1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和六年二月五日(木曜日)
午後一時五十分開議
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議事日程 第九號
昭和六年二月五日
午後一時開議
第一 米穀法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第二 米穀需給調節特別會計法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第四 刑事補償法案(政府提出) 第一讀會
第五 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第六 市制中改正法律案(若宮貞夫君外四名提出) 第一讀會
第七 町村制中改正法律案(若宮貞夫君外四名提出) 第一讀會
第八 北海道會法中改正法律案(若宮貞夫君外四名提出) 第一讀會
第九 治安警察法中改正法律案(末松偕一郎君外三名提出) 第一讀會
第十 治安警察法中改正法律案(山枡儀重君外二名提出) 第一讀會
第十一 治安警察法中改正法律案(安藤正純君外十名提出) 第一讀會
第十二 樺太に衆議院議員選擧法施行に關する法律案(東武君外二名提出) 第一讀會
第十三 樺太に衆議院議員選擧法施行に關する法律案(鵜澤宇八君外二名提出) 第一讀會
第十四 公娼制度廢止に關する法律案(三宅磐君外十名提出) 第一讀會
第十五 辯護士法中改正法律案(北浦圭太郎君外三名提出) 第一讀會
第十六 中央卸賣市場法中改正法律案(藤田若水君外四名提出) 第一讀會
第十七 違警罪即决例中改正法律案(一松定吉君外三名提出) 第一讀會
第十八 行政執行法中改正法律案(一松定吉君外三名提出) 第一讀會
第十九 家祿賞典祿給與未濟に關する法律案(末松偕一郎君外四名提出) 第一讀會
第二十 度量衡法中改正法律案(一松定吉君提出) 第一讀會
第二十一 計量士法案(一松定吉君提出) 第一讀會
第二十二 未成年者飮酒禁止法中改正法律案(長尾半平君外二十四名提出) 第一讀會
第二十三 恩給法中改正法律案(山下谷次君外一名提出) 第一讀會
第二十四 刑事訴訟法中改正法律案(一松定吉君外四名提出) 第一讀會
第二十五 利息制限法中改正法律案(一松定吉君外四名提出) 第一讀會
第二十六 民事訴訟法中改正法律案(村岡吾一君外三名提出) 第一讀會
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=0
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001・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 諸般ノ報告ヲ致サ
セマス
〔書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
市制中改正法律案
町村制中改正法律案
府縣制中改正法律案
北海道會法中改正法律案
輸出生絲檢査法中改正法律案
(以上二月五日提出)
議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
河川法中改正法律案
提出者
山枡儀重君定塚門次郞君
田中祐四郞君由谷義治君
〓水長〓君風見章君
借地借家調停法中改正法律案
提出者小久江美代吉君
六大都市ニ關スル法律案
提出者
森田茂君上田孝吉君
西村金三郞君鈴木吉之助君
小俣政一君深澤豐太郞君
本田彌市郞君勝田銀次郞君
中亥歲男君土倉宗明君
紫安新九郞君竹田儀一君
瀨川嘉助君古島宮次郞君
本田義成君高橋秀臣君
大崎〓作君三元磐君
今堀辰三郞君
(以上二月三日提出)
產業組合中央金庫法中改正法律案
提出者
由谷義治君杉浦武雄君
高橋守平君小野耕一郞君
木村秀興君牛場〓次郞君
道源權治君堤康次郞君
本田彌一郞君佐藤與一君
佐藤啓君西田郁平君
河波荒次郞君山枡儀重君
寺島權藏君
(以上二月五日提出)
京都市內貫通國有鐵道高架改築ニ關スル
建議案
提出者
西村金三郞君原夫次郞君
鈴木吉之助君安田耕之助君
森田茂君
府縣廢合ニ關スル建議案
提出者信太儀右衞門君
大垣ヨリ大野ヲ經テ金澤ニ至ル鐵道速成
ニ關スル建議案
提出者猪野毛利榮君
上野福井間急行列車運行ニ關スル建議案
提出者猪野毛利榮君
米原今庄間鐵道電化速成ニ關スル建議案
提出者猪野毛利榮君
小濱奧名田間鐵道敷設ニ關スル建議案
提出者猪野毛利榮君
越美線速成ニ關スル建議案
提出者
猪野毛利榮君大野伴睦君
三陸沿岸鐵道速成ニ關スル建議案
提出者
水上齊之助君高橋壽太郞君
大船渡若柳間ヲ自動車交通網ニ編入ニ關
スル建議案
提出者
水上齊之助君高橋壽太郞君
聞島在住朝鮮人救濟ニ關スル建議案
提出者宮川一貫君
(以上二月三日提出)
津幡金澤間複線工事速成ニ關スル建議案
提出者
戶部良祐君櫻井兵五郞君
武谷甚太郞君
(以上二月四日提出)
出流尊皇烈士ノ慰靈ニ關スル建議案
提出者
栗原彥三郞君松村光三君
橿原神宮宮域擴張竝建物修築ニ關スル建
議案
提出者
服部〓一君八木逸郞君
北浦圭太郞君岩本武助君
松尾四郞君
鹿兒島縣大島群島ニ通スル航海補助費增
額ニ關スル建議案
提出者久留義〓君
鹿兒島縣名瀨港ヨリ古仁屋港ニ至ル縣道
ヲ國道ニ編入ニ關スル建議案
提出者久留義〓君
別府ヲ中心トスル國立公園設定ニ關スル
建議案
提出者
高橋欽哉君長野綱良君
重松重治君松定吉君
(以上二月五日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル質問主意書左ノ
如シ
河野通治贈位奏請ニ關スル質問主意書
提出者武知勇記君
(以上二月三日提出)
地方財政ニ關スル質問主意書
提出者船田中君
(以上二月四日提出)
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一去三日幣原內閣總理大臣臨時代理ヨリ左
ノ通發令アリタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
專賣局部長佐々木謙一郞
第五十九囘帝國議會大藏省所管事務政府
委員被仰付
一去三日常任委員補闕選擧ノ結果左ノ如シ
第五部選出
豫算委員川島正次郞君(森田政義君
補闕)
第七部選出
決算委員神部爲藏君(山本平三郞
君補闕)
一去三日議長ニ於テ選定シタル委員左ノ如
シ
震災被害者ニ對スル租稅ノ減免猶豫等ニ
關スル法律案(政府提出)外一件委員
永田善三郞君岸衞君
佐藤正君最上政三君
今堀辰三郞君櫛部荒熊君
庄司良朗君胎中楠右衞門君
深澤豐太郞君
郵便法中改正法律案(政府提出、貴族院送
付)外一件委員
井上剛一君赤塚五郞君
土屋寛君木村義雄君
藍川〓成君大石倫治君
松山常次郞君橫川重次君
水島彥一郞君
一去三日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
特別會計ニ於ケル營繕費ニ關スル法律案
(政府提出)外六件委員
辭任加藤睦之介君補關高橋守平君
辭任淺原健三君補關中田騒郞君
辭任鈴木梅四郞君補闕鈴木吉之助君
辭任鈴木英雄君補闕川口義久君
地租法案(政府提出)外六件委員
辭任木村小左衞門君補闕村岡吾一君
一去三日議長ニ於テ辭任ヲ許可シタル常任
委員左ノ如シ
第四部選出
豫算委員岡田忠彥君
第五部選出
豫算委員濱田國松君
一昨四日衆議院規則第十五條但書ニ依リ議
長ニ於テ議席ヲ左ノ通變更セリ
二八八下元鹿之助君
三八八飯塚春太郞君
一昨四日常任委員補關選擧ノ結果左ノ如シ
第四部選出
豫算委員寺田市正君(岡田忠彥君
補闘)
第五部選出
豫算委員小野寺章君(濱田國松君
補闕)
一昨四日委員長及理事互選ノ結果左ノ如シ
震災被害者ニ對スル租稅ノ減免猶豫等ニ
關スル法律案(政府提出)外一件委員
委員長永田善三郞君
理事
岸衞君深澤豐太郞君
郵便法中改正法律案(政府提出、貴族院送
付)外一件委員
委員長井上剛一君
理事
赤塚五郞君水島彥一郞君
一昨四日ニ於ケル特別委員ノ異動左ノ如シ
特別會計ニ於ケル營繕費ニ關スル法律案
(政府提出)外六件委員
辭任中田験郞君補閱堀部久太郞君
一昨四日議長ニ於テ辭任ヲ許可シタル常任
委員左ノ如シ
第七部選出
豫算委員太田信治郞君
第四部選出
豫算委員片山哲君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=1
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002・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 是ヨリ會議ヲ開キ
マス、都合ニ依リ暫時休憩致シマス
午後一時五十五分休憩
午後三時五十八分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=2
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003・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 休憩前ニ引續キ會
議ヲ開キマス、議事進行ニ關スル件ニ付キ
森本一雄君ヨリ發言ヲ求メラレテ居リマ
ス、此際之ヲ許シマス森本一雄君
〔森本一雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=3
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004・森本一雄
○森本一雄君 議事ノ進行ニ關シマシテ私
ハ議長ニ簡單ニ御質問ヲ申上ゲ、サウシテ
議長ノ御斡旋ヲ煩シタイト存ズルノデアリ
やく、濱口總理大臣閣下御遭難ノ事ニ付キ
マシテハ私共ハ深甚ノ御同情ヲ申上ゲテ
居リマシテ、一日モ早ク御快癒ノ上御登院
アランコトヲ希望シテ居ル者デアリマス、
本會議ニ於テモ、委員會ニ於テモ、幣原臨
時首相代理カラ、今期議會ニ登院スルコト
ハ確カデアルケレドモ、イツ登院スルカ、
其期日ノ事ハ言明スル譯ニハ行カヌ、斯ウ
云フヤウナ御答ガアッタノデアリマスガ、イ
ツ出ラレルカト云フ期日ヲ明カニスルナラ
バ今期議會ニ確カニ登院スルト云フコト
ノ結論ハ出テ來マスケレドモ、イツ登院ス
ルカ、時期ハ明言出來ヌト云フコトデアフ
テハドウシテモ今期議會ニ確カニ登院スル
ト云フ結論ハ出テ來ナイヤウニ私共ハ思
フノデアリマス、ソレデ濱口雄幸閣下ハ
總理大臣デアラレルト共ニ、議員濱口雄
幸君デアリマスカラ、議院ノ法規ニハ御
從ヒニナラナケレバナリマセヌ、衆議院規
則ノ第百六十三條ニ「議員事故ノ爲ニ數日
間議院ニ出席スルコト能ハサルトキハ其
理由ヲ具へ日數ヲ定メテ豫メ請暇書ヲ差
出シ許可ヲ受クヘシ公務又ハ疾病若ハ
時已ムヲ得サル事故アリテ議院ニ出席ス
ルコトヲ得サルトキハ其ノ理由ヲ具ヘ闕席
屆書ヲ差出スヘシ」斯ウ云フ規定ガアリ、
又議院法ノ第八十一條ニ各議院ノ議長ハ一
週間ニ超エサル議員ノ請暇ヲ許可スルコト
ヲ得其ノ一週間ヲ超ユルモノハ議院ニ於テ
之ヲ許可ス期限ナキモノハ之ヲ許可スルコ
トヲ得ス」斯ウアリマス又第九十九條ニ
「議員正當ノ理由ナクシテ勅諭ニ指定シタ
ル期日後一週間內ニ召集ニ應セサルニ由
リ」「議長ヨリ特ニ招狀ヲ發シ其ノ招狀ヲ受
ケタル後一週間內ニ仍故ナク出席セサル者
ハ」「衆議院ニ於テハ之ヲ除名スヘシ」ト云
フ、除名ト云フ重大ナコトマデ規定セラレ
テ居ル位デアリマス、故ニ私共ハ議員ガ議
院ニ出席スルト云フコトハ一面ニ於テ權
利デアリマスルケレドモ、法律デ規定セラレ
タル他面ニ於テ義務ナノデアリマス、重大
ナ責務ナノデアリマス、唯例外ノ場合ハ期
限ヲ限ッテ特ニ院議ニ諮ッテ請暇ヲ許可シ得
ルト規定サレテ居ルノデアル、私共ハ議員
ノ動靜ト云フモノハ常ニ公報ヲ通ジテノミ
承知致スノデアリマス、少クトモ此公報ヲ
通ジテ見マスルト云フト、二十四日ノ公報
ニ應召セザル議員ノ中ニ濱口雄幸君ノ名前
ガ載ッテ居リマスケレドモ、ソレ以後何等闕
席屆ヲ出サレタト云フヤウナコトガ報道セ
ラレテ居リマセヌノミナラズ、請暇ノ手續
ヲモ執ッテ居ラレマセヌ、惟フニ私ハ此關席
屆ヲ出シテ居ラレルノデハナカラウカト考
ヘルノデアリマスガ、若シ萬一關席屆ヲ出
シテ居ラレルノデアリマシタナラバ、議員
ノ動靜ハ吾々ハ公報以外ニハ分ラナイノデ
アリマスカラ、將來斯樣ナ事柄ハ當然公報
ニ御載セ下サルヤウニ議長ニ御願シタイト
思フノデアリマス、ソレカラ又關席屆デア
ルトシマスルナラバ、ソレガ病氣デアラウ
ガ事故デアラウガ、大凡何日間ト云フ日限
ヲ定メテ許可ヲ受クルノガ、學校デモ、事
務所デモ、是ハ當然ノ事ナノデアリマス
總理大臣ガアヽ云フヤウナ御災害ニ遭ハ
V、サウシテ身體ニ故障ガアルノデアリマ
スカラ、何日ニ癒ルト云フコトガ明確ニ分
ラヌト致シマシテモ、主治醫ト相談スレバ
略イツ何日頃ニハ完全ニ身體ハ囘復スル
ト云フコト位ノ御見込ハ付カウト思フノデ
アリマス、故ニ私共ハ闕席屆ガ出テ居ルナ
ラバ、ソレガ假令法律デ定ッテ居ッテモ居ラ
ヌデモ、期限ヲ私共ハ附スベキガ至當ダト
考ヘルノデアリマス、若シ闕席屆ガ出テ居,
テ、ソレニ期限ガ附イテ居ラナイト云フコ
トデアルナラバドウカ官吏トシテノ方ノ
御聞合セハ旣ニ濟ンデ居,テ、曖昧ナル御返
事デアリマシタケレドモ、議員タル濱口君
ニ對シテ、ドウカ議長カライツ頃出ラレル
カ、闕席屆ニ日ハナイケレドモ、イツ頃出ラ
レルカト云フコトヲ御問合ヲ願ヒタイト思
ヒマス、サウ致シマスレバ、濱口君ガ御登
院ニナル期日モ明確ニナリマスシ、隨テ豫
算總會デ輕卒ナ不謹愼極マル言語ヲ弄サレ
タ幣原首相代理ノ······
〔「不謹愼ト云フコトガドウシテ言ヘル
カ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=4
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005・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 私語ヲナサラヌヤ
ウニ·発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=5
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006・森本一雄
○森本一雄君(續) 私ハ不穩當ト思ヒマ
ス、私ノ考ヲ述ベテ居ルノデアッテ、アナタ
ノ考ヲ述ベテ居ルノデハアリマセヌ、與黨
ノ諸君ト雖モ議事ガ何ガ故ニ停頓シテ居ル
カト云フコトハ御分リダト思ヒマス、此議
事ヲ停頓サセテ居ル不適當ナ首相代理ヲ更
迭セシムル期日ヲ、一日モ早カラシメン爲
ニハ只今申上ゲタ手續ヲ議長ガ御執リ下
サルノガ一番捷徑ダト思ヒマスカラ、特
議長ノ御斡旋ヲ御願致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=6
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007・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 森本一雄君ノ御尋
ニ對シテ御答ヲ致シマス、議員濱口雄幸君
ノ缺席ニ付テノ御尋デアリマス、御本人ヨ
リハ應召延期屆ガ昭和五年十二月二十四日
付デ提出サレテアリマス、隨テ事務局ニ於
テハ先例ニ依クテ一切ノ手續ヲ致シテ居リ
マスガ、唯公報ニ記載ガナイト云フコトデ
ゴザイマシタケレドモ、從來斯樣ナ例ハ
公報ニ記載致シテ居リマセヌ、右手續ノ點
ヲ申上ゲマス、次ノ御話デゴザイマスガ、
是ハ議長ニ於テ承ッテ置キマス
日程第一及ビ第二ハ同種議案ナルニ依リ、
一括議題トナスニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=7
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008・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
マス-日程第一米穀法中改正法律案、
日程第二、米穀需給調節特別會計法中改正
法律案ノ兩案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開キマ
ス-農林大臣町田忠治君
第米穀法中改正法律案(政府提出)
第一讀會
米穀法中改正法律案
米穀法中左ノ通改正ス
第二條中「米穀ノ輸入稅ヲ增減若ハ免除
シ又ハ其ノ輸入若ハ輸出ヲ制限スルコト
ヲ得」ヲ「米穀ノ輸入稅ヲ增減又ハ免除ス
ルコトヲ得」ニ改ム
第三條米穀ノ輸入又ハ輸出ハ勅令ニ別
段ノ定アル場合ヲ除クノ外政府ノ許可
ヲ受クルニ非ザレバ之ヲ爲スコトヲ得
ズ
第四條ヲ第六條トシ第五條中「前條」ヲ
「第六條」ニ改メ同條ヲ第八條トス
第四條政府ガ帝國内ニ於テ第一條ノ規
定ニ依リ米穀ノ買入又ハ賣渡ヲ爲スハ
米價ガ政府ノ〓示シタル最低價格又ハ
最高價格ヲ超エ低落又ハ騰貴シタル場
合ニ限ル但シ米穀ノ買換、貯藏米穀整
理ノ爲ニスル賣渡、輸入ヲ目的トスル
米穀ノ買入及輸出ヲ目的トスル米穀ノ
賣渡ノ場合ニ於テハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ米價ハ命令ノ定ムル所ニ從ヒ其
ノ指定スル市場ノ相場ニ依リ之ヲ定ム
第一項ノ買入又ハ賣渡ノ價格ハ時價ニ
準據シテ之ヲ定メ同項但書ノ場合ヲ除
クノ外之ヲ〓示ス
第五條前條ノ最低價格又ハ最高價格ハ
命令ノ定ムル所ニ依リ左ニ揭グル事項
ヲ基礎トシテ之ヲ定ム
米穀生產費
家計費
米價指數ノ物價指數ニ對スル割合ノ
趨勢ニ依リ算出シタル價格
第七條第三條ノ規定ニ違反シテ米穀ヲ
輸入又ハ輸出シタル者ハ五千圓以下ノ
罰金ニ處シ其ノ米穀ヲ沒收ス若シ其ノ
米穀ノ全部又ハ一部ヲ沒收スルコト能
ハザルトキハ其ノ價額ヲ追徵ス
營業者未成年者又ハ禁治產者ナルトキ
ハ前項ノ罰則ハ之ヲ法定代理人ニ適用
ス但シ營業ニ關シ成年者ト同一ノ能力
ヲ有スル未成年者ニ付テハ此ノ限ニ在
ラズ
營業者ハ其ノ代理人、戶主、家族、履
人其ノ他ノ從業者ガ其ノ業務ニ關シ第
三條ノ規定ニ違反シタルトキハ自己ノ
指揮ニ出デザルノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ
免ルルコトヲ得ズ
法人ノ代表者其ノ他ノ從業者法人ノ業
務ニ關シ第三條ノ規定ニ違反シタルト
キハ其ノ罰則ヲ法人ニ適用ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
命令ノ定ムル所ニ依リ當分ノ內第四條ノ
最低價格又ハ最高價格ハ第五條ノ規定ニ
拘ラズ米價指數ノ物價指數ニ對スル割合
ノ趨勢ニ依リ算出シタル價格ヲ基礎トシ
之ヲ定ム
第二米穀需給調節特別會計法中改正
法律案(政府提出)第一讀會
米穀需給調節特別會計法中改正法律
案
米穀需給調節特別會計法中左ノ通改正ス
第二條第二項ヲ削ル
第四條ノ二第三條ノ規定ニ依リ發行ス
ル證劵ノ借換ノ爲政府ハ借入ヲ爲シ又
ハ一年內ニ償還スヘキ證劵ヲ發行スル
コトヲ得其ノ借換ニ付亦同シ
第四條ノ三本會計ノ負擔ニ屬スル證劵
及借入金ノ額ハ通シテ最高三億五千萬
圓トス
附則
本法ハ昭和六年度ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=8
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009・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 只今議題ト相成
リマシタル米穀法中改正法律案ノ提出ノ理
由ノ大體ヲ申述ベマス、米穀調節ノ問題ハ
農家經濟及ビ一般國民生活ノ安定ト離ルベ
カラザル重大ナル關係ガアリマスルガ故
ニ、是ガ根本的調査ヲ遂ゲマシテ確乎タ
ル政策ヲ樹立スルノ必要ガアルノデアリマ
ス御承知ノ如ク前內閣ハ米穀調査會ヲ設
立致シマシテ、米穀ノ需給及ビ價格ノ調節ニ
關シテ執ルベキ方策如何ト云ヘル諮問案ヲ
審議ニ付シタノデアリマスガ、審議未了ニ
終リマシタルガ故ニ、現內閣ハ此諮問案ヲ
其儘繼續調調査セシメテ、今日此案ヲ提出ス
ル基礎ヲ造シタノデアリマス、調査會ニ於キ
マシテハ此意ヲ體シテ銳意〓究ヲ重ネマシ
タル結果、是ガ昭和五年三月其答申ヲ得マ
シタノデアリマス、其答申ノ中デ此根本的
改正ヲ致スコトニ關係アル二項ガゴザイマ
ス、其二項ノ一ツハ「米價基準ヲ設定スルハ
緊要ナリト認ム仍テ政府ハ速ニ米穀法ノ發
動ニ必要ナル米價ノ最高最低基準ヲ調査決
定スベシ」ト云フ第一項ヲ先ヅ答中シタノ
デアリマス、次ニ第二ノ答申ト致シマシテ、
「外國米輸入許可制度ヲ設ケ一定數量ノ輸
入ヲ許可シ同時ニ輸出ヲモ許可ヲ受ケシム
ルコトヽシ外國米輸出入ノ管理統制ヲ圖
ルベシ」ト云フ答申ニ相成ッタノデアリマス、
此二項ニ付キマシテハ政府ハ米穀法ノ改正
ヲ必要ト認メマシテ、愼重考究ノ結果、米
穀法ノ發動ニ必要ナル米價基準ニ關スル法
案ヲ更ニ米穀調査會ニ諮問致シマシテ、昨
昭和五年十二月共答申ヲ得タノデアリマ
ス、米穀法ヲ運用スルニ當リマシテ採ルベ
キ米價ノ最高最低ノ基準ヲ設ケマスコト
ハ米穀法ノ發動ヲ公正ニ致シ、其運用ニ
遺憾ナカラシムル上ニ於テ、極メテ緊要ナ
ルモノト認メマシタノデ、是等米穀調査會
ノ答申ヲ基礎ト致シマシテ、米穀ノ市價ヲ
調節スル爲メ米穀ノ買入又ハ賣渡ヲ致シマ
スル場合ノ基準トスベキ最高最低ノ價格
ハ米穀ノ生產費、家計費及ビ率勢米價ヲ
基礎トシテ決定スルコトヽ致シタノデアリ
さく、玆ニ率勢米價ト申スノハ米價指數
ト物價指數トヲ比較シテ、物價指數ニ對ス
ル米價指數ノ割合ノ趨勢ヲ基トシテ計算シ
タル方法デアリマス、此詳シイコトハ委員
會ニ於テ申述ベルコトヽ致シマス、而シテ
米穀ノ生產費竝ニ一般國民ノ生活費ヲ調査
スル材料ガ整備スルマデニハ、多少ノ時間ヲ
要シマスル故ニ、差當リ率勢米價ヲ基礎ト
シテ之ヲ定ムルコトヽ致シタノデアリマ
ス
又米穀ノ輸入及ビ輸出ニ付キマシテハ
現行米穀法第二條ニハ、米穀ノ數量又ハ市
價ヲ調節スル爲ニ殊ニ必要ナリト認メマス
ル際ニハ、豫メ期限ヲ一定シテ之ヲ制限ス
ルコトノ出來ル規定ガアリマスルガ、斯樣
ナ規定ハ臨時的調節策ニ過ギマセヌガ故ニ、
此度ノ調査會ノ答申ニ基キマシテ、米穀ノ
輸入及ビ輸出ニ對シテハ常時許可ヲ致シ
テ、輸出輸入ヲ國家自ラ統制スルト云フコ
トガ、此度ノ改正案ノ要項デアリマス、是
ガ本改正案ヲ提出致シマシタル大體ノ趣意
デゴザイマス、宜シク愼重蕃議ノ上御協贊
アランコトヲ望ミマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=9
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010・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 大藏大臣井上準之
助君
〔國務大臣井上準之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=10
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011・井上準之助
○國務大臣(井上準之助君) 只今議題トナ
リマシタ米穀需給調節特別會計法中改正法
律案ニ付キマシテ、其提案ノ理由ヲ說明致
シマス
米穀法ノ運用ヲ完カラシメル爲ニハ現
在ノ米穀需給調節特別會計ノ資金デハ不十
分デアリマスカラ、其限度ヲ八千万圓ダケ
擴張致シマシテ、之ヲ三億五千万圓トスル
コトヽ致シ、尙ホ從來本會計ニ於テハ米穀
ノ買入代金トシテ交付スル米穀證劵ハ借
入金ニ依シテ之ヲ償還スルコトヽ致シテ居
リマスガ、此借換ヲ認ムルコトヲ適當ト認
メマシタノデ、法律ヲ改正スルコトヽ致シ
マシタ、何卒御審議ノ上御協賛ヲ與ヘラレ
ンコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=11
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012・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 質疑ガアリマス、
