1. 会議録本文
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000・会議録情報
昭和九年二月六日(火曜日)
午後一時十四分開議
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議事日程 第九號
昭和九年二月六日
午後一時開議
質問
一 鬼怒川上流堰堤工事中止に關する質問(坪山徳彌君外一名提出)
二 外交に關する質問(岸衞君提出)
三 日印通商貿易竝日滿經濟統制に關する質問(玉置吉之亟君提出)
四 小名木川越中島間鐵道敷設に關する質問(眞鍋儀十君提出)
五 臺灣銀行の所有株式賣却に關する質問(岡本一巳君提出)
六 河野通治贈位奏請に關する質問(武知勇記君提出)
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第一 製鐵所特別會計法廢止法律案(政府提出) 第一讀會
第二 鐵道敷設法中改正法律案(政府提出) 第一讀會
第三 農業倉庫業法中改正法律案(政府提出、貴族院送付) 第一讀會
第四 五大都市に特別市制實施に關する法律案(中井一夫君外六名提出) 第一讀會
第五 五大都市に特別市制實施に關する法律案(三宅磐君外五名提出) 第一讀會
第六 産師法案(山道襄一君外三名提出) 第一讀會
第七 産師法案(土屋清三郎君外三名提出) 第一讀會
第八 産師法案(野方次郎君外三名提出) 第一讀會
第九 助産師法案(野中徹也君外二名提出) 第一讀會
第十 地租法中改正法律案(松岡俊三君外四十二名提出) 第一讀會
第十一 地租法中改正法律案(内ヶ崎作三郎君外十名提出) 第一讀會
第十二 地租法中改正法律案(金井正夫君外四名提出) 第一讀會
第十三 地租法中改正法律案(熊谷五右衞門君外二十三名提出) 第一讀會
第十四 刑法中改正法律案(一松定吉君外五名提出) 第一讀會
第十五 刑事訴訟法中改正法律案(一松定吉君外五名提出) 第一讀會
第十六 刑事判決宣告猶豫に關する法律案(一松定吉君外五名提出) 第一讀會
第十七 中央卸賣市場法中改正法律案(藤田若水君外二名提出) 第一讀會
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〔左の報告は朗讀を經さるも參照の爲茲に掲載す〕
一政府より提出せられたる議案左の如し
(第一號)昭和八年度歳入歳出總豫算追加案
(特第一號)昭和八年度各特別會計歳入歳出豫算追加案
(以上二月五日提出)
一議員より提出せられたる議案左の如し
衞生組合法案
提出者 野田文一郎君
傳染病豫防法中改正法律案
提出者 野田文一郎君
司法代書人法中改正法律案
提出者 野田文一郎君
蠶糸業組合法中改正法律案
提出者 風見章君
民事訴訟法中改正法律案
提出者 風見章君
衞生組合法案
提出者
福田關次郎君 山本厚三君
高野喜六君
傳染病豫防法中改正法律案
提出者
福田關次郎君 山本厚三君
高野喜六君
郷又は町村祿高に對する公債證書給與に關する法律案
提出者
寺田市正君 藏園三四郎君
津崎尚武君 佐藤重遠君
宮川一貫君
耕地擴張改良事業に關する建議案
提出者
竹下文隆君 田村實君
紅露昭君
後免富岡間鐵道速成に關する建議案
提出者
田村實君 紅露昭君
東北地方に軍需品工場設置に關する建議案
提出者
佐々木家壽治君 菅原傳君
宮澤清作君 守屋榮夫君
星廉平君 大石倫治君
中野寅吉君 助川啓四郎君
佐藤庄太郎君 鈴木辰三郎君
菅野善右衞門君 八田宗吉君
小島智善君 田子一民君
八角三郎君 志賀和多利君
小野寺章君 廣瀬爲久君
西方利馬君 高橋熊次郎君
戸田虎雄君 熊谷直太君
松岡俊三君 杉本國太郎君
鈴木安孝君 小山田義孝君
藤井達也君 梅村大君
工藤十三雄君 兼田秀雄君
東北地方に於ける資源開發竝軍需品工場設置に關する建議案
提出者 高橋壽太郎君
東北地方に軍需品工場設置に關する建議案
提出者
村松久義君 工藤鐵男君
内ヶ崎作三郎君 猪股謙二郎君
清水徳太郎君 比佐昌平君
林平馬君
三津濱港を第二種重要港灣に指定に關する建議案
提出者
武知勇記君 須之内品吉君
大本貞太郎君
(以上二月三日提出)
道路改良計畫に關する建議案
提出者
福井甚三君 青木精一君
中野種一郎君 喜多孝治君
治水計畫に關する建議案
提出者
福井甚三君 青木精一君
倉元要一君 匹田鋭吉君
高橋熊次郎君 山崎猛君
近藤壽市郎君
(以上二月五日提出)
一議員より提出せられたる質問主意書左の如し
河野通治贈位奏請に關する質問主意書
提出者 武知勇記君
司法權の威信發揚に關する質問主意書
提出者
一松定吉君 原夫次郎君
眞鍋勝君 横山金太郎君
藤田若水君 野村嘉六君
武富濟君
(以上二月三日提出)
教育界に於ける不祥事件に關する質問主意書
提出者 中村不二男君
印度に於ける雜貨關税引上に關する質問主意書
提出者
本田彌市郎君 中亥歳男君
中村三之丞君
(以上二月五日提出)
一去三日齋藤内閣總理大臣より左の通發令ありたる旨の通牒を受領せり
大藏書記官 山路鎭夫
營繕管財局理事 關原忠三
第六十五囘帝國議會大藏省所管事務政府委員被仰付
鐵道省電氣局長 男爵 飯田精太郎
第六十五囘帝國議會鐵道省所管事務政府委員被仰付
一去三日議長に於て辭任を許可したる常任委員左の如し
第九部選出豫算委員 高木正年君
一去三日議長に於て選定したる委員左の如し
治安維持法改正法律案(政府提出)委員
宮古啓三郎君 立川太郎君
安藤正純君 牧野賤男君
鈴木安孝君 高見之通君
益谷秀次君 深澤豐太郎君
板野友造君 世耕弘一君
立川平君 渡邊伍君
平島敏夫君 崎山嗣朝君
小林かなえ君 三上英雄君
篠原義政君 宮澤清作君
鈴木富士彌君 原夫次郎君
比佐昌平君 添田敬一郎君
松田竹千代君 一松定吉君
藤田若水君 松谷與二郎君
鈴木正吾君
臺灣事業公債法中改正法律案(政府提出)外一件委員
喜多孝治君 葉梨新五郎君
壽原英太郎君 白城定一君
田中亮一君 須之内品吉君
佐藤正君 藤井啓一君
村松久義君
一昨五日常任委員補闕選擧の結果左の如し
第九部選出豫算委員
大島寅吉君(高木正年君補闕)
一昨五日委員長及理事互選の結果左の如し
治安維持法改正法律案(政府提出)委員
委員長 宮古啓三郎君
理事
鈴木安孝君 益谷秀次君
立川平君 松田竹千代君
藤田若水君
臺灣事業公債法中改正法律案(政府提出)外一件委員
委員長 喜多孝治君
理事
田中亮一君 村松久義君発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=0
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001・秋田清
○議長(秋田清君) 是ヨリ會議ヲ開キマ
ス-御諮リ致スコトガゴザイマス、建議
委員長ヨリ本日本會議中委員會ヲ開キタイ
トノ申出ガアリマシタ、尙ホ今後本會議中
ト雖モ同委員會ヲ開キタイトノコトデアリ
マス、之ヲ許可スルニ御異議ゴザイマセヌ
カ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=1
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002・秋田清
○議長(秋田〓君) 御異議ナシト認メマ
ス、許可スルニ決シマシタ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=2
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003・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 議事日程變更ノ緊急動議
ヲ提出致シマス、卽チ此際日程第一乃至第
三ヲ上程シ、逐次其審議ヲ進メラレンコト
ヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=3
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004・秋田清
○議長(秋田清君) 靑木君ノ動議ニ御異議
アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=4
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005・秋田清
○議長(秋田清君) 御異議ナイト認メマ
ス、仍テ日程ハ變更サレマシタ-日程第
一、製鐵所特別會計法廢止法律案ノ第一讀
會ヲ開キマス-政府委員大藏政務次官堀
切善兵衞君
策製鐵所特別會計法廢止法律案
(政府提出)第一讀會
製鐵所特別會計法廢止法律案
製鐵所特別會計法ハ昭和八年度限リ之ヲ
廢止ス
製鐵所特別會計ニ於ケル現金及權利義務
ハ之ヲ一般會計ニ歸屬セシム
昭和八年度製鐵所特別會計ノ歲出豫算ニ
於ケル支出殘額ハ之ヲ一般會計ニ繰越シ
使用スルコトヲ得
〔政府委員堀切善兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=5
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006・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衞君) 只今議題トナ
リマシタ製鐵所特別會計法廢止ニ關スル法
律案提出ノ理由ヲ說明致シマス、日本製鐵
株式會社ノ設立ニ伴ヒマシテ、製鐵所特別
會計ハ將來是ガ存續ノ必要ガアリマセヌノ
デ、大體今年度內ニ於テ收支ノ事務ヲ完了
シ、昭和八年限リ之ヲ廢止スルヲ適當ト認
メマシタ爲メ、本法律案ヲ提出シタ次第デ
アリマス、何卒御審議ノ上御協贊ヲ與ヘラ
レンコトヲ希望スル次第デアリマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=6
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007・秋田清
○議長(秋田清君) 質疑ノ通〓ガアリマ
ス、其發言ヲ許シマス-中村繼男君
〔中村繼男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=7
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008・中村繼男
○中村繼男君 只今上程ニナリマシタ法律
案ニ付キマシテ、御尋ヲ致シタイト思フノ
デアリマス、ソレニ先チマシテ、私ハ昨日
豫算總會ニ於テ私共ニ配付サレマシタ商工
省ノ第一次、第二次固定資產ノ評價比較表
ノ問題ニ付キマシテ、一言致シタイト思ヒ
マス、昨日交付ヲ受ケマシタ表ヲ見マシテ、
私ハ之ニ應ジマシテ更ニ一ツノ私ノ案ニ成
ル所ノ表ヲ作ッテ見タノデアリマス、之ヲ比
較シテ見マシタノデアリマスガ、八幡製
鐵所ノ分ニ付キマシテハ、私ノ案モ商工當
局ノ案モ全然一致ヲ致シマス、併ナガラ民
間ノ五會社ノ計算ニ於キマシテハ、總額デ
ハ大體一致ヲ致スノデアリマスガ、其內容
ノ各社別ニ至リマシテハ、甚シク相違ヲシ
テ居ルト云フコトヲ發見ヲシタノデアリマ
ス、殊ニ富士製鋼株式會社ノ如キニ至リマ
シテハ、私ノ計算ニ依リマスト、第二次ノ
評價卽チ査定額ガ、第一次ノ評價額ニ對シ
マシテ三割八分餘ノ減少トナルニ拘ラズ、
商工當局ノ發表セラレタモノニ依リマス
ト却テ八割一分餘ノ增加トナッテ居ルノ
デアリマス、政府ノ所謂此第一次評價ナル
モノハ、從來各社別ニ御發表ニナッタコト
ハナイノデアリマスカラ、今囘ノ政府ノ發
表ガ本當ノモノデアッテ、私ノ申上ゲル所
ノ數字ハ違フノダト仰シヤルカモ知レマセ
又、併ナガラ各社別ニハ御發表ニナッテ居
ラヌノデアリマスガ、政府ハ前議會ニ於キ
マシテ製鐵所、ソレカラ銑鐵會社ノ五會
社、製鋼會社ノ六社、此合計額ニ付テ御發
表ニナッテ居ルノデアリマス、ソレハ一々數
字ヲ此處デ讀上ゲルコトハ、時間ノ節約上
無駄デアルト思ヒマスカラ、私ハ此處ニ表
ヲ置イテ置キマス、御答辯ノ節ニハ一應之
ヲ御覽ヲ願ッテ、御答辯ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス、サウシテ此各社、卽チ製鐵
所、ソレカラ銑鐵ヲ造ル五ツノ會社、ソレ
カラ鋼鐵ヲ造ル六ツノ會社、此內譯ニ付テ
ハ、其當時商工大臣ハ各社ニハ未ダ交涉ヲ
シテナイノデアルカラ未定デアル、斯ウ云
フ言葉ノ下ニ、吾々ニ其內譯ヲ提示スルコ
トヲ御避ケニナッテ居ッタノデアリマス、併
シ合計額ガアル以上ハ、是ハ內譯ノナイト
云フ話ハアリマセヌ、其當時ニ於キマシテ
製鐵所ニ於キマシテハ、其當事者ノ人々
ガ、其內譯ヲ作ッテ居ッタデアラウコトハ、
是ハ何人ト雖モ想像ニ難クナイ、其數字卽
チ製鐵所當局ガ御作リニナッタト云フ數字
ガ、私ガ今度作リマシタ所ノ此第二表ノ基
礎ニナッテ居リマス、サウシテソレヲ第一次
ノ評價額ト比較ヲ致シマシタノガ、此處ニ
置イテ置キマス所ノ、此第三表ト云フコト
ニナルノデアリマス、是ハ貴族院ニ於キマ
シテ、上山氏ガ中井長官カラ貰ッタ數字デ
アルト云フコトヲ言ハレタ其數字ト、大體
ニ於テ似テ居リマス、全然一致ハ致シテ居
リマセヌガ、大體ニ於テ其數字ト私ノ數字
トハ似テ居ルノデアリマス、然ルニ昨日豫
算總會デ受取リマシタ政府ノ數字ト、之ヲ
比較致シテ見マスルト云フト、民間五社ノ
合計ニ於キマシテハ、五ツノ會社ノ合計デ
ハアリマスガ、各社ノ內容ニ於テハ皆違ッ
テ居ル、是ハドウ云フ譯カ、製鐵所當事
者ガ作ッタト云フ所ノ今囘ノ發表ト、是ハ
違フテ居ルノデアリマス、政府ニ於キマシテ
ハ、從來其第一次評價、去年ノ議會當時ノ
評價ヲ、各社別ニハ發表シタコトハナイノ
デアルカラ、製鐵所當事者ガ作フタ表ノ如
キハ自分ノ知ル所デハナイト、斯樣ニ或ハ
仰シヤルカモ知レマセヌ、併シ今度私共ニ
出サレマシタ所ノ表ヲ見マスルト、三製鐵
所ニ於テ作成ヲ致シテアル所ノ第一次評價
ノ內容ニ付キマシテ、是ハ私ノ或ハ推測カ
モ知レマセヌガ、此第一次ニ製鐵所ニ於テ
作ラレタ所ノ其表ニ對シテ、其數字ノ內容
ヲ各社別ニ、是ハ變ヘラレタノデハナイカ
ト云フ感ジヲ、私ハ有ッテ居ルノデアリマ
ス、何故サウ云フ無禮ナコトヲ私ガ申上ゲ
ルカト言ヒマスト、貴族院ニ於キマシテ、
上山氏ノ質問ニ對シテ商工大臣ガ御答ニナッ
テ居ル所ノモノハ、此製鋼會社、例ヘバ富
士製鋼ノ如キ、斯ウ云フモノニ付テハ、第
二次ノ評價ノ價額ノ方ガ第一次ノ評價、卽
チ去年ノ評價ヨリモ三割八分、モ減クテ居ル
ノデアッテ、隨テ此今度ノ評價ハ銑鐵ヲ造
ル會社ニ厚クシテ、鋼鐵ヲ造ル會社ニ薄イ
ノデハナイカト云フ上山氏ノ質問ニ對シマ
シテ、商工大臣ハ其通リダト云フコトヲ御
答ニナッテ居リマス、ソレハ速記錄ヲ讀ンデ
見マスルト、二月一日ノ官報號外ノ貴族院
議事速記錄第八號ノ五十一一頁、其處ノ所ニ、
前ヲ略シマスガ、斯ウ云フコトヲ商工大臣
ハ御答ニナッテ居ル、卽チ「出來得ル限リ眼
前一時ノ稼高竝ニ稼力ニ制限ヲ加ヘテ、兩
種ノ評價額ノ上ニ調節ヲ圖ラムト致シマシ
タ結果、勢ヒ複成式評價額ノ關係ニ於テ利
分トナリ」-利分トハ儲ケトナルト云フ
意味デアリマス、「稼高式評價額ノ上ニ於テ
不利トナリ、其結果複成式評價額ノ割合ガ
增大イタシマシテ、ソレヲ先程申上ゲマシ
タル紆餘曲折ヲ極メマシタ高等數學的算法
ニ依ッテ割出シマスルト、結局結果ハ鋼鐵ニ
薄ク銑鐵ニ厚イト云フ此自然的結果ニ相成
リマシタノデ、此間何等此民間業者ノ希望
ニ合致セシムルト云フガ如キ措置ヲ執ッタ
譯デアリマセヌ」斯ウ言ウテ居ラレマス、
卽チ第一次ノ評價ガ、銑鐵會社ニハ薄カッ
タ、ソレガ今度ハ第二次ノ評價ニ當シテハ、
銑鐵會社ニ厚クナッテ鋼鐵會社ニ薄クナッタ
ト云フコトハ、之ニ依ッテ自分デ認メテ居
ルノデアリマス、之ヲ是認シテ居ラルヽニ
拘ラズ、昨日私共ニ交付ニナリマシタ所ノ
表ヲ見マスルト云フト、製鋼會社デアル所
ノ富士製鋼ニ對シマシテハ、却テ減少ドコ
ロデハナイ、八割一分ノ增加トナッテ居ル、
卽チ昨日吾々ニ配付セラレマシタ民間五社
ノ此第一次ニ對スル第二次ノ評價ノ增加ノ
割合ハ、平均五割六分ニナッテ居リマス、製
鋼會社デアル此富士製鋼ニ對シテハ八割一
分ノ增加トナッテ居ル、サウデアレバ中島商
工大臣ノ所謂、銑鐵ニ厚クシテ鋼鐵ニ薄ク
ナッタト云フコトニハナラナイノデアッテ、
是ハ反對ノ現象ニナッテ居ル、卽チ第一次評
價ニ比シテ第二次ノ評價ハ、鋼鐵ニ厚ク銑鐵
ニ薄クナッタト云フ反對ノ現象ニナルノデア
リマス、此答辯ノ矛盾カラ考ヘマスルト、昨
日私共ニ下サレマシタ所ノ表ハ、卽チ會社
内部ノ數字フ是ハ御入替ヘニナッタノデハ
ナイカト云フコトヲ、裏書スルモノデハナ
イカト私ハ考ヘルノデアリマス(拍手)隨ヒ
マシテ私ガ御質問ヲ申シマス所ノ要點ハ、
此初メノ評價、卽チ製鐵所當局者ガ作リタ
リト認ムルモノニ付キマシテ、第二次ノ査
定額ノ評價ヲ致シマシタ、其基礎ニ基イテ
私ノ質問ヲ進メテ行キタイト考ヘルノデア
リマス
先日公債發行ニ關スル法律案ガ上程セラ
レマシタ時ニ、製鐵所特別會計法廢止ニ依
ル一般會計ヘノ繰入金額ハ、僅ニ七百万圓
デアッタノデアリマスカラ、其時ニ私ハ、是ハ
甚ダ少ナ過ギルノデハナイカ、斯ウ云フ質問
ヲ致シマシタ時ニ、中島商工大臣ハ、製鐵
所ノ資產ノ大部分ハ、新ニ設立セラレル所
ノ日本製鐵株式會社ノ株式ニ變ヲテ行クノ
デアルカラ、只デヤルノデハナイ、一般會
計ヘノ繰入金七百万圓ダケヲ見テ、直チニ
多イトカ少イトカ云フコトハ出來ナイト云
フ御答辯デアリマシタ、是ハ御尤ナ御答辯
デアリマス、然ラバ製鐵所ハ株式ト現金ト
ノ合計ニ於テ、何程受取ッテ居ルカト云フ
コトヲ見マスト云フト、其金額ハ株式トシテ
受入レタノハ、固定資產、流動資產ヲ通ジマ
シテ二億八千四百十九万五千圓デアリマス、
其他一般會計繰入金ガ七百万圓デアリマス
カラ、結局製鐵所ノ身賣ノ代金ハ、正味ノ
代金トシテ二億九千百十九万五千圓ト云フ
コトニナリマスガ、然ラバ製鐵所ノ是等資
產ヲ構成シテ居ル所ノ元金ハ幾ラニナッテ
居ルカ、其元金ノ計算ニナリマスト云フト、
固有資本ガ昭和八年度ニ於キマシテ一億
六千九百十七万三千餘圓デアリマス、公債
金ガ二千六百二十九万七千餘圓デアリマス、
又昭和八年度、卽チ製鐵所特別會計ノ廢止
セラレル今年ノ一月三十一日迄ノ利益金
ハ、約三千五百万圓デゴザイマス、其間ニ
製鐵所ガ今日迄長イ間存在ヲ致シテ居リマ
シタ期間中ニ於テ、利益ノ中カラ資產ニ對
シテ多大ノ銷却ヲ致シテ居ルノデアリマス
カラ、今帳面ニ殘ッテ居リマス所ノ資產ト
云フモノハ、所謂銷却ヲシタ殘リノ金額ハ、
時價ニ比シマシテハ酷ク壓縮サレタ金額ガ
殘ッテ居ルノデアリマス、之ヲ正當ナ時價ニ
引直シテ考ヘマスト云フト、會社ノ帳面ニ
現ハレテ居ラヌ所ノ資產ノ評價額、言葉ヲ
換ヘテ申シマスト祕密積立金ト申シマス
カ、共金額ガ八千万圓ト云フコトニナッテ
居ルノデアリマス、隨テ是等ヲ合計致シマ
スト、製鐵所ノ身賣ヲスル其元金ハ、三億
一千四十六万圓ト云フコトニナリマス、然
ルニ之ニ對シテ受取ッタ所ノ株式ト現金ト
ノ合計ハ、只今申シマシタ如ク二億九千百
十九万五千圓デアリマスカラ、差引千八百
二十七万五千圓ト云フモノヲ、製鐵所ノ身
賣ニ依ッテ國家ハ損ヲシタト云フ結果ニナッ
テ居ルノデアリマス(拍手)卽チ製鐵所特別
會計ヲ廢止スルガ爲ニ、國家ガ千八百万圓
カラノ損ヲスルト云フコトハ、是ハ小サナ
問題デハナイト私ハ思フ、一體損ヲシテマ
デ特別會計ヲ廢止ヲ致シ、サウシテ製鐵所
ガ身賣ヲシナケレバナラヌト云フ理窟ガ何
處ニアル、私ハ此點ヲ御伺致シタイ、マダ
大藏大臣ハ御見エニナッテ居リマセヌガ、政
府委員カラデモ宜シウゴザイマスガ、大藏
大臣ハ此製鐵所ヲ合同スルコトニ依ッテ、國
家ハ一千八百万圓ノ損ガアルト云フコトヲ
承認ヲ爲サッテ、此合併問題ニ御贊成ニナツ
タカ、卽チ此特別會計法ヲ廢止スルト云フ
コトニ御同意ナッタカドウカ、此點ハ大藏大
臣カラモ御答ヲ願ヒタイト思フノデアリマ
ス
次ニ私ガ最モ奇怪至極ニ考ヘマスルノハ、
製鐵所及ビ合同民間ノ諸會社ニ對スル所ノ
資產ノ評價ノ見方ガ、昨年ノ第六十四議會
ニ於キマシテ御說明ニナリマシタコトヽ今
囘御實行ニナリマシタ評價ノ方法トガ、非
常ナル相違ヲ來シテ居ルト云フ點デアリマ
ス、卽チ先程申シマシタ此第三表ヲ基礎ト
シテ私ノ議論ヲ進メテ參リマスルト、勿論
是ハ評價ノ仕方ガ根本的ニ變ッテ居ル、所謂
評價ノ基準ガ變"テ居ル、ソレデアルカラ
八幡製鐵所ト、輪西以下ノ五會社ノ固定資
產ノ評價ニ於テ、四千二百万圓ヲ增シテ居
ルノデアリマシテ、之ニ株式ヲ交付シテ居
ラレマス、所ガ評價ノ基準ヲ變更スルコト
ニ依ッテ、今度ノ合同會社ニ對シテハ、去年
ノ評價ヨリモ四千二百万圓餘計ニヤルコト
ニナッタノハ宜シイト致シマシテ、其內製
鐵所ニ增加サレタ分ハ幾ラデアルカト見マ
スルト、二千万圓デアリマス、是ガ總金額
ニ對スル增加步合ヲ見マスルト、製鐵所ノ
第二次ノ評價ニ依ッテ增シタ金額ハ、僅ニ一
割一分八厘ノ增加ニシカナッテ居リマセヌ、
然ルニ民間五會社ニ對スル增加額ハ二千万
圓位デアリマスルガ、其增加割合ハ平均ニ
於テ實ニ五割九分三厘ト云フコトニナッテ
居ルノデアリマス、商工大臣ノ言ハルヽガ
如ク、鐵及ビ鋼鐵ノ仕事ガ非常ニ景氣ガ好ク
ナッタノデアルカラ、昨年ノ議會ノ時ヨリ
モ增スノハ當リ前デアル、斯ウ云フ筆法デ
參リマスルナラバ、是ハ景氣ガ好カッタノ
ハ獨リ民間會社ダケデハナイ筈デアリマ
ス、我國ノ製鐵ノ中心ヲ爲シテ居ル所ノ製
鐵所ノ如キニ於テモ、勿論其稼高ニ於テモ
增加シテ居ラネバナラヌコトハ、是ハ當然
デアル、然ルニ株ノ割當ノ基礎ヲ爲ス所ノ
數字ノ評價ニ當リマシテハ、製鐵所ニ對シ
テハ僅ニ一割一分八厘ノ增加ニシカナッテ
居ラナイデ、民間ノ五會社ニ對シマシテハ
五割九分三厘、約六割近クノ增加ヲシテ、
株ノ割當ヲシテ居ルト云フコトハ、是ガ公
平デアルト言ヘルデアリマセウカ、ドウデ
アリマセウカ、商工大臣ハ、是ハ評價ノ基
準ガ變ヲタカラ、サウ云フコトニナッタト、
貴族院ニ於テモ御答辯ニナッテ居ラレルヤ
ウデアリマスガ、私ハ元來此評價ノ方法、
卽チ評價ノ基準ヲ御變ヘニナッタ、此事自
體ガ私ハ容易ナラヌ問題デアルト思フノデ
アリマス、前議會ニ於テ、議會ヲ通ジテ國
民ニ聲明サレテ居ヲタ所ノ此評價ノ仕方ヲ、
議會後ニ於テ、僅ニ十箇月カソコラノ間ニ於
テ之ヲ變更セラルヽト云フコトハ、是ハ議會
ニ對スル食言デアルト言ハナケレバナラナ
イ(拍手)併シ私ハ此問題ヲ今此處デ御責メ
シヨウト申ス者デハナイ、大體如何ニ評價
ノ基準ガ變ヲタト申シマシテモ、製鐵所ト民間
ノ會社、所謂普通ニ謂フボロ會社、製鐵所ト
民間ノ所謂ボロ會社トハ、是ハ實力ニ於テ
比較ニナラヌ筈デアル、サウデアルナラバ、
民間ノ方ガ五割增スナラバ、製鐵所ハ十割
モ十五割モ增スノガ當リ前デアル、然ルニ
製鐵所ノ方ハ僅ニ一割一分八厘デアルノ
ニ、民間ノ方ハ五割九分三厘增ス、斯ウ云
フコトハ常識デハ到底承服スルコトノ出來
ナイ問題デアルト言ハナケレバナラヌノデ
アリマス、(拍手)卽チ製鐵所ノ身賣代金ガ
其元本ニ追ヲ附カズシテ、結局國家ニ一千八
百万圓餘ノ損ヲ掛ケタト云フ所以モ、實ハ
私ハ此處ニアルノデハナイカト考ヘルノデ
アリマス、此點ニ付テハ特ニ明瞭ナル御答
辯ヲ御願スル者デアリマス
次ニ民間ノ諸會社ニ對スル評價基準ノ變
更ノ爲ニ生ジタル、株式ノ割當ノ增減ノ有
樣ヲ見マスト、先程モ一寸申シマシタガ如
ク、鋼鐵ヲ作ル會社、卽チ富士製鋼株式會
社ダケハ、第一次ノ案ヨリモ第二次ノ決定
額ノ方ガ減少シテ居リマス、卽チ第一次案
ニ依リマスト、四百四十七万六千圓ノ割當
ニナルベキ筈デアッタノガ、決定案ニナリマ
シテハ二百七十六万圓ニ減少致シテ居ルノ
デアリマシテ、所謂三割八分ノ減少ニナッテ
居リマス、此點ハ貴族院ニ於キマシテモ、
上山サンカラ御質問ニナッテ居ル點デアリ
マス、然ルニ此製鋼會社ニ於キマシテハ三
割八分ノ減少ニナッテ居ルニ拘ラズ、他ノ五
會社、輪西製鐵所、或ハ三菱製鐵、或ハ釜
石鑛山、或ハ九州製鋼、斯ウ云フモノニアッ
テハ、皆增シテ居ル、卽チ輪西製鐵所ニ於
キマシテハ、第一次案ガ四百七十万圓餘デ
アリマシタノガ、決定案デハ七百八十九万
圓ノ增加ヲ致シ、其增加步合ハ六割五分ノ
增トナッテ居ルノデアリマス、又釜石鑛山ニ
アリマシテハ、第一次ノ評價一千三百餘万
圓デアッタモノガ、二千六十一万圓ニ增シ、
此增加步合ガ五割五分トナシテ居リマス、又
三菱製鐵ハ第一次ノ評價ガ八百三十万圓ノ
モノガ、一千六百万圓ニ增加ヲ致シ、此增
加步合ガ九割三分ニ達シテ居ルノデアリマ
ス、又九州製鋼ニ於キマシテハ、最初三百
十五万圓ノ割當デアッタノガ、六百九十餘万
圓トナリマシテ、其增加割合ハ實ニ十二割
ニ達シテ居ルノデアリマス、卽チ右ノ結果
カラ之ヲ見マスト、製鋼會社ニ對シマシテ
ハ思切ッテ彈壓ヲ加ヘテ居リ、思切ッテ引下
ヲ行ハシメテ居ル、サウシテ銑鐵ヲ作ル會
社ニ對シテハ、非常ナ優遇ヲシテ居ラレル
ノデアリマス、鐵工業ノ景氣ガ好クナフタ
カラ、評價基準ノ變更ノ必要ガアッタト言ハ
レルナラバ、最モ收益率ノ多イ製鋼業、鋼
鐵ヲ作ル方ニ增スノガ、是ガ當リ前デナケ
レバナラヌ(拍手)然ルニ反對ニ銑鐵ノ方ニ
增加ヲ致シテ、鋼鐵ノ方ニ減ルト云フコト
ハ、是ハ時代ノ現象ト逆行シテ居ルト言ハ
ナケレバナラヌノデアリマス、斯ノ如キ時
代逆行ノ結果ヲ來スト云フコトハ、評價ノ
基準變更ノヤリ方ガ惡イノヂヤナイカト云
フコトヲ私ハ言ハザルヲ得ナイ、基準變更
モ必要デハアッタカモ知レヌ、必要デハアフ
タカモ知レヌガ、其ヤリ方ガ惡イカラ、斯
ウ云フ常識ニ反スル結果ヲ生ジタノデハナ
カラウカト考ヘテ居ルノデアリマス(拍手)
商工大臣ハ此點ニ關シマシテ、色々ト貴族
院ニ於テ御述ニナッテ居ル、卽チ高等數學ニ
依ッテ算出シタト云フコトヲ言ウテ居ラレ
ルノデアリマス、茲ニ所謂商工大臣ノ髙等
數學ト云フモノガ何デアルカハ私ハ分リマ
セヌ、併ナガラ高等數學デモ、天文學デモ、
常識ニ合ハヌヤウナモノハ、是ハ人間界ニ
通用セヌト言ハナケレバナラヌ(拍手)惟フ
ニ是ハ最近軍需「インフレ」ノ爲ニ、鐵工業
ノ業界ガ景氣ガ好クナッテ來タノデアリマ
スカラ、不景氣ノ時ニハ鐵關稅ノ引上デア
ルトカ、或ハ製鐵合同問題デアルトカ、自
