1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和八年二月十五日（水曜日）午前十時十四分開議
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議事日程 第十三號
昭和八年二月十五日
午前十時開議
第一 請願委員長報告
第二 小切手法案（政府提出） 第一讀會の續（委員長報告）
第三 行政執行法中改正法律案（衆議院提出） 第一讀會
第四 靜岡縣榛原郡下川根村に區裁判所出張所設置の請願 會議
第五 戰公傷病死者竝傷痍軍人の遺族扶助料に關する請願 會議
第六 加古川治水工事續行の請願 會議
第七 恩給法中改正の請願（文書表第八號、第二十一號） 會議
第八 戰役殊勳者待遇改善の請願 會議
第九 小學校教員俸給全額國庫支辨の請願） 會議
第十 大垣、金澤間鐵道速成の請願 會議
第十一 穀類搗精取締法制定の請願 會議
第十二 恩給法中改正の請願（文書表第十八號） 會議
第十三 府縣社以下神社に對し神饌幣帛料國庫供進の請願 會議
第十四 地先水面專用漁業の請願 會議
第十五 未成年者飮酒禁止法の改正法制定に反對の請願 會議
第十六 佐賀縣佐賀郡久保田村に佐賀區裁判所出張所設置の請願 會議
第十七 船員法中改正の請願 會議
━━━━━━━━━━━━━発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=0
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001・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ書記官ヲ
シテ諸般ノ報〓ヲ致サセマス
〔近藤書記官朗讀〕
去ル十日委員長ヨリ左ノ報〓書ヲ提出セリ
小切手法案修正報告書
請願委員會特別報告第一號
一昨十三日政府ヨリ左ノ議案ヲ提出セリ
保險業法中改正法律案
昨十四日衆議院ヨリ左ノ政府提出案ヲ受領
セリ
昭和八年度歲入歲出總豫算案竝昭和八年
度各特別會計歲入歲出豫算案
豫算外國庫ノ負擔トナルベキ契約ヲ爲ス
ヲ要スル件
同日內閣總理大臣ヨリ左ノ通政府委員仰付
ケラレタル旨ノ通牒ヲ受領セリ
第六十四囘帝國議會遞信省所管事務政
府委員
遞信省管船局長淺野平二君
本日第八部ニ於テ豫算委員子爵八條隆正君
ノ補闘選擧ヲ行ヒシニ其ノ結果子爵伊集院
兼知君當選セリ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=1
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002・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ本日ノ會
議ヲ開キマス、去ル九日桑山鐵男君、病氣
ニ付キ豫算委員ノ辭任ノ申出ガゴザイマシ
ク、許スコトニ御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=2
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003・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス、就キマシテハ第四部ニ於テ、其補
關選擧ヲ行ハレムコトヲ望ミマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=3
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004・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 議事日程第一、
請願委員長報告、〓岡子爵ノ登壇ヲ望ミマ
ス
〔子爵〓岡長言君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=4
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005・清岡長言
○子爵〓岡長言君 請願委員會ノ第一囘報
〓、卽チ昭和七年十二月二十六日ヨリ昭和
八年二月十四日迄ノ御報告ヲ致シマス、去
ル一月二十一日ニ委員會ヲ開キマシテ、正
副委員長ノ選擧及分科ノ決定、竝ニ分科ノ
擔當委員ヲ選定イタシマシタ、第一分科ハ
大藏省、農林省、商工省、第二分科ハ外務省、
内務省、文部省、第三分科ハ內閣、司法省、遞
信省、拓務省、第四分科ハ陸軍省、海軍省、
鐵道省ニ分チ、第一分科、第三分科ハ每週
月曜日、第二分科第四分科ハ每週火曜日ニ、
請願委員會ハ每週金曜日ニ開クコトニ決定
イタシマシタ、一月二十四日ニ各分科ノ主
査及副主査ノ選擧ヲ行ヒマシタ、請願委員
會ハ一月二十一日、二月十日ノ二囘開會イ
タシマシタ、而シテ分科會ハ、第一分科ハ、
一月三十日、二月六日、二月十三日ノ三囘、
第二分科ハ一月三十一日、二月七日、二
月十四日ノ三囘、第三分科ハ一月三十日、
二月六日、三月十三日ノ三囘、第四分科ハ
二月七日、二月十四日ノ二囘、合計十一囘
開會イタシマシタ、請願文書表報〓ハ第一
囘ヲ一月二十五日ニ、第二囘ヲ二月一日ニ
第三囘ヲ二月八日ニ致シ、請願委員會特別
報〓ハ二月十日ニ一囘イタシマシタ、請願
受領件數ハ百五十六件、之ニ連署イタシテ
居リマスル人名數ハ三十七萬四千二百九十
一名デゴザイマス、次ニ審査ノ經過及結果
ヲ御報告イタシマス、第一囘、第二回、第
三囘ノ請願文書表ニ揭載イタシテ居リマス
ル件數ハ百八件、而シテ之ガ審査ノ結果、
院議ニ付スベシト決シタルモノ卽チ採擇
イタシタモノガ二十七件、審査未了ニ屬ス
ルモノガ八十一件、尙ホ請願文書表ニ未ダ
揭載イタシテ居ラナイモノガ四十八件、以
上ハ昭和八年二月十四日午後四時締切マデ
ノ御報告デゴザリマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=5
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006・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第二、小切
手法案、政府提出、第一讀會ノ續、委員長
報〓、中御門侯爵ノ登壇ヲ望ミマス
小切手法案
右別册ノ通修正議決セリ依テ及報〓候也
昭和八年二月十日
委員長侯爵中御門經恭
貴族院議長公爵德川家達殿
特別委員ノ修正ニ係ル部分
ノミヲ印刷シ其ノ他ハ之ヲ
略ス小字及-ハ修正ナリ
第二十九條國內ニ於テ振出シ且支拂フ
ベキ小切手ハ十日內ニ支拂ノ爲之ヲ呈
示スルコトヲ要ス
支拂ヲ爲スベキ國ト異ル國ニ於テ振出
シタル小切手ハ振出地及支拂地ガ同一
トキハ二十日內又トキ
洲ニ存スルカ又ハ異ル洲ニ存スルカニ
依リ二十日內又ハ七十日內ニ之ヲ呈示
スルコトヲ要ス
前項ニ關シテハ歐羅巴洲ノ一國ニ於テ
振出シ地中海沿岸ノ一國ニ於テ支拂フ
ベキ小切手又ハ地中海沿岸ノ一國ニ於
テ振出シ歐羅巴洲ノ一國ニ於テ支拂フ
ベキ小切手ハ同一洲內ニ於テ振出シ且
支拂フベキモノト看做ス
本條ニ揭グル期間ノ起算日ハ小切手ニ
振出ノ日附トシテ記載シタル日トス
第十章通則
第五十三條本法ニ於テ「銀行」ナル文字
ハ法令ニ依リテ銀行ト同視セラルル人
又ハ施設ヲ含ム
第五十四條小切手ノ呈示及拒絕證書ノ
作成ハ取引日ニ於テノミ之ヲ爲スコト
ヲ得
小切手ニ關スル行爲ヲ爲ス爲殊ニ呈示
又ハ拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有
スル宣言ノ作成ノ爲法令ニ規定シタル
期間ノ末日ガ法定ノ休日ニ當ル場合ニ
於テハ期間ハ其ノ滿了ニ次グ第一ノ取
引日迄之ヲ伸長ス期間中ノ休日ハ之ヲ
期間ニ算入ス
第五十五條本法ニ規定スル期間ニハ其
ノ初日ヲ算入セズ
第五十六條恩惠日ハ法律上ノモノタル
ト裁判上ノモノタルトヲ問ハズ之ヲ認
メズ
第十一章支拂保證
三
第五十七條支拂人ハ小切手ニ支拂保證
ヲ爲スコトヲ得
支拂保證ハ小切手ノ表面ニ「支拂保證」
其ノ他支拂ヲ爲ス旨ノ文字ヲ以テ表示
シ日附ヲ附シテ支拂人署名スベシ
四
第五十八條支拂保證ハ單純ナルコトヲ
要ス
支拂保證ニ依リ小切手ノ記載事項ニ加
ヘタル變更ハ之ヲ記載セザルモノト看
做ス
五
第五十九條支拂保證ヲ爲シタル支拂人
ハ呈示期間ノ經過前ニ小切手ノ呈示ア
リタル場合ニ於テノミ其ノ支拂ヲ爲ス
義務ヲ負フ
支拂ナキ場合ニ於テ前項ノ呈示アリタ
ルコトハ第三十九條ノ規定ニ依リ之ヲ
證明スルコトヲ要ス
第四十四條及第四十五條ノ規定ハ前項
ノ場合ニ之ヲ準用ス
五十六
第六十條支拂保證ニ因リ振出人其ノ他
ノ小切手上ノ債務者ハ其ノ責ヲ免ルル
コトナシ
五十七
第六十一條第四十七條ノ規定ハ支拂保
證ヲ爲シタル支拂人ニ對スル權利ノ行
使ニ付之ヲ準用ス
五十八
第六十二條支拂保證ヲ爲シタル支拂人
ニ對スル小切手上ノ請求權ハ呈示期間
經過後一年ヲ以テ時效ニ罹ル
第十一章通則
第五十九條本法ニ於テ「銀行」ナル文字ハ法
令ニ依リテ銀行ト同視セラルル人又ハ施設
ヲ含ム
第六十條小切手ノ呈示及拒絕證書ノ作成ハ
取引日ニ於テノミ之ヲ爲スコトヲ得
小切手ニ關スル行爲ヲ爲ス爲殊ニ呈示又ハ
拒絕證書若ハ之ト同一ノ效力ヲ有スル宣言
ノ作成ノ爲法令ニ規定シタル期間ノ末日ガ
法定ノ休日ニ當ル場合ニ於テハ期間ハ其ノ
滿了ニ次グ第一ノ取引日迄之ヲ伸長ス期間
中ノ休日ハ之ヲ期間ニ算入ス
第六十一條本法ニ規定スル期間ニハ其ノ初
日ヲ算入セズ
第六十二條恩惠日ハ法律上ノモノタルト裁
判上ノモノタルトヲ問ハズ之ヲ認メズ
