1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和八年二月二十一日(火曜日)
午後一時十六分開議
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議事日程 第十五號
昭和八年二月二十一日
午後一時開議
質問
一 足尾銅山鑛毒問題に關する質問(栗原彦三郎君提出)
二 航空に關する質問(永田良吉君外三名提出)
三 和議法に關する質問(金井正夫君外一名提出)
四 河野通治贈位奏請に關する質問(武知勇記君提出)
五 滿洲政策に關する質問(丸山浪彌君提出)
六 民法親族編中養子に關する質問(天辰正守君外一名提出)
七 民事訴訟法に關する質問(天辰正守君外一名提出)
八 鐵道運賃引下に關する質問(藤井啓一君提出)
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第一 大正二年法律第九號中改正法律案(裁判所管轄區域に關する件)(政府提出) 第一讀會
第二 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第三 工業組合法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第四 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第五 恩給法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第六 右議案の審査を付託すへき委員の選擧
第七 造幣局工場及其の附屬設備の新營費に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第八 昭和八年度一般會計歳出の財源に充つる爲公債發行に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第九 大阪帝國大學工學部設置に付帝國大學特別會計及官立大學特別會計の關渉に關する法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十 朝鮮事業公債法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十一 樺太事業公債法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十二 貨幣法中改正法律案(政府提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第十三 郷又は町村祿高に對し公債證書給與に關する法律案(寺田市正君外四名提出) 第一讀會
第十四 住宅組合法中改正法律案(船田中君提出) 第一讀會
第十五 住宅組合に對し償還資金給與に關する法律案(船田中君提出) 第一讀會
第十六 中央卸賣市場法中改正法律案(八田宗吉君外三名提出) 第一讀會
第十七 中央卸賣市場法中改正法律案(村上紋四郎君外二名提出) 第一讀會
第十八 刑事訴訟法中改正法律案(小林かなえ君外一名提出) 第一讀會
第十九 衞生組合法案(野田文一郎君外四名提出) 第一讀會
第二十 傳染病豫防法中改正法律案(野田文一郎君外四名提出) 第一讀會
第二十一 衞生組合法案(上田孝吉君外十四名提出) 第一讀會
第二十二 傳染病豫防法中改正法律案(上田孝吉君外十四名提出) 第一讀會
第二十三 大正七年法律第四十三號中改正法律案(地種變更免租年期に關する件)(木下成太郎君外十七名提出) 第一讀會
第二十四 六大都市に特別市制實施に關する法律案(犬養健君外四十四名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十五 司法代書人法中改正法律案(立川平君外二名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十六 司法代書人法中改正法律案(斯波貞吉君提出) 第一讀會の續(委員長報告)
第二十七 身元保證に關する法律案(一松定吉君外三名提出) 第一讀會の續(委員長報告)
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(左の報告は朗讀を經さるも參照の爲竝に掲載す)
一政府より提出せられたる議案左の如し
恩給法中改正法律案
(以上二月十八日提出)
昭和六年度歳入歳出總決算
昭和六年度各特別會計歳入歳出決算
昭和六年度歳入歳出決算檢査報告
(以上二月二十日提出)
一昨二十日政府より昭和六年度國有財産増減總計算書、昭和七年三月三十一日現在國有財産現在額總計算書及之に添附すべき各省の同増減報告書、同現在額報告書竝會計檢査院檢査報告を受領せり
一政府より受領したる答辯書左の如し
衆議院議員栗原彦三郎君提出足尾銅山鑛毒問題に關する質問に對する答辯書
衆議院議員永田良吉君外三名提出航空に關する質問に對する答辯書
衆議院議員金井正夫君外一名提出和議法に關する質問に對する答辯書
衆議院議員武知勇記君提出河野通治贈位奏請に關する質問に對する答辯書
衆議院議員丸山浪彌君提出滿洲政策に關する質問に對する答辯書
衆議院議員天辰正守君外一名提出民法親族編中養子に關する質問に對する答辯書
衆議院議員天辰正守君外一名提出民事訴訟法に關する質問に對する答辯書
衆議院議員藤井啓一君提出鐵道運賃引下に關する質問に對する答辯書
(以上二月二十一日提出)
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足尾銅山鑛毒問題に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和七年十二月二十六日
提出者 栗原彦三郎
足尾銅山鑛毒問題に關する質問主意書
