1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和七年九月一日(木曜日)午前十時五分開議
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議事日程 第七號
昭和七年九月一日
午前十時開議
第一 市町村立尋常小學校費臨時國庫補助法案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第二 米穀需給調節特別會計法中改正法律案(政府提出、衆議院送付) 第一讀會
第三 米穀法中改正法律案(衆議院提出) 第一讀會
第四 山村住民救濟に關する請願(文書表第五十號) 會議
第五 傷痍軍人待遇改善の請願 會議
第六 中小商工業者救濟の請願 會議
第七 山村住民救濟に關する請願(文書表第六十號) 會議
第八 北海道千歳村に飛行場設置の請願 會議
第九 能登鐵道株式會社敷設鐵道買收の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ諸般ノ報
告ヲ致サセマス、
〔山本書記官朗讀〕
去月三十一日本院ニ於テ修正議決シタル左
ノ政府提出案ハ卽日之ヲ衆議院ニ送付セリ
罹災救助基金法中改正法律案
同日本院ニ於テ採擇スルコトヲ議決シタル
秋田縣橫莊鐵道買收ノ請願外二十八件ノ請
號外昭和七年九月二日
願ハ各、意見書ヲ附シ卽日之ヲ政府ニ送付
セリ
同日豫算委員會ニ於テ當選シタル正副委員
長ノ氏名左ノ如シ
委員長伯爵柳澤保惠君
副委員長男爵大井成元君
同日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
昭和七年度歲入歲出總豫算追加案(分)
號
昭和七年度各特別會計歲入歲出豫算追加
案(特第一號)
豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ス
ヲ要スル件(追第一號)
豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ス
ヲ要スル件(追第二號)
市町村立尋常小學校費臨時國庫補助法案
米穀需給調節特別會計法中改正法律案
同日衆議院ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
米穀法中改正法律案
同日衆議院ヨリ同院ニ於テ左ノ政府提出案
ヲ否決シタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
米穀應急施設法案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵徳川家遠君) 是ヨリ會議ヲ開
キマス、高橋大藏大臣
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=2
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003・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 諸君、玆ニ昭和
七年度追加豫算ヲ說明イタシマスコトハ
私ノ最モ光榮トスル所デアリマス、今囘政
府ニ於テ計畫シタル昭和七年度ニ於ケル時
局匡救ニ關スル經費ハ、國ノ負擔ニ屬スル
分、一般會計ニ於テ一億六千三百餘万圓、
特別會計ニ於テ千三百餘万圓、計一億七千
六百餘万圓デアリマシテ、此外ニ地方ノ負
擔ニ屬スル分ガ八千七百餘万圓アリマスカ
ラ、結局昭和七年度ニ於ケル時局匡救ニ關
スル中央及地方ノ經費總額ハ二億六千三百
餘万圓トナル計算デアリマス、而シテ國ノ
負擔ニ屬スル分ハ殆ド全部公債ニ依リ、
地方負擔ニ屬スル分ニ付テハ主トシテ政
府ヨリ低利資金ヲ供給シ、尙ホ事業ノ種類
ニ依ッテハ國庫ヨリ利子ノ補給ヲ爲ス計畫
デアリマス、時局匡救ニ關スル豫算ノ計上
ニ當ッテハ、成ルベク各地方ニ普遍的ニ國庫
支出金ノ普及スベキ事業ヲ選定スルニ力ヲ
注ギ、又急迫ノ程度最モ甚シキ地方ニ對シ
テハ事業費ノ割合ヲ多額ナラシムルコトニ
努メマシタ、次ニ時局匡救事業ノ主ナルモ
ノヲ說明イタシマス、內務省所管ニ於ケル
治水、港灣、道路等ノ土木事業ハ國ニ於
テ施行スルモノト府縣及町村ニ於テ施行
スルモノトナリマスガ、府縣及町村ニ於テ
施行スルモノニ對シテハ相當ノ割合ヲ以
テ補助ヲ致シマス、是等事業費ノ總額ハ七
千四百餘万圓デアリマシテ、其內、國ノ負
擔ニ屬スルモノ四千八百餘万圓、地方ノ負
擔ニ屬スルモノ二千五百餘万圓デアリマス、
尙ホ北海道拓殖ニ關スル經費ノ增加ガ五百
餘万圓アリマス、農林省所管ニ於ケル開墾、
用排水幹線改良、林道開設、暗渠排水事業
助成等、農業土木ニ關スル經費ノ總額ハ六
千八百餘万圓デアリマシテ、其内、國ノ負
擔ニ屬スルモノ三千七百餘万圓、地方ノ負
擔ニ屬スルモノ三千百餘万圓トナリマス
尙ホ農村經濟更生施設ニ關スル經費トシ
テ、三百四十万餘圓ヲ計上イタシマシタ、陸
海軍ニ於ケル軍需品ノ製造、艦船ノ建造竝
ニ修理等ハ、商工業等ノ振興ニ資スル所大
ナルモノガアリマスノデ、是等ニ要スル經
費トシテ、陸軍省所管ニ於テ千八百五十万
圓、海軍省所管ニ於テ千八百四十四万圓ヲ
支出スルコトニ致シマシタ、市町村財政ノ
急迫ヲ緩和スル方法トシテ、今後三箇年ヲ
限リ市町村立尋常小學校費臨時補助ヲ支出
スルコトトシ、昭和七年度分トシテ千一一百
万圓ヲ支出スルコトト致シマシタ、右ノ外
船舶改善助成ニ要スル經費、金錢債務臨時
調停法施行ニ關スル經費等ガアリマス、以
上ハ今囘政府ニ於テ計畫シタル昭和七年度
ニ於ケル時局匡救ニ關スル經費ノ大體ニ付
テ說明シタノデアリマスガ、右ノ經費ノ
内.一部ハ豫算編成ノ技術上、施行豫算ノ
範圍內ニ於テ支辨シ得ルモノガアリマスノ
デ、此分ハ實行豫算ヲ增額スルコトトシ、
今囘追加豫算トシテ議會ノ協贊ヲ求ムル金
額ハ一般會計ニ於テ歲出總額一億四千六百
六十餘万圓デアリマス、而シテ之ニ對スル
歲入ノ追加豫算ハ一億六千三百四十餘万圓
デアリマシテ、歲入歲出差引歲入超過額千
六百七十餘万圓ハ前述ノ實行豫算增額ノ財
源ニ充ツルノデアリマス、次ニ特別會計ニ
於テモ、時局匡救ニ關スル經費ヲ豫算シタ
モノガアリマスガ、其主ナルモノハ帝國鐵
道會計ニ於テ、建設費ノ繰上七百万圓ノ
外、朝鮮、臺灣及樺太ニ於ケル各植民地會
計ニ於テ、各種土木事業費ヲソレノ三百
六十餘万圓、百六十餘万圓及六十餘万圓ヲ
計上イタシマシタ、右ハ大體ニ於テ本年九
月以降七箇月分ノ經費デアリマスガ政府ハ
前議會ニ於ケル衆議院ノ決議竝ニ現下世論
ノ趨勢ニ鑑ミ、今後三年度ニ亙リ、徹底的ニ
時局ノ匡救ヲ爲ス方針ノ下ニ、本豫算ヲ編
成シタ次第デアリマシテ、來年度ニ於テハ
更ニ相當經費ノ增加ヲ來スベク、從ヲテ三
年度ノ經費ヲ通計イタシマスナラバ、其總
額ハ約六億圓ニ達スル見込デアリマス、昭和
七年度ニ於テ歲出豫算ノ財源タルベキ公債
ノ追加額ハ、一般會計ノ分、道路公債八十餘
万圓、歲入補塡公債一億六千百九十餘万圓、
計一億六千二百七十餘万圓、特別會計ノ分
鐵道公債七百万圓、朝鮮事業費公債三百三
十餘万圓、臺灣事業公債百六十餘万圓、樺太
事業公債六十餘万圓、計千一一百六十餘万圓、
合計一億七千五百四十餘万圓デアリマスガ、
之ニ從前決定セル本年度公債發行總額六億
七百万圓ヲ加へマス時ハ、昭和七年度ニ於
ケル公債發行總額ハ七億八千二百万圓トナリ
マス、右發行總額中七千七百万圓ハ交付公債
デアッテ、又新規公債中、預金部其他政府部內
ノ引受ノ金額九千八百万圓ガアリマスカラ、
兩者ヲ差引イタ殘額ハ六億七百万圓トナリ
マス、此金額ハ今日ノ情況ニ於テハ一應日
本銀行ヲシテ之ヲ引受ケシムル見込デアリ
マス、以上政府提出ノ豫算ニ付テハ衆議
院ニ於テ全部政府提出案ノ通リ可決セラレ
タ次第デアリマス次ニ我國經濟界ノ窮境
ヲ打開シ、且ツ產業ノ振興ヲ圖ル爲ノ根本
手段トシテハ通貨ノ供給ヲ圓滑ナラシムル
コトガ緊要ナルコトハミ旣ニ屢〓申述べマ
シタ通リデアリマシテ、前議會ニ於テ協贊
ヲ得タル日本銀行保證準備ノ擴張、竝ニ制
限外發行稅ノ低減ニ關スル法律ノ如キモ
是ガ對策ノ一端ニ外ナラナカッタノデアリマ
スガ、今囘更ニ郵便貯金ノ利子ヲ從前ニ比
シ一分二厘引下ゲテ三分トナシ、來ル十月
一日ヨリ實施スルコトト致シマシタ、郵便
貯金ノ利子ノ變更ノ如キハ成ルベク之ヲ
避ケタイノデアリマスガ、今日ノ非常時ニ
際シ、經濟界全體ノ立直シノ爲ニハ、一般金
利ノ低下ヲ圖ルコトガ最モ緊要ナルヲ以テ、此
際之ヲ斷行シ、由テ以テ大藏省預金部ノ貸付
利率ヲ低下シテ、資金ノ融通ヲ受クル各種
地方團體ノ負擔輕減ヲ圖ルト共ニ、農村及
中小商工業者ノ救濟ニ資シ、併セテ一般金
利ノ低下ヲ誘導シタイト考ヘルノデアリマ
ス、金融ノ圓滿ヲ期スルガ爲ニハ通貨ノ
供給ヲ容易ナラシムルト共ニ、金融機關ノ
內部ニ於テ既ニ固定セル資金ヲ流動化シテ、
其活動ヲ圓滑ナラシムルコトノ必要ナル
コトハ申ス迄モナイ所デアリマス、仍テ政
府ハ資金固定ノ最モ顯著ナル普通銀行及貯
蓄銀行ノ不動產貸付ヲ資金化セシムル爲
メ、今後三年間ニ、政府低利資金五億圓ヲ
日本勸業銀行、農工銀行及北海道拓殖銀行
ニ融通シ是等銀行ヲシテ一般銀行ノ所有
不動產及不動產抵當附債權ヲ擔保トスル貸
付又ハ是ガ肩代リヲ行ハシムルノ計畫ヲ
樹テマシタ而シテ右ノ貸付ヲ行フニ當。ツ
テハ從前ノ例ニ依ラズ、抵當不動產ノ鑑定
價格ノ全額マデ融通ヲ爲シ得ルノ途ヲ開イ
テ、融資ノ徹底ヲ圖ルト共ニ、將來融資銀
行ニ於テ本貸付ノ爲メ損失ヲ受クルコトア
ル時ハ政府ハ之ニ對シ一億圓ヲ限リ補償
ヲ爲スコトトシテ、融資銀行ノ地位ヲ保障
スルノ必要ガアルト思ヒマス、仍テ是ガ爲
メ必要ナル法律案ヲ別途提出イタシマシタ、
尙ホ是ト關聯シテ、政府ハ現今產業組合ノ
固定セル債權ニ付テモ、同樣ノ理由ニ依リ
之ヲ資金化スルノ必要ヲ認メ、別ニ政府低
利資金一億圓ヲ三箇年間內ニ產業組合中央
金庫ニ融通シ、同金庫ヲシテ所屬產業組合
及同聯合會ニ對シテ資金ノ融通ヲ行ハシ
メ之ニ因リ生ズルコトアルベキ損失ニ對
シテハ政府ニ於テ三千万圓ヲ限リ補償ヲ
爲スコトヽシ、之ニ關スル法律案モ亦本議
會ニ提出イタシマシタ政府ハ預金部資金
ノ性質ニ鑑ミ、成ルベク之ヲ地方ニ還元ス
ル方針ヲ採シテ來マシタガ、現下ノ情勢ニ鑑
ミ時局匡救諸對策ニ對シ、出來得ル限リ
多額ノ資金ヲ供給スルコトノ必要ヲ認メ、
農村振興及農業土木事業資金四千餘万圓、
前述ノ政府補償不動產、金融資金、五億圓
ノ內、昭和七年度分トシテ差當リ一億圓、
產業組合金融疏通資金一億圓ノ內、昭和七
年度分トシテ差當リ二千五百万圓、中小商
工業者等產業資金三千万圓、其他各種ノ資
金ヲ併セ、總額二億二千六百餘万圓ニ及ブ
新規資金ノ融通ヲ爲スコトニ決定イタシマ
シタ、農村及中小商工業者ノ負債整理ニ關
シテハ近來預金部融通金ノ元利支拂不能
ヲ訴フル者ガ增加スルニ至リマシタガ政
府ニ於テモ是等債務者ノ中、到底自力ノミ
ニ依リ更生ノ途ヲ講ズルコト困難ト認ムル
者ニ對シテハ昭和七年度以降三箇年分ニ
亙ル元利支拂資金ヲ融通スルコトトシ、旣
ニ其昭和七年度分トシテ總額六千七百五十
万圓ノ資金融通ヲ決定イタシマシタ尙ホ
此外政府ハ農村ニ於ケル債務者ノ負債整理
ニ便宜ヲ供與スル爲メ、負債整理組合ヲ設
置セシメ、整理資金ノ供給ヲ必要トスル場
合ハ府縣及政府協力シテ之ニ當ルコトト
シ、是ト同時ニ誠實ナル債務者ヲ更生セシ
ムル爲メ、一口千圓以下ノ小額債務ニ付キ、
今後三箇年間裁判所ニ於テ調停及簡易ナル
裁判ヲ行ヒ得ルコトト致シ、兩者相俟ヲテ
負債整理ノ實ヲ擧ゲシメタイト存ジマス、
以上述べマシタ各般ノ施設ヲ綜合シマスレ
バ政府ノ時局匡救豫算ノ三年度間ノ通計
額ハ前ニモ述ベマシタ通リ約六億圓デア
リマスガ、之ニ政府低利資金ノ融通ニ依リ
行ハルベキ地方ノ時局匡救事業費ノ三箇
年度分ヲ加ヘマスレバ中央地方ヲ通ジテ
約八億圓ニ達スル見込デアリマス、更ニ前
ニ述べマシタ各種ノ政府ノ時局匡救資金ノ、
今後三箇年間ニ於ケル融通豫定總額ヨリ、
地方經費ニ融通スベキ分ヲ除イタ額モ亦約
八億圓ニ上ボル見込デアリマスカラ、兩者ヲ
合算スレバ今後三箇年間ニ使用セラルベキ
資金ノ總額ハ凡ソ十六億圓ニ達スル計算
ニナルノデアリマス、惟フニ現下世界ノ各
國ニ瀰漫セル經濟不況ニ善處シ更生ノ活
路ヲ發見スルコトニ付テハ各國何レモ苦
心ヲ重ネテ居ルノデアリマスガ一擧ニシ
テ效果ヲ收ムルノ妙案ハ、未ダ曾テ見出サ
レナイノデアリマシテ、結局各方面ニ各種ノ
手段ヲ講ジテ、以テ不況打開ヲ策スルノ外
ナイノデアリマス、政府ガ此度提案イタシ
マシタ上述ノ各種施設モ、前議會ニ於ケル
帝國議會ノ院議竝ニ世論ノ〓勢ニ鑑ミ時
局對策トシテ最モ適當ト信ジタルモノヲ採
擇イタシマシタ次第デアリマス、去リナガ
ラ今日ノ時局ニ善處スルニハ、國民ガ單ニ
政府ノ施設ノミニ依賴スルガ如キコトガア〃
テハ到底所期ノ效果ヲ收ムルコトガ出來
ナイノデアリマシテ、國民自身自力更生ノ
意氣ヲ以テ、難局打開ニ邁進スルノ用意ガ
ナクテハナラナイノデアリマス、私ハ國家
ノ內外ニ患難累積セル刻下ノ非常時ニ際シ
テ我ガ國民ガ其固有ノ堅忍不拔ノ精神
ヲ發揮シテ、此世界的試練ニ堪ヘラレムコ
トヲ希望シテ止マヌノデアリマス、終リニ
臨ミ、政府提出ノ豫算案ニ付テハ、何卒速
ニ御協賛ヲ與ヘラレムコトヲ希望イタシマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ヨリ通〓順ニ
依リマシテ質疑ノ發言ヲ許シマス、前田子
爵
〔千爵前田利定君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=4
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005・前田利定
○子爵前田利定君 唯今大藏大臣ヨリ時局
匡救ニ關スル豫算各案ノ御說明ガアリマシ
タ私ハ謹ンデ之ヲ承ハリマシタ、承ハリ
マシタニ付キマシテ、玆ニ幾多ノ疑惑ヲ生
ジタガ爲ニ、此惑ヒヲ政府當局ヨリ解イテ
戴キタイト思フノデアリマス就キマシテ
ハ會期切迫ノ折柄甚ダ恐縮デハアリマスル
ケレドモ、暫クノ時間ヲ拜借イタシマシテ
私ノ懷イテ居リマスル所ノ質疑ノ趣旨ヲ明
カニ申述べマシテ、政府當局ヨリ御答辯ヲ、
皆樣ト共〓ニ承ラウト思フノデアリマス
此非常時對策ト申スベキカ、今囘提案サレ
マシタ追加豫算案各案ヲ御作成ニナリマス
ルマデ、内閣組閣以來玆ニ三箇月、時恰モ
盛夏ノ候デアリマシテ、關係閣僚諸公寧日
モナク、苦心ニ苦心ヲ御重ネニナリマシテ、
殊ニ首相藏相ノ如キハ老軀ヲ提ゲテ此國
難ノ衝ニ當ラレマシタル御精神ト御努力ニ
對シマシテハ甚深ナル敬意ト多大ノ御同
情ヲ禁ズル能ハナイ次第デアリマス、去リ
ナガラ此時局匡救豫算ノ實際ニ處スルニ當
リマシテ、政府ガ聲明セラレテ居ラルヽ通
リニ又國民總テノ者ガ期待シテ居リマス
如キ甚大ナル效果ガ擧ガルデアラウカドウ
カ、今日餓死線上ニ彷徨シテ居リマス所ノ
全國ノ農民、中小商工業者若クハ無職ノ知
識階級者、ソレ等ノ人々ガ果シテ窮乏ノド
ン底カラ此豫算案ノ實行ニ依クテ救上ゲ得
ラレルデアラウカドウカ、問題ハ唯玆ニ懸フ
テ居ルト思フノデアリマス齋藤首相ハ八
月二十五日本議場ニ於キマシテ、施政ノ方
針ノ演說ヲ致サレマシタ、其演說ノ一節ニ
斯樣ニ申サレテ居ルノデアリマス、玆ニ持
參シテ居リマセヌデシタガ、要シマスルニ
其御演說ノ要旨ハ此事局ヲ匡救スルト云
フコトハ此内閣ノ任務ノ·····重大ナル任務
ノ一ツデアル、此臨時議會ハソレヲ達成ス
ル所ノ使命デアル斯樣ナ御言葉ヲ申述べ
ラレテ居ルノデアリマス、私ハ此御演說ヲ
拜聽イタシマシタ當時ニ於キマシテ、誠
御申分ノ御立派デアリマシテ、如何ニモ御
信念ガ火ヨリモ〓ク、言々句々ニ浸込ンデ
其炎ハ天下ノ何物ヲモ燒キ盡サナケレバ止
マヌ底ノ强イ御決心ノ程ガ拜察サレタノデ
アリマス、然ルニ此豫算案ヲ手ニ取上ゲマ
シテ仔細ニ點檢イタシマスト云フト、其豫
算案ノ何處ニ首相ノ强イ決心、熱烈ナル
所ノ御信念ガ何處ニ閃イテ居リマスカ、我
我不幸ニシテ之ヲ見出スコトガ出來ナイノ
デアリマス、時局匡救ニ付キマシテハ、所
謂經濟界ノ建直シ、俗ニ言フ世直シヲ致シ
マスニ付キマシテハドウシテモ積極的更
生策、言換ヘテ申シマスレバ根本對策ガ樹
立シナケレバ、其甲斐ハナイモノト思フソ
デアリマス、然ルニ豫算各案ノドノ部分ヲ
見マシテモ、積極的ニ世直シヲスルト云フ
ヤウナ、大ナル對策ガ何處ニモ現ハレテ居
ラヌノデアリマス、政府當局ニ於キマシテ
ハ、如何ナル御都合ガアッタカ、御事情ガ
アッタカ存ジマセヌガ、此臨時議會ニハ初
メカラ時局匡救ニ對スル積極的ノ更生策ヲ
打建テルト云フ所ノ御考ガ無カッタノデハ
アルマイカ、少クトモ左樣ニ考ヘラレル節
ガアルノデアリマス、卽チ確乎タル所ノ信
念、强イ所ノ御決心ヲ以テ、此難場ヲ救フ
ニハ思ヒ切ッタル所ノ積極的更生策ヲ立テ
ネバナラナイト云フ御決心ガナケレバコ
ソ、各省各局ヨリ、各省各自ノ立場カラ
思ヒ〓〓ノ案ヲ持込ミ、而シテ政府當局ハ强
キ御信念ガナイガ爲ニ、內ニ問ヒ外ニ聽キ、
學者ニ諮リ實際家ニ尋ネ、陳情ニ進言ニ左
顧右肟、アレヲ採リ是ヲ取リ而シテ織出
サレタル所ノモノガ此豫算案デアルノデア
リマス、サレバコソ集メ得テ妙ト申スベキ
カ誠ニ能ク排列ハシテ居リマスルケレド
モ、其中ニ就キマシテ、格段ニスバラシ
イ花モ實モアル對策ガナイノデアリマス、
後藤農相ハ過日本議場ニ於キマシテ菅澤議
員ノ質問ニ答ヘラレマシテ、其御言葉ノ中
ニ當議會ニ提出イタシタノハ應急策デアル
ノデアル、根本問題ニハ觸レテ居ラヌノデア
ル兎モ角モ此急場ヲ速ニ救ヒ得テ、效果
ノ擧ガルモノヲ先ヅ提出イタシタノデアル、
斯樣ニ仰セラレテアルノデアリマス卽チ
政府ハ此議會ニハ積極的ノ更生策トモ申ス
ヤウナ、世直シ經濟界建直シト云フヤウ
ナ對策ハ出サナイノデアル其出サナイト
云フコトハ何レ冬ノ議會ニ持越サレルト云
フ意味デアリマセウ、應急策ヲ出シタニ過
ギナイノデアル、斯樣ニ申サレテ居リマス、
誠ニ凉シ氣ニ申サレテ居ルノデアリマス、
私ハ甚ダ是ハ訝カシイコトニ思フノデアリ
やく、國民ガ此內閣ノ出現ニ對シマシテ喜
ビマシタノハ政黨內閣トハ違ッテ、斯カル
學國一致內閣、强イ協力內閣ガ出來タカラ、
必ヤ政黨內閣ナンゾデハ到底爲シ得ナイヤ
ウナ玆ニ對策ガ立テラレテ、サウシテ窮乏
ノドン底ニアル我々共ガ皆救ハレルノデア
ラウ、斯樣ニ此內閣ニ期待シテ居フタノデ
アリマス、內閣當事者ニ於カレマシテモ
必ズ左樣ニ御感ジニナッテアッタデアラウト
私ハ推察スルノデアリマス、若モ御意思ノ
强イ、沈勇デアリ重厚デアル齋藤首相ヲ他
ノ閣僚諸公ガ所謂協力一致シテ、サウシテ
之ヲ輔翼シテ、立派ナル政策ヲ御立テニナ
ラウトスレバ、ソレハ出來得ルコトデナカ
ラウカト私ハ窃ニ喜ンデ居ッタ一人デアル
ノデアリマス、然ルニ事實ハソレニ反シマ
シテ、只今申シマスヤウニ、此豫算各案ニ
ハ所謂重點ト思シキモノガナイ、根幹ト認
ムベキモノガナイ、アルモノハ枝葉末節ノミ
デアッタト云フコトハ、誠ニ遺憾至極ニ思フ
ノデアリマス、是ハ政府當局ガ今少シク思
ヲ······國民ノ實情ヲ能ク御覽ニナリマシ
テ、十分ニ御認識デアッタナラバ、必ズヤ此
臨時議會マデニハ此豫算各案ヨリモモット
優秀ナル、積極的更生策ト申シテモ數多ア
リマスガ、澤山ノコトハ出來得ナイデモ、
一ツデモ二ツデモ徹底スルヤウナ對策ガ立
テ得ナイト云フコトハナイノデアルマイ
カ、組閣以來日子甚ダ短シト雖、尙ホ九十
日ヲ算スルノデアリマス、御熱心ト御努力
ト協力一致ノ御精神ヲ以テ御話合ヒニナリ
マシタナラバ此臨時議會ニ一ツヤ二ツノ
根本對策ガ現レサウダト思フノデアリマ
ス、然ルヲ後藤農相ノ御言葉ニ依クテ察シ
マスルト云フト、當初カラ先ヅ重大ナ問題、
色ミ議論ノ出サウナ問題、ムヅカシイ問題
ハ總テ是ハ冬ニ送ル、此臨時議會ハ先ヅ
成ルタケ面倒ノ起ラヌヤウニバタ〓〓ト片
付クヤウニシテシマハウト云フ御考ガアッ
タノデアルマイカト思フノデアリマス是
ハ議會ノ審議ノ期日ガ最初八日間ト云フ仰
セ出シガアッタ所カラ考ヘマシテモ左樣
ニ考ヘル次第デアルノデアリマス、果セル
哉、玆ニ三日間ノ延期ト云フコトニナリマ
シタ、惟フニ此三日間ノ延期モ明日デ切レ
ル譯デアリマスルガ、マダ〓〓重大ナ問題
ガ本議會ニ懸カッテ居リマスカラ、恐ラクハ
又延期ニナルデアラウカト私ハ窃ニ心配ヲ
致シテ居ルノデアリマス、左樣ナ次第デア
リマシテ、此內閣ガヤラウト思へバ出來ベ
キ筈ノモノデアッタノヲ初メカラヤラレナ
イ考デアッタカラ、應救策デ斯樣ナ言葉ヲ
使クテ恐入リマスガ、御茶ヲ濁サレタト云
フヤウナ次第デアルト思フノデアリマス、
唯其中ニ稍〓積極的更生策トモ認ムベキモ
ノハ農村負債整理組合法案デアリマス
併ナガラ是トテモ唯其法案ガアルト云フダ
ケナ話デアリマシテ、之ニ注ギ込ム所ノ金
錢法案ガ何等伴ッテ居ラナイノデアリマス、
謂ハバ佛作ッテ魂入レズト云フノハ此事デ
アリマス、斯樣ナ法案ハ實ハ私嚴正ニ考ヘ
マスレバ、此法案ノミヲ議會デ協贊スルト
云フコトニモ及ブモノデナイカノヤウニモ
考ヘル位ナモノデアリマス、而シテ他ノ方
面ハ後藤農相ノ仰セラレル通リ皆應急策デ
アル此應救策モ宜シイガ政府ガ金科玉條
トサレテ居ル所ノ應救策ガ果シテ實行ニ當
リマシテ政府ノ御考ノ通リニ效果ガ擧ルカ
ドウカト云フコトニ付キマシテハ、大ナル疑
惧ト懸念トヲ持ヲテ居ル次第デアリマス、是
ハ後ニ申述ベマスガ、全體窮乏ノドン底ニ
アル所ノ此不況ノ世ノ中ヲ更生サセテ行ク
ト云フ立直シテ行クト云フコトニ付キマ
シテ、首相ノ仰セラレル通リニ自力ノ更
生······自力ノ更生ト云フコトモソレハ誠ニ結
構ナコトデアリマス、自力ガ尙ホ若干殘ッテ
居リマスルコトハ政府ノ叱咤、御激動ニ依
リマシテ奮發イタシマシテ、ドウヤラ一人
デ步ミ立チ、自ラ活路ヲ求メテ行クト云フ
コトモ、或ハスルカモ知レマセヌガ、自力
盡キ果テテ精神ガ費ヘテ居リマス者ニ對シ
マシテ、之ニ活ヲ與ヘ、手ヲ取リ、腰ヲ押
シテ自分カラフン張フテ行ケルヤウニ迄、仕
向ケルダケノモノハ政府ノ方ニ於テ御世話
ヲ御燒キニナラナケレバナラヌコトデアル
ト思フノデアリマス、如何ニ氣力衰へ力
盡キタ者ガ有難イ御題目ヲ百萬遍唱ヘマシ
タ所ガ金ノ生ル木ガ自然ニ湧ク譯ノモノデ
ハアリマセヌ、又大判、小判ガ天カラ降クテ
來ル筈ノコトモアリマセヌ、要スルニ之ヲ
和導スルノニハ政府ガ然ルベク積極的更生
策ヲ御立テニナリ、サウシテ此不況ノ世ヲ
御建直シニナルト云フコトヲ爲サラナケレ
バナラヌト思フノデアリマス、積極的更生
策ト申シマスレバ、私ノ考ヘル所ニ依リマ
スレバ取リモ直サズ、根本策デアルノデアリ
やく、積極的更生策ハ根本策デアルト同時
ニ政府ノ御唱ヘニナル所ノ應急策モ自然ニ
其中ニ兼ネ有セラレルモノデアルト思フノ
デアリマス、然ルヲ政府當局ハ到底此場合
根本策ハ出來ナイ、出來ナイト斯ウ締メラ
レテシマッテ、到底根本策ナゾト云フモノ
ハ今考ヘテ見タ所デ應急、所謂急ニ應ズル
ノデ間ニ合ハナイモノダ、斯ウ云フ風ニ御
自分ノ御奮發努力ヲ其儘ニ置カレマシテ
サウ御考込ミナッタト云フコトハ誠ニ遺憾
至極ニ思フノデアリマス、例ヘバ農村ニ於
ケル所ノ主要農產物ノ統制、或ハ農村ニ於
ケル所ノ負債ノ整理、負擔ノ輕減、斯ウ云
フモノガ詰リ今日農村ノ癌トナッテ居ル所
ノモノデアリマス、此癌ヲ切開ヲシテサ
ウシテ元ノ健康狀態ニ囘復スルニ付キマシ
テハ思切ッタ玆ニ御療治ヲナサラナケレ
バナラヌ次第デアリマス、其積極的更生策
ヲ御立テニナルト云フコトハ取リモ直サズ
世直シニモナリ、又政府ノ御唱ヘニナル所
ノ應急的效果モ同時ニ擧,テ來ルモノト思
フノデアリマス、例ヘバ米穀ニ對スル對策
ノ如キモノデアリマス、米穀ノ對策ニ付キ
マシテハ色〓ノ方面ヨリ大事ナ事柄ガゴザイ
マセウガ、其中ノ假令一ツデモ二ツデモ茲
ニ根本的ナ解決策ガ樹チマシタナラバ惟フ
ニ米價ハ必ズ騰ルデアリマセウ、其根本策
ノ良否ノ如何ニ依リマシテハ値幅ニモ關係
ガゴザイマセウガ、假ニ根本策ガ出來タト
云フコトダケデモ米價ハ多少ハ騰ルデアラ
ウト思ヒマス、例ヘバ假ニ一石五圓値上リガ
致シタト先ヅシテ考ヘテ見マスレバ石
五圓位ノ値上リハ大シタコトデハナイノデ
アリマスカラ易々タルモノデアリマスカラ、
是ナラバ消費者ノ方ニ取リマシテモ大シタ
苦痛ニハナラヌノデアリマスガ、假ニ一石
五圓當リ値ガ騰ッタト致シマシタナラバ內
地米五千万石ト致シマスレバ通計ニ於キマ
シテ三億圓ト云フ玆ニ値上リガ致スノデア
リマシテ、全國ノ農家一戶當リ五十圓ノ茲
ニ利益ガ生ズルノデアリマス、政府ノ今囘
御出シニナッテ居ル仕事ノ主モナ部分ハ土木
事業、農村土木デアリマスガ、是等ニ依ッテ
政府ノ御推算ニナッテ居ル所ヲ拜見イタシ
マスト云フト此工事ノ結果農家一戶當リ二
十圓内外ノ收入ガ農民ノ懷ニ這入ルノデア
ルト云フコトヲ仰セラレテ居ルノデアリマ
ス、右申上ゲマシタヤウナ農產物ノ騰貴ト
云フコトガ如何ニ此農村ニ及ボス影響ハ政府
ノ御唱ヘニナッテ居ル所ノ應急策、卽チ土木事
業費等ニ比ベテ見マシテ遙ニ效果的デアリ、遙
ニ普遍的デアルト思フノデアリマス、皆樣ノ
眼前ニ在ル所ノ事實、近頃生絲ノ値上リガ
致シテ居リマス、此生絲ノ値上リガ其事
ヲ如何ニ雄辯ニ物語ヲテ居ルト私ハ思ヒマ
ス、是ハ新聞ノ切拔デアリマスガ、讀賣新
聞ノ八月三十一日ノ表題ハ「生絲ノ大暴騰
カラ農村經濟ノ好轉、製絲工場ノ一齊操業
デ活氣ヅク、但、繭ハマダ〓〓割安」ト云
フ表題デアリマス、要シマスルノニ生絲相
場ガ「神戶デハ一躍千二百圓ニ買進ンダ、
横濱ハ又沸騰ノ形勢ヲ孕ンデ立會ヲ休止ス
ルニ至ッタ」斯ウ云フ事柄ガアリマシテ、ソ
レカラズット後ヘ參リマスト「此情勢ヲ持續
セムカ現下ノ製絲家、養蠶家ノ活況ハ拍車
ヲカケラレ農村經濟ニハ著シイ好轉ヲ齎ス
デアラウ」ト云フコトガ書イテアリマス、製
絲家ニ取リマシテモ亦斯樣ナコトガ書イテ