分ノ會社ノ救濟ヲ叫ンデ居,タ鐵業界ノ人々
モ、一朝此好景氣ニ際會シマスルヤ、自己
ノ利益ノ打算ノ上カラ、製鐵合同ヲ好マザ
ルニ至ッタコトガ、此重大ナル禍根ヲ爲シテ
居ルモノデハナイカト私ハ考ヘルノデアリ
マス(拍手)卽チ鐵業不振ノ時ニハ、或ハ鐵
關稅ノ引上ニ、或ハ製鐵合同問題ニ、血眼
トナッテ騷ギ廻フタ人々モ、鐵關稅ノ引上モ
幾ラカ出來タ、サウシテ軍需「インフレ」ニ
依ル所ノ景氣ガ出テ來タ、斯ウナルト自分
デ儲カル、自分デ儲カルノデアリマスカラ、
必シモ製鐵合同ト云フヤウナ恩典ニ與カラ
ナクテモ宜シイ、合同ノ必要ガナイ、必要
ガナイバカリデハナイ、寧ロ合同ヲ好マナ
イト云フ結果ニナッテ來タ、所ガ之ヲ政府
ノ方カラ申シマスルト、商工大臣ノ立場
ト致シマシテハ旣ニ製鐵合同法案モ議
會ヲ通過ヲ致シ、委員會ノ組織モ出來上
リ、評價委員會モ完成シ、製鐵所特別會計
ヲ廢スルコトモ決定致シ、製鐵合同ニ關ス
ル總テノ準備ガ整ヲタニモ拘ラズ、鐵業界ガ
昨年ノ其當時ト狀況ガ異ルガ爲ニ、製鐵合
同ヲ逃ゲラルヽト云フコトニナッタノデハ、
政府トシテ、又中島商工大臣トシテ面目ニ
モ關スルト云フ問題ニナッテ來ル、ソコデ
合同ノ出來損ヒガアッタト云フコトニナッタ
ノデハ、政府ノ面目ニモ觸ハルト云フコト
ノ爲ニ、中島商工大臣ハ面目ニ掛テモ、是
ガ實現ヲ强行シナケレバナラヌト御考ニ
ナッタノデアラウト思フ、玆ニ製鐵合同ニ關
スル所ノ政府ノ弱點ガアルト思フ、卽チ商
工大臣ノ苦心モ亦此處ニアッタデアリマセ
ウ、併ナガラ苦心ガアッタト同時ニ、此處ニ
弊害ガアッタ、卽チ鐵業界ノ、人々カラ申シ
マスナラバ、ドウシテモ、面目ニ掛ケテモ
製鐵合同ヲヤラナケレバナラヌト云フ立場
ニ在ルト云フ、共內兜ヲ見透シテシマック、
ソレデ愈、合同問題ガ起ッテ來ルト云フト、
其資本配當ノ問題ニ、非常ニ有利ナ條件ヲ
出サヌト云フト、製鐵合同ヲ逃ゲルト云フ
態度ヲ見セテ來タ、卽チ製鐵業者ハ一齊ニ
資本ノ增加割當ヲ要求シ、然ラザレバ合同
反對ノ氣勢ヲ示シテ來タノデハナイカト思
フ、此間ニ處シテ商工當局モ、亦中島商工大
臣モ、一方ナラヌ御苦心ハアッタデアラウ
ト推察致シマス、併シ斯ノ如キ不當ノ要求
デアルナラバ、是ハ當業者ガ惡イノデアル
カラ、政府ハ其不當ナル要求ヲ一蹴シテ、
製鐵合同會社ノ設立ヲ暫ク中止スルノ態度
ニハ何故出デラレナカッタノデアルカ(拍
手)面目問題ヤ其他ノ精實ニ囚ハレテ、無
理押ニモ合同ヲ實現シナケレバナラヌトセ
ラルヽ所ニ、苦心モアッタガ無理モアックト言
ハナケレバナラヌ、殊ニ銑鐵ハ鐵工業ノ原
料デアリマスカラ、製鐵合同ヲ實現セント
スルナラバ、何ハ偖テ措イテモ鉄鐵業者ハ
全部之ヲ合同ニ入レナケレバナラヌ、鋼鐵
業ノ方ハ、原料ヲ銑鐵業者ニ仰グノデアリ
マスカラ、是ハ銑鐵ダケヲ先ヅ合同シテシ
マヘバ、鋼鐵業者ハ默ッテ居クテモ附イテ來
ル、何ハ偖テ措イテモ、如何ナル犠牲ヲ
拂ッテモ、合同ヲ實現セントスルナラバ、銑
鐵業者ヲ全部網羅シナケレバナラヌ、是一
於テ銑鐵業者ノ方カラ申シマスト、此政府
ノ弱點ヲ知ッテ居ル銑鐵業者ハ自分ノ我儘
ガ通ルト云フ考ヲシタニ違ヒナイ、ソコデ
有利ナ條件ヲ持出シテ來タニ相違ナイノデ
アリマス、背ニ腹ハ代ヘラレズ、ソレヲ一
蹴シテヾナケレバ合同ガ出來ナイ、合同シ
ヨウトスレバ銑鐵業者ノ我儘ヲ或ル程度マ
デ聽イテヤラナケレバナラヌ、此處ニ私ハ
此問題ノ癌ガ生ジテ來タノダト思フ、ソレ
デアリマスカラ、結論的ニ申シマスト、先
程モ申シマシタヤウニ、製鋼業者ニ對シマ
シテハ三割八分ノ減少ニナッテ居ル、然ルニ
拘ラズ鉄鐵ヲ作ル會社ニ對シマシテハ、反
對ニ六割近クノ增加ニナッテ居ル、斯ウ云フ
コトハ此間ノ消息ヲ窺フニ足ルト私ハ思フ
ノデアリマス
次ニ私ハ、御變更ニナリマシタ所ノ評價
方法ノ基準及ビ其適用方法ニ付テ御尋致シ
タイト思フノデアリマス、商工大臣ハ此點
ニ付テ、貴族院デ色々高等數學的原理ヲ應用
シテ決メタト云フヤウニ仰シヤッテ居ルノ
デアリマスガ、其高等數學ト云フコトガ、
ドウモ私ニハ能ク呑込メナイ、評價基準ノ
問題ハ兎ニ角ト致シマシテモ、此複成式價
格ノ計算ノ基礎、又稼高式ノ價格ノ計算ノ
基礎的數字ハ、之ヲドウ云フ風ニシテ御計
算ニナッタノデアルカ、私ノ見ル所ヲ以テ
致シマスト、是ハ何レモ現在ノ計數ニ依フテ
御計算ニナッテ居ルノデハナイヤウニ思フ、
又過去及ビ現在ノ實績ノ平均ト云フヤウナ
モノデモナイヤウニ思フ、卽チ合同會社ノ
全般ヲ通ジテ、形ノ上デハ一定ノ原則ヲ適
用シテ算出スルコトニハナッテ居リマスケ
レドモ、其實際ノ計算方法、適用スベキ箇
簡ノ金額ニ付キマシテハ、或ハ想像ニ依リ、或
ハ推定ニ依ッテ計算シテ居ラルヽヤウニ思
フ、卽チ各會社各樣デアッテ、製鐵所及ビ全
會社ヲ通ジマシテ原則的基準ガナカッタ、計
算方法ハアリマス、所謂稼高、式評價ノ式
ハドウトカ、或ハ複成式ノ計算ノ仕方ノ方
程式ハドウトカ、是ハ決ッテ居ル、併シ其方
程式ノ中ニ當歎メテ行ク所ノ數字ニ付テ
ハ、何等ノ基準ハナイ、ソレデアリマスカ
ラ箇々別々ニ各會社ニ交渉ヲシタリ、妥協
ヲシタリ、サウシテ辯明ノ理窟ハ後デ作ッ
タノデハナイカト思ハレル所ニ、私ハ世間
ノ疑ガアルノデハナイカト思フ、此點ニ關
シマシテ商工大臣ハ貴族院デ色々說明セラ
レテ居ルノデアリマスガ、各會社ノ評價ノ
骨子トナルベキ各項目、所謂方程式ヲ適用
スベキ各會社ノ數字ヲ御示シニナッテ居ラ
ヌノデアリマス、ソレデアリマスカラ、何
時デモ話ガ抽〓的デアル、抽象的デアレバ
アル程、世間ノ疑惑ハ解ケナイ、却テ深マヾ
テ行クト云フヤウナ結果ニナッテ來テ居ル
ノデアリマス
ソコデ私ハ御伺ヲ致シタイ、先ヅ複成式
ノ評價ニ付テ申シマスナラバ、合同各工場
ノ建物、機械、其設備等ガ各、、同型デア
リ、同質デアリ、同性能デアルナラバ、複
賊式慣格ノ計算モ容易ニ出來ルデハアリマ
セウガ、是ハ各社、各工場ガ根本的ニ違ッ
テ居ルト言ハナケレバナリマセヌ、其設備
ニ對シテ一々其複成式ノ價格ヲ計算スルト
云フヤウナコトハ、恐ラク出來ナカッタノデ
ハナイカト私ハ思フ、隨テ大部分ハ見込ニ
依リ、或ハ又推定ニ依フテ計算ヲセラレタ
ノデハナカラウカト考ヘルノデアリマス、
況ヤ評價委員ノ方々ハドウデアルカト言ヒ
マスト、見學ヲサレ、實地調查ヲ致サレマ
シタノハ八幡製鐵所ダケデアリマス、外ノ
五會社ノ工場ニ對シマシテハ、評價委員ノ
方々ハ一寸モ之ヲ實地調査ヲシテ居ナイ、
實地調査ヲシテ居ナイニ枸ラズ、玆ニ評價
額ガ出テ來ルト云フコトハ不思議デアル、
正ニ是ハ机上ノ空論デアル、推定デナクテ
ハ斯ウ云フコトガ出來ル筈ハナイ、ソレデ
アリマスカラ、私ノ複成式價格ノ算出ニ關
スル考ヘ方ハ、ドウモ是ハ推定ニ基イテ居
ル、見込ニ基イテ居ルヤウニ思フ、次ニ稼
高式ノ價格ノ評價ニ於キマシテモ、各會社
ノ實績ニ據フテ居ルモノデハナイ、矢張見込
ニ依ッテ作ッテ居ル、三箇年ノ合計ガ幾ラニ
ナッテ居ルト云フヤウナ實績ニ據フタモノデ
ナク、矢張見込ガ此處ニ織込マレテ居ルト
思フ、其算出ノ重要ナ要素デアル所ノ生產
高、是ガ大體見込デハナイカ、今マデノ實
績ノ數字デハナイ、又過去何年間ノ平均ト
云フヤウナモノデモナイ、斯ノ如ク複成式
ノ評價ノ方法ト云ヒ、或ハ稼高式ノ評價ノ
方法ト云ヒ、形ノ上デハ方程式ハ出來テ居ル
ガ、其個々ニ適用スル所ノ數字ニ至リマシテハ、
一定ノ基準、一定ノ法則ヲ以テ算出シテハ
居ラナイ、卽チ各工場、各社每ノ見込ニ依ッ
テ、之ヲ決定シタト云フコトデアルナラバ、
是ハ總テノ結論ガ見込ト云フコトニナル、
卽チ第二次ノ評價ニ付テ色々御說明ニナッ
テモ、結局見込ニ據ルモノデアリマスカラ、
如何ニ御辯明ニナッテモ、此第二次ノ評價額
ト云フモノハ見込デアッタト云フコトニナ
ル、原則的ニ方程式ガアッテモ、ソレニ織込
マレルモノガ見込デアレバ、是ハ總テガ見
込ト云フコトニナル、卽チ見込ニ依ッテ斯
ノ如キ銑鐵業者ニ增加ヲ致シ、製鋼業者ニ
減ラシタト云フ所ニ、世間ノ疑惑ガアルノ
デアリマシテ、此點ハ其體的ニ數字ヲ御明
確ニナサラナケレバ、疑ヲ解クコトニハナ
ラヌト私ハ考ヘテ居ルモノデアリマス
ソコデ私ハ御伺ヲ致シマス、之ヲ明示シ
テ戴キタイ、之ヲ箇條書デ讀上ゲマス、速
記錄ヲ後デ御覽ヲ願ヒタイト思ヒマス
一、八幡製鐵所及合同各會社每ニ、各
ノ所有スル地所ト鑛區ノ種類別面積及
評價額
ニ、八幡製鐵所及合同會社每ニ、各〓ノ
製鐵製鋼諸設備ノ合同當時ノ帳簿價格
ト時價ニ依ル評價額及其複成價額
三、八幡製鐵所及合同會社每ニ、評價算
出ニ用ヰタル銑鐵及鋼材ノ生產高及販
賣數量
四、八幡製鐵所及合同各會社每ニ、各〓ノ
稼高式評價ニ用ヰタル銑鐵及鋼材ノ瓲
當リ稼高(利益率)
是ハ利益率デアリマス、ソレカラ
五、稼高式評價ノ基本トナルベキ八幡製
鐵所ノ銑鐵及各種鋼材ノ原價ト販賣價
格
六、前項八幡製鐵所ノ原價及賣價ヲ基準
トシテ合同會社ノ稼高ヲ算出シタル具
體的經路
卽チ御承知ノ通リ收益能力ハ、各會社ノ所在
地ニ依クテモ亦氣候ニ依ッテモ違ヒマス、卽
チ礦石ヲ得ル便否、石炭ヲ得ル便否、或ハ
販賣市場ニ遠イトカ、近イトカ云フ事柄、
資金融通ノ難易、斯ウ云フコトニ依ッテ違フ
テ居ルデアラウト思ヒマスカラ、之ヲ八幡
製鐵所ヲ基準トシテ、八幡製鐵所ニ對シテ
ドウ云フ比準デアルカト云フコトニ付テハ、
恐ラク是等ノ關係ヲ八幡製鐵所ニ還元セラ
レテ居ルダラウト思フ、サウシナケレバ比
較ガ出來ナイカラ、必ズサウ云フコトヲヤッ
テ居ルダラウト思ヒマスガ、其八幡製鐵所
ニ比準セラレタル經路ト方法ハ、ドウ云フ
方法ヲ御採リニナッタカ、是ガ第六ノ問題デ
アリマス、以上八幡ハ勿論各會社每ニ第一
次評價ト第二次評價ノ區別ヲ致シテ、數字
ヲ以テ表ニ纏メテ之ヲ御示シヲ戴キタイ、
是ハ私ニ御明示ヲ願フバカリデハナイ、議
會ヲ通シテ國民ニ御發表ヲ願ヒタイト思フ
ノデアリマス(拍千)
以上ノ數字ガ分ッテ始メテ公正ナル判斷
ヲ爲スコトガ出來ルノデアリマシテ、又評
價ノ適不適モ之ニ依フテ判斷ヲ下スコトガ
出來ルノデアリマシテ、此數字ヲ御示シニ
ナラヌ以上ハ、世間ノ疑惑ハ益〓深クナル
ト考ヘテ居ルノデアリマス、特ニ第二次評
價ニ依ル增加額ノ二千万圓ノ中デ-五會
社ニ對スル第二次增加額ノ二千万圓ノ中デ、
三井系統デアリマス輪西及ビ釜石鑛山ノ增
加ニ振當テタ金額ガ、千三十餘万圓デアリ
マシテ、三菱系統ノ增加割當支出金額ハ七百
七十六万餘圓ニナッテ居ルノデアリマス、卽
チ再評價ニ依ル所ノ增加額ノ大部分ト云フ
モノハ、三井、三菱系統ニ振向ケラレテ居
ルト云フ此事實ハ、此問題ニ付テ痛ク人心
ヲ刺戟シテ居ルデハナイカト考ヘテ居ルノ
デアリマス、特ニ此點ニ付テハ-只今ノ
數字ニ付テハ、鄭重ニ御說明ヲ願ヒタイト
存ジマス
ヽ次ノ問題ト致シマシテ、原礦石ノ礦山ヲ
何故ニ合同セラレナカッタカ、此點ニ付テ承
リタイト思フノデアリマス、申ス迄モアリ
マセヌガ、製鐵ノ生命ハ礦石ニアリマス、
我國ハ內地ノ原礦ダケデハ不足ヲ致シテ居
リマスカラ、南洋及ビ支那カラ多量ニ之ヲ
採ッテ居ルコトハ、皆樣方モ御承知ノ通リデ
アリマス、隨テ一朝有事ニ際シマシテ、南洋
カ支那カラ礦石ヲ持ッテ來ルコトガ出來ナイ
ヤウナ場合ニ於テハ、之ヲ內地カ朝鮮ニ求メ
ナケレバナラヌ、加之平時ニ於テモ、自分ノ
原礦石ノ山ヲ製鐵業者ガ持ッテ居ルト云フコ
トハ、是ハ製鐵業統制ノ上カラ考ヘマシテ
モ、必須ノ要件デアルト云フコトハ、是ハ
申ス迄モナイト思フ、然ルニ今回ノ合同ニ
當リマシテハ、態。鑛山ヲ除外ヲ致サレ
テ、サウシテ礦山以外ノモニ付テノミ合同
サレテ居ル、是ハ一體ドウ云フ譯デアリマ
スカ、餘リニ合同會社ノ資本ガ厖大ニナル
カラト、斯ウ云フ思召カラ來タノデアルカ、
或ハ又礦山ノ持主ガ賣惜ミヲヤッタト云フ
ヤウナコトカラ、之ヲ合同』セラレナカッタ
ノデアルカ、若シ第一ノ理由、卽チ資本ガ
厖大スルカラト云フ御心配デアッタトスル
ナラバ、モウ旣ニ日本製鐵合同會社ノ資本
ハ厖大ニナッテ居ル、世間デハ所謂水膨レシ
テ居ルト云フコトヲ言ッテ居ル、ソレナラ
ドウセ序ノ事デアリマスカラ、尙ホ一步踏
込ンデ、モウ少シ資本ヲ增シテ、製鐵業百
年ノ大計ノ爲ニ何故ニ礦山ヲ買ハナカッタ
カ、又賣主が賣惜ンダト云フコトデアリマ
スルナラバ、是ハ製鐵業本來ノ使命ニ關ス
ルコトデアル、隨テ相當價格ヲ以テ是ガ讓
受ヲ强要スルコトガ適當デハナカッタカ、斯
ウ云フコトヲ思フノデアリマス、製鐵ヲ合
同シテ礦山ヲ合同シナイト云フ結論ニ於テ、
此製鐵合同ハ佛ヲ造ッテ魂ヲ入レナイト云
フヤウナ結果ニナッテ居ルノデハナイカ、斯
ノ如ク考ヘルノデアリマスカラ、此點ニ付
テモ御說明ヲ願ヒタイト思フノデアリマス、
而シテ我國ニ於ケル原礦石ノ年產額ハ六千
万瓲位ト私ハ聞イテ居リマス、サウデアレ
バ、此礦石ヲ買入レル爲ニ、一瓲當リ三圓
五十錢位ノ利鞘ヲ取ラレルト致シマスト、
年額ニ換算ヲ致シマスルト云フト、一箇年
ニ二百十万圓ト云フモノヲ、合同會社ハ此
礦山ヲ合併シナカッタガ爲ニ、每年損ヲシナ
ケレバナラヌト云フ結果ニナリマス、サウ
シテ此礦山所有主ガ、ドノ系統デアルカト
見テ見マスルト云フト、此礦山ノ所有主ノ
殆ド全部ガ、三井系デアリ三菱系デアリマ
ス、サウデアレバ製鐵業合同ノ爲ニ、三井
及ビ三菱ガ礦山ヲ賣ラナカッタト云フ意味
ニ於テ、礦山ヲ賣ラナカッタガ爲ニ每年二
百十万圓ヅヽ只儲カルト云フ結論ニナッテ
行クノデアリマシテ、先程申シマシタ所ノ
資產評價ノ問題ニ於テ、既ニ第一次評價ト
第二次評價トハ千七百万圓、此儲リガ此三
共、三菱兩系統デアル、其上ニ更ニ年々二
百万圓程度ノ礦石ノ利益ヲ、之ニ依ッテ得ル
ト云フコトニナリマスルナラバ、誠ニ是ハ
三井、三菱ノ系統ニ對シマシテハ、二重ニ
都合ノ好イ結果ニナルノデアリマシテ、製
鐵合同ハ三井、三菱等ノ大財閥ヲ備ケシム
ル爲ニ出來上ッタモノデハナイカトノ感ヲ、
懷カシメルノデアリマス(拍手)此礦山ヲ
合同シナカッタ點ニ付キマシテハ、國防ノ間
題ニモ重大ナル關係ガアルト考ヘマスルノ
デ、此點ニ付キマシテハ商工大臣ノ外、陸
軍大臣ノ御答辯モ併セテ御願致シタイト思
フノデアリマス
次ニ御伺致シタイノハ、今囘ノ合同ニ依
リマシテ、製鐵合同本來ノ使命ヲ全ウスル
コトガ出來ルカドウカト云フ點デアリマス、
製鐵合同ノ本來ノ使命ハ、申ス迄モゴザイ
マセヌガ、生產原價ノ低下ヲ圖ルト云フコ
トニ在ルコトハ、皆サンモ御承知ノ通リデ
アリマス、商工大臣ハ前議會ニ於キマシテ、
製鐵合同ノ結果ハ、銑鐵ニアリマシテハ、
合同前一瓲當リ生產原價ガ三十八圓六十九
錢ノモノガ、是ハ數字ヲ擧ゲテ商工大臣ハ
御示シニナッテ居リマス、卽チ製鐵合同ノ
結果ハ、銑鐵ガ三十八圓六十九錢ノモノガ、
合同後ニナッタナラバ三十三圓四十八錢位
ニ引下ガル、又鋼材ニアリマシテハ、合同
前八十二圓二十四錢位デアッタモノガ、合同
後ニ於キマシテハ七十五圓九十三錢位ニ引
下ガルト御說明ニナッテ居ルノデアリマス、
然ラバ今日ニ於テモ、尙ホ此生產原價ト云
フモノハ、前議會ニ於キマシテ御說明ニナ
リマシタ通リニ、引下ガルトノ御確信ヲ御
持ニナッテ居リマスカドウカ、合同ノ結果
日本製鐵ノ固定資本ハ約三億圓トナルノデ
アリマス、サウ致シマスルト云フト、其生
產能力、之ニ付キマシテモ議論ガゴザイマ
セウ、商工當局ニ於キマシテハ、其生產能
力ハ三百四五十万瓲出ルノダト言ウテ居リ
マスルガ、私ハ今マデノ現實ノ生產能力ニ
付テ之ヲ見マスルト、二百六十五万瓲デアル、
此二百六十五万瓲デ以テ、三億圓ノ固定資
產ヲ割ッテ見マスルト云フト、一瓲當リ固定
資產ノ價額ト云フモノハ、合同會社ニ於キ
マシテハ百十三圓見當ニナルノデアリマス、
現在ノ八幡製鐵所ノ一瓲當リノ固定資本ガ
現在七十六圓位カト思ッテ居ルノデアリマ
スルカラ、之ニ較ベマシテ新會社ノ一瓲當
リノ百十三圓ト云フ固定資產ノ負擔ハ、非
常ニ增加ヲスルト言ハナケレバナリマセヌ、
又之ヲ合同ニ參加シナカッタ所ノ他會社ノ
固定資本ト比較シテ見マスルト云フト、東
海興業ガ-數字モアリマスケレドモ、結
論ダケ申上ゲマス、東海興業ニ於テハ、瓲
當リ固定資本ハ六十一圓二十錢、日本鋼管
ニ於キマシテハ九十圓、淺野小倉製鋼所ニ
於キマシテハ五十八圓、淺野造船ガ七
十九圓六十錢、其民間ノ非合同會社
ノ平均ガ七十八圓ト云フコトニナッテ
居ル、然ルニ此新合同會社ノ一瓲當リ固定
資本ハ百十三圓ト云フコトニナッテシマフ、
隨テ是等ノ事實カラ、所謂製鐵合同ハボロ
會社救濟ナドヽ世間デ言フ所以トモ存ジマ
スガ、此點カラダケ、卽チ此固定資本ノ負
擔額ト云フコトカラ考ヘマシテモ、合同會
社ノ生產原價ト云フモノハ、合同前ヨリモ
安クナラウトハ考ヘラレナイノデアリマス、
却テ非合同民間會社ノ生產費ノ方ガ安クナ
ル可能性ヲ有ノテ居ルト言ハナケレバナラ
又、又合同會社ハ、礦山ヲ買取ラナカッタノ
デアリマスカラ、其礦山所有者ガ利益ヲス
ル金額ダケハ、合同會社ノ生產費ガ高クナッ
テ行クコトハ當然デアル、又勞働賃銀ノ不
低下ト云フコトモ、生產費ヲ高メル所ノ一
ツノ重大ナル要素ト見ナケレバナラヌ、卽
チ商工大臣ハ、現在ノ八幡製鐵所ノ從業員
ニ對スル待遇ハ、之ヲ決シテ低下セシメナ
イト云フコトヲ聲明シ、且ツ世間ニ公約セ
ラレテ居ル、隨テ合同實現ノ曉ニ於キマシ
テハ、八幡製鐵所々屬ノ勞働賃銀ガ減少シ
ナイコトハ勿論デアリマスガ、サウ云フ待
遇ヲ、八幡製鐵所ダケノ待遇ヲ受ケテ居ナ
カッタ所ノ民間ノ諸會社ノ從業員ハ、八幡製
鐵所並ミノ待遇ノ向上ヲ要求スルデアリマ
セウ、是ニ於テ勞働賃銀ノ水平運動ガ起ル、
此爲ニ生產原價ハ高マリコソスレ、低マル
デアラウト云フコトハ想像ハ付カナイノデ
ゴザイマス、又製鐵合同ハ事實上事業ノ獨
占トナルモノデアリマスカラ、其結果ト致
シマシテ、所謂競爭相手ノ消滅ニ因ル重役
以下從業員ノ奮勵努力心ノ退步、或ハ新會
社ガ半官半民デアリマスガ故ニ、其爲ニ生
ジテ來ル所ノ官吏氣分ノ橫溢、サウ云フコ
トカラ來ル所ノ能率ノ減退ヲ、考慮ニ入レ
マシタ場合ニ於キマシテハ、生產原價ハ低
下ドコロカ却テ高クナリ、非合同民間諸會
社ノソレニ較ベマシテ、事業經營上遙ニ劣
ルノ結果トナルノデハナイカト云フコト
ヲ、虞レザルヲ得ナイノデゴザイマス
手)此點ハ今日ノ朝日新聞朝刊經濟面ニ出
テ居リマス、是ハ商工大臣モ御覽ニナッタデ
アラウト思ヒマス、卽チ「日本製鐵ノ遠算」
ト云フ見出シ、日本製鐵ノ違算トシテ「生
產費ハ低下難」低下ハ出來ナイ、「銑鐵モ供
給過剩」ソレダケ造ルコトハ出來ナイ「民間
側經營ニ疑惑」ヲ有ツト云フコトガ書イテ
アル、是ハ恐ラク御讀ミニナッタデアリマセ
ウ、此一事ヲ以テ致シマシテモ、生產費ハ
今ヨリモ下ルデアラウト云フヤウナ考方
ハ、私ハドウモ常識的ニ思ハレナイノデア
リマス、若シ生產原價ノ低下ガ出來ナイト
云フコトニナリマシタナラバ、製鐵合同ノ
大眼目ハ此爲ニ破壞サルヽコトニナル、加
之之ニ對スル國家ノ配當金ニモ影響ヲ致
シ、財政上由々シキ大問題ヲ來スト言ハナ
ケレバナラヌノデアリマス(拍手)此點ニ付
キマシテモ商工大臣竝ニ大藏大臣ハ、ドウ
云フ覺悟ヲ御持ニナッテ居ルカ、此點ヲ御伺
致シタイト思フノデアリマス
次ニ私ガ御伺ヲ申上ゲタイト思ヒマスノ
ハ、、今囘ノ製鐵合同ノ問題ハ、一部資本家
ノ爲ニ國家ガ其背景トナッテ、營利統制ヲヤ
ルト云フ結果ニ陷ルモノデハナイカト云フ
點ニ付テ、御伺ヲ申上ゲタイノデアリマス
(拍手)製鐵合同ノ眼目ハ、前ニモ申述ベマ
シタ通リ、國家ガ其權力ヲ以テ國家公益ノ
爲ニ其統制ヲ圖ルト云フコトニナクテハナ
ラヌコトハ、是ハ申上ゲル迄モナイ事デア
リマス、然ルニ先ニ申シマシタガ如ク、第
一ニ生產費ノ點ニ於テ、旣ニ合同前ヨリモ
高クコソナレ、低クナラウト云フヤウナ傾
向ガナイ、加之之ヲ非合同民間ノ諸會社ノ
ソレト較ベマスレバ、非合同會社ノ方ガ却
テ安クナル可能性ガアル、サウ云フコトデ
アリマスレバ、日本製鐵株式會社自身ノ自
衞上ト致シマシテ、非合同民間諸會社ヲ、
有ユル手段ヲ以テ壓迫スルト云フ結果ニ
ナッテ來ルコトハ、當然デアルト言ハナケレ
バナラヌ、聞ク所ニ依リマスルト、或ハ製
鐵業奬勵法ノ廢止ヲ以テ、又製鐵、製鋼ノ
原料デアル所ノ鐵屑ノ關稅引上ノ手段ヲ以
テ、或ハ非合同民間諸會社ノ製銑又ハ製鋼能
力ノ擴張ニ對スル不認可ノ手段ヲ以テ、斯ウ
云フモノヲ以テ、民業ヲ壓迫スル所ノ結果ト
ナルノデハナイカ、サウシテ鐵業ニ關シテハ
民業ノ跡ヲ絕ツニ至ッテ、所謂事業獨占ノ結
果ハ、大資本閥ノ爲ノ完全ナル營利統制ヲ
實現スル結果トナルニハ非ズヤト、思ハルヽノ
デアリマスガ、此點ハ如何デゴザイマスカ(拍
手)先日商工大臣ハ本議場ニ於キマシテ、產
業統制ニ關スル質問ニ對シ、產業ノ統制ハ
營利統制デハイケナイ、公益統制デ行カナ
ケレバナラヌト云フコトヲ、本議場ニ於テ
御聲明ニナッタノデアリマスガ、此製鐵合同
ノ結果ハ、其御趣旨トハ正反對ニ、公益統
制ト云フコトデナク、却テ營利統制ト云フ
コトニナッテシマフト思ハレルノデアリマ
スガ、此點ニ對シマシテハ、商工大臣ハ如
何ナ御考ヲ御持ニナッテ居ルノデアリマス
カ、現代ノ世相ト思想ノ動向ヲ考ヘテ見マ
スル時ニ、重要產業中ノ最モ大切ナル、而
モ國家ノ利害休戚ニ密接ナル關係ヲ有ッテ
居ル所ノ此製鐵事業ガ、國家ヲ「バック」ト
シテ一部ノ資本家ノ爲ノ營利統制ニ陷ルガ
如キコトガアリマシタト致シマシタナラ
バ、世相ヲ彌ガ上ニモ險惡ナラシメ、思想
惡化ノ原動力ヲ爲スモノ、是ヨリ甚シキハ
ナシト言ハナケレバナラヌノデアリマス、
(拍手)中島商工大臣ハ、幾百万ヲ以テ算フ
ベキ所ノ我國ノ中小商工業者ノ匡救對策ト
シマシテハ、昭和九年度ノ豫算ニ於テ、其
助成金四十一万圓ヲ計上シテ居ラルヽニ過
ギナイノデアリマス、此金額ガ餘リニモ少
ク、申譯的デアルト云フコトハ、先日モ私
ガ申上ゲタ通リデアル、然ルニ一方ニハ燃
料國策ノ見地ヨリトハ言ヒナガラモ、ッ
ノ石油會社ニ對シテ、九年度カラ百二十万
圓ノ奬勵助成金ヲ出スト云フコトニ決定ニ
ナッテ居ル、一方ハ國家ノ最モ大切ナル中
堅階級ヲ成シテ居ル所ノ幾百万ノ中小商工
業者、之ニ對スル助成金ハ僅ニ四十一万圓
デアッテ、一ツノ營利法人タル右油會社ニ
對スル助成金ガ百二十万圓、此一石油會社
ノ助成金ノ方ガ、日本國中ノ中小商工業者
幾百万ノ人々ヨリモ、三倍モ多イ所ノ助成
金ヲ貰ッテ居ルト云フ事實ハ、中島商工大臣
ノ商工業ニ對スル政治的見解ト、其認識ト
ヲ疑ハザルヲ得ザルニ至ラシムルモノデハ
ナイカト考ヘルノデアリマス、今囘ノ製鐵
合同モ亦斯ノ如キ誤ヲタ見解ト認識トノ下
ニ、結局國家ノ權力ヲ以テスル一部資本家
ノ擁護トナルノ結果ヲ生ズルナラバ、ソレ
ハ獨リ中島商工大臣單獨ノ政治的責任デハ
ナイ、齋藤內閣全閣僚全體ノ責任デアルト
言ハナケレバナラヌト私ハ思ヒマス、又大
藏省ハ今囘ノ合同ニ依ッテ得タ所ノ合同會
社ノ利益ニ對シ、稅金ヲ課ケナイト云フ方
針ノ下ニ、〓究ヲ進メラレテ居ルト云フコ
トヲ聞イテ居ルノデアリマス、果シテ然ラ
バ商工省モ大藏省モ共ニ一丸トナッテ、
部資本家ノノ利益ノ擁護ニ狂奔スルガ如キ
結果トナルノデハナイカト云フ疑ヲ、持タザ
ルヲ得ナイノデアリマシテ(拍手)洵ニ容易
ナラヌ問題ト謂ハナケレバナリマセヌ、卽
チ以上申述ベマシタガ如ク、製鐵所特別會
計ノ廢止ノ法律案ハ、其文句ハ甚ダ簡單デ
ゴザリマスルケレドモ、其中ニ包含サレテ
居リマス所ノ經濟上乃至政治上ノ意義ニ於
キマシテハ、洵ニ愼重審議ヲ要スルモノガ
アルノデアリマスカラ、私ハ之ヲ無條件ニ
無批判ニ、承認スル譯ニハ參ラナイノデアリ
マス、斯ノ如キ經濟上政治上重大ナル關係
ヲ有スル此法案ヲ、若シモ帝國議會ガ、事
ノ眞相ヲ究明セズシテ無批判ニ漫然ト鵜呑
ニスルガ如キ態度ヲ執ルト致シマシタナラ
バ、之ニ對スル國民ノ思想ハ如何デアリマ
セウカ、國民思想ノ動向ハ一體ドノ方向ニ
向ッテ、拍車ヲ加ヘテ行クデアリマセウカ、
又議會政治乃至政黨政治ハ、ソレヲ以テ信
用ヲ國民ニ繫グコトガ出來マセウカ(拍手)
顧ミテ之ヲ考ヘマスル時ニハ、洵ニ慄然タ
ラザルヲ得ナイノデアリマス、卽チ私ガ此
處ニ起ッテ、事實ノ眞相ヲ明確ナラシメン
トスル所以モ、詰リ玆ニアルノデゴザイマ
ス(拍手)仍テ今囘ノ製鐵合同ガ國家ノ背景
ヲ以テ、一部資本家ノ爲ノ營利統制ヲ圖ル
結果トナル虞ナキヤ否ヤト云フ點ニ付キ
マシテハ、中島商工大臣ノ外、特ニ大藏大
臣及總理大臣ヨリ、明確ナ御答辯アランコ
トヲ希望スル次第デアリマス(拍手)
〔國務大臣男爵中島久萬吉君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=8
-
009・中島久萬吉
○國務大臣(男爵中島久萬吉君) 此度ノ製
鐵合同ノ計算內容ニ亙リマシテ、只今中村
君カラ縷ミ御質疑ノ點ガゴザイマシタ、其
内製鐵所ノ所謂身賣金勘定、ソレカラ製鐵
所ト民間會社トノ評價增ニ於ケル內容、ソ
レカラ民間會社各自ニ對スル株式割當ノ關
係、竝ニ評價基準ノ變更內容等ニ關シマシ
テ、是ハ數字ニ依ッテ政府委員カラ御說明
ヲ致サセタ方ガ御分リニナラウト思ヒマ
ス、唯私ガ玆ニ中村君ノ御尋ニ對シマシテ、
申上ゲタイト存ジマスル點ハ、製鐵業合同
計算ノ內容ニ於テ、見込又ハ推定ニ基クモ
ノガアルンヂヤナイカト云フヤウナ御尋デ
ゴザイマシタガ、是ハ此處ニ-此衆議院
ニ於テモ、直接此評價審査ニ關係ヲ御有チ
ニナッテ居ル方々モオアリニナルコトデア
リマシテ、ソレ等ノ諸君ガ如何ニ大所高所
カラ、此複雜ユシテ且ツ情實ノ多カルベキ
問題ノ解決ニ向ッテ、御盡力ヲ下サレタカト
云フコトニ付キマシテハ、私ハ實ニ深甚ナ
ル敬意ヲ拂ッテ居ル一人デアリマシテ、此點
ハ斷ジテ見込若クハ推定ニ基クモノガナ
ク、且ツ此合同ヲ促進セントスルガ爲ニ、
各社ノ間ニ情實ヲ以テ考慮ヲ加ヘ、若クハ
ソレ等ノ合同ヲ促進センガ爲ニ、其合同ヲ
有利ニセンガ爲ニ、何等カノ配慮ヲ致シタ
ノデハナイカト云フヤウナ點モ、オアリニ
ナッタヤウデアリマスガ、斯ル點ハ毛頭ナ
カッタト云フコトヲ申上ゲタイト思ヒマス、
ソレハ此計算ノ示シマスル結果ニ對シマシ
テ、所謂來ル者ハ拒マズ、去ル者ハ追ハズ、
全然ソレ等ノ關係ヲ無視シテ、純然タル計
算上ノ結果ニ依ッテ、各社ノ去就ヲ決セシメ
ヨウヂヤナイカト云フコトハ、評價審査委
員會ノ劈頭ニ於テ、各委員ノ間ニ御申合ガ
アッタノデアリマス、玆ニ是等ノ數字ガ見
込若クハ推定ニ基クモノデナイト云フコト
ヲ申上ゲタイ一ツノ事情ハ、元來此製鐵事
業合同ノ問題ト申シマスルモノハ、商工省
ト致シマシテハ、年來ノ懸案狀態デアッタ