之ヲ許可致シマス、胎中楠右衞門君
〔胎中楠右衞門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=12
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013・胎中楠右衞門
○胎中楠右衞門君 私ハ町田農林大臣ト俵
商工大臣ニ質問ヲ致シタイノデアリマスー
俵商工大臣ガ御見エニナリマセヌガ、誰
カ.発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=13
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014・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 今請求シテ居リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=14
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015・胎中楠右衞門
○胎中楠右衞門君(續) 今商工次官ガ御見
エニナッタヤウデアリマスカラ、私ハソレデ
滿足致シマス、私ガ質問致シタイト思ヒマ
スル事柄ハ大體二點デアリマス
其一點ハ只今農林大臣ノ御說明ニナリマ
シタル米穀法ノ改正、此改正案ニ付キマシ
テハ、政府部內ニ於テモ相當異論ノアルト
云フコトヲ聞キ知ッテ居ルノデアリマス、此
異論ニ依ッテ生ジマス政府部內ノ反對、ソレ
ハ本案ガ餘リニ農民ニ不利ナ結果トナルト
云フコトデアリマス、ソレガ最近ノ經濟事
情ニ依ッテ明瞭トナッテ居ルノデアリマス
卽チ今囘提出サレマシタル改正案ハ米價
率ヲ中心トシテ生產費竝ニ生計費ヲ考慮シ
テ、此米穀法ノ發動ノ基準トサレルト云フ
コトデアリマス、而シテ政府竝ニ米穀調査
會ニ於キマシテハ本案ガ審議サレマシタ
當時、米價率ヲ中心トシテ生產費ヲ其下ニ
位セシメテ居ル、サウシテ生計費ヲ其上ニ
持ッテ來テ、此率ヲ產ミ出サウトシテ居ル、
是ナラバ相當私共モ領カレル點ガアルノデ
アリマス、併ナガラ今囘ノ提案ニ依クテ見
マスルト云フト左樣デナイ、最近物價ノ
暴落ハ米價率ヲ殊ニ非常ナル低下ヲサシ
テ居リマスコトニ依ッテ、本年度ノ如キハ其
生產費ガ、帝國農會竝ニ農林當局御自身ノ
御調ニ依リマシテモ、現在ノ米價率ハ二十
二圓以上ニナッテ居ルノデアリマス、元來米
價對策ノ根幹ハ生產費ヨリ高クシテ、サウ
シテ生計費ヨリハ安クスルト云フコトニ
依ッテ、生產者ヲ破綻ニ陷ラシメズ、又消費
者ヲモ苦シメナイト云フコトニアルコトハ
勿論デアリマス、然ルニ何故ニ生產費ヨリ
下位ニアル所ノ米價率ヲ、基準決定ノ要素
トサレタノデアリマスカ、何ノ必要ガアツ
テ左樣ニ致シタノデアルカ、政府ガ生產費
ヲ割ッテ、更ニ下位ニアリマス所ノ米價率以
下ニナラネバ此米穀法發動ノ必要ガナイ
ト云フコトガ、如何ナル理由デアルカ、之
ヲ御尋シタイノデアリマス
第二點ハ米穀政策ト最モ關係ノアル肥料
政策ニ付テ御伺ヲ致シタイノデアリマス
御承知ノ如ク我國農村ノ事情ハ、如何ナル
場合ニ於テモ、肥料ノ價格ヲ出來ルダケ安
價ニ、農家ニ配給スルト云フコトニ努メナ
ケレバナラヌノデアリマス、農村振興ノ根
幹デアルト云フノモ、畢竟是デナケレバナ
ラヌ、然ルニ最近傳フル所ニ依リマスト
町田農相、俵商相、井上藏相ノ諸氏ハ我
國肥料界ノ代表者デアリマスル藤原、野
口、鈴木ノ三氏ト度々會見ヲ致シテ居リマ
ス而モ個々ノ會見ヲ致シテ居ルノデアリ
マく、而シテ其會見ヲシタ結果ハ、次第ニ
肥料價格ト云フモノガ上ッテ來テ居ル、勿論
此會見ノ內容ヲ私ハ知ラウト云フノデハア
リマセヌ、併ナガラ何レニ致シマシテモ、
此三相ノ方々ガ肥料界ノ代表者ト屢"會見
シ、且ツ個々ニ會見シタト云フコトニ依ッ
テ、其結果トシテ肥料ガ高クナッタト云フ
事實ハ否定出來ナイノデアリマス(拍手)私
ハ是ニ於テ町田、俵、兩大臣ヨリ、左ノ諸
點ニ付テ明瞭ナル御說明ヲ御顕シタイ
第一ハ我國硫安工業ノ最低生產費ト云
フモノハ何程デアルカ、是ガ一ツ第二ハ
將來我國硫安工業ガ外國品ノ壓迫ヲ受ケ
テ、經營困難ニ陷リマス場合、政府ハ如何
ナル對策ヲ講ジヨウト爲サルノデアリマ
スカ是ガ二點、第三ハ現下ノ窮狀ニア
ル農村ノ事情ニ鑑ミ外國硫安ニ對シテ不
當廉賣ニ關スル法規ヲ適用シ、關稅ヲ課ス
ルノ意思ガアルカナイカ、之ヲハッキリ聞キ
タイ、是ガ第三、第四ハ肥料政策確立ノ爲
メ我國ニ於テ將來有望ナル硫安工業ニ對
シ、補助金若クハ奬勵金、又ハ低利資金ヲ
運用シテ、徹底的ニ農民ニ安價ナル肥料ヲ
配給スルト云フ必要ガアルト思フカドウデ
アルカ、此四點デアリマスルガ、此四點ヲ
御尋致シマスル所以ノモノハ、我國肥料價
格ノ騰落ハ、硫安肥料ノ相場ニ依リ左右サ
レルコトハ御承知ノ通リデアリマス、故
硫安ニ對スル所ノ價格ハ、直チニ全般ノ肥
料ニ是ガ影響スルノデアリマス、ソレデナ
クテサヘ全農民ハ農產物ノ下落ノ爲ニ、
今ヤ生死ノ境ニ彷徨シツヽアルノ時デアリ
さく、肥料ノ値上ヲ行フト云フガ如キハ
此場合國民ノ半數ヲ占メル農民全體ノ首ヲ
縊上ゲテ、一二資本家ヲ擁護スルト云フコ
トニナルノデアリマシテ吾々ハ斷ジテ之
ヲ許サナイト云フ考デアリマス(拍手)
申スマデモナク肥料ヲ國內ニ生產スル、
奬勵ヲスルト云フコトハ、私共ノ最モ熱望
スル所デアリマス、併ナガラ是ハ農民ノ負
擔ヲ過重ニセザルモ、他ニ幾多ノ奬勵ノ方
法ガアルト考ヘルノデアリマス政府ガ現
在執リツヽアル所ノ硫安工業ニ對スル態度
ハ恰モ人力車夫ノ生活ヲ擁護センガ爲
ニ、自動車ノ發達ヲ阻碍セントスルノ類デ
アリマス、卽チ舊式ナ製造工業ヲ爲シツヽ
アリマスル一二會社ガ、或ハ其資金、或ハ
其經營ニ窮シテ居リマスル之ヲ特ニ保護
致スコトニ依ッテ、五百六十万戶約四千
万人ノ農民ヲ犠牲ニシテ、安イ外國品ノ輸
入ヲ阻マントシテ居ルト云フコトノ如キ、
其誤レル政策ハ斷ジテ排擊ヲシナケレバナ
ラヌト考ヘルノデアリマス(拍手)
以上ノ理由ニ依リマシテ前段申上ゲマシ
タ事ノ諸點ニ付テ、其疑ヲ質シタイノデア
リマスルカラシテ、御親切ニ、明確ニ御答
辯アランコトヲ切ニ希望致シマス(拍手)
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=15
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016・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 胎中君ノ御尋ニ
對シテ、米穀法ニ關スル御質問ニ對シテハ
私ヨリ御答ヲ致シ、肥料ニ關スル問題ニ付
キマシテハ農林當局トシテノ立場カラ御
答ヲ致ス所モアリマス、商工大臣カラ御答
ヲ致ス所モアラウト思ヒマスカラ、二ツニ
分ッテ、肥料ニ關スル問題ニ付キマシテハ
兩人カラ各、其主管ノ關係ヨリ御答ヲ致ス
コトヽ致シマス
第一ノ米穀法ヲ改正致シマスルニ付キマ
シテ、消費者ノ生活ヲ考慮致シタ所ノ生計
費、竝ニ生產者ノ立場ヲ考慮シタル所ノ生
產費、此二ツヲ基礎トシ、米ヲ國家ガ買入
レル場合ハ生產費ヲ基準ト致シ、米價ガ相
當ニ上リマシテ、一般消費者ノ生活ヲ脅カ
ス場合ニハ生計費ヲ基礎トシテ政府ガ賣
出ス、是デ宜シイヂヤナイカト云フ御考ノ
上カラ、何故ニ率勢米價ナドヽ云フ基準ヲ
此中ニ加ヘタカ、其理由ハ何レニアルカト
云フ大體ノ御尋ト承知致シマシタ、御尤ナ
ル御尋ト思ヒマス
御承知ノ通リ一昨々年、當時在野黨タリ
シ私共ヨリ前內閣ニ進言ヲ致シテ、當時議
會ノ問題トナッテ居リマシタ所ノ、米穀特別
會計ノ運用資金ガ乏シク相成リマシテ之
ニ相當ナ金額ヲ增額セナケレバナラヌト云
フ問題ガ、政治上ノ相當大キナル問題トナ
リ議院ノ內外ニ此問題ガ喧シカッタ當時、
私共モ米穀法ガ現存シテ居リナガラ、特別
會計ノ資金ガ乏シイガ爲ニ、此運用ヲ停止
スルコトヲ憂慮致シマシテ、大體ニ於テ當
時政府ノ提案ニ同意スルト同時ニ、斯ル國
家全體ノ上ニ國民全體ノ生活ノ上ニ關
係アル此問題ハ、政黨政派ヲ超越シテ、倶
ニ〓究シヨウヂヤナイカト云フ提議ヲ致シ
マシテ、幸ニシテ前內閣ガ此議ヲ容レマシ
テ、米穀調査會ガ出來タ事情ハ御承知ノ通
リデアリマス、爾來前內閣時代ニ於キマシ
テモ米穀法運用ノ基礎トナルベキ生產費
竝ニ生計費等ニ付キマシテ相當御審議ガ
アリマシタノデアリマス、遺憾ナガラ其審
議ノ結了ヲ見ズシテ內閣ガ更迭致シタ爲
ニ、現內閣モ前內閣ノ方針竝ニ此政策ヲ重
要視シタル其意思ヲ繼續シテ、一昨年以來
此調査ニ掛ッテ居ルノデアリマス、マダ御手
許ニ差上ゲナカッタカ判然シマセヌガ、米穀
調査會ニ於テ審議セラレマシタ要領ニ付キ
マシテハ、政友會ヨリ御出席ノ委員諸君モ
御承知ノ筈ト思ヒマス、定メシ委員諸君ヨ
リ、或ハ政友會ノ總會等ニ御報告ニモ相成ッ
タコトカト想像致シテ居リマスガ、何レニ
致シマシテモ米穀買入ノ基準、米穀賣渡ノ
基準ヲ定メルト云フコトハ相當困難ナ方
法デアリマス、殊ニ生產費ヲ幾ラト定メル
ト云フコトハ、全國ニ亙ッテ土地ノ肥沃ナ處
モアリ、瘦セタ處モアリ、勞力ノ關係、種
種ナル點カラ全國ヲ通ジタル一定ノ米穀ノ
生產費ヲ見出スコトハ困難デアリマス、又
一般國民ノ生計費、生活費ノ基礎ヲ調査シ
テ、正確ナル材料ニ依ッテ國民多數ノ生活費
ガ、此點デアルト云フコトヲ取定メルコト
モ亦齊シク困難デアリマス、併シ出來ルダ
ケノ材料ニ依"テ米穀ノ生產費ヲ取調べ調
查シテ今後米穀法發動ノ主ナル材料ト致
スコトハ勿論デアリマス、唯多少ノ歲月ヲ
要スルガ爲ニ、其間如何ニ米穀法ヲ運用ス
ルカト申シマスレバ、率勢米價甚ダ一
般世ノ中デモ率勢米價ト云フ言葉ガ、新シ
イ言葉デアリマスルガ故ニ、國民ガ之ヲ諒
解スルニハ多少ノ時日ハ掛ルコトヽ思ヒマ
ス、胎中君ガ大體御承知ノ通リ、今日ノ物
價ニ比シテ米價ガ如何ナル地位、一般物價
ノ指數ニ對シテ米價ガ如何ナル地位ニアル
カト云フコトヲ算定スル方法デアリマス、
卽チ之ヲ具體的ニ申シマスレバ、日本銀行
ガ調査ヲ致シテ、一般ニ用ヰテ居リマスル
物價指數、三十年以來一般物價ノ指數ガ現
ハレテ、是ハ種々ナル方面ニ行ハレテ、之
ヲ利用シテ居リマス、此物價ノ趨勢ニ對シ
テ、同ジク三十三年カラ出發致シマシタ米
價ガ、一般物價ノ指數ニ對シテ如何ナル地
位、如何ナル關係ニアルカト云フコトヲ計
算シタノデアリマス、更ニ之ヲ一層具體的
ニ申シマスレバ今日ノ一般物價ノ指數ニ對
シテ、米價ノ地位ハ約二割高イ地位ニアル
ノデアリマス、三十年間一般物價ノ趨勢ト、
米價ノ趨勢ヲ比較シテ見マスト、今日ノ一
般物價ニ對スル三十年來ノ趨勢ハ、今日ニ
於テ米價ノ地位ハ一般物價ノ地位ヨリモ、
約二割位高イ地位ニアルノデアリマス、此
二割位高イ地位ヲ一般生產者ノ爲ニ考慮シ
マシテ、之ニ依ッテ今日ノ率勢米價ヲ得マシ
テ、一面生產費、生計費ノ相當ナル確實ナ
材料ヲ得マシタ時ニハ、今後ノ米穀法發動
ハ國家ガ米價低落ノ爲ニ農民ニ對シ、生產
者ニ對シテ相當ナル不利益ヲ與ヘルト見マ
シタトキニハ、生產費ト率勢米價ト二ツヲ
斟酌シテ、其範圍內ニ於テ政府之ヲ調節シ
テ、買入レル所ノ價格ノ標準ヲ定メルト云
フ立テ方デアリマス、生產費ノ定メ方ハ御
承知ノ通リ餘程面倒デアリマス、或ハ帝國
農會等ニ於キマシテハタシカ昨年ノ米價
ヲ二十六圓ト計算シタヤウデアリマス、政
友會カラオイデニナッテ居リマス米穀調査
會ノ委員ノ方々ハ御承知ノ通リ、經驗アル
人々、學者ヲ集メ、政友會、民政黨ノ代表
的ノ方ヲ委員トシテ、二年ノ間〓究シマシ
タガ、斯樣ナ方法ニ依ッテ生產費ガ出ルト云
フ一致ノ意見ガ出來ナカッタノデアリマス、
或ハ米ノ生產費ニ所得稅ヲ入レルト云フ議
論モアリマス、或ハ資本ノ利子ヲ除クト云
フ議論モアリマシテ、生產費ヲ見出スベキ
基礎材料ガ十數項ニ分レテ居リマス、唯明
治三十三年以來今日マデ三十年ノ間ニ、米
價ノ或ハ物價ヲ越シテ上ルコトガアリ、場
合ニ依レバ一般物價ノ指數ニ對シテ稀ニハ
低イコトモアリマスガ、大體ニ於テ一般物
價ノ指數ニ對シテ今日ハ二割高イ地位ニア
ル之ヲ基礎トスルコトハ生產者ノ立場
ニ向ッテ相當重イ考慮ヲ加ヘタ結果デアリ
マス尙ホ此問題ハ數字ニ關スル困難ナ間
題デアリマスガ故ニ、出來得ルナラバ委員
會ニ於テ十分申上ゲタイト思ヒマス
次ニ肥料ノ問題デアリマス、肥料ノ問題
ニ對シテハ農林當局ト致マシテハ常
出來得ルダケ低廉ナル肥料ヲ農家ニ供給ス
ル一定ノ方針ヲ以テ進ンデ、今日ニ及ンデ
居ルコトハ勿論デアリマス、殊ニ繭ノ大暴
落米穀其他農產物ノ價ノ低落ガ著シキ爲
ニ、一般農家ガ所謂其疲弊困憊ノ狀況ニアル
コトニ對シテハ常ニ日夜憂慮シテ、是ガ根
本對策、若クハ臨時應急策ヲ常ニ考究シテ
居ルノデアリマス肥料ノ事ハ胎中君モ十
分御承知ノ通リ、約ソ六億圓位ノ肥料ハ年
年農家ニ使ハレテ居ルト私共ハ達觀シテ居
リマス、其中デ三億圓位ハ先ヅ金肥、卽チ
購買肥料ニ依ッテ農家ガ農產物ニ用ヒテ居
ル購買肥料ハ、約ソ三億圓ニ達シテ居リマ
ス、昨年以來諸物價ノ下落ノ趨勢ト共ニ、
肥料モ相當大キナ割合デ下落シツヽアリマ
ス、或ハ購買肥料ノ下落ヲ六千万圓ト積ル
者アリ七千万圓ト積ル者アリ、計數ハ姑
ク措キマシテ、肥料ノ昨年以來著シク低落
シタ爲ニ農家ノ困憊ノ一部ヲ救濟シ、生
產費ヲ幾分カ安クシタコトハ一面ニ見ラル
ルト同時ニ、更ニ今日ノ農家ノ窮狀ヲ救フ
爲ニハ有ユル方面ニ於テ生產費ノ節約ヲ
圖リ又農產物ノ價格ヲ維持スル、兩方面
カラ〓究シテ居ルノデアリマス、只今問題
ト相成ッテ居リマスル硫安ノ問題ニ付キマ
シテハ、農林當局ト致シマシテ私ガ招キ
マシタノハ藤原銀次郞君、當時內外協定ヲ
致シテ、一ツノ「カルテル」ヲ作ルト云フ斡
旋者ト看做サレテ居ル藤原銀次郞君ニオイ
デヲ願ヒマシテ、事情ヲ聽キマシタ位ノモ
ノデアリマスガ、此問題ハ一面工業ノ基礎
ヲ危クスルカ否ヤニ付テモ、考慮シナケレバ
ナラヌト同時ニ、是ガ爲ニ目下困憊ノ地位
ニアル一般農民ニ對シテ、著シキ惡影響ヲ
及ボス虞ガアルカ否ヤニ付テ考慮致シマシ
テ、商工大臣竝ニ大藏大臣ト非公式ナル相
談ヲ致シテ、大藏省、農林省、商工省ノ事
務官ガ相會シマシテ、屢、當業者ヲ招イテ
果シテ今ノ價格ハ此儘ニ放任シテ置キマス
ルト、日本ノ基礎產業ヲ根柢ヨリ覆スヤ
否ヤ、或ハ今ノ獨逸、英吉利ノ「カルテル」
ヨリ輸入スル價格ハ、果シテ日本ノ「ダンピ
ング」法ニ該當スルカ否ヤ、或ハ日本デ生產
スル價格ヨリモ安ク假ニ輸入スルト致シマ
シテモ、是ガ爲ニ我國ノ基礎產業ヲ根柢ヨ
リ覆ス虞ガアルヤ否ヤニ付キマシテ、事務
官相寄ッテ、今日ハ各製造會社ノ內容ニ就テ
生產費ヲ取調中デアリマシテ、之ニ對スル
對策ハ此事實ガ明カニナッタ上ニ、始メテ協
議スルト致シマシテ、只今ハ內地各製造會
社ノ生產費ノ調査ヲ致シテ居ル途中ニアリ
マスコトヲ申上ゲテ、私ノ御答ト致シマス
(拍手)
〔國務大臣俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=16
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017・俵孫一
○國務大臣(俵孫一君) 胎中君ノ硫安ニ關
スル御尋ニ付キマシテ御答ヲ致シマス、四
項ニ亙ル御尋ニ對シテ御答ヲスル前ニ、大
體ニ付テノ御話ヲ申上ゲタ方ガ、能ク徹底
致スデアラウト思ヒマス、ソレハ硫安ニ關
スル政府ノ對策ト致シマシテ、吾々共ガ硫
安製造當業者ト會合シテ居ァテ、共會合ノ度
每ニ肥料ノ値段ガ上ルデハナイカト云フ御
話ガアッタノデアリマスガ、斯ウ云フヤウナ
色々誤解ガアリマスル以上ハ今申上ゲマ
ス通リニ、大體ニ付テ御話ヲ申上ゲタ方ガ
宜イト考ヘマス
硫安ニ付キマシテハ御承知アラセラレル
通リ、世界的ニ硫安製造過剩ヲ來シマシテ、
獨逸及ビ英吉利ガ其過剰生產物ヲ世界ニ消
費セシムル爲ニ、互ニ「カルテル」ヲ作ッテ東
洋ニ向シテ盛ニ輸出ヲシテ參ッテ居ルノデア
リマス、隨テ價格ガ非常ナル暴落ヲ來シテ
居リマス昨年ノ一月ハ硫安ノ建値相場ガ
百四五圓モ致シマシタモノガ、段々下落致
シマシテ昨年ノ十二月、本年ノ一月ニ相
成リマスト、建値相場ガ七十二三圓ニ下落
致シタノデアリマス、或ハ建値ヨリ尙ホ喰
入(テテ圓圓位位低六六十一二圓位ニ暴落致
シタノデアリマス、硫安ガ斯ノ如ク下落致
シマスルコトハ、消費者ニ取ッテハ勿論大變
ニ結構ナコトデハアリマスルガ、一面ニ於
キマシテハ我國ノ國內ノ硫安製造家ハ、非
常ナル損失ヲ蒙ルノデアリマス、ソレ故ニ
此下落ノ傾向ニアリマシタ中途、昨年ノ三
四月頃、恰モ硫安ノ相場ガ一月ノ百四五圓
ノ値段カラ九十何圓ニ下リ、九十圓ニ下リ、
九十圓ヲ割ヲテ八十七八圓、四五圓ニナリマ
シタ際、昨年四五月頃ニ國內ノ硫安製造工
業家ハ是デハ到底吾々ノ製造工業ヲ危ク
スルト云フコトニ相成ルカラ、ソレ故ニ之
ニ對シテ不當廉賣法ノ適用ヲシテ貰ヒタイ
ト云フ要求ガ政府ニ對シテアッタノデアリ
マス當時政府ハ商工、農林、大藏ノ關係
省ガ集ヲテ相談ヲ致シマシタ結果、是デハ第
一ニ不當康賣デアルト云フコトモマダ〓
疑問デアルシ、第二ニハ國內工業ヲ危クス
ルト云フコトニ付テ、マダ疑問ガアルカラ
シート暫ク成行ニ委ス外仕方ガナイト云フ
コトニ相成ッタノデアリマス、當時政府ハ之
ニ對シテ成行ニ委セルト云フ方針ヲ執リマ
シタ所ガ、輸入品ノ價格ニ付キマシテハ
今申上ゲル如ク段々ニ下落ニ下落ヲ致シマ
シテ、昨年十二月カラ本年一月ニナリマス
ト、一噸七十二圓、七十圓ト云フガ如キ暴
落ヲ〓ゲマスルシ、事實ハ六十圓、六十一
二圓ト云フヤウニ、輸入品ヲ見ルニ至ッタノ
デアリマス、此下落ノ情勢ニアル機會ニ於
テ、愈〓益、國內ノ製造家ハ是デハ堪ラナイ、
是デハ到底吾々ノ會社ガ「バランス」ガ取レ
ザルノミナラズ、非常ナ損失ノ結果トシテ、
遂ニ事業其モノヲ中止スル外ハナイト云フ
コトノ決意ヲ致シマシタセイカ、昨年十月
頃ヨリ致シマシテ、所謂外國ノ會社ト相談
ニ入ッタ樣子デアリマス、遂ニ其內外同業者
ガ玆ニ協定ヲ致シマシタト云フ、其事ノ現
ハレハ昨年ノ十二月若クハ本年ノ一月ニ
ナッテ、漸ク新聞紙上ニモ現ハレマスルシ、
吾々モ亦此話ヲ耳ニスルコトニ相成ッタノ
デアリマス、其新聞紙上ニ現ハレマシタル、
內外同業者ノ協定ノ内容ト稱スルモノヲ聽
キマスルト云フト、主ナル箇條ガ三ツニナッ
テ居リマス、第一ニハ輸入品ヲ一箇年二十
万噸國內ノ同業者ノ組合ハ、外國ノ輸
入品ヲ一箇年二十万噸購入スルノ義務ア
リ、但シ是ハ五箇年間ノ協定デアッテ、五箇
年間、一箇年ニ五万噸遞減ノコトニハナッテ
居リマスルケレドモ、最初ノ年ハ二十万噸
購入、又國內ノ製造業者ハ五箇年間ハ一切
國外ニ輸出ヲ禁ズル、第三ニハ硫安ノ相場
ハ八十五圓ニ吊上ゲル、斯ウ云フ三ツノ事
項ガ主ナル契約ノ條項ノ內容ニ相成ノテ居
ルノデアリマス、此內外同業者ノ協定ノ內
容ヲ見ル時ニ於キマシテ、我ガ國內ニ於テ
非常ナル不利ガアルノデアリマス
先ヅ第一ニハ噸八十五圓ニナリマスルト
云フト、現在デハ噸六十圓內外デ消費者タ
ル農民ハ買フコトガ出來ルニ拘ラズ、俄
此契約ノ成立ノ後ニ於テハ一噸二十五圓
モ暴騰ヲ致シマシテ、八十五圓ニナルト云
フ結果ト致シマシテ、多數ノ農村ハ非常ナ
ル損害ヲ蒙ルコトニ相成ルノデアリマス
第二ニハ輸入品ヲ買取ルト云フ事項ニ付
テハ現在ニ於テスラ年々歲々國內ノ製造
業者ハ製造量ヲ增加致シマシテ-現在ニ
於キマシテハ未ダ國內ノ製造量ヲ以テ國內
ノ消費量ヲ充タス譯ニ行キマセヌケレド
モ、卽チ若干ノ輸入ニ仰グ必要ガアリマス
ルカ、併シ兩三年致シマスルト云フト、國
內ニ於キマシテモ亦生產渦剩ニ相成ルノデ
アリマス、國內ハ生產過剩ノ狀況ニ相成ル
ニモ拘ラズ、一切海外ニ輸出ガ出來ナイト
云フコトニ相成ルト云フト、我國ノ製造家
ハ非常ナ困難ニ陷ルノデアリマス、元來ガ
大量生產、大量ニ依ッテ共生產費ヲ低下シ、
其生產價格ヲ安ク供給スルコトガ出來ルト
云フコトハ當然ノコトデアルニ拘ラズ、輸
出ガ出來ヌト云フコトニ依ッテ、國內ノ製造
家ハ其處ニ生產ノ制限ヲ受ケルコトニ相成
リマス、サウ致シマスルト云フト、結局硫
安ノ價格ヲ低減シ、之ヲ安ク賣ルト云フコ
トガ出來能ハザルコトニ相成ルノデアリマ
ス
第三ニハ是モ價格-國外カラシテ今申
シマスル通リニ、澤山ナ輸入品ヲ買フト云
フコトノ義務ヲ背負フト云フコトハ、第二
ニ申シマシタト同樣ニ、生產ノ過剩ヲ來ス
コトニ相成ル、結局國內ノ生產ヲ不利益ニ
陷ラシムルト云フコトニ相成ルノデアリマ
ス
斯ウ云フ狀態ニアリマスルカラ、之ニ對
シテ如何ニスルカト云フコトガ、所謂政府
ノ對策デアッタノデアリマス、旣ニ其內外ノ
同業者ノ協定ハ、過グル一月ノ二十一日ニ
假調印ヲ濟シ、本調印ヲ致スト云フ期日ニ
相成ッタノデアリマス、若シモ本調印ヲ致
シ、是等內外ノ同業者ノ協定ガ成立ヲ見マ
スルト云フト、現行ノ法規ノ下ニ於キマシ
テハ之ヲ如何トモスルコトガ出來ナイノ
デア、リマス、然ラバ玆ニ以上申シマシタ如
〃製造業者ニモ、消費者側タル一般ノ農
村ニモ、非常ナル不利ヲ受ケル、此結果ヲ
來シマスルカラ、之ニ對シテ如何ニスルカト
云フコトニ付キマシテ、政府ハ發動ヲ致シ
タノデアリマス、卽チ當業者ヲ呼ビマシテ、
其內外ノ協定ノ事項ノ成文ヲ徵シマシテ
之ニ對スル事實ヲ確メタ上ニ於キマシテ
今申シマシク如キ事項ガゴザイマスルカ
ラ、之ヲ打破スベク玆ニ政府ハ不當廉賣法
ヲ適用スルト云フ意思ニ於テ、共手續ニ掛ツ
タノデアリマス、卽チ商工省ニ於テ是ガ委
員會ヲ開催スルト云フ豫備行爲ト致シマシ
テ、各省關係者ノ幹事會ヲ開イテ、此內容
ノ審査ニ當ッテ居ルノデアリマス、現在ハ卽
チ其狀態デアルノデアリマス、ソレ故ニ私
ハ以上申上ゲタ事情ノ下ニ於テ、胎中君ノ
御質問ノ各項ニ就テ御答ヲ致シタイト思フ
ノデアリマス
第一ハ國內ノ生產費ハドノ位掛ルト思フ
カト云フコトデアリマス、是ハ目下調査ヲ
致シテ居リマス、調査ヲシテ居リマスルカ
ラ其事ヲ此處デハッキリハ言ヘマセヌ、併
ナガラ凡ソ現在ニ於テ吾々ガ調ベテ居ル現
在ノ程度ニ於テ申上ゲマスルト云フト、各
社ガ一樣デアリマセヌ、或ハ或社ニ依ルト
云フト噸七十圓位ハ掛ルト申シマスルシ、
或社ニ依リマスト噸八十圓以上掛ルト云フ
コトヲ申シテモ居リマス、ソレ故ニ之ニ付テ
ハ尙ホ詳シク調ベマセヌケレバ、確實ナル
數ハ申上ゲラレマセヌ
第二ニハ國內ノ硫安工業ニ對シテ政府ハ
如何ニ之ヲ處セント欲スルカト云フ意味ノ
御尋ト思ッテ居リマス、是ハ勿論國內ノ硫安
工業ハ大イニ奬勵ヲ致サナケレバナリマセ
ヌ奬勵シテ十分ニ國內ノ需要ハ勿論ノコ
ト、廣ク東洋ノ市場ニ向,テ供給スルコト
ヲ爲シ得ル性質ノ工業デアリマス而シテ
此工業ガ盛ニナリマスル時ニ於キマシテ
益〓硫安ノ價格ヲ下ゲ、安ク硫安ヲ國內ノ消
費者ニ供給スルコトガ出來ルト思フノデア
リマス、ソレ故ドウ致シマシテモ、國內ニ
於キマシテハ、此肥料ノ基礎工業タル硫安
工業ハ益〓奬勵ヲスル考デアリマスルシ奬
勵ヲシテ效果ガアリ得ルト考ヘテ居ルノデ
アリマス
第三ニハ不當康賣法ヲ適用スル意思アリ
ヤ否ヤ、是ハ今申上ゲマスル通リニ、目下
ハ不當廉賣法ヲ適用スル意思ヲ以テ調査ニ
掛ッテ居リマス、而シテ不當廉賣デアルヤ否
ヤ又-此法律ヲ適用スルニ付キマシテ
ハ御承知ノ通リニ第一ノ條件ハ不當廉賣
ト云フ事實、第二ノ條件ハ我國ノ國內ノ企
業ヲ危クスルト云フ事實、此二ツノ事實ガ
必要デアルコトハ申スマデモナイコトデア
リマス、不當廉賣デアルヤ否ヤ、是ハ吾々
共ハ、獨逸ヤ英吉利ガ國內ニ於テ硫安ヲ國
民ニ賣ルニ付テ一噸九十圓デ賣ッテ居ルモ
ノヲ海外ニ輸出ヲ致シマシテ、國內ノ價
格ハ九十圓デアルニ拘ラズ、之ヲ國外ニ出
シテ運賃、手數料、保險料、幾多ノ雜用ヲ
掛ケタ上ニ、東洋ニ持ッテ參ッテ是ガ六十圓
デ賣レル、自分ノ國內ニハ九十圓內外デ賣ッ
テ居ルモノヲ日本ニ持ッテ來テ三十圓モ
下ゲテ六十圓內外デ賣ルト云フコトハ正
ニ不當デアルト認メル外ハナイト思フノデ
アリマス、而シテ國內ノ企業ヲ危クスルヤ
否ヤノ問題ニ付キマシテハ、今申上ゲマス
ガ如ク、確カナ數字ハ調査ノ上デナケレバ
分リマセヌケレドモ、大約生產費ガ一噸七
十圓以上九十圓位モ掛ルト致シマスルナラ
バ、其以下ニ賣ラルヽト云フコトニナリマ
スレバ、是レ正ニ我國ノ當業者ハ迚モ堪ラ
ヌト云ッタ狀態ニ相成ルト思ハレルノデア
リマス、併ナガラ是等ノ狀態ハ今申上ゲマ
スル如ク、幹事會ニ於テ之ヲ調査ヲシテ見
ク上デナケレバハッキリシタコトハ申上