明治三十年五月二十七日鑛山監督署長より足尾銅山鑛業主に命したる鑛毒豫防命令に基き漸次足尾銅山鑛業所か設置したる高原木外十七箇所の毒泥渣堆積場は數次の震災と四十箇年に渉る歳月との爲に其の堆積物の流下豫防設備自然に損傷して崩壞流下の危險あり殊に最近築造したる原向新堆積場を除く他の堆積場は全部其の堆積量過當に超過し居り今や全堆積量は實に三百萬立方坪と稱さるるに至れり此の莫大なる堆積毒泥渣は人畜草木を害する猛烈なる毒物にして而も其の堆積場は皆渡良瀬川の岸上數丈若は支流溪谷の岸上に在り一朝崩壞せは直に渡良瀬川を流下して沿岸舊被害地方を再ひ毒砂漠とすへきは火を睹るよりも明なり之か爲に舊被害地方人民は戰々兢兢として常に其の業に安むする能はさる状態にあり然るに政府は從來學者專門家に命して此の危險に對し根本的排除の途を調査せしめつつありと主張し來りしか第六十二囘議會に於ける本員の質問に對する商工大臣の答辯に依りて所謂學者專門家の調査は將來の採鑛製煉に關する事項にして堆積毒物の處置に關するものに非さること明白となりたり加ふるに足尾銅山に於ては最近非常なる増産計畫を立てつつあり之か爲に舊被害地方人民の不安其の極に達し田畑を賣却し祖先墳墓の地を捨て他に移住せむとする者をも生するに至れり依て政府は左の二點に付明確なる答辯を望む
一 今や國民思想の激化益甚しからむとするの秋に當り政府か此の堆積毒泥渣の處置を等閑に付し當然の監督を怠り國民をして必然起るへき生命財産の絶大なる危險に直面せしめつつ放任するか如きは思はさるの甚しきものなりと信す政府の所見如何
二 政府は足尾銅山に對する監督を怠り此の儘放任せは數千萬圓の損害を必然被害民に與ふへきを察知しつつ何等の處置を爲さす若一朝堆積場崩壞して多大の被害を人民に與へたる場合は政府は其の監督怠慢の責任に當るへきは當然なり政府は如何にして其の責任を果さむとするや如何
右及質問候也
昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長 秋田清殿
衆議院議員栗原彦三郎君提出足尾銅山鑛毒問題に關する質問に對し別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員栗原彦三郎君提出足尾銅山鑛毒竝煙毒に關する質問に對する答辯書
足尾鑛山に於ける泥渣の處置に關しては政府は常に周到なる注意を拂ひ取締を勵行しつつある所にして堆積場の周圍には完全なる扞止工事を施し指定の堆積方法により堆積せしめつつあるを以て堆積量過當の事實なきは勿論泥渣散逸の虞なきものと認むるも今後も一層監督を嚴にして萬遺漏なきを期する所存なり
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
商工大臣 男爵 中島久萬吉
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航空に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和八年一月二十一日
提出者 永田良吉
外三名
航空に關する質問主意書
一 日華定期飛行開始に關する政府の對策如何
二 太平洋横斷飛行に對する政府の助力對策如何
三 航空局を分離獨立して内閣直屬の航空院を創設する計畫如何
四 民間飛行場増設擴張に關する政府の補助政策如何
五 民間飛行士優遇竝養成に關する政府の對策如何
六 獻納飛行機を民間航空輸送方面に使用する政府の對策如何
七 内臺間航空輸送開始に關する對策如何
八 文部省所管航空研究所に民間飛行士及機關工手養成所を併置する計畫如何
九 陸海空軍の充備及民間航空發展に關する政府の所見特に我か國西南兩方面に對する民間航空路の開始對策は不徹底なるやの感あり之に對する政府の對策如何
一〇 民間航空の發展を期する爲航空公債發行如何
右及質問候也
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昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長 秋田清殿
衆議院議員永田良吉君外三名提出航空に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員永田良吉君提出航空に關する質問書に對する答辯書
一、日華間定期飛行開始に關する政府の對策如何
日支兩國間の定期航空開始の爲には先つ兩國間に一方國の航空機が他方國の領域内に於て運輸事業に從事することを相互許諾する趣旨の協定を要する次第にして政府は從來とも種々努力し來れるも目下の状況にては右定期航空の急速實現は相當困難なる實情なり然れども本件に關し政府は引續き深甚の注意を拂ひ各般に亙り遺漏なきを期しつつあり
二、曩に報知新聞社に於て企圖したる太平洋横斷飛行に對しては政府は經費を支出して必要なる施設を行ひたる外各般に亙り援助を爲したるが將來適當なる計畫を以て右飛行を企つる者ある場合に於ては出來得る限りの援助を爲すべし
三、航空局を現在の儘内閣直屬の航空院とすることに關しては相當考慮を要すと認む而して航空行政機關を統一して航空院を設置することに關しては政府に於ても夙に研究中なるが民間航空事業の奬勵指導は既に遞信省に於て又基礎的學理の研究は文部省に於て統一せられあるも一般器材の製造及研究機關の統一は陸海軍民間各其の用途に從ひ要求する所異なるのみならず本邦の如く陸海軍航空技術の個々に發達せる状態に於ては其の實施に付幾多困難の事情あるを以て猶愼重考究中なり
四、公共の用に供する飛行場を設置し又は擴張せむとする者ある場合其の所要經費の一部を政府に於て補助することに關しては愼重調査考究中なり
五、政府は經費を支出して飛行機操縱士の養成を行ふの外民間飛行學校等に於て養成せられ一定の條件を備ふる者に對しては帝國飛行協會に於て奬勵金を授與しつつあり而して飛行機操縱士にして資格ある者は陸海軍豫備役下士志願の特典を附與することとし又帝國飛行協會に補助金を交付して職務上死亡し又は傷痍を受けたる者に對する慰助を行はしめつつあり
六、陸海軍に獻納せられたる飛行機は何れも軍用機なると獻納者の意志は國防の用に供するに在るとを以て之を民間航空輸送方面に使用するは適當ならざるものと認む
七、内地臺灣間航空路を設置し定期航空を實施するは内臺間交通の便益を増進する爲極めて緊要にして政府に於ても夙に考究中なるが之が爲には相當の經費の支出を要するを以て將來財政の許す限り可成速に其の實施を期せむとす
八、帝國大學附屬航空研究所に飛行機操縱士及機關士養成所を併置することは目今其の計畫なきも將來飛行機操縱士及機關士養成の爲に其の設備を利用せしむる必要を認むるに至るやも計り難し
九の(い) 陸海軍に於ける航空兵力の充備は未だ十分なりと認めざるも差當り國防上必要なる最少限度の兵力は豫算成立と共に概ね整備せらるる豫定なり