ノデゴザイマシタ關係上、凡ソ參加會社ノ
企業ノ內容ニ付キマシテハ、近年屢〓調査
ヲ致シマシタ所デアリ、殊ニ一昨年製鐵業
合同案ヲ議會ニ提出スルニ當リマシテハ、
新ニ參加會社ニ就テ內容ノ調査ヲ遂ゲマシ
テ、議會ニ對スル說明ノ資料タラシメタヤ
ウナ譯デアリマシテ、大凡所謂腰ダメノ所ハ
分ッテ居ッタ事情ニアッタノデゴザイマスルガ、
更ニ昨年議會ノ協贊ヲ經テ、日本製鐵株式
會社法ガ成立致シマシタ後ニ於テハ、直チ
ニ參加希望ノ會社ニ對シマシテ、明細ナル
財產目錄ノ提示ヲ求メマシテ、其提示ヲ俟〃
テ、遲滯ナク技師竝ニ吏員ヲ實地ニ派遣致
シマシテ、一々財產目錄ノ記載ニ從ヒマシ
テ、工場竝ニ機械、器具、其他各種作業設
備ノ檢査ニ從事セシメ、其能率ナリ耐用力
ナリ、業界ノ現在、將來ニ對シマスル其可
能性ナリ、大凡各社ノ作業力ト收益力トニ
關スル各般ノ專門的〓究ヲ遂ゲマシテ、共
實價値ヲ算定致シマシテ、之ニ關スル調書
ハ、是亦評價審査委員各位モ御承知デゴザ
イマスルガ、各社每ニ累々積ンデ大册ヲ成
シテ居ルト云フヤウナ有樣デゴザイマス、
隨テ評價審査委員ノ方々ガ、所謂机上ノ空論
ヲ試ミラレタト云フコトデナイコトハ、
言御斷リヲ中上ゲテ置キタイト存ジマス、
尙ホ中村君ノ御尋中ニゴザイマシタル、此
會社ガ果シテ其當初ノ國家的使命ヲ成シ遂
ゲ得ルカ否ヤト云フコトニ付キマシテハ、
私ハ十分ナル確信ヲ持フテ居リマシテ、必ズ
ヤ當初所期致シテ居リマスル內容ノ整備、
作業ノ合理化、延イテ生產費ノ低下ニ基ク
鐵價ノ引下ゲヲ行ヒ得ルト信ジテ居リマ
ス、此各社卽チ今般參加ニ洩レマシタ會
社、其他業界一般トノ調節ニ付キマシテモ、
十分ニ將來ハ考慮ヲ拂ハナケレバナラヌト
思ヒマス、隨テ中村君ノ所謂管利統制ニ終
ラシメザルヤウニ注意致サナケレバナラヌ
ト思フノデアリマス、此點モ此會社ガ國家
的使命ヲ果ス上ニ於テハ、廣ク業界一般ニ
向ッテモ亦同樣、鐵價ノ引下ニ寄與致サシ
ムベク努力ヲ致サナケレバナラヌト思ッテ
居リマス
最後ニ鑛山ヲ此度何故ニ出資セシメナカフ
タト云ヒマスルノハ、是ハ中村君ノ御察シ
ノ如クニ、此際餘リニ最初ノ固定資本額ヲ
增大セシムルコトハ、宜クナイノデハナイ
カト云フノデ、是ハ後日ニ解決ヲスル問題
ト致シマシテ、評價審査委員會ノ議ヲ經テ、
鑛山ヲ暫ク他日ノ考慮ニ讓リマシタ、斯ウ
申ス譯デアリマス、後ハ數字ニ付テ政府委
員カラ御說明ヲ致サセマス
〔政府委員堀切善兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=9
-
010・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衞君) 只今中村君ヨ
リ大藏大臣ニ對スル御質問ノ點ニ付キマシ
テ、簡單ニ御答致シマス、先ヅ第一ハ、今
囘ノ製鐵會社設立ニ依ッテ、政府ハ千八百万
圓ノ損ヲシテ居ルヂヤナイカ、損ヲシテ居
ルヤウニ思フガ、大藏大臣ハ之ヲ認メルカ
ドウカト云フ御質問デアリマスルガ、大藏
大臣ハ之ヲ認メマセヌノデアリマス、損ド
コロデナイ、却テ政府ノ得ニナッテ居ルト考
ヘマス、ト云フノハ製鐵所創立以來、一般
會計ヨリ支出シタ金額ノ總計ハ、今日マデ
ニ創設費トシテ四千百二十餘万圓、擴張費
トシテ八千三百九十餘万圓、合計一億二千
五百餘万圓ヲ、一般會計ヨリ支出致シタノ
デアリマス、之ニ對シテ製鐵所特別會計ヨ
リハ、利益ノアリマシタ年每ニ一般會計ニ
納付サセテ居リマス、卽チ益金ノ納付、其合
計ガ今日マデニ一億六千三百餘万圓ニ達シ
テ居リマス、納付金ノ方ガ餘計デアリマス、
又今囘此會社設立ニ際シマシテ、一時的ニ殘
金トシテ七百餘万圓ヲ一般會計ニ繰入レシ
ムルコトハ、御承知ノ通リデアリマス、サ
ウシテ其殘ヲタルモノヲ二億八千四百餘万
圓ノ出資トシテ、新會社ニ是ハ出スノデア
リマス、之ニ對シマシテ、政府ハ將來每年
必ズ一千万圓以上ノ收入ヲ得ルコトニナル
ノデアリマス、此二億八千四百万圓ト政府ノ
出資ヲ評價致シマシタ點ニ付テ、中村君ハ御
異議ガアルヤウデゴザイマスガ、是ハ製鐵
所ノ資產帳簿價格ニ幾ラト載ッテ居ルカト
申シマスルト、固定資產一億六千九百万圓、
之ニ流動資產ノ中デ政府ニ囘收セシムベキ
モノハ囘收セシメ、更ニ益金トシテ受取ル
ベキモノハ受取ッテ、殘リ四千五百万圓ヲ流
動資本トシテ、新會社ニ渡ス方ニ入ルノデア
リマス、卽チ此合計二億千四百万圓帳簿價
格ノモノヲ、二億八千四百万圓ニ評價シテ
會社ニ引渡スノデアリマスルカラ、斷ジテ
政府ハ千八百万圓ノ損ヲ來スヤウナコトハ
ナイ、斯樣ニ信ジテ居ルノデアリマス(「詭
辯々々」ト呼フ者アリ)
次ニ中村君ノ御質問ノ中、稅金ノコトハ
ドウ致スカト云フコトデアリマス、是ハ今
囘ノ法律案ノ第十八條ノ中ニ、規定シテ居
ル點ガアリマスルガ、アレ以外ニ只今ノ所、
大藏省トシテ別ニ何モ考慮致シテ居リマセ
ヌ、尙ホ合同ノ目的ヲ達シ得ルヤ否ヤト云
フコト、是ハ商工大臣ヨリノ御答辯ニアリ
マスル通リデアリマス、一部資本家ノ利益
ヲ圖ッテ、多數國民ノ利益ヲ犧牲ニスルヂ
ヤナイカト云フヤウナ御懸念デアリマス
ガ、大藏大臣ハ資本家ト言ハズ、勞働者ト
言ハズ、消費者或ハ生產者ノ區別ナク、總
テ國民全體ノ利益康寧ヲ目的トシテ、努力
致シテ居ル外ニ餘念ナキコト、國民モ之ヲ
諒承致シテ居ルコトヽ信ジマス(拍手)
〔政府委員福田庸雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=10
-
011・福田庸雄
○政府委員(福田庸雄君) 只今御質問ノ點
ニ關シマシテ、商工大臣ノ答辯ヲ補足致シ
マシテ御說明申上ゲタイト思ヒマス、第
ニ御質問ニナリマシタ點ハ、具體的ノ例ヲ
擧ゲテ富士製鋼株式會社ノ評價ガ、前囘議
會ニ御說明申上ゲタ數字ヨリモ百万圓モ增
加シテ居ル、其割合デ云ヘバ、所謂査定評
價デ申シマスト八割モ增加シテ居ル、其理
由如何ト云フ御尋デゴザイマシタガ、是一
大臣カラ一般的ニ御說明ニナリマシタ通
リ、製鐵界ノ景氣ガ非常ニ增進致シマシテ
活氣ヲ呈シマシタノデ、此會社ノ生產額モ
增加致シマシテ、前囘ニ比較シテ此會社ノ
生產割當ノ數量ガ三割三分モ增加致シマシ
テ、共結果約四十七万圓ノ評價增ニナリマ
ス、又瓲當リノ利益モ增加致シマシテ、此
點ガ七十五万圓程ノ計算ニナリマシテ、累
計百何万圓ノ增加ニナッタト云フ計算デゴ
ザイマシテ、十分御說明ノ出來ル數字ガ、
此處ニアル譯デゴザイマス、其他各社ニ付
キマシテ、色々數字ヲ擧ゲテ其增加ノ點ニ
付テ御質シニナリマシタノデゴザイマス
ガ、是ハソレ〓〓理由ガアッテヤリマシタコ
トデアリマシテ、細カイ點ニ付キマシテハ、
色々數字上ノ細カイ問題ニナリマスノデ、
委員會其他ニ於キマシテ、篤ト御說明申上
ゲタイト思ヒマス
ソレカラ此評價ノ表ヲ此處ニ中村サンノ
御作リニナリマシタモノヲ御示シニナッテ
居リマスガ、ソレハ數字ノ問題デアリマス
カラ、更ニ之ヲ精査致シマシテ、御疑問ノ
點ハ明ニ致シタイト思ヒマス、唯茲ニ申上
ゲテ置キマスコトハ、此評價ト云フモノハ、
評價審査委員會ノ議ヲ經マシタ今囘ノ評價
ト、ソレカラ前囘議會ニ御說明申上ゲマシ
タ當時ノ數字ト、此二ツノ評價シカゴザイ
マセヌノデ、他ニ第二、第三ノ評價ガナイ
ト云フコトヲ御了解願ッテ置キタイト思ヒ
マス、ソレカラ銑鐵ト鋼材ニ付テ
〔「詳細ハ委員會デヤレ」「簡單ニヤレ」
其他發言スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=11
-
012・秋田清
○議長(秋田〓君) 靜肅ニ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=12
-
013・福田庸雄
○政府委員(福田庸雄君)(續) 銑鐵ト鋼材
ニ付テ、何カ特別ナ取扱ヲシタノデハナイ
カト云フ御議論ガアリマスガ、此點ニ付キ
マシテハ、評價原則ヲ定メマスニ當リマシ
テ、最モ之ヲ愼重ニ考ヘマシテ、其間ノ最
モ公平ナリト信ズル相互ノ比率ニ依リ之ヲ
決定致シマシテ、其原則ヲ各社ノ實情ニ應
ジテ割當テタノデアリマシテ、別段銑鐵ニ
厚イトカ、鋼材ニ薄イト云フヤウナ觀念ハ、
全然ナイノデアリマス、全然機械的ノ數字
デアルト御了解願ヒタイト思ヒマス
ソレカラ八幡製鐵所ノ評價ノ今囘ノ增加
ガ、他ノ民間五社ノ評價ノ增加ノ割合ニ比
シテ、非常ニ少イデハナイカ、斯ウ云フ御
質問デゴザイマス、其點ハ昨日豫算總會ニ
於キマシテモ、一應御說明申上ゲタノデゴ
ザイマスガ、前囘ノ評價ニ於キマシテ八幡
製鐵所ハ、殆ド其全能力ヲ擧ゲテ働ク、サ
ウ云フ基礎ノ下ニ生產額ヲ出シタノデアリ
マス、處ガ他ノ諸會社ニ於キマシテハ、當
時設備ノ不完全ナコト、或ハ不景氣ノ爲ニ、
生產額ノ割當ガ今囘ヨリモ遙ニ少カッタノ
デゴザイマスガ、八幡製鐵所ハ前回カラ全
能力ヲ發揮スル、斯ウ云フ計算ニナッテ居リ
マシタガ爲ニ、今囘割當テラレタ生產增加
ノ率ガ、割合ニ少イノデアリマス、之ニ反
シマシテ各會社ハ一般的ニ申シマシテ、生
產設備モ其後非常ニ增加致シマシタ、又生
產ニ直接關係アル設備ガ增加致シマシテ、
自然生產額モ非常ニ增加致シマシタ結果、
相互ノ率ガ非常ニ其處ニ差ヲ生ジテ來タ譯
デアリマス
〔「中村君ノ表ニ答ヘレバ宜イヂヤナイ
カ」「委員會デ結構ダ」ト呼ヒ、其他発言
スル者多シ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=13
-
014・秋田清
○議長(秋田清君) 靜肅ニ-中野君ニ注
意シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=14
-
015・福田庸雄
○政府委員(福田庸雄君)(續) 尙ホ是ハ根
本問題デアリマスルガ、評價ノ基礎ヲ變ヘ
タコトニ付テ、何カ非常ニ御疑ニナッテ居ル
ヤウナ御質問ガゴザイマシタノデゴザイ
マスガ、此點ニ付キマシテハ旣ニ豫算總會
ニ於キマシテ參考資料トシテ、何ガ故ニ評
價ノ基準ヲ變ヘタカト云フ大體ノ御說明ヲ
致シテ置キマシタノデ、此點ハ十分ソレヲ
御讀ミニナレバ御了解ガ出來ルコトダト思
ヒマス、又其評價ニ際シマシテ、民間ノ要
求ヲ色々ニ容レテ變更シタノヂヤナイカ、
斯ウ云フ御尋モアリマシタガ、ソンナコト
ハ斷ジテアリマセヌ、此決定致シマシタ評
價ノ原則ヲ冷靜ニ適用シテ、サウシテ正確
ナル實數ニ依リマシテ、之ヲ査定致シマシ
タノデ、斯ノ如キコトハ斷然ナイト云フコ
トヲ言明致シマス
ソレカラ何ガ故ニ鑛山ヲ一緒ニ合同サセ
ナカッタカ、斯ウ云フ御質問ニ對シマシテ
ハ、旣ニ大臣カラ御答辯ガアリマシタノデ、
重ネテ繰返シマセヌ、又此會社ガ成立後ニ
於テ果シテ所期ノ目的ヲ達シ得ルヤ否ヤ、
又生產費其他ヲ低下シ得ルヤ否ヤ、斯ウ云
フ御質問デゴザイマシタガ、是ハ勿論吾々
ハ其通リニ、所期ノ目的ヲ達スルニ相違ナ
イト云フコトヲ信ジテ居リマス、細カイコ
トハ委員會デ御答申上ゲマス
ソレカラ一瓲當リノ投下資本ニ付テ、色々
數字ヲ擧ゲテ御議論ガアリマシタガ、是
モ數字ノ基礎ガハッキリ致シマセヌノデ、更
ニ能ク數字ヲ御伺致シマシテ、吾々ノ見ル
所ヲ委員會等ニ於テ、御說明申上ゲルコト
ニ致シタイ積リデ居リマス(拍手)政府ノ損
益ノ關係ニ付キマシテハ、大藏省側カラ御
說明ガアリマシタノデ重ネテ申シマセヌ
尙ホ最後ニ一言附加ヘテ置キタイト思ヒ
マスノハ、石油問題ニ關シテ御言及ニナリ
マシテ、一會社ニ對シテ百二十万圓ノ補助
ヲ出スノハ怪シカラヌヂヤナイカ、斯ウ云
フ御議論デゴザイマスガ、此點ハ御承知ノ
通リ北樺太石油會社ヲ御指シニナッテ居ル
ト思ヒマスガ、此會社ハ日露利權契約ニ依
リマシテ、日本ノ海外石油資源ノ開發ノ爲
ニ、特殊ノ使命ヲ有フテ設ケラレタ會社デゴ
ザイマス、一營利會社トハ本質的ニ異ルモ
ノデアリマシテ、其國家的使命ヲ完ウセシ
ムル爲ニ、苦シイ財政ノ中カラ百一一十万圓
ト云フ金ヲ工夫シテ、サウシテ石油政策ノ
確立ノ一端ニ資シタイ、斯ウ云フ考デヤッタ
ノデアリマシテ、一部ノ資本家ヲドウスル
ト云フヤウナ御議論ハ、甚ダ見當違ヒノ御
議論カト考ヘマス、細カイ數字ニ付キマシ
テハ、戴キマシタ表其他ヲ篤ト拜見致シマ
シタ上、御納得ノ行クヤウニ他ノ機會ニ於
テ、御說明申上ゲタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=15
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016・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 議事進行ニ關シチ此席ヨリ
一言致シタイ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=16
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017・秋田清
○議長(秋田〓君) 一寸待ヲテ戴キマス、今
政府ノ答辯ガアリマスカラ-陸軍省經理
局長陸軍主計總監小野寺長治郞君
〔政府委員小野寺長治郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=17
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018・小野寺長治郎
○政府委員(小野寺長治郞君) 私ハ中村サ
ンノ御質問ノ要點ヲ、實ハ聽洩シテ居リマ
シタガ、多分斯ウ云フコトデアルト思ッテ御
答致シマス、ソレハ合同ノ株ノ評價ガ其當
ヲ得テ居ルカ、居ラヌカト云フコトデアッタ
ヤウニ考ヘチ居リマス、陸軍トシテハ經濟
財政ニ最モ詳シイ商工省ノ評價委員會ニ於
テ決定シタコトハ、其委員會ヲ十分ニ信賴
シマシテ、正當ト判斷シテ居リマス、其理
由ハ素人タル陸軍カラ御說明ヲ申上ゲルヨ
リモ、商工省ノ方ニ御聞ヲ御願致シマス(発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=18
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019・秋田清
○議長(秋田清君) 中村君ニ申上ゲマス、
アナタノ御質疑ハ總理大臣ニ對シテモ爲サ
レタノデアリマスガ、總理大臣ハ只今公務
上參內中デアリマス、隨テ當席ニ在リマセ
又、仍テ答辯ハ他日適當ノ機會ヲ待タレタ
イト思ヒマス-〓瀨君ハ何デスカ、今何
ニ關スル御發言デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=19
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020・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 議事進行ニ關シテ、政府ノ
答辯方法ニ付テ一言致シタイト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=20
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021・秋田清
○議長(秋田清君) 只今ノ議題ニ關シテヾ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=21
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022・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 議題ニ關シテ··発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=22
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023・秋田清
○議長(秋田〓君) 〓瀨一郞君
〔「登壇々々」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=23
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024・秋田清
○議長(秋田〓君) 簡單デスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=24
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025・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 簡單デス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=25
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026・秋田清
○議長(秋田〓君) 自席ヨリ發言スルコト
ヲ許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=26
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027・清瀬一郎
○〓瀨一郞君 只今議長ノ御釋明ニヨリ一
部ハ諒解致シタノデアリマス、然ルニ先刻
鑛山局長ヨリノ御辯明ハ全ク其趣意ガ徹底
致シマセヌ、質問者ハ國務大臣ニ對シテ質
問致シテ居ルノデアリマスルガ、議會ニ於
テハ政務次官ナリ參與官ナリ、政府ヲ代表
スル政治的代表者モアルコトデアリマス、
然ルニ相當時間ハ長クアリマシタケレドモ、
局長ノ御說明ハ毫モ諒解スルコトガ出來
ズ、最後ニ於テハ石油ニ關スル帝國ノ國策
ヲ論ゼラレテ居ル、斯樣ナコトハ全體責任
アル國務大臣ヨリ聞イテ、始メテ吾々議員
ハ納得致スコトデアリマス、速記錄ヲ見テ
總理大臣ヨリ他日別ニ御答ガアルト云フコ
トデアリマスカラ、ソレハ諒ト致シマシタ
ケレドモ、商工ニ關スルコトハ、更ニ改メ
テ商工大臣ヨリ簡潔明白ニ御答辯アランコ
トヲ御願致シマス
〔中村繼男君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=27
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028・中村繼男
○中村繼男君 只今色々御答辯ヲ戴キマシ
タケレドモ、私ノ答辯ヲ要求シテ居ル要點
ニ觸レナイコトヲ洵ニ遺憾ニ存ジマス、先
ヅ第一ニ製鐵合同ニ依フテ國家ハ損失ヲシ
タデハナイカ、斯ウ云フ質問ニ對シマシテ
堀切政務次官ハ、今マデニ國庫ニ收入シタ
金ダケデモ一億六千万圓モアルカラ、損シ
テ居ルドコロデハナイ、エライ儲カッテ居ル
ト、斯ウ云フ意味ノ御說明デアリマス、是
ハ私ハ、堀切政務次官ニ數字ニ對スル誤解
ガオアリニナルデハナイカト考ヘマス、何
故カト云フト、今持ッテ居リマス所ノ製鐵所
ノ元金ト云フモノハ、所謂七年度末
ノ決算ニ現ハレテ居リマス固有資本一億
六千九百十七万三千圓、公債金二千六百二
十九万七千圓、ソレカラ昭和八年度ノ利益
三千五百万圓、ソレニ之ヲ本當ニ時價ニ評
價スルナラバ、生ズベキ所ノ祕密積立金ガ
八千万圓アル、サウシタナラバ其合計金額
ハ三億一千四十六万圓トナリマス、ソレカ
ラ身賣代金ノ株ノ價格及ビ金錢ノ價格二億
八千四百十九万五千圓ヲ引キマスト、差引
勘定ハ幾ラニナリマスカ、千八百何十万圓
ト云フノハ損ニナル、是デ何デ儲ケタト云
フコトヲ仰シヤル、殊ニ大臣ノ御考ノ中ニ
ハ、此祕密積立金ノ八千万圓ト云フモノニ對
スル觀念ガナイヂヤナイカト思フ、併シ是
ハ譬ヘテ申シマスト直グ御分リニナルダラ
ウト思ヒマスガ、例ヘバ私ガ此「コップ」ヲ
一万圓デ賣ッタト假定シマス、サウシテ張面
ニ私ハ之ヲ五千圓ト書イテ居ッタ、サウシテ
六千圓ニ之ヲ賣ッタ、其時ニ私ハ千圓儲カ。ッ
タトナリマスカ、一万圓デ買ウテ張面ニ五
千圓ト書イテ居ッタ、所ガ六千圓ニ賣ッタ、
張面上ハ千圓ノ儲ケデアルケレドモ、實際
ハ四千圓ノ損デセウ、製鐵所ノ持ッテ居ル
固有資產三億一千四十六万圓ヲ二億九千百
十九万五千圓ニ出資シテ居ルノデアルカラ、
千八百万圓ノ損ニナルト云フコトハ、子供デ
モ御分リニナル筈デアリマス、此道理ガ御
分リニナラヌ筈ハナイ、デアルカラ大臣ノ
說明ハ私ノ答辯ニハナッテ居ラヌ、又此實際ノ
評價問題ニ關シマシテハ、只今ノ商工大
臣ノ御說明モ、或ハ政府委員ノ御說明モ、
如何ニモ總テガ抽象的デアリマシタ、サウ
云フ抽象的ノ說明バカリ今日マデ貴族院ヲ
通ジテモオ遣リニナッテ來テ居ルカラ、其問
題ガ愈、以テ沸騰シテ居ル、何故數字ヲ以
テ之ヲ示サレナイ、若シ今日直グ出來ナイ
ト云フコトデアレバ、何モ長々ト此處ニ立〃
テ、アヽ云フコトヲ仰シヤッテ戴カナクテモ
宜イ、私ニハ左樣ナコトヲ聞イテモ分ラヌ、
ソレデアリマスカラ、若シサウ云フコト
デアルナラバ數字ヲ作ッテ私共ニ御答ニナ
ルト同時ニ、天下ノ新聞ニ發表シテ戴キタ
イ、兎ニ角口デ何ト言ッテモ此問題ハ駄目デ
ルア、現實ノ問題デナケレバナラヌ、殊大
評價委員ノ諸君ハ非常ニ御骨折リニナッテ、
サウシテ堆高キ書類ノ中ニ埋ッテ御勉强ニ
ナッタト云フコトヲ、今商工大臣ヨリ御話
ガアッタ、サウデセウ、大變暑イ所ヲ洵ニ御
苦勞樣デアッタト思フ、併ナガラ實地檢査モ
シナイデ、技師ヤ技手ノ人達ガ書類ニ書イ
テ持ッテ來タモノヲ、幾ラ机ノ上ニ竝ベテ〓
究シテ見タ所デ、ソレデ實際ガ分ル筈ハア
リマセヌ、サウ云フコトデ出來上ッタ所ノ此
評價額デアルカラ、私ハ不適當ナリト斯ウ
言フノデアル、唯机ニ嚙リ付イテ、書類ノ中
ニ埋レテ居フテ、正確ナ評價ガ出來タトハ
私ニハ考ヘラレナイ、又礦山ヲ買ハナカッタ
ト云フコトニ付テノ御說明ト致シマシテハ、
是ハ後デヤル積リダト云フ意味ノ商工大臣
ノ御話デアリマシタ、後デヤル位ナラバ何
故初カラオヤリニナラナイカ、本當ニ製鐵
業ノ最モ大切ナ原動力デアル所ノ礦山ヲ除外
シテ、サウシテ之ヲヤル御方、此處ニモ矢張
値段ノ問題カ何カアッタラウト私ハ思フ、少
シ位ノコトハ思ヒ切ッテデモ、ドウセ水膨レ
テ居ルモノデアル、合同スルナラバ、〓
ニヤッテシマフガ宜イ、後ニ禍ヲ貽スヤウ
ナ、胎兒ダケハ殘シテ置クト云フヤウナ遣
方、斯ウ云フヤウナ遣方ハ、獨リ製鐵業ノ
合同ノ本來ノ使命ヲ達シナイト云フコトバ
カリデナク、殘シタコトソレ自身ニ對シテ、
世間ノ疑惑ヲ招クト云フヤウナコトニナル
ノデアリマスカラ、是等ノ點ニ付テハ、是
ハ當然其當時ニオ遣リニナルベキ筈デアッ
タト私ハ思フ、又生產費ノ低減ノ問題ニ付
キマシテハ、具體的ニ仰シヤラナイデ、唯引
下ヲ行ヒ得ルト云フ確信アリト云フダケノ
御話、ソレダケデ私ガ之ヲ御信用申上ゲルコ
トガ出來マスルナラバ、此處ニ立ッテ此質問ハ
申上ゲマセヌ、唯抽象的ニ引下ゲルト云フガ、
ドウ云フ方法ヲ以テ引下ゲルノカ、今迄ノ固定
資金ノ負擔ノ狀況ヲ以テシテ居ッテ、何處デ
ドウ下リマス、給料問題デモ、八幡製鐵所
ニ變リノナイ以上、何處デドウ下リマス
カ、斯ウ云フコトハ總テ具體的ニ承リマ
セヌケレバ分リマセヌ、貴族院ニ於キ
マシテハ、若シ必要ガアッタナラバ、將
來ニ於テハ減少スルト云フ考ガアルコト
ヲ仰シヤリニナッテ居ル、是ハ具體的ノ一ツ
ノ御答辯ノ仕方デアルト私ハ思ヒマス、ソ
コマデ言ハナイデ、唯將來引下ヲ行ヒ得ル
ト云フ確信アリト云フダケデハ、是ハ御答
辯ニナラヌデハナイカト私ハ考ヘマス、又
陸軍省ノ礦山ニ關スル御說明ハ、私ノ承服
シ能ハザル所デゴザイマス、陸軍省、海軍
省ヲ通ジテ、此鐵ノ單價ノ問題ニ付テハ、此
昭和九年ノ豫算ノ編成ニ當テ、大藏省ト折
衝シテ、ドノ位御苦心ヲ爲サッテ居ルカト
云フコトハ、是ハ記憶ニ最モ新タデナケレ
バナラヌ、此問題ニ對シマシテハ、評價委
員ノ人々ガヤッテ居ッテ下サルカラ、ソレヲ
御信用申上ゲテ居タト云フコトデハ、本當
ニ忠實ニ熱心ニ御考ヘニナッタ結果デアル
トハ私ハ考ヘラレマセヌ(拍手)モウ一步進
ンデ此委員會モ監督-監督ト云フ制度ハ
アリマスマイガ、委員會ニ對シテモ陸軍ノ
意見ヲ容レテ、サウシテ誤リノナイヤウ
ニ、御互ニ一致シテ行クト云フコトデナケ
レバ、陸軍モ、商工當局モ本當ニ宜イト云
フ所ヘハ行カナイ筈デアリマス、殊ニ今度
合同會社ガ出來マシタニ付キマシテハ、陸
軍側カラモ陸軍代表ノ意味ニ於テノ發起
人或ハ取締役ト云フヤウナ人ガ御入リニ
ナッタヤウニ私ハ考ヘマス、若シサウ云フ陸
軍關係ノ人々ガ、ソレハ他ニ商賣人ノ重役
ガ居ルカラ委シテ置ケバ宜カラウ、委シテ
置クト云フコトニナッタラ如何ナリマスカ、
丁度問題ハ同ジデス、此點ニ付テハ矢張委
員會等ニ對シテモ、相當ノ御世話ヲ爲サッ
テ居ッテ戴ケバ、斯ウ云フ結果ニモナラナ
カッタデハナイカト斯樣ニ考ヘマシテ、陸軍
ノ爲ニ私ハ殘念ニ思ヒマス、質問ダケヲ申
シマシテ、若シ御答辯ガアリマスレバ、又
ソレニ對シテ御伺スルコトガアルカモ知レ
マセヌ
〔政府委員堀切善兵衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=28
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029・堀切善兵衞
○政府委員(堀切善兵衞君) 中村君カラ重
ネテノ御尋デゴザイマスガ、其祕密積立金云
云ハ、ドウ云フ點ヲ御指シニナルカ、何等
是ハ私モ了解出來ナイノデアリマスケレド
モ、何レ委員會ニ於テ詳細伺ヒマシテ、而
シテ御答辯申上ゲタ方ガ宜カラウト思ヒマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=29
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030・秋田清
○議長(秋田〓君) 中村君、宜シウゴザイ
マスカ-モウ御濟ミニナリマシタカ
〔「商工大臣ハドウシタ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=30
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031・秋田清
○議長(秋田〓君) 商工大臣ハ發言ヲ求メ
ラレマセヌ-中村君、御濟ミニナリマシ