ゲラレヌノデアリマス
最後ニ硫安工業ヲ奬勵スル爲ニ、補助ヲ
スルガ如キ助成方法ヲ執ル必要ヲ認メルカ
ドウカト云フ意味ノコトデアッタト思ヒマ
ス、私ハサウ云フ物質上ノ補助ヲスル必要
ハ硫安工業ニ付テハ全クナイト思フノデ
アリマス、目下盛ニ國內ノ企業ガ成立チ、
製造ヲシテ居ル此自然ノ製造ヲ妨害スル
コトサヘ致シマセヌケレバ、立派ニ年々製
造量ハ增加致シマス、先刻申シタ如ク、製
造量ガ增加シマスルト云フト、國內ノ生產
費ハ段々低下致シマス、國內ノ製造ガ盛ニ
ナリマスル時ニ於キマシテ、國內ノ消費者
ハ安イ硫安ヲ使フコトニ相成ルノデアリマ
ス、而シテ最後ニ能ク御理解ヲ願ヒタイ點
ハ吾々共ハ徒ニ不當康賣法ヲ硫安ニ適用
スルト云フ意思ハナイノデアリマス、今內
外「カルテル」ガ八十五圓ニ釣上ゲルト云フ
事ガ實行ニナル場合ニ於キマシテハ先刻
申上グル通リニ農村ハ現在噸六十圓デ買取
ルモノガ、急ニ此內外協定ノ實行ノ結果ト
致シテ、二十五圓モ、噸ニ付テ高イ硫安ヲ
買ハナケレバナラヌト云ッタ如キ事態ニ相
成リマスルカラ、此點ヲ吾々共ハ大イニ心
配致シマシテ、消費者ニ安キ硫安ヲ供給セ
シムル爲ニ、不當廉賣法ヲ適用スルト云フ
考ヲ以テ、目下調査シツヽアルノデアリマ
ス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=17
-
018・胎中楠右衞門
○胎中楠右衞門君 只今··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=18
-
019・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 登壇ヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=19
-
020・胎中楠右衞門
○胎中楠右衞門君 極ク簡單デアリマ
スカラ
〔「登壇々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=20
-
021・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 胎中君ノ登壇ヲ望
ミマス
〔胎中楠右衞門君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=21
-
022・胎中楠右衞門
○胎中楠右衞門君 只今當局ヨリノ御答辯
ガアリマシタガ、徒ニ答辯ノ言葉ガ多クシ
テ私ハ滿足致シマセヌ、併ナガラ此上私ガ
質問セントスル事ハ頗ル複雜デアリマス、
隨テ其答辯ニ恐ラク二三一時間ヲ要スルコト
ト思フ、私ハ此場合ニ於テ次ノ質問ヲ他ノ
機會ニ讓リタイト思フ、他ノ機會ニ於テ「ハ
ーバー」式特許法ニ關スル件ト共ニ質問ヲ
致スコトニシテ、席ヲ同僚ノ質問者ニ讓ル
次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=22
-
023・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 土井權大君
〔土井權大君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=23
-
024・土井權大
○土井權大君 只今議題ト相成リマシタル
米穀法ニ關スル改正法律案等ニ付テ、極メ
テ簡單ニ質問ヲ致シタイト思ヒマス
第一ニ御伺致シタイノハ、今囘ノ米穀法
改正法律案ハ果シテ政府ハ根本的ノ改正
デアルト確信サレテ居ルカドウカ、此事ニ
付テ御尋ヲ致シタイト思フノデアリマス、
何故左樣ナ御尋ヲ致スカト申セバ、御承知
ノ通リ現在ノ米穀法ナルモノハ大正十年四
月ニ初メテ實施サレタノデアリマス、其當
時政府ニ於テモ、亦衆議院、貴族院ニ於テ
モ、ドウ云フ考ヲ持ッテ居ッタカト申スナラ
バ、餘リ大キナ損ハ起キマイト斯ウ考ヘテ
居ッタ、詰リ安キ時ニ米ヲ買ヒ、高クナレバ
米ヲ賣ル-必ズシモ政府ハ營利ヲ目的ト
スル譯デハアリマセヌ商賣ヲスル譯デハ
ナイケレドモ、米價調節ト云フノハ、下リ
シ場合ニハ之ヲ買フ餘リ上ック場合ニハ之
ヲ政府ガ賣出ス故ニ左程大キナ損ハアルマ
イ、此事ヲ當時ノ政府モ考ヘ、當時ノ議員
ニ於テモ考ヘテ居シタノデアリマス、ソレカ
ラモウ一ツ如何ナル事ヲ考ヘテ居ッタカト
云フナラバ、丁度米ガ安イ、之ヲ買上ゲナ
ケレバナラヌ、或ハ高イ、之ヲ賣ラナケレ
バナラヌ、其時ニハ先ヅ日本內地ノミノ米
ノ數量ト云フモノヲ實ハ眼中ニ置イテヽ此
法律ヲ作ッタノデアリマス、丁度其當時ニ於
テ朝鮮カラ每年幾ラ内地へ入ッテ居ノタカト
云フナラバ一年ニ百五十万石位ノモノデ
アッタノデアリマス、所ガ此頃ドウデアルカ
ト云ヘバ、最近五箇年ノ平均ヲ取リマシテ
モ、年々五百六十万石ハイッテ來テ居ル、本
年ナレバ幾ラ內輪ニ見積テテ八百万石ハ
必ズ朝鮮カラハイッテ來ル、人ニ依ルト九百
万石ハイルデアラウト見テ居ル、是モ其當
時ノ豫想ヲ裏切ッテ居ルノデアリマス、又臺
灣ノ米ガ幾ラハイルカ、其當時ニ於テハ一
年ニ僅カ七十万石位ノモノデアッタノデア
やく、所ガ五箇年ノ平均ヲ取リマスト二
百四十万石、實ハ斯ウ云フヤウナ狀態ニ相
成リ、吾々ノ豫期セザル事ガ、玆ニ只今申
シタ朝鮮ノ移入米ノ件、臺灣ノ移入米ノ件、
更ニ損得ナシト考ヘテ居タ所ガ、何ゾ圖ラ
ン、昭和四年度ノ計算、餘リ米ガ安クナッテ
居ラナイ時ノ計算ニ依リマシテモ、一億四
千万圓損ヲシテ居ル、眞ニ現在ノ損失ト云
フコトノ計算ヲ立テマシタナラバ一億五
千万圓或ハ一億七千万圓、ソレ位ノ大キナ
損ヲシテ居ル、年々三千万圓カラノ損ヲ最
近ハシナケレバナラヌト云フガ如キ、實ハ
狀態ニ陷ッテ居ルノデアリマス、特ニ第四
ノ點トシテ數量ノ調節、更ニ其後市價ノ調
節ト云フコトノ改正ヲ致シタノデアリマ
スガ、是モ旨ク參ラナイ、政府ガ米ヲ
買上ゲタナラバ下ルト云フガ如キ狀態
デ、却テ市價ヲ下ゲルガ如キ機動ヲ作
ルコトガ往々アルノデアリマス、論ヨリ
證據、昨年ノ十二月中ニ二百万石ノ米ヲ買
フト政府ガ發表サレタ所ガ非常ニ莫大ナ
ル米ガ一時ニ市場ニ殺到致シマシテ政府
ガ二十圓デ買フト云フ時ニ、買ハレル米ハ
二十圓デアルガ、政府ノ買ハナイ米ハ四圓
カラ五圓下ッテ十五圓、十六圓デアル、却テ
調節ニナラズシテ所謂引上ゲヤウ、市價ノ
維持ヲヤラウト云フ時ニ、其目的ヲ達スル
コトガ出來ズシテ、裏切ッテ却テ安クナル、
斯ウ云フ實ハ弊害ガアルノデアリマス、卽
チ第一ハ朝鮮ノ移入米ノ殖エタ件、第二ハ
臺灣ノ移入米ノ殖エタ件、第三ハ此米穀法
ノ爲ニ莫大ナ損ヲ國家ハ背負ハナケレバナ
ラヌ、第四ハ何等市價安定或ハ維持ト云フ
コトニ效果ガナイ、斯ウ云フコトニ實ハ相
成ッテ居ルノデアリマス、是ニ於テ御承知ノ
通リ第五十六議會ニ於テハ、只今町田農林
大臣ノ御話ノ通リ、政黨政派ヲ超越シテ
ドウカ此不完全ナル米穀法ト云フモノヲ、
根本的ニ改正ヲシナケレバナラヌケレドモ、
米穀法ノ運用資金ニ金ガナイカラ、差當
リ七千万圓ノ特別會計ハ殖スガ、ケレドモ
是ハ一時ノ間ニ合セデアル、此金ヲ殖スト
同時ニ、一方ニ於テハ米穀法ヲ根本カラ改
正ヲスル、改正ヲスルガ爲ニ米穀調査會ト
云フモノヲ設ケ、色々ト審議ヲ致シテ、完
全無缺ナ米穀法ヲ作ル斯ウ云フ約束ガ出
來タコトハ、只今町田農林大臣モ御話ニナツ
タ通リデアリマス、其結果トデモ申シマス
カ、今囘茲ニ米穀法改正法律案ナルモノヲ
御提出ニナック次第デアリマスガ、果シテ政
府ハ今日提案ニ相成ッテ居ル改正ヲ以テ、根
本的ノ改正ト御考ヘナサッテ居ルカドウカ、
此事ヲ先ヅ第一ニ御伺スルノデアリマス、
言葉ヲ換ヘテ言フナラバ、此米穀對策ニ對
シテハ最早調査ト云フコトハ打切ルノデ
アルカ、卽チ今日出シタノハ一時ノ改正デ
アッテ、根本改正ハマダ〓〓ヤルノデアル、
斯ウ御考ヘナサルカ、之ヲ以テ所謂根本改
正ナリト御考ヘナサッテ居ルカ、第一ハ、根
本改正ナリヤ否ヤ、斯ウ云フ意味デアリマ
ス此事ヲ御伺致シマス
第二ニハ只今町田農林大臣ガ縷々御說
明ニナリマシタル率勢米價デアリマス、此
率勢米價ニ依ッテ米ヲ買上ゲルト云フコト
ハ一時的デアル、是ハ如何ニモ法律ノ條文
ニモ出テ居リマス、先ヅ條文ハ讀上ゲナク
テモ宜シイト思ヒマスガ是ハ暫定的ノモ
ノデアル、此率勢米價ニ依ル買上ト云フコ
トハ暫定的デアル言葉ヲ換ヘテ言フナラ
バ、生計費ゝ生產費ヲ加味シテ米穀ノ賣買
ヲ實行スル時ガ來ルノデアル、丁度附則ノ
第二項ニ「命令ノ定ムル所ニ依リ當分ノ內
第四條ノ最低價格又ハ最高價格ハ第五條ノ
規定ニ拘ラス米價指數ノ物價指數ニ對スル
割合ノ趨勢ニ依リ算出シタル價格ヲ基礎ト
シテ之ヲ定ム」ト云フコトニ相成ッテ居リマ
スルガ故ニ、當分ハ此率勢米價ヲ基準トシ
テ買上ゲル、斯ウ云フコトニ相成ッテ居リ
マスルガ、然ラバ此法文ノ上ニハ明カニハ
相成ッテ居リマセヌガ、率勢米價ヨリ二割高
クナッタ場合ニハ賣出シ、率勢米價ヨリ二割
下ッタ場合ニハ買フ、斯ウ云フ意味デアリマ
スカ、其何割ト云フコトハ法律ノ上ニハ定
メテ居リマセヌガ、運用ノ上ニ於テ左樣ナ
御考ガアルノデアルカドウカ、此事ヲ御尋
致スト同時ニ、然ラバ此暫定的ノ法律デア
ル所謂此率勢米價ニ依ッテ暫ク米ヲ買ヒ、
或ハ米ヲ賣ルト云フノハ、抑〓何時マデ之
ヲ暫定トナサル御積リデアルカ、其期間デ
アリマス、或ハ一年トカ、或ハ二年トカ、
或ハ五年トカ何時マデ此暫定法ト云フモ
ノヲ實施サレル御考デアルカ、言葉ヲ換ヘ
テ言フナラバ此法律ニアル附則ヲ打切ッ
テ削除シテシマウテ、眞ニ生計費或ハ生
產費ヲ加味シタル米價ヲ作ッテ、之ヲ基準ト
シテ買上ゲル、或ハ賣出スト云フ時ハ何
時頃カラ實施サレル御考デアルカ、之ヲ第
二ニ承リタイノデアリマス
第三ニ御伺シタイノハ、此率勢米價ニ依ッ
テ二割下リシ場合ハ買入レヲ爲ス、二割上
リシ場合ハ賣出スト云フヤウナコトヲ致シ
タナラバ、果シテ此米價ノ調節ガ出來ルモ
ノデアルト御考ヘナサッテ居ルカドウカ、非
常ニ私ハ之ニ疑ヲ持ツノデアリマス、何故
ニ左樣ナ疑ヲ持ツカト申セバ、丁度明治三
十七年カラ昭和五年マデ、二十七年間ノ米
價ト率勢米價ノ統計ナルモノヲ一覽致シマ
スルト、二十七年ノ間ニ、此率勢米價二割
應用ト云フガ如キコトハ二度シカアリマセ
ヌ、ソレハ何時デアルカト云フナラバ、大
正元年度ニ於テ米ノ價ハ二十圓十五錢、ソ
コデ率勢米價ハ幾ラデアルカト云フナラバ
十五圓十三錢八厘デアッタノデアリマス、所
ガ此率勢米價ノ十五圓十三錢八厘ノ二割ト
云フノハ卽チ十八圓十六錢デ、實際ノ米
ノ相場ガ少シ高クナッテ居ルノデアリマス、
其年ト、ソレカラ低クナッタノハ、大正四年
度、率勢米價ト致シテハ十七圓十七錢所
ガ普通ノ米價ハ幾ラデアルカト申セバ、十
三圓二錢、此率勢米價ノ十七圓十七錢カラ
二割下ッタト見ルナラバ十三圓七十三錢、
然ルニ其年ハ米ノ價ガ十三圓二錢デアリマ
シタカラ、其時コソ所謂率勢米價ニ比較致
シマシタナラバ、二割以上米ノ價ガ低イノ
デアリマス、低イト申シテモ僅カ六十錢カ、
七十錢位デアリマス、此率勢米價ノ二割論
カラ行キマシタナラバ、二十七年ノ間ニ此
米穀法ト云フモノヲ使フ時ガ此時シカナイ、
特ニ此米穀法ガ出來マシテ、大正十五年以
來今日ニ至ルマデ-此處ニハ五年度マデ
ノ統計デアリマスルガ、五年度マデヲ眺メ
マスト云フト一ツモ米穀法ヲ適用シ、出
動スル年ガナイト、斯ウナッテ居ルノデアリ
や、 、サウシテ見ルト云フト、甚ダ忌憚ナ
キコトヲ申上ゲテ御無禮カハ知レマセヌ
ガ、唯徒ニ此米穀問題ガヤカマシイカラ、
表面ニハ改正ヲシテ、如何ニモ農家ノ爲ニ
ナル、或ハ消費者ノ爲ニナル、斯ウ云フ風
ニ見セ掛ケテ居ッテ、サウシテ其實ハ米穀法
ト云フモノヲ、有名無實ニシテシマフモノ
デアル(拍手)ドウシテモ此統計ノ上カラ眺
メルト、羊頭ヲ懸ゲテ狗肉ヲ賣ルノヤリ方デ
ハナイカト私ハ考ヘル(拍手)之ニ付テ如何
ナル御考ガアルカ、是ハ私ハ統計カラ割出
シタ、統計ガ違ッテ居ッタナラバ何ヲカ言ハ
ンヤ、是ハ而モ農林省カラ出テ居ルモノ
デ、私ノ作ッタモノデハナイ(拍手)
ソレカラ第四ニ御伺致シタイノハ、所謂
米穀法改正ノ本法ニ依ッテ米穀買入數ノ限
度ハ特別會計資金ノ範圍內ト思ッテ居ル
ノデアリマス、是ハ論ガナイコトヽ思ヒマ
ス、果シテ然ラバ市價調節不能ノ場合ニ於
ケル處置如何、段々段々下ッタ時ニドウシテ
モ思フダケニ値段ガ上ラヌ、其時ニハ幾ラ
デモ買ハナケレバナラヌ、サウ云フ場合ニ
ハ、一方ニハ資金ノ範圍內ダカラ金ガナ
イ、是ハドウ云フ譯デサウ云フヤウナコト
ヲ尋ネルカト云フナラバ、ソレハ昨年農林
大臣ニ對シ、日本ノ農會關係ノ人ガ、米ガ
安クテ困ルカラ米ヲ買ッテ貰ヒタイ、斯ウ云
フコトノ運動ノ爲ニ農林大臣ノ所ヘ行シタ
時ニ、農林大臣ハ如何ナルコトヲ農會代表
ニ對シテ聲明サレタカト云フナラバ兎山
角米穀法ヲ改正ヲ致シテ、率勢米價ト云フ
モノヲ作ッテソコデ率勢米價カラ二割安
クナッタナラバ、幾ラデモ買上ゲテ上ゲルノ
デアル、故ニアナタ方ハ御安心ナサイ、斯
ウ云フコトヲ農林大臣ガ聲明サレ、多クノ
農民モ、成程率勢米價ト云フモノガ出來タ
ナラバ、極樂デモ來ルヤウナ感ジヲ以テ、
幾ラデモ買上ゲテ吳レルモノナリトノ誤解
ガアルノデアリマス、故ニ世ノ中ノ誤解ヲ
解カンガ爲ニ、此事ヲ御尋致スノデアリマ
スヽ絕對無限ニ買フコトハ出來ナイト思
フ、然ルニ農民ハ只今言フガ如ク、絕對無
限ニ政府ガ買入レラレルモノト考ヘテ居ル
ガ、左樣ナコトデハナイト思フ、政府ノ所
見果シテ如何、此處ヲ確メテ置キタイノデ
アリマス
ソレカラ第五ニ御尋致シタイノハ先程
モ米穀法ノ缺陷ニ付テ、朝鮮臺灣ノコトヲ
申上ゲテ置イタノデアリマスルガ、此朝鮮
米、臺灣米ニ對スル所ノ方策ハ、如何ナル
方策ヲ御執リニナル積リデアルカ、卽チ繰
返シテ申上ゲマス、本法實施ノ時ニハ朝鮮
カラハ百五十万石シカ來ナカッタ、然ルニ只
今ニ於テハ九百万石モ一年ニハイルト云フ
如キ狀態、臺灣ニ於テハ一年ニ七十万石ヨ
リ來ナカッタモノガ、過去五年間ニ平均二百
五十万石、ソコデ眞ニ米穀ノ數量ナリ市價
ノ調節ヲ致サウトスルニ付テハ大正十年
頃ハ餘リ朝鮮臺灣カラ來ナイカラ、內地ノ
ミニ依ッテ調節ノ方策ヲ講ズルモ可ナリ、所
ガ只今言ウタ如ク、朝鮮臺灣、是ガ非常ニ
澤山ハイッテ來ルガ故ニ、何等カ玆ニ方策ヲ
樹テルニ非ザレバ、眞ニ米穀法ノ目的ヲ全
ウスルコトハ出來ナイト考ヘルノデアリマ
ス、ソコデ此米穀法ヲ朝鮮又ハ臺灣ニ實施
スルノ意思アリヤ否ヤ、延長スルノ意思ア
リヤ否ヤ、ソレマデ決心ヲスルニ非ザレ
が、假令不完全ナ米穀法トハ雖モ其目的ヲ
達スルコトハ出來ナイト思フノデアリマ
ス、然ラズシテ唯日本內地ダケデ米ヲ買上
ゲテ、如何ニモ玆ニ五百万石持ッタ、六百万
石持ッタト云ッテモ、段々朝鮮臺灣カラ來マ
スト之ヲ平タイ譬デ言フナラバ、玆ニ熱
イ御湯ガアル、折角此湯ヲ沸カシタ、其處
ヘ段々朝鮮臺灣カラ冷タイ水ヲ入レテ熱
イ湯ヲ冷マスノト同ジコトニナリハセヌ
カ、之ニ對スル政策ハドウデアルカ
ソレカラ第六ニ硫安問題、此硫安ノ問題
ニ付テハ、國際「カルテル」カ、然ラザレバ不
當廉賣ニ對スル關稅ヲ取ルカ、若クハ自由
放任カ、此三ツヨリ方法ハアルマイト思フ
ノデアリマス、所ガ商工大臣ハ此三ツノ內
何レヲ擇ムカト云フ御意見ヲ承ル所ニ依ル
ト、所謂「ダンピング·ロー」木當廉賣法ヲ適
用スル考デ居ルト云フコトヲ言ハレタノデ
アリマス、是ニ於テ私ハ商工大臣ニ御尋ヲ
致シタイ、極メテ簡單ニ申シマス國內ノ
硫安工業ヲ危クスル虞アルガ故ニY不當廉
賣法ヲ適用シヨウト云フ意味デアッタノデ
アリマス、然ラバ國内ノ硫安工業ト云フコ
トハ、如何ナル點ニ標準ヲ置カレタカ、言
葉ヲ換ヘテ言フナラバ、堅實ナル會社ノ工
業ヲ標準ニ置カレタカ、ボロ會社ノボロ事
業ヲ標準ニ置カレタカ、之ヲ承リタイ、其
御返事ガアレバ直チニ分リマス、堅實ナル
會社ノ工業ヲ危クスルノデアルカ、將又ボ
ロ會社ヲ標準ニスルカ、ドチラノ標準ヲ以
テ此硫安工業ヲ危クスル虞ガアルト云フノ
カ、何處ニ見當ヲ立テラレテ居ルカト云フ
コトヲ承リタイ、商工大臣ガ見エマシタカ
ラ、モウ一遍申上ゲマス、詰リアナタハ此
硫安問題ニ對シテハ、國內ノ硫安工業ヲ保
護スルガ爲ニ「ダンピング·ロー」不當廉賣
法ヲ適用スル考デアルト、斯ウ云フ只今ノ
胎中君ノ質問ニ對シテノ御答デアリマシ
タ、ソコデ私ハ斯ウ云フ事ヲ尋ネテ見タ
1、硫安ノ工業會社モ色々アルデアリマセ
ウ、人間ニモ上中下アルガ如ク、會社ニモ
上中下アル、堅實ナル會社モアレバ、ボロ
會社モアル、ボロノ會社ヲ標準トサレタノ
デアルカ、堅實ナル會社ヲ標準トサレタノ
デアルカ、其事ヲ承リタイ
ソレカラモウ一ツ御尋致シタイノハ是
ハ第五十六議會ニ於テ肥料管理案ノ出タ際
ニ非常ニヤカマシク民政黨ノ方ノ言ハレ
〃、例ノ「ハーバー」式ノ特許權ノ問題デア
ル、何カ政友會ガ惡イヤウニ非常ニヤカマ
シク言ハレタ、民政黨ノ內閣ニナレバ直チ
ニ之ヲ解決付ケルカノ如キ口吻ヲ以テ論ゼ
ラレタゝ果シテ今日其解決ガ付イテ居ルカ
居ナイカ之ヲ御尋致シタイ
ソレカラモウ一ツ御尋致シタイノハ、兎
ニ角不當廉賣法ヲ適用スル日本ノ工業會社
モ、相當ノ肥料ノ價ト云フモノヲ保クシテ
ヤルニ非ザレバ立チ行カナイト斯ウ言
フ、ソコデ硫安ノ一噸ノ價ハ幾ラデアルカ
ト聽ケバ、ソレハ七十五圓デアルトカ、八
十圓臺デアルトカ、ハッキリトハ申サレナ
カッタガ、其邊ノ考デアルカノ如キ御口吻デ
アラセラレマシタガ、現在日本窒素株式會
社ハ、香港ナゾヘ持ヲテ行ッテ己ノ會社デ造ッ
タ大有ト云フ印ノ硫安ヲ、香港著六十二圓
五十錢デ賣ッテ居ル、アナタガ今日不當廉賣
法ヲ適用致シマシテ、會社ヲ助ケナケレバ
ナラヌト言ハレマスガ、ソレ程日本ノ堅實
ナル硫安會社ハ窮地ニ陷,テ居ラナイ(「ヒ
ヤヒヤ」拍手)然ルニ窮地ニ陷ッテ居ルカラ
之ヲ助ケンナラヌト言ハレルノハ堅實ナ
ル會社ヲ標準トセラレズシテ忌憚ナク言
ヘバボロ會社ヲ標準トセラレタト言ハチケ
レバナラヌ、ソレニ對シテ明確ナル御答辯
ヲ要求スルノデアリマス、左樣ナコトニス
レバ、丁度胎中君ノ御說ノ通リ、一部ノ資本
家ヲ助ケルガ爲ニ、多數ノ農民ノ膏血ヲ搾
ルモノナリト斷ゼザルヲ得ナイ(拍手)非常
ナル責任問題デアルガ、如何ニ御考ヘナサ
レルカ
ソレカラ第七ニ御尋ヲ致シタイノハ兎ニ
角本法ノ爲ニ莫大ナル損失ヲ致シテ居ルト
云フコトハ御承知ノ通リ、又只今私ガ申述
ベマシタ通リ、昭和四年度末ニ於テ一億四
百万圓デアル、併シ現在損失計算ヲ立テマ
シタナラバ一億五千万カラ一億六千万、或
ハ一億七千万圓カラノ損ト見ルノデアリマ
スルガ、而モ米穀運用資金ト云フモノハ
御承知ノ通リ借入金ニ依ッテ其資金ヲ作リ、
其利息モ拂ッテ行カナケレバナラヌ、而モ其
利息ガ單利法ニアラズシテ、複利法ニ依ッテ
利息ヲ拂フト云フガ如キコトニナッテ居ル、
斯樣ナモノヲ何時マデモ放ッテ置イタナラ
バドウ云フ大キナ損ニナルカ恰モ鼠算
ノヤウナコトニナッテシマフ、殆ド此解決ヲ
付ケズニ十年置キ、二十年置キシテ置イタ
ナラバハドレ程大キナ擯失ヲ計上シナケレ
バナラナイカモ知レヌト云フ虞ガアルノデ
アリマス、故ニ此際ニ於テ斯樣ナ損ハ所謂
特別會計カラ一般會計ノ方へ移シテシマウ
テ、奇麗ニ致シテ置ク必要ガアリハスマイカ
ト思フ卽チ斯樣ナモノヲ損ノアルコトヲ
知り、其儘放任シテ置クト云フコトハ、實
ニ國家財政ニ對シテ不忠實ナルヤリ方デア
ルト思フノデアリマス、此點ニ付テ如何ナ
ル御考ガアリマスカ、極メテ簡單デアリマ
スガ、何レ御答辯ヲ承リマシテカラ、更迭
御尋致シマス
〔國務大臣町田忠治君登壇〕
〔「簡單」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=24
-
025・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 土井君ノ七項ニ
涉ル御尋ニ對シテ、御希望モアリマスカラ
極メテ簡單ニ申上ゲマス
察スルニ米穀法ノ此改正ハ、根本的改正
ヂヤナイト云フヤウナ意味カラ御尋ノヤウ
ニ思ヒマス、土井君ハ長イ間農村問題ニ對
シテ、此議會ニ於テ屢〓御意見モアリマシ
タガ、察スルニ或ハ米ノ廉賣其他ノ根本方法
ヲ御考ニナッテ居ル御質問カト思ヒマス、是
等モ〓究シマシタガ中々案ガ出來マセヌ、
故ニ私共ハ一方國家ノ力ニ依ッテ外國米ヲ
管理統制スルト云フコトガ、此改正ノ一ツ
ノ根本デアリマス、モウ一ツハ先刻ヨリ申
シマスル如ク、從來ハ米ヲ國家ガ買入レル
ト云フ場合ニハ、米穀委員會ノ議ニ付シタ
モノヽ當局者ハ唯達觀的ニ考ヘタモノデ
アリマシテ、何等標準ガナカッタノデアリマ
ス、常識ニ依ッテ達觀シタニ過ギナカッタノ
デアリマス、此度ハ出來ルダケ米穀法ノ出
動ヲ公平ニシテ、常ニ消費者ト生產者トノ
利害ヲ調和セシメルト云フ趣意カラ根本的
改正ヲ致シタノデアリマス、其內容ハ到底
此席デハ詳シク申上ゲ兼ネマス、吾々ハ之
ヲ以テ根本的改正ト見テ居ルノデアリマス
ソレカラ第二ニハ此度ノ大豐作ニ對シ
テ、政府ガ先ニ二百万石ヲ買入レタガ、更ニ
其效果ガナカッタト云フヤウナ意味合カラ、
御批評ガアッタヤウデアリマスルガ、是ハ御
見解ニ私ハ御委セ致シマスルガ、此出動ヲ致
サナカッタ場合ニハ米價ガ十五圓臺ニ下
リ、更ニ十四圓、十三圓ニ下ル傾ガ歷然
タルモノガアッタノデアリマス、政府ガ一面
外國米ノ輸入ニ對シテ嚴シク制限ヲ致スト
同時ニ、農家ノ自力ニ依ッテ、此大豐穰ニ
因ッテ生ジマシタ所ノ剩餘米數百万石ヲ、
低利資金ニ依ッテ今年ノ端境期マデ賣出サ
ナイト云フ、農家ノ自力ニ愬ヘタ方法ト共
ニ、政府ガ二百万石ヲ買入レタ爲ニ、大體
ニ於テ米價ハ今日相當ナル位置ニ安定シテ
居ルコトガ事實デアリマス
ソレカラ率勢米價ノ事ニ付キマシテハ少
シ私ノ說明ガ足ラナカッタカモ知レマセヌ
ガ、今御話ノコトハ私共ノ考ト幾分カ違ッ
テ居リマス、私共ノ考ハ生產費、生計費ヲ
調査スルニ多少ノ時日ヲ要スルガ故ニ、此
正確ナル材料ガ得ラレヌ、短日月ノ間ハ已
ムヲ得ズ率勢米價一ツニ依ッテ、賣出ス場合
ニハ上値二割、買入ルヽ場合ニハ率勢米價
ノ下値二割ト云フコトヲ標準トシテ出動ス
ルト申スノデアッテ、他日生產費、生計費ノ
調査ガ出來マスト、ヤハリ單リ生產費ノミ
ニ依ッテヤラズニ、率勢米價ト生產費ヲ二ツ
相對比シテ、適當ニ買入レテ價格ヲ公ニス
ルト云フノデアリマス、唯暫定的ニ率勢米
價ヲ用ヒルト云フノハ生產費、生計費ノ
調査ガ出來タ曉ニモヤハリ率勢米價ヲー
買入レル場合ニハ生產費ト共ニ率勢米價ヲ
考ヘル結果、賣出ス場合ニハ生計費ト共ニ
率勢米價ト云フ二ツノ要素ヲ相參考トシテ
當局ガ適當ナ標準ヲ定メルト云フ意味ハ、御
尋ト少シハ違ッテ居ルヤウニ思ヒマス(土井
權大君「ソレハ分ッテ居リマス」ト呼フ)
ソレカラ尙ホ從來米穀法出動以來今日マ
デ二割ノ上下ヲ越シタ場合ガアルト云フ數
字的ノ御尋ガアリマシタ、農林省ガ提出シ
マシタ材料ニ依ッテノ御話デアリマシタガ、
大體ニハ斯ウナッテ居リマス、三十年間ノ物
價指數、米價指數ヲ本トシテ割出シタル所
ノ米價率ヲ中心ト致シマスレバ三十年ノ
間ニ此大勢カラ二割上タ場合デアリマセ
又、又二割下ッタ場合ガアリマセヌ、大體ニ
於テ此度作リマシタ所ノ率勢米價ノ大勢ニ
鑑ミマスト、米價ハ一割八九分ノ間ニ止ッテ
居ルノデアリマスルガ故ニ、吾々ハ率勢米
價ヲ主トシテ上値二割、下値二割マデノ間
ノ範圍ハ之ヲ自由ニ委シテ、ソレ以上ノ變
化アッタ時ニ國家ガ初メテ出動致スト云フ
大體ノ標準ヲ立テタノデアリマス
ソレカラ此度ノ八千万圓增額ヲスル特別
會計ノ金デ、若シ之ニ依ッテモ足ラヌ場合
ハ如何ニスルカト云フ御尋デアリマシテ、
左樣ナ御心配ヲセラレルノモ御尤デアリマ
ス、併シ私共ハ一面ハ國家ガ持ッテ居リマ
スル米ヲ、出來ルダケ外國ニ賣出スコトヲ
考へ、一面ニハ例年百五十万乃至二百万
以上外國カラハイッテ來ル外國米ノ輸入ヲ
止メ、更ニ農家ノ力ニ依ッテ一一百万石乃至
三百万石ヲ端境期マデ賣出サヌト云フ施設
ヲ致シテ居リマスレバ、政府ガ相當ノ數量
ヲ買入レヽバ、資本ノ乏シキヲ訴ヘル必要
ガナイヤウニ考ヘマス、若シ强テ御尋ニナ
レバ、私ハ斯樣ニ申ス外ハアリマセヌ、政友
會內閣ノ時ニ米穀法運用ノ資金乏シイガ爲
ニ七千万圓ヲ增額シテ、是デ米穀ノ調節
維持ガ出來ルト云フ打算ノ上ニ、七千万圓
ヲ政友會內閣デ增加セラレタノデアリマ
ス、私共ハ此度八千万圓增額ヲ皆樣ノ御協
贊ヲ願ッテ居リマスル趣意モ、前內閣ガ七千
万圓增額ヲスルト云フ推算ヲシタト同ジ根
據デアルト御考ヘ下サレバ宜シイノデアリ
マス(拍手)
臺灣朝鮮ニ對スル問題ガアリマスガ、是
