1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和七年六月四日(土曜日)午前十時九分開議
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議事日程 第三號
昭和七年六月四日
午前十時開議
第一 國務大臣の演説に關する件(第二日)
第二 手形法案(政府提出) 第一讀會
第三 右議案の審査を付託すへき特別委員の選擧
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲ
シテ報〓ヲ致サセマス
〔近藤書記官朗讀〕
昨三日内閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰
付ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
第六十二囘帝國議會文部省所管事務政府
委員
文部省普通學務局長武部欽一君
同日委員會ニ於テ當選シタル正副委員長ノ
氏名左ノ如シ
懲罰委員會
委員長侯爵大久保利武君
副委員長男爵岩倉道倶君
請願委員會
委員長子爵〓岡長言君
副委員長男爵北河原公平君
決算委員會
委員長男爵辻太郞君
副委員長子爵片桐貞央君
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付
ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
號外昭和七年六月五日
第六十二囘帝國議會內務省所管事務政府
委員
北海道廳長官佐上信一君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、請暇ノ件ニ付御諮リ致シマ
ス、久邇侯爵公務上會期中、本山彥一君病
氣ニ就キ會期中、請暇ノ申出ガゴザイマシ
タ何レモ許可スルコトニ御異存ゴザイマ
セヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 昨三日、本山彥
一君病氣ニ付決算委員ヲ辭任シタキ旨ノ申
出ガゴザイマシタ、許可スルコトニ御異存
ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=4
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005・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス第五部ニ於テ補闕選擧ヲ行ハレム
コトヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 此際御諮リ致シ
タイコトハ日程第一ヲ第三ノ終リニ廻シタ
イト考ヘマス御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=6
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007・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=7
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008・徳川家達
○讀長(公爵徳川家達君) 手形法案、政府
提出、第一讀會通牒文ノ朗讀ハ省略シテ御
異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス、司法大臣小山松吉君
〔左ノ議案ハ朗讀ヲ經サルモ參照ノタ
メ玆ニ記錄ス以下之ニ傚フ〕
手形法案
右
勅旨ヲ奉ジ帝國議會ニ提出ス
昭和七年六月一日
內閣總理大臣子爵齋藤實
司法大臣小山松吉
手形法案
手形法
第一編爲替手形
第一章爲替手形ノ振出及方式
第一條爲替手形ニハ左ノ事項ヲ記載ス
ベシ
證劵ノ文言中ニ其ノ證劵ノ作成ニ
用フル語ヲ以テ記載スル爲替手形ナ
ルコトヲ示ス文字
二一定ノ金額ヲ支拂フベキ旨ノ單純
ナル委託
三支拂ヲ爲スベキ者(支拂人)ノ名稱
四滿期ノ表示
五支拂ヲ爲スベキ地ノ表示
六支拂ヲ受ケ又ハ之ヲ受クル者ヲ指
圖スル者ノ名稱
七手形ヲ振出ス日及地ノ表示
八千形ヲ振出ス者(振出人)ノ署名
第二條前條ニ揭グル事項ノ何レカヲ缺
ク證劵ハ爲替手形タル效力ヲ有セズ但
シ次ノ數項ニ規定スル場合ハ此ノ限ニ
在ラズ
滿期ノ記載ナキ爲替手形ハ之ヲ一覽拂
ノモノト看做ス
支拂人ノ名稱ニ附記シタル地ハ特別ノ
表示ナキ限リ之ヲ支拂地ニシテ日支拂
人ノ住所地タルモノト看做ス
振出地ノ記載ナキ爲替手形ハ振出人ノ
名稱ニ附記シタル地ニ於テ之ヲ振出シ
タルモノト看做ス
第三條爲替手形ハ振出人ノ自己指圖ニ
テ之ヲ振出スコトヲ得
爲替手形ハ振出人ノ自己宛ニテ之ヲ振
出スコトヲ得
爲替手形ハ第三者ノ計算ニ於テ之ヲ振
出スコトヲ得
第四條爲替手形ハ支拂人ノ住所地ニ在
ルト又ハ其ノ他ノ地ニ在ルトヲ問ハズ
第三者ノ住所ニ於テ支拂フベキモノト
爲スコトヲ得
第五條一覽拂又ハ一覽後定期拂ノ爲替
手形ニ於テハ振出人ハ手形金額ニ付利
息ヲ生ズベキ旨ノ約定ヲ記載スルコト
ヲ得其ノ他ノ爲替手形ニ於テハ此ノ約
定ノ記載ハ之ヲ爲サザルモノト看做
ス
利率ハ之ヲ手形ニ表示スルコトヲ要ス
其ノ表示ナキトキハ利息ノ約定ノ記載
ハ之ヲ爲サザルモノト看做ス
利息ハ別段ノ日附ノ表示ナキトキハ手
形振出ノ日ヨリ發生ス
第六條爲替手形ノ金額ヲ文字及數字ヲ
以テ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ
差異アルトキハ文字ヲ以テ記載シタル
金額ヲ手形金額トス
爲替手形ノ金額ヲ文字ヲ以テ又ハ數字
ヲ以テ重複シテ記載シタル場合ニ於テ
其ノ金額ニ差異アルトキハ最小金額ヲ
手形金額トス
第七條爲替手形ニ手形債務ヲ負擔スル
能力ナキ者ノ署名、僞造ノ署名、假設
人ノ署名又ハ其ノ他ノ事由ニ因リ爲替
手形ノ署名者若ハ其ノ本人ニ義務ヲ負
ハシムルコト能ハザル署名アル場合ト
雖モ他ノ署名者ノ債務ハ之ガ爲其ノ效
力ヲ妨ゲラルルコトナシ
第八條代理權ヲ有セザル者ガ代理人ト
シテ爲替手形ニ署名シタルトキハ自ラ
其ノ手形ニ因リ義務ヲ負フ其ノ者ガ支
拂ヲ爲シタルトキハ本人ト同一ノ權利
ヲ有ス權限ヲ超エタル代理人ニ付亦同
ジ
第九條振出人ハ引受及支拂ヲ擔保ス
振出人ハ引受ヲ擔保セザル旨ヲ記載ス
ルコトヲ得支拂ヲ擔保セザル旨ノ一切
ノ文言ハ之ヲ記載セザルモノト看做ス
第十條未完成ニテ振出シタル爲替手形
ニ豫メ爲シタル合意ト異ル補充ヲ爲シ
タル場合ニ於テハ其ノ違反ハ之ヲ以テ
所持人ニ對抗スルコトヲ得ズ但シ所持
人ガ惡意又ハ重大ナル過失ニ因リ爲替
手形ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラ
ズ
第二章裏書
第十一條爲替手形ハ指圖式ニテ振出サ
ザルトキト雖モ裏書ニ依リテ之ヲ讓渡
スコトヲ得
振出人ガ爲替手形ニ「指圖禁止」ノ文字
又ハ之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ヲ記
載シタルトキハ其ノ證劵ハ指名債權ノ
讓渡ニ關スル方式ニ從ヒ且其ノ效力ヲ
以テノミ之ヲ讓渡スコトヲ得
裏書ハ引受ヲ爲シタル又ハ爲サザル支
拂人、振出人其ノ他ノ債務者ニ對シテ
モ之ヲ爲スコトヲ得此等ノ者ハ更ニ手
形ヲ裏書スルコトヲ得
第十二條裏書ハ單純ナルコトヲ要ス裏
書ニ附シタル條件ハ之ヲ記載セザルモ
ノト看做ス
一部ノ裏書ハ之ヲ無效トス
持參人拂ノ裏書ハ白地式裏書ト同一ノ
效力ヲ有ス
第十三條裏書ハ爲替手形又ハ之ト結合
シタル紙片(補箋)ニ之ヲ記載シ裏書人
署名スルコトヲ要ス
裏書ハ被裏書人ヲ指定セズシテ之ヲ爲
シ又ハ單ニ裏書人ノ署名ノミヲ以テ之
ヲ爲スコトヲ得(白地式裏書)此ノ後ノ
場合ニ於テハ裏書ハ爲替手形ノ裏面又
ハ補箋ニ之ヲ爲スニ非ザレバ其ノ效力
ヲ有セズ
第十四條裏書ハ爲替手形ヨリ生ズル一
切ノ權利ヲ移轉ス
裏書ガ白地式ナルトキハ所持人ハ
-自己ノ名稱又ハ他人ノ名稱ヲ以テ
白地ヲ補充スルコトヲ得
二白地式ニ依リ又ハ他人ヲ表示シテ
更ニ手形ヲ裏書スルコトヲ得
三自地ヲ補充セズ且裏書ヲ爲サズシ
テ手形ヲ第三者ニ讓渡スコトヲ得
第十五條裏書人ハ反對ノ文言ナキ限リ
引受及支拂ヲ擔保ス
裏書人ハ新ナル裏書ヲ禁ズルコトヲ得
此ノ場合ニ於テハ其ノ裏書人ハ手形ノ
爾後ノ被裏書人ニ對シ擔保ノ責ヲ負フ
コトナシ
第十六條爲替手形ノ占有者ガ裏書ノ連
續ニ依リ其ノ權利ヲ證明スルトキハ之
ヲ適法ノ所持人ト看做ス最後ノ裏書ガ
白地式ナル場合ト雖モ亦同ジ抹消シタ
ル裏書ハ此ノ關係ニ於テハ之ヲ記載セ
ザルモノト看做ス白地式裏書ニ次デ他
ノ裏書アルトキハ其ノ裏書ヲ爲シタル
者ハ白地式裏書ニ因リテ手形ヲ取得シ
タルモノト看做ス
事由ノ何タルヲ問ハズ爲替手形ノ占有
ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ所持人ガ
前項ノ規定ニ依リ其ノ權利ヲ證明スル
トキハ手形ヲ返還スル義務ヲ負フコト
ナシ但シ所持人ガ惡意又ハ重大ナル過
失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限
ニ在ラズ
第十七條爲替手形ニ依リ請求ヲ受ケタ
ル者ハ振出人其ノ他所持人ノ前者ニ對
スル人的關係ニ基ク抗辯ヲ以テ所持人
ニ對抗スルコトヲ得ズ但シ所持人ガ其
ノ債務者ヲ害スルコトヲ知リテ手形ヲ
取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第十八條裏書ニ「囘收ノ爲」、「取立ノ
爲」、「代理ノ爲」其ノ他單ナル委任ヲ示ス
文言アルトキハ所持人ハ爲替手形ヨリ
生ズル一切ノ權利ヲ行使スルコトヲ得
但シ所持人ハ代理ノ爲ノ裏書ノミヲ爲
スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ債務者ガ所持人ニ
對抗スルコトヲ得ル抗辯ハ裏書人ニ對
抗スルコトヲ得ベカリシモノニ限ル
代理ノ爲ノ裏書ニ依ル委任ハ委任者ノ
死亡又ハ其ノ者ガ無能力ト爲リタルコ
トニ因リ終了セズ
第十九條裏書ニ「擔保ノ爲」「質入ノ爲」
其ノ他質權フ設定ヲ示ス文言アルトキ
ハ所持人ハ爲替手形ヨリ生ズル一切ノ
權利ヲ行使スルコトヲ得但シ所持人ノ
爲シタル裏書ハ代理ノ爲ノ裏書トシテ
ノ效力ノミヲ有ス
債務者ハ裏書人ニ對スル人的關係ニ基
ク抗辯ヲ以テ所持人ニ對抗スルコトヲ
得ズ但シ所持人ガ其ノ債務者ヲ害スル
コトヲ知リテ手形ヲ取得シタルトキハ
此ノ限ニ在ラズ
第二十條滿期後ノ裏書ハ滿期前ノ裏書
ト同一ノ效力ヲ有ス但シ支拂拒絕證書
作成後ノ裏書又ハ支拂拒絕證書作成期
間經過後ノ裏書ハ指名債權ノ讓渡ノ效
力ノミヲ有ス
日附ノ記載ナキ裏書ハ支拂拒絕證書作
成期間經過前ニ之ヲ爲シタルモノト推
定ス
第三章引受
第二十一條爲替手形ノ所持人又ハ單ナ
ル占有者ハ滿期ニ至ル迄引受ノ爲支拂
人ニ其ノ住所ニ於テ之ヲ呈示スルコト
ヲ得
第二十二條振出人ハ爲替手形ニ期間ヲ
定メ又ハ定メズシテ引受ノ爲之ヲ呈示
スベキ旨ヲ記載スルコトヲ得
振出人ハ手形ニ引受ノ爲ノ呈示ヲ禁ズ
ル旨ヲ記載スルコトヲ得但シ手形ガ第
三者方ニテ若ハ支拂人ノ住所地ニ非ザ
ル地ニ於テ支拂フベキモノナルトキ又
ハ一覽後定期拂ナルトキハ此ノ限ニ在
ラズ
振出人ハ一定ノ期日前ニハ引受ノ爲ノ
呈示ヲ爲スベカラザル旨ヲ記載スルコ
トヲ得
各裏書人ハ期間ヲ定メ又ハ定メズシテ
引受ノ爲手形ヲ呈示スベキ旨ヲ記載ス
ルコトヲ得但シ振出人ガ引受ノ爲ノ呈
示ヲ禁ジタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
第二十三條一覽後定期拂ノ爲替手形ハ
其ノ日附ヨリ一年內ニ引受ノ爲之ヲ呈
示スルコトヲ要ス
振出人ハ前項ノ期間ヲ短縮シ又ハ伸長
スルコトヲ得
裏書人ハ前二項ノ期間ヲ短縮スルコト
ヲ得
第二十四條支拂人ハ第一ノ呈示ノ翌日
ニ第二ノ呈示ヲ爲スベキコトヲ請求ス
ルコトヲ得利害關係人ハ此ノ請求ガ拒
絕證書ニ記載セラレタルトキニ限リ之
ニ應ズル呈示ナカリシコトヲ主張スル
コトヲ得
所持人ハ引受ノ爲ニ呈示シタル手形ヲ
支拂人ニ交付スルコトヲ要セズ
