1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和七年八月二十六日(金曜日)
午後一時二十三分開議
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議事日程 第三號
昭和七年八月二十六日
午後一時開議
第一 不動産融資及損失補償法案(政府提出) 第一讀會
第二 昭和七年法律第六號中改正法律案(昭和七年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する件)(政府提出) 第一讀會
第三 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第四 産業組合中央金庫特別融通及損失補償法案(政府提出) 第一讀會
第五 産業組合法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第六 産業組合中央金庫法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第七 製絲業法案(政府提出) 第一讀會
第八 米穀需給調節特別會計法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第九 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第十 金錢債務臨時調停法案(政府提出) 第一讀會
第十一 農村負債整理組合法案(政府提出) 第一讀會
第十二 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第十三 商業組合法案(政府提出) 第一讀會
第十四 商品券取締法案(政府提出) 第一讀會
第十五 右各案の審査を付託すへき委員の選擧
第十六 市町村立尋常小學校費臨時國庫補助法案(政府提出) 第一讀會
第十七 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
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一 國務大臣の演説に對する質疑 (前會の續)
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=0
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001・秋田清
○議長(秋田瀋君) 諸般ノ報告ヲ致サセマ
ス
〔書記官朗讀〕
一政府ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
(追第二號)豫算外國庫ノ負擔トナルベキ
契約ヲ爲スヲ要スル件
(以上八月二十五日提出)
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
大正十五年法律第五十二號中改正法律案
(土地區劃整理ニ伴フ〓算金ニ關スル件)
提出者
安藤正純君中野勇治郞君
磯部尙君國枝捨次郞君
伊藤仁太郞君柳田宗一郞君
高橋義次君
日本蠶絲株式會社法案
提出者
胎中楠右衞門君土井權大君
武田德三郞君
米專賣法案
提出者
胎中楠右衞門君土井權大君
米專賣特別會計法案
提出者
胎中楠右衞門君土井權大君
原蠶種國營法案
提出者
胎中楠右衞門君土井權大君
武田德三郞君
製絲業法案
提出者
胎中楠右衞門君土井權大君
武田德三郞君
植民地米統制法案
提出者
胎中楠右衞門君土井權大君
輸出生絲販賣統制法案
提出者
胎中楠右衞門君土井權大君
武田德三郞君
(以上八月二十五日提出)
銀行法中改正法律案
提出者
松本忠雄君靑木亮貫君
百瀨渡君高田耘平君
比佐昌平君林平馬君
關稅定率法中改正法律案
提出者
荒川五郞君中亥歲男君
橫山金太郞君作田高太郞君
負債整理組合中央金庫法案
提出者
秦豐助君森恪君
木下成太郞君志賀和多利君
山本悌二郞君丹下茂十郞君
松山常次郞君島田俊雄君
砂田重政君松野鶴平君
西岡竹次郞君久原房之助君
靑木精一君田邊七六君
熊谷巖君岡田伊太郞君
田邊熊一君濱田國松君
〓水銀藏君土井權大君
河上哲太君內野辰次郞君
村田虎之助君山口義一君
米穀法中改正法律案
提出者
秦豐助君森恪君
木下成太郞君志賀和多利君
山本悌二郞君丹下茂十郞君
松山常次郞君島田俊雄君
砂田重政君松野鶴平君
西岡竹次郞君久原房之助君
靑木精一君田邊七六君
熊谷巖君岡田伊太郞君
田邊熊一君濱田國松君
〓水銀藏君土井權大君
河上哲太君內野辰次郞君
村田虎之助君山口義一君
(以上八月二十六日提出)
〔左ノ報〓ハ朗讀ヲ經サルモ参照ノ爲
玆ニ揭載ス〕
一議員ヨリ提出セラレタル議案左ノ如シ
信濃川發電所工事ニ關スル建議案
提出者
武田德三郞君增田義一君
鈴木義隆君山田又司君
新宮區裁判所ニ甲號支部設置ニ關スル建
議案
提出者世耕弘一君
法令ノ解釋統一ニ關スル制度確立ニ關ス
ル建議案
提出者立川平君
(以上八月二十五日提出)
十和田國立公園地域擴張指定ニ關スル建
議案
提出者
鈴木安孝君杉本國太郞君
小山田義孝君小野寺章君
田子一民君八角三郞君
矢作川改修ニ關スル建議案
提出者小林錡君
自力振興計畫ニ關スル建議案
提出者
荒川五郞君戶井嘉作君
松定吉君佐藤正君
松田竹千代君內ケ崎作三郞君
武知勇記君斯波貞吉君
武富濟君
上海事變直接被害者救濟ニ關スル建議案
提出者西岡竹次郞君
(以上八月二十六日提出)
一昨日二十五日齋藤内閣總理大臣ヨリ左ノ
通發令アリタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
外務省亞細亞局長谷正之
第六十三囘帝國議會外務省所管事務政府
委員被仰付
一昨二十五日議長ニ於テ辭任ヲ許可シタル
常任委員左ノ如シ
第三部選出請願委員松尾四郞君
第一部選出建議委員西脇晉君
一昨二十五日衆議院規則第十五條但書ニ依
リ議長ニ於テ議席ヲ左ノ通變更セリ
六藤田若水君
三五永田善三郞君
四七佐藤與一君
五七中島彌團次君
010勝正憲君
一〇一土屋〓三郞君
一〇二內ケ崎作三郞君
三一壽原英太郞君
二一二福井甚三君
三七三菅野善右衞門君
四五五山本市英君
四五八中田正輔君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=1
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002・秋田清
○議長(秋田〓君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス、日程第一及第二ハ便宜上一括議題ト
爲スニ御異議ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=2
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003・秋田清
○議長(秋田〓君) 御異議ナシト認メマ
ス仍テ日程第一、不動產融資及損失補償
法案、日程第二、昭和七年法律第六號中改
正法律案、右二案ヲ一括シテ第一讀會ヲ開
キマス-大藏大臣高橋是〓君
第不動產融資及損失補償法案(政
府提出)第一讀會
第二昭和七年法律第六號中改正法律
案(昭和七年度一般會計歲出ノ財源
ニ充ツル爲公債發行ニ關スル件)(政
府提出)第一讀會
不動產融資及損失補償法案
不動產融資及損失補償法
第一條日本勸業銀行、農工銀行又ハ北
海道拓殖銀行(以下融資銀行ト稱ス)ハ
銀行ヨリ左ノ方法ニ依ル不動產資金融
通ノ請求アリタル場合ニ於テ金融ノ疏
通ヲ圖ル爲必要アリト認ムルトキハ大
藏大臣ノ定ムル所ニ依リ當該銀行又ハ
其ノ債務者ニ對シ資金ノ融通ヲ爲スコ
トヲ得
-當該銀行ノ不動產又ハ不動產抵當
附債權(抵當證劵ヲ含ム)ヲ擔保トス
ル貸付
二當該銀行ニ對スル不動產ヲ抵當ト
スル債務ノ辨濟ノ爲ニ當該不動產ヲ
抵當トスル貸付
第二條融資銀行ガ前條ノ規定ニ依ル融
通ヲ爲スハ本法施行ノ日ヨリ三年トシ
其ノ融通ノ期限ハ本法施行ノ日ヨリ十
五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三條融資銀行ガ第一條ノ規定ニ依ル
融通ヲ爲ス場合ニ於ケル貸付金額ハ日
本勸業銀行法第十八條及第三十一條ノ
二第二項中第十八條ヲ準用シタル規定
又ハ農工銀行法第十條及第七條ノ三第
二項中第十條ヲ準用シタル規定ニ拘ラ
ズ其ノ擔保タル不動產又ハ其ノ擔保タ
ル債權ニ附隨スル抵當權ノ目的タル不
動產ニ付鑑定シタル價格以內トス
第四條日本勸業銀行法第十四條第三項
及第十四條ノ二ノ規定、同法第十四條
第二項及第三十一條ノ二第一項ノ規定
中貸付年限及償還方法ニ關スルモノ
農工銀行法第六條ノ二及第七條ノ規
定同法第六條第二號及第七條ノ三第
一項ノ規定中貸付金額貸付年限及償還
方法ニ關スルモノ竝ニ北海道拓殖銀行
法第七條第一項第二號及第七條ノ二ノ
規定中貸付年限及償還方法ニ關スルモ
ノハ第一條ノ規定ニ依ル融通ニハ之ヲ
適用セズ
融資銀行ガ第一條ノ規定ニ依ル融通以
外ノ融通ヲ爲ス場合ニ於テ第一條ノ規
定ニ依ル融通ノ額ハ日本勸業銀行法又
ハ農工銀行法ニ規定スル貸付金額ノ制
限ノ計算上之ヲ算入セズ
第五條融資銀行ハ第一條ノ規定ニ依ル
融通ヲ爲ス爲必要アルトキハ日本勸業
銀行法第三十四條第一項、農工銀行法
第二十六條第一項又ハ北海道拓殖銀行
法第十二條第一項ノ制限ニ拘ラズ債劵
ヲ發行スルコトヲ得
融資銀行ガ第一條ノ規定ニ依ル融通以
外ノ融通ヲ爲ス爲債劵ヲ發行スル場合
ニ於テ第一條ノ規定ニ依ル融通ヲ爲ス
爲發行スル債劵ノ額ハ日本勸業銀行
法、農工銀行法又ハ北海道拓殖銀行法
ニ規定スル債劵發行額ノ制限ノ計算上
之ヲ算入セズ
第六條政府ハ第一條ノ規定ニ依ル融通
ヲ爲シタルニ因リテ融資銀行ガ損失ヲ
受ケタルトキハ融資銀行ニ對シ一億圓
ヲ限リ其ノ損失ヲ補償スルノ契約ヲ爲
スコトヲ得
前項ノ損失ヲ決定スル基準ハ大藏大臣
之ヲ定ム
第七條第一條ノ規定ニ依ル融通ヲ爲シ
タルニ因リテ融資銀行ノ受ケタル損失
及其ノ額ハ不動產融資損失審査會之ヲ
決定ス
不動產融資損失審査會ノ組織及權限ハ
勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第八條第六條第一項ノ契約ニ基キ政府
ガ融資銀行ニ對シテ支拂フベキ損失補
償金ハ國債證劵ヲ以テ之ヲ交付スルコ
トヲ得
第九條政府ハ前條ノ規定ニ依リ交付ス
ル爲必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ發行
スルコトヲ得
第十條本法ニ依リ交付スル國債證劵ノ
交付價格ハ時價ヲ參酌シテ大藏大臣之
ヲ定ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行前大藏省預金部ノ引受ニ係ル債
劵資金ヲ以テ融資銀行ノ爲シタル資金ノ
融通ニシテ第一條ノ規定ニ依ル融通ニ相
當スルモノハ之ヲ第一條ノ規定ニ依ル〓
通ト看做ス
昭和七年法律第六號中改正法律案
昭和七年法律第六號中左ノ通改正ス
第一條中「一億六千六十萬圓」ヲ「三億二
千二百六十萬圓」ニ改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
(國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=3
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004・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 第一ノ法案ニ付
キマシテ御說明ヲ申上ゲマス、時局ノ匡救
ニ關シマシテハ、特ニ前議會ニ於テ御決議
ニナッテ居ル次第モアリマシテ、政府ニ於キ
マシテモ種々對策ヲ攻究立案致シタノデア
リマスルガ、要スルニ現下ノ如キ時局ニ際
シマシテハ諸般ノ對策ノ併用實施ニ依ッ
テ初メテ效果ヲ期待シ得ルノデアリマスル
ガ、就中是等對策中ノ根本手段タル金融ノ
圓滿ヲ期スルガ爲ニハ、通貨ノ供給ヲ容易ナ
ラシムル事ト相竝ンデ、金融機關ノ內部ニ
於テ、旣ニ不動產ニ固定セル資金ヲ流動化
シテ、其活動ヲ圓滑ナラシムルコトガ極メ
テ必要ナコトヽ信ジ、政府ハ玆ニ本案ヲ提
出シタ次第デアリマス、卽チ日本勸業銀行、
農工銀行又ハ北海道拓殖銀行ハ、銀行ヨリ
不動產又ハ不動產抵當附債權ヲ擔保トスル
貸付ヲ爲スコト、又ハ其銀行ヨリ不動產ヲ
抵當トシテ借入ヲ爲シテ居ル債務者ニ對
シ肩替ノ爲ノ貸付ヲ爲スコトノ請求ヲ受ケ
マシタ場合ニ於テ、金融ノ疏通ヲ圖ル爲メ
必要デアルト認メタルトキハ、是等ノ不動
產銀行ヲシテ上記ニ依ラザル貸出ヲ爲サシ
メテ、以テ其目的ヲ達セシムルト共ニ、他
方之ニ依リ日本勸業銀行、農工銀行又ハ北
海道拓殖銀行ガ損失ヲ被リ、爲ニ其地位ヲ
危クスルコトナカラシメンガ爲メ是等ノ不
動產銀行ニ對シ、國家ガ一億圓ヲ限リ其損
失ヲ補償スベキコトヲ約スルノハ此際洵
ニ必要巳ムヲ得ザル處置ト考ヘル次第デア
リス、又其損失決定ヲシテ公正ナラシメル
爲メ、勅令ヲ以テ不動產融資損失審査會ヲ
置クコトヽシ、而シテ日本勸業銀行、農工銀
行又ハ北海道拓殖銀行ニ對スル補償ハ公
債交付ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得ルモノト致
シマシタ、尙ホ本法ニ依ル融資ノ財源ニ付
キマシテハ今後三年間ニ政府ヨリ低利資
金五億圓ヲ、是等ノ不動產銀行ニ供給スル
ノ豫定デアリマスノデ、融資銀行ガ本法ニ
依リ融資ヲ爲シ得ル期間モ、之ニ應ジテ本
法施行ノ日ヨリ三年ト致シタイト考ヘマ
ス、何卒御審議ノ上速ニ御協贊アランコト
ヲ希望致シマス
又第二案ニ付テ御說明ヲ申上ゲマス、昭
和七年度一般會計歲出ノ財源ニ充ツル爲
公債發行ニ關ズル改正法律案提出ノ理由
ヲ說明致シマス、前囘ノ帝國議會ニ於キ
マシテ、昭和七年度一般會計歲出ノ財源ニ
充ツル爲メ、一億六千六十万圓ヲ限リ公債
ヲ發行スルコトヲ得ル法律ノ成立ヲ見タノ
デアリマスガ、今囘ノ時局匡救等ニ關スル
經費總額一億六千三百四十万圓ノ內、歲出
ニ伴フ普通歲入ヲ以テ支辨スル金額六十一
万餘圓ヲ差引キタル一億六千二百七十八万
餘圓ハ、今日ノ場合其財源ヲ公債ニ依ルノ
外アリマセヌ、而シテ其內八十一万餘圓ハ、
旣定ノ法律ニ依リ道路公債ヲ發行シ、其他
ノ一億六千百九十七万餘圓ハ、所謂歲入補
塡公債ノ發行ヲ必要トスルコトハ曩ニ昭
和七年度追加豫算ノ大要ヲ說明致シマシタ
際ニ申述べテ置キマシタ通リデアリマス
其發行ノ爲ニハ昭和七年度法律第六號中ノ
公債發行限度ヲ改正增額スルノ必要ガアリ
マく、右ノ理由ニ依リ本法律案ヲ提出致シ
タ次第デアリマス、何卒御審議ノ上御協贊
アランコトヲ希望致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=4
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005・秋田清
○議長(秋田〓君) 通〓順ニ依リ質疑ヲ許
シマス-武田德三郞君
〔武田德三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=5
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006・武田徳三郎
○武田德三郞君 私ハ只今日程ニ上ッテ居
リマスル二法案ノ中、第一ノ不動產融資及
損失補償法案ニ付キ、二三ノ疑ヲ質シタイ
ト存ズル者デアリマス
不動產ノ資金化ノ必要ナルコトハ、今更
申上グル必要ハアリマセヌ、是ハ年來國民
ノ要望スルモノデアリマシテ、政府モ亦既
ニ是ニ鑑ミル所ガアッタト見エマシテ今
春來二億圓ノ程度ニ於テ地方銀行ノ不動產
ニ金融ヲ與ヘルト云フ計畫ヲ御立テニナ
リ、旣ニ取敢ヘズ五千万圓ノ程度ニ於テ融
資實行ニ著手セラレテアルコトハ周知ノ事
實デアリマス、併ナガラ不幸ニシテ此不動
產資金化ノ政府ノ計畫ハ、全ク失敗ニ歸シ
タノデアリマス、政府モ亦此既往ノ實績ニ
鑑ミラレマシタト思フノデアリマスガ、此
度本案ヲ提出セラレマシテ、國家補償ノ下ニ
資金化ヲ實現セントスルコトニ相成ヲタコ
トハ、洵ニ私ト致シマシテハ國民ノ爲ニ喜
ブベキコトデアルト考へルノデアリマス、
就キマシテ一二疑ヲ大藏大臣ニ伺ッテ御說
明ヲ煩シタイト思フノデアリマス
第一ハ政府ハ果シテ不動產融資ニ付キマ
シテ、債務者個人ヲ目的トシテ居ラルヽノ
デアルカ、或ハ銀行ヲ目的トシテ居ラルヽ
ノデアルカ、之ヲ伺ヒタイノデアリマス、
勿論本案ヲ拜見シマスルノニ、銀行ニ融通
スルト同時ニ、債務者個人ニモ融通スルヤ
ウニ規定サレテアルノデアリマス、是ハ法
文ノ上カラ申シマスレバ洵ニ結構ノコトデ
アルト思フノデアリマスルガ、併ナガラ私
ノ疑ノ存スル所以ノモノハ、今春來ノ今申
シマシタ所ノ政府ノ實行ニ著手サレマシタ
二億圓ニ當ル融資ニ對スル實際ノ成績ヲ見
マルスト云フト殆ド銀行ニ限ラレテ居ル
ノデアリマス、又從來政府ノ爲ス所ヲ見マ
スルト云フト、銀行救濟ト云フコトニ重點
ヲ置カレルヤウニ思フノデアリマス私ノ
見ル所ヲ以テ致シマスト云フト、銀行ノ救
濟ヲ決シテ不要トハ申シマセヌケレドモ、
今日地方農村ノ不動產ノ資金化ヲ最モ必要
トスルモノハ、個人ガ持ヲテ居ル所ノ不動
產ガ非常ナ値下リヲ受ケテ、之ヲ擔保トシ
テ融通ヲサセルコトニ頗ル困難ヲシテ居ル
ト云フ事實ト同時ニ、旣ニ其所有セル不動
產ヲ擔保トシテ金融ヲ受ケテ居ル者ハ銀
行カラ返濟ヲ迫ラレルコトガ急ニシテ頗
ル困難ノ狀態ニ陷ヲテ居ル、强テ其擔保ノ
不動產ヲ處分致シマスルナラバ殆下捨賣
リノ狀態ニナッテ、其債務者ハ非常ナ困憊
ノ狀態ニ陷ラザルヲ得ナイト云フ實狀ニア
ルト云フコトハ明白ナ事柄デアリマス、故
ニ昭和二年度ノ際ニ政府ノ執ラレタル如
〃、預金者ヲ助ケルト云フ目的ノ下ニ融資
セラレルナラバ、銀行ニ對シテ此補償法案
ノ重點ヲ置クコトヲ私モ承認致シマスケレ
ドモ、旣ニ本案第一條ニ規定シテアリマス
ル如ク、金融ノ疏通ト云フコトヲ目的ト致
シマスナラバ、不動產ヲ擔保ニ提供致シテ
居ル所ノ債務者ヲ救濟スルト云フ手段ヲ執
ラレマスルナラバ、勿論本案ニ規定シテア
リマスル如ク、其債務者ニ融通ヲ付ケル場
合ニ於テモ、銀行ニ返濟スルコトヲ條件ト
致シテ居ルノデアリマスルカラ、債務者ニ
融通ヲ付ケ、債務者ヲ救濟スルト云フコト
ハ、債務者ヲ救濟スルノミナラズ、軈テハ
此債務者ニ融通ヲ付ケテ居ル所ノ銀行ヲ
モ、併セテ救濟スルコトガ出來マスノデ、
所謂一石二鳥ノ利益ヲ擧ゲルコトガ出來ル
ト私ハ思フノデアリマス、斯樣ナ意味合ニ
於テ、私ノ希望スル所ハ主トシテ債務者個
人ニ融通ヲ付ケルト云フコトヲ此法案ノ目
的ト致シマシタナラバ、洵ニ本案ノ所謂金
融ノ疏通ト云フ目的ヲ完全ニ達スルコトガ
出來ルノデハアルマイカ、斯樣ニ考ヘルノ
デアリマス斯樣ナ希望ノ下ニ、果シテ政
府ハ最初ニ申上ゲマシタル如ク、此本案融
通ノ目的ノ重點ヲ銀行ニ置カレルカ、或ハ
債務者個人ニ置カレルカ、其點ニ向テテ藏藏
大臣ノ御意嚮ヲ承リタイト思フノデアリマ
ス
次ニハ政府ノ補償ノ限度ニ付テ承リタイ
ノデアリマス、大藏大臣ノ御說明ヲ承リマ
スルト云フト本年度ヨリ三箇年ニ亙ッテ
五億万圓ノ融通ヲ與ヘヨウト云フ御計畫ノ
ヤウニ承ッテ居リマス、而シテ此本案ニ規
定サレマシタル政府ノ補償ノ限度ハ億
万圓ト云フコトニナッテ居リマスルカラ、
卽チ融資額ノ二割ニ相當シテ居ルノデアリ
やっ、是ハ私ハ甚ダ少イデハアルマイカト
思フノデアリマス今日地方農村ノ狀態、
竝ニ不動產金融ガ非常ニ逼迫ニ陷ヲテ居ル
ト云フ狀態ニ於テ、十分ナル融通ヲ與ヘテ、
地方農村ノ金融ヲ建直スト云フ重大ナル意
味ヲ含ンデ居ルモノデスリマスルナラバ
モウ少シ融資銀行ニ大膽ナル行動ヲ執ラセ
ルダケノ用意ガナケレバナラヌト思フノデ
アリマス、現ニ昭和二年ノ特融ノ時ニハハ
皆サン御承知ノ如クニ、七億万圓ニ對シテ
政府ハ五億万圓ノ補償ヲ致シタノデアリマ
ス、然ルニ此度ハ五億圓ニ對シテ僅ニ一億
圓、卽チ二割ニ止マッテ居ルノデアリマス
勿論昭和二年ノ特融ハ、擔保ノ無イモノニ
モ融通ヲ與ヘタノデアリマスルカラ、其損
害ノ程度ハ可ナリ多カラウト云フ豫想ノ下
ニ、其補償額モ多クシタト云フ理由モ成立
チマセウ、併ナガラ今日ノ此地方農村ノ一
般ノ金融ノ逼迫セル狀態ト云フモノハ決
シテ昭和二年ノ一部分ノ金融ノ梗塞ニ讓ル
モノデハナイノデアリマス、金融界ノ事ハ、
私ガ申スマデモナク、之ニ人心ノ安定ヲ與
ヘルト云フコトガ、金融ヲ滑カニスル重大
ナル基本ニナルノデアリマス、故ニ或ハ三
割或ハ四割、若シ出來得ベクンバ五割程度
ノ補償ヲ政府ガ與ヘルト云フコトヲ本案ニ
規定致シマスルナラバ、其效果ハ偉大ナル
モノガアルデハアルマイカ、併ナガラ斯樣
ニ規定ヲ致シタカラト云ッテ、必シモ政府
ハ其損害ヲ受ケルコトハナカラウト思フノ
デアリマス、何トナレバ不動產ニ融資ヲ致
シマスルノデアリマスカラ多少景氣ガ囘
復致シマシテ、サウシテ不動產ノ値上リガ
アリマスルナラバ補償額ヲ如何樣ニ多ク
此法律ノ上ニ規定致シマシテモ、決シテ政
府ハソレダケノ損害ヲ受ケルモノデハナイ
ノデアリマスルカラ、補償額ヲ多クスレバ
スル程、金融ヲ滑カニスルト云フ利益ガアッテ
モ、政府ハ是ガ爲ニ損失ヲ多クスルト云フ危
險ハ毫モナイト思フノデアリマス、斯樣ナ意
味合ニ於テ、私ハ此補償額ガ少クハアルマ
イカ、又他ノ產業組合ニ對スル補償ノ割合
ヲ考ヘテ見マシテモ、聊カ釣合ガ取レナイ
ヤウニ思フノデアリマス、政府ノ提案サレ
マシタル所ノ產業組合ニ對スル政府ノ補償
額ハ三割ニ當ッテ居ルノデアリマス、然
ルニ同一性質ノ此不動產金融ニ對シテ二割
ト云フコトハ、如何樣ニ考ヘテモ私ハ此比
率ガ當ヲ得ナイヤウニ思フノデアリマスル
ガ、之ニ對シテハ何カ特殊ノ理由ガアルノ
デアリマスルカドウカ、此點ヲ大藏大臣ヨ
リ御說明ヲ願ヒタイト思フノデアリマス
今一點御伺ヲ致シタイ事ハ信託會社竝
ニ無盡會社等ノ不動產貸付ニ付テハ如何
樣ナ御處置ヲ執ラルヽノデアルカ、此法案
ヲ見マスルト云フト、全然信託會社竝ニ無
盡會社ノ不動產ノ金融ト云フコトニ向ッテ
ハ考慮サレテアル跡ヲ見出ス事ガ出來ナ
イノデアリマス、併ナガラ今日我國ニ於ケ
ル信託會社ハ、御承知ノ如クニ三十幾ツア
リマスルガ、勿論東京、大阪ノ如キ中央ニ
於ケル信託會社ハ必シモ主トシテ不動產
ノ融資ヲ致シマセヌケレドモ、地方ニ於ケ
ル信託會社ハ、適當ナル擔保物ガ無イ爲ニ、
大抵ハ普通銀行ト同樣ニ不動產ヲ擔保ト
シテ、貸付ヲ致シテ居ルト云フコトガ現在
ノ實情デアリマス、而シテ私ノ調査致シタ
ル所ニ依リマスルト云フト、或ハ多少誤ッ
テ居ルカ知レマセヌケレドモ、大體ハ多ク
ノ過チハナカラウカト確信ヲ致シテ居リマ
スルガ、信託會社ガ現在不動產ヲ擔保ト致
シテ貸付ヲシテ居ル額ハ一億五千万圓以
上ニ上ッテ居ルト信ジテ居ルノデアリマス、
是ハ今日ノ地方農村ト致シマシテハ、決シ
テ輕々ニ看過スベカラザル問題デアリマス
最初ノ第一問ニ於テ申上ゲタル如ク、果シ
テ此不動產融資ト云フコトハ、債務者個人
ヲ目標トシテ救濟ヲスルト云フコトガ適當
デアルト致シマスルナラバ、普通銀行ニ不
動產ヲ擔保ニ提供致シテ居ル者ハ、本案ニ
依ッテ十分ナル融資ヲ受ケ、サウシテ救濟
ヲサルヽコトガ出來ルノニ、同ジク不動產
ヲ信託會社ニ擔保ト致シテ居ル者ガ、何等
ノ恩惠ヲ受ケナイト云フコトハ、是ハ甚ダ
不公平ナル取扱デハアルマイカ、最初ニ申
上ゲタル如ク、若シ本案ガ銀行ヲ救濟スル、
隨テ銀行ノ預金者ヲ救濟スルト云フコトガ
主ナル目的デアリマスルナラバ、比較的預
金者ニ危險ヲ與ヘナイ所ノ信託會社ヲ救濟
スルト云フコトヲ、本案カラ除外サルヽト