タカ--質疑ハ終了致シマシタ、本案ノ審
査ヲ付託スベキ委員ノ選舉ニ付テ御諮リ致
シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=31
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032・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 本案ハ議長指名九名ノ委
員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=32
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033・秋田清
○議長(秋田清君) 靑木君ノ動議ニ御異議
アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=33
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034・秋田清
○議長(秋田清君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第
二、鐵道敷設法中改正法律案ノ第一讀會ヲ
開キマス-鐵道大臣三土忠造君
第二鐵道敷設法中改正法律案(政府
提出)第一讀會
鐵道敷設法中改正法律案
鐵道敷設法中左ノ通改正ス
別表第五十號ノ三ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
五十ノ四埼玉縣大宮ヨリ川越ヲ經テ
飯能附近ニ至ル鐵道
別表第百五號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
百五ノ二高知縣須崎ヨリ窪川ニ至ル
鐵道
別表第百十號ノ次ニ左ノ一號ヲ加フ
百十ノ二福岡縣添田ヨリ大分縣日田
附近ニ至ル鐵道
附則
本法ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス
〔國務大臣三土忠造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=34
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035・三土忠造
○國務大臣(三土忠造君) 只今上程サレマ
シタル鐵道敷設法中改正法律案ノ提案ノ理
由ヲ簡單ニ申上ゲマス、今囘鐵道敷設法ヲ
改正シテ、其別表ニ追加セントスル線路ハ、
埼玉縣大宮ヨリ川越ヲ經テ飯能附近ニ至ル
鐵道、高知縣須崎ヨリ窪川ニ至ル鐵道、及
ビ福岡縣添田ヨリ大分縣日田附近ニ至ル鐵
道ノ三線路デアリマス、卽チ大宮、飯能附
近間ノ鐵道ハ、所謂八高線ノ一部東飯能、
八王子間、及ビ横濱線八王子、東神奈川間
ノ各既成線ト相俟フテ、東京ヲ包ム環狀線ヲ
構成致シ、東北、中央、北海道ノ諸本線ヲ
連絡致シマスルカラ、一朝有事ノ際ニ於ケ
ル國防上ノ效果大ナルモノガアリマスルト
共ニ、是等諸線相互間ノ輸送ニ、東京ヲ迂
〓スルノ不便ヲ除キ、且ツ東京附近ノ輻輳
セル輸送ヲ緩和シ、運輸系絡上ヨリモ洵ニ
緊要ナル線路デアリマス、次ニ須崎窪川間
鐵道ハ、沿線ノ海陸物資ノ搬出ニ利便ヲ與
へ、地方產業ヲ開發致シマスルノミナラズ、
旣成高知線及ビ十年度全通豫定ノ土讃線ノ
培養線トナルノデアリマシテ、尙ホ將來ニ於
ケル四國循環線ノ一部ヲ構成致シマスル重
要ナル線路デアリマス、添田日田附近間ノ
鐵道ハ、沿線ノ炭田森林ヲ開發シ、久大線、
宮原線ノ竣成ト相俟ァテ、林產物資ニ富ム日
田阿蘇地方ト、筑豐ノ工礦業地帶トヲ近接
セシメル重要ナル線路デアリマス、要スル
ニ是等ノ三線路ハ、地方開發又ハ軍事上必
要ニシテ、且ツ鐵道經營上カラモ有利ト認
メラレルモノデアリマシテ、何レモ昭和九
年度ヨリ工事ニ著手致シタイト考ヘテ居リ
マス、以上ノ理由ニ依リマシテ本案ヲ提出
致シタ次第デアリマス、何卒御協贊ヲ與ヘ
ラレンコトヲ希望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=35
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036・秋田清
○議長(秋田清君) 質疑ノ發言ヲ許シマ
ス-山本厚三君
〔山本厚三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=36
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037・山本厚三
○山本厚三君 鐵道敷設法中改正法律案ニ
付キマシテ、只今三土鐵道大臣ヨリ一通リ
ノ御說明ガアリマシタガ、マダ十分ニ諒解
スルコトノ出來ヌ點ガアリマスルカラ、今
少シ突進ンダ點ニ付テ一二御尋ヲシテ見タ
イト存ジマス
先ヅ最初ニ御提案ニナリマシタ三線御提
出ノ理由ニ付テ御伺致シタイト存ジマスル
ガ、只今ノ御朗讀ニナリマシタ御說明デハ、
法律ヲ改正シテマデモ、急速ニ此鐵道ノ敷
設ニ著手ヲシナケレバナラナイト云フ程ノ
强イ理由ハ、諒解ガ出來ナイト思フノデア
リマス、先ヅ第一ノ大宮東飯能附近ノ線ヲ
調べテ見マスルト、其主ナル理由ハ、軍事
的ノ理由ニアル-必要ニアルト云フコト
デアリマス、勿論是ハ軍部當局ニ御尋ヲシ
ナケレバ分ラナイノデアリマスガ、只今ハ場
合ガ適當致シマセヌカラ、他ノ適當ナ時ニ
其御說明ハ伺フト致シマシテモ、此線ガ圖面
ヲ御覽ニナルト分ルヤウニ、色々ノ私設鐵
道或ハ豫定線ガ輻輳ヲ致シテ居ル間ニ、之
ヲ東カラ西ニ橫斷ヲシテ、新ニ御造リニナ
ル線デアリマスルガ、斯樣ナ線ガ果シテ經
濟上採算ノ良イモノデアルカドウカト云フ
コトハ、詳シク御說明ヲ聽カヌト分ラナイ
ノデアリマスガ、此點ニ付テモ若干疑ガア
ルノデアリマス、ソレヨリ大切ナルコトハ、
若シドウシテモ軍事上ニ必要デアルト云フ
ナラバ、附近ニ豫定線ガ一二アルノデアリ
マスカラ、此豫定線ヲ何故御用ヒニナラナ
カッタカ、例ヘバ立川カラ與野ニ至ル所ノ豫
定線ノ如キハ、之ヲ御用ヒニナッテモ、軍事
上トスレバ大シタ差支ガナイト思フノニ、
豫定線ノアルモノヲ差措イテ、新ニ法律ヲ
改正ヲシテマデ今日俄カニ著手スルト云フ
程ノ理由ハ、只今ノ御說明ヲ伺ッタヾケデハ
諒承出來ナイノデアリマス
第二ニ、四國ニ於キマシテ須崎ヨリ窪川
ニ至ル線ハ、是ハ勿論建設規程改正ノ結果
カラモ來テ居ルコトデアラウト思ヒマス
ガ、是ハ四國ノ循環線ヲ將來形ヅクルモノ
デアッテ、必要ナ線デアルコトハ勿論デアリ
マス、又九州ノ炭田ヲ控ヘテ居ル添田カラ
南ニ下ッテ日田ノ附近ニ至ル線モ、大體圖面
ヲ擴ゲテ見マスルト、此連絡ノナイト云フコ
トハ、普通ノ、誰ガ見テモ不思議ニ思フ位ノ線
デアリマスカラ、是モ建設規程改正ノ結果御
提案ニナッタモノデアラウト云フコトハ、凡
ソ大體ニ於テ看取セラレルノデアリマスル
ガ、此二ツノ線ト共ニ他ニ澤山ノ豫定線ガア
リマシテ、十二年前ニ改正ヲシタ所ノ鐵道敷
設法ニ依リマシテ、立派ナ豫定線ガ澤山ア
ルノニ、ソレ等ノ線ハ暫ク抛棄シテ置イテ、
新ニ此二ツヲ敷設法ニ追加ヲシテ、明九年
度カラ著手シナケレバナラヌト云フ程ノ理
由ガ何處エアルカ、此點ヲ私ハ伺ヒタイノ
デアリマス、卽チ第一大宮ヨリ飯能ニ至ル
線ハ、附近ニアルモノヲ何故之ヲ採用シナ
カッタカ、後ノ二線ハ全國ニ必要ノアル澤
山ノ豫定線ガアルノニ、之ヲ差置イテマデ
干、此二ツノ線ヲ急速ニヤラナケレバナラ
ヌト云フ理由ガ何處ニアルカ、此點ニ付テ
明確ニ御說明ヲ顯ヒタイト存ズルノデアリ
マス
ソレカラ第二ニハ敷設法ニ對スル根本的
ノ問題ニ付テ、三土鐵道大臣ニ御伺ヲシタ
イノデアリマスルガ、鐵道大臣ハ我國ノ敷
設法ト云フモノハ、大體ニ於テ今日ノ時勢
ニ適ジナイ、無用ノモノデアルカラ、是ハ
寧ロ全廢ヲシテ、必要ノアル、時勢ニ適シ
タ所ノ線ヲ其都度選定ヲ致シテ、此度ノヤ
ウニ實際三著手シタ方ガ宜シイノデアル、
卽チ敷設法全廢論ト云フヤウナモノヲ常ニ
持ノテ御出デニナッテ、貴族院等ニ於テモ少
シク其現レガアリマスルシ、其他ノ機會ニ
於テモ、度々サウ云フコトヲ耳ニスルノデ
アリマスルガ、現在デモ鐵道敷設法ノ全廢
ト云フ御意見ヲ有ッテ御出デニナルカドウ
デアルカ、斯ウ云フコトニ付テ御尋シテ置
キタイコトガアルノデアリマス、ソシハ昨
年ノ夏デアリマシタカ、鐵道大臣ガ全廢論
ト云フモノヲ世間ニ御發表ニナッタト云フ
ノデ、大分衝動ヲ起シタコトガアル、其内
容ハ隨分極端ナモノデアリマシテ、唯新聞
ニ依クテ之ヲ見タノデアリマスルガ、而モ有
力ナル新聞ニ依ッテ發表セラレタ所ニ依リ
マスルト、大正十一年ニ改正ニナッタ時ニ
ハ、政治上ノ黨略等ノ關係ヤ、異常ナ弊害
カラ、調査モ十分ニシナイデ急遽之ヲ制定
シタノデアル、故ニ實際ト當嵌ラヌカラ、
現在デハ鐵道省ノ吏員ノ間デモ之ニ對シテ
洵ニ困ヲテ居ル、ヤリニクヽテ困ッテ居ル、
而シテ一方ニ於テハ政黨ノ信用ヲ害シタコ
トモ、此爲ニ非常ニ大キナモノデアルカラ、
之ヲ廢止ヲ致シテ新シクヤッタ方ガ、寧ロ
政黨ノ信用囘復ニナルト云フヤウナ意見、
是ハ極端ナ御意見デアリマスカラ、此新聞
ヲ見テ私共ハ實ハ驚イタノデアッテ、左樣
ナ極端ヲ議論ヲ御吐キニナルトハ思ハナカッ
ク、全廢論ハ御持チニナッテ居ルトハ想像シ
テ居フタガ、アノ新聞ノ記事ト云フモノハ、
少シ極端デアルト思ッテ居ッタガ、果セル
哉二三日經ツト全然是ハ覺エガナイ、全
部取消ト云フコトニナッタノデアリマス、勿
論アノ御發表ニナッタ御說ト云フモノハ、是
ハ御取消ニナラナケレバ、有ユル方面ニ
色々障碍ガ起キマスカラ、是ハ御取消ニナ
ルコトハ當然デアリマスルガ、併シアノ中
ノ全廢ヲシタ方ガ宜イト云フ御議論ダケ
ハ、鐵道大臣ガ御持チニナッテ居ルノデハ
アルマイカト思フノデアリマス、之ヲ御聞
キスル理由ハ、建設ノ調査ヲ致ス上ニ於テ
必要デアリマスカラ、ドウ云フ御考デ建設
線ノ選擇ヲ爲サルカ、此點ニ付テ、ドウシ
テモ鐵道大臣ノ今ノ御意見ヲ伺ヲテ置キタイ
ト思フノデアリマス、卽チ今回御提案ニナ
リマシタ三線、或ハ昨年非常ナ喧マシイ問
題トナッタ所ノ、四國ノ百三號線ト云フ問題
ノ如キ、孰レモサウデアリマスルガ、百三
號線ノ如キハ建設線デアッタモノヲ抛擲ヲ
致シテ、廢止シタト云フ極端ナヤリ方デア
ル、併シ是ハ良イヤリ方デアッタ、本年ノ
三線ハマダ贊否ハ明カデアリマセヌガ、是
ハ必シモ惡イト云フコトハ言ヘナイダラ
ウト思フノデアリマス、斯樣ニ敷設法ト云
フモノニ色々線路ガアルモノヲ、之ヲ其儘
外ニ置イテ、新ニ斯樣ナ三線ト云フモノヲ
御提案ニナルト云フ御方針デアルトスレ
が、是ハ從來ノ御方針トハ餘程變ヲタモノ
デアルト言ハナケレバナラヌ、無論良ク變ッ
タコトハ結構デアリマスガ、非常ナ轉向ヲ
セラレタト認メナケレバナラヌ、今カラ十
年前デアリマシタカ、下諏訪鹽尻線ト云フ
モノガ突如トシテ提案サレマシタ時ニ、色
色ノ御議論ヲ聞イタノデアリマスルガ、共
中最モ强イ議論ハ、敷設法ノ改正ガ出來テ
間モナイ時デアリマスカラ、敷設法ニアル
澤山ノ線ヲ差置イテ、無イ所ノ線ヲ新ニ追
加スルト云フコトハ、當時流行アタ言葉デ、
後ノ烏ガ先ニナルト申スカ、雁ガ先ニナル
ト申スカ、後ノモノガ先ニナッテ、先ノモノ
ヲ抛棄スルト云フノデ、是ハ非常ナ反對ヲ
受ケタノデアリマス、無論其當時ノ議論ハ、
時代ガ違ヒマスカラ、其當時議論ヲシク方
ガ、今日モ飽迄其通リノ議論ヲシナケレバ
ナラヌト云フコトハナイカラ、今日鐵道大
臣ニ於テ必要ナ線ガアレバ、其時代ノ敷設
法ト云フモノヲ參考ニハスルガ、何時デモ
良イ線ガアレバ幾線デモヤルノデアルト云
フ御意見デ、今後モ御ヤリニナルト云フコ
トデアレバ、ソレデモ宜シイノデアリマス
ガ、斯樣ナ意味カラ、今ノ鐵道大臣ハ此敷
設法改正ト云フ重大問題ニ對シテ、若クハ
全廢ト云フ問題ニ對シテ、ドウ云フ御意見
ヲ有ッテ御出デニナリマスカ、之ヲ確メテ置
キタイノデアリマス
第三ニ鐵道ノ建設方針ニ付テ御意見ヲ伺
ヒタイノデアリマスガ、大臣ハ一昨年御就
任ノ當時ニ於テ、鐵道ノ建設ハ今日ノ時勢
カラ考ヘルト、集中主義ニ依ラナケレバナ
ラヌ、總花的ニ、分散的ニヤッテハ宜シクナ
1、是ハ勿論デアリマス、集中主義ニヤラ
ナケレバナラヌト云フコトヲ言ハレテ、有
ユル機會ニ之ヲ御發表ニナッテ居ル、所ガ昨
年ノ是モ夏頃デアリマシタカ、今ノ鐵道省
ノ建設方針ト云フモノハ、大體六ツノ方針
デ進ミタイ、是モ新聞ノ記事デアリマスカ
ラ、或ハ大臣ノ御話其儘ガ出テ居ッタカドウ
カハ分リマセヌガ、內容ヲ見マスルト全ク
宜イコトデアルカラ、恐ラク大臣ノ平素ノ
御話ガ出タノデアラウト思フガ、ソレハ鐵
道建設ノ上ニ、六大原則ヲ以テ進ミタイト
云フコトヲ御話ニナッタノガ出テ居ル、是ハ
恐ラク御覽ニナッタデアラウト思ヒマスガ、
只今ノ全廢論ヲ御否定ニナッタヤウニ、之ヲ
御否定ニナルコトハアルマイト思フシ、又
御否定ニナル必要モナイコトデアルカラ、
大體御承知ノモノトシテ考ヘテ居ルノデア
リマスルガ、左樣ニ御發表ニナリマシタ鐵
道大臣ノ御意見ニ依ッテ見マスルト、洵ニ公
平ナル建設線ノ御選定方法デアッテ、是ハ全
ク御同感デアリマス、本年ノ建設線ノ發表
ヲ見マスルト、大體ニ於テ私ハ此方針ニ合〃
テ居ルト云フコトヲ認メザルヲ得ヌノデア
リマスガ、併シ其中ニ相當之ニ適當シナイ
モノガアル、之ニ付テハ何レ委員會ニ於テ
詳細ニ伺ヒマスルガ、此集中主義トカ、六
大原則トカ云フモノヲ御認メニナッテ、今デ
モ其御方針デアリ、將來モ亦是デオ遣リニ
ナリマスカドウカ、此根本方針ヲ先ヅ伺ッテ
置キタイノデアリマス、此事ヲ御伺スルノ
ニハ、先ヅ一ツ二ツ例ヲ擧ゲテ見マスルガ、
只今御示シニナッタ方針ト較ベテ見テ、ドウ
モ此方針ニ適合シナイヤウナ線ガアリハシ
ナイカ、譬ヘテ見ルト福島縣及ビ越後ヲ接
續スル所ノ柳津川口間デ、越後ノ方カラ小
田、只見ト云フ途中マデヤル線ガアルノデ
アリマスガ、是ハ勿論非常ナ偏僻ナ處ヲ繫
グノデアリマスカラ、必要ナ點ニ於テハ異
論ハナイノデアリマスガ、今日此方針ノ下
ニ、斯樣ナ線ヲ急イデオ遣リニナル必要ガ
アッタカドウカ、是ハ疑ナキヲ得ヌノデアリ
やく、又其他ニ北海道ニ於テハ、名寄朱鞠
內ト云フ線ガアリマスガ、是モ「オホツク」海
ト日本海ヲ連繫スル線デアリマシテ、古イ
線デアリマスカラ、之ヲ御實行ニナルコト
ヲ、私ハ反對スルト云フノデハアリマセヌ
ガ、之ヲオ遣リニナル位ナラバ、北海道ニ
ハ澤山線ガアッテ、其附近ニモ適當ナル線ガ
アリハシナカッタカ、卽チ此選定方法ニ付テ
少シク疑念ガアリマスカラ、此點ニ付テ御
尋申上ゲタイ次第デアリマス
最後ニ省營「バス」ノコトニ付テ一言伺〃
テ置キタイノデアリマスガ、省營「バス」ノ
御發表ガ、昭和八年度ノ分ガアリマシテ、
更ニ昭和九年度、昭和十年度ニ對シテ相當
大キナ線、卽チ二十六線ノ御發表ガアル、
其金額モ確カ昭和九年度ガ三百万圓、續イ
テ三百万圓、三百五十万圓ト云フヤウナ經
費マデモ御發表ニナッテ居リマス、私共ガ其
線ヲ能ク調ベテ見マスルト、旣ニ前議會ニ
於テ內々ニ說明ヲ爲サッテ、豫算ノ協贊ヲ得
テ居ラレタ昭和八年度ノ「バス」ノ路線ノ中
デモ、未ダ實行ヲシナイ線ガ相當ニアルヤウ
デアリマス、然ルニ更ニ又二十六線ト云フモ
ノヲ、澤山ノ中カラ御選定ニナッテ之ヲ御發
表ニナッタ、シテ見マスルト何時ヤルカ分ラ
ヌモノヲ、線路名ヲ發表スルト云フコトニナ
リマスカラ、シマヒニ是ガ敷設法ノ豫定線ト
同ジコトニナリハシナイカ、敷設法ノ豫定線ヲ、
何時ヤルカヤラヌカ分ラヌモノヲ發表スル
コトガ、餘リ感服シナイト云フコトガ、平
素大臣ノ御意嚮ノヤウデアリマスルガ、シ
テ見マスルト此「バス」ノ豫定線ト云フモノ
ニ對シテハ、矛盾致シハシナイカ、是ハド
ウ云フ御主張ノ下ニ斯樣ナ御發表ニナッテ
居ルノデアルカ、此點承知致シテ置キタイ
ノデアリマス、以上四ツノ點ニ付キマシテ
大臣ヨリ御說明ヲ戴キマシテ、尙ホ了承シ
マセヌ場合ニハ、更ニ御尋致シタイト存ジ
マス(拍手)
〔國務大臣三土忠造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=37
-
038・三土忠造
○國務大臣(三土忠造君) 只今山本君ノ御
質問ハ四點デアックヤウデアリマスガ、第一
點ト第二點トヲ順序ヲ變ヘテ御答辯シタ方
ガ、便利ダラウト思ヒマスカラ、御質問ノ
第二點カラ御答辯致シマス、現在ノ鐵道敷
設法ニ豫定サレタル豫定線ニ付キマシテ、
私ガ全廢ノ意見ヲ有〃テ居ルト云フヤウナ
コトヲ、何時デアリマシタカ新聞紙ニ發表サ
レマシタガ、是ハ全然無根デアリマス、私ハ
サウ云フコトヲ考ヘタコトモアリマセヌ、
然ラバ鐵道豫定線ニ對シテ、今日ドウ云フ
考ヲ有"テ居ルカト言ハレマスルト、申ス迄
モナク現行鐵道敷設法ト云フモノハ、餘程
前ニ出來マシテ、其時分ニハ每年鐵道ノ收
益ガ向上ノ一路ヲ辿ッテ參ッタノデアリマ
ス、又當時ニ於キマシテハ、鐵道ト對抗ス
ベキ運輸交通機關ガ、サウ發達シテ居ラナ
カッタノデアリマス、隨テ此勢ヲ以テ進ミマ
スルト、鐵道ノ收入ハ段々增シテ參リマス
カラ、全體ノ鐵道特別會計ノ計算ニ於キマ
シテ、相當不引合ナ鐵道デモ、產業開發、
國防等ノ見地カラ之ヲ經營シテ行ケル斯ウ
云フ考カラ、餘程遠キ將來マデヲ推定シテ、
現行法ガ出來タノデアリマス、然ルニ其後
情勢ガ一變致シマシテ、鐵道ノ收入ハ激減
ノ情勢ニ向ヒマシタ、勿論鐵道ノ總收入ノ
減リ方ハサウ多クナクテモ、益金ノ資本勘
定ニ繰入ルベキモノガ非常ニ減ッテ參ル割合
ニナルノデアリマス、其上ニ港灣ノ修築、
船舶ノ發達、自動車ノ普及ト云フヤウナ
事カラ、鐵道ノ對抗機關ガ何處マデ進ンデ
行クカ分ラナイ、斯ウ云フコトヲ考ヘマス
ルト、鐵道豫定線ノ中デ、今日ハ寧ロ自動
車ニ變ヘタ方ガ宜カラウト云フモノモアリ
マスルシ、又此情勢デハ到底抱キ切レナイ
ト云フモノモ出來テ參ノタノデアリマスカ
ラ、率直ニ申シマスルト、今日法律ニ豫定
サレテ居ル豫定線ヲ全部建設スルト云フコ
トハ、不可能ト私ハ見テ居リマス、併ナガラ
鐵道ノ豫定線ガ左樣ナモノデアッテモ、豫定
線カラ片付ケテ行フタ方ガ宜イデハナイカ
ト云フコトモ考ヘラレマスケレドモ、是亦
經濟ノ、發達其他ノ情勢ノ變化ニ依リマシ
テ、今マデ豫定シテ居ッタモノヨリモ、更ニ
其附近ニ於テ他ノ路線ヲ選ンダ方ガ、經濟
上其他ノ點カラ有利デアルト云フモノガ出
來テ參ノタノデアリマス、此見地ニ基キマシ
テ、今囘モ新ニ敷設法ノ改正案ヲ提案シタ
ヤウナ次第デアリマス、隨テ只今御質問ノ
アリマシタ大宮飯能間、是モ豫定線カラ申
シマスト、與野カラ立川マデ來ル方ガ洵ニ
簡單ノヤウニ見エマスケレドモ、與野立川
間ト云フモノハ、私設線ガ蜘蛛ノ巢ノ如ク
右往左往ニ敷設サレテ居リマシテ、最早此
方面ニ鐵道ヲ架ケル必要ハナイノデアリマ
ス、之ニ反シテ大宮飯能間ノ方ヲ繫ギマス
ト、其地方ノ開發ニナリ、同時ニ國防上陸
軍ノ要求ニモ合スル、斯ウ云フコトカラシ
テ、豫定線ガ與野立川間ニアルニ拘ラズ、
アノ路線ヲ新ニ附加ヘル必要ヲ生ジタノデ
アリマス、ソレカラ四國ノ須崎窪川間、是
ハ山ノ谷ノ方ヲ廻ッテ行クヤウナ線路ガア
リ、又海岸ヲ廻ルヤウナ線路ガアルノデア
リマスガ、其中間ヲ選ンダ方ガ、建設ノ工
事ノ上カラ申シマシテモ都合ガ好ク、又地
方ノ開發ノ上カラ申シマシテモ、今日ノ現
狀ハ此豫定線ハ暫ク其儘置キマスガ、新タ
ナ線路ヲ選ンダ方ガ有利デアル、斯ウ云フ
見地カラ改正ヲ致ス積リデアリマス、九州
ノ添田日田間ハ、アノ直グ附近ニ日田ト守
貫、卽チ耶馬溪鐵道ト連絡スル豫定線ガア
リマスガ、今度久大線ガ出來上ル情勢カラ
考ヘテ見マスト、先ヅ此方ハ後ニシテ、添
田日田間ヲ繋グ方ガ急グト云フ算盤ガ出テ
參リマス、卽チ九州ノ北海岸ノ工業地、商
業地ノ、一番胴ブクロヘ早ク繋ギマス方ガ
最モ都合ガ好イ、斯ウ云フコトカラシテ、
他ノ豫定線ノ方ハ其儘ニシテ置キマシテ、
此方ヲヤル方ガ急グ、斯ウ云フ計算カラ掛ッ
タノデアリマス
ソレカラ鐵道ノ建設方針ニ付キマシテ、
私ガ六大原則ヲ描イテ居ルト云フコトヲ、
新聞デ御覽ニナッタト云フコトデアリマス
ガ、私ハ六大原則ト云フヤウナコトヲ申
シタコトハアリマセヌガ、併シ私ノ申シテ
居ル意見ヲ搔摘ンデ分類シテ見ルト、六大
原則ニナッタカモ知レマセヌガ、ドウ云
フコトデアッタカ能ク存ジマセヌ、要ス
ルニ私ノ一番ノ眼目ハ、鐵道ノ建設ト云
フモノハ出來ルダケ-他ノ色々ナ事情モ
アリマスケレドモ、出來ルダケ一旦建設ニ
著手致シマシタモノハ、早ク完成シテ營業
ヲ開始スル方ガ、資本ヲ活動セシムル所以ニ
ナリ、又地方ノ期待ニモ合スル所以デアル、
斯ウ考ヘマスノデ、此點ニ最モ重キヲ置イ
テ居ル次第デアリマス、ソコデ其方針カラ
言フト、此度新線トシテ協贊ヲ要求致シマ
ウタモノガ、稍〓當ラヌデハナイカト云フ御
意見ダラウト思ヒマス、併シ山本君ノ一番
主トシテ御聽キニナルノハ、北海道ノ名寄
朱鞠内間ノ鐵道ダラウト思ヒマスガ、名寄
朱鞠內間ノ鐵道ハ、御承知ノ通リ餘程前ニ
豫算ニ計上サレテ居ッタノヲ、一度削除サレ
テ居ッタノデアリマス、其削除サレマシタ當
時ノ計算デハ、今日議會ノ協贊ヲ求メテ居
ル計算ヨリモ、殆ド倍額位要ル計算ダッタノ
デアリマス、然ルニ其後鐵道ノ建設運轉規
程ヲ改正致シマシタ結果トシテ、其削除當
時程ノ金ガ要ラナクナッタ、非常ニ少イ金デ
出來ルト云フコトガ一番ノ理由デアリマ
ス、モウ一ツハ彼處ニ水力電氣ノ水源地ガ
アリマス、其水源地ヲ横切ル爲ニ一一百万圓
程金ガ多ク掛ル、左樣ナ建設費ヲ以テシテ
ハ、アノ線路ハ引合ハヌト云フノデ、北海
道ノ北部ノ東南ヲ橫切ル線路トシテハ、山
本君モ御承知ノ通リ、非常ニ地方ノ人モ必
要ヲ認メテ居ルニ拘ラズ、而シテ又一旦豫
算ニ計上シタニモ拘ラズ削除致シマシタノ
ハ、右樣ナ次第デアッタノデアリマスガ、此
度其水源地ノ所ヲ避ケテ通ル路線ガ發見サ
レマシタノト、ソレカラ建設運轉規程ノ改
正ノ結果、極ク安イ金デ出來ルト云フコト
ニナリマシタノデ、最初ノ通リ復活シテヤ
ルコトニシタ次第デアリマス
會津方面ニ致シマシテモ、地圖デ御覽ノ
通リ會津ノ谷ハ、非常ニ鐵道ニ惠マレテ居
ラヌノデアリマス、所ガ今度上越線ガ出來
マスト、只見小出間ヲチヨット繋ギマスト、
アノ奧地ノ開發ニ非常ニ便利デアリマス、
卽チ上越線ヘ出テ東京へ參リマスト、非常
ニ短距離ニナルノデ、アノ方面ノ開發ハ必
要デアル、同時ニ柳津ノ方カラモ一應手ヲ
著ケルト云フコトデ、全部開通致シマス計
畫ヲ致シマスト、計畫ヲヤッテ餘程長イ間シ
ナケレバ完成致シマセヌカラ、先ヅ奥地開
發ト云フ意味ニ於テ兩方面カラヤル、サウ
シテシマヒニハ段々ニ繫イデ行クト云フコ
トデ、出來ルダケ早ク完成スル意味デ、兩
方面カラ著手致シタ次第デアリマス、隨テ
私ノ諸君ニ申シテ居リマス所ノ、建設ノ大
キナ方針ニハ何等矛盾シナイト考ヘテ居ル
次第デアリマスカラ、ドウカ御諒承ヲ願ヒ
マス
〔山本厚三君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=38
-
039・山本厚三
○山本厚三君 只今鐵道大臣ヨリ御答辯ヲ
伺ヒマシタガ、第一ノ全廢ニ對スルコトハ
曾テ考ヘタコトモナイト云フ御答辯デアリ
マシテ、只今ノ御考ハ能ク分リマシタガ、
併シ過去二年間ニ貴族院、衆議院デ、隨分
長イ間御答〓ニナッタモノヲ拜見シタリ、拜
聽シテ見マスルト、ドウモ敷設法ト云フモ
ノハ時勢ニ適當シナイ、全廢ト云フコトハ
考ヘタ事ハナイト云フ御意見デハアリマス
ルタ、非常ニ面白クナイモノデアルト云フ
御考ヲ、常ニ御發表ニナッテ居ルノデアリマ
スルカラ、私ハ率直ニソレヲ御聽キシタカッ
タノデアリマスルガ、考ヘタコトモナイト
云フ御考デアレバ、ソレハソレデモ宜シイ
ノデアリマスガ、恐ラク私ハ現鐵道大臣ハ
此敷設法ハ古イ法律デアル、今日ハ寧ロ無
イ方ガ鐵道當局ニ於テモヤリ宜イデハナイ
カト云フコトニ御氣付キニナッテ居ルモノ
ト私ハ了解シテ居ルノデアリマス、ソレカ
ラ次ニ線ヲ擧ゲタ中ニ、特ニ北海道ト云フ
コトヲ御說明ニナリマシタガ、特ニ北海道
ノ名寄朱鞠內ト云フコトヲ申シタ譯デハア
リマセヌ、他ニ幾ラモアリマスガ、最モ分
リ易イノガ今ノ三線デアルト思ァテ一個、
擧ゲタノデアリマス、大臣モアレヲ特ニ御
說明ニナッタカラ、私モモウ一遍之ニ付テ御
尋致シマスルガ、成程此線路ハ相當古イ線
路デアリ、又一遍建設線ニナッタモノデアリ
マスルカラ、之ヲオヤリニナルト云フコト
ハ別ニ惡イトハ初カラ申サヌ、今ノ御說明
ニ依ルト、東西ノ海岸ヲ連結スル所ノ重要
ナ線路デアルト云フ御話デアル、又水力電
氣ハドウトカ云フコトモ御話ニナリマシタ
ガ「オホツク」海ト日本海トヲ彼處デ連絡シ
テ、一體ドウ云フ貨物ヲ御運ビニナルノカ、
私ハ隨分廣イカラ知ラヌ所モ澤山アリマス
ガ、大體ハ知フテ居リマス、大臣モ亦二囘モ
御出デニナッタノデアリマスカラ御承知デ
アラウケレドモ、名寄ト朱鞠內ヲ繫イデ更
ニ羽幌ニ行クノデアリマセウガ、此二ツノ
海ヲ繫イデドウ云フ利益ガアルカ、無論無
イトハ申シマセヌガ、ドウシテモ今年ヤラ
ナケレバナラヌト云フ程ノ强イ利益ハ私ハ
認メナイ、殊ニ水力電氣ノ御話ガアリマシ
タガ、是ハ水力電氣ヲヤッタ爲ニ迂囘ヲ致
シテ··
〔「好イ加減デ止メロ」ト呼ヒ其他發言
スル者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=39
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040・秋田清
○議長(秋田清君) 靜肅ニ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=40
-
041・山本厚三
○山本厚三君(續) 其迂囘ヲ致シタ結果、
水力電氣カラ莫大ナ補償ヲ取ッテ居リマス
カラ、ソレハ宜イ、ケレドモ私共ノ考デ
ハ之ヲ御伺スル理山ハ、之ヲオヤリニナ
ルナラ、寧ロ天鹽ノ沿岸線ヲヤルト非常ニ
便利ナ線ガ出來ル、此方ヲ先ニ御ヤリユナ
ルノガ便利デハナイカ、之ヲ何フテ尙ホ此
點ニ付テ色々御話スルコトモアリマスガ、
他ノ機會ニ之ヲ申上ゲマス、今ノ六ツノ原
則ト云フモノニ付テ、大臣ハ其一ツハ、成
ベク早ク一ツ線ヲ片付ケルノダト仰シヤッ
タガ、ソレバカリデナク、相當立派ナ御議
論ガ發表サレテ居ル、私ハソレガ宜イト思ッ