〔侯爵中御門經恭君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=6
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007・中御門經恭
○侯爵中御門經恭君 小切手法案ノ特別委
員會ノ經過竝ニ結果ヲ御報告イタシマス、
本案ノ趣旨ハ大體上程ノ際政府當局ヨリ說
明ノアリマシタ通リデ、此法案ハ小切手統
一法制定條約ニ基クモノデアリマシテ、同條
約ニハ第一及第二ノ附屬書ヨリ成ッテ居リ
マシテ、其第一附屬書ヲ小切手統一法ト申
シテ、同條約ノ締約國ハ、小切手統一法ヲ
自國語ニ依フテ各自ノ領域ニ施行スルコト
ヲ約スルモノデアリマシテ、之ガ締約國デ
アルガ爲ニハ自國語ニ依ル小切手統一法
ヲ國內法トシテ有ツ必要ガアルノデアリ
やっ、而シテ曩ニ締結セラレ又公布セラレ
マシタル手形統一法トハ、極メテ密接ナル聯
絡調和ヲ保ッテ居リマスルノデ、小切手ノ流
通スル國ニ於キマシテ、法令ノ差異ヨリ生
ズル不便ヲ除去シ、國際通商關係ヲ一層確
實敏速ナラシムル爲ニ設ケラレタモノデア
リマシテ、且ツ現行商法ヨリハ幾多ノ優ヲ
タ點モアリマシテ、ソレガ爲ニ提出セラレ
タノデアリマス、デ其內容ニ於キマシテハ
第一章ヨリ十一章ニ亙ヲテ居リマシテ、一章
カラ十章迄ハ小切手統一法ノ飜譯ト、第二
附屬書中ノ留保條項ヲ若干入レタモノデア
リマシテ、第十一章ニハ支拂保證ニ關スル
規定ガ置イテアリマスデ本案ノ現行商法
ヨリ優ッテ居リマス點ヲ一、二申上ゲマスル
ト、小切手ノ支拂人タリ得ベキ者ヲ、銀行
又ハ法令ニ依リテ是ト同視セラルヽ人又ハ
施設ニ限リタルコト、ソレカラ先日附小切
手ハ、振出日附トシテ記載セラレタル日ヨ
リ前ニ支拂ノ爲メ呈示セラレタルトキト雖
モ、其呈示ノ日ニハ支拂ハナケレバナラヌ、
又小切手ニ付テモ小切手上ノ效力ヲ有スル
保證ヲ認メタコト、又線引小切手ノ規定ガ
改善セラレタル點、或種ノ小切手ニ複本ヲ
認メタコト、支拂保證ニ關スル規定ヲ新ニ
設ケラレタコト、又第二附屬書ノ方デハ、
統一法デハ國內小切手ノ呈示期間ヲ八日ト
シテアリマスノヲ十日トシ、又海外領土デ
振出シテ、日本內地デ支拂フヤウナ小切手
ニ付テハ、勅令ヲ以テ右期間ヲ延長スルコ
トガ出來ルコト、計算小切手ノ制度ヲ認メ
ナイコト、サウ云フヤウナコトガ此法令ノ
重モナルモノデアリマス、右ニ關シマシテ
ハ數回ニ亙ッテ委員會ヲ開キ再三懇談ヲ重
ネマシテ、委員諸君ノ熱心ナル質問應答ガ
アッテ、其結果此法案ハ假ニ日本ガ國際聯盟
ヲ脫退スルコトガアルトシタナラバ、國內
法トシテ施行スル希望ガアルカドウカ、又
本法ガ成立シタ曉ニ、條約ノ批准交換ガ成
立スルカドウカト云フ問ニ對シマシテ、政
府ハ內容ニ於テ現行商法ニ優ヲテ居ルモノ
デアリマスルカラ、政府ト致シマシテハ之
ヲ施行スル考ヘデアリマス、併シソレモ今
後ノ政治上ノ事情ニ依フテ居リマシテ、施行
ニ關シテ如何ナル變化ヲ生ズルコトニナリ
マスルカハ只今ノ所豫期シ難イ所デアルノ
デアリマスト云フ答デアリマシテ、審議ヲ
進メテ十分ナル〓究ノ結果、第十章迄ハ條
約ノ章ノ順ヲ逐ヒマシテ、支拂保證ノ規定
ハ留保サレテ居リマスルカラシテ、之ヲ第
十一章ニ置イタト云フ政府委員ノ說明デゴ
ザイマシタ、ケレドモ第十章ニ通則ヲ置イ
タノハ何レノ條約ニ於キマシテモ、通則ハ
本文ノ最後ニアルベキモノデアッテ、寧ロ條
約ノ形ヲ整ヘルト云フ點カラシマシテハ
支拂保證ノ規定ヲ通則ト附則トノ間ニ挿入
シタト云フコトハ、却ッテ條約ノ形ヲ破壞シ
タルモノデアルト云フノデ、殊ニ此通則ハ
此法案全部ニ關係ガアルモノデアリマスカラ、
第十章ノ通則ヲ第十一章トシ、第十一章ノ
支拂保證ヲ第十章トシテ、最後ニ附則ヲ置
クト云フコトガ適當デ、形ヲ整ヘル上ニ於
テモ之ヲ修正シナケレバナラヌト云フノデ、
之ヲ修正サレマシタ、又使用字句ノ點ニ付
キマシテハ、自國語ニ直譯スルト云フコト
デアリマシテモ、餘リニ違ッタ字句ヲ用ヒ
テ、今日マデ法文上未ダ曾テ見ナイヤウナ
字句ガ用ヒラレテ居リマス、其爲ニ各委員
カラ、原文ハ十分ニ尊重スルケレドモ、外
國ニ追従スルヤウナ氣分ヲ除去シテ、將來
ハ斯ウ云フ法案ガ又提案サレタ場合ニ、修
正ノ趣意ヲ能ク記憶サレテ、日本ノ國法ト
シテ、一般ニ平易ニヨク了解出來ルヤウナ
字句ヲ使用シテ欲シイト云フ希望ヲ述べテ、
旣ニ公布セラレマシタ、此小切手法ノ姉妹
法デアル手形法ト違ッタ譯字ヲ用ヒルコト
ヲ虞レマシテ、各委員ニ於キマシテハ原文
ヲ十分尊重シナガラ、文句ノ修正ノ一端ノ
現ハレト致シマシテ、手形法ニハ關係ノナ
イ、第二十九條第二項、卽チ「支拂ヲ爲スベ
キ國ト異ル國ニ於テ振出シタル小切手ハ振
出地及支拂地ガ同一洲ニ存スルカ又ハ異ル
洲ニ存スルカニ依リ二十日內又ハ七十日內
ニ之ヲ呈示スルコトヲ要ス」ト云フノヲ「支
拂ヲ爲スベキ國ト異ル國ニ於テ振出シタル
小切手ハ振出地及支拂地ガ同一洲ニ存スル
トキハ二十日內又異ル洲ニ存スルトキハ七
十日內ニ之ヲ呈示スルコトヲ要ス」ト修正
シタノデアリマス、之ニ對シマシテ、政府
ハ、第十章ト第十一章ヲ取換ヘルコトハ
政府トシテ御同意ヲ致シマス、第二十九條
第二項ニ關シテハ、文字ハ異ッテ居ルヤウデ
アリマスガ原文ノ文字トハ變ラナイト認
メラレルヤウデアリマスカラ、强ヒテ反對
ハ致シマセヌト云フコトデアリマシテ、此
法案ノ原文ノ中ニアリマス、「レスペクティ
ヴリー」ト云フ字ニ付キマシテ、可ナリ論議
ヲ鬪ハサレマシタ、依テ採決ノ結果、此法
案ハ、現行商法規定ヨリ優ヲテ居ルモノデ
アッテ、其趣意ニ於テハ何等異議ハナイ、唯
字句ノ使用ニ付テハ、將來ノ注意ヲ希望セ
ラレタダケデ、全會一致ヲ以テ修正通リ可
決イタシマシタ、右御報〓ヲ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=7
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008・土方寧
○土方寧君 本案ニ付テ質問イタシタウゴ
ザイマスガ、宜シウゴザイマスカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=8
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009・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 宜シウゴザイマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=9
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010・土方寧
○土方寧君 簡單デゴザイマスカラ當席カ
Si,発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=10
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011・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 成ルベク御大聲
ニ願ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=11
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012・土方寧
○土方寧君 此小切手法案ノ規定ニ依リマ
スト、小切手ハ爲替手形ト違ヒマシテ、引
受ヲ爲スコトガ出來ナイト云フコトニナフ
テ居リマス、併シ他ノ場合ニハ從來モアッタ
コトデアリマスガ、小切手ノ支拂保證ノ規定
ガゴザイマシテ、支拂銀行ハ支拂ヲ保證スル
ト云フト、其小切手ノ呈示期間內ハ小切手ヲ
拂フ義務ヲ負擔スルト云フコトニナル、名
ハ保證ト云フ別ナ言葉デアリマスケレドモ、
爲替手形引受ト同ジヤウナコトニ考ヘルノ
デアリマス、此點ニ付キマシテハ委員會
デモ質問應答ガアッタヤウデアリマスガ、併
ナガラ尙ホ何分カハ了解サレマスガ、引受
スルコトハ出來ナイガ、保證ハ出來ル、保
證スレバ支拂義務ガアルト云フノハ前後
矛盾シテ居ルヤウニ考ヘマス、英吉利、亞
米利加ノ例ニ付テ考へマシテモ、ドチラデ
モナイヤウニ思ヒマスガ、ドウ云フコトデ
アルカ、ソレヲ簡單ニ御說明ヲ願ヒタイ、
其御說明ヲ聽キマシタ上デ、尙ホ疑念ガ解
ケマセナカッタナラバ、次ニハ少シ長クナル
カモ知レマセヌカラ、登壇シテ重ネテ御伺
ヒ致シマス
〔政府委員長島毅君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=12
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013・長島毅
○政府委員(長島毅君) 私ヨリ御答ヲ致シ
マス、チヨット甚ダ失禮デゴザイマシタガ、
聽落シヲ致シタカモ存ジマセヌカラ、若シ
ソレデアリマシタナラバ、又重ネテ御問ヒ
ヲ願ヒマス、仰セノ如ク、小切手ハ引受ガ
出來ナイコトニナッテ居リマシテ、唯此第二
附属書ノ方ニ「引受」タル效力ヲ認メナイ限
度ニ於テ、支拂保證ノ制度ヲ各國デ用ヰテ宜
イト云フコトニナッテ居リマスノデ、矢張リ
此意味ニ於キマシテ、「引受」タル效力ハナイ
ガ、「引受」タル效力ト認メラレザル限度ニ於
テ、支拂保證ヲ認メタ譯デアリマス、仰セノ如
ク、結局間違ヒマス點ハ、呈示期間ノ經過前ニ
限フテ、支拂保證ヲナシタモノガ責任ヲ負フ、
而シテ其呈示期間前ニ支拂ヲ求メタト云フ
コトヲ證明シナケレバ、支拂保證ニハ責任
ガ無イ、斯ウ云フコトニナッテ居リマシテ、
此點デ引受ト違ッテ居ルカラ、差支ナイデア