九の(ろ) 民間航空事業は國防上經濟上極めて重大の使命を有し保護助長の要緊切なるは言を俟たず然るに我國航空界の現況は之を歐米諸國に比較して甚だ遜色あるは遺憾とする所なり從て今後斯業の發達を促進するが爲施設すべき事項多々あるを以て政府は將來財政の許す限り可成速に諸般施設の進捗を圖り以て本邦航空事業の發展を期せむとす
九の(は) 我國の東北方面に對しては航空線路を開設せるものなく目下仙臺外二ヶ所に飛行場建設中なるが西南方面に對しては既に東京福岡間に定期航空輸送を實施し又福岡臺北間航空線路の開設を鋭意考究中なり
一〇、民間航空事業の發展は政府の庶幾する處なるも之が爲航空公債を發行するは財政の現状に鑑み適當ならずと認む
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
大藏大臣 高橋是清
外務大臣 伯爵 内田康哉
陸軍大臣 荒木貞夫
文部大臣 鳩山一郎
遞信大臣 南弘
拓務大臣 永井柳太郎
海軍大臣 大角岑生
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和議法に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和八年一月二十三日
提出者 金井正夫
外一名
和議法に關する質問主意書
一 和議法實施後
い 和議申請の件數如何
ろ 右件數の内認可せられたるものと不認可となりたるもの及却下せられたるものの各件數如何
は 右認可せられたるものにして後に取消されたる件數及其の理由の區別如何
に 右認可せられたるものの内和議條件の所定通履行せられたるものと履行せられさるものとの件數如何
二 和議法施行の實績其の制定の精神に反し殆と債務踏倒の結果に終れる觀ありと信す此の點に關する政府の所見如何
三 政府は右和議法實施の實績に徴し其の弊害を除去する爲和議法の廢止又は改正を爲すの意見なきや
右及質問候也
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昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長 秋田清殿
衆議院議員金井正夫外一名提出和議法に關する質問に對し別紙答辯書差進候
(別紙)
衆議院議員金井正夫君外一名提出和議法に關する質問に對する答辯書
一、和議法實施後
和議申立件數、認可、不認可、棄却、和議取消件數は別紙表記通なり
和議取消理由、和議條件の所定通履行せられたるものと然らざるものとの件數不明
二、和議法施行の實績は必ずしも良好ならざるものあるが如し
三、和議法の改正に付ては目下研究中なり
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
司法大臣 小山松吉
和議法に依る和議事件總數及處理表(自大正十二年至昭和六年)
種別
年次
申立件數
申立の結果
未決
和議法第六十三條に依る和議取消
舊受
新受
計
開始後
開始前
計
和議開始決定取消
認可
不認可
和議廢止
其他
棄却
其他
大正十二年 三三 三三 三 一 一 八 七 二〇 一三
大正十三年 一三 三九 五二 一 一五 二 一 五 一二 三六 一六
大正十四年 一六 八七 一〇三 三一 四 一 一〇 二六 七二 三一
大正十五年昭和元年 三一 九六 一二七 二 三九 三 二 一三 二八 八七 四〇
昭和二年 四〇 一三四 一七四 六二 二 二〇 三一 一一五 五九
昭和三年 五九 一四五 二〇四 一 九七 二九 三三 一六〇 四四 一
昭和四年 四四 一八一 二二五 一 七九 一 六 三 一四 四九 一五三 七二 一
昭和五年 七二 一八四 二五六 七六 一七 三 二七 五〇 一七三 八三
昭和六年 八三 一七三 二五六 三 九九 三 一 一六 五〇 一七二 八四
合計 三五八一、〇七二一、四三〇 八五〇一 四三六一一一四二二八六 九八八四四二 二
備考
(一)開始後其他欄は移送、當事者死亡に依り終了したるもの等を計上す
(二)開始前其他欄は取下に當るもの、移送、當事者死亡に依り終了したるもの等を計上す
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河野通治贈位奏請に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和八年一月二十五日
提出者 武知勇記
河野通治贈位奏請に關する質問主意書昭和三年十一月十日 聖上御即位の大典を擧けさせ給ふに際し河野通治は從四位追贈の光榮に浴したり今河野通治の事蹟を按するに河野通治は又の名を通盛と呼ひ通稱を九郎左衞門と稱す伊豫の豪族にして對馬守に任せられ始愛媛縣温泉郡高繩山に後同郡道後湯築城に據り晩年老を同郡河野村善應寺に養ひし人なり(法名を善惠と謂ふ)而して前に北條氏に後に足利氏に屬し或は豐島河原の戰に或は湊川の戰に官軍に對抗し其の部下大森彦七と共に楠正成をして戰死の己むなきに至らしめたる逆賊なり此のことたる太平記豫章記河野家譜河野系圖古文書等に徴證歴然たり斯の如き逆臣河野通治か御贈位の光榮に浴すへき道理あるなし依りて代議士故武内作平氏は之を當時の田中内閣に質し本員亦前後四囘に亙り政府の所見を問ふ所ありたるに今に至るも贈位奏請の誤を悟らす敢て其の非違を掩ひ一國道義の基準を破壞して顧みさるのみならす順逆正邪の別明ならさるは國家の爲痛恨に堪へさるなり即ち故武内代議士の質問に對し田中内閣は左の如き辯明を爲したり
「此の度御贈位になれるは忠臣河野通治にして逆賊河野通治に非す忠臣河野通治は備後守にして逆賊河野通治は對馬守なり而して兩者は各其の通稱を異にせり」(撮意)
更に本員か數度に亙る質問に對しては
「前内閣答辯の通贈位は今猶至當のものと認む」
との辯明を繰返し要領を得さる事夥しきか故に第六十三囘議會に於て本員は贈位奏請當時の内閣書記官長たりし鳩山文部大臣に其の辯明の誤を指摘して反省を促したるに鳩山文相は
「是は内閣に居りました學者が私をして斯樣に言はしめたものでありまして、只今に於きましても其の學者は依然として昭和三年に贈位を致しましたことは適當である、決して逆賊ではない、忠臣であると云ふことを今日も心から信じて居りますので、それを私が取次いで御返事申上げるより致方がございませぬ」(官報速記録より)
