ居ラウガ、爲替相場ニ如何ニ變動
ガアリ、貨幣價値ニ如何ニ變動アラウ
トモ是ハ已ムヲ得ナイ、金解禁ヲヤッテ
貨幣價値ヲ安定サセルト云フコトヲ濱
口內閣ガヤッタノデアルカラ茲ニ責任
ヲ生ズル
ソレカラ井上大藏大臣ハ何處マデモ
貨幣法ニ規定シテアル金二匁十圓ト云
フモノヲ、國民ハ期待シテ居ルト申サ
レマスガ、事實金二匁十圓ト云フ關係
ハ金輸出禁止中ハ壞レテ居ッタノデア
リマス、是ハ此間モ此處デ申上ゲタノ
デアルガ、井上大藏大臣ハ居ラレマセ
ヌデシタカラ、モウ一度申上ゲル必要
ガアルト思フガ、金輸出禁止中橫濱正
金銀行デ金ヲ賣"ッテ居ッタ、初メハ貨幣
法ニ規定シテ居ル通リ一匁五圓デ賣。ツ
テ居ッタガ、通貨ノ價値ガ下ルニ隨ッテ
一匁五圓デ買フト儲カルカラ、平年ナ
ラバ齒醫者トカ或ハ其他金工業ノ材料
トシテ金ノ地金ヲ潰シタモノガ二千萬
圓位デアッタケレドモ、一一千萬圓ニ急ニ
增加シタ、ソレニ驚イテ一匁五圓ト云
フ貨幣法ニ規定シテ居ルモノヲ廢メ
テ、爲替相場ニ準據シテ賣ルコトニナツ
タ、ソレガ爲ニ一匁六圓五十錢マデ上ツ
タコトハ井上大藏大臣能ク御承知ノコ
トヽ思ヒマス、斯ウ云フ意味ニ於テ貨
幣法ニハ二分ガ一圓デアルト規定シテ
アルガ、其事ハ壞レテ居ルノデアリマ
ス
ソレデ私ハ議論ノ根據トシテ、十二
年何箇月間ノ金輸出禁止中ハ爲替相場
ガ變動シテ平均シタ價ガ分ラナイ、何
故ナラバ其時ニ於ケル貸借關係ヲ總テ
調ベナケレバ分ラヌノデアリマスカ
ラ、茲ニ私共ハ濱口內閣ノ成立ノ日ト、
昨年ノ一月十一日ノ金解禁ノ日ヲ以テ
比較〓究ヲ致スコトニスルト、此間モ
斷ッテ置イタノデアリマス、今申シマス
ヤウニ私共ノ考ヘル所デハ既ニ金二分
ガ一圓デアルト云フ關係ガ一時停止セ
ラレテシマッタノデアリ、其間ニ賣買
貸借ガ行ハレテ居ルノデアリマスガ、
濱口內閣ガ成立ノ時ニ世間ハ金解禁ヲ
ヤルト云フコトヲ期待シタノデアリマ
スカラ、其當時ニ於ケル貨幣價値ト云
フモノヲ取ッテ來テ、日本ノ圓ノ價値ヲ
變更スルノガ一ツノ方法デアラウト思
ヒマス
又私共ガ非常ニ重大ナ事ト考ヘテ居
リマスノハ、日本ニ最モ密接ナル關係
ノアル支那ノ貿易關係デアリマス、是
ハ米國トノ貿易ニ比較シマスト少イケ
レドモ、吾々ガ洵ニ惧レナケレバナラ
ヌコトハ生絲ノ關係デアリマス、生絲
ノ昭和五年度ニ於ケル月別表ヲ見ル
ト二三月頃カラ日本生絲ノ米國ニ對
スル輸出ガ激減シテ、支那ノ米國ニ對
スル生絲ノ輸出ガ激增シテ居リマス、
是ハ貨幣價値ノ變化ノ影響ガ著シク現
レテ來テ居ルモノト私共ハ見テ居ル、
ソレガ六七月頃ガ一番甚シイコトニ
ナッテ居ル、所ガ是ガ政府ノ非常ニ樂觀
シテ居ラレル所デアルガ、年末ニナッテ
生絲ノ輸出ガ非常ニ進ンダ、而シテ支
那ノ輸出ガ少クナッタ、ソレガ爲ニ國際
貸借ノ關係ガ非常ニ都合好クナッタコ
トハ、誠ニ喜ブベキデアリマスガ、私
共貿易上ノ波ノ打方ヲ見マスト、斯樣
ニ觀察シテ居ル、二三月頃カラ六七月
頃マデハ日本ノ生絲ガ支那ノ物ニ壓迫
サレテ居ッタガ、支那ノ生絲ガ無クナツ
テ賣レナクナッタカラ、日本ハソレニ乘
ジテ急ニ生絲ヲ賣進ンダ、ソレデ日本
ノ生絲ハ一年ヲ通ジテノ量ハ割合ニ
減フテ居ラズ、支那モ大體同樣デアル
ガ、日本ハ平均ヨリ上ニナリ、支那ハ
下ニナッタ、ソレデ年末ニ於ケル日本
ノ輸出入ノ貿易關係ハ好イコトニナツ
テ居リマスケレドモ、支那カラ申セバ
今後好イ値デ亞米利加ニ生絲ガ賣レル
コトガ分ッテ來ルト、今後ニ於テハ支那
人ハ生絲ヲ非常ニ多ク造出スコトニナ
ル、サウスルト日本ノ生絲ガ壓迫サレ
ル、聞ク所ニ依ルト米國ノ商人ハ斯ウ
云フコトヲ見越シテ支那ノ生絲生產ヲ
增加スル爲ニ資本ヲ注込ンデ居ルト云
フコトデアル、斯ウ云フ事ニナレバ、
今後數年ノ間ニ日本ハ支那ノ生絲カラ
非常ナ力デ壓迫サレルコトニナルノデ
ハナイカト見テ居ル、又紡績ノ關係デ
アリマスガ、支那ノ紡績ガ大阪ニ來テ
居ルガ、是ガ支那ノ貨幣價値ノ低下、
又日本ノ貨幣價値ノ上騰ト關係ガアル
コトヲ私ハ聞イテ居ルノデアリマス、
是等支那ノ競爭力ハ對支貿易ノミナラ
ズ、對米貿易ノ上ニモ重大ナル關係ガ
アルコトヲ考ヘナケレバナラヌ、而シ
テ銀相場ノ恢復ガ中々見込ガナイト云
フコトナラバ、日本產業百年ノ大計ヲ
考ヘル時ニ、貨幣價値ノ決定ニ於テ大
ニ考ヘナケレバナラヌ
又是ハ色々異論モアリマセウガ、瑞
典ノ「カッセル」ノ意見ニ依ッテモ、世界
ノ生產物ノ增加ト金產額ノ增加トハ伴
ハナイ、故ニ金ノ價値ハ漸次騰貴ヲシ
テ行ク傾向ニアル、卽チ物價ガ低落ノ
傾向ニアルト申シテ居ルガ、彼モ相當
ナル學者デアリマス、彼ノ意見ニ依レ
バ金ノ價値ハ段々上ッテ行クノデアル
カラ、若シ私共ハ時々貨幣價値ヲ修正
シテ、一圓ノ中ニ含マレテ居ル金ノ量
ヲ其狀態ニ應ジテ低下サシテ行クコト
ガ出來ルナラバ、此不景氣ノ大勢カラ
免レルコトガ出來ル、併ナガラ憲法ニ
於テ吾々ノ所有權ヲ保障シテ居リマス
狀態ニ於テ、其財產ニ關係アル貨幣價
値ヲ變化サセルト云フヤウナコトハ容
易ニスベキコトデアリマセヌ、他ニ非
常ナ影響ガアル、故ニ私共ハ之ヲスベ
キコトデナイト思ヒマスケレドモ、幸
ニ世界戰爭ノ爲ニ已ムヲ得ズ茲ニ一時
貨幣ヲ停止シテ、他トノ連絡ヲ絕タレ
タコトガアッタノデアリマスカラ、此機
會ヲ利用シテ貨幣法ヲ改正シテ、二分
ガ一圓トアルノヲ或ハ一分五厘ヲ一圓
トストカ、何トカシテ貨幣價値ノ低下
ヲ行ヒ、日本ノ產業上百年ノ大計ヲ考
ヘ、サウシテ國民生活ノ安定ト云フコト
ヲ考ヘテ、適當ニ貨幣價値ノ切下ヲ行
フノガ最モ合理的ナ賢明ナルヤリ方デ
ハナカッタカ、ソレヲヤリ得ル絕好ノ機
會ヲ現內閣ガ逃シテ、無理ニ貨幣價値
ヲ元ニ引上ゲタト云フコトニ大ナル遺
憾ガアルト私共ハ考ヘテ居ルノデアリ
やっ、井上大藏大臣ハ二分ヲ金一圓ト
スルコトヲ皆期待シテ居ルト言フガ、
期待ナドト云フコトハ兎ニ角、金輸出
禁止ヲヤッテ居ッタ間ニ變動ガアラウト
モ、ソレハ別ニ政府ノ責任デナイ、金
解禁ヲヤル時ニ政府ノ責任ガ生ジテ來
ル其時ニ於テ吾々ハ今日ノ國民生活
ト云フコトヲ考ヘ、日本產業ノ百年ノ
大計ヲ考ヘテ、此時ニ貨幣價値ノ切下
ヲ行フノガ適當デアッタト考ヘルノデ
アリマス、今日再ビ之ヲ切下ゲルコト
ガ適當デアルカナイカト云フコトニ付