ハ此處デ一言申シテ置キマス、當年ノヤウ
ナ豐作ノ時ハ一切ノ外國米ガハイラヌトシ
テモ、朝鮮臺灣カラハイッテ來ル凡ソ一千万
石以上ノ爲ニ、內地ニ於キマシテハ米穀
法ヲ運用シテ米價下落ヲ防グ、調節ヲシナケ
レバナラヌ事實ガ生ジタコトハ御話ノ通
リデアリマス、併シ是ハ今年ニ限ヶテ生ジタ
ル新シイ現象デアリマシテ、從來ニ於テハ
朝鮮臺灣カラ數百万石ヲ常ニ移入シテモ、
更ニ外國米ヲ輸入シナケレバ日本內地ノ食
糧ガ足リヌト云フ實情デアリマスルガ故
ニ、今年一年ノ大豐作ニ因テ生ジタル此異
例ニ依ッテ、直チニ朝鮮臺灣ニ此米穀法ヲ
行フト云フ考ハ今日ハアリマセヌ、唯朝鮮
臺灣ヨリハイリマスル米ヲ調節シテ、一時
ニ內地ノ米穀市場ヲ壓迫セザルヤウニトシ
テ數千万圓ノ低利資金ヲ朝鮮ニ與ヘテ、
之ヲ調節スルト云フ施設ニ止メテ置イテア
ルノデアリマス、大體御尋ノコトハ······(土
井權大君「モウ一ツ一億四千万圓ノ缺損ノ
コトヲ·······」ト呼フ)是ハ大變御心配ノ點デ
アリマシタ、今日ノ米穀法ガ二億七千万圓
ノ運轉資金ヲ有シテ居ルニ拘ラズ、凡ソ一
億五千万圓、或ハ一億六千万圓ト御話ニナ
リマシタガ、是ハ昨年ノ十一月ノ會計年度
ノ終リノ調査ニ依リマスレバ、損失ハ一億
一千万圓臺デアリマス、此三月ノ會計年度
ニ參リマスルト、從來前內閣時代ニモ澤山
ノ米ヲ買ハレマシタ、吾々モ此度已ムヲ得
ズ買ヒマシタガ、前內閣以來莫大ノ米穀ヲ
買ハレタ、其計算ノ上ニ於テ、或ハ米穀ノ
質ノ惡クナリマシタコト等ノ爲ニ、米穀ノ評
價ヲ致ス爲ニ切下ゲタコト、或ハ從來澤山
ノ借入金ヲ致シテ居リマスル、其利息ガ積
リ積ッテ莫大ノ金額ニ相成シタコト等、種々
ナル原因カラ恐ラクハ此三月ノ決算ニ參リ
マスト、一億五千万圓位ノ缺損ト相成ルト
思ヒマス、併シ土井君モ御承知ノ通リ、此一
億五千万圓ノ缺損ハ、米穀ヲ買入レタ爲ニ生
ズル缺損ノミデハアリマセヌ、ノミナラズ
寧ロ米穀ヲ買入レタ爲ノ缺損ハ約五千万圓
ニ止ッテ居リマス、主ナル缺損ノ原因ハ屢、
私ガ申ス通リ、米穀特別會計法ハ有ユル特
別會計法ニ於テモ一種異、タル會計法デア
リマシテ、一切ノ資金ヲ有シテ居ラヌト云
フ會計デアル、事務費、事業費、總テハ借
入金デ致スト云フ爲ニ、十年間ニ此借入レ
タ金ノ利息ガ積リ積ッテ、寧ロ米穀ヲ買入
レタ爲ニ生ジタル直接ノ損失ヨリモ、資金
運用ノ爲ニ借入レタ利息ノ相累計シタ其金
高ガ多イ爲ニ、生ジタ缺損デアリマス、之
ヲ整理スル方法ニ付キマシテハ、大藏大臣
ヨリ大體ノ方針ヲ說明セラルヽコトヽ思ヒ
マスルカラ、此點ハ大藏大臣ニ私ハ讓リマ
ス(拍手)
〔國務大臣俵孫一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=25
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026・俵孫一
○國務大臣(俵孫一君) 硫安ノ問題ニ付テ
御答致シマス目下不當康賣法ヲ適用スル
意味ニ於キマシテ、調査シテ居ルコトハ先
刻申上ゲマシタ、之ニ付テ硫安ノ値段ノ何
處ヲ狙フノデアルカト云フコトデアリマシ
タガ、是ハ調ベテ見ナケレバ分リマセヌガ、
併シ御尋ノ通リニ生產費ノ最モ低イモノヲ
狙フカ、或ハ生產費ノ高イ所ヲ狙フカト云
フ御尋デアリマス、詰リ私ノ考ハ餘リ生產
費ノ高イ-卽チ高ク掛ル會社ヲ狙フト云
フコトモ間違ッテ居ル、併ナガラ最モ生產費
ノ低イ能率ノ高イ、安ク出來ルト云フ所ノ
ミヲ狙フノモ間違シテ居ル、兩方間違ッテ居
ルト思フ、ナゼナラバ若シ堅實ナル會社
ノミヲ狙フナラバ、其他ノ會社悉クガ企業
ヲ危クスルト云フ運命ニ相成ルノデアル
サウ致シマスレバ、國內ノ十數ノ肥料會社、
硫安會社ノ二億カ二億何千ノ資本ヲ、全ク
囘收不能ニ終ラシムルト云フコトニ相成リ
マスルカラ、是亦重大問題デアリマス、ソレ
故ニ凡ソ物ニハ中庸ガアル、其中庸ヲ採ッテ
然ル後ニヤルノ外ハナイト考ヘテ居ルノデ
アリマス(拍手)
〔政府委員石黑忠篤君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=26
-
027・石黒忠篤
○政府委員(石黑忠篤君) 只今土井サンノ
御質問ノ農林大臣ノ御答辯ニアリマシタ、
過去ノ長イ年間ニ於キマシテ率勢米價ト
申シマスルモノヽ上値二割又ハ下値二割
ヲ割リマシタ年ガ、甚ダ僅カダト云フヤウ
ナ話ガゴザイマシタ、私カラ事務的ニ調べ
マシタ所ヲ申上ゲテ置キタイト存ジマス、
是ハ私共ノ方カラ差上ゲマシタ表ノ中ノ、
年別ノ平均米價ヲ或ハ御比較ニナッタノヂヤ
ナイカト存ジマス米穀法ガ發動致シマ
スルノハ、大體當該ノ月ノ米價ノ市場ガド
ウデアラウカト云フコトヲ見マシテ出マス
ノデアリマス、月別ノ平均價格ニ比較ヲ致
シテ見マスルト云フト、三十七年カラ現今
ニ至リマスルマデノ間ニ、二十七箇年ノ間
ニ於キマシテ、上値二割ヲ割リマシタ月ノ
數ガ五十八箇月ゴザイマス、年ノ數ニ之ヲ直
シマスルト云フト、十箇年ゴザイマス、下
値二割ヲ割リマシタ月ノ數ガ四十二箇月デゴ
ザリマシテ、年ニ致シマスルト九箇年デゴ
ザリマスノデアリマス、是ハ年平均ニ米價
ヲ見マシテ御比較ニナリマスト、ドウシ
テモ平均ガ安イ所ニ落著クト云フヤウナコ
トニナリマスノデ、只今ノ御話ノヤウナコ
トノ結果ニナルノデアリマス、米穀法發動
トシテ見マスト云フト、月平均ノ米價ヲ御
比較ニナッタ方ガ宜カラウカト存ジマス(拍
手)是ハ私ノ事務的ノ調査ヲ差上ゲマシタ
結果デゴザイマスカラ、私カラ一應申上ゲ
テ置キマス(拍手)
〔國務大臣井上準之助君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=27
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028・井上準之助
○國務大臣(井上準之助君) 最後ノ御質問
ノ米穀需給調節特別會計ノ損失ハ一般會
計デ整理スルコトガ適當デハナイカト云フ
御質問デアリマシタガ、根本方針ト致シマ
シテハ一般會計デ之ヲ整理スルコトハ適
當ト考ヘテ居リマス、政府モ左樣ニ考ヘテ
居リマスガ、昭和六年度ヨリ之ヲ實行スル
ダケノ財政ノ狀態デナカッタノデアリマス
ガ、財政ノ狀態ノ許スダケ、成ベク早ク此
方針ヲ實行シタイト考ヘテ居リマス(拍
手
〔土井權大君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=28
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029・土井權大
○土井權大君 極メテ簡單デアリマス、詰
リ今囘ノ米穀法中改正法律案ヲ以テ、根本
ノ改正デアルト云フコトヲ農林大臣ガ言ハ
レタノデアリマスガ、眞ニ此根本ノ改正ヲ
ヤラウトスルニ付テハ如何ニシテ此米ノ
値ヲ安定セシメルカ數量ヲ調節スルカ、
而モ國家ニ於テ成ベク此費用ヲ要セザル方
法ニ依ッテヤルト云フコトガ理想デナケレ
バナラヌ、所カ今囘ノ此改正ヲ眺メルト、
從來ノ此米穀法ト殆ド五十步百步デアリマ
ス、只今非常ニ功名ラシク申サレマシタ所
ノ、輸出米ト輸入米ノ統一管理ト云フガ如
キコトモ現在ノ此米穀法ニ於テモ之ニ近
イコトハオヤリニナッテ居ル、又出來ナイコ
トハナイ、唯改正ハ此率勢米價ト云フコト
ダケデアリマスルケレドモ、此率勢米價ニ
致シテ見タ所ガ、前刻色々私モ申述ベマシ
タガ、或ハ月別或ハ年別ニ依ッテ異ナルデア
リマセウガ、是トテモ決シテ完全ナル基準
ト云フコトハ申サレヌノデアリマス、元來
此米ヲ買上ゲルトカ、之ヲ如何ニ賣ルカ
之ニ重キヲ置カナケレバナラヌ、唯米ガ安
クナッタカラ買上ゲル買上ゲルデ、段々米ノ
數量ト云フモノヲ增加シ、現ニ此五百万石
カラノ米モ持タナケレバナラヌ、而モ約三
十圓デ買〓タモノヲ捨値打ニ賣"テシマハナ
ケレバナラヌ、洵ニ勿體ナイヤリ方デアル、
ソレハ如何ナル點ニ缺點ガアルカト申セ
バ、買フト云フコトニ重キヲ置イテ如何
ニ之ヲ賣捌クカ-賣ルカ、之ニ考ガ起キ
テ居ラナイ、故ニ眞ニ此當面ノ解決ト致シ
テモー當面的ノ根本對策ト致シテモ、米
ナラ米ヲ豐年ノ年ニ買上ゲルナラバ、時
ニ過剩米ノ千万石ナラ千万石ト云フモノ
ヲ米ノ穫レタ時ニ買上ゲテ置ク、而シテ
籾米ハ貯藏用ニ供シ、玄米ハ每月內外ニ向ッ
テ平均賣デ賣ルト云フコトニスレバ、市場
ニ所謂一時ニ殺到スルト云フガ如キ危險ガ
ナクシテ、米價ヲ維持スルコトガ出來ル、
斯ウ云フ點ニ付テ何等ノ御考ガナイ、是デ
モ尙ホ根本ノ改正ナリト確信サレテ居ルト
云フノハ、忌憚ナク言フナラバ、餘リ此米
穀ノ實際ノ狀態ト云フモノヲ御承知ガナイ
ト私ハ言ヒ得ルノデアリマス(拍手「ノー
「意見ノ相遠」ト呼フ者アリ)默レ、君等ガ
サウ言フノハ農村ノ味方ヲセザルモノヂヤ
ナイカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=29
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030・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 私語ヲシナイヤウ
ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=30
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031・土井權大
○土井權大君(續) 所謂買上政策ノ無爲無
策ト買入米ノ販賣政策ノ無爲無策、此點
ノ考慮ガ今囘ノ改正ニ何等現レテ居ラナイ
ノデアリマスソレト同時ニ結果ニ於テ成
ベク費用ヲ要セザル範圍ニ於テ、此ヤリ方
デアルナラバ、マダ〓〓金ノ掛ルモノデア
ル從來ノ米穀法ト同ジ轍ヲ履ムモノナリ
ト私ハ考ヘルノデアリマス、其點ニ付テ如
何ナル御意見ガアルカト質問致シテ居ルノ
デアル、決シテ意見ノ相違デモ何デモアリ
マセヌ、疑ヲ質シテ居ルノデアル
ソレカラ其次ニ米ヲ貯藏スルト、貯藏ス
ルガ爲ニ蟲喰デアルトカ、或ハ買換トカ、
或ハ整理トカ、色々ノ事ヲヤラナケレバナ
ラヌ、併ナガラ貯藏スルナラバ、籾米ヲ以
テ貯藏スルト云フヤリ方ニスレバ左樣ナ
損失ト云フモノヲ多クシナイコトガ出來ル
ト私ハ考ヘル其點ニ付テ如何ナル御考ヲ
御持ニナッテ居ルカ、是ハ所謂當面的ノ根本
デアリマスルガ、更ニ進ンデ、米ノ根本問
題ヲ解決シヨウトスルナラバ、決シテ吾々
ハ專賣ト云フコトニ囚ハルヽ譯デハナイ、
專賣ト云フコトニ囚ハルヽ譯デハナイケレ
ドモ、專賣ト同ジ效果ノアル產業合理化ト
云フコトガ、此頃現內閣ニ於テハ非常ニ御
好デアル國產愛用ト云フコトガ御好デ
アル、此米ノ販賣販路ト云フモノハッ
ノ系統的組合ヲ作ッテ「カルテル」應用ニ依。シ
テ此販賣ト云フコトヲヤレバ、卽チ米ノ價
ヲ維持スルコトモ出來レバ、需要供給ノ調
節モ出來ルノデアル、ソレ等ニ付テ如何ナ
ル御〓究ガアルカ
其他肥料ノ問題ニ付テデアリマスガ、只
今肥料ノ問題ニ付テハ色々ノ會社ガア
ル十三モ十四モアル、其何レノ會社ニ對
シテモ、倒レナイヤウニ助ケテヤラナケレ
バナラヌ、所ガ產業合理ト云フコトヲ言ハ
レルガ、產業合理ニハ色々アル、所謂生產
費ヲ輕クシ、能率ヲ增進シテ、其產業合理
ニ適ッタ會社ト、適ハザル會社トガアル、產
業合理ト云フ上カラ言フナラバ、前者ハ現
內閣ノ主張サレテ居ル產業合理ニ適ッテ、如
何ニモ文化的ニ、進化的ニヤッテ居ル、之ヲ
基準トシテ果シテ不當廉賣ヲ撤去シ得ベキ
ヤ否ヤ、之ヲ御考ヘナサルノガ、最モ賢明
ナルヤリ方デアルト思フ、詳細ナル事ハ何
レ委員會ニ於テ色々ト承リタイト考ヘテ居
リマスガ、要ハドウ云フ事ヲ此頃天下ノ農
民ガ言ウテ居ルカト云フナラバ民政黨ハ
兎角農村ニ味方ヲシナイ(「馬鹿ヲ言ヘ」ト
呼フ者アリ)金融資本主義デアルト云フ憾
ガ多イノデアマス、ドウカ現内閣ニ於テ
モ、民政黨ノ各位ニ於テモ、農村ヲ愛シ、
國家ヲ愛シ、又黨ヲ愛スルト云フ意味カ
ラ、モウ少シ農村ノ爲ニ、誠實ニ、眞心ヲ
以テ改正ノ實ヲ擧ゲテ戴キタイト云フコト
ヲ申上ゲタイノデアリマス
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=31
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032・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 簡單ニ御答致シ
マス、土井君ハ委細ハ委員會デ御意見ヲ申
サレルト云フコトデアリマシタ、土井君ノ
一部專賣ニ近イ御議論ハ公ノ新聞雜誌ニ
依ッテモ大體拜見シテ居リマスガマダ實際
ノヤリ方ハ分リマセヌ、是ハ委員會ニ於テ
詳シク御話ニナルト云フコトデアリマスカ
ラ、ソレヲ伺ッタ上デ私ノ意見ヲ申上ゲルコ
トヽシテ、此席デハ避ケマス
最後ノ現內閣ガ農村ニ同情ガナイト云フ
意味合ノ此米穀法ニ對シテノ御批評デア
リマス、私ハ玆ニ斷言シテ置キマス、米穀
法ハ一面生產者ノ利害ヲ考慮スルト同時
ニ一面消費者、一般國民ノ生活ノ安定
ト、農民ノ生產費ト云フモノヲ調和スルコ
トニ苦心致シテ居リマス
〔片山哲君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=32
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033・片山哲
○片山哲君 私ハ六點ニ分チマシテ米穀法
改正ニ關スル農林大臣ノ意見ヲ伺ヒタイト
思フノデアリマス、殊ニ今日現下ノ情勢ヲ
見マスルナラバ、御承知ノ通リ農村ハ窮乏
其極度ニ達シテ居ルノデアリマス、之ニ對
シマシテハ多クノ政策、多クノ對策ヲ其處
ニ持タナケレバナラナイノデアリマス現
レテ居リマスル米穀法ハ、果シテ今日ノ農
村窮乏打破ノ對策トシテ、如何ナル效果ヲ
發揮スルコトガ出來ルカ、サウ云フ點ニ付
テ大イニ考慮ヲ拂ッテ行カナケレバナラナ
イト思フノデアリマス、偖テ時間ヲ節約致
シマスル爲ニ、先ヅ質疑ノ要點、題目ヲ擧
ゲテ見タイト思ヒマス
第一ハ今日ノ如キ深刻ナル農村窮乏ヲ打
破スル對策ト致シマシテ、其根本的改正ト
シテ、此米穀法ハ出サレテ居ルト云フノデア
リマスガ、今日根本的農村窮乏打破ノ對策ト
シテ、果シテ適當ト考ヘテ居ルモノガアル
カ否ヤト云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス
第二ハ今日ノ農村窮乏ノ對策トシテ玆ニ
米穀法ノ改正ヲ提出致シテ居リマスガ、之
ニ付キマシテハ其對象ト致シマシテ、窮乏其
極度ニ達シテ居リマス今日ノ農村經濟事情
ヲ如何ニ農林大臣ハ考ヘルカト云フ事ヲ
伺ハナケレバナラナイ、資本主義ガ今日ノ
如ク第三期ニハイッテ居リマス時ニ、工業資
本狀態ト農村經營狀態ヲ農林大臣ハ如何ニ
考ヘテ居ルカ、農村ノ特別事情ト云フコト
ヲ今日考ヘルカ、日本ノ農村ノ特殊性ト云
フコトヲ農林大臣ハ如何ニ考ヘテ居ルカト
云フコトヲ伺ヒタイノデアリマス
更ニ第三點ト致シマシテハ、其特殊性ト
申シマスルモノハ工業產業ニ用ヒラレテ
居リマス所ノ工業資本主義ト違ヒマシテ
ヤハリ今日我國ニ於ケル農村ハ封建的經濟
組織ガ尙ホ深ク殘存シテ居ルト云フコトヲ
考ヘナケレバナラナイノデアリマス、是ハ
今日特ニ日本ノ農村ガ疲弊シ、窮乏ガ其極
度ニ達シテ居ル原因デアルト云フコトヲ考
ヘテ行カナケレバナラナイ、此特殊性ヲ認
メテ卽チ封建的經濟組織ガ尙ホ殘存スル
モノデアルト云フ點ニ著眼致シテ行カナケ
し や、是等ニ對スル對策ハ到底立テ得ルモ
ノデナイ、又隨テ米穀法ト云フモノヲ幾ラ
改正致シタ所ガ、ソレハ殆ド價値ノ無イモ
ノニ終ッテシマフト云フコトヲ、能ク考ヘテ
行カナケレバナラナイノデアリマス、之h
對スル農林大臣ノ所見ヲ伺フ譯デアリマ
ス、
第四點ハ今日ノ農村ノ窮迫ノ原因ト云フ
モノハ何デアルカト云フコトヲ考ヘテ見マ
スルナラバ、資本主義、經濟組織ガ農村ニ
深ク及ンデ居ルト云フノデハナクテ工業
資本主義ノ經濟組織ガ農村ヲ搾取シテ居ル
狀態ニナッテ居ルノデアリマス、農村ヲ踏臺
ニ致シマシテ、今日工業產業-工業資本
主義ガ極度ニ發展ヲ致シテ居ルト云フコト
ヲ考ヘテ行カナケレバナラナイ、第二ハ先
程申シマシタ封建的經濟組織ノ結果、地主
ノ搾取ト云フコトガ今日小作人ヲ非常ニ窮
乏ニ陷レテ居ルモノデアル、卽チ資本ト地
主ノ棒取ト云フコトヲ考ヘテ、之ニ對スル
對策ヲ立テヽ行クニ非ザレバ、到底農村ノ
窮乏ヲ破打スルコトガ出來ナイト云フコト
ヲ考慮シナケレバナラナイ、之ニ關スル農
林大臣ノ所見如何ト云フコトヲ聽キタイノ
デアリマス
第五ニハ此農業生產ノ生產費ト云フモノ
ハ、工場工業ノ生產費ト違ヒマシテ、生產
費固定ノ狀態ニナッテ居ル、生產費ヲ切下ゲ
ヤウト思ッテモ、ソレハ農村生產物ニ限リマ
シテハ固定シテ居リマスカラ、之ヲ切下ゲ
ルコトガ出來ナイ狀態ニナッテ居ルノデ
アリマス、サウ云フ特殊狀態デアリマスカ
ラシテ、其生產費ヲ切下ゲル爲ニ特殊ナル
方法ヲ其處ニ用ヒナケレバナラナイ、其特
殊ナル方法ト致シマシテ、農相ハ如何ナル
所見ヲ持ッテ居ルカ
第六ハ根本的對策ト致シマシテ、斯樣ナ
彌縫的ナ、斯樣ナ生溫イ米穀法ノ改正ニ依"
テ、此窮迫セル農村ノ窮狀ヲ打破スルコト
ハ斷ジテ出來ナイ、ソレニハモット深ク、モッ
ト根本的ノ對策ヲ立ツルニアラザレバ、到
底此窮乏ヲ打破スルコトガ出來ナイト云フ
コトヲ、吾々ガ考ヘルノデアリマス、是等
ニ對スル所ノ根本對策ガ如何デアルカト云
フコトヲ伺ハナケレバナラナイノデアリマ
ス
以下極メテ簡單ニ要約致シマシテ、其點
ヲ說明致シタイト思ヒマス、第一點ハ農林
大臣ハ米穀法ハ根本的改正デアルト言フノ
デアリマス、大正十年ニ之ヲ制定シ、大正
十四年ニ之ヲ改正シ、其趣旨ニ於テハ變化
致シテ居リマス、特別會計ノ金ノ問題ニ付
キマシテモ、漸次增加致シテ居ルノデアリ
マン、デリ〓〓ボツ〓〓ト之ヲ改正致シマ
シテ、サウシテ今日之ヲ根本的ニ改正スル
ト云フ其案ガ、極メテ微溫的ナ、極メテ生
溫イ案トシテ、今日茲ニ現レテ居ルノデア
リマス、斯樣ナ狀態デ是ガ今日我ガ國民ノ
此食糧問題、或ハ生產問題ニ重大ナル關係
ヲ持ッテ居リマスル所ノ、米穀對策トシテノ
根本策デアルト云フコトヲ聽キマシテ、吾
吾ハ非常ナル失望ト忿懲ヲ感ゼザルヲ得ナ
イノデアリマス、卽チ農村窮乏打破ノ對策
ト致シマシテ現レテ居リマスル所ノ米穀法
改正ノ如キハ、極メテ微溫的デアリ、極メテ
效果ノ無イモノデアルト云フコトヲ言ハザ
ルヲ得ナイノデアリマス、之ヲ根本的對策
デアル、根本的改正デアルト言フニ至ッテ
ハ驚カザルヲ得ナイ、是等ニ關シマシテ之
ヲ根本的改正デアルトシテ、農相ハ出サレ
テ居ルノデアリマスルケレドモ、其根本觀
念ヲ吾々ハ質問致シタイノデアリマス
更ニ第二點ニ關聯シテ、此第一點ノ問題
ハ御答辯ヲ願ハナケレバナラナイ、第二點
ハ我國ノ此農村經濟事情ニ特殊性ノアルト
云フコトニ著眼シテ行クニ非ザレバ、農村
對策ト云フモノハ斷ジテ其處ニ立テルコト
ガ出來ナイノデアリマス、卽チ日本ノ農村經
濟組織ト申シマスルモノハ、資本主義ノ工
業勞働狀態、或ハ工業資本主義ノ狀態ハ
其儘ソックリ及ンデ居ルモノデハ決シテア
リマセヌ、御承知ノ通リ農村經營ハ極メテ
小規模、小企業組織ニナッテ居リマス、或ハ
又小地主ノ經營ノ下ニソレガ委ネラレテ居
ルノデアリマス、又耕地組織ノ點ヲ考ヘテ
見マシテモ、極メテ小耕地組織ニナッテ居
ルノデアリマス、卽チ小資本經營ノ組織ニ
委ネラレテ居ルノデアリマス、隨テ昔ナガ
ラノ封建的農奴組織ノ狀態ヲ續ケテ居ル、
昔ノ六公四民、五公五民デアルトカ云フヤ
ウナ地主ト小作人ノ分配關係ガ其儘今日モ
殘ッテ居ルト云フヤウナ狀態デアリマス
卽チ斯樣ニ致シマシテ舊式ナ封建的經濟
組織ガ、今尙ホ儼然トシテ我國ノ農村經濟
狀態ニ其儘存在致シテ居リマスル時ニ、今
日ノ農村ノ不景氣ハ世界的不景氣ガ其儘農
村ニソックリ及ンダト云フ風ニ考ヘテ居ル
ト考ヘルノハ、極メテ呑氣ナ狀態デアルト言
ハナケレバナラナイ、此特殊性ヲ能ク考ヘ
テ、之ニ對スル對策ヲ立テヽ行クニ非ザレ
バ、今日ノ農村窮乏ハドウシテモ打破スル
コトガ出來ナイト云フ點ヲ能ク留意シテ
行カナケレバナラナイノデアリマス、隨テ
窮乏打破ノ問題ニ付キマシテハ、工業資本
ノ搾取ト云フコトヲ止メル方策ヲ講ジテ行
カナケレバナラナイ、農村ヲ踏臺トシ、農
村ヲ利用シ、農村デ自分達ノ利益ノ爲ニシ
テ、今日ノ工業資本主義ガ發達致シタト云
フコトヲ考ヘテ行カナケレバナラナイノデ
アリマス、斯ウ云フ譯デアリマスルカラ、
玆ニ此特殊性ニ對スル對策ヲ農林大臣ハ立
テヽ行カナケレバナラナイ、其特殊性對策
ト云フモノハ如何デアルカト云フコトヲ私
ハ質問致シタイノデアリマス、商工大臣ハ
盛ニ產業ノ合理化ヲ唱ヘテ居リマス、機械
化ヲシナケレバナラナイ、或ハ勞力ノ節約
ヲシナケレバナラナイ、生產費ノ低下ヲヤッ
チ行カナケレバナラナイ、斯樣ニ產業ノ合
理化ヲ極度ニ發展セシメテ行カナケレバナ
ラナイト云フコトヲ、强調致シテ居ルノデ
アリマスルガ、果シテ今日ノ農村經濟組織
二、今日ノ所謂產業ノ合理化ト云フコト
ガ、其儘ソックリ適用スルコトガ出來ルデ
アリマセウカ、斷ジテ今日ノ所謂產業ノ合
理化ト云フモノハ農村ニ於テハ適用サレ
ナイ、機械化サレナイ、電氣化サレナイ、
小企業ノ狀態ハ尙ホソックリ其儘殘シテ居ル
ト云フヤウナ狀態デアリマス斯ウ云フヤ
ウナ特殊狀態ニ對スル對策ヲ、特別ニ立テ
テ行カナケレバナラナイノデアリマス
ソコデ我國農村ノ生產費ノ構成要素ヲ更
ニ解剖シテ行カナケレバナラナイ生產費
構成要素ハ工業資本ノ狀態ト、農村經濟組
織ノ狀態トハ非常ニ違ッテ居ルノデアリマ
ス、都市工業ノ生產原價ハ主トシテ原料費
ト勞働賃銀ニ依ルノデアリマス、隨テ資本
主義ノ下降期ニ當面致シマシテ、漸次是ガ
削減サレタリ、或ハ切下ゲラレタリ致シマ
シーン所謂生產費ト勞働賃銀ノ低下ト云フ
コトガ其處ニ現レテ參リマス、所ガ農村ノ
生產費ハ何デアルカ、是ハ細カク統計ヲ擧
ゲテ申シマスレバ明瞭デアリマスケレド
モ、今日其時間ヲ持チマセヌカラ、ソレヲ
省略致シマスルガ、何レニ致シマシテモ、
農村ノ農業狀態ノ生產原價ト申シマスルモ
ノハ原料費或ハ又勞銀ニ依ルノデハナク
シテ、ソレハ稅金デアル、ソレハ肥料代デ
アル、ソレハ金ノ利息、利子デアル、此三
ツガ寄ッテ今日ノ農村ノ生產費トナリマシ
テ、ソレガ今日固定致シテ居ルノデアリマ
スカラ、ドウシテモ是ハ切下ゲルコトガ出
來ナイ、之ヲ下ゲルコトハ出來ナイ、デア
リマスカラ生產費ノ切下ゲト云フ問題ヲ極
メテ簡單ニ考ヘタ所ガ、今日ノ狀態、特殊
性ト云フコトニ對スル對策ヲ立テルニ非ザ
レバ、此生產費ノ切下ゲハ斷ジテ出來ナ
イ是卽チ今日ノ資本主義ニ當ッテ、現內閣
ガヤッテ居リマス產業合理化ノ組織ヲ、其儘
農村ニ適用スルコトガ出來ナイ狀態デアル
ト云フコトヲ言ハザルヲ得ナイノデアリマ
ス、卽チ一般ノ景氣不景氣ハ今日ノ工業資
本主義ニハ極メテ直接ニ反射、反映致シマ
スルケレドモ、農村ノ特殊經濟組織ニハ今
日ノ不景氣ハ直射ハ致シマセヌ、自然的崩
壞ニ依ッテ、世界的不景氣ハ來ラズトモ、斯
樣ニ不健全ナル、斯樣ナ「バラック」的組織ニ
依ッテ出來上ッテ居リマスル封建的經濟組織
ハ、自ラノ發展ニ依ッテ崩壞シナケレバナラ
ナイ狀態ニ立ッテ居ルノデアリマス、此特殊
性ニ對スル認識ヲ誤ラザルヤウニ立テヽ行
カナケレバナラナイノデアリマス、斯ウ云
フ考ヲ持ッテ行カナケレバナラナイト云フ
ノデアリマスルガ、果シテ農林大臣ハ是等
ノ日本特有ノ狀態ニ對シテ如何ナル所見ヲ
持ツカト云フコトヲ質問致シタイノデアリ
ひと、言換ヘテ見マスレバ今日ノ農村經
濟組織ハ非常ナ疾患ヲ持ッテ居ルノデアル
痼疾ヲ持シテ居ルノデアル病根ヲ持ヶテ居
ルノデアリマス、此病根ヲ救フニ非ザレバ、
斷ジテ玆ニ新シイ展開ヲ見出スコトガ出來
ナイノデアリマス、人口ノ半分ヲ占メテ居
リマスル所ノ今日ノ農民ハ自分ノ作ッタ
物ヲスラ食フコトノ出來ナイヤウナ、窮乏
ノ底ニ陷ヲテ居ルノデアリマス、何故デアル
カト云フコトヲ考ヘテ行カナケレバナラナ
イ、其處ニ於テ私ハ工業資本主義ノ資本ノ壓
迫ヲ排除スルト云フ方策ヲ立テヽ行カナケ
レバヤラナイ、資本ノ壓迫ヲ排擊スルト云
フ方策ヲ今日立テナケレバナラナイ、第二
ハ又地主ノ壓迫ヲ今日ハ排除スル方策ヲ立
テヽ行カナケレバナラナイノデアリマス、
斯樣ナ二ツノ方法ヲ立テヽ行クニ非ザレバ、
今日ノ農村ニ對スル對策トシテハ何等價値
ナイモノト言ハザルヲ得ナイノデアリマ