云フコトハ、聊カ道理アルコトヲ私ハ認メ
さく、併ナガラ主ナル救濟ノ對象ガ、不動
產ヲ擔保ニ提供致シテ居ル所ノ債務者個人
ヲ對象トシ、目標ト致スト云フコトデアリ
マスルナラバ、信託會社ニ不動產ヲ提供シ
テ居ル所ノ債務者ニ向ッテハ、一顧モ與ヘナ
イト云フ本案ニハ、少シク不滿ノ點ガアルヤ
ウニ私ハ思フノデアリマス又無盡會社ニ取
テモ同樣デアリマス、尤モ無盡會社ガ不動產
ヲ擔保トシテ居ルコトハ、比較的少ナイヤ
ウニ思ヒマスルガ、併ナガラ全然無イ譯デ
ハナイノデアリマスルカラ、同ジク不動產
ニ金融ヲ與ヘテ、不動產ヲ資金化サセルト
云フコトデアリマシタナラバ、銀行ト同樣
ニ、信託會社竝ニ無盡會社ニ付テモ同樣ナ
扱ガアッテ、然ルベキモノデハアルマイカ
ト私ハ思フノデアリマス、仍テ此三點ニ付
テ大藏大臣ノ御說明ヲ願ヒタイト思フノデ
アリマス(拍手)
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=6
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007・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 武田君ノ御質疑
ニ對シテ御答ヲ致シマス、先ヅ第一ガ銀行
ヲ救濟スルノガ主ノヤウデアッテ、個人ニ
重點ヲ置イテナイト、斯ウ云フ御考デアル、
此目的ハ成程手續トシテハ直接銀行ノ固
定シテ居ルモノヲ流動サセルト云フノデス
カラシテ、手續トシテハ第一ニ銀行ニ掛ル
ノデアリマス、併シ其結果ハ皆個人ニ行ク
ノデアリマスカラ、ヤハリ單ニ銀行其モノ
ヲ救濟スルト云フノガ目的ニアラズシテ、
重點ヲ置イテ居ルコトハ、銀行ヨリ不動產
ヲ抵當ニシテ借リテ居ル個人ノ重荷ヲ輕ク
スルトカ、或ハ其融通ノ力ヲ付ケルト云フ
コトニ結果ハナルノデアリマスカラ、御考
ト結果ニ於テハ變ラナイヤウニナルト思フ
ノデアリマス、ソレカラ第二ハ一億圓ノ政
府ノ補償ハ金額ガ少イ、例ヘバ昭和二年ノ
補償ハ七億ニ對シテ五億ノ補償ヲセラレタ
ガ-是ハ少シ何カ御調ノ上ニ於テ、違ヒ
ガアリハセヌカ、度々申ス通リ五億ノ補償
ヲ政府ガシタノハ、預金者ニ安心ヲ與ヘル
ノガ目的デアッタ、アノ時ノ全國ノ預金者ノ
總額ヲ〓算シテ見マスト云フト、先ヅ五六
十億圓-普通ノ銀行ニ預金ヲシテ居ルノ
ガ五十億乃至六十億位ノモノガアッタ、其
割是ハマア唯理窟ニ過ギナイヤウニナ
リマスケレドモ、ドノ位ノモノヲ政府ガ此
際補償スルト云フコトヲ聲明シタナラバ
預金者ガ落付イテ、サウ無暗ニ取付ナドヲ
シナイヤウニナルダラウカト云フコトヲ豫
想シマシテ、五億圓ト云フコトヲ決メタノ
デアリマシテ、銀行ヲ目的トシタニ非ズ、
預金者ヲ保護スル趣意ニ出デタモノデアリ
マス尙ホ今般一億ト決メマシタ點ニ付キ
マシテノ、數字ノコトニ付テハ、政務官ヨ
リ御說明ヲ致スコトニ致シクイト考ヘマ
え、第三ニハ信用組合、此信用組合モ不動
產ニ貸シテ居ル、又或ル無盡會社モ不動產
ノ抵當ヲ持ッテ居ル、同ジク不動產ヲ流動化
スルモノデアルナラバ、何ゾ此銀行ニ限ラ
ヌヂヤナイカ、ヤハリ之ヲ信託會社及無盡
會社ニモ及ボシテ宜イヂヤナイカ、斯ウ云
フ御說ノヤウデアル、信託會社ト銀行ト
ハ、成程形ニ於テハ不動產ニ對シテ金ヲ出
シテ居リマスガ、信託會社ノ不動產ニ對シ
テ出スト云フコトハ、是ハ流動的ノ性質ノ
モノデナイ、信託會社ト云フモノハ銀行ト
藤ノ一、始終不動產ヲ取ッテ金ヲ貸シ、又ソ
レヲ取ッテ他ニ貸スト云フヤウナ銀行ノ貸
付トハ違フノデアル恆久性ヲ梢、帶ビテ
居ルモノデアリマス、無盡會社モ亦其通リ
デアリマス、然ルニ銀行ノ方ノ不動產抵當
ノ貸付ト云フモノハ、是ハ流動性ノモノデ
アル、是ハドウシテモ始終資金化シテ行カ
ネバナラヌ、事實ハサウ云フ性質ノモノデ
アル、ソコニ於テソレ等ノ會社ハ銀行ト違
ヒマス
ソレカラ產業組合ニ對シテ補償スルノハ
三千万圓-一億圓ノ三割ニ當ッテ居ル、此
度ノ此法案ニ於テハ政府ノ補償ハ二割デ權
衡ヲ失ッテ居ルト、斯ウ云フ御話デアリマス
ガ、產業組合ノ貸金ハ是ハ信用貸ノ方デア
ル、銀行ノ貸金ハ土地ト云フ擔保ヲ持ッテ
居ルノデアリマスカラ、ソコニ權衡ヲ得ナ
イト云フコトハ當然デハナイカト考ヘテ居
リマス、尙ホ數字ノコトニ付テハ政務官ヨリ
詳シク御答辯ヲ致スコトニ致シマス(拍手)
〔武田德三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=7
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008・武田徳三郎
○武田德三郞君 大藏大臣ヨリ御說明ヲ承
リマシタガ、詳細ノコトハ何レ委員會ニ於
テ更ニ承ルコトヽ致シマシテ、私ノ甚ダ懸
念シテ居リマシタ本案ノ目的ガ、銀行救濟
ニ重點ヲ置カルヽノデハアルマイカト豫想
シテ居リマシタ通リノ御答辯ヲ受ケマシタ
ノデ、私ハ甚ダ其點ヲ遺憾ト致シマスル爲
ニ、第一點ノミヲモウ一遍御伺ヲ致シテ置
キタイト思フノデアリマス、大藏大臣ノ御
說明ニ依リマスルト云フト、銀行ニ融資ヲ
致セバ軈テソレハ債務者ノ方ユモ廻ルカ
ラシテ、結局債務者ノ救濟ニモ相成ル斯
樣ナ御說明デアリマシタ、併ナガラ銀行ニ
融資銀行カラ融通致シマスル所ノ利子ハ
六分二厘ト云フコトニ相成ッテ居ルト承知
致シテ居リマス、而シテ期限モ本案實施ノ
時ヨリ十五箇年ト云フコトニナッテ居リマ
スカラ、卽チ低利ニシテ長期ノ資金ヲ銀行
ハ融通ヲ受ケルコトガ出來ルノデアリマ
ス、併ナガラ銀行ハ斯樣ナ便利ヲ融資銀行
カラ受ケタト致シマシテモ、ソレダケノコ
トヲ其不動產ヲ提供シテ居ル債務者ニ同樣
ナ條件デ、低利ニ又長期ノ貸付ニ從來ノ貸
金ヲ變更致スト云フコトデアリマスルナラ
バ大藏大臣ノ仰シヤル通リデアリマス
併ナガラ其貸金ハ依然トシテ今日ノ地方ノ
農村ノ實狀ヲ大藏大臣ガ御覽ニナリマスル
ナラバ、非常ニ高イ利子デアリマス、サウ
シテ又期限ハ極メテ短イノデアリマス、不
動產ノ金融ニ拘ラズ、多クハ一箇年位ヲ辨
濟期限トシテ、何時デモ之ニ向ッテ辨濟ヲ
迫ルコトガ出來ルヤウナ、銀行ニ都合ノ好
イ條件ヲ附ケラレテ居ルト云フノガ地方ノ
實狀デアリマス、而シテ近來ノ如ク不動產
ガ値下リニ相成ルト云フコトニナリマス
ト債務者ニ辨濟ヲ迫ルコトガ急デアリマ
ス、唯其提供サレテ居ル不動產ガ、處分ヲ
致シマシテモ、到底其債務ノ半額モ償ヒ得
ナイト云フヤウナ場合ニ是非ナク賴ンデ
待ッテ貰フト云フノガ實狀デアリマス、故ニ
八分若クハ九分マデ辨濟シ得ル程度ノ不動
產ガアリマスル場合ニ於テハ遠慮會釋モ
ナク、一滴ノ淚ナクシテ其不動產ヲ處分シ
ツヽアルト云フノガ、今日ノ現狀デアリマ
ス、故ニ大藏大臣ノ御說明ノヤウナコトニ
ナリマスルト、吾々ノ期待シテ居ル不動產
融資ト云フモノト、此政府ノ提案セラレタ
ル本案ノ趣旨ト云フモノハ根本ニ於テ非
常ニ相違スル所ノコトニ相成ルノデハアリ
マスマイカ、今日此地方ノ農村ヲ救ハナケ
レバナラヌト云フコトガ、所謂非常對策ノ
一ツノ重大ナル意義ニナッテ居ルノデアリ
やく、此場合ニ於テ同ジク融資ヲ致シマス
ナラバ、出來得ルダケ債務者ニ直接此低利
ニシテ長期ナ不動產金融ヲ與ヘマスルナラ
バ、本案ニ規定シテアリマスル通リニ、其
融資ヲ受ケタル所ノ債務者ハ、此規定ニ從ッ
テ當然銀行ニ辨濟ヲ致スノデアリマス、或
ハ大藏大臣ハ斯樣ナル御考ガアルカモ知レ
ナイ、今日不動產ガ甚シク値下リヲシテ居ル
カラ、債務者ニ貸サウトシテモ、債務者ガ銀
行カラ借受ケテ居タダケノ金ヲ貸スコトガ
出來ナイコトニナルカモ知レナイ、サウス
ルト云フト實際行フコトハ出來ナイデアラ
ウ、銀行ナラバ其不動產ノ時價一パイニ貸
スト云フコトデアルカラ、債務者ニ貸シタ
全額ヲ例ヘバ貸付ナクトモ、銀行ハソレニ
向ッテ融通ガ出來ルト云フヤウナ御考カラ、
今ノヤウナ御答辯ガアッタノカモ知レナイ、
私ノ見ル所ヲ以テ致シマスナラバ、ソレエ
向ッテハ幾ラデモ方法ガアルト思フノデア
リマス、今日地方銀行ハ旣ニ金ヲ貸シタノ
ハ實際ニ於テ取ラウトシテモ取レナイノ
デアリマス、故ニ債務者ガ現在銀行ニ提供
致シテ居ル所ノ不動產ハ、時價一パイノモ
ノヲ融資銀行カラ融通ヲ受ケマシテ、ソレ
ヲ銀行ニ辨濟シテ、尙ホ銀行ニ債務ガ剩。ツ
テ居リマスナラバ、其融資銀行ニ提供シタ
ル不動產ヲ二番トシテ銀行ガ貸シテ置イテ
モ、少シモ銀行ハ現在ノ狀態ヨリ損ハナイ
デハアリマセヌカ、而シテ斯樣ニ致シテ融
資ヲ受ケタル所ノ債務者ハ、其債務金額ニ
於テハ何等變リハアリマセヌケレドモ、金
利ハ六分二厘ノ低利ニ依テ借受ケルコト
ガ出來マス又長期ノ返濟期限ノ利益ヲ受
ケルノデアリマスカラ、相當ノ間、不動產
ノ値上リノ時期ヲ期待スルコトガ出來マ
ス而シテ適當ナル時期ニ適當ナル不動產
ノ處分ヲ致シマスナラバ、決シテ銀行ニモ
損害ヲ掛ケズ、債務者自身モ却テ多少ノ餘
裕ヲ得ルヤウナ、洵ニ好マシキ狀態ニナッ
テ、所謂金融ノ疎通ト云フコトニモ相成
リ、同時ニ此困憊ヲ極メテ居ル所ノ地方農
村ヲ救フト云フ意味ト、所謂一石二鳥ノ效
果ヲ得ルモノデハアルマイカ、斯樣ニ考ヘ
ルノデ、大藏大臣ニ伺ッタノデアリマスガ、
尙ホ詳細ノコトハ何レ委員會ニ於テ承ルト
シテ、此最モ重大ナル點ニ付テ、重ネテ說
明ヲ御願出來マスナラバ仕合ト存ジマス
(拍手)
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=8
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009・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 重ネテノ御尋デ
スガ先刻私ガ御答シタノデ御分リニナル
譯デアリマセウト思ヒマスガ、私ノ言ヒ方
ガ不足シタノデアリマスカ、又重ネテノ御
尋デアリマスガ、畢竟此債務者タル個人ヲ
重點ニ置イテ居ルヤ否ヤト云フコトノ御不
審デアラウト思ヒマス、私ハ形ニ於テハ
手續ニ於テハ、銀行ヲ先以テ第一ニ相手ニ致
シマスカラ、銀行ニ金ハ行クノデアリマス、
併ナガラ個人タル債務者ハ其銀行ニ對シ
テ自分ノ不動產ヲ入レテ金ヲ借リテ居ル、
今モ御話ノ通リ、期限ガ來レバ無暗ニ取ラ
レル、或ハ今日賣ラウトシテモ買手ガナイ、
是デ困ッテ居ル個人ガ、是ガ勸業銀行ナ
ル農工銀行ナリ、其肩代リヲ其銀行ニ致
シマスレバ、六分二厘ノ低利ノ金ヲ而モ
十五箇年ト云フ長イ間金ガ借リラレテ居ル
ノデアリマス、此法案ノ働キ、最後ノ結果
ハ何處へ行クカト云ヘバ、個人ニ行クノデ
アリマス、肩代リヲスルコトハ厭ヤダ、或ハ
御話ノ如ク肩代リヲシテモ貸ス金ノ高ガ、
肩代リヲスル銀行ノ評價ガ、元借リテ居,
タ銀行ノ債務ノ高ニ及バヌ、サウ云フ場合
三、債務者ハ肩代リヲシタ上ニ、更ニ二
番抵當トシテ元ノ銀行カヲ不足分ヲ借リテ
置カネバナラヌ、是ハ或ハサウ云フ場合ガ
起ラヌトハ限ラヌ、ソレハ銀行ノ評價ヲス
ルノニ、是迄ノ通リ時價カラ三割引クトカ、
二割引クトカ云フヤウナ標準デナク、評
價ノ價格全額ヲ貸スヤウニト云フノデアリ
マス、ソレデソレハ一々ノ債務者ト銀行ト
ノ一件每ニ付テ調ベナケレバ完全ニ債務
者ノ肩代リニ依ッテ、債務者ガ最早舊銀行
ニ對シテ二番抵當ニ入レズトモ濟ムヤウニ
ナルカ、或ハ更ニ二番抵當ニ入レテ、多少
ノ金ヲ元ノ銀行カラ借リナケレバナラヌカ
ト云フコトハ是ハ其場合ニ依ッテ一樣ニ
ハ行カヌダラウト思フ、併シ大體ニ於テ此
法案ニ依ッテ、不動產ヲ抵當ニシテ今日債
務ヲ負フテ居リ、處モ出來ズ、困フテ居ル
個人トシテハ、此方法ニ依ッテ肩代リヲス
ルコトガ出來ルノデアリマスカラ、其個人
ニ取ッテノ便益ハ甚ダ大キナモノデアッテ、
卽チ今日ノ時勢ノ要求スル所ニ適フモノト
信ズルノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=9
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010・秋田清
○議長(秋田〓君) 中島彌團次君
〔中島彌團次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=10
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011・中島彌團次
○中島彌團次君 私ハ本案ニ付キマシテ、
高橋大藏大臣ト三土國務大臣ニ質問致シテ
見タイノデアリマス、三土國務大臣ニ聞イテ
見タイト云フ點ハ、ドウ云フ點デアルカト申
シマシタナラバ此問題ガ全部ニ亙リマシ
テ、三土サンノ御答辯ヲ要スルト云フ譯デ
アリマセヌノデ、先年田中內閣當時ニ於ケ
ル大藏大臣ト致シマシテ、特別融通ヲヤラ
レマシタ時ノ當局ハ三土サンデアリマスル
カラ、其點ニ關シテノミ、當時ノ大藏大臣
タル、現在ノ三土國務大臣ニ對シテ、御伺
申シテ見タイノデアリマス武田君ノ御質問
ニ對シマシテ高橋大藏大臣ノ御答辯ニ付
キマシテハ、私共モ頗ル不滿足ヲ感ズルモ
ノデアリマス、私ガ此不動產融資及損失補
償法案ニ付キマシテ、何故之ヲ重大視スル
カ、本案ハ非常ニ重大ナルモノデアルト考
ヘマス、ドウ云フ譯デ重大ナモノデアルカ
ト申シマシタナラバ今度ノ時局匡救ノ效
果ガ、一ニ懸クテ本案ノ運用如何ニアルノ
デハナイカト考ヘル高橋大藏大臣ノ昨日
ノ御說明ニ依リマシテモ、三年間ニ十六億
圓ダケノ救濟ヲヤルノダ、是ダケノ金ガ民
間ニバラ撒カレルノダ、斯ウ仰シヤイマシ
タ、果シテ然ラバ其三分ノ一ニ當ル此五億
圓ノ金ガ、民間ニ旨ク撒カレルカ、撒カレ
ヌカト云フコトハ卽チ今度ノ救濟問題ガ
殆ド畫餅ニ歸スルカ、大成功ニ終ルカノ重
點デアルト考ヘマス、此點カラ考ヘマシテ、
此不動產ノ五億ノ貸付ト云フモノガ、三
年間ニ旨ク民間ニ浸潤シテ、不動產ノ固定
貸ガ浮キ上ッテ、債務者モ金融ガ蔬通シ、サ
ウシテ又銀行モ金融ガ滑ラカニナッテ行ク
ト云フヤウナコトニナリマシタナラバ是
ハ大成功デアルト考へマス、而シテ前ノ第
六十二議會ニ於テ吾々ガ尊敬スル政友會
ノ鬪將島田先生ガ御說明ニナッタ、通貨ノ
圓滿ナル疏通ト云フコトニ付キマシテモ、
此點ガ非常ニ重大ナル影響ヲ及ボシテ來ハ
セヌカト考ヘル、斯ウ云フ意味カラ考ヘマ
スルト、先ヅ此五億圓ガドウシテ民間ニ浸
潤シテ行クカ、此政府ノ今日提案セラレタ
所ノ方法ニ依リマシテ出來ルモノデアルカ、
出來ナイモノデアルカト云フコトヲ〓究
スルト云フコトガ、私共ノ非常ナル興味ヲ
惹ク所デアリマシテ、此點ニ關シマシテ高
橋大藏大臣及三土國務大臣ノ明快ナル御答
辯ヲ戴キタイノデアリマス、サウ致シマス
ルト、此三年間ニ十六億圓ノ金ヲ民間ニ御
出シニナルトセラレマシタナラバ、此五億
圓ガドウシテ民間ノ中ニ入ッテ行クカト云
フコトノ批評ヲ致シマス前ニ當リマシテ、
勢ヒ現內閣ノ時局匡救策ニ付キマシテ、聊
カ打診ヲシテ見ナケレバ此問題ガ論ジラ
レナイ(「籔醫者デハ分ラナイ」ト呼フ者ア
リ)此前提ト致シマシテ、此問題ハ非常ナ
重大性ヲ帶ビテ居ルト致シマスレバ先ヅ
現內閣ノ政策ト致シマシテ、殊ニ高橋大藏
大臣ノ政策ト致シマシテハ、「インフレーシ
ヨン」ノ準備ヲ著々ヤラレツヽアルト云フ
コトハ是ハ明ナ話デアリマシテ、金輸出
解禁ヲヤッテ居リマスル時ニ於キマシテハ、
是ハ濱口前總理大臣及井上前大藏大臣ガ執
ラレタ通リデ、「デフレーシヨン」政策デ行
ク外ニ途ガナイノデス、併ナガラ金ノ輸出
ヲ禁止ヲ致シマシタ今日ニ於テハ其當時
ト政策ヲ異ニ致シマシテ、相當ナ「インフ
レーション」ヲヤッテ行カナケレバナラヌト
云フコトモ、是亦世間定論デアリマス、此
點カラ觀察致シマシタナラバ高橋大藏大
臣ハ前ノ議會ニ於テ保證發行一億五千万
圓ヲ十億圓ニ擴張致シ、ソレカラ兌換劵發
行稅ニ付キマシテモ、五分ヲ三分ニ下ゲマ
シテ、是レ卽チ「インフレーシヨン」ノ準備
ヲセラレタノデアリマス、更ニ資本逃避防
止法ヲ實施セラレマシテ、是亦「インフレ
ーション」ニ依ッテ、逃ゲルベキ所ノ資本ヲ
逃ガサナイヤウニスル網ヲ此處ニ張ラレテ
居ル、サウシテ最近日本銀行ヲシテ金利ヲ
引下ゲシメ、來ル十月ヨリ郵便貯金ノ利子
ヲ三分ニ引下ゲマシテ、低金利政策、是亦
「インフレーシヨン」政策ノ一ツノ準備デア
ル、ソレカラ爲替ハ御承知ノ通リ二十二三
弗ニナリマシテモ放任ノ狀況デアリマシ
テ、寧ロ高橋大藏大臣及政友會ノ人々ニ至
リマシテハ爲替ノ低落ヲ御希望ニナッテ
居ルヤウナ方針デアリマス、更ニ此前ノ議
會ニ於キマシテ、關稅ノ引上ヲヤラレタ
此點モ一ツノ「インフレーシヨン」政策ノ準
備ト言ヘマセウ、サウシテ物價ヲ高ク上ゲ
テ、一方ニハ金ヲ注イデ購買力ヲ增進サセ
マシテ、玆ニ此經濟界ノ難局打開ヲ企テラ
レントシテ居ル、斯ノ如クニ今申上ゲマシ
タ「インフレーシヨン」政策ノ準備ト云フモ
ノハ、鶴翼ノ陣ヲ張ッテ玆ニ堂々ト出來上ッ
テシマッタノデアリマス、果シテ然ラバ之
ニ注ギ得ル所ノ金ガ下層マデ徹底シテ、是
ガ購買力ヲ刺戟致シ、而シテ物價騰貴ト相
俟チマシテ、是ニ於テ好景氣ヲ起スカ起サ
ヌカト云フ點ニ付キマシテハ、金ガ下層迄
浸ミ渡ルカ、資本ガ海外ニ逃ゲルカ否ヤガ
問題トナッテ來ルノデアリマス、現行ノ資
本逃避防止法ニ付テハ、マダ不十分ナ點ガ
アリマス、外國ヘ品物ヲ無爲替デ賣ルコト
ニ付テハ取締ッテハアリマセヌ、是モ昨日
ノ高橋大藏大臣ノ御答辯ニ依リマスト思
惑賣買ノ爲替ヲ禁ジルトカ何トカ、心配ヲ
シテ居ルト云フコトヲ御考ニナッテ居ラレ
ルヤウデ、必ズヤ無爲替問題ニ付キマシテ
モ御取締ノ方法ヲ御考ニナルデアラウト私
ハ考ヘル、果シテ然ラバ海外ヘ逃ゲル所ノ
資本ガ、是デ止メラレルト大體見ナケレ
バイケマセヌ、殊ニ今度ノ資本逃避防止法
ハ當業者ニ承ッテ見マスト云フト非常
ニ能ク出來テ居ル、中々立派ナ法律デアル
ト申サレテ居リマシテ、正金銀行邊リデモ
サウ言ッテ居リマスガ、是カラ見マシタナラ
バ、資本ハ逃ゲナイト先ヅ假定致シマス、
サウスレバ上カラ注ギ込ム所ノ金ガ下マデ
浸潤シテカラ、旨ク日本ノ經濟組織ノ根本
ニ行渡ルカ否ヤト云フコトガ、現內閣ノ成
功スルヤ否ヤ、此經濟政策ガ立派ナル效果
ヲ收メテ、困リ拔イテ居ル所ノ地方ノ農村
民及都會ノ中小商工業、其他一般階級ヲ活
スカ活サヌカノ問題ガ玆ニ起ッテ參リマス、
其中デノ五億ト云フモノ、十六億ノ三分ノ
一ノ此五億、此問題ガ果シテ之ヲ下層迄徹
底スルコトガ出來ルヤ否ヤト云フコトハ
是ハ重大ナル問題デアリマシテ、此點ニ付
キマシテハ非常ニ心配致シマシテ、吾々モ
亦大藏大臣及其他ノ國務大臣ニモ十分ナル
說明ヲ聽カント欲スル所デアリマス、リュ
デ高橋大藏大臣ノ御說明ニ依リマスト、十
六億ノ金ガ三箇年間ニ使ハレルコトヽナツ
テ居リマスガ、八年度、九年度ノ問題ニ付
キマシテハ此處デ論ジマセヌ、論ジマシテモ
政府ノ方針モ變リマセウシ、又本年度ニ於
ケル金ノ廻リ方ニ依ッテ、經濟界ノ工合モ
違ッテ來マセウカラ、十分ニ此處ニ論ズル
價値ハアリマセヌ、隨テ先ヅ第一ニ高橋大
藏大臣ガ昨日說明セラレマシタ十六億ヲ先
ヅ正當ナルモノト見マシテ、單ニ本年度ダ
ケニドレダケ通貨ガ民間ノ中ニ落チルカ、
此點ニ付キマシテ考察シテ見マスルト、公
債ノ財源ト致シマシテ、旣定計畫デ五億二
千九百万圓ヲ見テアルノデアリマス、其內
デ二億五千二百万圓ガ滿洲事件費トナッテ
居リマシテ、更ニ今度ノ追加豫算デ一億七
千六百万圓トナッテ居リマス、サウナッテ來
マスト、合計七億五百万圓デアリマスルガ、
九千八百万圓ハ是卽チ交付公債デアルカ
ラ、之ヲ除ケマスト六億七百万圓ガ今年度
ニ於キマシテ、卽チ後七箇月ニ於テ是ガ通
貨ノ增發ニナルモノト見ナケレバナリマセ
又、更ニ其外ニ郵便貯金ヲ財源トシタ預金
部ノ低利資金ノ融通ノ中カラ三箇年五億圓、
本年度一億圓、政府補償ノ產業組合ヘノ融資
三箇年一億ノ中デ本年度二千五百万圓、ソ
レカラ農村及中小商工業者關係、預金部資
金元利支拂資金六千五百万圓、其外中小商
工業者ノ產業資金ト致シマシテ三千万圓、
ソレカラ農林省關係及大藏省關係ノ土木事
業ニ關スル預金部カラ出ス金ガ六千九百万
圓トナッテ居リマス、是等ヲ合セマスルト云
フト、約二億九千四百万圓デアリマシテ、
此二億九千四百万圓ノ中デ一億八千九百万
圓ハ預金部ノ從來ノ餘力カラ出シマスカラ、
預金部ノ持っテ居ル公債ヲ日銀ニ賣"テ引受
ケサス分ハ一億五百万圓デアリマス、果
シテ然ラバ初メノ六億圓ト今度ノ一億圓ガ
日本銀行ノ兌換劵ヲ增發サセマシテ、今年
度ニ於ケル民間ニ下ガル所ノ通貨增發ト見
テ宜カラウト思ヒマス、今申上ゲマシタ本年
度分不動產融資一億圓ト云フ所ノ金ハ預
金部カラ出スノデアッテ、郵便貯金ガ財源
デアリマスカラ、議論ノ立方ニ依リマシテ
ハ、郵便貯金ニ依ッテ民間カラ引上ゲテ、
又之ヲ民間ニ返スノダカラ、是ハ殆ド問題
ニナラナイヂヤナイカ、通貨增發ニナラヌ
ヂヤナイカト云フ議論モアリマセウ、何レ
ニ致シマシテモ民間ニ下ルコトハ事實デア
リマスカラ、是ダケノ金ガ今年度ノ間ニ於
テ落チマシタナラバ相當是ニ於テ經濟界
ニ其效果ヲ及ボシテ來ナケレバナラヌ、併
ナガラ是ダケノ金ガ果シテ落チルコトガ出
來ルデアラウカ否ヤト云フ問題ニ付キマシ
テ〓究致シマスルナラバ、若シ是ガ落チナ
イトナッテ來マスルト、落チル方法ヲドウ
云フ風ニ講ジタラ宜シイカト云フ點ニ論及
サレンケレバナリマセヌ、隨テ此五億圓ヲ
三箇年ノ間ニ民間ニ落ス、本年度一億圓ダ
ケ民間ニ落スト云フコトハ是ガ非常ナ重
大性ヲ帶ビテ參ルノデアリマシテ、本年度
ノ一億圓ニ付テ、果シテ政府ノ遣リ方デ民
間ニ落チルヤウニナッテ居ルカト言ヘバ
私共ハ武田君ト同ジヤウニ、是ハ中々落チ
ナイト云フコトヲ疑フノデアリマス、其點
ニ付テ先ヅ第一ニ、五億圓ト云フモノガ
ドウ云フヤウナ算出ノ根據カラ決定サレタ
カ其點ヲ私ハ第一ニ伺ッテ見タイ、不動
產ノ債權ガ、私共ノ調査スル所ニ依リマス
ルト普通銀行ノ所有不動產ノ價格ガ、營
業用ノ建物及土地ヲ除キマシテ一億七千万
圓アリマス、貯蓄銀行ノ同ジモノガ一億八
千万圓アリマス、普通銀行ノ土地建物貸付
債權額ガ十四億二千万圓アリマス、貯蓄銀
行ノ同ジモノガ二千七百万圓アリマス、合
計致シマスルト十四億四千八百万圓デアリ
マシテ、之ヲ前ノ普通銀行及貯蓄銀行ノ不
動產ノ所有ノモノト合計シマスルト十六
億三千百万圓ト云フコトニナッテ参リマス、
併ナガラ此十六億三千百万圓ノモノヲ對象
ト致シマシテ貸付ケル譯ニハ行キマセヌ、
何トナレバ其中ニハ「シンヂケート」銀行ガ
十一行アリマス、コンナ資金ノ豐富ナ銀行
ガ、不動產ノ債權ヲ有ッテ居ッタ所ガ、之二
六分二厘デ貸付ケル必要ハアリマセヌカラ、
是ハ引イテ見ナケレバナラヌ、其「シンヂ
ケート」銀行ノ不動產擔保ノ貸付高ガ二億
二千八百万圓トナッテ居ルト致シマスナラ
バ、之ヲ引キマスルト十四億圓ガ普通銀行
ト貯蓄銀行ノ不動產ノ債權デアッテ、此十
四億圓デ今囘貸付ケル所ノ對象物トナッテ
來ルト私ハ考ヘマス、此十四億圓ノ中デ、
何故ニ五億圓ト云フモノニ限定シタノデア
ルカ、此五億圓ニ限定シタト云フ根據ニ付
キマシテ、私共ガ考ヘテ見マスルノニ、大體
銀行數カラ之ヲ通算ヲシテ見マスト云フト、
普通銀行ガ七百三十行アルト記憶シテ居
リマス、貯蓄銀行ガ二百何ボアルト記憶シ
テ居リマス、合計シマスト九百三十何行ニ
ナッテ參リマスケレドモ、其銀行ノ中デ無
資格銀行ガ百六十アリマスカラ、五百七十
行ガ大體今日ノ貸付ノ對象ニナル銀行デハ
ナイカト私共ハ考ヘルガ、此五百七十行ノ
中デ貯蓄銀行二百行ハ大體良イト見テ問題
ニナラヌ而シテ、十一ノ「シンヂケート」
銀行モ問題ニナラヌ、然ラバ其五百七十行
ヨリ二百十一行、卽チ貯銀ト「シンヂケー
ト」銀行數トヲ合計シタモノヲ差引ケバ三
百六十九行トナリ、前ニ述ベタ九百三十行
ノ大體ニ於テ三分ノ一トナルノデ、十四億
圓ノ三分ノ一卽チ五億圓ノ貸付ヲ行フモノ
ト割出シテ來タノデハナイカト私共想像致
シマス