第二十五條引受ハ爲替手形ニ之ヲ記載
スベシ引受ハ「引受」其ノ他之ト同一ノ
意義ヲ有スル文字ヲ以テ表示シ支拂人
署名スベシ手形ノ表面ニ爲シタル支拂
人ノ單ナル署名ハ之ヲ引受ト看做ス
一覽後定期拂ノ手形又ハ特別ノ記載ニ
從ヒ一定ノ期間內ニ引受ノ爲ノ呈示ヲ
爲スベキ手形ニ於テハ所持人ガ呈示ノ
日ノ日附ヲ記載スベキコトヲ請求シタ
ル場合ヲ除クノ外引受ニハ之ヲ爲シタ
ル日ノ日附ヲ記載スルコトヲ要ス日附
ノ記載ナキトキハ所持人ハ裏書人及振
出人ニ對スル遡求權ヲ保全スル爲ニハ
適法ノ時期ニ作ラシメタル拒絕證書ニ
依リ其ノ記載ナカリシコトヲ證スルコ
トヲ要ス
第二十六條引受ハ單純ナルベシ但シ支
拂人ハ之ヲ手形金額ノ一部ニ制限スル
コトヲ得
引受ニ依リ爲替手形ノ記載事項ニ加ヘ
タル他ノ變更ハ引受ノ拒絕タル效力ヲ
有ス但シ引受人ハ其ノ引受ノ文言ニ從
ヒテ責任ヲ負フ
第二十七條振出人ガ支拂人ノ住所地ト
異ル支拂地ヲ爲替手形ニ記載シタル場
合ニ於テ第三者方ニテ支拂ヲ爲スベキ
旨ヲ定メザリシトキハ支拂人ハ引受ヲ
爲スニ當リ其ノ第三者ヲ定ムルコトヲ
得之ヲ定メザリシトキハ引受人ハ支拂
地ニ於テ自ラ支拂ヲ爲ス義務ヲ負ヒタ
ルモノト看做ス
手形ガ支拂人ノ住所ニ於テ支拂フベキ
モノナルトキハ支拂人ハ引受ニ於テ支
拂地ニ於ケル支拂ノ場所ヲ定ムルコト
ヲ得
第二十八條支拂人ハ引受ニ因リ滿期ニ
於テ爲替手形ノ支拂ヲ爲ス義務ヲ負
フ
支拂ナキ場合ニ於テハ所持人ハ第四十
八條及第四十九條ノ規定ニ依リテ請求
スルコトヲ得ベキ一切ノ金額ニ付引受
人ニ對シ爲替手形ヨリ生ズル直接ノ
請求權ヲ有ス所持人ガ振出人ナルトキ
ト雖モ亦同ジ
第二十九條爲替手形ニ引受ヲ記載シタ
ル支拂人ガ其ノ手形ノ返還前ニ之ヲ抹
消シタルトキハ引受ヲ拒ミタルモノト
看做ス抹消ハ證劵ノ返還前ニ之ヲ爲シ
タルモノト推定ス
前項ノ規定ニ拘ラズ支拂人ガ書面ヲ以
テ所持人又ハ手形ニ署名シタル者ニ引
受ノ通知ヲ爲シタルトキハ此等ノ者ニ
對シ引受ノ文言ニ從ヒテ責任ヲ負フ
第四章保證
第三十條爲替手形ノ支拂ハ其ノ金額ノ
全部又ハ一部ニ付保證ニ依リ之ヲ擔保
スルコトヲ得
第三者ハ前項ノ保證ヲ爲スコトヲ得手
形ニ署名シタル者ト雖モ亦同シ
第三十一條保證ハ爲替手形又ハ補箋ニ
之ヲ爲スベシ
保證ハ「保證」其ノ他之ト同一ノ意義ヲ
有スル文字ヲ以テ表示シ保證人署名ス
ベシ
爲替手形ノ表面ニ爲シタル單ナル署名
ハ之ヲ保證ト看做ス但シ支拂人又ハ振
出人ノ署名ハ此ノ限ニ在ラズ
保證ニハ何人ノ爲ニ之ヲ爲スカヲ表示
スルコトヲ要ス其ノ表示ナキトキハ振
出人ノ爲ニ之ヲ爲シタルモノト看做
ス
第三十二條保證人ハ保證セラレタル者
ト同一ノ責任ヲ負フ
保證ハ其ノ擔保シタル債務ガ方式ノ瑕
疵ヲ除キ他ノ如何ナル事由ニ因リテ無
效ナルトキト雖モ之ヲ有效トス
保證人ガ爲替手形ノ支拂ヲ爲シタルト
キハ保證セラレタル者及其ノ者ノ爲替
手形上ノ債務者ニ對シ爲替手形ヨリ生
ズル權利ヲ取得ス
第五章滿期
第三十三條爲替手形ハ左ノ何レカトシ
テ之ヲ振出スコトヲ得
一一覽拂
二一覽後定期拂
三日附後定期拂
四確定日拂
前項ト異ル滿期又ハ分割拂ノ爲替手形
ハ之ヲ無效トス
第三十四條一覽拂ノ爲替手形ハ呈示ア
リタルトキ之ヲ支拂フベキモノトス此
ノ手形ハ其ノ日附ヨリ一年內ニ支拂ノ
爲之ヲ呈示スルコトヲ要ス振出人ハ此
ノ期間ヲ短縮シ又ハ伸長スルコトヲ得
裏書人ハ此等ノ期間ヲ短縮スルコトヲ
得
振出人ハ一定ノ期日前ニハ一覽拂ノ爲
替手形ヲ支拂ノ爲呈示スルコトヲ得ザ
ル旨ヲ定ムルコトヲ得此ノ場合ニ於テ
呈示ノ期間ハ其ノ期日ヨリ始マル
第三十五條一覽後定期拂ノ爲替手形ノ
滿期ハ引受ノ日附又ハ拒絕證書ノ日附
ニ依リテ之ヲ定ム
拒絕證書アラザル場合ニ於テハ日附ナ
キ引受ハ引受人ニ關スル限リ引受ノ爲
ノ呈示期間ノ末日ニ之ヲ爲シタルモノ
ト看做ス
第三十六條日附後又ハ一覽後一月又ハ
數月拂ノ爲替手形ハ支拂ヲ爲スベキ月
ニ於ケル應當日ヲ以テ滿期トス應當日
ナキトキハ其ノ月ノ末日ヲ以テ滿期ト
ス
日附後又ハ一覽後一月半又ハ數月半拂
ノ爲替手形ニ付テハ先ヅ全月ヲ計算
ス
月ノ始、月ノ央(一月ノ央、二月ノ央等)
又ハ月ノ終ヲ以テ滿期ヲ定メタルトキ
ハ其ノ月ノ一日、十五日又ハ末日ヲ謂
フ
「八日」又ハ「十五日」トハ一週又ハ二週
ニ非ズシテ滿八日又ハ滿十五日ヲ謂
フ
「半月」トハ十五日ノ期間ヲ謂フ
第三十七條振出地ト曆ヲ異ニスル地ニ
於テ確定日ニ支拂フベキ爲替手形ニ付
テハ滿期ノ日ハ支拂地ノ曆ニ依リテ之
ヲ定メタルモノト看做ス
曆ヲ異ニスル二地ノ間ニ振出シタル爲
替手形ガ日附後定期拂ナルトキハ振出
ノ日ヲ支拂地ノ曆ノ應當日ニ換ヘ之ニ
依リテ滿期ヲ定ム
爲替手形ノ呈示期間ハ前項ノ規定ニ從
ヒテ之ヲ計算ス
前三項ノ規定ハ爲替手形ノ文言又ハ證
劵ノ單ナル記載ニ依リ別段ノ意思ヲ知
リ得ベキトキハ之ヲ適用セズ
第六章支拂
第三十八條確定日拂、日附後定期拂又
ハ一覽後定期拂ノ爲替手形ノ所持人ハ
支拂ヲ爲スベキ日又ハ之ニ次グ二取引
日內ニ支拂ノ爲手形ヲ呈示スルコトヲ
要ス
手形交換所ニ於ケル爲替手形ノ呈示ハ
支拂ノ爲ノ呈示タル效力ヲ有ス
第三十九條爲替手形ノ支拂人ハ支拂ヲ
爲スニ當リ所持人ニ對シ手形ニ受取ヲ
證スル記載ヲ爲シテ之ヲ交付スベキコ
トヲ請求スルコトヲ得
所持人ハ一部支拂ヲ拒ムコトヲ得ズ
一部支拂ノ場合ニ於テハ支拂人ハ其ノ
支拂アリタル旨ノ手形上ノ記載及受取
證書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
第四十條爲替手形ノ所持人ハ滿期前ニ
ハ其ノ支拂ヲ受クルコトヲ要セズ
滿期前ニ支拂ヲ爲ス支拂人ハ自己ノ危
險ニ於テ之ヲ爲スモノトス
滿期ニ於テ支拂ヲ爲ス者ハ惡意又ハ重
大ナル過失ナキ限リ其ノ責ヲ免ル此ノ
者ハ裏書ノ連續ノ整否ヲ調査スル義務
アルモ裏書人ノ署名ヲ調査スル義務ナ
シ
第四十一條支拂地ノ通貨ニ非ザル通貨
ヲ以テ支拂フベキ旨ヲ記載シタル爲替
手形ニ村テハ滿期ノ日ニ於ケル價格ニ
依リ其ノ國ノ通貨ヲ以テ支拂ヲ爲スコ
トヲ得債務者ガ支拂ヲ遲滯シタルトキ
ハ所持人ハ其ノ選擇ニ依リ滿期ノ日又
ハ支拂ノ日ノ相場ニ從ヒ其ノ國ノ通貨
ヲ以テ爲替手形ノ金額ヲ支拂フベキコ
トヲ請求スルコトヲ得
外國通貨ノ價格ハ支拂地ノ慣習ニ依リ
之ヲ定ム但シ振出人ハ手形ニ定メタル
換算率ニ依リ支拂金額ヲ計算スベキ旨
ヲ記載スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ振出人ガ特種ノ通貨ヲ
以テ支拂フベキ旨(外國通貨現實支拂
文句)ヲ記載シタル場合ニハ之ヲ適用
セズ
振出國ト支拂國トニ於テ同名異價ヲ有
スル通貨ニ依リ爲替手形ノ金額ヲ定メ
タルトキハ支拂地ノ通貨ニ依リテ之ヲ
定メタルモノト推定ス
第四十二條第三十八條ニ規定スル期間
內ニ爲替手形ノ支拂ノ爲ノ呈示ナキト
キハ各債務者ハ所持人ノ費用及危險ニ
於テ手形金額ヲ所轄官署ニ供託スルコ
トヲ得
第七章引受拒絕又ハ支拂拒絕
ニ因ル遡求
第四十三條滿期ニ於テ支拂ナキトキハ
所持人ハ裏書人、振出人其ノ他ノ債務
者ニ對シ其ノ遡求權ヲ行フコトヲ得左
ノ場合ニ於テハ滿期前ト雖モ亦同ジ
引受ノ全部又ハ一部ノ拒絕アリク
ルトキ
二引受ヲ爲シタル若ハ爲サザル支拂
人ノ破產ノ場合、其ノ支拂停止ノ場
合又ハ其ノ財產ニ對スル强制執行ガ
效ヲ奏セザル場合
三引受ノ爲ノ呈示ヲ禁ジタル手形ノ
振出人ノ破產ノ場合
第四十四條引受又ハ支拂ノ拒絕ハ公正
證書(引受拒絕證書又ハ支拂拒絕證書)
ニ依リ之ヲ證明スルコトヲ要ス
引受拒絕證書ハ引受ノ爲ノ呈示期間內
ニ之ヲ作ラシムルコトヲ要ス第二十四條
第一項ニ規定スル場合ニ於テ期間ノ末
日ニ第一ノ呈示アリタルトキハ拒絕證
書ハ其ノ翌日之ヲ作ラシムルコトヲ
得
確定日拂、日附後定期拂又ハ一覽後定
期拂ノ爲替手形ノ支拂拒絕證書ハ爲替
手形ノ支拂ヲ爲スベキ日又ハ之ニ次グ
二取引日內ニ之ヲ作ラシムルコトヲ要
ス一覽拂ノ手形ノ支拂拒絕證書ハ引受
拒絕證書ノ作成ニ關シテ前項ニ規定ス
ル條件ニ從ヒ之ヲ作ラシムルコトヲ
要ス
引受拒絕證書アルトキハ支拂ノ爲ノ呈
示及支拂拒絕證書ヲ要セズ
引受ヲ爲シタル若ハ爲サザル支拂人ガ
支拂ヲ停止シタル場合又ハ其ノ財產ニ
對スル强制執行ガ效ヲ奏セザル場合ニ
於テハ所持人ハ支拂人ニ對シ手形ノ支
拂ノ爲ノ呈示ヲ爲シ目拒絕證書ヲ作ラ
シメタル後ニ非ザレバ其ノ遡求權ヲ行
フコトヲ得ズ
引受ヲ爲シタル若ハ爲サザル支拂人ガ
破產ノ宣告ヲ受ケタル場合又ハ引受ノ
爲ノ呈示ヲ禁ジタル手形ノ振出人ガ破
產ノ宣〓ヲ受ケタル場合ニ於テ所持人
ガ其ノ遡求權ヲ行フニハ破產決定書ヲ
提出スルヲ以テ足ル
第四十五條所持人ハ拒絕證書作成ノ日
ニ次グ又ハ無費用償還文句アル場合ニ
於テハ呈示ノ日ニ次グ四取引日內ニ自
己ノ裏書人及振出人ニ對シ引受拒絕又
ハ支拂拒絕アリタルコトヲ通知スルコ
トヲ要ス各裏書人ハ通知ヲ受ケタル日
ニ次グ一取引日內ニ前ノ通知者全員ノ
名稱及宛所ヲ示シテ自己ノ受ケタル通
知ヲ自己ノ裏書人ニ通知シ順次振出人
ニ及ブモノトス此ノ期間ハ各其ノ通知
ヲ受ケタル時ヨリ進行ス
前項ノ規定ニ從ヒ爲替手形ノ署名者ニ
通知ヲ爲ストキハ同一期間內ニ其ノ保
證人ニ同一ノ通知ヲ爲スコトヲ要ス
裏書人ガ其ノ宛所ヲ記載セズ又ハ其ノ
記載ガ讀ミ難キ場合ニ於テハ其ノ裏書
人ノ直接ノ前者ニ通知スルヲ以テ足
ル
通知ヲ爲スベキ者ハ如何ナル方法ニ依
リテモ之ヲ爲スコトヲ得單ニ爲替手形
ヲ返付スルニ依リテモ亦之ヲ爲スコト
ヲ得
通知ヲ爲スベキ者ハ適法ノ期間內ニ通
知ヲ爲シタルコトヲ證明スルコトヲ要
ス此ノ期間內ニ通知ヲ爲ス書面ヲ郵便
ニ付シタル場合ニ於テハ其ノ期間ヲ遵
守シタルモノト看做ス
前項ノ期間內ニ通知ヲ爲サザル者ハ其
ノ權利ヲ失フコトナシ但シ過失ニ因リ
テ生ジタル損害アルトキハ爲替手形ノ
金額ヲ超エザル範圍内ニ於テ其ノ賠償
ノ責ニ任ズ
第四十六條振出人、裏書人又ハ保證人
ハ證劵ニ記載シ且署名シタル「無費用
償還」、「拒絕證書不要」ノ文句其ノ他
之ト同一ノ意義ヲ有スル文言ニ依リ所
持人ニ對シ其ノ遡求權ヲ行フ爲ノ引受
拒絕證書又ハ支拂拒絕證書ノ作成ヲ免
除スルコトヲ得
前項ノ文言ハ所持人ニ對シ法定期間內
ニ於ケル爲替手形ノ呈示及通知ノ義務
ヲ免除スルコトナシ期間ノ不遵守ハ所
持人ニ對シ之ヲ援用スル者ニ於テ其ノ
證明ヲ爲スコトヲ要ス
振出人ガ第一項ノ文言ヲ記載シタルト
キハ一切ノ署名者ニ對シ其ノ效力ヲ生
ズ裏書人又ハ保證人ガ之ヲ記載シタル
トキハ其ヲ裏書人又ハ保證人ニ對シテ
ノミ其ノ效力ヲ生ズ振出人ガ此ノ文言
ヲ記載シタルニ拘ラズ所持人ガ拒絕證
書ヲ作ラシメタルトキハ其ノ費用ハ所
持人之ヲ負擔ス裏書人又ハ保證人ガ此
ノ文言ヲ記載シタル場合ニ於テ拒絕證
書ノ作成アリタルトキハ一切ノ署名者
ヲシテ其ノ費用ヲ償還セシムルコトヲ
得
第四十七條爲替手形ノ振出、引受、裏
書又ハ保證ヲ爲シタル者ハ所持人ニ對
シ合同シテ其ノ責ニ任ズ
所持人ハ前項ノ債務者ニ對シ其ノ債務
ヲ負ヒタル順序ニ拘ラズ各別又ハ共同
ニ請求ヲ爲スコトヲ得
爲替手形ノ署名者ニシテ之ヲ受戾シタ
ルモノモ同一ノ權利ヲ有ス
債務者ノ一人ニ對スル請求ハ他ノ債務
者ニ對スル請求ヲ妨ゲズ旣ニ請求ヲ受
ケタル者ノ後者ニ對シテモ亦同ジ
第四十八條所持人ハ遡求ヲ受クル者ニ
對シ左ノ金額ヲ請求スルコトヲ得
引受又ハ支拂アラザリシ爲替手形
ノ金額及利息ノ記載アルトキハ其ノ
利息
二年六分ノ率ニ依ル滿期以後ノ利息
三拒絕證書ノ費用、通知ノ費用及其
ノ他ノ費用
滿期前ニ遡求權ヲ行フトキハ割引ニ依
リ手形金額ヲ減ズ其ノ割引ハ所持人ノ
住所地ニ於ケル遡求ノ日ノ公定割引率
(銀行率)ニ依リ之ヲ計算ス
第四十九條爲替手形ヲ受戾シタル者ハ
其ノ前者ニ對シ左ノ金額ヲ請求スルコ
トヲ得
一其ノ支拂ヒタル總金額
二前號ノ金額ニ對シ年六分ノ率ニ依
リ計算シタル支拂ノ日以後ノ利息
三其ノ支出シタル費用
第五十條遡求ヲ受ケタル又ハ受クベキ
債務者ハ支拂ト引換ニ拒絕證書、受取
ヲ證スル記載ヲ爲シタル計算書及爲替
手形ノ交付ヲ請求スルコトヲ得
爲替手形ヲ受戾シタル裏書人ハ自己及
後者ノ裏書ヲ抹消スルコトヲ得
第五十一條一部引受ノ後ニ遡求權ヲ行
フ場合ニ於テ引受アラザリシ手形金額
ノ支拂ヲ爲ス者ハ其ノ支拂ノ旨ヲ手形
ニ記載スルコト及受取證書ヲ交付スル
コトヲ請求スルコトヲ得又所持人ハ爾