テハ是ハ考ヘル餘地ガアル、併ナガ
ラ金解禁ヲヤル時ニ於テ私共ハ貨幣價
値ノ切下ヲヤルコトガ適當デアッタト
確信シテ居ル、其處ハ井上大藏大臣ト
大ニ意見ヲ異ニスル所デアリマスガ、
此事ニ付テハ私共ハ初心ノ政治家トシ
テ、一經濟ノコトヲ幾分〓究シ始メタ人
間トシテ井上サンノ〓ヲ受ケテ私共ノ
考ガ違ッテ居ルト云フコトヲ正シテ戴
クナラバ洵ニ幸デアル、併シソレガ目
的デナイノデアリマスカラ、其事ニ付
テ意見ガ違ウト云フコトデアルナラバ
ソレハソレト致シマシテ、私ノ次ノ議
論ヲ進メルコトニシタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=14
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015・井上準之助
○井上國務大臣 他ノ機會デ同樣ノ質
問ニ對シテ申上ゲタノデアリマスカラ
簡單ニ申シテ置キマスガ、其國ニ貨幣
法ト云フモノガアル、サウシテ國民全
體ノ經濟上ノ取引、或ハ經濟生活ハ其
貨幣法ニ依ッテ規定サレテ居ル、斯ウ云
フコトガ日本ノ貨幣法デアル、又貨幣
法ノ精神デアリマス、卽チ外國ニ日本
ガ對シマシテモ、內地ニ於キマシテモ
或ハ五十年百年ノ契約ヲ致シマシテ
モ何時モ其貨幣法ト云フモノヲ元ニ
シテヤルノデアリマス、國ガ段々對外
的ニ密接ニナリマスト今私ガ申上ゲタ
二匁十圓、斯ウ云フ風ニ對外的ノ價値
ト云フモノハソレガ元ニナルノデアリ
マス、サウ云フコトヲ國民ニ法律トシ
テ出シテ置イテ、サウシテ吾々ガ金解
禁ヲヤラウト云フ場合ニ、出來ルコト
ナラバ國民ガ何十年、何百年ヲ目的ト
シテ居ル貨幣法ヲ元ニシテ改正スルコ
トガ當然ノ義ト考ヘマス、能ク外國ノ
例ヲ出サレマスガ、佛蘭西、英吉利、
白耳義、獨逸ト云フヤウナモノハ申上
ゲルマデモナク貨幣價値ガ非常ニ下ツ
テ、佛蘭西ダケヲ取リマシテモ五分ノ
六分ノ一、白耳義ノ如キハ十分ノ
一マデ貨幣價値ガ下ッタノデアリマス、
吾々ガ考ヘテモ、ドンナ大政治家ガ出
テ來テモ、之ヲ元ニ還スト云フコトハ
不可能デアリマス
サウ云フコトヲ考ヘル時、日本ニ之
ヲ移シテ御覽ニナルト、大正九年頃カ
ラ六分カ七分位平均ニ下ッテ居ル、地震
後ニ二割二分下ッタノガ最低デアル、斯
ウ考ヘテ見マシテ、一方ニ歷代ノ政府
ガ金解禁ヲ速ニシナケレバナラヌトハ
言フケレドモ、果シテ誠意ヲ以テ之ニ
對スル準備ヲ進メタコトガアルカト云
フコトヲ考ヘテ見ルト、私ハ遺憾ナガ
ラ金解禁ノ準備ヲ眞面目ニシタ政府ハ
ナイト言ッテモ宜イ、爲替相場ガ僅カ六
七分下ッテ居ッテ、是マデ十何年間一度
モ誠意ヲ以テ之ヲ試ミタ政府ガナイノ
ニ、出來ヌト云フコトガ一體ドウシテ
言ハレマセウカ、私ハ總テノ準備ヲス
ルナラバ出來ル、斯ウ考ヘルコトガ本
當ノ政治家ノヤリ方ト考ヘタノデアリ
マス、ソレデアルカラ色々ナ準備ヲシ
テヤッタ仕事デアリマシテ、松山サンノ
言ハレルヤウニ、貨幣法ガアラウトモ、
何年間カ茲ニ爲替相場ガ下レバ、其下ツ
タ時ニ金貨ヲズン〓〓削ッテ行ッタラ宜
イデナイカト言ハレマスガ、左樣ナコ
トガ一體國民ノ經濟生活、經濟組織ト
云フモノカラ出來マセウカ、昔德川幕
府ニ於キマシテ左様ナ事ヲ度々試ミタ
コトガアリマスガ、ソレハ何時モ政府
ノ破滅デアリマス、此貨幣ト云フモノ
ニ對シテノ根本ノ信用ガ國ニ無クナッ
タナラバ、ソレハモウ其國ノ一番ノ破
滅デアリマス、隨テ吾々ハ準備ヲシテ
ヤレバ行ケル、斯ウ考ヘテヤッタノデ
アリマス、ソレナラバ今ノ如ク債務者
ニ非常ナ不利益デ、債權者ニ利益ニナツ
タデナイカト言ハレマスケレドモ、ソ
レハ貨幣法ノ當然ナノデアル、大正四
年カラノコトヲ考ヘテ見ルト、元ニ還ツ
タト言ッテ宜イノデアル、サウ極端ニモ
下ラズ、長イ間是ガ下リツヽ行ッテ、ソ
レニ依ッテ、日本ノ經濟界ガ出來テシ
マッテ居ルト云フコトヽハ大變違フノ
デアリマスカラ、吾々ハサウ云フ考ヲ
以テ新平價解禁ノ如キハ考フベキコト
デナイ、サウ云フ譯デアッテ舊平價解禁
ハ出來得ルト云フ決心ヲ以テヤッタノ
デアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=15
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016・松山常次郎
○松山委員 今井上大藏大臣ノ御話ニ
依リマスト、何處迄モ貨幣法ニ於ケル
價値ト云フモノニ拘束セラレナケレバ
ナラヌト云フ御意見ノヤウデアリマス
ガ、ソレハ金輸出禁止中ハソレニ拘東
サレテ居ラナイト云フコトヲ私ハ申上
ゲテ居ルノデアリマス、唯外國ニ對ス
ル信用ト云フコトヲ申シマスガ、外國
ニ對スル計算ハ總テ金ノ量デ行クノデ
アリマスカラ、日本ニ於テ通貨ノ價値
ヲ下ゲヤウガ外國ニ對スル信用ニ關係
ハナイ筈デアリマス、其證據ニハ佛蘭
西ノ法ハ日本ノ圓ニ較ベテズット單位
ハ低イケレドモ、獨逸ノ馬克ハソレヨ
リ低イケレドモ、是ハ別ニ其國ノ信用
ニ關係ハナイノデアリマス、ソレカラ
歷史的ノ事ヲ御話ニナリマシタガ、現
ニ日本ハ明治四年ノ新貨條例ノ時ニ
金十圓ヲ三匁九分六厘トシ、ソレヲ三
十年ニ十圓ヲ二匁ト云フ風ニ變ヘタ、
明治十五年ニ松方サンガ不換紙幣ノ整
理ノ時ニ、通貨ノ價値ヲ引上ゲルコト
ハ國民ノ社會生活ニ非常ナ打擊ヲ與
ヘルモノデアルト云フ苦イ經驗ヲ嘗メ
テ居ル、其當時ノ福澤サン、田口サン
ノ文章モ殘フテ居ルガ、吾々ハ不換紙幣
ノ整理政策ヲ執レト言ッテ贊成シテヤ
ラセタノデアルガ、斯ノ如キエライ影
響ガアルトハ思ハナカッタ、陸奥宗光伯
ナドハ外國カラ歸ッテ來テ反對シタ、斯
ノ如キ事ハ國、民ヲ滅スモノデアルト
シテ反對シテ居ルノデアリマス、其痛
イ經驗ヲ持ッテ居ル松方サンハ明治三
十年ノ金本位制復歸ノ時ニ、通貨ノ價
値ヲ其儘ニシテ置イテ法認價値ヲ明治
四年ノ時カラ約半分ニ切下ゲタ、日本
ノ歴史ヲ顧ミマシテモ切下ゲタ例ハア
ルノデアリマス、ソレカラ德川時代ノ例
ヲ御引ニナリマシタガ、德川時代ニ通貨
ノ價値ヲ引下ゲルト云フコトノ最モ著
シイ例ハ、元祿時代德川綱吉ノ小判改
鑄ノ時デアッタト思フノデアリマス、此
時ニハ御承知ノ如ク元祿小判ハ慶長小