ラウト云フ風ニ考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=13
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014・土方寧
○土方寧君 今ノ點デ、簡單デアリマスカ
ラ、此席カラ伺ヒマス、今ノ御說明ニ依リ
マスト云フト、引受ハ出來ナイガ、保證ハ
出來ル、其保證ノ效力ハ小切手ノ呈示期間
內ニ於テハ保證ハ支拂銀行ガ義務ヲ負擔
スル、呈示期間前ト云フコトノ日ニチニ義
務ガアルト云フダケノ違ヒト云フ風ニ聽キ
マシタガ、其點ニ付キマシテハ、若シ小切
手ノ所有人ガ呈示期間內ニ呈示ヲシナカッ
タト云フトキニハ、其所有人ニ對シテハ、
支拂銀行ハ拂ハナクテ宜イコトニナリマス
ガ、其場合ニハ振出人ハドウデアリマス
カ、矢張リ振出人ハ、銀行ガ拂ハヌト云フ
トキニハ、償還シナケレバナリマセヌノカ、
ソレトモ振出人モ償還義務ハ免レル、紙幣
ヲ失ッタヤウナ譯デ、權利ヲ失ッタダケデア
リマスカ、ソレヲ伺ヒマスノハ、法文ニハ
ハッキリ見エテ居ラヌヤウデアリマスガ、支
拂銀行ガ支拂保證ヲシマスト、其時ニ振出
人ニ對シテ貸方ニ書入レル慣例ニナッテ居
ルヤウデアリマス、サウシテ支拂銀行ガ銀
行ニ呈示ガナイカラ拂ハナクテモ宜イト云
フコトニナリマスト、大變ニ得シタコトニ
ナル、所有人ニ拂ハヌデ、振出人ニ對シテ
拂ッタト同樣ナ帳簿ノ記入ヲ其儘ニスルコ
トガ出來ルカドウカ、ヲカシナコトニナル
ト思ヒマスカラ、其點ニ付テ御說明ヲ願ヒ
マス
〔政府委員長島毅君登壇〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=14
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015・長島毅
○政府委員(長島教君) 仰セノ如ク、皇示
期間經過後ニ支拂ヲ求メマシテ、支拂金ガ
拂ハレタ場合デモ、振出人ハ無論責任ハナ
イノデアリマスガ、償還請求ニ······遡求權
ノ行使ニ應ジナイデ宜イノデアリマス、此
場合ニ支拂保證ヲ致シマスト、仰セノ如ク、
其銀行ノ方ノ預金ハ、振出人ノ預金カラ之
ヲ落シテ居リマス、併シ是ハ內部關係デア
リマスカラ、サウ云フコトニナレバ又預金
ヲ復活スルトカ何トカ云フコトニナルデア
ラウト存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=15
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016・土方寧
○土方寧君 今度ハ少シ長クゴザイマスカ
ラ登壇イタシマセウカ発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=16
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017・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御登壇ヲ願ヒマ
セウ
〔土方寧君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=17
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018・土方寧
○土方寧君 只今政府委員ニ伺ヒマシタ御
說明ダケデハ、何分了解シ兼ネマス、實際
格別弊害ガ無イカモ知レマセヌガ、能ク考
ヘテ見マスト、小切手ノ支拂保證ニ、法律
上ノ支拂義務ガ生ジタコトニスルノハ、餘
程考ヘモノデアルト思ヒマス、此點ハ英
吉利ト亞米利加ト違フテ居リマス、御承知ノ
通リ千八百八十二年以來、英吉利ニハ手形
法ガ成文ニナッテ居リマス、爲替、小切手、
約束手形ト云フモノガ出來テ居リマス、其
後大體之ニ傚"テ、亞米利加ノ諸州デモ、名
稱ハ違ヒマスガ、流通證書法トモ譯スベキ
名稱ヲ用ヰテ居リマスガ、條文ノ前後ガ一
樣デアリマセヌケレドモ、大體英吉利ト同
ジ手形法ガ諸州ヲ通ジテ行ハレテ居リマス、
州々別ニ出來テ居リマス、其一々ハ申シ
マセヌケレドモ、倫敦ニ次イデ、或ハソレ
ヨリモ一層、今日デハ世界ノ金融市場ノ中
心ニナッテ居ル紐育州ノ手形法ナドニ依ッテ
見マシテモ、支拂保證ト云フコトハ、爲替
手形ノ引受ト同ジコトニナッテ居リマス、「サー
ティフィケーション」ト申シテ居リマス、小切
手ハ「サーティファイド·チエック」······十
何年前ノコトデ、手許ニ本ガナカッタカラ
見テ參リマセナカッタガ、亞米利加ノ大キ
ナ手形ノコトヲ書イタ本ノ中ニ、紐育州
ニ一日流通シテ居ル所ノ「サーティファイ
ド·チエック」、保證小切手ト云フモノガ、
一デアッタカ二デアッタカ分リマセヌガ、
「ビリオン」二「ビリオン」ト云フノデスガ、
大シタモノデアリマス、其紐育州手形法ノ
小切手ノ保證ト云フコトハ、爲替手形ノ引
受ト同ジコトデ、支拂銀行ガ保證シマスト
云フト、其時ニ同時ニ小切手ノ引受人ニ於
テ、小切手金ヲ拂〓タト同樣ニ見テ、振出人
ニ對シテハ貸方ニ記入スルコトガ出來ル、
其瞬間ニ振出人ハ關係ヲ離レテ、小切手ノ
償還義務ヲ免レル、其後ハ支拂銀行ト小切
手ノ所有人、其後ノ所有者トノ間ノ二者ノ
關係ニ止マルノデアリマス、故ニ形ハ小切
手デアリマスガ、事實ハ兌換劵同樣デアリ
マー、若シ其支拂銀行信用ノ厚イ銀ガ行ア
アリマシタナラバ、其形ハ小切手デアリマ
スガ、實ハ銀行ガ兌換劵ヲ發行シタト同ジ
コトニナリマス、唯實際小切手ト云フモノ
ハ、所謂支拂ノ用具デアリマシテ、外ノ爲
替手形ノ如キ信用證劵デアリマセヌカラ、
長イ間市場ニ流通スルコトガ稀デアッテ、多
クハ間モナク手形交換所デ交換セラレ、決濟
セラレルノデアリマセウ、併シ之ヲ兌換劵ト
同樣ニ利用シヤウト思へバ出來ル譯デアリ
マス、其呈示期間モ別ニ杓子定規ニ定マッテ居
リマセヌ、相當期間內ト云フコトニナッテ居リ
マス、此點ハ英吉利ノ手形法ト丸デ違ヒマス、
英吉利ハ同ジコトヲ「マーキング」ト申シマ
スガ、小切手ニ支拂銀行ガ「グッド·アップルー
ヴ」ト云フコトヲ手形ニ書キマス、ン
ガ日本ノ從來ノ手形保證ト同ジ趣意デアリ
どく、所ガ英吉利手形法ニ於キマシテハ、
此手形ノ支拂保證ニ當リマス言葉ヲ書キマ
シテモ、法律上何等ノ效力ハアリマセヌ、
效力ガ無イト云フコトニシタ理由ニ付テ
ハ、色〓本ヲ見マシタケレドモ、詳シイコ
トハ書イテアリマセヌガ、實際ハ斯ウ云フ
コトノヤウデアリマス、只今申シマス通リ
ニ、若シ支拂銀行ガ支拂保證ヲシタナラ
バ、確定ノ義務ヲ負擔スルト云フコトニナ
レバ其銀行ガ兌換劵ノ發行ト同樣ナコトニ
ナッテ、兌換劵發行ノ特權ノアル銀行ノ特權
ヲ害スルコトニナル、ノミナラズ若シ支拂
銀行ガ信用ガアッテ、其銀行ノ支拂保證ノ小
切手ガ澤山ニ市場ニ流通シテ居フタ後デ、萬
一破綻シタナラバ、財界ニ惡影響ヲ及ボスト
云フヤウナコトモ考ヘタモノラシイ、ソン
ナラ何故ニ保證スルカト云フト、手形交換
所ノ便宜上ノコトデアッテ、銀行營業者ノ間
ノ一ツノ慣例ニ過ギナイト云フコトデアリ
マス、英吉利ナドデモ多少ハ小切手ハ流通
シマセウガ、實ハ英吉利デハ小切手ト云フ
モノハ〓シテ二晝夜位デアリマス、流通期
間ガ·······小切手トシテ效用ヲ持ツ期間ガ相
當限ラレテ居リマス、杓子定規的ニ何日ト
云フコトハ定マッテ居リマセヌガ、ソレハ受
取人ガ執務時間ニ受取ッタナラバ、自分ノ取
引銀行ニ入レマセウシ、或ハ又直グ現金ニ
換ヘル、單ニ拂フト云フコトハ餘リ致シマ
セヌケレドモ、受取ッタ人ハ又執務時間ナ
ラバ入レマセウ、詰リ受取ッタ所持人ガ、翌
日銀行ノ執務時間ナラ、銀行營業時間內デ
アッタナラバ、其中ニ提出シナケレバナラ
又、遠方ナラバ翌日中ニ發送シナクチヤナ
ラヌ、發送ヲ受ケタ者ハ、受ケタ日カラ翌
日中ニ又支拂ヲ呈示シナクチヤナラヌト云
フ、斯ウ云フコトニナッテ、誠ニ短期間ニ
實際ハ限ラレテ居ル、何故カト云フト、小
切手ハ信用證劵ノ趣意デハアリマセヌカ
ラ、成ルベク早ク決濟スル趣意デ、大抵ハ
交換所ハ直グ銀行間ニ交換決濟ヲシテ居リ
やく、其時交換ノ爲ニ呈示セラレタ或ル銀
行カラ支拂呈示ヲ受ケタ小切手ガ、支拂銀
行デ拂フベキモノナリヤ否ヤト云フコトヲ、
交換所ハ自分ノ銀行ノ原簿ニ徵シテ見ナク
クチヤ決シテ分ラヌデアリマセウ、ソレガ保
證ヲ書イテアレバ、是ハ拂フベキモノト云
フコトガ一見明瞭デアリマスカラ、其積リ
デ交換イタシマス、其銀行營業者ノ間ノ便
利カラ起ッタモノデアッテ、決シテ法律上ノ
效力ハ無イト云フコトニ英吉利デハナッテ
居リマス、併シ大體ニ於テ英米同ジコトニ
ナッテ居リマス、亞米利加ノ手形法ハ先刻申
シマシタ通リ、爲替ノ引受ト同ジコトデ、
支拂銀行ガ義務ヲ負擔スル其瞬間ニ、振出
人ハ手形ノ關係ヲ離レテ、支拂銀行ト小切
手ノ呈示人ノ二者ノ關係ダケニナッテ居ル、
規則ノ許ス範圍內ニ、兌換劵同樣ノ流通ヲ
シ得ルト云フコトニナッテ居リマス、是ハイ
ケナイト云フコトヲ英吉利ノ人ハ考ヘテ居
ルヤウデアリマスガ、併シ是ハ杞憂カモ分
リマセヌ、ドウモ先刻政府委員ノ御說明デ
モ、此點ダケハ留保サレテ居ッテ、共通法ノ
一部分デハナイサウデアリマスカラ、我國
ハ適宜之ヲ變ヘテモ宜イ譯デモアリマスケ
レドモ、私ハ今此小切手ノ支拂保證ト云フ
コトヲ、手形行爲ノ效力カラスルナラバ
ソレハ宜クナイト思ヒマスケレドモ、其點
ハ廢止シタイト思ヒマスケレドモ、今此場
合サウ云フ提案ヲシマシテモ、賛成者ヲ得
ルコトガ出來ルカドウカ分リマセヌカラ、
有ルナラ有ルニシテモ、ドウカ意味ノ分ル
ヤウニシテ貰ヒタイト思ヒマス、十日トカ
幾日トカ云フ呈示期間ガアリ、期間內ダケ