後ノ遡求ヲ爲スコトヲ得シムル爲手形
ノ證明謄本及拒絕證書ヲ交付スルコト
ヨヨハ
第五十二條遡求權ヲ有スル者ハ反對ノ
記載ナキ限リ其ノ前者ノ一人ニ宛テ一
覽拂トシテ振出シ且其ノ者ノ住所ニ於
テ支拂フベキ新手形(戾手形)ニ依リ遡
求ヲ爲スコトヲ得
戾手形ハ第四十八條及第四十九條ニ規
定スル金額ノ外其ノ戾手形ノ仲立料及
印紙稅ヲ含ム
所持人ガ戾手形ヲ振出ス場合ニ於テハ
其ノ金額ハ本手形ノ支拂地ヨリ前者ノ
住所地ニ宛テ振出ス一覽拂ノ爲替手形
ノ相場ニ依リ之ヲ定ム裏書人ガ戾手形
ヲ振出ス場合ニ於テハ其ノ金額ハ戾手
形ノ振出人ガ其ノ住所地ヨリ前者ノ住
所地ニ宛テ振出ス一覽拂手形ノ相場ニ
依リ之ヲ定ム
第五十三條左ノ期間ガ經過シタルトキ
ハ所持人ハ裏書人、振出人其ノ他ノ債
務者ニ對シ其ノ權利ヲ失フ但シ引受人
ニ對シテハ此ノ限ニ在ラズ
一覽拂又ハ一覽後定期拂ノ爲替手
形ノ呈示期間
二引受拒絕證書又ハ支拂拒絕證書ノ
作成期間
三無費用償還文句アル場合ニ於ケル
支拂ノ爲ノ呈示期間
振出人ノ記載シタル期間內ニ引受ノ爲
ノ呈示ヲ爲サザルトキハ所持人ハ支拂
拒絕及引受拒絕ニ因ル遡求權ヲ失フ但
シ其ノ記載ノ文言ニ依リ振出人ガ引受
ノ擔保義務ノミヲ免レントスル意思ヲ
有シタコトヲ知リ得ベキトキハ此ノ限
ニ在ラズ
裏書ニ呈示期間ノ記載アルトキハ其ノ
裏書人ニ限リ之ヲ援用スルコトヲ得
第五十四條法定ノ期間內ニ於ケル爲替
手形ノ呈示又ハ拒絕證書ノ作成ガ避ク
ベカラザル障碍(國ノ法令ニ依ル禁制
其ノ他ノ不可抗力)ニ因リテ妨ゲラレ
タルトキハ其ノ期間ヲ仲長ス
所持人ハ自己ノ裏書人ニ對シ遲滯ナク
其ノ不可抗力ヲ通知シ且爲替手形又ハ
補箋ニ其ノ通知ヲ記載シ日附ヲ附シテ
之ニ署名スルコトヲ要ス其ノ他ニ付テ
ハ第四十五條ノ規定ヲ準用ス
不可抗力ガ止ミタルトキハ所持人ハ遲
滯ナク引受又ハ支拂ノ爲手形ヲ呈示シ
且必要アルトキハ拒絕證書ヲ作ラシム
ルコトヲ要ス
不可抗力ガ滿期ヨリ三十日ヲ超エテ繼
續スルトキハ呈示又ハ拒絕證書ノ作成
ヲ要セズシテ遡求權ヲ行フコトヲ得
一覽拂又ハ一覽後定期拂ノ爲替手形ニ
付テハ三十日ノ期間ハ呈示期間ノ經過
前ト雖モ所持人ガ其ノ裏書人ニ不可抗
力ノ通知ヲ爲シタル日ヨリ進行ス一覽
後定期拂ノ爲替手形ニ付テハ三十日ノ
期間ニ爲替手形ニ記載シタル一覽後ノ
期間ヲ加フ
所持人又ハ所持人ガ手形ノ呈示若ハ拒
絕證書ノ作成ヲ委任シタル者ニ付テノ
單純ナル人的事由ハ不可抗力ヲ構成ス
ルモノト認メズ
第八章參加
第一節通則
第五十五條振出人、裏書人又ハ保證人
ハ豫備支拂人ヲ記載スルコトヲ得
爲替手形ハ遡求ヲ受クベキ何レノ債務
者ノ爲ニ參加ヲ爲ス者ニ於テモ本章ニ
規定スル條件ニ從ヒ其ノ引受又ハ支拂
ヲ爲スコトヲ得
參加人ハ第三者、支拂人又ハ旣ニ爲替
手形上ノ債務ヲ負フ者タルコトヲ得但
シ引受人ハ此ノ限ニ在ラズ
參加人ハ其ノ被參加人ニ對シ二取引日
內ニ其ノ參加ノ通知ヲ爲スコトヲ要ス
此ノ期間ノ不遵守ノ場合ニ於テ過失ニ
因リテ生ジタル損害アルトキハ參加人
ハ爲替手形ノ金額ヲ超エザル範圍內ニ
於テ其ノ賠償ノ責ニ任ズ
第二節參加引受
第五十六條參加引受ハ引受ノ爲ノ呈示
ヲ禁ゼゼル爲替手形ノ所持人ガ滿期前
ニ遡求權ヲ有スル一切ノ場合ニ於テ之
ヲ爲スコトヲ得
爲替手形ニ支拂地ニ於ケル豫備支拂人
ヲ記載シタルトキハ手形ノ所持人ハ其
ノ者ニ爲替手形ヲ呈示シ且拒絕證書ニ
依リ其ノ者ガ引受ヲ拒ミタルコトヲ證
スルニ非ザレバ其ノ記載ヲ爲シタル者
及其ノ後者ニ對シ滿期前ニ遡求權ヲ行
フコトヲ得ズ
參加ノ他ノ場合ニ於テハ所持人ハ參加
引受ヲ拒ムコトヲ得若所持人ガ之ヲ受
諾スルトキハ被參加人及其ノ後者ニ對
シ滿期前ニ有スル遡求權ヲ失フ
第五十七條參加引受ハ爲替手形ニ之ヲ
記載シ參加人署名スベシ參加引受ニハ
被參加人ヲ表示スベシ其ノ表示ナキト
キハ振出人ノ爲ニ之ヲ爲シタルモノト
看做ス
第五十八條參加引受人ハ所持人及被參
加人ヨリ後ノ裏書人ニ對シ被參加人ト
同一ノ義務ヲ負フ
被參加人及其ノ前者ハ參加引受ニ拘ラ
ズ所持人ニ對シ第四十八條ニ規定スル
金額ノ支拂ト引換ニ爲替手形ノ交付ヲ
請求スルコトヲ得拒絕證書及受取ヲ證
スル記載ヲ爲シタル計算書アルトキハ
其ノ交付ヲモ請求スルコトヲ得
第三節參加支拂
第五十九條參加支拂ハ所持人ガ滿期又
ハ滿期前ニ遡求權ヲ有スル一切ノ場合
ニ於テ之ヲ爲スコトヲ得
支拂ハ被參加人ガ支拂ヲ爲スベキ全額
ニ付之ヲ爲スコトヲ要ス
支拂ハ支拂拒絕證書ヲ作ラシムルコト
ヲ得ベキ最後ノ日ノ翌日迄ニ之ヲ爲ス
コトヲ要ス
第六十條爲替手形ガ支拂地ニ住所ヲ有
スル參加大ニ依リテ引受ケラレタルト
キ又ハ支拂地ニ住所ヲ有スル者ガ豫備
支拂人トシテ記載セラレタルトキハ所
持人ハ此等ノ者ノ全員ニ手形ヲ呈示シ
且必要アルトキハ拒絕證書ヲ作ラシム
ルコトヲ得ベキ最後ノ日ノ翌日迄ニ支
拂拒絕證書ヲ作ラシムルコトヲ要ス
前項ノ期間內ニ拒絕證書ノ作成ナキト
キハ豫備支拂人ヲ記載シタル者又ハ被
參加人及其ノ後ノ裏書人ハ義務ヲ免ル
第六十一條參加支拂ヲ拒ミタル所持人
ハ其ノ支拂ニ因リテ義務ヲ免ルベカリ
シ者ニ對スル遡求權ヲ失フ
第六十二條參加支拂ハ被參加人ヲ表示
シテ爲替手形ニ爲シタル受取ノ記載ニ
依リ之ヲ證スルコトヲ要ス其ノ表示ナ
キトキハ支拂ハ振出人ノ爲ニ之ヲ爲シ
タルモノト看做ス
爲替手形ハ參加支拂人ニ之ヲ交付スル
コトヲ要ス拒絶證書ヲ作ラシメタルト
キハ之ヲモ交付スルコトヲ要ス
第六十三條參加支拂人ハ被參加人及其
ノ者ノ爲替手形上ノ債務者ニ對シ爲替
手形ヨリ生ズル權利ヲ取得ス但シ更ニ
爲替手形ヲ裏書スルコトヲ得ズ
被參加人ヨリ後ノ裏書人ハ義務ヲ免ル
參加支拂ノ競合ノ場合ニ於テハ最モ多
數ノ義務ヲ免レシムルモノ優先ス事情
ヲ知リ此ノ規定ニ反シテ參加シタル者
ハ義務ヲ免ルベカリシ者ニ對スル遡求
權ヲ失フ
第九章複本及謄本
第一節複本
第六十四條爲替手形ハ同一內容ノ數通
ヲ以テ之ヲ振出スコトヲ得
此ノ複本ニハ其ノ證劵ノ文言中ニ番號
ヲ附スルコトヲ要ス之ヲ缺クトキハ各
通ハ之ヲ各別ノ爲替手形ト看做ス
一通限ニテ振出ス旨ノ記載ナキ手形ノ
所持人ハ自己ノ費用ヲ以テ複本ノ交付
ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ
所持人ハ自己ノ直接ノ裏書人ニ對シテ
其ノ請求ヲ爲シ其ノ裏書人ハ自己ノ裏
書人ニ對シテ手續ヲ爲スコトニ依リテ
之ニ協力シ順次振出人ニ及ブベキモノ
トス各裏書人ハ新ナル複本ニ裏書ヲ再
記スルコトヲ要ス
第六十五條複本ノ一通ノ支拂ハ其ノ支
拂ガ他ノ複本ヲ無效ナラシムル旨ノ記
載ナキトキト雖モ義務ヲ免レシム但シ
支拂人ハ引受ヲ爲シタル各通ニシテ返
還ヲ受ケザルモノニ付責任ヲ負フ
數人ニ各別ニ複本ヲ讓渡シタル裏書人
及其ノ後ノ裏書人ハ其ノ署名アル各通
ニシテ返還ヲ受ケザルモノニ付責任ヲ
負フ
第六十六條引受ノ爲複本ノ一通ヲ送
付シタル者ハ他ノ各通ニ此ノ一通ヲ保
持スル者ノ名稱ヲ記載スベシ其ノ者ハ
他ノ一通ノ正當ナル所持人ニ對シ之ヲ
引渡スコトヲ要ス
保持者ガ引渡ヲ拒ミタルトキハ所持人
ハ拒絕證書ニ依リ左ノ事實ヲ證スルエ
非ザレバ遡求權ヲ行フコトヲ得ズ
一引受ノ爲送付シタル一通ガ請求ヲ
爲スモ引渡サレザリシコト
二他ノ一通ヲ以テ引受又ハ支拂ヲ受
クルコト能ハザリシコト
第二節謄本
第六十七條爲替手形ノ所持人ハ其ノ謄
本ヲ作ル權利ヲ有ス
謄本ニハ裏書其ノ他原本ニ揭ゲタル一
切ノ事項ヲ正確ニ再記シ且其ノ末尾ヲ
示スコトヲ要ス
謄本ニハ原本ト同一ノ方法ニ從ヒ且同
一ノ效力ヲ以テ裏書又ハ保證ヲ爲スコ
トヲ得
第六十八條謄本ニハ原本ノ保持者ヲ表
示スベシ保持者ハ謄本ノ正當ナル所持
人ニ對シ其ノ原本ヲ引渡スコトヲ要
ス
保持者ガ引渡ヲ拒ミタルトキハ所持人
ハ拒絕證書ニ依リ原本ガ請求ヲ爲スモ
引渡サレザリシコトヲ證スルニ非ザレ
バ謄本ニ裏書又ハ保證ヲ爲シタル者ニ
對シ遡求權ヲ行フコトヲ得ズ
謄本作成前ニ爲シタル最後ノ裏書ノ後
ニ「爾後裏書ハ謄本ニ爲シタルモノノ
ミ效力ヲ有ス」ノ文句其ノ他之ト同一
ノ意義ヲ有スル文言ガ原本ニ存スルト
キハ原本ニ爲シタル其ノ後ノ裏書ハ之
ヲ無效トス
第十章變造
第六十九條爲替手形ノ文言ノ變造ノ場
合ニ於テハ其ノ變造後ノ署名者ハ變造
シタル文言ニ從ヒテ責任ヲ負ヒ變造前
ノ署名者ハ原文言ニ從ヒテ責任ヲ負
フ
第十一章時效
第七十條引受人ニ對スル爲替手形上ノ
請求權ハ滿期ノ日ヨリ三年ヲ以テ時效
三種類
所持人ノ裏書人及振出人ニ對スル請求
權ハ適法ノ時期ニ作ラシメタル拒絕證
書ノ日附ヨリ無費用償還文句アル場
合ニ於テハ滿期ノ日ヨリ一年ヲ以テ時
效ニ罹ル
裏書人ノ他ノ裏書人及振出人ニ對スル
請求權ハ其ノ裏書人ガ手形ノ受戾ヲ爲
シタル日又ハ其ノ者ガ訴ヲ受ケタル日
ヨリ六月ヲ以テ時效ニ罹ル
第七十一條時效ノ中斷ハ其ノ中斷ノ事
由ガ生ジタル者ニ對シテノミ其ノ效力
ヲヨル
第十二章通則
第七十二條滿期ガ法定ノ休日ニ當ル爲
替手形ハ之ニ次グ第一ノ取引日ニ至ル
迄其ノ支拂ヲ請求スルコトヲ得ズ又爲
替手形ニ關スル他ノ行爲殊ニ引受ノ爲
ノ呈示及拒絕證書ノ作成ハ取引日ニ於
テノミ之ヲ爲スコトヲ得
末日ヲ法定ノ休日トスル一定ノ期間內
ニ前項ノ行爲ヲ爲スベキ場合ニ於テハ
期間ハ其ノ滿了ニ次グ第一ノ取引日迄
之ヲ伸長ス期間中ノ休日ハ之ヲ期間ニ
算入ス
第七十三條法定又ハ約定ノ期間ニハ其
ノ初日ヲ算入セズ
第七十四條恩惠日ハ法律上ノモノタル
ト裁判上ノモノタルトヲ問ハズ之ヲ認
メズ
第二編約束手形
第七十五條約束手形ニハ左ノ事項ヲ記
載スベシ
ー證劵ノ文言中ニ其ノ證劵ノ作成ニ
用フル語ヲ以テ記載スル約束手形ナ
ルコトヲ示ス文字
二一定ノ金額ヲ支拂フベキ旨ノ單純
ナル約束
三滿期ノ表示
四支拂ヲ爲スベキ地ノ表示
五支拂ヲ受ケ又ハ之ヲ受クル者ヲ指
圖スル者ノ名稱
六手形ヲ振出ス日及地ノ表示
七手形ヲ振出ス者(振出人)ノ署名
第七十六條前條ニ揭グル事項ノ何レカ
ヲ缺ク證劵ハ約束手形タル效力ヲ有セ
ズ但シ次ノ數項ニ規定スル場合ハ此ノ
限ニ在ラズ
滿期ノ記載ナキ約束手形ハ之ヲ一覽拂
ノモノト看做做
振出地ハ特別ノ表示ナキ限リ之ヲ支拂
地ニシテ且振出人ノ住所地タルモノト
看做ス
振出地ノ記載ナキ約束手形ハ振出人ノ
名稱ニ附記シタル地ニ於テ之ヲ振出シ
タルモノト看做ス
第七十七條左ノ事項ニ關スル爲替手形
ニ付テノ規定ハ約束手形ノ性質ニ反セ
ザル限リ之ヲ約束手形ニ準用ス
裏書(第十一條乃至第一一十條)
二滿期(第三十三條乃至第三十七條)
三支拂(第三十八條乃至第四十二條)
四支拂拒絕ニ因ル遡求(第四十三條
乃至第五十條、第五十二條乃至第五
十四條)
五參加支拂(第五十五條、第五十九條
乃至第六十三條)
六謄本(第六十七條及第六十八條)
七變造(第六十九條)
八時效(第七十條及第七十一條)
九休日、期間ノ計算及恩惠日ノ禁止
(第七十二條乃至第七十四條)
第三者方ニテ又ハ支拂人ノ住所地ニ非
ザル地ニ於テ支拂ヲ爲スベキ爲替手形
(第四條及第二十七條)、利息ノ約定(第
五條)、支拂金額ニ關スル記載ノ差異
(第六條)、第七條ニ規定スル條件ノ下
ニ爲サレタル署名ノ效果、權限ナクシ
テ又ハ之ヲ超エテ爲シタル者ノ署名ノ
效果(第八條)及白地爲替手形(第十條)
ニ關スル規定モ亦之ヲ約束手形ニ準用
ス
保證ニ關スル規定(第三十條乃至第三
十二條)モ亦之ヲ約束手形ニ準用ス第
三十一條末項ノ場合ニ於テ何人ノ爲ニ
保證ヲ爲シタルカヲ表示セザルトキハ
約束手形ノ振出人ノ爲ニ之ヲ爲シタル
モノト看做ス
第七十八條約束手形ノ振出人ハ爲替手
形ノ引受人ト同一ノ義務ヲ負フ
一覽後定期拂ノ約束手形ハ第二十三條
ニ規定スル期間內ニ振出人ノ一覽ノ爲
之ヲ呈示スルコトヲ要ス一覽後ノ期間
ハ振出人ガ手形ニ一覽ノ旨ヲ記載シテ
署名シタル日ヨリ進行ス振出人ガ日附
アル一覽ノ旨ノ記載ヲ拒ミタルトキハ
拒絕證書ニ依リテ之ヲ證スルコトヲ要
ス(第二十五條)其ノ日附ハ一覽後ノ期
間ノ初日トス
附則
第七十九條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以
テ之ヲ定ム
第八十條商法第四編第一章乃至第三章
及商法施行法第百二十四條乃至第百二
十六條ハ之ヲ削除ス但シ商法其ノ他ノ
法令ノ規定ノ適用上之ニ依ルベキ場合
ニ於テハ仍其ノ效力ヲ有ス
第八十一條本法施行前ニ振出シタル爲
替手形及約束手形ニ付テハ仍從前ノ規