と答辯せり政府自ら負はさるへからさる贈位奏請の重大責任を學者一人の建言に轉嫁して其の責を免れむとするか如きは本員等の頗る遺憾とする所なり言ふ迄もなく本問題は一地方に於ける歴史上の研究事項に非す事は國民精神の作興に大なる影響を及ほすへき國家の大事件と思惟するか故に本員は政府從來の辯明に對し以下各項に亙り其の非違を糺問し飽迄も大義名分を正し忠奸の別を明にせむと欲するものなり
即ち政府答辯の主眼點を要約すれは河野家には同時に同一氏名(河野通治)の忠臣と逆臣とありて忠臣は備後守逆臣は對馬守に敍任せらる而して各其の通稱を異にせりと解すへきなり之を史實に徴するに
第一問 河野通治は對馬守に任せられ決して備後守に任せられたることなし其の徴證は豫章記築山本河野家譜豫陽河野家譜河野系圖其の他古文書以下十數種の史料にあり政府は如何なる史料に依りて備後守河野通治なる者を認めたるや
第二問 政府の辯明に依れは河野對馬守通治以外に河野備後守通治と言ふ者ありと主張すれとも河野備後守とは河野備後守通綱(明治十七年正四位を追贈あらせられたる得能氏を稱す)のことにして決して通綱以外に備後守通治なる者存在せさるなり其の證左は即ち左の如し
い 豫章記の本文に通綱得能又太郎任備後守と見ゆ
ろ 善功録(此の書は伊豫國温泉郡南吉井村舊郷士得能家の藏本)に得能備後守とあり
は 得能累世一覽(此の書は前記得能家傳來の古系圖)にも備後守通綱とあり
に 善應寺本河野系圖(河野通治か老を養ひたる愛媛縣温泉郡河野村善應寺所藏)に通綱又太郎號得能冠者元弘年中吉野院一統御宇任備後守云云とあり
ほ 越智氏河野系圖(東京府下中野町河野朗治所藏)に通綱又太郎後に備後守從五位下元弘年中吉野院御一統時舊領賜被補惣領云云とあり
へ 越智性土居系圖(善作苫田郡田邑村土居通博所藏)に通綱又太郎元弘中吉野院御一統之時被補惣領號河野備後守於越前金崎城討死家人三十餘人死とあり
備考 此の系圖の外愛媛縣伊豫郡原町村土居通福及同上浮穴郡久万町土居通清所藏のものも通綱に對しては同樣の記事あり
と 一本河野系圖(續伊豫温故録所載)に通綱又太郎備後守從四位下侍從越前金け崎城戰死五十三歳母別府七郎左衞門尉通朝長女とあり
ち 善應寺本河野軍記にも通綱を備後守とし且通治は對馬守に任せらるとあり
以上の徴證に對し疑問の餘地ありや政府は河野(得能)通綱か備後守に任せられたる史實を否定するや否や
第三問 假に百歩を讓て辯明の如く對馬守河野通治以外に備後守河野通治なる者ありとせは其の氏名を記せる古文書竝史料の存在すへき筈なるに太平記(流布本竝神田本)以外に一本も之を認むる能はさるは如何
第四問 政府は太平記(流布本及神田本)に河野通治なる忠臣の氏名ありと言へとも其の太平記の記事の誤なることは明治十七年河野(土居)備中守通増、河野(得能)備後守通綱に對し正四位を追贈あらせ給ふに際し官報を以て太平記の誤れることを公示せられたるを以て明なり政府は官報公示の事實を否定する勇氣ありや
第五問 政府の辯明に依れは逆臣河野對馬守通治と忠臣河野備後守通治とは其の通稱を異にしたり是れ別人たる證左なりと言へとも河野對馬守通治か通稱を九郎左衞門尉と稱したることは各種の史料に見ゆれとも河野備後守通治なる者の通稱は一も見當らす伊豫史談會幹事景浦直孝氏は親しく辯明書を起草せる鳩山文相の所謂「内閣に居った學者」たる史料編纂官和田英松氏に之を質したるに其の自家の誤れることを明答陳謝したり之に依りても河野對馬守通治以外に河野備後守通治なる者の存在せさること益明白なり政府の辯明既に誤あること明瞭となれる今日猶政府は虚構の史料を以て答へたる辯明書を正鵠を得たるものなりと認むるや
第六問 河野備後守通綱か越前金崎城に於て新田義顯と共に尊長親王に殉し奉りしことは太平記以下土居得能系圖其の他の史料に依りて明にして已に明治十七年官報に依り之を公示せられたり而して太平記之を記述するに際し單に河野備後守とのみ書して其の名(通綱)を記せす依て政府は之を以て通治なりと主張せりされと政府に於ても河野備後守通綱の金崎城戰死の事實を認め居れり是れ大なる矛盾にして假に其の主張を正しとするも二人の備後守(河野通綱と河野通治)か同時に同所に於て戰死したることとなる理にして眞に奇怪なりと謂ふへし加之辯明書起草者の金科玉條とする神田本太平記中には河野(得能)備後守通綱とあるへきを誤て河野(得能)備中守通綱とせる所あり按するに備中守は明治十七年正四位を追贈あらせられたる河野(土居)備中守通増にして通綱に非さることは史上明瞭に徴證あり今一歩を讓て假に神田本太平記の記事を正しとするときは二人の備中守(正史に備中守通増と神田本に所謂備中守通綱)か同時に存在し新田義顯と共に北越に赴きたることとなる詳言すれは二人の備後守と二人の備中守とか共に北越に赴き巳に正四位を追贈されたる河野備後守通綱と昭和三年從四位を追贈されたる河野備後守通治と言ふ二人の備後守か同時に同所に於て戰死したこととなるのみならす政府の所謂河野備後守通治と正史に見ゆる河野對馬守通治と言ふ二人の通治か同時に河野家に在りて官賊に相別れて爭ひたることとなるなり誠に奇怪至極と謂はさるへからす常識を以て判斷するも直に疑惑を生すへき史料に對し何等の精査研究を遂けさりしは何故そ
第七問 太平記にのみ據り他に傍證を得すして疑はしき史實を確定せむとするは論據薄弱なることは斯道大家の齊しく認むる所にして史料編纂所長辻善之助博士も之を告白せられたり然るに政府は唯一の太平記(神田本)のみに據りて明治十七年欽定公示されたる所説を覆さむとするや太平記以外には一も史料なしとは文相の所謂「内閣に居った學者」の公然告白する所なり政府にして猶其の主張を貫かむとするならは必す神田本太平記以外の傍證を公表して其の誤に非さる所以を明にせさるへからす果して之を爲し得る用意と研究ありや否や
第八問 文部省圖書監修官藤岡繼平氏は「私は純正史學の上より飽迄も通治を逆賊と認める文部省の校訂せる教科書は絶對に信頼して貰ひたいものである」と公表されたり内閣と文教の府たる文部省側の此の説と相一致せさるは如何なる理由に依るや
第九問 帝國大學史料編纂所編纂の大日本史料は百年計畫の大事業にして眞に國史の精髓なり然るに河野對馬守通治の氏名は見ゆれとも辯明書の所謂河野備後守通治なる者の氏名は一も認むるなきのみならす忠臣として瑣の記述なし是れ何故に然るや