ノ義務ガアル、爲替ヲ引受ケタ者ダケガ義
務ガアル、タッタ一ツ期間ガ經過シタラド
ウカト云フト、サウシタラ支拂銀行ハ義務
ガ無クナリ、振出人モ償還ノ義務ハ無イ、
サウスルト其當時ノ所持人ハ期間內ニ呈示
シナイノハ惡イヤウデ、アリマスケレド
〓〓〓〓発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=18
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019・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 伺ヒマスガ、御
意見デゴザイマスカ、成ルベク早ク質疑ニ
御這入リヲ願ヒタイト思ヒマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=19
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020・土方寧
○土方寧君 宜シウゴザイマス、サウ云フ
ヤウナ考ヲ持ヲテ居リマスガ、最初御話ノ通
リドウモ「保證」ト云フコトト「引受」ト云
フコトノ違ヒガ、名ガ違フダケデ、本當ハ
區別ガナイト思フ、唯呈示期間ト云フ期間
ダケヲ定メテ居ルダケ違フ、其後ノ始末ヲ
付ケテ居ナイ、是ハ後ノ始末ハドウ云フ風
ニ御定メニナリマスカ、民法或ハ商法ノド
ウ云フ規定ニ依ッテ、振出人ト銀行トノ間ノ
關係ヲ始末スルノデアリマスカ、ソレヲ改
メテ伺ヒタイノデアリマス
〔政府委員長島毅君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=20
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021・長島毅
○政府委員(長島毅君) 支拂保證ノ制度
ハ大體現在日本デ行ハレテ居リマス商習
慣ニ基キマシテ、實業家ノ一般ノ希望ニ依フ
テ規定ヲ致シタモノデアリマス、而シテ呈
示期間經過後ニ於テ支拂ヲ求メタ場合ノ、
內部關係ノコトニ付テ御尋ネデアリマス
ガ、ソレハ御承知ノ如クニ、振出人ト銀行
トノ間ニ小切手契約ガ多ク結バレテ居リマ
シテ、其契約ノ內容ニ依ッテ、自ラ定マルコ
トニナラウカト存ジマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=21
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022・土方寧
○土方寧君 今ノ御說明ニ付テ、マズハッキ
リ能ク分リマセヌカラ伺ヒマス、振出人ト
支拂銀行トノ間ノ關係ハ、兩者ノ間ニ契約
ガアルカラ、ソレデ定メルト仰シヤイマス
ガ、唯普通ノ場合ニ、振出人ガ支拂銀行ニ
預金ヲシテ居ル預金ノ範圍內デ小切手ヲ振
出シテ居ル、ソレハ保證サレテ居ルガ、所
持人ガ期日內ニ呈示シナカッタ、ソレガ爲メ
支拂銀行ガ義務ヲ免レ、振出人モ償還義務
ヲ免レル、後ノ關係ハ契約デ定メルト云フ
ノハ、ドウ云フノデアリマスカ、振出人ト
銀行トノ間ノ契約デ以テ始末ヲスルト云フ
ノト、ドンナ契約ヲスルノデアリマスカ、
別段サウ云フ場合ニ契約スルコトハ、見タ
コトガアリマセヌ
〔政府委員長島毅君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=22
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023・長島毅
○政府委員(長島毅君) 詰リ銀行ニ預金ヲ
致シテ居リマス場合ニ、是ハ私ノ考デアリ
マスガ、支拂保證ヲ致シマシタトキニ、振
出人ノ預金ノ方カラ外ノ項目ヘ其預金ヲ振
替ヘマシテ、支拂口座ハ、能ク存ジマセヌ
ガ、支拂保證ノ確カ口座ノヤウナモノガア
リマシテ、其方ニ移シ替ヘテ居リマスヤウ
デアリマスガ、併ナガラ此場合ニ、若シモ
銀行ガ小切手ヲ支拂ヒマセヌナラバ、矢張
リソレハ實體上ニ於キマシテハ振出人ノ
預金トシテ殘ッテ居ルコトト存ジマス、唯
誤フテ支拂ヲ爲スヲ恐レルガ爲メ、銀行ノ帳
簿ノ上ニ、記帳ヲ移シタト云フコトニナル
カト存ジテ居リマス、併シ此詳シイコトハ
民事關係デ自然律スルコトデアリマシテ、
是ハ土方先生ノ方ニ却ッテ御意見ヲ伺フヤ
ウナコトガ或ハアルカト存ジマスガ、民法
デ大體律スルコトニナッテ居ルノデアリマ
ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=23
-
024・土方寧
○土方寧君 尙ホ能タ分リマセヌカラ伺ヒ
マス、支拂銀行ガ保證シタラ、ソレハ帳面
ガ多分別ニナッテ、其方ニ貸方ニモ拂ッタコ
トニナッテ居ルデアラウ、併シ外ノ預金帳
ガ、其方ニハ預金者ノ方ニ借方ニナッテ居
ル帳簿ガアル、所ガ呈示期間ガ經過シテ、
呈示ガナイカラ拂ハナイデ宜イト云フコト
ニナルト、前ノ支拂保證シタ帳面ノ方ヲ消
シテシマッテ、サウシテ又普通ノ方ニ振替ヘ
ル、其方ニ預金ニナッテ居ルト云フコトニス
ルト云フ話デアリマスガ、ソンナラ振出人
ハ損ヲスルコトハ無イガ、其邊ガ此規定デ
ハ一向分ラナイ、全體的ニ言フト、民法デ
何トカ始末ガ付カウ、民法ノドウ云フ規定
デ······私モ民法ハ多少知ッテ居ル積リデア
リマスガ、ドウ云フ規定デアリマスカ
〔政府委員長島毅君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=24
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025・長島毅
○政府委員(長島毅君) 私ノ申上ゲマシタ
ノハ、或ハ間違ヒカモ存ジマセヌガ、私ノ
考ト致シマシテハ、小切手ヲ保證イタシマ
シテ、其振出人ノ預金カラ其保證額ダケヲ
移シマシテ、外ノ方へ、外ノ項目ヘ移スヤ
ウデアリマス、銀行ノ帳簿ト致シマシ
テ······併シ實體上ニハマダ支拂ヲ致シマセ
ヌ間ハ、矢張リ依然トシテ振出人ハ預金ノ
權利ヲ持ッテ居ルノヂヤナイカト思ヒマス、
唯利子ノ計算ヤ其外ノ點ハ、是ハ或ハ銀行
ノ商慣習ニ依リ、或ハ小切手契約等ニ依クテ
定マルコトト存ジマスガ、預金トシテハ振
出人ノ預金ハ、小切手ガ拂ハレル迄ハ、矢
張リ殘ッテ居ルモノヂヤナイカト云フ風ニ
考ヘテ居リマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=25
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026・土方寧
○土方寧君 モウ同ジコトハ伺ヒマセヌ
ガ、今利子ノコトデ、當座預金ハマア英
吉利ナドデハ無利息ノヤウニ聽イテ居リマ
スカ、日本デハ低利デモ利息ガ附クノガ普
通ノヤウニ聽イテ居リマス、サウスルト支
拂保證額ダケ移スコトニナレバ、ソレダケ
ノ利息ハ拂ハヌデ宜イト云フコトニルナル
ト、他日、保證ハシテモ拂ハヌデ宜イトナッ
タトシテ、矢張リ其金額ダケハ振出人ノ預
金トシテ居ナケレバナラヌト云フト、其時
カラ遡ッテ、利息マデ勘定シナケレバナラ
ヌノカ.ソレ等ノ所ハ銀行ノ慣習トカ、慣
例デ行クト仰シヤイマスガ、是ハ振出人ニ
取ッテ利害關係ノ權利義務ノアル問題デア
リマスカラ、銀行業者間ノ慣例ダケデハ濟
やり、振出人ノ權利義務ノ何カ根據ガナケ
レバナラヌト思ヒマスガドウデアリマスカ
〔政府委員長島毅君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=26
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027・長島毅
○政府委員(長島毅君) 私モドウモ銀行ノ
方ノ商習慣ヤ何カハ能ク存ジテ居リマセヌ
カラ、ハッキリシタコトハ申上ゲラレマセ
ヌガ、此點ハ現在ノ支拂保證ヲ致シタ場合
!今ノ現行ノ實際ニ於テ支拂保證ヲ致
シテ居ル場合ト同樣ニ考ヘテ宜イカト存ジ
マス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=27
-
028・土方寧
○土方寧君 モウ何度聽イテモ能ク分リマ
セヌガ、滿足シマセヌガ止メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=28
-
029・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 本案ヲ第二讀會
ニ移スコトニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=29
-
030・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=30
-
031・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第二讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=31
-
032・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=32
-
033・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=33
-
034・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=34
-
035・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 諸君ニ於テ御異