定ニ依ル
第八十二條本法ニ於テ署名トアルハ記
名捺印ヲ含ム
第八十三條第三十八條第二項(第七十
七條第一項ニ於テ準用スル場合ヲ含
ム)ノ手形交換所ハ司法大臣之ヲ指定
ス
第八十四條拒絕證書ノ作成ニ關スル事
項ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八十五條爲替手形又ハ約束手形ヨリ
生ジタル權利ガ手續ノ欠缺又ハ時效ニ
因リテ消滅シタルトキト雖モ所持人ハ
振出人、引受人又ハ裏書人ニ對シ其ノ
受ケタル利益ノ限度ニ於テ償還ノ請求
ヲ爲スコトヲ得
第八十六條裏書人ノ他ノ裏書人及振出
人ニ對スル爲替手形上及約束手形上ノ
請求權ノ消滅時效ハ其ノ者ガ訴ヲ受ケ
タル場合ニ在リテハ前者ニ對シ訴訟〓
知ヲ爲スニ因リテ中斷ス
前項ノ規定ニ因リテ中斷シタル時效ハ
裁判ノ確定シタル時ヨリ更ニ其ノ進行
ヲ始ム
第八十七條本法ニ於テ休日トハ祭日、
祝日、日曜日其ノ他ノ一般ノ休日ヲ謂
フ
第八十八條爲替手形及約束手形ニ依リ
義務ヲ負フ者ノ能力ハ其ノ本國法ニ依
リ之ヲ定ム其ノ國ノ法律ガ他國ノ法律
ニ依ルコトヲ定ムルトキハ其ノ他國ノ
法律ヲ適用ス
前項ニ揭グル法律ニ依リ能力ヲ有セザ
ル者ト雖モ他ノ國ノ領域ニ於テ署名ヲ
爲シ其ノ國ノ法律ニ依レバ能力ヲ有ス
ベキトキハ責任ヲ負フ
第八十九條爲替手形上及約束手形上ノ
行爲ノ方式ハ署名ヲ爲シタル地ノ屬ス
ル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
爲替手形上及約束手形上ノ行爲ガ前項
ノ規定ニ依リ有效ナラザル場合ト雖モ
後ノ行爲ヲ爲シタル地ノ屬スル國ノ法
律ニ依レバ適式ナルトキハ後ノ行爲ハ
前ノ行爲ガ不適式ナルコトニ因リ其ノ
效力ヲ妨ゲラルルコトナシ
日本人ガ外國ニ於テ爲シタル爲替手形
上及約束手形上ノ行爲ハ其ノ行爲ガ日
本ノ法律ニ規定スル方式ニ適合スル限
リ他ノ日本人ニ對シ其ノ效力ヲ有ス
第九十條爲替手形ノ引受人及約束手形
ノ振出人ノ義務ノ效力ハ其ノ證劵ノ支
拂地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム
前項ニ揭グル者ヲ除キ爲替手形又ハ約
束手形ニ依リ債務ヲ負フ者ノ署名ヨリ
生ズル效力ハ其ノ署名ヲ爲シタル地ノ
屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定ム但シ遡
求權ヲ行使スル期間ハ一切ノ署名者ニ
付證劵ノ振出地ノ屬スル國ノ法律ニ依
リ之ヲ定ム
第九十一條爲替手形ノ所持人ガ證劵ノ
振出ノ原因タル債權ヲ取得スルヤ否ヤ
ハ證劵ノ振出地ノ屬スル國ノ法律ニ依
リ之ヲ定ム
第九十二條爲替手形ノ引受ヲ手形金額
ノ一部ニ制限シ得ルヤ否ヤ及所持人ニ
一部支拂ヲ受諾スル義務アリヤ否ヤハ
支拂地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定
ム
前項ノ規定ハ約束手形ノ支拂ニ之ヲ準
用ス
第九十三條拒絕證書ノ方式及作成期間
其ノ他爲替手形上及約束手形上ノ權利
ノ行使又ハ保存ニ必要ナル行爲ノ方式
ハ拒絕證書ヲ作ルベキ地又ハ其ノ行爲
ヲ爲スベキ地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ
之ヲ定ム
第九十四條爲替手形又ハ約束手形ノ喪
失又ハ盗難ノ場合ニ爲スベキ手續ハ支
拂地ノ屬スル國ノ法律ニ依リ之ヲ定
ム
〔國務大臣小山松吉君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=9
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010・小山松吉
○國務大臣(小山松吉君) 只今議題トナリ
マシタ手形法案ニ付テ御說明ヲ申上ゲマ
ス、政府ニ於キマシテハ現行商法中時勢
ノ進運ニ伴ヒマシテ、改正ヲ要スベキモノ
アリト認メマシテ、曩ニ其要綱ヲ如何ニスベ
キカヲ法制審議會ニ諮問イタシタノデアリ
マスガ、其中、爲替手形及約東手形ニ關スル
規定ニ付キマシテハ同會ニ於テ之ヲ爲替
手形及約束手形ニ關シ、統一法ヲ制定スル
條約ノ附屬書トナッテ居リマスル手形統一
法ノ如ク、改正スルヲ相當ト認ムル旨ノ
決議ガゴザイマシテ、法制審議會總裁ヨリ其
旨ノ答申ガアッタノデゴザイマス、此手形統
一法ヲ制定スル條約ト申シマスルモノハ
一昨年卽チ昭和五年國際聯盟招聘ノ下ニ開
カレマシタ手形及小切手法規統一ノ國際會
議ニ於テ成立イタシタモノデアリマシテ、
我國モ同年九月五日調印イタシタノデアリ
やく、之ニ依リマスレバ「各締約國ハ條約ノ
附屬書タル手形統一法ヲ各自ノ領域內ニ施
行スルコトヲ約ス」ト云フコトニナッテ居リ
マスルカラ、締約國タル各國ハ何レモ之ヲ
國內法トシテ施行セネバナラヌノデアリマ
ス、而シテ此手形統一法ノ沿革ヲ申上ゲマ
スルト、此統一法ハ明治四十五年ニ和蘭國
海牙デ開カレマシタ手形法規統一萬國會議
ニ於テ成立イタシマシテ、其後多年歐洲各
國竝ニ我國ニ於テモ〓究イタシテ居リマシ
タ手形統一規則ト云フモノヲ骨子ト致シマ
シテ、之ニ多少ノ修正ヲ加ヘタ程度ノモノ
デアリマス、之ヲ我ガ現行商法ニ比較イタ
シテ見マスルノニ、實際上ニ於テモ理論上
ニ於テモ優レタ點ガ尠クナイノデアリマ
ス依テ政府ハ右手形統一法ニ基キマシテ
司法省内ニ委員會ヲ設ケ、愼重ニ調査審議
ヲ重ネマシタ結果、手形法案ノ脫稿ヲ見タ
ノデアリマス、尙ホ右「ジユネーブ」ノ條約
二、各國ガ批准ヲ爲シ得ベキ期限ガ定メ
テアリマス、ソレハ千九百三十二年卽チ本
年ノ八月三十一日迄デアリマス、且ツ其條約
ノ效力ガ發生イタシマスル爲ニハ、國際聯盟
理事會ニ常任代表者ヲ出シテ居リマスル聯
盟國ノ三箇國ヲ包含シマシタル七箇國ノ批
准又ハ加入ガアルコトヲ必要トシテ居リマ
ス、其關係カラシテ聯盟理事會ニ常任代表
者ヲ出シテ居リマスル我國ト致シマシテ
ハ曩ノ海牙手形法規統一萬國會議以來多
年〓究ヲ重ネマシテ漸ク其一成果ヲ見マシ
タ所ノ手形統一ノ事業ニ付テ國際的ニ協力
シテ行ク上ニモ責任アル立場ニアリマスノ
デ、右批准期限ノ定ノアル關係ヨリ致シマ
シテ、今會議ニ本法案ヲ提出イタシタ次第
デゴザイマス、本法案ハ我ガ現行商法第四
編中ノ爲替手形及約束手形ノ規定ノ部分ニ
代ハルモノデアリマス、然ルニ之ヲ商法ノ
一部改正ト致シマセズシテ、別ノ法律ト致
シマシタノハ立法上竝ニ實際上ノ便宜ニ
出デタモノニ外ナラナイノデアリマス其
內容ヲ申上ゲマスルト、第一編爲替手形第
二編約束手形及附則ノ三部分ヨリ成ッテ居
リマシテ、其中ノ第一編第二編ハ右手形統
一法ヲ翻譯イタシマシタ部分デアリマス、
附則ハ手形法ヲ施行スルニ必要ナル規定ノ
外、國際手形法ノ規定ヲ包含シテ居リマス、
此國際ノ手形私法ノ部分ハ、是モ統一法制
定條約ト同時ニ成立イタシマシテ、是ト姉
妹關係ニアル手形ニ關シ法律ノ或牴觸ヲ解
決スル爲ノ條約ニ基クノデアリマス、本法
案第一編第二編ノ部分ニ於テ現行商法ヨリ
優レテ居ル點ノ尠クナイト云フコトヲ申上
ゲマシタガ、其主要ナルモノヲ申シマスレ
バ手形上ノ前者ニ對スル遡求ニ付キ擔保
請求ト償還請求ノ二權ヲ認メナイコトニ致
シマシテ償還請求ノ一ツノ權利ノミヲ認
メタコトデアリマス、次ハ一覽拂及ビ一覽
後ノ定期拂ノ手形ニ利息ノ文句ヲ認メタコ
トデアリマス、次ハ質入裏書ヲ認メタコト
デアリマス、次ハ手形交換所ニ於ケル手形
ノ呈示ニ支拂呈示タルノ效力ヲ認メタコト
デアリマス、次ハ不可抗力ノ場合ニ遡求權
保全行爲ノ期間ノ伸長ヲ認メタコト等デア
リマス、是等ノ詳細ニ付キマシテハ何レ特
別委員會ニ於テ御說明イタス機會ガアルト
存ジテ居リマス、何卒愼重御審議ノ上速ニ
御協贊アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=10
-
011・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 別ニ御質疑モナ
イト認メマスカラ、次ノ日程ニ移リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=11
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012・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 右議案ノ審査ヲ
付託スベキ特別委員ノ選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=12
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013・東園基光
○子爵東園基光君 只今議題トナリマシタ
特別委員ノ選擧ニ付キマシテハ今期議會
ヲ通ジマシテ、特別ノ場合ヲ除キマスル外、
委員ノ數ヲ九名ト致シマシテ、此選擧ハ方
法ヲ省略イタシマシテ、議長ニ御一任イタ
シタイト思ヒマス、右動議ヲ提出イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=13
-
014・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=14
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015・池田政時
○子爵池田政時君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=15
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016・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 東園子爵ノ動議
ニ御異存ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=16
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017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス、特別委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗
讀ヲ致サセマス
〔山本書記官朗讀〕
手形法案特別委員
侯爵佐佐木行忠君伯爵橋本實斐君
子爵秋月種英君水上長次郞君
木場貞長君山川端夫君
男爵渡邊修二君各務鎌吉君
澤田喜彥君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=17
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018・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ通告順ニ
依リマシテ、國務大臣ノ演說ニ對スル質疑
ヲ許シマス、高橋琢也君ノ登壇ヲ望ミマス
〔高橋琢也君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=18
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019・高橋琢也
○高橋琢也君 會期モ短カイ場合デゴザイ
マスルカラ、長イ質問ハ固ヨリ致シマセヌ
積リデゴザイマス、今日ハ總理大臣ガ御見
エニナリマセヌヤウデゴザイマスガ、昨日
總理大臣ガ施政ノ方針ヲ御演說ニナリマシ
タ、能ク各方面ニ行キ亙ッタ御演說デゴザ
イマシタ、其中ニ使命ノ第一、第二ト云フモ
ノヲ擧ゲラレマシテ、第二ノ中ニ政界ノ淨
化ノコトガゴザイマシタ、黨弊ノ餘波ガ累
ヲ中央、地方ニ及ボスト云フコトマデ、仰
セニナリマシタカラ、此點ニ付テハ非常ニ
御憂慮ニナッテオイデニナルヤウデアリマ
ス、從フテ是等ニ付テハ淨化ヲ爲スベキ具體
的方案ガアルノデアラウト存ジマスル、固
ヨリ組閣〓々ト云フ時デゴザイマスルカ
ラ、今具體案ヲ御出シニナルコトノナイコ
トハ私モ承知シテ居リマスルケレドモ、併
シ殊ニ之ヲ使命トシテ御述ベニナック位デ