アリマス、「兎モ角生絲ノ暴騰デ製絲家ノ
得タ利益ハ輕少デナク、此事實ハ長野縣ノ
六百二十五工場ヲ筆頭ニ各地ノ休止工場ガ
續々繰業ヲ開始セルニ徵シテ明カデアル」云
云、養蠶家ニ取リマシテモ斯樣ナコトガ書
イテアリマス、「結局製絲家ハ買進ミヲ誘致
シ繭價ハ益〓〓〓スベシト期待サレテ居ル」
失業者ニ取リマシテドウ云フ影響ガアリマ
スカト云フト、製絲工場ノ一齊的活動ニ依ッ
テ各地ニ於テ農村失業者ガ救濟サレツツア
ル程度ハ實ニ豫想外デ云々、斯樣ニ農村ノ
主要農產物ノ價ノ如何ニ依リマシテハ農
村經濟ニ及ボス所ノ好影響ト云フモノハ
政府ノ土木事業ノヤウナ應急對策ドコロノ
沙汰デハナイノデアリマス、尙ホ序ニ繭ノ
コトニ付テ申シマスレバ蠶絲業ノ統制竝
ニ蠶絲價ノ安定策ト云フモノガ樹立イタシ
マセヌケレバ、到底農村ト云フモノハ絕對
ニ救濟セラレナイモノデアルト深ク信ズル
モノデアリマス、今日農村ガ窮乏ノドン底
ニ陷ノタ其原因ハ幾ラモアリマセウ、固ヨリ
米價安ト云フコトモ其原因ノ主ナルモノデ
アリマセウガ、此蠶絲價ノ大暴落ト云フコ
トガ農村ニ禍ヲシタト云フコトハ一番深刻
デアルノデアリマス、斯樣ナ風ニ農村ノ癌
トモ申スベキ所ノ諸問題ノドレ一ツヲ捉ヘ
テ解決イタサレマシテモ、非常ナ好影響ガ
アルト私ハ思ヒマスノニ、米ニ對スル所ノ
對策モ、蠶絲ニ對スル所ノ對策モ此議會デ
ハ積極的ノ更生策タル所ノ根本策ヲ拜見ス
ルコトガ出來ナイト云フコトハ返ス返ス
モ遺憾至極ノコトデアリマス、負擔輕減ニ
付キマシテモ同樣デアリマシテ、先般菅澤
議員ガ此議場デ、如何ニ農民ガ俸給生活者、
商工業者、獨立業者ニ對シテ、如何ニ公租
公課ガ重ク負擔サレテ居ルカト云フコトニ
付キマシテ、數字ヲ擧ゲテ御質問ニナッテ
居リマスルカラ、今再ビ之ヲ詳論イタシマ
セヌガ、要スルノニ農村ノ公租公課ハ負擔
ノ非常ニ過重ニナッテ居ルノデアリマス
今假ニ之ヲ俸給生活者竝ニ致サナイデモ、
商工業者ト同ジ線ニ致シマシタナラバ、農
家ハ一戶當リ五十圓宛負擔ガ輕クナルコト
ニ相成ル次第デアリマス、又負債整理ニ付
キマシテモ、今日承ハル所ニ依リマスト云
フト、農家一戶當リ九百圓、而シテ年利百
圓内外ヲ支拂ッテ居ルト云フコトデアリマ
スルガ此負擔整理ノ方ニ政府ノ「メス」ガ
進ミマシタナラバ、而シテ年利一割ヲ、年
利五分位ニ整理サレマシタナラバ農家ハ一
戶當リ四五十圓緩和サレルヤウナ次第ニナ
ルノデアリマス、其ヤウニ病根ノアル所ニ
向ッテ政府ガ療治サレマシタナラバ非常ナ
ル效果ガアルニ拘リマセズ、痛イ所ヲ避ケ
テ外ニ膏藥貼リヲサレマスルカラ餘リ效果
ガ擧ラナイノデアリマス、其效果ノ舉ラナ
イト云フ事ハ豫算ヲ見マスレバ一目瞭然ニ
相成ッテ居ルヤウナ次第デアリマス、政府
ガ應急策應急策ト仰セラレマスガ、此應急
策ハ讀ンデ文字ノ如ク急ニ應ズルト云フコ
トデアリマス、卽チ一時ノ間ニ合セ、急場
ヲ凌グ、一時凌ギト云フヤウナ意味ニナリ
マス、甚ダ申シ過ギマシテ、失禮ニ當ルカ
知レマセヌガ、間ニ合セ物ニドウセ碌ナモ
ノハナイノデアリマス、不十分、不徹底デ
アルニ決マッテ居リマス、政府當局者ガ此
臨時議會ニ提出シタノハ應急ノモノデア
ル根本ノモノニハ觸レテ居ラナイ、斯ウ
仰セラルルノハ取リモ直サズ政府者ガ御自
分カラ臨時議會ニ提案シタモノハ實ハ餘リ
碌ナモノデハナイ、間ニ合セモノダ、不十
分ダ、不徹底ダト云フコトヲ自カラ申サレテ
居ルノデアリマス、私ガ之ヲ申スノデハナ
イ、政府者ガ曩ニ申サレテ居ルノデアリマ
ス、要シマスルニ今度ノ時局匡救ニ關シマ
スル豫算案ハ、政府ノ御心ノ中ニ潛ンデ居
ル所ノ御精神ハ如何カ分リマセヌガ、兎ニ
角形ニナッテ現ハレマシタ豫算案ヲ點檢イ
タシマスト云フト、甚ダ古イ文句デアリ
マスルケレドモ、所謂龍ヲ畫イテ晴ヲ點ジ
ナイヤウナ豫算デドウヤラ龍ラシイヤウナ
形ガソコニ見エマスケレドモ、肝腎ナ眼ノ
玉ガ入ッテ居リマセヌカラナカ〓〓風ヲ呼
ビ雲ニ乘ルヤウナ藝當ガ出來ナイノデアリ
マス、次イデ政府ガ髙唱ヲシテ居ラレマス
ル所ノ應急策中ノ最モ主要ナモノ卽チ土木
事業、農業土木ニ付キマシテ私ハ感ヒヲ
持ッテ居ル者デアリマス、果シテ政府ガ期
待サレテ居ラレル通リニ、而モ今年ハ年度
モ半バヲ越サントシテ居ルヤウナ次第デ
僅ニ殘ル七箇月ニ於キマシテ此土木事業
費農業土木費ガ果シテ消化サレルノデア
ラウカドウカ、果シテ政府ガ聲明サレル通
リニ是等ノ金ガ農民ノ懷ニ確實ニ入ルデア
ラウカト云フコトニ付キマシテハ多大ナル
危惧ト懸念ヲ持ツ者デアリマス、ト申シマ
スルモノハ從來國ヤ府縣デ土木事業ヲ致シ
テ居リマスル年來ノ土木ノ狀況其能率工程
カラ推算イタシマシテ、私ハ一層其危惧ノ
念ヲ深ムル次第デアリマス、私ノ調査スル
所ニ依リマスト昭和六年ニ於テ全國府縣ノ
土木費ハ總額八千六百万圓デアリマス而
シテソレニ農業土木費ヲ差加ヘマシタチラ
バ大約一億圓デアラウト思ヒマス、然ルニ
府縣ノ從來ノ工程カラ推算イタシテ見マス
ト云フト其二割ト云フモノハ工事ガ未完
成ニナリマシテ翌年度ニ繰越サレルノガ常
習ニナッテ居ルノデアリマス、今囘ハ從來ヨ
リモ一層土木費用ガ多イノデアリマシテ、
二億六千万圓、尤モ二億六千万圓ノ中ニハ
他ノ仕事モアリマスガ、大半ハ土木事業、
農業土木ガ占メテ居ルノデアリマスガソ
レニ平年度ニ於ケル所ノ土木費ヲ差加ヘマ
シタナラバ恐ラク三億圓程度ニ達スルデア
ラウト思ハレルノデアリマスガ、之ヲ從來
ノ府縣ノ土木ノ事業ノ能率ノ推移ノ上カラ
考ヘテ見マスト云フトナカ〓〓二割ヤ三割
デハ落著クマイカト私ハ思フノデアリマ
ス、實ハ最近私ガ手ニ入レマシタ埼玉縣
'是ハ公文書デアリマスガ、昭和四年度、
昭和五年度、昭和六年度三箇年度ノ土木事
業費、用排水路改良改修、之ニ對スル豫算
額ト、決算額ト、不用切捨額ト事業繰越
額ノ統計ヲ手ニ入レテ居リマスガ、是デ見
マスト云フト昭和六年度ノ如キハ數字
ハ御迷惑ダカラ差控ヘマスガ、要シマスル
ニ豫算額ニ對シマシテ五割强ト云フモノハ
事業送リニナッテ居リマス、土木事業ニ付
キマシテハ······用排水路改良改修費ニ付テ
か、同樣豫算額ニ對シマシテ四割以上事業
繰越ニナルコトニナッテ居ルノデアリマス、
尙又是ハ少シ御迷惑カモ存ジマセヌケレド
モ、新聞ノ切拔ニ、昭和七年八月十九日ノ
報知新聞ノ記事ニ、是ハ政友會ニ於テ三土
鐵相ガ御說明ニナッタニ對スル島田顧問ガ
ソレニ對スル御問答ガアック記事デアリマ
ス、其極ク肝腎ナ所ヲ讀上ゲマスト云フト、
ソレハ島田君ノ問デアラウト思ヒマス、
島田顧問ノ申サレタコトノ要旨ハ、「要スル
ニ政府ハ時局匡救ニ對スル誠意ト力トガア
ルカドウカ、少クトモ非常時局救濟ニ對シ
テ三箇年計畫ヲ以テ臨ム如キハ吾人ハ絕
對ニ承服出來ナイ」、斯ウ云フ問ニ對シテ、
鐵相ノ御答ノ要旨ハ「時局匡救政策トシ
テ一年度ニ多額ノ金ヲ出シテ次年度ニ出
サヌコトハ後ノ影響ガ惡〓、マタ著手ス
ベキ事業等モ考ヘル必要ガアルカラ、
七年度ダケデモ使ヒコナスコトハ容易デハ
ナイト思フ」、少シク御遠慮ニナッテ居リマス
ガ、「容易デハナイト思フ」ト斯ウ申サレテ
居リマス其アトニ持ッテ來マシテ、島田
顧問ノ問ニ、前ハ略シマスガ「地方ノ窮狀ハ
今日明日ニ差シ迫ッテ居ル焦眉ノ急デアッ
デ、決議案ノ趣旨モコノ點ニ存シ、直ニ對
策ヲ立テ、救濟ノ實ヲ擧ゲネバナラヌ」ト云
フ問ニ對シ、三土鐵相ノ御答ハ「七年度デモ
ナルベク早ク著手スル考ヘデ政府ハ取急イ
デヰル、七年度ノ計畫ハ七年度中ニ消化シ
切レヌ程デアル」、閣僚自身サヘモ危ブンデ
居ラレルノデアリマス、尙又是ハ先ヅ府縣
ニ於ケル所ノ工程ノ是迄ノ例ヲ申上ゲタノ
デアリマスルガ、尙ホ土木事業ノ性質カラ
言ッテ見マシテモ、サウナカ〓〓手ッ取リ早
ク消化シテ、金ガ農民ノ懷ニ轉ガリ込ムナ
ント云フコトハ想像ガ出來ナイコトガアル
ノデアリマス、申上ゲル迄モナク土木事業、
殊ニ水利事業ノ如キハ、關係部落町村ノ間
ニ於キマシテ、大ナル利害關係ガアルコト
ハ申ス迄モナイノデアリマス、殊ニ上流地
方ト下流地方トニ於キマシテハ一層其利
害ガ懸離レテアルコトハ當然ナコトデアリ
マス從ヒマシテ府縣會ニシロ町村會ニ
シマシテモ、議決イタサレマシテ後ニ扨テ
實施ト云フ曉ニハソコニ多クノ場合、議
ガ纏マリマセヌデ、荏苒日子ヲ空過スルト
云フコトハ珍シクナイコトデアリマス、又
豫算ガ取レマシテモ、實地ノ測量、設計ノ
調製等ニハ少カラヌ日ニチヲ要シ、土地ノ
買收、起工ト云フコトニナリマスル迄ニモ
相當ノ日數ガカカルノデアリマス、況シテ
起工後ニ於キマシテ何等カ紛擾デモ起リマ
スト云フト部落ト部落トノ間ノ紛擾デ
モ起リマスト云フト、ナカ〓〓其解決ガ持
惱ミマシテ、事業ガ停頓スルト云フコトモ
是ハ往々ニ例ノアルコトデアリマス殊ニ
今囘ハ土木費額モ巨額デアリマスルシ殊
ニ政府ノ御主義ガ拙速主義デアリマシテ、
全國一齊ニ著手サセルト云フヤウナ意氣込
デ居ラレルコトデアリマスルカラナカ
ナカ左樣ナ譯ニハ御思ヒニナル程ナカ
ナカ捗ラヌト私ハ思フノデアリマス尙又
玆ニ地方ニ於ケル土木事業ニハ、一ツノ限界
ガアリマス、其限界ハ何デアルカト申シマ
スト、何事ニ依リマセズ仕事ニハ金ト人ト
ガ要シマスルノデアリマスガ、土木事業、
農業土木ニ於キマシテモ、同ジク人ト金ガ要
スルノデアリマス、豫算ハ取レマシテモ卽
チ人、卽チ土木ノ知識經驗ヲ持チ、其地方
ノ實情ニ精通シタ所ノ技術者、其技術者ヲ
首班トスル所ノ一ツノ組織ガナケレバ工
事ト云フモノニハ著手ガ出來ナイノデアリ
マス、何處ノ縣ヘイラッシヤイマシテモ、
サウ云フヤウナ土木ノ技師ガ何人モ縣廳ニ
ハ轉ガッテ居リマセヌ、況シテ全國ノ町村
ニハ左樣ナ者ハ殆ド居ラヌト申シテモ宜カ
ラウト思ヒマス、ソレヲ全國ノ各町村迄モ、
一齊ニ仕事ヲ拙速的ニヤラセヤウト御思ヒ
ニナリマシテモ、先以テサウ云フ人カラシ
テ拵ヘテ掛ラナケレバ仕事ニ著手スルコト
ガ出來ナイノデアリマス、前申上ゲマシタ
理由ノ外ニ、ナカ〓〓此土木事業ノ費用消
化ト云フコトハ非常ニ困難デアルト云フコ
トハ是ハ省察スルニ餘リアルト私ハ思フ
ノデアリマス、尙ホ玆ニ甚ダ皮肉ト思ヒマ
スケレドモ、政府當局ガ躍起トナッテ此土木
事業費ヲ高唱サレテ居リマスノニ對シマシ
テ、地方ノ農民ノ心理ニハソレニ裏切ッタヤ
ウナ考ヲ持フテ居ル者モ無キニシモアラズ
ト思フノデアリマス、又農村ノ實狀ハ、政
府ノ御考ヘユナッテ居ルコトトハ、大ニ違フ
テ居ルコトモアラウト思フノデアリマス
其一ツノ例證トシテ御參考ニ申上ゲマス
ガ、是ハ都新聞ノ八月二十七日ノ文藝欄デ
アリマシテ、「農村ト共ニ活キル」ト云フ標
題デ、久木今作ト云フ人ガ寄稿シタ文章デ
アリマス、私未見ノ人デアリマスガ、中ニ
百姓ノ言葉、農民ノ言葉ヲ用ヰテ居リマス
カラ、御聽キヅラクハアリマセウケレドモ、
サウ致シマセヌト情カ映リマセヌカラ文章
ヲ有リノ儘ニ申上ゲマスガ、是ハ久木ト云
フ人ノ文章ノ中ニ農民ノ言葉トシテ摘錄シ
テアルノデアリマス、百姓ニハ田ガ肝心ダッ
ペ救濟ダトッテ、工事ヤナンカッチ事ヲヤッ
タッテ、田畑ガオロソカニナッテシマッタラ
シヤウナカッペ、百姓ニハ、金ガアナガチ這
入ラナクッテモ、暮シノツイテクトコガアル
マダ〓〓ココラヂヤ田畑ヲミッチリヤッテク
方ガ勝ダッペエヨ」、是ハアトハ久木氏ノ文
章ニナッテ居リマス、「ヨク私ハ云フガ、田モ
アリ、畑モアリ、山モアリ、遲レテ混合的
自給自足的要素ガ、タマ〓〓取殘サレテヰ
ルコノ邊一帶ノ農民ガ、カウ私ニ今話シ掛
ケテモ別ニ不思議トシナイ」云々、ソレカラ
アトヘ持ッテ來マシテ是亦農民ノ述懷デア
リマスガ、「ココヂヤ、田モ出來メエカラ、
畑ニ何デモ陸稻ヲコレカラウント作ット
イタラ、エカッペナ、自分デ作ッタモノダケ
取ヲテ、自分デ喰ッテクヤウニシナイト、危
ナイ時勢ガ、イヨ〓〓ヤッテ來ッカモ知ンネ
エド(ゾ)」、「自分デ作ッタモノヲ自分デ喰ッテ
行ッテヰラレナイ農民ガ多クアルカラ、ソレ
デコノ世ヲ擧ゲテノ農村問題騒ギナノダ」
ソノアトガ、「ガ、ソレデドウニカ喰ッテ行
カレテヰル農民ニモ、ハッキリト今コソ
喰ッテ行ク以外ノモノマデ、汗水タラシテ
作り、丸ミノ手間損ニナル馬鹿々々シサ
ガ、一竹、一部、一縣ノ境ヲ越エテ眞劍ニ
認識セラレ始メテ來タ、農民ガ手ヲコマヌ
ク時ガ、目睫ノ間ニ迫ッテ來テヰナイト云
ヘナイコトガナイ」、マダアトモアリマス
ガ、此久木ト云フ人ガ農民ト話ヲシテ居ル
間ノ斯ウ云フヤウナ所懷ヲ、文章ニ書イテ
都新聞ニ寄セタノデアリマス斯ウ見マス
ト云フト、農民ノ心理ニハ土工ニ行クコト
リ好マナイモノモアル又如何ニ農村ガ今
日以上······若シ此農村ノ根本的禍ノ根ヲ
取ッテヤラナイト云フト、農民ガ農業ト云フ
コトニスッカリ愛相ヲツカシテシマッテサ
ウシテ鍬ヲ手カラ離スト云フヤウナ時代ガ
若シ來マシタナラバ、洵ニ是ハ由々シキコト
デアラウト私ハ思フノデアリマス、ソレニ
付キマシテモ政府當局ガ、農村ノ禍根トモ
申スベキ負擔ノ輕減トカ、負債ノ整理トカ、
或ハ米、蠶絲ニ對スル所ノ對策ヲ何故此臨
時議會ニ其中ニ一ツデモ宜カッタガ御出シ
ニナラナイカト云フコトハ遺憾至極ニ返
ス返スモ考ヘルノデアリマス、喰ベラレナ
クナッタ所ノ農業······農民ハドウシテ行ク
デアリマセウ、腕ッ節ノ强イ者ハ土方ノ群
ニ這入リマセウガ、氣イ弱イ者ハ「ルムペ
ン」ニモナレナイデアラウト思ヒマス、落
著ク所ハ親子心中カ何カノ仲間ニ這入ル、
ソレデナケレバ生キタカ死ンダカ分ラナイ
ヤウナ失踪者トナルデアラウト思ヒマス、
兎ニモ角ニモ爲政者タルモノハ、農村ノ窮狀
ヲバ認識サレマシテ、サウシテ適良ナ對策
ヲ早ク御立テニナラヌトイカヌト思ヒマ
ス、冬送リト云フヤウナ考ヲ最初カラ御持
チニナルト云フヤウナ事自體ガ、私ハ甚ダ
御宜シクナイ御心持デアッタラウト思フノ
デアリマス、尙ホ是ニ付キマシテ私ハ最モ
憂フベキ所ノ事態ヲ想像シテ居リマス、ト
申シマスルモノハ此全國一齊ニアリマス
大規模ノ土木事業ニ關聯イタシマシテ、殊
ニ今囘ノハ拙速的ニヤラレルト云フコトデ
アリマスルカラ、其間監督ノ不十分ト云フ
ヤウナ所カラシテ、色ミナ情弊ガ私ハ頻發
シナイカト云フコトヲ恐レルノデアリマ
ス、其第一ハ黨弊ガ跋扈跳梁スルト云フコ
トデアリマス卽チ大規模ノ此大土木ヲバ
好餌ト致シマシテ、之ヲ利用シテ自己ノ黨
勢ヲ擴張スル爲ニ示威運動ガ起リ、ソレガ
爲ニ府縣自治體ニ於キマシテ、一町ヲ擧ゲ
一村ヲ擧ゲ、紛擾ト醜穢ノ極ニ陷ルト云フ
コトガナイトモ申サレヌト思フノデアリマ
ス現ニ本年八月二十五日ノ秋田魁新聞ノ
記事ニ、「救農土木ニ町村ノ示威運動、
不急ノ路線ノ申請、嚴重監督ガ必要
ダ」ト云フ見出シデ明春行ハレル所ノ町
村會議員ノ改選ヲ控ヘマシテ、此土木
事業ノ計畫ニ拔目ナク割込マウトシテ
居ルヤウナ示威運動ノ記事ガ出テ居ルノデ
アリマス、論ヨリ證據デアリマス、尙ホ斯
ウ云フヤウナ今囘執行サレヤウト云フヤウ
ナ大規模ノ事業デアリマセヌデモ、平素月並
ノ土木事業ニモ、此示威運動、醜聞ト云フ
モノハ、附纒フモノデアリマス、極ク耳新
シイコトヲ申上ゲマスレバ昭和七年八月
三十一日ノ中外商業ノタ刊ニ、巢鴨町ト尾
久町ニ於キマシテ、矢張リ此土木事業ニ絡
ンデ醜聞ガ漏洩シテ居リマス、巢鴨町ノ方
ハ下水道ニ絡マル五万九千圓ノ功勞金分配
事件、尾久町ノ方ハ水道工事ニ絡マル町費
ノ不正分配事件、同ジク土木事業ニ關聯シ
テ起ッタ所ノ醜聞デアリマス、斯ウ云フヤウ
ナ五万六万ノ金ト違ヒマシテ、何億、何千
万ト云フ土木事業ガ一齊ニ全國ニ行ハレル
ノデアリマスカラ、而モソレガ拙速ニテキ
パキ早ク著手シロト云フ政府ノ御掛聲デア
リマスルカラ、ナカ〓〓縣知事ヤナンカノ
監督ノ眼ノ屆カナイ中ニ、ドン〓〓工程ガ
進ムト云フヤウナ所カラ、斯ウ云フヤウナ
黨弊ガ起ッテ來ルト云フコトハ無イトモ申
サレヌト思フノデアリマス、尙又、能ク此
土木事業ニ附纏フ所ノ地方ニ於ケル所謂羽
織「ゴロ」、所謂中間ニ立ッテ此金ヲ搾取ス
ル所ノ者ガ橫行スルト云フコトモ、是亦有
勝チナコトデアリマス、尙又不正事件ガア
ルト云フコトハ今申上ゲタ通リデアリマ
ス、尙又工事ノ最初ノ設計ノ不良ナ所カラ
シテ出來上ック後ニ工事ガ甚ダ不完成、不
完全デアリマシテ、ソレガ爲ニ地方民ガ、
工事ハ出來タケレドモ非常ナ不便ヲ感ズル
ト云フヤウナコトガ無イトモ申サレヌト思
フノデアリマス、斯樣ナ次第デアリマシテ、
是ハ餘程政府當局、府縣當局ニ於カレマシ
テ、十分ナル所ノ監督ト周到ナル用意ヲ以
テ御臨ミニナラヌト云フト是等ノ醜聞ヤ
紛擾ガ頻發スルト云フコトモ無イト云フコ
トハ臺閣諸公ト雖モ勇敢ニ保證ハサレマ
イト私ハ思フノデアリマス、此內閣ハ黨弊
ノ打開、政界ノ淨化ヲ以テ「モットー」トセ
ラレマシタ內閣デアリマスルガ、其內閣ノ
御施設ノ下ニ於キマシテ、此應急費ノ問題
カラシテ、地方ニ斯樣ナ紛擾問題、收賄問
題示威運動ガ起リ、ソレガ爲ニ農民ノ思
想ニ惡影響ヲ及ボスト云フコトガ無イトモ
申サレマセヌカラシテ、此點ニ付キマシテ
ハ政府當局ニ於キマシテハ十分ナル御留
意ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、最後ニ申
上ゲタイコトハ今度ノ時局匡救案ニ付キ
マシテ、總理大臣始メ各閣僚、ドナタモ農
村〓育ニ付キマシテ一言半句モ仰セラレテ
ナイコトデアリマス、今囘ノ時局匡救ハ
無論農村ノ······農民バカリデハアリマセ
又、アリマセヌガ、稍、重點ハ其處ニアルモ
ノト想察シテ居リマスルガ、村農ヲ救濟ス
ルニ付キマシテ、政府ハ覺束ナイナガラ兎
ニ角物質的ノ施設ヲバナサルベク、豫算ヲ
組立テラレテアリマスケレドモ、農村ノ風
紀農民ノ〓育ト云フ上ニ付キマシテノ精
神的ノ施設ト云フモノニ付キマシテハ、何
等豫算ノ中ニ見出スコトハ出來ナイノデア
リマス、私ハ思ヒマス、農村ヲ救濟スルニ
付キマシテハ物質的施設ト精神的ノ施設
ト共ニ步ンデ行カナケレバ、其效果ヲ擧ゲ
ルコトハ出來ナイト思フノデアリマス、農
村ノ疲弊ガ斯ノ如ク困憊狀態ニ陷ッタト云
フコトニ付キマシテ、其原因ヲ數ヘマシタナ
ラバ、多々アルデアリマセウ、併ナガラ其
原因ノ一ツトシテ、農村〓育ガ壺ニ嵌ッテ
居ラヌト云フコトモ其原因ノ一ツデアラウ
ト私ハ深ク信ジテ疑ハナイノデアリマ
ス、皆サンモ地方へ行フテ御覽ニナレバ直
グ御分リニナルコトデアリマスケレドモ、
地方ノ小學校、補習學校、其他農學校、中
學校高等女學校ニ於キマシテモ、農村ノ
實生活ニ觸レナイヤウナ、形式一點張リノ
〓育方法ヲシテ居ルノデアリマス、農業精
神トシテ最モ尊重シナケレバナラヌ、斯ウ
シテ行カナケレバナラヌ所ノ勤儉力行ヲ中
心トシタル所ノ硬〓育ト云フモノガ忘レラ
レテシマヒマシテ、興味本位ノ軟〓育ガ行
ハレテ居ルノデアリマス、農村ノ疲弊困憊、
農村〓育ノ不振ガ此點ニアルト云フコト
ハ識者ノ旣ニ夙ニ認メテ居ル所デアリマ
シテ、何モ私ガ新發見ヲ致シテ居ル事柄デ
ハナイノデアリマス、唯其コトガ閑却サレ
テ居ルト云フコトガ甚ダ宜シクナイト思フ
ノデアリマス、地方ニ行ッテ見マスト云フ
ト、學校ノ校舍或ハ其運動場其他ガ、其所
在ノ町村ノ貧弱サニ較ベテ見マシテ、立派
ナル所ノ宏壯サヲ持ッテ居ルノデアリマス
而モ各村ガ自己ノ村ノ學校ノ建物、運動場其
他ノ施設ガ華美壯大デアルト云フコトヲ競爭
シ合ノテ居ルノデアリマス、而モ其學校ニ從
事シテ居ル所ノ先生方ノ心得方ハドウデア
ラウカト申シマスルト、多クノ先生ノ中ニ
ハ、誠ニ眞面目ニ農村ノコトヲ考ヘ、農業ノコ
ト、農民ノコトヲ考ヘテ眞面目ニ〓鞭ヲ執ッ
テ居ル方モナイデハアリマセヌ、併ナガラ
其多クノ〓員達ハ、農村ノ實情ヲ理解シナ
イ、又理解シヤウトモ思ハナイ、農民ノ心
理ニ共鳴モシナイ、農村ガ更生シテ行クニ
ハ自己ノ持ッテ居ル所ノ〓鞭ノ振リ方ニ
依ッテドウデモナルト云フコトニ付テハ、眞
面目ナル考ヲ持ッテ居ル者ハ少イノデアリ
そく、從ッテ〓ト努力ニ乏シイ〓員ガ多イ
ノデアリマス、故ニ學校ノ所在地ニ在ル產
業組合或ハ農會其他ノ農業團體ト、此學校
ノ〓員達ノ間ニ何等ノ聯絡關係モナイト云
フ狀態ニナッテ居ル所ガ多イノデアリマス、
農村ガ如何樣ニ荒廢シヤウガ、左樣ナコト
ハ無關心ナ所ノ〓員ガ多イノデアリマス
デアリマスルカラシテ小學校ナドヘ參リマ
シテモ、前申上ゲル通リニ形式一點張リデ
アリマシテ、少シモ其部落〓土ト云フモノ
ニ卽シテ居ラナイ〓育ヲシテ居ルノデアリ
マス高等女學校ニ於キマシテモ同樣デ
全ク其農村ノ實際ト懸ケ離レタ〓育ヲヤッ
テ居ルノデアリマス、農學校ニ於キマシテ
ハ一層甚シイノデアリマシテ、農學校ノ名
ニ背ク位デアリマシテ、農業ノ實地演習ト
申シタ所デ、本當ノ箱庭見タヤウナ所デ
ヤッテ居ルヤウナ次第デ、其收穫シタ所ノ農
產物ノ値段ガ、肥料ノ値段ヲモ賄ヘナイト
云フヤウナ貧弱ナル實地演習ヲシテ居ルノ
デアリマス、而モ驚クベキコトハ夏期ニ於
キマシテ、此農學校ノ多クノモノガ暑中休
暇ヲスルコトデアリマス、農業ト云フモノ
ハ此夏期ガ一番農繁ノ時期ト申シマシテ、
農民ガ粒々ノ汗ヲ絞ッテ、農產物ヲ愛護スル
爲ニ、朝ニ星ヲ載イテ出デ、タニ月ヲ負ウ
テ歸ル粒々辛苦ヲ爲スベキ時デアリマス
カラ、農學校ノ學業ヲ修得スル所ノ書生ニ
取ァテハ最モ適當ナル、恰好ナル〓育時期
デアルノデアリマス、泥濘ナル水田ノ中ニ
立チ、草イキレト戰ッテ畑ノ草ヲ採ルト云
フヤウナコトハ、天ガ與ヘタル所ノ良キ實
地演習デアルノデアリマス、然ルニ農學校
ハ暑中ニナレバ閉鎖シテ、暑中休暇ト云フ
コトニナルノデアリマス、言語道斷ト言ハ
ナクテ何デアリマセウカ、斯樣ナル今日ノ
農村〓育ノ狀態ヲ其儘ニ看過シテ行クト云
フコトニ付キマシテハ農村ノ更生ト云フ
モノハ期シ得ラレマセヌ、古イ孟子ノ言葉
デアリマスケレドモ、泰山ヲ挾ンデ北海ヲ
超スノ類デアリマス、以上申述ベマシタ如
クニ、今囘御出シニナリマシタ時局匡救豫
算各案ハ、閣僚諸公ガ苦心努力ノ結果御出
シニナッタモノデアラウト、一應ハ敬意ハ
表シマスケレドモ、其內容ヲ檢討イタシテ
見マスト云フト、政府ガ御考ヘニナルヤウ
ナ效果ハ先ヅ擧ガラヌト私ハ思フノデアリ
マス擧ガラナカッタラドウデアリマセウ
カ、窮乏ノドン底ニ居ル所ノ農民、中小商
工業者、無職ノ智識階級者ハ、此政府ニ依〃
テ助ケ上ゲラレルデアラウト、斯ウ云フ期
待ヲシテ居ッタコトガ全然裏切ラレルヤウ
ナ次第ニナルノデアリマス、私ハ期待シタ
コトガ大デアッタダケ、ソレダケ國民ヲシテ
失望落膽ノ度ヲ深カラシメルト云フコトニ
付キマシテ、國家議會ニ對シテ大ニ深憂ヲ
抱クノデアリマス、私ガ豫察シテ······豫想
シテ申上ゲマシタコトガ實際ニ當嵌リマセ
ヌデ、政府ノ御出シニナリマシタ此時局豫
算案ガ著々實效ヲ奏シテ行キマシテ、我ニ
ガ心配シタ所ノモノハアレハ𣏌憂ダッタ
ヨト云フコトニナリマシタナラバ、私ハ非
常ニ其幸福ヲ喜ブモノデアルノデアリマス
ガ、若モ私ノ推測通リニ、此時局豫算
案デハ前申上ゲタ通リニ不十分不徹底
ノ甚シキモノデアリマシテ、而モ政府ガ是
ハト言ッテ大ニ力マレテ居ル所ノ土木事業、
農業土木ニ付キマシテモ、先程申上ゲマシ
タ通リニ害ガ發生スレバコソ、ナカ〓〓政
府ノ考ヘテ居ル通リニハ、一通リノ御心構
デハ達成スルコトハ出來ナイノデアラウト
深ク懸念イタシテ居ルノデアリマス、若シ
此懸念通リニ適中イタシマシタナラバ、抑、
此內閣ハ何ノ爲ニ生レテ來タノデアリマセ
ウカ、此內閣ハ何ノ爲ニ存在スルノデアリ
マセウカト云フコトニ付キマシテ、國民ガ
大ニ疑ヲ挾マナケレバナラヌヤウナ次第デ
アルコトヲ私ハ甚ダ政局ノ上ニ於テ憂フル
モノデアリマスカラ、何卒私ノ質問スル事
項ニ付キマシテハ、抽象的デナク、相成ル
ベクハ具體的ニ、率直明快ナル御答辯ニ接
シタイト思フノデアリマス、御便宜ノ爲ニ
質疑事項ヲバ玆ニ讀上ゲマシテ、サウシテ
御耳ニ達シヤウト思ヒマス、是ハ主ニ農相
ニ對スル部分デアリマスガ、米穀統制ニ就
テ、米穀統制案ハ如何ナル時期ニ提案セラ
ルヽ政府ノ心構ナルヤ、第二ハ蠶絲對策ニ
就テ、一養蠶奬勵ノ方針如何、二、窮迫
ノドン底ニアル多數ノ營業製絲竝ニ組合製
絲ニ對スル對策如何、三、生絲問屋竝ニ輸
出商ノ統制ニ對スル革新策如何、是ハ首相、
藏相、農相ニ對スル部分デアリマス、御
都合デ國務大臣トシテドナタカラデモ御答
ニ接スレバ宜シイノデアリマス、第三ハ農
家負債整理ニ就テ、農家負債整理ノ目的ヲ
達シ得ベキ具體案ノ〓究ガ或ル程度マデ出
來テ居ルナラバ、其進行ノ狀況ニ關シ御答
辯アリタシ、若シ其程度ニ進ミ居ラナイナ
ラバ如何ナル時期ニ提案シ得ル見込ナリ
ヤ、次ニハ首相、藏相、農相ニ對スル分デ
アリマス、是モ國務大臣ノ一人カラ御答ニ
ナッテ差支ゴザイマセヌ、第四、農家ノ負擔
輕減ニ就テ、其一ハ政府ハ非常時對策トシ
テ何故ニ農家負擔ノ輕減竝ニ其負擔ノ不公
平ヲ矯正スベキ提案ヲナサザリシヤ、二、
政府ハ農家負擔ノ輕減竝ニ負擔ノ不公平ノ
矯正ニ關シ如何ナル時期ニ提案スル意思ナ
リヤ、次ハ內務大臣ニ對スル分デアリマス、
第五、土木事業ノ實行ニ就テ、政府ハ
是等應急策ノ實施ニ就キ僅ニ七箇月ノ期間
內ニ於テ之ヲ完成シ得ル確信ト準備トヲ有
スルヤ否ヤ、二、若シ其確信ト準備トヲ有
スルナラバ我〓國民ヲシテ信ゼシムルニ足
ルベキ其計畫準備ノ內容ヲ明確ニ且具體的
ニ說明アリタシ、三、全國各町村ニ行ハル
ル直營工事ノ設計ハ何人ガヤルノカ、又其
監督指導ハ何人ガ行フノカ、是等土木事業
執行ニ依リ「ブローカー」ノ搾取ヲ免レテ農
民ノ懷ニ入ラシムルニ適切ナル具體方法ハ
如何ニスルヤ、四黨弊ヲ釀生セシメザル
コトヲ保證シ得ルヤ、之ニ對スル措置如何、
第六ハ首相、文部大臣ニ對シマスル質疑、
是モ御都合デ二人ノ中ドナタカラデモ宜シ
ウゴザイマス、農村〓育ノ革新ニ就テ、一
政府ハ農村〓育ノ革新ハ現在ノ農村窮乏打
開ノ根本策ナリト信ズルヤ否ヤ、二、若シ
信ズルトセバ其根本基調ハ如何ナルモノナ
リヤ、三、中學校、高等女學校、農學校、
府縣師範學校ノ〓育ヲシテ農村生活ノ實際
ニ適セシムル具體的方法如何、是ダケニ付
キマシテ御答辯ヲ煩ハシタイト思フノデア