判ニ比シテ三割五分二厘ダケ金ノ目方
ヲ減シタ、今日ノ言葉デ言ヘバ貨幣ノ
價値ヲ三割五分二厘切下ゲタト云フノ
ガ其時ノ實情デゴザイマス、是ハ確ニ
普通歷史家ニ依ッテ綱吉ノ惡政ノ一ツ
ニ算ヘラレテ居ル、今度我國ニ於ケル
金解禁ノ問題、貨幣ノ切下ゲ問題ガ起ツ
タニ付イテ其頭デ此歷史ヲ讀ミ直シテ
見タガ、此時ニ私ノ見ル所デハ古イ小
判卽チ慶長小判ヲ持ッテ居ル者ニ、新小
判ト交換シテヤルカラ換ヘニ來イト云
フ命令ヲ發シタガ、人民ガ肯カナカツ
タ、來年ノ何月迄ヲ締切トシテ交換ス
ルカラ持ッテ來イト言ッタガ持ッテ來ナ
イモウ一年待ッテモ持ッテ來ナイ
三割五分二厘金ノ目方ガ減ルト云フノ
デアルカラソンナ目方ノ減ッタ小判ヲ
求メル者ハナイ、換ヘニ來ル者ノナイ
ノハ當然デアル、ソンナ無駄ナ事ヲシ
テ居ル、ミットモナイ、政府トシテハ其
法令ガ實行サレナイノデアルカラ非常
ニミットモナイ事ニナッテ居リマス、私
共ノ見ル所デハ此以外ニハ此綱吉ノ貨
幣改鑄ニ關スル限リ政治上ニ不都合ナ
ル事ハ起ッテ居ラナイ、御承知ノ如ク綱
吉ト云フ男ハ贅澤ヲヤッタ男デアルカ
ラ、政治上ニハ非常ニ稅政ト言ハレル
失政ガアリマス、其綱吉ノ政治ハソレ
デ私ハ宜シイトハ言ハナイケレドモ、
貨幣改鑄ニ關スル限リニ於テハ不都合
ト見テ居ナイ、學者ノ方面ヲ見マシテ
モ新井白石ハ之ヲ善クナイト言ッテ居
ル、是ハ民政黨見タイナ頭ノ人デアル、
〓生徂徠ハ惡イト言ウテ居ナイ、元祿
ノ文化ハ此貨幣價値ノ切下ニ依フテ起"ツ
テ來タ、元來德川幕府ト云フモノハ財
政困難ガ出來ルヤウニ出來テ居ル、是
ハ德富サンノ大日本國民史ヲ讀ンデ私
ハ〓ヘラレタノデアリマスルガ、德川
家康ノ千慮ノ一失ダ、非常ニ用意周到
ナ思慮周密ナ人デアルケレドモ、此財
政ノ立方ニ付テハ失敗シタ、德川氏ハ
八百萬石デアル、大々名デアルケレド
モ八百萬石ノ收入ヲ以テ天下三千萬石
ノ政治ヲ引受ケタノデアル、此處ニ財
政困難ノ起ルノハ當リ前ナ事デアル、
家康ノ當時ニ於テハ別ニ差支ナカッタ、
豐臣氏ヲ滅シテ莫大ナル財寶ヲ奪ッタ
ノデアリマスカラ、別ニ金ニハ差支ナ
カッタ、三代將軍家光ノ時ニモ此金ガ
アッテ財政ニハ困難ニ陷ラナカッタ、然
ルニ其晩年カラ德川ノ財政ハ困難ニナ
リ、四代ヲ經テ五代ノ綱吉ノ時代ニナツ
テ幕府ノ財政ハ益〓困難ニナリ、非常ニ
財政ニ惱ンデ居ル、其處ニ綱吉ト云フ
我武者羅ガ出テ一萬兩ノ金ヲ一萬五千
兩ニ使フ方法ヲ考出シタ、是ガ小判改
鑄デアル、當時甚ダ宜シクナカッタ、併
シ其結果ハ善カッタ、元祿ノ文化ハ是ガ
爲ニ起ッテ來タ、之ニ付テハ勿論今申上
ゲタヤウナ動機ハ宜シクナカッタガ、サ
ウ云フコトデドン〓〓惡貨鑄造ヲヤッ
テハ堪ラナイ、色々ナ弊モ起ッテ來テ、
殊ニ間接的副作用トシテ精神作用ニ非
常ニ關係ガアル、輕佻浮華ト云フヘ人
ンプレッシヨン」ガソレニ伴ッテ來ルノ
デアル、私共ヲシテ言ハシムレバ、現
內閣ガ貨幣價値ヲ引下ゲルコトニ依ツ
テ精神作興ノ運動ヲヤレバ宜カッタ、然
ルニ貨幣價値ヲ引上ゲテ世ノ中ヲ不景
氣ニシテ精神作興ヲヤッタ、元祿ノ綱吉
ノ時ハ貨幣價値ヲ引下ゲテ、綱吉ガ贅
澤ヲシタノミナラズ、奢侈贅澤ヲ宣揚
シタヤウナ傾向ガアッタ、是モ宜シクナ
イト思フ、勿論貨幣價値ヲ引下ゲル政
策ニ付テハ色々ノ方面ヲ考ヘナケレバ
ナリマセヌガ、其例ヲ以テ德川時代ニ
失敗シテ居ルト云フ例トスルノハアリ
マセヌ、是ハ別ニ論議ノ餘地ガアル
ソレハ復タ論議ノ機會ガアルト思ヒマ
ス、私ハ左樣ニ見テ居ルノデアリマス
ソレカラモウ一ツ井上サンニ申上ゲ
テ置カナケレバナラヌ事ハ、曩ニ「カ
ツセル」〓授ノ意見ヲ引イテ時々貨幣
價値ヲ切下ゲルト云フヤウナコトハイ
カヌト言ハレルガ、ソレニハ私モ同感
デアリマス、「カツセル」〓授ノ說ニ依
レバ貨幣價値ガ段々上ルノダカラ、ソ
レガ爲ニ不景氣ハ大勢的ニ來ルノデア
ル、ソレナラバ時々貨幣價値ヲ切下ゲ
テ行ケバ好都合デアル、併シ是ハ他ノ
色々ノ法規上、殊ニ憲法ニ於テ所有權
ヲ保障シテ居ル以上ハ、サウ云フ事ハ
スベキデナイ、唯此場合ハ幸ニシテ通
貨ト貨幣價値トノ連絡ヲ切離シテ、金
ノ輸出禁止ヲ解ク絕好ノ機會デアルカ
ラ、此機會ニ行ヘバ宜カッタト斯ウ申
上ゲテ居ルノデアリマス、ソレデ私ノ
議論ハ次ニ進メテ行キタイト思ヒマス
次ニ農村ノ事ニ付テ御話ヲ致シタイ
ト思ヒマス、農村今日ノ負債ハ五十億
圓デアッタト思ヒマス、ソレデ先ニモ申
シマスヤウニ、貨幣價値ガ全體トシテ
二割七分五厘上ッタト云フ關係ヲ之ニ
適用致シマスト、農村ノ負擔ガ十三億
七千五百萬圓ダケ增加致シテ居ルノデ
アリマス、ソレカラ金解禁ノ影響ガ九
分四厘デアルト云フコトヲ先ニ申シマ
シタガ、其關係ヲ適用致シマスト、農
村ノ負擔ガ金解禁ダケデ四億七千萬圓
ダケ增加致シテ居ルノデアリマス、井
上大藏大臣ハ近頃度々意見ヲ御發表ニ
ナリマシテ、今日產業ノ合理化ノ行ハ
レナイノハ、事業會社ノ借金整理ノ問
題ガ解決セヌカラデアル、農村振興ノ
實ノ擧ラナイノハ農村ノ負債ノ問題ガ
解決サレナイカラデアル、故ニ產業ヲ
復興シ、農村ヲ振興セシムルニ付テハ
此負債整理ト云フ問題ハ實ニ重大ナル
問題デアル、卽チ是ハ重大ナル社會問
題ニナッテ來タト云フコトヲ、井上大藏
大臣ハ屢〓意見ヲ發表セラレテ居ルノ
デアリマス、私共モ洵ニ同感デアリマ
ス、然ルニ現內閣ガ貨幣價値ヲ引上ゲ
タ結果二割七分五厘ノ負擔增加ヲ來
シ、金解禁影響ノ九分四厘增ノ關係ダ
ケデモ農村ニハ四億七千萬圓、又產業
界ニ致シテハ十二億八千百萬圓ノ損失
ヲ及ボシテ居ルノデアリマス、之ニ先
ニ申上ゲマシタヤウニ個人關係ノ貸借
ガ非常ニ大キイモノガ出來テ居リマス
カラ、實際ハモット〓〓非常ニ大キナモ
ノニナルト思ヒマス、唯此與ヘラレタ
ル數字ニ於キマシテモ、ソレダケノ損
失ヲ與ヘテ居ル、ソレガ爲ニ事業會社
ノ整理ガ困難デアリ、農村ノ困難ハ愈3
加ッタノデアリマス、農村ニ於ケル財政
負擔ハ二億七千萬圓ト記憶シテ居リマ
スガ、更ニ金解禁ノ結果四億七千萬圓
增加シタ、卽チ二倍カラノ增加ヲ來シ
タノデアリマス、是ハ私共今日ノ農村
問題ヲ考フルニ付テ、實ニ重大ナル事
デアルト考ヘテ居ルノデアリマスガ、
是ニ付テ井上大藏大臣ニ御考ガアリマ