ゴザイマスルカラ、政界ノ淨化ヲ圖ラレル
上ニ於テハ、第一ニ斯ウ云フモノヲヤラナ
ケレバナラヌト云フコトハ成竹ガアッテノ
コトト存ジマス或ハ選擧法ノ改正、其中
ニモ衆議院議員ノ選擧法ノ改正ト云フヤウ
ナコトガ主ニナッテ居ルノデハナカラウカ
ト存ジマスルガ、幸ニ內務大臣ガ御出席ニ
ナッテ居ルヤウデゴザイマス、果シテ選擧法
ノ改正ヲ來議會ニデモ御出シニナルト云フ
御心算デゴザイマスルカ、承リタイト存ジ
マスル、選擧法ノ改正ハ衆議院議員ノ選擧
法ダケヲ改正シタノデ之ヲ淨化スルコトガ
出來ルヤ否ヤ、衆議院議員ダケ、卽チ中央
ノ政界ニ向ッテハ或ハ出來ルカモ知ラヌ、地
方デモ選擧ノ上ニハ餘程ノ淨化ガ出來マス
ルデゴザイマセウ、併シ御承知モゴザイマ
ス通リ、各地方議員、卽チ道府縣ノ議員、
ソレカラ市町村ノ議員マデモ今日ハ若シ
黨爭ヲスルト云ヘバ矢張リ是ハ及ンデ居
リマスル、從ッテ是等モ改正ニナル御積リデ
ゴザイマセウト存ジマスルガ、ソコラノ御
腹案ハ如何デゴザイマスルカ、又元、普通
選擧法ヲ出サレタト云フノハ、旣ニ政界ノ
淨化ヲ圖ルト云フ意味カラデアッタラウト
存ジマスル、ソレバカリヂヤナイ、一人デ
モ餘計國民ニ選擧權ヲ得サセル、所謂參政
權ヲ得サセルト云フ意味デアッタラウト存
ジマスル、ドチラカラ申シマシテモ、人數
ガ多クナレバソレダケ彼ノ忌ハシイ買收ナ
ント云フヤウナコトモ行ハレナクナルト云
フ所カラ、普通選擧ニナレバ屹度政界ハ···
選擧界ハ淨化セラレルダラウト云フ意味デ
アッタト存ジマスル、然ルニ今日ノ選擧場裡
ヲ見マスルト、マダ〓〓ナカ〓〓容易ニ選
擧場裡ノ弊害ガ除カレヌヤウデゴザイマ
ス併シ選擧民ガ多クナレバナルダケ、サ
ウ買收等ハ屆キマセヌカラ、自然淨化セラ
レルコトニナルダラウ、サスレバ男子バカ
リノ選擧權デナク、國民ノ半數ハ女子デス
カラ、女子ノ選擧權マデモヤルコトニナレ
バ一層淨化ガ出來ルコトニナラウカト私
ナドハ思ヒマスル、又是迄度〓参政權公民
權ト云フモノヲ女子ニ及ボサウト云フコト
ガ、既ニ時ノ政府ヂハ案モ出テ居ノタ位デゴ
ザイマス旣ニ選擧法ヲ改正セラレル御腹
案ガアルトスレバ、女子參政權迄モ及ボサ
ウト云フヤウナ御考デゴザイマセウカ、之
ヲ一ツ伺ヒタイ、ソレカラ昨日對滿政策ニ
付テ首相ハ御述べニナッタ、今日ノ對滿政策
ト云フモノハ最モ困難ナ場合デアラウト存
ジマスル、デ之ニ付テハ私別ニ拓務大臣ニ
御尋ネシタイコトガアルノデゴザイマス、
總理大臣ノ御立場カラ御答ヲ願ヒタイト思
フコトハ、本日新聞紙上ニ屢、散見ヲシテ
居リマスル滿洲ノ四頭政治ト云フモノガ見
エテ居ル、此事ガ果シテ政府ニサウ云フ御
腹案ガアルノデゴザイマスカ、又是ハホン
ノ新聞紙ガ誤リ傳ヘテ書イテ居ルノデアル
ト云フコトデアルカ、此點ハ總理大臣ハ御出デ
ニナリマセヌナラバ、政府委員カラデモ總理
大臣ヲ代表シテ御答へ下サル御方ニ伺ヒタ
イト思フ、ソレカラ今一ツ昨日ノ御演說中
ニ失業ノ救濟ヲ圖リ、農民ノ安定ヲ云々ト
云フコトガアッタヤウニ存ジマスル、農民ノ
生活ノ安定ハ勿論今日ハ最モ大事デアル
此點ニ付テハ私ハ別ニ農林大臣ニモ伺フ積
リデアリマス、併シ失業者ヲ救濟スルト云
フコトバカリデ、他ノ社會政策ニハ何事モ
言及シテ御出デニナリマセナンダヤウニ存
ジマスル、之ニ向ッテハ既ニ是迄委員會モ
設ケ、社會局モ特設シテアル位デアルカラ、
唯失業者ヲ救濟スル、ソレガ爲ニハ公債ヲ
發行シテ斯ウスルト云フコトダケデナク、
例ヘバ社會保險、失業保險ト云フヤウナモ
ノモゴサイマセウ、又勞働組合ト云フヤウ
ナモノニ對シテモ、政府ニ色々政策ノ御腹
案ガアルダラウト存ジマス、サスレバ之等
ニ付テ伺フコトガ出來マスルナラバ、ドナ
タカラデモ宜シイ、國務大臣若クハ政府委
員ノ中カラ御答ヘ下サッテモ宜シイ、之ヲ
伺ヒタイト存ジマス、ソレカラ農林大臣ニ
私ハ伺ヒタイ、旣ニ總理大臣モ農村ノ救濟
ニ付テ非常ニ御憂慮ニナッテ居リ、ソレノ
御腹案モアルノデアラウト思ヒマスルノハ、
昨日ノ御演說ニモゴザイマシタ、併シドウ
云フ風ニシテ農民ノ生活ヲ安定セラレル
カ、農民ノ疲弊ガ今日ニ及ンダノハ獨リ
一般ノ經濟界ノ不況バカリデハナイ、其ノ
此ニ及ンダ原因ハ遠因モアリ近因モアル、
是等ハ農林當局ハ十分ニ御調ベニナッテ居
ルデアラウト存ジマス、五百万ノ農民ガド
ウシテ救ハレマスカ、之ヲ今救ハレルコト
ニナッタ、殊ニ今日ハ生絲ノ處分ニ付テ確カ
農林省デハ過日來夜ヲ徹シテ御調査ニナ
リ、會議ヲセラレルトカ云フヤウナコトガ
新聞ニモ出テ居リマス、是ハ其後ドウ云フ
ヤウナ結果ニナリマシタカ、生絲一點デス
ラ斯ノ如シ、其生絲ノ始末モマダ今日マデ
付イテ居ラナイヤウニ伺ヒマスガ、ドウ云
フ所ニ是ハナッテ居リマスルカ、今農民ガ全
ク死線ニ立ッテ居ルノハ殊ニ生絲デアル、ソ
レカラ米デス、私ハ遠因マデ申上ゲタクハ
ナイガ、併シ恐ラク農林政策程是マデ振ハ
ナイモノハナカラウト思フ、ソレハ何デ
アルカ、元來農ト林ト云フモノハ一家デ
言ヘバ夫婦ミタヤウナモノデアル、是ガ必
ズ手ヲ携ヘテ仕事ヲシテ行カナケレバ農民
ハ生活ハ出來得ナイ、農、林一個一個ニ付テ
申シマスナラバ、二千万町步、山林ヲ上ニ
持ッテ居ルサウ、シテ自分達ガ稼グ耕地ハ六
百万町步、六百万町步ヘ肥料ヤ水ヲ供給シ
テ吳レル森林ハ、是ハ抛ッテ置イテモ絕エズ
シテ吳レル、併シ森林ヲ伐リ開ケバ水源ハ
枯渴シテシマフカラ、無論是ハイケナイ、其
森林ナルモノノ養成ハ最モ大事デアルシ
又農家ト云フモノハ御承知ノヤウニ秋ノ取
入ヲ仕舞ッタラ冬ハ仕事ガ無イ、仕事ガナイ
ト云ッテ遊ンデハ居ラレナイ、ソレデハ又生
活ヲシテ行カレナイ、必ズ森林ニ依ッテ生活
ヲスル、丁度農業ノ閑ナ時ニ宜イ工合ニ冬伐
シ運材ヲスル······木材ヲ運搬スル、之ニ從事
シテ自分達ノ仕事モ出來、金モ得ラレテ、ソレ
デ農民ハ生活スル、例ヘバ北海道ノヤウナ
開墾デモ、森林ノ麓デナカッタラ殆ド開墾ハ
出來マセヌ、冬ノ仕事ガアッテ是デ生活ガ出
來ルカラデアル、農民個人トシテモ此森林
ヲ持タナイモノハ非常ニ困難ヲスル、況ヤ
肥料モ森林カラ取ラナケレバナラナイ、ソ
レ故ニ農林ト云フモノハ殆ド夫婦關係ノヤ
ウナ、一家ノ夫婦關係ノヤウナモノデナク
テハナラナイ、其位ノコトハ當局ノ官吏ハ
知ッテ居ル筈デアルト思フノデス、思フケレ
ドモ、實際ソレヲヤッテ居ラナイ、農業〓育、
林業〓育ニ付テハ、御承知ノ如ク農科大學
ト云フモノガ立派ニ立ッテアル、併シ其農科
大學ガ何ヲシテ居リマス、農科大學ヲ出タ
モノニハ林學博土、農學博土モ居リマス、
併ツ是等ノ者ガ山林局長トカ農務局長トカ
ニナッタト云フコトヲ私ハ聞カナイ、中ニハ
アルカモ知ラヌガ聞イタコトガナイ、左ス
レバ他ノ學問ヲ修メタ者ガ其局ニ當ッテ居
ル、他ノ學問ヲ修メタ者ガ素人デアル、農
林經濟ニ向ッテ素人デアル、農林行政ニ向フ
テ素人デ、農林政治ニ向ッテ全ク無智ノ人
間デアル、何モ知リヤシナイ、ソレガ矢張
リ當局ニ立ッテ居ルノデス、何ニモ知ラナイ
人ガ何時デモ其局ニ當ノテ居ル、恐ラクハ齋
藤總理大臣ハ是等ノ弊ヲ矯メヤウト思ウテ
今囘ハ後藤サンノヤウナ偉イ人材ヲ拔擢シ
テ農林大臣ニセラレタノデアラウト私ハ信
ジテ居ル、洵ニ私ハ前途有望ナモノデアラ
ウト思ウテ非常ニ喜ンデ居リマス、ガ是ハ
〓育ノ方ノ當局ニモ關係ガアル、總テノ方
面ヲ淨化スルト同時ニ總テノ方面ノ事業ト
經濟トガ疏通スルヤウニシヤウト云フノニ
ハ、〓育方面デモ少シ注意ヲシテ貰ヒタイ、
斯ウ云フヤウナ遠因ガアッテ農林經濟ト云
フモノガ兎角振ハナイ、今日ノヤウナ行詰マ
リニナッタ所デ、如何トモシヤウガナイヤウ
ナ有樣ニ世人ガ言フノデス、ドウ致シマセ
ウカ、此五十億ト云フ借金ヲ背負"テ居ル農
民ヲドウシテ之ヲ救ヒマスカ、新農林大臣
ニハ必ズ其御經綸ガ、御抱負ガアルノデア
ラウト存ジマスル、之ヲ一ツ承ハリタイ、
ソレカラ對滿蒙ノ政策、之ニ付テハ拓務大
臣ニ伺ヒタイ、拓務大臣ハ御就任ノ時新聞
記者ニ向テテカ、新日本ヲ建設スルトカ云フ
ヤウナ新シイ標語ヲ御出シニナッテ居ルヤ
ウデアル、果シテサウデアレバ誠ニ結構デ
アル、去リナガラ唯新日本デハ、新日本ト
云フコトハドウ云フコトヲスルノデアル
カ、之ヲ具體化スル場合ニハドウナルノデ
アルカト云フコトガ、直グ其處ニ起,テ來ル
問題デアル、定メシ之ニ付テハ何人モ首肯
シ得ラレル所ノ御意見ガアルノデアラウト
思ヒマス、今ノ新滿洲國ト云フモノハ、承
ハレバ人口三千万ト云フ、人口三千万ト言
ヘバ英佛ニ次デノ大國デアル、此大國ガ滿
洲ニ新タニ出來タ、其大國ハドウシテ仕事
ヲシテ行キマスカ、ソレゾレノ役人モ置カ
ナケレバナラヌ、他ノ各國ニモソレダケノ
色ミノ人マデ出シテ、御承知ノ如ク軍隊モ
置カナケレバナラヌ、斯ウ云フコトニナッテ
居ル曩ニ此新國家ガ出來タ場合ニ何レノ
御口入レカ存ジマセヌガ、政府、滿鐵ハ兎
モ角三井、三菱カラ二千万圓借款ヲヤラレ
タト云フコトデアル二千万圓位ノ金ハ、
英佛ニ次グヤウナ大國ガ二千万圓ノ金ヲ
ヤッタトコロデ、ソレハマルッキリ燒石ニ水
ト云フ譬ガアルガマダヒドカラウト思フ
況ヤ滿洲ノ新國家ニハ鑛山其他大變ナ資源
ガアルト云フ、其資源ヲ開發スルト云フ場
合ニハ非常ナ金ガ要ルト云フコトニ承ハッ
テ居ル又其通リデセウ、一億ヤ二億ノ金
ハ直グニ要リマセウ、此金ハ何處カラ出マ
スノカ、日本ガ既ニアノ新國家ヲ保護シテ
ヤル意味デアルナレバ、是等ノ途ハ日本ガ
開ケテヤラナケレバナラヌト云フヤウナ論
ニ歸著スル、ケレドモ中ミ日本デサウ云フ
餘裕ハナカラウト思フ、併シ新國家、新日
本ヲ建設スルヤウナ御考デアレバ是等モ
序デニ保護シテヤッテ一億二億ノ金ハ何時
デモ出シテヤラウト云フ御考デアルカモ知
レナイ、之ヲ伺ヒタイ、私ハ昭和四年、ド
ウカシテ日本ノ移民ヲ滿洲、蒙古、西比利
亞ノ方マデモ出來得ルナラバシタイト思ウ
テ、故ラニ調査ニ參リマシタ、其節ニ各領
事館其他軍部邊リノ人ト色ミ折衝ヲシテ、
交際ヲシテ尋ネテ見マシタガ、中ミ困難ナ
事ガ多イ、殊ニ日本ノ人ガ滿洲ニ行ッテ
合辦ヲヤッテ支那人ニウマク瞞サレテ、今ダ
ニドウスルコトモ出來ナクナッテ居ル、滿鐵
ヲ初メ既ニ森林バカリデモ大層ナ金ガ要っ
テ居リマスヨ、中ミ三千万圓ヤ五千万圓ノ
金ヂヤアリマセヌ、如何トモスルコトハソ
レハ出來ナイ、中ミソコニ至ルト支那人ト
云フモノハエライモノデス、ウマイコトヲ
スルモノデス、日本人ヲ瞞スコトナンソハ
實ニエライ、其時ニ哈爾賓ノ日本商工會議
所デ調ベテ貰ック、所ガ幸ヒニ丁度斯ウ云フ
調ベガ出來テ居リマスト云フノヲ見ルト、
支那ノヤリ方ノ惡イ事柄ガ三十二件アルノ
デス、時間ガゴザイマセヌカラ一々此處デ
擧ゲル譯ニ參リマセヌ、其中ニ最モ日本ニ
緊切シテ困マル事項ガ二十四モアル、ソレ
ニ困ヲテ居ル、當時ノ外交ガ或ハ世ニ謂フ
軟弱ト云フノデモアッタノデセウ、今日ノ滿
洲ノアノ事ノ起ッタ原因ト云フモノハ是等
ノ事ガ因ニナッテ起ヲテ居リハシナイカト私
ハ思ヒマスル、然ルニ此位ノ所デアルカラ
今私ガ申シタ移民ノ事モ誠ニ宜イ何ガ出來
ル、殊ニ木材ノ方ニ至ッテハ豐富デモアリ又
仕易イ所ガアルノデス、又今囘新國家ガ出
來タニ付キマシテハ新聞紙ニ依ルト五十
万ノ移民ヲスルト云フ是ハ無論出來マセ
ウ、アノ大キナ所デスカラ、又伊太利ガ隣
リ同志デ居ノテサヘ佛蘭西ニ百万ノ移民ヲ
シテ居ル位デスカラ、アノ開ケタ國デサヘ
サウナンデスカラ、況ヤ滿洲ヤ蒙古ヘ行ケ
バ五十万ノ移民ガ出來ル、併シ五十万ノ移
民ヲスルノニハ政府ハドウナサル御積リ
カ、補助ガナケラニヤ中ミ容易デアリマス
マイ、朝鮮人ガ八十万モ出テヤッテ居ッテモ
是ガ容易ナコトデナイ、今度ノヤウナヒド
イ目ニ遭フ、又之ヲ保護スル機關モナクチ
ヤナラヌ、政府デハ果シテサウ云フヤウナ
御計畫ガアルノデアルカ、ソレハ唯新聞紙
ガ無稽ナコトヲ傳ヘテ居ルノデアルトスレ
バソレデ宜シイ、政府ノ御考ガ此處ニアリ
ト思フカラシテソレヲ伺フ、ソレカラ今一
ツ私ハ伺ヒタイノデアリマス、是ハ矢張リ
植民地ニ關シテ拓務大臣ニ伺ッテ宜シイ、
體ハ總理大臣ニ伺ハウト思フタノデスガ、
植民地ノ大官ノ屢〓更迭スルト云フコトハ、
餘程注意ヲ要スルコトデアルト思フノデア
ル御承知ノ如ク獨逸ガ千八百七十年ニ佛蘭
西カラ「アルサス、ロートリンゲン」ヲ割イ
テ取ッタ、ソレニ對シテ千八百七十四年ニ陸
軍ノ大改革ヲスル場合ニ、當時ノ獨逸ノ名將