ソレカラモウ一ツ私共ノ聽イテ見タイノ
ハ何故ニ五億圓ノ二割卽チ一億圓ヲ補償
スルコトニ定メタノデアルカ、此補償ノ如
何ガ、五億圓ノ金ガ民明ニ落チルカ落チヌ
カニ付キマシテ、重大ナル影響ヲ及ボシテ
來マス、是ハ武田君モ私共ト同感デアリマ
スルガ、私共ノ見方ニ依リマスルト云フト
政府ハ十四億圓ヲ對象ニナサッテ居ルヤウ
ニ考ヘマスケレドモ、此十四億圓ト云フモ
ノハ、昭和六年末ニ於ケル前述セル銀行ノ
所有ノ不動產擔保ノ債權額デアリマス、所
ガ今日ノ不動產ト云フモノハ、何時銀行ニ
持シテ行フテ箸保ニ置イタカト云ッタナラバ
大部分ハ大正七八年カラ九年、十年、十
一匹、十二、十三年ト云フヤウナ好況時代
デアリマシタカラ、隨テ此十四億圓ガ債權
額デアリマスナラバ、擔保額ト云フモノハ
此十四億圓ヨリカ多クナクテハナラナイ、
大體田舍ノ銀行ニ於キマシテハ鑑定價格
ノ七掛ニ貸シテ居ルト見マシタナラバ實
際ノ其當時ニ於ケル不動產ノ時價ハ二十億
圓ト見ナケレバイカヌト私ハ考ヘマス、一
十億圓ガ對象ノ數字デナケレバナラヌ、此
二十億圓ニ對シテ七割貸ストシマスカラ
十四億圓ト云フモノガ出テ來タト云フ算用
ニナッテ來ルト私共ハ考ヘル、果シテ然ラ
バ此二十億圓ノモノガ今日何ボニナッテ居
ルカト云フコトヲ調ベテ見マシタノニ、田
舍ニ於ケル不動產ノ値下リニ付キマシテ、
田畑其他ニ依テ色々違ヒマスルガ、私ガ調
査〓究致シマシタ點ニ付テ申シマスルト、
好況時代ニ於テ一段步最高八九百圓シテ居ッ
タモノガ、其半分ニナッテ居リマス、五六
百圓ノモノモ其半分ニナッテ居リマスカ
ラ、大體ニ於キマシテ全部ノ不動產ノ値下
リハ好況時代卽チ此抵當權ヲ設定致シマ
シタ時ニ較ベマシタナラバ、半分ト見ナケ
レバナラヌト私共ハ考ヘマス、半分ト致シ
マスルト十億圓ニナル、斯ウ云フヤウナ算
盤カラ割出シテ見マシタナラバ實際ニ不
動產ノ金融ヲ圓滑ニシマスニハ十四億圓
ヲ對象トスベキデナクシテ、擔保權ヲ設定
政シマシタ當時ノ二十億圓ヲ以テ、不動產
融資損失補償ノ對象トスベキモノデアルト
考ヘマス、サウシマスルト其七掛ト見レバ、
今囘提案ノ五億圓ノ代リニ十四億圓マデ
增加シナケレバ、眞ノ不動產金融ノ圓滑ヲ
期スルコトハ出來ナイト云フコトニナリマ
ス、併シ十四億圓ヲ不動產金融ニ貸付ケル
ト云フコトハ是亦無謀ナ話デアリマシテ
必ズシモ此十四億圓ハ全部固定債權デアッ
テ動キノ取レナイ債權トモ言ヘマスマイ、
隨テドレ丈ケガ立派ナ債權デアッテ、ドレ
丈ケガ取レナイ債權デアルト云フコトニ付
キマシテハ是ハ誰デモハッキリト結論ヲ
立テ得ルコトハ出來ナイト考ヘマスカラ、
隨テ少ナクトモ補償金額ト云フモノヲ一億
圓以上ニシテヤラナケレバナラヌト云フ結
論ハドウシテモ出テ參リマセウ、今申上ゲ
マシタ如ク、譬ヘテ申シマスレバ抵當權設
定當時ニ千圓シテ居,タモノモ、當時七掛
デアリマスカラ七百圓シカ貸シテ吳レナイ、
ソレガ五百圓ニナッタト致シマスト、鑑定
價格ガ今度ハ百分ノ百ヲ貸シテ吳レルトシ
テモ、今度ハ五百圓シカ貸シテ吳レヌカラ
二百圓ノ不足ヲシテ參リマスノデ、銀行ノ
方ニ於キマシテモ、此一億圓位ノ補償デハ、
借リニ來ナイノデハナイカト云フコトヲ私
ハ非常ニ心配致シマス、少クトモ此補償
額ト云フモノハ十四億圓全體ガ、鑑定價格
ニ當ルト見マシテモ、其二割ヲ補償スルナ
ラバ卽チ十四億圓ノ二割デアリマスカラ、
二億八千万圓位ハ補償シテヤラナケレバ、
私ハ不動產ノ金融ハ圓滑ニ行カナイト考ヘ
ルノデアリマス、此點ハ私ダケノ愚見デハ
アリマセズ、當業者ニ就キマシテモ、其他
不動產ニ付テ〓究シテ居ル人ニ就キマシテ
モ私ハ相當ニ〓究シテ居リマスガ、億
圓位ノ補償デハ到底此五億圓ノ貸付ト云フ
モノハ十分ニ動クモノデハナイト云フ結論
ヲ得テ居ル次第デアリマス果シテ是ガ眞ナ
リトセバ二割ノ補償デハイカヌ、少クトモ
是ハ四五五割位ノ見當マデ請償ヲ上ボサナ
ケレバナラヌコトハ今申上ゲタ〓算ノ數
字ニ依リマシテモ明デアルト私ハ考ヘマス
此點ニ村キマシテ高橋大藏大臣ハ一億圓バ
カリノ補償デ、ドウシテ此五億ヲ融資ガ消
化サレタト思フノデアリマスカ、此點ニ付
テモウ少シク補償ヲ增シ、今述ベタヤウニ
不動產ノ價格ガ半減シテ居ルト云フ點カラ
考ヘマシテ、如何ニ御考ヘニナルカト云フ
點ヲ御尋申シテ見タイ
ソレカラ其次ニ質問シタイノハ、貸付利
率ガ六分二厘ニナッテ居ルトノコトデアリ
やく、預金部ガ五分六厘見當デ、之ヲ勸業
銀行及北海道拓殖銀行、農工銀行ニ貸付ル
コトニナッテ居リマシテ、是等中間銀行ガ
六厘ダケノ利鞘ヲ取リマシテ銀行若クハ
債務者ニ渡リマスル時ニハ金利ガ六分二厘
ニナッテ來ルノデアリマス、此六分二厘ノ金
利ト云フモノデ、果シテ此五億圓ノ融資ヲ
動カスコトガ出來ルカ否ヤ、此點ニ付テ高
橋大藏大臣ニ私ハ伺テテ見タイ、何故カト
申シマスルト云フト、地方銀行ノ預金ハ五
分乃至五分五厘ガ最高デアリマス、稀ニハ
六分ノ所モアリマスガ、大體ニ於キマシテ
私ガ調ベマシタ所ニ依リマスルト、地方銀
行ニ對スル普通ノ農村カラ持ッテ來テ居ル
預金ハ五分乃至五分五厘、多イ所デ六分位
ナ見當デアリマスノニ、之ニ對シテ普通銀
行ガ六分二厘ノ金ヲ此中間銀行ガ借リテ來
タト致シマシテモ、預金ノ利率ヨリカ高イ
金利デアリマシタナラバ普通銀行ノ預金
ノ拂出ハ私ハ出來ナイト考ヘマス、此融資
法ノ目的ハ、高橋大藏大臣モ說明サレマシ
タル如ク、銀行ニ固定シテ居ル不動產債權
ノ固定ヲ解クト同時ニ其債務者ニモ亦之
ニ對シテ金融ノ圓滑ヲ圖ッテヤルノデアリ
マス斯ウ仰セラレマシタコトカラ見マシ
タナラバ少クトモ預金ノ「コスト」ヲ割フ
タ利息デナケレバ、債務者ノ方ニ於キマシ
テモ、銀行ノ方ニ於キマシテモ、私ハ十分
ニ此制度ヲ利用スルコトガ出來ナイダラウ
ト考ヘマス、殊ニ預金ヨリカ安イ利息デ借
リテ參リマシテ、サウシテ之ニ依ッテ預金
者ノ方ニ預金ヲ拂出シテヤルト云フヤウナ
方法ヲ取ッテ行クナラバ、田舍ニ於ケル資
金ノ枯渴ガ是ニ於テ救濟セラレルノデハナ
イカ、果シテ然ラバ六分二厘ヲ引下ゲル所
ノ必要ハアルマイデハナイカト云フ點ニ付
キマシテ、私ハ御尋シテ見タイ、サウシマ
スルト云フト、斯ウ云フヤウナ結果ニナツ
テ參リマス、預金部ノ融資餘力ハ一億八千
九百万圓ヨリナイノデアッテ、ソレヲ彼方此
方ヘバラ撒イテ使ッテシマッテ、後トノ足ラ
ヌ所ハ預金部ガ持ヲテ居ル公債ヲ日本銀行
ニ賣ッテ、ソレカラ得タ資金デナケレバ出
來ナイモノデアリマスカラ、御承知ノ通リ
預金部ハ現在十一億ニ近イ所ノ公債ヲ持ッ
テ居リマスルガ、其中資金化シ得ルモノガ
九億圓ト聞イテ居リマス、此九億圓ノモノ
ヲ日本銀行ニ持タシマシテ日本銀行カラ金
ヲ取ル、サウスレバ公債ノ利廻デアル所ノ
五分六厘ト云フモノヲ割ッテハイケナイ、斯
ウ云フ議論カラ出發致シマシテ、之ニ中間
銀行ノ利鞘ノ六厘ヲ加ヘマスレバ卽チ六
分二厘ト云フモノガ出テ來マスカラ、五分
六厘ヲ割ッテハイケナイト云フ議論カラ致
シマシテ、中間銀行ノ利鞘ノ六厘ヲ取上ゲ
ルコトハムツカシイデアリマセウ、ドウシ
テモ中間銀行ハ利鞘ガナケレバ働キマスマ
イ、果シテ然ラバ此五分六厘ト云フ公債ノ
利廻ヲ割ッテハイカヌカラ、六分二厘ニ定
メタノダト云フ御答辯ガアルカモ知レマセ
ヌケレドモ、郵便貯金ノ利息ハ御承知ノ通
リ、十月カラ三分ニ引下ゲラレマス、サウ
シテ公債ノ市價ハ騰リツヽアリマス、而シ
テ茲ニ公債ノ利〓ガ低下シテ來マスナラ
バ是等ノ關係カラ考ヘマシテ五分六厘ノ
利廻ヲ五分何厘トカ、或ハ五分以下ニ引下
ゲ得ルト云フ餘地ハ玆ニ存在シテ居ルト思
ヒマス、果シテ然ラバ六分二厘以下ニ下ゲ
得ルト云フ見當ハ付キ得ルト考ヘラレマ
ス、利息ガ安ケレバ安イ程、私ハ此五億圓
ノ消化ガ出來ルト思フノデアリマスガ、此
點ニ付キマシテ高橋大藏大臣ノ御所見ヲ伺フ
テ見タイ
ソレカラモウ一ツノ點ニ付キマシテ、是
ハ特別融通ノ問題ニナッテ來マスガ、特別融
通ニ付キマシテハ三土國務大臣閣下ハ
御承知ノ通リニ四分三厘見當ノ利息デ以テ
六億八千六百万圓ノ特別融通ヲヤッテ居リ
マスガ、此四分三厘デアッテモ、十年間ニ
之ヲ整理致シマシテ、十年後ニ特別融通ノ
補償ヲスルト云フコトニナッテ、全額補償
デアリナガラ、今日ハ六億八千六百万圓ノ
中デ僅ニ一億三千万圓カソコ〓〓ノ囘收シ
カ出來ナイ、全額補償ヲ致シマシテモ、五年
經ッタ今日ニ於キマシテ四分三厘見當デアツ
テモ中々囘收ガ出來ナイ、斯ウナッテ來ル
ト云フト六分二厘ノ利息ガ高イト云フコト
ハ、私ハ當然デハナイカト考ヘマス殊ニ
此時ニ於キマシテ不動產擔保貸付ノ特別融
通ノ中デ、一億二千三百万圓ト云フモノヽ
不動產ガ此特別融通ノ中デ擔保ニナッテ日
本銀行ノ擔保ニ入ッテ居リマスルガ、今日
之ヲドウナサレマスカ、此一億二千八百万
圓ノ不動產ガ、特別融通ト致シマシテ、四分
三厘ノ安イ利子デアリマス此四分三厘ハ
私ノ記憶違ヒカモ知レマセヌガ、公債擔保ノ
日銀ノ見返リ擔保ト同ジデアル、サウスル
ト是ダケハ地方ニ於テハ取ッテ除ケテ動カ
ナクナル、此固定ハ解ク方法ガナイカト云
フコトガ問題ニナル、今度ノ不動產融資ハ
六分二厘ノ利子、特融ノ擔保ノ不動產ハ四
分三厘、此固定ハ解ケナイ、是カラ先五年
間ハ解ケナイデアラウト思ヒマス、サウス
ルト地方農村ニ於ケル所ノ此不動產ノ中
デ、少クトモ一億二千八百万圓ノ大ナルモ
ノガ固定貸トシテ解ケナイ、併シ此固定ヲ
解ク方法ハドウシタラ宜シイカ、是ハ非常
ナ疑問ナ點ガアルノデアリマスガ、是等ノ
點カラ考ヘマシテモ、是ハ其儘ニシテ置イ
タラ一番宜イト云フ議論ガドウシテモ成
立ッテ來ルト考ヘマスガ、此點ニ付キマシテ
特別融通ニ付テ此固定ヲ解イテ、日本銀行
ニ對シテ交付公債-特別融通ヲ十年以內
ニ決濟スレバ宜イト云フコトニナッテ居リ
マスカラ、十年以內ナラバ今デモヤレルノ
デアリマス、今〓算シテ、日本銀行ニ此特
別融通ノ囘收ガ出來ナイ金ダケデモ、之二
交付公債ヲ交付シテヤリマシテ、固定貨ヲ
解イテヤリマシタナラバ、是亦日本銀行ノ
兌換劵ニ對シマスル所ノ一ツノ非常ナ融通
力ガ發生シテ來ルト考ヘマス、日本銀行ノ
現在七億何千万圓ノ中ノ貸付ノ大部分ガ、
殆ド特別融通デ制限セラレテ、日本銀行ハ
無論保證準備モ擴張サレマシタシ、色々ナ
點カラ兌換劵ハ增發ノ力ハ出來タノデアリ
マスケレドモ、特別融通ニ依リマシテ是ガ
制限セラレテ居ル點ガ確ニアルト考ヘルノ
デアリマス、日本銀行ノ通貨ノ統制上カラ
考ヘマシテモ、若クハ金利ノ點カラ考ヘマ
シテモ此點ヲ何トカ解決スルト云フコト
ガ此非常時ニ於ケル所ノ相當ノ策デハナイ
カト考ヘマス、當時ノ大藏大臣、現在ノ鐵
道大臣、政友會ノ大財政通三土君ニ對シテ
此點ニ付テ御尋ヲ申上ゲル次第デアリマス
ソレカラモウ一ツハ今度ノ此補償法ニ
付キマシテハ勸業銀行トカ、北海道拓殖
銀行トカ、ソレカラ農工銀行トカ云フヤウ
ナ、從來ノ特殊銀行ニヤラスト云フコト
ガ、是ガドウデアルカト私ハ考ヘル、此點
ニ付キマシテ國民同盟ノ御方々カラノ案
二、統制銀行ト云フ銀行ガ出來テ居リマス
ルガ、其銀行ノ內容及其働キ、目的ニ付テ
ハ詳細ナル點ニ付テ承リマセヌカラ、私ハ
此處ニ批評スル所ノ何物ヲモ持ッテ居リマ
セヌガ、少クトモ從來ノ特別銀行ハ七分二
厘見當デ貸シテ居ル利息ノ所ヘ持ッテ來テ、
公共團體ニ貸付ルナラバイザ知ラズ、六分
二厘見當ノ利息デ普通銀行ヤ個人ニ貸付ケ
ルコトニナリマスト、一方ハ安イ利息、一
方ハ高イ利息デアッテ、一方ニ於テハ事務
ハ非常ニ嚴格ニヤッテ、鑑定價格モ嚴格ニ
ヤッテ居ル、今度ハ六分二厘デ貸ス銀行ニ
ナッテ參リマスレバ、鑑定ニ付キマシテ非
常ニ緩カニヤラナケレバナラヌ、又百分ノ
百、鑑定ノ全額ヲ貸スコトニナレバ事
務ガ非常ニ、此點ニ於テ從來ノ固イ勸業銀
行ヤ其他ノ特殊銀行ノヤリ方ヲ紊ルト云フ
コトニナッテ來マス、此點カラ考ヘマシタ
ナラバ、昭和二年ノ特別融通間題ヤラ、ソ
レカラ產業組合ニ對スル此度ノ補償ヤラ、
ソレカラ本案ノ不動產融資ヤラヲ一〓ニシ
マシテ、補償銀行ト云フモノヲ造ッテ、之ニ
取扱ハサシタ方ガ私ハ宜クハナイカト考ヘ
ル、是等ノ點カラ考ヘマシテ、大藏大臣及
三土鐵相ハ如何ニ御考ニナルノデアリマセ
ウカ
ソレカラ現在ノ勸業銀行其他ニヤラセマ
シタナラバ此五億圓ガ十分ニ民間ニ浸潤
シナイト云フ結果ニナッテ來マス、ソレハド
ウ云フ譯カト申シマスト、長野縣ノ一例ヲ
藉ッテ見マシタナラバ、一ツノ或ル長野縣
ノ村デ勸業銀行ノ擔保ニ入ッテ居リマシタ
土地ガ、其村ニ於キマシテ是ガ競賣ヲシテ
賣レナカッタナラバ、其村カラ誰ガ申込ン
デ行キマシテモ、他ノ人々ニドレダケノ立
派ナ擔保ガアッテモ貸サナイ方針ヲ採ッテ居
リマス、恰モ選擧法ノ連座規定ノ如キモノ
デアリマシテ、一人ガ勸業銀行ヘ支拂ヘナ
クナッタナラバ、全村ガ此責任ヲ負ハナケ
レバナラヌト云フヤウナ、全ク斯ウ云フヤ
ウナヤリ方デアッタナラバ、到底此五億圓
ノ金ハ民間ニ浸潤シテ行カナイト云フコ
ヲ私共ハ確信スル所ノ結論ニ至ッテ居リマ
ス、斯ウ云フヤウナ從來ノ勸業銀行ノヤリ
方、其他特殊銀行ノヤリ方カラ致シマシタ
ナラバ、到底五億圓ドコロカ、一億圓ノ補
償一パイガ漸クニシテ民間ニ潤ウテ行クト
云フコトダケデハナイカト云フコトヲ私共
ハ心配致シマス(拍手)
ソレカラモウ一ツハ救濟ノ對象ガ何處ニ
在ルカ、中小商工業者及小農ニ在ルト致
シマスルナラバサウ云フ點ニ付キマシテ
私共ハ是等ノ人々ハ此選ニ這入ラヌト云フ
コトヲ心配シテ居ル、殊ニ北海道方面ニ於
テモ斯ウ云フコトガ多々アルト私ハ考ヘマ
スルガ、餘リ言ウト差障リガアリマスカラ
止メマスケレドモ、兎モ角モ或ル特殊銀
行デ大口ノ取引ヲ不動產擔保デヤッテ居ル
人ガアリマス、此方面ダケニ此六分二厘ノ
低利ノモノヲ向ケラレテシマヒマシテ、サ
ウシテ他ノ眞ニ救ハレルベキ小サイ所ノ擔
保ノ所有者卽チ中小農工商業者ハ是ガ見
捨テラレルノヂヤナイカ此點ニ付キマシ
テ或ハ政黨ノ有力者ノ壓迫ガナイトモ限ラ
ナイ、色々又地方ノ有力者ノ壓迫モナイト
モ限ラナイ、ソレヲ如何ニシテ御監督ナサ
ルノデアルカ、此點ヲ私共非常ニ懸念ニ考
ヘマシテ、大口ノ所謂有產階級ノ堂々タル
人々ノ不動產擔保ノモノノミガ解決セラレ
マシテ、眞ニ救ハレルベキ中小農商工業者
ハ此中カラ除ケラレルノヂヤナイカト云フ
コトヲ私共痛切ニ心配致シテ居リマス(拍
手)ソレカラモウ一ツハ三土大藏大臣ニ御
尋ヲ申上ゲマスルガ(笑聲)當時ノ三土大藏
大臣ニ申上ゲマスルガ、此普通銀行ニ對シ
マシテ中間銀行ガ相當ニ借錢ヲシテ居リマ
ス、特別融通ノ時ニ當リマシテモ預金ノ支
拂ノ爲ニ六億八千何百万圓ト云フ大金ガ、
是ガ所謂補償ニナッテ民間ニ貸出サレマシ
タケレドモ、實ハ預金ノ支拂ニモナラズシ
テ銀行ガ、日本銀行ノ全ク別ノ貸付ニ付テ
支拂ウタト云フ事實ヲ私共澤山調ベテ居リ
マスルガ、果シテ然ラバ此六分二厘ノ低利ヲ
中間銀行ト普通銀行間ニ於ケル別ノ固定シ
タ不良債權ニ振替ヘラレル憂ガアルノデハナ
イカト云フ點ニ付キマシテ、ドウシテ之ヲ御
監督ナサルカ、此處迄御監督ナサルト云フ
コトハ容易ノ事デハナイト私ハ考ヘマス、
特別融通ノ時ニ於キマシテモ屢〓是ガアリ
マシタ、銀行ノ名前ヲ申上ゲマスト差障リ
ガアリマスカラ、私ハ申上ゲマセヌガ、此安
イ利息デ借ッテ置イテ、他ノ方面ノ債權債
務ヲ消スコトニナリマス、斯ウナッテ來マ
スト云フト、今迄擧ゲマシタ點ヲ觀察致シ
マシタナラバ此五億圓ガ民間ニ對シテ十
分ニ徹底スルヤウニ此案ガ出來テ居ナイト
云フ結論ニ達シマスナラバ、十六億三年間
ノ融資ニ依ル所謂此時局救濟ト云フコトハ
畫餅ニ歸スルノデハナイカト云フコトヲ私
共心配ヲシテ居ル一人デアリマス、由來高
橋大藏大臣ノ政策ト云フモノハ、斯ウ云フ
ヤウナ工合ニ觀察シテ見マスルト云フト
-一寸御話ヲ止メテ私ノ演說ヲ聽イテ戴
キタイ-網ノ目ガ段々破レテ參リマシ
テ、見越輸入ガ過去ッテシマウテカラ、關稅ノ
改正ヲ第六十二議會ニ於テヤット提出致シ
タ、昨年ノ十二月ノ十日ニ於キマシテ若槻
內閣ガ倒レ、直グ十一日カ十二日カニ金ノ
輸出禁止ヲヤッタ、サウシテ其儘ズット捨テ
テ置キマシテ、ソレカラ六月ニナッテヤット
關稅ヲ改正シテ見越輸入ヲ防イダ、見越輸
入ガ過去ッテシマッテカラ後ニ、見越輸入防
止關稅改正法案ガ出ル、資本ガ逃ゲテシマッ
テカラ、資本逃避防止法ガ制定サレルト云
フヤウナ、コンナヤリ方デアリマシテ、果
シテ此時局ガ救濟サレルデアリマセウカ、
私共ハ此點ニ付テ疑シテ居ル、實際ノコトヲ
申上ゲマスナラバ、本年一月政友會內閣ニ
於テ、解散ヲセズニ關稅ノ改正、資本逃避
防止法ヲ成立セシメテ置イテ、資本ガ逃ゲ
ナイヤウニシ更ニ保證準備ノ擴張其他ノ
政策ヲ立テヽ置イテ、後ニ議會ヲ解散致シ
タナラバ、私ハ國家ノ爲ニドレダケ利益デ
アッタカト考ヘル、本年一月ノ議會解散ト
云フコトハ、民政黨ニ損害ヲ與ヘタバカリ
デナク、日本全體-日本全國民ニ對シマ
シテ非常ナル損害ヲ與ヘ、經濟的ノ匡救ニ
付キマシテ之ヲ遲延セシメテ、日本國民ニ
損害ヲ與ヘタト云フコトヲ私ハ玆ニ附加ヘ
テ置ク次第デアリマス、以上ニ付キマシテ
高橋大藏大臣及三土國務大臣ノ御答辯ヲ伺
ヒタイト思ヒマス
〔國務大臣三土忠造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=11
-
012・三土忠造
○國務大臣(三土忠造君) 昭和二年ノ特別
融資法制定竝ニ其後ニ於ケル運用ニ付キマ
シテ色々御質問ガアリマシタガ、其當時ニ
於キマシテ五億圓ノ補償ヲ致シタノデアリ
マスガ、其後ニ急激ナル經濟界ノ變動ガ起
リ、不動產其他諸物價ノ暴落ガ起リマシタ
爲ニ、私共ハ初メ五億圓迄ノ實際ノ補償ハ
要ラヌト思ウテ居リマシタケレドモ、今日
デハ左樣ナ影響ニ依リマシテ、五億圓ノ中
デ餘程多額ノ補償ヲセンケレバナラヌ結果
ニナッテ居ルト思ヒマス、併シ先刻來ノ御
質問ハ、今囘ノ不動產肩代リノ補償ニ關ス
ルコトデアリマスカラ、現當局ノ大藏大臣
ヨリ御答辯下サル方ガ宜カラウト思ヒマス、
又特別融資ノ今尙ホ殘ヲテ居ルモノヲ如何
ニ處分スルカト云フ御尋デアリマスガ、是
モ十年ノ期限デアリマシテ、其期限モマダ
餘程殘フテ居リマスシ、銀行ソレ〓〓ノ狀
況ニ依ッテ囘收ノ方法モ違フコトデアリマ
スノデ、其事柄ニ付キマシテモ、私ガ意見
ヲ申述ベマスコトハ現當局ニ對シテ越權ノ
處置デアルト考ヘマスカラ差控ヘマス拍
手)
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=12
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013・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 中島君ノ博識强
記ニ對シテハ敬意ヲ表シマス、補償銀行ヲ
新ニ設ケテヤル計畫モアルト云フ御話デス
ガ、私ハマダ其ヤウナ事ハ聞キマセヌ、ソ
レカラ結局此五億圓ト云フモノガ、三箇年
間ニ不動產ノ固定シタモノヽ肩代リ、若ク
ハ其質權抵當デ貸スト云フコトハ、果シテ
其出ル五億圓ガ一般ニ浸潤シテ行クヤ否
ヤ、寧ロ行カナイト云フ方ノ御見解デ御議
論ガアッタヤウニ思ハレル、當局トシテハ是
ハヤハリ廣ク浸潤シテ行クモノト信ジテ居
ルノデアリマス、一々特殊ノ例ヲ擧ゲテ申
シマスレバ、浸潤シテ行カナイト云フ例證
モ擧ゲルコトガ出來ル、又浸潤シテ行クト
云フ例證ヲ擧ゲルコトモ出來ル譯デアル、
考へ樣一ツデ議論ハドウニデモ出來ル、或
ハ斯樣ナ事ハ大キナ力ノ有ル者ノ占有スル
所トナッテ、目的トスル中小商工農業者ナ
ドニハ其恩恵ガ及バナイト云フ弊害モ生ズ
ルデアラウ、其弊害等ハドウシテ監督スル
カト言ハレル、成程物ニハ必ズ弊害ガ伴フ
デス、此弊害ハ成ベク起ラヌヤウニセネバ
ナラヌノデアルケレドモ、困ッタコトニハ何
カ一ツ新シイ事ヲ設ケレバ、必ズソレニ弊
害ガ伴フ、其弊害ノ由ヲテ來ル原因ハ様々
デアリマセウ、又最後ニ一體前內閣ガ議會
ヲ解散シタノガ間違ダ、金ノ再禁止ヲシタ
ナラバ先以テ議會ノ解散ナドヲセズニ、資
本逃避防止法ノ制定、若クハ後ニ行ハレタ
關稅ノ改正ナドモシテ置イテサウシテ議
會ヲ解散シタラ宜カラウ、斯ウ言ハレル、
何故ニ前內閣ガ出來タ早々而モ殆ド其同
日ニ金輸出禁止ヲセネバナラナクナッタカ、
此事情ヲ拵ヘタモノハ何人デアルカ、而モ
多數ヲ占メテ居ル所ノ其人々ガ、議會ニ於
テ少數デアル所ノ新內閣ガ關稅ノ改正法案
ヤ資本逃避防止法ヲ出シタッテ通過サセヌ
ト云フコトハ明ニ分ッテ居ル、何ヲ措イテモ
議會ヲ解散シテ國民ニ孰レガ善イカ惡イカ
トノ判斷ヲサセルコトガ、最モ急務デアッ
タ(拍手)斯樣ナコトハ皆言葉咎メカ何カニ
ナリマスカラ、言ヒタクナイノダ、而シテ
色々ナ點ニ付テ御議論ガアッタケレドモ
私ハ此點ヲ斯ウ答ヘナケレバナルマイ、答
ヘル必要ガ何處ニアルカト云フコトニ、大
ニ迷ッテハッキリト致サヌ、是ダケヲ御答致
シマス(拍手)
〔中島彌團次君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=13
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014・中島彌團次
○中島彌團次君 高橋大藏大臣ノ答辯ハ、
私共ト致シマシテハ洵ニ不滿足デアリマシ
テ、常ニ高橋大藏大臣ハ、私共ノ問フタコト
ニ付キマシテハ、親切丁寧ニ之ニ御答シテ
吳レル所ノ誠意ガナイ、國務大臣ト致シマ
シテ能力ガナイノカ、誠意ガナイノカ、ソ
レハ知リマセヌガ、兎モ角モ其誠意ヲ缺イ
テ居リマシテ、私共ト致シマシテハ此非常
時局ヲ背負ッテ居ル所ノ大藏大臣ノ答辯ト
致シマシテハ洵ニ受取レナイ次第デアル
ト云フコトヲ私ハ申上ゲマス、五億ト云フ
コトヲ決メタ理由ガ何處ニアルカト云フコ
トニ付テ、私ハ第一ニ申上ゲタノデアル、
ソレニ付キマシテモ何等ノ數字的根據モ示
サナケレバ、考ヘ樣ニ依ッテハ是ハ浸潤スル
トモナリ、又考へ方ニ依ッテハドウニデモナ
九、ソンナ考ヘ樣ニ依ッテドウニデモナル
ヤウナ案ナラバ、此非常時局ト致シマシテ
ハ出サヌ方ガ宜シイト云フコトヲ私ハ申上
ゲテ置キマス、如何ニ考ヘテモ此五億圓ガ
十分ニ民間ニ徹底スルヤウニセナケレバナ
ラヌト私ハ考ヘル
ソレカラ第二ノ點ニ於キマシテ、金利ノ
六分二厘ガ高イデハナイカト云フコトヲ私
共ガ御問申上ゲマシタケレドモ、其點ニ付
キマシテハ何等ノ御答ガアリマセヌ是ガ
重大ナル點デアリマシテ五億圓ニ對スル
一億圓ノ補償デアル、二割ガ多イカ少イカ
ト云フコトガ重大ナル點デアッテ、私共ハ少
イト考ヘル(發言スル者多シ)政友會ノ方
デハガヤ〓〓言。ッテオ出デ遊バシマスケレ
ドモ、武田君ノ如キハ此點ニ付テ私共ノ
意見ニ贊成ヲサレテ居ル、私ノ意見ト同
ジコトナンダ、政友會自身モ此案ニ付テ
修正案ガ出タ時ニハ必ズヤ贊成サレル
デアラウト云フコトハ政友會ノ代表者
ノ武田君ノ意見ニ依リマシテ明デアリマ
ス、此點ニ付テ私ハ屢。論旨ヲ繰返シテ問ヒ
マシタケレドモ、高橋大藏大臣何等ノ御答
ガナイ、モウ少シ親切ニ、丁寧ニ、若シ高
橋大藏大臣ノ御答ガナケレバ、堀切政府委
員デモ宜ケレバ、大久保銀行局長デモ宜シ
1、政府委員ノ御方カラデモ宜シイ、是尺
國民ガ問ハントシテ居ル所デアッテ、五億
ガ民間ニ浸潤スルカセヌカト云フ點ニ付キ
マシテハ、時局ノ對策トシテ十六億圓ノ三
分ノ一ガ畫餅ニ歸スルカ、成功ニ終ルカノ
一點ニ懸ルコトデアリマスカラ、私ハ此點
ニ付キマシテ十分ニ質シテ見タイト思ヒマ
ス、此議政壇上ヲ通ジマシテ國民ニ對シテ
十六億圓ハ畫餅デハナイ、眞ニ是ハ使ヒ得
ル所ノ金デアッテ、民間ニ徹底セシムルモ
ノデアルト云フ點ニ付テ、大藏大臣ハ國民
ニ安心サセルダケノ答辯ヲ與ヘルト云フノ
ガ國務大臣トシテノ責任デハナイカト云フ
コトヲ考ヘルノデアリマス
ソレカラ次ニ金ノ輸出禁止ヲ昨年ノ十二
月ニヤリマシタト云フコトニ付キマシテ、
其原因ハ何人ガヤッタノデアルカト云フコ