スナラバ承リタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=16
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017・井上準之助
○井上國務大臣 松山サンニ私少シ御
問ノ意味デハナカッタケレドモ、斯ウ御
答シタラバヨク分ルノダラウト思ヒマ
スガ、貨幣價値ガ上ッタ、ソレニハ物價
ガ下ッタ、サウ假ニ考ヘマシテ行ッタナ
ラバ、初メテ世ノ中ト云フモノハ落著
クノデアリマス、物價ガ下リ生活費ガ
下リ、ソレカラ物ヲ拵ヘル生產費ガ下
ルト云フ所マデ行キマシテ、何處ノ部
分ニモ無理ガナクテ行キマス、卽チ勞
銀デ申シマスレバ、生活費ガ下レバ勞
銀ガ下ッテモ宜シイ、ソレニ依ッテ物ヲ
拵ヘル賃金モ安クナル、サウシテ初メ
テモノハ落著ク所ニ落著クノデアリマ
スガ、何處ノ國デモ今日急激ニ經濟界
ガ變ッテ、何ニ苦シンデ居ルカト云フ
ト、其均衡ヲ得ズニ居ルノデアリマス、
其均衡ヲ得ル所マデ行キマシテ、初メ
テ、國ノ經濟組織ト云フモノガ整理サ
レル譯ト吾々ハ考ヘルノデアリマス、
隨テ只今ノ、昨年何箇月ト申シマスカ、
世界ノ不景氣ガ急激ニ日本ニ來タ後
ノ、此短イ間ヲ捉ヘテ、貨幣價値ガ上ッ
タヂヤナイカ、生活費ガマダ下ラヌヂ
ヤナイカ、其處ニ非常ニ無理ガアルト、
斯ウ言ハレルコトハ、是ハ何處ノ國デ
モ今經驗シテ、ソレニ苦ンデ居ル所デ
アリマス、併シ追々ハサウナリマス、
サウナリマスルナラバ、少シモ差支ヘ
ナクナラウト思ヒマス、假ニ申シマシ
タナラバ一昨日、昨日アタリカラ、ド
ノ委員會ニ於テモ度々聞カレル官吏ノ
減俸トカ、或ハ使用人ノ俸給ノ減額ト
カト云フヤウナ事柄モ、一方ニ生活費
ガ下ッテ來レバ減ゼラレル、サウスレバ
國民ノ負擔モ、ズン〓〓減ジテ行クト
斯ウ云フコトニ今ナリツヽアル道程ニ
アルノデアリマスカラ、此道程ヲ捉ヘ
テ、是ガ無理ダ、アレガ無理ダ、斯ウ
言ハレテモ、是ハ經濟界ノコトニハ常
ニサウ云フコトガアルノデアリマス
ソレカラ只今非常ナ借入金ガ多イト
言ハレマシタ、成程農村ノ借入金ハ多
イノデアリマスガ、之ヲ整理スルコト
ガ、日本ノ農村ヲ整理スル唯一ノ途ト
吾々ハ考ヘテ居ル、併シ能ク御考ヘニ
ナッテ御覽ナサイ、ドウシテ此借金ガ農
村ニ斯樣ニ出來タカ、斯ウ云フコトヲ
考ヘテ見マシタナラバ、アノ所謂「モ
ネーインフレーシヨン」ノ結果ヂヤナ
イカ、金ノ輸出禁止ヲシテ、不自然ノ
中ニ日本ノ經濟界ヲ置イタカラヂヤナ
イカ、歐羅巴ノ戰爭ノ時ニ、非常ニ通
貨ガ殖エテ、「モネー、インフレーシヨ
ン」ガ起ッタ結果ヂヤナイカ、其結果ノ
爲ニ農村ガ相當ノ影響ヲ受ケタノガ、
今日ノ農村ノ借金ノ非常ニ多イ譯ヂヤ
ナイカ、斯ウ云フコトヲ考ヘ當ルダラ
ウト思ヒマス、サウナレバ、大體申シ
マシタナラバ、農村ノ整理ヲスルニハ
金解禁ヲシテ、日本ノ經濟界ヲ自然ノ
法則ニ戾シテ置イテ、ソレカラ國民ノ
負擔ヲ段々減ジテヤッテ、ソレデ借金ヲ
段々整理シテ行カナケレバナラヌ、
方ニハ利息ノ安イノニ之ヲ借換ヘ行カ
ナケレバナラヌ、一方ニハ負擔ノ輕減
ヲシテ行カナケレバナラヌ、併ナガラ
根本ニ於テ、農村ガ過去ノヤウナ「モ
ネー·インフレーシヨン」ノ結果デアッ
タナラバ、ドンナニヤッテモ次カラ次ニ
借金ガ出來テ來マス、サウ云フコトヲ
マア吾々ハ考ヘテ居ルヤウナ次第デア
リマスカラ、其處ヲ一ツ御承知ヲ願ヲテ
置キマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=17
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018・松山常次郎
○松山委員 今ノ大藏大臣ノ御演說ニ
付キマシテハ、私モ意見ガアリマス、
併シ議論ヲ前ニ進メル爲ニ目的ニ向ツ
テ質問ヲ進メマス、私ハ公債問題ニ付
テ御話ヲ致シタイ、ソレガ目的デアリマ
ス、昭和四年六月末現在ニ於ケル國內
債-外國債ハ引キマシテ、國內債ガ
四十四億一千百萬圓デアリマス、地方
債ガ二十億五千萬圓其合計ガ六十四億
六千百萬圓、是ハ公債ト地方債劵ノ所
有者ヲ貸手トシテ、國民一般ヲ借手ト
スル貸借デアリマス、卽チ全體ト致シ
マシテハ先ニモ申上ゲル通リ、二割七
分五厘ト云フモノヲ之ニ適用シマスト
十七億七千六百萬圓ダケ國民ノ負擔ガ
增シテ居ル譯デアリマス、金解禁ノ影
響ノ九分四厘ヲ適用シマスト、六億七
百萬圓ダケ國民ノ負擔ガ增シテ居ル譯
デアリマス、ソコデ此公債論ニ移ル譯
デアリマスガ、此公債ニ對シテ私ノ見
ル所ハ、民政黨ノ人々ト私共トハ意見
ヲ異ニ致シテ居リマス、私共ノ考デハ
國民ノ經濟的能力サヘ進ムナラバ、公
債ノ量ハ增加シテモ差支ナイ、ソレニ
相應シテ增加スルコトハ差支ナイト見
テ居リマス、卽チ今日ノ六十億圓ノ公
債ハ、以前ノ日本ノ國民ノ經濟的能力
ニ對シテ、左程恐ルベキモノデナイト
見テ居ルノデアリマスガ、民政黨ノ人
人ハ是ハ非常ニ恐ルベキ狀態ニ在ル、
日本ノ財政ガ殆ド破滅ニ瀕スルヤウナ
狀態デアル、故ニ吾々ガ內閣ヲ取ッタナ
ラバ、其公債ノ整理ヲスルノダ、卽チ
現內閣ニナッテカラヤルコトハ、非募債
主義、モウ一ツハ、減債基金ノ增加デ
アリマス、其意味ニ於キマシテ此賠償
特別會計トシテ、獨逸カラハイッテ來ル
所ノ賠償金六百三十萬圓ト云フモノ
ヲ、年々減債基金ノ中ニ入レルト云フ
コトノ方針ヲ現內閣ハ御立テニナッテ、
現內閣ノ財政政策ノ現レトシテ、之ヲ
非常ニ誇ッテ居ル、天下ニ高唱シテ、此
方針ヲ御立テニナッタノデアリマス、然
ルニ今度此賠償特別會計法廢止ノ理由
ヲ見マスト、存置スルノ必要ナキニ至
リタルヲ以テ-モウ賠償特別會計法
ハ目的ハナイノダ、世界戰爭關係ノ救
恤金ヲヤルニ至ッタ、國際聯盟或ハ移殖
民、モウ一ツ航空施設、モウ一ツ此賠
償減債基金ト云フモノニ其金ヲ出スノ
ガ目的デアリマス、其賠償特別會計法
ヲ存置スル必要ガナクナッタ、ソレハ救
恤金ハヤル必要ガナクナッタ、國際聯盟
或ハ移殖民或ハ航空施設ト云フコト
ハ、田中內閣ノ立テタ方針ダカラ、是
ハヤル必要ハナイト云フ理由デ、減債
基金繰入ト云フコトガ減ッテ居ルノデ
アリマスガ、存置スル必要ガナクナッ
タ、是ハ一般會計ニ入レテシマフ、然