「モルトケ」ガ議會デ言ッテ居ル、戰時半年
デ占領シタ國ハ、兵ヲ以テ五十年守ラナケ
レバ失フツト云フコトヲ言ッテ居ル、私ハ名
言ダト思ヒマシタ、デ又御承知ノヤウニ佛蘭
西ノ法律デモ何デモ土地ハ割イタガ其儘實
行シテ居ル、歷史ノ異ナル國民ニ向ッテ新シ
イ國ノ法律ヲドシ〓〓ヤッタ日ニハ國民
ハ堪ヘ得ラレルモノデハナイ、デ是ト合セ
テ、私ガズット以前ノ總督デ兒玉源太郞君ガ
陸軍大臣デ兼ネテ行ッタ時分ニ、一夕僕ノ所
へ遊ビニ來タカラ、君ハ斯ウ云フコトヲ知ッ
テ居ルカト言フタ、サウカソレハ初耳ダ、「モル
トケ」ハ斯ウ言ッタガ、五十年間ヲ以テ守ラ
ナケレバ失フゾト言ッタ、ソレハ宜イコトヲ
聞イタト斯ウ言ッタ、丁度今囘佛蘭西ニアレ
ヲ返サニヤナラヌコトニ至ッタノガ、ソレカ
ラ四十八年後ト思ヒマス、サウ云フヤウナ
コトデアルカラ臺灣ノヤウナ新シク謂ハバ
新附ノ國民デアル、之ニ向ッテ私ハ仕事ハ
何事ニ限ラズ餘程注意ヲ要スル、從テ屢〓
斯ウ云フ植民地ノ官吏ヲ更ヘルト云フコト
ハ餘リ得策デナイト私ハ考ヘル、併シ今囘
ハ幸ニシテ中川健藏君ノヤウナ良イ人ガ行
キマシタカラ、是ハ誠ニ結構デアル、結構デ
アルガ政府ノ御方計ハドウアルカト云フコ
トニ付テ、私ハサウ云フヤウナコトガアル
ト、甚ダ面白クナイ、デ之ニ付テノ御方針
ヲ······、人事行政ニ付テ居ルコトダカラ、ソレ
ハ言ヘヌト仰シヤレバソレマデノ話、今一
ツハ上海ノ先般ノ大事件デス、爆彈事件デ
ス、アノ爆彈事件ト云フモノハ實ニ何トモ
我〓ハ言葉ガ出ナイ、白川大將ノ遺骸ヲ凱
旋トシテ御迎ヘシナケレバナラヌニ至ッテ、
何トモ言ヒヤウガナイ、是ニハ軍司令官ヲ
初メ其他ノ要部ノ將官、文官トシテハ公使、
總領事、又上海ノヤウナ五万モ日本人ガ行〃
テ居ルト云フ所ノ民〓長ハ遂ニ之ニ斃レ
タ、此事柄ハ其後ドウ云フ者ガ之ヲヤッタノ
カ、是ハ確カニ朝鮮人デアルト云フコトダ
ケハ新聞ニ出タガ、果シテ朝鮮人ガソレヲ
ヤッタコトデアルナラバ尙ホ以テノ話、御調
査ガ速ニ出來テ居ル筈、併シ朝鮮人バカリ
デナイ、他ニ共謀ガアルト云フ、他ニアルト
スレバソレハ何處ノ人デアルカ、ドウ云フ人
デアルカ、又之ヲ昨日ハ確カ餘リ詳シク御
報〓ガナカッタヤウニ思ヒマス、又一面カラ
言フト上海ニハ警察官モ居リ、憲兵モ居リ、
又軍部ニハ牒報ノ役人ガ何處ニモ居ル、而
モ休戰中デアルカラトハ云ヘ、矢張リ陸海軍
ガ駐屯シテ居ル所デアル、寫眞デ見マスル
ト、チヨット手ヌカリデハナカッタカト云フ
ヤウナ點モ見エル、ソレ故ニ國民ハドウ云
フコトカラ起ッタノカ、何處ニ責任者ガアル
ノカト云フコトモ不安ヲ感ジテハ居ラヌカ
ト思フノデス、是ハドナタカラデモ宜シイ、
決シテ軍部大臣ノ御答辯デナクテ宜シイ、
ドナタカラデモ宜シイ、御答辯ヲ承ハリタ
イ、私ノ質問ハ是デ終リデアリマス
〔國務大臣男爵山本達雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=19
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020・山本達雄
○國務大臣(男爵山本達雄君) 只今高橋君
ヨリ御質問ノ事柄ニ付キマシテ、私ノ所管
ニ屬スルコトダケヲ御答ヲ致シマス、昨日
總理大臣ノ演說中ニ黨弊ヲ刷新スルコトニ
付テノ言葉ガアッタガ、ソレニ付テ選擧法ノ
改正ヲドウスルカト云フコトデアリマシ
ク、此衆議院議員選擧法ニ付キマシテハ是
マデ度〓改正ノコトニ付テハ論議サレテ居
ルノデアリマスガ、今ダニマダ斯ノ如ク改
正ヲシタラ宜カラウト云フ案ヲ持,テ居リ
マセヌ、從テ御質問ノ此女子參政權或ハ
公民權ノ如キモノニ付テモ無論考慮スベキ
コトト考ヘマス、併ナガラ此事タルヤ我國
ニハ曾テナイ初メテノ事デアリマスル故
ニ、種々ノ方面ニ於テ善惡ヲ調ベマシタ上
デ初メテ斷案ヲ下スノデアリマスルガ、今
日ハ〓究ハシテ居リマスガ、今ダニ斯クシ
タラバト云フコトノ論議ニ到達シマセヌコ
トデゴザイマス、先ヅ此衆議院選擧法ニ付
キマシテハ唯今十分〓究シテ居リマスト云
フコトヲ以テ御答ヲ致シタウゴザイマス、
ソレカラ地方行政ノ刷新ニ付キマシテモ、
是モ御承知ノ如ク相當ナル弊ガアルノデゴ
ザイアシテ、地方官ノ中ニハ殆ドスルコト
ガ行政官トシテスルカ、或ハ政治家デ爲ス
カ、殆ド物ニ依シテハ政治ト事務行政ト區別
ノ付カナイヤウナコトガ段々アルノデゴザ
イマス、斯ウ云フヤウナコトニ付キマシテ
ハ此地方ノ統制上ニ付テ重大ナル關係ガア
ルノデゴザイマス、斯ノ如キモノハ或ハ地
方官ニソレゾレ身分ノ保障ヲ爲スヤウナコ
トノ必要モ生マレルカト思フノデゴザイマ
ス、何トシマシテモ此地方官ノ行動ト云フ
モノハ、相當法律上ノミナラズ行政上ユ於
テ相當ナル制裁ヲ加ヘテ、サウシテ專ラ地
方行政、第一ニ殖產興業ノ如キモノニ心ヲ
大イニ用ヰル、動モスルト云フト政黨ニ心
ヲ用ヰルヤウナ間違ッタコトガアルノデゴ
ザイマスルカラシテ、斯ノ如キコトハ法律
ノミナラズ、行政ノ上ニ於テ十分ナル取締
ヲ致シタイト思ヒマス、市町村行政ノコト
ニ付キマシテハ、是ハ監督長官タルモノガ
十分ナル責任ヲ盡シテ居タナラバ、相當ナ
ル矯正ヲスルコトガ出來ルモノト思ヒマ
ス、次ニ社會政策ノコトデアリマスガ、今
日ノ社會ニ對スル此社會政策ト云フモノハ、
誠ニ時勢ニ對シテ必要ナコトデアリマシ
テ、今年一月ヨリ救護法ヲ施行シテ貧困者
ニシテ生活シ得ザル者ニ補助ヲ爲ストカ、
或ハ勞働者ニ扶助法ヲ行フトカ云フコトノ
外、各種ノ社會事業ヲ奬勵シツツアルノデ
ゴザイマス、又今日失業者ノ如キモノノ次
第ニ增シテ參リマシテ、今日デハ各府縣ヨ
リ調ベテ集メマシタ上ニ付テ、四十六万有
餘ニモナッテ居ルノデゴザイマスルカラシ
テ、斯ウ云フヤウナコトニ付テノ事業ヲ起
ス、或ハドウ云フ法ニ依ッテソレヲ救濟ス
ルカ、是マデ道路、港灣ナドニ付キマシテモ
相當救濟ノ途ヲ執ッテ居リマスルガ、尙ホ
此增スノニ當リマシテハ一層其途ヲ講ジタ
イト存ズルノデゴザイマス、之ヲ以テ御答
ト致シマス
〔國務大臣後、藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=20
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021・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 唯今ノ御質問ノ
中、農林省ノ關係ノ點ニ付キマシテ御答ヲ
致シタイト存ジマスガ、農村ガ非常ナ窮乏
ノ狀態ニ陷ヲテ居リマスト云フコトハ御說
ノ通リデアリマス、深ク同〓ヲ以テ之ヲ見
ナケレバナラヌト考ヘテ居リマス、其由ッテ
來ル遠因ハ澤山アルト云フ御話デアリマシ
タガ、實ニ其通リデゴザイマス、今更忽然
トシテ生ジタ狀況デハアリマセヌ、過去ニ
於ケル幾多ノ遠因ト又昨今ノ色ミナ内外ノ
狀況トガ、農村ノ今日ノ窮乏ヲ持チ來タシ
テ居ルノデアリマス、從テ是ガ救濟ノ手段
ト云フモノモ中ミ容易デハナイノデゴザイ
マス、非常ナ巨額ノ負債ニ苦ンデ居ル今日
ノ農民ヲドウシテ救ハムトスルカ、ドウ云
フ案ヲ持チ合セテ居ルカト云フヤウナ御尋
ネデゴザイマシタ、農村ノ負債ノ問題デア
ルトカ、或ハ農村ノ資金難ノ問題デアリマ
ストカ、農產物ノ價格ノ非常ニ下ッテ居ル
問題デアリマストカ、其外今日ノ農村ニ迫ツ
テ居リマスル問題ハ多々アリマス、之ニ付
キマシテハ其過去ノ政府當局者ニ於キマシ
テモ色〓苦心ヲ重ネテ、ソレゾレ出來得ル
事柄ヲ實行サレテ來テ居ルヤウデアリマ
ス、今囘御協賛ヲ願ッテ居リマスル豫算ノ
中ニモ、之ニ關スル方策ノ講ゼラレテ居ル
モノガゴザイマス、デ是迄イタシテ居リマ
スル事柄ノ尙ホ進ンデ有力ニ續行スベキモ
ノ等ハ、是カラモ十分ニヤッテ行キタイト
思ッテ居リマス、尙ホ是等ノ問題ニ向ヒマシ
テ十分ナ考究ヲ重ネテ、出來ルダケ何等カ
良イ途ヲ發見シテ參リタイ、最善ノ努力ヲ
致ス考デ居リマス、殊ニ昨今差迫ッタ問題
ニナッテ居ル生絲ノコトハドウナッテ居ルカ
ト云フ御尋デアリマシタ、高橋サンノ御心
配ナサレマスル通リニ、多量ノ滯貨生絲ト
云フモノガ存在シテ參ノテ居リマシテ、是ガ
一旦處分ヲサレタノデアリマスケレドモ、
其後ニ於ケル事情ノ變化ハ生絲ノ價ノ續落
トナリ、從テ是ガ將ニ今出盛リ期ニナラウ
トシテ居ル新繭ノ價ニモ影響シテ、直接ニ
農民ノ此窮乏シテ居ル狀態ヲ、更ニ壓迫ス
ルヤウナ形ニナッテ參ッテ居リマス、私就任
イタシマシテ以來日夜此問題ノ解決ニ付テ
苦心ヲ致シテ參ッテ居リマス、只今尙ホ〓心
ニ考究中デアリマス、何等カノ打開ノ途ヲ
發見シタイト努力ヲ致シテ居ル次第デアリ
マス、速ニ發見ヲ致シタイト努力ヲ致シテ
居ル次第デアリマス、ソレカラ農業ト林業
ト云フヤウナモノハ密接ナ關係ガアル、此
農林ノ關係ト云フモノニ是マデ或ハ考慮ノ
足ラヌ點ガアリハセヌカト云フヤウナ御趣
旨ノ御話ガゴザイマシタ、是ハ無論當局ニ
於キマシテモ、農業ト林業ト云フモノガ密
接ナ關係ガアル、殊ニ山村或ハ近クニ山ヲ
持ッテ居ル地方ノ農村ニ於キマシテハ、林業
ト農業トノ密接ナ關係ヲ十分ニ組合セテ行
クト云フコトガ、農家ノ經營ノ上カラ申シ
マシテモ非常ナ大切ナコトデアリマス、是
等モ、是等ノ點ニハ相當ニ矢張リ當局ニ於
テハ注意ヲ致シテ參ノテ居リマスガ、今後モ
十分ナ注意ヲ致シテ參リタイト存ジマシテ
居リマスル、ソレカラ今日ノ農村ノ窮乏シ
テ居ル原因ハ····遠因ハ多々アルデアラウ
ガ、其中ニ農林行政ノ方面カラ見テ、農林
ノ當局者殊ニ局長等ノ位置ニ就クモノガ農
林業ノ專門ノ人達デハナクシテ、素人ノ人
ガヤッテ居ルト云フヤウナコトモ面白クナ
イヂヤナイカト云フヤウナ趣旨ノ御話ガ
アッタヤウデアリマス、是ハ今日迄ニ於キマ
シテモ、農林ノ專門家ガ農林行政ニハ澤山
居リマシテ、十分ニ是等ノ人モ參加イタシ
テ居リマス、局長等ノ位置ニ當ル人ハ農
林專門ノ學問ヲ修メタ人デハアリマセヌ場
合ガ多カッタカモ知レマセヌケレドモ、無論
多年ノ經驗カラ農林行政ニ付テ、又農林ノ
專門ノコトニ付キマシテモ、相當ナ理解ヲ
持チ來ッタヤウナ人ガ當,テ居ルヤウナ譯デ
アリマス、併シ尙ホ此農林ノ專門ノ技術ノ
人達ト云フモノノ意見ヲ十分ニ尊重シ、之
ヲ有力ニ農林行政ノ上ニ現ハスト云フヤウ
ナコトハ是非努メネバナラヌ、努メタイト
思ヲテ居ルヤウナ次第デアリマス
〔國務大臣永井柳太郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=21
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022・永井柳太郎
○國務大臣(永井柳太郞君) 高橋サンノ御
質問ノ中デ、拓務省ニ關係ノアル部分ダケ
御答ヲ致シタイト存ジマス、第一ニ滿洲ニ
於ケル四頭政治ノ弊害ヲ取除ク爲ニ、何カ
考ヘテ居ナイカト云フ御言葉デアリマシ
タ、御承知ノ通り從來滿洲ニ於キマシテ關
東廳、關東軍、滿鐵竝ニ總領事館ト云フガ
如キ各種ノ機關ガアリマシテ、其間ニ滿洲
ニ於ケル權益ヲ擁護スル爲ニ、又在滿邦人
ヲ統制スル爲ニ、動モスレバ重複スルヤ
ウナ施設ヲ行フコトモアルヤウデゴザイマ
ス、又時トシテハ矛盾スルヤウナ命令ヲ出
シタコトモアッタト云フコトデアリマシテ、
屢〓非難ヲ聞イタノデゴザイマス、政府ト
致シマシテハ滿洲ニ對スル國策ヲ樹立シナ
ケレバナラナイ重大ナル時期デアリマスカ
ラ、此際所謂四頭政治ノ弊害ト云フコトニ
付キマシテハ十分ニ調査ヲ致シマシテ、將
來ハ滿洲ニ於ケル我國ノ權益ヲ擁護スル上
ニ於キマシテ、又在滿邦人ヲ統制スル上ニ
於キマシテ、十分適切ナル且ツ統一アル施
設ヲ行ヒ得ルヤウニ從來存在シテ居リマシ
タ各機關ノ改正ニ付テ考ヘタイト思フテ居
ルノデアリマス、サウシテ出來ルダケ責任
ノ所在モ明カニシ得ルヤウニ各機關ノ統一
ト改正トニ付テハ考ヘテ居ル所デゴザイマ
ス、第二ニ滿洲新國家ノ財政ガ非常ニ困難
デアラウ、又各種ノ經濟的活動ニ必要デア
ル資金ノ調達ノ上ニモ困難ヲ感ジテ居ルデ
アラウガ、政府ハ是等ノ問題ニ對シテ如何
ニ考ヘテ居ルカト云フ御尋デアッタヤウニ
存ジマス、滿洲新國家ノ當局者ハ滿洲新國
家ノ財政ノ建直シニ付キマシテモ、又經濟
組織ノ再建ニ付キマシテモ色ミ心肝ヲ碎イ
テ居ルコトデアラウト存ジマス、其當局者
ガ滿洲新國家ノ財政ノ建直シノ爲ニ、又經