テ居ル、デアリ]マスカラ其六大原則ト云
フモノニ準據シテ御ヤリニナッタ方ガ宜イ
ト云フ考デ質問シテ居ルノデアリマスガ、
只今ノ御說明ハ、私ハ十分諒承スルコトハ
出來マセヌ、仍テ委員會ニ於テ尙ホ是ハ十
分伺ヒタイト思ヒマスガ、今一應此點ニ付
テ御答辯ガアレバ伺ヒマス、又モウ一ツ御
落シニナッタノハ「バス」問題ニ付テヾゴザ
イマスガ、是ハ尙ホ補足シテ御伺致シマ
ス、「バス」ト豫定線ト矛盾セヌカト云フ御
尋ヲ先ニ致シマシタガ、モウ一ツ之ニ附加
ヘテ「バス」ニ付テ御伺致シマス、ソレハ省營
「バス」ヲヤッタト云フコトハ、是ハ勿論宜
シイコトデアリマシテ、今御ヤリニナッテ
居ルモノニ大贊成デアリマスガ、今民營業
者カラ非常ニ反對ノ陳情ガアッテ、極端ナ
モノハ「バス」ヲ廢止シテ貰ヒタイト云フ陳
情ガ最近來テ居リマス、無論省營「バス」ノ
廢止ナドヽ云フコトハ出來ナイコトデアリ
マスガ、是ハ恐クハ其線ノ選ビ方ニ於テ圓
滿ト申シマスカ、當業者ノ十分ノ諒解ヲ得
ルコトガ出來マセヌ爲ニ、斯樣ナコトヲ言
フノデハナイカ、昨年御發布ニナッタ勅令ニ
依フテ十分補償スルコトガ出來ルノデアリ
マスガ、アノ補償法ト云フモノハ、利益ノ
アッタ時ニハ七箇年分補償スルト云フノデ
アリマスカラ、利益ノナイ時ニハ補償ヲ受
クルコトガ出來ヌノデ多年民營ヲヤッテ居ッ
タ者ガ、國營ヲヤラレテハ困ルト云フコト
カラ、陳情スルノデハナイカト思ヒマス、
又今一ツハ軌道等ノ競爭線ニ付テノ問題デ
アリマシテ、大分陳情ガアッテ、先般鐵道
ノ會議ニ於テ、是等ニ對シテモ補償スルヤ
ウナ規定ニシロ、之ヲシナイ內ハ競爭線ヲ
ヤッテハイカヌト云フヤウナ、希望條件ガ
附イテ居ッタヤウデアリマスガ、此點ニ付
テハ今鐵道會議ノ事ハ、ドウ云フ風ニ當局
デハ是ガ處置ヲ御執リニナルノカ、此「バス」
ニ對スル二點ト、前ノ質問ニ對スル答辯ガ
アレバ、ソレヲ一應伺ヒタイト思ヒマス
〔國務大臣三土忠造君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=41
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042・三土忠造
○國務大臣(三土忠造君) 名寄朱鞠內閣ノ
鐵道ヲ、今度建設計畫ヲ立テタニ付キマシ
テハ、只今申上ゲタ通リデアリマシテ、尙
ホ立入ッタル御話ナラバ、委員會ニ讓ッテ願
ヒタイト思ヒマス、省營自動車ノ事ニ付キ
マシテノ御答辯ヲ申落シマシタガ、自動車
ノ計畫ハ御承知ノ通リデアリマス、然ルニ
計畫ヨリモ金高ニ於テ多クノ線ヲ出シテ居
ルヤウデアルガ、ドウ云フ譯デアルカ、是
ガ間違フト矢張鐵道敷設法ノヤウナ工合
ニ、地方カラ非常ナ運動ヲ起ス因ヲ爲シハ
シナイカト云フ御心配ノヤウデアリマス
ガ、是ハ斯ウ云フコトニナッテ居ルト思ヒ
マス、自動車ノ經營ハ道路ノ經營主體ガ府
縣デアリマスカラ、府縣ト相談シテ、府縣
ガ道路ノ改修ヲスレバ、ソレニ對シテ鐵道
省ハ若干ノ援助ヲスル、サウシテ鐵道省ハ
道路ヲ使ハシテ貰フ、一般公衆ハ自山ニ使
フ、斯ウ云フ建前カラ出來テ居ルノデアリ
マスカラ、政府ガ自由ニ建設ノ出來マス鐵
道ト多少趣ヲ異ニシテ居リマシテ、先ヅ
府縣ト交渉ヲシナケレバナラヌ、府縣デハ
其自動車道路ヲ經營スルニモ、他ノ必要ナ
モノガアッタリ何カシテ、其通リ行カヌコ
トモアル、少シ餘裕ヲ置イテ多ク選ンデ置
イテ、拔差シノ出來ルト云フヤウニシテ、
話ノ付イタ方ヲ先ニヤル、斯ウ云フコトニ
ナッテ居リマスケレドモ、實際ハ其年度ニ
著手スルヨリ多クノ線路ヲ選ンデ居ル譯デ
アリマス、サウシテ置キマセヌト、若シ自
動車經營ガ豫算通リ遂行出來マセヌデ、豫
算ガ餘ッテ實際ノ計畫ガ出來ヌト云フコト
ニナリマスカラ、出來ルダケ豫算通リ多ク
ヤッテ行カウ、其爲ニ斯樣ニ餘裕ヲ取ッタノ
デアリマス、是ガ爲メ決シテ弊害ハ生ジナ
イト思ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=42
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043・秋田清
○議長(秋田〓君) 山本君宜シウゴザイマ
スカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=43
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044・山本厚三
○山本厚三君 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=44
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045・秋田清
○議長(秋田〓君) 質疑終局、本案ノ審査
ヲ付託スベキ委員ノ選擧ニ付テ御諮リ致シ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=45
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046・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 本案ハ議長指名十八名ノ
委員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=46
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047・秋田清
○議長(秋田清君) 靑木君ノ動議ニ御異議
アリマセヌカ
〔「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=47
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048・秋田清
○議長(秋田清君) 御異議ナイト認メマス、
仍テ動議ノ如ク決シマシタ-日程第三、
農業倉庫業法中改正法律案ノ第一讀會ヲ開
キマス-農林大臣後藤文夫君
第三農業倉庫業法中改正法律案(政
府提出、貴族院送付)第一讀會
農業倉庫業法中改正法律案
農業倉庫業法中左ノ通改正ス
第一條第一項第一號中「又ハ土地ニ付權
利ヲ有スル者カ小作料トシテ受ケタル穀
物其ノ他勅令ヲ以テ指定スル物品ヲ所有
スル場合」ヲ「、土地ニ付權利ヲ有スル者
ガ小作料トシテ受ケタル穀物其ノ他勅令
ヲ以テ指定スル物品ヲ所有スル場合又ハ
木炭ノ生產ヲ爲ス者ガ其ノ生產シタル木
炭ヲ所有スル場合」三枚入
第十九條第二項中「前項ノ規定ニ依リ寄
託ヲ受ケタル物品」フルト「又ハ販賣組
合若ハ販賣組合聯合會ガ賣却スル穀物、
繭、木炭其ノ他勅令ヲ以テ指定スル物品」
ヲ加ヘ同條第三項中「又ハ販賣組合若ハ
販賣組合聯合會カ賣却スル物品」ヲ「、販
賣組合若ハ販賣組合聯合會ガ賣却スル物
品又ハ命令ヲ以テ指定スル營利ヲ目的ト
セザル法人ガ賣却若ハ賣却ノ幹旋ヲ爲ス
物品」ニ改メ同條ニ左ノ一項ヲ加フ
前項ノ規定ニ依リ命令ヲ以テ指定スル
營利ヲ目的トセザル法人ノ爲ニ物品ノ
保管ヲ爲スコトヲ得ル聯合農業倉庫業
者ハ命令ヲ以テ之ヲ指定ス
第二十一條第二項中「所屬組合又ハ所屬
聯合會ニ非サル組合又ハ聯合會」ヲ「所
屬組合若ハ所屬聯合會ニ非ザル組合若ハ
聯合會又ハ命令ヲ以テ指定スル營利ヲ目
的トセザル法人」三六人
第二十六條中第一項ノ次ニ左ノ一項ヲ加
フ
第一條第二項ノ規定ハ第十九條第一項
及第二項ニ規定スル寄託物ニ之ヲ準用
ス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=48
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049・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 農業倉庫業法中
改正法律案提出ノ理由ヲ御說明申上ゲマス、
農業倉庫ハ農林、水產業者ニ對シマシテ、
其生產物ノ保管及ビ金融ノ便ヲ得セシムル
重要ナ機關デアルコトハ御承知ノ通リデア
リマス、其原則トシテ居リマスル保管物ハ、
從來穀物、繭等ニ限ラレテ居リマシタ、又
聯合農業倉庫ニ於キマシテハ、箇々ノ農業
倉庫ニ對シマシテ再保管ヲ爲スヲ原則トシ
テ居ッタノデアリマス、現下ノ農山漁村ノ經
濟事情ハ、農業倉庫ノ利用ガ段々進ンデ參
リマシタ、ソレデ農業倉庫法ヲ改正致シマ
シテ、其保管物ノ範圍ヲ擴張シタイト云フ
希望ガ緊切ナノデアリマス、本改正案ハ此
趣旨ヲ以チマシテ提案致シタ次第デアリマ
ス
其改正ノ要旨ヲ簡單ニ申上ゲマスレバ、
第一ニ、木炭生產者ノ爲ニ、農業倉庫ハ本
來ノ受寄物トシテ木炭ヲ保管シ得ルコト
ト致シマシタ、第二ニ聯合農業倉庫ニ於キ
マシテ、販賣組合及ビ販賣組合聯合會ノ賣
却スル穀物、藤木炭、其他勅令ヲ以テ指
定スル物品ノ再保管ト相竝ビマシテ、保管
ヲ爲シ得ルコトニ致シタノデアリマス、第
三ニ聯合農業倉庫ニ於キマシテハ、本來ノ
保管ニ支障ノナイ場合ニ限リマシテ、命令
ヲ以テ指定スル營利ヲ目的トシナイ法人ガ、
賣却又ハ賣却ノ幹旋ヲ爲ス品物ヲモ保管
シ得ルコトヽ致シマシタ、以上ガ改正ノ大
要デアリマス、何卒御審議ノ上速ニ御協賛
アランコトヲ切望致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=49
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050・秋田清
○議長(秋田〓君) 通〓順ニ依リ質疑ヲ許
シマス、武知勇記君
〔武知勇記君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=50
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051・武知勇記
○武知勇記君 極メテ簡單ニ質問ヲ致シタ
イト存ジマスルガ故ニ、大臣モ亦簡明ニ御答
辯下サルコトヲ望ンデ置キマス、只今後藤
農林大臣ノ本案提出ノ御說明ニモアリマシ
タヤウニ、農業倉庫本來ノ使命ハ、農山漁
村ノ住民ニ對シマシテ其生產物ヲ保管シ、
之ニ金融ノ便ヲ與フルコトヲ以テ目的ト致
シタモノデアリマス、然ルニ今日マデ農業
倉庫ハ原則トシテ、只今御話ノヤウニ米ト
籾ト繭ト、勅令ヲ以テ指定致シテ居ル砂糖
トニ限定セラレマシテ、海產物、林產物等
ハ第二義的ノ保管物トシテ、受寄物ノ原則
ヨリ除外致シテ居シタノデアリマス、是ハ農
業倉庫設置ノ本旨ニ顧ミマスル時ニ、少ク
トモ山村漁村ニ對シテ不公平ナ扱デアッタ
ト云フコトガ出來ルノデアリマス、コヽ數年以
前マデハ、山村モ漁村モ農村ト云フ呼名ノ下
ニ包含セラレテ居リマシタケレドモ、海岸
漁民竝ニ山村住民ノ生活窮乏ノ狀態ガ、農
村農民以上ニ悲慘ナモノデアルト云フコト
ガ判然致シマシタノデ、是ガ對策上特ニ農
山漁村ト區別シ、ソレ〓〓其特異性ヲ認ム
ルニ至ッタノデアリマスケレドモ、何分ニモ
長イ間ノ傳統ト習慣トハ、依然トシテ農村
農民ヲ第一義トシ、漁村山村ニ對スル施設
ニ於テ、兎角缺クル所ノ多カッタコトハ、私
共ノ頗ル遺憾ニ感ジタ所デアリマス、然ルニ
只今御提案ニナリマシタ改正ノ眼目ヲ承リ
マスルト、山村ノ主要產物タル木炭ノ保管
ヲ原則ニ御認メニナッテ、之ニ金融ノ便ヲ與
ヘントセラルヽノデアリマスルカラ、洵
機宜ニ適シタ事デ、私共ハ衷心ヨリ贊意ヲ
表スル者デアリマス、併シ同時ニ海產物ノ
ミヲ除外シ、獨リ漁村ニ對シテノミ農業倉庫
ノ利益ヲ均霑セシメザル理由ヲ質サナケレ
バナラヌノデアリマス、從來ニ於キマシテ
モ倉庫ニ餘裕ノアリマスル場合ニハ、林產物モ海
產物モ第二義的ニ取扱ヲ受ケテ居リマシタガ、
今囘其林產物中所謂主要ナル木炭ガ、受寄物
ノ原則ニ特定致サレマシタ以上ハ、海產物ノ中
デ例ヘバ鮑トカ、貽貝トカ、乾海老トカ、
海鼠ノヤウナ海外輸出向ノ魚介類、及ビ和
布、鹿尾菜ノ如キ海草類ヲモ保管物トシテ
認メテ、金融ノ梗塞シテ居リマスル漁村民
ニ對シマシテ、多少タリトモ其財政ヲ緩和
スベキガ、公平且ツ至當ノモノデアルト私
ハ信ジテ疑ヒマセヌ(拍手)政府ハ此提案理
山ノ說明書ノ中ニアリマスルヤウニ「農林
漁業ノ現況ニ鑑ミ」ト明記シテ、其所信ヲ
示シテ居ラレルニ拘ラズ、如何ナル理山ト
事情トニ依ッテ、漁村ノミニ農業倉庫ノ利
益ヲ均霑セシメナイノデアルカ、此點ヲ第
一ニ伺ヒマス
第二ニ御尋申上ゲタイコトハ、木炭ヲ收
容致シマスルノニハ、相當廣大ナル容積ヲ
必要ト致スノデアリマス、本案通過ノ曉ニ
於キマシテ、農業倉庫ニ餘力アリトハ私共
ハ考ヘラレナイノデアリマスガ、如何ナル
設備ト方法ニ依フテ、保管ヲセラレルノデ
アルカ、現ニ籾及ビ米ノ貯藏ノ爲ニ農業倉
庫竝ニ指定倉庫ハ、明ニ不足ヲ〓ゲテ居ル
ノデアリマス、隨テ倉庫ニ餘裕アリトモ認
メラレマセヌガ故ニ、簡易ナ建增シデモシ
テ、所謂軒積式ニセラレルノカ、ソレトモ
野積ニシテ雨覆ヒデモ掛ケラレル御積リデ
アルカ、唯單ニ保管ノミヲ目的トスルモノ
デアリマスナラバ、此簡略ナ設備デモ差支
ハナカラウト思フノデアリマスルガ、苟モ
金融ヲ伴フ保管デアリマスガ故ニ、相當ノ
設備ヲ必要トスルコトヽ存ジマス、卽チ木
炭ノ庫入保管ノ方法等ニ付テ、御說明ヲ承
レヽバ仕合デアリマス
第三ニハ今日ハ洵ニ山村ハ金融困難ヲ〓
ゲテ居ル時デアリマスルガ故ニ、本改正案
實施ノ際ニハ、極ク簡易迅速ナ方法デ、金
融ノ便ヲ開イテ貰ヒタイノデアル、卽チ木
炭金融ニ付テ、山村住民ノ期待ニ反セザル
ダケノ用意ト準備トガアルカドウカヲ承リ
タイノデアリマス
最後ニ私ハ御許シヲ得テ特ニ申上ゲタイ
コトハ、山村ノ福社ヲ齎ラスベキ、本案審
議ノ此機會ニ、山村特ニ國有林野所在地ニ
對スル農林當局ノ經綸ト云フヨリモ、認識如
何ヲ質シテ置キタイコトガアルノデアリマ
ス、御承知ノ如ク我國ハ北海道ヲ除ク內地
ニ於キマシテ、四百二十万町步ノ國有林ヲ
有ッテ居ル、其國有林ハ內地二千三百二
十九ノ町村ニ所在致シテ居ルノデアリマス
ルガ故ニ、一町村約千八百町步ヲ包容致シ
テ居ルノデアリマス、此廣大ナ國有地ヲ包
容シテ居ル所ノ山村ハ、是等ノ國有地ニ向ク
テ地租附加税モ反別割モ賦課スルコトガ出
來ナイノデアル、山村ニ對スル大部分ハ擧
ゲテ國庫ノ有ニ歸スルノミナラズ、伐採、
木材運搬ニ依リマシテ、縣道或ハ村道、部
落道ガ損傷セラルヽコト洵ニ夥シク、爲の
村財政ノ窮乏ハ思ヒ半バニ過グルモノガア
ルノデアリマス、政府ハ此事實ヲ御認メニ
ナルカドウカ、今國有林分布ノ狀態ヲ按ジ
マスルノニ、日本デ一番多イノハ福島縣デ
約四十五万町步ゴザイマス、其次ガ岩手
縣デ四十二万町步、其次ガ靑森縣デ四十一
万町步、其次ガ秋田縣デ四十万町步、其次
ノ第五位ガ山形縣ノ三十五万町步ト云フ順
位ニナッテ居ルノデゴザイマスガ、是等東北
五縣ノ縣經濟ト云フモノガ洵ニ困難デアフ
テ、山村住民ノ財政裕カナラザル所ノ現狀
ハ、其面積ノ大部分ガ國有林野ニ依フテ占
有セラレルコトニ原因スルト言ハナケレバ
ナラヌノデアリマス(拍手)現在秋田縣ハ縣
會議長始メ政友、民政兩黨ノ支部長幹事長
ノ名ヲ以テ、當議會ニ此國有林野所在ノ山
村ニ對シ地方稅額ニ相當スル國庫交付金ノ
下付ヲ請願致シテ居リマスルガ、半面ニ於
テ如何ニ財政ガ窮乏ニ陷テ居ルカト云フ
事實ヲ物語ルモノト存ジマス、今更申スマ
デモナク、山村ハ文字通リ山間僻地ニ位シ
テ居リマスルノデ、農耕其他ノ生業ニ乏シ
ク、勢ヒ林野ヲ以テ其生計ノ根幹トシナケ
レバナラナイノデアリマスルガ、然ルニ其
林野ノ大部分ガ國家ニ占有セラルヽニ於キ
マシテハ、住民ノ生活ニ餘裕ノ生ズル道理
ナク、村財政ノ收入ノ途ノアラウ筈ガナ
〃、刻々ニ迫ル私經濟ノ窮迫ト相俟シテ、
山村自治體ノ基礎ハ實ニ危殆ニ陷ヲテ居ル
ト申上ゲテモ敢テ過言デハナイノデア
リマス(拍手)政府ニ於キマシテモ旣ニ
此情勢ヲ御認識ニナッタレバコソ、現行制
度ノ國庫交付金ヲ下附サレテ居ルノデハア
リマセヌカ、併シ其下附セラルヽ額ハ僅
ニ三十八万三千九十九圓ニ過ギナイ、所謂
地租附加稅ニ相當スル金額ヲ、是等山村ニ
交付シテ其財政ヲ圓滑ナラシメントセラレ
ル、御趣旨ハ洵ニ私共山村民ノ感謝スル所
デアリマスルガ、遺憾ナガラ其額僅少ニシ
テ、二階カラ目藥的ナ、洵ニ微溫的ナ效果
シカナイノデアリマス、何トナレバ四百二
十万町步ノ國有林ノ中約六十万町步ノ保安
林ガアリマスルカラ、之ヲ差引イテ、尙ホ
殘地三百六十餘万町步ゴザイマスルガ、之
ニ對シテ三十八万圓ノ國庫交付金ハ、反
一錢程ニシカ付カナイノデアリマス、然ル
ニ國有林野所在ノ山村民ハ、地租附加稅ヲ
始メ反別割其他部落費等夥シキ公租公課ノ
重壓ニ喘イデ居リマス、一例ヲ申上ゲレバ
愛媛縣上浮穴郡柚川村ハ、國有林所在ノ山
村トシテ、每年國庫カラ約一千圓ノ交付金
ヲ受ケテ居リマスルガ、同村民ニ賦課シテ居
リマスル段別割ヲ、今國有林地ニ賦課シ得
ラルヽモノデアルトスルナラバ、同村ハ實
ニ一箇年三万八千六百二十一圓ノ收入ヲ得
ルコトガ出來ルノデアルガ、現行制度ノ下
ニ於テハ、之ヲシモ尙ホ千圓ニ甘ンジナケ
レバナラヌト云フ實狀ニ置カレテ居リマス
(拍手)況ヤ諸君、地元町村ハ山間僻地デア
リマスルガ故ニ、勢ヒ此地方開發ノ爲ニ一
本ノ道路ヲ要求致シマス、赤字ニ惱ミツヽ
モ尙ホ借金ニ借金ヲ重ネテ路道ノ改修新設
ヲ致スノデアリマスルガ、一度其道路ガ山
間僻地ニ改修致サレマスルト、誰ガ一番先
ニ利用スルカト申セバ、其山ノ奧ニアル國
有林野、卽チ營林署或ハ營林局ガ、國有林
伐採ノ材木ヲ運搬スル爲ニ使フノデアリマ
ス、破損ヲ致シマシテモ餘リ修繕費ヲ呉レ
ナイガ爲ニ、地元村町ハ營林署或ハ營林局
ニ談判ヲ致シマシテ、强談判ヲ致シマスル
ト、受益者負擔ノ法律ガアルカラ、ソレニ
依ッテ請求相成ッテハ如何カト親切ニハ申シ
テ吳レマスルガ、手續ガ煩雜デアッテ、到底
其受益金負擔ナルモノヲ國ニ負ハスコトハ
出來マセヌ、ソコデ區分改修ナドヲ致シマ
シテオ茶ヲ濁シテ居ルノヂアリマスルガ、
一體政府ハ一箇年平均ドノ位此道路ノ修繕
費トカ、或ハ受益ヲ感ジマシテ、是等ノ村
ニ區分改修ナドニ依ッテ道路費ヲ出シテ居
ラレルカ、數字ヲ擧ゲテ御說明ヲ願ヘバ私
共洵ニ滿足ニ存ズルノデアリマス、私ハ以
上申上ゲマシタコトヲ要約シテ次ノ數項ニ
亙ッテ政府ノ御方針ヲ承リタイト思フ
卽チ第一ハ政府ハ國有林野所在ノ山村ニ
對シ、現行交付金制度ヲ以テ十分ナリト思
惟セラルヽヤ、更ニ是デハ不滿足ナリト感
ジテ增額スル所ノ御意思アリヤ否ヤ、第二
ハ秋田縣ノ如キハ、其收入八百万圓デアル
ト申シテ居ル、無論支出モアリマスルガ、
秋田縣、高知縣ハ此林野行政ニ於テハ黑字
ヲ出シテ居ル、是等ノ非常ニ利益ヲ擧ゲテ
居ル地方モ、他ノ赤字ヲ出シテ居ル地方ト
同一率ノ地租附加稅ノ交付金シカナイノデ
アリマスルガ故ニ、此制度ヲ改廢シテ、何
トカヨリ良キ案ヲ立テル所ノ御〓究ガアル
カドウカ、卽チ受益者本位ニ依ルガ是ナリ
ヤ、或ハ現行制度ノ如ク物稅本位ヲ妥當ナ
リトセラルヽヤ、其御見解ヲ承リタイノデ
アリマス、尙ホ先刻申シマシタ通リ目下本
院ニ向フテ請願ヲ致シテ居ル地方稅額ニ相
當スル國庫交付金ヲ下附セヨトノ請願ニ對
スル政府ノ御見解如何、第四ハ國有林野所
在ノ山村ガ道路ヲ新設又ハ改修シ、是ガ爲
ニ受益ヲ感ジタル場合、或ハ材木搬出等ニ
際シテ道路ヲ損傷シタル場合、從來ノ如キ
官僚思想ヲ一變シテ、欣然トシテ是ガ負擔
ニ協力スル所ノ誠意アリヤ否ヤ、以上ノ點
ヲ御伺致シマス(拍手)
重ネテ申上ゲマスルガ、玆ニ農業倉庫業
法中改正法律案ガ提案セラレテ、軈テ各位
ノ御協贊ニ依フテ山村民ノ爲ニ、木炭金融ノ
便ハ開カレント致シテ居リマスルガ、眞ニ財
政窮乏シテ、疲弊困憊ノ極ニ達シテ居ル山
村民ニ取ッテハ、此恩典モ全ク九牛ノ一毛ニ
シカ過ギナイノデアリマス、所謂山村ニ春訪
レド肌寒シノ感ガアルノデアリマス、私ハ
當局ノ同情ト理解アル御答辯ヲ望マント欲
シテ敢テ以上ノ質問ヲ致シタノデアリマス
ルガ、大綱ニ至リマシテハ後藤農林大臣、
又專門ニ互ルコトニ關シマシテハ山林局長
ニテ結構デアリマスカラ、私等山村民ガ滿
足スルニ足ルダケノ親切ナル御答辯アラン
コトヲ希望シテ此壇ヲ降ルモノデアリマス
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=51
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052・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 御答ヲ致シマ
ス、漁村ノ產物ニ對シテハマダ農業倉庫ノ
原則的ノ保管物トシテ之ヲ認メナイノハド
ウ云フ譯カト云フ御尋デアリマス、是モ漁
村ニ於ケル產業組合等ノ發達、漁業組合ノ
發達等ニ連レマシテ漸次保管物ノ範圍ヲモ
之ニ及ボシタイト云フ考ヲ有ッテ居リマス、
唯現在ノ農業倉庫ノ實況ニ於キマシテハ、
又漁村ノ品物ガ集"テ來ル組合等ノ發達ノ
狀況ニ於キマシテ、今日ノ所マダ其處マデ
手ヲ擴ゲル時期ニ達シテ居ラヌト考ヘテ居
ルノデアリマシテ、將來ハサウ云フ方向ヘ
進ミタイ積リデ居リマス、ソレカラ倉庫ノ
餘力ガ今日ノ現狀デハ足ラナイカラ、木炭
ヲ保管スルニシテモソレハドウ云フ風ナヤ
リ方デ保管サレ、金融ガ付クヤウニナルデ
アラウカト云フ御話デアリマス、木炭ノ倉
庫ハ米繭等ノ倉庫ニ較ベマスト、大分簡易
ナ設備デ出來マス、餘力ノ缺乏シテ居ル場
合ニハ、相當ナル簡易施設ヲシテ、是デ間
ニ合セルコトモ出來ルト思ヒマス、現在デ
モ此法ノ改正ニ依ッテ木炭ガ保管サレ、金融
ノ便ヲ得ル途ハ相當ニ講ゼラレルト思ヒマ
スルシ、將來ハ無論斯ウ云フ制度ニ依フテ
十分ナ便宜ガ圖ラレルヤウニ相成ルコトヽ
思ヒマス
次ニ金融ノ關係ニ付テノ御尋デアリマス
ガ、是ハ木炭ガ農業倉庫ニ保管ヲサレルコ
トニナリマスレバ、ソレ〓〓金融ノ系統ヲ
通シマシテ、金融ノ便ガ漸次開カレルコト
ニ自然相成ル譯デアリマシテ、ソレガ此改
正ノ主ナル目的ノ一ツナノデアリマス
次ニ國有林野ト地元トノ關係ニ付テノ御
質問デアリマス、只今ノ國庫交付金ノ現狀
デ宜シイト思フカ、或ハ地方稅額相當ノモ
ノヲ交付金トシテヤルヤウナコトハドウカ
ト云フ御尋デアリマス、地元ト國有林野ト
ノ關係ハ、吾々出來ル限リ密接ニ致シタイ、
國有林野ノ色々ナ經營ニ於キマシテモ、地
元ノ爲ニ潤ヒノ來ルヤウニ、色々ナ事柄ヲ
考ヘテ貰ヒタイト云フコトデ努力ヲ致シテ
居リマス、唯交付金ノ增額ト云フ問題ハ、
一般財政ト密接ナ關係ヲ有ッテ居ルノデア
リマシテ、一般財政ノ關係ヲ考慮シテ〓究
ヲ致シテ參ランケレバナラヌ問題デアルト
考ヘテ居リマス、尙ホ道路等ヲ修繕シテ國
有林野ノ利益ニナル場合ニ、國有林野ノ關
係デ、修繕費ヲ分擔スルコトニ付テノ御話
デアリマス、是等ノコトニ付テハ、今日マ
デ或ハ御話ノヤウニ十分ニ行キ兼ネテ居ル
所ガアルカモ知レマセヌガ、現在ドレダケ
ノ經費ヲサウ云フ方面ニ出シテ居ルカト云
フコトハ、一寸ハッキリ致シマセヌ、唯國有
林野ノ關係デ、出來ルダケサウ云フ場合ノ
調節ヲモ圖ルヤウニ考ヘテハ居ルト思ヒマ
ス、先年來時局匡救ノ土木事業ヲ致シマス
際ニモ、國有林野ノ林道ノ開發ヲ致シ、又
其地元等ニモ林道ノ開設ニ付テハ相當ナル
補助等ヲモ與ヘマシテ、國有林野ト地元ト
ノ關係ヲ調和シ、密接ユシテ相倚リ相助ケ
ルヤウニスルト云フコトニハ努力ヲ致シテ
居ル積リデアリマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=52
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053・武知勇記
○武知勇記君 極メテ簡單デゴザイマスカ
ラ、此席デ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=53
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054・秋田清
○議長(秋田〓君) 許シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=54
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055・武知勇記
○武知勇記君 只今ノ大臣ノ御答辯ハ大體
ニ於テ之ヲ諒承致シマシタ、此際抽象的デ
ハアリマスルガ、一言加ヘテ置キタイコト
ハ、本案ハ形ダケハ頗ル立派ナモノデアル、
又御答辯ニ依ヶテモ、相當ノ御期待ヲ持フテ
居ラレルノデアルガ、果シテ實施後ニ只今
御期待ノ如キ效果ヲ認メ得ルヤ否ヤ、私ハ
多少ノ疑ヲ有ツ者デアリマス、例ヘバ借金ガ
農村ノ癌デアルト云フノデ、農村負債整理
組合法ヲ作リマシテ、大臣ハ第一年ニ於テ
四千組合ヲ作ルト豪語セラレタニモ拘ラ
ズ、僅ニ百數十ノ組合ダケ出來テ、其成績
モ擧ッテ居リマセヌ、又米穀統制法ノ如キ
モ、其失敗ハ眼ニ見エテ居ル、行詰ルマデ
行詰ラシテ、サウシテ百姓ガドレダケノ利
益ヲ得タカト云フコトヲ、私共ハ考ヘザル
ヲ得ナイノデアリマス、コヽ一二年農林當
局ノ御出シニナル政策ハ、審議ノ際ニノミ
百姓ノ氣休メニナルバカリデアッテ實施後
ニ至ッテハ決シテ農村大衆ノ潤ヒニナッテ居
ラナイコトヲ、私ハ發見致シテ居リマス(拍
手)是ハ法律其モノニ缺陷ガアルノカ、農
林當局ニ責任ガアルノカ、此處デ論議致シ
マセヌガ、本案ノ如キモ折角山村ニ福利ヲ
齎ラス所ノ法律デアルガ故ニ、願クハ審議
ノ際ニノミ山村民ヲ喜バセズ、實施後ニ於
テモ山村民ノ期待ニ反セザランヤウ、今カ
ラ一段ノ御留意アランコトヲ私ハ希望シマ
ス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=55
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056・秋田清
○議長(秋田〓君) 風見章君
〔風見章君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=56
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057・風見章
○風見章君 農業倉庫法中改正法律案ニ關
シテ約五點程質問致シマス、大體私ノ質問