リマス、若シ之ニ對シ其當該スル大臣ガ居
ラレマセヌケレバ、他ノ國務大臣カラ御答
辯ニ接スルヤウニ致シタイト思フノデアリ
マス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=5
-
006・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 只今前田子爵ノ
御尋ニ御答ヲ致シマス、第一ニ米穀統制ノ
案ハ如何ナル時期ニ提案セラルル政府ノ心
構ヘデアルカ、米穀法ニ代ルベキ米穀政策
ノ根本ニ關スル企ハ色ミ是マデ論議ヲセ
ラレテ居リマス、何レモ非常ナ重要ナ、廣
汎ナ、精密ナ組織ヲ要スル問題デアリマス、
如何ナル案ガ現在ノ米穀法ニ代ッテ成立サ
ルベキカト云フコトニ付テハ先般モ此議
場デ御答申上ゲマシタヤウニ、當局ニ於テ
折角今調査中デアリマス、是ハ御承知ノコ
トデアラウト思ヒマス、如何ナル案ヲ得マ
スルカ、現在ノ米穀法ニ代ルベキ更ニ有力
ナ良キ案ガ得ラレルナラバ、成ルベク速ニ
議會ニ提出イタシタイト考ヘテ居リマス、
若シ出來マスレバ來ルベキ通常議會ニモ提
案イタシタイ積リデ努力シテ、〓究ヲ進メ
タイ考ヘデ居リマス、次ニ蠶絲對策ニ就テ
ト云フ御尋ネデアリマス、其一ツトシテハ
色ミナ中ノ分チ方デ御尋ネモアッタヤウデ
アリマスルガ、〓シテ申シマスレバ日本
ノ蠶絲業ニ或程度ノ統制ガ行ハレナケレバ
ナラヌト云フコトハ議論ノナイコトデア
ラウト思ヒマス、實際多數ノ養蠶業者ガ養
蠶ヲ致シテ居リマス、製絲家、問屋、輸出
家、色ミ入リ亂レテ此日本ノ全體ノ蠶絲業
ガ運轉シテ參。ッテ居ルノデアリマス、其各
方面ニ向ッテソレ〓〓適切ナ統制ノ方法ガ
講ゼラレナケレバナラヌノデアリマス、其影
響スル所ハ農家ノ生產、農家ノ收支ノ問題
ニモ拘リマスシ、又外部ニ向ッテハ海外貿
易、國外市場ニモ影響ヲ及ボスコトデアリ
トス、是等ノ問題ハ矢張リ極メテ利害關係
ノ複雜ナ微妙ナモノガアルノデアリマス、
今囘政府ハ製絲業ノ統制アル方法ヲ行ハウ
ト致シマシテ、製絲業免許制度ニ關スル法
案ヲ提出イタシテ居リマス、是モ根本策ノ
一ツデアルト申シテ宜シカラウト思フノデ
アリマス、養蠶ノコトナドニ付キマシテモ、
先年蠶絲業組合法ヲ設ケマシテ、養蠶組合
等ノ設置ヲ促シテ、此養蠶家ガ共同ノ力、
自助ノ適宜統制ト云フモノヽ行ハレルヤウ
ニ進メテ行キタイト云フコトデ盡力イタシ
テ居ル譯デアリマス、更ニ今囘ノ應急施設
トシテ、桑園ノ改植整理ト云フコトニモ力
ヲ致スコトニシテ居リマス、是ハ賃銀ヲ得
サセル方法デアルト同時ニ、將來ノ養蠶ノ
基本ヲ爲ス桑園ノ生產費ヲ下ゲ、濫リニ桑
園ノ面積ガ多クテ、桑ガ餘リ過ギルト云フ
ヤウナコトノナイヤウニ、此桑園ニ依ッテ
自然ニ養蠶ノ方ノ整理統制ガ出來ルヤウニ
モ致シタイト云フ心カラ參ッテ居ルノデア
リマス、是等ノマダ今後實行スベキ根本的
ナ重要ナ蠶絲業ノ問題ニ付キマシテモ、銳
意考究ヲ進メテ居リマス、唯短時日ニ此臨
時議會ヲ目ガケテ御協賛ヲ願フヤウナ準備
ノ出來ナカッタコトハ遺憾デハアリマスル
ガ、同時ニ又之ヲ短時日ニ直ニ計畫ヲシテ、
實行スベキ筋合ノモノデモナイト考ヘタカ
ラデゴザイマス、尙ホ是ハ總理大臣、大藏
大臣及私ニ向クテノ御尋ネデアリマシタ、
私カラ御答ヲ致シマス、農村負債ノ整理、
農家負債整理ノ目的ヲ達シ得ベキ具體案ノ
〓究ガ或程度マデ出來テ居ルナラバ其進
行ノ狀況ヲ知リタイ、若シ其程度ニ進ンデ
居ラナイナラバ、如何ナル時期ニ提案シ得
ル見込デアル、此御尋ノ趣旨ガハッキリ分リ
兼ネタノデゴザイマスガ、政府ハ農家ノ
負債整理ト云フコトハ、唯、一箇ノ方法ヲ以
テノミ行ヒ得ルモノデアルトハ考ヘテ居リ
マセヌ、此度ノ豫算ニ現ハレタ諸政策、又
法案ヲ以テ御協賛ヲ願フテ居リマスル不動
產ノ融資、或ハ產業組合ノ固定貸ノ流動ト
カ、其他ノコト、此一般ニ資金ガ放出サレ、
色ミノ對策關係ニ裕リヲ生ゼシムル、而シ
テ是等ガ農家ノ負債ノ整理ニハ相當ニ役立
ツデアラウト思フノデアリマス、又一面ニ
ハ行ハレツツアル金利ヲ低クスル政策是等
モ矢張リ實行サレレバ負債整理ニ役立ツコ
トデアラウト思フノデアリマス、尙ホ其外
ニ、農家ノ爲ニ負債整理組合ヲ造ラセテ、
是ニ依ッテ農家ガ共同ノ力デ負債ヲ整理ス
ルト云フ方法モ講ジタイト考ヘテ居ルノデ
ゴザイマス、是ニ付キマシテハ、別途法案
ヲ以テ御協賛ヲ願フテ居ルヤウナ次第デア
リマス
〔國務大臣男爵山本達雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=6
-
007・山本達雄
○國務大臣(男爵山本達雄君) 前田子爵ノ
御質問ニ御答ヘ致シマスガソレヲ御答へ
致シマスル前ニ、少シク或ハ御質問ニ外レ
ルヤウナコトガアルカモ知レマセヌガ御容
赦ヲ蒙リマシテ、事情ヲ述ベテサウシテ御
質問ニ移リタイト思ヒマス、御承知ノ通リ
此內閣ガ成立ヲ致シマシテ、直グニ臨時議
會ガ始マッタノデゴザイマスルガ、其時ニ
於テ今ノ內閣ハ、前內閣ノ臨時議會ノ豫算
ヲ殆ド襲踏イタシマシテ、ソレデ六月ノ初
メニ臨時議會ヲ開キマシテ、皆サンノ協贊
ヲ得マシタコトデゴザイマス其當時ニ於
キマシテハ別ニ再ビ臨時議會ヲ起シテド
ウシヤウト云フヤウナコト迄ニハ至ッテ居
ラナカッタ、然ルニ時局ガ段々前ト變化イタ
シマシテ、衆議院ニ於テハ御承知ノ如ク、
農業ノ失業者、或ハ貧困ニ付テノ此困憊
ノ狀態ヲ見テ、何トカ救濟ノ途ヲ執ラナケ
レバナラヌト云フコトノ意味ニ於テ、容易
ナラヌ註文ガアリマシタノデゴザイマス
第一此困憊ノ事情ヲ助ケルコト、又金融機
關ガ殆ド毀レテ居ルガ故ニ、此疏通ヲ良ク
シテ圓滿ニスルコト、ドウ斯ウト云フ御承
知ノ通リ重大ナル註文ガアリマシテ、而モ
ソレヲヒドク逼迫シテ居ルガ故ニ、二箇月
以内ニ臨時議會ヲ開クヤウト云フ註文デア
リマシテ、此月ノコトニ付キマシテハ政
府ハ同意イタシマセウガ、出來ルダケ早ク
臨時議會ヲ開カウト云フコトヲ總理大臣ヨ
リ答ヘマシテ、ソレカラ今日ノ此問題ノ
卽チ諸君ニ協賛ヲ仰グヤウナ案ガ出マシタ
ノデゴザイマス、然ルニ私ノ立場ノ內務ト
致シマシテハ、直グニ其當時ニ於キマシテ
地方長官ノ更迭ヲ致シマシテ、サウシテ地
方長官ヲ招集イタシマシテ、サウシテ色ミ
政府ノ方針ヲ訓示スルト同時ニ、如何ニモ
地方ニ於テ困難ナ狀態デアリマスカラソ
コニ付テ何トカ地方ノ、此困憊ヲ救フテ行
クヤウナル途ヲ執ラナケレバナラヌ、デ地
方長官ト數日色ミ協議ヲ致シマシテサウ
シテ內務ノ此土木事業ヲ始メ、ソレ〓〓實
際ノ樣子ヲ承ハリマシテ決シタコトデアリ
マス、所デ其時ニドウ云フコトガ必要デア
ルカト申シマスト、如何ニモ地方ノ、此農
村漁村ヲ始メ困難ノ狀態ガ到ル所激シイノ
デアリマシテ、第一ニモウ融通ガ止ッテ、僅
カノ十錢、二十錢ノ金デスラモ現金ヲ手ニ
入レルコトガ困難デアルト云フ狀態デア
ル、而シテ一方ニハシヤウニモ仕事ガチイ、
ソレデ以テ失業的農家ガ仕事モナクシテ苦
ンデ居ルト云フ狀態デアルカラ、何トカ此
農家漁村ニ向クテ、仕事ヲ與ヘルト云フコ
トガ一番必要デアル而シテ今ノ、取敢ズ
金ヲ撒イテ、サウシテ現金ガ地方ニ廻ルヤ
ウナコトニナラヌト、此儘到レバ容易ナラ
ヌコトニナルゾト云フノガ、其時ノ大體ニ
付テノ論議デアリマシタ、私共ハソレヲ尤
モナリトシテ、如何ナルモノヲスレバ金ガ
農家ノ手ニ落チ融通モ幾分カ付イテ來テ、
又仕事モ出來テ來ル、是ガ何ヨリモ必要デ
アルト思ヒマシテ決シマシタコトハ、此町
村ノ土木事業卽チ道路、河川、又港灣、砂
防工事ト云フヤウナルコトニ選ビマシタノ
デアリマスガ、ソレニ付キマシテモデス、
唯是マデノ國有的······大キナ仕事ヲシマ
ス、唯金ガ掛テ、其上ニ又地方ニ於テ金
融ノ偏在スル虞ガアルノデゴザイマスカラ
シテ、此度ノコトハ今申述べルヤウナ事情
デアリマスカラ、成ルダケ普遍的ニ一體ニ
廻ルヤウナ途ヲ執リタイモノデアル、ソコ
デ申シマスト云フト是マデノ縣ノ事業、
或ハ國ガ直轄的ニヤル仕事ノ如キモノハ、
ドウモ町村ノ困憊ヲ救フト云フコトニ付キ
マシテハ大分遠イノデアリマス、ソコデ
御承知ノ如ク政府ト致シマシテハ此縣ノ
仕事、又國有ノ如キモノニ付テハ政府ガ直
ニヤル、或ハ縣有ニ付テハ其半額ヲ國庫ノ
補助トシテ支給スルヤウナルコトガアリマ
シタガ、町村ノ道路河川ノ如キモノニ至リ
マシテハ是マデ何等ノ國庫ヨリ補助ヲ致
シテ居ラナイノデアリマシタ、其町村ノ力
ニ依ッテ爲スコトニナッテ居ルノデゴザイマ
ス此度ノコトハドウシテモソレデハ目的
ヲ達セラレヌ故ニ、町村ノ事業ヲ十分ニ奬
勵シテ、其處ニ金ノ落チルヤウナコトニ
シ又農家·····成ルダケ其地方ノ人ヲ使
フヤウナル途ニシタイ、ソレニ付キマシテ
ハ是マデ國庫ヨリ補助ハ何等モ致シテ居リ
マセヌ、此町村ノ事業ニ向テ相當ナル補償
ヲ與ヘテ、サウシテ之ヲ奬勵シテヤルト云フ
コトガ必要ナリトシテ、ソレデ其町村ノ事
業ニハ四分ノ三國庫デ負擔スルコトニ致シ
マシタ、アトノ四分ノ一ニ向,テハ町村ノ
負擔デアリマスガ、當分ノ間低利資金ヲ以
テ融通ヲシテ、三箇年ノ間ハ利子モ政府ヨ
リ補給スルヤウナコトニ致シテ、サウシテ
此町村ノ仕事ヲ成ルタケ進メタイ、斯ウ云
フコトニ力ヲ用ヰタ次第デアリマス、ソコ
デ內務ノ土木事業ノ合計ニ於キマシテ七千
四百万ニナッテ居リマスガ、其七千四百万
ノ內デ半分以上ハ此町村ノ道路、或ハ河川、
砂防工事ト云フ如キモノニ流レテ行クヤ
ウナコトニシテ、而シテソレヲ各府縣ニ
其事情ニ依フテ公平ニ割當テテ行カウト云
フ意味ニ於テ、色ニ地方長官ト協議ヲ致シ
マシタ、併シ此町村ノ仕事ヲ從前ノ如ク縣
デ調ベマシテ、サウシテ其金高ヲ定メ色
色ノ手續ヲ盡シテ、而シテ内務大藏ニ其意
見ヲ述ベテ尙ホ是デ調ベテ而シテ取掛カ
ルヤウナコトヲ致シマスト、容易ナラヌ日
子ガ掛カルノデアリマス、而シテ御承知ノ
如ク此北海道、東北地方ノ如キハ早ク降
雪ノ爲ニ仕事モ出來ナイヤウナルコトガ起
キマシテ、縦ンバ今必要ナル救濟ヲシテモ、
時ガ經ッテ來レバ何等ノ效能モナイヤウナ
コトニナルカラ、成ルタケ早ク、一日モ早
ク定マッタモノナラ手ヲ著ケナケレバナラ
ヌコトニナリマス、ソコデ臨時議會ニ案ヲ
立テマスル上ノ······前ニ於テ萬一是ガ兩院
ノ御協賛ヲ得テ通過スルナラバ直ニ仕事
ニ著手スルコトニシタイ、ソレニ付キマシ
テハ能ク大藏內務ノ兩省ニ言フテ、サウシ
テ平素ノ手續ノ如キモノハドウモ事情省ク
ヨリ外ニ早クスル途ハナイノデゴザイマス
カラシテ總テ是ハ地方長官ノ意見ヲ重ン
ジテサウシテ謂ハバ其町村ノ事業ハ各府
縣ノ知事ノ意見ニ任セ委ネテ、サウシテ全
責任ヲ持タシテヤラセルト云フコトガ、却、フ
テ適切ナルコトデアラウト云フコトデ、其
手續ヲ省イテ、御協贊ヲ得タノハ一日モ早
ク手ヲ著ケルヤウニ、銘々ノ各府縣ノ方ニ
ハ訓示ヲシテアル次第デアリマシテ、ソコ
デ斯ウナッテ見マスト、只今前田子爵ノ御
質問ニアリマス如ク、ドウモ今マデ町村ニ
至リマシテハ直接ニサウ云フコトヲスル
經驗ハ乏シイノデアリマス、併シ是モ亦請
負工事ニ委ネルヤウナルコトガアルト、或
ハ又政府ノ目的ノ如ク其土地ニ金ガ散クテ、
サウシテ其土地ノ農家ヲ潤ホスト云フヤウ
ナルコトガ場合ニ依ッテハ困難ニナルコト
デアリマスカラシテ、是ハ縣ニ委ネテ、縣
ハ又町村ニ重モニ委ネテ、サウシテ其モノ
ニ於テハ其土地ノ農家ヲ、ソレ〓〓失業
的ノ困難ヲシテ居ルモノニ成ルタケ用ヰ
テ、他府縣カラ移動的勞働者ノ如キモノハ
成ルベク避ケルコトニシ、サウシテ其仕事
ハ請負工事ニ委ネズシテ、先ヅ直轄シテ町
村ガ總掛リデヤルト云フ位ナ精神デ是ハヤラ
ナケレバイカヌ、デソコニ大體ノコトヲ定
メマシテ、併シ其土地ニ於テ矢張リ専門ノ
人ヲ用ヰル方ガ經濟デ、便利デアラウト云
フコトガアルナラバ是ハ又唯素人委セ
デ能率ノ擧ラヌヤウナコトヲスレバ
ソレコソ又却ッテ國家ノ爲ニ不利ナコト
ニナルカラシテ、ソコハ取捨選擇ハ地
方官ニ委シテ、サウシテ地方官ガ十分
ニ自身ノ縣下ノモノヲ監督スルト云フコ
トニ大體ヤッテ行ッタラ宜カラウト云フヤ
ウナルコトデ、全體ノ方針ヲ執ヲテ居ル
ノデゴザイマス、併シドウモ物ハ慣レナイ
者ガアリマスト、或ハ却ッテ不經濟ニナル
ト云フヤウナル虞モナイデハアリマセヌ、
ソレガ故ニ絕對ニ其町村ニ直接ニヤレト云
フヨリモ、場合ニ依レバ土木請負師ガ取ツ
テヤッタ方ガ便利デアッテ、尙ホ效果ガアルト
云フヤウナコトガアルナラバソレハ强ヒ
テ避ケズシテサウシテヤルコトニ相成ッテ
居ルノデゴザイマス、ソコデ御氣遣ヒノア
ル如ク、是ハナカ〓〓容易ナラヌ仕事ト心
得マス、是デハ衆議院ナドデ僅ニ七千四百
万位ナコトヲ以テ地方ニ行ッタ所ガ、何ボ
ニモナラヌヂヤナイカト云フヤウナルコト
モ色ミ言ハレマシタガ、私等ノ考デアリマ
スト、此內務バカリノ土木工事ニ於テ、七
千四百万以上ノモノヲ七簡月ノ間ニ之ヲ皆
盡シテ行カウト云フコトハ隨分骨ノ折レ
ルコトデアリマス、ソレトモ何カ巧遲ヨリ
モ拙速ヲ尊ブ、故ニ少シハ拙クテモ早クヤ
レト云フ如キコトガアレバ、又物ニ依ッテ
隨分人ニ依ッテ早クヤルト云フヤウナ途モ
出來マセウケレドモ、內務ノ地方官ニ向ラ
テ申シテ居リマスコトハ成ルダケ早クヤ
ラナケレバナラヌ、一日モ早ク手ヲ著ケテ
ヤレ、併ナガラソレト同時ニ周密ナル考ヲ
以テ、サウシテ極ク綿密ニ初メカラ手ヲ掛
ケテヤッテ、拙速ヲ尊ブニ非ズシテ、誠ニ精
細ニ調ベテサウシテ早クヤレト云フ注文デ
ゴザイマスカラシテ、隨分謂ハバムヅカシ
イ註文デアリマス、併ナガラ、斯ノ如キコト
ガ後デ斯ウ云フ不利ガアル、斯ウ云フ無駄
ナコトヲシタ、ドウ斯ウト云フコトガ能ク
起リ易イコトデアリマスルカラシテ、ソコ
ハ十分ナ注意ヲ以テ行カナケレバナリマセ
ヌ故ニ、地方官ヲ呼ビマシタ其他ニ、又ツ
イ二週間程前デアリマシタガ、地方ノ內務
部長又土木課長、土木技師、サウ云フヤウ
ナ者ヲ亦百數十名招集イタシマシテ、綿密
ニサウ云ウヤウナコトニ付キマシテ、打合
セモ當局者デ致シテ、何シロ此處ハ銘々ノ
力量ノ腕試シデアル、一齊ニヤルヤウナコ
トデアルカラシテ、全責任ヲ以テ、サウシ
テ他日非難ヲ受ケ易イコトデアルガ、其事
ニ付テ一點ノ非難ガ起ラナイヤウニ、皆ヤ〃
テ貰ヒタイト云フコトヲ、現〓〓、事項ヲ打
合セルト同時ニ申シテ居ッタコトデアリマ
ス、尙ホ其上又、是ガ縦シ思フ通リニ行ク
ト見マシテモ、唯政府ガ時局ノ匡救トシテ
金ヲ撒クヤウナコトガアリマシテ、萬一其
金ガ落チタトシテ、亂雜ニ之ヲ使ッテ、又後
ガ無クナッタラ吳レト云フヤウナコトガ起
レバ、是ハ又容易ナラヌコトデアリマス、
唯、今日ハ時局ノ變遷ニ依ッテ米モ安クナ
リ、絲モ安クナリ、農家ハ如何ニモ氣ノ毒
デアルト云フコトデ、自身ノ唯心得カラバ
カリデナシニ、時勢ガ斯ノ如クシタコトガ
大イニ與"テ居リマスカラ、是ハ國家トシテ
ハ十分ニ同情シナケレバナラヌ、故ニ今申
ス如キコトヲスルガ、併シソレニ安ンジテ
行クヤウナコトガアッテハ大變ダ、ソコデ金
ノ落チナイ前カラ此自力更生ノ途ヲ十分ニ
吹込ンデ、サウシテ行キタイト云フ心得デ
アリマシテ、議會アタリニ於キマシテ、自力
更生自力更生ト言フガ、自力デ行カウニモ
ドウシヤウニモ仕事ガナイヂヤナイカ、或
ハ自身ノ食ニモアリ付ケヌト云フヤウナ者
ガドウシテ自力デ行ケルカト云フヤウナ
コトデ、大分非難ヲ受ケマシタケレドモ、
私等ノ考ヘトシテハ、今ハイケヌガ、是カラ
後ニ至ッテ段々金ガ廻ッテ來テ、是ナラバト安
ンズルト云フヤウナ時代ガ必ズ來ルト思フ
ノデゴザイマスカラ、其時ニ於テ、何卒再ビ
サウ云フコトノナイヤウニ、自省、自奮、自
勵シテ進ンデ行クヤウナ、精神的ノ又空氣
モ十分ニ奬勵シタイト思ヒマシテ、此十万
圓ノ豫算ヲ頂戴シヤウト思ッテ出シタヤウ
ナコトデアリマス、第一ノ、政府ハ應急策ノ
施設ニ付テ、僅ニ七箇月ノ期間云々ト云フ
コトハ今申述ベタコトニ於テ、御承知ニ
ナラウカト思ヒマス、ソレカラ確信ト準備
トヲ有スルナラバ我〓國民ヲシテ信ゼシ
ムルニ足ルベキ其準備ノ內容ヲト云フコト
デアリマシテ、是モ重モニ今申ス通リニ地
方官ヲ主トシ、サウシテ町村ニ委ネマシテ、
サウシテ其上ヲ內務ニ於テ、愈〓之ガ通過
イタシマシタナラバ、十分ニ地方ニ係リノ者
ヲ出シテサウシテ監督ヲシテ、地方官ヲ勵マ
シテヤラセルト云フ心得ニナッテ居リマス、
ソレカラ第三ノ町村ニ行ハルル其直營工事
ノ設計ハ何人ガヤルカ、監督指導ハドウ云
フコトヲスルカト云フ、此問ニ付キマシテ
モ大概今申上ゲタコトニ含マレテ居ルカト
考ヘマス、マア大體ニ付キマシテ御答ヲ致
シテ置キマス
〔國務大臣鳩山一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=7
-
008・鳩山一郎
○國務大臣(逸山一郞君) 前田子爵ノ御質
問ニ對シマシテ御答ヲ致シマス第一ガ政
府ハ農村〓育ノ革新ハ現在ノ農村窮乏打
開ノ根本策ト考ヘルカドウカト云フ御質問
デゴザイマシタ、〓育ハ總テノ方面ニ於キ
マシテ根本ノ對策ト考ヘテ居リマスノデ、
農村〓育ガ農村窮乏ノ打開ノ根本策タルコ
トハ御同感デゴザイマス第二ノ若シ信ズ
ルトセバ其根本基調、是ガ何處ニ在ルカト
云フ御質問デゴザイマス、農村〓育ノ根本基
調ハ之ヲ〓土的ニスル、之ヲ地方的ニスル、
之ヲ實際的ニスルト云フコトニ在ルト考
ヘテ居リマス、先刻モ御演說中ニ農業學校
ガ特ニ實際的デナイト云フ御話ガゴザイマ
シテ、斯樣ナ非難ハ時と聞ク所デアリマス、
農業學校ノ卒業生ガ町村役場ノ吏員ニナル
コトガ目的ダト云フヤウナコトヲ能ク人ガ
申スノデアリマシテ、此弊風ハ打開シテ行
カナクテハナラナイト考ヘテ居リマス、愛
知縣立ノ種畜場ノヤウナモノハ、非常ニ〓
土的デアッテ實際的デアリマシテ、私ハ之ヲ
見學シマシテ、斯樣ナヤリ方ガ一般的ニナ
リマシタナラバ甚ダ宜イコトヽ考ヘテ居
リマスノデ、此間ノ地方長官會議ニ於キマ
シテモ、斯ウ云フヤウナ趣旨デ訓示ヲ致シ
タ次第デアリマス、第三ノ中學校、高等女
學校、農學校、府縣ノ師範學校ノ〓育ヲシ
テ、農村生活ノ實際ニ適セシムル具體的ノ
方策ハドウカト云フ御質問デゴザイマス、
具體的ノ方策ハ是ハ應急的ニヤッテ行キマ
スノト、ソレカラ其根本的ニヤル二ツノ方
法ガアルカト思ヒマス、根本的ニヤッテ行
キマスノニハドウシテモ是等ノ學校ノ〓員
トナル者ノ〓員ノ養成カラヤッテ行カナケ
レバナラナイノデアリマシテ、其事ニ付キ
マシテハ文部省ニ於テ昨今考ヘテ居リマ
ス、應急的ト言ヒマスカ、直ニ之ヲ行ッテ行
キマスル具體的ノ方法ハ或ハ訓示デアル
トカ、或ハ通牒デアルトカ、學校ヲサウ云
フ方ニ指導スルコトニ付テ、色ミノ方法ヲ
講ズルヨリ致方ガナイト思ヒマス、此間ノ
臨時議會ニ於キマシテ、實業〓育ノ補助費
トシテ十五万圓增額シテ戴イタノデアリマ
ス、是等ノ費用ハ凡テ〓育ヲ實際的ニスル
ト云フコトノミニ使フコトニナッテ居リマ
ス是等モ具體的ノ方法ト云フ中ニ數ヘラ
レルカト思ヒマス、詳シイコトハ又他日御
答イタシマス積リデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵川家達君) 休憩ヲ致シマス、
午後ハ一時三十分ヨリ開會イタシマス
午後零時六分休憩
午後一時三十九分開議発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=9
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010・近衞文麿
○副議長(公爵近衛文麿君) 是ヨリ午後ノ
會議ヲ開キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=10
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011・前田利定
○子爵前田利定君 簡單デゴザイマスカラ
此席デ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=11
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012・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=12
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013・前田利定
○子爵前田利定君 私ハ午前ニ各國務大
臣ニ對シマシテ質疑ヲ致シマシタガ、更ニ
再ビ質疑ヲ繰返スノデハゴザイマセヌガ、
二三大臣ヨリ御答辯ガゴザイマシタコトニ
對シマシテ一言申上ゲテ置キタイト思ヒマ
ス、實ハ閣僚ノ中ニハ御老齡ノ方モ御出デ
デアリマスカラ、便宜上質問要項ヲ認メマ
シテ前以テ差上ゲテ置キマシテ、私ノ質問
ト筋ノ合ハナイコトノナイヤウニト、實ハ
念ノ爲差上ゲテ置イタ譯デゴザイマス、然
ル所後藤農相ノ御答辯ハ農林所管竝ニ大藏
所管ノ問題ヲ併セラレマシテ國務大臣トシ
テノ御答辯ガゴザイマシタガ私ノ御質疑
イタシマシタ點ニハ直接ニ御觸レデナク、
遠イ所カラ觸レタヤウナ御答ニ接シマシテ
私ハ滿足ヲ致シマセヌ、例ヘバ米穀ニ對ス
ル根本對策、蠶絲價安定問題、蠶絲業統制
問題、之ニ對スル根本對策ノ御提出ノ時期
ヲ伺ヒマシタガ何等御答ガゴザイマセヌ、
又負擔ノ輕減、負債ノ整理ニ付キマシテモ
同樣デ遠ク離レテノ御答ニ接シマシタノハ
甚ダ遺憾デアリマス、內務大臣ノ御答辯ハ
頗ル長クアリマシテ誠ニ御親切デアリマシ
タ、併ナガラ是ハ全ク的外レデアリマシテ、
私ガ土木事業ガ消化シキレナイデハアルマ
イカ、ソレニ伴ウテ弊害ガ起リハシマイカ、
又「ブローカー」ナドガ介在シナイカ、是等ニ
對シテハドウナサルカ、御見込ハドウカト
云フヤウナ諸問題デアリマシタガ、全ク懸
離レタ御答デアッタノデス、併シ御老體ノ
内相ヲ度〓御煩ハシ願ヒマスコトモ如何カ
ト考ヘマスシ、全ク是ハ的外レデアリマス
カラ、此際伺フニハ又前ノコトヲ長タラシ
ク御質疑イタサナケレバナリマセヌカラ
此機會ニハ差控ヘテ置キマス、ソレカラ文
部大臣ノ御答辯ハ私ガ御尋ネ申上ゲル點ニ
付キマシテ御理解ニナッテ居ルヤウニ考ヘ
マシタ、唯農村〓育ノ基調ニ付キマシテ〓
土トノ關係ヲ御述べニナリマシタガ、其點
ハ私モ御同感デアリマスガ、尙ホ御承知ト
ハ存ジマスルガ申上ゲテ置キタイコトハ農
村〓育ノ骨髄ト云フモノハ勤勉力行ヲ旨ト
致シマシタ〓土〓育、卽チ質實剛健ノ農民
精神ヲ涵養發揮スルト云フコトガ必要ト考
ヘマスノデ、ドウカ其點モ十分御體得下サ
イマシテ、ソレニ對應スル農民〓育ノ刷新
ノ御圖リヲ願ヒタイト云フコトヲ申上ゲテ
置ク次第デアリマス、尙ホ他ノ機會ニ於テ
御質疑ヲ申上ゲルカ分リマセヌガ、本議場
ニ於キマシテハ會期切迫ノ折柄デアリマス
カラ私ノ質疑ハ是デ打切ルコトニ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=13
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014・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 次ニ通〓順ニ
依リマシテ野村德七君ニ御發言ヲ許シマス
〔野村德七君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=14
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015・野村徳七
○野村德七君 私ハ大藏大臣ニ御尋ネ致シ
タイノデアリマス、聊カ專門的ニナリマス
カモ知レマセヌノデ、或ハ豫算總會デ爲ス
ベキカモ知レマセヌケレドモ、議席ヲ持チ
マセヌノデ此機會ニ御尋ネ致シマスコトガ
適當ト考ヘマシタノデ、會期切迫ノ際甚ダ
恐縮デアリマスガ質問ヲ致ス譯デアリマ
ス、御諒承ヲ願ヒタイノデアリマス、最近
爲替相場ガ大變下リマシタ、之ヲ假ニ金ノ
輸出禁止以前ノ平價ノ狀態ト、今日トヲ比
較イタシテ見マスルト云フト、一弗ニ對シ
マシテ、二圓六厘ノモノガ、今日ノ爲替相場
ニ致シマスルト云フコト、四圓三十四錢八
厘ニ當ル、又一磅九圓七十六錢三厘ノモノ
ガ只今十五圓十三錢ニ當ル、一法ガ七錢八
厘ノモノガ只今十七錢二厘ニ相當スルト云
フヤウナ狀況デゴザイマス、此爲ニ我國ガ
外國市場デ負ウテ居リマスル債務、國際金
融市場ニ負擔シテ居リマスル債務ハ先キ
ノ平價デハ約二十一億圓弱ノモノデアリマ
シテ、其内容ハ國債ガ十四億餘圓、地方債
ガ二億三千五百万圓弱、其他ノ社債ナドガ
四億六千万圓弱ト云フヤウナコトデアリマ
ス、其中ニ電力會社ノ社債ガ三億三千八百
八十一万九千圓ト云フ數字ガアルノデアリ
やく、合計イタシマシテ二十一億弱ト云フ
債務ヲ只今負ッテ居ルノデアリマスガ、之ヲ
前ニ申シマシタ現在ノ爲替相場デ申シマシ
テ圓デ返ストカ、或ハ計算ヲ立テマスルト
云フト、三十六億七千數百万圓ニナリマシ
テ、此際不可抗力的ニ十六億圓餘ノ債務ノ
大膨脹ヲ來シタ譯デアリマス、從ヒマシテ
此利拂ト致シマシテ、先キノ平價デハ一億
一千餘万圓デ足リマシタモノガ、今日ハ二
億六百數十万圓ヲ要スルト云フ譯合デアリ
マシテ差引九千二百五十幾万圓ト云フ負
擔ガ增加シテ居ルノデアリマス、其中デ政
府公債ノ負擔ニ屬シマスル利拂ノ增加ガ五
千二百六十三万圓ト云フコトニ計算イタシ
マスルトナルノデアリマス、此影響ハ金ノ
輸出禁止直後カラ起リマシテ、漸次加重シ
テ參フテ居ルノデアリマス、所ガ先般ノ六月
ノ臨時議會ノ豫算ヲ拜見イタシマシテモ、
今囘ノ豫算ヲ拜見イタシマシテモ、之ガ處
理ノ方法ニ付キマシテハ表面ニ何モ私ハ
見當ラヌノデアリマス、思ヒマスノニ或
ハ是ハ國債整理基金ト云フヤウナモノヲ以
テ整理シテ居ラレマスノカ、或ハ過去ニ於
テ既ニ今日ノ支拂ノ手當ガ、弗カ磅カ、サ
ウ云フモノデアッタノデ影響ガナイノデア
リマセウカ、又或ハ政府ノ所有ノ外貨證劵
ト云フヤウナモノヽ運用ニ依ラレテ居ルノ