ラバ一般會計ニ入レテ一般會計ノ方デ
ソレヲヤルノカト云フトサウデアリマ
セヌ、此參考書ヲ見マスト今年度ハ
一般會計カラノ減債基金ノ繰入ハ千五
百萬圓減ッテ居ル、公債ノ金額ガ殖エタ
カラソレニ伴フ三百萬圓餘ノモノハ殖
シテアリマス、ソレデ差引千二百五十
萬圓カニナッテ居リマスガ、此公債ノ主
體タルモノニ對スル此繰入ハ千五百萬
圓減フテ居ル、サウシテ此六百三十萬圓
ト云フモノハ殖サナイ、ソレト合セテ
二千百萬圓ト云フモノハ一般會計カ
ラ減債基金ニ對スル繰入ガ、以前ヨリ
少クナル譯デアリマス、デ先ニ申シマ
シタ通リニ、濱口內閣成立當時ノ公債
ノ額ガ五十八億何ガシデアリマス、ソ
レガ日本國民ノ負擔ニ堪ヘナイ程ノ重
イ、日本ノ財政ヲ危クスル恐ルベキ公
債デアルトシテ、其整理ニ掛ルト言ツ
テ、現內閣ガ選擧ヲヤッテシマフト、公
債ヲ募リ出シタ、サウシテ減債基金ノ
繰入ヲナクシテシマッタ
然ラバ日本國民ノ經濟能力ガ非常ニ
增シタノカト云フトサウデハナイ、今
申シマシタ農村ノ狀態ハドウデゴザ
イマセウカ、產業界ノ狀態ハドウデゴ
ザイマセウカ、國民ノ負擔ノ能力ト云
フモノハ、非常ニ現內閣ニナッテカラ
減フテ居ルノデアリマス、然ラバ此公
債五十八億圓、其モノデモ、旣ニ日本
國民ニ對シテハ非常ナ國民的負擔デ
ゴザイマス、然ルニ今申シマシタヤウ
ニ、此全體カラ申シマスレバ、十七億
七千六百萬圓、金解禁ノ影響ダケカラ
申シマシテモ、六億七百萬圓ト云フ國
民ノ公債ニ付テノ負擔ガ增加致シテ居
リマス、公債ノ額モ今日ハ六十億圓以
上ニナッテ居ル、サウスルト玆ニ二十億
圓以上モ國民ノ負擔ガ增加シテ居ル譯
デアリマス、六十億ヲ基準ニ置クナラ
バ、殆ド三分ノ一增加シテ居ルコトニ
ナルノデアリマス
斯ノ如キ狀態ノ下ニ於テ現內閣ハ公
債整理ヲ其生命トスルガ如クニマデ天
下ニ高唱シタ現內閣ガ、此減債基金繰
入ヲ廢メテシマッテ、賠償特別會計法ヲ
廢止スルト言ヘバ何モ關係ナイヤウダ
ガ、實ハ減債基金繰入ヲ廢メルト云フ
事ハ言ヒタクナイカラ、其言葉ヲ使ヒ
タクナイカラ、ソレデ一般會計ニ繰入
レテシマッテ、一般會計デハ出サナイ、ヤ
ラズ取ッタリ、斯ウ云フ蟲ノ好イ方法ヲ
考ヘ付カレタ譯デアリマスガ、是迄ノ
現內閣ノ主張ニ對シテ矛盾スル所ハナ
イカ、此點ニ對シテ大藏大臣ノ御意見
ヲ承リタイ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=18
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019・井上準之助
○井上國務大臣 獨逸ノ賠償金ノ今後
ノ六百三十萬ヲ減債基金ニ繰入レルト
云フコトハ、斯ウ云フコトハ昨年吾々
ガ組閣當時カラ發表シタ一ツノ方法デ
ゴザイマス、ソレヲ今日一般會計ニ繰
入レルコトハ、洵ニ遺憾ナコトデアル
ト考ヘルノデアリマス、併ナガラ繰返
シテ申上ゲマスルガ如ク、昭和六年度
ニ於キマシテハ、昭和五年度ノ實行豫
算ニ對シマシテハ、稅ノ收入ダケデ一
億五千五百萬圓程減リマス、其減リマ
スニ應ジテ歲出ヲ段々切落シテ行ッテ
見マスルト云フト、左樣ニ無理ナ事モ
出來ナイ行政機關ヲ茲ニ以テ居ル、サ
ウシテ急激ニ一億五千萬圓以上ノ歲入
ガ減ッテ、ソレニ應ジテ行政機關ヲ維持
スルト云フコトハ、非常ナ無理ガ行ク
カラシテ、一旦六百三十萬圓ト云フモ
ノヲ減債基金ニ繰入レルコトヲ決メタ
ケレドモ、此急激ナル經濟界ノ變動ニ
應ジテハ已ムヲ得ナイカラ、之ヲ一般
會計ノ歲入ニ立テヽ使ハウ、斯ウ云フ
風ニ決メタノデアリマス、隨テ只今仰
シヤル如ク一昨年ノ七月ニ之ヲ發表シ
テ、今日ハ經濟界ノ狀態、政府ノ歲入
ノ狀態ガ斯樣ニ急激ニ變ジタカラ變ヘ
タト、斯ウ云フコトデアリマス、例ヲ
申シマスルト云フト、失業公債ヲ二千
二百萬圓募リ、鐵道ノ爲ニ、失業救濟
ノ爲ニ千二百萬圓ノ公債ヲ募ルト云フ
ヤウナコトヽ殆ド同ジ事デ、斯樣ナ特
別ノ場合ノ特別ノ處置トシテ當分ノ間
六百三十萬圓ヲ一般會計ノ歲入ニ充當
シタ、斯ウ云フコトニ考ヘテ居ルノデ
アリマス
ソレカラ只今吾々ノ公債政策ヲ御非
難デアリマシタガ、極ク簡單ニ私ハ申
上ゲテ置キマス、公債ヲ依然一億數千
萬圓、一般會計ニモ募ッテヤッテ居。ッタノ
デアリマス、或ハ特別會計、一般會計ヲ
通ジテ二億位ノ公債ヲ殆ド平均ズット
ヤッテ居リマシタガ、金ノ解禁ヲ一ツ決
行シヨウト斯ウ考ヘテ見マスルト、假
ニ今松山君ガ言ハレル如ク、歲入ガ減ツ
タラ公債ヲズンん〓發行シテ、サウ
シテ假ニ財政計畫ヲ立テロト言ハレテ
見マシタナラバ、其結果經濟界ニドウ
云フ影響ヲ與ヘルカト言ハバ成程一
方ニハ世界ノ不景氣ノ爲ニ日本ノ物價
ガ下ル、一時的ニハ其物價ノ下リヲ阻
止スルコトガ出來マセウ、併ナガラ阻
止シマシタ結果ガドウナルカト言ヘ
が、國ノ貸借、國際貸借ト云フモノハ
內地ノ物ガ安クテサヘモ賣レナクテ
困ッテ居ル場合ニ、是ガ高クナッタラバ
ドウナルカト云ヘバ、國際貸借ノ關係
ハ非常ニ惡クナルト云フコトガ當然ノ
結果ダラウト思ヒマス、サウシナケレ
バ公債ヲウント發行シテ、內地ノ經濟
界ノ維持ヲシテ見ヨウト云フ人ノ目的
ハ逹セヌノデス、內地ノ勞銀ヲ高クシ
ヨウ、仕事モ盛ニシヨウ、物價モ安ク
セヌヤウニシヨウト云フナラ、其結果
ハ物ノ値段ガ高ク維持ガ出來ル、物ノ
値段ガ高ク維持出來タナラバ外國ニ
ハ餘計賣レナイ、賣レテモ生產業者ハ
非常ナ損ヲスル、生絲ノ如キハ其一例
デアリマス、サウナッタ結果ガ左樣ナ
政策ガ金解禁後ニ長ク續ク氣遣ハナ
イ、一時的ニハ-貴方ノ先刻カラ度
度出サレル「モネー·インフレーシヨ
ン」ノ結果トシテ、一時的ニハ宜シカ
ラウガ、永久ニハサウ云フコトハ出來
ナイ、況ヤ金解禁後ノ此狀態デ左樣ナ
事ハ出來ナイト云フコトガ吾々ノ政策
ノ骨子デアリマス、隨テ公債ヲ募ルニ
シテモ、從來ノヤウナ考ト考ガ違フノ
デアリマス、已ムヲ得ヌカラ、失業公
債モ募ラウ、隨テ計畫モ其計畫ヲ立テ
ルニ付テハ十分緊張シタ愼重ノ態度デ
ヤラウ、公債ヲ幾ラデモ募ッテ今日日
本ノ經濟界ニ對スル對策ヲ講ズルノデ
ハナイ、斯ウ御承知下サッテ宜シカラ
ウト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=19