ハ、總理大臣ニ同時ニ答辯ヲシテ貰ヒタイ
ノデアリマスルガ、今出席シテ居ラナイ、
農林大臣ニハ私ノ質問ノ趣旨ヲ總理大臣ニ
傳ヘラレテ、適當ノ機會ニ答辯スルヤウニ
取計ラウコトヲ希望シマス
今期ノ議會ヲ通シテ國民生活ニ關係ノア
ル議案トシテ提案サレタモノハ、先ヅ最初
ノモノガ此農業倉庫業法中改正法律案デア
リマス、此間ノ治安維持法案ハ、電大ナ法
案デアリマスケレドモ、併シ直接國民生活
ニ關係ノアル法案デハナイ、本案ガ齋藤內
閣前議會以來一年間ニ練リニ練ッテ考付イ
タ案デアルカドウカ知レマセヌケレドモ、
今期議會ニ國民生活ニ關係ノアル議案トシ
テ初メテ提出サレタ、斯ウ云フ意味合ニナッ
テ居ルノデアリマスルガ、私ハ第一ニ先ヅ
本案ガ、サウ云フ意味ニ於テ初メテ提出サ
レタコトヲ見ルニ付ケマシテモ、齋藤内閣
ノ所謂政策ノ貧困サニ驚カザルヲ得ナイ一
人デアリマス、アレ程昨年以來內政會議ト
カ幾多ノ大騒ギヲシテ、農村問題ヲ云々シテ
居リナガラ、議會ノ召集ハ今日アルコトハ
既ニ決ッタ事實デアルニ拘ラズ、議會開會後
ヤット國民生活、農村問題ニ關シテ出シ得
タ議案ガ此議案ダケナンデス、斯樣ナ意味
ニ於テ私ハ斯ウ云フ議案シカ-成程木炭
ニ關スル問題ハ、其事自身決シテ輕イモノ
デハアリマセヌケレドモ、此議會ノ劈頭ニ
斯ウ云フ議案シカ出セナカッタト云フコト
ハ、私ハ斯ウ云フ內閣ヲ持ツコトハ、洵ニ國
民ノ爲ニ泣キタタナル程悲マザルヲ得ナイ
(拍手)サウ云フ意味ニ於テ、何故モット澤山
ナ根本的ナ問題ヲ、農村問題ニ關スル議案
トシテ先ニ出サナカッタカ、斯ウ云フコトヲ
第一ニ質問シタイ、大體農村問題ニ關シテ
現内閣ノ根本方針ガ何デアルカ分ヲテ居ラ
ナイ、分クテ居ラナイデ、斯ウ云フ議案ダケヲ
出シテ見タ所ガ、果シテ吾々ハ本當ニ審議
ヲ十分ニ畫スコトガ出來ルカ、議會ノ開會
ハ疾カラ分ッテ居ッタコトナンデス、人ヲ招ン
デ置イテ其處へ御客サンガ行ッタ、出シタモ
ノハ漬物一切、アトハドウスルノダト云ヘ
バ、齋藤總理大臣、農林當局初メ、只今考
慮中ダト云フヤウナコトデ、果シテ議會政治
ノ信用ガ保テ得ルカ、斯ノ如ク議員ノ審議
權ヲ無視シタル態度ガ、今日ノ議會政治ノ
權威ヲ維持スル所以デアルカ、斯ウ云フ點
カラ考ヘマシテモ、私ハ最初ニ國民生活ニ
關係アル議案トシテ、斯ノ如キ議案シカ出
セナカァタ現内閣ノ政策ノ貧困、隨テ無能無
策ヲ思フ時ニ、內閣ハ寧ロ引退シテ、他ノ
政策ノ豐富ナル者ニ讓ルコトガ當然ダト考
ヘルカドウカ(拍手)サウ考ヘルノガ私ハ當
然ダト思フ、ソコデ其點ニ關シテ總理大臣
竝ニ國務大臣トシテノ農林大臣デモ宜イガ
聽イテ置キタイ、今迄ノコトヲ簡單ニ言ヘ
バ、私ハ實ハ此法案ガ出マシタ時ニ泣キタ
イ程悲シクモナッタケレドモ、一面ニ於テハ
噴飯ヲ禁ジ得ナカッタ、現內閣ニハ三人ノ長
老ガ居ラレル、モウ年モ大分取ッテ居ル、
寒イカラ一番大切ナノハ炭デアル、ソコデ
木炭ノ政策ヲ最初ニ考付イタノカ(拍手)斯
ウマデ思ッテ噴飯ニ堪ヘナカッタノデアルガ
議會ノ最初ニ出ス法案ニ斯ウ云フモノヲ出
スト云フノハ、大體現內閣ハ農山漁村政策
ニ關スル第一國策ハ、斯ウ云フモノニデモ
アルト考ヘテ居ルノカト云フコトガ、私ノ
質問ノ一ツデアル(拍手)
モウ一ツハ斯ウ云フヤウナコトデ議會ノ
權威ヲ保チ得ルト考ヘルカドウカ、此點ガ
ッ、吾々ハ根本方針ヲ示サレズニ、枝葉
末節ノ法案ダケヲ出サレテモ、十分ニ審議
出來ナイコトハ中スマデモナイ、隨テ政府
ハ速ニ根本方策ヲ示スベキデアルケレドモ、
昨日モ政友會ノ諸君ト私ガ總理大臣三〇円
テ此點ニ言及シタ所ガ、考ヘテ居リマス、
此一點張リデアル、考ヘテ居ルノ一點張リ
デアル、一年八箇月間農村對策ヲ考ヘ來ッテ、
床次サンハ「スローモーシヨン」ダト言ッタ
ガ、私ハ「スロー」ト云フ位ノ言葉デハ當ル
マイト思フ、是ハ齒車ガ無クナッテシマッテ
居ル、齒車ガ無クナッテ動カナイ車ニナッテ
シマッテ居ルカラ、斯ノ如ク行動ガ緩慢ナ
ノデアル、サウ云フヤウナコトデアッテ
ハ、吾々ハ本當ニ此議案ヲ審議スルコトガ
出來ナイガ、現內閣ハ何時ニナッタラ農
村對策ニ關スル根本方策ヲ示スコトガ出來
ルカ、此點ヲ聞イテ置キタイ、本案ガ漁業
關係ニ關シテ甚ダ冷淡デアルト云フコト
ハ、武知君ガ指摘サレ、貴族院ノ委員會ニ
於テモ問題ニナッタ、私モ全ク同感デアル、
併シ此點ニ關シテハ、先程農林大臣ガ何カ
答辯ガアリマシタカラ、此點ハ私別ニ問ハ
ナイ、更ニ聞キタイコトハ一體農業倉庫
業法ヲ改正スルト云フナラバ、政府ニシテ
眞ニ農山漁村ノ對策ニ熱心デアッタトシタ
ナラバ、單ニ此位ノ改正デハナシニ、モット
廣範圍ノ改正案ヲ出シチ宜イ筈デアル、蠶
絲業問題ニ關シテハ、乾繭倉庫問題ハドウ
ナルノダ、倉ガ乏シイノデハナイカ、然ラ
バ農業倉庫業法ヲ改正シテ倉ヲ澤山造フテ、
只デ倉庫業者ニ貸シテヤル、斯ウ云フヤウ
ナ徹底シタ案マデモ、此農業倉庫業法中改正
法律案ト同時ニ出スノガ當然デアル(拍手)
然ルニ現内閣ノ何時モノ對策ト同樣デアッ
テ、單ニ織接政策シカヤラナイ、隨テ爲ス
コトスルコト總テ斷片的デアル、其斷片的
ノ繼接政策ノ一端トシテ此法案ガ生レテ來
タ、斯ウ云フヤウナ印象シカ吾々ハ持チ得
ナイノデアルガ、政府ハ寧ロ此案ヲ一度撤
囘シテ、今私ガ言フヤウニ、農山漁村全體
ノ窮乏ヲ救フベキ有效ナル機關トシテノ、
農業倉庫業法中改正法律案トシテ出シ直ス
考ガアルカナイカ、此點ガ一ツ
最後ニ、私ハ此案ニ關スル農林大臣ノ說
明ヲ聞イテ居リマスルト、農林大臣ハ木炭
業者ニ關スル本當ノコトヲ知ッテ居ラナイ
ト云フ感ジシカ持チ得ナイ、何故私ガサウ
言フカト申シマスルト、此法案ノ提出ノ理由
ニハ「木炭生產者ノ金融ノ圓滑ヲ期スルト
共ニ」ト斯ウアッテ、木炭ノ生產者ヲ何カ救
濟スルヤウナ意味ニ聞エルノデアリマスル
が、今日ノ木炭生産業者ノ實際ノ狀況ヲ見
マスルト、生產業者ハ造リ出シタ本炭ヲ倉
庫ニ保管シ、保管スルコトニ依フテ金融ヲ
圖ノヲ貰フト云フヤウナ、ソンナ生優シイ
餘裕ノアル狀態ニハ置カレテ居ラナイノデ
アリマス(拍手)ドウ云フ狀勢ニナッテ居ル
カト申シマスルト、其日ニ造ッタ物ヲ、直
グニ明日ノ食べ物ト交換スル爲ニ賣出サナ
ケレバナラナイ、斯ウ云フヤウナ窮迫シタ
狀態ニアルノデアリマスルカラ、今日ノ木
炭製造業者ニ取ッテハ、造ヲタ木炭ヲ倉庫ニ
預ケル、ソレニ依フテ金融ノ途ヲ圖ッテ貰フ、
由テ以テ自分ノ生活ヲ安定セシムル、斯ウ
云フヤウナ生優シイ狀態ニハ置カレテ居ラ
ナイ、デアリマスルカラ、今日ノ木炭製造
業者ニ取ッテ最モ希望スル所ハ、安イ原料材
ノ提供ナンデアル、原料材ヲ安ク提供シテ
貰ヒタイ、例ヘバ營林署ノ原料材ヲ今日ヨ
リモズット安ク拂下ゲテ貰ヒタイ、サウ云フ
ヤウニシテ原料材ヲ先ヅ十分ニ低廉ニ手ニ
入ルヤウニシテ貰フコトガ、今日ノ木炭生
產業者ニ取ッテハ最モ急務ナンデアル、卽チ
約メテ言ヘバ、今日ノ木炭生產業者ニ取ッ
テノ希望ハ、原料材ノ拂下代金ノ低廉ナル
コト、更ニ進ンデ薪炭用ノ窯、之ヲ築造ス
ル所ノ低利資金ヲ貸シテ貰フ方ガ、木炭製
造業者ニ取ッテハ最モ生活ニ卽シタ遣方ナ
ンデアル(拍手)所ガ此案ハサウ云フヤウナ
點ニハチットモ觸レテ居ラナイ、現在ノ狀
勢ハドチラカト言ヒマスレバ、消費者ニ賣
渡サルヽ値段ハ倍額ニナッテ居ル、是ハ仲買
人ノ關係カラサウナッテ來ルノデアリマス
ルカラ、現在ノ如ク造ッタ炭ヲ直グニ賣出
シテ、直グニ仲買人ノ手ニ渡シテ、明日ノ
食べ物ヲ買入レル、斯ウ云フヤウナ窮迫シ
タル狀態ノ下ニ於キマシテハ、折角ノ農業
倉庫業法中改正法律案デアリマスルケレド
モ、此改正ヲ利用スルコトハ一般ノ木炭製
造業者ニハ機會ガ無イノデアリマス、斯ウ
云フ狀態ニナッテ居ルノデアリマスルカラ、
本當ニ現內閣ニシテ木炭生產者ヲ助ケント
スル誠意ガアリ、其實情ヲ知ッテ居ルナラ
バ、前刻申上ゲタ如ク、原料材ヲ安ク提供ス
ル、生產用ノ窯ノ築造ニ對シテ安イ金ヲ貸
ス、斯ウ云フ根本的ノ方針ヲ先ヅ決メテ、
其方針ヲ實現スルコトガ最大ノ急務ナンデ
アル、然ルニサウ云フコトハツナイデ、單ニ
斯ウ云フ法律一本デ、木炭生產者ヲ如何ニモ
政府ガ優遇セントスルガ如キ恰好ヲ示スコ
トハ、現内閣ノ常套手段タル所謂羊頭ヲ揭
ゲテ狗肉ヲ賣ラントスルモノデアル(拍手)
私ハ現内閣ノ此態度ニ對シテ甚ダ遺憾ノ意
ヲ表セザルヲ得ナイノデアリマス、ソコデ
農林當局ニ聽クノデアルガ、今私ガ申上ゲ
タヤウナ點ニ關スル農林當局ノ認識如何、
私共ノ認識ト同ジヤウダト云フナラバ、之
ニ對スル對策如何、此點ニ關シ今期議會ヲ
通シテ之ニ對スル對策ヲ講ズルノ考ガアル
カドウカ、以上數點ニ關シテ農林大臣、竝
ニ總理大臣ノ答辯スベキ部分ニシテ必要ア
ル部分ハ、農林大臣ガ總理大臣ト相談ノ上
ニ答辯アランコトヲ希望シマス(拍手)
〔國務大臣後藤文夫君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=57
-
058・後藤文夫
○國務大臣(後藤文夫君) 農業倉庫法案ガ
最初ニ出サレタコトハ、之ヲ以テ農村對策
ノエライ大キナモノト考ヘテ出シタノカト
云フヤウナ趣旨ノ御尋ガアリマシタガ、此
外ニモ提案シタイト今急イデ居ルモノガゴ
ザイマス、是ハ出來タモノカラ出シタト云
フ譯デアリマス、併シ是モ決シテ重要ナモ
ノデナイトハ考ヘテ居リマセヌ、ソレカラ
此農業倉庫ノ改正案ハ、改正ノ點モ少イシ、
何カ根本的ノ改正案ヲ、之ヲ引込メテ出シ
直スヤウナ考ハナイカト云フヤウナ御尋デ
アリマスガ、之ヲ引込メテ出シ直スト云フ
考ハゴザイマセヌ、農業倉庫ノ將來ヲ考ヘ
マスレバ、色々大キナ問題モアリマスルガ、
是ハ農業倉庫ノ機能ヲ現在ノ狀況ニ照シテ
擴張致シタイ、又確實ニ擴張シテモ宜カラ
ウト思フ程ノ改正案ヲ、只今ノ適切ナ問題
トシテ提出シタ譯デゴザイマス、次ニ木炭
業者ノコトヲ考ヘルナラバ、農業倉庫ニ木
炭ガ保管サレルト云フ途ヲ開クノミナラ
ズ、其外ニモ色々考ヘルコトガアルノデハ
ナイカ、是ハ私御說ノ通リダト思ヒマス、
此改正案ハ木炭ヲ保管スル農業倉庫ノ機能
ニ付テノ改正デアリマシテ、是ダケデ木炭
業者ノ全部ノ救濟ヲスルト云フコトデハゴ
ザイマセヌ、木炭業者ニ付テハ或ハ低利ノ
資金ヲ供給シテ窯ヲ造ラセテヤッタラドウ
ダトカ、或ハ窯ヲ造ルノニ補助ヲ出シテヤッ
タラドウダトカ、或ハ安イ原料ヲ與ヘタラ
ドウダトカ云フ御意見モゴザイマシタケレ
ドモ、是等ニ付テハ皆私共ハ今日迄考ヘテ
居リマスルシ、又實行モシテ居リマス、國
有林野ニ付キマシテハ、木炭製造業者ニ出
來ルダケ事情ノ許ス限リ、安ク原料ノ供給
ヲ取計ッテ居ルノデアリマス、ソレカラ先年
來時局匡救ノ仕事ニ伴ヒマシテ、炭窯ノ改
造等ニ付テノ助成等モ相當ニ致シテ參ッテ
居ルノデアリマス、左樣御諒承ヲ願ヒタイ
ト思ヒマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=58
-
059・風見章
○風見章君 極メテ簡單デゴザイマスカ
ラ、此處カラデモ宜シウゴザイマスカ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=59
-
060・秋田清
○議長(秋田清君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=60
-
061・風見章
○風見章君 只今ノ答辯ニ關シテハ尙ホ吾
吾ハ不滿ノ點ガアリマスルガ、何レ詳細ハ
委員會ニ讓リマシテ、是デ私ノ質問ハ打切
リト致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=61
-
062・秋田清
○議長(秋田清君) 質疑ハ終局致シマシ
ク、本案ノ審査ヲ付託スベキ委員ノ選擧ニ
付テ御諮リ致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=62
-
063・青木雷三郎
○靑木雷三郞君 本案ハ議長指名九名ノ委
員ニ付託セラレンコトヲ望ミマス
〔「贊成」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=63
-
064・秋田清
○議長(秋田〓君) 靑木君ノ動議ニ御異議
アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=64
-
065・秋田清
○議長(秋田〓君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ-是ヨリ
質問ニ入リマス、質問第一ハ提出者ヨリ撤
囘申出ガアリマシタ、仍テ之ヲ許可致シマ
ス、質問第二、岸衞君提出ノ外交ニ關スル
質問、之ヲ許可致シマス-岸衞君
二外交ニ關スル質問(岸衞提出)
外交ニ關スル質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和九年一月二十七日
提出者岸衞
外交ニ關スル質問主意書
一五相會議ノ結果平和ヲ外交手段ニ依
リ招來スト言フカ果シテ日本ニ眞ノ意
味ノ外交ナルモノアリヤ出先官憲ノ狀
態ヲ見ヨ宜シク人事方面ニ於ケル打開
ヲ策セサルヘカラス當局ハ其ノ決意ア
リヤ
一南洋委任統治主權ニ關スル意見區區
タルハ明年ノ軍縮會議ヲ控ヘ國家ノ爲
甚タ不利益ナリト認ム政府ハ右ニ付如
何ナル見解ヲ有スルヤ國論ヲ統一シテ
來ルヘキ會議ニ臨ムノ要アリト思フ政
府ノ所見如何
一國際聯盟脫退ノ際何故軍縮會議ヲモ
脫退セサリシヤ見込ナキ軍縮會議ニ止
マルハ何等ノ利益ナシ政府ハ之ヲ脫退
スルノ意ナキヤ尙之ニ止マルトセハ一
日モ早ク最後案ヲ決定シテ大ニ國論ヲ
喚起シ輿論ノ背景ノ下ニ之ニ臨ムノ要
アリト思フ當局ノ見解如何
右及質問候也
〔岸衞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=65
-
066・岸衞
○岸衞君 私ノ質問ハ只今議長ヨリ宣〓ア
リマシタ通リ、主トシテ外交ニ關スル問題
デアリマス、私ハ此點ニ付キマシテ當局ノ
所信ヲ問ハントスルモノデアリマス、靈芝
政府ハ五相會議ニ於キマシテ、外交工作ニ
依リマシテ今日ノ非常時ヲ打開スル、斯ウ
云フ意見ニ一致ヲ見タ譯デアリマスガ、是
ハ洵ニ結構ナコトデアリマシテ、如何ニモ
御尤ト申上ゲル外ハアリマセヌガ、飜ッテ考
ヘテ見マスノニ、此五相會議デ話ヲシテ居
リマスル通リニ、此非常時ヲ打開スルニ足
リマス眞實ノ意味ニ適合致シマシタル所ノ
外交ト云フモノガ、今日此日本ニアリヤ否
ヤ、私ハ大ニ疑ヲ挾マザルヲ得ナイト存ズ
ル者デアリマス(拍手)成程東京ノ霞ケ關ト
云フ所ニハ、名ノ如ク霞ノ中ニ薄ボンヤリ
ト外務省ガ微カナ存在ヲ示シテ居ルヤウデ
アリマス、又各國ニハ大公使館ヲ置キマシ
テ、竝ビ大名式ニ大公使ガ參ッテ居ッテ、外
交事務ニ任ジテ居リマス、サウシテ形式的
ニハ成程陣容モ整ヒ、帝國ノ外交ハ外相指導
ノ下ニ萬遺憾ナク遂行セラレテ居ルヤウデ
アリマスケレドモ、此外相ノ手トナリ足ト
ナリ、帝國ノ安危ヲ一身ニ背負ッテ第一線
ニ立ツ外交官ニ、果シテ形式外交、訓令外
交、蓄音器外交以上ニ外交工作ニ當ッテ、今日
ノ時局ヲ打開シ、大瀾ヲ既倒ニ廻スベク渾
身ノ智惠ヲ揮ッテ、事ニ處シツヽアル者果シ
テ幾人カアル、多大ノ懸念ナキ能ハズト思
フ者デアリマス(拍手)現在ノ外交官ハ學校
ヲ出マシテ、皆外交官試驗ヲ「パス」シテ、
電報ノ翻譯カラ始メ、外國ニ歷任シテ、今
日大公使ノ位置ニ就カレテ居ル者デアリマ
シテ、卽チ外交事務官トシ、外交技術官ト
シテハ洵ニ申分ノナイ御連中デアリマス、
ケレドモ今日世界ノ外交ハ、斯ル專門外交
官或ハ技術官ノ手ヲ離レマシテ、全ク政治
家ノ手ニ移ッテ居ルノデアリマス、彼等ハ其
能力ニ於テ、出先外交政治家ノ足許ニハ追
付カナイト考ヘルノデアリマス、歐米ニハ
常ニ一流ノ政治家ガ外交舞臺ニ活躍シテ樽
爼折衝ニ當ッテ居リマス、英國ノ「サイモン」
「セシル」「マクドナルド」
〔議長退席、副議長著席〕
佛ノ「エリオ」「タルデユ」「ボンクール」獨逸
ノ「ローゼンベルグ」、露西亞ノ、「リトヴイ
ノフ」ト云フヤウナ、一流ノ政治家ガ外交
舞臺ニ活躍シテ居リマス、然ルニ之ニ反シ
我國ノ外交官ハ霞ケ關ト云フ溫室育チノ世
間知ラズデアリマシテ、是等海千山千ノ連中
ト嚙合ッテ居ルノデアリマス、近時我國ノ外
交ガ常ニ萎靡シテ振ハナイ、其根本原因ハ、
一ツハ確カニ歷代外相ノ人事ガ、此霞ヶ關
ノ人事ノ領域ヲ脫セザルニアリト申シテモ
差支ナイト思フノデアリマス(拍手)勿論少
壯外交官ノ中ニハ、〓養ト云ヒ、手腕ト云
ヒ、申分ノナイ人ハ澤山アリマスケレドモ、
遺憾ナガラ政治的訓練ハ經テ居リマセヌ、
外交事務ト外交政務トハ其間截然タル區別
ガアルノデアリマス、外交事務ハ日常茶飯
事ノ外交交渉デアリマシテ、外交政務ハ外
國ニ對スル國策ノ遂行ヲ意味シテ居ルノデ
アリマス、彼等ハ畢竟外交事務官ニハ適シ
テ居リマスルガ、外交政務官デハナイ、此
外交事務官ガ外交政務官タル大公使ノ役ヲ
爲シテ居ルノデアリマスカラ、抑と畠違ヒ
デアルト云フコトハ明瞭ナノデアリマス
(拍手)如何ニ本省デ折紙ヲ付ケマシテ向フ
へ遣リマシテモ、向フノ政治家トハ到底太
刀打ハ出來ナイ、坊ヤハ好イ子ダト云フ程
度ニ頭ヲ撫デラレテシマヒマス、畢竟蛙ノ
子ハ蛙ダ、江南ノ橘ハ江北ノ枳ニ過ギナイ
ノデアリマス、現ニ彼等ガ手掛ケタ倫敦經
濟會議デモ、又日印會商デモ、一ツトシテ
滿足ナ結果ヲ見タモノハナイデハアリマ
セヌカ、經濟會議ノコトハ差措キマシテ、
不問ニ付スルト致シマシテモ、日印會商ニ
至フテハ洵ニ言語道斷、沙汰ノ限リデアルト
言ハナケレバナリマセヌ、外相ハ如何ニモ
男ラシク不滿ヲ告白シテ居リマスルガ、自
ラ其責任ニ在リナガラ、唯私ハ不滿デアリ
マスダケデハ私ハ濟マサレヌト思フ、一般
外務大臣ハドノ點、ドノ箇條ガ不滿デアル
ノカ、ハッキリト私ハ後學ノノ爲ニ伺ヲテ置キ
タイノデアリマス(拍手)不滿ナラバ日印暫
定ノ此協約ヲ取消サウト云フノデアルカ、
不滿デモ條約ヲ結ブト云フノデアリマスル
カ、不滿デモ尙ホ且ツ條約ヲ結ブト云フコ
トニナリマスナラバ、是レ卽チ自ラヲ欺キ、
國家ニ對シテ大ナル損害ヲ與ヘル所以デア
リマシテ、其責任輕カラザルモノアリト
私ハ確信スルノデアリマス(拍手)畏クモ上
陛下ニ對シマシテ、又下國民ニ對シテ、其
責任ヲ如何セントスルノデアリマスルカ、
私ハ其點ヲ伺ッテ見タイト思フノデアリマ
ス、外相ハ不滿ナガラ日英國交ニ顧ミテ、
此條約ヲ締結スルト云フヤウナコトヲ言ッ
テ居リマスガ、一體日英國交ト云フモノハ、
如何ナルコトヲ指シテ言ッテ居ルノデアリ
マスカ、御承知ノ如ク日印貿易ハ、多年日
本ニ取リマシテ多大ノ輸入超過ニナッテ居ッ
タノデアリマスガ、偶、最近貿易ガ日本ニ
有利トナッテ來マシタノデ、英國ハ印度ヲ
使嗾致シマシテ、高率ノ關稅ヲ課ケシメ、
條約ノ廢棄ニマデ進ンデ來タデハアリマセ
ヌカ、而モ當局ハ折角綿業者ガ印棉不買ト
云フ武器ヲ持ッテ健鬪シテ居ル其鼻ヲ抑ヘ
マシテ、一般雜貨ノコトモ考ヘナケレバナラ
ナイカラト云ッテ、無理ヤリニ往生サセタ、
ソレマデハ宜カッタケレドモ、物ノ十日モ經
タナイ中ニ、印度ハソンナコトニ一向頓著
ナク、思ヒ切ッタ非常ナ高率關稅ヲ雜貨ノ
上ニ課シタノデアリマス、而モ英國ハ網ノ
目ノヤウニ、屬領地全般ニ亙リマシテ、經
濟「ブロック」ヲ作リマシテ、日本品ノ排斥
氣分ヲ煽ッテ居ルバカリデナク、直グ日本ノ
目ト鼻ノ先ニ在ル所ノ新嘉坡ニ、斯ノ知キ
精銳ナル所ノ築城ヲ施シテ居ルノデアリマ
ス、是ハ日本ニ對スル威嚇ニ非ズシテ何ゾ
ヤト私ハ言ヒタイノデアリマス(拍手)是ガ
卽チ日英國交ノ眞相デアリマス、日英國交
ニ顧ミト云フコトハ、英國ノ言フコトナラ
間違ッテ居ッテモ、無理デアッテモ、洵ニ御
無理御尤デアルト肯カナケレバナラナイト
云フ意味ナラバ仕方ガナイノデアリマス
ガ、冗談ヂヤナイ、日本ハ英國ノ屬國デハ
アリマセス、堂々ト日本ノ主張ヲ通シテ、
容レズンバ印棉不買ヲ繼續スレバ宜シイ、
サウスレバ自然多量ニ米國ノ米棉ヲ買付ケ
テ、米國ノ「インフレーシヨン」ニモ資シテ、
其結果ハ〓リ廻ッテ生絲ノ相場ガ上ッテ、
日本ノ利益ニナルコトハ必然デアリマス、
折角是ダケノ武器ヲ持ッテ居リナガラ、英
國ニ屈スルトハ何事デアリマスカ、甚ダ外
相ノ腑甲斐ナキヲ私ハ遺憾トスル者デアリ
マス、斯ノ如ク朝ニ一城ヲ拔カレ、タニ一
塞ヲ奪ハル、是ガ卽チ傳統的霞ヶ關外交デ
アリマス、名ハ協調デモ、廣田外相ノ協和
デモ、其實ハ少シモ變リハナイ、異曲同案
デアルト私ハ言ヒタイノデアリマス、要ハ
外務大臣始メ大公使、全權マデガ、霞ヶ關出
身ノ事務官バカリヂアッテ、肚ガナク隨ッテ
官僚外交、協調外交ノ弊ニ陷リマシタ結果
ハ、外相自ラ不滿ヲ感ゼザルヲ得ナイ結論
ニナルノデアリマス、マダ怠慢ノ事ハ幾ツ
モアリマス、一番大切ナ滿洲國ノ承認ノ如
キモ、私ガ多クノ外國ノ政治家ト談ジテ見
マシタ所ニ依リマスレバ、困難ハ困難デア
リマセウ、併ナガラ決シテ不可能事デハナ
イノデアリマス、然ルニ此方面ニモ何等ノ
工作ガ行ハレテ居ナイ、無爲ト言ハンカ、
無能ト言ハンカ、甚シキ怠慢ト言ハザルヲ
得ナイノデアリマス、尙又英國ニ對シマシ
テモ、米國ニ對シマシテモ、露西亞ニ對シ
マシテモ、隣邦支那ニ對シマシテモ、無爲
靜觀、五相會議ノ工作ナドハ何一ツ行ハレ
テ居ルノデハアリマセヌ、而モ又廣田外相ハ
何等具體的方策ヲ示サナイ、唯漫然ト外交
工作ニ依ッテ平和ヲ保障スルト申シマス、
外交ノコトハ機密ヲ要スルカラ俺ニ委セロ
委セロト、此俺ニ委セロ式ノ舊式外交、祕密
外交、是ガ最モ惡イ、外交ノ如キ此「ドグマ
チック」ノ外相ガ一番惡イ、是ガ國ヲ誤ル本
ダト私ハ思フ、是デハ又焦土外交-內田
外交カラ更ニ逆轉ヲ致シマシテ、協調外交
ノ幣原外交ニ逆戾リヲスルコトヲ心配スル
者デアリマス(拍手)斯ノ如キハ國民ヲ全然
盲目扱ヒニシテ、恰モ「モーゼ」ガ群衆ヲ率
ヰテ沙漠ヲ彷フヤウナヤリ方デアルノデア
リマス、今日ノ外交ハ宜シク國策ヲ明示シ
マシテ、赤裸々ニ國民ニ愬ヘテ輿論ヲ喚起
シ、此背景ノ下ニ强ク明ルク其工作ヲ實行
スルノガ本筋デアルト私ハ考ヘルノデアリ
V、、本家本元ノ霞ケ關ガ此通リ無方針
デ、愚圖々々デアリマスルカラ、出先ノ外
交官ガフラ〓〓シテ居ルノハ無理ガアリマ
セヌ、彼等ハ唯霞ケ關ノ訓令ニ依ッテ動ク
「ロボット」モ同然デアリマシテ、何等自發
的自動的ノ奮鬪ハ期待サレナイノミナ
ラズ、彼等ノ多クハ大體大公使トナリマ
スレバ、其上ノ榮達ハ出來マセヌシ、結
果ハ待命トナルコトハ明カデアリマス
ルカラ、或ハ老後ノ蓄財ニ專念ヲ致シ、大
臣ヤ本省ノ連中ノミニ御機嫌伺ニ沒頭致シ
マシテ、名ハ外交官デアリマスガ、實ハ內
交官デアルヤウナ者ガ澤山ニアル、廣田外
相ハ、就任以來、三四ノ大公使ヲ更迭ヲシ
マシテ、此點相當ニ努力シテ居ラルヽヤウ
デアリマスガ、マダ吾々ノ此黑イ眼ニ映ジ
テ居リマス所ノ要注意人物ハ澤山ニ在ルノ
デアリマス、私ハ洵ニ私情ニ於テハ忍ビナ
イノデアリマスガ、外相ハ宜シク更ニ進ン
デ大公使ノ大部分ヲ更迭シ、霞ヶ關ニ限ラ
ズ、米國ノ如ク各方面ニ亙フテ人材ヲ拔擢
シテ大公使ニ任ジ、以テ外交政務ニ携ハラ
シメ、此際思切ッテ舊式外交、事務外交、官
僚外交ヲ一掃スベキデアルト確信スルノデ
アリマス(拍手)或ハ語學ノ點デ野ニ適スル
者ナシト云フカモ知レマセヌガ、今日ハ外
國語ヲ外交官以上ニ使フ者ハ澤山居ル、日
本ノ外交官ガ言葉ガ下手ダト云フコトハ、
モウ通リ相場ニナッテ居リマス、又言葉ガ
出來ナイデモ、ソレハ事務ニハ都合ガ惡イ
カモ知レマセヌガ、政務ニハ一向差支ナイ、
肚サヘ出來テ居レバ、向フノ一流ノ人物ト
太刀打ガ出來マス、サウ云フ人ヲ使ッテ見
ルガ宜イ、必ズヤ我ガ外交界ハ一新紀元ヲ
開クコトヽ確信致シマス(拍手)由來大公使
ニ限リマシテ特別任用令ガ布カレテ居リマ
スルガ、當局ハ舊態依然、霞ヶ關ノ象牙ノ
塔ニノミ立籠ッテ居リマシテ、丁度オ蠶ノヤ
ウニ霞ケ關閥ノミヲ作ルニ汲々タル狀態デ
アリマス、一體閥ト云フコトハ何事ニ依ラ
ズ宜クハアリマセヌ、況シテ外交ヲ壟斷セ
ントスル所ノ霞ケ關閥ノ如キハ、國家ノ爲
ニ百害アッテ一利ナシト考ヘルノデアリマス
(拍手)
吾々ハ現在ノ重大時局ニ際シマシテ、執
ルベキ手段ハ軍備ノ充實ト、內政ノ革新ト、
而シテ外交ノ刷新ニアルト考ヘルノデアリ
マスガ、要スルニ其根本ハ人デアリマス、
政府ノ「スポークスマン」トシテ、外交ニ使
スル者ニ其人ヲ得ナカッタナラバ、百ノ國策
ヲ樹テマシテモ、其健全ナル遂行ハ私ハ望
マレナイト思フノデアリマス、卽チ人事問
題ヲ徹底的ニ改革スルニアラズンバ、此重
大時局ニ直面シテ、五相會議ニ於テ決議ヲ
シマシタ通リ、國民ノ希望ニ適フヤウナ成
績ハ擧ゲルコトガ出來ズ、帝國外交ノ前途
ハ轉タ寒心ニ堪ヘナイモノト、虞レルノデ
アリマス、重ネテ問フ、廣田外相ハ英斷克
ク此人事問題ヲ革新シ、特ニ特別任用令ヲ
活用シテ各方面ヨリ人材ヲ蒐集シ、以テ人
物中心ノ外交ヲ策シ、此多難ノ秋ヲ突破ス
ル用意アリヤ如何、又廣田外相ハ我國ニ危
機ナシト揚言シテ居リマスガ、今日ノ聯盟
各國ト日本トノ關係、竝ニ對英、對露、對
支ノ形勢ハ決シテ之ヲ忽セニスルコトガ出
來ナイコトハ三歲ノ童兒ト雖モ之ヲ承知
シテ居ルノデアリマス、外相ハ危機ナシト
言フテ居リマスケレドモ、軍部大臣ハ危機デ
アルト云フコトヲ率直ニ言ッテ居リマス、危
機ト非常時トハドレダケ言葉ノ上ニ於キマ
シテ開キガアルカハ知リマセヌケレドモ、
私ハ危機ト言,テモ非常時ト言ッテモ、外相
ノ所謂多事ト言ッテモ、五十步百步デ同ジ意
味デアルト思フノデアリマス、外相ハ危機
ト言ヘバ、日本國民ノ士氣ガ沮喪スルト云
フヤウナコトヲ言ッテ居リマスガ、危機ダト
言ッテ腰ヲ拔カスヤウナソンナケチナ日本
人ハ一人モ居ナイト考へルノデアリマス、
(拍手)反對ニ非常時ダ、危機ダト言ヘバ、
一身一家ヲ顧ミズ畏クモ一天萬上ノ陛下
ノ爲メ、又萬代搖ギナキ我ガ日本國家ノ爲
ニ、一展勇躍奮起スルノガ大和民族ノ精華
デアルト考ヘルノデアリマス(拍手)然ルニ
外相ハ危機ト言フト、是ガ外國ニドウ響ク
カト云フヤウナコトヲ心痛サレルガ、是ガ
卽チ霞ヶ關外交デアル、何モ日本ハソンナ
ニ外國ニ對シテ氣兼ヲセヌデモ宜シイ、日
本國民ハ言ハント欲スル所ヲ堂々ト言ヘバ
宜シイ、外相ハ針鼠ノ例ヲ引キマシテ、俺
ハ言葉ハ優シイケレドモ、腹ハ確カリシテ
居ルト云フヤウナコトヲ言ッテ、恰モ自分ハ
唯ノ鼠デナイヤウナコトヲ言ッテ居リマス