ス、ソコデ資本ト地主ノ搾取ヲ排除致シマ
スル方策トシテ、如何ナル案ガ其處ニ出テ
參ルカト申シマスルナラバ、是ハ先ヅ今日
問題トナッテ居ル所ノ肥料ノ問題デアリマ
ス、先程カラモ度々不當廉賣ノ問題ガ此處
ニ現レテ參リマシタガ、此點ニ付キマシテ
モ特ニ農林大臣ニ聽キタイノデアリマス、
商工大臣ハ不當廉賣法ヲ適用シタイ意見ヲ
持ッテ居ルト云フコトヲ言ハレタノデアリ
マス農林大臣ハ果シテ同一意見ヲ持ッテ
居ルカ不當廉賣法ヲ適用シテ安イ肥料ガ
農村一般ニ普及サレル、之ヲ配布サレルコ
トヲ農林大臣ハ止メルト云フ考ヲ持ッテ居
ルノデアルカ然ラバ今日ノ肥料政策ト云
フモノハ農林大臣トシテ如何ナル對策ヲ
持ッテ居ルカ、吾々ハ是ニ於キマシテ生產費
固定ノ原因ヲナシテ居リマスル所ノ肥料
ハ資本家ノ事業ニ委シテ置クコトナクシ
テ、或ハ又之ヲ一部ノ特殊ノ營利事業トシ
テ之ヲ委スコトナクシテ資本主義ノ組織
カラ之ヲ排擊致シマシテ、農民ガ最モ必要
デアリマスル所ノ今日ノ肥料ハ宜シク國
營公營ニシナケレバナラヌト云フコトヲ
私共ハ考ヘテ居ルノデアル、斯樣ニ致シマ
スルナラバ、生產費低下、生產費ヲ切下ゲ
ルコトハ極メテ簡單ニ出來ルノデハナイ
カ、卽チ肥料公營ニ對スル對策ヲ立テルニ
非ザレバ、農村窮乏ヲ打破スルコトガ出來
ナイ、農林大臣ハ簡單ニ今ハ其時機デハナ
イ、或ハ今是ハ考慮中デアルト云フヤウナ、
極メテ簡單ナル言葉ヲ以テ之ヲ葬去ルカモ
知レマセヌケレドモ、併ナガラ最モ重大ナ
ル問題デアル、其觀念、其知識ヲ吾々ハ十
分ニ此機會ニ於テ聽カザルヲ得ナイノデア
リマス
更ニ又今日米穀ノ問題ニ付キマシテ、先
程土井君カラモ專賣ノ間題ガアリマシタ
「カルテル」ノ問題モアリマシタ吾々ハ組
合ノ手ニ之ヲ移スコトナクシテ、更ニ進ン
デ國家ガ之ヲ經營スル、所謂米穀ノ公營ヲ
シテ行カナケレバナラヌ、而シテ生產費ノ
問題モ、消費者ニ對スル問題モ、總テ國家
統制經濟ノ下ニ之ヲ統制シテ行クニ非ザレ
バ此米穀問題ハ斷ジテ解決サレルモノデ
ハナイト私ハ信ジテ疑ハナイノデアリマ
ス、ソレデアルカラ私ハ單ニ一部ノ人々ニ
之ヲ委スト云フヤウナ組織テハイケナイ、
宜シク是ハ國家ガ統制ノ力ヲ以テ經營致シ
マスルナラバ、今日米穀法改正ノ改正條項
トシテ現レテ參リマシタ所ノ、所謂生產費
ノ問題、或ハ家計費イ問題、或ハ率勢米價
ニ關スル極メテ面倒臭イアノ計算ナドハ
國家ハ自分ノ力ヲ以チマシテ之ヲ統制ス
ル、而シテ生產者ニ對スル生產費モ之ヲ十
分ニ考ヘテ行ク、肥料公營ノ問題、種子公
營ノ問題、分配ノ方法ニ付キマシテモ、ソ
レゾレ國家統制ノ經濟組織ノ下ニ於テ、新
シキ力ヲ其處ニ及ボスナラバ、優ニ此生產
費ノ問題ヲ解決スルコトガ出來ル、而シテ又
消費者ニ向ヒマシテハ、極メテ安ク消費シ
得ルヤウニ、〓糧問題ヲ解決スルコトガ出
來ルト云フ立場ニ立ッテ行クノデアル、此
兩方ノ問題ヲ解決スル爲ニハドウシテモ
國家經營ノ下ニ進ンデ行クニ非ザレバ斷
ジテ出來ナイト云フコトヲ私ハ考ヘテ居ル
ノデアリマス、斯樣ニ考ヘテ行カナケレバ
ナラナイガ、今日ノヤウナ微溫的ナル米穀
法ノ改正、農林大臣ハソレハ根本的改正デ
アルト言ヒマスケレドモ、此生產費計算ノ
問題ニ付テ、直チニ行詰テ來ルト思フノデ
アリマス今日帝國農會ノ調査ニ依リマシ
テモ、先程農林大臣ガ言ハレマシタヤウナ
生產費トハ全然違ッテ居ル、生產費ヲ非常ニ
食込マシテ、非常ニ之ニ損害ヲ與ヘルト云
フヤウナ事ガ、其處ニ出テ來ルニ相違ナイ
ト思フ、米穀法ノ適用ニ依ル所ノ基準米
價買上ノ基準米價ト云フモノハ、恐クハ
今日ノ無產大衆ヲ泣カシメ、之ヲ壓迫スル
ヤウナ計算關係ガ其處ニ出テ來ルト云フコ
トハ當然デアリマス、斯樣ナ狀態デ果シテ
今日ノ窮乏セル農民ニ對スル對策トシテノ、
米穀法改正ノ價値アリヤ否ヤト云フコトヲ
疑ハザルヲ得ナイノデアリマス、吾々ハ是
ニ於キマシテ、此米穀法改正ヲ機會ト致シ
マシテ、今日ノ內閣ノ農村對策ヲ玆ニ明カ
ニ現シテ行カナケレバナラヌ、農村對策ヲ
現シテ其基本ノ下ニ米穀法改正ト云フコ
トニ及ンデ來ナケレバ、米穀法ハ殆ド死物
ニ等シイト云フコトヲ斷言セザルヲ得ナイ
ノデアリマス、以上先程來申シマシタ六點
ニ付テ、農林太臣ノ明快ナル御答辯ヲ促ス
次第デアリマス
〔國務大臣町田忠治君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=33
-
034・町田忠治
○國務大臣(町田忠治君) 片山君ニ極メテ
簡單ニ御答致シマス、片山君ガ此委員會ニ
デモ御出席下サレバ、詳シク申上ゲタイト
存ジマス、唯茲ニ片山君ノ御質問ノ根本ニ
對シマシテ、私共ハ今日御協賛ヲ願ヒマス
ル米穀法ノ根本改正ト、國家社會政策ヲ基
礎トシテ立論サレタ所ノ農村問題トハ、切
離シテ御考ヲ願ヒタイト思ヒマス、今日ノ
農村ハ何人ガ考ヘテモ疲弊困憊ト申シテ宜
シイノデアリマス、之ニ對シテ現內閣ハ、
有ユル施設ヲ致シテ之ヲ緩和スルコトヲ努
メテ居リマス、併シ此米穀法ハ今日ノ農村
ノ窮乏ヲ救濟スルヲ目的トシタル米穀法デ
ハアリマセヌ、此米穀法ハ國家百年ノ根本
政策トシテ、生產者ト消費者ノ利害ヲ調和
スルコトヲ目的トシタル米穀法デアリマシ
テ、片山君ガ御話ノ、平生御主張ヲサレテ
居ル所ノ國家社會政策ト、此米穀法ヲ一〓
ニシテ御言及ニナルノハ、甚ダ私ハ遺憾ニ
考ヘマス
ソレカラ今日ノ農村政策ニ對スル種々ナ
ル御尋ガアリマシタガ、實ハ此處カラ簡單
ニ御答スルヤウニ質問ガハッキリ分クテハ居
ラズ、唯平生御主張ナサル所ノアナタ方ノ
政策、御意見ヲ承ッタニ過ギマセヌ、私ハ適
當ナル時ニ······(「肥料ノ公營ハ」ト呼フ者
アリ)肥料公營ノ問題竝ニ米穀ヲバ國家之
ヲ統理スルト云フ、國家專賣論ノ如キ御主
張ガアッタヤウニ承リマシタ、米ニ對シテハ
國家專賣、竝ニ肥料ニ對シテモ等シク國家
之ヲ經營スル、國營ニ移スト云フヤウナ御
議論ノヤウニ承リマシタ、私共ハ肥料ノ國
營ト云フコトモ一ツノ考方デアリマスガ、
肥料ノ製造販賣ニ付テ國家ガ自ラ責任ヲ執。ツ
タ場合ニ果シテ民間ノ自由競爭ニ委シテ
居ッタ時ヨリモ、安ク一般農農ニニ料ガガ
ケルト云フ結論ニハマダ達シテ居リマセ
ヌ國家自ラ肥料ノ製造經營ニ當ッタ際ニ
ハ、民間ノ自由競爭ニ委シタ場合ヨリモ、肥
料ガ安ク全國ノ農民ニ配布セラルヽト云フ
確信ニハマダ達シテ居リマセヌ、肥料ニ對
スル私ノ考ハ左樣デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=34
-
035・作田高太郎
○作田高太郞君 本案ニ對スル質疑ハ此程
度ヲ以テ終局セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=35
-
036・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 作田君ノ質疑終局
ノ動議ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=36
-
037・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
やく、仍テ質疑ハ終局致シマシタ-日程
第三、右各案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選
擧ヲ議題ト致シマス
第三右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=37
-
038・作田高太郎
○作田高太郞君 各案ヲ一括シテ議長指
名、二十七名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ
望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=38
-
039・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=39
-
040・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 御異議ナシト認メ
マヽ、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程
第四、刑事補償法案ノ第一讀會ヲ開キマ
ス-川崎政府委員
第四刑事補償法案(政府提出)
第一讀會
刑事補償法案
刑事補償法
第一條刑事訴訟法ニ依ル通常手續又ハ
再審若ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者又ハ同法第三百十三
條ノ規定ニ依リ免訴ノ言渡ヲ受ケタル者
未決勾留ヲ受ケタル場合ニ於テハ國ハ
其ノ者ニ對シ勾留ニ因ル補償ヲ給與ス
再審又ハ非常上〓ノ手續ニ於テ無罪ノ
言渡ヲ受ケタル者原判決ニ因リ既ニ刑
ノ執行ヲ受ケ又ハ刑法第十一條第二項
ノ規定ニ依ル拘置ヲ受ケタル場合ニ於
テハ國ハ其ノ者ニ對シ刑ノ執行又ハ拘
置ニ因ル補償ヲ給與ス
第二條前條ノ規定ニ依リ補償ノ給與ヲ
受クベキ者死亡シタル場合ニ於テハ前
條ノ補償ハ之ヲ本人ノ遺族ニ給與ス死
亡シタル者ニ付再審又ハ非常上告ノ手
續ニ於テ無罪ノ言渡アリタル場合亦同
ジ
補償ノ給與ヲ受クベキ遺族死亡シタル
トキハ次順位ノ遺族ニ之ヲ給與ス
第三條本法ニ於テ遺族ト稱スルハ本人
ノ配偶者、子、孫父、母、祖父及祖
母ニシテ本人死亡ノ當時之ト戶籍ヲ同ジ
ウシ引續キ其ノ戶籍內ニ在ル者ヲ謂フ
補償ノ給與ヲ受クベキ遺族ノ順位ハ前
項ニ記載スル順序ニ依ル父母及祖父母
ニ付テハ養方ヲ先ニシ實方ヲ後ニス
子及孫數人アルトキハ其ノ順位ハ本人
ヲ被相續人トシタル家督相續ノ順位ニ
準ジ之ヲ定ム
第四條無罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受ケタル
者ニ付左ノ事由アルトキハ補償ヲ給與
セズ
一刑法第三十九條乃至第四十一條ニ
規定スル事由ニ因リ無罪又ハ免訴ノ
言渡アリタルトキ
二起訴セラレタル行爲ガ公ノ秩序又
ハ善良ノ風俗ニ反シ著シク非難スベ
キモノナルトキ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ起訴、勾留、公判ニ付スル處分又
ハ再審請求ノ原山ト爲リタルトキハ第
一條第一項ノ補償ヲ給與セズ
本人ノ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル行
爲ガ原有罪判決ノ憑據ト爲リタルトキ
ハ第一條第二項ノ補償ヲ給與セズ
一個ノ裁判ニ依リ併合罪ノ一部ニ付無
罪又ハ免訴ノ言渡ヲ受クルモ他ノ部分
ニ付有罪ノ言渡ヲ受クル者ニ對シテハ
補償ヲ給與セザルコトヲ得
第五條勾留ニ因ル補償ニ於テハ勾引狀
又ハ勾留狀執行後ノ拘禁日數ニ對シテ
一日五圓以内ノ補償金ヲ給與ス
懲役、禁錮又ハ拘留ノ執行ニ因ル補償
ニ於テハ其ノ日數ニ對シテ一日五圓以
內ノ補償金ヲ給與ス拘置ニ因ル補償ニ
付亦同ジ
死刑ノ執行ヲ受ケタル者ノ遺族ニ對ス
ル補償ニ於テハ拘置ニ因ル補償ノ外裁
判所ノ相當ト認ムル補償金ヲ給與ス
罰金又ハ科料ノ執行ニ因ル補償ニ於テ
ハ旣ニ徵收シタル罰金又ハ科料ニ等シ
キ金額ヲ還付ス勞役場留置ノ執行ヲ爲
シタルトキハ第二項ノ規定ニ準ジ補償
金ヲ給與ス
沒收ノ執行ニ因ル補償ニ於テハ破壞若
ハ廢棄ニ係ラザル沒收物又ハ沒收物ノ
處分ニ因リテ得タル代價若ハ徵收シタ
ル追徴金ニ等シキ金額ヲ還付ス
第六條補償ノ給與ヲ受ケントスル者ハ
無罪ノ言渡ヲ爲シタル裁判所又ハ免訴
ノ言渡ヲ爲シタル豫審判事ノ屬スル裁
判所ニ對シ補償給與ノ申立ヲ爲スベシ
前項ノ申立ハ書面ヲ以テ之ヲ爲スベシ
申立書ニハ戶籍謄本ヲ添附スベシ
補償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ爲シタ
ル後死亡シタルトキハ其ノ申立ハ順次
次順位ニ於テ補償ノ給與ヲ受クベキ者
ヨリ之ヲ爲シタルモノト看做ス
第七條補償ノ給與ヲ受クベキ者ハ先順
位者ノ明示シタル意思ニ反シ補償給與
ノ申立ヲ爲スコトヲ得ズ
補償ノ給與ヲ受クベキ者申立ヲ取消シ
タルトキハ其ノ取消ヲ爲シタル者及後
順位者ニ於テ更ニ中立ヲ爲スコトヲ得
ズ
第八條補償給與ノ申立ハ代理人ニ依リ
テモ之ヲ爲スコトヲ得
第九條補償給與ノ申立ハ無罪又ハ免訴
ノ裁判確定ノ日ヨリ六十日內ニ之ヲ爲
スコトヲ要ス
第十條補償給與ノ申立アリタルトキハ
裁判所ハ檢事ノ意見ヲ聽キ申立ニ付決
定ヲ爲スベシ決定ノ謄本ハ檢事及申立
人ニ送達スベシ
申立理由アルトキハ補償給與ノ決定ヲ
爲スベシ申立理由ナキトキ又ハ期間經
過後ニ係ルトキハ之ヲ棄却スベシ
刑ノ執行又ハ拘置ニ因ル補償給與ノ申
立ト同時ニ勾留ニ因ル補償給與ノ申立
アリタルトキハ主文ヲ區別シテ決定ヲ
爲スベシ
第十一條補償給與ノ決定ニ對シテハ不
服ヲ申立ツルコトヲ得ズ
補償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シ
テハ卽時抗告ヲ爲スコトヲ得
第十二條補償給與ノ決定アリタル後之
ニ依リテ補償ノ給與ヲ受クベキ者其ノ
交付ヲ受ケズシテ死亡シタルトキハ其
ノ決定ハ順次次順位ニ於テ補償ノ給與
ヲ受クベキ者ニ對シ之ヲ爲シタルモノ
ト看做ス補償ノ給與ヲ受クベキ遺族其
ノ交付ヲ受ケズシテ其ノ家ヲ去リタル
トキ亦同ジ
第十三條補償ノ交付ヲ受ケントスル者
ハ其ノ決定ヲ爲シタル裁判所ニ請求書
ヲ差出スベシ請求書ニハ戶籍謄本ヲ添
附スベシ
補償給與ノ決定ノ送達アリタル後一年
內ニ補償交付ノ請求ヲ爲サザルトキハ
權利ヲ失フ
第十四條補償交付ノ請求權ハ之ヲ讓渡
スルコトヲ得ズ
第十五條補償給與ノ申立ニ關スル事件
繫屬中再審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三
百十七條ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリ
タルトキハ其ノ裁判確定ニ至ル迄決定
ノ手續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
ノ判決アリタルトキハ補償給與ノ申立
ハ其ノ效力ヲ失フ
第十六條補償給與ノ決定アリタル後再
審ノ請求又ハ刑事訴訟法第三百十七條
ノ規定ニ依ル公訴ノ提起アリタルトキ
ハ其ノ裁判確定ニ至ル迄補償交付ノ手
續ヲ停止スベシ
前項ノ場合ニ於テ被〓人ニ對シテ有罪
ノ判決アリタルトキハ補償給與ノ決定
ハ其ノ效力ヲ失フ
第十七條前條第二項ノ場合ニ於テ既ニ
補償ノ交付アリタルトキハ有罪ノ判決
ヲ爲シタル裁判所ハ檢事ノ請求ニ因リ
決定ヲ以テ補償ノ返還ヲ命ズベシ此ノ
決定ノ執行ニ付テハ刑事訴訟法第五百
五十三條乃至第五百五十五條ノ規定ヲ
準用ス
第十八條本法ノ決定及之ニ對スル卽時
抗告ニ付テハ別段ノ規定アル場合ヲ除
クノ外刑事訴訟法ヲ準用ス期間ニ付亦
同ジ
第十九條本法ハ軍法會議ニ於テ無罪ノ
言渡アリタル場合ニ之ヲ準用ス但シ補
償給與ノ申立ヲ棄却スル決定ニ對シテ
ハ卽時抗〓ヲ爲スコトヲ得ズ
軍法會議ニ於テ補償ノ返還ヲ命ズル決
定ノ執行ニ付テハ陸軍軍法會議法第五
百十八條乃至第五百二十條又ハ海軍軍
法會議法第五百二十條乃至第五百二十
二條ノ規定ヲ準用ス
軍法會議ニ於テ補償ニ關スル決定ヲ爲
ス場合ノ判士ノ區別ニ付テハ陸軍軍法
會議法第五十九條第一項又ハ海軍軍法
會議法第五十九條第一項ノ規定ヲ準用
ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔政府委員川崎克君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=40
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041・川崎克
○政府委員(川崎克君) 只今議題トナッテ
居リマスル、刑事補償法案提出ノ理由ヲ說
明致シマス、凡ソ裁判檢察ノ事務ニ從事致
シマスル職員ガ、事件ノ處理ヲ爲スニ當リ
マシテ、常ニ深甚ノ注意ヲ拂ヒマシテ、能
ク事實ノ眞相ヲ穿チ、處分ノ公正ヲ全ウス
ルニ、何等過誤ナキコトヲ期セナケレバナ
ラヌコトハ勿論デアリマス、而シテ當局ノ
職員ガ、此精神ヲ以テ事ニ當シテ來テ居リ
マスルコトハ、國民ガ能ク周知セラルヽ所
デアリマス、隨テ吾國ニ於ケル刑事訴訟手
續ノ實際ニ於テ、無罪又ハ免訴トナル所ノ
事案ハ極メテ少イノデアリマシテ、其成績
ノ頗ル良好ナルモノヽアルコトハ、御承知
ノ次第デアリマス、併ナガラ斯ノ如ク注意ヲ
拂ッテ居リマスニ拘ラズ、時々無事ノ良民ニ
シーハ犯罪ノ嫌疑ニ依リ、公訴ヲ提起セラ
レマシテ、未決勾留又ハ刑ノ執行ヲ受ケテ、
是ガ爲ニ甚シキ不名譽ヲ醸シ、又著シキ苦
痛ヲ嘗ムル者ガアルコトハ洵ニ遺憾トス
ル所デアリマスルガ、又實ニ已ムヲ得ザル
事實デアリマシテ、蓋シ是等ハ當該係官ニ
於キマシテ、豫メ十分ノ注意ヲ致シタコト
デアリマスルケレドモ適法ニ職權ヲ行使
致シタ場合ニ於テモ、尙ホ斯樣ナ避ケ難イ
事情ガ存スルノデアリマス、併ナガラ之ヲ
結果カラ見マシテ、當該被告人ノ方面カラ
觀察ヲ致シマスルト、洵ニ捨置キ難イ所ノ、
重大ナル禍害ニ遭遇シテ居ルノデアリマス
ルカラ、是等ノ事ニ對シマシテハ、國家ハ
何等カ適當ノ方法ヲ講ジナケレバナラヌノ
デアリマス、殊ニ此法律ニ依リマスル司法
處分ニ屬シマス事柄ニ付キマシテハ、他ノ
國家權力ノ行爲ノ場合ト異リマシテ、裁判
ノ手續ニ於テハ愼重ニ、鄭重ニ、審議ヲ致
シマシテ、更ニ再審デアルトカ、非常上〓
デアルトカ云フヤウナ途モ開イテ、絕對的ニ
事實ノ眞相ヲ發見スルコトヲ期シテ居ルノ
デアリマスルガ、其事柄ガ自己ノ過責ナク
シテ不測ノ禍害ヲ被ムル者ガアリマスルコ
トガ確定致シタ場合ニ於テモ、其苦痛ニ對
シマシテ何等慰藉ノ途ヲ設ケテナイト云フ
コトハ人道ヲ重ンジ、司法正義ヲ顯彰ス
ル所以ノ途デハナイノデアリマシテ、又國
民ノ司法ニ對スル所ノ信賴ヲ鞏固ニスル所
以デナイノデアリマスカラ、此缺陷ヲ補フ
ガ爲ニ此法案ヲ提出致シマシテ、現下ノ急
務ニ應ジ、時代ノ要求ニ順應セントスルノ
次第デアルノデアリマス何卒此新シキ法
案ニ對シマシテ、愼重御審議ヲ下サイマシ
テ、協贊ヲ與ヘラレンコトヲ切ニ希望スル
次第デアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=41
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042・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 本案ニ付テ質疑ガ
アリマス、之ヲ許シマス、牧野賤男君
〔牧野賤男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=42
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043・牧野賤男
○牧野賤男君 只今議題ト相成ッテ居リマ
スル刑事補償法案ニ付テ、約ソ六點程御伺
ヲ致シタイノデアリマス
其第一ハ本案ニ於テ「補償ヲ給與ス」ト云
フコトガアリマス、補償給與ハ損害賠償ノ
性質ヲ持ッテ居ルモノデアルカドウカ、或ハ
單純ナル救護ヲ意味スルモノデアルカドウ
カ、之ヲ御伺致シタイ、條文ニハ「補償ヲ給
與ス」ト云フコトガアリマス、而シテ提案ノ
理由ヲ見マスルト「無辜ノ良民ニシテ起訴
又ハ刑ノ執行ニ因リ不測ノ不名譽ト著シキ
苦痛トヲ被ムルモノ無キニ非ザルヲ以テ國
家ハ之ニ對シ相當ナル慰藉ノ途ヲ講ズル」
斯ウ云フコトニ相成ッテ居リマス、是ハ損害
賠償ト認メテ給與ヲ致スノカ、單純ナル救
護デアルト云フノカニ於テ、法律ノ規定ニ
大ナル相違ヲ來スモノト考ヘテ居リマス、
故ニ第一ニ此點ノ法理的根據ヲ伺ヒタイノ
デアル
第二ハ未決拘留又ハ刑ノ執行ヲ受ケタル
者ニ對シテ、無罪デアルコトガ分ッタ時ニハ
補償ヲ給與スルト云フコトハ、是ハ只今モ
讀上ゲマシタ通リニ、不測ノ不名譽ト著シ
キ苦痛トヲ被ムリタル者ニ對スル慰藉デア
ル、然ルニ一日金五圓以下ノ補償ヲスルト
云フ、人ヲ捕ヘテ來テ牢ニ入レテ、免訴デ
アル無罪デアル者ニ對シテ損害ヲ賠償ス
ル、或ハ慰藉ヲスルト言ッテ置キナガラ、-
日五圓以下デ何ガ出來ル、是ハ官僚式ノ司
法省ノ從來ノ役人ニ聽イテハ分リマセヌ
ガ、民間ニ育ッタ川崎政務次官ニ、一日五圓
以下デ十分ナル補償ガ出來ルト御認ニナリ
マスカドウカ、之ヲ御伺致シタイ
ソレカラ第三ニハ故意又ハ重大ナル過
失ノアル者ニ對シテハ補償ヲシナイト云フ
ニ定ニナッテ居リマス、是ハ一應御尤デアリ
マスルガ、是ガ爲ニハ往々ニシテ自由ヲ强
制シテ、所謂人權蹂躙ヲ致ス虞ガアルノデ
アル、今日ニ於テモ公判ヘ行ッテ無罪ノ判
決ヲ受ケルコトヲ恐レテ、可ナリ人權蹂躪
ノ事件ガ發生致スノデアル、況ヤ是等ニ對
シテ補償ヲ致スト云フコトニ相成リマスル
云フト、檢察事務ニ當ル者ガ、益〓拷問ニ等シ
イ强制自白ヲ强ヒルヤウナコトガナイトモ
限リマセヌ、卽チ本案ノ實施ニ依ッテ、左樣
ナル危險ガナイト云フコトヲ保證シ得ルカ
ドウカ、之ヲ伺ヒタイノデアル
第四ニハ補償額決定、卽チ裁判所ニ於テ
決定ト云フ形式ニ於テ補償ヲ致スノデアリ
マスルガ、何故ニ是ハ判決ト云フ形式ヲ執
ラナカッタノデアルカ、之ヲ御伺致シタイ
第五ニハ補償給與ノ決定ニ對シテハ抗〓
ヲ許サナイ、卽チ上訴ガ出來ナイト云フコ
トニナッテ居リマスルガ、補償ヲ許シテモ其
額ニ於テ不平ノアル者ニ向テ、救濟ノ途ヲ
與ヘナイノハドウ云フ理由デアルカ卽チ
損害賠償トスレバ之ニ對シテ影響ガアル、
單純ナル救護トスレバ又其考モアル、上訴
ヲ許サナイ、額ニ付テ不平ノアル者ニ付テ
救濟ヲシナイト云フ、其理由ヲ御伺致シタ
イ
第六ハ補償交付ノ請求權、卽チ補償請求
權ヲ讓渡スルコトガ出來ナイト云フ規定ニ
ナッテ居リマス、是ハ例へバ損害賠償ヲ認メ
ナイ趣意ノ御規定デアッテ、單純ナル救護ノ
規定デアッテモ、苟モ法律ニ於テ救護ヲスル
ト云フコトニナレバ一種ノ財產權デアル、
何ノ理由ヲ以テ讓渡ヲ禁ズルト云フコトニ
シタノデアルカ、是モ了解ニ苦ムノデアリ
マン、以上ノ六點ニ付テ御伺ヲ致シテ、其
御答辯ニ依ッテ更ニ御伺ヲ致シタイト考へ
マス
〔政府委員川崎克君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=43
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044・川崎克
○政府委員(川崎克君) 御答ヲ申上ゲマス
第一ノ御間ノ趣意ハ、此補償法ノ補償ノ性
質ガ賠償デアルカ、單ナル慰藉デアルカ
ト云フヤウナ御問デアッタト思ヒマス、是ハ
先程提案ノ理由ノ中ニ述ベマシタ如ク、黯
償ト云フ言葉ヲ殊ニ避ケマシテ、補償ト云
フ字ヲ使ヒマシタノハ慰藉ノ意味デアル
ト云フ所カラ出發シテ居ルノデアリマス
ソレカラ第二ノ御問ハ、一日五圓ハ安過
ギルデハナイカ、斯ウ云フコトデアリマ
ス、是ハ金錢ニ見積リマシテー-、五圓以下
ト云フコトハ安イ値段デアリマセウ、併ナ
ガラ是ハ先程申上ゲタ通リ、賠償ノ意味デ
ナクシテ、慰藉ノ意味デアルノデアリマスル
カラ、隨テ此金額ノ安イノハ當然デアル譯
ニナリマス(「一文モ出サヌヨリ宜イダラ
ウ」ト呼フ者アリ)又是ハ金ニ換ヘテ-拘
留ヲ受ケ、或ハ刑ノ執行ヲ受ケテ、拘留ヲ
受ケタル場合ニ於テ、其賠償ヲ受クルノニ
幾ラノ金額ニ見積ルノガ宜イカト云フコト
ガ甚ダ困難デアリマスルカラ、大體ノ標準
ヲ玆ニ置イタノデアリマス、左樣御承知ヲ
願ヒマス、
第三ハ故意又ハ重大ナル過失ニ因ル所ノ
者ニ付テハ補償ヲ與ヘナイコトニナッテ居
ルガ、斯樣ナ狹イ除外例ハ宜クナイデハナ
イカト云フ意味ノ御質問デアッタト思ヒマ
ス、一體是ハ此補償ヲ與ヘルニ當リマシ
テ、如何ナル程度ニ限ッテ與フベキカ、又之
ヲ如何ナル程度ニ除外例ヲ設クベキカト云
フコトニ付テハ十分ニ各國ノ立法例モ參
酌シテ定メタノデアリマス、隨テ故意又ハ
重大ナル過失ニ基ク自分ノ責任ニ屬スルコ
トニ因ッテ、拘留處分ヲ受ケルトカ、或ハ其
他審理ヲ受ケタ後ニ有罪ノ判決ヲ受クルニ
至ッタト云フヤウナ場合ハ、大體各國ノ立法
例デハ取除ケニナッテ居ルノデアリマシテ、
左樣ノ意味カラ此取除ケヲ致シタノデアリ
マス
ソレカラ第四ノ決定ト云フコトヲ何故判
決トキメナカッタカト云フコトデアリマス
ガ、是ハ法文ヲ御覽下サレバ能タ分リマス
ガ、無罪ノ場合ハ判決デアリマスガ、豫審