トヲ仰セラレマシタ、其議論ニ付キマシテ
ハ色々アリマセウ、政友會カラ言ヘバ民政
黨ノヤリ方ガ惡カッタト言ヒマセウガ私
共カラ見レバ一部弗買者流ト通ジテ、此處
ニ金ノ再禁止ト云フコトニ付テ策動シテ、
金ノ輸出禁止ヲヤラナケレバナラヌヤウ
ナ狀態ニ立至ラシメタノハ政友會ソレ自身
デハナイカト云フコトヲ考ヘテ居ルノデア
リマス、ソレデ議會ヲ解散セナクテモ、如
何ニ民政黨ガ當時ニ於テ二百八十名ノ絕對
多數ヲ有フテ居フタト致シマシテモ金ノ輸
出禁止ヲヤッタ此非常時局ノ時ニ於テ、資
本逃避防止法ガ出ヤウガ、關稅改正法ガ
出ヤウガ、或ハ兌換劵ノ保證發行制度ノ改
正法ガ出テ來マセウガ、吾々民政黨ハ國
家ノ爲ナラバ之ニ贊成スルニ吝デナイノデ
アリマス(拍手)サウシテ金ノ輸出再禁止ト
云フコトヲヤリマシテ、一時ニ好景氣ヲ煽ッ
テ置イテ、國民ヲ欺瞞シテ作ッタノガ此絕對
多數デアルト云フコトヲ此壇上カラ申シテ
モ宜イト思フノデアリマス(發言スル者多
シ)金輸出禁止ノ結果ハ、ヨリ深刻ナル不景
氣ガ現ハレテ來タノデハナイカ、此事ダケ
ヲ申上ゲマシテ、後ハ又委員會ニ於テ承ル
次第デアリマス(拍手)
〔加藤鯛一君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=14
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015・加藤鯛一
○加藤鯛一君 本案ニ對シマシテハ、既
武田中島兩君ヨリ御尋ガアリマシタノ
デ、此兩君ノ御尋ニハ成ベク重複ヲ致サナ
イヤウニ致シマシテ、法律案其モノニ付テ
御尋ヲ致シタイト思フノデアリマス、本案
ハ世ノ所謂不動產ノ資金化ト云フモノデア
リマシテ、是ハ相當ニ以前カラ各方面デ唱
ヘラレテ居ッタコトデアリマシタガ、高橋大
藏大臣ハ此不動產ノ資金化ヲ行フノニ對シ
マシテ國家ノ補償ニ依ッテ行フコトハ絕
對ニ反對デアルト云フ風ニ言ハレテ居ノタ
ノデアリマス、然ルニ此處ニ心境ニ變化ヲ
致サレマシテ、本案ヲ提出サレマシタト云
フモノハ、ドウ云フ動機ニ依ッテ心境ガ變
化サレタカ存ジマセヌガ、吾々ハ成程此不
動產ノ資金化ニ對シマシテハ只今大藏大
臣ノ御述ニナリマシタヤウニ、一方ニハ相
當ノ弊害モアルコトヽ思ヒマス、サウ云フ
點ヲ色々考慮サレマシテ、出來ルナラバヤ
ラズニ置キタカッタト云フ御考デアッタト思
ヒマスガ、而モ或ル程度ノ弊害、缺陷ガア
リマシテモ、之ヲ突破シテ行ハナケレバナ
ラヌト云フ事態ニナッテ來タト云フコトヲ
高橋大藏大臣ガ認識セラレタル結果デアラ
ウト思フノデアリマス、從來モ此種ノ低利
資金ハ度々政府ハ貸出シヲ致サレマシタ
ガ只今中島君ノ申述ベラレタヤウニ、其
貸出シノ總額ヲ運用セラレタルコトハ殆ド
ナイノデアリマス、高橋大藏大臣ハ過グ
ル第六十二議會ニ於キマシテモ、政友會ノ
內部ヨリ此不動產資金化ニ對シマシテ、國
家ノ補償ヲ用ユル法案ノ提出ヲ翹望サレタ
ル聲ガ相當ニアリマシタガ、之ニ反對ヲ致
サレマシテ、兎ニ角二億圓ト云フ低利資金
ヲ貸出シマシテ、サウシテ其同ジ目的ヲ果
サウトサレタノデアリマス、其間ニ於テ取
敢ヘズ五千万圓ノ低利資金ヲ融通致サレマ
シテ、其目的ヲ達シヨウト致サレマシタガ、
恐ラク其金額ハマダ運用サレテ居ラヌト私
ハ考ヘルノデアリマス、是ハ從來ノ政府ノ
遣方カラ致シマスト、何時デモ非常ニ資金
ノ必要ナ者ニハ貸與ヘルコトガ手續上煩雜
デ出來ナイノデアリマシテ、資金ノ要ラナ
イ人ニノミ貸與ヘントスルヤウナ順序、態
度、手續ヲ致サナケレバナラヌノデアリマ
スカラ、事實此金ガ運用サレルコトガムヅ
カシイノデアリマス、斯ウ云フ時ニ方リマ
シテ此法案ヲ御出シニナッタ以上ハ、餘程玆
ニ手心ヲ御用ヒニナリマセヌト、其目的ヲ
達スルコトガ困難デアラウト思ヒマス、只
今中島君モ申サレマシタヤウニ、十六億三
千万圓ト云フ、銀行ガ持ッテ居ル不動產ヲ
擔保トシテ貸與ヘマシタ金額ニ對シマシ
テ、五億圓ト云フ低利資金ヲ三年間ニ融通
シヨウト云フノデアリマスガ、十六億三千
万圓ニ對シマシテ全額ノ金額ヲ融通致シ
マスルナラバ、如何ナル銀行ノ人ガ事務ヲ
執リマシテモ、公平ニ間違ナク行フコトガ
出來マスガ、其中ノ三分ノ一ニモ滿タザル
所ノ五億圓ト云フ融資ヲ致サウト致シマス
レバ、自ラ勸業銀行、農工銀行、拓殖銀行
ノ當事者ハ手心ヲ用ヒナケレバナラヌノ
デアリマス、此手心ヲ用ヒル所ニ運動、情
實請託ガ行ハレハシナイカト云フコトヲ
憂フル者デアリマスルガ、之ニ對シテ政府
當局ハ、サウ云フ憂ガアル場合ニハ如何
ナル方法手段ニ依ッテ之ヲ完全ニ監督サレ
ントスル御考デアルカ、其御考ヲ承リタイ
ト思ヒマス、又只今中島君モ御尋ニナリマ
シタガ、此十六億三千万圓ニ對シマシテ、
三箇年間ニ五億圓ノ融通ヲスル、ソレニ對
シテ一億圓ノ損失補償ヲスルト云フ、此數
字ヲ御考ニナリマシタル根據ヲ承リタイト
思ヒマス、而シテ此五億圓ノ金ニ對シテ一億
圓ト云フ損失補償ハ二割ニ當ルノデアリマ
スガ、是ハ二割ト云フコトニ區切ッテ損失
補償ヲスルトハ明示シテアリマセヌガ、五
億圓ノ所ガ假ニ四億圓シカ運用ガ出來ナク
テモ、損失補償ハ一億圓サレルノデアル
カ、是ハ二割ト云フ計算ヲ以テサレルノデ
アリマスカ、此點モ承ルコトガ出來レバ仕
合デアリマス、又此法律ノ第一條ニアリマ
スル銀行ト云フ文字ノ中ニハ、休業銀行ハ
加ハルノデアルカ、加ハラヌノデアリマス
ルカ承リタイノデアリマス、諸君、此休業
銀行ガ加ハルカ加ハラヌカト云フコトニ依ソ
テ變ヲテ參リマス、假ニ銀行ガ連帶貸出ヲ
シテ居ル場合ガアルノデアリマス、二五、
四行、五行ノ連帶デ貸出ヲ致シテ居ル場合
ニ於テ、其中ニ一ツノ休業銀行ガ加ハッテ
居ルト云フヤウナ場合ニ於テハヤハリ是
ハ休業銀行トシテ加ハルノデアルカ、加ハ
ラヌノデアルカ、若シサウ云フ場合ニ當リ
マシテ、其休業銀行ガ幸ニ整理ガ出來テ、
再開業ヲスルコトガ出來レバ宜シイノデア
リマスガ、其休業銀行ガ不幸ニシテ破綻致
シマシテ、〓算ニ移ラナケレバナラヌト云
フヤウナ場合ガ生ジマシタ場合ニハ之二
對シマシテ政府ハ如何ナル考ヲ持ッテオイ
デニナルノデアリマセウカ、サウ云フ危險
ガアリマスト、勸業銀行デモ、農工銀行デ
モ貸出ヲ手控ヘル、餘程考ヘルヤウナ結果
ニナルト思ヒマスガ、サウ云フ銀行程必要
ガ最モ痛切ニ迫ッテ居ルト私ハ考ヘルノデ
アリマスガ、政府ハ如何樣ニ御考ニナルノ
デアリマセウカ、又一億圓ト云フ損失補償
ハ、ドウ云フ方法ニ依テ割當ニナルノデア
リマセウカ、各府縣ノ府縣別ノ割當及都市
ト町村トノ割當ノ順序、方法、金額ハドウ
云フ計算ノ根據ニ依テオヤリニナルノデア
ルカ承リタイノデアリマス、又此財源ハ預
金部ノ資金ヲ以テ運用スルヤウニナッテ居
リマスガ、此預金部ノ資金ノ主ナルモノハ
郵便貯金デアリマス、郵便貯金ハ昨年ヨリ
本年上半期ニ掛ケマシテハ全國ノ銀行ガ
非常ニ信用ヲ失墜シタ結果、預金替ヲ致シ
マシタ關係上、夥シキ增額ヲ致シテ居リマ
スガ、此昨年末カラ本年ノ上半期ノヤウニ
郵便貯金ノ增額致シマシタコトヲ標準トシ
テ、此見込ニ依リマシテ資金ヲ決定サレル
ト云フコトデハ財源ガ不確實デアルヤウ
ニ考ヘマスガ、若シ預金部ノ資金ガ見込通
リニ增サナカフタ場合ニハ如何ニ爲サル御
考デアリマセウカ、之ヲ承リタイノデアリ
マス、又今度ノ融資ノ期限ヲ千五箇年以內
ト爲サッタ根據ハ何處ニ在ルノデアリマス
カ先般ノ低利資金ノ融通ハ明ニ二十箇年
トナッテ居リマス、今二十箇年ノ低利資金ヲ
運用中デアルニ拘ラズ、今囘ノ低利資金ノ
期限ノミヲ二十箇年トセズシテ、十五箇年
ニ爲サレマシタ根據ハ何處カラ出テ居ルノ
デアリマセウカ、又不動產ノ融資損失審査
委員會ハ勅今ニ依テ定メルト云フコトニナソ
テ居リマスガ、勅令ニ依テ定メル案デアリ
マシテモ、今日腹案ガナイ譯ハナイノデア
リマス、此委員會ノ運用ヲ過チマシタナラ
バ目的ヲ達スルコトガ出來ナイト思ヒマ
スガ、此委員會ハ如何ナル權限、如何ナル
機構ニ依テ組織サレントスル御考デアリマ
スカ、大要以上述ベマシタ事ニ付キマシテ、
先ヅ御考ヲ承リタイノデアリマスス、尙ホ
此議事ニ關聯致シテ居ル事デアリマスカ
ラ最後ニ總理大臣ニ御尋シタイノデアリ
マスガ···
〔「議長、總理大臣ガ居ナイ」「總理大臣
ハ逃出シタカ」ト呼ヒ其他發言スル者
アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=15
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016・秋田清
○議長(秋田〓君) 總理大臣ハ直グ參リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=16
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017・加藤鯛一
○加藤鯛一君(續) ソレデハ一應大藏大臣
ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=17
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018・秋田清
○議長(秋田〓君) 加藤鯛一君、アナタニ
發言ヲ許シタノデス、御發言ガ濟ンダナラ
バ御降壇ヲ願ヒマスガ、御濟ミニナラヌノ
ナラ御繼續ヲ願ヒマス-總理大臣ハ直グ
參ラレマス、内務大臣ハ登院シテ居ラレマ
セヌ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=18
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019・加藤鯛一
○加藤鯛一君(續) 以上申述ベマシタコト
ニ付テ御答辯ヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=19
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020・秋田清
○議長(秋田〓君) 高橋大藏大臣
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=20
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021・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 第一ノ加藤サン
ノ御尋ハ、國家補償ト云フコトニ付テ私ガ
反對ヲシテ居ッタ、ソレガ心境ガ變ヲテ補償
シタト云フコトデ、是ハ私自身ノ事ニ付テ
ハ毀譽褒貶ヲ問ハヌノデスカラ、敢テ申
上ゲル必要ハナイ、初メカラ-世間デハ
何ト言ウタカ知ラヌケレドモ、萬已ムヲ得
ザル場合ノ外ハ、國家補償ト云フコトヲ前
提トシテ計畫ヲ樹テルコトハ避ケネバナラ
ヌト云フノガ私ノ持論デアッタノデス、是
ハ詳細申上ゲルマデモナク、總テノ計畫ヲ
國家神償ト云フコトヲ前提トシテ樹テタラ、
國民ハドンナ國民ガ出來ルカ分ラヌト云フ
コトヲ私ハ心配シテ萬已ムヲ得ザル場合
ノ外ハト云フコトヲ言ッテ居ル
第二ハ弊害ガアルガ、ソレヲドウシテ監
督スルカ、是ハ中々監督ト云フコトハムヅ
カシイ事デアリマスルガ、當該銀行ト大藏
省ニ於ケル事務吏員ト其事態ニ付テハ常ニ
取調ヲ致シテ、サウシテ其弊害ノ無イヤウ
ニ努ムルト云フコトニ今日ハ組織シテ居ル
ノデアリマス
第三ノ御尋ハ五億トシタ其根據ニ付テノ
事デアリマスガ、是ハ勿論推定シタ根據ハ
アルノデアリマス、併シ是モ推定ノ根據デ
アリマス、是ハ事務官ヨリ其數字ニ付テ御
答ヲ致サセマス
第四ニハ休業銀行ニモ此法律ニ依ッテ貸
出ヲスルノカ、是ハ休業銀行ニシテ將來營
業ノ出來ル見込ノ立ツモノニ對シテハヤ
ハリ融通スル積リデアリマス、併シ其モノ
ニ付テ融通シテモ、前途其銀行ノ立行ク見
込ノナイモノニ融通スル考ハナイノデス
第五ハ補償ノ一億圓ト云フモノハ何處カ
ラ出タノカ、其根據ヲ示セト云フコトデア
リマス、是モ一應推定ノ基礎ハアルノデア
リマスカラシテ、是ハ前ノト同樣、五億ト
定メタ基礎ヲ御說明ヲ申ス時ニ、事務官ヨ
リ御說明ヲ致スコトヽ致シマス、併シ斯ウ
云フコトハ願クバ委員會ニ於テ御尋ニナル
コトヲ希望スルノデス
六ガ三箇年間ニ五億ノ金ヲ出スト云フコ
トハ郵便貯金カラ出ルノダガ)若シ貯金ガ
殖エナイト云フ場合ニハドウスルノカト云
フヤウナ御尋デアリマシタガ、是ハ先刻モ
申サレタル如ク公債證書ガアルカラシテ、
已ムヲ得サレバ其公債證書ヲ賣拂ッテ資金
ヲ拵ヘルト云フコトニ立至ルダラウト思ヒ
マス
ソレカラ十五年ト期限ヲ決メタ、是モ事
務ノ方デハ此根據ガアルノデアリマスカ
ラ、御說明ヲ致サセマス
勅令ニ依ッテ委員ヲ設ケル、是ハ先例モ
アルコトデアリマシテ、殆ド特融ノ場合ニ
於ケル委員ト同ジヤウナ標準ニ依、ワチ此
委員會ハ組織スル積リデアリマス、併シ此
事ハマダ閣議ニモ上ッテ居ナイノデアリマ
スガ、先例モアルコトデアリマシテ、或ハ
特融ノ時ノ委員ノヤウナ標準ニ依テ行クコ
トヽ私ハ考ヘテ居リマス、ソレダケヲ御答
致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=21
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022・秋田清
○議長(秋田〓君) 杉山元治郞君
〔杉山元治郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=22
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023・杉山元治郎
○杉山元治郞君 私ハ第一ノ議案ニ付キマ
シテ前ノ三人ノ方ト違ッタ視野ニ立チマシ
テ、質疑ヲ致シテ見タイト思フノデアリマ
ス、農村ノ金融ニ付キマシテ是ガ圓滑ヲ圖
リマスルコトハ、私共ガ心カラ冀フテ居ル
問題デアリマス、ナゼカナラバ最早皆樣ノ
御承知ノヤウニ、一ツノ肥料資金ヲ得タイ
ト思ヒマシテ、之ヲ彼方此方ニ求メマシテ
モ、中々ニ得ラレナイ、偶、得タ所ノモノ
ガ途中デ差押ニ遭ヒ、或ハ其資金ガ十分デ
ナカッタト云フコトノ爲ニ、農村ニ於テ色
色ノ悲劇ガ起ッテ居リマスルコトハ、最早皆
樣ガ新聞ニ依テ御承知ノコトダト考ヘルノ
デアリマス、斯ウ云フ意味合ニ於キマシテ、
私ハ農村ニ於テ金融ガ圓滑ニ參リマスルト
云フコトニ付テハ心カラ冀ッテ居リマス
ルガ、併シ農村ニ於キマシテ本當ニ其金融
ヲ切實ニ冀〓テ居リマスル者ガ如何ナル階
級デアルカ、勿論土地ヲ持クテオイデナサ
イマス所ノ地主ノ諸君モアルデアリマセウ
ケレドモ、勤勞農民ガ特ニ是ガ要求ヲ致シ
テ居ルト考ヘルノデアリマスルガ斯ウ云
フ意味合カラ考ヘマシテ、又本議會ガ開カ
レタ精神カラ考ヘマシテ、此不動產金融ノ
問題ガ、今申シマスルヤウナ農村ノ大多數
ノ勤勞農民ニ對シマシテ、ドレダケノ金融
ガ出來ルカドウカ、先刻カラノ質問ニ依テ
大藏大臣ガ答辯致シテ居リマスルコトニ依
テモ明カデアリマスルヤウニ、是ハ主ニ銀
行ノ救濟デアル、其銀行ノ救濟ガ個人ニ浸
潤シテ行クノデアル斯ウ云フヤウナ御話
デアリマスルガ、私ハ假令個人ニ浸潤致シ
マシタト致シマシテモ、是ハ中以上ノ農民
デアッテ、大多數ノ勤勞農民ガ除外サレル
ノデハナイカ、斯ウ云フ意味合ニ於キマシ
テ私ハ第一ニ斯ウ云フコトヲ御尋致シテ
見タイト思フノデアリマス、其一ツハ銀
行ガ不動產ヲ抵當トシテ取ッテ居リマスル
其抵當物ノ中、其借リテ居ル所ノ農民達ノ
階級性ヲ伺ヒタイト云フコトデアリマス
地主ハドレ位抵當ニ入レテ居ルカ、或ハ自
作農ハドウ云フヤウニ入レテ居ルカ、自作
兼小作農、或ハ小作農ト云フヤウナ階級的
ニ、ドウ云フヤウニ是ガ不動產ガ抵當ニ入
レラレテ、サウシテ資金ノ融通ヲ得テ居ル
カト云フ問題、其問題ガ明ニサレマスルナ
ラバ、此不動產金融化ノ問題ガ果シテ勤勞
農民ノ爲ニナルモノデアルカ否ヤ、私ハ先
刻申シマシタヤウニ、是ハ銀行ト、尙ホ中
農以上ノ金融デアルト考ヘルノデアリマス
ルガ、尙ホ念ノ爲ニ此點ヲ御伺シタイト思
フノデアリマス、此點ハ大藏當局デモ、或
ハ關係ノアリマスル所ノ農林省ノ-農林
大臣デモ結構デアリマス
次ニ御尋致シタイ問題ハ先刻カラ色々
話ガアリマシタヤウニ、補償金ノ一億圓、
卽チ二割ト云フコトデゴザイマスルガ、此
二割ノ問題ガ、償還期間マデニ果シテ二割
ト云フモノガ下ラナイデ居ルデアラウカ
ト云フ問題、私ハ土地値下リノ問題ノ立場
カラ考ヘテ見タイト思フノデアル、先ニ中
島サンデアリマシタカ御話シニナッテ居,
タヤウニ、大正六年、七年頃カラ考ヘルナ
ラバ、土地ノ値段ガ丁度約半額ニナッテ居
ルト云フヤウナ御話デアル、私モ爾カ信ジ
テ居ル、斯ウ云フヤウニ土地ノ値下リヲ致
シテ居ルノデアリマスルガ、今日後ニ於キ
マシテ、此補償融通ヲ致シテ居リマスル期
間ニ於テ、果シテ土地ノ値下リト云フモノ
ガ二割以内、二割デ止ルデアラウカト云フ
問題デアル、或ハ言フデアラウ、景氣ガ好
クナルカラ土地ノ値ハ上ルト、斯ウ云フヤ
ウナ御話ノ方モアッタヤウニ思フガ、私共
ガ嘗テ自作農創成ヲ致シマスル時ニ、目下
ノ土地ノ問題ニ於テ、土地ノ値段ニ於テハ
高過ギル、ダカラ農民諸君ニ、今暫ク買フ
コトヲ待ツ方ガ宜イデアラウ、斯ウ云フコ
トヲ申述べタ時ニ、農林當局竝ニ多クノ方
方ハ土地ハ下ルモノデハナイ、土地ハ或
ル程度以上ニ增加シナイノデアルケレドモ
人口ハ增加スルノデアル、ダカラ必然ニ土
地ノ値段ガ上ルノデアルト言ハレタノデア
リマスルケレドモ、私共ハ其時ニ於キマシ
テ社會狀勢ノ變化ニ於テハ土地ハ必ズ値
下ルモノデアルト云フコトヲ申シテ、サウ
シテ農民ニモ警告シタノデアル、果シテ社
會狀勢ガ變ッテ參リマシタ時ニ、土地ノ値
段ガ大正十一年ヲ限度ト致シマシテ、益、〓
下ッテ參リマシタコトハ、是ハ議論デナク
シテ事實デアル、斯ウ云フヤウナ狀勢カラ
考ヘテ見タ時ニ、私ハ今日ノ社會狀勢カラ
推察シテ、果シテ資本主義的ナ社會ガ進行
シテ行クノデアルカ、乃至ハ社會主義的ナ
制度ガ進行シテ行クデアルカ、斯ウ云フヤ
ウナコトカラ考ヘテ見マス時ニ、又特ニ議
會ニ於テ土地ノ國有問題ノヤウナモノ迄モ
論ジラレヤウト云フヤウナ時期ニ考ヘテ見
マシタナラバ、確ニ土地ハ益〓値下ッテ行ク
ノデハナカラウカ、然ラバ土地ガ値下ッテ
參ヲテ、二割ノ補償ニ於テハ之ヲ償フコトハ
出來ナイト云フコトガ明ニナッテ參リマシ
タナラバ先ノ中島サンノ御話ニモアッタ
ガ、銀行ガ營利本位ト致シテ居リマスル關
係カラ致シマシテ、其不利益或ハ補償以上
ニ損失スルト云フコトガ明ニナッタナラバ、
假令五億圓ヲ限度ト致シマシテモ、果シテ
貸スデアラウカドウカト云フ問題デアル、
此問題ニ對シマシテハ、既ニ新聞紙上ニ於
テモ銀行當局ニ於テハ一億圓デハ足リ
ナイカラ、之ヲ增シテ吳レルカ、乃至ハ其五
億圓ト云フモノヲ三億圓ニシテ貰ヒタイ、
斯ウ云フヤウナ聲モ聞エテ居ルヤウニ思フ
ノデアリマスガ、又此前ノ議會ニ於テ決メ
ラレタ五千万圓ノ融通ノ問題ヲ見マシテモ、
其事實ハ明ニナルト思フ、先ノ御話ノヤウニ、
五月ノ末カラ現在ニ至リマスル迄ノアノ不
動產融資ハ、聞ク所ニ依リマスルト云フト、
勸業銀行ガ僅カ百三十万圓、農工銀行ガ六
百三十万圓、約七百六十万圓シカ貸シテ居
ラナイト云フコトデアル、五千万圓ヲ融通
スルト云フ時ニ、尙ホ七百万圓ヲ下ラナイ
ト云フ理由ハ何處ニ存在スルカト申シマス
ルナラバ、是ハ銀行ガ貸シテモ利益ニナラ
ナイ、否ナ危險率ガ多イト云フ所ニ存在ス
ルコトヲ考ヘテ見マシタナラバ今申シマ
スルヤウニ二割ト云フコトハ是ハドウカ、
私ハ斯ウ云フ意味合ニ於テ、前途ニ於テ此
補償囘收ノ期間ニ於テ二割ト云フヤウナ土
地値下リデ宜イデアラウカ、斯ウ云フ見透
シハドウデアルカト云フコトニ付テ伺ヒタ
イノデアリマス
第三ニ、是ハ武田サンガ、御聽キニナ,
テ居ッタ時ニ、近クニ居ッタノデアリマスガ、
不幸ニシテ大藏大臣ノ言葉ガ小サカッタノ
デ聽取レナカッタノデアリマスガ、信託會
社無盡會社ノ不動產ニ付テハ除外ヲスル
ト云フコトニ付テハ法律的ニイケナイ、斯
ウ云フヤウニ聽及ンダノデアリマスガ、若
シ法律的ニ是ガイケナイ、普通銀行ト信託
會社、無盡ト云フモノトガ法律的ニイケナ
イ、私ハ法律上ノ問題ハ能ク存ジナイガ、
若シ昨日ノ濱田サンノ言葉ヲ藉リテ申シマ
スルナラバ、法律的ニハイケナクテモ、若
シ是ガ融通スルト云フコトガ、私ガ先程申
シタヤウニ、是ハ決シテ私共ノヤウナ勤勞農
民ニハ爲ニナラヌト考へルノデアルガ、多
少デモ爲ニナルト致シマシタ時ニ、ソレハ
法律ノ問題ハ別ト致シマシテモ、事實上、
社會上、經濟上、政治上ノ實際問題ト致シ
マシテ、是ハ除外スベキモノデハナイデハ
ナイカト私ハ考ヘルノデアル、此點ニ付テ
御意見ヲ伺ヒタイノデアル
モウ一ツハ利子ノ六分二厘ノ問題デアリ
マスルガ此六分二厘-皆樣ガ御承知ノ
ヤウニ農業ノ土地利廻ト云フモノガ、最近
十箇年ノ狀態ヲ見マシテモ、又最近ノ狀勢
ヲ御覽ナサイマシテモ、土地利〓ガ約三分
ニナルカナラナイカデアルト云フコトハ、
是ハ農林當局ナリ、或ハ其方面ノ方ガ明ニ
能ク分ッテ居ル問題デアル、土地ノ利〓ガ
三分ニナルカナラナイカト云フ時ニ、其擔
保價格ノ六分二厘、若シ之ヲ拂フト致シマ
シタナラバ、當然ニ此利率ガ生レテ來ナイ、
生レテ來ナイト致シマスルナラバ、隨テ借
金ハ殘ツテ行クト云フヤウニ、相變ラズ又
借金カラ借金ヘト殘ッテ行ク、折角融通ヲ
付ケテ、サウシテ本當カラ言フナラバ借
金カラ逃レテ行クト云フヤウニスベキモノ
ガ、却テ益〓深入リシテ行クト云フヤウナ
狀態ニナル、加何ニモ六分二厘ト云フナラ
安イヤウデアリマスケレドモ、農業經營ノ
事實カラ考ヘテ見マシテ、六分二厘ガ生レ
ナイ、斯ウ云フコトガ明デアリマスル時ニ、
土地ノ不動產ニ對シマシテ、私ハ能ク存
ジマセヌガ、農村ノ土地ヲ抵當ト致シマス
ル者ニ對シマシテ、六分二厘ト云フコトハ
ドウ云フコトデアラウカ、私ハ利廻ガ三分
ニナリ、四分ニナッテ居ルト云フコトデア
ルナラバ、三分ナリ、四分ニスルト云フ、
農村ノ耕作土地ニ對シマシテハサウスベ
キガ當然デナイカ、斯ウ云フヤウニ私ハ都
會ノ土地ト云フモノト、農村ノ土地ト云フ
モノニ付テ區別ヲスルノガ當然デナイカ、
斯ウ云フ四ツ〓問題ニ付テ御答辯ヲ願ヒタ
イト思フノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=23
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024・秋田清
○議長(秋田〓君) 高橋大藏大臣
〔國務大臣高橋是〓君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=24
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025・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 杉山君ニ御答ヲ
致シマスガ、一寸席ヲ外シテ居リマシタノ
デ、最初カラ伺ヒマセヌデシタガ、地主ニ
行フテ小作人ニ其影響ガ及バナイ、關係ガ
ナクナルト云フヤウナコトダト一寸聽取リ
マシタ、勿論是ハ不動產ノ固定貸ヲ流動化
スルノデアリマスルカラ、小作人ニシテ不
動產ヲ持ッテ居ル者ガ、ソレヲ銀行ニ入レ
テ、宅地ナリ自分ノ住宅地ナリデ金ヲ借リ
テ居ッテソレニ付テ肩代リヲシタイト云
フヤウナ者ハ、小作人ト雖モ出來ルノデア
リマスガ、元々不動產ノ無イ人ガ信用デ金
ヲ借リタト云フ方ニハ、今度ノ此法案ハ及
バナイノデアル、ソレカラ補償ヲ一億トシ
タノハドウ云フ譯カ、土地ノ値下リ-一
時土地ハ大變高クナッタガ、ソレカラ今日
ハ段々値ガ下ッテ居ル、サウシテ將來ト雖