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020・松山常次郎
○松山委員 色々此問題ニ付キマシテ
ハ國民ハ非常ニヒドガッテ居ル問題デ
アリ、私自身ト致シマシテモ貧弱ナル
〓究ノ中カラデモ大ニ申上ゲタイ事ガ
アルノデゴザイマスガ、時間ガ許シマ
セヌカラ、尙ホ私ノ質問ヲ先ヘ進メル
コトニ致シマス、要點ダケ私ハ御話ヲ
致シマスカラ、モウ時間モゴザイマセ
ヌデスカラ、大藏大臣モ其御積リデ要
點ダケ簡明率直ニ御答ヲ願ヒタイト思
ヒマス
大藏大臣ハ屢〓書物ヲ御出シニナリ、
演說ヲ爲サレ、私ハ學理及ビ實際ニ堪
能ナル大藏大臣ノ御書キニナッタ書物
ナドモ大抵讀ミマシタ、大イニ其御趣
旨ヲ有難ク思ッテ居ルノデアリマスガ
茲ニ私ノ解シ兼ネル一ツノ問題ガアル、
ソレハ大藏大臣ノ御演說デ見ルト斯
ウ云フ風ニ論理ガ進ンデ居リマス、戰
後世界ノ諸國ハ經濟界ノ整理ガ出來タ
ケレドモ、日本ハ遲レテ居ル、故ニ物
價ガ下ラヌ、故ニ輸入超過ガ日本ハ段
段年々續イテ洵ニ困フタ狀態ダ、故ニ吾
吾ハ此金解禁ヲ企テ-是カラガ問題
デス、此處マデハ異論ハナイ-故ニ
吾々ハ金解禁ヲヤッテ生產原價ヲ下ゲ
テ、物價ヲ下ゲテ、輸出ガ容易クナル
ヤウニスルンダ、是ハ誰ガ聞イテモ尤
ニ感ズル、結構ナ方法ノヤウニ思フノ
デス、所ガ現內閣ノヤッタ通貨ノ額ヲ引
上ゲタ結果ハ、貨幣價値ヲ引上ゲタ結
果ハ、私共ノ見ル所デハ生產原價ガ增
加シテ居ルト見テ居ル、日本國內デハ
別ニサウ大シテ增加シテ居ルヤウニハ
見エマスマイガ、之ヲ對外的ニ考ヘテ
生產原價ハ增加シテ居ル、輸出ガ一層
困難ニナルヤウニナッテ居ルト私ハ思
ウテ居ルノデス、然ルニ此事ヲ大藏大
臣ハ極メテ當然ノ論理ノ進行ノヤウ
ニ、吾々ハ金解禁ヲヤッテ、生產原價ヲ
下ゲテ物價ヲ下ゲテ、輸出ヲ容易クス
ル、斯ウ云フヤウニ議論ガ御進ミニナ
ルガ、玆ニ大藏大臣ハ大キナ御考違ガ
アルノヂヤナカラウカ、或ハ私共ニ考
違ガアルナラバ、ソレヲ〓ヘテ戴キタ
イ、ソレガ私ノ質問ヲ致シマス目的デ
ゴザイマス
玆ニ私ハ生產原價ヲ成ス要素ヲ考ヘ
テ見タイ、租稅及ビ諸公課、鐵道運賃、
郵便、電信、電話料金、煙草專賣價格、
印紙稅及ビ諸手數料、俸給、給料、サ
ウ云フヤウナ點デゴザイマスガ、発に
申シマスルヤウニ、米國ノ生絲ノ場合
ヲ採フテ申シマスルナラバ、米國ニ生絲
ヲ送ルガ爲ニ-理論的ニ言フナラバ
モット三割モ下ゲナケレバナラヌ、所ガ
生產費ノ要素ヲ成ス是等ノモノガ
政府ノ手ニ於テ下ゲヤウト思ヘバ下ゲ
ラレナイコトモナイ是等ノモノガ、チッ
トモ下ッテ居ラナイ、是等ノモノガ下ラ
ヌト云フコトハ、其貨幣價値ガ引上ゲ
ラレヽバ-貨幣價値ノ內容ガ、濱口
內閣ノ初メ頃、田中內閣ノ終リノ六月
二十九日ノ計算ダカラ、或ハ少シ御異
論ガアルデセウガ、六月二十九日カラ
一月二十日マデニ百圓ノ金ガ十七匁七
分カラ二十匁ニ引上ゲラレタ、外國カ
ラ見タ時ニハ······日本ノ是等ノ租稅及
ビ諸公課、鐵道運賃、郵便、電信、電
話料金、煙草專賣價格、印紙稅、諸手
數料、俸給、給料ト云フモノガ少シモ
下ラヌト云フコトハ、生產原價ガ對外
的ニ見テ上ッテ居ル、ソレカラ工賃ノヤ
ウナモノモ工場法ノ規定ガアッテ急ニ
下ゲラレナイ、借入金ノ問題、地代、
家賃ノ問題、動力費ノ問題-動力費
ハ段々下ッテ來マセウガ、是モ契約ノ關
係ガアッテ急ニハ下ラナイ、サウ云フヤ
ウニ考ヘルト、生產原價ヲ構成スル要
素ノ中デ下ゲ得ルモノハ株主配當ダケ
デアル、株主ハ、今デハ何處ノ會社デ
モ配當ナント云フモノハ暫ラク出來ナ
イ會社ガ多イノデスカラ、是等ヲ犠牲
ニシテモソレダケデハ納マラナイ、殊
ニ紡績ノヤウナモノニナルト、原料ハ
外國カラハイッテ來ル、其原料ハ上リハ
セヌケレドモ、爲替關係カラ申シマス
レバ、原料費ト云フモノハ其儘デアリ
マス
斯ウ云フヤウニ考ヘマスト、大藏大
臣ガ議論ヲ御進メニナル所ノ、金解禁
ヲヤッテ、生產原價ヲ下ゲルノダト云フ
ヤウナコトニハナッテ居ラヌ、對外的ニ
考ヘルナラバ日本ノ生產原價ハ上ッテ
居ル、生絲ノ場合デ云フナラバ、貨幣
價値ガ上ッタカラト云ウテ、急ニ日本ノ
生絲ノ價格ハ動カナイ、ソレハ米國カ
ラ見ルナラバ、日本ノ生產原價ハ上ル
ト云フコトニナル、ソレヲ大藏大臣ハ
金解禁ヲシテ生產原價ヲ下ゲルンダト
云フ所ニ何カ御考違ガナイダラウカト
云フコトガ一ツ
モウ一ツハ生絲ノ場合ヲ採リマスナ
ラバ、生產原價ガ少シモ下ラヌカラト
云ッテモ下ゲナイ譯ニハ行カヌ、下ゲナ
ケレバ向フハ買ウテ吳レナイ、殊ニ支
那ノ生絲ノ競爭モ出テ來タ、他ノ物ハ
下ラヌカラ結局下ゲ得ル所ノモノガ負
擔シナケレバナラヌ、ソレハ何カト云
フト繭ノ價格デアリマス、生絲ノ値段
ガ非常ニ下リマシタガ、繭ノ値段ガソ
レヨリ以上ニドント下ラナケレバ、外
國へ賣レルヤウニ製絲ガ出來ナイト云
フコトニナル、其結果農村ヲ壓迫シ、
農村ハ疲弊シタ、現內閣ガ租稅及ビ諸
公課ヲ減ラサナイ、俸給モ給料モ減ラ
サナイ、鐵道運賃モ、郵便、電信、電
話料、煙草專賣モ皆下ゲナイ、ソレ等
ノモノハ皆農村ガ負擔シナケレバナラ
ヌ、其結果ガ今度ノ農村疲弊ノ非常ナ
原因ニナッテ居ルガ、是ガ大藏大臣ノ御
意見ヲ承リタイ一ツデアリマス
モウ一ツ序ニ日本ノ物價指數ハ二割
七分五厘下ッテ居ル、米國ハ二割二分デ
アリマスガ、大藏大臣ノ施政ノ方針ノ
演說ヲ見マスルト、日本ノ物價ハ二割
七分五厘下ッテ、米國ハ二割二分デアル
カラ、日本ノ方ガ多ク下ッテ、貿易關係
ガ都合ガ好クナッタ、以前ヨリモ貿易關
係ガ都合好クナッタ、國際貸借ノ改善モ
好クナルト云フヤウニ言ハレマシタ
ガ、私共ノ見ル所デハ二割七分五厘下ッ
タノデハ、日本ノ物價ハ下リ足ラヌ、
三割零分一厘下ラナケレバ、米國ノ二
割二分ニ對抗スルコトハ出來ナイ、今
日ノ狀態デハ日本ノ物價ハ下ゲヤウガ
足ラナイ、濱口內閣成立ノ當時カラ較
ベテ、今日ノ對外貿易ノ關係モ考ヘテ、
日本ノ物價ハ下リ足ラヌ、言換レバ日
本ノ物價ハマダ下ル、マダ下ルカラモソ
ト不景氣ガ深刻ニナッテ來ル、此不景氣
ハ續ク、大藏大臣ハ不景氣ハ底ヲ突イ
テ、漸次景氣ガ好クナルト云フヤウニ