第十問 内閣か贈位を奏請したる河野通治の事蹟中に皇太子恒良親王及成良親王を奉して北國に下向す云云の記事あり北國に下向あらせ給ひしは恒良、尊長の二親王にして決して成良親王に非す是れ正史に徴證あり然るに猶誤ならすとするや政府は須らく其の證左を明示せさるへからす而して文相の所謂「内閣に居った學者」は成良親王の北越下向は誤なることを既に告白したり畏くも贈位奏請の事蹟記事中に皇族の御名を誤るか如き不謹愼を敢てせる學者の建言を唯一の辯明料資として政府は和田博士(鳩山文相の所謂「學者の説を聞いて取次いで返事するより外に仕方がない」と言ふ其の學者の名)以外の學者には河野通治贈位奏請の至當ならさる史實を尋ね其の教を乞ふの意志なきや
以上縷述せるか如く逆賊河野通治以外に忠臣河野通治なる者の存在せさるは明なる所なり然るに猶其の誤を訂ささるのみならす却て其の誤に非すと主張しなから一も其の徴證を提示せすして唯誤に非すとのみ主張するは畢竟其の執奏の誤を蔽はむとするに外ならす斯の如きは徒に國民をして光輝ある我か國史に疑惑の念を抱かしむるに止まらす國家の信賞必罰の標準をさへ疑はしむるに至るものなり世或は兒島高徳か純正史學の研究上より兎角の論あるに拘らす御贈位の光榮を得たるに比較する者あれと河野通治の問題とは固より雲壤の相違あり重ねて斷す通治は逆賊なり其の逆賊に贈位を奏請し何を以て我か國民思想の善導を遂行せむとするや忠奸の別を混淆せは何を以て我か國忠君愛國の精華を維持し得へきや事眞に國家の重大事なり政府は前述の各質問事項に對し逐條明答して國民の疑惑を解かさるへからす若其の公示を爲し得すとせは速に其の誤を訂して贈位取消の奏請を爲ささるへからす之に對する政府の所見如何
右及質問候也
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昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長 秋田清殿
衆議院議員武知勇記君提出河野通治贈位奏請に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員武知勇記君提出河野通治贈位奏請に關する質問に對する答辯書
曩に贈位せられたる河野通治は勤王の功臣にして明治十七年に贈位せられたる得能通綱、土居通増と同一人に非ずと今尚認め居れり
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
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滿洲政策に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和八年一月二十六日
提出者 丸山浪彌
滿洲政策に關する質問主意書
帝國の滿洲政策上之か外交方針は國を擧けて焦土と化するも敢て辭せすと言ふ有史以來の一大決心を有するは既に論なき所なるも彼の滿蒙の權益擁護か實に帝國の生命線たる本質に鑑み政府は之か對策上果して遺漏なきや否や予は今之か質問を試みるに當り事外交に關するか故に其の波響する所の偉大なるを惟ひ最愼重に之か前後と其の左右に考慮を拂ひ聊か赤誠を披瀝し以て簡明に政府の所見を問はむと欲す言ふ迄もなく「ジュネーブ」の前途は唯一あるのみ今更に繰返すの要なし而して滿洲國の國防と治安は我か邦の責任に於て之を確保せさるへからさるは言を待たす然り既に然り列國の承認も土賊の平定も單に時期の問題たるのみ早晩所期の解決を見るへし若夫れ此の根本の解決に於て萬か一にも遺算を來さむか予は又何をか言はむ否斯る遺算は斷して絶無なるを確信す
茲に於て予は政府か來るへき時期即ち土賊の平定列國の承認を見たるの將來我か國か滿洲に於ける生命線即ち經濟戰の實質上其の進むへき針路に向て確乎たる政策ありや否や予の寡聞なる未た之に接せす洵に憂惧なきを得さるなり若政府にして之か對策なからむか焦土論は徒に大言壯語にして畢竟一囈語たらむのみ其の愚や及ふへからす其の妄斷乎として排すへきなり
帝國の滿蒙政策は過去三十年に於て失敗を演せり徒に犧牲の大なりしを知ると共に此の大なる犧牲は滿蒙に於て彼の漢民族の發展を助長せしめたるに過きさるは事實の雄辯に物語る所なりされは來るへき將來平和安定後門戸開放機會均等の大旆を翻せる滿洲國の前方に横るは何物なるや實に今日に於て深く心せさるへからす眞に戒むへきは此の點に存す予は既往の經過に鑑み將來の情勢を察し平和後の滿洲に押し寄せ來る所の漢民族は洪水の夫れの如く洵に恐るへきを痛感せすむは非さるなり是れ予か左の數項を提けて敢て政府の所信を問はむと欲する所なり
一 政府は現有の滿洲人をして克く王道政治の理解を與へ彼人をして衷心より日本民族と親善ならしむへく眞個の共存共榮政策に向て何等の考慮を有するや
現在滿洲人の多くは我か軍の躍動に向て疑懼の念に襲はれつつあるは疑なき事實なり故に先つ之か理解の途を講するに非すむは徒に彼人の反感敵愾心を唆るのみにして政府若此の點に重心を置くに非すむは李杜丁超馬占山蘇炳文王徳林の徒輩を將來續出せしむるの怖あるを如何而して努力幸に彼人の理解を得たる後に於ても日本民族か容易に滿洲に移動の至難なるは論なき所なるを以て先つ現有滿洲人をして眞個日滿親善共存共榮の信念を涵はしむるを以て我か生命線擁護の第一歩にして最先の急務なりと信す
二 政府は滿洲現有の八十萬著農鮮人に向て特別格段なる保護を與へ尚更に進むて農業鮮人の移住奬勵に向て何等の考慮政策を有するや
日本民族内地本國人の移動は單純輕易の業に非さるか故に先つ移動上に於ける有利の條件を有する鮮農の移住保護奬勵を以て我か生命線擁護解決の第一歩なりと信す聞くか如くむは政府は昭和八年度に於ても昨年武裝移民五百一戸を送りたる佳木斯に前年と同樣の武裝移民を爲すへき方針にて拓務省政務次官堤氏の視察報告亦然りと、眼孔何そ狹小なる若果して然りとせは予は實に其の愚を悲しまさるを得さるなり年年歳歳莫大の國費を投して天井よりの眼藥恰も雀涙に等しき試驗移民に甘むするか如くむは不知何の時か生命線擁護の實を擧くるを得む政府は須らく活然眼孔を大にし滿洲千七百町歩の未墾地に著目すへし若今の如く軍部萬能主義の下に軍人に非されは移民の能力なきか如き方針に促はれ依然大衆移民の途に進むの勇なくむは到底洪水的來襲の漢民族に備ふる所以に非さるなり否寧ろ無爲無策斷して排すへきなり
三 我が國民をして滿洲の認識を十分ならしむるの政策如何
惟ふに我か日本民族は滿洲の生命線たる實質上の認識に缺くる所あり單に突進軍に勝たさるへからさるの決心の動かさるは眞に喜ふへきも平和後の經濟戰に對する認識不足を如何故に政府は國民をして今日に於て總動員必死の覺悟を以て實業勞働戰に當るの自覺を促ささるへからす政府若此の點を閑却せは焦土論も生命線も何等の意義を爲さす