デアリマスカ、チヨット窺知ルコトガ出來
ヌノデアリマス、此點ハドウ云フ風ニ處理
サレテ居リマスノカ、ソレヲ先ヅ第一問ト
シテ伺ヒタイノデアリマス、第二ハ、此外
貨公債ト云フモノガ內外ノ市場デ大變安ク
ナッテ居リマス、詰リ慘落イタシテ居リマ
ス六分五厘ノ、弗ノ、百弗額面ノ公債ガ、
紐育ノ市場デ六十二弗位ヨリ致シマセヌヤ
ウナモノモアリマス、詰リ利廻リニ致シマ
スト、紐育市場ノモノハ、日本ノ帝國公債
ガ實ニ一割以上ノ利廻リニ廻ッテ居ルト云
フヤウナ狀況デアリマス、倫敦市場ニ於キ
マスル帝國公債ハ八分カラ九分ノ利廻リ
ニ置カレテ居ルノデアリマス、電力會社ノ
社債ノ如キニ至リマシテハ、實ニ一割二三
分カラ一割五分ト云フヤウナ高率ノ利廻リ
ニ置カレテ居ル程度ニ市價ガ慘落イタシテ
居ルノデアリマス、是ハ金輸出禁止ノ影響、
又我國ノ財政ノ赤字缺陷、ソレカラ所謂滿
洲事件、斯ウ云フヤウナモノガ直接崇,テ
居ルコトハ申ス迄モナイコトデゴザイマス
ルガ、是ハ內地へ輸入サレテ居リマスル外
貨公債、卽チ新聞デモ御覽ニナリマスル通
リ過日ノ資本逃避防止法案ニ依リマシテ
「スタンプ」サレマシタコトニ依ッテ、邦人ノ
所有外債ノ明瞭ニナリマシタ分ガ、約六億
圓弱ゴザイマスガ、是等ノ內地ニアリマス
ル外貨公債モ、英吉利ナリ紐育ニアリマス
ルモノト殆ド大差ナイ程度ノ利廻リニ置カ
レテ居ル、卽チ安イ相場ニ置カレテ居ルノ
デアリマス、一國政府ノ公債ガ內地デハ五分
ノ利廻リデアリ、又外貨デアル爲ニ一割强
ニ置カレテ居ルト云フヤウナコトハ誠
是ハ不思議ナ現象デアリマシテ、況シテ低
金利政策ガ徹底的ニ行ハレムトシテ居リマ
スル現狀カラハ誠ニ不思議ナコトデアリ
マシテ、甚ダ一面カラ不愉快ニ感ズルノデ
アリマス、御承知ノ通リ英國モ金制ヲ停止
イタシマシテ以來、低金利政策ヲ持續シテ
居リマスルガ、過般其政策ノ反響ト致シマ
シデ、戰時公債ノ二十億磅、卽チ二百億圓
程ノモノヲ、五分ノ利子カラ三分半ニ借換
ヲ行ヒマシタ、我國ニ於キマシテモ、公債
ノ數量ハ本年度內ニ殆ド七十億ニ達スルヤ
ウデアリマス、此公債ノ利子ガ一分低減サ
レ得マスルナラバ、玆ニ七千万圓ノ負擔ガ
輕減サレルコトハ、申ス迄モナイコトデア
リマスガ、低金利政策ガ斯ノ如ク徹底シテ、
其實現ヲ見ルコトハ御同樣ニ無論望マシ
イコトト考ヘルノデアリマスソレニ致シ
マシテモ彼此、ソレト先程ノ外貨公債ノ存
在ト云フモノトヲ對照シテ見マスルト云フ
ト、誠ニ此外貨公債ト云フモノハ、論外ナ存
在ヲ致シテ居ルト申サネバナラヌヤウナ狀
態ニ只今ナッテ居ルノデアリマス、資本逃
避防止法案ノ上カラ考ヘマスルト云フト、
邦人ノ所有シテ居リマスル外貨公債ト云フ
モノハ時ノ價デ政府ガ之ヲ强制買上ゲス
ルコトガ出來ルヤウニナルカト解釋シテ宜
イト思ッテ居リマス、然ラバ何等カ此一割
以上ニ廻ルベキ政府ノ公債ヲ一面ニ買上ゲ
テ五分利ノ公債ヲ交付スルトカ何トカ
ソコニ對策ガナイノデゴザイマセウカ、又
海外市場ニ日ミ揭載サレテ居リマスル、又
取引サレテ居リマスル此日本ノ外貨公債ニ
對シマシテモ、或ハ荷爲替輸出ノ資金ニ對
シテ動員ヲ行フトカ、强制買收ヲ行フト
カ、或ハ在外邦人ノ資金ヲ動員スルトカ何
トカ、或ハ又政府ノ在外資金ノ運用ニ依
ルカ、或ハ外貨證劵ノ運用ニ依ルカ、何
トカシテ、此外貨ニ對シマスル對策ト云フ
モノガ立タヌモノデアリマセウカ、此運用
整理ノ如何ニ依リマシタラ、此爲替ノ「フ
ラクチュエーション」ヲ或ル程度ニ少クス
ルコトモ出來ルト思フノデアリマス一國
ノ財政上ノ信用ヲ問ハレマスル公債價格ガ
斯ノ如キ狀態デアリマスル今日ト致シマシ
テハソコニ政府御當局ハ何トカ御對策ガ
アルベキモノト考ヘマシテ、ソレヲ伺ヒタ
イノデアリマス、今一ツハ先程對外債務ノ
中ニ申シマシタ三億四千万圓弱、只今ノ爲
替相場デ換算イタシマシテ七億四千万圓弱
ニ達シマスル對外負債ヲ負ウテ居リマスル
我國ノ電力事業ノコトデアリマス、申ス迄
モゴザイマセヌガ、我國ノ電力事業ニ對シ
マスル投下資本ハ、株式會社ノ公稱資本ガ
三十九億九千万圓、拂込資本ガ三十億四千
万圓、社債及借入金ノ存在ガ十四億九千万
圓、其以外ニ先刻ノ海外負債ヲ背負ッテ居
ルノデアリマス
〔議長公爵德川家達君議長席ニ著ク〕
斯ウ云フ巨額ナ資本ヲ擁シテ居リマス
ル水力電氣事業ハ只今此爲替ノ變動ニ依
リマシテ、外債ニ對シマスル利拂ハ曩ノ募
集當時ノ「レート」カラ遙ニ高イ、卽チ一割
二三分カラ一割六分ニ相當スルヤウナ負擔
ヲ餘儀ナク利拂上カラ、サレテ居ルノデア
リマス、其上ニ募債條件ト致シマシテ、減
債基金制ヲ設ケテ居リマスル爲ニ、其金モ
今日ノ爲替デ送ラナケレバナラヌ狀態デア
リマス過去ノ不景氣ノ上ニ、又今日迄ノ
電力事業ノ不統制ナ下ニ、可ナリ打擊ヲ受
ケテ居リマスル此事業ガ、今日ハ更ニ又不
可抗力的ナ犠牲ヲ負ウテ居ルヤウニ見ラレ
ルノデアリマス、若シ此上爲替ノ下落ガ止
ミマセヌト云フコトデアリマスルナレバ、
配當不可能ノ會社ガ追ミ現ハレルコトト存
ズルノデアリマス、事業會社ガ社債ニ依リ
マスカ、借入金ニ依リマスカ致シマスル相
當ナ資金ノ調達ト云フコトハ、我國ニ於キ
マシテモ海外ノ財界ニ於キマシテモ、其營
業狀態ガ少クトモ株主配當ガ七八分位ガ可
能デアルト云フ狀態ニ置カレテ居フテコソ
圓滑ニ參ルノデアリマス、十五億圓ノ社債、
只今ノ爲替デ七億四千万圓ノ外國債、斯ウ
云フ大ナル負擔ヲ致シテ居リマスル水力電
氣事業ノ金融關係ト云フモノハ、只今何ト
申シマスカ、一大暗礁ニ乘リ上ゲムトシツ
ツアルヤウナ狀態デアルノデアリマス、電
力事業ノ起リマシタ本ハ燃料問題ノ解決ト
云フヤウナコトト關聯イタシマシテ、我國
ノ地勢ト云フモノカラ水力資源ノ開發ト云
フコトニ付テ、國家的色彩ヲ帶ビタ事業ト
シテ朝野ニ認メラレマシテ、今日ハ急速ニ
前ニ申上ゲマスルヤウナ大發展ヲ遂ゲテ
參ッタノデアリマス、是ガ國際金融市場ニ
乘リ出シマシタ動機モ亦、必シモ安イ金ガ
使ヘルト云フノミデハナカッタノデアリマ
ス其中ニハ時ノ財政當局ガ國際貸借ノ決
濟ニ都合ガ宜イヤウニ外債ニ導カレタノモ
アルノデアリマス、是ガ今日爲替ノ暴落ニ
依リマシテ非常ニ困難ヲ致シマシテ、又金融
市場ニナリ、募債市場ニ、手形市場ニ大ナ
ル暗影ヲ印シテ居ル、又一面三十億圓カラ
投資ヲ致シテ居リマス多數ノ國民株主ガ困
却ヲ致シテ居リマス、斯ウ云フ狀況ヲ實ハ
此事業ノ成行カラ靜觀イタシマシテ、政府
ハ傍觀シテ居ラルルト云フコトハ、將來是
ハ出來ヌノデハナカラウカ、ソレハ何ト申
シマスカ、少シ義理ガ惡イト云フヤウナコ
トニ立至ルノデハナイカト私ハ考ヘルノデ
アリマス、尤モ或人ハ此爲替ノ下落ト云フ
モノハ貨幣價値ノ下落デアルカラ、水力電
氣事業ノ如キモ其中ニハ物價ガ騰貴シテ
財產價格ガ倍ニモナルカラ、一時ノ負擔增
加位ニ悲鳴ヲ上ゲルノデハナイ、ソレハ耐
ヘ忍ンデ行カネバナラヌ、斯ウ云フ議論モ
アルヤウデアリマス、私モ前途ハサウ云フ
ヤウナ時節ノ來ルト云フコトモ信ジナイデ
ハナイノデアリマスガ、差詰メ電力料金ノ
値上トカ、或ハ完全ナル統制トカ申シマス
コトハ其割合ニ急速ニハ增加シ得ルモノ
デハナイノデアリマシテ、行詰リノ方ガ先
ニ參ラントシテ居ルノデアリマス、既ニ電
力會社、電力聯盟トカ申シマス側ニ於キマ
シテハ共同戰線ヲ張ル、或ハ惡イ言葉カ
モ存ジマセヌガ、一致シテ對策ヲ考ヘルト
云フヤウナコトモ聞イテハ居リマスガ、果
シテドンナ對策ガ講ゼラレルモノデアリマ
セウカ、私ハ此總額五十億ニモ達シマスル
資金關係ヲ擁シテ居リマス大事業デアリ
國民ノ多數ガ關係ヲ有シテ居リマス電力事
業デアリマス爲ニ、先ヅ此機會ニ政府ノ御
所感ヲ伺フテ置キタイノデアリマス、其次ハ
先頃ノ議會デ兌換準備ノ擴張モ出來マシ
テ、中央銀行ノ條例ノ改正或ハ參與制ノ設
置ナドモ出來マシテ、著々此金融機關ノ整
備改善ガ行ハレテ參リマシタコトハ誠ニ
國家ノ爲ニ慶賀スベキコトデアルト仔ズル
ノデアリマスガ、近代的活動ノ要素デアリマ
ス所ノ此手形市場、證劵市場、斯ウ云フ此
二大市場ノ整備改善ト云フコトガ確カ金融
制度調査會ノ問題トナッテ、尙ホ存シテ居ル
ヤウニ存ズルノデアリマス、政府ハ此手
形市場、證劵市場ノ整備改善ト云フコトニ
對シテ、今後矢張リ力ヲ注イデオ出デニナ
ル御積リガアリマスルノカドウカ、附加ヘ
テ此機會ニ伺シテ置キタイノデアリマス、
之ヲ要約イタシマスト、第一番ハ爲替下落ノ
爲ニ外貨公債ノ利子負擔增加ニ當面シテ居
ルガ、前囘ノ臨時議會ニモ今囘ノ豫算ニモ
ソレガ現ハレテ居ラヌヤウデアリマスガ、
ソレハドウナッテ居ルノデアリマスカ、第
二ハ外貨公債ガ內外市場デ暴落シテ利廻リ
ガ一割內外ニモ及ンデ居リマスガ、低金利
ニ徹底セムトスル政策上、是ハ放置シテ置
クト云フコトハ如何ニモ宜シクナイト思ヒ
マスガ、之ガ對策ニ對シテ御考ヘニナッテ居
リマスカドウカ、第三ハ本邦ノ水力電氣事
業會社ハ將來爲替ノ下落ニ伴ヒマシテ、金
融上一大障碍ニ當面シテ參ルヤウニ思ハレ
マスガ政府ハ豫メ之ニ對シテ何力御考慮
ニナッテ居リマスカドウカ、第四ハ手形市
場、證劵市場ノ整備改善ニ對スル御考へ如
何斯ウ云フコトヲ伺ッテ見タイノデアリ
マス
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=15
-
016・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 只今ノ御質疑ニ
對シテ御答ヲ致シマス、先ヅ大體申シマス
ト云フト、何レノ國デモ金本位ヲ離脫シマ
スレバ、其國ノ爲替相場ハ他ノ金本位制度
ヲ維持シテ居ル國ニ對シテハ下落スルト云
フコトハ是ハ免レナイ理數デアルノデアリ
ママ、若シ斯樣ナ下落ナカラシメムトスル
ナラバ矢張リ金本位ヲ維持シテ自由ニ金
ノ出入ヲ許スト云フ其力ヲ備ヘテ居ラネバ
出來ヌコトデアリマス、是ハ詳シク申上ゲ
ズトモ御承知ノコトト考ヘマス、ソレカラ
第一ハ爲替ガ下落シタ爲ニ我國ノ外貨公債
ニ對シテ支拂ヒマスル利息ノ負擔額ガ、卽
チ我ガ今日ノ通貨ヲ數ヘマスレバ非常ニ增
加スル、增加シツツアルノデアリマス、曩
キノ臨時議會ニモ亦今囘ニモ其負擔ノ增加
ニ對スルコトガ表面ニ、其處理ニ付テノコト
ガ表面ニ現ハレテ居ラヌト云フ譯ハドウ云
フ譯カト云フ御尋ネデアリマス、是ハ能ク
御覽下サイマスト御分リニナリマセウガ、
此前ノ臨時議會ニ於キマシテ、追加豫算ノ
中ニ貨幣父換差金トシテ前議會ニ成立シマ
シタ追加豫算額ニ載クテ居ルノデアリマス、
其交換差金ハ其追加豫算ニハ二千六百二十
万圓ト計上シテアリマス、今囘ノ追加豫算
ニハ交換差金ハ載ッテ居リマセヌデス、第二
ハ外貨公債ガ內外市場デ暴落シテ居ル、或
ハ亞米利加ニ於テハ我ガ公債ガ一割餘ニモ
利廻リカラ言フト付イテ居ル、ソレハ詰リ
我ガ外貨公債ガ彼ノ市場ニ於テ賣買ノ市價
ガ下ッタ方ノ是ハ勘定デアリマセウ、斯樣ニ
暴落シテ來ルガ、ソレモ低金利政策上放任
シテ置イテハ不利益デハアルマイカ、其對
策ハドウデアルカト云フ御尋ネデアリマ
ス、是ハ一國ノ何レノ國デモ金本位ヲ離脫
シテ、而モ其國カ外國ニ債務ヲ負フテ居ル、
左樣ナ國ノ公債ハ其債權國タル國民ガ前途
如何ニナルカト云フコトノ危惧ヲ懷クノハ
通常デアリマス、從テ之ニ向ッテ投資スル
者ガ先ヅ無クナル譯デス、外國人トシテハ
之ニ向フテ投資スル者ハ無クナル譯デ、投資
スル者ガ無クナルト云フコトハ卽チ賣手バ
カリ多クテ買手ガ無イト云フコトニナル
ソレ故ニ其市價ガ下リマス下ッタ市價デ
計算スレバ同ジ六分利附ノ公債デモ計算ス
レバ一割以上ノ利廻リニナルト云フコトガ
現ハレテ來ルノデアリマス、是ハ低金利政
策ヲ執ッテ居ル我國トシテハ其儘捨テテ置
イテ不利益トナルヤウナコトハナイカ、之
ヲ防ク對策ハドウカト云フ御尋ネノヤウニ
承ハリマシタ、又此處ニ先刻御示シノ書類
ニモサウ云フ意味ニ書イテアリマス、是モ其
外貨公債ヲ募集シマス時ノ條件ニマア大イ
ニ依ル譯デアリマス、米國ノ如キ、殊ニ近
年ニ至リマシテハ各國ノ貨幣ガ變ルモノデ
アリマスルカラ、其債務國タル國ノ通貨ノ
金ノ分量ト、債權國タル國ノ通貨ノ金ノ分
量ト、其分量ヲ基準トシテ元利ノ支拂ノ約
東ガ出來テ居ルヤウニモナッテ居リマス、而
シテズット前ニナリマスト云フト、左樣ナ面
倒ナ計算ヲ採ラズシテ、「フラクン」ナラ「フ
ランク」ト云フモノデ元利ヲ返ス、現ニ今訴
訟ニハナッテ居ルヤウデアリマスケレドモ、
東京市債ノ如キ前ノ「フランク」デ計算ヲスル
コトニナッテ居リマスルガ、又ハ圓金ト云フ
コトガ書イテアリマス、「フランク」デ拂ッテ
「フランク」デ受取ル權利ヲ向フハ持ックテ居
ル併シ又圓金デ受取リ、支拂ハレル權利
ヲ持ッテ居ル、斯ウ云フコトニナッテ居ル、
而シテ其問題ニナリマスト云フト圓デ
拂ハナケレバナラヌ、而シテ今日ハ我國デ
ハ金ノ輸出ヲ禁止シ、兌換ヲ停止シテ居ル
ノデアリマスカラ、此佛蘭西ノ公債ヲ·
我公債ヲ持ッテ居ル人ハ圓デ拂〓テ吳レロト
申セバ、矢張リ今日ノ兌換ヲ停止シテ居ル
日本銀行ノ兌換劵デ拂フヨリ外ニ仕方ガナ
イ、之ヲ兌換シテ輸出スルコトガ出來マセ
ヌカラ、條約面ニハ圓金ト書イテアルケレ
ドモ目的ヲ達シナイ、圓金ト書イテアルカ
ラシテ其時ノ金ノ分量、卽チ何處マデモ金
貨ト云フ意味ニ向フハ取ッテ訴訟ニナッテ居
ルヤウニ承ハッテ居リマス、併シ是ガ若シ
假ニデス此圓金ト云フコトガチクテ唯「フ
ランク」ト云フコトデアリマシタナラバ、其
當時ノ「フランク」ト今日ノ「フランク」トヲ見
マスト、今日ノ「フランク」ハ御承知ノ通リ
五分ノ一ニナッテ居ルノデアリマスカラ、我
國テハ元利共其五分ノ一ニナッタ「フラン
ク」ヲ以テ支拂ッテ宜イコトニナル、此場合
ニ於テハ外國ノ貨幣ノ金ノ分量ガ變フタ爲
ニ我國ハ非常ナ利益ニナルト云フヤウナ
場合モアルノデアリマス、而シテ此我外債
ノ市價ノ下ルト云フゴトハ唯〓申シマシ
タ通リ賣手ガアルトモ買手ガナイト云フ狀
況デアリマス、尙ホ詳シク實際ヲ申上ゲマ
スト、日本ノ銀行ナリ會社ナリカ從前ハ我外
國債ヲ擔保ニ取ッテ一時融通ヲスル、先ヅ相
當ナ擔保トナルベキ價値ヲ持ッテ居フタノデア
リマス、近年ハ唯金本位ヲ離脫シタト云フ
バカリデナク、貿易ノ關係ヤラ、又外交上
ノ關係ヤラ、サウ云フコトカラシテ前途不
安ニ思フテ、遂ニ買手ガナクナッタ爲ニ、市
場ニ下落ヲ見ルヤウニナッテ參ッタノデアリ
やく、之ニ對シテハ政府ト致シマシテハ唯
今如何トモスルコトガ出來ナイ、此中平價
ヲ以テ計算シテ見マスト云フト、我ガ邦人
ガ此英米ニ發行サレタ我公債ヲ買取ッテ持フ
テ居ル人モ大分アルノデアリマス、詰リ七
八億圓ハ確カニアリマス、是ガ今度資本逃
避防止法ノ實行上事實トシテ現ハレテ參〃
ク、中ニハ大部分內地ニ所有シテ居ル人モ
アルノデアリマス、デ或人ハ斯樣ナモノガ
アルカラ、政府ガ之ヲ買取ヲテ、サウシテ
之ヲ在外正貨トシテ爲替ノ安定ヲ圖ル資源
ニシタラ宜カラウト云フ說ヲナス人モアリ
マスルガ、只今申シマシタ通リ政府ハ何時
デモ必要ニ應ジテ是等ヲ買取ル、其時ノ市
場ノ相場ニ依ッテ買取ルコトガ出來ルヤウ
ニ法律デハナッテ居リマスガ、サテ之ガ買
取リマシタ所デ、先刻申シマシタヤウナ外
國ノ市場ノ狀況デアリマスルカラ、之ヲ在
外正貨化スルコトガ出來ナイノデアリマス
〔副議長公爵近衞文麿君議長席ニ著ク〕
斯ウ云フ狀況ニナッテ居リマス、ソレカラ第
三ニハ我ガ電力會社ノ御話デアリマシタ
ガ、成程數十億ノ資本ガ投ジラレテ、此電
力事業ト云フモノハ數會社ガ奮發シテ其業
ヲ起シテ、今日ハ莫大ナ國家ノ爲ニ貢獻ヲ
ナシテ居ルコトハ疑ヒガナイノデアリマ
ス、而シテ是ガ不幸ニシテ外國債ヲ持シテ
居ル、其外國債ヲ持ッテ居ルガ爲ニ爲替下
落ノ結果非常ナ金ヲ送ラナケレバナラヌ、
多額ナ圓ヲ送ラナケレバナラヌヤウナ結果
ニナッテ居ル、金融上ニ付テ政府トシテハ、
之ニ對シテ何カ對策ガアルヤト云フ御尋デ
アリマスルガ、今日ハ政府トシテハ之ニ對
スル對策ヲ考ヘテ居リマセヌ、但シ斯樣ナ
電力會社ト致シマシテ斯樣ナコトニ立至〃
タ以上ハ、先以テ自ラ努メテ、或ハ其外國
デ下ッタ所ノ自分ノ債劵ヲ買取ルトカ、或ハ
又其事業ヲ合理化シテ費用ヲ少クスルト
カ、或ハ合同スルトカ、種々自ラ考ヘテ自
ラ助ケル途ヲ講ズルコトガ當然ダラウト思
フ、又色ミサウ云フ工夫ヲ自ラ〓ラシテ參ッ
タナラバ、此爲替下落ニ依クテ生ズル損失
ヲ埋メテ行クコトモ相當ニ出來ル餘地ガア
ルノデハナカラウカ、斯ウモ考ヘテ居リマス、
第四ニハ證劵市場手形市場ノ整理、是ハ我
國ノ取引所ハ總テ此取引市場、證劵市場、
手形市場ト云フモノガ今日ハ誠ニ健全ナ發
達ヲナシテ居ルトハ私ハ思ッテ居リマセヌ、
是ハ改善スル必要ガアルト考ヘテ居リマス
ルガ、併シ此所管ニ付テハ又取引所ノ方面
ナドノコトニ付キマシテハ、其關係省ノ御
考モアルコトダト私ハ考ヘテ居リマス、而
シテ斯樣ナコトハ能ク調査シ〓究シテ、而
シテ成果ヲ得テ初メテ是ハ公言スルコトガ
出來ルノデアリマシテ、徒ラニ個人々々ノ
考ヲ、殊ニ責任アルモノトシテ之ヲ公ケニ
スルト云フコトハ、却テ迷ハセルヤウナコ
トデ、害アッテ益ナキコトト考ヘマスノデ、
私ハ之ニ對シテハ自分ノ所見ハ申上ゲヌ方
ガ宜シカラウト考ヘマス、是ダケ御答へ申
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=16
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017・野村徳七
○野村德七君 簡單デゴザイマスガ、此席
上カラ伺ヒタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=17
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018・近衞文麿
○副議長(公爵近衞文麿君) 宜シウゴザイ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=18
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019・野村徳七
○野村徳七君 第一ノ御答ヘニナリマシタ
貨幣交換差金ト云フノハ、今度ノ豫算ニハ
何程計上サレテ居リマスカ、チヨット私ニ
ハ分リ兼ネマシタノデ·····第二、第三、第
四ニ付テハ別ニ御伺ヒ致シマセヌ
〔議長公爵徳川家達君議長席ニ復ス〕
〔政府委員藤井真信君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=19
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020・藤井真信
○政府委員(藤井真信君) 便宜私カラ御答
ヘ申上ゲマス、前ノ臨時議會ニ御協贊ヲ經マ
シタ追加豫算ノ中ニ、大藏省所管デ諸拂戾
補塡金ト云フ科目ガゴザイマスガ、其中デ
追加豫算ト致シマシテ二千四百九十三万九
千五百七十七圓ノ御協賛ヲ得テ居リマス、
尙ホ其外ニ前年度ノ豫算ヲ施行イタシテ居
リマスノデ、實行豫算トノ差額ガアリマシ
テ、ソレヲ加ヘマスト只今大藏大臣ノ申サレ
マシタ、貨幣交換差金トシテ二千六百二十万
餘圓ノ豫算ガ實行豫算ノ現額トシテアル譯
デアリマス、大體此計算ヲ致シマシタノハ、
前臨時議會當時ニ於ケル爲替相場ヲ基礎ト
致シマシテ、卽チ三十二「ドル」半ヲ標準ト
致シマシテ、主トシテ外國ニ對スル國債元
利拂ノ貨幣交換差損ヲ見積ヲテ、追加豫算
トシテ御協贊ヲ經タノデアリマス
〔土方寧君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=20
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021・土方寧
○土方寧君 私ハ會期切迫ノ此場合デアリ
マスカラ、成ルベクハ差控ヘタイト考ヘマ
シタガ、何分ニモ我國ノ財政ノ前途ヲ憂慮
スルノ餘リ簡單ニ大藏大臣ノ御所見ヲ伺ヒ
タイノデアリマス、成ルベク短ク申シマス、
歲入滅、不況ノ結果デアリマセウ、歲出增、
是ハ滿洲等ノ臨時費ヤラ、農山漁村、中小
商工業者ニ對スル應急ノ救助ノ施設費ト云
フヤウナモノガアリマスルカラデアリマ
セウ、結局赤字ガ出テ居ル、未曾有ノコト
デアリマス、七億六百万餘デアリマス、此
赤字ハ政費節約ト增稅ヲ以テ塡補スベキモ
ノデアルト考ヘマス、然ルニ政費節約ト云
フコトハ、今迄モ何度モヤッタ揚句デアッテ、
最早今日ハ何トシテモ餘裕ガナイ、增稅ハ
ト申シマスト云フト、此不況ノ際ニ國民ニ
擔稅能力ガナイ、已ムヲ得ナイカラ赤字公
債デ塡補補シタノダト云フコトニナッテ居リ
マス、斯樣ナ譯デアリマスルト云フト、恐
ラクハ次ノ豫算、八年度モ最早編纂ニ御著
手ニナル時期ニ迫ッテ居ルト思ヒマスガ、是
モ或ハ赤字塡補公債ヲ發行シナケレバナラ
ヌヤウニナルカト思ヒマス、左樣ナコトデ
アリマスレバ、借金々々デヤレバ、其日暮
シノ財政ヲスルヤウナコトニナリマシテ、
誠ニ將來國家ノ爲ニ憂慮ニ堪ヘナイ、ドウ
カシテ此次ノ豫算ニハ赤字ヲ出サヌ、赤字
公債ヲ發行スルコトヲ要セザルヤウニ、御
計畫ヲ願ヒタイト思ッテ御尋ネスルノデア
リマス、節約ハモウ此上不能ト仰シヤイマ
スガ、私ハ稅目ノ細目ニ亙っテ申スコトヲ避
ケマシテ、唯チヨット二三ノ思ヒ付イタコ
トヲ申シマス、政務官ハ全廢シテ宜イト思
フ、官舍デアリマス、總理大臣、外務大臣、
警視總監、或ハ地方裁判所ノ檢事正ト云フ
ヤウナ官舍ハ職務上必要デアリマセウガ、
其他ノ大臣次官等ノ官舍ハ全廢シテ宜イト
思ヒマス、官舍ガアルガ爲ニ大臣ノ如キハ
所管官廳ト官舍ト兩方デ事務ヲ執ラレル爲
ニ、兩者ヲ往復スル官吏ガ無駄ナ費用ト時
ヲ費スノデアリマス、是程能率ノ上ラナイ
コトハアリマセヌ、ドウシテモ大臣ハ官廳
ニ出勤シテ執務スベキモノデアルト思ヒマ
ス、全廢シテ宜シイ、ソレカラ俸給減、現
在ノ儘デアリマシテモ、圓ガ下リマシタカ
ラ、實際減俸ニナッテ居ルト同然デアリマ
シテ、氣ノ毒ナコトデアリマス、併ナガラ
二百圓以上ノ給料ヲ貰フテ居ルモノデアリ
マスト、同胞ノ多數ノ者ガ生活ヲ脅サレテ
居ル今日デアリマスカラ、一割位ノ減俸ニ
ハ甘ンジテ宜カラウト思ヒマス、議員ノ歲
費モ同樣デアリマス、三分ノ一或ハ四分ノ
一ハ減ジテ宜カラウト思ヒマス、斯ノ如ク
官吏、國政參與ノ議員モ犠牲ヲ拂フト云フ
ヤウナコトデ以テ國民ニ範ヲ示スコトガ
出來マシタナラバ、私ハ滯納ト云フコトモ
減ジヤスマイカ、實際不況ノ結果滯納者ガ
多イ、事實納稅ガ出來ナイト云フコトモア
リマセウガ、實ハ不況ヲ口實ニ怠ッテ居ルモ
ノモ少クナイト云フコトヲ聞イテ居リマ
ス、ソンナ者ヲ激勵スル爲ニハ、率先シテ
官吏議員等ガ犧牲ヲ拂フベキモノデアラウ
ト思ヒマス、ソレカラ公債ノ低利借換ハ出
來ヌモノデアリマセウカ、段々殖エテ來マ
シテヨク覺エマセヌ、六十億位ハアリマセ
ウガ、利子ダケデモ大變デアル、今度モ六
億程殖エマシタ、次モ亦殖エルカモ分ラヌ、
其利拂ダケデモ歲出ガ殖エル譯デアリマ
ス、是ハ何トカシテ低利ノモノニ借替ハ出
來マスマイカ、無論强制スルコトハ出來マ
スマイ、併ナガラ國民ガ眞劍味ニナッテ我
國ノ財政ヲ建直サウト云フナラバ、低利ノ
公債ニ借替ヘルコトヲ承知セヌ譯ハナイト
私ハ考ヘマス、一方ニハ郵便貯金利下ヲ
スルト云フコトモシテ居ルコトデアリマス
カラ、公債モ低利ノモノニ借替ヘテ宜カラ
ウト思ヒマス、是ハ參考デアリマスケレド
モ、英吉利デハ二「ビリオン」ト云ヒマスカ
ラ餘リ大キクテ私ナドニハチヨット「ピン」
ト來マセヌガ、二十億磅、最近ノ相場デ換算
シマスト云フト三百億圓位、利ダケデモ十
五億位デアリマセウ、ソレヲ三分半ニ借替
ヘル、ソレガ大部分ガ三分半ニ持主ガ快諾
シテ始末ガ付イタヤウデアリマス、十五億
程ノ利息ガニ分半デ十億位ニナッテ、差ガ四
債幾ラト云フモノハ歲出減ニナッタ譯デア
リマス、斯ウ云フヤウナ調子ニ私ノ考デハ、
公債ノ低利ニ借換ガ出來ナイコトハアルマ
イ、是ナドガ私ノ心付イタ歲出減ノ項目デ
アリマス、其外色ミナコトガアリマセウ
ガ、私ニハ今心ニ浮ビマセヌ、一方增稅ノ
方デアリマス、如何ニモ此不況ノ場合增稅
ハ思ハシクアリマセヌ、農村ノ如キハ負擔
ガ重過ギルト云フコトデアリマス、是ハ何
カノ方法デ輕減シナクチヤナリマスマイ
ガ、又一方ニ於テハ能ク細目ニ亙ッテ御〓
究ニナッタラ、多少增額出來ナイコトハナカ
ラウカト思ヒマス、殊ニ所得稅ノ如キ今デ
ハ四百万圓デアリマシタカガ最高限度ニ
ナッテ居リマス、アヽ云フ限界ヲ定ムル必要
ハ萬々ナイト思ヒマス、矢張リ何万ト云フ
ヤウナ可ナリ大キナ所得ノアル者ニハ現在
ノ累進率ヨリモ少シ高クスルヤウニシテ、
ソレカラ四百万ト云フコトノ限界ヲ撤廢シ
テ、五百万七百万多々益、辨ズル譯デ、ソ
レニズット掛ケテ行ク、今ノ率デズット行
キマスト、何千万ト云フモノガアルトスル
ト、所得ノ全部ニナルカモ知レマセヌ、百
分ノ百ト云フコトニナルカモ知レマセヌ
ガ、ソレハ意味ヲ爲サヌカラ、或ハ百分ノ
七八十ニ止メタラ宜イカモ知レヌ、英吉利
デハ現ニ戰時戰後ハソコ迄行ッタコトガア
リマス、是モ一ツノ歲入ヲ增加スル一ツノ
手段ダラウト思ヒマス、何モ四百万ニ限界
ヲ置クコトハチヨットモナイト思フ、國民ノ
財產ハ國ノ保護ニ依ッテ保有シテ、享有シテ
居ルノデアリマスカラ、多クノ財產ヲ有ッテ
居ル者ハ多クノ保護ヲ受ケテ居ル、ソレダ
カラ四百万デ限界ヲ切ル必要ハナイ、五百
万、六百万多々益、辨ズル譯デ、ソレ相當ノ
所得稅ヲ負擔シテ宜イト思ヒマス、其外色
色財政ノ當局カラ見レバアリマセウ、何カ
ノ方法ヲ以テ歲出ヲ減ジ歲入ヲ增ス、サウ
シテ此次ノ八年ノ豫算ニ於テハ公債ヲ以テ
塡補シナケレバナラヌヤウナ、赤字ヲ出サ
ナイヤウニ、我々ニ安心ヲ與ヘルヤウナ御
決意ガアリマスカ、其點ヲ伺ヒタイ、細カ
イコト迄伺フニハ及ビマセヌ、此次ノ豫算
ニハ公債ヲ以テ塡補シナケレバナラヌヤウ
ナ·······赤字ヲ出サヌヤウニ豫算ヲ編成スル
コトガ出來ル見込デアルカナイカ、ソレヲ