ケレドモ、私ハ斯ンナケチナ考ヨリモ、針
鼠デモ宜シイ、コソ〓〓シタ二十日鼠ヤ高
麗鼠、溝鼠ヨリモマダ優シダト思ッテ居ル(拍
手)思フ事言ハザルハ腹膨ルヽノ業デハナ
イ、針鼠デ宜シイ、ドシ〓〓意見ヲ述ベル
ガ宜シイ、反對ニ外國ヲ御覽ナサイ、外國
ハ遠慮會釋モナク日本ノコトヲ批評シテ居
ルデハゴザイマセヌカ、米國ノ極東局長「ホ
ーンベック」デモ、駐露米國大使「ブユリット」
デモ、伊太利ノ「ムッソリーニ」デモ、亦露西
亞ノ「リトヴイノフ」ヤ「モロトフ」デモ、ツ
イ最近ニ於テハ「スターリン」デサヘモ、平
氣デ日本ノ攻擊ヲ言ッテ居ルデハアリマセ
ヌカ、英國ノ「ランカシヤ」デハ數千ノ綿業
者ガ大會ヲ開イテ、日本品驅逐ノ演說ヤ「デ
モンストレーシヨン」ヲ大ビラニヤッテ、日
本品ノ攻擊ヲヤッテ居リマス、三十日ノ華盛
頓特電デ、紐育「タイムス」ハ日露戰爭ハ不可
避ナリト「アジ」ヲテ居リマス、米國ノ下院議員
「レーニー」氏ハ平和團體代表者ニ對シマシ
テ、來ル三月頃ニハ日露戰爭ガ起ルデアラ
ウト云フヤウナ不謹愼ナ言ヲ弄シテ居リマ
ス、又ツイ此三日ニハ、露西亞ノ陸相「ヴオロ
シロフ」ガ斯ウ云フコトヲ言ッテ居ル、露國ノ
軍備ハ日本ニ取ッテハ頭痛ノ種デアル、千九百
三十一年ノ滿洲事變ノ當時ノ支那ノ如ク、無
防備、無抵抗デアレバ、吾々ノ隣人ハモット
愉快ヲ感ズルデアラウガ、吾々ハ此愉快ヲ
彼等ニ與ヘル意圖ハナイ、斯ウ云フ暴言ヲ
吐イテ居リマス、斯ノ如キハ日本ニ對スル
所ノ一ツノ侮蔑デアリマス、斯ノ如キ侮蔑
ニ對シテ、我ガ外務當局ガ之ヲ不問ニ附ス
ルト云フコトハ、何タル意氣地ナシデアリ
マスカ(拍手)政府ハ異口同音ニ戰爭熱ヲ鼓
吹スル出版物ヲ取締ルト言ッテ居リマスケ
レドモ、ソンナ出版物ハ外國ニハ幾ラデモ
出テ居リマス、最近英國人ノ「オーコンロ
イ」ノ著書ノ如キハ、非常ニ排日的ノ意味
ノコトヲ書イテ、日本ニ挑戰ヲシテ居リマ
ス、若シ戰爭物ヲ書イタ出版物ヲ取締ルト
云フノデアルナラバ、現在軍部カラ出テ居
リマス所ノ、關根大佐ノ著述ヤ、過般米國
デ差押ヘタ末次中將ガ序文ヲ書イタアノ戰
爭文學マデモ取締ルノデアリマセウカ、闇
僚ノ口調ハ恰モ日本ガ外國ノ爲ニ存在シテ
居ルカノ如キ口吻デアリマス、勿論徒ニ戰
爭熱ヲ鼓吹スルコトハ宜シクナイガ、併ナ
ガラ戰爭ニ對スル知識ヲ與ヘル出版物ハ、
誰憚ルコトモナクドシ〓〓出版スルガ宜シ
イ、サウシテ國民ニ一旦緩急有ル場合ノ豫
備知識ヲ與ヘテ置ク必要ガアル、日本ハ日
本ノ爲ニ存在スルノデアッテ、決シテ外國
ノ爲ニ存在スルノデハアリマセヌ、先ヅ此
意味デ自治的ニ生キルト云フコトガ、國家
トシテハ先決問題デアッテ、次デハ廣田外相
ノ所謂協調共和トナルノデ、斷ジテ協調共
和ガ先キデ自主ガ後ニナルノデハナイト云
フコトヲ、私ハ考ヘルノデアリマス、勿論
吾々ハ極力戰爭ヲ避ケ、共和ヲ希望スル者
デアリマスケレドモ、戰爭ハ此方バカリガ
仕掛ケルモノデハナイ、先方カラ持掛ケル
カモ知レナイノデアリマス、其場合ハ當然
之ヲ厭ヤデモ防ガナケレバナラヌ、況シテ
今日「ソヴイエト」アタリノ煽動的ノ熊度ニ
對シマシテハ、極力警戒ノ要ガアルト考ヘ
ルノデアリマスガ故ニ、一旦不慮ノ際ニ於
ケル現代科學戰爭ノ慘禍、又先般問題ニナ
リマシタ所ノ軍民分離運動ノ如キ、巧妙ナ
ル思想ヲ利用スル所ノ戰法ニ對シマシテ
ハ、我國トシテハ動ゼザルノ覺悟ト躓カザ
ルノ準備ヲ熱知セシメテ置クコトガ、外相
ト反對ニ私ハ却テ國家ノ爲ニ謀ッテ、忠ナル
所以ト考ヘル次第デアリマス、少クトモ外
相ハ此意味ニ於キマシテ、今日我國ガ國家
非常時ニ直面シテ居ルト云フコトヲ考ヘラ
レルヤ否ヤ、恰モ瀕死ノ白鳥ノ如キ齋藤內
閣ハ、總理大臣初メ各閣僚ハ殆ド非常時ニ
無關心デアリ、無知識デアリマス、斯ノ如
ク非常時意識ノ缺如シテ居ル者ガ、今日ノ
國際情勢ノ下ニ於テ、日本ノ政治ノ衝ニ當
ルト云フコトハ、國家ノ爲メ寒心ニ堪ヘヌ
ノデアリマシテ、此意味カラ申シマシテ
モ、齋藤內閣ハ斷ジテ今日ノ政局ヲ擔當ス
ル資格無キモノデアルト言ハザルヲ得ナイ
ノデアリマス(拍手)徒ニ樂觀ヲナサル廣田
外相ハ、果シテ今日ノ時局ヲ如何ニ見ル
カ、假ニ外相ニ一步ヲ讓ッテ、危機トマデ
言ハズトモ、少クトモ非常時タルコトヲ認
識スルヤ否ヤ、御明答ヲ煩シタイ
次ニ南洋委任統治ノ問題デアリマスガ、
私ガ質問書ヲ此衆議院ニ提出後、貴族院ニ
於キマシテ芳澤氏カラ質問サレマシテ、政
府ノ態度ガ大體分明致シマシタガ、最モ大
切ナル南洋諸島ノ主權ノ歸屬ニ關シマシテ
ハ、尙ホ明瞭ヲ缺イテ居ルヤウニ思ハレル
ノデアリマスシ、又此點ニ關シマシテ、國
內ノ意見ガ分立スルヤウデハ、洵ニ憂慮ニ
堪ヘマセヌカラ、私ハ此際委任統治領ノ主
權ニ關シテ、我國ノ一定不動ノ定義ヲ確立
スルノ要アリト認メマシテ、敢テ質問ヲ試
ミル次第デアリマス、列國ノ學者ノ中ニハ、
日本ガ聯盟ヲ脫退スレバ、當然聯盟ニ委任
統治領ヲ返還スベキモノデアルト考ヘテ居
ルモノガアリマスガ、是ハ誤解カ、若クハ
故意ニ說ヲ立テルモノデアッテ、私ハ外相ガ
貴族院デ述ベラレマシタ通リ、全然此說ニ
反對ノ意見ヲ懷クモノデアリマス、併シ唯
法的根據ナクシテ、此經緯ノミニ依ッテ、日
本ノ領土ナリト主張スルコトハ、主張ニ弱
ミヲ生ジ、且ツ委任統治ガ論議セラレル場
合ハ、厭ヤデモ應デモ必ズ主權論ガ論議セ
ラレルニ相違ナイノデアリマスカラ、今日
之ヲ明瞭ニシテ置ク必要ガアルト思フ、其
前提ト致シマシテ、私ハ「シー」式委任統治領
タル南洋諸島ノ主權ノ存在ハ、明ニ受任國タ
ル我ガ日本ニアリトノ斷定ノ下ニ、此質問
ヲ進メントスルモノデアリマス(拍手)南洋委
任統治ノ經緯ヲ追究スルニ、歐洲大戰ガ勃發
致シマシテ、日本ガ日英同盟ノ誼ニ依ヶテ聯
合國側ニ參加ヲ致シマシテ、日獨ノ國交ガ
破ルヽヤ、大正三年十月逸早クモ我ガ忠勇
ナル海軍ニ依ッテ之ヲ占領致シマシタ、サウ
シテ陸戰隊ヲ揚ゲマシテ軍政ヲ布キ、時
ノ治安ニ任セタノデアリマス、外相ノ言へ
ルガ如ク、旣ニ大戰中ノ共同作戰國タル所
ノ歐羅巴ノ諸强國ト、戰後我ガ帝國ニ割讓
スベキ密約ガ成立シテ居フタノデアリマス、
而モ世界大戰中我國ガ聯合國側ニ對シマシ
テ多大ノ貢獻ヲシタコトハ、顯著ナル事實
デアリマシテ、當時英國ノ總理「ロイド·ジ
ヨージ」ノ如キハ「日本ノ參加活躍ニ依リテ
英國ハ漸ク飢餓ヨリ救ハレタリ」ト、斯ウ申
シテ居ッタノデアリマス、其後米國ガ戰爭ニ
參加スルヤウニナリマシテ、講和會議ニ有
力ナ發言權ヲ得タ「ウヰルソン」大統領ハ南
阿ノ軍人デアリ、政治家デアル「スマッツ」將
軍ノ理想論ヲ容レ、戰爭ノ結果領土ヲ割讓
スルコトハ、帝國主義的臭味ガアル、時代
後レダト主張シ、妥協ノ結果大正八年五月
七日聯盟最高會議デ、日英佛諸國ハ名ヲ棄
テ實ヲ取ルコトニ致シマシテ、各個々ノ國
ガソレ〓〓占領シタ領土ヲ獨逸カラ割讓セ
シメテ、併合スル形式ヲ取ル代リニ、獨逸
ハ「ベルサイユ」條約第百十九條ニアル通
リ、其殖民地ヲ日英米佛以下全體ノ爲ニ抛
棄シ、是等五大國ハ更ニ相互間ノ協議ニ依
リマシテ、是等植民地ヲ國際聯盟ニ代ッテ統
治スルト云フ名義ニ致シ、大戰中ノ申合セ
通リ、日英佛等ノ各國ガ占領セル現狀ニ依ッ
テ、分配歸屬セシメルコトニナッタノデアリ
マス、斯ノ如ク成行カラ見マシテモ明カナ
ル如ク、名ハ委任統治デアリマシテモ、實
ハ割讓ト少シモ異ルコトハナイト固ク信ズ
ルノデアリマス(拍手)而モ此分配ヲ決定シ
タ時ハ、聯盟ガマダ出來テ居リマセヌカラ、
聯盟ガ日本ニ南洋諸島ノ統治ヲ委任シタノ
デナイコトハ言フ迄モアリマセヌ、聯盟ハ
委任統治領ノ割當ノ相談ニモ與ッテ居リマ
セヌ、又相談ニ與ル權利モ無イ、所謂受任
國ノ委任シタコトモナイ、左樣ナ權利モ持ッ
テ居ラナイ、是ハ私一個ノ見解デナク、聯
盟自身モ之ヲ認メテ居リマス、而シテ日英
佛ノ受任國ヲ含ム五大國ハ、是等占領セル
獨逸植民地ノ領土ニ對シテ有スル主權ヲ、
一分タリトモ聯盟ニ讓ッタコトハナイカラ、
聯盟ニ主權ノ無イコトハ明瞭過ル程明瞭デ
アルト考ヘマス、隨テ聯盟ハ委任統治國ヲ
交迭サセル權限ハ絕體ニアリマセヌ、聯盟
狂ト言ハレル「セシル」卿デモ、主權ハ征服
者ニ在ルト言ッテ居リマス
以上ノ如ク主權ガ聯盟ニ無イコトハ明瞭
デアリマス、同時ニ主タル聯盟國ノ手ヲ離
レテ各國ニ分配セラレタノデアルカラ、勿
論主權ガ彼等主要國ニモ無イコトハ明瞭デ
アリマス、卽チ歸スル處「シー」式委任統治
ノ南洋諸島ノ主權ハ、受任國タル日本ニ在
ルコトハ一點ノ疑ガナイト信ズル者デア
リマス(拍手)此受任事項ヲ我國ハ是モ忠實
完全ニ遂行シテ來テ居リマシテ、年々其成
績ハ見ルベキモノガアリマス、軍事上ノ築
城根據地ヲ造ッテ居ルト云フ噂モアリマス
ケレドモ、是ハ全然噓デアッテ、現ニ米國海
軍士官デアリマス、「メージヨア、ボッドレ
ー」ト云フ人ガ偶然ノ出來事カラ南洋諸島
ヲ視察スルコトニナリマシテ、最近「ジヤ
パニース、オムレット」ト題スル本ヲ書イ
テ明瞭ニ之ヲ證明シテ居ル
以上申述ベタ通リ、其經過ナリ法文ニ照
シマシテモ、主權ハ我ガ日本ニ在リマス、
隨テ私ハ我ガ日本ガ聯盟脫退ニ關聯シテ、
南洋諸島ノ委任統治ヲ抛棄スル理山モナ
〃、又義務モナク、又聯盟其他ヨリ取上ゲ
ラレル法的、道德的、政治的根據ナシト斷
定スルモノデアリマス、斯ノ如ク明白ナル
理由ノ存在スルニモ拘ラズ、將來我國ニ對
シテ萬一南洋諸島ノ返還ヲ迫ルヤウナコト
ガアリマシタナラバ、斷乎トシテ之ヲ跳付
ケベキデアルト思ヒマス、滿洲國ガ陸ノ生
命線デアルナラバ、南洋諸島ハ海ノ生命線
デアルコトハ申ス迄モナイ、相當ノ決心ヲ
以テ一步モ之ヲ讓步スルコトハナイト思フ
ノデアリマス、政府ハ此所見ニ對シテ如何
ニ考ヘラレルヤ、而シテ此際主權ノ存在ヲ
明カニシテ、國論ヲ統一シ、以テ將來ニ備
フルノ覺悟ナキヤ否ヤ、敢テ確信ノ在ル所
ヲ問ハント欲スルモノデアリマス
最後ニ私ハ昨年日本ガ聯盟ヲ脫退シマシ
タ時ニ、政府ハ何故軍縮會議ヲモ脫退シナ
カッタカト云フコトヲ質問シタイノデアリマ
ス、私共ガ承知シテ居ル限リニ於キマシテハ、
壽府出先官憲ノ間ニ、數日間ニ亙リマシテ、同
時ニ軍縮會議ヲモ脫退スベシト云フ所ノ論議
ガアリマシタ、サウシテ同時ニ脫退論ガ大
勢ヲ制シタノデアリマスルケレドモ、政府
ノ訓令ニ依リマシテ止ルコトヽナッタト云
フノデアリマスルガ、其眞相ハ果シテドウ
デアリマセウカ、旣ニ聯盟脫退ヲ決議セル
以上、軍縮會議ヲモ同時ニ脫退スルノハ理
ノ當然デアッテ、聯盟ヲ脫シテ尙ホ軍縮會
議ニ止リマスルコトハ、聯盟ニ未練ヲ殘シ
ツヽ尙ホ其一部ニ止マルノニ等シイト考ヘ
ルノデアリマス、倫敦條約ニ於ケル現在ノ
比率ガ、來ルベキ軍縮會議ニ許サレザルハ、
旣ニ海軍大臣ノ聲明セル所デアッテ、吾々ハ
此點全ク海軍大臣ト意見ヲ等シウスルモノ
デアリマス、而シテ現條約ノ改訂ヲシテ比
率ヲ改更セントスル以上、之ニ對シテ全然
反對ノ意見ヲ有スル英米ト步調ヲ一ニシテ、
圓滿ナル解決ヲ見ルト云フコトハ、蓋シ頗
ル難事デアリマス、若シ我ガ政府ニシテ條
約ノ根本的改正案ヲ提出センカ、會議ハ決
裂シテ其結果彼等ハ必ズ我國ヲ目シテ、故
意ニ軍縮會議ヲ不成功ニ導キ、平和ヲ破壞
スルモノト云フ非難ヲ浴ビセルノハ必定デ
アリマス、サモナクテモ、日本品ノ進出ニ
依ッテ各方面ニ恐怖ヲ感ジテ居ル所ノ英米
列國ハ、之ヲ機トシテ日本ハ聯盟ニモ橫
車ヲ押シ、更ニ軍縮會議ニ於テモ同ジ調子
ヲ奏ヅルモノトシテ、軍縮會議不成立ノ全
責任ヲ負ハシメ、平和ノ破壞者トシテ、共
後列國ノ兵力充實ヲ爲スヲ待ッテ、先ヅ言論
ニ依ッテ總攻擊ヲ集中スルニ相違ナイノデ
アリマス、私ハ今囘ノ外遊ニ際シテ、軍縮
會議ニ對スル各方面ノ意嚮ヲ確メマシタガ、
次囘ノ軍縮會議ハ成功スベシト云フ所ノ意
見ヲ持ッテ居ル者ハ、歐米ノ政治家ニハ殆ド
一人モアリマセヌ、斯ノ如キ不成功ニ終ル
ベキ見透シノ付イテ居ル會議ニ列席ヲシテ、
比率問題ニ關聯シテ非難サルヽノミナラズ、
ヨモヤソンナコトハアリマスマイガ、滿洲
問題ヤ南洋委任統治問題等ヲ論議セラレル
カモ知レマセヌ、擧句ノ果ニ會議決裂ノ責
任ヲ負ハサレ(發言スル者多シ)諸君、單ナ
ル政黨政派ノ詰ラヌ問題デハナイ、苟モ日
本國家ノ爲ニ言ッテ居ル、モウ暫ク〓聽アラ
ンコトヲ希望シマス(發言スル者多シ)ダカ
ラ旣成政黨ハ彈効サレルノダ(發言スル者
多ク拍手起ル)擧句ノ果ハ會議決裂ノ責任
ヲ負ハサレ(發言スル者多シ)平和ノ破壊者
ノ譏リヲ蒙ルコトハ、寔ニ愚ノ骨頂デアル
ト思フノデアリマス、吾々ハ我ガ帝國ガ曩
ニ聯盟ヲ脫退シタ時ニ、同時ニ軍縮會議ヲ
モ脫退スルコトガ賢明ノ策ダト思フノデア
リマスガ、何故政府ハ此英斷ニ出テ行カナ
カッタノデアリマスカ、私ハ政府ノ所信ヲ
問ヒタイノデアリマス、併ナガラ條約ノ手
前、來ルベキ軍縮會議ニ參加スルトスルナ
ラバ、政府ハ一體如何ナル成案ヲ以テ之ニ
臨マントスルノデアルカ(拍手)過日海軍大
臣ハ今次ノ豫算ハ最小限度ノ國防費デアル
ト言ッタノデアリマスガ、單ニ最小限度デハ
國民トシテ甚ダ心細イ感ジガスルノデアリ
マス、絕對トハ言ハナイガ、少クトモ時局
ニ鑑ミ、安全量ノ國防費デアルコトヲ希望
致シマス、而シテ會議ニ出席スル場合ニ於
キマシテハ、吾々ハ我ガ國民同盟ガ主張致
シマシタルガ如ク、英米ト對等、卽チ「パ
リテイー」ヲ主張スルモノデアリマス、軍
備ノ平等ヲ第一ニ主張スル所ノ理由ハ、戰
敗國ノ獨逸デサヘモ對佛軍備平等ヲ主張致
シマシタ、英國ノ贊成ヲ得テ居ルノデアリ
マスルカラ、戰勝國タル我ガ日本帝國トシテ、
英米ニ對シテ正ニ對等ヲ主張スベキコトハ、
國家ノ權威ニ對シテモ當然デアラウト確信
致シマス(拍手)
而モ其第二ノ理由ト致シマシテハ、近代
ノ戰爭ハ單ニ一國ト一國トノ間ニ止マリマ
セヌ、數國ト數國トノ間ニ起ル場合モアラ
ウト考ヘルノデアリマス、サレバ此間ニ處
シマシテ當局ハ萬誤リナイ所ノ兵力量ヲ
有シテ置クコトガ必要デアラウト思フ、私
ガ斯ク中セバ非常ナ軍擴論者ノヤウニ聞エ
ルカモ知レマセヌケレドモ、私ハ斯ウ申シ
マシテモ、決シテ疲弊困憊セル農村ヤ中小
商工業者ニ是等ノ負擔ヲ負ハセヨウト云フ
ノデハアリマセヌ、他ニ幾ラモ方法ガアリ
マス、卽チ富裕階級ニ對シマシテ、モント
累進的ノ增稅ヲ課スルトカ、或ハ相當ノ寄
附ヲセシムルトカ云フヤウニ、幾ラデモ其
手段方法ガアルト考ヘルノデアリマス
而モ第三ノ理由ハ、外相ノ聲明ヲ致シマシ
タル通リ、東洋平和ノ維持ニ任ズル日本ト
シテ英米比率ニ對シマシテ六割トカ七割
トカヲ甘ンゼンカ、支那ヤ「ソヴエート」ヨ
リモ輕視セラレマシテ、東洋平和ノ將來ニ
大ナル禍根ヲ貽ス虞ガアルノデアリマス(拍
手)現ニ華府會議以來、其結果ハ對大陸關
係ニ覿面ニ現レマシテ、獨リ日本ガ苦境ニ
立ッタノミナラズ、英國デサヘ理不盡
ニモ租界ヲ奪囘サレテ居ルデハアリマセヌ
カ、是卽チ華盛頓會議ニ於テ、英米列國ガ
東洋平和維持ノ大責任ニ當ル日本ニ對シマ
シテ、無理ノ低比率ヲ强要シタ其結果ニ過
ギナイノデアリマス、因果ハ〓ル小車デアツ
テ、英國自身モ苦ムヤウナコトニナッタノ
デアリマス、現在日本ガ東洋平和ノ維持ニ
任ズル實力ヲ有シテ居リマスルノハ、何人
モ之ヲ否定スルコトハ出來マセヌ、若シ日
本ノ比率ヲ弱メントスル者ガアッタナラバ、
ソレコソ東洋ノ平和ヲ念トセズ、隨テ東洋
ノ平和ヲ攪亂シ、延テ世界戰爭ヲ惹起セシ
メルモノナリト斷ジテ憚ラナイノデアリマ
ス(拍手)若シ夫レ我ガ大日本帝國ガ來ルベ
キ會議ニ於テ、英米以下ノ比率ニ廿ンズル
ガ如キコトガアリマシタナラバ、國家ノ體
面上ハ勿論ノコト、斷ジテ外相ノ言ヘルガ
如ク東洋平和維持ノ大使命ヲ果スコトハ出
來ヌト考ヘマスルガ、外相ハ此點ニ付テ如
何考ヘルノデアリマスルカ、御明答ヲ煩シ
タイノデアリマス
私ハ以上ノ諸點ニ付キマシテ關係閣僚ノ
御說明ヲ承リタイノデアリマス、十分御懇
切ナル所ノ御答辯ヲ望ンデ已マナイノデア
リマス(拍手)
〔政府委員瀧正雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=66
-
067・瀧正雄
○政府委員(瀧正雄君) 岸君ノ御質問ニ御
答致シマス、第一ニ、非常時ト思フカト云
フ質問ガアリマシタガ、時局ハ重大デアル
ト考ヘテ居リマス、而シテ此時局ニ對シマ
シテ、五相會議ノ申合セニ基キマシテ、外
交方針ヲ貫徹スル爲ニ、人事ニ關シマシテ
ハ愼重ナル考慮ヲ拂フ考デ居リマス
第二ニ、南洋ノ委任統治ニ對シテドウ考ヘ
テ居ルカト云フ御質問デアリマスガ、政府
ト致シマシテハ、此點ニ付テハ斷乎タル決
意ヲシテ居リマスノデ、今更御質問ガアツ
タノモ意外ニ思ッテ居ル位デアリマス(拍手
「明答」ト呼フ者アリ)
第三ニ、軍縮會議ニ付テ、聯盟脫退ノ際
何故此會議ヲモ脫退シナカッタカ、斯ウ云
フ御質問デアリマスガ、軍縮會議ハ非聯盟
國ノ參加ヲ認メテ居ル世界的會議デアリマ
ス、我國ハ聯盟ヲ脫退致シマシテモ、世界
平和事業ニハ協力ヲスルト云フ趣旨ヲ以チ
マシテ、參加ヲシテ居ル次第デゴザイマス
(拍手)其他聽漏シタ點ガアルカモ知レマセ
ヌガ、之ヲ以テ御答ト致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=67
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068・岸衞
○岸衞君 簡單デゴザイマスカラ自席カラ
御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=68
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069・植原悦二郎
○副議長(植原悅二郞君) 許可致シマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=69
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070・岸衞
○岸衞君 只今瀧政務次官ハ非常時デハナ
イ、重大時デアルト云フヤウナコトヲ言ハ
レマシタガ、非常時ト重大時トハドノ位ノ
相違ガアルノデアリマスカ、現內閣ハ兎角
非常時ト云フ言葉ヲ使フコトヲ嫌フテ居ル、
何カソコニ綾ガアリハ。セヌカト思ヒマス、
幸ヒ此處ニ海軍大臣ガ居ラレマスカラ、
海軍大臣カラ御答辯ヲ求メマス、ソレカラ
南洋ノ委任統治ノ問題ニ關シテ、瀧君ハ何
カ間違ッテ聽イテ居ラレタト思ヒマスガ、私
ハ委任統治ノ主權論ヲ聞イテ居ル、主權ガ
何處ニ在ルカ、受任國デアル日本ニ在ルノ
デハナイカ、其點ニ付テ御答辯ヲ煩シタイ
(拍手)ソレカラ軍縮會議ニ付テ、聯盟ヲ脫
退シテモ軍縮會議ニ居ルコトハ世界平和ノ
爲ニ、世界協調ノ爲ニヤッテ居ルノダト云
フ、ソレナラ聯盟ヲ脫退シナクテモ宜イヂ
ヤナイカ、敢テ軍縮會議ニ居ナクテモ世界
平和ト協調スルコトガ出來ルデハナイカ、
現ニ亞米利加ハ聯盟ニ參加シテ居ラヌ、外
ニ居ッテ協調シテ居ル、之ヲ見テモ分ル、必
シモ軍縮會議ニ居ラヌデモ、世界平和ハ協
調ヲ保ッテ行クコトガ出來ルト云フコトヲ
證明シテ居ルノデアリマス(拍手)
〔政府委員瀧正雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=70
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071・瀧正雄
○政府委員(瀧正雄君) 賢明ナル岸君バ多
少用語ニ相違ガアリマシテモ、十分御諒承
下サッタコトヽ確信ヲ致シマス(拍手)
(「聯盟問題ハドウシタ」「外務大臣」ト
呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=71
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072・植原悦二郎
○副議長(植原悅二郞君) 日印通商貿易竝
日滿經濟統制ニ關スル質問ヲ許可致シマス
-提出者玉置吉之亟君
三日印通商貿易竝日滿經濟統制ニ關
スル質問(玉置吉之亟君提出)
日印通商貿易竝日滿經濟統制ニ關スル
質問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和九年一月三十日
提出者玉置吉之亟
日印通商貿易竝日滿經濟統制ニ關スル
質問主意書
一明治三十八年英國政府ノ懇請ニ基キ
テ日印通商條約成立シテ以來我カ國ハ
約三十箇年ニ亙リ印度ヨリ棉花其ノ他
ノ商品ヲ輸入シ約三十三億五千萬圓ニ
達スル支拂勘定トナリタルモ一昨年金
輸出禁止以來爲替下落竝米綿暴落ニ依
ル事情等ノ爲初テ對印貿易ニ於テ輸出
超過トナリ七千五百萬圓ノ受取勘定ト
ナルヤ昨年四月突如トシテ何等ノ豫告
ナク通商條約廢棄ノ通〓ヲ爲シ來リタ
リ此ニ於テ日印英三國綿業界ノ情勢ニ
鑑ミ日英兩國ノ當業者間ニ於テ日英通
商民間協議會ヲ開催スルニ先立チ印度
ノ「シムラ」竝「デリー」ニ於テ日印
ノ會商行ハレ本年一月五日ヲ以テ日印
通商新協定ノ假調印ヲ見ルニ至リタリ
其ノ結果タルヤ我カ國ハ每年印度ヨリ
棉花百五十萬俵時價約一億八千萬圓ヲ
輸入シ其ノ代償トシテ各種ノ綿布四億
「ヤード」時價約八千萬圓ヲ輸出スルコ
トトナリタリ斯ノ如キハ信義ヲ基トス
ヘキ國際條約ニ於テ果シテ公正妥當ヲ
得タルモノナリヤ敢テ政府ノ所信ヲ問フ
二本條約ノ犠牲トシテ我カ國ヨリ印度
ヘ輸出シツツアリシ數百種約八千萬圓
ノ雜貨品カ其ノ輸入關稅ニ於テ平均
三割內外ノモノカ一躍四倍乃至六倍
ノ禁止的高率關稅ニ引上ケラレ殆ト
輸出不可能ニ立至リタリ爲ニ此等製
造ニ從事スル幾多ノ中小工業者カ工
場ノ閉鎖ヲ行ヒ其ノ營業ヲ休止スル
ノ已ムナキ窮狀ニ陷リタリ此ノ現狀
ニ對シテ政府ハ如何ナル善後處置ヲ
講スルノ決意ナリヤ確固タル政府ノ所
信ヲ間フ
三昨年一月我カ國ノ炭鑛業者ハ團結シ
テ南滿洲鐵道株式會社ト協定ノ上撫順
炭ノ輸入制限ヲ爲シ且昭和石炭株式
社ナルモノヲ組織シ炭價ノ引上其ノ他
販賣統制ヲ行ヘリ爲ニ炭價ノ暴騰ト石
炭ノ缺乏トヲ來シ消費者タル國民多數
ノ窮狀甚シキモノアリ顧ミルニ現內閣
組閣ノ重大使命ノ一ハ日滿經濟ノ統制
ヲ計リ所謂我カ生命線タル滿蒙ノ經濟
的基礎ヲ樹立シ以テ東洋百年ノ平和ヲ
確保スルニアリタリ果シテ然ラハ現政
府ハ統制經濟ノ原理タル有無相通スル
ノ道ニ則リ日滿兩國產業ノ開發上最重
要基礎タル炭鑛業ノ日滿兩國ヲ一丸ト
スル經濟統制ヲ卽時ニ斷行シ我カ國ニ
於ケル石炭ノ供給ヲ豐富ニシ炭價ノ昇
騰ヲ抑制シ以テ共存共榮ニ導クノ策ヲ
講セサルヘカラス政府ニ其ノ決意アリ
ヤ否ヤ
右及質問候也
〔玉置吉之亟君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=72
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073・玉置吉之亟
○玉置吉之亟君 私ハ此處ニ過般本院へ提
出致シマシタ質問趣意書ニ基キマシテ、其
趣旨ヲ辯明致シタイト存ズルル者デアリマ
ス、御承知ノ如ク由來日印條約輸入商品ノ
最惠國待遇ノ規定サレマシタ動機ハ、元々
英吉利カラノ提議ニ基イタモノデアリマシ
テ、卽チ本條約締結當時ノ明治三十七八年
ノ頃ハ、我國ハ印度カラ多額ノ棉花竝ニ其
他ノ商品ヲ買入レテ居リマシタケレドモ、
日本ノ綿絲布其他ノ雜貨ガ未ダ印度ニ輸出
サレナイ時デアッタノデアリマス、隨テ通
商條約ニ依ル協定稅率ノ適用ノ方法ガナイ
爲ニ、不利益ヲ蒙ルモノハ印度カラ我國ヘ
輸入サレル商品デアッテ、日本カラ印度ニ
輸出スル商品デハナカッタノデアリマス、
ソコデ英國政府カラ進ンデ通商條約締結ノ
申込ガアリマシテ、條約ノ成立ヲ見ルニ
至ッタコトハ、諸君御承知ノ事實デアリ
マス、而シテ其後一昨々年マデハ、日印
ノ貿易ハ常ニ日本ニ取フテ入超ヲ續ケテ
居リマシテ、其買超シノ金額ガ三十
箇年間ニ亙ヲテ約三十三億五千万圓ノ
巨額ニ達シタノデアリマス、唯一昨年ニ至
リマシテ、亞米利加ノ不景氣ト米棉ノ豐作
トガ相俟シテ、亞米利加棉ガ非常ナル暴落ヲ
來シマシタル結果ガ、我國ノ紡績業者ガ採
算ノ上ニ於テ有利ナル米棉ヲ比較的多數ニ
買入レマシタ爲ニ、印度棉ノ我國ニ輸入サ
レル物ノ相當減少シタコトヽ、爲替ノ下落
ニ依ッテ日本ノ各種ノ商品ガ澤山輸出サレ
マシタ爲ニ、初テ七千五百万圓ト云フ輸出
超過ガ現ハレタノデアリマス(「熱ガナイゾ」
ト呼フ者アリ)而シテ斯ノ如キ印度自體ニ
取ッテ都合ノ好クナイ情勢ガ現レマスト、直
チニ多年恩惠ヲ得テ參ッタ通商條約ヲ、無謀
ニモ何等ノ豫〓ナクシテ之ヲ廢棄シ、敢テ
對手國ノ利害ヲ顧ミナイト云フヤウナ行爲
ヲ執ルト云フコトハ、如何ニシテモ國際信
義ヲ無視シタル處置デアッタト申サネバナ
ラヌノデアリマス(「ヒヤ〓〓」拍手)ノミナ
ラズ印度關稅問題ガ英本國トノ特惠關稅ト
搦ンデ、我國トノ間ニ問題トナッテ來タコ
トハ、歐洲戰亂ノ後久シイ間ノコトデアリ
マスガ、其後千九百二十九年ノ末頃カラ、
今次ノ世界的不況ガ深刻ニ發生シテ參リマ
スト共ニ、各國競ウテ關稅ノ障壁ヲ高メテ、
自國ノ產業ノ保護ニ意ヲ用ヒマス傾向ガ生
ジマスト同時ニ、一層激烈化シテ參ッタノ
デアリマス、玆ニ最近ニ於ケル是等ノ沿革
ノ最モ重大ナル點デアル綿絲布關稅ニ付テ
ノミ申上ゲマシテモ、去ル千九百三十年マ
デ一割一分デアッタモノガ、同年ノ三月ニ二
割ニ引上ゲラレマシテ、而シテ是ニハ三箇
年間引上ゲナイト云フ條件ガ附帶シテアツ
タニモ拘ラズ、翌年ノ三月ニハ更ニ二割五
分ニナッタノデアリマス、續イテ九月ニ三割
一分二厘五毛ニ引上ゲラレタノデアリマス
(「ヒヤ〓〓」)而シテ此間我國ノ商品ト英國
品トノ間ニ、特惠制度ニ依ル差別待遇ガ行
ハレルコトニナッタノデアリマス、越エテ千
九百三十二年ノ八月ニハ、更ニ一躍五割ニ
引上ゲラレマシテ、最近ニ至ッタノデアリマ
ス、此期限ハ初メ昨年ノ三月末ト定メラレ
テ、而シテ昨年ノ十月マデ延期サレルコトヽ
信ジテ居ッタモノデアリマス、然ルニ突如
トシテ其次ニ昨年四月、條約ノ廢棄ヲ申出
テ來タト云フコトハ、諸君御承知ノ事實デ
アリマス、此間我國ニ於キマシテモ、政府
當局竝ニ各關係團體ノ當業者ガ相携へテ、
本邦品ノ輸入防遏ヲ目的トスル關稅引上、
竝ニ差別待遇制度ニ反對ヲ致シテ參ッタノ
デアリマス(拍手)併シ是等ノ抗議ハ毫モ印
度政府ノ容レル所トナラナカッタノデアリ
マス、ノミナラズ通商條約廢棄ト云フガ如
キ、國際信義ヲ無視シタル暴擧ニマデ到達
シタ次第デアリマス、本問題ヲ其儘放置ス