四 政府は將來日支の前途に於て親善を圖る思慮如何
亞細亞「モンロー」主義の中心は我か日本民族之を荷ふの覺悟を要す予は此の意味に於て今日敢て多きを言はす此の際單に政府より其の思慮の言明を得れは以て足れりとす
右及質問候也
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昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長秋田清殿
衆議院議員丸山浪彌君提出滿洲政策に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員丸山浪彌君提出滿洲政策に關する質問に對する答辯書
一、帝國の對滿政策は日滿兩國間共存共榮の精神に基き滿洲國の健實なる發達を助成し依て以て東洋平和の確保に資するに在り政府は右趣旨に依り此の上共滿洲國政府と提携し兩國民の間に日滿親善共存共榮の信念を益々深からしめむことを期す
二、政府は在滿鮮人の保護撫育に關しては夙に意を致し教育、衞生、金融、産業等に關する凡有施設を爲し殊に滿洲事變後に於ける避難鮮農に關しては極力之が救濟に努めつつあり而して避難鮮農の生活の安定を計るは緊要事なるを以て差當り昭和八年度に於て安全なる土地を選定し鮮農を集團的に收容し將來自作農たらしむる目的を以て安全農村を創設するの計畫を樹立せり尚ほ鮮農將來の移住に對する方策は獨り鮮人の利害のみならず日滿親善にも關係する所大なる問題たるに鑑み政府は此點に留意して萬全の方策を樹立せむことを期す
三、政府は各般の關係に於て日本國民の滿洲國に對する認識を愈々切實ならしめむが爲遺憾なきを期す
四、政府は窮極支那國民が同國亦滿洲國に對し承認を與へ日滿支三國相倚り相助けて以て東洋平和の確保に努むること眞個日支の親善を計る所以なることを了解するに至るべきを確信するものにして右の如き事態招來の爲め施措遺漏なきを期す
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
外務大臣 伯爵 内田康哉
陸軍大臣 荒木貞夫
拓務大臣 永井柳太郎
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民法親族編中養子に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和八年一月三十日
提出者 天辰正守
外一名
民法親族編中養子に關する質問主意書
民法中改正を要する點多多ありと雖吾人の最遺憾に考ふる點は民法親族編中子なき場合に他人の子女を貰受け之を教養し法律の擬制に因りて親子關係を繼續せしめ家督相續の開始に依りて養子は戸主の身分を收得す戸主權を收得したる養子か亂行日日に増長して養親を虐待し家女たる妻を追放したる實例は往往ありと雖家族制度を尊重する我か民法に於ては斯る場合に戸主權を奪ふは一家の廢滅の原因なりとの理由にて右の如き者に對して何等制裁の方法なきは大に遺憾なりとす之に對する當局の所見を問ふ
右及質問候也
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昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長秋田清殿
衆議院議員天辰正守君外一名提出民法親族編中養子に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員天辰正守君外一名提出民法親族編中養子に關する質問に對する答辯書
本質問の趣旨に對しては當局に於ても同感なれども目下民法親族編及相續編改正案の調査中なるを以て遠からず其の實現を見るに至るべく本質問の件も之と同時に解決し度き意嚮なり
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
司法大臣 小山松吉
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民事訴訟法に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和八年一月三十日
提出者 天辰正守
外一名
民事訴訟法に關する質問主意書
民事訴訟は原被告の感情問題に基因するもの多多あるは勿論なるも土地境界確認訴訟の如きは一層感情を激成し殆と無價値の訴訟物に對して其の實價格の幾十倍を費し多年に亙りて紛爭を繼續せるは〓見る所なり而して何れか勝訴を得ると雖其の費用に於て大打撃を蒙り殊に他の案件と異りて子子孫孫に至る迄惡感情は融和せす斯る事件を通常の民事訴訟として審判するは改正民事訴訟法竝我か國古來の淳風美俗の上より見るも改正すへきに非すや
尚人事訴訟法中婚姻關係事件、養子縁組事件、親子關係事件、相續人廢除事件、隱居事件等は直に通常裁判所に持出し所謂公衆の目前に於て家庭内の醜惡を暴露するは我か國淳風美俗を害すること大なり人權を尊重する現代に於ては餘りに矛盾撞著も甚し是等に關しては土地境界確認事件と共に家事調停裁判と謂へる如き一種の特別調停裁判に付すへきものなりと信す之に對する當局の所見を問ふ
右及質問候也
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昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長 秋田清殿
衆議院議員天辰正守君外一名提出民事訴訟法に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員天辰正守君外一名提出民事訴訟法に關する質問に對する答辯書
一、境界確認訴訟を一種の特別調停裁判に付すべきことは其の趣旨に於て贊成なるも右は一般調停制度との關係を考慮して研究すべき問題なりと思料す
二、政府は目下民法中親族編及相續編の改正に伴ひ家事審判法を制定し家庭に關する事件に付道義に基き温情を以て非公開手續の下に審判又は調停を爲すことを考究中なり
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
司法大臣 小山松吉
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鐵道運賃引下に關する質問主意書