伺ヒタイノデアリマス
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=21
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022・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 土方君ガ御意見
ヲ御述べニナッテ、八年度ノ豫算ニ付テ赤字
公債ヲ出サナイヤウニ豫算ガ組メルカ組メ
ナイカ、其コトヲ聽ケバ宜イト云フコト
デ、其コトダケノ御答デ宜ケレバ、八年度
ノ豫算編成ニ於テ赤字公債ヲ無クスコトハ
出來マセヌト明カニ申上ゲマス、而シテ其
御意見ノ政務官ヲ全廢スルトカ、官舍ヲ全
廢スル、或ハ俸給ヲ減ズル、色〓是ハモウ
財源ヲ殖ヤス本ニナルコトハ當然デアリマ
ス、增稅ノコトモ是等モ皆當局トシテハ
前途ニ於テ考ヲ持ッテ居リマス、併シ未ダ御
希望ノ如ク八年度カラシテ赤字ヲ無クシテ
豫算ヲ立ツルト云フ見込ハ到底立ッテ居リ
マセヌノミナラズ、御示シノ如ク政費ノ節
約及ビ增稅ト云フコトハ、今少シク此商工
業ノ事業ノ發達シテ、セメテハ······今ノ所
デハ二億足ラズモ一般會計ノ歲入ガ自然ニ
減ノテ參クタノハ是ハ不況ノ結果デアリマ
ス、ソレ等ヲ取返シテ、尙ホ駸ミトシテ進
ム時ニ於テ、始メテ增稅ノコトハ十分考ヘ得
ラレルコトダト考ヘテ居リマス、又公債ノ
利息ヲ英吉利ノ例ニ依ッテ御示シニナリマ
シタガ、英國デハ低金利政策ヲ實行シテ、
今日ノ市場ノ金利ト云フモノハ長ラク其低
利ニ取引ヲサレテ居ルノデアリマシテ、新
タナル資本ヲ有利ニ運用シヤウト申シテ
モ、卽チ其低金利政策ノ結果、從前ノ如ク
事業ニ投資シヤウカ、商賣ニ投資シヤウカ、
安全ナ途ニ於テ三分五厘ニ確カニ廻ルト云
フ見込ハ立タナイノガ多イ、餘程ソコニハ
ソレ以上ノ利廻リニ資金ヲ働カセヤウト思
ヘバ、一方ニハ危險ガ件フト云フコトガア
ル、危險ガ伴ハズシテ確實ニ三分半ニ利廻
リノ出來ルト云フモノハ、今日ノ英國ノ低
金利市場ニ於テハ歡迎サレルコトハ勿論デ
アリマス、ソレニ對シマシテモ全額償還、
正金償還ヲ望ンデ居ルモノガ少ナクナイト
云フ位ノ狀況デアリマス、我國ニ於テモ愈〓
此資本ノ利子ト云フモノガ將來低利ニ動
ク、如何ニシテモ危險ナキモノニ投資シテ、
確實ナ利廻リガ、例ヘバ四分、四分五厘ヨ
リ望ムコトハ出來ナイト云フ環境ニ、全體
ノ經濟界ノ狀況ガ改ッテ居リマスレバ、其時
ニ於テ始メテ我國ノ公債ヲ低利ニ借換ヘル
ト云フ時期ガ來ルノデアリマシテ、今日ハ
マダ其程度ニ至ッテ居リマセヌ、斯樣ナ次第
デアリマスカラシテ、八年度ノ豫算編成ニ付
テ赤字ヲ無クスト云フコトハ御請合出來ナ
イト云フコトヲ申上ゲテ置キマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=22
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023・土方寧
○土方寧君 其次ノ八年ノ豫算ニ於テハ赤
字公債ヲ出サヌヤウニシタイト思ッテスル
積リダト云フ御返事デモ伺ヒタイト思ッテ
伺ッタノデアリマスガ、マダ出來ナイ、長
イ間赤字ヲ出スト云フヤウナコトデハ、內
外ニ對シテ我國ノ信用ヲ失フト云フコトニ
ナリマスカラ、誠ニ殘念デアリマス、ケレ
ドモ財政當局ガ出來ナイト仰シヤレバ、將
來ヲ不安ニ思ヒナガラ忍ブヨリ仕方ガアリ
マセヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=23
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024・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 是ニテ質疑ノ通
告ハ終了イタシマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=24
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025・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第一ニ
移リマス、市町村立尋常小學校費臨時國庫
補助法案、政府提出、衆議院送付、第一讀
會
市町村立尋常小學校費臨時國庫補助法
案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年八月三十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
市町村立尋常小學校費臨時國庫補助
法案
市町村立尋常小學校費臨時國庫補
助法
第一條市町村立尋常小學校ノ經常費ヲ
補助スル爲國庫ハ昭和七年度ヨリ昭和
九年度迄每年豫算ヲ以テ定ムル所ノ金
額ヲ支出ス
第二條前條ノ補助金ハ第三條ノ補助金
ヲ除キ其ノ半額ヲ前年六月一日ニ於ケ
ル町村立尋常小學校ノ〓員數ニ、他ノ
半額ヲ前年六月一日ニ於ケル町村ノ就
學兒童數ニ比例シテ町村ニ交付ス
第三條政府ハ市町村義務〓育費國庫負
擔法第五條ノ町村ニ第一條ノ補助金ノ
百分ノ四十以內ヲ特ニ增加交付ス
政府ハ市町村義務〓育費國庫負擔法第
四條ノ市ニ第一條ノ補助金ノ千分ノ
七·五以內ヲ特ニ交付スルコトヲ得
第四條本法ノ補助金ハ市町村立尋常小
學校〓員ノ俸給ニ要スル經費ニ充ツル
モノトス
本法ノ補助金ガ市町村義務〓育費國庫
負擔法ノ國庫交付金ト合算シ町村立尋
常小學校〓員ノ俸給ニ要スル經費ノ全
額ヲ超ユル場合ニ於テハ町村立尋常小
學校ノ〓員俸給ニ要スル經費以外ノ經
常費ニ之ヲ充ツルコトヲ得
第五條本法ニ定ムル町村立尋常小學校
〓員中ニ算入スベキ代用〓員ノ範圍ハ
文部大臣之ヲ定ム
第六條本法ノ適用ニ付テハ町村組合及
町村制ヲ施行セザル地域ニ於ケル町村
ニ準ズベキ公共團體、其ノ組合又ハ小
學校設置區域ハ之ヲ町村ト看做ス
本法ノ適用ニ付テハ市町村立尋常高等
小學校ニ於テ尋常小學校ノ〓科ヲ授ク
ベキ部分ハ之ヲ市町村立尋常小學校ト
看做ス
第七條地方長官ハ本法ノ補助金及市町
村義務〓育費國庫負擔法ノ國庫交付金
竝ニ市町村ノ一般會計繰入金其ノ他ヲ
以テ歲入トシ市町村立尋常小學校又ハ
市町村立尋常高等小學校ノ〓員俸給費
其ノ他ノ經常費ノ全部又ハ一部ヲ以テ
歲出トスル特別會計ノ設置ヲ市町村ニ
命ズルコトヲ得
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣鳩山一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=25
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026・鳩山一郎
○國務大臣(〓山一郞君) 提案ノ理由ヲ說
明イタシマス、近時財界不況ノ結果、小學
校〓員俸給不拂等ノ事實ヲ生ズルヤウニナ
リマシテ、市町村財政ハ極度ニ急迫シテ居
リマス、依テ政府ハ市町村立尋常小學校費
ニ補助ヲ與ヘマシテ、市町村ノ負擔ノ輕減
ヲ圖リマシテ、併セテ〓員俸給不拂等ノ事
實ヲ防止スル爲ニ、單行法トシテ本案ヲ提
出イタシマシタ次第デゴザイマス、何卒速
ニ御協贊下サラムコトヲ希ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=26
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027・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 質疑ノ通〓ガゴ
ザイマスカラ、發言ヲ許可イタシマス、紀
男爵
〔男爵紀俊秀君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=27
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028・紀俊秀
○男爵紀俊秀君 會期切迫ノ折柄デアリマ
ズルノデ、極メテ簡單ニ伺ヒマス、只今上程
ニナッテ居リマスル法律案ハ、只今大臣ノ御
說明ヲ承リマスト、一ハ地方ノ疲弊ヲ救ハ
ムガ爲、一ハ〓育ノ向上ヲ圖ラムガ爲ニ、
此法案ヲ御提出ニナッタカノヤウニ承知イ
タシマス、然ルニ私ニ斯ウ云フ疑問ガアル
ノデゴザイマス、凡ソ〓育ノ事ト云フモノハ
申セバ百年ノ大計ヲ考へテ永久的ニ施設ス
ベキモノデアッテ、決シテ一時臨時的ニ計畫
ヲ立テルモノデナカラウト思フノデゴザイ
そく、デ只今ノ御說ニ依リマスルト、一ハ
地方ノ疲弊ヲ救ハムガ爲、斯ウ仰シヤイマ
スケレドモ、私ノ考ヘル所ニ依リマスル
ト是ハ地方ノ疲弊ヲ救ハムガ爲ニ非ズシ
テ、却テ地方ノ疲弊ヲ助長スル結果ニナリ
ハシナイカト思フ、永久的ニ〓育ノ施設ニ
付テ千二百万圓ノ金ヲ增額スルト云フコト
ナラバ結構デアリマスガ、三年間千二百万
圓程度ノ金ヲ支給スルト云フコトニナリマ
スルト、三年後ノ地方ノ〓育ニ對スル經費
ハドウナルノデゴザイマセウカ、三年後ハ
一意〓育ノ擴張ヲ見合セテ、元ノ有樣ニ戾
シテ、サウシテヤッテ行クト云フヤウナコ
トニナリマスト、是ハ〓育上ニ甚シキ損害
ヲ被ラスコトニナルノデアリマス、若又
千二百万圓ヲ增シタモノヲ、三年後ニ地方
ガ之ヲ負擔シテ、之ヲヤルト云フコトニナ
リマスト、御承知ノヤウニ今日ハ地方ノ〓
育費ト云フモノハ五割以上、六割以上ニモ
達シテ居ルノデアッテ、〓育費ヲ何トカシテ
削減ガ出來ナイモノデアラウカ、餘リニ〓
育費ガ增シテ居ルカラ、地方ガ疲弊ヲスル
原因ヲ爲シテ居ルノデアル、サウ云フヤウ
ナ見地カラ致シマスト、當然地方費ノ中デ
〓育費ノ削減ヲ圖フテ行カナケレバナラナ
イノニ、三年先ニハ〓育費ガアベコベニ、
千二百万圓ト云フモノヲ、國ニ代ッテ之ヲ
增サナケレバナラヌト云フ結果ニナルノデ
アリマスカラ、ドチラノ見地カラ考ヘテ
モ、斯ウ云フヤウナ臨時的ノ施設デ以テサ
ウシテ救ハウト云フコトハ、是ハ私ハ大キ
ナ間違ヂヤナカラウカト思フノデアリマ
ス、詳シイコトハ時間ガ掛リマスカラ申上
ゲマセヌガ、之ニ對シテドウ政府ガ考ヘテ
居ラレルノカ、三年ト云フケレドモ、三年
ノ間スハ何レ今日ノ景氣ガ直ルダラウ、サ
ウスレバ、地方ガ之ヲ負擔スルコトガ出來
ルト云フ考ヲ以テ居ラレルノカ、或ハ三年
ト云フコトニ切ッテ居ルケレドモ、三年後ニ
モ矢張リ此法律ヲ何トカ繼續サス積リデ之
ヲヤッテ居ルカラ、其方ノ心配ハナイト云フ
考デ居ルノカ、ソレナラ何デ臨時國庫補助
ト云フヤウナコトニ爲サルノカ、此點ヲ
一ツ伺ッテ置キタイ、ソレカラ第二ニハ特別
會計デアリマスガ、此特別會計ノコトニ付
キマシテハ、前議會ニ特別委員會ニ於キマ
シテモ、豫算委員總會ニ於キマシテモ、皆
樣ノ御迷惑ヲ顧ミズシテ、長時間私之ニ付
テ御尋ネシタノデアリマス、其時ニ文部大
臣ハ斯ウ云フ工合ニ明カニ御答辯ニナッテ
居ルノデアリマス、特別會計ニ如何ナル方
法デスルカト云フヤウナコトヲ今日マデ私
ガ心付イテ居ラナカッタノハ、誠ニ相濟マナ
カッタ次第デアリマス、無論サウナルノハ當
然デアリマスカラ、成ルタケ近キ將來ニ於テ
左樣ニ變更サレルヤウニ努力ヲ致シマス、
ト云フ御答辯ニナッテ居ルノデアリマス、申
セバ特別會計ニハ近キ將來ニハ必ズヤリマ
スト云フコトヲ御約束ニナッテ居ルノデア
リマス、此法律案ヲ見マスルト、成程地方
長官ノ考ニ依フテハ特別會計ニスルコトヲ
得ト云フコトニナッテ居リマスカラ、或ハ大
臣ハソレハ特別會計ニスルンダ、地方ニ於
テ他ノ仕事ニ使ヲタリ、······申セバ土木事業
ニ使ッタリ、或ハ又社會事業方面ニ使ヲテ、
〓師ノ俸給ヲ〓師ノ俸給ニ向ケナイト云フ
ヤウナ所ニハ、地方長官ハ必ズソレニ向ケ
シムベクヤルノデアリマス、特別會計ニス
ルコトヲ得ト云フ條項ガアルンダカラ、差
支ガナイト云フヤウニ、必ズ御答辯ニナル
カモ知レマセヌ、併シ是ハ今日ノ現狀ヲ能
ク御考ヘニナルト、全ク反對ノ結果ニナル
ノデアリマス、市町村ニハ相當、政黨ノ弊
害ト云ヒマスカ、サウ云フヤウナ有樣ニナフ
テ居ルノデアリマスルシ、町村長ガ縣會議
員ニナッタ者モアリマス、色ミナッテ居リマ
スカラ、〓員ノ俸給ヲ他ノ方面ニ流用シテ
居ルヤウナ所デハ、是非特別會計ニ地方長
官ガヤリタイケレドモ、サウ云フヤウナコ
トハ事實出來ナイノデアル、實際ノ有樣カ
ラ申セバ、立派ニ〓員ノ俸給ヲ〓員ノ方へ向
ケテ居ルヤウナ所ニハ、ソレハ特別會計ニサ
レマセウケレドモ、サウ云フヤウナ弊害ノ
アル所ニハ、殊更ニサウ云フヤウナコトヲ地
方長官ノ施行シナイヤウニ出來得ルノデア
リマス、デアリマスカラ、特別會計ニ地方
長官ノ考ニ依フテ爲スコトヲ得ト云フヤウ
ナ條項ハ、申セバ羊頭ヲ懸ゲテ狗肉ヲ賣ル
ト云ヒマスカ、名前ダケデアッテ、是ハ實際
出來ナイコトデアリマス、ソレヨリハ何デ
總テヲ特別會計ニスルト云フコトヲ御規定
ニナラナカッタノカ、是ハ前議會ニ於テモ度
度ソレヲ申上ゲテ、必ズ之ヲスルト云フコ
トノ御約束ニナッテ居ル、デアリマスカラ、
スルコトヲ得ト云フヤウナ、サウ云フ體裁
ノ好クシテ其實行ハレナイヤウナコトヨリ
ハ、特別會計ニスベシト云フコトデ、ッ
ノ特別會計ト云フモノヲ何デ御立テニナラ
ナカッタノカ、此二點ヲ伺タイト思ヒマス
〔國務大臣鳩山一郞君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=28
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029・鳩山一郎
○國務大臣(鳩山一郞君) 只今ノ御質問ニ
御答ヲ致シマス、第一ノ點卽チ三箇年ヲ限ク
テ此單行法ヲ出シタコトハ、寧ロ市町村ニ
却テ迷惑ヲ掛クルモノデアルト云フ御質問
ニ對シマシテハ、私ハ紀男爵ト其所見ヲ異
ニ致シマス、只今ノ單行法ハ非常時匡救對
策トシテ已ムヲ得ズ提出イタシタノデアリ
マシテ、景氣ガ囘復シ財界ガ不況カラ免レ
マシタナラバ、〓員俸給不拂等ノ事實モ自
然消滅スルコトト考ヘマス、若シ假ニ政府
ノ豫想ニ反シマシテ、今日ノヤウナ狀態ガ
繼續セラルヽ場合デアリマシタナラバ、此
單行法モ其成立ノ趣旨ニ從フテ繼續セラル
ルヤウニ致シタイト思ヒマス、サウ云フヤ
ウニ致シマスレバ、市町村ガ却テ迷惑ヲ受
クルト云フヤウナ憂フベキ事態ハ生ゼザル
モノト考ヘマス、第二ノ點、特別會計法ヲ
何故命ジナカッタカト云フ御質問デゴザイ
マスガ、原則トシテ市町村ハ自治ノ團體デ
アリマシテ、成ルベクハ其權能ヲ尊重イタ
サセナクテハナラナイト思ッテ居リマス、已
ムヲ得ザル事態ガ生ジマシタ場合ニ、自治
ノ權能ニ國家ガ······或ハ法律ナリ勅令ガ干
涉イタシマシテ、其誤ヲ匡スト云フコトハ、
國家ノ一分子トシテ已ムヲ得ナイノデアリ
マスカラ、サウ云フ爲ニ本法ヲ設ケタノデ
アリマス、地方長官ハ必要ガアレバ必ズ命
ズルト思ヒマス、又其必要ノ有無ハ文部省
ニ於テモ特ニ監督ヲ嚴重ニ致シマシテ、
國庫カラ補助スル金額ガ他ニ流用セラルヽ
ヤウナ虞ガアル場合ニ於キマシテハ、地方
長官ニ命ジテ此法律ノ適用ヲサセタイト思
ヒマス、デ地方長官ハ命ズルコトヲ得ト書
イテアリマスケレドモ、是ハ唯權能ヲ示シ
タノデアリマシテ、文部省カラ命ズベシト
云フヤウナ訓令ヲ與ヘマシタナラバ、長官
ハ必ズ命ズルモノト思フノデアリマス、從
テ前臨時議會ニ於キマシテ、紀男爵ニ御
約束申上ゲマシタ、特別會計ヲ成ルベク速
ニ實施シタイト云フ希望ヲ持ッテ居リマス
ト云フ其御約束ハ、私ハ實ハ完全ニ果シタ
ト思ヒマシテ、寧ロ御褒メノ言葉ヲ頂戴ス
ルヤウナ氣持デ居タノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=29
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030・紀俊秀
○男爵紀俊秀君 簡單デアリマスカラ此席
カラ······只今ノ御答辯ハ全然私共ト······私
共ガ考ヘテ居リマスノト全ク反對ノ御意見
デ、此點ニ付キマシテハ、實ハ文部大臣ハ
總明ナ方デ居ラッシヤイマシテ、極ク萬事
ニ通曉シテ居ラッシヤリマスケレドモ、甚
ダ失禮デアリマスガ、惜ムラクハドウモ此
國民〓育、初等〓育ト云フコトニ付キマシ
テハ、前議會ニモ申上ゲマシタ通リニ、ド
ウモ認識不足デ居ラッシヤルヤウニ私ハ思
フノデアリマス、サウ云フヤウナ見地カラ
總テ斯ウ云フ工合ニ御說明ニナリマスカラ、
何時モ間違ヲタ方向ニ參リマスヤウニ思フ
ノデアリマスガ、ソレニ對シマシテハ、長
イコトヲ申スコトハ出來マセヌカラ、私ハ
モウ是デ質問ヲ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=30
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031・徳川家達
○議長(公爵德川家違君) 本案ノ特別委員
ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔近藤書記官朗讀〕
市町村立尋常小學校費臨時國庫補助法案
特別委員
侯爵松平康昌君伯爵酒井忠正君
子爵野村益三君子爵三室戶敬光君
男爵紀俊秀君有吉忠一君
石渡敏一君次田大三郞君
津村重舍君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=31
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032・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、米穀
需給調節特別會計法中改正法律案、政府提
案、衆議院送付、第一讀會
米穀需給調節特別會計法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年八月三十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵徳川家達殿
(小字及-ハ衆議院修正)
米穀需給調節特別會計法中改正法律
案
米穀需給調節特別會計法中左ノ通改正ス
四億八
第四條ノ三中「三億五千萬圓」ヲ「四億五
千万圓
千万圓」ニ改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=32
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033・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 米穀需給調節特
別會計法中改正法律案提案ノ理由ヲ御說明
申上ゲマス、米穀需給調節特別會計ニ於ケ
ル借入金ノ現狀ニ鑑ミマスルノニ、此際其
借入限度ノ增額ヲ行ッテ、今後ノ米穀事情
ニ應ジテ需給調節上遺憾ナキヲ期シマスル
コトハ、極メテ緊要ナコトデアルト認メラ
レマス、仍テ今囘更ニ限度ノ擴張ヲ行ヒマ
スコトト致シマシテ、一億圓ノ限度擴張ノ
案ヲ衆議院ニ先ヅ提出ヲ致シマシタノデア
リマス、所ガ衆議院ニ於キマシテハ一億三
千万圓擴張ノ趣旨ニ修正ニ相成ッテ、本院
ニ送付セラレテ居リマス、是ハ政府ガ別ニ
提案イタシマシタ米穀應急施設法案ニ於
テ、朝鮮米等ノ買入等ヲ行フ資金トシテ、
同法案ニ三千万圓ノ更ニ此上ノ限度擴張ヲ
規定シテアッタノデアリマス、然ルニ衆議
院ニ於キマシテ此三千万圓ヲモ本法案ニ加
ヘマシテ、一億三千万圓ト云フコトデ修正
シテ參フタ譯デアリマス、此修正ハ政府ノ
他ノ案ヲ以テ致サウトシタ趣旨ト同ジ結果
ニナルノデアリマス、政府ハ他ノ法案ニハ
規定シテ置クコトヲ適當デアルト認メタノ
デアリマスルガ、衆議院ハ本法案ニ修正ヲ
致シテ議決サレタ譯デアリマス、何卒御審
議ノ上御協贊アラムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=33
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034・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ニ對シテ質
疑ノ通〓ガゴザイマス、發言ヲ許シマス、
阪本釤之助君
〔阪本釤之助君演壇ニ登ル)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=34
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035・阪本さん之助
○阪本釤之助君 米穀法ニ關聯イタシマシ
テ、豫テ本員ハ意見ヲ保持イタシテ居リマ
スルノデアリマスルガ、ソレ故ニ此機會ニ
於テ御質問ヲ申シタイト考ヘテ居リマスル
折柄、先刻前田子爵ノ御質問ガゴザイマシ
テ、數項ノ御質問中ノ一ツデアリマシタガ、
米穀法ノ不完全ヲ認メラレマシテ、何等カ
改良ノ方法ニ付テ政府ハ考ガアルカト云フ
ヤウナ御尋ニ對シテ、當局大臣ハ、之ニ代
ルベキ良法ガアルカ否ヤ今折角〓究ヲ致シ
テ居ルカラ、良イ方法ガアフタナラバ次ノ議
會ニデモ出ス積リデアルト云フヤウナ御答
ガアリマシタ、之ヲ以チマシテ大體政府ノ
御意嚮ト云フモノハ知ルコトヲ得タ譯デハ
アリマスルガ、私ハモウチット之ヲ超越イ
タシマシタコトヲ御尋ヲ致シテ見タイト存
ジマスルガ故ニ、多少ノ重複ヲ厭ヒマセズ
ニ、皆樣ノ御〓聽ヲ煩ハスヤウナコトニナ
リマシタノデアリマス、少シ暴論ノヤウニ
モゴザイマスルガ、私ハ此米ノ調節ト云フ
コトニ付テ、政府ガ買上ゲヲシタリ賣下ゲ
ヲシタリスルト云フコトハ、誠ニ膏藥張リ
ノ仕方デアッテ、斯ウ云フヤウナコトハ誠
ニ詰ラヌコトデアルト云フコトヲ抑、此事
ヲ原內閣ノ時ニ御始メニナッタ時カラ考ヘ
テ居リマスノデス、所ガ段々是ガ續キマシ
テ今日ニ至ッテ、尙ホ此度ハ此卽チ米ノ買入
ノ費用ガ又缺乏シテ來タカラ、一億圓增額
ヲシタイト云フ案ガ出マシテ、更ニ衆議院
ハ之ニ三千万圓ヲ增シマシテ、遂ニ是ガ成
立チマスレバ四億八千万圓ト云フ金ヲ此方
ニ使フト云フコトニナルノデアリマス、皆
樣モ御熟知ノ通リ、此事ノ初メテ起リマシ
タノハ大正十年ノ原內閣ノ時デアリマシテ、
其時ニハ二億圓ト云フ原資金ヲ以テ、之二
依フテ時々買上ゲヲシ又賣拂ヘバ金ハ戾ッテ
來ルカラ、此二億圓ノ原資ヲ以テ謂ハバ米
相場ヲスルヤウナ趣向ニナッテ居クタノデア
リマス、所ガソレハナカ〓〓サウ行クモノデ
ナイ、所謂士族ノ商法、政府ノ商法デアリ、
又急ヲ救フト云フノデアリマスカラ、ナ
カナカ儲カル所ノコトデナイ、段々摺減ラ
シテ殘リ少ナニナッテ參リマシテ、昭和四年
ノ田中內閣ノ時ニ七千万圓ノ補充ヲ求メラ
レマシテ、二億七千万圓ト云フモノニナソ
タノデアリマス、其當時モ私ハ確カ豫算委
員ヲ致シテ居リマシテ、左樣ニ損ヲナサッ
テハ困ルデナイカト云フコトヲ申シタ記憶
ガアルノデアリマス、然ルニ又二年ヲ距テ
昭和六年ノ濱口內閣ノ時ニ更ニ八千万圓ノ
增額ヲ求メラレタノデアリマス、斯ノ如ク
七千万圓ト云ヒ八千万圓ト云フ增額ヲ求メ
ラレタト云フコトハ卽チソレダケ、表向キ
ハ仰シヤイマセヌケレドモ、ソレダケ損ヲ
ナサッテ段々摺減リガシテ行ッテ茲ニ至ッタ
モノデアルノデアリマス、此度更ニ一億圓
ト云フ額ヲ御求メニナリマスルノハ、ドノ
位殘シテ居ルカト云フコトハ、今御尋ネス
ル必要モゴザイマセヌガ、蓋シ非常ニ摺減
リガ致シテ此調節ノ原資ト云フモノハ殘
リ少ナニナッテ居ルノデアラウト思フノデ
アリマス、今日之ヲ一億圓デスラ餘計ナコ
トダト私共思ヒマスノニ、衆議院ハドウ云
フ所ニ見ル所ガアッタカ、尙ホ三千万圓增
シテ四億八千万圓ト云フ原資デ以テヤッテ
行カウト云フコトデアルノデアリマス、其
四億八千万圓モ又兩三年ノ後ニハ若干ノ增
額ヲ御求メニナルコトハ火ヲ賭ルヨリモ明
カデアルト思フノデアリマス、是ガ非常ニ
農民ノ爲ニ利益スル所ガアリマスレバ、此
位ノ金ヲ今日經濟ガ大キクナッテ居リマス
ルカラ、大シテ厭フニモ及ビマセヌケレド
モ、私共カラ見マスルト誠ニ先刻申シタ通
リ士族ノ商法、政府ガ唯斯ウ云フコトヲ爲
サッテ一時氣ヲ休メスル、胃ガ痛ムカラ曹
達ヲチヨット嘗メテ置ク、尙ホ激シケレバ
皮下注射ヲスルト云フヤウナコトヲヤッテ
居ルノデアッテ、根本的ニ重病ガ治ルノヂ
ヤナイ、斯ウ云フコトヲ何時マデ一體、ド
ノ內閣デモ因襲ヲ守ッテオ出デニナルノデ
アリマスガ、之ニ付テ私ハ御尋ヲシテ見タ
イノデアリマス、此事ノ行ハレマシタノハ
今申シタ通リ原內閣ノ時デアリマスルガ、
其後高橋內閣、加藤友三郞內閣、山本內閣、
〓浦內閣、加藤高明內閣、若槻内閣、田中
內閣、濱口內閣又ハ更ニ若槻內閣、犬養內
闇、今日ノ齋藤內閣ト十一ノ內閣ヲ經テ居
リマスルガ、少ナキ時ハ一內閣ニ一年二囘
位ホカ買上ヲナサッタコトガナイノモアリ
マスケレドモ、多イ時ニハ十二囘位買ッタ
リ賣ッタリナサッタ內閣モアルノデアリマ
ス、其度每ニ必ズヤ損ハナサッテオ出デニ
ナルダラウト思ヒマス、承ハル所ニ依レバ、
ソレハ澤山ノ米ガ倉ニ積込ンデアッテ、下
ガ腐ッテ來ルナドト云フヤウナコトデ隨分
世論モヤカマシイ、故ニ近年ハ米穀法ト云
フノガ出來テ居リマシテ、要スルニ又米ヲ
買ッテ半分ハ腐ラセル、サウシテ非常ニ安
イモノニシテ賣"テシマウ、ソレダケヅツ
損ガ立ッテ行ク、斯ウ云フ譯デアリマス、
誠ニ私共ノ見ル所デハ詰ラヌコトデアルト
思ヒマス、當局ニ言ハセマスレバ決シテ詰
ラヌコトデナイ、斯ミニ致シテ斯ミニ利益
ガアルト仰シヤイマセウカラ、其事ヲ論ズ
ルコトハ見合セタイノデアリマス、各、見
ル所ニ依ッテ置ケバ宜シウゴザイマスガ、本
員ハ誠ニ詰ラヌコトデアルト思フノデアリ
V 、カルガ故ニ此內閣ハ少シ出色ノ內閣
デアリマシテ、政黨ノ關係モゴザイマセヌ
シ、所謂强力內閣、斯ウ云フ出色內閣ノ時
ニ斯ウ云フコトヲ因襲ノ久シキ······私共カ