免訴ノ場合ハ判決デナイノデアリマス、故
ニ豫審免訴モ含ミ、無罪ノ判決ノ場合モ含
ミマスガ故ニ、左樣ニ文章ヲ書イタノデア
リマス
ソレカラ第五ノ判決ニ對シテハ卽時〓〓
ヲ許サナイト云フコトデアリマスガ、是一〓
其補償ニ金ヲ與ヘルト云フ場合ニ於テハ抗
告ヲ許サナイ、斯樣ニシタノデアリマス
其理由トシテハ先程モ申上ゲマシタ如ク、
大體給與スベキ範圍ハ五圓以内ニ限ラレテ
居ルノデアリマスカラ、ソレカラ日數ノ如
キモ拘留日數ニ割當テラレルノデアリマス
カラ、算定ノ基礎ガ明確デアリマスニ依ツ
テ、斯樣ナコトヲ決定ヲシテ補償ヲ與ヘル
ト云フコトノ定マッテ居ル者ニ、抗〓ヲ許
スト云フコトハ宜シクナイト云フコトニ致
シタノデアリマス、其代リニハ-補償ヲ
與ヘナイト云フ決定ニ對シテハ、御承知メ
如ク斯樣ニ致シタノデアリマス
ソレカラ之ニ對シテ讓渡ヲ何故許サヌカ
ト云フコトデアリマスガ是ハ大體ノ趣意
ハ慰藉ノ意味デアリマシテ、此特定ノ人エ
對スル寃罪ヲ晴ラス爲ノ方法デアリマスカ
ラ、讓渡ヲ許サヌ建前ニ致シタノデアリマ
ス、左樣御承知ヲ願ヒマス
〔牧野賤男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=44
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045・牧野賤男
○牧野賤男君 只今川崎政府委員ノ御答辯
ヲ伺ツタノデアリマスガ、本案ハ損害賠償デ
ナクシテ、單純ノ給與デアルト云フコトデ
アルノデアリマス、然ラバ何故ニ損害賠償
ヲ認メナイノデアルカ、提案ノ理由ニ依リ
マスト云フト、過誤ナキコトヲ期スト雖モ
時ニ無辜ノ良民ニシテ起訴又ハ刑ノ執行ニ
因リ不測ノ不名譽ト著シキ苦痛トヲ被ムル
モノ無キニ非ザル」云々此文句カラ申シマ
スト云フト、之ニ依ッテ損害ヲ推定致シテ、
之ニ賠償スルヤウニモ見エルノデアリマ
ス、然ルニ補償ヲ給與スルト云フコトハ單
純ノ慰藉デアッテ、救恤デアルト云フコトデ
アルナラバ、凡ソ國家ハ是等ノ良民ニ對シ
テ著シキ不名譽、不測ノ損害ヲ與ヘタル者
ニ對シテ、賠償ノ義務ガナイト云フ考デア
ルカ、之ヲ御伺致シマス
ソレカラ其次ニハ第三ノ質問ニ對シテ川
崎政府委員ハ質問ノ趣意ヲ大イニ誤解セ
ラレテ居リマス、故意又ハ重大ナ過失ニ因ッ
テ勾留又ハ刑ノ執行ヲ受ケタル者ハ補償ノ
理由ハナイト云フコトハ勿論デアリマス
唯此規定アルガ爲ニ故意又ハ重大ナル過失
ニ因シテ刑ノ執行ヲ受ケ、勾留ヲ受ケタト云
フ形式ヲ拵ヘルガ爲ニ、檢察事務ニ當ル人
ガ强制自白ヲ致スト云フヤウナ人權蹂躪ノ
事件ヲ釀ス虞ガナイカト云フコトヲ御尋致
シタノデアリマス、是ハ今日ノ制度ニ於テ
モ、隨分アルノデアル、或ハ豫審ニ-公
判ニ行フテ無罪ノ判決ヲ受ケル虞ガアルト
云フコトデ、頗ル檢事ガ不當ナル人權蹂躙
ヲ致スト云フ例ガ澤山アル、此賠償法ヲ認
メルト云フコトニ依ッテ、自己等ノ責任ガ發
生スルト云フコトヲ恐レ、益、强制自白ヲ
スルト云フ虞ガアルノデアリマスカラ、此
人權蹂躪ガ出來ナイト云フコトヲ、見越ス
コトガ出來ルカドウカト云フ御尋デアル
ソレカラ其次ノ御尋ノ決定ヲナゼ判決ニ
改メヌカト云フコトニ對シテノ答辯ハ是
ハ大變ナアナタノ誤解デアル卽チ裁判所
ノ決定ニ依ッテ補償額ヲ決メルト云フ制度
ヲ改メテ原被兩方ノ言フコトヲ聽イテ
判決ト云フ形式デ補償ヲ與ヘタラドウカ、
斯ウ云フノデアル、判決ニ對シテ補償ダノ、
決定ニ對シテ補償ダノト云フコトヲ聞クノ
デハアリマセヌ、此法律ニハ補償額ヲ決定ス
ルノニ決定ト云フ方法デアルカラ、之ヲヤメ
テ、裁判ノ判決ト云フ形式ニナゼ依ラヌノ
デアルカ、卽チ判決ナラバ攻擊防禦ノ方法
ガ出來ル、決定ナラバ單純ナ一方的判斷デ
アル之ニ對シテ是ダケノ救護ヲスルナラ
バ、ナゼ判決ト云フ形式ヲ採ラナイノデア
ルカト云フコトヲ聞クノデアル、之ニ對シ
テドウゾ明快ナル御答辯ヲ御伺致シタイ
〔政府委員泉二新熊君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=45
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046・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 只今ノ御質問ニ
對シマシテ私カラ簡單ニ御答致シマス
第一ノ損害賠償デアルカドウカト云フコ
トデゴザイマスガ、是ハ財產上ノ損害ヲ賠
償スルノデハナイノデアリマス、併ナガラ
非常ナ不名譽ヲ被シタト云フコト、ソレカラ
身體、自由、財產ニ對シマシテ、著シイ苦
痛ヲ被ッタト云フコト、ソレ等ノ精神上ノ苦
痛ヲ慰藉スルト云フコトガ、或ル意味ニ於
テハヤハリ損害賠償ノ方法ニナリマス、併
ナガラ唯申上ゲテ置キマスルコトハ、財產
上ノ損害ヲ賠償スルト云フ趣意デハナイ、
斯ウ云フコトヲ申上ゲルノデアリマス
〔發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=46
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047・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=47
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048・泉二新熊
○政府委員(泉二新熊君) 續ソレカラ此
制度ヲ設ケルト、强制自白ヲサセルヤウナ
コトガ多クナッテ、人權蹂躪ヲ益〓助長スルコ
トニナリハシナイカ、其心配ハナイカト云
フ御質問ノ趣意ト思ヒマスルガ、强制自白
ヲサセタト云フコトガ分リマスレバ、其場
合ニハ本人ニ故意過失ノ行爲ガアッタト見
ナイノデアリマス、隨テ補償ヲ除外スル理
由ニハナラナイノデアリマス、サウ云フ點
カラ申シマシテ、特ニ强制自白ヲ當該職員
ガ强ヒルト云フヤウナ結果ニハナラナイト
思フノデアリマス
ソレカラ次ニ補償ヲスルノニ、判決ニ依
ラナイデ決定ヲ以テスルノ理由如何ト云フ
御質問デアルト思ヒマスルガ、是ハ法案ニ
書イテアリマスルヤウニ、此前ニ卽チ刑事
ノ裁判ガ先タッテ居ルノデアリマシテ、其裁
判ニ依リマシテ大體事情ガ分ッテ居ルノデ
アリマスルカラ、特ニ判決ノ形式ニ依ッテ常
ニ公判ヲ開クト云フ必要ヲ認メナイ、併ナ
ガラ御承知ノ通リニ決定デアリマシテモ、
必要アリト認メマスル場合ニハ公判ヲ開
イテ審理ヲスルト云フコトモ出來ルノデア
リマスルカラ、此決定ノ方法デ宜カラウト
云フ趣意デ、判決ト云フ煩ハシイ形式ヲ採
ラナカッタノデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=48
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049・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 松谷與二郞君
〔松谷與二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=49
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050・松谷與二郎
○松谷與二郞君 本案ノ提出理由ヲ見マス
ルニ、裁判所ニ於テ裁判セラレタル結果、
無罪又ハ免訴ニ對シテノミ、此所謂刑事補
償法ガ適用セラレルト云フ御意見デアリマ
スカ、刑事裁判以外ノ場合、所謂拘留處分
ニ處セラレタル場合、檢束處分ニ處セラレ
タル場合ニ、何故ニ本案ヲ適用セラレナイ
ノデアルカト云フコトヲ、內務大臣及ビ司
法大臣ニ一應御尋ヲ致シマス(「內務大臣ハ
居リマスカ」「內務ノ政府委員ハ居リマス
カ」ト呼フ者アリ)ソレデ御承知デモゴザイ
マセウガ私共ノ甚ダ驚キマスモノハ私
共ニ御配付ヲ願シタ內閣統計局編纂ノ帝國
統計年鑑ニ依リマスト司法警察官ノ取扱
犯罪檢擧數ト云フモノガ載ッテ居ルノデア
リマス、ソレハ二百五十四表、二百九十二
頁ニ明カニセラレテ居ルノデアリマスガ、
日本全國ノ所謂司法警察官ガ犯罪ヲ檢擧シ
タル數ガ明確ニシテアリマシテ、其數ニ依
ルト百五十二万五百三十九人-犯罪人
ナリトシテ警察ニ引張ラレル所ノ人間ガ
驚ク勿レ百五十二万五百三十九人、之ヲ帝
國ノ人口ニ比較スルナラバ、假ニ人口ヲ九
千万人ト見ル
〔「本論ニ入レ」ト呼ヒ其他發言スル者
多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=50
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051・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=51
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052・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) 九千万人ノ中、假
(「延ベヂヤ仕樣ガナイ」ト呼フ者アリ)延ベ
ヂヤアリマセヌ
〔「延ベ人數グ」「民政黨默ッテ聽ケ」ト呼
ヒ其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=52
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053・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=53
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054・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) 延べヂヤアリマセ
又、表ヲ御覽ナサイ、內地人口ヲ九千万人
ト見マシテモ、犯罪ノ檢擧セラレルノハ女
ハ極メテ少ナイ、殆ド男ガ大部分デアリマ
スカラ、人口ノ半分ヲ女ト見ルト、四千五
百万人、其中犯罪能力ノナイ子供トカ、或
ハ乳呑兒、或ハ老人ヲ差引クナラバ、更ニ
ドレダケカト云フナラバ、之ヲ約半數ト見
テ二千四百万人、犯罪能力ヲ有スル可能性
ノアル、實際ニ於テ犯罪ヲ犯シ得ル人間ガ
二千四百万人トスルナラバ、其中百五十万
人犯罪者ガ居ルトスルナラバ十五人ニ一
人ヅヽ每年引張ラレルコトニナル、諸君十
五人ニ一人ヅヽ-十五人ニ一人ヅヽ犯罪
人トシテ引張ラレテドウナルノデアリマセ
ウ、私ハ此點ニ於テ內務大臣ニ、餘リニ檢
擧ノ數ガ多過ギハシナイカト云フコトヲ御
尋スルト同時ニ、諸君現ニ只今モ川崎政務
次官ノ御答辯ニ依ルト、檢擧シタコトニ依ッ
テ他人ノ名譽身體自由ヲ毀損シタカラ之ヲ
補償スル果シテ然ラバ-果シテ然ラバ
所謂司法警察官ノ犯罪者トシテ檢擧セラレ
タル所ノ者ニ對シテ、何故ニ補償シナイノ
デアルカ、而モ驚クベキコトガ更ニアル
此檢擧セラレタル所ノ數、ソレニ對シテ起
訴セラレタノハドレダケカト云フト、實
驚クベシ、其起訴セラレタル數ト云フモノ
ハ八万九千四百九十四人、百五十二万人モ
檢擧シテ置イテ··
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=54
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055・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=55
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056・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) サウシテ實際ニ於テ
裁判所ニ於テ起訴セラレタ人間ハ、タッタ八
万九千四百九十四人、アトノ差引百四十三
万一千三十五人ト云フモノハ、全部不起訴
ニナッテ居ル、諸君、私ハ世界ノ統計ハ持チ
マセヌガ、百五十二万人モ、檢擧シテ、アト
ノ百四十三万人ハ無罪トシテ、當然不起訴ニ
ナッテ居ルデハゴザイマセヌカ、約二十人引
張ヲテ來テ、二十人ニ一人シカ犯罪者ガ居ナ
イ、アトノ十九人ハ皆不起訴ニナッテシマ
フ、敢テ御伺致シマスガ、犯罪人、泥棒デ
アルトシテ引張ラレル數ハ國民全部カラ
百五十二万人、而モ實際ニ於テ起訴セラレ
ル者ガ僅カ八万九千四百九十四人シカナイ
ナラバアトノ人間ハドウナルカ、之ニ對
シテ何故ニ補償シナイカ、判決ニ依ッテ處罰
ヲセラレタ者ニ對シテノミ補償ヲシテ、此
百四十三万人ト云フ、同ジク不名譽ヲ與ヘ
ラレ、同ジク身體ノ自由ヲ拘束セラレタル
者ニ對シテ、何故ニ補償シナイノデアラウ
カト云フコトヲ先ヅ一ツ御尋シタイ
ソレカラ何故ニ此恐シイ所ノ數ヲ檢擧シ
テ、犯罪者トスル者ガ少イノデアラウカ、
之ニ對シテ私ハ一例ヲ擧ゲテ內務大臣ニ御
尋シタイノデアリマス··
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=56
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057・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 私語ヲシナイヤウ
ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=57
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058・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) ソレハ一ツノ極メテ
卑近ナ例ヲ擧ゲレバ、直チニ諸君等ハ御分
リニナラウト斯ウ考ヘル、ソレハ本年ノ
月五日ニ、淀橋ニ於テ新聞販賣者ノ爭議ガアソ
ク、所ガ其時ノ犯罪者ハドウ云フ者デアル
カト云フト爭議ノ時ニ二人ノ犯人ガ毆リ
込ンデ、相手方ニ傷ヲ負ハシタ所ガ其時
ニ檢擧シタ人間ハドウデアルカト云フト
爭議者全部ヲ檢擧シタノデアリマス、タッタ
二人ノ人間ノ爲ニ十九人ノ人間ヲ檢擧シテ
宜シイト言ハレルノデアリマセウカ、犯罪
ハ少クトモ犯罪ノ嫌疑アル場合ニ於テ、
初メテ檢擧出來ルノデハナイカ、然ルニ拘
ラズ何等嫌疑ノナイ者ヲ十九人モ一網打盡
ニ檢擧シテ、サウシテ一月五日カラ十七日
マデ之ヲ檢束シテ置イタノデアリマス、諸
君、一月五日カラ十七日マデ之ヲ檢擧シテ、
甚シキニ至ッテハ、其十九人ヲ代ル〓〓拷問
ニ掛ケタノデアリマス、其實例ヲ一ツ申上
ゲルナラバ-私ハ名前モ此處ニ分ヲテ居
リマスカラ讀上ゲマスガ、小柳勉、高原淺
一天滿芳太郞ナルモノニ對シテ、最モ重
大ナル所ノ拷問ヲ掛ケタノデアリマス··
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=58
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059・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=59
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060・松谷與二郎
○松谷興二郞君(續) 是ハ內務次官ニ於テ
十分御取調ニナッテ居ルカト云フコトヲ私
ハ申上ゲテ置ク、其時ニドウ云フ拷問ニ掛
ケタト云フト、彼等ヲ擊劍道場ニ引張リ込
ンデ、ビシ〓〓毆リ、頭ノ毛ヲ持ッテ引摺
リ廻シ、甚シキニ至ッテハロカラ血スラ出
シテ居ルデハゴザイマセヌカ、アナタ方ハ
此恐シイ情景ヲ見ル時、果シテ忿懣シナイ
者ハ一人デモアラウカト云フコトヲ、私ハ
先ヅ申上ゲテ置キタイ、而モ甚シキニ至ッ
テハ其中全然關係ノナイ所ノ深田吟治郞
ガ、關係ガアルダラウト云ッテ、態、千住ノ
自宅ニ來テ、朝六時ニ寝込ニ踏込ンデ、表
カラ二人、裏カラ二人ノ刑事ガ上ッテ來テ、
戶ヲ蹴破"テ、裏表カラハイリ込ンデ、寢テ
居ル深田吟治郞ノ枕ヲ蹴飛バシテ拉致シテ
行ッタノデアリマス、而モ其人間ハドウナッ
タカト云フト、一人モ犯罪者トシテ起訴セ
ラレナイノデアリマス、一人モ起訴セラレ
ナイノニ拘ラズ、十九人ト云フモノヲ一月
五日カラ十二日間ト云フモノヲ勾留處分ニ
サレテ、殘虐ナル取扱ヲシタ、タッタ二人ノ
犯罪者ノ爲ニ十九人モ抑留シ、之ヲ拷問ニ
掛ケタ、私ハサウ云フモノニ對シテ、果シ
テ賠償スル責任ガナイダラウカ、二人ノ犯
人デアッタナラバ二人ノ犯人ダケ引張ッテ
來レバ宜イノニ、十九人モ何等嫌疑ナキ者
ヲ引張ヲテ來テ、之ヲ投リ込ンデ拷間ニ掛ケ
ルナント云フヤウナ馬鹿ナコトハナイ、是ハ何
故デアルカト云ヘバ取リモ直サズ所謂勞
働運動、勞働爭議ニ對スル大ナル彈壓ニアラ
ズシテ何ソヤト云フコトヲ、私ハ申上ゲテ置
キタイ、斯ノ如キ彈壓ヲ加ヘ-斯ノ如キ彈
壓ヲ下スコト自身ガ、此恐ルベキ數字ヲ示
シタノデハナカラウカト云フコトヲ、私ハ
特ニ申上ゲテ置ク、斯ノ如ク百五十二萬人
ト云フ人間ヲ檢擧スル、恐クハ是ハ內務大
臣ト雖モ、政務次官ト雖モ、此數ニ付テハ
十分ナル御理解ガナカッタラウト私ハ思フ、
統計年鑑ニ依ッテ吾々ガ初メテ發見シタ數
字デアリマス、恐クハ國民自體ト雖モ、是
程恐シイ所ノ犯罪ノ檢擧ト云フモノハ承
知シナイデアラウト考ヘテ居ル、此點ニ付
テ內務大臣ハ斯ノ如キ場合ニ於テ、之ヲ
如何ニシテ慰藉シ、之ニ對シテ補償法ヲ適
用スル意思ガアルカ、ナイカト云フコトヲ、
特ニ御尋スル次第デアリマス、私共ハ勞働
運動、社會運動ニ對シテハ、絕對ニ彈壓ヲ
シナイ、明ルイ政治ニ行フト云フコトハ
濱口總理大臣ノ施政方針ノ演說、內務大臣
ノ再三聲明セラレタ所ト承知シテ居ル、其
通リデアルトスルナラバ、何故ニ勞働運動
ニ對シテ、タッタ二人ノ犯罪者ニ對シテ十
九人モ檢擧シ、之ヲ十七日間モ放リ込ンデ
有ユル殘虐ナル口カラ血ヲ出サナケレバ
ナラナイマデニモ之ヲ責メ苛ムノデアルカ
ト云フコトヲ私ハ申上ゲテ置ク、私共ハ斯
ウ云フ事案ニ付テ一囘ヤ二囘デナイ、內務
大臣及ビ政務次官ニ對シテ抗議ヲ申込ンダ、
其度每ニ內務大臣及ビ政務次官ハ斯ノ如キ
虐待ノ事實ナシト何時デモ辯解ヲセラレテ
居ル、私ハ的確動カスコトノ出來ナイ實例
ヲ玆ニ一ツ申上ゲテ置ク、ソレハ御承知ノ
如ク尾久ノ鋼板爭議ニ於キマシテ多數ノ殆
ド爭議團全部ガ檢擧セラレタ此所謂鋼板
爭議ト云フモノハドウ云フ理由デ起ヲタカ
ト云フナラバ是ハ皆サンニモ十分ニ聽イ
テ戴キタイ、鋼板ト云フノハドウ云フ會社
デアルカト云フナラバ、鐵ノ扉ナドヲ造ル
會社デアル、ソレヲ曲ゲルノニハ瓦斯ヲ使
ハナケレバナラヌ、所ガ其瓦斯「タンク」ガ破
裂シタ、其瓦斯「タンク」ヲ直シニ上ツタ人間
ガ、「タンク」ノ不完全カラシテ瓦斯ガ爆發シ
テ、ソレガ爲ニ五十尺モ高ク吹上ゲラレテ
終ニ死ンダ、此悲慘ナル犠牲者ニ對シテ慰
藉料ヲヤッテ吳レ、此慰藉料ヲ職エガ要求
シタノデアリマス、所ガ之ニ對シマシテ會
社ハ何ト言フカト云フト、一文モ出セマセ
又、最後ニハ僅ニ三百圓シカ出セナイト言
フ、ソコデ其歎願ニ多數ノ職エガ行クトド
ウデゴザイマセウ、此歎願ニ行ッタ職工ヲ全
部馘ッタ、斯ノ如ク所謂會社ノ犠牲トナッタ
人間ノ爲ニ會社ニ歎願ヲスルト、其歎願シ
タ人間ヲスラモ馘ル、是ニ於テ爭議ガ勃發
シタ、サウスルト會社デハドウ云フ手段ヲ
執ッタカト云フト、暴力團ヲ傭ヒ、警官ハ會
社ノ狗トナッテ之ニ對抗シ、甚シキニ至ッテ
ハドウデゴザイマセウ、爭議國全部ヲ檢擧
シタノデアリマス、其檢擧シタ時ノ〓勢ヲ
簡單ニ申上ゲルナラバ、當時ドウ云フコト
ニナッタカ··
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=60
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061・小山松壽
○副議長(小山松壽君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=61
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062・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) ソレハドウ云フ風ナ
ヤリ方ヲシタカト云フト、爭議團員ニ同情
ヲシテ他ノ職工團ガ之ニ寄附ヲシテ、米或
ハ西瓜、味噌、醤油、薪ノヤウナ物ヲ積ン
デ三河島ノ管內カラシテ持ッテ行クト云フ
トドウデゴザイマセウ、三河島ヲ通ル時
ニハ何等ノ彈壓モナカッタガ、愈〓尾久ノ範
圍ヘ入ルト其薪炭ヲ皆道路ヘオツポリ出シ
テ、警官ハ斷ジテ其見舞品ヲ入レサセナカツ
タノデアリマス、諸君、爭議團ニ同情シテ
米ナリ炭ナリ西瓜ナドヲ持ッテ行ッタ物ヲ、
途中デ放リ投ゲテシマッタ、サウシテ爭議團
ヲドン〓〓檢擧シタ、ソレデモ之ニ對抗シ
テ爭議團員ハ持ッテ行ッタ、サウシテ望月源
次君ガ車ノ上ニ上ッテ見舞ノ言葉ト激勵ノ
言葉ヲ述ベルト、ドウデゴザイマセウ、望
月源次君ヲ引摺リ落シテ、打ツ叩クノ警官ノ
暴狀デアリマス、所ガ餘リニ殘虐ナル行動、
警官ガ二百名モ來テサウシテ內外ヲ圍ム
ソレデ爭議國ハ此慘狀ニ驚イテ、ソレデハ
電氣ヲ消シテ寢タ方ガ宜イ、サウスレバ警
官モ散逸スルデアラウト云フノデ、電氣ノ
「スイッチ」ヲ切ッテ寢ルト、ドウデゴサイマ
セウ、裏ノ格子戶ヲ破ッテ二百名ノ警官ガ
爭議團ノ家へ土足ノ儘デ入リ込ンデ、其處
ニ居ル百何十人ヲ檢擧シタノデアリマス
〔副議長退席、議長復席〕
ソレデ尾久警察ダケデ之ヲ收容スルコトガ
出來ナカッタガ爲ニ、遂ニ日暮里、三河島ノ
警察ニ分ケテ收容シタノデアリマス、ソレ
デ日暮里ノ警察へ行ッタ所ノ人間ハドウナツ
タカト云フト、其中デ大山三郞、須賀順ト
云フ二人ノ人間ハ是亦擊劒道場へ放リ込
マレテサウシテ打ツ叩クノ非常ナ殘虐ナ
目ニ遭ッタノデアリマス甚シキニ至。ラテハ
大山君ノ如キハ一月半ノ重傷ヲ負フテ、十
五日ノ拘留ニ處セラレタガ尙ホ全治セズ
シテ殆ド瀬死ノ狀態トナッタノデアリマス、ソ
コデドウスルカト云フト、爭議國デハ此慘
狀ニ憤慨シテ、遂ニ大山君ト須賀ト云フ人間
ヲ戶板ヘ載セテ檢事局ヘ送リ込ンダノデア
リマス、是ハ恐ラク新聞紙上デ川崎政務次
官モ泉二政府委員モ御承知デアラウト考ヘ
ル所ガ日暮里ノ警察ニ此事ヲ抗議ニ行ク
ト、日暮里警察デハ決シテ斯ノ如キ暴力ヲ
加ヘタ譯デモナケレバ拷問ニ掛ケタ譯デ
モ斷ジテナイ、日暮里デハ斷ジテ其事實ナ
シト署長ハ否認シタノデアリマス、所ガド
ウデアリマセウ、檢事局ニ於テ事實ヲ取調
ベルト、到頭刑事ガ二人引張ラレ、サウシ
テ嚴重ナ取調ノ結果其事實ヲ是認シテ、洵
ニ申譯ガナイト言ッテ恐入ッタノデアリマ
ス、サウスルトドウデゴザイマセウ、日暮
里ノ署長ハ原ト云フ高等主任ニ夜陰密ニ私
ノ自宅ヲ訪問セシメテ、一人ノ刑事ノ如キ
ハ來月恩給ガ付クノデアル、又一人ノ刑事
ノ如キハ子供三人親子五人デアル、斯ノ如
キ悲慘ナル狀態デアッテ、若シ是ガ檢擧セラ
レテ犯罪トナルナラバ刑事ヲ罷メサセラ
レルノミナラズ、恩給モ棒ニ振ラナケレバ
ナラヌ、可哀相ナハ子供デアルカラ、ドウ
カ此際助ケテ貰ヒタイ、斯ウ云フ實情ヲ申
述ベタノデ、私ハ大山君ヲ呼ンデ、刑事ノ
暴行ニ對シテハ吾々ハ一點容赦スベキ點ガ
ナイ、併ナガラ子供ニ對シテ可哀相ダト思
フガドウシタラ宜カラウカト言ッテ相談シ
タ所ガ、大山君ノ曰ク、私ハ暴力ヲ加ヘラ
レテ片耳ハモウ聽エナイ、又片手、片足ノ
如キハ此通リ不自由デアリマス、併ナガ
ラ罪ヲ憎ンデ人ヲ憎マズ、假ニ其人ハ憎イ
ト致シマシテモ、其子供ニ罪ハ無イノデア
ル、宜シウゴザイマス、私ハ〓訴ヲ取下ゲ
マセウト言ハレタ時ニ、私ト雖モ淚ナキヲ
得ナカッタノデアリマス、爭議團員、勞働者
諸君ト雖モ決シテ血モ淚モ無イ譯デハナ
イ、是程溫カイ人情ヲ持クテ居ルヂヤナイ
カ、此人間ニ對シテ此暴狀ハ何事デアラウ、
私ハ此事實ヲ愬ヘ、內務大臣ニ抗議ヲ申込
ムト、斷ジテ左樣ナ事實ナシト言ッテ何時デ
モ否認スルガ、此明白ナル事實ハドウデア
ラウカト云フコトヲ私ハ諸君ニ訴ヘタイ、
又、
〔「議長漫談ヲ取締リナサイ」ト呼ヒ發
言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=62