議ガナケレバ議案全部ヲ問題ニ供シマス、
全部特別委員長ノ報告通リニ御異存ゴザイ
マセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=35
-
036・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=36
-
037・西大路吉光
○子爵西大路吉光君 直ニ本案ノ第三讀會
ヲ開カレムコトヲ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=37
-
038・植村家治
○子爵植村家治君 贊成発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=38
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039・徳川家達
○議長(公爵徳川家違君) 西大路子爵ノ動
議ニ御異存ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=39
-
040・徳川家達
○議長(公爵徳川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=40
-
041・徳川家達
○議長(公爵徳川家遠君) 第二讀會ノ決議
通リデ御異存ゴザイマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=41
-
042・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 御異議ナイト認
メマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=42
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043・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 日程第三、行政
執行法中改正法律案、衆議院提出、第一讀
會
行政執行法中改正法律案
右本院提出案及送付候也
昭和八年二月四日
衆議院議長秋田〓
貴族院議長公爵德川家達殿
行政執行法中左ノ通改正ス
第一條第一項ノ次ニ左ノ一項ヲ加へ第
二項中「前項」ヲ「第一項」ニ改ム
釋放シタル被檢束者ヲ同一事由ヲ以テ
再ヒ檢束スルコトヲ得ス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=43
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044・徳川家達
○讀長(公爵德川家遠君) 別ニ發言者モナ
イト認メマスカラ、特別委員ノ氏名ヲ、書
記官ヲシテ朗讀イタサセマス
〔小林書記官朗讀〕
行政執行法中改正法律案特別委員
公爵鷹司信輔君子爵富小路隆直君
子爵高木正得君水上長次郞君
男爵松平外與麿君川上親晴君
大塚惟精君關直彥君
名取忠愛君発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=44
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045・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ高橋大藏
大臣ノ發言ヲ許シマス
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=45
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046・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 諸君、玆ニ昭和
八年度歲入歲出總豫算ノ大要ヲ述べ併セ
テ我國經濟界ノ現狀ヲ說明イタシマスルコ
トハ私ノ最モ光案トスル所デアリマス、
昭和八年度歲入歳出總豫算ノ金額ハ、歲入
歲出共ニ二十二億三千九百餘萬圓デアリマ
ス、歲入豫算ハ經常部十二億八千九百餘萬
圓臨時部九億五千餘萬圓デアリマシテ、
歲出豫算ハ經當部十三億五千九百九十餘萬
圓、臨時部八億八千百十餘萬圓デアリマス、
之ヲ前年度實行豫算額ト比較ヲ致シマスル
ニ歲入經常部ニ於テ七百餘萬圓、歲入臨
時部ニ於テ二億八千八百二十餘萬圓、歲入
合計ニ於テ二億九千五百二十餘萬圓ヲ增加
シ、又歲出經常部ニ於テ一億四千九百十餘
萬圓、歲出臨時部ニ於テ一億四千六百餘萬
圓、歲川合計ニ於テ二億九千五百二十餘萬
圓ヲ增加イタシテ居リマス、昭和八年〓歲
入ニ關シテ其大要ヲ前年度實行豫算額ニ比
較シテ述べマスレバ、租稅收入中相續稅ニ
於テ二百餘萬圓ヲ減少イタシマスガ、所得
稅ニ於テ六百九十餘萬圓、營業收益稅ニ於
テ三百七十餘萬圓、酒稅ニ於テ三百九十餘
萬圓、砂糖消費稅ニ於テ二百十餘萬圓ヲ增
加スル等ニ依リ、內國稅全體ニ於テハ千三
百五十餘萬圓ノ增收トナル計算デアリマ
ス併ナガラ關稅ニ於テ千五百五十餘萬圓
ヲ減少シマスカラ、租稅收入全體ニ於テハ
二百萬餘圓ノ減少トナッテ居リマス、但シ右
ノ比較ハ前年度ニ於テ兌換銀行劵發行稅ノ
制度ヲ改メ、日本銀行納付金制度ヲ採用シ
タル爲ニ、前年度ノ數字ヨリ兌換銀行劵發
行稅ヲ除イテ計算シテ居リマス、印紙收入
ニ於テハ前年度實行後算ニ比較シ百二十餘
萬圓ヲ增加シ、官業及官有財產收入ニ於テ
ハ、主トシテ郵便電信及電話ノ收入ノ增加
ニ依リ九百五十餘萬圓ヲ增加シ、其他日本
銀行納付金等增減ヲ生ズルモノヲ加除スル
トキハ、結局歲入經常部ニ於テ七百餘萬圓
ノ增加トナッテ居リマス、歲入臨時部中普通
歲入ニ於テハ主トシテ雜收入ノ增加ニ依リ
九百十餘萬圓ヲ增加シ、經常部、臨時部ヲ
合計シテ、普通歲入ニ於テ千六百一一十餘萬
圓ヲ增加シテ居リマス、右申述べマシタ數
字中ニハ計畫上ノ減牧又ハ新規歲出ニ伴
フ增收等モ含ンデ居リマスガ、大體ニ於テ
普通歲入ハ、近年引續キマシタ累減ノ傾向
ヨリ若干囘復ノ曙光ヲ見出シタト申シテ
宜シイカト考ヘマス、次ニ歳出豫算ノ大體
ヲ說明イタシマス、昭和八年度ニ於ケル歲
入ノ狀況右ノ如クデアリマスカラ、各種ノ
新規事業ニ關スル經費ハ滿洲事件費、陸海
軍ノ兵備改善ニ關スル經費、時局匡救ニ關
スル經費及爲替相場ノ變動ニ基ク經費ノ外
ハ、極力之ガ計上ヲ見合セルコトト致シタ
ノデアリマス、是ヨリ右四項目ニ要スル經
費ノ大體ヲ說明イタシマス、滿洲事件費ハ
豫算編成當時ノ狀況ニ鑑ミ、昭和八年度全年
度分ヲ計上イタシマシタガ、其金額ハ一般會
計ニ於テ、外務省所管四百七十餘萬圓、陸軍
省所管一億四千五百九十餘萬圓、海軍省所
管千五百五十餘萬圓、遞信省所管五萬餘圓、
大藏省所管ニ於テ豫備費トシテ二千萬圓、
計一億八千六百三十餘萬圓デアリマシテ、
共他特別會計ニ於テ朝鮮總督府百二十餘萬
圓、關東廳三百二十餘萬圓、計四百五十餘
萬圓ガアリマスカラ、一般及特別會計ヲ通
ズルトキハ總額一億九千八十餘萬圓トナリ
やって又陸海軍ノ兵備改善ニ關スル經費
ハ、緊急已ムヲ得ザルモノトシテ之ヲ計上
イタシマシタガ、其金額ハ陸軍省所管經常
部千八百餘萬圓、臨時部九千六百五十餘
萬圓、計一億千四百六十餘萬圓、海軍省所管
經常部千六百十餘萬圓、臨時部七千九百
十餘萬圓、計九千五百三十餘萬圓、陸海軍兩
省所管ノ會計二億九百九十餘萬圓デアリマ
ス、次ニ所謂時局匡救ニ關スル經費ハ、
般會計ニ於テ、前年度ニ於テ既ニ本年度分
ヲ豫定シタル額ガ四千七百七十餘萬圓、新
規增加額一億五千九百二十餘萬圓、計二億
七百餘萬圓デアリマス、其他特別會計ニ屬
スル分ハ朝鮮總督府四百五十餘萬圓、臺灣
總督府百八十餘萬圓、樺太廳百六七餘萬圓、
帝國鐵道八百萬圓、計千六百十餘萬圓デアリ
マシテ、一般及各特別會計ヲ通ジテ總額二億
二千三百十餘萬圓ニ上ボリマス、右ノ國ノ
歲出ニ關聯シテ地方團體等ニ於テ負擔スル
經費ガアリマス、其經費ハ内地ニ於テ一億
三千二百四十餘萬圓、朝鮮及臺灣ニ於テ二
百九十餘萬圓合計一億三千五百四十餘萬圓
デアリマシテ、大體ニ於テ昭和八年度ノ時
局匡救ニ關スル中央及地方ノ經費總額ハ
三億五千八百餘萬圓ニ上ボル計算トナリマ
ス、尙ホ右ノ外兵備改善ニ關スル經費等ノ中、
時局匡救ニ資スル經費ト看做シ得ベキモノ
ガ陸軍省所管ニ於テ一億二千十餘萬圓、海
軍省所管ニ於テ七千百餘萬圓、計一億九千
百十餘萬圓ガアリマス、最後ニ外國爲替相
場ノ變動ニ基イテ要スル經費ハ、一般會計
ニ於テ國債元利拂ニ關スル貨幣交換差金六
千二十餘萬圓、其他ノ貨幣交換差金九百二
十餘萬圓、在勤俸共他臨時增給及物件費等
ノ增加千八百四十餘萬圓、計八千八百餘萬
圓デアリマス、尙ホ從來貨幣交換差金ハ、
一般及各特別會計ヲ通ジテ一般會計ノ負擔
ニ於テ支辨シタノデアリマスガ、爲替相場ノ變
動ノ程度ノ增加シタル現狀ニ鑑ミ、會計ノ
區分ヲ明カニスル爲ニ、各會計每ニソレゾ
レ之ヲ負擔スルコトニ改メマシタ、以上申
述べマシタ諸經費ハ何レモ必要缺クベカラ
ザルモノデアリマシテ、結局歲出總額ハ前
年度實行豫算額ニ比較シテ二億九千五百二
十餘萬圓ヲ增加シ、總額二十二億三千九百
餘萬圓ニ達シ、到底歲出ノ全部ヲ普通歲入
ヲ以テ賄フコトハ不可能ノ狀態デアリマス、
玆ニ於テ歲入不足補塡ノ方法ニ付キ考究ヲ
要スルノデアリマスガ、歳出增加ノ主因タル
如上ノ經費ハハ其性質上大部分臨時的ノモ
ノデアリマス、又其金額モ巨額ニ上ポル關
係上、到底增稅其他ノ增收計畫ニ依フテ其全
部ヲ支辨スルコトノ不可能ナルノミナラズ、
假令其一部ヲ補塡スル目的ヲ以テシテモ、
增稅其他增收計畫ヲ立ツルコトハ、經濟界ガ
漸ク囘復ノ〓ニ就キタル今日、折角伸ビ