ラ申スレバ弊害ノアル事柄ハ、大イニ改革
ヲナサッテ、國庫ノ經濟ヲ助ケルト云フコ
トヲ御考ヘアリタイノデアリマス、極端ニ
申シマスレバ是ハ一切御止メニナッタラド
ウカ、暫ク元ノ原內閣ガ斯樣ナコトヲオ始
メニナッタ以前ニ遡ッテ、暫ク何等人爲ヲ以
テ政府ガ手ヲ著ケルト云フコトヲナサラナ
カッタラドウカト云フコトヲ考ヘルノデアリマ
ス、少シ他ノコトニナリマスガ、由來此日本
ハ瑞穗ノ國ト申シマシテ農ガ本ニナッテ居
ル、近頃ハ工業立國、商業立國トカ申シマ
スルガ、日本ハドウシテモ農ガ本ニナッテ
居ルト云フコトニシテ置キタイト思フ、皆樣
モ御同感デアリマセウガ、初夏ノ候ニ地方
ノ方ニ旅行ナドヲ致シテ汽車デ通リマスル
ト百姓ガ田ヲ耕シテ田植ヲ致ス、暫ク經ッ
テ通ルト靑々トシタ田地ガ見渡ス限リ見エ
テ居リマス、秋又通リマスルト黄雲穰々ト
シテ、殊ニ新潟縣邊リヲ通リマスルト、何
處マデガ境デアルカト云フマデニ稔ッテ、
黄金ガ散リ撒カレテ居ッテ、私共ノ古イ頭
デ見ルト有難イ、是ガ何時マデ續クデアラ
ウカ、今ノ世ノ中デハ新潟縣下ヲ通ッテ見
テモ半分シカ稻ガナカッタナドニナリハセヌ
カト云フコトヲ始終心細ク感ズルノデアリ
マスルガ、幸ニサウ云フコトハナイ、色ミ申
シマスルケレドモ、案外百姓ハ能ク働イテ
吳レマシテ、田植モ秋ノ收穫モ誠ニ立派ニ
ヤッテ居リマスル、是ガ卽チ日本ノ誠ニ美
ナル所ノ仕來リデアルノデアリマス、所ガ
今年ハドウデアルカ、イヤ大變出來ガ、氣候
モ良シ米ハ今年ハ餘計穫レルサウデアル、
今年ハ豐年ダナ、表面カラ豐年ハイヤダト
言ハレマセヌガ、豐年カト言ッテ、チヨット
憂ノ顏ヲ見ルト云フコトハ、少シ考ヘノア
ル者ハ、又豐年デハ政府ガ買上ヲセンナラ
ヌ、米ガ安クナッテ困ルデアラウト云フ
豐年ト云フコト程結構ナコトハナカッタノ
デアリマスガ、豐年ト云フ聲ヲ聞クコトハ
直グ何カオ釣ヲ出サニヤナラヌト云フコト
ヲ感ズル世ノ中ニナッテ來タ、ソレダカラ
政府ガ救フンダト仰〓シヤルカ知リマセヌ
ガ、今ノヤリ方デハソレヲ救フコトハ出來
ヌト思フ、元來古イコトヲ申スヤウデアリ
マスガ、維新前ニハ御承知ノ通リ三百諸侯
ガ全國ニ分布サレテ居ッテ、又德川幕府ハ
德川幕府デ八百万石ト稱シテ米ヲ取リマシ
タガ、皆領主々々ガ米ヲ取リマシテ、之ヲ
一旦倉ニ積ンデ置ク、サウシテ或藩ハ大阪
ニ行ッテ賣ルトカ、或ハ他ノ藩ニ於テハ東
京へ持ッテ來テ、淺草邊ニハ札差ト云フ者ガ
アッテ、ソレニ賣ラセルトカ、各、藩々ニ
依ッテ米ヲ捌ク方法ガアリマシテ、今日カラ
申シマスレバ分布シタ各藩ニ於テノ專賣
ノヤウナコトガ行ハレテ居フタ、又家來ノ
者ガ藩主カラ三百石ナリ、二百石ナリ貰ヒ
マシテモ、領地ノ百姓カラ米ヲ持ッテ來ル、
ソレヲ或ハ庄屋ノ方ニ預ケテ置クトカ、色
色方法ガアッテ、今ノヤウニ、今ハ百姓ガ取〃
テ來ルト自分ノ食フモノマデズット賣ッテシ
マウ、サウシテ愈〓足ラナクナレバ買ッテ
來ルト云フノガ百姓ノ情況ニナッテ來タ、地
主モ段々衰へテ來マスカラ以前ノヤウニ大
地主ト云フモノガ澤山ノ米ヲ取入レテ、先
ヅ倉ニ積ンデ置イテ徐ロニ賣ルト云フヤウ
ナコトハ少クナッタ、三百年間モ饑饉ナド
ト云フコトガアリマスルト、今日ノヤウナ外
國ト交通ガアリマセヌカラ、小判ヲ咬ヘテ
死ンデ居ッタナドト云フ話モアリマスガ、サ
ウ云フコトハ甚ダ迷惑ナコトモゴザイマシ
タケレドモ、兎ニ角平年デアリ、若クハ豐
年デアルナラバ餘計米ガ穫レル、ソレヲ倉
ニ充實サシテ置ク、翌年ニモ其餘澤ヲ及ボ
スト云フコトデウマク行ッテ居ッタケレドモ、
米ノ賣リ方ハ今申ス通リ一種ノ專賣ノヤ
ウナ形、全部ノ專賣デハアリマセヌガ、專
賣ノヤウナ形ガ三百年間行ハレテ居ッタ、
第一政府ガ、其時ノ卽チ藩主ガ、租稅ヲ取
ルノニ米デ取ッテ居ッタ、決シテ金ナドハ取
ラヌ、米ヲ取ッテサウシテ相當ナ智慧ノア
ル人ガ之ヲ預ッテ始末ヲシタノデアリマス
ガ、維新後ノ此金納ト云フモノニナッテ、一
切米ヲ民間デ賣拂ッテ金ヲ政府ニ納メルト
云フコトニナッタノデアリマスカラ、ソレガ
積リ積ッテ今日ノ米ノ調節ト云フモノガ一ツ
ノ大問題ニナッテ、非常ナ難儀ヲスルコトニ
ナッタト思フノデアリマス、故ニ是ハ一ツ新
規蒔直シ、ドウモ是ハ唯私ノ一家言ニ過ギ
ヌカモ知レマセヌガ、今ノ米ノ調節法ト云
フモノハ少シク誤クテ居リハセヌカ、-11
是ハ根本ニ遡シテ、マルデ止メテシマッテ、止
メテシマッテサウシテ一ツノ方法ヲ考ヘル
ト云フコトモ一ツノ方法デハナイカト云フ、
極ク最消極ノ考ヲ私ハ持っテ居ルノデアリ
マス、若シモソレハイカヌ、ソンナ暴論ハ
イカヌ、ドウシテデモドウカセヌナラヌト云
フナラバ、斷然專賣ヲオヤリニナッタ方ガ
宜シイト思フ、專賣ノ話ガ出マスト、專賣ハ
ナカ〓〓大シタコトデアル、斯ウ云フ聲ニ
蔽ハレテ居リマスガ、段々政府者モ覺醒サ
レテ、ドウシテモ專賣ニナラヌケレバナラ
ヌト云フコトヲ考ヘラレル時代ニナッタト
見エマシテ、高橋大藏大臣ハ大臣ノ資格デ
ハアリマセヌガ、專賣ニ稍近イ意見ヲ發表
サレテ居ル、私ハ或モノデソレヲ見マシタ
ノデアリマス、是ハ噓デナカラウト思フ、
モウ一步進ムト專賣ニナルヤウナ意見ヲ、
是ハホンノ高橋是〓君ノ一個ノ說カモ知レ
マセヌガ言ッテ居ラレル、大藏大臣ガ左樣
ナコトヲ考ヘラレルト云フコトハ、確ニ私
ニ言ハセルト大進步デアルト思フノデアリ
マス、無論當局ノ後藤大臣ノ如キハ、ソレ
以上ノ御考ヲ持ッテ居ラッシヤルカモ知レマ
セヌ、デ私ノ今日御尋ネシタイト思ヒマス
ルノハ、能ク一ツ御考ヘニナリマシテ、今
出テ居リマスル米調節ニ付テノ諸案ハ一切
撤囘シテオシマヒニナッテ、現行ノ法律マ
デオ止メヲ願ヒタイト思ヒマスガ、サウモ
行カヌデセウカラ是ハ代案ノ出來ルマデ、
其儘ニ保留シテ置イテ、デ金ガアレバ、金
ハドノ位アルカモ知レマセヌガ、其金デオ
ヤリニナルナラバ仕方ガナイガ、此金ヲ增
スト云フコトハ一切御免ヲ蒙リタイト云フ
消極方針ヲ採リマス、然ラザレバ次ノ議會
マデニ專賣法ヲ御定メニナッテ、之ヲ議會
ニ提出サレルカ、ソレトモ愚圖々々シテ、
此内閣モ此儘ニ御踏襲ニナルト云フ歎カハ
シイコトデアレバ、是ハ誠ニ殘念至極デア
リマスガ、ソレハ御尋ネ申ス限リデナイ、
唯現內閣ハ私ノ言フヤウナ消極的ニ一ツオ
ヤリニナル勇氣ガアルカ、若クハ專賣法ヲ
御考ヘニナッテ、相當ノ機會ニ於テ御發案ニ
ナルト云フ旣ニ多少ノ道程ニアルノデアル
カ、此二ツノ消極ト積極ト、ドチラカラ御
採リニナル御覺悟ガアルヤ否ヤト云フコト
ヲ、大體ニ於テハ總理大臣ヨリ御答ヲ願ヒ
タイ、細目ニ亙ッテハ農林大臣ヨリ御答ヲ
願ヒタイト存ジマスルガ、是ハ誠ニ少シク
書生論デハアリマスガ、此御尋ニ對シテハ
内閣モ隨分大所高所カラ御覽ニナッテ、今玆
ニ目前ニアル所ノ小サイ爭ヒハ別トシテ、
隨分大所高所カラ見テ、ドウシタラ宜カラ
ウト云フコトノ一ツ御考ヲ御答ヲ願ヒタイ
ト存ジマスルノデアリマス
〔國務大臣子爵齋藤實君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=35
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036・齋藤實
○國務大臣(子爵齋藤實君) 只今ノ阪本君
ノ御質問ニ御答ハ致シマスガ、政府ニ於キ
マシテハ此提案ヲ見テ、矢張リ是ハ此場合
ニ處スルノ案デアリマシテ、今年ノ出來秋
ニ際シテ是ダケノ用意ヲ要スルト云フ趣意
カラシテ此案ヲ提出イタシマシタ、而シテ
米ノ問題ハ御承知ノ如ク農村ノ重大問題デ
アリマス、前年ヨリ引續キマシタ計畫デア
リマスガ、御協贊ヲ得マシテ農林省ニ於テ
米穀部ヲ設置シテ、根本的ノ〓究ヲ致シテ
居ルノデアリマス、之ニ依リマシテ米ニ對
スル根本ノ方針ヲ決定イタス積リニナッテ
居リマス、尙ホ詳細ハ主管大臣ヨリ御答ヘ
致サセマス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=36
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037・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 只今阪本サンカ
ラノ御尋ノ要旨ハ現在ノ米穀法ノ如キモ
ノヲ此際止メテシマウ考ハナイカ、或ハ其
反對ニ、進ンデ專賣ノ如キモノヲ設置シタ
ラバドウカ、ソレヲヤルト云フヤウナ多少
ノ道程ニデモ調査ガ踏込ンデ居ルカト云フ
御尋デアッタヤウデアリマス、他ノ代ルベ
キ方法ヲ得ナケレバ只今ノ米穀法ハ存置シ
テ置ク方ガ、無キニハ優ルト思ッテ居リマ
ス、其邊デ多少御意見ニ違,タ考デアラウ
カト思ヒマスル、色ミ米穀法ニ付キマシテ
ハ批評モゴザイマスルガ、兎ニ角過去ノ經
驗ヲ見マシテモ、比較的我國ノ米價ヲ安定
サセテ居ルト云フ働キハアルヤウニ思ハレ
ルノデアリマス、米價ガ著シク需給ノ不釣
合ノ關係、其他ノ關係デ騰落ヲ致シマスル
コトハ、國民生活ノ安定ヲ餘程害スルノデ
アリマス、今日ノ米穀法ガアルガ故ニ何程
カノソレデ安心ハ與ヘラレテ居ルト思フノ
デアリマス、併シ其半面ニ御話ノヤウニ米
穀需給特別會計ガ段々損失ヲ生ジテ來ルト
云フヤウナ事實ハアリマス、其需給會計ノ懷
ロガ苦シクナリマスル爲ニ、今囘ノヤウナ
增額ノ案ヲ出サナケレバナラヌヤウニナッ
タノデアリマス、デ今後ノ處置トシマシテ
ハ此現在ノ米穀法ヲ以テ滿足セズニ、何等
カ更ニ進ンダ根本的ノ解決ニ入ッテ見タイ
ト云フ〓心ナ希望ヲ持ッテ居リマス、併ナガ
ラ御話ノヤウニ專賣ニ至ル道程ニ幾ラカ
向ッテ居ルカドウカト云ヒマスルト、此專
賣ナリ、或ハ價格公定ナリ、國家管理ナリ
ト云フヤウナ問題ハ何レモ非常ニ廣汎ナ關
係ヲ持チマシテ、ヤリ方ニ依リマシテハ只
今ノ米穀法ノ運用ヨリモ更ニ大キナ國家ニ
損害ヲ生ズルヤウナコトヲ考ヘナケレバナ
ラヌカモ知レナイノデアリマス、何等カ今
ノ米穀法ヨリモ進ンダ、或ハヨリ良キ稍〓
根本的ナモノヘ向ッテ見タイ、專賣ノ如キ、
國家管理ノ如キ、公定ノ如キ、皆〓究ノ題
目デアリマスガ、其外ニモ尙ホ名案ガ出ナ
イトモ限ラナイト思フ、ソレ等ノ方向ニ向ッ
テ〓心ニ調査ヲ進メテ居ルト云フコトハ申
上ゲルコトガ出來ル、從テ只今ノ所デハ今
後ノ米穀······事情ニ應ズル爲ニハ、矢張リ
米穀法ニ依ッテ相當資金ノ餘力ヲ以テ、適
切ニ市價數量ノ調節ニ作用ヲ致シテ見タ
イ、斯ウ考ヘテ居ル譯デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=37
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038・阪本さん之助
○阪本彰之助君 只今申シ落シマシタガ、
私ノ述ベムトシタノデアリマスガ、思想ニ
關係スルノデアリマシテ、農民ノ生活狀態
ガ安定セヌト云フコトハ、思想ニ關係イタ
シマスコトガナカ〓〓多イコトデアリマス
ルガ故ニ、何トカ御考ヲ願ヒタイト思ッタノ
デアリマス、只今ノ御陳述以上ニ、之ヲ追
究スベキ事柄デモアリマセヌカラ之ニ止メ
マシテ、トウゾ先ニ申述ベマシタ通リ、他
ノ內閣ト違ッテ、サウ云フヤウナ超然タル
コトニ向ッテ御〓究下サルニハ、最モ適當ナ
ル內閣ト存ジマスガ故ニ、ドウゾ斯ノ如キ
一個ノ粗末ナル意見ト御聞流シナク、此問
題ニ付テドウソ御〓究ニナラムコトヲ切望
イタシテ、質問ハ是デ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=38
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039・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 菅澤重雄君
〔菅澤重雄君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=39
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040・菅澤重雄
○菅澤重雄君 私ハ只今御提案ニナッテ居
リマスル米穀需給調節特別會計法中改正法
律案、此件ニ付キマシテ農林大臣ニ簡單ニ
質問ヲ試ミヤウト思ッテ居リマス、昨日私共
所屬ノ〓究會ニ於キマシテハ、此問題ヲ愼
重ニ取扱フト云フ精神カラ、農林次官ニオ
出デヲ願ヒマシテ、御說明ヲ拜聽イタシマ
シタ、然ルニ農林次官ノ說明ニ依リマスル
ト云フト、此米ノ買上ノ資金ヲ一億八千万
圓增額イタシマシテ、其中ノ三千万圓ハ朝
鮮及臺灣ノ米ヲ買フ金ニ充當スル、而シテ
朝鮮及臺灣ノ米ノ買上ハ、此率勢米價ニ依
ラズシテ、時價ニ依ッテ之ヲ買上ゲル、其
見積リハ朝鮮ハ一石ガ二十二圓、臺灣ハ十
八圓、斯ウ云フコトノ說明ヲ聽キマシテ、
私ハ疑ヒヲ起シタノデアリマス、之ヲ內地
ノ率勢米價ニ依ッテ······此率勢米價ト云フ
規定ヲ存置シテ、之ニ依ッテ買上ゲルコトニ
ナリマスルト、內地ノ米ハ一石ガ十七圓九
十錢ト相成ルノデアリマス、內地ノ米ヲ買
上ゲルニハ、此率勢米價ヲ適用シテサウシ
テ十七圓九十錢デ買上ゲ、臺灣、朝鮮ハ時
價デ買上ゲルト云フコトデアリマシタガ、
此米ノ買出動ノ時ニ、二十五圓ニナッタラ
二十五圓デ買フ、斯ウ云フコトニ相成ルノ
デアリマス、ソコデ私ハ大變均衡ヲ得ナイ
話デハナイカト云フコトデ、段々調査ヲ進
メマシタ所ガ、第一ニ朝鮮、臺灣ト云フモ
ノハ土地ノ負擔額ガ非常ニ輕イノデアリマ
ス、四五日前ニ拓務省カラ調査ヲ戴キマシ
タガ、之ニ依リマスト云フト朝鮮ノ一段步
ノ負擔額ト云フモノハ僅ニ七十一錢七厘ガ
昭和三年デ、昭和四年度ハ七十二錢一厘、昭
和五年度ニ於キマシテハ七十二錢二厘强ニ
ナルノデアリマス、今度臺灣ノ方ハドウデ
アリマスカト云フト、臺灣ハ僅ニ一段步ノ
田ガ一圓七十四錢四厘、畑ノ方ハ僅ニ五十
五錢八厘、斯ウ云フコトニ相成ッテ居ルノ
デアリマス、斯ノ如キ負擔ノ輕イ所ノ植民
地ノ米ヲ時價デ、非常ナ高イ値デ買上ゲテ、
內地ノ米ハ率勢米價ニ依っテ之ヲ買上ゲル
ト云フコトニナリマシタラバ、甚ダ均衡ヲ
得ナイデハナイカ、斯ウ云フ疑ヲ起シタノ
デ、何故ニ斯ノ如ク植民地ヲ保護シナケレ
バナラヌカ、斯ウ云フコトヲ一ツ先ヅ伺ヒ
タイノデアリマス、皆サンモ御承知デアリ
マセウガ、臺灣デハ、砂糖ノ產地デアリマ
スガ砂糖ヲ作ラズニ米ヲ作レル所ハ大抵近
頃ハ米ヲ作,テ居ル、日本ノ領分ノ中デ米ヲ
作ッテ一番利益ノアル所ハ臺灣デ、一年ニ三
囘米ガ取レマシテ、サウシテ負擔ガ斯ノ如
ク輕減サレテ居リマシテ、而モ第一期ノ米
ハ端境期ノ米ノ一番高イ時ニ賣レルノデア
リマス、斯ウ云フヤウナコトヲ考ヘテ見マ
シテ、當局ハ之ニ對シテ植民地ニ飽クマデ
モ、斯ノ如キ不合理ニモ拘ラズ、厚キ保護
ヲスルト云フコトニナリマスト云フト、內
地ノ農民ヲ非常ニ虐ゲルト云フコトニ一面
カラ見レバナルノデアリマス、故ニ政府ハ
此率勢米價ト云フモノニ依ッテ內地ノ米ヲ
飽クマデモ十七圓九十錢ニ依ッテ買ハナケ
レバナラヌト云フヤウナコトハ、時局匡救
ノ意思ニ副ハナイデハナイカ、由來現内閣
ハ政黨内閣デ出來ナイ仕事ヲスルト云フコ
トニ我〓ハ多大ノ望ヲ囑シテ居リマシテ、
今尙ホ飽クマデモ此內閣ニ依ッテ我〓ハ救ッ
テ貰ハナケレバナラナイ、斯ウ云フヤウナ
望ヲ囑シテ居ルノデアリマスルカラ、斯ノ
如キ案ニ、率勢米價ナンカニ囚ハレズシ
テ、サッサト斯ウ云フモノヲ削除シテ、サウ
シテ何モ農林大臣ノ面目モヘチマモナイ譯
グ、斯ウ云フコトヲ取ッテ大キナ大所高所
カラ見テ、サウシテ時局ヲ匡救スルト云フ
コトニ、邁進セラレタイコトヲ私共ハ〓望
シテ居ルノデアリマス、私共ハ飽クマデモ此
內閣ヲ支持シテ、サウシテ、國民ノ窮乏、所
謂餓死線上ニ彷徨スル所ノ農村、漁村ノ民
ヲ救"テ戴キタイ、斯ウ云フコトヲ何處マデ
モ私共ハ此內閣ニ望ヲ囑スルト同時ニ、此
内閣ニ於キマシテモドウゾ政黨ヤ何カニ囚
ハレナイデ、サウシテ此齋藤內閣ノ使命ヲ
完ウシテ貰ヒタイト云フコトガ、是ガ國民
ノ聲デハナイカト私ハ思フノデス、先日來
カラ私ハ僣越ニモ根本問題ニ付テ質問ヲ試
ミマシタ所ガ、其後諸先輩ノ方ミガ追〓質
問サレマシタケレドモ、矢張リ私ト同感デ
アッテ、唯私ガ先ニ質問ヲシタイト云フコト
ニ過ギナイ、皆サンノ御意見ガ私ノ意見ト
一致サレタト云フコトハ是ハ取リモ直サズ
國民全體ノ聲デアルト私ハ認メルノデアリ
Vく、ソコデ若シ齋藤內閣ガ其事ガ出來ナ
イト云フコトデアルナラバ私ハ國民ノ忌憚
ナキ意見ヲ率直ニ申上ゲレバ、一日モ早ク
罷メテ貰イタイ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ居
ルダラウト私ハ思フ、併ナガラサウ云フコ
トハ無禮デアリマスカラ何人モ言ハナイ
ガ、是ガ本當ノ民ノ聲デハナイカト云フコ
トヲ齋藤首相ニ申上ゲタイノデアリマス
ガ、退席シテ居リマセヌカラ他ノ大臣カラ
御傳ヘヲ願ヒタイト思ッテ居リマス、兎ニ角
此農村救濟ニ付テ根本ノ問題ヲ考ヘナイ
デ、臺灣ノ米ノ問題、若クハ朝鮮ノ米ノ問
題ニシテモ農林大臣ハ斯ウ云フコトヲ根本
的ニ〓究シテ、サウシテ民ニ不平ノ聲ナカ
ラシメ、均衡ヲ得セシメ、公平ナラシメル、
斯ウ云フコトヲヤッテ戴キタイノガ我ミノ
願望デアリマス、故ニ私ノ質問ノ要點ハ斯
ノ如キ時價デ買上ゲルト云フコトニ付テ內
地ノ米ニ對シテ決シテ均衡ヲ得ナイト思ヒ
マスケレドモ、ソレガ正當ナリヤ否ヤ、又
斯ウ云フコトヲ考慮セズニ飽クマデモ植民
地ヲ保護シタナラバ永久ニ內地ノ農民ハ之
ニ脅カサレルト云フコトニナリマスルカ
ラ、何處マデモ植民地ヲ保護シテ差別待遇
ヲシテ、サウシテ內地ノ農民ヲ考慮シナイ、
斯ウ云フ考デアルカドウカ、此二點ヲ伺ヒ
マスノデアリマスカラ、ドウゾ明快ナル御
答辯ヲ御願ヒスル次第デアリマス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=40
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041・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 菅澤サンノ御質
問ニ御答ヲ致シマス、朝鮮ノ米ヲ時價デ買
上ゲテ、內地ノ米ヲ率勢米價デ買フノハ朝
鮮ノ生產者ヲ保護シ、內地ノ生產者ニ非常
ニ薄イコトヲヤルノヂヤナイカト云フ御尋
デアリマス、我ミノ立テマシタ朝鮮米ノ買
上、賣却ハ朝鮮ノ米ガ內地ノ出來秋ニ殺到
スルノヲ防イデ、之ヲ成ルベク出來得ルダ
ケ平均的ニ內地ニ入ラセル、斯ウ云フ爲ナ
ノデアリマス、從テ時價デモ買ヒマスガ時
價デモ賣ルノデアリマス、率勢米價ノ上値
ニ關限サレテ朝鮮ノ米ハ賣ラナイ、斯ウ申
スノデモナイノデアリマス、是ハ全體ノ日本
ノ內地ノ米ノ市價竝ニ需給ノ調節ノ見地カラ
植民地カラ入ッテ來マス米ヲ成ルベク滑ラ
カニ內地へ入レヤウト云フ操作デアリマシ
テ植民地全部ノ米ニ付テ行フノデモアリ
マセヌシ、其一部ニ付テサウ云フ方法ニ依ッ
テ內地ノ米ニ對スル出來秋ノ壓迫ヲ防ガウ
トスルノデアリマス、我ミノ目的ハ内地ノ
米ニアルノデアリマス、內地ノ米ノ價格ヲ
適當ニ安定サシテ行キタイト云フ方法ノ一
ツトシテ行ッテ居ルノデアリマス、デ內地ニ
於キマシテモ米ノ出來秋ニ市場ニ多ク殺到
スルノヲ防グ爲ニ相當ナ金額ヲ助成シテ、
米籾ノ貯藏ノ奬勵ヲ致サウトシテ豫算外ノ
國庫負擔契約ノ御協賛ヲ願ッテ居ルノモ其
爲デアリマス、內地ノ米價竝ニ米ノ數量
ノ調節ニ付テ米穀法ガドウデアルカト云フ
問題ハ先程阪本サンノ御尋ニモ御答ヲ致シ
マシタ、是ハ根本的ニ考ヘテ見ナケレバナ
ラヌ問題デアリマシテ、今率勢米價ニ依ル
上値下値ノ建方、サウ云フモノヲ全部排除
シテシマッテ、米ノ需給調節、市價調節ヲ內
地デヤルト云フヤウナ問題ハ根本策ト併セテ
考ヘナケレバナラヌ問題デアリマス、唯、下
値トカ上値トカ云フ問題ハ只今ノ御話ノア
リマシタ金額ガ固定的ナモノデモアリマセ
又、生產費、家計費ト云フヤウナモノノ調
査ヲ加ヘルト云フヤウナコトモ米穀法モナ
シ得ルヤウニナッテ居ル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=41
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042・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 本案ノ特別委員
ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
米穀需給調節特別會計法中改正法律案特
別委員
公爵山縣有道君子爵井上匡四郞君
子爵片桐貞央君眞野文二君
男爵三須精一君山之內一次君
內藤久寛君土田萬助君
絲原武太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三米穀法
中改正法律案、衆議院提出、第一讀會、是
ニハ質疑ノ通〓ガゴザイマス、上山滿之進
君
米穀法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
昭和七年八月三十一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
米穀法中左ノ通改正ス
第一條ニ左ノ一項ヲ加フ
政府ハ災害救助其ノ他緊急ノ必要アリ
ト認ムルトキハ市町村ニ對シ其ノ貯藏
ニ係ル米穀ヲ有償若ハ無償ニテ交付シ
又ハ一定ノ期間ヲ限リ貸付ヲ爲スコト
ヲ得
第四條削除
第五條削除
昭和六年法律第三十一號附則第二項ヲ削
ル
附則
政府ハ當分ノ內本法ニ依リ朝鮮及臺灣ニ
於テ各其ノ地ノ產米ノ買入、賣渡、交換、
加工又ハ貯藏ヲ爲スコトヲ得
政府ハ當分ノ內米穀ノ數量又ハ市價ヲ調
節スル爲特ニ必要アリト認ムルトキハ勅
令ヲ以テ期間ヲ指定シ粟ノ輸入稅ヲ增減
又ハ免除スルコトヲ得
本法ニ依リ米穀ノ交付又ハ貸付竝朝鮮米
及臺灣米ノ買入、賣渡、加工又ハ貯藏ニ
關スル一切ノ歲入歲出ハ米穀需給調節特
別會計ニ屬セシム
〔上山滿之進石演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=43
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044・上山滿之進
○上山滿之進君 只今上程ニナリマシタ衆
議院提出ノ法律案、之ニ對シテ先ヅ第一番
ニ政府ノ御所見ヲ伺ヒタイ、是ガ總括的ノ
質問デアリマス、續イテ此改正法律案ハ米
穀政策ノ上ニ重大ナ關係ノアルモノデアリ
マス、衆議院デハ必ズヤ愼重ニ審議サレタ
ト思フノデアリマスガ、此席上ニ於テ衆議
院ノ方ノ提案ノ趣意ヲ伺フコトハ是ハ勿論
許サレマセヌカラ止ムヲ得ズ政府當局ニ對
シマシテ衆議院ニ於ケル審議ノ間ニドウ云
フ風ノ質問應答ガアッタカト云フコトヲ先
ヅ承ハリマシテ、併セテ事柄ニ依ッテハ政
府ノ所見ヲ質シタイ斯ウ考ヘマス、第一此
根本ノ米穀政策ノ問題カラ簡單ナガラ申シ
マセヌト此質問ノ趣意ガ分ラナイ、衆議院
ノ提出ノ法律案ガ非常ナ米穀政策上重大ナ
モノデアルト云フ私ノ言フ所以ガ分ラナ
イ、御迷惑デアリマスガ、少シ御聽キヲ願
ヒタイ、何故米穀法ヲ設ケタカト、斯ウ云
フコトデアリマス、一體其商品ノ中デ米ホ
ド價格ノ暴騰暴落スルモノハナイ、ドンナ
商品ヲ調ベテ見テモアリマセヌ、勿論時ニ
依ルト酷ク暴騰ヲスルモノガアリマスケレ
ドモ、當時暴騰暴落ヲスルモノハ他ニハ無
イ、是ハ非常ニ國民生活ノ安定ヲ阻害スル
モノデアル、國民生活ト申スノハ必シモ消
費者ト云フノデハアリマセヌ、全國民ノ半
分ハ消費者デアリマスガ、半分ハ生產者デ
生產者消費者トモニ卽チ全國民トモニ米價
ノ暴騰暴落ニ依ッテ甚シク苦メラレル、何
トカシテ此暴騰暴落ニ依ッテ苦メラレルノ
ヲ極端ナ場合ニ救ハナケレバナラヌ、而シ
テ暴騰暴落ノ來ル原因ハ全ク不可抗力デア
リマス、天候デアリマス、之ニ備フルガ爲
ニ米穀法ト云フモノガ出來タノデ、卽チソ
レヲ買フニシテモ賣ルニシテモ容易ニ賣買
スベキモノデナイ甚シク暴騰暴落ヲシタ場
合ニ初メテ米穀法ガ出動スル、斯ウ云フノ
ガ米穀法ノ趣意デアル、斯ウ云フ風ニ私ハ
固ク信ズルノデアリマス、是ガ私ノ質問ノ
前提ニナル、從テ誠ニ農村ノ人ミニハ氣ノ
毒ナ申分デアリマスケレドモ、私ハ農村救
濟ト米穀政策トハ混同シテハナラヌト云
フ、斯ウ云フコトヲ考ヘテ居リマス、是モ
私ハ固ク信ジテ居リマス、今日ノ農村ノ窮
狀ハ誠ニ同情スベキモノガアル、是ハ私モ
チヨットモ異論ガ無イ所ノミナラズ、或ハ
同情者ノ過ギタル杞憂デアルカモ知レマセ
又、ケレドモ今現在ノ農村ノ窮迫ヲ救フ
ト云フコトト米穀政策ヲ根本ヨリ動カスト
云フコトハ全ク別問題デアリマス、農村ノ
窮狀ハ現在ハ甚シキモノガアリマス、ケレ
ドモ是ハ二年カ三年カ、極ク一時ノ問題デ
アリマス、米穀政策ハソンナ五年ヤ七年、
十年、二十年、百年ヲ目標ニシテ居ルモノ
デナイ、苟モ我ミ子々孫々米食民族デアラ
ム限リハ米價ノ暴騰暴落ニ依ヶテ脅カサレ
ルト云フコトハ忍ブベカラザルコトデア
リ、耐フベカラザルコトデアル、其耐フベ
カラザル苦惱ヲ或ル場合ニ救フト云フノガ
米穀政策ノ根本デアル、是ハ謂ハヾ未來永
劫ノ問題デアリマセウ、其未來永劫ノ恒久ノ
根本策タル米穀政策ノ其根本ノ基礎ヲ一時ノ
應急策ノ爲ニ崩サウト云フコトハ宜クアリ
マセヌ、今日ノ農村ノ窮狀ヲ救フコトハ、
惡イドコロデアリマセヌ、必ズ救ハナケレ
バナラヌノデアリマス、併シソレハ之ヲ救
フニ自カラ方法ガアルベキ筈デアル、其方
法ヲ適當ニ考究シテ案出サルレバ直チニ我
我ハ贊成スル、政府ノ提案モ相應ニソレニ
觸レテ居ラレルト思ヒマス、ドウゾ其一ツ
今日ノ農村ノ窮境ヲ如何ニスルカ、是ガア
ルカラ率勢米價ヲ止メナケレバナラヌト云
フヤウナ御議論ハ少シ其見當ガ違ッテ居リ
ハシマセヌカト云フコトヲ私ハ申サザルヲ
得ナイ、衆議院ニ對シテ御質問ヲスル筈デ
アリマスケレドモ、サウ云フコトハ今出來