モ土地ガ下ルダラウト云フ御見込ノ下ニ御
尋デアリマシタガ、將來土地ガ下ルカ、下
ラナイカト云フコトニ付テハ、各〓考ヲ異
ニスルダラウト思ヒマス、私モ自分トシテ
ハ將來-士地ト云ッテモ二通リモ三通リ
モアリマス、食料ヲ作ル所ノ、卽チ田畑、
或ハ工業地ニ屬スル所ノ土地、商賣地ニ屬
スル所ノ土地、住宅地ニ屬スル所ノ土地、
是ハ各、其性質ニ依ッテ、將來國富ノ增進
ニ隨ヲテ土地ノ價ガ高クナルト云フ望ヲ囑
スルモノモアルノデアリマス、又國富ハ增
進シテモ其割合ニ土地ノ値ガ上ラヌト云フ
モノモアルノデアリマス、一樣ニハ行カナ
イモノデアリマス、ソレカラ五月以來預金
部デ、此不動產ノ肩代リ、或ハ抵當ヲ取リ、
抵當ニ貸金ヲスルト云フノデ、預金部ニ於
テ二億圓、其內差當リ五千万圓ヲ貸出ス方
法ニシタノデス、併シ其時ニハ此當該銀行
ガ手心ヲシテ、從來ヨリ緩メテ、貸出步合等
モ十分ニ寛大ニシテ貸スヤウニスル、其代
リ預金部カラ出ス金ノ利息ト、貸付ケル利
息トノ間ニ凡ソ三厘バカリノ鞘ヲ設ケテ、
其鞘ヲ積ンデ以テ自己保險ヲシロト斯ウ云
フ譯デアッタ、サウスルト結局八分餘ノ利
息ニナル、其後ノ實驗ニ依リマスト此五
千万圓ノ金ガ相當ニ貸付ケ得ナカッタト云
フコトニ付テハ幾ラモ其原因ガアル、今ノ
其利息ガ八分何厘ハ高イト云フノガ一ツ、
一ツハ從來勸業銀行等カラ金ヲ借リテ居ル
モノハ、年賦ニ依ッテ返金ヲシテ行ク、期
限ガ來テ其年賦金ガ拂ヘナケレバ、遠慮會
釋ナク處分ヲサレル、ソレガ甚ダ酷デアル
サウ云フ目ニ會フノガ嫌ダ、先ヅ成タケサ
ウ云フ金ハ借リタクナイ、寧ロ普通ノ銀行
ヘ行ヲテ、少シハ利息ヲ高ク借リテモ、勸業
銀行ナドカラ金ヲ借リタクナイト云フ考ノ
人モ相當ニアルヤウデス、其他世間デサウ
思ハレテ居ル所ノ勸業銀行ヘ行ヲテ、肩代
リヲシテ自分ガ金ヲ借リルト云フコトハ、
其地方ニ於テ自分ノ信用ヲ失フカラ嫌ダト
斯ウ云フモノモアッタ、併ナガラ此五千万
圓ノ貸出ニ付テ、背ニ腹ハ替ヘラレヌト云
フヤウナ地方ニ於テ-地方ヲ申上ゲルコ
トモ、銀行ノ名ヲ申上ゲルコトモ憚リマス
ガ、二三縣ノ地方ニ於テハ寛大ニ廻ル此
金ガナカッタナラバ、或ハ其地方ニ於テハ
其銀行ガ潰レタリ、預金ノ取付ガ起ヲテ來
ルト云フヤウナ危險ガアッタノデアリマス、
其危險ヲ除クコトハ僅カノ金デアリマス
ルガ、此五千万圓ノ融資ニ依テ實效ヲ擧ゲ
テ居ル、金融界ノコトハ假令百万、二百万
ト云フヤウナ僅ナ金デモ、一千五百万圓、
二千万圓ノ固定貸ヲ持ッテ居ル銀行ノ悲況
ノ場合ニ於テ、二百万圓三百万圓位ノ金デ
其場ヲ凌イデ、其銀行ノ信用ヲ傷ケズニ濟
ムト云フヤウナコトガ實際ニ於テハ始終ア
ルノデス、併ナガラ此五千万圓ハ自家保險
ノ爲ニ三厘ノ鞘ヲ取ラセル、隨テ貸金ガ八
分何厘ニナルト云フヤウナ高イコトデハ
是ハ目的ヲ達シナイ、ソコデ今度ノ補償ト
云フコトニ改メテ御協賛ヲ經ルヤウナコト
ニ致シタノデアリマス、是ハ私ガ不明デアソ
タト云フ御咎ガアレバ甘ンジテソレハ受ケ
マス
信託會社無盡會社ノコトハ、先刻モ御尋
ガアッテ大體御話シタ通リデアリマス、成
程同ジク土地ニ對シテ金ハ放出シテ居ルニ
違ヒナイ、ケレドモ信託會社ノ如キハ是
ハ謂ハヾ初メカラ永久的性質ノ放資デアル、
普通ノ銀行ノ流動スベキ其資本ヲ以テ固定
サセルト云フモノトハ、餘程趣キガ違フノ
デアル、信託會社ハ信託會社ノ業務トシテ、
銀行ノ如ク始終流動シテ置クベキ金ヲ固定
サセルト云フコトハ出來ナイヤウニナッテ居
ル、ソコハ大變ニ違フノデアリマス、信託
會社自身デ、ソレハ法律ヲ守ッテ行キサヘス
レバ差支ナイノデアリマス、ソレカラ利子
ノ六分二厘デハマダ高イト云フコトデアリ
やく、是ハ來ル十月一日ヨリハ預金ノ利
子モ三分ニ下ルコトニナッテ居リマス又
一般ノ銀行ノ貸出及預金ノ利息モ、旣ニ下
ル傾向ニナッテ居リマス、世間ノ金利ガ下〃
テ來マスレバ、此六分二厘ト云フ今日定メ
タ利率モ、是ハ下ゲテ行クコトニナルト御
承知ヲ願ヒタイ、是ダケ申上ゲテ置キマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=25
-
026・秋田清
○議長(秋田〓君) 質疑ハ終局致シマシタ
此際一言致シマス、先刻中島彌團次君
ノ御演說中、國民ヲ欺瞞シテ得タル多數黨
云々ノ言葉ガアッタヤウデアリマス、ハッキ
リ致シマセヌ、若シ左樣ナ御言葉ガアッタ
ト致シマシタナラバ聊カ是ハ穩當ナラズ
ト考ヘルノデアリマス、議長ト致シマシテ
ハ速記錄ヲ取調べマシタ上相當ノ措置ヲ
執ル考デアリマス-日程第三、右各案ノ
審査ヲ付託スヘキ委員ノ選擧ヲ議題ニ供シ
マス
第三右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=26
-
027・上田孝吉
○上田孝吉君 兩案ヲ一括シテ議長指名十
八名ノ委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=27
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028・秋田清
○議長(秋田清君) 上田君ノ動議ニ御異議
アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=28
-
029・秋田清
○議長(秋田満君) 御異議ナシト認メマス、
仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第四乃
至第八ハ便宜上一括議題ト爲スニ御異議ア
リマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=29
-
030・秋田清
○議長(秋田濟君) 御異議ナシト認メマス、
仍テ日程第四、產業組合中央金庫特別融
通及損失補償法案、日程第五、產業組合法
中改正法律案、日程第六、產業組合中央金
庫法中改正法律案、日程第七、製絲業法
案、日程第八、米穀需給調節特別會計法中改
正法律案、右各案ヲ一括シテ議題ト爲シ、
第一讀會ヲ開キマス-農林大臣後藤文
夫君
第四產業組合中央金庫特別融通及損
失補償法案(政府提出)第一讀會
第五產業組合法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
第六產業組合中央金庫法中改正法律
案(政府提出)第一讀會
第七製絲業法案(政府提出)第一讀會
第八米穀需給調節特別會計法中改正
法律案(政府提出)第一讀會
產業組合中央金庫特別融通及損失補
償法案
產業組合中央金庫特別融通及損失補償法
第一條產業組合中央金庫ハ所屬信用組
合聯合會又ハ所屬信用組合ニ對シ其ノ
固定セル債權ヲ資金化シテ金融ノ疏通
ヲ圖ル爲必要アリト認ムルトキハ主務
大臣ノ定ムル所ニ依リ特別融通ヲ爲ス
コトヲ得
第二條產業組合中央金庫ガ前條ノ規定
ニ依ル特別融通ヲ爲スハ本法施行ノ日
ヨリ三年トシ其ノ融通ノ期限ハ本法施
行ノ日ヨリ十五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三條產業組合中央金庫法第十四條ニ
規定スル第十三條第一號ノ規定中貸付
年限及償還方法ニ關スルモノ竝ニ同法
第十四條ニ規定スル第十三條第二號但
書ノ規定ハ第一條ノ規定ニ依ル特別融
通ニハ之ヲ適用セズ
產業組合中央金庫ガ第一條ノ規定ニ依
ル特別融通以外ノ融通ヲ爲ス場合ニ於
テ第一條ノ規定ニ依ル特別融通ノ額及
之ヲ爲ス爲發行スル產業債劵ノ額ハ產
業組合中央金庫法第十三條第二號但書
ノ制限ノ計算上之ヲ算入セズ
第四條產業組合中央金庫ハ第一條ノ規
定ニ依ル特別融通ヲ爲ス爲必要アルト
キハ產業組合中央金庫法第十七條第一
項ノ制限ニ拘ラズ產業債劵ヲ發行スル
コトヲ得
產業組合中央金庫ガ第一條ノ規定ニ依
ル特別融通以外ノ融通ヲ爲ス爲產業債
劵ヲ發行スル場合ニ於テ第一條ノ規定
ニ依ル特別融通ヲ爲ス爲發行スル產業
債劵ノ額ハ產業組合中央金庫法第十七
條第一項ノ制限ノ計算上之ヲ算入セ
ズ
第五條政府ハ第一條ノ規定ニ依ル特別
融通ヲ爲シタルニ因リテ產業組合中央
金庫ガ損失ヲ受ケタルトキハ之ニ對シ
三千萬圓ヲ限リ其ノ損失ヲ補償スルノ
契約ヲ爲スコトヲ得
前項ノ損失ヲ決定スル基準ハ主務大臣
大藏大臣ニ協議シテ之ヲ定ム
第六條第一條ノ規定ニ依ル特別融通ヲ
爲シタルニ因リテ產業組合中央金庫ノ
受ケタル損失及其ノ額ハ產業組合中央
金庫特別融通損失審査會之ヲ決定ス
產業組合中央金庫特別融通損失審査會
ノ組織及權限ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
第七條第五條第一項ノ契約ニ基キ政府
ガ產業組合中央金庫ニ對シテ支拂フベ
キ損失補償金ハ國債證劵ヲ以テ之ヲ交
付スルコトヲ得
第八條政府ハ前條ノ規定ニ依リ交付ス
ル爲必要ナル額ヲ限度トシ公債ヲ發行
スルコトヲ得
第九條本法ニ依リ交付スル國債證劵ノ
交付價格ハ時價ヲ參酌シテ大藏大臣之
ヲルム
第十條本法中主務大臣トアルハ農林大
臣及大藏大臣トス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
產業組合法中改正法律案
產業組合法中左ノ通改正ス
第二條第一項ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ有限責任タルコトヲ得ル組合ハ左
ノ各號ノ一ニ該當スルモノニ限ル
前條第四項ノ信用組合ニシテ定款
ノ定ムル所ニ依リ同條第一項第二號
乃至第四號ノ事業ヲ兼ネザルモノ
二定款ノ定ムル所ニ依リ經濟ニ必要
ナル物ノミヲ取扱フ購買組合ニシテ
前條第一項第一號若ハ第二號ノ事業
又ハ同條同項第四號ノ事業中產業ニ
必要ナル設備ヲ利用セシムル事業ヲ
兼ネザルモノ
第六條ノ二ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第六條ノ三本法中地方長官トアルハ區
域ガ道府縣ノ區域ヲ超ユル產業組合ニ
付テハ之ヲ主務大臣トス
前項ノ規定ニ依ル主務大臣ノ職權ノー
部ハ命令ノ定ムル所ニ依リ之ヲ地方長
官ニ委任スルコトヲ得
第九條第一項第五號ノ次ニ左ノ一號ヲ加
フ
五ノ二保證責任組合ニ在リテハ保證
金額ニ關スル規定
第十條ノ二法人ハ產業組合ノ組合員タ
ルコトヲ得ズ但シ農事實行組合、養蠶
實行組合其ノ他命令ヲ以テ定ムル法人
ハ此ノ限ニ在ラズ
前項但書ノ法人ノ產業組合ノ組合員ト
爲ルニ付必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之
フルチ
第十條ノ三農事實行組合ハ一定ノ地區
內ノ農業者ヲ以テ之ヲ組織シ組合員ノ
共同ノ利益增進ヲ圖ルヲ以テ目的ト
ス
農事實行組合ハ法人トス
農事實行組合ノ地區ハ部落其ノ他之ニ
準ズル區城トス
第十條ノ四蠶絲業組合法第二十條乃至
第二十六條及第四十一條ノ規定ハ農事
實行組合ニ之ヲ準用ス
第十條ノ五組合員タル法人ガ其ノ財產
ヲ以テ債務ヲ完濟スルコト能ハザル場
合ニ於テハ法人ノ組合員ノ全員ハ其ノ
法人ガ產業組合ニ對シ負擔スル一切ノ
債務ニ付連帶無限ノ責任ヲ負擔ス
第十條ノ六組合員タル法人ハ其ノ組合
員ガ脫退シタルトキハ遲滯ナク產業組
合ニ之ヲ通知スベシ
前項ノ場合ニ於テハ脫退シタル組合員
モ亦其ノ通知ヲ爲スコトヲ得
第十條ノ七組合員タル法人ノ組合員ガ
其ノ法人ヨリ脫退シタル場合ニ於テハ
脫退シタル組合員ハ前條ノ脫退ノ通知
前ニ生ジタル法人ノ產業組合ニ對スル
債務ニ付其ノ脫退ノ通知後二箇年間第
十條ノ五ノ規定ニ依ル責任ヲ負擔ス
第十條ノ八組合員タル法人ニ加入シタ
ル組合員ハ其ノ加入前ニ生ジタル法人
ノ產業組合ニ對スル債務ニ付テモ亦第
十條ノ五ノ規定ニ依ル責任ヲ負擔ス
第三十一條ノ三理事ハ少クトモ每事業
年度一囘通常總會ヲ開クコトヲ要ス
第三十二條中「、第六十條」ヲ削ル
第四十七條ニ左ノ但書ヲ加フ
但シ定款ヲ以テ六箇月ト爲スコトヲ得
第四十八條ノ次ニ左ノ一條ヲ加フ
第四十八條ノ二組合ハ定款ノ定ムル所
ニ依リ定款ニ違反シタル組合員ニ對シ
過怠金ヲ課スルコトヲ得
第五十條第一項ヲ左ノ如ク改ム
定款ヲ以テ組合ノ存立時期ヲ定メタル
ト否トヲ問ハズ組合員ハ六箇月前ニ豫
〓ヲ爲シ事業年度ノ終ニ於テ脫退スル
コトヲ得但シ第四十七條但書ノ規定ニ
依リ事業年度ヲ六箇月ト爲シタル組合
ニ在リテハ豫〓ハ三箇月前ニ之ヲ爲ス
ヲ以テ足ル
第六十二條ノ二組合定款ニ定メタル存
立時期ノ滿了ニ因リテ解散シタル場合
ニ於テハ組合員ノ三分ノ一一以上ノ同意
ヲ以テ組合ヲ繼續スルコトヲ得此ノ場
合ニ於テハ存立時期滿了ノ日ヨリ一箇
年內ニ認可ヲ申請スルコトヲ要ス
前項ノ繼續ニ同意セザル組合員ハ組合
繼續ノ時ニ於テ脫退シタルモノト看做
ス
第七十六條第二項中「及購買組合聯合會」
アル
第七十六條ノ三道府縣ヲ區域トスル信
用組合聯合會ハ定款ノ定ムル所ニ依リ
所屬組合又ハ所屬聯合會ニ對シ手形ノ
割引ヲ爲スコトヲ得
第七十七條第二項ヲ左ノ如ク改ム
產業組合聯合會ノ組織ハ保證責任トス
同條第三項中「保證責任產業組合聯合會」
ヲ「產業組合聯合會」ニ改ム
第七十九條第三項ヲ削ル
第八十條ノ二產業組合聯合會ノ所屬組
合及所屬聯合會ノ有スベキ出資口數ハ
百口ヲ超ユルコトヲ得ズ但シ特別ノ事
由アルトキハ定款ノ定ムル所ニ依リ五
百口迄之ヲ增加スルコトヲ得
第八十一條中「本章ニ規定アルモノ」ノ下
ニ「及第十條ノ五乃至第十條ノ八ノ規定」
ヲ加ヘ同條但書ヲ左ノ如ク改ム
但シ第七條中七人以上トアルハ之ヲ二
人以上トシ第六十二條第一項第四號中
七人未滿トアルハ之ヲ二人未滿トス
第九十二條中「第五條乃至第七條」ヲ「第
五條乃至第六條ノ二、第七條」ニ改ム
附則
第一條本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之
ヲルメ
第二條本法施行前ニ設立シタル有限責
任ノ組合(第二條第一項但書ノ改正規
定ニ揭グル組合ヲ除ク)又ハ聯合會ニ
付テハ本法施行ノ日ヨリ三箇年ヲ限リ
第二條第一項但書及第七十七條ノ改正
規定ニ依ラズ仍從前ノ規定ニ依ル
第三條前條ノ組合ハ同條ノ期間內ニ總
會ニ於テ總組合員ノ半數以上出席シ其
ノ議決權ノ四分ノ三以上ヲ以テスル決
議ニ依リ其ノ組織ヲ變更シ保證責任ノ
組合ト爲スコトヲ得
前項ノ組織變更ニ同意セザル組合員ハ
勅令ノ定ムル所ニ依リ組織變更ノ時ニ
於テ脫退シタルモノト看做ス
前二項ノ規定ハ前條ノ聯合會ニ之ヲ準
用ス
第四條附則第二條ノ組合又ハ聯合會ニ
シテ同條ノ期間內ニ其ノ組織ヲ變更シ
テ左ニ掲グル組織ト爲サザルモノハ其
ノ期間滿了ノ日ニ於テ解散ス
一組合ニ在リテハ保證責任又ハ無限
責任
二聯合會ニ在リテハ保證責任
第五條第十條ノ二第一項ノ改正規定ニ
依リ產業組合ノ組合員タルコトヲ得ザ
ル法人ニシテ本法施行ノ際現ニ產業組
合ノ組合員タルモノハ當分ノ內仍其ノ
組合員タルコトヲ得此ノ場合ニ於テハ
第十條ノ五乃至第十條ノ八ノ規定ヲ適
用セズ
第六條蠶絲業組合法第二十三條第二項
第一號中「第一號乃至第三號、第十號及
第十一號」ヲ「第一號、第二號及第四號」
ニ改メ同條同項中第二號ヲ削リ第三號
ヲ第二號トシ第四號ヲ第三號トス
第七條蠶絲業組合法第二十六條ニ左ノ
但書ヲ加フ
但シ民法第四十八條及第七十七條中一
週間トアルハ之ヲ二週間トス
產業組合中央金庫法中改正法律案
產業組合中央金庫法中左ノ通改正ス
第五條第二項ヲ左ノ如ク改ム
產業組合聯合會ノ有スベキ出資口數ハ
千口ヲ、產業組合ノ有スベキ出資口數
ハ五百口ヲ超ユルコトヲ得ズ
第七條中「本法ニ別段ノ規定アルモノ」ノ
下ニ「及產業組合法第十條ノ五乃至第十
條ノ八ノ規定」ヲ加フ
第八條第一項中「營業稅」ヲ「營業收益稅」
二錢六
第十五條產業組合中央金庫ハ左ノ方法
ニ依ルノ外業務上ノ餘裕金ヲ運用スル
コトヲ得ズ
一國債證劵、地方債證劵又ハ主務大
臣ノ認可ヲ受ケタル有價證劵ノ買入
ヲ爲スコト
二大藏省預金部若ハ主務大臣ノ認可
ヲ受ケタル銀行ヘノ預金又ハ郵便貯
金ト爲スコト
三產業組合聯合會又ハ產業組合ニ對
シ短期貸付ヲ爲スコト
前項ノ餘裕金運用ニ關シ必要ナル事項
ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム
第二十三條中「一箇年」ヲ「六箇月」ニ改ム
第二十五條第二項中「農商務大臣」ヲ「農
林大臣」ニ改ム
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム但
シ第二十三條ノ改正規定ハ昭和八年四月
一日ヨリ之ヲ施行ス
製絲業法案
製絲業法
第一條本法ニ於テ製絲業者トハ命令ヲ
以テ規定スル者ヲ除クノ外器械生絲ノ
製造ヲ業トスル者ヲ謂フ
器械生絲ノ製造工場ヲ有スル產業組合
及產業組合聯合會ハ命令ヲ以テ規定ス
ルモノヲ除クノ外本法ノ適用ニ付テハ
之ヲ製絲業者ト看做ス
第二條製絲業者タラントスル者ハ主務
大臣ノ免許ヲ受クベシ
前項ノ免許ニ關シ必要ナル事項ハ命令
ヲ以テ之ヲ定ム
第三條主務大臣ハ製絲業者ニ對シ製絲
業ノ統制上必要ナル事項ヲ命ズルコト
ヲ得
第四條製絲業者免許ヲ受ケタル日ヨリ
一年以内ニ事業ヲ開始セザルトキハ主
務大臣ハ其ノ免許ヲ取消スコトヲ得
製絲業者引續キ一年以上其ノ事業ノ全
部又ハ一部ヲ爲サザルトキハ主務大臣
ハ其ノ免許ヲ取消シ又ハ其ノ事業ヲ制
限スルコトヲ得
第五條製絲業者ノ所爲ニシテ本法ニ基
キテ發スル命令若ハ處分ニ違反シ又ハ
公益ヲ害シ若ハ害スルノ虞アリト認ム
ルトキハ主務大臣ハ其ノ免許ヲ取消シ
又ハ其ノ事業ヲ制限シ若ハ停止スルコ
トヲ得
第六條主務大臣又ハ地方長官取締上必
要アリト認ムルトキハ製絲業者ニ對シ
事業ニ關スル報告ヲ爲サシメ又ハ當該
官吏ヲシテ事務所、營業所、工場、倉
庫其ノ他ノ場所ニ臨檢シ若ハ帳簿物件
ヲ檢査セシムルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ當該官吏ハ其ノ身
分ヲ證明スベキ證票ヲ携帶スベシ
第七條第二條第一項ノ規定ニ違反シタ
ル者ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス
第八條左ノ各號ノ一ニ該當スル者ハ五
百圓以下ノ罰金ニ處ス
一本法ニ基キテ發スル命令ニ依ル制
限又ハ禁止ニ違反シタル者
二第三條ノ規定ニ依ル命令ニ違反シ
タル者
三第四條第二項ノ規定ニ依ル制限又
ハ第五條ノ規定ニ依ル制限若ハ停止
ノ處分ニ違反シタル者
四正當ノ理由ナクシテ第六條ノ規定
ニ依ル臨檢檢査ヲ拒ミ、妨ゲ若ハ忌
避シ又ハ其ノ尋問ニ對シ虛僞ノ陳述
ヲ爲シタル者
第九條製絲業者正當ノ理由ナクシテ第
六條ノ規定ニ依ル報〓ヲ怠リタルトキ
ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
第十條製絲業者ハ其ノ代理人、戶主、
家族、同居者、雇人其ノ他ノ從業者ガ
本法又ハ本法ニ基キテ發スル命令ニ違
反シタルトキハ自己ノ指揮ニ出デザル
ノ故ヲ以テ其ノ處罰ヲ免ルルコトヲ得
ズ
第十一條本法又ハ本法ニ基キテ發スル
命令ニ依リ製絲業者ニ適用スベキ罰則
ハ其ノ者ガ法人ナルトキハ理事、取締
役其ノ他ノ法人ノ業務ヲ執行スル役員
ニ、未成年者又ハ禁治產者ナルトキハ
其ノ法定代理人ニ之ヲ適用ス但シ營業
ニ關シ成年者ト同一ノ能力ヲ有スル未
成年者ニ付テハ此ノ限ニ在ラズ
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
本法施行ノ際現ニ製絲業者タル者又ハ其
ノ承繼人ハ命令ノ定ムル所ニ依リ本法施
行ノ日ヨリ十年間之ヲ本法ニ依リ免許ヲ
受ケタル者ト看做ス但シ本法施行ノ日ヨ
リ十年以内ニ命令ノ定ムル條件ヲ具備シ
主務大臣ノ認可ヲ受ケタル者ニ限リ其ノ
期間經過後ト雖モ仍免許ハ其ノ效力ヲ有
ス
米穀需給調節特別會計法中改正法律
米穀需給調節特別會計法中左ノ通改正ス
第四條ノ三中「三億五千万圓」ヲ「四億五
千万圓」ニ改ム
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=30
-
031・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 只今議題トナリ
マシタ各法案ニ付キマシテ順次御說明ヲ申
上ゲタイト存ジマス
第一ニ產業組合中央金庫特別融通及損失
補償法案ノ說明ヲ致シマス、現下經濟界ノ
異常ナル不況ノ結果、農村都市ニ於ケル中
小產者ノ主要ナル金融機關デアリマス信用
組合及信用組合聯合會ノ貸付ノ中デ、固定
貸付ニナッテ居ルモノガ少クナイノデアリ
マス、是ガ爲ニ產業組合ノ活動ヲ阻害シテ、
金融ノ梗塞ヲ來シ、中小產者ノ困憊ガ著シ
イモノガアリマス、故ニ信用組合及信用組
合聯合會ノ固定シテ居ル債權ヲ資金化致シ
マシテ、金融ノ疏通ヲ圖ルコトガ頗ル急務
デアルト考ヘタノデアリマス、仍テ此法律
案ヲ提出致シマシテ、產業組合ノ中樞金融
機關デアル產業組合中央金庫ニ低利ノ資金
ヲ融通シマシテ、特別ノ融通ヲサセマシテ、
其結果生ズル中央金庫ノ損失ガアッタ場合
ニハ三千万圓ヲ限度トシテ政府ニ於テ之
ヲ補償スルト云フコトニ致シタノデアリマ
ス、其損失ノ決定ヲ公正ナラシムル爲ニ
ハ、勅令ヲ以テ產業組合中央金庫特別融通
損失審査會ヲ置クコトニ致シマシテ、又產
業組合中央金庫ニ對スル補償ハ、公債ノ交
付ヲ以テ之ヲ爲シ得ルコトヽ致シタノデア
リマス、以上述べマシタ如ク本案ノ趣旨ト
スル所ハ、現在ノ梗塞セル中小產者ノ金融
ノ疏通ヲ圖ルコトニアルノデアリマス、資
金ノ融通ノ衝ニ當ッテ居ル產業組合中央金
庫ニ對シマシテハ十分指導監督シテ、本法
ノ運用ニ遺憾ナカラシメタイ考デアリマ
ス、何卒愼重御審議ノ上御協贊ヲ願ヒタイ
ト存ジマス
次ニ產業組合法中改正法律案ノ提出ノ理
由ヲ說明致シマス、產業組合ガ中小產者ノ
產業及經濟ノ重要ナル機關デアリマスコト
ハ今更申スマデモアリマセヌ、其機能ヲ充
實シテ、普ク是ガ利用ヲサセルコトハ現
下ノ經濟界ノ異常ノ不況ニ際シマシテ、中
小產者ガ產業及經濟ノ更生ヲ圖ルガ爲ニハ
必要デアリマスノミナラズ、政府ニ於テ此
度行ヒマスル色々ノ資金ノ供給、其他ノ施
設ヲ徹底セシメマスル上ニ於テモ、此產業
組合ヲ充實サセルト云フコトガ洵ニ緊要デ
アリマス、仍テ茲ニ法律案ヲ提出致シマシ
テ產業組合法ノ改正ヲ致サントスル次第デ
アリマス
其改正ノ要旨ヲ簡單ニ申シマスト、第
ニハ此際產業組合ノ信用限度ヲ擴張シマシ
テ資金ノ融通ヲ圓滑ニ致シタイノデアリ
やく、唯單ニ普通ノ產業組合ニアリマシ
テ、市街地ニ於ケル信用組合及經濟用品ノ
ミヲ取扱フ購買組合、所謂消費組合ト云フ
モノハ少シク事情ガ違ツテ居リマスノデ、
是ハ除外致シマスガ、其外ノ產業組合ハ保
證責任、又ハ無限責任ノ組織ヲ原則ト致サ
ウトスルノデアリマス、聯合會ニ於キマシ
テハ總テ保證責任ノ組織ト致サウト云フノ
デアリマス、現在ノ有限責任ノ組合、又ハ聯
合會ハ今後三年ノ間ニ其組織ヲ變更セシム
ルコトヽ致スノデアリマス、次ニ產業組合
ノ活動ヲ促進シ、農家ヲシテ普ク組合ヲ利
用セシムル道ヲ開クガ爲ニ、現ニ農村ニ發
達シテ居リマス農事實行組合ヲ簡易ノ法人
トシマシテ、又養蠶實行組合ヲモ合セテ、
此農事實行組合ヤ養蠶實行組合ガ組合ノ儘
ニ產業組合ノ組合員トナッテ、產業組合ヲ
利用スルコトガ出來ルヤウニ致サウトスル
ノデアリマス、第三ニハ道府縣區域ノ信用
組合聯合會ノ機能ヲ更ニ擴充致シマスル爲
ニ、手形ノ割引ヲ爲シ得ルコトニ致シタノ
デアリマス、第四ニハ產業組合聯合會ノ資
力ノ充實ノ爲ニ、其聯合會ノ組織者ノ有ス
ル出資ノ口數ヲ增スコトニ致シマシタ、以
上改正案ノ要旨デアリマス、十分御審議ノ
上御協賛ヲ得タイト存ズル次第デアリマス
次ニ只今申シマシタコトニ關聯シマシ
テ、產業組合中央金庫法ノ簡單ナ改正案ヲ
提出シテ居リマス、產業組合法ノ改正ト俟
チマシテ、產業組合中央金庫ノ機能ヲ充實
スル爲ニ、同金庫ノ組織者デアル各組合ノ