ムトスル其萌芽ヲ剪除スル結果トナリ、大
局ヨリ見テ未ダ其時期デナイト考ヘマスカ
ラ歲入ノ不足スル額ハ總テ公債財源ニ依ル
コトト致シタノデアリマス、昭和八年度ニ
於テ一般會計歲出ノ財源タルベキ公債ハ、
震災善後公債千八百七十餘萬圓、道路公債
千六百六十餘萬圓、電話事業公債千三百二
十餘萬圓、電信事業公債七十萬圓、滿洲事
件公債一億八千六百三十餘萬圓、歲入補塡
公債六億五千九百四十餘萬圓、合計八億九
千五百二十餘萬圓、同ジク特別會計ノ分ハ、
事業公債ニ屬スルモノ朝鮮總督府三千百七
十餘萬圓、臺灣總督府五百萬圓、樺太廳三
百五十萬圓、計四千二十餘萬圓、滿洲事件
公債ニ屬スルモノ、朝鮮總督府百二十餘萬
圓、關東廳三百二十餘萬圓、計四百五十餘
萬圓、帝國鐵道ニ屬スルモノ四千八百萬圓
合計九千二百七十餘萬圓デアリマシテ、一般
及特別會計ノ合計額ハ九億八千七百九十餘
萬圓デアリマス、尙ホ是等ノ公債ノ發行方法
ニ付テハ、今後ノ金融狀勢ノ如何ニ依フテ之
ヲ決定スルノ外ハアリマセヌガ、大體ニ於テ
七年度通リ一應日本銀行ヲシテ之ヲ引受ケシ
メ、金融市場ノ狀況ニ從ヒ、適宜處理セシム
ル方針デアリマス、以上昭和八年度歲入歲出
豫算ノ大體ヲ說明イタシマシタガ、右政府
提出ノ豫算全部ニ付キ、衆議院ニ於テハ政
府提案ノ通リ可決セラレタノデアリマス、尙
ホ昭和八年度ニ於ケル歲入ノ不足ヲ公債ヲ
以テ補塡スルモノガ巨額ニ上ボッテ居リマ
スル爲メ、世上財政ノ前途ニ對シテ種々ノ
議論ガ行ハレテ居ルヤウデアリマスルガ、
政府ニ於テハ歲入不足ノ狀況ハ後年度マデ
永ク繼續スルモノトハ考ヘテ居リマセヌ、
今日巨額ノ歲入不足ヲ生ジマスル原因ノ
ハ經常歲入ノ減少デアリマシテ、租稅收入
ニ付テ之ヲ見ルニ、昭和三年度ノ決算ト昭
和八年度ノ豫算トヲ比較スレバ、二億二千
四百餘萬圓ヲ減ジテ居リマス、併ナガラ今
後財界ガ囘復スレバ國庫ノ歲入モ漸次增加
シ來ルコトハ明白デアリマス、又歲入不足ノ
他人ノ原因タル歲出ノ增加ノ中、其大部分ヲ
占ムル滿洲事件費、兵備改善ニ要スル經費
竝ニ時局匡救ニ關スル經費ハ、大體ニ於テ
一時的性質ノモノデアリマシテ、數年後ニ
於テハ著シキ減少ガ期待サレルノデアリマ
ス、加之現內閣ノ政策トシテ實行シツツア
低金利政策ノ結果、公債ノ低利借替ニ依
リ相當歲出ヲ節減シ得ルノ途モ存スルノデ
アリマス、故ニ將來ニ於テ增加シ得ベキ歲
入ト、節減シ得ベキ歲出トヲ併セ考慮スレ
バ、我ガ財政ノ前途ハ決シテ失望スルニ當
ラナイト考ヘマス、併ナガラ歲入歲出ノ開
キハ相當巨額ナルノミナラズ、歲出ハ由來
膨脹ノ傾向ヲ有スルモノナルガ故ニ、此收
支ノ適合ヲ計ル爲ニハ大イナル努力ヲ要
スルノデアリマス、次ニ私ハ一般經濟界ノ
近狀ニ付キ一言イタシマス、世界各國ハ今
尙ホ非常ナル經濟界ノ悲況ニ懊惱シ、共打
開策ニ焦慮シテ居リマスガ、前途ノ見透シ
頗ル困難デアリマス、就中世界經濟界ノ復
活ニ最モ重大ナル關係ヲ有スル戰債問題ニ
付テハ、債權國ト債務國トノ雙方ニ滿足ヲ
與フル如キ、最終的協定ハ容易ニ得ラレナ
イノデアリマス、又貿易上最後ノ決濟資料
タル金ノ國際的偏在ノ傾向モ改善セラレテ
居リマセヌ、各國ハ自國ノ產業ヲ保護助長
シテ以テ外國ニ對スル支拂勘定ヲ輕減シ、
兼ネテ經濟的ニ自給自足ノ策ヲ講ズルニ急
ナルガ爲メ、關稅ノ障壁ハ益〓高メラレ、
從テ國際貿易ハ阻害セラレテ各國民互ニ有
無相通ジ、國際分業ノ發達ニ依フテ最大可
能ノ利福ヲ享受スル所以ノ原則ニ反スル次
第デハアリマスガ、現在ノ實狀ニ於テバ誠
ニ已ムヲ得ザル勢デアリマシテ、我國モ亦
四圍ノ情勢ニ適應シ、最善ノ途ヲ講ズルノ
外ハナイノデアリマス、併ナガラ我國ハ歐
米諸國ト異リ、戰債賠償問題ニ絡ム財政上
及經濟上ノ困難ナク、又短期外債資金引上
ノ憂モナク、外債ノ過半ハ我國民ノ所有ニ
屬スルヲ以テ對外債務ノ壓迫モ左程大ナラ
ズ、如フルニ國民ノ過半數ガ農民タル關係
上、非常時ニ處シテ抵抗力ニ富ム等ノ諸點
ハ我國民經濟上ノ强味デアッテ、世界不況ノ
渦中ニ介在シナガラモ、比較的有利ノ地位
ニ立チ得ル所以ナリト考フルノデアリマス、
而シテ致府ハ時局匡救ノ重大ナル使命ニ鑑
ミ、昨年以來巨額ノ豫算ヲ計上シテ、適切
ナル施設ノ實行ニ努メ、來年度ニ於テモ一
層其力ヲ盡サムト致シテ居リマスルコトハ
前段歲出豫算ノ說明中ニ申述ベタ通リデア
リマス、加之政府ハ直接豫算ニ關係ナキ方
面ニ於テモ、銳意必要ナル手段ヲ講ジ、敢
テ遺憾ナキヲ期シツツアル次第デアリマス、
卽チ政府ハ經濟界ノ不況ヲ打開シ、景氣囘
復ノ目的ヲ逹セムガ爲ニハ金融上ニ適切
ナル改善施設ヲ爲スノ最モ緊要ナルヲ
認メ、曩ニ日本銀行發劵制度ヲ改正シ
テ、以テ一般經濟界ニ必要ナル通貨ノ
供給ニ支障ナカラシムルコトヲ期シ、又
不動產融資及損失補償法ヲ制定シテ金
融ノ梗塞ヲ緩和セシメ、更ニ郵便貯金
ノ利下ヲ斷行シテ、以テ一般金利ノ低下ヲ
誘導シ、低金利政策ノ實現ヲ期シタノデア
リマス、殊ニ郵便貯金ノ利子ハ、從來ニ比
シ一擧ニ一分二厘方引下ゲルト同時ニ、預
金部資金ノ融通利率ヲ從來四分二厘ノモノ
ハ之ヲ三分二厘ニ引下ゲ、旣ニ融通濟ニ係
ル資金ノ利率モ一率ニ年六厘ヲ引下ゲ、又
從來市町村ニ對スル預金部資金ノ融通ハ、
六大都市以外ノモノハ銀行經由貸付又ハ道
府縣轉貸ノ方法ニ限ラレタルモノヲ、預金
部ノ直接融通ニ改ムルコトトナシ、以テ市
町村ヲジテ手續ノ煩雜ヲ免レシメ、且ツ利
鞘ノ關係ニ於テモ有利ノ地位ニ置クコトニ
致シタノデアリマス、思フニ金融ノ圓滿ナ
ル流通ト、低金利政策ノ遂行トハ、財界囘
復、產業振興ノ上ニ極メテ有力ナル動因タ
ルニ至リタルコトト信ズル次第デアリマ
ス、又金輸出再禁止以來、對外爲替ハ漸次
低落ヲ來シ、最近ニハ對米二十弗臺ニ低下
シタルコトハ御承知ノ通リデアリマス、其
原因ハ國際收支ノ實勢ニ基クヨリモ、寧ロ
滿洲問題ヲ中心トスル國際政局ノ不安ト
今後ニ於ケル通貨膨脹ノ懸念トヲ多分ニ織
込ミタル一種人氣作用ニ依ル所大ナリト信
ズルノデアリマスガ、ソレハ兎ニ角、此爲
替ノ低落ハ對內的ニ物價ヲ騰貴セシメ、對
外的ニハ我ガ輪出品ノ代價ヲ著シク低落セ
シメマシタガ爲ニ、自然輸出ヲ奬勵シ、我
ガ輸出品ハ各地ニ新販路ヲ開拓スルヲ得タ
ノデアリマス、斯クテ昨年中ニ於ケル內地
及朝鮮臺灣等ノ植民地ヲ含メル海外貿易額
ハ輸出十四億五千七百餘萬圓、輸入十五
億二千四百餘萬圓、合計二十九億八千百餘
萬圓ヲ算シ、差引輸入超過額ハ六千七百餘
萬圓デアッテ、之ヲ前年ニ比スレバ輸出ハ二
割三分六厘ヲ、輸入ハ一割五分五厘ヲ增加
シ輸出入合計ニ於テ四億八千三百餘萬圓、
卽チ一割九分三厘ヲ增加シ、輸入超過ハ前
年ノ一億四千餘萬圓ニ比シ、七千二百九十
餘萬圓ヲ減少シタノデアリマス、斯ノ如ク
貿易狀態ノ著シタ改善セラレマシタルコト
ハ近時稀ニ見ル所タルノミナラズ、現今
世界各國何レモ貿易不振ノ際ナル·博多·
ズ、我國ノ貿易ガ獨リ斯ク活況ヲ呈シテ居
リマスルコトハ、誠ニ喜ブベキ現象ト言ハ
ネバナリマセヌ、斯ノ如ク爲替ノ低落ハ貿
易上ニ好影響ヲ齎シマシタガ、一面ニ於テ
不利ノ點モ伴フコトヲ忘レテハナリマセ
又、卽チ政府ノ爲替交換差金ハ、之ガ爲メ
著シク增大シ、又民間ニ於テ從來外債ヲ負
擔シタル方面ニ多大ノ苦痛ヲ與フルノミナ
ラズ、餘リニ實勢以下ニ低落スルニ於テハ、
其弊害ノ波及スル所廣大デアリマスルガ
故、政府ハ從來ノ資本逃避防止法ヨリ一步
ヲ進メ、更ニ有效適切ナル爲替取引ノ取締
ニ依リ、出來得ル限リ其動搖ノ範圍ヲ縮小
セシムル目的ヲ以テ、爲替管理ニ關スル法
案ヲ本議會ニ提出シ、諸君ノ御協贊ヲ得テ
以テ機ニ臨ミ、適當ナル手段ヲ講ジ得ルヤ
ウ致スノ考ヘデアリマス、尙ホ此際一言イ
タス必要アリト考ヘマスルハ、今後ニ於ケ
ル通貨政策ニ關シテデアリマス、政府ハ既
述ノ如ク財政上多額ノ公債發行ヲ豫定シテ
居ルガ爲ニソレハ軈テ通貨ノ增發トナリ、
之ガ爲メ或ハ爲替ノ低落ヲ誘導シ、或ハ投
機思惑ヲ助長シ、或ハ必要以上ニ物價ヲ騰
貴セシメテ、社會上由々シキ結果ヲ招來ス
ルニアラズヤトノ疑念ヲ抱ク者ナキニアラ
ザルヤウ感ゼラルルノデアリマスガ、政府
ハ曩ニ日本銀行發劵制度ノ改正ヲ爲シ、參
與制度ヲ設定シタル際ニ、豫メ斯ノ如キ場
合ヲモ豫想シ、所謂通貨ノ合理的統制
ヲ目的ト致シテ居ルノデアリマス、換
言スレバ日本銀行ヲシテ一面ニ於テ產
業上ニ必要ナル通貨ノ供給ニ遺憾ナキ
コトヲ期セシメルト同時ニ、他面所謂
「インフレーシヨン」ノ弊ヲ防止セシメ
ムトシタノデアリマス、故ニ日本銀行ハ
其市場政策ニ依リ、手持公債ヲバ金融界ノ
狀勢ヲ洞察シテ、或ハ之ヲ市場ニ賣放チ或
ハ之ヲ囘收シテ、緩急宜シキヲ制スルニ於
テハ、通貨ノ流通ハ自ラ調節セラレテ、極
端ナル「インフレーション」ノ弊ニ陷ルガ如
キコトハ、有リ得ベカラザルコトト信ジマ
ス、之ヲ要スルニ政府ノ行ヒ來リタル金融
政策ハ、時局匡救事業ノ振興ト相伴ッテ、漸
次經濟界ニ好影響ヲ及ボシ、今ヤ漸ク經濟
界ノ狀勢一變セムトスルノ機運ニ向ヒツツ
アルコトハ誠ニ本懷ノ至リデアリマス、去
リナガラ目下盛ニ活況ヲ呈シウツアルハ一
部特殊ノ工業ニ過ギマセヌ、又輸出向商品
ノ如キモ、頓ニ好況ニ向ヒタリトハ申シナ
ガラ要スルニ未ダ局部的ニ景氣囘復ノ曙
光ヲ認ムルニ至リタルニ過ギズシテ、經濟
界ノ眞ノ立直リハ國民ノ過半數ヲ占ムル農
民ノ購買力ガ增大シテ、ソレヨリ出立スル
モノデナケレバナリマセヌ、而シテ都市農
村ノ一般ヲ通ジ、購買力ノ增進スル時期ハ
今後ニ屬スルコトト考ヘマス故ニ其景氣
回復ノ際ニ於テ、政府ハ稅制其他財政ノ改
革ヲ斷行スルノ要アリ、而シテ稅制ノ改革
ヲ行フニ當リマシテハ、單リ國ノ稅制ニ止
マラズ、進ンデ地方稅制ノ改革ヲモ併セ行
ヒ、中央地方ノ兩組織ニ對シ、財政上ノ根
本的刷新ヲ加フル必要アリト考ヘマス、斯