マセヌカラ、サウ云フ風ノコトニ付テ衆議
院ノ本會議ナリ委員會ナリノ席上ニ於テ論
議ニ上ッタコトハアリマセヌカ、ト云フコ
トヲ政府ニ御尋ヲ致シマス、率勢米價ノ問
題デアリマスガ、今日ハ率勢米價ト申シマ
スケレドモ以前ハサウ申シマセヌデ、此米
價ノ買入賣渡ニ一定ノ基準ヲ設ケナケレバ
ナラヌト云フコトハ米穀法制定當時カラ
アッタ論デアリマス、大正十年三月米穀法
ガ本院ノ議ニ上リマシテ、特別委員會ニ懸
リマシテ、私モ委員ノ席末ヲ汚シマシタ、
此處ニ御出デニナリマス幾人カノ諸君モ矢
張リ其御仲間デアリマシタ、其時別委員
ノ小委員會デ希望決議ガ成立チマシタ、實
ハ此希望決議ヲ私ガ提案シタト記憶イタシ
やく、其希望決議ハ、米價ノ買入價格及ビ
賣出最低價格ニ關シ一定ノ基準ヲ設クルコ
トヲ努メラレタシ、斯ウ云フ希望決議ガ附
キマシタ、是ハ別ニ反對ハ無力ッタト考
ヘマス、特別委員會デモ反對ハアリマセ
ヌデシタト思ヒマス、サウシテ其希望決
議ハ本會議ニ勿論委員長カラ報告ヲサレ
マシタ、本會議デハ御承知ノ通リ、希望決
議ナドニ付テハ別段ニ決議ヲ採リマセヌケ
レドモ、別ニ御異論ハ無カッタト云フコト
ヲ確ニ記憶イタシマス、私ハ大正十年、今
カラ十幾年前ノ古證文ヲ持出シテ、ソレヲ
又古證文ヲ突付ケテ、貴族院ハ斯ノ如キ希
望決議ヲ承認シテ居ルデハナイカト云フコ
トヲ開キ直ッテ申サウトハ申シマセヌ、ケレ
ドモ基準價格ヲ設ケナケレバナラヌト云フ
コトハ、旣ニ十數年前カラ貴族院ニ於テ眞
面目ニ考ヘラレテ居ッタコトデアルト云フコ
トハ確ナ事實デアリマス、今日ハ勿論、又今
日ノ場合トシテ各、自分ノ信ズル所ニ依ッテ
議ヲ決スルノハ當然デアリマスケレドモ、
其點ニ付テモ同時ニ御考慮ヲ煩ハシタイト
思フノデアリマス、基準ヲ何故設ケナケレ
バナラヌカト申シマスト、政府ガ澤山ナ米
ヲ持ッテ居ッテ、サウシテソレヲ何時賣ルカ分
ラヌ、又澤山ノ米ヲ何時買フカ分ラヌト云フ
ノデハ到底農家ハ立行カナイ、又消費者モ
立行カナイ、ドウシテ宜イカ、適從スル所
ヲ知ラヌ、斯ウ云フコトニナル、ドウシテ
モ基準ヲ設ケナケレバナラヌト云フコトハ
是ハ當然ノ問題デアリマス、其上ニ關係ノ
當局者ノ中ニ惡イ者ガアリマスト、ドウ云
フ背任ノ行爲ヲスルカモ分ラヌト云フヤウ
ナコトモ考ヘラレマス、種々ノ點カラ考ヘ
テ、基準ヲ設クベシト云フ希望決議ヲ私ガ
提案シタ所以デアリマス、ソレガ漸ク一昨
昭和五年ニ至ッテ今日ノ所謂率勢米價ナ
ルモノガ成立ッタノデアリマス、基準ヲ設ケ
ナイデ置クト、一般ノ生產者モ消費者モ適
從スル所ヲ知ラヌト云フコトハ常ニ相場ガ
變動スルト云フコトデ、大體ハ分ルノデア
リマスケレドモ、是ハ何モ是レト云フ證據
ヲ持チ出スコトハ出來マセヌ、一ツ諸君ノ
御耳ニ入レタイコトハ米ノ買上ト、ソレカラ議
員ノ選擧ト云フコトハ、何カ關係ガアリサ
ウニ思ハレル事實ガアリマス、是ハ私此前
ノ議會ニ總理大臣ノ施政方針ニ對シテ御尋
ヲシタ際ニ、其政黨ノ弊害トシテ引例イタ
シマシタ、是ハ目的ガ御聽キノ通リノ演說
ノ目的デアリマシタカラ、詳シイコトヲ申
シマセヌデシタガ、只今ハ米ノ問題デアリ
マスカラ、此事ヲ少シク當時ヨリハ詳シク
申上ゲマス、米穀法施行以後卽チ大正十年
カラ一昨昭和五年マデ十年ノ間、米ヲ買上
ゲタコトガ八遍アリマス、一番最後ノ一昨
昭和五年ノ十二月ニ買ヒマシタノハ、率勢
米價ガ出來テカラ後デアリマスカラ姑ク別
論ニシテ置キマス、ソレカラ一番最初ニ買
ヒマシタ大正十年ノ六月、是ハ法律施行ノ
當時デ、其當局者ノ意見ガ正シカッタカ正
シクナカッタカト云フコトハ別論トシチ、兎
モ角眞面目ニ考ヘラレタヤウニ思ハレル、
大正十二年ノ二月ニ買ヒマシタ、大正十三
年ノ四月ニ買ヒマシタ、昭和二年ノ九月、
十一月、十二月トニ買ヒマシタ、昭和四年
ノ四月ニ買ヒマシタ、此六囘ハ何レモ何ダ
カ總選擧ニ關係ガアリサウニ私ニハ見エ
ル、大正十二年ノ二月ニ米ヲ買ヒマシタ、
其九月ニハ府縣會議員ノ總選擧ガアリマシ
ク、十三年ノ四月ニ買ヒマシタ、其十三年
ノ五月ニハ衆議院議員總選擧ガアリマシ
タ昭和二年ノ九月ニ買ヒマシタ、其卽チ
九月ニハ府縣會議員ノ總選擧ガアリマシ
ク、翌三年ノ二月ニハ衆議院議員ノ總選擧
ガアリマシタ、其年ニハ九月、十一月、十
二月ト引ッカケテ三遍買,テ居リマス、昭和
四年ノ四月ニ買ヒマシタ、此時······昭和四
年ノ四月五月ハ町村會議員ノ總選擧デアリ
VV、其翌年ノ二月ニハ衆議院議員ノ總選
擧ガアリマシタ、チヨット御斷リ申シマス
ガ、衆議院議員ノ總選擧ハ是ハ全國一律デ
アリマスガ、府縣會議員ト町村會議員ハ、
總選擧トハ申シマシタケレドモ全國一律デ
ハアリマセヌ、アリマセヌガ、四月、五月
ト云フモノガ町村會議員ニ付テハ全體ノ
町村凡ソ一万ノ中デ七千程四月、五月ニ選
擧ガアリマス、府縣會ノ方ハ九月、十月ノ
極ク上旬ニアラザルモノガ六七府縣アルダ
ケデ、後ハ全部其同ジ頃ニアルノデアリマ
ス、私ハ時ノ當局者ガ總選擧ヲ目標ニシテ
米ノ買入レヲシタトハ斷言イタシマセヌ、
ケレドモ六遍ガ六遍サウ云フ姿ニナッテ居
ルト云フコトニ對シテハ、私之ヲ雲煙過眼
視スルコトハ出來ナイ、諸君モ私ガ雲煙過
眼視スルコトガ出來ナイ幾ラカノ疑ヲ持ッ
テ居ルト云フコトニ對シテ、私ガ邪推深イ
人間デアルト云フ御批評ハナサラヌデアラ
ウト私ハ信ジマス、勿論意識的ニ當時ノ當
局者ガヤッタノデハアリマスマイ、ケレドモ
潛在意識ト云フモノガアルサウデアリマス
カラ、何カチヨットサウ云フ〓妙ナ働キガ
此處ニ動イタノデアラウカト思ハレルノデ
アリマス、兎モ角事ノ結果ハ斯ノ如キコト
デアル、斯ノ如ク大正十年カラズット値段
ニ構ハズ米ヲ買フテ來マシタ、値段ニ構ハズ
米ヲ買ッテ來マシタ結果ハドウデアルカ
ト云フト、今日米穀法ノ借金ガ幾ラニナッ
テ居ルカ、少クトモ二億圓、是ハモウ明瞭
ニ米穀法ノ損失デアリマス、二億ノ以上ガ
何千万圓アルカ只今數字ヲ存ジマセヌガ、
二億數千万圓ト云フモノハ、泣イテモ笑ッテ
モ一般會計ガ負擔シナケレバナラヌ損失ニ
ナッテ居ルノデアリマス、是ガ何ノ基準モ
ナクシテポカ〓〓思出シ次第ニ買フ、但シ
思出シ次第ト云フテモ相當ノ機關ヲ經ルコ
トハ勿論デアリマスガ、其相當ノ機關モ分
ラナイ、ソレデ買フカラ斯ウ云フコトガ起
ル、此點ニ付テモ衆議院デ何カサウ云フ議
ガ出テ審議ガ盡サレテ私ハアラウト信ズル
ノデアリマス、ソレカラ其次ニ伺ヒタイコ
トハ大體衆議院デハ目下ノ······今日ノ米
價ヲ安イト云ッタノデアリマスカ、高イト
思ッテ居ルノデアリマスカ、斯ウ云フコトデ
アリマス、私ノ見ル所ニ依レバ凡ソ物ノ値
段ト云フモノハ總ベテノ物ヲ通ジテ、ソレ
ガ同ジ步調デ行ッテ居レバ宜シイモノダ、
斯ウ思フ、或モノハ無暗ニ高ク或モノハ無
暗ニ安イト云フコトデハイカヌト思フ、平
衡ヲ得テ居レバ宜シイ、之ヲ米價ノ問題ニ
適用シマスト、米價ハ一般物價ノ標準デ高
低シテ居レベ宜シイ、利害關係ヲ持ツ者ハ
或ハ高キヲ望ミ、或ハ安キヲ望ミマセウケレ
ドモ、併シ只今申スヤウニ一般物價ノ總平均
ノ割合ニ米價ガ居レバ先ヅ需要者モ供給
者モ、滿足デハアリマスマイガ不滿足ナガ
ラ我慢シナケレバナラヌモノデアル、斯ウ
云フ風ニ私ハ信ジテ居リマス、ソレガ今日
ノ率勢米價ノ根本ニナッテ居ルノデアリマ
ス、サテ衆議院デハドウ云フ風ニ見テ居ル
ノデアリマセウカ、私ノ見ル所ニ依レバ大
體今日ノ米價ハ値頃ヲ得テ居ルモノデハナ
イカト斯ウ思ヒマス、ト云フノハ一般物價
ノ總平均、ソレヨリ實ハ割高ノ率勢米價ヲ
以テ計算シタ多數ニ依ヲテモ、先月、七月ノ相
場デ行キマスト、率勢米價デ言ッテ二十圓二
十錢位ニナル筈デアリマス、率勢米價ト云
フモノハ先刻申シマシタガ一般物價ノ總平
均ヨリハ割高デ行ッテ居ルノデアリマス、是
ハ數學ノ上デ大分ムヅカシイ說明ガ加ハル
ノデアリマスガサウ云フ性質ノモノデア
ルト云フコトヲ我々ハ理解シテ居レバ宜
イ、ソレデ二十圓二十何錢、深川ノ標準中
米ガ今日ドノ位イタシマスカ存ジマセヌ
ガ、矢張リ二十圓······、五六日前ニ見アシ
タ時ニ二十圓八十錢ト思ッテ居リマス、サ
ウスルト大體一般物價ノ總平均ニ釣合ヲテ
今日ノ米價ハアルト、斯ウ私ノ考デハ見ラ
レル、一般物價ノ總平均ヨリ米價ガ高クナ
ケレバナラヌト云フコトガ私ニハ分ラナイ、
又高クナケレバナラヌト假ニシテ、ソレデ
ハ何處マデ高ケレバ宜イカト云フコトガ又
問題ニナル、是ハ生產費ノ問題デ申上ゲマ
スト、大變長クナリマシテコンガラガリマ
スカラ申シマセヌガ、兎ニ角モ何故ニ一般
物價ノ平均ヨリ高クナケレバナラヌカ、斯
ウ云フコトガ私ニハ分ラナイ、之ニ付テ何
カ審議ガアリマシタカ、之ヲ伺ヒタイ、
體其率勢米價ヲ止メテシマハウト斯ウ云フ
ノデアリマスガ、率勢米價ヲ止メタラドウ
シヤウトスルノデアリマスカ、矢張リ一昨
年以前ノ何ニモ基準ナクシテヤッテ居ッタ時
ト同ジヤウニポカ〓〓思ヒ出シ次第ニ買ハ
ウト、斯ウ云フノデアリマセウカ、サウス
ルト私ヲシテ遺憾ナガラ當局ノ潜在意識ヲ
疑ハシメタヤウナ事實ガ、又今後モ發生ス
ルト云フコトヲ覺悟シナケレバナリマセヌ、
サウシテ此上又國庫ノ損失ガ甚シク增スト
云フコトモ覺悟シナケレバナリマセヌ、之
ヲ我〓ハ覺悟ヲシナケレバナラヌカドウカ
ト云フコトデアリマス、ソレデ今日率勢米
價ヲ止メニシテ、サウシテ唯今申スヤウニ
其時ノ當局者ノ思ヒノ儘ニ或相當ノ機關ニ
カケテ米ヲ買フト致シテ、何時ドウ云フ時、
ドウ云フ程度ニ買フ積リデアリマスカ、
例ヘバ今日率勢米價ヲ止メテシマフ、今日
買フ、此九月ニ買フト假ニシタナラバ、若
シ其積リデアルト提案者ノ意思ヲ假ニ推測
シタナラバ、是ハ驚クベキコトデアリマス、
今ハ農家ノ手許ニハ米ハ誠ニ少クテ、今
日米ヲ賣ヲテ仕合セスル者ハ幾人アルト考
ヘラレマスカ、極メテ少數デアルト私ハ存
ジマス、此少數ノ人ノ爲ニ斯ノ知キ國庫ガ
負擔ヲシテ、決行シナケレバナラヌト云
フコトハドウ云フモノデアリマスカ、又私
ノ見ル所ニ依レバ、蓋シ又世論モ之ニ同意
スルト思フノデアリマスガ、一般物價ト釣
合ノ取レテ居ル米價ヲ更ニ上ゲヤウトスル
ト云フコトハ、一體ドウ云フモノデアリマ
スカ、上リヤシマセヌデス、今買ッテモ上ラナ
イ、併シ上ゲル法ハアリマス、普通デハ上ラナ
イ、五十万百万買ノタッテ中〓上ラナイ、九月
ニナッテ米少ナノ時デアリマスケレドモ、大
シテ上ラヌ、之ヲ上ゲヤウトスルノニハ何百
万石カ知リマセヌガ、今若シ殘存米ガ千五
百万石トシマスレバ五百万石モ買ハニヤ上
リマセヌ、三百万石デモ上ルカモ知レマセ
ヌ、併シ是ハ上ルト云フコトハドウ云フコ
トガ上ルコトカト云フト、市場ニアル品ガ
カスレルト云フコトデアリマス、今日窮乏
シテ居ルノハ必シモ農村バカリデハアリマ
セヌ、都會ノ住民モ甚ダシク窮乏シテ居リ
マス、此時此米ヲ、私ニ言ハセレバ不當ニ
釣上ゲテ、一般物價竝ニ非ザル値段ニ釣上
ゲテ、サウシテ彼等ニ食ハセヤウ、彼等ハ
食フダケノ力ガヤットアルカナイカデアル、
其者ニ高イ米ヲ食ハセルト云フコトハドウ
云フコトカ、斯ウ云フコトハドウシテモ私
ハ衆議院ノ議ニ上ボラナケレバナラヌト考
ヘテ居ル、之ヲドウ云フ風ニ衆議院ノ諸君
ハ考ヘテ居リマセウカ、普段ノ時デモナカ
ナカ此米ノ價格ヲ釣上ゲルト云フコトハ易容
ナラヌコトデアリマス、私ハ大正七八年ニ當
局者ノ末席ニ連リマシテ、米騒動ノ苦艱ヲ
嘗メテ居リマシテ、誠ニ慘澹タルモノデア
リマシタ、其時ト此時トハ又違ヒマス、世
ノ不景氣、窮迫シテ居ル狀況モ違ヒマス、
思想ノ問題モ違ッテ居リマス、此時若シサウ
云フコトヲ起シタナラバドウ一體スルノデ
アリマスカ、私ハ道理ガアッテサウスルノ
ナラバ是ハ已ムヲ得マセヌ、是ハ千万人ト
雖モ我往カン、ケレドモ一般物價ト釣合ノ
取レテ居ル米價ヲ引上ゲテ、若シサウ云フ
騷ギヲ起シタナラバ、是ハ何トシテモ申譯
ノナイコトデアリマス、此邊ヲ能ク考ヘテ
貰"テ置カナケレバナラヌノデ、其點ニ付
テ必ズ私ハ相當ナ論議ノ出タコトデアラウ
ト思フノデアリマス、ソレヲチヨット伺ヒ
タイ、ソレカラ率勢米價ノコトヲチヨット
簡單ニ申上ゲタイト思フノデアリマスガ、
反對ノ理由ノ中ニ、表立ッタ理由デハアリ
マセヌガ、コソ〓〓聞ク理由ニ依レバ、率
勢米價ト云フノハ分ラナイ、ソンナ分ラナ
イモノヲト、斯ウ云フ聲ガヨク出ルノデア
リマス、分ラナイト云フコトハ誰モ恥ト思
ヒマシテ、分ラナイカラ恥ト云フコトデ率
勢米價ニハ反對ト云フコトヲ、公ニ云フ人
ハアリマセヌガ蔭デハコソ〓〓出ル、併シ
率勢米價ハ分ラナイト云フノハ、分ラナイ
筈ノモノヲ分ラセヤウトスルカラ分ラナイ、
分ル筈ノ範圍デ分ッテ居レバ分ルノデア
リマス、デ我〓議員トシテ國政ニ參與シテ
行クノニ付テ、高等數學ノ初メカラヤッテ
行カナケレバ議員ノ席ニ居ラレヌトナッタ
ラ一時モ私共居ラレマセヌ、ドウ云フ譯カ
ト申シマスト、率勢米價ト云フノハ本當ノ
問題ノ根幹ヲ言ヘバ、問題ノ本ヲ言ヘバ極
ク簡單デアル、物價標準論デアル、私ガ先
刻來申シマシタ一般物價ガ斯ウ云フ程度ニ
來テ居ル、此程度ニ米價モ高低シテ居レバ
先ヅ不足ヲ云フ筋ハナイヂヤナイカ、其
般物價ヲ標準ニシテ米價ヲ割出スト云フノ
ガ率勢米價デアル元ヲ言ヘバ······唯其過去
ノ歷史、明治三十三年カラノ歷史ニ於テ、
三十三年カラ明治六十五年、是マデノ間ノ
一般物價ノ指數ノ線ガ出來マス、ソレヘ持ッ
テ行フテ米價ノ線ヲ持フテ來テ兩方合セルト
米價ノ線ノ方ガ少シ上ヘ行ク、何時モ上
ヘ行ク、唯三十餘年ノ中デ七年カ下ヘ行,
タコトガアル、普通ハ上ヘ行ク、上ヘ行ク
ノハドウ云フ理窟カト云フコトハ私ニモ分
ナライ、兎ニ角事實ハ上ヘ行ッテ居ル、其
少シバカリ上ヘ行フテ居ルノヲ、今度ハ基
準米價ヲ定メル時ニハ見テヤラウト云フノ
デアル、一般物價ノ總平均ヨリ少シ上ヘ行〃
テ居ルカラ、ソレヲ見テヤラウ、其見テヤ
ルニ付テドウシタラ宜イカト云フコトニハ、
私ニハチットモ智慧ガ付キマセヌデシタガ、
數學ノ專門家ガ、ソレハ「リスト·スクエ
ア」、最小自乘法ヲ使フト出來ル、デスカラ
最小自乘法ヲ使フト出來ルト數學ノ専門家
ガ言ヒマスカラ、出來ルト云フコトヲ向フ
ガ言ヒマスカラソレヲ信ズル、信ジテ其通
リサシテ置ケバ宜イ、ソレヲ今度數學ノ專
門ニ入ッテ色ミ考ヘルカラ、物ガムヅカシ
クナル、我〓議員トシテ論議スルノニハ物
價ノ趨勢論デモウ澤山デアル、少シノ數字
ハ無論違ヒマス、誠ニ餘談ヲ申スヤウデ恐
リ入マスガ、私モ全ク知ラヌデハ濟マヌト
思ヒマシテ、最小自乘法ノ講釋ヲ聽キマシ
タノデス、聽キマシタガ元ミ數學ノ素養ガ
餘リアリマセヌノデドウモ能ク分リマセヌ、
長イコトヲ骨ヲ折リマシテ漸ク何トカ分,
タヤウナ氣ガ致シマシタ、オカシナ話デア
リマスガ、眞面目ニ謹ンデ聽イテ居リマス
ト分ッタヤウナ氣ガ致シマスガ、ヒヨイト
氣ガ外レマストスッカリ駄目ニナッテシマッ
テ迚モ分ラナイ、分ルモンデナイノデ、此
處ニオ出デニナリマスガ藤澤博士ハ是ハ御
分リデアリマス、貴族院ニ五人、衆議院ニ
三人ト云フコトヲ聞キマシタガ、ソレハド
ウカ知レマセヌケレドモ、併シ非常ナ少數
ナ人シカ分ラヌ、專門家シカ分ラヌ、專門
家以外ノモノハ分ラナイト云フテチョットモ
恥デナイ、私ハ大イニ自分デハ分ラヌト云
フコトヲ此處デ公言ヲ致シマス、分ラヌコ
トヲ無理ニ分ラサウトスルカラ物ガムヅカ
シクナル、我ミハ物價ノ標準論ト云フコト
デ行ケバ宜イノデ、今ノ最小自乘法ヲ適用
スル爲ニ、ソレヨリ少シ色ガ著イテ結果ガ
變ッテ來ルノダ、斯ウ思ヘバ宜イト思フノ
デアリマス、政府當局ニハ御迷惑カ存ジマ
セヌガ、衆議院デ只今私ノ御尋ネシタコト
ガ問題ニナラナカッタラ、ナラナカッタデ宜
シウゴザイマス、問題ニナリマシタラ、ナ
リマシタデ其コトヲ要領ヲ御話シヲ願ヒタ
1、之ニ先立"テ、先ヅ第一ニ此案ニ對ス
ル政府ノ態度ヲ御表明ヲ願ヒタイ
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=44
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045・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 只今ノ御質問ニ
御答ヲ致シマス、唯衆議院ノ委員會及本會議
ニ於キマシテ行ハレタ問答ノ總テヲ、私出席
シナイ場合モアリマシテ伺ハヌ所ガアリマ
ス、マダ速記錄ヲ見ル暇モゴザイマセヌノ
デ、確ト御答ガ出來兼ネル點ガアルト思ヒ
マスガ、私ノ記憶ノアリマス所ダケデ甚ダ
申譯ハアリマセヌガ、簡單ニ御答ヲ致シテ
置キタイト思ヒマス、米穀法ト云フ根本ノ
規定ヲ臨時ノ應急ノ施設ノ爲ニ動カサナイ
方ガ宜イデハナイカト云フ議論ハ質問應
答ノ間ニ行ハレマシタ、ソレカラ米ノ買入
ノ時期ト選擧トノ關係ト云フコトハ、私確
トサウ云フ議論ガ出マシタカドウカト云フ
コトヲ記憶イタシテ居リマセヌ、ソレカラ
現在ノ米價ガ適當ナ値段デアルカドウカ、
是モサウ云フ議論ガ出マシタカドウカ、確
ト分リマセヌガ、現在ノ米價ガ物價ト相當
ノ割合ヲ保ッテ居ルノデアルト云フヤウナ
話ハ出タト記憶イタシテ居リマス、ソレカ
ラ率勢米價ト云フモノヲ無クスレバ、買入、
賣渡ノ基準ガ無クナル、ソレデハ勝手ナ値
段デ賣リ、勝手ナ値段デ買フト云フヤウナ
コトガ行ハレテハ、生產者消費者雙方ノ爲
ニ非常ニ不安心デアルノデハナイカト云フ
ヤウナコトガ、質問應答ノ間ニ話ガ行ハレ
テ居リマシタ、尙ホ色ミ御尋ネガアリマシ
タヤウデスガ、チョットソレ以上ハ政府委員
デモ聽イテ居リマスレバ尙ホ補足シテ申上
ゲルカモ知レマセヌ、尙ホ率勢米價ノコト
ニ付テドウ考ヘルカ、私ハ米穀法ノ根本ニ
亙ッテ改正ヲ加ヘルコトハ今時機デハナイ
ト思ヒマス、米穀ノ根本對策ヲ講ズル時ニ、
全體ニ亙ッテノ、或ハ根本ノ考ヲ變ヘテ掛
ラナケレバナラヌカモ知レマセヌ、苟モ恆
久ノ制度トシテ是ガ樹立サレテ居ル時ニ、
一時應急ノ處置ノ爲ニ根本ヲ改正スルニハ
及バナイ、此根本ノ規定ノ下ニ於テ、運用
ニ出來ル限リノコトヲ致シテ、現在ノ事情
ニ適應スレバ宜シカラウト思ッテ居ルノデ
アリマス
〔子爵三室戶敬光君發言ノ許可ヲ求ム〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=45
-
046・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 三室戶子爵ハド
ウ云フコトデアリマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=46
-
047・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 只今上程ニナッテ居
リマス米穀法中改正法律案ハ大層重要ナ案
ト考ヘマスルガ故ニ、之ガ審査ニ要スル委
員ヲ特ニ十五名トシ、議長ニ於テ御指名ア
ラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=47
-
048・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=48
-
049・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 上山君ハ、質疑
ハ終了シタト心得テ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=49
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050・上山滿之進
○上山滿之進君 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=50
-
051・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 三室戶子爵ノ、
本案ノ特別委員ノ數ヲ十五名トナス動議ニ
同意ノ諸君ノ起立ヲ求メマス
〔起立者多數〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=51
-
052・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 過半數ト認メマ
ス、委員ノ氏名ヲ書記官ヲシテ朗讀ヲ致サ
セマス
〔小林書記官朗讀〕
米穀法中改正法律案特別委員
侯爵佐佐木行忠君伯爵柳原義光君
子爵東園基光君子爵岡部長景君
男爵斯波忠三郞君小松謙次郞君
內田重成君上山滿之進君
男爵近藤滋彌君男爵稻田昌植君
菅原通敬君馬場鍈一君
高橋源次郞君山上岩二君
瀨川彌右衞門君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=52
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053・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 書記官ヲシテ報
告ヲ致サセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
本日市町村立尋常小學校費臨時國庫補助法
案特別委員會ニ於テ當選シタル正副委員長
ノ氏名左ノ如シ
委員長伯爵酒井忠正君
副委員長男爵紀俊秀君
本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
製絲業法案
本日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領セリ
產業組合中央金庫特別融通及損失補償法
案
產業組合法中改正法律案
產業組合中央金庫法中改正法律案発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=53
-
054・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 此際諸君ニ御諮
リヲ致シタイコトハ、只今書記官ノ報告イ
タシマシタ衆議院ヨリ受領イタシマシタ製
絲業法案、產業組合中央金庫特別融通及損
失補償法案、產業組合法中改正法律案、產
業組合中央金庫法中改正法律案ノ第一讀會
ヲ開ク爲ニ、議事日程ノ追加ヲ致シタイト
考ヘマス、御異存ハゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=54
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055・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=55
-
056・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 製絲業法案、政
府提出、衆議院送付、第一讀會、後藤農林
大臣
製絲業法案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年九月一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
小字ハ衆議院ノ修正文、ハ)
同削除ノ符號ナリ
製絲業法案
製絲業法
第一條本法ニ於テ製絲業者トハ命令ヲ
以テ規定スル者ヲ除クノ外器械生絲ノ
製造ヲ業トスル者ヲ謂フ
器械生絲ノ製造工場ヲ有スル產業組合
及產業組合聯合會ハ命令ヲ以テ規定ス
ルモノヲ除クノ外本法ノ適用ニ付テハ
之ヲ製絲業者ト看做ス
第二條製絲業者タラントスル者ハ主務
大臣ノ免許ヲ受クベシ
前項ノ免許ニ關シ必要ナル事項ハ命令
ヲ以テ之ヲ定ム
第三條主務大臣ハ製絲業者ニ對シ製絲
業ノ統制上必要ナル事項ヲ命ズルコト
ヲ得
第四條製絲業者免許ヲ受ケタル日ヨリ
=
一年以內ニ事業ヲ開始セザルトキハ主
務大臣ハ其ノ免許ヲ取消スコトヲ得
製絲業者引續キ一年以上其ノ事業ノ全
部又ハ一部ヲ爲サザルトキハ主務大臣
ハ其ノ免許ヲ取消シ又ハ其ノ事業ヲ制
限スルコトヲ得
第五條製絲業者ノ所爲ニシテ本法ニ基
キテ發スル命令若ハ處分ニ違反シ又ハ
公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ム
ルトキハ主務大臣ハ其ノ免許ヲ取消シ
又ハ其ノ事業ヲ制限シ若ハ停止スルコ
トヲ得
第六條主務大臣又ハ地方長官取締上必
要アリト認ムルトキハ製絲業者ニ對シ
事業ニ關スル報告ヲ爲サシメ又ハ當該
官吏ヲシテ事務所、營業所、工場、倉
庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ若ハ帳簿物件
ヲ檢査セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ當該官吏ハ其ノ身
分ヲ證明スベキ證票ヲ携帶スベシ
第七條第二條第一項ノ規定ニ違反シタ
ル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第八條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五
百圓以下ノ罰金ニ處ス
一本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル制
限又ハ禁止ニ違反シタル者
二第三條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ
タル者
三第四條第二項ノ規定ニ依ル制限又
ハ第五條ノ規定ニ依ル制限若ハ停止
ノ處分ニ違反シタル者
四正當ノ理由ナクシテ第六條ノ規定
ニ依ル臨檢檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌
避シ又ハ其ノ尋問ニ對シ虛僞ノ陳述
ヲ爲シタル者
第九條製絲業者正當ノ理由ナクシテ第