出資口數ノ增加、又餘裕金ノ運用方法ノ擴
張事業年度ノ改正ト云フヤウナ點ニ付キ
マシテ、改正ノ法律案ヲ提出致シタ次第デ
アリマス
次ニ製絲業法案ノ提出ノ理由ヲ申上ゲマ
ス、製絲業ハ我國ノ重要產業ノ一ツデアリ
マスルコトハ申スマデモアリマセヌガ、大
小ノ企業ガ亂立シマシテ、就中小規模ノ工
場ガ甚ダ多數ヲ占メテ居ルノデアリマス、
是等ノ小規模工場ハ、其設備ノ過小ナル結
果ト致シマシテ、生產竝ニ販賣上ノ不備ガ
少クアリマセヌ、又其資力等ガ十分デナイ
爲ニ經營ノ基礎ガ堅實ヲ缺イテ、製品ノ改
善ヲ妨ゲル場合ガアリマスルノミナラズ、
一朝絲價ノ變動ニ遭ヒマスト、之ニ善處ス
ルノ力ヲ有セザルガ爲ニ、或ハ休業シタリ
罷業スルヤウナ工場ガ出マシテ、累ヲ養蠶
者ニ及ボシ、又從業ノ職工ニ及ボスト云フ
コトガ甚ダ少クナイノデアリマス、又時々
絲價ガ好轉ヲ致シマスルト云フト、忽チ新
設ノ工場ガ出來タリ、副業ノ工場ガ出來タ
リ致シマシテ、其興廢ガ洵ニ繁キモノガア
ルノデアリマス、是ガ爲ニ業界ノ安定ヲ妨
ゲ、累ヲ蠶絲業ノ全般ニ及ボシテ居ルヤウ
ナ事態デアリマシタ、故ニ速ニ此事業ニ於
ケル弊害ヲ矯正スルノ方策ヲ講ズルコトガ
蠶絲業ノ健全ナル發達ヲ期スル上ニ極メテ
緊要ナコトダト考ヘタノデアリマス、是ガ
方策ト致シマシテハ、製絲業ヲ免許事業ト
ナスコトガ最モ適切ダト思フノデアリマ
ス、之ニ依テ製絲業ノ經營ニ一定ノ基準ヲ
與ヘマシテ、旣存ノ小サナ工場ノ規模ニ付
テハ一定期間內ニ奬勵助長ヲ加ヘテ、是
ガ整理ヲ促シマスト共ニ、製絲業ニ對シテ
ハ政府ニ於テ監督取締ヲ加ヘマシテ、尙ホ
必要ナ際ニハ統制ヲ加ヘルノ權能ヲ留保シ
タイト云フノデアリマス、製絲業法案ハ右
樣ノヤウナ諸點ヲ骨子トスルモノデアリマ
ス、是ガ施行ニ依テ製絲業ノ統制ヲ圖リ
蠶絲業全般ノ健全ナ發達ノ一端ニ資シタイ
ト考ヘテ居ルノデアリマス、何卒御審議ノ
上速ニ御協贊ヲ願ヒタイト存ジマヌ
尙ホ米穀需給調節特別會計法中ノ改正法
律案ノ理由ヲ御說明申上ゲマス、米穀需給
調節特別會計ニ於ケル借入金ノ現狀ニ鑑ミ
マスト、此際其借入限度ノ擴張ヲ行ヒ、以
テ今後ノ米穀需要ニ應ジテ需給調節上遺憾
ナキヲ期スルコトガ極メテ緊要ナルノデア
リマス、仍テ今囘更ニ一億圓限度ノ擴張ヲ
行ハントスルノデアリマシテ、是ガ本案ヲ
提出スル所以デアリマス、ドウカ愼重ニ御
審議ノ上速ニ御協賛アランコトヲ切望致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=31
-
032・秋田清
○議長(秋田〓君) 通〓ノ順序ニ依リマシ
テ質疑ヲ許シマス-〓家吉次郞君
〔〓家吉次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=32
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033・清家吉次郎
○〓家吉次郞君 產業組合ノ效果ヲ擧ゲテ
成功スルヤ否ヤハ、其組合ヲ組成スル組合
員及之ヲ世話スル役員及立法ニ至ル迄悉ク
眞劍味ヲ帶ブルヤ否ヤガ決定ヲ與ヘル譯デア
リマス(拍手)今囘ノ改正ニ付キマシテハ
我國ノ產業組合員ヲシテ或ハ債權ノ保證ヲ
サセ、遂ニ無限責任ニマデ達シマシタコト
ハ、其眞劍味ヲ與ヘルニ於キマシテ大ナル效
果ガ必ズアルモノト信ズルノデアリマス、
日本ノ產業組合ガ必要ニ迫ラレテ起ッタモ
ノニアラズシテ、法律ニ依テ促サレテ起ノ
タノデアル、玆ニ凡百ノ弊害ガ萌シテ居ノ
タト信ズルノデアリマス、南獨逸ノ國民ガ、
彼ノ瘦地ニ於テ農業ヲ營ミ、到底引合ハヌガ
故ニ、何トカシテ利益ヲ擧ゲタイト云フ〓
望ニ依テ自ラ產業組合ヲ作リ、若クハ丁抹
ノ國民ガ、彼等ノ常業トシテ居ル所ノ小麥耕
作ガ引合ハナクナリ酪農業ニ轉ジ、玆
自ラ產業組合ヲ作ッテ五十幾種モアル所ノ
澤山ナ產業組合ガ皆無限責任ニナッテ居ル
狀態ヲ見マシテ、顧ミテ我國ノ產業組合ヲ
見マスト實ニ殘念ニ考ヘタノデアリマシタ
ガ、幾分玆ニ眞劍味ヲ添ヘタト云フコトハ
此組合ノ爲ニ非常ニ喜ブ次第デアリマス
併ナガラ私ハ組合ヲ組成スル所ノ人ノ心得、
其責任ノ自覺竝ニ之ヲ指導シ運用スル所ノ
人々ニ對スル事柄ニ付テ、農林省ハ如何樣ニ
シテ之ヲ能ク指導モスレバ管理モシ、監督
モシテ行クカ啻ニ金錢上ノ問題ニ付テハ
無限責任ヲ負ハセテ財產ノ全部ハ取上ゲル
マデ參ッテ居リマスガ、組合員ト云フモノ
ニ對シテハ何等ノコトガナイ、是迄ノ通リ
デアル玆ニ一ツ少々月次ニハ違フテモ差
支ハナイ、非常時デアル、非常ノ時ニハ非
常ノ事ヲ行ッテ然ルベキデアル、從來ノ法
的考カラモウ一ツ超脫ヲ致シマシテ是ハ
組合員ハ强制ヲ以テモ入レベキ法ヲ採ルベ
キデアッタ、現ニ商業組合法ノ第九條ニハ、
加入セザル者ト雖モ統制ヲ行フコトガ出來
ルトナッテ居ル、是ハ農林大臣ヂヤナイ、商
工大臣ノ方デ御提案ニナッテ居ルノデアリ
マセウガ、同ジモノデアリマスカラ一寸モ
差支ハナカラウト思フ、今日ノ如タ自由加
入ノ法ニ依テ滿足ヲシテ居ルヤウナラ、到
底本當ノ產業組合ハ出來マイト私ハ思フノ
デス、私共ハ空論ヲ玆ニ吐クノデモアリマ
セヌ、實際ノ問題ヲ體驗致シマシテ種々ナ
ル障碍ニ出遭ッテ居ルノデアリマス、卽チ出
荷ヲ統一シテ荷物ヲ出サウトシテモ、其利
益ハ總テノ者ガ均霑シナガラ、先ヅ四分カ
二分ノ一ノ人間ハ狡クモ加入ヲ致シマセ
又、故ニ統制ノ出來ナイト云フコトヲ吾々
ハ見テ居ル-見テ居ルドコロデハナイ實
際ニ出會シテ居ル、又蠶絲業法ニ依リマス
ル組合ニ於キマシテモ、自由制ヲ採ッテ居
リマスカラシテ、到底此大事ナ蠶絲業ニ對
シマシテ、統制アル良イ仕事ヲシテ行クコ
トガ出來ナクナッテ來テ居ルノデアリマシ
テ是ハ六十二議會ニ於キマシテ、後藤農
林大臣ニ徹底的ニ質問ヲスル積リデ始メテ
居リマシタガ、午後ニ他ノ會ニ御出ニナツ
テ、豫算總會ハ放シテ置イテ御出ニナラナ
カッタノデ、十分ニ御尋スルコトハ出來マ
セヌデシタガ、斯樣ナコトヲシテ宜シイカ
惡イカ、ソレハ今日申上ゲマスマイ、ケレ
ドモ甚ダ宜シクナイト思フ、十分ニ御尋ハ
出來ナカッタノデアリマスガ、此養蠶業等
ト申シマシテモ、苟且ニモ蠶種ヲ買入レテ
掃立テヽ桑ヲヤッテ繭ニスレバ、ソレデ
宜イコトダト思ヒマスナラバ、ソレハ養蠶
業ヲ知ッタ人デナイト思フ、蠶種ノ統一ノ
必要ナルコトハ萬人皆知ル所デアリマス
ガ、更ニ飼育ノ統制ガナケレバ、繭質ノ改
良ハ出來ナイ、異ナル蠶種ニ依テ作ラレタ
ル繭ヨリモ、同一種類デアッテモ飼育ノ方法
ガ違ヒマスト云フト、非常ナル相違ヲシタル
所ノモノガ出來テ來ルノデアリマス、故
飼育ニ付キマシテモ、飼育法ト云フモノヲ
蠶絲業組合ニ於テ決定ヲ致シマシテ、組合
員全部ガ之ヲ遵奉スルニ非ザレバ品ノ
揃ッタモノハ出來ナイノデアリマスガ、今日
ノ如ク自由加入デハ、ソレハ到底出來マセ
ヌ、又只今迄ノ養蠶〓師トカ養蠶家ト云フ
モノハ繭ニスルマデヲ己レノ任務ト致シ
テ居リマシタケレドモ、是デハ其業務ヲ全
ウシタモノデハアリマセヌ、其間ニ肝腎ナ
ル上簇ガ淺ッテ居リマス、此上簇ノ不合理
ニシテ改良セラレザルガ爲ニ、其絲量ノ增
加セザルコト、若クハ解舒ノ惡イコトハ夥
シイモノデアリマシテ、當年ノ春蠶ニ於キ
マシテモ、十分ナル上簇ノ改良ヲ致シマシ
タ處デハ、殆ド十六匁ニ近イ所ノ絲量ヲ上
ゲテ居ル、サウスレバ僅ニ二十二三掛デモ
殆ド四十錢ヲ超エタ所ノ値段ヲ生ジテ來
ル、是ハ國益ニ對シマシテ貢獻スル所實ニ
宏大ナルモノデアルガ、自由組合デハ是ハ
出來ナイ、故ニ吾々ハ何ト致シマシテモ强
制加入ヲシテ、蠶種ヨリ成繭ニ至ルマデヲ
總テ統一シナケレバ相成ラヌト心得テ居ル
ノデアリマス、此點ニ於キマシテ農林大臣
ハ大分斯ウ御樂ナ考ヲ持ッテ居ラレルノデ
アリマシテ、コンナコトデハ統制ガ出來マ
スマイガト豫算總會デ御尋ヲシタ時分ニ、
ソレデモ無イヨリハ增シデ、チットハ出來
ルヂヤナイカト御答ニナッテ居ル、蠶絲業
法ノ大切ナル仕事ニ對シマシテ、半數足ル
カ足ラヌカ、好イ加減ニ統制セラレテ、ソ
レデ滿足セラレテ居ルト云フコトハ、農林
大臣ノ平生ニ御似合ニナラヌコトデ、思切〃
タル統制ヲヤルノガ當然カト思ヒマス、又
吾々モ委員會ニ於テ出來ルダケノ修正ヲ加
ヘヤウ、サウスルト御提案ニナッテ居ル大
半ヲ改メナケレバナラナイヤウニナリマス
ガ、是ハ御互ニ切磋〓磨致シマシテ、拘ハ
リナシニ、御役人ハ兎角我儘デ、自分ノ面
目バカリヲ重ンズルモノダカラシテ、之ヲ
改正シヤウトスルト云フト、兎角ニ反對ノ
言葉ガ出ルモノデアリマスガ、虛心坦懷、
國家ノ爲ニト云フノデ、ドウカ良イ考ガ出
タラ、ソレニ御贊同相成リタイト思ヒマス
ガ、ソレデモヤハリ今迄ノヤウナ御考デオ
出デニナッタラ、非常時ノ對策ニ熱心ナル
農林大臣ノ爲サルヽ所ノ御考トハ思ヘマセ
ヌガ如何デアリマスカ(拍手)ソレカラ序ニ
中央金庫ノ改正案モ御出シニナッテ居リマ
スガ、是トテモ現行ノ改正セラレナイ所ノ
中央金庫ナドハ果シテ其任務ヲ盡シテ居
ルヤ否ヤ、全ク中央金庫ト云フモノ程、
不親切ナル官僚ガ、其事務ヲ執ルモノハ
ナイ、何トナレバ當年ノ春以來、繭價ノ變
動モ著シイモノデ、四百幾十圓ノ絲ガ千
圓ヲ今日ハ突破スル、サウスレバ繭ノ値
段ハ嫌デモ上ラナケレバナラヌ、春繭ニ
於テモ良イ繭ハ四十錢以上ニモ當ルベキ
モノヲ、百匁ニ付テ應急資金ハ僅ニ十六錢
出サウト云フコトデアッタシ、今度又秋繭
ニ對シテモ十六錢デ宜イト言フ、而モ今日
ノ絲ノ値段デ十六錢貸シタラ、何分ノ一ニ
當ルト考ヘラレルノカ、是マデ農林省モ指
導監督ノ方法ヲ誤ッテ居ラッシヤル殊ニ大
正十四五年ニ建テタ乾繭裝置ナドハ鐵筋
「コンクリート」ノ堂々タル倉庫、而モ是ハ
用ヒルニ都合ノ惡イモノデアル、金バカリ
大分使ハシテ役ニ立タヌモノヲ建テサシ
テ、多クノ固定資本ヲ打被セテ居ル、而モ
其半バノ借金ノ源ハ、農林省ガ申付ケテ作。ン
テ居リナガラモ、唯其借金ガアルガ爲ニ非
常ナル壓迫ヲソレ等ノ組合ニ加ヘルコトハ
當年ノ春モ或縣ノ乾繭組合ニ對シテ
ハ增資ヲシナケレバ貸サヌト威シタ、今
頃增資ノ出來ル時カ出來ヌ時デスカ、分リ
切ッタ時勢デハナイカ、又吾々自身デモ四十
万圓借リタイト申込ンダノニ、僅ニ七万圓
後トデ貸シタガ、何ト云フコトカ、今囘モ
十六錢デ、而モ二十万貫分申込ンデアルニ
拘ラズ、僅ニ八万圓貸サウト云フコトヲ通
ジテ來テ居ル、是ハ親切ナ遺リ方デアルカ、
又自分ノ任務ヲ盡シテ居ルモノデアルカ、
產業組合法ガ今度改正セラレテ、愈、產業
組合中央金庫自體ノ任務ヲ行フニ便利ニナツ
テ來マシテモ、今迄ノ考デハ駄目ヂヤナ
イカ、惡イ乾繭組合ハ、政府ノ指導宜シキ
ヲ失ッテ斯ク惡イ組合ニナッテ來タノデア
ルカラ、ソレハ心配ヲシテ救ハナケレバナ
ラヌ、サウ云フ應急資金ト云フモノハ、繭ノ
現物ヲ抵當トシテ納メルモノデアルカラ、
組合カ惡カラウガ、善カラウガ、ソコノ手
加減ハ要ラヌ、然ルニ手加減ヲ加ヘテ居ル
ノガ現在デアル、此點ニ於キマシテハ農林大
臣ハ御存知ナイカモ知レナイガ、御手近ノ、
而モ農林大臣ノ監督ノ下ニアルノデアルカ
ラ、斯樣ナ取扱ヲ爲サシメザルヤウナ工合
ニ一ツ-一ツヂヤナイ、二ツモ三ツモ御
注意相成リタイコトヽ存ジマス(拍手)事柄
ガ極メテ眞面目ナ問題デアリマシテ、多ク
皆サンノヤウナ.工合ニ長廣舌ヲ振フニモ甚
ダ不適當デアリマスカラ、簡單ニ僅カ一ツ
程御尋シタ譯デ、極メテ少イノデアリマス
ガ、委員會デハ若シ私ガ出席スルナラバ澤
山ヤリマス、私ハ委員會ニ適當ナ間題ヲ此
演壇ニ於テ申述ベヤウトハ考ヘマセヌカ
ラ、是デ降壇致シマス(拍手)
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=33
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034・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 產業組合ノ法律
ヲ改正シテ責任ノ限度ヲ擴張スルコトハ洵
ニ宜シイガ、產業組合ノ經營ハ其經營ニ
當ル人ニ依ル、又經營ヲ良クヤルヤウニシ
ナケレバイカヌ、其人ヤ、經營ヲ良クヤラ
セルト云フコトニ付ア、ドンナ注意ヲ持ツ
テ居ルカト云フコトガ第一ノ御尋デアッタ
ヤウデアリマス、是ハモウ至極御同感デア
リマス、其爲ニ此度提出シマシタ豫算ノ中
三、一產業組合ノ幹部ニナル人々ノ養成ニ
付テ、又產業組合ノ指導ヤ監督ノコトニ付
キマシテ、十分ニ產業組合ノ中央會其他ノ
機關ヲ働カセタイト思ッテ居リマスシ、又各
地方廳ニ於キマシテモ、此產業組合ノ指導
奬勵ニハ十分ニ力ヲ盡サセタイ、各農村ニ
於ケル經濟ノ將來ノ計畫ニ付キマシテモ、
刷新サレ改善サレタ組合ト云フモノヲ、十
分ニ利用スルヤウニシテ行キタイト云フヤ
ウナ考デ居リマス譯デアリマス、此際ニ產
業組合ヲ本當ニ町村ニ普及サセヨウト云フ
ナラバ、唯自由ノ加入デハイカヌ、强制加入
ニサセナケレバイカヌノデハナイカト言ツ
タヤウナ趣旨ノ御尋ガアッタヤウデアリマ
ス、今日迄產業組合ハ自由ニ入ルコトデ、任
意ノ組合トシテ發達シテ來テ居リマス、此
際ニ直チニ之ヲ强制的ニ組合ニ加入サセル
コトガ善イカ惡イカト云フコトハ非常ニ考
慮ヲ要スル問題デアラウト考ヘテ居リマ
ス、ソレカラ蠶絲業ニ關聯シテ養蠶組合ノ
御話ガアリマシタ養蠶組合等ニ付テモ、
モウ少シ十分ニ普及サセ、徹底的ニ此組合
ニ入ルヤウニサセナケレバ養蠶組合ニ依
ル養蠶ノ統制ト云フコトハ中々行ハレヌデ
ハナイカ、是モ御意見ノ如ク洵ニ御同感デ
アリマス、併シ蠶絲業法ハ僅ニ先年施行シ
マシタヤウナ譯デアリマシテ、斯ウ云フコ
トヲ唯强制的ニ非常ニ急速ニ進メルト云フ
コトガ、果シテ適當デアルカドウカト云フ
コトニ付キマシテハ能ク考究ヲシナケレ
バナラヌト思ヒマス、又篤ト御意見ヲ伺フ
機會モアラウカト存ジマス、デ色々良イ案
ガアッタナラバ、虛心坦懷ニ政府ノ當局モ
贊成ヲスルガ宜シイデハナイカ、是モ至極
御同感デアリマス、適切ナ妥當ナ良イ案ガ
アリマス時ニ、吾々ノ想ヒ及バヌコトガア
リマスナラバ、之ニ御贊同スルコトニハ決
シテ吝デハアリマセヌ、ソレカラ最後ニ中
央金庫ノコトニ付テ、色々御批評ガアリマ
シタヤウデアリマス、中央金庫ノ運用ニ付
テハ吾々モ十分ニ注意シ、十分ニ監督シテ
參リタイト思ッテ居ル次第デアリマス
〔靑家吉次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=34
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035・清家吉次郎
○〓家吉次郞君 大體農林大臣モ御同意デ
アリマシテ先ヅ朝令暮改ヲ忌ム位ノ點ヲ
御心配ニナッテ居リマスガ、ソンナコトハ
問題ニナリマセヌ、昨日作ッタモノヲ今日
改メテモ少シモ差支ナイト思ヒマスガ、特
ニ農林大臣ノ反省ヲ促シ、又議員諸君ニモ
御考ヲ願ハナケレバナラヌコトハ、財產上
ノ無限責任ニ取扱シタ以上ハ、組合員ノ加入
シテ居ル者モ脫退スルノ虞レガアリ、尙ホ
加入セザル者ハ愈〓嫌フ傾ガアルコトハ申
スマデモアリマセヌ、故ニ强制加入ト云フ
コトガ、此法ニ依ッテ必要サヲ加ヘテ居ル
ト云フコトヲ、私一言申シテ置カウト思ヒ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=35
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036・秋田清
○議長(秋田〓君) 加藤知正君
〔加藤知正君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=36
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037・加藤知正
○加藤知正君 私ハ只今御提案ニナリマシ
タ製絲業法案ニ付キマシテ、數項ノ質問ヲ
致シタイト考ヘルノデアリマス本法案ノ
趣旨ヲ只今農林大臣ヨリ御伺ヲ致シマスト
小サナ製絲家ガ兎角蠶絲業ノ上ニ弊害ヲ
流スコトガ多イカラシテ、寧ロ是ハ大製絲
場ニ致ス方ガ宜シイ、其爲ニ免許制度ヲ設
ケルノデアルト云フ御說明ガアッタノデア
リマス、諸君モ御承知ノ如ク、今日マデハ
此製絲業ハ自由制度ノ下ニ經營セラレテ、
而モ今日ノ發達ヲ致シタノデアリマスガ、
更ニ之ヲ免許制度ニ致サナケレバ十分ノ發逹
ヲセシムルコトガ出來ナイト云フコトハ、
寸受取ニクイノデアリマス、殊ニ此免許制
度ニスルト云フコトガ、果シテ時局匡救ノ
目的ヲ達スルコトニナルカドウカ、又此農
村救濟ト云フコトニドウ云フ關係ヲ有ッテ
居ルノデゴザイマセウカ、現內閣ハ時局匡
救、特ニ農村救濟ノ爲ニ玆ニ第三次臨時議
會ヲ開カレタノデアリマスカラ、此場合私
ハ此免許制度ト云フコトヽ、此農村ノ救濟ト
云フコトニ、ドレダケノ關係ガアルノデアル
カト云フコトヲ私ハ伺テ見タイト思フノ
デアリマス、御承知ノ如ク此免許制度ノ如
キハ一年ヤ二年乃至三年ヤ五年遲レタ所
デ蠶絲業者ハ敢テ困リハセヌノデアリマス
蠶絲業ノ發達ノ上ニモドレダケノ影響ヲ及
ボスト云フコトハナイノデアリマス、而モ
今日我蠶絲業上ニハ、應急策ニシテ而モ恒
久策デアル所ノ問題ガ澤山アルノデアリマ
ス、例ヘバ原蠶種ノ管理ニ屬スル問題ノ如
キ、或ハ繭價補償ニ屬スル問題ノ如キ、乃
至ハ生絲ノ販賣統制ニ屬スル問題ノ如キ、
何レモ恒久策ノヤウデハアリマスケレドモ
併ナガラ是等ノ問題ヲ解決スルト云フコ
トガ、卽チ根本的ニ蠶絲業上ノ問題ヲ解決
スルト云フコトニナリマシテ、ソレガ卽チ
應急策ト相成リ、農村ノ救濟ニモナレバ、
蠶絲業者ノ救濟ニモ相成ルノデアリマス、
然ルニ是等ニ關スル法律案ナドハ更ニ御出
シニナラズシテ、一年ヤ二年乃至三年ヤ五
年遲レタ處デ大シタ差支ノナイ、謂ハヾ不
急ノ法律案、此不急ノ法律案ヲ特ニ此臨時
議會ニ御出シニナッタト云フ御理由ハ、一體
何處ニアルノデアリマセウカ、先刻ノ御說
明ダケデハ吾々了承シ兼ヌルノデアリマス
カラ、此點ニ付テ農林大臣ヨリ今少シク詳
細ニ、吾々ノ疑問ノ解ケルヤウニ御說明ヲ
戴キタイノデアリマス
第二ニ於キマシテハ、本法案ヲ見マスト、
別ニ釜數ノ制限或ハ資本ノ關係等ニ付テ、
更ニ何等ノ規定モナイノデアリマス定メ
シ是等ハ施行細則ニ御讓リノコトヽ存ズル
ノデアリマスガ、併シ承ル所ニ依レバ釜
數ハ百五十釜ヲ以テ之ヲ基準トスルト云フ
コトデアリマス、若シ此百五十釜ト云フコ
トガ基準釜數デアルト云フ御腹案デアリマ
スナラバ、其根據ノ由テ來ル所ヲ能ク御說
明ヲシテ戴キタイノデアル、何故カト申シ
マスレバ昔カラ製絲場ノ規模ノ大小ト云
フコトニ付キマシテハ色々議論ガアルノ
デアリマス、或ハ二百釜ガ理想的デアル
トカ、或ハ三百釜乃至五百釜ガ理想的デア
ルト云フヤウニ色々議論ガアリマシテ、而
モ今日ニ至ルマデ未ダ其標準ノ確定シタモ
ノガナイノデアリマス、併ナガラ今日迄ノ
實蹟ニ依テ之ヲ見マスルト云フト、規模ノ
大キイモノ必シモ立派ナル成績ヲ擧ゲルト
限ッテハ居リマセヌ、隨分失敗シテ居ルモノ
モアルノデアリマス、又規模ノ小ナルモノ
必シモ皆失敗ニ終ルトモ言ハレヌノデアリ
マく、御承知ノ如ク德島縣ニ於ケル筒井製
絲ノ如キハ中々立派ナ成績ヲ擧ゲテ居ル
慥カ六十釜デアッタカ六十五釜デアッタ兎
ニ角左樣ナ小規模ノ經營時代ニ於テ、最モ
優良ナル所ノ成績ヲ擧ゲタノデアリマス、
又山形縣ノ小松製絲場ノ如キハ慥カ七十五
釜ト考ヘテ居ルガ、此規模ノ小ナル所ノ製
絲場ガ、殆ド二百釜ノ製絲場ト等シイ所ノ
立派ナ成績ヲ擧ゲテ居ルト云ハレテ居ルノ
デアリマス、斯ウ云フヤウナ關係カラ考ヘ
テ見マスルト規模ノ大小、釜數ノ多少ト
云フヤウナコトヨリモ、寧ロ其經營ノ如何、
資本ノ如何ト云フコトガ、重大ナル所ノ關
係ヲ持ッテ居ルノデアリマシテ、假令小製
絲場ト申シマシテモ、資本サヘ充實致シテ、
經營其人ヲ得マシタナラバ必ズヤ立派ナ
ル成績ヲ擧ゲルモノト吾々ハ之ヲ確信シテ
居ルノデアリマス、左樣ナ次第デアリマス
ルカラシテ、之ヲ百五十釜ト限定スルト云
フヤウナコトハ寧ロ是ハ小製絲場ヲ倒シ
テサウシテ大製絲場ヲ助成スルヤウナコ
トニ相成ルノデアリマシテ、大製絲家ハ之
ヲ歡迎スルカモ知レマセヌガ、併ナガラ小
製絲家ガ倒レタ結果ハドウナルノデゴザイ
マセウカ、今日マデ我國ノ蠶絲業ガ發達致
シマシタノハ大製絲場モ大ニ與ッテ力ア
ルコトハ言フ迄モゴザイマセヌケレドモ、
併ナガラ小製絲場ノ力モ亦之ヲ無視スルコ
トハ出來ナイノデアリマスルガ故ニ、此點
ニ於キマシテ農林大臣ハ如何樣ナ御考デゴ
ザイマセウカ是ハ容易ナラザル所ノ問題
デアルト思フノデアリマスルニ依テ、此標
準釜數ト云フコトニ付テハ篤ト御考慮ヲ御
願セナケレバナラヌノデアリマシテ其釜
數ノ制限如何ニ依テハ吾々ハ之ニ反對セナ
ケレバナラヌト云フコトヲ玆ニ申上ゲテ置
キタイノデアリマス
尙ホ本法ニハ資本關係等ノコトハ現レテ
居リマセヌ此點ニ付テハ如何ナル所ノ御
腹案ガアルノデゴザイマセウカ、御承知ノ
如ク設備費ハ一釜當リ八百圓ヲ見積ラネバ
ナラヌカラ百五十釜トシマスナラバ十二万
圓ノ固定資本ヲ要スルノデアリマス、更ニ
流動資本ト致シマシテハ百五十釜ニ對シ
少クトモ七八万圓ノ資金ヲ要スルノデアリ
マシテ、百五十釜ノツノ製絲場ヲ拵ヘマ
スニハ、少クトモ二十万圓以上ノ用意ヲセ
ナケレバナラヌノデアリマス、若シ百五十
釜デナケレバナラヌト云フコトニナリマス
レバ、旣存ノ製絲工場ハドウ云フ風ニナル
ノデゴザイマセウカ、勿論此附則ヲ拜見致
シマスルト、十年間ノ餘裕ヲ與ヘテアルノ
デアリマス、此十年間ニ於キマシテ、旣存
ノ製絲工場、百五十釜以下ノ製絲工場ガ
ソレん〓發展致シマシテ、皆百五十釜以上
ニナリ、資本モ亦充實致シマスナラバ文句
ハゴザイマセヌ、所ガ十年後ニ及ビマシテ
モ意ノ如ク資本ノ用意モ出來ズ、又釜數モ
法規ノ命ズル釜數ニ達セヌト云フコトニナ
リマスレバ片端カラ廢業ヲセナケレバナ
ラヌト云フコトニナルト考ヘルノデアリマ
スルガ、此樣ナ場合ニ於キマシテ、政府ハ
此既存工場ニ對シテドウ云フ御取扱ヲナサ
ル御考デアルカ、此事ニ付キマシテモ農林
大臣ヨリ篤ト御說明ヲ伺ッテ置キタイト思
フノデアリマス
更ニ本法ニ關聯致シマシテ、蠶業組合法
ノコトヲ伺ッテ置キタイノデアリマス、豫算
綱要ヲ見レバ此製絲業法案ノ實施ニ要スル
所ノ費用ヲ六万五千七百七圓御計上ニナソ
テ居リマス、所ガ蠶絲業組合法ノ施設運用
ニ付キマシテハ、一文モ御計上ニナッテ居ラ
ナイノデアリマス、諸君モ御承知ノ如ク、
昨春開カレタ第五十九議會ニ於キマシテ、
蠶絲業組合法案ハ提案サレ僅カ二週間足
ラズノ間ニ貴業兩院ヲ通過致シタノデゴザ
イマスルガ、是ガ實施ニ要スル所ノ費用ト
云フモノハ其當時カラ一文モ計上セラレ
テ居ラヌノデアリマス、此蠶絲業組合法案
ヲ御提案ニナリマシタ際、政府當局ノ御說
明ハ今ヤ蠶絲業ハ非常ナル難局ニ際會シ
テ居ル、此難局ヲ打開スルニハ組合團體
ノ統制力ニ依ラナケレバナラナイ、ソレニ
ハ蠶絲業組合法ノ力ニ依ラナケレバナラヌ
ト云フ御說明ガアッタノデゴザイマス、ソ
レ程重大ナル責任、ソレ程重大ナル希望ヲ
以テ生レタ所ノ此蠶絲業組合法ニ付テ、
文モ實施費用、運用費用ト云フモノガ計上
セラレテ居ラナイ、ソレデ此蠶絲業組合
法ノ十分ナル所ノ運用ガ出來、其働ヲ期ス
ルコトガ出來ルト云フ御考デアリマセウカ、
若シ出來ナイト云フ御考デアリマスナラバ
何故ニ此臨時議會ニ御提案ニナラナカッ
タカ、其費用ノ御要求ヲナサラナカッタカ
ト云フコトヲ、吾々ハ疑問ニ思フノデアリ
マス、併シ其必要ヲ認メテ居テモ、此度ノ追
加豫算ニ計上スルコトガ出來ナカッタト言
ハルヽナラバ、此次ノ通常議會ニハ此實施
運用ニ關スル所ノ費用ヲ御要求ニナッテ、
十分此組合ヲ活動セシムルト云フ御考ガア
ルカドウカ、現ニ此組合法ニ據リ出來タ所
ノ組合團體其モノハ今日如何ナル狀態ニ
アリマスルカ、上ニ政府ノ助成金ナク、下