ルニ於キマシテハ、遂ニ三十年ノ間民間當
業者ガ苦心致シマシテ、築キ上ゲマシタル
對印貿易ナルモノハ、事實上禁壓ノ外ナキ
ニ立至リマシタガ故ニ、本問題ニ對シテ政
府當局ガ活動致シマシタコトハ私モ之ヲ認
メマス、併シ英帝國經濟「ブロック」ノ有力
ナル印度ハ、昨年ノ六月ニ至リ我國ヨリ輸
入致シマスル綿布ノ關稅ヲ、從價五割ヨリ
更ニ七割五分ニ引上ゲマシテ、尙ホ生地綿
布ハ一封度六「アンナ」四分ノ三、ドチラカ
高イ方ニ置クト云フ制度ヲ設ケマシタガ爲
ニ、生地綿布ノ輸出ハ禁止サレタト同樣ノ
事態ニ立入ッタノデアリマス、而シテ對英五
割ト云フヤウナ巨額ノ差別ヲ認メナケレバ
ナラヌ情勢ニ立入ッタノデアリマス、是ニ於
キマシテ隱忍自重シテ參リマシタ我國ノ紡
績當業者モ、印度棉花不買ノ報復手段ニ出
タノデアリマス、而シテ印度市場ヲ中心ト
シテ露骨ナル日英綿業ノ爭覇戰ノ狀況ヲ呈
出シタ次第デアリマス、而シテ斯ル危機ヲ
打開致シマスル所ノ方策トシテ「マンチヱス
ター」ノ當業者、竝ニ我國ノ紡績業者ノ間ニ
考慮サレタノハ、彼ノ日英通商民間協議會ノ
開催デアリマス、而シテ之ニ先ンジテ印度ノ
「シムラ」竝ニ「デリー」ニ於テ開カレマシタ
ノガ、彼ノ日印會商デアリマス、而シテ我
國ヨリハ澤田代表竝ニ政府側ノ人々、及ビ
民間當業者ノ權威者ガ印度ニ出掛ケテ、五
箇月間ニ亙ッテ數十囘ノ會商ヲ重ネテ、漸ク
本年ノ一月五日大體目鼻ガ付キマシタ、併
シ其齎シタ結果ヲ檢討致シマスルト、極メ
テ不可解ナル點ガ多々アルノデアリマス、
私ハ是等ノ條項ニ對シテ非常ナル不平、不
滿ヲ有ツ者デアリマス(「ヒヤ〓〓」拍手)其
第一點ハ、我國ガ一箇年間ニ四億碼ノ綿布
ヲ輸出致シマスル代償トシテ、百五十万俵
ノ棉花ヲ輸入センケレバナラヌト云フヤウ
ナ、非常ナ我國ニ取ッテハ不利益ナル、且ツ
不均衡ナル物々交換ニ等シイ條項ガ成立致
シタト云フコトハ、果シテ是ガ公正適當ナ
ル協調ト御認メニナルカ、隔意ナキ政府ノ
御意見ヲ伺ヒタイト存ズルノデアリマス、
其第二點ハ、本會商ノ開會ノ劈頭ニ於テ、
我ガ澤田代表ト印度ノ「ボーア」商務長官ト
第一囘ノ會見ニ於キマシテ、關稅々率ノ改
正ノ主眼トシテ、日本ノ金輪出禁止後ニ於
ケル爲替安ニ依ル商品ノ廉賣ヲ是正スル意
味ニ於テ、金輸出禁止以前ノ物價比率ニ依〃
テ關稅ノ率ヲ改正スルト云フコトガ、大體
ニ於テ雙方一致ノ意見デアッタト云フコト
ヲ、承知致シテ居ルノデアリマス、然ルニ
從價稅ヲ從量稅ニ改正スルト云フ條項ガ出
タ時ニ、之ニ對シテ何等最高限度ノ條件モ
附セズ、又當業者ノ專門的意見モ徵セズシ
テ、之ヲ承認シタノミナラズ、紡績業者ガ
前申述ベマシタ通リ、條件ノ非常ナル不公
平ナルニ憤慨ヲ致シマシテ、一時代表ノ引
揚マデ、決議致シマシタニモ拘ラズ、雜貨
ノ問題モアル故、國家ノ爲メ大局ヨリ之ヲ
忍バレタシト抑ヘテ置キナガラ、雜貨ヲ綿
布對棉花ノ交渉中ヨリ切離シタルハ何故デ
アリマス、澤田代表ガ、紡績業者ガ印棉不
買ノ效果ガ農村ニ實現スル時期、卽チ十月
ヨリ二月頃マデ此交涉ヲ引延スコトノ有利
ナルヲ力說致シマシタニモ拘ラズ、代表ガ
本國政府ノ訓令ヲ振翳シテ、會商ノ結末ヲ
急ガレマシタ結果、如何ナル情勢ガ現ハレ
テ參リマシタカ、最近ノ印度政府ノ採リツ
ツアル方針ハ、全ク我國ヨリ輸入サレマス
ル雜貨ニ對シテ禁壓ヲ加ヘ、是ガ輸入ヲ不
可能ナラシムル手段トヨリ考ヘラレナイノ
デアリマス、從量稅ノ蔭ニ隱レナガラ、量
トカ値段トカ云フコトヲ全然無視致シマシ
テ、禁止的重稅ヲ課スル意圖ニ出デツヽア
ルコトハ明瞭デアリマス、今共一二ノ例ヲ
擧ゲテ見マスルト一率ニ從量稅ヲ課セラ
レルガ爲ニ、例ヘバ綿、莫大小ニ於キマシテ
モ、從來二五%デアッタモノガ、一打ニ付テ
一留比八「アンナ」ト云フヤウナ重稅ヲ一率
ニ徵收セラルヽ結果ガ、三十八吋ノ大人
用ノ莫大小ハ七一%トナリマスガ、同ジク
十八吋ノ子供用ノ莫大小ハ二二四%ト云フ
ヤウナ稅ガ、課セラレルコトニナッタノデア
リマス、陶磁器ニ致シマシテモ、同ジク三
〇%デアッタモノガ、一律ニ一留比八「アン
ナ」、卽チ邦貨換算約一圓九十二錢ト云フ重
稅ヲ、僅カ賣値一打二十八錢ノ茶碗ニ課セ
ラレルト云フヤウナ、無謀ナ禁止的關稅ヲ
課シ、而シテ印度自國ニハ何等目星シイ陶
磁器ノ製作ガサレテ居ナイノデアリマス
故ニ自國ノ產業ヲ保護助長スルトモ申サレ
マスマイ(拍手)是等ハ全ク通商條約ノ見地
カラ考ヘテ、果シテ斯ノ如ク高率ナル關稅
ヲ課スルト云フコトガ、正シイ行爲ト政府
ハ御考ヘニナリマスカ(「ヒヤ〓〓」拍手)實ニ
世界ノ關稅ノ歷史ノ上ニ、未ダ曾テ無イヤウナ
無謀ナ高率ナル關稅ヲ課セラルヽヤウナ情
勢ヲ來シタ爲ニ、是等ノ商品ヲ製造スル中
小工業者ガ其工場ヲ閉鎖シ、其支拂ヲ停止
スルノ已ムナキニ至ッタト云フヤウナ事態
ガ惹起ッタコトハ現內閣成立ノ使命ニ考
ヘ、政府ハ如何ナル善後策ヲ講ズルノ信念
アリヤ、御伺致シタイノデアリマス(拍手)
以上申上ゲマシタ事柄ニ依リ考察致シマ
シテモ、日印會商ノ將來ニ付テ、政府ハ目下
努メテ其交涉ニ折角努力シテ居ルト云フコ
トハ、過日來ノ豫算總會ニ於ケル吾等ノ先輩、
竝ニ政府當局トノ質疑應答ニ依リマシテ
承知致シテ居リマス、萬一我國ノ正當ナル提議
ガ印度政府ニ於テ之ヲ認メザル場合ハ、政府
ハ果シテ之ニ對シテ如何ナル手段ニ出デン
トスルカ、全ク外相ノ所謂裏切ラレタ此結
末ヲ、如何ニ御付ケニナルノデアリマス
カ、私ハ此場合政府ハ今日迄ノ交涉ヲ一先
打切リ、國民的外交ニ依フテ印度三億五千
萬人ノ國民大衆ニ向テテ、此不條理極マル、
國際信義ヲ無視セル印度政府ノ態度ニ對シ
テ、儼然トシテ其反省ヲ促ス覺悟ト用意ヲ有
スルヤ、御伺致シタイノデアリマス(拍手)
最後ニ私ハ日滿統制經濟ノ一斑ニ關スル
コトニ付テ、政府ノ所信ヲ伺ヒタイト存ズ
ルノデアリマス、ソレハ昨年一月我國ノ石
炭業者ガ團結致シマシテ、滿洲ヨリ我國ニ
輸入サレマス撫順炭ヲ、滿鐵ト協定ノ上制
限致シマシタコトヽ相俟,テ、我國ノ炭礦業
者ガ昭和石炭販賣會社ナルモノヲ設立致シ
マシテ、共販制度ヲ設ケマシテ、石炭ノ販
賣統制ヲ行ヒマシタ結果ガ、軍需工業ト輸
出工業ノ隆盛ト相俟ヲテ、石炭ノ滯貨ガ激減
ヲ來シマシテ、其後追々ニ價格ガ上ッテ參リ
マシテ、昨年一月ニ比較致シマスト、殆ド
倍額ニ近イ暴騰ヲ致シタノデアリマス、其
結果トシテ各消費階級ハ非常ナ重壓ヲ被ツ
テ居ルト云フコトハ、諸君御承知ノ事實デ
アリマス、而シテ昭和石炭販賣會社ノ係員
ノ宣傳スル所ニ依リマスルト、今ヤ我國ハ
石炭ノ饑饉ニ等シイ狀態デアルガ故ニ、此
價格ガ何處マデ暴騰スルカ分ラナイ、故
先物賣買ノ契約ナドハ一切出來ナイ、ノミ
ナラズ値段モハッキリ發表出來ナイト云フ
ヤウナコトヲ豪語致シテ居リマスガ、果シ
テ如何ニ成リ行クカ、消費者側ハ非常ナル
不安狀態ニ陷フテ居ルノデアリマス、此場合
石炭ノ最大消費者タル鐵道省當局ノ僞ラザ
ル所信ヲ、伺ヒタイト存ズルノデアリマス、
特ニ希望致シマス、承リマス所ニ依リマス
ルト、今日ノ機械化、合理化サレタ時代ニ
於テ、殆ド顧ミラレナカフタ老齡期ニ入ッタ
小炭坑サヘ採炭ヲ爲シテモ、優ニ採算ガ採
レルト云フヤウナ、石炭業界稀有ノ盛況ヲ
呈シテ居ルト云フコトハ事實デアリマス、
政府當局ハ果シテ我國ノ貿易ガ、今日ノ隆
盛ヲ呈シマシタル原因ニ付テハ、固ヨリ爲
替相場ノ下落ニ因ルモノモアリマスガ、石
炭、電力竝勞銀等ガ比較的低廉ニ供給サレ
テ居ノタト云フ事情ガ、原因ヲシテ居ルト云
フコトモ御認ニナルデセウ、然ラバ今後
是等輸出工業ノ重要原料タル炭價ヲ、現在
ノ如キ狀況ニ抛棄シマシテ、其價格ノ騰貴
ガ是レ以上續キマスト云フコトハ、相當甚
大ナル影響ヲ我國ノ重要工業ニ及ボスト云
フコトヲ、覺悟センケレバナラヌノデアリ
マス、私ハ統制ニ依ッテ或ル程度ノ價格ヲ維
持サスト云フコトニ對シテ、敢テ反對ヲ致
ス者デハアリマセヌ、又我國ノ炭礦業界ガ
金輸出前後ノ深刻ナル不況ニ遭ッテ、頗ル苦
難ノ時代ニ遭遇シテ、之ヲ突破致シタル事
情モ能ク承知致シテ居リマス、尙ホ是等ノ
事業ニ從事スル二十万ニ近イ勤勞階級ニ屬
スル人々ニ對シテモ、固ヨリ深甚ナル考慮
ヲ拂ハナケレバナラヌト云フコトモ能ク承
知シテ居リマス、併シ米ノ如ク其生產者ガ
國民ノ半數デアルト云フヤウナ事柄ト違ッ
テ、是ガ七八割マデノ生產ガ、我國ノ五六
人ノ大資本閥ニ依フテ其利益ガ壟斷サレル
ト云フヤウナ事業ニ對シテハ是ノ價格ガ
果シテ中正ヲ得タルモノデアリマセウカ
(拍手)政府ハ能ク其內容ヲ檢討シテ、是ガ
不合理ナル場合ハ、相當ナル是正ヲ行ハナ
ケレバナラヌト信ズル者デアリマス、私ハ
嘗テ我黨ノ總裁ヨリ現內閣ニ提示致シマシ
タル諸政策ノ中ニ含マレマシタル日滿經濟
統制ノ第一步トシテ、玆ニ百尺竿頭更ニ一
步ヲ進メテ、滿洲炭ヲ包含スル石炭ノ經濟
統制ヲ行ヒ、所謂有無相通ズル精神ニ則リ、
而シテ東洋百年ノ大計タル滿洲ノ經濟生命
線ヲ確保シ、以テ實行スルニ最モ易キ石炭
ノ日滿經濟統制ヲ、速ニ斷行スルノ意圖ア
リヤ、敢テ政府ノ明確ナル答辯ヲ希望シテ
已マナイ者デアリマス(拍手)
〔政府委員瀧正雄君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=73
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074・瀧正雄
○政府委員(瀧正雄君) 玉置君ノ熱誠ナル
御質問ハ全ク御尤千萬ト考ヘマス、日印協
定ニ付キマシテ、政府當局ト致シマシテモ、
固ヨリ之ヲ理想的ノモノトハ考ヘテ居リマ
セヌ、唯日英竝ニ日印關係ニ於キマシテ、
政治的、經濟的大局ヨリ考ヘマシテ、互讓
ノ精神ヲ發揮シタニ過ギナイノデアリマ
ス次ニ雜貨ノ從量稅ノコトニ付テ御非難
ガアリマシタガ、是モ御尤千萬ノコトヽ考
ヘテ居リマス、玉置君ノ如キ熱心ナル攻撃
的御質問ガ印度ノ方面ニ反映致シマスレ
バ必ズヤ一種ノ國民外交トナッテ、先方ノ
誤解ヲ解クニ十分ノ效果ガアラウト信ジマ
ス、諸君ノ激勵ニ依リマシテ、政府モ十分
ニ努力ヲシテ交渉スル積リデ居リマス(拍手)
〔政府委員堤康次郞君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=74
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075・堤康次郎
○政府委員(堤康次郞君) 只今玉置君ノ日
滿統制經濟ニ對スル御質問ノ要旨ハ昭和
石炭販賣會社ヲ創立シテ、滿洲ノ石炭ノ輸
入ヲ制限シテ居ルカラ、內地ノ石炭ガ高ク
ナル、是ハ日滿統制經濟ノ根本デアル有無
相通ジ、相互依存ノ關係ニアル點カラ見テ
面白クナイカラ、モット石炭ヲ入ルヤウニ
セヨトノ趣旨ノ御質問ト拜承シタノデアリ
マス、根本ノ御趣旨ニ付キマシテハ至極同
感デアリマス、併シ今日此石炭ガ暴騰致シ
テ居リマスルノハ、昭和七年ハ販賣統制會
社ガ數量ヲ制限シタコトガ、價格ヲ維持シ
タ重要ナル點デアルト考ヘマスガ、昭和八
年ニハ此數量ノ制限ト云フコトハ、價格ニ
影響シナカッタノデアリマス、ソレハ統制會
社ガ數量ヲ協定シマシタケレドモ、其協定
ノ數量スラ滿洲デ供給スルコトガ出來ナカッ
タノデアリマス、卽チ昭和七年度ノ協定數
量ハ百八十五万瓲デアリマス、モット石炭ヲ
供給スルコトガ出來ルノダガ、是ハ百八十
五万瓲デ抑へタカラ、昭和七年度ハ價格ヲ
維持スル爲ニ役立ヲテ居リマス、併シ昭和八
年度ニ於キマシテハ、基本數量デアリマス
ル百八十五万瓲ト、ソレカラ内地側ガ景氣ガ
好クナッテ增炭スル場合ニハ、三分ノ一ハ撫
順炭ヲ增炭スル、斯フ云フ申合ニナッテ居
リマスカラ、其三分ノ一ノ增炭ノ分ガ百万
〓ソレカラ必要ノ時ニハ撫順炭ノ增炭ヲ
スルト云フコトニ認メラレテ居リマスル分
ガ二十八万瓲、合計三百十三万瓲、昭和八
年中ニハ此三百十三万瓲ハ內地へ持ッテ來
ルコトノ出來ル協定ニナッテ居リマシタ
ガ、此數量ダケ持ヲテ來ルコトガ出來ナカッタ、
昭和八年ハ昭和七年ヨリ百二十八万瓲ノ增
加デアリマシタガ、實際ハ二百三十万瓲ヨ
リ昭和八年中ニ內地へ持ヲテ來ルコトガ出
來ナクテ、協定ノ數量ニ八十三万瓲不足ヲ
シタノデアリマス、ソコデ昭和九年度ニ於
キマシテハ三百十七万瓲ノ協定ニナッテ
居リマスカラ、之ヲ全部輸入サセタイト斯
ウ考ヘテ居ルノデアリマス、併シ原因ハ何
レニ致シマシテモ、石炭ガ內地へ入ラナイ
ト云フコトニ依フテ、石炭ガ騰貴スルト云
フコトハ、是ハ宜クナイコトデアリマス、
ソコデ石炭ヲ多ク輸入シテ價格ヲ調節スル
ヤウニシナケレバナラナイ、只今玉置君ノ
仰セラレマシタル米ノヤウナモノト違ッテ、
主タルモノハ大資本家ガ多イノデアリマス
ルカラ、餘リ價格ガ暴騰スルコトハ、是ハ
宜クナイノデアリマスルカラ、ソコデ來年
度ハ十分撫順炭ヲ增產致シマスルヤウ、滿
鐵ニ督勵ヲ致シテ居リマスルト同時ニ、滿
洲ニ於キマシテ、モット他ノ炭坑モ掘フテ、
供給ヲ豐富ニシタイト考ヘマシテ、滿洲國
ト中央銀行トノ有ッテ居リマスル炭坑ヲ現
物出資トシテ、之ヲ八百万圓ト見積リ、ソ
レカラ滿鐵ノ有ッテ居リマスル炭坑ヲ五百
万圓ト見積リ、他ニ三百万圓ノ現金ヲ出資
シテ八百万圓、合計千六百万圓ノ滿洲炭鑛
會社ヲ創立シ、引續キ其他ノ民間ノ有望ナ
ル炭坑ヲソコヘ一〓ニ入レテ、サウシテ十
分滿洲ノ石炭ヲ掘ッテ、滿洲ノ需要ヲ滿シ、
且ツ內地ヘモ十分供給ノ出來ルヤウニ努メ
テ居ルノデアリマス、斯ノ如ク撫順炭ノ增
炭ヲ奬勵スルコトヽ、新シイ滿洲炭鑛會社
ノ事業ヲ進メルト云フコトニ依リマシテ、
石炭ヲ多ク輸入シテ、炭價ノ暴騰ヲ防ギタ
イト考ヘテ居ルノデアリマス、玉置君ノ御
說ノ如ク、石炭ハ國民生活ニ重大ナル關係
ガアリ、又總テノ工業ノ基礎トナルノデア
リマスルカラ、十分此點ニハ努力ヲ致シテ
居リマスガ、今後モ御質問ノ趣旨ヲ體シマシ
テ、十分努力シタイト考へテ居リマス(拍手)
〔政府委員名川侃市君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=75
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076・名川侃市
○政府委員(名川侃市君) 只今玉置君ノ御
質問デアリマスルガ、鐵道省ト致シマシテ
ハ、從來撫順炭ヲ使用致シテ居ルノデアリ
マスルガ、今後ニ於キマシテモ、價格ノ如
何ニ依リマシテハ、矢張使用シテ行ク積リ
デゴサイマス、是ダケ御答致シマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=76
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077・植原悦二郎
○副議長(植原悅二郞君) 小名木川越中島
間鐵道敷設ニ關スル質問ヲ許可致シマス-
提出者眞鍋儀十君
四、小名木川越中島間鐵道敷設ニ關スル
質問(眞鍋儀十君提出)
小名木川越中島間鐵道敷設ニ關スル質
問主意書
右成規ニ據リ提出候也
昭和九年二月一日
提出者眞鍋儀十
小名木川越中島間鐵道敷設ニ關スル質
問主意書
政府ハ小名木川越中島間鐵道敷設ニ關シ
從來ノ豫定ニ變更ナキヤ
右及質問候也
〔眞鍋儀十君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=77
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078・眞鍋儀十
○眞鍋儀十君 政府ハ今囘鐵道敷設法中改
正法律案ヲ本院ニ提出ニナリマシテ、是ガ協
贊ヲ御求メニナリマシタガ、聞ク所ニ依レバ
〔副議長退席、議長著席)
三土鐵道大臣ハ必シモ從來ノ方針ニ拘泥セ
ズ、專ラ經濟公益中心主義ニ依ッテ新線ヲ
敷設サレルト云フコトノ趣意デ居ラレルト
承ッテ居リマス、殊ニ既成線路ノ運輸連絡
上、場所ニ依フテハ「シヨートカット」ヲモ漏
サズ新線ノ中ニ入レラレル方針ニ出ラレテ
居ルコトハ、平素御主張ニナッテ居ル所ト
照合致シテ間違ナイト考ヘテ居リマス斯
樣ナ際ニ私ハ鐵道省ガ漏シテハナラナイ一
ツノ線ヲ持ヲテ居ラレル筈ダト思フ、ソレ
ハ東京市ガ第二期計畫ヲ完了シ、更ニ第三
期計畫ヲモ完了セントシツヽアル東京港ト
帝都五百万市民ノ貨物ヲ陸揚スベキ、又東
ハ千葉方面ニ總武線、茨城方面ニ常磐線、
東北方面竝ニ北海道方面ニ對シテハ東北本
線奥羽線、新潟方面ニ對シテハ信越線、
更ニ山梨方面ニ對シテハ中央線ノ連絡中心
タルベキ小名木川、越中島間ノ鐵道ヲ敷設
スベキコトハ、平素東京市トノ公文書ノ交
換ニ依ッテモ、御契約ニナッテ居ル筈ダト私
ハ考ヘテ居リマスガ(拍手)斯樣ナ時ニコソ
御實行ニナラナケレバナラヌ責任ヲ鐵道省
ハ御持チニナッテ居ラヌダラウカ、曩ニ東
京市ハ築港ト同時ニ後方連絡ノ必要上臨港
鐵道ヲ敷設致シマシテ、芝浦ニ於キマシテ
ハ此敷設シタル臨港鐵道ヲ鐵道省ニ供與
致シテ、是ガ今日鐵道省ノ經營ニナッテ居
リマスガ、意想外ノ成績ヲ擧ゲラレ、市民
モ是ガ爲メ非常ニ經濟上ノ便宜ヲ受ケテ居
ルモノデアリマス、之ヲ西ニ控ヘタ芝浦ノ
向フニ位シテ居ル所ノ越中島ニ於ケル臨海
鐵道ハヤハリ東京市ノ計畫デアリマスル
ト共ニ、鐵道省ハ是ト連絡シテ市民ノ爲
ニ、乃至ハ只今申上ゲマシタ多クノ路線ノ
心臟部ニ該當スルモノトシテ、之ニ對シテ
ハ贊意ヲ表セラレ、特ニ東京市ニ對シマシ
テハ、東京市ガ埋立テタル埋立地ヲ鐵道省ノ
停車場建築用地トシテ讓渡スベキ希望ヲ申
述べラレ、東京市ハ之ニ對シテ讓渡ノ承諾
ヲ與ヘテ、今日ニ至ル十八年間、何時鐵道
ヲ御敷設ニナルカニ付テハ待望久シキモノ
ヲ持ッテ居リマス、殊ニ斯樣ニ鐵道大臣ガ
從來ノ慣例ニ拘泥セズ新線敷設ノ計畫ニ出
デラレルナラバ、先ヅ外ノ新線ノ計畫ヨリ
モ、東京市ノ五百万市民ト御契約ニナッテ
居ル小名木川、越中島ノ陸揚ゲニ必要ナ
ル、此部分ヨリ御著手ニナルベキモノデハ
ナカラウカト私ハ考ヘル(拍手)殊ニ是ハ鐵
道省ガ此處ニ埋立權利ヲ持ッテ居ラレマス、
又此埋立權利ヲ持タレテ居ルガ爲ニ、周圍
ハ總テ人家ガ稠密致シテ居リマス、此處ニ
一ツノ遊廓モアリ一ツノ農林省ノ倉庫モ
アリ、一ツノ「ルンペン」ノ天國モアリ、周
圍ハ總テ人家ガ稠密シタル中ニ、只一ツ鐵
道省ガ十八年以前ヨリ越中島驛設立ノ目的
ヲ以テ埋立地ヲ東京市カラ取上ゲラレテ居
ル處ダケガ、今日ポコント穴ヲ殘シテ居ル
ヤウナ次第デアリマス、特ニ其脇ノ七万坪
ノ埋立地ハ、停車場敷地ノ附屬地トシテ御
契約ニナッテ居ッテ、今日マデ東京市ハズッ
ト十八年間空地ノ儘人ニ貸與スルコトスラ
出來ナイデ放棄サレテ居ル現狀デアリマ
ス、更ニ東京市ガ、餘リ鐵道省ガ冷淡デア
ルガ爲ニ、先般鐵道省ニ向ッテ一體何時此
處ニ鐵道ヲ敷カレルカト云フ質問ヲ發シマ
シタ所ガ、鐵道省ガ「貴市埋立地買收年度繰
上ゲ方ニ對シ御照會有之候處右ハ可成貴意
ニ副フ樣取計ヒ可申候」ト御囘答ニナッテ居
リマス、所ガ貴意ニ副ハナイドコロカ、今
囘ノ新線ヲ御計畫ニナッテモ、更ニ其中ニ
繰入レズニ、東京市ニ十八年間御待タセニ
ナッタ其土地ハ御買上ゲニナラヌト云フコ
トノ內聞ヲ私ハ聞イテ居リマス、若シ十八
年間モ待タセテ、上級官廳ガ地方自治體ノ
權益ヲ蹂躪シテ、今日ニ至ッテ破約ナサルト
云フナラバ、私ハ何等カ之ニ對シテハ鐵道省
デ相當ノ賠償ヲナサルカ、或ハ何等カノ謝
罪ヲナサラナケレバ、東京市民ハ今日デハ
容赦シナイヤウナ形勢ガ馴致サレテ居リマ
ス、是ニ於テ私ガ御伺シタイノハ、恐ラク
鐵道省デハ築港計畫ガ完成シナイカラト云
フ御答ガアルカモ知ラヌ、ソレハイケマセ
ヌ、築港計畫ハ次第ニ進捗致シテ居リマスヽ
鐵道計畫ダケハ曾テ豫算ニ計上サレタコト
ガアルニ拘ラズ、今日デハ計上モナサラヌ
狀態デアリマス、築港計畫ハ進捗シ、鐵道
計畫ハ後退スルト云フ理由ヲ、私ハ見出ス
コトガ出來ナイカラ、築港計畫完成セザル
ノ理由デアルナラバ成立チマセヌ、或ハ豫算
ガ大變掛ルト云フ御說明ニナルカモ知レ
又、豫算ハ掛カルドコロカ大儲ケデス、今
日東京市ノ埋立地ハ一坪一一十八圓カラ二十
九圓デ出來上ル、鐵道省ハ十万坪ノ埋立權
利ヲ御持チニナッテ居ルガ、今日其處ノ市
價ハ六十圓カラ七十圓、此埋立ヲ御完成ニ
ナレバ、少クトモ三百万圓、四百万圓ノ鐵道
省ノ財產ハ出來上ル筈デアル、斯樣ニ論ジ
テ參リマスレバ、經濟上ノ理由ハ私ハ成立
タヌト思ヒマス、若シソレハ先ニ金ガ要ル
ト仰セラレルナラバ、東京市ガ埋立ヲ御委
託ニナレバ、前金デナクテモ埋立ヲスルト
申込ンデ居ルデハナイカ、モウ少シ鐵道省
ハ、今日マデ東京市民ヲ十八年間待タセタト
云フ過去ヲ御振返リニナッテ、今囘ノヤウ
ナ絕好ノ機會ニハ、改良費トシテ御計上ニ
ナヨ、是非共市民ノ熱望ヲ充足サレルヤ
ウニ希望致シマス、此處デ私ハ結論ヲ申シ
マシテ御答ヲ求メマスガ、本年度豫算ノ改
良費中ニ小名木川、越中島間ノ鐵道敷設ヲ
御提出ニナル意思ガアリマスカドウカ、若
シナイトスレバ東京灣ノ築港工事ガ完了
致シマスレバ、必ズ今日御約束ニナッテ居
リマス場所ハ御買上ニナリマスカドウカ、
此二ツノ點ニ付テ私ハ當局ノ御答辯ヲ煩ハ
シタイト考ヘル者デアリマス(拍手)
〔政府委員名川侃市君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=78
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079・名川侃市
○政府委員(名川侃市君) 御答致シマス、
越中鳥線ハ小名木川驛マデハ昭和四年完成
致シマシテ開通致シマシタノデアリマス
ガ、小名木川、越中島間ハ、東京港修築計
畫ト關聯致シテ居リマスカラ、其計畫ヲ見
ナケレバ、マダ鐵道計畫ヲ樹テルコトガ出
來ヌノデゴザイマスガ故ニ、此東京港修築
計畫ニ對應致シマシテ、鐵道省ノ財政ノ都
合ヲ見テ決定實施スル積リデ居ルノデアリ
マス、サウ云フ次第デゴザイマスルガ故ニ、
本年ノ豫算ニハ此越中島線ハ何等計上致シ
テ居リマセヌ、又只今御尋ノ土地ヲ必ズ買
ウカト云フコトニ付キマシテモ、其計畫ガ
東京港修築計畫ヲ見テ、此方ノ計畫ヲ樹テ
ルノデゴザイマスルガ故ニ、直チニ此御約
束モ出來マセヌ、是ダケノコトヲ申シテ置
キマス(拍手)発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=79
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080・眞鍋儀十
○眞鍋儀十君 簡單デアリマスカラ自席カ
ラ發言ノ御許シヲ願ヒマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=80
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081・秋田清
○議長(秋田清君) 宜シウゴザイマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=81
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082・眞鍋儀十
○眞鍋儀十君 政府委員ハ埋立地ヲ買フカ
買ハヌカ分ラナイト云フ御返事デアリマス
ガ、大正七年七月十二日、鐵道省ヨリ東京市
長ニ宛タル「別紙圖面所示ノ貴市埋立地第
一號地七万百四十七坪一合ハ停車場敷地ト
シテ必要有之候ニツキ特ニ埋立實費ヲ以テ
當院ヘ御讓渡相成度」ト云フ書面ガアリマ
スガ、之ヲ次官ハ御存ジデアルカドウカ
〔政府委員名川侃市君登壇〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=82
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083・名川侃市
○政府委員(名川侃市君) 先程答辯致シマ
シタ通リニ、最初鐵道省トシテ計畫致シマ
シタ事ニ付テハ、東京港ノ修築計畫ガ、其
時々變"テ居ルノデアリマスルガ故ニ、此方
ノ方トシテモソレニ對應スル計畫ヲ樹テル
必要ガアリマスカラシテ、最初ノ計畫通リ
ニ實行スルト云フコトハ申上ゲ兼ネルノデ
アリマス、隨テ其土地ニ付キマシテモ、今
後東京市ト交涉致シマシテ、必要ナ土地ハ
讓受ケルト云フコトニナリマセウガ、今日
ヨリ何處ノ土地ヲ讓受ケルト云フコトノ御
約束ハ出來ナイト云フコトヲ申上ゲテ置キ
マス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=83
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084・眞鍋儀十
○眞鍋儀十君 後ハ分科會デ申上ゲマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=84
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085・土倉宗明
○土倉宗明君 殘餘ノ日程ハ延期シ、本日
ハ是ニテ散會セラレンコトヲ望ミマス発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=85
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086・秋田清
○議長(秋田〓君) 土倉君提出ノ動議ニ御
異議アリマセヌカ
(「異議ナシ」ト呼フ者アリ〕発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=86
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087・秋田清
○議長(秋田〓君) 御異議ナシト認メマ
ス、仍テ動議ノ如ク決シマシタ、次會ノ日
程ハ公報ヲ以テ通知致シマス、本日ハ是ニ
テ散會
午後五時四十三分散會
衆議院議事速記錄第九號中正誤
頁段行誤正
四九二二五內國國內
一六〇四モシテ、シテモ発言のURL:https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/simple/detail?minId=006513242X01019340206&spkNum=87
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