右成規に據り提出候也
昭和八年一月三十一日
提出者 藤井啓一
鐵道運賃引下に關する質問主意書
我か國有鐵道運賃引下に關しては數年間全國各商工會議所より其の筋に陳情したるのみならす昨年第六十三囘議會に本院に於て同趣旨の建議全會一致を以て可決し政府に建議したり然るに今尚何等の引下改正變更等の措置を採られさるを以て茲に左の質問を爲さむとす
一 現行鐵道運賃率は昭和五年四月一日以來(其の後一部改正)實施に係るも大正七年及大正九年の改正に基くものにして其の根本趣旨に於て運賃額の下増收不減收の方針に出てたるものなるを以て(鐵道省中山貨物課長の鐵道運輸委員會に於ける説明)國民經濟の非常なる膨脹したる時代に比し其の經濟事態の非常なる變化を來したる今日に於ては之に適應せさるものなり即ち時代の變遷に伴はさる賃率に非さるや政府の所見如何
二 近來經濟界不況にして其の一局部に於ては昨今稍恢復の曙光を認むるか如きも今尚一般的に於て其の深刻の程度を脱せす各種營業の維持困難を極む即ち物價主要部を組成する鐵道運賃にして依然好景氣時代の賃率を墨守施行せらるるに於ては折角經濟界の恢復を企圖せらるる時期に於て國民經濟及産業の振興を阻止阻害する憂ふへき影響を招來するに非すや政府の所見如何
三 各種貨物就中鮮魚は米、麥、野菜等と共に我か國民必需の食料品にして輓近機械漁業法の發達と共に全國の沿海は勿論遠く支那海「オホーツク」海方面より日日一般國民の食膳に供給せらる然るに其の鐵道運賃率は米、麥、大根、馬鈴薯類の第二十級雜穀一般、野菜味噌、醤油、漬物、小麥粉、乾物類の第十九級に對し鮮魚は第十五級第十四級を以てせらるる實状なり而して鮮魚は單に國民の生活必需品たるに止らす其の價格は極めて低廉にして現に此二、三年間の統計より見るも米一噸當り平均凡そ百二十圓に對し鮮魚は八十圓内外に過きす斯く高率の鐵道運賃を課せらるるに於ては市場價格の大半は動もすれは運賃額を以て占めらるること少からす全國漁民の疲弊困憊の因亦此に存す是に由て之を觀れは現時時局匡救對策若は他貨物運賃率との均衡上適當の變更引下は當然なる急務と信す政府の所見如何
四 最近下關市より大阪地方等に對する鮮魚運送の状況は鐵道便より漸次船舶に移らむとする傾向を來したるは鐵道便よりも船舶運送か運賃低廉にして荷主に有利なるにあり今假に下關市より大阪市に鯖を貨車に積替へ輸送するとせは一函に付運賃四十五錢氷代十錢積込費十五錢函代二十錢計約九十錢一尾當り一錢五厘乃至二錢を要するに對し運搬船にて直行すれは一隻約五十圓程度の經費にて足り三萬尾積と見て一尾當り一厘七毛即ち十分の一の運賃にて足れり而して其の運搬船の隻數は税關特許を得たるもの三百三十隻にして其の八十%見當は最近常に直行し三四年前の四五倍に達せり其の運搬賃も昭和六年九月の如きは約一箇月二十二、三萬圓に及へり斯の如きは全く海陸運送費の高低差異に基因するものにして從て鐵道運賃收入減となるものと言はさるへからす鐵道當局に於て鐵道運賃就中鮮魚運賃引下は鐵道收入減を來すものと憂慮せらるるも却て反對の結果を來すものと言ふへし鐵道貨物運賃の收入増を企圖せられさるへからさる鐵道當局に於て果して如何なる感を有せらるるや其の所見如何
五 鮮魚は急送を要する貨物にして荷姿も惡しく相當困難なりとするも當局は既に其の輸送機關として冷藏車等を設備せり尚且鮮魚は一般民衆の必需品たるに於ては其の運賃率を遞減するは社會政策上當然に非すや若夫れ假に鐵道運賃收入減ありとするもそは自ら別個の對策を講すへきに非さるや政府の所見如何
右及質問候也
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昭和八年二月二十一日
内閣總理大臣 子爵 齋藤實
衆議院議長秋田清殿
衆議院議員藤井啓一君提出鐵道運賃引下に關する質問に對し別紙答辯書差進候
〔別紙〕
衆議院議員藤井啓一君提出鐵道運賃引下に關する質問に對する答辯書
一 省の現行貨物運賃は昭和五年四月に改正を行ひたるものなり右の改正を爲すに當り當初は從來の運賃收入に對し不減不増を目標として改正案の研究を進めたるも賃率決定の直前に至り一部の生活必需品及主要産業原料品の運賃引下を爲すこととし年額約六百五十萬圓の運賃引下を行ひ居れり
今日の鐵道貨物賃率を歐洲大戰前即ち大正三、四年頃のものに比較すれば大體五割程度の引上となり居れり
一方物價は三割程度昂騰せるに過ぎざるも鐵道經費の大半を占むる人件費は一般勞銀の昂騰に伴ひ著しく膨脹し從って鐵道の經費は物價の下落せる割合に減少し居らざるを以て今日の鐵道賃率が必ずしも高率なりとは認め難し
二 一般經濟界不況の影響は鐵道も同樣に被り此兩三年來一般貨客收入減の爲鐵道財政は著しく困難なる状態に在り國有鐵道の運賃は鐵道財政の許す範圍に於て出來得る限り之を低廉にすべきものと考へ居るも右の通鐵道財政困難の爲運賃の一般的引下は差當り之を實行すること困難なり
三 省に於ても鮮魚は國民の生活必需品なることを充分に認め特別等級賃率を設けて運賃の低減を圖り居れり然れ共其の等級賃率を米、麥、野菜等と同一にすべきものとは認めず
四 一部の鮮魚が運賃の低廉なる海運に轉嫁することは已むを得ざる處なり尤も省としては右の如き場合特に必要と認むるときは特定運賃を設けて之が轉嫁防止を爲し居れり
五 質問と同樣の見地より現在鮮魚に對しては特別等級賃率を設けて其の運賃の低減を爲し居れり
右及答辯候也
昭和八年二月二十一日
鐵道大臣 三土忠造
一議員より提出せられたる議案左の如し
産師法案
提出者
野方次郎君 加藤鐐五郎君
金城紀光君
地方鐵道及軌道に對する地方税免除に關する法律案
提出者
本多貞次郎君 金光庸夫君
建築士法案
提出者
岡田忠彦君 兒玉右二君
星島二郎君
森林法中改正法律案
提出者
小林かなえ君 田村實君
國立公園法中改正法律案
提出者
小林かなえ君 田村實君
史蹟名勝天然紀念物保存法中改正法律案
提出者
小林かなえ君 田村實君
地方鐵道及軌道に對する地方税免除に關する法律案
提出者
鵜澤宇八君 山本厚三君
吉川吉郎兵衞君 藤井啓一君
漁船保險法案
提出者
鵜澤宇八君 村上紋四郎君
工藤鐵男君 平川松太郎君
漁船保險法案
提出者 小池仁郎君
鑛業陷落地復舊助成に關する建議案
提出者
樋口典常君 山崎達之輔君
野田俊作君 貝谷眞孜君
高倉寛君 田尻生五君
實岡半之助君 原口初太郎君
宮川一貫君 吉田鞆明君
内野辰次郎君 田島勝太郎君