ニ未ダ出來タバカリデアルカラ義務金ノ納
付モナイ、卽チ一文ノ運用資金モナイト云
フ狀態デアル、油ガ無クシテ車ハ運轉致シ
マセヌ、一文モナイ此組合ニ活動ヲ望ムト
云フコトハ、木ニ緣ッテ魚ヲ求メルヨリモ
甚シイ註文デアルト考へルノデアリマス、
故ニ若シ農林大臣ニシテ此場合ニ蠶絲業組合
ニ屬スル各〓體ヲシテ、十二分ノ活動ヲ爲
サシメヨウト云フ御考デアリマスナラバ、
此度ノ議會ニ十分ノ費用ヲ御要求アッテ然
ルベキデアルノニ、何故御要求ナサラナカフ
タノデアルカ、私ハ之ヲ一ツ御尋申上ゲ
タイノヂアリマス
更ニ御尋申上ゲタイト思フノハ、滯貨生
絲ノ處分方法デアル、吾々多年ノ希望ヲ御
容レニナリマシテ、括、政府ガ之ヲ御買
上ニナリマシタト云フコトハ深ク感謝ス
ル所デアリマス、昨今絲價ガ斯ノ如ク暴騰
致シタト云フコトモ、色々ノ原因ハアル
デアリマセウガ、一括是ガ處分ヲセラレタ
ト云フコトモ、大ナル關係ヲ有フテ居ルコ
トハ今更言フ迄モナイノデアリマス、所ガ
此處分方法デアリマス、之ニ付テハドウ云
フ御考ヲ有ッテオイデニナルノデアリマス
カ、第二次臨時議會ノ際、農林大臣ノ御說
明中ニモアッタノデアリマスルガ當分是
ハ市場ニハ出サナイ、併ナガラ試驗〓究ノ
爲ニハ無償交付ヲスルト云フ御說明ガアッ
タノデアリマス、吾々ハ之ヲ御尤ノ次第ト
承ッタノデアリマス、所ガ其後此事ニ付キ
マシテ、ドウ云フ御〓究ガ著キマシタカ、
又如何樣ナ御調査ガ出來マシタカ、ソレヲ
伺ッテ見タイノデアリマス
尙ホ私ハ農林大臣ニ此際特ニ御願ヲ致シ
タイ事ガアル、ソレハ外デモアリマセヌ、
日本ノ蠶絲業ハ殆ド行詰リノ狀態、殊ニ生
絲ノ大部分ハ亞米利加ノミヲ目指シテ賣出
ス所ノモノデアリマシテ、一朝有事ノ場合
ニハ吾々國民トシテ非常ナル心配ヲセナケ
レバナラヌト云フコトハ言フ迄モナイ話デ
アリマス、故ニ亞米利加以外ニ新販路ヲ開
拓スルト云フコトハ緊要ノ事デアリ、又今
日ノ絹織物以外ニ其新用途ヲ發見スルト云
フコトガ、我國蠶絲業ノ現狀ニ照シテ洵ニ
緊急ナルモノガアルノデアリマス、此時ニ
際シマシテ、或人ハ生絲ヲ「ロープ」ノ原料
ニスルト云フコトガ最モ理想的デアルト云
フコトヲ唱ヘテ居ルノデアリマス諸君、
某氏ノ調査ニ依リマスト、日本ニ於テ使用
スル所ノ「ロープ」ハ一年ニ約三万噸デアル
ト云フコトデゴザイマス、而シテ世界ニ於
テ年々消費スル所ノ「ロープ」ノ高ハドノ位
デアルカト云フト、二十万噸カラデアルト
云フ話デコザイマス、所ガ「ロープ」ハ諸君
モ御承知ノ通リ大抵ハ麻デアルノテアリマ
ス、麻デ拵ヘル所ノ「ロープ」ハ海外ヨリ
之ヲ輸入致シテ居ルノデアリマシテ、某氏
ノ〓究ニ依リマスト云フト、麻ノ「ロープ」
ヨリモ「シルク」卽チ生絲ノ「ロープ」ノ方ガ
遙ニ優ッテ居ル、强力モ優ッテ居レバ、伸力
モ優ッテ居ル、斯ウ云フヤウナ次第デアリ
マスカラシテ、日本ノ生絲ヲバ之ヲ「ロー
プ」ノ原料ニスルト云フコトハ、卽チ一面
ニ於テ新用途ヲ開拓スルコトニナルノデア
リマスガ、併シ其價格ノ點ガ如何デアラウ
カ又水ニ對スル腐蝕ノ點ガ如何デアリマ
セウカ、是等ニ疑問ガ大ニアルコト故此場
合滯貨生絲ヲバ是等ノ試驗用ニ供シテ、大
大的ニ試驗〓究セシメラレタイト思フノデ
アリマス、勿論此事ハ農林大臣ハ疾クニ御
承知ノコトヽ考ヘルノデアリマスガ、若シ
幸ニシテ「シルク·ローブ」ナルモノガ、「マ
ニラ」ノ「ロープ」ヨリモ遙ニ優ッテ居ルト云
フコトニナリマスレバ是ゾ卽チ我ガ蠶絲
業ノ前途ニ、一大光明ヲ與ヘルコトニ相成
ルノデアリマス、彼ノ二十万梱ノ生絲ヲ噸
數ニ直シテ見レバ、僅ニ六千噸ニ當ルノデ
コザイマシテ、三万噸ノ「ロープ」ノ中、六
千噸ダケノ「ロープ」ガ生絲ヲ用ヒルト云フ
コトニナッタバカリデモ、直チニ滯貨生絲ノ
處分ガ立派ニ出來ルコトニ相成ルノデゴザ
イマスカラ、萬一試驗〓究ノ結果此事ガ事
實ニ於テ現ハルヽト云フコトニナレバ、日
本ノ現在ノ蠶絲ノ產額ヲ倍額シテモ尙且ツ
足ラヌコトニナリマスルカラ、何ヲ措イテ
モ是等ノ試驗〓究ダケハセナケレバナラヌ
ト考ヘルノデアリマス(拍手)此點ニ於キマ
シテ農林大臣ハ如何樣ニ御考デアリマセウ
カ冀クハ大藏當局トモ御相談ノ上デ、
日モ速ニ是等ニ關スル所ノ試驗〓究ノ途ヲ
開カルヽヤウニ、此際私ハ農林大臣ニ希望
スルト共ニ、大臣ノ御意見ノ存スル所ヲ伺シ
テ置キタイノデアリマス、尙ホ色々質問致
シタイ事モアリマスケレドモ、私ノ質問ハ
是ダケニ止メテ置キマス
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=37
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038・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 製絲業法ヲ此際
提出致シマシタ理由ハ、加藤君ノ御話ノ通
リ、蠶絲業全般ニ亙ッテ統制上ノ問題ハ澤
山アリマス、併ナガラ色々攻究ヲ要シ、又
關係ノ廣イモノガアリマス、サウ手取早ク
著手スル譯ニ參リマセヌ、此製絲業法ノ免
許制度ノ問題ハ豫テ〓究モ熟シテ居リマ
シテ、相當ナ腹案ヲ立テルコトガ出來タ
ノデアリマス、而シテ製絲業カ亂立シマシ
タ爲ニ、一朝此生絲ノ暴落等ノ際ニ、規模
ノ小サナモノガ頻々ト廢業ヲシテ〓絲業
界全體ニ非常ナ迷惑ヲ及ボシタト云フ事實
ヲ、吾々ハ近イ過去ニ澤山見テ居ルノデア
リマス、今日ノヤウナ事態ニアッテハ免許
制度ヲ立テヽ製絲業ノ規模ヲ統制シテ行ク
ノガ便利デアルト考ヘタノデアリマス手
ノ著ケ易イモノデ、今實行スルコトガ便利
デ、將來蠶絲業全體ノ統制ノ關係ノ中デ、
ドウシテモ矢張手ヲ著ケナケレバナラヌ問
題ノ中ノ一ツデアル事ヲ、此際實行シテ參
リタイト云フ風ニ考ヘテ居ル譯デアリマ
ス
ソレカラ釜數ノ問題ノ事ガ御尋ガアリマ
シタ、御話ノヤウニ大體百五十釜ト云フモ
ノヲ基準ト致シタイ積リデアリマス、是ハ
經營ノ上カラ見マシテ、極ク合理的ノ經營
ガ出來ル所デアリマス、過去ノ事實ヲ見マ
シテモ、百五十釜以下ノ製絲工場ガ一番倒
レ方ガ酷イノデアリマス、是ガ存在ノ力ノ
非常ニ弱イモノデアルト云フコトガ、事實
ニ於テ認メラレルノデアリマス、併シ此十
年ノ後ニ於テ百五十釜ナイ者ノ始末ガドウ
ナルカ、其時ニ又立派ナ特長ノ有ルモノガ
在ルニ拘ラズ、ソレデモ廢メテシマハナケ
レバナラヌコトニナルノカト云フヤウナ御
尋ガアリマシタ、是等ノ點ニ付テハ附則ニ
モ規定ガアリマスル通リ、色々便宜ノ方法
ヲ考ヘタイト云フ積リデアリマス
ソレカラ蠶絲業組合法ヲ出シテ置キナガ
ラ、是ガ施行ニ付テ十分力ノ入レ方ガ足ラ
ヌデハナイカ、政府ガ費用ヲ出シテ十分ニ
之ヲ助成シテ居ラヌデハナイカト云フヤウ
ナ御尋ガアリマシタ、是ハ初メテノ試ミデ
アリマシタシ先ヅ現存ノ機關其他デ以テ
十分ニ之ヲ指導奬勵セシメテ行キタイト云
フ考ヲ持ッテ居ルノデアリマス併ナガラ
其他ノ事情ガ許シマスレバ、是ガ助長發達
ニモ十分ナル力ヲ盡シテ參リタイノデアリ
マスガ、只今ノ所デハサウハ認メテ居リマ
セヌ
ソレカラ滯貨生絲ノ處分ニ付テハドウ云
フ考ヲ持ッテ居ルカ、是ハモウ重ネテ申ス
マデモアリマセヌ、アノ滯貨生絲ハ、從來
ノ生絲消費ノ市場ヘハ絕對ニ出サナイ、法
律デ決メマシタ通リデ、是ハ嚴重ニ守ッテ
行キタイト思ッテ居リマス、唯從來ノ消費
ノ領域以外ノ方途ニ付テ〓究スルコトハ
是モ十分ニ致シタイ考デアリマス、唯、今
日迄ノ所何分多數ノ俵數ノモノデアリマシ
テ、是ガ賣買ノ契約ヲ結ビ、之ヲ引取ヲス
ルト云フノニ中々手數ガ掛ッテ居ルノデア
リマス、昨今漸ク之ヲ終ァタヤウナ譯デアリ
さく、御承知ノ通リ生絲需要增進調査會ト
云フモノヲ法律デ設ケルコトニナッテ居リ
マヽ、此調査會デ只今御話ノヤウナ事柄モ
十分ニ調査〓究ヲシテ行キタイ考デ居ルノ
デアリマス、今御話ノ「ロープ」ノ間題ナド
ハ非常ニ興味ノアル問題デアルト考ヘテ居
リマス、十分ニ〓究ヲ致ス積リデ居リマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=38
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039・加藤知正
○加藤知正君 農林大臣ノ御答辯ニ付テ更
ニ御尋ヲシナケレバナラヌ事ガアリマスル
ケレドモ、何レ委員會ニ讓リマシテ、私ノ
質問ハ是デ打切リマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=39
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040・秋田清
○議長(秋田〓君) 松本忠雄君
〔松本忠雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=40
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041・松本忠雄
○松本忠雄君 本員モ此製絲業法ニ付テ、
數種ノ點ニ付テ政府ノ所見ヲ質シテ置キタ
イノデアリマス只今ノ加藤君ノ御質疑ニ
依テ大體明瞭ニナッタ點モゴザイマスルガ、
其他ノ二三ノ點ニ付テ簡單ニ政府ノ所見ヲ
伺ヒタイノデアリマス
第一ニ伺ヒタイコトハ、政府ハ此製絲業
法ヲ制定スルコトニ依テ、或ハ製絲業ノ經
營ノ基礎ヲ堅實ナラシムルトカ、或ハ品質
ノ改善ヲ爲ストカ、製品ノ聲價ノ維持ヲ爲
スト云フヤウナ、多クノ目的ヲ此法ニ委ネ
テ居ラレルヤウデアリマスルガ、果シテ此
製絲業法ノ制定ニ依テ是等ノ目的ヲ達シ得
ルモノデアリマセウカト云フコトニ付テ
ノ政府ノ所見ヲ質シタイノデアリマス
吾々ノ見ル所ニ依レバ、此製絲業法ナルモ
ノハ唯單ニ器械製絲業ヲ官僚ノ支配下ニ
置クト云フ以外ニハ何等ノ目的モ意味モ
ナイノデアリマス、卽チ器械製絲業ノ開設
ノ免許、免許ノ取消、若クハ統制上必要ナ
ルベキ所ノ命令ヲ政府ガ之ニ向ディ下ス
コトガ出來ルト云フヤウナ總テノ器械製
絲業ヲ官僚ノ支配下ニ置ク、ソレダケデア
リマス吾々ノ信ズル所ト政府ノ考トハ
其點ニ付テ多クノ距離ガアルヤウニ思ハレ
ルノデアリマス、政府ハ製絲業ノ統制
養蠶製絲業ノ統制ト云フコトヲ强調セラレ
マスルガ、斯ノ如ク器械製絲業ヲ官僚ノ
支配下ニ置クコトガ、卽蠶絲業ノ統制デ
アルト言ハルヽナラバ、吾々ノ目指ス所ト
ハ頰ル其距離ガ遠イノデアリマス尠クト
モ吾々ノ信ズル所ニ依レバ蠶絲業ヲ統制
スルト云フノニハ、蠶ヲ飼フ爲ノ桑園、其
桑園カラ採ル所ノ桑ニ依テ飼ヒ得ル所ノ養
蠶其養蠶カラ採リ得ル所ノ繭其繭ヨリ
取リ得ル所ノ絲ノ量、ソレ等ノモノヲ總テ
見詰メテ、更ニ其絲ノ世界的ノ需要量ト云
フモノヲ見詰メテ、此間ニ何等カノ統制ト
連絡ヲ取ルコト、是ガ卽チ蠶絲業ノ統制デ
ナケレバナラナイト思フノデアリマス然
ルニ政府ハ養蠶ニ對スル所ノ問題ハ之ヲ總
テ後日ニ讓リ蠶絲ノ統制ニ關スル間題ヲ
之ヲ只今ハ提案セズ、更ニ生絲ノ販賣統制
ノ問題ニ付テモ之ヲ閑却シテ唯單ニ器械
生絲ニ對シテ斯ノ如キ法制ヲ設ケルコトガ
是ガ蠶絲業ノ統制デアル、而シテ之ニ依テ
先刻擧ゲタヤウナ三ツノ重大ナル目的ヲ達
セラルヽト云フナラバ政府ハ其目的ヲ達
スルコト、畢竟難キニ陷ルノデハナイカト思
フノデアリマス、言ハ美ニシテ標榜スル
所ハ洵ニ結構デアリマスケレドモ、他日吾
吾ハ此政府ノ期待スルヤウナ目的ヲ達スル
コトハ頗ル困難デハナカラウカト思フノ
デアリマス是レ私ガ第一點トシテ政府ニ
尋ネタイ所デアリマス
更ニ第二點トシテハ先刻加藤君ヨリモ
旣ニ其點ニ及ボサレタノデアリマスガ其
蠶絲業ノ統制トシテ吾々ノ主張シテ居ル所
ノ、或ハ蠶絲ノ統制、或ハ販賣統制、其他養
蠶ニ關スル所ノ統制等ノ問題ハイツ如何
ナル機會ニ之ヲ議會ニ提案セントスルデ
アルカ、如何ニシテ之ヲ實施セントスルノ
デアルカト云フコトニ付テ御尋ヲ致シタイ
ノデアリマス是等ノ點ニ及バズシテ唯
單ニ製絲業ヲ官僚ノ支配下ニ置ク、其結果
ハ蠶ヲ飼ヲテ採ル繭、其繭カラ紡グ所ノ絲、
其絲ヲ造ル所ノ製絲工場ハ今後ニ於ケル
所ノ新設ヲ阻害スル所ノ結果トナル而モ
一方ニ於テハ養蠶ニ對シテハ政府ハ依然
トシテ奬勵ノ方針ヲ執ラレテ居ルヤウデア
リマス、今度出サレタ所ノ豫算案ヲ見テモ、
桑園ノ改植ニ對シテハ一段當リ十五圓ノ補
助金ヲヤルト云フ所ノ政府ノ豫算デアリマ
ス之ニ反シテ桑園ノ整理ニ對シテハ段十
圓デアリマス、卽チ桑園ノ改植ニ對シテハ
段十五圓ノ補助金ヲ與ヘラルヽト云フコト
ハ政府ガ依然トシテ養蠶業ヲ奬勵セラル
ル所ノ精神ノ現レデアルト謂ハナケレバナ
ラヌノデアリマス一方ニハ養蠶ヲ奬勵シ
ナガラ、其養蠶家ガ蠶ヲ飼シテ採ル所ノ繭、
其繭ヲ處理スベキ所ノ製絲工場ニ對シテハ、
面倒臭イ所ノ法制ヲ作ッテ、其新設ヲ妨ゲ
ルヤウナ法律ヲ作ルコトガ、軈テ養蠶家ニ
對スル所ノ壓迫トナリハシナイカト云フコ
トヲ吾々ハ憂ヘザルヲ得ナイノデアリマ
ス、此點ニ對スル所ノ政府ノ所見ハ果シテ
如何デアリマセウカト云フコトヲ伺ヒタイ
ノデアリマス
更ニ第三點トシテ伺ヒタイコトハ、政府
ハ此製絲業ニ付テノ色々ナ細カイ點ハ總テ
之ヲ命令ニ讓ラレタノデアリマス、其政府
ガ將來如何ナル程度ノ製絲業ヲ許スカト云
フコトニ付テハ只今加藤君ノ御尋之五
對スル農林大臣ノ御答辯ニ依テ大體百五十
釜ヲ標準ニスル所ノ意思ガ明瞭ニナリマシ
タ、是ハ定メシ營業製絲ノコトデアラウカ
ト思ハレマスルガ、政府ハ此點ニ付テ營業
製絲ト組合製絲トノ間ニ何等カノ差別ヲ
置カルヽ積リデアルデアリマセウカト云フ
コトヲ、第三點トシテ承リタイノデアリマ
ス
更ニ第四點トシテ承ルコトハ政府ガ此
議會ニ提案サレテ居ル所ノ豫算ヲ見マスレ
バ、此法律ノ結果トシテ、技術員ヲ全國ノ
各府縣ニ配置セラルヽ御意見デゴザイマ
ス其技術員ノ配置ニ付テハ如何ナル所
ノ方針ニ依ラレルノデアルカ、例ヘバ長野
縣ノ如ク八九百ノ製絲工場ヲ有ッテ居ル所
ノ縣ト三十、四十ノ製絲工場ヨリ有タナ
イ所ノ縣トノ間ノ其技術員ノ配置ト云フコ
トハ如何ナル標準ニ依ラレルノデアルカ
ト云フコトヲ、此場合承シテ置キタイノデ
アリマス
更ニ第五ノ點トシテ-最後ノ點トシテ
承リタイコトハ本法ノ施行期日ハ勅令ヲ
以テ之ヲ定メルコトニナッテ居リマスガ
其施行ノ期日ハ何時カラト云フ所ノ御腹案
デアリマスカト云フコトヲ承リタイノデア
リマス、此點ニ付テ政府カラ御答辯ヲ煩シ
タイト思ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=41
-
042・秋田清
○議長(秋田〓君) 後藤農林大臣
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=42
-
043・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 製絲業ノ免許制
度ヲ設ケルト云フコトニ依テ生絲ノ規格
ノ統一、製品ノ品質ノ向上、其他蠶絲業全
體ニ亙フテ非常ニ有效ナ有利ナ結果ラ齎
スト云フヤウナ目的ガ十分ニ達セラルヽ
カドウカト云フコトデアリマス勿論製絲
業ノ免許制度ノミニ依テ、今御話ノヤウナ
目的ガ全部達セラルヽ完全ニ達セラル
ルトハ申シマセヌ、旣ニ此品質ノ向上、規
格ノ統一ト云フヤウナコトニ付テハ輸出
生絲ノ檢査制度ノ如キガ最モ有效ニ働イテ
居ルノデアリマス製絲業ノ免許制度ハヤ
ハリ蠶絲業全體ヲ合理的ニシ、続制アルモ
ノニスル一端ノ施設トシテ實行シヨウトス
ルモノナノデアリマス、尙ホ製絲業ノ免許
以外ノ蠶絲業統制ノ大キナ問題ヲドウ考ヘ
テ居ルカ、何時ヤル積リカト云フヤウナ御
話デアリマスガ是ハ何レモ重大ナ問題デ
アリマス、只今モ考究ヲシテ居リマス、成
ベク速ニ、出來得レバ順次、確信アル成案ヲ
得タモノカラ實行ヲ致シテ參リタイト思ッ
テ居リマス
組合製絲ニ付テハ普通ノ營業製絲ト基準
ヲ異ニスルノデアルカドウカト云フヤウナ
御尋デアリマス、組合製絲ハ大體百釜ヲ基
準トスルト云フ腹案デ居リマス
ソレカラ製絲業法ヲ施行スル爲ノ技術員
ノ配置ヲドウスルカ、是ハ豫算ハ一府縣一
人ト云フ割合デ取ッテ居リマス併ナガラ
縣ノ狀況ニ依テハ或ハ置カナイデ、現在
ノ人ヲ以テヤッテ貰ハナケレバナラヌ處モ
アルト思ヒマス、仕事ノ忙シイ處ヘハ餘計
ニ配置ヲシナケレバナラヌヤウニ考ヘテ居
ルノデアリマス
〔松本忠雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=43
-
044・松本忠雄
○松本忠雄君 大臣カラ只今ノ此法ヲ何時
カラ施行スルカト云フコトニ付テ御答ガ全
然ナカッタノデアリマスガ、其點ヲ承デ
更ニモウ一ツ私ハ御尋シタイコトガアルカ
モ知レマセヌ
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=44
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045・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 大體十月一日カ
ラ施行スル積リデ居リマス
〔松本忠雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=45
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046・松本忠雄
○松本忠雄君 只今ノ大臣ノ御答辯ニ依テ
更ニ御尋ヲ致シタイ點モアリマスケレド
モソレ等ノ點ハ總テ之ヲ略シマス唯最
後ノ御答辯ヲ得タ所ノ此法律ノ實施ハ之
ヲ十月一日カラ爲サルト云フ御意嚮ノ由デ
アリマス、然ラバ豫算案ニ七箇月分ノ俸給
ヲ御請求ニナッテ居ルノハ何故デアリマス
カ吾々ハ今日ノ此農村ノ窮狀ニ對シテ御
互ニ眞劍ニ眞面目ニ如何ニ之ヲ匡救ス
ベキカト云フコトニ付テ〓心ニ審議シテ居
ル所ノ狀況デアリマス然ルニ十月一日カ
ラ施行スルコトニ決ッテ居ル所ノ此法律ニ
對スル實施ノ豫算ヲ十月カラトスレバ來
年ノ三月マデ六箇月シカナイニ拘ラズ、七
箇月要求シテ吾々ノ手カラ之ヲ取ルト云フ
コトハ、如何ナル要求デアルカ、或ハ吾々ハ
官僚ノ人々ガ、此非常時ニ對スル所ノ此法
案ニ藉リテ、幾ラカ其間ニ裕リヲ取ラウト
スルヤウナコトガアルノデハナカラウカト
云フコトヲ疑ハザルヲ得ナイノデアリマ
ス餘リニモ明白ナル所ノ誤謬デアリマス
カ或ハ錯誤デアリマスカ、計畫的ノソツ
デアリマスカ分リマセヌガ、其點ニ付テ改
メテ明確ナル御答辯ヲ煩シタイト思ヒマス
〔國務大臣後轢文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=46
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047・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 此機ニ乘ジマシ
テ一月分デモ要ラナイ金ヲ徒ニ取ッテ、裕
リヲ取ラウト云フヤウナ考ハ毛頭ゴザイマ
セヌ、十月一日カラ施行致シマスノニハ
多少ノ準備ガ要リマス、之ニ必要ナ人ハ前
以テ配置シテ參ラナケレバナラヌノデアリ
マス、左樣御承知ヲ願ヒタウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=47
-
048・秋田清
○議長(秋田〓君) 河野一郞君
〔河野一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=48
-
049・河野一郎
○河野一郞君 私ハ政府ガ今囘提案致シマ
シタル米穀特別會計法中改正法律案ニ對シ
テ其眞意ガ如何ナル點ニアルカト云フコ
トニ付テ重大ナル疑義ヲ持ツ者デアリマ
ス、卽チ現下ノ對策ト致シマシテ、國民ノ
購買力ヲ旺盛ナラシムルコトガ最モ重點デ
アルト信ジテ居リマス更ニ之ヲ農村ニ付
テ申シマスナラバ農產物ノ價格ヲ引上ゲ
テ農民所得ヲ增加セシメ、農村ノ購買力ヲ
旺盛ナラシムルコトガ、農村ヲ振興セシメ、
延イテハ刻下ノ財界ヲ建直スニ最モ重大ナ
ル關係ガアルト信ジテ居リマス更ニ之ヲ
米價ニ付テ考ヘマスナラバ、米ノ根本對策
ハ何トシテモ米價ノ吊上ゲユナケレバナラ
ヌト信ジテ居リマス、然ルニ今囘政府ヨリ
提案サレマシタル所ノ改正案ニ依リマスル
ナラバ、其何レノ點ヲ見マスルモ、米價ヲ
現在ノ價格ヨリ引上ゲントスル何モノモナ
イノデアリマス卽チ現在ノ米價ヲ以テ、
現下ノ農村ガ救濟セラレルト御考ヘニナル
ナラバ私ハ重大ナル錯誤ガアルト信ズル
者デアリマス、更ニ私ノ率直ニ申上ゲマ
ス私ヲシテ率直ニ言ハシムルナラバ農
產物ノ價格ヲ引上ゲル、特ニ米價繭價ヲ引
上ゲル此二大方策ガ現在ノ農村救濟ノ根
幹デアッテ、單ナル土木、農業土木デアル、
各般ノ今囘ノ臨時議會ニ提案ニナリマシタ
ル所ノ時局匡救策ノ如キハ其末デアルト
私ハ信ジテ居リマス、現在農民ノ要望スル
所ノ米價竝ニ繭價ヲ相當價格ニ引上ゲテ
農家ノ經濟ヲ根本的ニ建直ス、農民ガ安ジ
テ米ヲ作ッテ食フコトガ出來ル、蠶ヲ作ッテ
食フコトガ出來ル、本當ニ農民ハ農民トシ
テ働キタイ、土方ノ手先ニナルト云フヤウ
ナコトハ斷ジテ農民ノ要望スル所デナイノ
デアリマス(拍手)其意味ニ於キマシテ私ハ
ドウシテモ今囘提案ニナリマシタル米穀法
中改正法律案、此法律案ニドノ點カラ見マ
シテモ米價ノ吊上ノ一點ニ付テ、御考ヘニ
ナリマシタル點ガ發見スルコトノ出來ナイ
コトヲ苦シム者デアリマス、右申シマシタ
ルコトヲ前提ト致シマシテ、私ハ左ノ諸點
ニ付テ、農林大臣ニ特ニ御伺シテ見タイノ
デアリマス
最近ノ我國農村ノ實情ヲ見マスルノニ、
全農村ノ要望スル所ハ米ノ專賣制度ノ確立
デアリマス一刻モ速ニ專賣制度ヲ確定シ
テ米價ヲ安定セシメテ、農村經濟ノ基調
ヲ確立シテ農家經濟ヲ今日ノ不安ヨリ安
定セシメテ貰ヒタイト云フコトガ要望デア
リマス、是ガ眞ノ農民ノ聲デアリマス、然
ルニ政府ハ便々トシテ何等ノ根本的ノ對策
ヲ確立セズ、卽チ毫モ米專賣制度ノ確立ヲ
セザル理由如何ト云フノガ先ヅ第一點デア
リマス
更ニ第二ノ點デアリマス、現在ノ米穀法
ニ依リマスルト率勢米價ヲ基準ト致シマ
シテ之ニ基イテ米ノ買上若クハ賣却ヲ致
スノデアリマス、然ルニ率勢米價ニ依リマ
スナラバ私ガ今玆ニ諄々シク申上ゲル迄
モナク、全農村ハ非常ナ壓迫ヲ受ケルコト
ハ申ス迄モナイノデアリマス現在ノ率勢
米價、卽チ二十圓何ガシノ價格ヲ以テ何
人モ現在ノ農村ガ安ジテ生活ヲ確立スルコ
トノ出來ル公正ナル米價ナリト信ズル者ハ
ナイノデアリマス、然ルニ此點ニハ何等觸
レズシテ、率勢米價ノ改正ヲセズシテ單
ニ米ノ買上資金デアル米穀法ノ借入限度ヲ
擴張シテ、何處ニ農村ガ救濟セラレマセウ
カ眞ニ米價ヲ引上ゲテ農村ヲ救濟セント
スルナラバ須ク率勢米價ヲ撤廢シテ率
勢米價ニ依ル所ノ現行米穀法ノ根本ヲ改正
シテ然ル後ニ借入限度ノ擴張ヲセナケレ
バナラヌト信ズル者デアリマス(拍手)此點
ニ對スル政府ノ所見ヲ伺ヒタイノデアリマ
ス
更ニ第三點ト致シマシテ、政府ハ現行米
穀法ニ基ク單ナル借入限度ノ擴張ヲ以テ、
此難局ニ對セントセラレルナラバ、米價ハ
何程ヲ以テ妥當ナリト御考ニナルカ卽チ
現在ノ農村救濟ヲ建直スノニ、ドノ位ノ米
價ヲ以テ最モ適當ナリト御考ニナルカ、更
ニ碎イテ申シマスナラバ、今囘ノ一億圓ノ
限度擴張ヲ爲サレマシタル其資金ヲ以テ、
米ノ値段ヲドノ程度ニ安定セシメヤウト爲
サルノデアリマスカ此點ニ對スル明確ナ
ル御答辯ヲ御願スル次第デアリマス(拍手)
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=49
-
050・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 米ノ專賣ノ制度
ヲ何故早クヤラナイカ米穀需給特別會計
ノ資金ダケヲ增加シタノデハシヤウガナイ