ノ如キハ事頗ル重大デアリ、從テ其實現ヲ
期セムガ爲ニハ官民一致、一大覺悟ヲ以テ
之ニ臨ムノ必要ガアリマス、去リナガラ私
ハ我ガ國民ガ必ズヤ此大任ヲ成就シ得ルモ
ノトシテ信ジテ疑ハザル次第デアリマス、
終リニ臨ミ本豫算案ニ對シ、何卒協贊ヲ與
ヘラレムコトヲ希望イタシマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=46
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047・徳川家達
○議長(公爵德川家達君) 是ヨリ、大藏大
臣ノ演說ニ對スル質疑ノ通告ガゴザイマス
カラ、通〓順ニ依リマシテ發言ヲ許サウト
存ジマス、橋本辰二郞君ノ登壇ヲ望ミマス
〔橋本辰二郞君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=47
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048・橋本辰二郎
○橋本辰二郞君 總豫算ニ關聯イタシマシ
テ、二三ノ財政經濟問題ニ付テ政府ノ御所
見ヲ伺ヒタイト思ヒマス、私ハ元來高橋大
藏大臣ヲ崇拜スルノ一人デアリマス、殊ニ
大藏大臣ガ無欲恬淡ニシテ、聊カノ私心モ
ナタ高潔ナル人格ノ持主デアラレルコトヲ
特ニ敬服スルノデゴザイマス、又幾度カ內
閣ノ首班ニ列セラレタル身ヲ以テ、齋藤內
閣ノ一閣僚ヲ以テ甘ンジ、其威望ヲ以テ此
內閣ノ信望ヲシテ九鼎大呂ノ重キニ置キ、
老軀ニ鞭ウチ、病魔ト鬪ヒ、日夜國事ニ盡
瘁セラレルニ付キマシテ、國民ト共ニ深ク
感謝スル所デアリマス、斯ノ如ク私ハ大藏
大臣ヲ崇拜シ、又敬服シ感謝ヲ致シマスニ
モ拘ラズ、其執ラレル所ノ財政經濟政策ニ
至リマシテハ、往々ニシテ感服セザル點ガ
絕無デナイノデアリマス、ソレ故ニ曩ニハ
歐洲戰役中ニ、竝ニ其戰後ノ經營ニ當ラテ、
尊嚴ヲ冒シテ屢、苦言ヲ呈シタコトモアリ
マスノデアリマス、然ルニ事ハ悉ク私ノ申
シマシタコトヲ裏書シタノデアリマス、殊
ニ大正九年ノ初頭ニ於キマシテ、私ハ現在
ノ好景氣ニ陶醉スル者ハ、恰モ噴火山頭ニ
舞踏スルニ異ナラズト絕叫シタノデアリマ
ス、當時私ノ此談ヲ聞カレマシタル人ミハ、
恐ラクハ此田舍漢何ヲ言フカト一笑ニ付セ
ラレタト思ヒマスルガ、私ハ一個ノ自信ヲ
持ッテ居ノタノデアリマス、果セルカナ同年
三月十五日ノ株式ノ暴落ヲ契機ト致シマシ
テ、我ガ財界ニ一大恐慌ガ襲來シタノデア
リマス、之ガ爲ニ我ガ經濟界ハ非常ノ混亂
ニ陷リ、其餘殃ハ今日尙ホ未ダ其禍ヲ我經
濟界ニ貽シテ居ルノデアリマス、私ハ當時
ヲ追懷イタシマシテ感慨無量デアリマス、
只今大藏大臣ノ御演說ヲ拜聽イタシマシタ、
御話ノ通リニ誠ニ前古未會有ノ厖大ナ巨
額デアリマス、數字ハ巨額ニハ上ボッテハ居
リマスルガ、時局ノ必要上既ニ衆議院ヲ
通過シテ參リマシタル今日ニ於キマシテ
ハ、本院ノ意嚮ハ未ダ私ノ付度スル限リデ
アリマセヌガ、國民ノ多數ハ恐ラク之ヲ容
認スルニ吝デナイト思ヒマス、私又此本年
ノ總豫算ニ付テハ何等異議ヲ挾ム者デハア
リマセヌ、併ナガラ此豫算ニ異議ガナイニ
モセヨ、財政ノ前途ニ付キマシテハ非常ナ
ル憂慮ヲ抱クノデアリマス、財政ノ前途ヲ
憂フル者ハ單リ私ノミデハアリマセヌ、全
國民擧ッテ之ヲ憂ヘザル者ハナイト思フノ
デアリマス、ソレデ此豫算ヲ贊成スル上ニ
於キマシテモ、少クトモ〓念ダケハ得タイ
ト云フ考ヲ私ハ持ッテ居ルノデアリマス、大
藏大臣ハ既ニ九年度ノ豫算ニ付テハ、自分
ニ於テハ立直リノ確信ガナイト云フコトヲ
淡白ニ述べラレテ居リマス、私ハ實ニ其率
直ヲ喜ブ者デアリマス、過日來本議場ニ於
キマスル應答ニ依リマシテ、私ハ十年度ニ
於キマシテハ略〓收支ノ均衡ヲ得ルヤウナ
豫算ヲ編成スルコトガ出來ヤウト云フ、大
藏大臣ノ御意思ノ一端ヲ承ハリマシテ非常
ニ喜ブノデアリマス、現ニ過日本議場ニ於
キマシテ總理大臣ハ、本年ノ豫算ノ非常ニ
膨脹シタ所以ト、其歲入ノ減ジタル經過ヲ
御述べニナリマシテ、斯ノ如ク今日ノ歲入
缺陷ヲ持來シテ居ル原因ガ漸次除去セラル
ルニ隨フテ、收支ノ均衡ヲ囘復シ數年後ニ於
ケル我邦財政ハ著シク改善セラルベキコト
ト考ヘマス」、斯ウ云フコトヲ申サレテ居リ
VV、又大藏大臣ハ此席ニ於キマシテ、我
ガ財政ノ前途ハ決シテ失望スルニ當ラナイ
ト云フコトヲ仰セラレテ居リマス、誠ニ御
樂觀ノ樣子デアリマスルガ、私ハ此御樂觀
ニ對シテ危惧ノ念ヲ抱クノデアリマス、十
年度ニ至ッテ果シテ收支ノ均衡ヲ得ルヤウ
ナ豫算ノ編成ガ出來ルカドウカト云フコト
ハ、非常ニ疑ナキ能ハズデアリマス、ソレ
故ニ私ハ八年度ノ豫算ニ付テハ既ニ異議ガ
ナイ、九年度ノ豫算ニ付テハ大藏大臣ニ於テ
立直リノ見込ガナイト仰セニナリマシタカ
ラ、專ラ十年度ノ收支計算ニ付キマシテ觀
測ヲ下シテ見ヤウト思フノデアリマス、先
ヅ歲入ノ部ニ於キマシテ見マスルト、八年
度ノ經常收入ハ租稅ニ於テ約七億、官業收
入其他ニ於キマシテ五億八千萬、合セテ十二
億八千萬圓ト云フコトニナフテ居リマス、是ガ
卽チ經常歲入デアリマス、然ルニ大藏大臣
ハ九年度乃至十年度ニ行,タナラバ、財界ハ
漸次囘復シ、景氣モ好轉ヲシテ、歲入モ增
加スルデアラウト云フコトヲ仰セニナリマ
シタ、其增收ノ程度ニ付キマシテハ、各〓考
フル所ガアラウト思ヒマスルガ、私ニ於キ
マシテハ是ハ如何ニ考ヘマシテモ、昭和三
年度以上ノ好景氣ヲ現出スルト云フコトハ
到底期待シ難イト思ヒマスル、ソレデ昭和
三年度ヲ押ヘマスルト、增收ガ略、二億二
千萬圓ト云フコトニナリマス、之ニ八年度
ノ經常歲入ノ十二億八千萬圓ヲ加ヘマスル
ト玆ニ十五億ト云フ經常歲入ヲ十年度ニ
於テハ得ラルルト云フコトヲ私ハ考ヘルノ
デアリマス、若シ望蜀ノ念ヲ起シテ、是レ
以上ノ增收ヲ得ヤウトスルナラバ、非常ニ
景氣ヲ煽動スルヤウナ「インフレーシヨン」
ノ政策ヲ執ラナケレバナリマセヌ、併ナガ
ラ無統制ノ「インフレーション」ト云フモノ
ハ、其反動ガ實ニ怖ルベキモノガアルト云
フコトハ私ノ申上ゲルマデモナイコトデゴ
ザイマス、ソコデ十年度ノ經常歲入ハ十五
億ト押ヘマスルノハ、誠ニ是ハ妥當ナル見
地デアラウト私ハ信ズルノデアリマス、次
デ歲出ノ方面ヲ見マスルト、八年度ノ歲出ヲ
膨脹セシメタル主タル原因ハ何デアルカト
言ヒマスルト、是ハ時局ノ必要上緊急已ムヲ
得ザル所ノ支出ト云ヲコトニナッテ居リマス
ルガ、其內譯ハ滿洲事件費ニ於テ一億九千
萬圓、兵備改善費ニ於キマシテ陸軍ガ一億一
千五百萬圓、海軍ガ九千五百萬圓、爲替差損
金ガ八千八百萬圓、時局匡救費ガ二億二千
三百萬圓、合セテ七億一千一百萬圓ト云フ計
算ニナリマス、是ハ私ノ〓算デアリマスルガ、大
要間違ハナイト思ヒマスル、此八年度ノ豫算
ヲ膨張セメシマシタルモノヲ、政府ニ於キ
マシテハ臨時的一時ノ支出ト云フコトヲ仰
セラレテ居リマスルガ、之ニ付テ少シク私
ハ檢討ヲ試ミタイト思ヒマスル、先ヅ軍事
費ニ付キマシテ見マスルト、陸軍ノ繼續費
ニ於テ九年度以後ニ繰越サレタルモノハ三
億一千萬圓アルノデアリマス、過日陸軍大
臣ハ本院ニ於キマシテ、此繼續費ナルモノ
ハ時局ニ鑑ミテココ二三年ノ間、支出ノ必
要ガアルト云フコトヲ明言セラレテ居リマ
スル、此三億幾千萬圓ノモノヲ、三箇年ニ
假リニ支出イタシマスルトスレバ、當年ノ
兵備改善費ト相距ルコト幾ラモ差ハナイノ
デアリマス、又海軍費ニ付テ見マスルト、
九年度以後ニ繰越サレタル繼續費ガ二億六
千萬圓アルノデアリマス、海軍ニ於キマシ
テハ第二次ノ計畫モアルト云フコトデアリ
マスルガ、此繼續費ノ二億六千萬圓ニ付キ
マシテモ、恐ラク海軍ニ於キマシテハ千九
百三十六年迄ニ支出ノ御希望アリト私ハ認
メルノデアリマスル、斯ク見マスレバ、陸
軍モ亦海軍ニ於キマシテモ、八年度ノ豫算
ト何等異ル所ハナイ、其節減スル所ノ餘地
モナイヤウニ思ハルルノデアリマス、而シ
テ爲替差損金ハドウデアルカト申シマスレ
バ是ハ勿論增加ハスルトモ決シテ減少
ハシナイト私ハ認メルノデアリマス、偖テ
滿洲事件費ハドウカト言ヒマスルト、滿洲
國ガ獨力ヲ以テ同國ノ治安ヲ維持スルコト
ハ私ハ是ハ覺束ナイト思ヒマス、ノミナ
ラズ財政上ニ於キマシテモ、マダ我國ノ援
助ヲ要スルモノモアラウト私ハ思フノデア
リマス、假リニ滿洲ノ狀態ガ非常ニ好轉イ
タシマシテ、順調ニ進捗スルト見マシテモ、
マダ相當巨額ナル費用ヲ要スルモノト思ハ
レマスル、デ此滿洲事件費ニ於キマシテノ
節約額ハ、一億以上ニハ見積ルコトガ到底不
可能ト思フノデアリマス、而シテ時局匡救
費ハドウデアルカト申シマスレバ是ハ私
ハ十年度ニ入リマシタナラバ、全削ガ出來
ヤウト云フ考ヲ持フテ居リマス、時局匡救費
ニ付キマシテ、農村ノ疲弊困憊ノ狀態ハ隨
分聲ガ高イノデアリマスルガ、是ハ所ニ依
リマシテハ其聲ト實際トハ異ルモノガアリ
マス、ノミナラズ米穀始メ農家ノ副產物モ
漸次其價格ガ騰貴イタシテ來マシタ關係、
又時局匡救ニ依リマシテ振リ墩カレタル所
ノ金ガ地方ノ農民ノ懷ロニ入リマスル關係
上、恐ラク九年度ニ於キマシテモ、時局匡
救費ノ全部ヲ他ニ使フコトハ困難デハナカ
ラウト思ヒマスルデ、無論十年度ニ至リマ
シテハ私ハ是ハ全部削ルコトガ出來ルト思
ヒマスル、左スレバ八年度ノ豫算ヨリ減ジ
得ベキ所ノモノヲ見マスルト、滿洲事件費
ニ於テ一億圓、時局匡救費ニ於テ二億二千
萬圓、合セテ三億二千萬圓デアリマス、之
ヲ八年度ノ總豫算二十二億四千萬圓ヨリ控
除イタシマスレバ、十九億二千萬圓トナリ
マス、此中ヨリ經常歲入タル十五億ヲ差引
キマスレバ、尙ホ四億二千萬圓ノ不足ト云
フモノガ此處ニ立ツノデアリマス、加之八
年度、九年度ニ於キマシテ增發スル所ノ公
債ノ利子ガ之ニ加ハリマス、又收入ノ增加
ト云フコトハ景氣ノ好轉ヲ意味スルノデア