言ハレルガ、中々サウ行クモノヂヤナ
イ、或ハ日本ノ物價ガ下ラナケレバ貿
易關係ハ困難ニナッテ、貿易不振ノ狀態
ニ進ンデ、正貨流出ガ續イテ行ク、昨
年二億五千五百萬圓ニ減ッタ正貨流出
ハ、今日三億八百萬圓デアッタト云フ
大藏大臣ノ御發表デアリマス、此正貨
流出ガ續イテ行クノダ、或ハ日本ノ物
價ガ下ッテ不景氣ガ甚シクナル、斯ウ云
フ結論ニ到達セザルヲ得ナイト思フノ
デゴザイマスガ、大藏大臣ハ如何ニ御
考ヘニナリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=20
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021・井上準之助
○井上國務大臣 何レモ中々困難ナ問
題デアリマスガ、松山君ハ長ク經濟界
ニ居ラレル方デスカラ、私ガ申上ゲル
コトハ御理解下サルダラウト思ヒマ
ス是程複雜ナ經濟界ニ、サウアナタ
ノ言フヤウニ一年ヤ二年デ物ガスッカ
リ落付クモノトハ何人モ考ヘマセヌ、
假ニ玆ニ物ノ値段ガ-生產費ヂヤナ
イ、生產物ノ値段ガ下ッタ、ソレナラバ
直グニ生產費ガ下ル、總テノ公課モソ
レニ應ジテ低落スルト云フヤウナコト
ハ政府ノ財政ヲ見マシテモ、今日マ
デノ經歷ニ依リマスト、中々相當ナル
時ヲ要スル、其處ハ私ハ先刻モ申上ゲ
マスル如ク、物ノ値段ガ下ッテ生活費
ガ下ル、勞銀モ下レバ生產費モ下ッテ來
ツヽアル今ハ道順デアルカラ、時ヲ要
シマセウガ、サウ云フコトニ段々進ン
デ行キツヽアリマスト、斯ウ云フ譯デ
アリマス、財政上ハドウカト云ヘバ
アナタノ言フ如ク運賃モ下ゲロ、煙草
モ下ゲロ、給料モ下ゲロ、-是ハ理
想デアリマス、又サウ行クベキ今日ノ
經濟界ノ情勢デアリマスガ、先刻申上
ゲマスル如ク、日本ノ財政デ十四億ト
云フ一般會計ヲ持ヲテ居ル、其中カラ一
億五千五百萬圓正貨ガ減ッタカラ一億
五千萬圓減セト言フガ、サウ世ノ中ノ
組織ハ出來テ居リマセヌ、一億五千萬
圓正貨ガ減ッタカラ歲出ヲ一億五千萬
圓減ス、二億減フタカラ二億減ストサウ
ハ行カヌノデアリマス、ソレデアリマ
スカラ、經濟界ノコトモ財政ノコトモ
同ジデアリマスガ、サウ云フ無理ガア
ルカラ、吾々ハ行政整理ヲシテ、更ニ
金ノ減ッタ割合ニ行政組織ノ適當スル
ヤウニ、一ツ〓究シテ見ヨウト云ッテ
議院デモ申上ゲテ居ルコトガ其處ニア
リマス、サウ掌ヲ返ス如ク理想的ニハ
此複雜ナ經濟界デモ、財政デモ參ラヌ
ト私ハ申シテ宜カラウト思ヒマス
ソレカラ日本ガ二割七分下ッテ、亞米
利加ガ二割二分下ッタガ、日本ハマダ下
リ足ラナイト言ハレマスガ、或ハサウ
カモ知レマセヌ、之ガ適當ナル物價ノ
下リデアルカナイカハ、今後ドウナル
カト云ヘバ、金解禁ヲシテ見テ、日本ガ
アナタノ言フヤウニ物價ガ高ケレバ外
國カラ物ガハイッテ來テ金貨ガ出マス
斯ウ云フ結果ヲ生ズルノデアリマス、
何人ト雖モ日本ノ二割七分ト亞米利加
ノ二割二分ガ適當デアルカ否ヤ、日本
ガ戰前ニマデ還フテシマハナケレバナ
ラヌカ否ヤト云フコトハ、是程國情ガ
違ヒ、日常生活ノ違フ日本ト亞米利加
ヤ英吉利ト比較シテ、正確ナ數字的ノ
議論ハ何人ト雖モ立チマセヌ、唯金解
禁ヲシテ日本ノ物價ガ高ケレバ、
カラドン〓〓物ヲ買ウテ金貨ガ出マス、
ソレニ依ッテ調節サレヽバ日本ノ物價ガ
高過ギレバ下ッテ來マス、是マデノヤウ
ニ物ガ不自然ニ上ッタリ下ッタリスルノ
デハナク、是カラ先ガ下ッテ行キマスカ
ラ、日本ノ物價ガドウ斯ウト云フコトハ
ナカラウト思ヒマス、ソレナラバアナ
タノ云フヤウニ此儘ニシテ置ケバ、日
本ノ物價ガ高過ギルカラ日本カラドン
ドン金ガ出テ行ク、サウシテ又不景氣
ガ來ル、私ハ遠イ將來ノ事ハ存ジマセ
ヌ、併ナガラ今ノ現狀ヲ御覽ニナリマ
スト、昨年ノ一月十一日ニ金解禁ヲシ
テカラ後ニハ、可ナリ金貨ガ出テ、日
本ノ經濟界ニ脅威ヲ與ヘタノデアリマ
スガ、マダ今年ニナリマシテ此輸入ノ
最盛期ニ當ッテ、僅カ特殊ノ事情ニ依ル
百萬圓カ百五十萬圓ノ金貨ガ出サレタ
ダケデアルト云フコトヲ考ヘテ見マス
ト昨年ノ金解禁直後ト今日ノ外國貿
易ノ狀態トハ餘程變フテ來テ居ルト考
ヘテモ、私ハ決シテ無理ナ考方トハ思
ヒマセヌ、隨テ今年ノ輸入超過モ少カ
ラウ、金ノ出方モ少カラウト斯ウ今日
思ッテモ差支ナカラウ、アナタノ言フガ
如ク、ソンナ事ハ油斷ナラヌ、金ガ出
ルカモ知レナイト云フコトモアルカモ
知レマセヌケレドモ、昨年ト比較シテ
今日一寸モ出ナイ所ヲ見テモ、
外國理ニ出ルト云フコトヲ御考ヘニナル必
要モナイデハナイカ、斯ウ考ヘテ居リ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=21
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022・松山常次郎
○松山委員 私ノ御尋致シマシタ一番
大事ナ生產原價ノ問題、生產原價ガ金
解禁ヲヤッタ結果、吾々ハ實際ハ上ッテ
居ルト思フ、大藏大臣ハ之ヲ下ッテ居ル
ト言フガ、其處ニ間違ガアルノデハナ
イカト云フコトニ付テハ御答ガナカツ
タ、若シ出來レバソレヲ一ツ御答願ヒ
タイ、吾々ノ見ル所デハ上ッテ居ルト思
フ、故ニ政府ハ昨年度、產業合理化ダ
トカ、國產品愛用ダトカ色々ナ事デ
輸出奬勵ニ努力サレマシタケレドモ、
結局昨年度ニ於ケル輸入超過率ハ增加
シテ居ル、大藏大臣ガ施政方針ノ演說
ニ於テ八百萬圓輸入超過ハ昨年ヨリカ
減ジタト言フケレドモ、總體ノ金額ニ
於テハ減ッテ居リマスケレドモ、結局輸
入超過ノ率ハ增加シテ居ル、ソレダケ
努力シタニ拘ラズ輸入超過ノ率ガ增加
シタト云フコトハ何故デアルカト云フ
ト.生產原價ノコトガ影響シテ居ルト
私ハ考ヘテ居ルノデアリマス
私ハ質問ヲ續ケマス、次ニ金本位制
ノ問題デアリマス、濱口總理大臣モ屢ミ
金本位制ヲ維持スルコトガ大事ダ、是
非之ヲ維持シナケレバナラヌト云フコ
トヲ言ッテ居ラレルノデアリマス、金本
サウ無位制ノ要素ハ何カト云ヘバ、兌換ノ自
由デアル、金輸出ノ自由デアル、金貨
鑄造ノ自由デアルト思フノデアリマ
ス、然ルニ今日日本銀行ニ行ッテ兌換ヲ
シテ吳レト云フコトヲ願ッテモシテ吳
レマセヌ、五圓ヤ十圓ハシテ吳レマス