高野喜六君 勝正憲君
中野正剛君 亀井貫一郎君
小池四郎君
關け原木の本間鐵道敷設に關する建議案
提出者
仙波久良君 猪野毛利榮君
佐竹直太郎君
農家負擔輕減に關する建議案
提出者
東武君 福井甚三君
土井權大君 長田桃藏君
島田七郎右衞門君 高橋熊次郎君
加藤知正君 八田宗吉君
熊谷五右衞門君 平野桑四郎君
肥料政策に關する建議案
提出者
東武君 福井甚三君
砂田重政君 八田宗吉君
河野一郎君 木村正義君
山本愼平君 高橋熊次郎君
青山憲三君
大神都特別聖地計畫實施國營に關する建議案
提出者
島田俊雄君 前田米藏君
山口義一君 松田源治君
富田幸次郎君 山道襄一君
古屋慶隆君 濱田國松君
加藤久米四郎君 川崎克君
池田敬八君
國際日忠魂祭制定に關する建議案
提出者
山下谷次君 荒川五郎君
中川觀秀君
農家負擔輕減に關する建議案
提出者
高田耘平君 荒川五郎君
櫻井兵五郎君 平川松太郎君
池田秀雄君 岡田喜久治君
肥料政策に關する建議案
提出者
高田耘平君 荒川五郎君
櫻井兵五郎君 平川松太郎君
池田秀雄君 岡田喜久治君
肥料政策に關する建議案
提出者
栗原彦三郎君 中田正輔君
(以上二月十八日提出)
和歌の浦灣附近に海軍航空隊設置に關する建議案
提出者 玉置吉之亟君
大牟田市に區裁判所設置に關する建議案
提出者
野田俊作君 貝谷眞孜君
大牟田港修築費國庫補助に關する建議案
提出者
野田俊作君 貝谷眞孜君
(以上二月二十日提出)
一議員より提出せられたる質問主意書左の如し
輸出百合根に關する質問主意書
提出者
牧山耕藏君 中村不二男君
長野縣下教育界竝青壯年層に現れたる極左檢擧に關する質問主意書
提出者 戸田由美君
左傾運動取締に關する質問主意書
提出者
世耕弘一君 助川啓四郎君
(以上二月十八日提出)
一昨二十日提出者に於て撤囘したる議案左の如し
蠶絲業更生の根本策樹立に關する建議案
提出者
加藤知正君 清家吉次郎君
横川重次君
(以上二月十六日提出)
一去十八日辭任したる常任委員左の如し
第三部選出決算委員 松谷與二郎君
第八部選出決算委員 野中徹也君
第二部選出建議委員 中井川浩君
一去十八日議長に於て選定したる委員左の如し
小切手法案(政府提出、貴族院送付)委員
鳩山秀夫君 三上英雄君
篠原義政君 志賀和多利君
鈴木安孝君 渡邊幸太郎君
松木弘君 平井信四郎君
中谷貞頼君 崎山嗣朝君
田邊熊一君 世耕弘一君
作田高太郎君 一松定吉君
内藤正剛君 高橋義次君
菊池良一君 中田正輔君
水産會法中改正法律案(小池仁郎君提出)外一件委員
鈴木英雄君 林儀作君
青山憲三君 仁田大八郎君
森肇君 田村實君
鵜澤宇八君 村上紋四郎君
大島寅吉君
地租法中改正法律案(松岡俊三君外四十四名提出)外四件委員
菅原傳君 川口義久君
本多貞次郎君 松岡俊三君
西方利馬君 高橋金治郎君
山口忠五郎君 三尾邦三君
窪井義道君 井上知治君
金城紀光君 高橋熊次郎君
内ヶ崎作三郎君 比佐昌平君
手代木隆吉君 猪股謙二郎君
小池仁郎君 伊禮肇君
農漁業災害保險法案(胎中楠右衞門君外一名提出)外一件委員
砂田重政君 鈴木英雄君
竹澤太一君 増田金作君
兼田秀雄君 杉本國太郎君
助川啓四郎君 青山憲三君
深澤豐太郎君 木本主一郎君
白城定一君 貝谷眞孜君
高田耘平君 村上紋四郎君
中井川浩君 岡田喜久治君
平川松太郎君 栗原彦三郎君
原蠶種國家管理法案(胎中楠右衞門君外一名提出)委員
武田徳三郎君 横川重次君
坪山徳彌君 鈴木辰三郎君
山本莊一郎君 加藤知正君
近藤壽市郎君 水島彦一郎君
三善信房君 生田和平君
永田良吉君 若宮貞夫君
小山邦太郎君 百瀬渡君
清水留三郎君 田中祐四郎君
戸田由美君 鈴木正吾君
一去十八日に於ける特別委員の異動左の如し
鐵道敷設法中改正法律案(政府提出)委員
辭任 岸衞君 補闕 伊豆富人君
少年教護法案(荒川五郎君外六十六名提出)委員
辭任 河上哲太君 補闕 犬養健君
一昨二十日齋藤内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
内閣恩給局長 樋貝詮三
第六十四囘帝國議會政府委員被仰付
一昨二十日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第二部選出
建議委員 岡田喜久治君(中井川浩君補闕)
第三部選出
決算委員 伊禮肇君(松谷與二郎君補闕)
第八部選出
決算委員 岸衞君(野中徹也君補闕)
一昨二十日特別委員理事補闕選擧の結果左の如し
造幣局工場及其の附屬設備の新營費に關する法律案(政府提出)外二件委員
理事 豐田收君(委員木暮武太夫君本日理事辭任に付其の補闕)
一昨二十日委員長及理事互選の結果左の如し
小切手法案(政府提出、貴族院送付)委員
委員長 鳩山秀夫君
理事
篠原義政君 鈴木安孝君
作田高太郎君 内藤正剛君
水産會法中改正法律案(小池仁郎君提出)外一件委員
委員長 鈴木英雄君
理事
青山憲三君 大島寅吉君
地租法中改正法律案(松岡俊三君外四十四名提出)外四件委員
委員長 菅原傳君
理事
窪井義道君 井上知治君
比佐昌平君 猪股謙二郎君
農漁業災害保險法案(胎中楠右衞門君外一名提出)外一件委員
委員長 砂田重政君
理事
兼田秀雄君 深澤豐太郎君
中井川浩君 岡田喜久治君
原蠶種國家管理法案(胎中楠右衞門君外一名提出)委員
委員長 武田徳三郎君
理事
横川重次君 三善信房君
百瀬渡君 田中祐四郎君
一昨二十日に於ける特別委員の異動左の如し
六大都市に特別市制實施に關する法律案(犬養健君外四十四名提出)委員
辭任 上田孝吉君 補闕 三井徳寳君
辭任 板野友造君 補闕 林路一君
辭任 犬養健君 補闕 林儀作君
辭任 沼田嘉一郎君 補闕 山本市英君
辭任 加藤鐐五郎君 補闕 松實喜代太君
辭任 小山松壽君 補闕 山本厚三君
辭任 三宅磐君 補闕 手代木隆吉君
辭任 斯波貞吉君 補闕 大島寅吉君
辭任 本田彌市郎君 補闕 原吉郎君
辭任 川橋豊治郎君 補闕 内ヶ崎作三郎君
小切手法案(政府提出、貴族院送付)委員
辭任 志賀和多利君 補闕 宮澤清作君
━━━━━━━━━━━━━発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006413242X01619330221&spkNum=0
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