六條ノ規定ニ依ル報〓ヲ怠リタルトキ
ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十條製絲業者ハ其ノ代理人、戶主、
家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違
反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザル
ノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得
ズ
第十一條本法又ハ本法ニ基キテ發スル
命令ニ依リ製絲業者ニ適用スベキ罰則
ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締
役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員
ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ
其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業
ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未
成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ製絲業者タル者又ハ其
ノ承繼人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施
行ノ日ヨリ十年間之ヲ本法ニ依リ免許ヲ
受ケタル者ト看做ス但シ本法施行ノ日ヨ
リ十年以内ニ命令ノ定ムル條件ヲ具備シ
主務大臣ノ認可ヲ受ケタル者ニ限リ其ノ
期間經過後ト雖モ仍免許ハ其ノ效力ヲ有
ス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=56
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057・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 製絲業法案提出
ノ理由ヲ御說明イタシマス、製絲業ガ我國
ノ重要產業ノ主ナルモノデアルト云フコト
ハ申ス迄モアリマセヌ、然ルニ此製絲業ニ
ハ大小ノ企業ガ時ノ狀況ニ依リマシテ亂立
イタスノデアリマス、就中小規模ノ工場ハ
甚ダ多數ヲ占メテ居ルノデアリマス、是等
ノ小規模ノ工場ハ其設備寡少ノ結果ト致シ
テ、生產竝ニ販賣上ノ不利ハ少ナクアリマ
セヌ、又其資力モ十分デアリマセヌ爲ニ其
經營ノ基礎ガ堅實ヲ缺キマシテ、製品ノ改
善ヲ妨グルノミナラズ、一朝絲價ノ變動ニ
際シマシテハ、自ラ之ニ善處スルコトガ出
來マセヌ、朽廢工場ガ續出シテ、累ヲ養蠶
者從業職工等ニ及ボスコトノアリマスノ
ハ、近イ過去ノ經驗ガ痛切ニ物語ッテ居ル
所デアリマス、又時ニ絲價ノ好轉イタシマ
スルト、忽チ新設ノ副業工場ガ增加シテ、
其興廢誠ニ常ナイ有樣デアリマス、ソレガ
爲メ蠶絲業界ノ安定ヲ妨ゲ、累ヲ蠶絲業全
般ニ及ボシ、延テ國民經濟ニモ及ボスコトガ
少ナクナイノデアリマス、故ニ斯業ニ於ケ
ル此弊害ヲ矯正スル方策ヲ講ズルコトハ、
蠶絲業ノ健全ナル發達ヲ期スル上ニ於テ極
メテ緊要デアリ、又只今ノ事情ニ於テハ是
ガ極メテ適切ナル事柄デアルヤウニ思フノ
デアリマス、サウシテ之ガ方策ヲ考ヘマス
ルト、製絲業ヲ免許事業ト爲スコトガ最モ
適當デアリマス、卽チ之ニ依リマシテ製絲
業經營ニ一定ノ基準ヲ與ヘ、旣存事業ハ
應總テ其存續ヲ認メマスケレドモ、小規模
ノ工場ニ付テハ指導助成ニ依リ成ルベク速
ニ整理ヲ爲サシメルト共ニ、製絲業ニ對シ
テハ政府ニ於テ之ガ監督取締ヲ加ヘ、尙ホ
必要ニ應ジテハ統制ヲ加フルノ權能ヲモ留
保スルコトニ致シタイト考ヘルノデアリマ
ス、製絲業法案ハ右ノ諸點ヲ要旨トシテ居
リマス、之ガ施行ニ依ッテ製絲業ノ統制ヲ
圖リ、蠶絲業界全般ノ健全ナル發達ニ資シ
タイト考ヘルノデアリマス、是ガ本案ヲ提
出シタ所以ノ理由デアリマスガ、本案ハ衆
議院ニ於テ原案ニ多少ノ修正ガアリマシタ
ケレドモ、本案全體ノ目的ヲ達スル上ニ於
テ、大ナル支障ヲ來スモノデハアリマセ
又、政府ハ之ニ同意ヲ致シタノデアリマ
ス、何卒愼重御審議ノ上速ニ御協賛アラム
コトヲ切望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=57
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058・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 只今上程サレマシタ
ル製絲業法案ハ、前法案ト同樣重要ナル法
案ト考ヘマスルガ故ニ、之ガ審査ニ要スル
委員ノ數ヲ十五名ト定メ、議長ニ於テ御指
名アラムコトヲ希望イタシマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=58
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059・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=59
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060・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 三室戶子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=60
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061・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=61
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062・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 特別委員ノ氏名
ヲ、書記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔瀨古書記官朗讀〕
製絲業法案特別委員
侯爵大隈信常君伯爵兒玉秀雄君
子爵會我祐邦君子爵織田信恒君
男爵平野長祥君男爵藤村義朗君
男爵松岡均平君藤澤幾之輔君
藤田四郞君室田義文君
坂田貞君金杉英五郞君
磯村豊太郞君森廣三郞君
佐々木八十八君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=62
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063・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 產業組合中央金
庫特別融通及損失補償法案、產業組合法中
改正法律案、產業組合中央金庫法中改正法
律案、政府提出、衆議院送付、第一讀會、
後藤農林大臣
產業組合中央金庫特別融通及損失補償
法案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年九月一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
產業組合中央金庫特別融通及損失補
償法案
產業組合中央金庫特別融通及損失
補償法
第一條產業組合中央金庫ハ所屬信用組
合聯合會又ハ所屬信用組合ニ對シ其ノ
固定セル債權ヲ資金化シテ金融ノ疏通
ヲ圖ル爲必要アリト認ムルトキハ主務
大臣ノ定ムル所ニ依リ特別融通ヲ爲ス
コトヲ得
第二條產業組合中央金庫ガ前條ノ規定
ニ依ル特別融通ヲ爲スハ本法施行ノ日
ヨリ三年トシ其ノ融通ノ期限ハ本法施
行ノ日ヨリ十五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三條產業組合中央金庫法第十四條ニ
規定スル第十三條第一號ノ規定中貸付
年限及償還方法ニ關スルモノ竝ニ同法
第十四條ニ規定スル第十三條第二號但
書ノ規定ハ第一條ノ規定ニ依ル特別融
通ニハ之ヲ適用セズ
產業組合中央金庫ガ第一條ノ規定ニ依
ル特別融通以外ノ融通ヲ爲ス場合ニ於
テ第一條ノ規定ニ依ル特別融通ノ額及
之ヲ爲ス爲發行スル產業債劵ノ額ハ產
業組合中央金庫法第十三條第二號但書
ノ制限ノ計算上之ヲ算入セズ
第四條產業組合中央金庫ハ第一條ノ規
定ニ依ル特別融通ヲ爲ス爲必要アルト
キハ產業組合中央金庫法第十七條第一
項ノ制限ニ拘ラズ產業債劵ヲ發行スル
コトヲ得
產業組合中央金庫ガ第一條ノ規定ニ依
ル特別融通以外ノ融通ヲ爲ス爲產業債
劵ヲ發行スル場合ニ於テ第一條ノ規定
ニ依ル特別融通ヲ爲ス爲發行スル產業
債劵ノ額ハ產業組合中央金庫法第十七
條第一項ノ制限ノ計算上之ヲ算入セ
ズ
第五條政府ハ第一條ノ規定ニ依ル特別
融通ヲ爲シタルニ因リテ產業組合中央
金庫ガ損失ヲ受ケタルトキハ之ニ對シ
三千萬圓ヲ限リ其ノ損失ヲ補償スルノ
契約ヲ爲スコトヲ得
前項ノ損失ヲ決定スル基準ハ主務大臣
大藏大臣ニ協議シテ之ヲ定ム
第六條第一條ノ規定ニ依ル特別融通ヲ
爲シタルニ因リテ產業組合中央金庫ノ
受ケタル損失及其ノ額ハ產業組合中央
金庫特別融通損失審査會之ヲ決定ス
產業組合中央金庫特別融通損失審査會
ノ組織及權限ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七條第五條第一項ノ契約ニ基キ政府
ガ產業組合中央金庫ニ對シテ支拂フベ
キ損失補償金ハ國債證劵ヲ以テ之ヲ交
付スルコトヲ得
第八條政府ハ前條ノ規定ニ依リ交付ス
ル爲必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ發行
スルコトヲ得
第九條本法ニ依リ交付スル國債證劵ノ
交付價格ハ時價ヲ參酌シテ大藏大臣之
ヲルム
第十條本法中主務大臣トアルハ農林大
臣及大藏大臣トス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
產業組合法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ修正議決セリ因
テ議院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年九月一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
小字ハ衆議院修正文、-ハ)
同削除ノ符號ナリ
產業組合法中改正法律案
產業組合法中左ノ通改正ス
第二條第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ有限責任タルコトヲ得ル組合ハ左
ノ各號ノ一ニ該當スルモノニ限ル
一前條第四項ノ信用組合ニシテ定款
ノ定ムル所ニ依リ同條第一項第二號
乃至第四號ノ事業ヲ兼ネザルモノ
二定款ノ定ムル所ニ依リ經濟ニ必要
ナル物ノミヲ取扱フ購買組合ニシテ
前條第一項第一號若ハ第二號ノ事業
又ハ同條同項第四號ノ事業中產業ニ
必要ナル設備ヲ利用セシムル事業ヲ
兼ネザルモノ
第六條ノ二ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第六條ノ三本法中地方長官トアルハ區
域ガ道府縣ノ區域ヲ超ユル產業組合ニ
付テハ之ヲ主務大臣トス
前項ノ規定ニ依ル主務大臣ノ職權ノ一
部ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ地方長
官ニ委任スルコトヲ得
第九條第一項第五號ノ次ニ左ノ一號ヲ加
フ
五ノ二保證責任組合ニ在リテハ保證
金額ニ關スル規定
第十條ノ二法人ハ產業組合ノ組合員タ
ルコトヲ得ズ但シ農事實行組合、養蠶
實行組合其ノ他命令ヲ以テ定ムル法人
ハ此ノ限ニ在ラズ
前項但書ノ法人ノ產業組合ノ組合員ト
爲ルニ付必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之
ヲ定ム
第十條ノ三農事實行組合ハ一定ノ地區
內ノ農業者ヲ以テ之ヲ組織シ組合員ノ
共同ノ利益增進ヲ圖ルヲ以テ目的ト
ス
農事實行組合ハ法人トス
農事實行組合ノ地區ハ部落其ノ他之ニ
準ズル區域トス
第十條ノ四蠶絲業組合法第二十條乃至
第二十六條及第四十一條ノ規定ハ農事
實行組合ニ之ヲ準用ス
第十條フ五組合員タル法人ガ其ノ財產
ヲ以テ債務ヲ完濟スルコト能ハザル場
合ニ於テハ法人ノ組合員ノ全員ハ其ノ
法人ガ產業組合ニ對シ負擔スル一切ノ
債務ニ付連帶無限ノ責任ヲ負擔ス
第十條ノ六組合員タル法人ハ其ノ組合
員ガ脫退シタルトキハ遲滯ナク產業組
合ニ之ヲ通知スベシ
前項ノ場合ニ於テハ說退シタル組合員
モ亦其ノ通知ヲ爲スコトヲ得
第十條ノ七組合員タル法人ノ組合員ガ
其ノ法人ヨリ脫退シタル場合ニ於テハ
脫退シタル組合員ハ前條ノ脫退ノ通知
前ニ生ジタル法人ノ產業組合ニ對スル
債務ニ付其ノ脫退ノ通知後二箇年間第
十條ノ五ノ規定ニ依ル責任ヲ負擔ス
第十條ノ八組合員タル法人ニ加入シタ
ル組合員ハ其ノ加入前ニ生ジタル法人
ノ產業組合ニ對スル債務ニ付テモ亦第
十條ノ五ノ規定ニ依ル責任ヲ負擔ス
第三十一條ノ三理事ハ少クトモ每事業
年度一囘通常總會ヲ開クコトヲ要ス
第三十二條中「、第六十條」ヲ削ル
第四十七條ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ定款ヲ以テ六箇月ト爲スコトヲ得
第四十八條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第四十八條ノ二組合ハ定款ノ定ムル所
ニ依リ定款ニ違反シタル組合員ニ對シ
過怠金ヲ課スルコトヲ得
第五十條第一項ヲ左ノ如ク改ム
定款ヲ以テ組合ノ存立時期ヲ定メタル
ト否トヲ問ハズ組合員ハ六箇月前ニ豫
告ヲ爲シ事業年度ノ終ニ於テ脫退スル
コトヲ得但シ第四十七條但書ノ規定ニ
依リ事業年度ヲ六箇月ト爲シタル組合
ニ在リテハ豫〓ハ三箇月前ニ之ヲ爲ス
ヲ以テ足ル
第六十二條ノ二組合定款ニ定メタル存
立時期ノ滿了ニ因リテ解散シタル場合
ニ於テハ組合員ノ三分ノ一一以上ノ同意
ヲ以テ組合ヲ繼續スルコトヲ得此ノ場
合ニ於テハ存立時期滿了ノ日ヨリ一箇
年內ニ認可ヲ申請スルコトヲ要ス
前項ノ繼續ニ同意セザル組合員ハ組合
繼續ノ時ニ於テ脫退シタルモノト看做
ス
第七十六條第二項中「及購買組合聯合會」
アル
第七十六條ノ三道府縣ヲ區域トスル信
用組合聯合會ハ定款ノ定ムル所ニ依リ
所屬組合又ハ所屬聯合會ニ對シ手形ノ
割引ヲ爲スコトヲ得
第七十七條第二項ヲ左ノ如ク改ム
產業組合聯合會ノ組織ハ保證責任トス
同條第三項中「保證責任產業組合聯合會」
ヲ「產業組合聯合會」ニ改ム
第七十九條第三項ヲ削ル
第八十條ノ二產業組合聯合會ノ所屬組
合及所屬聯合會ノ有スベキ出資口數ハ
百口ヲ超ユルコトヲ得ズ但シ特別ノ事
由アルトキハ定款ノ定ムル所ニ依リ五
百口迄之ヲ增加スルコトヲ得
第八十一條中「本章ニ規定アルモノ」ノ下
ニ「及第十條ノ五乃至第十條ノ八ノ規定」
ヲ加ヘ同條但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ第七條中七人以上トアルハ之ヲ二
人以上トシ第六十二條第一項第四號中
七人未滿トアルハ之ヲ二人未滿トス
第九十二條中「第五條乃至第七條」ヲ第
五條乃至第六條ノ二、第七條」ニ改ム
附則
第一條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之
ヲ定ム
第二條本法施行前ニ設立シタル有限責
任ノ組合(第二條第一項但書ノ改正規
定ニ揭グル組合ヲ除ク)又ハ聯合會ニ
五
付テハ本法施行ノ日ヨリ三箇年ヲ限リ
第二條第一項但書及第七十七條ノ改正
規定ニ依ラズ仍從前ノ規定ニ依ル
第三條前條ノ組合ハ同條ノ期間內ニ總
會ニ於テ總組合員ノ半數以上出席シ其
ノ議決權ノ四分ノ三以上ヲ以テスル決
議ニ依リ其ノ組織ヲ變更シ保證責任ノ
組合ト爲スコトヲ得
前項ノ組織變更ニ同意セザル組合員ハ
勅令ノ定ムル所ニ依リ組織變更ノ時ニ
於テ脫退シタルモノト看做ス
前二項ノ規定ハ前條ノ聯合會ニ之ヲ準
用ス
第四條附則第二條ノ組合又ハ聯合會ニ
シテ同條ノ期間內ニ其ノ組織ヲ變更シ
テ左ニ揭グル組織ト爲サザルモノハ其
ノ期間滿了ノ日ニ於テ解散ス
一組合ニ在リテハ保證責任又ハ無限
責任
二聯合會ニ在リテハ保證責任
第五條第十條ノ二第一項ノ改正規定ニ
依リ產業組合ノ組合員タルコトヲ得ザ
ル法人ニシテ本法施行ノ際現ニ產業組
合ノ組合員タルモノハ當分ノ内仍其ノ
組合員タルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ
第十條ノ五乃至第十條ノ八ノ規定ヲ適
用セズ
第六條蠶絲業組合法第二十三條第二項
第一號中「第一號乃至第三號、第十號及
第十一號」ヲ「第一號、第一一號及第四號」
ニ改メ同條同項中第二號ヲ削リ第三號
ヲ第二號トシ第四號ヲ第三號トス
第七條蠶絲業組合法第二十六條ニ左ノ
但書ヲ加フ
但シ民法第四十八條及第七十七條中一
週間トアルハ之ヲ二週間トス
產業組合中央金庫法中改正法律案
右政府提出案本院ニ於テ可決セリ因テ議
院法第五十四條ニ依リ及送付候也
昭和七年九月一日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
產業組合中央金庫法中改正法律案
產業組合中央金庫法中左ノ通改正ス
第五條第二項ヲ左ノ如ク改ム
產業組合聯合會ノ有スベキ出資口數ハ
千口ヲ、產業組合ノ有スベキ出資口數
ハ五百口ヲ超ユルコトヲ得ズ
第七條中「本法ニ別段ノ規定アルモノ」ノ
下ニ「及產業組合法第十條ノ五乃至第十
條ノ八ノ規定」ヲ加フ
第八條第一項中「營業稅」ヲ「營業收益稅」
コット
第十五條產業組合中央金庫ハ左ノ方法
ニ依ルノ外業務上ノ餘裕金ヲ運用スル
コトヲ得ズ
國債證劵、地方債證劵又ハ主務大
臣ノ認可ヲ受ケタル有價證劵ノ買入
ヲ爲スコト
二大藏省預金部若ハ主務大臣ノ認可
ヲ受ケタル銀行ヘノ預金又ハ郵便貯
金ト爲スコト
三產業組合聯合會又ハ產業組合ニ對
シ短期貸付ヲ爲スコト
前項ノ餘裕金運用ニ關シ必要ナル事項
ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十三條中「一箇年」ヲ「六箇月」ニ改ム
第二十五條第二項中「農商務大臣」ヲ「農
林大臣」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム但
シ第二十三條ノ改正規定ハ昭和八年四月
一日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣後藤文夫君演壇ニ登ル〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=63
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064・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 只今議題トナリ
マシタ政府提出ノ三案ノ理由ヲ御說明申上
ゲマス、現下經濟界ノ異常ナル不況ノ結果、
農村都市ニ於ケル中小產者ノ主要ナ金融機
關デアリマス信用組合及信用組合聯合會ノ
貸付ノ中ニハ、固定貸付トナッテ居ルモノ
ガ少クナイノデゴザイマス、之ガ爲ニ產
業組合ノ活動ヲ阻碍シ、金融ノ梗塞ヲ來
シ、是等中小產者ノ困態著シキモノガゴザ
イマス故ニ、信用組合及信用組合聯合會ノ
固定セル債權ヲ資金化シテ、金融ノ疏通ヲ
圖ルコトガ極メテ緊要ナノデゴザイマス、
仍テ玆ニ此法律案ヲ提出イタシマシテ、產
業組合ノ中樞金融機關デアル產業組合中央
金庫ヲシテ特別融通ヲ爲サシメ、之ニ依リ
テ生ズル同金庫ノ損失ハ三千万圓ヲ限度ト
シテ政府ニ於テ之ヲ補償セムトスルノデア
リマス、而シテ其損失ノ決定ヲ公正ナラシ
ムル爲、勅令ヲ以テ產業組合中央金庫特別
融通損失審査會ヲ置クコトトシ、又產業組
合中央金庫ニ對スル補償ハ公債ノ交付ヲ以
テ之ヲ爲シ得ルコトト致シタノデアリマス、
以上述ベマシタル如ク、本案ノ趣旨トスル
所ハ、現在ノ梗塞セル中小產者ノ金融ノ疏
通ヲ圖ルコトニアリマスカラ、資金融通ノ
衝ニ當ル產業組合中央金庫ニ對シマシテ、
十分ニ監督指導ヲ致シテ、本法ノ運用ニ遺
憾ナキヲ期スル考デアリマス、次ニ產業組
合法中改正法律案提出ノ理由ヲ御說明イタ
シマス、申ス迄モナク產業組合ハ中小產者
ノ產業及經濟ノ重要ナ機關デアリマシテ、
其機能ヲ充實シ、且ツ普ク之ヲ利用セシムル
コトハ、現下經濟界ノ異常ナ不況ニ際シマ
シテ、中小產者ガ其產業及經濟ノ更生ヲ圖
ルガ爲ニ必要デアルバカリデハゴザイマセ
又、政府ニ於テ行フ資金ノ供給其他ノ施設
ヲ徹底セシムル上ニ於キマシテモ、誠ニ緊
要トスル所デアリマス、仍テ玆ニ此法律案
ヲ提出イタシマシテ、產業組合法ノ改正ヲ
致サムトスル次第デアリマス、其要旨ヲ簡
單ニ申シマスレバ、第一ニハ此際產業組合
ノ信用限度ヲ擴張イタシマシテ、資金ノ融
通ヲ圓滑ナラシムルガ爲、個々ノ組合ニ於
テハ市街地ニ於ケル信用組合及ビ經濟必要
品ノミヲ取扱フ購買組合ヲ除キマス外ハ、
其責任ヲ保證責任又ハ無限責任ノ組織ト致
シマシテ、聯合會ニ於テハ總テ保證責任ノ
組織ト致シ、現在ノ有限責任ノ組合又ハ聯
合會ハ、今後一定ノ期間ニ其組織ヲ變更セ
シムルコトト致スノデアリマス、此期間ニ
付キマシテハ政府ハ原案ニ於テ三年間トシ
テ提案シタノデアリマスルガ、衆議院ニ於
テハ、之ヲ五年ニ修正セラレタノデアリマ
ス、政府ノ趣旨ト多ク異ナル所ハナイノデ
アリマスルカラ、政府ハ之ニ同意ヲ致シタ
ノデアリマス、第二ニハ產業組合ノ活動ヲ
促進シ、農家ヲシテ普ク組合ヲ利用セシム
ルノ途ヲ開クガ爲ニ、現ニ農村ニ發達シテ
居リマス農事實行組合ヲ簡易ナ法人ト致シ
マシテ、養蠶實行組合ト共ニ其組合ノ儘デ
產業組合ノ組合員トナリ得ルモノト致スノ
デアリマス、第三ニハ道府縣區域ノ信用組
合聯合會ノ機能ヲ徹底セシムルガ爲ニ、手
形割引ヲ爲シ得ルコトト致シマシタ、第四
ニハ產業組合聯合會ノ資力ヲ充實イタシマ
ス爲ニ、其組織者ノ有スル出資口數ヲ增加
セムトスルノデアリマス、以上ガ改正案ノ
要旨デゴザイマス、次ニ產業組合中央金庫
法中改正法律案提出ノ理由ヲ御說明イタシ
マス、產業組合法ノ改正ト相俟チマシテ、
產業組合中央金庫ノ機能ヲ充實イタシマス
コトハ、漸次其必要ガ緊切トナッテ參ルニ
相違ナイノデアリマス、仍テ茲ニ同金庫ノ
組織者ノ有スベキ出資口數ノ增加、餘裕金
運用方法ノ擴張、事業年度ノ改正ヲナスノ
必要ヲ認メマシテ、、本改正法律案ヲ提出ス
ル次第デゴザイマス、以上各案ヲ何卒速ニ
御審議アラムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=64
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065・三室戸敬光
○子爵三室戸敬光君 只今一括シテ上程サ
レマシタ產業組合ニ關スル三案ハ、是亦重
要ナル法案ト認メマスルガ故ニ、之ガ審査
ニ要スル委員ノ數ヲ十五名ト定メ、議長ニ
於テ御指名アラムコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=65
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066・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=66
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067・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 三室戶子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=67
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068・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス、特別委員ノ氏名ヲ、書記官ヲシテ
朗讀ヲ致サセマス
〔小林書記官朗讀〕
產業組合中央金庫特別融通及損失補償法
案特別委員
公爵一條實孝君侯爵大久保利武君
子爵前田利定君子爵西尾忠方君
水野鍊太郞君男爵赤松範一君
男爵足立豐君男爵伊江朝助君
西野元君馬越恭平君
各務鎌吉君田村新吉君
菅澤重雄君吉田羊治郞君
松本勝太郞君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=68
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069・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ガナケレ
バ本日ハ是ニテ延會イタシマス、次ノ議事
日程ハ本院彙報ヲ以テ御通知ニ及ビマス、
本日ハ是ニテ散會イタシマス······
午後四時四十二分散會発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006303242X00719320901&spkNum=69
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