ヂヤナイカト云フ御尋ガ第一デアッタヤウ
デアリマス(「成ベク御高聲ニ」ト呼フ者ア
リ)米ノ專賣ノ制度ハ多年論議セラレテ居
ル所デアリマス、吾々モ此前ノ臨時議會ニ、
前內閣以來ノ方針ニ依リマシテ米穀法ヲ設
置シテ米ノ根本政策ノ〓究ヲ致スコトニ
ナッテ居リマス、折角今〓究ヲ續ケテ居リマ
ス唯米ノ專賣ト云フコトハ非常ニ大キ
ナ問題デアリマス是ハ單リ米ノ價格ノ問
題ニ止ラズシテ、日本ノ國家社會ノ全般ニ
及ボス影響ガ頗ル大キイコトデアリマス
餘程愼重ニ考慮シタ後デナケレバ其可否
ヲ斷ズルコトガ出來ナイト思ヒマス共外
專賣ニ至ラザル他ノ徹底的ナ或種ノ制度ニ
付キマシテモ相當ニ攻究ヲシテ、其仕組
ヲ考ヘタ後ニ、其運用ガドウ行クカト云フ
コトヲ見極メナケレバ容易ニ之ヲ實行シ
テ宜シイト云フ結論ニハ達シ兼ネルノデア
リマス、左樣ナ次第デ其根本策ヲ此議會
ニハ提出ヲ致サナカッタ譯デアリマス現
在ノ米穀法ノ率勢米價デハ米ノ値ヲ十分
ニ吊上ゲルト云フ譯ニハ行カヌデハナイ
カ其通リデアリマス、率勢米價ハ特ニ米
ノ値ヲ吊上ゲルト云フヤウニ出來テ居リマ
セヌ、米ノ値ノ餘リ酷ク下ルコトヲ防ギ
又米ノ値ノ餘リ高クナリ過ギルコトヲ防
グ米ノ値段ヲシテ成ベク安定シタ所ニ維
持シヨウト云フコトニナッテ居ルノデアリ
マス此率勢米價ニ付キマシテハ尙ホ生
產費竝ニ生計費ヲ加味シテヤルト云フコト
ガ本則ニナッテ居リマスルガ、當分ノ間ハ
ヤラナイコトニナッテ居リマス、折角生產費、
生計費ノ調査ヲモ進メテ居リマス是ガ果
シテ率勢米價ノ基準ノ價格ニ加味スルコト
ノ出來ルモノヲ得ラルヽカドウカハマダ
出來上ッテ見ナケレバ分リマセヌガ、是等ノ
モノヲ加味シテ、此率勢米價ト云フモノヲ
本當ニ働カシテ見テ、尙ホ其運用ガ實情ニ
適セザルヤ否ヤト云フコトヲ判斷スルニ
ハ、マダ今日其時機ニ達シテ居ラヌト思ッ
テ居ルノデアリマス
ソレカラ第三ニ、米價ハ一體何程デアレ
バ適當デアルノカト云フ御話デアリマシタ
ガ一般ノ物價、其他色々ノ關係ヲ考慮シ
ナケレバ米價ガ幾ラガ適當デアルト云フ
數字的ノ話ハ容易ニ斷ズルコトノ出來ナ
イ事柄デアルト考ヘテ居リマス
〔河野一郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=50
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051・河野一郎
○河野一郞君 只今私ハ率勢米價ニ依テハ
農民ハ救ハレルコトガ其來ナイト云フコト
ヲ斷定的ニ申上ゲタノデアリマス然ルニ
農林大臣ハ率勢米價ヲ以テ現下ノ米穀對策
ハ妥當ナリト云フヤウナ御答辯ニナリマシ
代ジミルミンクランスーパーファーク是ハ恐ラク農林大臣ガ民政黨內閣時
マシタル此現行米穀法ニ囚
サウ云フ御考ヲ御持チニナッテ居
北京市公安局海淀分局シティノグリス裝法ヲ以テ現
在ノ米穀對策ガ確立スルコトガ出來、完全
ニ米穀對策ヲ實行スルコトガ出來ルト云フ
信念ヲ御持チデアルナラバ、明確ニ此壇上
ヨリ全農民ニ御傳ヘヲ願ヒタイノデアリマ
ス吾々ハサウ云フコトヲ農林大臣ガ御傳
ヘニナルナラバ斷ジテ農林大臣ニ反對ヲ
シナケレバナラヌノデアリマス此點明確
ニ御答辯ヲ願ヒマス
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=51
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052・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 先程申上ゲマシ
タヤウニ率勢米價ニ付キマシテハ尙ホ
之ニ加ヘテ考フルベキ生產費、生計費ト云
フ問題ガ殘ッテ居リマス、之ヲ加ヘタ上デ
尙目只今ノ率勢米價ノ立方ガ、米穀ノ需要ニ
應ジテ適正ナ價格ヲ保タシメルノニ不足デ
アルカドウカ(「不足ダ」ト呼フ者アリ)ト云
フコトヲ考ヘナケレバナラヌト思ヒマス、
吾々ガ今日憂ヘテ居リマスル所ハ只今ノ
米價ト云フコトヨリモ、此出來秋ノ米價ノ
問題デアリマス、生產費等ノ調査ハ出來秋前
ニハ凡ソ見當ガ付クコトニナッテ居リマス、
其時ニ此問題ヲ考ヘテ見タイト思ッテ居ル
ノデアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=52
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053・秋田清
○議長(秋田〓君) 栗原彥三郞君
〔栗原彥三郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=53
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054・栗原彦三郎
○栗原彥三郞君 只今上程セラレテアル諸
案ニ付キマシテ、先刻來同僚諸君ノ熱心ナ
ル御質問ニ依リマシテ、可ナリ要領ヲ得テ居
リマスル點モアリマス、又吾々ノ問ハント
スル所ヲ、同僚諸君ガ旣ニ御問ニナッテ下
スッタ點モアリマスルガ故ニ、私ハ極ク簡
單ニ本案ニ關聯致シマスル所ノ二三ノ事
項ニ付テ御尋ヲ致シマシテ、細目的ナ質疑
ハ委員會ニ於テ試ミタイト思ッテ居リマス
私ガ本案ニ關聯シテ第一政府ニ御伺致シ
タイノハ今囘提案セラレテアル所ノ是等ノ
諸案ハ應急的ノモノデアッテ、他ニ根本的
ノ對策ナルモノヲ御提出ニナル考デアル
カ否ヤト云フコトガ第一點デアリマス、昨
日以來總理大臣、大藏大臣、其他閣僚諸公
ノ御申述べニナッテ居ル所ヲ拜聽致シマス
ルト僅々二箇月間ニ作ッタ案デアッテ十分
デハナイ、或ハ又今後七箇月間ニ之ヲ實行
スルモノヽミデアッテ、根本的ノモノニ對
シテハ更ニ提案セラレルモノヽヤウニモ聞
エルシ或ハ又他ニ徹底的ノ案ヲ御出シニ
ナラナイヤウニモ聞エルノデアリマスルカ
ラ、此點ニ關シマシテハ、果シテ政府ハ昨
日以來御提案ニナリマシタ一切ノ農村匡救
案或ハ中小商工業者ニ對スル匡救案以外ノ
モノヲ御提出ニナルノデアルカ或ハ是レ
以外ニ所謂非常時ニ對スル對策ナルモノ
諸案ハ御提出ニナラナイノデアルカ卽チ
今明議會デナクヽ次ノ通常議會ニ御提出ニ
ナル御考デアルノカ、或ハ御提出ニナラナ
イ御考デアルノカ、此點ヲ明瞭ニ御伺申シ
タイノデアリマス、此點ハ總理大臣ヨリ御
答辯ヲ御願致シマス
第二ニ御伺致シタイノハ、主トシテ非常
時ニ對スル農村匡救策中、所謂農村ノ負債
整理案ナルモノガ、果シテ農村ノ如何ナル
階級ニ屬スル人ヲ匡救スルコトニ重點ヲ置
カレタノデアルカ、或ハ地主階級デアルカ、
或ハ中產階級デアルカ、或ハ貧農階級デ
アリマスカ此點ヲ明瞭ニシテ置ク必要ガ
アルト思ヒマス、昨日以來各大臣ノ御演說
ヲ拜聽致シテ居リマシテモ此カ明瞭ヲ缺
クノミナラズ、或ハ或ル法案ハ地主ヲ救濟
スルコトニ重點ヲ置クガ如クニモ見エ、又
或ルモノハ中產階級、或ハ小地主ヲ救濟ス
ル如クニモ見エ、其場々々ノ說明ガ大分異〃
テ居リマシテ、政府ノ本當ノ信念ノアル所
ガ吾々ニハ分ラナイノデアリマス、此故ニ
此點ニ關シマシテハ明瞭ニ御答辯ガ願ヒタ
イノデアリマス、是ハ單ニ農村、或ハ農村、
負債整理ト云フ點バカリデハナク中小商
工業者ノ救濟ニモ關シテ居ルノデアリマス
カラ、商工大臣及農林大臣ノ御兩公カラ御
答辯ヲ願ヒタイト思ヒマス
更ニ大體御提出ニナッテ居ル所ノ諸案ヲ
通讀致シテ見マスルト、政府ハ政府自身ガ
主體トナッテ農村及中小商工業者更生ノ爲
ニ努力シナケレバナラナイ農村及中小商
工業者更生ノ爲ニ途ヲ講ジナケレバナラナ
イノニ拘ラズ其勞ヲ厭ッテ或ハ組合、
或ハ町村等ニ重イ負擔ヲ轉嫁サセタト云フ
憾ハナイカドウカト云フコトデアリマス
私共ハ昨日來色々ノ御說明ニ依クテ見マシ
テモ、ドウモ此疑ヲ益、深クスルバカリデア
リマシテ、本當ニ政府自身ガ眞劍ニナッテ、
眞裸ニナッテ街頭ニ飛出スト云フ意氣込ヲ
以テ此非常時匡救ノ實ヲ擧ゲヨウトスル誠
意ヲ見ルコトガ出來ナイ、是モ組合ヲ作ル、
或ハ銀行カラ貸出ヲサセル或ハ是ハ町村
ニ責任ヲ負ハセル是ハ府縣ニ責任ヲ負ハ
セルト云フヤウナ工合デアリマシテ政府
自ラガ大ナル責任ヲ負ヒ、大ナル覺悟ヲ以
テ之ニ當ルト云フ事ガ少シモ見出サレナイ
コトハ政府ノ爲ニ甚ダ惜ムノデアリマ
ス
更ニ問ハントスル點ハ、地方ニ於ケル產
業資金ノ缺乏シテ居ル原因ハ色々アリマス
ルガ其一ツノ原因ト致シマシテハ、地方
ニ於ケル休業銀行若クハ開店休業銀行ガ其
累ヲ爲シテ居ルト云フコトハ爭フコトノ
出來ナイ事實デアリマス、若シ政府ニシテ
本當ニ農村ヲ更生セシムル、或ハ中小商工
業者ヲ更生セシムルト云フ誠意ガアルナラ
バ其資金缺乏ノ一大原因トナテ居リマ
スル休業銀行及開店休業銀行ヲ復活運用セ
シムルト云フコトニ御考ガ著カナケレバ
ナラナイノデアリマスルニ拘ラズ、是等ノ
點ニ關シテ何等一點ノ御考慮ガ拂ハレテナ
イト云フコトハ抑こ如何ナル次第デアリ
マスカ(拍手)此點ニ付テ明瞭ナル御答辯ヲ
御願致シタイノデアリマス
更ニモウ一點御尋シヨウト致シマスルコ
トハ是等ノ諸案ニ依テ或ハ產業組合、或
ハ農村負債整理組合、或ハ何々組合ト云フ
澤山ナ組合ヲ御作リニナッテソレ等ノ組
合ヲ主體ト致シマシテ所謂非常時匡救ノ
策ヲ御立テニナッテ居ルノデアリマスルガ
地方農村ニ於テハ勿論ノコト、或ハ產業
都市等ニ於テモ、其仕事ノ性質上カラ言。ツ
テ組合ニ加入スルコトノ出來ナイ者ガ澤
山アリマス、例ヘバ織物業ガ盛ンデアル地
方等ニ於キマシテハ非常ニ其仕事ガ部分
的ニ分レテ居ッテ或ハ絲撚ノ作業デアルト
カ、或ハ整理デアルトカ加工デアルトカ、
或ハ其下職デアルトカ云フ所謂一般下職
ト云フヤウナモノガ、本當ハ產業上ノ重要
ナル働キヲ成シテ居ルニ拘ラズ是等ノ者
ハ獨立シタ產業組合ノ會員トナルコトガ出
來ナイ者ガ多イノデアリマス又農村ニ於
キマシテモ、此整理組合員ニナルコトノ出
來ナイ人ガ、必ズ相當ニアルト思フ、ソレ
ハ何デアルカト言ヘバ例ヘバ農山村等ニ
至リマスルト大正七、八年頃借リタ借金
ニ對シマシテハ山林ガ非常ナル下落ニ依
テ只今十分ノ一以下位ノ價シカ保ヲテ居
リマセヌガ故ニ、財產ニ或ハ九倍、十倍ス
ル所ノ大ナル負債ヲ有,テ居ル人ガ入ッテ來
ルト連帶責任デアル所ノ他ノ組合員ガ迷
惑スルト云フノデ、ソレ等ノ人ノ入ルコト
ヲ或ハ嫌フカモ知レナイノデアリマスサ
ウ云フ場合及其他所謂勤勞農民等ニ於キマ
シテモ、此組合ニ入ルコトノ出來ナイ者ガ
相當アラウト思フノデアリマスルガ、政府
ハ果シテ是等組合ニ入ルコトノ出來ナイ一
切ノ人々ニ對シテハ之ヲ見殺シニシヨウ
トスルノデアリマスルカ、或ハ別ニ方策ヲ
立テヽ是等ヲ救濟シヨウトスルノデアル
カ、御伺致シタイノデアリマス
次ニ御伺申シタイノハ只今米價問題ニ
付テ十分ニ同僚諸君カラ御尋ガアリマシタ
ガ私ノ更ニ御伺申上ゲタイノハ只今農
林大臣ハ秋頃ニナルマデニハ相當ニ考ガ
著クダラウト云フヤウナ御答辯ヲナサレテ
居リマシタガ最早出來秋ハ直グ近付イテ
來テ居リマス、アナタガ御考ニナッテ居ル
其間ニ、全國的豐作ニ依リマシテ米ハ下ル
一方デアリマス朝鮮モ先日來旱ノ害ニ依
テ多少減收スルノデハナイカト云フヤウニ
言ハレテ居リマシタガ、吾々ノ接受致シテ
居リマスル報告ニ依リマスルト、相當豐作
デアルト云フ臺灣モ其通リデアリマス
又滿洲米モ相當ニ出來ルノデアリマスル
ガ、アナタハ今色々ノコトヲ考ヘテ居ルト
云フコトデ、今日只今此臨時議會ニ一切ノ
法案ヲ御出シニナラナイデ、唯考ヘテ居ラ
レタバカリデ、此出來秋ニ對シテアナタノ
抱負經綸ヲ實行スルコトガ出來マスカ、是
レ私ガアナタニ伺ハントスル所ノコトデア
リマス、更ニモウ一點製絲業法ニ付テ御伺
致シテ置キタイノハ此問題ニ付キマシテ
ハ吾々ノ先生デアリ、私共ノ先輩トモ尊敬
シテ居リマスル加藤君竝ニ松本君等ガ十分
ナル御質問ヲ試ミマシタガ故ニ、私ハ唯一
點御聽キ申上ゲルノデアリマス諸君、製
絲家ノ釜數ヲ百五十釜以上ト大體ニ於テ決
メル御考デアルト云フヤウナコトデアリマ
スルガ吾々養蠶家ノ立場カラ考ヘマスル
ト、繭ガ愈〓出來タ、蛆ガ出、或ハ蛾ガ出
ルヤウニナリ、モウ捨テヽ置ケナイト云フ
時ニー-農民ガ所謂困ッテ居リマスル時ニ、
眞先ニ買ヒニ來テ吳レル者ハ誰デアルカ、
大キナ資本ヲ擁シテ居ル製絲業者、マダ二
月分モ半年分モ、一年分モノ繭ヲ抱ヘテ
居ル大キナ會社ハ急イデ買ヒニ來ハ致シマ
セヌ、小サナ製絲業者ガ急イデ買ヒニ參リ
マシテ他ノ人ガ二十五掛デ買フモノナラ
バ二十六掛デ買ヒ、七掛デ買フ、釜ニ入
レル繭ヲ持タナイ此小サナ製絲業者コソ本
當ノ農民養蠶家ノ味方デアリマス此農民
養蠶家ノ味方デアリマスル小サナ製絲業者
ヲ盡ク征伐シテシマッテ、大資本家バカリ
デ、農民ガ苦ンデ苦ミ拔イテ、投賣ニシヨ
ウト云フノヲ待ッテ居ル者バカリニ製絲業
ヲサセルヤウナコトヲ致シマシテ、果シテ
是デ養蠶家ガ助カルデアリマセウカドウデ
アリマセウカ此點ヲ御伺致シタイノデア
リマス以上大體私ノ御尋致サウトスル所
ハ盡キタノデアリマスルガ、昨日來各大臣
ノ御演說等ヲ拜聽シテ居リ、又提案セラレ
タ所ノ一切ノモノヲ見テ居リマスルト、洵
ニ微溫的デアリマシテ、國民ガ熱烈ニ要望
致シテ居リマスル所トハ雲泥ノ差ガアルノ
デアリマス、所謂非常時ニ對スル對策ト見
得ベキヤウナモノハ殆ド御提案ニナッテ居
ラナイ(拍手)何故コンナ結果ニナッタカト
言ヘバ是ハ閣僚諸君ガ本當ニ農村ノ窮狀
ト云フモノヲ認識シテ居ラレナイ、此認識
シテ居ラレナイカラ、アナタ方各大臣ノ腹
ノ中ニハ本當ニ農民ヲ匡救シヨウ或ハ農
村ヲ救ハフ或ハ中小商工業者ヲ救ハフト
スル所ノ決心ト信念ト云フモノガ出來テ居
ラナイ、是ガ出來テ居ラナイ結果ガ卽チ此
提案セラレテアル所ノ一切ノ案ノ如ク、微
溫的ナ生溫イ、何トモ申シヤウノナイ詰ラ
ナイ案ガ出來上ッタノデアリマス(拍手)昔
ハ牛刀ヲ以テ鷄肉ヲ割クト云フ言葉ガアリ
マシタガ、今日アナタ方ノ御考ヲ以テ此非
常重大ナ時局ヲ料理セントスルノハ所謂
鶏肉ヲ以テ牛刀ヲ割カントスルモノデアル
ト謂ハナケレバナラヌ(笑聲拍手)又大藏大
臣ハ只今此處ニ居ラレマセヌガ、昨日大藏
大臣ハ是ガ三箇年ノ後ニドウデアルトカ
斯ウデアルト云フヤウナコトヲ言ハレテ、
相當大キナ數字ヲ列ベテ御話ニナリマシタ
ガ昔ハ陸軍ヤ海軍ノ人々ガ何カ一ツノ新
規事業ヲ計畫スル場合ニ於テ、頭ダケチヨッ
ピリ出シテ置イテ、其胴體ハ次ノ年度カ、
次ノ次ノ年度ニ出シタモノデアリマス、然
ルニ今度ノヤリ方ハ全ク是ト反對デ、三箇
年後ノマダ豫算ニモ載ッテ居ラナイ尻尾バ
カリヲ振廻シテ、胴體ヲ悉ク隱シテオイデ
ニナルノデアリマス(拍手)斯ノ如キ政策ハ
之ヲ狐政策ト云フヨリ外途ガナイト思フノ
デアリマス、ドウゾ政府ハ左樣ナコトデナ
ク、本當ニ眞劍ニナリ、深ク農村ナリ、全
國ノ中小商工業者ノ窮狀ヲ御檢討ニナリマ
シテ、アナタ方ノ腹ノ中ニ眞劍ナ覺悟ヲ御
作リニナルヤウニ御願ヲ致シ其覺悟ヲ以
イ私ノ總テノ質問ニ對シテ御答辯ヲ願ヒタ
イノデアリマス(拍手)
〔政府委員堀切善兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=54
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055・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衞君) 栗原君ノ御質
問ノ中、休業銀行ニ關スルコトダケニ付キ
マシテ、大藏政務次官トシテ私カラ御答申
上ゲマス、地方金融ノ窮迫「シテ居ル原因ガ
一ニ休業銀行ノ數ガ多クナリ、其整理ガ付
カナイ爲デハナイカト云フ御話デアリマス
是モ金融ノ梗塞ヲ來シタ一原因ニ相違ナイ
ト思ヒマスソレデ六年中ノ休業銀行ノ數
ハ幾ラアルカト言ヘバ四十九アリマス
其後政府ハ地方廳ト色々打合セヲ致シ、此
整理ノ爲ニ努力ヲ致シマシタ結果、今日ニ
於テ休業銀行トシテ殘ッテ居ルノハ全部デ
三十四デアリマス、此內六大都市ニ在ルモ
ノガ五ツ、其他ノ地方ニ在ルモノガ二十九、
其預金ノ總額ハ一億五千九百餘万圓デアリ
やっ、斯ノ如キ狀況ヲ呈シマシタコトハ甚
ダ私共遺憾トスル所デアリマスガ併ナガ
ラ之ヲ彼ノ亞米利加ナドニ較ベマスト、昨
年一年間ニ亞米利加デ休業シタ銀行ハ二千
三百、其前ノ年ハ千幾ツト云フヤウナ非常
ナ數ニ上ッテ居ルノデアリマス、併ナガラ
今囘ノ匡救策ヲ實行シテ行キマスト、此地
方銀行ノ整理モ著々私共ハ改善セラルヽニ
至ルト思ヒマスカラ尙ホ地方廳、其他ト
心ヲ協セマシテ、其邊ノ匡救ノ爲ニ努力致
シマス積リデアリマス、左樣御了承アラム
コトヲ御願致シマス(拍手)
〔國務大臣子爵齋藤實君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=55
-
056・齋藤實
○國務大臣(子爵齋藤實君) 栗原君ノ御質
問ニ對シテ一言御答致シマス、今囘提出シ
マシタ豫算案竝ニ法律案ハ主トシテ時局匡救
ノ應急對策ガ、例ヘバ郵便貯金ノ利下ノ如
キ低金利政策ニ依リマシテ一般ノ經濟
界ヲ建直スコトノ根本策ノ一ツデアルト見
テ居ルノデアリマス又製絲業ノ免許制
度、商業組合ノ創設ノ如キモ、根本策ニ觸レ
テ居ルト考ヘルノデアリマス、尙ホ蠶絲業
ノ統制トカ或ハ又米ノ問題デアリマストカ
云フコトニ付キマシテハ昨日來主管大臣
ヨリモ申述ベテ居リマスル通リ、將來ニ亙
ル根本策ニ付テ、是等ハ銳意〓究致シマシ
テ、調査ノ出來次第、速ニ成案ヲ以テ御協贊
ヲ仰グ考デ居リマス、斯ウシテ提出致シテ
居リマスル所ノ匡救策ハ吾々誠心誠意之
ヲ行ウテ其結果ヲ見ル考デアリマス各所
管ノ諸相ニ於キマシテモ是マデノ仕方ト
段々趣ヲ異ニシマシテ、監督竝ニ指導ノ方
法ヲ色々考究致シマシテ誠心誠意進行致
ス積リデ居リマスノデ、決シテ平常ノ考デ
ハ居ラヌノデアリマス、是ダケ申上ゲマス
(拍手)
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=56
-
057・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 農村ノ何レノ方
面ニ重キヲ置イテ匡救策ガ樹テヽアルカト
云フ御尋ガアッタヤウデアリマス、今日農村
ノ窮乏ノ狀態ハ其農村ニ於ケル何レノ方
面ヲ問ハズ苦ンデ居リマスデ政府ノ政策
ハ其何レノ方面ニモ成べク行渡ルヤウニト
云フコトヲ考ヘテ居リマス殊ニ資力ノ少
イ方面ハ窮乏ガ洵ニ激シイノデアリマス
此土木事業等ハサウ云フ方面ヲ十分ニ潤ス
ヤウニト心掛ケテ組立テタ譯デアリマス
ソレカラ政府カラ乘出シテ大ニ匡救ヲシテ
ヤルト云フ意氣込ハ少クテ地方ニ非常ニ
負擔バカリサセルノデハナイカト云フヤウ
ナ御尋ガアッタヤウデアリマスガ、政府ハ豫
算ニモ出シテアリマス通リ、今日ノ財政ノ
狀態ニ於テ許ス限リノ努力ヲ以テ、此地方
ノ匡救ニ當ラウト致シテ居ルノデアリマ
ス、ソレカラ負債整理組合等ニ中々這入レ
ナイ困ッタ者ガ出來ヤセヌカト云フヤウ
ナコトニ付テモ御尋ガアリマシタガ負債
整理組合ハ其部落其最寄ニ居リマスル者
ノ御互ノ共助ノ力ニ依テテ負債ノ整理ヲシ
テ行カウト云フノデアリマシテ成ベク困
ル程度ノ酷イ人デモ、ソレニ這入レルヤウ
ト云フコトガ負債整理組合ノ希望スル所
デアリマス併ナガラ之ニ這入レナイト云
フ人モアルカモ知レマセヌ是等ノ人ノ救
濟ノコトニ付キマシテハ、又ソレ〓〓地方
ニ於キマシテモ色々ノ方法デ考ヘラレナ
ケレバナラヌト思ヒマスガ、負債整理組合
ノ精神ハ隣保共助ノ力ニ依テ、困ル者程
餘計入レテ、一ツ組合ヲ作ラシテ見タイ
ト、斯ウ云フヤウナ積リデ居ルノデアリマ
スソレカラ次ニ米ノコトニ付テ色々考ヘ
テ居ルト云フガ此出來秋ヲ控ヘテ考、
テバカリ居ッテモ仕樣ガナイデハナイカト
云フ御尋デアリマスガ、考ヘテ居ルト申シ
マスルノハ、根本策ノコトデアリマス、出來
秋ニ付テノ事柄ハ豫算其他デ御協賛ヲ仰
グヤウニ提出シテ居リマスルシ昨日來モ
說明シマシタヤウニ相當ノ措置ヲ以テ之
ニ對應セント考ヘテ居ル譯デアリマスソ
レカラ製絲業ヲ免許制年ニスルコトニ依ッ
テ、小サイ者ヲ壓迫スレバ、折角養蠶家ニ
對シテ、手取早ク高イ値デ買ッテ吳レル製
絲業者ガ絕滅シテシマウデハナイカト云フ
ヤウナ御尋デアリマシタガ、併ナガラ實際
ノ過去ノ狀況ヲ見マスト云フト今御話ノヤ
ウナ點モアリマセウケレドモ、亦小サイ製
絲家ガ亂立シテ繭ヲ買付ケ、內金ヲ拂ッテ
後デ又間モナク市場ノ變化ニ依テ、資力ガ
少ク、規模ノ小サイ爲ニ倒レテ、養蠶家ガ迷
惑ヲスルト云フ例モ非常ニ多イノデアリマ
スカラ、ヤハリ製絲業ハ相當ナ規模ヲ持ツ
テ居ルコトガ大體ノ原則トシテ宜シイヤ
ウニ考ヘテ居リマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=57
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058・秋田清
○議長(秋田〓君) 杉山元治郞君-杉山
元治郞君ハ缺席サレテ居リマス、仍テ質疑
ハ終局致シマシタ-日程第九、右各案ノ
審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ヲ議題ト致シ
マス
第九右各案ノ審査ヲ付託スヘキ委員ノ
選擧発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=58
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059・上田孝吉
○上田孝吉君 日程第四乃至第六ノ三案ハ
一括シテ議長指名十八名ノ委員ニ日程第
七ハ議長指名十八名ノ委員ニ、日程第八ハ
議長指名二十七名ノ委員ニ、ソレ〓〓付託
セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=59
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060・秋田清
○議長(秋田〓君) 上田君ノ動議ニ御異議
アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=60
-
061・秋田清
○議長(秋田〓君) 御異議ナシト認メマ
ス仍テ動議ノ如ク決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=61
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062・上田孝吉
○上田孝吉君 殘餘ノ日程ハ之ヲ延期シ、
本日ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=62
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063・秋田清
○議長(秋田〓君) 上田君ノ動議ニ御異議
アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=63
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064・秋田清
○議長(秋田〓君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ其通リ決シマシタ、次囘ノ日程ハ
公報ヲ以テ御通知致シマス、本日ハ是ニテ
散會致シマス
午後五時四十七分散會
衆議院議事速記錄第三號中正誤
頁段行誤正
一三三九極東ニ極度ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006313242X00419320826&spkNum=64
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