ガ、シテ吳レマセヌ、何トカ理窟ヲ言
ウテ說諭ヲシテ、シテ吳レマセヌ、ソ
レデ此兌換ノ自由ト云フモノガ果シテ
維持セラレテ居ルカドウカ、結局裁判
デモシテ、訴ヘデモスレバ、シテ吳レ
ルデセウ、併シ事實ハシテ吳レマセヌ、
ソレ等ノ事ニ付テ私ノ方ニ知識ガ足リ
ナイナラバ、其點ニ付テドウカ御說明
ヲ願ヒタイト思ヒマス
モウ一ツ外國ニ金輸出ノ事デアリマ
スガ、是ガナケレバ外國ニ金ハ送レナ
イ、是ハ政府ノ肚ハ分ッテ居リマス、銀
行モ取扱ハナイ是デ金輸出ノ自由ト
云フモノガ果シテ確保セラレテ居ルモ
ノカ、金本位制ガ是デ維持セラレテ居
ルモノデアルカト云フコトヲ私ハ御尋
致シタイノデアリマス、ソレニ付テハ
政府ハ色々理由ハアリマセウ、併シ之
ヲ輸出ヲシテイケナイト云フコトナラ
バ、禁止ヲシテシマッタラ宜カラウ、ソ
レダケ一ツ御尋致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=22
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023・井上準之助
○井上國務大臣 只今日本銀行ガ兌換
ヲセヌト云フ御話デゴザイマスガ、サ
ウ云フ事ハゴザイマセヌ、若シ御必要
ガアレバ私カラ申込ンデ幾ラデモシマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=23
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024・松山常次郎
○松山委員 輸出モ自由デアリマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=24
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025・井上準之助
○井上國務大臣 自由デアリマス-
ソンナ事ハ金解禁ノ目的トハ當然逆行
スルコトデ、毛頭ゴザイマセヌ、若シ
左樣ナ問題ガゴザイマシタラ何千萬圓
デモ私カラ紹介致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=25
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026・松山常次郎
○松山委員 ソレデハ私ノ最後ノ質問
ヲ致シマス、大藏大臣ニ御尋致シタイ
事ハ詰リ此賠償特別會計法ヲ廢止セ
ラレルコトハ、小川政務次官ハ此間大
分御說明ガゴザイマシタケレドモ、如
何ニシテモ歲入不足ト云フコトガ原因
ダラウト思ヒマス、ソレヲ補塡スルト
云フコトガ目的ダラウト思ヒマス、私
共ノ考デハ、其歲入不足ト云フコトハ
何ガ故ニ起ッタカト云ヘバ現內閣ノ金
解禁ト云フコトガ非常ニ大ナル影響デ
アル、先程モ申シマシタヤウニ、此不
景氣ニ對外價値ニ於テ三割四分ダケ影
響シテ居ル、サウスレバ有ユル貸借關
係、或ハ物價ノ關係ニ於テ、ソレダケ
ノ重大ナル影響ヲ持ッテ居ルノデアリ
マスルカラ、私共ノ考デハ金解禁ノ
爲ニ儲ケタ人カラ之ヲ取ッタラ宜カラ
ウ、先程申上ゲマシタヤウニ、貨幣資
本家ハ、曩ニ私ノ政府カラ御報告ヲ戴
イタ數字ダケニ依リマシテモ、金解禁
ノ爲ニ二十一億四千六百萬圓ト云フモ
ノヲ儲ケテ居ル、私共ノ考デハ、個人
貸借デ、日本ノ貸借ハ大體三百五十六
億アルモノト考ヘテ居ル、若シソレニ
關係アルナラバ、玆ニ約三十億圓カラ
ノモノヲ貨幣資本家ハ儲ケテ居ル譯デ
ハナイカ、ソレデ私共ハ、不景氣ノ爲
メ、金解禁ノ爲ニ起ッタ歲入不足ヲ補フ
トカ或ハ失業救濟ノ爲メノ資金トカ
云フモノハ、ソレカラ取ルベキモノヂヤ
ナイカト思フノデアリマスガ、政府ハソ
レヲヤラズシテ、此大事ナ賠償金ノヤウ
ナモノヲソレニ向ケルト云フヤウナコ
トヲ爲サッタノハドウ云フ譯デアルカ、
ソレヲ伺ヒタイト思フノデアリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=26
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027・井上準之助
○井上國務大臣 松山君ニ御答致シマ
ス、得ヲシタ、損ヲシタト云フコトヲ
言ハレマスケレドモ、先刻私ガ例ニモ
申上ゲタ如ク、大正三年ニ千圓ノ金ヲ
持ヲテ居ッタラ、一遍ハ下ッタガ、又上ッテ
元ニ歸ッタト斯ウ御考ヘ下サルト、損得
ノ問題ハ問題ニナリマセヌ、債權債務
者ノ間ノ損得ノ問題ハ損得ニナリマセ
ヌ、サウ私ハ考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=27
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028・松山常次郎
○松山委員 私ノ質問ハ是デ打切リマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=28
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029・鈴木寅彦
○鈴木委員長 皆サンニ御相談申上ゲ
マス、是デ質疑ハ終ッタモノト致シマシ
テ、若シ小質疑ガアリマシタラ後日ニ
讓ルコトニ致シテ、次ノ時ニ討論ニ入
リタイト思ヒマスガ、御異議アリマセ
ヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者ナリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=29
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030・鈴木寅彦
○鈴木委員長 是デ今日ハ散會致シマ
ス
午後零時三十八分散會発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005912783X00519310217&spkNum=30
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