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063・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=63
-
064・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) ソレカラ又モウ一ツ
私ハ申上ゲテ置ク、ソレハ御承知ノ龜戶ニ
於ケル洋「モス」ノ爭議事件デアリマス洋
「モス」ノ爭議事件ニ於キマシテ、是ハ十月
ノ十日デアリマスガ、御承知ノ通リ會社ノ
ヤリ方ガ惡イト云フノデ···
〔「議長々々」ト呼ヒ其他發言スル者多
シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=64
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065・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=65
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066・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) 一万人カラノ市民
ガ、擧ッテ警察ニ反抗シタデハゴザイマセヌ
カ是デ見テモ如何ニ此爭議ガ勞働者ニ同
情スベキ事實ガアッタカト云フコトハ極メ
テ明白ヂヤゴザイマセヌカ、然ルニ拘ラズ
十月十日ノ此所謂暴行ノアッタ事實ヲ捉ヘ
テ、其翌日ノ十月十一日ニ至リマシテ洋
「モス」ノ第四工場ノ寄宿舍ニアラウコトカ
アルマイコトカ、警官ガ二三十名ドカ〓〓
ト上ッテ來テ、サウシテ寢テ居ル女工ノ枕ヲ
蹴放シテ、サウシテ皆起シテ、前日ノ鬪爭
ニ用ヒタ兇器ガアルカナイカヲ檢分シタノ
デアリマス、其時ニ女工ト雖モ隨分所謂キ
カヌノモアリマシテ、女工ノ中ノ或ル人間
ノ如キハ
〔「議長漫談ハ取締リナサイ」「質問ヂヤ
ナイ」ト呼ヒ發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=66
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067・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=67
-
068・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) 此女工ノ如キハ反抗
シタト云フノデ二十名カラノ女工ヲ別室
ニ監禁シタンデアリマス、其二十名位ノ女
工ヲ別室ニ監禁致シマシテ、サウシテドウ
デゴザイマセウ、共監禁シタル女工ニ五六
人ノ制服巡査ガ附イテ居リマシテ、サウシ
テ十四五カラ二十歲位ノ女ノ兒ニ對シテ
オ前ハ男ハ何人アルノデアラウ、或ハ又オ
前ハ男ト何囘接シタカトカ言ッテ乳房マデ
イヂクルト云フヤウナ、殘虐行爲ヲ敢テシ
タノデアリマス、乳房ハ婦人ノ生命デアリ
マス(笑聲)ソレヲ而モ監視シテ居ル警官ガ
乳房ヲイヂルガ如キ行爲ハ、何タル殘虐ナ
行爲デアリマセウ、私ハ斯ウ云フ行爲ヲ鬼
畜ノ行爲、鬼カ蛇ノ行爲ト私ハ言ヒタイノ
デアリマス、遂ニハ或ル場所ニ指スラ突ヲ込
ンダノデアリマス(笑聲)是ハ私ハ此神聖ナ
ル議場ニ於テ何處へ指ヲ突〓込ンダト云フ
コトハ中上ゲマセヌ耳デアッタカ鼻デアッ
タカ私ハ申上ゲマセヌガ、ソレハアナタ方
ノ御判斷ニ委シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=68
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069・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) ··君注意シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=69
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070・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) 斯ノ如キ殘虐ナル所
ノ行爲ヲ敢テスル、而モ之ヲ內務大臣ニ抗
議シタ所ガ、能ク取調ベテ置クト言ウタノ
デアリマスガ、何等此點ノ取調ガナカッタノ
デアリマス、斯ノ如キ行爲ニ基イテ、ドウ
デゴザイマセウ、龜戶事件ノ如キハ百數十
名ト云フ多數ヲ檢擧シタノデアリマス··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=70
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071・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 松谷君-質問ノ
範圍ヲ餘リニ脫シナイヤウニ注意致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=71
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072・松谷與二郎
○松谷與二郞君(續) 斯ノ如ク何故ニ百數
十名ノ人間ヲ檢擧シテ-斯ノ如ク百數十
名ノ人間ヲ檢擧シテ居フテ、起訴セラレタノ
ハ唯十一名、九十何名ト云フモノハ全部不
起訴ニナッタソデハゴザイマセヌカ、斯ノ如
ク必要以外ノ者ヲ檢擧スルカラシテ、結局
一年ノ中ニ日本國民ガ百五十二万五百三十
九人ト云フ檢擧數ニナルノデハナカラウカ
(「ソレハ延べ人員ダ」ト呼フ者アリ)之ヲ何
ト考ヘルカ、百五十二万人モ檢擧シテ置イ
テ、サウシテ之ニ對シテ如何ナル方針デ、
今後斯ノ如キ尨大ナル所ノ檢擧ヲスルニ對
シテ如何ナル處置ヲ執ラレルノデアラウカ、
之ニ對シテ所謂刑事補償法ヲ適用スル意思
ガアルカナイカト云フコトヲ御尋ヲスル
尙ホ申上ゲテ置キマス、玆ニ表ガアリマス、
警察衞生ニ關スル表トシテ此處ニアリマ
スカラ、延べ人員ニ非ザルコトヲ十分ニ御
承知ヲ願ッテ置キマス、斯ノ如ク殘虐ナル行
動ヲ執ルニ對シテ、內務大臣ハ今後斯ウ云
フ犯罪檢擧ニ對シテ十分ナル取締、若クハ
戒飭ヲ與ヘル意思ガアルカナイカ、及ビ斯
ノ如キコトニ對シテ刑事補償法ナルモノヲ
適用スル考ガナイカ、聞ク所ニ依リマスレ
バ此刑事補償法ニ對シテ、內務省カラ司法
省ニ對シテ拘留處分ニ付セラレタモノ、及
ビ此犯罪檢擧ニ對シテモ補償ヲシヨウカラ
ト云フノデ其提案シタ所ガ司法省デハ之
ヲ拒絕セラレタト云フコトガ新聞ニ揭載セ
ラレテ居ッタガ、サウ云フ事實ガアッタカナ
カッタカ、少クトモ私共ノ質問ノ要點ハ此
恐ルベキ數字ニ示ス所ノ人間ヲ救濟スルノ
意思ガアルノカナイノカ、及ビ名譽身體
自由ヲ毀損セラレタ者ニ付テハ、裁判ヲ受
ケタ者モ、或ハ又警察限リニ於テ、檢擧セ
ラレ不起訴ニナッタ場合モ同一トハ考ヘナ
イカ、之ニ對シテ內務省及ビ司法省ノ明快
ナル御答辯ヲ求メマス
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=72
-
073・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 御答ヲ致シマ
ス、刑事訴訟法ノ規定ニ依リマシテ檢事ガ
起訴スル起訴ノ結果豫審ニ於テ免訴ノ決
定ヲ受ケ、又無罪ノ判決ヲ受ケマシタ者ニ
對シマシテハ寔ニ同情スベキモノガアリ
マスカラ、是等ノ者ニ對シテハ國家ハ補償
ヲスルコトヲ本案ニ於テ定メントスルノデ
アリマス、其他ノ場合ニ於キマシテ警察官
ガ公安ノ維持ノ爲ニ、一時人ノ自由ヲ拘束
スルコトガゴザリマシテモ、是ハ已ムヲ得
ナイコトデゴザイマスカラシテ、斯ウ云フ
場合ニ於テハ國家ハ補償ヲシナイ積リデア
リマス、其他或ル所ノ勞働爭議ニ際シテ、
何カ警察官ガ職權ヲ濫用シテ非常ニ人權蹂
躪ヲシタト云フヤウナ御話ガ長クゴザイマ
シタガ、吾々ノ見ル所ニ依リマスト警察
官ガ人權ヲ蹂躪シテ無辜ノ國民ヲ虐待スル
ト云フガ如キ事ハ、今日ノ立憲法治國ニ於
テハ有リ得ベカラザル事デアルト思フ、平
生斯ノ如キ事ヲ爲スベカラズト云ウテ屢〓
警察官ニ向ッテハ訓戒ヲ加ヘテ居リマス、併
シ多數ノ警察官ノ中ニ於テ、一人タリトモ
左樣ナ者ガゴザイマシタナラバ、政府ニ於
キマシテハ之ニ對シテ十分ナル處置ヲス
ルコトニ付テ、決シテ躊躇スルモノデハア
リマセヌ、左樣ニ御承知ヲ願ヒマス(拍手)
〔政府委員川崎克君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=73
-
074・川崎克
○政府委員(川崎克君) 只今ノ御尋ニ對シ
マシテハ、齋藤內務次官カラ大體答辯セラ
レタ通リデアリマス、附加ヘテ申上ゲテ置
キマスガ、此刑事補償法ヲ制定スルニ當リ
マシテ、色ミト補償スベキ範圍ニ付テハ
相當〓究ヲ遂ゲタノデアリマス、何レ御手
許ニ書類トシテ差上ゲルコトヽ思ヒマスル
ガ、外國ノ立法例ヲ見マシテモ、再審ノ場
合ニ於テノミ補償スルト云フ國モゴザイマ
スルシ又大審院ノ無罪ノ判決ヲ爲シタル
場合、若クハ再審ノ場合、又拘置セラレ或
ハ拘留セラレタル年月ヲ限ッテ補償スルト
云フヤウナ、制限規定モ各國ニアリマシテ、
相當此補償法ヲ作ルニハ苦心ヲ致シマシ
テ、相當廣範圍ニナッテ居ル積リデアリマ
ス、只今御尋ノ御趣旨ノ行政處分ニ屬シマ
スル事柄ニ付キマシテハ遺憾ナガラ補償
ノ範圍ニハ屬シナイノデアリマス
〔松谷與二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=74
-
075・松谷與二郎
○松谷與二郞君 私ハ簡單ニモウ少シ御尋
シタイ、ソレハ只今行政處分ニ依ル所ノ者
ニ對シテハ補償シナイ、齋藤政務次官、川
崎政務次官ノ御答ヲ得マシタガ、私共ハ行
政處分ノ場合ヲ言ウテ居ルノデハアリマセ
又、行政處分ノ警察犯處罰令ニ屬スル所ノ
拘留處分ニ處セラレタル者ハ、此外ニ六十
六万一千九百九十八人アルノデアリマス
斯ノ如キ者ニ對シテ只今質問ヲシテ居ルノ
デハアリマセヌ、此表ヲ御覽ニナレバ分リ
マスガ、警察衞生及災害ト規定シテ居ル中
二、而モ此表ハ司法警察官ノ取扱ヒタル犯
罪檢擧件數トアルノデアリマス所謂犯罪
ナリトシテ檢擧セラレテ、サウシテ起訴セ
ラレタ者ガドレダケアルカト云フナラバ
先程申シマス如ク百五十二万ニ對シテ僅ニ
八万九千、後ノ百四十三万ト云フ者ハ、皆犯
罪者トシテ檢擧セラレテ居ッテ、不起訴ニ
ナッタモノデアリマス、行政處分ノコトヲ私
ハ聞イテ居ルノデハアリマセヌ、行政處分ノ
事ハ、外ニ聞キタイコトガ澤山ゴザイマス
ガ、ソレハ外ノ機會ニ讓リマシテ、所謂司
法警察官ノ取扱ヒタル犯罪檢擧數、之ニ付
テ御尋ヲシテ居ルノデアリマス
ソレカラモウ一ツ齋藤政務次官ノ仰シヤッ
タノニハ、警官トシテハサウ云フコトハナ
イ、一人デモアッタナラバ、嚴重ニ處分ヲス
ルト言ハレマシタガ、今マデ吾々ハ事實ヲ
擧ゲ、證據ヲ擧ゲテ、再三再四內務省ニ訴
ヘテ抗議ヲ申込ンデ居ルニモ拘ラズ、內務
省ニ於テ一人デモ行政的處分ヲ爲サレタ
カ、其數ガアレバ明快ニ御答ヲ願ヒタイ、
現ニ只今申上ゲタ淀橋ノ事件ノ如キハ、是
ハ一月ノ五日カラ十七日マデ、十九人モ檢
擧シテ居ル、サウシテ犯罪者ハ吾々ノ黨關
係ノ者ヂヤナイ、全然違,タ所ノ系統ニ屬シ
テ居ルカラ、其系統マデモ申上ゲテ、而モ
是ハ私共ハ地方裁判所ノ大石檢事ニ訴ヘ
タ所ガドウデゴザイマセウ、大石檢事ノ
所ヘハ淀橋ノ警察カラハ十九人檢擧シテ
置キナガラ、タッタ八名シカ報〓ガ來テ居
ナカッタ、ソレデ私共ノ要求ニ基イテ、大石
檢事ハ吃驚シテ、直チニ淀橋警察へ行ッテ取
調ベテ、全部釋放スルヤウニ命ジタ、所ガソ
レヲモ釋放セズシテ、アト一週間モウッチ
ヤッテ置イタ、ソレデ私共ハ更ニ地方裁判所
ニ行ッテ、松坂次席檢事ニ會シテ此事實ヲ訴
ヘテ、更ニ大石檢事ガ行ッテ、サウシテ二囘
目ニ至ッテ初メテ釋放シタノデアリマス、斯
ノ如キ明瞭ナル事實、所謂人權蹂躪、何等
犯罪ニ關係ノナイ人間ヲ、爭議團員トシテ
十九名モ檢擧シテ拘留シテ置キナガラ、而
モ犯罪嫌疑トシテ-ソレハ硫酸ヲ掛ケタ
トカ掛ケナイト云フコトデ、十二日間モ檢
擧シテ、又深田吟治郞ニ對シテハ裏表カラ
暴力ニ訴ヘテ、サウシテ土足ノ儘デ上ッテ之
ヲ引摺リ出シテ、近所デハ强盗デハナカラ
ウカト云ッテ、非常ニ迷惑ヲシタ事實ガアツ
タノデアリマス、是ハ所謂名譽毀損ヲシタ
モノニアラズシテ何ゾヤ、此條項ニ立派ニ
當嵌ッテ居ルデハナイカ、何故之ヲ今回ノ補
償法ニ依ッテヤラレヌノデアルカ、若シ今マ
デ事實ガアルナラバ、私共ガ申上ゲタ事實
ニ依ッテ、一人デモ警官ノ橫暴ナル行爲ニ
依ッテ檢擧セラレタ者ガアルナラバ、其數ヲ
明快ニシテ戴キタイト云フコトヲ、特ニ申
上ゲテ置キマス
〔政府委員川崎克君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=75
-
076・川崎克
○政府委員(川崎克君) 簡單ニ御答致シマ
ス、先程モ申上ゲマシタ通リ、起訴ヲセラ
レマシテ、豫審デ免訴ニナリ、公判ニ於テ
無罪トナリ、再審、非常上告ニ於テ無罪ニ
ナッタ者ニ限ッテ居ルノデアリマスソレデ
只今御話ノ事ハ、違警罪卽決例其他ニ依ッテ
正式裁判ヲ仰イダ者ニ對シテ補償ハ與ヘナ
イ云々ト云フ事デアラウト思ヒマスガ、ソ
レハ件數ハ約ソ八百件程アルノデアリマス
ルガソレハ此範圍ニ屬シナイノデアリマ
ス、只今御問ノ趣旨ニ對シテハ此刑事補
償法ノ範圍ニ入ルカト云フコトデアリマス
ガ、刑事補償法ノ範圍ニハ屬シマセヌノデ
アリマス、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=76
-
077・松谷與二郎
○松谷與二郞君 簡單デアリマスカラ自席
カラー私ハ行政處分···(「登壇々々」「分
ラヌ」ト呼フ者アリ、聽取スル能ハス)···
聞イテ居ルノデハアリマセヌ······此行政處
分法······(「聽エヌ」「私語ダ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=77
-
078・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 松谷君-松谷
君-松谷君、登壇ヲ命ジマス
〔松谷與二郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=78
-
079・松谷與二郎
○松谷與二郞君 只今ノ御答辯ハ甚ダ不滿
足デアリマス、行政處分所謂警察犯處罰令
ニ付テ私ハ聞イテ居ルノデハアリマセヌ、
此表ノ中ニハ先ヅ申上ゲルナラバ、逃走
ノ與、騷擾ノ罪、失火及ビ放火ノ罪、ソレ
カラ僞造貨幣云々ダトカ、詐欺ダトカ、瀆
職罪ニ付テノ統計デアリマス、是ハ其統計
ニ基イテ百五十二万人モ檢擧シテ居ルノデ
アリマス、サウシテ起訴セラレタ所ノ者ハ
九万ニシカナラナイ、斯ウ云フ恐ロシイ所
ノ不起訴處分ニ處セラレタ者ニ對シテ、斯
ウ云フ法律ヲ作ル意思ガアルカナイカト云
フコトヲ御尋シテ居ルノデアリマス、此中
ニ若シヤラナイ意思デアルト云フナラバ
ナゼニ是ハ刑事ノ判決ヲ受ケ若クハ豫審免
訴ニナッタ時ニ限定セラレタカ、其理由ヲ御
尋シタイ
ソレカラシテ齋藤政務次官ニ御尋シマス
ガ、先程齋藤政務次官モヤハリ行政處分ニ
依ル場合トノミデ、御考違ヒノヤウデアリ
マスカラシテ、此處ニ表ヲ置キマスカラ
之ヲ御覽ノ上ニ御答辯ガ願ヒタイ、サウ云
フ趣旨デアリマス
ソレカラ人權蹂躪ニ對シテ處罰セラレタ
實例ガ有ルカ無イカト云フコトヲ御尋シテ
置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=79
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080・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 松谷君、書類ヲ御
持歸リヲ願ヒマス-齋藤政務次官
〔政府委員齋藤隆夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=80
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081・齋藤隆夫
○政府委員(齋藤隆夫君) 警察官ノ人權蹂
躪ニ對シテハ松谷君ノ言ハレル事實及證
據ト、政府ノ見ル事實證據トハ大變違フノ
デアリマス若シ松谷君ノ主張セラレルヤ
ウナ事實ト證據ガ明白デアリマシタナラ
バ、政府ハ相當ノ處分ヲ致シマス(松谷君
「取調ベラレタル事實ハアリマスカ」ト呼
フ)十分ニ調ベテ居リマス
ソシカラ松谷君ノ御質間ノ趣旨デ、明確
ヲ缺イテ居ッタ點ヲ只今發見致シマシタ、其
點ニ付テ政府ノ所見ヲ一應述ベテ置キマ
ス、松谷君ノ御質問ノ趣旨ハ、御承知ノ如
ク今日警察犯處罰令ト云フモノガアリマ
ス、卽チ或ル種類ノ犯罪ニ對シテ、警察官
ガ拘留又ハ科料ノ言渡ヲ爲シ、之ニ關シテ
被疑者ヲ强制留置ヲスルコトガアリマス、
其後ニ於テ此者ガ正式裁判ヲ仰ギマシテ、
正式裁判ノ結果無罪ニナル場合ガアリマ
ス、是ハ極メテ少數デアリマスケレドモ、
確カニ無罪ニナル場合ガ少シアルノデアリ
マス、松谷君ノ問ハレル點ハ此處ダラウト
思ヒマス(松谷君「違ヒマス」ト呼フ)刑事訴
訟法ノ手續ニ依ッテ起訴セラレテ、無罪ニ
ナッタ者ニ向ッテハ國家ガ補償スル、正式裁
判ノ結果無罪ニナッタ者ニ付テ補償シナイ
ノハ理窟ガ立タヌデハナイカト言フ、其
通リデアリマス、實質ニ於キマシテハ、刑
事訴訟法ノ手續ニ依レテ裁判所ノ判決ノ結
果無罪ニナッタ者モ、違警罪卽决令ヨリシテ
正式裁判ヲ仰イデ、其結果無罪ニナッタ者
モ、被〓人ガ迷惑ヲスルト云フ點ハ、實質
上ニ於テ全ク違ヒハナイノデアリマス、故
ニ一方ニ對シテハ國家ガ補償ヲ爲シ、他ノ
一方ニ對シテハ國家ガ補償ヲ爲サヌト云フ
コトハ、確ニ理論上ニ於テハ矛盾シテ居リ
ママ、故ニ此點ニ付キマシテハ政府ニ於
テモ考慮致シマシタ、併シ賠償法ハ御承知
ノ如ク多年ノ懸案デゴザイマシテ、今囘初
メテ政府ガ之ヲ成立セシメヤウトスルノデ
アルカラシテ、此違警罪卽决令ヨリ來ル所
ノ事件ニ付キマシテハ、他日十分ニ考慮ス
ル積リデアリマス、決シテ永久ニ國家ガ補
償シナイト云フ譯デハアリマセヌ、主義ニ
於テハ私モ極メテ同感デアリマスルガ、今日
此場合ニ於キマシテハ財政上等ノ理由ニ
依リマシテ、姑ク後ニ〓シマシテ、近キ將
來ニ於テ根本的解決ヲ告ゲタイト思ヒマ
ス、左樣御承知ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=81
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082・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 日程第五、右議案
ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致
シニ A
第五右議案ノ審査ヲ付託スヘキ委員
ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=82
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083・作田高太郎
○作田高太郞君 本案ハ議長指名十八名ノ
委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=83
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084・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 作田君ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=84
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085・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
マス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、作田君カラ
成規ニ依リ此際議事日程ヲ變更シテ、議員深
澤豐太郞君及ビ藤井達也君懲罰事犯ノ件ヲ
上程シ、委員長ノ報告ヲ求メ、其審議ヲ進
ムベシトノ動議ガ提出セラレマシタガ、濱
田國松君ヨリ此動議ニ關聯シタル議事進行
ノ發言ヲ求メラレテ居リマス、仍テ先ヅ濱田
君ノ議事進行ノ發言ヲ聽キマシテ、然ル後
作田君ノ動議ノ採決ヲ致シマス-濱田國
松君
〔濱田國松君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=85
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086・濱田國松
○濱田國松君 諸君、私ハ藤井君、深澤君
ノ此懲罰事犯ガ本議ニ付セラルヽ以前ニ於
キマシテ議事進行ノ範圍ニ於テ、議院法
衆議院規則ノ許ス範圍ニ於テ、此懲罰事犯
ノ審理ニ付テ少シク意見ヲ述ベテ見タイト
思フノデアリマス、ソレハ懲罰事犯ガ委員
長ヨリ報〓ヲセラレマシテ、其內容ノ可否
ニ付テ各位ガ御論究ニナル時デモ宜イヤウ
ナモノデハアリマスルガ私ハ啻ニ兩君ノ
懲罰事犯ノミニ限フテ意見ヲ述ブルノデハア
リマセヌ、自分ノ述ベント欲スルハ吾々
此衆議院議員ノ懲罰ニ付セラルヽト云フコ
トハ之ヲ院外デ申シマスナラバ、丁度普
通人ガ裁判所デ刑罰ヲ受クルモ同樣ナ形デ
アリマス、諸君モ御承知ノ如クニ懲罰ノ
制裁ハ輕クハ譴責、謝辭陳述、登院停止、
極度ハ吾々ガ折角當選ヲ致シ登院ヲ致シ
テ居ルニモ拘ラズ、議員ノ資格ヲ除名セラ
レー、衆議院ヨリ排除セラレナケレバナラ
ヌト云フ程度、之ヲ普通刑法ノ例ニ比較致
シマスルナラバ、所謂政治的死刑ノ判決マ
デ、多數ノ力デ衆議院デハヤラレルコトハ
御承知ノ通リ故ニ衆議院ニ於ケル此懲罰
委員會ト云フモノハ、國家ノ行政ガ司法ニ
比シテ權威ノ劣ッテ居ルガ如ク、言葉ヲ換ヘ
ルナラバ、國家ノ督制ノ多クノ政治ニ於テ、
司法裁判所ト云フモノガ有ユル政治ノ督
制ニ超越ヲ致シテ權威ヲ持テテルルガ如ク、
衆議院ニ於テ有ユル委員會ノ中ニ、最モ信
用アリ威力アルモノハ、此懲罰委員會デア
ラネバナラヌノデアリマス、然ルニ近年ノ
傾向ヲ見、特ニ此五十九議會、卽チ此議會
ニ相成リマシテカラ、私共懲罰委員會ノ經
過內容、事犯審議ノ狀態ヲ實見ヲ致シマ
シテ甚ダ憂慮ニ堪ヘザルモノガアルノデ
アリマス、其一例ヲ擧グレバ此度懲罰委
員ノ手ニ依ッテ表決サレマシテ、私ノ演說ノ
後ニハ議長ノ宣告ニ依レバ、戶澤委員長ヨ
リ定メテ御報告ニナリマシテ、深澤君ト藤
井君ノ懲罰事犯ヲ諸君ガ御討議ニナルノデ
アラウト思ヒマスガ、此兩君ノ懲罰ノ內容
ノ當否ヲ私ハ論ズル者デハナイ議事進行
ノ意見ヲ述ブル一例トシテ、玆ニ諸君ニ述
ベテ見タイト思フ、ソレハ兩君ハ何ガ故ニ
懲罰ニ付セラレタカト申シマスト、諸君モ
御見聞ニナリマシタル通リニ、去ル二十三
日、卽チ再開議會ノ劈頭ニ於キマシテ、内閣
諸公ノ御演說ニ對シテ、政友會ヨリハ三土
君ガ代表シテ重要ナル財政經濟ニ關スル質
疑ヲセラレタ、其中ニ三土君ノ演說ニ於キ
マシテ海軍軍縮ニ依ル補充金ノ五億八百
万圓ニ對シマシテ、其一小部分シカ減稅ノ
資源ニ當テ得ル餘裕ノナイニモ拘ラズ、民
政黨內閣ハ軍縮剩餘金ハ五億八百万圓アツ
テ、恰モ此多額ノ大部分ガ減稅資源トシテ
費シ得ルカノ如キ宣傳ヲセラレタト云フコ
トハ今日ノ減稅ガ來年度ニ於テ僅ニ九百
万圓ノ少額ニ止マリ、而モ六箇年ニ亙ル總
額ヲ合算シテモ一億三千四百万圓ノ所謂軍
縮剩餘金ノ四分ノ一シカ實際減稅資源ニハ
構成ラヌモノヲ、五億ノ大部分ガ其資源ト
ナリ得ルガ如クニ現內閣ノ諸公ガ宣傳ヲ國
民ニセラレタト云フコトハ虛僞ノ宣傳デ
アル斯ウ云フ言葉ヲ三土君ガ使ッタ、虚僞
ノ宣傳デアルト云フコトガ速記錄ニアリ
ソレカラ國民ヲ欺クモノデアルト云フヤウ
ナコトガ第二ニアッタ、之ヲ民政黨ノ諸君ガ
不快ニ思ハレデ、取消セ〓〓ト云フ言葉ガ