濟組織ノ再建ノ爲ニ我國ノ援助ヲ求メテ參
リマスル場合ハ、我國トシテハ出來得ルダ
ケ好意ヲ以テ精神的、物質的ノ援助ヲ與ヘ
タイト考ヘテ居ルノデアリマス、又移民ニ
付テ既ニ何等カノ計畫ヲ立テテ居ルカト云
フコトモ併セテ御尋ニナッタト存ジマスガ、
御承知ノ通リ滿洲ハ尙ホ馬賊ノ出沒ガ頗ル
頻繁デアリマシテ、先ヅ其討伐ニ依シテ生活
ノ不安ヲ取除クト云フコトニ全力ヲ盡シテ
居ルノデアリマス、此馬賊、土匪ノ討伐ヲ
行ヒマスルト同時ニ、政府ト致シマシテハ
將來移民ヲ送リマスルニ付キマシテノ調査
モ今進メテ居ル譯デアリマス、政府ト致シ
マシテハ滿洲人ト十分ニ共存共榮スルコト
モ出來、又從來滿洲ニ移住イタシマシテ既
ニ種々ナル計畫ヲ立テテ居ル日本人ノ利益
トモ衝突シナイヤウナ方法デ出來得ルダケ
移民ヲ送ル計畫ヲ······出來得ルダケ多數ノ
移民ヲ送ル計畫ヲモ立テタイト考ヘテ居ル
所デアリマス、ソレカラ第三ニ、植民地ノ
當局者ヲ頻繁ニ更迭セシムルコトハ宜シク
ナイガ、政府ハ如何ニ考へテ居ルカト云フ御
尋デアッタト思ヒマス、政府トシマシテモ、植
民地當局者ヲ頻繁ニ更迭セシムルコトハ、
植民地ニ於ケル人心ヲ非常ナ不安ニ陷レマ
スルノミナラズ、折角植民地ニ在住シテ居
ル人々ガ產業其他ニ對シテ立テタ計畫ヲモ
左右セラルル危險ヲ感ズルコトデアリマシ
テ、植民地統制ノ上ニ好キ影響ヲ及ボスモ
ノトハ思ヒマセヌ、故ニ政府ト致シマシテ
ハ植民地統治ニ支障ヲ來スガ如キ已ムヲ
得ザル事情ガ發生イタシマセヌ限ハ單ニ內
關カ更迭シタト云フガ如キコトニ依ッテ、濫
ニ植民地ノ當局者ヲ更迭スル意思ヲ有ッテ
居ラナイト云フコトヲ申上ゲテ置キタイト
存ジマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=22
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023・高橋琢也
○高橋琢也君 一言デゴザイマスカラ此處
デ御許シヲ願ヒマス、只今拓務大臣ハ滿洲
ノ四頭政治ノ弊」害ト云フコトヲ仰シヤッタ
ガ、私ハ演壇ニ立チマシテアレダケ喋舌リ
マシタガ、弊害ト云フコトハ何モ一言モ言
ハナイ、從ッテアナタノ御聽キ違ヒダラウ
ト思ヒマスガ、四頭政治ト云フコトニ付テ
ハ、色〓一頭政治ニスルトカ何カト云フコト
モ新聞ニハ出テ居リマスルガ、ソレ迄深ク私
ハ御尋ネシナカッタ、併シ弊害ト云フコトダ
ケハ申シマセナンダカラ、若シアナタガ二
囘其處デ御述べニナッタガ、ソレヲ言ッタ
ト云フコトヲ御信ジニナフタラ、ソレハ御取
消ヲ願ヒマス、他ハモウ私ハ是デ質問ハ打
切リマス、今日ノ場合··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=23
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024・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 次ハ侯爵德川義
親君ニ發言ヲ許シマス
〔侯爵德川義親君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=24
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025・徳川義親
○侯爵德川義親君 私ハ昨年ノ東北及北海
道ニ掛ケテノ凶作ニ付キマシテ、其救濟及
ビ其凶作ノ原因等ニ付テ、大體ガ北海道長
官ニ御尋ネシタイト存ジマス、幸ニ內務大
臣モソレカラ農林大臣モ御出デニナリマス
カラ旁、此方ミニモ二三御質問シタイト
思ッテ居リマス、昨年ハ東北地方カラ北海
道ニ掛ケマシテ、非常ナ凶作ノ爲ニ農村
ハ打擊ヲ受ケタノデゴザイマス、一昨年ハ
ソレニ反シテ非常ナ豐作デアリマシタガ、
是ハ米ノ値ガ非常ニ下ッタ爲ニ、農村ガ矢張
リ打擊ヲ受ケタ、サウシテ見マスト農村
ト云フモノハ豐作デモ凶作デモ、共ニ苦マ
ナケレバナラナイ中央ニ於キマシテハ米ヲ
盛ンニ買上ゲテ居ルノニ、地方デハ米ガ無
クテ農民ガ自身飢餓ニ苦ンデ居ルト云フヤ
ウナ狀態ニナッテ居リマス、此農村ガ疲弊
イタシマシタ其原因ハ、是ハ農業ノ問題ヨ
リモ寧ロ農村ト云フモノガ政黨化シタ共爲
デハナイカト存ジマス、政黨ト云フモノガ、
自分ノ黨利黨勢ノ爲バカリ考ヘテ爭ヒ續ケ
タ爲ニ、國民ノ利福ト云フモノヲ忘レ、サ
ウシテ其結果ハ農村ノ自治體ニマデ政黨ノ
弊害ト云フモノガ這入ッテ參リマシテ、サ
ウシテ此農村疲弊ノ重大ナル原因ヲ爲シタ
モノデハナイカト思フノデゴザイマス、殊
ニ東北地方ガ昨年ノ凶作ニ際シマシテ、特
ニヒドイ慘害ヲ受ケマシタノハ一ツニハ
東北地方ノ銀行ガ政黨ノ爭ノ爲ニ澤山倒レ
テシマッタ、サウシテ地方ノ有力者ガ之ヲ
救濟スル力ガ無クナッテシマッタ爲ニ、ッ
ハ其爲ニ非常ニ大キナ慘害ヲ受ケタモノト
云フコトハ、是ハ可ナリ明カナ事實ナノデ
ゴザイマス、農村ガ政黨化シタ爲ニ、何等
町村會ニ於テ施設スルコトガ出來ナイ、必
ズ片方ノ政黨ニ變シタ爲ニ······變ル度ニ今
迄ヤッタ施設ト云フモノガ打壞サレテシマ
フカラ、ドウシテモ思フヤウナ施設ガ出來
ナイ爲ニ、農業ト云フモノガ段々退步イタ
シマシテ、自然ノ脅威ニ對シテ人ノ力ヲ以
テ鬪フコトガ出來ナクナッタノデゴザイマ
ス、全體天候ノ不良ト云フモノハ、人ノ力
デハ何トモ致スコトハ出來マセヌケレド
モ、其被害ハ人ノ力ヲ以テ防ギ得ルモノデ
ゴザイマス、先ヅ今日ノ急務ハ農村ノ政黨
化ト云フモノカラ免レタナラバ、恐ラク此
東北地方モ是程ノ慘害ヲ受ケズニ濟ンダノ
デハナイカト思フノデゴザイマス、又北海
道ニ於キマシテハ、農村ノ疲弊ト云フモノハ、
決シテ是ハ凶作バカリニ原因ヲシテ居ルノ
デハゴザイマセヌ、其重大ナル原因ハ、寧
ロ北海道ノ拓殖計畫ガ誤ッテ居ルノデハナ
イカト存ジマス、北海道ノ拓殖計畫ヲ見マ
スト、昭和二年度カラ二十年間ニ、凡ソ九
億六千四百万圓ヲ支出スルコトニナッテ居
リマス、昭和七年度ノ豫算ガ約一一千百四十
万圓デアリマスガ、此國費多端ノ際ニ此莫
大ナル金ノ大部分ト云フモノハ、可ナリ無
意義ニ費サレテ居ルノデハナイカト存ジマ
ス、サウシテ其結果ガ寧ロ凶作ヨリモモッ
ト農村ヲ疲弊セシメル原因ニナッテ居ルノ
ダラウト存ジマス、ソレハ北海道ノ農村ヲ
非常ナ窮狀ニ陷レマシタモノノ最大ナル原
因ハ、拓殖計畫ノ中ニ、約一億二千万圓ヲ
以テ四十五万町步ノ水田ヲ北海道ニ開發ス
ルト云フ計畫デゴザイマス、此金デ以テ水
田費ハ四割、灌漑溝ノ補助ガ五割ト云フコト
ニナッテ居リマス、農民ハ補助ガ貰ヘテ米
ガ出來ルト云フノデ有頂天ニナッテ仕舞ヒ、
矢鱈ニ水田ヲ造フタノデアリマス、其結果
北海道デハ盛ニ米ガ出來ルヤウニナリマシ
テ、忽チ千百万石ニ達シマシタ、百万石ニ
達シタ時ハ道民ガ非常ニ喜ンデ御祝ヒヲ致
シマシタ、二百万石ニナリマシタ時ハ御祝
ヒヲスルコトヲ少シ考ヘテ、記念會位ニ致
シマシタガ、三百万石ニナリマシタ時ニハ
是ハ米ノ値ガ非常ニ下ッテ仕舞クテ、農民ハ
皆靑クナッテ仕舞〓タノデゴザイマス、豐作
ナラバ米ノ値段ガ下リ、サウシテ收支ガ償
ハく、凶作ナラバ無收入、補助ト云フモノ
ハ要スルニ補助デアッテ、決シテ全額デハナ
イノデアリマスカラ、結局農民ト云フモノ
ハ補助ノ殘リハ悉ク借金ヲ以テ塡メテ居
ルノデアリマス、サウ致シマスト、田ヲ作
リマスト、必ズ其田ニハ借金ガ附イテ廻ル、
サウシテ其田カラハ收入ガ無イカラ、農民
ノ負擔ト云フモノハ年々殖エテ參フテ居ル
ノデゴザイマス、何故北海道デハ特ニサウ
カト申シマスト、元來稻ト云フモノハ熱帶
植物デアリマス、其熱帶植物ヲ寒帶ニ近イ
北海道ニ植エテ、果シテ宜イモノカドウカ、
是ハ日本ノ全體トシテノ農業政策ガ誤ッテ
居リハシナイノダラウカト存ジマス、デ
我國ガ南カラ北ニ長ク延ビテ居リマシテ、
南ノ方ハ〓帶農業ノ米デモ宜シイノデアリ
マスケレドモ、北ノ方ハドウシテモ是ハ寧
ロ混同農業ニ依リ、畑ニ依クテ行カナケレ
バナラヌモノデハナイカ、是ガ我國ノ農業
政策ノ根本ニナッテ政策ヲ決メナケレバイ
ケナイノデハナイカ、此點ハ將來ドウ云フ
風ニオ考ヘニナッテ居リマスカ、是ハ北海
道ノミナラズ、全體ノ問題トシテ農林大臣
ニ伺ヒタイト存ジマス、將來此北海道ニ水
田ヲ奬勵シテ米ヲ作ルト云フコトハ、非常
ナル危險ヲ伴ハナケレバナラヌ、數年ニ一
囘ハ必ズ凶作ガ來ルモノト云フ豫想ヲ以テ
シナケレバナラナイノデアリマシテ、米ノ
如キ單一農業ニ依リテ北海道ニ立タウトス
ルト云フノハ、非常ナ危險デアリマス、農業
ハ全體投機事業デハナイノデアリマズカラ、
最モ安全確實ナルベキ方法ヲ採ラナケレバ
ナラヌ、ソレニハ北方ノ農業ト云フモノハ、
混同農業ニ依ラナケレバナラヌノダト存ジ
マス、ソレデアリマスカラ、北海道ト致シマ
シテハ、特殊ナ拓殖計畫ヲ立テル必要ガ
アリハシナイカ、從來ノ拓殖計畫ノ誤ヲ改
メラレタイト思ヒマスガ、其點ニ付テドウ
云フ風ニオ考ヘニナッテ居リマスカ伺ヒタ
イト思ヒマス、ソレカラ其次ニハ畜產奬勵
デアリマス、ソレデ一方ニハ今申シタヤウ
エ單一農業ノ計畫デ四十五万町步ノ田ヲ
造ルト云フ傍ラ、今度ハ其ノ逆ニ全ク··
全クトハ申シマセヌガ、相當ニ相反シタ理
想ノ下ニ、卽チ畜產奬勵デアリマス、是ハ
田ヲ造ルト中々牛ヤ馬ガ飼ヘナイノデ、ド
ウシテモ畜產奬勵トナルト、畑ノ方面ニ行
カナケレバナラヌノデアリマス、此畜產獎
勵モ北海道デハ約千六百二十万圓ヲ費シテ
奬勵イタシテ居リマスガ、其中ニ最モ無法
ナモノハ牛馬百万頭計畫ト云フモノガアリ
マシテ、北海道ニ牛ト馬ヲ百万頭ニ殖ヤサ
ウト云フノデアリマス、其爲ニ非常ナ補助
ヲ與ヘテ、ドン〓〓牛ヤ馬ヲ殖ヤス、是ハ
自然ニ殖エテ行ッタナラバ差支ゴザイマセ
ヌケレドモ、無暗ニ補助ヲ與ヘテ殖ヤス爲
二、矢張リ馬一頭、牛一頭ニ付テ相當ナ借
金ヲ農民ガ致シマスノト、ソレカラ矢鱈ニ
殖エル爲ニ牛乳ガ非常ニ生產過剩ニナッテ、
ドン〓〓牛乳ノ値ガ下ッテ參ルノデゴザイ
マス、昭和五年ノ初ニ於キマシテハ、牛乳
ノ値段ガ一升十五六錢、一升十五六錢ナラ
バ農民ハ是ガ立チ行クノデアリマスガ、現
在ニ於キマシテハ乳ノ値段ガタッタ五錢ニ
ナッテ仕舞シタノデアリマス、是ハ卽チ拓殖計
畫ノ誤リカラ、農民ニ非常ナ氣ノ毒ナ目ニ
遭ハセルヤウナコトニナッテ仕舞クタ、折角
單一農業ノ危險ヲ知ッテ牛ヲ飼ヒ、サウシテ
酪農政策ニ依ッテ農村ヲ立テ直サウトシタ
其事ハ悉ク裏切ラレテ仕舞ッタノデアリ
マー、是モ矢張リ此無法ナ補助計畫ト云フ
モノガ大キナ害ヲ爲シテ居ルト存ジマス、
殊ニ此酪農事業ヲ非常ナ危險ナ狀態ニ陷レ
マシタモノハ、是ハ政黨ノ黨弊ト云フモノ
ヲ最モ露骨ニ現ハシタ其モノハ、北海道製
酪販賣組合聯合會ト云フモノニ無法ナル補
助ヲ與ヘタコトデゴザイマス、此組合ハ農
民ノ組合凡ソ八十四ヲ集メテ立テタモノデ
アリマシテ、其成績ヲ見マスト、過去ノ昭
和五年末ノ成績ヲ見マスト、過去ノ五年間
ニ農林省及北海道廳ノ與ヘマシタ補助ガ五
ケ年ニ約三十五万圓、一ケ年ニ凡ソ七万圓ノ
補助ヲ與ヘテ居リマス、ソレニモ拘ラズ前年
度ノ損失ト云フモノガ凡ソ七万圓、五ヶ年
ノ負債ノ總額ガ七十五万圓、其他ヲ合セマ
シテ農民ノ當然負擔トナルモノガ約百二三
十万圓モアルノデハナイカト思ヒマス、是
ハ全ク、實情ヲ調ベテ見マスト、是ハ政黨ノ
喰物トナッタト云ッタヤウナ恰好ニナッテ居
リマス、滅茶苦茶ナ補助ヲ與ヘテ、サウシ
テ其結果ハ宜シクナク、農民ニ非常ナ負擔
ヲ負ハシメ、サウシテ此聯合組合ト云フモ
ノガ其「バタ」ノ「ストック」ニ困ッテ投賣ヲ致
シマシタカラ、其他ノ乳製品會社ト云フモ
ノハ、殆ド立行カナイヤウナ狀態ニ陷ヲテ仕
舞フタ、北海道ノミナラバマダソレデ宜シイ
カモ知レマセヌガ、此計畫ガ全國ノ酪農事
業ニヒドイ影響ヲ與へマシテ、乳ノ値段ガ
下ッテ農民ハ愈〓大キイ負擔ヲシナケレバナ
ラナイヤウニナッテ參フタノデアリマス、其
結果ハ外國ノ資本ガ這入ッテ「ネッスル」會社ノ
如キハ日本ニ工場ヲ設ケテ、日本ノ製酪事
業統制ヲ圖ッテ、サウシテ結局ハ日本ノ農民
ヲシテ非常ナ困難ニ陷ラシメルヤウナコト
ニナリ掛カッタノデアリマスガ、幸ニシテ之
ヲ喰止メ得タノデアリマスガ、此酪農事業
ニ付テノ將來ノ方針ハ、ドウ云フヤウニオ
考ヘニナッテ居リマセウカ、斯カル無法ナ補