リマシテ、從テ物價ノ騰貴ト云フモノヲ之
ニ加ヘナケレバナリマセヌ、左スレバ十年
度ニ於キマシテノ不足額モ恐ラクハ六七億
ニ達スルノデハナカラウカト見ラレルノデ
アリマス、斯ウ見テ參リマスレバ尙ホ十年
度ニ於キマシテモ、巨額ノ赤字公債ヲ發行
シテ收支ノ辻褄ヲ合セルヨリ外ナイト私ハ
思ヒマスル、到底政府ノ言フ如ク財政ノ改
善ヲ待ツト云フコトハ期待シ難イ、依然ト
シテ變態的財政ヲ續ケマシテ、常道ニ復歸
スルコトハ到底期待シ難イト私ハ考ヘルノ
デアリマス、大藏大臣ノ言ハレル所ノ失望
セズト······又大藏大臣ハ非常ニ强イ言葉ヲ
以テ仰セニナッテ居リマスガ、世上財政ノ前
途ニ對シ種々ノ議論ガ行ハレテ居ルヤウデ
アリマスガ、政府ニ於テハ歲入不足ノ狀況
ハ後年度マデ長ク繼續スルモノトハ考ヘテ
ハ居リマセヌ、斯ノ如キ歲入不足ノ狀況ハ
後年度マデ長ク繼續スルト云フコトハ考ヘ
ヌト言ハレル、是ハ一種ノ斷定ト見テ私ハ
宜カラウト思ヒマス、是ダケノコトヲ仰セ
ニナル以上ハ、之ニ對スル相當ナル對案ヲ
御持チニナッテ居ルコトハ勿論デアリマス、
從テ其對案ノ內容ヲ說明サレルノ責任アリ
ト私ハ思フノデアリマス、大藏大臣ノ言ハ
レマシタル郵稅ノ增收ヤ又ハ公債ノ借替ニ
依ル所ノ低利ノ差額ノ如キモノハ、殆ド問
題ニナラナイノデアリマス、必ズヤ私ハ大
藏大臣ノ意中ニハ、他ニ大イニ歲入ヲ增加
シ、又大イニ歲出ヲ節約スルト云フヤウナ
御考案ガアルニ相違ナイト云フコトヲ私ハ
確言スルノデアリマス、大藏大臣ハ過日某
議員ノ質問ニ對シテ外國ノ例ヲ引カレマシ
テ、外國ニ於テ歲入ノ赤字ヲ補塡セムガ爲
ニ種々ノ計畫ヲ實行シタノデアッタガ、其
成績ハ誠ニ不良ナモノデアフタ、要スルニ大
藏大臣ハ猫眼ノ如ク時々刻々ニ變轉スル今
日ノ經濟界ニ處シテハ、如何ナル神策奇謀
モ施スニ術ナシト云フ御考デアラウト思ヒ
マスル、成程米國ニ於キマシテハ其歲入ノ
缺陷ヲ補ハムガ爲ニ增稅ノ計畫ヲサレマシ
タガ、其成績ハ誠ニ不良デアリマシタ、併
シ是ハ詰リ早魃ノ爲ニ源泉ガ涸渴ヲシテ居
ルト云フコトヲ全ク考ヘニ入レナカッタ、所
謂氣象觀測ノ誤リト私ハ思フノデアリマ
ス、源泉ガ小サクナッテ居リマスルノニ、河
下ノミガ流レノ洋々タルト云フコトハ到底
望ミ難イノデアリマス、是ハ丁度百個ノ水ア
リトシ、其中ノ二十ヲ收入セムト欲シタモ
ノガ、事實ハ水量二十五個ヨリナクシテ收
入ハ五個ニ減ジタノト同ジコトデアリマ
ス、併ナガラ是等ハ實蹟ニ於テハ齟齬ハ致
シテ居リマスルケレドモ、豫算寐議ノ當時
ニ於キマシテハ卽チ辻褄ハ合ッテ、一種ノ理
窟ハソコニ備ッテ居ヲタト云フハコトヲ私ノ
信ズルノデアリマス、ソコデ大藏大臣ハ外國
ノ例ニ鑑ミマシテ、如何ナル計畫モ實蹟ニ
於テ不能デアルカラト云フヤウナコトヲ仰
セニナラズ、實蹟ハ實蹟ニ讓ヲテ差支ナイ
ト思ヒマス、人間ノ力ト云フモノハ、サウ
神樣ノヤウニ將來ヲ見透スト云フコトハ出
來ナイノデアリマスカラ、將來ニ於キマシ
テ財界ノ變動ニ依フテ其處ニ齟齬ヲ生ズル
コトハ、是ハ人力以外ト見テ差支ナイト思
ヒマス、假令十年概計表ノ御製作ニハ困難
ヲ御感ジニナルニモセヨ、少クトモココ數
箇年ニ對スル所ノ〓計表及ビ其見込ト云フ
モノハ、必ズナケレバナラヌト私ハ固ク信
ズルノデアリマス、所謂事ヲ計ルハ人ニア
リ、事ヲ爲スハ天ニアルノデアリマス、時
勢ノ變遷ヨリシテ事志ト違ヒマシテモ、何
等玆ニ恥ヅル所ハナイノデアリマス、又
部ニハ政治ナルモノハ現實デアル、目前ノ
出來事ヲ處理スルヲ以テ足レリトスルト云
フ說モアリマセウガ、是等ハ凡庸人ノ爲ス
所デアッテ、我ガ偉大ナル財政家デアル大
藏大臣ノ採ル所デナイノデアリマス、私ハ
必ズヤ大藏大臣ガ此點ニ付キマシテ、十分
ナル經綸ヲ御持チニナッテ居ルノヲ疑ハナ
イノデアリマス、大藏大臣タルモノハ大膽
ニ無遠慮ニ、其所見ノ一端ヲ披瀝セラレム
コトヲ請ヒマス、私ハマダ澤山アリマスケ
レドモ、時間ノ都合上是デ一應御答辯ヲ得
タイト思ヒマス
〔國務大臣高橋是〓君演壇ニ登ル〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=48
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049・高橋是清
○國務大臣(高橋是〓君) 橋本サンノ御質
疑ニ對シテ御答ヲ致シマスガ、先ヅ第一ニ
數字ヲ擧ゲテ色ミ、前途ノ我ガ財政ノ將來
ニ付テ御憂慮アリ、政府ハ今日ノ如ク巨額
ニ公債ヲ發行シテ、年々ノ歲出ヲ補塡シテ
行クト云フヤウナ狀況ハ、長ク後年ニ續ク
モノデナイト云フコトヲ前刻演說中ニ申上
ゲタノデ、唯細カニ意見ヲ尋ネラレタ場合
ニ於テ、自分ノ考トシテハ九年度ヨリ收支
ノ均衡ヲ保ツヤウニスルコトハ出來ナカ
ラウ、併シ十年度ノ豫算編成ノ時ニ於テ
ハ、或ハ出來ルダラウト云フ、將來ノ事ハ
是ハ皆豫想ノ話デアル、其將來ニ付テ何カ
確ッカリシタ考ガアルノダラウカラ、ソレヲ
言ヘト言フ御希望デアリマスケレドモ、政
治殊ニ財政經濟ノコトハ、言語デ始末ノ付
クモノデハナイ、行爲ニアル、自分ノ理想
ハアリマシテモソレヲ言フ時ニハ、其言フ
ベキ機會ニ於テ言ハナケレバ却ッテ害ヲ爲
ス、又一般會計ニ於テ八年度ノ豫算ノ御計
算ハ、此臨時費ヲモ併セテ一〓ニ御計算ニ
ナッタヤウニ伺ハレタノデスガ、是等ハマア
ドウデモ宜シイ、併シ八年度ニ於テ一般會
計ノ分ハ六億九千一百萬圓バカリデアリマ
ス、ソレカラ海陸軍ノ經費ニ付テ、將來減
ラヌト云フ御觀察デアル、是ハ矢張リ將來
ノ橋本君ノ御豫想デアル、併シ此豫算ト云
フモノハ年々編成スル時ニ當ッテ、國家ノ財
カ、ソレカラ海陸軍ノ國防上ノ必要ナ經費
等ヲ考へ、其他ノ行政上ノ費用モ考ヘテ、
其調節ヲ爲スト云フノガ、每年ノ豫算ノ編
成ニ苦心ノ存スル所デアル、何人ト雖モ的
確ニ、確實ニ具體的ニ證據ヲ立ッテ九年度
ノ豫算ハ斯ウナルト云フコトハ、言ヒ得ル
者ハナイ筈デアル、况ヤ十年度ノ豫算、旣
ニ八年度ノ豫算デスラモ是ハ豫算デアル、
不足シテ追加豫算ヲ出ス時モアル、使フベ
キ目的ヲ以テ揭ゲタ金ガ使ヘズニ餘クテ居
ル時モアル、サウ云フ譯デアリマスシ、又
政府ノ將來ノ財政經濟ニ付テ、我國ノ財政
經濟ニ付テ考ヘテ居ル所ハ、先刻ノ演說ヲ
能ク玩味シテ御覽下サレバ、大體ドウ云フ
考ヲ持ッテ居ルカト云フコトハ御分リニナ
ル、財界ガ回復シテ、卽チ今日現ニ此昨年
ノ六七月頃カラ見ルト云フト、今日地方都
會共ニ此財界ノ人ノ人氣ト云フカ、我〓日
日ノ變化ヲ見テ居ルカラ左程氣ガ付カヌケ
レドモ、半年前ノ地方、都會等ノ實相ヲ見
テ、想フテ、今日ノ有樣ト比較シタナラバ、
實ニ著シイ變化ヲ來シタト云フコトハ、何
人モ否ムコトハ出來マイト思フ、卽チ好轉
シテ來テ居ル、ソレ故ニ一タビ我國ノ歲入
ガ昭和三年度ニ於テ、今日ヨリ二億五千萬
圓バカリ多クナッテ居,タノガ、今日ソレヨ
リ減"テ居ルカラ之ヲ囘復スルト云フコト
ハ財界ノ景氣ガ囘復スレバ當然是ハ期待
シテ差支ナイト思フ、財界斯ノ如ク好轉シ
テ來マスレバ、其他ノ收入ニ於テモ段々增
加シテ行ク外ナイノデアル、而シテ唯ソレ
バカリヲ目當テニシテ居ラヌノデアル、演
說中ニモ申上ゲタ通リ、時來レバ卽チ增稅
其他ノ增收ノ計畫モナシ得ル時ガ來ルノデ
アル、唯自然ノ財界ノ囘復ニ從ッテ、將來ノ
歲入ノ增加スルノト、歲出ノ漸次減ッテ行
クバカリデ立直スト云フバカリヂアナイ、
ソレニ矢張リ增稅、增收ノ計畫モ含ンデ居
ルコトハ、演說中ニ明カニ其意味ガ含マレテ
居ル、左樣ナコトヲ併セ考ヘテ將來ヲ決シ
テ、樂觀ト仰シヤルケレドモ失望スルニ當
ラヌ、今日日本ノ我ガ國民ハ前途仕方ガナ
イト云ッテ、落膽シ失望シタラ是ハ國ノ立行
キハナイ、前途私等ハ光明ヲ見テ居ル、ソ
レ故ニ失望ニ當ラヌト云フノデ、失望スルニ
當ラナイ、併シ是ハ容易ナコトヂヤナイ、
官民非常ニ一致シテ努力セネバナラヌ、我
ガ國民ハ確カニ難關ニアルト思フ、忍耐シ
テ切拔ケヲ行クコトガ出來ルト信ズルト云
フコトヲ申シタ、是ハ政府獨リデヤル譯ニ
行カナイ、國民全體ノ力ニ俟タネバナラヌ、
其覺悟ニ俟タネバナラヌ、其用意ニ俟タネ
バナラヌ、ソレ故ニ折角ノ御希望デアリマ
スルケレドモ、將來ニ對シテ政府ノ計畫ハ
斯ク〓〓デアルト云フコトヲ、假令自分ノ
心ニハ其畫キガアッテモ、今日ソレヲ公表
スルヤウナコトハ奇ヲ好ムナラ格別、國
家ノ爲ニナラヌト考ヘル、サウ云フコトヲ
言フコトハ私ハ御斷リヲ致シマス発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=49
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050・徳川家達
○議長(德川家達君) 此際御諮リヲ致シタ
イコトガアリマス、豫算委員會ヲ開キマス
都合上、此程度ニ於テ本會議ハ延會イタシ
タイト考ヘマス、御異議ゴザイマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=50
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051・徳川家達
○議長(德川家達君) 明日午前十時ヨリ開
會イタシマス、議事日程ハ決定次第御通知
ニ及ビマス、本日ハ是ニテ散會イタシマス
午後零時六分散會
貴族院議事速記錄第十二號正誤
頁段行誤正
一二一三二九鳳山甲仙
同同三四此又発言のURL：https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006403242X01319330215&spkNum=51
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