諸君ヨリ起ッテ來タ、サウシテ交渉係ハ議長
臺ニ登ラレテ、議長ニモ責メラレタ斯ウ
云フコトガ紛議ノ種ニナッタノデアル、併ナ
ガラ諸君、政友會ガ此言葉ヲ使ッテ取消サ
ナケレバナラヌモノデアルナラバ他日民
政黨ノ諸君ガ此壇ニ立ッテ、國民ヲ欺クモノ
デアルト云フ言葉ヲ使ハレタ時ニ、是ガ取
消ノ問題ニナルモノデアルト云フコトニナ
リマスト、諸君ガ演說ヲ爲サルノニ非常ニ
不自由ニナリハシナイカ、政治家ガ國民ヲ
欺クコトハアル、事實ニ於テ內閣ガ國民ヲ
欺クコトハアル、アルガ其場合ニ於テ之ヲ
討議スルコトガ出來ナイ、衆議院ノ壇上
ト云フモノハ左樣ナ國民ヲ欺クト云フ言
葉ヲ使ッタカラ、是ガ取消ヲシナケレバナ
ラヌ、議場內ノ秩序ヲ紊ル不穩當ノ言葉
デアルト云フコトニナリマシタナラバ
諸君ト吾々トハ此演壇ニ立ッテ政府ヲ攻擊
スルコトハ出來ナクナリマスゾ如何ヤウ
ナル政府ガ如何ナル政策、如何ナル時期ニ
於テ國民ヲ欺クコトナシトシナイデハアリ
マセヌカ、共時ニ在野ノ議員ガ國民ヲ欺ク
ト云フ言葉ヲ使ッテ、或ハ懲罰ニ付セラレル
コトニ甘ンジ、或ハ發言ノ取消ニ甘ンズル
ト云フヤウナ、左樣ナ發言權ノ縮小、寧ロ
發言ノ封鎖ヲ圖ルト云フヤウナコトハ議
員自ラ爲スベキコトデハ決シテナイノデア
ル、左樣ナ譯デアルニ拘ラズ、三土君ノ演
說ニ對シテ、諸君ガ餘リ强キ意味ヲ以テ取
消ヲ御迫リニナリマスカラ申上ゲル深澤
君、藤井君ハ、諸君ノ黨派ニモ設ケテアル
ガ如ク大正十四年ヨリ院內ノ慣例トシ
テ、多數ノ者ガ此油壇ニ馳登ルコトヲ防グ
爲ニ、諸君ノ黨派ニモ數名ノ交涉委員ガアル
ガ如ク、兩君モ交涉委員デアル交涉委員
デアルカラ、左樣ナ輕微ナルコトニ付テ取
消ヲ交渉セラルヽコトハ不當デアルト云フ
コトヲ、此兩名ノ交涉委員ガ田口書記官長
ノ机ノ前ニ上ッテ愬ヘタ、然レドモ議場騷
然、其意ヲ得マセヌカラ、卓ヲ叩イタ、斯
ウ云フコトニナッテ居ル、此程度ノ行動ハ院
內ノ交涉委員ノ職務上ノ責任トシテ諸君
元起き、ヤラレテ居ルデハアリマセヌカ、政友
會ハ之ヲヤッタカラ、是ガ懲罰ニ値スルト云
フナラバ、交涉委員ヲ廢スルヨリ仕方ガナ
イ、交涉委員ガ演壇ニ上ッテ書記官長ノ注意
ヲ惹カントシテモ、議場騷然ナルガ故ニ其
意ヲ通ズルコトガ出來ナイ、其爲ニ卓ヲ叩
イタト云フ時ニ、是ガ懲罰デアルナラバ
各派ノ交涉委員ヲ廢スルヨリ仕方ガナイコ
トニナル是デハ非常ナ不便ナモノデアラウ
ト私共ハ存ズルノデアリマス斯樣ナ譯デ
アリマスカラ、言論ノ程度ニ於キマシテモ、
又交涉ノ性質カラ論ジマシテモ、吾々ハ自
已ノ發言權ヲ維持スル爲ニハ、モウ少シ考
慮シナケレバナラヌ、シマヒニハ自分ノ首
ヲ自分デ縊ルコトニナリマスゾ、諸君ハ今
院內ニアッテ多數ト稱スルケレドモ、時アッ
テ地位ヲ變ズルコトハ屢〓アルコトデアル、
何レノ政黨ト雖モ五十年、百年ヲ通ジテ多
數黨タルコトハ出來ナイ、或ハ五年、或
十年ノ間ニ於テハ曩ノ多數黨變ジテ少數
黨トナリ、今日ノ少數黨變ジテ多數黨トナ
ル、其時ニ代リ番ニ自己ノ發言權ヲ縮小ス
ルガ如キ取消ヲ迫ルコトハ、取リモ直サズ
議員全體ノ損害デアル、國民ノ代表者ニシ
テ發言權ハ日一日ト擴張シテ行カナケレバ
ナラヌ議員ガ、己ノ發言權ヲ代リ番ニ縮小
スルト云フコトハドンナモノカ、ソンナ事
ヲシタナラバ、シマヒニハ議員ト云フモノ
ハ思フヤウナコトヲ議場デ喋レナクナル
是ハ御同樣深ク考ヘナケレバナラヌ事デア
ラウト思フ
ソレカラモウ一ツ懲罰委員會ノコトニ付
テ私ノ愚見ヲ申述べタイ、元來懲罰事犯ト
云フモノハ卽決ヲ許サナイト云フ規定ニ
ナッテ居ルコトヲ御承知願ヒタイ、是ハ諸君
モ御仔ジアラセラルヽノデアリマスカラ、或
ハ僣越デアルカモ知レマセヌガ、簡單ニ之
ヲ引用致シマス、懲罰事犯ニ卽決ヲ許スモ
ノト誤解シテ、此委員會ニ於テ卽決シタル
例ガ或ハ此議會ニアリハシナカッタカト云
フコトヲ心配スル、深澤君、藤井君ノ懲罰
事犯ガ委員會ヲ開イテ卽決セラレタト云フ
コトガ若シアッタナラバ、是ハ議院法竝ニ衆
議院規則ノ違反デアリマシテ其懲罰委
會ノ決定表決ハ無效デアリマス、此點ヲ
應御同樣ノ〓究問題トシテ議事進行ニ關ス
ル意見ニ兼ネテ、玆ニ申上ゲテ置キタウゴ
ザイマスカラ御聽取ヲ願ヒマス
懲罰委員會ヲ開イテ直チニ卽決シタ表決
ガ何故ニ議院法、衆議院規則ニ於テ無效デ
アルカト申シマスト、議院法ニ依レバ斯ウ
云フ明文ニナッテ居ル、懲罰事犯アル時ハ委
員ニ付シ審查セシメタル上デ院議ニ付シテ
決定ヲスル、斯樣ニナッテ居ル、ソレデ委員
會ハ必ズ審査ヲシナケレバナラヌノデアリ
マス、卽決ハ許サヌノデアリマス、而シテ
審査ノ手續ハドウ云フ手續デアルカト云フ
コトモ、衆議院規則ノ二百七條ニ依ッテ規定
サレテ居ルノデアリマス、卽チ本人ノ辯明
ヲ許サナケレバナラヌ、本人ハ衆議院規則
ニ依ッテ辯明權ヲ持シテ居ルノデアルカラ、
本人ガ辯明シタイト云フコトヲ委員會ニ申
出タナラバ、辯明ヲ許スダケノ餘裕ヲ與ヘ
ナケレバナラヌ衆議院規則ノ二百七條ノ
規定デハ關係議員ノ訊問ヲ許サレテ居リ、
本人ノ辯明モ許サレテ居ル、今日法治國ニ
於テ本人ノ辯明モ聽カナイデ裁判スル裁判
所ガ何處ニアルカ(「辯明ヲシタデハナイ
カ」ト呼フ者アリ)委員會ニ於テモ爲シ得ル
コトハ院ノ慣例デアル、然ルニ今囘ノ微罰
事件ニ於キマシテ··
〔發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=86
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087・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=87
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088・濱田國松
○濱田國松君(續) ノ本人モ調ベズ、關係ノ
證據モ調ベズ卽決ヲ以テ表決ヲスルト云
フコトハ、取リモ直サズ議院法ノ委員ニ附
託シテ審査セシムルト云フ審査取調デナイ
取調ヲシナイデ卽決ヲシタト云フコトハ、
其決定ハ無效デアリマス、私ハ法律上明カ
ニ無效ヲ主張シテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=88
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089・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 內容ニ亙ラヌヤウ
ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=89
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090・濱田國松
○濱田國松君(續) 又近頃懲罰委員會ニ傍
聽ヲ禁止スルコトガ行ハレテ居ル、同僚議
員ノ傍聽ハ我院ノ慣例トシテ年々行ハレテ
來クノデアル、然ルニ近頃懲罰ノ審査會ニ、
同僚ノ議員スラ傍聽ヲ禁ズルト云フヤウ
ナ、亂曇不公正ナ此裁判ノ組織ヲ採ラレ
タト云フコトハ意外ノ次第デアル、若シ懲
罰委員會ガ公平冷靜ナル裁判ヲスルナラ
バ、他人ハ知ラズ-他人ハイザ知ラズ、
同僚ノ衆議院議員ノ傍聽スラ禁ズルト云フ
コトハ何タルコトデアル、今日憲法國ニ於
テ死刑ニ處スル罪人デモ、又罰金ニ止マル
輕罪ノ裁判デモ、天下ノ諒解ヲ得、國民ノ保
障ヲ得ルト云フ點カラ傍聽ヲ禁止スルト云
フコトハ非常ナル場合ノ外ハナイノデア
ル、然ルニ藤井君ヤ或ハ深澤君ノ事件ノ如
キ、何モ本人ノ名譽ニ係ルコトハナイヂヤ
ナイカ、衆人公知ノ事實デ、議員ガ、紛擾
ノ爲ニ書記官長ノ手許マデ駈上ッタト云フ
單純ナコトデアル、是ハ何モ名譽問題デハ
ナイ、然ルニ名譽問題デナイ以上ハ傍聽ヲ
禁止スル必要ハナイ、之ヲ傍聽ヲ禁止セラ
レタト云フコトハ非常ナル失態デアルト思
ヒマス
〔「議長々々內容ニ亙ッテ居ルヂヤナイ
カ」ト呼ヒ其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=90
-
091・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 濱田君、內容ニ涉
ラヌヤウニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=91
-
092・濱田國松
○濱田國松君(續) 左樣ナ譯デアリマスカ
ラ吾々ノ決議權ノ所謂議事權ノ擁護ノ爲
ニモ、後來或ハ現在ニ於テ此委員會デハ慣
例ニ依ッテ、同僚ノ傍聽グケハ許スト云フ
コトニシタイト思フ、之ヲヤラナイト云フ
ト、裁判ガ非常ニ不公正ナモノニナル、諸
君ハ今日多數ヲ持シテ居ラレルカラ、サウ云
フコトヲ言ハレルガ、萬一少數ニナッタ折
ニ同僚ノ傍聽モ絕タレ、辯明モ絕タレ、
證據調ベモ絕タレ、所謂嬲殺ニ遭フヤウナ
懲罰ニ遭ハレタ時ニ諸君ハ後悔スルコト
ガ必ズアルト思フ、私ハ惡イコトハ申シマ
セヌ、此五十九議會ニ於キマシテハノ尠ク
モ同僚ノ傍聽ハ公開的ニ相變ラズ許スコト
ニサレルガ宜イ、又本人ノ辯明モ許サレル
ガ宜イ、證據調モ爲サレルガ宜イ、今日是
ダケノ言論ノ擁護、¥600議員自ラノ擁護ト云フ
コト-諸君ガ自ラ進ンデ己ノ利益ヲ抛棄
サレルト云フナラバ構ハヌ、然ラザル以上
ハ我輩ノ意見ガ本會若クハ委員會ノ議事ノ
上ニ行ハレルコトヲ希望シナケレバナラ
ヌ
元來私ハ今日ハ自ラ進ンデ此演壇ニ登壇
シタ者デハナイ、私ハ自ラ此議事ニ關スル
發議ヲ求メタ者デハナイ、是ハ諸君モ御承
知ノ通リ、二十三日ヨリ此院內ニ於テ屢、
紛擾ガ行ハレタ、日々ノ此紛擾ノ解決策ト
シー、議事ノ進行ニ付テハ互ニ遠慮會釋ナ
ク意見ヲ述ベテ、サウシテ院內ノ秩序確立
ニ付テハ互ニ雅量ヲ示シテ意見ヲ述ベヤウ
!、民政黨、政友會ノ各世話役ガ、所謂議
院ノ慣例タル各派交渉會ヲ開イテ、而シテ
兩派ノ協調ニ依クテ此議事ニ關スル意見ヲ
述ブベク、私ニ相談ノ結果御依賴ガアリマ
シタカラ私ガヤッタノデアル、私ハ何モ諸君
ニ對シテ、無理ニ諸君ガ自ラ自己ノ決議權
ヲ重ンゼヨナント云フヤウナ失禮ナコト
ヲ、濱田一個人トシテハ敢テ申上ゲルノヂ
ヤナイ、諸君ハ反對黨ノ者ガ壇上ニ登ッテ少
シ己ノ耳ニ不愉快ナコトガアルト、何時デ
モ其通リデアルソレガ議場ノ紛擾ノ因
デアル(「餘計ナコトヲ言フナ」ト呼ヒ其他
發言スル者多シ)諸君ガ妨害セラルヽナラ
バ吾輩ハ是カラ、時間ノ制限ハナイノデア
ルカラ、一時間デモ、二時間デモヤルゾ(「ヤ
レ〓〓」ト呼フ者アリ)ヤラウ、妨害シテ見
ロヤレルナラヤッテ見ロ
〔「ヤレ〓〓」其他發言スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=92
-
093・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 靜肅ニ願ヒマス
〔「議長々々注意シロ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=93
-
094・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 注意ハシマシタケ
レドモ、濱田君ニ於テモ他ヲ挑發シナイヤ
ウニドウカ御注意ヲ願ヒマス-靜肅ニ願
ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=94
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095・濱田國松
○濱田國松君(續) 承知シマシタ-私ハ
自分一己ガ希望シテー-熱望シテ登壇シタ
ンヂヤナイ、兩派ガ御交渉ノ上デ、私ニ政
友會側ノ意見ヲ述べヨト言ハルヽカラ述べ
テ居ルノデアル、諸君ガソレヲ妨害セラル
ルト云フコトハ院內ノ紛擾ヲ治メルニ付
テ、院內兩派ノ世話役ガ苦心ヲシテ、無理
ニ私ヲ此壇上ニ送ッタト云フ、其兩派協調ノ
趣意ニ悖ルデハナイカ(「範圍ヲ侵スナト言
フノダ」其他發言スル者多シ)諸君ガ妨害セ
ラルヽナラバ、私ハ此演壇ニ發言權ヲ得テ
居ルノデアルカラ、三時間デモ五時間デモ、
明日ニ渡"テデモ演說ヲシマスゾ、私ハ
(「ヤレ〓〓」ト呼フ者アリ)諸君ガ妨害ヲセ
ラレヽバ妨害ヲスル程演說ヲ長クシナケレ
バナラヌ(「ヤレルナラヤレ」ト呼フ者アリ)
ヤッテ見マセウ、後デ困ッチヤイカヌゾ
後デ困ッテハイケヌゾ、吾々ハ五時間デモ六
時間デモヤル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=95
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096・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 私語ヲ禁ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=96
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097・濱田國松
○濱田國松君(續) ソレデハ落著イテ十時
間位ヤリマセウ、諸君ノ御希望デアリマス
カラ、十時間ヤルカラ御迷惑デアルト仰シ
ヤラヌヤウニナサイ(「巫山戯タコトヲ言フ
ナ」「三十分ノ約束ヂヤナイカ」ト呼フ者ア
リ)吾々ハ兩派ノ協調ニ依ッテ、犧牲的ニ此
處ヘ上ッテ演說ヲシテ居ル、ソレヲ妨害スル
ト云フノハ、諸君ハ兩派協調ノ趣意ニ背ク、
サウ云フ不道德ナコトヲナサルナラバ私
ハ自己ノ思フダケ此處デ演說ヲスルダケノ
時間ハ貰ハナケレバナラヌト云フコトヲ
言ッテ居ル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=97
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098・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=98
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099・濱田國松
○濱田國松君(續) 餘リ諸君ハ不道德デア
ル藤澤議長ナドモソレニ關係シテ纒メタ
ノヂヤナイカ、私ガ演說ヲスルト云フコト
ヲ纒メタノヂヤナイカ、餘リニ諸君ハ院內
ノ事情ヲ無視スルモ甚シイヂヤナイカ(「濱
田君、懲罰ノ內容ニ觸レテハイケナイヂヤ
ナイカ」ト呼フ者アリ)ソレハサウダ-ソ
レデハ寬リヤリマスカラ、御迷惑デモ御聽
キ下サイ
只今マデ述べマシタノハ深澤君竝ニ藤井
君ノ懲罰事犯ニ關シテノ私ハ議事進行上ノ
希望ヲ述べ、本會ノミナラズ委員會ニ於テ
モ、尙ホ又議院法、衆議院規則ノ規定ニ背
イタルヤノ疑ガアリマスカラ、私ノ發言ニ
引續イテ定メテ兩君ノ懲罰事犯ガ戶澤委員
長ニ依ッテ此議場ニ報〓セラレテ、諸君ガ御
同意ニナルノデアリマセウガ、議院法ハ申
上ゲルマデモナク、我國憲法附屬ノ法律デ
アリマス、議院ノ勝手ニ解釋ヲシ、變更ヲ
シ得ザル所ノ憲法附屬ノ法律ガ卽チ議院法
デアル此議院法ノ明記スル所ニ依レバ
懲罰事犯ハ本會ニ於テ卽決スルコトヲ許サ
ズ、而シテ常設ノ委員會デアル懲罰委員會
ニ付シテ審査セシメタル上、之ヲ本會ノ議
ニ付スト云フ明文ガアルノデアルカラ、委
員會ニ付シテ審査ヲ加へナケレバナラヌト
云フ、前刻要〓ヲ申上ゲタ議論ハ私ノ確
信シテ疑ハヌ所デアリマス、審査ト云ヘバ
ドウ云フコトヲスルノデアルカ、本人ノ申
條モ聽クガ當然デハナイカ、見聞ヲシテ
居ッタ證據人ヲ調ベルノモ當然デハナイカ、
審査ノ公平ヲ期スル爲ニハ少クトモ同僚
議員ノ傍聽ダケハ院ノ慣例ニ從ウテ許スノ
ガ當然デハアルマイカト考ヘル、然ルニ近
頃五十九議會ニ於テ行ハレル、卽チ此議會
開會以來ヨリ行ハルヽ懲罰委員會ハ議院
法ノ規定ヲ無視シテ委員會開會卽刻、例
ヘバ藤井君ノ事件ニ付テ〓發議員タル一松
定吉君ノ〓發事由ヲ聽カズ、被〓人ノ藤井
君外一名ノ辯明ヲ聽カズ、見テ居シタ同僚議
員ノ證據調ベヲ許サズ、是デ審査ガ行ヘタ
ト言ヘマスカ、是デ裁判ガ行ヘタト言ヘマ
スカ、憲法附屬ノ法律タル議院法ヲ無視シ
テヤッタコトガ、有效デアルカ有效デナイ
カ、諸君ガ亂暴ニヤレルナラバヤッテ御覽
ナサイ、吾々ハ憲法附屬ノ法律タル議院法
ニ背イテヤッタ無效ノ懲罰ニハ、同僚ヲシテ
服從サセマセヌ、法律上無效ノ裁判デアル
カラ-是モ御承知ナサイ諸君ガ無理ヲ
ナサルト、議長ガ如何ニ申渡シテモ、諸君
ガ多數デ議決サレテモ、法律ニ背イタ決定
ハ無效デアルカラ、玆ニ院內ノ大紛擾ガ起
ル無理ヲナサルトイカヌ、院內ノ大紛擾
ハ多數黨ガ常ニ無理ヲスルカラ起ルノデア
ル過日來ノ天下ノ新聞ヲ御覽ナサイ、相
モ變ラズ衆議院ノ紛擾ニ付テ、醜態ニ付テ、
天下筆ヲ揃ヘテ罵ヲテ居ルデハアリマセヌ
カ、此紛擾ハ何カラ起ッタカ、此紛擾ハ何故
ニ起ッタカ、諸君ガ在野黨ノ代表演說者タル
三土忠造君ノ演說ニ虛僞ノ宣傳·····(「同ジ
事ヲ言フナ」其他發言スル者多シ)ヤカマシ
ク言ウテ妨ゲルカラ何遍デモヤルノダ、ヤ
カマシイト何遍デモヤル、妨ゲレバ何遍デ
モ同ジ事ヲ言フ、三土君ノ演說ハ、軍縮剩
餘金五億八百万圓ノ大部分ヲ、濱口君ハ主
トシテ之ヲ減稅ノ財源ニ充テルト天下ニ聲
明シタ、第一ニハ大部分ヲ減稅ニ充テルト
言明シタ、ソレガ中程ニナッテ、其一半ト
云"テ半分程ニ減クテ來タ、ソレガ實行ニ至ッ
テ一億三千四百万圓ト云フ四分ノ一ニ又
減シテ來タ、三土君ガ此的確ナル數字ニ基イ
テ、最初五億ノ剩餘アリト言ヒナガラ、終
リニ一億三千万圓ヲ算フルハ、天下ヲ欺イ
タモノデナイカ、虛僞ノ宣傳デナイカト言
フノハ此事デアル(拍手)諸君ハ耳ガ痛イデ
アラウ、諸君ノ頭ニハ不愉快デアラウ、不
愉快ダカラ騒出シテ、取消セト言出シタ、
所謂多數黨ノ橫暴、衆議院ノ紛擾ヲ來シ
ク、此議會ノ紛擾ノ第一ノ起リハ諸君ニ
無理ガアルカラ紛擾ガ起ルノデアル
第二ニ藤井君ノ懲罰デモサウデアル、藤
井君ト深澤君ハ諸君ノ黨派ニ交涉係ガア
ルガ如ク、議長ノ前ヘモ、田口書記官長ノ
前ヘモ、通〓ノ爲ニ、政友會トシテノ決定
シタ意思ヲ通知スル爲ニ上リ得ル權利ヲ
持ッテ居ル、之ヲ戰場ニ譬フレバ議場內ノ
交涉係ト云フモノハ、恰モ戰鬪場裡ニ於ケ
ル赤十字社ノ社員ト同ジ性質ヲ持ッテ居
ル、是ハ赤十字社ノ「マーク」ヲ持ッテ居レ
バ大砲モ擊ッコトハ出來ズ、小銃ヲ向ケル
コトモ出來ナイ、ソレト同ジ院內ノ職權
ヲ持フテ居ルノガ交涉係デアル、此交
涉係ガ田口書記官長ノ下ニ、取消ノ問
題ヲ、民政黨カラ騒ガシク迫ラレルガ取
消ス程ノ言葉デハナイデハナイカ、能ク議
長ガ公平ニ整理ヲセラレルヤウニ取計ッテ
吳レト云フコトヲ通知ニ來タノデス、是一
衆議院ノ速記ニ依クテ明カニナッテ居ルヽ本
人ノ辯明ニ依ッテ明カニナッテ居ル、ソレヲ
諸君ハ懲罰ニ付シタノデアルカラ、諸君ハ
丁度戰場ニ於テ赤十字ノ社員ヲ小銃デ撃ッ
タト同ジコトヲシタ、是ハ院內ノ德義カラ
言ッテモ、大變人情ヲ缺イタ所ノ事柄デアラ
ウト思フノデアル、殊ニ又諸君ヨリ選バレ
タル民政側ノ懲罰委員諸君ガ無理ヲシナイ
ナラバナゼ前例ニ反シテ傍聽ヲ禁止シタ
カ、公明ナ事ヲスル委員會ノ傍聽ヲナゼ禁
止シタ、正直ナ事ヲスルナラバ皆ニ見テ
貰ッタ方ガ潔白デハナイカ、多數ヲ恃ンデ無
理ヲセンガ爲ニ傍聽ヲ禁止シタノデアルカ
ラ、諸君ノ良心ニ顧ミテ見給へ
此席ニハ戶澤委員長モ居ラレルデアラ
ウ、法律家デアッテ民政側ノ有力ナル懲罰委
員タル藤田若水君モ、或ハ居ラレルデアラ
ウ、委員長ノ戶澤君、有力委員タル藤田若
水君、皆有力ナ法律家デアッテ、辯護士デハ
ナイカ、苟モ天下ノ法律家デアリ、辯護士
ノ職掌ヲ持ッテ居ル人ガ、同僚ノ二君ヲ懲罰
ニ決定スルニ當シテ、傍聽ハ許サナイデモ宜
イ、而モ衆議院ノ前例ニ反シテ證據ハ調ベ
ルニ及バナイ、告發人ノ申狀、被〓人ノ申
開キモ聽クニ及バナイ、諸君ハ果シテ是ガ
法律的良心ニ疚シイ所ハナイノデアリマス
カ、諸君ハ信用アル天下ノ在野法曹デアル
左樣ナコトヲナサッテハ、懲罰委員長ノ信用
ニ關係ヲ致シマス、日本ノ裁判、日本ノ裁
判長ガ曲レル裁判ヲスルコトヲ恥ヂナイト
云フコトニナッテ來マシタナラバ、日本ノ國
家ノ督制系、機構、組織ト云フモノハ一遍
ニ紊レテシマフ、衆議院ニ於テモサウデア
ル、或ハ豫算委員會ト云ヒ、或ハ請願委員
會ト云ヒ、其間ニ議論ノ餘地ハアリマス、
併ナガラ懲罰委員長ハ裁判長デアル、衆議
院內ニ於ケル裁判所デアルカラ、是ハ黨派
ヲ超越シテ、最モ公平デアラネバナラヌ、
最モ神聖デアラネバナラヌ、若シ此公平ガ
破レテモ構ハヌト云フコトニナルト、議員
ノ資格ニ付テ多數ノ力デ除名スル力ヲ持ク
テ居ル懲罰委員會デアリマス、何時不公正
ナル多數黨ガ出テ議員ノ首ヲ馘ッテ、當選シ
タ議員ヲ院外ニ送出シ排斥シ出スト云
フコトニナッタナラバ、是ハ立憲政治ノ破壞
ニナル(「ソンナ例ガアルカ」ト呼フ者アリ)
衆議院ニ於テナイト言フ人ハ衆議院議員デ
アリナガラ、衆議院ノ歷史ヲ知ラナイ者デ
アル日本ノ衆議院ニハ議員ヲ懲罰デ除名
シテ排斥シタ例ガアルノデアル(拍手)斯樣
ナ譯デアッテ、多數黨少數黨卜各〓得意失意
ノ時ハアルケレドモ、今日ハ人ノ身ノ上、
明日へ我身ノ上ニナッテ來ルノデアル、諸君
ハ決シテ今囘ノ懲罰事犯ヲ、反對黨タル藤
井君、深澤君ノコトナリト思ウテ御〓究ニ
ナルト間違デアリマス、今日ハ人ノ身ノ上、
明日ハ我身ノ上ニナルコトガアル(拍手)左
樣ナ譯デアリマスカラ、私ハ諄イ事ヲ申ス
コトヲ好ミマセヌ、私ハ賢明ナル尊敬スベ
キ民政黨ノ諸君ノ前ニ立ッテ、斯樣ナ大キ
イ聲ヲ出シテ、諸君ノ權威ヲ傷クルガ如キ演
說ヲスルコトハ本意デハナイ、ナイノデア
ルガ、兩派協調ノ上デヤレト言ハレタカラ
ヤル、斯樣ナ譯デアリマスカラ、此私ノ發
言ニ續イテ定メテ兩君ノ懲罰事犯ガ起ルデ
セウガ、是ハ憲法附屬ノ法律デ手續ガ無效
ダカラ、能ク法律ヲ御〓究ニナッテ、議事ノ
進行ヲナサラヌト取返シノ付カヌコトガ起
ル、兩君ガ法律上無效ノ決定デアルカラ服
セヌト言ッテモ、何處ニ持ッテ行ッテ調ベル、
大審院ニ行クコトモ、控訴院ニ行クコト
モ行政裁判所ニ行クコトモ出來ナイ、モ
ウ後ハ腕力カ、力ノ喧嘩ニナルコトヲ諸君
ガ起スコトニナル、行キ處ガナイカラ腕力
デ喧嘩スルヨリ仕方ガナイ、諸君ガ橫暴シ
テモ訴ヘル所ガナイカラ、二人ノ人ハ腕デ
ヤルヨリ外ニ仕方ガナイ、卽チ諸君ガ無理
ヲスルコトガ此懲罰事犯ニ又一ツノ紛擾ヲ
捲起ス原因ニナリマスカラ、愼重ニオヤリ
ナサイト忠告シテ居ルノデアル(拍手)マダ
申上ゲタイ事モアリマスケレドモ、諸君モ
妨害ヲ停止セラレテ御納得ガ行ッタラシイ
カラ是デ止メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=99
-
100・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 作田君ノ日程變更
ノ動議ニ付テ採決致シマス、作田君ノ動議
ニ御異議アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=100
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101・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 御異議ナシト認メ
ママ、仍テ日程ハ變更セラレマシタ、懲罰
事犯ノ議事ハ祕密會議デアリマスカラ、傍
聽人ノ退場ヲ命ジマス
議員深澤豐太郞君及藤井達也君懲罰事犯
ノ件
〔午後八時二十二分祕密會ニ入ル〕
〔午後十一時二十六分祕密會ヲ終ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=101
-
102・藤澤幾之輔
○議長(藤澤幾之輔君) 是ヨリ會議ヲ公開
致シマス-傍聽人ノ入場ヲ許シマス
最早時刻モ遲イコトデアリマスカラ、本日
ハ是ニテ散會致シマス、次囘ノ日程ハ公報
ヲ以テ通知致シマス
午後十一時二十七分散會
衆議院議事速記錄第五號中正誤
頁段行
七二-末「吾々ノ」ノ三字ヲ削ル発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=005913242X01019310205&spkNum=102
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