助ヲ與ヘテ、サウシテ乳價ヲ下ゲテ、農民
ニ更ニ負擔ヲ多クセシメルコトガ果シテ宜
イカ惡イカドウ云フ風ナコトニナリマセ
ウカ、之ニ付テ御答ヲ願ヒタイト思ヒマ
ス、ソレカラ最後ニ今日ノ世相ガ非常ニ險
惡ニナリマシテ、「ファシズム」ノ擡頭、或
ハ議會否認ノ聲ヲサヘ聞クヤウニナッタノ
デアリマス、昨年ノ十月以來帝都ニ頻々ト
シテ起ル不祥事件、遂ニハ一國ノ首相サヘ
モ其兇變ニ殪レルヤウニナッタノデゴザイマ
ス、デ斯ウ云フ風ニナッタノハ、一體是ハ何
ガ斯クセシメタノデアルカ、是ハ此原因ハ
偶然デハナクテ、私ノ考ヘマス所デハ、
寧口是ハ政黨ト云フモノノ腐敗、議會ノ暴
狀ガ其重大ナル原因ヲ成シテ居ルノデハナ
イカト存ジマス、其結果國民ヲシテ憤激セ
シメテ、此樣ナ不安ナ狀態ニナッテ來タノデ
ハナイカ、一國ノ政治ニ與ル者ガ、私利私
慾ノ爲ニ多ク動イタト云フコトガ、國民ヲ
シテ非常ニ憤激セシメ、尙ホ國民ヲシテ塗
炭ノ苦ミニ陷レタモノデハナイカト思フノ
デアリマス、暴力沙汰ノ如キモ、寧ロ議會
自身ガ其範ヲ示シテ居ルノデハナイカト思
フ、最近ノ不祥事件ノ如キモ、其執ッタ行動ハ
誤クテ居リマス、又贊成ハ出來ナイノデアリ
マスガ、其心持ニ至ッテハ矢張リ憂國ノ血ノ
迸ッタモノデハナイカト思フノデアリマス、
サウデアリマスカラ、如何ニ此不祥事件ヲ
防ギ止メヤウト思ッテモ、其根本ヲ忘レテハ
ドウシテ之ヲ國民ヲ安泰ナ地位ニ導クコト
ガ出來ルデゴザイマセウカ、寧ロ根本ヲ忘
レテ居ッタナラバ、ソレハ百年河〓ヲ待ツ如
キモノデアッテ、此後頻々トシテ此不祥事件
ハ起ルモノト思ハナケレバナラナイノデア
リマス、卽チ根ヲ斷タナケレバ葉ガ枯レナ
イ、此禍根ヲ斷チ切ルノニハドウシテモ政
黨ノ淨化ト云フモノヲ行ハナケレバ出來ナ
イモノデハナイノデゴザイマセウカ、此點
ニ付テ將來ドウ云フ風ニ御考ヘニナッテ居
リマセウカ、ソレモ併セテ伺ヒタイト存ジ
マス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=25
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026・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 只今德川侯爵カ
ラ農產物ノ我國ノ各地方ニ於ケル分布ノ關
係ニ付テ、是マデノヤウナ奬勵ノ仕方デ宜
シイカドウカ、單リ北海道ノ米ノ問題ノミ
ナラズ、サウ云フコトヲ全般的ニ考ヘルコト
ガ必要デハナイカドウカト云フヤウナ趣旨
ノ御尋デアリマシタ、是ハ御尤ナ御尋デア
リマシテ、今日マデ農業生產物ノ各個ニ對
スル奬勵ノ方針ガ、固ヨリ全般ヲ見渡シテ
ソレ〓〓調和ヲ圖リ調節ヲ取ッテ、國內ノ農
產物ヲ奬勵發達セシメテ來タニハ相違アリ
マセヌケレドモ、併シ今後ハ更ニソレ等ノ
點ニハ十分ナ注意ヲシナケレバナラヌト思
フノデアリマス、或ル場合ニ非常ニ其農產
物ノ價ガ高イ、需要ガ多イト云フノデ、急
ニ總テノ方面ガ他ノ農產物ノ生產ヲモ止メ
テ其方ニ集中ヲスル、サウスルト他日ハ又
非常ナ暴落ガ來テ、非常ナ悲慘ナ目ニ遭フ
ト云フヤウナ事柄ハ、過去ニ於テ屢、繰返サ
レテ居ルコトデアリマス、是等ノ點ニ付テ
ハ國家全體ノ氣候風土地味、農產物ニ對ス
ル適否等ヲ考ヘテ、全體ニ一種ノ統制ガア
リ秩序ノアル生產ノ行ハルルコトガ最モ望
マシイコトデアルト思フノデアリマス、併
シ是ハナカ〓〓容易ナ事デアリマセヌ、國
家ノ立テル政策ニ於テモサウ云フ點ヲ十分
ニ考慮ヲシ、又農民自身ノ考ヘ方ニ於テモ
段々改マッテ行ク所ガアッテ、漸次サウ云フ
域ニ進ンデ行カナケレバナラヌト考ヘテ居
ル次第デアリマス
〔政府委員佐上信一君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=26
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027・佐上信一
○政府委員(佐上信一君) 德川侯爵ノ北海
道ニ關係イタシマスル問題ニ付キマシテ御
答ヘ致シマス、私ハ昨年丁度此凶作ノ眞最
中ニ北海道ノ方へ參リマシテ、其當時矢張
リ道内ノ各方面ニ於キマシテ、侯爵ト同一
ナル意見ヲ持ツ者ガ多數アッタノデアリマ
ス、北海道ガ米ヲ第二期計畫ニ於テ生產ス
ル方針ヲ立テマシタコトハ二十年間ニ人
口約六百万人ヲ標準ト致シマシテ、水田ノ
奬勵ヲ致シテ居ルノデアリマスガ、現在ニ
於テ北海道農民ガ非常ニ困ッテ居リマスル
コトハ、丁度大正五年ノ米價暴騰ノ後ヲ承
ケマシテ、米ノ奬勵ガアリマシテ、同時ニ
石三十圓ト云フヤウナ米ノ高直段ノアリマ
シタ際ニ、北海道ニ於テ水田開發熱ガ一時
ニ勃興シテ參リマシテ、當時設計竝ニ土質
ノ調査其他ノ關係、只今侯爵ノ御述べニナ
リマシタ地方ノ適不適ヲ考慮セズシテ、全
道各方面ニ土功組合ヲ設ケマシテ、米ノ生
產ヲサセマシテ、ソレガ今日ノヤウニ米價
暴落ニナリマスルシ、又米ノ植物ノ性質ト
致シマシテ、寒帶地方ニ適シナイト云フヤ
ウチ事柄カラ致シマシテ、非常ニ困難ニ陷ク
テ居ルコトハ事實デアリマス、ソレデ北海
道ト致シマシテハ農事試驗場竝ニ試驗場
支場、其他實習地等ヲ設ケマシテ、其地方
地方ニ適スル米ノ適種ヲ栽培スルト云フコ
トニ努力イタシマスルト共ニ、米ノ生產ノ
不適當ナ場所ニ於キマシテハ、矢張リ農牧
混同ノ仕事ヲ進メテ行ク、ソレカラ又一方
水田地方デアリマシテモ、矢張リ將來凶作
ノ場合ニ於キマシテハ、水田ノミデアリマ
スルト非常ニ打擊ガ大キイノデアリマスル
ノデ、水田ト他トノ適當ナル調和ヲ取ッテ行
キタイト云フヤウナコトデ參ッテ居リマシ
テ、現在ノ方針ト致シマシテハ、大規模ニ
開田ヲ致シマスル所ノ土功組合ノ新設ノ如
キハ成ルベク之ヲ抑制シテ、サウシテ從來
ノ水田ノ改良ト云フコトニ當分ノ間全力ヲ
盡シテ行キタイト云フヤウナ考デアリマ
ス、從ヒマシテ只今御話ニナリマシタヤウ
ナ寒帶····寒イ根室原野ノ如キ地方ニハ
米ノ栽培ハ之ヲ奬勵シナイノミナラズ、寧
ロ之ヲ抑制スルト云フヤウナ方針ヲ執ッテ
行キタイト考ヘテ居リマス、ソレカラ同時
ニ畜產ノ奬勵ノ牛馬百万頭計畫デアリマス
ルガ、是ハ拓殖計畫第二期ノ場合ニ於テ此
計畫ヲ遂行シテ行クコトニナッテ居ルノデ
アリマスガ、是モ矢張リ人口六百万ト云フ
コトヲ基本ニシテ、此計畫ガ立テラレテア
リマスガ、殊ニ此牛ノ方ノ奬勵ノ如キモノ
ハ此牛ヨリ生ズル所ノ厩肥、堆肥ト云フ
ヤウナモノヲ農家ガ利用スルト云フヤウナ
コトヲ主トシテ方針ヲ立ッタノデアリマス
ガ、農民ガ非常ニ利益ノ早ク上ル方ニ著目
スル結果、主トシテ乳牛ノ方ニ對シテ農民
ガ非常ニ熱心ニナッタト云フコトハ、丁度今
乳牛ガ四万頭デアリマシテ、其四万頭ノ乳
牛デアリマシテモ旣ニ生產過剩ノヤウナ狀
態ニナッテ居リマス、同時ニ乳牛ハ其程度デ
アリマスガ、所謂肉牛ト云フモノガ殆ド農
民ガソレヲ飼養シナイ、百万頭ノ計畫ノ如
キモノモ、或ル程度ノ改訂ハ必要ダト思ヒ
マスガ、現在ノ計畫ニ於キマシテモ、此統
制ヲ十分ニ致シテ參リマスルナラバ、今日
ノ如キ此牛乳ガ生產過剩ニナルヤウナ所謂
乳牛偏重ト云フヤウナ弊ニ陷ルコトヲ免レ
マシテ、農村ハソレガ爲ニ肥料ノ自給ト云
フヤウナコトモ出來マシテ相當ノ效果ヲ擧
ゲルヤウナコトニ考ヘテ居ルノデスガ、唯
此百万頭計畫ハ一ツノ理想デアリマシテ、
是ニ付キマシテハ適當ニ節制ヲ加ヘベキ必
要ノアルコトハ、私モ認メテ居ル次第デア
リマス、ソレカラ最後ニ酪農組合ニ對スル
問題ハ、丁度私昨年赴任イタシマシタ際ニ、
道内ニ於テ製酪聯合組合ト云フモノト、乳
製品會社トノ間ニ、利害ガ衝突イタシマシテ、
只今侯爵ノ御述べニナリマシタヤウナ論議
ガ盛ンニ行ハレテ居シタノデアリマス、然ル
所酪農組合、製酪聯合組合ト云フモノハ、
北海道ノ各地方ニ於ケル產業組合組織ノ酪
農組合ヲ統一シタル團體デアリマシテ、組
合員ハ農民ガ悉ク加入シテ居ルノデアリマ
ス、一方ニ於キマシテハ其酪農地帶ノ外ニ、
會社ガ一ツノ集乳區域ヲ設ケテ居リマシ
テ、互ニ相對抗シテ居ノタノデアリマス、ソ
レガ爲ニ兩者ノ間ガ圓滑ニ行カナイ、是ガ
爲ニ屢、紛議ヲ生ジタ、是ガ昨年ノ丁度十一
月デアリマシタガ、各會社ガ市場ノ非常ニ
不景氣ノ結果、乳製品製造ノ制限ヲ加ヘル
結果、殆ド此乳ノ買入レヲ半分ニ制限シタ、
其制限イタシマシタ乳ト云フモノハ一方
ニ於テ法令ノ規定デ農家ノ造リマスル所ノ
牛乳ハ、牛乳製品ノ原料ニ使ヒマスガ、-
方飮用ニハ之ヲ認メテ居ナイノデアリマ
ス、從ヒマシテ買入制限ニ依ル所ノ乳ノ處
分ト云フモノハ非常ナル道內ノ問題ニナ,
タノデアリマス、ソレデ一面ニ於テハ或ル
程度ノ法令ノ改正ヲ致シマシテ、產業組合
ガ搾取シタ所ノ乳デアッテモ、消毒裝置ヲシ
テ之ヲ消毒シタル場合ニ於テハ市場ニ之ヲ
販賣スルコトヲ許スト云フ一ツノ途ヲ開ケ
マスト同時ニ、會社ト製酪聯合組合トガ協
定ヲ遂ゲマシテ、原料牛乳ハ製酪聯合組合
ヨリ會社ニ之ヲ提供スルト云フヤウナコト
ノ協議ガ、大日本製乳會社、乳製品會社ト
ノ間ニ出來マシテ、近ク他ノ會社トノ間ニ
モサウ云フ風ナ協定ガ付クコトニナリマス
ルカラ、將來ハ是等ノ問題ハ悉ク消滅スル
コトデハナイカト確信イタシテ居ル次第デ
アリマス、尙ホ製酪聯合組合ニ對スル補助
ニ付キマシテハ、私赴任前ヨリ色ミナ議論
ガアッタノデアリマスガ、事實私調査ヲ致シ
テ見マスルト云フト、一面ニ於テ農民ノ牛
乳ヲ處理スル所ノ會社ガ、其買入ヲ拒絕ス
ルヤウナ場合ニ於テ製酪聯合組合等ノ如キ
モノガソレヲ引受ケテ、サウシテ委託ニ依
リ、若クハ購入イタシマシテ、「バタ」ノ製造
ヲ致シテ、サウシテ他方市場ノ景氣ノ囘復
シタ場合ニ其販賣ヲスルト云フヤウナ、
ツノ調節機關トシテハ、製酪聯合組合ノ如
キ會社ト違ヒマシテ、採算ヲ度外シタ所ノ
一ツノ互讓的ナ產業組合精神ニ依ル所ノ
組合ヲ認メナケレバ到底サウ云フヤウナ
場合ヲ切拔ケルコトガ出來ナイト云フヤウ
ナ事柄ガ明白ニナリマシタノデ、殊ニ補助
ヲヤリマス際ノ如キニ至リマシテハ嚴密ナ
ル條件ノ下ニ總テ生產補助ト致シマシテ、
サウシテ總ヲ道民ガ承認スル方法ニ依ッテ
補助ヲ致シテ居リマスルヤウナ次第デアリ
マシテ、只今侯爵ノ御述べニナリマシタヤ
ウナ、黨弊ト云フヤウナコトハ、其間ニ存
在スルコトヲ認メテ居ラヌヤウナ次第デア
リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=27
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028・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此際請暇ノ件ニ
付キ御諮リヲ致シマス、鍋鳥侯爵病氣ニ付
キ會期中請暇ノ申出ガゴザイマシタ、之ヲ
許可スルコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=28
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029・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス、本會期中本會議開會ノ場合ニ於テ
常任委員會及特別委員會ヲ開クノ要求アリ
タル時ハ、議長ニ於テ差支ナキト認メタ時
ハ、議院ニ諮ラズシテ之ヲ許スコトニ致シ
タイト存ジマス、是モ御異存ゴザイマセヌ
カ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=29
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030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス、御異議ガナケレバ本日ハ延會イタ
シマス、次ノ議事日程ハ決定次第本院彙報
ヲ以テ御通知イタシマス、本日ハ是ニテ散
會イタシマス
午前十一時五十七分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006203242X00319320604&spkNum=30
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